【休載中】転生八幡。スライムになったよ!てへっ♪ (甘味の皇帝)
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第一章 転生
1話


「きゃーーーッ!!」

 

八幡「!?」

 

悲鳴のする方を向くとその方向からナイフを持った男が走ってくる。そして、丁度その先は俺の隣…妹の比企谷小町がいる。

 

小町「!!」

 

理解が追いつかない状況に、小町は恐怖で動けなくなっていた。

 

いろは「小町ちゃん!!」

 

それを小町の反対にいる一色が庇うように背中を向ける。

 

八幡「小町!!一色!!」

 

俺はその2人を突き飛ばした。

 

「グサッ」

 

その代わり俺の腹部にナイフが深く刺さり俺は倒れた。

 

八幡「ッ!?」

 

小町「お兄ちゃん!!」

いろは「先輩!!」

 

一緒にいた葉山はそれを見て怖くなったのか逃げ出した。

 

八幡「2人とも…け、がはないか?」

 

一色「なんでいつも他人の心配ばかりするんですか!少しは自分の心配をしてくださいよ!」

 

小町「お兄ちゃん!!死んじゃダメだよ!!」

 

八幡「流石に…それは無理が、あるって…」

 

人間は血液が足りないと死ぬらしいしな……。

 

『確認しました。血液が不要な身体を生成します』

 

は?なんだよこの声…って今はそんな場合じゃねえな。

 

八幡「こま、ち…いつも…迷惑を、かけたな…俺の部屋のもの…全部やる、から許してくれ」

 

小町「迷惑なわけないじゃん!むしろ小町の方がお兄ちゃんに…!!」

 

一色「私だってそうです!いつも先輩にばっかり頼って…それなのにこんな!」

 

八幡「雪ノ下…と由比ヶ浜、に、今まで、ありがとうって…伝えといてくれ…」

 

一色「はい、必ず…」

 

八幡「あ、やべ…も…む、り……」

 

小町「お兄ちゃん!!しっかりしてよお兄ちゃん!!」

 

なんと言う事もない普通の人生。とは少しだけ外れてはいたが悪くない人生を歩んだと思う。

 

結局…俺の欲しかった本物は見つかったのだろうか。

 

『──確認しました。情報が不足している為代用措置としてユニークスキル

欲望者(ホッスルモノ)]を獲得…成功しました』

 

ただ、楽しかったな。あの空間は。あいつらが話をして偶に俺に話を振って俺が答えたら雪ノ下があの"ユキペディア"振りを存分に発揮して俺のことを貶して。あ、貶されたのが楽しかったわけじゃないよ?

 

『──確認しました。ユニークスキル[英知]を獲得…成功しました』

 

まあ、あんな性格だから友達が少なかった…てか1人もいなかったんじゃね?何バリアでも貼ってんの?って、由比ヶ浜がいるか。俺は拒否られてるし…。

 

『──確認しました。ユニークスキル『完全結界』を獲得…成功しました』

 

結構記憶に残る濃い一年だったな……

 

『──確認しました。エクストラスキル『絶対記憶』を獲得…成功しました』

 

あの箱の中に色々な思い出があったよな。たった一年であれだけの依頼が来たんだ…働きたくないとか言いながらめちゃくちゃ働いた気はするが…。

 

『──確認しました。エクストラスキル『収納』を獲得…成功しました』

 

あと一年で…もっと依頼が来るのか?依頼がないことが一番だが…部活動をする側としては来てくんないと暇…というか由比ヶ浜がうるさいな。ということでもっと依頼が来ると助かる。

 

『確認しました。エクストラスキル『収納』を進化させます』

 

『────成功しました。エクストラスキル『収納』はユニークスキル『無限収納』に進化しました』

 

へーそりゃすご……て、おい…さっきら何だようるせえな。てかまだ?天国とか行けるの?

 

それとも世界転生でもするの?暗くて何もわからんのだが…。ん?感覚が……ある……だと!?

 

だが視覚と聴覚がない…味覚と嗅覚は謎。

 

ーブチャッ

 

ん?何かに触れたな…スライム…? 

 

「(何だこの触覚は…?スライム…?)」

 

お互いにぶつかり合う。

何これ?

 

『解。スライムです』

 

うお!?なんだよ、この声…。

 

『私はあなたのユニークスキル[英知]です』

 

ユニークスキル?てかスキル?何ここ異世界?

 

英知『はい。あなたのいた世界から見るとここは異世界です。そしてスキルとはその者が持つ能力のことであなたの持っているスキルは、

・[欲望者(ホッスルモノ)

・[英知]

・[完全結界]

・[無限収納]

・[絶対記憶]

の5つです』

 

お、おお、英知は分かった。えっと、欲望者と完全結界と絶対記憶って何だ?

 

英知『欲望者は一定の条件下でどんなスキルでも生み出せます。絶対記憶は物事を永久に記憶することができ私からに限り感覚の記憶も可能です。完全結界はその名の通りの結界型のスキルです』

 

欲望者の条件って?

 

英知『それは生み出すスキルにより変わります』

 

おお、わかった。じゃあ目が見えるようになったり音が聞こえるようになるスキルはできるのか?

 

英知『その場合は魔力感知が最適でしょう。魔力感知の獲得条件は魔素を一定量使うのみです』

 

じゃあそれを頼む。

 

英知『了解』

 

『スキル[魔力感知]を獲得…成功しました』

 

あ、あとそれの使い方を俺の頭に入れたりとかできたりします?

 

英知『可能です』

 

じゃあよろしく頼む。

 

すると、俺の頭と体にに使用方法が流れこんでてくる。

 

英知『只今あなたの頭、身体に入れた記憶、感覚を忘れないように記憶する[絶対記憶]がありますが使用しますか?YES 、NO」

 

YESで。

 

そして、俺は魔力感知を使って目が見えるようにしたのだが…

 

八幡「想像した通りのスライムだな。しかも俺も」

 

ギリギリ自分の腹?辺りが見えるがスライムだ。そして、目の前には青いスライムがぴょこぴょこと動いていた。

しかも、ここ……洞窟の中だし…。

 

あ、そうだ英知。あいつと喋れたりするのか?

 

英知『解。現時点では念話が可能です』

 

よしわかった。念話方法を絶対記憶で記憶してくれ。

 

英知『了』

 

八幡「あ、あの〜すみません」

 

「わ!?だ、誰かに話しかけられた…」

 

八幡「心の声ダダ漏れだぞ」

 

「え!?心の声だけで伝わるんですか!」

 

八幡「あ、そゆことか。えっと、」

 

「え、えっと」

 

気まずい…。

 

八幡「あれ?名前は?」

 

「な、名前…」

 

英知『告。魔物は基本名前を持ちません。名前を持っているものは[名持ち(ネームド)]と呼ばれ普通より強い力を持っています』

 

そうなのか…。

 

八幡「ここどこか知ってるか?」

 

「さっきいきなりここに来たばかりで何も…」

 

八幡「え…どゆこと?」

 

「刺されて死んで転生したらここに」

八幡「……(え?仲間?)俺も何だが」

 

「えぇ!?」

 

八幡「転生したらスライムだったんだよ」

 

「お、俺も…」

 

八幡「元の名前は何だったんだ?」

 

「三上悟だ」

 

八幡「比企谷八幡だ」

 

「社会人だったのか?」

 

八幡「いや高校生だった」

 

悟「俺は社会人だった」

 

八幡「あ、すみません」

 

悟「いや敬語は使わなくていいよ。それにここに来ての年数は変わらないんだし」

 

八幡「は、はぁじゃあお言葉に甘えて」

 

悟「それより、スライム同士友達にならないか?」

 

!?こ、この俺に友達になってと言う者がついに現れたのか…!!

 

八幡「お、おう。よろしく」

 

悟「よろしくな」

 

そして、俺たちは洞窟を探検しながら雑談を交わす。すると、

 

「聞こえるか小さき者たちよ」

 

八悟「「!?」」

 

八幡「……泣いていい?」

 

悟「え?何で?」

 

英知『涙を流しますか?YES、NO』

 

親切か…。NOで。

 

英知『了』

 

悟「今話しかけてきたの誰かわかるか?」

 

ハチマン「まあ、見てもらった方がわかるな」

 

英知、悟に魔力感知の方法を教えられるか?

口だと説明できないから英知頼り。

:

『エクストラスキル[魔力感知]を獲得』

 

おお、早いな。

 

悟「お、おお視えるぞぉぉっ」

 

「出来たようだな」

 

あんた何もしてねえだろ。

 

「ほほぅ貴様は死にたいようだな」

 

八幡「すいません冗談です。許して下さい」

 

俺はスライムボディーで土下座をかます。

 

「なんだその珍妙なポーズは」

 

悟「お前……恐「我が名は暴風竜ヴェルドラ。この世に4体のみ存在する"竜種"が1体である!

クァーーハハハハ!!」竜じゃねえか!!」

 

 

ーしばらくしてー

 

この竜意外と話好きらしく何か会話が弾んでる。話によるとヴェルドラさんは300年前、勇者に『無限牢獄』で封印されたらしく以来ずっとここにいるらしい。

 

悟「よし!じゃあ自分…いや、俺たちと友達にならないか?」

 

俺強制なのね。

 

ヴェルドラ「ス、スライムの分際でこの暴風竜ヴェルドラとトモダチだと!?」

 

悟「い、いやならいいんだけど…」

 

ヴェルドラ「馬鹿お前!誰も嫌だなどと言っておらぬだろうが!!」

 

ツンデレかよ…可愛くねぇ…。

 

悟「え、そう?じゃあどうする?」

 

ヴェルドラ「そうじゃな…どうしてもと言うなら考えてやっても…」

 

だからツンデレか…。

 

悟「どうしても、だ!決定な!」

 

八幡「俺の意思は?」

 

悟「八幡ならOKするだろ?」

 

え?いつからそう思われてたの?まあ、するんだけど……。

 

悟「嫌なら絶交二度とこない!」

 

ヴェルドラ「ちょっ…し、仕方ない我が友達になってやるわ」

 

ヴェルドラは両手の指を出す。

 

悟「おう!よろしくな」

 

八幡「あーよろしく?」

 

俺たちはその指に手?をつける。

 

悟「さて、じゃあこの封印をどうするか」

 

英知。無限牢獄の解除方法はあるか?

 

『解。出来ません。「無限牢獄」の物理ダメージによる破壊は不可能です』

 

八幡「無限牢獄の物理ダメージによる破壊は不可能らしいぞ」

 

悟「え?何で知ってるの?」

 

八幡「俺のスキルの「英知」に聞いた」

 

悟「俺の大賢者みたいなものか」

 

八幡「あーさっき英知が大賢者とか言ってたな」

 

ヴェルドラ「おいお前たちだけで会話するでない」

嫉妬するなよおっさん。と、何か悟とヴェルドラが話すと……

 

悟「ヴェルドラ。お前俺の胃袋に入る気ない?」

 

八幡「は?」

 

ヴェルドラ「クハハハハハハッ!!面白い。ぜひやってくれお前に我の全てを委ねる!」

 

八幡「そんなに簡単に信じていいのかよ」

 

ヴェルドラ「無論だ!ここでお前たちの帰りを寂しく待つより共に『無限牢獄』を破る方が面白そうだ!」

 

悟「じゃあ、今から『捕食者』でお前を喰うけど…「おっとその前に」?」

 

八幡「?」

 

ヴェルドラ「お前たちに名をやろう。お前たちも我ら共通の名を考えよ。同格ということを魂に刻むのだ」

 

八幡「名字のようなものか?」

 

悟「そうだな…暴風竜…暴風…嵐?」

 

八幡「英語だと…テンペスト?」

 

悟「それでいいな」

 

ちょっと安直だが…まあいいか。

 

それを伝えると……

ヴェルドラ「素晴らしい響きだ!今日から我はヴェルドラ=テンペストだ!そして左のお前には"リムル"の名を授ける。リムル=テンペストを名乗るがよい!!そして、右のお前には、

エイトの名を授ける。エイト=テンペストを名乗るがよい!!」

 

エイトか…丁度8でいいな。ん?つまりリムルは俺の兄弟みたいなものなのか?

 

ヴェルドラ「では頼んだぞ友よ」

 

リムル「ユニークスキル[捕食者]」

 

リムルが無限牢獄ごとヴェルドラを捕食した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この日…世界に激震が走った。天災級モンスター"暴風竜"ヴェルドラの消滅が確認されたのだ。その原因をつくった2匹のスライムはそんな騒ぎは露知らず…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

俺はスキルをゲットしまくった。英知に便利そうなスキルを挙げてもらってそれを欲望者で会得してったのだ。そこで分かったのだがもうこの世に存在するユニークスキルは会得できないらしい。すると、

 

リエ「「!?」」

 

ま、マジかよ…。

 

なんとばったり蛇に遭ってしまった。しかもそこそこでかい。あれ?それって俺がスライムで小さいからか?

 

「シャーッ!」

 

何と黒い吐息をかけてきた。俺たちはそれを避ける。が、

 

リムル「ひょええぇ」

 

その吐息がかかった部分が溶けた。

 

エイト「スキル[重力変動]」

 

俺は蛇の周りの重力を100倍にする。蛇は潰れた。

 

エイト「うぇ」

 

リムル「じゃ、じゃあさっそく…いただきます」

 

エイト「え!?お、おいリムル何でそれ食ってんだよ」

 

リムル「大賢者が[捕食者]を使用したら対象のスキルとかを得れるって」

 

エイト「え、マジで。いいなそれ」

 

リムル「エイトはスキル自分で作れるんだからいいだろ」

 

エイト「……あー確かに」

 

リムル「擬態[嵐蛇]」

 

すると、リムルの姿が変わった。さっきのやつに。

 

エイト「スキル[重量変__」

 

リムル「ちょっ!?ちょーー!!待ってぇ!!俺だよ俺!!」

 

エイト「あ、すまん。ついな」

 

擬態を解いたリムルを見て俺はスキルの使用をやめた。

 

リムル「もうすぐで死ぬところだったな」

 

エイト「スライムだし潰れても問題ないんじゃないか?」

 

リムル「重力20倍じゃどうにもならんわ!」

 

エイト「んじゃ行こうぜ」

 

リムル「無視かよ…!」

:

:

:

〜ゴブリン村〜

 

え?俺たちが何でこんなところにいるのかって?まあ、結論から言うと話の流れで招待されたんだよ。

 

洞窟を出たらゴブリン30匹と出会って話をしたらまあ、ここに…。え?洞窟の中の話?魔物に襲われまくったのと人間を3人見かけた以外何もねえよ。

 

で、そんなわけで村の家の中にいるんだが…

 

村長「貴方様方の秘めたるお力息子から聞き及んでおります。我らの願い何とぞ聞き届けては貰えないでしょうか」

 

よぼよぼおじいちゃん村長ゴブリンが俺たちにお願い事があるらしい。

 

リムル「内容によるな。言ってみろ」

 

村長「ははっ。ひと月程前、この地を護る竜の神が突如消えてしまわれました」

 

ヴェルドラのことか?

 

村長「その為、縄張りを求める近隣の魔物たちがこの地に目を付けたのです。中でも牙狼族なる魔物は強力で1匹に対し我ら10匹で挑んでも苦戦する有り様でして…」

 

エイト「そいつらの数は?」

 

村長「群れで100匹程になります。比べて我らの内戦えるものは雌を含めて60匹程度です」

 

絶望的…そりゃスライムにでも頼るわな。

 

リムル「牙狼族が100匹程っていうのは確かなのか?」

 

息子「それは確実です。…リグルが牙狼族との死闘を経て手に入れた情報ですから」

 

エリ「「リグル?」」

 

息子「リグルは私の兄です。さる魔人より名を授かった村一番の戦士でした。兄がいたから我らはまだ生きているのです」

 

リムル「…もういないのか?リグルは」

 

村長「…自慢の息子でした。弱き者が散るのが宿命だとしても息子の誇りにかけて我らは生き残らねばなりません」

 

リムル「村長。一つ確認したい。俺たちがこの村を助けるならその見返りはなんだ?お前達は俺たちに何を差し出せる?」

 

リムルのやつ…本当は無償で助けてもいいんだよな…だけど体裁を整えなきゃいけないとか思ったんだろうな。そうじゃなきゃこんなこと言わないだろうし。リムルなら。

 

村長「強き者達よ。我々の忠誠を捧げます!」

 

……リムルはこれで承諾するんだろうな。まあ俺もだが…何だかんだ言って俺は頼み事や依頼には弱かった。何かと1人で何とかしようとするし。でも、こっちでは間違えないようにしないとな。

 

エイト「お前達のその願い」

リムル「暴風竜ヴェルドラに代わりこのリムル=テンペストと」

エイト「エイト=テンペストが聞き届けよう」

 

やべ恥ずかし…リムルの空気に乗ったらこれだよ。くそっ!!間違えないようにって気をつけたばっかりだったのに!!

 

すると、そこに来ていたゴブリンたち全員が膝をつき平伏した。

 

村長「我らに守護をお与えください!さすれば今日から我らはリムル様とエイト様の忠実なるシモベでございます!」

 

〜〜〜

 

村長「みな牙狼族にやられた者です。中にはもう長くない者もおります…」

 

英知。回復魔法のスキルって会得できるか?

 

英知『解。可能です。会得条件はヒポクテ草と魔素の消費です』

 

ヒポクテ草……あれか。よし、回復魔法の会得を開始してくれ。

 

英知『了。エクストラスキル[超回復]を

獲得…成功しました』

 

サンキュ。

すると、リムルが1人の寝込んでいるゴブリンを食った。

 

エイト「!?」

 

そして、そのゴブリンが吐き出されると傷が塞がって元気になっていた。

 

エイト「半分頼むわ」

リムル「わかった」

 

俺はリムルの担当のもう半分に向き直り

エイト「スキル[超回復]」

全員に「超回復」をかけ5秒ほどで全員を治した。

 

村長「さ、流石はリムル様、エイト様。蘇生の力をお持ちとは」

 

リムルは違うぞ。多分この前言ってた回復薬を体内でぶっかけただけだろ。ほらあのヒポクテ草って回復薬の原料らしくて魔素と草の汁を融合させると回復薬にならしい。それを大量にリムルは所持してるから…

 

エイト「あれ?」

 

俺…回復魔法要らなかったんじゃね?

まあ、いつでも使えるから俺的には便利だしいいか。

 

〜〜〜

 

「エイト様ー」

 

エイト「できたか?」

 

「はい。ご命令通り皆で柵を作ってみました…いかがでしょうか」

 

エイト「強度はちょっと不安だが…まあ即先ならこんなもんか。スキル[繰糸]」

 

俺はリムルの「粘糸」「綱糸」からヒントを得て作った「繰糸」を使って柵を補強した。まあ「繰糸」は炎系のスキルとか魔法に弱いから「粘糸」「綱糸」の方が役に立つが…。

あとは、リムルに_______。

 

ー夜ー

 

牙狼族がゴブリンの村に向かって走ってきた。

 

リムル「そこで止まれ。一度しか言わないからよく聞け。このまま引き返すなら何もしない。さっさと立ち去るがいい」

 

いかにも強者風の口調…俺ならやれないな。やったその夜俺は布団に潜って悶えてあわよくば死んだ方がマシと思うだろう……。

 

ボス「お前たち行けっ!!」

 

部下たち十数匹がこっちに走ってくる。が、

 

牙狼族「「「「「「「!?」」」」」」」

 

走ってきたやつらが次々に血を出して死んでいく。

 

ボス「バカなっ一体何が起こったと…っ何だこれは!?」

 

リムル「[綱糸]だ」

 

そう俺が頼んだのがこれ。「綱糸」の罠だ。

 

そして、ゴブリンたちには木の上から矢を撃ってもらってる。矢の雨と綱糸を避けながら辿り着くのは至難の業だし辿り着いても策にひっかかってゴブリンたちに殺られる。すると、

 

「オヤジ殿!?」

 

牙狼族のボスが走ってきた。仲間の血で見えるのか綱糸を爪や牙で切断しながら接近してくる。

 

ボス「調子に乗るなスライム如きが!!ひねり潰してくれる!!」

 

ゴブリン「「「「「リムル様…っエイト様…っ」」」」」

 

エイト「甘いな」

 

ボス「!?」

 

牙狼族のボスはリムルの粘糸に引っかかり空中で動けなくなっている。

 

ボス「(動けぬ…っ)」

 

リムル「[粘糸]だ。残念だったな。スキル[水刃]!」

 

リムルの水刃によりボスの首が刎ね落とされた。

 

ゴブリン「「「「「や、やった…!」」」」」

 

「オヤジ殿…」

 

リムル「聞け牙狼族よ!お前らのボスは死んだ!選ぶがいい服従か死か!」

 

いや…何勢いで服従とか言ってんだよ。逃げ出してもらうのがベストオブベストだろ。

 

すると、

 

リムル「ユニークスキル[捕食者]」

 

リムルがボスを捕食した。

 

リムル「[擬態]"牙狼"!」

 

さらに牙狼に擬態した。ほんと便利な。

その能力。

 

リムル「ククク仕方ないな今回だけは見逃してやろう」

 

にしても、すごい迫力な。リアル…。

 

リムル「我に従えぬと言うならばこの場より立ち去ることを許そう!!さぁ行けっ!!」

 

これでビビって帰ってくれると……

牙狼族「「「「我ら一同貴方様に従います!!」」」」

 

エリ「「……え?」」



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2話

ー翌朝ー

 

リムル「だいぶ野性味のある世帯になったな」

 

エイト「それな。てか俺何もしてなくね?」

 

リムル「ならこれから何かしてくれよ。頼んだぞ」

 

エイト「へいへい」

 

リムル「あ、そう言えば村長。お前の名は?」

 

村長「いえ魔物は普通名を持ちません。名前がなくとも意思の疎通はできますからな」

 

リムル「そうなのか…でも俺たちが呼ぶのに不便だな。よし……お前たち全員に名前を付けようと思うが…いいか?」

 

すると、全員が熱い眼差しで俺たちを見る。

 

村長「よ、宜しいのですか?」

 

リムル「お、おうじゃあ、まあ一列に並ばせてくれ」

 

エイト「俺ネーミングセンスないからお前に全部任せていいか?」

 

リムル「……何かする話どこ言ったんだよ」

 

エイト「スキルで名前と顔全部一致するように暗記するからそれで許して。一度出たやつだったらちゃんと言うから」

 

リムル「はぁわかった。それで許す」

:

:

:

:

と、ゴブリンたちはつけ終わった。

そして、リムルが牙狼族のボスの息子に名をつけた。

 

リムル「嵐の牙で"ランガ"。お前の名は嵐牙(ランガ)だ」

 

すると、

リムル「!?」

 

リムルがいきなり脱力?して、喋らなくなった。

 

あ、そういえばリムルはコウモリを捕食した後発生器官を模して喋れるようになったんだよ。俺はまだ念話しかできないけど。

 

 

ー3日後ー

 

エイト「よう」

 

リムル「おはよう。お前も名前つけてたら俺こうならなかったんじゃないのか」

 

エイト「っ、り、リグルドー。リムルが起きたぞー」

 

リグルドとは村長のことだ。ちなみにリグルドなんだが…

 

リグルド「リムル様!お目覚めになられましたか!」

 

家の中にムキムキマッチョのホブゴブリンが入ってきた。

 

リムル「(誰だよ!?)」

 

リグルド「さあこちらへ。宴の準備が出来ております」

 

エイト「やばいよな」

 

リムル「お、おう…なんか…みんなデカくなってるな」

 

嵐牙「御快復心よりお慶仕ります。我が主人よ!!」

 

嵐牙が尻尾を振りながら言う。それなければめちゃくちゃかっこいいのに…。

 

リムル「ら…ランガ?」

 

嵐牙「はっ」

 

リムル「(ど、どゆこと?)」

 

エイト「魔物にとって名付けは格が上がることに直結するらしいぞ。だから名付けたやつは魔素を消費して名付けられたやつがこうして進化すると…」

 

リムル「…やっぱエイトもやってくれればよかったんじゃ…」

 

エイト「こ、今度する機会があったらな」

 

リムル「頼むぞ」

 

 

ー翌日ー

 

昨日は宴をしたんだが、その時俺とリムルで話し合って出たことを皆に話すことにした。

 

リグルド「皆広場に集まれ!リムル様とエイト様より大切なお話がある!」

 

と、騒ぎながらこっちに集まってきた。

 

ー5分後ー

 

リムル「…はい今みんなが静かになるまで5分かかりました」

 

エイト「ぶっ」

 

どこからか取ってきたであろう付け髭をつけてリムルが校長先生のモノマネをする。皆には通じてないが……。

 

リムル「えー気を取り直して。見ての通り俺たちは大所帯になった。そこでなるべくトラブルを避けるためルールを決めようと思う。1つ。仲間内で争わない。2つ進化して強くなったからと言って多種族を見下さない。3つ。人間を襲わない。以上だ。最低この3つは守ってもらいたい」

 

おー流石リムル。俺何もしなくていいじゃん。

 

え?サボり?いやいや俺はリムルに何か指示されたら動くからいいんだよ。

 

すると、

リグル「宜しいでしょうか」

 

リグルドの息子のリグルが質問をしていいか聞いてくる。

 

リムル「お、なんだねリグル君」

 

リグル「何故人間を襲ってはならないのでしょうか?」

 

リグルド「リムル様のご意志を…!」

 

リムル「まあいいからいいから。簡単な理由だ。俺が人間を好きだから。以上だ」

 

ちなみに俺は好きじゃない。あれ?つまり俺の意思ルールにそぐわなくね?まあ、この辺はリムルに丸投げだな。

 

リグル「なるほど!理解しました!」

 

軽っ。

 

リムル「いやええとな人間は集団だ生活してるだろ?」

 

あれ?じゃあ俺人間じゃなかったってこと?

 

リムル「彼らだって襲われたら抵抗するし数で押されたら敵わないだろ?そういう訳でこちらからの手出しは禁止だ。仲良くする方が色々と得だしな。そんな所だ。なるべく守るようにしてくれ」

 

リムル「それとだ。エイト。エイトには警備担当を統率してほしいんだが」

 

エイト「どゆこと?」

 

リムル「もしも襲われた時の対処法とかを教えてほしいんだ。あと、お前の方が戦闘向きだしな」

 

エイト「まあ、何かするって言ったしな。別にいいぞ」

 

リムル「ありがとな。それと、村長リグルド」

 

リグルド「はっ」

 

リムル「君をゴブリン・ロードに任命する。村を上手く治めるように」

 

リグルド「ははぁ!!身命を賭してその任引き受けさせて頂きます」

 

おー丸投げだな…。

 

 

ー数日後ー

 

リムルがゴブリンたちに役を与えた。狩りをするチームと食糧調達チーム。あ、ちなみに俺は食糧調達チームに同行してる。え?何でかって?まあそれについては後で教える。

 

まあ、そんなわけで衣食住の食は問題ないんだが…衣と住に問題があったんだよ。家は家と呼べないし服は布を被せただけ。うん。露出しすぎだった。

 

それで、リムルとリグルと3人のゴブリンが技術指導者を村に呼ぶため武装国家ドワルゴンに向かった。その間は俺がリムルの代わりらしいが、大抵はリグルドに丸投げでいいらしい。

 

だから俺はスキル習得条件達成のため食糧調達チームに同行してる。

 

〜〜〜

 

エイト「えぇ……」

 

同行を初めて4日。何と……

 

エイト「ふざんなよ」

 

スカイドラゴンと対峙した。スカイドラゴンは2人の冒険者を追っていたらしく、今なら逃げられる。が、

 

スカイドラゴンが放った青い雷?のようなもので殺された。

 

エイト「お前たちは今すぐ村に戻れ」

 

「で、ですがエイト様!」

 

エイト「お前らに死なれちゃリムルに顔向けできないしな」

 

「エイト様も死なないでください!」

 

エイト「わかってる。そう簡単に死なねえよ」

 

嵐牙狼に乗ったゴブリンたち3人と3匹には村に戻ってもらった。

 

エイト「死なねえとは言ったが…きつくね?」

 

すると、スカイドラゴンが先程の攻撃を仕掛けてくる。

 

エイト「っ、スキル[完全結界]」

 

俺は結界を張りそれを防ぐ。

 

なあ英知。こいつに勝てる…

 

と、俺が話しかけようとした時にはスカイドラゴンが再び俺に攻撃を仕掛けて来た。

 

エイト「今取り込み中なんだよ!」

 

こいつに勝てるスキル会得できるか?

 

エイト「(もう結界張りっぱなしでいいや)」

 

英知『解。できません』

 

は?

 

英知『体内魔素残量が少ないため個体名[スカイドラゴン]を倒すことが可能なスキルを会得できません』

 

え?俺いつそんな使った?

 

英知『攻撃を防ぐ為に使用した[完全結界]とただ今使用中の[完全結界]により体内魔素(エネルギー)残量が半分を切りました。このままいくとスリープモードに入ります』

 

えぇ……最悪じゃん。魔素を消費せずに会得できるやつないの?あいつに勝てるやつ。

 

英知『解。あります。ただそれを使用した場合ユニークスキル[欲望者(ホッスルモノ)]が消滅します』

 

え?マジで…。でも、それをするしかないわな。

 

英知『ただ、得られるスキルの能力はユニークスキル[欲望者(ホッスルモノ)]と同等。またはそれを超えるものになります』

 

まあ、それでいい。よろしく頼む。

 

英知『了。ユニークスキル[欲望者(ホッスルモノ)]を使用します』

:

:

英知『エクストラスキル[災厄(カラミティ)]を獲得…成功しました』

 

これで…

 

英知『エクストラスキル[災厄(カラミティ)]の能力が

欲望者(ホッスルモノ)]を超えていない為、エクストラスキル

災厄(カラミティ)]をこれまでに得た攻撃型のスキル全てと強制統合、進化させます』

 

は?

 

〜〜〜

 

英知『緊急事態発生。現在統合中のスキルを進化させる為に生贄となる魂が必要です』

 

え、じゃあどうすればいいの?てか魂とか怖えよ。

 

英知『前方3mにいる人間を吸収することで条件を達成できます』

 

…………あの人たちは死んでるのか?

 

英知『はい。生命活動を停止しています』

 

……わかった。それを使用させてもらう。

 

俺はすぐに先程の冒険者2人を回収して吸収。

 

魂を分離して魂を生贄に、体を分解して解析した。

 

 

 

来ていた山の上に雨雲が被り天候が悪くなる。

 

俺の周りを紺色の炎が覆い、地震が起きる。

雪も降り始めた。

 

え?どゆこと?

 

英知『これより得るスキルの進化過程、魔王種への進化により起こる現象です』

 

この現象で出る被害予想は?てか、魔王種?

 

英知『山が丸ごと吹き飛びます。魔王種とは魔王になる資質をを持った存在のことです』

 

魔王のことは一旦置いといていいけど被害の方はどうにかならないの?

 

英知『ユニークスキル[完全結界]で半径10mを覆いますか? YES NO』

 

YESだ。

 

 

[完全結界]のおかげで 被害は少なくなったが………。

 

炎は青くなり威力を増した。地震は震度8を優に超えている。竜巻の威力も増し、赤い炎が混ざっている。

 

そして、俺に向かって青い炎が混ざった黒い雷が落ちた。

 

エイト「あ…」

 

地面に直径20mの大穴が空いた。

 

 

そして、その穴の上に飛んでいるのは1人の

人間。もといスライムだ。

 

エイト「今度は俺の番だ」

 

英知『ユニークスキル[災禍(ディザスター)]を獲得…成功しました。吸収した人間を使い人間の姿を獲得しました』

 

俺は前世の姿(目腐りなし)を獲得した。何で浮いてるか?重力を操れる俺には愚問だな。

 

すると、スカイドラゴンが攻撃を放つ。

 

エイト「スキル[完全結界]」

 

俺はそれを防ぐ。そして、

エイト「ユニークスキル[災禍(ディザスター)]」

 

俺より半径50mの重力を10倍にする。ちなみに俺は重力変動無効を持ってるから効かない。

 

スカイドラゴンは下に落とされ地に着く。

 

地面から青い火の柱が現れてスカイドラゴンを灼く。 

 

エイト「[雷炎]」

 

そこに、青い炎を纏った黒い雷が落ち、スカイドラゴンは塵となって消えた。

 

エイト「え、強」

 

 

〜〜〜

 

〜ドワーフ王国〜

 

リムル「!?(なんだ?この圧は…!)」

 

大賢者『解。個体名:エイト=テンペストが魔王種への進化を成功した為に増大した魔素によるものです』

 

リムル「(ここまで伝わるものなのか?)」

 

大賢者『解。[影繋ぎ]によるもので他の魔物、人間には伝わっていません』

 

リムル「(そうなのか。魔王種ってなんだ?)」

 

大賢者『魔王になる資質のある存在のことです』

 

リムル「(エイトは何してそんな魔王種になったんだ…?)」

 

翌日、リムルたちは色々あって王宮に連行された。

 

 

〜〜〜

 

ー6日後ー

 

リムルが帰ってきた。刀鍛冶のカイジンと3人兄弟を連れて。それと、リムルの噂を聞いて集まってきたゴブリンたちにリムルと俺が半分ずつ名付けをした。リムルはスリープモードに入ったが俺は入んなかった。

 

え?何でかって?ふっ、それは俺が[災禍(ディザスター)]の権能[自然発生]を持ってるからだよ。体内から一定の速度で魔素を生み出す能力のおかげでギリギリ体内魔素残量の一定値を切らずに済んだんだってわけだ。

 

そんなわけで俺は新しく得たスキルを試す為に封印の洞窟にいる。

 

エイト「え、何これ」

 

俺の周りは竜巻と豪雪と青炎に覆われている。

 

英知『解。ユニークスキル[災禍(ディザスター)]による

三位一体(トリニティ)]です。内訳は[暴風][豪雪][青炎]です』

 

つまり、3つのスキルを合わせて使用できると。

 

英知『通常の同時攻撃よりも攻撃力が上昇します』

 

便利な。

 

俺はスキルを解く。

 

エイト「魔王種って言ってたけど魔王にはなれるのか?」

 

英知『真の魔王になるには1万の人間の魂が必要と推定されます』

 

え、怖。てかそんなの集められねえよ。まあ、魔王についてはまた今度考えるか…。



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3話

ー数日後ー

 

エイト「……いるな。数は…6か…」

 

英知『告。この反応は巨大妖蟻(ジャイアントアント)です』

 

エイト「行くか」

 

リムルも復活して村…というか町の家も仮設だが結構できてきた。

 

そんなわけで俺はいつも通り巡回をしてるわけなんだが、巨大妖蟻(ジャイアントアント)の反応を確認したから討伐に行くわけだ。

 

巨大妖蟻(ジャイアントアント)を見つけると、そいつらから逃げてる4人組を発見。 あ、洞窟で見た3人組じゃん。新メンバーか?

 

エイト「あ」

 

すると、新メンバー(仮)が全部倒したっぽ……1匹倒し損ねてた。

 

エイト「ほい」

 

俺は完全結界で生き残りを覆ったあと、雷炎を

巨大妖蟻(ジャイアントアント)に落とし消し炭にした。

 

エイト「大丈夫すか?」

 

俺はスライムボディーに切り替えて話しかける。

 

「す、スライム?」

 

エイト「スライムで悪いか?」

 

「あ、いや…」

 

エイト「此処じゃ何だし俺の町に来るか?」

 

「魔物が町!?」

 

「怪しい…」

 

「でも悪いスライムじゃなさそでやすよ」

 

警戒してるっぽいな。ならここは…

 

エイト「俺はエイト『悪いスライムじゃないよ!』」

 

無害アピールをするしかないな。

 

「ぶっ」

 

仮面をつけた女性がそれに反応する。お、このネタわかったってことは同郷か?

 

「どうしたんやシズさん」

 

「いえなんでもない。それより…」

 

俺は仮面の女性に抱き上げられる。あ、いい…

 

「お邪魔しよう。この子はきっと信用できる」

:

:

:

〜ゴブリン村〜

 

リムル「エイトの連れてきた4人はどうしてるんだ?」

 

リグルド「はい…」

 

すると、4人のいる家の中から声が聞こえてくる。

 

リグルド「すみません。腹ペコだというので食事を…」

 

リムル「おおいいじゃないか。困ってる人に親切にしてやることはあいことだぞ」

 

リグルド「ははっありがとうございます。今後とも精進したいと存じます!」

 

リムル「うんうん」

 

リグル「リムル様、エイト様。どうぞ」

 

え?俺いつからいたのか?最初からいたよ。喋らなかっただけだ。

 

そして、中を見ると…

エイト「……」

 

肉を食いまくる3人&普通に食べる1人がいた。 

 

あ、仮面の女性は普通に食べてる。あの3人

大丈夫か?

 

リグルド「お客人。大したもてなしはできんが寛いでくれておりますかな。改めて紹介しよう。こちらが!我らが主人!リムル様にエイト様であーる!」

 

すると、3人は一気に口に含んでいた肉を飲み込む。

 

3人「「「主人!?」」」

 

エリ「「主人で悪いか」」

 

「え、いや…」

 

「ただのスライムではないと思っていたけどまさか…」

 

リムル「初めまして俺はスライムのリムル!『悪いスライムじゃないよ!』」

 

「ふふっ」

お前もか…

 

「シズさん?」

 

「これは失礼しました。まさか魔物に助けていただけるとは思ってもいませんだしたが助かりました」

 

「あ、お肉ありがとうございます。とってもおいしいです♪」

 

「どうも助かりやした。こんなところでゴブリンが村を建設中とは思いやせんでした」

 

「」

 

マイペースだな。

 

リムル「で、此処には何をしにこられたのかな?」

 

カバル「俺はカバル。一応このパーティーのリーダーをしている。こいつが」

 

カバルは後ろの女性を指す

 

エレン「エレンですぅ」

 

すると、もう1人の男の人が

 

ギド「どうもギドと言いやす。お見知り置きを」

 

カバル「で、この人は行く方向が同じということで臨時メンバーとなった」

 

「シズ」

 

エイト「(無口か)」

 

リムル「で?」

 

カバル「俺たちはブルムンド王国のギルドマスターの依頼を受けて_____」

 

話によるとジュラの大森林の周辺国の一つ、ブルムンド王国のギルドマスターの依頼を受けて調査に来ていたのだという。

 

リムル「なるほど」

 

ヴェルドラがいなくなった影響は思っていた以上に大きかったようだ。洞窟だけでなく周辺の調査までしに来るとは。

 

リムル「俺たちはご覧の通り街を作ってる途中だが…そのギルド的に何か問題があったりするか?」

 

カバル「いや大丈夫だろ」 

 

エレン「そうね。ギルドが口出す問題じゃないしね。国はどうなんだろう」

 

ギド「ん〜あーしにはわかりやせん」

 

それ大丈夫なのか?

 

リムル「そうか。まあ話はわかった。今日は此処に泊まるがいい。ゆっくり疲れを癒してくれ」

 

全「「「「ありがとうございます」」」」

 

リムル「丁重にな」

リグル・リグルド「「はっ」」

 

 

ー翌日ー

 

4人は街を出る為俺たちは見送りに来ている。

 

すると、

シズ「うぐっ…うう…そんな…もう…」

 

ギド「シズさん?」

 

カバル「おいどうした?」

 

シズ「あ"あ」

 

エレン「シズさん!!」

 

どうしたんだ…?一体何が…?

 

シズ「うぐ……ああああああ!!」

 

シズさんの画面がひび割れ赤い光が中から放たれる。

 

シズさんは浮かび、炎で包まれた。

 

エレン「シズさん!シズさん!!」

 

カバル「シズ……シズエ・イザワ!」

 

ギド「シズエ・イザワって!爆炎の支配者か!?」

 

爆炎の支配者?

 

エレン「そ、それって50年くらい前に活躍したっていうギルドの英雄よね!!シズさんが…?」

 

ギド「爆炎の…」

 

カバル「もう引退してんじゃなかったのか…!」

 

こうしてる内にも炎は強くなる一方だ。

 

リムル「リグルド、リグル。みんなを避難させろ」

 

リグルド「しかし」

 

リグル「リムル様…」

 

リムル「命令だ」

 

リグルド「ははっ承りました」

 

2人は走って行った。

 

シズさんの仮面が落ちた。

シズさんは泣いている。

 

そして、

エレン「マジか」

 

シズさんの体は炎を纏った男に変わった。

 

「イイイイイイイイ!!」

 

カバル「炎の精霊イフリート…」

 

名前だけはかっこいいな。見た目は悪魔だが…。

 

ギド「間違いないでやす。シズさんは…」

 

エレン「伝説の英雄。爆炎の支配者…あ、あんなのどうやっても勝てないんですけど!」

 

ギド「む、無理でやす。あーしらはここで死ぬんでやす。短い人生でだったでやんすね」

 

イフリート「イイアアアアアアアアアア!!」

 

すると、イフリートを中心に爆風が巻き起こる。

 

エレン「……」

 

まあ、完全結界で防いだが…町をな。リムルは問題ないし3人は……しぶとそうだし大丈夫だろ。

 

イフリートの左右と後ろには火の柱が立っていて、そこから炎に包まれたドラゴンが出てくる。

 

ドラゴンは炎を撒き散らしながら飛び始めた。

 

エイト「無意味だって」

 

俺の結界により防いでいるから、炎が燃え広がる事なんてない。

 

エレン「いったあぃ…」

リムル「お前たちもさっさと逃げろ」

 

カバル「そんなわけには行かねえよ。あの人が何で殺意を剥き出しにしてんのか知らねえが」

 

カバルは剣を抜き、全員が戦闘体制に入る。

 

ギド「俺たちの仲間でやんすよ」

 

エレン「ほっとけないわ」

 

リムル「そうか。気をつけろよ」

いいやつらだな。まあ、そんなところ悪いが…

 

エイト「俺が全部やるよ」

 

リムル「え?できるのか?」

 

カバル「エイトの旦那が強いのは知ってるがイフリート相手に1人は…」

 

エイト「俺だってな…せっかく得たスキルを試したいんだよ」

 

リムル「試したい?」

 

エイト「お前らは結界で覆うから余波は来ないと思うが…まあ、見といてくれ」

 

リムル「おうわかった!全部お前に任せる」

 

エイト「んじゃ[完全結界]」

 

俺は3人とリムルを完全結界で覆う。村は覆ってあるし森も覆って…よし。これで被害は出ないな。

 

すると、火炎蜥蜴(サラマンダー)(さっきのドラゴン)が3体こっちに来る。

 

エイト「ユニークスキル[災禍(ディザスター)]」

 

重力が10倍になり、サラマンダーが全て落ちた。

 

エイト「[青炎]」

 

青炎により火炎蜥蜴(サラマンダー)が焦げたところで…

 

エイト「[暴風][雷火]」

 

バラバラに引き裂いた後に塵にした。

 

エイト「[暴風]ってこんなに威力高かったのか…」

 

リムル「(強すぎんだろ!?)」 

 

エイト「あとはお前だけだな」

 

すると、イフリートの分身が現れまくり俺の周りを囲む。

イフリートが降下すると、地面が溶けてマグマのようなもので囲まれた。

触ったらどうなるんだろ…。

 

エイト「さっさと終わらせるか。[三位一体(トリニティ)]」

 

ちなみに、内訳は[暴風][氷結][雷火]だ。

 

ードオオオオンッ!!

 

その一撃でイフリートの本体以外は消えた。が、

 

イフリート「イイアアアアアア」

炎化爆獄陣(フレアサークル)

 

俺の下に魔法陣が現れ炎の柱が立つ。

 

エイト「[完全結界]」」

 

結界を足元に貼って火炎爆炎陣(フレアサークル)を遮断した。

 

イフリート「っ!?」

 

火炎爆炎陣(フレアサークル)は止まる。

 

エイト「リムルちょっと来てくれ」

 

俺は結界と重力変動を解く。

 

リムル「お前すっげえな!」

 

エイト「リムル。こいつを捕食してくれ」

 

リムル「OK」

:

:

:

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

俺はシズさんの眠っているベットの横に人間の姿でリムルといる。

 

シズ「ねぇスライムさん」

 

エリ「「?」」

 

シズ「聞いてくれるかな」

 

リムル「あんまり喋らない方が…」

 

シズ「私という人がいたって覚えていてほしい」

 

リムル「わかった」

 

エイト「絶対に忘れませんよ」

 

シズさんは朦朧としながらも何があったかを語ってくれた。召喚され、イフリートを憑依させられ、友達を殺めてしまったこと。

 

そして、勇者に出会い、保護してもらったこと。そんな彼女と旅をして…貰ったのがあの仮面らしい。

 

魔法抵抗を高めてシズさんの中にいたイフリートを抑え込めるものだと。

 

シズ「仮面の力でイフリートの力もある程度ならば使えるようになって…誰かを助けて戦って…」

 

リムル「いつしか爆炎の支配者と呼ばれるようななったわけだ。うん。すげえ攻撃だっもんな!かっこいいよ!」

 

リムルはすごいよな…こういう時でもそうやって話せるんだからな。

 

シズ「彼女と一緒に旅をして嬉しくて幸せだったな。でも、」

 

エイト「でも?」

 

シズ「あの人は…姿を消した。私を残して」

 

リムル「どうして?」

 

シズ「わからない。どうしてだろう。どうして…?きっとまた会えるから…あの人はそう言っていた。私は…強くなろうって決心した。苦しんでいる人を助けようって。結構頑張ったんだ…何十年もだよ。偉いと思わない?」

 

リムル「ああ偉いよ」

 

シズ「英雄って呼ばれるようになって……だけど、私ももう若くなくてイフリートの制御も怪しくなってきて…一歩間違えればイフリートを解き放つかもしれない。そう考えると怖くなって…このままじゃまた…大切な人を…」

 

エイト「でも、シズさんは守り切ったじゃないすか。解き放ったのだって俺たちがいる場所だったわけですし」

 

シズ「ふふっありがとう。それでね、私は引退したあと指導者になった」

 

リムル「指導者?」

 

シズ「学校の先生」

 

リムル「おお学校があるのか」

 

シズ「イングラシア王国ってとこでね。異世界から来た子たちの」

 

エイト「たちってことは結構いるんすね」

 

シズ「スライムさんが言ってたゲームのセリフを教えてくれたのもそのうちの1人だよ」

 

リエシ「「「僕は悪いスライムじゃないよ」」」

 

シズ「えへへ」

リムル「ひひひ」

エイト「ふっ」

 

シズ「楽しかったなぁ。平和な日々だった。私の元を去って行った子もいたけど…。でも、自由組合総師(グランドマスター)になった子もいて」

 

リエ「「自由組合総師(グランドマスター)?」」

 

シズ「各国のギルドを統括する最高責任者」

 

リムル「そりゃあ大したもんじゃないか」

 

エイト「すげえな」

 

シズ「ええ大したもの。私が教えられるものはもうなくなったと思った。そして、寿命が残り少ないのか…イフリートの意識を抑え込めなくなってきて…思い出したことが一つだけあったから。旅に出ようって」

 

リムル「思い出したこと?」

 

シズ「私を召喚した男。探して」

 

リムル「復讐したいのか?」

 

シズ「わからないわ。でも、会って確かめたいことがあったの。だから私は…」

 

シズさんはギルド3人組を思い浮かべる。

 

シズ「本当にいい子たち…ちょっと危っかしいけど」

 

リムル「そうだな」

 

シズ「楽しかった。でも、もう…ねぇスライムさん。名前はなんて言うの?」

 

リムル「え、俺はリムルって」

エイト「俺はエイト」

 

シズ「本当の…名前」

 

リムル「あぁ、俺は悟。三上悟」

 

エイト「俺は八幡。比企谷八幡だ」

 

シズ「私は静江。井沢静江」

 

そして、静江さんは深呼吸をする。

 

リムル「静江さん。もう眠った方がいい」

シズ「悟さん。お願いがあるんだけど。私を…食べて」

:

:

:

エイト「あのな…リムル…服着て」

 

リムル「あ、すまん」

 

リムルはシズさんを捕食し、擬態したんだが…シズさんに超似てる美少年になった。ただ、裸はやめろよ。

 

リムルにはその辺にあった服を着させた。

 

リムル「俺どんな感じだ?」

 

エイト「美少女寄りの美少年ってとこだな」

 

戸塚的な感じだが、戸塚にはまだまだ敵わないな。見た目だけなら張り合えても中身が違うんだよ。戸塚は中身まで最&高だからな!

:

:

:

しばらくすると、ギルド3人組が来たから事情を説明した。

 

すると、

カバル「なあ旦那。もう一度人の姿になってもらえねえかな」

 

リムル「?別にいいけど」

リムルは人の姿になる。

 

リムル「一体何だって…」

 

3人組「「「シズさんありがとうございました!!」」」

 

リエ「「!」」

 

そういうことか。

 

カバル「俺あなたに心配されないようなリーダーになります!」

 

ギド「あなたと冒険できたこと生涯の宝にしやす!」 

 

そして、エレンはリムルに抱きついて…

エレン「ありがとう…お姉ちゃんみたいって思ってました」

 

リムルはエレンをそっと撫でる。

 

本当に…シズさんの最後の旅の仲間が、彼らでよかった。

 

リムル「ところでお前らの装備ボロボロだな」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

3人組「「「!?」」」

 

エイト「餞別だ。うちの職人の力作なんだ受け取ってくれ」

 

俺たちはカイジンたちが作った装備を3人に渡した。

 

リムル「紹介しよう。カイジンにガルムだ」

 

カイジン「力作っつってもまだ試作品だけどな」

 

ガルム「着心地はどうだい?」

 

エレン「えっ?カイジンってあの伝説の刀鍛冶の?」

 

ギド「じゃあガルムってあのガルム師!?」

 

カバル「うおーー!!家宝にしますぅぅう!!」

 

カイジンたちは俺たちが思っていた以上に有名人らしい。いい土産を渡せたっぽいな。

 

リムル「よかったな」

エイト「ああ」

 

 

斯くしてリムルとエイトというスライムは1人の女性の想いを継ぎリムルは姿も継いだ。そして世界は激動の時代を迎えることになる____

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「…お前に食事と名をやろう」

「…あなたは?」

「ゲルミュッド。俺のことは父と思うがいい。お前の名は"ゲルド"。やがてジュラの大森林を手中に収め豚頭魔王となる者だ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



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4話

突然だが今夜は宴会だ。え?何でかって?リムルが味覚を獲得したか………あ、俺もじゃん。

 

全然気づいてなかったわ。そんなわけで、今日からリムルも皆と一緒に食事ができるということでリグルドが宴会をすると言い出したんだ。

 

それで、俺はいつも通り巡回。リムルは封印の洞窟に行って新たに得たスキルと耐性の確認に行った。

 

行ったには行ったんだが……

 

エイト「……この反応は…ランガたちと遭遇、戦闘に入ったな」

 

俺はすぐに魔力感知に引っかかった場所に向かう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ゴブタたち警備担当が大鬼族(オーガ)と戦闘をしていた。

 

リムル「…なんだ?お前ら」

 

丁度リムルも来たらしい。ゴブタは斬られて騒いでるが軽症。リグルも軽症だ。あとランガが

2体のオーガ相手に戦っている。

 

エイト「嵐牙!戻れ!」

 

嵐牙「主よ!申し訳ありません。我がいながらこのような…」

 

エイト「いや大丈夫だ。殆どが無力化されてるようだし死者は出てない。あとは任せろ」

 

嵐牙「はっ」

 

すると、リムルはリグルとゴブタに回復薬を渡した。

 

リムル「おいお前ら!事情は知らんがウチのヤツ等が失礼したな。話し合いに応じる気はあるか!?」

 

俺も警備担当なのに不甲斐ないな。まあ、誰も致命傷じゃなくてよかったが。

 

赤の大鬼族(オーガ)がリムルに向かって

 

「正体を現せ邪悪な魔人め」

 

え?

 

リムル「お、おいおいちょっと待て!俺が何だって!?」

 

「魔物を使役するなど普通の人間にできる芸当ではあるまい」

 

リムルの正体なんて愛くるしいスライムだぞ?

:

:

と、そんなわけで戦闘開始だ。

 

リムル&俺vs大鬼族(オーガ)5人。嵐牙vs桃色オーガだ。嵐牙には魔法を使える桃色オーガを押さえてもらって俺たちの邪魔をさせないよ………あれ?結界使えばよかったんじゃね?

まあ、いいか。

 

すると、さっきの赤いやつが刀を振ってくる。

が、

 

エイト「甘いな」

 

完全結界で防いだ。ちなみに刀は折れた。

 

リムルの後ろにはデカめの大鬼族(オーガ)が木製のハンマー?みたいなのを振り下ろす。

 

リムル「お前は眠っとけ」[麻痺吐息]

 

リムルはそれを避け眠らせる。

 

エイト「使ってみるか」

 

俺は背中にかけていた刀の柄に手をかける。

 

これが俺のカイジンに頼んで作ってもらった刀。佐々木小次郎の物干し竿だ。

 

ちょっと使ってみたかったんだよなぁ。

 

結構長いができるだけ軽くなるよう作ってもらって普通に振り回せるんだよ。

 

「ワシが相手をしよう」

 

エイト「……」

 

この爺さん…一番強いなこの中で。残りはリムルに任せるか。

 

そして、激しい斬り合いが始まる。と、思ったんだが…

 

エイト「剣技じゃ勝てそうにないんで…」

災禍(ディザスター)

 

3秒ほど斬り合って気づいた。

この爺さんやばい。ので、スキルに頼るか。

 

「!?」

 

エイト「殺す気はないし結界だけ張っとくか」

 

俺は重力がいきなり上がって動揺した隙を見逃さず爺さんを結界で覆った。ちなみに中の重力は10倍だ。

 

すると、丁度リムルもあと赤いのだけになったぽく…

 

「[鬼王の妖炎(オーガフレーム)]」

 

リムルが燃える。が、

 

リムル「悪いな。俺に炎は効かないんだ。本当の炎を見せてやろう。よく見ておけ」

 

強者感あるな。

 

リムル「エクストラスキル[黒炎]」

 

リムルは右手を上げると渦を巻くように黒い炎が出た。

 

エイト「んじゃ俺も」

[青炎]

 

俺は自分の上空に渦を巻く青い炎を出した。

んだが…

 

エイト「何これ…」

 

思ったより…いや、そんなレベルじゃなく炎がデカイ…。

 

リムル「俺のが小さく見えるんだが…」

 

エイト「すまん」

 

ただビビってくれてるしまだ消さなくていいか。

 

「俺には次期頭領として育てられた誇りがある!生き恥を晒すくらいなら命果てようとも

一矢報いてくれるわ!」

 

逆効果だったかー…え?どうしよう?

 

すると、桃色オーガが

 

「お待ち下さいお兄様!この方達は敵ではないかもしれません!」

 

お、ありがたい。

 

「そこをどけ!」

 

「いいえ!」

 

「なぜだ?里を襲った奴と同じく仮面をつけた魔人ではないか。お前もそう言っただろう!?」

 

「はい。ですが…冷静になって考えてみてください!これだけの力のある魔人様が姑息な手段を用いて豚どもに我らが里を襲撃させるなんて不自然です。それこそお一人で我ら全てを皆殺しにできましょうから」

 

しないけどね。てか、例えが怖いよ?

 

「この方々が異質なのは間違えありませんが恐らくは里を襲った者どもとは無関係なのではないかと」

 

リムル「少しはこっちの話を聞く気になったか?」

 

エイト「ならもうこれいらねえよな」

 

俺は炎を消しリムルは捕食した。

 

「「「!?」」」

 

「今、何をっ…」

 

エイト「あー俺のスキルで消したんだよ。自分のスキルを消したり出したりできる能力」

 

ちなみにこれは[災禍(ディザスター)]の権能の一つだ。

 

リムル「俺は捕食したんだよ。あんなのテキトーに投げたら死人が出るだろ」

 

「…結局お前たちは何者なんだ?」

 

リムル「ただのスライムだよ。俺はリムル」

 

エイト「俺はエイトだ」

 

「スライムだと?馬鹿な。いくらなんでも」

 

俺たちはスライムボディーに切り替える。

 

「ええっ…ほ、ほんとに…」

 

俺はさっきの爺さんのところに行く。

 

エイト「すまん今解く」

 

俺は結界を解いた。

 

「ありがとうございます。我らの勘違いで申し訳ありません」

 

エイト「いや大丈夫だ」

 

と、そんなわけで俺たちは(リムルが)今日の宴会に大鬼族(オーガ)たちを招待した。

 

〜〜〜

 

リムル「……」

エイト「……」

 

ゴブイチ「リムル様、エイト様どうぞ」

 

リムル「おう。ありがとう」

エイト「サンキュ」

 

そして、俺たちはこっちに来て初めてのまともな…味のわかる食事をする。

 

2人は串に刺さった肉を口に入れる。

 

リムル「……」

エイト「……」

 

リエ「「うんっっまぁぁい!」」

 

やばいぞこれ!味覚の大切さを俺は今日改めて知ったぞ!しかもこの肉うまい!めちゃくちゃうまい!

 

「「「「「「うおおおおおお!!」」」」」」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リグルド「豚頭族(オーク)大鬼族(オーガ)に仕掛けただって?そんなバカな!」

 

「事実だ。武装した豚共数千の襲撃を受けて里は蹂躙し尽くされた。300人いた同胞はもうたった6人しかいない」

 

マジかよ…てか武装した豚頭ってどんなだよ…。

 

カイジン「信じられん…あり得るのかそんなこと…」

 

ゴブタ「そんなにおかしいことなんすか?」

 

肉を咥えながらゴブタが入ってきた。

 

カイジン「ゴブタ。当然だ。大鬼族(オーガ)豚頭族(オーク)じゃ強さのケタが違う。格下の豚頭族(オーク)が仕掛けること自体あり得んしまして全滅させるなど「全滅ではない。まだ俺たちがいる」……すまん」

 

すると、リムルが来た。

 

リムル「なるほど。そりゃ悔しいわけだ」

 

「肉はもういいのか?リムル殿」

 

リムル「ちょっと食休み」

:

:

リムル「提案なんだけどさお前達全員、俺とエイトの部下になる気はあるか?」

 

え?てか、おれ主感ないだろ。リムルが殆どやってるし。まあ楽だからいいけど。

 

「は?」

 

「ま、俺たちの支払うのは衣食住の保証のみだけどな。拠点があった方がいいだろ?」

 

「しかし、それではこの町を俺たちの復讐に巻き込むことに…」

 

リムル「まあ別にお前たちのためだけってわけじゃない。数千の、しかも武装した豚頭(オーク)が攻めてきたんだって?そりゃどう考えても異常事態だ。この町だって決して安全とは言えないだろうな。そんなわけで、戦力多い方がこちらとしても都合がいい」

 

「…なるほど。………悪いが少し考えさせてくれ」

 

リムル「おう。じっくり考えてくれ」

 

 

ー翌日ー

 

リムル「……決めたのか?」

 

大鬼族(オーガ)の一族は戦闘種族だ。

人に仕え戦場を駆けることに抵抗はない。主人が強者なら尚のこと喜んで仕えよう」

 

若様オーガは跪いた。

 

「昨夜の申し出承りました。我ら大鬼族(オーガ)一同貴方方様の配下に加わらせて頂きます」

 

リムル「わかった。大鬼族(オーガ)達をここに呼べ。全員に俺の配下となった証に名をやろう」

:

:

「お、お待ち下さい。名付けとは本来大変な危険を伴うもの。それこそ高位の…」

 

リムル「いいからいいから大丈夫だって」

 

「ですが…」

 

フラグ立ったな。よし、今回も全部リムるに任せよう。

 

リムル「それとも俺に名前を付けられるのは嫌か?嫌ならエイトに付けさせるけど」

 

え?何で?

 

「そういうことでは…」

 

「異論などない」

 

「お兄様!」

 

「ありがたく頂戴する」

 

リムル「お前は_______」

 

 

ー3日後ー

 

エイト「フラグ回収だな」

 

シュナ「?エイト様フラグとは?」

 

エイト「あ、いや独り言だ。気にしないでくれ」

 

リムル「……」

 

あ、起きたな。

 

シオン「リムル様おはようございます!」

 

リムル「えっと…どちら様でしたっけ?」

 

エイト「よう」

 

リムル「あ、エイト」

 

ベニマル「お目覚めになられましたかリムル様」

 

リムル「お前大鬼族(オーガ)の若様だよな?」

 

ベニマル「はっ。今は鬼人となり頂戴した名、

紅丸(ベニマル)を名乗っています」

 

ベニマルは一回り小さくよりイケメンになったが、内に秘める魔素(エネルギー)量が半端ないくらい増えてる。

 

シュナ「リムル様。朱菜(シュナ)です。

お目覚めになられて本当に良かった」

 

シュナは大鬼族(オーガ)のお姫様だ。元々可愛かったが更に美少女になった。

 

シオン「紫苑(シオン)です。リムル様に付けていただいた名前とても気に入っています」

 

シオンは野性味が薄れて知的な雰囲気の美人になった。

 

リムル「ベニマルの後ろに控えてるのは白老(ハクロウ)だな」

 

ハクロウ「ほっほっそうですぞ」

 

リムル「鬼人ねぇ…」

 

ハクロウは爺さんだが結構若くなった。見た目は50代の剣の達人って感じだな。

 

ソウエイ「鬼人とは____大鬼族(オーガ)の中から稀に生まれるという上位種族のことです。一度に6人もの鬼人が誕生するなど前代未聞」

 

リムル「お前は確か…」

 

ソウエイ「蒼影(ソウエイ)の名を賜りました。御快復お慶び申し上げます。リムル様」

 

リムル「お、おう」

 

ちなみにたった6人に名付けをしたリムルが何故定位活動状態(スリープモード)に入ったかというと…上位の魔物に名付けをするとそれに見合う魔素(エネルギー)を消費するらしい。

シュナが名付けする前に『それこそ高位の…』と言ってたから今までとは違うんだろうなと思って俺はしなかった。

 

これぞボッチで漫画小説アニメを見まくった俺のフラグ回収予測スキルだぜ。と、そんなわけで俺は

 

エイト「俺はちょっと巡回行ってくるわ」

リムル「おうよろしく頼むな」

エイト「おう」

 

 

〜しばらくして〜

 

ハクロウ「ほれほれ撃ち返してこんか」

 

どうしてこうなった!?

 

エイト「くっ!」

 

俺はハクロウの剣(木刀)を避け間合いに入る。が、

 

ハクロウ「爪が甘いですぞ」 

 

背中に柄を思いっきり入れられ地面にのめり込んだ。

 

俺は巡回から戻ったんだが…リムルとベニマルに連れてかれてハクロウの稽古を(強制的に)受けることになった。すると、

 

リムル「豚頭帝(オークロード)?なんだそりゃ」

 

ベニマル「まぁ簡単にいうと…化け物です」

 

リムル「おい」

 

簡単すぎるだろ。

 

リムル「てことは今俺たちの目の前にいるハクロウは豚頭帝(オークロード)か?」

 

ベニマル「ああ、アレも似たようなもんですね」 

 

おい。

 

ハクロウ「ホッホッ言ってくれますな。稽古がしたいと望まれたのはリムル様ですのに」

 

エイト「俺望んでないんでそれじ「エイト様は強制ですぞ」えぇ……」

 

何でだよ。

 

リムル「俺ちょっと休憩」

 

ハクロウ「仕方ありませんのう」

:

:

ゴブタ「スキありっす!」

 

ゴブタはハクロウの後ろから木刀を振り下ろす。が、

 

ゴブタ「グハッ!」

 

返り討ちにあった。

 

エイト「っ!」

 

俺はゴブタと同じように後ろから木刀を振り下ろす。

 

ハクロウ「(エイト様も学びませんのう)」

 

ハクロウはゴブタにしたように返り討ちにしようとした。が、

 

エイト「そこまで馬鹿じゃねえよ」

 

俺は木刀を振り下ろす前に地面を蹴ってハクロウの目の前に出る。その頃ハクロウは丁度後ろを向いたところだったためタイミングはバッチリ…だったんだが、

 

エイト「うお!」

 

木刀を後ろに振ってきて俺は後退せざる終えなかった。

 

ハクロウ「まだまだですぞ」

 

やばいよこの爺さん。スキルなしじゃ勝てないって。

:

:

:

再び言わせてもらおう。

 

シオン「お待たせしました」

 

どうしてこうなった!?

 

俺の目の前には黒を基調とした紫色の混ざるシオンの手料理(?)が置かれてる。

 

エイト「何で俺まで…」

 

リムル「シオンが俺たちのためって言ったんだからエイトもだろ」

 

エイト「…俺のスライム生もここまでか…」

 

リムル「し、死にはしないって…多分…」 

 

多分かよ。

 

てか、ベニマルはそっぽ向いて茶啜ってるしハクロウは気配が消してるし…ふざけんなよ。

 

シオン「リムル様、エイト様。さ、どうぞ」

 

ゴブタ「あーハラ減ったす〜」

 

ゴブタが入ってきた。

 

よし、これしかない。

 

エイト「いただきます」

 

リムル「!?」

 

シオン「はいっ」 

 

俺はシオンの料理を口に入れた。

 

エイト「あ、美味い!」

 

リベハ「「「!?!?」」」

 

ベニマル「(そんなまさか!?)」

 

ハクロウ「(有り得ませぬぞ…!?)」

 

ゴブタ「エイト様は何を食べてるんすか?」

 

エイト「お、ゴブタも食ってみろよ美味いから」

 

ゴブタ「じゃあお言葉に甘えて頂くっすね(見た目では決まらないっすよね。さっき美味いって言ってたっすから)」

 

ゴブタはスプーンを持ち口に入れた。

 

ゴブタ「っ!?!?ぐおおおおおおおおげえええええええ!?!?!」

 

すまんゴブタ。

 

え?俺は何で大丈夫だったかって?簡単な話。舌に結界を張って食べただけだ。ゴブタなら来てくれるって信じてたぜ。

 

リムル「…シオン」

 

シオン「は、はい!」

 

リムル「今後、人に出す飲食物を作る時はベニマルの許可を得てからするように」

 

ベニマル「!?」

 

シオン「はい……。」

 

リムル「ありがとうゴブタ。君の勇姿は忘れない」

 

ゴブタ「死んでないっす………」

 

リムル「エイトはどうやってあれを回避したんだ?」

 

エイト「舌に結界を張って味を感じないようにした」

 

リムル「スキルの無駄使いだな」

 

エイト「危険を回避するためのスキルだから使い方は間違ってない」

 

リムル「ははは…」

:

:

〜〜〜

 

エイト「蜥蜴人族(リザードマン)が?」

 

リムル「ああ。お前も来るか?」

 

エイト「一応行かせてもらうわ」

 

ソウエイから聞いた話だと湿地帯を中心に行動する蜥蜴人族(リザードマン)がここら辺まで来るのは珍しいんだと。だから、ここに来た理由が気になる。

:

:

〜〜〜

 

リムル「…あれ?なんだ1人だけか?」

 

蜥蜴人族(リザードマン)1人が玄関?の前に立っていた。

 

すると、その蜥蜴人族(リザードマン)が後ろを向き槍を指す。

 

全「「「「「「「!」」」」」」」

 

その方向から、ドラゴンのようなものに乗った蜥蜴人族(リザードマン)の一行がやってきた。

 

エイト「……」

 

演出くさい登場だな…。

 

そのうちの1人がドラゴンから格好つけて降りる。

 

「ご尊顔をよーく覚えておくが良いぞ。この方こそ次代の蜥蜴人族(リザードマン)の首領となられる戦士」

 

すると、その蜥蜴人族(リザードマン)の次期首領とか言われてるやつが両手を掲げ

 

「我が名はガビル!お前らにも我輩の配下となるチャンスをやろう!!」

 

リムル「……はぁ?」

 

配下になるチャンス?何を偉そうに……言っちゃ悪いがこんな雑魚の配下とか俺ヤダよ?

 

って!ちょ!!シュナ!?シオン!?俺たちのスライムボディがスリムボディになっちゃう!!

 

リムルはシオンに、エイトはシュナに引き締められる。

 

ガビル「やれやれ皆まで言わねばわからんか。

貴様らも聞いておるだろう。豚頭族(オーク)の軍勢がこの森を進行中だという話だ」

 

ほうほう。いい話を聞いたな。あ、俺とリムルはベニマルのところに避難したから。

 

ガビル「しからば我輩の配下に加わるがいい。この我輩が!豚頭族(オーク)の脅威より守ってやろうではないか!」

 

いやお前らより俺たちの方が圧倒的に強いだろ。

 

ガビル「貧弱なゴブリンでは到底太刀打ちできまい?」

 

え?ホブゴブリン、鬼人×4、スライム×2というこのメンツ見てそれ言えんの?スライムはともかく。

 

すると、カビルたちはいきなり話し合い始めた。ゴブリンの村がどうのとか。

:

ガビル「聞けばこの村には牙狼族を飼い慣らした者がいるそうだな。そいつは幹部に引き立ててやる連れて来るがいい」

 

すると、またもやシオンとシュナが怒り始め戻った俺たちをスリムボディにしていく。まあ、そんなことは置いておいて

 

リムル「ランガ」

 

ランガ「ハッ」 

 

ランガがリムルの影から出てきた。 

 

リムル「そいつの話を聞いて差し上げろ」

 

ランガ「御意」

 

ランガ「主より命を受けた。聞いてやるから話すがいい」

 

ガビル「おお貴殿が牙狼族の族長殿かな?」

 

お、あのランガを目の前に普通に話すとか根性はありそうだな。アホそうだが…。

 

ガビル「流石威風堂々たる佇まい。しかし……

「主」がスライムとは些か拍子抜けであるな」

 

ああん?

 

ガビル「どうやら貴殿は騙されているようだ。よかろう。この我輩が貴殿を操る不埒者を倒してみせようではないか」

 

「ガビル様かっけー!!」

 

「見せてやってくださいよガビル様ー!!」

 

うるせえな。

 

俺はガビル含めリザードマンたちを結界で覆って重力を3倍にする。そして、全員膝から崩れ落ちて手をつく。

 

リムル「(エイト怖……)」

 

エイト「話を聞いてやるから言ってみろ」

 

俺は人間の姿になって話しかける。

 

ガビル「な、なにが…いきなり…体が…」

 

エイト「……あ、丁度いいのがきたな」

 

俺は近くに来たゴブタを手で招く。

 

ん?死にかけだったゴブタがなんでここに来てんだ?

 

英知『個体名ゴブタはシオンの料理に抵抗して「毒耐性」を獲得したそうです』

 

すげえな。俺はスキルを解きゴブタに槍を持たせる。

 

エイト「お前がこいつを倒せたら配下になる。お前が負けたら今日は帰れ。それでいいか?」

 

ゴブタ「え??え?なんすかこの状況!?」

 

ガビル「か、構いませぬぞ。部下にやらせれば恥はかきませんからな。なあスライム殿」

 

いやさっきの攻撃実力の100分の1以下だぞ? 

 

リムル「ゴブタ。遠慮はいらんやったれー」

 

ゴブタ「ええっなんすかもー…」

 

リムル「勝ったらクロベエに頼んでお前に武器を作ってもらってやる」

 

ゴブタ「あ、ホントすか?ちょっとやる気出たっす」

 

もっとやる気出させてやるか。

 

エイト「負けたらシオンの手料理だぞ」

 

ゴブタ「頑張るっすー!!」

 

ゴブタから覇気が出る。

 

そして、俺はランガとリムルのとこまで戻り、

エイト「んじゃ始めてくれ」

 

ガビル「ふっ偉大なるドラゴンの末裔たる我ら蜥蜴人族(リザードマン)がホブゴブリンなんぞに…ぬお!?」

 

ゴブタが投げた槍をガビルが避ける。

 

ガビル「おのれ小癪なっ」

 

ガビルは槍を振る。がそれは空を切る。

 

ガビル「!?馬鹿なっ消え……」

 

ゴブタ「とうっす」

 

ガビルの後頭部にゴブタが回し蹴りを入れガビルは気絶した。

 

ちなみにゴブタはガビルが目を放した隙に影に潜りガビルの影から出てきて回し蹴りを入れた。あいつ天才じゃね?影移動を使いこなしてるし…。

 

エイト「勝負ありだな。勝者ゴブタ」

 

影移動は元々嵐牙狼(テンペストウルフ)の持つスキルだが…それをゴブタがか…すごいな。

 

リムル「やったなゴブタ!約束通りクロベエに頼んでやる!」

 

ゴブタ「やったっすーー!」

 

リムル「そこのお前ら見てたな?勝負はうちのゴブタの勝ちだ。豚頭族(オーク)と戦うのに協力しろという話なら検討しておくが配下になるのは断る。今日のところはそいつを連れて帰れ」

 

「い、いずれまた来るぜ!」

 

「然り。これで終わりではないぞ」

 

「「「「覚えてろー!!」」」」

 

そんな感じで蜥蜴人族(リザードマン)の一行は帰って行った。

 

リムル「さてと…今後の方針を立てていかないとな」



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5話

リムル「はぁーーー?20万ーーー??」

エイト「20万のオークの軍勢がこの森に侵攻して来るってことか?」

ソウエイ「は…」

ベニマル「俺たちの里を襲撃したのは数千程度だったはずだが…」

ソウエイ「あれは別働隊だったのだ。本体は大河に沿って北上している。そして、本体と別働隊の動きから予想できる合流地点はここより東の湿地帯。つまり、リザードマンの支配領域ということになります」

それを予想してリザードマンは俺たちや他のゴブリン村に出向いていたのか…。

それと、もう一つ。その進路なら俺たちの町はターゲットに入ってない。でも、大鬼族の里も入ってなかったはず…何で別働隊なんて寄越したんだろうな…。

リムル「オークの目的って何だろうな」

カイジン「ふむ…オークはそもそもあまり知能の高い魔物じゃねぇ。この侵攻に本能以外の目的があるってんなら何かしらのバックの存在を疑うべきだろうな」

………。

リムル「たとえば魔王…とかか?」

全「「「「「「「……」」」」」」」

リムル「…なんてな。ま、何の根拠もない話だ。忘れてくれ」

まあ、仮に魔王だったとしてもそれがシズさんを苦しめたレオンとは限らないしな。魔王って何人かいるらしいし…。

ベニマル「…魔王とは違うんだが、豚頭帝が出現した可能性は強まったと思う。20万もの軍勢を普通のオークが統率できるとは思えん」

リムル「前に話してたアレか。数百年に一度生まれるユニークモンスターだっけ?」

ベニマル「はい」

豚頭帝ねぇ…前に話してたからハクロウに聞いたが…あんなのでもいなきゃ20万は流石にな…。

リグルド「いないと楽観視するよりは警戒するべきかと思います」

リムル「そうだな」

ソウエイ「ん?どうしたソウエイ?」

ソウエイ「偵察中の分身体と接触してきたものがいます。リムル様とエイト様に取り次いでもらいたいとの事。いかが致しましょう」

え?俺?

リムル「俺らに?誰だ?ガビルでもうお腹いっぱいだし変なやつだったら会いたくないんだけど」

ソウエイ「変…ではありませんが大変珍しい相手でしてその…ドライアドなのです」

ドライアド…だと!?あの木の精的なお姉ちゃんか…!!

リムル「ほ、ほほうお呼びしたまえ」

リムルもか…。

すると、俺たちが囲んでいる机の真ん中に風が起こり…

リムル「おお?」

エイト「…」

シオン「リムル様…」

シュナ「エイト様」

シュナとシオンが俺たちの前に庇うように立つ。

「初めまして。"魔物を統べる者"及びその従者たる皆様。突然の訪問相すみません。私はドライアドのトレイニーと申します。どうぞお見知り置きください」

イメージ通りな感じだな。

リムル「俺はリムル=テンペストです。初めましてトレイニーさん」

エイト「…俺はエイト=テンペストです。初めまして」

リムル「ええとトレイニーさん?今日は一体何のご用向きで……」

トレイニー「本日はお願いがあって罷り越しました。リムル=テンペスト、エイト=テンペスト…魔物を統べる者よ。あなた方に豚頭帝の討伐を依頼したいのです」

リムル「豚頭帝の討伐…?ええと…俺たちがですか?」

何言ってんだよこの人。

トレイニー「ええそうですよ。リムル=テンペスト様」

ベニマル「いきなり現れてずいぶん身勝手な物言いじゃないか。ドライアドのトレイニーとやら。なぜこの町へきた?ゴブリンより有力な種族はいるだろう」

まあ…そうだよな。

トレイニー「そうですわね。あなた方…元大鬼族の里が未だ健在でしたらそちらに出向いていたかもしれません」

全「「「「「「「!!」」」」」」」

トレイニー「まあそうであっとしても、この方々の存在を無視することは出来ないのですけれど。トレントの集落が豚頭帝に狙われればドライアドだけでは対抗出来ません。ですからこうして強き者に助力を願いに来たのです」

リムル「豚頭族がいるってこと自体俺たちの中ではまだ仮定だったんだけど」

トレイニー「ドライアドはこの森で起きたことならば大抵は把握しておりますの」

そして、トレイニーさんはポテチを食べながら

トレイニー「いますよ?豚頭帝。まぁ美味しい」

こんな非常事態な時にポテチが美味しいとか言ってられるのな。

リムル「トレイニーさん。取り敢えず返事は保留にさせてくれ。お前もそれでいいだろ?」

エイト「まあ。できれば断りたいが…」

こんな面倒そうな仕事正直したくない。俺たちの町を攻撃してくるなら叩くがそうじゃないなれ俺はしたくない。

リムル「こう見えてもここの主なんでな。鬼人たちの援護はするが率先して藪をつくつもりらないんだ。情報を整理してから答えさせてくれ」

トレイニー「…承知しました」

:

:

リムル「…えーという訳で会議を続ける。オーク達の目的について何か意見のある者はいるか?」

シュナ「……豚頭帝の存在が確定したのなら思い当たることが一つあります。ソウエイ。わたくし達の里の跡地は調査して来ましたか?」

ソウエイ「……はい」

シュナ「その様子ではやはり…無かったのですね?」

ソウエイ「はい…同胞のものもオーク共のものもただ一つも」

え?何のこと?何が無いの?

リムル「無かったって何がだ?」

ソウエイ「死体です」

カイジン「死体!?」

ベニマル「なるほどな…20万もの大軍が食えるだけの食糧をどうやって賄っているのか疑問だったんだ」

ハクロウ「奴らには兵站の概念などありはしませんからな…」

おいちょっと待てそれってつまり……

リムル「それってまさか」

エイト「死体を…」

トレイニー「ユニークスキル『飢餓者』(ウエルモノ)豚頭帝が生まれる時必ず保有しているスキルです。食べた魔物の性質を自分のものとする。リムル様の『捕食者』に似ていますわね。『捕食者』と違い一度で確実な奪取とはなりませんが食欲に任せ数多く食せば確率も上がるというもの」

リムル「つまりオークの狙いってのは…」

エイト「大鬼族やリーザードマンといった森の上位種族を滅ぼすことじゃなくて…その力を奪うこと…と」

トレイニーさんはお茶を飲みながら頷いた。

リムル「となるとウチも安全とは言い難いな。嵐牙狼に鬼人。ひょっとしたらボブゴブリンもか?オーク達の欲しがりそうなエサだらけだ」

ベニマル「一番ヤツらの食いつきそうなエサを忘れてやしませんか?」

リムル「んー?」

誰だそいつ?

ベニマル「いるでしょ最強のスライムが2人」

リムル「スライムなんて無視されるよ」

エイト「パッと見雑魚だしな」

トレイニー「…他人事ではなくなったのでは?それに…この度の豚頭帝誕生の切っ掛けに魔人の存在を確認しています。御2人は放ってけない相手かと思いますけれど。何故ならその魔人はいずれかの魔王の手の者なのですから」

食えない姉ちゃんだな…そう言われたら動かない訳にはいかないって俺達が思うと知ってたんだろうしな…。

トレイニー「改めて豚頭帝の討伐を依頼します。暴風竜の加護を受け牙狼族を下し鬼人を庇護する御2人なら豚頭帝に遅れを取ることはないでしょう」

腹を括るか…。

シオン「当然です!リムル様とエイト様ならば豚頭帝など敵ではありません!」

おい。

トレイニー「まぁ!やはりそうですよね!」

リムル「分かったよ」

俺とリムルはスライムの姿になる。

リムル「豚頭帝の件は俺とエイトが引き受ける。エイトもそれでいいだろ?」

エイト「おう」

リムル「そういうことだから皆もそのつもりでいてくれ」

全「「「「「「もちろんです!」」」」」」

こんな格好つけて負けたらどうしよう…。

:

:

リムル「リザードマンの話が通じる奴と交渉したいところだが…」

ソウエイ「リムル様」

そう言ってソウエイが席を立ち

ソウエイ「自分が交渉に向かいます。リザードマンの首領と直接話をつけてもよろしいですか?」

リムル「できるのか?」

ソウエイ「はい」

何こいつめっちゃイケメンじゃん。

リムル「よし、ではリザードマンと合流しオークを叩く。決戦はリザードマンの支配領域である湿地帯になるだろう。これはリザードマンとの共同戦線が前提条件だ。頼んだぞソウエイ。くれぐれも舐められるなよ」

ソウエイ「お任せを」

すると、ソウエイは影移動で消えた。

リムル「!…これソウエイが置いたコマか?」

リムルは机の上にある地図に乗せている石を指す。

ベニマル「ええ。周辺のゴブリンを取り込んだガビルの隊らしいです。気絶したガビルを囲んでしょぼんり沈んでいたとか」

…?あれ?…んーそれは考えすぎか?

ベニマル「どうかしました?」

リムル「オークを迎撃するためにリザードマンの本隊は多分こんな感じに展開するよな」

リムルはコマを動かす。

リムル「するとなんか…ガビルの隊がリザードマンの本拠地を強襲したら一気に落とせる布陣に見えるんだよ」

それなぁ…あいつお調子者っぽいし周りの空気に乗せられて変な気を起こしたりしないといいが…。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ー翌日ー

 

リムル「そういう訳でオーク軍を相手にすることになった。決戦は湿地帯で行う。第一陣が負けても第一陣が勝てればよし。ただ、第一陣が負けたら速やかにここを放棄しトレントの集落へ落ち延びるように」

やばいリムルの乗ってる神輿みたいなの超面白い。俺だったら布団に潜って悶えるな。

リムル「正直敵戦力は少なくない。勝つつもりでいくが負けたからといって怯える必要はない(っていうか何このお神輿みたいなの。恥ずかしいんだけど…てか何でエイトは喋んないんだよ!)状況は思念伝達で伝える。皆落ち着いて決められた通りに行動するように」

全「「「「「「おおおお!!」」」」」」

リムル「えーでは…第一陣に加わる者を発表する!!」

 

 

ー四日後ー

 

ソウエイがリザードマンの首領と話をつけた結果七日後。つまり今日から三日後にリムルが直接会って同盟を締結することになった。それで、今からリムル達がリザードマンの本拠地…湿地帯に向かうところだ。

シュナ「お待ちしておりましたリムル様。出撃用の武具の準備、整っております」

リムル「…へぇいいじゃないか!」

:

リムル「じゃ行くとするか」

 

 

リムルが連れて行った第一陣のメンバーは、

ベニマル、ハクロウ、シオン、ソウエイ、ランガ、そして、ゴブリンライダー100組だ。あ、別にリムルはたった100騎ちょいで20万を相手取りに行く訳じゃない。狙いは豚頭帝ただ1人で彼らにはリムルが豚頭帝と戦う為のお膳立てを任せるつもりらしい。え?第二陣のメンバー?俺とシュナの2人だよ。え?勝てる訳ないって?でもまあ…ああは言ったからな。

 

リムル『この侵攻には豚頭帝のユニークスキル[飢餓者](ウエルモノ)の影響が大きいと思うんだよ。だから豚頭帝を倒せば侵攻は止められると思うんだ。だから、20万全員を殺すつもりはない。ただ、俺たちが負けたら豚頭帝だけを倒すのは難しいってことになるしそうなったら……」

エイト『へいへい。俺のスキルなら全員殺すなんて簡単だ。ただ、20万全員が戦闘員だとは思えない。だから俺もできれば豚頭帝だけを倒して他は生かしたい。だからそれはお前に任せる。失敗したらあとは任せろ』

リムル『悪いな。こういう役回りを任せて』

エイト『いつもまともに働いてないんだ。それくらいはやる』

リムル『ああ頼もしいな本当』

 

と、そんなわけで俺は第一陣が負けた時の最終兵器ってわけだ。

 

 

ー三日後ー

 

シュナ「一応エイト様の出撃用の武具も準備していますけど」

エイト「ん?あーじゃあちょっと見せてくれ」

 

そして、シュナが持ってきたのが

シュナ「こちらです」

エイト「おお、いいな」

黒を基調としたかっこいい系の服装だ。内側に短刀が入れられていて外側には俺の物干し竿が刺さってる。

エイト「一応着ときますか…」

俺はそれを羽織る。

シュナ「お似合いですよ」

エイト「ん?なんかこの短刀…」

カイジン「おおエイトの旦那。その短刀が何かわかるかい?」

エイト「いや、なんか…普通ではないよな」

カイジン「この前旦那に手伝ってもらって完成したオリハルコンを使用した短刀でな、芯には魔鉱を使用してるんだ」

エイト「え、めっちゃ高級品じゃん。俺でいいの?」

カイジン「旦那じゃなきゃ使いこなせねえだろ」

エイト「ならリムルでもいいだろ」

カイジン「いいやエイトの旦那じゃなきゃ使いこなせねえ。使ってみりゃわかんだろ」

エイト「……んじゃちょっと使ってみますか」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

そんなわけで俺たちは町から歩いて2分程の森の中に来た。

カイジン「使い方はわかるだろ」

エイト「ああ」

俺はシュナとカイジンを結界で覆う。そして、俺は短刀に魔力を注ぎ込む。

シュナ「!?」

カイジン「やっぱ旦那にしか使いこなせねえな」

エイト「…」

そして、短刀を振るう。

 

次の瞬間には短刀は鞘の中にしまわれ俺の左手に持たれていた。

シュナ「今、何をなさったのですか?」

カイジン「まさか振って終わりじ……」

「ドオオオオンッ」

カシュ「「!?」」

俺を中心に半径150m内にある全ての木が下1mを残して切れた。

エイト「すげぇなこれ」

カイジン「…すげえのは旦那の方だろ」

シュナ「あの一瞬で…これだけ…」

エイト「ありがとなカイジ………」

マジか…さっきから何となくあっちの状況は分かってたが……

カイジン「どうしたんだ旦那?」

エイト「ちょっとあっちがまずいな」

シュナ「!何かあったのですか?」

エイト「多分だが…豚頭帝が魔王種に進化した」

カイジン「!?」

シュナ「私は何も感じませんが何故わかるのですか?」

エイト「俺のスキルでリムルと影を繋いでるんだが…魔力感知を使えればあっちの状況を朧げだがわかるんだ」

シュナ「そうですか。豚頭帝が魔王種に進化した以外に何か変化は?」

エイト「特にはないな。進化した豚頭魔王(オークディザスター)は鬼人勢全員の総攻撃を食らって生きてる。それで今はリムルが相手をしてるな」

シュナ「!!」

エイト「ベニマルのヘルフレアを食らって火傷しただけらしいな」

化け物じゃね?

カイジン「エイトの旦那は行くのかい?」

エイト「いや。多分リムルの勝ちだ」

シュナ「リムル様のお力を疑う訳ではありませんが…お兄様達の総攻撃を受けて火傷で済むような相手をどうやってリムル様は倒すのでしょうか?」

エイト「多分豚頭魔王のことを食うんじゃないか?」

カイジン「食えんのかい?相手は魔王ってんだろ?」

エイト「魔王種になっただけで真なる魔王になった訳でも他の魔王達から認められた訳でもない。リムルなら勝てると俺は思ってる。あーでも、豚頭魔王の魔素量がなぁ、まあ、大丈夫か」

魔素量が膨大すぎたら捕食できないんじゃなかったか?まあ、そうそういないだろ。捕食者で喰えない程の魔素量持ってるやつなんて。

シュナ「……そういえば、前々から思っていたのですがリムル様とエイト様の魔素量の違いが大きいのですが「あー、それな」?」

エイト「言ってなかったっか?俺も魔王種なんだよ」

カシュ「「!?」」

シュナ「き、聞いてないですけど」

エイト「スカイドラゴンと対峙した時色々あって進化したんだよ」

カイジン「!!スカイドラゴンと言えばあのカラミティ級の…」

エイト「最初は死ぬかと思ったんだが____」

 

と、俺はスカイドラゴン戦で何があったか話した。

シュナ「そんなことが…」

カイジン「旦那も苦労してるな」

エイト「ま…あ、リムルが勝ったぞ」

シュナ「!!」

カイジン「やったのかい」

エイト「そうみたいだな。あ、シュナ」

シュナ「はい」

エイト「豚頭帝を打ち倒すまで…だったよな。これからどうするんだ?」

シュナ「……私たちに帰る里はありません。今後もエイト様とリムル様の元に在り続けてもよろしいでしょうか?」

エイト「まあ、いいんじゃないか。クロベエにも伝えといてくれ。俺ちょっとリムルのとこ行ってくる」

俺はシュナの影を利用してリムルの元に移動する。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

トレイニー「森の管理者の権限において事態の収束に向けた話し合いを行います。日時は明日早朝。場所はここより少し南西森よりの広場。

参加を希望する種族は一族の意見をまとめ代表を選んでおくように。以上です」

丁度トレイニーさんが来て事態の収束を図っている。

トレイニー「それから異論はないと思いますが…議長はリムル=テンペストとします!」

リムル「(え!?)」

エイト「だそうだぞリムル」

リムル「あ、エイト。いや、お前が代わってくれよ」

エイト「え、やだよ」

リムル「俺こういうの苦手なんだけど…」

エイト「社会人だったんだからそんくらい頑張ってくれよ」

俺高校生だったんだよ?まだリムルの方が経験あるだろ。

 



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6話

ー翌日ー

 

出席者は、俺とリムルと鬼人たち。リザードマンから首領と親衛隊長とその副長。トレイニーさん。ガビルに連れてこられたゴブリンたちから数名。そして、オークから代表が10名。俺はリムルに頼まれてリムルのサポート役だ。まあ、戦後処理の進め方なんて学校で習ってないからわからんが。

リムル「えー……こういう会議は初めてで苦手なんだ。だから思ったことだけを言う。そのあと皆で検討して欲しい。まず最初に明言するが…俺はオークに罪を問う考えはない」

オーク全「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

リムル「被害の大きいリザードマンからしたら不服だろうが聞いてくれ。彼らが武力蜂起に至った原因と現在の状況を話す」

そして、リムルが魔王ゲルド(豚頭魔王)の記憶からオークの状況を説明した。

:

:

:

首領「なるほど大飢餓…それにゲルミュッドなる魔人の存在ですか…」

リムル「そうだ」

確かゲルミュッドってリグルの兄に名前を付けたやつだよな。

リムル「だからと言って侵略行為が許されないのは当然だが。逼迫した状況から分かる通り、彼らに賠償できるだけの蓄えはない……ってのは建前なんだけどな」

首領「建前?では、本音の方を伺ってもよろしいかな?」

リムル「オークの罪は全て俺が引き受けた。文句があるなら俺に言え」

「お、お待ち頂きたい!いくらなんでもそれでは道理が…」

オークの代表の1人が言う。

リムル「それが魔王ゲルドとの約束だ」

首領「なるほど…しかし、それは少々ずるいお答えですな」

まあ、簡単には受け入れられないわな。

すると、ベニマルが前に出る。

エイト「?」

ベニマル「魔物に共通する。唯一不変のルールがある。弱肉強食。立ち向かった時点で覚悟はできていた筈だ」

首領「なるほど…正論ですな。駄々を捏ねてはリザードマンの沽券が下がりましょう」

リムル「いいのか?」

首領「もとより…この戦の勝者はリムル様です。貴方の決定に異論などありません」

お、素直だな。人間じゃこうはいかなかっただろうな。

首領「しかし、それはそれとして…どうしても確認せねばならぬ事がございます。オークの罪を問わぬということは生き残った彼ら全てをこの森にて受け入れるおつもりですか?」

リムル「確かにな。戦で数が減ったとは言え15万は下らないだろう」

え、そんないんの。ていうかよく5万も減らしたな。

リムル「…夢物語のように聞こえるかもしれないが森に住む各種族間で大同盟を結べたらどうだろうか」

首領「大同盟…」

リムル「オーク達にはひとまず各地に散ってもらうが、その土地土地で労働力を提供してもらいたい」

首領「その見返りに我らは食糧や住む場所を提供するということですか?」

リムル「そうだ。住む家なんかの技術指導は俺たちの町の職人に頼む。もちろんタダじゃないぞ。ウチも人手不足だからオークの労働力は当てにしてる。技術を身につけたらそのうち自分たちの町を作ればいい。各地に散った者達とも一緒に住めるようになるだろう。最終的に多種族共生国家とかできたら面白いんだけどな」

おー流石リムル。よく考えてるな。オークの労働力はゴブリンに比べて高いし俺たちの町にとっても有効的だな。

「わ、我々がその同盟に参加してもよろしいのでしょうか…」

リムル「ちゃんと働けよ?サボることは許さんからな?」

「もちろん…もちろんです!!」

首領「…我らも異論はありません。ぜひ協力させて頂きたい。…あと、一つ質問をよろしいですか?」

リムル「?何が問題とかあったか?」

首領「いえ同盟に関してではなく…隣の方はどなたで?」

隣?あ、俺か。

リムル「えっと、エイト。自己紹介してくれ」

エイト「はぁ、俺はエイト=テンペスト。リムルのと同じ町の主だ」

首領「主が2人いるのですか?」

リムル「まあ、兄弟みたいな者だしな。一緒に主をしてるんだよ」

それで言うとヴェルドラが兄貴になるじゃ…竜種の弟2人がスライムってどうなんだよ。

首領「そうでしたか」

すると、首領やオークたちがリムルと俺に跪き始めた。なんで?そして、リムルもシオンの膝の上から降りようとする。

シオン「何をなさろうとしておられるのですか?」

リムル「え?そういう儀式?みたいのがあるんじゃ?」

シオン「ありません。本当に、もうリムル様は…」

エイト「?」

リムル「?」

ベニマルにハクロウ、シオン、ソウエイも俺たちの前に出て跪いた。いや、なんで?リムルはともかくなんで俺も?

トレイニー「よろしいでしょう。では森の管理者として、わたくしとレイニーが宣誓します」

は?え?なに?

トレイニー「リムル様とエイト様をジュラの大森林の新たなる盟主と認めその名の下"ジュラの森大同盟"は成立いたしました!!」

リエ「「(盟主!?)」」

待ってくれ俺何もしてないだろ…!!

トレイニーさんも跪いちゃってなんか…辞退はできそうにない。

エイト「その、一ついいか?」

トレイニー「どうかしました?」

エイト「俺何もしてないのに盟主なんてなっていいのか?」

トレイニー「元々主だったのですから今更リムル様の方が上になるのはどうかと思いますし。それに、エイト様なら皆さんも認めてくれると思いますので」

エイト「……いや、そう言われてもな」

リムル「エイト…往生際が悪いぞ」

エイト「ぐっ…」

リムル「じゃあ、あのそういうことみたいなんでよろしく頼む」

「「「「「「「「ははっ!!」」」」」」」」

:

:

エイト「トレイニーさん」

トレイニー「どうかなさいました?」

エイト「さっきも言いましたけど俺が盟主になんてなっていいんですか?元々主だったとか別に俺としてはいいですし俺何もしてないすよね?」

何もしてないのに盟主になっても誰も納得しないだろ。

トレイニー「いいえ。エイト様は何かしていますよ」

え?

