偽ルフィが本当にモンキー・D・ルフィに似ていたら (身勝手の極意)
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孤高のルーキー編
ドッペルゲンガー事件




絶妙に本家感を残しつつも、見事に似ていないデマロ・ブラック。彼が本当にルフィに似てたら…。
サンジの似顔絵のせいで酷い目にあったデュバル事件が他にも起きてしまっていたら?とかふと思い、遊び半分で書いてみました。


 

 

 それはとある島での出来事。

 

 ある日の昼下がりに突然起きてしまった。

 

 

「逃がすなァァァ!!

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を絶対に逃がすなァァァ!!」

 

 

 今から数日ほど前のことだ。世界に名を轟かせる王下七武海の大海賊、サー・クロコダイルが格下のルーキー海賊に討ち取られてしまったのは…。

 

 もっとも、その一件は世界政府の情報操作によって真実は伏せられており、ルーキー海賊が七武海を討ち取ったという情報は世間ではまったく知られてはいない。

 

 何をしでかしたのか世間に知られることなく、懸賞金1億ベリーの手配書が新たに出回っただけ。

 

 

「麦わらのルフィは能力ッぐわッ!!」

 

「う、腕が伸びたぞ!?

 超人系(パラミシア)の能力者だ!!」

 

 

 そのルーキー海賊がとある島にて海軍と遭遇してしまったらしく、真っ昼間から大規模な戦闘が繰り広げられている。

 

 

「だからッ、オレは麦わらのルフィじゃねェって言ってんだろうがァァァ!

 オレの名前は()()()()()()()()なんだよォォォ!!」

 

 

 ただ、海軍と戦っているというか、執拗に襲いかかられている青年は、自分は麦わらのルフィではないと大声で叫びながら、腕を伸縮させながら、海軍に捕まらないように戦っている。

 そもそも、その声は銃声やら怒号でまったく届いてはおらず、何としても麦わらのルフィを捕まえようとしている海軍は聞く耳すら持っていないのだが…。

 

 

「人の話聞けやァァァァァ!!」

 

 

 海兵が十数人、一気に殴り飛ばされてしまった。

 

 

「くッ、これがクロコダイルを討ち取ったルーキー海賊の力なのかッ!?」

 

 

 どうやら、もうどうしようもない状況のようで、海軍の勘違いは払拭されることはないだろう。

 

 寧ろ、勘違いであったことが分かった時、デマロ・ブラックと名乗るこの者も、デマロ・ブラックとして新たな手配書を発行されてしまうはずだ。

 

 普通なら正当防衛ではあるはずだが、海軍の部隊を相手に無双状態のこの状況では過剰防衛である。

 

 

「応援を呼べッ!麦わらのルフィを何としてもここで捕まえるんだ!!」

 

「もう勘弁しろよォォォ!!」

 

 

 そして、理不尽なこの状況に怒り狂い、怒りのままにデマロ・ブラックは拳を振るう。音速の500倍程の速さで伸縮する腕が、海軍を一網打尽にしてしまった。

 

 その場所に立っているのは、懸賞金1億ベリーの麦わらのルフィに瓜二つな、デマロ・ブラックのみ。

 

 

「はあ、はあ、はあ──あ、やべ」

 

 

 気付いた時には全てが終わっており、時すでに遅し。

 

 デマロ・ブラックは麦わらのルフィと勘違いされたまま、これから海軍に追われる身となってしまう。

 

 晴れて、海賊の仲間入りである。

 

 

「やっちまったァァァ!!」

 

 

 デマロ・ブラック。5月5日生まれの34歳。見た目は10代半ばにしか見えない長身痩躯な細マッチョ。職業は冒険家兼トレジャーハンター。たまに旅の資金稼ぎとして海賊のみを獲物に泥棒をやっていた腕っぷしにそれなりの自信がある男。

 

 しかし、このプロフィールは今日までのもの。

 

 デマロ・ブラックは、今日から懸賞金1億ベリーの海賊麦わらのルフィとして、海軍だけではなく、名を上げたい血気盛んな海賊やら、懸賞金目当ての賞金稼ぎに狙われることとなる。とはいえ、迷惑を被るのは彼だけではなく、麦わらのルフィも同じくだ。彼から宝を横取りされてしまった海賊達は、逆に麦わらのルフィを狙うことだろう。

 

 お互いに迷惑極まりない状況である。

 

 しかも不運なことに、デマロ・ブラックは悪魔の実の動物系(ゾオン)の能力者で、能力の一つが麦わらのルフィと似てしまっているようだ。

 

 サルサルの実 幻獣種 モデル"ハヌマーン"。幻獣種という、悪魔の実の中でも稀少な能力を得たことで、人型の状態でも特殊能力を使えるようになったデマロ・ブラックは、伸縮自在の法で体を自由自在に伸縮させ、巨人サイズまで巨大化したり、小猿サイズまで縮小したりと、便利で強大な能力を思うがままに使いこなす。

 

 だがやはり、便利で強大な力は時に災いを呼び寄せる。

 

 今回のこの一件が、まさにそれだろう。そして、この災いはこれからも続き、勘違いが証明された後も事態は好転しない可能性の方が高い。

 

 

「くそッ、なんて日だ畜生が」

 

 

 左目の下の頬に負った深い傷痕から血を流しながら悪態を吐くが、もう後の祭りだ。

 

 デマロ・ブラックが海軍を一網打尽にしたこの事実は、しばらくは麦わらのルフィの罪状になってしまうが、勘違いが晴れた後はデマロ・ブラックの罪状となる。

 

 海軍からしても、一方的に勘違いした相手に返り討ちにされてしまったなど世間に知られたくはないはずだ。

 

 

「ん?

 ッ──こ、これが、麦わらのルフィか!!」

 

 

 ただ、今回の一件は───いや、これからしばらく真実が明らかになるまでの間に各地で起きるデマロ・ブラックと麦わらのルフィによって起こされた事件は、真実が明らかになった後に"ドッペルゲンガー事件"として語り継がれることになる。

 

 何故なら、海軍が勘違いしてしまうのも仕方ないくらいに、デマロ・ブラックと麦わらのルフィは似ており、今回の戦闘でデマロ・ブラックが左目の下の頬に負ってしまった傷のせいで、2人を見分けるのがより困難になってしまった。

 

 身長差も、体を自由自在に伸縮させることができてしまう為にそこまで当てにならない。

 

 ちなみに、麦わらのルフィが170cm台に対して、デマロ・ブラックは2m台だ。気付こうと思えば気付けそうだが、顔が似すぎていることもあり見過ごされてしまうかもしれない。

 

 デマロ・ブラック本人も、震えながら手配書をガン見している。生き別れた双子の兄弟かと思い込んでしまうほどにそっくりさんのようだ。

 

 

「麦わらのルフィ──オレは必ずお前を探し出してやる。そして、オレの無実を証明してやる!!」

 

 

 だがそんなそっくりさんに、今回の一件の罪を擦り付ける気でいるらしい。

 それは無駄な努力で、麦わらのルフィを探し出した時には今よりも酷い状況になっていそうだが…。

 

 それでも、デマロ・ブラックは無駄な努力をする。何故なら、彼は冒険が大好きで、お宝が大好きだからだ。

 

 

「まずは情報収集からだな」

 

 

 しかし、デマロ・ブラックは後に後悔することになる。

 

 大人しく投降しておけばよかったと…。気付いた時にはもう遅い。

 

 デマロ・ブラックと麦わらのルフィの邂逅はわりとすぐに───。

 

 

 






デマロ・ブラックが捏造されております。

元々は頬に傷のない身長2m台のルフィそっくりの34歳立ったけど、勘違いで海軍との戦いになり、そこでルフィと同じ箇所に傷を負ってしまった上に、能力を駆使して海軍を一網打尽にしてしまい追われる身となってしまう。

オリジナル悪魔の実。
サルサルの実 幻獣種 モデル"ハヌマーン"。
インド神話の神猿。
怪力で、飛行能力の他に、体を自由自在に伸縮、巨大化、縮小化できるらしい。

能力の詳細は本編にて少しずつ。


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3億と火拳と黒ひげ



デマロ・ブラックではピンとこない方が多い?



 

 

 懸賞金1億ベリーのルーキー海賊麦わらのルフィにそっくりなデマロ・ブラックが海軍の勘違いを晴らすべく、麦わらのルフィを探し出す旅に出て数週間。

 

 

「麦わらの野郎ォォォ!!」

 

 

 麦わらのルフィの懸賞金が3億ベリーに更新された。

 

 たった数週間でこれだけ懸賞金が上乗せされるなど、いったい何をやらかしたのだろうか…。

 

 ブラックはなるべく騒動を起こさないようにひっそり行動していたというのに、これでは彼の苦労が水の泡である。もっとも、海軍、賞金稼ぎ、海賊達から何度か襲われてはいるようだが…。もちろん、襲ってきた者達は返り討ちにあっている。今までの楽しい人生から急転直下で、天国から地獄へと落とされてしまったブラックだが、麦わらのルフィが世界政府に正面から堂々と喧嘩を売ってしまったことで、麦わらのルフィの名は瞬く間に全世界に轟いてしまい、更なる苦境に立たされてしまっていた。

 

 エニエス・ロビー陥落という前代未聞の大事件。麦わらのルフィの知名度は、ルーキー海賊の中でも断トツだろう。

 

 だが、麦わらのルフィがきっかけとなり、別の事件が勃発しているのだが、世間はまだそれを知らない。

 

 その事件は、ブラックの滞在先で起きてしまう。

 

 

「数週間ぶりだな、ル──誰だお前?」

 

「アンタどっかで…あッ──()()()()()()か!?」

 

 

 バナロ島という島に滞在していたブラックが遭遇したのは、あの白ひげ海賊団二番隊隊長、懸賞金5億5000万ベリーの"火拳"ポートガス・D・エースである。

 

 偉大なる航路(グランドライン)の後半部"新世界"で活動する若き大海賊がどうして前半部にいるのか…。それは本人以外誰も知るはずがない。

 

 

「ルフィがオレよりもデカくなったと思って驚いたが、どうやら別人らしいな」

 

 

 その火拳のエースは、麦わらのルフィとあまりにも似すぎているブラックに驚いており、ブラックはその様子に深いため息を吐き出した。

 

 

「アンタ、麦わらのルフィの知り合いか?

 はあ、知り合いのアンタが一瞬見分けがつかなくなるくらいってことは、やっぱ似てんだな」

 

 

 麦わらのルフィの懸賞金が爆上がりした今、ブラックの道のりがこれまで以上に前途多難であることがハッキリと分かってしまったからだろう。

 

 

「その様子からして、ルフィに恨みがあるとかそういうことじゃなく、元からその顔ってことか」

 

「そうだ。そもそも、オレの方が先に生まれてるはずなんだがな」

 

 

 10代半ばにしか見えない見た目だが、ブラックはこう見えて34歳で、麦わらのルフィの倍の年齢だ。

 

 

「麦わらのルフィの手配書が出回ったせいで、オレの人生はメチャクチャだ。麦わらのルフィに勘違いされて、海軍に捕まりそうになるわ、賞金稼ぎや、名を上げたい海賊に狙われるわ。なるべく騒動を起こさないようにひっそりと麦わらのルフィの行方を追っていたら、麦わらは政府に正面から堂々と喧嘩売って3億ベリーの賞金首になりやがって、オレはますます大変な目に遭う」

 

 

 似ているだけで命の危機に晒されてしまう人間は少なくないが、ブラックほどに不運な星の下に生まれた人物はかなり珍しいだろう。そして、麦わらのルフィが騒ぎを起こす度、名を上げれば上げるほどに、ブラックは命の危機に晒されるのである。

 

 麦わらのルフィが世界政府相手にやらかしてしまった今、かなり危機的状況のはずだ。

 

 

「変装するなり整形するなり」

 

「ふっざけんなよッ!?

 こちとらこの顔で34年生きてんだよ!それに、何も悪さしてねェのに、どうしてオレがコソコソと隠れて生きなきゃなんねェんだよ!オレは早く、世間に公表したいんだよ!麦わらのルフィと似てるだけってことをな!!」

 

 

 ごもっともである。ブラックは海軍相手に過剰防衛とも取れる行動を起こしてしまってはいるが、海軍がまったく話を聞いてくれなかったのも事実。

 

 海賊からお宝を盗んだこともあるが、それはまあ海賊相手だから罪にはならない。一般市民相手に悪さをしたことなどないのである。

 

 ブラックはただ、麦わらのルフィと並んで新聞の一面を飾るなりして、自分と麦わらのルフィが似ていることを世間に知ってほしい───ただそれだけだ。

 

 その為に、ブラックは麦わらのルフィを探している。

 

 麦わらのルフィを捕まえて海軍に身柄を渡したりするつもりは一切ないようだ。一発だけぶん殴ろうと思ってはいるようだが…。

 

 

「あー、弟が何かすまねェ」

 

「は?麦わらのルフィがアンタの弟?」

 

 

 ただ、麦わらのルフィにはまだ会えてはいないが、その身内には会うことができた。

 火拳のエースが麦わらのルフィの兄だったとは驚きである。

 

 それを聞いたブラックが望むのはただ一つ。

 

 

「麦わらのルフィのとこに連れてってくれ。

 オレが1人で行くよりも、兄のアンタが一緒だと話もすんなり終わりそうだ」

 

 

 火拳のエースが同行することだ。

 

 確かに、ブラックがいきなり1人で麦わらのルフィの前に現れても怪しまれるだけ。

 だが、兄のエースが一緒にいれば、幾分か警戒心は薄れるだろう。麦わらのルフィ本人だけではなく、仲間達からの警戒心も同様に。まず、開口一番斬りかかられることはないはずだ。

 

 

「悪いがそりゃ無理だ」

 

 

 もっとも、エースがそれを承諾してくれるとは限らない。そもそも出会って間もない、弟にそっくりな男をいきなり信用するなど普通は無理だろう。

 

 

「オレはこの島に用があってな。

 まァ、それが終わった後なら構わねェが」

 

 

 どうやら、疑われているわけではないようだ。ブラックも騙すつもりもなければ、真実しか言っていないのだから、これは当然の結果だろう。いや、エースが疑り深い性格ではなかったからなのかもしれない。

 

 ブラックはエースの返答に満足そうな笑みを浮かべている。

 

 

「邪魔じゃなけりゃあ、オレもその用事ってのを手伝うぜ?その方が早く終わるだろ」

 

「いや、これはオレが1人でやらなきゃならねェことだ。けど、ありがとな。とりあえず、用が終わるまで待っててくれ」

 

 

 だが、ブラックはこの後に後悔することになる。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 白ひげ海賊団二番隊隊長、懸賞金5億5000万ベリーの"火拳"のエースが無名の海賊に敗北。

 

 いったい、誰がこのような事態を想定できただろうか…。

 

 だが、バナロ島での戦いはまだ終わってはいない。

 

 

「ゼハハハハッ、今日は最高にツイてるぜ!

 エースだけじゃなく、テメエの首も政府への土産にできるんだからなァ──3億の首を寄越せ()()()ァァァ!!」

 

「ちくしょうがッ、覚えてろよ麦わらァァァ!!」

 

 

 火拳のエースを討ち取った無名の海賊と、冒険家兼トレジャーハンターのデマロ・ブラックの死闘が繰り広げられている。

 

 

「こっち来んな黒ブタッ!!」

 

 

 

 

 

万雷拳

 

 

 

 

 

「ぐおォォォ!!」

 

 

 ブラックが拳を黒く染めて硬化させ、更に雷を纏わせて音速の500倍程の速さで連続で腕を伸縮させながら無名の海賊───黒ひげをタコ殴りにする。

 

 多種多様な能力を持つサルサルの実 幻獣種モデル"ハヌマーン"の力と、新世界の海賊との戦闘経験から磨きあげられた覇気。この力が、これまでブラックが生き残ってこられた所以だ。

 

 

「は、覇気だと!?

 麦わら、テメエすでにこれほどの覇気をッ!!」

 

「だからッ、オレは麦わらのルフィじゃねェって何度も言ってんだろうが黒ブタ!オレはデマロ・ブラックだ!!

 つか、火拳を返しやがれ!!」

 

 

 そもそもこのような事態になってしまったのは、火拳が負けてしまい、連れ去られそうになったのを見過ごすことができずに、ブラックが自ら黒ひげという海賊の前に出てしまったからなのだが、そこはまあ致し方なし。

 

 ブラックのこれからの人生の為にも、ここで火拳を連れ去られるわけにはいかない。

 

 

「ゼハハ、ウソ言ってんじゃねェよ」

 

「船長、そいつが言ってることは本当かもしれない。

 麦わらよりも身長が高く、何より麦わら帽子を被っていない。それと、麦わらの仲間は間違いなくこの島にいない」

 

「初めてまともに話聞いてくれるヤツに会えた!!」

 

 

 冷静沈着そうな、黒ひげの仲間の狙撃手であろう人物がブラックが麦わらでないことを証言し、事態はとりあえず一時的に落ち着きを見せることになる。

 

 それと、麦わらのルフィに勘違いされるようになって以来、初めてちゃんと話を聞いてくれる人物に会えたことにブラックはかつてないほどに感激しているようだ。

 

 

「オーガー、テメエがそう言うんならそうなんだろうな。

 ゼハハハハ、しかし強ェな…お前。

 どうだ?オレの仲間になる気はねェか?」

 

 

 ただ、一難去ってまた一難。戦闘は中断されたが、今度は黒ひげからの勧誘が始まってしまう。

 

 火拳を討ち取った黒ひげから勧誘を受けるということは、ブラックの強さがそれだけ魅力的だということ。

 

 

「オレは冒険家兼トレジャーハンターのデマロ・ブラック。海賊にはならねェよ」

 

「そいつァ、残念だ」

 

 

 当然のことだが、ブラックは黒ひげからの誘いを断り───それが再び合図となり、死闘が再開されてしまう。

 

 

 

 

 

雷槌脚

 

 

 

 

 高く飛び上がったブラックは脚を巨大化させ、雷と覇気を纏ってそのまま地に振り下ろす。

 金槌を振り下ろす───いや、その様は天から落ちる雷の如く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 

「はあァァァァァ!?」

 

 

 バナロ島にて、黒ひげと激闘を繰り広げたブラックは、麦わらのルフィが"水の都"ウォーターセブンにいるという情報を掴み訪れるも一足遅く、だが衝撃の事実を知り、驚きのあまりに叫び声を上げていた。

 

 数日前の激闘で、ブラックは火拳のエースを取り戻すことができず、しかも目を覚ました火拳から麦わらのルフィを守るようにとお願いされてしまったのである。

 

 火拳のエースは自らが囮となりブラックを逃がし、黒ひげの手によって海軍に引き渡された。

 

 その情報は、ブラックが今読んでいる新聞にデカデカと載っており、黒ひげが火拳のエースを手土産に"王下七武海"の仲間入りを果たしたことも載っている。

 

 だが、ブラックが驚いているのはそれが理由ではない。世間からしたら、火拳のエースが捕まったことは大スクープだろうが、ブラックにとってはそれ以上に驚くべきことがあった。

 

 

【ドッペルゲンガー事件】

 麦わらのルフィのそっくりな男が出現!?

 

 

 このような見出しで、ブラックの顔が小さくではあるが載せられている。

 

 それと、()()()まで…。

 

 

「ど、どうして…ハッ、まさか黒ひげの野郎の仕業か!?」

 

 

 火拳のエースの他に、最近海軍を悩ませる麦わらのルフィにそっくりで強いヤツの情報。

 

 海軍は、デマロ・ブラックの存在を勘違いで済ます気がないようだ。海軍の面子の問題でもあるのだろう。

 

 

「ふ、ふっざけんなァァァァァ!!」

 

 

 懸賞金3億6000万ベリー。"赤猿"デマロ・ブラック。

 

 海軍が受けた被害と、黒ひげからの情報が加味されたことで、晴れて犯罪者となってしまった。

 

 






新世界での冒険の経験もあり、新世界の海賊相手に泥棒もやってたから覇気も扱える。バナロ島にいたらエースと遭遇し、黒ひげとも遭遇。エースはお兄ちゃんだからどうにか気付けた。でも、一瞬間違えそうなほどにそっくりで、ルフィが数週間で身長が伸びて自分よりも大きくなったと思ったり。

黒ひげは案の定襲いかかってきた。けど、エースと黒ひげの戦闘を見てたおかげで、ヤミヤミの実の恐ろしさを知っておりどうにか対抗。ヴァン・オーガーのおかげで、勘違いは晴れるも勧誘され、断ったら殺されそうになり、目を覚ましたエースが囮となり逃げることに…。

七武海入りを果たした黒ひげが余計な情報を流したおかげで、麦わらのルフィから受けたと思ってた被害がデマロ・ブラックによるものだと発覚し、海軍の勘違いだけど海軍の面子の為にと指名手配されてしまう。黒ひげの情報で覇気が扱えることも明らかになった為に、ルーキーでは異例の3億超え。

猿神ハヌマーンの能力に、雷のような咆哮というものがあるらしいので、雷も扱えるようになってます。

万雷拳。
ルフィで例えたらゴムゴムの銃乱打(ガトリング)
ただ、雷と覇気を纏っててルフィのより圧倒的に速くて威力も上。

雷槌脚。
ルフィで例えたらゴムゴムの斧。


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赤猿と麦わらと悪魔の子



主人公の異名は赤猿。
懸賞金は初頭では異例の3(サ)億6(ル)000万ベリー。
黒ひげから得た情報が大きい。覇気使いの能力者。海軍と世界政府の認識では、麦わらのルフィに似てるが麦わらのルフィよりも危険度高め。



 

 

 シャボンディ諸島。偉大なる航路(グランドライン)前半部(楽園)と、後半部の新世界を隔てる赤い土の大陸(レッドライン)の付近にある諸島で、この島に辿り着いたということは、つまり偉大なる航路を半分航海したということでもある。

 

 偉大なる航路のスタート地点である双子岬から、だいたい2ヶ月半くらいの期間で到達できるが、双子岬から七つに分かれているどの航路を選ぶか、その他にも航海士の腕前であったり、船の性能だったり、その時の気候だったりと、その時の状況によって大きく変わってくる為に、シャボンディ諸島に到達するまで倍の期間を要する場合もある。

 

 もっとも、シャボンディ諸島までの航海は序の口にしか過ぎない。本番はここからだ。

 

 海賊王を目指し、意気込んで新世界に乗り込む海賊達の多くが挫折を味わい、死んでしまう海。それが新世界。

 

 その新世界で生き残れた海賊は、世界に名を轟かせる。

 

 ただ、このシャボンディ諸島は海軍本部"マリンフォード"のすぐそばに存在する島だ。新世界に乗り込む前に、海軍に捕まる可能性も高いリスキーな島でもある。それでもこの島に海賊達が立ち寄るのは、立ち寄らなければならない理由があるからだ。

 

 新世界を目指す海賊達のほぼ全てが、このシャボンディ諸島で船にコーティングを施し、赤い土の大陸の真下辺りの深海1万メートルの位置に存在する"魚人島"を経由して新世界へと足を踏み入れる。

 

 船にコーティングを施さなければ、魚人島には行けない。

 

 つまり、そのコーティングを施している間に、海軍に捕まってしまう可能性もあるということだ。

 

 その上、シャボンディ諸島はこの世界で最も誇り高く気高き血族として世界の頂点に君臨する"天竜人"の庭でもある。もし、その天竜人の機嫌を損ねてしまったが最後、海軍本部大将率いる軍艦10隻が即座に派遣されてしまう。その挙げ句、人を人とも思わぬ天竜人の奴隷となり、人としての人生も終わってしまうこととなる。

 

 もし、天竜人がシャボンディ諸島を訪れた場合は、ほぼ全ての海賊達は沈黙を貫き、鳴りを潜める。腰抜けと言われようとも、これは海賊の世界でも鉄則なのだ。

 

 だが、何事にも例外が存在する。

 

 新世界に皇帝の如く君臨する4人の大海賊"四皇"達にとっては、天竜人はゴミクズも同然の存在だ。世界の常識など、四皇にはまったく関係ない。

 

 あとは、何も知らない無知な存在くらいだろう。

 

 そして、その無知な存在が天竜人をぶん殴るという前代未聞の事件を起こし、シャボンディ諸島に大将が派遣されるという傍迷惑な大事件が勃発してしまった。

 

 

「テメエのせいでオレの人生メチャクチャだ!いい加減にしろッ──()()()()()()()!!」

 

 

 その無知な存在というのが、ここ最近常に世間を騒がせている傍迷惑な問題児ルーキー海賊、懸賞金3億ベリー"麦わらのルフィ"だ。

 

 

「は!?誰だよお前ッ!!」

 

 

 ただ驚くべきことに、このシャボンディ諸島に偶然にも、麦わらのルフィにそっくりな海賊がいた。懸賞金3億6000万ベリー"赤猿"デマロ・ブラック。

 つい数日前に、海軍の面子を保つという理不尽な理由から指名手配されてしまった元冒険家兼トレジャーハンターである。

 

 それと、最大の元凶は海軍ではなく麦わらのルフィで、ブラックはようやくその元凶を見つけ出したようだ。

 

 どうやら、お取り込み中(緊急事態)のようだが…。

 

 

「とりあえず、話はそのバーソロミュー・くまに()()()()なヤツを倒してからだな。

 すまんが、ぶッ倒させてもらうぜ!」

 

 

 

 

 

霹靂鉄槌

 

 

 

 

 

 ブラックが見つけ出した麦わらのルフィは、一味揃って"王下七武海"のバーソロミュー・くまと戦闘中だったようで、数では圧倒的に有利な状況だが戦況は劣勢。しかも、ブラック曰くバーソロミュー・くまではない人物とのこと。そんな状況を素早く片付けるべく、ブラックが標的の頭上に瞬時に移動し、雷を迸らせながら指を組み、その両手を標的の脳天目掛けて振り下ろした。

 

 そもそも、麦わらのルフィ達がこのような危機的状況に陥っているのは自分達のせいなのだから、ブラックが助ける義理はない。律儀に火拳のエースとの約束を守る必要もないのだ。あれは火拳が一方的に頼んだだけなのだから…。

 

 

「本物はもっと強いはずだ」

 

 

 それでも、人がいいブラックは麦わらのルフィ達を助けた。火拳からの頼み以外に、ブラックが麦わらのルフィ達を助ける理由が偶然にもあったのが大きいところだが…。

 

 

「やれやれ。

 この程度倒せないようじゃ、新世界で生き残るのは無理だぜ──麦わらのルフィ」

 

 

 呆れた様子で告げるブラック。すると驚くべきことに、麦わらのルフィ達を劣勢に追い込んでいたそれの頭が陥没しており、大爆発を起こして崩壊してしまう。

 

 

「これは……クローン技術を駆使して作り出したサイボーグってところか…。バーソロミュー・くまに限りなく近い気配だったのはそれが原因だろうな。

 まァ、それはともかく、ようやく見つけたぜ」

 

 

 望まずして指名手配されたデマロ・ブラックと、海賊王を夢見るモンキー・D・ルフィ。

 双子の兄弟だと口にしたならば、誰も疑わないほどに瓜二つな2人がついに出会った。

 

 自分に似た麦わらのルフィにようやく出会えたブラックは、顔は笑っているのに目が一切笑っていない。

 

 

「お前、もしかしてオレの兄弟か?」

 

 

 そのブラックに対して、麦わらのルフィは開口一番これである。

 

 

「会いたかったぜ弟よ──って言うとでも思ったかクソッタレがァァァァァ!!」

 

「ぎゃあアァァァァァ!!」

 

 

 本来なら、打撃が一切効かないゴム人間の麦わらのルフィに、特大の(拳骨)が落とされた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 麦わらのルフィが"水の都"ウォーターセブンにいるという情報を掴むも、行き違いとなってしまったブラックは、新世界を目指す海賊達が必ず立ち寄るシャボンディ諸島へと向かい、ようやく麦わらのルフィと出会うことができたのだが…。

 

 

「サンジくんの手配書にそっくりなデュバルの存在以上に驚きだわ。ま、まさか、ルフィのそっくりさんがいるなんて」

 

「可愛いお嬢さん。

 オレ、こう見えて34歳だから。この顔の歴は麦わらの倍はあるから。オレが麦わらに似てるっての違うから、麦わらがオレに似てんの。そこんとこ気を付けて」

 

「34歳ッ!?」

 

 

 己達の船長にそっくりなだけでも驚きだというのに、年齢が倍だと聞かされ更に驚く仲間達。

 

 ちなみに、麦わらのルフィは大きなたん瘤をいくつも作って涙目である。一発だけのつもりが、ブラックのストレスは思っていたよりも溜まっていたらしい。

 

 しかも、麦わらのルフィ達を追ってこの場所に登場した大鉞を背負った大柄な体格で黒髪おかっぱ頭に赤い前掛けをした男を、腕を巨大化させて掴んで遠くにブン投げ、その男が引き連れていたバーソロミュー・くまそっくりなサイボーグを拳骨一発で破壊していた。

 

 そっくりさんを見ると怒りが爆発してしまうとのことだ。

 

 その光景を目の当たりにした麦わらのルフィの仲間達は、ブラックには絶対に勝てないと悟ったらしい。

 

 

「まァとりあえずオレが言いたいことを言わせてもらうが、頼むからこれ以上騒ぎを起こさないでくれ。

 お願いだから。お宝あげるから。お願いします」

 

「お宝ッ!?」

 

 

 そして、ブラックが言いたかったことというか、切実なまでの願いを聞き、麦わらのルフィが騒ぎを起こす度にブラックが迷惑を被っていたのだと理解し同情の眼差しを向けている。

 

 1人だけ、お宝に反応している可愛い女の子がいるが、お宝を貰えるのであれば大人しく従うのだろう。

 

 

「お前、こんなに強ぇのに海賊じゃねェのか?」

 

 

 麦わらのルフィは、己にそっくりな男が海賊ではないことに驚いているようだ。

 己と同じ顔なら、海賊王を目指しているのだろうと勝手にそう思っていたようだが、何故そう思ったのだろうか…。

 

 

「オレは冒険家兼トレジャーハンターだ。海賊になった覚えはないし、海賊だと語ったこともない。

 けど、海軍と世界政府は面子を守る為なのか、オレを指名手配しやがった。最悪だぜ」

 

 

 まったく可愛そうな話で、懸賞金の額の高さもブラックの不運さを強く物語っている。

 もっとも、懸賞金の額の高さに関しては、納得のいく強さなのだが…。

 

 

「政府ならやりそうだわ」

 

 

 ブラックの身に起きた話を聞き、麦わらのルフィの仲間達の中で誰よりも世界政府に被害を受けた美女がそう口にした。

 

 懸賞金8000万ベリー"悪魔の子"ニコ・ロビン。世界政府から20年もの間追われ続け、今も尚追われ続ける悲劇の考古学者である。

 そのニコ・ロビンに対し、ブラックは温かな笑みを向けており…。彼女本人はどうしてそんなに優しい笑みを向けられるのか分からずにいるようだ。

 

 

「ニコ・ロビン…君は()()()()()()()()()()()だな。こうして会えたことを嬉しく思う」

 

「!?

 は、母を知っているの!?」

 

 

 どうやら、驚くべきことにブラックとニコ・ロビンの間にはちょっとした接点があるようだ。接点があるのは、正確にはブラックとニコ・ロビンの母───ニコ・オルビアのようだが…。

 

 

「オルビアさんはオレが冒険家を目指そうと思ったきっかけでもある。ある日、"歴史の本文(ポーネグリフ)"の研究の為に航海していたオルビアさんとオレは出会った」

 

 

 それはかれこれ20年以上も前のことだ。

 

 

「オレは、オルビアさんに古代文字を少しばかり教わってな。別れの時に本も何冊か貰った。それからは古代文字を独学で学んだよ。だから、オハラの一件を知った時は本当にショックを受けた」

 

「あ、あなたも古代文字を読めるの!?」

 

「おう、苦労して覚えた。

 オレは冒険家だからな。色んなものを見たい。その一つが歴史の本文(ポーネグリフ)だ」

 

 

 ここでまさかの衝撃的な事実である。

 

 ブラックが危機的状況だった麦わらのルフィ達を助けた理由が、過去に世話になったニコ・オルビアの娘のニコ・ロビンがいたからというのは、話の内容からしても確かだろう。

 

 しかしまさか、ブラックも古代文字を読めるとは…。

 

 今や古代文字を読めるのはニコ・ロビンしか存在しないと思われていたのに、まさか他にも存在したなど、驚天動地で震天動地。それが麦わらのルフィに似ているブラックだというのだから、驚きは倍増し以上だろう。

 

 これがもし世界政府に知られたら、ブラックの懸賞金は更に跳ね上がる。寧ろこれまで、よく隠し続けてこれたものだ。それもこれも、やはり幻獣種の能力があったからこそなのだろう。

 

 麦わらのルフィが天竜人を殴り飛ばしたことで、海軍本部大将が派遣されてしまう大事件の真っ只中だが、それ以上にヤバい案件がここに転がっていようとは…。

 

 

 






色んな考察を読んでみたりしたのですが、ルフィ達の航海日数(シャボンディ諸島まで)って2ヶ月半くらいなんですね。

ウォーターセブンで行き違いになってしまったデマロ・ブラックは、それならばとシャボンディ諸島へ。
しかし、到着したら麦わらのルフィが天竜人を殴っていた。←頭を抱えるどころこ、殺意が湧いた模様。

けど、麦わらの一味にニコ・ロビンがいることを知り、そこで殺意が和らぐ。このデマロ・ブラックは、過去にロビンの母親と出会っており、歴史の話を聞いて、世界各地を回って色んなものを見てみたいと思うようになり、それで冒険家を目指したのである。オルビアに少し古代文字を教わり、そこから独学で古代文字をマスター。

ロビン以外で歴史の本文(ポーネグリフ)を読めるのコイツだけ。世界政府が何としてもブラックを排除せねばならないような理由が実はあるという、かなりヤバイ奴だった。


麦わらの一味全員で戦ってるのに劣勢だったパシフィスタ戦。ブラックが一撃で破壊。

霹靂鉄槌。
覇気と雷を纏ったダブルスレッジハンマー。

霹靂大鉄槌ってのもあるけど、こっちは覇気と雷を纏った踵落とし。

戦闘丸は巨大化した腕で掴まれてブン投げられてフェードアウト。


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赤猿と黄猿



ワノ国編の女キャラ、うるティとヤマトが可愛いんだけど、どうしよう?とにかく可愛いよね。うるティのマスクの下ってどうなってんだろ。

そういえば、ワノ国編にビックマム海賊団のメンバーちょっとだけ出てんのに、カタクリがまったく出てない。何故だ?



 

 

 シャボンディ諸島にてようやく麦わらのルフィと出会えたデマロ・ブラックだが、彼は結果的に麦わらのルフィ達の命の恩人にまでなってしまった。

 

 麦わらのルフィのせいで人生メチャクチャになったというのに、人がいい。もっとも、助けた理由はブラックが昔、世話になった人物の娘が麦わらのルフィの仲間だったからという理由ではあるのだが…。

 

 

「ありがとう、ブラック。

 お母さんの話を聞けて、とても嬉しいわ」

 

「これくらい気にするな。

 オレとしては、オルビアさんとの思い出話は他にもあるからもっと君に話してあげたいと思っているんだ」

 

 

 世界政府に20年以上、今も尚執拗に追われ続ける美しい考古学者の女性───ニコ・ロビン。

 

 ブラックは世話になったニコ・オルビアの娘である彼女に出会い、麦わらのルフィに対する怒りをすっかり霧散させ、思い出話に花を咲かせている。

 

 ブラックから聞かされる母親の話にロビンも喜んでおり、花が咲いたような美しい笑みを浮かべ、母親を尊敬しているブラックに会えたことに感極まってか、時折嬉し涙も浮かべている。

 

 その美しい花笑みと涙に、ブラックの心臓は何時になく激しく高鳴っているようだ。

 

 実は、ブラックの初恋はニコ・オルビアらしく、初恋の相手の面影を強く持つロビンに出会い、こうして話しているうちに、かつての想いが甦ってきてしまったのである。ブラックの中で、初恋にはちゃんとお別れをしたはずなのだが、まさかこのような想いが芽生えようとは想定外のはずだ。

 

 しかも偶然にも、ブラックの女性の好みは、ロングヘアーで妖艶でセクシーな美女。賢ければ尚良し。

 

 

「どうかしたの?」

 

「いや……。

(初恋の女性の娘にときめくって凄い複雑だなァ。)」

 

 

 ブラックがそんなことを考えているなど、ロビンは知るはずもない。

 

 しかし、楽しい一時というものはすぐに終わりを迎えてしまう。何より、麦わらのルフィ達にはこれ以上ゆっくりしている時間などない。

 

 何故なら、麦わらのルフィ達を捕まえるべく、シャボンディ諸島に海軍大将が送り込まれているのだ。

 

 それもこれも、全ては麦わらのルフィが原因で、本来ならブラックが助ける義理など一切ない。ニコ・ロビンの存在がなければ、ブラックはきっと知らぬ存ぜぬを貫いていただろう。巻き込まれている未来しか見えないが…。

 

 

「もうすぐ、ここに大将がやって来る。

 ロビン、君は麦わら達と逃げるんだ」

 

「あ、あなたはどうするの!?」

 

「オレが時間稼ぎしといてやる」

 

 

 先の戦闘で消耗した体を休めるのもここまで。

 

 ブラックが先の戦いで投げ飛ばした鉞を持ったオカッパ頭の男が、麦わらのルフィを発見したことを報告しているのをブラックは聞いており、何れ大将が襲撃してくるのも分かりきっていた。

 

 

「そ、そんなッ、貴方にはまったく関係ないことなのに!!」

 

「麦わらのルフィ達はついでだが、オレが君を助けたいと思った。それだけだ。

 なーんて、カッコつけてみたけど、ちょーっと海軍大将に()()があってな」

 

 

 先の襲撃でも劣勢に追いやられていた麦わらのルフィ達では大将には勝てるはずもなく、逃げ切れるとも思えなかったブラックは、自分が殿を務めると告げる。

 

 皆で力を合わせて───大将の恐ろしさを知るロビンがその言葉を言えるはずもなく、己の無力さに唇を強く噛み締めている。

 

 

「安心しろ。オレは絶対に捕まらないし負けない。それに、オレはやられたら倍返しにするのが心情でな。

 オレを賞金首にしやがった世界政府と海軍に仕返ししないといけないんだ。

 必ず、また君に会いに行くから。今度はもっとゆっくり、お茶でもしながらオレの思い出話を聞いてくれ」

 

「必ず…絶対に会いに来るって約束して」

 

「おう、男に二言はねェよ」

 

 

 自信に満ちた笑みを浮かべながら、ブラックは優しくロビンの頭を撫で、再会の約束をする。

 

 絶対に捕まってはならない、死んではならない理由がブラックにできた。その理由が、どれだけの力をブラックに与えるのか、彼はそれを深く理解している。

 

 ただ、本来ならこれはブラックがやらなくていいことだ。これだけ理不尽な目に合いながらも、どうして自ら溝に手を突っ込むような行動をするのか───ブラック自身は気にしていないようだが、人生損するタイプなのだろう。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 ティアドロップ型のサングラスを掛け、黄色のストライプスーツを着用した中年の男が、赤いシャツの上に黒いマントを羽織った男と相対している。

 

 中年の男は、スーツの上に白いコートを羽織っており、背中には正義の二文字が刻まれている。

 つまり、この中年の男は海兵ということだ。

 

 

「わっしの部下の戦桃丸って鉞を持ったオカッパ頭の男を探してるんだけど知らないかィ?」

 

「ああ、ソイツならブン投げたぜ。多分、島の反対方向か、海に落っこちちまってるかもな」

 

 

 その中年の男の問いかけに対し、黒いロングコートの男は平然とそう答えた。これは嘘ではなく本当だ。ブラックが本当にブン投げたのである。

 

 

「ブン投げたのかィ。

 戦桃丸くん……あの子は弱くないんだけどねェ。どうやら、噂以上に強いみたいだねェ──"()()"」

 

「そういうアンタは、噂に違わぬ強さのようだが…。

 海軍本部大将──"()()"」

 

 

 麦わらのルフィが世界貴族"天竜人"を殴り飛ばしてしまい、シャボンディ諸島に海軍本部大将と軍艦が派遣されることが決定してから数時間。シャボンディ諸島に派遣された大将は"黄猿"。そしてこの中年の男こそが、大将"黄猿"だ。

 

 間延びした喋り方と、どこか抜けたような振る舞いは飄々として掴み所がなく、大将とは思えぬ印象を与えてもいるが、逆にそれが腹の底を読ませず不気味な印象を与え、強者の貫禄を感じさせている。

 

 ブラックは、それを犇々と強く感じ取っており、一見冷静そうに見えても、背中に大量の汗を流していた。彼の人生で初めて出会った海軍大将。しかも、その大将とこれから戦うことになろうとは…。

 

 これも全て麦わらのルフィのせいだと、ブラックは内心で悪態を吐いている。

 

 

「麦わらのルフィにそっくりなお前さんを捕まえて天竜人の前に突き出したらどうなるんだろうねェ。

 動物(ゾオン)系の能力者みたいだから退屈させないだろうし、黙ってれば気付かれないよねェ、きっと」

 

「どうだろうな。

 つっても、アンタがオレを捕まえられたらの話だがな」

 

 

 不気味な笑みを浮かべる黄猿に対し、ブラックは好戦的で不敵な笑みを浮かべながら挑発する。海軍の最高戦力に対して大胆不敵だ。だが、ブラックは大将を前にして気が狂ったわけではない。

 

 

「ッ、おおっと」

 

「オー…()()()()に対応するのかィ」

 

 

 眩く光ながら繰り出された光速の蹴りを、覇気を纏った腕で防いでみせたことからも、ブラックが大将と戦える実力を持っているのは確かな事実。

 

 この一撃で手早く終わらせようと思っていた黄猿は、まさか防がれるとは思っていなかったのか、飄々とした様子を見せながらも、実際にはかなり驚いている。

 

 

「覇気を使えるってのは聞いてたけど、まさかここまでとはねェ。軽い気持ちでこの島に来たってのに困ったねェ。

 ルーキー海賊トップの懸賞金3億6000万ベリー。けど実際は懸賞金額以上の強さじゃないかィ」

 

「言っとくがオレは海賊じゃねェ。

 冒険家兼トレジャーハンターのデマロ・ブラックだ」

 

 

 自信たっぷりに、己は海賊ではないと語るブラック。今のこの状況も、ブラック本人が望んだものではなく、彼が悪さをしでかした結果でもないのだ。

 

 過剰防衛ではあるが、その件も先に勘違いして手を出したのは海軍だ。

 

 

 

 

 

天雷戦鎧

 

 

 

 

 

「オー…雷を操れる動物(ゾオン)系ってのはどうやら本当みたいだねェ。

 人型のままそれほどの力を操れるまでに悪魔の実の力を鍛え上げているなんて凄いねェ。お前さんが海兵だったら、中将にもなれたんじゃないかィ?」

 

 

 髪の毛が逆立ち、全身から雷を迸らせながら、ブラックはそれまで以上に好戦的な笑みを浮かべている。

 

 大将相手に逃げも隠れもしない。ブラックは真正面から挑むつもりのようだ。

 

 

「これから()()()()()()()()ってのに想定外の事態で参ったねェ。困ったねェ」

 

 

 対して黄猿は、心底困ったような表情を浮かべながらも、光を剣型に形成し、ブラックを捕縛する気満々だ。

 

 黄猿は、自然(ロギア)系悪魔の実"ピカピカの実"の能力者───つまり、光人間だ。光に変身でき、あらゆる挙動が光速となる。破壊力、機動力抜群の凶悪な能力だ。

 

 指先からビームを放ったり、このように"天叢雲剣(あまのむらくも)"という光の剣を作り出したりもできる。

 

 凶悪な悪魔の実の能力に、海軍本部大将にまで上り詰めた高い基礎戦闘力。

 

 誰がどう考えても、ルーキー海賊では太刀打ちできるはずがない。普通ならば…。

 

 

 

 

 

武装・雷切

 

 

 

 

 

 だが、ブラックは普通のルーキー海賊ではない。新世界での航海経験もあり、新世界の海賊相手にたった1人で戦い、生き延びている。

 

 今現在、シャボンディ諸島に集ったブラック含む億超えのルーキー海賊"12人の超新星"達の中でも、戦闘経験に於いても頭一つ以上は飛び抜けているだろう。

 

 ブラックが覇気を使えるのも、それを証明している。本来なら、弱点をつく以外だと触れることも、物理攻撃が一切効かない自然(ロギア)系の悪魔の実の能力者に対して、覇気を使えるブラックは触れることもでき、物理攻撃でダメージを与えることが可能だ。

 

 手刀に纏った黒雷の刃が、黄猿を斬りたいと物語っているかのように怪しげに輝いている。

 

 

「凄いねェ、自然系よりも稀少な動物系幻獣種は…そんなことも可能なのかィ。

 全身から迸る雷を剣型に形成するなんて──しかも覇気まで纏った黒い雷。"黒刀"みたいだねェ」

 

「こちとら、それなりに色々と経験してるんだよ。

 あ、今さらだけど一つだけ聞いていいか?」

 

 

 緊迫した状況。ただ、この状況でブラックは黄猿に問いかける。恐らく、これがブラックがニコ・ロビンに言っていた、大将への用事なのだろう。

 

 

「海軍が勘違いして襲いかかってきたから、オレは正当防衛で返り討ちにした。

 そもそも、オレは自ら海軍に喧嘩を売ったことはねェし、一般市民に危害を加えたこともねェ」

 

 

 ニコ・ロビン達麦わらの一味を逃がす為に殿を務め、黄猿と戦っているこの状況は致し方なしということにしているらしい。それに、大将と話せるこの状況を作ることがブラックにとって必要なことだったのだ。

 

 

「何が言いたいんだィ?」

 

「もう一度言うが、オレは海賊じゃねェ。だから、オレの手配書を破棄してほしいんだが」

 

 

 相手が大将だからこそ、ブラックはこのような話をする。内心、無理だと分かっていても、ブラックもこの理不尽な状況をどうにかできないだろうかと、ただの冒険家兼トレジャーハンターとして冒険を楽しみたいだけなのだ。

 

 

「そんなの無理に決まってるでしょうよ。

 海軍はお前さんに痛手を負わされてるんだからねェ。その責任はお前さん自身がしっかり払ってくれないと」

 

「……そうか。

 なら、オレも全力で抗わせてもらうぜ。

 覚悟しろォ、黄猿ゥゥゥゥゥ!!」

 

 

 交渉決裂。ルーキー海賊No.1の懸賞金額の"赤猿"デマロ・ブラックと、海軍本部大将"黄猿"の死闘が勃発する───かと思いきや、ブラックは雷の刃を消して、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

 すると、開いた状態の両手を額近くまで持っていき…。

 

 

 

 

 

天声轟々

 

 

 

 

 

「ぐうゥゥゥ!!」

 

 

 眩い雷光が黄猿の視力を奪い、至近距離で鳴り響くけたたましい雷鳴が聴力を奪い、予想外の不意打ちに黄猿は悶絶する。

 

 千載一遇のチャンス。黄猿に手傷を負わせる大チャンスだ。

 

 

「ハッハッハッ!

 海賊は卑怯で卑劣ってのが世間の認識だからな!アンタら海軍と世界政府がオレに海賊として存在してほしいってなら、アンタらの望み通りに海賊やってやるよこんちくしょうがァァァ!

 ざまァ見やがれってんだ!!って、聞こえてもねェか!

 しばらく精々もがき苦しみやがれッ!じゃあなァ、黄色いおサルさん!!」

 

 

 こんな大チャンスに何もしない海賊は存在しないだろう。そこに関しては、ブラックだから仕方ない。その一言に尽きるだろう。本当は、海賊になるつもりなどないのだ。

 

 世界政府は嫌いで、賞金首にされたことで海軍も大嫌いになっただろうが、それでも海軍が世界に必要なことを理解している。だからブラックは、何もせずに逃げる。

 

 視力を奪うだけではなく、聴覚まで一時的に破壊したのはちょっとした嫌がらせだろう。もっとも、麦わらのルフィ達を追われては困る為に、身動きを封じる必要があったからこその不意打ちだ。

 

 

「う……ぐうゥ……」

 

 

 大将がしてやられた。それと、逃げることにのみ全力を注ぐ。その点に関しては、しっかりと海賊をやってるように思えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャボンディ諸島13番GRにある酒場"シャッキー'S ぼったくりBAR"。

 

 黄猿を一時的に戦闘不能に陥れたブラックは、そこに訪れていた。もちろん、ただ飲みにやって来たわけではない。

 

 ニコ・ロビンから、避難先の一つとしてその場所を告げられていたからだ。

 

 ブラックは黄猿から華麗に逃げた後に、麦わらの一味を探していたのだが、彼らの行方が掴めずに途方に暮れ、この場所にやって来たのである。

 

 

「驚いたな。噂には聞いていたが、双子の兄弟と言われても信じてしまうほどそっくりだ」

 

「ま、まさか"()()"シルバーズ・レイリーがこんな場所にいるなんて」

 

 

 そのブラックがこの場所で出会ったのは、驚くべきことに海賊王の右腕───ロジャー海賊団副船長のシルバーズ・レイリーだった。

 

 伝説の海賊とこんな場所で出会うことになるとは、ブラックの驚き具合はとてつもない。

 

 ただ、その"冥王"レイリーから、更に衝撃的な事実が告げられる。

 

 

「ニコ・ロビン達、麦わらの一味を探しているとのことだったが…。残念だったな。

 彼らはもうシャボンディ諸島にはいない」

 

「出港したのか?」

 

「いや、()()()()()()()()()()しまったんだ」

 

 

 事態は、ブラックの想定したものとはまったく違っており…。

 

 






今さらながら、主人公の服装。
赤いシャツに黒い七分丈のズボンに黒いマントを羽織っている。え?二年後のワノ国編ルフィ?ルフィと違って胸はさらけ出してないよ。


VS 黄猿戦。

天雷戦鎧
雷による肉体活性。パワーとスピードが上昇する。髪の毛が逆立ち、全身から雷を迸らせたその状態は、ジャンプのバトル漫画の大先輩を彷彿とさせる。

雷切
手刀に雷の刃を纏わせる。斬ったり、伸ばして貫いたり。覇気を纏うと黒雷。あれ?合体した先輩方も似たようなの……。

天声轟々
逃走用の技。全身から眩い雷光と、けたたましい雷鳴を発し、視力と聴力を一時的に奪いその間に逃走する。
新鶴仙流のアレと違って、視力だけではなく聴力にもダメージを与えるから、食らったら結構ヤバいよ。

黄猿さんは原作通りに他のルーキー海賊と戦った後。けど、思わぬ不意打ちを受けた模様。


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孤高の赫猿と冥王



恐れ多くも、日間とルーキー日間にランクインしてしまった。皆様ありがとうございますね。

プレッシャー半端ないけど、ボクガンバル。

ちなみにだけど、誉められたら伸びる子だと思うよ。きっと。



 

 

 シャボンディ諸島にてデマロ・ブラックが海軍大将・黄猿から逃げ延び、それから一夜が明け…。

 

 世間は、麦わらのルフィが天竜人を殴り飛ばした大事件にはまったく関心を示すことなく、世界の均衡を崩す大事件が()()()()()()()であろうことに戦々恐々としていた。

 

 数日後、いったい何が起きるというのか…。白ひげ海賊団二番隊隊長"火拳"ポートガス・D・エースの公開処刑が海軍本部マリンフォードにて執り行われることが発表されたのである。

 

 ただ、火拳の公開処刑が執り行われることを知った者達の脳裏を過ったのは、世界最強の大海賊の姿だろう。火拳の公開処刑を行う───それはつまり、海軍本部と白ひげ海賊団の全面戦争を意味してもいるのである。

 

 偉大なる航路(グランドライン)の後半部"新世界"に皇帝の如く君臨する大海賊"白ひげ"が、この事態に動かないわけがない。間違いなく、白ひげは火拳を奪還するべくマリンフォードに乗り込むだろう。それも、傘下の海賊団達と共に───大艦隊を率いて。

 

 かつてない大戦争がマリンフォードにて勃発し、多くの血が流れることとなる。

 

 しかし、海軍も血迷ったことをするものだ。

 

 白ひげは海賊だが、世界の均衡を守る為の抑止力。武闘派のカイドウ、癇癪持ちのシャーロット・リンリンとは違い、四皇内でも穏健派に位置付けられている"赤髪"のシャンクスと同様で、どちらかというならばピースメインに分類される海賊だ。

 

 もっとも、白ひげも赤髪も海賊であることは事実で、一度暴れさせれば手に負えず、島一つ簡単に破壊してしまう力を持っているのだが…。

 

 ただ、白ひげや赤髪がナワバリにすることで、平和が保たれている島が幾つも存在する。多くの一般人達が、白ひげと赤髪に守られているのだ。

 

 もし、今回の一件で白ひげが死んでしまったら、白ひげに守られていた多くの一般人達にまで被害が及んでしまうこととなる。

 

 白ひげが死んでしまったら世界がどうなるのか───火を見るよりも明らかだ。

 

 世界がより混沌と化してしまう選択をするなど、正気の沙汰ではない。

 

 だが、海軍と世界政府にも白ひげとの戦いを覚悟してまで火拳の公開処刑を執り行う理由があるのだろう。その理由がいったい何なのか───それはきっと、処刑日当日に明らかになる。

 

 これから世界はいったいどうなってしまうのだろうか…。

 

 それはそうと、火拳の公開処刑の発表で世間が大騒ぎしているなか、人知れずというか、火拳の公開処刑の衝撃が大きすぎて誰も気付いていないだけで、新たな大海賊が誕生していた。

 

 それも、ルーキー海賊が異例の大出世である。

 

 懸賞金7億3600万ベリー"赫猿"デマロ・ブラック。初頭で3億超えの懸賞金をかけられただけでも異例だというのに、この短期間で更に倍増しされるとは、海軍と世界政府がそれだけ危惧する存在だということだ。

 

 少しタイミングがズレていたら、ブラックが話題の中心になってしまっていたかもしれない。懸賞金が倍増しにされてしまったのは遺憾だろうが、このタイミングは本人的には良かったことなのかもしれない。

 

 

「一気に倍増しとは、ますます君の未来が楽しみだ」

 

「冗談やめてくれよレイリーさん。

 オレは海賊じゃないんだ。はあ、そんなこと言っても、もう誰もオレの話なんて聞いてくれないんだろうけど…」

 

 

 しかしながら、この短期間で5億を超える賞金首になるとは恐れいる。海賊王の右腕"冥王"ですらも、感嘆の声を漏らすほどだ。ブラック本人にとっては、誠に遺憾なことだが…。

 

 海軍大将・黄猿を相手に、為て遣ったりを成功させてしまったことで、海軍と世界政府に対するブラックの脅威度は増しに増したということだ。ブラックの手配書が破棄されることは、きっと未来永劫訪れることはない。

 

 ブラックが冒険家兼トレジャーハンターと名乗っても、世間では自称という文字すらも付与されることはない。

 

 デマロ・ブラックの世間一般での認識は凶悪な犯罪者───一匹狼の海賊なのである。

 

 

「君なら、あの"孤高のレッド"を確実に超える」

 

「嬉しくないから」

 

 

 新進気鋭の孤高のルーキー海賊"赫猿"デマロ・ブラックの懸賞金がこれからどこまで増すのか、冥王レイリーはそれが楽しみで仕方ないらしい。

 

 ブラックがどのように行動しようとも、海賊という運命が彼を逃すことがないことをレイリーは知っているのだ。どんなに抗っても無駄で、無駄な努力でしかない。不可能なことなど決してないという、そんな話ではないのである。

 

 ちなみに、孤高のレッドというのは、海賊王世代の大海賊パトリック・レッドフィールドのことだ。孤高の異名の通り、誰とも組むことなく、たった1人で海賊王ロジャー、白ひげ達と渡り合った大海賊。

 

 ただ、レイリーがブラックに対して、大海賊"孤高のレッド"を超えることができると明言するあたり、己達───ロジャーや白ひげ達と比べたらワンランク劣っていたのだろう。

 

 そしてレイリーは、ブラックが全盛期の己達と同じ領域に必ず上り詰めることを確信しているようだ。

 

 

「君が違うとどれだけ口にしようとも、世界政府と海軍にとって脅威であることは確かだ。

 そして、君は自ら嵐の中を進むつもりなのだろう?」

 

 

 麦わらの一味が遥か彼方に、散り散りに飛ばされてしまったことをレイリーから聞かされたブラックは強い後悔に苛まれていた。だが、火拳のエースの公開処刑を知り、もう二度と同じ過ちを繰り返さないことを心に固く誓った。

 

 離散した麦わらの一味───その中でも、ニコ・ロビンのことを一番心配しているだろうが、ブラックにはやらなければならないことがあり、ニコ・ロビンは二の次。

 

 彼女を後回しにしてまでブラックがやるべきことはいったい何なのか…。それは、火拳のエースの弟である麦わらのルフィを守ることだ。ブラックは律儀に、火拳から一方的に頼まれたことを今度は必ず果たすつもりでいる。

 

 もっとも、レイリーからニコ・ロビンが無事だという情報を得ていなければ、ブラックは彼女を優先して世界各地を探し回っていたことだろう。その情報が本当に正しいのか、レイリーも証明する術がないようだが、冥王レイリーがブラックを騙したところで、得することなどない。

 

 だからこそ、ブラックは冥王を信じ、まず第一に自分が為すべきことを為す覚悟を決めた。

 

 

「麦わらのルフィは必ず火拳を奪還する為にマリンフォードに向かう。だから、オレが向かうべき場所もマリンフォード」

 

 

 

 ━━ 弟には…ルフィには絶対知らせるな。

 

 

 

 バナロ島にて、火拳がブラックを逃がす間際にそう呟いていた。だがそれは、自分が捕まったことを絶対に知られたくないという、捕まってしまったことを恥じての言葉ではなく、兄が捕まったことを知った弟がどのような行動にでるのか───それを危惧しての言葉だったのだろうと、ブラックは予測している。

 

 麦わらのルフィのこれまでの大胆な行動から考えても、その予測は決して間違ってはいないはずだ。

 

 

「ルフィくんなら本当にやりそうだ。

 そのルフィくんを君は守る為に行く。だが、行ってしまったが最後──君はもう、冒険家兼トレジャーハンターではない。世界に名を轟かせる孤高の海賊だ」

 

「はぁ、あまり悪いことはしてこなかったんだけどなァ。オレの人生、どこで間違えてこうなっちまったのか」

 

 

 他人から影響を受けて、人生の転機を迎えることはあれど、ここまでマイナスの転機を経験したことのある者はなかなか存在しないだろう。

 

 もう、後戻りはできない。

 

 

「公開処刑までまだ数日はある。

 何もしないよりはマシだろう。何より、君ならばたった数日でも更なる成長が望めるはずだ。

 かなり厳しくいくが、()()()()()を会得する覚悟はあるか?」

 

 

 火拳のエースの公開処刑まであと数日。

 

 世界の均衡が大きく崩れ始めようとしている。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 冥王が動く。

 

 

「うおらァァァァァ!!」

 

「ふむ、やはり私の目に狂いはなかったようだ。

 だが、まだまだ──もっと神経を研ぎ澄ませるんだ」

 

 

 現役を退き髄分と時間が経つようだが、海賊王の相棒の力はまだまだ健在で、ルーキー海賊では敵うはずがなく…。

 

 だが、数日後に巻き起こる世紀の大戦争───四皇の力は冥王すら凌ぐはずだ。

 

 "白ひげ"エドワード・ニューゲート。海賊王ロジャー亡き後、名実共に世界一となり、"世界最強の男"、"世界最強の海賊"、"最もひとつなぎの大秘宝(ワンピース)に近い男"と、怪物的な雷名を世界中に轟かせる生ける伝説。懸賞金額は、大海賊時代幕開け以降、最高懸賞金額の50億4600万ベリーで、つい数日前に懸賞金額が倍増しになった新進気鋭の孤高のルーキー海賊"赫猿"デマロ・ブラックの約7倍もあり、四皇が如何に恐るべき存在なのかを物語っている。

 

 ブラックにそっくりなルーキー海賊"麦わらのルフィ"と比べたら、約17倍である。

 

 

「ロジャーと白ひげはまだまだ先にいるぞ」

 

 

 海賊王は更にその先。道程は果てしなく遠い。

 

 だが、それでもめげずに進まなくてはならない。

 

 

「レイリーさんよォ、オレ──海賊王になる気なんてこれっぽっちもないって言ったよな?

 もしかしてボケてきてる?大丈夫か?」

 

「マリンフォードに乗り込むのなら、白ひげに取って代わってやるくらいの意気込みがなくてはな」

 

「いやいやいや、海賊王にも世界最強の男にも取って代わるつもりなんてないって言ってんでしょうが」

 

 

 シャボンディ諸島近くの無人島にて、ブラックは覇気の真髄を会得するべく、冥王シルバーズ・レイリーによる厳しい指導を受けている。

 

 海軍本部マリンフォードで執行される"火拳"ポートガス・D・エースの公開処刑に乗り込む覚悟を決めたブラックだが、今の彼ではまだ生き残れる可能性が極めて低いからだ。それに、ブラックには絶対に生き残らなければならない理由があり、やらなければならないことがある。

 

 火拳を奪還するべく、絶対にマリンフォードに乗り込む麦わらのルフィを、ブラックは守るつもりなのだ。

 

 

「マリンフォードには三大将、中将達の他に多くの海軍の猛者、恐らく七武海も全員揃っているだろう。

 それに、ガープにセンゴクもいる。ロジャーが生きていたら、嬉々として乗り込んだだろうな。

 君も思いっきり楽しんでくるといい」

 

「楽しめるかァァァ!!」

 

 

 火拳の公開処刑が執行されようとしているなか、楽しめるはずもない。ただ、ロジャー海賊団出身の海賊はやはり普通ではないということだろうか…。

 

 よくよく考えてみると、海賊王ロジャーがそうなのだ。当時、他の海賊達への見せしめの為に執り行われた公開処刑の場を、海賊王ロジャーは死に際のたった一言で"大海賊時代"の幕開けの式典へと一変させたのである。死の直前、残り数秒僅かに灯った命の火を、世界に燃え広がる業火へと変えた。

 

 何事も派手で豪快に、それが海賊。

 

 

「君はもう海賊だ、ブラック。

 自分の思うがままに進め」

 

 

 デマロ・ブラックが海賊としての人生をようやく、どうにか受け入れて歩み始めようとしている。

 

 火拳の公開処刑日───"赫猿"デマロ・ブラックとしてのスタートラインだ。

 

 

 






懸賞金倍増しと同時に、異名にも少し変化が。
懸賞金7億3600万ベリー。"赫猿(あかざる)"。読み方は同じ。赫はオーナー・ゼフと同じ字ですね。
赫っていう字は勢いが盛んという意味を持ってますよねェ。


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インペルダウン脱獄事件。主犯その三、赫猿



マリンフォード頂上戦争編から、もうかれこれ10年以上経ってるのかァ~。



 

 

 四皇の1人、"白ひげ"エドワード・ニューゲート率いる大艦隊と海軍、王下七武海による全面戦争。戦場は、"火拳"ポートガス・D・エースの公開処刑が執り行われる海軍本部マリンフォード。

 

 世界各地より召集された海軍の精鋭達、総勢約10万人。その精鋭達がにじり寄る決戦の刻を待っている。海軍本部中将5人と軍艦10隻という国家戦争クラスの大戦力で無差別攻撃を行う"バスターコール"が生易しく感じてしまうほどの戦力がここに集結している。

 

 海軍の精鋭達の他にも、"王下七武海"の曲者達5人が海軍側の戦力として待ち構えており、海軍本部マリンフォードはかつてない緊迫感に包まれ、これから巻き起こる世紀の大決戦が如何に大きなものなのかを既に物語っているようだ。

 

 高く聳える処刑台には、事件の中心人物"火拳"が海楼石の錠に繋がれ、運命の刻を待つのみ。

 

 まだ、マリンフォードに"白ひげ"は現れない。

 

 

「まさに嵐の前の静けさだな。恐ろしいほどに静かだ」

 

 

 その光景を、マリンフォードの遥か上空から眺める者がいた。赤いシャツの上に黒いマントを羽織り、テンガロンハットを被った男───新進気鋭の孤高のルーキー海賊"赫猿"デマロ・ブラックだ。

 

 こんな遥か上空に人が浮いているなどとは誰も思うまい。

 

 サルサルの実 幻獣種 モデル"ハヌマーン"。悪魔の実の中でも稀少な動物(ゾオン)系幻獣種の一つで、多種多様な特殊能力を持っている。この飛行能力もその内の一つ。普通、猿が飛べるとは思いもしないだろうが、これが幻獣種の恐ろしいところでもある。

 

 そして、ブラックが食べたこの悪魔の実は、数多く存在する悪魔の実の中でも間違いなく最高峰のものだ。

 

 海軍と七武海の連合軍、白ひげ海賊大艦隊、それと火拳のエースも、雷を操る空飛ぶ赫猿がマリンフォードの遥か上空から舞い降りるとは想像もしていないだろう。

 

 しかも、あのロジャー海賊団副船長"冥王"シルバーズ・レイリーから覇気の真髄を叩き込まれ、たった数日で冥王レイリーの期待通りに大きく成長したブラックだ。ちなみに、この数日で地獄を体験したブラックは、これから乗り込むマリンフォードと、レイリーの修業はどちらがより地獄に近いのだろうかなどと考えていたりする。

 

 とにかく、冥王レイリーにそれだけみっちり鍛え上げられたブラックが白ひげ側の戦力に加わってしまうのは、海軍にとって想定外の事態のはずだ。

 

 ただ、この戦争に参戦しても、ブラックに得なことなど何一つない。寧ろ悪名が更に増し、広がってしまうだけ。

 

 

「そういやァ、去年の今頃は何してたっけなァ…。

 そうだ──キャベツ何とかって今の一世代前のルーキー海賊からお宝盗んだんだっけか?」

 

 

 今、マリンフォードの広場では、火拳の素性が明かされ世界が衝撃を受けているところだが、火拳が海賊王ゴールド・ロジャーの息子だったなどブラックにとってはどうでもいいことのようで、彼はただ世紀の大決戦が始まるのを、物思いに耽りながら空に浮いて待っているのみ。

 

 己の思うがままに行きたい場所に行き、色んな景色を眺めて、知らなかったことを新たに知り、歴史を知り、お宝探しを楽しむ。これまでのデマロ・ブラックの人生とは大きく違う人生が、彼が今浮いているこの遥か真下で待ち受けているのだから、過去を思い返したくもなるだろう。

 

 懸賞金7億3600万ベリー。ブラックは世間にとって、冒険家兼トレジャーハンターではなく極悪人だ。

 

 これまで、海賊相手に泥棒を働いたりもしていたが、これからはその仕返しを数多く受けることにもなるはずだ。

 その点に関しては、これまでずっと海賊から仕返しされる覚悟をしていたらしいが…。

 

 

「白ひげ傘下の海賊には、お宝盗んだ海賊いねェよな?いたっけ?あーダメだ、思い出せねェ」

 

 

 ブラックは麦わらのルフィを守る為に参戦するつもりで、一応は白ひげ側の戦力にカウントされることになるはずだが、果たして無事でいられるか…。少しだけ先行きに不安を覚えているようだ。

 

 もっとも、白ひげ陣営はブラックの存在など二の次、三の次。最優先はエースの奪還なのだから、ブラックが味方に加わってくれるならと、彼からお宝を奪われていたとしても水に流すはず───これは楽観的な考えだろうか…。

 

 

「お、いよいよ始まるか」

 

 

 とにかく、ブラックと白ひげ傘下の海賊団の間に因縁があるのかどうかは、会えばハッキリすることだ。

 

 ブラックの視線の先には、総勢40隻以上の大艦隊が続々とマリンフォードに乗り込んできており、実に壮観な眺めである。しかも、そのほとんどが新世界で名の知られた海賊達で、実に豪華な顔触れだ。

 

 

「改めて思ったが、四皇ってのは本当にとんでもねェな。これだけの勢力が他にあと3つも存在するんだからな」

 

 

 海軍がほぼ全戦力を注ぎ込んで迎え撃つ白ひげ大艦隊。その戦力の強大さを目にしたブラックは、開戦する直前にふとそんなことを考えている。

 

 赤髪、ビッグ・マム、カイドウ。他の四皇達もそれぞれ白ひげと同等の勢力を有しているのだ。仮にもし、白ひげが他の四皇達の何れかと同盟を組んでいたら、恐らく海軍の敗北は決定的だったかもしれない。

 

 それと、ブラックは知らないが、武闘派のカイドウがこの機に白ひげを討ち取ろうと動きを見せ、それを止めるべく同じく四皇の赤髪が動き、赤髪とカイドウの小競り合いが新世界で勃発したらしい。

 

 四皇同士の激突など、もはや小競り合いという言葉では片付けられないものだが…。

 

 

「どんな結果になろうと、世界は大きく荒れちまうだろうなァ」

 

 

 マリンフォードの湾内にようやく登場した白ひげを眺めながら、ブラックは世界の行方を憂う。

 

 ただ、ブラックは気付いてはいない。彼もまた、少なからず世界に影響を与えられるだけの力をすでに有しているということを…。

 

 冥王レイリーに言われた通り、彼はもう引き返せない。

 

 

「どのタイミングで参戦するか…。

 麦わらのルフィはいつやって来る?」

 

 

 ブラックが、世紀の大戦争に参戦する理由───火拳の弟、麦わらのルフィはまだ現れてはいない。

 

 もっとも、この緊迫した状況のなかで、麦わらのルフィが更なる問題を起こしていたなど、ブラックも想定外だろう。

 

 前代未聞。麦わらのルフィは大監獄"インペルダウン"に自ら侵入していたのだ。

 

 その理由は至って単純。囚われた義兄(火拳)を救い出す為に…。

 

 つい1週間ほど前、シャボンディ諸島にて彼の天竜人を殴り飛ばすという所業を仕出かした超問題児ルーキー海賊"麦わらのルフィ"は本当の馬鹿だったということだ。

 

 だが、たかだか3億ベリー程度のルーキー海賊が1人でインペルダウンに侵入したところで、囚われた火拳を救い出すなど不可能。

 

 況してや、"覇気"すらもまともに使えぬ者が侵入するなど、無謀な行為でしかない。このような行動に出るのは、余程の馬鹿か、きっと拷問されるのが大好きなドMくらいである。

 

 大監獄インペルダウンは、麦わらのルフィを遥かに上回る強者達が囚われている場所。捕まるのも時間の問題だ。

 

 とはいえ、インペルダウンの看守達も決して油断してはならない。麦わらのルフィが及ぼす影響力は無限大で、何を仕出かすかわかったものではないのだ。だからこそ、麦わらのルフィはこれまで生き延びてこられたのである。 

 

 もっとも、案の定というべきか、麦わらのルフィは一度は捕らえられ、毒に侵され死を待つのみの瀕死の状態に追い込まれたらしい。ただ、何が起きたのか復活し、拘束から逃れ、インペルダウン最下層"レベル6"から、現七武海と旧七武海の2人の他、曲者達を引き連れ集団脱獄というあり得ない事態を引き起こしたようだ。

 

 常に騒動の中心人物となり、その場にいる多くの者達を魅了し巻き込み、協力させる。これこそが、麦わらのルフィが持つ、もっとも脅威的な力であり才能だろう。

 

 インペルダウンからの集団脱獄。この局面で立て続けにこれだけの騒動が起きてしまっては、笑えないどころか普通なら精神的に可笑しくなり笑ってしまうはずだ。白ひげが迫っているなか、海軍元帥センゴクは胃に致命的なダメージを受けてはいないだろうか…。

 

 今、火拳ポートガス・D・エースの義弟である麦わらのルフィことモンキー・D・ルフィは、インペルダウンにて前代未聞の所業を仕出かし、引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、新たな戦力を得てマリンフォードへと火拳を助ける為に向かっている。

 

 火拳を助けに来る為に、まさか大監獄に侵入していたとは…。

 

 

「早く来やがれ──麦わら」

 

 

 それを知るはずもないブラックは、ただそっくりさん(麦わらのルフィ)の到着を待っている。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 海軍本部マリンフォードにてついに、白ひげ大艦隊 対 海軍本部と王下七武海───世紀の大戦争が始まってしまった。

 

 その光景を、ブラックは"世界最強の海賊"白ひげが起こした大津波すらも届かない遥か上空から眺めている。

 

 

「ん?

 大将・青雉に凍らされた津波に、軍艦が一隻引っ掛かってる?あれ?あそこにいんのはもしかして──麦わらか?

 何やってんだアイツは」

 

 

 麦わらのルフィがなかなか現れないことに疑問を抱いていたら、まさかそんな場所で立ち往生していようとは…。

 

 ブラックは呆れ果ててため息を吐きながら、麦わらのルフィのもとへと向かう。

 

 

「何やってんだよ、アホ」

 

「あ、オレ!」

 

「ドッペルゲンガーじゃないつってんだろうが!!」

 

 

 ブラックの登場に、麦わらのルフィは驚きながらも開口一番これである。ブラックを自分自身だと思っているような麦わらのルフィの物言いに怒り、脳天に拳骨を落とした。

 

 

「麦わらのルフィが……2人?」

 

 

 その2人のやり取りを目にした他の御一行。なかなかに豪華な顔触れだが、2人があまりにもそっくりすぎて驚いている。

 

 ルフィが2人。ルフィ1人だけでも大迷惑なのに、それがもう1人いるとは超大迷惑だと、そんなことを考えている者もいるようだが…。

 

 そして、ブラックに対して忌々しいと言わんばかりの視線を向ける者がいた。その視線に気付いたブラックは、軍艦に乗っている者達を見回し、疑問を口にする。

 

 

「麦わら、これはどういう集まりだ?

 元七武海のクロコダイルに、現七武海のジンベエ、革命軍のイワンコフに、ちらほらと手配書で見たことある面子が揃ってやがる。それに、クロコダイルは確か」

 

 

 ただ、そこまで言いかけて、ブラックの優秀な頭脳が最悪のシナリオを思いついてしまう。シナリオといっても、すでに起きてしまったことなのだが…。

 

 

「む、麦わら…お前──今までどこにいた?」

 

「ん?インペルダウンってとこにいたぞ」

 

「やっぱりかァァァ!!」

 

 

 ルフィについて、まだ詳しく知らないブラックではあるが、火拳のエースからの情報と、ルフィがこれまで起こした騒動からブラックはルフィが必ず火拳を奪還する為にマリンフォードに乗り込むだろうと予測していた。

 

 だが、ルフィのことをまだ詳しく知らなかった故に、処刑場所のマリンフォードに移送される前に奪還しようと、大監獄インペルダウンに侵入するという考えまでには到らなかった。

 

 普通、自ら大監獄に侵入する海賊が存在するなど思うまい。まさか、そんな常軌を逸した行動をする大バカ者が自分のそっくりさんだとは思うまい。

 

 それと、ブラックにとって不運なのが、このままルフィと一緒に行動してしまったら、海軍と世界政府がブラックもインペルダウンに侵入していたと勘違いしてしまうということだ。ルフィの後ろにいる面子は、全員がインペルダウンからの脱獄囚。

 

 脱獄を手引きした主犯はきっとルフィということになっているが、なるほど"赫猿"もいたから前代未聞の脱獄が成功したのかと、やってもいない罪状がまた増えてしまう。

 

 

「お前もうッ──ふっざけんなよォォォォォ!!」

 

 

 海軍大将・黄猿を相手に為て遣ったりを成功させ逃げ延びるほどの危険人物なのだから、インペルダウンでも気付かれることなく行動できてしまうかもしれないと、ブラックへの認識がそう思い込ませてしまうかもしれない。

 

 果たして、この世紀の大戦争を生き延びた先に、デマロ・ブラックを待ち受けている運命はどのようなものなのか…。懸賞金は、いったいどこまで上乗せされてしまうのか…。麦わらのルフィが騒ぎを起こせば、そこには必ず"赫猿"デマロ・ブラックがいる。

 

 

 






猿神ハヌマーンは空も飛べたらしいです。

デマロ・ブラックは数日間をレイリーと修業して地獄を味わった。けど海軍と世界政府は、ブラックが麦わらのルフィと現れたことで、ブラックもインペルダウンに侵入していたと勘違いする。主犯その三と思い込む。寧ろ、一番の主犯にされてしまうかもしれない。


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ブラックの隠し名



赫猿は空飛ぶ海賊とも呼ばれるようになった。あれ?そんな異名の大先輩がにいたような?



 

 

 戦場と化した海軍本部マリンフォード。しかし、戦場と化したマリンフォードが静まり返ってしまう。

 

 そのマリンフォードの湾内に軍艦が一隻───巨大な赤い猿が軍艦を一隻、脇に抱えて空からゆっくりと舞い降りたのである。

 

 唖然とする両軍。実にド派手な登場だ。

 

 

「よっこいしょ」

 

 

 その赤い大猿が、人間の言葉を発しながら凍りついた湾に軍艦を置く。

 

 すると、その赤い大猿がみるみるうちに縮小していき、人間の姿へと戻っていく。これが意味するのはつまり、動物(ゾオン)系の能力者だったということだ。

 

 それも、空からゆっくりと舞い降りたということは、飛行能力も持ち合わせているということ…。

 

 いったい何者なのか…。人間の姿が露になり、海軍側に大きな動揺が走る。

 

 

「あ、あれはッ、懸賞金7億3600万ベリーの超大型ルーキー"赫猿"デマロ・ブラック!?」

 

 

 火拳のエースを手土産に七武海入りした黒ひげからの情報で、ブラックが幻獣種の能力者であることは伝わっていたが、黄猿は人型の状態のブラックと戦っただけで、能力のほんの一部しか見ておらず、獣人型の状態を直接目にしたわけではない。故に、飛行能力まで持ち合わせていたことを知らない。獣人型の状態を見たことがあるのも、黒ひげとその仲間達のみだ。つまり、海軍と世界政府、そして世間も、サルサルの実 幻獣種 モデル"ハヌマーン"の能力の全容を把握できていないということ…。

 

 悪魔の実の図鑑にも載っていなかったものらしく、詳しく知っているのはデマロ・ブラック本人のみなのだ。

 

 大監獄インペルダウンからの脱獄囚達を引き連れド派手に登場したブラックは一身に注目を浴びており、海軍はこれまで以上に強く警戒している。まだ他にも、隠された能力があるかもしれないと疑心暗鬼に陥り、精神的に追い込まれているのではないだろうか…。

 

 シャボンディ諸島でのブラックの所業もまた、彼がただのルーキーではないのだと思い込ませている。

 

 その証拠に、()()()がブラックに襲いかかってきた。

 

 

「会いたかったよォ──赫猿ゥ」

 

 

 初恋の相手に再会したかのような様子で、光の速度で襲いかかってきたのは因縁ある黄猿だが、醸し出される雰囲気は殺伐としており、黄猿から繰り出された蹴りはとんでもない威力。防いだブラックも苦悶の表情を浮かべている。もっとも、大将の攻撃を防ぎ、苦悶の表情程度で済んでいるのも、シャボンディ諸島でのブラックの所業が事実であったことを物語っている。

 

 

「オッサンにそんなこと言われても気持ち悪いだけだ!鳥肌たったわコンチクショウが!!」

 

 

 最早、デマロ・ブラックという存在は、大将案件になっているということ。

 

 

「ッ、こりゃ──マズい…ねェ…!」

 

 

 

 

 

霹靂一閃

 

 

 

 

 

 黄猿の脚を掴み、そのままブン投げたブラックは、お返しとばかりにブン投げられた黄猿に対して強烈な飛び蹴りをお見舞いした。

 

 しかも、足の裏に覇気を流し、体の外に大きく覇気を纏いながら繰り出された飛び蹴りによって、黄猿は弾かれたように激しく吹き飛んでしまう。腕を交差させて覇気を纏って防いではいたが、この覇気は()()()()()()()する。

 

 これまでの武装硬化と比べても、桁違いの威力を持つ更に上の武装色の覇気だ。

 

 ブラックの覇気がここまでの領域に達していたとは予想だにしていなかった黄猿は、前回と同様にまたしてもブラックに為て遣られてしまう。黄猿には油断も隙もなかったはずだ。だが、同じ轍を踏んでしまった。

 

 予想を遥かに上回るブラックの成長速度と、大将であるという傲り。それらが黄猿に同じ轍を踏ませた要因だろう。大したダメージは負ってはいなかったようだが、それは食らったのが黄猿だったからで、中将レベルだったら相当なダメージを受けていたほどのもの。戦闘不能に陥っていたかもしれない。

 

 

「おー、痛ててて。

 本当に厄介だねェ。お前さんはやっぱり、ここで殺しておかないとマズイねェ」

 

 

 大将だからという傲りも、今の一撃で消え失せた。決して生かしておいてはならない脅威として、海軍大将がブラックの力を認めたのだ。黄猿はブラックをここで、本気で殺すつもりだ。

 

 火拳のエースの公開処刑を執行する為にも、ブラックを排除しなくてはならない。もしかしたら、白ひげに次いで危険な人物だと認識されたかもしれない。

 

 

「イワンコフ、それとジンベエ。

 すまんが、麦わらはアンタ達に任せる。どうも黄猿がオレを逃がしてくれなさそうだからな」

 

 

 さすがに黄猿を相手にしながら麦わらのルフィを守るのは無理だ。しかし、海軍の最高戦力をブラックが引き受けてくれるとなれば───しかも大将達の中でも、最も機動力に優れている黄猿がブラックに付きっきりとなれば、他が先に進みやすくなる。

 

 海軍側にとっても、ブラックは黄猿に任せるべきという判断だ。雷の速さに対応できるのは、見聞色の覇気が相当優れた者か、雷よりも速い光速の黄猿のみだからだ。ならば、因縁ある黄猿に任せておくべきで、これ以上強大化する前に確実に排除しておく為に黄猿に任せるのが一番だろう。

 

 

「今度は逃げねェぜ、黄色いお猿さんよォ」

 

 

 

 

 

天雷戦鎧

 

 

 

 

 

 雷の肉体活性。逆立った髪に、全身から迸る雷。ブラックの準備は万端だ。

 

 

「前回よりも速くなってそうだねェ。それとも、前回は全力じゃなかったのか…。怖いねェ、末恐ろしいねェ。まったく、お前さんは本当に──忌々しい」

 

 

 黄猿が再び光となり、ブラックへと襲いかかる。

 

 当然、ブラックはそれに反応し、ブラックの蹴りと黄猿の蹴りが衝突し、大きな余波が発生した。

 

 新進気鋭の孤高のルーキー海賊と、海軍最速の大将の第2ラウンドの幕開けだ。

 

 火拳の公開処刑の場が、新たな大海賊の御披露目の場へと変わりつつあるかもしれない。

 

 

「グララララ!

