転生者はお人形さんを作るようです (屋根裏の名無し)
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#1 人形作りも一歩から

プロットは未来の自分が作ってくれると思います(投げやり)




○月✕日

 

今日から人形作りの備忘録兼進捗記録として日記を書いていく。

三日坊主にならないように気をつけよう。

 

 

○月□日

 

記念すべき第一作目としてミミッキュの人形を作ることにした。レートでは大変お世話になったのでそれも込めて。

ミミッキュ人形を作るための素材を学校帰りの道でよく見かける露天商のおばあさんから頂けた。

端材の布と綿だが初心者が試行錯誤するならうってつけだろう。

「次からはお駄賃とるからね」と言われたので、お勉強頑張ってお小遣いアップを狙おう。

 

 

○月△日

 

むぅ……記憶の中にあるあのヘロヘロした感じの顔が描けない。明日はクレヨンとかを買い出しに行こう。

あとしっぽ用の木材買ってなかった。

正直妥協したいところだけどこの世界でポケモンを知る人間は自分しかいないのだ。へこたれずに頑張ろう。

 

 

○月☆日

 

顔が納得いったので次は形の整形に取り掛かった。

やはりペンじゃダメだね。クレヨンだね。

雨でも元気に営業中の露天商のおばあさんから追加で綿と布を購入し、気持ち大きめに作るようにする。

ミミッキュって図鑑では0.2mって書いてあるけど、あれはあくまで本体の大きさなんだよねぇ。

縫う針は学校で使ってる裁縫セットでいいか。

 

 

○月▽日

 

下から出てる黒い足?みたいなのを作るの忘れてた。違和感の正体はそこだったか。

露天商のおばあさんに頑張ってその部位について説明したらなんかおどろおどろしいオーラを纏った黒革をくれた。

「そいつはいわく付きだから注意しなよ、坊や」って言われたけどまあ大丈夫だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

✕月○日

 

制作開始から2ヶ月経過してしまったがついに等身大ミミッキュ人形が完成した!!

ちょっと不格好かもだが頑張った甲斐があった。達成感で脳汁ブシャーよ。

 

P.S.性格は『ようき』、技構成は『みがわり』『つるぎのまい』『かげぶんしん』『ゴーストダイブ』、持ち物はたべのこしで。

あ、ダイマックスはアリでお願いします。

 

 

✕月□日

 

両親に見せたら「アバンギャルドだなぁ」とか言われたんだけど。

は?ミミッキュは可愛いが?

いや、この可愛さを分かるのが自分だけでもいいんだ……。悔しくない悔しくない。

 

明日は素材でお世話になったおばあさんにミミッキュ見せに行ってみよう。

でもリュックに入るかはちょっと怪しいかも。

 

 

✕月△日

 

おばあさんにギリギリリュックに入ったミミッキュを見せたらめっちゃ褒めてくれた。ありがとう、歳は離れてるけど貴方は心の友です。

 

お前さんのこれからに期待して、と言ってなんか前回の黒革並のヤバそうな雰囲気漂う消しゴムくらいのサイズの刀片をくれた。

天沼矛(あめのぬぼこ)」って名前らしい。デジマ?

多分偽物だろうけど、世話になったおばあさんからの頂き物なのでありがたく頂戴する。

 

 

✕月☆日

 

今日はもう書く気がなかったが、物音で目が冴えてしまったので。

なんかミミッキュ人形の位置が寝る前に置いたのと違う気がする。君動いてない?ほんとに?

 

かなりの想念を込めて作ったけどそういう人形ってガチで呪いの人形とかになったりするんだろうか。

家の中でダイマックスとか勘弁して欲しいが。

 

 




どうしてなんにも練ってないのに投稿しちゃったんですか???(自己嫌悪)




転生者くん(仮称)
→神様転生したけど神様との『縛り』で神様に転生させられたことを忘れた男。他にもいくつか縛りを設けた模様。
前世で体験したサブカルコンテンツの諸々がこの世界にないことに愕然とし、せめて自分の好きだったやつくらいは形ある物にしたいと一念発起、溢れる衝動だけで人形作りを始めた。
第一作目としてミミッキュ人形を作成。

露天商のおばあさん(仮称)
→オガミ婆ではない(重要)
表向きは裁縫用の製品を割安で売っていて、裏では呪物を取り扱っている。
何故か転生者くんにヤバげな刀片を渡した。


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#2 Reach Out To The Truth

一応注意喚起。
ポケモン以外の呪骸も出てきます。ぶっちゃけそっちの方が数多い。
一作品に偏るようなことはないと思うけど、そこら辺の把握お願いします。

無理だと感じたらブラウザバックよろしく。



呪具売りとして生計を立ててから一体幾年の歳月を重ねてきただろうか。

もう過去の記憶に思い馳せることすら億劫になってきた自分が少々腹立たしい。

 

年々積み重なる衰えを肌身に感じながら方々と地域を渡り歩き善人悪人問わず作った・回収した呪具・呪物を売ってきた。

しかし、そろそろ疲れてきたのだ。あの頃自分の内に湧いていた商人としての情熱はどこへ行ってしまったのだろう。

──故に、もう潮時だ。金もかなり貯まったので呪具売りからは足を洗うことにした。

 

 

 

残りの余生は静かに暮らそうと決めた、はずだった。

 

「おばあさん、ぬいぐるみに使う綿と布ってありますか?」

 

私を見上げるその少年はその齢に似合わぬギラギラとした目付きをしていた。

何がなんでもやり遂げたいことがある、そう少年の目が物語っていた。

 

話を聞くに、彼は自分の妄想を形にしたいらしい。

……まあ若人の挑戦に力を貸すのもいいだろう。私は彼に表の仕事で使っていた端材を幾つか渡し、次は駄賃をとるからねと告げた。

 

 

一週間ほど経ってから少年は「こんな感じの木材と追加の綿と布をお願いします」と駄賃とキャンパスノートを持って頭を下げてきた。

一応裁縫用の製品しか売ってないことになっているのだが、その誠意に免じて私はどう処分しようか迷っていた霊験あらたかな霊木の枝を割安で売ってやった。気休め程度の魔除けにはなるだろう。

 

 

 

さらに一週間後、少年はキャンパスノート片手に私にこんな素材はないかと聞いてきた。

ノートには可愛らしい生き物?が描かれていた。名前はミミッキュと言うらしい。

 

「ミミッキュの足元の黒い部分に使う素材に心当たりあったりしませんか?」

 

そう尋ねる少年の手元に私は視線を惹かれていた。

彼の手には呪術を行使した後に残る痕跡──残穢(ざんえ)があった。

 

すわ呪術使いか?と肝を冷やしたが遠回しに彼に聞いてみる限りでは呪術なんぞ知らぬ存ぜぬとのこと。

ならこの少年は全くの無意識で術式を行使していることになる。それも多分このミミッキュとやらを作るにあたってだ。

ちょっと興味が湧いた私は忠告をしつつも二級呪物を彼に渡してしまった。

 

 

 

二週間と少しが経過してそろそろソワソワして少年のことが心配になってきた私の下に彼が無駄に大きなリュックを背負ってやってきた。

中身は彼のノートに描かれていたミミッキュそのものだった。初心者が作ったにしては完成度が高く、見栄えも評価できたが何より──その人形には呪力が付与されていた。

 

「ほほぉ……!これはこれは」

 

手渡された人形相手に柄にもなく上擦った声が出てしまう。

呪術のじゅの字も知らん若人が高々情熱一つだけで呪骸を作り上げてしまうなんて。

 

長生きも捨てたもんじゃないらしいと思っていた矢先、人形を掴んでいる手に違和感が走る。

チラと視線を向けると人形の下部から生えた影のような手が私のしわがれた手を品定めするかのようににぎにぎしていた。

 

少年の方を見るが彼はどうしましたか?と首を傾げている。ではこれは、少年の意思ではなく────

 

その時の私はかなりあくどい顔をしていたんじゃないだろうか。

もういつ死んでもいいと思っていたが、彼の成長を見守りたくなってしまった。

 

少年が言うにまだまだ作りたい人形のアイデアはあるらしい。

「お前さんのこれからに期待して」なんてカッコつけて私は秘蔵の特級呪物『天沼矛』を少年に託した。

 

 

老後の楽しみができたその日から、ちょっと笑顔が増えたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

✕月▽日

 

ミミッキュが夜な夜な動いているかどうかは別として、次の人形作りに取り掛かることにする。気にしても仕方ないし。おばあさんも期待してくれてるらしいし。タカキも頑張ってるし。

 

せっかくおばあさんに頂いた天沼矛を使わないのは勿体ないので、その武器の名前にあやかってペルソナの『イザナギ』を作ることにしよう。

 

 




転生者くん
→作った人形が呪骸になる術式(暫定)を持った転生者。なお、本人は気が付いていない模様。
おばあさんから貰った特級呪物を使って「ハイカラだから」という理由だけでイザナギを作ろうとしている。

おばあさん
→呪物・呪具売りからは足を洗ったはずだが無意識に術式使うヤベー奴の成長が見たくなって呪物を売った。
その後お披露目された呪骸の完成度と(多分)呪骸に意思があることを見抜き、好奇心から秘蔵の特級呪物『天沼矛』を託す。