トレイニー「皆知ってますよ?1人でスカイドラゴンと命懸けで戦って勝ったこと。エイト様が盟主になることを皆納得してくれますよ」

食えない姉ちゃんだな。

エイト「はぁ」

本当は盟主とか面倒だからやりたくないんだが…ここまで来るとやっぱり辞退はできないよなぁ……。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ー翌日ー

 

リムル「山-633M…山-634M…山-635M…」

エイト「海-573S…海-574S…海-575S…」

俺たちは今…オークに名付けをしている。

ゴブタ「リムル様、次は湖の部族の女性っす」

リムル「……おう」

ゴブタ「エイト様、次は森の部族の男性っす」

エイト「……おう」

 

エイト「森-1A…森-2A…森-3A____」

ネーミングが適当すぎるって?だって仕方ないだろ……総数15万の名付けなんだからな…。

 

 

ー同盟締結日ー

 

ジュラの森大同盟が成立したその日。

最初に浮上したのは15万の飢えたオーク達の食糧問題だ。

リムル「なにかいい案のある者はいるか!?」

このまま各地に散ってもらってもその土地土地の食料を脅かすしな。

トレイニー「それならわたくしがお役に立てるかと」

リムル「当てがあるのか?」

トレイニー「ええ。わたくしの守護するトレントも同盟に参加させていただくのです。出し惜しみせず森の実りを提供致しましょう。ただ、食糧を運ぶのに人手を借りたいのですけれど」

ベニマル「では俺が運搬の指揮を取ります。嵐牙狼族を借りてもいいですか?」

リムル「ランガ」

すると、ランガがリムルの影から顔を出し、

ランガ「…我が一族を外で待たせてある。好きに連れて行くといい」

リムル「なに?お前は行かないの?」

ランガ「我はリムル様のお傍にいます」

そして、ランガはリムルの影に潜った。

リムル「(この甘えん坊め…)」

ベニマル「じゃあ行ってきます」

リムル「聞くが、今すぐに餓死しそうな者はいるか?」

「王亡き今、『飢餓者』の影響も弱まってきています。体力のない者から倒れるのも時間の問題かと…」

……オークたちは「飢餓者」の影響で一時的に魔素が増えていた。豚頭魔王が死んだ今、それは徐々に失われる。弱った者は死ぬかもしれない。で、それを防ぐ為には魔素が失われる前に俺たちが喰い、同等量を与える。与えるというのはつまり名付けだ。

エイト「名付け…」

リムル「名付けねぇ…」

リエ「「15万の?」」

 

というわけで始まったのがこの名付け地獄。

ゴブタ「リムル様、次で最後の集団っす」

エイト「森-1499S…森-1500S」

よし。終わったな。リムルのとこで最後っぽいし俺は帰る…か…。

エイト「マジか…」

英知『告。体内の魔素量が一定値を割り込んだ為、低位活動状態(スリープモード)へと移行しました』

名付けが多すぎて俺の溜め込んでた魔素量が消えたのか…。俺7万以上名付けしたよな?

英知『尚、完全回復の予想時刻は3日後です』

暇だな。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ー3か月後ー

 

あれから3か月。

エリ「「(縁側で膝枕…最高だな)」」

俺たちは新しくなった自室で寛いでいた。あ、ちなみに俺がシュナでリムルがシオンな。いつの間にか俺の秘書がシュナになってたのたが…本当にいつ決めたの?

名付けにより進化した豚頭族は猪人族(ハイオーク)となり仕事振りはカイジンを唸らせるほどだ。

カイジン『鍛えればドワーフに劣らぬ技術を持てるかも知れん!』

 

猪人王(オークキング)となったゲルドは特によく働く。むしろ働きすぎだな。

リムル『お前ちゃんと休んでるか?』

ゲルド『リムル様。飯が喰えて寝床ももらっているのですから休みなど不要です』

責任感が強すぎるのが偶に瑕だが。

リムル『いいから休め』

ゲルド『!…は、はい』

 

そうこうしている内にゴブリンたちが一族郎党を引き連れてやってきた。

『ここで働かせて欲しいです!』

リムル『えー…じゃあ名前が欲しい者は整列してくれ』

すると、全員が整列する。

全員かよ…。

 

俺たちが燃え尽きたように名前をつけ終わった頃ようやく町に住む者全員に家が行き渡った。

さすがに各家庭に水道を引く余裕はなかったが各所に汲み上げ式の井戸を設置した。これを利用してトイレは水洗だ。まだ成果が出ていない分野も多いが…とりあえず体裁が整ったといえるようになった。今やこの地には1万を超える魔物たちが暮らしている。ようやく俺たちの…魔物たちの町が出来たのだ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リムル「おお、すごい!ちゃんとお湯だ!!」

ゴブタ「お湯だと何がいいんすか?」

リムル「ばっかお前風呂の良さを知らねえの?」

ゴブタ「水浴びなら…」

リムル「全然違うんだよ。ホレ」

リムルが桶でお湯をすくってゴブタにかける。

ゴブタ「おぶっ。ちょっとリムル様!服着たままなんてひどいっす!!」

そんな感じでお湯の掛け合いが始まってしまった。(その場にいたシュナとシオンも含め)

ガルム「エイトの旦那。警備隊の防具のことで相談があるんだが…」

ガルムの見た光景は美少女、美女、美少年、イケメンがお湯を掛け合っている光景。

ガルム「俺はシュナちゃん一筋。俺はシュナちゃん一筋。俺はシュナちゃん一筋。俺はシュナちゃん一筋。俺はシュナちゃん一筋。お俺はシュナちゃん一筋。俺はシュナちゃん一筋。俺はシュナちゃん一筋。俺はシュナちゃん一筋。俺はシュナちゃん一筋。俺はシュナちゃん一筋。俺はシュナちゃん一筋。俺はシュナちゃん一筋。____________________」

ゴブタ「ガルムさん何してるんすか?」

 

エイト「(風呂…まあ見た目的には温泉ができた…つまり、そろそろ取り掛からないといけないものがある。それは…)」

MAXコーヒー作りだ。風呂上がりのMAXコーヒーは格別だ。俺高校生だったから酒作ろうとから思わんしやっぱり最初に作るのはMAXコーヒーだな。

エイト「シュナ」

シュナ「なんですか?」

エイト「手伝って欲しいことがあるんだが」

俺とかリムルなら体内生産できそうだがそれじゃあ意味がない。やっぱり原料と味、作り方にはこだわりたいな。

シュナ「!!何をすればいいのでしょうか?」

エイト「作りたいものがあるんだが…その原料で砂糖が必要なんだよ。作れるか?」

たしか砂糖はこの世界にあるんだよな。高いから買うのはちょっとあれだし作れればそれがベストかなんだが…

シュナ「わかりました。ですが何に使うのですか?」

エイト「ちょっと飲みたい飲み物があってな。まあ、簡単に言うと超甘い」

シュナ「(甘い飲み物…)では早速お砂糖の発見に取り掛かります!」

エイト「お、おう」

何かいきなりやる気になったな。よし、じゃあ俺はコーヒーでも作るか。

 

エイト「リムルいるか?」

リムル「ん?どうしたんだ?」

エイト「いやちょっと手伝って欲しくてな」

リムル「何をだ?」

エイト「この豆を捕食して『変質者』を使ってコーヒー豆になるまで品種改良してくれないか?」

リムル「お前コーヒー作りたいの?」

エイト「いや、MAXコーヒーを作りたいんだ」

リムル「いやそれコーヒーだろ」

エイト「いいやMAXコーヒーとコーヒーは別だ」

まず甘さが違うだろ。MAXコーヒーは甘い飲み物だがコーヒーは苦い。

リムル「まあ、いいぞ。俺も丁度コーヒー牛乳作りたかったし」

そう言ってリムルは俺の持ってきた色々な種類の豆を捕食した。

リムル「ちょっと待っててくれ」

エイト「おう」

砂糖ができたら練乳作って…牛乳は牛鹿から取ればいいか。

 

ー10分後ー

 

リムル「完成したぞ」

エイト「おお早いな」

リムルは完成したコーヒー豆を皿に乗っけて持ってきた。

リムル「MAXコーヒー作るんだったよな?砂糖とかはどうするんだ?」

エイト「砂糖はシュナに任せてる。俺はリムルの作ったコーヒーを栽培できるようにしてくるわ」

リムル「それじゃあ俺はもういいな」

エイト「おう。ありがとな」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

まあ、量産とは言っても豆を蒔いて「災禍」の自然成長を使えば多分すぐできる。

エイト「やるか」

俺は町から1分程のところで止まり、縦10m横7m内の木を全て短刀で切って近くに丸太として積んだ。

エイト「何かに使えそうだな」

コーヒー豆栽培用の倉庫にでもするか。

俺は豆を一定間隔でまいた。

エイト「[完全結界][災禍]」

俺は縦10m横7m何を結界で覆い自然成長をかける。

自然成長は特定した自然物を急速に成長させることができる。

 

30秒程でコーヒーの花が咲くまでになった。

エイト「速…」

これでコーヒーの生産はできるな。

『エイトー名付け手伝ってくれ』

英知『個体名「リムル=テンペスト」からの思念伝達です』

また誰か来たの?

 

俺は影に潜りリムルの影に出る。

エイト「えぇ……」

影から出て最初に見たのはリザードマン100名だった。

リムル「15万のオークよりマシだろ」

エイト「まあ」

確かに言われてみればな。

 

ーしばらくしてー

 

リムル「羨ましそうにするなよ」

ガビル「は……」

リムル「お前には『ガビル』という立派な名前があるだ……ろ!?」

すると、ガビルが光る。え…名前って上書きできるの?ゲルミュッドが死んだからか?

すると、リムルがスリープモードに入る。

ガビル「あれ!?リムル様!?」

 

ー4日後ー

 

リザードマンは龍人族(ドラゴニュート)へと進化した。ドラゴニュートは翼や角が生えてドラゴンに近くなった感じだ。

リムル「預けた新人くんたちはどんな具合だ?」

俺たちはソウエイに預けたドラゴニュートの新人たちを見に来た。

ソウエイ「リムル様。エイト様。悪くはないです。特にソーカは隠密に向いている」

[蒼華](ソーカ)とは元親衛隊長だ。ソウエイの下についたやつらは皆人型に近い姿に進化した。角と羽が生えていて収納もできるらしい。人間の国で諜報活動なんかもできそうだ。

それで、ガビルにも仕事を預けている。回復薬の原料。ヒポクテ草の栽培だ。

それと、ドラゴニュートを20名ほど俺の下に付けてコーヒー栽培と牛鹿の飼育をしてもらっている。

エイト「(コーヒー牛乳はもう作れるな。あとは、砂糖か…)」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リムルは自室でスライム姿でゴロゴロしている。

リムル「(いやぁ平和って素晴ら……)」

ソウエイ『リムル様、緊急事態です』

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

エイト「!!」

何か来てるな。数は……500くらいか…。

「どうかししましたエイト様?」

エイト「俺ちょっとリムルのとこ行ってくるわ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

エイト「リムル」

リムル「エイト。あれペガサスだよな?」

エイト「そうだな」

空中にはペガサス約500騎が人を乗せて飛んできていた。目標地点はここらしい。

ベニマル「リムル様!エイト様!」

カイジン「あれ、もしかして…」

リムル「おいおいなにしてるんだカイジン。早く避難してくれよ」

カイジン「いやちょっと心当たりが…昔、酒の席で退役した老将に聞いたんだ。ドワーフ王の直轄に極秘部隊がいるってな」

極秘部隊?

リムル「奴らがそうかもしれないって言うのか?」

カイジン「ああ、なにせその部隊は………………

天翔騎士団(ペガサスナイツ)。という名だと…」

 

着陸したペガサスに乗っていたのは武装国家ドワルゴンの英雄王…ガゼル・ドワルゴだった。

 

 

 

カイジンはガゼル王の元まで走り跪いた。

カイジン「…お久しぶりでございます。ガゼル王よ」

ガゼル「久しいなカイジン。それにスライム。余…いや俺を覚えているか?」

あーそういえばリムルが言ってたな裁判にかけられたけどガゼル王のおかげで助かったって。

カイジン「王よ。本日は何かご用があるのでしょうか」

ガゼル「なに、そこのスライムの本性を見極めてやろうと思ってな。今日は王ではなく一私人として来た。物々しいのは許せ。こうでもせぬと出歩けぬのでな」

まあ王様だしな。しかし、これはマズイ。リムルが貶されたと思ったのか鬼人たちが爆発寸前だ。特にソウエイな。笑ってるのが怖い。いつも冷静だからキレた時何をするかわからないから怖いわやっぱ。

リムル「あー今は裁判中でもないしこちらから話しかけてもいいんだよな?」

ガゼル「当然だ」

リムル「まず名乗ろうか。俺の名はリムル。スライムなのはその通りだが見下すのはやめてもらおう。俺たち2人はこれでも一応ジュラの森大同盟の盟主なんでね」

リムルが人の姿になる。俺はいいか。面倒だし。

リムル「これが本性ってわけでもないんだがこっちの方が話しやすいだろ?」

ガゼル「ほう…人の姿で剣を使うのか」

リムルの腰にかけた刀を見て言う。

ガゼル「もう1人のスライムの方はどうなのだ?」

あ、俺ね。

俺は人の姿になる。

エイト「俺はエイトだ」

すると、ガゼル王が剣を抜く。

リムル「そんなに警戒しないで欲しいんだけどな」

ガゼル「それを判断するのは俺だ」

ガゼル王は切先をリムルに向け

ガゼル「貴様ら2人を見極めるのに言葉など不要。この剣一本で十分だ。この森の盟主などという法螺吹きには分というものを教えてやらねばなるまいしな」

煽んないでくんないかな。鬼人達がやばいから。ソウエイとベニマルに関しては戦闘態勢入ってるし。

すると、俺の隣に風が吹き

トレイニー「我らが森の盟主に対し傲岸不遜ですよドワーフ王」

トレイニーさん達ドライアドが3人現れる。

「なんだって…?ドライアド!?」

なんかおばあちゃんが驚いてる。

リムル「ようトレイニーさん」

トレイニー「ご無沙汰しておりますリムル様、エイト様。同盟締結の日以来ですわね」

ガゼル「ふはっふはははは森の管理者がいうのであれば真実なのであろう。法螺吹き呼ばわりは謝罪するぞリムルよ。だが、貴様らの人となりを知るのは別の話。獲物を抜けい!」

トレイニー「まだ無礼を重ねると…」

やばいトレイニーさんも爆発寸前だ。

リムル「いいよトレイニーさん」

リムルが剣を抜く。

エイト「俺たちが無害で愛らしいスライムだってことは剣(こいつ)で証明するしかなさそうだ」

トレイニー「……わかりました。では、立会人はわたくしがしましょう」

ガゼル「リムルの次はお前だぞエイト」

え、俺もやるのかよ…。

トレイニー「始め!」

リムルはガゼル王に斬りかかる。

:

シュナ「リムル様…」

シオン「大丈夫ですシュナ様。リムル様は必ず勝ちますとも!!」

カイジン「……(ガゼル王はその昔剣鬼と呼ばれる達人に教えを請いその剣技を持って英雄王と謳われるお方。生半可な剣技で勝てる相手じゃないぜ旦那…)」

 

リムルの斬撃はどんな角度どんなスピードで斬り込んでも受け流されていた。しかも一歩も動かずに。

ガゼル「どうした?そんなものか?」

リムル「うるさい!まだ本気を出していないだけだ」

スキルを使えば勝てるんだろうけどそれじゃ精神的敗北だしな。

すると、ガゼル王から風のような圧が出る。

そして、リムルが動けなくなった。

どういうこと?

英知『告。エクストラスキル「英雄覇気」です。対象を萎縮させ屈服させる効果があります』

なんだよそれ。ちなみに対策方法は?

英知『…気合いです』

えぇ…何その頼りない答え。

ガゼル「……ここまでか。そろそろ終わらせてやろう」

ガゼル王はリムルの方に歩き始める。が、

リムル「う……」

ガゼル「!」

リムル「うおおおおあああっ!!」

ガゼル「む…」

リムル「…解けたぞ」

気合いで解けるスキルって…強いのか弱いのかわからねえな。

ガゼル「…そうこなくてはな。では次はこちらからだ」

すると、ガゼル王が消えた。

あれ?これって……

 

上から振り下ろされた剣をリムルが受け止める。

リムル「……はは。クロベエの刀じゃなかったら真っ二つだったな」

ガゼル「……ふっふははははッ。こやつめ俺の剣を受け止めおったわ!!」

リムル「お、おい?」

ガゼル「降参だ。俺の負けでいい」

英雄覇気によってリムルの頭から落ちた仮面をガゼル王が拾ってリムルに渡す。

トレイニー「勝者、リムル=テンペスト!」

ガゼル「よし、それでは次はエイトだな」

エイト「なんでだよ」

ガゼル「行くぞ」

無視かよ。

俺は懐に収めていた短刀を取る。

ガゼル「それで俺とやり合うのか?」

エイト「長いだけが剣じゃねえよ」

トレイニー「始め!」

 

俺は間合いを詰め短刀を振る。それと同時にガゼル王が英雄覇気を使うが俺には効かない。

ガゼル「!?(効かない…?)」

そして、隙を見せたガゼル王の首元に切先を立てる。一瞬の勝負であった。

ガゼル「ふはっふははははっ!完敗だ。邪悪な存在でないと判断した。よければ話し合いの場を設けてもらいたい」

トレイニー「勝者、エイト=テンペスト!」

ガゼル「しかし、俺の英雄覇気にかからないとは中々やるではないか」

リムル「どうやったんだ?」

エイト「俺ってスキルが効かないだろ?」

リムル「あ、そういうことか」

ガゼル「どういうことだ?」

エイト「それは…企業秘密です」

体に常時完全結界を張っているおかげでスキル攻撃は全部無効なんだよな。え?ずるいって?いやいやこの世は弱肉強者なんだよ。

ハクロウ「ほっほっほっお見事でしたなリムル様、エイト様」

リムル「ハクロウ」

ハクロウ「ですがお二人とも打ち込みの方はまだまだ。明日からもっと厳しくせんとなりませんな」

エイト「えぇ…」

マジかよ。

ガゼル「失礼ですが剣鬼殿ではありませんか?」

ハクロウ「…先程の剣技如何なる猛者かと思ってみればずいぶんと成長なされた」

え?

ガゼル「剣鬼殿にそう言って頂けるとは恐縮です」

え?

ハクロウ「ふむ、森で迷っていた小僧に剣を教えたのは懐かしき思い出」

え?

ガゼル「あれから300年になりますか」

え?何知り合いなの?…ということはガゼル王は俺とリムルの兄弟子になるわけか。

すると、ガゼル王が俺たちの背中を叩いて

ガゼル「さぁ、早く案内してくれリムル、エイト。上空から見た限りかぎりじゃ美しい町並みだったぞ?美味い酒くらいあるのだろう?」

リムル「…まぁ、あるけど」

軽くね?

リムル「裁判の時と比べて軽すぎない?」

ガゼル「なぁにこっちが素よ」

 

 

『この時の俺たちは気づいていなかった。豚頭帝を倒したことにより俺たちに注目しているのがドワーフだけでないということに。』

 

「…来ましたか」

:

:

「何だと!?では豚頭帝を魔王化させるという話はどうなるのだ?」

少女は椅子に立って言う。

「ですからミリム。豚頭帝が死んだ以上この計画は白紙に戻すしかないでしょう」

ミリム呼ばれた少女は口を震わせ

ミリム「久々に新しい魔王(おもちゃ)が生まれると思ったのに!つまらぬのだ!」

ミリムは紅茶の入ったコップを投げる。

 

『それもまさか…』

 

ミリム「どこのどいつなのだ!?豚頭帝を倒したのはっ」

 

『最古の魔王の一柱に目をつけられることになるだなんて』 




エイト=テンペスト:ステータス

ユニークスキル[英知]
ぼぼ大賢者とお同じ。
神話や伝説、都市伝説、言い伝え、御伽噺などに詳しい。

ユニークスキル[災禍](ディザスター)

・自然発生(魔素を体内発生させる)
・重力変動(周りの重力を操る)
・地鳴り(地震的な)
・自然成長(自然物の成長速度を大幅に促進させる)
・雷火水氷雪風熱冷etc。これの組み合わせで戦う。(例:青炎、雷炎等)
・三位一体(トリニティ)(上記のものを3つ組み合わせて攻撃する。これを通すことで通常の3つ同時攻撃よりも威力が上昇する)
・神出鬼没(魔力圏内のどこからでもスキル(魔法が使えれば魔法も)を出せる。【完全結界内含め)



ユニークスキル[完全結界]

・魔法遮断
・スキル遮断
・結界内スキル魔法無効(術者が魔法、スキルを使用できなくなる)
・魔素遮断
・対象の許可があれば対象を魔素に還元できる。


エクストラスキル[絶対記憶](完全記憶の上位スキル)
・感覚記憶(英知必須)
・永久記憶


ユニークスキル[無限収納]
・収納箱(無限に物を収納できる。生き物は不可。意識がない場合は生き物でも入れられる。収納中は意識が戻らない)


エクストラスキル[超回復]
・完全回復(フルポーションと同等の回復力がある)


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7話

リムル「魔物の危険度?」

ガゼル「そうだ。大まかな区分だがな。

"災害級"(ハザード)、"災厄級"(カラミティ)、"災禍級"(ディザスター)と上がっていく。例えば豚頭帝は災害級だ。軍勢は別だがな」

リムル「魔王はどこに区分されるんだ?」

ガゼル「魔王ならば災禍級だな。怒れる魔王など災禍そのものだ。うっかり出会っても手を出すなよ」

リエ「「出さないって(シズさんの仇以外はな)」」

ガゼル「それにしてもここの料理はうまいな」

まあ、シュナの料理だしな。

リムル「腕のいい料理人がいるからな」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

カリオン「ゲルミュッドの野郎は急ぎすぎたな」

 

十大魔王が一柱 

カリオン(危険度:災禍級)

 

カリオン「計画の言い出しっぺが出張って返り討ちに遭うなんざ世話のねぇこった」

ミリム「カリオンの言う通りなのだ!フレイもそう思うだろ?」

フレイ「あのねぇ、ミリム。私があなた達の計画とやらを知るわけがないでしょう?」

 

十大魔王が一柱

フレイ(危険度:災禍級)

 

ミリム「む、そうか」

カリオン「つーかよ。なんでここにいるんだフレイ」

フレイ「それは私が聞きたいくらいだわ。面白いから来いってミリムに無理矢理連れてこられたのよ。私は忙しいと断ったのだけどね」

ミリムはニコニコしている。

カリオン「いいのかよクレイマン」

クレイマン「…まあいいでしょう今更です」

 

十大魔王が一柱

クレイマン(危険度:災禍級)

 

クレイマンが指を鳴らす。すると、机の上に水晶玉が4つ出てくる。

クレイマン「ひとまず計画は頓挫したわけですが…少々軌道を修正してやれば、まだチャンスはあります。まずはこれをご覧下さい」

クレイマンが水晶玉に手をかざすと

カリオン「なんだこりゃ」

映像が映し出される。

クレイマン「ゲルミュッドの置き土産です」

ミリム「む?なんなのだこいつら。鬼人?」

そこに映っていたのは豚頭帝戦でのリムルたちだった。

クレイマン「ジュラの大森林から湿地帯にかけての戦いの記録です。豚頭帝以外にも面白い者どもが映っているでしょう?」

ミリム「おお…っ」

しばらく映像が流れると急に映像が途切れた。

クレイマン「ゲルミュッドが死んだ所為で、これ以降の展開は不明ですがこれ程の者たちが相手となると豚頭帝は倒されたとみるべきでしょうね」

フレイ「もしも、生き残っていた場合、彼らを餌に豚頭帝は魔王へと進化している…そうでなかったとしても。彼らの中には魔王に相当する力をつけている者がいるかもしれない。なるほどね、つまり貴方達の計画というのは新たな魔王の擁立…といったところかしら」

ミリム「流石フレイ!私たちの目論見を見事に看破するとは!」

フレイ「呆れた。随分大胆なことを考えたものね。あの森が不可侵条約に守られていることをお忘れかしら」

クレイマン「ゲルミュッドが私に持ち込んだ計画です。我々が直接動くわけではないので条約に抵触はしませんよ」

カリオン「いいじゃねぇか別に大軍率いて攻め込もってわけじゃねぇし。強者を引き入れるチャンスだっつーから俺も乗ったんだ。見た限りじゃあ、豚頭帝よりこいつらの方が美味い」

クレイマン「(…まぁカリオンとミリムはそんなところでしょう。問題は飛び入りのフレイですが…来訪時から何か別のことに心を囚われている様子。その内容によっては恩を売ることが可能でしょう」

 

 

魔王間の条約においてその可否を決める時、提案した魔王の他2名の魔王の賛同が必要となる。自分の意見に追従する魔王の存在は他の魔王に対し大きく優位性を得ることになるのだ。

 

 

クレイマン「(悪くない。豚頭帝を失ったのは痛手ですがむしろこの展開は理想的だ。魔王2人…上手くいけば3人に貸しを作ることが出来るのなら十分にお釣りが来る。あの魔人どもにはミリム達を釣る餌になってもらいましょうか。まずは森の調査を…)「よし!」」

ミリム「では、今から生き残った者へ挨拶に行くとするか!」

クフカ「「「…は?」」」

カリオン「いやいやいや落ち着けよミリム。ジュラの大森林には不可侵条約があるっつってんだろ」

クレイマン「そうですよミリム。堂々と侵入しては他の魔王達が黙ってはいません。まずは私が内密に調査を…」

ミリム「何を言っているのだ。不可侵条約など今この場で撤廃してしまえばいいではないか。ここには魔王が4人もいるのだぞ?」

クフカ「「「え!?…あっ」」」

※条約の可否には提案した魔王の他2名の魔王の賛同が必要。

ミリム「あの条約はそもそも暴風竜ヴェルドラの封印が解けないように締結されたものなのだ。暴風竜は消えたという噂だしな。もう必要なかろう?数百年前の話だしお前達は若い魔王だから知らないのも無理はないのだ」

カリオン「そういうことなら条約破棄に反対する者もいないだろう。俺は賛成だ」

フレイ「私も賛成ですわね。元々私の領土はあの森に接しているし不可侵と言われても面倒だったのよね」

クレイマン「はぁ…いいでしょう。私も条約の撤廃に賛成です」

クレイマンが指を鳴らすと紙とインク、羽根ペンが出てきた。

クレイマン「今すぐ他の魔王たちへ通達しましょう。受理が確認され次第行動を始めることになります。無難なのはまず人をやって調査することかと思いますが…」

カリオン「おいおいこりゃ新しい戦力を手に入れようって話だろ。まさか協力しようってのか?」

フレイ「そうね…どうせなら競走した方が潔いのではなくて?それで遺恨を残すほど器の小さい者はここにはいないでしょう?」

すると、ミリムがフレイの座っている椅子に手を置き

ミリム「いいなそれ。恨みっこなしで早い者勝ちなのだ!互いに手出しは厳禁。約束なのだぞ?」

フレイ「ええ。わかったわ」

カリオン「獅子王(ビーストマスター)の名にかけて俺様も約束しよう」

クレイマン「そうなるだろうと思いました。では、今後は各々の自己責任ということで」

ミリム「ワタシはもう行くのだ!またな!!」

そして、ミリムは早々に窓から出て飛んでいった。

カリオン「俺ももう行くぜ。配下から調査に向かうヤツを選ばにゃならねぇ」

フレイ「私も失礼するわ」

クレイマン「フレイ。何かお困りでしたら相談に乗りますよ。いつでも頼ってください」

フレイ「…………そ、ありがとう」

:

クレイマンは1人不敵に笑う。

クレイマン「ミリム、カリオン、そしてフレイ。さてさて、また森が騒がしくなりそうですね…」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ガゼル「リムル、エイトよ。俺と盟約を結ぶつもりはあるか?」

は?

ガゼル「『何言ってんだこのオッサン』みたいな顔をするんじゃない」

いやそうもなるだろ。

ガゼル「この町は素晴らしい造りをしていた。ここはいずれ交易路の中心都市となるだろう。後ろ盾となる国があれば便利だぞ?」

エイト「いいのかよ…」

リムル「それは俺たちを…魔物の集団を国として認めるということだぞ?」

ガゼル「無論だ。これは王として言っておる。当然だが善意の言葉ではない。双方の国に利のある話だ」

エイト「新手の詐欺か?」

リムル「俺たち騙されてない?」

ガゼル「ふははははっ恩師やドライアドを前にその主を謀ろなどとはせん。条件はとりあえず二つだ。一つ、国家の危機に際しての相互協力。二つ、相互技術提供の確約。なに、急がずともよい。よく考えるがいい」

俺はリムルの方を見る。すると、リムルは頷き

リムル「…いや、その話喜んで受けたいと思う」

ガゼル「ふっ王者に相応しき決断力だ。流石俺の弟弟子よ!」

まあ、願ってもない話だしな。本来ならもっと時間がかかるような話だと思ってたがこんなに早く

ガゼル「で、お前達の国の名は何というのだ?」

リエ「「え?」」

後ろにいるベニマル達を俺たちは見るが首を横に振られる。

リムル「いや、まだ国という段階でもなかったからな。俺たちはジュラの森大同盟の盟主だけど国主ってワケじゃないし…」

シオン「リムル様とエイト様を王と認めぬ者がいたならばこのシオンが…「こらこらこらしまいなさい」…」

リムルがシオンのことを宥める。

ベニマル「国の主を決めるって話ならリムル様とエイト様で決まりだと思うぜ?力ある者に従うのは魔物の本能だが少なくとも俺たちはそれだけだ配下になったわけじゃないしな」

エイト「おい、リムルはいいが俺をそんなに持ち上げるなよ。ここには森の管理者だってい…

「いいと思いますエイト陛下。リムル陛下」(あんにゃろう…)」

ガゼル「ここの王は貴様ら以外におらんようだな。では明日の朝までに国名を考えておけ。そして今夜は酒に付き合え」

リエ「「考える時間くれねえのかよ!」」

 

そんな感じでドワーフ達との宴会は朝方近くまで続いた。

 

 

ー翌日ー

 

リムル「え!?俺たちが災禍級!?」

「魔物が町を作るなんて前代未聞だからな」

「うちとの同盟を蹴っていたら討伐対象になっていたかもねぇ」

リムル「その区分ざっくりしすぎじゃないか?三段階しかないんじゃ同じ階級でもピンキリだろ」

ドルフ「正確にはもう一段階、上にあるんですがね。"天災級"(カタストロフ)と呼ばれる階級です。文字通りの天災です。怒らせたのなら世界の崩壊を覚悟すべきでしょう」

リムル「うへぇぇ。天災級奴って実際いるのか?」

ドルフ「いますとも。例えば暴風竜ヴェルドラ」

リエ「「(あいつかよ!)」」

ドルフ「それに、一部の魔王が該当しますね」

リムル「へぇ…」

ドルフ「まぁ、あまり現実的ではない階級だから省略されることも多いのです。普通に生きていれば会うこともないでしょう」

リムル「そう願いたいもんだな」

シズさんの仇…魔王レオンが天災級じゃないことを祈るばかりだな。

ドルフ「そういえば国名は決まったのですか?」

エイト「まあ」

リムル「一応」

 

 

 

『そして、やっぱり俺たちは気づいていなかった』

 

十大魔王が一柱

ミリム・ナーヴァ(危険度:天災級)

 

『まさに天災そのものが急接近しているということに』

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「では、これよりドワルゴンと"ジュラ・テンペスト連邦国"における協力の証として両国の代表による調印を行います」

 

この盟約は魔法により保証され世に公開される。

 

"ジュラ・テンペスト連邦国"。リザードマンやトレント族など支配領域を持つ種族なども加わるから『連邦』だ。

エイト「(俺の名前これで合ってる?)」

英知『解。合っています』

 

調印が光り、空に上がると散った。

 

俺たちの国の名が初めて世に知られる瞬間だ。

 

ちなみにこの町の名は「リムル」。「エイト」という意見も出て俺たち2人がどっちかで決めることになったんだが俺がリムルに土下座しまくって折れてもらった。流石に恥ずかしすぎる。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

俺たちは縁側で俺はシュナ、リムルはシオンの膝枕をしてもらっている。

エイト「ふぅ(縁側で膝枕…シュチュエーション的には完璧最高だな」

シュナ「!そう言っていただけると嬉しいです」

リムル「声出てるぞ」

エイト「」

俺の馬鹿や…

エイト「リムル」

リムル「わかってる」

俺たちはすぐに膝から降りて走り出す。

シュナ「あっエイト様!」

シオン「お二人ともどちらへ…」

 

やばいやばいやばい!あれはヤバすぎる!!

ペガサスナイツより数は少ないっていうか1人に近いが比較にならないくらいデカい気配がこっちに近づいてきてる!!!

 

俺たちは町から出て少しのところで止まる。すると、

「ドオオオオンッ!!」

落下の衝撃で土が舞い落下物を中心にドーム型に渦を巻く。

エイト「っ」

そして、それが無くなる。と、

ミリム「初めまして。ワタシは魔王ミリム・ナーヴァだぞ!お前が町で一番強そうだから挨拶に来てやったのだ!」

魔王ミリムはそう言ってリムルを見る。

リムル「?」

いきなり魔王かよ。こういうのは段々強いのが来るもんだろ!

リムル「初めましてリムルと申します。なぜ私が一番強いと思ったのですか?」

ミリム「ふふん。それでオーラを隠したつもりか?」

そしてミリムは自分の右目に人差し指を立てて

ミリム「この[竜眼](ミリムアイ)にかかれば相手の隠している魔素量などまる見えなのだ。私の前で弱者の振りなど出来ぬと思うがいい!わははは!」

現在進行形でできてるんですがね。まさか、影が薄すぎてミリムアイでも見えてないとか?何それ悲しい…

ミリム「ところでこの姿が本性なのか?ゲルミュッドの残した水晶では銀髪の人型だったが」

すると、リムルは人型になる。

リムル「この姿のことですかね」

ミリム「おおっこれだ!」

そう言ってミリムはリムルの周りを何周もする。

ミリム「…ん?水晶ではもう少しちまかった気がするのだ。さてはお前…豚頭帝を喰ったか?」

何が目的なんだ?

リムル「…ええ、まぁ。それで今日はどんな御用でのお越しでしょうか?」

ミリム「む?最初に言ったではないか。挨拶だぞ?」

リエミ「「「………」」」

リエ「「(それだけかよ!?)」」

 

まあ、戦わずに済むなら越したことはないな。何せ英知曰く

英知『測定可能な下限段階で魔素量が10倍以上です』

だからな。もし戦いになったら絶対に敵わないだろうな。

リエ「「へ?」」

ミリム「おー」

「ギイィィィイイン!!」

突如後ろから現れシオンが大太刀を振り下ろした。ミリムに対して…。

シオン「ランガ!リムル様とエイト様を連れて逃げなさい!早く!!」

ランガ「心得た!」

そう言ってランガは俺たちを背中に乗せて走り出した。

 

 

シオンの大太刀はミリムによって片手で受け止められた。

ミリム「なんだ?ワタシと遊びたいのか?」

シオン「!!」

 

 

リムル「ま、待てランガ!」

ランガ「待てません!お許しをリムル様!」

リムル「待てって!!」

そう言ってリムルは近くの木に掴まりランガを止める。

エイト「リムル行くぞ」

リムル「ああ」

と、行こうとしたのだが、

エイト「!!」

ソウエイもかよ!?

 

ソウエイ「魔王といえどもこの糸の束縛より逃れることは簡単には出来まい。…少なくとも数秒はな」

ベニマル「数秒で十分だ[黒炎獄]」

 

ベニマルまで…

 

ベニマル「火傷くらいしてくれると嬉しいが…」

ミリム「わはははは!すごいのだ。これ程の攻撃他の魔王ならあるいは倒すことも出来たかも知れぬ。だが、ワタシには通用しないのだ!」

ミリムを中心に爆風が起きる。

 

エイト「っ!」

ランガ「主よ!」

ランガが俺とリムルに包まり爆風から守る。

 

 

ミリムを中心に直径50m程のクレーターができる。

ランガ「…なんとすさまじい…!…リムル様!?エイト様!?」

俺たちは倒れているベニマル達の方に向かう。

シオン「うぅ…」

リムル「大丈夫かシオン。ホレ、回復薬」

そう言ってリムルは回復薬を渡す。

ベニマル「リムル様…何してんだ、早く逃げてくれ」

リムル「お前らも、ホレ」

リムルはベニマルとソウエイに回復薬を投げる。

リムル「それ飲んで寝てろ」

そして、リムルはミリムの方を見て

リムル「あとは俺たちがやる」

 

 

ミリム「ほぅ?お前たち2人はワタシに通用しそうな攻撃手段を持っているのか?」

リムル「一つだけな」

え?あるの?

ミリム「わはははは!いいだろう受けてやるのだ。ただし、それが通用しなかったらお前はワタシの部下になると約束するのだぞ?」

お前…俺は含まれてないな。よし。

リムル「分かった…あれ?こっちはいいんですか?」

ミリム「そっちのはそんなに強そうに見えないからな。魔素量が少なすぎる」

リムル「……おいエイト」

エイト「どうした?」

リムル「どうやってあのミリムアイに反応しないようにしたんだ?」

エイト「後で教えてやるから今は魔王ミリムをどうにかしてくれ」

ミリム「む?本当は強いのか?」

リムル「俺よりは」

ミリム「!!ワタシの前で弱者の振りができるとはお前やるではないか!やっぱり、通用しなかったらお前も部下になると約束するのだぞ?」

エイト「はぁ、分かりました」

巻き込みやがって。

リムル「では喰らえ」

そして、リムルは魔王ミリムに向かって走り出す。

 

「パチィィン」

 

ミリムの口にリムルの右の手のひらが当たった音だ。

エイト「……」

何を食わせたんだ?

ミリム「……な、なんなのだこれは!?こんな美味しいもの今まで食べた事がなにのだ!!」

エイト「は?」

まさかあいつ…

リムル「くっくっくっ、どうした魔王ミリム。こいつの正体が気になるのか?」

この前保護したハチ型魔蟲に採取してもらったハチミツだな。糖度は砂糖と同等ってとこでまあ、美味いわな。

リムル「俺の勝ちだと認めるならコレをくれてやってもいいんだがな」

ミリム「だが…しかし…」

リムルは指につけたハチミツを口に入れる。

リムル「うーん美味しい♡」

ミリム「あっ!!」

性格悪いな。

リムル「おっと早くしないとなくなりそうだぞ」

やっぱ性格悪いな。

ミリム「ま、待て!提案がある!!引き分け!今回は引き分けでどうだ?今回の件を全て不問にするのだ」

リムル「ほほぅ?」

ミリム「も、勿論それだけではないのだ。今後ワタシがお前たちに手出しをしないと誓おうではないか!」

………憐れめ魔王ミリム。

リムル「(勝ったな)」

:

:

リムル「さてと、お前らもう大丈夫なのか?」

ベニマル「は……」

 

 

ミリム「なあなあお前本当は強いのだろ?どうやってオーラを隠しているのだ?」

エイト「え、えっと、それは…」

確かに隠している。でも、隠し方を教えたらそれこそ隠せてないだろ。あ、ちなみにどうやってるかというと常時体に貼っている完全結界によるものだ。まあ、つまりミリムアイの視覚を遮断してることになる。それと、オーラは無限収納で常時収納中だからな。

ミリム「じ、じゃあせめてオーラを出した状態を見せるのだ!」

エイト「まあ、それなら」

俺は結界の性質を変化させスキルの遮断を切る。

ミリム「おおっ!確かにこの中で一番強いな!」

リムル「おーいエイト町に戻るぞ」

エイト「へいへい」

:

:

:

ベソシ「「「………」」」

ミリムはハチミツを食べてご満悦の様子だ。

なんで一緒にランガに乗ってるんだ…

ミリム「なぁなぁ、お前たちは魔王になろうとしないのか?」

エイト「しねーよ」

ミリム「え、だって魔王だぞ?格好いいだろ憧れたりするだろ?」

リムル「しねーって」

ミリム「えええーーー!?じゃあ何を楽しみに生きてるんだ!?」

エイト「そりゃ色々だな。やる事多くて大変なんだぞ?」

ミリム「でも…魔王は魔人や人間に威張れるのだぞ?」

あれ、それって

リエ「「退屈なんじゃないか?」」

ミリム「」

あ、図星か…。

ミリム「おま、お前たち!?魔王になるより面白いことしれるんだろ!?ズルイぞ!ズルイズルイもう怒った!ワタシも仲間に入れるのだ!!」

駄々っ子かよ!?

リムル「わかったわかった俺たちの町を案内してやるから」

ミリム「本当だな!?」

 

町の前まで来たら俺たちはランガから降りた。

リムル「えー…じゃあお前のことはミリムと呼ぶ。お前も俺のことはリムル。こっちはエイトと呼んだらいい」

ミリム「むっ…いいけど…特別なのだぞ?ワタシをミリムと呼んでいいのは仲間の魔王達だけなのだ」

リムル「はいはいありがとよ。じゃあ、今日から俺たちも友達だな」

そう言ってリムルは笑った。あれ?俺も含まれてね?まあ、いいか。

リムル「ホラ、着いたぞ。ようこそ魔国連邦(テンペスト)へ」

 



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8話

リムル「とりあえずコレだけは約束してくれ。まずウロチョロしないこと。それと俺たちの許可なく暴れないこと」

エイト「絶対守れよな」

ミリム「うむ!」

そう言ってミリムは走り出した。

リムル「っておいい!!」

いきなり破ったな。

 

 

ミリムは組み上げ式の井戸で遊びはじめた。ガキかよ!?

ミリム「わははは何だコレ面白いのだ!」

リムルはそれを走って追いかけるが…

ま、俺はいっか。リムルああいうの得意そ…

リムル「おい待っ…」

「ボンッ!!ズギャアアアアンッ!!」

ミリムの左ジャブがガビルの腹に入りガビルが道を破壊しながら吹っ飛ぶ。

リムル「ガ…ガビルーっ!!」

ミリム「いいか。リムルとエイトとの約束があるから今回はこれで許してやるのだ。次はないから気をつけるのだぞ☆」

そう言ってミリムは親指を立てる。

あれでも守ったつもりなのな。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リムル「あのな、怒ってもすぐに殴ったりしたら駄目だぞ?」

ミリム「でも最初にガツンといかないと舐められるのだ」

エイト「いやだからダメだって。この町の奴らには俺たちがちゃんと言い聞かせるから」

でないといつか死人が出そうだしな。

ミリム「そうか?エイトがそう言うなら任せるのだ」

エイト「よし頼んだぞリムル」

リムル「え、いやお前もだぞエイト」

エイト「えぇ…はぁわかった」

まあ言ったの俺だしな。

リムル「さて、そろそろ集まったかな」

俺は魔イク(ドルド作:魔鉱で作られた声を広く響かさる魔道具)を口に近づけ

エイト「えっと、今日から新しい仲間が滞在することになった。客人という扱いだから失礼のないようにな。じゃあ、本人から一言」

俺は魔イクをミリムに渡す。

ミリム「コホン、ミリムナーヴァだ。今日からここに住むことになった。よろしくな!」

エリ「「!?」」

リムル「おい待てそれりゃどういう意味だ!?」

ミリム「そのままの意味だぞ?ワタシもここに住むことにしたのだ」

エイト「いやお前は今住んでる所があるんだろ?」

ミリム「大丈夫なのだ!たまに帰れば問題ない!」

こっちは大ありだっての。

 

ただ、唯一の救いは住民の感触が悪くないのことだ。魔王の中でもミリムは人気らしい。

ミリム「うむ、ワタシとリムルとエイトは友達だから何かあったらワタシを頼ってもいいのだ」

エイト「友達ねぇ…」

どっかの竜を思い出すな…。

ミリム「えっと、そ、そうだな、友達というより…親友(マブダチ)だな!!」

エリ「「え?」」

ミリム「ち、違うのか!?」

ミリムの拳に力が込められる。

リムル「なーんてねっ!冗談だよ冗談!!俺たちは親友だ!」

エイト「そ、そうだぞ俺たちは親友だ!」

あれを喰らいたくはない…。なんかドス黒い何かが漏れ出てたし…。

ミリム「だろ?お前たちも人を驚かせるのが上手いな!」

いや、一番驚いてんのは俺らだよ。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ミリム「うまーーっ!!この『かれー』という食べ物はめちゃくちゃ美味いのだ!!」

…ミリム・ナーヴァ。どう見ても子供だが歴とした魔王の1人その実力は計り知れない。その魔王はなぜか俺とリムルの親友(マブダチ)を名乗り、ここに住むとか言い出した。なんでだよ…。

ミリム「おかわりなのだ!」

俺は皿に米を盛ってカレーのルーをかける。え?なんで俺がやってるかって?料理の腕を上げるためだよ。この世界で一番発展してなさそうなのは食文化だしせめてこの国だけは食文化を豊かにしたい。その為にも日本の料理を再現できるだけの技量は欲しい。それで、こういう時は大体俺が作ってる。

ミリム「こんなに美味しいものハチミツ振りなのだ」

リムル「今朝の話じゃねえか」

シオン「ミリム様が興味を持たれたあれは蜂の集めた蜜だったのですか?」

ベニマル「回復薬かと思ったが…そう言えば色が違ったな」

リムル「まあ、ハチミツには薬効もあるから回復薬ってのはあながち間違っていないな」

ベニマル「へぇ…」

そう言ってベニマルはミリムの持っているハチミツを見る。

ミリム「やらんぞ!これはワタシのものなのだ!!」

誰が天災から物を奪うんだよ…。

リムル「砂糖っていう甘味料の代わりに用意したんだけどな。多くは採れないし抽出も今のところ俺にしかできない。お披露目は量産の目処が立ってからと思ってたんだよ」

俺もできないんだよな。多分能力創造が健在だってらできたが。

すると、リムルが小皿にハチミツを入れて机に置いた。

リムル「舐めてみ」

シュナ「!」

シオン「わ…!」

ソウエイ「(甘い…)」

ベニマル「…っ!」

ベニマルは勢いよく立ち上がる。

リムル「うん…まぁ、一人占めしたのは悪かったよ」

シュナ「お砂糖はエイト様の頼みで現在捜索中ですが…お砂糖はこのハチミツほど甘い物なのですか?」

リムル「ああ、砂糖があれば料理の幅が広がって甘いお菓子も作れるようになる」

シシュミ「「「(甘いお菓子…!!)」」」

すると、シュナが席を立つ。

シュナ「…なるほど理解しました。明日からはお砂糖の発見を最優先に仕事を進めます。いいですね?シオン」

シオン「はい、シュナ様!このシオン、一命にかえましても砂糖を発見してご覧に入れます」

ミリム「うむ頼んだのだっ」

君たちいつの間に仲良くなったの…。

あ、そういえば伝え忘れてたな。サトウキビを栽培する方に計画をシフトさせるんだった。それかテンサイを。ま、それはリムルに品種改良してもらってからでいいか。

 

 

ー夜ー

 

リムル「と、いうわけで魔王ミリムの滞在が決まった。1人で出歩かれるのも不安なんで常に誰か側で見てやって欲しい」

カイジン「ちょっといいかい旦那」

リムル「どうした?」

カイジン「魔王ミリムの動向も気になるが俺ぁ他の魔王の出方にも気を付けた方がいいと思うぜ」

リムル「どういう意味だ?」

カイジン「魔王は何名かいるんだが、彼らは仲間同士ってわけじゃないんだよ。互いににらみをきかせて牽制し合ってる間柄だ」

ハクロウ「いかにも。しかもリムル様とエイト様はジュラ・テンペスト連邦国の盟主というお立場。そのリムル様とエイト様がミリム様との友好を宣言しミリム様がこの国へ滞在している。つまり『テンペストが魔王ミリムと同盟を結んだ』。事の経緯を知らない他の魔王達にはそう見えるでしょうな」

ベニマル「同盟が事実なら今まで配下を持つことすらなかった魔王ミリムの勢力が一気に増すことになり魔王間の力均衡が崩れる。そして…」

………。

ベニマル「それを面白く思わない魔王もいるかもしれない。ってことです」

つまり…この森が勢力争いに巻き込まれる可能性がある。と……。

リグルド「しかし実際にお帰り頂こうとしても無理なのでは…言って聞いて下さるとは思えません」

聞かないだろうなぁ。言ってみても…

 

 

ミリム『他の魔王ににらまれる?大丈夫なのだ!!」

リムル『何が!?』

 

 

て、感じだろう。

リムル「飽きて去ってくれるのを待つしかないか…」

ソウエイ「はい。仮に敵対するのなら他の魔王を相手にする方がマシです。魔王ミリムは正しく(まさしく)天災ですので」

あーミリムが天災級なのか。

エイト「んじゃ敵対する魔王が現れたらその時考えるか」

リグルド「ところでリムル様エイト様。当のミリム様はどちらに?」

たしか、風呂だっけ?

リムル「ん?あぁ風呂だよ。シュナとシオンに連れてってもらったんだが…」

「バンッ!!」

!?

ミリム「リムル!!エイト!!ここの風呂はすごいな!泳げるのだ!!」

おい!なんでタオル巻いた状態で出てくんだよ!

シュナ「ミリム様!ほら、まだ御髪を洗えていないでしょう」

ミリム「おお、すまぬ。感動したから早くマブダチに伝えたかったのだ。わはははは」

:

ミリム「じゃあな、リムル、エイト!明日は一緒に入るのだ!!」

ミリムが手を挙げるとタオルが解ける。

シオン「ミリム様タオル…!」

そして、3人はバタバタと風呂へ戻っていく。

シュナ「失礼しました…」

シュナは笑いながら戻っていった。

 

ベニマル「あー…ではミリム様のお相手はマブダチのリムル様とエイト様に一任するという事で」

全「「「「「「異議なし!!」」」」」」

リエ「「!?」」

エイト「ベニマル貴様…!」

ベニマル「いや、だってめちゃくちゃ懐かれてんじゃないですか」

ハクロウ「うむ。リムル様とエイト様以外に適任がおりませなんだ」

リエ「「ぐぅ…っ」」

 

こうして、魔王ミリムは俺とリムルが担当するという暗黙のルールが成立してしまった。

 

ー翌日ー

 

 

リムルがベスターのところに行って回復薬を見てくる間に俺はシュナとミリムの相手をることになった。え?なんでベスターがいるかって?てか、まず誰かからだな。

 

 

ベスターっていうのはまあ、簡単に言うと元ドワルゴンの大臣だ。リムル達を罠に嵌めようとしたりと色々迷惑だったらしいがガゼル王のおかげで助かったらしい。

ガゼル王訪問から2日後また来たんだが、お土産という事でもらった。それがベスターだ。ガゼル王曰く有能ではあるらしい。それで今はフルポーションの開発に勤しんでいる。

なんか来てから小一時間ほどリムルに土下座して謝罪してたがそれを見てリムルが可哀想になった。

 

 

ミリム「次はこれがいいのだ!」

シュナ「これですね」

ミリムはシュナにも懐いているので俺は見ているだけでいいっぽい。

:

しばらくすると、

シュナ「どうです?似合ってますかね?」

エイト「え、えぇっと…に、似合ってると思うぞ」

シュナがいきなり服を変えてこっちに来たあげく感想を求めてきたのだ。

シュナ「ふふっ…ありがとうございます」

生まれてから死ぬまでボッチだった俺にその不意打ちは心臓に悪い…。

英知『告。スライムに心臓はありません』

あ、はい…。なんか…すいません。

 

〜外〜

 

「ここはいい町だな。魔王カリオン様が支配するに相応しい。そうは思わんか?」

その男はリグルドに問いかける。

リグルド「ご冗談を…」

リグルドは顔面を殴られた。

 

 

エイト「外が騒がしいからちょっと行ってくる」

シュナ「はい。わかりました」

 

 

 

俺は外に出ると数人の魔人の内1人を見た。まあ、それなり…

英知『警告。対象の魔素量は個体名ベニマルを上回ります』

え、強。

その魔人の前には倒れた男、リグルドがいた。

エイト「おい。これはどういうことだ。場合によっては拘束するぞ」

すると、魔人は俺にパンチをかます。片手で受け止めたが。

「!?」

エイト「マジで拘束するぞ」

「[豹牙爆炎掌]!!」

エイト「[完全結界]」

俺は魔人を結界で覆う。

「!?」

結界を解いたら俺はその魔人の顔面をパンチして気絶させた。

:

:

リムル「ソウエイ」

ソウエイの連絡を受けたリムルが飛んできた。

ソウエイ「!リムル様」

リムル「この騒ぎはなんだ?」

ソウエイ「は、連絡が遅れ申し訳ありません。実は警戒網を抜けた反応がありまして…。来てみると複数人の魔人が広場におりました」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

『ここはいい町だな。魔王カリオン様が支配するに相応しい。そうは思わんか?』

その男はリグルドに問いかける。

リグルド『ご冗談を…』

リグルドは顔面を殴られた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リムル「リグルド大丈夫か!?」

リグルド「リムル様…っ。いやなに、この程度どうということもございません」

リグルドの顔面の左半分は肉剥き出しになっていた。ターミネーターかよ。

リムル「殴ったヤツは…」

 

 

俺の目の前には魔人のリーダーと思わしき男。が倒れていた。

リムル「どういうことだ?」

エイト「え、殴られたから殴り返した」

端的に言えばな。

リムル「いやでもそれはまずいだろ」

エイト「いや、だって…」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

魔人の前には倒れた男、リグルドがいた。

エイト『おい。これはどういうことだ。場合によっては拘束するぞ』

すると、魔人は俺にパンチをかます。片手で受け止めたが。

『!?』

エイト「マジで拘束するぞ」

『[豹牙爆炎掌]!!』

魔人の手から炎がでる。

エイト『[完全結界]』

俺は魔人を結界で覆いそれを防ぐ。

『!?』

結界を解いたら俺はその魔人の顔面をパンチして気絶させた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

エイト「という訳だ。これ以上被害を出すのもアレだったから黙らせたんだ」

リムル「……まぁ、それなら」

よし。

:

:

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

場所を変えて話をすることになった。

リムル「…で、君達は何をしに来たんだ?」

リムルが魔人達のリーダー…俺が殴ったフォビオというやつに聞く。

フォビオ「スライム風情に答える義理はないね」

首を横に振った。そして、後ろのベニマル&シオンが爆発寸前になった。

リムル「いいから下がってろ」

ベシ「「は…」」

フォビオ「は!こんな下等な魔物に従うのか!雑魚ばかりだと大変だな!」

エイト「俺に負けといて…俺たちが下等ならお前も下等の1人だ「そう言うからにはお前の主はさぞ大物なんだろうな」……」

え、酷い?これくらい言わないと後ろの方々が爆発しちゃうじゃん。この家吹き飛ぶよ?

フォビオ「っ…、当たり前だろ。お前はカリオン様を知らねぇってのか?」

リムル「では言葉に気をつけろ」

フォビオ「!」

リムル「そもそも先に手を出したのはそっちだ。お前の態度次第では今すぐ俺たちは敵対関係になる。このジュラの大森林全てを敵に回す判断をカリオンではなくお前が下すのか?」

フォビオ「…ちっスライム風情が吹かしやがって」

え、魔王カリオンを敵に回すとか俺やだよ?しかも怒った魔王なんて。

リムル「なんならドライアドを呼んで俺の支配領域を証明しようか?」

 

幸いなことにフォビオの主への忠誠心は本物のようで

「フォビオ様…」

フォビオ「……ここへはカリオン様の命令で来た」

上手いこと交渉に持ち込めそうだ。

ミリム「おいフォビオとやら。スライム風情と言ったな。ワタシの友達を見下すような発言は許さ「ミリムお前何かしたらマジで晩飯抜くからな」……」

ミリムはソファにちょこんと座る。

リムル「遮って悪かったな。続けてくれ」

フォビオ「……」

流石のフォビオにもこの光景は衝撃らしく「マジか…」と言う顔をしている。

 

 

フォビオの話によると俺たちを配下にスカウトしろとの命令を受けていたらしい。正確には俺達か豚頭帝生き残った方を…ということだ。つまり湿地帯でのリムル達の戦いをミリム以外に見ていた魔王がいるということになる。

リムル「魔王カリオンに伝えてくれ。日を改めて連絡をくれれば交渉には応じる。と」

すると、フォビオは席を立った。

「フォビオ様!」

 

フォビオ「…きっと後悔させてやる」

そう言って魔人達は出ていった。

 

 

エイト「ミリム。魔王カリオンについて聞かせてくれ」

ミリム「それはエイトにも教えられないぞ。お互い邪魔をしない約束なのだ!」

秘密があるのな。

エイト「それはカリオンだけとの約束なのか?それとも他の魔王も関係してるのか?」

ミリム「いや、それは…」

友達だから。こう言うのは好きじゃないというか嫌いだが……まあ、いっか。悪用する訳じゃないし。

エイト「教えてくれないのかー残念だなぁ。マブダチとして知っておきたかったんだがなぁ。ほら、俺たちが知らずに邪魔しちゃうかもしれないしな?」

ミリム「約束…でも…マブダチ……」

よし、あと一押しだな。

エイト「あーじゃあ、今度ミリム用の武器を作ってやるよ。マブダチの証として」

ミリム「本当か!?やはりマブダチが一番なのだ!なんでも聞くがいい!」

エイト「おう。じゃあさっそく___」

武器(おもちゃ)で釣り情報を得ることに成功。それで判明したのが…ミリム含めて魔王4名の企み。傀儡の魔王を誕生させるという計画だった。

エイト「あれ?これって…」

リムル「俺たちが魔王の計画を邪魔したってことだよな?」

ベニマル「ですね…」

最悪だ。

ベニマル「想定していた状況とは違いますが他の魔王もここへ干渉してくるでしょうね」

リグルド「大変なことです。トレイニー様にも相談せねばなりませんな」

シオン「大丈夫ですリムル様とエイト様ならば他の魔王など畏れるに足りません!」

頭を抱える問題だ(一名を除いて)。魔王ミリムの来襲と共に巻き起こった暴風はより勢いを増しつつテンペストを飲み込んでいくことになる。



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9話

ファルムス王国。その大国は領土の一部がジュラの大森林に接していた。

 

「馬鹿な!!オークの軍勢…しかも豚頭帝出現の可能性大だと!?」

 

その問題はすでに解決しているのだが真相を知るのはテンペストの国民を除いて一部の者達だけであった。森に接する領土を治める伯爵は悩んだ。

 

「騎士は町の警備に必要だし調査団を組織するには人員と金がないし……そうだ…!」

 

____かくして、矯正施設に収容されていた者達を強制的に駆り出し荒くれ者で組織された勉強調査団が誕生した。

 

 

ヨウム「森の調査ねぇ……こりゃあアレか。強欲な伯爵サマにとって俺たちは捨て駒かよ」

 

辺境長団団長 ヨウム

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

テンペストで魔王ミリムが餌付けされたいた頃…ある理由から首都リムルを目指す一行が窮地に陥っていた。

カバル「なんでこんな目にいいいいいいっ!」

ヒューズ「お前がナイトスパイダーの巣を面白半分につっついたからだろうが!!」

 

ブルムンド王国ギルドマスター フューズ

 

エレン「死んだらカバルの枕元に出てやるんだからね〜っ!」

カバル「そりゃ無理ってもんだ!ってこのやりとり前にもしたな!」

ナイトスパイダーがエレンに前足で攻撃を仕掛ける。

カバル「エレン!」

カバルがエレンを守る。

カバル「ひょええええ!」

エレン「この〜〜っ調子に乗らないでよね〜〜〜〜〜〜っ」

エレンがカバルに担がれたまま攻撃をする。

エレン「[土石大魔弾](ストーンショット)!!」

大量の岩がナイトスパイダーに直撃する。

エレン「やっ…」

煙の中からナイトスパイダーが無傷の状態で出てくる。

エレン「ってない!!」

ギド「姐さん全然効いてやせんぜ!!」

エレン「見ればわかるわよぅ」

フューズ「…ちっ頑強な上に魔法も効かんとは…このままじゃ魔物の町の主とやらに会う前に全滅だ…!!」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

エイト「いるな。数は…1か…ってこれ前にもこんな感じのこと言ったな」

俺は反応のある方へ向かった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

フューズ「何故こんな場所にいる!?ここは魔物の森だぞ」

ヨウム「そういうのはアトだ。まず、こいつをどうにかしないと…」

辺境長団団長のヨウムはナイトスパイダーに襲われてるフューズたちを見つけ、助太刀に入っていた。

ヨウム「(しまった…剣が保たなかった!!)」

ヨウムの剣が折れた。

「ヨウムさん!!」

ヨウムにナイトスパイダーの前足が振りかざされる。

エイト「すまん遅れた」

俺はそれを防いだ。

カバル「あなたは…っエイトの旦那!!」

エイト「大丈夫だったか?」

俺は短刀をしまう。

フューズ「(なんで剣を!?)おい、ヤツはまだ…」

「ドッ!」

ナイトスパイダーが8本足と胴体と顔が綺麗に分けられた状態で崩れ落ちた。

ヨウム「うっそだろ…」

エイト「今日のメインゲットだな。今夜はナイトスパイダーの焼肉パーティーだ」

多分美味い。大体魔物は焼けば食えるし味付けさえすれば結構うまいのだ。

:

:

エイト「てなわけで客だ」

リムル「お、おう?なんの用だって?」

エイト「それを聞くために連れてきたんだ」

フューズ「失礼。私はフューズと申す者。ブルムンド王国の自由組合支部長(ギルドマスター)をしております。私の目的は貴方とエイト殿に会うことです」

リムル「俺たちに会いに?」

フューズ「今から十月ほど前になりますが森の調査を依頼したこいつらから報告を受けました。まずはギルドの英雄を丁重に弔ってくれたことに感謝を。お礼が遅くなり申し訳ない」

シズさんか……。

リムル「ご丁寧にどうも。でも、わざわざそれを言うために来た訳じゃないでしょ」

フューズ「ええまぁ…数ヶ月前のことです。ブルムンド王国のギルドの中で豚頭帝出現の噂が流れました。そして、調査の結果それが事実であると判明したのです。対策に追われ浮き足立っていた頃…執務室にその男が現れました」

 

 

『き、貴様一体どこから…っ』

ソウエイ『リムル様より伝言だ。心して聞け。「悪い悪い言うの忘れてたわ」「豚頭帝の件は片付いた」…だ。確かに伝えたぞ』

フューズ『リムル…その名は聞いている。スライムでありながら魔物の町の主だとか』

ソウエイ『リムル様は人間とも共存共栄を模索しておられる。豚頭帝の噂を流したのも、お前達が対策を取れるようにするためだ』

フューズ『!!』

ソウエイ『敵対より融和を選ぶ方が賢明だと忠告しておこう。では』

ソウエイは影に潜り消えた。

 

 

 

フューズ「確かに豚頭帝はもういない。しかし、それを成したのが魔物なのだとすると我々人間としては脅威が去ったとは言い難いのです」

リムル「なるほどな。ドワーフ王が来た時と同じ目的か」

フューズ「ドワーフ王?来たのですか?」

リムル「ああ。ガゼル王が俺とエイトを見極める、とか言ってな。で、ウチとドワルゴンで盟約を結んだんだ」

フューズ「は…?盟約…!?(馬鹿な…あの賢王が魔物の国を一国家として認めたというのか!?)」

ベスター「失礼します。リムル様、例の回復薬の売り方についてですが____あっ失礼。来客中でしたか」

リムル「悪いなベスター。後で聞くよ」

ベスター「いえいえ。では後ほど」

フューズ「(ベスター…ドワーフのベスター…?はっ!)ドワルゴンの大臣のあのベスター殿か!?」

リムル「そうだよ。元大臣だけどな。今ではカイジンと双璧をなすウチの優秀な研究者兼技術者だ」

フューズ「(あの伝説の鍛治師まで!?)」

フューズは口を大きく開いたまま固まってしまった。

リムル「で、そっちの兄ちゃんは達は何しに来たんだ?」

リムルがヨウムに話しかける。

リムル「君らもブルムンドのギルドに所属しているのか?」

「いえ私達は…」

ヨウム「…その前に聞かせてくれ。なんでスライムが喋ってんだよ」

そこかよ。

ヨウム「だっておかしいだろ!なんで誰もつっこまないんだよ!?スライムだぞ!?後ろの強そうな奴らを差し置いてなんでこんなぷるっぷるなのが偉そうにしてるんだよ!」

ごもっともな話だ。

シオン「リムル様に無礼ですよ!」

ヨウム「うるさい黙ってろおっぱい!!」

エイト「あ」

ヨウム「ぶっ」

ヨウムの顔が机に叩きつけられる。シオンの太刀によって。あ、鞘には入れたままだよ?

シオン「あ、つい…」

リムル「つい、じゃねーよ!」

ヨウムは回復薬をぶっかけて現在回復中。

エイト「あーすまん。リムルの秘書が。ちょっと我慢が足りないところがあってな。でもセクハラはやめとけ訴えられたら負けだぞ」

セクハラに関しては訴えられたら時点で負けなのである。

ミリム「シオンは短気すぎるのだ!わははは」

流石のシオンもミリムに言われると黙るしかない。

「えーと…私達はファルムス王国の調査団です。こっちは団長のヨウム。私はお目付役のロンメルといいます。こちらにお邪魔したのは成り行きですが調査対象の豚頭帝がすでに居ないと知れたのはラッキーでした。目に見えて危険な調査ですのに、領主は強欲で寄せ集め集団にまともな装備を揃えてくれるはずもなく…」

ようは捨て駒ってわけか。どうりで柄の悪い奴らが多い訳だ。

エイト「てか、よく逃げ出さなかったよな」

ロンメル「その為に私が同行を命じられました。契約魔法という強制的に従わせる術がありますので、それで縛るのです」

え、ブラック…。

ロンメル「ま、その魔法はもう解いちゃったんですけどね」

は?

リムル「えーと…ロンメル君はお目付役じゃなかったっけ?」

ロンメル「そうでしたよ。ですが今はこのヨウムについて行くことを決めたのです」

憧れの選手を見る少年の目だな。

エイト「どうして逃げようとしなかったんだ?」

リムル「危険な調査に安い装備で送り出されたんだろ?聞く限りじゃ雇い主は成功報酬を奮発するタイプとも思えないけどな」

すると、ヨウムは机に足を乗っけて

ヨウム「んなこた分かってるよ。豚頭帝の情報を教えてやらねぇと、町のやつらが危ねえじゃねーか」

あれ、コイツ

ヨウム「あの町にゃ説教くせぇジジイや酒場のお節介なババアやあとをついてまわるうぜえガキ共だっているんだ」

言葉遣いと態度はすげぇ悪いが

ヨウム「勘違いすんなよ。あいつらが死んだら寝覚めが悪いと思っただけだ」

実は結構いい奴なんじゃ…。

ヨウム「ま、あのタヌキ伯爵が困る姿は見てみたいけどな。ロンメルから聞きた話じゃ防衛の強化に充てるべき国の援助金も着服してたってんだぞ」

ロンメル「つまり何の対策もしていなかったところへ豚頭帝出現の話が出て慌てて我々が編成されたんです」

ヨウム「そもそもだな」

ヨウムがロンメルの頭を掴んで自分の方へ引き寄せる。

ヨウム「危険極まりない調査にこんな若造使うか?もっと熟練の魔法使いの1人や2人抱えてんだろうが。結果だけ分かればいいって魂胆が丸見えなんだよ」

リムル「そういえばカバルたちを助けてくれたようだな。友人として礼を言うよ」

ヨウム「いや、あれは…正直戦力になれたとは思わねぇよ。ナイトスパイダーの足を弾くので精一杯だったしな。助かったのはそっちのエイト…さんのおかげだ」

エイト「いや、お前がいなかったら間に合わなかったかもしれなかった。ありがとな」

ヨウムのおかげでカバル達が死なずに済んだ。

そして、俺とリムルは思いついた。

 

腕は立つが調子には乗らない。仲間に慕われるカリスマ性もあり顔も悪くない。何よりいい奴だ。

リムル「エイト」

エイト「わかってる」

シオン「リムル様?エイト様?」

ベニマル「なにか企んでおられるな」

シュナ「ですね」

リムル「ちょっといいかいフューズさんとやら」

フューズ「…はっはい!?」

リムル「豚頭帝が倒されたという情報は既に知れ渡っているのか?」

フューズ「あ、いや…使者殿が来た時その場に居合わせたのは私とこの3人だけです。知らせたのはブルムンドの国王と一部の大臣のみ。一般に発表はされていません。確かな情報を得る前に発表しては混乱を招きますので…」

リムル「なるほどな。それなら好都合だ。よし決めたぞヨウム君」

ヨウム「あ?なんだよ」

リムル「君、英雄になる気はないかね?」

ヨウム「英雄になれだって?この俺に…?何言ってんだアンタ」

リムル「別に強制じゃない。これはお願いだよ」

ヨウム「つったって…」

エイト「そのこフューズさんが言ってたろ?豚頭帝を倒したのが魔物じゃ、脅威が去ったとは言えないって。ヨウムとその仲間達が豚頭帝を倒したってことにしてもらいたいんだよ」

ヨウム「はぁ……!?」

リムル「豚頭帝に挑もうとする勇敢な若者達を支援し、武器、防具、食料を提供した魔物達の国。人間とも仲良くしたいウチとしてはそんなポジションが望ましいんだよね」

フューズ「……その計画、ブルムンド王国も協力できるかもしれません」

リムル「え?ホントか?」

フューズ「知り合いの大臣に掛け合えば周辺諸国へ噂を流すことくらいは出来るでしょう」

ヨウム「…っおいおい、アンタまでなにその気になってんだこいつら魔物だぞ!?」

ヨウムが席を立って言う。

フューズ「君の困惑も理解できる。だが、彼らとの友誼を得ることは人心の混乱を避ける以上の意味がある」

ヨウム「どういうことだよ」

フューズ「ひとつ教えよう。我々が知り得た情報では、この国の国民一万余は1人残らず全てネームドモンスターだ」

ヨウム「!?」

フューズ「彼らがその気になればこの場にいる我々はおろか国一つ滅びてもおかしくはない」

まあ、その気になればできなくはないんだろうな。する訳ないけど。

ヨウム「……」

てか、脅すつもりはなかったんだが…。

フューズ「先程の計画私たちとしては前向きに検討したい。もちろん貴方方が本当に人間の敵ではないことが大前提ですがね」

エイト「それは当然だな」

リムル「なんならしばらくここに滞在するといい。この国のことをもっと知ってもらいたいし」

フューズ「ああ、それは助かります」

エイト「お前もだぞヨウム。この計画の要はお前だ」

リムル「まあ、いい返事を貰えたら嬉しいが無理強いはしない」

ヨウム「…ガラじゃねぇよ。俺に勇者の真似事でもしろってのかよ「"勇者"は駄目だぞ」」

ミリムが言う。

エイト「?」

ミリム「あれは魔王と同じで特別な存在なのだ。勇者を自称すれば因果が巡る。長生きしたければせいぜい"英雄"を名乗ることだ」

そんなルールがあったのか!?てか、魔王も勝手に名乗ったら駄目なのな。

ヨウム「なんだガキ?大人の会話に口を「ゴツンッ!」」

エリシュシベ「「「「「あ」」」」」

シオン「ミリム様…」

リムル「お前このタイミングで暴力とか…」

ミリム「ち、違うのだあいつがガキとか言ったから…っ」

リムル「(二度も殴ったせいで)信用できないかもしれないが本当に無理強いするつもりはないんだ」

回復薬で(以下略)

リムル「ちょっと考えてみてくれ」

ヨウム「………外に出てもいいか?」

リムル「もちろんだ」

ロンメル「豚頭帝に見つかり、調査団は全員死亡…伯爵にはそう伝えろとヨウムさんに言われました」

リムル「なるほどな。死んだことにすれば追ってもかからないか」

ロンメル「はい。私は報酬を貰った上で彼らと合流する手筈でした。団員達を前にヨウムさんは言ったんです」

 

ヨウム『どうせファルムスに戻ったって元の強制労働が待ってるだけだ。それが嫌なら俺に付いてきな』

 

リムル「あらー男前」

ロンメル「ちょっと言えないですよねぇ。でも…不思議と説得力を感じたんです。その時にはもう、彼が仲間を大事にする男だと知っていたからでしょうか」

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リムル「心は決まったか?」

ヨウム「…俺は調査団の頭だ。野郎どもを守ってやらにゃならねぇ。どっか余所の国でギルドに入りゃ…食うのには困らねえだろう。30人もいりゃ大きな討伐依頼も受けられるしな。…俺には俺のビジョンがあったんだ。なのに英雄になれだあ?話がデカすぎて胡散臭いことこの上ねぇよ」

ヨウムは大きなため息をついて立ち上がった。

ヨウム「…決めたぜエイトさん、リムルさん。あんたらはあの伯爵とは違う。仲間に慕われるヤツの言葉には力がある。俺はアンタらを信用することにした。英雄でもなんでもなってやろうじゃねぇか」

ヨウムがリムルに跪く。

すると、リムルが人型になる。あ、俺は最初からなってたよ。こっちの方がしっくり来るんだよな。

リムル「…ああ。引き受けてくれて嬉しいよ」

リムルは手を差し伸べながら言う。

ヨウム「!?」

リムル「よろしくな」

ヨウム「え?え?え?」

ヨウムはリムルの美青年ぶりに少し顔を赤らめている。

リムル「期待しているぞヨウム君」

 

 

こうしてヨウム英雄化計画が決定した。とはいってもすぐに決行できるわけじゃない。"英雄"

に相応しくなってもらう為にそれなりに体裁を整える必要がある。(例:ハクロウの地獄の訓練etc)

 

 

 

ー数週間後ー

 

ヨウム「それじゃあ、リムルの旦那エイトの旦那。行ってくるぜ」

ハクロウ「佇まいに隙がなくなりましたな。短期間じゃが真面目に修行した成果といえましょう」

数週間前まではほぼゴロツキだったヨウム一行は装備を整えハクロウに預けた結果………英雄と呼ぶに相応しい一団に仕上がった。これなら豚頭帝を倒したと言われても信じられるだろう。

ヨウム「ロンメルのやつは一足先にファルムスに戻ってる。豚頭帝との死闘を盛りに盛って報告するって張り切ってたよ。まぁ…やってもいない死闘を盛るってのも気恥ずかしい話なんだが」

リムル「いいんだよwin-winなんだから」

この世界それが通じるのだろうか…。

 

 

ヨウム達にはこれからテンペストを拠点として英雄活動を行ってもらう。彼らの名声が高まれば協力した俺たちの評価も上がると寸法だ。

ミリム「なんだもう行くのか?」

ヨウム「!!あ…ああミリムさん」

あれ以来(殴られた)ヨウムはミリムにすっかり及び腰になってしまった。それでも英雄かよ。

ミリム「しっかりがんばるのだ!」

ミリムがヨウムの背中を軽く叩いて激励する。

ヨウム「お、おう…」

リムル「良かったなヨウム君。魔王の激励なんてそう受けられるもんじゃないぞ」

ヨウム「え?魔王?」

リムル「そういえばちゃんと紹介してなかったな。こちらは魔王ミリム・ナーヴァ」

ミリム「なのだぞ!」

ヨウム「……………………

えーーーーーーっ!?!?!?」

 

こうして、割と締まらない感じでヨウム一行は旅立って行った。

:

:

:

〜お風呂〜

 

フューズ「しかし、驚きましたよ。同じ名だとは思っておりましたが。まさか魔王ミリム本人だったとは…」

リムル「まぁな。来た時は俺だって驚いたよ」エイト「しかもここに住むとか言い出したしな」

フューズ「はははっ気持ちはわかります。ここは実に居心地がいい」

リムル「気に入ってもらえて何よりだ」

エイト「で、フューズさんはいつまでここに居るんだよ」

フューズ「いや、色々とあるんですよ」

リムル「どう見ても休暇を満喫してるよな?」

エイト「ヨウム英雄化計画に協力するって話はどうなったんだよ」

フューズ「あ、それは問題ないですよ。既に手の者に伝えて仕込みは終わらせておりますから」

仕事は早いな。

フューズ「リムル殿とエイト殿を信用出来ると判断しましたので」

フューズは桶に乗せていた酒を自分で注ぐ。

まあ、信用してくれてるのは目に見えてわかるな。

 

〜風呂を上がって〜

 

フューズ「いやホントに…ブルムンド王国の近場にこのような保養場が出来たのは喜ばしいことです。往復路の危険さえなければ通い詰めるのですがね…」

仕事帰りのスーパー銭湯かよ。しかし、往復路の危険ねぇ……

エイト「ま、道作っちゃえばいいか」

リムル「そうだな」

フューズ「はい?」

エイト「いやブルムンドまでの道を整備しようかなって」

フューズ「いやいやそれは大規模な国家事業に」

リムル「そこだよフューズ君」

フューズ「君!?」

リムル「俺はこの町をもっと発展させたいと思ってる。そのためには色んな国の人間に来てもらいたいんだよ」

エイト「街道の舗装はこっちでやる。そのかわり俺たちが危険のない魔物だと広めて欲しい」

すると、フューズさんは手を床につけて

フューズ「…わかりました。そこまでして頂けるのでしたらこのフューズ。持てる人脈を駆使してこの町の喧伝に尽力致しましょう」

頭を下げた。

エイト「お、おう」

リムル「よろしくな」

ミリム「わははは!今帰ったのだ!」

そう言うなりミリムは俺とリムルに突進してきた。

エイト「ぐはっ」

リムル「ぶふっ」

エレン「ミリムちゃんはすごいんですよぅ。すぐに魔物を発見するので狩りが楽々でした」

ミリム「大量なのだぞ?」

リムル「わかったわかった。見に行くよ」

俺たちはランガとシオンとエレンを連れて捕らえた獲物を見に来た。

 

ギド「おーいこっちでやすよ」

シオン「はっミリム様!!」

シオンがリムルをミリムに渡す。

ミリム「うむ!」

シオン「何者です!?」

ギカ「「え!?」」

ギド「え?あの…え??ギド…」

カバル「カバル…」

涙目になりながら2人が自己紹介をする。が、

リムル「……いやその人は敵じゃない」

シオンに言っていたのはその2人の後ろの人物だった。

ギド「だ、誰でやすかこの人!?」

トライア「私はドライアドのトライア」

透けてる…力が弱まってるのか?

リムル「覚えてるよ。ガゼル王が来た時トレイニーさんと一緒にいたな」

トライア「お久しぶりでございます。盟主様」

リムル「ああ、それより説明してくれ」

エイト「その殺気…何かと戦っていたのか?」

すると、トライアさんは深刻な顔になり

トライア「…ご報告申し上げます。暴風大妖禍(カリュブディス)復活致しました。そして、彼の大妖はこの地を目指しております」

 



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10話

リグルド「なんと!あの『天空の支配者』が復活ですと!?」

ハクロウ「あれは遥か昔に封じられたはず。理由もなく封印が解けるなど考えられませぬが…」

トライア「事実でございます。我が姉トレイニーが足止めを行なっておりますがあまり長くは保ちません」

困ったな。非常に聞きづらい

「伝説では異界の魔物を従える能力があるとか」

「魔法が通じないという話を聞いたことがあります」

「これもヴェルドラ様消失の余波かもしれませんな…」

『カリュブディスって何?』って。

 

 

英知『暴風大妖禍(カリュブディス)。知性無く本能のままに殺戮を繰り返す災厄級魔物(カラミティモンスター)。死亡しても一定期間で復活を果たす性質を持ち勇者により封印されていました。なお、物質体を持たない精神生命体であるためその復活には屍などの依代を必要とします』

屍などって…。

英知のおかげで置いていかれずに済んだ。済んだんだが知性がないのにこの町を目指してるってのが少し気掛かりだな。

リムル「えーすでにその気配を感じ取ってる者もいると思うが、敵が急接近中だ。だから、倒すことにした。びびる必要はない。侍大将(ベニマル)が迎撃体制を整えている。非戦闘員はリグルの指示に従い森の中に避難するように。以上!慌てず騒がず行動開始!」

エイト「ベスター。ガゼル王へ連絡を頼む」

ベスター「は。お任せを」

リムル「悪いな。せっかく休暇を楽しんでたってのに。良ければフューズ君も彼らと一緒に避難してくれ」

フューズ「………なぜ…なぜ逃げないのですか?カリュブディスは災厄級魔物ですがその脅威は災禍級以上と考えられています。魔王(ディザスター)に認定されてない理由は『知恵ある行動を取らない』…その一点のみです。あなた達は…魔王を相手にしようというのですか?」

リムル「…俺たちが負けたらみんなには逃げるように言ってるけどな。だけど一回ぶつかって負けても諦めるつもりはない。まあ、万が一の場合はブルムンドでの住民の受け入れについて検討してみてくれよ」

するとわフューズさんは振り返り

フューズ「万が一って…!…いえ、そうか。あなた方2人はここの魔物達の主…でしたね」

リムル「そういうことだ」

エイト「それに、魔王に匹敵するって言うならなおさらここで退くわけにはいかない」

フューズ「それはどういう……はっ」

リムルが人型になる。

リムル「俺とエイトはシズさんとは同郷でね。彼女の意志を継いだんだ」

エイト「魔王レオンをぶん殴る為にはカリュブディスなんかにビビってるわけにはいかないんだよ」

リムル「この姿に賭けてな」

リムルがシュナから剣を受け取り言う。

フューズ「その姿…あいつらから話には聞いていたが…本当にあの人の…」

リムル「…一つ頼みがある」

フューズ「…聞きましょうか」

:

:

:

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

もう時期戦いが始まる。場所はドワーフ王国へ伸びる街道。整備してくれたゲルド達には申し訳ないが町が破壊されるよりは修復が楽だろうから…ここで迎え撃つ。

 

リムル「ヴェルドラの申し子?」

トライア「はい。カリュブディスはヴェルドラ様から漏れ出た魔素溜まりから発生した魔物です」

リムル「そうか…」

リムルの中にあるヴェルドラを目指してるのか?だったらこの町に来る理由も頷けるが……

トライア「ヴェルドラ様の因子を持つということでその危険性は伝わったかと思います。初めに申し上げておきます。カリュブディスに魔法は殆ど通用しないと思ってください。あの者の持つエクストラスキル[魔力妨害]で魔素の動きが乱されるのです」

リムル「…ってことは物理攻撃で削っていくしかないか」

トライア「はい…ですがどれだけ傷を負わせても直ぐに回復してしまうのです。あの凄まじさは間違いなく[超速再生]を保有しているものと…その上__」

リムル「まだあるのかよ!」

トライア「あの者は異界より召喚した魔物……空泳巨大鮫(メガロドン)を複数従えています。厄介なことにその従魔も[魔力妨害]を持っているのですが」

………チートかよ。

ベニマル「となるとヘルフレアも効き辛いか」

シュナ「おそらく魔法でなくとも魔素を媒体とする術は効かないかと」

ミリム「ふっふっふっ何か忘れているではないか?ワタシが誰だか覚えてないとは言わせぬのだ!」

リムル「ミリム!」

その手があったか!

ミリム「デカイだけの魚などこのワタシの敵ではない!」

お…おおお!!

シオン「そのような訳には参りません。ミリム様。私たちの町の問題ですので」

え?

シュナ「そうですよ。友達だからと、なんでも頼ろうとするのは間違いです。リムル様とエイト様がどうしても困った時その時は是非ともお力添えをお願い申し上げます」

シュナが笑顔でそんなことを言う。おい!俺たち今めちゃくちゃ困ってるんですけど!?

ミリム「そっか…」

えーーーー!!!!

ミリムがこっちを向く。

リムル「……………………そうだぞミリム。まぁ俺たちを信じろ」

すまんミリム。俺たちもめちゃくちゃ泣きそうだ。

エイト「!!」

ベニマル「…来たか」

リムル「…腹を括るしかないな」

俺たちの視線の先には巨大な一つ目のサメとそれよりは小さいホホジロザメみたいなのが13匹。

リムル「まあ、やるだけやってみるか」

 

そして、ベニマルがヘルフレアをメガロドンの1匹に喰らわせる。開戦の狼煙が上がったのだ。

 

 

 

 

ヘルフレアに捕らえた内メガロドンが1匹は死んだには死んだが焦げた程度。捕らえていたはずの本命は痛みすら感じてない様子。厄介だな魔力妨害は。本来の威力なら喰らった後は炭すら残さないというのに。

「グギョオオオオオオオオッ!!!!」

カリュブディスが叫ぶ。すると、メガロドンが一斉に攻めてきた。

:

ベニマル「先にメガロドンを殲滅する!各班引きつけて一体ずつ相手取れ!」

:

:

:

ランガ、シオン、ハクロウ、ゲルド&ガビル、ソウエイたちによってメガロドンは無事殲滅でき……なんだ…嫌な予感がする…

リエ「「!!」」

カリュブディスから大量の鱗が飛び出る。

あれは…躱せない!!

シオン「躱せぬならば突き進むまで。行きますよラン…「バカ言うな」リムル様!!」

リムル「まあ、潔くて嫌いじゃないけどな。こういう時くらい俺を頼ってくれよ」

シオン「ですが…っ」

シオンの影からソウエイが出てくる。

ソウエイ「リムル様!俺の後ろに…」

リムル「喰らい尽くせ

[暴食者](グラトニー)!!」

大量にあった鱗は一瞬にしてリムルの中へ入っていった。

さらに、リムルは本体の捕食も試みたが失敗した。流石ヴェルドラの申し子。え?俺は何してるかって?リムルが先やるから援護だけしろって。本当に何もできなくなったらあと頼むとか言われたんだよ。

ベニマル「全員持てる手段を尽くしてカリュブディスを攻撃しろ!効きが悪くてもいい!奴に回復の暇を与えるな!!」

 

トレイニーさんが合流し、ドワーフの天翔騎士団も応援に駆けつけてくれた。援軍も加えて戦力は十分以上。総攻撃で一気に撃墜。と思ったんだが…

 

ー10時間経過ー

 

状況はかなり悪い。奴も消耗してきてはいるが未だ斃れる気配はない。こちらは皆が疲労して回復薬も切れそうだ。

 

「お、の、れ…エイ………、エイトめ…!!」

リムル「(エイト?今エイトって言ったよな!?)」

大賢者『告。敵個体より生命反応を確認』

リムル「(生命反応?そんなの当たり前だろ)」

大賢者『否。カリュブディス自体に物質体(マテリアルボディー)はありません。生命反応があるとすれば__」

リムル「(依代になった方か…)」

ミリム「うむ、覚えがあるのだ、この感じ。確かフォビオとかいう魔人だ」

「エ、エイトめ!!」

 

 

リムル『出番だぞエイト』

エイト「どういうことだ?」

リムル『詳しいことは後で話す。お前コイツを倒せるか?』

エイト「策がないわけじゃないが…」

リムル『わかった。んじゃ後は頼む』

エイト「わかった」

リムル『あ、あと。カリュブディスの依代になったやつを助けたいんだが…できるか?』

エイト「……やるだけやってみるが失敗しても文句言うなよ」

リムル『!分かった』

 

ベニマル「速やかにこの場から離れろ!繰り返す!速やかにこの場から離れろ!」

 

 

エイト「はぁやるだけやる…か」

エイト「[完全結界]」

カリュブディスを結界で覆うとカリュブディスの周りを飛んでいた鱗が全て下に落ちた。すると、カリュブディスも結界内の底に落ちる。

飛ぶのに使ってたスキルが切れたのか。そして、これが成功したということは…超速再生と魔力妨害も切れたことになる。中身を助ける…ねぇ…最大出力で攻撃したら十中八九魔力妨害のないコイツは跡形もなく消える。依代も終わりだな。なら、

エイト「[雷炎]」

「ドアアアンッ!!」

俺の持つ攻撃手段で単体なら一番威力が高い。これくらいなら丁度良く…

俺は結界を解いた。中からは煙が広がっていきその中から1人の黒焦げの男が飛び出してきた。それをリムルがキャッチ。

リムル「流石エイト。見事だったよ」

:

:

:

リムル「さてと、どうだ?大賢者」

今どんな感じだ?

英知『解。個体名フォビオと個体名カリュブディスの融合率は9割以上。再びカリュブディスとして復活するまでの時間は1時間もありません』

え、短。すると、リムルが着ていたパーカーを脱ぎ捨てた。

ミリム「…何をするのだ?」

リムル「放っておいたら復活しちまうからな。フォビオからカリュブディスを完全に分離する」

あー変質者があればできるのか。

リムル「[変質者]と[暴食者](グラトニー)を並列起動。大賢者は能力の制御に回れ。手術は俺がやる」

:

:

リムル「ふぅ」

リムルが手をついてぐったりする。

ミリム「…どうなのだ?」

リムル「ああ…成功したよ」

:

フォビオ「スマン!…いや、スミマセンでした!今回の件は俺の一存でしたこと。魔王カリオン様は関係ないんだ。なんとか俺の命一つで許して欲しい…!」

リムル「ここでお前を殺したら何のために助けたかわからんだろ。それより質問に答えてくれ。トレイニーさん」

トレイニー「はい。貴方はなぜカリュブディスの封印場所を知っていたのですか?あれは勇者から託された我らドライアドしか知らなぬ場所。偶然見つけたとは言わせません」

フォビオ「…教えられた。仮面を被った二人組の道化に…」

トレイニー「仮面の道化?それはもしや…こんな仮面でしたか?」

トレイニーさんは石で地面に以前トレイニーさんが会ったゲルミュッドと共に話していた道化の仮面を描いた。

フォビオ「…いや、俺の目の前に現れたのは涙目の仮面の少女と"怒った仮面の太った男"だ」

ベニマル「怒りの仮面の太った男だと?」

その男は以前ベニマル達の里を襲撃した際にいた仮面の魔人と同じ特徴だった。

ゲルド「怒り面の太った男…確かゲルミュッドの使者を名乗る上位魔人がそんな仮面をつけていました。名はフットマン。中庸なんとかという組織の者だとか…」

フォビオ「中庸道化連だ。奴らはなんでも屋だと言っていた」

ゲルド「ああ、それだ」

ガビル「んん…?そのトレイニー様の図柄に見覚えがありますぞ。ゲルミュッドからの使者でラプラスと名乗った道化が…」

トレイニー「ラプラス?」

すると、ガビルがさっきトレイニーさんが描いた絵に付け足して頭巾のようなものを描いた。

ガビル「こんな感じの仮面に…こんな頭巾を被っておりましたな」

トレイニー「…そうですか。ラプラスというのですね。あの魔人」

ベニマル「フットマンね。その名覚えておくとしよう」

ミリム「んー…」

エイト「ミリム?」

ミリム「豚頭帝計画を仕切っていたのはゲルミュッドだが中庸道化連などという連中知らんのだ。そんな面白そうな奴等がいるのなら会ってみたかったのだ。全くゲルミュッドの奴め……あ、もしからゲルミュッドじゃなくて…」

エイト「え?」

ミリムは寝っ転がった状態から一気に起き上がる。

ミリム「クレイマンのやつが何か企んでいたのかもしれぬ」

リムル「クレイマン?誰だそれ」

ミリム「魔王の1人だぞ。奴はそういう企みが大好きなのだ。抜け駆けするとしたら奴しかおるまい」

まあ、それは確証がないから保留にして

リムル「今後は、謎のなんでも屋に注意するとして…とりあえず今日はお開きだ。みんなゆっくり体を休めてくれ」

エイト「じゃあ、フォビオ。お前も気をつけて帰れよ」

フォビオ「…はっ!?いや俺は許されないだろう!!」

リムル「まぁ、無罪ではないけどな。真犯人に利用されてたみたいだし幸い人的被害はない」

フォビオ「だが…っ」

エイト「ミリムもそれでいいか?」

ミリム「うむ!一発殴ろう思っていたが許してやるのだ!」

殴ろうと思ってたのか…

ミリム「カリオンもそれでいいだろう?」

え!?

カリオン「やはり気付いていたか、ミリム。よう、そいつを殺さずに助けてくれたこと、礼を言うぜ」

フォビオ「カリオン様…!」

リムル「あんたが魔王カリオンか。わざわざ出向いてくれるとはな。俺はリムル=テンペスト。で、こっちがエイト=テンペスト。俺たち2人はこの森の魔物達で作った魔国連邦(テンペスト)の盟主だ」

カリオン「フッ、たかが2匹のスライムが国を興すとは…お前、豚頭帝を喰ったな?」

リムル「…ああその通りだ。で?それが何か悪いのか?」

リムルは人型になって言う。

カリオン「ふはははは面白いな!ミリムが気に入るわけだ!悪かったな。俺の部下が暴走しちまったようだ。俺の監督不行届ってことで一つ許してやって欲しい。今回の件、借り一つにしておく。何かあれば俺様を頼ってくれていい」

意外だな…。

エイト「…それなら、俺達との不可侵条約を結んでくれると嬉しいんだが……」

カリオン「そんなことでいいのか?良かろう。

獅子王(ビーストマスター)カリオンの名にかけて誓ってやる。獣王国ユーラザニアは魔国連邦(テンペスト)に牙を剥かん。とな」

さすが魔王。器がデカ

「ドガアアンッ!」

!!

