【完結】男性向け同人エロゲの女主人公だけは勘弁してください! 何でもしますから!! (どうだか)
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プロローグ
それなんてエロゲ?
────タイトル画面前の注意書きに曰く、
この作品に登場する人物や団体・地名・そのほか全てはフィクションです。
また、この作品に登場する人物は、全員18歳以上です。
◆
前世、(ピーッ)歳の社会人女性の記憶*1を引き継いで転生したけれど、剣と魔法の世界じゃなかった。普通に日本だった。しかも現代。ちょっぴり残念。けど、お父さんとお母さんの顔面偏差値が高かったのでオッケーです。
約束された輝かしい顔面に胸を躍らせながら、両親の愛情を一身に受け、楽しくて幸せな赤ちゃんプレイを満喫した*2。の、だけれども。なんだかこう、モヤモヤとした違和感が拭えない。
違和感がカタチになったのは、小学校の社会の授業。パラパラと教科書を開くと、前世からなじみ深い歴史上の偉人が並んでいた。
みんながみんな見目麗しい女性になっていた。
聖徳太子も、源義経も、織田信長も、坂本龍馬も、伊藤博文も、女性*3。
日本だけでなく、世界の偉人もだいたい女性。
ちらほらと男性も載っているけれど、前世では聞いたことのない名前だ。ただ、同時代の偉人
目を閉じて、深呼吸をする。
──それなんてエロゲ?
そう思ったのをキッカケに、生まれてから今まで見聞きしていた違和感が腑に落ちた。
この世界、めちゃくちゃ男性向けエロゲしてる。
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第一章 エロゲの世界はモブ女子に優しい編
第一話 エロゲの世界ではモブ顔
満員電車でドアの隣というベストポジションを確保し、ホッと息を吐く。ふと見ると、電車の窓ガラスに、真新しいブレザーを着た美少女が映っている。くるくると体の角度を変えて身だしなみを確認。うむ、今日も私は最高に可愛い。
自分で言うのもなんだけど、前世ならば美少女アイドルとして脚光を浴びたに違いない可愛さだ。ただまあ、このエロゲみたいなことが起きる世界では、私の顔はいたって普通なモブ顔。だって顔面偏差値の平均がめちゃくちゃ高いんだもん。
……美男美女ではない顔を意図的に描くよりも、整った顔の方が描きやす……げふんげふん。
さて、顔面偏差値の平均が高いのなら、どうして自分がモブ顔だと分かったのか。答えは簡単。見れば分かる。
電車がゆっくりと止まり、目の前のドアが開いた。ワッと通勤通学客が乗って──くることはなかった。すさまじいオーラが風となって顔面へ吹きつける。風は、待機列の先頭に立っていた少女から吹いていた。
少女は、プンプンと肩を怒らせながら足を踏み出した。彼女のツーサイドアップがふんわりとなびく。
「もぉ! このわたくしが電車で移動する羽目になるなんて!! あなたのせいよ!」
小さな唇をつきだし、ムッと頬をふくらませる。なんて可憐な表情。思わずほうと息を吐いた。
周囲の乗客は一人残らず彼女に見とれている。けれど、その乗客の顔が分からない。彼らには、目鼻口がない。髪型と服装でしか区別がつかない。
チラッと窓ガラスで自分の顔も確認する。ガラスに映る私にも顔がない。というか、自分の顔が認識できない。
”モブ化現象”と、私は勝手に呼んでいる。現実とは思えないような美女や美少女、いわゆる”ヒロイン”に遭遇すると、そのオーラに圧倒され、普通の人は自分や周りの人の顔を認識できなくなるのだ。とまあ、自分がモブかどうかは、こんな感じで見れば分かる。
この現象に影響されないのは、”ヒロイン”と”サブキャラ”、そして──
「そんなに怒るなよ」
”主人公”だ。
この”主人公”くんは、顔が分かるタイプだな。ちなみに、”主人公”の顔は見えたり見えなかったりで、顔の系統もいろいろ。共通点は、一人以上の”ヒロイン”と関わりがあること、かな。
”主人公”くんと”ヒロイン”ちゃんの二人は、やいのやいのと楽しそうにおしゃべり*1している。制服からして同じ学校のセンパイっぽい。
……彼らを取り巻く環境が、普通の学園物エロゲでありますように。
なお、”ヒロイン”ちゃんから離れるまで、周りの人の顔は消えたままだ。
こんな風に、エロゲみたいなことが起きる世界で背景にいる顔なしモブ女子として生きている。けれど、自分がモブであることを残念に思ったことはない。
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第二話 R指定はエロだけじゃない
「おい、オッサン」
車窓を流れる景色をボンヤリ見ていると、”主人公”くんの怖い声が聞こえた。二人の方を見ると、”主人公”くんが太ったおじさんの腕を捻り上げていた。素人目に見ても、そういうのに慣れてる感じが伝わってくる。
「やめとけ」
”主人公”くんから放たれる重圧に、太ったおじさんは言葉も出ない。状況から察するに、人混みに紛れて”ヒロイン”ちゃんのお尻なり胸なりを触ろうとしたのだろう。
”主人公”くんは、おじさんのパツパツスーツから名刺をサッとスり取ると「次はない」と脅しつけて解放した。”ヒロイン”ちゃんが「手ぬるい!」と怒っているけれど、未遂だからなぁ。前世でも、痴漢犯罪は難しい問題なのだけど、今世ではそれに加えて”レイプかプレイか”問題があったりするらしい。
「ったく、学校でも電車でも、面倒なやつに絡まれやがって」
「わたくしのせいではありません! それに、あのいけ好かない男のことを思い出させないでください。気持ちが悪い!」
はい、私が、モブ顔でよかったとしみじみ思っている理由がこれ。
レイティングによって規制されるのは、直接的な性描写と──過度な暴力描写だ。この世界、犯罪率がめたくそ高い。軽犯罪なんてしょっちゅうで、重要犯罪は内容が斜め上にヤバすぎる。
ニュースで見た限り、科学では解明できないような不可解な事件がちょいちょい起きてるっぽいので、人智を超えた何がしらが
ただ、犯罪のほとんどは”主人公”たちや”ヒロイン”たちに集中してくれているので、モブは比較的安全だったりする。
……まあ、テロ事件や連続殺人で十把一絡げに”グロスチル”される可能性もあるけど。それも、”主人公”や”ヒロイン”から遠く離れていれば、確率はグッと低くなる。
前世の日本を知ってると、かなりの治安の悪さ。けど、前世でいう治安の悪い国を旅行するのと同じくらいの対策で安全に過ごせる*1。モブならば、そのくらいで済む。”主人公”や”ヒロイン”? ……お察しください。
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第三話 ハーレムの社会的恩恵
センパイたちからなるべく距離を取りながら、テクテクと通学路を歩く。遠目に見える”主人公”くんは、三人の”ヒロイン”ちゃんたちに囲まれつつ、騒がしく登校している。いつの間にか増えてた。
”主人公”一人に複数の”ヒロイン”──俗に言う、ハーレム。街を歩いていればチラホラ見かける光景。なので誰も気にしていない。
この世界の日本、基本的には一夫一妻制なんだけど、歴史的にも法的にもハーレムが認められているんだよね。
まあ、歴史上の人物がだいたいどこかの”主人公”の”ヒロイン”なんだから、歴史的にハーレムが認められてるのはさもありなん。
現代でハーレムを後押ししているのは、世界的な出生率の低さ。で、一夫一妻制の夫婦より一夫多妻制の夫婦の方が出生率が高いという統計があるもんだから、そりゃ法的に認めざるを得ない。
「こら! 不純異性交遊は校則違反だ!!」
校門の前で”主人公”くんたちが揉めている。『風紀委員長』の腕章をつけた美少女が、仁王立ちしていた。周囲のざわめきに耳を傾けると、誠実さと厳格さで有名な文武両道の美人風紀委員長だと分かった。あの人も”ヒロイン”なのか。
「ふふ、朝からにぎやかですね」
”主人公”くんたちを取り囲む人混みが二つに割れ、おっとりとした見た目の美少女が輪の中へ進み出た。
私でも知ってる。この学園の名物生徒会長さんだ。見た目と裏腹にバイタリティに溢れており、ことあるごとにイベントやお祭りをするのが大好きなんだそうな。もちろん、会長さんも”ヒロイン”である。
この二人みたいに、”ヒロイン”は突出した才能、権力、美貌を持っていることが多い。若いころから活躍している”ヒロイン”が行きつく先は、国の、世界のトップだ。
テレビに出るような有名人──社長、芸能人、学者、弁護士、アスリートなどなど──は、ほとんどが”ヒロイン”。歴代の総理大臣も大統領も国家元首も、だいたいが”ヒロイン”で、どの国の政治家も半分以上が”ヒロイン”。
つまり、この世界の舵取りをしているのは”ヒロイン”──女性だ。前世よりも女性が社会的に進出してる……というか、
こうなると、女尊男卑な世界になりそうだけど、世界に羽ばたく”
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第四話 ハーレムの個人的恩恵
この男性向けエロゲっぽい世界は、”ヒロイン”のおかげで、”ヒロイン”でない女性にとっても生きやすい社会になっている──だけではない。
(ここから早口)
”ヒロイン”が”主人公”とハーレムを形成してくれるおかげで、独身男性があまりがちなのである!!
独身男性が! あまりがちなのである!!!
前世、(ピーッ)歳でお独り様だった私にも! カレシが!! しかもイケメンのカレシができるチャンスがある!!! なぜなら”主人公”は(この世界基準で)普通の男性が多いから、イケメンが余っているのだ!!! ありがとうございます!!!! 本当にありがとうございます!!!!!
エロゲのサブキャラのイケメン(見た目も性格も素晴らしい男性)って、男が見てもカッコよくて頼もしい男、いや、”漢”が多いんですよ。男が惚れる男ってマジで最高だよね。すごい好き。たまらん。
(ここまで早口)
……まあ、”主人公”の親友ポジションの”サブキャラ”イケメンだと思っていたら、最終的に
コホン。そんなわけで、今日も”主人公”たちと”ヒロイン”たちは、日本各地、いや世界各国で元気にハーレム展開していることだろう。
◆
わいわいと楽しそうにしている”主人公”くんと”ヒロイン”ちゃんたちの横を通り過ぎる。
きっと、この六人で色んなイベントをこなすのだろう。どんなストーリーになるのかは分からないけれど、そのエンディングが、六人にとって幸せなものであるよう心から祈っている。
彼ら──”主人公”と”ヒロイン”のおかげで、この男性向けエロゲみたいなことが起きる世界はモブ女子に優しくできている。
ありがとう。
感謝の気持ちでいっぱいだ。モブ女子だから、イベントの役には立たないけれど、心からみんなを応援している。
”主人公”と”ヒロイン”の活躍の陰で、イケメンのカレシをゲットして人生を謳歌する。私は、この男性向けエロゲーみたいな世界の背景モブ女子。
──そう、思っていた。
◆
「……海外に、出張?」
第一章 エロゲの世界はモブ女子に優しい編 完
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第二章 できることは何でもしますから!!編
第一話 男性向け同人エロゲの女主人公とは
「……海外に出張?」
思わず箸が止まる。
「うん。今日、かなり上の人から直々に探りを入れられたし。順番的にも次はパパが海外の支社に行くんだろうな~って感じ。半年後くらいに内示が出るんじゃないかな?」
「ママの方もおんなじ。まさか、二人同時に海外出張が被るなんて」
家族三人水入らずの晩ご飯中に落とされた、特大の爆弾。お父さんもお母さんも、困った顔をしている。
「二年生の間は一人暮らしになっちゃうんだけど……大丈夫?」
大丈夫じゃない。ぜんっぜん大丈夫じゃない。でも、社会人経験者である私は、この海外出張が二人のキャリアにとってめちゃくちゃ重要であることが分かる。分かってしまう。
「うん、だいじょうぶ! 任せてよ!!」
ニッコリと笑って見せると、お父さんとお母さんはホッとした顔で微笑んだ。
◆
目を背けていた事実がある。
──前世の記憶があるとか、”主人公”か”ヒロイン”なんじゃね?
いやでも、前世の記憶があるだけだし。他に特殊なものないし。両親共働きの一般家庭で生まれ育った一般人だし。そう自分に言い聞かせて生きてきた。
でも、これはダメだ。
両親が海外出張で一人暮らしはダメだ! しかも二年生の時に!! おいしいポジションだよね二年生って!! 先輩も後輩もいるからね!! そういう問題じゃねぇんだよなぁ!!!
声にならない悲鳴をあげながら、勢いよくベッドに転がる。スプリングがギシッと音を立てた。両親の部屋は廊下を挟んで斜め向かいにあるので、ちょっと騒がしくしてもバレないだろう。
──二年生になったら何かあるんですね。分かります。
私は、”ヒロイン”ではない。モブ化現象を起こせない。突出した才能も権力も美貌も持っていない。”主人公”になりそうな男の幼馴染もいない。
で、『前世の記憶』『両親が海外出張で一人暮らし』『二年生』というワードから考えると、どう考えても”主人公”になるだろう。性別が女なので、”女主人公”、かぁ。
”女主人公”かぁ~~~~! ロクなことにならないの確定じゃないですか!! やだ──ー!!!!
◆
女主人公は、男性向け
もちろん、男性向け商業エロゲにも、女主人公のゲームがあると言えばある。女性同士の恋愛を描いた百合ゲーやごくごく一部のエロゲーに、女主人公が存在する。
ただまあ、本数が比べ物にならない。
ということは、私も男性向け同人エロゲの”女主人公”な展開にぶち当たる可能性がめちゃくちゃ高い。
んだけど。実は、女主人公の同人エロゲにそんな詳しくない。正確に言うと、ゲーム性のあるエロゲがあまりにも苦手&ヘタ。なので、ロールプレイングゲームやアクションゲームが多い女主人公のエロゲは敬遠してた。
幸いなことに、フォロワーさんが女主人公好きでSNSに情報が流れてきてたので、ちょっとだけ知っている。
基本的なゲーム内容は、女主人公がエッチな目に遭って快楽に堕ちていく姿を楽しむって感じらしい。選択肢や戦闘敗北などでエロスチルを見れるそうな。あと、エッチなパラメータがあったり、エッチなスキルがあったり、立ち絵の差分がたくさんあったりする。
ストーリーは、敵と戦ったり、お金に困ってたり、閉じ込められたり、巻き込まれたり。で、エッチなことばっかりしてると堕ちていく、と。
どうやって楽しむかは人それぞれなので割愛*1。
……正直、自分の身に何が起こるかは、想像がつきすぎて想像がつかない。変身ヒロインになるかもしれない。異能力に目覚めるかもしれない。異世界に召喚されて勇者になるかもしれない。学校や館に閉じ込められて化け物に追いかけまわされるかもしれない。
それに加えて、エロい目に遭う。
自分がプレイしてきたエロゲの記憶が恨めしい。最悪の展開が容易に想像できてしまう。
ぶっちゃけ、肉体を陵辱されるのはまだマシだ。相手が汚っさんでもモンスターでも、殺されないのであれば、たぶん耐えられる。犯されてるけど自分は人間のカタチを保ってるもん。
でも、極端な膨■やク■■■、ニ■■■▪▪■、眼■■、歯■■▪■、子■■、ダ■■、■*2。そういう肉体にくわえて尊厳を陵辱される展開はマジで勘弁してほしい!! むり!!!
いやね、まあ、プレイヤーとして、そういうハードでアブノーマルな陵辱も嗜んでましたけども!!! ゲームだからいいのであって、自分がされたいともしたいとも思わないんですよねぇ!!!
……はぁ、最悪の展開を想像しすぎて憂鬱になってきた。気分転換に、この一年で何をするのか、何ができるのか、もっと建設的なことを考えよう。
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第二話 ”女主人公”対策 ~敗北エロと淫乱度システム~
①戦闘で敵に負けること。
②エッチなステータスが上がること。
男性向け同人エロゲにおいて、エロ展開のフラグになりがちなのはこの二つくらいだと思う。たぶん。そうであってほしい*1。
まずは、戦闘で敵に負けると犯されてしまう──いわゆる敗北エロ。心は屈辱に燃えるけれど、体は感じてしまう定番のアレだ。
敗北エロを避ける方法としては、戦わないことと、戦ったとしても負けないこと、かなぁ。具体的な対策は……うーん……逃げ足を鍛えるくらいしか思いつかない。ランニングでもはじめてみようかな。
次は、エロい目に遭うと上がっていくステータス──淫乱度システム。経験回数や絶頂回数が増えたり、体の各部位の開発具合が進んだりすると、女主人公の淫乱度が上がる。で、淫乱度の上昇に伴って、セリフや立ち絵が変わるらしい。
淫乱度を上げないためには、処女を守る? ……いや、いっそのこと二年生までに非処女になっておくのはどうだろうか。初めから非処女なら、快楽堕ちを楽しむって方向にならないのでは?? 天才の発想かな???
まあ、世界は広いから非処女が主人公の同人エロゲもあるかもだけど*2。
とにかく、目下やるべきことは──
①体を鍛えて逃げ足を早くすること。
②処女でなくなること。
この二つか。うん、これならなんとかなる気がしてきた! の、だけれども。…………実は、もっと簡単で確実な”女主人公”対策を思いついている。
寝取られだ。
カレシをつくってイチャイチャらぶらぶしつつ性的に不満を抱えながら寝取られを待つ。たぶん、いちばん安全で手っ取り早い対策だ。
(ここから早口)
でもね、寝取られるために誰かと恋人になるのは解釈違いなんですよ。寝取られは、前提として恋人がお互いを真摯に想い合っていてほしいんです。恋人のこと心から愛しているのに、体から堕とされていくのがいいんですよ! だからこそ、寝取られて完堕ちした時の「ごめんなさいっ」が輝くわけで!!*3
(ここまで早口)
まあ、とてもとても個人的な理由から、寝取られは最後の手段としてとっておきたい。それに、寝取られるためカレシをつくって、寝取られ展開になるとはどうにも思えない。
どっちかというとホラー展開になりそうなんだよね~。カップルもホラーの定番だし。
となると、やっぱり逃げ足を鍛えなくっちゃ。けど、カレシがいたらデートやらなんやらで鍛える時間が減ってしまう。
そういう意味でも普通にカレシをつくるのは無しだな、うん。
よーし、明日の朝からランニングはじめるぞ! 目標は三日坊主にならないこと!!
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第三話 主人公補正(微)
私たち家族は、都市部から少し離れたところに住んでいる。新築一戸建ての一軒家。都会とも言えず、田舎とも言えず。ほどほどに賑やかで、ほどほどに静か。そんな住宅街の一角は信号も少なく、早朝ランニングにはうってつけだ。
ねむい。けど、ちゃんと起きた。三日坊主は回避できた。このままランニングを朝の日課にしようね。
ジャージに着替えて外に出る。4月上旬になると、朝5時でもうっすら明るい。もう30分もしたら日の出の時間だ。
──うちの敷地にある道路に面したフェンスに血まみれのおじさんがもたれている。
ちょっと意味が分からなくて固まってしまった。うずくまるようにフェンスにもたれている血まみれのおじさん。足元にえげつない量の血だまりができている。
き、救急車っ! 通報!! 119番!!! いちいちきゅー!!!!
「アハ、アハハハハハ! その程度ォ?」
パニックになりながらスマホを取り出そうとした私の耳に、少年の高笑いが届いた。そんなに遠くない場所からゆったりとした足音が聞こえる。これゼッタイ追われてるやつじゃん。
自分でもなんでそんなことをしたのか分からない。
火事場の馬鹿力を発揮し、おじさんの体を引きずる。もつれるようにフェンスの陰にしゃがみ込んだ。や、やってしまった。思わず助けてしまった。
足音が近づいてくる。これはバレる。ぜったいバレる。血だまりあるもん。ちょっと覗けばフェンスの奥にいるの見えるもん。
「フゥン、まだそんな小細工ができる余裕が残ってたんだァ。クスクス……」
少年は近くをゆっくりと見まわした後、フェンスの前を通り過ぎて行った。足音が遠ざかっていく。……は? うそやろ君ガバすぎへん?? 早朝で暗いと言ってもそこそこ見えるやろ????
瞬間、私の脳裏に閃くものがあった。閃いてほしくなかった。
──主人公補正。
いやでも、そんな、都合が良すぎる……ことが起きるのが主人公補正ですよね──ー!! 知ってる!!!
やめてよね! 私が”女主人公”である可能性を高めるのは!! やるだけやって何にもなくて徒労に終わって、心配し過ぎだったな~ははは~で済ませたいんですよ本当は!!!!
ていうか、ついつい助けちゃったけど、どうしよう。
改めて、血まみれおじさんを見る。ヨレヨレのコート、型崩れしたスーツ。くたびれたおじさん(精神年齢的には同い年)にしか見えない。けど、引きずった時に触った体は驚くほど引き締まっていた。このキャラ設定、どう考えても裏家業の人だ。だっての黒の革手袋してるもん。ついでに顔もいい。
──このおじさんが相手なら、後腐れ無く処女を捨てられるのでは?
処女をもらってくれそうな相手が、恩を売れそうな状態で、手元に転がり込んできた。別の方法を考えていたけど、こっちの方が手っ取り早く済ませられそうだ。
だから、助けてもいい。うん。そういうことにしよう。
控えめに言って罠では?? と喚き叫ぶ心の声には、耳を貸さないことにした。
「立てますか」
薄目を開けたおじさんに肩を貸す。私の部屋に連れていくことを伝えると、おじさんは眉をしかめつつ頷いた。怪訝そうな顔だ。そりゃそうだな。得体が知れなすぎるもんな、私。
手が震える。両親に見つかりたい気持ちと、見つかりたくない気持ちがせめぎ合う。もし、本当に
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第四話 くたびれたおじさんが強キャラはあるある
お父さんとお母さんに、ちょっと体調が悪いから今日は休むと伝えた。日ごろから無遅刻無欠席で良い子の私は、こういう嘘も信じてもらえる。まあ、あながち嘘ではないけれども。
「学校には連絡しておくね。でも、ママかパパがいなくて大丈夫? 顔色けっこう悪いみたいだけど……」
「うん、大丈夫。風邪っぽいだけ。薬を飲んで一日寝たら治ると思う」
「何かあったら、電話するのよ?」
「はーい」
お母さんに良い子の返事をする。騙しているのに心配してもらうと、ちょっと申し訳ない気持ちになってしまう。
「急にランニングをはじめたから、体がビックリしたんじゃないか?」
「もー! そんなことない、と思う……」
からかうように笑うお父さんにむくれて見せる。二人でじゃれてるだけだと分かっているので、お母さんも笑っている。
「いってらっしゃい」
手を振って、お父さんとお母さんを見送った。ドアを閉めるふりをして、細く隙間を開けて耳をすませる。けれど、二人が何かに驚くような声は聞こえなかった。
◆
マグカップを二つ持って部屋に戻ると、おじさんはベッドに腰かけていた。
「起き上がって大丈夫なんですか?」
「おかげさまでね」
──幸か不幸か。誰にも見つかることなく、血まみれのおじさんを自分の部屋に連れ込むことができた。
部屋に入って早々、おじさんは私の血液を求めた。前世の経験から全血献血には慣れていたので気軽に応じると、私の体重をめっちゃ詳しく聞いてきた。
抜いていい血液の量を計算するためらしいので素直に答えたけど、ちょっと恥ずかしかった。その、エロゲみたいなことが起きる世界らしからぬ体重なので。そういうところも”ヒロイン”じゃないんだよなぁ、私。
「ココアです」
「どーも」
右手のマグカップを渡すついでに、おじさんの様子をうかがう。服は大きく破れていて、痛そうな傷口が見えている。けれど、血痕が見当たらない。あれだけの大怪我だったのに。
玄関前の血だまりも、廊下や部屋の血痕も、私のジャージに染みた血も、消えてなくなっていた。なんとなく、おじさんが何かをしたんだろうことは察している。
「いやあ、慣れないことはするもんじゃないねぇ。お嬢ちゃんが招いてくれて助かったよ*1」
おじさんは、そうボヤきながらへらっと笑った。やっぱり顔がいいな。男前系の顔だ。
ココアをすする。血の気の引いた体に温かさがしみる。これまでのやりとりからなんとなく予想はつく。けど、いちおう聞いておこうかな。
「あなたは……その、吸血鬼、なんですか?」
おじさんは、喉の奥をクッと鳴らし、自嘲するように笑った。
「僕は、血をすするしか能が無いただのコウモリさ」
──その
あまりの興奮に思わず反芻してしまった。一人称『僕』おじさん……なんて味わい深い。
じゃなくて。
わざわざ”コウモリ”と口にするあたり、どっちつかずのポジションを取っているみたいなニュアンスを込めているのだろう。おじさん良いキャラしてんねぇ。
「まあまあ、そう怖い顔せずに。嘘はついてないから。言いたくないだけで」
おじさんは、私の沈黙を怒っていると判断したらしい。怒ってないです。一人称『僕』おじさんを噛みしめてただけです。
「さて、おじさんの話は置いといて。お嬢ちゃんの話をしようか」
すっと目を細めて、おじさんは私を見た。
「さっき言っていた、僕にしてほしいことって、何だい?」
◆血まみれおじさんについて。
吸血鬼の血液を体内で飼いならしている血液操作能力者。なので、肉体には吸血鬼が抱えている弱点(日光、流水、銀などなど)がほぼ無い。かつては、
男性向けエロゲで例えると、ルートによって立場が変わるサブキャラ(男)。主人公の師匠役からヒロインの拷問役、果てはラスボスまでできるポテンシャルを秘めているタイプ。
今回は”主人公”の友人として、彼らを逃がすために殿をつとめ、ヤバい少年と戦っていた。ヤバい少年は、この後、”主人公”と”ヒロイン”が何とかする予定。
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第五話 腹上死ってレベルじゃない
「諸事情あって処女でなくなりたいから、後腐れなくセックスできる相手を探してた、ねぇ」
おじさんは、私の言葉をザックリまとめながらポリポリと顎をかいた。
「おじさんで良ければ構わないよ、と言いたいところなんだけど……僕とお嬢ちゃんじゃ、人としての”器”や”格”が違い過ぎて、セックスできないねぇ」
「それは……私のことを馬鹿にして言っているわけじゃないですよね?」
言葉だけ聞くと、めっちゃ馬鹿にされてる気がするけど、おじさんの話し方はそんな感じじゃない。
「もちろん」
おじさんの説明をオタク的にまとめると、”器”はその人のレベル上限。”格”は現在のレベル。
そもそも
なるほど。
”器”や”格”が備わっている人とは、つまり、”主人公”や”ヒロイン”、”サブキャラ”といったエロゲの登場人物っぽい人々のことか。彼らの特殊性はエロゲの登場人物っぽいからで納得してたけど、ちゃんと理由があったんだなぁ。
いやいやいやいや、待って。
この世界、レベルとかの概念が実在するの*2? 嘘でしょ?? 男性向け同人エロゲRPG感が増してきたんだが????
あっ、でも、おじさんと私がセックスできないってことは、”器”や”格”が私に無いってことじゃん! これって私がモブであることの証明になりませんか!? なりますよね!?!? よっしゃああ!!!!
内心でガッツポーズを決めながら、おじさんの話に耳を傾ける。
「ま、普通に生きてるだけじゃあ”器”があっても”格”は上がったりはしないんだけど。僕は、人間から何歩か踏み出した存在でね」
そら、人の血を吸うような存在だもんなぁ。
「ちょっぴり”格”が高いから、”器”のほぼないお嬢ちゃんとセックスしたら、良くて内臓破裂──」
良くて内臓破裂!?
「悪くて上半身が消し飛ぶんじゃないかな?」
悪くて上半身が消し飛ぶ!?!?
おじさんの腰の一突きで、上半身が消し飛ぶ自分を想像する。エロゲみたいなことが起きる世界で生きてるから、死ぬのはそれなりに覚悟してるけど、そんな死に方しとうない。
まとめると、おじさんは同じくらいの”格”の相手としかセックスできないということか。
……いやまあ、セックスの相手してもらうのは、おじさんを助けるための方便だったけど。あわよくばという気持ちはそりゃあったので、当てが外れて残念だ。
仕方がない、当初の予定通りの方法で──
「ところで、処女でなくなりたいのは、性的な快感に耐えられるようになりたいからって理由だったよね?」
「え? ええ、はい」
おじさんは、「なら良かった」と頬を緩めた。笑うとけっこう若く見えるな。
「そういうことなら、僕でも手伝えるよ」
──凹凸を絡み合わせるだけが、性的快感じゃないからね。
おじさんは、黒の革手袋をゆっくりと外した。
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回想 音声再生① おじさんと『 』
「苦痛にしろ快感にしろ、耐えることや慣れることは難しいんだ。人間は良くも悪くも忘れる生き物だからね」
(ベッドがきしむ音)
「ただ、許容範囲を広げることはできる」
『そう、なんですか? んっ』
「たとえば、精神的にも肉体的にもキツい仕事を経験したとする。環境が変わって新しい職場に行くと、”前よりマシだな”って思うのさ」
『っああ、たしかに』
「だから――」
(衣擦れの音)
「これ以上ない羞恥と快楽と苦痛で、性感のしきい値を上げる」
『ひぇ』
◆
(途切れなく続く水音)
『っあ、んっ、んん……っ! ふっ』
「こらこら、今、ここが――」
『あっ!』
「気持ち良かったんだろう?」
『ああっ、ぁん! っ!?』
(ベッドのきしむ音)
「ほら、ちゃんと言わないと。言ったよな? まずは普通に性感を高めていくって」
『す、みませ、っはー……き、きもちいい、です……』
「よくできました。はい、次はここ」
『ひゃあ!? ぁっ、きもち、ぃいです……っん!』
「おっ、いい調子。これから頭がおかしくなってイけなくなるくらいの快感を叩きこむんだから、まずはフツウに気持ち良くなっとかないと、後がツラいぞ?」
◆
『いいっ! あっ、ふぁっ! っあ゛、イくっ! ぅ~~っ!!』
(ベッドのきしむ音)
「おっと、しがみつくなら
(水音)
『や、ぁ……っ!? だめ、もぅ、イッた……イッたからぁ……!』
「うんうん、イったなぁ」
『も、もう、やめ……っ』
「ようやく、これからが本番だ」
『――ヒッ』
◆
『ぅあ゛っ♡ ああ゛~~~っ♡ ひぬ、しんじゃう……っ♡♡』
「ははは、このくらいじゃ死なないさ」
『ふっ、ぐぅうっ!』
「ほらな。まだ蹴ったり殴ったりする元気があるじゃないか。ぜんぜん力が入ってないけど」
『ひぎっ♡ い゛っ、あああ゛~~~~っ♡♡』
「意識がトベなくなるまでやるぞ。ほら、が~んばれ」
◆
(軽く叩く音)
『……っ』
「よし、起きた。口を開けれるな?」
『ぁ……』
「ん、いい子。今からココアを飲ませるから、ぜんぶ飲むんだ」
(何かを啜る音)
『んっ、ちゅぅ、ちゅっ、んぐ……』
(嚥下する音)
『ぐっ、げほっごほっ!』
「あ~あ、こぼした。口の周り汚しちゃって」
『~~~っ! ぁっ!?』
「あらら、舐められただけで軽くイったのか?」
『ひぃっ、イってない! イってないですっ!!』
「ウソはダメだなぁ」
『……ぅ、~~っ、ぐすっ……ひぐっ……』
(すすり泣く声)
「よしよし。でも、泣いても終わらないんだ。イけなくなるまでがんばろうな?」
Q.なぜサブタイトルが『回想』なんですか?
A.たいていのノベルゲームには、『回想モード』があります。『回想モード』とは、ゲーム中で一度見た”特定のシーン”を後から見返すことができる機能です。
男性向けエロゲにおいて”特定のシーン”とは、たいていの場合”エロいことをしているシーン”です。つまり、男性向けエロゲについて語っている文脈における『回想』とは、”エロいことをしているシーン”となります。
なので、サブタイトルに『回想』がついています。
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第六話 飲み込んで、おじさんの○○
「お疲れさま」
ポンポンと頭を撫でられ、軽い調子で労われた。おじさんはスーツにコートのままで、乱れた様子も疲れた様子も見えない。それに比べて私は、真っ裸でベッドに横たわったまま。喉はガラガラに枯れ、体はギシギシに痛む。けど、頭はいたって冷静だった。
「あ、りがとうございました」
首だけ動かして会釈する。おじさんは、私が求めたことを叶えてくれただけだ。お礼を言うのが筋だろう。めっっっちゃキツかったけど。
下着やタオルの場所を聞かれたので、引き出しの場所を伝える。どうやら、もろもろの後片付けもしてくれるらしい。立ち上がった後ろ姿を目で追う。
──おじさん、ヤバい。
しみじみと思った。
ありとあらゆる手練手管でイかされ続けた。おじさんに
なんだそのトンでもないテクニック。
最終的に、肉体の感覚と脳の受容が切り離され、体は感じているのに頭は落ち着いているという、わけわからんとこまで押し上げられた。
エッチなことしてて『うんうん。そうだね、気持ちいいね』としか思わん状態ってなに。こわすぎるんだが。
で、まだお昼すぎ。半日も経っていない。むちゃくちゃだ。
そりゃあ、エロゲの登場人物っぽい人がヤバくないわけないと思っていたけども。ここまでだとは思っていなかった。
◆
おじさんに後片付けをしてもらったあとも、私はベッドから起き上がれなかった。ギリギリまで血を抜かれて、ギリギリまでイかされたら、まあ、そうなるわな。
「さっきのを何回か繰り返したら、たいていの性感に対応できるようになるけど……」
そっか~~! 繰り返す必要があるのか~~~!!
ゆるして。
「『命を助けてもらってこれだけじゃ、釣り合ってない』か」
おじさんの胸元、赤い糸*1で縫ってある傷口からジワリと血がにじんだ。血液は生き物のように揺らめくと、宙で球形になり、私の口に飛び込んできた。
は? なんで??
するりと喉の奥に入っていく血液。舌を通り過ぎた鉄の味に、思わず目を白黒させる。
「これでよし」
ヨシじゃないが??
「いざという時、お嬢ちゃんの命を助けてくれるお守りみたいなものだよ。体に害はないから、安心してほしい」
そう言われると、ありがたくもらっておこうかな? と思ってしまう。
「ありがとうございます」
「じゃあ、忘れたころにまた来るから。またね」
わぁ~~! アフターケアもバッチリだぁ~~~!!
たすけて。
おじさんが去るのをベッドに寝ころんだまま見届けた後、私は眠りについた。というか、気を失った。
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挿話① コウモリの恩返し
タイチとユウ*1には、生きていてほしかった。幸せになってほしかった。あの二人が笑って生きる未来の一助になれるなら、僕にとってこのうえない幸福だった。
だから、僕が死んでも構わないと思っていた。
──まさか、命拾いするとは思わなかった。
しかも、僕みたいな
軽く助走をつけ、屋根から屋根に飛び移り、真っ直ぐ
たしか、日中は”姉”とやらが起きているから自由に動けないとほざいていた。だからこそ、恩返しをする時間の余裕があったのだが*3。
脳裏の広域地図に点在する”血痕”。ついさっき増やしたばかりの”血痕”は、微動だにしていない。本人の望みとはいえ、だいぶ無理を強いたから、たぶん寝てるのだろう。
それにしても、変わったコだった。
移動しながら、二人目の
そうしなければならないという、強迫観念。
タイチとは、また違う方向で揺るがない瞳と感情。まあ、さすがに、僕が正体をはぐらかしたときは怒ってたか*4。女ってやつは、ああいう受け答えをするとすぐ怒る*5。
それはさておき。あのコのしてほしいことが、短時間で済むうえに僕がすぐできることでよかった。命を救ってもらった恩返しが、きちんとできた。
『命を助けてもらってこれだけじゃ、釣り合ってない!』
僕の目を見てそう言い切ったタイチの姿を思い出す。
「……ふ」
なんとなくおかしくなって、唇の端が吊り上がる。彼に恩返ししてもらった僕が、誰かに恩返しすることになるなんて!
ああ、本当にタイチの言うとおりだ。僕は、なんて狭い世界で生きていたんだろう。
”血痕”の感知に、おぞましい気配とそこから溢れる殺意が引っかかった。圧倒的な”死”の概念が叩きつけられる。怖ろしい。過去に置き去りにしたはずの恐怖が、じわりと胸に去来する。
──タイチとユウが、僕の世界から失われてしまうことが、何よりも怖ろしい。
だから、僕は立ち向かう。
それに──
「またね、と言ってしまったし」
約束は、守らないと。
そうだろう?