ミミッキュ
→ポケットモンスターシリーズより。
全国図鑑No.778。
中身がポリゴンの疑惑あり。

イザナギ(制作予定)
→ペルソナシリーズより。
ペルソナ4主人公の初期ペルソナ。
>ハイカラですね。


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#3 The World is Full of Shit

そのうちローゼンメイデンとかゴリアテ人形とか作り始めるかもしれない。




✕月◇日

 

ミミッキュと違ってイザナギだと1/1スケールは無理なので、今回はフィギュ○ーツサイズで行くことにする。

だいたい主人公の2倍弱でしょ?ムリムリ。

 

だけどこれはこれで精密に作らないといけないな……。

ダメ元だけど明日おばあさんに聞いてみよう。

 

 

✕月◎日

 

こんなの作りたいんです〜っておばあさんに聞いたらめっちゃ唸った後に粘土と針金を売ってくれた。

設計図はだいたい良いからとりあえずこれでつくってみろとのこと。

後、これはオマケねって言って陰陽師が使う形代?みたいなものをくれた。すごい達筆でなんちゃら術式って書いてあったけどご利益とかあるんだろうか。

 

 

✕月●日

 

人生で一番ホラーな出来事が起こった。

昨日の夜は日記を書いたあと粘土をこねて部品を作っていたんだけど、今朝になって形代が消えた代わりに部品の工程がかなり進行していた。

後ミミッキュまた動いてるし。ここ幽霊屋敷だっけ?

だが楽になったのでヨシとする。不思議なことがあっても気にしすぎたらダメだっておばあさんが言ってた。

 

 

△月○日

 

ボディ部分作るのに疲れてきたので気分転換に天沼矛を使ってイザナギに持たせる武器を作ってみる。

思いのほか天沼矛の形がベストマッチしてたのでそこまで時間はかからなかった。

 

 

△月△日

 

ここまで来るのに結構時間がかかったが後は色塗りだけだぜガハハ。

今日はおばあさんから追加で怪しげな布と塗装用の染料を購入。

ガレージキットの彩色をする感じでパーツごとに分けたイザナギをぬりぬりしていく。

布は型紙で形のアタリをつけて裁断。細かい作業が続く……。

 

 

△月☆日

 

ついに完成したぜよっしゃぁ!さすがにフィギュ○ーツよろしく可動させるのは無理でした。

両親に見せたらそこそこ受けが良かった。でもちょっと前衛的とか言われた。

イザナギは紛うことなきハイカラだが???

悲しいので明日おばあさんにも見せてこよう。

 

 

△月●日

 

やはりおばあさんは褒めてくれた。心の友よ……!

手のひらサイズのそれを興味深く眺めてはため息ついたり見つめあったりしてくれている。

ふふ、どうだ。ハイカラだろう?

帰り際におばあさんから「お前さんには才能があるよ」って言ってくれた。

ありがてぇありがてぇ……。慢心せず頑張りますよ!

 

 

△月□日

 

イザナギの塗装が黒ずんできてたので少し手間がかかったがもう一度リペイントした。

こんなに早く色あせるというか、そういうことはあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□月○日

 

怖いよ誰だよ俺のイザナギをマガツイザナギにリペイントしたのは。

 




転生者くん
→な……なにを言っているのかわからねーと思うが寝てる間にイザナギがマガツイザナギにリペイントされてたんだ!!

おばあさん
→『構築術式』と刻まれた形代を転生者くんに渡す。
効力は対象者の呪力と思考を汲み取り、材料を使って物品を加工するというもの。部品に対する記憶が明確でないと使用するのは難しい。

(マガツ)イザナギ
→特級呪物『天沼矛』と粘土と布で作られた呪骸。
負のエネルギーである呪力を込めて作った影響か、神々のプラス側面である和御魂(ニギミタマ)としては成立できず、マイナス側面の荒御魂(アラミタマ)の呪骸として成立した。
荒御魂として成立するにあたり、姿は赤黒く禍々しいものに変質してしまった。
仮に反転術式で呪骸を作ることができれば通常のイザナギを作成できたかもしれない。


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#4 期待と待望の眼差し

転生者くんの戦い方はNARUTOのサソリみたいな感じになると思うんだ。



また少年がキャンパスノート片手に私の所へやってきた。

今回作ろうとしているのはイザナギらしい……イザナギ!!?

 

 

いやっ、まぁその確かに少年に託したのは天沼矛だけれども。まさかそんなことしようとは思わなんだ。

 

……式神や呪骸、とりわけ何かに形を与える呪術において、その名前を強い存在からあやかることはよくある。親が子どもに「強い子に育って欲しいからこの子を『(つよし)』と名付けよう」とすることと同じだ。

今回の場合少年は(自分が呪骸を作っているとは気付いていないが)フィギュアに『天沼矛』を使って『イザナギ』なんて名前を付与しようとしている。

 

普通の式神や呪骸に『イザナギ』と名付けを行うならばまだしも、特級呪物『天沼矛』を使って『イザナギ』と名付けてしまうのが問題なのだ。

最悪を想定するならば神霊『イザナギ』が現世に顕現してしまう可能性だってありうる。

 

……だがこの子なら、ひょっとしたらひょっとするかもしれん。

そう好奇心ゆえに思ってしまった私は彼に針金と粘土を売りつけ、ついでに私の『構築術式』が封入された形代を渡してやった。

何故か彼が笑顔で私に作品を見せびらかしてくるビジョンしか見えなかった。

 

 

 

数日後、少年がビクビクしながら相談に来た。

ミミッキュがなんか動いてる気がするし、作ろうと思ってたパーツは完成してるし、これポルターガイストかなんかですかね?とのこと。

 

……さすがにそろそろ呪術を知らぬ存ぜぬでは通せない領域に入ってきたのかもしれない。

しかし呪骸が主人の前では動かないというのはどういうことなのだろうか。無意識に少年がそんな命令を呪骸に与えているのかもしれないが。

とりあえず今は気にしすぎたらダメよと忠告して家に返しておいた。

 

 

 

二週間くらいして少年が私の下を訪ねてきた。

後は外套作って着色すれば完成ですわ!とウキウキしている。私もどんなモノができてしまうかウキウキしてきた。

ウキウキしたテンションのままにまた呪物を売ってしまった。この前よりも少年の手に残る残穢が強いので扱いきれると踏んでのことだ。

それはそれとしてまた軽率に呪物を渡してしまった自分を布団の中で恨んだ。

 

 

 

一週間くらいして少年が完成品を持ってきた。

ガラスケースに入った躍動感溢れるポージングのイザナギは今回がフィギュアを作るのが初めてだと思えないほど精巧に作られていた。

そしてそのイザナギには当たり前のように呪力が宿っている。なんだったらこちらに黄色い双眸を向けていた。

ついでに言えば込められた呪力はミミッキュの比じゃない。

 

もし本当のイザナギがこの中に宿っているのだとすれば、とっくの昔に天地開闢でも国土創世でも何でも起こっていただろう。

それが今の今までないとなればイザナギが降りてこなかったか、もしくは────

いや、天地がひっくり返ってもそれはないだろう。

ともかく成功ということだ、おめでとう少年。私の見込みは間違っていなかった。

 

 

 

それで、次は何を見せてくれるんだい?

 

 




アンケート募集中です。ご回答のほどよろしく。
これで次回作る人形の大体の方針を決めます。

投稿から一日、もしくは明らかにぶっちぎりが出たら締め切りです。

一番下の選択肢以外は人間の形をした人形となりますので、皆様奮ってご参加ください。


転生者くん
→トイ・○トーリーよろしく人形は主人の見ていないところで動くんじゃないかと思ってる。

呪骸たち
→無意識下に主人から下された『人形は主人が見ているところでは動かない』という命令を遂行中。

おばあさん
→アグレッシブばあちゃん。多分人類滅亡に王手をかけてた。めっちゃ人生エンジョイしてる。


『天沼矛』
→日本神話に登場する矛のこと。当SSではその断片が登場した。
イザナギとイザナミが国産みをする際に別天神たちから与えられた。
二柱の神はこれで形の定まっていなかった海原を「こをろこをろ」とかき混ぜて日ノ本最初の大地である淤能碁呂島(おのごろじま)を生み出した。

Q.イザナギ作るのは何が問題だったの?
A.呪骸作りに特化した術師、特級呪物『天沼矛』、イザナギと名付けられた呪骸、この三つを霊媒としてガチのイザナギを神降ろししてしまう危険性がありました。
危険度としては天元様が星漿体との同化を忘れたくらいはあるんじゃないかな。
オガミの婆さんがパパ黒の肉体を孫に降霊したら乗っ取られちゃったみたいな、今回しくじってたらあんな感じになります。コワ〜。

Q.マガツになってますけど
A.そりゃあ負のエネルギーたる呪力込めて、特級呪物なんてものを詰め込めば神の負の側面たる荒御魂が現出してきても何もおかしくはない。いいね?