 時代はしっかりと進んでるってか…。面白れェガキがいやがるじゃねェか!」

 

 

 空から舞い降りた赫猿が大将と壮絶な戦いを繰り広げている。その光景を眺める大海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートは、己の全盛期の時代を思い出しながら、それと同時に確実に時代が進んでいることを感じ取り、愉快そうに笑い声を上げている。

 

 

「グラララ、だがこっちも負けてらんねェな。

 お前らァァァ、ガキに出番奪われてんじゃねェ!!」

 

 

 そして、この世紀の大決戦をよりド派手なものに…。世界最強の大海賊がルーキー海賊に刺激を与えられ、動き出す。

 

 

「ここまでデケェ戦いはいつ以来か…。

 これが()()()()の戦い──グララララ、最高の花道じゃねェか!!」

 

 

 ただ、世界最強の海賊も寄る年波には勝てない。これは自然の摂理であり必然。

 

 白ひげ自身がそれを理解しており、最後の戦いに身を投じる。己の時代が終わりを告げ、新たな時代が到来する。この戦争が、一つの終わりとなり、新たな始まりとなることを白ひげは理解しているのだ。

 

 だからこそ、新たな始まりとなる瞬間を、白ひげは海賊王ロジャーのように豪快に幕開けさせるつもりでいる。

 

 己の命を起爆剤にして…。

 

 海賊王の死と同時に大海賊時代が幕開けして22年。しかし、これまでの22年は序章にしかすぎない。

 

 いよいよここから始まるのだ。海賊王の座を賭けた、選ばれし者達の戦いが…。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 火拳を奪還するべく攻める白ひげ陣営。それを阻止するべく立ち塞がる海軍と王下七武海。マリンフォードで繰り広げられる闘いは壮絶の一言に尽き、熾烈を極めている。

 

 海軍の三大将の1人である黄猿をルーキー海賊のブラックが相手取り、白ひげ側が有利のように思えるかもしれないが、戦いは拮抗したものだ。さすがは海軍最高戦力。黄猿以外の大将───赤犬も青雉も、四皇に引けを取らない強さで、海賊達を次々と葬っている。

 

 そもそも、ルーキー海賊が大将を相手に戦えているのがおかしいのだ。

 

 

「デマロ・ブラック、奴はいったい何者なんだ。

 高度な覇気を使える幻獣種の能力者。これほどの力を持った者がこれまでまったく知られることなく存在していたなど…」

 

 

 もし、デマロ・ブラックが海軍側だったならば、相手が白ひげといえども、海軍の勝利は決定的だったかもしれない。ブラックの力はそれほどの脅威で、元帥センゴクもそう思わずにはいられない。

 

 しかし、何を言ったところでもう後の祭りだ。

 

 無害な冒険家兼トレジャーハンターだったブラックに懸賞金を懸け、海賊にしたのは海軍と世界政府なのだ。今さら掌を返して、ブラックを引き入れようとしたところで、ブラックが味方になることはない。

 

 それにブラックがここまでの力を手に入れたのは、冥王レイリーの地獄の修業を乗り越えたからこそだ。

 

 だが、センゴクの中で一つの不安が過る。

 

 

「まさか──奴も"()"なのか?」

 

 

 センゴクが冷や汗を流しながら、強く警戒する"D"という文字。その文字がいったい何を意味しているのか、知っている者は少なく、センゴクはその内の1人だ。

 

 

「隠し名か…。もしそうなら…うむ、可能性はあるな。そうなってくると、奴自身も"D"について知っているということになるが、奴は自ら冒険家兼トレジャーハンターだと…黒ひげがそう聞いたと言っていたな」

 

 

 そのセンゴクは、"智将"と称えられる優秀な頭脳で、情報がほとんどないブラックの出自の謎を解いていく。

 

 センゴクの考えではこうだ。

 

 デマロ・ブラックの真の名は、デマロ・D・ブラック。もしくは、海軍本部中将"英雄"モンキー・D・ガープや、麦わらのルフィとは遠縁のモンキー・D・ブラック。デマロはDの名を隠す為の偽名ではないかと、センゴクは一つの可能性として考えている。

 

 Dの名が持つ意味にいつ気付いたのか、冒険の最中で知ったのか、それよりも前に身内から聞かされ知っていたのか、それについてはハッキリとした答えは出ないが、これまで隠してきた素性が麦わらのルフィの登場で隠しきれなくなってしまったのではないだろうか…。優秀なセンゴクの頭脳が、そのような答えを導き出してしまう。

 

 

「それならば奴の強さにも納得できる」

 

 

 納得してしまうセンゴク。

 

 ブラックもまさか、元帥センゴクがそのようなことを考えているとは思いもしないだろう。

 

 

「1人で何を納得しておるんじゃ、センゴク」

 

 

 1人納得するセンゴクを不思議に思い、声をかけるのは英雄ガープである。

 

 

「ガープ。

 デマロ・ブラックは貴様の知らない遠縁で、"D"の名を持つ者かもしれん」

 

「儂のひいじいちゃんがルフィっぽい顔をしておって、兄弟がいたとかいなかったとか聞いたことあったようななかったような。やっぱりそうなのかのう?」

 

 

 センゴクの言葉にあっけらかんとして衝撃的な言葉を返すガープ。

 

 

「貴様ァ!何故それほど大事なことを黙っておったァァァ!!」

 

「たった今ふと思い出したんじゃ。あやふやなんじゃから仕方あるまい」

 

 

 ブラックは本当に麦わらのルフィとガープの遠縁なのか…。そして、本当に"D"の名を持っているのか…。この点に関しては、実のところかなり重要な点らしく、センゴクも焦りを見せている。

 

 

「くッ、どちらにしろデマロ・ブラックは脅威だ。

 ここで排除せねば、間違いなく更なる脅威となるぞ」

 

 

 センゴクの視線の先では、光弾を機関銃の銃撃のようにして黄猿が放っており、ブラックが雷弾を同じく機関銃の銃撃のようにして放ち、相殺して渡り合っている。

 

 大将と渡り合える存在が四皇とその幹部の他に存在するなど、海軍にとって実に悩ましい問題だ。しかも、この戦場に現れるなど迷惑極まりない。

 

 センゴクは全兵に告げる。デマロ・ブラックを最優先で排除しろと…。

 

 

「"D"はいつも余計なことをしてくれる」

 

 

 ブラックは本当に"D"なのか…。彼の知らぬところで、またしても事態は悪い方向に動いている。

 

 

 






ガープとか青雉とかスモーカーとか藤虎との追いかけっこは楽しそう?だけど、相手が黄猿だとちょっと遠慮したいよね。


霹靂一閃
弾く覇気を付与した飛び蹴り。ダイナミック・エントリー。

雷公弾
技名は出てないけど、黄猿の八尺瓊曲玉(やさかにのまがたま)を相殺した技。サイヤ人の王子の連続エネルギー弾のような感じ放つ。


デマロはDの偽名だった?ガープも知らない遠縁だった?ガープのひいじいちゃんに兄弟がいたとかいなかったとか聞いたことあったようななかったような…。真実は如何に!!


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有害因子ナンバーワン



ルフィってやっぱりスゲェと思ったりしている。



 

 

 海軍本部マリンフォードにて勃発した世紀の大決戦。しかし、海軍側が何も対策を施さずに待ち構えているなど、決してあり得ない。

 

 その内の一つが、世界最大の頭脳を持つと称される海軍の天才科学者"Dr.ベガパンク"が開発した人間兵器(サイボーグ)"パシフィスタ"である。戦場に投入された新型兵器に、白ひげ傘下の海賊達が次々と排除されていく。

 

 デマロ・ブラックは難なく破壊していたが、新世界の海賊達でもそれなりの強さを有してなければ破壊は困難で、下っ端では返り討ちにあってしまう。銃や刃物など、並みの攻撃では通用しない頑丈な身体を持ち、鉄を溶かす程の高熱のレーザー光線を両掌と口から照射する事ができる恐るべき兵器だ。

 

 これを破壊するには、覇気は必須だろう。

 

 そして、これを機に白ひげ大艦隊を一網打尽にする為の対策はこれだけではない。

 

 "智将"センゴクの策略によって、まんまと騙されてしまった傘下の海賊団の船長が、白ひげに深傷を負わせてしまったのである。

 

 白ひげが傘下の海賊達を海軍に売り、己やエース含む白ひげ海賊団の者達だけは助かることになっているというセンゴクの情報操作による奇策が、今ここで白ひげに大きな傷を与えてしまった。何より、兵器パシフィスタが白ひげ海賊団以外に執拗に襲いかかっているこの状況が、傘下の海賊達を疑心暗鬼に陥らせている。

 

 白ひげを刺した傘下の海賊"大渦蜘蛛"のスクアードは、白ひげを心から慕っている人物だが、かつて海賊王ロジャーに仲間を全滅させられたという悲しい過去を持っており、そのスクアードは、白ひげから"火拳のエース"が海賊王ロジャーの息子であることを聞かされていなかった。それを知った時のスクアードの心情は非常に複雑なものだっただろう。だからこそ、センゴクの作戦を遂行した───海軍大将"赤犬"の口車にまんまと乗ることになってしまったのだ。最初こそ疑いはしただろうが、パシフィスタが白ひげ海賊団の者達に一切攻撃を仕掛けず傘下の海賊ばかりを狙っている光景を目の当たりにしてしまっては、スクアードもそれが事実だったと騙されてしまうのも仕方なかったかもしれない。

 

 スクアードの辛い過去。そこに目を付けたセンゴクの策略は実に見事なもので、歳をとっても卓越した頭脳は未だに健在だ。

 

 白ひげが海軍に仲間を売った───白ひげ陣営に一気に動揺が広がってしまい、戦況が一気に傾きつつある。

 

 その状況を打破するべくついに白ひげが戦場に降り立ち、世界最強の力を見せつけ、士気をどうにか取り戻しかけるも海軍の策は他にもまだ残っていた。

 

 そして、一気に畳み掛けるかのように包囲壁が白ひげ大艦隊を囲うと、大将・赤犬の強力無慈悲な攻撃が隕石の如く降り注がれ、白ひげ海賊団の母船"モビー・ディッグ号"も破壊されてしまい、まさに万事休すの状況だ。

 

 白ひげをもってしても破壊できない包囲壁───その内側では、火拳の処刑が早められ、執行されようとしている。白ひげが乗り込んできたこの状況で、時間を守る必要などない。確実に海賊王の血を絶つ為に、今こそがその時なのだ。

 

 もっとも、そう簡単に事が運ぶはずがないのだが…。

 

 

「させっかァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

雷槌脚

 

 

 

 

 

 今、このマリンフォードには空飛ぶ海賊がいる。包囲壁など、その者にとって何の障壁でもなく、あってもなくても意味を為さぬものだ。

 

 黄猿との戦闘が途中で中断され───つまりは本気の黄猿相手にどうにか生き延びているということだが、冥王レイリーの地獄の修業に比べたら何の其のなのか、遥か上空から雄叫びを上げながら、味方がまったくいない内側へと迫る。

 

 脚を巨大化させて、雷と覇気を纏ってそのまま地に、金槌を振り下ろすかのように、天から落ちる雷の如く強烈な一撃が落とされた。

 

 その一撃は地面を大きく陥没させ、激しい衝撃波が起き、多くの海兵がその一撃で排除されてしまう。

 

 

「そう簡単に火拳の首を落とさせやしねェ」

 

 

 すると今度は、包囲壁を()()が飛び越えて降り注ぎ、辺り一面を水浸しにする。

 

 

「エースは絶対に助け出す!!」

 

 

 もう1人のルーキー海賊、モンキー・D・ルフィもブラック同様に海軍の戦力を意にも介さず、火拳を助ける為に先陣を切ってこの場所に立つ。

 

 ブラックは、麦わらのルフィが必ずやって来ると分かっていたのか、まったく驚いた様子もない。寧ろ待ってましたと言わんばかりの様子である。

 

 

「さーて、ちょっと数を減らすか!!」

 

 

 

 

 

雷奔瀑流

 

 

 

 

 

 意地の悪い笑みを浮かべたブラックは、ルフィがすぐそばにいるのもお構い無しに水浸しになった地面に手を突き、激しい雷撃を辺り一面へと流す。

 

 これでは、ルフィもただではすまない。ただそれは、ルフィが()()()()()()()()()の話だ。

 

 

「ん?」

 

「ゴムに雷は効かねェだろ!!」

 

 

 包囲壁内で起きた大惨劇。ブラックとルフィの近くにいた海兵達は、ブラックの放った激しい雷撃によって感電し、黒焦げになってしまった。

 

 範囲内には大将が3人ともいたが、黄猿、赤犬、青雉の3人は咄嗟に飛び上がり、雷撃から逃れたようだ。今の雷撃を受けていたら大将達でもかなりのダメージを負っていたのだろう。

 

 

「おしッ、今の内に敵を減らすぞ麦わら!!」

 

「おう!!」

 

 

 身長差はあれど、背中合わせに立つ2人は双子の兄弟にしか見えない。

 

 海軍側に流れが一気に傾きかけたこの状況に真っ向から挑む若さの勢い。ただ、ルフィは17歳だが、ブラックはその倍の34歳───見た目はともかく、ルフィと比べたら若いとは言い難い。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 "見聞色の覇気"。それは、相手の気配をより強く感じ、生物の発する心の声や感情を聞き、動きを読む力だ。

 

 戦闘に応用すれば、相手の感情や気配を見抜き攻撃を先読みすることで攻撃を回避でき、熟練した使い手ともなれば視覚の能力を超える速度───光速だろうと捉えることができるようにもなる。

 

 その他にも、意識することで自分の一定範囲にある生物の存在や、その心力から視界に入らない人物、数、位置を読み取ることまででき、感情や気配を読み取る力と合わせることで周囲の状況まで把握することも不可能ではない。

 

 熟練者の中には、相手の記憶すらも読み取れる者までいる。

 

 そして、見聞色を極めていくと少し先の未来を見ることも可能で、相手の先の行動などを映像として視て、予知することができるまでになる。見聞色の覇気"未来視"と呼ばれる高度な能力だ。

 

 

「麦わら、3歩下がれ」

 

 

 さらに、未来視が可能になったことによって、味方側に指示を出して攻撃を回避させることも可能である。

 

 

「飛べ。そのまま銃乱打(ガトリング)

 

 

 ブラックが指示を出し、ルフィが指示通りに動いて攻撃を躱し、攻撃に転じて海兵達を薙ぎ倒していく。

 

 つまり、ブラックの見聞色は未来視に至っているということだ。しかし、ブラックの今の状態は何かが少し違う。武装色の覇気の武装硬化でその箇所が黒く染まるのとは違い、時折だが全身から青白いオーラが溢れ出ており、ほとんど言葉を発しなくなるも、追いつめられているわけではなく、動きがより洗練されたものへと進化していく。

 

 

「ま、まったく攻撃が当たらない!!」

 

「"未来視"にまで至っているのか!?」

 

「くッ、な、何としても"赫猿"を止めろォォォォォ!!」

 

 

 己に迫る攻撃に対して、それだけではなくルフィが窮地に立たされた状況に対して、未来が視えているのとはまた違った───まるで、無意識に体が反応しているかのような…。一見、ブラックは防戦一方に見えてしまうかもしれないが、如何なる攻撃も当たらず、躱し、ルフィへ迫る攻撃をも防いで守っている。

 

 未来を視るまでもなく、身体が勝手に動きどんな危機すらも回避することができる見聞色をより極めた力。野生の勘、第六感が極限まで研ぎ澄まされて働いているかのようでもある。

 

 包囲壁の内側に潜り込んだのはたった2人のルーキー海賊。だというのに、海軍はこの状況に焦らずにはいられない。しかも、そこに白ひげ海賊団No.2の"不死鳥のマルコ"が合流してしまった。

 

 

「頼もしいな、お前ら。

 これから先、お前らがどこまでデカくなるのか本当に楽しみだよい」

 

 

 たった3人。しかし、その戦力はとてつもなく大きい。白ひげの右腕がブラックとルフィを認めているのだ。

 

 

「それとブラック。

 お前、白ひげ海賊団に来ねェか?」

 

 

 この局面でちゃっかり、孤高のルーキー海賊を誘うのも忘れない。

 

 

「おいおい、そういうのは火拳を取り返してからにしろよ」

 

 

 マルコの誘いに、素っ気なく答えるブラック。しかし、その通りだ。まずは火拳を奪還するのが最優先。もっとも、ブラックを勧誘したのは危機的なこの状況でも余裕があるということ。

 

 ただ、ブラックの今後を勝手に決める者が1人いた。

 

 

「コイツはオレの仲間になんだからダメに決まってんだろ!強ェし、オレにソックリだし、面白れェし、ロビンと同じで()()()()()()()()()()()し、猿だし、空飛べるし!

 とにかくコイツはオレの仲間だ!!」

 

 

 それはルフィである。珍しい生物が大好きなルフィが、自分そっくりで、猿に変身して大っきくなったり小っさくなったりできて、空も飛べるブラックを放っておくはずがない。

 

 そして、ルフィの言葉でブラックを巡っての争いが熾烈化することになる。

 

 

「お、おい、今…麦わらのルフィ…何て言った?」

 

「デマロ・ブラックが──古代文字を読めるって」

 

「ま、まさか、そんな」

 

 

 ルフィのうっかりによって、ブラックが古代文字を読めることが露見してしまった。現在、この広大な世界で唯一"歴史の本文(ポーネグリフ)"を読めるのはニコ・ロビンのみとされていたが、それがここにもう1人存在したのだ。

 

 火拳のエースが海賊王ロジャーの息子だという事実よりも、もしかしたらブラックが古代文字を読めることの方が、海軍と世界政府にとっては重大な事実ではないだろうか…。

 

 元帥センゴクの頬を汗が伝う。その様子からも、どれ程の衝撃だったかが窺えてしまう。

 

 

「ま、まさかッ、ブラックは()()()()()()()()か!?」

 

 

 高度な覇気を使える幻獣種の能力者なだけでも脅威だというのに、そこに更なる新事実の発覚で、海軍と世界政府からのブラックに向けられる脅威度が鰻上りだ。

 

 ブラックはこの戦場に於いてどころか、この世界に於いてナンバーワンの有害因子として認定されてしまう。

 

 古代文字が読める冒険家。どこからどう考えても、危険な存在でしかない。この事実が発覚した今、世界最悪の犯罪者という悪名が、革命軍の総司令官からブラックへと移ってもおかしくはない。

 

 

「あ、これロビンから言っちゃいけねェって言われてたんだった。今のナシ」

 

「頼むから口閉じろォ!縫い付けんぞその軽い口!!」

 

 

 見聞色の未来視も、そのまた更に先の力も、悪意も悪気もまったくないルフィの口の軽さにはどうやら反応できないらしい。ブラックも何時かはバレることだと思っていたようだが、まさか今この瞬間にこのような形で知られてしまうとは思ってもいなかったはずだ。本当に、何をしでかしてくれるか分かったものではない傍迷惑なそっくりさんだ。

 

 

「うおッ!?」

 

「赫猿ゥ、おんどりゃあ…まさか、儂の命令で撃沈させたオハラの避難船…その避難船に乗っとった──奇跡的に生き残っとった人間じゃあるめェのォ」

 

 

 そのおかげで、苛烈かつ過激に正義を貫く硬骨漢の大将が、新たな障害としてブラックの前に立ち塞がる。

 

 海軍大将・赤犬。徹底的な正義を掲げる、海軍きっての過激派だ。

 

 

「もしそうなら、儂が責任もって──儂の手で葬らんといけんのォ!!」

 

 

 もしかしたら"D"の名を持つ者かもしれない。

 

 もしかしたら奇跡的に生き残ったオハラ出身の者かもしれない。

 

 高度な覇気使いで、強力な幻獣種の能力者。海軍と世界政府に認識されることなく冒険をしていた古代文字を読める人物。

 

 この戦場で最も排除すべき人物は、間違いなくデマロ・ブラックだ。

 

 






ルフィがエネル戦で見せた技……技なのか?いや、技だ!ゴムゴムのボー。あれって凄いよね。だってアレじゃん。鍛えれば凄いことになるよね。

ゴムゴムのボーを鍛え上げるときっと、見聞色の未来視の更にその先に行き着くはず。それこそ、無意識下で全ての攻撃に対し、体が自動的に攻防全てを発動する能力。

見聞色"無我の境地"。それとも"兆"?
まだ不完全状態。防御面に関してのみは完璧。青白いオーラが溢れ出てる。

更に極めると白銀に輝くオーラと、銀髪になるんだと思う。


雷奔瀑流
雷奔ってのは雷のように勢いよく走るって意味らしいです。地に手をついて、雷を激しく流す。もっと威力高めの雷奔大瀑流もあるよ!


ルフィから海軍と世界政府に情報提供されたよ!!古代文字も読めるんだってねブラックくん!
1人で冒険してたのは世界政府と海軍に気付かれない為だったんだねきっと!!←違うッ!!


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世界で最も自由な男



覇王色の覇気の持ち主が多い気がするのは気のせい?カイドウも多いみたいなこと言ってたし、スーパーサイヤ人のバーゲンセールみたいだよね。

ルフィ→主人公だから分かる。エース→ロジャーの息子だし。シャンクス→ルフィの憧れだし四皇だし分かる。白ひげ→エースの憧れだし、オヤジだし、四皇だし、世界最強の海賊だし。ロジャー→言わずもがな。レイリー→ロジャーの右腕だし冥王だし。おでん→カイドウに消えぬ傷与えてるし、赤鞘従えてるし。カイドウ→最強の生物だし。ビッグ・マム→70間近なのに色々おかしいし、四皇だし。ドフラミンゴ→カリスマだし、何だかんだで強いよね。カタクリ→覇王色持ってても違和感ない。チンジャオ→ガープが山8つもサンドバッグ代わりに粉々にして鍛え上げるくらいだし。センゴク→元帥だし。

名言はされてないけど、ドラゴンも持ってるよねきっと。

ただ、キッドまで持ってるのは……強いけどいいの?



 

 

 包囲壁の内側に、ついに白ひげ大艦隊が侵入した。わずかなネズミの穴一つ。白ひげ大艦隊を一網打尽にする為の包囲壁は、逆に海軍の障壁になりかねない。

 

 しかも、内側ではすでにルーキー海賊2人と不死鳥のマルコが暴れており、海軍の受けた被害は元帥センゴクの想定を大きく上回ってしまっている。

 

 海軍大将達もその3人を排除しようと戦っているが、あまりにも強力な自然(ロギア)系の能力が仇となってしまい、激しすぎる戦闘に他の海兵達では入り込む隙がまったくなく、被害は甚大だ。主に、マグマグの実のマグマ人間"赤犬"の過激すぎる正義が原因ではあるのだが…。

 

 それに、白ひげ達が内側に侵入する前に、インペルダウンから脱獄し、白ひげ側としてこの戦争に参戦した元七武海の"海侠のジンベエ"が巻き起こした海流に乗って、白ひげ海賊団の隊長達が次々と包囲壁を飛び越えて内側に侵入したこともあり、海軍はそちら側にも戦力を割く必要があった。白ひげ海賊団の隊長達クラスともなれば、相手が務まるのは中将クラスだ。

 

 そもそもこのような事態になってしまったのも、全ては麦わらのルフィがインペルダウンから大量の厄介な脱獄囚達を引き連れ、更にそこに大将案件のデマロ・ブラックまでもが加わってしまったから…。

 

 "D"は嵐を呼ぶ。まさしくその通りである。

 

 そして、この戦場で最も排除すべき海賊と認識されてしまったブラックは、大将・赤犬と激闘を繰り広げていた。

 

 黄猿に続いて今度は赤犬。黄猿との戦いが途中で中断されたとはいえ、大将と二連戦とは───海軍の戦力の大部分をブラックが1人で引き受けているようなものではないだろうか…。

 

 しかもその赤犬は、いつになく過激だ。

 

 

「おとなしゅう殺されんかクソ猿がァ」

 

「海賊よりも極悪人面じゃねェか、赤犬さんよォ」

 

「ブッ殺しちゃる!!」

 

 

 赤犬が海賊に対して並々ならぬ恨みがあることは、過激な正義からも分かるが限度があるというもの。

 マグマを纏った赤犬の拳を、人型のサイズに留めた獣人型の状態でブラックは難なく防いでいるが…。

 

 ただ、自然系の中でも範囲、威力共に最強クラスで、自然災害級の火力を有しているマグマグの実だが、周囲一帯に与えている被害は甚大でも、どういうわけかブラックには効いていない。

 

 

「おんどりゃア…儂のマグマ喰らって、何故平然としちょるんじゃ!?」

 

「あー、昔から火とか高熱には耐性があってなァ。マグマにまで耐性あるとは思ってなかったけど。

 おかげで新しい発見ができた。ありがとよ、赤犬」

 

「このッ──舐めとんのかわりゃァァァ!!」

 

 

 重大な事実がまたしても発覚してしまった。幻獣種ハヌマーンには、マグマ含む炎系統の攻撃は一切効かない。大将・赤犬も、マグマグの実の能力者になってから初めての経験ではないだろうか…。これまで多くの海賊を焼き尽くし、殲滅してきた赤犬にとって、マグマに耐性を持った海賊の存在などいなかったはずだ。

 

 赤犬にとって、ブラックはかつて取り逃がしてしまっていたかもしれない存在。何としても、今ここで絶対に葬り去らなければいけない存在。そのブラックが、己の能力と相性最悪の相手だったとは…。

 

 それと、獣人型だと炎系統に対する耐性が特に顕著だったこともあり、ブラックは念の為にと人型とほとんど変わらないサイズの獣人型で戦っているようだが、赤犬からしたら只でさえ小賢しく忌々しいのに、赫い猿に為て遣られているこの状況が余計に赤犬を苛立たせてもいる。

 

 いつになく不機嫌なのが明白だ。

 

 幻獣種の悪魔の実が、自然(ロギア)系の悪魔の実よりも稀少とされている理由を、この戦いで───デマロ・ブラックという、今この世界で最も排除すべき海賊によって、海軍は理解させられてしまっている。赤犬にとってだけではなく、海軍と世界政府にとっても、実に由々しき事態だ。

 

 幻獣種の持つ能力も多種多様。何より、能力者であるブラック自身が身体能力も高く、強靭な身体を持ち、強く、速く、高度な覇気の使い手で、それがより強大な力へと押し上げている。

 

 

「そういやアンタ、オハラの避難船を撃沈させたとか言ってたな。コレは、それで死んでしまったオハラの怨みと──()()()の想いだ。

 受け取りやがれ犬っころ!!」

 

「わりゃァ、やはりオハラの生き残ッ!?」

 

 

 雷を全身から迸らせる赫猿が赤犬の懐へと潜り込み、強力無慈悲な一撃を叩き込む。

 

 実際には違うのだが、ブラックにとって自身がオハラの奇跡的な生き残りだと勘違いされてしまうことはどうでもいいことだ。ただ、初恋の人を殺した海軍と世界政府をブン殴りたかっただけ。ニコ・ロビンを苦しめる存在をブン殴りたかっただけ。ブラックは海軍と世界政府を滅ぼそうとまでは考えてはいないが、それでも何もせずに黙っているなどという選択肢はなかった。

 

 オハラで何かをやらかしたらしい赤犬は、そんなブラックにとって恰好の的。赤犬にとっては、かつての己の行いに対する付けが回ってきたといったところだろうか…。

 

 

 

 

 

天神咆哮

 

 

 

 

 

「がふッ──ぐオォォォ!?

(こ、こりゃァ、武装色の内部破壊ッ!!)」

 

 

 強力な覇気がけたたましい雷鳴の如く内側にまで響き渡り、雷が全身へと襲いかかる。

 

 大将・赤犬が、膝を地に突き血を吐き出している光景が、その一撃の重さを物語っており、海軍側に大きな動揺が走ってしまう。ブラックは今この世界で最も排除すべき海賊だが、まだルーキー海賊。多くの海兵達が、元帥センゴクですらも大将ならば必ず排除できると信じて疑っていなかったはずだ。

 

 そのルーキー海賊が、大将に膝を突かせてしまうなど、誰が想像できただろうか…。

 

 冥王レイリーが全力で鍛え上げて送り出した赫猿が、戦況を大きく変えたのだ。

 

 多くの海兵がブラックに恐怖を覚えた。必ず排除すべきだと再認識した。

 

 火拳のエースの公開処刑の場が、"赫猿"デマロ・ブラックの公開処刑の場へと様変わりだ。

 

 多くの海賊達が新たな皇帝の誕生を感じ取っただろう。白ひげの恐ろしさを知らしめる一方で、新たな大海賊の誕生───世代交代の時を薄々感じ取っているだろう。

 

 

「!──ったく、いつも現れる時()()()んだよ!!」

 

「やっぱりお前さんは、わっしが殺さないといけない運命らしいからねェ。サカズキィ、相性悪いみたいだし、体も痺れてかなりダメージ負ってるみたいだから代わるよォ」

 

 

 赤犬が膝を突かされるなど、同じ大将の黄猿にとっても想定外。ただ、やはり己こそがブラックを排除すべきなのだと、またしても黄猿が襲いかかってきた。毎度毎度ピカピカと眩しくて、ブラックは鬱陶しくて仕方なさそうである。

 

 

「ぐゥ──海賊…風情が…クソがァ」

 

 

 熱く、荒々しい戦いからは一転、目では決して追えない速さの激闘が再び幕を開けたなか、赤犬は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべており、その瞳に宿った海賊に対する憎悪の色が更に増しており…。

 

 戦いがより熾烈化する。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 世界最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートも御歳72歳。生ける伝説も、寄る年波には決して勝てない。それは白ひげ自身が誰よりも理解していることだ。

 

 それでも、この戦争だけは、火拳のエース(愛しい息子)を取り戻すまでは───自身にとって()()()()()だと覚悟してやって来たこの戦場に立っている間だけは、体が最後まで持つことを白ひげは強く望み、願った。

 

 しかし、運命とはどこまでも非情で残酷であり、本人の望み通りになど決して進んではくれないものだ。

 

 

「ウゥッ…ガフッ!クソッ…タレ…が…!!」

 

 

 "智将"元帥センゴクの策略によって、傘下の海賊"大渦蜘蛛"のスクアードに胸を突き刺されようとも立ち上がり、世界最強の海賊と恐れられるに相応しい力を見せつけ暴れ回っていたものの、時の経過とは何と無情で残酷なものか…。

 

 血を吐き出し、胸を押さえて地に膝を突く白ひげ。その光景は、白ひげの時代の終わりを物語っている。老いには最強の海賊すらも決して勝てず、逆らうことができない。

 

 

「惨めじゃのォ、白ひげ。

 老いぼれはさっさとくたばっとれ。儂は赫猿を葬り去らんといけんけェのォ」

 

 

 ブラックから受けたダメージもどうにか回復した赤犬が白ひげの前に立ち、マグマの拳で白ひげの胸を貫いてしまった。そして、白ひげを討ち取る千載一遇の機会を逃すまいと、海兵達による総攻撃が行われる。

 

 刀で斬られ、刺され、銃弾を喰らい、バズーカを近距離から撃ち込まれ…。並の海賊だったならば即死で、人間の形を保てていなかったかもしれないほどの総攻撃。

 

 

「オ──オヤジィィィーーーーーッ!!」

 

 

 白ひげが老いと持病で倒れる姿は、スクアードに突き刺されてしまった時以上に白ひげ大艦隊を動揺させている。

 

 ブラックの暴れっぷりのおかげで傾きかけていた戦況だったが、如何にブラックが強くとも、新進気鋭の孤高のルーキー海賊が白ひげ大艦隊に与えられる安心感はたかが知れている。世界最強の海賊が与える影響力、安心感───白ひげがいれば絶対に負けることがないという信頼感はとてつもなく大きい。

 

 四皇の海賊団全てに言えることだが、船長(四皇)の存在というものはそれだけ大きいのだ。カイドウ率いる百獣海賊団も、シャーロット・リンリン率いるビッグ・マム海賊団も、シャンクス率いる赤髪海賊団も、船長がいなくなってしまえば、新世界でそこそこ強い海賊団程度にまで弱まってしまう。

 

 だからこそ、海の皇帝と恐れられるのだ。

 

 だが、白ひげはどれだけ攻撃を受けようとも決して地に伏せない。新世界の怪物達に───世界最強の海賊に世間の常識など一切通用しない。

 

 

「マグマ小僧…センゴク…これしきで…オレを殺せると思ってんのか?ハァ、ハァ…オレを誰だと思ってやがるハナッタレのクソッタレ共が…オレァ"白ひげ"だァァ!!」

 

 

 白ひげが数十年もの間愛用し、数々の苦難を共に乗り越えてきた最上大業物"むら雲切"を一閃。たった一振りで海軍の猛者達を薙ぎ倒す。どれだけ傷を負おうとも、斬られ、刺され、撃たれようとも決して倒れることのないその姿は───この姿こそがまさしく最強の姿なのだ。

 

 

「オレが死ぬ事…それが何を意味し、世界にどれほどの影響を及ぼすのかオレァ誰よりも知っている。だったらオメェ…大切な息子達の明るい未来を…見届けねェと、オレァ…死ぬにも死ねねェじゃねェか…なァ…息子達よ」

 

 

 最強の貫禄を見せる白ひげ。

 

 

「凄いなァ、やっぱりアンタは。痺れちまったぜ、白ひげ」

 

 

 その白ひげの隣に降り立ったのは、この戦場を引っ掻き回し、海軍に甚大な被害を与え続けるブラックだった。

 

 黄猿との戦いは一向に決着が付くことがなく、ブラックを排除されては困ると判断した白ひげ大艦隊の海賊達が援護に回り、そちら側の戦いも混迷を極めていたが、その者達の嘆願によってブラックは白ひげのもとに駆けつけることになった。

 

 ブラックにとっても、ここで白ひげに倒れられては困るのだ。

 

 ただ、どれだけ傷を負おうと絶対に倒れない最強の姿を目の当たりにし、ブラックはただただ感銘を受けた。

 

 海賊ではあるが、世界の均衡を保つ偉大な男。ブラックは生まれて初めて、このような男になりたいと強く思った。それほどまでに白ひげの姿が神々しく映ったのだ。

 

 

「かっけェなァ」

 

 

 冒険が大好きで、お宝探しに子供のようにはしゃぎ、これまで自分の思うがままに自由気ままに冒険を楽しんできたブラックだったが、それと同時に色んなものも目にしてきた。海賊達に理不尽に大切なものを奪われた弱き者達。海賊撲滅の為に一般市民への被害も辞さない海軍と世界政府の過激な正義。

 

 何より、この数ヶ月のブラックの日常は理不尽の一言に尽き、天国から地獄に落とされたかのようだ。

 

 

「オレもアンタのようになれっかなァ?」

 

 

 その理不尽を覆す絶大な力。白ひげの力は、まさしくブラックが憧れ、望む力だ。

 

 決して弱き者(カタギ)を傷つけることなく、権力に決して屈することなく、自分の守りたいものを守る力。

 

 決して、支配されることなく自由気ままに、己の思うがままに生きる。

 

 

「その為には、生き残らないといけねェな。

 それに、海軍と世界政府に殺されるなんてゴメンだ。これ以上、オレの人生メチャクチャにされてたまるかってんだ。

 オレは支配するのも支配されるのも望まねェ。

 この世界で──誰よりも自由な男だ!!」

 

 

 その瞬間、ブラックからとてつもない()()()が放たれ、海兵達だけではなく、白ひげ側の海賊達の意識を刈り取っていく。

 

 

「!?──猿小僧、テメエ。

(()()()……テメエに似たガキ()がここにいやがるぞ)」

 

 

 世界で最も排除すべき海賊。それが何のその。懸賞金が爆上がりしようと何のその。

 

 デマロ・ブラックは自由をこよなく愛し、自由の為に常に進むのだ。

 

 

 

 






そんなのあり?って思うかもしれないけど、これ事実です。盛ってるわけでもなく、ハヌマーンって火神アグニの加護のおかげで炎にも耐性があるらしいですよ。ハヌマーンは火刑に処されたけど、火神アグニの加護を受けていたおかげで火に焼かれることなく、逆に島中に火をつけて回ったそうです。

あれ?どっかの大先輩の第4形態(赤い体毛に黒髪)も炎に耐性あったよね?

サルサルの実 幻獣種 モデル"ハヌマーン"が火に耐性あることは知ってたブラックだけど、マグマも大丈夫だったことをここで知れて良かったね!!


天神咆哮
内部破壊と雷による正拳突き。赤犬のタフさが異常だから膝を突いて少し痺れるだけですんでるけど、大将クラスじゃなかったら、呼吸器系とか神経系までやられて呼吸困難に陥ったり、感電死もあり得るかもしれない。
二重の極みとか三重の極みみたいなもんかな?武装の内部破壊ってそんな感じのもんだよね(笑)


ルフィは世界で一番自由な海賊(王)を目指し、ブラックは世界で誰よりも自由な男(人間)を目指す。


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マリンフォード大災害。雷、地震、そして火事!!



前話のまえがきで、覇王色使えるキャラの中にハンコックを書くの忘れてた!何たる失態。罪深い!!

ハンコック→とにかく何でもイイよね。美しいんだもの!!

そのハンコックがまったく出てきてないんだけどねェ。タイミングがねェ。今後出てくるよ!!

とりあえず第10話!誉めるられると伸びる子なので応援よろしくどうぞ!!



 

 

 "赫猿"デマロ・ブラックの排除。

 

 海賊王ゴールド・ロジャーの息子である"火拳"ポートガス・D・エースの処刑よりも優先させるべき案件だと判断した海軍ではあったが、ブラックの排除は困難を極めていた。

 

 想定を遥かに上回るブラックの強さ。これを排除するには骨が折れるどころのものではない。只でさえ、"智将"元帥センゴクの想定を上回る被害が出てしまっているのだ。白ひげ大艦隊を相手にしながら、ブラックと火拳両方の首を取るのは無理がある。一石二鳥を狙った結果、全てを失うことにもなりかねない。

 

 

「オヤジ、大丈夫かよい?」

 

「こんなもん…()()()()でしかねェ」

 

 

 白ひげもまだ余裕があるようだ。マグマの拳で胸を抉られ、刀で斬られ、刺され、銃で撃たれ、バズーカを至近距離から喰らい、これでまだ生きているのだから世界最強の海賊は伊達ではない。

 

 白ひげが倒れかけ動揺が走り、隊長達の何人かが隙を突かれて戦闘不能に追い込まれてしまったが、不死鳥のマルコはあわや"海楼石の錠"をかけられる寸前でブラックに助けられ、白ひげ大艦隊は崩れることなく持ち直している。

 

 見るからに瀕死。だが、白ひげはまだまだ戦える。士気は下がっていない。

 

 この状況で、ブラックと火拳───いったいどちらを優先して排除すべきか…。

 

 その答えは一目瞭然だ。海軍側が手中に収めている火拳の処刑を優先して執行するべきだ。ブラックは後回し。そして、ブラック、白ひげを少しでも足止めすればいい。

 

 だが、海軍は気付いてはいない。もう、流れは完全に自分達のもとにないことを…。

 

 

「やめろォォォォォーーーーー!!」

 

 

 前代未聞のルーキー海賊はブラックだけではない。ブラックはルーキー海賊でありながらも、恐るべき力を持っているが故に、周囲が担ぎ上げるが、麦わらのルフィは違う。何故か不思議と協力したくなる。持って生まれたド天然なその性格にいつの間にか巻き取られてしまい、次々とその場にいる者達を味方にしてゆく。

 

 麦わらのルフィはデマロ・ブラックと違った魅力と強さを持っている。

 

 彼もまた、王の資質をその身に宿しているのだ。

 

 大監獄インペルダウンからの無茶の連続。もう立っているのすら不思議な満身創痍。精神が肉体を大きく上回っている状態だろう。

 

 だからこそ、眠っていたその力がここにきて目覚めた。

 

 火拳に迫る凶刃は決して届かない。

 

 ルーキー海賊2人が揃って、覇王色の覇気を覚醒させてしまうとは…。海軍にとってこれは悲劇でしかない。

 

 

「来たか──麦わら」

 

「ブラ男!オレに力貸してくれ!!」

 

「おいッ何だそのブラ男ってのは!!まさかオレのことか!?」

 

 

 白ひげ大艦隊がマリンフォードに出現する直前、センゴクは白ひげとの全面戦争を覚悟してまで、大々的に告知してまで火拳の公開処刑を行うその意味を熱弁した。

 

 しかし、今となってはそれは正しい選択だったのだろうか…。

 

 もし、直前告知による処刑執行だったならば、ここまで混迷を極める事態にもならなかったのではないだろうか…。

 

 ただ恐らく、どのような行動に出ようとも、火拳が囚われたことをきっかけに白ひげとの全面戦争は避けられなかったかもしれない。

 

 それでも、一つだけ確かなことがある。それは、"赫猿"デマロ・ブラックと麦わらのルフィの存在だ。

 

 海賊次世代の頂点に立つ資質を持つ火拳───海賊王の血を途絶えさせる為に、白ひげとの全面戦争を覚悟で日時を指定し、公にしてまで執行することになった公開処刑が完全に仇となってしまい、ブラックとルフィが王の資質を目覚めさせたのである。

 

 ルフィが兄の公開処刑が数日後に行われることを知ることがなければ、インペルダウンに侵入し、前代未聞の集団脱獄事件が起きることもなかっただろう。

 

 ブラックも同様で、知らなければマリンフォードに乗り込んでくることはなかったはずだ。

 

 ルーキー海賊2人の行動によって荒れに荒れる今日はまさしく、海賊王ロジャーの死に際の一言によって大海賊時代が幕開けしてしまったあの日の再臨。

 

 

「ええい、今はもうどうでもいい!

 飛ぶから肩に乗れ麦わらァ!!」

 

「ありがとう!!」

 

 

 獣人型の赫猿に変形し、人型の倍程に巨大化したブラックがルフィを肩に乗せて処刑台の頂上を目指し飛び立つ姿は、まさしく未来の幕開けだ。

 

 

「行ってこいッガキ共ッ!!

(見せてみろオレに──お前達の進むその未来(さき)を!)」

 

 

 世界最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートもまた、ブラックとルフィの未来に大きな期待を寄せている。

 その眼差しはどこまでも優しく、2人に大きな希望を見出だしていた。

 

 

「お前らァ、赫猿と麦わらの道を絶対に守り抜けッ!!」

 

「了解」

 

 

 白ひげ大艦隊が全力でブラックとルフィを守る。何と頼もしい援護だろうか…。

 

 

「このまま行かせると思うておるのかッ、"赫猿"デマロ・ブラック──麦わらのルフィィィィ!!」

 

 

 だが、()()()()()はそう簡単には通してはくれない。2人が進む道は茨の道なのだ。

 

 さすがは海軍の英雄。極限まで肉体を鍛え上げた者のみが体得を可能とする"六式"を当然のように体得しており、見聞色の覇気でブラックの雷速に反応し、空中で待ち構えていたのだ。

 

 

「じいちゃん!?

 そ、そこどいてくれよッ!!」

 

「どくわけにいくかルフィィ!儂を誰だと思っておる!わしゃァ"海軍本部中将"モンキー・D・ガープじゃ!!」

 

 

 しかし、何と悲運な運命なことか…。エースを助けようとするルフィと道を阻むガープは孫と祖父の関係にあり、エースもガープの義理の孫なのである。かつて海賊王を何度も追い詰めた海軍の英雄の孫達が海賊とは…。

 

 

「お前達2人が生まれる遥か昔から…半世紀も昔から儂は海賊達と戦ってきたんじゃ!

 ここを通りたくば儂を殺してでも通れ!"麦わらのルフィ"!!それがお前達が自ら選んだ()じゃァ!!」

 

 

 海賊ではなく、己のような海兵になってほしかった祖父ガープ。対して、ルフィとエースは父親に似てしまったからなのか、自由を求め、支配を拒み、海賊に憧れ、そして海賊になった。

 

 身内のガープが立ち塞がるこの悲運な運命は、ルフィとエースにとっては必然で避けては通れない。

 

 

「できるわけねェよじいちゃん!頼むからどいてくれよ!!」

 

「できねばエースは死ぬだけだ!」

 

「いやだァ!!」

 

「いやな事など、逃げ出したくなる事など山ほどある!わしゃァ容赦せんぞ!海賊"麦わらのルフィ"!お前を敵とみなし──全力で排除する!!」

 

 

 半世紀もの間、正義を背負い続けてきた海兵が海賊を排除せんと───祖父が孫へと牙を剥く。ルフィにとって残酷な運命。しかし、それはガープも同じだろう。

 

 

「火拳を救い出し、海賊王になるんだろ?

 だったら麦わら、覚悟決めて行ってこい。テメエは皆の想い背負ってんだぞ!!」

 

 

 エースを奪還する為だけではなく、エースを奪還する為には麦わらのルフィが必要だと、ルフィを守る為に多くの血が流されてしまった。

 

 

「!」

 

 

 ブラックの言葉で、大監獄インペルダウンに死を覚悟してまで残り、己を何度も助け、ここまで送り出してくれた友達(ダチ)の姿がルフィの脳裏を過る。

 

 ルフィはその友達(ダチ)に言われたのだ───必ずエース(兄貴)を救ってこいと…。

 

 

「行けッ───海賊王!!」

 

「ッ──おう!!」

 

 

 ブラックの肩から、ルフィはガープに向かって勢いよく飛ぶ。

 

 カープへと迫るルフィ。ルフィは覚悟を決めたのだ。相手が祖父であろうとも、エースを必ず助け出すと…。

 

 そのルフィに向かって拳を振り抜くガープ。だが、ガープの脳裏に過ってしまう。今よりも幼く、今とまったく変わらないクソ生意気な可愛い孫達との大切な思い出の数々が…。

 

 

「ッ──。

(ルフィ、エース)」

 

 

 どれだけ海賊達に恐れられようとも、海軍の悪魔と畏怖されようとも、海賊王ロジャーを何度も追いつめた海軍の生ける伝説であろうとも、ガープもまた人の親であり、孫に愛されたい孫馬鹿で、ルフィとエースの祖父なのだ。

 

 その孫達との思い出と、孫達への愛が、海軍の英雄の覚悟を大きく鈍らせる。

 

 

「ガープ!!」

 

 

 長く苦楽を共にし、海軍を共に支え続けてきた同期のセンゴクも、これまで決して聞いたこともないガープの悲痛な心の叫びが聞こえ、表情を大きく歪ませた。

 

 センゴクには、背を向けているガープの表情は一切見えない。しかし、ガープが瞳を閉じたことを──一筋の涙が溢れ落ちたことにセンゴクは気付いた。

 

 これまで数多の海賊を沈めてきた悪魔(英雄)の拳は(海賊)に届くことなく、悲しさの籠った孫の拳を、ガープは初めて受ける。

 

 

「うわあアァァァァ!!」

 

 

 その拳はどこまでも重く、強く、エースを助けたいという想いが強く籠った拳であり、それと同時に───ガープへの想いも籠った拳でもあった。

 

 

「わッ!?」

 

「よくやった、()()()

 さて、あとは"智将"センゴク──火拳は返してもらうぜェ!!」

 

 

 覚悟を決め、試練を乗り越えた男の名をブラックは呼ぶ。兄を助け出す為に祖父と戦わなければならなかったルフィの辛さは、ブラックには決して分からない。ただ、それを乗り越えることができたルフィを、ブラックは認めたのだ。

 

 そしてついに辿り着いた。

 

 

「ルフィ!ブラック!」

 

 

 多くの困難と試練を乗り越えたブラックとルフィがついに、エースがいる処刑台へ…。

 

 

「これ以上、貴様等海のクズ共に好き勝手させると思うなァァァ!!」

 

 

 その処刑台には最後の砦であるセンゴクが、覇王色の覇気を剥き出しにして待ち構えていた。

 

 

「アンタも幻獣種か…。

 なら、相手はオレがするしかねェな!

 ルフィ、火拳は任せたからさっさと救い出せ!!」

 

「わかった!!」

 

 

 "君臨する正義"を掲げ、現在の海軍で唯一覇王色の覇気を持つ元帥センゴクが、その正義を具現化したかのような神々しい姿へと変貌する。

 

 眩く金色に輝くその存在。動物(ゾオン)系 ヒトヒトの実 幻獣種モデル"大仏"。智将センゴクが、"仏のセンゴク"とも呼ばれる由縁だ。

 

 能力を解放し、ブラックとルフィを待ち構えていたセンゴクが毅然たる態度で立っている。

 

 

「貴様等の奇跡もここで終わり──私の手で貴様等を葬り去るッ!!」

 

 

 ガープ同様に、センゴクも数多の海賊を討ち取り、海軍を支え続けてきた伝説の海兵だ。その拳が、ブラック達を殺さんと襲いかかってきた。

 

 

「奇跡じゃねェ──必然だ!!」

 

 

 覇気で黒く染まったセンゴクの拳に、ブラックも覇気を拳に纏い真っ向勝負を挑む。

 

 新進気鋭の孤高のルーキー海賊と、生ける伝説の海兵の一騎討ちだ。

 

 すると、拳が衝突したと同時に稲妻のようなものが発生し、けたたましい轟音が鳴り響き衝撃波がマリンフォードの広場へと拡散する。

 

 海軍元帥の覇王色とルーキー海賊の覇王色の衝突によって生み出された衝撃は処刑台の脚を破壊し、マリンフォードの上空を覆っている()()()()()()()()()しまう程の威力だ。

 

 ほんの僅かながらも、()にまで影響を及ぼす覇気の衝突に多くの者達が驚愕し、言葉を失い、時が止まったかのように唖然と立ち尽くしているなか、白ひげだけは豪快な笑い声を上げていた。

 

 対して、センゴクは苦虫を噛み潰したかのように実に忌々しそうだ。

 

 

「ぬゥ、デマロ・ブラックゥゥゥ!!」

 

「へッ、そっくりそのままお返しだ、センゴクさんよォ!海軍と世界政府にこれ以上好き勝手させると思うなッ!オレの大切なモンをこれ以上テメエ等に奪われてたまるかってんだ!!」

 

 

 そしてその隙に、ルフィが()()()()()()()()()()()を使ってエースを解放する。

 

 

「やったぞ、ブラ男!!」

 

「っしゃあァァァ!よくやったルフィィィ!!」

 

「ししし!ブラ男や皆のおかげだ!」

 

 

 その光景に愕然とするセンゴク。最後の砦までもが為て遣られてしまったのだ。

 

 囚われの火拳が、ルーキー海賊2人によって解放された。これは決して奇跡ではない。

 ブラックとルフィが数々の困難を乗り越え、自らの力で成し遂げた。まさしく努力の賜物。血と汗の結晶だ。

 

 ブラックとルフィは、白ひげ達の期待に見事応えてみせたのである。

 

 

「さーて、あとは逃げるだけだ!」

 

 

 そのブラック達は、崩れる処刑台から飛び降りる。

 

 真下では海軍が待ち構えているが、白ひげや不死鳥のマルコ達がブラック達の退路を確保する為に戦い、大将達の注意を引きつけている。

 

 あとは無事にマリンフォードから脱出するだけ…。

 

 暴れるだけ暴れ、そして逃げる。これぞまさしく海賊ではないだろうか…。

 

 

「派手にブッ放すぜ!!」

 

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべたブラックは両手を腰にひき、鳥の嘴のような構えを取った。

 雷を手に集め、凝縮させたブラックはそのまま両手を上下に開いた形で前方に突き出し、掌から雷の光線を放出する。

 

 

 

 

 

雷公炮

 

 

 

 

 

 それに釣られたように、ようやく助け出されたことを実感したエースが家族のもとへ帰るべく、己の代名詞である火拳を放ち、若さの勢いに当てられたのか、白ひげも派手に暴れ回っていた。

 

 マリンフォードが激しく揺れ動き、燃え盛り───雷鳴が鳴り響いている。

 

 

 






ルフィのブラックの呼び方。ブラ男。ローに対するみたいな呼び方。ブラックに対して自分にそっくりだから、オレっても読んでたから、オレ男でもいいけどね!!

雲を少しだけ割った覇王色。白ひげとシャンクス、カイドウとビッグ・マムのように空を割ることはできないけど、少しだけでも割れたのは可能性。


地震オヤジ白ひげ!雷猿ブラック!火事男エース!3人揃って地震雷火事親父!!

雷公炮
決まった構えから放たれる雷の光線。


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敗北者は誰だ?



ONE PIECEで一番の名言とは何だろうか?



 

 

 "火拳"ポートガス・D・エースの奪還に成功した白ひげ大艦隊。正確には、エースを奪還したのは傍迷惑な問題児ルーキー海賊"麦わらのルフィ"と、孤高のルーキー海賊"赫猿"デマロ・ブラックだ。

 

 この2人が海軍をとにかく引っ掻き回し、王の資質まで覚醒させ、海軍に想定外の甚大な被害を与え、エース奪還という奇跡を起こしたのである。

 

 マリンフォードで勃発した世紀の大決戦にて、世界最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートがまだまだ健在であることを証明したと同時に、ブラックとルフィの活躍に多くの者達が世代交代の時を感じ取ったことだろう。

 

 それも当然で、それだけブラックとルフィの成し遂げたことは大きく、それだけの力を海軍に知らしめた。白ひげだけではなく、白ひげ海賊団の隊長達の他、傘下の海賊達も新たな世代の台頭をその目で見たのである。

 

 大海賊時代が幕を開けて22年。一つの伝説(白ひげの時代)が終わりを迎え、新しい時代が到来しようとしている。

 

 そして、旧時代に決着(ケリ)を…。

 

 

「これが最期だ。

 オレの旅の集大成──いっちょ派手にやるかァ、海軍。

 グララララ!!」

 

 

 エースの奪還に成功した白ひげは、もうマリンフォードに用はないと、仲間達に撤退を宣言した。

 

 生きて新世界に帰還する───これが、白ひげの最期の船長命令。

 

 ただ、新しい時代へと乗り込む船に白ひげは乗らない。

 

 きっと、白ひげは最初からこのつもりだったのだろう。エースを奪還し、己が殿を務め仲間達を無事に新世界へと帰還させる。己の命が尽きるその時を悟っていたのだ。

 

 新たに自分の座に君臨できる可能性を秘めた者とも白ひげは出逢い、その人生に後悔などないだろう。いや、()()()()残っているが、白ひげの未練は大切な息子達がどうにかしてくれるはずだ。だからこそ、白ひげは逝ける。

 

 

「さっさと行かねェか!アホンダラァァァ!!」

 

 

 海軍本部マリンフォードで、白ひげが破壊の限りを尽くす。己の武勇伝を派手に締め括る為に…。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 炎の拳とマグマの拳が衝突する寸前、赫い猿がその間に割って入る。

 

 

()()()って言ってんだろうがッ──バカッ!!」

 

 

 その赫い猿はどちらの拳も防ぎ、堂々と逃走宣言をしながら片方に叱責した。

 

 マリンフォードは今、逃げる海賊達とそれを追う海兵達で大混戦の状況だ。

 

 白ひげから最期の船長命令が下され、その聞き入れ難い命令をエース含む白ひげ海賊団の者達、傘下の海賊達は白ひげの命令だからとどうにか遂行するべく、逃げることにのみ専念しているのである。

 

 白ひげがたった1人、マリンフォードに残り暴れ回るなか、白ひげの息子達は新世界へと帰還する。

 

 これが意味するのは白ひげとの別れ。あまりにも辛い最期の船長命令だ。

 

 だが、海軍がそう簡単に逃がしてくれるはずもない。

 

 エースの公開処刑は失敗に終わり、白ひげがマリンフォードを破壊するなか、海軍はまだ諦めていないのだ。まだ逃げ切れていないエースを殺せる機会(チャンス)が辛うじて残っているからだ。

 

 海軍の意地とプライドをかけた最後の猛攻。

 

 何としても排除するべく、海軍はエースを執拗に追っている。

 

 その中でも特に執拗なのが大将・赤犬だ。徹底的な正義を掲げる赤犬が、海軍の敗北など受け入れられるはずもなく、何としても排除しようと、エースのみならず目の前の海賊達を次々とマグマで焼き尽くしている。

 

 その様はあまりにも過激。

 

 しかも、赤犬はエースの間近まで迫ると鬱憤を晴らすかのように白ひげ海賊団を罵った。

 

 ただ、赤犬のその罵倒は聞く者によっては愚痴を溢すかのような、ストレス発散とも取れるかのような、己の思い通りに事が運ばなかった苛立ちを白ひげ達を罵ることで発散しているかのような、まさしく負け犬の遠吠え。

 

 エースを奪還して退散する白ひげ海賊団及び傘下の海賊達を腰抜けと罵り、白ひげを先時代の敗北者と罵倒した赤犬。しかし、誰がどう見ても白ひげは敗北者などではない。白ひげは海賊王になれる器でありながらも、海賊王にならなかった偉大な男で、この戦いもエースを奪還した時点で白ひげの勝利だ。

 

 敗北者が白ひげではなく海軍なのは一目瞭然。それに、逃げは逃げでも、敗走ではなく、勝ち逃げだ。

 

 挑発にも取れない赤犬の言葉(負け犬の遠吠え)になど、誰も怒りを示すことはない。

 

 しかし、そこで想定外の事態が起きてしまった。いったい誰が想像できただろうか…。挑発とも取れない赤犬の負け犬の遠吠えに、白ひげをバカにされたとエースが怒り狂ってしまうなど…。ここに来て、エースの悪癖が出てしまった。

 

 元々、エースが黒ひげに敗北し、海軍に捕らえられてしまったのもその悪癖が原因でもあった。悪癖というよりも、長所でもあり短所でもあると言うべきか…。

 

 己にとって大切な者達の為に自分のことのように───それ以上に怒り、相手が誰であろうとも挑む。

 

 エースのそんな姿に、海賊王ロジャーを知る者には姿が重なって見えただろう。だが、決定的な違いはエースがロジャーほど強くなかったというところだ。エースの行動は大切な者達の為に怒りを露にし、仲間想いで勇敢に見えるかもしれないが、相手が格上だろうと挑む姿は無謀で愚か者にも見えてしまう。

 

 そして、煽られることに対する耐性がエースにはまったくないのは明らかなる短所だ。

 

 人間、時には我慢も大切で、逃げることも必要だ。

 

 その点に関しては、まだルフィの方が賢いかもしれない。

 

 エースを救い出す為に、いったいどれだけの血が流されたか…。ルフィも死にかけた。

 

 せっかく救い出されたその命を無下にするかのようなその行為は、愚かでしかない。

 

 

「どけよブラック!

 オレは絶対に逃げッ──ぐあッ!?」

 

「この親不孝もんがァァァ!!」

 

 

 その愚かなるエースに、ブラックが鉄槌を下す。腹に一撃を叩き込み、エースが膝を突いたところで首に手刀を入れて気絶させる。かなり乱暴な手段ではあるが、このまま逃げずに戦われるよりは遥かにマシだろう。

 

 

「ブラ男!!エースに何すんだ!?」

 

「逃げる為だ!誰かコイツ連れてってくれェ!

 ついでにルフィも担いでやってくれ。コイツ、もう限界だ」

 

 

 唖然とする一同だが、我に返りエースとルフィを抱えて再び逃げることにのみ専念する。この場をブラックに任せて…。

 

 ブラックと赤犬の戦いが再び始まろうとしている。

 

 

「赫猿ゥ、何度も邪魔してくれおって!」

 

「もう負けを認めろ赤犬。それにこれ以上、血を流す理由はねェだろ」

 

「海賊を排除してこその海軍じゃ!

 儂が貴様等海賊を逃がすと思うなァァァ!!」

 

 

 正義が殺意へと変わり、ブラックを何としても殺さんと赤犬が牙を剥く。赤犬がブラックに向ける憎悪はとてつもなく大きい。エースを救い出した立役者の1人でもあるブラックは、海軍にとって最大の敵。赤犬も苦渋を飲まされた。

 

 

「貴様を殺し、その後に火拳じゃあ」

 

 

 今この場に於いて、極悪人はいったいどちらなのか…。ブラック(海賊)赤犬(海兵)か…。その答えに一瞬悩んでしまう。

 

 

「ったく、どんだけ海賊のこと恨んでんだよ」

 

 

 海兵としてではなく、海賊への恨みという私情で動いているかのようにすら見えてしまう。ただそれが理由で、何の罪もないオハラの住民達が殺されてしまったと思うと、他にも被害者が存在すると思うと、ブラックの内で怒りが沸いてくる。

 

 

「アンタは、オレが何言ったって聞く耳持たねェんだろうな。アンタにとっちゃ、オレは海賊だからなァ。

 けどな、オレを海賊にしちまったのはアンタ達海軍と世界政府だ。この恨み──アンタが身を持って受けやがれ」

 

「海賊という"悪"を儂は絶対に許さん!!」

 

 

 最初から、言葉など不要なものでしかない。

 

 赤犬にとってブラック達海賊は絶対悪。この世から消し去らなければならない存在なのだ。

 

 

「この世から消え失せんかァァァ!!」

 

「そう簡単に消されるかよッ!!」

 

 

 白ひげが暴れ、逃げる海賊達を海軍が執拗に追い、ブラックと赤犬の壮絶な戦いまでもが再び始まってしまった。

 

 いったい、この戦いはいつ終わるのか…。どれだけの血が流されれば終わるのだろう。

 

 最早、エースを処刑すれば終わるものではない。血で血を洗う惨劇だ。

 

 

「!」

 

 

 しかし、()()()がそれを許すはずもない。

 

 

「あ、赤犬さんッ──後ろ!!」

 

 

 赤犬の背後に現れたのは最強の海賊。"覇気"と"振動"を纏わせた最強の海賊の拳が、赤犬へと振り下ろされた。

 

 

「息子達に手ェ出してんじゃねェ!

 テメエら海軍の相手はオレ1人だッ!!」

 

 

 白ひげの強烈な不意討ちが赤犬の顔面に叩き込まれ、地へと叩きつけられる。さすがの赤犬も、この強烈な一撃に一瞬だけ意識が飛びかけてしまう。

 

 

「ぐウゥッ!ゲホッ…こ、この…死に損ないの老いぼれがァ!!」

 

 

 だが、さすがは海軍の最高戦力。白ひげの強烈な一撃を受けようとも、必ず立ち上がる。白ひげの一撃を受けた赤犬は直ぐ様反撃した。白ひげにマグマと化した腕で掌底を放ち、そして顔半分を焼き抉る。

 

 

「オヤジィ!!」

 

 

 顔を半分抉られたその光景に、誰もがゾッとした。

 

 それでも、白ひげもまた決して倒れることなく、腕を振り抜いて赤犬へと強烈な一撃を叩き込み、海軍本部に大きなダメージを与えた。

 

 まさしく怪物。

 

 

「誰に似たんだか──手のかかるバカ息子だ。世話かけたな、赫猿。それと、オレのどうしようもねェバカ息子を助けてくれてありがとよ」

 

「白ひげ」

 

 

 ただ、白ひげは己の息子達を守り抜きたいだけ。その為に戦っている。究極の親馬鹿だ。

 

 親として、息子の失敗に謝罪と、助けてくれたことに感謝を述べ、偉大なる男がブラックに背を向ける。

 

 

「おら、テメエもさっさと行きやがれ」

 

「ありがとう、白ひげ」

 

 

 どこまでも大きな背中をブラックはその目にしっかりと焼きつける。ブラックが生まれて初めて心から憧れた男───エドワード・ニューゲートの最期の勇姿をその目にしっかりと…。

 

 

「さようなら──エドワード・ニューゲート(世界最強の海賊)

 

 

 それから間もなく、"白ひげ"エドワード・ニューゲートがこの世を去った。

 

 死の間際に、"ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)"がこの世界に実在することを言い遺し、ロジャー同様に世界に業火を放ち散っていった。その散り様は見事の一言に尽きる。

 

 死してなお、その体は決して屈する事なく、頭部を半分失いながらも敵を薙ぎ倒すその姿は"世界最強の海賊"として未来永劫語り継がれ、多くの海賊達の心に残る。

 

 その身に受けた刀傷、実に二百六十と七太刀。受けた銃弾、百と五十二発。

 

 その誇り高き、数々の伝説を打ち立てた姿(背中)に、七十二年の生涯に───海賊人生(エドワード・ニューゲート)に一切の逃げ傷なし。

 

 あるのは、勝者であり続けた伝説のみ。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 "白ひげ"エドワード・ニューゲートが死んだ。

 

 マリンフォードを破壊し尽くさんばかりの勢いで暴れ回った白ひげにトドメを刺したのは、何度も殺り合ってきた海軍元帥センゴクでも、"英雄"ガープでもない。

 

 突如、マリンフォードに現れた海賊──"黒ひげ"マーシャル・D・ティーチと、その部下達だ。

 

 火拳のエースを手土産に七武海入りを果たした無名の海賊だが、この男はエースに勝つほどの力を持っており、しかも白ひげ海賊団の古株だった男だ。そして、この男が全ての元凶でもある。白ひげ海賊団に長い期間、平隊員として目立たず所属していたこの男は、人知れず己が長年欲していた"悪魔の実"を仲間が手に入れてしまったことで凶行に走り、その仲間を殺して悪魔の実を奪い取り逃走したのである。

 

 その凶行がきっかけとなり、運命は大きく動き出したのだ。

 

 白ひげや仲間達の制止を振り切り、エースは黒ひげを追ってしまい、エースが黒ひげに敗北してしまった。

 

 その結果、マリンフォードで白ひげ大艦隊との全面戦争が勃発したのである。

 

 だが、それもこれも全ての元凶は黒ひげで、誰もが黒ひげの掌の上で踊らされてしまっていた。白ひげですらもそうだ。

 

 七武海に加盟しながら、この男だけがマリンフォードにいなかったのだが、この男はあろうことか、七武海の権限を利用して大監獄インペルダウンへと正面から乗り込み、決して世に再び出してはならない囚人達数名を引き連れて、マリンフォードに堂々と姿を表したのである。

 

 七武海に加盟したのも、これが目的だったのだろう。

 

 この男は七武海の地位を剥奪されるも同然の大罪を犯しながらも平然としている。

 

 そして、マリンフォードに現れた目的は白ひげの暗殺。いや、正確には違う。黒ひげは、マリンフォードに到着した時点で白ひげが死んでいる可能性も考えていた。

 

 黒ひげにとっては、死んでれば良し、死んでなくとも殺せば良しといったところだったのだろう。黒ひげの真の目的は、白ひげを殺した(死んだ)先にあるのだから…。

 

 その目的が果たされ、世界に絶望をもたらそうとしている。

 

 

「ゼハハハハ!手に入れたぜ!!

 全てを呑み込み、無に返す闇の引力!そして全てを破壊する()()()()!!」

 

 

 いったい何をしたのか、それは誰にも分からない。

 

 ただ一つだけ明らかなのは、黒ひげが世界最強の海賊の力を手に入れてしまった。

 

 

「これでオレにもう敵はいねェ!

 オレこそが最強──オレ(黒ひげ)の時代だァ!

 ゼハハハハハ!!」

 

 

 世界が闇に覆われようとしている。

 

 

「テメエにその力は不釣り合いだ──黒ブタァァァ!!」

 

「あ!?

 て、テメエはデマロ・ブラッ──ぐあアァァァァァ!!」

 

 

 しかし、どんなに闇が濃くとも、必ず光は射す。

 

 一筋の雷公が眩く光、けたたましい雷鳴を轟かせながら、白ひげがやり残したことを引き継いだかのように、白ひげが長年愛用した薙刀が黒ひげの肩に突き刺さる。

 

 

「よォ、黒ブタ野郎。会いたかったぜェ!」

 

 

 黒ひげと因縁があるのはこの男も同じ───デマロ・ブラックのリベンジが今、始まる。

 

 

 






あとがき……書きたいことはなし……かな?

とりあえず、グラグラの実の能力は原作通りに黒ひげに渡ります。けど、世界最強の海賊の力はそれだけではなく、最上大業物"むら雲切"をその手に掴んだ者がおり…。


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新時代。赫い猿皇帝



そういえば、尾田先生はONE PIECEの刀、業物達を全て出すつもりでいるのかな?

単行本ももうすぐ100巻だけど、最上大業物は十二本の内の三本、夜、むら雲切、初代鬼徹しか明らかになってないし、初代鬼徹は所有者不明。

大業物も二十一本の内、五本。
和道一文字、秋水、二代鬼徹、天羽々斬、閻魔。

良業物に至っては、五十本の内の三本のみ。

全て出るのか?



 

 

 最も排除すべき海賊。

 

 この大決戦で、海軍と世界政府に間違いなくそう認識されたデマロ・ブラックは、己が最も危険な状況でありながらも、火拳のエースと麦わらのルフィを無事にこの島から逃がす為に奮闘していた。

 

 だが、世界最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートがついに死んでしまったことで状況が一変してしまった。

 

 白ひげにトドメを刺したのは、この決戦に唯一参加していなかった七武海のルーキー"黒ひげ"マーシャル・D・ティーチ。ブラックが賞金首になってしまった元凶───因縁深い敵だ。その黒ひげが、マリンフォードに姿を現したのである。

 

 しかも、その黒ひげが何故か白ひげの"グラグラの実"の能力を使っているではないか…。

 

 その瞬間、ブラックの中で何かがキレた。

 

 初めて心から憧れ、ブラックは白ひげに対して少年のような心でカッコイイと思った。その白ひげの能力をブタのような薄汚い男が使っているなど、ブラックが許せるだろうか…。

 

 答えは否。

 

 ブラックは引き返した。全力疾走ならぬ全力疾飛だ。

 

 

「よォ、黒ブタ野郎。会いたかったぜェ!」

 

 

 そして、白ひげの薙刀"むら雲切"(最上大業物)を手に取り、ブラックは黒ひげに突き刺した。

 

 ブラックは心の中で白ひげに謝罪する。長年愛用した薙刀を勝手に借りたことを…。それと同時に、心の中で勝手に誓う。白ひげの薙刀に相応しい男になることを…。

 

 

「薄汚ェブタが白ひげの力を使ってんじゃねェよ!!」

 

 

 黒ひげのせいで賞金首になってしまった───その一件に対して以上の怒りが爆発している。

 

 

「く、クソッタレがァ!猿の分際で調子に乗りやがって!」

 

 

 覇気を纏わせた薙刀と、振動を纏わせた拳。

 

 どちらも元々は白ひげの力。それらが別々の者の手に渡り衝突する。

 

 

「くたばりやがれ黒ブタァァァ!!」

 

「くたばんのはテメエだ赤毛猿!!」

 

 

 その瞬間、とてつもなく大きな衝撃が巻き起こり、辺り一帯が一瞬にして破壊されてしまう。

 

 あまりにも大きな衝撃は近くにいた黒ひげの仲間達すらも吹き飛ばしており、これでは当人同士達もただではすまないはずだ。

 

 いや、どちらかというならば、不利なのはブラックの方だったかもしれない。直撃すればどんな武装も意味を成さずに破砕する超人(パラミシア)系悪魔の実の中でも最強の攻撃力を有するとされている"グラグラの実"の振動エネルギーを間近で受けたのだ。

 

 大将相手に大きな傷も負うことなく生き延びたブラックも、覇気を纏わせた攻撃で応戦したとはいえ、白ひげの力を至近距離で受けてしまっては無傷なはずがない。

 

 

「ぐゥ…はァ、はァ、ゼハハハハ、さすが…この短期間で7億超えの賞金首になるだけあるぜ。

 効いたぜェ赫猿ゥ。だが、残念だったな。テメエじゃオレには勝てねェ──絶対にな、ゼハハハハ!!」

 

 

 土煙がまだ晴れないなか、響いた声は黒ひげのもので、土煙越しに見える体の大きさからも、黒ひげが倒れていないことは明らかだ。

 

 しかし、ブラックの姿はまだ確認できない。

 

 

「赫猿ゥ、もう一度だけ言うが…オレの仲間になれ」

 

 

 ただ、黒ひげにはブラックの姿が見えているのか、バナロ島で出会った時と同じように、再びブラックを仲間に勧誘し始めた。今の攻防で、改めてブラックに対して殺すには惜しい男だと思ったからだろう。

 

 7億超えの高額賞金首。海軍大将とも渡り合える能力者で覇気使い。

 

 明らかに四皇幹部クラスの実力。いや、もしかしたら幹部クラスすらも超えつつあるかもしれない。

 

 

「殺すにゃ惜しい」

 

 

 しかも、古代文字まで読めるときた。

 

 海賊王を目指す海賊にとって、喉から手が出るほど欲しい逸材だ。

 

 

「テメエがいりゃあ、()()()()も手に入るからなァ」

 

 

 神の名を冠する古代兵器と呼ばれる存在は、島一つを消し飛ばすとも、世界を海に沈めるとも言われ恐れられている禁断の兵器でポーネグリフ(歴史の本文)にその在り処が記されているとされている。

 

 つまり、古代文字が読める者は、古代兵器の在処を知ることができるということだ。

 

 そして、古代文字が読めるのはこの世界にたった2人。ブラックとニコ・ロビンのみ。

 

 この海───世界の支配を目論む者にとって、古代文字を読める者は必要不可欠。その者が強いのなら尚のこと欲しいだろう。とはいえ、ブラックもロビンもそういった輩の仲間になるつもりなど決してない。

 

 だが、黒ひげは海賊だ。仲間にならないのなら無理矢理従わせるまで。ブラックを従わせるのは骨が折れるだろうが、女のロビンなら簡単だと思っているだろう。

 

 

「まァ、テメエはどうせまた断るんだろうがな。

 惜しい存在だが殺して、幻獣種の能力だけ奪わせてもらうぜェ。オレの仲間の誰かが有り難く使ってくれるだろうしな!古代文字もニコ・ロビンがいりゃあ、どうにかなる。かなりの美女って噂だから──オレの女にしてやるぜ、ゼハハハハ!!」

 

「あ?」

 

 

 それが、ブラックの逆鱗に触れてしまったことなど知らずに…。

 

 土煙がようやく晴れた先では、振動の衝撃波を受け怪我を負ったブラックが地に膝を突いていた。しかし、黒ひげに向ける瞳は怒りで満ち溢れている。

 

 

「ゼハハ、まだ闘志は消えてねェな。

 振動の衝撃波を受けてその程度の傷で膝を突いてるだけですんでるのは誉めてやるが、テメエじゃ何をしようともオレには勝てねェ!!」

 

 

 そのブラックを、黒ひげはもう一つの悪魔の実の能力で手元に引き寄せ、ブラックの胸ぐらを掴む。2メートルを超える身長のブラックだが、彼よりも1メートルも大きい黒ひげからしたら、持ち上げるのも余裕だろう。

 

 

「ゼハハハハ、オレに触れられたら──言うまでもねェよなァ。もうテメエは知ってんだからよォ」

 

 

 黒ひげが仲間殺しの末に手に入れた力。自然(ロギア)系"ヤミヤミの実"。悪魔の実の歴史上最も凶悪な力を秘めているとされており、その能力は自身の体から闇を展開することができ、その闇に触れたあらゆるものを、光をも逃さない強力な引力で引き込み、更には悪魔の実の力をも引き込むという特性───能力者に対して、能力そのものを無力化するという、ジョーカー染みた能力を持っている。

 

 ブラックもこの力をバナロ島で目にし、その身で味わっている。バナロ島では、エースが自ら囮となり逃がしてくれたことで事なきを得たが、代償としてエースが海軍に捕まってしまうという、ブラックにとっては非常に苦い記憶だ。

 

 ブラックはこの短期間で黒ひげとの因縁が多い。一度目の邂逅では得体のしれない力に敗北してしまった。しかもそれだけでは終わらず、黒ひげのせいで賞金首にされてしまった。

 

 そして今、二度目の邂逅では、ブラックが生まれて初めて心から憧れた白ひげの能力を黒ひげが奪い取り使っている。更に、黒ひげはロビンを求め、自分の女にしようなどと口にした。

 

 

「ん?」

 

 

 さて、ブラックはこれからいったいどうするのか…。

 

 ブラックの怒りは今、頂点に達している。

 

 

「ぐあァァァァ!!」

 

 

 己の胸ぐらを掴むその腕をブラックが掴むと、薄汚い毛むくじゃらの腕から骨が折れた音がハッキリと聞こえた。

 

 ヤミヤミの実の能力で幻獣種の能力を封じ込められたブラックが、力で黒ひげの腕の骨を折ったのである。

 

 

「こ、この赤毛猿がァァァ!!」

 

 

 痛みで叫ぶ黒ひげはブラックを決して放さず、胸ぐらを掴んだ状態のままグラグラの実の力を叩き込もうと腕を振り抜く。

 

 

「んなッ!?」

 

 

 だが、その一撃をブラックは脚で防いでいた。

 

 しかも驚くべきことに、黒ひげの能力がまったく()()()()()()()、黒ひげはただ腕を振り抜いただけで、黒ひげ本人も何が起きたのかまったく理解できていない。

 

 すると、仕返しだと言わんばかりに、()()()()()()()()()ブラックが地に突き刺さっていた白ひげの薙刀を掴み、そのまま腕を戻して再び黒ひげへと突き刺した。

 

 

「ぎゃあァァァァァ!!」

 

 

 ブラックは今、黒ひげに触れられて幻獣種の能力は使えなかったはず…。それなのにいったい何をしたのか…。

 

 黒ひげも理解できていないようで、さすがに薙刀で再び突き刺されたのが効いたのかブラックを放してしまう。

 

 

「な、何をしやがったァ!?