命の危機にあるというのに、僕を見つけて破顔する
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第七話 対策の抜本的な見直し
早朝の空気を胸いっぱいに吸う。今日も良い天気になりそうだ。
つい先日、隣の市で爆発事故があり周辺一帯が停電したり、海上を震源とした大きめの地震があったりした*1。けど、エロゲみたいなことが起きるこの世界ならわりとよくある。いつも通りの治安の悪さだ。
軽くストレッチをしてから、ヨタヨタと走り出す。静かな住宅街は、いろいろ考えながら走るのにピッタリだ。まずもって考えなければいけないのは、男性向け同人エロゲの女主人公対策について。
──私は甘かった。
エロゲみたいなことが起きる世界、舐めてた。ちょっとエロゲの知識があるからって調子に乗っていた。この前、『JK連続絶頂耐久訓練~イき狂い地獄~』みたいな体験をして、考えを改めた。
エロゲをやっていると、「馬鹿になる」「頭がおかしくなる」「死ぬ」などといった喘ぎ声をよく見かける。フィクションにおける誇大表現だろうけど、エッチだからヨシ!と思っていた。
しかし、この世界では”セックスで精神が壊れる”が事実として起こる。だって、エロゲみたいなことが起きる世界なんだから。おじさんのトンでもないテクニックを味わって、心から理解した。理解したからこそ、より強く思う。
──男性向け同人エロゲの”女主人公”とかゼッタイなりたくない……!
ということで、おじさんの”訓練”が今後も行われるであろうことを加味して練り直した対策がこちら。
【Before】
①体を鍛えて逃げ足を早くすること。
②処女でなくなること。
【After】
①逃げる・避ける方法を中心に護身術を教えてくれる相手を見つけること。
②処女でなくなること。
え? ②が変わってないって? ていうか、おじさんの”訓練”があるならいらないんじゃないかって??
逆だ。
おじさんの”訓練”があるからこそ、早めに処女でなくならなければならない。
だってここ、エロゲみたいなことが起きる世界やぞ? そんな世界で”エッチなことに強い処女”とか、なんやかんやでハメられて即堕ちしてアヘ顔ダブルピースさらす未来しかなくない??
「くんれんとぜんぜんちがう! おちんちんしゅごいのぉおお!!」とかいう展開にゼッタイなる。知ってる。なぜなら、そういうのいっぱい見てきたから。
というわけで、今日からこの二つの対策を進めていきたいと思う。いちおう、どちらも具体的な方法を思いついている。……うまくいくといいなぁ。
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第八話 おじいちゃんが強キャラなのは常識
住宅街を抜けると河川敷に出る。ここから少し先の橋まで行って、Uターンしてくるのが、私のランニングコースだ。
早朝の河川敷には、ぽつぽつと人がいる。毎朝同じ時間にランニングをしているので、だいたい同じ顔触れになる。
犬の散歩をしているお姉さん。ガチ装備でランニングしているお兄さん。のんびりと歩いているおばさん。そして、ゆったりとした動きで体操をしているおじいちゃん。
おじいちゃんの体操は、たぶん何かの武術や武道の型だと思う。しかも、なんかこう、スゴい。ゆっくりとした手さばきや足さばきなのにキレがある。
言葉では説明できないけど、あのおじいちゃんはゼッタイに強キャラ。間違いない。
そう、今日の目的はランニングじゃない。このおじいちゃんに話しかけることだ。
先日のおじさんの”訓練”を通して分かったことは、『エロゲみたいなことが起きる世界のヤバさ』だけじゃない。『教えてくれる相手がいると成長が早い』ということだ。
あの”訓練”を経験して、たった数日。私は、多少の”刺激”に対して動じなくなっていた。タンスに小指をぶつけても、痛いとは思ったけど悲鳴をあげたりしなかった。どういう理屈かサッパリ分からないけど、”訓練”はたしかに効果があった。
たった一年しかない。自分一人でどうにかするには明らかに時間が足りない。
ならばこそ、技術で時間を補えるレベルの人に首を垂れて、教えを乞う。それしかない。
「お願いします……!」
「──ふむ」
芳しくない反応に頭を上げる。おじいちゃんは、指でアゴ髭をしごきながら思案していた。全てを見通すような静かな目で見つめられ、なぜだか首筋がチリッと痺れた。
「あっ、あの、自分でも、都合がよすぎることを言ってるなと思います」
やっぱり、おじいちゃんはこの近くで道場を開いている人だった。そんなおじいちゃんに私がお願いしたのは以下の二つ。
①逃げる・避ける方法を中心に護身術を学びたいこと。
②両親には内緒にしたいので、道場ではなく朝のこの時間に、この場所で学びたいこと。
どう考えても、今日はじめて話す相手にお願いすることじゃない。特に②。図々しすぎる。
でも、これは譲れない条件だ。お父さんとお母さんにバレたら、何かあったのかと心配され、いろいろとやりにくくなる。
ぶっちゃけ、おじいちゃんには断られるだろうなぁと思って言っている。
私の目的は、断られた後で「お知り合いに、この条件で引き受けてくれる人はいませんか?」と尋ねることだ。知り合いからの紹介なら断りにくい度が上がるだろうという、こすい作戦だった。
「──かわいそうに*1」
「え?」
風に紛れるように、おじいちゃんのつぶやきが聞こえた。いま「かわいそうに」って言った? 言ったよね??
きょとんとしていると、おじいちゃんは取り繕うように首を振る。
「ああ、いや、何でもないんじゃよ。大変だったのう……」
んんん? なにが??
今までの話に、『かわいそう』とか『大変』とか言われる要素あった? …………あったわ。
危機回避のために護身術を学びたい。両親には内緒にしたい。なんかめっちゃ必死で切羽詰まってる。羅列すると、何らかの犯罪被害者感がスゴい。特に、両親には内緒にしたいってところ。性犯罪っぽさがにじんでいる。
なんか勘違いされてる気がするけど、訂正はしない。まあ、将来的にそういう目に遭うかもしれないから、あながち間違ってないし。
おじいちゃんは相好を崩した。それまでの落ち着いた雰囲気はどこへやら。ウキウキした様子で呵々大笑する。
「いや~、こんな若い娘さんが武術に興味を持ってくれるなんて、うれしいのう! 儂、ばっちり教えちゃう」
好々爺然とした様子に、ホッと肩の力を抜く。ていうか、え? あの条件で引き受けてもらえるの? マジで??
「ただし、儂の稽古は厳しいぞ~? あと一時間は早起きせんとな!」
「あ、ありがとうございます! がんばります!!」
やった────っ!
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第九話 安全かつ後腐れなく処女でなくなる三つの方法
ムフムフと機嫌よく電車に揺られる。まさか、こんなにスムーズに事が運ぶとは思っていなかった。おじいちゃんには感謝しかない。
”女主人公”対策にとって、『負けない』『捕まらない』『逃げる』はものすごく重要だと思っている。なので、明日からほぼ一年を稽古に費やせるのは大きい。
あとは、処女でなくなるだけだ。
この男性向けエロゲみたいなことが起きる世界で”安全”かつ”後腐れなく”処女でなくなる方法は、私が思いつく限り三つ。ちょっと危ないのを含めると四つある。
【けっこう安全】
①”サブキャラ”の取り巻きハーレムの一員になる(難易度:低)
②性転換しそうな”サブキャラ”の彼女になる(難易度:中)
③”主人公”の筆おろしを行う”サブキャラ”になる(難易度:高)
【ちょっと危ない】
④繁華街で逆ナンする(難易度:低)
それぞれの詳しい説明はさておき。危ないことはなるべくしたくないので、安全かつ難易度の低い『①”サブキャラ”の取り巻きハーレムの一員になる』をするつもりだ。
実は、ウチの学園に”モブ女子取り巻きハーレムでふんぞり返っている性格の悪い金持ちイケメン”な先輩がいるのだ!! すごくない!? ギャルゲやエロゲで定番キャラな印象があるけど実例があんまり思いつかないやつ!!! 実在してるんですよウチの学園に!!! さすが男性向けエロゲみたいなことが起きる世界!!!!
いや~、初めて見たとき感動したよね。顔はめっちゃイケメンなんだけど、表情と仕草がクッッソ腹立つんだ、あの先輩。しかも、お嬢様な”ヒロイン”ちゃん先輩*1に粘着してるというね。もう完璧。最高。オチが見える。
この先輩の取り巻きハーレム──ファンクラブのメンバーになると、お手付きの順番が回ってくるらしい。先輩に気に入られると、お手付きの回数が増えるのだとか。すでにファンクラブに入ってる友だちが言ってた。
ファンクラブの具体的な活動内容は、メンバー同士でキャッキャッして、先輩をチヤホヤして、先輩に体を差し出すくらいしかしてないっぽいことも彼女から聞き出した*2。
そう、このファンクラブに入れば、待ってるだけで処女でなくなることができるのだ!
めっちゃ楽ちん!!
デメリットは、たいていの生徒から「ファンクラブの一員なんだ……」と引かれるくらい。そのくらい、肉体と尊厳の陵辱に比べれば、安い安い。
順風満帆な先行きに思いをはせて、私はウキウキしていた。
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第十話 脳裏をよぎる、これまでの日々
──二年生になったら両親が海外へ出張し、一人暮らしになる。
男性向けエロゲみたいなことが起きる世界で、こんな特大のフラグを見過ごせるはずなく。それから一ヶ月は”女主人公”対策に奔走した。おじさんの”訓練”、おじいちゃんの護身術の稽古、先輩のファンクラブに入会。思い返すと濃いひと月だったなぁ。
なんとか対策がカタチになってから、さらに一ヶ月。忙しいながらも平穏な毎日だった。
◆
忘れた頃に来ると言っていた一人称『僕』おじさんは、まだ来ていない。今日来るか、明日来るかと身構えている間は、来ないのかもしれない。忘れてないってことだし。
◆
雨の日以外は毎朝、河川敷でおじいちゃん師範と稽古。今は、基礎体力と持久力を鍛えつつ受け身の練習をしている*1。これがなかなか難しい。というか痛い。普通に痛い。最近になって、ようやく前回り受け身ができるようになった。まあ、まだぎこちないけれど。
そうだ、ゴールデンウィークの数日間は、おじいちゃん師範が町内会の旅行でいなかったので、お孫さんに稽古をつけてもらった。
お孫さんと言うから、同い年か少し上だと思っていたら、三十代くらいのお兄さんが来て驚いた。おじいちゃん師範に似ず、ずいぶんと寡黙な人で、必要最低限のことしか話していない。ただまあ、体つきからしてしっかりと鍛えてる人なんだろうなとは思う。
今後も、おじいちゃん師範が用事でいないときは、お孫さん師範代が来てくれるそうだ。学生に払える程度の些細な月謝でここまでしてもらうと申し訳ないけれど、正直言ってものすごくありがたい。お手数をおかけします。
◆
モブ女子取り巻きハーレム先輩のファンクラブ活動は、聞いていた通りの内容だった。お昼休みや放課後に先輩を囲んでチヤホヤする簡単なお仕事。あとは、みんなでワイワイおしゃべりしながらお菓子を食べたりしている*2だけだ。
メンバーは、玉の輿を狙ってるガチ勢から、顔目当てのエンジョイ勢、友だちがいるから入っているライト勢、
私に割り振られたお手付きの順番は、ファンクラブに入ってから三ヶ月後。もともとは二ヶ月後だったんだけど、順番が延びてしまった。取り巻きハーレム先輩がお嬢様”ヒロイン”ちゃん先輩にかなり粘着しているので、呼び出しがまちまちになっているかららしい。
まあ、見えているオチはさておき。
私としては、処女でなくなればオッケーなので、憂さ晴らしでいいからテキトーに呼び出してセックスしてほしいなとしみじみ思っていた。
◆
──さて、回想は負けフラグだとよく言われるが、安心してほしい。これは、戦う前の回想ではなく、精神的ショックで見えてる走馬灯だから。
モブ女子取り巻きハーレム先輩が、お嬢様”ヒロイン”ちゃん先輩に粘着し続けた結果、”主人公”くん先輩にざまぁされて転校しました。
週明けに夏服で登校したらこれですよ!!!
そのうちそうなるだろうとは思ってたけど早すぎる! まだ一学期やぞ!! 衣替えしたところやぞ!? せめて夏休みまでがんばろうよ!!!! あれか?! 夏服の差分がなかったんか!?!?
あまりにも早い取り巻きハーレム先輩の退場に、頭の中はてんやわんやのしっちゃかめっちゃか。そりゃあ走馬灯も見るってものですよ。泣きたい。
私があんまりにもしょんぼりしているのを見かねてか、ファンクラブメンバーの友だちがめっちゃ慰めてくれた。ありがとう。でも違うんです。取り巻きハーレム先輩が好きだったから悲しんでるわけじゃないんです。
事情通のクラスメイトによると、上流階級しか通えない全寮制の学園へ転校していったらしい。私物の持ち込みなども厳しく制限されるようなところだそうな。それって、もう会う機会がないっていいません?
長々とため息を吐いて、机に突っ伏す。
とにもかくにも、私の”女主人公”対策は破綻してしまった。
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第十一話 うれしくない呼び出し
(頭の中で)ひとしきり暴れまくった後、鎌首をもたげてきたのは後悔だった。
いつかこうなることは分かっていた。ならば、私には、できることがたくさんあったはずだ。確実に処女でなくなるために、取り巻きハーレム先輩を通してできることが。
でも、しなかった。いろいろと対策を講じたから、もう大丈夫だと思い込んでいた。
取り巻きハーレム先輩ばかりを責められない。自分の浅はかさに凹む。
──そう、後悔しているのはそれだけだ。うん、それだけ。
取り巻きハーレム先輩を都合よく使おうとしていた
ただまあ、これから先、取り巻きハーレム先輩の人生に良いことがあるよう祈るくらいは許してほしい。やらかしたとはいえ、”主人公”くん先輩やお嬢様”ヒロイン”ちゃん先輩より、顔を合わせていたし話していた相手だから。ちょっとばかり情が湧いてしまった。
それはそれとして、かなりガチなやらかし*1をしたそうなので、そこら辺はしっかりと反省してください。マジで。
◆
どうにかこうにか気持ちを切り替え、ここ数日は新たな対策に移るための準備をして過ごしていた。今は向こうの返事待ちで、ちょっぴり手持ち無沙汰。
休日だし、天気もいいし、出かけようかな? と思った矢先にスマホに通知が入った。相手はまさかの取り巻きハーレム先輩。なにごと。
日付と場所と時間だけ。デートのお誘いにしては素っ気ない。呼び出し、と言った方が適切かもしれない。
ふと気になって、ファンクラブメンバーのグループメッセージ*2に取り巻きハーレム先輩から連絡があったか、それとなく確認する。すぐに、玉の輿ガチ勢の二人から反応があった。
「あんな人だと思わなかった」「ゼッタイに会わない方がいい」言葉は違うけど、二人ともそんな感じの内容だった。めっちゃキレてた。どうやら、この二人にも呼び出しがあったらしい。他のメンバーへは、なんの連絡もないようだ。
ホッと胸をなでおろす。二人が無事でよかった。想像していた最悪の展開は無かった*3。
ともあれ、すぐに返事があったということは、命の危険はない感じか。それにしても、かなり親しかった二人の次に連絡をするのが、入ってすぐの私。取り巻きハーレム先輩の考えはよく分からない。
未遂とはいえ事件を起こした相手と、一対一で話すのはかなりイヤだ、けど。
……会うかぁ。
考えないようにしても、”分かっていて何もしなかった”後ろめたさは拭えない。ならば、ガチ勢二人がキレるようなイヤな目に遭って、後ろめたさと相殺したい。
そんな下心に背中を押されるようにして、取り巻きハーレム先輩に了承の返信をした。
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第十二話 その発想、庶民には無かった
さて、呼び出し当日。私は、超高層ビルの52階にある高級レストランにやって来ていた。なんかこう、ドレスコードとかがありそうな、エントランスの雰囲気からしてお高そうな、入るのに気後れするレストランだ。
エントランスでオドオドしていると、お姉さんに話しかけられた。私の名前を確認すると、にこやかに席まで案内してくれる。パーカーとジーンズというオシャレを度外視した格好で挙動不審になっている私に、この丁寧な接客。さすが高級レストラン……!
取り巻きハーレム先輩の呼び出しに応じたのは、呼び出された場所がこのレストランだったから、というのもあった。確実に人目のある場所で、そう無体なことはしないだろう。
──と、思っていた。
まさか、52階をフロアまるごと貸切にして、人払いまでしてるとは思わなかった。金持ちの考えることは規模が違うな~~~~! バカじゃないの!?!?
……まあ、マジのガチで命に関わる事態になったら……おじさんに飲まされた”お守り”が助けてくれる……はず。たぶん。きっと。
テーブルを挟んで向かいに座る先輩は、無言でこちらを睨んでいる。神経質そうな面差しに影が落ち、不健康そうだ。前々から年齢にしては細身で華奢な体だったけど、さらに痩せたように思う。
目が届く範囲に人はいない。飲み物も食べ物も運ばれてこない。
貧乏ゆすりの音が、かすかに聞こえている。
「やっぱりお前も違うじゃないか」
口火を切ったのは取り巻きハーレム先輩のつぶやきだった。
そこからはもう立て板に水というか。よくもそこまで溜め込んでたなという罵詈雑言だ。「金があれば誰でも良かったんだろう」だの「誰にでも股を開くアバズレ」だの「媚びを売ることしかできない無能」だの「誰もオレのことを見ていない」だの「お前たちの目は違う」だの。すごい剣幕でまくし立てる。
こんな風に面と向かって罵られれば、あの二人もキレるわなぁ。二人が玉の輿ガチ勢で、先輩本人にあんまり興味が無いのが事実だとしても。
先輩の体目当ての私には、ちょっと的外れな内容もあった。けど、自分の都合のために他人を利用しようとした自覚があるので、粛々と罵倒を受け入れる。
何も言わない私をどう思ったのか。取り巻きハーレム先輩は整った顔を醜悪に歪めて、引きつるように嘲笑う。
「──脱げよ。抱かれたいんだろう、オレに! 雌犬らしく、今すぐここで尻尾を振って見せろよ!!」
え、マジでいいんですか!? それめっちゃ助かります!! ありがとうございます!!!!
◆
結論から言うと、セックスできなかった。
…………その、
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第十三話 この世界のお家騒動あるある
実際の経験はないけど、エロゲ由来の知識*1だけはあるので、いろいろと試してみた。けれど、うんともすんとも言わなかった。ピクリとも反応しなかった。
気まずい空気が漂う。先輩は、下半身まる出しのまま呆然と椅子に腰かけている。なんだかいたたまれない気持ちになりながら、テーブルに置いていたパーカーとジーンズをモゾモゾと着なおす。
勃起不全。
男性の性機能障害の一つ。EDとも呼ばれている。何らかの原因で男性器が勃起しない、もしくは勃起を維持できない状態を指す。そんな一般知識はあるけれど、専門家ではないので詳しくは分からない。ただし、いろいろと察することはできる。
ちょっと前までファンクラブメンバーとセックスしていたので、生まれもって勃たないってわけではない。年齢的に加齢が原因ではなさそうだし、見た目からして外傷が原因でもなさそう。
となると、心因性──心の問題、かなぁ*2。
……”主人公”くん先輩にざまぁされたことか、お嬢様”ヒロイン”ちゃん先輩に振られたことか、どっちもか。私に思い当たる原因はそんなところだ。
ついでに、取り巻きの中で親しい二人の次に、私が呼ばれた理由もなんとなく分かった。一度も抱いたことのない相手なら目新しさから勃起するかもしれない。そんな経緯だろう。
となると、わざわざレストランを貸切にして、フロアの人払いをした理由は……勃起不全を他の誰かに知られるのを恐れてってこと?
──ハッ! ドロドロの相続争いの気配がする……!!
世界的にも歴史的にも子どもが生まれにくいこの世界では、お家騒動のタネがだいたい性機能障害だ。前世と違って、種をバラまくことより、種が無いことの方が大きな事件になりがちだった。
跡継ぎが無精子症かどうかを確認するために、男児が精通するとすぐ、出産経験のある未亡人を側室にあてがう習慣があったくらいだ。こういうところ男性向けエロゲっぽいよね。ちなみに、種無しだと判断されると、相続から外された。
ただ、この考え方は現代においてあまりにも時代錯誤で古くさい。はずなのだけど。
たしか、取り巻きハーレム先輩のご実家はかなり古いお家なんだっけ。そういうお家となると、勃起不全によって相続争いが揉めるとかなんやかんやあるのかもしれない。大変そうだなぁ。
床に落ちているボクサーパンツを拾い上げ、取り巻きハーレム先輩の足に通す。このままの格好で放置するのは、その、あまりにも哀れなので。私にだって、それくらいの情はある。
先輩はされるがまま。がらんどうの目でボンヤリとしている。股間にぶら下がっているおちんちんが、無感動にぷらりと揺れた。
……ん? 先輩は勃起不全なだけで、無精子症じゃないよね??
あの噂が事実なら、勃起不全は相続争いの問題にならないはずでは?
「えっと、先輩……その、精子を凍結保管とか……してるんですか?」
ズボンを履かせながら、そう聞いてみた。先輩は慣れた様子で腰を上げながら、気だるげに頷く。うわー、やっぱりそうなんだ。
この世界のネットで、そういう噂をよく見かけるのだ。上流階級の人間は精通したらすぐに精液検査を行うし、精子を定期的に凍結保存していると。やっかみ半分のホラ話だと思っていたけど、まさかマジ話だったとは。
「なら、ほら、人工授精とか体外受精とかありますし……」
軽々しく大丈夫とは言えないけれど、そこまで落ち込むこともないと思う。そんなニュアンスを含ませてみる。先輩は、椅子の肘掛けを拳で叩いた。ガツッと痛そうな音がする。
「そんなことはどうだっていいんだよ!」
急に罵声が飛んできて首をすくめた。このままだと蹴られそうなので、慌てて距離をとる。
それにしても分からない。勃起不全で苦しんでいるっぽいのに、子どもができるかどうかは問題じゃない? 相続争いにまつわる何がしかで悩んでるんじゃないってこと?
「こんなオレはオレじゃない。オレは完璧でなければならないんだ。完璧なオレに戻れば、すべて、すべてすべて上手くいくんだ! あの女は戻ってくる!!」
んんんん?
血を吐くような悲痛な叫びだけど、先輩の言っている意味が分からなくて首をひねる。もう一回言ってもらっていいですかね??
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第十四話 吐くとラクになることもある
「オレは……今のオレは、そう、完璧じゃない。完璧じゃないんだ。だから……だから、元に戻る。そして、完璧になったら、あの女は戻ってくる。だって、オレのものだから」
そこまで言うと、取り巻きハーレム先輩は大きくため息をついた。
「……同じことを何回言わせるんだよ」
「申し訳ないです。ちょっと気になって」
追加でいくつか確認して、それでようやく分かった。
まず、『お嬢様”ヒロイン”ちゃん先輩は、取り巻きハーレム先輩のものじゃない』というのは、いったん脇に置く。ここは取り巻きハーレム先輩にとって”事実”らしく、触れると火傷じゃすまない感じがする。
私が引っかかったのは『完璧なオレに戻ったら、お嬢様”ヒロイン”ちゃん先輩が戻ってくる』というところだ。
取り巻きハーレム先輩の中で認識がねじれて、因果が逆転している。
聞き取りした話から考えると、『”ヒロイン”ちゃん先輩にフられたから
だからこそ、『
違う、そうじゃない。
分かりやすくて直しやすい欠点にすがりたくなる気持ちは分かる。そうでもしなければ、もうどうしようもないくらい追い詰められているんだろう。
けれど、先輩本人もそれが事実ではないと心のどこかで分かっている。ところどころ言葉に詰まるし、自信なさげに目が泳ぐし、自分に言い聞かせるような口振りになる。
ふむ。
──これ以上、踏み込んでいいものか。
今ならまだ、引き返せる。何も見なかったし聞かなかったことにして、「そうなんですね、お疲れ様です」と言って、さっさと帰ればいい。それでおしまいだ。
けれど、私の精神年齢がそれを押しとどめる。
たしかに、取り巻きハーレム先輩は、”ヒロイン”ちゃん先輩と”主人公”くん先輩に、酷いことをした。でも彼は、それが酷いことだったということすら、理解していない。
”先輩”と呼んでいるけども、彼の心はまだまだ子どもで。
”後輩”という立場だけども、私の心の方がだいぶ年上だ。
だからというかなんというか。転んで、立ち上がり方すら分からずに泣いている子どもを、自業自得だという事実で突き放すことが、どうしてもできなかった。
余計なお世話と言われれば、それまでだけど。
とにかく、精神年齢 (ピーッ)歳の私には、今の取り巻きハーレム先輩が立ち上がるために必要なものがなんとなく分かるので、やるだけやってみよう。……うまく行くといいなぁ。
「よし。先輩、ちょっといいですか?」
「なんだよ……」
何回も同じ話をさせられたからか、先輩の返事はくたびれていた。
「このレストラン、いえ、このフロアには、誰も人がいませんよね?」
「そうするように言ってある」
よしよし、人払いはバッチリ、と。先輩は「それがいったいなんだって言うんだ?」と、怪訝そうに眉をしかめている。
「先輩って、私の名前、覚えてます?」
「覚えてるわけないだろ」
ですよね。アドレス帳にファンクラブの会員番号でしか登録されていないのは、メンバーのみんなが知ってる。そのことに関して、特になんとも思っていない。なぜなら、かく言う私も──
「奇遇ですね。私も先輩のお名前、覚えてないんです。名字も名前も。なんかご実家がスゴいらしいとしか知りません」
自分より上の学年の生徒には、とりあえず先輩って呼べばオッケーだから助かるよね!
「……は?」
先輩は、思ってもみなかったことを言われたようにポカンと大口を開けている。
「お互いに名前を知らないだけじゃありません。私たちは、先輩の勃起不全のおかげで男女の関係になることがありません。さらに、先輩は学園から転校したので、これから先、顔を合わせることもありません」
「なに? お前、遠回しにケンカ売ってるわけ?」
いやいやそんなそんな。これは、私たち二人の立場を明確にしているだけだ。
「つまり、ここにいるのは相手のことをよく知らない二人! これはチャンス!!」
ガタッと立ち上がり、堂々と宣言する。
「――第一回! チキチキぶっちゃけ話&愚痴大会を開催します!!」
「はあ!?」
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挿話② ようやく目が覚めた朝
オレにしては珍しく、朝と呼べる時間に起床した。喉に違和感がある以外は、スッキリした目覚めだった。まあ、あれだけ長時間ベラベラと話していれば、喉も痛めるか。
それにしても、けっきょく何時間くらい話してたんだ? 解散したときはだいぶ日が傾いてた気がする。
適当に身繕いをしながら、昨日の出来事を思い返す。正直、あれこれと話し過ぎて、何を話したかあまり覚えていない。ちょっと、いや、だいぶヤバい話もした気がする。
もし、あの話を知られたとしたら、この家の嫡子として、アイツを処分しなければならない。ならないのだが――どうしてだか、アイツに対してその必要性を感じない。まあ、保身はできるようだから、ウカツなことは言わないだろう。
あれを話した、これを聞いたと、一つずつ思い出す。あんなにくだらない話のどこで笑ったのか、今となっては分からない。けれど、とにかく楽しかった。
――ああ、そうだ。別れ際に約束を交わしたんだった。
◆
『そうですね。いろいろ話しちゃいましたし、いろいろ聞いちゃいましたし。お互いのためにも、もう会わない方がいいと思います』
実際その通りなのだが、改めて言葉にされると何とも言えない気持ちになる。
『ただ、何かの偶然で、もう一度出会ったら。その時は――』
アイツは、ゆるく握った拳を顔の前に掲げた。オレにも同じことをするように促す。
『友だちになりましょう』
拳と拳が、コツンとぶつかった。
◆
ふと、窓ガラスに映る自分の顔が気になった。オレはこんな顔をしていただろうかと、変なことを疑問に思う。
洗面所へ移動し、まじまじと鏡を覗き込む。驚きに目を見開く自分の顔と対面した。あの女の目の輝きが、自分の瞳の奥に見えた。かすかではあるが、間違いない。オレが見間違えるはずがない。
オレは、この目が欲しくて欲しくてたまらなかったのだから。
あの女と初めて会ったのは、五歳のころ、ウチの家で開かれたガーデンパーティーでだった。家同士のつながりを強めるためと、同い年くらいの子どもたちが集められた一角にあの女はいた。
ピーチクパーチクとやかましい雛鳥の中で、あの女はひときわ美しく、そして、ひときわ浮いていた。
とある名家のご令嬢だと紹介され、目と目があった瞬間に理解した。何もかもを手にしているはずなのに、何もかもに価値を見出せない。果てのない飢えと渇き。
――なんてつまらない存在なんだ。
顔が美しかろうが、家が良かろうが関係ない。そんなつまらない女に興味が湧くはずもなく。それきり、記憶の片隅に放り込んでしまっていた。
だというのに――
あの男と出会ってから、あの女は変わった。
変わってしまった。
キラキラと目を美しく輝かせ、蕾がほころぶように微笑む。そんな姿を見ると、頭の中がグチャグチャになった。訳も分からず胸が締め付けられ、ドロドロとした感情が溢れて止まらなかった。あの女がほしい。あの目が欲しい。
――欲しくて欲しくてたまらない。
『へー、そうなんですね!』
アイツの声が聞こえた。昨日、よく聞いた合いの手だ。ワクワクと好奇心に満ちた声で、話の続きを催促する。
『えっ、なんでですか? 何があったんです??』
なんで? ……なんでと、聞かれても。
――……だって、あの女はオレだ。
「――っ!?」
ぞわりと鳥肌が立つ。今まで目を背けていた感情に言葉が与えられ、カタチになる。
――オレはあの女だ。
――なのに、どうしてお前だけ。
――裏切り者。
――ずるい、ずるいずるいずるい!
だから、オレがいるところまで
心のどこかが「違う」と答える。
……オレは、そんな
――おいていかないで。
ガキの自分が泣いている。必死に手を伸ばしながら、あの女の背中を追いかけ泣いている。
「バカだなぁ、オレ」
分かってしまえば簡単だ。オレは、あの女がいる場所に、自分も行きたかっただけだ。……いいや、変に言葉で飾るのは止めよう。
みんなが楽しそうにしている輪に、自分も入りたかった。
それだけだった。
「ほんとにバカだ……」
◆ 取り巻きハーレム先輩について
(名前は後で決める)家の嫡子。由緒ある家柄のしがらみやら何やらで歪み、モブ女子取り巻きハーレムでふんぞり返っている性格の悪い金持ちイケメンになった。良くも悪くも素直。ものすごく反省した。
男性向けエロゲで例えると、恋人や愛人、ハーレムなど、セックスする相手がすでにいるサブキャラ(男)の類型。
プレイ時間的にそろそろエロを挟みたいけど、主人公サイドがエロできる状況じゃねえ!という時や、主人公とヒロインにサブキャラのセックスを目撃させて強制的にエッチな雰囲気にさせてぇ!という時に、輝くタイプ。
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第十五話 性転換ヒロインとモブ化現象の関係性
じわじわと暑さが増す今日このごろ。気温に反比例して、私の元気はなくなっていった。周りからは、失恋を引きずっていると思われているが、もちろん違う。
”女主人公”対策が!! 遅々として進んでいないからです!!!
処女でなくなるための三つの方法のうち、一つ目『”サブキャラ”の取り巻きハーレムの一員になる』が失敗したので、二つ目の『性転換しそうな”サブキャラ”の彼女になる』ための準備をしているのだけど、これがもぉ~~うまくいかない。
『性転換しそうな”サブキャラ”』が見つからない……!
そんなもんどうやって見つけるんだと言われそうだけれども、実はわたくし、すでに発見しているのです! この世界で、性転換して”ヒロイン”になる人物*1を見分ける方法を!!
方法は簡単。その人の周囲の顔を確認すること。
そう、性転換して”ヒロイン”になる兆候がある人は、性転換の前でも”モブ化現象”を起こせるのだ。
中学の卒業式を間近に控えたころ、イケメン同級生くんの周囲で”モブ化現象”が起きた。当時の私は、この世界について考察を重ねている途中で、”モブ化現象”は”ヒロイン”の周りでしか起きないと仮定していた。
その仮定をひっくり返す存在。注目せざるを得なかった。
そのうち、イケメン同級生くんは休みがちになり、卒業式にも出席せずじまいだった。イケメン同級生くんには親友の男の子がいたのだけれども、彼も理由を知らなかった。
はい、お察しの通り。イケメン同級生くんは性転換して女の子になってました~~!
たまたま、イケメン同級生くんによく似た”
イケメン同級生くんと親友くんは同じ学園に進学すると聞いていたので、高校入学後に
以上が、『性転換して”ヒロイン”になる兆候がある人は、性転換の前でも”モブ化現象”を起こせる』と主張する
まあ、サンプルがこの一例だけなので、すべての性転換で同じことが起きるとは言えない。けど、何の手がかりもなしに動くよりはマシだと思う。
──と、いうわけで。
モブ化現象を起こすイケメンがいないか、ひたすら調査してる。街で噂になるレベルのイケメンを、片っ端から総当たりしている。
もちろん、イケメンだけが性転換するわけではないことは知ってる。そのうえでイケメンを調査対象にしている理由は二つ。一つは、イケメンが”サブキャラ”として”主人公”とセットになっている可能性が高いから。もう一つは、”主人公”を探すより、イケメンを探す方が簡単だからだ。
簡単……そう、簡単だ。
──お金を払えば。
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第十六話 貧すれば鈍する
エロゲでたまに見かける『主人公に情報を伝えるキャラ』。
情報と言っても、好感度とかじゃない*1。「大変だ! ○○が△△だって!!」とか、「実は、□□は昔──いや、なんでもない」みたいな感じのストーリーやルートを進めるのに必要な情報の方だ。そういう情報を主人公にお届けしてくれるのが『主人公に情報を伝えるキャラ』だ。
と、私は勝手に呼んでいる。
『主人公に情報を伝えるキャラ』は、ヒロインやサブキャラで手分けしていたりもする。そもそも『めっちゃ事情通なキャラ』がいることもある。
で、その『めっちゃ事情通なキャラ』に近しい存在が、このエロゲみたいなことが起きる世界にもいる。
”サブキャラ”だったりモブだったりする彼ら/彼女らは、ものすごく耳が早かったり、情報収集に熱心だったり、噂が大好きだったりする。そんな生徒が、どの学園にも何人かいる。学年に一人は必ずいる。
中には、情報を売って、お小遣い稼ぎしている生徒もいる。
はい、そうです。『性転換しそうな”サブキャラ”』である『モブ化現象を起こすイケメン』を見つけるために、『街で噂になるレベルのイケメン』の情報を、事情通の生徒たちから購入しています。
なかなか当たりのイケメンに出会うことができず、コツコツ貯めていたお年玉がじりじりとすり減る日々。つらい。お金が減るのつらい。
学生ってお小遣いとお年玉しかない大変だな!? 社会人だったころは! 自分の好きなことにモリモリお金を使えたのに!! 働くことの偉大さを転生してから味わうってどういうことなの!?!?
……バイト、しようかなぁ。
もうすぐ夏休みだし。ウチの学園バイト禁止じゃないし。
──などとウダウダ考えていたら、後ろ受け身に失敗して後頭部をぶつけた。いたい。
ぶつけたところを手でさすりながら立ち上がる。目から星が出るかと思った。お孫さん師範代から「顎をしっかり引くように」と、静かな声で指摘された。
奥さんたちとバカンス中のおじいちゃん師範に代わり、今朝はお孫さん師範代に稽古をつけてもらっている。の、だけれども。
”女主人公”対策が進まない焦燥感と、貯金の底が見えてきた絶望感で、まっっったく集中できていない。
「稽古に、身が入っていないようだが……」
寡黙なお孫さん師範代が、思わず口を開くレベルで気が散っていたようだ。
「すみません……」
もう本当にすみません。教えてもらっている立場でこれはよろしくない。悩みはいったん忘れて、気を引き締めて稽古に臨もう──と、思ったのだけれど。
「……何か、悩みでもあるのか?」
そう質問されて、思わずポカンとしてしまった。いやだって、お孫さん師範代が稽古の指導以外を話すところ初めて見たんだもの*2。
私が呆けているのを質問が聞き取れなったと思ったのか、お孫さん師範代は同じ言葉を繰り返した。そして、「自分でよければ、話を聞こう」とものすごく真剣な顔で言った。
言葉数は少ないながらも、心配してもらっていることがまっすぐ伝わってくる。
しかし、悩みの内容がアレなので、心配してもらうのがものすごく申し訳ない。いたたまれなさ過ぎてツラい。なんとかごまかそうとしたけれど、お孫さん師範代はごまかされてくれない。師範代ってば勘がめちゃくちゃ鋭いな!?