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#5 カミングアウト

厳正なる投票の結果、次は『タッパとケツがデカイ人形』を作ることになりました。

ちなみに私のタイプはタッパもケツも小さい人形です。みんなもドシドシ性癖開示してってくれや。

性癖開示によって呪力上昇は……見込めませんかそうですか。




「じゅじゅ、つ?」

「そう、呪術だ。お前さんは人形作りをしている時、意図せず術式を使っていた」

 

快晴の空、休日の昼下がり。公園は人もまばらだが、離れた広場では子どもたちがサッカーをして遊んでいる。

 

次のフィギュアの相談をしようとおばあさんの下へ馳せ参じたところ、いつも商いしてる場所じゃなく付近にある公園のベンチへ連れていかれた。

 

作った人形二つとも持ってこいと言われたので一旦家に帰り、リュックにイザナギ、両手にミミッキュの状態で公園に走る。少年たちの視線は痛かった。

 

「今抱えてるミミッキュに『握手して』と命令してみな」

「おばあさん、今日は帰りましょうか?」

「まだお天道様は沈んじゃいないよ」

 

とうとうボケちゃったのかと心配したけどそうじゃないっぽい。至極真面目に話すおばあさんに気圧され、膝に置いていたミミッキュに小声で言ってみる。

 

「あ、握手して?」

「キュッキュッ」

 

するとミミッキュはズルりと影のような黒い腕を伸ばし、そっと俺の手を握った。

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」

「騒々しい」

「すみません」

 

握手の後も歩け!とか、ジャンプして!と指示してみるとミミッキュはその通りに動いた。よしよしと頭を撫でてやると嬉しそうにしている。

 

「で、呪術ってなんです?」

「噛み砕いて言うなら……そうさな、魔法みたいなものかね」

 

お前さんの想像とはかけ離れてると思うが、とおばあさんは付け加える。

 

 


 

『呪術』

 

負の感情が形を成した存在である呪霊を祓うための技法及び呪力を扱った異能の総称。

その方法は千差万別。呪術を扱う者の数だけ祓いの種類は存在する。

 

非術師は己の身体の内から染み出す悪意、恐怖、憤怒──総じて負のエネルギー、呪力を御することができない。

呪術師はそれを巧みに操り呪霊を祓う力へと転用することができる。

 

その起源は凡そ1200年前、魑魅魍魎が我が物顔で日影の下を闊歩する平安時代にまで遡る。

式神、結界術、呪骸、シン・陰流等、現在の呪術師たちが行使する普遍的な術式の多くはこの時代に生み出されたものが大半を占める。

誰かを救うために、自分を守るために、己が利益を得るために、貴族はこぞって呪術の軍拡競争を押し進めた。

そんな呪術全盛の平安の世が今の呪術界の礎を築いたことは言うまでもないだろう。

 

民明書房刊 『陰陽術起源異譚』より

 


 

 

つまり呪霊は自然発生アークゼロ*1みたいなもんで、それを悪霊退散ドーマンセーマンするのが呪術師と。

危ない危ない。次アークゼロ作ろうと思ってたなんて口が裂けても言えないぜ。

 

「えっ俺呪術師なの?」

「お前さんは高専が登録してる人間でないから『呪術使い』といったところかね。人を害するつもりはないだろう?」

「そんなつもりはサラサラないけどさ」

 

パンピーを殺害した呪術師は呪詛師としてカテゴライズされ処刑対象になるらしい。コワ〜。

 

で、俺の呪術(厳密には生得術式って言うらしいけど)は無生物に呪力を付与して自立させる────呪骸ってものを作成することに特化しているらしい。

 

ミミッキュは既に見た通りなので試しにバッグから出した(マガツ)イザナギに命令してみたらめっちゃ軽やかに動くし浮いた。球体関節なんて一つもつけてないし、重力反転装置なんて持ってないが。

 

「呪骸ってこれただ動くだけなんですか?」

「製作者によるとしか言えん。というか浮くだけでも結構異常な部類に入るんだけどねえ……」

 

製作者によって探知機能や膂力の上昇が付与されることがあるそうで、中には感情を持って人語を解する呪骸すら存在するらしい。

この子たちはどうなんだろうか。ミミッキュは感情ありそうだけど。

 

「気になるなら何か命令してみればいい。どんな呪骸にするかを考えていなくとも、お前さんの妄想の産物なんだからコンセプトくらいはあるんじゃないかい?」

 

……もしかしてミミッキュは俺が日記に書いたわざ使えるのでは?

 

「ミミッキュ、かげぶんしん」

「キュッ……」

 

ベンチの影に隠れていたミミッキュは億劫そうに日向に出ると予備動作ゼロで残像を作り出した。

さすがに質量を持った残像とはいかないようで、若干ブレているミミッキュに触れようとすると消えてしまった。

 

「ほお、残像を作れるのかい。そっちのは?色が禍々しくなってるけど」

「んー、どうでしょう。使えるんですかね?色は知らないうちにリペイントされてたんですが」

 

リペイントってもしかしてあれかな。呪術使ってイザナギ作ったからオルタ化しちゃったみたいな感じなのかな。

うーん対戦とかで使ってたミミッキュはともかくマガツイザナギはあんまり使ったことないし……。

 

「マガツイザナギ、マハジオダ──いや、待ってストップストップ」

 

近くの木に向けて電撃系の上位魔法であるマハジオダインを放とうとしたところ、夕暮れにも関わらずマガツイザナギがバチバチと放電しながら辺り一帯を雷光で照らし始めたので急いで中止命令を出す。

 

「えっと、呪骸ってみんなこんなもんなんですか」

「お前さんが異常なだけさね」

 

おばあさんの返しが少しだけ冷たかった。

 

 

*1
仮面ライダーゼロワンにおける実質ラスボス。

人間の悪意をラーニングした結果『人類は地球上で最も滅ぶべき存在』であると判断してしまった人工知能。全部あの1000%の野郎が悪い。




感想欄は安価じゃないのでそこんところよろしく。
その代わりにアンケートが設けられてあるんやで。
今回のアンケートの期限も一日としますわよ。


転生者くん
→そろそろ名前を決めたい。5話目にして初めて呪術の概念を知る。遅くないかい?

おばあさん
→そろそろ名前を決めたい。呆れつつも転生者くんに呪術とそれを取り巻く呪術界について教えてくれた。

民明書房
→『魁!!男塾』のパロディ。今回一番考えるのに時間かかった。

ミミッキュ
→転生者くんが日記に書いたわざは一通り使用可能な模様。感情があるとかないとか。

マガツイザナギ
→特級呪物を使ったおかげか出力がヤバいのに超低燃費。


次回はアンケート通り身長(タッパ)(ケツ)のデカい人形を作ります。


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#6 うぉ……デッッッッ

厳正なるアンケートの結果バカ目隠しにはまだ見つからずに済みそうです。


みんなの性癖を知れてワシは満足じゃ

今回作ろうとしてるのが感想で言い当てられないか正直ビクビクしてたけど杞憂でした。




☆月○日

 

じゅじゅつかい(呪術界)の ちしきを えた ! ▼

 

どうやら自分は『呪骸』と呼ばれる無生物を自立させる呪術を無意識に使っていたらしい。ミミッキュが動いてたりしたのはそのせいだったのかと合点がいった。

作る時に情熱を込めたからかどうなのか、作った呪骸は原作と同様に能力が使えるようである。ワイはただ彼らを形にしたかっただけなんだがなあ。

 

このままだと呪術師or呪詛師にヘッドハンティングorヘッドハンティング(物理)されちゃうけどお前はまだ作り続けるのかい?(意訳)とおばあさんに聞かれたので「気が付かれる前に人形作りまくればいいんじゃ?」って言ったら爆笑された。なんでさ。

 

 

☆月✕日

 

唐突に『身長(タッパ)(ケツ)のデカい人形を作りなさい(なお身長は180cm↑とする)』ってとても具体的な電波を受信したので作っていこうと思う。俺の好みはどっちも小さい方なんだなも。

 

さすがに1/1スケールを部屋に置いたら両親にドン引きされるだろうし打開策を考えなければ。

 

 

☆月□日

 

1/1スケールを作れ、なんて縛りはないけど何故かそれを作る前提で行動している自分がいる。コワ〜。

今日はアイデアが浮かばないのでふて寝する。

 

 

☆月▼日

 

寝ぼけてテレビに頭をぶつけそうになったら画面の中に顔を突っ込んでいた。

今日は現実逃避のためにふて寝する。

 

 

☆月▲日

 

自室のテレビの内部に異空間改めマヨナカテレビ*1が発生していた。原因は多分マガツイザナギ。

キョドりながら人形たちと内部を探索してみたが、安全区域の撮影スタジオ以外の場所は見当たらなかった。

そもそもこれが俺の知るマヨナカテレビなのかすらも怪しいが、万が一ということもある。雨の日の夜は逐一チェックするとしよう。

 

 

☆月◎日

 

雨の日も風の日もマヨナカテレビを観察探索してみたが特に異常はないし場所が増えた様子もない。

 

ここを工房とする!ヨシ!