 オレに触れられている間、能力者は能力を使えねェんだぞ!!」

 

 

 ブラックが黒ひげの腕を折った時に何をしたのか…。

 

 

「能力を過信しすぎだ。それと、能力に頼りすぎだ黒ブタ」

 

 

 いったい己の身に何が起きたのか理解できていない黒ひげは、ブラックに得体のしれない恐怖を感じているだろう。

 

 ブラックの身から放たれる覇王色の覇気に、黒ひげは背筋が凍る、身の毛もよだつ恐怖を感じている。

 

 

「ああ、まだ他にもあった」

 

「くッ、今ここでブッ殺す!!」

 

 

 振動の衝撃波を纏った拳を、再びブラックに向けて黒ひげが放つと、ブラックは黒い稲光のようなものを薙刀の刀身から迸らせながら振り抜き、真っ向から勝負を挑む。

 

 

 

 

 

極意・覇王武装

 

 

 

 

 

 武装色の覇気の高等技術"内部破壊"。

 

 武装色の覇気の基本でもある武装硬化を体得した者は新世界に多く存在するが、更にその先にまで至った者はきっと少ないだろう。ブラックが短期間でそれを体得できたのは、冥王レイリーの地獄の扱きがあったからで、彼自身がそれを乗り越えた努力の賜物でもある。

 

 敵や物体の内部に到達し、内側から破壊することが可能な強力な力。だが、この力には更に上があった。

 

 いや、正確にはブラックが自ら扉を抉じ開けたのだ。

 

 相手を威圧する覇王色の覇気を内部破壊の力に併せることで、ブラックは黒ひげの()()()()()した。

 

 

「言ったろ。テメエに白ひげの力は不釣り合いだってな。あ、ついでに言っとくが、ニコ・ロビンもテメエには不釣り合いだからな。オレの女にする?笑わせんな黒ブタ」

 

 

 ブラックは黒ひげのその身に宿った悪魔の実の能力を内部破壊と覇王色の覇気を併せた力で威圧し、能力を一時的に弱体化させてヤミヤミの実の能力封じの力から逃れたのである。

 

 だからブラックは、黒ひげに触れられていても能力を使って腕を伸縮させることができた。ただ、ここで雷の力を使って至近距離で大ダメージを与えなかったのは、ヤミヤミの実の力を弱体化させることはできたが、恐らく能力の一部の力しか引き出すことができず、雷の力は使えなかったからだろう。

 

 もっとも、薙刀による一撃も十分に大きく、黒ひげはこの薙刀───最上大業物"むら雲切"で本日三度突き刺され、更には斬り裂かれてしまう。

 

 二度あることは三度あり、四度目もある。

 

 

「ぐあァァァァァ!!」

 

 

 振動の力も内部破壊と覇王色の覇気の併せ技───極意・覇王武装で弱体化され、今度はブラックの薙刀が黒ひげを斬り裂き形勢逆転だ。

 

 

「その汚れた手でロビンに触れられると思うな。寧ろ触れさせねェがな。何かする前にその腕、斬り落としとくか?

 それとも、ロビンに何もしねェように去勢でもしとくか?玉でも潰しとくか?どれがいい?」

 

 

 ロビンを自分の女にすると宣ったのが黒ひげにとっては運の尽きだったのかもしれない。決して言ってはならなかった。

 黒ひげは、虎ならぬ猿の尾を踏んでしまったのだ。それも凶悪な猿の尾を…。

 

 

「つっても、白ひげの薙刀でテメエの汚いモンを斬り落とすのも気が引けるな」

 

「く、クソッタレがァァァ!!」

 

 

 しかし、この状況が受け入れられない黒ひげは、怒り任せに大気を殴りつけ、大気にヒビを入れ大きな衝撃波を放つ。それをブラックは覇気を纏った薙刀で斬り裂き、黒ひげの胸に深い斜め十字の傷を刻みつける。

 

 

「ゴワアァァァ!!

 アァァァァァ、い、痛ェェ、こ、このクソ猿がァァァ!」

 

「テメエじゃ白ひげを超えられねェよ──絶対にな」

 

 

 己の身長よりも遥かに大きい薙刀を手に、ブラックは柄を地に叩きつけ強く言い放つ。

 

 そこに立っているのが白ひげだと錯覚してしまうような、その立ち姿が白ひげを彷彿とさせる。

 

 同じ白ひげの力を受け継いだ者でも、どうやらその差は天と地の差があるらしい。

 

 黒ひげは最強の力に焦がれ、白ひげから奪い取ったが、白ひげのように世界を滅ぼすほどの力を引き出せずにいる。

 

 しかし、ブラックはどうだろうか…。白ひげの薙刀を手に、白ひげを彷彿とさせる姿を見せつけている。グラグラの実の力は白ひげの力の一端に過ぎないのだと語っているかのようでもある。

 

 全てに於いて、黒ひげは白ひげに及ばない。

 

 

「船長!?」

 

 

 黒ひげのもとに戻ってきた部下達も、グラグラの実の力を得たにも関わらず追い込まれている黒ひげを目の当たりにし、驚かずにはいられなかっただろう。

 

 このまま、ブラックが雪辱戦を制するのか…。

 

 駆けつけた部下達もボロボロの状態だ。しかも、ブラックと黒ひげの激突の余波で吹き飛んだ際にそうなったというわけではなく、それに駆けつけたのではなく逃げてる真っ只中だったようだ。

 

 黒ひげ海賊団に新たに加入した大監獄インペルダウン最下層"レベル6"の脱獄囚4人と、インペルダウンを裏切った元看守長を海軍が見逃すはずもない。

 

 元帥センゴクと英雄ガープの他、海兵達に追い込まれ、撤退を余儀なくされている。

 

 

「!

 チィ、センゴクとガープかよ。さすがに伝説2人の相手はテメエ等が揃っててもまだ無理か」

 

 

 黒ひげ海賊団、崩壊の危機。

 

 そして、このままトドメを刺すのはブラックなのか…。

 

 

「このまま大人しく──!?」

 

 

 頂上決戦も終幕間近。だが、終わってみるまで結果は分からない。事態は急激に変化するのだ。

 

 あともう少し。

 

 ただ悲しいかな───研ぎ澄まされた状態の見聞色の覇気が危機を察知してしまう。

 

 

「くそッ、()()()()()()()()かよ!!」

 

 

 獲物を前にブラックは選択を迫られる。

 

 






覇王色って、威圧以外に何かないのかと思い、色々と考えてみました。

極意・覇王武装
武装色の内部破壊との併せ技だけども、相手の内部にまで至った威圧感が悪魔の実の能力を一時的に弱体化させる。

黒ひげ戦、リベンジは果たせそう!!と思いきや、まだ大将3人が執拗に誰かを追っており、ブラックはどう動くか選択を迫られ…。

次で頂上決戦編は一区切り。

頑張るので感想と喜ぶ評価よろしく!!


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神の御業、悪魔の所業



魚人島でのペコムズのセリフ。
「自分を無敵と勘違いしてきた自然系の寿命は短い」

エースは自分のことを無敵とは思ってなかっただろうけど、エースにも言ってるように聞こえてしまったなぁ。



 

 

 マリンフォードそのものが、それだけではなく海まで傾き、更に追い討ちをかけるかのように迫り来る大波。

 

 "赫猿"デマロ・ブラック VS "黒ひげ"マーシャル・D・ティーチ。白ひげの力の一部をそれぞれ得たこの2人の戦いは激しくも、ブラックが優勢に戦いを進めていたが、ブラックが()()()()()()()()隙に黒ひげが大気を殴り、掴むことで危機を脱したのである。

 

 

「ちィ、逃げんのか黒ブタァァァ!!」

 

「はあ、はあ…クソッ、まだまだコントロールが上手くいかねェか。だが今はこれで十分だ!

 欲しい物は手に入れたんだ──これ以上ここにいる意味はねェ!!」

 

 

 足場が崩れ、大波にさらわれないように上空に退避したブラックの視線の先にて、因縁ある黒ひげはマリンフォードからの撤退を口にした。ブラックに勝てないと悟ったのか、今は勝てないが次ならばとやり返す為か、恐らく後者だろうが、黒ひげは白ひげの力を奪い取るという己の目的を果たし、海軍に強烈なインパクトを残しマリンフォードから逃げ去る。

 

 世界で唯一の2つの悪魔の実の能力者"黒ひげ"マーシャル・D・ティーチ。前代未聞の存在で新たな脅威。

 

 この頂上決戦の元凶黒ひげは、七武海の地位を剥奪され、すぐに手配書が出回ることだろう。

 

 

「次に会った時は必ずテメエを殺してやる!必ずだ!」

 

 

 ブラックに強い敵意を剥き出しにするその姿は、負け惜しみを口にしているようにしか見えないが…。

 

 しかし、黒ひげは火拳のエースに打ち勝って七武海入りした猛者だ。その実績とヤミヤミの実の凶悪さからも、七武海、四皇幹部クラスの実力があることは明白で、新たにグラグラの実の能力まで得た異端。

 

 次にブラックと戦った時、いったいどちらが勝つのかは誰にも想像がつかない。

 

 率いる部下達も一癖どころか二癖も三癖もあり、典型的なモーガニアだ。決して世に出してはならない。

 

 

「逃げられると思っているのかァ!!」

 

 

 だからこそ、海軍の伝説が2人揃って、逃がすまいと黒ひげの前に立ち塞がる。チラリと、上空に浮かんでいるブラックにセンゴクが視線を向け、すぐに黒ひげへと視線を戻し強く言い放つ。

 

 

「センゴクッ!?

 と、ガープまで来やがったか!!」

 

「拳骨数発で済むと思わんことじゃ」

 

 

 海軍の英雄ガープもそれを強く理解している。ここで逃せば、一般市民への被害は甚大。どんどん拡大していくだろう。海軍と世界政府に対する脅威度はブラックの方が高いかもしれないが、一般市民への被害も含めた総合的な脅威度は恐らく黒ひげの方が上のはずだ。

 

 この緊迫した状況でどちらを優先するか…。海軍と世界政府にとっては世界最悪の犯罪者だが一般市民に対しては人畜無害なブラックか…。それとも典型的なモーガニアの黒ひげか…。

 

 

「邪魔しやがって!

 だが、ブラックはオレよりも()()()()()ことがあるみてェだからな!

 ゼハハハハハハ、いいのか?さっさと行かねェで!せっかく()()()()が消えちまいそうだぞ!!」

 

「伝説達にこってり絞られろクソ黒ブタ」

 

「ゼハハハ!

 白ひげと共にコイツらの時代は終わった!老いぼれじゃオレを止められねェ!!」

 

 

 ブラックも己の手で、黒ひげを打ち倒したいだろう。だが、黒ひげが言っているように、ブラックには向かうべき場所がある。"智将"センゴクと"英雄"ガープに譲ることになるが、捕まって大監獄に収監されたなら万々歳だろう。

 

 もし逃げたならば、次こそは己の手で───ブラックはそう心に誓い、白ひげの薙刀を手に目的の場所へと向かう。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 船長"白ひげ"エドワード・ニューゲートを喪った白ひげ海賊団。

 

 白ひげ海賊団を支え続けてきた隊長達の力は強大だが、それでも白ひげの力には及ばず、白ひげを喪ってしまったことで海軍最高戦力である三大将に圧されつつあった。

 

 エースを奪還することに成功したものの、執拗に追ってくる海軍からはまだ逃れられてはいない。

 

 どうにかマリンフォードから脱出しようと逃げる海賊と、それを追う海軍。戦況は海軍が有利な状況だ。

 

 気絶させられていたエースも、轟音、怒号が飛び交うなかで目を覚まし、三大将との戦いに身を投じている。

 

 ただ、白ひげを罵倒した赤犬とは戦わせないようにと、どうにか隊長達が立ち回っており、エースが我を忘れて再び怒り狂い、失態を犯すような事態には陥っていない。

 

 それでも相手は三大将だ。若くして白ひげ海賊団の二番隊隊長を任されるエースではあるが、エースが如何に恐るべき資質を秘めていようとも、まだ実力は劣っている。経験に於いてもだ。

 

 

「ぐッ──くそッ!!」

 

 

 隙を突かれて大将・青雉の能力によって左腕を凍らされてしまったエースは、炎で凍った腕を元に戻すよりも前に左腕を斬り落とされてしまう。

 

 

「エース!?

 こんにゃろォ青雉!!」

 

「よ、止せッルフィ!!」

 

 

 赤犬と黄猿は"不死鳥のマルコ"他白ひげ海賊団の隊長達がどうにか食い止めてはいるものの、3人全員を食い止めるのは無理があるようで劣勢に追い込まれており、ルフィとエースの2人も青雉を相手に窮地に立たされている。

 

 

「ぐあァァァ!い、痛てェ!!」

 

「ルフィ!!」

 

「いい加減諦めろ、麦わら、火拳。

 白ひげがいねェんだ。お前らだけじゃあ、オレ達海軍には──万に一つも勝てねェよ」

 

 

 すでに限界を超え、どうにか精神力のみで立ち上がり戦っていたルフィも、身体がついてこれていない。どれだけ不屈の精神力を持っていようとも、もう立ち上がる力がルフィにはまったくないのだ。

 

 青雉の氷の剣で刺されたルフィは地面に仰向けの状態で、ただ死を待つのみ。

 

 

「じゃあな、麦わら」

 

「や、やめろォォォォォ!!」

 

 

 満身創痍のエースも間に合わない。

 

 氷の剣が大切な弟の命を今にも奪おうとしている。その光景はまさしく絶望だ。

 

 兄を助ける為に、大監獄インペルダウンに侵入するという無茶をし、一度死にかけながらも多くの者達の助けのおかげで囚われた兄を見事助け出すことに成功した弟。しかし、兄を助けた弟が絶体絶命の危機に陥っている。兄を助ける為に、格上ばかりのこの戦場にやって来たばかりに…。

 

 助けられた兄も、目の前で助けてくれた弟が死に行く姿を見なければならないとは───なんという悲劇。

 

 

「はあ…はあ…エース…わりィ──オレ死んだ」

 

 

 だが、死に行くなかでも弟は決して笑顔を絶やすことはなかった。その笑顔は、常に全力で生きてきた弟らしい笑顔で、全てを受け入れているからこそのもの。

 

 そして、兄に向けるその笑顔は、"死ぬな"、"生きろ"と兄に言っているかのようでもある。

 

 死ぬその瞬間に、笑って死ねる者は少ない。況してや、まだ17年しか生きていない青年が、普通笑って逝けるだろうか…。恐らく、ほとんどの者達が絶望的な表情を浮かべるはずだ。

 

 海賊でも、迫る凶刃を前に笑っていられるのは相当な大物だけだろう。

 

 

「ッ!?」

 

 

 だからこそ、青雉もルフィの笑顔に背筋が凍った。その笑顔が、22年前に処刑された海賊王ロジャーと重なって見えてしまったのだ。

 

 僅か一瞬だけ、氷の剣を振り下ろす手が止まる。

 

 青雉の脳裏に過った一抹の不安。その不安を強引に拭い去り、ルフィをここで必ず殺すのだと決意し、氷の剣をルフィの心臓目掛けて振り下ろした。ここで殺しておかなければ───それは、青雉の海兵としての性だろう。たとえ、恩人(ガープ)にどれだけ恨まれようとも、それを覚悟で…。

 

 しかし、神はルフィを死なせたくないらしい。ルフィを助け、()()()()()

 

 

「白ひげは死んだがオレがいるッ!!」

 

「くッ!」

 

 

 危機を察知した青雉が飛び退くと、立っていた場所には青雉よりも大きな薙刀が深々と突き刺さっており、その薙刀の柄の部分には人がぶら下がっている。

 

 

「白ひ──ッ、ブラック!?

(今一瞬、ブラックが白ひげに見えたぞ!?

 それだけじゃねェ…。笑って死を受け入れた麦わらがゴールド・ロジャーに見えやがるし、まったく何だってんだコイツらはッ!?)」

 

 

 青雉の手が止まった僅か一瞬。その一瞬がルフィの命を繋ぎ止め、デマロ・ブラックがルフィを守る為に舞い戻ってきた。まるで神の御業のような、悪運が強いだけでは済ますことができないような展開ではなかろうか…。

 

 

「ししし…ブラ男が来てくれる…そんな気がしてた」

 

「ったく、殺されそうだったってのに呑気な奴だな。

 まァ、お前はよくやったよ。とりあえず、あとは寝てろ。オレがどうにかしてやるからよォ」

 

「あり…がとう…ブラ…男……」

 

 

 ブラックがやって来たことで安心して緊張の糸が切れたのか、ルフィは安堵の笑みを浮かべて健やかに寝息を立てている。身体中傷だらけ───どれだけルフィが必死だったかが、その傷の多さから窺えてしまう。

 

 ただ一つだけ言えることは、ルフィが死ぬことは万に一つもない。それだけだ。

 

 一方で、海軍からしたらこれは悪魔の所業ではなかろうか…。1人は限界を迎え深い眠りについているが、世界最強の海賊と海賊王を彷彿とさせる存在が揃って2人もこの場所に存在しているのだ。

 

 

「ブ、ブラック…お前…それ…オヤジの」

 

 

 ブラックの姿が白ひげに重なって見えたのは青雉だけではない。ルフィが助かったことに胸を撫で下ろしたのもほんの一瞬。エースの瞳にも、身の丈以上の薙刀を持つブラックの立ち姿が白ひげに重なって見えたようだ。

 

 

「ああ、コレな。

 一応、心ん中で白ひげに借りることを勝手に伝えといた。それと、お前ら白ひげ海賊団には後でちゃんと謝るからよ。とりあえず、使わせてもらうぜ」

 

 

 エースだけではない。

 

 三大将他海兵との激戦を繰り広げていた白ひげ海賊団の者達のほとんどが、時が止まったかのように、ブラックの姿に釘付けになっている。

 

 

「へ…へへへ…本当にそこにオヤジが立ってるみてェだよい」

 

 

 "不死鳥のマルコ"が瞳に涙を浮かべながらポツリと呟くと、三大将に追い込まれ苦悶の表情を浮かべていた白ひげ海賊団の者達の表情が一変する。

 

 その姿に、叱咤激励されたかのように…。

 

 

「必ず生きて新世界に帰還する!

 オヤジとの約束(最期の船長命令)を必ず果たすぞ!!」

 

 

 マルコの宣言に、白ひげ海賊団の者達が己を奮い立たせ、雄叫びを上げる。白ひげとの約束を必ず果たす為に、彼らは絶対に諦めてはいけない。白ひげの為にも生きなくてはならない。何故なら、彼らは白ひげの生きた証で、白ひげの宝なのだから…。

 

 本当に、白ひげがそこに立っているかのような───ブラックの存在が、白ひげ海賊団に再び火を灯す。

 

 

「どこまで忌々しいんじゃ──赫猿ゥ!!」

 

「士気上げてくれちゃってまぁ。

 しかも、あっち行ったりこっち行ったり、恐ろしい体力だねェ」

 

 

 ただ、白ひげ海賊団の士気を上げたのと同時に、赤犬と黄猿の殺気も増し増しだ。

 

 ブラックと白ひげ海賊団がルフィとエースを守り抜き逃げ切るのか、それとも海軍が目的を果たすのか…。

 

 頂上決戦の終わりは近い。

 

 

「貴様ら海賊は全て塵も遺さんように焼き尽くしてやるけェのォ!!」

 

「やれるもんならやってみろ。

 必ず逃げ切ってやるからよォ」

 

 

 黒ひげとの戦いで怪我を負ったブラックだが、まだまだ元気一杯。黄猿が言ったようにどんな体力をしているのか…。グラグラの実の衝撃波を受け、何処かしらの骨にヒビが入ってるなり、折れててもおかしくはないはずだ。それなのに、そのような様子を微塵も感じさせない。

 

 顔を半分失っても戦い続けた白ひげといい、伝説達の攻撃を何度も受け、最上大業物"むら雲切"に何度も突き刺され斬られた黒ひげといい、世界に名を轟かせる海賊の体の構造はいったいどうなっているのだろう。

 

 本当に人間なのか疑ってしまう。ブラックも間違いなく、確実にその内の1人である。

 

 

「行くぞオラァァァ!!」

 

 

 この頂上決戦が終結した後、ブラックはその名を世界にどう轟かせるのだろうか…。

 

 五番目の皇帝か…。はたまた白ひげの後継者か…。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 頂上決戦にて、白ひげ大艦隊、海軍共に多くの血が流された。それでもまだ戦いは終わらない。

 

 海軍は火拳のエースの処刑に失敗したが、まだ諦めてはいない。

 

 ただ、海賊を殲滅せんと戦う海軍の姿は、無力な市民を守る正義の味方の姿からはかけ離れたものだ。

 

 海賊を滅していくその姿は、まるで殺戮者である。

 

 これでは、一向に血が止まらない。

 

 この戦争は何時になったら終わりを迎えるのだろうか…。

 

 それでも、終わりは必ず訪れる。

 

 それも唐突に…。

 

 

「何もするな…黄猿」

 

 

 ブラックと白ひげ海賊団の隊長達の奮闘のおかげで、ルフィとエースがついに船に乗り、マリンフォードから脱出することに成功した───が、黄猿はまだ諦めておらず、船を沈めようと狙っていた。しかし、何者かが黄猿へと銃を向け、動きを止めさせたのだ。

 

 

「おォーッとっとォー、()()()()()()()()じゃないのォー。確か()()()()()()()()()()()を起こしてたはず…。どうしてこんな所にいるんだィ?」

 

 

 黄猿に銃口を向けるその男は、赤髪海賊団副船長ベン・ベックマン。その男の登場に周囲は騒然とし、そしてマリンフォード海域に姿を見せた一隻の船に誰もが驚愕することとなった。

 

 四皇"百獣のカイドウ"率いる百獣海賊団との小競り合いが起きたとされるのはつい昨日のこと…。それなのに、怪我を一切負うことなく現れた赤髪海賊団。これが、個々の実力が高く、四皇の中でも特にバランスの取れた鉄壁の海賊団と称される実力なのか…。

 

 どよめく戦場。

 

 赤髪海賊団の登場に、黒ひげですらも戦いを一時中断したほどだ。

 

 そして、赤髪海賊団大頭"赤髪のシャンクス"がついに戦地に降り立った。

 

 

「この戦争を終わらせに来た」

 

 

 赤髪は海軍を滅ぼしに来たわけではない。これ以上、互いに無駄な犠牲を出さない為に───これ以上、世界の均衡を崩さない為にやって来た。

 

 暴れ足りないからと、赤髪海賊団を相手に再び戦いに身を投じるバカはいないはずだ。

 

 赤犬ですらも、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら拳を収めている。

 

 

「ゼハハハハ!野郎共、行くぞ!!」

 

 

 黒ひげも、赤髪との戦いを避けるべく大人しくマリンフォードから立ち去るつもりのようだ。

 

 その光景を前に、ブラックが心の中で黒ひげだけはブッ飛ばしていいのではないかと考えていたのはここだけの話である。さすがに、ブラックも赤髪と戦うつもりはないようだ。そもそも、赤髪のシャンクスのおかげでようやく戦いが終わるのだから感謝しかないだろう。

 

 

「両軍、この場はオレの顔を立てて貰おう」

 

 

 去り行く黒ひげに手を出す事なく、そして赤髪が再び口を開く。

 

 

「白ひげの弔いはオレ達に任せて貰う。戦いの映像は世に発信されていたんだ。これ以上、白ひげの死を晒す様な真似は決してさせない」

 

「何だと!?白ひげの首を晒してこそ」

 

 

 エースの処刑に失敗し、取り逃がした海軍はせめて白ひげの首だけでも晒すことで威厳を保ちたいところのようだが、そもそも海軍がやるべきことはそのようなことではないはずだ。

 

 

「構わん」

 

「元帥殿!?」

 

「赤髪、お前なら…責任は私が取る」

 

 

 海軍がやるべきこと───それは、白ひげが死んだ事で崩れた世界の均衡を修正し、保たせることで、これから荒れ狂うであろう世界を守ることだ。

 

 このような事態になった責任はきっちり取らなければならない。一般市民の信用を欠くわけにはいかない。黒ひげが現れようが現れまいが、白ひげと海軍が正面衝突した時点で、世界の均衡が崩れるのは分かっていたことなのだ。しかも、よりにもよって調整者(バランサー)的な立ち位置だった白ひげを喪ったのだから、海軍の責任は重大だ。

 

 

「負傷者の手当てを急げ!戦争は終わりだァ!!」

 

 

 こうして、"大海賊時代"開幕以来最大の戦いとされる白ひげ大艦隊 VS 海軍本部、王下七武海による"マリンフォード頂上戦争"は幕を閉じ、歴史に深く刻まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頂上決戦の翌日。

 

 海賊達が大事件を起こした後に必ず行われる恒例の行事がある。ただ、これだけ大きな戦いだったというのに、もう翌日に()()されるとは、それだけ海軍と世界政府に脅威として認定された証拠。

 

 

「ワハハハハッ!!」

 

 

 生ける伝説───"冥王(師匠)"レイリーは酒瓶を片手に豪快に笑っていた。

 

 その手に持っているのは、()()()()()()()()()だ。

 

 "赫猿"デマロ・ブラック。懸賞金23億6000万ベリー。

 

 彼の名は世界に轟いた。

 

 






青雉は赤犬に敗北した点から見て、ヒエヒエの実の力を絶対零度にまではできないってことでいいのだろうか?

絶対零度だと、理論上は原子レベルで全ての物質が活動できなくなるとのことなので、地水火風全てを停止させるようなどこぞの死神みたいでマグマも停止させられるのか?どうなの?

まァ、今のエースじゃ勝てませんよねェ。

コビーが赤犬の前に飛び出すことはありませんでしたが、コビーの見聞色開花はルフィにブン殴られた後のこと。なので、そこまで支障はありません。

とりあえず、頂上決戦終わり!!疲れた!

頑張った(つもり)だから、ご褒美に良き評価よろしくね!!←露骨(笑)


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最悪で最悪な海賊団結成編
最悪の結成




オレは弱い──そう叫ぶのはいったい…。

そういえばふと思った。ロビンヒロインにしたら、モモの助くん大ピンチじゃない?←理由は分かるよね?



 

 

 四皇"赤髪のシャンクス"の介入によって終結した頂上決戦。

 

 多くの者達の血が流れ、世界に与えた影響は大きい。

 

 世界は今、混沌と化している。

 

 戦争が終結してすぐ、すでに"白ひげ"エドワード・ニューゲートがナワバリとしていた島の幾つかが、一般市民相手の殺し、略奪を厭わない海賊達によって荒らされ始めてしまったようだ。白ひげという抑止力を喪ってしまった影響は果てしなく大きい。

 

 "火拳"ポートガス・D・エースの処刑には失敗したが、白ひげは死んだ。そこだけ見ると、海軍が勝利したように思えなくもないが、歴史がそうであるように、情報は巡るほどに削ぎ落とされる。海軍の勝利と、白ひげの死、頂上決戦の終結が海風に躍る。

 

 人々は気付かない───戦争の終結がもたらすものは必ずしも平和ではないのだ。

 

 エースの公開処刑がもたらした余波はとてつもなく大きい。赤髪のシャンクスと百獣のカイドウの小競り合いもその一つ。そして、エースを救う為に、大監獄インペルダウンに侵入したモンキー・D・ルフィが最下層"レベル6"から元七武海のジンベエとクロコダイル他、レベル5などから革命軍のイワンコフ、イナズマなど、大量の囚人達を脱獄させてしまうという前代未聞の集団脱獄事件も頂上決戦と同時に起きてしまった。

 

 だが、これはまだ可愛い方だ。

 

 何故なら、ルフィがインペルダウンを脱獄した後に、更なる大事件がインペルダウンでは起きていたのである。

 

 その主犯は"黒ひげ"マーシャル・D・ティーチ。七武海の権限を利用してインペルダウンに入り込んだ黒ひげは、世間からその存在を揉み消され、1人たりとも絶対に世に出してはならない世界最悪の犯罪者(レベル6の死刑囚)達を仲間に引き入れてしまったのだ。

 

 しかも、レベル6からの脱獄者はその者達だけではない。

 

 それと、気になる点がある。その一件がまったく公になっていないのである。最下層レベル6の囚人ともなれば、たった1人でもどこかの国に紛れ込むだけで人々への被害は甚大だというのに…。

 

 この一件は、明らかに意図的に隠されている。

 

 恐らく、世界政府による指示だろう。政府の信用に関わるという、下らない面子による隠蔽。実に下らない真似をしてくれるものだ。賢い者達はきっと気付いている。世界政府と海軍への信頼も皆無に等しいだろう。

 

 海軍は、この頂上決戦で勝利などしていない。そして、見方によってはこの混沌を招いてしまったのは海軍でもある。

 

 弱き者を守るはずの海軍がこの有り様。世も末───この世界に救いはあるのだろうか…。

 

 世界は大きく荒れ、誰にも止められない新時代が到来してしまった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 頂上決戦より1週間が経過した。

 

 

「よォ」

 

「え、ブラ男とレイリーのおっさん!?」

 

 

 場所は"凪の帯(カームベルト)"に存在する女ヶ島"アマゾン・リリー"。

 

 本来は男子禁制の島なのだが、アマゾン・リリーの女帝ボア・ハンコックの厚意によって、生き延びたモンキー・D・ルフィ、ポートガス・D・エースの兄弟2人は療養を目的とした滞在を許可されていた。

 

 その2人のもとに、"冥王"シルバーズ・レイリーと話題沸騰の新進気鋭の孤高の大海賊"赫猿"デマロ・ブラックが突如として現れた。頂上決戦終結後、シャボンディ諸島にいるレイリーのもとへ戻ったブラックは、ルフィが女ヶ島にいる可能性を聞き、一目その姿を確認する為にやって来たようだ。

 

 当然、"冥王"レイリーと、頂上決戦の暴れっぷりから"白ひげの後継者"として世界に名を轟かせたブラックの登場に、ルフィ以外のこの場所にいた一同は騒然としている。

 

 

「ん?

 お前は確か──トラファルガー・ローだったか?何でお前がここにいんだ?」

 

 

 ルフィとどういう接点があるのかブラックは知らないが、ルフィと同じルーキー海賊が女ヶ島に滞在している。

 

 "死の外科医"トラファルガー・ロー。懸賞金2億ベリー。

 

 ルフィの様子からして、命を狙われているわけではなさそうだが…。

 

 

「ブラ男!

 トラ男はオレとエースを治療してくれたんだ!!」

 

「あー、そういやァ"死の外科医"とか言われてたっけか?」

 

 

 ルフィ達が軍艦で途中まで逃げ切った先にて、トラファルガー・ローは潜水艇で海上にいきなり現れ、ルフィとエースの治療を買って出てくれたそうだ。この男に、ルフィとエースを助ける義理はまったくないと思われるのだが、何を思って2人を治療したのかは彼本人しか知らない。

 

 

「とりあえず元気そうで何よりだ」

 

 

 自分が最後まで守り、マリンフォードから離脱する際も同行したかっただろうが、自分が一緒だと海軍からの攻撃が一向に収まらないと思ったブラックは、自分がマリンフォードに残り、ルフィとエースを先に逃がす選択をした。

 

 ブラックは、ルフィ達がちゃんと逃げ切れたのか心配だったのだろう。安堵の笑みを浮かべている。ルフィと出会うまでは、自分に迷惑をかける存在として怒りを覚えていたようだが、今では手のかかる弟のように思っているように思えてしまう。すっかり、ルフィのペースに巻き込まれてしまったのかもしれない。

 

 

「それとほら──この()()渡しに来た」

 

 

 安心したブラックは、わざわざ女ヶ島までやって来た目的の一つを果たす。

 

 

「あー!オレの帽子!!

 ブラ男が持っててくれたのか!?」

 

「拾ったのは赤髪のシャンクスだ。

 で、ルフィに渡してくれって頼まれた」

 

 

 戦争を終結させてくれた赤髪のシャンクス。

 

 マリンフォードに現れた赤髪に、ブラックはその見た目故に話しかけられたのだが、その理由を知った時はブラックも驚いたようだ。

 

 それと、まだ暴れたりないなら相手になると言われた時はさすがのブラックも顔を引きつらせていたらしい。

 

 

「お前が赤髪と知り合いだったとはなァ」

 

 

 自分に似た青年が、四皇の1人が期待するルーキー海賊だったとは…。なるほど、通りで大事件を頻繁に起こすはずだと妙に納得したものである。

 

 ルフィを守っていた姿を遠くから見ていたのか、その姿を見て、ブラックがルフィに会いに行くだろうと思ったからなのか、赤髪は麦わら帽子をルフィに渡してくれと託したらしいが、それならば自分で届ければいいのではないかと思って聞いてみたところ、まだ時期尚早と意味深な言葉を返されたそうだ。

 

 

「ありがとう!」

 

「気にすんな。

 それよりも──火拳は?」

 

 

 それはそうと、ブラックの本来の目的は同じく女ヶ島で療養中のエースの様子を確かめることだ。ルフィに麦わら帽子を渡したのはついででしかない。

 

 エースがルフィと一緒にこの島で療養しているのは功労者のルフィに対する配慮なのか、白ひげ海賊団の残党達と一緒にいては精神が休まらないというエースへの配慮なのか、恐らく後者の可能性が高いだろう。不死鳥のマルコ達に対して、自分のせいで白ひげが死んでしまったと自暴自棄に陥ってしまうのが火を見るよりも明らかだ。

 

 場合によっては、再び1人で黒ひげを追うかもしれない。そこまでバカだとは思いたくはないが、エースのこれまでの行動から考えると、まったく否定できないのが頭の痛いところだろう。だからこそ、エースを不死鳥のマルコ達と離し、超大型の海王類達の巣窟である凪の帯(カームベルト)に存在する女ヶ島で療養させているのである。凪の帯を超えて偉大なる航路(グランドライン)に戻るのは困難を極めるからだ。言うなれば、これは療養という名の軟禁だろう。

 

 そして、エースに対してのこの選択は恐らく間違ってはいない。

 

 

「数日前から1人にしてくれって。

 ジンベエが目を離さない方がいいって、様子を見てくれてるけど。オレ、エースの弟なのに何もしてやれてねェ」

 

「そうか」

 

 

 ルフィの言葉に短く答えたブラックは、落ち込むルフィの頭を優しく撫で、エースのいるであろう場所へと向かっていく。

 

 ただ、ブラックの腰には能力で縮小したのか、小型化してホルダーに収められた最上大業物"むら雲切"───白ひげの薙刀がある。不死鳥のマルコ達から、正式に白ひげの薙刀の後継者として認められたのだ。

 

 果たして、それを見たエースがどう思うのか…。

 

 

「師匠、ちょっと行ってくる」

 

「ああ、そちらは君に任せよう。

 さて、ルフィくんは私と話をしよう。()()についての話を」

 

「わかった。

 ブラ男、エースのこと頼んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女ヶ島の森の中で、頂上決戦で左腕を失ったエースはただ暴れていた。メラメラの実の能力は一切使うことなく、残された右腕でただひたすらに何かを殴り、そして蹴り、破壊の限りを尽くしていた。

 

 

「荒れてんな──火拳」

 

「!?──ブラック」

 

 

 その瞳は、大きく曇っている。

 

 白ひげを喪った悲しみ、黒ひげに対する怒りと己の浅はかさに対する怒りと悔やみ。そして、己の無力さに対する絶望。様々な感情が激しく入り交じり渦巻いている。

 

 

「白ひげの遺体は赤髪のおかげで海軍に渡ることなく、白ひげの故郷に埋葬されることになった」

 

「…そうか」

 

 

 ブラックの言葉にもエースは短くそう答えるだけだ。きっと、己には墓参りに行く資格すらないと思っているのだろう。生きてこそいるが、せっかく助かった命を無駄にしかけた親不孝者だと思っているのかもしれない。

 

 その点に関しては、実際のところまったく否定できないのだが…。それが分かっていながらも、ブラックは何のフォローもしない。したとしても逆効果で、今以上に自暴自棄に陥りかねない。

 

 だからこそ、ブラックは下手な同情などせずに接する。

 

 

「一応、念の為に聞いておくが、これからどうするつもりだ?」

 

 

 それに、エースの今後は非常に大切な事案だ。海賊王ロジャーの息子であることが露見してしまったのだから尚のことである。懸賞金もブラックと同時に更新され、今までの倍額の11億ベリーに跳ね上がっている。

 

 ブラックよりも額が低いのは、ただ単純にエースの実力がブラックに劣っているからだ。実際のところ、今のエースではまだこの額に見合った強さを有してはおらず、これを言ってしまったらエースは激怒するだろうが親の七光りのようなものだ。

 

 ついでにいうと、手配書の名が"ゴールド・エース"に訂正されていたりもする。

 

 

「不死鳥のマルコ達と一緒に行動し、白ひげ海賊団を立て直すのか…。それとも独立するのか…。

 一つだけ確かなことは、お前は今まで以上に海軍と政府に狙われるってことだな」

 

 

 白ひげ海賊団の立て直しという言葉にエースは一瞬だけ反応を見せるが、己にその資格なしと思い込んでいることだろう。

 

 

「テメエにはまったく関係のねェことだ」

 

 

 やっとまともに口を開いたかと思えば、エースはブラックに冷たい態度でそう返す。

 

 しかし、ブラックからしたら関係ないことでもない。エース奪還の一番の功労者は間違いなくブラックだ。もっとも、助けたのだからそれで貸し借りなしで、その後のエースの動向など本来気にする必要も一切ないのだが…。

 

 だが、ブラックはお人好しだ。貸し借りなしでこれで終わりというわけにはいかないのだろう。

 

 

「不死鳥のマルコ達から、白ひげがナワバリにしていた島の幾つかも頼まれてる。

 ただ、オレ1人でできることなんて限られてる。でだ、オレは海賊団を立ち上げることにした。つっても、大人数は苦手だから少数の一味──火拳、オレの仲間になれ」

 

「……は?」

 

 

 白ひげがナワバリにしていた島を、不死鳥のマルコ達がブラックに頼んでいたことにエースは驚愕する。

 

 そして、仲間に勧誘されたことはそれ以上に驚きだろう。いや、驚きすぎて理解が追いつかず、間の抜けた声をあげている。

 

 

「あ、オレ船長とかには興味ねェから、お前が船長でいいからな」

 

「ふ──ふざけんなッ!!

 オレがお前と新しく一味を立ち上げるだと!?船長はオレ!?勝手に決めてんじゃねェよ!!」

 

「ならどうする?

 お前、マルコ達のとこに戻って、以前みたいに白ひげ海賊団の一員として一緒に生活できるのか?」

 

「ッ!?」

 

 

 その指摘に、エースは動揺してしまう。何も言い返せずにいる。何故なら、ブラックの指摘通りに、エースはきっと以前のようにマルコ達と共に生活することなどできないからだ。仮にエースが戻ったとしたら、マルコ達はきっと温かく迎え入れてくれるだろう。傘下の海賊達も同様にだ。

 

 しかし、今のエースにはそれが何よりも辛い。深い自責の念に囚われてしまっている。

 

 エースの責任ではないと言ったところで、エースはその言葉を決して受け入れきれない。

 

 

「戻れる…わけ…ねェ」

 

 

 それでも何時かまた、以前のように戻りたいのだろう。俯いたエースの悲痛な姿がその想いを強く物語っている。

 

 

「だったらよ、やるべきことは一つだ。

 テメエが胸張って仲間(家族)達に会いに行けるように、がむしゃらになって前に進むしかねェ。立ち止まってる暇なんかテメエにはねェぞ。白ひげに救われた命を無駄にすんな。あんなカッケェ男に、テメエは未来を託されてんだ」

 

「!」

 

 

 白ひげにとって、エースだけが特別ではない。

 

 しかし、白ひげの命と引き換えにエースの命があることは事実だ。ならば、その命は決して無駄になどはできない。していいわけがない。

 

 白ひげが偉大な海賊であり続ける為にも、エースは立ち止まることを赦されない。

 

 何故なら、エースという存在こそが、白ひげが最強であり続けた証なのだ。

 

 

「オレは…弱ェ」

 

「そうだな」

 

「ルフィに助けられて、ルフィはオレを助けに来たせいで殺されかけて、オレはルフィを守ることもできなかった。

 オレのせいでティーチがオヤジの力まで得て──オヤジは殺された。全部…オレが弱いからッ、全部オレのせいだ!!」

 

 

 大粒の涙を溢しながら、エースが己の想いを吐き出す。

 

 きっと、ルフィが相手だったら兄というプライドが邪魔して想いを吐き出すことはできなかっただろう。

 

 マルコ達では、どうして己を責めないのかとますます己を赦せず、最悪の言葉を口にしていたかもしれない。

 

 ブラックが相手だったから、何の遠慮なく責めてくれるブラックだからこそ、エースは己の想いを全て吐き出すことができるのだろう。

 

 

「だったらッ──強くなれエース!!」

 

 

 泣き叫ぶエースに対して、ブラックは腰のホルダーから抜き取った薙刀を己に見合った大きさに巨大化させ、柄尻を地面に叩きつけて叱咤激励する。

 

 その様が、どこか白ひげと重なって見えたのかエースは大きく目を見開いていた。

 

 

「白ひげが守ってきたモノを、白ひげに代わって守れるように強くなってみせろ!

 それが恩返しで──親孝行ってもんだろうが!!」

 

「ッ、う…うう…うあァァァァァ!!」

 

 

 勝利も敗北も知り、惨めに逃げ回って涙を流して、そんな情けない過去があったとしても、それでもそれをどうにか乗り越えて男は一人前になる。

 

 泣くことは決して悪いことではない。生まれ変わる為に必要なことなのだ。

 

 エースは頂上決戦で味わった敗北を決して忘れない。この日の涙を決して忘れない。

 

 更なる高み───偉大な大海賊を超える為に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブラック、ありがとよ。

 おかげで少しスッキリした。まだ、マルコ達に会いに行く決心はつかねェ。けど、胸張って堂々と会いに行けるように──お前の仲間に加えてくれ」

 

「そうか。

 これから宜しく頼むぜ──()()

 

 

 その顔は憑き物が落ちたかのようにスッキリとしている。その瞳も濁ってはいない。

 

 ただ真っ直ぐ、白ひげの為にも生きるのだと、激しくも輝かしい命の火が灯っている。

 

 

「お前が立ち上げるって言ったんだからテメエが船長だろうがッ!!嫌そうな顔すんじゃねェよ!!

 "ブラック海賊団"──これで決まりだ!!」

 

 

 ここに、世界最悪の犯罪者と世界最悪(海賊王)の血筋の海賊団が結成された。これもまた、頂上決戦が及す影響の一つで、もしかしたら最悪の影響かもしれない。

 

 






エースがもし生きてたら、恐らく手配書の名がゴールド・エースに訂正されてるよね。
サンジもヴィンスモーク・サンジに訂正されてたし。さすがに、ロジャー同様でゴール・D・エースにはならない。
額は倍額の11億だけど、海賊王の息子にしては低いかな?けど、今のエースはこの額に見合ってないし、ブラックが鮮烈デビュー果たしてるし…。

エースの今後、非常に悩んだ。マジで悩んだ。これが正しいのかも分からない。けどブラックと切磋琢磨させたかった。白ひげに憧れる者同士、幻獣種の厄介な能力と古代文字読める世界最悪の犯罪者と海賊王の息子。最悪のタッグである。


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想像を遥かに超える大冒険



エースとの海賊団結成!ふと思ったが、海賊団でいいのか?一味なのか?尾田先生は、麦わらの一味をずっと麦わらの一味で固定して呼び続けるみたいだけど、そもそも海賊団と一味の違いって何だ?人数?勢力?

ちなみに、ブラック海賊団というのは世間にはまったく公になってない状況で、エースがブラックにテメエが船長でブラック海賊団だって言っただけなのでまだ正式名称ではない。
けど、ロジャー海賊団を彷彿とさせるという意味合いを込めてブラック海賊団でもいいのではと思ったりしてる。

アンケートを実施してみようと思います!
ご協力よろしくどうぞ!!



 

 

 偉大なる航路(グランドライン)の中間地点"シャボンディ諸島"の近隣にある無人島。この無人島は、頂上決戦に乗り込む為に"赫猿"デマロ・ブラックが"冥王"シルバーズ・レイリーに鍛え上げられた場所だ。ただ、この島はブラックの重要拠点でもある。これまでの冒険、財宝探しの旅で手に入れたお宝───つまりブラックの蓄えがここに保管されており、ブラックにとってはブラックの帰る家でもある。

 

 ブラックはこの拠点でしばらくの間、"火拳"ゴールド・エースを鍛え上げるつもりのようだ。

 

 

「おい、ここ本当に大丈夫なのか?」

 

 

 ちなみに、シャボンディ諸島の近隣の島ということは海軍本部マリンフォードのわりと近くでもあるということ。シャボンディ諸島を挟んでマリンフォードの反対側ではあるが、エースがその点を心配するのは当然のことだ。

 

 頂上決戦から2週間が経過したが、海軍と政府は血眼になって2人を探している。世界最悪の犯罪者として世界に名を轟かせたブラックと、海賊王ゴールド・ロジャーの息子であることが発覚したエースを何としても排除する為に…。

 

 ただ、ブラックが拠点としているこの島に上陸できるのは()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「おーい、戻ったぞォ」

 

「ん?この島に誰か他に住んでんのか?」

 

「住んでるっちゃァ住んでるな。オレがいない間は常にこの島を守ってくれてんだ」

 

 

 ブラックの拠点であり、帰る家でもあるこの島を守る者とはいったい何者なのか…。エースの脳裏に過ったのは、ブラックの家族───奥さんである。結婚しているという話は聞いてこそいないが、年齢的には結婚していてもおかしくはない。見た目はルフィそっくりだが年齢はルフィの倍で、エースとも一回り以上離れているのだ。

 

 もしそれが違うとしたら、兄弟か親か…。

 

 だが、エースの予想は大きく覆されることになる。ブラックがこの島の守護を頼んでいる存在は海から現れたのだ。それも、海面を大きく盛り上がらせ…。

 

 島の内部からではなく、海から現れたことにもエースは驚いているが、何よりも驚いているのはその途方もない大きさだ。300mを優に超えるであろう。

 

 

「なッ!?」

 

 

 姿を見せた巨大生物にエースがここまで驚くのも無理がない。何故なら、殺戮に飽きることを知らず、船を狙って大海原を駆け巡る悪魔と海賊達に恐れられる存在だからだ。

 

 

「紹介する。オレの友達の"ダンゴ"だ」

 

()()()()()じゃねェか!!」

 

 

 エースも驚く超巨大なクラーケン(ダンゴ)。どうやら、目にするのは初めてのようだ。

 

 ブラックが北極に冒険に行った時に仲良くなったらしく、その内の一匹がブラックについてやって来たのだという。それ以来、ブラックの拠点の番人として留守の間を守ってくれているのだという。

 

 

「ダンゴ!

 オレの仲間のエースだ!しばらくここで一緒に修業する。多分、今回はそれなりに長く滞在すると思う」

 

 

 ブラックの言葉を理解しているのか、ダンゴは嬉しそうにこくこくと頷いている。きっと、ブラックがこの島に滞在している間は嬉々としてこの島に上陸しそうな船を破壊してくれるはずだ。

 

 クラーケンが世間で殺戮に飽きることを知らず、船を狙って大海原を駆け巡る悪魔と恐れられている所以は、もしかしたらダンゴが原因なのではないだろうか…。

 

 ちなみに、この島の周辺の大型の海王類達をダンゴが取りまとめているらしく、実はこの島を守っているのはダンゴだけではないようだ。ブラックはそれについては知らない。大型の海王類が増えたような気がするとは思っているかもしれないが…。

 

 つまり、この島の周辺だけ"凪の帯(カームベルト)"のような、海王類の巣窟になりつつあるということだ。確かにそれでは近づけないだろう。

 

 海軍の軍艦だけは近づける可能性があるが、その点も心配ない。海軍の軍艦は船底に"海楼石"を敷き詰めることで、海王類など海中を通る生物からの攻撃を防ぎ、海水と同一に認識するように造られているとのことなのだが、知能の高いダンゴはほんの僅かな違和感を見逃さないらしく、それでは海軍もこの島に迂闊に近づけない。ついでにいうと、海軍の船の情報をダンゴがブラックに与えていたりする。ブラック曰く、ダンゴの言葉が分かるとのことだ。

 

 

「修行頑張ってくださいだってさ」

 

「クラーケンと話せんのか!?」

 

 

 ブラックは見聞色の覇気を会得して以降、人間以外の生物───()()()()が聴こえる時があるとのことだ。ただ、一方的に聴こえるだけのようで、ダンゴだけはしっかりと意志疎通がとれるとのこと。

 

 

「し、信じらんねェ」

 

 

 エースがそう口にするのも仕方ない。"海の悪魔"と意志疎通がとれるブラックは海上戦に於いても、大きな力を有しているということだ。不利なはずの海上戦も明らかに有利になる。

 

 

「お前、古代文字読めるってだけでも海軍と政府にとっちゃ厄介な存在だってのに、海の悪魔まで従えてるなんて知られたら懸賞金もっと上がんぞ」

 

「もう今さら懸賞金の額なんてどうでもいいって思えるようになってきたから、どうぞご勝手にってな」

 

 

 ブラック本人も隠す気は一切ないようだ。開き直っているというべきか…。もっとも、これも全ては海軍と政府が原因だ。驚いたところで全てが後の祭り。存分に恐れ、後悔すればいいのかもしれない。

 

 決して開けてはならぬパンドラの箱を開けてしまったのだ。

 

 

「さて、とりあえず飯にしようぜ。

 で、飯食った後に今のエースがどれだけ強いかを確認する。それから修業方針を決めるつもりだ」

 

「おう、よろしく頼む」

 

 

 頂上決戦から2週間。世界が荒れ行くなか、ブラックとエースの2人は世間から一時的に姿を隠す。

 

 忽然と姿を消した2人に、海軍と政府は強い危機感を感じていることだろう。2人が再び姿を現す時、きっと───もう誰にも手がつけられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エースが地に伏して倒れているなか、ブラックが首を傾け、思ったことをそのまま口にする。

 

 

「エース…お前──こんなに弱かったっけ?」

 

「はあ、はあ、お前が短期間で強くなりすぎなんだよッ!バゲモンかお前ッ!!」

 

 

 昼食後に、エースの今の実力をちゃんと把握しておきたいからと、ブラックはエースの本気を見せてもらったようなのだが、ブラック相手にエースが戦えた時間は3分にも満たず…。

 

 

「とりあえず、基礎から叩き直すか」

 

「く、くそッ…オレ、こんなに弱かったのか」

 

 

 エースは改めて上には上がいることを、如何に自分がか弱い存在であったのかをその身で味わっていた。

 

 だが、失意に暮れている暇などエースにはまったくない。

 

 

「オレも今より強くならないといけねェから…そうだな──期間は1年か、長くて1年半か…。

()()()()()()()ってことだから、それよりも前にきっちり鍛え上げる。お前は期間内にオレよりも強くなれ」

 

 

 偉大な白ひげ(オヤジ)が遺したものを守り抜く為に、エースは立ち止まってはいられない。

 

 

「強く…なってやる…絶対に。

(見ててくれ──オヤジ!)」

 

「イイ顔だ!

 よし、そうと決まればとにかく鍛えるぞ!まずは5分以上オレと戦えるようになれ!!」

 

「上等だ!!」

 

 

 果たして、エースはブラックよりも強くなれるのか…。壮絶な修業の幕開けだ。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 自称"ブラック海賊団"。ごく数人を除いて、まだ誰も知らない海賊団。命名者は、海賊王ゴールド・ロジャーの息子ゴールド・エースである。

 

 まだ公には活動しておらず、船長のデマロ・ブラックと、一応は副船長のエースが立ち上げたばかりの、まだたった2人の海賊団だ。ただ、立ち上げたばかりで人数はたった2人なのに総合賞金額(トータルバウンティ)が34億ベリー超えと恐ろしすぎる上に、海軍と政府にとっては立ち上げたことを絶対に公にしてほしくない傍迷惑すぎる海賊団だろう。

 

 古代文字が読める世界最悪の犯罪者認定された男と、海賊王の息子であることが発覚した男が立ち上げた海賊団など、混沌と化したこの世界は絶対に知りたくないはずだ。

 

 公になれば、誰もがこう口にするはずだ。

 

 ロジャー海賊団の再来と…。

 

 立ち上げたブラック本人は、一時的に結成する海賊団だと口にしているようだが…。

 

 ブラック海賊団は、白ひげの死に対して自責の念に囚われ、白ひげ海賊団の仲間(家族)達のもとに戻る決心がつかないエースの一時的な身の置き所として、ブラックが立ち上げたようなものなのだ。

 

 エースが強くなり、仲間達のもとに戻りたいと思ったら、ブラックは解散するつもりでいる。

 

 もっとも、そう簡単に解散できるとは思えないが…。混沌と化したこの世界───事態は常にブラックの予想を覆し、想像を容易に超えるはずだ。

 

 

「ブラック、仲間に欲しいヤツが1人いるんだが」

 

「ほォ、どんなヤツだ?」

 

 

 エースとの修業を始めてから1週間経過したある日、エースは今後についての話をブラックに持ちかける。ブラックが何れブラック海賊団を解散するつもりでも、そう簡単に解散できないだろうとエースは分かっているからなのか、修業の合間に仲間に加わってくれそうな人物を考えていたようだ。

 

 白ひげ海賊団に加わる前にエースが立ち上げ、船長を務めていた"スペード海賊団"の仲間達のことも考えたようだが、その仲間達は白ひげ海賊団にすでに馴染んでいることもあり、自分の勝手で引き込むことに気が引けたのか誘うのを断念したらしい。それに、ブラックが少数の海賊団を希望しているのもある。

 

 それを考えた時に、エースの脳裏に真っ先に思い浮かんだ人物が1人いた。

 

 

「名前はヤマト──()()()()()()()()()だ」

 

「却下」

 

「即答かよ!?」

 

 

 ブラック海賊団の仲間探しは混迷を極めているようだ。

 

 

「カイドウの娘ってお前なァ。

 つまりはあれか?カイドウと同盟を結ぶか、傘下に下れと?」

 

「まずオレの話を聞いてくれ!

 そいつはカイドウの娘だが、仲間に加えたとしてもカイドウと同盟を組むことにも、傘下に下ることにも絶対にならねェ!!カイドウと戦うことにはなるだろうが…。だから1年後に…」

 

 

 そしてエースが語り始める。

 

 エースがまだ白ひげ海賊団に加わる前、スペード海賊団の船長を務めていた頃───今から約2年前のことを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、そのヤマトって娘は冒険したいのかァ。

 よし決めた。仲間にしよう」

 

「あっさり意見翻しやがったな!?」

 

「冒険好きに悪い人間はいねェ。

 これは常識だ。あと、冒険に行きたいのに爆発する手錠のせいで冒険にいけないなんて不憫すぎて可哀想だ。

 ぜひとも冒険に連れていってあげよう。如何に冒険が楽しいか、世界がどれだけ広くて大きいか、どれだけ驚きと、ドキドキワクワクが詰まっているのかを教えてあげようじゃないか!!」

 

 

 最初こそ、四皇"百獣のカイドウ"の娘ということで仲間にするのを即決拒否していたブラックだったが、エースが2年前に出会ったというヤマトという名のカイドウの娘の身の上話を聞き、ブラックはあっさりと自分の意見を翻した。

 

 何より、誰かに憧れ、それをきっかけに冒険に憧れるヤマトという存在に、ブラックは自分と似た何かを感じ取ったようだ。唯一の大きな違いは、ブラックは自由で、ヤマトは籠の中の鳥だというところだろう。

 

 ただ、だからこそブラックは理不尽な境遇にあるそのヤマトを仲間にしたいと思ったようだ。

 

 

「だが、ブラック…分かってんだろうな?

 カイドウの娘──ヤマトを仲間に加えるということがどういうことなのかを…」

 

「お前の言いたいことは分かってるが、お前だってそのつもりなんだろ?それに、カイドウなんて正直知ったこっちゃねェよ。ヤマトは冒険に行きたいんだろ?まだ幼い子供ならともかく、お前よりも年上なんだから、その娘の自由で、カイドウに許可貰う必要なんて一切ねェ。

 ヤマトは冒険に行きたい。なら仲間にしてオレが連れてく!それでいいだろ!冒険に行こうぜ!なァ!?」

 

 

 新しい仲間と冒険に行く為なら、白ひげ亡き現在最高懸賞金額の四皇"百獣のカイドウ"との戦いも辞さない。まるでそう言っているようにも聞こえてしまう勢いだ。

 

 エースは唖然とする。

 

 頂上決戦に於いて常に冷静であり続けたブラックがここまで馬鹿げたことを言っているのだから当然だろう。しかし、エースはブラックとの付き合いが短く、戦っているブラックしか見ていないのだから仕方ないのかもしれない。本当のブラックを知らないのだ。

 

 忘れてはいけないが、賞金首になる前は、賞金首になってからもしばらくは名乗っていたが、ブラックは冒険家兼トレジャーハンターだったのである。それに、ブラックは世界最悪の犯罪者となった今でも、冒険家兼トレジャーハンター業を辞めるつもりは一切ないようだ。実のところ、彼が少数を望む理由はそこなのである。

 

 デマロ・ブラックにとって、1に冒険お宝探しだ。

 

 

「というか、今からワノ国行ってこようかな。思えば最近、戦いっぱなしで冒険もお宝探しもまったくしてなかったし、そりゃァ調子悪いわけだ。よし、ちょっとワノ国行ってヤマト仲間にしてくる。あ、修業サボんなよ?」

 

「ちょっと待てェェェ!!」

 

 

 白ひげや仲間達から無鉄砲だと言われていた自分(エース)が止める側になろうとは思っていなかっただろう。いや、寧ろどこか懐かしさを感じているかもしれない。冒険行きたい病の末期症状を発症させてしまったブラックに対してエースは、ルフィの顔したルフィだなどと、理解できるようなできないようなそんなことを考えながら必死にブラックを止めようとしている。

 

 さすが、世界で最も自由な男を目指しているだけはある。思い立ったが吉日ならぬ、思い立ったが即行動だ。

 

 だが、エースはブラックを止めなければならない。ブラックがワノ国に行けば必ず何かが起きてしまう。何より、四皇一の武闘派カイドウと遭遇してしまったらいったいどうなってしまうか…。ブラックなら生きて帰ってきそうだが…。

 

 それにしても、あのエースがブラックを必死に止めるというのは、我慢を覚え成長した証拠。

 白ひげやマルコ達がこの場所にいたならば、感動して涙を流していたかもしれない。

 

 

「じゃァ行ってくる!!」

 

 

 ブラックを止められるかはまたそれと別である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから1ヶ月ほど。

 

 

「エース!?

 そ、それと君はッ──"白ひげの後継者"デマロ・ブラック!?」

 

 

 結局、エースも同行するという形になってしまったが、2人は本当に"ワノ国"にやって来てしまった。

 

 新世界での航海はかなり困難だとされているが、これまでたった1人で航海を続けてきたブラックにかかれば何のその。エースもワノ国には来たことがある上に、黒ひげを追いかけて1人で偉大なる航路(グランドライン)を逆走したりと、ブラックもエースも航海術には長けているのだ。

 

 それに、ブラックの母船───いや、水陸両用バイクだと船よりも速くどこにでも行ける。"空島"に存在する不思議な特性を持つ"(ダイアル)"という道具を搭載した水陸両用バイクは、ブラックと数々の冒険を共にした頼りになる相棒なのだから行けない場所などない。

 

 ちなみに、余裕で2人は乗れるらしく、エースもその乗り心地を堪能していたようだ。深海1万mの位置にある魚人島にも、コーティングを施したそれをダンゴの部下らしき大型の海王類に引いてもらい、数匹護衛についてもらって向かったりと悠々自適。

 

 新世界に入ってからも、ブラックが巨大化してバイクごと担いで飛んだりもしたらしい。とにかくワノ国までの航海は快適だったの一言に尽きるだろう。

 

 

「久しぶりだな、ヤマト」

 

「う、うん、そうだな。

 け、けど、どうしてエースがデマロ・ブラックと一緒にいるんだ!?もし()()()が遠征中じゃなかったらどうなってたと思ってるんだ!?」

 

 

 そんなこんなで、運良く目的の人物(新たな仲間)に出会えたブラックとエース。

 

 ただ、2年ぶりの再会だというのに、エースはヤマトの言葉に何とも言い難い複雑な表情を浮かべている。

 

 

「そんなことより!!」

 

 

 それもこれも全てはこの男───ブラックが原因だ。

 

 

「オレの仲間になれヤマト!」

 

「ええ!?」

 

「お前の想像を遥かに超える大冒険に出かけようぜ──弟よ!あ、ヤマトは女だから妹か!」

 

「あ、そ、その言葉…()()()()()()()()()()()()()だよね!?」

 

 

 ヤマトも初対面なのにぐいぐい来るブラックに困惑し、それと同時にブラックが言い放った言葉に驚き、激しく胸を高鳴らせる。もう何が何だか分からないといった状態だろう。

 

 それでも一つだけ言えることがある。

 

 それは、ヤマトにとって今が鳥籠から飛び立つ時だということだ。

 

 

「とにかくッ、こんな()()()()()()()()()()なんて外して、楽しい冒険の始まりだ」

 

 

 爆発する手錠をブラックが握り潰し、長らくヤマトを苦しめ、縛り続けてきた呪縛から解放する。

 

 その手錠を、ヤマトの監視役かは分からないが、後からやって来た者達へと放り投げると激しく爆発した。その爆発は汚い花火になってしまったが、ヤマトの出発を祝うかのような、海賊らしい祝砲だ。

 

 

 






レイリーとの修業場所はブラックの拠点。その島の番人はブラックが数年前に北極に冒険に行って仲良くなったクラーケンだった。もしかしたらスルメのお兄ちゃんかもしれない。

ダンゴって名前はダンゴイカから。ネーミングセンスもちょっと似てたよっていう。

ダンゴが島周辺の大型海王類も取りまとめてることで、凪の帯(カームベルト)のような大型の海王類の巣窟になりつつあり、フラりと立ち寄ると死んでしまう危険な海域。クラーケンが海の悪魔と呼ばれる所以がここにあり。

でも、クラーケンって、ホーディごときに人質ならぬタコ質とられて従わせてるし、ルフィにも海の中で弱体化してるなかで倒されてるから大したことない…のかな?まあ、海上戦でクラーケンが援護してくれるのは力強いだろうけど。

3人目の仲間、ボクッ娘。
冒険したいのにできない娘をブラックが放っておけるわけなかった。最初はカイドウの娘ってことで却下したけど、冒険とカイドウなら冒険>>>>>>>>>>>>>>>カイドウ。これくらいの差がある為に、ワノ国に入国。


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ラフテルへの導き



さてはてヤマトは?



 

 

 自称"ブラック海賊団"に新たな仲間が加わった。

 

 

「信じられない、あのクソオヤジ!

 いや、もうアイツはボクの親なんかじゃない!本当に爆弾を仕掛けてたなんて!ねェ信じられるかィ、()()()()()()!?」

 

「信じられないな。

 それとな、ヤマト──オレはブラックだから」

 

「ボクのことは"おでん"と呼んでくれ!!」

 

 

 新たな仲間を求め、政府非加盟国にして四皇"百獣のカイドウ"のナワバリ"ワノ国"にまでやって来た"赫猿"デマロ・ブラックと"火拳"ゴールド・エースは、ブラックの目的通りにカイドウの娘ヤマトの勧誘に成功したようだ。

 

 ただ、当初の予定というか、言い出しっぺのエースの予定ではみっちり鍛え上げて1年後にヤマトを仲間に迎え入れ、そのついでにカイドウをブッ倒すという予定だったのだが、冒険行きたい病の末期症状を発症してしまったブラックの想定外の行動のせいで、予定が1年早まってしまったようだ。

 

 唯一の救いは、カイドウ率いる百獣海賊団が遠征中でワノ国を留守にしていたことだろう。おかげで、今この状況での正面衝突は回避された。とはいえ、ブラックとエースがヤマトを仲間に引き入れたことで、どのみち遅かれ早かれカイドウとの激突は必須で避けられない。

 

 

「ねェ、白吉っちゃん!まずはどこに連れていってくれるんだ!?」

 

「そうだなァ、どこにしようか…」

 

「まず拠点に戻る!それから修業だ!冒険は1年後からッ──異論は認めねェ!分かったか、ブラック、ヤマト!!」

 

 

 冒険のことしか頭にないブラックとヤマトに言い聞かせるエース。カイドウと戦うには戦力がまだまだ足りない。カイドウの懸賞金額はブラックとエースの懸賞金を足しても及ばず、たった3人で四皇一の武闘派海賊団を相手にしようなどあまりにも無謀だ。

 

 

「揃って嫌そうな顔してんじゃねェよ!!」

 

 

 だが、無鉄砲で知られるエースが常識人に思えてしまうほどの冒険バカが2人もいるおかげで、エースの予定が崩れつつある。せめて、1年間の修業計画だけは何としても守らなくてはと必死だ。

 

 己もブラックも海軍と政府、名を上げたい海賊達、賞金稼ぎにと多くの者達から狙われているのだから、今のままではいられないのである。

 

 

「冒険は絶対に逃げねェ!冒険はどんな時もお前達2人を待ってる!!」

 

 

 だから、エースは自分らしくないと思いつつ、冒険バカ2人を止めるべく声高々と言い放った。この2人を止める為なら恥ずかしさなど何のその。

 

 

「!?

 エース…お前、イイこと言いやがって。そうだな──冒険は逃げねェ。ヤマト、申し訳ないがまずは修業先決だ。お前もなかなか強いようだが、オレの見立てではエースと2人がかりでもまだオレには勝てないだろう。今のままじゃあ、カイドウをブッ飛ばすなんて夢のまた夢だ。まずは1年で今のオレよりも強くなれ!!」

 

「そうだね。冒険も楽しみだけど、クソオヤ…クソッタレのカイドウを倒すのもボクの目的の一つだ。その為にも強くならないといけない。それに、もう爆発する手錠もないんだ。ボクは自由だ。これまでの辛い年月を考えれば、あと1年くらいどうってことないよ」

 

 

 とりあえず、エースは安堵の息を漏らす。

 

 とにもかくにも、卑劣な海賊らしくも、親の風上にも置けないカイドウの所業(爆発する手錠)のおかげもあって、父親のカイドウ他、百獣海賊団の者達をあっさりと見限ったヤマトは、ブラックとエースの手を取り、2人の仲間になった。

 

 エースと同等の力を持つヤマトが仲間になってくれるのは実に力強い。まだたった3人。だが、たった3人なのにその戦力は計り知れない。1年間の修業を終えた後、ブラック達3人が表舞台に再び姿を表した時、ヤマトもすぐに賞金首になること間違いなしだ。もっとも、世界最悪の犯罪者と生き残った海賊王の息子が新たに立ち上げた海賊団にカイドウの娘まで加わるなど海軍と政府にとってはこの上ない悲報だろう。

 

 

「あ、白吉っちゃん」

 

「だからブラックな。で、何だ?」

 

「君に()()()()()()があるんだ。

 クソッタレのカイドウがいない今、君とエースがこの島に来たのはきっと偶然でも何でもない。運命で必然だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワノ国の沿岸にある百獣海賊団の本拠地"鬼ヶ島"。

 

 ブラックはヤマトの案内でカイドウのいない敵の本拠地へと足を踏み入れている。カイドウが遠征中でワノ国にいないとはいえ、留守を任されている者達に気付かれないように、ブラックは獣型で小型化しヤマトの肩に乗っている。

 

 ちなみに、エースは会いたい人物がいるとのことで別行動を取っているようだ。

 

 

「コレを君に見せたかったんだ。

 君は古代文字を読めるんだろ?なら、コレはぜひ見ておくべきだ。偉大なる航路(グランドライン)の最終地点"ラフテル"に導く為の重要な石"ロード歴史の本文(ポーネグリフ)"」

 

 

 ブラックの目の前には、彼がこれまでの冒険で見た歴史の本文(ポーネグリフ)とは色が違う赤い石が存在している。これは、カイドウが所有する貴重なモノで、世界に4つしか存在していないとされる歴史の本文───その内の1つだ。

 

 

「こ、こりゃあ、すげェな。冒険の気配がビンビン伝わってくる。これを元に海図が描けるぞ」

 

「凄いッ、本当に読めるんだね!

 いいなァ、ボクにも古代文字が読めたら!!」

 

 

 ヤマトの情報では、百獣のカイドウは白ひげが死んだ今、白ひげがナワバリとしていた島の幾つかを手中に収めるべく、その為に遠征に出ているのだそうだ。

 

 そして、それ以外にも目的があり、その目的というのが古代文字を読めるデマロ・ブラックを仲間にする為、彼を探してるのだそうだ。過去800年に渡ってロジャー海賊団以外に誰も到達したことのない伝説の島"ラフテル"へ繋がる貴重な情報源を所有していながらも、解読できなければ宝の持ち腐れ。しかし、ブラックが仲間に加わってくれれば、ラフテルへと一気に近づく。カイドウはナワバリを増やすことよりも、何としてもブラックを仲間にする為に嬉々としてワノ国を出港したのだそうだ。

 

 しかし、歴史の本文(ポーネグリフ)を解読するのが目的ならば、実力的にもブラックに劣っているニコ・ロビンの方を仲間にする方が手っ取り早いはず。それなのにブラックを狙っているのは、古代文字を読める以外にも戦力として狙っているのか、実に武闘派らしい。

 

 ただ悲しいかな…。遠征に出ているこのタイミングで、その目的のブラックがワノ国にやって来ようとは…。

 

 

「一応、写し取ってくか」

 

「ぜひともそうしてくれ!!」

 

 

 しかも、大切なロード歴史の本文(ポーネグリフ)を写し取られようとは…。さらにはそれを手引きしたのが娘だとは、さすがのカイドウも予想外だろう。僅かながらも信じていた親の情を裏切られたヤマトの恨みはとてつもなく大きいようだ。親として最低の所業だったのだから致し方なし。

 

 貴重な情報を、解読できるブラックに写し取られてしまうのもその罰が当たったということだ。

 

 

「それとこのロード歴史の本文(ポーネグリフ)の残りの3つなんだけど、1つは"ゾウ"にあってミンク族が所有してるみたいだ。他の2つ、1つは魚人島にあったみたいなんだけど、現在は所有者、所在地不明。で、あと1つが厄介なんだけど、所有者は四皇"ビッグ・マム"シャーロット・リンリン。彼女が治める国"ホールケーキアイランド"にあるそうだ」

 

 

 ブラックも初めて目にしたロード歴史の本文(ポーネグリフ)に大興奮。あと、ついでのように残りの3つについての情報をヤマトが口にする。とてつもない情報なのに少し軽すぎではないだろうか…。

 

 

「なるほど。

 なら、帰りにホールケーキアイランドに行ってみるか?」

 

「え!?」

 

 

 簡単なノリでブラックは言っているが相手は四皇"ビッグ・マム"。そして、狙う獲物は"ラフテル"へと導く貴重なロード歴史の本文(ポーネグリフ)。おいそれと簡単に事が運ぶことは決してない。それを巡って頂上決戦並の戦いが勃発しかねない。

 

 ちょっと八百屋に買い物行ってくる並の軽いノリでブラックがそう口にし、ヤマトは好きなモノを買って貰えると期待する子供のように瞳をキラキラと輝かせている。エースはきっと、この場所に同行しなかったことを後で後悔することになるだろう。

 

 カイドウの他に、ビッグ・マムとの激突もきっと避けられない。もっとも、カイドウがブラックを狙っているということは、ビッグ・マムも狙っている可能性もある。どちらにしろ、これは必然なのかもしれない。

 

 

「正直なところ、今すぐ行きたいところなんだがエースに怒られるからな。1年後にしよう」

 

「そ、そうだよね」

 

 

 何事にも、準備期間が必要だ。楽しい反面、命がけの冒険になるのだから当然である。ブラックはそれも楽しさの1つと笑いながら言うのだろう。どうやら、勘違いから始まった己の理不尽なこの状況も、すでに受け入れきれたようだ。

 

 

「そう落ち込むな。ビッグ・マムが所有してんのなら、盗まれることもないだろうし、赤い石は逃げねェ。

 まァ、どこかに移動したとしても見つけ出してやろうぜ!冒険、お宝探しは自分で情報を集めて、見つけ出すからこそ楽しんだ!あ、だからこれ以上オレに貴重な情報は寄越すなよ。楽しみが減るからな」

 

 

 最初から答えの分かっている冒険などしたくない。答えが分かっていたら楽しくない。そんなの冒険とは決して言えない。今回はヤマトがどうしてもとこの場所に連れてきたことでロード歴史の本文(ポーネグリフ)を見ることができ、他2つの所在も知ることになってしまったが、ブラックはこれ以上の情報をもう望まない。

 

 

「ヤマト、お前がおでんに憧れるのを否定しているわけじゃない。オレもある女性(ニコ・オルビア)に憧れて、それで冒険家兼トレジャーハンターになったからな。気持ちは分かる。

 だが、オレとエースと共に冒険に行くのなら、"()()()()()()()()"の情報はもう二度と口にするな。お前も自分のその目で見て、自分で感じろ!それこそが冒険だ!!」

 

「う、うん、絶対に口にしない!

 あ、けどクソッタレのカイドウに見つからないようにというか、奴の手に渡らないように肌身離さず持ち歩くのはいいよね!?」

 

 

 ヤマトの情報源は、彼女にとってのバイブル"おでんの航海日誌"という古びた日誌らしいのだが、実はそれがとんでもない日誌だったりする。

 

 何と、そのおでんという人物は、白ひげ海賊団の初代二番隊隊長で、つまりはエースの先代だ。そして何と、白ひげ海賊団からロジャー海賊団に移籍し、海賊王ロジャーと共にラフテルまで辿り着いた人物なのだそうだ。

 

 それが意味するのは、おでんの航海日誌にはラフテルについての情報が書き記されているということ…。

 

 下手したらロード歴史の本文(ポーネグリフ)以上に貴重で、危険な代物ではないだろうか…。

 

 コレがカイドウの手に渡っていたら、カイドウは間違いなく海賊王になっていたはずだ。そんな貴重な日誌をカイドウに知らせず、隠し続けてきたヤマトの行動は称賛に値する。ヤマトがこの日誌の存在をブラックに明かしたのは、きっとブラックがこの日記を悪用しない人物だと感じ取ったからなのだろう。そしてそれは正しい。ブラックは答えの分かった冒険など冒険ではないと豪語する男なのだ。

 

 

「大切なモノなんだろ?だったら、お前の好きにすればいいさ。オレがとやかく言う権利はねェ。

 あ、けどそれが原因で危険な状況に陥るってんなら、とっとと燃やして捨てろ」

 

「ええ!?も、燃やせないよ!!」

 

「ならオレが燃やす。オレにとっちゃ、その日誌よりもヤマトの命の方が大切だ。これは譲れねェ。オレの仲間は誰も死なせねェ」

 

 

 威厳ある船長の顔つき。先程までの少年のような顔つきとはまったく違った強い男の顔つきに、ヤマトの胸が大きく高鳴る。普段は抜けているが、いざという時は誰よりも頼りになる。だからこそエースも船長として認め、仲間になることを決意した。ヤマトも今この瞬間、それを理解したのだ。

 

 

「まァ、そうならないようにオレが守ってやるから安心しろ。ただ、常にどんな時も最悪の事態は想定しておくこと!そして、自分の命を一番に考えろ!」

 

「う、うん」

 

「さァて、そんじゃエースと合流して帰るとするか」

 

 

 ヤマトは今、冒険に行くこと以上に胸を高鳴らせている。ここまで胸が高鳴るのは、きっと"おでんの最期"を目にした時以来だろう。だからこそ、早くブラックと冒険に行きたいと強く思っているはずだ。ただ、おでんに憧れる感情と、ブラックに対する感情が違うことにヤマトはまだ気付いてはいない。きっと、これから振り回されることになるだろう。それもまた、人生の楽しさの1つだ。

 

 

「これからよろしく──船長!!」

 

「おう!!」

 

 

 ブラックとヤマトは固い握手を交わした。

 

 自称"ブラック海賊団"3人目の仲間。白ひげ海賊団初代二番隊隊長にして、ラフテルに唯一辿り着いたロジャー海賊団の一員だった"おでん"の航海日誌を所有するカイドウの娘───ヤマト。海軍と政府にとって、またしても厄介な存在がブラックの仲間に加わってしまった。そもそも、ブラック海賊団の立ち上げすら把握されていないのだが…。

 

 ヤマトがワノ国から脱走したことをカイドウが知るのはこれより1ヶ月以上も後のこと。死人に口なし。ヤマトの旅立ちを邪魔し、これまでヤマトを閉じ込めてきた者達は全滅し、手引きした者が存在したのかも全ては謎。

 

 百獣海賊団も大きく荒れることとなる。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 ヤマトが仲間入りしてから3ヶ月。

 

 ブラック達はブラックの拠点───現在は自称"ブラック海賊団"の拠点となっている島に2ヶ月程前に無事に戻り、冒険に行きたい病を約2名必死に抑え込みながら修業に明け暮れていた。

 

 

「くッ、ボクよりも圧倒的に目立ってて、ボクよりも圧倒的に強いなんて、君達の存在はボクにとって害悪だ!万死に値する!」

 

 

 簡単な報告になってしまうが、ワノ国から拠点に戻る際に仲間がもう1人増えたりもしている。

 

 名はキャベンディッシュ。"海賊貴公子"の異名で世の女性達を虜にする海賊(ナルシスト)だ。懸賞金額は2億8000万ベリーとそこそこに高いようである。

 

 途中でバッタリと遭遇したブラック達とキャベンディッシュ率いる"美しき海賊団"という実にふざけた(ナルシスト)ネーミングの海賊団。

 

 ブラック達は気にすることなく通り過ぎようとしたらしいのだが、ブラックとエースに並々ならぬ一方的な憎悪を燃やしていたキャベンディッシュが戦いを挑んできたのだそうだ。もちろん、その結果は言うまでもないだろう。ただ、その後どうしてキャベンディッシュがブラック海賊団の仲間入りを果たしたのか───能力者じゃない仲間が欲しいと思っていたブラックが、能力者じゃない仲間は欲しいが探すのが面倒だからと、即戦力にもなるだろうと本人の承諾なしで仲間に引き入れてしまったのである。

 

 ちなみに、美しき海賊団の他の仲間達に関してだが、元々はブルジョア王国の兵士達で、"人気ありすぎの罪"という理解不能な罪状で国外追放処分されたブルジョア王国の王子だったキャベンディッシュの護衛として、望まぬ形で海賊をやっていたとのこと。それを聞いたブラックは、その者達のみブルジョア王国に帰還させた。"白ひげの後継者"として名を轟かせるブラックが相手では仕方なく、ブルジョア王国の国王も数十名の兵士が無事に帰って来たことを遠い目をして、迎え入れてくれているはずだ。

 

 そんなこんなで、戦力底上げの為の修業にキャベンディッシュも加わり、ブラック海賊団はいつの間にか4人になっていた。キャベンディッシュはブラック達から親しみを込めて"キャベツ"と呼ばれているそうだ。

 

 

「それとブラック!君が船長をそこまで拒むならボクが船長になる!!」

 

「いいぞ」

 

「よくねェよ!一番弱いヤツが船長になっていいわけあるかッ!」

 

「ボクも反対だなァ。キャベツが船長って何かやだ。

 何より、黒吉っちゃんが船長じゃないとボクは嫌だな」

 

 

 海軍、政府、海賊───この海が大きく荒れ、変わり行くなか、ブラック海賊団は人知れずに大きくなりつつある。

 

 彼らが世界に旋風と業火の炎を灯すまであと僅か…。

 

 

 






赤い石、ロード歴史の本文(ポーネグリフ)。カイドウも所有してることが明らかになってますが、所在地までは明らかになっていない。多分、鬼ヶ島にあるってことであってるのかな?

ヤマトから見てのブラックは、日誌に出てくる白ひげに見えたり、おでんに見えたり、ロジャーにも見えたりしてるかな。そしてその強さを目の当たりにして、どんどん惚れ込んでく?

ついでのようにいつの間にか4人目の仲間ゲットだぜ!!やっぱ無能力者の仲間は欲しいところだよね。


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5人の皇帝



ついでのように仲間入りしてたキャベンディッシュだけど、わたくし的にはついでな感じがキャベンディッシュらしさ出てるかなと思ってます。
一応、わたくしの中でのキャベンディッシュは宇宙の帝王枠。努力しないで才能だけでのし上がったらしいですし。修業したらどうなる?ゴールデンキャベツか!?
ハクバ制御できたら常時ハーフ&ハーフになるのか!?