腹をくくって、二つの悩みの片方を正直に話すことにした。頼む、これで見逃してくれ~~!
「えっと、その……お金が、なくてですね。……夏休みに、バイト、しようかなぁと……考えてました……」
「……そうか」
ぬあ~~! お孫さん師範代、声に感情が無いから、どういう気持ちでその返事しているのか分からない!! 私は! 恥ずかしいやら申し訳ないやらで、頭が上がらない!!!
たすけて!!!!
「君は、料理ができるか?」
急にそんなことを尋ねられて、首をかしげる。
前世では一人暮らしをしていたし、今世では両親が共働きなので、料理はそこそこできる。凝ったものは作れないけれど、レシピ通りに作るくらいなら大丈夫だ。
「まあ、それなりに。簡単なものでしたら」
「なら、バイトをしないか?」
渡りに船だけれども、バイトと料理にいったいどんな関係が?
聞けば、夏休みに
う~ん、道場の門下生で合宿するってことだよね? 道場って言うと男所帯のイメージあるなぁ。たくさん食べる人たちのご飯を料理するのって、大変そう。それなら、短期のレジバイトとかの方が──
「あまり多くは払えないが……」
日給を聞いて、私は目の色を変えた。それに加えて移動費と食費と宿泊費は向こう持ち!?
「バイトやります!!!!」
◆
お孫さん師範代の申し出に飛びついた私は、夜になってメールで届いた合宿の概要と参加者リストに頭を抱えた。自分の部屋で一人、クッションで口を押えながら叫ぶ。
「男一人に女三人プラス師範代*3とか、ゼッタイどっかの”主人公”と”ヒロイン”のイベントじゃん!!」
たしかに、お孫さん師範代は道場の合宿だと言ってなかったけどさぁ! 私が勝手にそうだと思い込んだだけだけどさぁ!!
ていうか師範代、
どうか、どうか普通のラブコメ合宿イベントでありますように!!
ガッチリと両手を組んで、お空に向かって祈る。けれども、心のどこかが「それはない」と訴えている。
だって、
──どれだけお金を積まれても、命には変えられない! やっぱり断ろう!!
そう思った私の目に、バイトの日給が飛び込んでくる。
「…………」
お金には勝てなかったよ……。
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第十七話 夏に盛り上がるものと言えば
──ようやく”モブ化現象”を起こすイケメンを見つけたと思ったら、実は”
ていうか、そのおっぱいどうやって収納してるんですか? おっぱいの分のお肉はどこへ消えたんです?? 男性向けエロゲみたいなことが起きる世界の胸つぶし技術スゴいな???
そんなこんなで、”女主人公”対策は相変わらず進まず。あっという間に夏休み。今日から二泊三日、『七不思議研究部』の合宿に料理手伝いのバイトとして参加する。
そう、バイトにね、集中しなきゃだから。この三日は、『性転換して”ヒロイン”になるイケメン』を、探さなくていい。探さなくていいのだ。
バイトだからなー! しょうがないよな──!!
さて。
一日目の朝は、合宿先となる
私は、河川敷近くのコンビニから乗車。『七不思議研究部』部員たちは
今は、ちょうど寮の前に着いたところなのだけど……。
車外の騒がしさに、助手席の私と運転席のお孫さん師範代は顔を見合わせる。何やら揉めている声が聞こえてくる。師範代は無言のまま車を降りた。あんまり行きたくなかったけど、私も助手席側のドアを開いた。
寮の前には、『七不思議研究部』の部員らしき四人の男女がいた。三人の”
なるほどね、”ヒロイン”たちがあんまり仲良くないタイプのハーレムなのね。たわいもない言い合いくらいなら可愛いものだ。……ドロドロしてないといいなぁ。
お互いに軽く自己紹介を済ませ、何があったのか事情を聞いた。
眼鏡”主人公”くんが言うには、ワゴンのどこに誰が座るかで揉めていたそうだ。正しくは『どの”ヒロイン”ちゃんが眼鏡”主人公”くんの隣に座るか』で揉めていたんだろう。さすがに分かる。
お孫さん師範代は、眼鏡”主人公”くんの肩を叩いた。
「助手席に乗れ」
ですよねー。
三人の”ヒロイン”ちゃんの様子を見る。
中二病ロリ系”ヒロイン”ちゃん。
無口クール系”ヒロイン”ちゃん。
おっとり不思議系”ヒロイン”ちゃん。
個性豊かな三人の”ヒロイン”ちゃんたちは、助手席に乗り込む眼鏡”主人公”くんの背中を見つめてしょんぼりしている。
ふむ。夏のイベントにしては、みんなの好感度が高い感じがするなぁ。いやまぁ、最初からヒロインたちの好感度がマックスなエロゲも多いけどさ。
……保養地のコテージで、眼鏡”主人公”くんをめぐって三人の”ヒロイン”ちゃんたちが殺し合いするとかいう展開になりませんように。
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第十八話 七不思議の八番目
さっきまで揉めていたのが嘘のように、保養地に向かう車内は和気あいあいとしていた。お菓子をつまみながら、ワイワイとガールズトークに花を咲かせる。
はぁ~~~~っ! かわいい!! みんなかわいいねぇ!! ”女主人公”対策で荒んでいた心が癒される────っ!!
エロゲが大好きな自分は、可愛い女の子がキャッキャしているところを見るのがたまらなく好きだ。しかも、恋をしている女の子は、なおさら可愛くて大好きだ。
ていうか、恋する可愛い女の子が嫌いな人類なんておらんやろ*1。
今は、『七不思議研究部』のこれまでの活動について話を聞いていた。
しかも、普通の七不思議と何やら趣きが異なるのだという。
「──そしてワレらは! とうとう七不思議の謎を解き明かしたのだ!!*2」
「おおー!」
パチパチと拍手をすると、中二病ロリ”ヒロイン”ちゃんがムフフンと誇らしげに胸をはった。かわいい。
それにしても、すでに七不思議とやらの謎は解明してるのか。つまり、今ってクライマックス手前くらいなのかな?
「それでだな、これから行く保養地に、けんきゅ──」
「部長、ストップ」
「むぐっ」
無口クール系”ヒロイン”ちゃんが、中二病ロリ”ヒロイン”ちゃんの口をふさいだ。
「わたしたちは~、ええ~っと。この合宿で~、えっとえっと……」
なんとかフォローしようとするも、モゴモゴと口ごもるおっとり不思議系”ヒロイン”ちゃん。無口クール系”ヒロイン”ちゃんが「研究レポート」とつぶやいた。
「そう! これまで調べたことを~研究レポートにまとめようって、思ってて~。えっと、思ってるんです~」
……たぶん、
「へ~、すごいねぇ! みんなしっかりしてるなぁ!!」
私は、すべてに気づかなかったことにして話を流すことにした。
もちろん、中二病ロリ”ヒロイン”ちゃんは『研究所』と言いかけたのではないかと察している。けど、そんな怪しい単語、掘り下げたくない。嫌な予感しかしない。
ゾンビか? ゾンビなのか??*3
「レポートが書けたら、キサマにも読ませてやるからな!! ありがたく思えよ!!」
ふむ。研究レポートは口から出まかせじゃなくて、ちゃんと書く予定なんだ。
そういえば、お孫さん師範代から送られてきた合宿概要メールにも、コテージの使用目的は『集中してレポートを仕上げるため』と書いてあった。
つまり、『研究所』とやらに行くのは、お孫さん師範代にもナイショにしているってことかな? まあ、もしもお孫さん師範代が知ってたら、
……四人だけで大丈夫なのかなぁ?
「うん、研究レポート読むの、楽しみにしてるね」
「ムフ、ムフフー! キサマ、なかなか分かっているではないかッ!!」
中二病ロリ”ヒロイン”ちゃんはうれしそうに口元を緩ませている。えっ、そんなに喜ぶポイントあった??
「わぁ~、ぶちょー、よかったねぇ~」
「……部長のレポート、読むの大変。がんばれ」
ああ、なるほど。レポートも中二病のノリなのね。それは読みごたえがありそうだ。
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第十九話 頭の中がおっぱいでいっぱい
自分たちが宿泊するコテージは、想像していたより遥かに広いコテージだった。二人用の部屋が二つ、三人用の部屋*1が二つ、最大で10人が泊まれるそうな。
部屋分けは、以下の通り。
二人部屋A:お孫さん師範代
二人部屋B:私
三人部屋C:眼鏡”主人公”くん
三人部屋D:”ヒロイン”ちゃん三人
”ヒロイン”ちゃんたち、三人部屋Dにめっちゃ押し込まれてるけど、どこに分けても問題が起きそうだから致し方なし。
荷物の運び入れなどはみんなに任せ、食料品の詰まった段ボールを抱えてキッチンへ移動する。道中で買った生鮮食品を早く冷蔵庫にしまわないと。暑いからすぐ傷んでしまう。
わっせわっせと作業をしていると、”ヒロイン”ちゃん三人が、キッチンに隣接したダイニングルームの隅でしゃがみこんでいた。荷物を抱えたまま何やら話している。かと思ったら、ペコペコとお互いに頭を下げている*2。
何してるんだろ? ……まあ、ギスギスした感じじゃないからいっか。
「──えっ、コレ一本しかないのか!?」
中二病ロリ”ヒロイン”ちゃんの大きな声が聞こえて、なにごとかと顔をあげる。何かあったのかと声をかけると、三人は揃って首を横に振った。
「ぶちょー、声がおっきいよぉ~」
「もっと静かに」
「む、スマヌ……」
そこからは、声のトーンを落として何やらゴニョゴニョと話し込んでいた。
「──では、約定に則り決を取るぞ! 賛成の者!!」
中二病ロリ”ヒロイン”ちゃんの掛け声に、スッと三人の手が上がる。
「いちおう聞くが、反対の者!!」
誰の手も上がらない。何の多数決なのかはサッパリ分からないけど、何かが決まったらしい。みんな満足げに頷いている。仲が良さそうで微笑ましい。
「おーい、海に行くんじゃ無かったのか?」
ちょうどそこへ、眼鏡”主人公”くんがやって来た。合宿中、勉強ばかりじゃツラかろうということで息抜きもちゃんとある。今日は夕方まで海で遊ぶ予定だそうな。
「ホホーウ、契約者はワレの艶めかしい水着姿をお望みなのか? しからば見るが良い!!」
「いや、おれは予定を確認しただけ、わーっ! ばかっ!!」
慌てる眼鏡”主人公”くんの目の前で、中二病ロリ”ヒロイン”ちゃんが勢いよく服を脱ぐ。
「あ、ズルい」
「わ、わたしも~!」
無口クール系”ヒロイン”ちゃんと、おっとり不思議系”ヒロイン”ちゃんも、えいやっと服を脱いだ。みんな、服の下に水着を着こんでいたらしい。気合入ってるなぁ。
ダイニングルームに水着の”
四人は、ドタバタしながらダイニングルームから出て行った。水着で走る三人……いや、二人のおっぱいがばるんばるんに揺れていた。
ちらりと、眼鏡”主人公”くんが申し訳なさそうな顔でこちらを見る。気にしないでいいと、笑って彼を見送った。
入れ違いでキッチンへやってきたお孫さん師範代。手には、白米や調味料と言った重い食品が入った段ボール箱が抱えられている。師範代と、顔を見合わせて頷き合う。
──さて、
海で遊ぶ予定は、もちろん息抜きも兼ねている。けれど、最大の目的はメシマズたちをキッチンから遠ざけるためだ。
お孫さん師範代は、ご飯を炊けるそうなので白米の準備をお任せする。私は、野菜とお肉をザクザク切っていく。玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、とり肉! 今日の晩ご飯はカレー!!
「炊飯器のタイマーをセットした」
「はい、お疲れさまです」
いったん自分の部屋に引き上げるというお孫さん師範代の背中を見送る。
「まずは玉ねぎをフライパンに、っと」
カレーは家でもよく作るから、レシピを見ながらじゃなくても大丈夫だ。
玉ねぎを軽く炒めて、じゃがいも、にんじん、とり肉を順番に入れていく。玉ねぎがしんなりしてきたら、お水を加える。アクを取りつつ、具材が柔らかくなるまで煮込む。
カチ、と火を止める。あとは、鍋のグツグツがおさまってから、カレールウを割り入れ……あれ? カレールウがない??
「さっきスーパーで買ったはずなのに……」
間違って冷蔵庫に入れてしまったのだろうかと中を見る。見当たらない。きょろきょろと辺りを見回すと、ダイニングルームのテーブルの上、調味料が詰まった箱の横に置いてあった*3。
なるほど、お孫さん師範代が持ってきてくれた方の段ボール箱に入ってたのか。わざわざ出しておいてくれるなんて、親切だなぁ。まあ、声はかけてほしかったけど。
ルウが溶けたら、もう一度火をつけ、焦げつかないように混ぜながらしばらく煮込む。
「……?」
なんか一瞬、鍋の中がピンク色に見えたような? いちおうカレーをかき分けて確認したけれど、変なものは見えない。
「気のせいか」
小皿に少し取り分けて味見する。うん、普通にカレー! ヨシ!! あとは冷ましてから冷蔵庫にしまえば、晩ご飯の準備はおしまいだ。
ぐいーっと伸びをすると、視界の下半分で自分のおっぱいがゆっさり揺れた。もうスッカリ慣れた重量感。前世の感覚だと”ありえんくらいの巨乳”だけど、今世の感覚だと”普通サイズのおっぱい”だ。
揺れるおっぱいと言えば、さっきの”ヒロイン”ちゃんたちのおっぱい、ばるんばるんに揺れていた。あれ、前世の感覚だと”痛そう”なのだが、今世の感覚だと”普通”だ。
このエロゲみたいなことが起きる世界のおっぱい、千切れそうなくらい揺れてても、痛くないんだよねぇ。なんていうか、そもそも肉体の構造が違う気がする。というのも──
ブラをしてなくても、おっぱいがあんまり垂れないのだ。
このサイズで。
このサイズで、だ!!
──この世界のおっぱい強い。重力に勝ってる。
成長期で自分のおっぱいがモリモリ成長した時、鏡に映る自分の体を見て、しみじみ思ったもんね。
私は、前世の自分も今世の自分も、”人間”だと思っている。けれど、もしかしたら根本的にカテゴリーが違う生き物なのかもしれない。ゴリラみたいに腸の中でタンパク質を作ってくれる細菌がいるとか。なんかそういうレベルで違う気がしている。
……ぶっちゃけ、正面から”おっぱいがあると分かるように”女性を描くと、自然と巨乳になりやす……げふんげふん……男女ともに巨乳の方が体を描くときにバランスを取りやす……げふんげふん。
──んん? なんでこんなにおっぱいのことについて考えてるんだ??
いやまあ、わりといつものことか。このエロゲみたいなことが起きる世界について考えてると、頭の中がエッチな単語でいっぱいになるからなぁ。
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第二十話 突撃! 隣の──
鍋のフタにキッチンペーパーを挟んで、誰かがフタを開けたら分かるようにしておく。むやみやたらに調味料(?)を足すタイプのメシマズがいるらしいので、その対策だ。まさか、漫画で読んだ知識*1がメシマズ対策に応用できるとは思わなかった。
鍋を冷蔵庫にしまったところで、お孫さん師範代がキッチンへ戻ってきた。洗い物と片付けは任せてほしいと言われたので、場所を入れ替わる。
すれ違いざまに、師範代の胸が目に入る。見事な雄っぱいの巨乳だ。私は、男性の胸も揺れることを、師範代との稽古で知りました。
「……顔が赤いようだが、大丈夫か?」
「へ?」
そう声をかけられお孫さん師範代の胸から顔を上げる。たしかに、なんか体がポカポカする、気がする。手のひらで自分の顔に触れる。ちょっと火照っているかもしれない。
「コンロの前にいたから、ですかねぇ」
「熱中症の初期症状ということもある。水分と塩分をしっかり摂っておくように」
「押忍じゃなくて、はい」
冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出す。さっき入れたばかりなので、あんまり冷えていない。ゴクゴクと飲みながら、洗い物をするお孫さん師範代の後ろ姿をぼんやり眺める。
早朝の稽古では正面から向かい合っていることが多い。なので、師範代の後ろ姿はなんだか新鮮だ。あと、とてもエッチな感じがする。特に、背中からお尻にかけての筋肉が素晴らしくセクシーだ*2。
「……どうかしたのか?」
お孫さん師範代は、振り返りもせずそう言った。不埒なことを考えていたので、思わずビクッとしてしまう。なんで見てることが分かったんです? 後ろに目でもついているんです??
「いや~、あはは~、何でもないデス~」
愛想笑いを浮かべながら、そそくさとキッチンを後にする。
自分の部屋に戻って荷解きしようっと。
ちなみに、水分と塩分を摂っても、顔の赤みは引かなかった。海から戻ってきたみんなも心配してくれた*3けど、体はめっちゃ元気なんだよねぇ。むしろ調子が良いくらい。
◆
合宿一日目の残りの予定は、おやつを食べて、勉強して、晩ご飯を食べる。
すべて、予定通りにつつがなく進んだ。
晩ご飯を先回りして作っていたことに対して、料理したがるタイプのメシマズ”ヒロイン”ちゃんたちが怒るかな~と思っていたけど、そんなこともなかった。三人とも、おいしそうにカレーを頬張っていた。眼鏡”主人公”くんが不思議そうにしているのが印象的だった。
今から思い返せば、フラグだったんだと思う。
夜半に寝苦しくて目が覚めた。冷房を入れても、パジャマを脱いでも、暑い。──熱い。体の奥がドロドロに溶けて、ぐつぐつ煮えているようだ。
「ぅっ……はぁ……」
吐く息すら熱く感じる。内にこもる熱を解放したくて身をよじる。シーツが肌にすれる感覚すらもどかしい。パンツはもうぐじゅぐじゅだ。
ここまで来るとさすがに分かった。
──はいはい、媚薬ね媚薬*4。
体は煮えたっているのに、頭はわりと冷静だ。たぶん”訓練”のおかげだろう。ありがとう、一人称『僕』おじさん。次に”訓練”がある時がコワいです。
にしても、媚薬か~。エロゲにもけっこう出てくるけど、実際に摂取したのは初めてだなぁ。安全性とか、どうなってるんだろう。まあ、犯人と思われる三人がカレーをモリモリ食べていたので致死性は無いと信じたい。
そう。どうやったのかは分からないけれど、”ヒロイン”ちゃんたちはカレーに媚薬を盛った。たぶん、カレールウに*5。午後から顔の赤みが引かなかったのもそれが原因だったんだと思う。
全員が食べるカレーに媚薬を盛るだなんて……まったく……まったくもって──
グッジョブ!!!!
口元を緩ませながら、フラフラと立ち上がる。こんなチャンス、逃す手はない。向こうからキッカケを与えてくれるのならば、乗っかるしかあるまいて。
今ごろ、眼鏡”主人公”くんたちは”お楽しみ”の真っ最中だろう。どさくさに紛れて混ぜてもらえれば! 私もセックスできるって寸法よ!! 発想が天才のそれ!!!!
…………いや、でもなぁ。
眼鏡”主人公”くんたちが関わっている
い、行きたくない。とても行きたくない。
──ふと、キッチンで見た後ろ姿が思い浮かんだ。
そうだ、お孫さん師範代のところはどうだろう。
師範代もカレーを食べていたので、媚薬を摂取しているはずだ。普段の師範代なら、私が迫っても良識ある大人の対応をする。確実にする。
けれど、媚薬で性的興奮が高められている今なら?? いけるのでは??? 「からだが、あつくて……たすけてくださいっ」からの「薬で記憶がトンでいて何も覚えてないので無かったことに……」コンボが使えるのでは????
いやいやいや、待て待て待て。
たとえコンボがキマっても、気まずいことこのうえないが?? 今後も早朝の稽古で顔合わせるかもしれんのやで???
しかも、お孫さん師範代は、眼鏡”主人公”くんたちの”サブキャラ”っぽいので、ヤバそうな事件に関わるヤバい人な可能性もある。いやまあ、ヤバい人には思えないけど。
いや……しかし……でも……。頭の中でぐるぐると言葉が回る。けど……だって……。考えすぎて、なんだか目も回ってきている。あ~~~も~~~……なんかかんがえるのめんどくさくなってきた!! からだがあつい!!!
もんだいはセックスしたいかしたくないかですよ!!!!
セックスしたいです!!!!
いえぇ~~~~い!!! いったれぇええ~~~~~~~っ!!!!
えいやっとドアを引き開ける。目の前に筋肉の壁──もとい、お孫さん師範代が立っていた。右手にこぶしをつくっているので、ちょうどノックしようとしていたところだったらしい。
「…………中和剤*6だ。飲むように」
「アッ、ハイ」
師範代は、栄養ドリンクサイズの瓶を渡すと、ドアを閉めた。歩き去る足音がドア越しに聞こえる。
「…………」
私は、中和剤を一息にあおると、布団にくるまって寝た。
べつに拗ねてない。
ここに来たのはバイトをするためであって、”女主人公”対策をするためじゃないことを思い出しただけだ。
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第二十一話 目と目が合わない
いつもの稽古のクセで、朝早くに目が覚めてしまった。のどがカッサカサに渇いている。うわ、冷房つけっぱなしでキャミとパンツだけで寝てたのか。
「ぁあ゛~~……げほっ」
起きてキッチン行くかぁ。ついでに、朝ご飯の準備もはじめてしまおう。たぶん、眼鏡”主人公”くんと”ヒロイン”ちゃんたちはギリギリに起きるだろうし。
そういえば、昨日の無差別媚薬事件、お孫さん師範代と私に中和剤を用意してたってことは、合宿前から準備してたのかな? なかなかに計画的な犯行だなぁ*1
。
……ふと思ったけど、4Pをこなす眼鏡”主人公”くん、体力も精力もヤバいな。いや、媚薬がスゴかったのかも?
「あれ?」
キッチンに行くと、炊飯器のタイマーがセットしてあった。たぶん、お孫さん師範代がセットしてくれたんだろう。……だよね? メシマズ三人娘じゃないよね??
ちょっと不安に思いつつ、冷蔵庫から食材を取り出す。今日の朝ご飯はハムエッグと納豆と玉ねぎのお味噌汁! ちなみに、明日の朝ご飯も同じ!!
◆
「すみませんでした──っ!」
「すまなかった!」
「ごめんなさい」
「ごめんなさぁ~~~いっ!」
案の定、ギリギリの時間にダイニングルームへやってきた四人は、いっせいに頭を下げた。その後ろから、お孫さん師範代が顔を出す。どうやら、ギリギリに起きたのではなく、ギリギリまで叱られていたようだ。
「こいつらには、おれからもよく言って聞かせましたんで!!*2」
眼鏡”主人公”くんの謝罪を聞きながら、ずらっと並んだ四つのつむじを眺める。
──言いたい。
四人に、「ゆうべは おたのしみでしたね」って言いたい。けど、この世界でそのネタは通じないし、今のタイミングで言ったら単なるイヤミだ! がまん!!
「謝ってくれたので許ーす! でも、もう同じことしないでね?」
無難な落としどころを口にする。本音を言うと、今日の晩ご飯にも媚薬を盛ってほしい。私も乱痴気騒ぎに混ぜてほしい。口にも態度にも出さないけど。
ちょうどいいタイミングでご飯が炊けた。陽気なメロディーがダイニングルームに流れる。パンと両手を叩いて、話を切り上げた。
「じゃあ、朝ご飯にしよっか」
あ、そうだ。炊飯器のフタを開ける前に確認せねば。
「あの、炊飯器のタイマーをセットしてくれたのって……」
「……自分だ」
やっぱりお孫さん師範代だった。よかった。
「……手は、しっかりと洗った……」
「えっ? あ、はい」
まあ、料理をする前に手を洗うのは大事だよね? でも、なんでいま報告した?? 不思議に思いながら、お孫さん師範代の顔を見上げる。
……あれ? なんか、いつもの師範代と違う感じが?? ……でも、何がどう違うのか分からんな。
◆
さて、気を取り直して朝ご飯だ。
おっとり不思議系”ヒロイン”ちゃん以外の面々で、お皿をテーブルの上に並べていく。彼女のウッカリは、その、世界レベルだそうなので。朝ご飯をひっくり返されないよう、テーブルに着いてもらっている。
私はご飯を盛る担当だ。無口クール系”ヒロイン”ちゃんからお茶碗を受け取り、ご飯を少なめによそう。
「このくらい?」
「うん」
手渡すと、小さな声で「ありがとう」とお礼を言われた。
「──ねえ」
「ん?」
「からだ、大丈夫?」
無口クール系”ヒロイン”ちゃんの顔を見る。ちょっと目が泳いでいる。たしか、媚薬も中和剤も、彼女が作ったんだっけ? 薬の副作用とかを気にしているのかな?
「うん、大丈夫だよ? 中和剤がちゃんと効いたみたい」
「えっ?」
無口クール系”ヒロイン”ちゃんは驚きに目を見開いている。
えっ、なに? 何に驚いてるの?? 中和剤に効き目があったこと?? あれって、そんなあやしい薬だったの???
「…………先生に、もう一回あやまる」
へ? この話の流れで、なんでお孫さん師範代が出てきた? 理由を尋ねる前に、無口クール系”ヒロイン”ちゃんは師範代の方へ走って行ってしまった。
ペコリと頭を下げる無口クール系”ヒロイン”ちゃん。顔色一つ変えず、何かを言うお孫さん師範代。その様子を眺めていると、不意に師範代と目が合った。目を逸らされた*3。
もう一度言おう、お孫さん師範代に、目を逸らされた。えっ、うそでしょ……あの師範代が?! 目を逸らした!?!?
──ハッ、さっき感じた違和感の正体、これだ!
お孫さん師範代と、目が合わない!!
えっ、なんでだ? 私、何かやらかしたっけ?? たぶん何かしたんだろうなぁ~~! お孫さん師範代と私だったら、どう考えてもやらかすの私だもんなぁ~~!! でも思い当たるふしがまったくない……!*4
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第二十二話 そのための私
無差別媚薬事件のペナルティとして、二日目に予定されていた午前中の息抜きは取りやめとなった。四人は大人しく勉強に勤しみ、レポートもかなり進んだ──のだけれども。
息抜きが無かった反動か、メシマズ”ヒロイン”ちゃん三人が手料理を振舞おうとやたらめったら張りきった。
彼女たちの熱意にほだされて、昼ご飯を手伝ってもらうことにしたのだ、が! ものの数分で
四人が午後の勉強に励んでいる間、お孫さん師範代と私でキッチンの後片付けをしました。師範代とは相変わらず目が合いません。なんでや。
そんなこんなで一日が過ぎ、今は眼鏡”主人公”くんと二人、晩ご飯の準備をしている。
キッチンへ入ろうとする”ヒロイン”ちゃん三人と、それを阻止するお孫さん師範代との攻防がBGMだ。……なんで爆発音が聞こえるんですかねぇ。
「なんかもう、昨日も今日も色々と迷惑かけてごめんな……」
「いいよいいよ、みんなでワイワイできて楽しかったし」
恐縮する眼鏡”主人公”くんに笑って返す。昼ご飯大惨事事件ではついついショックで泣いてしまったけど、実はけっこうエンジョイしていた。あのワチャワチャした感じ、ものすごくエロゲの日常ギャグパートっぽかったので。なんかもう懐かしかったよね。
「話は変わるんだけど、さ。その、きみの部屋って、先生の隣の部屋だったよな?」
「ん? うん、そうだよ」
間取りで言うと、二人部屋AとBが隣り合っていて、三人部屋CとDは少し離れたところにある。
「いや、その……さらに迷惑をかけることになるんだけど、二つ頼みがあって──」
「……え?」
じゅうじゅうと音を立てるフライパンから顔を上げて、眼鏡”主人公”くんを見る。彼は、キャベツを千切りにする手を止めて、私を見ていた。ちなみに、今日の晩ご飯は豚肉の生姜焼きだ。
「頼めるか?」
「いやまあ、構わない、けど……」
「理由は、聞かないでくれると助かる」
「う、うん。……わかった」
「──ありがとう」
眼鏡”主人公”くんはホッとしたように微笑むと、手元に目線を戻した。トントンと、キャベツを切る軽快な音がする。私も、フライパンに意識を戻して豚肉をひっくり返した。
『頼みの一つは、今日の夜、先生が部屋に戻って寝たかどうかの確認。これは、たぶん難しいと思うから、できたらでいい』
『もう一つは……朝になって、おれたちがコテージにいなかったら……先生に伝えて、あと、警察にも通報してほしい』
フライパンの柄をグッと握る。
──眼鏡”主人公”くんには言えないが、実は、ほぼほぼ同じことをお孫さん師範代から頼まれているんだよねぇ!! 午後、キッチンの後片付けをしている時に!!!
『あの四人が就寝するまで、同じ部屋にいて見張ってほしい』
『明日の朝、自分がコテージにいない場合は、四人にその旨を伝えて警察に通報するように』
みんな、今日の夜に『研究所』へ行くんですね!! わかります!!!
行くのかぁ、『研究所』。もう『研究所』っていう響きがヤバいもん。しかも、お孫さん師範代も眼鏡”主人公”くんも、帰れない可能性を考慮してるってなに?? こわすぎるが???
それでもなお、行くのを決めてるってことは……止めても無駄なんだろうなぁ。そこはもう仕方ないとして。……これ、お孫さん師範代と”主人公”くんたちの出発時間がカチあったら、大変なことになるな?
いやまあ、みんなをカチ合わせて『研究所』行きを無理やり止めてもいいんだけど……それは悪手だと、エロゲーマーとしての私の勘が囁く。ロクなことにならない気がする*1。
しかも、眼鏡”主人公”くんたちだけで『研究所』へ行っても、お孫さん師範代だけで『研究所』へ行っても、バッドエンド直行な気がする。たぶん、二組が『研究所』内に揃っているのがフラグだ。
これがもしエロゲなら、という頭が湧いた根拠。けれど、ここはエロゲみたいなことが起きる世界。自分が今まで見てきたもの、感じてきたことを信じよう。
となると──
お孫さん師範代と”主人公”くんたちには、タイミングがカチ合うことなく出発してもらわなければならない。
ハッ、なるほど! 私がここにいる理由、それかぁ~~~~っ!!*2
「みんなー、晩ご飯できたよーっ!」
なんとなくスッキリした気持ちで、豚肉の生姜焼きを配膳する。やることは分かった。あとはやるだけだ!!
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第二十三話 ミッション ポッシブル
──お孫さん師範代と”主人公”くんたちが、出発時にカチ合うことなく『研究所』へ向かう。
これが、今日の夜に私がなすべきミッションになる。まあ、インポッシブルというほどではないのでサクサク行こう。
もちろん、お孫さん師範代と”主人公”くんたち、どっちからも頼みごとをされてるってのはナイショだ。どっちにも打ち明けるつもりはない。……前世でエロゲをプレイしてきた勘が理由です、なんて言えないし。
頼みごとの理由について(私が一方的に知ってるだけで)聞かされてないから、黙ってるのはお互いさまということで。
寝る準備を済ませて、眼鏡”主人公”くんの部屋にお邪魔する。”ヒロイン”ちゃん三人もすでに来ていた。
表向きは、四人でカードゲームをするため。その実は、眼鏡”主人公”くんたちの頼みである『お孫さん師範代が寝たのを確認する』ための打ち合わせだ。
「じゃあ、22時過ぎで解散して、おれらはいったん寝たフリする感じで。先生が寝たのが確認できたら連絡してくれな」
眼鏡”主人公”くんがこれまでの打ち合わせの内容をまとめてくれた。この寝たフリで、師範代の頼みである『就寝まで見張る』も達成できるって寸法だ。いえーい、一石二鳥。
「アナタは念のためだから。確認できなくても一時間後には出発する」
無口クール系”ヒロイン”ちゃんが、淡々とそう言った。突き放すような冷たい言葉に目を丸くする。眼鏡”主人公”くんが、無口クール系”ヒロイン”ちゃんの肩をツンツンとつつくと、ハッとした後、彼女はモゴモゴと口ごもる。
「……だから、気負わなくていい。無理はよくない」
かっ、かわいい~~~! いやもう満面の笑みですよ、これは!! ホッコリしちゃった。
「うん、了解。心配してくれてありがとう」
実のところ、確認に関しては問題ない。このコテージ、壁が薄めだし。それに、寝たことを確認して連絡するわけじゃないしね。
「──ムムッ! 打ち合わせは終わりだな! 終わったな!?」
待ってましたと言わんばかりに中二病ロリ”ヒロイン”ちゃんが立ち上がって声を張った。隣にいるおっとり不思議系”ヒロイン”ちゃんの腕には、これでもかとカードゲームの箱が抱えられている。二人とも、お目目がキラッキラだ。
「ヨーシ! キサマら、刻限まで遊興にふけるぞ!!」
「わぁ~い、あっそぼぉ~!」
無口クール系”ヒロイン”ちゃんも懐からスッとカードゲームの箱を取り出す。眼鏡”主人公”くんは、頭を抱えていた。
緊張でガチガチになってるよりいいと思うよ?
◆
22時を過ぎたあたりでゲーム大会*1を切り上げて解散し、各々の部屋へ引き上げる。帰り道の途中、お孫さん師範代の部屋に立ち寄って、みんなもう寝ることを伝えた。やっぱり目は合わなかった。
自分の部屋に戻ってドアを閉める。室内の電気を消してから、ドアの前に座り込んで耳をすませる。このコテージ、ドアの前を通る人の足音が聞こえるんだよね*2。
──15分くらい経っただろうか。
何かかすかな音が聞こえた。集中していなければ聞き逃しそうなくらい小さな音だ。規則正しいその音は、ドアの前を通り過ぎて行った。たぶん、お孫さん師範代が物音を立てないように歩いた音だろう。
──そのまま、さらに10分待つ。
さて。
そっとドアを開いて廊下に出る。目的は隣の二人部屋A──お孫さん師範代の部屋だ。
コテージの各部屋は普通の室内ドアになっている。中からは鍵をかけられるけれど、外からは鍵をかけられないタイプ*3。なので、部屋の中に誰もいなければ──こんな風にドアが開く。ざっと部屋の中を見回す。人の気配はない。
お孫さん師範代の外出、確認よし!
そそくさと自分の部屋に引き返し、眼鏡”主人公”くんに連絡を入れる。これで任務完了だ。あとは、なんかいい感じにことが運ぶことを祈っておこう。
「…………」
パジャマを脱いで、普通の服に着替える。ベッドの脇にスニーカーを揃えて、枕元に財布やスマホなどが入ったショルダーバッグを置く。
いざとなったら即座に逃げる、準備よし!
なんてったって『研究所』だし。なんらかのハザード的なことになる想定はしておこう。
もぞもぞとベッドに潜り込む。起きたら、みんなが無事に戻っていますように。何ごともなく朝を迎えられますように。そんなことを祈りながら眠りに落ちた。
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挿話③ 正しさばかりでは生きられない
──体が痺れたように動かない。早く、針を、抜かなけれ、ば……。
頭に霞がかかっていく。薄ぼやけた思考に、何かが染み込む。”
「あは、あはははは! やった、やったわ……!!」
髪の長い女の甲高い哄笑が聞こえる。ひどく耳障りだと思う感情が、聞いていて快いという感情に塗りつぶされる。
「先生!?」
「そんな、おれたちをかばって……!」
少女と少年の悲痛な叫びが聞こえる。無事で良かったという安堵が、なぜ生きているのだという憎悪に塗りつぶされる。
「そうでしょうね。そうするしかないものね。無辜の一般市民を、犠牲になんてできないわよねぇ? その判断が、全員を死に至らしめるとしても! 切り捨てられないわよねぇ!! あはははは!!!」
笑い声に導かれるように、足を踏み出す。あちらへ、行かなければ。
「せ、せんせぇー、まって。いっちゃダメだよぉ~っ」
引き留めようと腕を引く華奢な手を、振り払う。わずらわしいあたたかさだ。人に、物に、空気に、あたたかさが満ち満ちていた。そんなおぞましい光景に身震いする。
「──この世界は正しくない」
自分の手で、正さなければ。
「危ないっ!」
髪の短い女が、少女を抱えて地を転がった。遅い。無防備な背中を蹴り──やめろ! なぜか、寸前で勢いを殺してしまった。それでも、女と少女の体は軽々と吹き飛び、壁に衝突する。
「がっ」
「きゃあ!」
少年が吹き飛んでいった
「さすがお巡りさんねぇ。”死”に感染して縋りつくものが『正義』だなんて。フフ、正義の味方──いいえ、これからは
髪の長い女は隣に立つと、体をすりつけるようにしてしなだれかかってくる。その冷たさが身になじんでいく。
「さあ、この場にいる生きている人間を殺しなさい! そして、あの世とこの世の境界を溶かしつくすのよ!!」
「ごほっ、げほっ……バカなこと言わないで/そうよ、まだ間に合うもの……!」
髪の短い女の口から、女の声とは別に、少女の声が聞こえる。
「いまだ!」
「きゃあ!?」
物陰から飛び出してきた少年と少女が、髪の長い女もろとも自分を突きとばした。とっさに、女を助けなければいけないと思い、彼女の体を抱える。両手が、ふさがった。
「先生、お薬の時間」
倒れた先に、もう一人の少女がいた。口内に
──あつい。
熱い熱い! 喉が焼けてしまう!! 液体を吐き出そうとするが、髪の短い女と少年に抑え込まれて飲み込んでしまった。
「……あの薬は、普通の人間が飲むと媚薬に近しい効能がある」
熱さから逃れようと、のたうち回る自分の耳に、少女の声が響く。
「でも、それは単なる副作用/あの薬の主作用は──」
「”死”を振り払うほどの”生”の衝動を引き出すこと!」
喉をかきむしる。
熱い、熱い熱いあつい……!