カリオンがフォビオを殴った音だ。

カリオン「ったくしょうがねぇ…」

体育会系かよ…。

カリオン「おら帰えんぞ」

いっぱい血出てますけど…。

カリオン「後日使者を送る。なに、今度は礼を守らせるさ。また会おうエイト、リムル」

そして、魔王カリオンは帰っていった。

 

こうして、ようやく一連の出来事がひと段落したのだ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

エイト「最後に…『減速』と『脱力』の効果を刻んだ魔鉱をしのばせて…よし完成だ」

ミリム「できたのか!?」

リムル「ああ、出来たよ。約束してたミリム専用の武器…ドラゴンナックルだ」

ミリム「おお〜〜〜っ」

カリュブディスの一件から数日。テンペストはすっかり落ち着きを取り戻した。戦いを見届けたフューズらはブルムンド王国へ帰還。友好関係を結べるよう国王を始め貴族らを説得…

フューズ『なに、奴らの弱みを握っているのでね。どうとでもしてみせますよ』

脅迫?………いや説得だな。うん。説得してくれるらしい。

 

ドワーフ王国には後日改めて今回の件を報告することになっていた。ガゼル王から正式な招待状をもらい2人してビビったのは内緒だ。

 

ユーラザニアからはカリオンの言葉を携えフォビオがやってきた。使者に志願したらしい。初めて来た時とは打って変わって慇懃な物腰だった。"互いの国から使節団を派遣して国交が有益か見極めようではないか"と記されていた。

いよいよ「国」らしくなってきてこれからは政治的駆け引きなども出てくるのだろう。

とはいえ、日々の訓練は欠かさない。

 

 

ミリムのパンチを俺は躱す。

エイト「[地鳴り]」

ミリムの足元が大きく揺れる。

ミリム「お〜」

エイト「[三位一体]!」

[青炎][地鳴り][氷結]の三つで攻撃をする。が、ミリムからは少し外れる。

ミリム「わはははっどこを狙っておる!」

と、言ってる間に俺はミリムの後ろに入り短刀を振る。

エイト「(隙あり…あ)」

ミリムはその頃後ろを振り返っていて俺に盛大なパンチをかます。

 

俺は吹き飛んでその辺に転がる。

ミリム「なかなか良くなって来たぞ!エイトが魔王になると言い出してもワタシは反対しないのだ」

エイト「ならねーよ。んじゃ少し休憩な」

ミリム「なに!まだまだ「シュナが弁当作ってくれたんだよ」休憩なのだ!」

チョロ。

:

エイト「そういえばミリムってなんで魔王になったんだ?」

ミリム「ん?そうだな。なんでだろ?何か嫌なことがあって…ムシャクシャして?」

エイト「いや俺に聞くなよ」

ミリム「よく思い出せん忘れたのだ!」

エイト「そうか」

聞けばミリムは最古参の魔王の一柱らしく俺の想像の及ばぬ程長い年月を生きてきたのだろう。

エイト「お前家族とかいないのか?ずっとここにいるけど心配してる人とか…」

ミリム「ワタシの世話をする者達はいるぞ。でも、あの者共は心配などしておらぬのだ。ワタシはサイキョーなので。心配すら畏れ多いと思われているのだぞ。だから、ワタシの友はお前とリムルの2人なのだ!」

きゅんっ…。

エイト「……そうだな。これからも宜しくなミリム」

ミリム「勿論なのだ!」

 

ー数日後ー

 

 

ミリム「ごちそうさまでした。よし!ワタシは今から仕事に行ってくる!」

リムル「え、仕事って…」

ミリム「心配するな。終わったら帰ってくるのだ」

エイト「突然だな。今からか?」

ミリム「うむ!他の魔王達にもこの地に手出しせぬよう言い聞かせておくのだ!」

エイト「お、おう…」

リムル「ということは他の魔王に会いに行くのか?」

ミリム「うむ!仕事だからな」

ミリムは両手を少しだけ上げると服が最初来た時のマントのやつになる。

ミリム「じゃあ行ってくる!」

そして、ミリムは飛び去っていった。

リムル「騙されないように注意しろよ〜」

ホントそれな。古参とは思えないほど詐欺に逢いそうな性格だもんな。

 

ミリムの監督係もこれで終わりか。町はリグルド達でもある程度は回せていけるし

リムル「そろそろ出発時期を考えるか」

エイト「そうだな」

そろそろ捜し出してやらないといけないな。シズさんの心残りを。

 



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11話

リムル「お…おお…っ」

リムルが浮いた。

エイト「[重力操作]か?」

俺も持ってる便利スキルだ。

リムル「ああ。カリュブディスの核を喰ってそのスキルの解析が終わったんだよ」

エイト「俺も持ってるぞ」

俺も浮いてみせる。

リムル「エイトの方が安定してるな。慣れてるからか?」

エイト「あーそうかもな。羽あった方が安定するか?」

リムル「今はまあ羽があった方がな」

エイト「流石に俺もミリム並みのスピードでは飛べないけどな」

リムル「お互いまだまだだな」

俺たちは床に着地する。

エイト「シュナ」

外にはシュナがいてくすくすと笑っていた。

リムル「もう時間か?」

シュナ「はい。兄もリグル殿もすでに準備は完了しています。威厳のある姿を見せてくださいませ」

 

魔王カリオンからの提案を受け魔国連邦(テンペスト)と獣王国ユーラザニアは互いに使節団を派遣することになった。使節団団長に任命したのは幹部候補のボブゴブリンが数名とその取り纏め役としてリグル。そして、団長にはベニマルを指名した。

 

暮らしぶりはゴブリン村だった頃に比べてとてつもなく贅沢になったがテンペストは、まだ国として経験不足だ。ユーラザニアと良好な関係を築くことが出来れば、正式に国交を結べる日も遠くないだろう。使節団には頑張って交流を確かなものにしてもらわないとな。

 

俺たちは校長先生が話す場所(みたいな所)に上がった。

エイト「諸君。是非とも頑張ってきてくれたまえ!」

辺りは静まり返る。

シュナ「…それだけですか?」

駄目か。

エイト「リムル」

リムル「…わかった。えー…じゃあもう少しだけ。いいか、お前ら。今回は相手と今後も付き合っていけるのかを見極めるという目的もある。我慢しながらじゃないと付き合えそうもないのならそんな関係はいらん。お前達の後ろには俺たちや仲間達がいる。恐れず自分達の意思はキッチリ伝えろ。友誼を結べる相手か否かその目で確かめてほしい。頼んだぞ!」

しっかりしてるなー。

エイト「任せたぞベニマル」

俺は段を降りて言う。

ベニマル「は。カリオンが信用に足る人物かこの目で見極めてきます」

リムル「リグル達も頑張ってくれ。良い点はどんどん取り入れたいからな」

リグル「見聞を広めて参ります!」

ベニマル「では行くぞ」

リグルと数名「「「「「「はい!」」」」」」

 

エイト「迎賓館の料理人はどうだ?」

シュナ「はい。十全に」

次はこちらの受け入れ準備だ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「もう帰るよ。暗くなっちゃう」

「はぁい」

森で親子は木の実を摘んでいた。すると、

「ガサッ」

キノコ型の魔物があらわれた。

「きゃああああ」

ヨウム「動くな!!」

「ザバッ」

ヨウムによりキノコ型の魔物は倒された。

ロンメル「怪我はありませんか?」

「え?あ、はい」

「…あの、ありがとう。剣、かっこいい」

ヨウム「だろ?この先のテンペストっつう魔物の国で造ってもらったんだ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

テンペストでは迎え入れる準備が着々と進んでいた。ベスターが礼儀を。シュナが料理、シオンが町の清掃を行っていた。

 

ヨウム「なんか忙しそうな時に来ちまったかな」

リムル「いやいいよ。せっかくだし接客の練習相手になってやってくれ」

ヨウム「接客?誰か来んの?」

酒を飲みながらヨウムが言う。

エイト「ああ、もうじき魔王カリオンとこから使節団が来るんだよ」

ヨウム「…………ぶーーーっ」

ヨウムの吹いた酒をリムルは避けたが俺に直撃した。

エイト「おい、わざとだろ」

ヨウム「魔王カリオン!?なんだってそんなことに…!?」

無視かよ。

リムル「まぁ話せば長いんだが…」

:

:

リムルが事情を説明した。

リムル「というわけで国交樹立のチャンスってワケなんんだよ」

ヨウム「は、ははぁ…なるほど…。それにしても、魔王かぁ。その配下ならさぞかしおっかないのが来るんだろうなぁ…」

エイト「どうだろうな。別にケンカが目的なわけじゃないし」

ヨウム「でも、不測の事態に備えてあちらにはベニマルさんを行かせたんだろ?向こうだって同じように考えるんだじゃねぇのかなぁ」

リムル「だとしても関係ないな。下手に手を出してチャンスを不意にしたくないし」

ヨウム「たしかに…」

エイト「だから、お前も使者相手に喧嘩売るなよ?」

ヨウム「俺も手下どももそこまで馬鹿じゃねーですって」

エイト「あ、そういえばハクロウが会いたがってたぞ。腕が鈍ってないか確かめたいって」

ヨウム「師匠が!?一気に酔いが醒めた…」

 

 

ー数日後ー

 

 

リムル「…来たか」

使節団と思われる虎の引く馬車ならぬ虎車が俺たちの前に止まった。そして、扉が開く。

「お初にお目にかかります。ジュラの大森林の盟主様。私はカリオン様の三獣士が一人。

"黄蛇角のアルビス"といいます」

リムル「初めまして。俺が「はッ」…」

虎車の中から声がする。

「弱小なるスライムが盟主だと?馬鹿にしてんのか!?」

そいつはドアを蹴って開けて出てきた。

「その上矮小で小賢しく卑怯な人間共とつるむなど、魔物の風上にも置けねぇ」

アルビス「控えなさいスフィア。カリオン様の顔に泥を塗るつもりですか?」

スフィア「うるさいぞアルビス。俺に命令するな」

……フォビオの一件で礼は守らせるとかなんとか言ってたし…カリオンがその辺のことを伝えないやつとは少ししか会ってないが少なくとも第一印象としては思えない。ならなんで…こいつらがカリオンの言いつけを聞かないやつとも思えない。なら……

リムル「…ずいぶんな物言いだな。このヨウムは俺の友人で同じ師についた弟弟子でもあるんだが」

ヨウム「お、おいリムルの旦那」

スフィア「それがどうした?」

リムル「なぁ、ヨウム。ちょっと実力を見せてやったらどうだ?」

ヨウム「はぁ!?おいおい平和的にいくんじゃなかったのかよ!?」

リムル「向こうが仕掛けてくるなら話は別だ」

スフィア「ほぅ?やるか人間」

「頭、やっちゃってくださいよ!」

「お願いしますヨウムさん!」

ヨウムの手下達が応援する。

ヨウム「………しょうがねぇなぁ。ちゃんと骨は拾ってくれよリムルの旦那。エイトの旦那」

エイト「あ、ああ。任せ…た?」

リムルが俺を持っていたシュナのところにシオンによって預けられた」

リムル「??」

嫌な予感が…。

シオン「黙って聞いていればリムル様に対する暴言の数々。我慢に我慢を重ねていましたがどうやら必要はなかったようです」

ヨウム「シオンさんちょっと…」

シオン「貴方の相手は私です」

シオンは大太刀を置いて言う。

スフィア「面白い。スライムの配下がどの程度のものかこのオレが確かめてくれる!」

スフィアは飛び上がりシオンに飛びかかった。

シオンとスフィアは手をお互い掴み合う。

そして、激しい戦いが始まった。

 

アルビス「___まったく、しょうがありませんね、スフィアは。代わりに貴方があの人間の相手をしなさい。グルーシス」

グルーシス「え?俺ですか…人間の相手ね…まぁいいか。遊んでやるよ人間」

グルーシスと呼ばれた獣人の男は小刀を二つ出す。

ヨウム「おう。よろしく…な!」

ヨウムは大剣をグルーシスに振り下ろす。

グルーシス「っとぉ」

それをグルーシスは避け、

グルーシス「おらよ」

小刀二つをヨウムに向かって投げる。

ヨウム「……うおおおお!!」

ヨウムはそれを避けると直進しグルーシスに大剣を振り下ろす。

グルーシスはそれを避け投げた小刀を空中でキャッチ。

ヨウム「!!」

振り下ろされる小刀をヨウムが大剣で受ける。

ヨグ「「(!?なんだこの急激な魔素の高まりは…!!)」」

 

シオン「鬼人の真の力見せてあげましょう…」

シオンの両手の先には魔力弾ができ、膨れ上がっていっている。

リムル「おい、シオン!この辺り一帯をふっとばす気か!?」

シオン「うふふ」

シオンは邪悪な笑みを浮かべたままでリムルの声など聞こえていない様子。

スフィア「…いいぞ見せてみろ。本能を解き放て!!そしてオレをもっと楽「お前らそんくらいにしとけ」」

俺は2人の間に入る。

アルビス「そうですね。このあたりに致しましょう」

スフィア「…ちっいいトコだったのに」

ヨウム「ええぇ、お、おい?」

リムル「剣を下ろせヨウム」

ヨウム「旦那…」

エイト「それで俺たちは合格なのか?」

恐らく俺たちを試してたんだろうな。

アルビス「ええ。堪能させていただきましたわ」

ヨウム「合格!?てことはまさかこの仕合は…」

エイト「ああ。どうやら俺たちは試されていたらしいな」

すると、スフィアは右手を空に掲げ

スフィア「見たか、お前ら!彼らは強く度胸もある!我らが友誼を結ぶに相応しい相手だ!

彼らとその友人を軽んじることはカリオン様に対する不敬だと思え!わかったな!!」

「「「「「「ははッ!!」」」」」」

 

グルーシス「スフィア様の言われる通りだ。獣人とこれだけやり合える人間は滅多にいない」

ヨウム「…嬉しいね」

リムル「お前よく気がついたな」

エイト「フォビオの一件は魔王カリオンが伝えてるはずだし彼らが魔王カリオンの言いつけを守らないとは思えないからな」

リムル「なるほどな。あ、シオンもそれでいいんだよな?」

シオン「……は、はい…ですが、あの…コレどうしましょう?」

リエ「「これ?」」

シオン「こ、魔力弾(これ)」

あ、爆発寸前だ。

スフィア「お、落ち着けっそっとだ、そっとそれを上に向けるんだ」

リムル「消せないのか?」

シオン「無理ですっといいますかもう気力が限界で…」

スフィア「なにぃーーー!?」

エイト「はぁ…まったくしょうがねえな」

俺は人型になりシオンの目の前に立つ。

アルビス「!」

[完全結界]

俺は結界で魔力弾を覆う。

シオン「!!」

シオンも魔力弾の操作が自分から外れたことに気づいたのか驚いている。

俺はそれを自分の方に引き寄せ、魔素に還元する。

エイト「ほいお終い」

リムル「流石エイト」

アルビス「…流石はカリオン様の認めしお方。貴方と貴方の国と縁ができたことに感謝を」

この出来事は俺の印象にそれなりに影響を与えたらしい。

エイト「こちらこそ」

リムル「ようこそ魔国連邦(テンペスト)へ」

 



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12話

ー夜ー

 

その夜。新築した迎賓館で歓迎の宴を催したのだが…

アルビス「ああ幸せ…♡」

えらく酒のウケがいい。

:

:

少し立つと樽ごと酒を飲み始めた。

リムル「おい、誰だ樽ごと渡したのは…」

エイト「スフィアさん同僚を止めた方がいいんじゃ………えぇーー!?」

虎がいた。しかもそれがスフィアさんだ。

エイト「この姿って他人に見せていいものなのか?」

「特段見せてはいけないものではないのですが…些かお恥ずかしいですな。油断しすぎで」

虎(スフィアさん)が飲んでるもの酒だった。なんでわざわざ大盃で飲むんだよ。

でもまあ、それだけ信用してくれてるのか…?

リムル「ああ…気づけばリンゴのブランデーがどんどん空に…」

アルビス「あまり量は造れませんの?」

エイト「あ、すまんすまん。客人に振る舞うのがメインだから気にしなくていいぞ。果物は試験的にしか作ってなくて森からの恵みに頼ってるんだ」

リムル「酒は嗜好品だしまだ皆には行き渡ってないんだよ」

アルビス「…では良い考えがございます。我がユーラザニアの果物をこちらに回すよう手配致しましょう」

リムル「えっ!?いいのか?」

アス「「」」

2人が目を丸くしてこちらを見つめてくる。あー『それで酒を造ってこっちにも寄越せ』とな。

エイト「割合は?」

スフィア「細かいことは任せる!オレは美味い酒が飲めればそれでいい」

雑務はこっちに丸投げか。物々交換となると妥当なラインが難しい……

リエ「「(うん。専門家任せよう)」

リムル「ゴブタ。商人詰め所にいる代表を呼んできてくれ」

ゴブタ「はいっす」

:

:

:

コビー「リ、リムル様エイト様コレは一体…」

彼は犬頭族(コボルト)の商人の代表でコビーと呼ばれてる。俺たちがつけたわけじゃないけど。

エイト「んじゃ、あと頼むわ」

リムル「よろしくな」

コビー「ええ!?ええっ!?」

案外取引なんて酒の席でまとまるものなのかもしれないな。

他国との交流。その始まりとしてはなかなか上々だ。

 

 

ー数日後ー

 

 

アルビスとスフィアはユーラザニアに帰っていったが彼女らの配下達はテンペストの首都リムルでの滞在を続けている。なんでも、ここの技術を色々学んでこいと言われているらしい。

 

ーさらに数日後ー

 

 

こっちから送った使節団も帰ってきた。

ベニマル「獣人達の強さは流石の一言です。一兵卒に至るまで徹底的に鍛え上げられていました。やはり、魔王カリオンと獣王戦士団の影響力が大きいようです」

リグル「そのためか王宮には贅が凝らされ、一般市民の住居は質素なものでした。ですが、悪い意味ではなく住民がそれを望んでいるようです。それからお土産をもらったのですが…是非リムル様とエイト様に召し上がって頂きたいとのことです」

俺たちの目の前には果物が盛り付けられた皿がいくつか並べられた。

エイト「おお果物か」

リムル「どれどれ」

リムルと俺はりんごと思われる果物を口に入れる。

リムル「甘い!」

リグル「でしょう?」

エイト「凄い品質だな。天然のものか?」

リグル「何代にも渡って改良を重ねたそうです」

リムル「へ〜」

エイト「リリナ」

リリナ「はい。生産管理部門から次回の使節団に加わる者を選出します。ぜひ、その技術を我が国にも取り入れましょう!」

エイト「よろしくな」

リムル「よっと」

リムルが椅子から降りる。

リムル「じゃあ、俺たちはドワーフ王国へ行く準備が行く準備があるから後の取り決めは頼んだぞリグルド」

リグルド「お任せください」

 

ベニマル「リムル様エイト様。お許し頂けるならば、次回からはリグル殿を使節団の団長に指名してやってくださいませんか?」

エイト「何か問題があったのか?」

ベニマル「いえ。魔王カリオンは信用できる人物だと判断しました。彼の御仁が我らを闇討ちするような心配は無用です。ならば俺はリムル様とエイト様が留守の間国の守りとしてここに残る方が有用でしょう」

リムル「…わかった。そうしよう」

エイト「お前にそれだけ言わせるならカリオンは力に頼った王ではないんだろ?」

ベニマル「ええ。実はケンカを売ってみたのですが笑っていなされましたし」

リエ「「え!?」」

エイト「お、お前…」

ベニマル「コテンパンにされましたね。俺もまだまだです。ミリム様に鍛えられて少しは強くなったつもりだったんですがねぇ」

こいつ……

ベニマル「あ、ですがフォビオには勝ちましたよ」

リムル「そう…」

…駄目だな。こいつは外に出してはいけないやつだ。

 

ー翌日ー

 

「いってらっしゃいませ!」

「お気をつけて!!」

リムル「留守は頼んだぞー」

俺たちはドワーフ王国への出発だ。

エイト「出してくれランガ」

ランガ「はッ」

リムル「いざ、武装国家ドワルゴンへ」

エイト「って!!速い速い速すぎだよランガ!!」

 

 

今回の旅に同行してもらうのはシュナ、シオン。狼車を引くランガに、カイジンとドワーフ三兄弟。護衛としてゴブタ率いるゴブリンライダー。

後ろの荷台にはガゼル王へのお土産を積んでいる。無限収納にしまった方が楽だって言ったら

シュナ『こういうのは形も大切なんです』

だそうです。さすが元大鬼族の姫。最近はベスターから色々と学んでおり儀礼においてのマナー面でも頼りになるようになっな。

ちなみにシオンはベニマル以上に外に出してはいけないやつだと思ったんだが…

 

シオン『えっシュナ様がリムル様とエイト様と旅行!?ズルイです!ズルイのです!!シュナ様だけリムル様とエイト様と遊びに行くだなんて…っ』

エイト『いやだから仕事』

とまあ泣くわ喚くは大変で置いていったらリグルドが過労死しちゃうので連れて行くことにした。まぁ、シオンも黙ってれば美人秘書だし俺たちが見張っていれば大丈夫だろ。

シオン「リムル様エイト様見てください」

リムル「ん?」

シオン「ゲルド達は仕事が早いですね。暴風大妖禍(カリュブディス)戦でボロボロになった道がもうほとんど片付いています」

エイト「ホントだ」

リムル「ランガ。路面工事の作業員がいたら止めてくれ」

ランガ「はッ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ゲルド様。石畳の石材の追加をお願いします」

ゲルド「わかった採石場の者に手配しよう。……うむ…大分整ってきたな」

リムル「おーいゲルドー」

ゲルド「リムル様!今日がドワーフ王国への出発の日でしたか」

リムル「ああ。道が整ってるから揺れも少なくて快適だよ」

エイト「これ良かったら皆で飲んでくれ」

ゲルド「エイト様。これは…」

エイト「麦芽酒(ビール)だ」

リムル「あまり飲み過ぎるなよ」

「「「「「「「うおおおおおお」」」」」」」

オークってビール似合うよな。

 

 

ー4日後ー

 

着いたな。

「開門ーーー!」

ドルフ「ようこそお出で下さいました。我が王ガゼル・ドワルゴが王宮にてお待ちです」

シュナ「こちら、ジュラ・テンペスト連邦国国主リムル=テンペスト陛下にエイト=テンペスト陛下にあられます。どうぞガゼル王へのお取り次を…」

シュナが俺たちを改めて紹介する。

ドルフ「ではこちらへ」

 

王宮へ着いてからも誰かと話す時は代わりにシュナが話してくれた。シュナってすごいな!俺とリムルはただニコニコしてただけだ(多分シオンも)。正直頭が真っ白で何話してたか覚えてない。

英知『[絶対記憶]にて記憶しています。再生しますか?』

あ、いや…大丈夫です。

 

 

ガゼル「ふははは外交などハッタリが全てだぞ。あれでは甘く見られても文句は言えぬな」

ぐうの音も出ない。

ガゼル「さて、今は大臣らもいない。迂遠な言い回しや腹の探り合いは無しだ。本題に入ろう。貴様らの国で高出力の魔法兵器を所有しているというのは事実か?」

は?

リムル「(あーエイトは離れた場所から攻撃したからなぁ。だからエイトが倒したとは思われてないんだろう)」

エイト「あーそれやったの俺」

俺は自分を指差して言う。

ガゼル「なにぃ?エイトは離れた場所から観戦してただけで何もしてないと聞いているぞ」

リムル「いや、エイトのスキルなら離れていても攻撃できるんだ。カリュブディスを葬ったのはこいつの一撃だよ。ドルフさんは魔法兵器を疑ってたみたいだけどさ」

エイト「まあ俺が倒したかはともかく魔法兵器を所持してたわけじゃないからな」

リムル「あ、それとウチに魔王ミリムが滞在することになったんだよ」

ドガ「「………」」

リムル「ある日突然『挨拶に来た』とか言ってさ。そのまま流れで友達なったんだよ」

エイト「まあ、信じられないってのもわかるが…俺なら絶対信じない」

ガゼル「ふっくっくっくっ…ホラにしては荒唐無稽すぎるな!よかろう。信じるぞリムル、エイトよ」

リムル「どーも」

ガゼル「ふむ…それにしても土産にもらったこの酒は美味いな」

エイト「お、流石ガゼル王。お目が高い」

リムルがシュナに手を挙げる。

リムル「りんごで作った蒸留酒なんだ。果実類を輸入できる目処が立ったんでね」

シュナが後ろの2人に蒸留酒を注ぐ。

ガゼル「ほう?」

シュナ「お二人もぜひ…」

「ああ、これはどうも…」

ガゼル「このドワルゴン以外にも貴様達と国交を結ぼうという者が現れたのか」

エイト「ああ。獣王国「「「ユーラザニアか!?」」」あ、うん」

3人とも顔が近いよ。

リムル「知ってたのか」

ガゼル「当然だ。誇り高き獣王の治める国を知らぬはずがあるまい。貴様ら獣王にも懐かれたのか…?たらしか?」

たらしって…。

リムル「いやいやいや魔王カリオンの部下を助けただけだよ。んで、交易を申し出てみたら了承してくれたってわけ」

「だとしたらテンペストの重要性は一気に跳ね上がる。いずれはファルムス王国に代わる貿易の中心地になるやもしれん」

ガゼル「うむ。確かにな。少なくともこれは我が国がファルムスから輸入するどの酒よりも美味い」

ファルムス王国…たしかヨウムの出身地だったな。でもあいつあんまり故郷のこと良く言わないよな。

リムル「ファルムス王国ってどんな国なんだ?」

ガゼル「まぁ、西方諸国でも1、2を争う大国だがな。ここだけの話だが俺はあの国王は好かん」

エイト「そうなのか」

ガゼル「だから是が非でも獣王国ユーラザニアとの貿易を成功させろ。そして兄弟子にも酒を融通させるのだ」

リムル「兄弟子は関係ねーだろ」

すると、シオンがリムルの後ろの背もたれに手を置き

シオン「大丈夫です!リムル様ならきっと、ユーラザニアとの貿易をばばーっとステキにまとめてくださいます!!」

おい。

シオン「我らの食卓にも当たり前のように美味しい料理が並ぶやうになりました」

シュナ「シオン!?あなたまさか飲んで…っ」

シオン「そこに酒が加わるのも、きっともうすぐです!!」

シュナ「もうっシオンったら…」

シオンが持っているコップの中の酒を一気飲みする。

シュナ「あっ……!?」

そしてシオンがふらっと倒れた。

リムル「…セーフ」

リムルがシオンの背中に入り受け止めた。

ドガ「「「………ぶわわははははは」」」

リムル「悪いなウチの秘書が」

ガゼル「よいよい。早く部屋に連れて行ってやれ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

シュナ「…もう恥ずかしい…」

エリ「「本当な(にな)」」

けどまあ、これだけ信じられると…応えてやらねえとな。

リムル「よし、シュナ。明日の演説の原稿もう一回読み直そう」

シュナ「はい!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

一夜明けて今日は二国間の有効宣言の式典だ。すでに書面上では友好国なわけだが国民に向けて俺たち仲良しアピールをするわけだ。つまり俺たちは今、テンペストのイメージを背負ってここにいる。

エイト「えー初めまして。ドワルゴの皆さん。ジュラ・テンペスト連邦国。略して魔国連邦(テンペスト)の盟主。エイト=テンペストです」

リムル「同じくリムル=テンペストです。この通り私たち2人はスライムなのですが、人と魔物の橋渡しとなるような国家を築きたいと願っております」

エイト「ここドワルゴはまさに共存共栄を為された国であり私たちの目標です。こうして、友誼を得ることが出来、ガゼル王には感謝の念に堪えません」

リムル「我が国には魔物が多数所属しています。ですがその心根は皆様となんら変わるところはないのです。できれば恐れるのではなく新しい友として受け入れて欲しい。この言葉が本心であるのことをここに誓い私の挨拶に代えさせていただきます」

そして、盛大な拍手がおこる。ガチガチに緊張したがうんまぁ…中々のスピーチだったんじゃない?

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ガゼル「短すぎる、謙りすぎる、情に訴えかけすぎる。はっきり言って零点だ」

なん………だと……!?

ガゼル「国を治める者が国民に遜るものではない。ましてや他国の住民に下手に出れば舐められるだけだぞ。こうなったらいいなどと甘えた統治は厳禁だ。素晴らしいものとは自然にやってくるのではなく自ら掴み取りに行くものなのだからな」

厳しい。が、心からの忠言であることは間違いない。

エイト「…肝に銘じとく」

リムル「今後の課題にするよ」

ガゼル「せいぜい励め。危うくて見ておれんわ」

ほんと……俺たちは縁に恵まれてるな。

 

 

ー夜ー

 

シュナ「リムル様はどちらに行かれたのですか?」

エイト「あー…、えっと……」

どうしてこうなった!?

 

 

ー数時間前ー

 

リムル「エイトも来るか?」

エイト「あーじゃあ

 

「そういうの小町的にポイント低いよ!」

 

………まあ、そう言われちゃな。

エイト「やっぱやめとくわ」

 

 

 

という出来事があり俺はリムルについていかなかった。

 

 

 

なんで、いきなり小町の言葉が出てきたんだか…まぁ、あいつなら言いそうだけど。ただ、俺が行かないからって教えるのはリムルに悪いし……

シュナ「エイト様なら知っていますよね?」

エイト「あ、え、いや、知らないです…」

シュナ「嘘ですよね?教えなくてもいいですけどその場合…」

エイト「その場合…」

シュナ「シオンの料理1週間です」

エイト「リムルは夜の蝶っていうエルフのいる店に行きました」

あ、結界でどうにかできるの忘れてた。いや、でもそれだと1週間味無しの料理を食べ続けることになる……リムル1人のためにそんなことする必要はないな。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リムル「ほら、ゴブタ。お前もちゃんとしろ!」

ゴブタ「ちょっと…貧血でむりっす…」

リムル「ったく…」

シュナ「お手伝いしましょうか?」

リムル「ああ、すみませ……んーー!?」

帰り途中のリムル達を発見したからシュナが声をかけた。

リムル「しゅ、しゅ、しゅ、シュナ!?なぜここに…」

シュナ「なぜって、エイト様が全て話してくれましたので」

リムル「エイト……裏切ったな…!!」

シオン「酷いですリムル様…」

リムル「し…シオン!!」

シオン「置いていくなんてあんまりです!」

リムル「いやだって女の子が行って楽しい場合なのかわからないし…」

シオン「でも黙っていくなんてひどいです!」

すると、シュナがカイジンたちの方をギロリと見て

シュナ「あなた達がリムル様を夜遊びに誘ったのですか?」

カイジン「え!?さ、誘ったというか提案したっていうか…」

 

そして、全員が正座させられた。

その後リムルは1週間シオンの朝ご飯で許されることになった。

 

 

〜その頃俺は〜

 

まただ…眠る必要のない体になってしばらく経ったが…最近意識を手放すと彼女の夢を見る。実の妹の夢……"あいつら"の夢が出ないってことは…もう未練はないだろうな……だけど…何であいつが……

「反対側だよお兄ちゃん」

 

そこで俺は意識を戻した。

エイト「反対側…?ま、夢か」

 



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13話

ー翌日ー

 

リムル「______という訳で、人間の国に行こうと思う。ドワルゴンとは違い魔物を受け入れてくれるとは限らないからな。今回は人間に化けてコッソリ潜入するつもりだ」

リグルド「…お話はわかりました。ですがリムル様とエイト様がお2人で旅立たれるというのは」

ハクロウ「左様じゃな。万が一のことがあればジュラの大同盟も根底から崩壊するやも知れぬ」

エイト「コッソリとは言っても2人旅じゃないぞ。リムルの影に潜んだランガを連れて行くし。それに…」

ソウエイ「俺の分身体を一体リムル様とエイト様の連絡役に回しておく。何かあれば皆にもすぐ知らせらよう」

リムル「ということだから安心してほしい。案内役も頼むつもりだしな」

リグルド「案内役?」

リムル「ああ。今ゴブタに呼びに行ってもらってる」

:

:

:

リグルド「なるほど。カバル殿にエレン殿。それにギド殿ですか」

リムル「イングラシア王国に行くにはブルムンドを経由するし彼らなら俺たちがスライムなのも知ってるしな」

シュナ「確かに…人間の国へ入るのに我ら魔物が付き添っては帰って火種になりかねませんし」

エイト「だろ?」

ゴブタ「リムル様!エイト様!」

ゴブタが影移動で戻ってきた。

リムル「戻ったか。どうだった?」

リムル「『大船に乗ったつもりで任せてくれ!!』だそうっす!」

リムル「引き受けてくれたか」

シュナ「…わかりました。ですが、くれぐれもご注意くださいね」

エイト「ああ。わかってる」

リグルド「リムル様とエイト様にもしものことがあれば我らは…ッ」

リグルドが泣きながら言う。

リムル「十分気をつけるよ」

ベニマル「頼んだぞソウエイ」

ソウエイ「無論だ」

というわけでカバル達が到着し次第出発することが決まった。

シオン「なんなら私がお供を…」

エイト「話聞いてたのか?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

1番の目的はリムルが夢で見た子供達だが、せっかく外に出るんだ。この旅ではテンペストの特産品…回復薬の販路を確保したいと考えている。

俺たちは拠点移動(ワープポータル)でベスターたちがいるヒポクテ草の栽培上と研究室に来た。

 

ドワルゴンでは回復薬が品薄だと聞いた。ガゼル王との交渉でウチからローポーションを納入することになった。ただし、ドワルゴンの薬師を研究員として受け入れるのが条件だ。

ベスター「ふむ…これなら全員雇用しても問題なさそうです」

エイト「役に立ちそうか?」

ベスター「ええ。昔、同じ学舎にいた者の名前もいくつかあります。彼らなら信用できる」

リムル「その後、回復薬の開発状況はどんな感じだ?」

ベスター「安定していますよ。今では1日に1つのフルポーションの作成に成功しています。彼らが開発チームに加わるなら…そうですね。少なくとも1日3本は固いとお約束します」

リムル「おお…!」

 

 

ここで復習。完全回復薬(フルポーション)はリムルの回復薬や俺の[超回復]と同等の効力を持っていて英知曰く欠損した部位すらも再生可能な万能薬だ。これを特定の状況で20分の1に薄めたものが上位回復薬(ハイポーション)。どんな大怪我でも治癒が可能。ただし、欠損した部位の再生はできない。そして、フルポーションを100分の1に薄めたものが下位回復薬(ローポーション)。怪我をある程度治癒する効果があり冒険者の持つ回復薬といえば通常これを指す。

 

 

カイジン「フルポーションを売るのは難しいぜ旦那。この薬は性能が良すぎるんだよ。気軽に使用できるもんじゃねえし、妥当な値段をつけたら冒険者には手の出ねぇ金額だ。ローポーションは冒険者にとって最も馴染みのある回復薬だ。今更どこぞの特産品だと周知させるのは難しいだろう。となると、特産品として一番有力なのがハイポーション。こいつは駆け出しが買うような代物じゃねぇ。ベテランの冒険者が万一に備えて持つような薬だ」

エイト「なるほどな。ターゲット層はそこそこ金を持ってると…」

カイジン「その通りだ」

リムル「分かった任せろ。高値で交渉して利益を上げてみせるさ。行く行くは10倍にも100倍にもして国庫を潤せるように頑張るぞ!」

カイジン「その意気だぜ旦那!」

 

その夜カバル達が到着し、早朝には到着することが決まった。

 

 

ー翌日ー

 

リムル「よし、と」

エイト「んじゃ、留守は頼んだぞ」

リムル「よろしくな3人とも」

カバル「旦那は俺たちについてきてくれればいいぜ!」

エレン「どーーんと任せちゃってよね」

ギド「あっしの本領発揮でやすね!」

この世界に来て2年近く経ったが…

リムル「任せたぞ」

エイト「よろしくな」

人間の国に行くのは初めてだ。結構楽しみだな…。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

道中になんやかんやありながらも旅は順調に進んでいった。

エレン「リムルさんとエイトさん!ずっと一緒に冒険しましょう!」

嬉しい申し出も出たが俺たちは責任ある立場だ。遠い将来…テンペストに俺たちが必要とされなくなったらその時は自由な冒険者になるのもいいかもしれない。…そういえば…スライムの…俺たちの寿命ってどれくらいなんだろ…?

俺が隠居を考える頃…こいつらは生きているんだろうか……………ミリムもこんな感じだったのかもな。

 

ミリム「ワタシの友はお前たち2人だけなのだ!」

カバル「2人ともどうしたんだ?もうすぐブルムンド王国だぜ」

リムル「…ああ」

大事な友人を作っても先立たれてしまうなら俺は孤独を選ぶだろうか…いや、俺はボッチだったがいつだって孤独ではなかった…小町がいたし…雪ノ下や由比ヶ浜…他にもまあ、色んな奴がいた。そして、今は…リムルがいる。慌てて答えを出す必要はないがこれだけは確かだ。

エイト「今行く」

この世界でも…本物を見つけられるのだろうか…この世界で見つかるならそれはきっと命を賭けることで見つかる本物なんだろう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ブルムンド王国。魔物の生息する森に近いためか建物は堅固な造りだ。街を警戒している人員もいる。

住民の表情は明るい。

「仮面のお嬢ちゃん。焼き立てのパンはいかが?」

リムルがパンを買う。

「一個サービスしといたよ」

リエ「「(うん。いい国だ)」」

:

:

カバル「あ、そうだ旦那。イングラシアに行くならギルドで冒険者に登録しといた方がいいぜ」

エレン「え?なんで?」

カバル「ホラ冒険者って街の外での活動が殆どでしょう?ギルドと連携している国なら身元証明されるのよう」

つまり身分証明書ってわけか。

リムル「んじゃ、一応取っとこうかな」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「冒険者登録?その仮面…英雄に憧れるのは分かるけど…あなたには、まだ早いと思うわよ?」

リムルがそんなことを言われる。あ、ひょっとしてシズさんのコスプレだと思われてるのか?

カバル「まあまあそう言うなって。この人はこう見えて俺たち3人が束になっても敵わねぇんだから」

「えっ!?」

「あのちっさいのがカバルさん達より強いってのか!?」

「ウッソだろ…」

「どう見てもガキなのに…」

ギド「あっしらの客人に失礼な態度はやめてくれやすかねぇ」

「すっすみません!!」

「し、失礼しました。それでは試験を許可します。こちらにお名前と希望される部門をご記入ください」

俺とリムルに紙が出される。

意外と言ってはなんだがあいつらって結構信頼されてるんだな。ポンコツなイメージがあったが改よう。

 

「はい、希少植物の買取ですね」

「こ、これは幻妖花!?それもこんなに沢山…」

あれはこの前の…

 

そう、俺たちは出発して数時間あの花のせいで森の中を迷ったんだ。それでゲルド達の現場宿舎で1日泊まる羽目になったのだ。その原因があの花で希少らしくゲルド達が取ったやつも合わせてもらっていったのだ。

 

「すげーー」

「こないだの魔物の素材もそうだけどどこで見つけてくんだろうなぁ」

「そらおめー熟練冒険者の勘ってやつだろ」

 

そういえばあいつらうちに来るたび俺たちがいらないって言ってるやつ持って帰るよな。

……なるほど、そうやって信用を得てるのか。

 

すると、またしてもリムルに心配の眼差しが向けられる。

「討伐部門…ねぇ君いいの?採取や探索部門にしておいた方がいいんじゃないかしら」

リムル「実地試験なんだろ?採取や探索じゃ時間がかかる」

「それはそうだけど…」

「確かにな…討伐の実地試験なら隣の棟でできる。一番お手軽で一番危険な試験だ」

義足か…。

エレン「…あんたは?」

ジーギス「試験官のジーギスだ。受けるつもりなら2人ともついてこい。カバルどもの紹介ね…はッ。どれほどのもんか知らんがな」

エレン「お前らあの人に恨みでも買われたか?」

カバル「あれーー?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

場所は変わって試験会場。最初はリムルでリムルが魔法陣に囲まれている。

リムル「この中で戦うのが試験か?」

ジーギス「そうだ。これは外に被害を出さないためのもの。受験者であるお前は、この円から一歩でも出れば失格とする」

リムル「なるほどわかった。で、相手は?」

ジーギス「ではEランクの試験を開始する。魔物に見事打ち勝って見せよ」

魔物?

ジーギス「いでよハウンドドック」

魔法陣が現れそこからハウンドドックが出てきた。召喚魔法か…。

リムル「おお…っ」

と言った後にはハウンドドックの首は刎ねられた。

リムル「召喚魔法ってやつか。すごいな初めて見たよ。じゃ、次もよろしく」

ジーギス「………いいだろう。次だ」

:

:

それからというものリムルはダークゴブリンを瞬殺。下位悪魔(レッサーデーモン)も十数秒で倒して、Bランク冒険者として試験を合格した。レッサーデーモンを召喚した時俺とリムルは召喚魔法の[悪魔召喚]を習得した。

んで、次はお____

フューズ「討伐部門の試験だとぉ…?リムル殿に何かあったらブルムンドが滅びてもおかしくないのだぞ?なぜこんな事態になっておるのだ…!!」

 

その後フューズを宥めるのが試験よりも大変だった。ちなみにフューズに連れてかれた所為で俺は試験を受けれなかった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

フューズ「ったく、ブルムンドに到着したらすぐに俺のところまでお連れしろと言っておいたのに」

リムル「ま、まぁおかげで身分証も手に入りそうだし」

フューズ「初めから私に言ってくだされば支部長権限(ギルマス権限)でBランクまで取り立て出来るんですがね。エイト殿にはそうしますけど」

あ、そうなのか。てか、試験会場に現れたフューズは怖かった。

フューズ『静まれ貴様らぁ!!』

レッサーデーモン以上の迫力だったわ。まぁ、あれくらいじゃないと荒くれ者の冒険者達をまとめあげるのなんてできないのかもしれないな。

フューズ「…我々は貴方方が邪悪でないと知っています。ですが他の者達はそうではないのです。もしリムル殿とエイト殿の正体が多くの魔物達の主だと知れたら…」

リムル「…そうだな。ブルムンドとまだ正式に国交を結んだわけじゃないし、悪かった。俺も自重するよ」

フューズ「………実はリムル殿とエイト殿の到着を知り、ブルムンド王が極秘会談を希望されています。イングラシアへ急ぐと聞いておりますが…」

マジか…予定外ではあるが…これを逃すわけにはいかないな。

リムル「是非頼む」

フューズ「わかりました。では3日後に場を設けるよう掛け合います」



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14話

ー翌日ー

 

ベルヤード「お初にお目にかかります。魔物の国の主殿。私はブルムンドの大臣の1人、ベルヤード。どうかお見知り置き願いたい」

リムル「初めましてリムル=テンペストです」

エイト「初めましてエイト=テンペストです」

リムル「作法に疎いので失礼があったらご容赦を」

フューズ「こいつは貴族ですが私の昔馴染みでもあります。構えず普段通りに接してやってください」

いや、めちゃくちゃ緊張するんだけど。シュナがいないのは心細すぎる…。

 

 

実務的な協議はこのベルヤード男爵と行い王との会談は明後日。その内容を元にお互い確認する形となるらしい。

ベルヤード「時間は有限です。早速始めましょう」

 

魔国連邦(テンペスト)とブルムンド王国の開国の条件は二つ。一つ、両国間の相互安全保障一つ、両国間の相互通行許可。

まずは相互安全保障について。

ベルヤード「我が国の魔物への対策はギルドとの協力で成り立っています。そこで…貴国での補給を認めていただきたいのです」

テンペストが活動拠点となれば冒険者の活動範囲は大きく広がる。必然ブルムンドへの脅威が減るというわけか。

ベルヤード「正直な話、そちらのメリットは少ないかもしれません」

たしかに…"相互"である以上こちらも助けてもらえるわけだが…俺らが助けて欲しい状況というと…

・豚頭帝出現!!

・魔王ミリム来襲!!

・カリュブディス急接近!!

みたいな時だ。互いの国家に危機が迫った場合

"可能な限り"協力するという概要に照らしてみれば…テンペストか受けられる恩恵はあまりないな。だが………実はもう一つの案件はこっちにかなりの益が見込める。一つ断ってもう一つを不意にするのもな…。

リムル「わかった。簡易宿と武具を整備できる施設を用意しよう」

ベルヤード「ああ、助かります」

まあ、特に大きなデメリットは無いしな。信頼を買ったと思えば安い方だろ。

ベルヤード「では、もう一つの件について話しましょう」

相互通行許可…これによってテンペストに人間が来るようになり、更に魔物が人間の町に赴けるようになる。人と友好的に付き合いたいと考えている俺たちからしてみればこれは大きな一歩になる。更に言えば税収も見込める。商人がテンペストに入る時の関税だ。

 

少し揉めたがここはベルヤード男爵が折れてくれた。

ベルヤード「期限を定め、国が商人達の支払いを立て替えるものとしましょう」

エイト「いいのか?」

ベルヤード「我が国にとって最重要なのは安全保障に関してです。貴方方は先程折れてくださった。今度はこちらの番です」

おお…っ…。

ベルヤード「互いに利のある関係でいたいものですね」

こうして、ベルヤード男爵との会談はとても有意義に終わった。

 

ー2日後ー

 

フューズ「こちらですリムル殿!エイト殿!」

いよいよ会談本番の日。

:

:

2人とも最初こそ緊張したものの、言ってしまえば2日前の繰り返し。ベルヤード男爵の奏上にブルムンド王が頷く。俺たちが「(王妃美人だなー)」とか思ってる間に条約は締結された。

 

「今後ともよろしくお願い致しますぞ、リムル殿、エイト殿」

リムル「ええ、こちらこそ」

そういえば俺って殆ど喋ってなくね?リムルに任せっきりで何も言っていない気がするが……まあ、気のせいだ……

「東の帝国が攻めてきた場合にも協力のほど、よろしくお願い致しますぞ」

は?

リムル「ええ………え?」

「では、また!」

ブルムンド王は手を振って帰っていった。

………東の帝国…?はっ!!まさか…!!

エイト「っ!!」

俺たち2人はベルヤード男爵の方を見る。

ベルヤード「気づかれましたか」

そうだ…ブルムンドを脅かす存在は何も魔物だけではない……危険への対処というなら例えばどっかの国家が攻めてきた場合も含まれる……だ…っ騙されたーー!!!!

関税の利益など防衛費からすれば微々たるもの…ブルムンド側が警戒しているのは他国からの侵攻だったか…!!

ベルヤード「まあ、そう気を落とさずに。条約は既に結ばれております。今後ともいい関係でいましょう」

リムル「くそぅ…」

やはり人間は油断できないな…。

けどまぁ、不思議と腹は立たなかった。騙された俺たちが悪いわけだしベルヤードの手段も見事なものだった。

エイト「ちょろいな…」

フューズ「交渉はヤツの得意分野ですから」

まぁ、これも経験だな。帝国が動くならその時だ。

 

 

それはそれとして、騙されたままでは面白くない。こっちにも大きなメリットのある話をするか。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「旦那様、リムル様とエイト様、フューズ様がおいでです」

ベルヤード「応接室へお通ししろ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リムル「やぁ、男爵。一つお願いがあってきたんだ」

ベルヤード「…聞きましょうか」

ジーギス「すみません男爵。お邪魔してます…」

ベルヤード「ジーギス。なぜ彼までここに?」

リムル「ああそれは…実演販売に協力してもらおうと思ってな」

ベルヤード「実演販売?」

エイト「ジーギスさんこれを」

俺はフルポーションをジーギスさんに渡す。

ジーギス「あ、ああ」

ジーギスさんは渡されたフルポーションを全て飲む。

ベルヤード「彼に何を飲ませたんです?」

エイト「完全回復薬(フルポーション)だ」

ベルヤード「フル…からかっているのですか?完全回復薬はドワーフ王国ですら…」

リムル「まあ見ててくれよ」

「ゴトンッ」

ジーギスさんの義足が床に倒れる。

ベルヤード「……え、義足…?」

ジーギス「あ…あああぁ…」

ベルヤード「ジーギス?」

ジーギス「足が…生えた…!!」

ジーギスの義足があった右足部分には綺麗な足が生えていた。

ベフュ「「ええええぇええ!!」」

ベルヤード「バカな!!部位再生級(リジェネーション)の回復薬などと神聖魔法に匹敵するぞ!!おい足よく見せろジーギス!!」

2人はジーギスさんの足を真剣に見つめる。

何この図…。

ベルヤード「どこでこんな凄い薬を…?」

リムル「どこってウチの特産品だよ。といってもまだそんなに出回っていないんだ。だからここで販路を開拓したくてさ」

ベルヤード「特産品!?これが量産されているというのか!?欲しがる人は多い…いや政治や戦争の概念をも覆しかねんぞ…」

あれ?軽い意趣返しのつもりが…思ったより深刻な空気になってしまった…。

まあ、ジーギスさんには感謝してもらえたし

ジーギス『ありがとうリムル殿、エイト殿。まさか冒険者に戻れる日が来るとは思わなかった』

上位回復薬(ハイポーション)を定期的に下すことが決まってブルムンド王国でやるべきことはひとまず終了だ。

 

 

〜イングラシア王国〜

 

俺たちはイングラシア王国に到着し、中に入った。

エイト「………」

うおお…っ建築物が高い!しかもガラスがある!

 

久しぶりに感じる都会の空気に俺たちは年甲斐もなくはしゃいでしまった。

リムル「治安も良さそうだな」

エイト「警備もしっかりしてるしな。?そういえばブルムンドでもギルドの組合員が警備してたけどここの警備兵は衣装が統一されてるんだな」

ギド「ああ彼らは西方聖教会所属の兵士ですね」

エイト「西方聖教会?」

エレン「唯一神ルミナスをあがめるルミナス教の組織名のよぅ」

リムル「へー」

宗教か…まあ、俺たちには関係ないな。

カバル「あ、そうだ旦那らは教会には気をつけた方がいいぜ」

エイト「え?」

カバル「西方聖教会は魔物の殲滅を教義としてるから、旦那らの正体が知れたら聖騎士団の討伐対象になっちまう」

エイト「おぉ…それは恐いな…」

ギド「旦那らならそうそうやられたりはしないと思いやすが、彼らは対魔物のエキスパートなんでやす」

リムル「なるほど…」

関わらないことに越したことはないな。

カバル「なんてったっけ聖騎士団の団長」

エレン「えっと確かぁ…そうそうヒナタ・サカグチ!」

ヒナタ・サカグチ……坂口?それか阪口か?また日本人か…日本人多くね?

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「5名様ですね。お部屋はいくつご用意いたしましょう」

カバル「二部屋で」

自由組合総帥(グランドマスター)のユウキ・カグラザカは若い風貌の男だという。リムルの夢の記憶を見せてもらったがもう1人の方が間違いなく「ヒナタ」だ。全く関係のない人物という可能性もあるが…なぜか確信がある。なんでだろうな。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

エレン「リムルさんエイトさん先寝るねぇ」

リムル「おう、おやすみ」

エレン「おやすみ」

それにしても対魔物のエキスパート集団の団長か…考えていた以上に厄介そうだな。

エリ「「(っていうかなんで俺たちエレンと同じ部屋なんだろう…)」」

 

ー翌日〜自由組合本部(ギルド本部)〜ー

 

リムル「うおぉぉ…これまた立派な建物だな」

リムルがガラス張りの入り口を触る。すると、

「ガーー」

自動ドア…………だと……!?

「ようこそ。本日はどのようなご用向きですか?」

リムル「あ、ああ。グランドマスターに会いたい。これが紹介状」

「確認して参ります。こちらにて少々お待ち下さい」

リムル「あ、はい」

 

ー数分後ー

 

「大変お待たせ致しました。リムル様とエイト様のみお通しするようにと言い付かりました。ここからは専属の秘書である私がご案内します」

さっきとは別の人が来て案内してくれるそうだ。

:

:

:

リムル「あの」

「グランドマスターはすぐに参ります。こちらの部屋でお待ち下さい。では」

「バタン」

ドアが閉められた。

リムル「あ、どうも」

素っ気ない人だな。まあ、俺的にはそんくらいの方がいいというかむしろそれであって欲しい。めっちゃ話しかけてくるタクシーの運転手とかめっちゃ苦手なのよ。

リムル「下手な駆け引きをするよりは真実を話して信頼を得るべき…だよな」

エレン「まあ、グランドマスターっていうかギルドを敵に回せば俺たちが人間に認めてもらうのは難しくなるだろうからな」

俺たちはスライム姿になりソファに座る。

すると、ドアが開き

ユウキ「お待たせしました。僕が自由組合総帥(グランドマスター)の神楽坂勇樹(ユウキ・カグラザカ)です。僕のことは気軽にユウキと_____うわスライム!?(しかも2匹!?)」

リムル「初めまして魔国連邦(テンペスト)の盟主リムル=テンペストという。俺のこともリムルと呼んてくれ」

エレン「同じくエイト=テンペストだ。俺もエイトと呼んでくれ」

ユウキ「は、はあ」

ユウキは俺たちのスライムボディーを掴みながらいう。

:

ユウキ「いや驚きましたよ。フューズに聞いていましたが、噂の魔物の国を興したのがまさか……その……」

エイト「スライムだとは思わなかったって?でも俺の方が驚いたぞ。その若さでここの総帥なんだろ?」

ユウキ「ああ、いえ。実際には二十代後半です。僕は異世界からの転移者なのですが、この世界に来た時スキルを獲得できなかったんです。その代わりか身体能力は異常に発達しまして、肉体の成長もそこで止まってしまったようなんです」

そんなケースもあるのか。

ユウキ「そのせいにするのもなんですが、なかなか大人の男としては見てもらえず。未だに女性と付き合ったこともなくて」

友達さえいなかった俺よかマシだろ。彼女がいないなんて当たり前だ。

リムル「いやー、そうかね?残念だったね、それは。なーに、そのうちいいことあるさ!はっはっはっ」

ユウキ「なんでそんなに嬉しそうなんです?」

エイト「……」

そんなに嬉しいのかよ。

リムル「いやなに、ただのスライムスマイルさ!」

ユウキ「そういえばリムルさんとエイトさん。一体どうやってここに入ったんです?この建物の入り口には結界があるので魔物は入れないはずなんですが…」

エイト「ああ、自動ドアの前にあったセンサーか。俺はスキルで無効化した」

結界も魔法の一種だからな。完全結界で遮断したまでよ。

リムル「俺の方は…ひとつはこの仮面。これでオーラを抑えることができる」

リムルは胃袋から抗魔の仮面を取り出して言う。

ユウキ「その仮面はシズ先生の…っ」

リムル「それから…その仮面の持ち主の意志と姿を継いだ。俺は喰った相手に擬態できるんだよ」

リムルが人の姿になり言う。

ユウキ「喰った…相手…」

ユウキはリムルに蹴りかかるが、

エイト「落ち着けグランドマスター。事情も聞かずに殺そうとするなんて立場的にまずいんじゃないか?」

俺はその蹴りを片手で受け止める。

ユウキ「…やはり只者ではありませんね。信じ難いが…たかがスライムがシズ先生を殺したとい事実を認めざるを得ない…」

エイト「あのな、先生を敬愛するなら形見は大切にしろ。今の蹴りで壊れるとこだったぞ」

俺は風圧で上に飛んだ仮面をキャッチしていった。

ユウキ「…詳しく聞かせてもらいますよ」

リムル「もちろんだ。出会いから話そう」

:

:

ユウキはまだ俺たちを信じられない様子だったが話を聞く姿勢にはなってくれた。シズさんの最期の下りは噛み締めるように聞き入っていた。

リムル「まあ、そんな感じだ。スライムの言うことなんて信じられないかもしれないけどな」

ユウキ「…いえ先生らしい決断だと思いました」

リムル「そうだ、言い忘れてた。ほらエイトも」

エイト「え?あーあれか………はぁわかった」

リエ「「俺は『悪いスライムじゃないよ!』」」

ユウキ「ぶっ!!………っそのネタ…!!」

ユウキが震えながら言う。

リムル「ああ、俺たちも元ネタを知ってるよ。でも、戦時中にこっちに来たシズさんは違う。同郷だった子から聞いたと言っていた」

ユウキ「ええ僕が話しました。先生はあちらの様子を知りたがっていましたから…」

リムル「現代の日本か。俺も終戦後のイメージを見せたら喜んでくれたよ」

ユウキ「……ということはやはりリムルさんも?」

リムル「そうだよ日本人だ。ついでにエイトも」

だが、ユウキは疑いの目を向ける。

ユウキ「………」

リムル「まだ疑うのか?いいだろう、では君の望むものを見せてやる。(頼んだぞ大賢者)」

大賢者『…了』

リムルの口?から布が出てくる。

ユウキ「うわっ…こっこれは…『はがぬの錬金術師』の最終巻!?発売前にこっちの世界に来てしまい、どれ程悔しかったことか…!!」

あーそゆことか。あ、なら俺もできそうだな。

てか、あいつの棚見れば一発で趣味がわかるな。うん、まさにスキルの無駄遣いだな。

リムル「あいにく紙がないんで布に転写するしかできないが…」

ユウキ「紙!?紙ですね!!ありったけの紙を持ってきてくれすぐにだ!!」

秘書可哀想…。

「は、はい」

 

その後俺はラノベ、リムルが漫画を転写した。

ユウキ「あああ…もう二度と続きは読めないと諦めていたのに…ありがとうございます、師匠!!先程までの無礼の数々、どうかご容赦を!!」

土下座をかましてユウキが言う。

リムル「うむ」

スライムから師匠か…漫画の力は偉大だな。

ユウキ「そういえばまだ用件を伺っていませんでした。いらしたのは何か理由があるんですよね。もちろん協力させてもらいますよ!」

リムル「さっき言っただろ。シズさんの意思を継いだって。もし知っていたら教えてくれ。イングラシアにいる彼女の心残り。5人の子供たちの現状が知りたい。シズさんに替わってあの子供達を助けるために俺たちはこの国に来たんだ」

ユウキ「………知っています。ですが、それは簡単ではありません」

エイト「わかってる。シズさんが成し得なかったことをするんだ。朝飯前とは思ってない」

ユウキ「……そうですか。あの子供達のことを話す前に…ちゃんと伝えないといけないことがあります。…それがシズ先生の遺志だというのなら僕も貴方達に託してみます」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リムル「おーい」

リムルが眠っているカバル達を起こす。

カバル「旦那…」

エイト「悪い待たせたな」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

俺たちはレストランに来た。

リムル「まさかここまで長く話し込むとは思わなかった。悪いなずっと待たせちまって」

カバル「気にしないで下さいよ!」

エイト「ねぇねぇグラマスと目的の話は出来たのぅ?」

エイト「ああ、それな。それで、お前たちに言っとかなきゃならないんだが…」

カバル「なんでも言ってくれっす!」

エイト「突然だがここまでの案内ありがとな」

エカギ「「「へ?…………………クビ?」」」

エイト「違う違うそーじゃねーよ」

リムル「子供達を助けるためにもシズさんの代役を務めることになってな。旅は中断だ」

ギド「シズさんの代役って…なんでやすか?」

エレン「英雄とかぁ?」

リムル「コホンッ」

リエ「「教師だ」」

 



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15話

これから俺たちはしばらくイングラシアに滞在することになる。住む場所はユウキが手配してくれた。人前ではスキルを使ったり擬態を解いたりできないからここが唯一木を抜ける場所だ。

自由学園。ユウキが理事長を務める学校だ。俺たちはその寮の一室に部屋を借りている。……教師として。

 

ユウキの話によると、5人の子供たちのクラスにはシズさん以降後任がいないらしく、それがなぜかというと子供たち全員が召喚の儀式というもので異世界から強制的に呼び出されたのだとか。しかも、推定余命が1、2年らしくその理由が、世界を渡る際に取り込む大量の魔素(エネルギー)をスキルに変換できず、行き場を失ったエネルギーがやがてその身を焼き尽くすとか。不完全召喚されて子供たちはその殆どが5年以内に死んでしまうらしい。ユウキ曰く子供たちは『理不尽に呼び出され死を目前に控えた勇者のなり損ない』だと言っていた。

それに加えて英雄シズエ・イザワの後任ということもあり、荷が重いのだとか。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

そんなわけで俺とリムルは図書館で魔法書を手に取って解析、を繰り返していた。

…まあ、魔法書に載ってたらとっくに助けられてるんだろうが。

英知『告。魔法書の網羅が完了しました。これにより無詠唱での魔法の行使が可能となりました』

調べ物しに来たのについでに大量の魔法書を解析する英知さん流石です。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ー翌日ー

 

「いやぁ、理事長の紹介ですので信用したいのは山々ですが、あの子達の面倒は難しいですよ?まして、君の方は子供じゃないですか…」

リムル「大丈夫ですよ。見た目より年は行っているので」

「はぁ……ああ、ここです」

そう言われて見た教室のドアには黒板消しが引っ掛けられていた。

「ああっ、またこんなイタズラを!!」

リムル「はははかわいらしいじゃないですか。案内ありがとうございます」

「は、はぁ、ではワシはここで…」

 

リムル「ちーっす、今日から君達の担任に…」

「どりゃああたあっ!!」

俺はリムルに振り下ろされる剣を短刀で受け止める。

リエ「「え、何これ」」

リムルは俺が受け止める少し前に避けて黒板の前にいた。

「剣ちゃんかっけー!」

「それ必殺技だろ?ついに完成したか!」

学級崩壊かよ。

「詰めが甘いわね。受け止められてるじゃないの!」

これは、リムルの奥の手が出るな。

:

:

リムル「えー…先生の名前はリムル=テンペストだ。で、こっちが」

エイト「エイト=テンペストだ」

リムル「皆の顔と名前も覚えたいので呼ばれたら返事をするように。アリス・ロンド」

アリス「…はぁい」

リムル「ゲイル・ギブスン」

ゲイル「…はい」

リムル「クロエ・オベール」

クロエ「はい…」

リムル「リョウタ・セキグチ」

リョウタ「は、はい!」

リムル「ケンヤ・ミサキ」

ん?声がないな。

リムル「ケンヤ・ミサキくん?呼ばれたら返事しなさい」

ケンヤ「お…おーぼーだ…」

リムル「ん?先生の奥の手がどうかしたかね?」

ケンヤの頭にはランガがかぶりついている。

ケンヤ「こんなのおーぼーだ!!ちょっと強い犬を従えてるからって卑怯だぞ!!」

エイト「着任初日の先生に斬りかかってくるのは横暴じゃないのかよ…」

ケンヤ「そ、それは…っシズ先生なら簡単にかわせるし」

リムル「……なるほど、一理ある」

あるのかよ。

リムル「よし、予定変更。今からテストをする」

「「「「「えーーーっ」」」」」

リムル「えー、じゃない。運動場に移動するぞ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ゲイル「テストって…一体何をするんです?」

リムル「模擬戦だよ。全員いっぺんに来てもいいぞ。信頼を得るのが難しそうだしな。シズさんに劣らないとこ見せないと」

すると、ゲイルは右手に魔力弾を作り

ゲイル「ご自分がシズ先生に並ぶと?ずいぶん大口を叩くんですね。大怪我しても恨まないで下さいよ!!」

ゲイルはそこそこデカくなった魔力弾を投げてきた。

エイト「魔力弾ねぇ…結構威力あるな…」

[完全結界]

エイト「当たれば」

ゲイル「なんですかそれ汚い!!」

リムル「よく覚えておきなさい大人は汚いのだよ」

リョウタ「ぐるあああッ!!」

リョウタがリムルを殴りつけるが避けられる。

リムル「狂戦士化。肉体強化は中々だが……意識がないのはマイナスだな」

リムルが指を弾くとリョウタの意識が戻る。

ケンヤ「これでも…くらえぇ!!」

ケンヤが炎を俺たちにバカスカ撃ってくる。

俺には効かないけど。

リムル「…シズさんに憧れるのはわかるけど」

リムルがケンヤの目の前に現れる。

ケンヤ「うわっ!!」

リムル「扱い慣れないなら炎に拘るのはやめておけ。エネルギー効率が悪い」

ケンヤにリムルがデコピンする。

クロエ「流れる水流よ(ウォーター)我が敵を捕らえよ(ジェイル)」

リエ「「!」」

エイト「水の檻…」

リムル「見事なもんだ」

俺たちは魔力操作で水の檻を壊す。

クロエ「あ、あれ??なんで…」

リムル「すごい魔法だった。今後ともしっかり勉強するように」

リムルがクロエの頭をポンっと叩く。

アリス「こうなったら私のお人形で…あ、」

アリスの取り出した人形は右耳が焦げていた。

アリス「こ…焦げてる!!なんで…」

泣き出してしまった。

アリス「もーっあんたがパカスカ火ばっかり使うからぁ!!」

ケンヤ「お、俺のせいかよ!?」

ゲイル「2人ともそれどころじゃないだろ!!」

リムル「ほら直ったぞ」

早。

アリスは直った人形を見てご機嫌だ。

エイト「次はアリスか?その人形でどう戦うんだ?」

俺的には今めっちゃ気になるんだが…。

クロエ「………先生、その仮面シズ先生の?」

リムルの仮面を見て言う。

リムル「ああ、この仮面と一緒にお前達のことも託されたと思っている」

クロエ「あのねアリス。私、リムル先生とエイト先生は信じていいと思う」

リョウタ「ボ、ボクもそう思う。だってシズ先生の後に来た先生達はみんな玩具とかくれたけど…ボクらと話そうとはしなかった」

ゲイル「リョウタの言う通りこの人は今までの先生とタイプが違う。それにシズ先生の知り合いなら…」

アリス「…わかったわよ。冷静なゲイルまでそう言うなら信じてあげる。お人形直してくれたしテストはここまでにしてあげる!」

リムル「ありがとな」

テスト受けてたのはそっちだけどな。

エイト「…どうだケンヤ。お前も信じてくれるか?」

ケンヤ「………シズ先生だって俺たちを見捨てて行っちゃったじゃないか。今さら新しい先生が来たからなんだっていうんだよ俺たちもうすぐ死んじゃうんだぞ!!」

エイト「…はぁ、二つ間違いがあるぞ。まず一つ、シズさんはお前達を見捨てたわけじゃない。あの人の最後の旅はお前達のためだったんだよ」

ケンヤ「俺たちのため…?」

俺もこの子供達を前にしてやっとあの人の旅の目的がわかった。シズさんだって召喚された子供だったはず…だけど寿命を全うできたのは身内に溢れるエネルギーを安定させた人物がいたからだ。あの人は聞き出したかったんだ。相手にどんな意図があるにせよ自分を救った方法を…魔王レオン・クロムウェルに。

リムル「もう一つの間違いは『お前達がもうすぐ死ぬ』ってとこだ。安心しろシズ先生のやり残したことは俺たちが継いだ。だからお前達は俺たちを信じていい子になれよ?」

エイト「絶対に助けてやるから。必ずな」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

シュナ「まぁ!なんて愛らしい形のお菓子でしょう」

シオン「これがシュークリムルというスイーツなのですね!」

2人はシュークリームを食べながら言う。

リムル「シュークリームな」

ベニマル「あれ?リムル様?エイト様?」

リムル「よぅ、ベニマル。お土産あるぞ」ベニマル「いつの間に帰ったんです?」

エイト「ついさっきだ。影移動で一時帰国」

ほんとこの世界って便利だよな。

ゴブタ「あ!リムル様とエイト様っす!!」

ハクロウ「これはこれは…お迎えもできず申し訳ないですじゃ」

リムル「いいって、もうすぐ戻らなきゃならんしな」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リグル「え!?本当か?」

ガビル「なんと!!」

「リムル様が……」

リグルド「なんですっとーーーー!!?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

……なんでかなー?ちょっと様子を見に来ただけなのになんか…すごく集まってきたな。

 

エイト「町の運営は順調か?」

ベニマル「つつが無いですよ。ユーラザニアの使者もいつも通りですし工事の方はブルムンドから要請のあった簡易宿に着手しました」

リグルド「ブルムンドと言えば…そこからやってきた商人がハイポーションを大量購入していきましたな」

リムル「ほぅ!」

リグルド「商人の名はガルド・ミョルマイル。イングラシアにも行商に向かうと言っておりました」

エイト「ならあっちで会えるかもな」

シュナ「……リムル様、エイト様。お二人のお話もお聞かせください。人間の国で先生になられたとか」

そうだな。こいつらにも相談してみるか。

リムル「実はな…」

:

:

:

リグルド「なんと…魔素が安定せず肉体の崩壊を待つ子供達とは…」

ベニマル「気の毒だとは思うが手を貸してどうにかなるもんなんですか?」

ハクロウ「難しいでしょうな。膨大な魔素を安定させる程のスキルとなるとユニーク級…厳しい修行を課したとて獲得できるとは限りませぬ」

だよな。

リムル「リグルド。シズさんを覚えているな?」

リグルド「は…もちろんです」

リムル「彼女は昔、子供達と同じ状況だったが魔素の安定に成功し長らえたんだよ」

リグルド「ふむ…その方法がわかればいいのですが今となっては調べることも…」

エイト「……実は見当はついてるんだ」

リグルド「え!?」

エイト「鍵を握ってるのはイフリートとの融合だ」

シュナ「イフリート…炎系の精霊では王級に次ぐ上位精霊ですよね」

リムル「そうだ。シズさんは幼い頃そいつを魔王レオンに憑依させられた。恐らくだがイフリートが魔素を制御していたんじゃないかと思う」

というのが、俺の英知とリムルとリムルの大賢者で立てた推論だ。

トレイニー「なるほど、つまりリムル様とエイト様は子供達に精霊を宿そうとお考えなのですね」

………………。

エイト「トレイニーさんいたのかよ!?」

トレイニー「はい。頂いております。シュークリムル。4つ目です」

ベニマル「(4つ目!?)」

トレイニー「とても良い案だと思いますよ。確かに精霊は魔素の扱いに長けています。しかし無視できない問題もあります」

リグルド「といいますと?」

トレイニー「まず下位の精霊ではそれほどの魔素を制御しきれないでしょう。ですが上位精霊はその数も少なく…」

トレイニーさんは精霊を召喚する。

リムル「…そちらは?」

トレイニー「この子は私の契約精霊『風の乙女』(シルフィード)。その名の通り『風』を司る上位精霊です。そこのあなた、ちょっとこの子に話しかけてごらんなさい」

トレイニーさんはガビルに言う。

ガビル「えっ!?えーと……わ、我輩はガビルと申す者。ご機嫌はいかがかな?」

シルフィード「…………」

すると、シルフィードはガビルから顔を背けた。

トレイニー「このように上位精霊は気まぐれです。気に入らなければ助力は望めないでしょう」

む、酷い……酷すぎる……。

トレイニー「せめて精霊の棲家へ行くことが出来れば相性のいい精霊に出会えるかもしれませんが…」

エイト「精霊の棲家?」

トレイニー「精霊女王の統べる別次元にある場所です。入り口は女王の意思一つで引っ越してしまうので特定は困難でしょう。私が取り次げたら良かったのですが現女王とは接点がないのです」

リムル「そうか…」

トレイニー「お役に立てず申し訳ありません」

エイト「いや、俺たちのやろうとしてることが間違ってないって分かっただけでも収穫だ」

リムル「さてと、じゃ、そろそろ戻………ど、どうしたシオン。やけに静かだと思ったら怖い顔して」

確かに…いつもならもっと騒ぐと思うんだが…。

シオン「このシュークリムル…これ以上食べたら工事現場のゲルド達の分が…っでもっ…でも美味しくて…っ私はどうしたらいいのですかリムル様!エイト様!」

平和だな、シオンは。

リムル「食べていいよまだあるから」

シオン「ほ、本当ですか!?」

トレイニー「では私も…」

ベニマル「待った!トレイニー殿はもう4つ食っただろ!!」

ハクロウ「若…」



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16話

ー数日後ー

 

リムル「おーいそこまで!お昼にするぞー」

今日は野外授業と称して郊外で模擬戦だ。

ケンヤ「くぁーっやっぱ運動のアトのメシうめーーっ」

焼け石に水かもしれないが少しでも魔素を発散できるように定期的に模擬戦をしている。今俺たちにできるのは上位精霊を探すことだけだからな。

ケンヤ「だいたいさー先生達は強すぎなんだよ」

アリス「そうよ、女の子にはもっと手加減するものでしょー」

リョウタ「ねぇ、先生達と勇者様どっちが強いかな」

アリス「そんなの勇者様に決まってるじゃないの」

クロエ「私は先生の方が好き!」

勇者?たしかヴェルドラを封印したの勇者って話だが…300年前って話だし流石に別人だよな。

アリス「こんなのにマサユキ様が負けるはずないもん!」

ん?マサユキ?

リムル「マサユキってのが勇者の名前なのか?」

ケンヤ「先生勇者様を知らないの!?」

ゲイル「とても強いんですよ!」

アリス「金髪でね、すっごくカッコイイんだから!」

金髪なのか…日本人かと思ったが……まあ、地毛って可能性もあるし。ん?そういえばミリムがヨウムに因果が巡るから「勇者」じゃなくて「英雄」を名乗れとかなんとか言ってたな。ってことはマサユキとやらは本物の勇……

「グギャアアアッ」

エイト「あれは…」

俺が前に粉消しにしたスカイドラゴンじゃん。

リムル「ドラゴン!?」

エイト「ははは、久しぶりに会ったな」

あいつの所為で俺死にかけたからなー。

 

スカイドラゴンの放った攻撃で王都に入ろうとした人達が怪我をする。

クロエ「先生ぇ…あの人たち死んじゃうの?」

エイト「今度は殺させねえよ。ランガ、子供達を頼む。リムル行くぞ」

ランガ「はッ」

すると、リムルは仮面をクロエに預け

リムル「大丈夫だ死なないよ」

リムルが羽を広げる。

「「「「「わっ」」」」」

リムル「俺たちが行くからな」

:

:

飛び出してきたはいいんだが…西方聖教会に目を付けられても困る。素性は知られたく無いな。さて…どうしたものか…。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「うおおっ」

スカイドラゴンの攻撃を間一髪で避ける男。

「ひ……こんなところで死んでたまるかい」

「うわあああんっ」

「子供…!!(母親が重症なのか。あのまま放っておいては…は)ぬおおおおっ邪魔だどけい!」

その男は走っていき子供を突き飛ばした。

そして、持っていたビンの蓋を開けて中身を突き飛ばした子供の母親にかけた。

「お…おじさんだれ、おかーさんになにしたの!?」

「(頼む…効いてくれ…頼む…っ)」

「うう…ん…あ…あれ?わたし…」

「おかあさん!?」

「(効いた…!しかもなんという即効性だ。フューズ殿から聞いてはいたが想像以上の代物だ)」

だが、後ろにスカイドラゴンが来る。

「おじちゃんうしろ…」

「わかっとるわい!…ワシを誰だと思っている。こんなつまらぬ場所で死ぬ男ではないわ。貴様らは邪魔ださっさと行け!」

親子は王都に入っていった。

「(そうとも。ワシは幸運な男なのだ。この場でこの薬を持っているのがその証)」

スカイドラゴンが攻撃を放とうとする。

「(これほどの商機を前に死を迎えるなど断じて……)」

「グチャッ」

「(……え…マジで?)」

男は振り返るとそこには倒れたスカイドラゴンと2人の男女(見た目)がいた。

リムル「あれ?このビン…ウチの回復薬じゃないか」

俺たちは見た目を大人に服装も変えて助けに来た。

「(今何が起きた?)」

リムル「じゃあ、あんたが大量購入したっていうブルムンドの商人か」

エイト「捕食しなくていいのか?」

「(女神…?)」

リムルがスカイドラゴンを捕食した。

リムル「名前は確かミョルマイル…だっけ」

お前……はぁ、もうバレたな。ウチのとか言ってる時点で。

ミョルマイル「ワシのことを知っておられるのか?いかにもワシがミョルマイルですわい」

リムル「やっぱりそうか。俺の名前は……あ」

エイト「やっと気づいたか」

ミョルマイル「?名前は?」

リムル「ええと…」

エイト「はぁ、通りすがりのしがない教師ですよ」

多分無理だが……諦めたらそこで試合終了って言うからな。

ミョルマイル「…さっきウチの回復薬と言っておりましたな。もしやテンペストに縁があるのですかな?」

はい試合終了。

リムル「……まぁ今から誤魔化すのは無理だよな」

ミョルマイル「(やはり…!)お目にかかれて光栄です。リムル=テンペスト様、エイト=テンペスト様」

エイト「え?」

リムル「名前までよくわかったな」

ミョルマイル「ええ、あの街の住人達はお二人の話ばかりでしたからな。人の姿の時の似顔絵まで見せてくれましたよ」

エリ「「お、おお…」」

恥ずかしいなあいつら…。

ミョルマイル「随分慕われておいでだ。ワシも懇意させて欲しいもんです。ぜひ、お礼も兼ねてご馳走させて頂きたい。イングラシアにはワシの出資している店もありますので」

「おいそこの3人!怪我はなさそうだな。少しいいだろうか」

警備の騎士か…まずいな。

「知性のある竜が無差別に人間を襲うとは思えんのでな。詰め所で話を聞かせてくれ」

万が一俺たちの正体がバレたら西方聖教会にバレるかもな…。

ミョルマイル「……聴取かね。ワシをミョルマイルと知ってのことか?」

「え…」

「おい、その人はいいんだ。失礼しましたミョルマイル殿。こいつは新人で…」

先輩らしき騎士がこっちにきて言う。

ミョルマイル「教育がなっとらんようだな」

ん?今このおっさん賄賂渡したぞ!?大丈夫なのかよ!?

「弁えろ!この人はブルムンドの大商人のガルド・ミョルマイル氏だ」

「す、すみませんでした」

ミョルマイル「聴取には応じてやろう。ただしこの方達は帰してやってくれ。ワシの護衛としてここまで一緒に来てもらったのだ」

護衛……。

「もちろんです、ミョルマイル殿。ご協力感謝します」

ミョルマイル「うむ。では行こう。ここまで助かりましたぞ。次の機会も是非」

リムル「またのご利用を」

:

:

すごいな。助けたつもりが助けられちゃったな。

ケンヤ「先生ー!!なんだよ先生!!今のめっちゃカッコイイじゃん!!」

アリス「ちょっとなによその格好!カッコいいじゃないの!!」

エイト「お、おう…」

すると、リョウタがミョルマイルが行った方向から来た。

リムル「どうした?リョウタ」

リョウタ「さっきのおじさんが擦れ違う時にこんなの渡してきました。先生達にって」

リムル「ミョルマイルが?名刺か。ん?裏に何か走り書きしてある。これは…住所だな」

俺も見せてもらい英知に脳内マップを出してもらうとこの辺りは高級な店が並ぶ地区だった。なるほど、ガルド・ミョルマイル。随分なやり手らしいな。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

暴れスカイドラゴンを撃退した夜。ミョルマイルの招待を受け王都の一等地にある高級酒処にやって来た。彼の口利きで今夜は貸切らしい。

 

料金表を見たらあまりの金額に一瞬意識が途切れてしまった。

でもまあ、今夜はミョルマイルの奢りらしいから存分に堪能させてもらおう。

ミョルマイル「リムル様、エイト様、お楽しみ頂けておりますかな?」

リムル「ああ、お陰でな」

ミョルマイル「それは良かった」

エイト「あ、そういえばウチの回復薬のことなんだが、スカイドラゴンの襲撃で結構消費しただろ?割れたり怪我人に使った分は補填する。だからどんどん配ってくれていいぞ」

ミョルマイル「なるほど売り上げよりも宣伝効果を優先ですか。料金は規定通りお支払いしますよ。あの薬を怪我人に使うと判断したのはワシですからな」

リムル「俺たちが助けたからって気にしなくていいんだぞ?」

ミョルマイル「はっはっはっ、それはもちろん感謝しておりますがワシは遠慮してるわけではないのですよ。ただ、お二人に投資したいと思ったのです。今後、交易路の中心になるであろうテンペストの盟主であるお二人とお近づきになれた。これが理由ではおかしいですかな?」

エイト「いや」

リムル「納得だ。じゃあ今後とも取引をよろしく頼むよ」

ミョルマイル「こちらこそ是非ともよろしくお願いします」

 

手短に話を済ませるとミョルマイルはさっさと席を外した。

すると、

「ちょっと向こうでお話ししません?スライムさん」

リムルに話しかけて来たエルフがいた。

:

:

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リムル「すごいな。どうしてわかったんだ?」

「ふふふ、エルフの直感…とだけ言っておきましょうか」

この人はリムルが以前ドワーフ王国に行った時夜の店に居たダークエルフらしい。

リムル「ドワーフ王国以外で会えると思わなかったよ」

「私は他の子と違って旅人なの。ママの店にはよくお世話になるんだけど専属ってわけじゃないのよ」

リムル「たまには故郷に帰ったりとか?」

「…スライムさん。『エルフの故郷に行けばエルフ美人がいっぱいいるだろうし今度何人かスカウトしてテンペストでも働いてもらおうかな』とか考えてる?」

リムル「ま、まっさか〜」

あ、考えてたな。

「うふふ冗談よ。私の故郷は魔導王朝サリオンのはずれ。国境にある小さな村よ」

リムル「へ、へぇ…」

サリオンか。図書館の本でも載ってたな。確かエルフの国とか。

「一応サリオンに属してるけどどちらかというとウルグレシアの方が身近かなぁ」

リムル「ウルグレシア?」

そっちはあんまり本に載ってなかったな。

「精霊信仰の盛んな国でね。私の占いも精霊魔法の応用なのよ」

リムル「あ、じゃあこいつの運命の人占ってもらったりできないか?」

エイト「え、なんで?」

リムル「俺も前に占ってもらったんだけどその時シズさんが出たんだよ。それで、エイトは誰が出るかなーって」

エイト「はあ」

この世界の占いは前の世界とは違って嘘っぱちでないんだな。魔法の応用らしいしまあ、それならいっか。

エイト「んじゃお願いします」

「いいわよ」

:

「あ、映った」

そして、そこに映っていたのは魔法陣の上に座り、騎士達に囲まれる1人の少女。

エイト「なん………で……」

リムル「ん?どいしたんだエイト」

俺は膝から崩れ落ちた。

リ「「!?」」

今の映像……魔法陣の上に…てことは…まさかあいつ……

エイト「なんでだよ…」

なんで"小町"がいるんだよ…。

リムル「だから、どうしたんだって」

エイト「今映ったやつ…俺の妹なんだよ」

リムル「え」

エイト「その占いが過去を写すのか未来を写すのか知らないがどっちにしてもあいつはこっちの世界に召喚されたことになる………すまんリムル。俺」

リムル「…分かった。子供達のことは俺がなんとかする。ただ、一度テンペストに戻ってシュナとソウエイの分身体をを連れてけ」

エイト「…了解だ」

リムル「ちゃんと助けてこいよ」

エイト「ああ」

リムル「それと、終わったらちゃんと帰ってこいよ?」

エイト「わかってる。ありがとな」

そして、俺はリムルの影を経由してテンペストへ向かった。



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第二章 救済
17話


エイト「シュナ」

俺はテンペストに戻り次第シュナのいる場所に向かった。

シュナ「エイト様!戻られたのですね。子供達の件は終わったのですか?」

エイト「いや、それはリムルに任せてるんだが、俺の方が結構やばいんだが…」

そして、俺は自分が転生者なのと、何があったのかを話した。

:

:

シュナ「…そうですか…わかりました。わたくしも妹さんの捜索に同行します」

エイト「ありがとな。ソウエイの分身達も連れてくよう言われてるから準備が出来次第出発するぞ」

:

ソウエイの分身体を俺の影に潜ませて俺たちは出発した。

 

ー1週間後ー

 

リムルから子供達に上位精霊を宿すことに成功したと報告があった。そのおかげで魔素の暴走は止まって死ぬことはないとのこと。クロエだけ変なのが宿ったらしいが魔素が安定したからひとまず安心だと。その後リムルから影繋ぎで[空間移動]を貰った。それで、俺たちはというといくつかの国を巡って召喚の儀式が行われていないか調べた。ソウエイの分身体は影にいるからいいとして、シュナは普通に歩くから図書館にあった魔法書に載ってた魔法をかけ合わせて角やら魔物っぽいところを隠した。で、その際に

『確認しました。

エクストラスキル[多重詠唱]を獲得__成功しました』

複数の魔法を同時に詠唱できるスキルを獲得した。しかもそれを英知が

英知『エクストラスキル[多重詠唱]を最適化します。[多重詠唱]をエクストラスキル[詠唱破棄]と統合。成功しました。エクストラスキル[無限詠唱]を獲得』

と、勝手に最適化された。

シュナ「見つかりませんね……」

エイト「…召喚の儀式は国家が秘密裏に行ってるものだからな…見つからないのも仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれないな」

シュナ「それでも見つけてあげないと可哀想ですよ。そんな弱気なことでどうするのです」

叱られてしまった。いや、だってあれよ?実の妹。しかも小町が召喚されてそれが見つからないかもしれないなんてなったら弱気にもなるでしょ?

エイト「大丈夫だ。絶対に見つけるし助ける。リムルとも約束したからな」

 

ーさらに1週間後ー

 

はぁ…本当に見つからない…どうすればいいんだ…?このまま見つからなかったら…せっかく小町を守って死んだのに…それじゃあ意味がねえじゃねえか。

エイト「小町……」

シュナ「大丈夫ですエイト様。エイト様なら見つけられます。必ず」

シュナが言うと心強いな。

エイト「ありがとな」

:

:

「も〜ほんとお兄ちゃんはごみぃちゃんだなぁ。反対側って言ってるでしょ!そこじゃないの!」

へ?あれ、まただ。久しぶりに見たなこの夢。てか、反対側ってどこだよ。ワンチャン答えてくれるかもしれないのでもう一度意識を手放してみる。まあ、こんなんで見つかったら苦労しな__

「地球は丸いでしょ!せっかく国語学年3位なんだからこれくらいで分かるでしょ!」

え……

エイト「まさか答えてくれるとはな…」

シュナ「どうしたのです?」

エイト「…見つけたんだよ」

夢は夢とも言えるが何故か確信がある。今俺たちがいるブルムンド王国。ここから丁度反対側に……。

シュナ「!どこだったのです?」

エイト「あー行ったことないし地名も知らんがここからめちゃくちゃ遠い。着いて来てくれるか?」

シュナ「着いていくに決まっているじゃないですか!」

エイト「ありがとな。んじゃ、ちょっと飛ばすから眠っててもらってもいいか?」

起きてたら絶対怖い。俺のスキルというスキル全てと魔法を掛け合わせて直線だけならミリム級のスピードで向かう。

シュナ「わかりました」

シュナが目を瞑る。俺は睡眠魔法でシュナを眠らせる。

エイト「行くか」

シュナと俺を結界で覆い、重力変動と重力操作でとりあえず適当な方向に飛んでいく。風系統の魔法で空気抵抗を無くし、追い風を吹かせる。

エイト「待ってろ小町。今行くからな」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

エイト「ここだな」

1日かけてここまで来た。結構この星でかいのな。だが、その暇を紛らわすために英知から神話やら伝説やらを聞いて来た。その中にミリムらしき少女の話があったが、多分ミリムだな。ミリムが魔王になった理由…教えないほうがいいかもな。

 

俺の下を見る。目視で大量の人間を確認、魔力感知だと約2万と出る。兵達は一つの建物を取り囲むようにして入り乱れている。

エイト「[完全結界]」

俺はその建物を結界で覆った。それと、シュナにかけた魔法も解いた。

シュナ「ん…着いたのですか?」

エイト「ああ。多分ここだな」

シュナ「!この兵達は…」

エイト「あの建物の中にいると見て間違いないな。行くぞ」

シュナ「はい」

俺はシュナと建物の目の前に降りた。

「おい、何者だお前達」

兵が声をかけてくる。が、それを無視して建物に入った。

「おい!!何をしている!!」

俺たちに手を出してくるが、

「!?」

結界に阻まれる。入った瞬間に光を除く全てを遮断したんだよ。まあ、物理攻撃に関しては一定を超えたら結界が破れるんだけどな。多分ミリムのパンチで一発だ。

 

そして、二重扉のもう一つを開けて、中を見る。

「ザシュッ」

エイト「は…?」

1人の少女の心臓に槍が刺さる。そこでその少女の息は途絶えた。その少女は俺が探し続けていた妹…比企谷小町だ。

シュナ「!!」

なんで……なんでだよ……ここまで来て…なんで……

「おい!誰だお前は!!」

エイト「何してんだよ」

俺は槍を刺したやつの頸を刎ねた。

「!?!貴様何者だ!!」

シュナ「!!」

さらに、周りに数名いる魔法使いらしきやつらを殺そうとする。が、

シュナ「エイト様!!」

エイト「!」

シュナ「落ち着いてください。今暴れても意味がありません。ここで暴れては妹さんの亡骸まで傷つけることになりますよ」

エイト「…すまん」

俺は完全結界で魔法使い達を囲んで中の重力を上げる。

「ぐっ…なんだこれは…!?」

「っ…体が、重い…」

そうだ。まだ終わってない…英知の話だと死んだ者を生き返らせる方法がある。それを試す価値はある。

英知『告。絶命した者の魂は本来拡散して消滅するのですが、[完全結界]に阻まれ残存している可能性はあります。その確率___3.14%』

エイト「円周率かよっ」

シュナ「エイト様?」

エイト「あ、いやなんでもない」

そうだ。死者を生き返らせれる確率が3%もある。これで小町を助けられる。

エイト「シュナ。俺…魔王になるわ」

シュナ「!!何故ですか…?」

エイト「魔王になれば小町を生き返らせれるかもしれない。そういう言い伝えがあるんだよ。試す価値はある」

シュナ「……わかりました。エイト様のしようとすることなら止めるつもりはありませんよ」

あ、思い出した。魔王に覚醒するために必要な養分…それも人間の魂一万人分。

エイト「もし、俺が理性のない化け物になったらすぐに渡した空間移動で帰れよ」

リムルとの影繋ぎを切ってシュナと繋げたんだが、その際に役に立ちそうだから渡しといたのが役に立ちそうだな。

シュナ「…わかりました。ご武運を」

:

:

小町の心臓を治した後、シュナには完全結界の中にいてもらい、俺は外に出た。いよいよ魔王になる為の儀式(プロセス)を始めることになる。

 

エイト「[完全結界]」

外にいる兵達を完全結界で囲む。

シュナに落ち着けと言われ少しは落ち着いたんだろうがそれでも俺は怒ってるんだろうな。だって、いつになく魔素の発生スピードが速い。これなら、まあできるだろうな。いつもなら数分やるだけで魔素が尽きる技。今なら…

エイト「[雷炎槍]」

雷炎を直径10cmまで縮め魔力操作で操って兵達の心臓や脳を貫いていく。なんでこんな面倒くさいことするかって?いや、俺もしたくないんだが、解析鑑定の結果、あの兵達の甲冑の特性が厄介なんだよな。なんでも、スキル耐性に魔法耐性持ってるんだよ。しかも、結構強めの。だから、こうやって絶対に貫けるよう威力を一点に集中させたわけ。あ、中にいた奴らはそのまま放置してるから。

 

シュナ「……(エイト様…)」

シュナは少なからず心配していた。元人間ということもありこれだけの人間を殺していくことでエイトの心に深い傷がつくのではないかと。

だが、実際その心配はいらず、

 

エイト「……」

これだけの人を殺してるのにほとんど何も思わねえな。小町を殺されて怒ってるってのもあるが、2年も弱肉強食の魔物の世界に浸ってたんだ。強い奴が弱い奴をねじ伏せる世界に。だからなのか、何も思わないわけじゃないが気にするほどではない。

エイト「やっと半分か」

『確認しました。ユニークスキル[心無者](ムジヒナルモノ)を獲得……成功しました』

エイト「[心無者]?なんだそれ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「た、隊長!!」

「あ、あの方もいないのに、こんな化け物倒せるはずがないだろ!?」

「あの方はまだ帰らないのか!?」

エイト「あの方…?」

まあ、誰でもいいか。邪魔をするなら敵だし。

英知『告。[心無者](ムジヒナルモノ)の解析が終了しました。[心無者]を使用しますか?』

…YES。

そして、その瞬間残る1万もの兵全員が死んだ。

英知『ユニークスキル[心無者]にて命乞いをする者や助けを願う者の魂を刈り取りました』

…え、怖。

英知『告。進化の条件(タネノハツガ)に必要な人間の魂(ヨウブン)を確認しました』

あ、やばい…眠くなってきた……。

俺は下に降りて中に入った。

シュナ「エイト様!」

英知『これより魔王への進化(ハーベストフェスティバル)が開始されます』

エイト「俺…ちょっと寝る…ソウエイ…」

ソウエイ「は、ここに」

影からソウエイの分身体を出して、俺は眠る。

『告。個体名エイト=テンペストの魔王への進化が開始されます。その完了と同時に系譜の魔物への祝福(ギフト)が配られます』

シュナ「今度は私達が守る番です。全身全霊をかけて守ります」

そう言ってシュナはスライム姿に戻ったエイトを抱き抱える。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

暗いな。

『告。魔王への進化(ハーベストフェスティバル)による変化が開始されました。身体組織が再構成され新たな種族へと進化します』

体がない感じだな…意識ができない…。起きてるのか寝てるのかもわからねえな。

『種族:スライムから魔粘性精神体(デモンスライム)への超進化…成功しました。全ての身体能力が大幅に上昇しました。続けて旧個体にて既得の各種スキル及び耐性を再取得…成功しました。新規固有スキル[無限再生、万能感知魔王覇気、強化分身、影橋]を獲得………成功しました。新規耐性[状態異常無効]を獲得……成功しました。以上で進化を完了します』

英知『告。ユニークスキル[英知]より世界の言葉へ請願。[英知]の進化を申請』

『…了。ユニークスキル[英知]の申請を受理。[英知]が進化へ挑戦……失敗しました。再度実行します…失敗しました。再度実行します…失敗しました。再度実行します…失敗しました__________』

:

:

英知『告。[英知]が[無限収納]を統合(イケニエ)にハーベストフェスティバルのギフトを得て進化に挑戦』

それは極小確率の出来事。無限に繰り返された試みへの褒美であるかのように

『……成功しました。ユニークスキル[英知]は究極能力(アルティメットスキル)

[叡智之王](ウィズダム)に進化しました』

叡智之王『[災禍](ディザスター)の進化を希求。[心無者]を統合(イケニエ)に実行…失敗しました。[災禍]及び、[完全結界]の進化には覚醒魔王の魂が必要と推測、進化を保留とします』

:

:

『告。個体名エイト=テンペストのハーベストフェスティバルが完了しました。続いて系譜の魔物へのギフトの授与を開始します』

そして、エイトが人間の姿になりシュナから離れる。

シュナ「エイト様…なのですか?」

エイト(叡智之王)「代行者」

シュナ「!!」

エイト「告。[叡智之王]を使用して系譜の魔物へのギフトを収納。純粋な魔素へ還元。さらに一重目の結界を解除。結界内の魔素を全て収納」

結界内にある魔素、及び魂を収納する。

シュナ「(代行者…エイト様のスキルが自律的に行動…そんなことはあり得ない…はずですがエイト様なら…)」

そして、叡智之王による『反魂の秘術』が開始された。

:

:

:

シュナ「(これ程の魔素量を1人で制御するなんて…これが魔王になったエイト様のお力…)」

反魂の秘術。死者蘇生の秘術。それらの秘術を行使するには莫大な魔素量が必要となりそれを制御する魔力は想像を絶するものとなる。成功確率は3.14%。しかし、その数値は魔王へと進化する前に算出されたまのである。進化を果たした今______。

そして、最愛の妹は目を覚ます。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

小町「…ん……へ?なんで小町生きて……」

シュナ「貴方のお兄様が生き返らせてくれたんですよ」

小町「…どちら様で?(小町こんな美人な人知らないんだけどなぁ)」

シュナ「こんにちは。シュナといいます」

小町「えっと、さっきお兄ちゃんが生き返らせてくれたって言ってましたけど…どういうことです?」

シュナ「それはですね___」

スリープモードに入ってるエイトの代わりにシュナがここまでの状況を説明する。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

小町「へ〜お兄ちゃんこんな可愛くなったんだ。(なんでスライムになってもアホ毛が無くならないんだろ…?)」

シュナ「あまり驚かれないのですね」

小町「あ、それ小町のスキルなんです。ユニークスキル[理解者](ワカルモノ)。物事を確実に正確に理解できるスキルで戸惑ったりしにくくなるんです」

シュナ「そうですか。小町ちゃんはどうしてその…」

小町「あ、どうして殺されたか?ですよね。小町もまさかちょっとスキル使っただけで殺されるとは思わなかったんですよ」

シュナ「?何かしたんですか?」

小町「[理解者]で自分の魂に何か呪いがかけられてるのが分かったので究極能力(アルティメットスキル)[救済之王](サルヴァーレ)で解いたら気づかれてそのまま」

シュナ「最初からアルティメットスキルを?」

小町「はい。自分のスキルも理解者で確認しましたけど一つだけアルティメットスキルがありましたね」

シュナ「そうなんですか。(すごいですね…この子ひょっとすると天才なのでは?)」

小町「それにしても、お兄ちゃんにこんな美人なお姉ちゃん候補がいるなんて、こっちに来てもまだまだ可能性はありますなぁ」

 

ー3日後ー

 

エイト「…」

あ、スリープモード解除されたじゃん。

シュナ「おはようございますエイト様」

俺の上にシュナの顔がある。

小町「おはようお兄ちゃん!」

そして、目の前にはマイラブリーエンジェル小町がいる。何ここ天国?

エイト「おはようさん」

小町「お兄ちゃんのおかげで小町生き返ったよ!」

エイト「ああ、よかった。苦労した甲斐があったな」

シュナ「小町ちゃんには状況の説明もしてあります」

エイト「ありがとな。んじゃ、早速で悪いが小町にはあっちに戻ってもらうぞ」

小町「え、戻れるの…?」

エイト「ああ。てか、早くしないと多分体が保たないから」

ギフトを俺の中にしまって足りない魔素を確保したまではいいが、このままじゃケンヤたちみたいに体が崩壊しちまう。

小町「…お兄ちゃんは…戻れないよね。国の人たちが待ってるんでしょ?」

エイト「ああ。でも、いつか方法があったら会いにいくから。少し待っててくれ」

小町「うんわかった。帰ってあげる。だーけーど。お兄ちゃん!」

エイト「え、何?」

小町「シュナさんのことちゃんと幸せにするんだよ!」

エイト「え?」

なんのことだよ。

小町「それと、小町からプレゼント」

ユニークスキル[譲渡者](ユズルモノ)。

叡智之王『告。個体名比企谷小町より究極能力[救済之王](サルヴァーレ)、ユニークスキル[理解者](ワカルモノ)を譲り受けました』

え、叡智之王?誰?

叡智之王『ユニークスキル[英知]は魔王への進化により究極能力(アルティメットスキル)[叡智之王](ウィズダム)に進化しました』

お、おう…そうか。

小町「じゃあ、お兄ちゃんお願いね」

エイト「お、おう。わかった」

ウィズダムに体の主権を一任する。帰還の秘術を実行してくれ。

叡智之王『了解』




次の投稿は遅くなると思われますのでよろしくお願いします。


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18話

ー3日後ー

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「○○君準備できたー」

「帰るぞ」

「了解した」

「オッケー○○く〜ん」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

:

:

:

再びスリープモードに入った俺だが、そろそろ3日経ったんじゃないか?

エイト「お、戻った」

シュナ「おはようございますエイト様」

エイト「よし、んじゃテンペストに……!?」

なんだこのプレッシャーは…!!

エイト「何か来る…」

すると、空から降って来たその何かが建物を貫通して床に落ちた。

「ドオオオオンッ!!」

結界で砂埃を防いだが、

エイト「ちょっとまずいな」

辺り一体を結界で覆われた。

「やっと会えたな。比企谷ぁ…!!」

そして、出てきたその人物は、

エイト「は?なんでお前がいんの?」

爽やかイケメン葉山隼人だった(後ろに戸部達3人組も)。

葉山「お前を殺す為にわざわざ来たんだ。ありがたく思うんだな」

エイト「いや、なんで怒ってるのか知らねえけどいきなり殺されても困るんだが…」

こいつがここにいるってだけでも驚いてるのに殺すとか言われてもな。なんで?