 

 

☆月■日

 

人形の保管場所を気にする必要がなくなったので早速作っていこう。

やるからには妥協したくないので今回からは人形たちの手も総動員していくことにする。

 

 

☆月◇日

 

家の倉庫で埃をかぶっていた発電機とブラウン管テレビ、後スコップ持って近くの山に出かけた。

 

これでマヨナカテレビが作動しなかったらお笑い者だったけど無事作動。出発前に自室のテレビから中に入れて置いたミミッキュとマガツイザナギを外に出して、粘土の採掘を始める。

 

校外学習の時間で地域の歴史について学ぶことがあったんだけど思わぬ所で役に立つもんだなぁ。

 

掘った粘土や出力ミスって切り倒しちゃった木材をテレビの中に日が暮れるまで押し込んだ。

 

明日は土まみれの材料をキレイにしなきゃ。

 

 

☆月☆日

 

一日じゃ終わんなかったよ……。

掘った量舐めてたわ。

 

 

☆月●日

 

三日くらいかけてようやく終わらせたわよ!!

よく考えたらこれ店に売ってるような粘土じゃなくて土粘土だから乾燥するとヤバいわよ!

今日は徹夜で設計図の書き足しだわわ……

 

 

◇月○日

 

土粘土だからこそ彼女を作るのには相応しいと思ってる。

でもちょっと乾燥早くない?水が全然足りないんだが??

染料も布も足りねぇよおばあさん助けて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△月☆日

 

苦節1ヶ月半……ついにできた!できたぞ!!

 

キングプロテア完成じゃあ!!!

 

 

 

*1
ペルソナ4における重要なファクターでありローグライクダンジョン。詳細な解説はネタバレ必至なので割愛する。

当SSではテレビの画面を異空間へと繋がる門のようなものにすると考えてもらえばOK。




身長(タッパ)ヨシ!(ケツ)ヨシ!ついでに胸囲(バスト)ヨシ!



デカァァァァァいッ説明不要!!



アルターエゴ!キングプロテアッ!



転生者くん
→念願の工房を手に入れたぞ!
商店街とかモールとかあるけどそこそこ歩けば近くの山に辿り着ける程度の田舎に住んでいます。
年齢が高校生以下なのは確定。
今のところ呪術師になる気はないけど、襲われるのは嫌なので呪骸量産を決意。

おばあさん
→布代と染料代でめっちゃ儲けたけど少年の財布が心配になった。

少年の財布
→素寒貧。

ミミッキュ
→粘土採掘でかなり活躍した。

マガツイザナギ
→勝手に『亜種領域・禍夜永電視(マヨナカテレビ)』を展開し転生者くんに要らぬ心労と拠点を与えた。
当分マヨナカテレビは工房兼エンダーチェストみたいな使い方をされることとなる。

キングプロテア
→布以外はほとんど地球に優しい素材で作られました。現在の身長はFGOの最低値と同じく5mです。デカすぎるのが影響してか、まだ呪骸にはなってません。



やはりノリだけの突貫工事で書くと設定に粗が出始めるなぁと反省。
一回ちゃんとまとめようかねぇ。


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#7 私はあなたで、あなたは私で

みんなも花京院の『魂』を賭けよう



つい少し前までは上を仰いでも赤黒ストライプの気味悪い空しか映らなかったが、今日からは違う。

ついに完成した彼女が殺風景で趣味を疑う撮影スタジオに花を添えてくれる。いや、そんなことはないような。

 

ともかく、巨神兵が如き威容を誇り地母神めいた愛を内包したキングプロテア(人形)が完成した。ちなみに姿は第一再臨。第二再臨はあのマリモと全身もふもふを再現するのが上手くいかなかったので挫折した。

 

「あ、そういえばどうやって外に出せばいいんだ?」

 

俺の質問に答える者はいなかった。呪骸たちは首を捻ってこちらを見つめている。やめろ!そんな目で俺を見つめるんじゃないっ!

 

んー、渋谷の大型LEDビジョンをマヨナカテレビ化してそこから出す?

……いやダメだな。パンピーの被害が凄いことになるし、映画でやってた貞子じゃんそれ。

渋谷が戦場にでもならん限りそんなことはできないな。

 

そもそも現実にお出しして大丈夫な存在なんだろうか。

ヒュージスケール*1とグロウアップグロウ*2が原作ママだったらVS呪霊どころか人類終焉シナリオなんだが。

バカっ!俺のバカっ!!作ってる時に気がつけよバカ!

 

……FGO形式であることを祈ろう。少なくとも彼女の体が人形で、ここが物質世界だから青天井とはいかない、ハズだ。きっと、多分、おそらく、メイビー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完成から数日、ようやく呪力が五体に行き渡ったのか、体育座りのプロテアのまぶたがおもむろに開かれる。

きょろきょろと周囲をさまよった視線は自分の下へと定まった。

 

「自己紹介は、いらないかな。私を作ってくれてありがとう、マスター……うーん、お父様?」

「プロテアが好きな方でいいよ」

「うん、じゃあこれからよろしくね。マスター」

 

プロテアは人懐っこそうな笑みを浮かべた。

一挙一動、彼女の瞬きや会話でさえ巨大すぎる体躯故に風圧が感じられる。うぉ……でっか……。

 

「自分で作ったのに変な反応をするんですね」

「あ、口に出ちゃってた?」

「ううん、私たちとマスターは繋がっているから、これだけ近くにいれば考えてることくらいなら」

 

……設定が生えた?

いや待て、おばあさんの講義を思い出すんだ。

 

『呪骸』は呪力によって自立可能な無生物の総称だ。呪骸は式神のようなタイプとロボのように操作する「傀儡」タイプの二つに分けられる。自分は式神タイプとおばあさんは分析してたし、俺もそう思う。

んー、今の中で俺の心が覗かれる余地はあったか?いやないな。

 

「プロテア?」

「はいマスター、命令をどうぞ」

「なんで心を読めるか教えてもらっても?」

 

記憶をまさぐってみたが、キングプロテア自身が元々精神感応能力を会得していたっていうのはなさそうだ。

彼女がサーヴァントという存在であれば感覚器官の同期や念話、主従双方が記憶を垣間見ることができるがこのプロテアはあくまで呪骸。サーヴァントではないはず。

 

「それはですね、マスターが呪骸さんを作る時に魂を込めてるから」

「……比喩?」

「文字通りですよ!ミミッキュさんも、マガツイザナギさんも、これからマスターが作るお人形さんも、もちろん私も、みーんな()()()()()()()()()が入ってるんです!」

 

ほうほう、つまり俺が作った呪骸たちは俺がお前でお前が俺で、我は汝で汝は我ってことか。

 

 

 

「──ミ゚ッ゙」

「ま、マスターッ!!?」

 

 

 

すまんプロテア……俺の頭が理解することを拒んじまったみてェだ……。

 

 

*1
スキル「自己改造」が変質した結果生まれた『無限に限界を突破する』スキル。

自らのレベルが上限に到達すると同時にレベルキャップを解放、これを無限に繰り返す。

際限なき成長は星をも喰らう厄災となりうることは疑うべくもない。

*2
スキル「経験値ボーナス」が変質して生まれた常時経験値増加スキル。

通常の成長よりもステータスの伸びが悪くなるが、『ヒュージスケール』と併用することでその欠陥を踏み倒し、何をせずとも無限の成長を続けるとんでもないスキルへと変貌してしまった。




転生者くん
畜生ォ……持っていかれたァ……ッッ!!(魂)
キングプロテアによってダービー(兄)&擬似真人、ないしは分霊箱みたいなことをしていた衝撃の事実に卒倒する。
これが転生者くんが呪骸を作る上での『縛り』の一つです。ノーリスクなんておいしい話はどこの世にもないんだねぇ。等価交換の法則は覆せないのよ。
他の呪骸たちもそのことについて理解はしていたが喋る口がなかった。

呪骸
→本当に命懸けで魂を吹き込んでいた。
核を生成する工程で転生者くんの魂の一部を使用しているため、突然変異のパンダと同じく人格が生える。
もし仮に核が破壊されてしまえば、その魂は跡形もなく消失する。

キングプロテア
→悪気はない。命令に従っただけなので。
物質世界に存在しているためステータス及びスキルはFGO準拠だが、仮にも領域であるマヨナカテレビ内で過ごしているため、それに応じた『成長』をする可能性がある。
ハイ・サーヴァント、地母神、マガツイザナギ、幾千の呪───(記述はここで途切れている)



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#8 深淵を覗く

UAもお気に入りも評価も感想も爆速で増えてるけどなんだこれコワーと思ったら日間1位を叩き出してて無量空処くらった漏瑚になってた。



最初、そこには闇しかなかった。

月はなく、星もなく、ただひたすらに冷たいだけの、生きた心地のしない闇があった。

 

そこに『自分』が在るのはわかる。だが今、自分の中で『自分』は酷く曖昧だ。

何者で、どこにいて、どうしてここにいるのか。全てどこか遠く離れた場所に置いてけぼりにしてしまったようで、心細い。

 

光を失った深淵の中から滲むようにして色が浮上する。浮上した色彩はしばらく闇の中を漂い、少しずつ見慣れた形へと姿を変えて自分の前に立ち顕れた。

それは机で、それは紙で、そして天秤だった。

 

机に置かれた天秤の両端、秤の中で白い炎と黒い炎が灯り、まだ半分ほど闇に浸っていた紙に記されし文字列を光の下に暴き立てる。

 

 

 

もういちど まきますか?