「先生! 戻ってきてくれ!!」
髪の長い女は、顔を歪ませて笑う。髪を振り乱しながら絶叫した。
「無駄よ! たとえ”生”の衝動を引き出しても、”意志”が支えなければ意味が無い!! その薬があることは把握していたもの! さらに改良を施した”死”は、相手の”意志”を奪う!!」
「いいえ、いいえいいえ! あの方の”意志”には残っています! ひとかけらでも”意志”が残っているのならば──必ず!!」
髪の短い女が少女の声で叫ぶ。
「彼の心に残る”最も強い意志”を呼び覚ますことができたなら──!」
「先生ーっ!」
少年と少女たちの声が聞こえる。どうにかこの熱さから逃れようと立ち上がる。しかし、身を焦がすほどの熱は、すでに全身に回っていた。
この世界は正しくない。
己こそが正しい。
過ちは正さなければ。
──弟子の下着姿で射精した人間が、どの口で正しさを語る。
「ぐはっ」
罪悪感──直近で感じた”最も強い意志”。正しさから最も近く、最も遠い。悪を成したという”意志”。あまりに強烈な衝撃を受け、膝から崩れ落ちた。
「先生が急に倒れたんだけど!?」
「あれー!?/そんなどうして?!」
「……ぼ、ボクの調合に間違いはない……はず」
あれは、ほんの偶然で。たまたま思い出した時に射精してしまっただけで。決して、彼女自身に劣情を抱いているわけではない。──いや、そんなものただの言い訳だ。弟子で抜いてしまったという苦い事実がそこにある。
「……大丈夫だ」
その苦さが、頭の霞みを打ち払ってくれた。拳を握り締めて立ち上がる。
「終わりにしよう」
弟子に、謝罪は出来ない。してはいけない。自分の体が性的に消費された事実を伝えなければ、謝罪にならないからだ。それは、若い彼女の心をどれだけ傷つけることだろう*1。謝ることは大事だが、時として事実は人を傷つける。
償うことのできない、許されることもない、自分の罪。
──この罪は、墓まで持って行こう。
そう固く心に誓った。
◆ お孫さん師範代について
以前にも書いた通り、『
男性向けエロゲで例えると、主人公たちを導く頼もしいサブキャラ(男)。しかし、こういうキャラは存在自体が死亡フラグなところがある。主人公たちを生かすため、命がけの戦いに挑むことが多いからだ。
◆ 『学園の七不思議』と『研究所』について
ある時、『旧研究所』で、あの世とこの世の境を溶かす事故を起きてしまう。『旧研究所』は壊滅。溢れ出る”死”を抑えるために、”生”に満ちた若者が集まる学園を建てた。しかし、事故の余波であの世が表出しやすくなっており、この世に滲みだしたあの世(あの世に落ちた『旧研究所』)が『学園の七不思議』として噂になっていた。
髪の長い女は『旧研究所』の事故で生き残った研究員であり、事故を起こした張本人。あの世に魅せられている。事故を通して”死”を物質化することに成功。この世の生者をあの世の死者に変質させる薬を開発した。死者に変質した者は、女の言いなりになる。お孫さん師範代が注入された薬。
髪の短い女から聞こえる少女の声は、女の狂気に気がついた『旧研究所』の同僚の幽霊。『学園の七不思議』に紛れて事件の解決に動いていた。髪の短い女の体に居候している。
だいたいこんな感じのフワッとした設定がありました。
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第二十四話 なにごともない朝
明け方、遠くから聞こえるざわめきにふんわりと意識が浮上した。人の声、人の気配。しばらく耳を傾けていたけれど、差し迫った様子は感じられない。よかったと安堵しつつ、もぞもぞと布団にくるまる。
もう一回寝よう。
事情を何も知らないはずの私が出迎えても、みんなが困惑するだけだろうし。
◆
「ぅぉっ」
ビックリしすぎて小さく悲鳴をあげてしまった。
あの後、いつも通りの時間に目が覚めたので、朝ご飯の準備をするためキッチンへ来たのだけど……ダイニングルームの隣、リビングルームのソファでお孫さん師範代が寝ていた。
えっ、なんで?
疑問に思いつつも、部屋から毛布を持ってきて、お孫さん師範代の体にかける。師範代はピクリともしない*1。気配に敏いというか感覚が鋭い師範代が、こんなに近づいても起きないとは。よく見ると、あちこちに怪我しているし。よっぽど疲れてるんだなぁ。
お孫さん師範代でこれなのだから、眼鏡”主人公”くんたちも相当に疲れていることだろう。朝ご飯の準備はゆっくりにした方がいいかもしれない。できるだけあったかいご飯を食べてほしいし。
といっても、今日の朝食もハムエッグと玉ねぎのみそ汁だ。やることは多くない。お米を研いだり、玉ねぎを切ったり。のんびりと料理をしていると、後ろで物音がした。振り返ると、眼鏡”主人公”くんがキッチンの入口に立っていた。
「おはよう、ぅおおっ!?」
な、泣いてる……!?
えっ、えーっ?! なんで? どうして?? ものすごくオロオロしていると、眼鏡”主人公”くんは、涙をぬぐって顔をあげた。
「……ごめん。なんか、ホッとして……」
「そ、そっか」
その言葉で、昨日ものすごく大変なことがあったらしいと察する。気になったので「聞いていい?」と確認したけれど、「聞かない方がいい」と言われたので、話を切り上げた。
直後に、廊下の方からにぎやかな足音が聞こえてくる。”ヒロイン”ちゃん三人がダイニングルームに飛び込んできた。私をキッチンに見つけると、ぎゅううとしがみついて泣き出してしまった。
「おおおう……?」
眼鏡”主人公”くんならともかく。どうして私が揉みくちゃになっているんだろう*2と思いながら、よしよしと三人の背中を撫でる。
さすがに騒々しかったのか、お孫さん師範代がむくりと起き上がる。四人は、お孫さん師範代がリビングルームで寝てたに気づいていなかったのか、飛び上がって驚いていた。その様子がおかしくて、思わず笑ってしまった。
「おはようございます」
「……おはよう」
あらま、ちゃんと目が合った。
◆
「あの~、こちらの方については、聞いていいんですかね……?」
何回数えても七人いる。一人増えている。ウルフカットのキレイ系お姉さんが、テーブルについてモリモリご飯を食べている。……どなたさま?
お姉さんの顔を認識できる。つまり、”モブ化現象”が起きていないので、”ヒロイン”か”サブキャラ”なのだろうことは分かる。
眼鏡”主人公”くんは、困った顔で返事に窮している。
「説明がむずかしいんだよなぁ~」
「あら♡ あたしたちとキミの仲をみんなに説明してくれるの?」
キレイ系お姉さんは、からかうように眼鏡”主人公”くんに声をかけた。”ヒロイン”ちゃん三人がムッとした顔で眼鏡”主人公”くんをにらむ。朝から空気が重ーい。
「ちょっ、ちょっと!」
「ま、あれは救急処置みたいなものだから。ノーカンで許したげる」
焦る眼鏡”主人公”くんと、ケラケラ笑うキレイ系お姉さん。なるほど。なるほどなるほど。こちらのお姉さん『”主人公”の筆おろしを行う”サブキャラ”』だな!?
童貞主人公の共通ルートで、筆下ろしをするサブキャラのお姉さん。もしくは、訳あり主人公の過去回想で、初めての相手として出てくるサブキャラのお姉さん。
個別ルートに入るまでヒロインとのエロがない系のエロゲでよく見かけたなぁ。
プレイ時間的にそろそろエロを挟みたいけど、主人公とヒロインがエッチできるようになるのはまだまだ先だ~~! という時に輝くサブキャラだよね。
ちなみに、サブキャラなので
だから、”安全”かつ”後腐れなく”処女でなくなる方法の一つとして挙げていたんだけど……そういうポジションに狙ってなるなんて、難易度が高すぎて。ちょっと出来そうにないからなぁ。
などということを考えている間に、キレイ系”サブキャラ”お姉さんの正体についてはうやむやになった。たぶん知らない方がいいってことなんだろう。
──まあ、そんなこんなで。『学園七不思議研究部』は、二泊三日の合宿を終えた。
いや~~、何ごともなく合宿が終わってよかったね! うん!!
なんか色々あったんやろなぁということは察しつつも、それぞれの事情に踏み込まなかったおかげで、(私の視点だけで見れば)何ごともなかった。
バイト代も弾んでもらえたし、ホクホクである。
心機一転、明後日から『”モブ化現象”を起こすイケメン』探しを再開しよう。”女主人公”対策、がんばるぞー!
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第二十五話 性転換がわりと身近な世界
Trans Sexual Fiction──性転換を取り扱った創作で、TSやTSFという略称で呼ばれている*1。男性が(男性の精神のまま)女性の肉体になってしまうという話が多い*2。
TSという略称は出てこなくても、『何らかの原因でキャラクターの肉体の性別が変わってしまう』という話の展開は、マンガ、アニメ、小説、ゲームなど色んな創作で見かけると思う。
なお、男性向けエロゲに限ってTSを語るならば、TSのみをメインとしたエロゲはそんなに数が多くないけれど、エッチなイベントの一つとしてTSが起きることはけっこうある。そんな感じだ。
というわけで。
この男性向けエロゲみたいなことが起きる世界でも『何らかの原因で肉体の性別が変わってしまう』ことがままある。この世界で一般的に広く知られている性転換の原因は”TS病”──何の前触れもなく肉体の性別が変わってしまうという病気だ。何千人かに一人の割合で発症するらしい。
そこそこの割合でTS病の患者さんがいるので、性別にまつわること関して社会はかなり寛容だ。心の性別と体の性別のどちらを選んでもいいし、戸籍の性別を変える手続きもけっこう簡単と聞く*3。
ただまあ、『薬を飲んだら性別が変わった!』とか『呪われて性別が変わった!』とか『事故に巻き込まれて性別が変わった!』とかいう噂がネットに溢れているので、TS病以外での性転換の事例もたくさんあるんやろなぁと思う。
つまるところ、だ。
性転換する人物は男女問わずそれなりにいる。ただ、私は『後腐れなく処女でなくなる』という目的を達成するため、『性転換して”ヒロイン”になるイケメン』を探していた。これがまあ、大変
何が言いたいかというと。
とうとう『”モブ化現象”を起こすイケメン』──将来的にTSして”ヒロイン”になるイケメンを見つけました~~~!
秋空に向かって万歳三唱を唱えたい気分だ。
しかも、このTS予定イケメンくん、いつ見ても違うカノジョがおり、来るもの拒まずだけれども長続きしないという! 顔も性格もいいのに不思議だねなんて噂されてるのだ!! なんというウルトラ好条件!!
サッと付き合って、ちゃっちゃとセックスして、パッと別れる!
わはは、勝ったな……!
※ 今回の話以降、性転換(TS)ありの精神的BL描写があります。
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第二十六話 どことなく似ている
──さて、どうやってお付き合いまで持って行こう。
そんな当たり前のことに頭をひねる。
昨日は”モブ化現象”の有無を確認しただけだったからなぁ。TS予定イケメンくんの周りで”モブ化現象”が起きてるのを見て、テンション上がりすぎて何もせずに帰ってきてしまった。ウッカリ。
とりあえず、今日もTS予定イケメンくんの様子を見に行くことにした。やることはストーカーそのものだ。放課後、急いでTS予定イケメンくんが通う学園へ向かう。校門の周りを見渡せるファストフード店に陣取り、TS予定イケメンくんが出てくるのを待つ──
待っていたのだけれども。
──当の本人が近くの席でド修羅場を繰り広げていらっしゃる。
ファストフード店のボックス席スペース。そのいちばん奥まったところに私は陣取っている。私の斜め前の席に、男の子と女の子が向かい合って座っている。
私からは、男の子──TS予定イケメンくんの顔しか見えない。彼は平然とした顔をしているが、ボックス席まわりは気まずい空気でいっぱいだ。だって、女の子のすすり泣く声が聞こえてくるんだもの。
「別れる」
女の子の震える声。ざわめく店内で、そのひと言はハッキリと聞こえた。
「うん、わかった」
TS予定イケメンくんの声に動揺は無い。ちらりと彼の顔を見る。えっ別れ話を切り出されてそんな顔できる?? と、思うくらい落ち着いていた。
「どうしてっ」
女の子はかすれた声を絞り出す。そこには、怒りと悲しみが入り混じっていた。別れると言ったのは女の子の方なのに、まるで彼女が振られているみたいだった。「どうして」の後に続くのは「引きとめてくれないの?」なのかもしれない。
「……ウソ、だったの? ぜんぶ……」
「
まるで、別の
「~~っ!」
あっと思った瞬間には終わっていた。女の子が勢いよく立ち上がり、手を振りかぶる。TS予定イケメンくんはそんな女の子の姿をじっと見ていた。ばちん、とものすごく痛そうな音がした。
女の子は、荷物を抱えると走ってお店から出ていった。すれ違いざまに彼女の横顔を見たけど、”モブ化現象”のせいで私には顔が認識できなかった。視線をTS予定イケメンくんに戻す。バッチリ目が合った。
ひえ。
──TS予定イケメンくんの鼻から、血が垂れている。
目が合ったことよりも、そっちにビックリしてしまった。思わず立ち上がる。
「は、鼻血でてますよ!?」
持っててよかったティッシュとハンカチ!
◆
「ありがとう、助かったよ」
「いえいえ」
鼻血の止め方って、昔は上を向くように言われてたけど、今は俯くのがいいって言われている。上を向くと口や喉に血が流れちゃうからダメなんだそうな。
なので、TS予定イケメンくんも俯いてじっとしている。鼻の付け根をつまみながら鼻の下にティッシュをあてて、血が止まるのを待つ。
柔らかそうな前髪が、TS予定イケメンくんの顔に影を落とす。親しみやすい優しそうな面差しは、腫れて赤くなっている。めっちゃスナップ効いてたもんなぁ、あの女の子のビンタ。
「──君さ」
「うぇっ、はい!?」
急に話しかけられて変な声が出てしまった。
「昨日もここにいたよね」
も、目撃されてらっしゃる~~~~っ!
でも、言われてみればたしかに、『ファストフード店から校門が見える』ということは『校門からもファストフード店が見える』というわけで。
動揺を隠せない。イヤな汗が背中を流れる。挙動不審が止まらない。TS予定イケメンくんは俯いたままだ。彼が、どんな顔をしているか分からない。ただ、優しげな声で話を続ける。
「目立ってたよ、この近くで見たことない制服だったから」
だって! 学校終わってすぐ行かないと間に合わないんだもん!! 着替える余裕とか無いんだもん!!!!
TS予定イケメンくんが顔を上げた。
目が合う。
──
するりと言葉が出た。
「カレシになってください」
「いいよ」
こうして、私はTS予定イケメンくんと恋人になった。
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第二十七話 カレシとカノジョ
明日、放課後にTS予定イケメンくんと待ち合わせして、制服デートをすることになった。気がついたらそうなっていた。TS予定イケメンくん、言いくるめ力が高い。
◆
そんなこんなで翌日。
私とTS予定イケメンくんは、おしゃべりしながら繁華街をブラブラと歩いていた。ショーウィンドウに並んで歩く二人が映る。端から見たら、まあカップルに見える、の、か? もうちょっと近くを歩いた方が恋人っぽい?? ……わからない……わたしはふんいきでコイビトをしている。
──秋深き、カレシカノジョとは何をする人ぞ。
前世でも今世でも恋愛と縁の薄かった私には、普通に分からない。前世うんぬんの部分は省いて、素直にそう伝える。TS予定イケメンくんはきょとんと目を丸くした。
あ、しまった。こっちから「カレシになってください」って言ったのに「カレシと何すればいいのか分からない」って、かなりおかしな話だ。
もー! 自分はワケアリですって言ってるようなもんじゃん!! うかつがすぎるな!? 精神年齢(ピーッ)歳の余裕はどこにいった!?!? ぬあ~~~!! はずかしい!!!
はいはいはいはい、そうですとも! 前世も今世もあわせて初カレシでテンパっておりますとも!! すぐに別れる予定だけどね!!!!
おたおたしている私に気を悪くすることなく、TS予定イケメンくんはゆっくりと声をかけてくれた。
「こういうことしたいとか、ある?」
もんのすっっごく気を遣われているぅ~~~!
さくっとセックスしたいですねぇ! というのが本音。だけど、言わない。
取り巻きハーレム先輩の勃起不全を知ってから、ネットでいろいろ調べた。そして知った。男性の勃つ・勃たないは、かなり繊細な問題だと。多種多様な原因*1で、男性は勃たなくなる。それは困る。
というわけで、初手からガツガツするのはよろしくない。
まずはTS予定イケメンくんについて知ることから始めよう。そして段階を踏んで関係を進展させる。具体的に言うと
……ただ、出会って翌日でキスもがっつきすぎな気がする。
「手をつなぐ、とか……」
ビビってない。私は決してビビってなどいない。ちゅーぐらい、一人称『僕』おじさんとしたし。へっちゃらだし。……あの”訓練”を、キスにカウントしていいのか分からないけど。
「こんな感じ?」
TS予定イケメンくんの手に指が触れたと思った直後。するりと手をつないでいた。手のひらがじんわりとあったかい。誰かと手をつなぐなんて、子どもの頃ぶりで──
…………ん?
んんんんんんっ!?
えっ、なっ、ええええっ!! なっ、なにが、いま、なにが!?!? なん!!!!
愕然とする。手をつなぐという動作だけで、彼我の戦力差は明白だ。瞬間移動で後ろに回り込まれる敵キャラの気持ちが分かってしまった。
強すぎる……! 勝てない……!!
いや待て。落ち着け。別に勝たなくていいから。そういう勝負じゃないから。恋人として進展があったのはいいことだから。半歩ほど、二人の距離が近くなってるし。うん。
「こっちの方がよかったかな?」
さりげない動きで、手のつなぎ方が変わる。指と指を絡めるようにお互いの手を握る。二人の距離が、さらに縮まる。
──いわゆる恋人つなぎ。
「ひえ」
けっきょく私は、TS予定イケメンくんの圧倒的なカレシ
ぐずぐずに溶かされていく頭の片隅に、顔の分からない女の子の横顔が浮かぶ。きっと、元カノちゃんともこんな感じだったのだろう。
TS予定イケメンくんが、恋人と長続きしない理由、か──
……まあ、長続きしないっていうのは、私にとってメリットだし、いっか。
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第二十八話 パーフェクトカレシサマ(?)
二週間に一回くらいの頻度でデートを重ねる。流行りのスイーツ店に並んだり、水族館へ行ったり、映画館へ行ったり。まるで絵に描いたような学生デートだ。少女漫画を読んでいるようで、年甲斐もなくドキドキしてしまう。
学生だから、あんまりお金のかかったご飯や遊びは無理だ。けれど、TS予定イケメンくんは話が上手いのでいっしょにいてまったく飽きない。特に、彼の親友くんトークがめちゃくちゃ面白い。
そもそもの発端は、親友くんのご両親。彼らはワケアリのお仕事をしていたらしく、駆け落ち同然で結ばれたんだそう。しかし、最近になって、それぞれの元上司が部下を送り込んできた。毎日がてんやわんやでしっちゃかめっちゃかになんだとか*1。
──そうだね! 親友くん、確実に”主人公”だね!! しかもイベントが現在進行形で起きてるタイプ!!!
手をつないで公園をブラブラお散歩しながら、親友”主人公”くんトークで盛り上がる。昨日も部下さんたち二人がハッスルして大変なことになってたらしい。
は~~! 直接的に危害が及ばない状態で聞くエロゲイベントめちゃくちゃ楽しい~~!!
近くのカフェでお茶しようかと話している時に、TS予定イケメンくんのスマホが鳴った。TS予定イケメンくんは、画面に表示される名前を確認する。
「ちょっと出るね」と言って通話ボタンを押すと、すぐに耳を離した。
爆発音。爆発音。ビーム音。男の絶叫。
スピーカーモードにしてないのに、あまりの音のデカさに通話音声が筒抜けになっている。
『おに、い、ちゃん! た、すけ、てぇ~~~っ!!』
「ええ……」
TS予定イケメンくんの妹ちゃんとおぼしき悲鳴が、爆発音に紛れて聞こえてくる。さすがのTS予定イケメンくんも絶句している。「僕、ここに飛び込まなきゃいけないの?」という顔だ。でも、行かないという選択肢がないあたり、彼らしい。
「じゃあ、今日はここでお開きということで」
つないでいた手を離し、TS予定イケメンくんにそう声をかける。私の対応も慣れたものだ。残念だという気持ちはあんまりない。むしろ、次に会った時にどんな話が聞けるのか、ワクワクしている。
ふと、視界が陰った。唇に柔らかな感触。
「またね」と手を振りながら走るTS予定イケメンくんに、呆然としながら小さく手を振り返す。
走っていく彼の後ろ姿を見送って、なんかまあ、気がついたら自宅の玄関に立っていた。ドアにもたれてズルズルと崩れ落ちる。頭を抱えてうずくまった。
──なんだあの流れるようなキス。パーフェクトカレシサマかよ。
「ぐわあああああ────ッ!!」
湧き上がる感情を抑えきれず、雄叫びを上げる。廊下に転がって、水揚げされた魚のようにビッタンビッタン暴れる。
「す゛き゛に゛な゛っ゛ち゛ゃ゛う゛……!」
ダメですダメダメそれはマジでダメ! 振るもしくは振られるまでが計画でしょ!!
あーもー自分がチョロすぎてイヤになる!! だからヤだったんだよ誰かとフツウに恋人になるの!!!! やーい恋愛クソザコなめくじ!!!!
「うぎぎぎ……」
いつかは分からないけれど、TS予定イケメンくんは性転換して”ヒロイン”になる。何がどう転んでも、最終的には別れるのだ。
ならば、自分の目的をしっかり果たして、後腐れなく別れなければ。──自分のために。
「そうだ。粗探しをしよう」
TS予定イケメンくんの良くないところを探そう。なんかもう人としてどうかと思うけど、やらないといけない。自分の中のTS予定イケメンくんに対する好感度を下げていこう。
寝ころんだまま腕を組み、しばらくうなる。
「……思いつかない」
さすがパーフェクトカレシサマだ。
◆
──と、私は思っていたのだけれど。
「ないわ~……」
残念なコを見る目で、お昼ご飯の会*2会長にしみじみとそう言われた。周りのみんなもうんうんと頷いている。
あれ~?
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第二十九話 エロゲの世界のカレシとカノジョ
「カレシができたってほんと!?」
「言ってよ!!」
「立ち直れてよかったね~~!」
お昼ご飯の会で使っている空き教室のドアを開いた途端、みんなにワッと囲まれた。どうやら、昨日の公園デートをうちの学園の誰かに見られていたらしい。回りまわってお昼ご飯の会のみんなが知るところになった、と。……普通に恥ずかしいが?
あとはもう、根掘り葉掘りよ。
ただ、話せば話すほど、みんなのテンションは下がっていった。最終的に言われたのが「ないわ~……」だ。しかも、会長だけでなく、みんなそう思っていると来た。
──これはチャンスだ!
自分の中のTS予定イケメンくんに対する好感度を下げられるかもしれない!! ということで。さっきまでとは逆に、根掘り葉掘り「ないわ~……」の理由を聞いていく。
みんなの話をザックリまとめると「ないわ~……」の理由は四つになった。
◆
【ここがダメだよ! TS予定イケメンくん!!】
①デートの回数の少なさ
「二週間に一回は少なすぎるでしょ!!」
「学園が違うから、毎日は会えないってのは分かるけどさぁ」
「最低でも週三はデートしたい! できるなら毎日イチャイチャしたい!!」
「でも、デート場所のチョイスはいいと思う」
「わかる~! 人気のお店にいっしょに並んでくれて、しかもイヤな顔しないってのはポイント高い!!」
二週間に一回のデートは少ない。思いもよらない意見に目を丸くする。TS予定イケメンくんがまともに付き合った初めてのカレシだから、あれが普通だと思っていた。
……ただなぁ……私、プライベートで人と会うと疲れるタイプなんだよなぁ。ほぼ毎日、
TS予定イケメンくんと毎日会うのも……ムリだ。たぶんドキドキしちゃって心臓がもたな──やめろバカ。自分から「それって好きってことなんじゃね」ポイントを発見しに行くんじゃない。次に行こう。
②親友”主人公”くんトーク
「ひたすら知らない人の話されるって何? ほかの話題ないの??」
「つまんない」
言われてみれば、たしかに。親友”主人公”くんトーク=知らない人の話=興味ない・つまらない話になるのか。
私が親友”主人公”くんトークを楽しめるのは、エロゲが大好きだから。だって、親友”主人公”くんトーク、ほぼエロゲイベントなんだもん。聞いててものすごく面白い。
「あと、トークアプリを日程調整以外に使ってないのが地味にヤバい」
「えっ通話もほぼないの? 夜に話したくなったりしないの??」
あ~~……これはTS予定イケメンくんのせいじゃない。どっちかというと私のせいだ。
オタクは基本的に夜、忙しいから。スマホの通知を切ってるので、反応がめちゃくちゃ遅くなる。自然と日程調整以外にしかトークアプリを使わなくなったんだよねぇ。
私みたいにカノジョらしい対応ができていなくても、カレシでいてくれるなんて、TS予定イケメンくんいい人──はい、おしまい。この話題おしまい! つぎ!!
③親友”主人公”くんファーストの対応
「友だちから呼び出されたから途中でデートを切り上げるってなに!?」
「しかも、今まで8回デートして、途中解散5回!?!?」
「ありえない!!!!」
「なんで許せるの!? ムカつかないの!?!?」
「聞いてるこっちがムカつくんだけど!!」
ムカつかないんだよなぁ、これが。
だって、TS予定イケメンくんは”主人公”の友だちポジションの”サブキャラ”だから。絶賛エロゲイベント中である親友”主人公”くんのサポートに奔走するのは当たり前でしょう*1。
──などという男性向けエロゲ的解釈は、口が裂けても言えないので、あいまいに笑っておいた。
たぶん、みんなのお怒りポイントは『カレシにとっての一番がカノジョではない』だ。これ、ものすごく新鮮な反応だった。
私にとっての一番は、
いまは年齢的にも金銭的にも購入できないけど、この世界のエロゲをプレイする日を心待ちにしている。だから、TS予定イケメンくんにとっての一番が自分じゃなくても気にならないってのもある。自分にできないことを、他人に求めるのはちょっとね。
ただ、もし、TS予定イケメンくんにとっての一番が自分だったら……うれしい、かも──はいやめー! この話題もやめ! やめろ!! おばか!!!
④付き合って三ヶ月になるのにセックスなし
「ほんっとに、ほんとにもう! ありえない!!」
「体の相性の確認なしに三ヶ月もよくもったね!?」
「わたし、途中解散よりもこっちの方にビックリした! そんな人いるんだ!?」
「ねえ、そのカレシ、大丈夫? その、アレ的な意味*2で……」
…………そういやここ、男性向けエロゲみたいなことが起きる世界だったなぁ。
前世との価値観の違いっぷりを目の当たりにして、なんか、改めて実感してしまった。
この世界は、昔からずーっと出生率が低い。なので、自然と
そうだ。
そうだった。
セックスするのがフツウなんだ。
浮かれていた頭がスッと冷える。TS予定イケメンくんとのデートがあんまりにも少女漫画していたから、前世基準でカレシカノジョを考えていた。
今世基準で言うならば、TS予定イケメンくんの対応は、たしかにおかしい。
じわりと、嫌な予感がにじむ。
いや、展開としては悪くない。三ヶ月も経っているのだから、私の方からセックスしようと誘っても問題ない。ガツガツしているとは思われないだろう。
セックスして、それで、おしまいだ。
胸がちくりと痛む。
──何もしなければ、このままずっと一緒にいられるんじゃないか。
かすかに浮かんだ気の迷いを打ち消すように、自分に言い聞かせる。何度も何度も繰り返す。
TS予定イケメンくんはいずれ”ヒロイン”になる。相手はたぶん、親友”主人公”くんだ。何もしなくても、別れはいずれやってくる。ならば、自分の目的をしっかり果たして、後腐れなく別れなければ。自分のために。
──そうやって自分に言い聞かせないといけない時点で、だいぶ好きでは?
せやな。
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第三十話 恋をしている女の子は
寝る準備を済ませてベッドの上に正座し、スマホと向かい合う。なんやかんや理由をつけて、ウダウダと先送りにしていた。けれど、もう寝るしかすることがない。
「……お誘いのメール、送るかぁ」
我が家は両親そろって共働き。最近は、海外出張の準備のために仕事の引継ぎやら何やらで、毎日とても忙しそうだ。二人ともいつも夜遅くに帰ってくる。
おうちデートをするにはもってこいのシチュエーションだ。
『今度のデート、うちに来ない?』
しばらくためらった後、送信ボタンをタップする。緊張で指の動きが固い。思ったよりもすぐにメッセージに既読がついた。待って待って、心の準備が出来てない。スマホを放り投げたくなる気持ちを抑えて、返信を待つ。
『うん、いいよ』
ホッと肩の力が抜けた。いつものように日時をすり合わせていく。
──来週。
来週の、放課後。クリスマスの前日。
おうちデートが! 決まりましたっ!!
クリスマス・イブにおうちデート! クリスマス当日はお出かけデートです!!
やっっった~~~~~!!
直接的にセックスしようとは送ってないけど!! そういう同意を得たと思っていいんだよね? いいんだよね!?
だって”おうちデート=セックス”ってお昼ご飯の会のみんなも言ってたし! 前世の感覚が「そこをイコールで結ぶのは発想が飛躍しているのでは?」と訴えてくるけど!! この男性向けエロゲみたいなことが起きる世界ではそうなんだもん!!
…………いや待て。ちょっと落ち着こう。ここはきちんとセックスの同意を得た方がよいのでは?
この三ヶ月、今世の感覚で清すぎるお付き合いをしてきたんだし。当日になって、TS予定イケメンくんが「そんなつもりは無かった」と言ってもおかしくない。なので、この日にセックスするという言質を取っておきたい。おきたいがぁ! 何て書いて送れと!?
え~~っと……『当日はセックスしたいんですけど、大丈夫ですか?』……さ、さすがに直接的すぎるかな。
もっとこう直接的すぎず、かつ分かりやすい表現で……『付き合って三ヶ月になるので、そろそろ体の相性をご確認いただきたく存じます』……業務連絡感がスゴい。
考えろ。考えるんだ、私。
この男性向けエロゲみたいなことが起きる世界では、付き合ってすぐセックスするのはフツウのこと。むしろ、付き合って三ヶ月、一度もセックスしてないのはあまりフツウじゃない。
ということは──
『エッチするの楽しみ! 二人の相性がいいとうれしいな』
これだ……! セックスするのが当然だと思っている人の反応を装う!! そのうえで相手の出方をうかがう!!
あとは、文末にハートでも散らしておこう。うむ。
おうちデートに誘う時よりも緊張しながら、送信ボタンをタップする。TS予定イケメンくんからは『そうだね』という返事がきた。これで”おうちデート=セックス”の言質を取ることができた。ヨシ!
おやすみなさいのスタンプを交わして、トークを切り上げた。スマホを抱えたまま、ベッドに倒れ込む。
「は~~~~……」
ぶっちゃけていい?
「どう考えてもフラグ」
クリスマス・イブて……そんなん……フラグでしかないやん……!
◆
案の定でござった。
クリスマス・イブの日。待ち合わせに現れたのは、TS予定イケメンくんの面影を残した美少女だった。目と目が合う。美少女は、おずおずと私の名前を呼んだ。
私は、現実を受け入れたくなくって、最後の抵抗を試みる。
「えっと……妹さん、かな? よく似てるね」
「違うんだ。……本人なんだ」
そっか~~~~! やっぱり~~~~~!!