シュナ「この者達をご存知なのですか?」

エイト「あーあれだ、俺異世界人だろ?前の世界に居たやつらだ」

シュナ「!」

エイト「ただ、なんでお前らそんな強くなってんだ?」

明らかに雰囲気がおかしい。4人全員が覚醒魔王……特に葉山はやばい。多分俺と同じくらいだな。もう3人は一対一なら負けないだろうが3人合わせたら俺より強いかもしれないな。

葉山「ふっ、俺たちをここに連れてきてくれたのはあのお方…女神ヴィーナス様だ。俺たちの復讐のために力をお与え下さったんだ」

女神?誰だよヴィーナスって。

葉山「お前がいろはとお前の妹を庇った所為で俺たちは居場所を無くし、これまでの人望も全てをなくしたんだ!俺の完璧な計画をお前の妹といろはに潰された!!それもこれもお前の所為だ!!」

エイト「計画…?」

葉山「お前が死んだ後2人は家に籠った。だから、その間に新しいシナリオを考え広めたんだ」

:

:

葉山が語るに、俺が葉山を小町達の前に突き飛ばして通り魔の犠牲にしようとしたが、直前で通り魔が足を絡ませ俺の方にナイフを刺した。と皆に言ったらしい。まあ、あれだけの人望を持ってるんだからほとんどの人は信じるわな。

葉山「だが、1ヶ月後にはお前の妹といろはが学校に戻ってきて真実を話した。その所為でさらに1ヶ月後には俺が嘘をついたことになったんだ。最後まで信じてくれたのは戸部たちともう数人だけ。お前がいろは達を庇わなければこうはならなかった!!」

シュナ「(いろはが誰かは知りませんが、随分身勝手な人ですね)」

エイト「あーなんだ。俺としてはお前が逃げたことをなんも思ってなかったんだが…普通あんなの目の前で見れば逃げたくなるだろ。多分知らない奴が刺されてたら俺も逃げてる。それなのにわざわざ嘘を言うから嫌われるんだよ。自分で自分の築き上げてきた偽物の関係を壊したんだろ?」

葉山の持ってる関係が本物とは思えない。だけど、それをとやかく言う権利は俺にはない。ただ、一つ言えるのは……

エイト「俺悪くないだろ」

流石にこいつも八つ当たりが過ぎる。

葉山「いいや、お前が原因を作ったんだ。だが、もうそんなことはどうでもいい。ヴィーナス様より授けられた力、女神玉を持つ俺にお前が敵うわけがない。精々足掻くんだな」

アルティメットスキル[支配之王](ザ・ゾーン)

エイト「?何かしたのか?」

シュナは結界で覆ってるからスキル、魔法は効かないし俺もそうだ。

戸部「隼人く〜ん、もう殺っちゃっていいべ?」

葉山「ああ」

大和「俺たちは自由にしていいのか?」

葉山「好きにしろ」

……なんか葉山性格変わったな。これが素なのか?

戸部は俺に二刀流の短刀で斬りかかってきた。

俺はそれを短刀で弾く。

戸部「ヒキタニくんなかなかやるべ」

エイト「……」

だからヒキタニ誰よ。俺エイトなんだけど。前世は比企谷だなんだけど。

:

:

ー戸部との斬り合いが始まって数分ー

 

戸部は結構やる奴だった。剣技だけなら俺と同じくらいだし二刀流だ。つまり、俺不利なわけ。

エイト「っ」

面倒くせえな。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

その頃大和と大岡は。

大岡「お、結構美人じゃん」

大和「今のうちにやるか?」

シュナ「……(なんて下種な人たちなのでしょう)」

大岡「そうするか」

大岡は自分の背中にかけている刀でシュナに斬りつける。

エイト「(あの勢いなら結界は…)」

「パリィインッ」

エイト「!?」

結界が…なんで、

叡智之王『告。あの剣に「結界破壊」の特殊効果があると思われます。[完全結界]に特殊効果の無効化能力はありません』

マジかー…って、シュナ!!

俺はシュナの方に行こうとする。が、

戸部「ちょっ、逃げるのはよくないでしょ〜」

戸部が立ち塞がる。

葉山「ふっ、そいつは俺の嫁に相応しいな。比企谷を殺したら俺の嫁にするか」

大岡「だとよ」

大和「ちょっとくらいいだろ」

エイト「……」

大岡と大和がシュナの腕を掴む。

シュナ「放しなさい!」

だが、大岡がシュナの胸に触れる。

シュナ「や、やめなさい!」

大和「抵抗してる方が唆られるな」

大岡「わか……」

エイト「…何してんだよ」

俺は2人の首を刎ね、[雷炎]を落とす。そして、その間にシュナを抱えて空中に上がる。

叡智之王『告。覚醒魔王2人分の魂を確保。これを生贄にユニークスキル[災禍]、[完全結界]の進化を行います。進化完了までの予想時間は15分です』

長いな。

葉山「…何俺の嫁を抱えているんだ比企谷」

戸部「(ちょ…ヒキタニくんいつの間に…)」

シュナ「…私は貴方のような方のものではありません!」

そりゃそ……

シュナ「エイト様のものです!!」

え、何言ってるのこの子。

エイト「なんでそうなるわけ?」

葉山のものなわけないが俺のでもないだろ。

シュナ「だって、今もこんな大事そうに抱いてくれているではないですか。それに」

シュナが笑顔で言う。ん?あ、やばい。いつの間にかお姫様抱っこしてたわ。いや、これは直ぐに謝らなけれ…

エイト「!!」

あれれー?おっかしいなーなんでこんな近くにシュナの顔があるんだろー?って!?何しちゃってるのこの子!?

シュナの唇が俺の唇に触れている。

シュナ「私エイト様のことが好きですから!」

エイト「!?」

不意打ち連発。シュナちゃん恐ろしい子。

葉山「なら比企谷を殺してお前を奪う」

最初から怒ってた葉山がさらに怒っちゃったじゃん!…まあ、そんなことどうでもいいか。

エイト「…ありがとな。シュナ。ここからはまあ、なんだ、ちゃんとやるわ。だから、先にテンペストに戻ってくれ」

シュナ「!」

エイト「お前を守ってやれる自信はないからな」

シュナ「でもエイト様…」

エイト「大丈夫だ。勝つ自信はないが負けない自信はある。何かあったら直ぐ逃げる。逃げることに関してはプロだぞ?」

とか言いながらこの世界に来て逃げたことなんて殆どない。

シュナ「…わかりました。ですが、必ず帰ってきてくださいね?」

エイト「おう。絶対に帰る」

シュナ「では」

だが、シュナが空間移動に失敗する。

葉山「この結界内での外部への移動は不可能だぞ」

エイト「[完全結界]。シュナ今だ」

シュナ「はい」

シュナはテンペストに向かった。

葉山「!?…いいさ。お前を殺してから探せばいい」

エイト「殺す前提なのは悲しいな」

さっきから俺のこと殺す殺すって言われる側の身にもなれよ!いじめだぞ!?

葉山「殺すからな」

だからやめろって!?

葉山は背中にかけている剣を抜く。

葉山「戸部」

戸部「OK隼人く〜ん」

すると戸部は俺の元まで飛んできて攻撃を始める。

俺はそれを避ける。が、

葉山が剣を振り下ろしてくる。

エイト「っ!」

短刀で受けたが危なかった。

葉山「覚醒魔王となって少しは強くなったようだが俺たちの前では無意味だと知れ!!」

葉山に蹴り飛ばされ戸部の方に飛んでいった。

エイト「くっ!」

戸部の剣速は厄介だし2対1となると更に厄介だな。

戸部「もっと楽しませてくれよな〜ヒキタニく〜ん」

再び戸部との斬り合いが始まる。

葉山「[能力上昇]」

すると、戸部の身体速度が上がった。

エイト「!?」

なにが起こった…?いきなり戸部の速度が上がった…!!

そこに葉山も加わり分の悪い戦いが続く。

葉山「戸部」

葉山は自分の剣を戸部に渡す。

戸部「[真似者](マネルモノ)」

戸部がそう言うと剣が2本複製され葉山に渡された。

葉山の剣が俺の腕に当たり結界が破壊される。

葉山「セット効果[能力上昇]」

すると、葉山の剣速が上昇した。

葉山「どうした?そんなものなのか比企谷ぁ!!」

エイト「うっせぇな…」

そうなことを言っている暇などないがつい口から溢れてしまった。

戸部「んじゃそろそろ」

葉山「死ぬんだな」

2人同時に斬りかかってきた。

エイト「っ!?」

まずい…この状況…!!剣で戦っている以上スピードが命…2対1なら尚更だ。もっと速く正確に…!!もっと速く…!!

『確認しました。エクストラスキル[暗殺者]を獲得__成功しました』

え…

英知『エクストラスキル[暗殺者]を最適化。エクストラスキル[影橋]と統合します。……成功しました。エクストラスキル[暗殺者]はユニークスキル[暗黒者](ウラニタツモノ)に進化しました。[暗黒者](ウラニタツモノ)の使用用途を記憶させます』

!?これは…!!

エイト「…[暗黒者]」

俺は戸部の影…正確には腕の部分に短刀を振る。

戸部「どこ狙っ……!?」

すると、戸部の右腕が切れ落ちた。

戸部「!?」

葉山「(面倒なスキルだな…)」

葉山が俺に剣を下から振り上げてくる。が、

このスキルはこれだけじゃない。

俺は葉山の足元、正確には後ろ側にある影の上に現れた。

葉山「!?」

これが[暗黒者](ウラニタツモノ)の真骨頂。[影渡り]。俺の魔力範囲内の全ての影の上に瞬間移動ができる。最強の暗殺系スキルだな。

俺は葉山の背中を斬る。

葉山「っ!?」

戸部「[真似者](マネルモノ)」

戸部は斬られた腕が再生していた。

エイト「!?」

しかも、俺の短刀を2つ複製しやがった。

葉山「お前の俺たちに与えた傷も既に癒えた。どんなに俺たちを攻撃しても無駄だ。諦めるんだな」

エイト「……」

大岡と大和は首を刎ねたら死んだ。即死させればいいのか?でも、そう簡単に首は斬らせてくれないよな。

戸部「お、これ使いやすいじゃ〜ん」

戸部は俺の剣を複製して使ってる……あ、そうだ。

[暗黒者]

エイト「剣はもらうぞ」

戸部の腕を斬り落として剣を奪った。マジかよ…この剣再現度100%じゃん。

戸部「痛ったいな…ヒキタニくん許さないべ?」

葉山「なかなか楽しめるな」

俺vs葉山&戸部…実力が同じくらいなせいで戦いが長引くな。

すると、葉山が笑った。なんだ?

葉山「言ってなかったな。お前が元の世界に帰した妹。俺が召喚したんだ」

エイト「あ?」

喧嘩のバーゲンセールか?あ??

葉山「お前を誘き出すエサになってもらった。予想通りここに来て安心したぞ。流石のシスコンぶりだn」

俺は葉山の首に斬りかかるが避けられた。声帯は斬ったが。

葉山「人の話は最後まで聞くんだな。お前の妹は才能があったぞ。大量の魔素(エネルギー)は究極能力とユニークスキルに変換されて相当な実力を持っていた。自分の置かれた状況まですぐに理解していて驚いたぞ?魂の呪いを解かれたから危険と思って殺させたが」

エイト「人の妹をそれだけの理由で殺す……お前こそ自分の置かれた状況を理解してるのか?」

俺はこいつを許さない。楽に死ねると思うなよ?

葉山「ああ。お前を殺す立場にあることくらいな!!行くぞ戸部!!」

戸部「オッケー!!」

再生が速いな…複製はあとどれくらいできるんだ?スキルの再現も可能なのか?まあいい。こいつらの能力なんて。どうせ死ぬんだからな。

エイト「[災禍](ディザスター)」

葉山「っ!」

戸部「ぐっ!?」

重力を500倍にまで引き上げた。葉山はまだ動けそうだが、鈍るだろうな。

エイト「[雷炎]」

神出鬼没による雷炎のランダム射出。

葉山「[支配之王]!!」

スキルが効かない!?いや、具現化させたスキルを消してるのか。自分と戸部に触れたやつはダメージが入る前に消えてる…。

エイト「面倒くせぇな」

[暗黒者]

戸部「俺を忘れてるべヒキタニくん」

戸部が俺の背後から斬りかかってくる。

エイト「てっきりもう死んでるかと思ったわ」

戸部「酷いべ!?」

戸部の顔面を蹴り飛ばす。

葉山「余所見とはいい度胸だ…!!」

葉山の剣2本による連続攻撃は面倒だが……短刀が2本だから捌けないこともない。

エイト「お前の方こそこんなもんなんだな。その程度で自分が強いと思ってるのか」

この世界には強い奴らが沢山いる。俺なんてまだまだだ。だけど、少なくとも俺は…

エイト「お前よりは強い」

葉山「くっ!?(俺が押されてる!?)」

戸部「隼人くん!!」

戸部は葉山の加勢に入るが、

エイト「人の真似ばっかりしてるとどっかで負けるぞ(ここでだが…)」

俺専用に作られた武器だぞ?戸部が使いこなせるわけがない。

戸部「ぐあっ…!?」

戸部の心臓を一突き、両腕両脚を斬り落とした。

葉山「よくも戸部を…っ」

魔力を注ぎ込んで初めてこの剣の威力は発揮される。人間じゃまともに使えねーよ。

エイト「次はお前の番だ」

葉山「くっ…!!まだだ!!まだ終わってない!!!」

[支配之王](ザ・ゾーン)

葉山は剣を手放し両手を前に突き出した。

エイト「…?」

すると、戸部と大和、大岡の体が引き寄せられそのまま葉山の体に吸収された。さらに地面に落とした剣二つもだ。

葉山「俺は必ずお前を殺す…!!ぐっ…!?ぐあああっ!?!?!」

葉山の体は黒い球に包み込まれた。

叡智之王『警告。個体:名葉山隼人の生命反応が消失。大量の魔素(エネルギー)が収束しています。対象を依代に別の生命反応が検知されました』

…葉山が死んだってことか?でも生命反応があるってことは……どういうことだ?



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19話

女神玉は女神間に伝わる禁忌の玉。合計十一個 あり全てが一つの器に入ると闇度がMAXになって器を乗っ取り破壊の全てを尽くすとされる。

二つ、三つと、増やすたびに闇度は増え、二つだけでも人間は耐えられない。だから、ヴィーナスは葉山達を自身の魔法で強化し、4つまでは耐えられるようにした。いや、それが限界だったのだ。そもそも、女神玉は天界にある一番厳重な金庫に入れてあり見ることさえ早々できない代物。まして、誰かにそれを授けるなど断じてあってはならないのだ。だが、それでもヴィーナスがそれを行ったのは1000年に一度の賭けの勝利のため。

この賭けは誰か1人を転生させてどこか別の世界に送る。それで送った人間がいつまで生きられるかそれを予想するというものだ。

わかるのは送られた後に何になるかとそのステータス。前世にどんなことがあったかだけ。そこから予想するのだ。たかが賭けと思われるかもしれないがこの賭けの結果が女神間の格を大きく変える。賭けには全女神が参加し、上位10名が"十大女神"に即席する。どんなに下位の女神でもこの勝負一つで最高位になれるのだ。

女神ヴィーナスは比企谷八幡…現エイト=テンペストが2年目で死ぬと予想したが、この調子だと死なないと思いエイトに恨みを持っている葉山隼人以下10名をわざと事故に合わせて女神玉を与えて転生させたのだ。葉山には二つ、他の10名には一つずつ与えた。

葉山、大岡、大和、戸部は他の6人を殺し女神玉を奪って葉山が二つ、戸部が二つ、大和と大岡が一つずつ吸収した。それから戻ると比企谷八幡…エイト=テンペストがいたというわけだ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

叡智之王『警告。対象の魔素量がマスターの10倍になりました』

え?マジかよ……戦いたくないなー。だけど…

エイト「ほっといたらいつか来るよな」

だったら今のうちに潰しとかなきゃな。

 

そして、黒い球が弾け飛んだ。

 

エイト「……」

中から出てきたのは髪が伸び、顔全体が真っ黒に染まった葉山隼人。背中からは4枚の悪魔のような羽が生え、上段にある2枚は大きく、下段にある方は少し小さめ。六つの黒い突起物が縦並びに背中から飛び出していて、膝、肘、胸から同様のものが一つずつ飛び出している。

エイト「化け物かねぇ…」

この言葉が一番しっくり来るな。

そして、葉山の目の当たりが赤く光る。いや、もう葉山じゃないな。

「し……ね……」

黒い球が無数に生産され俺に飛んでくる。

当たるとやばそうだな…。

エイト「[完全結界]」

この球はこれで遮断できた。結界破壊がなくてよかったー。

叡智之王『告。スキルの進化終了まであと5分です』

え、あれからまだ5分しか経ってないの?

「」[真似者]

葉山の剣が大量に複製されそれを操って俺に攻撃してくる。

エイト「[災禍]」

重力変動を使って剣を落とそうとするが…

エイト「やっぱダメか」

こいつ多分重力系のスキルで操ってるな…。

「こ…ろ……す……!!」

先程の黒い球と組み合わせて飛んでくる。

エイト「ちっ」

結界を破られたらすぐに球が飛んでくる。この速度で魔素を消費してったら魔素切れになる…!!剣で捌くにもこの物量じゃ限界があるし……。

「[カルネージ]…」

なんだ…?あれは……。

葉山の手の上には黒い直径20cmくらいの球体ができ、それを放り投げてきた。

エイト「……」

…なんか変だな…なんだあれ…?

念には念をで球を避けた。が、

エイト「!?」

「ドオオオオンッ!!」

その球は周囲の魔素を急速に吸収して一気に爆発した。

エイト「うおっ」

爆発の余波を少し喰らったがダメージはない。が、あれの直後に攻撃を再開してくるのはきついな。ここら辺一帯の魔素が戻ってくるまで万能感知も上手く機能しないし…。

エイト「くっ!」

二発喰らった…!!って!?なんで痛みを感じるんだよ…!?

叡智之王『告。精神体(スピリチュアルボディー)への直接攻撃を確認。耐性[痛覚無効]は適用されません。あと一撃で完全に死ぬと思われます』

は!?なんだよそれ!?あの剣そんな力があったのかよ!?

エイト「いじめだろこれ…」

数で圧倒的に上なだけじゃなく壊しても壊しても新たに作ってきやがるし…あの黒い球いつ爆発するかわからなくて軌道も読めねえんだよ。しかも、こいつあんな知能無さそうな見た目しといてフェイントとか入れるのかよ!?そろそろ限界だよ!!あーもう叡智之王先生!!助けてください!!

__そんな俺の願いが届いたのか

叡智之王『告。ユニークスキル[理解者](ワカルモノ)及び究極能力(アルティメットスキル)[救済之王](サルヴァーレ)の使用用途を記憶させます』

は?なんでこんなと……流石叡智之王先生。いつでも頼れる相棒だな。

エイト「[理解者]」

幾つかの光の筋が視界に浮かんだ。感覚だから脳内に表示されたような感じか?

その内の二つが光を放った。俺がその光を迎え撃つように短刀(以下短剣)を走らせると葉山の剣もそこに来て迎撃に成功した。

:

「!?」

しばらくすると、俺がフェイントに引っ掛からなくなったことに気付いたのかフェイントを無くし剣のスピードに特化させてきた。

エイト「[救済之王]」

[救済之王]による精神体(スピリチュアルボディー)の回復をした。え、これすごくない?もう攻撃受けても大丈夫だよね?

叡智之王『否。回復する前に3回攻撃を受ければ死に至るので攻撃を受けることは勧められません』

あ、はい。すみません。

「カルネージ」

さっきの黒い球をまた投げ込んできた。

まずい…あれの後の攻撃は万能感知が使えないから肉眼で戦うしかないんだよ…。ん?あれ?

どんな原理かしらんが魔素を使って爆発させてるなら……

エイト「[完全結界]」

黒い球を結界で覆って魔素に還元した。

「!?!?」

てか、こいつの攻撃これだけなんだよな。黒い球(小)と剣だ…

エイト「!?」

葉山の周りに黒い渦のようなものがいくつか現れそこから黒いビームが俺に放たれる。しかも、

エイト「これもかよ…」

避けつつも結界で防ごうとしてみると結界が破壊された。あの渦…剣を高速で回転させてるものか…剣の特殊効果をビームに付与してるのか…?

にしても、これが加わるのはまずい…

「アガ…いても…む…だだ……」

足掻いても無駄ねぇ……

エイト「死ねと言われたらお前は死ぬのか?俺なら嫌だな。だから最後まで足掻くんだよ」

前の世界では数が多い方が正義と決まっていた。数が多い方が勝つし少数じゃ悪とみなされる。だから誰も社会には刃向かえないし1人でできることなんてこれっぽっち。1人が権力を持っていてもそれを形成してるのは沢山の人間だ。だから葉山が正義に見えたのは(俺は見てないけどな)葉山に募る人間が多いからだ。だけどな…この世界は

エイト「っ!?」

大量の剣が俺を360度全方向から囲った。

「お……わり…だ」

この世界は前の世界とは大きく違うところが一つだけある。

俺はこんな状況でも笑ってみせた。

「な…にが…面白い……まあ…いい……」

どんなに数が多くてもそれを超える力をたった1人が持つことができる。

「死ね」

たった1人の力でどんなに多い敵にも勝つことができる。

叡智之王『告。スキルの進化が完了しました。使用用途を記憶させます』

エイト「[守護之王](ゲニウス)」

俺に突き刺さろうとした剣は全て弾かれた。

「!?」

エイト「[天災之王](カタストロフ)」

青い炎が全ての剣を燃やし尽くした。

「!?な…ぜ……お…まえ…ごと…きの…炎で…私…の…剣……を……」

エイト「あー何言ってるかわかんねえからもういいよな」

[暗黒者]

俺は葉山の影の上に瞬間移動して真上に剣を突き出す。

エイト「[重力変動]」

葉山が一気に俺の元に落ちてきて俺の短剣が腹に刺さった。

「ぐはっ……か…らだ……が……う…ごかな…」

エイト「[四位一体](クワドループ)」

「ぐああっ!?」

[青炎][雷炎][暴風嵐][豪雪]による四位一体攻撃で葉山の体はズタボロになった。

「な…ん…なんだ……お…まえは…!!」

剣を俺に飛ばしてくるが短剣で弾いて[青炎]で燃やした。

「っ!?」

エイト「終わりだ。じゃあな葉山」

[守護之王][四位一体]

結界で覆って攻撃を葉山に集中させる。

「ぐああああああっ!?!?」

そして、葉山は灰も残さず消えた。 

 

エイト「あ、イングラシアでも寄ってくか」

何も言わずに飛び出しちまったし、いなかった分授業でもするか。

 

俺はイングラシア王国へ空間移動で向かった。

 

ー翌日ー

 

俺は扉を開ける。

エイト「よう」

5人「「「「「!?先生!!」」」」」

ケンヤ「もう帰ったんじゃないのかよ!」

エイト「いや、何も言わずに行っちゃったからな。少し顔出そうと思って」

リョウタ「先生は何してたの?」

エイト「あー、よし」

俺はスライム姿になる。

アリス「!あんたもスライムなの!?」

あんたもってことはリムルも教えたのか。

エイト「そうそう。それでな俺転生者なんだよ…」

そして、俺は何があったかを話した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

なんか…みんな涙ぐんじゃったよ。

エイト「あーそういうわけだから2週間くらいはここにいるつもりだからよろしくな」

 

そんなわけでリムルなしの教師生活が始まった。あ、ユウキには昨日話して許可もらってるから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

2週間と少し経って俺は帰ることにした。

エイト「んじゃ、またな」

アリス「もう、あんたもあっさりしてるんだから」

エイト「別に会えなくなるわけじゃないだろ。休みになったら遊びに来いよ。じゃあな」

 

途中祝福(ギフト)がどうのとか言われて突然倒れたんだが起きたら小町からもらった[理解者](ワカルモノ)が究極能力(アルティメットスキル)[自由之王](リベル)に進化してたんだよ。なにリムルも魔王になったの?

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

俺は遠くまで来ると

エイト「この辺ならいいか」

[空間移動]

テンペストに戻った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リムル「さて諸君。今後のことを語る前に言っておきたいことがある。俺は、名実共に魔王になることにした」

エイト「んじゃ俺も」

リムル「…いたのかエイト!?」

シュナ「エイト様!」

エイト「約束通り帰って来たぞリムル、シュナ」

リムル「シュナから事情は聞いてる。帰って来たってことは」

エイト「死にかけたが勝ったぞ」

リムル「死にかけたのかよ…」

エイト「あーそれで、さっきの話だが。なんで魔王を名乗ることにしたんだ?自分は魔王だって外に宣言するんだろ?」

あ、今気づいたがこの場には鬼人…いやまて、ベニマルたち全員妖鬼になってるじゃん。

あ、それで皆さん勢揃いのようです。

ハクロウ「外に宣言…つまり十大魔王に名乗りをあげるということですかな」

ベニマル「理由を伺っても?」

ベニマルがニヤッと笑いながら言う。

リムル「ちょっと喧嘩を売りたい魔王がいてな。"魔王クレイマン"。奴は連合軍の襲撃の際ミュウランを操り被害の拡大を目論んだ。そのうえミリムを使い友好国ユーラザニアを滅亡させている。何が目的で暗躍してるのか知らないがこいつを許すことはできない。ここから先翻弄されてやるつもりはない。俺は魔王クレイマンを叩く。異論はあるか?」

ベニマル「ありません」

リグルド「ございませんとも」

シュナ「御心のままに」

ゴブタ「やるっすよ!」

「リムル様に従います」

カイジン「武具や防具の用意は任せてくれ」

クロベエ「んだ」

リムル「ソウエイ」

ソウエイ「は。速やかにクレイマンの情報を集めて参ります」

リムル「お、おう」

リムル「頼んだぞ。本格的な会議は諜報部の調査を待ってからだ」

:

リムル「三獣士の諸君。あなた方にも協力をお願いしたい」

アルビス「願ってもないことですわ。ジュラの森の盟主様」

スフィア「避難民を受け入れてくれた恩は忘れねぇ。オレ達はアンタたちを信頼している」

フォビオ「獣人は信頼には信頼で、恩には命を持って報いる。獣人全体としても俺個人としてもリムル様とエイト様には返しきれぬ恩を得た。好きなように使ってください。俺たちはこの命を持って貴方方に報いましょう」

3人は俺たちに跪く。ちょっと?俺帰って来たのにみんな反応薄くなーい?シュナとリムルしか反応しなかったよねー?

リムル「…わかった。お前達の命、カリオンに返すその時まで預からせてもらおう。今は休んで来るべき決戦に向けて英気を養ってくれ」

「「「ははーッ!」」」

:

:

エイト「それで、これどういう状況だ?」

リムル「あーお前には最初から説明しないとなのか(面倒くさいな。ラファエル。情報を整理してエイトに渡せるか?)」

智慧之王『可能です。個体名エイト=テンペストに個体名ヒナタ・サカグチとの戦いよりこれまでの情報を渡します』

俺の頭に情報が流れて来た。

エイト「[理解者](ワカルモノ)」

…………。

エイト「すまん」

リムル「え、どうしたんだいきなり」

エイト「俺がイングラシアに寄らずに帰ってればこんなことにはならなかったのに…」

リムル「イングラシアに?」

エイト「ああ、実はな…」

俺は何があったのかを話した。

:

:

リムル「ああ、そういうことか。別にエイトは悪くないだろ」

エイト「いや、でも俺があのまま帰ってれば…」

リムル「エイトはこっちの状況を知らなかった。なら仕方ないだろ。今はこうして皆無事なんだし大丈夫だろ」

エイト「…いや、でも…」

シュナ「エイト様はどうしてそんなに自分を悪く言うんですか?」

エイト「!?」

はぁ、悪い癖だな。俺の周りで起こることは俺のことでしかない…その考えはもうやめよう。

エイト「いや、悪い。そうだな。皆生きてるならそれでいいか」

シュナ「あ、それよりエイト様。返事を聞かせてください」

エイト「へ?何のことだ?」

すると、シュナの唇が俺の唇に重なる。

エリ「「!?」」

シュナ「忘れるのが早すぎますよ」

エイト「あ、えっと…」

おい、リムルが隣にいるだろ。なんで平然とできるんだよ。

シュナ「私と付き合って頂けないでしょうか?」

この子ちょっと大胆すぎない?

リムル「………」

やっぱ魔物の感覚はわからん。

エイト「俺でいいなら…まあ、なんだ、よろしく?」

シュナ「!はい!」

そんなわけで俺に超絶美女の彼女ができた。

これで俺も勝ち組だな。

リムル「……あー良いところ悪いんだが…エイト」

エイト「え、あ、はい」

リムル「ちょっと来い」

え、これ怒られる?

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

そんなわけで連れてかれたのはヴェルドラが封印されていた洞窟。

俺はそこに着くなりスライムボディーのまま土下座をした。

リムル「?何してるんだ?」

エイト「へ?あ、いや、怒られんじゃないかと思ってな…」

リムル「怒ろうとは思ったがお前が反省してるならそれでいい」

あ、結局俺が悪いんですね。

リムル「今出してやるよ。ヴェルドラ」

エイト「え…」

すると、リムルから何かが放たれ土埃がまった。そして、その中から

「ククク…クハハハ」

俺たちは上を向く

「クァーーハハハハハ!俺様復活!!」

懐かしいな…この威圧感。てか、俺様ってなんだよ……。

リムル「いよぅ、久しぶり元気だった?」

ヴェルドラ「…せっかく復活したのに我の扱い軽くないか?」

エイト「相変わらずだな」

ヴェルドラ「しかし思ったより早かったな。まだまだ当分先だと思っておったぞ」

リムル「ユニークスキルが究極能力(アルティメットスキル)に進化してさ、解析能力が格段に上がったわけよ」

ヴェルドラ「ほうほうそんなことが」

エイト「あまり驚かないんだな」

ヴェルドラ「いやいやいや驚いておるよ!?我、のぞき見なんてしとらんし!!」

ヴェルドラ「しかし2年やそこらで覚醒魔王か。お前たちの成長ぶりは一体どうなっておるのやら」

リムル「ま、なんていうの?ほら、俺って天才ぽかったじゃん?仲間にも名前を付けると一気に進化したしね」

ヴェルドラ「このアホウめ。お前がホイホイ名付けても無事だったのは足りない分の魔素を我から奪っておったからなのだぞ?それで効率が落ちるから解放はまだ先だと思っておったわ。それに比べてエイトの方は賢明だったな。名付けをリムルに押しつけて自分の魔素は消費しないようにするとは」

いや、ネーミングセンスがないだろうからリムルに任せただけなんだけど。

ヴェルドラ「まぁ今更だ。こうして無事"無限牢獄"も破れたわけだし許してくれよ」

ヴェルドラ「…何かプレゼントでもくれるのなら許そう」

リムル「プレゼント?」

ヴェルドラ「そう…例えばシュークリムル「あ、そうだ忘れてた。お前にはギフトって届かなかったのか?」

あーあれか。

ヴェルドラ「む?」

魂の系譜とか言ってたからヴェルドラとの間にも繋がりがあるはずだよな。

ヴェルドラ「お、おおお!我のユニークスキル[究明者](シリタガリ)が究極能力[究明之王](ファウスト)になったぞ!!我の飽くなき探究心が願う究極の真理へ至る力だな!!」

リムル「あ、そういえばエイトからギフトが来てないけど何かあったのか?」

エイト「あー全部魔素に還元して妹をあっちに戻すのに使ったわ」

リムル「え、戻せたのか!?」

ヴェルドラ「!還すことに成功したのか!?」

エイト「まあ、相当な量の魔素を使ったからな。多分これ以降は使えねえよ」

10万を超える魔物へのギフトに、魔王への進化、自分のスキルを使った魔素の大量生産。これを使って初めて出来るような秘術だ。そう何回も使えるもんじゃないだろ。

リムル「そうか。あ、それじゃあ…ここで話しているのもいいけど、せっかく復活したわけだしそろそろ外に出るか?」

リムルは人型になって言う。

ヴェルドラ「…そうだな。では、我の肉体をどうするかだが…」

ヴェルドラは今思念体だからな。依代がないとエネルギーが拡散して消えちゃうんだったけどな。

リムル「ああ、それはなんとかなると思う」

エイト「ところでお前リムルが捕食する前は物質体(マテリアルボディー)持ってたよな?」

ヴェルドラ「うむ、あれは魔素で作り出した体だが、胃袋の中では不必要故、魔素に還元されておる」

へぇ…。

リムル「……ひとつ約束してくれないか?」

ヴェルドラ「ほう、なんだ?」

リムル「お前のでか過ぎるオーラを抑えて欲しい。町には人間もいるし弱い魔物もやってくる」

ヴェルドラ「…なるほど。わかったぞ約束しよう」

リムル「よし、ありがとな」

ヴェルドラ「リムルよ。お前は本当に王になったんだな。エイトはそうは思えんが」

エイト「おい」

リムル「まぁね。待ってろ、今用意してやる」

リムルの手から黒い霧が出てきて分身体を作った。

ヴェルドラ「おお…っリムルがもう1人出てきたぞ!」

リムル「俺の分身体だ」

ヴェルドラ「ふむ、進化して強化分身になってるな」

リムル「お、わかる?お前の依代にしてくれ」

ヴェルドラ「ほほぅ……ふむふむ……ふっクアハハハハ!良い依代だ。ありがたく頂戴するとしよう」

そして、ヴェルドラはリムルの分身体の中に入っていった。

:

リムル「は…?[暴風之王](ヴェルドラ)!?しかも究極能力って…」

ヴェルドラ「クアハハハ!!我、完全復活!!究極の力を手に入れたぞ!逆らうものは皆殺しだぁ!!」

リムルの姿を男性型に特化させた感じだな。

ヴェルドラ「礼を言うぞリムルよ!ついでにエイトも!再びお前達と相まみえる日が、こうも早く訪れるとはな!さすがは我が盟友だ」

ついでって…あ、

エイト「ところでさっきの台詞、なんでヴェルドラが知ってるんだ?」

ヴェルドラ「うむ、実はな…退屈だったんでお前の記憶にあった漫画とやらを読み込んでおったのだ!」

リムル「おいオッサン」

2年越しの友との再会は初めて会った時と同じようなノリだった。だから、強すぎるヴェルドラの気配に町が大混乱になっていたことなど知る由もなかった。



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20話

投稿遅れましてすみません!次も遅れる可能性が高いのでそのつもりでお願いします!


叡智之王「問。ユニークスキル[暗黒者](ウラニタツモノ)を最適化しますか?』

あーよろしく頼むわ。

叡智之王『ユニークスキル[暗黒者]をエクストラスキル[心無者](ムジヒナルモノ)を統合(イケニエ)に進化…成功しました。ユニークスキル[暗黒者](ウラニタツモノ)は

究極能力[暗黒之王](ハーミット)に進化しました』

は!?えっ…アルティメットスキルってそんな簡単に獲得できちゃうのかよ……。

あーえっとその[暗黒之王](ハーミット)だっけ?

叡智之王『是。その権能は「瞬間転移、影斬り、魂斬り、神速」以上4つになります』

随分なスキルだな。………。

俺はリムルの目の前に瞬間転移する。

リムル「!?えっ…お前さっきまでそこにいたよな?」

リムルが俺がさっきまでいた10m程横を指す。

エイト「そうだぞ」

リムル「…何したんだ?」

エイト「俺が新しく得たスキルの権能で少し試してみたんだ。なんでも瞬間転移ができるらしいから」

リムル「マジかよ…」

ヴェルドラ「能力の把握は済んだか。2人とも」

リムル「ああ」

エイト「終わったぞ」

リムル「そっちも上手くオーラを制御できるようになったじゃん」

ヴェルドラ「クァーハッハッハッハ!我にかかればこの程度造作もないことよ!」

エイト「んじゃ、そろそろ行くか」

ヴェルドラ「うむ」

リムル「しかし急に出来るようになったな。コツでも掴んだのか?」

たしかに。

ヴェルドラ「うむ、実はな…ヒントは聖典(マンガ)の中にあったのだよ。アレにはこの世の全ての叡智が収められておるようだな!」

リムル「漫画の知識かよ!」

ヴェルドラ「む?いかんのか?」

エイト「いや、悪くはないが俺たちの感慨を返して欲しいと思っただけだ」

そんな感じで話していると、洞窟の入り口で騒ついてる集団を発見した。

スフィア「そこをどいてくれ!」

なんの騒ぎだ?

ディアブロ「お断りします。リムル様とエイト様は付き添いは不要だとおっしゃったのです」

あの悪魔誰?

エイト「なあ、あいつ誰だ?」

リムル「ああ、俺が召喚した悪魔だよ」

エイト「よくあんな強いの呼んだな。上位魔将(アークデーモン)なんかとは比じゃないレベルで強いぞあいつ」

リムル「そうだよな。名前はディアブロだ。お前のことは伝えてあるからまあ、よろしくな」

スフィア「しかし、もう3日だぜ!?あの伝説の暴風竜が復活したんだろ!?主が危険かも知れねえってのに手をこまねいてるつもりかよ!?」

ディアブロ「煩いネコですね。大人しくしないと潰し「やめろディアブロ!それじゃあ仲裁になってねえ!」」

ベニマルがディアブロを止める。え、ディアブロさん怖い…。

ベニマル「リムル様とエイト様がご無事なのは間違いない。ただ、ヴェルドラ様が復活されたとなると我らとしても迂闊に動けないのだ。とにかくここは我々に任せて「あー皆スマン。心配かけてしまったみたいだな」!」

リグルド「リ、リムル様!エイト様!と…………誰?」

ヴェルドラを見てみんながそう思ったことだろう。

アルビス「とにかくご無事で安心いたしましたわ。何せ突然あの暴風竜ヴェルドラの気配が復活したのです。一体何が起こったのかと…」

エイト「あー、皆にも紹介しとくわ。こちらヴェルドラ君な。人見知りでぼっち気質があるけど皆も仲良くしてやってくれ」

ヴェルドラ「ば、馬鹿を言うな!我は人見知りではないしぼっちでもないぞ!ただ単に我の前に生きて辿り着けるものが少なかっただけなのだ!」

リムル「ホレ、自己紹介。オーラを抑えられるようになったおかげでかえって皆半信半疑だからさ」

ヴェルドラ「む、そうか、まぁよかろう。おほんっ…我は暴風竜ヴェルドラ=テンペストある!我が貴様らの主であるリムルとエイトとどういう関係なのか気になっておることだろう!知りたいか!?知りたかろう!!」

なんだよその自己紹介。てか、なんでみんなそんなに頷いてるんだよ。

ヴェルドラ「そうか、では教えてやろう!

友達だ!!」

「「「「「「「「友達!!」」」」」」」」

「わああああっ」

「友達!!リムル様とエイト様はヴェルドラ様と友達!!」

「友達!!」

やめてくれ…俺たちの方が恥ずかしいから…。

トレイニー「我らが守護神ヴェルドラ様。ご復活を心よりお祝い申し上げます」

ヴェルドラ「おう、樹妖精(ドライアド)か。懐かしいな。我が森の管理ご苦労であった!」

トレイニー「勿体ないお言葉です。精霊女王(エレメント)よりはぐれた私共を拾っていただいた御恩、返しきれるものではございません」

あーリムルの渡してくれた情報にあったな。ラミリスとかいうやつのとこにいたんだっけ?

「それで、その…そのお姿は?」

ドライアドの1人が言う。

ヴェルドラ「うむ、これはリムルが用意してくれた依代だ。リムルとエイトは我のオーラを抑え込む修行にも付き合ってくれなのだぞ?クァーハッハッハッ!」

ディアブロ「あの強大なオーラを抑え込む修行とは…さすがはリムル様とエイト様。後でその方法をお伺いしてみましょう」

ベニマル「俺は暴風竜と友達になる方法を聞いてみたい」

すると、ソウエイが空間移動で戻ってきた。

ソウエイ「リムル様、エイト様。ただいま戻りました」

リムル「ソウエイ」

ソウエイ「クレイマンの動向ですが…(何か大変なことがあったらしい)」

ソウエイは空気を読んだのか黙ってしまった。

ソウエイ「後にした方がよろしいでしょうか?」

エイト「いや、この恥ずかしい空気を変えたいから、調査報告は会議室で聞く」

リムル「この場にいない幹部全員を大会議室に招集してくれ。ついでにヨウムやカバルなんかも呼んでくるように」

ソウエイ「承知」

ソウエイは再び空間移動で幹部たちを呼びに行った。

ヴェルドラ「リムル、エイトよ。何かあったのか?」

リムル「ああ、今後の方針を決める準備が整った」

ヴェルドラ「ふむ。我にも手伝えることはあるか?」

エイト「ああ、もちろんある」

:

:

リムル「クレイマンが軍を?」

ソウエイ「は。進軍経路を見るに忘れられた竜の都を目指しているかと。その数およそ3万…」

エイト「あ、ちょっと待ってくれ。フューズたちが来たな」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

フューズ「お久しぶりですリムル殿、エイト殿。間に合って良かった」

え?何に?

フューズ「本隊の到着には今しばらくかかる。微力だが先に動けるものだけ連れてきた」

エイト「ええと…今日は何しにきたんだ?」

フューズ「ブルムンド王国と魔国連邦『テンペスト』の安全保障条約に従いはせ参じた。俺たちも対ファルムス軍の末席に加えてくれ」

………うん?

:

:

:

フューズ「は?終わった?どういうことですか!?ミョルマイル達の話ではファルムスの宣戦布告からまだ2週間も経っていないでしょう!?」

リグルド「使者を送ったのですが…行き違いになってしまったようですな」

リムル「ええと、聞いてくれるフューズ君」

エイト「あー次はガゼル王が来たぞ」

:

:

ガゼル「久しいなリムル、エイト。なんでも魔王になったらしいな」

リムル「まあね。色々あってさ」

エイト「今後については今から幹部連中と対策会議だ」

ガゼル「ほう、ならば俺も参加しよう。何かやらかすとは思っておったがまさか魔王とはな」

エイト「色々あったんだよ」

フューズ「…魔王…?一体どういうことです…!?魔王…?聞き捨てなりませんよ!?」

リムル「小便ならそこを曲がって「俺が知りたいのは便所の場所じゃないですよ!!」」

そりゃそうだな。

フューズ「リムル殿、エイト殿。真面目に答えて頂きたい。魔王になったとはどういうことですか?ファルムス軍との戦争が終わったことと何か関係があるのですか?」

リムル「…ガゼル王の言う通りだよ。エイトと理由は違うが必要があったから魔王になった。ファルムス軍はそのための生贄「待てリムルよ。知っているのなら俺にも聞かせてくれ。ファルムス王国軍が進行中なぜか行方不明になった。その理由をな」え…?いや待ってくれ。そうじゃなくて俺が…」

「オレもベスターからの報告でそう聞いたぞ。

"進軍中のファルムス王国軍が突然観測できなくなった""現在その原因を調査中てある"とな」

エイト「!」

そういうことか。ベスターは何があったか正しく伝えたはずだ。気分次第で万の軍勢を滅ぼせる個人は発射までに複数の手順を要する核兵器以上に恐ろしい。この人たちはリムルが二万の軍勢を虐殺した事実を有耶無耶にしようとしてるのだ。

リムル「あ、あー…フューズ君。というわけでファルムス軍は行方不明なんだ」

フューズ「……………」

流石に無理があるだろ。さっき生贄とか言っちゃってたし。

フューズ「はぁ…強行軍で疲れているせいか幻聴が聞こえたようだ。ファルムス軍は行方不明。なるほど了解した。だが、対策会議には俺も出席させてもらいますよ。リムル殿とエイトを信じていますが、だからと言って傍観は出来ない」

リムル「もちろんだ」

ディアブロ「もしも心配でしたら私にお任せください」

リムル「ん?」

どういうことだ?

ディアブロ「記憶の改竄は得意ですので」

怖っ……そんな笑顔で怖いこと言うなよ……。

リムル「フューズはいいよ。だがもし彼の部下が今の話を聞いていたらやってくれ。悪気なく言い回られても困るしな」

ディアブロ「承知しました」

ガゼル「リムルよ。貴様はあの男を信頼してるのだな」

リムル「ああ。向こうも俺たちを信じてくれているのがわかったからな」

ガゼル「それにしてもエイトは相変わらずリムるに任せっきりだな」

エイト「うっ…まあ、リムルはこういうのは得意そうだしな。俺がやって下手するよりはマシだ」

ガゼル「ふん。ならば問題はそちらの者どもよな」

あーさっきからそこにいた知らない人たちか。

「これはこれは、地底に住むのがお好きな帝王ではありませんか。意外ですな。臆病なあなたが魔王に肩入れなさるとは」

ソーカ「リムル様、エイト様。彼らは魔導王朝サリオンの使者だそうです。なんでも公爵家の当主様だとか」

エイト「公爵!?なんでそんなお偉いさんがこんなとこにわざわざ来るんだよ!?」

ソーカ「それがどうやらエレン「リムル…エイト…そうですか。貴殿方が、貴様らが私の娘を誑かした魔王リムルとエイトですか!!」

はぁ…火炎と爆発の合成魔法…魔法制御を自前で行う高等術式か…まあ、ハリボテだろうけど。

俺は結界で公爵様を覆って魔法を消した。

「!?」

エイト「ハッタリは通じな「スパンっ!!」!?」

公爵様がエレンに頭を叩かれた。

エレン「ちょっとぉ、何しに来たのよぅパパぁ!」

パ……

リエ「「(パパぁ!?)」」

「いやー申し訳ない。娘が魔王に攫われたと報告を受けた者で慌ててしまったのです」

ガゼル「あやつめ。親バカは相変わらずだな」

リムル「知り合いかよ!」

エレン「リムルさんエイトさんパパを紹介してもいい?」

リムル「あ、ああ頼む」

エレン「こちら魔導王朝サリオンの大公爵、

エラルド・グリムワルトです」

エラルド「どうぞお見知り置きを。ジュラの大森林の二大盟主にして魔物を統べるものよ」

リムル「…リムル=テンペストです。こちらこそよろしく」

エレン「エイト=テンペストだ。あーよろしく?」

リムル「それで、要件はエレンさんの件のみですか?」

エラルド「当然…そんな訳はない。今後貴国との付き合い方を考える上でも自分の目で見ておきたかったのだよ。娘が気に入った…お2人という人物をな」

エイト「で、判定は?」

エラルド「まだわかりません。ただ、ひとつ。ハッタリが通じる相手ではないということを理解しました。まさか、術式を展開して1秒足らずで気づかれ消されるとは…。試させてもらった非礼をお詫びします」

エレン「ご無沙汰しています。ガゼル王」

ガゼル「エリューンか?見違えたぞ」

エラルド「エレンちゃんに手を出すことは許さんぞガゼル!!」

できる男なのか親バカでポンコツなのか判断に困るな…。

:

エラルド「そうでした。失礼ついでと言ってはなんですが、先程言っておられた会議に私も参加させて頂けますかな?」

エラルドの左頬にはエレンに叩かれた赤い手跡が残ってる。容赦ねぇエレン…。

リムル「わかりました。席を用意します」

エラルド「感謝します」

リグルド「リムル様、エイト様。いつもの会議室では入りきれないやもしれめせん。別の場所を確保いたしますので今しばらく…「おおいリムルにエイトよ。もう読み終わってしまったぞ。続きはないのか?」」

エイト「はぁ、後にしろよなヴェルドラ。今来客中なんだよ。ほら」

俺は漫画よりは長く楽しめるラノベをヴェルドラに放り投げる。

ヴェルドラ「感謝するぞエイト」

フューズ「リムル殿?エイト殿?そちらの方は…?」

エイト「あー驚かないで欲しいんだが…盟友のヴェルドラ君だ」

ヴェルドラ「ヴェルドラである!暴風竜と呼んでも良いぞ!」

「「「「「暴風竜ヴェルドラ!?!」」」」」

ガゼル「ちょっと待て話があるぞリムル!!エイト!!」

フューズ「私もだ!説明を要求しますよ!!」

会議はいつになったら始まるや否や…。




エイト=テンペスト
称号:魔王
魔法:イングラシアでの2週間で蔵書を読み漁ったので元素魔法はほ全て使える。スキルで掛け合わせて自分の好きな魔法を作っているため元素魔法とはかけ離れている魔法を使える。

ステータス
究極能力(アルティメットスキル)

[叡智之王](ウィズダム)
[智慧之王](ラファエル)と殆ど同じ。
・箱(ポケット)(無限収納に同じ)
・前と同様伝説、神話等に詳しい。


[天災之王](カタストロフ)
・自然発生(魔素を体内発生させる)
・重力変動(周りの重力を操る)
・地鳴り(地震的な)
・自然成長(自然物の成長速度を大幅に促進させる)
・雷火水氷雪風熱冷etc。これの組み合わせで戦う。(例:青炎、雷炎等)
・四位一体(クワドループ)(上記のものを4つ組み合わせて攻撃する。これを通すことで通常の4つ同時攻撃よりも威力が上昇する)
・神出鬼没(魔力圏内のどこからでもスキル、魔法、自分を出せる。完全結界内含め)
・新たに霊子の操作が可能になった。
※[災禍]よりも威力は大幅に上昇している。


[守護之王](ゲニウス)
・魔法遮断
・スキル遮断
・結界内スキル魔法無効("術者"が魔法、スキルを使用できなくなる)
・魔素遮断
・対象の許可がある、または意識がなければ対象を魔素に還元できる。
・特殊効果無効
・(物理的にも高い耐久力を持つ)
・霊子遮断



[自由之王](リベル)
・他者からの支配及び情報の書き換えなどを無効化。
・真偽確認(相手の言っていることが嘘か誠かわかる。究極能力になったことにより言っていることだけでなく行動の真偽も確認できる。(例)エラルドのハリボテの魔法を見抜くなど)
・未来予知(相手、または周辺の次に起こる行動(現象)を知ることができる。※3秒後まで)
・思考加速(400万倍)
・絶対理解(物事の状況等を正確に理解できる)


[救済之王](サルヴァーレ)
・完全回復(精神体(スピリチュアルボディー)の損傷を完全に回復させることもできる。これにより空腹もリセットすることができる。※スライムには意味なし)
・救済(呪い、精神支配、情報書き換えなどを行われた者(自分含め)のそれらの異常を消す)(その他にも後天的に起きた身体への異常または変化などを取り消せる)
・物理攻撃を除いた自分へ害のあるものを全て無効化する。
・他にもスキルの制限効果を受けない等。


[暗黒之王](ハーミット)
・瞬間転移(魔力有効範囲内のどこへでも瞬間転移できる。回数制限はなく、魔素(エネルギー)も殆ど減らない)
・影斬り(影を斬ると、その影の本体も同じ場所が斬れる)
・魂斬り(相手の魂を斬れる。相手よりも体内魔素量が多ければ関係ないが、相手の方が多い場合は相手の精神体(スピリチュアルボディー)の損傷具合で決まる。これにより精神体(スピリチュアルボディー)への直接攻撃を可能)
・神速(その名の通り身体速度が跳ね上がる。およそ使用前の10倍)



エクストラスキル[絶対記憶](完全記憶の上位スキル)
・感覚記憶(叡智之王必須)
・永久記憶

エクストラスキル[無限詠唱]
・同時に複数の詠唱をする場合その分だけ口を必要とするが、その制限を外せる。(口があるという事実を残す)
・詠唱破棄(無詠唱での魔法の使用が可能)
・既知の魔法であればいくらでも同時詠唱できる。エイトがこれまでにやった最大は二十五重詠唱。
・どんな魔法でも同時詠唱することができる。


・痛覚無効
・熱変動無効
・重力変動無効
・自然影響無効
・状態異常無効
・自然現象無効
・電流無効

常用
・万能感知
・無限再生
・熱源感知
・音波感知


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第三章 新魔王誕生
21話


ガゼル「なるほどな…つまり2年前の暴風竜消失は貴様らが原因だったと」

リムル「そういうことになるのかな」

俺たちが洞窟で遊んでるうちに世界では大騒ぎになってたんだな。

エラルド「新たな魔王が2人も出現して手一杯だというのにこの上暴風竜などと…」

ガゼル「西方聖教会が黙ってはおるまい。何せあそこは暴風竜を特に敵対視しておる」

エラルド「でしょうね」

ガゼル「復活すれば即座に気付くであろうな」

リムル「なぁ、ガゼル王。俺たちが西方聖教会と事を構えることになったらどっちに付く?」

おい、それを聞くなよ。可哀想だろガゼル王が。

ガゼル「それを聞くかリムルよ。ドワルゴンは西方聖教会に何の義理もないのでな。友好国の魔国連邦(テンペスト)を支持しない理由はない」

リムル「そうか。兄弟子がそう言ってくれるなら心強いよ」

ガゼル「貴様はもう少し腹芸を覚えよ。これが密談で良かっぞ…」

リムル「あ、はい…」

エラルド「他の国はどう判断するかわかりませんよ?戦争だといっても流石に戦況が一方的過ぎます。事情も経緯も知る術のない大衆から見れば、二万の死者を出した魔王となれば邪悪に映るでしょう。西方聖教会から"神敵"に認定されれば…西側諸国は敵に回ると思っておいた方がいい」

そうなれば友好国の立場も厳しいものになるなし…それは困るな。

リムル「魔導王朝サリオンとしてはどうお考えですか?」

エラルド「お答えしかねますね。今の段階では…ただ、エレンなのでしょう?貴殿に魔王化を促したのは。である以上、静観は出来ないのです。戦争被害の状況が西側諸国に広まれば我が国は厳しい立場に追い込まれる」

ガゼル「いや、その点については安心しろ。事実が広まることは一切ない」

どういうことだ?

エラルド「どういう事だガゼル?」ガゼル「死体は全て消え捕虜を除いて生存者もいない。そうだなリムル?」

リムル「…ああそうだ」

あーそういうことか…。

エイト「それで、どういう筋書きをでっち上げる気なんだ?」

ガゼル「…清濁併せ呑む覚悟は覚悟が決まったようだな。2人とも。それでいい、王たるものは悔いではならんのだ」

:

:

シュナ「では、既に皆様自己紹介はお済みですので各国の代表者様のご紹介だけさせて頂きます。

武装国家ドワルゴンより国王陛下ガゼル・ドワルゴ様。

獣王国ユーラザニアより三獣士が筆頭アルビス様。

ブルムンド王国よりギルドマスター兼情報局統括補佐フューズ様。

魔導王朝サリオンより大公爵エラルド・グリムワルト様。

最後にジュラ・テンペスト連邦国より二大盟主改め魔王陛下リムル=テンペスト様、エイト=テンペスト様」

ちなみに、ヴェルドラには顧問として参加してもらっているがこいつが喋ると混乱が極まるので聖典(マンガ)を渡しておいた。

リムル「いいか、邪魔だけはするなよ」

ヴェルドラ「うむ…」

もう没入してるしこれで大丈夫だろ。

リムル「では始めようか」

フューズ「前にシズさんと同郷だと伺いましたが…」

そして、リムルは自分が転生者であることから魔王になるまでをかいつまんで話した。

:

:

リムル「とまあ、そんな流れでファルムス軍には生贄になってもらった。そうして俺は魔王になったんだよ」

エイト「ねぇ、これ俺も話さなきゃダメ?」

リムル「うん」

うんって…はぁ、わかったよ。

エイト「あー俺はリムルとは少し違うんだが…」

と、そんな訳で俺も自分の今までをかいつまんで話した。

:

:

エイト「まあ、そんな感じだ」

葉山とか女神とか面倒だからそこは省いたが、この大陸に害が無いことは伝えておいた。

リムル「でだ、事実は今言った通りだが、公にする筋書きは大きく変える」

すると、周囲がザワつき始めた。

ベニマル「どのような理由でどんなふうに変えるのですか?」

ガゼル「返り血で染まった手で有効を求められてもその手を取れる者はおらぬ。リムルとエイトの望みが人と魔物の共存共栄なのだとしたら恐れられるのは悪手だろう。それは配下がやったと言っても同じことだ。だが…"暴風竜"の仕業ならば話は別だ。その存在はもはや伝説でありその行いは紛う事なき"天災"だ。受け入れる以外の選択肢はない」

ヴェルドラ「"天才"か。ふっ…」

黙っててくんないかなオッサン。

エラルド「私もこの筋書きを支持します。娘のせいで新たな魔王が誕生したと恨まれるより魔王が誕生したお陰で暴風竜と交渉が可能になった」

エレン「パパ…」

エラルド「そう広まる方が都合が良い」

エレン「それってなんか姑息ぅ」

エラルド「!!」

可哀想に……娘のために頑張ってるのに…。

リムル「反対意見があれば言ってくれ。特にヴェルドラには俺の罪を背負わせてしまうが…」

ヴェルドラ「何も問題ないぞ。我はお前たちの業(カルマ)を共に背負うと決めていた。暴風竜の威、存分に使うがよい」

リムル「……おう、ありがとうな」

「本当に暴風竜と友達なんだな…」

ガゼル「所でリムルよ。捕虜はどうするのだ?そやつ等の口から真実が語られないとも限らんぞ」

リムル「…ああ。ファルムス王国には一度滅んでもらう」

エラルド「…ほう。それはまた直接的ですね。戦争を仕掛けるおつもりか?」

リムル「ある意味そう言える。だが軍は用いない。まずは現王を解放し我が国への賠償を行わせる」

フューズ「しかし言っては何だがあそこは一部の貴族を除いて腐ってますよ。賠償にまともに応じるとは思えんのですが…」

リムル「それが狙いだよ。賠償問題は切っ掛けに過ぎない。本当の目的はファルムス王国内に内戦を起こさせることだ」

「内戦…?」

ヨウム「……」

ヨウムは静かに席を立った。 

リムル「一度滅ぼし新しい国に生まれ変わらせる。英雄ヨウムを新たなる王に据えてな。

幸い彼は国民からの人気が篤い」

ガゼル「小僧。あまり驚いていないな」

ヨウム「はは…旦那からこっそり聞いたんで」

「革命ということか」

「ファルムスは既に二万の兵を失っている」

「或いはなし得るかもしれんが…」

「しかし、そううまく…」

すると、ガゼル王がヨウムに向かって英雄覇気を仕掛ける。

ヨウム「うおっ」

だが、ヨウムは歯を食いしばり倒れなかった。

ガゼル「ふん…根性だけは大したものよ。だが覚悟はあるのか?」

ヨウム「…俺を信じて託されてこの役目。やるからには全力でやるさ。惚れた女の前でカッコつけたいのは男として当たり前だろ?」

グルーシス「ぶはっ」

ミュウラン「バカ…」

おい、ガゼル王も固まっちゃっただろ。

すると、グルーシスも立ち上がり

グルーシス「ドワーフ王よ、俺も保証する。コイツは馬鹿だが無責任ではない。あんたのように英雄王と呼ばれるその時までこのグルーシスが見届けよう」

ガゼル「…で、あるか。ならば良い。何かあれば俺を頼るが良い」

ヨウム「…心強い」

リムル「さて…この件について他に何かあれば意見を言ってもらいたい」

フューズ「いいですか?」

リムル「フューズ」

フューズ「その件、ブルムンドとしても協力できるかもしれません。ファルムス王国にミュラー侯爵というブルムンド王の遠縁に当たる方がいらっしゃいます。彼ならば交渉が可能だと思いますので上手くいけば便宜を図ってもらえるかと」

リムル「本当か!」

エラルド「プハハハハ!面白い。これは愉快だ!国を跨いで本音で語り合うなどと!これでは警戒している私の方が滑稽です。フューズとやら、一つ聞こう。貴国は何故…魔国連邦(テンペスト)と国交を結んだのかね?」

フューズ「それはどういう…」

エラルド「今の君はブルムンドの公人として

ここにいるわけだろう?私はブルムンド王の思惑が知りたいのだよ。失礼だが貴国は大国とは言い難い。有益な取引だけ行いつつ西方聖教会の出方を見ていても良かったのでは?少なくとも国交を結ぶ必要はなかったと思うのだがね」

すると、フューズは苦い表情をしながら頭をかいた。

フューズ「そんなもんわかってますよ…ええ、そうですよエラルド公。俺もベルヤード…知り合いの貴族も同意見でした。ですが…」

 

ブルムンド王『信頼関係を結び共存共栄の関係を築く。それしかない』

フューズ『し、しかし…』

ブルムンド王『豚頭帝や暴風大妖渦を退ける国だぞ?仲良くせんと我が国が滅ぶじゃろうが…!!』

ブルムンド王は左手を右手で包み、手汗をかき震えながら言う。

 

フューズ「というのがリムル殿とエイト殿がブルムンドに来られる前の王の言葉です」

やっぱりあの国王…見た目に反して曲者だな。

フューズ「結果としてこの選択は正解だった。ブルムンドはルミナス教への信心が薄い。命運を賭けるなら西方聖教会ではなく魔物の主たちを信じよう…と。ま、それが理由です」

エラルド「なるほど…つまり生存戦略として西方聖教会よりテンペストを選んだ。という事ですか。すまなかったねフューズ殿。お陰でよく理解できましたよ」

ガゼル「小狡いなエラルド。他国を試さずとも俺がリムルとエイトを信じているのだから疑うまでもあるまいよ」

エラルド「それを言うがなガゼル。魔物の国との国交となるとそう簡単には決めかねるのだよ」

ガゼル「…で?決断は下せたのだろう?」

エラルド「私なりに結論は出ているがね。それを答える前にリムル殿とエイト殿自身にひとつ伺いたい」

エレン「ちょっとぉパパ!勿体ぶらずにさっさと答えてよぅ!」

カバル「ちょ、お嬢様今は不味いですって!」

公爵形無しだな…。

エラルド「エレンちゃん今大事なところだから…」

エレン「??」

リムル「…それで、なんだって?聞こうかエラルド」

エラルド「(魔王覇気…!なるほどこれは凄まじい…)」

演出臭いな…。まあ、いいか。形無しだったところ雰囲気も出たし。

エラルド「…では魔王リムル、魔王エイトよ。お2人は魔王としてその力をどう扱うおつもりなのか?」

なんだそんなことかよ。

リムル「なんだそんなことか。俺は……俺たちは俺たちが望むままに暮らしやすい世界を創りたい。出来るだけ皆が笑って暮らせる豊かな国を」

エイト「ま、そんな簡単にいかないんだろうけどな…はは」

エラルド「そ、そんな夢物語のようなことを…っ本気で実現出来るとでも!?」

エイト「ああ、できる。そのための力だからな」

リムル「力なき理想は戯言だし理想なき力は空虚だろ?」

エイト「俺たちにただ力だけを求める趣味なんてねーよ」

エラルド「…は、ははは…ははははははっこれは愉快ですな。魔王リムル、魔王エイトよ!(エレンちゃんが懐く訳だな)。貴方方が覚醒できた理由が理解できた気がします」

すると、エラルドは頭を下げて、

エラルド「失礼しました。私は魔導王朝サリオンよりの使者として貴国…ジュラ・テンペスト連邦国との国交樹立を希望致します」

リムル「その話是非ともお受けしたい。こちらからも善き関係を築きたいと思っていた」

そして、周りから歓声が上がった。

:

ガゼル「初めから魔国側に付くと決めておったくせに、この狐め」

エラルド「暴風竜がいる時点で敵対は有り得んがね。最後の決め手は2人の魔王としての在り方さ。まさかいきなり呼び捨てで威圧されるとは思わなかったがね」

リムル「申し訳ない。エラルドさん…殿?」

エラルド「個人的な会話ならさんでも殿でも結構です。ですが公的な場では名前と役職で呼んでください」

リムル「すみません…」

だが、エラルドさんは手を出しリムルの謝罪を止める。

エラルド「ああいう演出はとても効果的だ。どんどんやるといい」

リムル「…感謝するよエラルド公」

良い人だな。

リムル「よし、一旦休憩入れよう」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「若い魔物2人が魔王を名乗った?」

「はい。それを理由に魔王達の宴(ワルプルギス)が提案されました。発議はクレイマン様。賛同者はミリム様にフレイ様です」

「ミリム……相変わらずバカの考えはわからんな」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

休憩中に街道について話し合うと、会談が再開する時間になった。

リムル「さて、休憩を挟んでリフレッシュしたところで、会談を再開する。まず話しておきたいのが西方聖教会への「あ、ちょっと困るだす!今は偉い人たちの会談中で…っ!」!?」

なんだよあの小さい妖精…。

ラミリス「話は聞かせて貰ったわ!この国は滅亡する!」

リリベ「「「な、なんだってーーー!!」」」

ディアブロがラミリスをつまむ。

ディアブロ「リムル様。この巫山戯た羽虫にどのような処分を下しましょう?」

リムル「いや…えっと…」

それ魔王だよね?ラミリスとか言ったっけか…。

ラミリス「何よ!何なのよ!アタシが何をしたって言うのさ!」

フューズ「リムル殿あちらの妖精は…」

リムル「ああ、ラミリスって言う知り合いで、あんなナリだけど一応魔王らしい」

ラミリス「あんなナリってどう言う意味よ!?アタシはねぇこの国にとって重大な情報を」

リムル「はいはい、後で聞いてやるから」

流石に可哀想になってきた…それに…

エイト「リムル。会談の方は頼む。ラミリスの話を聞いてくる」

リムル「ん?いいけど…ろくな事ないんじゃないか?」

ラミリス「ちょ!?ろくな事ってなによ!?」

エイト「いや、結構重大なことらしいしな。スキルでしょうもない事を言いに来たわけではないのはわかってる」

リムル「ま、お前が言うなら信じるよ」



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22話

エイト「あー初めてだったな会うの。エイト=テンペストだ」

ラミリス「あんたがリムルの言ってた…」

エイト「それで?話って何だ?」

ラミリス「もう一度言うわ!この国は滅ぼ「それはもういいから」…」

エイト「それで、なんでそうなるんだ?」

ラミリス「魔王クレイマンの発案でね、魔王達の宴(ワルプルギス)が発動されたのよ!」

エイト「ワルプルギス?」

ラミリス「ええそうよ魔王達の宴(ワルプルギス)!全ての魔王が集う特別な会合なの。あんたたち…魔王を名乗っちゃったんでしょ?」

エイト「後悔も反省もしてないけどな。つまり、俺たちへの制裁が目的で会合が開かれるわけか…」

ラミリス「名目はそれなんだけど、本当はそんなことじゃ理由にならないのよ。制裁するならご自由にってのが我々の業界での暗黙のルールなの」

業界ってなんだよ…。

ラミリス「でも、いーい?よく聞いて。アタシの所に届いた報せではクレイマンは既に軍事行動を起こしてるの!アンタたち全員始末する気満々なのよ!もう制裁どころじゃなくてこれは先手を取られた戦争なの!!」

エイト「わかったから大声出すなって。今大事な話中なんだから」

ラミリス「なんでそんな冷静ななのよ!?」

エイト「別に。仕掛けてきたなら全員消せばいいんだろ?むしろこっちから仕掛けてあとから他の魔王に問い詰められる方が不味いだろ。先にやられたなら正当防衛ってことでクレイマンの自業自得になるんだよ」

ラミリス「消すって…あんたそんなことできるの?」

エイト「できる。だけど、やる気はない。やらなくちゃいけなくなったらやるだけだ」

リムル「話は終わったぞ。そっちはどうなんだ?」

エイト「今全員に伝達する」

リムル「は?」

俺は魔法を使ってこの場にいる全員の頭の中に今の話の要点を流した。どうやったかって?いろんな魔法掛け合わせたんだよ。便利そうだから作ったけど役に立ったな。

リムル「…へぇ…今までずーっと裏でコソコソされてて気に食わなかったんだ。ようやくわかりやすい敵意を向けてくれたな。魔王クレイマン」

:

:

シュナ「以上で本会談のまとめを終了致します。議事録は後ほど。また今後新たな情報は分かり次第お知らせします。皆様お疲れ様でした。大変有意義なご意見を頂けたこと感謝いたします」

リムル「えー…では、本日は誠にありがとうございました」

後の世で"人魔会談"と称されるぶっつけ本番の会談はこうしてしめやかに締め括られた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リムル「ふー…いつの世もお偉いさんとの会談は肩が凝るな」

リムルはシオン、俺はシュナの膝の上にスライム姿で乗っかっている。

ラミリス「そういやアンタらスライムだったね」

リムル「ああ、ラミリスに見せるのは初めてだったか」

エイト「で、聞かせてくれるよな?魔王達の宴(ワルプルギス)について」

:

ラミリス「元はただのお茶会みたいなものだったのよ。アタシとギィとミリムだけの集まり。そのうち後から魔王になった子たちも参加するようになってね。揉め事があれば多数決で決めたりする場にもなったの。んで、今から千年前に人間が"ワルプルギス"って呼称を広めたわけ」

…なんか、認識が軽すぎて当てにならねえな。

ラミリス「んまぁ、あの時は…大戦で混乱してた頃だし人間からしたら魔王が集まって何か話し合ってるってるなんてそれだけで不吉よね」

リムル「大戦があったのか」

ラミリス「そ、五百年周期で発生する天魔大戦」

…ん?千年前に呼称が広がってそれざ五百年周期で発生する大戦中ってことは…

エリ「「おい、それって近々大戦が…」」

ラミリス「ってそんな過去のことは一旦置いといて」

置いとくなよ。

ラミリス「今大事なのは今回の魔王達の宴(ワルプルギス)よ!リムル、エイトアンタら……今回の魔王達の宴に参加するつもりなの?」

リムル「魔王達の宴には当然クレイマンも来るんだろ?こっちから出向いてみるのも面白いかと思ってさ。飛び入りはダメか?」

ラミリス「うーん…多分大丈夫だと思うけど」

シュナ「……危険…ではないでしょうか」

リムル「シュナ」

シュナ「クレイマン以外にも敵がいないとは言い切れません。そんなところにエイト様とリムル様が出向かれるなど…」

ゲルド「オレもそのように思います。リムル様とエイト様が御身を危険に晒さずともクレイマンが魔王達の宴に参加するのなら、奴が城を開けるという事。むしろ攻め入る好機ではないでしょうか」

エイト「それはそうなんだが…」

ベニマル「…ミリム様ですね?」

ソウエイ「確かに。ミリム様の不可解な動向の裏にはクレイマンの影が見え隠れしている。だが操られているのか自身の意思なのか決め手に欠ける」

シオン「ミリム様がリムル様とエイト様を裏切るなど絶対に考えられません!」

ソウエイ「俺とてそう思っているが相手は海千山千の魔王だ。その心を読み切ることは不可能だろう」

シオン「いいえ!根拠はありませんがあれは絶対本気で懐いてました!!」

流石シオン。潔いな。

ベニマル「ここでいくら話したとて俺達が真相を知る術はない。となると…」

リムル「直接問いただすしかないな。ミリム自身に」

あ、そういえば言ってなかったがミリムが俺のいないうちにユーラザニアに宣戦布告して滅ぼしたんだよな。カリオンさんは連れ去られちゃうし色々あっちも大変だったみたいだ。

ラミリス「なるほどね。ミリムについてはアタシも変だなと思ってたのよ。いいわ!このラミリス様にまっかせときなさい!リムルとエイトの参加をばっちり認めさせてやろうじゃないの!」

リムル「ああ、頼むよ」

ラミリス「あ、そうだ。従者は2人までだよ!誰を連れていくか決めといてよね!」

はぁ、これはまた一悶着ありそうだ…。

ま、人選はっていうか誰も連れてかないけどな。リムルは知らんが。

リムル「なあ、エイト。全ての魔王がってことは…あいつも来るんだよな」

エイト「そうだろうな。あの…シズさんを苦しめた…魔王レオン・クロムウェルが」



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閑話:転スラ日記 1日記

時系列ガン無視なのでそこは気にしないでください!


これは…魔国連邦(テンペスト)でのとある日常の1ページである。

リムル「そういやこの辺って俺達以外にスライムいないの?会ったことないけど」

リムルがリグルドに聞く。

確かにな…見たことはないがいないこともないだろうし…。

リグルド「そうでありますね。今時分はあまり…」

リムル「ふーん」

ハクロウ「暑くなると見るかのう」

クロベエ「夏が近いって感じるべ」

あれ?戸部っぽいことに今気付いたんだが…気のせいか。戸部はあんな真面目じゃない。うん。多分。

シュナ「透き通った姿が涼し気でジュラの夏の風物詩ですね」

エイト「はあ」

ゴブタ「そうそう冷やして食うとウマいんすよっ!つるっと」

リエ「「!?」」

シュナ「あらいいですねー」

「フフフ」

ゴブタ「じゅるり」

リグルド「いやぁ珍味珍味」

エイト「リムル」

リムル「ああ」

俺はリムルと瞬間転移でこの場を離れた。

:

:

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ゴブタ「リムル様ー!エイト様ー!」

リグルド「先程の話は冗談でありますぞー!」

2人はリムルとエイトを探して町を歩く。

その頃俺は…

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

えぇ……スライムって食べ物だったのか……これが豚や牛の気持ちだったのか…やっと理解した…まさかあいつら俺らのこと食お…って流石にそれはないか。ていうかそんな家畜が1番上っておかしくね?やっぱ異世界は解らん…。

すると、ドアが開く。

シュナ「あ、やっぱりここにいましたか」

いや、でもそれってつまり食べられる可能性があるってことじゃ…!あれだけ慕っている風に見せて寝ている間にじゅるりと…マジかー俺魔王だよね?一応でも。酷くね?

シュナ「あ、あのー…エイト様?」

まあ、あいつらが俺を食うなんて万が一にもあり得ないけどな。

シュナ「むっ」

考えすぎだ考えすぎ。

と、少し考えていると……

エイト「」

なんでかなー?なんで僕の布団の中にシュナ様がいるのかなー?

シュナ「……」

エイト「あ、あのー…何故ここに?」

シュナ「……」

え、怒ってる…?

エイト「え、あーごめんね?」

シュナ「エイト様。私が来て声をお掛けしたのにずっとお布団に潜りっぱなしで何も返事をしてくれない。どういうことですか?」

早口で捲し立てるのやめて?マジで泣くよ?

エイト「いや…だって自分の種族が食べ物だって聞いたんだよ?流石に考え込むだろ」

シュナ「!…あの…あれ冗談です」

エイト「へ?」

シュナ「それで気を悪くされたとは…それは本当にすみませんでした」

マジかー本気で受け取ってしまったー!これは…異世界に来てまで黒歴史を作るとは…

エイト「あーなんだ。そんなに落ち込むなって」

俺はシュナの頭を撫でる。

シュナ「!///」

エイト「お前らよくゴブタの案に即席で乗れたな。逆に褒めたいくらいだぞ」

実際打ち合わせをしていなかったんだろうしあの以心伝心振りは見習いたいものだ。

シュナ「あ、ありがとうございます///」

エイト「ま、俺たちはこんなんじゃ嫌にならないしどんどんやっていいからな」

シュナ「はい!」

エイト「あ、すまん」

俺は撫でていた手を放す。

シュナ「あっ」

何故か名残惜しそうなシュナ。

エイト「ん?どうかしたか?」

シュナ「むっ」

シュナは俺の首元に手を回して唇を重ねてきた。

エイト「!?///」

シュナ「わ、私の気持ちくらい察して下さいよ///」

エイト「悪い」

俺はシュナを抱きしめ直して唇を付けた。

シュナ「ふふふ♪」

ほんと…こういうの恥ずかしいからやめてくれませんかね………。

シュナ「あ、そういえばエイト様は私で良かったのですか?」

エイト「え?」

シュナ「エイト様は主であるのに私1人をその…特別に扱うのは…」

エイト「はぁ…何言ってんだよ。あいつらがそんなことで何か言うと思うか?それに…その…お、俺も好きだったしな」

シュナ「!そ、そうですか…ありがとうございます///」

エイト「というか、お前の方こそ俺でよかったのか?」

シュナ「エイト様がいいんです!」

エイト「そ、そうか…」

なにこれ凄い気迫…。

シュナ「あ、そういえば砂糖なんですが近いものを見つけましたよ?」

エイト「え、今あるか?」

シュナ「はい。厨房に行けば」

エイト「んじゃ、行くか」

 

〜厨房〜

 

これか。

シュナ「前にエイト様に貰ったものと比べるといまいちですがこれまでで1番近いです」

エイト「そうか。じゃあ一口」

俺はそれを指で取って舐める。

あ、甘い。ただ…

エイト「甘いには甘いが……渋いな」

シュナ「はい。甘さだけなら同じだと思いますが渋みが」

エイト「よし。ここまで来たならできるな」

シュナ「え」

俺は叡智之王から様々な植物を出す。

シュナ「これは?」

エイト「俺が砂糖に欲しい性質を何かしら持っている植物だ。これをシュナの見つけた砂糖と魔法で統合する」

[無限詠唱][魔法操作]

魔法操作は無限詠唱使ってたら獲得したエクストラスキルで魔法の性質を操作できるんだよ。

エイト「自然系統魔法[統合]」

この魔法、自分の欲しい部分だけ統合される可能性は低いんだよな。ま、その為の魔法操作なんだが…。

シュナ「この魔法は…」

エイト「魔法操作で統合したくない部分を取り除いて確率を上げてるんだよ」

実質的には確率100%の筈だが… 上手くいくのか……。

数種類の植物が砂糖と混ざって形が変わる。成功だな。

エイト「よし」

シュナ「これは…砂糖でしょうか?」

シュナは俺の作ったサトウキビを指して言う。

エイト「おう。これを加工して砂糖にするんだが…今から教えるけどいいか?」

シュナ「はい」

エイト「と、その前に」

俺はシュナの肩を掴んで近くに寄せる。

シュナ「へ?」

瞬間転移でサトウキビの栽培予定地に向かう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

エイト「えーっとここでこのサトウキビって言うんだがこれを育てる予定だから」

俺はサトウキビを植えて自然成長でサトウキビを生やす。

シュナ「さとうきび?」

エイト「砂糖の原料だな。これを時期をずらして大量に生産することで…砂糖は高級品だって言う常識をぶっ壊す」

そして、大量にMAXコーヒーを生産して俺の部屋を、この国を埋めるんだよ…ククク。

シュナ「確かに…砂糖がこの国では高級品じゃないとなれば、回復薬に次ぐ魔国連邦の名産になりえますね(何か企んでる顔ですね…)」

俺はサトウキビを切って植えてを繰り返して大量に植えた。

エイト「よし、砂糖作るか」

シュナ「?そういえばここにこんな家立ってましたっけ?」

エイト「いや、俺がこの前建てた。仮設だが砂糖の加工場だな」

俺たちは中に入る。

エイト「で、これがクロベエに頼んで作ってもらった遠心分離機だ」

シュナ「えんしんぶんりき……なにをする機械なんです?」

エイト「俺も詳しくは分かんないが砂糖に加工するのに必要らしいからな」

設計図を叡智之王に書いてもらって紙に転写したのを渡しただけだからな。まあ、前の世界のとは少し違うが。魔法とか折り込んでこの世界に最適化して欲しいって叡智之王に言ったらなんかできただけで俺も詳しくは聞いてないんだよな操作方法しか。

エイト「じゃ、加工の仕方見せるぞ」

と、俺は一通りやってみせる。

:

:

シュナ「!」

魔法を利用して20分程度で作ってみせた。

エイト「舐めるか?」

俺は砂糖を入れた小皿を差し出す。

シュナ「あ、では」

シュナは指に砂糖をつけて舐める。

シュナ「!甘い」

エイト「てことで、これを大量生産してシュナのいる厨房にも卸すから」

シュナ「ありがとうございます!」

エイト「よし、てことで俺の目的を果たすためにも次行くぞ」

シュナ「え?」

またもシュナの肩を掴んで自分の方に避けせる。今度向かうのはコーヒーの栽培場。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

シュナ「ここは…コーヒーの」

エイト「おう。それと隣が牛鹿の飼育場だ。これからMAXコーヒー作るんだよ」

シュナ「まっくすこーひー?」

エイト「俺の大好物だ」

俺はドラゴニュートのラビルに声をかける。

エイト「少しコーヒー貰ってってもいいか?」

ラビル「エイト様!どうぞどうぞお好きなだけ」

まあ言っても2人分だけどな。

エイト「ありがとな」

そのあと牛鹿の飼育場から牛乳擬きを貰って厨房に向かった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

シュナ「それでMAXコーヒーはどのように作るのですか?」

エイト「まず練乳っていうのを砂糖と牛乳で作ってそれとコーヒーを混ぜたらMAXコーヒーが出来上がりだ。ざっくりと言えばな」

シュナ「れいにゅうとは?」

エイト「練乳な。まあ、作るから舐めてみ」

俺はさっそく練乳を作り始める。

:

:

エイト「ほい」

俺は練乳をシュナに差し出す。あーんしないのかって?するわけねーだろそんなリア充感満載なって彼女いる時点でリア充なのか俺…ぼっちだった頃が懐かしい。

シュナ「!なんですかこの素晴らしい飲み物は」

練乳を飲み物扱いって…いや、わかるよ?その気持ち。だけどシュナちゃんそれ糖尿病まっしぐらだよ…。

エイト「だろ?これをコーヒーに入れるんだ」

俺は練乳を作ってる間にドリップしたコーヒーに練乳とコーヒーと砂糖を入れて混ぜる。

シュナ「」

流石のシュナ様も俺の入れてる量に目をパチクリし始めてしまった。

エイト「これが美味いんだよ」

俺はシュナにコップを渡す。

シュナ「…いただきます」

気乗りしない顔だな…飲んで驚け!MAXコーヒーの素晴らしさを!

シュナ「!?こ、これは…っ!!」

エイト「どうだ美味いだろ?」

シュナ「私がこれまで出会ってきた甘い飲み物の中で1番美味しいです」

エイト「やっぱりな。これをこの国の全家庭の食卓に出るよう尽力するつもりだ」

そしていずれこの国はMAXコーヒー大国と呼ばれるのだ!クァーハッハッハッハ!ヴェルドラが移った…。

ゴブイチ「エイト様、シュナ様なにしてるんです?」

エイト「あ、ゴブイチ。お前も飲むか?」

シュナに次ぐ腕前を持った料理人ゴブイチだ。大体厨房にいて料理してるんだったな。

ゴブリン「…これは?」

エイト「ふっ、MAXコーヒーだ」

ゴブリン「まっくす…」

エイト「まあ、飲んでみればわかる」

ゴブイチはMAXコーヒーを飲む。

ゴブイチ「!甘いですね」

エイト「そういうものだからな。それじゃあ俺はリグルドのところ行ってくるから」

シュナ「あ」

俺はリグルドの元まで瞬間転移した。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

その後俺はリグルドに砂糖生産部門を設けるよう伝えて家に帰った。



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23話

ヴェルドラ「る……留守番…だと!?」

リムル「ああ。ワルプルギスにはシオンとランガを連れて行く。ヴェルドラにはこの町の防衛を頼みたい」

ヴェルドラ「なぜだリムルよ!?我ならば魔王どもにも引けを取らぬぞ!お前ならわかってくれるだろエイトよ!?」

エイト「え?何?聞いてなかったわ」

ヴェルドラ「なっ!?」

リムル「言ったろ?対クレイマン戦にはテンペストの全軍が出撃する。町の防衛を頼めるのはお前しかいないんだよ。親友」

ヴェルドラ「むぅぅ……(リムルのやつめ。そんな言葉で我が言う事を聞くとでも…)」

:

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ヴェルドラ「ふんっ」

ベレッタ「なんと強固な結界…!」

「流石ヴェルドラ様だ!」

ヴェルドラ「(聞いてしまった…)」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

その後リムルがラミリスの従者として付いていくトレイニーさんの人形(ドール)を作って帰ってきた。俺の従者?誰も連れてかないけど?何かあったら瞬間転移でもなんでもやり用はあるしな。むしろ誰か連れてって護れる自信がないしな。だって全魔王が集う場所らしいし…。行きたくねぇ……。

すると、俺に連絡が入った。

:

:

エイト「…わかった。別にいいけど無茶はするなよ」

リムル「何かあったのか?」

帰ってきたリムルが聞いてくる。

エイト「作戦中のベニマルだ。クレイマンの城を攻めるんだとよ。シュナまで加わって説得してきた。まあ、あいつらの実力なら問題ないだろ」

リムル「そうか。あいつらも中々自信家だな」

エイト「こっち来てから皆そうなせいで俺まで自信家になっちまったからな」

リムル「そうなのか?」

エイト「前と比べれば結構な」

リムル「まあ、クレイマンの城には気になることもあるしな。連れ去られたカリオンさんがいることだし」

それに…

シュナ『わたくしとて怒っているのです!』

シュナの気持ちもわかる。何か危険なら暗黒之王(ハーミット)で伝わるし助けに行けるから心配はないな。

ヴェルドラ「魔王か。何人かは戦ったこともあるぞ。二千年近く前だったか。我が戯れに滅ぼしたヴァンパイアの都があってな」

都を滅ぼすのが戯れって……。

ヴェルドラ「そこを統べる女吸血鬼が魔王の一柱(ひとり)だったと記憶しておる。ヤツめ滅茶苦茶ブチ切れておってな!いい遊び相手になってくれたものよ!」(*^◯^*)

ヴェルドラ「名はなんと言ったかな…ル、ルルス?いやミルスだっか?」

ヴェルドラとの関係を知られたら俺たちまで当たりがキツく…二千年前と聞くと大昔に聞こえるが長寿の種族だと短い感覚なんだろうな。

ヴェルドラ「遊び相手といえば巨人族(ジャイアント)の魔王ダグリュールだな。何度か喧たが勝負はついておらぬ」

ヴェルドラと対等の力を持ってる魔王か…敵には回したくないな。

ラミリス「そういえば師匠ってギィとは戦ったことないの?」

師匠とか…これも漫画の恩恵か…。

ヴェルドラ「む?……うむ、奴は遥か北方に居を構えておるしな。まぁあんな何もない所に行く必要もないのだ!」

リムルを引っ張りながら言う。

なんか誤魔化したな…。

ラミリス「そっかぁアイツ強いもんね。なんせ、ギィはこのアタシと同格!最古の魔王の一柱だからね!」

マズイ途端にギィとかいうやつが大したことないように思えてきた…絶対に油断しないようにしないとな。

ラミリス「あと2人が知らないのはディーノちゃんかな」

エイト「ディーノちゃん?」

すると、ランガが威嚇体制を取る。

シオン「どうしました?ランガ」

!来たみたいだな。

トレイニー「迎えが来たようですね」

リムルが人の姿になる。

リムル「ランガ大丈夫だ」

ランガ「しかし我が主」

リムル「魔王の招待なんだ。このくらい無礼で丁度いい」

そして、目の前が光、巨大な扉が現れた。

ラミリス「相変わらず仰々しいねぇ」

リムル「空間を繋げる扉か。凝ってるな」

すると、扉が開いた。

「お迎えに参りましたラミリス様」

ディアブロと同じ雰囲気…悪魔公(デーモンロード)か…。

ラミリス「久しぶりじゃんミザリー!相方のレインは元気?」

ミザリー「お陰様で変わりありません。そちらがリムル様にエイト様ですね?我が主ギィ様よりお連れするよう仰せつかりました」

ギィ…ラミリスの言ってた最古の魔王の一柱だったか。

ミザリー「どうぞこちらの門を通り魔王達の宴その会場へお進みください」

ラミリス「リムル、エイト先行くよ!」

ミリムにレオン、クレイマン…ヴェルドラと渡り合えるような奴らに悪魔公を従える魔王…

シオン「リムル様?エイト様?」

リムル「よし、行くか」

エイト「そうだな」

俺たちは文字通りの魔窟へと足を進めた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

扉を出るとそこには13個の席が用意されていた。

ラミリス「やっほーギィ。久しぶり」

扉と反対側、1番遠い席に座ってるのがギィだ。こいつ…強い…!ムラのある魔素量。オーラを制御できない未熟者に見せかけた偽装。解析能力に長けてない者は論外。偽装に気づくか否かで相手を篩にかけてるのか…。本当の実力は分からん、としか言いようがないな。

ギィ「座ったらどうだ?扉の前に突っ立っていたら邪魔だろう。踏み潰されても知らんぞ」

踏みつ…

後ろには巨人族がいた。

でか……。

ダグリュール「どいてもらえるか?小さいの」

リムル「あ、ああ…失礼」

ヴェルドラの言ってた喧嘩相手…巨人族の魔王ダグリュール。隠す気もないのか出鱈目な魔素量が溢れ出てる…初めて会った時のヴェルドラ見たいだな。

俺たちは席についた。

目立つ犬歯…今度はヴァンパイアか。ん?待てよ…従者のメイドさん…オーラがランダムに変質しててわかりにくいがメイドさんの方が魔素量が多いんじゃないか?

叡智之王『是。測定可能な範囲の解析において対象の魔素量は当代の魔王より多いと推測されます。魔素量の大小はあくまで参考程度にお考えください。戦闘を想定した場合技量の優劣がより重要な要素になります』

そりやそうだな。スキルを使わない縛りなら俺は今でもハクロウに一歩及ばない。

「ふぁぁあ」

欠伸…?誰だこの、気怠げな男…。

「あ、いよーっすラミリス。今日はまた一段とチビだな」

ラミリス「喧嘩売ってるわけ?」

「勝つのわかってるのにうるわけないじゃーん」

ラミリス「はー!?ディーノのくせに生意気なんですけど!?」

確か説明してもらう前に迎えが来たんだったな…。

ディーノ「ってあれ!?なんでお前従者を連れてるの?一人できた俺が格好悪いじゃん!」

おい、俺も格好悪いみたいに聞こえるぞそれ。

ラミリス「ふふんまぁね。この二人の前には無力だと知るがいいわ!」

ディーノ「なんだよボッチ仲間だと思ってたのに」

ボッチ仲間って…それボッチじゃないだろ。こいつボッチの風上にもおけねーな。

ディーノ「じゃあ壊してもいい?」

ラミリス「はぁ!?駄目に決まってんじゃん!!ギィに言いつけて鉄拳制裁の刑に処してもらうからね!!」

うん…なんとなく関係は掴めたな多分。

ていうか…隣のヴァレンタインには挨拶もせずに寝始めたしいいのかこんな自由で…。ん?待てよ…やはりここは俺も寝たふりをして解析鑑定をするべきか…?それなら気付かれにくいだろうし関わられない。一石二鳥だ。面倒事は全てリムルに押し付ける。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

すると、次は有翼族(ハーピィ)が入ってきた。ちなみに寝ようとしたらリムルに叩かれた。ごめんって…。

ん?なんだこの記憶に引っかかる気配は…シオンも気になってるようだしなんかな…あの有翼族の魔王の従者…どこかで…

叡智之王『告。解析鑑定の結果……』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして次は……

リエ「「(レオン・クロムウェル)」」

レオン「お前がリムルか」

リムルは立ち上がってレオンを見据える。うん、背が高いなレオンは。リムルがチビに見える。

リムル「…そうだよ。なんか用でもあるのか?魔王レオン」

レオン「…いいや。その姿を見てふと懐かしく思っただけだ」

リムルがレオンに一歩近づく。

リムル「…彼女を覚えているんだな。安心したよ。俺の姿を見て何も思わないようならこの場で殴っているところだった。シズさんは死んだぞ、レオン」

レオン「…知っているさ。だが殴られる謂れはないな。彼女は人間として生きることを望みそして死んだのだ。イフリートを受け入れ魔人となれば永らえることもできただろう。そうしなかったのは彼女の意思じゃないのか?まぁ、私は彼女を看取ってないので真実のところは知らんがね。だが、お前にも少し興味がある。招待してやるから文句があるのなら来たらいい。罠だと思うなら拒否してくれても構わないよ」

リムル「わかったよ。受けてやるから招待状でも送ってくれ」

レオン「ああ。そうしよう」

レオンについてはこれでいった…

レオン「もっとも…お前が…お前達がこの場を生き残れたらだがな」

ミリム…!

ミリムが誰かと一緒に入ってきた。

取り敢えずは元気そうだな。カリオンさんが行方不明とするとこれで八柱…となると隣のすかしたのが…

「さっさと歩けこのウスノロ」

クレイマンと思われるやつがミリムの頭を殴った。流石にこれは他の魔王達も驚いている。

ミリムは大人しく自分の席に着いた。

クレイマン「さて、本日は私の呼びかけに応えて頂き誠にありがとうございます。それでは始めましょう」

クレイマン…

クレイマン「ここに魔王達の宴の開催を宣言します!!」

楽に死ねると思うなよ。



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24話

魔王達の宴の開幕から数刻…クレイマンの弁論は続く。

クレイマン「そうして私は配下から証言を得たのです」

ちなみに俺はまともに聞くのが嫌になってやっぱり寝た。まあ、叡智之王先生記録取ってるから後で一気に記憶されるし問題ないだろ。

まあ、ここまでの話はまとめておくが…

『曰く、魔王カリオンは魔国連邦の主(リムル)に魔王になるよう仕向けた。魔王の座に魅せられたリムルは箔をつけるためにヴェルドラの封印を解くことを提案し、その生贄に選ばれたのがファルムス王国。まんまと焚き付けられたファルムス王国が侵攻。ある程度血が流れたところで思惑通りヴェルドラが復活しファルムス王国軍は全滅。これで魔王になれると喜ぶリムルにカリオンが告げる。「実は魔王には定員があってな。それはすでに満員なんだ。でも俺はどうしてもお前を魔王にしてやりたい。なぁリムルよ。共に魔王クレイマンを殺っちまおうぜ。そうしたら席がひとつ開く。これで晴れてお前も魔王の仲間入りだ」』

クレイマン「…と。この一連の経緯を魔法通話で報せてくれたのは私の部下のミュウランですが…残念ながら彼女はもういません。なぜなら…そこのリムルという痴れ者によって殺されたからです!」

いや…寝る前にひとつだけ。俺って槍玉に挙げられてなくね?定員の話を持ち込んだ時点で辻褄合わないじゃん。まあ、俺のことに触れてないからそれはいいのか…?

ダグリュール「おいクレイマンよ。話の真偽は一先ず置いておく。肝心のカリオンはなぜここにいない?若い魔人を問い詰めるより先に話を聞くべきは件の獅子王(ビーストマスター)ではないか?」

クレイマン「……それは無理なのですダグリュール。ご存知かと思いますが獣王国ユーラザニアは滅亡しました。カリオンの企みを知ったミリムが激昂し、そして国ごとやつを葬ったのです。それは私を慮っての行動だったのですが我々魔王の間には相互不可侵条約があります。証言以上の証拠が出なければ彼女の立場も危ぶまれる。故に私の軍を獣王国(ユーラザニア)跡地へと送り調査させているのです」

いや、実質侵攻だろそれ。それに自由之王(リベル)の真偽確認でこいつが嘘をついてるのはわかってるんだよ。

クレイマン「必ず企みの証拠を掴んでご覧に入れましょう。ですのでミリムの処分はお待ちいただきたい。…以上で私の話は終わりです。魔王を僭称する身の程知らずのスライムはこの場で始末するのが宜しいかと」

ミザリー「それでは次に来客よりの説明となります」

リムル「どっちが話す?」

エイト「リムルでいいぞ」

リムル「わかった。……クレイマン、だっけ?お前嘘つきだな」

クレイマン「何ぃ?」

リムル「ミュウランは生きてるし俺は魔王の座なんぞに興味はない。大体カリオンさんは謀略とか考えるタイプじゃないだろ」

フレイ「(確かに)」

クレイマン「ハッ、そんな言い訳だけで誰が信じるというのだ!ヴェルドラを手懐け強気になっているようだが貴様は所詮邪竜の威を借りねば何もできぬスライムよ!」

……は?

エイト「お前な…それが1番違うんだよ。確かにヴェルドラの威光を借りたことはあるしこれからも使うだろうがそれ以前に俺たちはヴェルドラの友達だ」

俺にも友達ができるなんて…随分と幸福になったな。

クレイマン「ともっ…!?…??」

「……」

ん?あのメイドさん睨んでない?まさかヴェルドラが怒らせたヴァンパイアじゃないよね?

リムル「…それに、証拠がないのはお互い様だ。そっちの証言だって配下の報告だろ。しかもその配下はもう殺されたって?そんなもん証拠とは言わねえよ。あとミュウランは今俺たちの保護下にあるから。この場に呼んだとしてもお前に都合のいい証言はしないと思うぞ」

クレイマン「…フッ、フフッ…そこまで卑劣な真似をするか。さてら貴様らミュウランの骸に悪霊でも取り憑かせたか」

エイト「悪霊?するわけねーだろ。流石心臓を人質に脅迫する魔王クレイマン様は発想が斜め上をいきますね」

クレイマン「(こいつ…っ!)皆さん、いつまでこんな一介の魔人如きに話をさせるつもりです!?こいつらは暴風竜の威でもって魔王に成り上がろうと「ドンッ!!」!?」

クレイマンの顔スレスレを通って壁に椅子が激突した。蹴った本人はリムルだ。

リムル「さっきも言った通り魔王なんざどうでもいい。俺は俺が楽しく過ごせる作りたいだけでね。それには人間の協力が必要不可欠だし、だから人間を守ると決めた。それを邪魔する者は人も魔物も聖教会も全て等しく俺の敵だ。クレイマン、お前のようにな。お前も俺が気に食わないんだろ。ならこれは俺と…俺たちとお前の問題だ」

ギィ「……おい、お前。ついでにそっちのも。魔王を名乗るつもりはあるか?」

ついでかよ…いや、まあいいけど…。

リムル「…ああ。既にジュラの大森林の盟主を引き受けているし人からすれば魔王だからな」

エイト「周りへの牽制にもなるし名乗るしかないな」

すると、ギィ・クリムゾンは口元をニヤつかせ

ギィ「…ならば良し。丁度ここには見届け人が揃っている。俺たちの前でクレイマンに勝てたならお前達が魔王を名乗ることを許そう」

リムル「ありがたいね。わかりやすくて」

ギィ「(面白い。『十大魔王』など人間が勝手に決めた呼称だ。数などどうでもいい)」

リムルが丸机を暴食之王(ベルゼビュート)で捕食した。

クレイマン「皆さんよろしいのですか?下等なスライムの暴挙を許して…これは我々魔王に対する侮辱ですよ!!」

待って、ディーノちゃん机がなくなって床に落ちたのにまだ寝てるじゃん…。

ギィ「別にいいじゃねぇか。クレイマン。お前も魔王なら自身の力でもってそいつらを倒してみせろ。(弱者に魔王の名は相応しくない)」

リムル「場所は作った。さっさと始めようぜ」

クレイマン「(そろそろ本物の魔王達による支配の時代が始まるべ…)「ちょっと待った」」

リムル「どうした?何かあったか?」

エイト「いや、なんな雰囲気出てるところ悪いんだが…どっちが戦う?」

クレイマン「なっ…」

リムル「…確かに2人だとな…」

エイト「実際被害を受けた時いたのはリムルだしな。リムルでいいぞ」

リムル「…わかった。ならお言葉に甘えて」

クレイマン「クッ…クックック…やれやれです。自分の手を汚すのを嫌ったばかりに余計に面倒なことになってしまった。本当に失敗でした」

クレイマンはペット(?)の狐(?)を抱える。

クレイマン「命令です。リムル=テンペストを殺しなさい」

ミリムは座ってた椅子から消え、リムルに殴りかかった。

リムルはそれを避ける。

リムル「(ミリム…!)よく言うよ。結局は他人だよりか?」

クレイマン「何を言う。ミリムは人の命令に従うような娘ではないでしょう。今のは彼女自身の意思さ。ギィよ、文句はあるまい?」

ギィ「ああ。構わないさ。ミリムが自分の意思で戦うのなら止めはしない」

リムル「まあいいさ。俺としてはミリムを助けるつもりだし力尽くでもお前の洗脳を解くとしよう」

クレイマン「ほざくなよスライムが…貴様は絶望して死ぬんだ!!」

さてと、俺もやることやるか。

エイト [救済之王](サルヴァーレ)

ん?効果がない……

エイト「(これなら問題ないな)」

と、俺がそうこうしている内にリムルの許可でシオンがクレイマンをバカ殴りにしていた。

クレイマン「きっきさっ…きさま…貴様ぁあああ!!!」

人形…?

