青い血ゆえに青ざめぬ (あめえい)
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血は流れるもの

 思うに、私がハッキリと意志を持ったのはそれが初めてだった。

 血を吐いて事切れたお母様。

 冷たさを知って、安らぎを忘れた。

 

 

 

 ブランケットを手放すことから、私の1日は始まる。

 

「ローナ様、朝にございます」

「ええ、お願いマリー」

 

 寒いのは嫌い。そう言って駄々をこねる前にテディベアを渡されることを続けて数年。

 もうそんな子供でもないのだけれど、マリーは私にはぬいぐるみを渡さないとダメだとでも思っているらしい。

 鏡越しにカーテンが開けられるのを見る。

 寝不足のまま迎えた夜明け。

 目に刺さる朝日は体によく効くものだ。おかげさまで吐きそうになる。

 

「御髪は上げましょうか?」

「そうね……いえ、いいわ」

「畏まりました」

 

 梳る手つきは慣れたもので、首に触れることはない。

 もうダンスの練習をすることはないのだから、涼しいようにと上げることもないだろう。

 殿方のうなじへのこだわりなぞどうでもいい。顔の輪郭を綺麗に見せる方が大切だ。

 

 抱えていたテディベアはまだ温かい。

 化粧を施す前なら、顔を埋めても許されるのだ。

 一晩を共に過したから抱き締めるのに遠慮はいらない。

 ああ、柔らかい、温い、眠い。

 

「お嬢様、お嬢様。起きてくださいな」

「あら、ごめんなさいね」

 

 今日も黒々と残る隈はもう諦めている。厚化粧と馬鹿にされてでも隠さないといけない。ただでさえ目立ってはいけないのだから。

 

 何故って? 

 今日から院に入るからだ。

 

 良家の子女をかき集め畜舎さながらに一所に詰める。

 黎學院と呼ばれる王権の象徴。

 

 そこに5年も監禁されるというわけだ。

 100年足らずの大した歴史もない場所で学生達は社交場を知る。

 たとえ入る時には能天気だった娘でも否応なしに派閥を経験させられるのだ。

 庭で茶を嗜むのだって気を抜けなくなるのだから、もう今からでも領に帰りたくなる。

 

「いきますよー……フッ!」

「ううっ……え、マリー? 今のでかなり締まったのだけど。ちょ、ちょっと待ってそれ以上は」

「もう一回っ!」

「はうあっ……ダメ、ダメよ! ほんとにダメ! なんか出ちゃ」

「もう、いっ、かいっ!」

「ぉぇ……マリー、お願いよ。正気に戻って。骨が折れそう。出てはいけないものが出そう。私、人として終わってしまうわ許して朝からこんなの嫌なの女である前に人間なのだからぁぁああああっあっあっ」

「ここまで締まれば良いでしょう。お嬢様ご覧下さい。今にも折れそうな女性なら誰もが羨む細い腰ですよ」

「……しぬ。折れそうというか本当に折れるわよ骨が」

 

 息が詰まるような生活。

 それは今に始まったことではないけれど。

 

「マリー? まだ隈が残っているわ」

「ええ。か弱い女性を演じて頼れば子爵令息を捕まえるのなんてあっという間です」

「いや、あの、消してほしいのだけど」

「お嬢様、始めが肝心なんです」

「だから消してほしいのだけど」

「頑張ってくださいね。応援してますから」

「あの……はぁ」

 

 そんな思いは胸に納めて。

 感情は笑みで塗り隠して。

 打算は腹に落とし込んで。

 

「完璧です、お嬢様」

「行ってくるわ」

「お気を付けて」

 

 エメライン・ローナ・ダウズウェルは踏み出した。

 あるいは踏み抜いたのか、踏み外したのか。

 

 その肩は震えている。

 憎悪に、恐怖に、悦楽に。









こんな感じの子をですね、好みの展開にぶち込んでこうと思いますよろしくお願いします。今後を全く考えてないけどBLGL混じりそうだなって思った時点でタグに加えるので必須タグについてはそれで許して。
余談ですけどまどマギは美樹さやかちゃんが好こ


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