人の多いところで話すことでもないということで、近くのカフェに移動する。先を歩く美少女の後を、のろのろとついていく。足取りが重い。
お店に入って、席について、注文して、飲み物が届いて。湯気の立つ紅茶をぼうっと眺める。すべてがボンヤリしていて現実味がない。
「別れてほしい」
ただ、その言葉だけが鮮明に聞こえて。ようやく意識がハッキリした。
「僕は、その、女の子になってしまったし。このまま付き合い続けるのは難しいと思うんだ」
私としても、別れない理由は無い。
TS予定イケメンくんと付き合っていたのは、処女でなくなるため。性転換した今、もう目的を果たせないのだから付き合い続ける意味は無い。
──いや、でも。
ここは男性向けエロゲみたいなことが起きる世界だ。男性向けエロゲには、百合ゲーやレズゲーもある。男の娘ゲーやショタゲーだってある。異性愛だけがすべての世界じゃない。
それに、処女でなくなる条件が、男女間でのセックスだけだと定義されているわけでもない。別に、このまま付き合っても──
はたと気づく。
『別れない理由は無い』はずなのに、必死になって『別れない理由』を考えている。どうして、なんて、今さらだ。
「わ、たしは……性別なんか、関係なくて……」
覚悟を胸に、顔を上げる。
「きみのことが……」
ずっと前から分かっていた結末を受け入れる時が来た。
「──すき」
TS予定イケメンくん──いや、TS”ヒロイン”ちゃんは、目を見張った。私をじっと見つめ、何かを言おうとして口を開き、ぎゅっと引き結ぶ。そして、「ありがとう」と言った後、「ごめん」と申し訳なさそうな顔でつぶやいた。
「いま、はじめて気がついたんだけど……」
ああ──
「僕、好きな人がいるんだ」
恋をしている女の子は、なんて可愛いんだろう。
◆
TS”ヒロイン”ちゃんが席を立った後、私は静かに泣いていた。カフェの人には本っっ当に申し訳ないのだけれど、涙が止まらなかった。
どのくらい泣いていたのだろうか。すっかり日は落ち、通りではクリスマスイルミネーションがチカチカと瞬いている。
窓の外が暗くなったので、カフェのガラスに映る自分の顔がはっきり見えた。TS”ヒロイン”ちゃんの顔と比べたら、あんまりにもボロボロで。自分が失恋したんだということを、まざまざと突きつけられるようだった。
──恋している自分はどんな顔をしていたんだろう。
彼の隣にいた自分の顔を、私は見たことがない。
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挿話④ 君が好き 前編
「そういや、今のコと付き合ってどんくらいになるんだ?」
ずいぶんとにぎやかになった昼休みの時間、ヒロの隣に座るアンジェとイヴィルは、いつもの
「三ヶ月くらい、だね」
「マジか! すげー長いじゃん!!」
言われてみれば、たしかに。付き合った期間の最長を更新している。今までの最長は一ヶ月、最短は一日……だったかな*1。
「いや~、よかったよかった! 俺、心配してたんだぜ? お前のコイビト関係、なんかフワッフワしてたからさぁ」
ヒロは、まるで自分のことのようにうれしそうに笑う。
「それで、どんなコなんだ? たしか、一個下なんだっけ?」
「うん、そう。ここから数駅離れたとこにある学園に通ってて──」
今まで付き合ってきた女のコは、始めのうちはニコニコとしているのだけど、だんだんと沈んだ顔になっていった。そして、『別れる』と僕に告げる。『思ってたのと違う』『つまんない』『ウチのことなんてどうでもいいんでしょ』『うそつき』『なんで』『どうして』──いつも、泣かせたり怒らせたりしてしまうばかりだった。
このままでは良くないと、ヒロや妹に相談したり、妹から少女漫画を借りて勉強したりしてはいた。けど……女のコから告白されては、女のコからフられての繰り返し*2。
いっそ、誰とも付き合わない方がいいのでは? と思ったこともあったけれど……なぜだかそれは選べなかった。
『カレシになってください』
『いいよ』
あの出会いが、偶然なのか必然なのかは分からない。僕に分かるのは、付き合い始めてからのことだけ。
デートの時、あのコはいつも楽しそうに笑っている。
僕の話*3をうれしそうに聞いてくれる。別れ際も僕のことを笑顔で見送ってくれる*4。そんなことは初めてだったから、すごくビックリした。
──困ったな。
「…………?」
ふって湧いた自分の感情に戸惑う。困ることなんて何もない。あのコとなら、このまま良いお付き合いを続けられる。とてもいいことだ。
僕は、いったい何を──
「っと、悪い。ちょっとあの二人止めてくる」
話が途切れたタイミングで、ヒロは断りを入れると席を立った。アンジェとイヴィルはいつの間にか教室の後ろに移動していて、取っ組み合いのケンカをはじめている。
「ムキーッ! もう許しませんわ!!」
「あはははっ、ムキーッて! サルかよ!! ウケる~」
たしかに、これ以上放っておくと
彼女たちが異世界からやってきて、ヒロの周りは毎日が大騒ぎ。ヒロのご両親が異世界で厄介ごとを片付けている間、世話係として
でも、二人に振り回されるヒロは、なんだかんだ楽しそうで。少し前のふさぎ込んでいる姿を知っているから、なおのこと良かったと思える。……僕では、ヒロを引っ張り上げることができなかった。
「ウギギー!」
「ぐぬーっ!」
もみくちゃになっているアンジェとイヴィルの間に割って入ったヒロは、何やら話をまとめたらしく、僕の方を振り返った。
「おーい。今度の休み、近くのショッピングモールに行くことになったんだけど、お前も来る?」
行くと返事をしかけて踏みとどまる。
「ごめん、その日はデートなんだ」
「デート! デート!! お互いの愛を深める素晴らしい行いですわね!! ヒロ様、ワタクシたちもデートしましょう! デート!!」
「おいアンジェ! 抜け駆けしようとしてんじゃねぇ!! ヒロ坊、アタシとデートしよ! なっ!?」
「いだだだ、痛いって! ええい、引っ張るな!! ただの買い物でデートじゃない!!」
三人のやりとりがおかしくて、思わず笑ってしまう。あのコとのデートの約束が無ければ、僕も一緒に行けたのにな。ちょっぴり残念だ。
──でも、別れる理由が無いからなぁ。
「…………は?」
するりと出てきた自分の考えに愕然とする。そして、すとんと腑に落ちた。どうして、今までのカノジョと長続きしなかったのか。
僕は、あのコに──いや、カノジョになってくれた人間に興味が無い。
あんまりな理由にめまいがする。フられて当たり前だ。カノジョたち個人を何も見ていなかったのだから。
──ただ、女のコにカノジョでいてほしかっただけ。
僕は、何を……何を考えているんだ? どうしてそんな最低なことをしなければならないんだ? 理解できない。自分が何を求めているのか分からない。
真っ白になった頭の中に、今まで付き合ってきた女のコの泣いた顔や怒った顔が浮かんだ。どれだけ謝ろうと、もう取り返しがつかない。彼女たちを傷つけてしまった過去はなくならない。
最後に、こんな最低な僕にいつも笑いかけてくれるあのコの顔が浮かんだ。
──まだ、間に合う。
ちゃんと向き合おう。向き合わなければ。僕は、あのコのカレシになったんだから。
「ヒロ、僕はデートだから、ショッピングモールには行かない」
「ん? ああ、うん。聞こえてたぜ。オッケー」
◆
今日は公園でデートをする日。僕たちは、手をつないで遊歩道をぶらぶらと歩く。彼女は気づいていないようだけど、いつもよりもずっと緊張していた。
自分の最低さに気づいてから、今まで付き合ってきた女のコたちにしてしまったことをグルグルと思い返すようになった。
女のコたちが、つまらなさそうな顔や悲しそうな顔、怒った顔をしていた時、自分が何を言ったのか、何をしてしまったのか。申し訳なさに押しつぶされそうになりながら、ひたすらに反芻して、対策を考える。
そして、とにかく彼女の話を聞いて、彼女といっしょにいると決めた。
優先しなければと思っていたのだけど――気がついたらヒロの話になっていたし、妹からの電話に出てしまったし、ヒロたちの元へ向かおうと思ってしまった。
通話は、助けを求める妹の叫び声を最後に切れてしまった。とても心配だ。けど、言わなければ。「デートだから行かない」と「君と一緒にいる」と、言わなければ。だって今はデート中で、僕はカレシなんだから。
「じゃあ、今日はここでお開きということで」
僕が何かを言う前に、彼女はそう言った。つないだ手を離し、穏やかに笑った。なんで。どうして。今までのカノジョは。
──ああ、僕はまた、間違えるところだった。
当たり前のことが頭から抜け落ちていた。彼女は、今までの女のコたちとは違う人間で。過去の記憶を掘り返したところで、彼女と向き合うことになんてならないんだ。
──ちゃんと、ちゃんと向き合わなければ。
僕なりの誠意を込めて、彼女の唇へ自分の唇をそっと重ねる。柔らかな感触。口づけ。恋人らしい行為の第一歩。
少しは、カレシらしいことができたのだろうか。
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挿話④ 君が好き 後編
体育の授業中、ヒロといっしょに短距離走の順番待ちをする。吐く息が白い。
「なあ、明日のクリスマスパーティーだけどさぁ……って、そっか」
ヒロは途中で話を切ると、モゴモゴ言葉を濁して頬をかく。
「あ~~……クリスマス・イブはカノジョの家で、だったっけ」
なんでヒロが赤くなってるんだろう。
「うん、クリスマス当日はデートする予定」
「いや~、毎年お前とクリスマス過ごしてたから、うっかりしてたぜ」
ヒロの家と僕の家は隣だから、小学校の時から季節のイベントはだいたいヒロといっしょだった。言われてみれば、クリスマスを別々に過ごすのは初めてかもしれない。
「にしても、カノジョとクリスマスか~! いいな~!!」
このこのと肩をぶつけられる。けっこうな勢いで、思わずよろけてしまった。
「ま、俺は俺で楽しむからさ! お前も楽しんでこいよ!」
「う、ん……」
カレシとして真摯であろうとすればするほど、いつも通りがいつも通りじゃなくなっていく。でも、それが当たり前で。きっとあのコと一緒にいることが、僕のいつも通りになっていくのだろう。
隣に並んで立っているのに、ヒロと僕の距離が遠く離れてしまったような気持ちになった。
──さみしいな。
思わず浮かんだ寂寥感を振り払うように空を見上げる。チカと、遠くで何かが瞬いた。白と黒と灰色のエネルギーが激しくぶつかり合いながら降ってくる。
「ヒロ! あぶない!!」
考えるよりも先に体が動いていた。
「は?」
呆けているヒロの体を思いっきり突き飛ばす。次の瞬間、僕の体は光の束に貫かれていた。
◆
──それは、死ぬ間際に見る走馬灯だったのかもしれない。
小学校高学年に上がってすぐくらいのころ。ヒロは隣の席の女のコに恋をした。けれど、そのコは僕のことが好きだった。
『お前がいると俺にいっしょうカノジョできねーじゃん! お前の近くにいるのヤだ!!』
今から思うと、初恋に破れたヒロの八つ当たりだったんだと思う。
ただ、当時の僕はこう思った。それは困る。僕はヒロといる方が楽しい。ヒロといっしょにいるにはどうすればいいんだろう。
浅はかだった幼い僕は、短絡的な解決方法を思いついた。
そうだ、カノジョを作ればいいんだ。僕にカノジョがいれば、僕のカノジョになりたいって女のコはいなくなる。ヒロといっしょにいられる。
──そのうちにキッカケを忘れて、僕は女のコにカノジョでいてもらうことを求める人間になった。
◆
目が覚めたら、放課後で、僕は女のコになっていた。
「お、お兄ちゃんが……お姉ちゃんに……」
連絡を受けてやってきたらしい妹が、保健室の入り口で呆然と立ち尽くしている。
「たいっへん申し訳ありませんでした!!」
「さすがのアタシでも謝るわ! スマン!!」
アンジェとイヴィルは半泣きになりながら、ベッドサイドで頭を下げた。話を聞くと、彼女たちは、異世界からやってきた狂った神と交戦中だったらしい。その戦いの余波に、僕は巻き込まれてしまったのだとか。
そして、二つの神力と魔力が複雑に絡み合っているせいで、元に戻るのは難しいと告げられた。
──僕は……僕は、安堵していた。
女のコになったから、もうカレシをがんばらなくていいんだ。いつも通りに戻っていいんだ。……ヒロの隣に立っていていいんだと、思ってしまった。
◆
「別れてほしい」
クリスマス・イブの日、向かい合って座る彼女に、僕はそう言った。自分から別れを告げるのは、初めてのことだった。
「僕は、その、女の子になってしまったし……このまま付き合い続けるのは難しいと思うんだ」
どこかボンヤリした様子だった彼女は、たどたどしく口を動かす。
「わ、たしは……性別なんか、関係なくて……」
ゆっくりと顔を上げ、しっかりとぼくを見据えた。
「きみのことが……」
その目には輝くような強い意志が宿っていた。
「──すき」
思ってもみなかった言葉に息をのむ。すき……好き?
──僕のことが、好き?
聞き返そうとして、言葉を飲み込む。飲み込んだ言葉が胸の内に広がっていく。
僕は、初めからずっと間違えていた。僕がしなければならなかったのは、カレシらしく振る舞うことじゃない。彼女のことを知って、彼女を好きになることだった。けれど──
僕が好きなのは。
好きという言葉で思い浮かぶ相手は。
「ありがとう」
ちゃんと彼女の目を見つめる。
「ごめん」
彼女の目にじわりと、涙が浮かぶ。怯みそうになる自分を奮い立たせる。彼女に──いや、自分の気持ちに、向き合わなければいけない。
この気持ちが、家族としての好きなのか、友情としての好きなのか、恋愛としての好きなのか。そんなことすら分からない。けれど、僕の心に、好きという気持ちがはじめて生まれたんだ。
「いま、はじめて気がついたんだけど……」
僕は今から、僕の都合だけで、彼女を傷つける。
「僕、好きな人がいるんだ」
君のことを、好きになれなくて、ごめん──
◆
「ひっ、ひぐっ……ぐすっ……」
頭から毛布をかぶり、震える手でスマホを操作する。僕には、もう彼女しかいなかった。藁にも縋る思いで、コール音を聞く。通話に出た彼女に名前を伝え、返事を聞く前に自分の気持ちを吐き出す。
「ふ゛ら゛れ゛た゛」
『ええ~~~……』
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第三十一話 選ばれなかった二人
電話に出たら、元カレのTS予定イケメンくん──いや、TS”ヒロイン”ちゃんだった。着信相手をしっかり確認しなかったことを後悔する。着信拒否なり、ブロックなりしておけばよかったなぁ。自らの未練がましさを恨みつつ、すぐに切ろう──
『ふ゛ら゛れ゛た゛』
「ええ~~~……」
お、お、お、おまえ~~! そこは上手くいくところでしょうがよ!! そんで「私をフって幸せにやりやがって、恨んでやる──っ!」って叫びたかったよ!! 私は!!!!
そもそも! なぜ!! フった相手にフられた報告するんじゃい!!
……と、思ったけども。付き合ってた時に聞いてた話から察するに、TS”ヒロイン”ちゃんは交友関係とても狭い。友だちが親友”主人公”くんしかいないっぽい。エロゲのメインキャラって、友だちが少ないよね*1。
あとは、妹ちゃんと部下”ヒロイン”ちゃんたち、か。おそらく恋のライバルであろう彼女たちに、告白してフられたなんて話をできるはずがない。
うん、消去法で私に電話するしかねぇ!
いつ電話を切ろうかと思っていたけど、相手のボッチっぷりに気づいてしまった。ここで電話を切るのはあんまりにも無情すぎる。しょうがねぇなぁ! 聞いてやるよ!! と思いつつ嗚咽まじりの話し声に「うんうん」と相づちを打つ。
そして思わず言ってしまった。
「そらフられるよ」
「どうじで」
TSしたのが23日、別れたのが24日、告白したのが25日て。攻略がド下手すぎる。
そりゃあ「友だちとしか思えない」と言われても仕方ない。たった三日で、親友”主人公”くんのTS”ヒロイン”ちゃんに対する認識が変わるってのは無理がある。
TSヒロインのいちばんの強みは『距離の近さ』と『油断』だ。ふざけて肩を組む。スカートであぐらをかく。男なら当たり前の動作を女の子がする。しかも、恥じらいなく。危なっかしいわエッチだわで、見てる方はドキドキせざるを得ない*2。
そして、TSヒロインのいちばんの旨みは『自分は女の子であると理解した瞬間』だ。男性性の喪失と女性性の獲得。そこから生じる感情。最高においしい*3。
とまあ、そういったニュアンスの話を、オブラートに包んで伝える。
「じわじわ時間をかけてアピールするべきだったと思うよ?」
「だっで、好ぎになっぢゃったんだもん~~~!!」
振り絞るような泣き声。電話の向こうで、TS”ヒロイン”ちゃんが昨日の自分と同じ顔をしているのかと思うと、不思議な気持ちになる。
エロゲにあるのはハーレムエンドだけじゃない。
数だけで言うのならば、個別エンドの方が豊富だ。当たり前だ。攻略対象の数だけルートがあるのだから。どれだけ共通ルートでイチャイチャしてようが、主人公に選ばれなかったヒロインは恋人になれない。
この世界は、基本的に一夫一妻制だ。
単純に、一夫一妻の夫婦の数が多いのだ。モブキャラやサブキャラな人々もだいたい一夫一妻だし、”主人公”や”ヒロイン”も一夫一妻の方が、実は多い。たった一人の”ヒロイン”を選ぶ”主人公”がいるということは、きっと選ばれなかった”ヒロイン”もいるのだろう。
そんなものなのだ。エロゲも、エロゲみたいなことが起きる世界も。
「好きな人に好かれないってツラいねぇ」
「つ゛ら゛い゛~~! ごべんなざぁ~~いっ!!」
しょうがないなぁ。イヤみはこのくらいにしてあげよう。
それにしても、こうやって腹を割って話したのは初めてかもしれない。付き合っていた時は、なんというか『いいカノジョだと思われたかった』から、イヤみを言ったり怒ったりしないようにしてた気がする。
別れた後の方が、気安く話せるなんて。なんだかおかしくなって笑ってしまう。
こうして、私とTS予定イケメンくん──いやTS”ヒロイン”ちゃんは、元カノと元カレになった。
◆ TS予定イケメンくん&TS”ヒロイン”ちゃんについて
実は、このまま放っておくとフられたことをきっかけに心の隙間を狂った神に蝕まれ、闇堕ちしてヤンデレに進化していた。”主人公”くんを監禁陵辱し、第三勢力として”ヒロイン”ちゃんたちの前に立ちふさがるはずだった。が、そのルートはもうなくなった! 泣き言を聞いてもらうだけで救われることもある。
男性向けエロゲで例えると、主人公をサポートしてくれる親友サブキャラ(男)にファンディスクでTSする男の娘サブキャラ(男)属性を足した感じ。TS予定イケメンくんは男の娘ではないが、「お前、女でもモテてただろうなぁ」と言われるタイプ。
※ 男の娘のTSについてですが、実際にそういうエロゲもあるよという話として出しました。男の娘のTSを推奨しているわけではありません。作者は男の娘のままでもTSしても、どっちも好きです。
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第三十二話 繁華街へ逆ナンに行こう!
年度末が近づき、少しずつ寒さが緩み始めた今日この頃。私は、処女でなくなること半ば諦めていた。
だって! これまでいろいろとやってきたけど、ぜんぜん上手く行かなかったんだもん!!
さすがに疲れたわ!!
そろそろ腹をくくって、同人エロゲの”女主人公”を回避するのは諦め、”女主人公”になった後の対策に注力した方がいいかも。などと考えていた時だった。
「逆ナンに行きたい~~?」
あまりにも突然の提案に、思わずすっとんきょうな声をあげてしまった。電話の相手であるTS”ヒロイン”ちゃん*1は、プンプンと怒った様子で『そう!』と返事をする。
「いやいやいや、誘う相手を間違ってませんかね? ワタシ キミにフられた オーケー?」
『そうだけどさぁ……』
さっきまでの勢いはどこへやら。しおしおと元気が無くなる。
『たしかにね、僕はフられたし、友だちのままでいるってことに納得したさ。でもさ! まったくもって依然と対応が変わらないって何!? たまに「あれ? 僕って女のコになったんだよね??」って思ってしまうレベルで! 対応が! 変わらない!!』
「見た目で対応を変えないなんて、めちゃくちゃいい人じゃん」
おっと思わず余計なことを言ってしまった。TS”ヒロイン”ちゃんは、ヒートアップしていた気持ちがシュンと萎えたらしく、めそめそ泣き始めた。
『そうなんだよぉ~~!』
相変わらず、親友”主人公”くんに関することは、情緒の乱高下がスゴい。ただ、これでもマシになった方だ。もう三ヶ月近く経ってるし。
『そういうところが好きだったんだよぉ~~!!』
好きだったというか、今でも好きで気持ちの整理*2が追いついてないんだろうなぁ。
『だから逆ナンに行く!! 女の子扱いしてもらう!!!!』
なるほどね。女の子としての意識を高めつつ、前の恋を忘れるための逆ナンかぁ。
まあ、TS”ヒロイン”ちゃんは、ものすごく可愛いので、逆ナンなんてちょちょいのちょいだろう。
しかし、ここは男性向けエロゲみたいなことが起きる世界。前世の日本と比べると、治安がものすごく悪い。そのうえ、犯罪のほとんどは”主人公”たちや”ヒロイン”たちに集中する。
そんな世界で、”ヒロイン”が繁華街で逆ナンなんてした日には……即堕ちでアへ顔ダブルピース待ったなしだ。
けれど、『逆ナンに行く!』と息まくTS”ヒロイン”ちゃんに「危ないから止めなよ」と言ったところで、逆効果になりそうだよねぇ。『一人でも行く!』とか言い出しそう。
ロクなことにならないだろうと知りつつ、TS”ヒロイン”ちゃん一人で逆ナンに行かせて、何かあったら後味悪いよなぁ。ついていってそれとなく逆ナンを阻止した方が、なんぼかマシか。
せっかくだからショッピングとしゃれこもう。ちょうど春服が見たかったんだよね。
『じゃあ、今週の土曜日! 11時に駅前で!!』
「へいへい」
──そもそも。
好きな相手から
まあ、ここら辺は個人差か。
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『選択肢』
コツ、コツとだだっ広い廊下に自分の足音が響く。極めて憂鬱な月曜日の朝だ。また、一週間が始まってしまった。
いつでも一言一句変わらぬ授業内容。ほとんど同じクラスメイトの雑談。違うのは、友だちとの会話だけ。しかし、それもそのうちパターン化されてしまった。
俺の発言や行動で、多少のブレを生じさせることはできる。けれど、一週間が経てば、また
──俺は、同じ一週間をずっと繰り返している。
いったいどうすればいいんだ。
どうすれば、このループから抜け出すことができるんだ。
「おい、廊下の真ん中に突っ立って何してるんだよ。通行の邪魔だ」
後ろからとげとげしい声をかけられた。振り返ると、
──今回はこのパターンか。
わりと悪くない引きだと思う。場合によっては、一週間と経たずに月曜日へ戻されることもある。だが、アカヤと会うパターンはほぼ確実に日曜日まで行ける。
「ああ、いや、ボーッとしてた。悪い」
「ふん」
俺が廊下の端に移動すると、アカヤは通り過ぎることなく俺の前で立ち止まる。苛立たし気に首をかしげると、さらりとした金髪が揺れた。
「言えよ、聞くだけ聞いてやるから」
腕を組み、ふんぞり返って上から目線。どうやら話を聞いてくれるらしい。
アカヤはいいやつだ。口は悪いけど、面倒見がいい。名字から分かるように、あの御々田蒔財閥*2の御曹司なのに、『ぽっと出おんぞーし』の俺*3にも、こうやって声をかけてくれる。男友だちの中で、いちばんよく話してるんじゃなかろうか。
相談にのってくれたり、愚痴を聞いてくれたりすることに対して礼を伝えると、ふんと鼻を鳴らして「それを言う相手はオレじゃない」と言う。謙虚なのか何なのかよく分からない。ただ、信頼できることは確かだ。
だから、いつかのループでアカヤに会ったときに、この
アカヤは、こんな嘘みたいな話を笑うことなく聞いた後、「オレの方でも探ってみる」と言ってくれた。けれど、以後、そのループでアカヤに会うことはなかった。御々田蒔財閥の力をもってしても、一週間以内に調べがつかなかったということなのだろう。
──一瞬、真っ赤な光景が脳裏にフラッシュバックする。
悩み過ぎて立ちくらみでも起こしただろうか。額に手を当てながら、首を振る。
「いや、なんでもない。大丈夫だ」
「またアイツらに無茶ぶりされたんだろ」
アカヤが辟易した声で言う”アイツら”とはメイドサークルの面々のことだ。この学園でも変わり者のお嬢様たちで、サークル活動としてメイドをエンジョイしている。ひょんなことから、俺は彼女たちのご主人様になってしまった。
それ以来、ほぼ毎日、メイドサークルの活動に巻き込まれるか、メイドサークルの誰かといっしょにいた。しかし、一週間がループするようになってから、その生活も変わってしまった。
「いや、最近は顔も合わせてないくらいで……」
ループを経験して分かったことの一つ。メイドサークルの誰かに会うと、日曜日までたどり着けずにループが終わってしまうことが多い。だから、申し訳ないが、意図的に避けるようにしていた。
怪訝そうな顔でアカヤが眉をひそめる。
「昨日も、アイツらにたかられてたじゃないか。アリに群がられる角砂糖みたいだったぞ」
そう言われて、ハッと気づく。昨日──日曜日は、俺の体感時間では遠い昔のできごとだけど、アカヤからすると本当に昨日のできごとなのか。ややこしいな。
アカヤは、大きくため息をついた。懐から、きれいに折りたたまれた紙を取り出すと、俺に向かって突き出す。
「やる」
「無記名の、外出許可証……」
ここは、上流階級しか通えない全寮制の学園で、関係者の出入りすら厳しく制限されている。だから、学生用の外出許可証なんて、ちょっとやそっとじゃ発行してもらえない。しかも、
「手に入れた方法は聞くなよ。蛇の道は蛇ってやつさ」
「何も言ってないだろ」
「顔に出てた」
アカヤは踵を返すと、「じゃあな」と言って去っていった。その背中に「ありがとう」と声をかける。
俺は、まじまじと手元の外出許可証を見た。
「今週の、土曜日」
アカヤから無記名の外出許可証を譲ってもらうのは──
疑似的に選択肢を選べるようアンケートを設置しました。
どちらのルートを先に書くかというだけのアンケートです。
最終的に両方のルートを書くので、気軽にお選びください。
ちなみに、一方は”女主人公”回避ルート、もう一方は”女主人公”ルートです。
※3/23 18:00〆切
◆
3/23 18:00追記
投票を〆切いたしました!
ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました~!!
アカヤから無記名の外出許可証を譲ってもらうのは――
『初めての出来事だ』
こちらのルートから書きます。
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第三十三話 ドキドキ♡逆ナン大作戦
土曜日、11時に駅前へ着くと、思わず見とれてしまうほどの美少女がいた。クリーム色のポンチョコートにチェックのスカートがとても似合っている。
辺りをキョロキョロ見まわし、私を見つけると手を振りながら笑顔で駆け寄ってきた。もちろんTS”ヒロイン”ちゃんだ。ヘアスタイルもファッションもばっちりキマっている。逆ナンの準備は万全、ということだろう。
「あれ、メイクもしてる?」
「うん! 妹にしてもらった!!」
ほぉ~、妹ちゃん、ナチュラルメイク上手いなぁ。前世の私が同じ年頃のころは……う~ん、日焼け止めはね! つけてた!!
それはさておき。もともと可愛いTS”ヒロイン”ちゃんにナチュラルメイクが合わさり、最強に可愛くなっている。
「えらく気合い入ってんねぇ~」
「そりゃそうだよ!!」
腰に手を当ててエッヘンと胸を張る。私よりも大きな胸がゆっさりと揺れた。でかい。
「そうだ。これ、もらってきたんだ」
TS”ヒロイン”ちゃんは、カバンから紐を取り出した。20~30㎝くらいだろうか。
「ちょっと手を出してくれる?」
素直に手を差し出すと、私の手首にその紐を結わえる。金糸と銀糸が混じった紐に、横向きの8の字──無限マークのパーツがついている。
「これって、ミサンガ?*1」
TS”ヒロイン”ちゃんも、同じデザインのミサンガを身に着けていた。
「そう。これを身につけてると、魂?的な何かが高められて、自分に相性の良い人を引き寄せてくれるんだって! 二本もらったから、一本あげるね」
キュッと唇を引き締める。思わず「う、うそくさ……」と言いそうになったのをこらえるためだ。まあ、効果があるかどうかは分からないけど、デザインもかわいいし、くれるんならもらっとこう。
「ありがとう。でも、ものすごく高そうだけど、タダでもらってもいいの?」
「大丈夫。僕も迷惑料としてタダでもらったから」
……それ、騙されてない? ほんとに大丈夫??
◆
TS”ヒロイン”ちゃんの『ドキドキ♡逆ナン大作戦』は、早々に頓挫した。そもそも、逆ナンせずとも、歩いているだけで向こうがバンバン声をかけてきた。
初めは機嫌よく応じていたTS”ヒロイン”ちゃんだったけど、昼を回る頃にはウンザリとした様子で相手をあしらっていた。しまいには、私のと交換したロングコートで服を覆い、サングラスとキャスケット帽で顔を隠すことになった。
ちなみに、私はその様子を透明人間になった気持ちで見ていた。どうやら、ナンパ男くんたちには隣にいる私の存在が見えていないらしかった。まあ、お互いにモブだからね。TS”ヒロイン”ちゃんのオーラに目を焼かれて、彼女しか見えなくなるのもさもありなん。
今は、くたびれたので休憩中。おしゃれなカフェの奥まったテーブル席でのどを潤す。TS”ヒロイン”ちゃんは、水を一気飲みすると、机に突っ伏して長々とため息をついた。
「僕、男に声をかけられても、ぜんっぜんうれしくない……」
う~~ん、すっごく根本的な問題だぁ!
なお、性別が変わってから三ヶ月も経つのに今まで気がつかなかった理由は、繁華街へ出かける時はいつも親友”主人公”くんがいっしょだったからだそうな。めっちゃ気を遣ってもらってますやん。親友”主人公”くん、相変わらずいいヤツだなぁ。
「……性別が女のコに変わったから、男を好きになるようになったんだと思ってたけど、違った……」
「あ~~、あれかぁ『君だから好きになったんだ!』って感じ?」
「それ~~~~!」
TS”ヒロイン”ちゃんはガバッと顔を上げると、眉をへんにゃり下げた。目じりにじわっと涙が浮かぶ。
「いま泣いたら、メイクが崩れて顔がたいへんなことになるからガマンしなね」
「うぐぅ」
かなりの薄化粧だけど、マスカラつけてるしアイライン引いてるから泣くのはヤバい。TS”ヒロイン”ちゃんは、ぎゅううっと眉根を寄せて泣くのをガマンしている。それはそれでファンデが崩れそうだ。
メイクの話は置いといて。つまり、TS”ヒロイン”ちゃんにとって恋愛対象は親友だけってこと? ……なんて前途多難な。TS”ヒロイン”ちゃんに良いことがあるように祈っとこう。
「どうする? もう帰る?」
TS”ヒロイン”ちゃんがだいぶ疲れてそうだったのでそう提案したけど、彼女は「せっかく休日にここまで出てきたのに、もう帰るのはなぁ」と悩んでいる。そういうことなら、当初の予定を達成させてもらおう。
「じゃあ、買い物しない? 私、春服が見たいんだよね」
「うん、そうしよう! ファッションはよく分からないから、僕は見てるだけだけど」
「あれ? 今日の服は?」
「妹が選んでくれた」
妹ちゃん、メイクもファッションもいけるんか。マジでスゴいな。
アンケート募集期間内ですが、まだ共通ルートなので普通に更新します。
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第三十四話 エロゲの世界のファッション
男性向けエロゲみたいなことが起きる世界のファッションは、男女ともに体のラインが出ていることが多い。そして、レディースのだいたいの服に、乳袋がついている。
乳袋とは、おっぱいの円錐のカタチに生地が張りついているように見える洋服の描き方の通称だ。ブラジャーやコルセット、ビスチェに袖や襟がついて洋服になっていると想像すると分かりやすいかもしれない。
まあ、あんまり褒める意味で使うことはない。だいたいは、
ただ、リアリティのみを重視するとおっぱいとくびれの描写が両立できない……げふんげふん。
とにかく。
乳袋の表現は、好きな人もいれば嫌いな人もいる。そして、前世の感覚で言うと、乳袋は実現の難しい洋服ということだ。
コルセットやビスチェという前例があるので、できないわけじゃない。しかし、個人個人の体のラインに沿った縫製が必要になるので、オーダーメイドになるだろう。市販の既製品では難しい。
でも、この男性向けエロゲみたいなことが起きる世界の服には、市販の既製品にも乳袋がある。それはなぜか。私が考えるに理由は二つ。
一つは、基本的に女性の胸が大きく、またサイズがバラエティに富んでいるから。下はAカップから、上はZカップまであり、人数の分布は後半のカップ数に偏っている。女性の平均バストが大きいので、それを前提としたデザインになっているというわけだ。乳袋って、ようするにコルセットに近いから、安定感があるんだよね。
もう一つは、この世界の洋服のほとんどが、ものすごく伸縮性のある生地で出来ているから。この伸縮性のある生地、今世では綿や麻に並んで一般的なんだけど、前世では聞いたこともない素材なんだよね……なんなんだろう、これ……。
そんなわけで、男性向けエロゲみたいなことが起きる世界の服はシャツもセーターも、ぴっちりしてるのが当たり前。とくに、胸の部分の伸縮性がすごい。どんなサイズのおっぱいでも、ワイシャツのボタンがキレイにとまる。
なんてことをツラツラ考えながら、ショッピングを楽しむ。ここは駅ビルの中にあるレディースブランドオンリーのフロアだ。ナンパを気にせずお買い物ができる。
お、このスカートかわいい。
「これ、どうかな?」
ヒロインちゃんが指さすフリルシャツを手に取ってみる。
「うーん、冬物のセール品かぁ。値段は安いけど、色がなぁ。生地も厚手だし、これから着るのはちょっとって感じだね」
「難しいな……何がどう違うのか、僕には分からないよ……」
「トレンドとかが気にならないなら、いま買って来年の冬に着てもいいんじゃない? カタチはシンプルだし、たぶんいける」
ちなみに、最近のトレンドは乳袋のゆるめな服だ。オーバーサイズな感じで服を着ることで、こなれ感や細見えを演出する。前世の感覚で言うと乳袋と乳テント*1の間が近いかもしれない。
◆
そろそろ日も暮れるし、帰ろうかと話していたら、後ろからビックリしたような声が聞こえた。
「お兄ちゃ、じゃなくて、お姉ちゃん!」
TS”ヒロイン”ちゃんが振り返ったので、私もつられて振り返る。背の低い美少女がうれしそうに両手を振っている。年齢は私よりちょっと下かな。たぶん、TS”ヒロイン”ちゃんの妹ちゃんだろう。
TS”ヒロイン”ちゃんがキレイ系清楚美少女だとすると、妹ちゃんはカワイイ系小動物美少女だ。わしゃわしゃと頭を撫でて可愛がりたくなる感じ。
妹ちゃんの隣には、両腕に美少女をぶら下げた少年が立っていた。二人を振りほどこうとしつつ、気まずそうに辺りを伺っている。十中八九、親友”主人公”くんと、”ヒロイン”ちゃんたちだろう。
妹ちゃんに会釈をしながら、TS”ヒロイン”ちゃんに小声で話しかける。
「これって、ミサンガの効果ってこと?」
「……そうだとしたら、喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら……」
まあ、親友”主人公”くん一人だけに遭遇するんじゃなくて、”ヒロイン”ちゃんたちも合わせて遭遇するということは──うん、TS”ヒロイン”ちゃん的にハーレムがありかどうかかもなぁ。
ちょうどいいので、ここで解散することになった。
TS”ヒロイン”ちゃんは、妹ちゃんたちといっしょに夕飯を食べて帰るらしい。ナンパまみれになっていたTS”ヒロイン”ちゃんを独りで帰して大丈夫かと心配していたので、これで一安心だ。
「いっしょにご飯食べませんか?」と妹ちゃんに誘われたけど、遠慮した。あの面子で何を話せと。やめなさい、TS”ヒロイン”ちゃん。そんな目で見られても行きません。帰るの遅くなるし。
そんなことを話しながら、エレベーターの到着を待つ。私は地下街を通って駅へ。みんなは、10階のレストランフロアへ行くそうだ。
ふと、TS”ヒロイン”ちゃんが「そうだ」と声を上げた。
「これ、僕の分ももらってよ」
しゅるりと自分の腕からミサンガをほどくと、私の手首に結わえる。
「僕には引き寄せ効果があっても意味ないって分かったし」
「ええっ?」
結び終わったときに、ちょうど上へ昇るエレベーターがやってきた。ミサンガを返す間もなく、TS”ヒロイン”ちゃんたちはエレベーターに乗り込む。TS”ヒロイン”ちゃんはバイバイと手を振りながら笑顔でこう言った。
「これで効果が二倍だね!」
そ、そんな単純計算でいいんだろうか……?
困惑した私の顔が、閉じていくエレベーターのドアに反射して映っていた。
3/23 18:00、疑似的に選択肢を選んでもらおうアンケートを〆切ました。
ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました~!!
アカヤから無記名の外出許可証を譲ってもらうのは――
『初めての出来事だ』
こちらのルートから書きます!