クレイマン「いい気になるなよ…皆殺しにしてやる…!」

リムル「いいね。やっとらしくなって来たじゃねーか!」

クレイマン「図に乗るなよスライムが!九頭獣(ナインヘッド)!」

リムル「ランガ!」

ランガ「はッ。貴様の相手はこの我だ!」

ナインヘッドとランガの獣対決か…。

リムル「シオン、しばらくクレイマン達を任せるぞ」

シオン「はい!リムル様は…」

リムル「俺は…ミリムを助ける」

ミリム対リムルで…シオンはクレイマンとあの人形…

ディーノ「おわっと、ちょっとこれ、会場壊れちゃうんじゃないの!?」

ギィ「ああ、そりや困る」

ギィが指を鳴らす。

結界か…

リムル「なんだ、これ椅子が遠くに!?」

空間拡張がされてるのか。

ギィ「これで存分に戦えるだろう」

 

う〜ん…ちょっとまずいかな…?リムルとミリムは置いといてもシオンはクレイマン+人形だ。4対1だと少し危ないか…?いや、シオンには超速再生があるし…ランガもあの様子なら…。

ギィ「お前は入らなくて良かったのか?」

エイト「へ?」

なんでこの人隣に来たの?

ギィ「数ならクレイマンの方が有利だろ。お前がもし入るってんなら入れてやるが」

エイト「いいですよ。クレイマンが勝てるわけがない。それにミリムはリムルを殺さない。それなら負ける要因がないんですよ」

ギィ「!あとで入るといっても入れさせないぞ?」

何それ意地悪か何か?

エイト「入りたかったら勝手に入りますよ。ていうか戦いたいならここから戦えますよ」

ギィ「はははは!面白い。ぜひやってみせてくれ」

エイト「えー…」

倒しちゃったらシオンが可哀想だし…クレイマンが超速再生持ってるからいいか。

なら、使うスキルは…

エイト「[雷炎]」

クレイマンの右腕の周りに発生させると、クレイマンの右腕が粉消しになった。

クレイマン「っ!?(なっ!?い、一体何が起きたんだ!?)」

ギィ「…クレイマンを倒したらとは言ったがお前が魔王になるのを許そ「ちょっとギィ!アタシはリムルにつくからウチのベレッタ」駄目だ」

ラミリス「なんでさ!?」

ギィ「あぁん?あれはあのスライムとクレイマンの喧嘩だろ。お前が混ざる理由がねぇ」

ラミリス「何言ってんのさ!ミリムだって参戦してんじゃん!」

ギィ「あいつはいいんだよ」

ラミリス「何よそれ!?なんでアタシは駄目なのさ!?」

ギィ「(めんどくせぇ…)ミリムにはミリムなりの考えがあるんだろうさ。それによ…そこのドライアドはお前を守ることに全力を注いでいるようだがベレッタとやらは誰に忠誠を誓っているんだ?魔鋼石の人形に受肉した悪魔のようだが召喚者(マスター)はお前じゃねえだろ。二君に支える者を魔王の従者とは認められねえな」

ベレッタ「…確かに。ワレには主と呼べるお方が2人いらっしゃいます。お仕えすべきラミリス様。召喚者であり創造主(クリエイター)であられるリムル様」

ギィ「…こいつはオレの古い友人でな。その従者が主を天秤にかけるような真似を見過ごすわけにはいかねぇ。今この場で決めろベレッタ。お前の唯一の主は誰だ」

ベレッタ「では、ワレはこの命続く限りラミリス様に忠誠を捧げると誓いましょう。なので一度だけリムル様のお役に立つことをお許し願いたい」

ギィ「…それは忠誠を誓うと言える行動か?」

ベレッタ「言えます。ラミリス様の願いこそ彼の方を救うこと。何も矛盾していません」

ラミリス「だから言ってんじゃん!アタシはリムルにつくの!ベレッタ、アタシの代わりにリムルを助けてあげて!」

ベレッタ「もちろんですラミリス様」

ギィ「主が望むから、か。なるほど理屈は通る」

ラミリス「当たり前じゃん!だって仲間だもん!ベレッタもトレイニーちゃんも、もちろんリムルもエイトもね!」

ギィ「…ま、お前がそれでいいならいいけどよ。二言はないなベレッタ」

ベレッタ「はい、リムル様にはワレよりも強き悪魔族(デーモン)がお仕えしております。それに、」

ベレッタはギィに耳打ちする。

ベレッタ「ワレはラミリス様が大好きなのです。共に研究する日々も」

ギィ「……フゥン」

ギィは結界に穴を開けた。

ベレッタ「感謝します原初の赤(ルージュ)」

ギィ「ああ、その呼び方はやめろ。貴様にもギィと呼ぶことを許す。(悪魔族(デーモン)は普通強い主を望むし自身の強さによって主に認められたいと願う。だが、こいつは戦う力とは別の物を重要視しているようだ。

まるで"アイツ"のように。『ワレよりも強き悪魔族』)…待て。一つ聞く。お前は何色だ?」

ベレッタは振り返る。

ベレッタ「ワレと同色の系統は非常に少ないかと思いますよ。あの方は滅多に直径眷属を造りませんから」

ギィ「(数の少ない系統…決まりだ)なるほど、道理で判断基準が狂ってるわけだ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ベレッタ「リムル様!」

リムル「!ベレッタか!」

ベレッタ「あの木偶人形はワレにお任せください」

リムル「ああ、助かる」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ギィ「そうかよ。お前も動くのか…

原初の黒(ノワール)」

原初の黒…ディアブロのことか?

ギィ「それにしても、あいつが仕えるとは、お前ら2人も中々面白いんだろうな」

エイト「ディアブロのことすか?あいつ何考えてるかわかんないですし実際に仕えてるのはリムルの方なんじゃないすか」

ギィ「召喚者(マスター)はリムルの方なのか?」

エイト「色々あって国を離れてて帰ってきたらいたんですよ。一応俺にもリムルと同じ対応をしてはいますが、優先してるのはリムルの方ですよ」

ギィ「…お前達は2人で国の主をしているんだろ?国の連中はさっきのベレッタみたいに二君に仕えてるのか?」

エイト「…あいつら人が良すぎるんですよ。普通、主が2人ならどっちがいいとか話してもおかしくないのに全くそんなこと考えないんですよ。皆俺たちのこと平等に主として扱ってくれるから」

ギィ「…さっきも言ったが二君に仕える者を魔王の従者…配下とは認めたくないな」

エイト「…確かに、そう言われても仕方ないし覚悟もある。だけど、それを決めるのはあんたじゃない」

ギィ「……そうか。悪かったな。さっきはラミリスだから言っただけだ。別にそれが理由で魔王じゃねえとか言うつもりはない」

エイト「ギィ…さん?はただ楽しく過ごせる国を作れると思います?」

敬語でいいのか?いや、まだ魔王だし敬

ギィ「ギィでいい。敬語もいらん」

エイト「あ、はい」

ギィ「それで、ただ楽しく過ごせる国?ははははは!生きるのだけでも大変なこの世界でそんなことをしようとしてるのかお前らは?」

エイト「ただ、殺し合うだけの世界なんてつまんねーから仕方ないんだ。幸いこの世界は強ければ守れるし、力さえあれば変えられることが結構ある。それをその為に使うとリムルと決めたんだ」

ギィ「…できなくはないんじゃないか?あいつが仕えるようなやつだ、そんくらいしてもおかしくはない」

そんなにディアブロって変なのか?

:

:

エイト「……」

シオンがクレイマンをボコボコにしてらっしゃる…。魔王の威厳が無くなっちゃったよ…いや元々大してないけど。

さて、リムルの方は…

リムル「(やっべぇえええっ!?!?)」

リムルの思念が強すぎてこっちにまで聞こえてきたぞ…まあ、明らかにミリムの罠に引っかかってるな。

ミリムは隙がめちゃくちゃあるリムルの頭にパンチ。

「ゴツンッ!」

鈍い音が響く。

エイト「!?」

ヴェルドラ「グオッ!?いきなり何をする?酷いではないか」

なんでお前がここにいるんだよ…。

リムル「おいヴェルドラ、なんでここに出て来たんだ!?」

ヴェルドラ「グヌウ、酷い目にあったわ!?」

いや、ミリムの攻撃を受けてその程度とか流石だな。

:

ヴェルドラがこっちに来た理由は中々どうでもいいものだった。漫画の中身がすり替えられてて最終巻が読めないとかなんとか。それを渡せと言ってきたのだ。

エイト「ははは…」

なんでそんな理由でワルプルギスまで来るんだよ…。

リムル「そこのミリムと、少しの間遊んでやってくれ。ただし、絶対に怪我はさせないようにな」

ヴェルドラ「ミリム?おお、我が兄の一粒種か。会ったのは初めてだが、まだまだ子供だな。よかろう我に任せよ!」

兄の一粒種?…へ?ヴェルドラのお兄ちゃんの子供なの?となるとミリムはヴェルドラの姪っ子に当たるわけで…ヴェルドラのお兄ちゃんって多分竜種だよな?え?何それミリムチートじゃね?竜種の子供だよ?だからあんな馬鹿げた力を持ってるのか。 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

そのあと、リムルはナインヘッドの支配の呪法(デモンドミネイト)を解除して手懐けた。

 

ベレッタは人形の出してきた大量の特質級(ユニーク)の武器や防具を磨いて並べていた。ちなみに人形はバラされてラミリスの土産になった。え、無傷であの武器倉庫みたいな人形に勝ったの?ベレッタ強。

 

シオンの方はクレイマンを見下す態度に移り変わっていてクレイマンが可哀想になってきた。どんな攻撃をまったく通用せずクレイマンは焦りの顔を見せていた。まあ、その所為で変なスイッチが入っちゃったが…。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

クレイマンは上半身裸となり背中から二対の腕が生えてきた。細長く黒い外骨格に守られた腕が。これがあいつの本性か。荒荒しく狂気を感じるな。

クレイマン「そうか、そうだな。そうだったよ。魔王、私は魔王なのだ。だから戦い方にこだわり、上品に優雅に敵を葬ってきた。だが、もういい。もういいのだ。こんな気持ち、久しく忘れていた……。貴様はこの手で捻り潰してやるぞ」

クレイマンは一つだけ大切そうに何かを握っている。笑みを象った道化の仮面。クレイマンはそれを迷わず被る。

お、それっぽくなったな。

シオン「ほう?少しはマシになったみたいですね、見直しました。魔王リムル様の近衛秘書シオン、貴方の相手を致しましょう!」

ちなみに俺の秘書はシュナだ。

クレイマン「魔王…いや、"喜狂の道化(クレイジーピエロ)"クレイマンだ。殺してやるぞ、魔人シオン!!」

そして、2人は同時に動いた。



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閑話:転スラ日記 2日記

〜スナックジュラ〜

 

リムル「だからさ、俺は皆にもっと自由に生きて欲しいんだよ。俺たちがそうだし。なのに二言目には『リムル様の為』『エイト様の為』…」

トレイニー「あらあら贅沢な悩みですねぇうふふ。皆さんきっとご恩返しがしたいんですよ。リムル様とエイト様に。道を示してくれたから、居場所を創ってくれたから」

リムル「………居場所、ね…」

…居場所か…そういえばいつになったら本物は見つからんだろうな…人間より寿命長いんだろうし焦らなくていいんだろうが…と、その前に

リエ「「で、トレイニーさんはここで何を?」」

トレイニー「はい、MAXコーヒーおかわりね」

エイト「ありがとうございます」

いても悪くないしMAXコーヒーくれるからいいか。

トレイニー「それにしてもこれ美味しいですよね芋の次に」

芋好きかよ…。

リムル「それと、エイトはこんなところにいて怒られないのか?可愛い彼女に」

なんで怒ってるのリムルくん?

エイト「大丈夫だろ。トレイニーさんが勝手にいたんだし」

リムル「それもそ「エイト様」」

この部屋は至ってシンプルなスナックの構造をしている。他のスナックと比べても大差はない。けれど、ここがあまりにも異質に感じられたのは、1人の少女(?)がそこにいたからだらう。少女は中に入ってすぐのところで青筋を立てていた。僕の息の根が止まるまで、きっと彼女はそういう顔をしているんじゃないか、そう錯覚させるほどに、この光景は見たくないものだった。それを見た時俺は身体も精神も止まってしまった。不覚にも万能感知等諸々の常用スキルが切れてしまった。約1秒程。

シュナ「私が何を言いたいかわかりますよね?」

エイト「あ、あの、こ、これは…トレイニーさんが勝手にいただけで…」

シュナ「いたなら出ればいいじゃないですか」

トレイニー「あらあら、凄い独占欲ですね。愛されていて何より」

笑ってないで助けて!心臓が止まっちゃうよ!心臓無いけど!

シュナ「まあ、エイト様がそれでいいならいいんですけどね」

エイト「いや、本当すみませんでしたー!!」

俺は渾身の土下座をかます。

シュナ「土下座してる人を踏みつける趣味は私にはありませんよ?」

いや、謝ってるだけじゃん…。

すると、シュナは少し考え込んだ末

シュナ「これから毎日私と一緒に寝ていただけるなら許してあげますよ」( ◠‿◠ )

と、言ってきた。

エイト「ぜ、善処します…」

シュナ「寝ますよね?」

エイト「ぜ、ぜん「寝ますよね?」はい…」

リムル「(ざまぁみろ)」(=^▽^)σ

リムルめ…っ…。

 

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リムル「最近雨多いな」

梅雨か?

ゴブタ「毎日これじゃ気が滅入るっすねー」

トレイニー「あらあらそんな事言わないでください。雨は必要なんです。天からの恵みを大地がたっぷりと受け止めて緑は茂り虫達が増え小動物が繁殖しまたそれが土に……そうして森は着々と大きくなっていくのですから」

ゴブタ「へーだからちょっと太ったんすね」

エイト「」

すると、雨の勢いが急激に増した。

リムル「おっおい早く窓閉めろ」

ゴブタ「はいっす!」

エイト「…ゴブタにはあとで言っておきます」

トレイニー「消してくれて構いませんよ」

怖……。

エイト「ま、まあそこまではしませんよ?」

 

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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ー夜ー

 

リムル「おっ流れ星」

俺たちは窓を開けて空を見上げる。

シオン「まあ素敵!」

目を輝かせて…やっぱり女の子だな。

シオン「あ、また!リムル様とエイト様と添い遂げたい!リムル様とエイト様と添い遂げたい!リムル様とエイ…あっ消えちゃった!!」

流石魔物…本人の前でとは。メンタルが人間の比じゃない固さだ…。

シュナ「……」

その後きたシュナに正座させられてシオンとリムルは怒られた。俺?逃げたよ。

:

:

〜シュナの機織り工房〜

 

シュナ「『七夕祭り』ですか?お星さまに願い事をするという…」

エイト「ああ、シュナに仕切ってもらいたいんだ。リムルと話したんだが、裏方ばっかりで神事とか晴れ舞台が全然なかっただろ?巫女姫なのに」

シュナ「まあ!わかりました!命にかえてもエイト様の想いに応えてみせます!」

エイト「頼もしい事で」

ちなみにこれはリムルがシオンの叫びで思いついた事だがシュナに言うと怒るので言わないことにした。

エイト「ま、そんなに張り切りすぎるよなよ」

俺は工房を後にする。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ガビル隊が帰ってきたぞ!」

「おお本当だ!」

「リムル様とエイト様にご報告を!」

「数日前に旅立ったガビル隊が帰ってきたぞー!!」

リムル「大丈夫かガビル!」

いや、なんか干からびてない?カピカピだし…。

ガビル「は…はは、リムル様、エイト様…我輩…やりましぞ。我輩達の冒険物語…聞いてくださいますか」

リムル「後でな」

ガビル達が持ってきた立派な笹だけもらって俺たちは戻って行った。可哀想な奴め…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

エイト「なかなかいい具合に出来てきたな」

リムル「初めての七夕、みんな楽しんでくれてるみたいだ。どんな願い事書いてんだろ」

エイト「意外なのかあると面白いよな。なあ、ベニ…」

ベニマル「

ベニマル「リムル様とエイト様のために尽力するのは当然だからダメだ。戦士としての高みを目指すのも改めて書くことでは…町の平和も同じ事だし……シュナの幸せを願ってはどうだろうか?大きなお世話と小言が来る。ああ〜〜〜〜〜〜〜昨日から考えてるのに全然決まらない一体どうしたら……」

ベニマル…それ振るえながら考えることじゃないと思うぞ…。

リムル「…もう『毎日健康に暮らせますように』とかにすれば?」

ベニマル「いや!もう少しこう、かっこいいのを!」

エイト「お前って意外と…」

ある意味意外なのが見れたな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

シオン「シュナ様、短冊に願い事を書かないんですか?」

シュナ「巫女は願いを受け止める側ですよ。私はエイト様直々に神事を任されているんです!エイト様の信頼があれば他に何も…「じゃ私は書きますね。リ〜ム〜ル〜さ〜ま〜と〜エ〜イ〜ト〜さ〜ま〜と〜…」…」

:

エイト「え?神楽舞いにもう1人欲しい?」

リムル「じゃあシオンも巫女役で。できるよな?」

すると、2人が踊り(喧嘩)始めた。

リムル「すごい神楽舞い(?)だ息ぴったりだぞ!キレッキレだ!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

場所は変わって…

ソウエイが短冊を括り付ける。

ソーカ「(はっソウエイ様!ソウエイ様が願い事を!?見たい!でもそれは何かいけない事のような…あああ!!だめよソーカ見てはだめ…)」

 

ーー

 背

気後

をに

ーー

 

ソウエイ「間違えたこっちだ」

ソーカ「」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

神楽舞い(本番)

 

やっぱりシュナは可愛いな。

ガビル「リムル様とエイト様はお祭りがお好きなんですなぁ」

リムル「ただ単に楽しい事が好きなだけだよ。魔物の町に『祭り』って文化を根づかせたいってのもあるけどさ。この町がもっと大きくなったら国をまたいだ祭典を催すのも面白いな。魔物も人間も関係ない、な」

ガビル「おお野心的!その時はぜひまた我輩も一口乗らせて頂きたいですな!実はもう出し物の企画が出来てまして…」

ガビルが木の板を見せる。そこには『ガビルvsデスパンダ』『リムル様エイト様絶賛』の文字。

リムル「あとでな」

容赦ねぇ…。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

神楽舞いが終わって…。

シュナ「ところでエイト様とリムル様はどんな願いを書いたんですか?」

シオン「そうですぜひ!」

周りからも「知りたーい」という声が聞こえる。いや、書いたには書いたが…

リムル「………ふ、決まってるだろそんなこと。『皆の願いが叶いますように』さ」

と、辺りは盛り上がってリムルをシオンが抱きしめる。皆は「リムル様素敵ー」とか「流石リムル様ー!」という声が聞こえる。そんな中静かに俺の方に近づいてきたのはシュナだ。

シュナ「それで、エイト様は何を書いたんですか?」

エイト「……いや、まあ、な?」

シュナ「?」

エイト「いいだろ別に」

言えるんけねえだろ…『シュナと幸せになれますように』なんて……。



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25話

その後の展開は実に酷い物だった。その描写を書いても恐らく読者の皆様は全く楽しめないことだろう。だからカットさせて頂いたわけだが簡単に説明しよう。クレイマンはシオンにボコボコにされて倒れ込んだ。クレイマンがミリムに『狂化暴走』(スタンピード)してこの場の全員殺し尽くせとかとんでもないことにを言っていたが今度はミリムが爆弾発言。操られてないと言ってきたのだった。まあ、俺は気づいてたがな。ほら、救済之王(サルヴァーレ)使った時反応がなかっただろ?だから操られてないんだなーって。それで、今度はカリオンさんが出現したんだよ。なんかフレイの従者として変装してきてたけど『なんか懐かしいなぁ』と思ったのはその所為らしい。クレイマンはようやく仲間がいなくなったことに気づいて喚いたと思ったらリムルの命令でシオンに叩き潰され虫の息となった。

と、ここまでがことのあらましだ。どうだ?ただ単にクレイマンをボコる話なんてつまんないだろ?だったらまだ葉山と戦った時の方が面白い。

エイト「…?」

その辺にほったらかしにされてたクレイマンが立ち上がった。

リムル「離れろシオン!…どうやら本当に始まったみたいだな」

シオン「リムル様?一体なにが…?」

あ、クレイマンの魂に付随してるあれか。クレイマンが今まで殺してきた人々の魂の残滓って言えばいいのか?あれはそのままでは取り込めないし成仏もできない、拡散するわけでもない。クレイマンを殺せば一緒に消滅するんだよ。(叡智之王先生情報)

カリオン「おい、リムル!クレイマンが覚醒しただと?信じられんが、凄まじい力だ。ここは俺様も協力を…」

リムル「いや、カリオンさん。コイツは俺が相手をするよ。俺も魔王を名乗ったわけだし、自分の席は自分で用意したい。コイツを排除して、俺のことを認めさせる事にするよ」

エイト「格好つけてるとこ悪いけど俺戦ってもいいか?」

流石になにもしないのは今リムルが言った通り認めてもらえないからな。

リムル「よし、じゃんけんだな」

エイト「お前さっきまで戦ってたんだからいいだろ」

リムル「こんないいところで譲るほど俺もいいやつじゃない」

エイト「…わかった。じゃんけんだな」

リエ「「最初はグーじゃんけんポン!」」

俺はパー、リムルはグーだ。

リムル「負けた…」

エイト「よし、じゃあさっそく…」

クレイマン「フフフ、フハハハハハハァ!!!見よ、私は力を手に入れたぞ!!」

エイト[暗黒之王]

瞬間転移でクレイマン真後ろに出る。

クレイマン「!?」

思いっきり回し蹴りで吹き飛ばした。会場を壊すのはまずいので飛ばした先に結界を張る。

クレイマン「グハッ!」

そこを結界で覆って中に起こすのは砂嵐。砂と暴風の掛け合わせで攻撃には弱すぎるが痛めつけるのには丁度いい使い勝手の悪い技だ。

リムル「うわぁ……(唐突にクレイマンが可哀想になってきた…)」

砂嵐を止ませると結界を解いて床に落とした。

クレイマン「ゴホッゴホッ…っ、ゼェ…ゼェ」

エイト「殺す前に聞くが、お前に指示を出してた黒幕って誰なんだ?」

クレイマン「フフフ…どこまでも生意気な…喰らえ!!龍脈破壊砲(デモンズブラスター)!!」

と、カッコつけたものの…

「「「「「「「「「「…」」」」」」」」」」

俺とクレイマンを除いた全魔王が沈黙する。

クレイマン「へ?え…ちょ…はぁ!?」

エイト「あーお前もう物理攻撃以外何もできないから何言っても無駄だぞ?」

この会場の外側を守護之王(ゲニウス)で覆ったからここにいる俺以外の全員は魔法もスキルも使えなくなってる。まあ、使おうとするまで気付けないだろうけど。

エイト「で、勝てないってわかっただろ?ならさっさと黒幕を教えろ」

クレイマン「フハハハハハァ!私は妖死族、ここで殺されようとも復活し、いずれ再び貴様を殺しに…オブゥ!?」

俺は守護之王を貼ってその方向に思いっきり蹴り飛ばした。

エイト「おい、お前の話はどうでもいいんだよ。さっさと話せ。答えたら楽に殺してやるから」

別に俺は痛めつけて殺さないってのもいいがそれじゃあ町のみんなやリムルが浮かばれないからな…。

クレイマン「な、舐めるなよ!私が仲間を…ましてや依頼主を裏切る事などない!それだけが中庸道化連の絶対のルールなのだ!」

悪党には悪党なりの曲げられないルールがあるんだな。

エイト「本当にいいのか?お前復活できないんだぞ?」

クレイマン「な、何を?何の話をしている?」

エイト「デスマンは死んでも復活するんだろ?だからお前は俺の意識をお前を殺すことに向けさせてその隙に星幽体(アストラルボディー)を離脱させて逃亡しようとしてたんだろ?」

クレイマン「な、何を?」

エイト「俺ならお前の魂とか星幽体ごと斬れるから逃亡のしようがないぞ?」

クレイマン「ま、待て…」

エイト「クレイマンを殺すけど異論があるやついるか?」

一応聞いとかないと後が怖いしな。

ギィ「好きにしろ」

クレイマン「やめろ!おい、やめろー!!!」

俺は短剣を2本、叡智之王から取り出しす。

エイト「魂が消滅するまでの僅かな時間を、せいぜい反省しながら過ごすんだな」

[暗黒之王](ハーミット)

俺は短剣を振り翳す。

クレイマン「いやだ!おい!やめろ!!おいぃ!!やめろぉぉぉーー!!お助け下さいカザリームさ…」

と、言い切る前に俺は魂ごとクレイマンを斬り刻んだ。

カザリーム?誰だそいつ…?

:

:

ギィ「見事だ。お前たちが今日から魔王を名乗ることを認めよう。異論のある奴はいるか?」

ラミリス「アタシはリムルとエイトはやる時はやるヤツだって信じてたさ!なんなら、アタシの弟子として認めてあげてもいいけど?」

エイト「あ、そういうのいいんで」

リムル「弟子は別で取ってね」

ラミリス「なんでよ!?いいじゃない、素直に弟子になってくれても」

ミリム「ふふん!リムルとエイトはワタシの友達だからな。お前とは仲良くしたくないそうだぞ?」

ラミリス「えっ!?うそ、ちょ!リムル嘘よね?エイト?」

ミリム「わはははは!お前は仲間外れだな、ラミリス!」

ラミリス「なんだとー!?てい!」

ラミリスがミリムの顔面に飛び蹴りをするが軽々避けられた。

 

ディーノ「ま、いいんじゃないの?」

戦いが終わって眠そうにしていたディーノがアッサリそう言った。多分興味が無いだけだな…。

レオン「フッ、私は誰が魔王となろうが興味はない。好きにすればいい」

冷めたやつだな。まあ言ってることはわかるが…。

 

カリオンとフレイも異論は無さそうで最後は…

ヴァレンタイン「ふむ。余としては下賤なスライムが魔王など、断じて認めたくはないが…」

これを機にスライムが下賤じゃなくなることを願うばかりだ。

ヴェルドラ「クアーーッハッハッハ。下郎、我が友を侮辱するか?おいミルスよ、従者の躾がなっておらんぞ。我が教育してやろうか?」

ヴェルドラは馴れ馴れしく魔王ヴァレンタインのメイドさんに話しかけた。ヴェルドラの教育とか受けたくねー…。

「何の話でしょう?私は魔王ヴァレンタイン様の忠実なる侍女ですが?」

ミリム「おい、駄目だぞ!バレンタインは正体を隠しておるのだ。ヴェルドラよ、それを言っては駄目なのだ!」

おい、君今言ったよね?

ミリム「あっ!」

ミリムは慌てて口を手で塞いだ。

ミルス(?)はその場にいる全員を殺気丸出しの目で見ている。うん、全員殺して証拠隠滅でも企んでるのかな?

だが、幸いにもこの場にいる全員を相手にするのは諦めたようだ。攻撃するならヴェルドラとミリムだけにしてくれ。

「チッ、忌々しい邪竜め。どこまでも妾の邪魔をする……。それに貴様、妾の名まで忘れたか。本当に、人を苛々させるのが上手いものよ」

ヴェルドラへの恨みは冷めてないみたいだな。

「もう良い。妾のことは、バレンタインと呼ぶが良い」

不機嫌そうにそう伝えるバレンタイン。

その直後、バレンタインが膨大な魔力を解放すると同時に外観が一気に変貌した。それに伴い服装もメイド服から豪華な漆黒のゴシックドレスに様変わりする。

魔法換装(ドレスチェンジ)。ミリムも得意としていた早着替えの魔法だ。俺も最近覚えたが使ってないな。

 

そして、現れたのは傾国の美少女。やっぱり本物は別格だな。魔王ヴァレンタインもそこそこだったが、次元が違う。

バレンタイン「ロイよ。貴様は先に戻っておれ」

どうやら魔王ヴァレンタインの本名はロイらしいな。

ロイ「しかしバレンタイン様…」

バレンタイン「これだけの者を前に正体をバラされてしまっては、最早隠しておく意味などない。それに、気になることがあるのじゃ。クレイマンの奴が、貴様を見て一瞬だが視線を止めたぞ?この前我が領地に侵入したというゴミ虫と関係があるやも知れぬ故、戻って警備を厳重にするように伝えるのじゃ」

あいつ…あちこちに喧嘩を売ってたのか…。もはや可哀想だな。

ロイ「承知」

ロイはそう言うと、この場から1人帰っていった。

こうして、バレンタインは再び魔王に返り咲いた。



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26話:新たなる魔王

更新めちゃくちゃ遅れてすみません!!リアルの方が忙しく書く暇がなくなってしまいました。
これからもこういうことがあるとは思いますができるだけ書き続けていく予定ではありますので今後ともよろしくお願いします!


さて、仕切り直しだな。

 

リムルが胃袋から円卓を取り出して元の位置にセットした。

 

円卓に魔王達が座り、その席上にギィのメイド2人が紅茶を用意して回る。

 

雪ノ下の紅茶が懐かしいな…久しく飲んでないしいつかまた飲めるのか否か…。

 

紅茶を横目にレオンがふと呟いた。

 

レオン「ああ、思い出した。カザリームと言う名に聞き覚えがあったが、

"俺が殺した魔王だな"」

 

エイト「」

 

何をしれっと言い出すんだこいつは…。

 

ミリム「知っているのか、レオン?」

 

え、何で君が知らないんだよ…ていうか他の魔王も皆「誰、そいつ?」みたいな反応だし…。

カザリームって…確かクレイマンが最後に助けを求めてたやつの名前だったけか?

 

叡智之王『はい。クレイマンが助けを呼んだ者の名は「カザリーム」で間違いありません』

 

毎度ご丁寧にありがとうございます。

 

リムル「それでそのカザリームだが、クレイマンとどんな関係なんだ?」

 

カリオン「カザリームは"呪術王"(カースロード)の事だよ。ミリムよ、お前とカザリームが俺を魔王に推薦してくれたんだろ?」

 

ミリム「ああ、アイツの事か。呪術王なら覚えているのだ。そうか、レオンが殺した魔王はアイツだったな」

 

本名ではなく二つ名で覚えてたのか。

 

ていうか、レオンが倒した魔王ならそいつ1人しか該当しないだろう。多分、つまらない事だから忘れかけてたんだな…呪術王も可哀想だ。

 

カリオン「そう。確かカザリームも、クレイマンと同じくデスマンだったはずだぜ。それも、耳長族(エルフ)から自力で進化した特殊変異個体(ユニークモンスター)だったって話だ。俺様は個人的に親しかったから、そう聞いている。クレイマンがカザリームの地盤を引き継いだ事からもわかるが、アイツ等は裏で繋がっていたんだろうな」

 

エイト「…?もしかして、カザリームは生き残ってるんじゃないのか?」

 

カリオン「ああ、そいつは有り得るかもな。カザリームって野郎はクレイマン以上に油断ならない、頭の切れる男だったからな」

 

レオン「私が逃したように言われるのは心外だな。魔王になれるように協力するから部下になれと、偉そうに勧誘されたのだ。断るのも面倒だったので、奴を倒してその地位を奪ってやったまでの事。生きていようが死んでいようが、それは私には関係のない話だ」

 

まあ、確かに。レオン的には殺す気はなくてただ邪魔だっただけなんだろうしな。

 

カリオン「おいおい、レオンよ。そんな態度だから、クレイマンに恨まれていたんだろうが」

 

レオン「フッ、興味ないな」

:

:

リムル「クレイマンの仲間には"中庸道化連"という者がいた。そいつ等は人間にも協力者がいると仄めかしていたから、ひょっとすると復活したカザリームが人間に憑依していた可能性もあるな」

 

…中庸道化連か…まったく、どんな奴らなのか全くわからねえな。いつも影にいる上にちょこちょこ名前が出てくるだけで表立った動きがない。面倒くせぇ…。

 

ギィ「その案は正しいかもな。レオンの攻撃は精神すらも破壊する。カザリームが生き延びたのを、褒めてやってもいいくらいだぜ?それによ、オレ達悪魔族(デーモン)でさえ、魂からの復活には数百年単位の時間がかかる。デスマンなら尚更。自力で復活出来たとも思えないくらいだぜ」

 

おー、なんとギィさんが賛同しましたか。

まあ、精神生命体のデーモンと違ってデスマンは肉体に依存するからな。星幽体から復活するならそれこそ奇跡的だろう。でも、それよりも可能性が高いのは協力者がいたっていう可能性だな。

 

リムル「ま、なんにせよ、カザリームは復活していると考えて警戒するよ。クレイマンを殺した事で、俺たちは恨まれてそうだしな」

 

ミリム「わはははは!リムルよ、お前達の方が強くなっているから、心配する必要はないのだぞ?」

 

エイト「そういう油断が敗北につながるんだっつーの」

 

そんなことしてたら、守りたいものが守れないしな。

:

:

ギィ「今回の議題はカリオンの裏切りと、そこのリムルとエイトの台頭についてだったが、その問題は片付いた。こらで終わりにしてもいいんだが、せっかくの機会だ、何か言いたいことがあるヤツはいるかい?」

 

フレイ「いいかしら?私から提案…というよりお願いがあるのだけど」

 

ギィ「いいぜ。言ってみろよ」

 

フレイ「今日この場を以て…私は"魔王"の地位を返上させてもらうわ。そしてミリムに仕えることを認めてもらいたいの」

 

ミリム「!?待つのだフレイ!ワタシはそんな話初耳だぞ!?」

 

フレイ「ええ、言ってなかったもの」

 

ギィ「いきなりだな。理由はなんだ?」

 

フレイ「理由は……そうね。色々あるのだけれど、私は魔王としては弱すぎると思うのよ。

さっきの戦いを見ていて確信したのだけど、私では覚醒したクレイマンに勝つことはできなかったでしょう」

 

ダクリュール「だがフレイよ。ハービィであるお主の本領は大空での高速飛行戦であろう。

そこまで自分を卑下することはないのではないか?」

 

その言葉に、フレイは首を横に振った。

 

フレイ「空ならば破れなかった。民を守れなかった時魔王にそんな言い訳は通用しないわね。

それに、たとえクレイマンのように有利な状況を整えようと、その全てを覆す者が相手ではどうしようもないと知ったのよ」

 

フレイは俺たちを見ながら言った。

 

フレイ「だから、ね。ミリム。私は貴方の配下に付くと決めたのよ」

 

ミリム「だ、だが…」オロオロ

 

フレイ「どうかしら。この提案を受けてくれないかしら」

 

カリオン「ちょっと待ってくれや。そういう話なら俺様にも言いたい事がある。ミリムに負けた俺が魔王を名乗り続けるのはおこがましいってもんだ。だから俺も魔王の地位を返上させてもらいたい」

 

ミリム「ちょっと待てカリオン!?あの時の

ワタシはクレイマンに操られていたのだぞ?

ノーカンに決まっておるではないか!!」

 

エイト「(いや、さっき自分で…)」

 

カリオン「てめえさっき"ワタシを支配するのは無理なのだ"って言ってただろうが」

 

ギィ「本当にそれでいいのかよ、カリオン」

 

カリオン「ああ。建前上魔王同士は同格だが、ああまで歴然とした力の差を見せつけられたんだ。ここは潔く軍門に下ろうと思う」

 

ギィ「俺はお前を気に入ってたんだぜ?後数百年をすればお前も覚醒するだろうと期待してたんだがな」

 

カリオン「期待はありがたいが身の触れ方は自分で決めるさ」

 

カリオンは笑顔でそう言った。

 

エイト「(カリオンさんって男前な)」

 

ギィ「…まぁいいだろう。たった今よりフレイとカリオンは魔王ではない。ミリムに仕えたいというのなら自分達で説き伏せるがいいさ」

 

ミリム「本気なのかカリオン?」

 

カリオン「ああ。獣王国の王を辞めるつもりはねぇがミリムを上に置く新体制を築きたいと思ってな」

 

フレイ「いいと思うわよ。獣王戦士団は貴方の戦力として恥じない実力だし」

 

エイト「(もしそうなったらユーラザニアと交易をしている俺たちとしても関係のない話ではないよな…)」

 

ミリム「そ、そんなことを言って…ワタシを騙そうとしていないか?配下になると気軽に話してくれなくなるだろ?一緒に遊んだり悪巧みもしてくれなくなるんだろ?」オロオロ

 

フレイ「いいえ。いつで一緒にいられるようになるし、なんならもっと楽しいことができるかもよ?」

 

リムル「(あの人、俺よりミリムの扱い上手いな。ちょっとくやしい…)」

 

エイト「何悔しがってるんだよ…」

 

リムル「え?バレた?」

 

カリオン「そもそもお前が俺の都を吹き飛ばしたんじゃねぇか!お前にも俺を養う義務があるんだよ!」

 

こっちはゴリ押しなんですね…。

 

ミリム「ワ、ワタシハ タミヲモタヌシュギダツカエルトイワレテモコマルノダガ…」

 

フレイ「だからこそ私たちが役に立つのよ。

貴方だっていつまでも我儘ばかり言っては居られないでしょう?そろそろ領土の運営も考えるべきなのではなくて?でないと貴方を慕う神官たちが可哀想じゃない」

 

ミリム「ア、アワワ…」プシュゥ

 

ミリムは頭から湯気が出るように考えるのを

やめた。

 

ミリム「ええいわかったのだ!もう勝手に好きにすればいい!」

 

リムル「(今後は彼らを相手に交渉をすることにもなるのか…手強そうだなぁ…特にフレイさんの方)」

 

二人は魔王じゃなくなったため領土運営の話になるまでは退室することになった。

 

エイト「(あれ?そういえば…)」

 

リムル「九人か…」

 

エイト「"十大魔王"じゃなくなったんだな」

 

 

ギィ「」ピクッ

 

ミリム「っ…!」

 

ラミリス「ハッ…!」

 

ダクリュール「…」

 

バレンタイン「ッ…」

 

ディーノ「…」

 

レオン「!?」

 

 

リムル「?」

エイト「え?何?」

 

この異様な雰囲気…急に空気変わったんだが?俺地雷でも踏んだ?

 

 

ダクリュール「困ったのう。また新たな名称を考えなければなるまいよ」

 

バレンタイン「幸いにも今は全ての魔王が揃っておるのだ。良い知恵も浮かぼうというものよな」

 

ミリム「わははは!!ワタシは今回もお前達に任せたのだ!」

 

ディーノ「押し付け早ッ!まぁ前回は散々だったもんねー」

 

ダクリュール「幾度ワルプルギスを開催したことか…」

 

ディーノ「"十大魔王"ってのも結局は人間が呼び出したんだよな。せっかく俺たちだって必死に考えたってのに」

 

バレンタイン「さも建設的な意見を出したかのように語るでないわ。貴様は文句ばかり言っておったであろうが」

 

ディーノ「何言ってんだよバレンタイン。

そう言うお前はロイに任せっきりだったじゃねーの」

 

レオン「噂に聞く悪夢が始まるのか…」ボソッ

 

エイト「(え?悪夢?)」

 

ラミリス「九人なんだしさぁもう八大魔…「それは認めぬ」なんでよ!?」

 

リムル「ひょっとして魔王って暇なのか?」ボソッ

 

エイト「そうだな」ボソッ

 

正直ちょっと引くレベル。十大魔王が聞いて呆れるな。ある意味。

 

ギィ「落ち着けお前たち。こんな時こそ普段は見せない協調性で乗り切ろうじゃねーか」

 

ディーノ「俺寝る」

 

ラミリス「アンタほんと協調性の欠片もないわね!?」

 

エイト「(俺も寝ようかな…)」

 

ラミリス「いーじゃん八大魔「いや、それはない」ギィまで!?」

 

すると、マンガを読み終えたヴェルドラが席の後ろにやってきた。

 

ヴェルドラ「なんだ魔王達の呼称で揉めておるのか?」

 

リムル「ああ、ヴェルドラ。そうなんだよ」

 

エイト「名前なんて何でもいいのにな。最悪なくてもいいだろうに」

 

ギィ「」ピクッ

 

エイト「(え?怒らせた?)」

 

ヴェルドラ「そういう話ならば我が友リムルとエイトが得意としておるわ!頼ってくれても良いぞ?」

 

リムル「(こ、このおっさん!)」

 

エイト「(やりやがったな…!)」

 

ラミリス「そう言えばアタシのベレッタにもサクッと名付けてくれたもんね!エイトは知らないけど」

 

ギィ「…ほぅ?」

 

エイト「リムル、頼んだぞ」

 

リムル「いや、エイト。頑張れ」

 

ギィ「今日新たな魔王として立つエイトよ」

 

リムル「(勝ったな)」ニヤッ

 

エイト「(この野郎…)」

 

ギィ「君に素晴らしい特権を与えたい」

 

エイト「あ、そういうのいいんで」

 

ードゴォンッ!

 

机が真っ二つに割れた。え?怖…

 

ギィ「そうだとも。我らの新たなる呼び名を付ける権利。それを君に進呈する」

 

エイト「(さっき余計な一言を言ってしまった為であろうか…最悪だぁ…)」

 

ギィは机の間を歩いてきた。

 

ギィ「これは大変名誉なことだから。当然引き受けてくれるよな?」

 

そういう言うと、俺の顎を持った。え?何?

気持ち悪いんですけど…

 

ギィは耳元まで口を近づけてくる。

 

ギィ「…というかよ、お前が人数を減らしたのがこの問題の原因なんだぜ?」

 

エイト「(み、耳弱いからや、やめてくれませんかね…)」

 

リムル「(エイトが可哀想になってきた…)」

 

ギィ「責任取って名前くらい考えるよな?」

 

すると、ギィは俺の耳を甘噛みした。

 

エイト「!?(やばいシュナに殺される!)」

 

俺はギィを突き飛ばした。

 

ギィ「!」

 

リムル「おい、エイト…」

 

エイト「いや、考えるのはいいですけどセクハラは良くないですよ?」

 

流石に俺でも嫌なものはいやだ。俺にそう言う趣味はない。

 

ギィ「ほぅ…まあ考えてくれるのならいい。

レイン。テーブルくっつけとけ」

 

リムル「お前度胸あるな…」

 

エイト「いや、シュナに殺されそうだったからな…」

 

繋がってる影越しに少し威圧感を感じた。まさかバレてる?やばいんだけど?どうしてくれるんですかギィさん?

 

〜〜〜

 

というわけで考えなければいけないわけだが…

 

エイト「(えー…九人の魔王…九…九…)」

 

俺は空を見上げながら考える。天井の先に見えるのは星だ。

 

エイト「(星…そういえば今夜は新月だったけか?)」

 

夜空に煌めく星はとても綺麗だ。

 

エイト「"九星魔王"(エニアグラム)。これでいいか?」

 

周りからの感触も悪くない様子で…

 

ギィ「決まり、だな」

 

 

この日より魔王達は新たな呼称で畏れられることになる。

 

悪魔族(デーモン)

暗黒帝王"ダークオブダークネス"

「ギィ・クリムゾン」

 

竜人族(ドラゴノイド)

破壊の暴君"デストロイ"

「ミリム・ナーヴァ」

 

妖精族(ピクシー)

迷宮妖精"ラビリンス"

「ラミリス」

 

巨人族(ジャイアント)

大地の怒り"アースクエイク"

「ダグリュール」

 

吸血鬼族(ヴァンパイア)

夜魔の女王"クイーン・オブ・ナイトメア"

「ルミナス・バレンタイン」

 

堕天族(フォールン)

眠る支配者"スリーピング・ルーラー"

「ディーノ」

 

人魔族(デモンノイド)

白金の剣王"プラチナセイバー"

「レオン・クロムウェル」

 

妖魔族(スライム)

新星"ニュービー"

「エイト=テンペスト」

 

妖魔族(スライム)

新星"ニュービー"

「リムル=テンペスト」

 

その呼び名は「九星魔王"エニアグラム"」

 

新月の夜 新たな魔王の時代が幕を開ける。




どうだったでしょうか?
何かありましたらコメントよろしくお願いします!


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閑話:転スラ日記 3日記

リムル「ジュラの夏って暑いんだな」

 

エイト「炎熱無効があるからわかんねえな」

 

リムル「まあ、それもそうだな。でも、なんか皆まいってるぞ」

 

リグルド「いえ、私どもの記憶ではこんなに暑い夏は初めてなんですが…」

 

リムル「…あれ?もしかして森切り開いて町作っちゃったから自然環境に変化が…」

 

いや、ジュラの森の一部だけで星の自然環境が変わるかよ…。

 

リグルド「い、いえっ!きっとこれは暴風竜様が姿を消された為かと!」

 

リムル「そ、そっか!」

 

リグルド「なんせ暴風竜様(かみさま)のなした事ですから…暴風竜様ですし…」

 

リムル「ヴェルドラだもんな!天災級(ヴェルドラ)じゃあしょーがないよな!」

 

どのみち俺たちが原因じゃねーか。ってどうせ違うんだが…。

 

〜〜〜

 

場所は変わって

 

リムル「…とまぁ、ちょっと気になったんだが、お前達はその格好で暑くないのか?」

 

エイト「(確かにな…こんな日でもいつも通りの巫女服。仕事もあるし暑かったりすると思うんだが…)」

 

シオン「へっちゃらです!夏好きなんで!」

 

暑いことに変わりはないのでは?

 

シュナ「お仕事中ですから苦にはなりません」

 

俺なら倒れてるな。

 

シュナ「私どもは仮にも役職を戴いていますので、いついかなる時誰に見られても恥ずかしくない姿で働いて降りますわ」

 

エイト「ま、気にしすぎて倒れるなよ」

 

シオン「ご心配なく!どうしても暑い時は見えない所から一枚抜きますから!

今日みたいに!」

 

と、言った頃にはシュナがシオンを外に連れ出していた。

 

シュナ「ちょっと失礼します」

 

シオン「え?何ですか?スースーして快適ですよ?」

 

リムル「…」

 

エイト「シオンは純粋すぎないか?」

 

リムル「そうだな…」

 

 

ー翌日ー

 

シュナ「エイト様の体は冷んやりしていて気持ちいいですねぇ」ダキッ

 

シュナはスライム姿の俺を抱きしめる。

 

エイト「それはよかった。まあ、俺は自然影響無効を持っちゃってるから暑さとかわからないけど」

 

シュナ「…?そういえばエイト様は体が燃えても気づかなかったりするんですか?」

 

エイト「え?何?俺の体燃やしたいの?」

 

発想が怖いんだが…

 

シュナ「(エイト様って偶に行き着く答えが斜め下過ぎですよね…)」

 

シュナ「いえ、そういうわけではないんですが…体に火をつけたまま町に戻られると火事になるかと…」

 

エイト「まあ、そうだな。俺は気づかないかもしれないけどスキルが教えてくれると思うぞ?」

 

俺の便利な相棒"叡智之王"がな。

 

シュナ「そうなんですか。町が燃えなくてよかったです」ニコッ

 

エイト「いや、俺の体が燃える前提でよくないんだが?」

 

〜〜〜

 

ージュラの森のとある湖ー

 

リムル「おーい着替えたか?」

 

シオン「はいリムル様。可愛い水着のお披露目会です!」

 

リムル「よーしそれじゃあ、遊ぶぞーっ!!」

 

エイト「(どうしてこうなった…)」

 

シオン「って、リムル様!?なんですかその水着!?」

 

リムルの着ている水着は白黒のラッシュガードで、まあぱっと見囚人だな。

 

エイト「(というか…女性陣その水着誰が作ったのかな?いや、もうわかってるけど…)」

 

シオン「何でこっちを着てくれないんですか!可愛いのに…」

 

シオンが手に持つのは露出多めの際どい系の明らかな女物だ。

 

リムル「何でお前らのよりヒラヒラだらけとか露出が大きかったりしてるんだよ。ていうか、女物だろそれ」

 

シオン「皆の水着はガルム氏とドルド氏が丹精込めて作ってくれたものですよ!?ねちっこく解説してくれました」

 

ゴブタ「職人っすね!」

 

エイト「あのおっさんども…」

 

リムル「お前らもそれでよく着ける気になったな」

 

と、そこにゴブタが突撃。

 

エイト「(悪い予感が…)」

 

ゴブタ「では間を取ってシオンさんが着てはどうっすか!?そうすればガルムさん達もうかばれるっすよ!!」

 

シオン「え」

 

ゴブタ「さあさあ!」

 

リムル「いや、シオンだと色々はみ出して…

 

ゴブタ「おっぱいのない人は黙ってて下さいっす!!!」

 

 

ゴブタは遥か遠方に飛んでいき、湖に沈んだ。

 

エイト「悪い感ほどよく当たるな」

 

 

すると、何故か俺のいるパラソルの近くに

ソーカがやってきた。

 

シュナ「ソーカさんどうしたんですか?」

 

ソーカ「え、いえ…私は護衛として付いてきたのでこういう格好は…この姿になったのも最近ですし何か変じゃないかと…」

 

シュナ「まあ、初々しい!心配する事はありませんよ。よくお似合いです。今日は遊びなんですからそんな緊張せずともリラックスして下さい。貴方はしなやかでとても素敵です」ニコッ

 

エイト「(どこぞの詐欺占い師みたいだな。

暗示でも掛けてるの?)」

 

ゴブタ「そうっすよ!お尻とかすっごく綺麗じゃないすか!尻尾ってどうしたんす?」

 

ゴブタは再び遥か遠方に飛んでいき、湖に沈んでいった。

 

〜〜〜

 

ゴブタ「準備運動終了!さぁ遊ぶっすよー!」

 

リムル「お前タフだな」

 

ゴブタ「タブでなければ女の子とは遊べないっす!!」

 

エイト「(悲しいやつだな)」

 

と、女子陣は水をかけあって遊び始めた。

そこにゴブタは混ざろうと懸命に努力したが…

 

ゴブタ「ばふっ…!?ごふっ…!」

 

リムル「もうよせ。お前はよくやったよ」

 

リムルに担がれて帰ってきた。

 

ゴブタ「水滴が…石みたいに硬く…」

 

エイト「…あれ??え!?」

 

女性陣の水のかけあいはなぜか戦闘というか戦争というか…別のものに変化していた。

 

エイト「ゴブタが可哀想になってきたな…」

 

あの中から出るのが一歩遅かったら爆発四散してたかもな…。

 

ハクロウ「いい修行になったでしょうな」

 

エイト「痛めつけられる修行が?」

 

ハクロウ「水の中はいつもと環境が違うなんだ。経験は大事ですぞ」

 

エイト「そういえば、ハクロウは泳がないのか?」

 

ハクロウ「ほっほっほ、今日はのんびり水面を眺めながら釣り糸を垂らそうと思いますのじゃ命の洗濯ですな」

 

と、言った瞬間。水面から飛び出てきたのはバカでかい魚。魔物か?

 

ハクロウ「…まぁ、相手によってははしゃぐのもアリですかな!夕食をお楽しみに!」キリッ

 

エイト「あれ…喰えるの?」

 

まあ、そんな感じでハクロウが魚相手に本気出そうと息を巻いた頃、息を切らして女性陣が帰ってきた。

 

エイト「(遊びとは…)」

 

シュナ「エイト様は入られないのですか?」

 

エイト「俺は泳ぐの好きじゃないからな。ていうか水着持ってきてない」

 

見たし触ったからドレスチェンジはできるけど。

 

シュナ「そうなんですか…私エイト様と入りたかったです…」ショボン

 

エイト「え、あ、いや…」

 

仕方ない。着替えるか。

 

エイト「わーったよ」パチンッ

 

指を鳴らす音ともに俺は水着に変わった。

 

シュナ「まあ!」パアッ

 

エイト「(守りたい。この笑顔)」

 

シュナ「あ、エイト様」

 

エイト「ん?どうかしたか?」

 

シュナ「そ、その…わ、わたくしのこの水着…ど、どうでしょうか?」

 

顔を赤らめながら聞いてくるシュナ。

 

エイト「(可愛い…」

 

シュナ「///」カアッ

 

エイト「(え?声出てた?)」

 

シュナ「あ、ありがとうございます…///」

 

エイト「(どうすればいいのこれ?)」

 

〜〜〜

 

そんなこんなで夜になり…

 

シュナ「これは食べごたえがありますね」

 

ハクロウがさっきのでかい魚を釣り上げてきていた。

 

シオン「お料理お手伝いしますよ」

 

エイト「ッ!?」

 

ゴブタ「シオンさん!!綺麗な貝殻見つけたっす!」

 

ソーカ「戦いのお話を聞かせてください!」

 

ランガ「タッグ技を研究しようではないか!」

 

シオン「ふぇ?え?」

 

リムル「シオン俺…お前と少し湖畔をお散歩したいかな…」

 

エイト「(よくやったお前ら)」

 

シオン「(やだ…わたし大人気!?)」

 

と、夕飯が完成し…

 

リムル「いやー美味い飯だな」

 

エイト「お前らのおかげだ(本当マジ)」

 

シュナ「皆さんのご協力の賜物です」

 

シオン「…私何もしてませんが?」

 

リムル「いやいやいや、はははっ…」

 

今回料理を作ったのは俺とシュナだ。まあ、俺は魚斬っただけだけど…え?包丁で斬ったからな?何でもかんでも短剣で斬るわけないだろ?

 

〜〜〜

 

女子テント内にて…

 

女性陣三人は楽しく酒盛り中。

 

シオン「ねえねえ、ソーカはソウエイの事好きなんですか?」

 

ソーカ「わ、私はあくまで戦士として憧れているわけで…」アワアワ

 

シオン「アイツ性格悪いからやめた方がいいですよ」

 

シュナ「あら、そんな事はありませんよ。

ソウエイは無愛想ではありますが心根は優しく誠実な頼もしい男性です。憧れるというのは当然かと思いますよ」

 

シオン「えーそうですかぁ?」

 

ソーカ「(同郷のお二人の話はあの方への深い理解が伺えて…

 

シュナ「まあーそう思わされておいて騙されたという噂も枚挙に暇がありませんが」

 

シオン「絶対女を泣かせてますよあの鬼畜」ケラケラ

 

ソーカ「(聞きたくなかったなぁ…)」

 

〜〜〜

 

俺のテントにて…

 

エイト「はぁ…寝る必要ないのに寝たくなってしまう…」

 

リムルは外でハクロウと飲んでいるが、俺は酒が飲みたいわけでもないので布団の中でもぞもぞしている。

 

エイト「(暇だな)」

 

水着に着替えたのにシュナと話してたら湖に入らなかったし、釣りをしたわけでもない。俺なんで来たんだろう…まあ、シュナの水着見れたしいいか。

 

すると、俺のテントに入る人物が一人。

万能感知によるとシュナだ。

 

シュナ「(失礼します)」

 

シュナは俺の布団に躊躇せず入ってきた…え?

 

エイト「お、おお…どうした?」

 

シュナ「あ、エイト様。お邪魔してます」

 

エイト「いや、それはいいんだが…お前シオン達と飲んでただろ?もういいのか?」

 

シュナ「はい。楽しかったですよ」

 

エイト「は、はあ…」

 

シュナ「その…話題が私に振られてしまって」

 

エイト「(ガールズトークの内容を俺が聞いていいものなのだろうか…)」

 

シュナ「私とエイト様がどんな関係なのかシオンとソーカさんに問い詰められたんです…」

 

エイト「まあ、別に隠すようなことでもなくないか?」

 

シュナ「そ、それはそうなんですが…恥ずかしくなってしまって…」

 

エイト「(葉山と戦った時あんな堂々としてたのはなんだったんですかね…)」

 

シュナ「逃げてきてしまったんです」

 

エイト「まあ、シオンはわからんがソーカには悟られただろうな。まあ、別にいいけど」

 

シュナ「シオンのこと、(ある意味)あまり舐めない方がいいですよ?」

 

エイト「え?」

 

 

翌日には皆さん俺とシュナのことをご存知になっていました。



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27話:神の正体

ーとある屋敷ー

 

フットマン「嘘だ!!そんな事ある訳ない!!嘘だと言ってください!!ガザリーム会長!」

 

ガザリームと呼ばれた女は、以前エイトたちが会ったユウキ・カグラザカの専属秘書だった。

 

ガザリーム「…本当だ。クレイマンとの繋がりが途絶えた。もうアイツの魂を感じない。

デスマンに取って本当の…死だ。

(愚かで傲慢で…そして可愛いクレイマン。ゆっくり休みながらワタクシ達を見守ってちょうだい。必ず"野望を実現して見せるから")」

 

ーバタンッ

 

ドアから入ってきたのはグランドマスターの

ユウキだ。

 

ユウキ「ほら、拭けよ。雨と返り血でずぶ濡れじゃないか"ラプラス"」

 

ユウキはタオルを差し出した。

 

ラプラス「…」

 

そう、ラプラスは先程ルベリオスにある西方聖教会の奥の院の近くまで侵入して、バレンタインと交代して帰ってきたロイ・ヴァレンタインを殺してきたのだ。

 

ティア「で、でもさ、ラプラスが無事でよかったよ!ヴァレンタインって昔会長と互角だった魔王でしょ?良く勝てたよね!」

 

ラプラスは返り血を拭きながら言った。

 

ラプラス「ヴァンパイアの力が落ちる新月の夜だったしな。運が良かったんや。……それに、

"ワイはクレイマンほどアホやない"」

 

ティア「え…」

 

フットマン「ラプラス!そんな言い方はないでしょう!?」

 

ラプラス「事実や。忠告無視して弱いくせに調子に乗るからアイツは死んだんや」

 

フットマン「貴方という人は…ッ」

 

フットマンはラプラスに殴りかかろうとする。

 

ガザリーム「やめろ!…悲しいのは皆同じだ」

 

ユウキ「そうだね。そういうのは"雇い主"である僕の役目だ。一人で悪役になろうとするなよラプラス」

 

フットマン「…そういう意図でしたか…すみませんねラプラス」

 

ラプラス「ええて…でも、見透かされちゃカッコ悪いですやん。殴っとけやフットマン」

 

〜〜〜

 

ユウキ「実は、クレイマンに託していた拠点も例のスライム二匹に奪われた」

 

ラプラス「なんやて!?」

 

ユウキ「もちろん軍も財宝もね」

 

ティア「マジか…」

 

ユウキ「そういうわけで全ての作戦は一旦休止。手は出さずに様子見を決め込む」

 

ガザリーム「…そうね。スライムという予測不能な要素がある以上暫くは大人しくしているべきだろう。少なくとも今回の痛手がある程度まで回復するまでは…」

 

ユウキ「……とは言えやられっぱなしは癪だよね。僕達は手は出さないけど口は出してもいいだろ?クレイマンから全てを奪ったあのスライムには、少しくらい仕返ししておこうと思うんだ」

 

ユウキは口元をニャリと歪め、人の悪い笑みを浮かべて言う。

 

ガザリーム「何をする気なんだ?」

 

カザリームの問いには答えず、ユウキは薄く笑った。

 

ユウキ「あのスライム二匹は異常だよ。たった数年で、あれだけの一大勢力を築き上げた。正直、信じられないし、普通に考えたら敵対すべきじゃない。だからさ、見極めようじゃないか。その為に―つ、仕掛けてみようと思うんだよ」

 

楽し気にそう言って、ユウキは口を閉ざした。

 

「やれやれ、また何か悪巧みですか?ま、ワイに無茶を言われるよりはマシですよって、高みの見物をさせてもらいますわ」

 

その言葉を最後にその場は解散となった。

 

こうして魔人達は表舞台から一旦退場した。

 

深く静かに闇に潜るように……。

 

きたそして、来るべき復讐の日に備えて、その牙を鋭く磨くのだ。

 

 

〜〜〜

 

ワルプルギスを終えた後、ギィ主催の食事会が開かれた。

 

レイン「こちら、黒毛虎の煮込みシチューでございます」

 

ギィのメイドは料理を机に置いていく。

 

エイト「…」パクッ

 

リムル「…」モグモグ

 

リムル「(舌の上でほどけた肉がソースとよく絡まってもう少し味わっていたいと願うその一歩手前で儚く消えてしまう)」

 

エイト「(次の一口を渇望させるその演出まで込みでこれは文句なく…)」

 

リエ「「(旨い!!)」」

 

エイト「(叡智之王先生!)」

 

リムル「(智慧之王先生!)」

 

叡智『『了。レシピを解析します』』

 

エイト「(にしても…魔王の主催する食事会だし未知のマナーがあるのかと思ったが、特にそういうのもないみたいでありがたいな)」

 

ミリムなんかはファミレスでお子様ランチ食べてる子供みたいだ。

と、そんなことを思って見ているとミリムがグラスを持った。

 

エイト「おい、それ酒だぞ」

 

ミリム「わははは!いいではないか。頑張ったご褒美なのだ!」

 

リムル「頑張った?」

 

ミリム「無表情を保つ為にこっそり生ピーマンをかじったりな!」

 

そんなことしてたのかよ…

 

リムル「操られたフリはもっと早くやめてもよかったんじゃないか?結局クレイマンは黒幕のこと喋らなかったんだろ?」

 

ミリム「うむ!だが、ぜっかくリムルと戦えるチャンスだったのでな!」

 

リムル「おい!?」

 

二十歳なんてとっくの昔に超えてるんだろうが、子供舌のミリムからはリムルが酒を没収。

 

ギィ「本当に旨いブランデーだな。原料はユーラザニアのブドウか?」

 

リムル「よくわかるな。果実の輸入で最近やっと安定して造れるようになったんだよ」

 

ヴェルドラ「ではもう一本頂こう」ドヤッ

 

エイト「お前は遠慮を覚えような」

 

ああ、それと俺も飲んでるからな?この前飲んでみたら意外と美味かったんだよ。

スライムだし年齢なんて関係ないだろうし多分大丈夫だろ。

 

ダグリュール「勿体ないのぅバレンタインめ。あやつは絶対に気に入るだろうに」

 

と、ブランデーの評価をもらってる間にラミリスが酒を飲んでむせていた。

 

エイト「(あいつは見た目通りだな。ミリムは飲めそうだが…)」

 

叡智之王『分析が終了しました。コース料理の再現が可能となりました』

 

エイト「(世界最高峰のレシピも手に入れて、クレイマンも倒して魔王の座にもついた。他の魔王からの評価も悪くはない。ワルプルギスでの戦果は上々だな)」

 

 

そんなわけで食事を終えると俺たちはテンペストへの帰路についた。

 

 

 

〜神聖法皇国ルベリオス〜

 

西方聖教会 聖騎士団長 ヒナタ・サカグチ。

 

彼女はルベリオスの学校で遊ぶ子供達を横目に歩いていた。

 

ヒナタ「(争いのない平等な社会…ここでは皆が幸福に生きることが許される。管理者を神に委ねることで実現する完全な平等性。それが、神聖法皇国ルベリオスという国の在り方。

私の生き方を決定づけた"神"の理想を体現する唯一のやり方。弱者が強者から搾取されず誰もが笑顔で自由がないことに不満も疑問も抱かない。すごいことだと思う。けれど…)」

 

ヒナタ「…ほんの少し違和感、かな」

 

〜〜〜

 

「待っていたよヒナタ」

 

歩いてきたのは法衣を纏った吸血鬼族。

 

ヒナタ「なんの用かしら、ロイ・ヴァレンタイン。…いえ、"ルイ"だったかしら」

 

「仮にも同志に対して興味がないにも程があるな。私はルイだよ。"法皇役"のね」

 

ヒナタ「仕方ないでしょ。ロイも聖地では法衣を纏うし、貴方達双子のどっちがどっちでも私の役目が変わる訳ではないもの」

 

ルイ「昨夜、ロイが殺された」

 

ヒナタ「…冗談?」

 

ルイ「冗談で弟を殺すほど悪趣味ではないよ。深夜に何者かが聖神殿に侵入したのは知っているだろう?」

 

ヒナタ「ええ…見つけたのは私だもの。すぐ逃げに回ったから陽動の可能性が高いと思ったのだけど」

 

ルイ「確かに。そうであれば追跡は相手の思う壺だろうな。だが侵入者はワルプルギスから帰還したロイを殺害し逃走したようだ。私にはアイツの最期が感じ取れたが目撃者はいない。

駆けつけた衛兵は全滅だったのでね」

 

ヒナタ「そう…(ロイは決して弱くない。偽りの称号であれ魔王を名乗るに足る能力を持っていた。つまり"あの道化"は魔王以上に強かったということ)」

 

 

〜奥の院〜

 

ヒナタ「貴方はここにいていいのかしら。衛兵が殺されたのなら、騒ぎになっているのではない?」

 

 

ルイ「ああ、今はもっと重要な用があるからね。後始末は法皇が不在でも問題ない。直に、ルミナス様がお戻りになられる。

ロイの死をお伝えせねばならない。…それによって生じる問題についてもな」

 

ヒナタ「(…魔王役が消える事による問題。

それはルベリオスにとっての全てを揺るがしかねない)」

 

 

ー××年前ー

 

ヒナタ「ふざけた話だわ。これがルミナス教の本質だなんて」

 

ヒナタはルイとロイの前に立ち塞がる。

これは、ヒナタが聖騎士団長になる前の話である。

 

ヒナタ「私が聖騎士となったのは…こんな馬鹿げた宣伝行為(プロパガンダ)の先鋒になるためじゃない!」

 

完璧に見えたルベリオスだが、教会内部での地位が上がるにつれその実態が見え始めてきた。

 

 

ヒナタはヴァレンタイン兄弟を相手に互角に渡り合っていた。

 

 

法皇の正体はルイ・ヴァレンタイン。

そして、ルベリオスが打倒を掲げる鮮血の覇王はロイ・ヴァレンタイン。法皇ルイの双子の弟だった。

 

魔王ロイの所業に嘆く人々は、教会へ助けを

求める。そうして救われた人々は、それが仕組まれた救済とは気づかずにルミナス教への信心を深くするのだ。

 

 

ヒナタ「ふ…ふふふ…」ドサッ

 

ヒナタは血だらけになりながらも、ロイとルイを殺してみせた。

 

ヒナタ「(ここまでか…けれど…一つの邪悪は滅ぼせた。これで…)」

 

「妾の寝所まで騒がしいぞ。一体何をしているのじゃ」

 

ヒナタはその時初めて唯一神と崇められる存在に出会った。

 

その正体は…魔王達の宴にもいた夜魔の女王であった。

 

ルミナス「!…ふぅ…二人とも。妾を置いて

死ぬことなど許さぬ」

 

ルミナス・バレンタインの背中から魔力のようなものが流れ出る。

 

ヒナタ「(何を…?)」

 

次の瞬間。殺されたはずの二人は蘇った。

 

ヒナタ「(終わった…私のしたことは…)」

 

ルミナス「お前もよ、人間。驕った考えを抱いたまま死ぬでない。正義とは何ぞや?悪を挫くことか?仮にそうだとして…妾の行いが悪かどうか。それを矮小な身で勝手に判断するとは、何様じゃ」

 

ルミナスはヒナタの傷も回復させた。

そして、両手をヒナタの両頬に触れさせると、

 

ルミナス「全ての自由意志を満足させる正義などない。それを行えると考える方が傲慢であろうよ。違うか?」

 

ヒナタ「…!」

 

ルミナス「一週間やろう。妾の腹心達を倒せるお前なら"七曜の試練"を乗り越えられよう。

その時こそ妾も本気で相手をしてやろうぞ」

 

 

一週間後。"簒奪者(コエルモノ)"を用い

試練を乗り越え、新たな力を得たヒナタは再びルミナスの前に立ち、身命を賭して挑み、敗れ

降った。

 

唯一神ルミナス。ルベリオスの秩序を象徴するその絶対的な存在に……

 

 

ー現在ー

 

ルミナスは、カウチソファに寝そべりながら

飲み物を飲んでいた。

 

ルミナス「____というのが昨夜のワルプルギスのあらましよ。あの忌々しい邪竜が。どこまでも妾の邪魔をしてくれたわ」イライラ

 

ヒナタ「…」

ルイ「…」

 

ルミナス「ロイもロイじゃ!妾の目の届く所であれば"生き返られせて"やったものを」

 

ルミナスはグラスを机に置きながら言った。

 

ヒナタ「申し訳ありません。私が侵入者を取り逃したばかりに…」

 

ルミナス「……良い。そなたは復活した暴風竜に備え聖地の防衛に徹したまで。責めを負うべきは妾であろう」

 

ルイ「いいえ。弟がルミナス様の期待に応えられなかった結果です。どうかお気に病まれませんよう」

 

ルミナス「……今は喪失を嘆いている時ではないな。邪竜は復活し、エイトとリムルという新たな魔王が誕生した。その対策を考えねばならぬ。奴らとの関係は今後のルベリオスの在り様を決めるだろう。忌憚のない意見を述べよ」

 

ヒナタ「はい」

 

ルイ「心得ました」

 

 

ルイ「ジュラの大森林に出現した脅威。これに対し西側諸国は一丸となるでしょう。人類共通の敵として認識されれば都合がいいのですが」

 

ルミナス「確かにな。ロイ亡き今信仰心が薄れる可能性はある。ならば我々の良き共犯者として迎え入れるか…否。それは無理じゃろうな」

 

ヒナタ「?」

 

ルイ「それはどういう…」

 

ルミナス「あのリムルという新参の魔王はな、楽しく過ごせる国を造りたいそうじゃ。

それには人間の協力が必要不可欠だから自分達が守ると、妾達を前に大見得を切りおったぞ。

 

『それを邪魔する者は人も魔物も聖教会も全て等しく俺の敵だ』

 

___とな」

 

ヒナタ「…ヴェルドラの方はどうでしょう?

元々の性質を思えば言わずとも災厄を振り撒くのでは」

 

ルイ「しかし奴は復活してから不思議と大人しい」

 

ヒナタ「必要とあらば私が逆鱗に触れて参りますが」

 

ルミナス「!…ヒナタよ。そなたは確かに強くなった。妾と戦った時よりも更にな。じゃがな魔王リムルはともかくヴェルドラには勝てぬ」

 

ルイ「その通りだよヒナタ。まともな勝負になるなどと驕らない事だ」

 

ヒナタ「しかし、かつては勇者…人間によって封印されたのでしょう?」

 

ルミナス「良いかヒナタよ。アレは意志を持つ自然エネルギーと思え。並の剣では切れず、

魔法は通用しない。そして奴が暴れたその衝撃波は下手な魔法以上の破壊力を伴い地上を蹂躙するのじゃ」

 

ルイ「アレは悪夢でした。夜薔薇宮(ナイトローズ)が見るも無惨な廃墟に…」

 

ルミナス「ルイよ。思い出させるでない。あの美しかった城も今は記憶の中にしか存在せぬのだ」

 

ルイ「ええ…」

 

ルミナス「妾はそなたまで失いたくない。自重せよヒナタ」

 

ヒナタ「…はい」

 

ルイ「大人しくしているのなら下手に刺激しない方が賢明でしょう」

 

ルミナス「うむ。各国の信者どもには事実のみを告げよ。暴風竜ヴェルドラが復活したとな」

 

ヒナタ「…では、彼らの町はどうしますか?」

 

ルミナス「ん?」

 

ヒナタ「"魔物は人類共通の敵"。ルミナス教の教義を信じる信徒達にとってあの町の存在は混乱を招きます」

 

ルミナス「ふむ…幸いにも"神敵"と正式に触れを出してはおらぬであろう?西側諸国に追及されたならうまく誤魔化しておくがよい。リムルは政治的な取引に応じる相手であろうし、また話す機会もあろう」

 

ヒナタ「ですが…」

 

ルミナス「どうした?」

 

ヒナタ「彼の町は"天魔大戦"の勃発を早めかねません」

 

ルミナス「ああ…それがあったわ」ハァ

 

 

"天魔大戦"五百年周期で起こるその大戦は

天使族"エンジェル"の襲来から始まる。彼らの目標は発展した都市。理由は不明でも標的にされる条件は明確である故に…文明の発達に歯止めをかけさせる世界共通の災厄と言えた。

 

 

ルミナス「羽虫に煩わさせるのも鬱陶しいが、リムルと暴風竜を敵に回す方が厄介よな。

それにあの者たちが天使どもの的になるなら、対策も取りやすい。今は考えても仕方あるまいよ」

 

ヒナタ「承知しました。…最後にもう一ついいでしょうか」

 

ルミナス「何じゃ、まだ懸念があるのか!」

 

ヒナタ「もう一人の新参の魔王…エイトはどのような魔王だったのでしょうか?」

 

ルミナス「奴はリムルと同じ立場じゃが…基本的にはリムルが話しておったからよく分からん奴だった…」

 

ヒナタ「リムルたちの戦いにはエイトは参加しなかったのですか?」

 

ルミナス「…どうだったか…あぁ、一度だけ

クレイマンに攻撃しておったな。しかもギィの結界の外から一歩も動かずにじゃ」

 

ヒナタ「えっ…?」

 

ルミナス「それでクレイマンの右腕が消し飛んでおったわ。あまりに何もしてない様に見えたから一瞬誰がやったのかわからなかったぞ」

 

ヒナタ「…エイトの実力はリムル以上ですか?」

 

ルミナス「じゃろうな。実力の一部も感知出来なかった。何なのじゃあやつ…不気味でならんわ」

 

ヒナタ「…リムルは、私を恨んでいるかもしれません。こちらとしては正当な理由があっても彼らからしたら理不尽な話ばかりだったでしょう。エイトがその友人なのめあれば尚更です。

話も聞いてくれないかもしれません…」

 

ルミナス「…ま、私怨でルベリオスと敵対するほどリムルは…そしてエイトも短慮ではあるまい。必要とあらば神ルミナスの正体を明かして構わぬ。それで良いな?」

 

ヒナタ「…善処します」

 

 

〜魔国連邦(テンペスト)〜

 

リグルド「お帰りなさいませリムル様!!エイト様!!」

 

ディアブロ「この度は九星魔王"エニアグラム"

襲名の儀、誠におめでたき事にございます!

何よりもよくぞご無事でお戻りくださいました!!」

 

エイト「(え?うん?何で知ってるの?それにディアブロはファルムス攻略があるよね?いや色々聞きたい所なんだが…)」

 

リエ「「(いつコレ練習したんだよ…)」

 

俺たちの通る道の両脇に綺麗に並んで跪く町の皆。全員。一人残さず。

 

エイト「(恥ずかしいんだが…)」

 

 

〜〜〜

 

リムル「で、お前は何でここにいるんだよディアブロ。ファルムス攻略でトラブルか?」

 

ディアブロ「いえいえ、とんでもございません。全て計画通り、順調に進んでおります。

経過をご報告してもよろしいでしょうか?」

 

リムル「…おう(やり過ぎてる予感…)」

 

 

ー時は遡りファルムス王国 王城 謁見の間ー

 

「な、何をしておる!誰ぞ早く神官を連れてまいれ!それから回復薬を!」

 

「これは…魔物の国の者にやられたのか…?」

 

王座に置かれる"箱"の中には人体構造がぐちゃぐちゃにされ、それでも普通に生きているファルムス王国の王 エドマリスがいた。

もっとも、こんな姿にしたのはシオンである。

 

「王をお連れしたショウゴはまだ目を覚まさんのか!?叩き起こして説明させるべきであろうが!!」

 

「落ち着かれよカルロス卿。喚いても事態は変わらん…!」

 

 

その日、異形となって帰還した王を出迎えた王宮は上を下への大騒ぎとなった。

 

「だ、駄目です!回復魔法も効果がありません!」

 

「馬鹿な!」

 

「そもそもご存命なのか?どう見てもその…」

 

「は、はい。意識もおありです。それどころか

切り傷一つもありません。まるで"最初からこのお姿だった"かのように…」

 

「通常の回復魔法は効かぬ」

 

「身体を構成する法則が書き換えられておるのだ」

 

すると、その後ろから歩いてくる人物が一人。

 

「おお…目を覚ましたらか。そなたは無事のようだな。ショウゴ・タグチよ」

 

「痛み入りますミュラー殿。衛兵。レイヒム殿が英雄ヨウムを連れフルポーションを持ち帰る手筈となっている。直到着するであろう。門番に話を通しておくように」

 

衛兵「え、あ…」

 

「ショウゴ貴様…!事情を知っておるなら早く説明せよ!魔物の国への遠征で一体何があった!?」

 

「ラーゼン殿は何処におられる!?貴様が無事ならあの方も生きておろう!」

 

 

リムル「え、待った。ショウゴって異世界人の体にはラーゼンの精神が入ってるんだよな?」

 

ディアブロ「左様です」

 

リムル「そいつは元々ファルムスの伝説的な魔導師なんだろ?お前の指示に従って動いているのか?」

 

ディアブロ「ええ。王宮魔術師長の地位は重鎮どもを説得させるのにうってつけでしたので使役することにしたのです。本人の申し出もありましたしね」

 

エイト「(自分からディアブロに降ったのか…俺なら死んでもこいつの下には付きたくない)」

 

 

ー再び時は遡りー

 

ショウゴの姿のラーゼンがテンペストで何があったのかを話した。

 

「ぼ、ぼぼ…暴風竜の復活だとぉ!?」

 

「あり得ん!彼の竜は消滅したと聖教会が発表したはずではないか!」

 

「そ、そうだ!しかも全軍行方不明?敗北の言い訳にしては荒唐無稽ですぞ!!」

 

「貴公は本当にラーゼン殿か!?ショウゴの奴めが出鱈目を言っているのではあるまいな!?」

 

ラーゼン「(…まぁ、予想通りの反応よな)」

 

「儂は信じますぞラーゼン殿」

 

ラーゼン「ミュラー卿」

 

「ミュラー卿!こんな出鱈目を信じるなど…」

 

ミュラー「他でもない数百年我が国を守護してきたウィザードであるラーゼン殿が告げたのだぞ。他の誰よりも確かで確実な情報だ」

 

「しかし…しかし…!では全軍が行方不明というのはどういうことですか?殺されでもなく潰走したでもなく行方不明とは…」

 

ラーゼン「我が軍と魔物達との戦いが彼の竜を蘇らせた。彼らは皆生け贄…苦痛も恐怖もなく何が起きたのかわからぬ間に暴風竜に喰われてしまったのです」

 

「そん…な…」

 

この男は初陣の我が子でも亡くしたのか、その場で倒れ込んで泣いた。

 

だが、この作り話は真実より幾分も優しい。

 

本当は…自分がもうすぐ死ぬという恐怖と仲間が目の前で殺される恐怖を味わいながら殺されて行ったのだ。

 

そこから考えれば天災に運悪く生贄にされた。その方がマシなのだろう。

 

「しかし、ならばなぜラーゼン殿は助かったのです?何か理由がおありなのでしょう?」

 

レイヒム「助けられたのですよ、あの方に」

 

やって来たのはファルムス王国の最高司祭であるレイヒム。ファルムス側で生き残った三人のうちの一人だ。

 

「レイヒム殿!」

 

レイヒム「そなたも無事であったか…!」

 

「待たれよ、今助けられたと申されたか?暴風竜を相手に誰が助けてくれたというのじゃ?」

 

レイヒム「私とラーゼン殿は王をお守りするのが精一杯。暴風竜の復活に絶望していた我らの前に、"あの方"は舞い降りたのです」

 

「あの方…?」

 

ヨウム「勿体ぶり過ぎだぜレイヒムさんよ。

あの人そういうの照れちまうぞ」

 

「な、何者だ!?」

 

現れたのはヨウムだった。

 

ラーゼン「(来た…!ここからが本番だ…)」

 

レイヒム「失礼。紹介が遅れましたな。遅くなって申し訳ないラーゼン殿。無事お連れした」

 

ラーゼン「ヨウム殿…我が国で唯一あの方と縁を持つ架け橋なりえる存在です。ぜひ彼の話を聞いてほしい」

 

ヨウム「待たせたな。どうにか"あの方"…リムルさんの説得に成功したぜ。王を元に戻す薬をもらってきた」

 

すると、辺りがザワつき始めた。

 

「ヨウム…英雄ヨウムか…!」

 

「あの豚頭帝を倒したという…!」

 

ディアブロ『貴族共が話を聞く姿勢は整いましたか?』

 

ディアブロは思念伝達でラーゼンに話しかける。

 

ラーゼン『完了しております。今ならばヨウムの話に耳を傾けるでしょう』

 

だが、そんな中一人の貴族が群れを割って出てきた。

 

「なんじゃ貴様は!英雄だかなんだか知らぬが平民風情が無礼であろう!!」

 

ラーゼン「!?」ゾクッ

 

ラーゼンが怯えたのはその声ではない。この状況に怒るであろうディアブロに対してだ。

 

「ここは下賤な輩が来るような場所ではないぞ!」

 

ラーゼン「か、カルロス卿!!まずは話を聞きましょうぞ!」

 

ディアブロ「…」ゴオォッ

 

ヨウム「え、え〜と…じゃあ話すぜ」

 

ヨウムはディアブロに怯えながら話し出す。

 

ヨウム「まずわかってねぇみたいだから教えてやる。ファルムスは今滅茶苦茶ピンチだが同時にチャンスでもある。暴風竜ヴェルドラ。あんたらは二万の軍隊と引き換えに天災級を目覚めさせちまった」

 

その場の全員が怯え、頭を抱えた。

 

ヨウム「ファルムスはジュラの大森林と隣接してる。まず無事に済むわけはねぇよな。これが最大のピンチだ」

 

貴族たちの目の前に立つディアブロだが、その姿は全く気付かれていなかった。

 

ヨウム「次にチャンスについてだ。リムルさんから和睦協議の提案があった」

 

先程ヨウムに怒鳴った貴族が聞く。

 

カルロス「そ、それの何がチャンスだと…」

 

ヨウム「忘れたのか?さっきレイヒムさんが

"助けられた"って言ってたじゃねぇか。

魔国連邦"テンペスト"の盟主リムル=テンペストは現状 暴風竜と交渉可能な唯一の存在だ」

 

「暴風竜と交渉可能…!?」

 

ヨウム「おっと、希望が見えて来ちゃったか?でも忘れちゃいねぇよな。自分たちがあの人の国に何をしたのか。

 

…リムルさんは人間との協調を望んでいるが仲間が殺されて泣き寝入りを決め込むほどお人好しじゃねぇ。…正直、滅茶苦茶怒ってるぜ?

 

さて、どうする?この状況で和睦協議の提案を突っぱねるか?よく考えて答えようや。俺らの国のことなんだからよ」

 

カルロス「なんという…なんという無礼な物言いか!!大国ファルムスが魔物の国に屈するだと!?あり得んな!」

 

ラーゼン「カルロス卿!!」

 

カルロス「リムルとやらに顔が利くなら都合がいい。取りなすのも英雄の仕事であろう!!」

 

ラーゼン「カルロス卿控えよ!!(怒ってる…!!)」

 

ラーゼンはディアブロの機嫌を伺いながらカルロス卿を宥める。

 

カルロス「国家の大義を貴様如き平民が語るでないわ!!よいか!儂は絶対に認め___

 

ラーゼン「控えろと言っておろうがこの馬鹿垂れがぁ!!」ズンッ

 

ラーゼンの魔法でカルロスは氷漬けにされた。

 

ラーゼン「事情を知らぬ者が出しゃばるでないわ!!」ギリッ

 

レイヒム「(ナイスですぞラーゼン殿!)」

 

ディアブロ「ほぅ…」

 

ラーゼン「はぁ…良いか。ヨウム殿の言葉に嘘はない。我らは敗北した。生き残ったのは儂とレイヒム殿と…そして暴風竜の魔素に当てられ、かのような姿に変じてしまわれたエドマリス王のみ。

我らが運命はテンペストの盟主にかかっておる。これがファルムスの現状よ」

 

「……提案を受け入れようではないか。のう?皆の者」

 

一人の貴族がそう言うと、他の貴族も黙ってそれを黙認するしかなかった。

 

ディアブロ「クフフフフ…賢明な判断です。

それでは約束通り、この国の王を解放きて差し上げましょう」

 

衛兵「な、何者だ!貴様いつの間に王の側へ…

 

ディアブロ「これは失礼。ガラ空きでしたもので。我の"名"はディアブロ。偉大なる我が王、リムル様の忠実な執事(バトラー)ですよ」

 

そう言ってディアブロはエドマリス王に回復薬を掛けた。そして、それと同時に誰にも気付かれぬ様に王の体の法則を組み替えていたシオンの呪縛を解いた。

 

その変化は劇的だった。一瞬にして王の体は

健全な元の姿に戻ったのだ。

 

ディアブロ「ご気分はいかがですか?エドマリス王」

 

エドマリス「あ、ああ…助かった。感謝する」

 

「おお…王が元の壮健なお姿に…!」

 

「信じられん。あれ程あらゆる治療を試みても効果がなかったと言うのに…」

 

ディアブロ「さて、ファルムスの王よ。我が王であらせられるリムル様より伝言があります」

 

エドマリス「聞こう。魔物の国の使者殿…」

 

その言葉に居合わせた貴族達はザワついた。

 

ディアブロ「では申します」

 

そう言うと、ディアブロは持っていた巻き物を広げて、読み始めた。

 

 

ー"これより一週間の後 両国代表による和睦協議を行いたい"

 

ー"講和条約の締結に先立ち貴国には三つの道を用意した"

 

 

「三つの道…?」

 

 

ー"選択肢を与えよう"

 

ー"一つ 王が退位し戦争賠償を行うこと"

 

ー"一つ 魔国連邦の軍門に下り属国となること"

 

ー"一つ 戦争を継続すること"

 

ー"貴国の前には三本の道がある"

 

ー"どれも茨の道だが、よく考えて欲しい"

 

ー"選んだ道が途絶えないことを祈る"

 

 

ディアブロ「以上となります。それでは一週間後までに答えを用意しておいてください」

 

「ま、待って欲しい!それはあまりにも時間が…」

 

ディアブロ「黙りなさい。私は気が短いのです」

 

「しかし、地方の貴族も召集せねば…

 

ディアブロ「黙れと言っている」ギロッ

 

ディアブロの威圧に、貴族達は口を塞いだ。

 

ディアブロ「お前達の都合などリムル様には関係ない。いいですか?つまらない小細工を弄そうなどと考えないことです。返事を先延ばしにすることは許しません。こちらの提示した選択肢以外の答えも許しません。

一週間後に返事がなければ"戦争の意思あり"と受け取ります。いいですね?では失礼。

せいぜいよく考えて返事をする様に」

 

 

ー現在ー

 

ディアブロ「___という感じに揺さぶりをかけておきました」

 

リムル「お、おう…」

 

エイト「(恐ろしいやつだな…)」

 

リムル「というか箱詰めのアレ見せちゃったんだな…」

 

ディアブロ「はい。恐怖心を植え付けるには

最適と判断いたしました」ニコニコ

 

エイト「リムルのクリーンなイメージは消し飛んだな」

 

リムル「いいよなエイトは。今回は俺の名前が上がってるせいで特に注目されてないし…」

 

ディアブロ「それで、講和の条件ですが賠償金として星金貨一万枚を要求しております」

 

リエ「「」」バブォッ

 

俺たちは飲んでいた紅茶を吹き出した。

 

エイト「戦争継続が不可能なのは火を見るに明らか…属国になるのも貴族達が納得しない。三つの選択肢を与えておきながら実質一択と…」

 

ディアブロ「その通りでございます。貴族達の一部は王に全ての責任を押し付け賠償を逃れようとするでしょう。ここでファルムスは国王派と貴族派に二分されます。貴族派にとって都合のいいことに王を守る騎士団はもういない」

 

エイト「ああ、それでヨウムを国王派に引き込むってわけか」

 

リムル「確かに。いくら国内で人気がある英雄とはいえ、いきなり王位を譲渡するには無理がある。ヨウムに国を救われたっていう状況を作り出せば国民も納得しやすい」

 

ディアブロ「ご明察恐れ入ります」

 

エイト「そんじゃ、内戦が起きそうになったら

ヨウムに戦力を貸し出せばいいんだよな?」

 

ディアブロ「はい。時が来ればラーゼンより連絡が入る手筈となっておりますので、その時はよろしくお願いします」

 

なるほどな。帰還がめちゃくちゃ早かったから武力でゴリ押しして来たのかと思って心配したが…ディアブロは優秀だな。完璧過ぎて怖いくらいだ。リムルの理念だってちゃんと盛り込んでるし…。

 

「お待たせしました。デザートをお持ちしました」

 

リムル「お、これは抹茶プリンかな?」

 

「はい。シュナ様にはまだまだ及びませんが、私も腕を上げたんですよ」

 

シュナか…ソウエイの報告ではクレイマン城の調査に参加してるらしい。「空間移動」が使えるまで魔力が回復したら帰ってくるそうだ。

 

エイト「ああ、そういえばラーメンがもうすぐ完成するぞ」

 

リムル「…ほ、本当か?」

 

エイト「ワルプルギスでクレイマンが喋ってた時に素材の解析と掛け合わせがわかったからな。あとはリムルが統合してくれたら材料も揃う」

 

シオン「リムル様エイト様。ラーメンとはなんですか?あの魔法使いのことですよね?」

 

エイト「それはラーゼンだ。ラーメンはな……旨い。その一言に尽きる食の頂点だ」

 

リムル「俺たちの国は食文化が進んできてはいるが、まだスタートラインに立ったばかりだ。ラーメンを作らなければ先には進まないんだ」

 

ディアブロ「(リムル様にそこまで言わせる食ですか…気になりますね)」

 

そう思いながらディアブロはプリンをヴェルドラに渡した。

 

ヴェルドラ「クァーハッハッハ!ディアブロよ。貴様は中々に義理堅い男のようだ」

 

リムル「!…なんだディアブロ。ヴェルドラにあげちゃったのか?」

 

ディアブロ「ええ。情報の対価としてお支払いしたのです」

 

情報…?