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 

 

 

簡素な文字が簡潔に質問を綴っていた。その下には答えを書けとばかりに四角で囲われた空欄が転がっていて。

その文字を認識すると同時、机の上で白色が漆黒のキャンバスに躍り、羽根ペンへとその姿を変えた。

……催促されているのだろうか。

 

現れた羽根ペンを持ち、おもむろに『まきます』と書いた。

 

今の自分は『まいてない』。

ならきっと、まいた方がいい。

 

すると紙に書かれた文字が消え、次の文章が浮かび上がる。

 

 

 

いりますか いりませんか?

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 

 

 

紙の近くにUSBメモリが現れる。

手に取りじろじろと見回してみたが、何の変哲もない。

だがこの手にシュッと収まる馴染みよう、自分のモノだったのではと思えてならない。

 

しかしこの中にはどんな夢が詰まっていたのだろうか。肝心なところを想起できず歯痒い気分になる。

ここに中身を覗けるような機械はないことが、何より悔やまれた。

 

これは大切なものだった、気がする。

 

少し悩んで、『いる』と書いた。

今度は文字がミミズのように紙の上を這い回って、次の文字列を作り上げた。

 

 

 

いちですか ぜんですか?

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

 

 

 

ひらがなではあるが、恐らく『一』か『全』。

どこかその言葉に冒涜的な何かを感じながら『一』と箱の中に記す。

自分は『全』よりも『究極の一』が欲しい。

 

 

文字は消え、その代わりに闇の中にまた色が生まれた。

色は徐々に輪郭を帯びていき、ハートを象った。

けれどもそれは、とてもじゃないが幼い少女が好みそうなものではない。

 

どくどくと脈を響かせ、血を被ったような赤に染まった、記号のハートと本物のハートが融合した気味の悪い物体。それが闇を裂いて生まれ落ちた。

 

 

 

かけますか かけませんか?

 

ㅤㅤㅤㅤ賭けるㅤㅤㅤㅤ

 

 

 

即答。同時にハートに亀裂が入り──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っチィ、これ以上はヤバいか」

 

巨大な右手の中でくうくうと寝息を立てるマスター。その胸に押し当てられていた華奢な手のひらがゆっくりと後ずさる。

「いいご身分だなぁお前は」と吐き捨てながら少女は額に浮いた汗をミミッキュから受け取ったタオルで拭いとった。

 

「無事なんですよね?」

「あ?んなもん当然に決まってんだろ。万に一つもオレ様がそんなヘマは起こさねぇよ。予防策のプランも同時に走らせてるから遠慮なく安心しとけ」

 

そう言うと彼女は傍らに置いていたノートに先ほど覗いた記憶の断片の記録をつけ始めた。

プロテアは自分の指に寄りかかる彼女の長い金髪を小指でちょいちょいともてあそんでいる。

さらさらだ〜!と無邪気に笑うプロテアに「当然だろ」と素っ気なく彼女は返す。満更でもなさそうな顔ではあるが。

 

「ハートの崩壊が魂の分割を暗示してんなら作成可能上限は……恐らく後8体。まー仮に全部作ったとして本体が無事な可能性は甘々に見積もって五分五分。まだ五体満足なのは『縛り』そのものがコイツの魂を──」

 

文句と考察を並行しつつ今回の収穫を書き終えた開闢の錬金術師は大きく嘆息をつく。

来た道も、行く先も、彼女に待ち受けるのは気苦労ばかりのようであった。

 

 




助けて……真乃……めぐる……灯織……!


ランキングから消えた後にまた投稿しようかなーと思ってたらそれを許してもらえなかった。
評価、感想、お気に入りの数々、誠にありがとうございます。

でも思った以上にプレッシャーかかってきてヤバいのでちょっと休ませてください……。

ちゃんと設定練り練りしてくるので許してくだちい……。

次回カリおっさん製作秘話やります。


転生者くん
→色々あって天才美少女錬金術師(TS)のカリオストロを作成。
今回出番はなかった。

お空の世界の最っ高に可愛い天才美少女錬金術師マ美肉おじさん
→好きなんだろ?こういう女の子がさ!(好き)
自分の魂を錬金術で完璧にチューニングしたボディに移し替えて数千年以上の時を生きるマジで美少女に受肉したおじさん。
色々あって転生者くんの生得領域の更に深層にアクセスしていた。

生得領域の更に深層について
→転生者くんが転生する前に結んだ()()()()()()が封じられている。
縛りの影響か、ひどく抽象的なことしか美少女錬金術師は認知できなかったが、それでもいくつかの手がかりを掴めたようだ。


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#9 ご注文は美少女ですか?

ごめん、みんなのところには行けません。
私はいま、ヤーナムにいます。この国を脅かす獣共と戦っています。
……本当は、あの頃が恋しいけれど、でも今はもう少しだけ、知らないふりをします。
私の作るこの屍山血河が、きっといつか誰かの未来を拓くから。



キングプロテアから今明かされる衝撃の真実ゥ!を知った俺は自室のベッドの上で一人、思慮に耽っていた。

 

魂の分割、と言われていの一番に頭に浮かぶのは分霊箱である。

そうそう、名前を言ってはいけないあの人。ヴォル何某卿が使う闇の魔術だ。

殺人によって自らの魂が引き裂かれることを利用して分割した魂を何かしらの媒体に収めることで擬似的な不死性を実現する、そんな魔術だったはずだ。俺の記憶が確かならば。

 

さて、今の今まで作った呪骸に魂を込めていたとなると……ミミッキュ、マガツイザナギ、キングプロテア、俺で魂を四分割してるってことになる。

ヴォル何某は最大八分割だから、それに倣えば……いや、同じと見做しちゃいけないな。例の人と俺とでは境遇も血統も力も、何一つ同じじゃない。個人としての実力じゃ俺の方が圧倒的に劣ってるのは明白だ。『悪霊の火』なんて食らってみろ。一瞬で灰になるぞ俺。

あくまでもほんのちょっとした参考程度に考えるのがいいだろう。

 

参考程度に考えるとしてだが……今のところ身体に異常は発生していない。人として逸脱した結果顔が蛇っぽくなるとか*1、魂を呪骸に込めすぎた結果肉体が抜け殻になるとか*2、そういうことはない。

現段階では今のところない、としか言いようがない。もっと呪骸を作った結果ばたんきゅ〜となっても何らおかしくはないのだ。或いはもっと惨い死に様を晒すことになるかもしれない。

 

例えそんなデメリットがあろうとも俺は人形作りをやめる気はさらさらない。むしろ命果てるまであの尊い記憶を形にできるのならば、それは本望だ。

俺の魂が人形たちに入っているなら死んでも文字通りに彼らの中で生き続けることはできるだろうし……ん?ひょっとして呪骸の反応とかって全部俺の一人芝居────いや、やめよう。その考えはいけない。違う、絶対に違うぞ。

 

うーん、ともかくわからん。わからんことが多すぎる。

そもそも俺は自分の術式について『己の魂を込めた呪骸を創り出す』以外のことを知らない。

術式についておばあさんに聞くことも考えたが……無駄な心労をかけるわけにもいくまい。

 

──となれば、やることは一つだな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△月■日

 

今まで自分は漠然とした目的すらなく興味とノリ、創作意欲の赴くままにあれこれと呪骸を作っていたが、今回からはしっかりとした戦略を練っていこう。

呪骸製作の果てに命尽きるのは本望ではあるが、いずれ訪れるだろう破滅をただ待ち受けるのは性にあわない。

終わりに納得するのは持てる全てを尽くしてからでも遅くはないはずだ。

 

 

△月▶︎日

 

今必要なことは大きく分けて二つ。

①術式についての理解

②呪術への対策と防備

 

①についてはおばあさんを頼ることはあまりしたくない(というか匙を投げられる気がする)ので、新たに拵える呪骸をその道に明るいキャラを創ることで対策するとしよう。

②は今後否応にも訪れるであろうVS呪術での戦闘だ。

今のところ、今のところは見つかっていないようだが俺と俺の呪骸を狙って呪術師呪詛師にヘッドハンティングされる可能性がある。

おばあさんに聞かれた時は「気が付かれる前に人形量産して王手かけるお」とか言った気がするけど、魂分割というデメリットが判明したのでそれは難しくなった。

恐らく人形たちが主体で戦ってもらうことになるが……そこら辺もこれから煮詰めていこう。

 

なんか命の危機を認知したことで急に聡明になったような……気の所為だろうか?