 

 

 とある島に、海軍と政府が絶対に知りたくない、現実逃避したくなるような恐るべき事実───とんでもない脅威が潜んでいる。人知れず修業に明け暮れる海賊達。内1人以外は高額賞金首ばかりで、船長、副船長、戦闘員2人の計たった4人なのに総合賞金額(トータルバウンティー)が37億ベリー超えという異例で脅威的な海賊団だ。

 

 自称"ブラック海賊団"。

 

 世界最悪の犯罪者として世界に名を轟かせる"赫猿"デマロ・ブラックが、生き残った海賊王の息子"火拳"ゴールド・エースと共に立ち上げ、そこに四皇"百獣のカイドウ"の()()()()ヤマトが加わり、さらには"海賊貴公子"キャベンディッシュをブラックが拾い、今に至る。

 

 ちなみに、ヤマトがカイドウの娘だったと過去形なのは、ヤマトがワノ国を出港する際に、離縁状を置いてきたからである。親の風上にもおけない所業を仕出かしてしまっていたのだから、これくらいは当然のことである。親子の縁を切られてしまったのもカイドウの自業自得だ。

 

 そんなブラック海賊団だが、立ち上げ後すぐに公に活動を始めたわけではない。ブラックとエースの2人は、海賊、海軍、政府、賞金稼ぎと多くの者達から狙われているのもあり、それらの脅威から身を守る為に、本格的な活動を始めるのは1年後か1年半後とし、己を鍛え直している真っ只中。ヤマトもキャベンディッシュも、ブラック海賊団の仲間になったのだからと共に厳しい修業に明け暮れている。

 

 

「3人とも強くなったなァ」

 

 

 かれこれ、4人がブラック海賊団の拠点で修業を開始して早いことで半年が経過したが、4人とも半年で見違えるほどに成長した。自分自身の成長も感じ取りながら、エース、ヤマト、キャベンディッシュの成長に感慨深そうにブラックが呟いている。

 

 マリンフォードで勃発した頂上戦争で左腕を失い隻腕になってしまったエースは、戦闘中にのみメラメラの実の能力で炎の腕を作り出して戦う術を体得し、これまで以上に熱い炎を操れるようになっている。炎の色が進化していることからも、今までのエースはメラメラの実の能力を完全に引き出せていなかったようだ。

 

 

「オレはまだまだ強くなる。オヤジを超える為に──まだ、この程度じゃダメだ」

 

 

 ブラックの扱きによって、ブラックの雷による肉体活性と同じような、炎の燃焼力による肉体活性を体得したエースは肉弾戦と覇気など、とにかく一からみっちりと鍛え直している。もっとも、まだまだ本人は納得できていないようだ。

 

 

「さすがだね、エース。

 ボクも負けてらんないな。黒吉っちゃんのおかげで、覇気を更に極めることができたけど、まだカイドウには勝てない。ボクもまだまだだ」

 

 

 エースと同等の力を持ち、覇気に関してはエースよりも優れていたヤマトも、ブラックに覇気の真髄を叩き込まれて更なる成長を遂げている。長い期間、己を苦しめ続けてきた爆発する手錠も、今のヤマトならブラックのように排除することができるだろう。打倒カイドウ。彼女は己の父親だったカイドウを討ち倒す(超える)べく、冒険行きたい病を必死に抑え込みながら泣き言一つ言わずに、憧れの存在(おでん)を目指し日々邁進している。

 

 エースとヤマトに慢心など一切ない。強くなることにとにかく必死で、互いに切磋琢磨している。

 

 ただそんな修業に明け暮れる日々の中で誰よりも成長著しいのは、ブラックではなく、エースでもヤマトでもない。それは驚くべきことに、キャベンディッシュことキャベツだ。これまで血の滲むような努力をしたことなどないという元王子が、生まれて初めて血の滲むような努力というか、ブラックの地獄の扱きを受けることで、恐るべき速度で成長している。まだエースとヤマトには劣っているが、この半年で実力差も見る見るうちに迫ってきている。

 

 

「エース、ヤマト!ボクの存在を忘れるなァ!!」

 

 

 つい数日前も、超美剣 赤い隼(レッドファルコン)などという、相変わらずふざけたネーミングではあるが、武装色の覇気を最大限に活用して加速で炎を発生させた上に、いつの間にか体得していた内部破壊の力も併せた凄まじく速くて威力の高い突き技を編み出していた。しかも驚くべきことに、加速によって発生させた炎と内部破壊の力を併せたその突きをブラックとエースが試しに受けてみたところ、炎耐性のあるブラックと、炎人間のエースですら内側を焼かれたような痛みを一瞬だが感じたそうだ。キャベツは、かなり凄い技を編み出したのではないだろうか…。

 

 それと、ブラック達がキャベツを仲間に引き入れて発覚したことなのだが、キャベツは夢遊病を患っているらしく、眠ってしまうとキャベツよりも数倍強くて、誰彼構わずに斬りかかってしまう凶悪な人格が目覚めるという厄介な体質だったようだ。言うまでもないが、その凶悪な人格でもブラックには勝てず返り討ちにあってしまっている。

 それからは、その凶悪な人格をどうにかすべく、キャベツの精神的な修業も始まった。正直なところ、これはブラックも専門外な為にどうすべきか皆目検討がつかず、とにかくもう一つの人格を抑え込めとキャベツに言うことしかできなかったようだ。つまり、ブラックは匙を投げたということである。

 

 ただ、ブラックの無茶振りにもキャベツは驚くべきことに応えてみせた。精神世界なるもので凶悪な人格と戦っているとキャベツが口にした時は、ゴミでも見ているかのような視線をブラック達はキャベツに向けていたが、たった数日で身体能力と剣の腕前まで向上してたことから、それが本当だったことが証明されたのである。

 

 そしてある日、キャベツの顔が()()()()凶悪な人格の顔つきに変貌するという奇怪すぎる珍現象が起きてしまった。ブラックとエースも見たこともない奇怪すぎるその現象に顔を引きつらせてドン引きし、ヤマトは気持ち悪すぎて怖くて涙を流したようだ。ヤマトが泣いてしまったことで、怒ったブラックがキャベツを気絶させてどうにかその現象は一時的に治まったが、それから1ヶ月ほど度々その珍現象が起きてしまい、ヤマトはしばらくキャベツと距離を置いてしまった。

 

 だが、1ヶ月でどうにか凶悪な人格に精神世界で打ち勝つことができたらしいキャベツは、顔が半分だけ違うという奇怪な珍現象が起きることもなくなり、夢遊病も治り、凶悪な人格が表に出てくることもなくなった。もしかしたら、夢遊病ではなく二重人格だったのではないだろうか…。

 

 そんな珍現象に一時は悩まされながらも、キャベツは以前よりも遥かに強くなった。天才とバカは紙一重というが、キャベツはそれを体現しているかのようで、ブラックはキャベツを仲間にして正解だったと思うような思わないような…。

 

 とにかく、ブラック海賊団の面々は血の滲むような努力をしながらも、楽しく和気藹々とした日常を送っている。

 

 修業開始から半年───マリンフォードで勃発した世紀の頂上戦争から約8ヶ月。

 世界は今、大きな変革期を迎えているが、ある意味ではブラック海賊団も、成長真っ只中の変革期だろう。

 

 

「あ、そういえば、修業を終えて本格的に活動始める際は顔を見せろって師匠が言ってたな。

 何か渡したいモノがあるとかなんとか」

 

 

 そんな変革期に、海賊団を立ち上げたことが公になったら世間を恐怖のドン底に突き落としかねないブラック海賊団。そのブラック海賊団に"冥王"シルバーズ・レイリーが渡したいモノがあるとはいったいどんなモノなのか…。

 

 ただ、ブラックの第六感がとんでもないモノを授かることになるだろうと感じ取っていた。

 

 

「いかんいかん、とりあえず修業に集中しないとな。

 あと数ヶ月だ。今、世界がどんな変革を迎えてるかは気になるが、それは後から知ればいい」

 

 

 海軍でも大きな世代交代が起きたことを、ブラック達はまだ知らない。修業に集中する為に、敢えて外の世界の情報が入ってこないようにしているのだ。

 

 もっとも、その一番の理由はエースだ。間違いなく、"黒ひげ"が目立った動きを見せている。それを知ったエースがどう行動するか…。ここ最近でエースも我慢を学んではいるが、それでも仇敵が暴れ回っているのを黙って見過ごすのは難しいはずだ。ブラックもエースに酷なことを強いているとは思っているが、これもエースの為。今は我慢の時で、力を蓄える時だ。

 

 

「うし、3人共──かかってこい」

 

「ムカつくほど、オヤジの"むら雲切"が似合うようになりやがって」

 

 

 ただ、エースが同じ過ちを犯すことはきっとないだろう。普段は抜けているが、いざという時は誰よりも頼りになる船長がついているのだ。

 

 

「黒吉っちゃんは本当にカッコイイよね!君がボクの船長で良かったと本当に思うよ!」

 

「よ、よせよヤマト。テレるじゃねェか」

 

 

 ブラックの身から放たれる威圧感(王の資質)が以前に比べて遥かに増している。白ひげの後継者と呼ばれるに相応しく成長しているのだ。

 

 ただ、誰だって純粋な眼差しで見つめられ、誉められると照れるようだ。

 

 

「ブラックゥゥゥ、ボクより目立つなァ!!」

 

「なら、オレよりも強くなってみろキャベツ。

 オレから船長の座を奪うんだろ?」

 

 

 世の女を虜にする"海賊貴公子"の魅力も、ブラックには遥かに劣っている。きっと、キャベツがブラックから船長の座を奪い取れる日は絶対に訪れないだろう。

 

 ブラック海賊団の船長としての威厳を、ようやくブラックも持ち始めている。ヤマトと揃って暴走しかけることはあれど、何だかんだで船長をやっているのだ。

 

 

「最後の追い込みに入るぞ、お前ら」

 

 

 "赫猿"デマロ・ブラック、"火拳"ゴールド・エース、"百獣の娘"ヤマト、"海賊貴公子"キャベンディッシュ。

 

 たった4人だが、あまりにも豪華な顔触れの海賊団が世に放たれるまで残り僅か…。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 不死鳥のマルコ率いる白ひげ海賊団の残党達と、黒ひげ海賊団の大激突───"落とし前戦争"から2ヶ月程が経過した。

 

 両者多くの援軍を呼んでの、マリンフォード頂上戦争にも引けをとらない大規模な戦いだったが、結果はマルコ達の惨敗。この一件後、黒ひげは赤髪、カイドウ、ビッグ・マムに並び、"()()"の1人に位置づけられるようになった。

 

 

「エース」

 

「言いたいことは分かってる。1人でティーチ──黒ひげを討ち取ろうなんざバカな真似しねェから安心しろ。

 マルコ達がオレを戦いに呼ばなかった理由も分かってる。ただ、複雑なんだ」

 

 

 白ひげの無念を晴らす為の戦いだったが、マルコ達がエースを呼ぶことはなく、ブラックに援軍を頼むこともなく、彼らが落とし前戦争について知ったのは今日のことだ。

 

 もし、ブラックとエースを呼んでいたら、結果は変わっていたかもしれない。呼ばなかったのは、マルコ達のプライドだろうか…。それとも、エースに(未来)を託す為か…。

 

 

「マルコ達の為にも、何よりオヤジの為にも、オレは同じ過ちを犯さねェ。

 だからよ、しっかり頼むぜ──船長」

 

「そりゃあ責任重大だな──副船長」

 

 

 大海賊時代が幕開けし23年。1年と2ヶ月前に起きたマリンフォード頂上戦争後に、この大海賊時代も大きな変革を迎えた。白ひげ亡き後、五皇時代に突入したのである。

 

 赤髪、カイドウ、ビッグ・マム、黒ひげ。この4人と同じく、海の皇帝として世界に名を轟かせるのは、頂上戦争後に世間から忽然と姿を消しながらも、頂上戦争で世界に名を轟かせた世界最悪の犯罪者───"赫猿"デマロ・ブラックだ。

 

 この1年、人知れず"火拳"ゴールド・エースと海賊団を立ち上げ、人知れずワノ国に侵入しカイドウの娘を仲間に引き入れたこと以外で、大きな事件をまったく起こしていないにも関わらず、五皇の1人に位置づけられるのは、海軍と政府からそれだけ危険視されている証拠でもある。

 

 黒ひげよりも少しばかりではあるが、懸賞金額が高いのもそれを物語っている。

 

 海賊王世代の海賊達からしたら、大海賊時代は数ばかりが増えた質よりも量の時代とも言われていたが、五皇時代へと突入した今は違う。次の海賊王(ロジャーの後継者)の座を巡る激しい戦い───下手をしたら、海賊王世代よりも激しい戦いになるかもしれない。

 

 

「それにしても黒吉っちゃん、君は本当に凄いな!

 ブラック海賊団が活動するのはまだこれからだってのに、5人の海の皇帝の内の1人に数えられているなんて!!」

 

「海軍と政府様々だよなァ。

 ホントにもう、どう落とし前つけてやろうかクソッタレめ」

 

「ぐぬぬぬ、ボクの記事が一切ない…だと!?

 ブラックめ、最近何もしてないのに新聞にデカデカと写真を載せられるなど忌々しいにも程があるぞ!!」

 

 

 頂上戦争から約1年と2ヶ月。厳しい修業の日々が終わり、デマロ・ブラック率いるブラック海賊団がいよいよ活動(航海)を始める。いよいよ、その時が来た。

 

 そのブラック達は今、ブラックの水陸両用バイクで小船を引きながら、ダンゴ他大型海王類の警護のもと、とある島───とある人物に会いに向かっている。

 

 

「それよりも…本当にオレも冥王に会わなきゃダメか?」

 

 

 ブラックの師匠、"冥王"シルバーズ・レイリーが滞在しているルスカイナ島は、無風海域"凪の帯(カームベルト)"に存在している過酷な島だ。

 

 何故そのような過酷な島に冥王レイリーが滞在しているのか…。エースの義弟で、ブラックの弟弟子になる麦わらのルフィをこの島で鍛えているのである。

 

 

「ルフィに久しぶりに会えるぞ」

 

「う」

 

 

 しかし、冥王に会うことを渋っている人物が1人───エースだ。初対面なわけだが、父親(ロジャー)の相棒だった男にどんな顔をして会えばいいのか悩んでいるようだ。大切な弟が同じくその場所にいなかったら、エースは間違いなくついて来なかっただろう。

 

 ただ、エースはこの後、今よりも複雑な心境を味わうことになる。一方で、ブラックとヤマト、キャベツの3人は大興奮することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、ブラック。

 ふふ、もうすっかり"白ひげの後継者"、"(あか)の皇帝"の呼び名が定着しているようだ。

 この1年で、よくそこまで成長したものだ。それと、もちろんそちらの者達も紹介してくれるのだろう?」

 

「誰かオレに代わって皇帝やってくれませんかね?

 レイリー師匠、お久しぶりです。

 それと紹介します。オレの仲間のヤマト、キャベンディッシュ、それから──エースはルフィに会いに行ってて、後で挨拶させますんで」

 

「め、めめめ、冥王レイリー!

 ほ、ほほほ、本物だァァァ!

 ボ、ボボ、ボクは"()()()()()()"、よろしく!!」

 

 

 ルスカイナ島に到着し、1年ぶりに再会した師弟。

 

 ブラックの成長をレイリーが強く感じ取っているなか、バイブル"おでんの航海日誌"に記されていた伝説の海賊が目の前にいることにヤマトは大興奮である。

 

 キャベツに至っては、ブラックの師匠が冥王レイリーだったことを今初めて知ったらしく唖然としている。

 

 

「そこまで気にする必要はない。

 それにしても、まだ4人だが愉快な仲間達じゃないか。

 君達なら、()()()も問題なさそうだ」

 

 

 ブラック海賊団がいよいよ本格始動する前に、ブラックは一番最初に冥王レイリーに報告にやって来た。元々、レイリーともそのような約束を交わしていたのだ。

 

 そして、レイリーは今日、ブラックが旅立つこの日に大きな贈り物を渡す(託す)

 

 

「託す…それってもしかして、目の前の泉にある()に関係してたりします?」

 

「わははははッ、目敏いなブラック。

 だが、間違ってはいない。君に、君達に、あの船に乗ってほしいと私は思っている」

 

 

 ルスカイナ島の泉。神秘的なその泉に浮かぶ一隻の船。数々の壮絶な冒険の傷が刻まれながらも、この船ならばどんな海も絶対に越えていける───そう思わされる強く逞しい船がそこに存在している。

 

 

「こ、この船…も、もしかして」

 

「やはり、君には分かるか。

 そう、この船はロジャーと私達の思い出が詰まった船だ」

 

「え、ええ!?

 つ、つまりッ、おでんが白ひげ海賊団から移籍して乗ったロジャー海賊団の母船──"オーロ・ジャクソン号"!?」

 

 

 世界で初めてにして唯一、偉大なる航路(グランドライン)一周を成し遂げたオーロ・ジャクソン号。ブラック達の驚きはとてつもなく大きい。

 

 

「私から弟子への餞別だ」

 

 

 その船が今、師から弟子へと渡り、海賊王の子が共に乗り、そしてまた偉大なる航路(グランドライン)へと舞い戻る。

 

 

 






エースのメラメラの実の炎の進化は色温度をもとにしております。これまでの赤っぽいオレンジから黄色へと進化し、そこからさらに色が変わっていき威力(温度)が上がる。
ブラックの雷肉体活性と似た、エースの炎の燃焼による肉体活性。赤っぽいオレンジの炎纏ったそれだと、まるで界◯拳みたいだね!!

ヤマトも幻獣種の能力者なのだろうか…。カイドウが青龍だから、あれかなぁとは思ったりしてるんだけども、尾田先生だからなァ~意外性狙ってきたりしそうだし。

キャベツの伸び代がヤバいというね。
新技。超美剣 赤い隼(レッドファルコン)
美剣 青い鳥(ブルーバード)を昇華させた凄い突き技。
加速により炎を発生させ、内部破壊の力も併せることで、内側を焼く。炎耐性のあるブラックと、炎人間のエースですらも一瞬だが内側を焼かれたような痛みを感じた何気に凄い技。

さてはて落とし前戦争ですが、ブラックとエースは蚊帳の外です。エースには修業に集中してほしかっただとか、もしもの時に先を託す為だとか、そんな感じですかね。

それと、1年の修業からの出発。
大冒険だけに、わたくしも大冒険してみようかなと。ロジャー海賊団解散後オーロ・ジャクソンはどこに隠されてたのとか聞かないで。レイリーが隠してたんだよきっと。卵っぽいの乗ってたけど、それはどうしたとか聞かないで。レイリーが何かしらしたんだよ。それか孵化した?4人で動かせんの?多分彼らなら大丈夫。それに、もう少し仲間増える予定だし!!

とりあえず、ブラック海賊団でいいかな!?


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世界最悪と世界最強



皆様アンケートご協力ありがとうございます!!

そのままブラック海賊団でいこうと思います!!



 

 

 師匠(冥王)シルバーズ・レイリーから、弟子(赫猿)デマロ・ブラックへの餞別───ロジャー海賊団の母船"オーロ・ジャクソン号"を受け取ったブラックは、とてつもない餞別に驚きながらも、35年の人生の中で最も感激していた。

 

 ブラックが感激するのも当然だろう。世界で初めてにして唯一、偉大なる航路(グランドライン)一周を成し遂げた船なのだ。この船には、夢と希望が満ち溢れている。海軍と世界政府は絶対に認めないだろうが、この船は間違いなく世界遺産だ。

 

 その船を、敬愛する師から託されたのだから嬉しくないはずがない。交差させた薙刀を背後にシンプルな髑髏マークと、"DEMARO・BLACK"と描かれた黒い海賊旗も、レイリーからの嬉しい贈り物だ。しかも今日の日の為にメンテナンス済とは、冥王様々である。

 

 ルスカイナ島には1週間ほど滞在。ブラックも1年ぶりにルフィに再会し、弟弟子の実力がどれ程のものか確かめたり、レイリーからコーティングの技術を叩き込んでもらったり、キャベツがルフィに戦いを挑んだり、ブラックとエースが海賊団を立ち上げたことを報告し、ヤマトとキャベツを紹介したりと楽しい一時を過ごし、ブラック達はオーロ・ジャクソン号に乗って出港した。

 

 ちなみに、冥王レイリーと初対面だったエースだが、挨拶はしたものの一切目を合わせようとはせず、ブラックから拳骨を食らい、そんなエースにレイリーは苦笑いを浮かべていた。

 

 

「オーロ・ジャクソン号の乗り心地最高だなァ。師匠には頭上がんないな本当に。とりあえずどこに行こう?なァ、どこに行こうかオーロ・ジャクソン。どこ行きたい?楽しみだなァ。行きたい所がありすぎて困るなァ」

 

「本当に嬉しそうだなァ、黒吉っちゃん。

 ふふ、あんなに喜んで可愛いなァ」

 

 

 ルスカイナ島を出港後、ブラックは今、満面の笑みを浮かべている。

 

 この1年間、冒険行きたい病を必死に抑え込んでの修業(禁欲)生活を送っていたブラックが、ようやくその禁欲生活から解放された上に、オーロ・ジャクソン号を手に入れたのだから気分は最高潮で有頂天だろう。

 

 鼻唄を歌いながら、少年のように瞳を輝かせるブラックに、ヤマトも頬を緩ませている。

 

 ただ、嬉しくて有頂天になるのは仕方ないが、同時に悩ましい問題があった。

 

 

「おい、浮かれてるとこ悪いが、船長、ヤマト──オレ達にはまずやらなきゃならねェことがあるぞ!!」

 

「エースの言う通りだブラック!

 冥王からロジャー海賊団の船を頂いたのは有り難いし、嬉しいことだ。美しいこのボクに相応しい船だ!

 だが、現実的に考えて()()()()()でこの船を操るのは無理があるぞ!!」

 

 

 そう、エースとキャベツの指摘通り、まだたった4人しか在籍していないブラック海賊団に、オーロ・ジャクソン号は大きすぎるのである。

 

 エースはオーロ・ジャクソン号に乗ることを躊躇していたが、ブラックの嬉しそうな笑顔を見てしまい、今はもうどうにか受け入れているようだが、いくら強くなったといえど、いくら凄い海賊船といえど、たった4人でオーロ・ジャクソン号に乗って新世界入りするのはあまりにも危険だと至極真っ当なことを指摘している。

 

 今は無風海域"凪の帯(カームベルト)"をダンゴや、大型の海王類達のおかげで苦もなく航海できているが、新世界ではこうはいかない。

 

 それに何より───1年前はエースもたった1人で後半の海(新世界)から前半の海(楽園)へと、偉大なる航路(グランドライン)を逆走していたが、1年前と今では自身が置かれる状況があまりにも違いすぎるのもある。

 

 ブラックは"白ひげの後継者"、"赫い皇帝"と恐れられる5人の皇帝の内の1人で、エースは海賊王の息子。皇帝の座を狙う海賊達は多く、ブラック海賊団の存在が公になれば、五皇の中で真っ先に狙われるのは間違いなくブラックだろう。理由は言うまでもなく、ブラック海賊団が少数精鋭すぎるからだ。個々の実力は確かに高いが、船員は船長含めたったの4人。傘下の海賊団もいない。

 

 人海戦術を駆使して挑まれたら、さすがのブラック達でも危ういはずだ。もっとも、これは仕方ないことなのかもしれない。ブラックは元々単独行動を好み、これまでたった1人で新世界を航海し続けてきた。ブラックの基準が他と違うのは当然で、たった4人でもどうにかなるんじゃないかと思ってしまうのはその弊害だろう。

 

 

「まずは仲間探しからだ」

 

「最低でも20人は欲しいところだな。

 ボクの部下達を国に返さなければここまで悩まずに済んだものを」

 

 

 だからこそ、ブラック海賊団がまず第一にやるべきは仲間探しだ。キャベツは部下達を国に返したことを悔やんでいるが、今となってはもう仕方ない。気持ちを切り替えて、新たな仲間を探すしかないだろう。

 

 

「ちょっと待った!!」

 

 

 しかし、ブラックはここに来て異議を唱える。

 

 

「20人は多すぎる!あと2人くらいでいい!」

 

 

 ブラック海賊団は6人程度の超少数精鋭でいいと口にする。当然、それでは戦力もオーロ・ジャクソン号を操る人数も少ないとエースが抗議するわけで…。

 

 

「少なすぎる!!」

 

「オレはお前達の力を信じている!オレ達4人ならどんな強大な敵にも、圧倒的な数にも負けない!!」

 

 

 しかし、ブラックがここまで自分達の力を信じてくれているのだと豪語されてしまったら黙るしかないというか、テレるというか、ヤマトは頬に手を当てながらくねくねと嬉しそうにしており、キャベツも満更ではなさそうだ。

 

 エースに至ってはため息を吐きながらも頬を赤く染めている。

 

 ただ、問題は解決していない。

 

 

「オレにイイ考えがある!

 仲間はあと2人くらい!けど、その代わりに()()()を飼おう!これは船長命令だ!!」

 

 

 そしてブラックが初めて船長命令を行使する。ブラック海賊団は増えたとしても6人の超少数精鋭。船員達の命を預かる船長らしからぬ行動かもしれないが、これは仲間達を心から信じているから…。それと、己の力に対する絶対的な自信か…。とにもかくにも、ブラック海賊団は五皇の中で最も人数が少ない海賊団になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永久指針(エターナルポース)を頼りにブラック海賊団がオーロ・ジャクソン号で向かった島。

 

 その島には、ブラックがペットとして飼いたい動物がいるのだという…。ただ、ペットを飼ったからといって、オーロ・ジャクソン号を操る為に不足している船員の解決になるのだろうか…。

 

 

「おォ!お前達ッ──元気にしてたか!?」

 

 

 そのペット候補の姿を捉えたブラックが喜びの声を上げて駆け寄っていく。

 

 この島は、常に暗雲が島全体に垂れ込む湿地帯の島。クライガナ島、シッケアール王国跡地。かつてシッケアール王国が統治していたが、8年前に長らく続いていた内乱で滅んだ王国だ。

 

 ブラックがこの島を訪れたのは6、7年前だっただろうか…。まだ血と煙の臭いが強く放たれており、死体が足の踏み場もなく転がっていた。まさしく地獄絵図。

 

 そんな血生臭い場所で、ブラックは出会った。賢いヒヒ達に…。

 

 

「や、やはり、ブラックが飼いたいというのは"ヒューマンドリル"のことか!?」

 

「キャベツ、知ってるのかい?」

 

「この島を目指していると聞いた時からまさかとは思っていたが…。ヒューマンドリルは、人間のマネをして学習するとても賢い"ヒヒ"だ」

 

 

 ブラックを覚えていたのか、再会を喜びブラックと戯れるヒヒ達。だが、そんな和やかな様子ながらも、ヒヒ達は剣を携え、防具を身に纏い、戦い慣れた気迫を醸し出している。

 

 

「コイツら──強ェな」

 

 

 エースもヒヒ達の強さを見聞色の覇気でしっかりと感じ取り、なるほどブラックがペットとして飼いたいと言っていたのはこういうことだったのかと理解する。

 

 ヒューマンドリルは穏やかな人間のそばにいれば、人間のマネをして学習するという習性から穏やかに育つというが、このヒューマンドリル達は内乱のせいで、凶暴な人間達を見て育ってしまい、武器の扱い、戦いの技術をも学び、森の戦士と化してしまったのである。

 

 人は武器と知恵故に動物に勝ってきた。しかし、動物が武器を取ったらどれだけ強いのか───ヒューマンドリル達は、その恐ろしさの証明だ。

 

 もっとも、ブラックによって全員叩きのめされてしまったのだが、それはヒューマンドリル達の様子からも一目瞭然だろう。主従関係が完全に出来上がってしまっている。

 

 

「確かに、賢いヒューマンドリルならば、ペットとして飼いつつ、雑用業務を任せられるな」

 

「でも、この子達にばかり雑用は任せられないから、ボク達も手伝わないとな!」

 

「このボクが雑用させられるだと!?」

 

 

 最初はどんなペットを飼うつもりなのかと心配してた他の一同は、ヒューマンドリルならば問題なしなのではないかと納得しつつあるようだ。

 

 もっとも、ブラックは雑用の全てをヒューマンドリルに押し付けて奴隷のように扱う気はないだろう。

 

 

「お前らオレ達と冒険に行こうぜ!!」

 

 

 それと、何だか楽しそうな気がするなど、そんな軽い気持ちなのではないだろうか…。

 

 4人の人間と、ペットに海の悪魔等大型の海王類達と賢いヒューマンドリル達。実に愉快な海賊団だ。

 

 

「まァ、一度言い出したら聞かねェしなアイツは。

 とりあえず納得するしかねェか」

 

 

 エースも渋々だが、ブラックの船長命令に納得する。それはきっと、一見ふざけた人選ならぬペット選びではあるが、決して無駄なことはしないのがブラックだからだ。

 

 

「よーし、ならさっそく──ッ!?

 お前らッ下がれ!!」

 

 

 しかし、新たなペット達を飼っての楽しい冒険の始まりかと思いきや、この島にはとんでもないバケモノが存在していたようだ。そのバケモノが今ここに猛スピードで現れ、ブラックへと襲いかかってくる。

 

 ホルスターから小型化した"むら雲切"を抜き取り、巨大化させてブラックは構えを取る。

 

 そして覇気を纏わせた薙刀を一閃。薙刀と()()()()が衝突し、発生した衝撃波が辺り一面の瓦礫を破壊する。

 

 

「とんでもねェのが現れやがったな!」

 

「それはこちらのセリフだ」

 

 

 得物は共に()()()()()。それだけではなく、刃を交えるのはどちらも世界屈指の覇気の使い手にして、恐らくは世界最強の薙刀の使い手(ブラック)と───片や()()()()()()()

 

 

「ブラック!!」

 

「あ、あれはッ、美しい剣士たるボクが超えるべき剣士!!」

 

「え!?あ、あれが大剣豪──"鷹の目"ジュラキュール・ミホーク!?」

 

 

 この島に世界最強の剣士がどうしているのか…。

 

 

「とんでもない怪物が上陸したと思い確認しに来てみれば、まさかお前とはな──"赫い皇帝"デマロ・ブラック。

 この島にいったい何の用だ?」

 

「その言葉そっくりそのまま返すぜ。

 何故、七武海のお前がこの島にいるッ!?」

 

 

 いったい誰が予想していただろうか…。世界最強格の海賊"五皇"の1人と、世界最強の剣士が激突することを…。いや、誰も予想などできたはずもない。

 

 これは予期せぬ邂逅で、奇跡に近い。

 

 

「しばらく世間から姿を隠していたかと思いきや、頂上戦争の時以上の覇気だ。

 どうやら、ただ大人しく身を隠していたわけではなさそうだ。それに、面白い仲間を連れているな。まさか"火拳"まで一緒とは──くく、()()()は本当に話題に事欠かんな」

 

「オレの話聞いてる!?」

 

 

 目にも止まらぬ速さで衝突する薙刀と黒刀。

 

 エース、ヤマト、キャベツの3人も、ブラックと鷹の目の攻防をただ固唾を呑んで見守っている。

 

 戦っている当の本人である鷹の目はどこか楽しそうな───最高の獲物を得たかのような表情を浮かべながら黒刀を振っており、実に活き活きとした様子だ。

 

 

「さすがは五皇の1人。素晴らしいぞ、ブラック」

 

「いや、だからさ…どうしてこの島にいるのか聞いてるんだけど。なァ、何で?」

 

 

 その言葉に鷹の目は答えることなく、強烈な斬撃を飛ばしてブラックへの追撃をやめない。どうやら久々の強敵に、鷹の目の闘争本能に火が点いてしまったようだ。

 世界最強の剣士"鷹の目"ジュラキュール・ミホークは意外にも戦闘狂なのかもしれない。

 

 

()()()に答えてやろう」

 

「3日3晩お前と戦えと!?」

 

 

 こうして、"赫い皇帝"デマロ・ブラックと"鷹の目"ジュラキュール・ミホークの戦いは本当に3日3晩続いた。

 

 2人の戦いの最中、また別の来訪者が2人現れたものの、その2人が何者なのか───エースはその内の1人を知っており、鷹の目がこの島にどうしているのか、その者達の口からエース達に告げられたようだ。

 

 人知れず勃発した世界最悪と世界最強の戦い。

 

 それは、隻腕となる前の"赤髪"と鷹の目の伝説の戦いの日々を彷彿とさせる程のものだった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 クライガナ島で奇跡的に勃発した世界最悪の犯罪者と世界最強の剣士の3日3晩の大激突。残念なことに、これを知るのはほんの数人と数十匹のヒューマンドリルのみ。

 

 五皇の1人に数えられるブラックと、五皇クラスの実力者である世界最強の剣士の想像を絶する戦いに、エース達は己がまだまだ弱いことを痛感させられた。

 

 それと同時に、これが己達の船長なのだと、ブラックと共に歩めばどんな困難も必ず乗り越えられると確信し、船員の少なさなどもう気にする必要ないと思うに至ったようだ。己達も強くなればいい───ただそれだけだ。

 

 ちなみに、ヒューマンドリルをペットとして飼うことに反対意見はないだろう。

 

 

「なるほど、ヒューマンドリルをペットとして飼おうと思い、この島にやって来たと…。とんでもない物好きがいたものだな」

 

「怨念まみれのこの島を根城にしてるアンタの方が物好きだと思うんだが…あ、このワイン美味ェ」

 

 

 エース達が決意新たに、もっと強くなることを心に誓ったことなど知らず、ブラックは鷹の目と酒を酌み交わしている。

 

 体の至る所に、互いに斬り傷を作りながらも決着はつくことなく、昨日の敵は今日の友ということだろうか…。もしかしたら、今後はブラックと鷹の目の決闘の日々が幕開けするかもしれない。

 

 

「それにしても、アンタが()()()()を鍛えていたとはな」

 

「己を超える剣士を己の手で鍛える。

 これがまたなかなか面白くてな」

 

「麦わらの一味は面白い集まりだからな。アンタが期待するのも理解できる」

 

 

 それと、クライガナ島には鷹の目の他に、麦わらの一味の剣士"海賊狩り"ロロノア・ゾロがおり、1年前から鷹の目に弟子入りしているとのことだ。1年前にシャボンディ諸島で散り散りになった一味だが、冥王レイリーが言っていたように、どうやら皆が無事であろうことにホッと胸を撫で下ろしていた。ブラックにとっては、ニコ・ロビンが無事かどうかが最も心配で気になるところだろうが、ブラックの勘が大丈夫だと告げている。

 

 

「あと1年──しっかり鍛えてやってくれ。

 麦わらの一味にはオレも期待してるからな」

 

「ふッ、五皇の()()に期待される海賊か…」

 

 

 ちなみに、そのゾロは現在、キャベツに戦いを挑まれている。ゾロもキャベツの人気を霞ませてしまった憎き要因の1人のようで、敵認定されているようだ。

 

 エースとヤマトはキャベツがやり過ぎないか見張りをしつつ、ヒューマンドリル達と交流を深めており、実は覇気を使えると知り唖然としていることだろう。

 

 鷹の目とゾロの修業を見て、それを真似て会得したそうだ。恐ろしいにも程がある。

 

 

「しかし、お前が火拳を仲間にしていたのには驚いた。

 海軍と政府も、血眼になって探しているお前達がまさか一緒にいるとは想定外だろう。公になれば激震が走るぞ」

 

「だろうな」

 

 

 鷹の目がゾロを弟子にしていたことにブラックが驚いた以上に、鷹の目はブラックがエースと海賊団を立ち上げていたことに驚いていた。しかも、"百獣のカイドウ"の娘まで仲間にしていると知った時は、"()()()()()()()"と意味深な言葉を漏らしており…。

 

 

「恐ろしい海賊団だ。

 だが、ヒューマンドリルを十匹程連れてくのは構わんが、少なすぎるな」

 

 

 その一方で、鷹の目もブラック海賊団の恐ろしさは認めつつも、人数が少なすぎることは気になるらしい。ブラックのことを新しく得た喧嘩友達だとでも思っているのか、そう簡単に消えてもらっては困るようだ。

 

 

「けどこれ以上は増やしたくない。

 せめてあと2人。内1人は船医がいい」

 

「船医か…。

 ふむ、なら1人イイのがいるが──連れていくか?」

 

「え?」

 

 

 そんな鷹の目からのまさかの紹介。

 

 

「"天才外科医"ドクトル・ホグバックから医学を学んだらしく、腕は確かだ。やかましい女ではあるが、期待に応えてくれるはずだ」

 

「あの天才外科医に医学を教わったって、そりゃあ凄ェな。け、けど、いいのか?」

 

「その女が()()を果たす間のみになるかもしれんがな。そこは本人との交渉次第だ」

 

 

 大激闘の後に、ペットだけではなく船医まで…。

 

 どうやら、昨日の敵は今日の友というのは本当らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五皇の1人のお前と一緒に航海すれば、()()()()がすぐ見つかるかもしれないからな!

 だからモリア様が見つかる間だけ仲間になってやる!私のことをちゃんと守らないと許さないからな!!」

 

 

 彼女は"ゴーストプリンセス"ペローナ。元"王下七武海"ゲッコー・モリア率いるスリラーバーグ海賊団の幹部だったらしい。

 

 頂上戦争で戦死したと報道されたゲッコー・モリアが、まだ生きていると信じており、モリアを見つけ出すことを目的としているようだ。その目的を果たす為に、鷹の目からの紹介で彼女はブラック海賊団に船医として加わることを一時的に、目的を果たすまでの間ということで了承してくれた。

 

 

「安心しろ。必ず守ってやる。

 ってことで、よろしくなペローナ」

 

「そ、そんな甘い言葉に騙されないからな!

 け、けどちゃんと守れよ!!」

 

 

 5人目の仲間はツンデレ。また面白そうなのが加わった。

 

 






3日ぶりになってしまって申し訳ないです!

5人目の仲間で船医誕生となったわけですが、ペローナを船医にして仲間入りさせるのは決めてたけど、描くのに手間取ってしまった!!

天才外科医から医学教わってたらしいからね!!けど、ペローナ分かってる?ブラックはモリアを見つけ出すまでという一時的の入団を認めたけど、ブラック海賊団に入ったが最後、海軍と政府からは、君も有害因子認定されて、今までよりも人生ハードモードだよ。

ヒューマンドリルを十匹程ペットとしてゲット!
ゾロの修業見て覇気まで覚えた恐ろしいヒヒ達。多分、コイツらが船大工になってくれる。何と頼もしいペットだ!!


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世界最悪の激震



新しいライバルを得た鷹の目は七武海を辞めるかもしれない……。鷹の目が七武海入りした理由って何だ?七武海入りしたのはドフラミンゴよりも後っぽいけど。



 

 

 クライガナ島シッケアール王国跡地で世界最強の剣士"鷹の目"ジュラキュール・ミホークと3日3晩の激闘を繰り広げた後に、"天才外科医"ドクトル・ホグバックから医学を教わったペローナという可愛らしい女の子を鷹の目から紹介してもらい仲間として新たに迎え入れ、覇気を会得している10匹のヒューマンドリル達をペットとして飼うことになったブラック海賊団。

 

 新たな仲間と愉快なペット達を得たブラック海賊団は現在、"水の都"ウォーターセブンを訪れている。しかし、造船業が盛んな町として有名な都市に、"五皇"の1人がいったい何をしにやって来たのか…。さっそく"オーロ・ジャクソン号"を傷つけてしまったのだろうか…。

 

 

「ンマー、まさかトムさんが造ったオーロ・ジャクソン号に、麦わらそっくりな"赫い皇帝"デマロ・ブラックと、海賊王の息子ゴールド・エースが乗ってるとは驚きだ」

 

 

 どうやら、船が傷ついてしまったわけではないらしく、ブラックは上陸後さっそく、ウォーターセブン市長のもとにアポなし突撃していた。

 

 

「で、オレの頼み──聞いてくれるか?()()()()()()。無理を言ってるのは重々承知している。けどどうかッ、頼む!!」

 

「いいよ」

 

 

 ウォーターセブンの市長、アイスバーグにブラックは頭を下げて頼み込んでいる。五皇の1人として恐れられる大海賊がとる行動ではないが、無理を言っているのだから頭を下げるのは当然で、普通の海賊とは違うブラックだからこその行動だ。

 

 ただ、ブラックのアポなし突撃と誠意に対して、市長アイスバーグは軽いノリで了承した。

 

 

「え、いいのか?」

 

「ヒューマンドリルに船大工の技術を教え込むってのは初めての経験だが、尊敬する偉大な師匠──トムさんが造ったオーロ・ジャクソン号の整備を行う船大工を育てるなんて、弟子にとってこれほど名誉なことはない。

 師の遺産を粗末に扱われても困るしな。みっちり鍛えさせてもらう」

 

 

 ブラックの目的はヒューマンドリル達に船大工の技術を学ばせること。随分と変わったことをするものだが、実にブラックらしく、アイスバーグはそれを快く了承してくれた。それもこれも、全てはオーロ・ジャクソン号に乗っているからだろう。

 

 今のところ、真新しい海賊旗を掲げてオーロ・ジャクソン号で航海しながらも、運良く海賊、海軍、政府にもまだ遭遇していない。"凪の帯(カームベルト)"を通っているのも、その要因だろうが…。

 

 アイスバーグはどうやら、ヒューマンドリル達を鍛え上げる間、ブラック達がウォーターセブンに滞在することも、箝口令を敷き匿ってもくれるらしく、至れり尽くせり。

 

 オーロ・ジャクソン号に乗っているのもそうだが、まったく師匠様々である。

 

 

「学習能力が高く、タフなヒューマンドリルなら、相当厳しくしても問題ないだろう。オーロ・ジャクソン号に相応しい船大工に育ててやるから少し待ってろ」

 

「よろしく頼む!!」

 

 

 ヒューマンドリル達がアイスバーグの厳しい指導を乗り越え、及第点をもらったのは僅か4日後のこと。どうやら、シッケアール王国跡地で鷹の目に城の修繕作業を手伝わされていたおかげもあったようだ。

 

 ブラックはアイスバーグに感謝しながら、心の中で鷹の目にも感謝した。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 デマロ・ブラック。

 

 初頭手配額3億6000万ベリー。初頭で3億超えというだけでも異例だというのに、瞬く間に倍額の7億超え。そして頂上戦争を経て懸賞金は一気に増し20億を超え、"白ひげの後継者"として世界に名を轟かせ、多くの者達から恐れられている。

 "赫猿"、"世界最悪の犯罪者"、"赫い皇帝"と、数々の異名を持ち、世界最強格の海賊"五皇"の1人にまで上り詰めた懸賞金23億6000万ベリーの大海賊だ。

 

 ただ、マリンフォード頂上戦争後に忽然と姿を消し、極一部の親しい者を除き、ブラックの消息を知る者はいない。

 

 そんなある日、頂上戦争から1年と数ヶ月後───シャボンディ諸島でおかしな広告が出回り、デマロ・ブラックがまた再び活動を再開したと話題を呼んでいる。

 

 

 

【仲間募集。※定員1名。

 

 君もオレ達ブラック海賊団と一緒に冒険を楽しもう!

 

 腕っぷしに自信がある冒険大好きな人大歓迎!防御特化型の悪魔の実の能力者優遇!

 

 ブラック海賊団船長デマロ・ブラック】

 

 

 

 しかも、仲間を募集しているとのことだ。

 

 とはいえ、五皇の1人であるブラックがこのようなふざけた内容の募集をするだろうかと、ブラックの名前が記載された求人広告に最初こそ驚きながらも、その求人広告を信じる者はほとんど存在していないようだ。

 

 シャボンディ諸島に到達した海賊達のブラックに対する認識は、とにかく怪物であるという一言に尽きるだろう。頂上戦争で海軍大将達を相手に渡り合い、"火拳"ゴールド・エースを奪還し、同じく五皇の"黒ひげ"マーシャル・D・ティーチを圧倒した。頂上戦争でのブラックの暴れっぷりは、もはや伝説と化しつつある。

 

 だからこそ、怪物ブラックがこのような募集をするはずがないと、ほとんどの者が信じておらず、求人広告を破り捨てているようだ。五皇の1人に数えられるブラックがただの冒険好きなどとは思ってもいないだろう。

 

 

「こんなふざけた内容で来るわけねェだろ!!」

 

「アハハハハ!黒吉っちゃんらしいなァ。面白い仲間ならボクは大歓迎だよ!!」

 

「ボクの写真を載せて、ボクの名前で募集をかければ多くのファン達がやって来るぞ!!」

 

「おいッ、それよりもモリア様の情報はどうした!?」

 

 

 しかし、この仲間募集は本物だ。デマロ・ブラックがこんなふざけた真似をするはずがない───普通ならそう思う。だがらこそ、ブラックはその思い込みを逆手にとってこのような行動に出たのである。

 

 もっとも、ブラックのこの行動にエースは怒り、ヤマトは笑い、キャベツは自分を広告塔に使えと自分第一、ペローナに至っては目的第一。

 

 こんなんでブラック海賊団は大丈夫なのだろうか…。とはいえ、一癖、二癖───五癖くらいはある個性派の集まりなのだから、大丈夫も何も、これがブラック海賊団なのだと言うしかないだろう。

 

 ブラックがエースを誘い立ち上げたブラック海賊団。そこに、ヤマトとキャベツが加わり、1年の修業期間を経て、オーロ・ジャクソン号を手に入れて活動を始め、ペローナが5人目の仲間として1週間程前に加わった。ペットに海の悪魔こと"クラーケン"のダンゴと大型の海王類数匹と、覇気を会得した10匹のヒューマンドリルを飼っている風変わりな海賊団。

 

 それにしても、オーロ・ジャクソン号を手に入れルスカイナ島を出発してから約3週間。ルスカイナ島を出発し、クライガナ島に行き、そこからシャボンディ諸島へやって来るという右に左にあっち行ったりこっち行ったりと実に忙しない毎日を送っているようだが、この偉大なる航路(グランドライン)を問題なく航海できているのはさすがの一言に尽きる。しかも、シャボンディ諸島の前に"水の都"ウォーターセブンにも立ち寄ったらしく、そこで数日間ヒューマンドリル達に船大工の技術を学ばせたそうだ。

 

 本来なら、たった数日で身に付けられる技術ではないはずなのだが、超一流の船大工が指導者だったからなのか、ヒューマンドリルの学習能力が凄すぎて器用だったのもあるのか、とにかくブラック海賊団は凄腕の船大工を得ることができ、楽しい冒険に行く為の準備は整いつつあるようだ。世界遺産並の価値を持つオーロ・ジャクソン号(海賊王の母船)の船大工が人間ではなくヒューマンドリルとは───愉快にも程があるが…。

 

 きっと、()()()()()も個性の塊のはずだ。

 

 

「おい!

 "()()()"デマロ・ブラック様の名前を使って募集をかけている不届き者はどこのどいつだべッ!?」

 

「あ、面接受けに来てくれてありがとな。

 とりあえず、あまり騒いでほしくないから静かにしてくれると助かる」

 

「おいブラック。

 どっからどう見ても面接受けに来た様子じゃねェぞ」

 

 

 だが、有難いことにどんな時も期待に応えてくれるバカは存在する。ブラックの求人広告を手に持ち、声を荒げて現れた男が1人。面接を受けに来たわけではなさそうだが、決して悪い方向には転ばないだろう。

 

 

「ほ、ほほほ、本物の守護神様ァァァ!?

 ど、どど、どうして守護神様がここにいるんだべ!?」

 

 

 寧ろ、ブラックだからこそ事態が必ず好転するというべきか…。

 

 

「どうしてって…仲間募集してんだよ。

 オレが仲間募集してるのは本当だからな」

 

「ふえェェェ!?」

 

 

 仲間募集の求人広告を見て面接を受けにやって来た者ではないようだが、その様子からしてブラックに憧れ、崇拝している男であることは明白だ。

 

 事情はどうあれ、ブラックのふざけた求人広告でやって来る者が本当にいるとは思っていなかったエースは驚きつつ、その人物が何者なのか気付き、エースはブラックに手配書を手渡す。

 

 

「理由はどうあれ、こんなふざけた広告に釣られるヤツがホントにいるとはな。ブラック、コイツの手配書だ。

 1億5000万ベリー、ルーキーにしてはまずまずだ」

 

「サンキュー、エース」

 

「ほぎゃあァァァァア!!

 エ、エエエ、エース様までッ!?なして!?」

 

 

 しかも、エースに対しても様付けで、まるで好きなアイドルを前にした乙女のような反応を見せている。肉食動物のように尖った()に鬼めいた容姿、鼻ピアス、ニワトリのような髪型と、どこからどう見ても誰かに大人しく従うような人物には見えないが、ブラックとエースに対してのみは従順なのかもしれない。

 

 

「守護神様やら、エース様やらはともかく、えーっと…名前はバルトロメオか」

 

「守護神様から名前呼ばれたべ!?」

 

「あーハイハイ。

 で、お前は何ができる?能力者か?」

 

 

 そして、ブラックは面接にやって来たわけではないバルトロメオという男が嬉しさのあまり興奮しているのを軽く流し、勝手に面接を始めていく。面接を受けに来たわけではないのに、いつの間にかそのような雰囲気に変わっている。いったい何故だろうか…。

 

 

「オ、オオ、オレが守護神様の海賊団に加えてもらえるんだべか!?」

 

「腕っぷしに自信のある冒険好きで、防御特化型の能力者優遇だが──お前は何ができる?」

 

「防御特化型の能力者!?そったらオレしかいねェべ!!オレァ、"バリバリの実"の()()()()()だべ!!」

 

 

 本人の望まぬ形でいつの間にか"五皇"にまで上り詰めることになったブラックの人生は理不尽の連続。しかしその反面、()はブラックに味方しているかのようでもある。ブラックが自ら動いた時、必ずといっていいほどに望みの結果が与えられるのだ。ヤマトが仲間になった時も、ヒューマンドリル達をペットにしようとクライガナ島を訪れ、そこでペローナが条件付きとはいえ船医として加わってくれた時もそうだ。

 

 

「おーそりゃあちょうどイイ。採用。

 ブラック海賊団へようこそバルトロメオ。今日から守衛隊長な!!」

 

「や、やったべェェェ!

 守護神様とエース様の仲間になれるなんて!!」

 

「また変なの仲間にしやがった。で、ブラックのことを守護神様、オレのことを様付けで呼ぶのは何でだ?」

 

 

 新たに加わったバルトロメオは大興奮で、すっかりブラックのペースに乗せられている。いや、自ら望んで乗ったような気がしなくもないが…。

 

 エースはこんな簡単に決めていいのかと一瞬思うも、考えるだけ無駄かと思考を放棄する。ブラックの行動は、時に神の采配と思えてしまうほどに的確で、正しい結果をもたらす。それをエースはこの1年と数ヶ月の間に何度も目の当たりにしてきたのだ。

 

 それはエースだけではなく、ヤマトとキャベツも同様だ。

 

 だから、バルトロメオが仲間になることを反対したりなどはしない。ただ、疑問だけを口にする。

 

 

「守護神様ってのは頂上戦争でルフィ先輩とエース様を守り抜いた存在だからだべ!

 そしてエース様は()()()()()のお兄様だからだべさ!あァ、神様ありがとうだべェェェ!守護神様とエース様の2人に会えるなんて、オレァ世界一の幸せ者んだァ!!」

 

「おいッ、ボクはどうした!?

 この海賊貴公子キャベンディッシュ様に憧れていないはずがない!!」

 

「誰だべさ?」

 

 

 そして、ヤマトは大爆笑し、ペローナはキャベツの憐れすぎる姿に涙を流す。

 

 どうやら、このバルトロメオは麦わらのルフィに憧れて海賊になり偉大なる航路(グランドライン)入りしたのだそうだ。ルフィに憧れているということは、頂上戦争に関しても色々と調べているはずで、その過程でエースがルフィの義兄であることも知り、ブラックの存在と武勇伝も知ったはずだ。

 

 それ故に、バルトロメオはブラックを守護神と崇め称え、憧れのルフィの兄エースを様付けで呼ぶ。

 

 キャベツがそれを面白く思わず、怒り狂うのはお決まりの展開だろう。

 

 

「ブラックゥ!エースゥ!麦わらァ!

 お前達は全員ボクの敵だァァァ!やっぱりボクはブラック海賊団を抜けて、また美しき海賊団を立ち上げる!!」

 

 

 キャベツが怒り狂って脱退を口にするのもこれで何度目だろうか…。

 

 

「それ困る。キャベツがいなくなったらオレ寂しいんだけど。頼むから抜けないでくれよ。なァ!」

 

「うん、ボクもやだよキャベツ!

 いなくならないでくれよ!!」

 

「え、あ…ボクが必要…なのか?」

 

 

 もちろん、キャベツがブラック海賊団を脱退できるはずもなく、必要とされていることを実感し、お決まりの茶番劇は毎度このように幕を閉じる。

 

 

「ッ、ま、まったく仕方ないな!

 これからも必要とされてやろうじゃないか!!」

 

「よ、良かったなァ、キャベツ…必要にされてて。

 うう、頑張れェ!!」

 

 

 今回からは新たに、ペローナが憐れなキャベツを応援してくれるようになったようだ。

 

 

「頼りにしてるぜ、キャベツ!

 よーし、とにかくこれで6人!ブラック海賊団もようやく本格的に冒険できる!!」

 

 

 とにもかくにも、ブラックは大喜びだ。愉快で、超個性派の超少数精鋭ブラック海賊団。

 

 

「やったね黒吉っちゃん!

 まずどこに連れてってくれるんだィ!?」

 

「どこへでも連れてってやる!だからオレに一生ついてこいヤマト!!」

 

「うん!ボクは一生、黒吉っちゃんについていくよ!!」

 

 

 冒険大好き組は大興奮で有頂天。世界に与える影響など、微塵も考えておらず、ブラックとヤマトにとって大切なのはとにかく冒険。

 

 そんな2人の掛け合いに新加入のバルトロメオは驚きを露にして声を荒げるが、ブラックとヤマトのやり取りにもすぐに慣れるだろう。

 

 

「黒吉っちゃん!?

 守護神様!コイツ、失礼だべ!!」

 

「バルトロメオ。

 ヤマトはウチのNo.3で、ウチの姫だから失礼のないようにな」

 

「は、はいィィィ、失礼しましたべさァァァ!!」

 

 

 ただ最近、"二代目おでん"を目指しているヤマトが少し乙女になりつつあるようだ。

 

 

「や、やだなァ、黒吉っちゃん──ボクが姫だなんて、エヘヘへへ」

 

「おい、私は!?」

 

「ヤマトが姫で、ペローナはプリンセスだな」

 

「ならいい!」

 

 

 皆仲良しで、上下関係はそこまでない。ただ、女には───ヤマトとペローナには優しく、大切に扱え。これがブラック海賊団の鉄則である。

 

 

「バルトロメオ、一つ言っとくがウチの船長はカタギに手を出すことを絶対に善しとしない。

 手を出したらどうなるか──そこは絶対に破るんじゃねェぞ」

 

「はいィィィ!!」

 

「それとボクより目立つな。これがブラック海賊団の()()()()だ」

 

 

 残す二つは、とにかくペットは可愛がれ、そしてオーロ・ジャクソン号をとにかく大切に…。

 

 

「あ、そういえばバルトロメオ。

 ウチ、定員1名だけど大丈夫なのか?」

 

「守護神様の命令は絶対だべ!

 それに、オレが抜けてもアイツらは大丈夫だべさ!!」

 

「そうか、ならいい。

 さァて、バルトロメオも加わったことだし、冒険に行くぞォォォ!!」

 

 

 ブラック海賊団、出航。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャボンディ諸島を出航し、ブラック海賊団が目指すのは偉大なる航路(グランドライン)の入り口"リヴァース・マウンテン"である。

 

 海賊団を立ち上げ、船長ブラックを含む6人とペットが揃って準備万端。心機一転ならね、ブラック海賊団としての旅立ちを最初から始めようということで、逆走しているのである。

 

 だが、ブラック海賊団の出航を邪魔する不粋な輩が存在した。

 

 もっとも、このような事態になってしまうのは当然のことで、その輩達にとってブラック海賊団の結成など許されるものではないのである。

 

 

「久しぶりじゃのォ、"赫猿"デマロ・ブラックゥゥゥ!!」

 

「おいおい、マグマの犬っころじゃねェか。()()()()がこんなとこで何してんだよ?」

 

「お前がシャボンディ諸島で仲間探ししとるっちゅう情報をつかんでのォ。その真意を確かめる為にシャボンディ諸島に向かっとるとこだったんじゃが、その途中で運良く貴様を見つけたっちゅうわけじゃ」

 

 

 その中でも、海軍本部大将・赤犬は黄猿と並んでブラックに対して並々ならぬ敵意を持っている。いや、殺意と言った方がいいかもしれない。

 

 赤犬の他、軍艦が5隻。嘘か誠か真意を探る為とはいえ、相手が五皇の可能性ありとなればこれくらいの戦力を動かすのは当然。寧ろ少なかったかもしれない。

 

 

「まさか"火拳"も一緒におるとは──嬉しい誤算じゃ。あの時(頂上戦争)の借り、何倍にもして今ここでしっかりと返させてもらうけェのォ!!」

 

 

 赤犬は頂上戦争でブラックに為て遣られて以来、ブラックを排除することに燃えていた。海軍元帥への昇格チャンスを捨ててまでだ。デマロ・ブラック殲滅専門部隊を設立し、この1年と数ヶ月、新世界含む偉大なる航路(グランドライン)の各地を周り、多くの海賊を殲滅しながらブラックを探し回っていたのである。

 

 そしてようやく、憎き敵と再会した。

 

 この瞬間をどれだけ待っていたことか…。赤犬は今、歓喜に打ち震えて歪な───あまりにも禍々しい笑みを浮かべている。その形相はとても弱きを助け、平和を守る海兵とは思えない。

 

 

「初陣からしつこい奴に当たっちまったなァ。

 まァ遅かれ早かれこうなってただろうし仕方ないか…。つーか、フルフル震えながら笑われると怖ェな」

 

 

 こうして、デマロ・ブラックが"火拳"ゴールド・エースを仲間に迎え入れ、海賊団を立ち上げたことがついに明らかになってしまった。

 

 ブラックももう隠す気はなく、これからは派手に暴れることだろう。しかもここは海上で、一般人への被害はまったく心配する必要がない。

 

 

「エース、ヤマト、キャベンディッシュはオレに続け!

 バルトロメオッ、バリアで"オーロ・ジャクソン号"を覆え!絶対に傷つけんじゃねェぞ!

 ペローナはオーロ・ジャクソン号に残って援護に回ってくれ!一郎から十郎(ヒューマンドリル達)は待機!バルトロメオのバリアが破られたら飛ぶ斬撃を放ちまくれ!!」

 

 

 海軍と世界政府がついに最悪の海賊の誕生を知り、かつてない激震が走る。

 

 

 






少数精鋭のブラック海賊団に必要な最後の仲間は船大工でも音楽家でもない。

守衛と書いて舎弟と読むニワトリだァァァ!!

オーロ・ジャクソン号をバリアで覆って守り、ペローナの護衛を任される!書いてて思ったけど、バルトロメオがバリア張って、ペローナがネガティブホロウで攻撃する。本来はバリアの内側から攻撃はできないけど、ペローナの攻撃はバリア関係ないだろうから、何気に強力なコンビ結成??


久しぶりに赤犬参上!
海軍でも世代交代があったとけども、原作通りに赤犬が元帥になったとは言ってない。
新元帥は、それは──クザン元帥だ!!

赤犬を押した人達も多くいて、青雉も赤犬を元帥にさせまいとやる気を出した←ここまでは一緒。けど、ここからが違って赤犬は元帥になることを拒否!何故なら、元帥になったらおいそれとブラックとエース追えないし!現場に出れる回数減るし!!ってなことで大将のまま。

クザン「おかしいな…こんなはずじゃなかったんだが」

赤犬は頂上戦争前よりも派手に海賊殲滅を行ってる模様。クザン元帥の胃が痛い。

クザン改革で、世界徴兵を行い大将を1人増やして4人に。


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ブラック海賊団の総合賞金額(トータルバウンティ)



赤犬はこの1年、海賊殲滅を行いながら鍛え直していたんだろうなァ。山をサンドバッグにして…。



 

 

 マリンフォード頂上戦争後、海軍は新元帥クザン(元大将・青雉)による改革で世界徴兵を行い、更なる強力な軍隊へと進化した。

 

 それまで3人だった大将の枠も一つ増やされ、現在は四大将となっている。

 

 黄猿、藤虎、緑牛、そして赤犬。

 

 五皇時代の到来と共に、海軍も大きな変革の時を迎えたのだ。

 

 大将・赤犬は、頂上戦争後に新たな部隊を設立し、それまで以上に徹底的に海賊殲滅を行っていた。そんな赤犬の最大の標的は、頂上戦争をきっかけに"五皇"の1人にまで上り詰めた"赫猿"デマロ・ブラック。

 

 頂上戦争で赤犬が為て遣られた憎き大海賊。

 

 そのブラックが1年と数ヶ月ぶりにようやく姿を現し、しかも頂上戦争にて処刑に失敗し、取り逃がした"火拳"を連れて運良く己の目の前にいる。

 

 

「この時をどれだけ待っとったか──地獄見せちゃるけんのォ赫猿ゥゥゥ!!」

 

「おーおー、大興奮しちゃって…暑苦しいったらありゃしねェ」

 

 

 宙を飛ぶブラックと、宙を駆ける赤犬。

 

 その2人の拳が黒く染まり激突する。

 

 シャボンディ諸島近くの海域にて、五皇の1人"赫猿"デマロ・ブラックと海軍大将・赤犬の激闘が幕を開けた。

 

 

「この1年と数ヶ月何しとったんじゃあ!?」

 

「修業と仲間集めだな。あ、それとまだ言ってなかった。

 オレ、海賊団立ち上げたんだよ。

 あ、船長はオレで、エースが副船長だから」

 

「ほォ、なら遠慮なく潰させてもらうけェのォ!!」

 

 

 赤犬の今の様子を、前元帥センゴクやセンゴクと共に海賊王ロジャーや白ひげ達と激闘を繰り広げた海兵達が見たら、きっと口を揃えてこう言うだろう。

 

 海賊王ロジャーを追っていた"英雄"ガープのようだと…。

 

 赤犬が掲げる"徹底的な正義"、思想はガープよりも遥かに危険ではあるが、ガープもガープで一度戦い始めたら味方への被害───軍艦を何隻も破壊してしまうなど被害が甚大だったそうだ。

 

 この1年と数ヶ月、赤犬が徹底的に海賊を殲滅し、ブラックを追う姿はかつてのガープと重なって見えていただろう。軍艦も何隻破壊してしまったことか…。

 

 間違いなく、今日も軍艦が破壊されてしまう。いや、今日は絶対に、必ず。

 

 赤犬は今、いつになく、かつてないほどに意気揚々としている。

 

 

「ロジャー海賊団の"オーロ・ジャクソン号"に似た船にまで乗りおって!!」

 

「似た船じゃなくて本物だから。オレが、オレ達が──オーロ・ジャクソン号を受け継がせてもらったんだ」

 

「な、何じゃと!?」

 

 

 だが、ブラックの口から衝撃的な真実が語られたことで、赤犬の表情が豹変した。オーロ・ジャクソン号に似ているのではなく、ロジャー海賊団の母船オーロ・ジャクソン号にブラックと、海賊王の息子ゴールド・エースが乗っているのだ。驚くのも無理がなく、その衝撃的な真実に赤犬の表情が醜く歪み、額に青筋を立て、怒りを爆発させる。

 

 

「とりあえず、オレ達ブラック海賊団──以後よろしく?」

 

「以後などあるかァ!

 貴様ら全員、船もろとも海の藻屑にしちゃる!!」

 

 

 何としても、ブラック海賊団をこの場所で殲滅しなくてはならないと、赤犬の闘志に更なる熱い火が点いてしまった。寧ろ、赤犬だけではない。海軍の誰もが間違いなくそう思うはずだ。赤犬の部隊に属している海兵達なら尚のこと。

 

 

 

 

 

灰塵吹雪(かいじんふぶき)

 

 

 

 

 

 ブラックを鋭い視線で睨みつけながら、赤犬は空中で腕を一振りする。

 

 

「ん?怒ってるわりには──ッ!?

 お前らッ、()()()()()()()()()()

 "見聞色の覇気"を全開にするんだ!!」

 

 

 ただ、さすがは大将というべきか…。心は激しく熱く燃えていても、頭はしっかりと冷えている。

 

 そして、赤犬の行動の真意を理解したブラックは、すぐにエース、ヤマト、キャベンディッシュの3人に指示を出す。

 

 

「ちィ…。

(海兵達は全員()()()()()()()()してやがる)」

 

 

 赤犬の技にしては派手さはまったくない。しかし、この戦いの場に於ては厄介極まりないだろう。

 

 

「よぉ気付いたのォ。儂が何をしたか、何を()()()()()か」

 

 

 灰色の何か───"火山灰"が舞っている。

 

 火山灰は吸ったとしても死ぬことはない。喘息や気管支炎など慢性の肺疾患がある者や、重篤な心疾患がある者は、症状が悪化する場合があるが…。

 だが、火山灰を吸うと一時的に多くの咳が出たり、鼻、喉に不快感を感じるだけではなく、目に入ると痛み、痒み、充血まで起こす場合もあり、一瞬の油断が命取りになる戦いの場に於ては、死に直結してしまう。

 

 

「儂相手に目を瞑ったまま戦うつもりか…」

 

「ん!!(当然!!)」

 

「舐められたもんじゃのォ」

 

 

 口を押さていることで片腕が封じられ、目を閉じていることで視界まで封じられ、見るからにブラック達は圧倒的な不利な状況に陥ってしまっている。

 

 しかし、ブラック達は視界を封じられようとも、その程度で負けるなど決してありえない。1年間の修業でみっちり鍛え上げられた覇気───"見聞色の覇気"は、視界を封じられたハンデなどものともしない。それはブラックだけではなく、エース、ヤマト、キャベツの3人も同じくだ。

 

 

「あの3人とも、覇気の扱いに長けとるようじゃのォ。忌々しいにも程がある」

 

 

 ブラック海賊団は量より質の海賊団。超少数精鋭だが、個々の実力はとんでもなく高く、特に四強───ブラックは言うまでもないが、エース、ヤマト、キャベツの3人の実力もとんでもない。

 

 この程度で、ブラック達が殺られるはずがない。

 

 

「ふんッ──そうじゃろうのォ」

 

 

 赤犬がこのような物言いをするとは実に珍しい。裏を返せば、この程度の力しかない(海賊)を、必死に死に物狂いで追い続けているはずがないと言っているかのようでもある。

 

 憎き敵ではあるが、赤犬は誰よりもブラックの力を認めているのではないだろうか…。そして、ブラックを排除するのは己だと、己の手で必ず排除すると己自身に常に言い聞かせ、己を奮い立たせているのだろう。

 

 

「貴様が目を瞑っておっても、儂は手加減せんけェのォ!」

 

 

 

 

 

火成岩獄(かせいがんごく)

 

 

 

 

 

「おいおい、マグマは効かッ──うおッ、何だこりゃあ!?」

 

 

 そして、ブラックに対しての怒りを、赤犬がついに爆発させ、発散させる。

 

 

「油断しおって!

 地獄見せちゃる言うたじゃろうがァァァ!!」

 

「ぐッ、こ、このッ」

 

 

 赤犬が放ったマグマ───マグマかと思いきや、ブラックを包み込んだ瞬間に、火成岩へと変貌してブラックの首から下をがっちりと固めて身動きを封じ、赤犬はその隙を突いて覇気を纏った拳で怒濤のラッシュをブラックの顔面に叩き込む。

 

 

「何発殴っても足りんのォ!!」

 

「ぐあッ!!」

 

 

 下は海。能力者の力を封じる海楼石ではなく、赤犬が作り出した火成岩で動きを封じられているだけで、ブラックはどうにかその状態でも宙に浮くことができているが、赤犬の怒濤のラッシュが続き危機的状況にある。

 

 赤犬が以前から火成岩を作り出すことができたかは不明だが、ブラックは完全に隙を突かれてしまった。ブラックを執拗に殴る覇気を纏った拳はとてつもなく重く、強く、赤犬の体術のレベルが頂上戦争時に比べて格段に上がっており、ブラックはそれを嫌というほど現在進行形で味わってしまっている。

 

 

「黒吉っちゃん!?」

 

 

 ブラックが追い込まれているのを初めて目にしたヤマトは、動揺してブラックを助け出そうと宙を駆けて救助へと向かおうとしており、他の海兵に背を向けてしまう。

 

 船長が危機的状況に陥り、崩れかけるブラック海賊団。

 

 

「ヤマトォォォ!!」

 

「ッ!?」

 

 

 だが、ブラック海賊団は───ブラックがこの程度で殺られるはずがない。この程度、ブラックにとって危機的状況などではない。

 

 ブラックがヤマトの名を叫ぶと、ヤマトは驚いて動きを止める。いや、驚いているのは確かなのだが、名前を叫ばれただけなのにブラックの気迫を恐れてるというべきか…。ブラックがヤマトに向ける気迫はまるで、海兵に背を向け船長の心配をするなど烏滸がましいと言っているかのようだ。

 

 

「ヤマト、お前はクソッタレの()()()──カイドウを何としても倒すつもりなんだろ?

 だったら、この程度で慌ててんじゃねェよ。

 それに、オレを誰だと思ってる?お前の船長だぞ、オレは。殺られやしねェよ、絶対にな」

 

「!

 カイドウの──娘?」

 

 

 すると今度は、ブラックは口角を上げて火山灰を吸ってしまうのもお構い無しに優しい声音でヤマトを落ち着かせると、攻守交代と言わんばかりに行動に出る。

 

 ヤマトがカイドウの娘だという、非常に聞き捨てならない言葉を聞いた赤犬に一瞬の隙ができてしまう。その隙を、ブラックは決して逃さない。

 

 

「ふんッ!

 ヤマト、エース、キャベンディッシュ──しっかり踏ん張ってろよォォォ!!」

 

「!?

 巨大化かッ!!」

 

 

 

 

 

神風(かむかぜ)

 

 

 

 

 

 巨大化して火成岩の拘束から逃れたブラックは左右の腕を交互に振り抜いた。そしたらどうだ。激しい風が発生し、それだけで火山灰を払い除けてしまう。それどころか辺り一面、オーロ・ジャクソン号と軍艦、海面をも大きく揺らしている。

 

 

「ぐおォォォ!?」

 

 

 あまりにも激しい風に赤犬も吹き飛ばされ、体勢を立て直すこともできずに軍艦の甲板に激突する。災害級───いや、もはや災害そのもの。自然(ロギア)系の能力者も、間近で発生した災害(神風)は受け流すことはできなかったようだ。

 

 

「そのまま海に落っこちてれば良かったのにな」

 

「くッ、やってくれたのォ、ブラック!風まで操りおってからにッ──どんだけ忌々しいんじゃおんどりゃあ!!」

 

「イイ感じに苛立ってんな赤犬。

 !…あー、そして()()()()()()なァ」

 

 

 

 

 

鳴鏑(なりかぶら)

 

 

 

 

 

「ごふッ!?」

 

 

 見聞色の"未来視"で未来を視たブラックが首を少しずらすと、追い討ちをかけるように、怒り狂った赤犬の顎に気弾のようなものが直撃した。自然(ロギア)系の赤犬に直撃し、ダメージを与えたということは覇気を纏った攻撃なのは明確で、その一撃に苦しむ赤犬の様子からも相当強力な一撃だったのが窺える。

 

 

「ぐッ、こ、この──()()がッ!」

 

「黒吉っちゃーーーん!」

 

 

 そして、赤犬に強力な一撃を叩き込んだヤマトで、そのヤマトは怒り狂う赤犬などお構い無しに、ブラックに後ろから抱きついていた。

 

 

「黒吉っちゃん、ごめんよォォォ!

 ボク、黒吉っちゃんが一方的に殴られてるのなんて初めて見てッ、それで動揺しちゃって!!」

 

「1年ぶりの本格的な戦いだったから、ちと油断しちまってたかもしれねェ。すまねェな、心配かけて。けど、もう大丈夫だ。さて、さっさと片付けて冒険に行くか!」

 

「うん!!」

 

 

 ブラックに注意されたのを気にしていたのか、ヤマトは不安げな表情でブラックを見ていたが、いつものブラックだと安心し、可愛らしい花笑みを浮かべながら強く頷く。

 

 

「ッ、逃がすと思うとるんか!?」

 

「ああ。被害はそれなりに与えた。だから、あとは逃げる!それに、早く冒険行きたいから()()はここまでだ」

 

「ボク達の邪魔をしないでくれ」

 

 

 ブラック海賊団は───主にブラックとヤマトだが、常に冒険が最優先事項なのだ。1年と数ヶ月も冒険を我慢していたのだから早く冒険に行きたくて仕方がなく、赤犬の相手をこれ以上するつもりなどまったくないらしい。

 

 

 

 

 

超美剣・黄金雷鳥(ゴールデンサンダーバード)

 

 

 

 

 

「ふははははッ!どうだボクの美しい剣技は!?

 ボクにかかれば軍艦を一刀両断するのも容易いぞ!!」

 

 

 名刀"デュランダル"を振り下ろしただけではあるが、キャベツは目にも止まらぬ剣技で軍艦を真っ二つに両断し、逃げる準備は万端だ。いや、キャベツは派手に目立つのが目的だろう。

 

 どうやら、キャベツはブラックのことをまったく心配していなかったらしく、それでも指示には従い、久々の海軍との戦闘に浮かれて暴れていたようだ。

 

 

「ブラック、()()()()だぞ」

 

「おー、ありがとなエース」

 

 

 エースは下半身を炎にし、炎を噴射して上空を旋回することで何やら下準備を行っていたらしく、その準備がたった今、終わったところのようだ。

 

 

「火拳、おどれ──まさかッ!?」

 

「へッ、借りは返させてもらう」

 

 

 不敵な笑みを浮かべるエース。すると、その海域の上空が突如分厚い雲に覆われる。

 

 エースが上空を旋回していたのはこれが理由だ。大気を急激に暖め、上昇気流を発生させて()()()を作り出す為だ。

 

 雷鳴が、ブラック海賊団の出航を祝うかのように豪快に鳴り響く。

 

 

「ブラックの雷には劣るかもしれねェが…」

 

 

 エースはポツリとそう呟くが、これはエースが意図的に作り出した積乱雲とはいえ、天から降る雷。

 

 その威力がブラックの雷に劣っていることなど───正直なところ、ブラックならそれがありえてしまうからエースはそう口にしたのだろう。まさしく天災。それが"五皇"なのだ。

 

 とはいえ、エースも着実にその領域に迫りつつあるのだから恐ろしいものである。

 

 

「食らいやがれ」

 

 

 

 

 

火雷(ほのいかづち)

 

 

 

 

 

 エースが意図的に作り出した積乱雲から、まるで導かれたかのように、赤犬に向けて雷が落ちる。

 

 

「ぐおォォォォォ!!」

 

 

 ヤマトの強烈な一撃を受けた後に、慈悲なきエースの雷が落ち、さすがの赤犬もかなりの大ダメージを受けたはずだ。ただ、これでも死なないのが大将で、四大将の中でも異常なタフさの持ち主である赤犬は決して倒れない。

 

 

「相変わらずタフだなァ。

 けど、オレ達もう行くから──またな、赤犬。

 いつでもオレを追いかけてこい。楽しい冒険には困難が付き物。マグマも楽しい冒険をより楽しくする為のスパイスってな!」

 

「ぐ…く、クソッ…タレ…がァ。

 逃がさんぞッ、ブラックゥゥゥ!!」

 

 

 拳を巨大なマグマに変化させ、ブラック達目掛けて噴出する。頂上戦争で超巨大な氷塊を一瞬で蒸発させ、跡形も無く消し去ってしまう大技だ。

 

 しかし、ブラックにマグマは効かない。

 

 況してや、そう簡単に船長(キング)を取れるはずがない。

 

 

「懲りねェなァ。ヤマト、エース、オレの後ろ…ん?」

 

「オレがやる。船長は大人しくしとけ」

 

「くく、じゃあ任せた──エース」

 

 

 ブラックの手を煩わせまいと、エースが前に出る。頂上戦争では、まったく歯が立たなかった大将だが、今はもう違う。頂上戦争で失ったはずの左腕が炎で形成され、その炎は白く燃えている。エースの成長を強く物語っている。

 

 エースの代名詞でもあるこの技が、更なる進化を遂げて日の目を見るこの瞬間を、きっと"白ひげ"も喜んでいるはずだ。

 

 頂上戦争から1年と数ヶ月の時を経て、大復活だ。

 

 

「うおォォォォォ!!」

 

 

 

 

火拳

 

 

 

 

 

 シャボンディ諸島付近の海域で勃発したブラック海賊団と海軍大将・赤犬率いる艦隊の大激突。

 

 軍艦3隻が破壊され、怪我人は多く。ただその反面、奇跡的に死者は0人。

 

 大将・赤犬も負傷し、たった6人の超少数精鋭の海賊団が勝ち逃げした。

 

 受けた損害は大きく、そしてブラック海賊団の存在に海軍と政府は更なる被害を受けることだろう。

 

 世界に大激震が走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラック海賊団と赤犬率いる艦隊の激突から2日後。

 

 ブラック海賊団の存在に世界は大騒ぎだ。

 

 

「どういうことだァァァ!!

 ヤマトが何故ッ──デマロ・ブラックと一緒にいやがる!?」

 

 

 五皇の1人"百獣のカイドウ"がナワバリとする新世界"ワノ国"では、カイドウが本拠地"鬼ヶ島"で荒れていた。

 

 1年と数ヶ月前に忽然とワノ国から姿を消し、一向に行方が掴めなかった娘が、まさか"白ひげの後継者"ブラックと共にいたなど、カイドウも予想外だっただろう。

 

 だが、ブラック海賊団の存在に驚いている五皇はカイドウだけではない。

 

 カイドウの娘が仲間であることも十分に驚くべきところだが、ブラック海賊団はそれだけではないのだ。

 

 

「ブラック海賊団の母船が"オーロ・ジャクソン号"?

 副船長がロジャーの息子で、カイドウの娘に、"金獅子の再来"まで乗ってる?

 次代の海賊王は間違いなくブラックゥ!?

 ふざけんなァァァ!海賊王になるのはオレだよッ!!」

 

 

 同じく新世界"ホールケーキアイランド"。

 

 ホールケーキアイランドの女王でもあり、五皇の紅一点"ビッグ・マム"シャーロット・リンリンは、ブラックが次代の海賊王だとデカデカと記載された記事に大激怒し、癇癪を起こしている。

 

 

「ブラック…新参者の皇帝。

 ふんッ、本当の海の皇帝が如何に恐ろしいか、オレの力をその身にたっぷりと味あわせてやろうじゃないかィ」

 

 

 カイドウとビッグ・マム。ブラックがこの2人の標的になってしまった。

 

 もっとも、これも必然。遅いか早いか…。ただそれだけのことでしかない。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 冒険を最初から始める為に偉大なる航路(グランドライン)の入り口"リヴァース・マウンテン"を目指すブラック海賊団。

 

 

「う、ウソだろォォォォォ!!」

 

 

 海軍大将・赤犬率いる艦隊との激闘から2日───ペローナが絶叫する。

 

 ただ、絶叫しているペローナを余所に、キャベツとバルトロメオは大興奮しており、その一方でヤマトは複雑な表情を浮かべ、ブラックとエースは最初からこうなるのを読んでいたのか、大して驚いてはいない。

 

 

「わ、私ッ、()()()になっちゃってるじゃねェか!しかも()()()()()って、モリア様よりも懸賞金上じゃないか!!」

 

「まァ、ペローナの能力考えたら妥当かもな」

 

 

 ペローナは先の激闘で、オーロ・ジャクソン号内から援護をしていた。最初は、相手が大将・赤犬だということもあり怯えていたようだが、バルトロメオのバリアのお陰で外からの攻撃を一切気にする必要のない状況に安堵したのか、ブラック達の強さを目の当たりにして余裕ができたのか、それからは楽しそうに援護していた。精神攻撃に衝撃波と、防ぎようのない攻撃に多くの猛者達が心を折られただろう。

 

 ブラック海賊団に加わったのだからこうなるのは当然で、何もおかしくはない。寧ろ、楽しんで援護していたのだからペローナの自業自得である。

 

 

「やったべぇぇぇ!

 ブラック海賊団の一員になって、懸賞金が3億超えたべさッ!!」

 

 

 オーロ・ジャクソン号を守ることにのみ徹していたバルトロメオは、その鉄壁のバリアで見事にオーロ・ジャクソン号を守り抜いてみせた。長時間バリアを維持するのは難しく、しかもオーロ・ジャクソン号を覆うほどのバリアだったこともあり、戦闘後は疲れ果ててブッ倒れていたが…。

 その防御力の高さから、2億増しの3億5000万ベリー。異名も人食いから、"絶対防御(ガーディアン)"になっている。

 

 

「ハッハッハ!