 

エイト「…ああ、そういうことか。なんでワルプルギスで決まったことをディアブロが知ってるのかと思ったが…」

 

ヴェルドラ「な、なぜ睨む…!?我は別に悪いことはしていないぞ!仲間に"ほーれんそー"して怒られることがあろうか」

 

リムル「プリンに目が眩んで、大事な仕事中のディアブロに茶々入れたのか?」

 

ヴェルドラ「そうとも。ちょっとタイミングが悪くて、講和の条件を読み上げてた時に声かけちゃったがそれ以外はいい感じのやり取りだったとも」アセッ

 

リムル「おい!」イラッ

 

エイト「なんて声かけたんだ?」

 

ヴェルドラ「うむ!ワルプルギスがそろそろ終わるから帰って来いとな!」

 

ディアブロ「はい。お陰様でお二人のお出迎えの準備もできました」

 

リムル「へーなるほどね。そうかそうか」ニコッ

 

ヴェルドラ「」ニコッ

 

リムル「おい」ゴオォッ

 

ヴェルドラ「我ちょっとトイレ…「君排泄とか必要ないよね?」」

 

俺はヴェルドラの肩を持って止めた。

 

リムル「もし肝心なところでディアブロがしくじったらどーすんだ!!自分の影響力の強さを考えろ!」

 

そんなわけでリムルがヴェルドラのプリンを

没収した。

 

エイト「ああ、ハルナさん。ヴェルドラのおやつはしばらく抜きでいいから」

 

ヴェルドラ「なっ…!酷い!!酷すぎるぞエイト!!リムル!止めてくれエイトを!」

 

リムル「俺もエイトに賛成かな」ニコッ

 

ヴェルドラ「がっ…!!」ガーンッ

 

エイト「(誰も想像できないだろうな。特にファルムス王国は。暴風竜とこんなやり取りしてることなんて)」

 

 

〜ファルムス王国〜

 

エドマリス「(穏やかで美しい街並みだった。あの光景の一部になるのなら…属国も、或いは悪くないのかもしれぬ。だが…)」

 

「属国などあり得ませんぞ!事実上ファルムスの消滅ではないか!」

 

「我らの立場も保証されぬ上魔物に従うなど!」

 

エドマリス「(無理だろうな…)」

 

「では賠償に応じると?星金貨一万枚じゃぞ!?」

 

「金貨にして百万枚相当…我が国の税収の20%に相当しますな…」

 

エドマリス「良いか皆の者。余の考えを聞いて欲しい。此度の戦は失敗であった。余は民のためではなく己の欲望のために進軍を決めた。

賢く 先を見据えた者達からの助言もあったというのに」

 

すると、エドマリスの弟が口を開いた。

 

エドワルド「兄上…いや王よ。誇り高き王が負けを認めるのですか?」

 

エドマリス「フッ…」

 

エドワルド「?」

 

エドマリス「クックック…誇りだと?エドワルド。

そんなもの暴風竜の前では塵芥に等しいわ」

 

エドマリスは瞳孔を開ききって、威圧するように言った。

 

エドマリス「居合わせなかった者も聞いたであろう?余がどのような姿になって帰還したか。

同じ目に遭いたいのか?」

 

エドワルド「…!」

 

エドマリス「誇りも名誉も幾らあったところで民の盾にはならぬ。だが、卿ら全員に貴族としての誇りを捨てよというのは無理な話。魔国の属国に下るという選択肢は選べぬだろう。

で、あるならば我らに残された道は二つ。

賠償に応じるか戦争の継続だ。

余が言うのもなんだが…願わくば民のための

選択をして欲しい」

 

「(あの強欲な王が…)」

 

だが、その瞬間…

 

衛兵「申し上げます!!」

 

「なんじゃ!今は大事な…「お、お許しを!!ギルドより最重要緊急伝達書でございます!!魔王の勢力圏に大きな変動があったと」

 

「「‥「「!?」」‥」」

 

衛兵「人形傀儡子"マリオネットマスター"が死に、獅子王"ビーストマスター"

天空女王"スカイクイーン"は魔王位を返上の上、破壊の暴君"デストロイ"の傘下へ。

十大魔王は九柱となり、

九星魔王"エニアグラム"を称するとのこと」

 

「エニアグラム…」

 

「九柱…」

 

「数が合わぬようだが…あと二柱は?」

 

衛兵「は…傾向が確立していないため仮の二つ名だと思われますが、

 

新星"ニュービー"エイト=テンペスト

新星"ニュービー"リムル=テンペスト

 

ジュラの大森林の二大盟主が"人形傀儡子"を

打ち破り、魔王となったとのことです…!」

 

「な…何ぃぃぃぃぃい!?」

 

エドマリス「…決まりだな。暴風竜以前に魔王リムル、そしてもう一人の魔王エイトとまたけして侮れぬ脅威。取れる選択肢はもはや一つしかあるまい。賠償に応じ、余は退位する。

そして、後継者にはエドワルドを推す」

 

エドワルド「…!」

 

エドマリス「この先ファルムスには困難な時代が訪れよう。頼んだぞ我が弟よ」

 

エドワルド「…は。まずは皆の意見を聞かねばなりませんが(落ち着け…笑うのは まだ)。

異論が無ければ謹んでお受け致します。兄上」

 

ラーゼン「(…ここまでは予定通りだな)」

 

 

〜魔国連邦(テンペスト)〜

 

シュナ「只今戻りましたエイト様♪」ダキッ

 

エイト「おう。お帰りシュナ(癒される)」

 

リムル「ソウエイも無事で何よりだ」

 

ソウエイ「は」

 

エイト「それで…その骸骨が例の…?」

 

ソウエイ「は。[空間移動]にへばり付いてきた元死霊の王(ワイトキング)アダルマンとその配下達です」

 

アダルマン「神よ…!」

 

リムル「(感極まって会話どころじゃないな)」

 

エイト「とりあえず封印の洞窟に連れて行ってやってくれ。後ろのアンデット達が日光で成仏しそうだ」

 

ソウエイ「承知しました」

 

そう言ってソウエイはアンデットを案内した。

 

エイト「それでハクロウは?一緒だったんだろ?」

 

シュナ「後の処理をお願いしました」ニコッ

 

エイト「あ、そう…」

 

どうやらハクロウは仕事を押し付けられたらしい。ハクロウは[空間移動]を使えないからな。仕事が終わった頃に迎えに行ってやるか。

 

シュナ「エイト様、少しだけお時間頂けますか?」

 

エイト「え?まあ、今は大丈夫だぞ」

 

シュナ「!ありがとうございます」ニコッ

 

 

〜〜〜

 

まあ、そんなわけで俺の部屋に来たわけですが…

 

エイト「え?何これ?」

 

シュナはベットで俺の左耳を甘噛みしていた。

 

シュナ「ワルプルギスで左耳、噛まれてましたよね?」

 

エイト「い、いや…あれは不可抗力だったというか…それに拒否っただろ?」

 

やっぱバレてたか…。

 

シュナ「ええ。ですが…やはり上書きしておかないといけませんよね♪」ニコッ

 

そう言ってシュナは更に耳を噛んだ。

 

エイト「んっ…お、俺耳弱いんだが…」

 

シュナ「そうなんですか…ならもっとやっても大丈夫ですね」ニコッ

 

エイト「え、ちょ…」

 

シュナ「はむっ…」

 

エイト「っ…」

 

シュナ「ほ、ほれに…はまれるまえににげなはったのでおひおきでふ」ハムッ

 

エイト「(こ…この子怒ってる…のか…?いや違う……恥ずかしがってる…?)」

 

俺はシュナを抱きしめ、頭を撫でた。

 

シュナ「はぅ…///」

 

エイト「そんな無理すんなって…///」

 

俺も恥ずかしい…めちゃくちゃ恥ずかしい…。

 

シュナ「そ、その…もう少し…もう少しこのままにしてもらっても…?」

 

エイト「お、おう…///」ギュッ

 

シュナ「ふふ…///」

 

 

ーその日の夜ー

 

ベニマルも帰ってきて、クレイマン戦の報告を受けた。

 

リムル「三獣士達も来るの?」

 

ベニマル「ほら、ユーラザニアの首都はミリム様が吹き飛ばしてしまったでしょう?家をなくした市民を一旦我が国で受け入れようと言う話になったのです」

 

エイト「(獣人だけじゃなく戦場で捕虜にしたクレイマン軍の兵も来るんだよな)」

 

リムル「場所が確保できるなら構わないけど…」

 

ベニマル「身を寄せられる村がある者はそっちに行ってもらって、ここへ来るのは寝食に困っている者と技術の習得を希望する者たちです。

それに捕虜の大部分は大まかに編成してゲルドに預けてあります」

 

リムル「ああ、ユーラザニアの再建に従事してもらうからな。今のうちにゲルドの工作部隊に組み込むのはいい判断だ」

 

エイト「でも捕虜の中には悪感情を抱いているヤツもいるだろ。移動中に暴動が起きたりしないのか?」

 

ベニマル「ああ、それはご安心を。目の前で軽く説明(いあつ)しておいたんで」

 

まぁ、カリュブディスを瞬殺した男に脅は……説明されちゃ言う事を聞くか。

 

ベニマル「ただウチの連中には念のため周知させておきたい。頼めるかリグルド殿」

 

リグルド「わかりました。捕虜の件は私から皆に説明しましょう」

 

ベニマル「あー…その、それで…」

 

リムル「まだ何かあるのか?」

 

ベニマル「いえ、その…シュナは何をしているんだ?」

 

シュナ「ふふふ…」ギュッ

 

俺の腕に抱きつき続けるシュナ。

 

リムル「」

 

ベニマル「兄離れってこんなに悲しいものなんですね……」ハァ

 

エイト「ベニマル。その気持ちはわかるぞ」

 

ベニマル「いや、エイト様はいいですよね。

こんなに可愛い恋人ができたんですから…」

 

エイト「まあ、ベニマルも頑張れよ」

 

 

ー数日後ー

 

和睦協定を締結させたディアブロが報告に来た。

 

ディアブロ「こちらが証書になります。そして、こちらが…賠償金の一部として支払われた

"星金貨千五百枚"です」

 

リムル「うおおお…流石にファルムスは大国だな。よくぞこれだけ貯め込んだものだ」

 

エイト「(俺たちの国庫が一気に潤ったな)」

 

ディアブロ「はい。ですが大半はエドマリスの私的財産から捻出したようです」

 

製造元であるガゼル王曰くこの世界に出回ってる星金貨の総数自体が一万枚あるかどうからしい。つまり、全流通の一割以上がここにあるわけだ。

 

エイト「予定通り戦争になりそうなのか?」

 

ディアブロ「はい。間違いなく。請求額に足りない分を借款として貸し付けましたので新王エドワルドはこれに我慢出来ないでしょうから」

 

リムル「先王のエドマリスはどうなったんだ?」

 

ディアブロ「あの者は王位を返上の上、地方の小領地に移り住むことになりました。新王は先王に全責任を押し付けようと動くはずです。

そこをヨウム殿に阻止させます。新王の不誠実さを糾弾することで乱が起きるでしょう」キリッ

 

THE・悪魔(デーモン)。人心を操るのはお手の物らしいな。

 

リムル「お前に任せるよ。なるべく民衆には被害が出ないようにな」

 

ディアブロ「それがお望みとあらば。このディアブロにお任せください」

 

エイト「まあ、警戒は怠るなよ。計画が完璧でも外的要因でしくじる可能性もあるからな」

 

ディアブロ「はい。肝に銘じます。…外的要因と言えば…西方聖教会がレイヒムに出頭を命じたそうです」

 

リムル「レイヒム?」

 

叡智之王『こちらです』

 

そう言って叡智之王は俺にレイヒムの顔を見せた。

 

エイト「(ああ、はいはい。教会の大司教ね)」

 

ディアブロ「テンペストとファルムスの戦争状況を詳しく知りたがっているとか」

 

リムル「うーん…あそこはヴェルドラを特に敵視してるんだよな」

 

筋書きを話させたら作り話だと気付かれるかもしれないが…

 

ディアブロ「教会側の出方を見るためにも応じるべきかと思います」

 

リムル「だよな…」

 

西方聖教会…魔物を認めないという教義が厄介だな…千年以上続く教義を否定する気もないがこちらにそれを押し付けられても困る。

仲良しとまでは行かなくても適度な付き合いがしたいな…。

 

リムル「…よし、レイヒムにメッセージを持たせよう。シオン、クレイマンから押収した水晶玉を持ってきてくれ」

 

シオン「はい!」

 

 

ー1ヶ月後ー

 

ガビル、ゲルド、ハクロウが獣人と捕虜を連れて帰ってきた。

 

リムル「___と、いうわけで…ようやく皆揃ったな」

 

エイト「あー皆。知ってるヤツもいると思うけど」

 

リムル「この度私たちは魔王に就任いたしました!」

 

会議室に集まってる皆さんは盛大にお喜びになってくれた。

 

エイト「(まぁ、今更だが喜んでくれると嬉しいよな)」

 

リムル「そんなわけで俺たちの支配領域がジュラの大森林全域に決まったから」

 

全「「「「「「えっ!?」」」」」」

 

エイト「(ん?あれ?なんかまずかった?)」

 

ベニマル「全域となると…川の向こう側もですね?」

 

エイト「お、おう…多分」

 

なんだ?今までだって盟主やってたんだから何も変わらないんじゃないか?

:

:

エイト「え?挨拶にくる?新たに森に入ってくる者だけじゃなくて既に住んでる者まで来るのか?」

 

シュナ「もちろんです。エイト様とリムル様が正式な魔王になられた今挨拶に来ないものは叛意ありと受け取られてしまうでしょうから」

 

ベニマル「二人が盟主として認識されていたのはドライアドの地盤のみでした。川の向こう側はドライアドの影響下になかったはずなので、新たな魔王の出現は頭の痛い問題でしょうね。

挨拶に来るならよし。逆らうなら…まぁ、やりようは色々あります」ハハハハッ

 

なんか申し訳なくなってきた…。

そらに、引っ切り無しに客人が来るなんて面倒くさ…

 

エイト「!そうだ。どうせならまとめて来てもらえばいいんじゃないか?」

 

リグルド「と、言いますと?」

 

エイト「ほら、最近ずっと緊張の毎日で忙しかったし偶には息抜きしたいだろ?」

 

リムル「みんなでお祭りしようぜ!って言いたいのか?」

 

エイト「おう」

 

リムル「そうだな。どうせ俺たちのお披露目を兼ねるんだしここは一つ盛大にやろうじゃないの!」

 

「「「「「「「はい!!」」」」」」

 

 

と、そんなわけであれよあれよという間に意見が出揃い気が付けば各国の首脳にまで招待状を出すという流れが出来上がっていた。

 

エイト「お前ら〜ご飯休憩にしねえか?」

 

俺は記念すべきラーメン一作目を作ってきた。

 

リムル「つ、遂にできたのか…!?」

 

エイト「おう。今回は醤油ラーメンだ」

 

ベニマル「これは?」

 

リムル「食べればわかる」キリッ

 

そんなわけで皆でラーメンの試食会だ。

 

リムル「…」

 

リムルはラーメンを啜った。

 

エイト「(さて…出来栄えは…)」

 

リムル「うんっっまぁぁい!」

 

エイト「よし」ガッツポーズ

 

シュナ「これは…」

 

ベニマル「旨い…!!」

 

ゴブタ「これめっちゃ美味しいっす!」

 

全員からの高評価。うまくできたな。

 

この国にラーメン文化を染み込ませるという俺の野望も意外と簡単に実現できそうだ。

 

〜〜〜

 

リムル「ディアブロ。計画は順調か?」

 

ディアブロ「はい。リムル様。予定通り新王エドワルドが兵力を集め始めました。内乱が起こるのも時間の問題でしょう」

 

俺の想像よりだいぶ早いな。

 

ディアブロ「ですが…まだ報告できる段階ではないので黙っておりましたが…レイヒムが戻らないのです」

 

リムル「確か俺のメッセージを持たせたんだよな。もしかして届いてないのか?」

 

ディアブロ「いえ、手の者に護送させましたので西方聖教会の本拠地に到着したのは確実です」

 

エイト「まさか死ん…

 

ディアブロ「それはありえません。[誘惑者](オトスモノ)は支配した対象が死ねばわかりますので」

 

西方聖教会か…正直情報不足なんだよな…。

 

リムル「実際敵に回るかな?」

 

ベニマル「難しい問題ですね。積極的に介入してくるようならここで雌雄を決して置きたいところですが」

 

ソウエイ「リムル様とエイト様が魔王となりヴェルドラ様もいる今、向こうから仕掛けてくることは考えにくい…」

 

エイト「リムルがヒナタと戦っている最中にテンペストは襲撃を受けただろ?やはり偶然とは考えられないな。絵を描いたやつがいると思うぞ。クレイマンが黒幕の存在をほのめかしてたからな」

 

リムル「"あの方"ってやつだな」

 

エイト「見逃すことはできない敵だ。今回も介入してくる可能性は十分ある」

 

リムル「…なあエイト」

 

エイト「んあ?」

 

リムル「ぶっちゃけ言うと…一つ気になることがあるんだ」

 

エイト「?」

 

リムル「黒幕がいるのは確定として、ヒナタがそれと繋がっていたとしても、だ。あいつが誰かの命令を聞いて俺を殺しにきたと思うか?」

 

エイト「!」

 

カイジン「旦那の言う通りだな。聖騎士団長であるヒナタが、誰かの命令で動くなんて考えられんよ。あの麗人が言う事を聞く相手は神ルミナスだけだ。あの女には法皇ですら口出しできないってのは有名な話だぜ?」

 

リムル「ヒナタに命令できる存在はいない、か…」

 

エイト「ヒナタは上手く利用されたのかもな。

リムルがシズさんの仇としてヒナタにリークした、とか」

 

リムル「かもな」

 

エイト「それに、黒幕は一人とは限らない」

 

 

〜神聖法皇国ルベリオス〜

 

「やぁヒナタ。もう皆揃ってるよ。随分のんびりじゃないか」

 

ヒナタ「…そ、じゃあ突っ立ってないで貴方も早く席に着いたらどう?サーレ」

 

〜〜〜

 

ヒナタ「待たせたわね。それでは法皇両翼合同会議を始めましょう。議題は暴風竜の復活……そして、新たな魔王の誕生について」



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28話:法皇両翼合同会議

集まったのはヒナタ直属の聖騎士団(クルセイダーズ)と法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)____法皇庁所属の近衛騎士の面々である。

 

ヒナタ・サカグチを頂点とする、神聖法皇国ルベリオスの誇る両翼。

 

議長としてヒナタ。法皇直属近衛師団筆頭騎士にして聖騎士団長ある、事実上の最強騎士。

 

凹の字に並ぶ机の上座が彼女の為の席である。

 

その右手側には、聖騎士団を代表した六名。

 

副団長のレナード・ジェスター

"光"の貴公子と呼ばれる聖騎士(ホーリーナイト)である。

 

 

その隣には、"空"のアルノー・バウマン。

ヒナタに次ぐ最強の騎士と称される男。

 

そしてアルノーに続き、四人の隊長格。

 

"地"のバッカス、"水"のリティス、"火"のギャルド、"風"のフリッツ

 

その五名が各々二十名程度の聖騎士を従える、五大隊長である。

 

 

そんな彼らに対してヒナタの左手側に並ぶのは個人主義の集まりであるルークジーニアスだ。

 

装束や装備までも多種多様な者達が三十三名。

 

たった三十三名だが、師団を名乗るその理由。それは一個人の戦闘能力の高さにある。

一人が一軍に相当する実力者であり、法皇より城砦(ルーク)という称号を与えられていた。

 

当然の如く全員がAランク以上の戦闘能力を

有していて数名で連携すれば災厄級(カラミティ)の脅威にも立ち向かえる英雄級の者達だ。

 

中でも筆頭すべき者達がいる。

 

"蒼穹"のサーレ。

あどけない少年の姿だが、この場の誰よりも長命で、ヒナタが就任するまでは法皇直属近衛師団筆頭騎士だった男だ。

 

そしてもう二人___

 

"巨岩"のグレゴリー、"荒海"のグレンダ

 

そんな"三武仙"と呼ばれる三名が、六名の聖騎士の対面に座っていた。

 

 

席に座るこの九名こそ、人という枠組みを超越した超人達である。

 

彼等は"魔王"と対になる存在___"聖人"と認定されていた。ヒナタを加えて"十大聖人"。

 

人が過酷な修行を積むと、長き時の果てに上位の存在へと進化する事がある。

それを成した者達は仙人と呼ばれ、半ば精神生命体に近い肉体構造へと変化するのだ。

 

仙人は"魔王種"にも匹敵する程の強者となっている。人類の守護者__正しく進化した神の使徒なのだった。

 

 

リティス「報告します」

 

そう言ってジュラの大森林周辺を調査していた

"水"のリティスが立ち上がり報告を開始した。

 

リティス「ジュラの大森林は平和そのものでした。ヴェルドラが復活したにもかかわらず、商人が出入りする様も確認されています」

 

「どうなっている?魔王を相手に商売が成り立つのか?」

 

「それよりもヴェルドラだ。文献には非常に好戦的で暴威を撒き散らしたと記されていたが、今のところ暴れ出す気配が無いようだが…?」

 

そんな疑問が飛び交うが、ヒナタは軽く手を振ってそれを黙らせた。

 

ヒナタ「最後まで報告を聞くように」

 

リティス「はい。続けます。商人に事情を聞いたのですが、ブルムンド王国は国策として、テンペストとの国交樹立を宣言しておりました。そしてそれは安全保障も含まれており、誰もが気軽に出向く事が出来る様になっております。

また、街道は美しく整備され、馬糞なども綺麗に掃除されておりました。魔物が出没する気配などもなく、安全保障は口先だけのものでは無いと確認も取れています」

 

ヒナタ「行ったみたの?」

 

リティス「はい。この眼で確かめてみようと、旅人を装い現地まで。

定点に警備の者が配置されており、街道の安全は守られておりました。そして魔物の町は、予想以上の発展振りを見せております。流石に魔素の濃度は若干高めでしたが、人体に影響の出るレベルは下回っておりましたし。魔王リムルはその言葉の通り、人との友好を望んでいるという印象を受けました」

 

ヒナタ「そうか。それで、ヴェルドラは?」

 

リティス「は、はい。それなのですが……」

 

ヒナタ「どうした?」

 

リティス「”封印の洞窟“へは立ち入りが禁止されており、それ以外の場所にあの邪竜が好みそうな場所は見当たらず……。その存在を確認出来なかったのです」

 

ヒナタ「ふむ…」

 

リティス「報告は以上です」

 

フリッツ「ヴェルドラの存在が確認出来なかったとなると、復活したというのは間違い___

 

そう問いかけようとした”風“のフリッツは、

ヒナタに冷たく一瞥されて黙ることになる。

 

慌てて謝罪しようとするフリッツを無視して、ヒナタは発言した。

 

ヒナタ「神託は絶対よ。ともかく、魔王リムルの行動は理解した。次に移りましょう」

 

そう言ってヒナタは、次々と調べさせていた内容を報告させていく。

議論より先に、自分の知りたい情報全てを脳に叩き込もうとするように。

 

「__という感じで、イングラシア王国内は平穏そのものでした。ライバル関係にある大国ファルムスが傾くと、今後はますますイングラシアの勢力が力を持ちそうです」

 

続々と報告が進む。ルークジーニアスに所属する騎士ならば、西側諸国への出入りは自由だ。

 

その上、各国に滞在する神殿騎士団への命令権すら認められている。何せその階級は、各国に派遣されている騎士団長よりも上なのだ。命令系統が混乱する為に本国からの命令なしには動かせぬものの、緊急時であると認められたならば、神殿騎士団は法皇直属近衛師団の指揮下に入るのである。そんな訳で、彼等の活動は妨げられる心配もなく、機密に近い情報までも収集する事に成功したのだった。この辺は、聖騎士団とは異なる点である。

 

西方聖教会所属の聖騎士も、各国への自由な通行権は有している。しかし、神殿騎士団への命令権は有していないのだ。神殿騎士団から聖騎士団に入団する者もいるのだが、この辺は組織の違いから仕方のないことであると言えた。

 

なのでヒナタは、それぞれの組織の長所を有効活用すべく、適材適所で派遣していたのだった。

 

そして最後に、サーレの報告の番がきた。

 

サーレ「みんなの報告を聞いていると、ヒナタが何を知りたがっていたのかも見えてきたね。それで僕の番だけど、これが本命なんだろ?」

 

ヒナタ「ええそうよ、一番重要だから貴方に任せたの。だから早く報告して欲しいわね」

 

サーレ「なるほどね。ファルムス王国の現状、ファルムス王国のエドマリス王は退位して、

一見平和裏に譲位は完了している。でもね、新王エドワルドは、腕利きの傭兵を掻き集めているようだね。それに呼応するように貴族達の動きも慌ただしいし、僕としては内乱が起きる前兆じゃないかと脱んでいる__」

 

西側諸国に、魔王リムル誕生の知らせが駆け巡っている。

それにもかかわらず、魔国連邦との交流でブルムンド王国は活気に包まれているらしい。それに対し、ファルムス王国は混乱の極みにあった。貴族達の動きはバラバラで、戦力確保に走る者も多い。中には西方聖教会や評議会の長老連中に、接触を図ろうとする者もいるらしく、キナ臭くなっている様子だ。民への影響も大きい。物価は値上がりし、物流は滞る。二万もの軍勢を失った事で、その代わりとして徴兵される者までいる始末。そんな素人など戦力にならないのだが、それでもそうしなければならぬ程に進退窮まっているのだろう。

 

つまりは、内乱の前兆である。

周辺の小国の反応はまちまちだ。しかし共通しているのは、ファルムス王国への警戒である。不穏な空気を感じ取り、自国が巻き込まれぬよう国境警備を厳重に行っている。きた来るべき日は間近、誰もがそう判断しているのだろう。

 

サーレ「でもこれだけでは、そこに魔王リムルの意思が介在しているのかどうか判断するには情報が足りない」

 

ヒナタ「そうね。それで?」

 

サーレ「新王エドワルドが接触した相手を洗い出した。評議会の重鎮に、自由組合の幹部、それに東の商人達。果ては、僕の部下にも接触を図ろうとしたようだね」

 

ヒナタ「その目的は、戦力増強なの?」

 

サーレ「流石。その通りだよ、ヒナタ」

 

ヒナタ「では、確定ね。新王エドワルドには、戦争賠償を支払う意思はない。そしてそれを許す魔王などいないでしょうし、リムルがそれを想定しない程の馬鹿だとは思えない」

 

サーレ「ふーん。つまりヒナタは全てが魔王リムルの計画のうちだって言うんだね?」

 

ヒナタ「そうね」

 

ヒナタ「(冗談みたいに足並みが揃ってる。これらの情報を読み解く限り、あるべき結末に向かって動いているようにしか見えない……。これは間違いなく、何者かが裏で糸を引いている)」

 

聞けば聞く程に、その疑惑は確信に変わる。

誰が?

そんなその答えは一つしかない。西側諸国で暗躍していた魔王クレイマンが消えた今、そんな真似をする者など一人しか考えられない。新たに台頭した魔王、リムルのみ。

 

ヒナタ「(厄介な。油断ならぬ性格といい、裏から用意周到に策を張り巡らせる智謀といい、元日本人だったというのは、やはり間違いないわね……)」

 

ヒナタは冷静に、リムルの事をそう評した。今思えば、全ては東の商人達の言葉を信じたのが原因。数年に渡る付き合いで信頼し、その情報を鵜呑みにしてしまった。

 

ヒナタ「それでサーレ、エドワルドは東の商人に接触したのね?どのような内容を話したのかわかる?」

 

サーレ「何で商人が気になるの?魔王が裏で絵を描いた、それでこの話は終わりだろ?今話すべきは今後の方針で、僕達がどう動くべきかを相談すべきだと思うけど?」

 

ヒナタ「それも必要だけど、気になるのよ。いいから答えなさい」

 

サーレ「チッ…アイツらはいつも、金の話ばかりしているんじゃないの?」

 

ヒナタ「いいえ。アイツらはそれとなくさり気なく、自分達が利益を得るように相手を誘導するのよ。私も利用された口だから、貴方達も油断しない方がいいわね。それで、何かわかるかしら?」

 

サーレ「へえ、アンタみたいに計算高い女を利用するなんて、アイツらもなかなかやるねえ。でも、そうだな……。特にこれといった内容は思い当たらないね。ああ、待てよ?グレンダ、君の担当していた範囲には、商業都市があっただろ?あそこは東西の商人達が交流する場だし、何か面白い話を聞けなかったか?」

 

ヒナタの事を気に入らないと思いつつも、サーレは真面目に仕事を行う。

それにサーレは、ヒナタの事を認めてもいる。質の悪い騎士の集まりを、聖騎士団として鍛え上げたその手腕を。対魔物に容赦なく、民を守ろうとするその姿を。心の何処かでは認めていたのである。だからこそ、ヒナタに命じられた調査もキッチリと行い、それで得た情報を隠し立てする事もない。その地位から追い落とそうと画策はしているものの、足を引っ張ろうとは考えていないのだ。

サーレは実力主義者なので、良くも悪くも裏表のない性格なのである。ヒナタは、それを知っていた。

 

それに対してグレンダは

 

グレンダ「そうだね、アタイの知る限り、怪しい動きはなかったさね」

 

颯々と嘘を吐く。傭兵として裏の世界を渡り歩き、様々な修羅場を経験してきたグレンダ。そんな彼女の勘が、今回の不穏な気配に金の匂いを感じ取っていた。

信仰と金勘定は別、それこそがグレンダの信条だった。敬虔なルミナス教の信者と思われているが、それはグレンダの真実ではない。彼女の本当の目的は、全世界に散らばるルミナス教徒の力である。それは金であったり、情報であったり、武力であったりと様々な形をしているが、どれもこれもグレンダにとって必要なものなのだ。それを自由に束ねる事が出来る今の立場は、絶対に失ってはならぬものであった。だからこそ、グレンダはヒナタに隠し事をする。

 

正にサーレが言ったその商業都市にて、グレンダは東の商人と接触していた。それだけではなく、評議会の長老とも呼ばれる大物とも、密かに面談していたのである。報酬は、金。代価は、偽りの情報を流す事。しかしそれを流すのは今ではなく、時が来るのを待たねばならない。

 

だから自分がヒナタに疑われるのはまずいと、考える。ヒナタは冷酷で冷徹で、敵にはまるで容赦のない性格をしている。まるで油断せず、隙を見せる姿など想像も出来ない。だがしかし、味方に対しては甘い側面があった。味方というよりは、ルミナスを信じる者には、と言える。同じ神を信じる者同士、仲間というよりも家族に近い感覚でいるのだろう。グレンダは、そんなヒナタの性格を見抜いていた。その甘さこそが、サーレの反抗心を許している。

その甘さこそが、自分の裏切りを見抜かせない。そしてその甘さ故に、やがては自分にその地位を譲る事になるのだろうと、グレンダは考える。だからこそ、

 

グレンダ「筆頭がそんなに気になるってなら、もう一度キッチリと調べてみるさね」

 

ヒナタ「そう?それじゃあ、お願いするわ。決して油断しないように、商人の言葉に耳を貸しては駄目よ?」

 

グレンダ「任せな。コネもあるし、詳しい話を聞いてくるさね」

 

グレンダはヒナタを相手にして、安請け合いをしてしまう。

その軽口から、かなりの思惑を読み取られているとも気付かぬままに…。

 

ヒナタは、そんなグレンダの様子を観察して、そっと内心で溜息を吐く。

 

ヒナタ「(やれやれ、私も祇められたものね。もしかしてだけど、私が甘いとでも勘違いしているのかしら?)」

 

そうだとしたら本当に残念、とヒナタは思った。そもそもヒナタは、仲間を大切にしている訳ではない。そこをグレンダは勘違いしている。

ルミナスの為に動く駒だと考えるからこそ、大切に扱っているだけなのだ。ルミナスの所有物を、勝手に壊してしまわぬように。クルセイダーズヒナタが自分の手足として鍛え上げた聖騎士団は、全員がヒナタを信奉している。ヒナタの為の騎士団といっても過言ではない程で、その忠誠には信用が置けた。その反対に近衛師団の面々は、余りにも自分勝手な行動を取る事が多い。ルミナスヘの信仰心があるからこそ、ヒナタが見逃しているだけなのだ。

 

サーレなどがその代表例である。ヒナタに反発し、事あるごとに逆らってみせる。でもそれはあくまでもポーズであると、サーレもヒナタも納得の上での行動だった。文句は言うが、命令には従うサーレはある意味で、とても扱いやすいのだ。それに、サーレはルミナスの存在を知らない。サーレだけでなく、ヒナタ以外には誰も、神ルミナスが実在するという事実を知らないのだ。

 

ヒナタ「(憐れなものね。昔の私みたいに、真実を知らないというのは……)」

 

ヒナタはふと、そんな感慨にとらわれた。グレンダは野望に燃えている。それなりの美貌と実力を兼ね備えて、自信に満ち溢れていた。だからこそ、ヒナタを追い落とせると本気で信じているのだろうと、ヒナタは考えた。もしかすると、法皇ルイに取り入る算段もしているのかもしれない。ルイがヴァンパイアである事を知らない以上、ヒナタを蹴落とそうとして彼に取り入るのは自然な行為であった。

 

ヒナタ「(まあ、好きにすればいいのだけど、でも)」

 

裏切り者となると、話は別である。師団のメンバーが何をしようと、ヒナタが文句を言う事はない。それが自分、ひいてはルミナスに仇なさぬ限りは。だが、内通者の存在が疑われる今、グレンダの行動には問題があった。グレンダも利用されているだけかもしれないし、ても今直ぐ粛清するつもりはない。ともかく、警戒するのみである。

 

ヒナタ「さて、これで報告は出揃った。これで諸君にも現状を理解出来たと思う」

 

リティス「はい。"暴風竜"ヴェルドラが復活した影響は予想よりも小さく、被害報告は作戦行動中だったファルムスの軍勢のみ。ただしそれも魔王リムルが流した情報であろうと思われる為、実質ゼロという事ですね」

 

レナード「こうなると生存者だったレイヒム大司教から話を聞きたいな。僕達はヴェルドラが復活した事実を知っている。だから余計に戦場で何が起きたのかが気になるね」

 

ヒナタ「そう思って呼んでいるわ。もうそろそろ来る頃だと思うのだけど……」

 

「それは楽しみだねどんな話が聞けるのかワクワクするよ」

 

「もしかしたら、ヴェルドラの復活についても何かわかるかもな」

 

「”ヴェルドラを魔王リムルが交渉して宥めた“という噂もありますが、これの判断も難しいですね。復活が事実で、今もヴェルドラが大人しくしている。これが正しい以上、その信憑性も増すってものです」

 

ヒナタ「そうね、それについては本当よ。貴方達には話しておくけど、神ルミナスより神託が下りた。"暴風竜“を御せるのが魔王リムルである、と。故に『魔王リムルに手出しするのはま

かりならぬ』そうよ。皆も心するように」

 

「そ、それはつまり……」

 

ヒナタ「ハッキリと告げておくわ。今回の件、我々は裏方に徹して、決して魔王とは表立って事を構えないものとします」

 

ヒナタは立ち上がり、力強くそう宣言した。これは事実上の、魔王リムルヘの不介入宣言である。これには全員が、驚きの表情を隠せない。

 

「まさか!?魔王リムルがファルムス王国で暗躍しているというのに、それを放置せよと?」

 

サーレ「確かに魔王は不可侵存在(アンタッチャブル)だけど、それは表向きの話だろう?

十大聖人である僕達なら魔王にも遅れを取らない!」

 

サーレの言うことは事実だが、それは"魔王種"

までの話。本物の魔王…"真なる魔王"に対しては"十大聖人"では足りないのだ。

 

本当の意味で進化をを行い、真なる"聖人"へと至らぬ限り…つまりは、ヒナタのように。

 

レナード「いや、しかし…今回は魔王だけでなく、"暴風竜"までもいます。確かに迂闊に手を出すとより大きな混乱を生じさせることに繋がりかねない」

 

グレゴリー「かと言って、我々人類の領域までも魔王に好き勝手にさせる訳にはいかん!!」

 

ヒナタ「信託は絶対よ。逆らうことは許さない」

 

グレゴリー「まさか!それではファルムス王国を見捨てるのですか?」

 

ヒナタ「それは違うわよ、リティス。あの国で起きてるのはあくまでも内乱なの。守るべきは王侯貴族ではなく、民」

 

「と、言いますと?」

 

ヒナタ「国の頭が変わる事になるかも知れないけど、それに口を出すのは内政干渉になるという事よ。今まで彼等は、私達が”異世界人“の召喚を止めるように要請しても、内政干渉だと突っぱねていたでしょう?今回も同じだと思うわよ?」

 

微笑みさえ浮かべて、ヒナタは冷たくそう言った。

 

グレゴリー「それでは、魔王リムルの行動を黙認するのですか?」

 

ヒナタ「その通りよ。魔王リムルが人類との敵対を望まぬと宣言した以上、これ以上の敵対行動を取る意味はない。ファルムス王国の大司教レイヒムが討伐軍に参加していた上に、私はリムル本人を粛清しようとして失敗している。

既に敵だと見倣されている可能性が高い今、ファルムス王国での彼等の行動は黙認するしかないでしょうね」

 

グレゴリー「それは西方聖教会の、ひいては貴女の失敗であって、ベリオスの失敗ではない!」

 

ヒナタ「その通りよ。だから決して、貴方達は手を出さないように。最悪の場合、西方聖教会の、つまり私の独断だったのだと言い張るつもりなのだから」

 

「なッ!?」

「ヒナタ様ッ!?」

 

驚く聖騎士達を横目に、近衛師団の面々にそう命じるヒナタ。その覚悟を見て、流石にサーレも戸惑いを見せた。

 

「安心しなさい。おそらく彼は、こちらとの戦いまでは望まないでしょう」

 

サーレ「おいおい、そこまでヒナタが信用する相手なのかい?」

 

ヒナタ「まるで信用せずに殺そうとした私が言うのもなんだけど、彼は信用出来ると思うわ。本人から直接聞いたのだけど、元は私と同じ

”異世界人“だったそうだし。あの時は話を聞かずに無視したけど、どうやら私達との争いを避けたがっている様子だった」

 

サーレ「”異世界人“だったって!?それじゃあ魔王レオンのように人から魔物への魔人転生か?」

 

ヒナタ「いいえ。本人が言うには、向こうで死んだらこっちでスライムに生まれ変わったそうよ」

 

サーレ「冗談だろ?」

 

ヒナタ「サーレ、私は冗談が嫌いだって、知っているでしょう?」

 

サーレ「チッ。だとしたら、今までに例のないパターンだね。生まれ変わったって事例はあるけど、それは単に前世の記憶を持っているってだけだったし。世界を渡って生まれ変わる事もあるだろうけどさ……」

 

レナード「そんな事例は確認されていないな」

 

アルノー「しかしよ、スライムに転生するとか、どんな確率だよ?いうかさ、お前だったらどうする?」

 

アルノーが隣に座るリティスに問うと、リティスは可憐な顔を嫌そうに歪めた。

 

リティス「考えたくもありません。言語も通じないとなると、意思の疎通さえ困難になる可能性が高いです。識字率からしても、遭遇した相手に自分が無害だと伝えるのでさえ、成功させる自信がとありませんね。何しろ、普通は喋れないでしょうから」

 

そしてリティスは、感じたままに素直な感想を述べた。喋れない上に、手足もない。共通の文字を知っていたとしても、意思の疎通は困難であろう。それに思い至った者達は、リムルに少しだけ同情する。

 

「だよな」「確かに……」そう口々に同意する、聖騎士に近衛師団の面々。

 

ヒナタ「魔物の戯言だと聞き流していたけど、多分あれは全部本当の話だったのね。今となっては、少しだけ彼に悪い事をしたと思ると思うわ」

 

サーレ「まあ魔物が相手では、仕方ないね」

 

レナード「教義でも禁じられていますしねえ……」

 

サーレとレナードも口を濁す。ヒナタと同じ立場だったとしたら、自分もまた同じ対応を取ると思って。教義は絶対であり、魔物の言葉に耳を貸すなど有り得ないのだ。逆にヒナタがそんな真似をしていたら、それこそ糾弾する騒ぎになっていただろう。

 

ヒナタ「それに、リムルが私の恩師の仇だというタレこみもあったのよ……」

 

レナード「どういうことですか?」

 

ヒナタ「言ったでしょう。私も利用されたのよ、東の商人にね。あの時、彼等から聞いたのは、魔物が人に化けて国家を食いものにしようとしている、という情報だったわ。国を興して、周辺の国々を証かして。そしてその盟主だというリムルという名持ちが、私の恩師を殺した仇だ、ってね。だから私は、迷わずに断罪を決行したのよ」

 

サーレ「それで逃げられたのかい?今となっては良かったのか悪かったのか……」

 

ヒナタの説明に、サーレがやれやれと頭を振った。確かにサーレの言う通り、今となっては問題の種でしかない。ヒナタもそれには同意である。どちらに転んでいたとしても、厄介事が起きていただろう。

 

ヒナタ「逃げ足は見事だったわね。そして今では、彼は魔王となっている。間違いなく進化しているでしょうし、事を構えるのは得策ではない、ということ」

 

ヒナタのその言葉に、反論は出ない。神託が下りた以上、教義を持ち出すのも意味がないのだ。であるならば、ここは素直に和解に向けて動くべきだった。

 

レナード「それで、ヒナタ様はどうされるのですか?」

 

ヒナタ「どうもしないわよ」

 

レナード「では、魔王リムルがヒナタ様を敵視した場合は?」

 

グレンダ「そうさねえ、筆頭が殺そうとした事実は消せないわけだし、魔王として力をつけた今、そのリムルとやらが筆頭に仕返しを考えても不思議じゃないさね」

 

ヒナタ「言ったでしょう。全ては私の独断だったことにする、と。それに、ともかくは一度彼と話し合いに出向こうと思ってるわ。必要なら謝罪も辞さないつもりよ」

 

 

そう言った時、扉のノック音が聞こえた。

恐らくレイヒムが来たのだろう。

 

ヒナタ「入りなさい」

 

入って来たのはヒナタの腹心であるニコラウス枢機卿。それに続いて、緊張した面持ちで大司教レイヒムが部屋に入る。

 

そこまでは予定通り。しかし、その後に続く人物の登場に、ヒナタは眉を顰める事になる。

 

 

予想もしない人物___"七曜の老師"が入って来たのだ。

 

『久しいな、ヒナタ』

 

『息災か?』

 

『どうした、何を驚いている?』

 

頭に直接語りかけてくる[思念]によって七曜は喋りかける。

 

ヒナタ「何故、ここにあなた方が…」

 

サーレ「ヒナタ。その人達は誰だい?」

 

ニコラウス「し、失礼ですよサーレ!こちらは

"七曜"の御方々です!!」

 

それを聞き、サーレはハッと思い当たった。

 

サーレ「__"七曜"だって?あの伝説の?」

 

ヒナタ「ええ、その通りよ」

 

ヒナタも認めたことで、その場の全員が起立して礼を取った。

 

”七曜の老師“と呼ばれる大賢人たち___。

 

一人一人が仙人級の超越した存在であり、勇者の育成をも務めたという伝説的な人物達であった。その存在は完璧に秘匿され、表に出る事はない。伝説として、お伽話や物語に語られるのみ。聖騎士達ですら、その存在を知る者はいない。

 

その存在を直接知る者は、ヒナタやニコラウスを含めた極少数だけである。西方聖教会の上層部の一部にしか、姿を見せる事のない人物達なのだ。ヒナタが受けた”七曜の試練“は、この者達から授けられたものである。英雄や勇者を選別する為の試練である事からも、それを与える役目にある”七曜“の重要さも理解出来るというものだ。

 

しかしヒナタは、この者達を嫌っていた。

実はこの”七曜“達、西方聖教会の最高顧問として、組織の監視と部下の育成の任をルミナスより与えられている。

 

しかし、ヒナタが着任する前は、聖騎士団(クルセイダーズ)など名ばかりの集団でしかなかったのだ。ヒナタからすれば、それは怠慢である。

 

ヒナタ「(今思えば、あの時に彼等から力を完全に奪い去ってやるべきだったわね)」

 

とさえ思うヒナタ。

 

ヒナタの力____カユニークスキル[纂奪者](コエルモノ)には、二つの権能がある。

 

相手の力を奪い取る『簒奪』と、学び取る

『複写』の二つだ。

 

試練を受けた時、ヒナタは彼等が伝説的な偉人なのだと思っていた。だからこそヒナタは、

彼等の力を学び取るべく『複写』によって自身を高めた。

 

ある意味でヒナタは”七曜の老師“の弟子といえるのだが……。

しかしそれが”七曜“には気に食わなかったようである。

 

自身達を超えたヒナタを疎んじて、事あるごとにヒナタの邪魔をするようになっていた。

 

西方聖教会の闇に潜み、長き時を牛耳ってきた老檜な者達。しかして、そんな彼等には何の生産性もない。試練を受けた時にその事を知っていれば、ヒナタは迷わず”七曜“を老害と断じてその能力を完全に奪い去っていただろう。

 

今はヒナタが、彼等から学んだ力を、アルノー達隊長格に伝授して鍛えている。

 

ヒナタ「(ルミナス様は、おそらくそれが目的で、私に”七曜の試練“を受けさせたのでしょうね)」

 

ヒナタはルミナスの慧眼を賞賛する。

 

ヒナタからすれば、”七曜“は次代を育てる役目を放棄して、自己保身に走っているようにしか見えない。しかしルミナスが”七曜“を放置している以上、そこには何らかの意図があるのだろうと考えていた。だからヒナタも、表立って彼等に逆らう真似はしないでいる。

 

全員が礼を解いて席に着席した頃。

 

ヒナタ「それで、本日は何の御用なのでしょう?」

 

『フフフ、そう警戒するでない』

 

『うむ。そこの大司教レイヒムが、魔王リムルの情報を持ち帰ったのであろう?』

 

『我等も輿味があるのだよ』

 

現れた”七曜“は三名。全員ではない。ヒナタの主観で、特に腐敗が進んでいると思われる者達だった。中でも火を司る”火曜師“アーズなど、シズエ・イザワの足元にも及ばぬ程度の実力しかなかった。

何も学ぶべき技術がなく、ヒナタが『纂奪者』を用いるまでもなく試練をクリア出来た相手だ。

それなのに何故か、自分からは能力を奪えなかったのだと勘違いしている節がある。それ故に、常にヒナタを見下した態度を取り、ヒナタの頭を悩ませる相手なのだ。

 

残り二名、”月曜師“ディナと”金曜師“ヴィナの目的は不明だが、恐らくはアーズに協力しているのだろう。

 

ヒナタ「(厄介ね。ルミナス様の命令で、今回は大人しく話を纏めなければならないのに……)」

 

だが、今は七曜のことを考えてる時では無い。レイヒムの話に耳を傾けた。

 

レイヒム「私は、愚かでした。恐ろしい、余りにも恐ろしい者を相手にしてしまった。あれは、正真正銘の魔王です。我等の手で、新たなる魔王を誕生させてしまったのです!」

 

当時を思い出して感情が高ぶったのか、レイヒムは目を血走らせて、声高に叫ぶように訴えている。恐るべき魔王、その誕生までの一部始終を。自らが行った悪事も、包み隠さず報告するレイヒム。それは命令されての事ではなく、そうしなければならないという強迫観念に駆られていたのである。少しでも苦しみから解放され神に許される為に、自らの罪を懺悔する必要があると考えたのだろう。

 

魔王誕生の状況説明を聞くにつれて、聖騎士達にも動揺が走る。その余りにも常識はずれな戦闘能力の高さに、驚きを禁じえないのだ。対魔結界や大規模範囲魔法専用の防御結界は疎か、聖なる結界までも意味を成さない光の攻撃。

 

そんな魔法は聞いた事もない。障壁すらも貫通するその攻撃を前にすれば、自分達であっても対処出来ない可能性があった。

 

それなのに、ヒナタは動揺しない。レイヒムの報告より推測し、太陽光線の収束による攻撃だろうと予測したのである。

 

そして、その予想を裏付けるように

 

『ふむ。グラン様が得意とする、陽光魔法に似ておるな』

 

『光を屈折させる魔法、か。しかしそれならば、対魔結界で封じられるであろう?』

 

『それに、そこまでの威力はないはずじゃ』

 

”七曜“達が意見を述べた。”日曜師“グランは、

”光“を司る”七曜“達の長である。その力の一つが太陽光の収束なのだ。”七曜“が言う魔法は的外れだろうが、受けた印象が同じであるならヒナタの予想は正しいと思われる。

 

ヒナタ(馬鹿ね。魔法で陽光を直接屈折させたのではなく、何らかの手段で陽光を反射させて収束させたのでしょうね。でなければ、容易に結界で防げるはずだもの。恐らくは、水と風の精霊の協力?しかしそれを為すには、相当の演算能力が必要となる……)」

 

しかし、恐れる事はない。種さえ判明すれば、対策は簡単なのだ。

 

熱を散らす防御膜と、光を乱反射させる塵を空中に散布するだけで、その攻撃を無力化出来るだろう。陽光を利用するだけなら、穴だらけ。ヒナタからすれば、取るに足らぬ攻撃であった。

 

ヒナタ「(話を聞く限り、向こうの世界の科学知識を利用しているのね。それならばこちらの世界の人間には理解出来ず、対処も困難でしょう。魔法防御の穴を突くあたり、抜け目ない上に頭もいいようだけど……)」

 

確かに異常なまでの演算能力だし、複数の魔法を同時に操るその力は脅威である。だが、本物を知るヒナタからすれば、そこまで恐れる必要はないように感じたのだ。しかし、ヒナタのそんな判断は早計に過ぎた。レイヒムの話は終わっていない。続きがある……というよりも、ここからが本番と言っても良かった。

 

レイヒム「お待ち下さい。その正体不明の攻撃は、確かに凄まじかった。フォルゲン殿も何も出来ずに殺され、ラーゼン殿にも為すすべ術なし。万近くの騎士達が、その攻撃の前に倒れたかと思います。ですが……」

 

そこで言いよどむレイヒム。ゴクリと唾を飲み込み、脂汗を垂らし、恐怖に打ち震えながら

 

レイヒム「恐ろしいのはその後でした。次の瞬間、戦場が静寂に包まれたのです」

 

重傷を負って気絶した者や、大怪我をして転げまわって叫んでいた者。そして無傷のままでも恐怖に狂い、逃げ惑っていた者。そうした者達が奏でる狂騒に、戦場は荒れ狂う音で満ちていた。

 

それなのに次の瞬間、全ての音が消えたのだと、レイヒムは言う。

 

ヒナタ「どういう意味?」

 

レイヒム「言葉通りです、ヒナタ様。戦場にいた二万の軍勢、その生き残った者達が、その瞬間に死んだのです。生き残ったのは僅か三名、私と、ラーゼン殿と、ファルムス王エドマリス様のみでした。私はそれを見て、理性が吹き飛びました。恐怖の余り気絶したのです……」

 

そう、レイヒムは告白する……。聖なる大聖堂が静寂に包まれた。

 

そしてヒナタも思い出す。ルミナスから直接聞いた話を。二万の軍勢をたった一匹の魔物が皆殺しにしたその事実を前に、誰も言葉が出ない。緊張に包まれた厳かな空気の中、皆が想起した伝承があった。かつて、たった一体で都市を滅ぼし、魔王となった者達の伝承を……。

 

 

西方聖教会の前身が発足したのが、千数百年前と言われている。正統な系図を辿っても、千二百年前まで記録が残っていた。ヴェルドラに王国を滅ぼされ、この地に移ったのが二千年前の事。その理不尽さと不死性は論外で、まともに相手をすれば損害だけが大きくなる。

ヴェルドラの気紛れで人類が滅ぼされては、食糧にも困る。上質な生気は、人からしか得られないからだ。

 

人の手に余る存在と定めルミナス達のような超越者ならばともかく、下等な吸血鬼族にとっては死活問題となった。

 

それでルミナスは仕方なく、共存共栄の仕組みを考え人類の保護に動いたのである。彼女が神と崇められるのも、過去に人々を救い導いた実績があるからだった。全ては、暴れまわったヴェルドラのせい。自然現象よりも性質が悪く、対応には苦慮したそうだ。故に、天災級と称されている。それが現在では特S級と呼ばれ、人の手には余る存在と定められてい訳だが……。

 

大破壊を起こした者は他にもいるのだ。現時点で特S級に認定されているのは四体の”竜種“ のみ。しかし、それはあくまでも世間に対する表向きの話であり……伝承では、二名の魔王が大破壊を行ったと記録されている。

 

それこそが、"暗黒皇帝"ギィ・クリムゾンと、

"破壊の暴君“ミリム・ナーヴァの二柱だ。

 

魔王は全てS級指定なのだが、その力には格差があった。この二者のように、裏事情では特S級と指定されている者も存在しているのだ。

 

ルミナス曰く___魔王種“は、覚醒する。大破壊によって大量の人の”魂“を得て、想像を絶する進化を成就した”魔王種“の覚醒。正しく言葉通りの意味での魔王とは、

この覚醒した”真なる魔王“を指す。

 

そして覚醒にも段階があり、魔王の中には

”竜種“に匹敵する者までいるという。

 

ギィとミリムに至っては、"竜種"以上であるとさえルミナスは考えている様だ。

 

何しろ、”真なる魔王“であるルミナスでさえも、その二名には敵わないらしいのだから。

 

『ミリムが相手ならば、出し抜く事は出来るでしょうね。戦えば、それなりに良い勝負になると思うわ。でも、結果は必ず敗北するのよ』

 

と、ルミナスは言う。

 

では、ギィが相手ならば?

 

『ハッ!忌々しいけど、妾では話にならないわ。アレは別格よ』

 

ヒナタからしても絶大な力を持つルミナスが、ギィを別格だと断言する。自信家のルミナスが勝てないと断言する以上、ギィの力は別次元の強さなのだろう。そして、そんなギィに対抗したという逸話の残るミリムもまた、ヒナタの想像が及ばぬような化け物なのだろう。そんな化け物達を表す、特S級という区分。人類の力を結集すれば対処可能だとしているが、それは希望的観測である。

 

何故なら、人類という枠組みに勇者も含まれているからだ。勇者不在の現在、人の手に負えないというのが真相だったのである。

 

現在の魔王達”九星魔王“は別格である。 

魔王リムルも例外ではない。ルミナスの見立てでは、リムルもまた覚醒しているらしい。今のレイヒムの言葉は、それを裏付けるのに十分であった。

 

 

ヒナタと同様、他の者達も思い出していた。

そんな恐るべき、"覚醒魔王"の存在を。

 

人々の不安を悪戯に煽らない為にも公にはされていないが、確かに存在する人類の脅威。

 

始まりの”竜種“は力を失い、何故か再誕する気配がない。残る三体の内一体は最近まで封じられていたが、厄介な事に復活して、

 

今話題の魔王リムルに与している。そして、

その魔王リムルだが、単体で二万の軍勢を殺戦してのけた。

 

それは、かつて行われた二名の魔王達と同等の行為。大破壊には及ばぬものの、大量の人の

”魂“を得た可能性は高かった。重苦しい沈黙が続く。それは、本当の意味での魔王の誕生を認めたくないという意思が生み出していた。

 

単なる”魔王種“と”真なる魔王“では、その存在に圧倒的な隔たりがある。この場にいる者ならば、それをよく理解していた。誰もが口を閉ざす中…

 

ヒナタ「そうか。魔王リムルは”覚醒“していると見るべきか……」

 

サーレ「その通りだろうね。どうする?ここで放置すると、手が付けられない脅威になるんじゃないか?」

 

グレゴリー「落ち着け。魔王リムルが元人間で、人類との共存を願っているなら、無理に戦う必要はないはずだ」

 

ヒナタ「そうね、向こうの出方を見るべきよ」

 

レナード「だが、二万もの騎士達を躊躇わずに葬ったのは事実です……。紛れもない脅威。このまま魔王リムルを信じてもいいものか……」

 

最後のレナードの意見こそ、この場にいる者達の本音であった。

 

ヒナタ「皆、黙りなさい。神託は絶対よ」

 

そのヒナタの言葉で、そろそろ会議も終わり。予定通り皆は情報収集に戻る___そのはずだった。

 

"悪意"はどこからでも湧いて出るものだ。

 

『おお、レイヒムよ。他に"伝言"はないのか?』

 

成り行きを見守るのみだった”七曜“が、合議の終了を宣言しようとしたヒナタを制止する。

 

その声に促され、レイヒムが思い出したように水晶球を取り出した。そしてそれを、恭しくヒナタヘと手渡す。

 

レイヒム「そ、そう言えばこれを。魔王リムルより、ヒナタ様への伝言だとか___」

 

ヒナタ「伝言ですって?」

 

映し出されたのは、美しい少女。いや、少女ではなく、魔王リムルその人だ。どこかヒナタの師匠だったシズエ・イザワを佑彿とさせるその素顔は、とても冷たく感情の色がまるで見えない。映像越しでもハッキリとわかる、覇気。

 

ヒナタ「(驚いた。数ヶ月前とは、まるで別人ね)」

 

そして、言われたのはたったの一言。

 

 

『相手してやるよ。俺とお前の一騎討ちでな』

 

すると、映像の中の魔王と視線があった。それは偶然なのだろうが……。知らずヒナタは、自分が緊張している事に気付いた。同郷の、どこかお人好しなリムルという人物。その印象が強過ぎたせいで、どこかで自分は彼の事を甘く見ていたのかも知れないと、ヒナタは理解したのである。

 

ニコラウス「ど、どうしますか、ヒナタ様?」

 

珍しくもニコラウスが動揺して、ヒナタにそう問うた。しかし、ヒナタがそれに答えるよりも早く

 

アルノー「ヒナタ様、俺に命令して下さい!俺が隊を率いて、魔王の野望を打ち砕いて御覧に入れましょう!!」

 

熱血漢のアルノーが勢い込んでそう叫ぶ。そこから、再び議論が活性化する。アルノーを呆れたように見て、サーレが笑った。

 

サーレ「おいおい、君は剣の腕は確かだが、頭の方には問題があるようだね」

 

アルノー「なんだと?」

 

サーレ「いやいや、さっき手出し無用とヒナタが言っただろ?手を出せば、それこそ他の魔王まで黙っていない。しかも覚醒している可能性があるとなれば、余計に手出しは厳禁だよ。ここは隠便に、相手の申し出を受ける方がいいと思うな」

 

リティス「そうよアルノー。ヴェルドラまでも相手にいるなら更に勝機はない。いえ、勝てるにしても損害が大き過ぎる。相手が一騎討ちを申し出ている以上、ここはヒナタ様に任せる方が確かだわ」

 

サーレに頷くのはリティスだ。総力戦になった場合、被害の予想はとんでもないものとなる。勝利するかどうかも疑わしいのだ。それならば、神聖法皇国ルベリオス最強騎士であるヒナタが出るのは悪い手ではない。

 

ヒナタ「(さて、どうしたものかしら…)」

 

相手が覚醒して”真なる魔王“へと進化しているのならば、兵力の数は意味を成さなくなる。

 

それはファルムスの軍勢の惨状が証明していた。

 

いや、違う。リムルがファルムス軍と戦った時は、まだ覚醒前だったはずだ。何故ならば、そのファルムス軍を滅ぼす事で、進化に必要な”魂“を得たのだから。

 

覚醒もしていない状態で、二万の軍勢を滅ぼしたのだ。

 

ヒナタ「(化け物ね、本当に……)」

 

リムルと戦った記憶を思い返してみても、そこまでの事が出来るようには思えなかった。しかし、それはヒナタが相手だから手加減していたのだ、とも考えられる。ではそんな相手が今になって自分を殺そうとするだろうか?

 

ヒナタ「(やはり、不自然ね。事情が変わった?まさか、魔王に進化して人の心を失った……!?」

 

膨大な力を得たならば、人の心など簡単に壊れるものである。シズエがイフリートの力を制御しようと苦心していたように、

大いなる力は簡単に人を破滅へと追いやるのだ。まして、覚醒した魔王ともなると……。

 

ヒナタ「(いや、それはないか。それなら人の味方をするというのも変な話だし……)」

 

ルミナスはリムルが人を守ると宣言したと言っていた。人の心が残っていないのならば、リムルの自分の望む町を作るという宣言に意味がなくなってしまう。やはり情報が欠けている、とヒナタは思う。

 

自身の[数学者]でも正解を導けぬほどに、隠された真実があるように思えるのだ。

 

そもそもこの、伝言を記録している水晶球だっておかしいのだ。大容量の記録を保存出来るはずなのに、再生されたのは僅かな言葉のみ。どう考えても、そこには何か隠された意図があるように思えてならなかった。それに

 

ヒナタ「(さっき”火曜師“アーズは、リムルからの伝言があると知っていたようだったわね。それは何故?)」

 

レイヒムは状況説明しか行っておらず、リムルからの伝言などとは一言も語っていなかった。それなのにアーズは、

 

『他に伝言はないのか?』と、聞いたのだ。

 

だが、そんなことは今考えることでは無い。

 

ヒナタ「やれやれね。相手から指名された以上、私自らが説明に出向くしかないわね」

 

ヒナタは溜息を吐きつつ、そう結論を告げた。

 

リムルがそう望むのならば、一騎討ちに応じるのもやぶさかではない。けれどもそれは、本当に話し合う余地がないのか、それをハッキリとさせてからの話であろう。会ってみれば答えが出る。ここで悩むよりも有意義である。

 

ヒナタ「(どちらにせよこうなった以上、私の手で決着をつけるしかない___)」

 

ニコラウス「危険です!出向く必要などありません!」

 

「相手の意思を確認せねば、答えは出ないでしょう?謝罪の件もある。どちらにせよ、一度会って話をしてみるべきでしょう?」

 

ヒナタはそう告げて、この話題を終わらせようとした。

 

しかし、それに待ったをかける者達がいる。

”七曜“の三名だ。

 

『フフフ。その決断や、良し!』

『神ルミナスの御加護が、お前を守るであろう』

『魔王リムルは確かに脅威』

『話し合いが不調に終わっても心配は要らぬ』『お前ならば、倒せるであろうよ』

『だがヒナタよ、お前は忘れている』

『左様。あの邪竜の存在をな』

『如何にお前とて、あの邪竜は倒せぬ』

『自惚れるなよ、ヒナタ』

『あの邪竜には、いかなる攻撃も通用しないのだ』

『しかしヒナタよ、安心するが良い』

『お前に、コレを授けよう』

『この、竜破聖剣(ドラゴンバスター)をな!!』

 

一方的に好き勝手に、ヒナタに対してそう言い募る。

 

ヒナタ「(やれやれ、あからさまね。まだ話し合いに出向くと言っただけなのに、もう私がリムルと戦うものだと決め付けている。そして貴方達の目的は、私にヴェルドラを始末させる事なのね。それとも、或いは…)」

 

”七曜“はルミナスが認めた元人間達であり、彼等の忠誠はルミナスに捧げられている。だからこそ、ルミナスが厄介に思うヴェルドラを排除しようとするのも理解出来るのだが……

しかし、目的はそれだけではないのだとヒナタは気付いた。

 

”七曜の老師"達は、恐れているのだ。

新たな才能が見出されて、ルミナスの寵愛が自分達から失われるのではないか、と。

 

だからこそ、後進の育成にも熱心ではないし、邪魔者を排除しようとも動くのだろう。

 

ヒナタ「(愚かな者達。ルミナス様にとって、害悪でしかないと思うけど__)」

 

それでもヒナタは、表立っては動かない。

判断するのはルミナスであり、ヒナタが勝手に動くなど以てほかの外だと考えるからだ。

 

ヒナタ「謹んで、お預かり致します」

 

そして、竜破聖剣を”金曜師“ヴィナの手より受け取った。それを見て、満足そうに頷くと、

 

『上手く事を運ぶが良い』

『もしもの場合も、その剣がお前を守るだろう』

『万が一失敗したなら、その責任はお前が取るのだぞ』

 

そう言い残して、”七曜“は去った。

 

「ヒナタ様……」

 

聖騎士達が声をかけようとするが、ヒナタは手でそれを制する。

 

ヒナタ「それでは、各自それぞれの役目を全うするように。これにて合議を終了するわ」

 

ヒナタは御簾の向こうにいる法皇ルイに視線を向けてそう宣言した。

 

こうして、波乱に満ちた合議は終了したのである。



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29話:なりたけ

エイト「…」

 

只今俺はブルムンドにてラーメンの布教中だ。

 

「旦那!これでどうだ?」

 

エイト「おお、見た目は完璧…」

 

俺は割り箸を割り、スープを飲む。

 

エイト「…」

 

そして、そのまま麺を啜った。

 

このラーメンを作ったキヤは緊張した面持ちで俺を見ている。

 

エイト「よし、合格だ」

 

「!」

 

エイト「これでこの"なりたけ"を任せられるな」

 

「ありがとうな!エイトの旦那!」

 

エイト「いや、こんな短い期間で覚えてもらえてよかった。こっちこそありがとうな」

 

キヤ「いや、こんな凄い料理のブルムンド本店の店長を任せてもらえて…本当に感謝しかねえぜ旦那には」

 

エイト「おう。これからも頑張ってくれよ」

 

俺はなりたけを出ようと思ったが、別の用事を思い出してキヤの元に戻った。

 

キヤ「どうしたんだい旦那?」

 

エイト「あー、今度テンペストで祭りをやるんだが…そこでラーメン屋を出す予定なんだ。よかったはそこで料理長やってくれねか?」

 

キヤ「お、俺なんかで?」

 

エイト「おう。一番の適任だからな」

 

キヤ「わ、わかったぜ…あれ?料理長ってことは他にも人は来るだろ?」

 

エイト「ああ、あと何人かスカウトする予定だ。この店で働いてくれてる子も連れて来てくれていいぞ」

 

キヤ「感謝するぜ」

 

エイト「って言ってもなりたけで働いてるのキヤとその子だけだろ?ラーメンの作り方教えたのか?」

 

キヤ「お、俺なんかじゃまだまだ…」

 

エイト「わかった。それなら祭りまでに基本的な作り方は俺が教える」

 

キヤ「いいのか!?」

 

エイト「時間はあるからな」

 

俺は祭りの担当でラーメン屋の展開に力を入れてる。これも立派な仕事だ。

魔導王朝サリオンへの街道の整備も俺たちが直接やるわけではないし、ファルムスの攻略はディアブロがやってくれている。ミリム達の新都市計画はゲルドに任せてるわけだ。

リムルが若干忙しいだろうが、俺は戦闘面でしか役に立たないのでこうしてラーメン作りに勤しんでるわけ。

 

だが、そんなところに悲報が入った。

 

エイト「え?ヒナタが?」

 

リムルの話によると、先程ヒナタがイングラシアから単騎で魔国連邦に向けて出撃したらしい。

しかもその後ろを完全武装した聖騎士四名が追従。追跡を振り切られたそうだ。

 

エイト「いきなりだな」

 

リムル『ただ、五人の速度的に急いでるわけじゃなさそうだからブルムンドに途中寄るんじゃないか?』

 

エイト「だろうな」

 

リムル『こっちは幹部達もいて動けるから、エイトは好きに動いていいと思うけど…どうするつもりなんだ?』

 

エイト「まあ、そうだな…リムルはテンペストの事だけ考えて動いてくれ。被害を最小限に留められる最善策をな。俺はヒナタに会った事がないし、もし会えたら話してみる」

 

リムル『わかった。こっちで何かわかったらすぐに伝える』

 

エイト「おう。サンキュな」

 

 

〜魔国連邦(テンペスト)〜

 

ディアブロ「リムル様。ご報告が…」

 

ディアブロは神妙な顔で、言いにくそうにそう告げた。

 

リムル「どうした?もしかして、何か問題か?」

 

もしかしなくても問題だろうな。なんせディアブロは、いつものように自信満々という様子ではないのだから。

 

ディアブロ「はい、問題が発生しました」

 

リムル「何があった?」

 

ディアブロ「レイヒムが死にました。死因は不明ですが、恐らくは殺されたものと思われます」

 

ディアブロが最後に見た時には健康に異常はなかったそうなので、事故に遭ったか殺害されたかの二択なのだという。

 

ディアブロ「リムル様が口封じを懸念しておられたというのに、これは私の落ち度です……」

 

申し訳なさそうに、ディアブロがそう言った。

 

そう言えば、そんな事を言った記憶がある。何気ない一言だったのだが、まさか本当にそうなるとは……。結界に阻まれた神聖法皇国ルベリオス内部での出来事なので、詳細は不明。

 

しかし前後の状況から考えるに、殺された可能性が濃厚だとディアブロは考えたようだ。

 

その状況を聞くと、思った以上に深刻な事態になっているようだった。

 

ディアブロ「ファルムス王国周辺国家に、

『悪魔の謀略によって大司教が殺害された』という伝聞が出回っております。魔法通信によって事情が拡散され、それに呼応するように各国の神殿騎士団が動き出しました。数日の間に準備を整え、新王エドワルドに合流するものと思われます……」

 

苦々しい表情のディアブロ。完全に予定外の出来事のようで、ディアブロが進めるファルムス王国攻略計画にも支障が出るのだろう。

 

ヒナタが動き出したこのタイミングで、この騒動間違いなく_____

 

《解。全ては繋がっていると思われます》

 

うん、それぐらい俺にもわかるわい。もしかして、そんな事もわからないくらい駄目なヤツだと思われているのだろうか?いやいや、それはないでしょ。

 

 

そのあとすぐに、ソーカによって幹部達が招集された。

 

ゲルドを除く幹部全員が集まっている。

 

ベニマル「リムル様、ゲルドは呼ばなくてもよかったのですか?」

 

リムル「ああ。あいつは今、大きな仕事を頑張ってくれている。今回は俺とヒナタの問題だし、戦いになっても大軍は必要としないからな」

 

国家存亡を賭けた防衛戦という訳でもないし、少人数を数のカで叩き潰すというのも何か違うだろう。というか、この世界では力の差が大き過ぎると、数の力に意味がなくなるんだよね。やって来る聖騎士達は、個々人がAランクオーバーの強者ばかり。

幹部連中が出ないと、相手にならないのだ。

 

どの道、今からゲルドの部下を全員呼び戻すのは困難なのだ。俺の転送魔法で連れ戻すのは可能だが、現地に全員集合するのに時間がかかり過ぎる。

 

捕虜の見張りも必要だし、いきあたりばったりで命じる訳にもいかないからな。俺の説明に皆が納得したところで、情報共有をかねてソウエイに状況を説明してもらう。

 

ソウエイ「はい、それでは説明します。

まず一つ、聖騎士団長ヒナタを含む五名が、ここ魔国連邦に向かっています。どうやらクルセイダーズの中でも上位の実力者ばかりのようでソーカ達の追跡は振り切りました」

 

ここで一旦ざわめきが起きた。

ソーカ達も、一応はAランクを超えているのだ。それなのに追跡に失敗した時点で、相手の実力がかなりのものである証明になる。

 

空を飛べば追いつけただろうが、そうすると発見されていただろう。無理をしなかったのは正しい判断だったと褒めていい。

 

それに、この町の周辺には警戒網が構築されているので、既にソウエイがヒナタ達の動向を把握しているのだ。情報を掴むのは戦略の基本。

 

それにしても、ソウエイの情報収集能力は大したものだ。金で雇った情報屋を利用したり、自らの『分身体』を変装させて送り込んだり。

ソウエイのヤツに忍者の心得なんかを教えた事があったのだが、それを自己流に発展させていたようだ。”隠密“という役職を与えた俺がビックリするほど、この仕事が天職だったのだろう。実はそれだけではなく、ソウエイはフューズにも実務的な事柄を教えてもらい、諜報活動のプロになっていたのだという。俺の怪しげな心得を聞いただけでそこまで出来たのなら、誰も苦労しないというもの。

も苦労しないというもの。

 

ソーカ達もソウエイに鍛えられて、更にその配下にまで教育が行き届いている。その上に現地人まで利用して、情報を集めてくれているのだと。今では俺が指示しなくとも、必要と思われる情報収集を行ってくれていた。今もごく当たり前のような様子で説明するソウエイ。実に頼もしくなってくれたものだ。

 

ソウエイ「ファルムス周辺のテンプルナイツの動きですが、ファルムスを囲むように続々と集結する模様。少数規模での移動ゆえその動きは速く、その総数は三万を超えるのではないかと予想されます。どうやら”悪魔を滅ぼす“事を目的としているようで、内乱そのものに干渉するつもりではない模様。ですがこのままでは、他国やファルムスの有力貴族達からのヨウム殿への援軍は期待出来ません」

 

それを聞いて、ディアブロの顔色が悪くなった。自分でも情報は掴んでいたようで、驚いている様子はない。しかし、話題に出ている悪魔というのがディアブロを指すとみて間違いないので、どこから情報が漏れたか気にしているのだ。

それにしても三万とは……周辺諸国から、数百から数千ずつ派兵されたのが集まると、かなり大規模で無視出来ない戦力になってしまうようだ。兵姑も農村部から補給し放題だし、持久戦になると不利なのはヨウム側か。面倒な話だ。

 

ソウエイ「ですが各国の王達は、西方聖教会に同調して軍を動かしてはおりません。そもそも教会内部にも派閥があるようで、どうも命令系統が複雑になっているようなのです。内情を詳しく知る事が出来れば判断もつきやすいのですが……」

 

ソウエイはそう言って、自分の報告の不備を恥じるように小さく頭を振った。うーん、確かに謎の多い組織だよな。ユウキも詳しく知らないと言う程だし…。

 

ディアブロ「こんなことなら、レイヒムに事情を聞いておくべきでした……」

 

ディアブロは基本的に自己完結しているので、下等と見下す者から意見を聞いたりしない。それが今回は裏目に出た感じだ。

 

シオン「その通り!先輩として私が、お前の失態だぞ、ディアブロ。やはりここは、お前の代わりに指揮を執った方が良さそうだな!」

 

ここぞとばかりに、シオンが言う。後輩であるディアブロが重要な任務についているのを、羨ましく思っていたようだ。普段なら言い返すディアブロも、今回は自分の失態だと思っているからか、黙ったまま反論する気配がない。

 

仕方ない。俺が代わりにシオンに聞いてみるか。

 

リムル「それで、シオン。仮にお前にファルムス攻略を任せたとして、お前は一体何をするつもりなんだ?」

 

もしかしたら。そう、万が一ではあるが、シオンにも素晴らしい作戦立案能力が____

 

シオン「はい!勿論、私が部隊を率いて王侯貴族を皆殺しに__

 

あるわけなかったよ。

 

リムル「馬鹿野郎!却下だ、却下!」

 

今の支配体制の頭を潰してしまったら、それこそ群雄割拠する内乱が勃発してしまう。

 

シオン「やはり駄目でしたか…」ショボン

 

リムル「ディアブロ。誰にだって失敗はあるし、レイヒムが殺されるなんて俺も思っていなかった。それに、お前の正体がバレたのは別にそこまで問題じゃないだろう?」

 

ディアブロ「えっ!?ですが、リムル様……?悪魔の関与と騒がれては、任務の続行は……」

 

驚いたように俺を見るディアブロ。落ち込んでいたのは、任務から外されると思っていたからみたいだ。

 

リムル「いいか、失敗した時は、それをどうやって挽回するかを考えるのが大事なんだ。責任を取って辞めますじゃあ、誰でも簡単に出来るだろうが!それに、元々ヨウムと俺の繋がりは公表してある。ディアブロは悪魔だが、俺の部下だ。周囲が騒ごう全く関係ない。今問題となっているのは、レイヒムを殺した犯人が誰なのかって事だろ?それがディアブロではないと証明すればいい話で、そこまで難しく考える問題じゃないよ」

 

そもそも、俺は魔王なのだ。その配下に悪魔の一人や二人いたとしても、全然不自然ではないだろう。

 

シュナ「そうですよ。シオンだって、貴方に代われるとは考えていないでしょう」

 

シオン「いいえ、シュナ様。私ならば、即座にファルムス王国を灰塵に___」

 

そう言いかけたシオンを、シュナが一瞥して黙らせる。エイトがいないことでテンションが低いシュナの眼光は鋭くシオンでも逆らえない。

 

シュナ「_____考えていませんでした。不器用ですが、シオンなりの激励だったのですよ。貴方もリムル様にお仕えしているのだから、小さな失敗で落ち込んでいる場合ではありません」

 

優しくも厳しいシュナの言葉。しかし、

シオンは、黙ってられないとばかりにそれを否定する。

 

シオン「シュナ様、それは買いかぶりです。私はこの新参者に、第一秘書として先輩の威厳を見せ付けただけですので!」

 

ドヤ顔で言うが、そこには少し照れの色が見えた。やはりアレは、シオンなりの激励だったって事か。わかりにくいけど、シオンらしい。そしてシュナは、それを正確に見抜いたのだろう。普段は脳筋な事ばかり言うシオンだが、たまには粋な事をするものである。

 

リムル「ま、そういう事だな。援軍については作戦次第だ。最悪の場合はエイトを引きずってでも連れ戻して前線に出させるさ」

 

ディアブロ「では、このまま私が作戦を続行しても……?」

 

リムル「当たり前だろ。こっちはヒナタを相手にするので精一杯だし、ファルムス王国の攻略はお前の仕事だ。そもそも、レイヒムを送り出す事を許可したのは俺だ。その責任は俺にもあるさ。だから、この作戦はお前が最後まで全うしろ。それとも、無理そうか?それなら」

 

ディアブロ「いいえ、とんでも御座いません!せっかくリムル様より与えて頂いた仕事です、是非とも最後まで私にお任せ下さい」

 

リムル「やれるのか?」

 

ディアブロ「クフフフフ、当然です!」

 

リムル「良し。キッチリと汚名を返上してくれ」

 

自信と余裕を取り戻したディアブロが頷く。  

 

 

シュナ「リムル様、ご提案が御座います」

 

リムル「珍しいな、何か意見があるのなら言ってくれ(エイトがいなくてテンションが低いから今日はいつも以上に喋らないと思ってたんだが…)」

 

リムル「この前私が倒したアダルマンですが、彼から話を聞いてみてはどうでしょう?

数百年前とはいえ、彼も一応は西方聖教会に所属していたそうですし…」

 

アダルマンと言うと…

 

『解。クレイマンの居城を防衛していた__』

 

ああ!シュナが仲間にしたというアンデットだな。確か力を失って今は死霊(ワイト)なんだよね。

 

リムル「それはいいな。ちょっと話を聞いてみるか」

 

しばらくして、ガビルに呼んでできてもらった

アダルマンがやって来た。

 

「__拝謁の撓倖を賜りました事、誠ににありがたく__」

 

リムル「長い!」

 

俺がアダルマンについて考えている間も、感謝の言葉を述べ続けていたようだ。聞き流していたが終わる気配がない。

 

これはまた本当に強烈なヤツである。

 

シオン「お前は見所がある!」

 

ディアブロも笑みを浮かべて優しそうにアダルマンを見ているけれど、他の幹部は流石に若干引き気味だった。

 

シュナ「アダルマン、そのへんで。リムル様に会えて嬉しい気持ちはですが今は時間もないので、そろそろ本題に移りなさい」

 

シュナが呆れたように止めなければ、このまま祈りの言葉まで捧げられそうな勢いだった。

 

なんとこのアダルマン、昔は西方聖教会で枢機卿という最高地位に就いていたらしい。当時は西方聖教会の立場が弱く、神聖法皇国ルベリオスにおいてはそこまで上位の立場ではなかったというが、詳しい話を聞く事が出来た。

 

まず、神聖法皇国ルベリオスという国は、神ルミナスを頂点と定める宗教国家である。法皇は神の代弁者であり、その正体は不明。世代交代しているのかも知れないが、そうした話を聞く事はなかったという。国を統治するのは、法皇庁という組織だ。この組織が、神聖法皇国ルベリオスの最高執政機関となる。アダルマンがいた当時は、西方聖教会はこの法皇庁の下部組織に過ぎなかったのだと。

 

アダルマン「西方聖教会とは、ルミナス教を布教する目的で組織されたのです。武力など所有せず、信者に神の教えを広めるだけの組織

だったのです。ですがそれだけでは、布教する者達の身を危険から守れない。そこで法皇庁が傘下の国々に要請して神殿騎士団(テンプルナイツ)を結成した。法皇庁の予算で賄われる

神殿騎士団は各国も歓迎し、協力を約束した訳だ。魔物の脅威から信者を守るという事は、

 

即ち各国の国民も安全になるという事。予算を出してもらえるのだから、協力するのは当然だな。そうした関係が構築されていくと、本国と各国の間で摩擦が起きるようになる。そこで登場するのが、法皇直属近衛師団という訳だ。

 

アダルマン「師団と言いますが、実際には数名しかおりませんでした。異常な強さで、神殿騎士団に命令する権限を持ちます。神と法皇にのみ忠誠を誓う集団でして、法皇庁の最高権力者である執政官でも、彼等にはあくまで要請する事しか出来ません」

 

執政官というのは、行政を任された者らしい。そんな権力者でも命令出来ない権限を持つ、法皇直属近衛師団。かなりの実力者なのは間違いなかろう。

 

アダルマン「ちなみに、我が友であるアルベルトも、近衛師団に誘われたようです。ですが断り、西方聖教会にて私の副官を務めてくれました。そこで、聖堂騎士(パラディン)という称号を法皇より賜ったのです」

 

骸骨の顎をカタカタと鳴らし、どこか誇らしげに笑うアダルマン。

 

なるほど、ハクロウが苦戦したという死霊騎士(デスナイト)今は骸骨剣士(スケルトン)だな。剣技はそのままに魔物の肉体を得た訳だから、強いのも当然か。

 

アダルマン「ですが、今は状況がかなり変わっているようです」

 

おっと、アダルマンの話は終わっていなかったようだ。

 

そのまま説明を聞くと、当時とかなり様変わりしているのだと言う。

 

最大の違いは、教会の力が増した事だ。聖騎士団という戦力を得て、発言権も大きく向上したらしい。それ以前にも、西方聖教会の枢機卿から執政官が選ばれるようになったりと、立場はかなり改善されたのだという。その理由は、”七曜の老師“の存在だろう。

 

アダルマンがいた頃は、”七曜の老師“が法皇に次ぐ権力者として執政官も務めていたそうだ。その”七曜“とやらが西方聖教会の建て直しを命じられ、今のように枢機卿から執政官が選出される形態へと移り変わったのだという。

 

ただし、その”七曜“とやらは胡散臭いヤツらのようだ。アダルマン達を排除しようと罠にかけたのも、どうやらその”七曜“らしいのだ。

 

”七曜“の監督の下では目立った活躍のなかった聖騎士団だが、ヒナタが鍛えた事で名実共に最強の騎士団へと成長した。

 

これによって神聖法皇国ルベリオスは、聖騎士団という両翼を得たのである。

 

リムル「詳しいな、アダルマン。クレイマンの所にいた割に、えらく事情に通じているじゃないか……」

 

アダルマン「魔王クレイマンは、西方聖教会を敵視しておりました。その戦力を警戒し、情報収集を怠らなかった模様。私も一応は幹部でしたので、意見は求められずとも情報は与えられていたのです」

 

思わぬところでクレイマンの用心深さが役に立った。

 

アダルマン「我が神たるリムル様、どうか警戒して下さい。神聖法皇国ルベリオスには現在、”十大聖人“と呼ばれる”仙人“級の者達がおります。魔王クレイマンも警戒していた者共ですので、油断を召されぬようにお願い申し上げます」

 

アダルマンの説明は以上だ。詳細は不明だが、近衛師団の中でも”三武仙“と呼ばれる者が

”仙人“級の実力者なのだという。これに聖騎士団の六名の隊長格とヒナタを加えた十名が、

"十大聖人"と呼ばれているらしい。

 

 

”仙人“とは、”魔王種“に匹敵する力を得た人間なのだという。そんな者達が十名もいるのなら、クレイマンが警戒するのも当然か。すると恐らく、今ここに向かっているというヒナタを除く四名も、その”十大聖人“である可能性が濃厚だな。一般兵で迎撃するのは無駄死にになりそうだし、最初から俺と幹部で相手する方が良さそうだ。

 

 

アダルマン「我が神よ、ここはこのアダルマンが元枢機卿として、ヒナタとやらを諌めて見せましょう!彼女の信仰もリムル様へと鞍替えするように説得し___」

 

リムル「ああ、待て待て。そういうのはいらないから、お前はもう下がっていいよ」

 

話がおかしな方向へと流れそうだったので、慌ててアダルマンを退出させた。

 

思い込んだら一直線という感じで、ヒナタ以上に人の話を聞かなそうなヤツだ。

 

こういうヤツらが話し合っても、決して良い結果にはならないだろうな。そして……。

 

シオン「なるほど、素晴らしいアイデアです」

 

ディアブロ「クフフフフ、その手がありましたか!」

 

シオンディアプロなど、簡単に感化されている秘書と執事。

 

リムル「何を馬鹿な事を言ってるんだお前らは!余計に話が拗れるわ!」

 

アダルマンも退出して仕切り直しである。

 

 

情報も出揃ったところで、本格的に対策を考えるとしよう。相手の力を見極める捨て駒が欲しいけど、そうそう都合のいい……って、さっきからヴェルドラがチラチラと俺を見ているけど、お前は駄目だ。間違いなくやり過ぎる。

 

リムル「ヴェルドラは__」

 

ヴェルドラ「うむ!ようやく我の出番だな。任せよ!」

 

リムル「いや。ヴェルドラには、最終防衛ラインを任せたい」

 

ヴェルドラ「何ィ?」

 

リムル「格好いい響きだろ?最・終・防・衛・ラインだ。ここを任せられるのは君しかいない、と思うんだが」

 

ヴェルドラ「無論だとも。我もそうではないかと思っておった!」

 

得意げに頷くヴェルドラ。良し、これでコイツの暴走は未然に回避出来たな。ヴェルドラが出れば負けはないけど、それは流石にちょっとまずい気がする。まだヒナタとの話し合いの目が潰えた訳じゃないし、最初からヴェルドラをぶつける訳にはいかないだろう。

 

援軍に向かわせるなど論外だしな。ヴェルドラが落ち着いたところで、ベニマルが口を開いた。

 

ベニマル「まず、ヨウム殿への援軍を発表する」

 

その内容は___

 

ゴブタを隊長とした、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)が百名。

 

ベニマルの部下である"緑色軍団"(グリーンナンバーズ)が四千名と、

それを指揮する”紅炎衆“(クレナイ)が

百名。

 

”紅炎衆“の残り二百名は、この町の護衛として残るようだ。

 

そして最後に、ガビル率いる”飛竜衆“(ヒリュウ)が百名。合計四千三百名、その者達をヨウムヘの援軍と定めたようだ。

 

ベニマル「以上だ。この町を守護する戦力は減少するが、今は獣人族(ライカンスロープ)の戦士達もいるし、ヴェルドラ様も控えている。問題はないと思うが、意見はあるか?」

 

ゴブタ「ちょっ、自分っすか!?」

 

ベニマル「何か問題か?」ギロッ

 

ゴブタ「あ、いえ、何でもないっす…」

 

リムル「(愚かなやつよ)」

 

ベニマル「援軍の総指揮はハクロウが執る。

だが安心しろ。何かあれば、俺が直ぐに[空間移動]で援護に出向く。ただし、こちらも聖騎士団長ヒナタ・サカグチと交戦になる可能性が高い。そうなった場合には連絡が途絶える事態もあり得るので、各自無理をせぬようにハクロウの指示に従え!」

 

ハクロウ「お任せ下され」

 

ゴブタ「了解っすよ……」

 

ガビル「我輩も今度こそ活躍するのである!」

 

ハクロウ、ガビル。二人はやる気になった様子。ゴブタだけは少し不安だが、要領だけはいいので何とかなるだろうけど…。

 

リムル「やっぱ心配だな。ランガ、起きてるか?」

 

俺は、俺の影の中で眠るランガに声をかけた。

 

ランガは俺の護衛を兼ねて、最近ではずっと影に潜っているのだ。それなのに変に魔素量が増えているようで、運動不足なんじゃないかと踏んでいる。

 

ランガ「我が主よ、出撃ですか?」

 

リムル「ああ。お前もたまには運動した方がいいだろう?ゴブタについて、守ってやれ!」

 

ランガ「ハハッ、身体が軽いです。目覚めの運動が楽しみですね」

 

何だろう、コイツを解き放つのはヤバイ!という風に感じる俺の危険予知は。

 

ゴブタ「ランガさんがついてくれるなら安心っすよ!」

 

リムル「ランガ、お前は無茶するなよ。相手は殺さないように」

 

ランガ「お任せを!シオン殿に、手加減の手ほどきは受けております!」

 

リムル「お、おう……」

 

余計に心配になった。影の中で眠っているとばかり思っていたけど、俺の知らない間にそんな事もしてたのね。シオンに習っている時点で不安しかないが、回復薬もあるし大丈夫だろう。

 

ランガは嬉しそうな咆晦をあげ、ゴブタの隣に寝そべった。最早、相手の無事を祈るのみである。

頑張れ!と、まだ見ぬ敵を応援してしまったのは秘密にしよう。

 

 

そんなわけで、俺はベニマルの決定を承認して、派遣する者が決まったのである。ここで問題は、新王側への援軍の存在だ。

 

リムル「それでディアブロ、作戦はどうするつもりだったんだ?」

 

ディアブロ「はい。多少の援軍は想定していましたが、三万ともなると想定外です。当初の計画では、新王側の戦力は、総数で一万程度だろうと見積もっておりました」

 

そう言って始まったディアブロの説明によるとまず、新王側が軍を動かそうとした段階で、エドマリスに理由を問う書簡を送らせる。

 

新王としては、賠償金の支払いをエドマリスに押し付けようと考えるだろうから、それを未然に阻止する形だ。

 

そうなると新王は、エドマリスが結んだ契約を履行する義務はない、と主張するだろう。

 

こんなものは評議会に加盟していたら通らぬ話だが、俺達にはギリギリで通用する。

 

エドマリスを処刑して、約束の無効を主張するのだ。そこで俺達が怒って軍事行動を起こせば、西側諸国で団結して対抗しようという腹だろう。それを防ぐ為に、窮地に陥るエドマリスをヨウム一味が救出した、と。

 

今エドマリスは、ヨウム一味に守られてニドル領に匿われているのだという。ここまでは、

予定通りに事が運んでいるらしい。

 

ヨウムが拠点とするニドル領で、ヨウムが集めた戦力が五千。それに加えて、俺が転送魔法で四千三百名を一気に送り込む。数の上でも互角だが、背後に一軍が出現する恐怖その心理効果によって、形成は一気に傾くという計画だった。新王側に援軍が集い始めた今、その作戦は使えない。相手の態勢が整うのを待っていると、四万対一万と四倍の戦力を相手にする羽目になる。事を起こすなら、早い方が良さそうだ。

 

ディアブロ「新王エドワルドは、エドマリスの所領に陣を張って援軍を待っているという状況ですね」

 

そう言って、ディアブロの説明が終わった。本来なら、その決戦でエドワルドを撃ち破り、エドマリスが復権を選ばず英雄ヨウムの即位を促す、という流れ。

 

ソウエイ「現在、エドワルドの下に集った戦力は、二万。後三週間もあれば、四万全てが揃うでしょう。そうなれば、背後の守りが薄いニドル領など___」

 

ソウエイが説明を補足してくれた。このまま待っていても、状況は悪くなる一方か。しかし打って出てしまうと、本気で殺し合いの戦争になってしまう。

 

二万もの人命を失った上で戦争が泥沼化すると、ファルムス王国に決定的なダメージが入りかねない。さて、どうしたものか……。

 

リムル「最悪、さ。今回は諦めるって手もある。俺が残る債権を放棄すれば、戦争は回避出来るだろう?ヤツらの大義名分を奪えば、これ以上戦いを続ける意味がなくなるからな」

 

シオン「駄目です!そんな事をすれば、リムル様が軽く見られてしまいます!」

 

リムル「軽く見られるのは問題だが、実利は取ったしな。ヒナタの件を片付けてからもう一度取り組む方が簡単なんじゃないか?」

 

実際、既に十分な量の賠償金一部をゲットしたのだ。ここで損切りしても利益は確定するし、無理して二正面作戦を行う方がリスクが大きい気がする。

 

ディアブロ「クフフフフ、作戦を諦めるなどとんでもない。リムル様、私にお任せ下さるのでしょう?」

 

リムル「ああ。だけど、出来ればこれ以上無関係な犠牲者は出した<ないんだが……」

 

ディアブロ「問題御座いません。それが我が王の望みとあらば、その意に従うのが臣下の務め。リムル様の申されていた通り、簡単な話ですとも」

 

俺は作戦中断も止むなしと思ったのだが、ディアブロは欠片も諦めるつもりなどないようだ。

 

リムル「どうするつもりだ?」

 

ディアブロ「犯人を見つけます。この私に罪をなすりつけようとした、犯人をね」

 

そして、静かな口調でそう言うディアブロ。

 

あ、これはかなり怒ってるね。

 

ディアブロ「”悪魔を滅ぼす“?つまりこの私を滅ぼすというのなら、相手をして差し上げるまで。やって来る三万の中には、犯人に繋がる者がいるかも知れません。"優しく"問い質してみるとしましょう」

 

微笑さえ浮かべて、ディアブロはそう言った。

アカン。これは優しさなんて、一欠片も持ち合わせていない。

 

そしてディアブロ、一人で三万の神殿騎士団を相手にするつもりみたい。

 

ベニマル「なるほど、お前が出るのなら心配は要らんな。ただし、無関係な者を殺すなよ?」

 

ディアブロ「言われるまでもない。リムル様の意に叛く真似はしませんよ」

 

俺が迷っている間にベニマルとディアブロの間で話が纏まってしまった。

 

ベニマル「ならばいい。ではハクロウ、お前は新王の兵を相手に犠牲者を出さずに制圧可能か?」

 

ハクロウ「問題ないでしょうな。不意打ちで一気に決める方が簡単でしたが、それでは兵の訓練にもならん」

 

ベニマル「そうだな。ガビル、回復薬は大量に用意しておけよ」

 

ガビル「承知!お任せ下され」

 

リムル「(あれ?あれれ??俺を置き去りに話が……)」

 

シオン「リムル様、ファルムス王国攻略に関しては大丈夫そうですね」

 

リムル「あ、ああ。そうだね。みんな、頑張ってね…」

 

シオンに笑顔でそう言われ、思わず頷いてしまった。

 

「「「ハハッ!!」」

 

そんな俺に、皆の気合の入った返事が届く。

 

こうして、俺の迷いを吹き飛ばす勢いで、この話は片付いた。

 

〜〜〜

 

色々と納得いかないが、もう―つの問題に話題が移った。

ヒナタ達の相手を誰がするか、である。

 

ベニマル「それで、やって来る五名に対しては…」

 

そう言って、ベニマルが俺を見た。良し、今度こそ俺の主導で話を進めねば!俺は満を持して発言しようとした。しかしその時、ソウエイが突然立ち上がる。

 

ソウエイ「リムル様、緊急事態です。聖騎士団に動きがあった模様__」

 

そして、緊張した様子でそう言ったのだ。

慌てる一同。というか、俺。

 

リムル「ヒナタ達に何か?」

 

ソウエイ「いえ、イングラシア王国を見張っていたホクソウからの報告で、たった今、百騎の人馬が出陣したと……」

 

ベニマル「なんだと!?」

 

ソウエイ「半日以上の時間差がありますが、このスピードだと先行組に追いつけるでしょう。少なくとも方角は一致しているので、この国を目指しているのは間違いないようです」

 

ヒナタは急ぐでもなく、普通の速度で移動しているらしい。それを追う四名は魔法も使った全力疾走だったらしいが、ヒナタと合流してからは普通の速度に落としたそうだ。

何やら揉めたようだが、そのまま行動を共にするようになり、五名でこの町を目指しているという。いまだにイングラシア王国からブルムンド王国への途上だが、その速度は緩やかなのだと。なので、後続の百騎が追いつこうと思えば追いつけるらしい。

 

しかし後続の部隊は、街道のような目立つルートを避けて、馬を捨てて旧道である森へのルートに入るのではないかとの事。

 

リムル「ヒナタと合流しようとしているんじゃなさそうだな」

 

ソウエイ「その意図は不明ですね。ヒナタの到着は早くても二週間後と予想されますが、後続部隊の到着も似た時期になりそうです」

 

ソウエイは困惑しつつも、追跡の指示を出している。このまま続報を待つ他ないだろう。

 

一難去ってまた一難、か。

 

いや、去ってくれずに難問が溜まっていく感じ。嫌になるね、ホント。ともかく、状況は変わった。嘆いていても仕方ないのだった。

 

幹部達が討論を始める。

 

俺はそれを聞きながら、どうするか考えていた。ヒナタ含め、仙人級の者が五名。そして、謎の動きを見せる後続の聖騎士百名。前回のファルムスの軍勢二万名よりも、今回の百数名の方が危険度は圧倒的に上であった。というか、ヒナタ一人が圧倒的にヤバイ。それが、この世界の真理。数の暴力は、個の力の前に霞むのだ。モヒカンの雑魚がどれだけ集まっても、

世紀末覇王には勝てないのである。

 

シオン「悩むよりも、全員切り捨てればどうでしょう?」

 

誰とは言わないが、本当、何も考えないやつというのは無敵だ。

 

ベニマル「あ、リムル様。エイト様はどうしたんですか?」

 

リムル「ああ、あいつならブルムンドでヒナタ達が来るの待ってるっぽいぞ」

 

ベニマル「っ!?直接会う気なんですか?」

 

リムル「ま、俺たちはここで表向きの最善策を考えとけばいいってさ。その間にエイトは裏で動くとか…何するかは俺も聞いてない」

 

ベニマル「はぁ…エイト様らしいというか…なんというか…」

 

ソウエイ「あの人なら問題はないだろう。それより俺たちはここで百騎の聖騎士の対策を考えるべきだろう」

 

リムル「そうだな。何か他に案があるやついないか?」

 

シオン「それならば、私に策あり!」

 

不安だ。そこはかとなく、不安を感じる。

 

リムル「……言ってみろ」

 

「はい!私の”紫克衆“(ヨミガエリ)も丁度百名います。相手に取って不足なし、我等が相手をしてやろうかと思います!」

 

シオンはドヤ顔でそう言った。

 

リムル「アホか!”紫克衆"はCランク程度の実力しかないんだから、相手の方こそお前らに不足ありだよ!」

 

シオンには、どこからその自信が来るのか問い詰めたい。数うんでいは同等でも、実力には雲泥の開きがあるというのに……。

 

ベニマル「いや、確かにシオンの言い分は問題ですが、その策は有効だと思いますよ」

 

驚いた事に、シオンを擁護したのはベニマルだ。

 

ベニマル日く。”紫克衆“にはエクストラスキル『完全記憶』と『自己再生』があるお陰で、

普通の攻撃では死ににくい。初撃から魂を砕くような攻撃を、雑魚相手に用いるとは思えないという。

 

ベニマル「弱いのが逆に、聖騎士達の油断を誘います。その隙を突けば……。時間を稼ぐならば、案外向いているかも知れませんよ」

 

そして、思案するように述べたのである。そう言われると、一理ある気がしてくる。聖騎士が魂への直接攻撃手段を持っていなければ、それこそ”紫克衆“が有利になるし。他の部隊が出るよりも、穏便に済む可能性は高い。

 

シオン「ベニマルの言う通りです!それにですねリムル様、私の特訓によって奴等も鍛えられております。『痛覚無効』は当然、『耐毒』や『耐麻痺』に『耐睡眠』まで。全員が獲得に

成功しているのですよ!しぶとさだけならば誰にも負けぬと、最近ではハクロウにもお墨付きをもらったのです」

 

ベニマルを味方につけ、シオンが勢い込んで言う。ハクロウも頷いているので、その言葉に嘘はないようだ。

 

リムル「ちなみに、そんな耐性をどうやって獲得したんだ?」

 

シオン「ああ、それはですね___」

 

嘘だと思った訳ではないが念の為に聞いてみると、驚きの回答が。クロベエに頼んで、状態異常効果を付与する武器を作ってもらったらしい。それで訓練しているので、自然と身に付いたのだという。

 

“不死性が高いから寸止めなどせず、行動不能になりにくいから勝敗が見分け難い。そんな訳で、立っていた方が勝ちとする、彼等独特の模擬戦で……。

 

ベニマル「リムル様、”紫克衆“が危険であると判断したら、"紅炎衆“が助けに入ります。

ゴブア、いけるな?」

 

オーガ部屋の扉を守護していた長身の大鬼族の美女が、呼ばれてやって来た。そして脆き、ベニマルと、俺に頭を垂れる。

 

その視線は鋭く、かなりの風格である。

 

間違いなく俺が名前を付けた子鬼族だったのだろうけど、最早、その面影など残っていない。

 

緋色の軍服を着たエリートさんだった。そしてベニマルに促され、凛々しい表情で俺を見た。

 

ゴブア「ハッ!私もシオン様に負けぬように、部下を鍛えております。その武威を今、リムル様の為に役立てる事を御許し下さい!」

 

 

ベニマル「聖騎士には実力で劣るかも知れませんが、俺の部下達もなかなかのものですよ。

二人で一人を相手にすれば、”紫克衆“が逃げる時間くらいは稼げます」

 

シオン「馬鹿を言うな!私の部下だけで、聖騎士共を無力化してみせる!」

 

そして始まるシオンとベニマルの口論。

 

両者共にやる気は十分。

ここは任せてみてもいいかもしれない。

 

リムル「よし、それじゃあシオンに任せよう。ゴブアだったな、フォローは任せるぞ!」

 

ゴブア「は、はい!お任せ下さいませ、リムル様!!」

 

リムル「シオン、あくまでも話し合いが決裂するまでは、こちらから手出しさせるなよ?」

 

シオン「大丈夫です!ですが、相手に不穏な動きがあった場合は___」

 

リムル「その時は遠慮しなくていい。俺が

[思念伝達]で確認次第、直ぐに行動に移すように!」

 

シオン「了解です」

 

聖騎士団の相手は、シオンの”紫克衆“に任せると決まった。ベニマルの”紅炎衆“は、万が一に備えて待機する。

 

この三百名で、百名の聖騎士達を相手にする。

 

ここは信じるとして、ヒナタと一緒に行動している四名を誰に任せるかだ。

 

前提として、今現在”仙人“に対抗出来るだけの力を持つ者は俺、ヴェルドラ、ランガ、ベニマル、シオン、ソウエイ、ゲルド、ガビル、そしてディアブロ。

ハクロウも魔素量では劣るものの、剣技だけなら相手出来るだろう。

 

シュナは……ちょっとわからないな。魔法戦ならともかく、近接を得意とする騎士が相手では厳しいと思う。仙人である”十大聖人“は”魔王種“に匹敵するらしいから、少なくとも

豚頭魔王に匹敵するという事。やはりシュナでは荷が重いかもしれないな。

 

という事で、ハクロウも入れて十名。俺はヒナタを相手にする。ヴェルドラは論外。暴走されると危険なので、町の守りを任せたい。というか冗談を抜きにして、俺達に気付かれぬように敵の別働隊が動いている可能性もあるのだ。守りはしっかりとしておかないと駄目だろう。

 

ゲルドは保留。なるべくなら、呼び戻したくない。ディアブロ、ランガ、ハクロウ、ガビルはファルムス王国に集中してもらいたい。

 

となると残るは___

 

リムル「自由に動けるのは、ベニマル、シオン、ソウエイ、の三名だけか」

 

一人につき一人で相手したかったのだが、数が足りないようだ。まあ、エイトが来れば話は別。全員エイトに任せるが…。

 

ベニマル「当然、俺は出ますよ」

 

ベニマルはその為に、ヨウムヘの援軍指揮を

ハクロウに譲っている。これは外せないな。

 

ソウエイ「俺も残ります。情報収集は[分身体]でも可能ですし、今はソーカ達もそれなりに使えるようになりましたので」

 

ソウエイも大丈夫。器用なので、情報収集も同時に行えるだろう。

 

シオン「私も!リムル様の秘書として、常にお傍に__」

 

シオンもそう主張したのだが、ここで俺の中から待ったがかかった。

 

智慧之王『告。別働隊に”仙人級“の者がいた場合、時間稼ぎすらままならぬ可能性があります。念の為にそちらにも戦力をまわす方が無難でしょう』

 

おお、そんな心配もあったか。まともな意見をありがとう!やはり智慧之王先生は頼りになるのだ。

 

リムル「待て、シオン。その前にソウエイに聞きたいのだが、ヒナタと別行動している聖騎士達に、”仙人級“の者がいるかどうかわかるか?」

 

そう問うと、ソウエイはしばし目を閉じた。その上で、

 

ソウエイ「申し訳ありません、個々人がAランクオーバーなのは間違いないのですが、その中に飛び抜けて巨大な気配というのは見受けられませんでした」

 

と、無念そうに答えてくれた。

 

魔物ならオーラ妖気を垂れ流しにしているから直ぐわかるんだけど…。。実力のある者ほど、その気配を上手に隠す。

 

例えばヒナタなんて、それこそ一般人にしか見えない程度の気配しか感じなかった。

 

以前の俺ではまるで見抜けず、その実カの高さに驚いたものだ。戦闘状態になれば話は別だろうが、

 

リムル「やはり、万が一に備えてシオンも別働隊を監視して欲しい。"紫克衆“だけでなく”紅炎衆“もシオンの指揮下に入るように。問題ないかベニマル?」

 

ベニマル「リムル様がそう判断されたのならば、問題ありませんよ。聖人ヒナタの付添い四人は、俺とソウエイが二人ずつ相手をすれば済む話です」

 

凄い自信だ。ソウエイも同意なのか、それが当然と自然な態度を崩さない。

 

リグルド「お待ち下さいリムル様。ここは、この不肖リグルドの出番かと。私も町で皆を取り纏めるだけではなく、たまには暴れたいと思いますぞ!」

 

その筋肉を誇示しつつ、リグルドが申し出てきた。

 

シュナ「そういう事でしたら、私もおります」

 

笑顔のシュナ。だからね、君は近接戦闘には不向きだろ?危険だと思うんだよ。

 

リグル「俺もいますよ。ゴブタにだけ良い格好をさせたくないですし!」

 

リグルドやリグルは、確かにAランクを超えて強くなっているけど、それでも”魔王種“には遠く及ばない。流石に無茶である。

 

竜帝「ああ、待て待て。お前達ではちょっと危険だと思うぞ」

 

リグルド「ですが、他に適任者がいないでしょう?」

 

ベニマル「俺達がいるから大丈夫だ」

 

リグルド「ベニマル殿達が強いのは承知していますが、相手を祇めない方が良いでしょう?やはりここは私とリグルで___」

 

とまあ、段々と議論がヒートアップしていく。

 

相手の出方次第では心配する必要もないんだけど、やはり安心して事に当たりたい。

万全を期すのならば、やはりゲルドにその日だけでも、戻って来てもらうほうが___。

 

纏まる気配のない議論を横目に俺がそう考えていると、扉の方から騒がしい声が聞こえ始めた。

 

 

ゴブア「ですから、今は大事な会議中でして」

 

スフィア「ええい、オレ達もその会議に参加したいんだって!」

 

アルビス「これスフィア、そう喧嘩腰で話さない。ねえ貴女、私達はただ、恩返しに協力させて欲しいと申し出ているだけですのよ?」

 

話し声は先程のゴブアと、三獣士のスフィアとアルビスだった。

 

扉が開き、二人が入って来る。

 

スフィア「よお、邪魔するぜ。さっき骨野郎が走っているのを見たけど、何かあったんだろ?オレ達にも協力させてくれよ、リムル様」

 

アルビス「魔王リムルよ、この度は突然の訪問をお許し下さい。スフィアは口は悪いですが、協力したいという気持ちは本当です。何卒、私共にも恩返しの機会を与えて下さいませ」

 

そう言いつつスフィアとアルビスは、俺の前正確に言えばその手前まで来て脆いた。

 

対照的な二人だが、その息はピッタリと合っている。二人を止めようとしていたゴブアは、ベニマルが片手を上げて制止している。そして自分が席を立ち、俺の前に移動してきた。

 

その横にはいつの間にかディアブロが立ち、

二人の俺への接近を阻んだのだ。ベニマルもこの二人を信用しているのだろうが、それでも俺に接近するのを良しとしなかった模様。そしてディアブロは、この二人をまるで信用していない。命令があれば疸ぐにでも、この二人を始末しそうな勢いであった。

 

スフィアとアルビスも無礼は承知の上での申し出だったのか、そんな対応をされても文句を言う素振りを見せなかった。

 

リムル「ベニマル、ディアブロ、二人とも控えろ」

 

ベニマル「承知」

 

ディアブロ「はい、リムル様」

 

二人が元の席に戻る間に、スフィアとアルビスにも席を用意させた。落ち着いたのを見計らい、会議を再開した。

 

リムル「協力してくれるって話だが___」

 

アルビス「はい、リムル様。やってくるのは

”十大聖人“なのでしょう?足止め要員が必要なご様子、私共がその役を賜りたく存じますわ」

 

スフィア「ああ!オレが役に立つのは戦う事だけだからな。こんな時じゃねーと、恩義に報いる事も出来やしねーし。是非ともオレ達を使ってくれよ!」

 

二人からの提案を検討する。この二人なら、

実力的に問題はない。しかし、万が一に怪我でもしたら、魔王、じゃなくて元魔王のカリオンに申し訳ないし…

 

リムル「しかし、カリオンに断りもなく、勝手な事は出来ないだろう」

 

「大丈夫だって!カリオン様は、そういうとこは寛容な方だし」

 

アルビス「それにカリオン様も、リムル様への恩返しに頭を悩ませているご様子でした。ここで私共が何もしなければ、かえって叱られてしまいますわ」

 

うーん、実のところ、二人の申し出はありがたい。この二人がいれば、戦力的にも安心出来るというものだし。

 

ベニマル「俺は賛成です。この者達なら信用出来ますし」

 

ベニマルは賛成らしい。

 

シオン「私がいない間、リムル様の邪魔をする者を排除してくれるのでしょうね?」

 

スフィア「ああ、任せろよ」

 

反対する者はなし、か…。

 

リムル「頼めるか?」

 

スフィア「お任せを!」

 

アルビス「そのお言葉に感謝を!」

 

そんなわけで、スフィアとアルビスという強力な戦力が追加された。これで準備は万全だろう。

 

リムル「最後にもう一度言っておく。もしも戦いになって、戦況維持が難しいようなら、即座に相手の熾滅に移るように。優先すべきは仲間の命だ。そして、自分が殺されたら意味がないと理解しろ。全員が無事に今回も乗り切れる事を期待する。以上!!