 

 

△月◁日

 

優先は①なのでネタ出しをしていこう。

デメリットがいきなり飛び出すのはあまり考えにくいから、まだ何体か人形作ってても大丈夫なはず。

 

そういえば術式は人形を作るにあたって必要な条件とかあるんだろうか。正直作って良さそうかそうでないかくらいしか考えてなかった。

 

 

△月◎日

 

審議の結果選ばれたのはカリオストロでした。まあ相談相手はプロテアしかいなかったんだが。

彼女は「BB(お母様)作りましょうよマスター(お父様)!」って言ってたけどゴメン、それは無理だ……。

いや、作れるか作れないかで言えば()()()。無理じゃない。

でも作ったが最後俺はどんな末路を迎えるかは想像に難くない。ムーンセルすら掌握した暴走AIやぞ!?先輩でもない俺が御せるわけないだろ!!

 

と、言うわけで後ろで頬を膨らませるプロテアを尻目にこれを書いている。あれ、そういえば近くにいると思考が読め────(筆跡はここで途切れている)

 

 

△月♪日

 

マヨナカテレビが抑えられる限界ギリギリまでデカくなったプロテアに高い高いされて死にそうになった。珍しくマガツイザナギが刃を地面に突き立ててヘトヘトになってたので労わってあげた。

 

 

△月# 日

 

カリおっさんは完璧主義だ。突き抜けるとこまで突き抜けた究極的なナルシストと言ってもいい。

完璧に調律を施して錬成した寸分の狂いもない身体、そしてそれに見合うように数千年をかけて改良を積み重ね作り上げた性格(ロール)、何をとっても彼女は()()であろうとしている。

まあ、つまりはだ。その頑張りに敬意を表するのと、雑に創ったら殺されそうな予感がするので、こちらも誠心誠意最高傑作の御体を創ってやるということだ。

 

明日からやるぞ!頑張るぞ!ヨシ!

 

 

△月¥日

 

小遣いはキングプロテア作る時にほぼ底を突いたが、今回使うのはリボンとかマントとかミニスカとか作る時の布代くらいなので何とかおばあさんに値引き交渉をしよう。

とりあえずはプロテアを作った時の余りの土粘土でアタリをつける全体的な造形から。衣装は一番最初に実装された【開闢の錬金術師】スタイルで。

 

 

△月Σ日

 

材質で戦うことはできないのでカリおっさんには完成度の高い身体を作るしかない。多分生死かかってるし。

髪とかの細かい作業はサイズの小さいマガツイザナギ、俺と一緒に設計図を書いて造形のプランを練るのはキングプロテア、大雑把に粘土を捏ねてプロトタイプを創るのはミミッキュに任せた。

 

今までのノリがなんだったんだくらいに進まない。これが完璧を求めるということなのか……?

 

 

△月∀日

 

進まない。キングプロテアと一緒に頭を悩ませた。

 

 

△月∥日

 

アタリがつかない。先に服の図面起こすか?

 

 

△月@日

 

(文章の代わりに簡素なスケッチと服の図面が描かれている)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎月○日

 

ついにひと月が過ぎた。おばあさんがそろそろ心配してそうだから顔を見せに行こう。

 

一応、アタリはついた。図面の練りも固まったのでついでに服の素材を頼んでおこう。

 

 

◎月△日

 

終わらないにぃ

疲れたにぃ

 

 

◎月☆日

 

(ミミズがのたくったような文字が書かれている)

 

 

◎月□日

 

(非ユークリッド幾何学に酷似した冒涜的な図形が描かれている)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■月☆日

 

危うく宇宙猫になったり、真理の一片を垣間見たり、啓蒙が高まって夢の中で雲海に峭立する墓石が並んだ箱庭でお人形さんとお話したりしたけどようやくだ。

ようやく【開闢の錬金術師】カリオストロが完成する。

時間にして2ヶ月半くらいか?熱中しすぎでは?息抜きなんて日中学校に行ってたくらいしかしてないぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

造形よし、着色よし、服よし、歪みなし。

持てる全ての技巧を注ぎ込んで作り上げた究極の人形。錬金術の開祖、カリオストロ。

お気に召さなかったらどうしようかと製作者が気を揉んでいると、ピクリと人形だったはずのものが動き出す。

 

「……ん」

 

少女の瞳が生きた色を帯び、ぱちくりと瞬くアメジストの双眸が外界を認知する。

爪、指先、掌、腕……自分を構成するありとあらゆる要素を舐めるように見回した後、彼女は低い声で総評を口にした。

 

「……43点」

 

「────ウゾダドンドコドーン!!!」

 

 

 

それは 評価と言うには あまりにも辛辣すぎた

慈悲なく 容赦なく 手厳しく そして シビアすぎた

それは 正に 酷評だった

 

 

これまで寝る間すらも惜しんで途方もない研鑽と試行錯誤の末に大成させた我が子から浴びせられたのは、あまりにも、彼にとってあまりにも残酷な一言だった。

 

 

*1
例︰ハリー・ポッターのヴォル何某卿。しかし彼としては醜悪な顔へと変貌することにそこまで抵抗はなかったようだ。

*2
例︰魔法少女まどか☆マギカのソウルジェム。こちらは契約した時点で魂をまるっと抜き取られているようだが。うーん畜生。




Q.えっ!?独力で自分の術式の解析を!?

A.出来らぁっ!(呪骸の手は借りるものとする)


転生者くん
もうやだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!
やはり呪術の使い手は揃いも揃ってイカれた奴らが多いが、こいつも例に漏れず人形作って死ぬのは本望とか思っている。
しかしタダで死ぬのはちょっと……ということで対抗策を講じ始めた。
どうして狩人の夢なんか見てるんですか???

カリおっさん
→身体の出来はオーキスに迫るレベルで精巧に作られており賞賛に値するものだが、自分(カリオストロ)を作るとなれば話は別だ。
彼女から見て指摘できるポイントなどいくらでもある。数千年を生きた錬金術師は伊達じゃない。



前書きにある通り最近Bloodborneを始めました。フロムゲーはこれがお初。
ガスコイン神父強すぎて最序盤から泣きそうになってました。ホントあれなんなんだ?ラスボスか?
6時間かけてなんとか倒しましたけど倒した時の達成感が疲れとなって襲ってきた。

退廃的な世界観に対して人形ちゃんの「おかえりなさい」があったけぇなぁ……。


今回は設定練り練りしてきたこともあってちょっと長め。ついでに気合いも入れた(今後も入れられるかは不明)
命の危機を認知したので一時的に転生者くんのINTが上昇してますがあんまり気にしないでください。


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#10 Mind Dive

俺のターン、ドロー!

俺は啓蒙を1消費して『血族狩りアルフレート』を攻撃表示で召喚!

いくぜ!『血に渇いた獣』にダイレクトアタック!!

ダイレクトアタック!!

ダイレクトアタック!!



【 YOU HUNTED 】




これが結束の力だ!



「────お前の中にある数多の選択肢(キャラ)からオレ様を選んだことだけは評価してやる。が、それとこれとはまた別だ。さっき纏めた改善点はしっかり頭に叩き込んでおけ」

「アッハイ、アリガトウザイマス……」

 

得点開示で製作者にダメージを与えた後、どこから持ってきたのか学校机に腰を据えたカリオストロはありがたい授業(地獄の補講)を開始する。

 

点数の時点で既に再起不能レベルの心傷を負っていた製作者は逐一どこが悪かったのかを解説しながら、よりにもよって己の創造物に欠点を指摘され続ける拷問を一身に受けた。

時間にしておよそ二時間半にも渡る講義である。

驕ってはいなかった製作者だったが、そこそこあった自己肯定感はカリオストロによって完膚なきまでに破砕されてしまったのだ。

 

「おい、いつまで寝っ転がってるつもりだ」

「もぅマヂ無理」

 

カリオストロから少し離れたところでミミッキュを抱き枕にして床に寝転がる製作者から出涸らしのような声が絞り出された。

その様子に錬金術師は盛大にため息をつきつつ机から飛び降りる。

 

「オレ様は自分が自分であるために、妥協することを許せないタチだ。所謂矜恃──プライドってやつさ」

 

だが、と前置きしてカリオストロは告げる。

 

「そこを抜きにしてこのボディを評価するなら……そうだなぁ。カリオストロはぁ、君に将来性あると思うぞっ☆彡

「……マジ?」

「大マジだ」

 

その言葉に彼は静かに目に涙を湛え、ぽたぽたとそれを零し始めた。

認められていなかったわけではない。彼女は自らの威信にかけて、認めることができないのだ。こと自らの身体に対しては。

 

そういえばぁ、マスターはどれくらいかけてカリオストロを創ったのかな?

 

涙が底を突くのを待ってからカリオストロは思い出したかのように口にする。

鼻をかんだ製作者は日記をパラパラと捲ってから口にした。

 

「2ヶ月半くらい」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の術式の理解、そして更なる戦力拡充のためにオレ様を創ったわけか。ハッ、いい人選じゃねぇか。だが……」

「だが?」

「この世界に対しての解像度が足りてねぇ。お前から聞いた話だけじゃ、教えるのに無駄な時間を要しちまうだろ」

 

カリオストロは空の世界において森羅万象を読み解き、世界の真理を手中に収めるための学問──錬金術の開祖だ。

しかし空の世界のことを識っていても、この世界に関しての見識がかなり不足している。

術式の解析と言えば聞こえはいいが、その術式が扱うのは『魂』だ。中途半端な知識で挑むことは自殺行為になりかねないし、何より彼女はそれを決して許さない。

 

そういうわけだから、そういうの教えてくれる人とかっていないかな?