 ボクの時代が再びやって来たぞ!8億を超えたぞ!"金獅子の再来"キャベンディッシュの時代到来だ!!」

 

 

 軍艦を真っ二つに一刀両断して暴れ回っていたキャベツは、長い金髪と強力な剣術───その様が全盛期の金獅子のシキを彷彿とさせたらしく、3倍増しで世の女達を再び虜にしていることだろう。

 

 ただ、ペローナが絶叫し、キャベツとバルトロメオが盛り上がっているなか、ヤマトは浮かない顔をしている。

 

 ペローナと同じく、賞金首の仲間入りを果たしたヤマト。懸賞金10億8100万ベリー。

 初頭で10億超えという前代未聞の額だが、その理由の1つがヤマトの父親で、それがヤマトの表情を曇らせる理由でもある。"百獣の娘"。ヤマトがカイドウの娘であることが発覚したのだ。

 

 もっとも、その原因はブラックなのだが…。

 

 

「遅かれ早かれ、こうなるのは分かっていたし、覚悟してたんだけどな」

 

 

 海賊王ロジャーの息子であることが発覚し、頂上戦争後に懸賞金が倍増しされた時のエースと同じだ。

 

 ただ少し違うのは、ヤマトが初頭で10億超えという点だ。その点に関しては、ヤマトと戦った海兵達と、ヤマトに一撃を食らわされた赤犬が、それだけの力があると報告したからだろう。懸賞金額の高さは、単に金額が強さに正比例するわけではないが、ヤマトの場合はエースと同様に、ブラック海賊団に所属しており、高い実力を持ったカイドウの娘という3つの条件が合わさっての額だ。

 

 

「でも、ボクはもう気にしない!

 次に懸賞金が更新された時、カイドウの娘ヤマトではなく、ブラック海賊団のヤマトとして──二代目おでんとして世界に名を轟かせるんだ!!」

 

 

 次はいったい、どれ程の懸賞金額になるのか…。

 

 そして、一番気になるのはこの2人だ。

 

 ブラック海賊団副船長、"炎鬼"ゴールド・エース。懸賞金22億1100万ベリー。

 

 

「ルフィ、さっさと高みへ来いよ。

 じゃねェと、置いてっちまうからな」

 

 

 火拳から炎の鬼へ…。

 

 

「それにしても、五皇らしくなってきたな──船長」

 

「お前もな──副船長」

 

 

 ブラック海賊団船長、"赫猿"デマロ・ブラック。懸賞金36億3600万ベリー。

 

 ブラック海賊団の"総合賞金額(トータルバウンティ)"85億1800万ベリー。たった6人の超少数精鋭。しかし、間違いなく世界最悪の海賊団だ。

 

 

 






戦闘回。久しぶりに描いた気がする。

派手派手な技がほとんどの赤犬だけど、地味だけど凶悪な技もある。

灰塵吹雪
火山灰を撒き散らしす。吸ってしまった者は一時的に咳が止まらなくなり、目に入ると痒み、痛みに襲われ戦闘に支障をきたす。赤犬部隊はゴーグルとマスク常備。

火成岩獄
マグマを固めて火成岩を生成。珍しく捕縛技。大将なら、大将だからこそそんな芸当もできるって思っておいて。
ブラックの首から下を岩石で固めて動きを封じて、覇気纏った拳でラッシュ。

マグマグの実、鍛えればきっとこんなこともできるはずだ。


風を発生させたブラック。
ハヌマーンって風神ヴァーユの息子だからね。カイドウも鎌鼬とか、竜巻放ってるし。やっぱ幻獣種って恐ろしいね。カイドウと違うのは、カイドウは天候すらも操ってるっぽいけど、ブラックは自分で発生させている。クロコダイルみたいに龍巻もできるけど、あくまで自分で発生させる。けど、その威力が災害。


火雷(ほのいかづち)
エースくん、下半身のみを炎にして炎を噴射して飛行可能。それで上空を旋回し、大気を急激に暖めて上昇気流を発生させて積乱雲を作り出すしてのエース流の雷!
覚醒したら、わざわざ上空旋回しなくても積乱雲なんて簡単に発生させることできそうだなぁ。
でも、新世界にはライジン島ってのがあるから、大将にとっては雷なんてスタンガンみたいなもの?


強くなったキャベツは軍艦も一刀両断!
超美剣・黄金雷鳥(ゴールデンサンダーバード)
ただ振り下ろしただけ。けど、めっちゃ早くて斬れ味半端ない。


晴れて全員賞金首になったよ!

バルトロメオの異名変えてみました。
"絶対防御(ガーディアン)"


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ブラック海賊団の始まり



バルトロメオの異名を変更しました。
あっちは落としたら割れる陶器みたいな硬さだろうけど、鉄壁をパールさんから奪うのもなぁ~と思い。

絶対防御(ガーディアン)でございます。バルトロメオには似合わないって言わないでね。



 

 

 島が、海が、()()()()と大きく揺れている。

 

 

「ついに出てきやがったか()()()()ッ!!」

 

 

 場所は新世界───"海賊島"ハチノス。

 

 ドクロの形をした巨大な岩が特徴で、海賊達の楽園とも称されており、"デービーバックファイト"発祥の地として広く知られている。現在は、五皇"黒ひげ海賊団提督"マーシャル・D・ティーチが拠点としている島だ。

 

 

「五皇時代が本格的に盛り上がってきやがったぜ!!」

 

 

 数ヶ月前、不死鳥のマルコ率いる白ひげ海賊団の残党、傘下海賊と黒ひげ海賊団の間で勃発した"落とし前戦争"に黒ひげが勝利し、その結果黒ひげが海の皇帝の仲間入りを果たしたことで到来した五皇時代。

 

 その落とし前戦争から数ヶ月が経過した今、落とし前戦争以上の話題が世界を騒がせている。たった数ヶ月でこれだけ大きな事件が立て続けに起きるとは、恐るべき大海賊時代だ。

 

 

「まさかエースが副船長になってるとはなァ!しかも、怪物カイドウの娘に金獅子の再来、さらにはオーロ・ジャクソン号!

 面白くなってきやがったぜッ、ゼハハハハ!!」

 

 

 かくいう黒ひげも、その話題に興奮している1人だ。いや、もしかしたら誰よりも興奮しているかもしれない。

 

 五皇"赫猿"デマロ・ブラックが海賊団を立ち上げ、海軍大将・赤犬率いる艦隊と激突し、勝ち逃げ。たった6人の超少数精鋭でありながらも、個々の実力が高く戦力はあまりにも強大でロジャー海賊団を彷彿とさせる。元々賞金首だった4人が懸賞金を上乗せされ、残り2人も新たに賞金首の仲間入りを果たし、船員全員が3億を超える高額賞金首という恐ろしい海賊団だ。しかも、船長ブラックと副船長エースに、ヤマトとキャベンディッシュを含む四強の総合賞金額(トータルバウンティ)が、五皇の紅一点"ビッグ・マム"シャーロット・リンリン率いるビッグ・マム海賊団の船長ビッグ・マムと大幹部"四将星"の5人の総合賞金額と比べてもほとんど大差がなく、その事実がブラック海賊団の恐ろしさにより拍車をかけている。

 

 

「"王"の座をかけた──選ばれし強者共の潰し合いの幕開けだ!

 さっさとオレのもとに来いッ、ブラック!

 オレはテメエをブッ殺したくてウズウズしてるんだからよォ!ゼハハハハハ!!」

 

 

 何かとブラックと因縁のある黒ひげは、新世界でブラックを待ち構えている。

 

 三度目の正直で、次こそはブラックを完膚なきまでに叩き潰し、消し去るつもりだ。

 

 ただ、ブラックの首を狙う者は黒ひげだけではない。ブラックを執拗に追う海軍大将・赤犬他、ブラック海賊団を何としても排除したい政府と海軍。次代の海賊王とまで噂される新参者の皇帝の誕生に怒り狂うビッグ・マム。娘を奪われたカイドウ。

 

 ブラックを中心に、五皇時代が大きく荒れ狂う。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 赤い土の大陸(レッドライン)にある聖地・マリージョアの真下付近、海底1万mの位置に存在する海底の楽園"魚人島"。

 

 頂上戦争で戦死した"白ひげ"エドワード・ニューゲートがナワバリとしていた島で、白ひげ亡き現在は左目に3本の傷が描かれた海賊旗が掲げられ、五皇で一番の穏健派と称される"赤髪のシャンクス"がナワバリとして守護している。

 

 白ひげを失った白ひげ海賊団達の残党達が、自分達では守護できないからと、敵ではあるが信頼できる赤髪に譲り渡したのだそうだ。

 

 魚人島"リュウグウ王国"のネプチューン国王もそれを了承し、頂上戦争後も魚人島の平和はどうにか守られているのだそうだ。

 

 

「すまんのォ、赤髪」

 

「気にするな、()()()()

 前にも言ったが、ネプチューンとはロジャー海賊団にいた頃からの顔馴染みだからな」

 

 

 その魚人島の南東の深海にある、サンゴが美しく広がる"海の森"で、五皇"赤髪のシャンクス"と"海侠のジンベエ"が酒を酌み交わしており…。

 

 

「お前さんのおかげで魚人島の平和は守られておる」

 

「オレも魚人島が好きだ。荒らされてもらっちゃあ困る。まァ、オレはもう()()()()ってところか?」

 

「ワハハハハ。

 随分と派手な帰還じゃ、エースさん、ブラック」

 

 

 ブラック海賊団が活動を始めた。その記事と、新しい手配書を酒の肴に赤髪とジンベエは頬を緩ませている。

 

 

「白ひげもきっと喜んでるだろうぜ」

 

 

 赤髪が口にした"御役御免"とは、赤髪は魚人島を別の者に引き継がせるつもりなのだろう。あくまで自分は、今この瞬間までの代理だったと言わんばかりだ。

 

 魚人島が赤髪のナワバリではなくなる。だが、赤髪はそれを喜んでおり、嬉しそうに酒を呑んでいる。

 

 もっとも、白ひげ海賊団の残党達から譲り渡されたとはいえ、実際のところは期間限定的な譲渡で、正式に譲り渡されることになる者達は他に存在していたようだ。

 

 

「エースさんは、きっともう大丈夫じゃな」

 

 

 白ひげの死後、一時は荒れていたエースを近くで見ていたジンベエは、更新されたエースの手配書を片手に瞳が潤み、感慨深い様子ではあるが、大きく喜んでいる。

 

 

「魚人島はブラック海賊団のナワバリになる」

 

 

 白ひげの意思を受け継ぐ者達───ブラックとエースこそが、不死鳥のマルコ他残党達に魚人島を託されていたのだ。

 

 赤髪はそれを了承し、期間限定でその役目を果たしてくれていた。

 

 

「で、ジンベエ…お前はこれからどうするんだ?

 ブラック海賊団に合流するのか?」

 

 

 デマロ・ブラックがブラック海賊団を結成し、再び世に姿を現したことで赤髪の役目は終わったのである。

 

 そして、ジンベエもこれを機に、転換期を迎えようとしているらしい。赤髪もそれが気になるのだろう。

 

 

「いや、儂は()()()()に加えてもらえんかと思っておる。タイヨウの海賊団初代船長──タイの兄貴と、白ひげのオヤジさん並に儂が惚れ込んだ男がおってな」

 

「へェ、そいつはどんな男なんだ?」

 

 

 興味津々で、ジンベエが惚れ込んだ男が誰なのかを聞く赤髪。いや、赤髪はそれが誰なのかを知っている顔をしている。それでも、ジンベエの口から直接聞きたいのだ。

 

 己の左腕を犠牲にしてまで懸けた()()()()()()()を…。

 

 

「お前さんもよーく知っておる──()()()()()()()()()()()じゃ」

 

「ハッハッハ!

 今日は本当にめでたい日だ!酒が格別にうめェ!!」

 

 

 五皇時代の到来。しかし、そのすぐ後ろには新たな皇帝候補(六番目の皇帝)が控えている。

 

 世間はまだそれを知らず、その者は来るべき時の為に力を蓄えているのだ。

 

 ブラックを中心に、世界は大きく動いている。そこに、()()()()()()が加わる日も近い。

 

 

「ブラックとエース、それからルフィに乾杯だ!!」

 

「ワッハッハ、乾杯!」

 

 

 未来に乾杯を…。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 偉大なる航路(グランドライン)"バルティゴ"。"白土の島"とも呼ばれるこの島は、島全体が白土の砂漠であり、舞い上がる砂埃により近海からの目視は困難とされており、身を隠すに持ってこいの拠点で、打倒世界政府を目的に暗躍する反政府組織"革命軍"が拠点にしている。

 

 そして、この島には現在、政府が20年以上もの間、血眼になって探し続けている()が滞在していた。

 

 デマロ・ブラックの素性───ブラックが"古代文字"を読めることが発覚するまで、この世界で唯一古代文字が読める存在だった"悪魔の子"ニコ・ロビン。

 

 そのニコ・ロビンは現在、とある理由から"革命軍"に身を置いている。"麦わらの一味"に所属している彼女が、どうして革命軍に身を置くことになったのか、麦わらの一味の他の仲間達と同じく、1年と数ヶ月前に散り散りに()()()()()しまったからだ。

 

 そして、飛ばされた先の東の海(イーストブルー)"テキーラウルフ"で、偶然なのか必然なのか、10年以上前からロビンを保護しようとしていた革命軍と出会い、今に至るというわけである。

 

 ただ、ロビンが革命軍に身を置くのは期間限定のもの。後に、"シャボンデイ諸島"へと戻り、再び麦わらの一味として、仲間達と航海を再開するようだ。

 

 革命軍に身を置いて早いことで1年と数ヶ月。美しい容姿と明晰な頭脳からも革命軍内でロビンの人気は高いらしく、革命軍の者達も彼女を大切に預かっており、彼女自身もそれに感謝し、良き関係を築いているようだ。

 

 

「ロ、ロビンさん?」

 

 

 しかし、今日のロビンは何かが違う。恐ろしすぎる悪魔の如き威圧感を醸し出している。

 

 

「何かしら──コアラ」

 

「ど、どうしたの?

 な、何か、とてつもなく怖いよ…」

 

 

 美しい笑みを浮かべているのに、目が一切笑っていない。美人が怒ると怖いというが、それが本当なのだと体現しており、革命軍の女性幹部コアラですらも、恐怖を感じている。

 

 

「あら…ごめんなさい」

 

「ほ、本当にどうしたの?

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が関係しッ──ひッ!?」

 

 

 コアラからの指摘に素直に謝罪するロビンではあるが、彼女から放たれる重苦しい威圧感は一向に収まっていない。寧ろ、コアラの言葉で更に濃密なものへと変化してしまう。

 

 ブラック海賊団が結成され、ブラックが海賊として活動を始めたことを知ったロビンが、ブラックの手配書を眺めながらうっすらと頬を染めていたのがほんの数分前。

 そんな彼女の恋する乙女のような可愛らしい笑みに、革命軍の男達だけではなく女達も胸をときめかせていた。

 

 しかし、ブラック海賊団に所属する全員の手配書を見ていた彼女の手が、その中の1枚の手配書で止まってしまい、そしてこのような事態になってしまったようだ。

 

 男達は恐ろしすぎて聞けずに、ロビンが可愛がっているコアラに皆が理由を聞けと視線で語っていたのだ。

 

 ロビンが手を止めた手配書───その手配書に写った()()()()

 "百獣の娘"ヤマト、懸賞金10億8100万ベリー。

 

 ロビンは、ヤマトという存在を知っていたのだろうか…。いや、まったく知らない存在だ。ロビンはヤマトと会ったこともなければ、五皇"百獣のカイドウ"に娘がいたことも記事で知ったばかりで、それ以外のことなどまったく知らないのである。しかも、記事には"この世における最強生物"カイドウの娘で、その娘に相応しい、10億を超える懸賞金に相応しい実力を持った女海賊だということしか書かれていないのだ。

 

 ならば、いったい何がロビンをそうさせてしまうのか…。

 

 

「私にもハッキリと理由が分からないの。

 ただ、このヤマトという女が、私はどうしてなのか気に入らない。相容れない存在に思えてしまうの…。

 あとは──()()()なのかしら?

 ふふ、ブラックったら、この1年と数ヶ月の間、世間から姿を隠していったいナニをしていたのかしらね?

 今度会った時は、お母さんの話よりもそれについて詳しくじっくりと聞くべきかしら?ああ、早く会いたいわ──ブラック」

 

 

 今この瞬間、ブラックはきっとくしゃみ3回に、悪寒に襲われているのではないだろうか…。

 

 

「え、えーっと…つまりロビンさんが嫉妬してる?」

 

「私が?

 ……そうかもしれないわね。ふふ、本当に罪な男ね。私のお母さんに憧れてる男に、私は強く心を動かされてる」

 

 

 ロビンとブラックの間に接点があったことにも驚きだろうが、大人の女の色香が常に漂っているロビンが嫉妬するとは、それ以上に驚きだろう。

 

 だが、これからしばらくの間、絶対に世間を賑わせ、常に新聞の一面を飾り続けるであろうブラックとブラック海賊団の面々───そのブラックの新聞を読む度に、ヤマトの記事まで読んだロビンが、恐ろしい威圧感(嫉妬)を醸し出すと思うと、コアラは恐ろしすぎて夜も眠れない。

 

 この後、ブラックと遭遇したらロビンのことを伝えるべきではないかと、コアラが総司令官に相談したとか…。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 場所は新世界。赤い土の大陸(レッドライン)付近に存在する海軍本部"ニューマリンフォード"。

 

 元々は、Gー1支部だったこの基地を、頂上戦争後に現元帥クザンの意向によって、旧海軍本部マリンフォードと入れ替える形で新世界に移転した。

 

 

「ぶわっはっはっは!

 さすがは()()()()()()()()()()じゃ!エースにカイドウの娘に金獅子の再来。トドメにオーロ・ジャクソン号とくるとはッ!!」

 

「まったく笑えん…ぞ…ガープ…く、くくく。

 大変だな元帥は。儂が元帥の時じゃなくて良かった」

 

「ここ元帥室なんですけど?

 アンタらが楽しくワイワイと寛ぎながら煎餅とおかき食ってお茶飲む場所じゃないんだけど?

 つーか、センゴクさん。笑えないとか言いつつしっかり笑ってるじゃねェか」

 

 

 そのニューマリンフォードの、元帥クザンの執務室では、元帥クザンの他に"英雄"ガープと、"仏のセンゴク"がブラック海賊団について話をしているようだ。

 

 もっとも、ブラック海賊団の登場に頭を悩ませているのは元帥クザンのみで、第一線を退き、後身の指導に当たっているガープと、元帥の職を辞任し、大目付としてガープと共に若い海兵の育成をしているセンゴクは全盛期時代を思い返しながら笑みを浮かべている。

 

 

「はあ、やれやれ。

 まあ、ブラックに関しては基本、サカズキに任せて放置するつもりなんですけどねェ。

 サカズキの部隊も死者は1人もなし。ブラックが危険なのは確かだが、赤髪と同じで穏健派の五皇だ。自分から暴れることはまずないはず。寧ろサカズキを鎮める役を担ってもらおうかと…」

 

「ぶわっはっはっは!!」

 

「ぶふッ、サカズキが海賊と大差ない扱いッ!!」

 

 

 そして、ブラック海賊団は基本放置でサカズキにのみ任せ、サカズキによる被害を鎮めてもらう為というどっちが海賊団でどっちが海兵なのか分かったものではない判断にガープとセンゴクは大爆笑してしまう。

 

 元帥の座を蹴ってまでブラックを追う大将・赤犬ことサカズキによる被害が以前にも増して大きいことに、クザンは頭を抱えているようだ。

 

 部下の面倒を海賊に丸投げするとは…。

 

 センゴクは引退して良かったと心から思っていることだろう。クザンからは恨みがましい目で見られているが何のその。

 

 

「しっかし、サカズキと交戦後、勝ち逃げしてからまた行方が掴めず…。

 すぐに新世界入りすると思ってたんだがいったいどこに?」

 

「ぷッ、勝ち逃げ。

 ブラックは元々冒険家兼トレジャーハンターだった。

 そのまま新世界に入るのではなく、海賊団を立ち上げたことを機に、"リヴァース・マウンテン"から冒険を始めてるんじゃないか?」

 

 

 クザン達海軍は赤犬を相手に勝ち逃げしたブラック海賊団の行方を完全に見失い、新世界で警戒しているが一向に行方が掴めないのだそうだ。

 

 そんな状況の中、ふとセンゴクがクザンが思いもしなかった考えを口にする。

 

 

「ぶわっはっは!

 オーロ・ジャクソン号に乗った五皇"赫猿"が新世界に向かわず偉大なる航路(グランドライン)を逆走してリヴァース・マウンテンに向かって、最初から航海を始めるのか!?

 ぶわっはっはっはッ、ウケる!!」

 

「まさか…そんなわけ…いや、もしかして──マジで?」

 

「クザン。元元帥からのアドバイスだ。

 ロジャーの息子と、カイドウの娘に金獅子の再来が仲間で、ロジャー海賊団のオーロ・ジャクソン号に乗ってるような奴らだ。くく、我々の常識など通用しない。予想の斜め上を必ず行く」

 

 

 センゴクはさぞ、自分が元帥の時代ではなくて良かったと思っていることだろう。そして、元帥の任から解放された余裕か、"智将"の頭脳が元帥だった時よりも的確に、犯罪者の思考回路を読んでいる。

 

 

「ったく、勘弁してくれよ。

 ガープさん、センゴクさん、まだ確定したわけでもねェし、これマジでサカズキに言わないでくださいよ。前半の海で五皇と大将の交戦なんて絶対にあっちゃならないんで」

 

 

 果たして、切実なまでのクザンの思いと願いは届いてくれるのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃───新世界では…。

 

 

「ちィ、どこじゃブラック。

 アイツのことじゃけェ、魚人島からの指針が示す次の島の中で最も危険度が高いライジン島に行くじゃろう思っとったが──どこに行ったんじゃクソッタレがァ」

 

 

 ブラックを執拗に追う赤犬は、重傷ではなかったとはいえ怪我もまだ完治していない状態で、新しい軍艦に乗ってブラックを追っていたが、赤犬の予測は外れてしまい、ブラックはライジン島にはおらず、上陸した形跡もまったく見られず。

 

 ただ、赤犬の読みは強ち間違ってはおらず、ブラックのことをよく理解している。

 

 もしブラックが、ブラック海賊団の面々と前半の海での航海を終えて新世界に行っていたならば、恐らくライジン島を選んでいたはずだ。ブラックとの冒険をとにかく楽しみにしているヤマトも、最も危険な島を選んだはず。

 

 しかし、ブラックはまだ、ブラック海賊団の船長としてオーロ・ジャクソン号に乗って前半の海を航海していない。

 

 これまでは、たった1人で行きたい島に行きたい時に、赤い土の大陸(レッドライン)を飛行能力で飛び越えて行ったりしていたようだが、今回は世界遺産級の船(オーロ・ジャクソン号)に乗っての航海、冒険ということもあり、偉大なる航路(グランドライン)の入り口"リヴァース・マウンテン"から仲間達とちゃんと冒険を始めたいという気持ちが強いのだろう。

 

 赤犬はブラックのことを良く理解してはいるが、完璧には理解できていなかった。

 

 

「どこにいるんじゃッ──ブラック!!」

 

 

 まさか前半の海を逆走し、五皇の1人が入り口からスタートしようとしているとは思うまい。

 

 そして、海軍がブラックを見つけたとしても、赤犬にだけは絶対に知らせるなという箝口令が敷かれているとは赤犬も思うまい。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 偉大なる航路(グランドライン)の入り口、リヴァース・マウンテンの名物といえば何だろうか…。

 

 それは、額に()()()()()()()()()()()()のペイントを施された超巨大な生物だろう。

 

 

「す、凄いッ、ダンゴよりも大きい()()()だ!!」

 

「こ、これはまた凄いな」

 

「で…でかッ!?」

 

 

 リヴァース・マウンテンの出口"双子岬"に棲む"アイランドクジラ"という種のクジラの大きさに、初めて見たヤマト、キャベンディッシュ、ペローナの3人はただただ圧倒されいる。

 

 

「ああ、いつ見ても神々しいべさッ!

()()()()()()()()()()!!」

 

「これ描いたのやっぱりルフィか…」

 

 

 バルトロメオは、偉大なる航路(グランドライン)に入る際に一度見ているようだが、再び見た麦わらのルフィ直筆のペイントを、神様でも崇めているかのように涙を流しながら本当に崇めている。

 

 そしてエースは、下手くそだが想いの詰まったペイントに頬を緩め、これを描いたのが誰なのかすぐに見破っていた。

 

 そんなブラック海賊団の面々とは違い、別のモノに驚きつつも感動し、涙を浮かべている()()がいる。

 

 

「まさかブラック海賊団が偉大なる航路(グランドライン)の入り口にやって来るとは…ああ、それに──オーロ・ジャクソン号…懐かしい。あの頃のまま…この船を見ると、当時の冒険の思い出が鮮明に甦ってくる」

 

「オレの師匠──シルバーズ・レイリーからお話は聞いてます。ロジャー海賊団の元船医、クロッカスさん」

 

 

 双子岬の灯台守を務めるクロッカスという老人に、敬意を表した態度で話しかけるブラック。

 

 この老人も、オーロ・ジャクソン号に乗っていた伝説の船員の1人。ロジャー海賊団の元船医なのだ。

 

 

「オレ達はブラック海賊団として、ここから航海を始める為にここにやって来ました」

 

「ふッ、かつてのロジャーのようだな」

 

 

 ロジャー海賊団の元船医の目に、ブラックはいったいどのように映っているのだろうか…。

 

 ただ一つだけ言えること───それは、ブラック海賊団が伝説を彷彿とさせる存在だということだけだ。

 

 

「もし良ければだが、老人のつまらん思い出話に付き合ってはくれんかね?

 オーロ・ジャクソン号を眺めながら酒が飲みたい」

 

「なら、眺めながらとは言わずに、オーロ・ジャクソン号に乗って宴でもどうです?

 冒険の話はともかく、エースにあなたの船長がどういう人だったかを教えてやってください」

 

「お、おいッ、ブラック!!」

 

 

 伝説を彷彿とさせるそんなブラック海賊団に囲まれ、オーロ・ジャクソン号でエースの父───海賊王ゴールド・ロジャーの豪快な武勇伝がクロッカスの口から語られることとなる。

 

 もちろん、エースがそれを止められるはずもなく…。

 

 新たな伝説が始まる前の、前書きのように…。

 

 かつての伝説と、新たな伝説が酒を酌み交わしていることなど、他に知る者はいない。

 

 

 






そういえば、執筆始めて1ヶ月経過して20話越えてた。皆様いつも感想ありがとうございます!!
これからも応援よろしくお願いします!!


ブラック海賊団と、大幹部と船長の総合賞金額が唯一明らかになってるビッグ・マム海賊団を比べてみた。

ビッグ・マム+四将星。(まだ四将星時)
計5人の総合賞金額、78億3700万ベリー。

対してブラック海賊団。
ブラック、エース、ヤマト、キャベツ、計4人(四強)
総合賞金額、77億6800万ベリー。

こんな感じである。


ジンベエとシャンクスが酒を酌み交わすという、原作では絶対にないだろうなぁという展開。
ジンベエ達タイヨウの海賊団はビッグ・マム海賊団の傘下にはなっておりません。期間限定的に赤髪海賊団の傘下に。
マルコ達も、ブラックとエースに託したいけど、表立って活動を再開するまではとシャンクスに頭を下げ、シャンクスも了承で、魚人島を期間限定でナワバリに。

ジンベエって原作でもそうだけど、ルフィ大好きだよね。かなり惚れ込んでるよね。


ロビンさんは女の勘が働いちゃったかな?
美人は怒ると怖いし、女の勘は野生の勘以上に恐ろしい時あるからね。まるで心を見透かされているかのような…。


そういえば、エースってロジャーが不治の病に侵されてたことも知ってたのかな?


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空を統べる海賊



そういえば、偉大なる航路から四つの海にはどうやって戻るんだ??

ロジャーの処刑を見る為に、すでに偉大なる航路で活動してた奴らがローグタウンに行ってたみたいだけど…。



 

 

 海賊王ロジャー世代。今から20年以上前の時代で、ロジャー、白ひげ、ガープ、センゴク他、伝説の海賊、海兵共に、現代以上の壮絶な戦いを繰り広げていた恐るべき殺伐とした時代だ。

 

 例えるなら、ロジャーを中心とした暴走する荒振る神々(海賊)と、その暴走する神々を鎮めるまたは消滅させるべく、神々に匹敵する力を持った超人や超越者達の人間(海兵)が果敢に戦いを挑む神話のような───ロジャーが鬼神の如く暴れ、白ひげが持病に悩まされることなく世界を破壊する力を発揮し、ビッグ・マムが天候を支配し、金獅子のシキが島やら軍艦やらを幾つも浮かして暴れ、若かりし頃のカイドウが若気の至りで暴れ回り、ガープやセンゴク他当時の大将達海軍の猛者が全力を似てそれらを迎え撃つという、大規模な戦争が頻繁に勃発していた時代。

 

 その一方で、ロジャーの死後に幕開けした大海賊時代は、当時を知る海賊や海兵達にとって、数ばかりが増えた生温い時代とも言われている。

 

 だが、数ばかりが増え生温いとまで言われているこの大海賊時代に───大海賊時代が幕開けし23年が経過した今、大きな変化が訪れた。

 

 頂上戦争で"白ひげ"エドワード・ニューゲートがこの世を去り、一つの時代が終わりを告げたと同時に、新たな時代が始まったのである。それが、選ばれし強者が海賊王の座をかけて潰し合う五皇時代だ。

 

 そんな五皇時代の到来を歓迎してか、それともその逆か、かつての伝説が20年以上ぶりに突如として姿を現した。

 

 

「くっ、このタイミングで再び現れるか…()()()ッ!!」

 

「この20年…今までいったいどこに隠れておったんじゃ!!」

 

 

 海軍本部"ニューマリンフォード"。海軍本部元元帥にして"大目付"となったセンゴクと、"英雄"ガープの視線の先には、空に浮かされた複数の軍艦、そして空飛ぶ海賊船が一隻。

 

 かつて、ガープとセンゴクが旧マリンフォードで死闘を繰り広げた存在"金獅子のシキ"が、海賊王ロジャー、白ひげ亡き大海賊時代に舞い戻ったのである。

 

 

「ジハハハハ!久しいな、センゴク、ガープ!こいつは再会の挨拶と警告だ…受け取りやがれ」

 

 

 腕を振り下ろすと同時に、浮かべていた複数の軍艦を次々とニューマリンフォードに落下させる金獅子は、高らかな笑い声を上げてその場をあとにした。

 

 

「ちィ、大人しく過去の伝説として存在し続けていればよかったものをッ!今さら老兵がでしゃばって何をするつもりじゃ!」

 

 

 再び現れた金獅子に対し悪態を吐くガープ。その表情は、実に忌々し気な様子だ。

 

 ただでさえ、五皇時代に突入して世界は混沌と化しているというのに、そこに"金獅子"まで現れるなど、世界はこれからいったいどうなるのか…。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 世間がブラック海賊団の誕生に驚いているなか、休む間もなくまたしても大ニュースが世界に飛び交う。

 

 大海賊"金獅子のシキ"の復活。

 

 再び姿を現した金獅子が海軍本部ニューマリンフォードを襲撃。軍艦を何隻も落とし、海軍本部に大きなダメージを与え、金獅子はそのまま空飛ぶ海賊船に乗って姿を消したようだ。

 

 そしてそれから数日───事態は息つく暇もなく大きく動いている。

 

 東西南北に存在する海の中でも()()()()()()とされている"東の海(イーストブルー)"にて、金獅子のシキ率いる艦隊と、革命軍"()()()()"率いる東軍が激突した。

 

 金獅子は海軍本部を襲撃後、全世界支配の足がかりとして東の海を壊滅させて支配下に置くべく、さっそく行動を始めたようで、それを阻止すべく動いたのが、金獅子が最初に襲撃した島付近にいた革命軍東軍と、その時共に行動していた革命軍No.2の"参謀総長"の青年だったようだ。

 

 ただ、革命軍のNo.2と軍団長他、猛者達を相手に、金獅子の艦隊も大打撃を受けたものの、懸賞金6億を超える参謀総長と軍団長も、20年のブランクなどまったく感じさせない金獅子の前に敗北を喫し、金獅子は革命軍の戦力を得るべく交渉材料として捕らえているとのことだ。

 

 世界最弱の海でロジャー世代の皇帝の1人と、革命軍主戦力の激突など前代未聞。世界最弱の海は、言い換えれば平和の象徴でもある。その平和の象徴で、これだけ大規模な戦いが繰り広げられてしまうなど…。

 

 一方で、海軍と政府は今回のこの一件に、まだ動きを見せておらず静観を貫いている。金獅子と革命軍、どちらも海軍と政府にとって消えてほしい存在だからだ。潰し合い、両者弱ったところを叩く腹積もりなのだろう。

 

 他の島に被害が拡大しないように、念の為に大将を1人派遣するようだが…。

 

 ただ、海軍も政府も革命軍も、況してや金獅子も、予想外の出来事が起きてしまうことを知らない。

 

 混沌は、平和の象徴すらも呑み込もうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金獅子のシキの復活で世間が大騒ぎしているなか、同じく世間を騒がせているブラック海賊団はというと…。

 

 

「すまねェ、ブラック、ヤマト」

 

 

 深刻な表情を浮かべながら、エースがブラックとヤマトに謝罪しており、その表情からもかなりの緊急事態であることが伺える。

 

 

「気にすんな!エースとルフィの()()かもしれない奴なんだろ?だったら助けなきゃな!

 すぐに冒険に行けなくなったのは残念だが、仕方ねェ!冒険に今すぐ行きたいけど仕方ねェ。

 冒険に今すぐ行きたいけど仕方ないよな…なァ、ヤマト!」

 

「そうだね、黒吉っちゃん!

 冒険に今すぐ行きたいけどエースの兄弟を助けないとね!だからエースも気にしないで!冒険に今すぐ行きたいけど気にしないでいいから!」

 

 

 対して、ブラックとヤマトは空元気というか何というか…。またしても冒険が先送りになってしまい、冒険に今すぐ行きたいという気持ちがこれでもかと目一杯に駄々漏れている。

 

 

「とにかくお前は兄弟かもしれない()()って奴を助けることに集中しろ。

 金獅子のことはオレとヤマトに任せろ。オレとヤマトから冒険奪った恨みを拳に乗せて叩き込んでやるから!!」

 

「金獅子は黒吉っちゃんとボクでブッ飛ばすから安心してくれ!冒険に今すぐ行きたいのに、年取った老人ってろくなことしないねまったく!!」

 

 

 どうやら、ブラック海賊団がまた世間を騒がせそうだ。

 

 リヴァース・マウンテンの出口"双子岬"にて、ロジャー海賊団の元船医クロッカスと楽しい一時を過ごした後に、ついに偉大なる航路(グランドライン)の入り口から航海を始めたブラック海賊団だったが、金さえ払えば海賊だろうと反政府組織だろうと新聞を売ってくれるニュース・クーがオーロ・ジャクソン号にやって来てしまったことで、事態が急転してしまったらしい。

 

 エースの育った故郷"東の海(イーストブルー)"で、ロジャー世代の皇帝の1人であった金獅子のシキが暴れているという記事をエースが読んでしまったのである。ただ、金獅子が復活して暴れていることにも驚いただろうが、エースの驚きは違うものにあった。

 

 それは、金獅子に敗北して囚われの身となっている革命軍のNo.2───"参謀総長"のサボという青年についてだ。懸賞金6億200万ベリーのサボの手配書を目にしたエースは、時が止まったかのように固まり、唖然としていた。

 

 10年程前に死んだはずの義兄弟と同じ名前で、その義兄弟の面影がある青年が、エースが震える手で握りしめる手配書に写っていたのである。驚かずにはいられなかっただろう。

 

 ブラックがエースの異変に気付き話を聞くと、金獅子に捕らえられている参謀総長が、もしかしたら義兄弟かもしれないことを告げられ、その結果、ブラックは東の海に行くことを決定した。

 

 ようやく始まったと思ったら、また逆走で、しかも今度は東の海。あっち行ったりこっち行ったり、本当に忙しない海賊団だ。もっとも、ダンゴ達のおかげもあって方向転換も、凪の帯(カームベルト)を渡るのも何のその。

 

 

「ブラック!ヤマト!

 金獅子はボクが倒す!金獅子の再来ではなく、ボクこそが金獅子だと証明する!!」

 

 

 ブラックとヤマトが冒険に行きたいと強く思う一方で、キャベツは何時までも金獅子の再来と言われるのが嫌らしく、己が金獅子なのだと証明するべく行く気満々のようだ。

 

 

「たとえ地獄だろうと、オレはどこにでもついていくべッ──ブラック船長!!」

 

 

 バルトロメオに至っては言うまでもないだろう。

 

 ただ1名、ふて腐れているというか、賞金首になってしまったのが余程ショックなのか…。

 

 

「もう好きにしろよ…。

 お前達についてくればモリア様がすぐに見つかると思ったのに何でこうなるんだよォ…。あ、けど、私が目立てばモリア様が探しに来てくれる?

 よしッ、ブラック!絶対に私のことを守り抜けよ!大切なお姫様扱いしないと許さないからなッ!!」

 

 

 ただ、すぐに吹っ切れたというか開き直ったのか、現状をとりあえず受け入れたペローナ。金獅子との戦いで、彼女がどれだけ暴れてくれるか期待が高まる。

 

 しかしながら、赤犬率いる艦隊との激突から数日───海軍大将の次にロジャー世代の元四皇に戦いを挑みに行くなど、相変わらずやることなすこと派手だ。

 

 もっとも、キャベツはともかくてし、ブラックは目立つ為にこのような行動に出るのではない。

 

 

「けどよ、そのサボってのは本当に兄弟なのか?」

 

「ペローナ、エースはサボが死んだ瞬間を直接見たわけじゃない。人伝に聞いただけだ。

 あくまでオレの憶測だからあまり希望は持たないでほしいが、革命軍のサボ──コイツの顔の左側の火傷の痕なんだが、見るからにかなり大きな怪我を負ってできたもんだ。それこそ、下手したら死んでたかもしれない」

 

 

 つまり、死んだと思っていた兄弟が実は生きていたかもしれないということ…。

 

 それが本当なのかは、ブラックにも分からない。だからこそ行く。エースの兄弟かもしれない人物を助ける為…。そして、エースが真実を知り、胸のつかえを取り払う為に…。

 

 

「ありがとう、ブラック…皆」

 

「気にすんな!

 よーし、打倒"金獅子"だァァァ!!」

 

 

 とにもかくにも、ブラック海賊団は金獅子のシキのもとへと向かう。

 

 エースは真実を知る為。キャベツは金獅子を超える為。ペローナは目立つことでゲッコー・モリアに迎えに来てもらう計画に変更し、バルトロメオは地獄の果てまで守護神ブラックについていく。

 

 そしてブラックとヤマトは、エースの為。ついでに、冒険の邪魔をされた恨みを晴らす為に…。どちらがついでなのかは、言うまでもないだろう。

 

 金獅子も、ブラックから狙われているとは思うまい。戦力を整えたら、金獅子は間違いなくブラックを狙っていただろうが、まさかブラックの方から戦力が整う前に狙われることになろうとは…。

 

 世界最弱の海、平和の象徴である東の海(イーストブルー)も大混乱だ。

 

 海軍も政府も、ブラックの行動に困り果てることだろう。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 東の海の流行発信地とされる"ミラーボール(アイランド)"。

 

 現在このミラーボール島は、金獅子のシキに占拠されてしまっている。

 

 金獅子のシキ率いる艦隊と、革命軍"参謀総長"サボ率いる革命軍東軍の衝突によって、流行発信地として賑わっていた島の面影はまったくなく、至る所から煙が舞い上がっていた。

 

 

「ジハハハハ!

 さすがは革命軍参謀総長と軍隊長だ。なかなかの強さだった──だが、まだまだだ。オレとロジャー、白ひげが戦ってた時代にゃあ、テメエら程度の奴はごまんといた。数ばかりが昔よりも増えた質の低い今の時代とは違った」

 

「ぐッ、はあ、はあ…オレ達を人質にして革命軍の戦力を得ようと交渉したところで無駄だぞッ──金獅子!」

 

 

 東の海に突如として現れた大海賊金獅子。その金獅子と、偶然にもミラーボール島付近にいた革命軍が衝突し、島に甚大な被害がもたらされてしまった。

 

 しかも、革命軍は金獅子に敗北。

 

 20年以上もの間、金獅子は世間から姿を隠し、一線から退いていたが、ロジャー世代の四皇の1人に数えられた大海賊の力は健在で、老いとブランクをまったく感じさせないほどのものだったようだ。

 

 敗北した革命軍参謀総長サボと東軍軍隊長ベロ・ベティは、磔にされており、金獅子はその2人を人質にし、革命軍と交渉を行うつもりらしい。世界を支配する為の力を得る為に…。とはいえ、金獅子は初めからこのような計画を企てていたわけではない。たまたま偶然にも革命軍と遭遇したのである。

 

 

「まだ闘志は折れてねェようだな。ふッ、その精神力だけは認めてやる。オレに敗れても、それでも折れねェその心はな!だが、テメエじゃオレ様には絶対に勝てねェ!これから先もな!ジハハハハハ!!」

 

 

 金獅子の強大な力の前に敗北したサボが吠えているが、彼にはもう為す術がない。

 

 

「お前達革命軍のボスが来るのを待ってろ」

 

 

 ただ、仲間達の助けを待つことしかサボにはできない。己の無力さを痛感するのみ。

 

 

「く…そ…。

(エース、ルフィ……!

 オレは今、何を──)」

 

 

 そんな状況のなか、サボの脳裏を過った2人の少年の顔。無意識に頭の中で呟いた2人の名前。

 

 このような状況の中で、何かが起きようとしている。サボの中で何かが目覚めようとしている。

 

 

「船長!」

 

「お、()()()()が来たか?」

 

 

 そして、サボの中で大切な何かが少しずつ目覚めつつあることなど知るはずもない金獅子は、部下が報告にやって来たことで革命軍の援軍がようやくやって来たかと意地の悪い笑みを浮かべており…。

 

 だが、金獅子の予想は大きく覆されてしまう。

 

 

「い、いえッ、違います!

 で、ですが大変です!ドラゴンではなく──()()()()()()()が現れました!!」

 

「ほォ、ようやく来たかブラッ…は?

 ブラック海賊団だと!?」

 

 

 さすがの金獅子も、まだ世界を支配する為の戦力が足りていないこの状況で、五皇の1人を相手にするのは危険だと思っているのか険しい表情を浮かべており、能力で空高く飛んで事実確認を行い始めた。

 

 いったい何故、ブラック海賊団が現れたのか…。

 

 

「ま、間違いねェ…あの船はロジャーのオーロ・ジャクソン号!オレが見違えるはずがねェ!

 な、何故ッ、ブラック海賊団が最弱の海にいやがる!?」

 

 

 金獅子の瞳に写る海賊船を、海賊王ロジャーと何度も死闘を繰り広げた金獅子が見間違うはずがない。

 

 

「ジハハハ…ジハハハハハハ!

 そんなことはどうでもいい!ロジャーの船に、ロジャーの息子(ガキ)とニューゲートの後継者にカイドウの(ガキ)まで乗ってやがる!ロジャー海賊団の再来(ブラック海賊団)がオレの目の前に現れやがった!今日はオレの誕生日か!?」

 

 

 金獅子の険しい表情は一転し、歓喜に満ちた表情を浮かべ、高らかな笑い声を上げ、大興奮している。五皇と戦うのはもう少し後だと考えていたのも、今となってはもうどうでもいい───金獅子は満面の笑みを浮かべている。

 

 オーロ・ジャクソン号を目にしただけで、激しくも楽しかったかつての死闘の日々が鮮明に甦ってきたのだろう。

 

 

「ロジャー…テメエからのプレゼント受け取ってやるぜ──ジハハハハ!!」

 

 

 すると、宙に浮いた金獅子のもとに猛スピードで何かが迫ってくる。それも気配は()()だ。オーロ・ジャクソン号はまだ離れた位置だが、その2人は空を飛んでいる。

 

 空飛ぶ海賊と恐れられる金獅子を前に、新時代の空飛ぶ海賊の誕生だ。

 

 

「テメエがロジャーの息子──ゴール・D・エースか!それと"白ひげの後継者"デマロ・ブラック!

 まさかテメエらと最弱の海で出会えるとは思ってもなかったが、嬉しい誤算だ!!」

 

 

 ブラック海賊団の船長と副船長が揃って、金獅子の前に現れた。

 

 

「テメエが金獅子のシキか」

 

 

 この状況が楽しくて仕方ないのだろう。金獅子の笑みは深まるばかりだ。対して、ブラック海賊団船長"赫猿"デマロ・ブラックは不機嫌極まりないといった様子だ。

 

 金獅子は海賊王ロジャーの息子エースと、白ひげの薙刀を持った後継者ブラックが揃って現れたのだから喜ぶのは当然。ブラックはエースの為ではあるがまたしても冒険を一時中断することになった為に不機嫌になるのも当然。

 

 

「ジハハハハハ!

 退屈な時代になったと思ってたが、今日は楽しくて仕方ねェ!お前らもそうだろォ!?赫猿ゥ!炎鬼ィ!」

 

「こっちは冒険の邪魔されてちっとも楽しくなんかねェよニワトリジジイ!コケーって鳴いとけ!つか、鳴かせてやるからな!ごめんなさい(コケーコッコッ)って鳴け!!」

 

 

 ブラックが最上大業物"むら雲切"を振るい、金獅子が義足代わりにしている名刀を振るい衝突すると、その衝撃でミラーボール島上空を覆っていた雲が割れる。

 

 怒るブラックと歓喜する金獅子の覇王色の覇気の衝突。

 

 ついに、ブラックと金獅子の戦いが始まってしまった。

 

 金獅子と革命軍の衝突の後に、この2人が東の海(イーストブルー)で衝突することになろうとは…。五皇と旧四皇の戦いが平然と起きてしまう新時代───何と恐ろしいことか…。

 

 

「ブラック、オレはテメエの存在を知ってからの1年と数ヶ月、鈍った体を再び鍛え直した。

 テメエには感謝してるぜェ。退屈なこの時代を昔のように盛り上げてくれたんだからなァ!ジハハハハ!!」

 

 

 20年以上もの間、一線から退いていたブランクをまったく感じさせない金獅子は、この日を楽しみに待っていた。金獅子の想定では、ブラック海賊団との衝突は戦力がもっと整ってからだったようだが、今となってはどうでもいいのだろう。

 

 何故なら、海賊王ロジャーや白ひげを彷彿させるブラックが目の前にいるのだから…。

 

 もっとも、ブラックからしたら金獅子の近況など知ったことじゃないだろう。

 

 

「エース!

 ニワトリジジイはオレが躾とくからお前は自分の()()をさっさと果たしてこい!!」

 

「!」

 

「船長命令だ!さっさと行ってこい!!」

 

 

 

 

 

天雷戦鎧

 

 

 

 

 

 薙刀を片手に、全身から雷を迸らせ肉体活性を行うブラックはやる気満々。寧ろ恨みを晴らすつもりのようだ。

 

 

「鳴けッ──金獅子(ニワトリ)

 

「鳴かせてみやがれ!!」

 

 

 新旧"空飛ぶ大海賊"の戦い───またしても、ブラックが世界を揺るがす大事件を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、金獅子の襲撃を受け修復作業中の"ニューマリンフォード"では…。

 

 

「場所は東の海(イーストブルー)のミラーボール島だけど、これじゃあエッドウォーの海戦の再来じゃないのよ。はあ、何やってくれちゃってんのよブラック海賊団に金獅子は…。あと革命軍も…」

 

 

 元帥執務室にて、現元帥クザン(元大将・青雉)は机に突っ伏している。

 

 金獅子と革命軍が東の海で衝突しただけでも大将案件だというのに、そこに来てブラック海賊団が何故か金獅子討伐の為に東の海に現れるという事態に、その情報がもたらされたことで完全にヤル気を失くしてだらけきっている。

 

 しかし、それも仕方ない。気力とヤル気全てを奪われるのも仕方がない。

 

 

「それにしても、ガープさんの話が本当なら、これもまた厄介な話だ。革命軍の"参謀総長"サボが、"炎鬼"ゴールド・エースと"麦わら"モンキー・D・ルフィと()()()かもしれないって…傍迷惑な兄弟が存在したもんだ」

 

 

 次から次へと舞い込んでくる問題。

 

 

「はあ…誰か元帥代わってくれないかな」

 

 

 クザンの想いはきっと誰にも届かない。

 

 

 






バタバタして更新遅くなりすんませんです!!

そして、出すべきか迷っていた金獅子がついに登場で、ここでようやくサボが絡む展開です。

金獅子は、ブラックとロジャーの息子エースという存在を知ったことで、この1年数ヶ月の間は鈍った体を鍛え上げて全盛期に近い力を取り戻しております。足を失ってる分、どうしても全盛期には劣りますが、海水すらも操れるフワフワの実の能力は強大だし、何よりブラックとエースのおかげで精神的に活き活きしております。

サボは七武海以上の強さでしょうが、その金獅子には敗北。さてはて、まだ記憶が戻ってないサボのようだけど、エースと再会してどうなるか?


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獅子は熱烈



原作では金獅子出てくるのだろうか…。それとも名前だけ?

それと、扉絵でクロッカスさんと金髪らしき誰かが酒を酌み交わしてるのがあったけど、あれは金獅子だったのか?



 

 

 海軍本部元帥クザンへの報告もなしに、凪の帯(カームベルト)を通って東の海(イーストブルー)を目指す軍艦が数隻。

 

 その艦隊───五皇"赫猿"デマロ・ブラック殲滅専門部隊を指揮する総司令官は、海軍本部最高戦力"大将"の1人でもある、"赤犬"ことサカズキだ。

 

 

「どこまでも儂を虚仮にしおって…ブラック。

 儂はお前を絶対に逃がさん。この儂の手で必ず葬り去ってやるきィ…待っとれよォ」

 

 

 頂上戦争から1年数ヶ月ぶりに海賊団を結成して再び現れ、世界を震撼させたデマロ・ブラック。

 

 そのブラックを取り逃がしてしまった赤犬は、必ずブラックを排除することを心に固く誓い、新世界で行方を追っていた。しかし、ここに来てブラックが偉大なる航路(グランドライン)ではなく、東の海(イーストブルー)にいることが発覚。しかも、復活した大海賊"金獅子のシキ"討伐に現れたとのこと…。

 

 完全に予想の斜め上を行かれてしまっていた赤犬は怒りを爆発させ、現在は東の海に急行中のようだ。

 

 ただ、ブラック海賊団が金獅子のシキ討伐の為に東の海に現れたという情報はまだ世間には広まっていない。号外も出ておらず、海軍本部ニューマリンフォードから各支部に伝達されている程度だ。そして何より、元帥クザンがブラック関連の情報を全て、赤犬に伝わらぬように箝口令を敷いており、赤犬に伝わるはずがないのだ。ならば何故、赤犬はブラックが東の海にいることを知っているのか…。

 

 

「クザンめ…余計なことしてくれおってからに。じゃが、クザンが箝口令を敷くことは想定済じゃァ。

 こげん時の為に、本部には儂の息のかかった者を残しておるんじゃ。筒抜けじゃァ…」

 

 

 赤犬は元帥クザンの考えを読み、ブラック関連の情報がすぐに自身に回ってくるように対策を立てていたようだ。

 

 だから今こうして、赤犬は艦隊を率いてブラックのもとへと向かえているのである。

 

 

「思った通りに行動してくれちゃってまァ」

 

 

 もっとも、赤犬が元帥クザンの考えを読めていたように、逆もまた然りでクザンが赤犬の考えを読んでいる場合もあるが…。

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

氷河時代(アイスエイジ)

 

 

 

 

 

 静かに───だが、確実に怒っているのが分かる絶対零度の声音が無風海域に響き渡り、その瞬間に海面が周囲一帯瞬く間に凍結してしまう。

 

 

東の海(イーストブルー)には"()()"を行かせてある。お前には出動命令出してないんだけどねェ──サカズキィ」

 

 

 大将時代に掲げていた正義は"だらけきった正義"。

 

 しかし、元帥になってからはさすがに立場を弁えたのか、"やる時はやる正義"に路線変更し、頂上戦争をきっかけに混沌と化してしまった世界の均衡を正し、守るべく、"智将"の後任として"調整者(バランサー)"と讃えられるまでに成長し、その手腕を遺憾なく発揮している元帥クザン(元大将・青雉)

 

 そのクザンが額に青筋を浮かべながら、自転車に乗って赤犬の前に姿を現した。

 

 

「クザンッ!!」

 

「名前の後に"元帥"って付けなさいよ…まったく。

 元帥が大将止める為に出動なんて前代未聞なんだけど…」

 

 

 東の海で現五皇にして海賊王に最も近いとされる"赫猿"デマロ・ブラックと、海賊王世代の元四皇"金獅子のシキ"が激闘を繰り広げているであろうなか、それを止めなくてはならない海軍が内輪揉めとはまったく笑えない。しかも元帥と大将の内輪揉めとは…。内輪揉めとも少し違うような気がするが…。

 

 ブラックを排除するべく独断専行中の赤犬と、赤犬を止めるべく自ら出動した元帥クザン。

 

 

「ガープさんももうちょっと…いや、大して変わんねェか」

 

「儂を自由人(ガープ)と一緒にすんのはやめェ!!」

 

「ロジャー追ってたガープさんとそっくりだから。大将な分、質が悪い気がしなくもないが…。

 とにかく、今回は大人しく引き返せサカズキ──これは元帥命令だ」

 

 

 世界徴兵によって誕生した新たな大将"藤虎"を向かわせているのに、赤犬まで向かってしまったら東の海はいったいどうなってしまうのか…。誰が考えても、赤犬は絶対に向かわせるべきではないだろう。

 

 ブラックを追う今の赤犬は、ロジャーが関係してるとなると当時の元帥からの命令も無視して突っ走っていた英雄ガープにそっくりだ。

 

 

「なら藤虎を引っ込めんか!儂が行く!」

 

「ガキかお前は…。

 はァ、ったくお前はもう──()()!!」

 

「ぬッ!?」

 

 

 ただ、クザンは赤犬を突っ走らせるつもりはまったくないらしい。

 

 

「くッ、()()()ッ!

 小癪な真似してくれおって──クザンッ!!」

 

 

 クザン自身もここまですることになるとは思ってもいなかっただろう。まさか大将に対して、能力者の力を封じる"海楼石"の網を使用することになろうとは…。赤犬相手に上手くいったのは、クザンが注意を一身に引き付けていたおかげで、クザンも赤犬の部隊に監視要員数名を潜り込ませており、その者達が隙を突いて監獄弾を発射し、見事赤犬を捕らえたようだ。赤犬に気付かれないとは、かなり訓練されている猛者達である。

 

 本日一番の功労者はこの者達かもしれない。

 

 とりあえず赤犬を海楼石の網で捕らえたことに安堵の息を漏らしたクザンは軍艦へと飛び移り、海楼石の影響を受けない部分の紐を握って赤犬を引きずり、軍艦から凍結した海上へと素早く飛び降りる。赤犬が叩きつけられることなどお構い無しだ。

 

 

「ふぅ、やれやれ。

 ってことで、サカズキはオレが責任持って連れ帰っから、お前らは本部に戻れ」

 

「ぐッ、クザンッ、おんどりゃあ!

 儂を離さん──ぐおッ!?」

 

 

 そして今度は、クザンが乗ってきた自転車の──その自転車で引いてきたリヤカーに赤犬を蹴り上げて強引に乗せて、これまた海楼石製の柵を閉めて赤犬をリヤカーに閉じ込めてしまう。海楼石製の柵に触れた一瞬だけ、クザンは能力を封じられてしまうが、それは一瞬のみで、海楼石の網で捕らえられた赤犬がそこから抜け出る隙などありはしない。どこからどう見ても、赤犬を閉じ込めておく檻というか、小屋のようなものではなかろうか…。

 

 

「じゃあな」

 

 

 クザンは一仕事終えた顔というか、本当に一仕事終えてリヤカーを引きながら自転車で海軍本部へと戻って行く。そのリヤカーには赤犬が詰め込まれているが、ハッキリ言ってリヤカーの乗り心地は最悪だろう。

 

 

「クザンッ、儂をこっから出さんかァ!!」

 

「しばらくそこで頭冷やしとけ。つか眠っとけ」

 

 

 更に麻酔まで打ち込んで赤犬を無力化する。大将クラスともなれば、能力が使えなかったとしても、海楼石から受ける影響はその程度で、まったく動けなくなるわけではない。これくらいしないと、赤犬が静まることはないのだ。

 

 とにかく、元帥クザンの出動によって東の海の壊滅はどうにか免れたはずだ。あとは、ブラックが金獅子を討伐してくれるのを待つのみ…。

 

 ここだけの話ではあるが、クザンはブラック海賊団を"必要悪"として見ている。世間に与える影響は大きく、海軍本部元帥としてブラック海賊団の存在を決して肯定してはならないが、存在しなかった場合は、今のこの世界により大きな影響を与えてしまう可能性が高いからだ。

 

 だからこそ、ブラックは白ひげの後継者とされている。

 

 クザンはブラックが"七武海"に加入してくれないだろうかと少しだけ思ったりもしているが、それは未来永劫決してないだろう。クザンはブラックが賞金首になってしまった経緯をもちろん知っており、少しばかりだが同情していたりもする。だからといって、頂上戦争での暴れっぷりは見過ごせないだろうが…。

 

 ただ、ブラックがカタギに手を出さない奴で良かったと心底思うばかりだ。

 

 

「さーて、帰るか」

 

「クザ…ンッ…おんどれ…覚えと…れよォ…」

 

 

 本当にどっちが海兵で、どっちが海賊なのか…。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 東の海(イーストブルー)"ミラーボール島"の遥か上空にて繰り広げられる激闘───新旧"空飛ぶ海賊"の戦い。

 

 "赫猿"ブラックと金獅子のシキの戦いは想像を絶するもので、人間の戦いとはとても思えない常軌を逸したものだ。

 

 

「ボクも金獅子と戦ってみたかったなァ。

 せっかく黒吉っちゃんが()()()()を用意してくれたのに、あれじゃあ入り込む隙がまったくないよ」

 

「くッ、ブラックめ。

 ボクが真の金獅子になる機会を奪ったな!!」

 

 

 その一方で、ヤマトやキャベツは金獅子海賊団の雑魚狩りを行っているが、不完全燃焼といった様子だ。金獅子の配下は、革命軍との戦いで大打撃を受けていたこともあり、ヤマトとキャベツの2人ですでに制圧し終えたようで手持ち無沙汰のようだ。

 

 だが、そんな手持ち無沙汰な状況で吉報がもたらされた。

 

 

『おいッ!

 近くに大将・藤虎がいるぞ!!』

 

 

 ペローナのゴーストがミラーボール島周辺の海域を探ってくれていたところ、軍艦を発見し、その軍艦に大将・藤虎が乗っていたとのことだ。普通に考えたら吉報ではなく凶報だろうが、ブラックに金獅子を横取りされたと思っているキャベツにとっては嬉しい吉報のようだ。

 

 

「よしッ、ならばボクが藤虎のもとに向かう!!」

 

「え!?

 キャベツ、そんなことしたら黒吉っちゃんに怒られるんじゃない?」

 

「ふん、金獅子を横取りしたんだからこれくらいは我慢してもらう。それに、周辺を警戒していたら遭遇したとでも言っておけばいいだろう」

 

 

 当然、そんなキャベツをヤマトは止めるわけだが、キャベツが大人しく従うわけがない。まァ、こればかりは仕方がないだろう。それに、海軍の狙い───疲弊したところを叩くという作戦を考えたならば、こちら側から仕掛けておくのも一つの手かもしれない。

 

 

「ヤマトッ、ボクに"翔清雲"を貸せッ!!」

 

 

 そして、キャベツはヤマトに空飛ぶ雲"翔清雲"を貸してもらい、それに乗って藤虎のもとまで向かおうとしている。

 

 

「貸してもいいけど、キャベツは()()()()だろ?」

 

 

 ただ、どういうわけかキャベツは乗れないらしく、乗る為には何かしらの条件があるようだ。

 

 

「何故ボクが乗れないんだブラック!!

 ボクほど美しくて()()()()()を持っている美しすぎる存在などこの世にいないぞ!?」

 

「乗れないのは、そういう(残念すぎる)ところじゃないかな?」

 

 

 ブラック曰く、空飛ぶ雲"翔清雲"に乗れるのは清らかな心を持った者のみらしい。ちなみに、ブラック海賊団の中で乗れるのは、ブラック本人とヤマト、そしてエースとヒューマンドリル達で、ペローナ、バルトロメオ、そしてキャベツの3人は乗れなかったようだ。つまりこの3人は清らかな心を持っていないということである。

 

 もっとも、ブラックとエースは自ら飛ぶ術を持っている為に必要としておらず、ヤマトも"月歩(ゲッポウ)"という空を駆ける技を会得しているが翔清雲に乗った方が空を速く移動できて何より疲れない為に重宝しているらしい。要は、現在はヤマト専用ということである。

 

 

「ええいッ、もういい!!」

 

「あ、キャベツ!?」

 

 

 

 

 

煌めく流星

 

 

 

 

 

 キャベツらしいネーミングの、キャベツ流の月歩。

 

 極限まで肉体を鍛え上げた者のみが体得を可能とする、特殊な体技"六式"。その内の二つ、強靭な脚力で空を蹴り、空を駆ける"月歩"と、瞬間的に加速する高速移動術"(ソル)"を併せた高速空中歩行。

 

 キャベツの才能あってこそ可能とした体技であり、美しい金髪が靡き、煌めくその光景が美しいだろうという思い込みから、本人が命名したそうだ。

 

 その煌めく月歩を駆使して海軍大将のもとまで向かっていったキャベツ。そのスピードは確かに速い。

 

 

「あーあ、行っちゃったよ。

 後で絶対に黒吉っちゃんに怒られるだろうなァ。けど、どうしよう。キャベツを1人で行かせるのも…うーん。

 仕方ない!キャベツに何かあったら皆、絶対に嫌だからボクも行く!それから黒吉っちゃんに怒られて謝ろう!!」

 

 

 残されたヤマトはどう行動するべきか悩むも、キャベツを1人で大将のもとに行かせて、何かあってはならぬと判断し、ブラックに怒られること覚悟でキャベツの後を追う。

 

 きっとこういったところも、キャベツが乗れずに、ヤマトが翔清雲に乗れる理由なのだろう。

 

 

「翔清雲!ボクをキャベツのもとまで連れてってくれ!」

 

 

 金獅子と戦うブラック。大将のもとに向かうヤマトとキャベツ。戦いが激化する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが激化するなか、金獅子と革命軍の激突によって荒れ果てたミラーボール島の中心地にて…。

 

 

「本当に──()()…なのか?」

 

 

 ブラック海賊団副船長"炎鬼"ゴールド・エースは、磔にされていた革命軍の参謀総長の青年と、軍隊長の美女を解放し、()()を知るべく行動していた。

 

 

「お、お前…ブラック海賊団が…どう…して」

 

「お前が…本当にオレの()()なのか確かめる為に来た」

 

「兄…弟…?」

 

 

 ただ、エースの顔を見ても期待した反応を返してくれず、兄弟だと言っても不思議そうな顔をするサボという名の青年に、エースの希望は儚く散りつつあり…。

 

 

「お前…オレの()()()()()を知ってるのか?()()()

 

「え?」

 

 

 だが、エースの希望はまだ完全に散ったわけではなかった。きっと、それは無意識だったのだろう。エースの名前を自然と口にしたサボは、まったく気付いていないが、エースは無意識とはいえ名前を呼ばれたその瞬間に、かつての思い出が次々と脳裏を過り、我慢できずに涙を流す。泣くことは男の恥だと思っているエースだが、今は仕方ない。決して、誰もエースを笑わない。情けないとも思うはずがない。

 

 

「ッ──サボッ!」

 

 

 もしかしたら本当に、失ったはずの兄弟の時間が再び───動き始めようてしている。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 ミラーボール島の遥か上空にて鳴り響く雷鳴と、刃が衝突して甲高く響く金属音。

 

 

「ジハハハハ!

 ロジャーとニューゲート──最ッ高にクソッタレな2人と戦ってるみてェだ!興奮してきたぜブラックゥゥゥ!!」

 

「ジジイが興奮してきたとか言うな気色悪ィ!!」

 

 

 雷による肉体活性で、雷速で縦横無尽に空を飛び回るブラックに対し、金獅子は見聞色の覇気を用いてその速度に対応しブラックと渡り合っている。

 

 いやはや、老いた体で鍛え直し、現五皇とここまで渡り合えるとはロジャー世代の四皇は恐ろしい。全盛期がこれ以上の強さだったと思うと、背筋が凍るほどだ。

 

 

 

 

 

斬波

 

 

 

 

 

 金獅子の斬撃は海すらも容易く真っ二つに斬り裂くと言われており、敗北こそしたもののその類い稀な剣術で旧マリンフォードをたった1人で半壊させてしまったのも有名な話だ。

 

 そしてその後、大監獄"インペルダウン"から脱獄する為に自らの両足を斬り落とした金獅子は、それまで愛用していた二振りの名刀を義足代わりに足に装着し、足を使った剣術を駆使して戦うようになった。

 

 鍛え直した金獅子が足の刀から放つ飛ぶ斬撃の威力は、両足が健在だった頃の飛ぶ斬撃よりも威力が上がっており、どれだけ己を厳しく鍛え直してきたのか明白だ。もっとも、金獅子が鍛え直したのは確かな事実だが、当たる当たらないは別としての単純な話で、一撃の重さがパンチよりもキックが上というのはよく聞く話だろう。

 

 

 

 

 

紫電一閃

 

 

 

 

 

 その鋭い斬撃を、ブラックは目にも止まらぬ速さで薙刀を一振りし、斬り裂く。

 

 

「ロジャーとニューゲートみてェにあっさり斬りやがって!!」

 

「アンタさっきから白ひげと海賊王の話ばっかりだな!?」

 

「あの頃は本当に最高に楽しくて、ドキドキワクワクしたぜ。まァ、テメエとの戦いも同じくらい楽しいがなァ!ジハハハハ!もっと楽しもうぜ──ブラックッ!!」

 

 

 鍛え直したとはいえ、身体は確実に老いているはず。なのに、動きのキレがますます増している。

 

 ブラックは思う。マリンフォード頂上戦争で、顔の半分を焼き抉られようと大暴れした白ひげといい、その白ひげと同年代で、尚且つ両足失っているというのに全盛期に近しい力を見せる金獅子のシキといい、己の師匠(レイリー)といい、海賊王ロジャー世代の老人はどうしてこうも元気なのかと…。

 

 ロジャー世代と現代の若者達の体の構造そのものが違うとしか思えない。とはいえ、ブラックの体の構造も何だかんだで恐ろしいというか、どちらかというとロジャー世代寄りなのだが…。

 

 

「ブラックッ、お前はやはり期待してた通りの男だ!」

 

「あ?」

 

 

 ブラックと金獅子が戦い始めてすでに1時間程が経過した。

 

 そんななか、金獅子の表情が真剣なものへと変わり、攻撃の手を止めて話をし始める。いや、正確には()()だろうか…。

 

 

「ブラック、オレと組め」

 

「は?」

 

「オレとお前が組めば間違いなく、今すぐにでもこの世界を支配できる!!」

 

 

 金獅子からまさかの同盟交渉にブラックは目を丸くする。

 

 だが、別に何もおかしくはない。たまたま偶然だったとはいえ、更なる戦力を求めていた金獅子は、居合わせた革命軍を己の傘下にしようとしていたのだ。そこに、オーロ・ジャクソン号に乗って、海賊王ロジャーの息子と、百獣のカイドウの娘と己の再来を引き連れたブラックが現れれば、標的が革命軍からブラックに変わるのは当然のこと。

 

 

「オレと一緒に世界を支配しようじゃねェかッ!

 なァ──ブラック!!」

 

 

 金獅子はかつて、この世界を支配するべく海賊王ロジャーを欲し、同盟を結ぼうと何十回も拳で語るという海賊らしい交渉を行ったらしく、ブラックに対してロジャーに向けて言い放った言葉とほぼ同じ言葉を言い放つということはつまり、ブラックとロジャーの姿が重なって見えているのだろう。

 

 

「世界を支配?これだから年取ったジジイは困る。

 残念だがオレは──()()()()()()()()んだよ!オレが求めてんのは"自由"だからな!!」

 

 

 そして、()()()()()()()()()()とは…。

 

 

「たまんねェぜ、ブラック」

 

 

 金獅子はかつてないほどに運命を感じている。断られたというのに、満面の笑みを浮かべている。

 

 金獅子が何よりも、誰よりも欲した海賊王ロジャー。そのロジャーを彷彿とさせる男が、ロジャーと同じ言葉を金獅子に向けて言い放っているのだから仕方ないだろう。

 

 嬉しくないはずがない。感動的なはずだ。嬉しさのあまり絶頂しているかもしれない。

 

 

 

 

 

獅子威し"綿津見水巻き"

 

 

 

 

 

「お、おいおい──マジかよ」

 

 

 そして、金獅子がどれだけ喜んでいるのか、()()を複数の獅子の形に変化させ、嬉々とした表情を浮かべていることからも伺える。

 

 金獅子のシキは、自身が触れた物を自由自在に浮かばせることができる"フワフワの実"の能力者───"浮遊人間"だ。

 

 その最大の強みは、全能力者の弱点である海水すらも意のままに操ることができ、触れた物を己が望む形に変化させて操ることができる精密さ。

 

 空を飛び、島すらも浮かべ、大地、海水すらも意のままに操る。"陸海空"全てが、金獅子の領域(テリトリー)なのだ。

 

 

「ジハハハ、簡単に捕まってくれるなよ──ブラック」

 

 

 その様は正しく獅子。最強の動物を彷彿とさせる"百獣"の如く。

 

 

「ハッ、面白ェ。捕まえられるもんなら捕まえてみやがれ──ジジイ」

 

 

 世界の支配を目論む大海賊(金獅子)と、支配されることを拒み常に自由であることを望む大海賊(ブラック)───対極の存在の戦いは更に激化する。

 

 

 






赤犬とガープって、どっちが質悪い?

マグマの赤犬と、素手で何発も大砲投げ撃ってくるガープ(普通に大砲撃つよりも速いと思われる)。

赤犬は監獄弾だったり、つまりは海楼石を用いれば能力を封じることができる。まァ、それを成功させるにはクザン自らが出動したり、入念な準備が必要。

ガープは、能力者じゃないから海楼石などは一切効かないし、爆発する手錠とかも内部破壊できそうだから意味なさそう。軍艦に乗れなくても泳いで行きそう。レイリーもカームベルト泳いで渡ってたし、ガープもできるよね。


心が清らかじゃないと乗れない空飛ぶ雲"翔清雲"
つまりあれのことだよね。今はヤマト専用。カイドウも雲操ってるし孫悟空のモデルのハヌマーンならできるできる。
ブラック海賊団は皆仲良いけど、キャベツとペローナとバルトロメオは乗れない。何となく分かるよね?
清らかな心を持ってる生物なら何でも乗れるからヒューマンドリルも乗れる。

ただ、大きさは調節できるけど心の清らかさが条件だから、船や島なんかを運ぶことは不可。寧ろ船なら、ブラックが巨大化して抱えて飛べばいい。けど、クラバウターマンが目覚めるときっと乗れるはず。


金獅子さん、大興奮して大奮起。
この人、空飛べるし、島浮かべられるし、浮かべる能力者にプラスして形まで変えられる精密さ持ってるし、海水操れるし、剣術も凄いしで本当に強いよね。

獅子威し"綿津見水巻き"
海水を持ち上げ複数の獅子の姿に変化させて襲わせる。能力者にとって嫌すぎる技。

綿津見ってのは海神のことですね。


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激戦の後……修羅場



金獅子好きな人ってやっぱり多いんですね。ふと思ったけど、FILM GOLDこそ金獅子出しとけば面白かったのではないだろうかと思ったりしている。GOLDだけに。

時系列はドフラミンゴ倒した後だし。



 

 

 世界最弱の海"東の海(イーストブルー)"で繰り広げられる五皇"赫猿"と、ロジャー世代の四皇"金獅子のシキ"の世紀の大決戦。

 

 ブラックと金獅子の衝突の余波は、東の海全域にまで届きそうな───それほどまでに凄まじい。

 

 空を縦横無尽に飛び回り、目にも止まらぬ速さで繰り出される斬撃の応酬。刃が衝突すれば雲を割り、海を大きく揺らす。

 

 海の皇帝の戦いはまさしく天災だ。

 

 そんな天災級の激闘が幕を開けて数時間が経過するが、佳境を迎えている。

 

 襲いかかる獅子(海水)を、"赫猿"が斬る。とにかく斬る。覇気を纏った最上大業物"むら雲切"に斬れぬものなどないと言わんばかりだ。

 

 

「おらァァァ!!」

 

 

 全ての獅子(海水)を斬り裂いたブラックは、薙刀を構え素早く一閃。

 

 

 

 

 

死破(しば)

 

 

 

 

 

 薙刀から放たれた飛ぶ斬撃が金獅子へと襲いかかる。

 

 

「ぬッ!?」

 

 

 すると、金獅子はブラックの放った飛ぶ斬撃を足の刀で受けるでもなく、飛ぶ斬撃を放って相殺するでもなく、ただ避けていた。

 

 ブラックの放った飛ぶ斬撃がそのまま海へ落ちると、激しい水飛沫を上げて───海を大きく割っていた。

 

 

「ッ──はあ、はあ…ジハハハ、受けてたらヤバかったぜ」

 

 

 金獅子の頬を汗が伝う。

 

 海すらも容易く真っ二つに斬り裂く金獅子の"斬波"の威力を遥かに上回る飛ぶ斬撃を目の当たりにしたからだろう。

 

 さすがは、世界最強の大剣豪"鷹の目"と3日3晩戦い続けられるブラックというべきか…。

 

 

「だいぶ息が上がってるみてェだが?」

 

「はあ、はあ、まだまだこれしき…オレぁ、元気一杯だぜブラックゥゥゥ!!」

 

「そうかい。なら、続きやろうぜ」

 

 

 そして、ここに来てブラックと金獅子の間に、体力の差が見え始めている。

 

 35歳のブラックと、その2倍の年齢はあるであろう金獅子では、やはり体力が違う。金獅子がいくら鍛え直したところで、やはり寄る年波には勝てないのだ。

 

 それでもこれだけ動き戦い続けられるのは大海賊だからこそ───大海賊としてのプライドか…。精神が肉体を大きく上回り、金獅子は荒い息を上げながらもブラックと渡り合う。

 

 

「ぜェ、ぜェ…血湧き…肉躍る…まさかこの歳になって…ここまで燃える殺し合いができるとは思ってもいなかったぜェ!はァ、はァ、感謝するぜッ、ブラック!!」

 

「どういたしまして…って言うとでも思ったかジジイ!こっちは迷惑してんだよ!さっさとポックリ逝っちまえ!!」

 

 

 体力はとうに限界だというのに、金獅子は本当に楽しそうだ。その表情は活き活きしており、若返ったと錯覚してしまうほどに、全盛期を彷彿とさせている。

 

 

「ジハハハハ、そう言うなブラック!

 ロジャーとニューゲート──アイツらへの()()()はとびきり豪快じゃねェといけねェからなァ!!」

 

 

 最早、金獅子はこの世界を支配することに興味を失ったかのような、とにかくこの戦いに全てを出しきるつもりのようだ。

 

 金獅子のシキは、若い頃からこの世界を支配することを目論んでいたわけではない。

 

 富と名声(悪名)を得た後に、更なる欲に己の心を支配されてしまい、世界の支配を目論むようになったのだ。多くのものを得た人間によくある話で、金獅子のシキはそういった人間達の末路の一つなのだろう。

 

 だが、金獅子はブラックとの戦いで、富と名声を得る以前の、若かりし頃の己を思い出した。

 

 ただひたすらに、どちらが強いかと海賊王ロジャーや白ひげ達と競い合ってきた頃を…。

 

 

「オレを超えてみろッ──デマロ・ブラック!!」

 

 

 

 

 

黒金(くろがね)・獅子奮迅

 

 

 

 

 

 武装色の覇気を足の刀に纏い、黒い稲妻のようなものを発しながら金獅子はブラックへと迫る。

 

 これが恐らく、金獅子にとって()()の攻撃だ。

 

 刃に熱く燃え滾る想いを乗せて、ドロップキックの要領で両足の刀で突き技を放つ。

 

 それに対して、ブラックは薙刀の柄を能力で短くして抜刀術を繰り出すかのような構えを取り、全力を持って応戦する。金獅子と同じく黒い稲妻のようなものが刃から溢れ出ており、全身から迸る肉体活性の雷も最大出力だ。

 

 

「散れ──金獅子」

 

 

 

 

 

金剛杵(こんごうしょ)一閃

 

 

 

 

 

 刃が衝突───触れることなく、ブラックと金獅子の覇気が衝突し雲を大きく割り、その余波が遥か真下のミラーボール島にまで及んでしまう。

 

 

「ぐッ、うおォォォ──ブラックゥゥゥ!!」

 

「金獅子ィィィーーー!!」

 

 

 そして、決着の刻…。

 

 また一つの時代が終わりを迎える。

 

 ブラックの一閃は、覇気を纏った金獅子の両足の刀すらも粉々に砕き、ブラックの覇気が金獅子の覇気を上回って超えたということだ。

 

 それは、世代交代の瞬間を強く物語っている。

 

 

「ジハ…ハハハ…がふッ」

 

 

 金獅子の体から激しく血が噴き出し、この戦いが幕を閉じようとしている。

 

 

「痺れ…たぜ…ブラック。

 ジハハ…文句の…付け所…の…ねェ…最ッ高の…一撃…だった」

 

「そうか」

 

「ブラック…テメエに…最後に…頼みが…ある」

 

 

 大海賊"金獅子のシキ"の最期の言葉。

 

 しかしまさか、たった今まで戦っていた敵であるはずのブラックに頼み事を金獅子がするとは…。

 

 

「オレの代わりに世界を支配しろとか言っても、オレは支配なんかしねェからな」

 

「ジハハ…だろうな。ロジャーと…同じで…テメエが…支配に興味…ねェ…ことくらい…分かってる」

 

 

 言葉も途切れ途切れで、もう限界なのだろう。ただ、最期にこれだけは──ブラックだからこそ頼むのだろう。

 

 

「オレが…死ねば…再び…"フワフワの実"…が…この世界に…現れる。その時は…テメエ…が…手に入れて…管理…しろ。つまんねェ奴…に…渡って…ほしくねェ」

 

 

 ロジャーがブラックにオーロ・ジャクソン号を…。白ひげがブラックに"むら雲切"を…。

 

 金獅子が認めたロジャーと白ひげが後世に遺し、受け継がれているように、自分も何かを後世に遺し、受け継いでほしいと、金獅子は思っているのかもしれない。

 

 

「テメエが…認めた奴…そいつに…渡す…ってなら…それ…は…構わねェ」

 

「ったく、仕方ねェな。

 アンタの頼み事、聞き入れてやるよ。オレもフワフワの実の厄介さは身に染みたからな」

 

 

 もし、ブラックが能力者でなければ、金獅子はブラックにフワフワの実の能力者になってほしかっただろう。

 もし本当にそうなっていたら、ブラックはロジャー海賊団のオーロ・ジャクソン号に乗り、白ひげの"むら雲切"と金獅子のフワフワの実を受け継いでいたということだ。何と恐ろしいことか…。

 

 残念ながら、金獅子のその願いだけは叶うことはない。悪魔の実の能力を2つ得ることは不可能なのだ。

 

 ヤミヤミの実とグラグラの実の2つの能力を得た存在がたった1人───"黒ひげ(黒ブタ)"マーシャル・D・ティーチという異例が存在してはいるが、黒ひげだけがそれを可能にした秘密があるのだろう。

 

 

「"黒ひげ"…アイツに…だけは…絶対に…渡んねェ…ようにしろ。アイツじゃ…ねェ。

 ロジャーが…"ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)"を…見つけ出して…ほしい…のは…絶対にアイツじゃねェ」

 

 

 そして、金獅子はその黒ひげにだけはフワフワの実が渡らないようにしろとブラックに頼む。

 海賊王ロジャーが遺し、白ひげが死に際に実在することを明言した"ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)"を見つけ出すのも、フワフワの実の力を受け継ぐのも黒ひげではないと金獅子は断言し、強く拒絶している。

 

 ロジャーをよく知る金獅子から見ても、黒ひげは違うのだろう。

 

 強力な力を持った能力者を狩り(殺し)、どういう原理でそれを成し得ているのかは不明だが、黒ひげ海賊団は殺した能力者から、その場でその能力を奪い取っている。

 

 生憎、金獅子を相手にそれは成し得なかったが、再びフワフワの実が世に出現したら、間違いなく黒ひげは欲しがるはずだ。

 

 

「安心して任せろ。黒ブタ(黒ひげ)には絶対に渡さねェ。もし黒ひげに渡っちまったら呪い殺してくれていい」

 

 

 だから、黒ひげと何かと因縁のあるブラックは己の命をかけて金獅子に誓う。

 

 その言葉に、金獅子は満足そうに口角を上げる。

 

 

「ジハハ…頼んだぜ」

 

「金獅子!