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第三十五話 エロゲの世界の制服
土曜日の夕方。駅ビルの地下街には、ちらほらと学生の姿が見える。帰宅途中に駅ビルへ立ち寄って、遊んで帰るのかもしれない。
学生は、遠くから見てもすぐ分かる。赤い制服、青い制服、緑の制服などなど。カラフルで華やかで、めっっっちゃくちゃ目立つからだ。
男性向けエロゲみたいなことが起きる世界の学生服は、とてもとても個性豊かだ。アイドルが着ている学生服っぽい衣装を想像すると分かりやすいかもしれない。
基本的に上はピッチリで下はミニスカート*1。そして、おっぱいを強調するデザインが多い。あとは、ハイウェストだったり、パフスリーブだったり、レースやフリルがふんだんに使われていたりする。
リボンがヒラヒラしていたり、パニエでフワフワしていたり、女子的にもポイントの高い可愛さが備わっている。こういう服、前世からずっと着てみたかったんだよねぇ。毎朝、制服に袖を通すと心が弾む。……まあ、着たり脱いだりするのとお手入れが大変だけど。
前世の感覚でいう普通の制服──シンプルなブレザーやスタンダードなセーラー服に近いデザイン*2もある。けれど、わりと珍しい。その珍しさで、けっこう人気なんだそうな。じわじわと普通の制服を採用する学園も増えていると聞く。制服で通う学園を決める人もいるもんなぁ。
ちなみに、この世界の制服も、前世と同じで軍服から発展している。ただ、この世界の軍服、めっっっちゃくちゃきらびやかなのだ。正装や礼装だけでなく、通常時の軍服もすごくおしゃれなデザインで、カッコいい。オタク心に刺さる。
歴史上の有名な軍人さんってだいたい”ヒロイン”だもんねぇ。彼女たちを引き立たせるための衣装となると、きらびやかになるのかもしれない。軍服から発展した学生服も、自然と華やかなデザインになったのだろう。たぶん。
まあ、エロゲの制服が個性豊かなのは、現実に存在する学校の制服と被ったときに問題になるからという説が……げふんげふん。
というわけで、休日の街で制服を着ていると、とんでもなく目立つ。学園によっては絡まれる。
……あんなふうに。
「山の上のお坊ちゃんがよぉ! こんなところに何のようだぁ? ギャハハ!!」
山の上にある上流階級しか通えない全寮制の学園の制服を知ってるヤンキーってなに? 私は取り巻きハーレム先輩がそこに通うって聞いたから、お昼ご飯の会のみんなでホームページ見て知ってるけど。
……あの”お坊ちゃん”を狙って声をかけている可能性を考慮しておこう。
カバンから防犯ブザーをスッと取り出して構える。
──ヤンキーの方と相性がいい(エロゲ的な意味で)なんていう展開じゃありませんように。
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”女主人公”編
『選択肢:初めてのことだ』
学園のある山の上から、街に下りてきたのはいつぶりだろう。たしか、夏休みにメイドサークルのみんなで出かけて以来のはずだ。実際の日にちだと半年ぶり、なのか。ループしているので、体感だともっと前のことに感じる。
駅前のバスターミナルで降車する。立ち並ぶ背の高いビル。行き交う大勢の人。閉鎖的で物静かな山の上の学園と違い、なんとも開放的で賑やかだ。今までのループとまったく違う景色に、自然と心が躍る。
今日やることをリストにした紙を取り出す。占い師、厄除け神社、都市伝説、ネット怪談。でたらめなラインナップだが、もう藁にも縋る思いだ。
何回も一週間をループし続けているが、何の手がかりも見つかっていない。何がきっかけでループしているのかも、実はよく分かっていない。ただ、何かしらのルール──いや、
一週間と経たずに月曜日に戻されるなど、意図的にループさせられたような覚えがあるからだ。
学園から移動したことで、その”誰か”を引きずりだすことができないか。そんな期待もあった。
「よし、行くか」
タイムリミットは日暮れまで。一分一秒たりとも無駄にはできない。
◆
とくに何もなく時間だけが過ぎていった。日暮れは、もう目の前だ。
俺は、駅前のバスターミナルに行く
──後をつけられている。
昼過ぎくらいから、見知らぬ男たちに尾行されていた。人数は三人。彼らは、このループについて何か知っているのだろうか。聞き出さなくては──
「山の上のお坊ちゃんがよぉ! こんなところに何のようだぁ? ギャハハ!!」
と、意気込んでいた。数秒前までは。
ひと気のない地下街の細い通りで、ようやく接触してきたかと思ったらコレだ。言動から察するに俺の制服を見て恐喝しようと決めたヤンキーの集団らしい。
深々とため息をつく。なんとも衝動的な犯行だが、退路の断ち方が上手く、逃げることが難しい。集団で一人を囲むことには慣れているようだ。俺みたいな学生をカモにしているのだろう。
ループする度に色々あったので、こんな半端なヤツらにスゴまれても怖くない。しかし、そんな俺の態度がしゃくに障ったらしい。
「なんだよその顔は!」
思いっきり腹を殴られてしまった。勢いに負けて床に倒れる。ループによって精神は鍛えられているが、肉体はまったく鍛えられていない。男たちの下卑た笑いが上から降ってくる。
にしても、制服で目を付けられるなんて。そこまでは気が回っていなかった。着る服を考える手間を惜しんで制服を着てきたが、失敗だったな。次のループでは、そこにも気を配らないと。
──次?
自分の思考に呆れてしまう。いつからか、ループする前提でものを考えるようになっていた。
──いやだ。
「俺はもう、ループなんかしたくない……!」
突然、けたたましいブザー音が辺りに響く。男たちは驚いて辺りを見回す。曲がり角の向こうでブザーが鳴っているのが分かった。この騒音だ。すぐに人が集まってくるだろう。
リーダー格の男が苛立たしげに舌打ちをして、音の発信源を見てくるよう指示した。俺の前にいた男が、曲がり角へ向かう。しばらくすると何かを踏み砕く音がして、ようやくブザー音が止んだ。
「そこの君! いったい何をしている!!」
「やべぇ! サツだ!!」
そう叫ぶ男の声と走り去る足音。遠くから「止まりなさい!」という掛け声と複数人の足音が近づいてくる。残りの二人は顔を見合わせると、俺を置いて我先に逃げ出した。
俺もさっさと逃げないと。何も言わずに外出してきているから、警察から家や学園へ連絡が入ると困る。立ち上がろうと地面に手をつくが、体に力が入らない。思ったよりダメージが大きかったらしい。
コツと誰かが通りに足を踏み入れた。思わず身を固くする。
「あ、立たないで。そのまま端に寄ってください」
そう声をかけられ、看板の陰に押し込まれる。うずくまる俺の隣に、声をかけてきた女の子も座り込んだ。バタバタと足音が通り過ぎていく。
「二つ隣の通りが事件現場だって通報してあるので、少しの間は大丈夫です」
まじまじと女の子の顔を見る。素朴な雰囲気の可愛い女の子だ。学園では男女ともにキラキラした顔立ちに囲まれているので、とても親しみやすさを感じる。ただ、どこか疲れた目をしているのが気になった。
「君は……」
「おっ、話せるくらい回復しました? なら、ここを離れましょう」
たしかに、こんなところで話すこともないか。女の子の言葉に頷いて、よろよろと立ち上がる。彼女は俺の上着を手早く脱がせると、持っていた大きな紙袋に突っ込んだ。セーターだけだと少し冷えるが仕方ない。
「被害者は一人だって言ってあるので、二人で並んで出て行ったらごまかせると思います」
女の子の言う通り、とくに引きとめられることもなく地下街を抜けることが出来た。駅ビルにある憩いの広場へ移動する。ベンチに腰を下ろし、ようやく一息つくことができた。
胸元にぐいっと紙袋を押し付けられる。
「じゃあ、お気をつけて」
「まっ、待ってくれ!」
そのまま立ち去ろうとする女の子の手をつかむ。
「君はいったい何者なんだ! このループする一週間と関係があるのか!?」
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第三十六話 バッドエンドのその後
私とお坊ちゃんは、どうにかこうにか地下街を抜け、駅ビルの敷地にある憩いの広場へ移動した。ここまでくれば、もう大丈夫だと思う。
お坊ちゃんは、ベンチに腰を下ろしグッタリしている。助けた謝礼をせびるつもりもないので、ブレザーの入った紙袋を渡して帰ろう。
「まっ、待ってくれ!」
お坊ちゃんの手が、私の手をつかんだ。ビリッと首筋が痺れ、一瞬だけ左目の視界が赤くなる。目尻から涙が流れたように感じた。しかし、頬は濡れていない。
パチパチと瞬きをする。何だったんだと首を傾げている間にも、男の子は話を続ける。
「君はいったい何者なんだ! このループする一週間と関係があるのか!?」
──ループ? なにそれ??
えっ、もしかして……この人、ループものの”主人公”なの?? あっそういえば、ヤンキーに囲まれてる時に「ループしたくない!」的なことを叫んでいた気がする。
──ループものかぁ。
ノベルゲームというジャンルは、ループものと相性がいい。そもそも、ノベルゲーム自体がループものみたいなものだと思っている。違うルートを見るために、プレイを繰り返したり。トゥルーエンドを見るために、特定のエンドを見なければならなかったり。ノベルゲームとループものの違いは、登場人物たちにループしている自覚がないかあるかだけかもしれない。
しかし、彼がループ”主人公”くんだとしたら、周りにヒロインがいないのが気になる。先ほど会った親友”主人公”くんのように、いつでもどこでも”ヒロイン”が隣にいるのが、主人公の常なのだ。
堰を切ったようにループ”主人公”くんは話し続ける。
ふむふむなるほど。なぜループしているのか分からない。ループするキッカケも分からない。けれど、誰かの意図を感じる、と。
ほうほう。メイドサークルのメンバーといるとループが早まる、ねぇ……。
ふと思いつくことがあったので、ループするより前のことを細かく聞かせてもらう。そして、気がついた。
──ああ、これ、バッドエンドだ。
そりゃ、”ヒロイン”が周りにいないはずだ。
ループするより前の話に出てくる”ヒロイン”の頻度から察するに、義理の姉”ヒロイン”ルートに入ってたけど何かの選択肢をミスったんだな、彼。で、延々と同じ一週間を繰り返すバッドエンドに入ってしまった、と。
ループし始めてから、不自然なくらい義理の姉”ヒロイン”の名前が出てこないんだもんなぁ。そういうことなんだろう。
エロゲには多種多様なバッドエンドも実装されている。選択肢をミスした結果、ヒロインとの恋愛に発展しませんでした! バッドエンド!! なんていうのは微笑ましい方で。
主人公やヒロインが悲惨な目に遭うバッドエンドも多い。けっこうな確率で死んだり殺されたりする。ヒロインはそれに追加して陵辱されたり寝取られたりする。グロテスクだったり鬱展開だったりなバッドエンドもある。
……ここは、男性向けエロゲみたいなことが起きる世界なわけで。
”主人公”とか”ヒロイン”ってマジで大変だなぁとしみじみ思う。え? これが私に待ち受ける未来?? ……ハハ。
コホン。
幸か不幸か、ここはゲームじゃなくて現実なので、バッドエンドになったらタイトル画面に戻されるなんてことはない。他のバッドエンドならともかく、ループ”主人公”くんはまだ取り返しがつくのでは──いや待て。
バッドエンドで”主人公”を無限ループにぶち込む義理の姉”ヒロイン”てなんやねん!! どう考えてもクレイジーでサイコなヤンデレやんけ!!!!
慌てて周囲を確認する。それっぽい人の姿はないけど、たぶんどこかで見ているのだろう。ヤンキーの次はヤンデレとか、聞いてませんけど!?!?
これまでのループから察するに、私はたぶん義姉”ヒロイン”さんの許容範囲をすでに超えている。このまま何もしないでいると、ロクなことにならない気がする。
どうする? まずは相手がどんな感じなのか分からないと対応ができない。とりあえず、お義姉さんについて情報を集めてみよう。
「え、義姉さんの話? いいけど……ループに関係あるのか?」
「まあまあまあ、聞かせてください」
ループ”主人公”くんは義姉”ヒロイン”ルートに入ってから失敗しただけあって、かなり義姉”ヒロイン”さんに心を惹かれているようだった。本人は気づいてないけど。
ちなみに、義姉”ヒロイン”さんは、素晴らしいご令嬢で、名家の跡取りに相応しい品格の持ち主だそうな。しかし、両親の再婚でループ”主人公”くんが跡取りになってしまった。ループ”主人公”くんが跡取りに指名された理由は分からないらしい。
「だから、俺は義姉さんに嫌われてるんだ」
「いや今までの話を聞くに、そのお義姉さんはあなたのことがす「わ────っ!?」
私の声をかき消すような大声を上げながら、真っ赤になった女の子が草むらから飛び出してきた。
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第三十七話 ループの真相
「義姉、さん……?」
ループ”主人公”くんがポツリとつぶやく。ご令嬢にあるまじき登場の仕方だったけど、この人が義姉”ヒロイン”さんか。やっぱり近くにいた……わりにはめっちゃ息を切らしてるな?*1
「はあ、はあ。な、なんなんですか! 貴女!!」
義姉”ヒロイン”さんは、チラッとループ”主人公”くんを見た後、私をキッと睨んだ。
「わたしと弟くんの制服デート*2に割り込んだあげく、わたしの能力を打ち消すなんて……!」
打ち消した覚えはない、が。
「……ええっと。それは、ループの犯人はあなただという自白ですかね?」
「はっ!?」
いやそんな驚かれても……すげースムーズに自白されて、驚きたいのはコッチなんだけど……色んな意味でゆかいな人だな、義姉”ヒロイン”さん。ループ”主人公”くんの語ってくれたご令嬢らしさが消し飛んでるけど。
「そんな、義姉さんが!?」
「ぐううっ! 図ったのね!?」
何も図ってないです。あなたの自爆です。
「義姉さん……」
繰り返す一週間でたくさんつらい目にあってきたらしいループ”主人公”くんは、信じられない──いや、信じたくないといった顔をしている。
「っあ、貴方が悪いのよ! わたしを選んでくれないから!!」
義姉”ヒロイン”さんは、つらつらと無限ループの真相を話してくれた。なんでこういう時の犯人って事細かに説明してくれるんだろうね。助かるけど。
──血縁関係どうのこうので、めちゃくちゃややこしかったです*3。
簡単にまとめると、無限ループに陥っていた原因は、ループ”主人公”くんと義姉”ヒロイン”さんの能力が同時に発動してバグっていたからだそうだ。義姉”ヒロイン”さんがループを発動させた後、ループ”主人公”くんの能力が覚醒。
二人とも”時間ループさせる能力”だったばっかりに、変に作用して無限ループに突入してしまった。
今は、義姉”ヒロイン”さんの方のループ能力が打ち消されてるらしい。理由は分からないけど*4。後は、ループ”主人公”くんが自分の能力を解除するだけだという。
なるほどなぁ。主人公にも特殊な能力があるタイプだったのね。把握した。他のルートだと、”ヒロイン”に避けがたい悲しい運命が待っていて、それをループ”主人公”くんの能力でなんとかするっていう展開になってそう。
──ところで、ふんわりボカしてたけど……義姉”ヒロイン”さん、ループ”主人公”くんを殺してるよね? ループの発動条件、ループ”主人公”くんの死亡だよね??
おい、目を反らすな、おい。
◆ 無限ループについて。
まずは、義姉”ヒロイン”さんの能力。
彼女の父親の家系――
義姉”ヒロイン”さんは、両方の能力を併せ持つハイブリッド能力者として生まれた。
次に、ループ”主人公”くんの能力。
本人も母親も知らないそうだが、ループ”主人公”くんはループ能力者を排出する
義姉”ヒロイン”さんは
本来なら、義姉”ヒロイン”さん以外はループ中に自意識が無く、彼女の目的が達成されるまで自動でループが続くはずだった。しかし、そのタイミングでループ”主人公”くんの能力が覚醒してしまった。
ループの中で自意識が目覚めてしまったループ”主人公”くん。義姉”ヒロイン”さんは世界のループを自分だけで止めることが出来なくなったし、ループさせるのに手動でリセット(=ループ”主人公”くんを殺害)しなければならなくなった。
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第三十八話 エロゲにおける別ルートのヒロインの役割
ループ”主人公”くんは、悄然として俯いている。
「俺、そんなに嫌われてたのかぁ」
そうなるよね~。義姉”ヒロイン”さんはオロオロして、助けを求めるように私を見ている。いやいや、そんな目で見られましても。自らの行いの結果ですがな。
ループ”主人公”くんはゆっくりと顔を上げた。義姉”ヒロイン”さんは、さっきまでうろたえぶりが嘘のようにキリッとした顔をしている。
……ここまで話がこじれた理由、それかあ。ループ”主人公”くんは、義姉”ヒロイン”さんの令嬢然としたとこしか知らないのね。
「なあ、義姉さん。……義姉さんは、何が目的でこの一週間をループしてたんだ? ループの能力なんて使わなくても、俺にできることなら協力したのに……」
泣きそうな顔で微笑むループ”主人公”くん。記憶をいじられてるうえに、何回か殺されてることがほぼ確定しててこの対応。
かなり好きじゃん。
私はすごくドン引きしてるぞ。殺人は、恋や愛が理由でも、やっちゃいかんと思うぞ。
義姉”ヒロイン”さんは、厳しい表情のままだ。ただ、何かを言おうとして言えなくてを繰り返している。はは~ん、さてはこのヤンデレ、コミュニケーションがド下手クソだな??
ひっそりとため息をつく。
──わりと自覚はあるんだけど。
私は”ヒロイン”に甘い。
だってさ、たくさんエロゲをプレイしてきたということは、エロゲの本数以上のヒロインと出会ってきたということで。ヒロインという存在に、とてもとても思い入れがあるのだ。
もちろん、この世界は『男性向けエロゲみたいなことが起きる』というだけの現実で、ゲームじゃない。分かっている。けど、どうにも割り切れない。これもまたゲーム脳の一種かもしれない。
……
あとね、なるべく早く事態を解決しないとヤバい気がするんだ! 分かりやすく言うと義姉”ヒロイン”さんの目にハイライトがなくなってきてる!! やめなされ! 懐に手を伸ばそうとする*2のはやめなされ!!
「はい!」と元気よく手を挙げ、二人の注目を集める。
義姉”ヒロイン”さんに向かって「ちょっといいですか」と声をかけた。返事はない。沈黙は肯定だと判断して話を進める。
「何度繰り返しても、記憶をいじっても、望む結果は手に入らなかったんですよね? 自分の気持ちは伝わらなかったし、相手の気持ちも分からなかったんですよね?」
そんなスゴい顔でにらまないでください。イヤミじゃないです。事実を言ってるだけです。
「じゃあもう、方法が間違ってるんですよ」
「──方法、が?」
なんでそんな思ってもみないことを言われたって顔をしてるんだろう。諦めろとでも言われると思ったんだろうか。
そりゃあ、まったく脈がないなら「諦めた方がいい」って私も言ったと思う。ただ、
「別の方法を考えないと」
そう伝えると、義姉”ヒロイン”さんは小さな声で「別の、方法」と復唱した。
「そうだよ、義姉さん。そんな方法じゃなくて、もっと違う方法で、俺たちは分かりあえる」
ループ”主人公”くんは、決意に満ちた目で、しっかりと義姉”ヒロイン”さんを見据える。
「俺、義姉さんが何を考えてるか、分からない。──だから、話して聞かせてほしい。義姉さんのこと。それで、俺の気持ちもちゃんと話すから、聞いてほしい」
義姉”ヒロイン”さんの頬が赤らみ、瞳に光が戻った。小さく、でもしっかりと「はい」と答えたのが聞こえた。
さっすが”主人公”! きっちりバシッと決めてくれるなぁ!!
にやにやしながら、うんうんと一人で頷く。この感じだと大丈夫そうだ。二人の空気を邪魔しないように、コッソリと憩いの広場を抜け出した。
は~~! いいエロゲイベントだった……!!
──エロゲの類型として、別ルートのヒロインが攻略のサポートに回ることがある。登場させるキャラを減らすことができるし、キャラの掘り下げにもなる。まさしく一石二鳥。
まあ、これは例え話で、私はヒロインなんて柄じゃない。けど、誰かの助けになれたというのは普通に気分がいい。
……人を殺すことに抵抗がない人間を野放しにしていいものかという不安は残るけども。そこはもう、めっちゃがんばってくれ、ループ”主人公”くん。
──私もがんばるから。
素晴らしいエロゲイベントを浴びて、いい気分転換になった。なんだかスッキリした気分だ。
ここまで来たら仕方が無い。腹をくくって、”女主人公”になった後の対策に力を入れよう。さて、何から始めようかと思っていたら、見覚えのある黒づくめの男性がビルの陰からぬっと現れた。
「お、いたいた*3」
い、一人称『僕』おじさん!? 素晴らしいタイミングで現れたな!!
「ちょうどいいところに! また”アレ”をお願いしてもいいですかね!?」
あいさつもそこそこに頼み込む。なんで突然やってきたのか聞くのも後回しだ。だって、快楽耐性を高めるのは”女主人公”にとって必要不可欠なんだもん。
「たしかに、そろそろいいかもね。もう前の感覚は忘れてるだろうし」
おじさんは、上から下までしげしげと私を観察した。
「おお、すこぉーしだけだけど、”格”が上がってる*4」
「え?」
「僕とセックスするのは無理だけど、これならもっとキツくしても大丈夫だ」
「いや、ちょ、まっ……」
◆
──キツすぎて死ぬかと思いました。死んでないのが不思議です。
『エピローグ エロゲの世界は女主人公に厳しい編』に続く
エピローグ(”女主人公”のプロローグ+α)を先に書いた後に、別ルートの方を書きます。
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エロゲの世界は女主人公に厳しい
──そして、また春がやってきた。
両親はそれぞれ海外出張へ。私は一軒家で一人暮らし。……うん、準備万端って感じだ。
いつ来るか、いま来るか……できるなら来ないでほしいとソワソワしながら始業式を終え、帰り道。晩ご飯の買い出しにスーパーへ寄ったところ、空から振ってきた赤と青、二つの水球に衝突され、私は死んだ。十数年ぶり二回目の死だった。
しかし、青い水球の中身と同化することで、辛うじて命をつなぐことができた。水球の中身は、エリザベティナ・クロモドーリスと名乗る宇宙人。同化してるから見た目は分からないけど、たぶん、ウミウシ。語尾がウミかウシだから。
……私、いま、お腹の中にウミウシがいるのかぁ。
お腹、とオブラートに包んで言ったが、子宮だ。いちばん損傷が少なかった内臓を起点に、私の体を修復しているそうな。……子宮が無事だったのは当たりどころの問題で、腹の脂肪が厚かったからじゃないよね? ね??
(もろもろの説明は後でするウミ! いまは戦ってほしいウシ!)
どうやら、エリザベティナさんは追われているらしい。彼女(?)と同化している私も、これからは追われる対象になるわけで。
──そっかぁ、私、変身ヒロイン”女主人公”だったのかぁ。
しみじみしていると、赤い水球から現れたヒトデのバケモノが襲いかかってきた。チュートリアル戦闘ですね。分かります。逃げることは難しそうだ。言われるがまま、変身の掛け声を叫ぶ。
「セット・セイル!」
まばゆい光に包まれたかと思うと、私の姿は瞬時に変わっていた。
……まあ、そうなるな。男性向けエロゲみたいなことが起きる世界だもんな。基本はピッチリしたボディースーツよな。
あ、でも、袖や裾がフリフリしてて可愛い。変身ヒロインと魔法少女とウミウシを足して割った感がある。
体の奥から力が湧いてくる。グッと拳を握り締め、ヒトデのバケモノに対峙した。
◆
(……あの、エリザベティナさん?)
(ベティでいいウミ)
(じゃあベティさん。なんか、ものすっっごく、疲れてるんですけども……)
ちょっと危なかったけど、ヒトデのバケモノを退けることができた。ただ、戦闘後の疲労感がヤバい。歩くのもやっとだ。買い物をして帰る余裕はない。晩ご飯は冷凍野菜と袋ラーメンにしよう。
(いま、アナタの生命維持と肉体修復に、ウチの持つほとんどのエネルギーを使ってるウミ。だから、戦いで使えるエネルギーがギリギリなのウシ)
(つまり?)
(戦いでエネルギーをいっぱい使うと、生命維持と肉体修復にも影響が出ちゃウミ)
これ、疲れてるんじゃなくて死にかけてるのか。なるほどなぁ。なるほどじゃない。
(でもでも、安心してほしいウミ! ウチは、触れた相手からエネルギーを回収することができるウシ)
(ちなみに、相手に触るって私が触ればいい感じ?)
(ウチが直に触らないとできないウミ)
いや、あなた今お腹の中にいますやん。直に触るの無理ですやん。その点を指摘すると、ベティさんはすっかり慌てふためいてしまった。
(あわわわ! ど、どうしよウミ!! エネルギーを回収できないウシ~!!)
──私には分かる。どうすればエネルギーを回収できるか、前世の記憶が知っている。
セックスやな。
よし、今からエロゲの設定としてこの状況を理解していこう。
追手は、どうやらベティさんの身柄を確保したいようだ。さっきの戦闘でヒトデのバケモノに捕まりかけたとき、私の体内からベティさんを取り出そうとしていた。今回は未遂で済んだけど。
つまり、戦闘で負けると、ベティさんを取り出すためになんやかんやを突っ込まれる。これが、敗北エロ
ベティさんを取り出すためには、ベディさんに触らないといけないからだ。敗北エロ
まとめると、戦闘に負けても追手の撃退はできる、と。そりゃあね。変身ヒロインにはじわじわと堕ちていってもらわないと困りますからね。戦闘回数は多かろうよ。
ただ、負けても大丈夫だけど、勝ってもうまみがあまりない。エネルギーが消費されるだけで、エネルギーを回収できないからだ。どんどん負ける可能性が高まっていく。
最終的には、敗北エロ
──いや、待てよ。
そうだよね。ここは男性向けエロゲみたいなことが起きる世界だもんね。
(ベティさん、ベティさん。エネルギーの回収って、追ってきてる相手からしかできないんですかね?)
(そんなことはないウミ。生命体が相手だったら大丈夫ウシ)
セックスやな。
つまり、敗北エロ
ちなみに、勝ってもセックス、負けてもセックスは、商業向けの変身ヒロインエロゲで見られる王道展開であり、同人エロゲの定番からはズレている。
同人エロゲの”女主人公”じゃなかったんだ~~! よかったよかった!! 何もよくないが? どうあがいても変身ヒロイン”女主人公”はえげつない陵辱と隣り合わせだが??
……まあ、人間とのセックスでもエネルギーが回収できるだけマシかぁ。
(うん、エネルギーの回収についてはなんとかなると思う)
(ほんとウミ!? スゴいウシ!!)
ベティさんの声が弾む。どうにかこうにか、戦い続ける算段がついた。けれど、なぜ追われているのか、追ってきている相手は何者なのかは聞けていない。
というか、聞いたけれど、ベティさんは教えてくれなかった。(ウチが追われている理由は聞かない方がいいウミ)と言われた。
(──何も知らなければ、アナタは巻き込まれただけの被害者で済むウミ。でも事情を知ってしまえば、向こうもアナタを放っておけないウシ)
そ、そんなに重たい事情なんですか。
(迷惑をかけて、ほんとにごめんなさいウミ。アナタの体の修復が終わったら、ウチはすぐこの星から去るウシ。だから、少しの間だけ、アナタといっしょに居させてほしいウミ)
ちなみに、少しの間がどれくらいになるかは、回収できるエネルギーの量次第だそうな。最短で二ヶ月、最長で一年らしい。
(うん、よろしくね、ベティさん)
(よろしくウミ! ええっと……あっ、アナタの名前を聞いてなかったウシ!)
(私の名前は──)
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”女主人公”編 個別ルート
個別ルート(プロット)選択肢
(よろしくね、ベティさん)
(よろしくウミ! ええっと……あっ、アナタの名前を聞いてなかったウシ!)
(私の名前は*1――
①
②
③
④
⑤
⑥
改めて自己紹介をする。握手はできないので、そっとお腹に手を置いた。なんとなく、お腹があったかい気がする。
……オタクとして、いろいろと履修してきているので、ベティさんが極悪なヤバい宇宙人であるパターンももちろん考えている。ただ、生き死にを握られている以上、ベティさんの言う通りにするほかない。
それに、なんとなくだけど、ベティさんは悪い宇宙人じゃない気がする。……そう思いたいだけかもしれないけど。
◆
ノロノロとした歩みだったけど、夜までに帰宅することができた。誰もいない家に「ただいま~」と声をかける。死んだし、生き返ったし、戦ったし、死にかけてるしで、なんだかもうクタクタだ。
(そういえば、さっきの戦闘でけっこうエネルギーを使ったウミ。できるなら、エネルギーを回収した方がいいかもウシ)
――さようでございますか。
ゲームで言うところのチュートリアル戦闘とは言え、はじめての実戦。けっこう苦戦したからなぁ。稽古で体を動かしてたからなんとか動けたけど、運が悪ければ普通に負けてたかもしれない。最終的に、なんかこう、必殺技みたいなの使ったし。
エネルギー回収かぁ……。
人間とセックスか、宇宙人(見た目はバケモノ)とセックスか。とんでもない二択だけど、エロゲならよくある話だ。
もちろん、ここは男性向けエロゲみたいなことが起きる世界で、しかも私は変身ヒロイン”女主人公”になってしまったので、夜に繁華街や公園へいけばセックスの相手なんていくらでもいる。
が、ただでさえ死にかけているのに、うかつな行動をして痛い目には遭いたくない。
変身ヒロインとえげつない陵辱はワンセットみたいなところがある。触手、洗脳、催眠、調教、公開レイプなどなど。あと、敵にヤられるだけじゃなく、助けるべき一般人に犯されることもあったりする。通称、クズ市民。すごいネーミングセンスだよね、クズ市民。
もちろん、ここは男性向けエロゲみたいなことが起きる世界なので、そういう人々もいるんだろう。今までしっかり自衛してきたので無事だったけど、今後はそうもいかない。この世界は、”主人公”と”ヒロイン”にマジで厳しい。
「……」
いろいろと思いつく手段はある。ただ、何をどうがんばっても自分以外の誰かに迷惑をかけることになりそうで、どうにも二の足を踏んでしまう。……どうしたもんかなぁ。
◆ 名前が選択肢になっている件について
実はこの作品、各キャラの名づけにルールを設けている。一人称『僕』おじさん周りの人物にはAルール、取り巻きハーレム先輩周りの人物にはBルール、みたいな感じ。それぞれのルートに入ることで、それぞれのルールに則った名前になった。
ちなみに、名字が『点瀬』で固定なのは『転生』しているのが前提だから。名前は違うが同一人物である。ものすごくややこしくて申し訳ないが、これがやりたかったんや……。
【申し開き】
まっっったくもって申し訳ありませんが、各個別ルートはプロット状態での公開になります。設定的にエロシーンがどうしても必要なのですが、作者がエロを書けないからです。こんな感じの話になるよ~というのをふんわりお楽しみください。
以降の予定ですが、各個別ルート(プロット)を順次公開した後、”女主人公”にならないルートを更新していきます。よろしくお願いいたします。
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一人称『僕』おじさんルート(プロット)
◆ 名前つけルール:天体(基本的に中国系)
変身ヒロイン”女主人公”
一人称『僕』おじさん
おじさんの推し”主人公”
おじさんの推し”ヒロイン”
◆ プロット
どうしたもんかなぁと悩んでいる直後、自宅に来客が。ドアを開けると一人称『僕』おじさん――
ナガレは宇宙から水球が飛来したことを把握しており、「大丈夫そうだけど、いちおう確認しとくかぁ」って感じで様子を見に来た。他のルートだと「大丈夫そうだなぁ、うん」って感じで来ない。
変身ヒロイン”女主人公”――シオンから事情を聞いたナガレは、血液を操作して子宮の中のベティに触れ、エネルギー回収に協力することを了承。エネルギー回収問題が速攻で解決するルート①。
ナガレの”血液”を介して、生命維持・肉体修復・戦闘に必要なエネルギーを充分に回収。あとは時間経過を待つだけとなった。
お礼に、しばらくの間ナガレを泊めることに。ナガレは基本的に無職&無宿。最近はナガレの推し”主人公”であるタイチの家にいることが多い。
数日後の放課後、またしても追手と戦うことになったシオン。
そこへ、”主人公”のタイチと”ヒロイン”のユウがやって来る。「ちょっと出かけてくる」と言って戻ってこないナガレを心配して探していたらしい。ナガレの扱いはだいたい猫のそれ。
タイチとユウは、ナガレがシオンの名前を覚えていることに驚愕する。いったい二人はどういう関係なのかと興味津々。シオンとナガレは、お互いを指して「命の恩人」という重いのか軽いのか分からない返答をする。
ナガレは上機嫌だった。推し二人がわざわざ探しに来てくれて、テンション爆上げでウキウキだ。その時、シオンの体が急に動き、ナガレの体を突き刺した。異様なほどに血が噴き出す。
実はベティ、スピリチュアルなエネルギーも回収できるトンデモ能力*1を備えていた。そして、ナガレの”血液”を介してエネルギーを回収した際、”血液”に施していた”禁”もエネルギーとして回収してしまっていた。
”禁”が緩んだ”血液”――
簡単に言うと、外側に露出している部分は人間で、内側にバケモノが混じっている状態。よほどの実力者でも見抜くことは難しい。
で、ナガレへの奇襲につながる。
テンコウは、少しでも多くナガレから”血液”を取り戻して逃げるつもりだった。状況を把握したナガレは、逃げの一手を打とうとするテンコウを見て、操られているシオンを無傷で助けることを諦めた。
「後でちゃんと直すから」と断ってから、シオンの体を切断。ついでに体内からテンコウの”血液”を残らず回収。シオンは、数日ぶり三回目の死を迎えた。ナガレは、タイチとユウからしこたま説教された。
ベティとナガレのおかげで、またまた生き返ったシオン*2。それはいいのだが、ナガレが妙にソワソワしている。チラチラ見てくる。
話を聞くに、一連のあれそれでシオンは肉体修復を終えると人間でなくなってしまう――”ナガレと同じ類の化物”になってしまうらしい。どうやっても肉体を人間の組成に戻すことが出来なかったと謝罪するベティとナガレ。ついに行くところまで行ってしまったなと遠い目をするシオン。
変身ヒロイン人外”女主人公”――属性がモリモリである。
まあ、追手との戦いがラクになるのはいいことだと前向きに考えることに。
――だがしかし。
なぜか追手との戦いにナガレが出張ってくる。ナガレが追手を瞬殺して、シオンをチラチラ見てくる。シオンは、昨日までとはまったく違うナガレの態度に困惑する。
ただまあ、倒してもらってラクできたのはたしかなので、「ありがとうございます」とお礼を言う。照れたように頬を緩ませるナガレ。目を白黒させるシオン。
ぶっちゃけると、”
テンコウがベティとナガレの目をごまかすために行った偽装――外側が人間で内側がバケモノ。その肉体改造を人間の技術で施されたのがナガレである。分類で言うと強化人間。なんやかんやで所属先を壊滅させ、世界を放浪していた。
生まれも育ちもロクでもないナガレは、初めての感情をどう扱っていいか分からず、「お前はショタか!」と叫びたくなるようないじらしい行動をしまくる。ギャップ萌えにもだえ苦しむシオン。
三ヶ月後、シオンは肉体修復を終えてベティと別れを済ませた。
――が、ナガレは変わらずシオンの家に居座っている。
”女主人公”編 エピローグ 一人称『僕』おじさんルート(プロット) 完
……とまあ、こんな感じで、世界に二人ぼっちであることが確定したので、あとはじわじわ仲良くなっていくルートです。一人称『僕』おじさんは、本編中にエロ展開があったので個別ルートでは逆にエロがほぼ無くなるという。
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取り巻きハーレム先輩ルート(プロット)
◆ 名前つけルール:花言葉+色
変身ヒロイン”女主人公”
取り巻きハーレム先輩
”主人公”くん先輩
お嬢様”ヒロイン”ちゃん先輩
(※タクゴとクレハは個別ルートに出ない)
◆ プロット
エネルギーの使い方について、「私に良い考えがある」ということで、変身ヒロイン”女主人公”──リコは山の上の学園に忍び込む。変身して身体能力を上げたら、潜入は余裕だった。
学園内でコソコソと人探ししている途中、取り巻きハーレム先輩──
アカヤは(えっわざわざオレに会いに!? しょうがないヤツだなぁ!! 友だちになってやるよ!!!!)と、口に出さないが、テンションマックス。しかし、リコはループ”主人公”くんもしくは義姉”ヒロイン”さん──
でも、エイゴのところに案内してくれる。
エイゴは、義姉であるノアといっしょにいた。仲直りのきっかけとなったリコとの再会に驚く二人。リコは、二人のラブラブな雰囲気に一安心。人死にが出て無いようでなにより。
改めて自己紹介をして、相談したいことがあるというリコに、快く応じるエイゴとノア。アカヤもなんのかんのと理屈をこね、めっちゃ食い下がってその場に同席することになる。
あらあらうふふという温かいまなざしでアカヤを見るエイゴとノア。
三人に自分の事情を話し、エイゴとノアの”時間ループさせる能力”で追手との戦闘を手伝ってほしいとお願いする。
リコは、二人の能力で、『エネルギーをほぼ使わずに済んだ戦闘』を引くまで時間を繰り返し、エネルギー使用の効率化と省エネ化を目論んでいたのだった。TASみたいな感じ。
アカヤは、どれだけエネルギーを節約しても、いつかはエネルギーが足りなくなるんじゃないかと指摘する。エネルギーの回収はどうするのかと尋ねられ、「(いろいろと説明した後)まあ、ようするにセックスしたら回収できますね」と、リコは締めくくる。
「なら、オレの方で信用できる店を手配しよう(友だちだからな!)」
「おお、ありがとうございます!!(エロゲ的な意味で風俗店もわりと危ないから助かる!!)」
「いやいやいや、待って待って」
エイゴからストップが入る。エイゴ視点、アカヤはリコを恋愛的な意味で好きなのだと思っていた。なので、(チャンスだぞ! アカヤ!!)と応援*2していたら斜め上の展開に走り、ついて行けなくなっていた。
話の流れで、勃起不全であることを打ち明けるアカヤ。そこへ、意外にもノアが助け船を出す。心因性の勃起不全ならば、そうなる前まで一時的に記憶を戻してはどうかという提案だった。
「元の記憶はどうなるんですか?」
「記憶なんて曖昧なものですから、過去にこんなことあったかもしれないくらいに落ち着きます」
「うん、俺の記憶もそんな感じになってる」
実体験。
ただし、当事者であるアカヤが乗り気ではない。前の自分はあまり好きじゃないから、一時的とはいえ、その頃に戻るのは嫌だと言う。
「まあ、たしかに人としてどうかと思うこともしてましたけど。私、前の先輩も嫌いじゃないですよ(いっぱい美味しいもの奢ってもらってたし)」
「なっ──!?」
「それに、ものすごく個人的な都合ですが、先輩が相手の方が(今日中にエネルギーの回収が終わるので)助かりますね。ただ、これは私の都合なので、先輩の気持ちを優先してくださ「やる」
あらあらうふふという温かいまなざしでアカヤを見るエイゴとノア。
アカヤは「前のオレがどんな態度をとっても、セックスに持ち込んでエネルギーを回収しろよ」と言い残し、記憶の操作を受けた。
「じゃあ、念のために性的なことにいちばん興味があった時期まで記憶を戻すわね。二時間経ったら戻るようにしてあるから」
──という前フリの結果、アカヤの記憶は12才まで戻ってしまう。見た目は大人! 中身は子ども!!
