FBC(Federal Bioterrorism Commission)とはアメリカ合衆国によって設立された対バイオテロ部隊のことである。創設者モルガンを長官とし、先のテラグリジア・パニックではヴェルトロにより引き起こされたバイオテロを海上都市テラグリジアを丸ごと消滅させることで収束させた。
そんな部隊に所属するエージェント『レイチェル・フォリー』はパートナーの『レイモンド・ベスター』と共にヴェルトロの残党が潜むであろう豪華客船【クイーンゼノビア】に潜入捜査を行っていた。
人気のない船内を捜索するに当たってレイモンドと別れ単独捜索を行っていたところ、突如ダクトから飛び出してきた化け物【B.O.W】と交戦。
FBC内で明るく陽気と知られているレイチェルもこれには悪態をつき、薄々感じていた嫌な予感の的中に嫌気がさす。
なんで私がこんな目に…
次々と現れるB.O.Wの攻撃を交わし、M92Fで対象の膝などを撃ち抜き無力化することで対処する。まともに相手をしていてもこちらが不利になるだけとの判断である。
「レイモンド!レイモンド応答して!」
通信機でパートナーに呼びかけるも反応はない。最悪な目に会っているのでは、と嫌な考えが頭によぎるも、今の彼女にレイモンドを捜索する余裕はない。
「エレベーター!」
走り続け船底へと向かうエレベーターに飛び込み、すぐさま扉を閉める。B.O.Wがギリギリエレベーター内へ入ってこなかったことに安堵し、大きく息を着くも、レイチェルの背後からはヌチョヌチョと何かが蠢く音がする。
「嘘でしょ!こんなところまで…!」
B.O.Wは振り返ったレイチェルの足へ棘のある右腕を振り下ろした。彼女は左足に深い傷をおい痛みに顔を顰めるも、狭いエレベーター内でB.O.W以外に意識を向けることは出来ない。
彼女が死を覚悟した瞬間エレベーターの扉が開き間一髪B.O.Wから逃げることに成功する。血が絶え間なく流れ落ちる左足を引きずりながら、医務室のような所へ逃げ込む。
「はぁ…はぁ…。とりあえず怪我の治療を…」
医療器具の並ぶ棚に手をかけるレイチェルは視界に写ったモノに驚き動きを止める。
「…男の子……?なんでこんな所に…?」
青い病衣に身を包む小さな男の子。髪は目が眩むような白さをしており、病的に白い肌からは紫に目立つ血管が目立っていた。
レイチェルが彼の脈を確かめるために近づくと、うめき声と共にダクトから次々とB.O.Wが現れる。よろよろと不釣り合いなサイズの両腕を振りながら迫るB.O.Wが一瞬男の子を見る。
「だめ!」
それに対してレイチェルは男の子を胸に抱え、B.O.Wに背中を向ける形で守る。ヌチョヌチョと背後からB.O.Wの足音が聞こえ、うめき声はさらに近く感じる。咄嗟にとった行動に彼女は少し後悔していた。この子を囮にしたら私が生き残ることができる。そのような考えに至ってしまう自分を恨みながら、彼を守る。
「…」
うめき声とともに魚の腐ったような匂いが広がり、レイチェルの髪を撫でる。
そしてB.O.Wは棘だらけの腕で器用にレイチェルを掴みあげ、捕食を行おうとする。
「うぅ!…ぅぁあ…あぁ!」
ニュルニュルとヒルのような口がB.O.Wから伸びる。ああ、ここで終わりなんだ、と覚悟した瞬間─
「お姉さんを離しなよ」
B.O.Wの動きが止まる。
「口をしまえって」
ゆっくりとスルスルと口が戻る。
「ゆっくりとお姉さんを下ろせ」
こうしてようやく開放されたレイチェルは噎せながら男の子の方へと目線を向ける。そこにはきちんと自分の足で立つさっきの男の子がいた。病衣に身を包み、髪も肌も白く、紫の血管が所々目立つ男の子。彼の目は青く綺麗な目をしていたのだが、右目だけが真っ白で目として機能していないようだった。
「…お姉さん、大丈夫?」
「ケホッ…え、ええ。…あなたはいったい…?」
レイチェルの問いに少し頭を傾げる男の子。少しウンウン言い悩むも問いの意味があまり分からない様子。
「よくわかんない…お姉さん怪我してるよね? 足こっちに向けて…」
有無を言わせずレイチェルの足を引っ張る男の子。傷の具合を見て、少し顔を顰めるもすぐに子供らしい笑顔を見せる。
「お姉さん、これなら何とかなるかも、結構痛いけどね」
「え、君そんなこともわかるの?…でも普通の治療じゃダメなのよ?…ウィルスに感染してると思うし、さっきの化け物みたいに…」
「大丈夫だって、お姉さんが頑張れば生き残れる」
そういい男の子は近くにあったメスを自らの手のひらへ突き刺し、その血をレイチェルの傷口へと垂らす。突然の事で慌てるレイチェルに笑顔を向け、問題ないと告げると、レイチェルの横へと腰を下ろす。
「大丈夫、僕は怪我が治りやすいから。お姉さんも今のうちに覚悟を決めて? そろそろ痛むと思うから」
男の子が告げた通りにレイチェルは激痛に襲われる。傷口の周辺が燃えるように熱いのだ。痛みに呻き、悲痛な声をあげる彼女の手を男の子は握り、傷口を逆の手で抑える。
「大丈夫…大丈夫」
依然として痛みに呻くレイチェルだが、男の子の声を聞くと不思議と痛みが和らぐ気がした。
「大丈夫…僕が守ってあげるから…ね?」
彼の白い目の中に何が写っているのか、レイチェルはさらに襲ってきた痛みにより、意識を手放した。
暗い医務室で二人の声が響く。
ひとつは大丈夫…大丈夫と言い続ける声、もう片方は苦痛に呻く声。
彼はその小さな体で彼女を勇気づける。
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