 アンタは──メチャクチャ強かったぜ」

 

「!

 ジハハハハ!当然だ…オレァ…獅子に例えられる程の男…金獅子だからなァ!!」

 

 

 最期は豪快にそう言い放ちながら、金獅子のシキは海へと散って逝く。

 

 ブラックにとっては傍迷惑なジジイだったが、その最期は大海賊らしく、潔く、ブラックが敬意を払うには十分な姿だったのだろう。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 かつて、海賊王ロジャーや白ひげとしのぎを削った伝説の大海賊───"金獅子のシキ"が逝った(死んだ)

 

 20年以上ぶりに世間に姿を現し、ニューマリンフォードを襲撃した後に東の海(イーストブルー)を全世界支配の足がかりとして襲撃した金獅子。

 

 たまたま偶然にも遭遇した革命軍の"参謀総長"サボ率いる東軍を撃破した金獅子は、革命軍を傘下にしようと急遽画策するも、突如現れたブラック海賊団船長"赫猿"デマロ・ブラックとの激闘に敗れ死亡した。

 

 金獅子のシキの敗北(死亡)。これは、紛れもなく世代交代を物語っている。

 

 

「ふゥ、やれやれだ…ん?

 …何だありゃ──って、()()!?」

 

 

 金獅子という脅威は去った。しかし、東の海から完全に脅威が去ったわけではない。そもそも、海賊が存在する限り脅威は去ることはないのだが、現在この場所には天災級の脅威が()()も存在している。1人は、言わずもがなブラックだ。

 

 そして、もう1人は海軍本部大将・藤虎である。

 

 

「は?ヤマトとキャベツが戦ってる?

 アイツら何やってんだ?」

 

 

 その藤虎が悪魔の実の能力で隕石を呼び寄せて戦っているのは、ブラック海賊団のヤマトとキャベツのようで、ブラックはそれを見聞色の覇気で察知していた。

 

 

「大方、オレに出番奪われた(打倒金獅子)からって理由で、大将見つけたから戦いを挑みに行って、ヤマトが心配だからってついてったってところか?」

 

 

 それから、何故あのような事態になっているのかをブラックは的確に推理した。よく船員を理解している船長である。

 

 

「とりあえず大丈夫そうだけど…どうすっかな?」

 

 

 大海賊同士の激突の後に、大海賊と海軍大将の激闘が勃発するのか───はてさて、いったいどうなるのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その範囲は地球を飛び越えて宇宙にまで及ぶ。

 

 宇宙から巨大な隕石を引き寄せた海軍大将・藤虎は、その隕石を任意の場所───海賊目掛けて落とす。

 

 "仁義ある正義"を掲げる盲目の剣士。藤虎ことイッショウ。

 

 自身を新参者と口にしており、マリンフォード頂上戦争後に世界徴兵制度によって大将の座に就いた新しい大将である。ただ、その実力は海軍最高戦力と讃えられるに相応しいもので、本物だ。

 

 懸賞金10億を超える大海賊を相手にまだまだ余裕を見せており、本人曰くこれも腕試しとのことだが、四大将の一角に選ばれただけあってその戦闘力は正しく化け物である。

 

 悪魔の実 超人(パラミシア)系"ズシズシの実"の能力者。藤虎は重力を操ることができる。

 今も大きな岩に反重力をかけて浮かし、それに乗って戦っているのだ。

 

 新世界で活躍する海賊達、それらを相手にする海兵達、新世界で生き残るには陸海空どんな領域でも戦えなければならない。

 

 

「ハアァァア!!」

 

 

 もっとも、懸賞金10億超えも同じく化け物だ。

 

 

 

 

 

雷鳴八卦

 

 

 

 

 

 藤虎が能力で呼び寄せた隕石に"翔清雲"に乗って自ら突進し、金棒を全力フルスイングして隕石を粉々に砕くのは、予期せぬ形で藤虎と戦うことになってしまったというか、巻き込まれてしまったヤマトである。

 

 ヤマトは武装色の覇気の高等技術"内部破壊"の力を用い、巨大な隕石を木っ端微塵にしてしまった。

 

 

「あれを粉砕するたァ…さすがは──"百獣の娘"。恐ろしいったらありゃしねェ」

 

 

 ヤマトも1年数ヶ月の修業で確実に強くなっている。

 

 全てはクソッタレな元父親(カイドウ)を倒す為に…。いや、もうそれだけが理由ではない。ヤマトが強くなる一番の理由は、ブラックといつまでも共にいる為だろう。カイドウを倒すのは、カイドウが弊害だからだ。

 

 

「悪いけど、ボクはもうカイドウの娘じゃないよ。縁はきっぱり切ってるからね。

 ボクはブラック海賊団のヤマトで、二代目・光月おでん!それと、黒吉っちゃんの()()()()()だ!だから"影虎"ッ、ボクのことを二度と"百獣の娘"なんて言わないでくれ!」

 

「影虎じゃなく──"藤虎"でござんす」

 

 

 ただ、ヤマトはカイドウと親子の縁を切ったと言っているが、それは一方的にであって、藤虎や他者からしたらどうでもいいことだ。ヤマトがカイドウの娘であることは事実で、ただそれだけなのだ。

 

 

「アンタがカイドウと縁を切ろうと、あっしには一切関係のないこと…。

 アンタが懸賞金10億を超える海賊である以上、罪なき一般人に危害を加える以上、あっしは大将として対処するだけでござんす」

 

「むゥ…あ、けど黒吉っちゃんはカタギに手を出すことを固く禁じてるからそこは安心していいよ。

 それを破ったら、黒吉っちゃんに嫌われちゃうしね。そうなったらボク…うう、想像しただけで泣けてきちゃったじゃないかッ!!」

 

 

 藤虎の言葉で、ヤマトは己がカイドウの娘であることを改めて認識する。こればかりは、何をどうしようと絶対に覆ることがないのだ。

 

 しかし、今のヤマトにとって、実際のところそれはもうどうでもいいことなのかもしれない。

 

 ヤマトは己にとっての一番に出会ったのだ。それこそ、"おでん"になること以上に大切な人(ブラック)を…。

 

 

「アンタ…もしやブラックと恋仲ですかい?」

 

「恋仲?黒吉っちゃんとボクが?

 恋仲…は?え?えぇぇぇぇ!?

 こ、こここ、恋仲ってあれだよね!?相思相愛で、後に"おでんとトキ"みたいに夫婦(めおと)になる人達のことだよね!?ボクと黒吉っちゃんが恋仲!?恋仲でいいの!?黒吉っちゃんと夫婦になれるの!?そうなの!?」

 

 

 そして、ヤマトはブラックに出会ってからというもの、とんでもなくブラックのことを好きになっているようだ。それはもう好きや大好きを通り越して、"愛している"だろう。

 

 

「いや…あっしに聞かれやしても…」

 

 

 これも、20年近くもの長期間、カイドウに軟禁されてしまっていた影響なのか…。恋などしたこともない百獣の娘───ヤマトは"生娘"なのである。

 

 

「な、なら、やっぱり"おでん"は黒吉っちゃんで、ボクは"トキ"になるべきなのか?どうすればいいんだろう」

 

 

 さすがの藤虎も困惑しており、ヤマトをどうすればいいのか悩んでいるようだ。海賊である以上、斬るべき敵なのだが、藤虎の鋭い勘が斬るべきではないとも告げている。

 

 藤虎の勘は正しく、ヤマトを斬ったら間違いなくブラックが怒るだろう。

 

 

「うおォォォォォ!

 藤虎ァァァ!よくもッ、ボクを海に叩き落としてくれたな!?」

 

 

 そんな状況の中、海から水飛沫が舞い上がり、キャベツが海の中から這い上がってきた。どうやら、藤虎によって海に叩き落とされてしまっていたらしい。

 

 

「ああ、丁度いいとこに来てくださって助かりやした。

 おたく(ブラック海賊団)のお嬢さんが脳内お花畑状態になりやして、どうしたもんかと困っていたところでござんす」

 

「は?」

 

 

 藤虎がそう口にし、キャベツがヤマトの方を向くと、"翔清雲"に乗ったヤマトは頬を染めて、その頬に両手を当てて、くねくねしながら顔をニヤつかせており、自分1人の世界に入り込んでいる。これからは、"私"と言わないといけないなどと、何やら予行練習のようなものまでしており、隙だらけだ。

 

 藤虎がお手上げ状態なのも、キャベツは何となく頷けた。

 

 

「ここからはボクが相手だ、藤虎。

 さァ──第2ラウンドといこうじゃないか!!」

 

「やれやれ…そのまま溺れ死んでくれていたら良かったものを…。まァ、能力者じゃねェのに8億を超える賞金をかけられてんだから、これくらいでくたばらねェのは当然ですかぃ。アンタ、厄介だねェ」

 

 

 ヤマトがこのような状態な為に、次はキャベツが藤虎と戦う番で第2ラウンドだ。

 

 第1ラウンドは藤虎の能力で海に叩き落とされてしまったが、次はそうはいかないだろう。

 

 

「しかし、よく海の中から這い上がってこれやしたね。

 かなり深く落としたつもりでしたが」

 

「ボクは空の上だろうと、海の中だろうと駆けることができるからな!」

 

 

 そう、キャベツはキャベツ流月歩"煌めく流星"の応用技"煌めく波濤"で、海の中だろうと海の上だろうと駆けることが可能なのだ。つまり、陸海空全てがキャベツの活動領域。

 

 

「アンタらブラック海賊団は本当に厄介だ」

 

「その中でも一番厄介なのはボクだ!

 "特攻隊長"キャベンディッシュ!覚えておけ!!」

 

「むッ!?」

 

 

 煌めく流星で一気に距離を詰め、藤虎に斬りかかったキャベツ。藤虎はそれをどうにか防ぐも、完全に防げていなかったようで肩から血が噴出する。

 

 

「今度はボクの番だ」

 

 

 

 

 

超美剣・煌めく鳥狩(ファルコンリー)

 

 

 

 

 

 超神速の一閃。

 

 盲目ながらも、大将の座に就く藤虎は、高度の見聞色の使い手だ。だからこそ、盲目だろうとヤマトとキャベツを相手に渡り合えている。だが、キャベツの速度が藤虎の見聞色を上回り、斬り裂いた。

 

 

「ぐッ──(さっきよりも速いッ!!)」

 

「まだだ!!」

 

 

 そして次なる猛攻。藤虎から距離を取ったキャベツは身を深くして剣を構え、離れた位置から名刀"デュランダル"を一閃。

 

 

 

 

 

超美剣・煌めく渡り鳥(マイグラトリーバード)

 

 

 

 

 

 一振りで複数の飛ぶ斬撃が放たれ、藤虎に襲いかかる。

 

 大将相手に引けを取らない金髪の剣士───キャベンディッシュ。金獅子の再来が、金獅子が討ち取られた今、新たな金獅子として名を轟かせようとしている。

 

 いや、獅子ではない。キャベツは、高いハンティングスキルを持つ鷹のようだ。

 

 金獅子の再来から"金鷹(こんじきだか)"へ…。キャベツは有言実行し、再来から唯一無二の存在へと進化する。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 金獅子のシキと革命軍が衝突し、甚大な被害を受けたミラーボール島。そのミラーボール島に、また新たに一隻の船が到着した。

 

 船首から船尾まで龍の装飾が飾られたその船は、"革命軍"の本船だ。

 

 

「ようやくお出ましか…モンキー・D・ドラゴン」

 

「ブラック海賊団が金獅子と戦っているという情報は入っていたが…何故、お前達ブラック海賊団が…」

 

 

 そして、革命軍の"総司令官"ドラゴン自ら、この島に上陸した。革命軍の仲間、部下達を助けるべく…。もっとも、すでに金獅子はブラックによって討伐されたのだが…。

 

 金獅子を討伐したブラックはヤマト達の方には向かわず、革命軍の本船が近くにいたことを察知した為に、ミラーボール島で革命軍を待ち構えていた。

 

 ヤマトとキャベツならば、大将が相手でも問題ないだろうという判断のようだ。

 

 それと、革命軍を待ち構えていたといっても、革命軍と戦うつもりなどまったくないのだが…。どちらかというと、エースの為だろう。

 

 

「ブラック!?」

 

「え──()()()?」

 

 

 ただ、革命軍の本船からどういうわけかニコ・ロビンが現れる。まさかの再会に、目を丸くするブラック。

 

 そのブラックにゆっくりと駆け寄るニコ・ロビン。

 

 1年と数ヶ月ぶりの───シャボンディ諸島以来の再会。

 

 

「黒吉っちゃーーーーーん!!」

 

 

 そして、その状況で()()が揃ってしまう。

 

 

「お、ヤマト」

 

()()()()()黒吉っちゃん!!」

 

 

 上空からブラックの目の前に舞い降りてきたヤマトが、ブラックを抱き締める。

 

 

「は?」

 

 

 ブラックとロビンの再会は、激戦後に修羅場と化す。

 

 

 






薙刀から放たれる飛ぶ斬撃。死破(しば)
由来はインド神話の破壊神シヴァからですね。はい。威力はシキの斬波を上回り、鷹の目といい勝負。

抜刀術の構えからの超神速の一閃。金剛杵(こんごうしょ)一閃。
金剛杵は、インドラの下す雷電のことです。


金獅子さんのお技。ドロップキックならぬ突き技。
黒金・獅子奮迅。


さすがに、ロジャーと白ひげのように雲を全て払うまでには至らず。けど、刃が触れることなく刃から迸る覇気の衝突によって、周囲に大きな余波は起きてます。


さてはて、金獅子が死んだことで、フワフワの実が再び世に出てくることになるけど、いったい誰が金獅子の後継者になる?

黒ひげは金獅子に拒否られました。つまり黒ひげ海賊団の奴らも拒否られてる。


キャベツさん、金獅子の再来から新たに独自の異名が!?
金鷹と書いて、金鷹(こんじきだか)と読む。

ブラック VS 金獅子、ヤマト&キャベツ VS 藤虎、その後に修羅場?


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東の海の諺



知的クールビューティー VS ボクっ娘武闘派ビューティー……いざッ、開戦!!

3月後半から4月はやっぱり忙しい!!遅れた言い訳だぁぁぁ!!

すみまっせん!!



 

 

 世界最弱の海とされている東の海(イーストブルー)には、このような諺がある。

 

 "恋はいつでもハリケーン"。

 

 その諺は、突然の恋であったり、抑えきれないほどの強大な恋をしている際に使うとされている。

 

 ただ、生まれてからデマロ・ブラックに出会うまで"ワノ国"から一歩も出たことがないヤマトがこの諺を知っているはずがない。しかし、今のヤマトの想い───ブラックに対する想いはまさしくこれだろう。

 

 

「黒吉っちゃん。ボクね、黒吉っちゃんが大好きだよ」

 

 

 "おでん"になることを夢見て生きてきたヤマトにとって、夢以上に大切な存在がブラックなのである。

 

 海軍大将・藤虎との戦いの最中に、ようやくこの想いを自覚したヤマトは、藤虎をキャベツに任せて自身はブラックのもとへとやって来て、想いを伝えると同時にブラックを抱き締めている。何と熱烈なことか…。

 

 

「ヤマト?いきなりどうしたんだよ…」

 

「黒吉っちゃんが大好きすぎて、ボクどうにかなっちゃいそうなんだ!ねェ、黒吉っちゃん…ボク、死ぬまで黒吉っちゃんのそばにいていい?」

 

 

 これはもう告白というよりも、逆プロポーズだろう。

 

 さすがのブラックもヤマトからの逆プロポーズらしき言葉に驚いており、すぐに言葉が出てこない様子だ。いや、ブラックがどう返答してくれるのか不安な様子のヤマトに、ブラックの胸がときめいているかもしれない。

 

 

「ねェ」

 

 

 そんな状況のなか、ずっしりと重く乗しかかる、ブラックですら身の危険を感じるほどの声が響き渡る。

 

 そして、その声の主とバッチリと目が合ってしまったブラックは、かつてない恐怖を感じていた。

 

 

「ロビ──ッ!?」

 

「少し黙っててくれるかしら──ブラック」

 

「ハイ」

 

 

 ヤマトの行動(邪魔)によって中断されてしまっていたが、ブラックはニコ・ロビンとの再会を果たしていた。その真っ只中だった。ブラックにとっても、ロビンにとっても嬉しい再会だったはずだ。それが、ヤマトの登場で一変してしまい、ロビンは今───美しい笑みを浮かべ(目は一切笑っていない)ながらブラックを黙らせてしまった。

 

 美人が怒ると怖いというのは事実である。

 

 よく見ると、ロビンと共に行動していたらしい革命軍の者達は距離を取っており、ロビンが怒る姿を見るのは初めてではない様子だ。

 

 五皇すらも黙らせる美女。それがニコ・ロビン。

 

 

「ん?君は…誰だい?」

 

 

 そして、ようやくヤマトがロビンの存在に気が付いたらしく、ブラックを抱き締めていた腕を緩めた。ただ、緩めるだけでブラックを放すことはない。

 

 

「私はニコ・ロビン」

 

「ニコ・ロビン?その名前どこかで…あ!黒吉っちゃんの()()()()()()()さんか!!」

 

「そう…ブラックからはそんな風に聞いてるのね。

 憧れの女性の娘…ねェ」

 

 

 ブラックの背筋を冷や汗が伝う。金獅子以上に恐ろしい存在がブラックの前にいる。

 

 ロビンにとって、憧れの女性の娘というのはあまり好ましくない言葉で、彼女が不機嫌になるのは仕方ないことだ。決して、ロビンが母親───ニコ・オルビアを嫌っているわけではない。ブラックに1人の女として見てほしいという、女としてのプライドといったところか…。

 

 それと、ロビンが危惧していた存在(ヤマト)に、ブラックがそのように説明していたのが気に入らないようだ。

 

 

「それよりも…あなた──ブラックをいつまで抱き締めてるのかしら?」

 

「いつまでも!

 それに、ボクは君に対して強い危機感を抱いているんだ!絶対に黒吉っちゃんを放したらダメだって、そんな気がする!だから絶対に放さない!!」

 

 

 今、ロビンとヤマトの間で火花が散ったような…。そう見えた者は多いはずだ。いや、ここにいる者達全てにそう見えたのではないだろうか…。

 

 

「えー、えっとな、ヤマト。

 ロビンとは久しぶりに会ったから、少し話をさせてもらいたいんだが…」

 

「!

 ふふ、ブラックったら、そうよね。

 せっかくこうしてまた会えたのだから、私とゆっくり話したいわよね。ええ、お話しましょう。ただ、これを機にもっと()()()()()なんてどうかしら?」

 

 

 この状況に堪えられなくなったのか、ブラックがどうにかその場を収めよう口を開く。

 

 元々は、ヤマトが割り込んだ形な為に、普通なら間違った対応ではない。ロビンもそれに便乗するかのように、そしてブラックが自分(ロビン)を優先してくれたからなのか機嫌を幾分か良くしたロビンは嬉しそうにしている。親密なお話というのがナニを意味しているのか気になるところではあるが…。

 

 ただ、ブラックの対応は今回に至っては悪手だ。

 

 

「黒吉っちゃん…」

 

 

 ヤマトが泣きそうだ。

 

 瞳を潤ませたヤマトに、ブラックは心臓を鷲掴みにされる。色んな意味で…。

 

 

「ブラック?」

 

 

 そしてまた不機嫌になるロビン。

 

 しかし、ブラックはもう恐れを抱いてはいない。聡明な美女であるロビンからは想像もしていなかった新たなロビンが見れたのだ。可愛くて仕方ないだろう。

 

 

「ハッ!?

 キャベツが大将・藤虎と戦ってるんだった!オレちょっと加勢に行ってくる!!」

 

 

 もっとも、ロビンとヤマトが可愛いく思えてしまうだけであって、解決策など思い浮かんではいない。

 

 結果としてブラックが取った行動は、情けないことこの上ない───逃亡だ。

 

 

「ブラック…私と話したいんじゃなかったの?」

 

「黒吉っちゃん、ボクを置いてどこに行くんだい?」

 

 

 ブラックといえど逃げ切れるはずがないのだが…。ブラックの両肩には、ロビンとヤマトの手が置かれており、ずっしりと威圧感が乗しかかっている。

 

 きっと、金獅子との戦いの方がまだ楽だったと思えていることだろう。

 

 

「キャベツが戦ってるしさ。

 そ、それに、オーロ・ジャクソン号も心配だし、バルトロメオ…まァ、アイツは大丈夫だろうけど、()()()()()()()だし、ちょっと様子見に行こうかなって」

 

 

 そして、ブラックは自らどんどん墓穴を掘っていってしまう。

 

 

「ペローナ…ねェ。

 まさか、あのゲッコー・モリアの仲間だった女を仲間にしてるとは思わなかったわ。

 ブラックは、年下の可愛らしい女が好みなのかしら?」

 

「へ!?」

 

「黒吉っちゃん、ペローナのことが好きだったの?」

 

 

 最早、ブラックですらもお手上げ状態。寧ろ、ブラックが何かしようものなら全てが悪手になりそうな───底無し沼にでもハマったかのような状態だ。しかも、ペローナまで本人が知らないところで巻き込まれてしまっており、可哀想である。

 

 

「ヤマト」

 

「ニコ・ロビン、どうしたんだい?」

 

 

 ロビンが真剣な表情をヤマトに向け、ヤマトもロビンに真剣な表情で返す。何かを決意したような表情だ。

 

 

「あなたのことはまだ納得したわけではないけれど、私がブラックと一緒にいれない間は、ブラックのことを任せるわ」

 

「ボクも君の存在を受け入れきれたわけではないけれど、黒吉っちゃんのことは任せてくれ」

 

 

 ロビンとヤマトにしか分からない内容の会話で、2人は固い握手を交わす。

 

 

「負けないわよ」

 

「ボクだって負けない」

 

 

 とりあえず、ロビンとヤマト間での問題は一時的のようだが、解決したようだ。

 

 

「さァ、それじゃあ──お話しましょうか、ブラック」

 

「3人でゆっくりと話そうか、黒吉っちゃん」

 

 

 とはいえ、ブラックが解放されるわけではない。

 

 

「ロビン、ヤマト…オレは君達の笑顔が大好きだ。だから笑ってくれないかな?」

 

「ふふ、誰のせいだと思ってるのかしら?」

 

「黒吉っちゃん、ボクは本気なんだよ?」

 

 

 ロビンとヤマトという女の底無し沼にハマってしまったブラックは一生脱け出すことができないかもしれない。自由を追い求めるブラックを、世界で唯一縛りつけておくことができる女達───恐ろしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海軍本部大将・藤虎の能力を前に、無能力者でありながらどうにか渡り合っているキャベツではあるが、さすがに大将が相手ではまだ厳しいようで、満身創痍の状態だ。

 

 そもそも、重力という防ぎようのない攻撃が厄介極まりなく、隕石まで宇宙から呼び寄せるのだから、それを相手にキャベツはよく戦っている。寧ろ称賛されるべきだ。

 

 

「はあ、はあ…ッ、ボクは負けない!!」

 

「さすがは、ブラック海賊団の四強の1人…まだ倒れやせんか」

 

 

 敵ではあるが、藤虎も感服するほど。

 

 

「"ロンメルのカマイタチ"。厄介な夢遊病も完治したのか、アンタが誰彼構わず斬る悪癖も最近はまったく見られず…。今もその様子はまったくなし。

 普段は一般人に危害を一切与えていなかったみてェで…今のアンタが海兵だったらどれだけ良かったことかぁ…」

 

「世界政府の下に…況してや、"天竜人"の傀儡になるなどゴメンだ!!」

 

 

 キャベツがもし海軍に属していたら、大将にもなれていたはずだ。一般市民───特に女性達から、海軍のアイドルとして崇められる存在になっていたはずだ。立場が違うだけで、今とあまり変わりないが…。

 

 ただ、キャベツが海軍に属することはない。キャベツもまた自由を求めており、誰かの下に付くのを望んでいない。

 

 

「ボクはブラック海賊団のキャベンディッシュだ!!」

 

 

 ならば何故、ブラック海賊団に属しているのか…。それは何だかんだで居心地がいいからだろう。

 

 船長の座を奪うなどといつも口にしているが、実際のところはもうそのつもりはまったくないはずだ。

 

 彼は、ブラック海賊団の"特攻隊長"キャベンディッシュだからだ。

 

 

「よーく言った──キャベツ!!」

 

「んなッ、ブラック!?

 金獅子はどうした!?」

 

 

 そして、仲間の危機に頼れる船長が()()()()とした様子で登場だ。

 

 

「金獅子は倒した」

 

「そうか。だが、お前をそこまで()()()()とはさすがは金獅子といったところか」

 

 

 言っておくが、ブラックがここまで疲れ果てているのは、金獅子との戦いの影響ではない。ブラックもあまり話したくないだろう。敢えて何も言わずにいる。

 

 ロビンとヤマトにこってり搾られてここにやって来たようだ。逃げてきたと言うべきか…。唯一の救いは、ロビンとヤマトが揃って、どっちが大切なのか聞いてこなかったことだろう。ただ、ブラックの過去(恋愛経験)を洗いざらい2人に話さなければならなかったようだ。

 

 ブラックは冒険家兼トレジャーハンターだったこともあり、一つ所に長くとどまることのない生活を送ってきた故か、数年単位、況してや数ヶ月、数週間単位の恋愛などしたことがなく、一夜限りであったり、最長数日間の関係ばかりだったようだ。まともな恋愛経験はほぼ未経験といっていいだろう。体だけの関係なら経験は多く数知れず、爛れた関係(経験)に於いては群を抜いているかもしれない。さすがは五皇。

 

 行かないでと呼び止められた経験も多くあるらしいが、ブラックはその度に聴こえぬフリをして冒険を優先していたそうだ。最低である。海賊らしくはあるが…。

 

 

「あの金獅子を倒すとは…ブラック海賊団がロジャー海賊団の再来と呼ばれんのも、間違っちゃいねェらしい」

 

 

 そう、ブラックは海賊なのだ。世界で最も自由な男なのだ。

 

 

「キャベツ、とりあえず戦いは終わりだ」

 

「ま、まだ藤虎を倒してないぞ!?」

 

「これ以上暴れんな」

 

 

 その自由な男ブラックは今、尻に敷かれているらしく、5分で戻ってこいとロビンとヤマトに言われているらしい。

 

 

「逃げるんですかい?」

 

「オレとお前が戦ったらどうなるか…それくらい分かるだろ?」

 

 

 ブラックと藤虎が戦ったら被害は増すばかり。そしてブラックは別の意味で危機に陥る。どちらかというと、ブラック的には後者の方が危機だ。

 

 

「キャベツ、行くぞ」

 

「はあ、仕方ない」

 

 

 こうして、東の海(イーストブルー)"ミラーボール島"での激闘は幕を閉じることとなる。

 

 現五皇"赫猿"デマロ・ブラックによるロジャー世代の四皇"金獅子のシキ"の討伐。この大ニュースは瞬く間に全世界に知れ渡ることだろう。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 事件は常に予想の斜め上を行く。

 

 場所は偉大なる航路(グランドライン)"バルティゴ"。またの名を"白土の島"。打倒世界政府を目的に暗躍する反政府組織"革命軍"の本拠地としているこの島にて起きた。

 

 

「ニコ・ロビン。

 君は美しいボクにこそ相応しい。ブラックではなく、()()()()になってくれないだろうか」

 

 

 革命軍の本拠地であるバルティゴに、何故かブラック海賊団もいる。

 

 東の海(イーストブルー)で起きた一件で、革命軍の幹部を助けてもらったことの他に、エースと革命軍の"参謀総長"サボが義兄弟かもしれないことが発覚したことで、ブラック海賊団は革命軍に招かれこの島にやって来ていた。

 

 ただ、ミラーボール島から引き上げる最中に、キャベツがロビンの美しさに一目惚れするという予期せぬ展開が起き…。

 

 

 

 

 

霹靂一閃

 

 

 

 

 

 その予期せぬ展開後、それからというもの事あるごとにロビンに求婚するキャベツに額に青筋を浮かべたブラックが、キャベツの顔面に飛び蹴りを叩き込む。

 

 

「ぐふッ、な、何をするブラック!!」

 

「イラッとしたから。つかロビンに触んな」

 

「ふふ、ブラックったら、もしかしてやきもちを妬いてくれているの?」

 

 

 ロビンとヤマトという美女2人に求められる羨ましいことこの上ない男───デマロ・ブラック。そのブラックは贅沢な身分でありながらも、やきもちを妬いていた。

 

 

「むゥ、黒吉っちゃんはボクが他の男に触られたら同じようにやきもち妬いてくれるかい?」

 

「…想像しただけでイラっときた」

 

「大好きだよ黒吉っちゃん!!」

 

 

 ブラックはどうやら、海賊らしくロビンとヤマト2人を恋人(後に妻)にすることを決意したようだ。決意したというよりも、開き直ったというべきだろうか…。ロビンとヤマト、ブラックがこの2人に優劣などつけられるはずもなく、男としては最低だが海賊らしく、その命をかけてニコ・ロビンとヤマトを幸せにするつもりらしい。つまり、ロビンをつけ狙う世界政府と、ヤマトを奪還しようとしているであろう百獣海賊団というか"百獣のカイドウ"との全面戦争も厭わないということだ。

 

 

「何故だッ!?

 ボクの方がブラックよりも美しいぞッ──ニコ・ロビン!!」

 

「ごめんなさいね。

 あなたには私よりも相応しい相手がいるわ。けど、私にはブラックしかいないの」

 

 

 恐らく、キャベツにとって人生で初めての失恋だろう。もしかしたら、自ら告白したのも初めてのことだったかもしれない。キャベツはブラック海賊団に加わってからというもの、何度も絶望を味わっているが、今回はその中でも一番の絶望かもしれない。

 

 己よりも強い者達。己の美しさにまったく興味を示さない乙女達。そして失恋。

 

 

「くッ、見ていろブラック!

 ボクは必ずッ──君からニコ・ロビンを奪ってみせる!!」

 

 

 船長の座を奪うこと以上に、熱い闘志をキャベツは燃やしている。もしかしたら、東の海の諺にキャベツも当てられてしまったのだろうか…。

 

 金獅子のシキとの激闘からかれこれ数日。ブラックが金獅子と戦っていたなか、海軍大将・藤虎と激闘を繰り広げていたキャベツは、同じく藤虎と戦ったヤマトと共に懸賞金が更新されている。藤虎に勝てはしなかったものの、懸賞金が大台(10億)を超えたのは、それだけ政府と海軍から危険視されているのだろう。

 

 そのキャベツが本気で、ロビンを狙っている。

 

 

「ロビンは絶対に渡さねェよ。ヤマトも誰にも渡さねェ」

 

「ふふふ、ブラックったら」

 

「黒吉っちゃん、えへへ」

 

 

 もっとも、キャベツがそれを達成させる日は永遠に訪れないだろう。

 

 ロビンとヤマトの間にも、もう敵対する意思は一切見られない。ロビンとヤマトを2人とも、オレの女にするという最低な(海賊らしい)ブラックの宣言に、彼女達もすっかり毒気を抜かれたのかもしれない。

 

 そして、彼女達の左手の薬指には、それぞれ3億ベリーの"ブラックダイヤモンド"の婚約指輪がいつの間にやら嵌められている。東の海の流行発信地であるミラーボール島で、ジュエリー職人を見つけ出して急ぎで作らせたようだ。荒れ果ててしまった島で、そのような状況で急遽そのような仕事をさせるとは鬼である。もっとも、ブラックは指輪代にプラスして、復興費用として何億ベリーかミラーボール島に寄付したとか…。さすがは元トレジャーハンター。貯蓄は莫大のようだ。

 

 

「うがあァァァ!

 ボクの美しさに目が眩まない女が存在するなんて!!」

 

 

 納得のいかないキャベツは吠えるしかなく…。

 

 

「そういうとこだと思うぞ、キャベツ」

 

「や、やっぱり守護神様は凄いべ!!」

 

 

 キャベツはペローナに駄目な部分を指摘され、バルトロメオは美女2人に囲まれるブラックを崇めている。

 

 

「それにしても、あなたの懸賞金──ついに、大台(40億)を超えたわね」

 

 

 金獅子を討伐したことで、ブラックは懸賞金がまたしても上がっている。

 ただ今回、エースだけは戦いに参加していなかったはずだが、それなのにエースも少しだけ懸賞金が上がっているのは、ブラック海賊団(ブラックブランド)だからということだろうか…。

 

 それと、船を守る為に海軍とヒューマンドリル達10匹───一郎から十郎も海軍と戦っていたらしく、ついにヒューマンドリル達も懸賞金をかけられてしまったようだ。1匹あたり2億5000万ベリー。覇気も会得しているのだから、当然の懸賞金だろう。しかも、ブラック達を常にそばで見ていることで成長している為、今後が恐ろしいペット達である。

 

 

「見てくれニコ・ロビン!

 更新されたボクの美しい手配書を!!」

 

 

 "金鷹(こんじきだか)"キャベンディッシュ。懸賞金10億8980万ベリー。

 

 ちなみに、ロビンは"凄いわね"と口にしただけで、あまり関心がないようだ。

 

 

「どんどん懸賞金が増してってる…うう、モリア様ァァァ!早く私を迎えに来てくれよォォォ!

 それとブラック!ヤマトとニコ・ロビンにうつつを抜かして、私を守ること忘れんなよ!?」

 

 

 "魑魅魍魎の姫(ゴーストプリンセス)"ペローナ。懸賞金5億4100万ベリー。今回、どれだけの海兵達が心を折られたのだろうか…。

 

 

「オレはオーロ・ジャクソン号の番人だべ!!」

 

 

 "絶対防御(ガーディアン)"バルトロメオ。懸賞金4億5000万ベリー。すっかりオーロ・ジャクソン号の守衛責任者である。

 

 

 今ここにいないエースは2億増しである。戦ってもいないのに懸賞金が更新されるのは五皇の恐ろしさ故か…。エースの場合は、海賊王ロジャーの息子だからという理由もあるだろうが…。

 

 そして、ヤマトも大きく更新されている。

 

 

「"銀狼"かァ。

 まァ、百獣の娘よりはマシかな?」

 

 

 "銀狼"ヤマト。15億8100万ベリー。

 

 

「ヤマト1人の懸賞金額が私含む"麦わらの一味"の総合賞金額(トータルバウンティ)の約倍だなんて、五皇の海賊団は本当に凄いわね。

 ブラックはついに、亡き"白ひげ"以外の()()()()()と同じ領域に足を踏み入れているわ」

 

 

 "赫猿"デマロ・ブラック。40億3600万ベリー。

 

 ブラックの懸賞金はついに、赤髪のシャンクスの懸賞金額とほぼ並んだ。

 

 

「いや…麦わらの一味の総合賞金額(トータルバウンティ)も増してるぞ、ロビン」

 

「え?」

 

 

 何か騒ぎを起こす度に、必ず懸賞金が更新されて話題に事欠かないブラック海賊団。しかし、今回はそれに巻き込まれた者がいたようだ。

 

 

「海賊王には興味ないが…"()()()"ねェ。悪くない響きだな──ロビン」

 

 

 麦わらの一味の考古学者である彼女が、ブラック海賊団船長"赫猿"デマロ・ブラックの婚約者の1人として、ヤマトと共に新聞の一面を飾っている。

 

 

「変な虫が寄ってこない為の牽制になるな」

 

「嘘でしょ…」

 

 

 "悪魔の子"は美しく成長し、政府と海軍がおいそれと手を出せぬ女へ…。

 

 "王の女"ニコ・ロビン。10億2600万ベリー。

 

 麦わらの一味の船長を遥かに上回る懸賞金に更新されるという衝撃。だが、五皇の女なのだから当然か…。

 

 

「あ、ボクも記事に出てる。

 なになに?次代の海賊王ブラックは、"悪魔の子"ニコ・ロビンと、"百獣の娘"ヤマトを娶り、漢としての格の違いも見せつけた…だって!!」

 

「ふふ、本当に罪な男ね」

 

「一生かけて必ず幸せにします」

 

 

 政府、海軍、海賊───それと、全世界の男達がブラックの敵になったことだろう。

 

 

「死ねェェェ、ブラックゥゥゥ!!」

 

 

 






洗いざらい自身の恋愛経験について問われたブラック被告。一つ所に長くとどまることがない為に、恋愛経験は未経験に近いというか、体だけの爛れた経験に於いては豊富。


ドレスローザ編で、さりげなくロビンに上着渡すキャベツはカッコいい気がしなくもない。
そんなキャベツが、自分の美しさ並に美しいロビンに恋したみたい。けど失恋。


金獅子を倒したことで、ブラックの懸賞金がほぼシャンクスに並んだぜ!!

それとさりげなくロビンとヤマトと婚約してたブラック。寧ろ、外堀を強制的に埋められて婚約させられた?ロビンとヤマトにそれぞれ3億ベリーのブラックダイヤモンドの婚約指輪を贈呈。ナミが羨ましがるなぁ。ちなみに、ブラックダイヤモンドの名前の由来は"征服されない"だとか。自由を追い求めるブラックらしい贈り物?けど、ロビンもヤマトもそんなブラックに征服されたい?

前から思ってたけど、ロビンの異名がずっと"悪魔の子"ってどうなの?
ここでは、"王の女"に進化しております。しかもそれ故に、懸賞金も10億超え。ブラックと婚約したことで、手がつけられない女に…。ルフィの倍以上になっちゃったよ。船員が船長よりも懸賞金高いという。ロビンの場合は色々と仕方ない?

ヤマトの異名変更。銀虎→銀狼。まさか狼だったとは…。白虎か麒麟だと思ってたんだけどなぁ。


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2人の次代の海賊王



ワノ国編でルフィ達が暴れている一方で、サボやハンコック達はいったいどうなっているのだろうか…。

そういえば今考えると、オハラのバスターコールと、エニエスロビーのバスターコールって恐ろしさが違いすぎるよね。どちらもポーネグリフが絡んでる案件だけど、オハラのバスターコールは中将時代だけどクザンとサカズキいるし。もしかしてボルサリーノもいた?オハラ滅亡時のバスターコールは恐ろしいよね。



 

 

 再び世界に激震が走る。

 

 ブラックと金獅子との激闘から早いことで10日。ここ最近、世間を騒がせ続けているブラック海賊団がまた何か騒ぎを起こしたかと思うかもしれないが、今回は違う。それを喜ぶべきか、残念がるべきかはさておき…。

 

 

「ボア・ハンコックが自ら()()()()()退()?」

 

 

 世界一の美女と謳われる王下七武海の紅一点"海賊女帝"ボア・ハンコックが自ら七武海を脱退したそうだ。

 

 世界一と謳われる美しさで老若男女問わず虜にし続ける彼女が再び賞金首に戻ることに、世間は驚きを隠せないだろう。更に驚くべきは、七武海を脱退した後の彼女の行動だ。

 

 

「は?"海賊王妃"を自称して、"麦わらの一味"に加入することを宣言?…マジで?ロビン知ってた?」

 

「いえ、初めて知ったわ。そもそも、海賊女帝と繋がりなんてなかったはずだけれど…」

 

 

 しかも、海賊女帝の異名も放棄し、王妃と名乗るということはボア・ハンコックが誰かの妻になり、世界一美しい人妻の誕生というわけで…。もっとも、ブラックにとって世界一美しいのはロビンとヤマトであるが…。

 

 それはともかく、ボア・ハンコックが人妻になってしまうことに多くの男達が血涙を流していることだろう。

 

 そして、王妃と名乗るということは、次代の海賊王と謳われるブラックの妻になると考える者がほとんどのはずだが、麦わらの一味に加入すると宣言していることから、相手がブラックでないのは明白だ。

 

 

「あ、麦わらの一味とハンコックに繋がりあった。一方的なもんだと思うが──ハンコックがルフィにご執心というか、ベタ惚れしてる」

 

「どうしてあなたがそれを知ってるのかしら?」

 

 

 マリンフォード頂上戦争後、女ヶ島"アマゾン・リリー"で療養しているエースとルフィのもとをブラックが訪ねた際、ブラックはその事実を知った。

 

 ルフィに勘違いされたことで賞金首になってしまったブラックにとって、自身とルフィを瞬時に見分けるハンコックは稀有な存在ではあったが、それと同時に理不尽さも味わったようである。

 

 

「この顔で話しかけるなと何度もハンコックに襲いかかられた」

 

「あなたが似てるんじゃなく、ルフィが似てるのに…。けど、海賊女帝がルフィに恋してたなんて…。

 ふふ、あなたとルフィはそういう星の下に生まれたのね」

 

 

 世界一の美女と謳われるハンコックがルフィにベタ惚れしていることに、ロビンは驚きつつもどこか納得しているようでもある。

 

 ロビンとヤマトに好かれるブラックと、海賊女帝に好かれるルフィ。一癖どころか、二癖も三癖もある美女達。ある意味ではブラックとルフィは女難の相があるのだろう。恐らく、ルフィに想いを寄せている癖の強い美女は他にもいるはずだ。

 

 だが、問題が幾つかある。

 

 

「けど、エースがこれ知ったらどうなるかな?

 ハンコックからお義兄様って呼ばれて微妙な顔してたし…」

 

 

 そう、ルフィの義兄エースだ。仮にもし、本当にボア・ハンコックがルフィと結婚すれば、彼女はエースにとって義妹になる。10歳ほど年上の義妹だ。まあ、年齢に関してはエースは気にすることなく、どうでもいいかもしれないが、果たしてエースがルフィの結婚を受け入れられるかどうか…。

 

 マリンフォード頂上戦争後、ルフィと同じく女ヶ島で療養していたエースは、ボア・ハンコックがルフィにベタ惚れしているのをもちろん知っている。しかし、知ってはいるがそれを受け入れられるかは別の話だ。事あるごとに、良妻アピールをされたエースが辟易し、逃げるように女ヶ島をあとにしたのをブラックは鮮明に覚えている。

 

 ボア・ハンコックという女は、ベタ惚れしているルフィに対してはデレデレで甘く、そのルフィの兄であるエースにも理想の義妹であろうと振る舞っているが、基本的には傲慢で超が付くほどワガママで、"美しいから何をしても許される"と平気でのたまうほど───まさに、天上天下唯我独尊だ。

 

 

「オレ、苦手なんだよなァ──ハンコックが」

 

「世界一の美女が苦手だなんて…。

 そんなこと言うのあなたくらいじゃない?」

 

 

 好みは人それぞれ。世界一の美女が苦手な男など、ブラック以外にも探せばいくらでもいるはずだ。

 

 とにかく、ブラックに対して敵意剥き出しのハンコックを、エースが弟ルフィの相手として受け入れきれるかどうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、ブラック海賊団が今現在滞在しているのは革命軍の本拠地"バルティゴ"だ。

 

 世界各国、至る所の情報を常に把握しているであろう革命軍が、ボア・ハンコックの七武海脱退の情報を掴んでいないはずもなく、それがエースの耳に届いていないはずもなく───ボア・ハンコックが海賊王妃を自称していると知ったエースが、その相手がいったい誰なのか想像するのは容易い。

 

 

「ブラック、女ヶ島に行くぞ。

 サボも一緒に──もちろん来るよな?」

 

「ルフィの妻ってことは、オレとエースにとっては義妹だ。

 しっかり見定めさせてもらう」

 

 

 ブラック海賊団の次の行き先が女ヶ島に決定した。

 

 あっち行ったりこっち行ったりと本当に忙しない。

 

 

「!

 サボ、もしかして記憶が!?」

 

「すまない…まだまったく何も思い出せてないんだ。

 けど、ルフィって名前に懐かしさを感じる。手配書で見たルフィの顔にも懐かしさを感じるんだ。会えば、何かを思い出せるかもしれない」

 

 

 東の海(イーストブルー)ミラーボール島で再会を果たしたエースとサボ。兄2人が、弟の妻になるかもしれない女を見定めるべく、女ヶ島に行く気満々のようだ。

 

 革命軍の"総司令官"ドラゴンの口から、サボがエースやルフィと同じく、東の海のドーン島"ゴア王国"出身であることが明らかになり、彼らが義兄弟であることがほぼ確定的になったようだ。

 

 ただ、サボは10年程前───大怪我を負って死にかけていたところをドラゴンに救助されたようで、その大怪我が原因で記憶を喪ってしまっていたらしく、エースやルフィとの記憶も一切を喪っているようだ。その記憶はまだ戻ってはいないらしい。

 

 しかしながら、さすがのドラゴンもサボが自身の息子(ルフィ)と義兄弟関係にあるとは思ってもいなかったようで、一瞬だが珍しく目を見開いて驚いていたらしい。もっとも、サボは貴族出身で、それを知っていたドラゴンがエースやルフィと接点があるとは思うまい。

 

 普通ならば、海賊の言うことなどすぐには信じないだろうが、エースとルフィが義兄弟であること、ルフィがドラゴンの息子であることは大々的に公になっており、しかも出身地が同じともなれば、ドラゴン以外の革命軍の者達も信じるしかないだろう。何より、サボ自身が記憶を喪った状態でありながらも、ふとした瞬間にエースとサボが本当に義兄弟なのだと思えてしまうような、以心伝心な行動を取ることがあり、それを目の当たりにしては疑う余地などどこにもない。

 

 それに、革命軍からしてもブラック海賊団には大きな借りがある。ブラックが金獅子を討伐し、サボと東軍軍隊長を助けてくれたのだ。キャベツ達が海軍大将・藤虎を引き受けてくれていたおかげもあり、革命軍の被害は少なく済んでいる。決して、無下にできるはずもない。

 

 

「ドラゴンさん。オレも女ヶ島に行ってきていいですか?」

 

「ああ。お前にとって大切なことだ。行ってくるといい」

 

 

 こうして、ブラック海賊団は革命軍の"参謀総長"サボを共に連れて、女ヶ島に向かうことになった。

 

 もちろん、ブラックの婚約者であるロビンも共にである。理由は、女ヶ島に行ったついでにルフィのいる"ルスカイナ島"にも立ち寄り、ロビンの今後を話し合う為だ。

 

 ロビンがこのまま麦わらの一味に所属(単身赴任)するのか…。それともブラック海賊団に移籍するのか…。もし移籍となったとしても、ブラックはこれ以上仲間を増やすことはないと言っていたが、ロビンは例外である。

 

 

「ねェ、黒吉っちゃん…ボク達いつになったら冒険に行けるのかな?」

 

「それな。オレもまったく同じ事考えてたところだ」

 

 

 大切なロビンの今後についてなのだから、こればかりは仕方ないことではあるが、ブラックもヤマトも冒険に行きたくて仕方ないだろう。

 

 

「ペローナがいなかったらヤバかったな」

 

「そうだね。ペローナってボク達の生命線だよね」

 

 

 今なんて、ペローナのネガティブゴーストの力でどうにか冒険行きたい病を抑え込んでいるらしい。よく見ると、ブラックとヤマトのそばには常にペローナのゴーストがいる。

 

 普通なら、どんな強者だろうとペローナのネガティブゴーストを一発食らえばネガティブになるのだが、ブラックとヤマトは普段から冒険に行きたいという気持ちが強すぎるからなのか、その気持ちが弱まる程度で済んでいるようだ。ちなみに、キャベツがネガティブゴーストを食らうと、"今日のボクは普通だ"と、ナルシスト要素が弱まる程度で済んでいるらしい。さすがは五皇ブラックと、ブラックを支える者達だ。

 

 ただ、エースだけはネガティブゴーストを食らうと、白ひげに向かって懺悔というか謝罪を始めてしまうようだ。さすがのペローナも、可哀想だからとエースには二度とネガティブゴーストを食らわせないと誓っていた。

 

 それと、バルトロメオは、自らを"鶏以下の存在です"と泣いて(鳴いて)いたらしい。

 

 ともかく、ブラックとヤマトはまたしても冒険に行けず、冒険に行きたい病をペローナの力を借りて抑え込み、女ヶ島へと向かう。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 無風海域"凪の帯(カームベルト)"。

 

 その凪の帯(カームベルト)にて、現在ブラック海賊団は()()と大激戦真っ只中である。

 

 

「お、大型の海王類だけではなくッ──クラーケンまで従えているのか!?」

 

 

 女ヶ島を目指していたブラック海賊団は、女ヶ島近くのこの海域にて同じく女ヶ島に侵攻する海軍本部中将5人が率いる軍艦10隻と遭遇。

 

 どうやら、七武海を脱退したボア・ハンコックを討ち取る為に海軍は動いていたらしく、ハンコックが皇帝として君臨する女ヶ島に向けて"バスターコール"が発令されていたようだ。

 

 バスターコールとは、何をもってもまず殲滅というスタンスの、国家戦争クラスの大戦力で行われる無差別攻撃。

 

 しかし、海軍の作戦はブラック海賊団の登場によって、女ヶ島に到着する前に失敗に終わりそうだ。

 

 

「まさか、ハンコックが七武海を脱退したことで、海軍が"バスターコール"を発令するとはな…。

 今の元帥…クザンはそこまでするような奴には思えないんだが…これはもしかしたら政府の命令か?」

 

 

 男子禁制の女ヶ島で暮らす女達は、九蛇と呼ばれる戦闘に長けた部族でもあり、島の守備を行う戦士全員が覇気を会得しているという驚異的な戦闘能力の高さを誇っている。

 

 政府はその戦闘力を危惧し、女ヶ島を滅ぼすつもりでいたのかもしれない。

 

 

「まァ、滅ぼさせやしないがな。

 中将達…女ヶ島に手を出すってなら、このデマロ・ブラックが相手になるぜ。

 オレの()()()()()()()もいるこの領域で戦うってなら、遠慮は一切なしだ。

 撤退するなら今の内だぞ──どうする?」

 

 

 ブラック海賊団はすでに、軍艦10隻の内3隻を沈めている。もっとも、軍艦を沈めたのはダンゴ率いる海王類達"海戦部隊(ペット達)"なのだが…。

 

 この一戦、女ヶ島に対するバスターコール阻止を機に、ブラックはクラーケン含む大型の海王類達を従えていることから、海の神の名を持つ古代兵器"ポセイドン"を有していると勘違いされることとなり、ブラックの悪名は増すばかりである。

 

 

「つっても、オレに引けと言われたところで引くような奴らじゃねェか…」

 

 

 

 

 

死破(しば)

 

 

 

 

 

 それでも、海軍には海軍のプライドがある。ここまで来て、おいそれと引き下がれない。

 

 たとえその相手が、薙刀を一振りしただけで軍艦を真っ二つにするような怪物だろうとも…。

 

 その一方で、バスターコールを前に見過ごせないのはブラックも同様だ。

 

 

「バスターコールにはオレもちょっとした()()がある。二度とこんなふざけた真似しねェように、見せしめにブッ潰しておくのもありかもな」

 

 

 ブラックとバスターコールの因縁。それは、ロビンにも大きく関係している。ブラックの憧れであるニコ・オルビアの命を奪い、ロビンを幼くして天涯孤独に追いやった忌まわしいバスターコール。それが今、目の前に存在しているからなのか、ブラックはいつになく好戦的で、静かに怒り、苛立ちを露にしている。

 

 

「お前ら、誰も手を出すな。今回はオレ1人で戦う」

 

 

 その因縁をここで断つべく、バスターコールを金輪際二度と発令させないようにする為に、ブラックはたった1人でバスターコールを相手取るつもりだ。ブラックからしたら、赤犬や金獅子との戦いの方が何倍も厳しいものかもしれないが…。

 

 

「ブラック」

 

「安心しろ、ロビン。絶対に死なねェからよ」

 

 

 ニコ・オルビアが殺された事実を後から知り、何もできなかった過去とはもう違う。今のブラックには、無慈悲な正義に真っ向から挑む強さがある。

 

 

「ハンコックが七武海を脱退したことで、政府と海軍が女ヶ島を滅ぼすつもりならオレが相手になる!

 今日から女ヶ島は──オレのナワバリにする!!」

 

 

 五皇ブラックが初めて、自らナワバリにすると宣言した島がまさかの女ヶ島とは…。女ヶ島は本来、男子禁制の島なのだが、そこはブラックだから心配は一切いらないだろう。ナワバリにしたからといって、ブラックは支配することなど一切ない。

 

 ただ、ブラックが女ヶ島をナワバリとして守ることによって、"海賊王妃"を自称するハンコックまでもがブラックの女なのではないかと、加入するのは麦わらの一味ではなくブラック海賊団の間違いなのではないかと、世間から大きく勘違いされる事態になってしまうのだが───これを知ったハンコックが怒り狂い、ブラックの顔を整形するような勢いで蹴りかかってくるのは数日後のこと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は女ヶ島から少し離れた"ルスカイナ島"。

 

 バスターコールをたった1人で破ったブラックは、女ヶ島を訪れた後にルフィに会う為にルスカイナ島へやって来ていた。

 

 ちなに、女ヶ島は無事にブラックのナワバリとなり、ブラック海賊団の旗を掲げている。ハンコックが七武海を脱退したことで、今後どうするかと悩んでいたなかでのブラックからの助け船に、ハンコックに代わって皇帝となった妹達は快く乗ってくれたようだ。

 

 ブラックが冥王レイリーの弟子ということも関係してのことだろう。彼女達姉妹は、レイリーに対して大きな恩があるのである。

 

 

「サボぉぉぉぉぉ!

 生ぎでてよがっだぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 そしてルスカイナ島では現在、エース、ルフィ、サボの3人が約10年ぶりに奇跡の再会を果たしたようだ。

 

 サボの喪われた記憶はまだ戻ってはいない。しかし、この再会を心はちゃんと喜んでいるのか、サボの瞳からも涙が零れ落ちている。

 

 

「記憶がなくても…生ぎてでくれでよがっだぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ルフィはとにかく嬉しすぎて大号泣のようだ。

 

 

「ルフィ、良かった。妾も嬉しくなってくる。

 これが愛なのじゃな。やはり、妾はルフィの妻に相応しい」

 

 

 そして、サボが生きていたことに喜んで大号泣しているルフィにつられるように涙を流すハンコック。ルフィに対してのみは、どこまでも純情な乙女である。

 

 

「それなのにッ──どうして妾が貴様の女扱いされておるのだブラックゥゥゥ!!」

 

 

 その純情な乙女ハンコックが豹変し、ブラックへと牙を剥く。世界一の美女の美脚から繰り出される強烈な蹴り。ハンコックの蹴り技に、これまでいったいどれだけの男が葬り去られてきたことか…。

 

 

「オレに聞かれても…それと、いきなり蹴ってくるな。

 まあ、世間が勝手に言ってるだけだし、人の噂も七十五日だ。その間にハンコックが、自分が如何にルフィを愛しているかを宣言しまくってればいいんじゃないか?」

 

 

 ただ、ブラックには一切通用することなく、元七武海のハンコックの鋭い蹴りを頭部に食らったというのに、ダメージをまったく負っていない。腕で防ぐでもなく、頭部に覇気を纏っただけで防いでいたのだ。ハンコックの蹴りは相当な威力だったはずだが、やはり五皇と七武海の間にも大きな差があるということか…。

 

 

「妾のルフィに対する愛を世界に宣言する…じゃと!?

 そんなこと考えたこともなかった。じゃが、ふむ──それは悪くない考えかもしれぬ!

 妾は誰よりもルフィを愛しておるのだ!!」

 

 

 喜んだり怒ったり、感激して愛の言葉を叫んだりと実に騒がしい乙女である。とりあえず、ブラックの提案をハンコックは気に入ったのか、幾分か機嫌を良くしたらしい。

 

 

「妾はルフィの妻──ボア・ハンコックじゃ!!」

 

 

 ルフィが今、大号泣しながら兄弟達と抱き合ってるなか、ハンコックはすっかり自分の世界に入り込んでいる。

 

 七武海を脱退したことで再び賞金首になったハンコックだが、本人はそれに関してまったく気にしていない様子だ。しかも、その懸賞金額はマリンフォード頂上戦争に於いての活躍からも、相当な額である。

 

 "海賊女帝(自称"王妃")"ボア・ハンコック。懸賞金4億9200万ベリー。高度な覇気の使い手でもある為に、妥当な額だろう。

 

 そのハンコックは、麦わらの一味に加入する気満々。まだルフィに承諾を得てはいないが、ルフィは快く受け入れてくれるはずだ。

 

 

「ああ、妾も早くルフィと共に航海したい!

 一緒に色んな景色を見たい!部屋は一緒にしてもらうとしよう!そうじゃ、そうしよう!ルフィと妾の愛の巣じゃ!!」

 

 

 ルフィ以外にもロビン含む他の船員達から承諾を得ないといけないのだが、ハンコックはルフィに承諾を得られればそれでいいと思っているはずだ。

 

 その理由は、ハンコック曰く"妾が美しいから"。

 

 

「サンジが大喜びする一方で血涙を流しそうだわ」

 

 

 ロビンの予想はきっと間違ってはいないだろう。麦わらの一味の男勢で一番の女好きであるコックのサンジは、ハンコックの一味加入を誰よりも喜ぶだろうが、ルフィにメロメロなハンコックにハンカチを噛み締めながら血涙を流してそうだ。

 

 シャボンディ諸島にてブラックとロビンが初対面した際も、仲睦まじく話す2人をサンジは木の影から血涙を流しながら悔しそうに覗いていたのだから、それに気付いていたブラックにはその光景が容易に想像できる。

 

 期待通りの反応を見せてくれるかどうか、楽しみだろう。

 

 

「麦わらの一味も何だかんだで凄くなってきたなぁ。

 ハンコックもだが、ジンベエも加わるつもりのようだし…。元七武海が2人も。はは、ルフィのヤツ、船長としてうかうかしてられないな」

 

 

 活動再開と同時に、麦わらの一味は大きく変わる。ロビンが麦わらの一味に残るのか、それともブラック海賊団に移籍するのかはこれからの話し合いで決めるとして、もしロビンが抜けたとしても麦わらの一味の戦力は増す。

 

 

「そうなの?」

 

「あーそうか。ロビン…というか、ルフィ以外はジンベエと接点がないもんな。ジンベエは頂上戦争の一件でルフィに惚れ込んだらしくてな。麦わらの一味が活動を再開したら、一味に加えてもらえないか頼むつもりみたいだぞ」

 

 

 ブラックと黒ひげ。この2人が五皇に名を連ねたことで、同じ世代の海賊達は影が薄くなっているが、それでもブラック達の世代は粒揃いで大きな話題を呼んでいる。世間はブラック達を"最悪の世代"と呼んでいるのだ。

 

 その粒揃いの中でも、ブラックと黒ひげに継ぐ一味はやはり麦わらの一味だろう。船長が話題に事欠かないルフィなのだ。海軍の英雄ガープの孫で、革命家ドラゴンの息子であり、ゴールド・ロジャーの息子"炎鬼"エースとは義兄弟。そこに、革命軍"参謀総長"サボも義兄弟で、世界一の美女"海賊女帝(自称・王妃)"ボア・ハンコックが(自称)と知れ渡れば、世間はまた大騒ぎすること間違いなしだ。

 

 しかも、五皇ブラックの弟弟子で、そのブラックと同じく五皇の"赤髪のシャンクス"が期待しているのだから尚のこと。

 

 

「ルフィはきっと海賊王になるわ」

 

「だろうな。

 オレはそれが楽しみで仕方ねェ」

 

「黒吉っちゃんはその瞬間を見届けるつもりでいるんだね」

 

 

 世間では、次代の海賊王はブラックだと言われている。だが、そのブラックは海賊王を目指しておらず、海賊王になるのはルフィだと期待している。

 

 

「ぐぬぬぬ、ブラックといい、麦わらといい、いったい何なんだ!?

 ニコ・ロビンもヤマトも!海賊女帝も!どうしてボクを選ばないんだ!!」

 

 

 そして、王になるべき男には、イイ女が付き物だ。

 

 






ブラックの影響による麦わらの一味強化。
原作と違い、ハンコックが仲間になる…はず。ロビンとヤマトに触発され、恋はいつでもハリケーンと己を奮い立たせ、七武海を脱退し、九蛇海賊団から麦わらの一味に移籍(したつもりでいるだけ)。海賊王妃を自称する恋はいつでもハリケーンな乙女。

麦わらの一味内で、ハンコックとナミのバトル勃発?でも、ハンコックとナミって、辛い過去から意気投合したり?

九蛇海賊団はハンコック移籍後、妹達がダブル船長、女ヶ島はダブル皇帝に。

ブラックが初めて自らナワバリ宣言。それが女ヶ島という、サンジが発狂しそうだ。


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デマロ・ブラックが与える影響



お待たせしました。

はてさて、ロビンはどのような選択をするのかな?



 

 

 "ルスカイナ島"。

 

 海軍と世界政府は知らない。凪の帯(カームベルト)に存在するこの島にて、()()()()()()が育てられていることを…。着実に育っていることを…。

 

 

「ぶッ、ぐへッ!!」

 

「おらおらどうしたァ!?

 そんなんじゃ、ロビンを任せらんねェぞ──ルフィ!!」

 

 

 腹を殴られ、そのまま間髪入れずに背中に踵落としを叩き込まれて地面に叩きつけられるのは、懸賞金4億ベリーの海賊"麦わらのルフィ"である。

 

 そして、ルフィを一方的に叩きのめしているのは、ルフィとまったく同じ顔をした大海賊"赫猿"デマロ・ブラックだ。

 

 

「こ、こんにゃろおォォォ!!」

 

「おッ、そうだルフィ!いいぞ!!」

 

 

 だが、ルフィはただ一方的にやられるばかりの弱い海賊ではない。着実に強くなっている。

 

 ブラックという格上に何度も殴られ、蹴られることで、その身に技術を直接叩き込まれることで、その技術をどんどん吸収していく。

 

 ルフィの攻撃を防いだものの、大きく弾き飛ばされたブラックはそれを身を持って味わいながら嬉しそうに口角を上げている。

 

 

「覇気の扱いに長けた者は、身体の中を取り巻く不必要な覇気を流すことで、直接触れずに弾き飛ばすことができる」

 

「で、できた。

 レイリーが最初に見せてくれたやつだ」

 

 

 この1年と数ヶ月という、本来なら短い期間で覇気の基礎を冥王レイリーに叩き込まれたルフィは、会得した覇気をより洗練させる為、そして次の段階へと昇る為に、ルスカイナ島を訪れたブラックから荒療治的な厳しい扱き(特訓)を強いられているが、血反吐を吐きながらもブラックの期待に見事に応えているようだ。

 

 この1年と数ヶ月でルフィは見違えるほどに強くなった。冥王レイリーですらも、ルフィの才能の高さには驚くばかり。しかし、ルフィはまだまだ強くならなくてはならない。"海賊王"の存在は遥か高みにいる。

 

 そして、ブラックは何としてもルフィに強くなってもらわなくてはならない。その理由は、ルフィに期待を寄せているからだけではなく、ロビンが関係している。

 

 ブラックにとって大切なロビン。彼女は麦わらの一味に残り冒険することを決意した。ロビンにとって、ブラックが愛しい男であることは疑いようのない事実だが、麦わらの一味も彼女にとって愛しい仲間で、大切な家族なのだ。

 

 ヤマトにとってブラックが己の世界を変えてくれた存在であるように、ロビンにとっては麦わらの一味が己の世界を変えてくれた存在なのである。

 

 ブラックと婚約したからといって、そう簡単に抜けられるはずなどない。ロビンがそんな薄情な女なはずがない。もちろん、ブラックもそれを理解しており、自由を追い求める彼がロビンを縛るような真似などするはずもない。

 

 

「ロビンを狙ってやがる奴は多い。

 これからどんどん増してくるだろう。オレに対する人質としてだったり、ロビン自身の古代文字を読めるという稀少な力を求める者もいる。他に、ロビンの美貌を求める男も…考えただけで腹立ってきた」

 

 

 ただ、弱い男に愛しい女を任せられるはずもない。

 

 だからこうして、ブラック(兄弟子)ルフィ(弟弟子)を本気で鍛え上げているのである。またしても冒険が先送りになってしまったが、愛しい女と冒険のどちらが大切かと聞かれたら、さすがのブラックも愛しい女を選ぶ。

 

 決して迷ったりはしない───恐らく。

 

 

「ぐうぅッ!!」

 

 

 ブラックも本心では、自分自身の手で守り抜きたいと思っているだろう。もちろん、ロビンに何かあれば地球の反対側だろうと、果てだろうと、どんな場所だろうとも向かうつもりでいる。火の中水の中だ。それでも、ロビンが狙われている身でありながらも麦わらの一味に残ることを許可しているのは、彼女の意思を尊重してのこと。

 

 とはいえ、心配なものは心配だ。

 

 

「がふッ!

 そ、空島の衝撃貝(インパクトダイアル)よりもッ、はあ、はあ、ぐふッ、ハトの奴の(六王銃)よりもッ──それ以上の威力だ!!」

 

「武装色の覇気には、弾く覇気の更に上が存在する。それが、この"内部破壊"だ」

 

 

 ここまで覇気を極めた者は、猛者達が集う新世界にも少ない。さすがは五皇というべきか…。手加減してるとはいえ、ルフィへのダメージはあまりにも大きく、血を吐き出し、立ち上がることができずにいる。それでも気絶せずにいられるのは、ブラックの絶妙な力加減のおかげか…。

 

 

「おのれェ、ブラックゥゥゥ!

 ルフィが強くなる為にと先程から黙って見ていれば、ルフィを痛めつけおって!絶対に許さぬ!妾がおぬしを痛めつけて犬の餌にしてくれる!!」

 

 

 しかし、特訓とはいえルフィの痛めつけられように我慢できなくなったハンコックがブラックへと襲いかかろうとする。

 

 ルフィに強くなってもらう為とはいえ、ロビンを守る為という私情がその理由の大半を占めてのブラックの行動は、他者から見たら自分勝手にしか映っていないだろう。

 

 

「ダメだよ、ハンコック」

 

「ッ、どけッ──カイドウの娘!!」

 

「その呼び方はやめてくれないかな?

 まァそれはともかくとして、黒吉っちゃんはロビンを守ってもらう為にルフィに強くなってもらおうとしているけど、黒吉っちゃんはルフィだから任せられるんだよ」

 

 

 ルフィをここまで痛めつけて鍛えるのも、ロビンの意思を尊重すると決めたとはいえ、生半可な男になど任せたくないから…。それと、ブラックのルフィに対する期待の現れでもある。

 

 

「エースもサボも落ち着きなよ。

 黒吉っちゃんは決して無駄なことはしない。これは、ルフィと…麦わらの一味にとってとても大切なことだよ。

 君達は絶対に邪魔をしちゃいけないんだ」

 

 

 それを理解しているヤマトはハンコックを止め、キャベツ、ペローナ、バルトロメオの3人に止められているエースとサボを、鋭い視線で制止させる。

 

 

「副船長!サボ大先輩!

 ルフィ先輩はこんなこと望んでないべ!!」

 

 

 エースもサボも、やりすぎなブラックに飛びかかりそうだったが、キャベツ達に止められ、ヤマトの鋭い視線と言葉、更にはバルトロメオにまでそう言われて、さすがに動きを止めた。

 

 バルトロメオは、憧れのルフィの為にと大奮起している。相手がルフィの兄であろうと、神の如く崇める憧れのルフィと、同じく神の如く崇める己の船長ブラックの為ならば、エースとサボとも敵対する。

 

 

「黒吉っちゃんは誰よりもルフィに期待しているんだ。

 そして、ルフィはその黒吉っちゃんの期待に全力で応えようとしている。だから絶対に邪魔しちゃいけない」

 

 

 ヤマトがハンコック達から視線を外し、愛しいブラックの方に視線を向けると、そのブラックの目の前で地に伏していたルフィがどうにか立ち上がっている。

 

 ブラックの一撃が相当効いているのか、立ち上がることがやっとの満身創痍だ。しかし、その瞳はまったく死んでおらず、寧ろ一段と輝きが増し、ルフィは笑っている。

 

 

「はあ、はあ…や、やっぱ…凄ェな…ブラ男は」

 

「だろ?

 けど、お前はそのオレを超えないといけねェ。海賊王になるんだからな」

 

「ああ。

 でも…はあ、はあ…オレが強くなるのは…海賊王になる為だけじゃ…ねェ」

 

 

 強く覚悟の籠った瞳で、ルフィはブラックに己の覚悟と想いを、今ここで告げる。

 

 

「ロビンは大切な仲間だ。だから守る…絶対に。

 それと、ロビンはブラ男にとってメチャクチャ大切な存在だから、オレが守るんだ。()()はオレが、ブラ男の大切なロビンを守るんだ!」

 

 

 それはきっと、マリンフォード頂上戦争でブラックがエースを助け出し、守り抜いてくれたことに対する恩返しのようなものでもあるのだろう。

 

 ルフィは、受けた恩は必ず全力を持って返す男だ。

 

 

「このハナッタレが一丁前に」

 

「ししし!」

 

「言ったからには必ず絶対に守れよッ──ルフィ!これは男と男の約束だぞ!!」

 

 

 その覚悟と想いを受け取ったブラックが、愛しいロビンをルフィへと託す。

 

 その光景に、美しい一筋の涙が───ぽとりと地面にゆっくりと落ちる。

 

 

「ありがとう…ブラック、ルフィ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は偉大なる航路(グランドライン)、モモイロ島"カマバッカ王国"。

 

 ルスカイナ島にて、"麦わらのルフィ"ことモンキー・D・ルフィが"赫猿"デマロ・ブラックに地獄の扱きを受け、短期間で急激な成長を遂げているなか、同じく麦わらの一味に所属するとある男も、急成長を遂げていた。

 

 正確には、()()()()()したというべきだろうか…。

 

 ただ、他の麦わらの一味の仲間達の中で、これを予測していた者はきっと何人かいるはずだ。

 

 

「ぐぬぬぬぬッ、こんちくしょうがァァァ!!」

 

()()()()()、どうし──ッ、燃えてるッ!?」

 

 

 麦わらの一味のコック"黒足のサンジ"。懸賞金7700万ベリー。麦わらの一味の主戦力であり、一味全員の胃袋を掴んでいるコックが怒りで熱く燃えている。

 

 

「ロビンちゃんとの婚約だけなら蹴り千発で我慢してやったが、ロビンちゃんの他にも美しい婚約者がいるだとォォォ!?絶対に許さん!オレは怒ったぞッ──ブラックゥゥゥ!!」

 

「は!?

 こ、今度は()()!?黒足ボーイ!ど、どういうことなのォォォ!?」

 

 

 すると今度は、全身から炎だけではなく電撃まで放出し始めたサンジ。しかし、サンジの変化───いや、進化(覚醒)はそれだけでは止まらない。

 

 

「デマロ・ブラック!奴はオレの敵だ!

 頂上戦争でルフィを守り抜いたことを感謝したオレがバカだった!奴は討つべき敵だ!

 許さん…許さんぞォォォ!!」

 

「なッ!?と、透明化!?

 い、いったいどういうことッチャブル!?」

 

 

 麦わらの一味のコックで、無類の女好きのサンジにとって、ニコ・ロビンとヤマトという美女2人と婚約したデマロ・ブラックは万死に値する存在だ。

 

 1年と数ヶ月前にカマバッカ王国に飛ばされてしまったことで、女に餓えまくっているサンジにとって、麦わらの一味というかサンジにとってのアイドル的存在であるニコ・ロビンとあんなことやこんなことやそんなことまでできる間柄になれることがどれだけ羨ましいことか…。

 

 

「ブラックゥゥゥ!

 オレは絶対にテメエを超えてやるぞ!そして、ロビンちゃんを取り返す!首洗って待ってやがれェェェ!!」

 

 

 ニコ・ロビンを取り返すと宣言するサンジは、ブラックよりも自分が強く逞しい最高の男であることを証明し、彼女に惚れ直されて抱き締められ、その果てにあんなことやこんなことやそんなことまでしているというか、この1年と数ヶ月でますます色っぽくなっているであろう彼女の淫らな姿を妄想してなのか、鼻血を垂れ流している。

 

 そもそも、サンジが何かしたところで、ブラックとロビンの仲は決して引き裂けないだろうが…。返り討ちに合うのが目に見えている。

 

 

「ハッ!

 ま、まさかブラックの野郎ッ、ロビンちゃんだけじゃなく、ナミさんにまで手を出すつもりじゃないだろうな!?

 とんでもねェ女好きだ!絶対に滅してやるゥゥゥ!ナミさんもロビンちゃんもお前の為にセクシーに成長してるわけじゃねェ!絶対にオレの為なんだァ!!」

 

「コイツ…どうすりゃいいの?」

 

 

 燃えたり、スパークしたり、消えたり(透明化)、鼻血垂れ流したりと実に忙しないサンジに、カマバッカ王国女王───エンポリオ・イワンコフは驚きすぎた後に対応に困っている様子である。

 

 ただ、何をきっかけに覚醒したのか理解できていないが、サンジが急激に強くなったことだけは感じ取っているようだ。

 

 

「ナミさんとロビンちゃんはオレが守る!!」

 

 

 モテない男の嫉妬は醜いが、時にとんでもない力を与えてしまうことがある。サンジの覚醒はまさしくそれだ。

 

 もっとも、麦わらの一味にとってサンジの覚醒は有難いものだろう。ブラック海賊団よりは数人多いが、同じく少数精鋭の麦わらの一味の個々の戦力強化は新世界に乗り込む上で必要不可欠。シャボンディ諸島にて散り散りになってしまったことをきっかけにではあるが、麦わらの一味が再結集するのを"2年後"に変更したのもその為なのである。

 

 こうして、麦わらの一味はデマロ・ブラックの影響で想定以上の戦力強化に成功することになった。

 

 もしかしたら、ブラックとロビンの婚約発表がきっかけとなり、これまでほんの僅かにロロノア・ゾロに劣っていたサンジが、ついにゾロを超えた可能性もある。醜いモテない男の嫉妬がまさかこれほどの力をサンジに与えようとは…。

 

 ただ、サンジの覚醒をゾロは野生の勘で感じ取っているかもしれない。そして、対抗心を燃やして修業に更に励んでいるかもしれない。麦わらの一味のトップ3は、ゾロとサンジは直接的ではなく間接的にではあるが、3人共がブラックの影響にて大きく成長している。

 

 ルフィが、いつの間にか自分のペースに巻き込みその場にいる者達を味方につける王の資質の持ち主なら、ブラックは己の強大な力で魅了し、強くなるきっかけを与える王の資質の持ち主なのかもしれない。

 

 サンジの場合は、女好きのサンジには特殊(悲惨)すぎるカマバッカ王国での日々で蓄積された女への餓えが天元突破し続けていた状態でブラックとロビンの婚約発表を知ってしまったという、二つの要素が見事なまでに絡みあっての覚醒ではあるが…。きっと、カマバッカ王国以外に飛ばされていたら、ここまでの覚醒はなかったかもしれない。それでも、ブラックとロビンの仲睦まじい近況を知り、血涙を流すことは間違いない。

 

 

「あ、そういえば黒足ボーイ。

 海賊女帝が麦わらの一味に加入するみたいよ。良かったッチャブルね」

 

「んなッ、ホントか!?」

 

「まァ、海賊女帝は麦わらボーイに()()()()みたいだけど…麦わらボーイも婚約するのかしら?

 赫猿といい、麦わらボーイといい、イイ女にモテモテッチャブルね」

 

 

 その瞬間、サンジが灰と化し───そこから不死鳥の如く甦り、熱く燃え上がる。

 

 

「ブラックゥゥゥ!ルフィィィィ!

 蹴り殺してやるからなァァァ!!」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 ブラック海賊団がルスカイナ島を訪れて1週間が経過し…。

 

 

「ヤマト、良かったのか?」

 

 

 ペローナがヤマトに何かを尋ねると、それに対してヤマトは苦笑いを浮かべている。

 

 ヤマト自身は仕方ないと受け入れているが、ペローナはヤマトを心配しているようだ。

 

 

「ロビンも自分で決めたことだし、黒吉っちゃんもロビンの意思を尊重するって決めた。2人でちゃんと話し合って決めたことだ。けど、毎日一緒にいれるボクと違って、黒吉っちゃんとロビンはなかなか会えない。彦星と織姫みたいなものだからね。だから、今日はロビンに譲るよ。

 思いっきり黒吉っちゃんに甘えたらいいと思う」

 

 

 ブラックとロビンは、今2人きりの時を過ごしている。

 

 ヤマトとペローナがいる反対側で、これからなかなか会えなくなる時間の分だけ、きっと愛し合ってることだろう。

 

 

「寂しくないのか?」

 

「うーん、全然寂しくないってわけではないけど、寧ろ嬉しいかな」

 

「嬉しい?」

 

 

 愛し合っているであろうブラックとロビン。それを羨ましく思わないのか、自分だけ放っておかれるこの状況を寂しく思わないのかと聞いてきたペローナに対して、ヤマトは意外な言葉を返した。

 

 自分だけ仲間外れにされているこの状況のどこが嬉しいのかと、ペローナは当然、ヤマトに疑問を抱く。

 

 

「ボクね、最初はロビンを警戒してた。正直、嫌いだった。でも、話していくうちにロビンのことを好きになって、凄く素敵な女性だと思った。ボクの中では、ハンコックよりもロビンの方が綺麗に見える。そんなロビンが愛してる人がボクと同じで、その人がロビンとボクを一生をかけて幸せにしてくれるって言ったんだよ!?嬉しくないわけないよね!!

 ボクは黒吉っちゃんを誰よりも愛してる。それと同じくらい、ロビンのことも大切に思いつつあるんだ」

 

 

 きっと、ヤマトのこの気持ちはペローナには決して、一生かかっても理解できないものだろう。ペローナは自分だけを見てほしいタイプだから、もし恋人ができたとしたら、絶対に他に恋人がいることなど許せるはずがない。

 

 ヤマト達のこの関係は───ブラック、ヤマト、ロビンの3人だからこそ、上手く成り立つ関係なのだろう。

 

 

「私には、ヤマトの気持ちがちっとも理解できない」

 

「まァ、ボクとロビンの黒吉っちゃんに対する愛がとても大きいってことだよ!」

 

 

 ヤマトは簡潔にそう述べる。

 

 そう述べたヤマトの笑顔は、とても綺麗なものでペローナも見惚れていた。

 

 

「あれ?」

 

 

 ただ、美しい笑みを浮かべていたヤマトの表情が一変する。

 

 

「ヤマト?どうした?」

 

「黒吉っちゃんが…()()()()!!」

 

 

 どんな時でもブラックのことになると敏感なのはさすが───しかし、ブラックとロビンが愛し合っているこの一時を邪魔する輩とはいったいどんな不届きものなのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カイドウの娘とニコ・ロビン…2人の女と婚約したらしいな、ブラック…おめでとう。

 ご祝儀代わりだ──オレと戦え、ブラック」

 

 

 世界最強の剣士が、ブラックの"ビブルカード"を頼りにルスカイナ島に襲来した。

 

 ルスカイナ島には現在、冥王レイリーの他に、麦わらのルフィ、"王の女"ニコ・ロビン、元七武海の"海賊女帝(自称・王妃)"ボア・ハンコック、革命軍"参謀総長"サボ、そしてブラック率いるブラック海賊団がいる。

 

 そこに、世界最強の剣士と、その()()まで揃うとは───ここはどれだけ危険地帯なのだ。

 

 

「鷹の目…まずはオレにやらせろ。

 五皇ブラック相手にどこまでやれるか確かめてェ」

 

「我が弟子よ…まだお前には早い」

 

「そうやって自分だけ楽しもうとしてんのバレバレなんだよ!!」

 

 

 どうやら、鷹の目はブラックと戦いにやって来たらしい。それも弟子のロロノア・ゾロを連れて…。2年後に再会を約束しているはずの麦わらの一味の仲間が3人もここに集うとは…。とはいえ、ブラックと戦う為だけに凪の帯(カームベルト)を越えてまでやって来るとは…。ビブルカードに導かれたのだから仕方なくはあるが、さすがの一言に尽きる。ブラックという好敵手に対して恐るべき執念、執着だ。

 

 ブラックは後悔していた。鷹の目に自分のビブルカードなど渡すべきではなかったと…。ペローナを紹介してもらったからと、考えなしに渡してしまった己の浅はかさを痛感している。

 

 よくよく考えてみたら、鷹の目にビブルカードを渡すということは、頻繁に決闘を挑まれるということだ。たとえ、ロビンと愛し合ってる最中だろうとお構い無し。ヤマトと愛し合ってる時だろうとそうなる可能性は高い。

 

 鷹の目からしたら、女に現を抜かすとは体たらくな奴だといったところだろう。

 

 

「金獅子を倒したことで、五皇としての貫禄──覇王色の覇気が増している。今のお前と戦いたい」

 

「まずはオレと戦え、ブラック。

 五皇の強さを体験するまたとない機会だ」

 

 

 揃って戦闘馬鹿な師弟コンビは、ブラックの背後で辛うじて裸の上にシーツを巻いているロビンになど興味ないようだ。しかし、ブラックからしたらこれは大事件だ。なんせ、愛しい女との一時を邪魔されたのだ。

 

 これは万死に値し、天罰が降ることだろう。

 

 

「ブラック、ゾロには少しきつくお灸を据えてもらえるかしら?」

 

 

 そして、怒っているのは彼女も同じ。

 

 

「ああ、ちょっと待っててくれ」

 

 

 あのルフィですら、空気を読めているのかブラックとロビンを2人きりにしている。

 

 久しぶりの好敵手を得たことでイキイキとしている鷹の目と、大剣豪になる為に、最高の相手と訓練できるこの機会を無駄にしたくないロロノア・ゾロ。

 どうやら、ブラックの影響でこの2人は戦闘狂になりつつあるかもしれない。

 

 

「まとめて相手してやるから、かかってこいクソッタレ共が!!」

 

 

 ブラックを中心に、いつも世界は騒がしい。

 

 

 






シャンクスがルフィに麦わら帽子を託したように、ブラックはロビンをルフィに託す。モノじゃないんだけどね。彼女の意思を尊重し、そして期待するルフィだからこそ…。
そしてルフィはそのブラックの期待に全力で応えようとしているという…。


エニエス・ロビー編とかでは、バスターコールの追撃から逃れる為の頭脳プレイなどでカッコ良かったサンジ。けど、新世界編に入ってからほとんどイイトコなしのサンジ。しかも、最近ではジンベエまで入ったことで…。
そんなサンジがブラックに対する嫉妬と怒りでジェルマ大覚醒を起こしてしまった。イチジの火花など火遊びな炎、ニジの電撃などスタンガンレベルな電撃、ヨンジの怪力など蚊でも止まったかのようにしか感じないほどに脚力が増し、そしてついに手に入れた透明化!!