「んー……」

 

心労をかけるのが申し訳なかったから頼らないと決めていたが、そういうことならばやむを得まい。『魂』の部分についてだけ濁せば余計な心配はかけずには済むだろう。

製作者はテレビを背負っておばあさんの下に行くことにした。

 

 

 

「おやおや、二人揃ってべっぴんさんだこと。お前さんの趣味かい?」

「趣味です」

 

澱みなくそう答えた彼におばあさんは何か言いたげな表情で鼻を鳴らした。激しく動揺してくれた方が面白かったとでも思っているかもしれない。

 

ちなみにおばあさんがマヨナカテレビの中に来るのは何気にこれが初めてである。「面妖な世界だねぇ」の一言で済ませた辺り、彼女の耆宿さが窺い知れよう。

諸般の事情(とんでもない大きさ)によってお披露目できなかったキングプロテアとも今回初めての顔合わせとなった。

 

は〜い☆ 初めまして、おばあちゃん!私カリオストロって言うの!よろしくね!

「あぁプロテアちゃんの次の。うん、よろしく。で、この嬢ちゃんに呪術の基礎を教えればいいんだね?」

「うん。俺に教えた時より詳しめによろしく。カリオストロの理解が深まれば深まるほど、俺の術式についてわかることも多くなるはずだから」

 

「そうかそうか」と自分のことのように彼女は笑う。

聞けばプロテアは一ヶ月半、カリオストロは2ヶ月半で創ったらしい。これ以上の作品をまだまだ生み出してくれるのであれば、惜しむものなど彼女にはない。

期待と好奇心に胸を膨らませながらおばあさんは意気揚々と授業を開始する。今度はカリオストロが生徒になるターンだ。

 

「ちなみに……カリオストロちゃん?」

なにかなっ?

()()()()()()?」

 

数秒の硬直の後、美少女錬金術師の表情(ロール)が音を立てて崩れ落ちる。

それを見ながらおばあさんは大きく口を歪めしてやったりと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごいねぇ。言ったそばからスポンジみたいに吸収してくじゃないか」

「錬金術は世界を識ることが真理への第一歩だからな。貴重な情報源をぞんざいに扱ったりはしねぇよ」

「カカカ、そうかい。教え甲斐があってこっちも助かるよ」

「お茶とお菓子持ってきたぞ〜。カリオストロ、調子は?」

 

特にやることのなかった製作者はおばあさんとカリオストロが授業をしている間に買い物に出かけていた。

カリオストロはにんまりと笑みを浮かべ、ご満悦のていだった。

 

「原理は十二分に理解した。後は実践を残すのみだな」

「わぉ流石」

も〜っ!褒めても何もでないぞっ☆

 

ぷりぷりと猫なで声で怒るカリオストロ。これだけ切り取ればまったく美少女錬金術師は最高だぜ!で済むのだが、如何せん素の彼女を知っている身としては……。

 

「オイ、余計なこと考えてなかったか?」

「何も」

 

その後おやつタイムを終えて、「やることはやったから」と告げておばあさんは颯爽と帰って行った。

 

「さーて、じゃあお前の術式を紐解くとするか」

 

授業で使っていたホワイトボードを消して新たに何事かを書き始める。

 

「……いや早くない???」

「早い方がいいだろう。オレ様もさっさと済ませてやりたいことがあるからな」

 

 

 

「いいか、お前が使ってる術式は生得術式と呼ばれるもんだ。産まれた時から身についているもので他人には模倣不可。これはいいな?」

「うん」

 

ホワイトボードに『生得術式』と可愛らしい丸文字が書かれた。

 

「じゃあその『生得術式』はどこから発生している?」

「どこ?うーん……身体?」

「それも一理ある。だが──」

 

カリオストロは『生得術式』を囲むように大きな丸を描き、それに『生得領域』と書き足す。

 

「『生得領域』──つまりオレ様は術式が()から生み出されていると結論付けた」

 

カリオストロが講義を受けて目をつけたのは『生得領域』と『領域展開』の関係だ。

前者は術者の心の中を指し、後者は生得領域に術式を付与して現実に具現化する結界術のことを表す。

心の世界の具現化が奥義であるならば、術式と心の中がチグハグであることはまずありえない。両者が繋がっていると考える方が自然である。

 

「だからお前の生得領域を覗いてみれば術式について詳らかにできるだろうなってコトだ。なに、自分の魂を弄ったことくらいはあるから安心しろ」

「安心できる要素がないよぉ!!?」

先っちょ覗くだけだからさ☆そんなに心配しないの!それ〜☆

 

いつの間に作っていたのか、眠り粉のようなものを振りかけられた製作者はまぶたが落ちた瞬間に夢の国へと旅立ってしまった。

 

 




ブラボに熱を込めすぎて投稿頻度が遅くなるSSです。ちょっと駆け足気味。
もう少ししたら面白くなると思うから許してね。


冒頭
獣の夜(闇のゲーム)の始まりだぜ!
実際こんな感じで倒した。

転生者くん
→不憫。だったけどその指導は彼女の矜恃故だったと理解し静かに涙を流す。
この後の展開は『#8』を参照。

カリオストロ
→2ヶ月半で自分を創ったことにはちょっと引いたらしい。
でも彼女は天才美少女錬金術師なのでへこたれたりはしなかった。天才美少女錬金術師だから我慢できたのだ。
貴方もカリおっさん最高と叫びなさい!!
おばあさんから呪術について学んで術式は生得領域から発生しているんじゃねぇかと考察し、生得領域を覗くことで術式を解明しようと画策。
この後の展開は『#8』を参照。

おばあさん
→カリおっさんの素を見抜いて笑った後呪術について教えた。覚えが恐ろしく早くてちょっとびっくりした。


感想欄に狩人ワラワラでワイもビックリや。
ちなみに今は黒獣パールの当たり判定にブチ切れてるところです。放電攻撃はよしてくれないか!


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#11 そうだ 素材、取ろう。

黒獣パールはエンチャントファイアした後どうにか四肢を部位破壊して倒しました(37敗)
ついでに教会のエミなんとかさんもエンチャントライトニングした後こっちも部位破壊で倒しました(初見)

やっぱりレベルを上げて物理で殴ればいいのはどこに行っても同じなんですねぇ。





「んにゃ、んん……」

「起きたか、調子はどうだ」

 

カリオストロの声に目を覚まし、寝ぼけ眼を擦って寝落ちする前の記憶を確認する。

それ〜☆」なんて気の抜ける掛け声とともに浴びせられた粉末を吸った直後から意識が途切れていたはずだ。いつの間に眠り粉を錬成していたんだよ……。

 

「いや善は急げって言うけどさぁ。何事も順序ってものがね?」

「なーに生娘みたいなこと言ってんだよ。早くしないと困るのはお前だろうが」

 

ぐうの音も出なかった。

施術は上手くいったようだし、まあヨシ!としよう。

 

「マスター、ホントに大丈夫?」

「うぉ!!?……あぁ、プロテアの手の中にいたのか俺」

 

ベッドもソファもないマヨナカテレビのどこに寝かしつけられていたのかと思えばキングプロテアの両手のひらだったようだ。

不安げな顔でこちらを覗き込み、長すぎる髪が彼女の手の周りに即席の紫カーテンを作り出している。

 

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとね」

「えへへー」

 

おもむろに自分の小さな手を伸ばせば、プロテアはゆっくりと大きなほっぺを近づけて頬擦りしてくる。

……折れないよな?

 

「折れませんよ!」

「ごめん悪かった!」

もーっ!天才美少女錬金術師をほっぽってイチャイチャするのは許さないぞっ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────と、オレ様がお前の生得領域の中で見たのはこんな感じだった」

「なぁにそれぇ」

 

いや何……?ホントに何だそれ……?

抽象的ってレベルじゃねぇぞ。俺の頭の中は哲学問題集か何かだった?