 

「「「「ハハッ!!」」」」

 

聖騎士に犠牲を出す事を厭って、仲間が殺されるなど本末転倒である。それだけは、皆にも徹底して理解させておこう。全員が首肯するのを見て、俺は満足して頷いた。

 

さて、と…あとはヒナタの出方を待つだけだ。



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30話:聖魔交渉

ヒナタは順調に、魔国連邦へと向かっていた。

 

ルベリオスからイングラシアヘは『転移門』で一瞬だったが、そこからは普通の旅だ。替えの馬もいないので、休み休みの旅であった。 

 

行軍で慣れているので、荷物は最小限。馬一頭と、寝袋。その中には、非常食や鍋といった携行用品を纏めてある。

 

季節は冬。雪で道が閉ざされるという事はないものの、急ぎ旅には不向きな時期であった。

 

ヒナタが旅立って直ぐに、四人の部下と合流している。後方から馬が駆ける音が聞こえたので振り向くと、そこには見慣れた顔が並んでいたのだ。

 

アルノー、バッカス、リティス、フリッツの、四名の隊長達だった。

 

ヒナタ「貴方達、何をしているの?」

 

アルノー「ヒナタ様、それはこっちのセリフですよ。一人で抜け駆けですか?」

 

ヒナタ「馬鹿なの?話し合いに行くのに、抜け駆けも何もない」

 

副団長のレナードは、ヒナタの留守を守る役目がある。そして、隊長が全員抜け出すのも流石に問題がある為、後の五人でくじ引きしてギャルドの残留も決まったのである。悔しそうにする二人を残し、アルノー達はヒナタを追って来たのだった。

 

アルノー「またまた。そんな決戦に赴くような出で立ちで言われても、説得力がありませんよ」

 

リティス「そうですよ。私達は、ヒナタ様の犠牲の上に立ちたいなどと思いません。栄光は、貴女の下でこそ輝くのです」

 

フリッツ「そうですって。あの伝言でも、別に一人で来いとかは言われてなかったじゃないですか」

 

ロ々にそんな事を言う部下達。ヒナタは呆れつつ、溜息混じりに言う。

 

ヒナタ「わかっているの、相手は魔王よ?私が怒りを買ったのだから、これは私の問題。貴方達には何の責任も関係もない。即刻、国に戻りなさい」

 

しかし、そんなヒナタの命令にも、アルノー達は従わなかった。そして遂にはヒナタが諦め、「好きにしろ」と言って同行を認めたのである。

 

人数が五名となったヒナタ達。整備されているとはいえ、荒れた街道をゆっくりと進む。宿もまばらで、この時期は満室である場合が多い。

なので、野宿になるのも止む無しなのだ。

 

 

____魔物に出くわす事はなかったものの、冬の寒さと非常食のみという厳しい旅路は、それだけでヒナタ達の心身を疲れさせた。

 

十日の行程を終えてブルムンド王国に入る頃には、思っていた以上に体力を消耗していたのだった。

 

それでヒナタ達は、久しぶりにゆっくりと、宿屋で休む事にしたのである。

 

 

〜ブルムンド王国〜

 

アルノー「しかし、この街は発展しましたね」

 

それぞれで部屋を取り、食堂に集まった。

 

「はい、らっせ」

 

ヒナタ「(この掛け声…)そうね」

 

リティスからの報告にもあったのだが、自分の目で見るとその違いは明白にわかる。宿で着替えて、落ち着いてから街の様子を見てみると、冬だというのに市場に活気がある。見慣れぬ商品も出回っているようで、以前に任務で訪れた時に感じたような田舎臭さがなりを潜めていた。

 

アルノー「見ました?服の種類も豊富になって、イングラシア王国でしか見られないような、豪華な衣装を着ている人も歩いていましたよ?」

 

バッカス「それを言うなら、武器防具もだぜ。魔物の素材で出来た装備みたいだが、やたら質のいいものが出回ってやがる」

 

アルノーやバッカスも、自分の目で見ても信じられないらしい。

 

そう、この街には、聖騎士である自分達の武器や防具には及ばぬものの一般的な小国で出回るには過分で上品質のものが溢れていた。

 

屋台の数も多い。冬は店を閉める者が多い中、これは極めて珍しい。店を開けているという事は、客がいるという事だ。つまりは、こんな田舎の冬の街にも、商人や冒険者が大勢いるという事を意味しているのである。

 

フリッツ「魔国連邦の影響、ですかね……?」

 

この国と魔国連邦が貿易するようになったから、この街は発展したのだろう。それ以外に、理由は思い当たらない。

 

しかしそれでは、ルミナス教の教義を完全に無視した行いがまかり通っている事になる。

 

リティス「魔王と取引して発展するなんて…」

 

リティスの呟きも、困惑の色が隠せていなかった。ヒナタも本心では、その意見に同意している。普通ならば、あり得ない。だが、彼なら。

 

同郷者であるリムルならば、そういう事があっても不思議ではないのだろう。

 

その証拠に、この店の名前___"なりたけ"

 

宿屋と同時にラーメン屋を展開しているらしい。どう見ても日本にある"なりたけ"と殆ど 変わらない見た目に雰囲気だ。

 

 

だが、ヒナタは一つ勘違いをしていた。

 

これだけのアイデアを出し、実行したのが

リムルではないということを___。

 

 

ー数十分前ー

 

キヤ「旦那!例のお客さん本当に来たぜ?」

 

エイト「おお、やっぱ来たか」

 

俺はミョルマイルに協力してもらって、ヒナタ達をこの店に誘導した。どうやったかって?

簡単な話だ。門番にヒナタ達の姿を確認したらその前後でこの店のチラシを配ってもらう様お願いしてもらっただけだ。

 

そうすれば、同郷のヒナタは間違いなくここに来ると思っていた。どうやらその予想は的中したらしい。

 

エイト「それじゃあ、そいつらの当たりは俺が店持たせてもらってもいいか?」

 

キヤ「それは、構わないが……あれは西方聖教会のもんだろ?何かあんのかい?」

 

エイト「…そんなとこだな。別に戦闘するわけじゃねえからな?」

 

キヤ「旦那も苦労するねぇ…」

 

エイト「ああ、本当な…」

 

 

と、しばらくしたらヒナタ達が降りて来た。

 

エイト「はい、らっせ」

 

アメリア(店員の女の子)はヒナタ達に注文を取りに行った。

 

アメリア「ご注文はお決まりですか?」

 

ヒナタ「ラーメンを頼む」

 

即決か…やっぱりラーメン食べたかったんだろう。

 

アメリア「ラーメンですね!最近の人気商品なんですよ。みそ、しょうゆ、とんこつ、の三種類。コッテリ味とアッサリ味とそれぞれ御座いますが、如何致しましょう?」

 

計六種類。スタンダードなラーメンをブルムンドには布教している。特に捻りもないが、この世界では革命と言えるだろう。

 

ヒナタ「とんこつをコッテリで頼む。後、ギョウザとライスを追加で」

 

うん、わかってる口らしい。それなら俺のなりたけ愛でその胃袋を完璧に掴んでやろう。

 

アメリア「かしこまりました!お客さん、初めてなのに通ですね。他の方はどう致しましょう?」

 

ヒナタが迷わずに注文するのを、感心したように眺めていた一同。

 

「あ、じゃあ……同じものを」「わ、私も……」「うむ」「自分もそれで」

 

アルノー達はどんなものかわからないので、

右に倣えでヒナタと同じものを注文した。

 

リティス「ヒナタ様、この、ラーメンというのは、一体どんな食べ物なのですか?」

 

アルノー「知っているんですよね?」

 

ヒナタ「ああ。でも、そうね……貴方達では少し、食べるのが難しいかも知れないわね」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

ヒナタの言葉に、不安になる一同。

 

ヒナタ「ああ、心配しないで。ただちょっと、慣れないと食べにくいだろうと思っただけよ」

 

ヒナタは単純に、アルノー達が箸を使えないのでは、と心配しただけである。

 

それをアルノー達は、ゲテモノ料理が出るのかと心配になったのだった。

 

 

だが、運ばれて来たのはヒナタにとっては懐かしの、アルノー達にとっては初見の食べ物だった。

 

エイト「とんこつ"ギタギタ"お待ち」

 

ヒナタ「っ…!?」

 

リティス「あれ?さっきコッテリを頼んでいませんでしたか?」

 

エイト「代金はいらねえから取り敢えずくってみなって」

 

まあ、勝手にそんなこと言うのもあれなんでその分の料金は俺が払うんだけどね…。

 

ヒナタ「(ギタギタ…まさかメニューに無いものが来るなんて…でも…)」

 

ヒナタの目は若干光り輝いていた。

 

エイト「(やはり通だったな。間違いない)」

 

俺は追加のギョウザとライスを置きながらヒナタを観察。

 

エイト「(こいつにラーメンは効く)」

 

ヒナタは唾を飲み込んだ。なんかワクワクした雰囲気が漂う。

 

リティス「ひ、ヒナタ様…?」

 

ヒナタ「いただきます」

 

ヒナタは隣の人の言葉などガン無視で割り箸を割った。そして、髪がスープに入らないように髪をかきあげた。

 

ヒナタ「(割り箸とは…こだわるわね。どうやったらこの短期間で隣国の食堂まで割り箸を普及させる事ができるのかしら…)」

 

エイト「(さあ、食って驚け。俺のなりたけのスープと背脂の再現度に…!)」

 

ヒナタ「チッ…」

 

エイト「!」

 

アルノー「毒ですか!?」

 

リティス「大丈夫ですかヒナタ様?」

 

な、なんだ…?気に入らなかったのか?

 

叡智之王『否。個体名ヒナタ・サカグチは猫舌と推測されます』

 

あ、そうなのね…。てかよくわかったな…。

 

ヒナタ「静かに。黙って食べなさい」ギロッ

 

エイト「(本気の目だ…)」

 

アルノー「熱っ!?」

 

バッカス「旨っ!なんだこれ!?」

 

リティス「スープも美味しい!」

 

フリッツ「えっ、嘘!こんな食べ物があったなんて…」

 

エイト「(ラーメンは異世界でも高評価の食べ物らしいな)」

 

と、ヒナタ以外の四人が感動してる中、黙々と麺を啜る人物が一人。

 

エイト「(もう食べ終わるのでは…?)」

 

流石の俺でもそこまで早く食べないぞ…。

 

ヒナタ「店員さん」

 

エイト「あ、はい」

 

思わず敬語になってしまった。

 

ヒナタ「替え玉を…「バリカタですね」!」

 

エイト「(もうヒナタの好みは掴んだ。注文を予測するなど簡単なことである)」

 

俺はすぐに厨房に戻って替え玉を用意した。

 

そして、戻ってくると…

 

ーパシィッ!!

 

割り箸を割り箸で弾く音。

 

ヒナタ「フリッツ。それは最後に食べようと残しておいた、私の獲物だ。横取りは許さないわよ」

 

ヒナタが守ったのは更に一つ残ったギョウザ。

 

フリッツくん可哀想…。ギョウザで殺気当てられるとか…。

 

フリッツ「す、すいません…美味しかったもので、つい…」

 

ヒナタ「足りないなら、もう一皿頼めばいいでしょう?」

 

アメリア「あ、すいませんね、お客さん。それが最後だったんですよ…」

 

エイト「ああ、大丈夫だぞアメリア。材料持って来てるし」

 

アメリア「えっ!?ありがとうございます!

"エイト"さん!」

 

 

その言葉に場が静まり返る。

 

ヒナタ「…」

 

「「「「…」」」」

 

エイト「アメリア、下がっててくれるか?

ほら、替え玉」カタッ

 

俺はアメリアを厨房の奥に下がらせて、替え玉を渡した。

 

ヒナタ「…人違いなら悪いのだけれど…」

 

エイト「いや、お前の想像通りだぞ」

 

ヒナタ「っ…!!」

 

ヒナタは近くに置いておいた剣をすぐに握る。

 

エイト「おい、店でそんなもの持つなよ」ホイッ

 

俺はヒナタからそれを取り上げた。え?どうやったかって?スキルの応用だよ。剣の影を叩いて奪い取ったんだ。

 

ヒナタ「!?」

 

アドラー「ヒナタ様!」

 

エイト「だからちょっと待てって。ほら、これ飲んで落ち着け」

 

俺は"箱"からMAXコーヒーを出して、五人に渡した。

 

ヒナタ「これは…!!」

 

リティス「ヒナタ様、お気をつけ下さい。毒でも盛られていたら…」

 

ヒナタ「その心配はいらないわ」

 

リティス「えっ?」

 

ヒナタ「敵にこんなふざけた真似をする"魔王"

がいると思う?」

 

エイト「あー…取り込み中悪いんだが…ヒナタ以外の四人、麺伸びるぞ?」

 

俺的にはそっちを気にしてしまう。だってほら、美味しく召し上がってもらいたいじゃん?

 

ヒナタ「フッ…何でリムルではなくあなたが来たのかしら?いえ、初めましてね。魔王エイト。ヒナタ・サカグチよ」

 

エイト「エイト=テンペストだ。リムルはお前らが来てるって事で大慌てだぞ?俺はラーメンの布教に来てるだけだ」

 

ヒナタ「テンペストの盟主なのでしょう?リムルを手伝わなくていいのかしら?」

 

エイト「ああ、表向きな動きはリムルがしてくれるからな。俺はこうやって裏で動くんだ。

お前に会うためにな」

 

ヒナタ「!」

 

そこでヒナタは一つ思い当たったらしい。

 

ヒナタ「嵌められた、というわけね…」

 

エイト「悪くなかっただろ?」

 

ヒナタ「ええ。おかげでなりたけのラーメンを食べれたわ。ありがとう」

 

四人はラーメンを啜りながら目をパチクリさせている。話がとんとん拍子過ぎてついていけていないらしい。

 

エイト「そんなわけで、ラーメンならいくらでも奢るから話を聞かせてもらうぞ」

 

ヒナタ「…その前に。一つ言っておく事があるわ」

 

エイト「…?」

 

ヒナタ「私のせいであなたの国の民に多大な犠牲を出してしまったこと、悪かったと思っているわ。ごめんなさい」

 

エイト「…それはリムルに直接言ってくれ。俺はその時用事があって国を離れてたからな。俺の方こそリムルに悪いことをしたと思ってる」

 

ヒナタ「その中身を聞くつもりはないけれど、あなたはどこで"人間の魂"を獲得したのかしら?場合によっては…」

 

エイト「安心しろ。この大陸の人間ではないし、別に罪のない一般人を殺したわけじゃない」

 

ヒナタ「…そう。ならいいわ」

 

アルノー「ヒナタ様…!」

 

リティス「いいのですか?今の話が本当だったとしても人を殺したことには変わりな…「黙りなさい」!」

 

ヒナタ「これ以上問い詰めたところで彼が何を答えるかなんてたかが知れてるわ」

 

エイト「まあ、俺が許せないって言うならいくらでも相手はしてやるぞ。でも、今はそれどころじゃない」

 

ヒナタ「…直接会いにくるということは…何かあったのかしら?国で待っていればよかったと思うのだけど」

 

エイト「ああ、色々あったぞ。それについて聞きに来たんだ」

 

ヒナタ「…わかったよ。だけど、エイトの方からも話を聞かせてもらえるかしら?」

 

エイト「おう」

 

そんなわけで俺は、ヒナタからの話を聞いた後、ソウエイが報告した内容をそのまま説明した___。

 

ヒナタ「__そう…私って結構騙される人柄だったりするのかしら?」

 

エイト「真っ直ぐすぎるんだよ」

 

まるで雪ノ下だな。信念を貫く姿勢なんてまさにそうだ。

 

ヒナタ「それで?これからどうするつもりなの?」

 

エイト「七曜とかいうやつらがレイヒムを殺したっていう証拠が確保でき次第そいつらは処理する。ここまでの流れであいつらが何するかはわかったからお前らは予定通りそのままテンペストに向かってくれ」

 

ヒナタ「…?それならリムルと戦う必要も無くなったと思うけど…」

 

エイト「…え?ちょっと待って、お前ら何しにテンペストに向かってるんだ?」

 

ヒナタ「リムルの交渉に応じにきたのよ。その前に少し話せれば、と思ってるけど」

 

あれ?なんかおかしい……どういうこと?

 

叡智之王『告。水晶玉に込めたメッセージが改竄された可能性を進言します。個体名:ヒナタ・サカグチの言動と行動から恐らく"七曜の老師"

が何かしらの干渉をして事態を悪化させたと思われます』

 

エイト「…いつになっても悪意は湧いて出てくるもんだな」

 

ヒナタ「えっ?」

 

ヒナタの話からしても七曜というのは生産性のないゴミだというのが窺える。これは…あれだな。老害の保身のために俺たちはこんなに迷惑を被ることになるってことか?

 

エイト「(叡智之王。[無限詠唱]で五人に内容を整理したものを伝達しろ)」

 

叡智之王『了解』

 

[無限詠唱:"思考伝達"]

 

ヒナタ「ッ…!?」

 

リティス「これは…!!」

 

ラーメンを食べていた四人は俺たちの話を全く聞いていなかったらしく、伝達の内容の端から端まで全てに驚いている。

 

ヒナタ「(そんなに美味しかったのね…)」

 

エイト「どこかから監視されてる可能性もあるから、リムル達にもこのことは伝えない。お前らはこのことを知らないって事にして動いてくれ」

 

ヒナタ「了解したわ」

 

アルノー「で、ですがヒナタ様…この話が確実かどうか…」

 

フリッツ「もしも違えば伝説の七曜に仇を成す行為に…」

 

ヒナタ「いいえ、この話は間違いなく事実よ。でなければ後ろにいる聖騎士達のことが説明できないでしょう?レナードが可哀想になって来たよ…」

 

エイト「悪いのは全部七曜だ。みんな揃って騙されたんだからな」

 

ヒナタ「そうね。でも…七曜に関してルミナス様は何も信託を寄越していないわ。それを邪魔する様な行為であれば…」

 

エイト「俺が手を下すんだ。お前らは見て見ぬふりをしとけばいいんだよ。じゃあな」

 

俺は店を後にした。

 

ヒナタ「(なんでも一人で背負うのね…)」



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31話:聖魔激突

〜魔国連邦(テンペスト)〜

 

ソウエイの予定通り二週間後にヒナタ達はテンペストに到着。聖騎士達も行動を始め、シオン達が戦闘に入った。

 

エイト「(リムルには悪いが…まあ、後で謝れば許してくれるだろう)」

 

敵の能力がわからない以上、情報の漏洩は例え味方であったとしても危険だ。あの場は俺が結界を張ってたから監視なんて不可能だろうが、それ以降はわからない。ここからはより慎重に行くべきだろう…。

 

そんなわけで俺たちはシオン達の方へ空間移動した。

 

シオンは張り切っていたけど、聖騎士団(クルセイダーズ)相手に"紫克衆"(ヨミガエリ)では厳しいだろう。

 

 

_____そう思っていた時期が俺たちにもありました。

 

 

エイト「え?何これ?」

 

リムル「頭がおかしくなりそうだ…」

 

眼前で繰り広げられていた光景に、言葉を失う俺たち。何が起こっていたかというと___

 

シオンが腕を組み、紫克衆に指示を出していた訳だ。これはいい。作戦通りだからな。

 

その戦いぶりが問題だった。良い意味で予想外だったのだ。

 

「ば、バカな!こいつらに攻撃が通用しないぞ!」

「不死者(アンデット)でもなかろうに、一体どういう事だ!!」

 

という、聖騎士達の驚愕の叫び。

 

それに返事をする代わりに、手に持つナイフを一閃して聖騎士に傷を負わせる紫克衆。

 

自らの身体を囮として格上である聖騎士に一撃入れた様子。自分の不死性を利用して戦っていたのだった。

 

しかし、その先はどうせ、気を引き締めた聖騎士からの一方的展開(ワンサイドゲーム)になると思ったのだが……俺の予想は覆される。

 

三分も経たずに聖騎士達が崩れ落ち始めたのだ。

俺の予想と違わず、油断を捨てた聖騎士達が

一方的に紫克衆を追い詰めていた。それなのに、状況が一変したのである。地力に大きな差がある為、不死というだけでは勝利出来ないという予想。だからこそ、足止めを行うという作戦だった。だが結果は、紫克衆は重傷からも無事に回復し、聖騎士側が倒れている。

 

倒れた聖騎士は速やかに縛り上げられて動きを封じられていた。

 

「えへへ、聖騎士さん。このナイフにはね、強烈な睡眠薬がたっぷりと塗られているんだよ?だからね、一撃入れた時点で、私達の勝ちなの!」

 

小さな子供の兵士が、目が合った騎士にそう説明している。それを説明しちゃったら駄目だと思うんだけど、まだ子供だし仕方ないな。

 

叡智之王『告。個体名・ゴブエは、個体名ゴブタよりも年上です』

 

エイト「(マジかよ…)」

 

善戦と言っていいほどの働きぶりを見せる紫克衆。

用心深く解毒剤を用意しておくか、『毒耐性』を有している者以外は、この奇襲には耐えられないだろう。一回限りとはいえ、かなり有効な手であるといえる。

 

だが、流石にここまでだった。後続組には油断などなく、最初から全力で攻めてくる。圧倒的な実力差の前には、小細工などそう簡単に通用するものではないのだ。一度見られてしまった以上、この手はもう通用しないだろう。

 

致命傷を与えたという油断の後だったからこそ、付ける事に成功しただけの話。

 

しかし、そのカスリ傷だけで半数も戦線を離脱させるとは、十分以上に評価出来た。というか、出来すぎであった。ここからは当初の予定に戻り、過酷な持久戦が始まると思った俺たちの考えは、またも見事に裏切られる___。

 

シオンがクイっと顎をしゃくった。その先にはゴブゾウと、もう一人はゴブアだな。二人は顔を見合わせて、戸惑うようにシオンを見る。

 

ゴブア「まさか、私共も参戦せよと?」

 

ゴブゾウ「えっ!?出ないのダスか?でも自分達だけでは、あの強そうな人達に勝つのは厳しいダスけど……」

 

ゴブア「いえ、ですから。勝たなくても時間を稼げばいいのではないかと___」

 

ゴブゾウ「ええっ!?何がなんでも勝てと命じられた、と聞いているのダスけど?」

 

ゴブアは会議の内容を知っている。扉の警護をしていただけだが、話は聞こえていただろう。

 

ゴブゾウは初耳だったようで、目を白黒させて驚いている。

 

リムル「(ちょっと話に食い違いが見えるよね?)」

 

エイト「(憐れめ…)」

 

ごぶあ「あのう、作戦会議の打ち合わせでは、私共は待機という事だったのでは……?」

 

ゴブゾウでは埒が明かないと思ったのか、ゴブアがシオンに向き直って問うた。

 

そして、そこでシオンが一喝する。

 

シオン「馬鹿か、貴様ら?目の前に勝利が転がっているのに、何故それがわからんのだ?格上に挑み勝利してこそ、壁を越える事が出来るのだぞ。その機会を与えてやろうというのだ、

感謝して欲しいくらいだよ」

 

勝利が転がっているのに相手は格上って、ちょっと矛盾していると思うんだが…。

 

しかしゴブアは、その言葉に納得した。目の色を変え、口元に不敵な笑みを浮かべて……。

 

ゴブア「そうですね、その通りです。その機会、この”紅炎衆“に是非!」

 

そして、あっさりとシオンの申し出に乗ったのである。一方ゴブゾウは…

 

ゴブゾウ「あ、あのう……それって、命令違反にならないダスか?」

 

恐る恐る、シオンに聞き返している。

 

シオン「貴様、まだいたのか?さっさと言われたとおりに動くか、それとも新作(リョウリ)の実験台になるか、好きな方を選ばせてやろうか?」

 

憐れにも、ゴブゾウはシオンの脅しに屈した。

 

納得するもしないもなく、そのまま大慌てで参戦したのだった。……いや、お前は間違っていなかったよ。

 

だが、不思議だな。何故か、ゴブゾウだけが悪いような流れになっている。ゴブアはベニマルの部下らしく、とても好戦的だ。だから簡単に言いくるめられているけど、コブゾウは抜けた外見の割には生真面目だ。言わなくてもいい事を言ってしまい、いつも損をする羽目になるのだろう。

 

エイト「……いいのか、ベニマル?」

 

ベニマル「良くはないですが、臨機応変というのは間違っちゃいません。特にシオンは、直感が非常に優れている。勝てると踏んだから、

ああいう風な命令を下したんでしょうよ」

 

ベニマルは肩を煉めて答えた。

 

エイト「まあ、それそうかもな」

 

アルビス「しかし、凄まじい戦闘能力ですわね。この国には、まだあれほどの者達がいたのですね」

 

その視線の先にいるのは紅炎衆ではなく、紫克衆である。その高い不死性。そして、継続戦闘能力。

 

スフィア「ああ、あれは厄介だぜ。頭を失った程度では止まらないみたいだし、オレでも手こずりそうだ」

 

聖騎士側には交代要員などおらず、この状況が続けば勝てるのも夢ではない感じである。

 

リムル「こんな予定じゃなかったんだけどな…」

 

そしてシオンは戦況を満足げに眺めて、舌なめずりしている。チラッと見えたピンクの舌先が、妖しく濡れているように見えた。

 

こちらを振り向くシオン。俺達に気付いたのか、ニッコリと笑みを浮かべている。ゴブゾウに見せた般若の顔など、その笑顔からは想像も出来ない。

 

シオン「リムル様、エイト様予定通りです!」

 

リムル「違うだろ!全然予定にない行動だろうが!」

 

シオン「お褒め頂き、光栄です!」

 

リムル「褒めてねーし……」

 

シオン「それでは私も、そろそろ行って参ります!」

 

そう言うなりシオンは、両足に力を込めて地を蹴り、弾丸のように飛び出して行った。

 

リエ「 「え、どこへ……?」」

 

という、俺たちの問いかけを置き去りに……。

 

 

〜〜〜

 

疾駆する。引き伸ばされた感覚によって、乱立する樹木の間をすり抜けるように。精霊の力をその身に宿し、ヒナタは全速力で森を駆け抜けていった。

 

森の開けた場所に出ると、六名の上位魔人の姿が見えた。

 

そこで確認できたのは、敗北の色が濃厚な自慢の部下達の姿だった。

 

ヒナタ「(エイトと会っていなかったら最悪の状況だったわね…)」

 

そして、リムル=テンペストの視線がヒナタの方に移った。

 

〜〜〜

 

リムル「やってくれたなヒナタ。言うまでもないけど、ここは俺の領土だ。無断で軍事行動取った時点でお前たちに害意ありと判断できる。先制攻撃を許すほど、俺は甘くないんだよ」

 

ヒナタ「ええ、それが当然でしょうね」

 

リムル「俺の伝言を受け取ってくれたんだろ?」

 

ヒナタ「ええ、確かに受け取ったよ」

 

リムル「その答えがこれか?」

 

ヒナタ「ええ、そうね…」

 

リムル「そうか…残念だ。それじゃあ、そろそろ始めるか。エイト、頼んだぞ」

 

エイト「え?俺?」

 

リムル「…会議に参加せずラーメン作ってたんだから今くらい働いてくれ…」

 

エイト「…はぁ…了解」

 

ヒナタ「あら?リムルじゃないのかしら?」

 

エイト「いや、そんな変わらないだろ。他の

四人も全員相手にするから」

 

ヒナタ「…」ピクッ

 

リティス「本気で言ってるんですか?」

 

エイト「こんな冗談言わねえよ」

 

もし嘘で言って信じられたらどうすんだよ…。

 

来てくれたスフィア達が可哀想だが、これくらいはやらないと七曜への牽制にならないよな。

 

ヒナタ「舐められたものね」

 

エイト「なら試してみるか?

[守護之王](ゲニウス)」

 

リムル「これは…結界?」

 

俺はリムル達を結界で覆った。

 

エイト「"結界解除"。[魔王覇気]」

 

ヒナタ「ッ…!」

 

オーラを遮断していた結界を解除した上で放つ俺の魔王覇気。一帯も結界で覆っているから戦闘中の紫克衆たちには影響はない。

 

リティス「これが…本物の魔王…!」

 

ヒナタ以外の四人は足がすくんだ。これ程の力を持つ魔王が、先日自分達の目の前に現れて、飯を奢っていたなんて夢なんじゃないかと思う程に____。

 

そして、同時に別の想像をした。もしもこの

魔王が言っていたことが嘘だったなら?ヒナタの言葉が間違いだったなら?

 

アルノー「(こ、殺される…)」

 

ヒナタ「(魔力を解放されるとここまで恐ろしいものなのね…)」チャキッ

 

ヒナタはルミナスより授けられた伝説級(レジェンド)の武器__月光の細剣(ムーンライト)を抜いた。竜破聖剣?そんなもの最初から使う気がないらしい。

 

エイト「さてと…俺も抜きますか」

 

俺は"箱"から短剣を二本とも取り出す。俺のかけた様々な付与魔法に加えて、俺の魔素に当てられ続けて今では相当馴染んでる。というか異常に魔素の濃度が高い。何したらこうなるんだよ……。

 

ヒナタ「準備はいいかしら?」

 

エイト「ああ、いつでも始めていいぞ」

 

ーカキィンッ!

 

始まるのは俺とヒナタの超高速の剣技の応酬。

最初から全力だ。

 

エイト「(まあ、でも…)」

 

俺の思考加速は二つある。自由之王(リベル)による四百万倍の思考加速と叡智之王(ウィズダム)による百万倍の思考加速だ。つまり、四百万かける百万で……え?いくつ?

 

叡智之王『解。四兆倍です』

 

まあ、そんな感じだ。……え?マジ?

 

叡智之王『マジです』

 

なんか叡智之王って究極能力になってから表現豊かになったよな…。

 

でもまあ、そんなわけで引き伸ばされた時間と"未来予知"によって俺はヒナタの攻撃を全て完璧に迎撃していた。

 

アルノー「俺たちも加勢するぞ!(怖くてもやるしかねえ!ヒナタ様のためだ!)」

 

バッカス「了解した!」

 

四人は四方から攻撃を仕掛けてくる。

 

エイト「[暴風嵐]」

 

アルノー「ぐわっ…!!」

 

リティス「(こ、これ程の力が…!!)」

 

四人は吹き飛ばされ、結界にぶつかった。

 

ヒナタ「くッ…!」

 

ヒナタは間一髪でその攻撃を避け、その場に踏み留まる。

 

ヒナタ「(試してみるしかないわね…)」

 

ヒナタはエイトに気づかれない様にコッソリとユニークスキル[簒奪者](コエルモノ)を発動する。

 

上位者に対する絶対優位。それがヒナタの切り札である[簒奪者]の特徴だ。

 

この力は対象の能力や技能を見破り、奪う事ができる。使いこなせるかは別問題だが、相手の努力の結晶を奪い去ると言う意味では凶悪無比で無慈悲なスキルなのだ。

 

対象がヒナタよりも格下であった場合、鑑定結果は《対象外》となる。この結果だと相手の力を奪えないのだが、ヒナタの勝利は揺るがない。

 

対象がヒナタよりも格上であった場合、鑑定結果は《失敗》か《成功》となる。

 

この鑑定結果が出た時点で、相手は強敵であるということ。

 

しかし、《成功》していれば相手の能力や技能が丸見えとなっている訳だし、失敗しても終わりではない。何度でも挑戦可能なのだ。どんな強敵であろうとも、繰り返せばその内に

《成功》する。油断なく時間を稼ぎ、その時を待つだけでいい。そうすれば、ヒナタの勝利は約束されるのだ。

 

ヒナタが前回リムルと対峙した時、その鑑定結果は《対象外》だった。故にヒナタはリムルを警戒する事もなく、完全に祇めて対応したのである。

 

だが、極希に《成功》と《失敗》のどちらでもない結果が出ることがある。それは、以前ルミナスと戦った時に出た《妨害》だ。

 

それは、先程リムルにコッソリスキルを使った時にも出た…神の領域とも言える結果だ。

 

だが……

 

ヒナタ「(これは…ッ)」

 

今回エイトに対して出たのは《妨害》でもない《不可能》の三文字。

 

 

叡智之王『告。主様(マスター)へのスキルの干渉を確認。[守護之王]にて遮断しました』

 

スキル?この状況なら…ヒナタか。まあ、スキルは俺に効かないし別にいいか。

 

ヒナタ「(不可能……彼にスキルは効かないとでも言いたそうな結果だね…)」

 

今の状態のヒナタは、[数学者](カワラヌモノ)で知覚速度を千倍まで高めた上、更にその限界を超えて周囲を認識している。脳に最大限まで負荷がかかり、毛細血管が何度も破裂していた。それを自己回復魔法を自動でかけ続けることで対応し、一切の弱みを相手に悟らせない。

その状態のヒナタには、世界の動きが止まっているように感じられるほどだ。

 

だが、それでもまだ足りず、[数学者]の[予測演算]を駆使してエイトの攻撃軌道を予測していた。それだけ全力を出さなければならぬほどに、ヒナタに余裕はないのである。

 

それなのに、相手のエイトはまだまだ本気を出していない。

 

垂れて来た鼻血を気づかれぬ様に拭い、短く呼吸を整える。

 

長引けばそれだけでヒナタの敗北が決定する。

 

ヒナタ「(本当に化け物…だけど、君に勝る点が私にはまだある)」

 

それは技術(レベル)だ。エイトの身体能力は異常だが、その技量はどうだろうか?

その点を利用することが…ヒナタの勝利できる唯一の可能性だろう。

 

そう思ったヒナタは、緩急をつけて相手に錯覚を起こさせる戦術へと切り替えた。

 

俗に言う、フェイントというやつだ。

 

 

 

エイト「[自由之王][暗黒之王]」

 

俺は常に[未来予知]を使って先を見ている。

そして、これからヒナタがフェイントを使って攻撃を仕掛けてくるのも知っている。

 

俺はそれに対応すべく身体能力を上昇させ、ヒナタのフェイントを無視して攻撃を仕掛ける。

 

ヒナタ「!?(全部見切られてる…これは…私の[予測演算]より正確な…)」

 

そう、これは完全な[未来予知]だ。完璧に

ヒナタの行動を読みまれているようである。

しかもこの状況で剣速が十倍程度跳ね上がったように感じる。

 

ヒナタ「(技量の差をカバーするだけのスキルがあるみたいだ…)」

 

だが、ヒナタはそれでもエイトと剣での勝負を続けた。その理由は単純だ。

 

 

エイト「これは…」

 

さっき吹き飛ばした四人は、俺の四方から

聖浄化結界(ホーリーフィールド)を貼った。

 

アルノー「(俺たちじゃ足を引っ張るだけだ…だからせめて、こうやって援護しねえと…)」

 

エイト「(そうだった、今は結界内の魔法の使用を許可してるんだったな…)」

 

だが、俺が聖浄化結界に意識を奪われてる内に、ヒナタは距離を置いて、剣を構え直した。

 

ヒナタ「(あれをやるしかないわね…)」

 

ー"神に祈りを捧げたてまつる"

 

ー"我は望み聖霊の御力を欲する"

 

ー"我が願い聞き届け給え__万物よ尽きよ"

 

 

ヒナタが空いている左手に集めた力、それは恐らく"霊子崩壊"(ディスインテグレーション)だろう。リムルからの情報にあった精霊魔法と神聖魔法を掛け合わせた魔法だ。

 

 

そしてヒナタは、その光を月光の細剣(ムーンライト)の刀身へと纏わせる。

 

左手でそっと刀身を撫でるように。

 

エイト「(恐らくヒナタの最終奥義…)」

 

ヒナタ「(ここで決める…!)

崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)!!」

 

ヒナタは、光となって俺に向かって来た。

 

エイト「!!」

 

ヒナタの剣は、あらゆる魔を討ち払う破邪の

性質を帯びていた。

 

エイト「(さてと…終わりにするか)」

[守護之王]"完全結界"

 

ヒナタ「(避ける気がないのかしら?この技は手加減なんてできないのだけど…)」シュッ

 

ヒナタの剣が俺に振りかざされる。俺はそれを迎撃もせずに受けた。

 

ーダアァァンッ!!

 

ものすごい土煙と共に、辺りが見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

エイト「"叡智之王"。[守護之王]を解除だ)」

 

叡智之王『了解』

 

ヒナタ「ふふふっ…あははははっ!」

 

周囲の魔素が全て浄化され、[万能感知]が使えなくなった俺は、久しぶりに鼓膜の振動で音を聞いた。

 

ヒナタ「すごいね、君。あの状況でワザと受けたね?」

 

エイト「ああ、避ける必要もなかったからな」

 

ヒナタの剣は俺を斬り裂いた。だが、その途中にある結界で霊子は全て遮断した。そして俺は無限再生のおかげで一瞬で元に戻る。

俺からしたら特に何もなかったと同じなのだ。

 

ヒナタ「今のに耐えられてしまった以上、私の負けだね。どうせこれ以上は戦えないもの…」

 

ヒナタはそう言いつつ武装を解除した。

 

アルノー「ヒナタ様…」

 

四人はヒナタの負けを認めたくないのか、悔しそうにヒナタの方へ駆け寄っていった。

 

エイト「(さてと…それじゃあそろそろ…)」

 

叡智之王『告。対象への思念干渉と、魔素(エネルギー)の暴走を確認____爆発します』

 

対象とはその大剣のことだ。何者かの干渉があったという事は、間違いなく俺たちを狙った攻撃の一種であろう。

 

ヒナタ「フッ…君の言う通りだったね。あとは任せたよ」

 

エイト「おう」

 

リムル「エイト!!」

 

エイト「そう焦るなって。大丈夫だ」

 

その直後、爆発と閃光が走る。



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31.5話:神の戯れ

常夜の国にある、誰も知らぬ奥深い玄室の中にて。氷の柩に封じられた、一糸纏わぬ美しい黒髪の少女を前にその者は自らも全裸となって、氷の柩に鎚りつく。

 

うっとりとした表情に浮かぶ、妖しい微笑。

どこまでも透き通るような白い肌を朱色に染めて、少女は感動の溜息を零す。

 

ルミナス「(ああ、美しい。ああ……)」

 

柩の中の少女を眺めて愛でる事が、その者の密やかな愉しみであった。銀髪の可憐なる少女。その瞳は金銀妖瞳(ヘテロクロミア)。青と赤に揺らめくような、妖しい輝きを放っている。

 

非常に整った容貌の中でも一際異彩を放ち、

少女の美貌を際立たせていた。だが、何よりも目を引くのはその柩に触れる度に、出来る。

 

愛らしい少女の唇から小さく覗く、二本の真っ白い犬歯である。小さな唇を開く度に、血のように赤い舌と真っ白な牙が見えていた。

 

彼女こそが、夜の支配者である___

 

夜魔の女王"クイーン・オブ・ナイトメア"

魔王ルミナス・バレンタイン

 

その柩に触れる度に、ルミナスの美しいと肌に火傷の様な痣が出来る。

 

それは聖櫃。純粋たる聖霊力の塊であった。

 

だからルミナスが傷を負うのも、何も不思議ではないのだ。吸血鬼族の魔王たる彼女にとって、その柩は毒そのものなのだから。しかし、ルミナスがそれを意に介する事はない。

 

その傷すらも、ルミナスにとっては至福なのである。魔王として絶大なる力を有するルミナスであっても、その柩の破壊は不可能だ。

 

故にルミナスは、その柩の中で眠る少女を解放する事を夢見て、今日もまた柩と戯れる……。

 

 

そんなルミナスに、腹心からの知らせが届いた。

 

 

ルイ「お愉しみのところ申し訳御座いません。お耳に入れておきたき儀が御座います」

 

そう告げたのはルイである。

 

ルミナスが支配する神聖法皇国ルベリオスにおいて、"法皇"の役目を与えし部下だ。

 

 

ルミナスは不愉快になったが、我慢する。ルイが自分から声をかける事は滅多になく、余程の緊急事態が起きたのだと想像出来たから。

 

ルミナス「何じゃ、ルイか。何があった?」

 

ルミナスの問いに、ルイは短く答える。

 

ルイ「ヒナタがリムルとの禍根を断つべく動きました。それを私は黙認していたのですが、どうやら事態が複雑に動き出してしまったようです」

 

ルミナス「どういうこと?」

 

ルイ「実は__」

 

そう言ってルイは、自身で調査した事実を説明する。

 

ルミナス「そう……。ゆっくりもしていられないわね」

 

ルミナスは物憂げにそう言って、柩から身を離す。そして玄室を出て、従者を呼んだ。

 

ルミナス「ギュンター!」

 

ギュンター「ハッ、ここに」

 

闇の中から、老齢の執事が現れる。魔王達の宴にも参加した、ルミナスに仕える古きヴァンパイアだ。

 

その格はルイと同等であり、ルミナス配下の”三公“の一人。

 

法皇庁はルイが。夜想宮庭(ナイトガーデン)はギュンターが。そして今は亡きロイが、プロパガンダの外敵として魔王の代役を務めていたのだった。

 

同時にそれは、ルミナスの護衛の持ち回りをも意味する。今ルミナスがいるのは、夜想宮庭にある玄室だ。だからこそ、ギュンターが護衛として傍に侍っていたのである。

 

ギュンターの手を借りて衣装を着るルミナス。魔法を使って一瞬で着替えぬあたり、様式美へのこだわりが窺える。

 

着替えを手伝いつつ、ギュンターは忌々しそうにルイをなじる。

 

ギュンター「下らぬ雑事でルミナス様を煩わせおってー」

 

ルイ「すまないね。だが、このまま放置しておけば、ルミナス様が寵愛するヒナタをも失うと思ったのでね」

 

ギュンター「それこそ下らぬ。が、あの魔王リムルと事を構えるならば、慎重な行動が必要であろうがな……」

 

ルイ「事を構えたくはないから、進言に来たのだがね。ヒナタを殺されてしまっては、ルミナス様が__」

 

そんな二人のやり取りを止めたのは、うんざりした様子のルミナスだ。

 

ルミナス「ルイよ、黙るが良い。ギュンターよ、その方もだ。妾が出れば済む話なのであろう?禍根が残らぬようにな」

 

領分を侵される事を嫌い合う”三公“の性質は、ルミナスの頭痛の種でもあった。ルイもそれは理解しているので、今回ばかりはギュンターに頭を下げている。

 

ルイ「ハッ、恐れ入ります」

 

ギュンター「申し訳御座いません」

 

ルミナスに一喝され、頭を下げる二人。フンッと不機嫌そうに鼻を鳴らし、ルミナスは二人に命じる。

 

ルミナス「ロイがいない今、役割分担も決め直す必要がありそうじゃわらわな。だが今は時間がない。二人とも、妾に付いて来るが良い」

 

威厳を込めてそう言い放ち、ルミナスは歩き始める。

 

ルイ「御意」

 

ギュンター「御伴致します」

 

嬉しそうに承服する、二人の魔人を引き連れて。

 

ふと立ち止まるルミナス。そして、愛する者が眠る聖櫃を振り向いた。

 

ルミナス「(待っていてね)」

 

ルミナスは、愛する少女の名を小さく呟いた。そして慈しむように玄室の扉を撫でて、厳重に封をする。

 

___ルミナスの膨大な魔力結界に閉ざされて、玄関は真の暗闇へと沈んでいく……。



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32話:悪魔の逆襲と魔王の制裁

ディアブロ「クフフフフ…」

 

その悪魔___ディアブロは邪悪に嗤う。

 

蝙蝠のような翼を大きく広げて、その姿は邪悪であった。上空より戦況を見渡し、自分を陥れた者を探す。敬愛するリムルの前で恥をかかされた事を、ディアブロは決して許さない。恐怖を感じた事など生まれてから一度もないというのに、仕事を奪われるのではないかと考えるだけで身震いがした。またも「帰っていいよ」などと言われでもしたらと思うと、ゾッとする。

 

想像するだけで、身を裂かれるよりも辛いのだ。そんな恐怖をディアブロに与えた者達には、必ず報いを受けてもらわねばならない。

 

ディアブロはそう考えて、その笑みを深くする。そしてディアブロは、後方に陣を構える新王エドワルドを発見した。他にも数名、少し目立つ者を発見する。有象無象に比べるとマシ、という程度の認識だ。少なくとも、ディアブロの前に立てるだけの力は感じる。

 

ならば彼等こそ‘”十大聖人“とやらなのだろう。

 

当然、無抵抗の兵士は見逃すが、向かって来る者は別だ。一方的に攻撃を開始するような愚か者など、情けをかける必要もない相手であろう。今直ぐにでも挨拶に出向きたい気持ちを抑えて、ディアブロはハクロウに『思念伝達』で知らせを入れる。リムルの望みは、

”無関係な犠牲者を出さない“というものだ。

 

それが関係者であったならばその限りではない。

これはディアブロだけではなく、目付け役のハクロウも同意見である。

 

『ハクロウ殿、そちらに一名、少し目立つ者が向かっています。ランガ殿の良き退屈凌ぎになるでしょう』

 

『ほう、了解じゃ。殺さぬ方が良いか?』

 

『ええ。その者は、噂の出所であるルベリオスの関係者でしょう。生かして捕らえて、交渉の材料にしようかと』

 

『心得た。ランガ殿にはそう伝えよう』

 

『それと……その者は、五千程度の兵を率いています。自由組合の強さの基準でいうと、Aランクを超える者も数名混じっているようですね』

 

『ふむ、それは丁度良いな。ゴブタとガビルを向かわせよう』

 

『ああ、それは良い考えですね。万が一にも

敗北はないと思いますが…』

 

『うむ、安心せよ。ワシも見ておる故、お主はお主の好きにするが良かろう』

 

『それを聞いて安心しました。それでは、私はこれで』

 

『やりすぎぬようにな』

 

ディアブロは、偵察で得た情報をハクロウに流した。そして最早、自重も遠慮もせずに、そのまま一気に獲物に向けて飛翔したのである。

 

突如やって来たディアブロを前に、新王エドワルドは凍りついた。その隣で一緒に紅茶を楽しんでいたサーレも、突然のことに反応が遅れた様子。

 

ディアブロ「初めまして皆様。エドワルド王にはお久しぶり、ですかね。私の名はディアブロと申します」

 

ディアブロは舞い降りるなり、優雅に一礼してそう挨拶した。

 

「散開!警戒態勢を取れ!エドワルド王をお守りしろ!!」

 

ディアブロの挨拶が終わるのを待たずに、騎士団長が大声で命令を出す。

 

王を守る護衛騎士達が、その声に突き動かされるように反応し、エドワルドを抱えて後方に下がった。それを守るように、人の壁が出来る。

 

近衛師団の騎士達は、ディアブロを目撃するなり瞬時に展開しており、既に防衛体勢に入っていた。そんな彼等が、エドワルド達の前に進み出たのだ。

 

ディアブロは悠然と構え、慌てふためく者達の準備が整うまで何もしない。目標を捕捉した今、残る仕事は多くない。

 

荒てる必要など何一つないからだ。

 

野営地に設えられた軍用テント。その中でも一際豪勢な王専用のテントの前に立つディアブロは、匝ぐにサーレとその部下達によって取り囲まれた。

 

それでも楽しそうなディアブロ。

しかしその瞳は怒りに燃えているのだが、それに気付く者はいなかった。何事かと驚いて出て来た報道陣に対しても、ディアブロは笑みを絶やさない。

 

ディアブロ「あなた方に危害を加える気はありません。そこで大人しくしていることです」

 

そう言って、パチンと指を嗚らす。音が響くと同時、報道陣は『結界』に包まれた。

 

巻き添えにしないようにという、ディアブロなりの配慮である。その裏には、そこから出た者に対しては容赦しないという意思も込められているのだが、記者達は思い至らぬ方が幸いであろう。

 

準備が整った段階で、エドワルドが余裕を取り戻した。

 

エドワルド「これはこれは、魔王リムルの使者殿でしたか。本日はどのような用件なのですかな?」

 

少し威厳を出すのに失敗したものの、それでも尊大な態度を取り繕って、エドワルドはそう問いかけた。ディアブロは答える。

 

ディアブロ「クフフフフ…何、用件は一つ。

警告ですよ」

 

エドワルド「警告?それはどのような?」

 

ディアブロ「今直ぐ兵を退き、ヨウム殿と和解しなさい。そうすれば、知らずに済む恐怖を味わう事もないでしょう」

 

一応形式として、和解交渉から始めてみた。といっても、それはディアブロの本音ではない。逆に、応じられると面倒だとまで思っている。

 

エドワルド「ははは、これは異な事を申すものよ。そもそもこれは、我が兄が貴国への賠償金を横領した事が発端。それを余が貴国に誠意を示すべく、回収しようと動いたまで。口を出される謂れはない!」

 

ディアブロ「なるほど。あくまでも和議を守っていると主張される訳ですね?」

 

エドワルド「当然である。もっとも、その必要はなかったようであるな。余も蝙されるところであったわ!」

 

ディアブロ「と、言いますと?」

 

エドワルド「フンッ、白々しい!兄上、いや、エドマリスや詐欺師連中と共謀し、我が国から二重に賠償金をせしめようとしたのであろう?そんな姑息な企みなど、全てお見通しよ!」

 

ディアブロ「……」

 

エドワルド「言葉もないか?魔王と名乗ったところで、リムルとやらも底が知れておるようじゃ。金に汚く、戦の火種をばら撒くつもりであろう?」

 

ディアブロ「………」

 

エドワルド「しかし、残念だったな。大司教レイヒム殿を口封じに殺したようだが、彼の言葉はここにちゃんと記録されておる!!」

 

ディアブロが黙っているのをいい事に、エドワルドは饒舌になる。

 

そして取り出した水晶球を掲げ、報道陣にも良く見えるように賢して見せた。映し出されるのは、拷問を受けたようなレイヒムの姿だ。その映像の中でレイヒムは、

 

レイヒム「裏切るつもりなどなかったのです!お許しを、お許し下され!」

 

と叫んでいる。誰が見ても、殺される直前に撮られたと思しき映像だった。

 

ディアブロ「それが一体どのような証拠になると?」

 

ディアブロが聞くと、心底馬鹿にしたようにエドワルドは笑った。

 

エドワルド「わからんか?これはな、そこのグレンダ殿が持って来てくれたのだよ。貴様がルベリオスに潜入して、レイヒム殿を殺したのだろう?レイヒム殿を脅して安心しておったのだろうが、彼の信心深さが貴様への恐怖を上回ったのだ!それを知おおやけった貴様が、公の場で発言されるのを恐れて事に及んだのであろうが!!」

 

どうだといわんばかりに、エドワルドはディアブロを見た。 

しかし、ディアブロは笑みを湛えたままだ。

 

ディアブロ「それは素晴らしい。私への恐怖を、ただの”人間“が克服したと?中々に面白い冗談ですね」

 

エドワルド「誤魔化すな!これだけの証拠がここにある。言い逃れなど__「もういい。もう黙れ」ギロッ

 

報道陣を前に威厳を見せようとしたエドワルドを、ディアブロが静かな声で遮った。

 

その顔から、一瞬だけ笑みが消えた。

 

酷く虚ろで、底知れぬ恐ろしさを感じさせる貌。

 

ディアブロ「茶番は止めだ。知恵比べを楽しむにも、お前ではレベルが低すぎる」

 

ディアブロはそう断じて、エドワルドを硬直させる。

 

ディアブロ「真実をつまびらかにして身の潔白を証明しようと考えていましたが、どうやら無駄らしい。人は、自分の信じたい事しか信じぬ生き物ですからね。ですが、もっと簡単に証明は出来るのですよ」

 

エドワルド「な、何を言っておる……?」

 

ディアブロの雰囲気の変化に、エドワルドは

怖気づいていた。もしかして自分は間違ったのではないかと、今になってようやく悟ったのだ。そして、ディアブロは告げる。

 

ディアブロ「証明して欲しいのだろう?この中で一人でも、私への恐怖を克服出来たならば、今回は負けを認めてあげましょう。ですが、忠告を一つ。私は今まで、一度も敗北した事はありません。敵対するならば覚悟することです」

 

あくまでも穏やかに。

しかし、その金色の瞳の中では、紅い瞳孔が怒りに染まって燃えている。自分の事だけであれば、ディアブロはまだ自制していた。

 

しかしエドワルドは、リムルの事も悪し様に罵ったのだ。この時点で、エドワルドの命運は尽きたのである。

 

恐怖に駆られたエドワルドが叫ぶ。

 

エドワルド「やれ、そいつを殺せ!!その危険な悪魔を__」

 

その命令を待ちわびていたのは、エドワルドを護衛する者に紛れていた悪魔討伐者達(デーモンハンター)だ。

 

次々と飛び出していき、ディアブロへと攻撃する。

 

「恐怖を克服だと?笑わせるな!悪魔の中で最上位の上位魔将(アークデーモン)だからと調子に乗っているようだが、我が祖国では珍しくもないわ!」

 

「悪魔族(デーモン)なんざ、その身を砕けば存在を維持は出来ん!それは上位魔将といっても同じ事よ!」

 

「対悪魔の戦術は研究されているんだ。人間を祇めるなよ!」

 

悪魔討伐者達(デーモンハンター)は連携してそんな事を口々に叫びつつ、必殺の陣を

張った。

 

その言葉の内容とは裏腹に、決して油断はしていない。なぜならディアブロは名乗っている。

 

”名持ち“(ネームド)となった上位魔将は、その脅威度が一段階上昇するからだ。

 

「どうした、反応も出来んのか?」

 

「所詮は口だけという事か」

 

特殊合金を聖なる属性に染め上げた鎖で、ディアブロを雁字搦めに縛り上げる悪魔討伐者達。

 

初手が簡単に成功した事で、ディアブロヘの警戒心が少しだけ緩んでいた。西側諸国に比べると、東の帝国では悪魔被害が大きい。

 

その理由は、東の地に巨大な力を秘めた悪魔の拠点があるからだ、と言われている。しかしだからこそ、対悪魔の戦術が磨かれたのも事実である。

 

西側では伝説的な脅威でしかない上位魔将(アークデーモン)でさえも、その力を段階ごとに区分けして対処方法が研究されていたのだ。

 

悪魔討伐者のリーダーは、ディアブロを中世種と見倣していた。しかし”名“があるという点を考慮して、古代種に匹敵する脅威と認識を改めている。絶大な力と知識を蓄えた、貴族階級の悪魔。

 

多数の脊属を従える存在も確認されている脅威であり、決して祇めてかかっていい相手ではない。だがリーダーは、それでも勝てると踏んでいた。

 

実際に何度か、上位魔将との戦闘経験もこなしている。その自信から来る判断を、リーダーは疑わない。

 

ディアブロ「準備は終わりましたか?」

 

だからこそリーダーは、ディアブロにそう聞き返されて戸惑った。

 

「な、何?」

 

「いえ、準備が終わったのなら、開始の合図をお願いします」

 

ディアブロの平然とした様子に、リーダーは何を言われたのか理解出来なかった。

 

「……ほう?我等が何をしても邪魔をしないとでも?」

 

戸惑いを隠して、挑発するようにリーダーが問う。

 

ディアブロ「何故そのような事をする必要があるのです。せっかく努力してくれているのですから、邪魔はしませんよ。だってその方が……より恐怖が大きくなるでしょう?」

 

「ふ、フフフ、祇めるなよ、悪魔め。

その傲慢、その身を滅ぼすと知れ!!」

 

ふざけた返答をするディアブロに、薄ら寒い感情を抱く悪魔討伐者達。悪魔とは元来、自信過剰で人を見下す者が多い。故にディアブロの発言だけ見れば、飛び抜けて異常という訳ではない。

 

しかし今回は、既にその身体を縛られた上でのこの発言である。その余りの自信を前に、歴戦の悪魔討伐者達も不安を抱いてしまったのだ。

 

だが、彼らはプロだ。その行動に遅滞はなく、

何度も繰り返した訓練通りに、速やかに準備は整った。

 

「ならば、その傲慢をあの世で悔いるがいい!滅せよ、六連雷光撃(サンダーボルト)!!」

 

エドワルド王、各国の記者、そしてサーレ以下ルベリオスの近衛騎士の面々が見守る中で。眩い雷光がディアブロを焼く。

 

「どうだ!魔素を介在しない、自然の雷を味わった気分は!!」

 

「貴様のような悪魔族は、その身を多重の

[結界]で守っているのだろう?だが残念だったな!帝国の技術はその[結界]を破る術を発見したのだ!」

 

「悪魔族が物質世界に影響を及ぼすには、受肉する必要がある。その肉体を壊してしまえば、もう貴様には何も出来はすまい!」

 

自信満々に言い放つ悪魔討伐者の面々。

 

魔素によって発動する力では、魔素を妨げる『結界』によって簡単に防がれてしまう。そこで考案されたのが、魔素を介在させない兵器の開発である。

 

今回のこの雷撃もその一つ。対悪魔の最新兵器なのだった。それを聞き、恐怖を感じていたエドワルドも安堵した。

 

エドワルド「素晴らしい!流石は”東“の勇者達じゃ。あの商人にも、褒美を取らせねばなるまいな」

 

喜色満面でそう言いながら、歪んだ表情でディアブロを見た。

 

雷撃は、ディアブロを焼く。

 

焼く…?…果たして、本当に?

 

 

光に包まれたのに、ディアブロの口元には笑みが浮かんだままだ。

 

決定的に異常を感じたのが、悪魔討伐者のリーダーだった。

 

「(おかしい。おかしいぞ!何故、服に焦げ目すら付かぬのだ!?)」

 

そう疑問に感じて、そして気付いた。

その、邪悪な笑みに。

 

「き、貴様…ッ!!」

 

ディアブロ「クフフフフ、貧弱。余りにも、貧弱過ぎますね。この程度で、私と戦うつもりだったとでも?せっかく努力してくれたのに、

期待外れでした」

 

そう言うなり、ディアブロは軽く腕を上げた。その途端、ディアブロを縛っていた鎖が弾け飛ぶ。

 

「うぉ!?」

 

「グヌゥ!!」

 

信じられぬような剛力で、ディアブロが特殊合金製の鎖を引き千切ったのだ。

 

「ば、化け物め!!」

 

驚愕したリーダーの口から、思わず零れ落ちた言葉である。

 

ディアブロ「さて。それでは、選別の試験(テスト)を開始しますね」

 

何事もなかったように、ディアブロはそう言った。

 

「ま、待て!おかしいだろうが!何で雷撃に効果がないのだ!?」

 

納得がいかないのか、それとも恐怖を紛らわす為か。リーダーが問う。

 

それに対して、優しくディアブロが答えを述べる。

 

ディアブロ「何故と聞きますか。答えは簡単です。私はね、自然影響への高い耐性を備えているのですよ。それには放電現象も含まれます。今のあなた方の攻撃など、防御結界を用いるまでもない貧弱な刺激でしかありませんでした」

 

これで満足ですか?と…。

 

ガクガクと震えだすリーダー。だが、それはまだマシな反応だった。その言葉の意味を理解したからか……

 

「う、うわーーッ!!!来るな、やめろ、来るな!!」

「ヒィーーっ!た、助けて!!」

 

などと口々に叫びながら、隊員がその場に崩れ落ちたのである。

 

一流の悪魔討伐者として、様々な場数を踏んだ猛者達が、だ。

 

それだけではない。保護されている報道陣を除いて、この場に居る者全てが、その時、背筋が凍るような恐怖を感じていた。エドワルドなど、その場で泡を吹いて失神してしまったほどである。

 

それはエドワルドだけではなく、護衛騎士達も同様であった。

 

何が起きたのか?リーダーは、十分に理解出来た。これは、この圧倒的な恐怖は目の前の悪魔が放った威圧なのだと。

 

簡単に言えば、ディアブロが抑えていた妖気(オーラ)を解放した、ただそれだけの事なのだ。ただしその妖気には、人を殺せるような威圧の力が備わっている。

 

ディアブロ「おやおや?試験に合格出来たのは、たったの三名ですか?ですがまあ、一応は褒めて差し上げましょう。手を抜いているとはいえ、私の[魔王覇気]に耐えたのだから。

直接相手をする事を許可しましょう」

 

それを聞き、呼吸困難になりそうなほどに恐怖を感じつつも、リーダーは振り返る。そこに立っていたのは、ディアブロの言葉通り後二人のみ。少年と、野生的な美女サーレとグレンダだ。

 

平然とした様子のその二人を見て、リーダーの心に力が戻った。

 

「(大丈夫、まだ大丈夫だ。流石は”三武仙“、西の頂点に立つ英雄達だな。俺の部下共はもう駄目だが、この二人がいるならば勝ち目はある……)」

 

力を得たリーダーは、勢い込んでディアブロに向き直った。

 

「ふ、ふふふ、流石は魔王に仕える悪魔だ。中々にハッタリも得意としているようだな」

 

ディアブロ「ハッタリ、ですか?」

 

「ああ、そうだとも。お前、今、[魔王覇気]と言ったな?それを操れるのは”魔王種“となった魔物のみ。悪魔族の最終進化が上位魔将である以上‘”魔王種“には絶対に到達しない!お前の言葉がハッタリであるという証拠だよ!!」

 

これこそ、東の研究成果の極秘事項であった。悪魔の魔素量には上限がある。等しく同じ数値でありながら、強さには個体差があるのだ。

 

この事が指し示すのは、古き悪魔ほど戦闘経験が豊富で、効率的な戦闘方法を確立しているという事実であった。そして同峙に、悪魔を恐れる必要がないという恨処にもなっている。

 

その力の限界値を熟知していれば、悪魔が何をしようとも対処が可能だからだ。

 

知識は力。正しい情報を知っているだけで、

悪魔のハッタリに心を惑わされる事もないのである。

 

ディアブロ「なるほど。それは正しくもあり、間違ってもいます。確かに我々悪魔族は、その魔素量の上限が定められています。ですが、上位への進化は可能なのですよ。ある条件を満たせば、ね」

 

「はあ?」

 

ディアブロ「例えば”赤“などは、あなた方にも有名なのではありませんか?」

 

「”赤“だと?何を言って……」

 

そう言いかけて、リーダーの脳裏にとある悪魔が思い浮かんだ。余りにも有名なその悪魔は、有名過ぎて例外となっている……。

 

ディアブロ「そして、魔王となる資格を得るだけならば、これは簡単です。限界値まで力を蓄えてから、二千年以上年を重ねるだけで済む。何の苦労も必要としません」

 

ディアブロは簡単に言うが、これは実は困難を極める。

精神生命体である悪魔族は戦いを好む種族だ。

 

現世に召喚されていなくても、精神世界では常に戦いを繰り返している。敗北すれば魔素量(エネルギー)の絶対値が下がるので、退化する場合もあった。

 

"限界値まで力を蓄えてから二千年以上年を重ねる"というのは、

上位魔将に進化してから一度の敗北も許されない、過酷な条件を意味しているのだ。

 

悪魔討伐者のリーダーはそれを理解した訳ではないが、ディアブロが非常識な事を言っているというのはなんとなくわかった。

 

しかしそれ以前に気になるのが、ディアブロが”赤“と呼び捨てにしている事実である。

 

あの、余りにも有名な悪魔の絶対支配者を、呼び捨てに___。

 

「(ありえない。そんな事は、絶対にありえない!!)」

 

悪魔には、絶対的な上下関係がある。

 

東の帝国の偉大なる大魔法使い、ガドラ老師が提唱した理論である。

 

同系統の原初たる王に対しては当然、他系統の上位者に対しても、厳格な身分関係が存在するとされる。

 

下位存在が上位存在を呼び捨てにする、そんな事は天地がひっくり返ってもあり得ないのだ。

 

 

ディアブロ「貴方の出身地である東方ならば

”白“の方が有名かも知れませんね。つい先日、東方の地で彼女の[魔王覇気]を観測しましたし」

 

呆然としていたリーダーは、ディアブロのその言葉で思い出す。数年前、”白“……。

 

あの恐るべき"原初の白"(ブラン)が、この世に顕現し、受肉する寸前まで至った事件を。

 

通称__”紅に染まる湖畔事変“と呼ばれるそれ。

 

下手をすれば、第二のギィ・クリムゾンが生まれていただろう。

 

魔王間のバランスを崩し、世界は混沌に飲み込まれる直前だった。帝国の威信をかけて闇に葬った事件。リーダーは青ざめ、理解した。

 

”赤“‘そして”白“そう呼び捨てにする目の前の

悪魔が、そうした存在と同格なのだ、と……。

 

「(あり、ありえ、ありえる…

ありえるかーーッ!!!)」

 

内心で絶叫する。

 

「(勝て、勝てる……勝てる訳がない!!馬鹿げてる。

こんな事があるはずがないだろうッ!!)」

 

そして、折れた。簡単に折れた。

 

悪魔討伐者は。プロの職業であり、料金以上に命を賭ける事などない。親しい者を守る為ならば話は別だが、こんな異国の地で死にたいと思う者などいない。まして、絶望的なまでに力の差があると知ってしまえば、抵抗など無意味と諦めたのだ。

 

「助けて下さい!命だけはどうか、何卒、何卒、助けて下さい!!」

 

恥も外聞もなく、リーダーはディアブロに懇願する。それに対してディアブロは、とても優しく微笑んだ。

 

ディアブロ「おや、どうされました?せっかく試験(テスト)に合格したのですから、是非とも楽しんでみてはどうですか?知りたいでしょう?私の言葉がハッタリなのかどうか、を。

その身で確かめてみればいい」

 

そう言われても、リーダーとしては必死になる。最早、ディアブロの言葉を疑っておらず、その正体が危険極まりない存在であると気付いてしまった。ハッタリなどと、とんでもない。

 

「お許しを、お許し下さい!私は金で雇われただけなのです。今後、絶対に逆らわないと誓います!決して邪魔も致しません。そこで気絶している王を殺せと命じられれば、喜んで従いましょう!ですからどうか、命だけは!!」

 

なりふり構わず、みっともなく命乞いを続けるリーダー。そして、その甲斐はあった。

 

ディアブロ「ふむ、ならば下がっているといい。そこの報道陣がいる[結界]まで、邪魔者共を片付けろ」

 

ディアブロはリーダーヘの興味を失い、そう告げたのだ。リーダーは従った。迷わず従った。

 

部下達を叩き起こし、転がる騎士達を回収させた。そして自分は王を担いで、言われるままに[結界]に逃げ込んだのである。それを笑う記者はいない。この異常事態を前に、固唾を飲んで成り行きを見守るのみだ

 

サーレは不敵な笑みを浮かべて、ディアブロの前に立った。

 

サーレ「ふーん、なかなかやるようだね。

上位魔将とは思えないよ」

 

ディアブロ「…貴方は逃げないのですか?」

 

サーレ「逃げる?面白い事を言うね。僕の名はサーレ。神聖法皇国ルベリオスの法皇直属近衛師団所属、魔王に対抗する”十大聖人“にして

”三武仙“の一人さ。それで、お前は一体何者なのかな?」

 

ディアブロ「先程も名乗りましたが、私の名前はディアブロと申します。偉大なる我が王、

リムル様に授けて頂いた素晴らしい”名前“ですよ」

 

サーレ「……あくまでも、正体は明かさないつもりかい?」

 

サーレは余裕の態度を崩さぬものの、その心は屈辱で沸騰しそうになっていた。

 

一人でも恐怖を克服したらなどと、ディアブロの言葉はサーレを完全に侮辱していた。思考だけは冷静に。つまらぬ怒りで自制心を見失ったりはしないが、ディアブロの反応は余りにもサーレを見下したものだと感じたのだ。

 

”東“の悪魔討伐者達は滑稽だった。悪魔退治のプロと豪語していたのに、無様にも命乞いまでして逃げる臆病者だった。捨石にしようとグレンダには言われていたので好きにさせていたが、余りにも期待外れである。

 

サーレ「(所詮は民間人だな。法皇陛下の、ひいては神ルミナスの守護を任される僕達とは、戦いに向ける覚悟が違う!)」

 

そう考えて、サーレは内心で悪魔討伐者達を

嘲笑った。警戒だけは一段階引き上げ、ディアブロと対峙した

 

サーレ「(グレゴリーも戦いたがっていたが、獲物の方が僕を選んでくれたね。さて、それじゃあその祇めた態度、後悔させてやるよ)」

ディアブロなど、どんな古い文献にも記載されていない。まるで聞かぬ名前で、脅威とされる大悪魔ではないという事である。

 

サーレ「(”赤“だ”白“だと御託を並べられただけで、何をそんなに怯える必要がある)」

 

名も無き”原初“ならばいざ知らずと、サーレは思う。ただの上位魔将ではないと理解したが、それでもサーレにとって脅威ではないと考えていた。知識なき者の悲しさ、悪魔に対する認識不足である。

 

サーレは考える。

 

正体を言うつもりがないのなら、実力で以て暴けばいい。何故ならばサーレは、単独で魔王と戦えるだけの力を持っているからだ。以前に行った魔王ヴァレンタイン討伐作戦でも、惜しくも逃がしたが仕留める寸前まで追い詰めている。

 

上位魔将如き、恐れるまでもない相手だった。

 

そんなサーレだからこそ、ディアブロの態度に我慢がならなかったのだが……ディアブロの次の言葉を聞いて、耳を疑う事になる。

 

ディアブロ「正体、ですか?そうそう、強さに興味がないので忘れていました。

私は確かに、貴方が仰っているような

上位魔将(アークデーモン)ではありません。

悪魔公(デーモンロード)に進化を果たしています。

大して違いませんが、お間違えなきようお願いします」

 

と、軽く言われて。

 

ディアブロにとって重要なのは”名前“であり、自分の種族ではない。だから興味もなかったのだが、サーレにとっては大問題なのだった。

 

サーレは動揺した。

 

信じられない。そして、信じたくない。目の前の悪魔は、今、何と言った?悪魔公と言わなかったか?確か、”悪魔公“(デーモンロード)

 

それは、伝説上の存在。非公式ながら、災禍級(ディザスター)に区分される脅威なのだ。

 

ただしその実力は、並の魔王を凌駕する。

 

上位精霊クラスでも、その足元にも及ばないだろう。対処可能となるのは、精霊王クラスを

複数体ぶつけた場合くらいか。

 

この世界に干渉した事例は古い文献に記されるのみだが、確かに存在すると定義されていた。

 

その証拠が__あの最強の魔王。

 

サーレ「(魔王リムルは、一体何を考えているんだ…ッ!!)」

 

サーレは瞬時に判断した。これは無理だ、と。

 

グレンダ「何を呆けているんだい、サーレ!

アンタとアタイでさっさとあの色っぽい悪魔を始末するよ!!」

 

サーレ「馬鹿!やめろ、グレンダ!!」

 

グレンダは風のように素早く、黒塗りのナイフをディアブロに突き刺した。

 

グレンダ「ハンッ!口ほどにも無い!!」

 

確かな手応えに、グレンダは笑った。

 

だが、ディアブロにはまずまず回避する必要などなかったのだ。

 

ディアブロ「クフフフ、見事な身体能力です。ですが残念な事に、私に物理攻撃は通用しません」

 

ディアブロの持つ特性[物理攻撃無効]によって、グレンダの攻撃は防がれた。

 

グレンダ「チィ、厄介だね!」

 

グレンダの行動に、サーレも仕方なく覚悟を決める。グレンダを放ってはおけないからだ。

 

霊力解放を行い、身体能力を最大まで高める。

 

有り余る財力で手にした特質級(ユニーク)の武器、破邪の剣(デモンスレイヤー)で以ってディアブロへと斬りつける。

 

しかし、その攻撃もまるで通用しない。

 

サーレ「クソが、本当に斬撃が通用しないだと!?グレンダ、時間を稼げ!その間に僕が[神聖魔法]の__」

 

と、いった頃にはグレンダはその場から逃走していた。

 

ディアブロ「お仲間の女性なら、さっき全力で逃げて行きましたよ?」

 

サーレ「………クソがーーーッ!!!」

 

サーレはグレゴリーが戻るまで時間を稼ごうと決めたが、それは叶わぬ夢だった。

 

なぜなら、今この瞬間にも、二ドル領での攻防戦は本格化するまでもなく終了したからである。

 

そして、グレゴリーが来るのを願って戦っていたサーレも、ここに来てあることに気がついた。

 

サーレ「(魔王ヴァレンタインより強いこの化け物が、わざわざ大司教レイヒムを殺す理由があるのか…?だとしたら、僕は何でこんな目に遭っているんだろうな…?)」

 

今も全力でディアブロの攻撃を凌いでいるサーレだが、限界は近い。

 

ディアブロ「クフフフフ、もっと頑張って。

面白い技を見せて下さい」

 

そんな楽し気なディアブロの声に、サーレは心の底から泣き叫びたいと思った。

 

帰りたいと心底思う。

 

だが、ディアブロはサーレを殺せるのに殺そうとはしていない。

サーレもそれに気がついていた。

 

サーレ「(そうしないってことはやはり…)」

 

であるならば、大司教レイヒムを殺した真犯人がいるという事で、それが誰なのかと考えると、答えは一つしかない。

 

サーレ「(そうだよ。ヒナタは、今回は関与せずという方針だった。そして事件が起きたのも、ヒナタが旅立った後という狙ったようなタイミング。という事は、やはり)」

 

疑わしい、いや違う。間違いなく

”七曜の老師“が真犯人なのだ。サーレはそう

確信した。そしてその時……

 

『サーレよ、応援に来てやったぞ』

『感謝せよ。共に悪魔を滅ぼそうぞ!』

『そのまま悪魔を抑えよ。我等の魔法で始末しよう』

 

サーレの背後の空間が歪み、巨大な力を持つ

存在が出現した。現れたのは三名の賢人

”七曜の老師“の面子である。そして”七曜“は、自分達の言葉とは裏腹に、この場で使用するには危険過ぎる魔法を発動させようとしていた。

 

犯人は、証拠隠滅を謀るもの。

 

この場の証拠とは、大司教レイヒムを殺した者がディアブロでないと気づいたもの達を指す。

 

サーレ「まずい、逃げろーーッ!!」

 

サーレが報道陣に警告すると同時に、その場を巨大な火球が呑み込んだのだった。

 

 

〜魔国連邦〜

 

エイト「はぁ…やれやれだな」

 

空間が歪み、やってきたのは謎の二人。

 

『魔王リムル、魔王エイトよ。お初にお目にかかります。我等は、"七曜の老師"と申す者。

此度は、命令違反を行ったヒナタ・サカグチを始末しに参りました__』

 

エイト「ああ、そういうのいいんで」

 

どうせ証拠隠滅を図って全員殺すつもりなんだろう。既に周りには魔法陣が気づかれないように準備されてある。

 

『…何故、ヒナタが無傷なのだ?』

 

だが、俺がそれに応えようとした瞬間…

 

レナード「ふ、ふざけるな!!貴様ら私を欺いたな!?最初からヒナタ様を抹殺するつもりで……」

 

と、シオンが相手をしていた騎士達の一人の聖騎士が言った。

 

そして、聖騎士はその隣にいた騎士団の団長に背中を刺された。

 

レナード「なっ…ギャルド…お前…!」

 

ギャルド「無礼だぞ、レナード。"七曜"の御方々への暴言、目に余る。貴様こそ逆賊ヒナタと共謀し、俺たちを欺いた張本人だろうが!」

 

確かヒナタを狙った閃光はギャルドとかいうやつのいた方向から放たれた…つまり、あいつは七曜と繋がっているか、七曜本人である可能性が高い。

 

リムル「エイト、どうするんだ?」

 

エイト「ディアブロの方は始末していいって言ったんだろ?ならこっちも同じだ」

 

リムル「フッ…そうだな。生かしておく価値はなし、ここで放っておいても害になるからな」

 

その会話を聞いていた七曜は、すぐに攻撃体勢になった。

 

『ク、ククク…これはこれは…』

『良いのですかな?我々との全面戦争になりますぞ?』

 

エイト「寝言は寝て言え」

 

リムル「お前らは、やり過ぎた。大司教レイヒムを殺した罪までなすりつけてくれたそうだが、全てお見通しなんだよ。俺たちに喧嘩売ったんだから、覚悟はできてるんだろう?」

 

『クックック…真実を知ってしまった貴様達も魔王もろとも始末しておくとしよう!』

 

七曜は、騎士達に向けてそう言うと、飛び上がった。それはギャルド…いや、化けていた七曜も含めて三人。

 

その三人を頂点として大規模な魔法陣が構築されていく。

 

範囲内には俺たちは当然、三獣士の二人や聖騎士達も含まれている。

 

ベニマルとソウエイが突破を図るが、俺が手を上げて止めた。

 

エイト「下がってろ。今回は俺に任せてくれ」

 

今までテンペストに関する事で、俺は大して働いていない。まあ、その辺の仕事なんてめんどいからやりたく無いが…こういう場面で何もしないっていうのはやっぱりダメだろ。

 

エイト「それで?聖なる属性以外を弾く魔法陣らしいが…それで終わりか?」

 

『!?…クッハッハッハ、愚かなり』

 

『いくら魔王といえど、この攻撃には耐えられまい。術式を看破した事は褒めてやるが、そこまでよ』

 

叡智之王『告。攻撃が来ます』

 

『『『死に絶えるがいい![聖三位霊崩陣](トリニティブレイク)!!』』』

 

エイト「[守護之王]"完全結界"」

 

三者の声が重なり、その魔法は発動した。

そして、俺の[守護之王]によってアッサリ

防がれる。

 

エイト「(まあ、これだけじゃないらしいな…)」

 

叡智之王『告。霊力反応が上昇。本命の攻撃が来ます』

 

『『『滅べ、魔王よ![三重霊子崩壊](トリニティディスインテグレーション)!!』』』

 

叡智之王『告。[天災之王]の"四位一体"による攻撃の相殺を提案します』

 

え?このまま防げるのにか?

 

叡智之王『はい。それにより"七曜"からの恐怖が高まると推測。牽制に適切です』

 

おお、そこまで考えてくれてるのね…ありがたいありがたい。

 

エイト「[天災之王]"四位一体"」

 

[青炎][雷炎][暴風嵐][裂氷]による

四位一体攻撃を正面からぶつける。

 

とてつもない爆発音とともに、三重霊子崩壊は完璧に封じられたのである。

 

〜〜〜

 

『馬鹿な、そんな、馬鹿はぁーーッ!?』

 

『ありえぬ。そんな馬鹿な話はありえぬのだ!!』

 

『この世に"霊子崩壊"(ディスインテグレーション)の直撃に耐え得る存在などあってはならぬ__』

 

エイト「あれ?もう終わりか?なら……」

 

リムル「(急に七曜が可哀想に……は、ならないな。どんどんやれエイト)」

 

エイト「([守護之王][天災之王]

[暗黒之王][自由之王]を並列起動)」

 

「な、何だこの結界は…!?」

 

「ッ!?魔法が使えないぞ!?」

 

[思念]が切れ、言葉で喋り出す七曜。

 

更に、その直ぐ後に気づいたのは自分達の感覚が大幅に引き伸ばされている事実。数値にして約四百万倍。

 

そして、中に起こるのは暴風の嵐だ。

 

エイト「引き伸ばされた時間で、精々お前らの犯した罪を悔やむんだな」

 

「ぐ、ぐあぁぁ!?」

 

「た、魂ごと…削れる…!?」

 

暗黒之王による[影斬り]と[魂斬り]と、

天災之王の[暴風嵐]の掛け合わせだ。即席でやってみたが中々いいな。

 

そして、自由之王による思考加速と、守護之王による魔法の使用不可を付ける事であの中であいつらはただの力を持たない老害として、ひたすらに長い痛みだけを味わうことになる。

 

リムル「うわぁ…」

 

ヒナタ「君、性格悪いって言われない?」

 

エイト「おい」

 

と、そんな軽口を叩いている間に七曜は粉消しになって消えた。



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33話:絶望の時間

ルミナス「魔王エイトよ、迷惑をかけたようじゃな」

 

エイト「…?」

 

やって来たのは魔王バレンタインだ。

 

何でこんなところに来るのか…まあ、理由は

一つしかないだろう。彼女こそが__神ルミナスの正体…ルミナス・バレンタインなのだから。

 

 

 

〜二ドル領〜

 

ディアブロは先程、リムルに思念伝達で七曜が犯人だったことが判明したと伝えた。そして、その返答は簡潔なもので___

 

『許す。駆逐しろ』

 

この言葉によってディアブロの全ての実力行使が可能になった。

 

ディアブロ「クフフフフ…」

 

ディアブロは歓喜に打ち震えつつ、邪悪に嗤う。

 

さっそく愚か者共を駆除したいとこらだが……その前にやることがある。

 

ディアブロ「さて、皆さん。御無事ですか?」

 

気分良く報道陣に問いかけるディアブロ。

 

[火球]はディアブロの張った[結界]によって阻まれ、報道陣に犠牲者はいない。

 

それだけでなく、[結界]に逃げ込んだ者たちは誰一人残らず怪我一つしなかった。

 

 

『チィ、忌々しい悪魔め。これほどとは、な』

 

『恐ろしいヤツ。ならばこちらも、聖なる力を見せ付けるとしよう』

 

『やるぞ、準備せよ!』

 

全員を簡単に始末出来ると考えていたが、流石に想定外だった。どんな強力な悪魔族であろうとも、その受肉した肉体を滅ぼせば、影響力を失う事になる。魔体を維持できなくなった瞬間に、精神世界に戻るからだ。

 

”七曜“達は、それを前提として出現と同時に究極魔法を発動させた。

 

極大火球___核撃魔法: 破滅の炎(ニュークリアフレイム)を。

 

一人では制御すらも出来ない、三人がかりで行使する元素系究極魔法である。あらゆるものを焼き尽くす、地獄の業火。それなのに、ディアブロの前では無力だったのだ。

 

驚愕した”七曜“達は、迷わずに最終手段を選択する。

 

そんな危険なディアブロを倒すには、聖なる力を用いるしかないそう考えて、今度は用意しておいた奥の手である

”聖三位霊崩陣“(トリニティブレイク)の使用を決断したのであった。

 

別の者達がリムル達に向けて使用した術式であり、彼等の奥義である。多少準備に時間がかかるものの、術中は[結界]に守られるので安心。その上、この術式の最後に放たれる

”三重霊子崩壊“(トリニティディスインテグレーション)は、あらゆる物質を消滅させる神聖系究極魔法である。どんな巨大な魔物や魔人それがたとえ魔王であろうとも、この術式には耐えられない。

 

そうした絶対の自信を以て、”七曜“達は術式を起動させるさた。

 

だが、その頃ディアブロは、そんなことを気にせず交渉を開始した。

 

”七曜“達の事など眼中になく、視線は報道陣に向けられたままだ。

 

ディアブロ「今の攻撃を見たでしょう?彼等があなた方を殺すつもりだったのは明白、そう思いませんか?」

 

優しく問いかけるディアブロ。今まで戦っていたサーレでさえも、ディアブロの言葉を否定

出来ないでいた。当然、報道陣から否定の声は出ない。皆が頷き、そして理解している。

 

人類の守護者、偉大なる英雄伝説にも残る

”七曜の老師“達。そんな彼等の事を、記者ともなれば知らぬ者はいない。

 

ディアブロの言葉は真実であり、自分達は生贄にされたのだと悟っていた。”七曜“はディアブロ諸共に自分達を葬り去り、そして全てをディアブロの仕業だと宣伝するつもりなのだ、と。

 

ディアブロ「ですが、安心するがいい。私がお前達を守ってやろう」

 

記者達の目にはディアブロの笑みが、御仏の如く慈愛に満ちているように見えた。

 

そしてその言葉を信じる。”三武仙“のサーレを軽くあしらうその強さならば、伝説的存在である”七曜の老師“にも勝てるのではないかと考えたのだ。

 

「お、俺達は何をすれば」

「金、ですか?」

 

ディアブロが何を見返りとして求めるのか、それを気にする者もいる。悪魔はタダでは動かない。必ず何らかの見返りを求めるものなのだ。

 

そしてそれは、ディアブロも同じ。リムル以外の者に対しては、理由なしには動かないのである。

 

ディアブロ「クフフフフ、理解が早くて助かります。私が求めるものは一つ」

 

笑顔のままに、ディアブロは要求する。自分の無実を証明せよ、と。

 

記者たちは、それを聞くと同時に、安堵すると同時に納得ともした。

 

「勿論だとも!是非宣伝させてくれ!」

 

「ああ、何でも記事にするさ!アンタの華々しい活躍もな!」

 

「おうとも。だから、頼む!俺達を助けてくれ!!」

 

百名近い報道陣。その全員がディアブロへの支持を約束する。

 

そしてそれは、ユニークスキル[誘惑者](オトスモノ)の影響下に入る事をを意味していた。

 

裏切りは許されない。契約は完了したのだ。

 

ディアブロ「クフフフフ、いいでしょう。皆様をお助けすると、この私が約束します。ただし、お前だけは駄目だ」

 

そう言ってディアブロが指差したのは、気絶から目覚めたエドワルドだ。

 

エドワルド「な、何故!?余が何をしたと__」

 

ディアブロ「黙れ!貴様は偉大なるリムル様を愚弄した。その罪は、万死に値する。貴様など、助ける価値がないと知れ」

 

吐き捨てるようにそう告げるディアブロ。エドワルドは、回らぬ頭で必死に考える。しかし、何も良い考えなど浮かばない。ただ一つ確かなのは、このままでは自分が確実に死ぬという事だけ。

 

騎士達を見るも、サッと視線を逸らされた。それはそうだ。あんな化け物や伝説上の英雄に、逆らったところで勝てるはずもないのである。

 

エドワルド「お願いします、何卒、どうか何卒、余も、いや、私もお救い下さい!」

 

エドワルドに出来るのは、涙ながらに訴える事だけだった。しかしそれでは、ディアブロの心に届かない。

 

ディアブロ「クフフフフ、そこで自らの愚かさを嘆きながら、あの世へ行くがいい」

 

記者達も、誰もエドワルドを助けようとはしない。そんな事が出来る訳もないのだ。

 

そもそもの原因がエドワルドにある以上、仲裁しようもないのだから。そんな事をして、とばっちりが自分に向く方が問題である。

 

誰も助けてくれないと理解して、エドワルドは泣き出した。

 

エドワルド「全てやる。金も、地位も。王、

王位も譲ります。私は退位して全て譲るから」

 

それを聞いて、暫し熟考するディアブロ。

 

ディアブロ「そう言えば、英雄ヨウムがエドマリス殿の後見人になっていましたね。彼こそ、このファルムスの地を導くに相応しい男だと思うのですが、貴方はどう考えますか?」

 

そしてディアブロは、少しだけ口調を優しくして、エドワルドにそう問いかける。エドワルドも理解した。人生で最大限に頭の回転を速くして、そして理解した。

 

エドワルド「わ、私もそう考えます!彼は見所がある。是非とも私の後継者として、公に発表したく__」

 

エドワルドの出した答えは、ディアブロを非常に満足させるものだった。

 

記者達もまた、その様子に察するものがある。

 

「は、ははは。英雄王の誕生ですかな?」

「これは大々的に宣伝しないと」

 

空気を読み、ディアブロの意図を正しく理解してそう述べる。ディアブロは嬉しそうに頷く。

 

これでお膳立ても完璧となった。少し計画が狂ったが、結果は満足いくものとなりそうである。となれば、後はゴミの始末をするだけ___その時は来た。

 

『ふん、覚悟は良いか?』

 

『もう間もなく、邪悪を滅ぼす光をくれてやる』

 

『それまでの命、せいぜい楽しんで__』

 

自分達の術式への自信からか、余裕ぶった態度で成り行きを見守っていた”七曜“達。

 

 

そんな彼等に、絶望の時が訪れる。

 

 

ディアブロ「覚悟?笑わせるなよ、ゴミ共が。この私の計画を邪魔して、リムル様の前で私に恥をかかせた事その罪は、余りにも重い。私が味わった恐怖と絶望を、何倍にもして返してやろう」

 

”七曜“達を見るディアブロは、少しも笑っていなかった。その貌に表情はなく、その美しさがかえって恐怖を掻き立てる。

 

『な、何?』

『貴様は何を言っておる?』

『気でも触れたか?この術の前には__』

 

ーパチンッ

 

 

”七曜“達の言葉を遮るように、ディアブロは

指を一つ鳴らした。そして、世界は恐怖に包まれる。

 

ディアブロ「緩やかに滅び行く世界の中で、

何も出来ぬ絶望を知れ!