唯一、人間として成長したサンジが、ここにきてジェルマの血統因子の総結集、最高傑作として覚醒。

嫉妬の大覚醒によってレイドスーツなくても能力操れる。これに関しては、原作でニジがレイドスーツなしに電撃操ったり、透明化してたからできる。

良かったね、サンジ!ジャッジパパが掌返しして、ジェルマの最高傑作です!ってビッグマムに差し出すよ!!


ルスカイナ島はやっぱり騒がしいね!
ブラックが金獅子戦って勝ったことを知った鷹の目。いてもたってもいられなくなった鷹の目は、己という最高のご祝儀を渡しに参上。

え?七武海が問題児の1人を連れ歩いてるけど大丈夫?ノープロブレム。鷹の目はいつ七武海辞めてもいい。だって新たな好敵手見つけたしね!!


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猿の尾を踏み、鬼気は目覚める



4月はホントに忙しいね←言い訳すんません!お待たせしました!

転職して更新頻度遅くなりますが、どうにか週一更新できたらと思ってますので、今後も励みになる応援よろしくお願いします!ここまで来たのだからエタりたくはない!



 

 

 五皇が怒ったらいったいどうなるのか…。

 

 ルスカイナ島の猛獣達が世界の終わりだと勘違いしてしまい震えている。

 

 

「お前、バカそうに見えて実は頭のキレは悪くなくてバカじゃないって思ってたけど、バカそうに見えて本当にバカだったんだな。ブラック怒らせるなんてバカだろ」

 

 

 空気を読まずに愛し合う男女の逢瀬を邪魔してしまったことで、五皇"赫猿"デマロ・ブラックを怒らせてしまった"海賊狩り"ロロノア・ゾロは、首から下が綺麗に地面に埋まり生首状態である。

 

 五皇の力を体験するイイ機会だと意気揚々に挑んだゾロではあったが、ブラックとニコ・ロビンの愛しい時間を邪魔してしまうという自殺行為も同然な行為───ブラックの猿の尾を踏んでしまい、ブラックの力を体験できたはいいが、圧倒的な力を前に瞬殺され地面に埋められてしまったようだ。

 

 そんな地面に埋まる惨めなゾロに向けて、この場にやって来たペローナは容赦なく告げる。

 

 ブラックにボコボコにされ、剣士としてのプライドも粉々にされたゾロはぐうの音も出ない。

 

 

「鷹の目に鍛えられたお前が薙刀も抜いてもらえないとは思ってもなかったけどよ」

 

 

 そう、ゾロは素手のブラックに惨敗した。武装硬化した腕で同じく武装硬化した刀をいとも簡単に防がれ、傷一つ負わせることができずボコボコにされてしまったのである。

 

 

「私もブラックの今の姿──()()()の姿は初めて見た。かなり怒ってる証拠だと思うぞ」

 

 

 大剣豪"鷹の目"ジュラキュール・ミホークの黒刀すらも素手で受け止め、表情一つ変えずに渡り合っているブラックは、ペローナが初めて目にする人獣型の状態だ。

 

 

「ふふ、とても素敵だわ」

 

「普段の黒吉っちゃんもカッコイイけど、人獣型はワイルドだよね!」

 

 

 ブラックの人獣型の姿にうっとりとするロビンとヤマト。2人が惚れ惚れとしているブラックの姿は、長く伸びボリュームが増した黒髪に、目の周りが赤く縁取られ、全身を赤い体毛に覆われて尻尾が生えているなど、野生が強く現れている。

 

 普段のブラックはルフィと瓜二つなこともあり、若く見られてしまうが、今のブラックはまさしく"漢"。

 

 愛しい一時を邪魔されたロビンもブラックの逞しい姿に機嫌をすっかり良くし、何事かと駆けつけたヤマトは頬を染めている。

 

 そんな乙女2人とは違って、地面に埋もれるゾロはただただ唖然としている。

 

 

「た、鷹の目の攻撃まで受け止めんのかよ…」

 

 

 鷹の目の黒刀から放たれる鋭い一閃に対して拳のみで真正面から応戦するブラックの覇気の強大さに驚かずにいられないだろう。

 

 さすがのブラックも鷹の目が相手では素手で相手をするのは無理だろうと、ゾロはそう思っていただけに驚き倍増だ。

 

 先は、まだまだ果てしなく遠かった。もっとも、ロビンとの愛しい時間を邪魔されたことで湧き上がっている怒りの力が覇気を底上げしているのもあるだろうが…。

 

 己の目標であり、超えることを心に固く誓った世界一の剣豪ですら五皇は遥かに上回るのかと、そして……己だけではなく己の船長が歩む道の険しさも改めて痛感したゾロ───その表情は唖然としたものからすぐに一変し、悔しさで一杯だ。

 

 ここで、五皇との実力の違いに絶望するのではなく、悔しさでうち震えているあたり、ゾロは見込みがある。きっとまだまだ強くなれるだろう。

 

 

 

 

 

覇魔

 

 

 

 

 

 そのゾロの視線の先で、彼が超えるべき鷹の目に強烈な一撃が叩き込まれる。

 

 繰り出された一撃は武力で天下を従える覇王の如く。

 

 人間業とは思えぬ力で悪をなす魔王の如く。

 

 覇王色の覇気を纏った黒腕が、触れることすらなく拳を突き出しただけで鷹の目に絶大なダメージを与える。

 

 選ばれし者のみが可能とする覇王色の覇気の極意。敵を威圧する覇王色───その威圧が形となり、見えない攻撃となり、触れることすらなく相手を平伏させる。

 

 

「ごふッ…」

 

 

 世界最強の剣士が苦悶の表情で血を吐き地に膝を突いた姿は、ゾロの目に焼き付いたことだろう。

 

 

「鷹の目……空気読め」

 

 

 赫い猿の皇帝は静かに呟き、世界最強の剣士にもお灸を据える。

 

 何人たりとも、ブラックの逢瀬を決して邪魔してはならない。邪魔したが最後、恐ろしい報復を受けること間違いなしだ。

 

 鷹の目が目の回りに青痣を作り膝を突いた光景など滅多に見れるものではないどころか、ここ10年以上は鷹の目が痛手を負うことなどほとんどなかったのではないだろうか…。その光景からもブラックの恐ろしさが犇々と伝わってくる。

 

 

「これが……五皇か」

 

 

 金獅子との戦いを経たことで、鷹の目の拠点で繰り広げられた3日3晩の戦いの時よりもまた一段と成長し、遥かに強くなったブラック。

 

 ゾロはその強さを身を持って味わい、打ちのめされながらも、更に強くなることを誓う。己の野望と、そして船長を必ず海賊王にする為に…。

 

 そしてその決意が、ゾロを更に強くする。

 

 

「!──へェ」

 

「ロロノア……(まさか、コイツも覇王色を持っていたのか)」

 

 

 地面に埋められた生首状態から犇々と伝わってくる威圧感。それはまさしく鬼神の如く。世界最強の剣士ですらも持ち合わせていなかった(覇王色)を、未来の大剣豪は有していた。鷹の目ですらも、これには驚きだろう。

 

 今まさに、未来の海賊王の相棒が覚醒した瞬間だ。

 

 ロロノア・ゾロが、覇王色の覇気を目覚めさせたのである。

 

 麦わらの一味に期待しているブラックは、ゾロの覚醒に口角を上げる。この男が、未来の海賊王の右腕───第二の"冥王"として世界に名を轟かせるのかと思うと、喜ばすにはいられないだろう。

 

 ただ、ゾロの力量はまだ、第二の冥王と呼ばれるには至っていない。

 

 

「かかって来い、ロロノア。

 その力の使い方、その身に直接叩き込んでやる」

 

 

 それでも、新たな覇王が誕生したのは確かだ。キャベツですら発現していない力を覚醒させた。キャベツがこれを知ったら、再び嫉妬で怒り狂うことだろう。

 

 ブラックは、敬愛する師匠の後釜にゾロが相応しいかを見極めるべく……いや、見極める必要などない。ブラックは期待している麦わらの一味の戦力を底上げする為に、体に直接叩き込むというスパルタ方式に出る。

 

 

「ルフィを海賊王にするんだろ?」

 

 

 満身創痍。しかし、闘争心はまったく折れてはおらず、寧ろ先程よりも増しており、地面から這い出たゾロの瞳は空の王者"鷲"を思わせるものだ。

 

 

「ああ」

 

 

 かつて、ゾロがルフィの最初の仲間になった時、ルフィはゾロに言ったそうだ。海賊王の仲間なら、それくらい(世界最強の剣士)なって貰わないと困ると…。

 

 己が船長と認めた男がそう言ったのだ。なら、必ず世界最強の剣士にならなければならない。

 

 

「!

(覇気が増した……一度はブラックに手も足も出ずに惨敗したが、ブラックによってロロノアは更なる強さを手にしたか…。羨ましい奴らだ。ふッ……まさか若さを羨む日がこうも早くやって来るとはな)」

 

 

 決意と覚悟を乗せた刀が黒く染まり、黒い稲妻のようなものが迸っている。

 

 鷹の目も、ゾロの覇気が急激に増したことを感じ取っており、弟子の成長を喜ばすにはいられないだろう。それと同時に、急激に成長する若さの勢いを鷹の目は羨んでいる。

 

 若き強者は、自分よりも強い相手との戦いの最中に急激に成長するものだ。

 

 ゾロは、両手の刀を自分の前で構え、風車のような型を見せる。これが、今のゾロにとって最強の技だ。

 

 

「オレを斬ってみろ、ロロノア」

 

「上等だ」

 

 

 人獣型の姿で構えを取るブラックは不敵な笑みを浮かべている。薙刀を使わずに鷹の目に膝を突かせた五皇を相手に、若き剣士は一矢報いることができるのか…。

 

 

「九山八海一世界 千集まって”小千世界” 三乗結んで斬れぬ物なし」

 

 

 ただ、ブラックはゾロの成長を喜び、迂闊にも忘れてしまっていた。彼の当初の目的が、ゾロと鷹の目にお灸を据えることであることを…。本来ならブラックは、今もロビンと愛しい一時を過ごしていたのである。

 

 それを邪魔されたことで、ブラックは激怒して鷹の目とゾロにお仕置きをすることにしたのだ。しかしこれでは、ブラックもお仕置きものである。

 

 

「ブラックったら、私をほったらかしにするなんて酷いんじゃない?」

 

「黒吉っちゃん、これはさすがにボクも擁護できないよ」

 

 

 この後、ブラックがどうなったのかは、ブラックとロビン、ヤマトの3人しか知らない。

 

 確かなのは、鷹の目はお灸を据えられ、ゾロはお灸を据えられるはずが強くなるきっかけを与えてもらい、ブラックが一番損をしたということだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラックがゾロを鍛えている頃、ルスカイナ島の反対側では()()()が楽しい一時を過ごしており、その様子を"海賊王妃(自称)"が隠れて眺めていた。

 

 

「ルフィとお義兄様方の憩いの空間……そこに妾がルフィの妻として、素敵な義妹として、おやつを届ける。

 ああ、なんと素晴らしい光景じゃ!妾、幸せすぎてどうにかなってしまいそうじゃ!」

 

 

 麦わらの一味に加入することを表明し、王下七武海を脱退したボア・ハンコックは、船長のルフィから麦わらの一味に加わる許可を得ることができ毎日有頂天である。

 

 これで、麦わらの一味は10人。これで、ルフィが望む仲間の人数まであと1人。しかも、最後の1人は自ら麦わらの一味に加わりたいと極一部の者達にのみ表明しており、その者も元王下七武海という世界に名を轟かせる海賊だ。麦わらの一味も着実に、海軍と政府にとって脅威になりつつある。

 

 それはそうと、ルフィ達三兄弟───その内の1人である革命軍"参謀総長"サボの記憶は未だに戻ってはいない。時折、ふとした瞬間に記憶の片鱗が甦ったかのように、昔の出来事を口にすることはあるが…。ただ、今の彼らにとって記憶が戻っていようがいまいが、それは些細な問題でしかない。

 

 何故なら、サボが生きていたのだ。10年ほど前に死んだと思っていた大切な兄弟がほぼ五体満足で生きていた。エースとルフィからしたら、それだけで十分だろう。

 

 そして、三兄弟の時間は今こうして再び動き始めた。

 

 3人一緒ではないが、エース、サボ、ルフィは、それぞれが己の夢に向かって邁進している。

 

 サボは革命軍の参謀総長。ルフィは麦わらの一味の船長として最悪の世代の1人に数えられている。

 

 エースは頂上戦争で隻腕になりながらも、五皇ブラック海賊団の副船長として…。

 

 

「オレは海賊王になる!!」

 

 

 ルフィの夢は今も昔も変わらず。

 

 

「オレは"天竜人"を地上に引きずり下ろす」

 

 

 サボは打倒"世界政府"を掲げる革命軍の一員として、理不尽な世界を変える為に…。

 

 

「オレは、オヤジ(白ひげ)のような偉大な大海賊になる」

 

 

 エースは敬愛する亡き大海賊(父親)を超えることを固く誓う。

 

 それぞれの夢を宣言する三兄弟。彼らも立派な青年へと成長した。世間的には大迷惑な存在ではあるが……そんな彼らが再び、盃を片手に兄弟の契りを交わす。

 

 

「わ、妾は、ルフィと生涯を共にすることを誓います」

 

 

 そして、ハンコックは頬に手を当てて身をくねらせながら勝手に夫婦の契りを交わす。

 

 ルスカイナ島は世界に名を轟かせる大犯罪者達の巣窟として今日も賑やかだ。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 時代は大海賊時代───最盛期。

 

 "赫猿"デマロ・ブラックの登場と、"白ひげ"エドワード・ニューゲートの死で到来した五皇時代……世界が混沌と化し、海賊達の勢いが激しく増した。

 

 その海賊達を殲滅せんとする海軍の勢いも増し、海賊と海軍の戦いは熾烈を極めている。

 

 

「これでようやく冒険に行けるな……ヤマト」

 

「そうだね、黒吉っちゃん(ダーリン)!」

 

 

 しかし、大海賊時代最盛期を作り出したと言っても過言ではない当の本人は、ようやく冒険を始められることを喜んでおり、とにかく冒険がしたい様子だ。

 

 

「けど、本当にロビンは一緒に連れてこなくてよかったのかい?」

 

「ロビンにはロビンの冒険がある。

 オレはそこまでロビンを縛りたくはねェ。それに、ルフィなら安心して任せられる。何たって、オレの弟弟子は未来の海賊王なんだからな!」

 

 

 ルスカイナ島にて、"鷹の目"ジュラキュール・ミホークにお灸を据え、"海賊狩り"ロロノア・ゾロを鍛えたブラック。彼はその後、愛するニコ・ロビンをほったらかしにしてしまったことで彼女からキツいお仕置きを受けたようだが、それを甘んじて受け、彼女の機嫌を元に戻して、しばらく一緒にいれない分だけしっかりと愛し合ったようだ。

 

 そして、ロビンはあと数ヶ月の期間を"革命軍"のもとで様々なことを学び、鍛える為に革命軍の本拠地へと戻っていった。ここで、彼女がしばらくブラックと共に航海する選択をしなかったのは、麦わらの一味が再結集するまでの間とはいえ、長く一緒にいてしまったら離れづらくなってしまうと思ったからだろう。

 

 ロビンには麦わらの一味との強い絆があり、ブラックもそれを無理矢理断ち切るような真似は絶対にしない。

 

 

「そうだね。

 けど、ロビンが危機的状況に陥ってたら絶対に助けに行こうね!!」

 

「ああ。ロビンを狙う輩は何人たりとも許さねェ。地獄を見せてやる」

 

 

 麦わらの一味のバックにはブラック海賊団がついている。

 

 ロビンの婚約者で、ルフィの兄弟子であるブラック。それに、ルフィの義兄であるエースもだ。

 

 あまりにも恐ろしい、最強のボディーガードだ。

 

 ブラック海賊団と麦わらの一味。この海賊達は、これから間違いなく世間を大きく賑わせる。間違いなく台風の目になるだろう。しかも、ブラック海賊団と麦わらの一味は同盟を結んでいるも同然の関係にある。

 

 最悪の海賊同盟だろう。

 

 実力から考えたら、普通は麦わらの一味がブラック海賊団の傘下になったと思うだろうが、ブラックは傘下など欲していない。常に対等な関係で、命令するのもされるのもなし、常に自由であることを求めている。

 

 とにかく、世間、海軍と政府からしたら、最悪の同盟であることは間違いなしだ。

 

 

「さて、まずはどこに行こうか」

 

「ボクは黒吉ちゃんについていくよ。どこまでも……それこそずっとね!」

 

 

 ただ、自由をこよなく愛するブラックは世間からの認識などまったく気にしてはいない。

 

 

「ブラック、冒険したいのはいいが自分が五皇なのを常に忘れんなよ。敵は多い。オレ達は平穏と無縁だ」

 

 

 仲間達がブラックに常々言い聞かせるだけだ。もっとも、言い聞かせるエースも、己が海賊王ロジャーの息子であることを忘れてはならない。世間、海軍と政府が常にその動向を警戒しているのだから…。

 

 懸賞金も24億1100万ベリーと、五皇"黒ひげ"マーシャル・D・ティーチよりも懸賞金額が上だ。今後、エースが海賊史上最高の懸賞金額である海賊王ロジャーを超えるのかどうか……世間はそこにも関心を示している。

 

 恐るべきことに、たった6人の海賊団でありながら総合賞金額(トータルバウンティ)は100億を超えている。しかも、懸賞金をかけられたペット達を抜きにしてだ。

 

 

「だが、ボクは止まるつもりはないぞ!

 懸賞金もようやく10億を超えた!次は15億……いや、一気に20億台だ!ヤマト、エース、すぐに追い越してやるから覚悟しておくことだ!!」

 

 

 ブラックを支える3人の大幹部達。ブラックの婚約者の1人であるヤマトは15億を超えてエースに次いでの懸賞金額で、キャベツもついに10億を超えた。大幹部の総合懸賞金額でも、百獣海賊団の最高幹部"大看板"、ビッグ・マム海賊団の最高幹部"スイート4将星"すらも超えている。

 

 五皇の海賊団の中でも最も若く、勢いと確かな強さを兼ね備えたロジャー海賊団の再来。

 

 

「モリア様がどんどん遠ざかってる気がする」

 

 

 そして、他の構成員2人も凶悪で、ブラック海賊団を支える重要な要だ。

 

 

「私、とんでもない過ちを犯したのか?」

 

 

 懸賞金5億4100万ベリーのペローナはこの世で最も凶悪な能力といっても過言ではない能力を持ち、ルーキー海賊でありながら4億5000万ベリーと高額賞金首の仲間入りを果たしたバルトロメオは、高い防御力でブラック海賊団の母船"オーロ・ジャクソン号"を守護している。

 

 過ちと言ったら語弊があるが、ペローナはもう、ブラック海賊団から抜け出すことは決してできない。世間、海軍と政府からしたら、ペローナは凶悪な犯罪者。ブラック海賊団の魑魅魍魎の姫(ゴーストプリンセス)なのである。

 

 

「姫はオレが守り抜くから安心してくれだべ!!」

 

「バルトロメオぉ」

 

 

 必ず自身を守り抜いてくれるであろう鉄壁の舎弟が、もしかしたらペローナにとって一番の救いかもしれない。

 

 

「まあまあ。死んでないんなら絶対に会えるさ。そう落ち込むなペローナ」

 

「お前が目立つ度にモリア様が遠くなってる気がするんだよ!モリア様が迎えに来てくれなかったらどうするんだよ!?」

 

 

 しかし、ペローナがブラック海賊団にとって大切な存在で、なくてはならない船員なのは確かな事実だ。ブラック海賊団の船員であることからも、おいそれと手を出せるような存在ではなく、元七武海であろうとも、ペローナを取り返そうと挑んでくる可能性は低い。

 

 

「そん時はずっとオレんとこにいりゃあいいさ」

 

「んなッ!?

 こ、このッ──スケコマシイィィィ!!」

 

 

 正直なところ、ブラックはペローナを手放す気はまったくないのだが、はてさてペローナの運命は如何に…。今後が気になるところである。ブラックからしたら凶悪な能力も頼もしく面白い能力で、ペローナは共に冒険を楽しみたい相手なのだ。

 

 

「まァ、オレはお前らと冒険に行けるならそれでいいんだ」

 

 

 本人が望まぬ形で海賊になり、その末にエースとブラック海賊団を立ち上げ、冒険に憧れるも自由を奪われていたヤマトに出会い彼女を連れ出し、キャベツ、ペローナ、バルトロメオとブラックは出会った。

 

 そして、ブラックは冒険と同じくらいブラック海賊団の面々を大切に思っている。もう、家族のようなものだ。

 

 

「さて、世界の果てまで行こうか」

 

 

 ブラックは振り向き、不敵な笑みを浮かべながらブラック海賊団の面々にそう告げる。簡単に言っているが、世界一周を果たしたのはこの世界でロジャー海賊団のみ。とてつもない偉業だ。だが、ブラックならば……ブラックと共に航海したら、それが本当に果てせるのではないかと、エースやヤマト達は不思議とそう思わされてしまう。

 

 

「出航するぞ」

 

 

 この世界の全てをその瞳に焼きつけるべく、デマロ・ブラックは海を渡る。

 

 ブラックの冒険を邪魔する弊害は、何であろうと、誰であろうと絶対に赦されない。

 

 ブラックは決して止まらない。

 

 






予想されてた方は多いでしょうけど、人獣型はあれです。超サイ○人の形態の中でも、もっともサイ○人らしくカッコいい形態のあれです。

その形態で鷹の目に膝を突かせた覇王色の極意。
覇魔
ロジャーや白ひげと同じ。触れてねェ。


サンジに続いてのゾロの強化イベント。覇王色の覚醒。ゾロが覇王色の覇気を持っているかもしれない描写はパンクハザードのモネ戦でありましたからねェ。
そして、一大・三千・大千・世界はこうして生まれたという。


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新世界の皇帝篇
出航、新たな時代の始まり




ま、待たせたなァァァ!!


申し訳ございませんでしたァァァ!!

いやもうホントね。新しい環境の忙しさとね、あと夏バテでね……そして、本誌でようやくヤマトの能力が公になったというね……。

とにかくお待たせしましたァァァ!!



 

 

 ようやく、ブラック海賊団として念願の航海を始めたブラック達。彼らは、偉大なる航路(グランドライン)前半の海(パラダイス)をお遊び気分で楽しみながら楽に通り抜け、後半の海"新世界"に足を踏み入れていた。

 

 だが、後半の海は遊び感覚では航海できない。まずブラック海賊団が最初に上陸したのは世界政府直轄の島──パンクハザード。

 

 かつて、この島は美しい緑豊かな島だったそうだ。

 

 しかし、世界政府がパンクハザードに研究所を置き、島の動植物を使って実験が繰り返されるようになり、ついにはよそから囚人を連れて来て人体実験なども始めだしてしまった。そんなある日、政府のとある科学者が、自らが開発した毒ガス兵器を島内で発動してしまったことで研究所が爆発し、毒ガスが立ちこめた島は立ち入り禁止区域となってしまった。

 

 そして現在……禁踏区域パンクハザードに、政府の関係者でもないブラック達は立ち入ってしまっている。彼らに、立ち入り禁止という言葉は一切通用しない。寧ろ、入るなと言われたら入りたくなる質だから仕方ないことだ。

 

 もちろん、人間が立ち入れる程に毒ガスが薄くなったのはちゃんと確認済みで、ただやみくもに無謀な行動をとっているわけではない。

 

 ブラックやヤマト以外の仲間達もこの島に上陸しているのだから当然だろう。

 

 

「オレが何よりも嫌うものは支配だ」

 

「黒吉っちゃんが何よりも愛するのは自由だ!!」

 

 

 ただどうやら、さっそく何かしらのトラブルに見舞われているようだ。世界に名を轟かせる大海賊"赫猿"デマロ・ブラックと、彼の部下であり妻の1人でもある"銀狼"ヤマトが誰かに物申している。

 

 

「マーーーマママ…言うことがロジャーそっくりじゃないかい。その隣にカイドウの娘がいるってのがまた不思議な光景で面白いったらありゃしねェ。

 益々、アンタ達をオレの配下にしたくなってきたよ」

 

 

 現在、パンクハザードにはブラック達の他に上陸した大海賊が存在する。

 

 その大海賊とは、海賊王ロジャーや全盛期の白ひげ、金獅子達としのぎを削った大海賊で、年齢の衰えを一切感じさせない人間……いや、人間を超越した存在(大怪物)、五皇の紅一点──"ビッグ・マム"シャーロット・リンリンだ。

 

 いったい何故、"五皇"と恐れられる"赫猿"デマロ・ブラックと"ビッグ・マム"シャーロット・リンリンがパンクハザードに上陸しているのか……それは、ビッグ・マムがブラックの能力と力を欲しているからだ。

 

 五皇の1人に数えられ、"歴史の本文(ポーネグリフ)"を解読することのできるたった2人の存在の内の1人で、古代兵器"ポセイドン"まで有しているかもしれない最凶の海賊──それが、"赫猿"デマロ・ブラックだ。

 

 未だに海賊王の座を目指すビッグ・マムにとって、ブラックは海賊王になる為に必要不可欠な存在なのだ。それと同時に、海賊王になる為に最も邪魔な存在でもある。

 

 だからこそ、ビッグ・マムはブラックを己の配下にするべく、直接ブラックに会いにやって来た。

 

 五皇同士の接触など、世界にとっては天災に等しい出来事だろうが…。

 

 

「お前の力があれば、オレは間違いなく海賊王になれる!ブラックッ、オレの配下に加わりな!」

 

「アンタじゃ海賊王にはなれねェよ。

 アンタは白ひげにも及ばねェ存在だ」

 

 

 天災……まさしくその通りだ。

 

 これから、パンクハザードは大きく荒れる。ようやく人が立ち入れる状態に戻ったこの島が、またしても人が立ち入ることのできぬ荒廃した島へと変わる。

 

 

「ガキが図に乗ってんじゃないよ!?」

 

「これだから癇癪持ちのババアは…お引き取り願おうか」

 

 

 もしかしたら、これまで以上に酷い有り様になってしまうかもしれない。

 

 ブラックが薙刀を振るい、ビッグ・マムが剣を振るう。

 

 衝突する刃。すると……()が割れた。

 

 それを合図に、ついに始まってしまう。世界の均衡を揺るがす五皇同士の闘いが…。

 

 "赫猿"デマロ・ブラック率いるブラック海賊団と"ビッグ・マム"シャーロット・リンリン率いるビッグ・マム海賊団の大激突によって、パンクハザード島は島の天候すらも変えられてしまう。

 

 天候にまで影響を及ぼす幻獣種の能力者ブラックと、天候を従える超人(パラミシア)系の能力者ビッグ・マムの激闘は常軌を逸してしまっている。

 

 

「新参者がオレに勝てるとでも思ってんのかい!?」

 

 

 

 

 

威国

 

 

 

 

 

 何より、能力の強さだけではない。五皇に数えられる大海賊の2人が放つ一撃一撃があまりにも強大で、その威力は地形を大きく変えてしまう程のものだ。

 

 

「大人しく隠居するか、ポックリ逝きやがれ」

 

 

 

 

 

死破(しば)

 

 

 

 

 

 五皇同士の飛ぶ斬撃の衝突……その衝突による余波はあまりにも大きく、果てしない。

 

 この激闘をきっかけに、パンクハザード島の中心部には大きな穴ができ、島に入った巨大な裂け目から海水が入り込んでしまい泉まで出来上がってしまう。

 

 これが五皇。

 

 

「ッ──このガキ!

(ロジャー!ニューゲート!シキ!()()()()

 な、何故、奴らの姿が重なるんだい!?)」

 

 

 だが、ブラックを新参者と甘く見ていたビッグ・マムは、想定を遥かに上回る強さと、海賊王ロジャー存命時代にしのぎを削った大海賊達を彷彿とさせる姿に驚愕している。

 

 しかも、彷彿とさせるのはブラックだけではなく、ブラック海賊団の面々達全てがである。

 

 

「オレは誰も支配しねェし、オレは誰にも支配されねェよ!!」

 

「!?

(ま、まさかッ──覇王色を纏ってやがるのかい!?)」

 

 

 黒く光り、雷鳴の如き音を迸らせるブラックの右腕はまさしく覇王であり、魔王でもある。

 

 新たなる時代を作る腕だ。

 

 

「新参者のガキがッ、オレを誰だと思ってるんだい!?

 オレはビッグ・マム!天候を従え…海すらも従える最強の海賊だ!」

 

「ならオレは…オレ達は、お前が唯一従えることができない者達だ!!」

 

 

 

 

 

覇魔

 

 

 

 

 

 誰よりも支配を嫌い自由を望む"赫猿"デマロ・ブラックと、この世の全てを従えさせたい強欲な"ビッグ・マム"シャーロット・リンリン。

 

 

「跪いてオレに従いな!!」

 

「お断りだクソババア!!」

 

 

 両極に存在する2人の覇王色の衝突は、天地すらも吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンクハザード大激戦。

 

 "赫猿"デマロ・ブラック率いるブラック海賊団と"ビッグ・マム"シャーロット・リンリン率いるビッグ・マム海賊団の間で勃発した世紀の大激戦。

 

 超少数精鋭のブラック海賊団が圧倒的に不利に見られる戦いではあったが、量よりも圧倒的な質を誇るブラック海賊団はその予想を覆し、ビッグ・マム海賊団を相手に両者痛み分けという……いや、世間にとってブラックとブラック海賊団の面々の実力の高さを見せつける結果となった。

 

 ただ、パンクハザード島の天候を変える程の大激戦は、近年大人しかったビッグ・マムの力を再び全世界に知らしめ、彼女の懸賞金額がこの大激戦を機に久方ぶりに更新され、存命の海賊の中で最高額に躍り出たようだ。

 

 マリンフォード頂上戦争を機に、世界は確実に変わりつつある。今回の一件もその一つだろう。

 

 

「皆、無事で何よりだ!」

 

 

 それでも、変わらないこともある。それは、ブラック達だ。

 

 

「当然だ。

 オレ達は誰が相手だろうと絶対に負けねェ。どんな相手にも屈しねェよ…船長」

 

 

 ブラックの相棒"炎鬼"ゴールド・エースは、ブラックと海賊団を結成した日からブラックを常に信じ、彼を支えている。

 

 

「ボク達は確かに少数の海賊団だけど、皆とならどんな困難も乗り越えられることを実感できたよ。

 何より…やっぱり黒吉っちゃんは最高だよ!!」

 

 

 ブラックを支える両翼の片割れであり、妻の1人でもあるヤマトは、益々ブラックに惚れ込んでいる。ビッグ・マムとの大激戦を目にし、ブラックについてきた己の選択が間違っていなかったことを確信したことだろう。

 

 

「ビッグ・マム海賊団にはボクのファンの女の子が多かった。ブラックが勝っていれば、ビッグ・マム海賊団を世界最大最高のファンクラブに出来たかもしれないのに…ぐぬぬ、やはりボクこそが船長に相応しいんじゃないか?」

 

 

 この男……キャベンデイッシュは相変わらずだが、ビッグ・マム海賊団にキャベツファンの女達がいたことは事実で、ビッグ・マム海賊団の最高幹部"四将星"の紅一点までもがキャベツを前に頬を染めて戦力低下していたのは、何気に今回の痛み分けの大きな要因だったりする。

 

 

「な、なァ…()()()()って奴の嫁候補とか言われてたんだけど…私…大丈夫だよな?

 ちゃんと守ってくれるよな?私、嫌だぞ」

 

 

 驚きだったのは、ペローナがビッグ・マムの息子の嫁候補として挙がっていたことだろう。

 高額賞金首な厄介な能力者で、天才外科医から手解きを受けて容姿も申し分なしのペローナは、"ビッグ・マム"ファミリー……シャーロット家の最高傑作と讃えられる男の妻に相応しいと思われているようだ。

 

 もっとも、ブラックがペローナを嫁に行かせるわけがないのだが…。

 

 

「やっぱりブラック船長は最強の守護神だべ!

 あのバケモノババア(ビッグ・マム)を相手に一歩も引かずに闘う姿は神々しかったべさ!!」

 

 

 ブラックを崇拝するバルトロメオは、ブラックに対する想いが崇拝を通り越したかもしれない。

 

 しかしそれも無理はない。海賊歴60年以上の生ける伝説であり、人間をやめたような存在……人間を超越した存在と言うべきか…。ビッグ・マムを相手に渡り合ったのだから。

 

 最後は互いに地に膝を突き満身創痍の痛み分け(引き分け)。正確には、ビッグ・マム海賊団が受けた被害の方が大きかったが、船長対決は引き分けに終わった。

 

 それでも、相手はブラックを遥かに凌ぐ経験者ビッグ・マムだ。誰一人欠けることがなかったのは大きい。ブラック海賊団からしたら万々歳。

 

 

「オレが乗り越えるべき壁はまだまだあるようだけどな」

 

 

 ただ、ブラック本人は勝つつもりでいたのか、今回の結果には納得できていない様子だ。ブラックらしいと言うべきか…。

 

 

「今度は絶対に勝つ。

 ビッグ・マム…覚悟してやがれ」

 

 

 力強い瞳が見据える先──それは、大海賊達を退けた先にある……海賊王一派のみが辿り着いた領域だ。

 

 この闘いに決着がつく日はやって来るのか…。決着は、意外とそう遠くない未来かもしれない。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 3日後ではなく2年後。

 

 麦わらの一味がついに……再始動する刻が来た。

 

 そして当然、麦わらの一味が動けば()()()()が動く。

 

 

「オヤジ…ルフィがいよいよ出港する」

 

 

 大海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートの墓の前で麦わらの一味の復活を、"麦わらのルフィ"の義兄である"炎鬼"ゴールド・エースが報告している。

 

 2年前のマリンフォード頂上戦争にて、"海賊王"ゴールド・ロジャーの実子であることが発覚したエースも、今では海賊王の実子であることよりも、白ひげ海賊団二番隊隊長であったことよりも、すっかりブラック海賊団の副船長であることが板につき、海軍と政府からも強く警戒されている。

 

 ブラック海賊団副船長"炎鬼"ゴールド・エース。懸賞金32億1100万ベリー。

 

 海賊王の息子。それが発覚し、処刑からどうにか逃れたばかりの頃は懸賞金がそれまでの倍額となるも親の七光りのような扱いを受けていたが、今はもう違う。

 

 エースはその額に相応しい悪名高い大海賊へと成長した。

 

 

「白ひげ、すまんがアンタの相棒(むら雲切)は貰ってくぜ。もう随分と手に馴染んじまったんだ」

 

「オヤジもお前になら納得してるだろうぜ」

 

 

 それもこれも、やはりデマロ・ブラックの影響が何よりも大きいだろう。

 

 ブラック海賊団船長"赫猿"、"白ひげの後継者"デマロ・ブラック。懸賞金42億3600万ベリー。

 

 五皇内でも三番目の懸賞金の高さだ。ブラック本人が望まぬ形で賞金首となってしまってから2年と少ししか経過してないが、たったそれだけの期間でここまでの大海賊に成長するとは恐ろしい存在だ。

 

 

「少しは白ひげに近づけてるといいんだがな…」

 

 

 五皇の一角──ブラック率いる"ブラック海賊団"。五皇率いる海賊団の中で最少数な海賊団でありながらも、総合賞金額(トータルバウンティ)は100億ベリーを超えているという、量よりも圧倒的な質という最凶の海賊団だ。

 

 世界政府が五皇内で最も危険視する海賊団でもあり、それと同時に海軍が五皇内で最も温厚な海賊団と認識しつつある……最も海賊らしい肩書きを持ち、最も海賊らしくない海賊でもある。

 

 

「ボクにとっては、黒吉っちゃんこそが最高で最強の男で海賊だよ。

 もちろん、ロビンにとっても同じはずだよ」

 

 

 そして、ブラックを支える仲間達の存在も、ブラックが──ブラック海賊団が恐れられる所以だ。

 

 ブラックの妻の1人である"白銀の女狼(じょろう)"ヤマト。懸賞金20億8100万ベリー。本人は縁を完全に切ったつもりでいるが、世間からしたら彼女は"百獣のカイドウ"の娘。とは言え、今ではブラックの妻の1人であることの方が有名になりつつあり、彼女本人もそれを何よりもの誇りと思っている。

 

 打倒カイドウは今も変わらずに掲げているが、ヤマトにとっての一番はブラックに一生添い遂げること。その為に、彼女は強いだけではなく美しくあろうとする。

 

 そんなヤマトを、"ビッグ・マム"シャーロット・リンリンを超える女海賊と称する者も少なくはない。

 

 

「まあ、ボクが何れお前達を超えて最強になるがな!」

 

 

 そのヤマトと揃って、ブラックを支える両翼として恐れられるのが世界一のモテ男(残念なイケメン)、"金鷹(こんじきだか)"キャベンデイッシュだ。懸賞金額も13億8980万ベリーと、ブラック海賊団が超少数精鋭でありながらも、量よりも圧倒的な質を誇る最凶の海賊団と恐れられる要因である。

 

 世界最高峰の剣術の使い手として、何れは"鷹の目"ジュラキュール・ミホークを超えるのではないかとすら噂されており、熱狂的な女性ファンは増えるばかり。

 

 ブラック達からは相も変わらず"キャベツ"の愛称で親しまれる両翼の片割れだ。

 

 

「ちくしょう…もう、モリア様の所に戻れないじゃないか。懸賞金も倍以上になっちまってるし…」

 

「だからオレが守ってやるって言ってるだろ。

 機嫌直せよペローナ」

 

「せ、責任取れよな!!」

 

 

 もちろん、その他の2人もブラック海賊団が最凶と恐れられる要因である。

 

 その凶悪過ぎる悪魔の実の能力によって、いったいどれだけの者達が心を折られてしまったことか…。

 

 "魑魅魍魎の姫(ゴーストプリンセス)"ペローナ。彼女は、世間では死亡扱いされているゲッコー・モリアを探す為、探し出す間のみという制約で船医としてブラック海賊団の仲間に加わった。しかし、もう彼女がブラック海賊団を脱退することは不可能。懸賞金額も7億5410万ベリーとモリアの倍以上の高額賞金首で、世間での認識は本人がどう否定しようとブラック海賊団の船医なのだ。

 

 

「そう落ち込まないで、ペローナ。

 ボクも一緒に守るからさ。それに、ペローナがいなくなったらボクは凄く寂しいな」

 

「うう…お前らホント、質悪い海賊(夫婦)だな」

 

 

 もっとも、ペローナ本人も何だかんだでブラック海賊団に愛着が湧いている。困難は多いが、その反面で楽しさはその倍。どんな危機でもブラック達が必ず守ってくれ、日頃から大切に扱ってくれるのだから、彼女も離れ難いだろう。

 

 それに、頼もしい舎弟(オモチャ)達もいる。

 

 

「ペローナ嬢はオレが守り抜くべ!

 それに、一郎、二郎、三郎、四郎、五郎、六郎、七郎、八郎、九郎、十郎もいるべさ!!」

 

「う…お、お前ら」

 

 

 ブラック海賊団の母船"オーロ・ジャクソン号"及びペローナ嬢の頼もしい守衛隊だ。

 

 防御力に関しては恐らく悪魔の実の中でも最高峰。ブラックの扱きで覇気を会得し、能力と覇気の融合を果たしたことでバルトロメオ自身の逞しさも倍増している。

 

 かつては"今最も消えてほしい海賊No.1"と恐れられ、嫌われていたバルトロメオも、ブラックに扱かれた(去勢)ことで今ではすっかり堅気に絶対に手を出さないブラック海賊団の最硬の盾"絶対防御(ガーディアン)"として、多くの海賊達から恐れられている。

 

 ただ、懸賞金額が6億4500万ベリーと、()()()()()()()を上回ってしまったのには複雑な心境のようだ。

 

 それと、ブラック海賊団守衛隊兼船大工でもある"ヒューマンドリル"達は、ブラック達の戦いを目の当たりにすることで更なる成長を遂げているらしく、懸賞金額が一匹3億5000万ベリーと恐ろしいことになっているようだ。覇気を扱える強靭な獣は、人間にとって脅威以外の何物でもない。

 

 それでも、ブラック達の戦いを目の当たりにし続けてもヒューマンドリル達がまったく凶暴化することなく心穏やかでいられるのは、ブラックのブリーダーとしての才能だ。

 

 ヒューマンドリル達のみではなく、クラーケンの"ダンゴ"や大型の海王類達も手懐けているのは伊達ではない。躾がきっちりと行き届いているのだ。だからこそ、ヒューマンドリル達やダンゴ達もブラックからの愛情をしっかりと感じ取っており、ブラックに心底懐いているのである。

 

 その反面、世界政府や海軍がブラックが古代兵器"ポセイドン"を所有しているのではないかと勘違いし恐れてしまうかもしれないのだが、ブラック本人はそんな勘違いされているなど知るはずもないことだ。

 

 ちなみに、ダンゴには5億ベリーの懸賞金がかけられており、ヒューマンドリル達同様に"ONLY DEAD"扱いされている。さすがにこれにはブラックが大激怒し、危なく海軍本部"ニューマリンフォード"を襲撃しそうになったとのことだ。

 

 これが原因で、ブラック海賊団を殲滅しようと挑んでくる海軍が甚大な被害を受けていたりもするのだが、ペットを愛するブラックの怒りなのだから仕方がない。

 

 

「さて…それじゃあ、愛しいロビンと弟弟子達に会いに行くとしようか」

 

「黒吉っちゃん、ロビンをいっぱい愛でてあげなよ」

 

 

 普段は温厚。だが、自身にとって大切な何かを傷つけられそうになったら容赦のない男──それが、"赫猿"デマロ・ブラック。世界政府が最も危険視する世界最凶の海賊だ。

 

 そのデマロ・ブラック率いるブラック海賊団が、これから"シャボンディ諸島"に向かう。"偉大なる航路(グランドライン)"の折り返し地点だが、五皇の1人がシャボンディ諸島に姿を現すなど大事件が起きること間違いなし。

 

 ブラック海賊団の存在が公になり、海軍本部大将・赤犬との激突の他、"金獅子のシキ"との世代交代対決、ブラック1人 対 "バスターコール"など、ブラック海賊団は短期間で多くの激闘を繰り広げ、"白ひげの後継者"と恐れられる所以をまざまざと世間に知らしめたが、短期間でここまで騒ぎを起こす大海賊も近年では珍しい。

 

 きっとそれは、白ひげの後継者ではあるが新参者の皇帝だからなのかもしれない。いや、ブラックがそういう星の下に生まれたのが原因か…。

 

 

 

 

 

 






待っていてくださった方々に感謝と謝罪を…。

ありがとうございます。そして申し訳ございません。執筆頑張りたいと思いつつ、なかなか暇もないという…けど、ONE PIECE100巻発売日であり記念日に何とか更新したかったんです!!

さてはて、新世界篇序章的な今話なわけですが、赤犬と青雉が元帥の座をかけて闘っていないので、パンクハザードは灼熱と極寒の島じゃなかったけど、ブラックとビッグ・マムが闘ったせいで同じような現象が起きたというね。
もちろん、エースもその原因であり、あともう1人その原因がいるんだけども、本誌未読の方もいるでしょうから、まだ多くは語るまい!!

とにかく、最新話お待たせしましたァァァ!!

更新頻度は以前よりも格段に悪いですが、今後も応援何卒よろしくお願いします!!励みになる感想とご評価お待ちしてますので!!


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有名税



ヤマトの声優が、はやみんって最高だね!知ってる方も多いと思いますが、知らない方もいるかな?

わたくし的には、鬼滅の胡蝶しのぶ役があまりにもキャラと声が合いすぎてたまらないんですが、はやみんヤマトもたまらない!!

そんなこんなで祝30話!今回は101巻発売記念にならなかったよ!ww



 

 

 五皇"赫猿"デマロ・ブラックと、同じく五皇"ビッグ・マム"シャーロット・リンリンの壮絶な闘い……島の天候すらも変えてしまう世紀の大激戦から数ヶ月が経過した。

 

 天災に等しい五皇同士の闘いなど、そう簡単に起きてもらっては困るだろうが、近い将来再び、壮絶な戦いが必ず起きるはずだ。

 

 新たな王の座をかけた戦い──ロジャー(海賊王)の後継者が誕生する時は近い。

 

 そして、誰よりも新たな海賊王の誕生を楽しみにしている男がいる。

 

 それは、ビッグ・マムと壮絶な闘いを繰り広げた張本人、デマロ・ブラックだ。

 

 五皇率いる海賊団の中でも最小数の海賊団でありながらも、ビッグ・マム海賊団を相手に引き分け(痛み分け)たことで、亡き白ひげの後継者として名実ともに世界最強の海賊とまで噂されるようになった大海賊である。

 

 そのブラックが未来の海賊王として期待している海賊……それは、"最悪の世代"にも数えられる彼の弟弟子──"麦わらのルフィ"ことモンキー・D・ルフィだ。

 

 ブラックにとってルフィとの出会いは最悪なものだったが、今ではルフィを弟のようにすら思い、心からルフィが海賊王になることを期待し、その瞬間を待ち望んでいる。

 

 マリンフォード頂上戦争後、一部ではブラックとルフィが腹違いの兄弟ではないかと噂されたりもしているのだが、それを本人達は知らない。年齢差を考えたら種違いまたは伯父と甥っ子……なのだが、実際のところは根も葉もない噂だ。

 

 もしかしたら、ブラックが同じ一族(モンキー家)の生まれの可能性もあるが、それは本人すらもまったく知らないことである。ブラックの親しい存在……ニコ・ロビンやヤマト、エース達ですら知らないことだが、彼は捨て子で親の顔すらまったく知らない。置き手紙すらなく捨てられていたこともあって、己を捨てた両親を探す手がかりは一つも残っていないのだそうだ。

 

 何れ、ブラックの素性が明らかになる日はやって来るのか……それは誰にも分からない。

 

 もっとも、ブラック本人は知りたいと思っていないようだ。己を拾って育ててくれた者に貰ったデマロ・ブラックという名が、彼にとっては全てなのである。

 

 今さら、ルフィと同じ一族の出身と知ったところで、驚くことはないだろう。ただ、ブラックがモンキー・D・ブラックだった場合、世界政府や海軍にとっては悲劇だろう。

 

 唯一の救いは、ブラックが世界の支配を目論んでなどいないことだ。

 

 ブラックにとって過去は過去。彼は決して後ろを振り返らない。今を全力で生きるだけ。

 

 そして自由を求め、支配を嫌い、ブラックは心の赴くままに広大な海を駆け巡る。

 

 新たな海賊王の誕生は、ブラックにとって人生を盛り上げるスパイスのようなものだ。

 

 

「よォ…息災かい?

 ロビン」

 

「ブラック!」

 

 

 そのブラックは今、未来の海賊王誕生……その物語(航海)の再開の瞬間をその目で目にするべく、未来の海賊王率いる海賊団の主要メンバーであり、己の愛しい妻でもあるニコ・ロビンが身を置いている"白土の島(バルティゴ)"にやって来ていた。

 

 

「会いたかったわ」

 

「オレもだ」

 

 

 ルフィが海賊王になる為に必要不可欠な存在──ブラック以外で唯一"歴史の本文(ポーネグリフ)"を解読でき、世界政府だけではなく、大物海賊達が狙う懸賞金10億超えの"王の女"ニコ・ロビン。

 

 彼女は愛しい男の胸に飛び込み、美しい笑みを浮かべている。

 

 

「"ビッグ・マム"との戦争を知った時は本当に心配したわ。けど、あなたなら大丈夫って信じてた」

 

「心配かけて悪い。

 でも、オレは相手が誰であろうと絶対に負けないから安心してくれ」

 

 

 ルスカイナ島で愛し合って以来の再会だ。ロビンがブラックを心配するのは当然。その反面、ブラックが負けるはずなどないと心から信じていたようで、ロビンはこの再会の幸せを噛み締めているようだ。

 

 離れていても、ブラックとロビンは如何なる時も互いを想い合っている。

 

 

「ヤマトも無事?」

 

「ああ、ピンピンしてる。

 ただ今日は、ロビンをたくさん愛でろだって」

 

「あら…遠慮する必要なんてないのに。

 あなたと私、ヤマトの3人で存分に愛し合いたいわ」

 

 

 ブラックがロビンのもとを訪れたのは、2年間の修業を終えた彼女を麦わらの一味のもとへ送り届ける為……なのだが、彼女はその前にブラック成分を十分に補充したいのだろう。

 

 ブラック達はバルティゴに数日間滞在し、シャボンディ諸島へと向かう。その間に、もちろんブラックもロビンとの愛をヤマトを交えて育むことになるのだが、キャベンディッシュの邪魔が入るのはお決まりである。彼は未だに、ロビンを狙っているらしいが……その想いが報われる日は一生を通り越して来世でも来来世でもやって来ることはないかもしれない。

 

 

「オレはサボとゆっくりさせてもらうぜ」

 

 

 その間、エースは革命軍の"参謀総長"サボと楽しい一時を過ごすようだ。バルティゴは革命軍の本拠地。エースがサボに会いに行くのは当然だ。

 

 ちなみに、サボもルフィ達の見送りに行きたがっていたようだが、さすがに革命軍の参謀総長まで見送りにやって来てはシャボンディ諸島が混沌と化すということで、サボは止められてしまったらしい。そもそも、ブラック達が上陸する時点で騒ぎは必ず起きるだろう。今さら、サボが増えたところで何も変わらないはずだが…。

 

 もう一層のこと、シャボンディ諸島をブラックのナワバリにするのも一つの手だ。ブラックがシャボンディ諸島をナワバリにすることで平穏は保たれるかもしれない。

 

 実は、ブラック海賊団内でそのような意見が一時的に出たようだが、ブラックはその意見を却下している。理由は、シャボンディ諸島が偉大なる航路(グランドライン)の折り返し地点で、海賊達の出入りが激しく管理が大変だからなのだなのそうだ。要は、めんどくさいということだ。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 愛しい()と弟弟子の見送り。

 

 その為だけに、五皇"赫猿"デマロ・ブラックはシャボンディ諸島を訪れていた。

 

 ただ、これから新世界を目指す海賊達、海賊達の新世界への侵攻を阻止するべく待ち構えている海軍にとって、それは悪夢以外の何物でもないだろう。

 

 この広大な海を思うがままに、縦横無尽に行ったり来たりと、偉大なる航路(グランドライン)の天候だろうと、海軍だろうと、海賊だろうと、ブラックの道を遮れる存在はないのかもしれない。それ故に、ブラックは恐れられるのだ。

 

 まさしく彼は、支配されない男である。

 

 

「捕まるつもりはまったくないが、もしオレを捕まえることができるとしたら…それは()()()()だけかもな。

 お前達程度じゃ相手にならねェよ」

 

 

 ブラックの上陸に騒然とするシャボンディ諸島。

 

 ブラック海賊団は海軍に包囲されるも、ブラックが覇王色の覇気で立ち塞がる海兵達を気絶させ、何事もなかったかのように悠然と目的地へと進んで行く。

 

 両隣にはロビンとヤマト(愛しい妻達)。そして、エースとペローナを背後に……まるで王者の行進だ。ちなみに、キャベンディッシュとバルトロメオ、ヒューマンドリル達はオーロ・ジャクソン号の船番である。

 

 

「黒吉っちゃん、赤犬がここに来たらシャボンディ諸島が大変なことになるよ。

 まあ、いつものことだけどね」

 

「でも、そういう状況は私達…麦わらの一味の再出発には相応しいかもしれないわね」

 

 

 ブラック含む五皇は海軍本部大将案件で、大将以外では荷が重すぎる。

 

 ブラックに関してのみは、彼を執拗に追う赤犬専属案件かもしれないが…。ブラックと赤犬の壮絶な殺し合いも、もう何度目だろう。

 

 かつて、英雄ガープが海賊王ロジャーを執拗に追い、何度も何度も殺し合ったらしいが、海賊王と海軍の英雄の殺し合いで、いったいどれだけの被害が生み出されてしまったことか…。ブラックと大将・赤犬の関係はそれに近い……その再来である。

 

 そして、麦わらの一味が2年前に散り散りになってしまった原因は、赤犬ではないが他の大将が関係しており、大将という存在はロビンや麦わらの一味にとっては鬼門。

 

 しかし、ルフィが海賊王になる為に、大将は必ず乗り越えなければいけない存在だ。2年前のように逃げるわけにはいかない。立ち向かわなければならない。

 

 

「2年間、死に物狂いで修業したんだ。

 ロビンも…ルフィ達も大丈夫だ」

 

「ええ。今度は負けないわ…絶対に」

 

 

 新たな海賊王が歩む道程は険しい茨の道。だが、その為にロビン達は2年間死に物狂いで頑張ったのだ。

 

 麦わらの一味は決して止まることはなく、誰にも止められない。

 

 今日は、新時代が大きく動き出す日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あまりにも美しく細い脚。ブラック以外の誰もが世界一の美脚と口にするだろう。その美脚から想像もできない威力の蹴りが繰り出されるも、ブラックは眉一つ動かすことなく指一本でその強烈な蹴りを防いでいる。

 

 眉一つ動かしてはいないが、表情はどこか鬱陶しそうだ。

 

 

「相変わらず忌々しい顔じゃ。

 今日こそ、その顔を変形させてやろうと思ったものを…」

 

「相変わらず自分勝手な女だな」

 

「妾は何をやっても赦される。

 何故なら…美しいからじゃ」

 

 

 ブラックにとって犬猿の仲……正確には、一方的(理不尽)に絡まれているだけではあるが…。

 

 ブラックと会う度に蹴りかかってくる足癖の悪い彼女は、世界一の美女と讃えられている──"海賊女帝(自称・王妃)"ボア・ハンコックだ。

 

 ハンコックは数ヶ月前に王下七武海を自ら脱退し、麦わらの一味に加わることを宣言。その結果、4億9200万ベリーと高額な懸賞金をかけられた愛に生きる女なのである。

 

 

「そんなんじゃ、ルフィに嫌われるぞ」

 

「はうッ!

 そ、そそそ、そんなこと、あああ、あるわけない!!」

 

 

 世界一の美女と讃えられるハンコックが麦わらの一味に加わることを決意したのは、全ては愛するルフィの為。愛するルフィをそばで支えたいと思うが故。

 

 実は、ブラックとロビン、ヤマトの関係を羨み、ハンコックはそのような行動に出たのだそうだ。

 

 ハンコックの想いはまさしくハリケーン。

 

 

「わ、妾は貴様が大嫌いじゃ!!」

 

 

 だからこそなのだろう。ルフィに対する愛が天元突破しているからこそ、ルフィと瓜二つな顔を持ったブラックが気に食わないのである。

 

 もっとも、ブラックからしたらあまりにも理不尽な理由だ。ブラックは何度も口にしているが、ブラックがルフィに似ているのではなく、ルフィがブラックに似ているのだ。

 

 顔歴36年。ブラックは何一つ悪くない。

 

 

「ブラ男とハンコックは本当に仲良しだなぁ」

 

 

 そのブラックに似ている張本人──モンキー・D・ルフィは、骨付き肉を噛りながら暢気にもそう口にした。現五皇と元王下七武海の闘い……どこにもブラックとハンコックが仲良しだと思える要素はない。

 

 喧嘩するほど仲がいいとは言うが、明らかにその域を超えてしまっている。

 

 

「これのどこを見てそうなる?」

 

「うう、ル、ルフィの頼みでも、この男(ブラック)と仲良くなることだけは…うう、しかしルフィの頼み…妾はいったいどうしたらいいのじゃ?」

 

 

 とは言え、ハンコックはブラックに感謝していたりもする。彼女が七武海を脱退してしまったことで、それまで"女ヶ島"を守っていた後ろ楯がなくなってしまったのだが、ブラックが女ヶ島をナワバリにしたことで、女ヶ島の平穏は現在も守られているのだ。もしかしたら、女ヶ島の防衛壁は以前よりも強固なものになっているかもしれない。しかも、ブラックは女ヶ島をナワバリにこそしているが、一切手を出すことなく名前を貸しているだけのような状態だ。ハンコックに代わって皇帝の地位に就いた妹達や、女ヶ島の女達は、そんなブラックに心底感謝しており、ハンコックも決して口には出さないが大きく感謝している。

 

 それ故に、女ヶ島でのブラックの人気は絶大なものだ。

 

 ブラック本人は対等な関係だと思っており、常にそう口にしているが、いつの間にか"九蛇海賊団"はブラック海賊団の傘下であることを表明していたりもする。

 

 ルフィが女ヶ島に飛ばされたことでハンコックと出会い、ハンコックがルフィに惚れたことが全ての始まりではあるが、縁とはまったく不思議なものだと思わされてしまう。

 

 

「まさか"海賊女帝"が本当に仲間になるなんて未だに驚きだけど、ルフィらしいわね」

 

 

 そして、麦わらの一味は全員が船長ルフィに惚れ込んだ集まりだが、世界一の美女すらも魅了するとは……さすがは2人の五皇に期待される海賊なだけはある。

 

 

「これからよろしくね、ボア・ハンコック」

 

「ふん、おぬしがブラックの女…ニコ・ロビンか。

 なるほど、噂に違わぬ美しさじゃ…無論、妾に比べたら遥かに劣ってしまうがな」

 

 

 ただ、そのルフィにハンコックが相応しいかどうかはまったくの別問題だ。

 

 

「ロビンとヤマトの方が美しくて可愛いに決まってんだろ」

 

 

 それに、タイプは人それぞれであり、世界一の美女にもまったく靡かない男は存在する。

 

 

「どこまでも妾を虚仮にしてくれおって!!」

 

 

 

 

 

大芳香脚(パフューム・フェムル・マグナ)

 

 

 

 

 

 ハンコックの美しさに靡かない男が少ないのは事実ではあるが…。

 

 

「だから、すぐに蹴ってくるような女は嫌われるぞ。

 それに、ロビンとヤマトの方が美しくて可愛いのは事実で自然の摂理だ。

 ルフィもそう思うよな?」

 

「えー…オレに聞かれてもまったくわかんねェ」

 

 

 ちなみに、ルフィにとって可愛いと思ってるかもしれない女は航海士のナミと、アラバスタ王国の王女で元仲間のビビで、綺麗と思ってるかもしれないのがロビンなのだそうだ。

 

 この返答にハンコックは地獄に突き落とされてしまう。しかし、可愛くて綺麗だと思ってるかもしれない女がハンコックだと告げられ、彼女は嬉しすぎて石化してしまった。

 

 

「もしかしたら…いつかハンコックの想いは報われる?」

 

「どうかしら?

 ウチには船長(ルフィ)が一生手放す気がない航海士がいるから…まあでも、あなたみたいに2人とも娶れば何も問題ないわね」

 

 

 再結集し、新たに生まれ変わった麦わらの一味は以前にも増して騒がしく、話題に事欠くことのない、ブラック海賊団並に個性派揃いの一味である。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 有名であることは、全てが良いことばかりではない。知名度と引き換えに生じる問題も多くあるからだ。

 

 有名であるが故に、その名を勝手に使われてしまうことも多々ある。

 

 現在、シャボンディ諸島で麦わらの一味を()()()()()()()が仲間募集をしているのも、有名になった弊害だ。しかも、時同じくして本物の麦わらの一味がシャボンディ諸島に再結集するという……いったい何の因果だろう。

 

 

「デ、デデデ、デマロ・ブラックゥゥゥ!?」

 

「…誰だお前?」

 

「ブラ男の知り合いなのか?」

 

「ほ、ほほほ、本物の麦わらァァァ!?」

 

 

 ただ、麦わらのルフィの名を名乗り、仲間を集めていた"偽ルフィ"こと"三枚舌"のガセロ・ホワイトも、本物の麦わらの一味が時同じくして再結集していたことと、五皇"赫猿"デマロ・ブラックが見送りにやって来ていたなど想定外。

 

 ルフィは己の名を悪用している者がいたことに心底驚いた様子だが、ブラックは想定内だったのか憂鬱そうに深いため息を吐いている。有名になると、こういうことも起きるのだ。

 

 ちなみに、ガセロ・ホワイトがルフィと瓜二つなブラックの名を名乗らなかったのは、ブラックがあまりにも強すぎるからで、ルフィならば大丈夫だと思ったからなのだそうだ。その自信はいったいどこから来ているのだろうか…。

 

 ルフィと比べても、ルフィが恐竜で、ガセロ・ホワイトが蟻……それくらいの差がある。

 

 そもそも、ルフィの名を名乗るにもあまりにも似ていない。自分にそっくりな人間は世界に3人いる……たまにそのようなことを耳にすることはあるが、何もかもが違いすぎて似ていない。顔も、性格も、強さも、器も…全てが違う。

 

 

「ルフィの名を名乗る不届き者は貴様じゃな?

 貴様のような醜男がルフィの名を名乗るとは万死に値する。死を持って妾に侘びろ」

 

 

 当然、ルフィの名を勝手に名乗る存在をハンコックが許せるはずもない。

 

 

「ルフィの名を名乗っているってことは、もちろんブラックの名も名乗ろうとしたんじゃないかしら?」

 

「そんなこと赦されるわけがないよね。

 ボク…怒りがこんなにも沸いてきたの初めてかもしれない」

 

 

 もちろん、ガセロ・ホワイトがルフィの名を名乗っているということは、ブラックの名を名乗ろうかと考えていたかもしれないと思い至るのは当然で、ロビンとヤマトが静かに怒り狂うのも必然だ。

 

 

「ひィィィ!

 "王の女"に"白銀の女狼(じょろう)"!?そ、そそそ、それに"海賊女帝"まで!?」

 

 

 美人が怒ると恐ろしい。ただ、世界一の美女と、その世界一の美女に匹敵する美しさを持つ女が怒り狂い並んでいる光景は、恐ろしさを超越する恐ろしさだ。

 

 

「エース。

 コイツの懸賞金額2600万ベリーらしいぜ」

 

「さすがだ…サボ。

 それにしても、2600万ベリーか…。ルフィの初頭手配額よりも低いな」

 

「ああ。

 ルフィの足元にも及ばない…ルフィの名が汚れちまう」

 

 

 しかも、怒っているのは美女3人だけではない。

 

 

「ぎゃあァァァァァ!!

 "炎鬼"と革命軍の"参謀総長"!?」

 

 

 ルフィを大切に想う兄2人(義兄達)も怒り狂っている。どうやら、サボはルフィを見送る為にやって来たようだ。その為に、サボに与えられた任務をエースが手伝ったのはここだけの話である。

 

 過去に辛い経験をしたことがあるからこそ、大切な者に対しての愛がとても強いこの5人は……決して怒らせてはならない。

 

 

「ふふふ…じっくり、ゆっくりと窒息させていって、それから首の骨を折ってあげようかしら」

 

 

 指の骨を鳴らしながら武装色の覇気を纏わせたロビンの笑みは美しく、そして冷血だ。この2年間の修業で、革命軍のサボに"竜爪拳"、コアラに"魚人空手"、()()()()に覇気を教わり体得した彼女の戦闘力は凄まじく上昇しており、彼女は守られるばかりではなく、"王の女"と呼ばれるに相応しい女となった。

 

 

「ロビン、ボクにやらせてよ。

 氷漬けにして雷鳴八卦で粉々に砕くからさ」

 

 

 ロビンと同様に、ブラックを心から愛するヤマトも、ブラックの為ならば己の手を汚すことを厭わない。

 彼女の美しく、冷酷な笑みはまるで、猛吹雪の雪山にて、儚い美しさで男を惑わし凍死させる雪女を彷彿とさせる。

 

 

「引っ込んでおれ。

 妾が石にして蹴り砕いてくれる」

 

 

 ルフィの為なら火の中水の中……ボア・ハンコックは少しもブレることはない。

 

 

「エース…オレが竜爪拳でコイツの全身の骨を折るからさ、丸太にくくりつけようぜ」

 

「ああ。それから火炙りにする」

 

 

 やはり、世界に名を轟かせる犯罪者は狂っている。だからこそ恐ろしく、世界に名を轟かせるのだ。

 

 この者達の怒りを緩和させることができるとしたら……()()しかいない。

 

 

「ペローナ…頼む」

 

「私のゴーストの使い方間違ってるって何度言わせるつもりだ!?」

 

「オレはお前以上の精神科医を知らない」

 

 

 ただ、新しい服(ゴスロリ)を買う為に同行したのをペローナは後悔している。

 

 

 






ルフィの三大欲って、食欲7割、睡眠欲3割、性欲はなくて二大欲だよね。
けど、スベスベの実を食べたアルビタに美女って言ってるから、人並の美的感覚はあるんだろうなぁと思ったり。

さてはて、ようやく麦わらの一味の再結集、シャボンディ諸島編!自分にそっくりな人間は世界に3人いるって言うから、3人目がいてもいいよね!!←適当


▪️ガセロ・ホワイト
この作品での唯一のオリキャラ。これ以上オリキャラは絶対に出さない。(そのつもりでいる。)だからタグ付けはしないよ!!
原作のデマロ・ブラックに当たる。
デマロ・ブラックの名前の由来が"デマ"かもしれないから、このキャラは"ガセ"が由来。そして、黒とくれば白。だからガセロ・ホワイト。

ただ、ガセロ・ホワイトの存在はとある5人の逆鱗に触れてしまったのである。

1週間以内に更新したかったのにぃ!ごめんなさい!けど、とにかく頑張ります。
励みになる感想とご評価よろしく!!


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海の導き



FILM RED観てきました。

まあ、感想はあれですね…賛否両論みたいですけど、それもまあ納得ではありますけども、わたくしは好きでございます。というより、ウタちゃんが可愛い。属性過多だよね。幼馴染みの闇属性とか無敵じゃん。でた!負け惜しみ~とか何なのさ。

そして…お久しぶりでございます。
約1年ぶりくらいで申し訳ない。あのですね…ぶっちゃけると、覇王色纏いだったり、ゴムゴムの実の真実だったりと、恐れ多くもこの作品が予言作と仰ってもらったりして、本当に恐怖を感じておりましたww

やべぇよ、次は何を未来視すりゃあいい!?

そんな感じで…"赫猿"ブラックの帰還!!



 

 

 海風に靡く旗。

 

 逆さにした海軍旗に剣が突き刺さった髑髏マーク。

 

 それは"NEO海軍"の象徴だ。

 

 元海軍大将ゼファーが海軍を抜け、海賊の殲滅のみを目的とし設立した組織である。海賊の殲滅の為ならば一般人や海兵達といったいかなる犠牲も厭わないという超過激的な組織的だ。もはや、犯罪組織と大差ないだろう。

 

 そのNEO海軍だが、普段は偉大なる航路(グランドライン)の後半部"新世界"にて活動しているはず───それが今、()()()()()から前半部へとやって来ていた。

 

 

()()()()()。麦わらの一味が魚人島へと向かった模様。そして、その見送りにやって来ていた()()()()…いえ、"ブラック海賊団"を確認しました」

 

「そうか」

 

 

 2年前、あれだけ世間を騒がせておきながらもマリンフォード頂上戦争後まったく音沙汰のなかった"最悪の世代"の一つに数えられる麦わらの一味が再び活動を始めた。しかも、元王下七武海"海賊女帝"ボア・ハンコックを仲間に引き入れ、戦力も向上している。

 

 海賊と()()()()に強い憎しみを持つゼファーによって結成されたNEO海軍にとって、麦わらの一味の活動再開は決して見過ごすことのできない事案である。

 

 しかし、それ以上に見過ごすことができないのは、五皇の一角であり、もっとも海賊王に近いとまで謳われる世界最悪の海賊──"赫猿"デマロ・ブラック率いるブラック海賊団がシャボンディ諸島に姿を見せたことだ。

 

 ブラック海賊団には、頂上戦争で麦わらのルフィと義兄弟関係であることが明らかになった副船長"炎鬼"ゴールド・エースがいる。そして、ブラックの妻の1人であることが明るみになった"王の女"ニコ・ロビンが麦わらの一味にはいる。そのことから、ブラックは妻、エースは義弟……大切な者の見送りにやって来たのは間違いないだろう。 

 

 ただ、海賊の見送りの為に五皇が動くなど、傍迷惑にも程がある。五皇が動くことで、どれだけの騒ぎが起き、どれだけの血が流されることか…。

 

 ブラック海賊団は五皇内でも"赤髪海賊団"と同じ位置付けで穏健派とされ、ブラックも一度暴れさせれば手に負えないが、自ら世界をどうこうする男ではない。 

 

 最も海賊らしい肩書きを持つ、最も海賊らしくない海賊だ。

 

 仕掛けられなければ、ブラックは何もすることなく新世界へと帰還する……はずだった。

 

 

「オーロ・ジャクソン号…よりにもよって、ブラックが受け継ぐとはな」

 

「ブラック…」

 

()()()。事情はどうあれ、ブラックは海賊になってしまった。オレは()()()として義務を果たす」

 

 

 だがどうやら、ブラックとゼファーの間には何やら繋がりがあるようだ。そして、ゼファーだけではなく、ゼファーの隣に立つ青髪の美女海兵との間にも深い繋がりがあるらしい。

 

 

「戦う覚悟はできています」

 

 

 とはいえ、ゼファーの海賊に対する憎しみは強い。

 

 海賊に良いも悪いもない。海賊は悪。悪は滅ぼすのみ。

 

 かつて、海賊王ロジャー率いるロジャー海賊団と何度も激闘を繰り広げたゼファーことゼットは、ほんの一瞬だけオーロ・ジャクソン号との海戦や、ブラックとの思い出を懐かしみながら、五皇との戦闘準備を始めるのである。

 

 現役時代───弱冠38歳で海軍最高戦力である本部大将にまで上り詰め、海賊達から"黒腕"と恐れられた武装色の達人ゼファー。

 

 だが、それはもう過去のこと。 

 

 

「奴らを滅ぼし…大海賊時代を終わらせる!!」

 

 

 原動力は憎しみ。その憎しみが、海賊もろとも……世界すらも滅ぼすつもりだ。

 

 ゼファーはここ最近では見せることのなかった───いや、部下達も初めて見る、かつて海軍大将だった頃のような真剣な表情を部下達に見せる。

 

 

「海賊を滅ぼせ! 砲撃開始だァ!!」

 

「はい、一斉に砲撃開始ッ!!」

 

 

 怒りに燃えるゼファーと、ゼファーの右腕的存在のNEO海軍バイス・アドミラル───青髪の美女アインの指示にて、五皇"ブラック海賊団"の母船への一斉砲撃が開始された。

 

 超少数精鋭のブラック海賊団 VS 元海軍大将ゼファー率いるNEO海軍の戦いが幕を開けようとしている。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 愛する妻(ニコ・ロビン)との短いながらも情熱的な一時を過ごし、弟弟子であるルフィ率いる麦わらの一味を見送ったブラック海賊団。

 

「行っちゃったね」

 

「行っちゃったな。やっぱ、こっそり追いかけようかな。魚人島は何度行こうと死の確率は変わんないからな…」

 

 

 シャボンディ諸島に滞在する海賊達が恐怖のドン底を味わっていることなど知らず、麦わらの一味……正確には、妻のロビンを心配しブラックは過保護に陥っていた。だが、ブラックはその心配や過保護さを納めなければならなくなった。

 

 

「ロビン達と一緒の航海も楽しそうだよね!」

 

「だよな──ッ!? この覇気…まさか()()()()()()()()()()か!」

 

「!

 ねェ…黒吉っちゃん…アインって誰だい?」

 

 

 冒険が大好きで仕方がない陽気な雰囲気は一変し、殺伐なものへと変化してしまう。もっとも、ブラックとヤマトでは些か要因が違いそうではあるが…。

 

 

「バルトロメオ! バリアを張れ!!」

 

「りょ、了解だべさ!!」

 

 

 やはり一番最初に気付いたのは、ブラック海賊団の船長だ。ただ、ブラックが気付くことができたのは、見聞色の覇気の範囲が広いのもあるだろうが、警告もなしに砲撃してきた敵が()()()()()だったこともあるだろう。

 

 

「おいおい、あの旗…"NEO海軍"じゃねェか。

 船長、かなり派手な戦いになりそうだぜ」

 

「ちょッ!?

 NEO海軍って元海軍大将がいる過激派の犯罪組織だろ!?」

 

 

 もちろん、NEO海軍についてはエースやペローナも知っている。どのような組織で、何故NEO海軍が危険視されているのかも…。

 

 

「危険な輩を打ち倒すことで、美しいボクは更なる名声を手に入れることができる! ボクが相手になるぞNEO海軍!」

 

 

 そして、キャベンディッシュは常に平常運転のようだ。

 

 

「できれば戦いたくはないんだがな…。

 エース、オレちょっと行かなきゃなんねェから、こっち頼む」

 

 

 やはり、五皇が動けば必ず何かが起きる。平穏無事に終わるということは絶対にあり得ない。

 

 せめてもの救いは、NEO海軍が麦わらの一味に手を出さなかったことだろう。もし手を出そうとしていたら、ブラックは旧知の間柄であろうと、大切な者を守る為に敵対していたはずだ。

 

 

「お、おいッ! 1人で突っ込む気か!?」

 

「いや…再会の挨拶かな? とりあえず行ってくる」

 

 

 複雑ながらも真剣な表情を浮かべたブラックは、エースの制止の声に耳を傾けることなく、NEO海軍の軍艦へと1人で飛んで向かっていく。

 

 船長が不在となってしまったオーロ・ジャクソン号では、不穏な空気が流れている。エース達は、これまで見たこともないブラックの表情を目の当たりにしたこともあり仕方ないだろう。

 

 しかし、相手は元海軍大将率いる過激な組織というこもあり、ブラックの旧知の間柄だろうとも気を抜くことなどできない。そもそも、ブラックとNEO海軍の間にどのような繋がりがあるのか、エースは知らない。

 

 妻であるヤマトですらだ。

 

 

「黒吉っちゃんのあんな顔…初めて見た」

 

「オレもだ」

 

 

 一つ確かなのは、ブラックにとって大切な関係だということだけだ。

 

 ただ、ヤマト達はふと思う。 

 

 自分達はブラックが賞金首になる以前の過去を漠然としか知らないのだと…。

 

 ブラックとNEO海軍の間にいったいどのような関係があるのか……過去にいったい何が起きたのか…。

 

 

「そういえば、アインって女の名前…ブラックから聞いたことあったな。確か…()()()()()()()()()()だったかな?」

 

「ペローナ…その話、詳しく聞かせてくれるよね?」

 

 

 何故か、ブラックの聞き捨てならない過去をペローナが口にし、オーロ・ジャクソン号の雰囲気が凍りつく。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 己に目掛けて放たれる砲弾を素手で弾き落としながら、ブラックは()()()()()()()()を思い返す…。

 

 ブラックがまだ前半の海のみを冒険していた頃のことだ。

 

 前半の海のとある海域にて、とある海賊から襲撃を受けるゼファーと出会った。

 

 

『奴らの仲間…ではなさそうだな』

 

『あー、海賊船に乗ってこそいるけど、オレ…海賊じゃなくて冒険家兼トレジャーハンター。で、今は海賊相手に盗人中』

 

『海賊の嘘に騙されると思ったら大間違いよ』

 

 

 それと、青髪の美女(海兵)──アインとの出会いでもある。

 

 ブラックは当時、悪魔の実の能力で縮小化して海賊船に乗り込み、盗みを働いているところだったようだ。ただ、その海賊船が海軍の演習艦を襲撃し、ゼファーは窮地に立たされていた。ブラックの視線の先で、腕を切断されようとするゼファー……ゼファーを危機から救い出したのがブラックだったのである。

 

 もし、この時遭遇した海兵がゼファーではなければ、ブラックは9年前にすでに賞金首になっていたかもしれない。賞金首にされ、五皇の一角にまで数えられるようになった今、改めて考えたらゼファーとアインとの出会いはブラックにとってかなり大きいものだったのではないだろうか…。

 

 

『すまん、助かった』

 

 

 ゼファーからしたら、ブラックは間違いなく命の恩人だ。

 

 

『あ、ありがとう』

 

 

 無論、アインにとってもだ。

 

 その事件をきっかけにブラックはしばらくの間、特別にゼファーの軍艦に乗ることになった。

 

 9年前の時点ですでに覇気を扱うことができていたブラックではあるが、我流だったこともあり当時はまだまだ未熟者。ゼファーは、命の恩人であるブラックにお礼と称し、覇気の基礎を叩き込んでくれたのである。

 

 

『何れ"新世界"に行くつもりならばもっと強くなれ!!』

 

 

 ゼファーはブラックに迷いなく覇気の基礎を叩き込んでくれた。恐らく、ブラックに対しこう願ったのではないだろうか…。己達が偶然とはいえ救われたように、命の危機に曝された弱き者を助けて欲しいと…。

 

 ブラックにとっても、たった1人で冒険を続ける上で力は必要不可欠。偶然の結果とはいえ、ゼファーからの恩返しは願ったり叶ったりたったはずだ。勘違いから賞金首にされてしまうまでの7年間、ブラックが自由気ままに冒険を楽しむことができたのはゼファーのおかげでもあるのだ。

 

 その上、海賊ではない覇気使いにして、幻獣種の能力者など、海軍からしたら喉から手が出るほど欲しい逸材のはずなのをゼファーは、ブラックの意思を尊重し、海軍にその存在を黙っていてくれたのである。

 

 覇気の真髄こそ教えてくれなかったが、ブラックが初頭手配額で3億を超える懸賞金をかけられる強さを有していたのは、複雑ではあるだろうがゼファーのおかげでもある。

 

 そして、ブラックにとってゼファーと同様にアインは大きい存在だ。ゼファーから鍛えてもらう傍ら、アインはゼファーとの稽古で傷だらけになったブラックを手当てしてくれたりなど、面倒を見てくれた。最初こそ警戒していたアインだったが、彼女も次第に警戒心が薄まっていき、ゼファーの厳しい稽古に根を上げずに頑張るブラックに心を許すようになった。そんなアインに、ブラックは心惹かれるようになった。ブラックにとってアインは数少ない……彼が共に冒険して欲しいと思った異性でもある。

 

 

『ありがとう、ブラック。

 わ、私もあなたが好きよ。けど、一緒には行けない。私は海兵だから』

 

 

 もちろん、アインは海兵であることに誇りを持っており、ブラックの誘いを断ったが…。ただ、アインにとってもブラックは大きい存在となっていたようで、真剣に悩んでいたようだ。

 

 

『それでも…今日だけは…』

 

 

 ブラックの誘いを断りこそしたが、ブラックとアインは一夜限りだけ……深く愛し合ったのである。

 

 しかし、その3人──ブラック、ゼファー、アインは現在、9年前とはまったく違った立場で再会を果たそうとしている。

 

 片や、懸賞金40億を超える五皇の一角──"赫猿"デマロ・ブラック。

 

 片や、海賊の殲滅の為ならば一般人や海兵達といったいかなる犠牲も厭わないという……海軍を自称する超過激的な犯罪組織を率いるゼファーと右腕のアイン。

 

 奇しくも、3人は世に仇なす存在と認識されてしまっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん…一夜限りだけ深く愛し合った関係かァ」

 

「あ…ヤ、ヤマト…い、一応言っておくけど、ブラックにとってはもう過去のことみたいで、今はちゃんとお前とニコ・ロビンのことを愛してるみたいだぞ!!」

 

 

 船長が不在となったオーロ・ジャクソン号にて、()()()()()()()()()()()()ブラックの過去の一つ。

 

 ただ、ペローナは余計なことを喋ってしまったと後悔している。他人の過去を本人の許可なく勝手に喋ってもろくなことにはならないのである。

 

 しかし、どうしてペローナがブラックの過去を知っているのか…。

 

 

「まァ、ボクとロビンを愛してくれてるのは本当だろうけどさ…お酒呑んで酔ってたとはいえ…NEO海軍の記事読んで動揺もしてたのかもしれないけど、一夜限りとはいえ深く愛し合ったことを口にするってことは今でも忘れられないってことだよね!? しかも、どうしてペローナにだけ話してるのかな!? ハッ! もしかして不倫!?」

 

「お、落ち着けって!!」

 

 

 とある日、酒を呑みながら新聞を読んでいたところたまたまゼファーとアインの現状を知ることとなり、珍しく動揺したブラックはたまたまその場所にいたペローナにポツリポツリと、懐かしむように語り始めたのだそうだ。

 

 決して、ペローナと不倫しているわけではない。

 

 もっとも、ブラックの妻となったヤマトにとっては、色々と衝撃を受けたことだろう。変な考えを抱いてしまうのも些か仕方がないかもしれない。

 

 

「というかさ! 黒吉っちゃんは過去に一夜限りの関係を持った女が多いんじゃないかな!? だって一処に留まる男じゃないし! ちょっとボク聞いてくる!」

 

「お、おいヤマト!?