リコは悩んだものの、本人の伝言を優先しエネルギー回収を決行。性に目覚めたばかりでエッチなことに興味津々なアカヤくん(12才)をデロデロに甘やかしてセックスする。
二時間後、そこには真っ赤な顔を手で覆って俯くアカヤの姿があった。
ノアによると、心に残る強い記憶がセーブポイント的な役割をしているらしく、そのセーブポイントを読み込むことで記憶を戻しているのだそう。セーブポイントを使わず年月を指定して記憶を戻すとなると、ズレが出る可能性が高くなるのだとか*3。
アカヤは、もし次があるなら、ズレが出ても構わないから年月指定で記憶を戻してくれるように頼む。
けっきょく、この後も何回かセックスすることになる。もちろん記憶を戻す際には年月がズレ、色んな年齢のアカヤと体を重ねることになった。基本的に今より前のアカヤはひねくれているので、なだめすかしての甘やかしセックスになる。
アカヤの思春期の折々に、甘やかしセックスされた記憶が足されていく。捏造された記憶であるのは重々承知なのだが、幼いころから抱えていた飢えと渇きが、リコで満たされていく。こんなん好きになるなって方が無理だろ状態。
リコはリコで、アカヤの色んな側面を知り、なんだかんだで可愛い人だなぁと心惹かれていく。後半は、いかにしてアカヤを甘やかしてデロデロにして可愛い姿を見るかに全力を尽くしていた。
追手との戦闘は、エイゴとノアのおかげでサクサク。ループのおかげで、相手がどんな攻撃をしてくるか分かるので、ものすごく有利に戦うことができた。
半年ほどかけて、リコは肉体の修復を終え、旅立つベティを見送る。
リコは、なぜだか途方に暮れていた。アカヤに会う理由がなくなってしまった、と。
そんなことを考えている自分に混乱するリコ。
「どうしましょう、先輩。私、先輩のこと好きかもしれません」
「奇遇だな、オレもオマエのこと好きだぞ」
「うえええ?! いやでも、先輩の好きは、記憶を足されたからで……勘違いでは……」
「じゃあ、オマエの好きはどうなんだ? 誰かを甘やかすことに楽しみを見出していて、それを好きだと勘違いしてるだけじゃないか?」
「えっ……言われてみれば……そうかも」
「いや、納得するなよ」
お互いの好きが勘違いかどうか確かめるために、二人は恋人になることに。
後日、アカヤの勃起不全が治っていることが発覚。ここにきて初めて、現在の二人がセックスすることになり、ものすごくギクシャクした。
”女主人公”編 エピローグ 取り巻きハーレム先輩ルート(プロット) 完
個別ルートという名の、心因性勃起不全治療ルート。ちなみに、他のルートでも将来的に勃起不全は治ります。個別ルートより時間はだいぶかかりますが。
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お孫さん師範代ルート(プロット)
◆ 名前つけルール:天候&時間
変身ヒロイン”女主人公”
お孫さん師範代
眼鏡”主人公”くん
中二病ロリ”ヒロイン”ちゃん
無口クール系”ヒロイン”ちゃん
おっとり不思議系”ヒロイン”ちゃん
短い髪の女/キレイ系お姉さん
少女の声
長い髪の女
(※女主人公と師範代以外、個別ルートに出ない)
◆ プロット
変身ヒロインをしながら、毎朝の稽古を続けるのは難しそうなので、しばらく休む旨をおじいちゃん師範──
中身は大人なので、疑われずに休む理由を考えるのも余裕である。他のルートでもこの理由で連絡して、稽古を休んでいる。
エネルギー回収の目途が立たないうちに、続々と追手がやってくる。戦闘は激しさを増していく。辛うじて追手を撃退し続けているものの、とうとう街に被害を出してしまう。ミア(変身後の姿)は、警察に追われることに。
変身後は身体能力が上がっているので、本来ならば捕まることはない。しかし、エネルギーがギリギリで逃げ切れず、警察と思しき人物に追い詰められてしまう。その人物は、お孫さん師範代──
潜入捜査官であるユウケイは、年度が変わったのを機に
”目”のせいで超常現象犯罪対策課*2へ異動になり、超常現象による器物損壊の被疑者としてミア(変身後の姿)を追っていた。
追い詰められたミアは、相手が師範代であることに気づく。ユウケイも、
ユウケイは当初、ミアを警察で保護するつもりでいた。しかし、ベティの存在があまりにも人類に有益すぎた。地球外生命体のテクノロジ──―粉微塵になった人間の蘇生すら果たし、ほぼ消滅した肉体をわずかな臓器から再生し、再生の間に合っていない部分を未知の物質で補い、人知を超えたエネルギーを駆使する。
もし、ベティの存在が公になったとして。ベティ自身は、ミアの肉体修復が終われば地球から去るという。ならば、地球に残されるミアは? ……ロクな目に遭わないだろうことは、ユウケイにも想像がついた。
ユウケイは、ベティについて公的な記録を残すのはあまりにも危険だと判断し、ベティとミアを匿うことにした。これにはミアも一安心。ミアは、師範にも事情を(エネルギー回収のくだりを伏せて)説明し、日永邸の離れにしばらく滞在することになる。
そこまではいいとして。
問題はエネルギー回収だった。ベティと直接触れる必要がある。しかし、ユウケイはミアとセックスするつもりは無い。苦悩の末、指でベティに触れてエネルギーを回収してもらうことになる。実は、男性の指の長さなら届くのだ。あまりにも常識的な対応。
しかし、指とはいえ、挿れるためには慣らす必要があるわけで。粛々と行われる”治療行為”。お互いに何も言わない。──そして、一度目は、特に何ごともなく済んだ。
これ以降の戦闘は順調だった。エネルギーを回収できたし、師範やユウケイに稽古をつけてもらっているしで、特に苦戦せず追手を蹴散らすことが出来ていた。
ただ、エネルギー回収の際に行われる”治療行為”が、ミアを悩ませていた。ものすごくムラムラしていた。もどかしくて仕方なかった。だから、「挿れるときに、少し痛かったから、もう少しほぐしてほしい」とウソをついた。
「まだ」「もう少し」とねだり、引き際を弁えなかった結果──
ミアは日永邸から逃げ出した。自分の行いがあまりにも恥ずかしくて、ユウケイと顔を合わせることができなかった。
自宅にも戻らず、ユウケイから逃げ回りながら追手との戦闘を繰り広げる。無茶な戦いでエネルギーが尽きかけ、負けそうになったところをユウケイの手助けで逆転する。
戦闘後、必死で逃げようとするが、あえなく捕獲。日永邸に戻ることに。
重たい沈黙が日永邸の離れを包む。いろいろと話し合った末に、ベティの提案で「同じくらい恥ずかしいところをユウケイが見せれば、”痛み分け”になるのでは?」というところに落着する。
日が経つにつれ、”治療行為”と”痛み分け”は少しずつ過激になっていく。
気がついたら、お互いに戻れないところまで来ていた。しかし、ユウケイは「肉体が修復が済めば終わる関係だ」と断言し、最後の一線だけは絶対に越えない。
ミアも、それが真っ当な対応だと理解していた。これはあくまで、”治療行為”と”痛み分け”だった。その名目がなければ、ミアとユウケイはこんな関係になることはなかった。
半年後、ミアは肉体の修復を終えてしまった。旅立つベティを見送る。
”治療行為”と”痛み分け”はおしまいだ。
本当はこの関係をおしまいになんてしたくなかった。ミアは、ベティと別れる前に変身をして*3、ユウケイを逆レイプしてやろうかとも考えていた。けれど、ユウケイの思いやりを無碍にすることが、どうしてもできなかった。ミアのことをとても大切に扱ってくれているからこその対応だと、分かっていたから。
頭では分かっても感情がついてこず、ミアは泣き出してしまう。「師範代との関係をおしまいにしたくない」と泣きじゃくるミアの前に、ユウケイはひざまずく。ミアの涙を指で拭いながら「自分も同じ気持ちだ」と伝える。
ミアは、言ってることが違うと混乱する。そんな彼女に「これまでの建前が必要な関係は終わりにして、君と恋人になりたいのだが、どうだろうか」とユウケイは提案するのだった。
”女主人公”編 エピローグ お孫さん師範代ルート(プロット) 完
ミアが学園を卒業するまで、エッチなことを絶対にしない。鉄壁の自制心の持ち主。しばらくするとミアの方が堪えられなくて、初期の”治療行為”くらいまでならオッケーに緩和される。
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TS予定イケメンくん/TS”ヒロイン”ちゃんルート(プロット)
◆ 名前つけルール:キャラ属性
変身ヒロイン”女主人公”
TS予定イケメン/TS”ヒロイン”ちゃん
親友”主人公”くん
天使”ヒロイン” アンジェ
悪魔”ヒロイン” イヴィル
妹”ヒロイン”
(※女主人公とTSくんちゃん以外、個別ルートに出ない)
◆ プロット
(途中でさらに分岐します)
エネルギー回収について、ベティから「身につけているアクセサリーを作ったヒトに協力してもらえないウミ?」と尋ねられる。ベティの言うアクセサリーとはTS”ヒロイン”ちゃん──
このミサンガ、宇宙人から見てもすごい”力”が備わっているらしい。ただし、変身ヒロイン”女主人公”──
シュウを経由して、ミサンガを作った人物に会わせてもらおうと算段をつける。電話だとベティの説明がしにくく、信じてもらえないと思ったユリカ。直に会って事情を説明することに。
翌日。ユリカが思うよりもあっさりと、シュウはベティのことを信じてくれた。むしろ、シュウが語った内容の方が眉唾で、ユリカは目を剥いた。そのミサンガは、異世界から地球にやってきた天使と悪魔が作ったものだという。
シュウは「二人とも良いコだから、協力してくれると思うよ」と微笑む。ユリカは、良かったと胸を撫でおろす。そんな二人にベティは待ったをかけた。
シュウ自身が、ものすごい力をまとっているというのだ。これだけのエネルギーがあれば、生命維持にも肉体修復にも戦闘にも困らない。
「僕にできることなら喜んで協力するよ」とシュウは答える。しかし、今のシュウは女性だ。ベティに触れることができない。モノは無いし、指も届かない。
「この手段はあんまり使いたくなかったけど、仕方ないウミね……」
実はベティ、雌雄同体*2であり、雌と雄に分裂することができる。分裂体をユリカとシュウの体に同化させれば、エネルギーの受け渡しが可能だという。
分裂体は雌が主で雄が従。親機と子機のような関係になる。また、雌雄でエネルギー回収に差がある。雌の分裂体──ベティは回収に時間がかかるけど丁寧。雄の分裂体──ベティオは早く回収できるけど雑。
しかし、いちばんの問題は、変身する能力がベティに付随しているところだった。ベティと同化した方が追手と戦うことになる。
どちらがベティと同化するべきか──
① ユリカが戦うルート
※女性の体がベースのふたなりが出てきます。
こちらのルートだと、最短の二ヶ月で肉体修復を終えることができる。しかし、複雑な作業ができないベティオでは二つの神力と魔力が絡み合った状態をほどくことができず、今後も女のままで過ごすことになる。
シュウを戦闘にまで巻き込むわけにはいかないと、ユリカは自分が戦うことを決める。それはいいのだが。
「僕の息子が戻った!? いやこれ僕のじゃない!!!!」
「それはエネルギー受け渡しのための器官ウミ」
ようするにセックスである。
フった/フられた相手とセックスすることになるという状況に頭を抱える二人。しかし、命には変えられない。それに、同化を解除すれば生えた器官もなくなるということで、複雑な感情は飲み込むことにした。
二人で協力して、追手との戦闘とエネルギー回収をこなしていく。戦ってセックスして、泣いて笑って、ケンカして仲直りして。なんだかおかしなところもあるが、二人はすっかり仲良くなっていた。
二ヶ月後、ユリカは肉体の修復を終え、旅立つベティをシュウと二人で見送った。
並んで立つシュウの横顔を見て、ユリカは「やっぱり好きだなぁ」と思ってしまう。
いっしょに過ごすうちに、TSして”ヒロイン”になったシュウのことも好きになってしまっていた。学習しない自分に対して、途方に暮れるユリカ。
そんなユリカの変化にシュウは気づく。ユリカも大切な友だちだ。だから、シュウは尋ねた。「どうしてそんなに悲しそうな顔をしているのか」「何か僕にできることはないか」と。
ユリカにとっては、残酷な気遣いだった。ごまかすこともできず、「また、君を好きになっちゃった」と泣きそうになりながら思いを伝える。
二度目の告白を受けたシュウは、自分の心が喜びに震えていることに困惑する。一度目の告白の時には、こんな風にならなかった。誰かから「好き」と言ってもらえる幸福を、ヒロにフられたことでようやく気がついたのだった。
シュウは、自らの浅ましさを嘆く。
これは、ユリカのことを「好き」だという感情ではない。もちろん、友だちとして大切で、好ましく思っている。だが、ユリカの「好き」とシュウの「好き」は、きっと違う。
シュウは幻滅されるのを覚悟で、自分の思いをすべて打ち明けた。
対するユリカは手応えを感じていた。この告白で「やっぱりヒロが好きだから」と返ってくるなら諦めようと思っていた。しかし──
「私のこと、好きなの?」
「えっ? うん……友だちとしてだけど、好きだよ」
ユリカの心が震える。付き合っていた時のシュウは、ユリカのことを好きでも嫌いでもなかった。それが今は、「友だちとして好きだ」と明言した。
”女主人公”らしく、”ヒロイン”を攻略しよう。決意を胸に、ユリカは手を差し出した。シュウは不思議そうな顔で、おずおずとユリカの手を握る。
「これからもよろしく」
「う、うん、よろしく?」
② シュウが戦うルート
※女性の体がベースのふたなりと男性の体がベースのふたなりが出てきます。
こちらのルートだと、肉体修復に半年ほどかかる。しかし、ベティの精密なエネルギー回収のおかげで二つの神力と魔力が絡み合った状態をほどくことができ、男に戻ることになる。
満身創痍(ほぼ死んでる)のユリカを戦わせるわけにはいかないと、シュウは自分が戦うことに決めた。それはいいのだが。
「あの、ベティさん……私の股間に、生えましたが?」
「生えなきゃ困るウミ。それはエネルギー受け渡しのための器官だウシ」
ようするにセックスである。
「え、僕、挿入されるの?」
「……そうなりますね」
案の定シュウは即堕ちをキメる。一回のセックスで、めろめろになっていた。今までよく無事だったなとユリカは嘆息する。追手との戦闘もなんやかんやで危うい。豊富なお色気シーン。さすがはTS変身”ヒロイン”としみじみ思いながら、ユリカはサポートに奔走することに。
さらに、エネルギーの回収が進むにつれて、シュウの体はじわじわと男性に戻っていく。思わぬ副次効果に喜ぶシュウ。だがしかし、挿れられるのはシュウの方である。
「なんで??」
「この器官を通してじゃないと、エネルギーの受け渡しができないからウミ」
口ではそう言っているものの、この時点でシュウは心までメス堕ちしているので問題なかったりする。
最終的に男性の体がベースのふたなり──両性具有のような状態になる*3。同化を解除すれば生えた器官もなくなるのだが。
「前だけでイけなくなった……」
さめざめと泣くシュウ。性癖が捻じれすぎて後戻りができないところまで来ていた。
「もうお嫁にも行けないしお婿にも行けない……っ!」
「せ、責任は取るから!!」
ユリカは、ベティにエネルギー受け渡し器官を残したままにできないかと尋ねる。シュウは「僕のためにそこまで……!」と感激して胸をときめかせている。
受け渡し器官は、ベティ&ベティオと同化していないとエネルギーを受け渡す機能を発揮しない。潤滑液を分泌する機能が備わった肉のかたまりだ。ベティからすると、どうして残したいのか理解できない。しかし、できるかできないでいうと、できる。
本来ならできないのだが、ユリカは肉体修復で、シュウは性転換で、体の組成がふわっふわになっていた。その状態なら、受け渡し器官を足すことができるという。
ここは男性向けエロゲみたいなことが起きる世界なので、けっこうな人数のふたなりが存在する。先天的にふたなりな人も、後天的にふたなりになる人もいる。ちなみに、比率でいうと女性の体がベースのふたなりが圧倒的に多く、男性の体がベースのふたなりはあんまりいない。
だから、ふたなりになること事態は問題ないのだが──
ここは男性向けエロゲみたいなことが起きる世界なので、ふたなり”女主人公”とかロクなことにならないのはたしかだ。ユリカは、使わない時は収納できる機能の追加を、ベティにお願いをするのだった。
半年後、ユリカは肉体の修復と改造を終えた。旅立つベティをシュウと二人で見送る。
シュウはとろけそうな笑顔でユリカに寄り添っている。彼は、メス堕ちを越えてユリカ堕ちを果たしていた。おかげで、ユリカが相手なら前でもイけるようになった。
これで良かったのだろうかと思うことはある。しかし、シュウ本人は幸せそうで、自分も幸せだ。だからいっかと星空を見上げながら思うユリカだった。
”女主人公”編 エピローグ TS予定イケメンくん/TS”ヒロイン”ちゃんルート(プロット) 完
温度差がひどい。ちなみに、他のルートでは主人公くんのハーレムに収まり、TS”ヒロイン”として幸せに過ごしてます。
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エリザベティナ(ベティ)ルート(プロット)
◆ 名前つけルール:特になし
変身ヒロイン”女主人公”
宇宙から来たウミウシ(?) エリザベティナ・クロモドーリス
◆ プロット
いろいろと考えたが、どの案も誰かの手を借りないといけない。自分の都合に他人を巻き込むことを良しとしなかった変身ヒロイン”女主人公”──
長年の観察&考察から、男性向けエロゲみたいなことが起きる世界であることを逆手に取り、
たとえるなら、横スクロール2Dアクションの同人エロゲにおいて、道中で敵に襲われてヤられるアニメーション。あれだった。
「どうして独りでがんばるウミ? 誰かに助けてもらった方がいいんじゃないかウシ?」
「う~~ん……誰かに迷惑をかけたくないから、かな。あと、ベティさんがいるし。独りじゃないよ。本当に独りだったら、がんばれないと思う」
ただし、こまめに戦闘をする必要があるため、エネルギーを回収するのにいちばん時間がかかる方法だった。さらに、接触する時間を確保するため、戦いが長引く。他のルートと違い、追手と何かしらの会話が発生することがあった*1。
戦いを重ねていくうちに、うっすらとだがベティがどういう存在なのか、ユイは理解する。
ベティは、とある宇宙の王族(のようなもの)の生き残りだった。その宇宙において王族の存在は、宇宙を維持する
ある時、別宇宙からの侵略に遭い、ベティだけが命からがら脱出することができた。
ベティさえ生きていれば、彼女の宇宙はやり直せる。しかし、ベティが捕まれば、侵略者に資源として使い潰されてしまう。
なお、ベティがこの
Q.追っ手(侵略者)が地球を資源にしないのはなぜですか。
A.向こうからすると、地球を資源に使っても焚き付けにすらならないからです。手間をかけるだけ損。ベティを狙った方が得。
ベティは悩んでいた。そもそも自分の存在が、
どうしてだか、ユイにとって好ましくないことを、したいと思えない。共に過ごす間に、ベティにとって、自分が生き続けることの次に、ユイは大切な存在になっていた。
ユイにとっても、ベティは大切な存在だ。自分が巻き込まれることを承知のうえで、ベティの口から彼女の事情を聞くことにした。ベティは悩みつつも、すべての事情を打ち明けた。ユイには知っていてほしい。そう思うようになっていた。
ユイは、ベティがいることこそが地球にとっていい迷惑なのだと知った。
「だったらさ。二人で宇宙に行こうよ。宇宙ステーションや人工衛星より、月よりももっともっと遠い宇宙で戦うなら、誰の迷惑にもならないでしょ?」
つまりユイは、追手との戦闘とエネルギー回収にかかる丸々一年を、宇宙で過ごすという。しかしそれは、一度しかないユイの時間を犠牲にする方法だ。成績や進路に大きな影響を与えてしまうだろう。
だが、すでに人生二度目であるユイからすると、そんなことは些細な問題だった。
一年後──
ユイは肉体の修復を終え、地球に戻ってきた。ウミウシっぽさの残る外見をした宇宙人──ベティの頬を朝焼け色の涙がポロポロと流れていく。
ずっと独りで宇宙を逃げ回っていた。自らの宇宙の復興を果たすまで生き続けるという使命があったから、ツラくはなかった。だから、これからも独りで大丈夫。
そのはずなのに、ユイとの別れを思うと、ベティは涙が止まらなかった。その涙を指で拭いながら、ユイは微笑んだ。
「ベティさんについていく」
地球に戻ったのは、両親に事情を伝え、きちんとお別れをするためだと言う。
「前に言ったよね。私は、独りだったら、きっとがんばれなかった。ベティさんがいたからここまで来れた。ベティさんを見送って、ひとりぼっちにするなんてできないよ。友だちだもん」
「まあ、なんの役にも立たないけどね」と笑いながらユイは手を差し出した。ベティは泣きながら微笑んで、ユイの手をそっと握った。
”女主人公”編 エピローグ エリザベティナ(ベティ)ルート(プロット) 完
ちなみに他のルートだと、女主人公のあれそれを見て、誰かに助けてもらうことの大切さにベティは気づきます。追手から逃げ回りながら協力者を募り、侵略者たちと敵対しつつ自らの宇宙を復興するという感じです。
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逆ハーレムルート(プロット)
◆ 名前つけルール:特になし
変身ヒロイン”女主人公”
◆ プロット
変身ヒロイン”女主人公”──
というわけで、ベティさんに頼んで『
参考にしたのは、義姉”ヒロイン”さんの”時間をループさせる能力”。ループ中は、能力を発動させている義姉”ヒロイン”さん以外に自意識が無く、彼女の目的が達成されるまで自動でループが続くという。この『自意識が無く』『自動で続く』という点に、タチノは注目したのだった。
ベティと相談しながら、エネルギー回収自動化の処理を詰めていく。
タチノがセックスの相手に選んだのは、街の人々だ。変身した状態なら、成人男性の一人や二人、軽く抑え込める。問題は、普通に犯罪なところだが──
「(相手の)記憶を消すってできる?」
「(自分の)記憶を消すくらいならちょちょいのちょいウミ!」
これで問題が無くなった。
「記憶が無くなると言っても、結婚してる人や恋人がいる人はイヤだなぁ。確実に独身で、(エロゲ的な意味で)私とセックスするのに抵抗が無い(=モブおじさん的な)相手がいいんだけど……そういう条件で絞り込める?」
「え~~っと……(性別と戸籍と、あとタチノへの好感度でフィルタリングしたら)大丈夫ウミ!」
タチノへの好感度でフィルタリング=タチノのことをある程度以上に好ましく思っている。
「ああでも、相手が勃たなかったらどうしよう……」
「エネルギー回収のためにも、相手の性器を確実に勃起させるのは重要ウミね」
「夏にバイトした時に、媚薬(性的興奮剤)を飲んだことがあって。そういうのでどうにかできない?」
「媚薬……なるほど媚薬(惚れ薬)ウミね! (元からタチノをある程度以上に好ましく思っているから)気持ちを高めるくらい余裕ウシ!!」
「お~~! ベティさんすごい!!」
「えっへんウミ」
「あと、(エロゲみたいなことが起きる世界だから)なるべく体を頑丈に……」
「丈夫さ(宇宙基準)は大事ウミね……」
このように、問題しかない”オートスキップ機能”が実装された。
二ヶ月後、タチノは肉体の修復を終え、旅立つベティと最後のおしゃべりをしていた。そこへ、オートスキップの被害者一同が集まる。一人称『僕』おじさん、取り巻きハーレム先輩、お孫さん師範代、TSしたはずのイケメンくん*1。以上の四名が逆ハーレムルートの被害者である。
だがしかし、タチノは何も覚えていない。
ベティがセックスした記憶を消しているので、思い出すことすらできない。ちなみに、タチノ本人は、寝ていたから覚えていないのだと思っていた。
タチノとベティは、どうしようもない事情があったことを語った。被害者である男性陣は「たしかに情状酌量の余地はある」と頷いた。しかし、逆レイプをされて以降、タチノのことが好きで好きでたまらないのだと言う。
被害者の口から赤裸々に語られる逆レイプ。ベティは目撃者として「事実だウミ」と証言する。せめてもの抗弁として「媚薬のせいだ」とタチノは言う。だが、味方であるはずのベティに背後から撃たれた。
「みんな元からタチノのことけっこう好きだったウミ。ウチはその『好き』を『交尾したいくらい好き』に増幅させただけウシ」
なんだか面映ゆい気分になる一同。円満解決だと判断して、立ち去るベティ。
そして、被害者の中に取り残される加害者。
たとえ増幅させられた気持ちだとはいえ、タチノを好きなことには変わりはないし、諦めることも譲ることもしたくないと男性陣は語る。結果としてタチノは四人と付き合うことに。
最終的に五人で結婚もする。
作中でタチノは勘違いしているのだが、この世界は逆ハーレムも法的に認められている。基本的に一夫一妻制であり、多夫多妻制を選択できるのだ。一夫多妻でもいいし、多夫一妻でも、多夫多妻でもいい。複数人の男女が新たに一つの戸籍をつくることができるという制度。戸籍の筆頭者を誰にするかだけの話。ただ、男性向けエロゲみたいなことが起きる世界なので、一夫多妻の家庭がものすごく多い。
家庭に不満はないけれど、どうしてこうなったと思わずにいられないタチノだった。
”女主人公”編 エピローグ 逆ハーレムルート(プロット) 完
この面子で逆ハーレムを成立させる方法が、これしか思いつきませんでした! 宇宙基準で体を頑丈にしているので、僕おじとも余裕でセックスできます!! やったね!!!!
以上で、”女主人公”編の個別ルート(プロット)の投稿を終わります。
次回から”ヒロイン”編を投稿いたします。
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”ヒロイン”編
『選択肢:もう何回目になるだろう』
バスに揺られながら、文庫本のページをめくる。文字の海を漂っていると、じわりと紙面に血がにじみ、赤く染まっていった。いつもの幻覚だ。諦めて本を閉じる。今日はもう読み進めることができないだろう。
車窓から外をぼんやりと眺める。この流れて行く景色を見るのも何回目になるのだろうか。
学園から下りたところで、得るものは何もない。分かっている。なのに、アカヤから外出許可証をもらった時は街へ向かってしまう。もらったものは使わないとという貧乏性……いや、素直に言えば、心のどこかで期待しているのかもしれない。馬鹿な考えに思わず自嘲してしまう。
──どうやってもこのループから抜け出すことができない。
意図的にループさせられている節があり、ループを起こしている”誰か”がいるだろうことは察していた。月曜日に戻る時、その”誰か”に殺されているのだろうことも分かった。
俺は、”誰か”の正体を知るために奔走し、足掻き続けた。
しかし、足掻けば足掻くほど、状況は悪くなる一方だった。いつからか、俺の周りの人たちが殺されるようになったのだ。サークルのみんなが、アカヤが、両親が、無関係な人々が、むごたらしく殺された。”誰か”の正体にあと一歩のところまで迫った時は、義姉さんの自殺を見せつけられた。
俺が足掻くことで、周りの人が傷つく。このループを起こしている”誰か”からの脅迫は、あまりにも効果覿面だった。
──俺は身動きが取れなくなってしまった。
だから、受け入れることにした。ここは地獄で、自分は罪を犯し、罰を受けているのだと納得した。
地獄に落ちた亡者は、刑期を終えるまで何度も何度も呵責を与えられるという。焼かれ煮られ磨り潰されても肉体が再生し、刑罰を受け続ける。俺にとってはこのループこそが地獄の呵責なのだろう。
ただ、本物の地獄よりはきっとマシだ。俺には本がある。読書という楽しみがある。ページ番号さえ覚えていれば、どれだけループを繰り返しても続きが読めた。学園の本を読みつくしたとしても、電子書籍を購入すればいい。
本を読みながら静かに一週間を過ごし、たまに街へ下りる。そして、週の終わりに殺されるのを待つ。
──もうずっと、そんな日々を繰り返していた。
街へ下りても、何かをすることはない。ぶらぶらと時間をつぶすだけだ。ただ、ずいぶん久しぶりに外出許可証をもらったので、ウッカリと制服のままで来てしまった。
「山の上のお坊ちゃんがよぉ! こんなところに何のようだぁ? ギャハハ!!」
そろそろ日が暮れ始めるころ。俺は、ひと気のない地下街の細い通りで不良に囲まれていた。制服で街に下りた時は、ほぼ確実に絡まれる。私服で来れば避けられた事態なのだが、忘れていた。
不良たちにバレないよう周囲に目を配る。少し離れたところに彼女がいた。どこか疲れた目をした素朴な雰囲気の可愛い女の子。彼女に迷惑をかけてしまうのは、いつ以来だろう。自分のうかつさに舌打ちをしたくなる。
「なんだよその顔は!」
ここはどんな顔をしていたとしても腹を殴られる。ひ弱な俺の肉体は、殴打の勢いに負けて床に倒れてしまう。精神がおかしくなっているのか、痛みはあまり感じない。
いつかと同じように、けたたましい防犯ブザーの音が聞こえた*1。
◆
彼女の機転に助けてもらい、駅ビルにある憩いの広場へ移動することができた。不良たちは、地下街で警察官と追いかけっこをしていることだろう。
自分の上着が入った紙袋を受け取る。感じが悪く見えるのを承知で、会釈だけした。ここに来るまで、ひと言も言葉を交わしていない。必要以上の会話は、彼女を危険にさらしてしまう。
あとは彼女が立ち去るのを見送るだけ、なのだが──
彼女はまじまじと俺を見ながら、首を傾げた。
「……前にも、こうやって紙袋を渡したこと、ありませんでしたっけ?」
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第三十六話 デジャヴを重ねる
私とお坊ちゃんは、どうにかこうにか地下街を抜け、駅ビルの敷地にある憩いの広場へ移動した。ここまでくれば、もう大丈夫だと思う。
お坊ちゃんは、無言で立ち尽くしている。不良に絡まれたのがそんなにショックだったんだろうか。心配になって顔を覗き込むと、どろりと濁った目をしていた。まだ若いはずなのに、老いを感じる。強烈な違和感に体が震えた。あまり関わり合いにならない方がいいかもしれない。さっさと別れて帰ろう。
ブレザーの入った紙袋を手渡すと、お坊ちゃんは何も言わず頭を下げた。地下街からここまで、ひと言も話していない。ずいぶんと無口なお坊ちゃんだ。前に紙袋を渡した時は、ちゃんとお礼を言ってくれたのに。……ん? な、んだ今の?
「……前にも、こうやって紙袋を渡したこと、ありませんでしたっけ?」
思わず口をついて言葉が出た。
うっすらとした記憶が、幾重にも積み重なっている感覚。何千何万のぼやけた記憶の中、たまにお坊ちゃんと出会う私がいた。
「ぐっ」
頭が痛い。目が回る。
倒れそうになった私の肩を、お坊ちゃんが支えた。ビリッと首筋が痺れ、一瞬だけ左目の視界が赤くなる。目尻から涙が流れたように感じた。
直後、至近距離で何かが破裂した。頬に液体が叩きつけられる。
「おい、どうしたんだ!?」
お坊ちゃんの叫ぶような慌てた声。
「血がっ!」
血? 頬についた液体を指で拭う。指先には、べったりと血がついていた。しかし、日光に照らされると、血液はしゅうしゅうと音を立てながら消えていく。私は、そんな異様な光景に心当たりがあった。
「ああ、いや、これは……大丈夫で……」
「大丈夫なわけないだろう!? ああ、くそ! 俺のせいで……!」
どうしてだか、お坊ちゃんの方にも心当たりがあるようだ。なんでや。
お坊ちゃんはポケットからハンカチを取り出すと、私の頬を荒っぽく押さえた。たぶん圧迫止血してくれているんだろう。けど、私の心当たりが正しければ、頬のどこにも傷はないはずだ。
なかば錯乱している彼を落ち着かせるために、こっちの心当たりを話すことにした。
×××
「人助けをしたお礼に、お守りとして血液を飲まされた?」
一人称『僕』おじさんとの”訓練”の部分は割愛して、そういう風に伝えた。間違ったことは言ってない。うん。
「あまりにも荒唐無稽で、信じてもらえないとは思うんですけど」
「……いや。信じるよ」
ひどく苦々しい顔で、お坊ちゃんは頷いた。重々しく息を吐きながら「俺も、荒唐無稽なことには覚えがあるから」と絞り出す。
「ところで、どんなお守りなんだ?」
「たしか、いざという時に命を助けてくれるお守り、だったかな」
「それは、つまり……」
つまり、ついさっき死にかけたってことになるな。いま気がついたわ。
お坊ちゃんの顔から血の気が引く。私が死にかけた理由に、思い当たる節があるようだ。
「やっぱり俺のせいだ」
虚ろな表情でそうつぶやいた後、必死な形相で「早くここから逃げてくれ! 今ならまだ間に合うかもしれない!!」と叫ぶ。
「それは──」
”俺のせい”。
頭の中にある、重なりすぎてぼやけた記憶。記憶にあるお坊ちゃんは、今よりもマシな目をしていた。
「私があなたのことを知ってる……いえ、覚えていることと関係がありますか?」
驚愕に見開かれる目。ひゅうと息をのむ掠れた音が、薄く開かれた唇から漏れた。
「な、んで?」
「これが関係があるかは分からないんですが、実は私、」
会話を遮るように、どす、と足元に赤黒く染まったボールが落ちてきた。ボールは、べしゃべしゃと音を立てて地面を転がり、真っ赤な液体をまき散らす。
本当は分かっている。理解したくないだけだ。人相が判別できないほどグチャグチャになっているが、それは──
「ひっ」
人間の頭部だった。
「もぉ~、わたしの楽しみの邪魔をするなんて、無粋な方がいたものです!」
声がした方に顔を向ける。少女のカタチをした何かが、血にまみれた手をひらひらと振りながら、こちらへ向かってゆっくりと歩いていた。
「えへ、えへへ……お待たせ、弟くん♡」
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第三十七話 ”前世”の記憶
①『私』はお坊ちゃんのことをうっすらと覚えている。理由は不明。
②あからさまにヤバい様子の義姉が血まみれでやって来た。
「そん、な……、どうして……義姉さん……?」
お坊ちゃんは震えた声でそう言った。よく見ると、少女のカタチをした何かは、お坊ちゃんと同じ山の上の学園の制服を着ている。明らかにお坊ちゃんの関係者だった。あまりにも気配がおぞましくて、パッと見で気がつかなかった。
「あれぇ? どうしてわたしの顔が分かるのかしら?」
お坊ちゃんの義姉だという少女は、指を顎にあて可愛らしく小首をかしげた。
「ん~~、さっきちょっかいかけてきたアレ*1が原因かしら? まあ見られたところでかまいませんね。いつもみたいに記憶をいじればいいだけですもの。えへへ」
記憶をいじるとかヤバいひとり言がボロボロとこぼれておられる。こわい。
「ところでぇ」
義姉の目がこちらを向く。木のうろのように真っ暗な目だった。ぞわりと鳥肌が立つ。とても嫌な予感がした。
「今度の浮気相手は、その子ですね」
疑問でなく断定。義姉はニタリと嗜虐的な笑みを浮かべた。私を義姉の視線から遮るように、お坊ちゃんが一歩前に出る。
「なにを、何を言ってるんだよ! 義姉さん!!」
ほんまそれな。
「義姉さんがやったのか!? 今までのことも、ぜんぶ!!」
詳しい事情は分からないけれど、今の状況と向こうの口ぶりから察するに、あなたの義姉が犯人なのは確実だと思います。
糾弾された
「どうして、って。弟くんが悪いからですよ? わたしという相手がいるのに何度も何度も浮気するんですもの。お仕置きをたくさんして、ようやく反省してくれたと思ったら──*2」
彼女はそこで言葉を切った。ものすごい形相でお坊ちゃんを睨む。絶望と憎悪と執着がないまぜになったような顔だった。ものすごくこわい。
対するお坊ちゃんも義姉を睨んでいる。その目には燃え上がるような怒りが見えた。義姉は、そんな彼の様子に頬を膨らませる。
「もぉ~、違いますよ、弟くん。わたしが見たいのはそんな顔じゃないです」
「あぇ?」
思わず声がもれた。お腹が熱い。立っていられなくなって膝から崩れ落ちる。血の気が引いていく。地面に横たわる私の腹部から、どくどくと血が溢れていた*3。
「なっ!?」
「そう! その顔!! えへへ、わたしとお揃いですね♡」
お坊ちゃんが私の傍にしゃがんだ気配がした。仰向けに寝かされ、傷口を圧迫される。鋭い痛みにうめく。
「血がとまらない……っ」
視界に広がるのは、お坊ちゃんの泣きそうな顔と暮れゆく空。指先から冷えていく体には、彼の手のひらだけが温かく感じた。
「さあ、もう一度はじめましょう! この一週間を繰り返し続けている間、弟くんはわたしのものなんですから!!」
義姉の恍惚とした声が聞こえた。高らかに歌い上げるような、熱に浮かされたような声だった。
──なるほど。そういうことか。
これも”訓練”のたまものか、死に瀕しているというのに頭は冷静だった。お坊ちゃんはループものの”主人公”くんだ。おそらく、自分と”ヒロイン”が犯人に殺されるタイプのループもの。
こういうシナリオってルートによって犯人が違ったりするんだけど、このルートではヤンデレな義姉が犯人だったんだろう。まあ、殺されてるのは”ヒロイン”じゃなくて私だけども。
「死なないで、死なないでくれ」
震える声とともに、ぱたぱたと温かい液体が頬に落ちてくる。顔をくしゃくしゃにして、お坊ちゃん──ループ”主人公”くんは泣いていた。
「俺のせいで、こんな……君は俺を助けてくれただけなのに……!」
せやな。ただまあ、ここでわたしが死んだとしても、ループすれば生き返る。人の生き死になんて無かったことに──
ああ、そうか。
彼は、ループ”主人公”くんだものな。ぜんぶ、覚えてるんだ。ずっとずっと、こうして傷つき続けてきたのか。この人は、そんな地獄に、ずっと独りで生きているのか。
──たった独りで足掻くことのつらさを、私は知っている。この一年間、嫌というほど味わってきた。一年だけでも、心が折れそうなほどしんどかった。
いやまあ、『地獄のようなループからの脱出』と『同人エロゲの”女主人公”対策』を同列に扱ったら怒られるかもしれないけども。
「まだ何も知らないんだ。君が誰なのかすら、知らない」
私は、ループ”主人公”くんに出会ったことうっすらと覚えている。重なりすぎてぼやけた記憶は、これまでに蓄積されたループの記憶なんだろう。自分にまったく関係ないループの記憶がある理由はサッパリ分からない。
ただ、こうやって覚えていることが、ループ”主人公”くんの助けになればいい。そう思った。
「……りんね」
──私の名前は、
ループ”主人公”くんが小さな声で私の名前を復唱した。
「俺は、エイゴ。
気力を振り絞って微笑み、小さく頷く。本当は自分の連絡先とかを伝えたかった。そうすれば、次のループの手助けができる。けど、そんな長い文章を話す余裕はなかった。
ふと、遠くの空に黒い点が見えた。とうとう目までおかしくなったらしい。と、思っていたら、瞬きの間に空から影が降ってきた。なんとなく見覚えのあるシルエットをしている影は、軽い音とともに地面へ着地した。
「”血液”の反応が消えたから、気になって来てみれば──」
周辺の空気が、重く、暗くなったように感じた。あまりの重圧に、息が苦しくなる。
──この声、一人称『僕』おじさん?