 

発動__”絶望の時間“(ディスペアータイム)」

 

それは、ディアブロの力。

 

ユニークスキル『誘惑者』の権能の一つ___『誘惑世界』利用している。

 

本来は対象者の意識に直接作用し、相手の精神に影響を与えるという効果なのだが、ディアブロはそれを更に発展させていた。

 

仮想世界を具現化させて、その世界の中で絶対権力を発動させるに至ったのだ。

 

その世界では、対象者の生死すらもディアブロが司る。そして、その世界で起きた出来事は『虚実変転』により、仮想と現実を入れ替える事が可能となるのだ。

 

ディアブロによって与えられた幻覚が、物質世界での現実となるそんな、理不尽なまでに恐るべき技なのであった。

 

この能力を破るには、単純に精神体(スピリチュアルボディー)を鍛えて意思の力で打ち破るしかない。しかし、精神生命体であるディアブロに勝る者などほとんどおらず、

”七曜の老師“と言えども例外ではない。

 

『な、なんじゃこれは!?』

『魔法が、魔法が消えたッ!?』

『ば、馬鹿な……』

 

驚愕して騒ぐも、それで何が出来る訳でもない。ただ、絶望の時を過ごすのみ。やがて、世界は崩壊する。

 

ディアブロ「その愚かさを、深淵の底で反省するがいい」

 

ディアブロはそう告げて、最後の仕上げを行った。

 

”崩壊する世界“(エンド・オブ・ワールド)『誘惑世界』崩壊は、その内に取り込んだ者をも巻き込んで進行する。

 

”七曜“達の絶望も呑み込んで、世界は終わりを告げたのだった。

 

そして、この場で行われた約束は、無事に履行されるのである。

 

 

〜魔国連邦〜

 

ルミナスの登場後、扉からもう一人の人物が出てきた。

 

エイト「(魔王ヴァレンタインか?)」

 

服が何故か司祭服で、なんか偉そうな感じだ。確かバレンタインの影武者をやってたと思うが…

 

ルイ「控えよ。余は法皇ルイである。そして、こちらにおわす御方こそ、我等が神ルミナス様で在らせられるぞ!」

 

と、良く通る声で宣言した。

 

それを聞き、聖騎士達が一斉に脆いた。

 

そして俺達は戸惑いつつも、成り行きを見守る事にしたのである。

 

しかし……魔王が神って、何の冗談だよ。その影武者役が法皇?いやはや…プロパガンダが酷すぎて、俺でさえドン引きするレベルだ。

 

だが考えてみれば、それは非常に効率的なんだろう。

 

叡智之王『是。”人“という種族を支配するのに、効率的な環境を用意出来るでしょう』

 

あ、うん。真似しようという提案じゃないから、そこは間違えないでね?

 

ルミナス「ヒナタ。自重せよと申し付けたであろうに、勝手な真似をしおって……」

 

ヒナタ「申し訳ありません…」

 

ルミナス「"七曜"は…もう消えてしまったようだな」

 

エイト「ああ、何か悪かったか?」

 

ルミナス「…いや、元々死罪にする予定だったから手間が省けて助かった。感謝するぞ」

 

お、おお…中々恐ろしいことを言うな…。

 

その時、ディアブロから俺とリムルに報告が届いた。

 

ディアブロ『リムル様、エイト様。終わりました』

 

リムル『おう。それで、首尾は?』

 

ディアブロ『クフフフフ。全て、予定通りに』

 

ご機嫌だな。ディアブロのやつ。そんなに嬉しかったのか。

 

リムル『よし、ひと段落したら一度報告に戻って来い』

 

ディアブロ『承知しました。その時を楽しみにしております』

 

〜〜〜

 

立ち話も何なので、俺たちは場所を移すことになった。町までルミナスやルイ、そしてヒナタ一行を案内しつつの凱旋である。

 

そして、俺たちを出迎えてくれたヴェルドラを見て思い出す。

 

リムル「あ、すまん。最終防衛ラインさんの

出番はなかったわ」

 

ヴェルドラ「何っ!?せっかく気合を入れて待っておったというのに…」

 

ヴェルドラは不満そうだが…そこは納得してもらわなければ。

ということで、事件は円満解決___と思ったのだが、そうは問題が卸さない。

そして、よく思う。俺の[未来予知]はこう言う時に便利だ。

 

ヴェルドラ「ッ!!おお、お前は!思い出したぞ!ルミナ…「ちょっと来ようかヴェルドラくん」ちょ…何をするのだエイト!?」

 

下手したらバレンタインを怒らせることになる。ここはヴェルドラに退場して頂かなくては…。

 

そう思って俺はヴェルドラを瞬間転移で食堂まで運んだ。

 

 

俺が見た3秒後の未来…

 

ヴェルドラ『思い出したぞ!ルミナス、魔王ルミナスではないか!我が城を吹き飛ばしてやった、あの女吸血鬼(ヴァンパイア)。いやあ、思い出せてスッキリ、スッキ___』

 

まあ、ここまででわかるだろう。この後ルミナスがヴェルドラに剣を突きつけていたのだが…まあ、それを未然に防いだのだ。

 

俺はヴェルドラを置いて元の場所に戻る。

 

リムル「何をしに行ったんだ?」

 

エイト「ああ、まあ色々とな」

 

ルミナス「…」

 

〜〜〜

 

 

まあ、色々あったが俺たちはルミナスと和解した。

 

ヒナタとの誤解も、まあ最初から解いていたが解けたってことにしよう。リムルに俺たちが最初から知っていたことを伝えたら、少しだけ怒られた。

 

んで、そのあと俺たちへの詫びとして、西方聖教会の名に置いて、俺たちが無害であることを宣言する事を約束してくれたのだ。

 

当面の不可侵条約を締結し、互いに互いの行動を黙認することで話は纏まったのである。

 

どういう流れでそうなったのか知らないが

ヨウムの即位も決定した。後は戴冠式を待つばかりだというし、非常に順調そうで何よりだ。

 

とまあこんな感じで、一気に問題が片付いたのだった。 

 

そしてこの日以降___俺達は正式に、西方諸国に受け入れられる事になる。




こんにちは。次の投稿は遅くなるかもしれませんのでよろしくお願いします。


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第四章 和解と祭り
34話:"邪竜"ヴェルドラ


エイト「それじゃ___」

 

ヴェルドラ「魔王ルミナスではないか!我が城を吹き飛ばしてやった、あの女吸血鬼(ヴァンパイア)。いやぁ、先程はエイトに邪魔をされて言えなかったがよかったよかった。これで、スッキ___」

 

と、言った頃には俺とルミナスがどこからともなく出した剣をヴェルドラに突きつけていた。

 

 

完全なる沈黙。聖騎士達は今言われたことがわからなかったのだろう。ヒナタは知っていたのか、頭に手を当てて溜息を付いている。

ルイはルイで我関せずを貫いていた。

 

エイト「あのなぁ…俺がお前が喋るを邪魔した理由がわからなかったのか?」

 

わざわざ何でここまで戻って来たんだよ…。

 

ルミナス「このクソトカゲが、毎回毎回、妾の邪魔をしおって__ッ!!」

 

 

〜〜〜

 

あれから大変だった。

何があったのかというと……

 

西方聖教会の信奉する神ルミナスの正体は、

魔王バレンタインその人だった。本当の名前は、ルミナス・バレンタインというらしい。今までは腹心を影武者に仕立て上げて、脊属名を与えて魔王ヴァレンタインと名乗らせていたようだ。

 

もっとも、魔王達の宴(ワルプルギス)でヴェルドラがルミナスの正体を暴露した事で、それも出来なくなってしまったみたいだが……。

 

ヒナタ率いる聖騎士団(クルセイダーズ)は、そんな魔王ヴァレンタインと対立していた。

 

そうして、民衆からの支持を得ていた模様。

 

完全にマッチポンプだが、ヒナタはそれを知っていたそうだ。合理的といえばそうなのだが、そんな事で本当にいいのだろうか?

 

ヒナタ「仕方ないでしょう。私はそれを止めようとして、ルミナス様に敗北したのだから。

でも、ルミナス様としては、民衆の支持なんて興味ない御様子だったけれど___」

 

俺が疑惑を抱いた事に気付いたのか、ヒナタがやれやれという感じに説明してくれた。ヒナタとしても納得がいかなかったようだが、ルミナスに敗北した身としては従う他なかったらしい。と言ってもヒナタは、民衆を犠牲にしないという約束をルミナスから取り付けたのだと。

 

その約束が守られている限り、ヒナタはルミナスの意に従うと決めたそうである。

 

何にせよ、ヒナタがマッチポンプを仕組んだ訳ではないらしい。

 

ルイ「そうだね。その計画を立案したのは私で、弟のロイが乗り気になったのだよ。実際、ルミナス様にとっては余り関係のない話だし、ヒナタは最初、それに反発して私達を滅ぼそうとしたぐらいだしね。この件で文句があるのならば、ヒナタではなく私が聞こう」

 

ヒナタに続いてそう言ったのは、ルミナスと

一緒にやって来た男だ。確か自らを、法皇ルイと名乗っていた。

 

リムル「それで、法皇ルイ、殿、さん?だっけ?」

 

リムルがそう言うと、ルイは苦笑した。

 

ルイ「呼び捨てで構わないとも魔王リムルよ」

 

聖騎士達がいる前なのに、その辺りは無頓着であるらしい。というか、彼の主である魔王ルミナスと同格である俺達に対し、謙るのが当然と考えているようだ。

 

そしてルイは、聞き耳を立てている聖騎士達にも聞こえるに、これまでの経緯を軽く説明してくれた。

 

エイト「という事は、魔王達の宴で会った魔王ヴァレンタインは、お前の弟だったのか?」

 

ルイ「その通り。双子の弟、みたいなものだったのだがね。けれど残念ながら、あの宴の後で何者かに殺害されてしまったのだよ」

 

とルイは、それほど残念ではなさそうな口調でそう言った。

 

リムル「えっ、殺されただって?」

 

ルイは気にしていないようだが、それは少し驚きである。何しろあの魔王ヴァレンタインは、影武者だったとは思えないほどの実力者だったからだ。

 

ルイ「ああ。ロイは少し自信過剰な性格だったのでね、油断したのだろう。西方聖教会を敵視する勢力も多いし、神聖法皇国ルベリオスが目障りだと感じている国家もあるだろう。そういった敵対勢力からの刺客に、不覚を取ったのだと思うがね……」

 

それにしても不甲斐ない話さ、とルイは言った。

 

悲しんでいる風ではないが、何も感じていないという訳ではないようだ。

 

このルイという男からも、かなりの力を感じる。ロイ以上の力を秘めているようだが、それでも魔王級の実力者である弟が殺されたとなると、楽観視は出来ないのだろう。

 

ヒナタ「最近では新兵の実地訓練代わりに、ロイを利用させてもらっていたわ。サーレに不覚を取ったりもしたようだし、ロイが弛んでいたのは事実でしょう。でも、ロイを殺した相手を警戒する必要はあるわね。まあ、貴方には関係のない話だけどね」

 

そう言って、ヒナタが話を締めくくった。

 

法皇ルイと魔王ヴァレンタイン、そして神ルミナスとの関係については理解出来た。

 

それは俺達だけでなく、一緒に話を聞いていた聖騎士団の面々にしても同じであったようだ。

 

初めて聞かされた者ばかりだったようで、誰もが驚き声も出ない様子である。俺が納得したのを見て取り、ヒナタは彼女の仲間達へと視線を向ける。

 

ヒナタ「さて、聞いていたでしょう?騙すつもりはなかったのだけれど、結果的には貴方達を駆していた事になるわね」

 

「ひ、ヒナタ様……」

 

何か言いかけた聖騎士を片手で制し、ヒナタは話を続ける。

 

ヒナタ「貴方達には話せなかったの。計画を知る者は少ない方がいいし、この事を他言するというなら、殺すしかなかったでしょうから」

 

冷たく言い放つヒナタ。

 

なるほど、本当に不器用なんだな。正直雪ノ下以上なんじゃないか?

 

アルノー「ふ、フフッ。このアルノー、騙されませんよ。神ルミナス、いや、魔王ルミナスに脅されていたのでしょう?」

 

アルノーとかいう聖騎士が、そんな事を言った。

 

しかしヒナタは、アッサリとその言葉を否定する。

 

ヒナタ「違うわよ。言ったでしょう。民衆はルミナス様の加護の下にいるのよ。これは本当。だから私は、あの方が人類に敵対しない限り、その意思に従うと決めただけ。だからねアルノー、ルミナス様の事を悪く言う事は許さないわよ」

 

眼力鋭くアルノーを睨みつけて、そう告げるヒナタ。

 

これでは誤解される訳だ。シズさんが心配していたのも当然である。

 

リムル「まあまあ。ヒナタもさ、もっと優しく言ってやれよ」

 

エイト「それじゃ全然説明が足りてないだろ…」

 

雪ノ下ですらそこまでではなかったぞ…というか説明くらいはまともにしてた。ヒナタマジパナイ。

 

ヒナタ「貴方達には関係ないでしょう?」

 

睨まれた。だから、それを止めろっての。

 

リムル「関係ない、って事はないだろう?お前達にここで仲間割れでもされたら、こっちとしても迷惑なんだし」

 

ヒナタ「余計なお世話よ。大体__」

 

俺の言葉に反発して、ヒナタが何かを言いかけるよりも早く…

 

アルノー「その心配はないです。俺達はヒナタ様を信じていますから!」

 

レナード「アルノーの言う通りです。魔王リムルよ。我々は神ルミナスではなく、ヒナタ様にのみ従う集団なのです。なので仲間割れなどの心配は無用ですよ」

 

アルノーとレナードが、息ピッタリに俺の言葉を否定した。思うところはあるのかも知れないが、誰もが皆、ヒナタを信じるという点では同じ気持ちであるようだ。

 

信頼関係があってなによりなにより。

 

リムル「ならいいけど」

 

リムルが頷くと、アルノーが上を指し示して言葉を重ねる。

 

アルノー「それにですね、アレを見ちゃうとですね……」

 

言葉を濁しているが、言いたい事はわかる。

アレ、ね。

 

俺達の頭上では、たった今、ルミナスとヴェルドラの壮絶な戦いが行われていた。

 

正直、迷惑なので止めて欲しい。まあ、俺が

結界で防いでるから被害は出ないだろうけど。

 

アルノー「あれでは、ヒナタ様が敗北したというのも納得です」

 

リティス「神を名乗るだけはありますわ。確かにあの方が人類の敵に回ったら、私達では打つ手立てがありませんわね…」

 

聖騎士団の面々には、言葉よりもその光景の方が、説得力が大きかったようだ。

そんな一同に、ルイが口を開いて告げる。

 

ルイ「安心するがいい。ルミナス様は寛大な御方だ。その庇護下にある者を虐げるような趣味などお持ちではない故に、敵対せぬならば人類とも友好な関係を築けるであろう。ただし、その正体を口にする事は許さぬが、ね」

 

神ルミナスが魔王であると口外するなと、ここでキッチリと釘を刺している。

 

まあ、ヴェルドラのせいでルミナスの正体がバレたのだから、俺達としても協力する事に否やはないのだ。俺達は協力するとして、聖騎士達だが……。彼等としても、この件を秘密にすると納得したようである。

 

ヒナタがそれを望んでいるというのが理由みたいだし、俺達が思っていた以上にヒナタは慕われているみたいだ。

 

これなら、心配する必要はなかったな。俺から見るとヒナタは、無愛想で言葉足らず、誤解されそうな性格という印象で…え?やっぱこの人雪ノ下二世だよね?

 

ヒナタ「君、何か失礼な事を考えていなかった?」

 

そういうエスパー的なとこまでよく似てらっしゃることで…。

 

エイト「そんなことないっての…」

 

ここは誤魔化せばいい話だ。と、俺が一人で納得していると…

 

凄い勢いで上空から落ちてきたヤツが、地面に激突して大地を扶った。なのにそのまま平然と立ち上がり、俺達を見て駆け寄って来た。

 

言うまでもなく、ヴェルドラだ。ヴェルドラは俺達の後ろに回り込むと、俺達を盾にして上空を脱む。

 

そしてヴェルドラの視線の先には、銀髪の美しい少女が一人。怒りの形相でこちらを脱みつけ、ゆっくりと空を飛んで降りて来た。

 

ヴェルドラ「り、リムル…エイトよ!あの頑固者を説得してくれ!我が寛大にも謝ってやったというのに、ヤツは聞く耳を持たぬのだ!」

 

ああ、はいはい。そこで俺達を巻き込むのは止めて欲しい。

 

本当に。今回ばかりは、ヴェルドラが悪い。

 

いや、考えてみれば、ヴェルドラが悪くなかった事があっただろうか?ヴェルドラが復活したのは最近なのに、かなり迷惑をかけられている気がするが…。

 

俺も見ていたけど、ヴェルドラの謝罪の仕方では、逆にルミナスを怒らせるようなものだった。

 

何せヴェルドラは、剣を納めようとしたルミナスに向かって……

 

ヴェルドラ『クアハハハ。あの時は我も悪気はなかったのだ。若さ故の過ちというヤツだからして、お前も寛大な心で我を許すが良いぞ!』

 

などと言い放ったのである。これにルミナスは激怒した。

 

 

ルミナス「そのトカゲをこちらに渡せ」

 

と、身の毛のよだつ様な声で俺に迫り、俺の後ろで踏ん反り返るヴェルドラを睨みつけたのである。正直、こんな事でルミナスと敵対したくない。それに、彼女の気持ちも理解出来る。

 

あれは断じて謝罪ではないし、ヴェルドラも少しは痛い目に遭って反省すべきだと思った。

 

エイト「ほい」

 

俺はヴェルドラの首を掴んでルミナスに引き渡した。

 

ヴェルドラ「げえぇ!?裏切ったな、エイト!」

 

エイト「いや、裏切るも何も、間違いなくお前が悪いよな?」

 

リムル「よくやったエイト」

 

こういう事はハッキリさせておくに限る。

 

ルミナスとの間に禍根を残さぬ為にも、ここでハッキリと白黒つけるべきだ。

 

まあ、付けるのはルミナスとヴェルドラだからな。俺たちを巻き込むな。

 

ルミナス「うむ。お主は中々に物分かりが良いようじゃな、魔王エイトよ。そこのトカゲとは大違いじゃ」

 

エイト「いや、そんなことねえよ。今回はコイツがかなり迷惑をかけてたみたいだし。気が済むまでお灸を据えてやってくていいから、それで許してやってくれると助かる」

 

ルミナス「ふむ、考慮しよう」

 

ルミナスはニヤリと笑って頷いた。

そして、俺とルミナスの間で和解が成立したのである。

 

ヴェルドラ「ちょっと待て!我の、我の意見も聞くべきであろうが!?」

 

と、何か言っているが俺達は全く聞いていない。

 

「では今までの恨み、晴らさせてもらうぞ。

[生と死の抱擁](エンブレイスドレイン)」

 

ルミナスがヴェルドラに抱きついたように見えるが、甘い雰囲気など欠片もない。

 

体格差があるが、一種のベアハッグである。

 

もちろんそれだけでヴェルドラにダメージが入るわけがない。だが…

 

叡智之王『解。対象から生気(エナジー)___つまり、魔素(エネルギー)を吸収すると同時に[激痛]と[不快感]を情報として逆流出させている模様。これは情報を遮断しない限り、[痛覚無効]と関係なく"魂"に刻まれてしまうでしょう』

 

お、おお…恐ろしい技だな。精神生命体であるヴェルドラさんでもこの攻撃は"痛い"と感じてしまうのか…。

 

ルミナスの攻撃はしばらくの間続けられた。

 

ヴェルドラが泣き叫び、悲しそうな瞳でこちらを見てくるが、材木座に若干似てたので可哀想などとは微塵も思わなかった。

 

ルイ「___まあ、ルミナス様も楽しそうだったからね。ここ最近の鬱憤も晴れるだろうし、私としても嬉しいよ」

 

無表情のまま言われてもねぇ……。

 

ヒナタ「そうね。ロイを殺した勢力が不明である今、貴方達とまで敵対したくなかったもの。ところで気になっていたのだけど、まさか彼って___」

 

ルイの言葉に頷いたヒナタだったが、ヴェルドラに視線を向けて戸惑うように口ごもる。

 

ああ、そう言えば紹介がまだだったっけか…。

 

リムル「あれはヴェルドラだよ。竜の姿じゃなくてわかりにくいだろうけど、本人で間違いない。今は取り込み中みたいだし、また後でゆっくり紹介するよ」

 

ヴェルドラ「ま、待でリムル!今、今紹介を」

 

ルミナス「ほう?まだ余裕がありそうじゃな?」

 

ヴェルドラ「ヲボボボボォッ__ッ!?」

 

逃げようとしたヴェルドラだったが、そこから更にルミナスの攻撃が苛烈になったみたいだ。

 

エイト「(憐れめ…)」

 

ヒナタ「あれが、ルミナス様が警戒していた”暴風竜“だというの?確かに、凄まじいまでの力は感じるけれど……」

 

とは、呆れたようなヒナタの呟きだ。

 

まあな。今のヴェルドラさんは、かなり滑稽だよな。とても恐ろしい天災級モンスターとは思えん。

 

他の聖騎士達も同様に感じたらしく、誰もが戸惑いの表情を浮かべていた。

 

「し、信じられん……」

「あれが?我等が恐れていた”暴風竜“__」

「嘘でしょう……?ちょっと可哀想に思えるんですけど?」

 

中には、ヴェルドラの見た目に騙されている者もいるようだ。

 

リムルの『分身体』__つまり、若き日のシズさんを基本にしているだけあって、ヴェルドラも黙っていれば美男子なんだよな。

 

それが悲しそうな瞳で救いを求めているから、女性の中には絆される者もいるのだろう。

 

だが、騙されてはいけない。そいつは、甘やかしたら付け上がる生き物だ。

今の内に厳しく躾けておかないと、今後困るのは俺達だ。

 

叡智之王『告。暴発しそうになっていた

"暴風竜"ヴェルドラの妖気(オーラ)が安定値まで減少しました』

 

エイト「(えっ?マジ?)」

 

ヴェルドラをルミナスに預けてよかったわ。

詫びとして渡したのに、こっちとしても得を得てしまった。

 

すると、リムルが話し出す。

 

リムル「さて、取り敢えず場所を移そうか」

 

そんなわけで、聖騎士達を町まで案内することになった。



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35話:寿司職人エイト

〜魔国連邦:首都リムル〜

 

町の入り口ではリグルドが出迎えてくれた。

先にソウエイを走らせ連絡しておいたので、

慌てて駆けつけてくれたようだ。

 

時間的には余裕があったと思うが、そこらリグルドの性分だろう。走るのが好きらしい。

 

リグルド「ようこそ皆様。歓迎致しますぞ!」

 

朗らかに笑って、聖騎士達を招き入れるリグルド。

 

リグルド「食事を用意させますので、何か食べれぬ食材があれば申し出て下さい」

 

ヒナタ「あ、いや。そこまでお世話になるのは…」

 

リムル「まあまあ、遠慮するなって。詳しい

話し合いは明日にすればいいし、今日は取り敢えず、和解の宴と洒落込もうじゃないか!」

 

ヴェルドラ「おお、宴か!それは良い案だな。

当然、酒は出るのであろうな?」

 

ルミナスにお仕置きされていた筈のヴェルドラは、嬉しそうにリムルの言葉に食いついた。

 

心配はしてなかったが、やっぱり無事なのね。

 

ルミナス「ふむ。その宴とやら、当然妾も招待してくれるのであろうな?」

 

うお!?…いつの間に来たんだよ…。

 

気配もなく俺の隣にルミナスが迫ってきた。

 

リムル「それはいいけど、ルミナス、殿?」

 

ルミナス「気色悪い。ルミナスと呼ぶが良い」

 

リムル「それじゃあ、ルミナス。俺の事もリムルと呼んでくれ。それで、ヴェルドラの事なんだけど…」

 

ルミナス「許さん。許さんがしかし、今日来た目的は妾の配下の尻拭いじゃ。リムル、エイトよ、貴様らの顔を立てて、そのトカゲを制裁するのはまた後日にするとしよう」

 

これで一件落着……と、思ったのだが…

 

ヴェルドラ「何ぃ!?もう十分であろうが!」

 

ルミナス「うるさい、黙れ!妾としても譲歩しておるのじゃ。何なら今から、雌雄を決してやっても良いのじゃぞ!」

 

ヴェルドラ「クアハハハ!面白い。我の進化した力を見せ付けて__」

 

エイト「止めろ馬鹿。ここで暴れるのは禁止だ」

 

こういう時に権力というのは役に立つ。俺とかリムルの言葉一つでルールが作れるからな。

 

まあ、そんなわけでルミナスはヴェルドラから大量の魔素(エネルギー)を奪った事で、一応は満足したらしい。これで当分は矛を収めてくれるだろう。

 

宴に参加してくれるのなら、精一杯饗すのみだ。

 

リムル「俺達の宴会だけどさ、魔王達の宴(ワルプルギス)で出たような豪華なコース料理じゃないけど、それでもいいかな?」

 

エイト「いやいや、ちょっと待てリムル」

 

リムル「ん?何かあるのか?」

 

エイト「一体いつから、魔王達の宴で出たようなコースを俺が出せないと錯覚していた?」

 

リムル「は?どゆこと?」

 

エイト「貴族用にシュナと開発してた和食のフルコースが完成したんだが、五人前くらいなら作れるぞ?」

 

丁度ルミナス、ヒナタ、ルイ、リムル、ヴェルドラで五人だろうし、全員に出すのは難しいがこのメンバーなら文句もないだろう。

 

リムル「いいのか?食材とか集まってるんだっけ?」

 

エイト「いや、大半はあるけど足りない分は今から取ってくる。今度の祭りに向けて試食してもらおうかと」

 

リムル「…わかった!それじゃあよろしくな」

 

ヒナタ「(和食のフルコース……気になるわね。というか何でこの世界でそんなもの開発しているの…?)」

 

ルミナス「ほう、妾達には何かすごい物を出してくれるのじゃな?」

 

エイト「期待して待っててくれ」

 

俺としては魔王達の宴の料理にも引けを取らないと思ってる。まあ、あっちは西洋風だが、この世界に少ない…というかあるのか謎の和食をここでは出すのだ。その時点で相当すごい。

 

ルミナス「酒の方も珍しい物が揃っているのであろう?そこのトカゲが楽しみにしておるようじゃし、妾としても期待するとしよう」

 

ルミナスは宴に参加する気が満々なようだ。

 

ギュンター「ルミナス様、それは無用心なのではありませぬか?」

 

そんなルミナスに、付き従っていた老齢の執事がそう声をかけた。老齢と言っても、それは外見だけの話。背は真っ直ぐと姿勢が良く、その気配から只者ではないと察せられる。

 

少なくとも、その執事の隣に立つルイに匹敵するだろう。

 

ルミナスは不機嫌そうに、その男を一瞥した。

 

ルミナス「フンッ、ギュンターよ。貴様はいつも煩いのう。だから連れきたくなかったのじゃ」

 

ギュンター「それが私の務めで御座いますれば…」

 

ルミナス「まあ良いわ。そこのエイトも話のわかる者のようじゃ。ここでヴェルドラと雌雄を決する訳でもなし、心配する事など何もあるまい」

 

ギュンター「ですが__」

 

ルミナス「くどい!古き魔王である妾に、指図するでないわ!という事で、そなたは先に戻っているが良い」

 

ルミナスが激しい気性を見せてそう言うと、ギュンターと呼ばれた老執事は困ったように溜息をついた。

 

ギュンター「それでは、私は先に戻っております」

 

その言葉にルミナスは笑みを見せる。

 

ルミナス「うむ、御苦労じゃったなギュンター。この場にはルイとヒナタもおるし、そなたは心配し過ぎなのじゃ」

 

ギュンター「姫が心配なのは、仕方ないでしょう」

 

そう返答しつつ、ギュンターはルイに視線を向けた。

 

ギュンター「それでは、後の事は頼みましたよルイ」

 

ルイ「心得た」

 

ああ、この二人は毎回ルミナスに振り回されている感じなのだろう。

 

ルミナス「さて、煩いヤツはいなくなったのう。これで存分に、宴を楽しめるというものじゃ!」

 

こうしてルミナスの勢いに飲まれて、ヒナタを筆頭にした聖騎士達も強制参加が決定した。

 

 

リグルドは空気を読んだのか、パンパンと手を叩いてから指示を出し始めた。

 

それを受け、待機していた町の住民達がテキパキと動き始める。

 

馬を預かる者、武器や防具を預かろうと、聖騎士達に近寄る者。

 

怪我をしている聖騎士に、回復薬を配っている者もいる。

 

そして聖騎士達の方も、ヒナタを信じるという言葉は本当だったようだ。

 

ヒナタが素直に従ってみせたので、疑いもせずに武器を預けていた。回復薬を試したのか、

その効果に驚いている者もいる。

 

もっと揉めるかと思ったが、案外上手く落ち着いたのである。

 

〜〜〜

 

「それでは、食事の準備が整うまではもう暫くかかるかと思われますので、先に風呂に入り、身の汚れを落とされてはどうでしょう?勿論、休憩室の用意は整って御座いますので、そちらで寛がれるのも御自由にどうぞ」

 

言われた方の聖騎士達は、意味がわからないという表情を浮かべていた。

 

風呂の習慣はイングラシア王国にもあったし、言葉の意味を知らないわけではないだろう。

 

ヒナタ達は街道の宿屋を利用していたらしいし、そこにも風呂はあったからな。

 

魔物が風呂を利用するなどと、想像していなかったのかも知れないな。

 

リムル「(ふん、せいぜい驚くがいいさ!)」

 

なんかリムルがドヤ顔をかましているが…そんな事はどうでもいい。

 

 

うちには温泉街にあるような、様々な種類の風呂を用意してある。

 

何しろ自慢だが、王都の風呂よりこの国の風呂の方が出来がいいのだ。風呂というより温泉だし、大浴場から自慢の露天風呂もあるのだ。

 

いい宣伝になりそうだな。

 

あとは着替えだが…

 

ハルナ「お任せください。シュナ様が既に手配して下さっております」

 

どうやら、俺が心配するまでもなかったようだ。なら、さっさと行くか。

 

リムル「それじゃあ皆さんも、我が国自慢の風呂を楽しんで下さい。源泉から引いた温泉になっているので、疲れも取れますよついでに、美肌効果も抜群です」

美肌効果も抜群です」

 

ちゃっかりと宣伝するリムル。

 

これにルミナスが食いついた。

 

ルミナス「ほう、風呂とな?それに、美肌効果とは興味深い。妾が利用する個室は、この国で最上のものを用意しておるのじゃろうな?」

 

とそこで俺は思い至った。技術大国のドワーフ王国でも、個人用の蒸し風呂がメインだった。

 

大勢が利用するような風呂などなかったのだ。

 

イングラシア王国には大衆浴場があったけど、ブルムンド王国にはなかった。何しろ、庶民は生活魔法の浄化で、水浴びしなくても清潔だったし。

 

ちょっとした小銭で浄化してくれる者が、どこの街にも居たのである。つまりこの世界では、お湯を沸かして入る風呂は一般的ではないのだ。

 

”異世界人“が多く住む大国の上流層のみが、

贅沢品として個人用の風呂を所持出来る程度なのである。我が国では個人の家にも風呂が常設されているので、ついついそれを失念していた。

 

ルミナスも王侯貴族が利用するよう個人風呂を想像したのだろうが、生憎とそんなもの内にはない。

 

リムル「いや、皆で入る風呂があるんだよ。男と女は流石に別だけどね。もしも希望するなら混浴場もあるから、そっちを利用するのも止めないけど……?」

 

ルミナスの思い込みを是正すべくリムルはそう答えたのだが、それに反応したのは別の者達だった。

 

アルノー「ッ!?」

 

レナード「何ですと!?」

 

「ほほう……」

 

アルノー以下聖騎士の男達が、目をキラリと輝かせてリムルを見たのだ。

どの世界でも男は変わらないようである。

 

リムル「うむ。興味があるなら、そっちに_」

 

と言いかけたリムルだったが、ヒナタの冷たい視線に気付いて押し黙った。

やっぱりな。ヒナタが許すわけがない。

 

ヒナタ「ルミナス様、女風呂へ向かいましょう。私も温泉は久しぶりなので、とても楽しみです」

 

ルミナス「ほう?ヒナタがそう言うのなら、妾にも異存はない」

 

流石ヒナタ。ルミナスは性別など気にしないからどうでもいいんだろうけど…ヒナタがそこら辺をちゃんと管理しているらしい。

 

リムル「それじゃあ女風呂に案内するよ」

 

エイト「」

 

ヒナタ「ちょっと待ちなさい。何で貴方が、

私達を案内しようとするのかしら?」

 

リムル「何でってそりゃあ、案内は必要だろう?」

 

[自由之王]による"真偽確認"。俺の目には

リムルの言葉が"嘘"だと映ってる。

 

うん、こいつただヒナタの裸が見たいだけだ。

 

リムル「だって君達、知らないじゃん。それに各種効能別に浴槽も分かれてるし、サウナだって完備している。やはりここは__」

 

エイト「やめろ馬鹿」ゴンッ

 

俺はリムルの頭に手刀を落とした。

 

リムル「な、何するんだよエイト!」

 

エイト『ヒナタに嘘が通じるわけないだろ』

 

俺は気を遣って、[思念伝達]を使ってリムルに教えた。

 

リムル『っ…い、いや、まだそれは…(というか何でバレてるの!?)』

 

ルミナス「ふむ、それならばエイトでよかろう?」

 

エイト「…は?何で俺?」

 

ヒナタ「…ルミナス様が言われるのであれば。それに、君はリムルと違ってデリカシーはあるし前は男だったという感じがしないからね」

 

エイト「いや、無理」

 

即答。即答である。いや、だって…殺される。俺は殺されてしまうよそんなことしたら。主にシュナとリムル。

 

ルミナス「妾の頼みが聞けないとでも?」

 

エイト「うん、無理」

 

マジでやばい。多分この会話聞かれてるし…

 

リムル「おいエイト」

 

エイト「今度はなんだよ…」

 

リムル『俺が行けなくて、誘われてるんだぞ?それをわざわざ逃すのは俺に失礼なんじゃないか?』

 

俺を対象に[魔王覇気]を解放するのはやめてもらっていいですかね?

 

エイト「何で俺こうなってるんだろう…」

 

何故か味方からナイフを突きつけられてる感じがする…そして、目の前に立ちはだかるのは…

 

シュナ「エイト様」ニコッ

 

エイト「え?何でいるの?」

 

思っただけなのに本当に立ちはだかるとは…。

 

どうやって来たかはわかる。恐らく俺の影を通って来たのだろう。

 

にしても行動が早すぎだろ……。

 

ルミナス「誰じゃ?」

 

シュナ「シュナと申します。エイト様の専属秘書をさせて戴いております」ペコリ

 

エイト「(俺帰ろうかな…)」

 

リムル「シュナは食事の準備をしてたんじゃないのか?」

 

シュナ「はい。ですが…少し予定が変わりまして」

 

エイト「いや、俺行かないからな?断ってるからな?知ってたよな?」

 

シュナ「質問は一つに絞って下さい」ニコッ

 

怖いよその笑顔…エイト泣いちゃう。

 

ヒナタ「その子はエイトの恋人か何かかしら?」

 

エイト「え?そうだけど?」

 

ヒナタ「そう。なら仕方ないわね。ルミナス様。あの者に案内してもらいましょう」

 

ヒナタが指名したのはシオンだ。

 

リムル「いや、シオンだけでは頼りな__」

 

ヒナタ「そんなだから彼女ができないのよ。

少しはエイトを見習ったらどうかしら?」

 

リムル「ぐはっ…」ドサッ

 

エイト「(憐れめ)」

 

まあ、その後シオンはアッサリと案内を引き受けてくれた。

 

リムル「はぁ…俺は久しぶりに男風呂に入るか」

 

エイト「俺は食材の確保に行ってくるから。

ゆっくりしててくれ」

 

リムル「…どこに行くんだ?」

 

エイト「海」

 

リムル「ユーラザニアのか?」

 

エイト「ああ、ユーラザニアが漁で使ってるとこより沖に出て魚を取ろうかと」

 

リムル「まあ、美味しいの期待してるから。

頼むぜエイト!」

 

エイト「おう」

 

シュナ「厨房の準備は整えておきます。来賓用のメニューでよろしいですね?」

 

エイト「いや、最近作ったもう一つ上のを四人前作りたいんだ。そっちの準備を任せてもいいか?」

 

シュナ「!…わかりました」ニコッ

 

エイト「ありがとうな」

 

俺はシュナの頭を撫でると、海の方に[空間移動]をした。

 

シュナ「///」

 

リムル「(はぁ…俺にはいつ彼女ができるのやら…)」

 

〜〜〜

 

エイト「それじゃあ、やるか」ドボンッ

 

俺は海の沖の上に出ると、中に潜った。

 

エイト「(…そういえばここって異世界の海だから……)」

 

「グォオオッ!」

 

エイト「(はい、さっそく来ましたー)」

 

やって来たのはデカいタコのようなやつだ。

いや、足が四十本くらいあるしタコじゃないな。

 

叡智之王『解。対象は海中100m前後に生息する"化蛸族"(オクター)です。脅威度は災害級(ハザード)。自由組合の基準でA級になります』

 

エイト「(そこそこ強いのな)」

 

まあ、気にするのはそこじゃない。こいつは元々の予定にないヤツなわけだし…味の方は…

 

叡智之王『情報がないので直接食べることをお勧めします』

 

おお、了解だ。

 

化蛸族は黒いスミのような物を出す。

 

叡智之王『対象の攻撃から毒の成分を感知しました』

 

エイト「(俺に毒は効かないからなぁ…)」

 

俺はタコを結界で囲み、水を箱に回収。

 

「!?」

 

エイト「(炙り焼きだな)」

[青炎]

 

生きたまま一瞬にして焼き上げた。

 

俺は結界の中に入る。

 

エイト「味見味見…」パクッ

 

俺は足の一部を一口サイズに斬り、口に入れた。

 

エイト「宴に出すにはな…まあ、美味いけど。お土産に持ち帰るか」

 

俺は箱にタコをしまい、海に戻った。

 

エイト「(いつまでもこうしてはいられない。先ずは予定の食材調達だ)」

 

俺は万能探知を使って獲物を探知、結界で覆って俺の方に持ってくると海の中で内臓を処理して箱に閉まっていく。

 

エイト「(この方法だとめちゃくちゃ新鮮な魚が手に入るよな)」

 

相変わらずこの世界は便利なことが多い。科学的な進歩が遅いが、魔法のおかげでそれ以上の事ができたりする。

 

エイト「(大漁大漁)」

 

鯛みたいなやつに鮭みたいなやつ、鯖みたいなやつに鯵みたいなやつに、なんと鰻っぽいやつまでいる。

 

エイト「(まあ、どれも見た目は違うし味が似てるだけなんだけど…)」

 

うっかり前世の常識のまま見た目で判断してまうと毒料理を出してしまいかねない。

気をつけねば…。

 

と、そんなことを考えているうちに予定の数が揃った。

 

エイト「(取り過ぎはよくないからな。使う分だけ取ったら、それだけだ)」

 

俺は海から出ると、魔国連邦に戻った。

 

 

 

〜リムルside〜

 

早風呂を済ませた俺は、先に準備状況を確認する事にした。

 

場所は宴会場。

 

これだけ宴会が多いのだから用意しておこうと思い、急逮作らせたばかりの出来立てほやほやの建物だ。見た目は円形ドーム。

 

体育館のような広さがある。中に入ると、畳敷きされた吹き抜けの空間が広がっている。いざという時は避難所を兼ねるので、結構な人数が入れるのだ。

 

場所だけはかなり余ってるので、それなりに頑丈で大きな建物を用意した骨組みは鉄骨製だけど、時間が経てば”魔鋼“に変質してくれると思う。

 

そういう点で考えると、この国は凄く有利なんだよね。何せ、魔素量が豊富な魔人が多いのだから。

 

そんな事を考えていると、食事が膳に載せられて運ばれてきた。高級料亭で出されるような、結構手の込んだ茶碗が並ぶ。

 

俺が暇な時に粘土を捏ねて茶碗を焼いて見せたのだが、それを子供達が真似し始めた。それがきっかけとなって、今では結構な力作も多い。

 

色をつけるのに薬草の汁を塗ったり、何やら怪しい鉱石を取ってきて粘土に混ぜたりして、

色鮮やかな出来栄えの物もあるくらいなのだ。各家庭の茶碗は、子供達が作ったものが使われているのである。

 

何でもやってみるものだ。

 

運ばれる膳も、それなりに細工が細かく施された一品物である。

 

加工木材の余った部分を利用して、ドルドに作ってもらったのだ。

 

それも子供達が真似するようになり、今では遊びの一環として工作の時間が設けられていた。こうして見ると、温泉から料理の器にいたるまで、俺とエイトの趣味が諸々に反映されている。

 

草を食べていた当初から思えば、考えられないほどに快適な生活が出来るようになったものだ。

 

味も楽しめるようになったしね。

 

やはり、自分の為になると思うからこそ、頑張れるのだろう。

 

リムル「(さてと…)」

 

エイトが本気で料理を作るらしい。正直超楽しみだ。聖騎士達にもそれなりに高い水準の食事を用意しているわけだし、それを超える我が国一番の料理を持ってくると言うのだ。

 

俺も食べた事なかったし、何が出てくるのか。

 

空くはずのないお腹が鳴っている気がする。

 

食文化の発達に力を注いできたが、ここまで来れたのは間違いなくエイトとシュナの活躍だろう。

 

ギィの用意した料理だって西洋風のフルコースだったし、イングラシアにも和食系はなかった。この国は今食文化の最先端に立っていると言っても過言ではないのだ。だが…

 

目下の課題は白米だ。未だに納得のいく味まで改良が進んでいない。エイトでさえも行き詰まってるレベルだ。まあ、時間はかかるけど、

ほぼ確実にできるらしい。

日本みたいに時間をかけて品種改良をしなければいけないっぽいな。やはり日本米はすごい。

 

 

てな事を考えているうちに配膳も終わり、後は風呂を上がってくる聖騎士達を待つだけとなった。

 

 

〜〜〜

 

エイト「これはリムル達の席に配膳しといてくれ」

 

シュナ「わかりました」ニコッ

 

聖騎士達もやって来たので、そろそろ宴会が

始まるだろう。

 

 

 

〜リムルside〜

 

宴会場の座席はコの字になるように並べられてある。上座には三つの座席。俺を中心に、左右にヴェルドラとルミナスが座る。その席からは皆を見渡せるようになっていた。

 

向き合うように、我が町の幹部達と聖騎士達が並ぶ形だ。親睦会という意味合いもあるので、互いの顔が見られるように配慮してある。

 

そして、宴会場に聖騎士達が案内されて入って来た。風呂から上がった聖騎士達は、用意されていた浴衣や甚平を身に着けている。

 

着慣れぬ服だったろうに、一度その着心地を確かめると気に入った様子。

 

 

恐る恐るという様子で座席まで案内された聖騎士達だったが、テーブルや椅子がない事に戸惑っているようだ。それ以前に、素足で畳を歩くのも困惑しているっぽいね。

 

文化の違いなので、戸惑うのも無理はない。

 

案内の女性達(ゴブリナ)に緊張はなく、自然な動作であった。驚くほど手慣れている。ベスターからの教育の賜物だ。

 

そうした事実も、聖騎士達にとっては驚きなのだろう。気まずく思っている雰囲気が見受けられた。

 

先頭に立つのはルミナス。優雅な仕草で、上座で待つ俺の隣に座る。続くのは、ルイだったか。魔王役だったというロイと瓜二つだし、法皇としての貫禄はある。そして、三番目がヒナタ。

 

ヒナタは席に座るなり、意を決したように俺を見た。

 

ヒナタ「貴方たちには多大な迷惑をかけたわね、心より謝罪します。前回にしろ、今回の件にしろ、私の独断で行った事。ルミナス様の指示ではなく、まして部下達に責はない。私の身一つで許してもらえるとは思ってはいないけれど____」

 

リムル「ああ、ストップ!」

 

俺に向かって頭を下げようとしたヒナタを、俺は慌てて止めさせる。

 

前回はともかく、今回は誤解だった。

 

黒幕は”七曜“だし、それはエイトが断罪している。ファルムス王国の方でもディアブロが始末したみたいだし、俺としてはこれ以上問題にするつもりなどないのだ。

そう思って居ればヒナタを止めた。

 

リムル「ヒナタ……誤解が解けたのならそれでいいって。どうせなら、魔物だからと偏見を持つのを止めてくれればそれでいいよ」

 

ヒナタは一瞬迷うような表情を浮かべたが、何も言わずに頷いた。

 

リムル「まあ、簡単には信じられないのもわかるよ。相手の本心なんてわからないんだし、

狡猾な魔物もいるみたいだしな。人類の守り手が、簡単に蝙される訳にもいかないだろうさ」

 

ヒナタ「そうね。会話は相互理解への第一歩だけど、危険な取引にもなる。言質を取られ、魂を束縛される危険もあるのよ」

 

リムル「だろうな。だから、魔物全てが悪だと決め付けないでくれれば、俺達はそれでいいさ。疑わしいなら、俺達で預かるよ。人類社会では受け入れられなくても、この町なら大丈夫だからね」

 

ヒナタ「わかったわ。直ぐに考えを改める事は難しいけれど、魔物を悪として断罪するのは禁止にします。宜しいですか、ルミナス様?」

 

ルミナス「そのような瑣末な事など、どうでも構わぬ。ただし、妾への信仰に疑いを持たれるのは許さぬぞ」

 

ヒナタ「承知しました。その点は、全てに優先させて遵守させます」

 

ルミナスも納得したようだ。神聖法皇国ルベリオスが神ルミナスヘの信仰の上に成り立つ国である以上、そこに疑いを持たれるのは根幹が揺らぐ事態となる。

 

西側諸国にも多大な影響力を持つ宗教なのだし、慎重になるのも当然か。

 

寧ろルミナス本人の方が、自身の影響力を軽く見ている気がするね。口では許さぬとか言いながら、どうでも良さそうな感じに見えるのだ。

 

ヒナタ「あなた方にも謝罪を。今後は、魔物だからと敵対視しないと約束するわ」

 

そう言って、ヒナタは深々と頭を下げた。

 

そんなヒナタの行動に、慌てたように他の聖騎士達も追随する。

 

思い込みが解けたのだと__

一斉に「「「「済まなかった!」」」」

と、頭を下げて謝罪したのだ。

 

リグルド「気にする事はありませんぞ。我等も、リムル様より命じられていなければ、人間共は敵だと思っておりましたからな」

 

ベニマル「俺としては、貴女が敵に回らぬだけで十分だ」

 

リムル「シオン、お前もさ、許してやってくれよ。お前の痛み、お前の怒りはわかる。だけど、人間の全てが邪悪って訳じゃないんだよ。中には悪いヤツもいれば、いいヤツもいる。

それだけの話なんだ。それは魔物も一緒で、よく見極めないと駄目なんだよ。それに、人間は間違いを克服出来る生き物だ。それは人間だけじゃなく、俺達だってそうだろ?大事なのは、魂の有り様なんじゃないかな?」

 

人と魔物。そうした区分でわけるのではなく、その者の生き様、魂の在り様こそが重要なのだ。シオンにも、それをわかってもらいたい。

 

そう思って俺が声をかけると、シオンは更に

迷う素振りを見せた。彼女にとって、人間は邪悪なものなのだろう。だが、全ての人がそうであるとは思って欲しくなかった。

 

今は俺の命令に従っているけど、何時どのタイミングで不満が暴発するかわからない。

 

それでは駄目なのだ。命令されたから従うのではなく、自分の意思で考えて行動して欲しいのである。そう思っていた俺だったが、心配し過ぎだったようである。

 

シオン「わかりました!良き者や悪しき者、私もリムル様と同様に、”魂“を見て判断する事に致します!」

 

そしてシオンは、俺に向かっていい笑顔を見せたのだった。

 

俺は別に人の”魂“なんて見られないのだけど、シオンが納得したのならそれでいいだろう。

 

紫克衆も、それで問題ないようだ。聖騎士達に対してもわだかまりはないようだし、シオンと同じく自分の意思で考えて、人の善悪を判断してくれそうである。

 

気のいいヤツ等だ。俺の自慢の仲間達なのだ。謝罪を受け入れ、過ちは水に流す。許せる範囲と許せぬ範囲の境界は難しいが、今回は上手く仲直り出来た。

 

これで、一つ和解が成立したのである。

 

〜〜〜

 

シュナ「食事の準備が整いました。リムル様」

 

シュナはリムル達の机に前菜を並べた。

 

リムル「ありがとう。シュナ」

 

そんな訳で全員が席についた。これ以上待たせるとヴェルドラがもっと不機嫌になるので宴会に突入しようと思う。

 

そんな訳で乾杯する。

 

リムル「それでは、互いの健闘を称えあって、乾杯!」

 

という俺の適当な挨拶で、宴会が始まったのである。

 

 

リムル「あいつ本気だな……」

 

つい言葉が溢れてしまう。前菜から始まるこのガチ感はそう簡単に演じれる物じゃない。

 

ヒナタ「…」パクッ

 

用意されている酒は様々だが、先ず最初に注いだのが日本酒だ。

 

そして、それに合うように俺たちのメニューが組まれている。あれ?エイトって未成年でこっち来てたよね?なんでそんなこと知ってるの?

 

 

聖騎士達に出している料理は天麩羅がメインで、刺身なんかもある。

聖騎士達は口に入れるなり、食事の美味さに感嘆しているようだ。

 

と、俺が内心でほくそ笑んでいると…

 

ヒナタ「貴方ね、これはやり過ぎなんじゃないの?」

 

リムル「何がだよ!?」

 

ヒナタ「ここに来る途中でも、なりたけを完璧に再現した店があったわ。水場で水を無料で配っていたり、僻地のはずなのに大浴場があったり。そして今回はこれ。前の世界でもこんな高級料理食べたことないわよ。それに、何で大森林のど真ん中で、こんなに新鮮な刺身が出るのよ!山菜の天麩羅までは頑張って納得したとしても、これはどう考えても可笑しいでしょう!?」

 

エイト「食べたかったんだから仕方なーだろ」

 

リムル「あ、エイト」

 

ヒナタ「…なんですって?」

 

エイト「いや、だから…俺たちが食べたかったからだよ。今回の魚は俺がユーラザニアの方の海まで行って、捌いてからスキルに閉まって持ち帰って来た」

 

ヒナタ「魔王がそんな風に出歩いていいのかしら……まずまず魔王の手料理が出ている時点でおかしな気もするのだけど…」ハァ

 

ヒナタはどこか諦めたような顔をした。

 

ルミナス「まあ良いではないか、ヒナタよ。

どういう理由があるにせよ、これが中々美味であるという点は事実なのだ。少なくとも、妾は気に入ったぞ」

 

ルミナスが若干目を輝かせながら言った。

気に入ってくれたようで何よりだ。

 

俺は和食のコース料理の順番に従って料理を出していく。まあ、酒を楽しむのがメインな所もあるので、ルミナスとかは酒を飲みまくっている。

 

リムル「完璧過ぎて文句が言いたくなってきたんだが…」

 

エイト「お前もかよ」

 

ヒナタに続いて、リムルまで…。食文化に力を入れるって言ったのはリムルだろう。俺もそう思ったが、少なくとも言い出したのはリムルだ。

むしろここまでやったことを褒めて欲しいレベル。

 

リムル「俺前はこんな美味い刺身とか寿司とか食べれなかったんだけど…ただのゼネコン勤務のサラリーマンだったし…」

 

エイト「俺なんて高校生だったからな。大体親父達がこんな高価なもの俺に食わせてくれるわけないし、もしあっても食べるのは妹だっただろうな」

 

ヒナタ「私もね。久しぶりにこっちに来て良かったと思ったくらいだよ」

 

ルミナス「…」パクッパクッ

 

エイト「(あれ?ルミナスさんが意外と料理に集中しているんだが…)」

 

リムル「(寿司が気に入ったのか?)」

 

ルミナスが口に運び続けているのは種類豊富の寿司だ。俺の記憶から適当に握ってみたのを、叡智之王の解析と俺の反復練習を合わせることで、時間は相当かかったが最近納得のいく味まで仕上がった。

 

白米の味がイマイチだが、酢飯にしてネタと醤油を付ければそこまで気にならない。

 

握り方とかも工夫して、それ以外のところで

カバーできるからだ。

 

リムル「改良途中の白米をここまで美味しくするなんて、エイトって寿司職人の才能でもあったのか?」

 

エイト「かもな。自分でも驚くレベル」

 

リムル「あ、まだ米と魚は余ってるんだろ?」

 

エイト「?…まあ、余ってるには余ってるぞ」

 

リムル「それなら、あの"例"のやつここに出して、目の前で握ってやったらどうだ?聖騎士達の皆にも」

 

エイト「えぇ……」

 

ルミナス「エイトよ。妾からも頼もう。これのおかわりが欲しくなってきよった」

 

エイト「はぁ…わかったよ」

 

厨房はシュナに任せよう。予定のメニューは大方出し終わったし、いい宣伝にもなるからな。

 

俺は"箱"(ポケット)の中から回らない寿司でお馴染みの机を出した。サイズが少々デカいが、幸い場所はある。リムル達の後ろのスペースに出して、準備を始めた。

 

シュナ「エイト様、今度は何をなさるのですか?」

 

エイト「ああ、リムルの頼みで宴会場の中で

寿司を握る事になったんだ」

 

シュナ「わかりました。厨房の方は私にお任せください」

 

エイト「おう、ありがとうな」

 

俺は一通りの準備を終えると、女性達(ゴブリナ)を数名集めた。

 

エイト「俺が握ったのを机に並べていってくれ。リムル達の方も頼むな」

 

「わかりました」

 

四人から六人くらいに一皿くらいの計算で、

俺は大皿に寿司を並べていく。

多分この国で寿司を握れるのは俺くらいのものだろう。教えてはいるが、流石に寿司の技術は難しい。ラーメンのように簡単にはいかないものだ。

 

大体寿司職人がこっちの世界に来た例がないのだろう。存在自体が知られていない。異世界人が知識として知っているだけで、実際に食べたことのあるやつは少ないのではないだろうか?

 

ルミナス「妾はそこのカウンター席に移動してもよいのじゃな?」

 

リムル「ああ、別にいいけど」

 

ルミナスが立ち上がると、ルイもそれに続いて

俺の前に座った。

 

俺は二人の前にお茶を出した。

 

エイト「(全員に寿司は回ったっぽいな…)」

 

ルミナス「…ふむ、このスシという食べ物には酒ではなくこういうものを合わせるのじゃな」

 

エイト「別に酒を合わせてもいいんだろうけど…まあ、それが一般的だと思うぞ。」

 

俺はルミナスに鮪もどきの大トロを出した。

商品名はマグロで決定ではあるが…。

 

ルミナス「…」パクッ

 

ルミナスの口元には笑みが浮かぶ。

 

聖騎士達や、うちの幹部達からも称賛の声が聞こえる。

 

寿司は試作段階だったので、食べたことがあるのは俺とリムルとシュナだけだったが、この様子なら貴族達にも余裕で出せるだろう。

 

ルミナス「初めての食べ物で何もわからん。

エイトのおすすめを頼もう」

 

エイト「おう」

 

まあ、全部おすすめだが、その中でもシュナとリムルからの評価が一番高かった二つと、ここまでで叡智之王が予測したルミナスの好みであろう二つをつくる。

 

先ずはリムル一押し秋刀魚だ。生姜っぽいやつとネギっぽいやつを乗っけて完成。

 

次にシュナ一押しの炙りサーモンだ。捌いて握って炙る。すると、

 

ルミナス「?なぜ焼いておるのじゃ?」

 

エイト「ああ、こうすると美味しくなるんだよ。原理は知らん」

 

ルミナス「ふむ、興味深い食べ物じゃな」

 

ルミナスと会話している間に、恐らくルミナスが好みそうな寿司…鰤と鯛を握った。

 

エイト「ほい」

 

俺は四つとも皿に並べて、ルミナスの前に出した。

 

ルミナス「いただくとしよう」

 

俺は同じものをもう一つ作り、ルイの前に出す。

 

ルイ「感謝する」

 

ルミナス「美味じゃ。実に美味じゃ」パクッパクッ

 

エイト「(そんなに美味しかったか?まあ、喜んでくれてるのはいいんだが…)」

 

ヒナタ「あなた、寿司職人に嫌われるわね」

 

いつの間にカウンター席に来ていたヒナタは、お茶を啜りながら言った。

 

エイト「生憎、この世界に寿司職人はいないっぽいからな。会う機会もねえよ」

 

そう言いながら俺はヒナタにお茶とネギトロ軍艦を出した。

 

ヒナタ「はぁ…本当、貴方達には呆れるわね」

 

ルミナス「良いではないかヒナタよ。このスシという食べ物、我が神聖法皇国ルベリオスにも持ち帰りたいところじゃ」

 

エイト「お土産として何箱か作るか?」

 

ルミナス「頼もう」

 

ヒナタ「(まさかルミナス様が寿司にここまで食いつくなんて…)」

 

〜〜〜

 

そのあとは、ルミナスがカウンターから席に戻って、ヴェルドラとリムルと酒を飲みまくっていた。リムルは半端強制だったが…。

 

聖騎士達とうちの連中も酒の力か仲が良くなったようで、ベニマル、ソウエイ、シオン、三獣士の面々は、アルノーを筆頭とした聖騎士のトップ連中と飲み比べをしたりしていた。

それをきっかけに緊張も解け、会話も弾み始めたりした。

 

俺?俺は酒ではなくMAXコーヒーをずっと飲んでた。カウンター席に座ってな。

一人で飲むことになるかと思ったが、仕事を終えたシュナがやって来て隣に座ってくれたりした。

 

そんな感じで宴会は上々の結果で成功したと言えるのではないだろうか。結構楽しかったな。



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36話:国交樹立

今日は重要な会談である。リムルが二日酔いで頭を痛めているがそんなのは自業自得。俺は知らん。

 

 

今後の魔国連邦と神聖法皇国ルベリオスとの関係をどうするのか、それを相談の上で取り決めるのだ。

 

いつもの大会議室。俺が席に座ると、後ろから来たリムルは頭痛を我慢しつつ、席に座った。

 

これまでの事を顧みても、決して甘い対応はできない。だが、ヒナタから謝罪はもらってファルムスの対応も済んでいて、ついでに七曜も始末した。賠償が欲しいという状況でもないのは確かだ。

 

と、そんな事を考えている内にルミナス達が部屋に入ってきた。

 

魔国連邦側の参加者は、俺とシュナ、リムル、シオン、そしてリグルドとベニマル。それに、司法・立法・行政を司る長官である、ルグルド、レグルド、ログルドの三名の長老達だ。

 

一応ヴェルドラもいるけど、これは無視でいい。漫画を手に持っているし、どうせ話を聞く気などなさそうだからな。

 

対する神聖法皇国ルベリオス側の参加者はというと、ルミナスとルイ、そしてヒナタ。後は五名の隊長格である。

 

軽く自己紹介してもらった。

 

”光“の貴公子と呼ばれる、副団長のレナード。

 

ヒナタに次ぐ最強の騎士と称される、”空“のアルノー。そして、”地“のバッカス、”水“のリティス、”風“のフリッツと続く。

 

参加者が揃ったので、お互いに向かい合うように座り、会談が始まった。

 

先ずはお互いの認識のすり合わせから始める。

 

という事で、会議の前にお互いの状況とそれに対する認識を箇条書きにして、会議開始時に交換してあった。

 

それを見ながら、お互いに状況の流れを確かめていく。

 

今更相手に文句をつけても意味がないので、

事実確認が目的なのだ。認識の不一致があれば、早期に修正しておいた方がいいという俺の意見に、ヒナタが賛同したのである。

 

互いの言い分は想定通り。俺達からすれば言うまでもなく、ファルムス王国の侵攻から全ては始まっている。一貫して立場が変わる事なく、相手の出方によりこちらも対応を変えるというスタンスだ。

 

聖教会側の流れとしては、ファルムスの要請以前に問題が発生していたとヒナタが言った。

 

つまりは、魔物の国の存在を認める事がルミナス教の教義に反する事になる。それは、信者からの不信を招きかねない重要な案件であったのだ、と。

 

それを放置すれば、信者の離反を招き、西方聖教会の勢力が衰える原因になりかねない。

 

だからこそ、魔物の国など滅ぼしてしまう必要があった。だからこそ、俺達を討つ為の大義名分が必要だったのだと、ヒナタはそう言った。

 

ヒナタ「そんな状況の中でファルムス王国に滞在していたレイヒム大司教から申し出があったから、ニコラウスが許可を出したのよ。私としても異論はなかったし、それに何よりも、貴方の事が許せないと思っていたのよね」

 

というのが、ヒナタの言い分だった。

 

リムル「それは、シズさんの件か?」

 

ヒナタ「ええ、その通りよ。今考えれば、私も利用されていたみたいだけれども、ね。裏で動いていたのが何者なのかはわからないけれど、東の商人が絡んでいたのは間違いないわ」

 

リムル「商人、か。やはりな。魔王クレイマンのところにも、出入りの商人がいたらしい。俺の配下になったゲルド達、豚頭族の軍勢も武装していたから、どこかの国と繋がりがあるだろうと思っていたんだよ。その取引相手が、東の商人だったって訳だ」

 

リムルも納得して頷いた。シュナに調べてもらっていた帳簿には、膨大な量の商品をやり取りした記録が残されていた。

 

それらの品々は帝国製のものが大半で、元はドワーフ王国で作成されたものだったようだ。

 

帝国とドワーフ王国には取引があるので、ここに不審な点はない。問題は、それを仲介した者の名が、一切記録に残っていなかった事だ。

 

シュナが丁寧に調べてくれたのだが、取引相手の正体までは掴めなかった。

 

捕虜となった者にも聞いてみたのだが、誰一人としてその正体を知らなかったのである。

 

魔王クレイマンは、恐ろしく用心深かった。何一つ証拠を残さぬように、部下達にも徹底させていたようだ。

 

特に、クレイマンの仲間だった中庸道化連に関しては、一切の記録を見つける事が出来なかったのである。

 

ヒナタ「そう。私は彼等から、貴方がシズさんを殺したと聞かされたわ。そして丁度、イングラシア王国に滞在していると。だからあの時、貴方を始末しようと動いたのよ」

 

リムル「確かに。あれは最悪のタイミングだった。今思い出しても腹が立つ」

 

というリムルの言葉に、ヒナタが僅かに身震いした。ヒナタだけではなく、アルノー達聖騎士も身を縮めている。

 

エイト「やめろリムル。[魔王覇気]が漏れてるぞ」

 

リムル「!」

 

リムルは慌てて謝罪して、話を続ける事にした。

 

リムル「まあ実際、その東の商人とやらが黒幕で間違いないだろう。それで、名前はわかるのか?」

 

ヒナタ「ダームと名乗っていたわね。でもどうせ、偽名でしょうけどね」

 

偽名か、そうだろうな。だが、名前自体はどうでもいい。重要なのは、東の商人が黒幕だった事なのだ。

 

エイト「魔王クレイマンと東の商人には繋がりがあった。そして、ファルムス国王だったエドマリスをけしかけたのも、恐らくだがそいつらだろう」

 

ヒナタ「それは間違いないわね。レイヒムからの事情聴取で、その点はハッキリしているわ」

 

リムル「魔王クレイマンが、ファルムス王国を裏で操っていたのは間違いない。協力関係にあった訳ではなく、相乗りしたって印象だけどな」

 

ベニマル「それを仲介したのが、東の商人達ですか」

 

リムルの発言に、ベニマルが納得したように言う。

 

ヒナタ「私もまた、その作戦に利用されたのね……」

 

エイト「(となると…誰が絵を描いたか、だが……)」

 

エイト「全ての事柄に東の商人が絡んでいる点から考えても、利害関係がたまたま一致しただけだとは思えないな。クレイマンは、真なる魔王へと覚醒しようとしていた。ファルムス王国は、領土的野心からこの国を奪おうとしていた。そして、それらを裏から操っていた”あの方“とやらがいる、と」

 

ルミナス「”あの方“か。クレイマンが口にしておったヤツじゃな」

 

俺とルミナスは頷き合う。

 

ヒナタ「何の話なの?」

 

ベニマル達は事情を知っているが、ヒナタ達は初耳だった。その事に思い至り、軽く説明を行う。

 

エイト「ああ、実は魔王クレイマンは何者かの意思で動いていたみたいでな」

 

ルミナス「小者のクレイマンにしては天晴れな事に、最期までその正体を口にせなんだがな」

 

ヒナタ「そう……」

 

リムル「もしかするとさ、その正体は”七曜“だったのでは?」

”七曜“だったのでは?」

 

ルミナス「何じゃと?貴様、妾に内緒で"七曜"が動いたと申すのか?」

 

ルミナスが不機嫌そうにリムルを見た。

 

ルイ「なるほど、その可能性は否定出来ないね」

 

ルミナス「ルイ、貴様までもそんな戯言を__」

 

ルミナスの威圧は、リムルからルイヘと移った。

 

しかし、ルイは臆する事なく、堂々と自分の意見を述べる。

 

ルイ「ルミナス様、お聞き下さい。あの者達は、ルミナス様の寵愛を欲しておりました。

それもそのハズ、御自覚はおありでしょう?」

 

ルミナス「何の話じゃ?」

 

ルイ「寵愛____つまり、愛の接吻(ラブエナジー)です。ルミナス様がその儀式を、前回彼等に行ったのは百年以上も前でした。

最初は週に一度の儀式だったのに、だんだんとその間隔が延びていたのです。もしかして、お気付きではありませんでしたか?」

お気付きではありませんでしたか?」

 

ルミナスは、ルイから指摘されて苦々しい表情となった。

 

ルミナス「なるほどな。確かに我等は不老不死故に忘れがちになるが、あの者共は元は人間。妾が生気を与えてやらねば、死ぬ事はないにしても老いてしまのうが必然か」

 

ルイ「その通りです。ですのであの者達は、ルミナス様がこれ以上"お気に入り"を作らないように必死だったのです」

 

ルイは、淡々と説明を続けた。

 

どうやら”七曜“とは、ルミナスに特に気に入られていた人間だったみたいである。

 

人間ならば、当然だが寿命がある。それを覆していたのが、ルミナスが施す愛の接吻という儀式みたいらしい。

 

ルイ「故にあの者達は、もう一度ルミナス様の歓心を買おうとしたのでしょう。東の商人と手を組んで、密やかに魔王クレイマンを篭絡していたのだとしても、何ら不思議ではありません。あの者達、特に”日曜師“グランならば、クレイマン如きに遅れを取らないでしょうから」

ん。あの者達、特に”日曜師“グランならば、クレイマン如きに遅れを取らないでしょうから」

 

そう言って、ルイは説明を終えた。

 

ヒナタ「まさかそんな理由で、"七曜"は私を邪魔に思っていたのかしら?」

 

ルイ「そうだね。クレイマンを覚醒させて、君と戦わせるつもりだったのだろう。少なくとも、彼等では君に勝てなかったからね。

手段を選ばなかった可能性は高いと思うね」

 

ヒナタ「あの時も、私を排除しようとしてリムルとぶつけたと?ルミナス教の教義も守れるし、一石二鳥という思惑もあったと考えられるわね」

 

ルイの推論をヒナタが引き継ぐ。

 

となると、ますます”七曜“が疑わしくなる。

 

エイト「その、”七曜“が裏にいたというのは間違いないのか?」

 

という俺の質問に、ヒナタの隣に座っていたレナードが答えた。

 

レナード「それは間違いありません。あの商人共を我等に紹介したのが、その”七曜の老師“達なのです」

 

リムル「…あれ?七曜ってことは七人いるんだろ?後もう一人はどうしたんだ?」

 

ヒナタ「フフッ、その心配はないわ。本国に残っていたニコラウスから連絡があって、最後の一人も始末したそうよ。貴方からの伝言が込められた水晶球に、改竄の痕跡を見つけたのですって。それを証拠として、断罪を行ったみたいね」

 

リムル「ちょっと待てよ。その残りの一人ってのは誰だったんだ?」

 

ヒナタ「”七曜“の筆頭、”日曜師“グランだったらしいわね。あの男が自分で動く事は滅多にないから、残っていたのはグランで間違いないでしょう」

 

ルミナス「ほう?あのグランベルを倒すか。ニコラウス、確かお主に惚れ込んでいるという枢機卿じゃったな。どういう手を使ったのじゃ?」

 

ヒナタ「余り褒められた事ではないのでしょうけど、”霊子崩壊"(ディスインテグレーション)を事前に準備しておいたそうです。その不意の一撃で以って、仕留めたと」

 

ヒナタ「なるほどのう……。グランベルも老いたものよ。そのような罠に嵌るとは……」

 

ルミナスが嘆くように呟くが、

 

俺はそれどころではない。

危険な男が一人追加となってしまったのだ。

 

とは言っても、不意を衝いたようなのでそこまで危険視しなくても大丈夫そうだけど。

 

だが、油断は禁物である。俺とかリムルはともかく、大半の者に霊子崩壊は危険なのだ。

 

ニコラウス枢機卿、その名前は覚えておくとしよう。

 

ヒナタ「ところでルミナス様、そのグランベルというのは、"日曜師"グランの事なのですか?」

 

ルミナス「そうじゃ。アヤツの本名は、グランベルと言った。昔は”光“の勇者だった男でな、妾とも戦った事があるのよ」

 

そんな会話をするヒナタとルミナス。

 

ルミナスの口調って、たまにあどけない感じになるんだな。無理に偉そうな感じにしているように思えるけど、気のせいだろうか?

 

そんな事を思った瞬間、ギロリと脱まれた。

 

うん、気のせいだね。気のせい気のせい。

 

という訳でやはり、この疑惑は俺の胸に仕舞っておく事にしよう。

 

ヒナタ「そうですか……。まさか、いや、しかし」

 

ヒナタは何か思い当たったのか、気になる事があるようだ。だが確信も持てないらしく、結局それを口にする事はなかった。

 

ルイ「昔はかなり強かったね。私に匹敵するほどだった」

 

ルミナス「まあのう。"勇者を名乗る者には因果が巡る“ 故に、あの者も心の奥底では、妾を恨んでおったのやも知れぬな」

 

そんなルミナスの言葉を聞いて、俺はなるほどと思った。

 

ミリムも言っていた通り、勇者と魔王には因果が巡るのだ。

 

グランベルは魔王ルミナスに敗れ、恭順した。

 

しかしその本心は、複雑な思いがあったのかも知れない。数多の英雄を育てたという伝説上の存在になってまでも、その因果からは逃れられなかったのだろう。

 

今となっては、憶測しか出来ないがな。

 

リムル「けどまあ、これで一安心だな。魔王クレイマン、ファルムス王国、七曜の老師達、俺達にチョッカイを出していた者達は全員滅んだ訳だし」

 

そう結論を下したリムルに、ベニマルを筆頭に俺達の配下達が頷いた。

 

リグルド「これで一件落着となりそうですな」

 

リムル「いや、本当だよ。厄介な相手が多かったけど、これで問題はほとんど片付いたも同然だな。でも、裏で暗躍されると面倒だよな。

コソコソ動き回っている商人の存在に気付かなかったらユウキが黒幕なんじゃないかって疑うところだったよ」

 

エイト「…」

 

レナード「ユウキ?自由組合総帥(グランドマスター)ユウキ・カグラザカですか?」

 

リムル「ああ」

 

エイト「…まだ可能性は捨てきれないぞ」

 

ヒナタ「そうね。絶対に違う、とは言い切れないわ」

 

リムル「おいおい、同郷者を疑うのか?」

 

ヒナタ「あら?私はあらゆる可能性を考慮しているだけよ」

 

エイト「それに、黒幕が滅んだと考えるのも早計だぞ。中庸道化連とかいうのは見つかってないし、東の商人はまだ西側諸国に根を張ってるんだからな」

 

リムル「そうか、そうだったな。まだ全てが終わったわけじゃないんだし楽観視は駄目だな」

 

ベニマル「そうですね、皆にも通達しておきましょう」

 

リムル「エイトの言うように、黒幕が残っている可能性も高い。”七曜“が黒幕かも知れないと言ったのは俺だけど、あくまでも思い付きで言っただけだしな。決定的な証拠が出た訳でなし、決め付けは良くない。この件に関しては、今後とも要注意という事でいこう」

 

リムルがそう結論を出すと、皆が同時に頷いた。

 

まあ、今回の話し合いは黒幕の正体じゃなくて今後の付き合い方についてだ。俺たちの間に恨みを残さないようにしっかりやらなければ。

 

と思っていた頃、丁度シュナがコーヒーとお菓子を運んできた。今日のメニューはスコーンとポテトフライだ。

 

流石シュナ。見計らったようなタイミングだ。

 

ヴェルドラ「オヤツか?我は大盛りで頼む」

 

まるで会話に参加していなかったが、こういう時だけは素早いヴェルドラさん。

 

シュナ「はい、心得ておりますよ」

 

シュナの対応も手慣れたものである。

 

ヒナタ「あら、これも美味しいわね」

 

〜〜〜

 

さてと、オヤツを食べて一息ついた。

ここからは本格的な話し合いである。

 

リムル「さてと、それでは今後の関係だが」

 

ヒナタ「その前に、ハッキリとさせておきたい点があるの」

 

リムルの言葉を遮るようにヒナタが言った。

 

ヒナタ「今回の件、私達の謝罪は受け入れてもらえたのよね?」

 

リムル「ああ。我が国としては今後良好な関係を築きたいと思っているし、これ以上問題にするつもりはないよ」

 

これはリムルだけの意見ではなく、俺やベニマル以下幹部達と相談して決めた事だった。

 

これ以上争う必要はないし、誤解が解けたのだから手打ちでいいと。

 

そう判断しての返答だったのだが、それでは納得しない者がいた。ルミナスである。

 

ルミナス「駄目じゃ。妾は借りを作るのが嫌いなのじゃ。今回は明らかに此方に責がある。よって、何らかの形で賠償を行おう。手打ちはその後じゃ」

 

ルミナスはそう言って、嫌そうにヴェルドラを脱んだ。要するに、ヴェルドラにどういう形であれ負い目を作りた<ないのだろう。

 

ヒナタ「ルミナス様もこう仰っているし、私としても迷惑をかけたままというのは心苦しい。出来る限りの誠意を見せたいわね」

 

ルミナスに追従するように、ヒナタもそう申し出た。

 

とは言っても、賠償ねえ……。先も述べた通り、金銭での解決は俺達の意図するものではない。

 

ルミナス達が、というよりも神聖法皇国ルベリオスが、俺達の存在を認めてくれたならば…。

 

その上で、敵対しないという宣言があれば言う事なしだ。

 

エイト「あー…それなら、俺達の国を正式に承認して、国交を結んでくれないか?」

 

俺がそう申し出ると、ルミナスは軽い調子で頷いた。

 

ルミナス「構わぬ。馴れ合うつもりはないし、いずれはそこのトカゲを成敗するつもりじゃがな」

 

ルミナスの怒りの大半はヴェルドラに向かっているようなので、最悪はコイツを犠牲に差し出そうと思う。それで百年の平穏が訪れるのならば、俺としては迷うまでもない選択だ。

 

リムルも同じことを思っていたのか、俺達二人はヴェルドラに睨まれる。

 

ヴェルドラ「ちょっと待てリムル、エイトよ。お前たち今、かなり酷いことを考えてはおらぬか?」

 

リムル「気のせいだよヴェルドラ君。君がちゃんと大人しくお利口さんにしていたら、何も心配する事はないのだからね」

 

ヴェルドラ「待て待て、お前が”君“とか付ける時は、大概悪辣な事を考えておるではないか!」

 

ヴェルドラも鋭くなったものだな。

だが、甘い。

 

エイト「まあまあ。俺達のスコーンもあげるから、ちゃんとルミナスと仲良くしろよ?」

 

ヴェルドラ「何?そういう事ならば、善処しようではないか。まあ、我が本気を出せば、ルミナスを認めさせるなど簡単な話よ!

クアーーーッハッハッハ!!」

 

ほらな?ヴェルドラは単純なのだ。

ルミナスも呆れている。

 

だが、一度口に出した事を覆すつもりはないようだ。

 

ルミナス「調子に乗るでないわ!じゃが、暫しの間は休戦と洒落込もう。今後百年、国交を結ぶも良かろうな。それを妾からの、詫びの証とするが良い」

 

そう言って、驚くほどに簡単に休戦を受諾してくれたのである。

 

ヒナタ「相互不干渉ならばともかく、国交樹立を認めるのですか?」

 

まあ、そりゃそうだな。そんな軽くていいのか?

 

ルミナス「くどい。これは妾の決定である!」

 

そう言うだけ言って、後は任せたとばかりにスコーンのお代わりに手を伸ばしている。

 

ヒナタは困ったと言いた気だが、ルミナスに逆らうつもりはない様子。

 

ルイ「こうなっては、従うしかないだろうねえ」

 

レナード「国交ですか、それはしかし」

 

フリッツ「いいんじゃないの?エイト殿達が真に邪悪な者だったならば、俺達は既にこの世にいないのだから」

 

アルノー「そうだな。エイト殿達は信用出来る。魔物という偏見は捨てるべきだ」

 

リティス「私も賛成です」

 

レナード「しかし、問題があります。我等の教義をどう扱うのか。それ次第では、西方聖教会そのものが矢面に立たされてしまう。流石にそれは容認出来ません」

 

教義____魔物の生存を認めないというアレか。

 

確かに、俺達を認めるとなると、今までの教えは何だったのだという話になるな。

 

せっかく問題が片付きそうだったのに、事はそう簡単ではないようだ。

 

と思ったら、当のルミナス本人がとんでもない事を言い出した。

 

ルミナス「くだらぬ。その教義は妾が定めたものではないし、別段それが守られていなかったからと言って、妾への裏切りだとも感じぬわ。そもそも、それは迷える民への指針として、当時の指導者達が頭を悩ませて考えた規則でしかないのじゃ」

 

そのルミナスの爆弾発言は、聖騎士達だけではなくヒナタにも驚きであったらしい。

 

ヒナタ「えっ…初耳なんだけど……」ボソッ

 

ルイ「そうか、知らなかったとしても不思議ではないね。教義の書かれた原典は自由に閲覧出来るけど、その大本となった原稿は、既に紛失してしまっているのだから。あれを見ていれば、そもそもの教義の成り立ちが理解出来ただろうけどね」

 

ルイ曰く、そもそも教義とはルミナスを信仰する民を守る為のものらしい。

ルミナスやルイのような上位者は兎も角、下位の吸血鬼族(ヴァンパイア)は人の生血を食糧としている。

それも、幸福感溢れる人間の生血の方が、格段に味がいいのだ。

 

当時、魔物の猛威が荒れ狂う世界で人々は生きるのに必死だった。当然質の悪い生血しか手に入らず、吸血鬼族達にとっても死活問題となっていたという。

 

そこでルミナスは、引っ越しを契機として人類を保護する方針を打ち立てたそうだ。

 

ルイ「我々が無衷なる民を守る事で、彼等は幸福に生きていける。スパイスとして魔王の脅威を演出し、それから守られる事で安堵し、自身の幸福を噛み締めるのだ。ルベリオスの民は、神の名の下に守られているのだよ」

 

例えは悪いが”畜産“だな。

 

生血を吸うと言っても、本人が気付かない程度の少量で済むらしい。吸血鬼族の数に比して民の数が圧倒的に多いのだから、それも納得のいく話である。

 

献血を行った代償として、脅威から守られた安穏とした生活を送れる、と。

 

ヒナタ「つまり聖典ルミナス教の教義には、魔物から無用の被害を出さないように書き加えられた条項が多いという事なの?」

 

ルイ「そうだね、その通りだよ」

 

ルミナス「妾にとって重要なのは、信仰心そのもの。お主達は、妾を信じる事で〈神聖魔法〉の行使をしておるじゃろう?それこそが契約であり、絶対的な法則となる。民を守るというのは妾の眷属が履行すべき義務であり、妾にとってはどうでも良いのじゃ」

 

つまり、結論として。魔物の生存を認めないという教義は、人心を掌握する為の方便に過ぎない訳だ。だったら確かに、絶対遵守する必要はなさそうだな。

 

レナード「我等の教義が、神であらせられるルミナス様の意によるものではない、というのは理解出来ました。しかし現実問題として、我等は今までその教義に従って生きてきたのです。それを簡単に捨てるとなると、やはり問題が生じてしまうかと……」

 

ヒナタ「それでも、やるしかないのよ。問題が鎮静化するまで沈黙を守るつもりだったけど、貴方達が百名も動いてしまったのでは、各国に筒抜けになってしまったでしょうし。それに、

"三武仙"の敗北は、西側諸国の記者達に目撃されたのでしょう?」

 

そう言って、レナードから俺とリムルへと視線を移すヒナタ。

 

ヒナタの言う通り、ディアブロは”三武仙“のサーレという男を倒したと言っていた。もう一人いたそうだが、そいつはさっさと逃亡したらしい。

 

記者団はそれを目撃した訳で、ヒナタ達の人類の守護者という地位は、失墜しかねない状況にあるという事だ。

 

それに加えて聖騎士が敗北したという噂が広まれば、不要な混乱が生じかねないな。

 

エイト「それなら、俺とヒナタが相討ちだった事にしたらいいじゃねえか?それで、”七曜“の悪巧みに気付いて、俺達は休戦協定を結んだと。俺の正体がスライムっていうのは広まってるけど、”異世界人“の転生者だって情報も追加で広めれば、ある程度は納得してもらえるんじゃないか?」

 

ヒナタ「それは私達にとってはありがたい申し出ね。でも、貴方はそれでいいの?魔王が私と相討ちとか、威厳的に問題があるんじゃないかしら?」

 

威厳?そんなものは俺にはない。ついでに誇りもプライドもな。周りからの目など気にするまでもないのである。

 

エイト「問題ないだろ。別に負けた事にしてくれてもいいぞ」

 

ヒナタ「あのねえ、今まで人間に倒された魔王なんて、本当に数少ない事例しか確認されていないのよ?それを簡単に負けたなんて言ったら、それこそパワーバランスが崩れて大変な事になるわよ」

 

レナード「そ、その通りですよ!貴方はまだ、魔王になりたてなんです。そんな状況で他の勢力に祇められでもしたら、それこそこの地に要らぬ介入を許す羽目になりますよ!」

 

ヒナタが俺に苦言を呈すると、それに頷くようにレナードも言い募った。俺を心配しての言葉だろうが……

 

エイト「ベニマル、この地に介入しそうな勢力って何処か心当たりがあるか?」

 

ベニマル「ありません。仮にそんな愚か者がいたならば、俺が捻り潰して見せますよ」

 

うんうん、頼もしい限りだ。まあ、攻めて来たならその時は……。

 

リムル「本当にいいのか?」

 

エイト「ん?ああ、威厳なんて気にしないしな。大体魔王が二人も同じ領域にいるんだ。ちょっと威厳がないくらいで攻めてくる馬鹿はいないだろ」

 

リムル「まあ、それもそうだな。西側諸国はディアブロが上手くやってくれるみたいだし」

 

エイト「と、言うわけで問題無さそうだぞ」

 

ヒナタ「すごい自信ね。それならば、私としては異論はないわよ。その申し出を、ありがたく利用させてもらいます」

 

アルノー「この際だし、この国の住人が”悪しき者ではない“と発表しちまいましょう!」

 

フリッツ「そうだな。実際、元が子鬼族(ゴブリン)や豚頭族(オーク)だったなんて信じられないくらい、この町の住人は気のいいヤツらだしな」

 

リティス「亜人が魔物か否か、それは今までも議論に上っていましたわ。ですが、それは偏見からくる差別であると、私はそう思います」

 

レナード「そうだな。人と敵対する亜人の存在が厄介だが、ドワーフなどは紛れもなく人類の一員であろう。もしも彼等まで魔物だなどと言い出せば、精霊すらも魔物と区分しなければならなくなる」

 

大鬼族(オーガ)や晰錫人族(リザードマン)なんかも、本来は亜人という扱いだ。ただし、人類に敵対していたから、魔物として扱われていた。

 

その上位種族である妖鬼(オニ)や龍人族(ドラゴニュート)なんかは、区分としては魔物ではなく土地神である。

 

要するに、人類の味方か敵か、その違いしかないという事。

 

なので教義の解釈として、魔物を全て敵と定める事に無理があるのだ。

 

リムル「俺達はドワーフ王国とも国交を結んでいる。だからさ、ガゼル王も巻き込んで、百年の友誼を結べばいいんじゃないか?俺達が人を襲わないという保証があれば、少しは信用してもらえるだろう?」

 

リムルがそう言うと、ヒナタが考えを纏め終えたのか頷いた。

 

ヒナタ「そうね。信用さえあれば、少しは説得しやすいわね。それに、この際だから色々と、”七曜“に毒された者達の粛清も行うとしましょう」

”七曜“に毒された者達の粛清も行うとしましょう」

 

そりゃそうかと思う。組織というのはそんなものだ。

 

ヒナタが冷たく告げたので、反対意見はなくなった。

 

この機会を利用して、”七曜“に全ての罪をなすりつけてしまうつもりだな。汚いと思うが、それはルベリオス側の話だ。

 

俺達が口を挟む問題ではなく、任せておけばいいのである。それから両者で、細々とした点を話し合ったのだ。

 

今後の交流として、アルノーとバッカスが滞在する事に決まった。

 

準備のため一度は母国に戻り、文官達も連れてくるそうだ。

 

その間にこちらは彼らを受け入れるルミナス教の教会を建設するつもりだ。

 

宗教を入れていいものか…とも思ったが魔物は神なんて信じない。

 

そもそもこの世界に万人が認める神なんていない。祈ったら実際に助けてくれる、目に見える者を信じるのだ。

 

宗教はあれどそれは土地神への敬意に近い。

 

竜を祀る民なんかはいい例だが、西方聖教会はその中での最大派閥ってだけの話なのだ。

 

そう考えるとある意味俺とかリムルも神と言えるのか?いや、恥ずかしいのでそれは嫌だ。

 

この国の神はリムルで決定だな。

 



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37話:相互理解への一歩

今回は短めです。


難しい話はこれで終わりだ。ルミナスとの一応の手打ちは済み、神聖法皇国ルベリオスに俺たちを認めてもらう算段もついた。

 

賠償はそれで十分。あとは交流を通じて、仲良くなっていければいい。

 

百年って聞いたら長く感じたが、寿命のことも考えれば案外短いものなのだろう。限られた時間を使って相互理解を深める事が大事だな。

 

と、いうわけで聖騎士たちとも定期的に交流を行うことになった。

 

てな訳で最初に行ったのは技術交流である。

 

今回の戦闘で彼らの武器は傷んでいる。なのでそれらの修理を申し出てみた。

 

エイト「(まあ、それは建前なんだけどな)」

 

本当の狙いは聖騎士たちの武器の性能のチェックだ。

 

 

 

そこそこの収穫があった後、時刻は既に夕方となっていた。

 

用件も済んだし、聖騎士たちもさっさと帰還するだろうと思ったのだが、一応は社交辞令として食事に誘ってみたい。

あらやだ、俺ってば偉い!

 

エイト「なあ、ルミナス、それにヒナタ。もう今日は遅いし、出発は明日にしたらどうだ?」

 

なんてな。どうせルミナスは[空間転移]で帰るだろうし、ヒナタも元素魔法:拠点移動(ワープポータル)でルベリオスの何処かを登録しているだろう。

 

それは当然聖騎士達も同じだ。

 

だから、どうせヒナタが『悪いわね、用事も済んだしお暇するわ』とか何とか言ってさっさと引き上げると思っていた。そんな時期が俺にもありました。…あれ?これデジャブ?

てことは__

 

ヒナタ「悪いわね__」

 

お?意外と俺の予感に反して__

 

ヒナタ「そこまで言うのなら、今晩もお世話になろうかしら」

 

はい、ダメでしたー。

 

ルミナス「そうじゃな。あの温泉とやらは気に入った。それに何より、スシとやらは格別だったし、今晩も楽しみじゃ」

 

そんな二人の決断を見て、帰るつもりだった聖騎士たちまで泊まるつもりになってしまった。

 

ニッコリ笑顔で、晩飯について嬉しそうに、仲間同士で語り合っている。

それでいいのか聖騎士団(クルセイダーズ)!?

 

まあ、今更発言を無かったことになどできないので…今日も精一杯持て成すとしますか。

 

………

……

 

エイト「と、言うわけで、今日の宴はすき焼きだ」

 

「「「うぉおおおお!!」」」

 

エイト「…」

 

何だろうこの気持ち…昨日まで敵対していたというのに、今は俺たちの配下と聖騎士たちが、仲良く肉を見て喜んでいる。

 

喜ばしいことではあるのだが…これでいいのか?

 

まあ、そんな事はこの際どうでもいい。大事なのはすき焼きである。

 

てな訳で、最近飼育し始めた鶏鴨(ケガモ)牛鹿(ウジカ)を振る舞う事にした。

 

それに加えて採れたての野菜。

 

もはや鍋以外の選択肢はあり得ないご様子なのだが、それに加えて俺とシュナは更に工夫を加えた。

 

鶏鴨(ケガモ)の骨から出汁を取ってスープにして、身を刺身として提供する。

 

そしてメインが、牛鹿(ウジカ)の霜降り肉だ。それを豪快にすき焼きにする。

 

あとは鶏鴨(ケガモ)の卵を毒抜きして、

一人一人に配膳すれば準備万端である。

 

不味い訳がない。

 

リムル「それでは、今後の友好を祈願して、

乾杯!」

 

「「「乾杯__ッ!!」」」

 

今日も今日とてリムルの適当な挨拶で宴会が始まった。すき焼きだと大してやることがないので俺も一緒に食べる事にした。

 

昨日好評だったらしい"魔黒米"が今日も全員に配られている。色が黒い米……日本人としては受け入れ難いな。

魔素への耐性があるからこいつらは大丈夫なんだろうが、普通の人間が食べたら毒である。

 

なんせ"封印の洞窟"で育てた米だからな。

 

リムル「ほら、エイトも」

 

リムルは俺とヒナタに"白米"を渡してきた。

 

エイト「ありがとな」

 

ヒナタ「白米って……。貴方達、ちょっと好き放題し過ぎなんじゃないの?」

 

何が不満なんだよ…若干声も震えてるし。

悔しいのか?

 

リムル「文句があるなら白米は返してもらって…」

 

ヒナタ「そう言う話をしているんじゃないわよ」

 

リムルの言葉に、ヒナタは茶碗を死守するようように構えた。

 

エイト「(大人気ない…)」

 

ヒナタ「だけど、ここまで完璧にあっちの世界の食べ物を再現してあると、驚く以前に呆れたわね。まさかたった二年で、ここまで暮らしやすい環境を作るとはね…。

私たちが望んでも為し得なかった事を、貴方達は平然とやってのけたのね…」

 

リムル「まあね。もっと褒めてくれてもいいよ?」

 

ヒナタ「ふざけないで。ユウキなら話は聞いていたけれど…これは実際に目で見ないと信じられるものではないわね」

 

エイト「いや、まだまだだな。物流は遅いし、情報伝達も話にならない。魔法があるから住み心地と食糧事情はそれなりに改善できたけどな」

 

ヒナタ「それなりって…あなたね、私達が今までしてきた努力を嘲笑うような、こんな美味しいものを再現しておいてそれを言うの!?」

 

リムル「いや、食糧事情はかなり満足してるって。なあ?」

 

エイト「おう」

 

リムル「それよりも、最悪なのは文化だよ。

娯楽が少なすぎる。ヴェルドラが読んでいるような漫画とか、そういう娯楽を生み出せる下地を作りたいのさ」

 

ヒナタ「娯楽って、貴方…。こんな過酷な世界で、生きるのに必死な人々が大半なのに?」

 

リムル「ああ、そうだよ。魔物とかの脅威は俺達が取り除く。隠しても意味がないから言っちゃうけど__」

 

エイト「」

 

あれ?言っていいのかこの先?

 

リムル「ヨウムを王に樹立して、新王国を興し、そこを巻き込んで西側諸国でも影響力をを持てるようにするつもりさ」

 

ヒナタ「貴方は一体何を考えているの?詳しく聞きたいわね」

 

リムル「色々と考えているんだけど、先ずは

ね___」

 

と、言うわけでリムルは街道整備のことから、挙げ句の果てには情報伝達__通信の方法についても語り始めた。

 

魔法道具(マジックアイテム)__つまり通信水晶なのだが、これは魔法使いにしか使えない上に、盗まれる危険があるのだ。実際に何度か窃盗事件が起きている。

 

だから、誰にでもできる通信システムが欲しかったのだが…ここで着目したのが[粘鋼糸]と

"魔鋼"だ

 

[粘鋼糸]による思念伝達率は凄まじい。これは魔素が絡んでいるのが理由なのだが、魔鋼にも同様の性質がある。

 

なので、"魔鋼"を1センチ程度の線状に加工し、それを[影移動]で利用する空間を通して各都市と結ぶ。

 

これだけでは意味がないのだが、ベスター達が開発中の装置を取り付ける事で、思念波を音と映像に変換することが可能となる予定だった。

 

この装置は周囲の魔素を吸収して作動するから魔力を持たない者でも利用できる。

 

これに成功して、余裕ができたら各都市間だけでなく、村々を結ぶネットワークの構築も可能なのである。

 

と、そこまでリムルが話したところで…

 

リムル「どうだ、完成すると凄く便利になりそうだろ?」

 

辺りは全て静まり返っていた。

 

ヒナタ「あのね…普通、そういうのは国家機密扱いの情報なのだけど?特に通信関係なんて、他国の人間に話す内容じゃないわよ。まあ、いいけど…」

 

フリッツ「まあまあ、いいじゃないですかヒナタ様!それだけ俺たちを信じてくれているってことなんですからね!っとそれよりも。この肉要らないのなら貰いますね!」

 

エイト「あ」

 

フリッツが肉を口に入れた時、俺の隣の空間が歪んだ気がした。錯覚だな。

 

ヒナタ「フリッツ…貴方、死にたいのかしら?」

 

フリッツ「あ、あれ?ヒナタ様、目がマジ_」

 

フリッツが逃げようとしたが、時既に遅し。

 

ヒナタの手刀で顎を刈られ、脳震盪を起こしてその場に崩れ落ちる事となってしまった。

 

この馬鹿を教訓に、俺とリムルは食に対する

人の恨みには気をつれるべきだと、再確認したのだった。

 

〜〜〜

 

そして翌日。

 

ヒナタ「昨日の話だけど、余り派手にし過ぎると天使に攻撃を受けるわよ」

 

天の軍勢ってやつか…。

 

ヒナタが言うには、その天使とやらは一体一体がB+ランク相当で、百万体もの軍勢で攻めてくるらしい。

 

更に隊長クラスや指揮官クラスもいて、指揮系統も組織じみているとの事。将軍クラスも存在するようで、長い歴史を紐解くと魔王と戦う姿も確認されているらしい。

 

その戦闘能力は未知数だが、魔王に匹敵するという事は結構強いのだろう。

 

天使は魔物や文明の発達した都市を攻撃目標とする。西方聖教会としても、天使は人間の味方ではない、と見なしているらしい。

 

ルミナス神の正体が魔王ルミナスなのだからそれも当然である。

 

ルミナス「妾としても、あの羽虫共にはウンザリしておる。この手で始末してやりたいが、それをすると正体がバレるからのう…。

もっとも、そこのトカゲのせいで聖騎士共にはバレてしまったがな」

 

リムル「天使に関しては、俺も話を聞いて知っていた。こちらに手を出すというなら、迎撃する気だったよ」

 

ヒナタ「フフッ、貴方ならそう言うと思ったわ。その時は、私達と共闘する事になるかもね」

 

ルミナス「妾としても、二度と妾の”都“を壊させはせぬよ。羽虫共にも、そこのトカゲにもな。エイト、リムルよ、妾との敵対を避けたいならば、そこのトカゲを良く教育しておくのじゃな」

 

そういい残して、彼等は去って行った。

 

相互理解を深める意味でも、有意義な時間を過ごせた。

 

ヒナ夕達だけではなく、ルミナスとも今後は友好的な関係を築けそうである。

 

 

そしてその後___

 

神聖法皇国ルベリオスは突如として、今まで黙認していただけのドワーフ王国の存在を、友となり得る人類として認めると発表した。

 

それに続いて魔物の国であるジュラ・テンペスト連邦国と国交を樹立すると宣言。

期限を定めてのものではあったが、魔国連邦(テンペスト)との不可侵条約の締結を発表する。

 

亜人だけではなく魔物まで__

 

これにより人と魔の新たなる関係が模索されていく事になる。

 



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