 ったく、あのバカ夫妻が!!」

 

 

 ヤマトはブラックを心から愛している。だからこそ、ブラック関係の話になると暴走する節がある。

 

 エースの制止を無視し、ブラックのもとへと向かうヤマト……事態は緊迫化(修羅場)しつつあるようだ。

 

 

「ふふ…ブラックの爛れた過去をネタに、ニコ・ロビンをボクの妻に!!」

 

「おめでたい奴だべ」

 

 

 こんな状況でも、キャベンディッシュは平常運転である。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 砲弾を弾き落としながら飛ぶ速度を上げて軍艦に降り立ったブラックは複雑な笑みを浮かべながら、かつての恩人へと再会の挨拶を述べた。

 

 

「お久しぶりですね、ゼファーさん。

 アインも…久しぶり」

 

 

 もちろん、ゼファーの隣に立つアインにも…。

 

 しかし、複雑な笑みを浮かべるのはブラックだけではない。

 

 

「…ブラック」

 

 

 本来なら喜ばしいはずの再会。ブラックは海賊で、アインが海兵(自称)でなければ…。彼らは決して相容れない存在だ。この再会が複雑でないはずがない。

 

 この再会がもし、2年以上前だったら……ブラックが賞金首になるよりも前だったら、喜ばしいことだったはずだ。

 

 

「ゼファーさん」

 

「デマロ・ブラック。オレ達に言葉は必要ない。

 お前は、()()()()()()()()()()()()()()()おきながら海賊になった。しかも、ロジャーの息子とカイドウの娘を仲間にし、オーロ・ジャクソン号にまで乗っている。実に罪深いことだ」

 

 

 だが、この再会を心から喜べる日は未来永劫、絶対に来る日はない。

 

 海賊は悪。ゼファーとアインにとって、ブラックは殲滅対象でしかないのだ。

 

 

「あなたはもう、私が恋…愛したブラックではない。

 懸賞金40億を超える大犯罪者(大海賊)…"赫猿"デマロ・ブラックよ。海賊は葬り去る」

 

 

 ブラックの想いは、2人に届かない。

 

 元海軍大将のゼファーなら、どうしてブラックが賞金首になってしまったのか……その経緯を知っていないはずがない。当然、異を唱えようともしたはずだ。ゼファーにとってブラックは、海兵でこそないが大切な教え子であり、命の恩人なのだ。

 

 期間は短かったとはいえ、確かな絆がある。

 

 それでも敵意を見せるのは、頂上戦争で海軍を相手に暴れ回ったブラックが海賊に見えてしまったからなのだろう。

 

 

「この大海賊時代を終わらせる。

 アイン…()()

 

「はい、ゼット先生」

 

 

 だからこそ、ゼファーはブラックをその手で葬り去るつもりなのだ。

 

 とはいえ、五皇の一角に数えられるブラックを相手に、元海軍大将といえども老いた体では勝てないはず……それを己自身で理解しているゼファーは、普段ならば絶対に頼ることのない()()()()()()()()()()、ゼファーは伝説の海軍大将へと戻る。

 

 

「!」

 

「オーロ・ジャクソン号に乗り、白ひげの武器を持った海賊が目の前にいる…過去に戻った気分だ」

 

 

 アインに3回触れられたゼファーは海軍大将だった全盛期時代への姿へと変貌し、当時を懐かしみながら鋭い視線をブラックへと向けた。その身から迸る強大な覇気に、ブラックですら驚愕している。

 

 これが、すべての海兵を育てた男とまで称される伝説の海兵……"黒腕"の異名を持つ海軍大将の姿だ。

 

 

「行くぞ──デマロ・ブラック!」

 

「ッ!?」

 

 

 問答無用。

 

 これ以上の会話は一切必要なし。

 

 拳のみが唯一の語る術。

 

 すべての海兵の模範となった伝説の海兵の黒腕には覇王色の覇気が纏われており、かつての教え子へと襲いかかる。

 

 

「ゼファーさん──上等だ!!」

 

 

 そして、教え子であるブラックはほんの一瞬だけ瞳を閉じ……過去と訣別し、ゼファー同様に拳に覇王色の覇気を纏わせ、師へと拳を放つ。

 

 

 

 

 

覇滅

 

 

 

 

 

 最強の漢同士の拳の激突は触れることすらなく天を割る。

 

 

 

 

 






FILM REDももちろん書きたい!

けど、まずは大好きなFILM Zからいこうかな?そんな感じのリハビリ作であります。

ゼット先生カッコいいよね。

今作でのゼット先生は、ブラックとの出会いのおかげで腕切断されておらず、教え子達も重傷者多数、死者数名で済んでおり、アイン以外にも生存者います。

ただ、NEO海軍設立は……少なからず、ブラックの一件もきっかけになっております。世界政府が何も悪くないブラックを賞金首にしたのは許せないけど、頂上戦争での暴れっぷりは……複雑なとこですね。


そして、アインは……爛れたブラックの過去が少しずつ明らかになる新世界編。


とりあえず…ただいまです!!


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海が導く終焉



思えば、新時代。赫い猿皇帝でブラックが黒ひげ相手に見せた、悪魔の実の能力を威圧して弱体化させる極意・覇王武装……FILM REDの40億巻に似たような……○○殺しが記載されておりビックリである。

FILM RED、興業収入100億突破しましたね!



 

 

 海はその戦いを見ている。

 

 現五皇"赫猿"デマロ・ブラックと、元海軍大将"黒腕のゼファー"の戦いの結末を…。

 

 片や懸賞金40億を超える新しい世代の筆頭(海賊)

 

 片や海賊王と渡り合った旧世代の伝説(元海兵)

 

 世界最高峰の実力者達による激突の余波は曇を割り、海を激しく揺らす。

 

 

「ぬうん!!」

 

「うらァァァ!」

 

 

 覇王色を纏ったブラックとゼファーの拳が触れることすらなく衝突し、激しい衝撃波が辺り一面へと広がっている。

 

 これは、この2人が覇王色の覇気を極めたほんの一握りの強者達である証拠だ。

 

 

「覇王色…持ってたんだな、ゼファーさん」

 

 

 ただ、元海軍大将ゼファーが覇王色の使い手であることを、かつて覇気の基礎を叩き込まれたブラックは知らなかった。

 

 もっとも、ゼファーは海軍大将にまで上り詰め、全ての海兵を育て上げた伝説の海兵であり、海兵の鑑とまで言われた存在だ。覇王色を持っていても当然。

 

 

「オレが覇王色に目覚めたのは海軍を抜けた時…この大海賊時代を滅ぼすと心に誓った時だ」

 

 

 しかし、ゼファーは覇王色を元々持っていたわけではなかった。ゼファーは武装色の覇気の達人であり、能力者でなくとも海賊王ロジャーや白ひげ達と渡り合ったからこそ伝説の海兵として語り継がれているのである。

 

 悲しいことに、ゼファーが覇王色に目覚めてしまったのは、信じていた正義に絶望してしまったのがきっかけだ。

 

 それはまさに、破滅の王の目覚めと言える。

 

 

「覇気は全てを破壊する。

 ブラック…貴様を滅ぼすのは、この大海賊時代破滅への第一歩だ」

 

「ゼファーさん…」

 

 

 もう、かつての師はそこにはいない。弱き市民を守る英雄"ゼット"は死に……破壊の限りを尽くす破滅の王"ゼット"と化してしまった。

 

 

「オレは…ゼファーさんの教え子として役目を果たす」

 

 

 それでも、ブラックにとってゼファーは恩師だ。覇気の真髄を叩き込んでくれた"冥王"シルバーズ・レイリー同様に大恩人である。それは決して変わることはない。

 

 だからこそ、ブラックはゼファーを止める。

 

 

「人獣型か…懐かしいな。

 くく、あの頃とは大違いだ」

 

「もう、あの頃の()()じゃないぞ」

 

 

 そして、ゼファーがどのように変わろうとも、ブラックが海賊になってしまった今でも、ブラックがゼファーの教え子の1人であるのも偽りなき事実。

 

 当時、ゼファーがブラックを小猿呼ばわりしていたのは、懐かしい思い出のはずだ。

 

 ブラックの人獣型の姿を目にしたゼファーの脳裏に、当時の情景が甦ってくる。五皇ではない、ただの冒険家兼トレジャーハンターだった頃のブラックの姿が…。

 

 

「ならば見せてみろ…今の貴様を」

 

「言われなくてもそのつもりだ!!」

 

 

 何度もゼファーの黒腕に殴り飛ばされ、それでも折れることなく何度も立ち上がり、ゼファーに一撃でも与えようと挑んでいた負けず嫌いの青二才。

 

 今はもうあの頃とは違う。

 

 

「!?」

 

 

 真っ直ぐ突っ込んできたブラックに向けて拳を放つゼファー。だが、ブラックはゼファーのその拳を身を捻りながら手で上手く受け流し、直線的な動きに対してカウンターを狙ったはずのゼファーに、ブラックはそれを逆手に取って覇王色を纏ったカウンターの拳を顔面へと放つ。

 

 その威力はあまりにも絶大だ。

 

 

「ぐッ!」

 

 

 かつて、一切届くことのなかったブラックの拳が今はゼファーに届き、ゼファーを海へと吹き飛ばす。伝説にブラックが追いついたということだ。

 

 とはいえ、たった一撃で倒せる相手ではない。ブラックは殴り飛ばし海に沈んだはずのゼファーの強大な覇気を感じ取っている。ブラックの渾身の一撃も、ゼファーにとっては数十年前(全盛期)の感覚を取り戻すきっかけなのだ。

 

 すると次の瞬間、爆発したかのように海飛沫が高く舞い上がり、ゼファーが海から飛び出てくる。

 

 

「素晴らしい一撃だ。どうやら本当に…()()()と同じ土俵に上ってきたようだな、ブラック!!」

 

 

 "月歩"で宙を跳ねながら口角を上げるゼファー。

 

 恐らく、ゼファーが口にした"オレ達"というのは、海賊王や白ひげといった、自身を含む全盛期の強者達のことなのではないだろうか…。

 

 つまり、ブラックの一撃は全盛期の強さを取り戻したゼファーを納得させるだけの……それに等しい一撃だったということだ。

 

 しかも、どうやらブラックの一撃がゼファーの心に完全に火を灯してしまったようだ。それは破滅の限りを尽くす地獄の業火の如しである。

 

 

「次はオレの番だ」

 

「!?」

 

 

 ブラックも驚愕する速さで眼前にまで一気に迫ってきたゼファー。

 

 

「ふん!!」

 

 

 驚愕しながらも素早く迎撃の掌底を放ったブラックだったが、その掌底は叩き落とされ、今度はブラックが覇王色を纏ったゼファーの拳を食らい吹き飛んでしまう。

 

 かつて、武装色の達人とまで恐れられた"黒腕のゼファー"。そのゼファーが覇王色を開眼し、悪魔の実の能力で全盛期の身体を得てしまったとなれば、その強さは全盛期以上のものではないだろうか…。

 

 

「く…そ…」

 

 ブラックは今、かつて何度も味わった威力以上の拳をその身に味わった。

 

 能力者にとって、海に落ちることは死と同義。仲間達が助けてくれるかもしれないが、必ず間に合うとは限らない。もっとも、ブラックの場合はクラーケンなど超大型の海王類を引き連れていることもあり、能力者の弱点を克服しているようなものだ。

 

 だが、ゼファーが相手ということもあり、ブラックは強烈な一撃に堪え、海に落ちることなく空中で急停止し、どうにか体勢を立て直す。

 

 

「ッ…ててて…こんにゃろうが。

 上等だ。 見た目が若返ったおかげで遠慮することなくブン殴れるし、老人を労る必要もまったくねェよな」

 

 

 とんでもない距離まで殴り飛ばされたブラック……だが、その瞳に恐怖は一切なく、好戦的な瞳がゼファーへと向けられている。無論、ゼファーも同様だ。

 

 

「加減する必要はないようだな」

 

 

 ゼファーがブラックへと向かって宙を駆け抜けていく。

 

 

「アンタの頭にたん瘤作ってやるよ!!」

 

 

 ブラックがゼファーへと向かい飛び立った。

 

 2人の戦いがもたらすものは破滅か……それとも平和か…。覇王色を極めし者同士の戦いが激化する。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 この世界の神とも称される天竜人(世界貴族)の最高位──"五老星"。

 

 世界政府の最高権力者である5人の老人達は、世界政府の本拠地である聖地マリージョアのパンゲア城内"権力の間"にて、()()()()()について議論していた。

 

 今からほんの少し前、五老星のもとに凶報がもたらされた。いや、場合によっては朗報になる可能性もある。

 

 

「このまま…()()()()()()()()してくれればいいが」

 

 

 五老星がこの世から消えることを強く願う海賊が存在する。もちろん、全ての海賊に消え去って欲しいだろうが、その海賊の存在は別格なのだろう。

 

 そして、その海賊と現在戦っている元海軍大将の存在は、五老星にとって目の上の瘤のようなもの。海賊と共倒れしてくれたならば万々歳のはずだ。

 

 ただ、現五皇と元海軍大将の激突が世間に与える影響はあまりにも大きいはずだ。楽観的には考えられるはずもない。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。しかし、今の能力者…デマロ・ブラックは五皇にまで上り詰め、覚醒させてしまう可能性が高すぎる。万が一、この戦いで覚醒するようなことがあれば…」

 

 

 五老星にとって、"赫猿"デマロ・ブラックは現五皇達の中でも最も危険性の高い存在のようだ。

 

 ブラックは世界最強の海賊と恐れられた白ひげの後継者とまで謳われる海賊。簡単に葬り去れる海賊ではなく、彼と対等に戦える者も限られている。

 

 

「だが、ゼファーと共倒れが無理ならば、五皇同士の潰し合いでしか奴を葬り去ることはできないのではないか?仮に四大将全員をぶつけたとしてもどうなるか…」

 

 

 どの方法も確実性が低い。五皇同士の潰し合いという未知の選択以外に可能性があるとしたら、四大将全員をぶつける他ないが、世界政府と海軍からしたらそれは避けたい事態だろう。しかし、ブラック海賊団には"バスターコール"が通用しないのも事実。

 

 ブラック海賊団が超少数精鋭でありながらも、五皇の一角に数えられるのはブラック自身の強大な力に加え、彼を支える厄介すぎる存在達の力が大きい。

 

 "炎鬼"、"白銀の女狼"、"金鷹"、"魑魅魍魎の姫"、"絶対防御"、覇気を扱えるヒューマンドリル達にクラーケン含む超大型の海王類達。

 

 まさに鉄壁の布陣だ。

 

 

「世界一周を唯一成し遂げたオーロ・ジャクソン号に乗り、ロジャーの息子とカイドウの娘を従え、歴史の本文(ポーネグリフ)が解読できる白ひげの後継者。()()()()とは似ても似つかぬ男だが、戦力はロックス海賊団を彷彿とさせる。いや…それ以上かもしれん。この時代にそのような存在が現れてしまうとは…」

 

 

 "赫猿"デマロ・ブラックは、世界政府と海軍にとってまさに、悪夢のような存在だろう。

 

 しかも、悪夢は連鎖する可能性まで秘めている。

 

 もっとも、五老星にとっての悪夢が、市民達にとっても同じ悪夢だとは限らない。

 

 

「奴は()()()()()()()とも親しい。

 "ゴムゴムの実"と揃って覚醒するようなことがあれば…最悪の時代(新時代)の到来となってしまう。

()()()()()()()()()()()()の同時覚醒だけは絶対にあってはならん」

 

 

 頂上戦争後、大海賊時代"暗黒期"と言われる恐ろしいこの時代。ブラックの存在は、この恐ろしい闇の時代をより一層、恐怖のドン底にまで陥れる存在なのか…。

 

 それとも、この恐ろしい闇を晴らし照らしてくれる存在なのか…。

 

 とにもかくにも、時代は大きな変革を迎えようとしている。

 

 

「ご、五老星! た、大変です!

()()()()()がッ──!!」

 

 

 世は混沌を極めし大海賊時代。

 

 神であろうとも、予測不可能な事態が常に起きる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "赫猿"デマロ・ブラックと元海軍大将ゼファーの激突により、厳戒態勢が敷かれているなか…。

 

 

「まさかゼファー先生がブラックと戦うなんてな…」

 

 

 海軍のトップ──"元帥"クザンは()()に乗り、激闘が繰り広げられるシャボンディ諸島付近の海域へと向かっていた。

 

 元帥になろうともこの男は変わることなく、マイペースに己の意思を貫き、思うがままに行動する。元帥としてどうかと思われるが、やる時はやる男だ。

 

 そして、決して無意味なことはしない。

 

 とはいえ、ブラックとゼファーの激突と同時に、海軍本部から元帥が消えたとなると、緊急事態になっていることは間違いないだろう。

 

 

「クザン…ブラックは儂の獲物じゃ。

 何があろうと手ェ出さんようにのォ…手ェ出したら、貴様とてただではすまんけェのォ」

 

 

 さらに、同行する海兵が海軍大将"赤犬"とは。

 

 元帥と大将。上司と部下の関係といえど、クザンと赤犬は水と油に近しい間柄で、共に行動するなど天地がひっくり返ってもありえないはず。

 

 ただ、今回の一件に関わっているのがブラックとゼファーということもあり、クザンは赤犬と共に行動しているようだ。

 

 

「はいはい、わかってるって。

 それよりもいい加減に元帥って呼びなさいよ。減給していいんだけど?」

 

「死んでも断る。

 減給したいんじゃったら好きにせェ」

 

 

 今ではブラック海賊団専門と化しつつある赤犬率いる部隊。

 

 赤犬もゼファーの教え子の1人であるようだが、赤犬にとって重要なのはゼファーの討伐ではなくブラックの討伐だ。

 

 対して、ゼファーに大きな恩があるクザンは、ゼファーを止める為に動いている。普通、海軍のトップであるクザンは動くべきではないかもしれないが、彼は報告をただ待つだけの状態が嫌なようだ。寧ろ、恩師であるが故に己自身で方を付けたいと思っているのだろう。

 

 クザンと赤犬の想いが上手い具合に絡み合い、その結果……2人は協力体制を取り、赤犬がブラック海賊団の相手をし、クザンはゼファーと相対するつもりでいる。

 

 

「お前もホントに頑固だな。

 まァ、それはともかく…ゼファー先生とブラックの戦いに横槍を入れて分断させるのは難しい。不可能かもしれない…それでもやるか?」

 

「儂はブラックをこの手で葬る…それだけじゃ」

 

 

 片や恩師を止めるべく。

 

 片や宿敵を討伐するべく。

 

 今、シャボンディ諸島付近の海域に、元大将、現大将、元帥……そして五皇が揃おうとしている。それは、五皇の内4人が揃ってしまうのに等しく、まさしく天変地異だ。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 繰り広げられる攻防はまさしく天変地異。互いの覇王色の覇気で吹き飛ぶブラックとゼファー。

 

 拳のみの殴り合いだが、五皇と全盛期の大将の殴り合いは常軌を逸している。

 

 その拳で、いったいどれだけの弱き者達が救われることだろうか…。

 

 だが、ブラックもゼファーも、今は弱き者達を守る為に拳を振るってはいない。

 

 己の為に振るっている。

 

 

「黒吉っちゃん! 大丈夫!?」

 

 

 オーロ・ジャクソン号に吹き飛んできたブラックをヤマトが浮き止め、心配の声をかけると、ブラックはヤマトの心配する声に向けてにこやかに笑って瞳で応えた。

 

 心配することなど一切ない。寧ろ、心配など余計なことでしかないだろう。

 

 

「ハハハ! はあ、はあ、楽しくなってきた!」

 

「黒吉っちゃん」

 

 

 そして、ブラックと同じようにゼファーも口角を上げ、表情を和らげるのである。

 

 

「くくく、イイ拳だ…ブラック。

 貴様の信念を強く感じるぞ。 どうやら、オレは思い違いをしてたようだ。 政府と海軍の勘違いから賞金首となり、その理不尽さと不幸さ故に政府と海軍に強い恨みを持ち海賊に堕ちたと思っていたが…お前は何一つ変わっていない。

 常に自由であり、冒険を求め…決して信念は曲げず、悪に屈することなく…お前はオレが鍛えた頃のまま、まっすぐに成長したのだな」

 

 

 かつての教え子の変わらぬ姿に……成長した逞しい姿にゼファーは感動を覚えているようだ。

 

 

「まったく恨みがないって言ったら嘘になるが、おかげで最ッ高の仲間達に出会えた。 愛するロビンとヤマトに出会えた。 後悔なんて少しもない。オレが海賊で、五皇で、40億を超える懸賞金をかけられてる…それがどうした。 オレは誰にも支配されねェ! オレの…オレ達の冒険を邪魔する奴はブッ飛ばす!」

 

 

 端から見たら、ブラックはわがままな大きな子供にしか見えない。だが、この世界に己の信念に忠実に生きれる者がいったいどれだけ存在しているだろうか…。

 

 

「ふッ…そうか。

(ロジャー、ニューゲート…貴様らの信念は途切れることなく受け継がれているんだな)」

 

 

 ゼファーの瞳には、海賊王ロジャーと白ひげの姿が重なって見えている。その姿か眩しく、懐かしく映っている。

 

 ブラックが賞金首にされてしまった一件で、海軍への信頼が大きく揺らぎ、かつて自身が指揮していた演習艦を襲撃した海賊が新たな七武海として迎え入れられたことで、ゼファーは海軍を完全に見限ってしまった。だから、ゼファーは全てを破壊しようと目論んだ。海軍の正義に失望し、この世界に救いなどないとまで絶望もした。

 

 そんなゼファーの瞳に映るブラックは、この世界の唯一の救いのようにすら映っているかもしれない。暗い夜を明るく照らし、見守ってくれているかのような……お月様のように思えているのかもしれない。

 

 

「くく…教え子が今では懸賞金40億を超える五皇の一角とは複雑な心境だが…お前は素晴らしい教え子だ、ブラック」

 

 

 拳同士で殴り合った(語り合った)からこそ通じたものがある。思い出せたものがある。

 

 もしかしたら、ゼファーはブラックに止めてほしかったのかもしれない。己を絶望させ、見限った海軍と政府によって海賊に仕立て上げられたブラックに、ゼファーは己の暴走を止めてほしかったのではないだろうか…。

 

 

「弟子は師匠を超えていくものだ。

 ブラック…これからお前に最期の稽古をつけてやる!!」

 

「上等だ。

(ゼファーさん…アンタも白ひげと同じだ。

 オレの憧れだよ)」

 

 

 戦いの行く末を見守る一同の瞳に映る2人の姿は、海賊でも海兵でもなく……負けず嫌いの教え子と、教え子を鍛える師でしかなく…。

 

 そんな2人の姿を、海は優しく見守っていた。

 

 

 






ニカニカの実のモデルはハヌマーンと言われたりされてますけども、わたくしは別物として話を進めていきます!です!

太陽の神ニカには友達がいた。それが月の神ニヤである。月の神とハヌマーンの結びつきに関しては気付く方もいると思うけど、絶対に言うなよ!言うなよ!!フリじゃなくて、マジで言わないでね!未来視禁止命令です!!

それに、ONE PIECEは月が特別視されていたり?エネルもそうだし、ミンク属の強化形態の月の獅子(スーロン)も然り、兄弟分の光月一族他、ワノ国の大名家は月に因んでたり…などなど。

"ニヤ"って名前に関しては…ブラックはニヤって笑うんです。


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新時代と旧時代



改めて、覚醒したら滅茶苦茶強そうな悪魔の実って何だろう?

それ考えた時、ボムボムの実が思い付く。ボムボムって、最初の方に出すぎて残念だよなぁ。



 

 

 シャボンディ諸島付近の海域に、海軍元帥と海軍大将を乗せた艦隊が待機している。

 

 本来ならほとんど前線に出ることのない元帥までいるこの状況は天変地異の前触れのようにすら思え、非常事態であることが容易に想像できてしまう。

 

 しかし、元帥を乗せて尚……海軍の艦隊はそれ以上先には進むことができずにいた。

 

 

「ッ…ここまで届くなんて…ありえないでしょ」

 

「い、忌々しいのうッ…ブラックゥ!!」

 

 

 艦隊が停泊している場所まで届く()()()()()()()()()によって多くの海兵達が気絶し、元帥クザンと大将赤犬すらも冷や汗を流している。

 

 "赫猿"デマロ・ブラックと元海軍大将"黒腕のゼファー"による激戦の余波がこの場所にまで……いや、これは戦いの余波ではなく()()だ。

 

 

「邪魔するなってか…ゼファー先生」

 

 

 二つの覇王色の覇気は明らかに海軍の艦隊に向けて放たれている。

 

 これほどの広範囲にまで放たれる覇王色の覇気の強大さに、さすがの元帥もここから先へ進むことに躊躇せざるを得ないだろう。もし、邪魔に入ったらどうなるか……五皇の一角と全盛期の強さを取り戻した元大将が同時に襲いかかってくる最悪の事態になりかねない。

 

 

「おいクザン! 何を躊躇しとるんじゃ!」

 

「ちょっと黙っててくんない?」

 

 

 それでも突撃しようとする大将赤犬は、もはや狂犬か…。

 

 すると、その狂犬の存在を見越してなのか、再び覇王色の覇気がこちらに向かって放たれる。まるで、手綱をしっかり握っていろとでも言われているかのような……クザンにはそう聞こえていた。

 

 

「はあ…胃に響く覇気だ」

 

 

 狂犬とかつての恩師、そして赫猿。その3人の板挟みにあう元帥クザンは、改めて元帥の大変さを痛感する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クザン、サカズキ…邪魔してくれるなよ」

 

 

 かつての教え子達の覇気を感じ取りながらも、ゼファーは今……この戦いに執念を燃やしている。

 

 ゼファーにとって、この戦いは己の人生の集大成のようなものだ。

 

 これまでの人生で培った己の全てを拳に乗せて叩き込み、その全てを新時代に託す。

 

 たとえ、託す相手が海賊であろうとも…。

 

 海兵としてではなく、信念を持った漢として、ゼファーは拳を振るうのだ。

 

 

「うおらアァァァ!!」

 

「ぬんッ!!」

 

 

 もう何度目か…。

 

 覇王色の覇気を纏った拳同士の激突。触れることすらなく、海面を大きく揺らしている。

 

 ブラックも、託される者として全身全霊を込めてゼファーの拳を真っ向から拳で迎え撃つ。恩師とは拳のみで戦うつもりなのだろう。

 

 これは、漢と漢の真剣勝負だ。

 

 誰一人として、この勝負を邪魔してはならない。

 

 ブラック海賊団の面々も、NEO海軍の面々も、ただ黙って勝負の行く末を見守っている。この戦いに、感動を覚えている者すらいる。ブラックとゼファーはただ殴り合っているだけだが、2人の戦いはそれ程までに激しく、素晴らしいものだ。

 

 

「やっぱ…かっけェな、ゼファーさん」

 

 

 ただ、この素晴らしい戦いも永遠に続くことはない。

 

 決着は必ず訪れる。

 

 ゼファーの拳が赤黒く染まり、全力全開の覇王色の覇気が大気すらも威圧する圧倒的な力にて、ブラックへ最後の攻撃を仕掛けようとしている。

 

 

「随分と男らしくなったものだ…ブラック。

 これで最後だ。逝くぞ…"赫猿"デマロ・ブラック!!

(お前のその"信念"…決して折ってくれるなよ)」

 

 

 これまで数多の海賊を葬ってきた"黒腕"の本気(最後)の拳が、かつての教え子(海の皇帝)へと放たれる。

 

 

 

 

 

海滅

 

 

 

 

 

 その拳は、億超えの海賊ですら一撃食らっただけでお陀仏となるだろう。端から見たらただ殴っているだけだが、身のこなしは速く、無駄も一切なく、洗練されている。武装色の覇気の達人とまで謳われたゼファーが覇王色に目覚めてしまい、昇華した力なのだ。

 

 海賊を滅ぼすまで、止まることのない拳。

 

 彼の"赫猿"デマロ・ブラックが成す術なく殴られた続けている。ブラックがここまで一方的に殴られるなど、これまで一度もなかったのではないだろうか…。

 

 ゼファーの拳撃は速く、重く、五皇の一角だろうと反撃の隙すら与えない。

 

 

「!」

 

 

 しかし、ゼファーの拳が徐々にブラックに当たらなくなっていく。最初は、辛うじて防御する程度で防戦一方に変わりはなかった。

 

 どうやらゼファーの攻撃に慣れたのか……いや、慣れたのではなく、ブラックの動きにも無駄がなくなっていき、より洗練されたものへと進化している。

 

 辛うじて防御していた状態から、ゼファーの拳を余裕を持って受け流す常態となり、そしてついにブラックはゼファーの本気の拳を掌で受け止めた。

 

 それもいとも簡単に。あまりにも容易く。キャッチボールでもしているかのように…。

 

 

「ぐはッ!?

(なッ、なんて奴だ!!)」

 

 

 そして気付くと、ゼファーは吹き飛ばされてしまっていた。

 

 ゼファーの拳を受け止め、ブラックは目にも止まらぬ速さでカウンターの拳を叩き込み、ゼファーを殴り飛ばしたのである。

 

 今のゼファーは、アインの悪魔の実の能力で若返っているのもあるが、覇王色の覇気を開眼し、全盛期(海軍大将)時代よりも遥かに強くなっているはずだ。

 

 そのゼファーの本気の拳を簡単に受け止めるどころか、ゼファーを殴り飛ばすとは…。何よりも驚きなのは、ゼファーを殴り飛ばした瞬間を目で捉えられた者が誰一人としていないことである。殴られたゼファーですら、殴られた感触はあってもその瞬間を捉えられなかった。

 

 

「な…何…あれ…」

 

 

 ブラックの姿に誰もが目を奪われる。

 

 ヤマトですら、初めて目にするその姿に唖然としている。時間が止まったかのような錯覚すら覚えている。

 

 だが、そうなってしまうのも無理がない。

 

 ブラックの姿は、あまりにも神秘的なのだ。

 

 まるで、太陽の光が反射して白く光る月のように、その身から迸る覇気が白銀色に染まっている。

 

 

「まだまだ完璧には程遠い。

 けど、足首くらいまでは踏み込めたかな?」

 

 

 

 

 

三叉の御業(さんさのみわざ)

 

 

 

 

 

 より強い相手と戦うことで覇気は更に洗練され……覇気は全てを凌駕する。

 

 "三叉の御業"は、ブラックが辿り着いた覇気の新たな……より高次元の領域だ。

 

 この男──"赫猿"デマロ・ブラックはその領域に僅かばかりではあるが踏み込んでしまった。

 

 

「黒吉っちゃん、君は気付くと…どんどん先に進んでるね。君を追いかけるのは本当に大変だよ。

 けど、そんな君だからこそボクは追いかけ続けるんだ」

 

 

 それは、意識と肉体を切り離し、全てを無意識に任せる力。

 

 肉体が勝手に未来視を行い、攻撃を防ぎ、躱し、払いのけ、ゼファーの攻撃を避ける行動一つとっても身を捻って躱す動作がそのまま覇王色の覇気を纏った回転蹴りへと繋げられ、より最適化された攻撃となっている。

 

 攻撃を防ぐ場合もただ防ぐのではなく"流桜"で弾くことで体勢を崩させており、その都度込められる覇気の度合いも敵の攻撃に合わせて自動的に行われている。

 

 無駄な動き全てを削ぎ落とし、一切の無駄を失くした完璧な動きだ。誰もが出来る可能性を秘めた御業。その反面、この領域に至れるのはほんの一握りの強者のみだろう。

 

 だが、ブラック本人はこれでも完璧ではないと口にした。

 

 その証拠に、無尽蔵な体力を持つブラックが珍しく肩で息をしている。恐らく、この完璧な御業は消耗が激しいのだろう。消耗が激しいのも、ブラックが完璧ではないと口にする要因だ。

 

 とはいえ、ブラックが三叉の御業を発動してから一撃も与えることのできていないゼファーも満身創痍。

 

 この戦いもいよいよ終焉の刻が迫っている。

 

 

「ゼファーさん。

 これが今のオレの全力だ」

 

 

 すると、白銀色の覇気をその身から迸らせながら、ブラックは右腕に全力……全身全霊の覇王色の覇気を纏わせ黒く染め上げた。ただ、これまでとは色の度合いが明らかに違う。全てを黒く塗り潰さんばかりだ。

 

 

「来いッ──デマロ・ブラックゥゥゥ!!」

 

 

 ゼファーは全ての力を振り絞り、ブラックに向けて自身の心を乗せた全力の拳を連続で放つ。

 

 ゼファーの全力の拳撃を全て難なく防いだブラックは懐へと入り、全力の黒拳を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

覇黒(ドゥルガー)

 

 

 

 

 

 

 これぞまさしく、全てを覆い尽くす漆黒。ブラック(黒き者)の全力がその拳に具現化されている。

 

 けたたましく鳴り響く覇王の黒き雷。

 

 その一撃は、不本意ながらも海の皇帝に上り詰めたブラックの強さを表していた。

 

 

「見事…だ…ブラッ…ク…」

 

 

 伝説の海兵をも、漆黒で覆い尽くす。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 その独特の香りは、"すべての海兵を育てた男"が好きなシェリー酒から放たれるものだ。

 

 

「お…目が覚めましたか」

 

「どれくらい…気絶していた?」

 

 

 その香りに釣られ目を覚ましたゼファーは、悪魔の実の能力による若返りが解け、高齢な元の姿(74歳)へと戻っている。

 

 しかし、傷だらけで老いたゼファーの姿は、信念を貫き通した漢そのものだ。

 

 

「まだ数分しか経ってませんよ。

 相変わらずというか、さすがですね…ゼファーさん」

 

「くく、オレを負かしたお前がそれを言うか」

 

 

 そして、シェリー酒を片手にゼファーの隣に腰を下ろした海賊──"赫猿"デマロ・ブラックも信念を貫き通す漢である。

 

 決着は着いた。

 

 ただ、勝ったブラックだけではなく、負けたゼファーも清々しい表情を浮かべている。

 

 己のすべてを出しきったのだろう。

 

 だからこそ、ブラックとゼファーはこうして落ち着いていられるのだ。

 

 

「飲みます?」

 

「頂こう」

 

 

 先程まで、海をも揺るがす大激闘を繰り広げていた者達とは思えぬ落ち着きぶりだが、これは、教え子と師が酌み交わす()()()()となる。

 

 

「本当に強くなったな、ブラック」

 

「多くを経験しましたから。

 けど、信念を貫き通すことはあなたから教わりました。これから先もそれは変わることはない。俺は支配などすることなく、支配もされず、己が思うがままに進みます」

 

 

 ゼファーの旅はここで終わりを迎える。だが、その信念はしっかりと受け継がれ、ブラックが繋いでいく。

 

 

「旨いな」

 

「オレも大好きな酒です」

 

 

 ゼファーは悔いのない笑みを浮かべながら、大好きなシェリー酒をブラックから受け取り口にする。

 

 本来、海賊と海兵がこのように酒を酌み交わすなどあってはならない。しかし、今の彼らは違う。ゼファーは元海兵で、ブラックはゼファーの教え子だ。

 

 

「ブラック…ゼファー先生」

 

 

 そんな2人の(最後の)光景を、涙を流しながらその瞳に焼きつける女性がいる。決して、ブラックとゼファーを邪魔しないように、彼女は少し離れた場所からその光景を眺めていた。

 

 2人の姿を眺めていると、彼女の脳裏には短くも幸せで、奇妙な関係だった頃のかつての記憶が甦る。そして、幸せな思い出が彼女の涙腺をさらに弱らせてしまう。

 

 すると、その青髪の美女の流れ落ちる涙が手で拭われる。

 

 

「…ブラック」

 

 

 いつの間にか自身の目の前に立っていたブラックは優しい手つきで彼女の涙を拭い、彼女をゼファーのもとへと連れていく。

 

 甲板に倒れる満身創痍のゼファーを目にし、彼女はさらに涙を流してしまう。

 

 

「泣くな、アイン。

 ゼファーさんが信念を貫き通したんだ。最ッ高にカッコいいじゃねェか」

 

 

 それでも、大切な恩師の為にと、彼女──アインは気丈に振る舞おうとした。

 

 だが、どうにか立ち上がったゼファーの……アインの頭の上に乗せられた大きな(大好きな)手の温もりを感じ、アインはついに我慢の限界を迎えてしまう。

 

 

「お前には世話をかけたな…アイン」

 

「ゼ…ゼファー先゛生゛ェ!!」

 

 

 ゼファーとアインの関係も恩師と教え子だが、今の2人はまるで父と娘にしか見えない。

 

 幼子が泣きじゃくるように、アインはゼファーにすがりつき大号泣している。これまで抑えていた感情が爆発してしまったのだ。

 

 父と娘にしか見えない温かくも切ないその光景を、ブラックは今にも泣き出しそうな、それでいて優しい笑みを浮かべながら見守っている。

 

 ゼファーは己の思うがまま、好きなように行動した。その結果、多くの悲劇を生み出してしまった。だから、これからそのツケを払わなければならない。

 

 

「アイン…生きてくれ」

 

「え…ゼ────」

 

 

 アインに手刀を落とし、気絶させたゼファーは大切そうに抱え、ブラックにアインを託す。

 

 ゼファーはこれから1人、死地へと向かうのだ。

 

 

「お前が作り出す新時代を…地獄の果てから見守らせてもらうぞ、ブラック」

 

「さよなら…ゼファーさん」

 

 

 アインを託されたブラックはゼファーに背を向け、オーロ・ジャクソン号へと帰還する。

 

 新しい時代を託されたブラックは、恩師に恥じないように──新時代を築き上げることを己に誓いながら、ゼファーに別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新世界のとある島──五皇"ビッグ・マム"シャーロット・リンリンが支配するホールケーキアイランドにて、30歳を迎えようかという年齢の長身の美女が新聞を片手にうっとりとした表情を浮かべている。

 

 

「最盛期の力を取り戻した"黒腕ゼファー"に勝利…ハ~ッハハ、ママママ! それでこそ、おれが惚れた男! ()()()()()()()()に相応しい!」

 

 

 しかし、その美女は御年68歳。"赫猿"デマロ・ブラックとの激戦にて懸賞金が更新され、存命する海賊達の中で最も高い賞金首(47億8800万ベリー)となった生まれついての怪物(モンスター)

 

 彼女こそ、ホールケーキアイランド及び近海の34の島とその周辺海域──"万国(トットランド)"を支配する女王"ビッグ・マム"シャーロット・リンリンだ。

 

 そのビッグ・マムがどういうわけか若返っており、ブラックを夫にすると口にしている。いったいビッグ・マムの身に何が起きたのだろうか…。

 

 体格がスリムになり、若返った(28歳時の姿)ことだけではなく、同じ五皇のブラックを夫にすると口にするこの状況に、ビッグ・マムの息子、娘達は大きく混乱しているようだ。

 

 

「ブラックゥ、あんたの拳が忘れられない。

 生まれて始めてだよ。 おれが男に惚れるなんて」

 

 

 どうやら、ビッグ・マムはブラックとの激闘をきっかけに、この歳にして初めて恋をしたのだそうだ。つまり、ビッグ・マムの若返りも激痩せも、ブラックに恋をしたから──恋煩いである。

 

 御年68歳にして、食べたいと思ったお菓子を食べられなかった際に癇癪を起こしてしまう暴食家が、1週間も何も口にせずに部屋に閉じ籠り、出てきたと思ったらこの変化。

 

 息子と娘達が困惑するのも当然だろう。

 

 その一方で、生まれて始めて恋をしたことで若返り、激痩せし、美しくなったビッグ・マムに、年頃の娘達は色めき立っている。

 

 

「おれは必ずあんたを手に入れる。

 そしたら夫婦揃って海賊王だ」

 

 

 同じ海の皇帝に恋する海の皇帝。

 

 "ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)"を巡っての戦いは、より混沌と化していくのである。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 "赫猿"デマロ・ブラックと"黒腕"ゼファーの激闘から数日。

 

 ゼファーはブラックとの激闘後、けじめをつけるべく海軍元帥クザン率いる艦隊との戦いに身を投じ、この世を去った。

 

 元帥クザンにとっても苦渋の決断だっただろう。

 

 かつての恩師をその手で葬るなど…。

 

 だが、実にゼファーらしい最後であり、ゼファーらしい生き様だった。

 

 だからこそ、ゼファーは今ですら慕われているのだろう。

 

 

「まさか…お前がゼファー先生の教え子だったなんてな──"赫猿"デマロ・ブラック」

 

「カッコいい人だったよ…ゼファーさんは」

 

 

 とある島のとある丘にて……ゼファーが葬られた墓の前にて、ゼファーを慕う2人の男が酒を酌み交わしている。

 

 片や五皇。片や海軍元帥。

 

 本来なら、決して相容れない存在同士だ。これがブラックと赤犬だったならば、このような穏やかな墓参りにはなっていなかった。ブラックとクザンだからこそ、ゼファーとの想い出を語り合うことができているのである。

 

 だから今だけは、同じ男を慕った者同士、その男が好んだ酒を酌み交わすことくらいは許されてもいいだろう。

 

 

「さて…それじゃあオレはそろそろ行くぜ。

 クザン、アンタとゼファーさんとの想い出を語れて良かった。ありがとな」

 

「相手が五皇ってのが複雑で、本来ならあり得ちゃなんねェんだろうが…お前で良かったよ。 こちらこそありがとな」

 

 

 この島を出たら、彼らは己の立場に戻る。

 

 追われる身であり、追う立場だ。

 

 

「アインのことは頼んだぞ」

 

「ああ。

 ゼファー先生との約束でもある。任せておけ」

 

 

 ただ、どちらも同じ男の信念に魅せられ、受け継いだ者だ。

 

 ゼファーの信念はこれから先も色褪せることなく、新たな世代達へと受け継がれていく。

 

 

 






どうもです。

とりあえず、FILM Z 編はこれにて完。

とりあえず何度も書き直して書き直して……疲れましたので、後書きはこの辺でww


ああそれと、感想でもありましたが、また何やら未来視が的中っぽくなり、自分が怖いです。


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赫猿、ぶらり珍道中



明けましておめでとう。もう10月だけど!

こっちは約1年ぶりにごぜェます!申し訳ない!



 

 

 少し前まではそれが当たり前だった。

 

 しかし今となってはそれが随分と懐かしく…。

 

 

()()()ってのも久しぶりだな。

 たった数年。だけど、もう随分と昔のことのように感じるな」

 

 

 元海軍大将"黒腕のゼファー"との死闘から数日。

 

 "世界最悪の犯罪者" と恐れられる彼の五皇"赫猿"デマロ・ブラックが仲間も引き連れず、水陸両用バイクに乗ってたった1人で航海するなど、なんと恐ろしいことか…。五皇で一番のフットワークの軽さは伊達ではない。

 

 ただ、勘違いから始まってしまったブラックの海賊人生も、頂上戦争での暴れっぷりや、ブラック海賊団の立ち上げや、海賊王世代の伝説の海賊の他、新旧海軍大将との死闘やら、世界最強の剣士との決闘の数々やらと、悪名ばかりが先行しているが、本来のデマロ・ブラックという男は人畜無害。暴れさせたら手に負えないだけで、ブラックは基本、自分から世界をどうこうするつもりなどなく、元々は1人でのんびりと冒険やお宝探しを楽しむ冒険家兼トレジャーハンターだったのである。

 

 これが、本来のデマロ・ブラックの姿なのだ。

 

 もっとも、今や五皇の一角に数えられるブラックが世界に与える影響は果てしなく大きく、本人にその気がなくとも周囲はそういうわけにはいかないのが現状といったところ。

 

 ブラックはただ、誰にも支配されることなく、行きたいところに行きたい時に行き、冒険を楽しみたいだけなのだが、それでも……世界最悪にして最強と称されるブラックが本気で"()()()()"を目指しているとなれば、己から世界をどうこうするつもりなどないという言葉も、まったく意味を成さない。

 

 世界最強の一角に数えられる強さを持ち、古代文字を読め、海賊王の息子すらも従えるブラックは、世界政府と海軍にとってまったくもって傍迷惑な存在なのだ。

 

 "ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)"に最も近い大海賊。頂点を狙う海賊達にとっても、デマロ・ブラックは何よりもの障害だろう。

 

 

「それはそうと、"()()()()()()"を効率よく探し出す為に二手に分かれるのはイイけど、何でオレだけ1人なんだ?おかしくないか?」

 

 

 そんなブラックは今、ラフテルを本気で目指しており、ラフテルへ辿り着く為に必要不可欠な鍵の1つを探し、その為の情報収集を単独行動で行っている。

 

 ちなみに、ブラックがたった1人なのは、1人旅で鍛えられた高い冒険スキルを持ってしまった弊害のようなもの。裏を返せば、1人で旅をさせても何一つ問題ないという仲間達からの信頼の現れでもあるが…。

 

 つまり、本人以外の意向によって、ブラックはたった1人で情報収集を行っているというところだ。決して、ブラック海賊団の船長を辞める為に脱走したわけではない。

 

 

「なんか…ちょっと寂しいかもしれねェ。複雑だなァ」

 

 

 どうやら、ブラックにとって今のこの状況は不本意なもののようだ。少し前までのブラックならば、1人旅を心から楽しんでいたかもしれないが、今のブラックにとって、ブラック海賊団は家族のようなものですらある。だからなのだろう……1人の状況に心細さを感じているのは…。

 

 もう、嬉々として船長の座を譲り渡そうとするブラックはいない。ブラックはブラック海賊団船長の座を下りるつもりはないらしく、己が白ひげの後継者として五皇の一角に数えられることを受け入れたのだ。それはきっと、大切な仲間達の為でもあるのだろう。

 

 

「せめてヤマトだけでも…まァ、仕方ないか。

 情報収集しつつ、久々の1人旅を堪能しようかな」

 

 

 それに、これは家族のような大切な仲間達に必要な試練でもある。

 

 ブラックがいない状況下で、己達の現時点の力をハッキリと知る機会でもあり、更なる高みへと昇る機会でもある。彼らはただ、ブラックに守られているばかりではない。

 

 最愛の妻の1人、ヤマトだけは渋っていたようだが、()()()()()()()()()()()()()()に備えるべく、致し方なく副船長"炎鬼"エースの意向に了承してこのようになったようだ。とはいえ、すでにブラックが抜けても他の五皇率いる海賊団に匹敵し兼ねない力を持ちつつある。ブラック海賊団の個々の戦力の高さは恐るべきものだ。

 

 主に2人、血筋故なのもあるかもしれないが、それを抜きにしても30億と20億を超える懸賞金に見劣りなどまったくしない強さを持ち、ブラックを支え続けている。決して、親の七光りなどではない。

 

 

「アイツらなら、オレがいなくても問題ないだろ。

 さァて、どこに行くとしようかね」

 

 

 何より、ブラックは彼らを心から信じている。

 

 だからこそ、彼らはまだまだ……これからも強くなり続けることができるのだ。

 

 ブラック海賊団の強い絆は誰にも壊すことなどできない。

 

 

「とりあえず、あんま金も持ってきてねェし、カジノにでも行って稼ぐとするか」

 

 

 ブラックはなんの心配もなく、1人旅を楽しむのである。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 黄金とオモチャ。

 

 そして、愛と情熱の国"ドレスローザ"。

 

 デマロ・ブラックが1人旅の資金を調達するべく向かった先、ドレスローザ特有の熱気に当てられ……いや、ドレスローザに釣られてしまったと言うべきなのだろうか…。

 

 ブラックは、気付くとその腕を放さないように握ってしまっていた。

 

 

「ブ、ブラック…ど、どうしてあなたがここに?

 あ…そ、それより──()()()()だね」

 

 

「そう…だな。

 久しぶりだな──()()()()

 

 

 かつて、数々の大冒険を共に乗り越え、情熱的に肌を重ね合った相性抜群のパートナー(男女)同士が、ドレスローザで再会を果たしてしまった。

 

 しかし、再会を果たした2人ではあるが、この再会を純粋に喜ぶことなど2人にはできない。

 

 ただただ大冒険を楽しみ、お宝に目を輝かせていたあの頃とは何もかも違うのだ。

 

 男は、世界最悪にして最強の大海賊。

 

 女は、世界で絶大な人気を誇り、救世主とまで崇め称えられる"()()()()()"が尊敬すると公言した歌姫。

 

 

「まさかここであなたと会うなんて…。

 けど、元気そうで安心した。記事では頻繁に見たりしてたけど…」

 

「カリーナも、()()が尊敬する歌姫として大活躍みたいじゃねェか。

 記事で見る度に嬉しかったぞ」

 

 

 それでも、嬉しくないわけではない。

 

 あの頃に戻ることはできないが、互いの姿に深い安堵を覚えるくらいはいいだろう。

 

 

「そ、そっか。

(み、見ててくれたんだ。

 と、というかブラック…色気増しすぎじゃない!?ア、アンタの虜になるのが怖くて()()()()()()()()、こんなにフェロモン撒き散らされたら…私ッ!)」

 

 

 どうやら、女の方は安堵よりも欲情してしまっているようだが…。

 

 それも仕方がない。ここは愛と情熱の国。かつて、肌を重ね合ったパートナーが再会したのだから必然だ。

 

 そして、愛と情熱は常に更なるスパイスを欲している。

 

 

「ねェ…ここでナニをしているのかしら…()()()

 

 

 そう、ここは愛と情熱の国"ドレスローザ"。

 

 男に裏切られた嫉妬深い女が男を刺してしまう事案が多発する程の情熱的な国。

 

 

「え──()()()!?

 ど、どうしてここに!?」

 

 

 かつてのパートナー同士が偶然にも再会した瞬間に、最愛の妻が遭遇するのも日常茶飯事。決して、珍しいことでもない。

 

 もし、ここで男が刺されたとしても、誰も驚くことはないだろう。たとえそれが五皇だとしても…。

 

 とはいえ、普段のブラックだったならば、見聞色の覇気で……いや、覇気を使用することすらなく、ロビンがいることに気付いていたはずだ。

 

 気付くことができなかったのは、かつてのパートナーとの再会に、それだけ心をかき乱されたということか…。

 

 

「それより…その可愛らしい女は誰かしら?

 ああ、一応知ってるとは思うけど名乗っておくわね。

 私は、ニコ…いえ、()()()()()()()。この人の妻の1人よ」

 

「ッ…私はカリーナよ。

 数年前までブラックと冒険して…何度も何度も…数えきれないくらい肌を重ねた元カノよ!!」

 

 

 男以上に女が情熱的。それがドレスローザ。

 

 

「お、おい…ロビン、カリーナ、落ち着…はい、黙ってます」

 

 

 五皇を視線一つで黙らせる。

 

 女の情熱は覇王の資質すらも上回る。

 

 

「少し話せるかしら…女狐」

 

「望むところよ…オバサン」

 

 

 痴情のもつれもまた、ドレスローザではごくありふれた日常。情熱の一種である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デマロ・ブラックは、モンキー・D・ルフィが現れ、勘違いからの不運で賞金首になり、海軍本部マリンフォードで勃発した頂点戦争を経てブラック海賊団を立ち上げ、五皇の一角に数えられるようになったが、それより以前は1人で行動していた。

 

 元は、冒険家兼トレジャーハンターなのである。

 

 

「へェ…最初は利害関係が一致した上で身体の関係まで持ったパートナーだったのに、あまりにも相性抜群で、本気になりかけてしまって、怖くて逃げ出した…と」

 

 

 ただ、これまでずっと1人だったわけではない。

 

 利害関係の一致から、共に行動する者がいたのだ。

 

 それがこの、紫色の髪に抜群のプロポーションを誇る美女──カリーナである。

 

 爛れた恋愛経歴を持つブラックにとってカリーナという女性は、本気になった()()()()女だ。

 

 

「ブラック…今でも彼女を忘れられないのかしら?」

 

「え!?

 あ…いや…えーっとだな…」

 

 

 そして、先の戦いで再会したアインという名の美女と同様で、カリーナは五皇"赫猿"デマロ・ブラックにほろ苦い失恋の味を与えた数少ない女でもあり、時に思い出す女でもあった。

 

 

「(ブラック…私のこと、少しは考えてくれてたんだ。

 そっか…そっかァ。ウシシ!)

 まァ、私達相性抜群だったもんね!1日中ずーっとシてたこともあるしね!」

 

「頼む、カリーナ…もうやめてくれ…」

 

 

 それと同時に、妻2人──ロビンとヤマトには決して触れられてはいけない過去でありパンドラの箱のような存在でもある。もっとも、ブラックにはそのような存在が()()()()だけいるのだが、ブラックが自らそれを話すことはないだろう。酔った勢いでペローナに話してなければいいのだが、アインの話をペローナにしたことをブラックは覚えていない為、もしかしたら……発覚するのも時間の問題かもしれない。

 

 

「私とヤマトとは1日中なんて…」

 

「ロビン。

 今から愛させてくれ。1日中とは言わず3日3晩」

 

 

 懸賞金40億を超える大海賊"赫猿"デマロ・ブラックも、愛しい妻の前ではただの尻に敷かれた夫でしかない。とはいえ、シャボンディ諸島で妻の再出発を見送ったと思ったら、再会がこんなにも早いとは…。しかも、このような形で再会してしまうことになるとは…。

 

 

「ブラックゥ…私も再会を祝して…お願い。

 三十路のオバサンよりも満足させてあげるから…ね?」

 

 

 そんな……尻に敷かれるブラックは、果たして愛妻家か。それとも、節操のない猿なのか。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 海賊王ロジャーの死の間際の宣言によって幕開けした大海賊時代。

 

 "ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)"を目指し、星の数程の海賊が海に放たれ24年。

 

 大海賊時代は現在、2年前に勃発した頂点戦争(世代交代)を経て、五皇時代へと突入したことで激しさを増している。

 

 この世における最強生物と称される"百獣のカイドウ"。

 

 天候すら従え、存命中の海賊で最高額の懸賞金を誇る最強の女海賊"ビッグ・マム"。

 

 元ロジャー海賊団見習いであり、海賊王の御技を受け継いだ"赤髪のシャンクス"。

 

 この世で唯一、2つの悪魔の実の能力者となった"黒ひげ"。

 

 そして、勘違いという不運……彗星の如く現れ五皇へと上り詰め、今も尚世界を震撼させ続ける"赫猿"。

 

 この5人が、現時点でもっとも海賊王に近しい存在だ。つまりこの5人の内、1人でも倒せば一気に海賊王に近づけるというわである。

 

 しかし、五皇は簡単に討ち取れる存在ではない。

 

 現在、赫猿"デマロ・ブラックが滞在するドレスローザにて、大規模な戦争が勃発している。

 

 先に言っておくが、事の発端は決してブラックではない。

 

 

「色々と()()()()に聞きたいことはあるが、それは全部終わってからでいい。とにかく今は、お前達を片付けるとしよう」

 

「くッ──オレ(神の力)に屈しろォォォ!!」

 

 

 五皇に対抗する為の神々しい力──巨人すらも超える巨大な"黄金の巨神(ゴールデンテゾーロ)"の拳がデマロ・ブラックに襲いかかるが、ブラックはその拳を覇気を纏った人差し指一本で止めていた。

 

 ドレスローザの守護神の拳も、"赫猿"デマロ・ブラックにはまったく通じることはない。

 

 

「ど、どうして…()()()()()()()()()()()()は…」

 

「お嬢さん…運で勝てるのは三流までだ。

 五皇は運じゃ倒せんよ」

 

 

 ブラックから迸る覇王の資質は全てを凌駕する。

 

 素手で触れた相手の運気を吸い取る能力者が敵だろうと…。そもそも、ブラックの運を吸い取ることなど不可能だろう。ブラックは運だけで五皇に伸し上がってきたわけではない。それどころか、運は運でも不運の連続である。そんなブラックの運を吸い取ろうとしたところで、ろくでもないことになるのは火を見るよりも明らかだ。

 

 そもそも、久しぶりのひとり旅の資金を稼ぐ為、カジノがある〝ドレスローザ〟に立ち寄ったら昔の女(カリーナ)と再会し、その場面に現妻(ロビン)が遭遇するという不運から始まり、そこからロビンが所属する"麦わらの一味"とドレスローザを()()()()"天夜叉"ドンキホーテ・ドフラミンゴ率いる"ドンキホーテファミリー"と、そのドンキホーテファミリーと同盟関係にある"黄金帝"ギルド・テゾーロのいざこざに巻き込まれたりと、相変わらずのトラブルホイホイ発揮中で、今のブラックの運気を吸い取ってしまったら……考えるだけで恐ろしい。

 

 ブラックは不運の女神に試され続ける男なのだ。

 

 

「これが力だ」

 

 

 その不運も、ブラックだからこそ乗り越えることができるのであって、他の者では到底乗り越えることなどできない。

 

 大地を砕こうと拳を振り上げた"黄金の巨神(ゴールデンテゾーロ)"の懐へと潜り込んだブラックは、覇王色の覇気を迸らせながら右手中指を内側に丸め、親指で押さえ込むことで中指に伸ばす力を精一杯込めた状態から、親指を離し中指を勢いよく解き放ち、腹部を思い切り弾いた。

 

 所謂"デコピン"というものだ。

 

 するとどうだ……辺り一面に凄まじい衝撃波が生まれ、"黄金の巨神(ゴールデンテゾーロ)"の巨体が空高く舞う。それどころか、硬い黄金の一部が砕かれており…。

 

 

「そ…そん…な…

(こ…これが…五皇…"赫猿"デマロ・ブラック…勝てる…はずが…ない…)」

 

 

 ブラックの覇王色によって薄れ行く意識のなか、忠誠を誓い、敬愛してやまない男が力に圧倒される光景を目の当たりにした女は、格の違いを……敗北を認め、地面に倒れ込む。

 

 彼女にとって、神を自称するテゾーロが無様に地に伏すであろう姿を目の当たりにせずに済んだのは唯一の救いだったのかもしれない。

 

 

「この程度の力で神を名乗れるとはな。

 それなら…オレ達"五皇"は神を超えた存在か?

 くく…いや、"大魔王"といったところか」

 

 

 宙に舞った巨神の背中に、今度は右手首を左手で抑えることで力を集中させ、再びデコピンを放ち木っ端微塵に破壊したブラックは苦笑いを浮かべながら、己達(五皇)の力についてそのように口にした。

 

 数万人……いや、それ以上を相手にたった1人で戦況を覆すのが五皇の力。ブラックの言葉は、強ち間違いではない。

 

 

「さて、こっちは終わったが…()()()()()()()()か。早く片付けろよ、ルフィ。この程度で手こずってるようじゃ、海賊王なんて夢のまた夢だぞ」

 

 

 気絶して地に伏したテゾーロの傍ら、悠然と地面に降り立ったブラックは弟弟子が激闘を繰り広げる方向へと視線を向け静かに語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒髪の茶筅髷を結った()()()()()を相手に覇王色の覇気を放つ大人げない男──懸賞金40億を超える大海賊"赫猿"デマロ・ブラック。

 

 

「ほォ…()()()()()()()()()()()のか。

 なるほど、それはそれは…打首ものだ」

 

「ひィ!!」

 

 

 叫び声を上げ、涙を流し尻餅をついてしまった少年は決して情けなくはない。寧ろ、気を失っていないのを褒めてやるべきで、将来有望なのは間違いない。

 

 

「ウシシ、完全に浮気じゃない!

 ブラック、三十路のオバサンとなんて離婚して、私と結婚しましょ!」

 

「あなたは黙ってなさい女狐。

 そもそも、どうしてまだいるのかしら?」

 

 

 しかし、ブラックとこの少年との出会いが世界にもたらすものはあまりにも大きく、世界はここから大きく変わっていく。

 

 マリンフォード頂上戦争を遥かに凌ぐ戦いが幕を開けようとしている。

 

 






FILM REDの裏設定で、ウタが尊敬する歌手であることが明かされたカリーナ。

カリーナはいいよね。実は仲間にしたいとずっと悩んでいた。けど、元カノとの再会とかもイイかもと思ったりした。カリーナが元カノとか贅沢すぎるぞこらァ!!


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レッド



Film RED再上演&200億突破記念。




 

 

 時は遡り。

 

 これは、懸賞金40億を超える大海賊"赫猿"デマロ・ブラックが黄金とオモチャ、愛と情熱の国"ドレスローザ"で大暴れするきっかけであり、ブラックにとっても青天の霹靂だった出来事である。

 

 

「まさか…そ、そんな…本当なのか!?あの"()()()"がここに保管されているだなんて!?」

 

 

 その、ドレスローザの観光名所の一つとされる世界政府すら手が出せないカジノ──"グラン・テゾーロ"、そしてもう一つの観光名所である闘技場"コリーダコロシアム"との合同で開催されることとなった大会の今回の懸賞品が"エース"であることが発覚したのである。

 

 無論、ブラック海賊団副船長"炎鬼"ポートガス・D・エースと同じ名を持つモノが懸賞品であることを、ドレスローザで再会したカリーナ(元カノ)から聞かされたブラックは目の色を変えた。

 

 

「そうよ!()()()()()()にして、位列は最上大業物の"エース"!売れば億…いえ、下手したら数十億の価値はあるでしょうね!

 ま、私の狙いは"()()()()()()()"の方だけどね!」

 

 

 そう……懸賞品は最上大業物"エース"。

 

 "海賊王"ゴール・D・ロジャーが数々の苦難を共に乗り越えた愛刀がこの地に保管されているのである。

 

 歴史的遺産の収集家でもあるブラックにとって、喉から手が出るほど欲しい代物だろう。

 

 

「それで…まだ答えを聞いてないんだけど…また私と手を組んでくれる?」

 

「ああ、もちろん!」

 

 

 "白ひげ"エドワード・ニューゲートから勝手にではあるが受け継いだ"むら雲切"。

 

 "冥王"シルバーズ・レイリーから託されたロジャー海賊団の母船"オーロ・ジャクソン号"。

 

 歴史的価値のある遺物を2つも所有しているブラックだが、目の前にそれらと同等の……いや、もしかしたらそれ以上の価値があるかもしれない"エース"を手に入れる機会が目と鼻の先に転がっているのだから、冒険家兼トレジャーハンターの血が大騒ぎするというものだ。

 

 

「ブラック…私達も色々と大変なのだけど…」

 

「え!?

 あ…え、えっとだな…うーん…す、すぐに片付けて戻ってくるから…ダメか?」

 

 

 ただ、ブラックが"エース"を手に入れる為には最大の障壁があった。

 

 それは、今現在"エース"を管理している"黄金帝"ギルド・テゾーロでもなければ、そのテゾーロと同盟関係にあり、このドレスローザを支配する"天夜叉"ドンキホーテ・ドフラミンゴでもない。寧ろ、テゾーロとドフラミンゴ等からしたら、ブラックが"エース"を狙っているというのは悲劇以外の何物でもないだろう。

 

 しかも、ブラックは覇王色の覇気を用いた見聞色の覇気対策"見聞殺し"という認識阻害やら、悪魔の実に対する威圧"悪魔殺し"という能力封殺を行うことで、彼がこの地に上陸していることを相手側はまだ誰も知らないときた。気付いたら五皇"赫猿"デマロ・ブラックがこの地にいるとは……敵側にとって、今日は人生で最も運がない日かもしれない。

 

 それはそうと、ブラックにとって最大の障壁だが、それは間違えなくこの地で偶然にも出会した最愛の妻の1人──ロビンのことだろう。

 

 ブラックは"エース"を手に入れたいと強く願っている一方で、ロビンから力を貸してほしいとお願いされているのだ。

 

 最愛の妻か。

 

 それとも歴史的価値のある海賊王の愛刀か。

 

 

「ブラック?」

 

「う…」

 

 

 ブラックは今、究極の選択を迫られているところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお…おおお…す、凄ェ…これが海賊王の愛刀────"エース"!!」

 

 

 かつて、海賊王ロジャーと数々の困難を乗り越えた名刀が、この大海賊時代で最も次代の海賊王に近いと呼ばれる男──"赫猿"デマロ・ブラックの目の前に…。

 

 ただ、この名刀"エース"は本来、本日開催される大会の懸賞品だ。つまり、ブラックの目の前にエースがあり、彼が大興奮しているということは、大会で優勝したということになる。

 

 しかし、驚くべきことにブラックは大会には出場していない。そもそも、彼が大会に出場する=優勝なのだ。対抗できる者は大会にはいない。

 

 それに、仮にもしブラックに対抗できる者が大会に出場してたとしたら、どうなるか…。2年前に勃発したマリンフォード頂上戦争でのブラックの暴れっぷりも世間では記憶に新しい方で、しかもあの戦争の時よりもブラックは遥かに強くなっている。おまけに、旧四皇の"白ひげ"エドワード・ニューゲートによって半壊した旧海軍本部マリンフォードの状態から考えても、ブラックと彼に対抗できる者が戦ったらドレスローザが更地と化してしまうのが容易に想像できてしまう。

 

 ならば、ブラックはどのような経緯で、名刀"エース"を目の前にしているのか…。

 

 

「お宝を()()()()()()。トレジャーハンターの鉄則だ」

 

 

 現五皇にして冒険家兼トレジャーハンター。

 

 ブラックは悪魔の実の能力と覇気を駆使し、誰にも気付かれることなく宝物庫に侵入したようだ。今のブラックなら簡単すぎるだろうが、それでも久しぶりのトレジャーハンターとしての行動に、彼は至極ご満悦のようである。

 

 手口が鮮やかで神出鬼没な様はトレジャーハンターというより怪盗になってしまうが、ブラックはトレジャーハンターだと豪語するだろう。

 

 

「それにしても、海賊王の処刑から20年以上経つというのに、未だにこれ程の()()()宿()()()()()とは…さすがは海賊王」

 

 

 そのブラックだが、目当てのお宝を目の前にしているというのに、未だに触れずにいる。

 

 誰にも気付かれてはいないとはいえ長居は禁物なはず。

 

 それを誰よりも理解しているはずだ。

 

 それなのに、ブラックはエースを手にしないでいる。まるで、躊躇しているかのような…。いったい何故なのか…。

 

 自身の相棒であり、ブラック海賊団副船長でもあるエースの父親に対する思いを知っているからこそ、遠慮しているのだろうか…。いや、オーロ・ジャクソン号に乗っていることからも、ブラックはエースに遠慮などしたことないだろう。

 

 それなら何故、ブラックは立ち止まっているのか…。

 

 それはきっと、"エース"から放たれる()()()()()が関係しているのだろう。正確には、思念体のように刀に宿った覇気と言うべきだろうか…。

 

 

「これが…海賊王の覇気────ッ!?」

 

 

 ブラックがようやくエースに手を伸ばすと、まるで警戒しているかのように、エースから覇気が放出されブラックの手を弾いてしまった。

 

 癖が強すぎる。ブラックはそう思ったはずだ。いや、寧ろ納得した。海賊王ロジャー以外に使いこなせる者がいないはずだと…。"黄金帝"ギルド・テゾーロや"天夜叉"ドンキホーテ・ドラフミンゴ達はこれ程の名刀を手にしておきながら何故、使用しないのか…。

 

 使用しないのではなく、できないのだ。

 

 名刀"エース"に宿った海賊王の覇気が拒んでいるのだ。誰も触れることができなかったのがブラックには容易に想像できてしまう。

 

 だが、五皇の1人であるブラックまで拒絶してしまうとは、刀に宿った覇気はどれ程強大なのか…。

 

 

「ははッ、上等!そう来なきゃな!

 これだからトレジャーハンターはやめられねェんだよ!!」

 

 

 無論、一度拒絶された程度で諦めるブラックではない。

 

 そして、実は()()()()()()()()()()()

 

 これだけの覇気が思念体のように宿った刀。それは謂わば、刀に意思があるようなものだ。

 

 

「オレが…」

 

 

 そう……名刀"エース"は、ブラックを拒絶したのではない。己の主人に相応しいか確かめたのだ。

 

 海賊王ロジャーの愛刀なのだから、矜持が強くて当然。海賊王に匹敵する力の持ち主か、超える可能性を秘めた者しか認めるはずがない。

 

 

「お前の新しい相棒だ!!」

 

 

 待っていたのだ。

 

 海賊王ロジャーの意思を継ぐ者が現れるのを…。

 

 ブラックが再びエースに手を伸ばすと、次は拒絶されることなく受け入れられ、彼はエースを手に取った。

 

 海賊王ロジャーは次の代へと託した。ブラックは、そのロジャーの意思を継ぎ、次代の海賊王を最果てへと導く存在となるのである。

 

 "むら雲切り"を使いこなし、オーロ・ジャクソン号に乗る大海賊"赫猿"デマロ・ブラックが、海賊王ロジャーが振るった名刀"エース"の新たな主人となった瞬間だ。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 ドレスローザでいったい何が起きているのか…。

 

 

「懐かしくも…忌々しい覇気を感じた。

 まさかと思いやって来てみれば、貴様だったのか…"赫猿"デマロ・ブラック」

 

 

 片や、かつて海賊王ロジャーや"白ひげ"、"金獅子"達と渡り合った孤高の大海賊。

 

 

「まさかアンタが現れるとはな────"赤の伯爵"パトリック・レッドフィールド」

 

 

 片や、海賊王と白ひげの愛刀を継承した現代の伝説。

 

 そんな2人が……新時代と旧時代がドレスローザにて遭遇した。

 

 

「アンタもインペルダウンで起きた悲劇…()()()()()()()()()だったか…」

 

 

 ブラックもパトリック・レッドフィールドの登場には心底驚いた様子だ。

 

 赤の伯爵、またの名を"孤高のレッド"。

 

 彼を語る上で特筆すべきは、海賊王達を相手にたった1人で渡り合ったという点だろう。

 

 それはまるで、ブラック海賊団を立ち上げる前のブラックのようで…。しかし、ブラックとレッドには大きな違いがある。ブラックがエースと共にブラック海賊団を立ち上げ、ヤマトやキャベンディッシュ、ペローナ、バルトロメオ、タンゴやヒューマンドリル等を仲間に迎えたことに対して、レッドはインペルダウンを脱獄後も孤高の道を生涯貫いている。

 

 

「ドレスローザにいったい何をしに来た?」

 

 

 その孤高のレッドがドレスローザにいったい何を求め、何をしにやって来たのか…。

 

 ドレスローザは今、()()()()()にある。そこにレッド程の大海賊まで加わってしまっては大混乱は避けられないだろう。

 

 

「海賊王になる為…我は"()()()()"となる」

 

 

 一度は諦めた夢を、レッドは再び追い求め…。

 

 ただ、ブラックはそんのレッドの言葉に顔をしかめた。

 

 かつて海賊王達とたった1人で渡り合った大海賊が"不老不死"を求めている。

 

 今、騒動の渦中にあるドレスローザを更なる混沌へと陥れる不穏な流れだ。

 

 

「"オペオペの実"の能力者────"死の外科医"トラファルガー・ロー。我はヤツに"不老手術"を施してもらう。

 邪魔をしてくれるな…デマロ・ブラック」

 

 

 だが、そのような流れなど、このブラックが断つだろう。

 

 何より、ブラックが認めるはずがない。()()()()()()()()()()()の誕生など…。

 

 

「パトリック・レッドフィールド。

 オレの前に孤高を貫いた男がいると知った時は憧れたよ。だからこそ、残念で仕方ない。アンタは…海賊王の器じゃない」

 

 

 海賊王ロジャーが待ち望んでいる人物は、決してそのような臆病者ではない。

 

 ブラックはレッドの前で、新たに手に入れた"エース"を抜く。

 

 エースを手に、悠然と立つその姿にレッドは、()()()()()()()()()の姿を重ねてしまう。それはレッドにとって苦い記憶……トラウマそのものだ。レッドか老いと死を恐れる要因でもあった。

 

 

「そ、その剣は…まさか…ロジャーの"エース"か!?」

 

 

 レッドが感じた懐かしく、忌々しい覇気の正体が今再び牙を剥き、()()()()をその身に刻み込ませる。

 

 

「そうだ。アンタもよく知ってるはずだ。

 そして────()()()もな」

 

 

 視認できる程の膨大な覇王色の覇気が、黒い稲妻のようにエースを通じて迸る。

 

 鬼がそこにいる。

 

 

「!?

(ロジャー!?

 い、いや…コイツはデマロ・ブラックだ!だ、だがどうしても、コイツがロジャーに見えてしまう!?)」

 

 

 生まれつき強い"見聞色の覇気"を有しているレッドだからこそ、見えてしまった。レッドは直接触れれば相手の記憶を読み取ることが出来る程の使い手だ。それは謂わば、見聞色の覇気の極致"未来視"の逆。

 

 それと恐らく、レッドが相手に触れていなくとも見えてしまったのは、ブラックと名刀"エース"に宿った覇気がそれ程までに強大だったからなのだろう。

 

 そして、それ程までに強大な覇気が宿ったエースだったからこそ、ブラックが未来視まで至った見聞色の使い手だったからこそ、成し得た芸当なのだろう。

 

 

本家(海賊王)にはまだ程遠いかもしれないがな」

 

 

 目にも止まらぬ速さでレッドの眼前に迫ったブラックはエースを横薙ぎに一閃。

 

 

 

 

 

神避(かむさり)

 

 

 

 

 

 かつて、多くの海賊達を葬った海賊王の御技が"エース"と共に甦り、孤高のレッドすらも一撃で沈めた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 そして時は戻り、ドレスローザで起きた大騒動は佳境を迎えていた。

 

 麦わらのルフィと"天夜叉"ドンキホーテ・ドフラミンゴの戦いが終わりを迎えようとしている。

 

 麦わらの一味がシャボンディ諸島にて再集結し、"海賊女帝"ボア・ハンコックを仲間に迎え入れ、ブラック海賊団に見送られて出航したのもまだまだ記憶に新しく、よくこの短期間でこれだけの騒動を起こせるものだ。

 

 もっとも、麦わらの一味が華々しく、傍迷惑な復活を遂げ世間を騒がせているなか、五皇"赫猿"デマロ・ブラックも、元海軍大将"黒腕のゼファー"と激闘を繰り広げていた。相変わらず、騒動の中心は決まってブラック海賊団と麦わらの一味だ。

 

 きっと、だからこそなのだろう。

 

 デマロ・ブラックと麦わらの一味がドレスローザに集結してしまったのは…。

 

 

「おう、ルフィ。

 ドフラミンゴなんざさっさと倒しちまえ。その程度で手こずってるようじゃ、海賊王なんて夢のまた夢だぞ」

 

「おう!!」

 

 

 事の発端は、世界政府の研究所があった場所であり、ブラック海賊団とビッグマム海賊団が激闘を繰り広げ天候すらも変えてしまった禁踏区域"パンクハザード"に麦わらの一味が上陸してしまったから…。

 

 ブラック海賊団とビッグマム海賊団の激闘後、パンクハザードは、世界政府海軍科学班の元科学者で、現在は賞金首となった"狂気の科学者"シーザー・クラウンに支配されていた。

 

 島に上陸した麦わらの一味は、パンクハザードに上陸後、バラバラの体でしゃべる謎の侍と遭遇したり、船に残っていた仲間達がシ-ザーの部下に拐われたり、シーザーの研究所で実験台にされていた子供達と出会ったり。さらに時を同じくして、麦わらの一味を追っていた海軍までも島に到着しと、相変わらずのトラブル体質を発揮したのだそうだ。

 

 おまけに、パンクハザードには新たに"王下七武海"となった"死の外科医"トラファルガー・ローまでいた。

 

 その後、ルフィは再会したローから同盟を提案され、その申し出を受け、麦わらの一味とハートの海賊団の〝海賊同盟〟が結成された。実は、トラファルガー・ローは"五皇"の一角を崩す為に、シーザーの誘拐を計画し、パンクハザード島に潜入していたのである。

 

 一方で、"狂気の科学者"シーザー・クラウンは王下七武海の1人──"天夜叉"ドンキホーテ・ドフラミンゴと手を組み、人造悪魔の実"SMILE(スマイル")の製造に関わっていた。さらに、ドフラミンゴは、そのSMILEを"百獣のカイドウ"に流し、カイドウはそれを使って強力な能力者軍団を組織していたのである。ローの狙いは、SMILEの供給を断ち、カイドウの戦力を減らす事にあった。

 

 その過程で、ルフィ達はバラバラの体でしゃべる謎の侍の本体──"狐火の錦えもん"と出会い、なんやかんやあって海軍とも手を組むこととなり、SMILE原料の製造工場の破壊に成功。実験台にされていた子供達も海軍によって無事保護された。そして、謎の侍錦えもんも、探していた息子……()()()()との再会を果たしたのだそうだ。

 

 かくして、ドフラミンゴと本格的に対立する事になったルフィ達は、SMILE製造工場を潰す為、工場があるドフラミンゴの本拠地、ドレスローザに上陸したのである。

 

 それと時を同じくし、デマロ・ブラックがドレスローザに上陸していたのはトラファルガー・ローにとっても、ドンキホーテ・ドフラミンゴにとっても想定外の事態だっただろう。

 

 海賊王を目指すルフィを誘き出す為に用意した"海賊王の宝"──名刀"エース"がブラックに盗まれてしまったことも、時を同じくして"不老手術"を目当てに"赤の伯爵"パトリック・レッドフィールドまで上陸したことも、"黄金帝"ギルド・テゾーロが赤子の如く捻り潰されたのも……ドフラミンゴにとって想定外で、人生最悪の日と言っても過言ではないかもしれない。

 

 これまでの悪行の数々に対する天罰が下ったのか…。

 

 いや、天罰は今から下るのである。

 

 "()()()()"の手によって…。

 

 こうして、ドレスローザは悪の支配から逃れ、平和を手にするのである。

 

 

 

 






ドレスローザ編でもテーマの一つとなった不老不死。そして、尾田センセがデザインしたキャラで、老いへの恐怖が強いキャラといえば…レッド記念ということで、ゲームオリジナルだけど尾田センセがデザインしたキャラだから出してみた!!

孤高のレッドといえば、触れることで過去を見れる見聞色の使い手。

名刀"エース"を手にしたブラックは、これの応用と思念体のように宿ったロジャーの覇気から記憶を読み取り、御技"神避"を習得。


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