かすむ視界の端で、一人称『僕』おじさん vs ヤンデレ義姉の戦いが勃発。怪獣大決戦みたいなことが起こり、駅ビルは爆発した。
◆
──以上が、十数年ぶり二回目に死んだ時の記憶だ。
次に気がついた時、私は、駅ビルの地下街に防犯ブザーを構えて立っていた。さっき死んだばかりの──”前世”の記憶を引き継いで。
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第三十八話 ループを重ねる
防犯ブザーを構えた私と、不良に囲まれたループ”主人公”くん──
前世の記憶を引き継ぐ、というのは、この世界に生まれた時に発現した私の異能だったようだ*1。ループの記憶がうっすらあったのも、『時間が戻る=それまでの自分は死んだ』という判定だったのだろう。うっすらした記憶とはっきりした記憶の違いは、自分が死んだことの自覚があるかどうか、かな?
まあ、私のことはさておき。
隙を突いて不良から逃げた私たちは、新たなループについて色々と話し合った。結果、私と花卉樹くんは『二人が出会った土曜日の午後から私が死ぬまで』をループしていることが分かった。
現在、一週間をループし続ける”一週間ループ”と土曜日の午後をループし続ける”土曜日ループ”、二つのループが同時に起こっていることになる。で、一週間ループが起きる前に、土曜日ループを起こし、同じ土曜日を繰り返している感じだ。
ループについて詳しいことが分かったのは、花卉樹くんも”時間をループさせる能力”に覚醒していたから。自分で目的を設定して、土曜日ループを起こした覚えがあるらしい。
私に死んでほしくないと強く思ったら、”時間をループさせる能力”が発動したのだという。つまり、土曜日ループの目的は、私が死なないようにすること。この目的が達成されるか、花卉樹くんが任意で解除するかで、土曜日ループから脱出できるそうな。
「義姉さんも、俺と同じ能力を持っている。何かの目的を設定して、ループを起こしたはずだ」
花卉樹くんは断言する。
「今まで自覚が無かったんだけど、義姉さんの能力に巻き込まれるカタチで、俺の能力が発動してる*2」
その能力の性質が限りなく自分に近いのだと言う。
簡単にまとめると、一週間ループを起こしているのはヤンデレ義姉と花卉樹くんということになる。一週間ループから脱出するには、ヤンデレ義姉の目的を達成して、花卉樹くんの能力を解除する必要があるというわけだ。
「お義姉さんが設定する目的って、花卉樹くんと両想いになること以外になくない?」
「だとしたら、俺は永遠に脱出できないかもな」
花卉樹くんは、うんざりした様子でため息をついた。
……花卉樹くんとヤンデレ義姉が両想いになることがループの目的だったなら、なぜ、花卉樹くんや彼の周りの人を殺す必要があったんだろう? 殺す必要なくない?? だって、目的が達成できなければループから脱出できないんだもん。自分は高みの見物としゃれ込めばいい。
調べなければいけないことが次から次へと増えていく──
◆
けど、大丈夫! 私たちには土曜日ループがあるからね!!
土曜日ループを認識しているのは花卉樹くんと私だけだった。ヤンデレ義姉すら土曜日ループに気がついていなかった*3。うん、そうなんだ。さっき殺されてまた戻ってきた。これで死んだのは三回目だ。
つまり、この土曜日ループを活用すれば、ヤンデレ義姉に気づかれることなく情報収集ができるのだ! しかも、花卉樹くんと接触しない限り、私はノーマーク! やったね!!
ちなみに今回の土曜日ループではすでに目をつけられている気がするぞ! いろいろ伏せながらだけど、めっちゃ話してるし!!
しかし、花卉樹くんは土曜日ループを使っての情報集をものすごく嫌がった。
「(点瀬さんを死なせないために能力を使ったのに)それじゃ意味がないだろう!」
せやな。
……花卉樹くんと関わらず、まっすぐ家に帰る。そうすれば私は死なないし、土曜日ループから脱出できる。けど──
「私は、花卉樹くんの助けになりたいって思ってる」
花卉樹くんは泣きそうな顔で歯を食いしばった。への字に曲げた唇が震えている。二回目に死ぬとき、花卉樹くんの地獄を知った。傷つき続けている彼が、救われてほしいと思った。
「だから、花卉樹くんが殺される前に、私は自分で死ぬ」
いやまあ、別の地獄に引きずり込むような誘いだけども。
これは土曜日ループを上手く使うために、仕方のないことだ。
ヤンデレ義姉は、記憶操作の能力も持っている。詳細は分からないけれど、その能力が相手の記憶も覗けるのなら──花卉樹くんの記憶から、土曜日ループと”前世”の記憶を引き継ぐ私の存在がバレてしまう。
なので、ヤンデレ義姉が花卉樹くんに接触する前に私が死んで土曜日ループを発動させる必要がある。
「っなら、せめて俺が点瀬さんを……」
「いやいや、ただでさえ花卉樹くんは大変なのに、そんなことまでさせるわけには……」
話し合いは、どこまで行っても平行線だった。しょうがないので、自分で死ぬのと花卉樹くんに殺されるの、代わりばんこにすることにした。
死ぬのが怖くないかと聞かれると、もちろん怖い。ただ、”訓練”のおかげか、苦痛や恐怖も知らんぷりできるようになってるんだよねぇええっ! 命が軽ぅい!!
◆
それから、私たちは土曜日ループを使ってたくさんの情報を集めた。
情報収集に専念するために、まずはヤンデレ義姉の動向を。次に”時間をループさせる能力”の詳細。ヤンデレ義姉に対抗できる相手である一人称『僕』おじさんがやって来た理由。できるだけ時間を稼ぎつつ周辺に被害を出さない方法。などなど。
──そして、ヤンデレ義姉が一週間ループに設定した目的。
白と黒の美しい織目が、辺り一帯を包んでいる。断続的に聞こえる激しい戦闘音に合わせて地面が揺れる。私は、詰めていた息をホッと吐いた。
「ようやく、ここまで来たねぇ」
「ああ、次で終わらせよう」
私たちは、戦闘と人目を避けて、結界の端まで走った。これからすることを誰かに邪魔されるわけにはいかない。
「今回はどっちだっけ?」
「俺の番」
すっかり慣れた手つき。何回も繰り返しているけれど、彼はいつだってツラそうな顔をしている。だから私は、彼のツラさが少しでも減るようにと、何でもないことのように微笑む。
「──またね、エイゴ」
「またな、リンネ」
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第三十九話 無限ループからの脱出RTA
土曜日の午後、駅ビルの地下に戻った瞬間から、即座に行動を開始する。マジで時間がない。
手にしている防犯ブザーを使わずに、地下街の壁に設置してある消火器を持ってくる。この際、指紋が残らないように手袋をしておくこと。まだ寒い時期で本当によかった。
黄色の安全ピンを抜き、ホースの先を不良に向ける。目でエイゴに合図し、彼が走り出したと同時に上下のレバーを力いっぱい握る。真っ白な消火薬剤が地下街の狭い通りを埋めていく。
「うおっ、なんだゲホッ!」
「ゴホッゴホッ」
不良が咳き込みはじめるくらいで消火器を元の場所へ戻す。私の周りも真っ白だ。これで、ヤンデレ義姉の目もごまかせる。
薬剤の煙を突っ切って、エイゴがこちらにやって来た。すれ違いざまに彼の手を握る。ビリッと首筋が痺れ、一瞬だけ左目の視界が赤くなった。目尻から”血液”が流れ出た直後、至近距離で破裂。頬に”血液”が叩きつけられる。こうすると、だいたい20分後くらいに一人称『僕』おじさんが駅ビルの地下街へやって来る。
この方法だとヤンデレ義姉にも何かあったことが伝わってしまうのが難点だ。が、これ以外に方法はなかった。おじさんは携帯電話を持っていないので。
紙袋の底から厚紙を引っ張り出し、化粧ポーチからアイライナーを取り出す。駅の裏手にある再開発地区へ来てほしいと書いて、頬に残る”血液”を塗りつけた。風で飛ばないように消火器の下に挟む。これでよし。
ここは地下街なので、”血液”が消えることはない。おじさんは確実にメモを読んでくれる。日にさらされて”血液”が消えちゃうと、さすがに追跡できないと、いつかのループでご本人が言っていた。
ちなみに、エイゴは私の手を握った後、そのまま走り去っている。ヤンデレ義姉の目を引き付けつつ、準備の時間を稼いで再開発地区へ誘導する手はずだ。
さて、私もやることをやらねば。
未だにむせている不良に気づかれないよう、その場から移動する。早歩きでまっすぐ再開発地区へ向かいつつ、スマホでお孫さん師範代に電話。ちょうど今日、繁華街の見回りをしているのだ。
ヤンデレ義姉は目にハイライトがないけど、どえらい美人だ。そんな美人が繁華街をうろつけば、ひっきりなしに声をかけられる。なお、ヤンデレ義姉に声をかけた相手は、運が悪ければ──まあ、うん。なので、師範代にそこら辺を見張ってもらう必要がある。
こんなことで人死にを出すなんて、もうごめんだ。
「もしもし、師範代ですか? 実は、助けてほしいことがあるんです──」
お孫さん師範代には、『ヤンデレ義姉の特徴』と『ヤバい相手で人殺しも辞さないこと』『とても強い異能力者であること』『こちらで対応できる相手を呼ぶこと』を丁寧に伝える。細かい事情を除けば、すべてぶっちゃけている。
「師範代自身も含めて、ぜったいに誰も接触しないようにしてほしいんです」
『──分かった。無理はするなよ』
「はい! ありがとうございます!!」
どれだけ突拍子もないことを言っても、師範代はしっかり受け止めて対応してくれる。さすが、夏休みにいろいろあった人は肝の座り方が違う。何があったかは未だに知らないけれど。
ちょっと息が上がりつつあるが、足も手も止めない。次に、TS”ヒロイン”ちゃんに電話をかける。TS”ヒロイン”ちゃんを通して、彼女の友だちである天使と悪魔へお願いし、周辺への被害を抑える手伝いをしてもらう。
何回目かのループで判明したんだけども、親友”主人公”くんにぶら下がってた”ヒロイン”ちゃん二人、異世界から地球にやってきた天使と悪魔なんだそうな。性転換しちゃったのも、彼女たちの起こした事故が原因だったらしい。
スピーカーモードにしてもらい、天使”ヒロイン”ちゃんと悪魔”ヒロイン”ちゃんに駅の裏手にある再開発地区へ協力して結界を張ってほしいと頼み込む。事情に関しては、ぜんぶ終わってから説明するでゴリ押しだ。
当たり前だけど、ものすごく警戒される。言ってないはずなのに二人の正体を知っているんだもんな。そらそうだ。
ただ、周囲の魔力*1を探ってほしいと伝えると、おどろおどろしい魔力が駅ビルの敷地内にあることと、禍々しい魔力を纏った何かが高速で近づいていることが判明する。
うん、ヤンデレ義姉と一人称『僕』おじさんだね。
その二つが十数分後に駅ビル裏手の再開発地区で衝突するから、結界を張ってほしいのだと改めてお願いする。いちばん初めの時、駅ビルが爆発したのは二人が衝突した余波のせいだ。
結界を張る必要性は充分に伝わった。ただ、天使”ヒロイン”ちゃんと悪魔”ヒロイン”ちゃんの二人はものすごく仲が悪いので、協力して結界を張ることを渋る。
でも、片方だけじゃ強度が足りない。天使と悪魔、相反する二人が協力して、ようやく怪獣大決戦の余波から駅ビルを守れる。それは、今までのループで分かっている。
『僕からもお願い。きっと、よっぽどのことなんだと思うんだ』
TS”ヒロイン”ちゃんがそう言うと、親友”主人公”くんも『手伝ってやれよ』と後押ししてくれた。よし、この二人が動いてくれたなら──
『しょうがねぇなぁ……』
『致し方ありませんわね……』
天使”ヒロイン”ちゃんと悪魔”ヒロイン”ちゃんは、渋々といった感じで承諾してくれる。
「ありがとう! 本当にありがとう!!」
結界を張るタイミングでまた電話すると伝え、通話を切る。
──これで時間稼ぎの準備は整った。
スマホをしまうと、全力で駆けだす。私がいちばん初めに再開発地区へ着いてないと、あとあと面倒なのだ。
◆
まだ冬だというのに、汗だくになって息を切らしている。ようやく、駅の裏手にある再開発地区へ到着した。人目を避けながら防音シートを潜り抜け、こそこそと侵入する。
ここは、貨物駅の移転やらなんやかんやで広大な更地になっている。重機や機材やプレハブ小屋なんかがあるけれど、この時間ならば誰もいないことは確認済みだ。結界を張った時に巻き込まれて閉じ込められる人は出ない。
プレハブ小屋か……いや、うん、そうな。そうなるな。
頭によぎったあれこれを首を振って遠ざける。それは後で考えればいいことだ。
そうこうしているうちに、目の前に真っ黒い影が降ってきた。軽い音とともに地面へ着地する。
「お、いたいた」
一人称『僕』おじさんは、ひらひらと手を振りながら私の方へ近づいてきた。ちらりと腕時計を確認する。よし、時間はある。
「”血液”が相討ちになったみたいだけど、何があったんだい?」
「実は──」
なるべく早く再開発地区へ到着したかった理由はこれ。おじさんに事情説明をする時間を確保するためだ。特に、結界のことをちゃんと伝えておかないと、おじさんはウッカリ破いてしまう。
そう、一人称『僕』おじさん、ちょっと規格外なくらい強いんだよね。
今までは勝敗が決するよりも前に土曜日ループを発動していたから、どっちが勝ったのかは分かっていない。けど、おじさんはヤンデレ義姉に勝てる。そう確信できるくらい強い。ただ、余波で駅ビルが爆発するけども。
「なるほど”時間をループさせる能力”ねぇ……」
おじさんは、ポリポリと顎をかく。
「一人殺したら犯罪者、数千人殺したら英雄って言うけどさ。同じ人間を何千回何万回と殺したら、どうなるんだろうなぁ」
何回も聞いたつぶやき。初めは答えが分からなかったけれど、今なら分かる。
「──心が壊れます」
ヤンデレ義姉は、壊れている。一週間ループで叶えたかった願いは歪み果てて、エイゴを殺し続けることが目的になっている。
だからこそ、ヤンデレ義姉が一週間ループに設定した目的を探るのが大変だった。
遠くに、エイゴの姿が見えた。姿は見えないが、ヤンデレ義姉も必ずいる。まずは、お孫さん師範代に電話、再開発地区で激しい戦闘が起きるので離れてほしいと伝える。次に、TS”ヒロイン”ちゃんに電話。しばらくすると、白と黒の美しい織目が、再開発地区を包み込む。
大きく伸びをしながら、一人称『僕』おじさんが振り返った。
「それで、合図があるまでこの結界の中で戦ってればいいんだな?」
「はい、よろしくお願いします」
今までは、戦闘の前にヤンデレ義姉から手を変え品を変え話を聞きだしたりしていたけれど、それはもう必要ない。聞くべきことは、すべて聞いた。
「よーし、任された。ちょうど運動したかったんだよねぇ」
うーん、頼もしいことこのうえない。
◆
私とエイゴは、とある目的のために、敷地内のプレハブ小屋へ移動した。薄い壁の向こうから、激しい戦闘音が聞こえ、小屋全体がぐらぐらと揺れている。天井から、パラリとホコリが落ちてきた。
さて、何度も何度も繰り返すけれども、ここは男性向けエロゲみたいなことが起きる世界だ。
あー、えー、何が言いたいかと言うとですね、ヤンデレ義姉が一週間ループに設定した目的が『エイゴが両想いの相手とセックスすること』だったんだよねぇええええ!!!! バッッッカじゃないの!?!?
なぜ、『エイゴと自分が両想いになること』が目的じゃないかというと、ヤンデレ義姉やエイゴの”時間をループさせる能力”は設定する目的に自分を含めることができないからだ。それをすると、自分でループを観測できなくなって危ないんだという。
これは、何回目かのループでエイゴのお義父さんから聞いた。”時間をループさせる能力”って花卉樹家の家系に伝わる能力なんだって。実は、エイゴと彼のお母さんは花卉樹家の遠縁なんだそうな。だから、お義父さんはエイゴのお母さんと再婚したらしい。
もっと細々した話も聞いたけど、まあ、今は関係ない話だ。
──どれだけ記憶を改竄しても、感情を変えることができなかった。
それが、ヤンデレ義姉が発動した一週間ループの結末だ。
部屋の隅に積んであった防音シートの上に、エイゴが脱いだ上着を広げる。ぐらぐらと小屋が揺れている。視界もゆらゆらと揺れて、心臓が破裂しそうなほどドキドキしていた。
──両想いの相手に指定はない。
”ヒロイン”じゃない私が相手でいいのだろうか。一週間ループを起こして月曜日に戻って、ちゃんとした”ヒロイン”を攻略してもらった方がいいんじゃないか。でも、ヤンデレ義姉を抑えつつセックスに持ち込めるのは今しかいない。それに、私じゃない誰かと両想いになったエイゴを見るのは、すごくすごく嫌だ。
ただ、ループが解除できなかったら──両想いじゃなかったらどうしよう。
考えてもどうしようもないことが、ぐるぐると頭をめぐる。
「ほ、んん゛っ」
いま、めっちゃ声が裏返ってたな。エイゴも緊張してるんだなということが分かって、少し肩の力が抜ける。
「本当は、その、ぜんぶが終わったら伝えるつもりだったんだけど──」
エイゴは、一呼吸置くと私の目をしっかりと見据えた。彼の頬が赤くなっている。
「俺はリンネのことが好きだ」
頭が真っ白になる。それまでうだうだと悩んでいたことが吹き飛んで、残った言葉がするりと唇から出ていった。
「──私も、エイゴのことが好き」
◆
え~~その~~、はい。一週間ループは解除されました。
痛くなかったし、なんなら気持ちよかった。さすが男性向けエロゲみたいなことが起きる世界。などと考えながら、いそいそと身だしなみを整える。ふと、戦闘音が止んでいることに気がついた。
慌てて外に出ると、泣き崩れるヤンデレ義姉と頭をかいて途方に暮れている一人称『僕』おじさんがいた。話を聞くと、少し前に「どうして!?」と叫び声をあげた後、呆然と立ち尽くし、最終的にわあわあ泣き出したらしい。
泣き声からこぼれるうわごとを拾い上げる。どうやら、一週間ループが解除されたことを察知し、自らが設定した目的──『エイゴが両想いの相手とセックスすること』を思い出したようだ。
目的が達成されてループが解除されたということは──
「俺は、義姉さんのものじゃない。義姉さんの想いに答えるつもりもない」
エイゴはそうハッキリと言葉にした。
「……どうして? どうして、そんな酷いことを言うんですか?」
「何度も、何度も何度も! 俺の周りの人を傷つけた!! 俺は、義姉さんの行いを許せない」
エイゴの手は、怒りを閉じ込めるように固く握られている。かすかに震えるその拳に、そっと自分の手を添えた。
ヤンデレ義姉は、心の底から不思議そうに首を傾げた。
「なぜ、怒っているんです? ──時間が戻ったら、ぜんぶ元に戻るじゃないですか」
ああ、これは、マジでダメなやつだ。ヤンデレ義姉とエイゴでは、価値観があまりにも違い過ぎる。
ヤンデレ義姉の考え方が間違っているとは言えない。彼女の能力を十全に使いこなすにあたって、割り切った考えは必要だ。ただ、割り切れなくて傷つき続けてきたエイゴとは、相性が恐ろしく悪い。
愕然としているエイゴに、一人称『僕』おじさんが声をかけた。
「それで、どうする? 自分で
わあ、殺すしか選択肢がない!
「──さすがに殺人を見過ごすことはできない」
待ったをかけたのは、お孫さん師範代だった。様子を見に来てくれたんだろうか。
師範代は、懐から手帳を取り出し、中を開いて見せながら「警察だ」と名乗った。けい、さつ……警察!? えっ、お孫さん師範代、教師、うえええっ、警察の方が本職!?!?
──ヤンデレ義姉は器物損壊の現行犯として逮捕された*2。
ただ、すべてが元に戻った今、彼女が起こした数々の犯罪は無限ループの彼方。ヤンデレ義姉がそれ以上の罪に問われることはなかった。
けれど、たがが外れたヤバい異能力者であることは証明されたらしい。
異能力を制限する処置を施された後、危険な異能力者を指導する学園へ転校していった。その学園、孤島の監獄みたいなところなんだって。
うん、どう考えてもエロゲの舞台だね。
きっと、その学園でも男性向けエロゲみたいなことが起きると思うので、素敵な”主人公”を捕まえてマトモになってください。お互いの今後のためにも。
『エピローグ エロゲの世界はヒロインに厳しい』に続く
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エロゲの世界はヒロインに厳しい
あと、本日は二話同時更新です。
――そして、また春がやってきた。
両親はそれぞれ海外出張へ。私は一軒家で一人暮らし。慣れるまで、家事をこなすのは骨が折れそうだ……と、思っていたのだけども。ちらりと時計を見上げる。そろそろ時間だ。
今回こそ、ちゃんと言おう。
決意を胸に抱きつつソファから立ち上がると、ちょうどチャイムが鳴った。ドアを開いて客人を出迎える。いつも通り、私服姿のエイゴが立っていた。エイゴの姿を見るだけで、なんだか気持ちが明るくなって、笑顔になる。
「久しぶりだな」
「うん、一ヶ月ぶり!」
軽く挨拶を交わした後、おそるおそる彼の背後を覗き込む。少し離れたところに、メイドさんがずらりと並んでいた。
彼女たちは、私に向かって深々と頭を下げる。その一糸乱れぬ様子に、思わずビクッと体が跳ねた、何回見ても慣れない光景だ。
「奥様、本日もよろしくお願いいたします」
「あ、はい……よろしく……」
すんでのところで、「お願いします」を飲み込む。敬語は無しでとお願いされてたんだった。
彼女たちは、メイドだけどメイドじゃない。サークル活動としてメイドをしているメイドサークルの面々だ。上流階級しか通えない全寮制の学園で、メイドになりきることを生き甲斐にしているお嬢さまたちなんだって。そういう愉快な女の子、大好き。
いろいろあって、エイゴはメイドサークルのご主人様役をやっているそうな。わーい、それなんてエロゲ。
おそらく、メイドサークルの面々は”ヒロイン”で、私は恋のライバルとして立ちはだかるのだ! ――と、意気込んでいた。
しかし、エイゴに恋人ができたと知ったメイドサークルの面々は「奥様! 奥様だわ!」と万歳三唱の大喜び。「ぜひ奥様にお目通りを!」と鼻息荒く盛り上がり、月に一回、メイドサークルの学外活動として我が家をお掃除しにきてくれる運びとなった。
そんな申請、よく通ったなぁ*1。
ご近所さんには、月に一回ハウスキーパーを手配しているとごまかしている。みんな「やっぱり娘さんの一人暮らしは心配なのねぇ」と納得してくれるから助かる。両親の海外出張がこんなところで役に立つとは思わなかった。
家を掃除してもらってる間、私とエイゴにできることはない……というか、何かすると怒られる。なので、この時間でデートをするのがお決まりになっていた。
「いってらっしゃいませ」
お見送りのために整列するメイドさんたち。何回見ても迫力があってビビる。
「う、うん、いってきます」
「後は頼んだ」
◆
デートから帰ってくるころにはすっかり掃除が済んでいる。ピカピカになった我が家に、メイド長さんだけが残って給仕をしてくれた。ソファでくつろぎながら、用意してくれたお茶とおやつに舌鼓を打つ。いつもながら、めちゃめちゃ美味しい。
「では、わたくしたちは”次の間”に控えておりますので、ご用の際は何なりとお申し付けくださいませ」
”次の間”とは、うちの近所にある一軒家だ。メイドサークルで使うためにサークル活動費で買ったらしい。まったくもって意味が分からないけど、そう言ってた。おかねもち、すごい。
メイド長さんは後片付けを済ませると部屋を後にした。いま、この家にいるのは私とエイゴだけ。つまり、まあ、そういうこと。ちゃんとね、お膳立てをね、してくれるんですよ。メイドさんたち。
「――リンネ」
エイゴの手のひらがゆっくりと太ももを這う。くすぐったいような気持ちいいような、ゾワゾワする感覚。
だがしかし!
今日はこのまま流されるわけにはいかないのである!!
ガシッとエイゴの手を握って待ったをかける。エイゴはきょとんとしている。かわいいかよ。このまま流されてもいっかなぁと思う自分を叱りつけ、心を鬼にする。
「ちょっとお話があります」
「なんでしょう」
ここで居住まいを正して話を聞いてくれるエイゴ、めちゃくちゃ好き。
「――エイゴさん、体がもたないので私以外にも彼女を増やしてください!」
「え、やだ」
「そこをなんとか……!」
間髪入れず断るエイゴにすがりつく。
初めての時は大丈夫だった。お互いに初体験だったし、それどころじゃなかったし。まあ気持ちよかったなぁで終わった。あのね、回を重ねるごとにね、えげつなくなってるんですよ。”訓練”を貫通させてイキ狂わされるんですよ。
――やっぱり、男性向けエロゲみたいなことが起きる世界の”人間”は、前世の”人間”とカテゴリーが根本的に違う気がする。
前世において、エロゲのセックスはファンタジーだった。
汁だくぶっかけも、時間を置かずに連続射精も、生理学的に難しい*2。でも、精液の量やセックスの回数は多い方がエッチでいいよね! と、前世の私はのんきに思っていた。
ここは男性向けエロゲみたいなことが起きる世界。
前世ではファンタジーだったエロゲのセックスが、今世では現実になっているのだ!! ファンタジーが現実になるなんて、異世界転生の醍醐味だよね! やったー!! やったーではないが??
たぶん、出生率の低さをカバーするためにこういう進化を遂げてきたんだろうなってのは分かる。分かるんだけども。――体が!! もたない!!!!
「体がもたないのは分かった。でも、リンネ以外とセックスする気はない」
「うぐぐぐ……」
「でも、リンネに無理をさせるのは、俺もしたくない。だから……」
――いろいろと試してみようか。
翌日ベッドから起き上がれないよりはマシだと思い、エイゴの提案に頷いた。以後、それはもう、
「でも! 後片付けは! 自分でするから!! 勘弁してください!!!!」
「ご主人様と奥様の身の回りのお世話は、メイドの仕事ですから♡」
「ちょっ、待っ」
むなしい叫びがメイドさんたちにもみくちゃにされて消えていく。こんな風に、
◆
余談だけども、進学を機に同棲することになり、月に一回ではなく毎日セックスするようになったら体が慣れた。
今世の私の体、しっかり
リルナさまより、本作の主人公、『私』こと点瀬のイラストをいただきました!
どうだかの活動報告に飾りましたので、ぜひぜひ見てください!!
めちゃめちゃに可愛いので!!!!
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番外編 名前の由来 & あとがき
あと、本日は二話同時更新です。
◆ 【僕おじルート】名前つけルール:天体(基本的に中国系)
変身ヒロイン”女主人公”
流れ星が落ちる時、音が聞こえることがあるので。おじさんと同じような存在になるので流れ星で揃えた。
一人称『僕』おじさん
流れ星から。テンコウ(天狗)は中国の古代思想で音を伴う流星のこと。犼は中国に伝わる妖怪で、僵尸から魃になった妖怪が、さらに変じたら犼になるとも言われている。
おじさんの推し”主人公”
中国の古代思想で宇宙の根源を指す。
おじさんの推し”ヒロイン”
西の空に見える金星。宵の明星。ヒロインの名前は中国の五行思想から決めた。
◆ 【取巻きルート】名前つけルール:花言葉+色
変身ヒロイン”女主人公”
彼岸花の別名、リコリスから。色の指定は無し。「転生」「再会」「また会う日を楽しみに」「悲しい思い出」「思うはあなた一人」などなど。死を連想するような花言葉も多い。また別名が多いのも特徴。
取り巻きハーレム先輩
オダマキの花は、相反する意味の花言葉を抱えている。「愛する」「愚か」「信仰」「勝利」などなど。赤いオダマキは「捨てられた恋人」のシンボルになっているらしく「心配して震えている」という意味が。情報源が分からなかったので、英語圏の記事を洗ってみると、ビクトリア朝ではそういう扱いだったらしいことが分かった。
”主人公”くん先輩
ツワブキの花言葉は、「謙譲」「愛よ蘇れ」「先を見通す能力」「困難に負けない」など。タクゴは生薬としてのツワブキの別名。
お嬢様”ヒロイン”ちゃん先輩
一本の赤い薔薇。薔薇は本数別にも花言葉がある。一本の薔薇は「一目惚れ」「私にはあなたしかいない」。赤い薔薇は「あなたを愛しています」「愛情」「美」「情熱」「恋」「熱烈な恋」などなど。赤色の中にも分類があり、特に紅色は「恋焦がれています」という花言葉になる。
◆ おじいちゃん師範の名字 名前つけルール:石言葉
サンストーン(日長石)から。石言葉は「あらゆる勝利をもたらす」「きらめき」「恋のチャンス」「隠された力」などなど。往時は”主人公”としてブイブイ言わせていた。
◆ 【師範代ルート】名前つけルール:天候&時間
サブルール:夜=死んでる 朝=死んだことがある 昼=生きてる 夕=死ぬかもしれない
(ヒロインズの天候は昼に分類している)
(ルートによっては、朝や昼でも死ぬことがあるし、夕でも生き残ることがある)
変身ヒロイン”女主人公”
お孫さん師範代
眼鏡”主人公”くん
中二病ロリ”ヒロイン”ちゃん
無口クール系”ヒロイン”ちゃん
おっとり不思議系”ヒロイン”ちゃん
短い髪の女/キレイ系お姉さん
少女の声
長い髪の女
◆ 【TSルート】名前つけルール:キャラ属性
変身ヒロイン”女主人公”
百合……か……?
TS予定イケメン/TS”ヒロイン”ちゃん
お隣さんかつ雌雄が逆転するので。
親友”主人公”くん
巻き込まれ
天使”ヒロイン” アンジェ
異世界の天使なので。フランス語の天使から。
悪魔”ヒロイン” イヴィル
異世界の悪魔なので。英語の悪から。
妹”ヒロイン”
お隣さんかつ妹なので。妹の字を分解して名前に入れてある。
◆ 【ベティルート】名前つけルール:エンディング由来
変身ヒロイン”女主人公”
誰の助けも借りず自力で頑張った。
エリザベティナ・クロモドーリス(ベティ)
エリザベスウミウシの学名から。
◆ 【逆ハーレムルート】名前つけルール:エンディング由来
変身ヒロイン”女主人公”
(主に同性愛において)攻める側のことを指す。タチ。対義語はネコ。タチとネコ、両方をこなす場合はリバと呼ぶ。
◆ 【”ヒロイン”ルート】名前つけルール:四字熟語
前世の記憶持ち”ヒロイン”
輪廻転生。名は体を表す。
ループ”主人公”くん
永劫回帰。無限ループを受け入れかけていたのでこの名前になった。何千回何万回とループを繰り返しても正気を保っている時点で、つよつよメンタルである。
ヤンデレ義姉
屋烏之愛。偏愛、溺愛、盲愛の意味。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの逆。その人を愛するあまり、その人に関わる全てが愛しくてたまらない。それこそ、その人の家の屋根に止まっている烏まで愛しく思える。本編では、可愛さ余って憎さ百倍なことになっている。
◆ あとがき
約二ヶ月の間、お付き合いいただきありがとうございました。最後まで書ききることができてよかったなぁとしみじみ思っています。個別ルートはプロットになりましたが。
作者は、エロゲのエロいことをするために設定された世界観が大好きです。その世界観を膨らませたらとても楽しかったので、本作を書きました。読んだ方にも楽しんでいただけたのなら、作者もうれしく思います。
最後の仕上げとして、本作の(ただでさえ少ない)エロ部分を修正し、R15版としてなろうに掲載──『移植』します。
PCエロゲが家庭用ゲーム機に移植される際は、イベントグラフィックや攻略キャラ、ドラマCDなどの特典が追加されますが、本作ではしません。『移植』の際に見つかった誤字が修正されるくらいです。
エロゲをモチーフとする作品として、どうしても『移植』をネタに盛り込みたかったんです。けど難しかったので、本作自体をなろう『移植』にすることでネタにします。これで、やりたかったことが全部できます。
なろうの方で本作を見かけましたら、「ああ、『移植』したんだなぁ」と思ってくださいませ。よろしくお願いいたします。
前話にも書きましたが、こっちにも書きます!
リルナさまより、本作の主人公、『私』こと点瀬のイラストをいただきました!
どうだかの活動報告に飾りましたので、ぜひぜひ見てください!!
めちゃめちゃに可愛いので!!!!
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