 

「正直抽象的が過ぎるが……どんなに荒唐無稽でもそこは生得領域内部。故に起こることには全て意味があり、必然だ。例えば──」

 

カリオストロはノートを開き、記された一節にペンで線を引いた。

 

「『かけますか かけませんか』。この文字の後に心臓みたいなハートが中心部を残して12に分かれるイメージが映った。そしてオレ様とプロテア始め、お前が作った呪骸には魂の一部が入ってるときた。ここから推測できる結論は?」

「俺が創れる呪骸は……後8体?」

 

ここまでお膳立てすればさすがにわかるよなと彼女は笑った。

 

「ああそうだ、生得領域の視察ついでにお前の魂の状態も診断してやったんだが」

「ついで!?」

 

「造作もない」と誇るでもなくそう返す。

カリおっさんが言うには五体満足で命が維持できているのが不思議なくらい魂が不安定な状態らしい。

欠損することがそもそもイレギュラーな事象なので推察を多分に含むが、上限の12体まで創った場合無事でいられる保証はないようだ。

 

「マスター……いなくなっちゃやだよ……」

「別に今すぐに死ぬわけじゃねぇさ。応急処置は施しておいたが根本的な解決じゃないから過信はするなよ」

 

 

 

 

 

 

「次は『いちですか ぜんですか』だな。突然だがお前は呪力を纏えるか?」

 

こんなふうに、とカリオストロは自分を包む青い焔のようなオーラを放出した。

呪力を纏うやり方はおばあさんから聞いたことはあったけど現状必要なかったからなぁ。

 

「コツとかある?」

「そうだな、臍を起点に体内を回っているエネルギーを感じることが基本だ。だがオレ様の予想が当たりなら──」

 

 

数時間後、俺はもはやお家芸のようにマヨナカテレビの外で作業をしていたミミッキュを抱きかかえてめそめそしていた。

 

「単純な呪力放出、『帳』を始めとした結界術、簡易的な式神、その他生得術式に関わらないこと一通り試してみたが──ないな、全くもって才能が。お前は自分の術式『のみ』に特化しているらしい」

 

そう、俺は生得術式以外の呪力を使った行為を何一つとして成し得ることができなかったのだ。

呪霊が見えること、そして術式が使えること以外はただの人である。

 

「えぇ……なにじゃあ、俺は役立たず?」

「そうだ。命を糧に仲間を増やす以外お前ができることはない。なにしろお前が選んだのは『全』じゃなく『一』だったからな」

「もしかして天与呪縛?」

「多分な」

 

『天与呪縛』とは生まれながらに大いなる力を授かるが、その代償に何かを犠牲にしてしまう事を指す。

例えば呪力を犠牲にして超人的な身体能力を得たり、身体の自由を生贄に膨大な呪力を得るなどがある。

俺の場合は呪術全般の才能を失った代わりに一芸に特化したということだろうか。

 

 

 

 

 

 

「あー、そういえばお前は転生者だったな」

 

いりますか いりませんか?』に線を引きながらカリオストロは神妙な顔をする。

あれ話したっけ?と聞くとカリオストロのありがたい授業を受けていた時に俺がポロッと口にしていたらしい。

 

転生者──意識と記憶の連続性がある存在は彼女にとって特段珍しくないそうだ。

ホムンクルスに記憶と人格を転写したり、魂を別な媒体に収めることで天に召されることを防いだりと、永きに渡って世界を識るため一部の錬金術師は試行錯誤を繰り返していたという。

そもそも空の世界は星晶獣という人知を逸した存在が跋扈する世界である。異なる次元を繋げたり、死と生を自在に操ったり、歴史を改竄したり……そんな星の獣に比べれば不死者転生者などありふれたものなのかもしれない。

 

「なるほど、転生者って自覚はあれど大方の記憶は欠落、ねぇ」

 

そうだ。アニメとかゲームとか自分が楽しんでたものについては事細かに覚えてるけど、名前だとかどんな人生を送っていたのかは点でわからない。

そう伝えるとカリオストロは視線を宙に漂わせて頭に浮んだ考えを整理するかのように何事かを呟き続け、最後にぼそりと口にした。

 

「記憶を()()、その代わりにオレ様たちに関連する情報を得た……?いや、それとも──」

「縛り?記憶を縛ることってできるのか?」

「できるできないで言えばできるが…………う〜んよし、この話はナシ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし総まとめいくぞ。今回お前についてわかったことはだいたい3つだ」

 


①呪骸の作成上限は後8体。

②マスターは今のところ呪骸作ること以外は何もできない(恐らく天与呪縛)

③記憶を縛った代わりに様々な知識を得た可能性がある(要調査)


 

「この話ナシ!ってさっき言わなかった?」

「掘り返すな。確信どころか仮定に仮定を重ねた推論をホイホイ話せるかってんだ」

 

ピースが揃ったら話すからと言ってカリオストロは取り合ってくれなかった。

むう、歯痒いな。確かに今まで俺の人生に関しての記憶がまるでないのは気にしてなかったが、そう言われるとちょっと思い出したい気もする。

 

「って、そうだそうだ。マガツイザナギとミミッキュ貸してくれって言われたから貸したけど何させてたんだ?」

 

基本的に呪骸たちは用事があるとき以外は各々自由に過ごしている。貸出申請されたのはプロテアが誰かに髪をとかしてもらいたいと言った時以来だ。

彼らもカリオストロへの協力に異存はなく了承の意を示したため、彼女に預けていたが……。

 

「あぁ、あのばあさんがお前がそろそろ修学旅行なんじゃないかって言ってたからな。ちょっと下調べをな」

「確かにそうだけど……」

 

そういえばもうそんな時期か。

学校は息抜きしに行ってるようなもんだったし、正直忘れてたな。

 

「いや待て、何しようとしてるんだ!?」

「オレ様がずっと43点ボディで満足するわけないだろ?それに、お前の戦力拡充もしなきゃだからな」

「あっもう嫌な予感」

 

マスター、京都で色々素材集め!しようねっ☆

 

 




(術式以外はただの人なんて)「嘘だッ!」
ところがどっこ〜い……夢じゃないんだよ☆ 現実なの……!こ れ が 現 実……☆


馬鹿みたいに駆け足だったけど許して。
今回は術式について少し知れたくらいに思っておくれ。
粗には目をつぶってくれると助かるよ……。

次回にさっさと進みたいのよ……(本性)
あと今回はアンケートを設けたので回答してくれると嬉しいわよ。


転生者くん
→術式についてちょろっとだけ理解した。
自分が実戦においてはクソザコナメクジってことも理解して枕を濡らした。カリオストロ診断によると後4体くらいまでなら作っても支障はないらしい。
現在中学三年生。作中時間は2017年。修学旅行先が京都。

カリオストロ
→神or上位者的な存在がマスターが転生した時に関わってるのではないかと予想したが、決定打となる確たる証拠がなかったのでお茶を濁す。
マスターの修学旅行先で自分のパーフェクトボディ(人形ではなく生身)を錬成するための素材集め、そして呪骸に使う呪物を獲得するためにマガツイザナギとミミッキュにネットで情報を集めさせていた。

京都
→二次創作の紅魔館か比叡山延暦寺みたいになってしまうかもしれない。


次回、京都採集決戦開幕!



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#12 黒いボディ、真っ赤な目

ビルゲンワースの湖畔に輝く月を眺めていたら火球に包まれて焼死したんですけど???
許さねぇ、許さねぇぞあの軟体動物みたいなやつ……。

これからどんな人形だすかな〜と考えてた時に縁壱零式が頭をよぎったんですが、「あれ自動迎撃機能とかなかったよなぁ」と思ってやめました。
よかった……縁壱の技量を完全再現する接近戦最強の絡繰人形はいなかったんだね……。

ちなみに、当作品の時系列は2()0()1()7()()です。
中学生の修学旅行なので5〜6月を想定してます。



♪月○日

 

修学旅行まであと大体三週間。

楽しみといえばそうなんだが、正直不安が付きまとってヤバいヤバい。

現段階で存在が露見すると高確率で秘匿死刑の対象になるなら、先手打って強い呪骸作っておこうぜというのが今の方針だ。

 

そのため京都周辺でカリオストロのボディ素材集めと呪物採集をするわけなんだが……京都には呪術高専がある。厳重な警備をしているところも多くあるだろう。

その辺りについては何もできないので美少女錬金術師におまかせするしかない。

大事にならないといいが……。

 

 

♪月✕日

 

・ミミッキュ

・マガツイザナギ

・キングプロテア

・カリオストロ

 

……箇条書きにしてみると戦力としては申し分ないのだが、純粋な近接戦闘技術持ちが少ないような気がする。

 

ミミッキュは特性以外は基本回避盾構成なので俺を守りながらは難しいし、マガツイザナギはサイズが小さいおかげで多方面から攻撃された時に厳しい。

キングプロテアは周りへの損害を考えるとおいそれとは出せず、カリオストロの近接戦闘は現状ウロボロスが完成していないため立ち回りは困難を極めるだろう。

 

京都に行く前に一体、ボディガード的な呪骸を作っておくべきだろうか。

 

 

♪月△日

 

カリオストロと相談した結果、作ることにした。

俺を完璧に守ることができる呪骸がいるのであれば、呪物や素材探索を効率的に進められるとのこと。呪骸たちからすればアキレス腱だからな俺。

ゴメンネ……弱クッテ……。

 

 

♪月☆日

 

スキル構成を考えていたら深夜になってしまった。

ミミッキュの時もそうだったけど、詳細にスキル構成とか耐性とかを考えることが縛りになるのかもしれないな。

とりあえず呪い耐性持ちのスキルをだね……。

 

 

♪月★日

 

うんうん、上出来上出来。完璧な布陣じゃないかい?

と、驕るのはこれくらいにして……スキル構成案が固まったからカリおっさんに頼んで細かいパーツを幾つか錬成してもらおう。

整形にかかる時間が短縮できて助かるぜ〜。

 

 

♪月◎日

 

……何故かカリオストロが近所にある電器屋さんで接客をしていた。妙に様になったエプロン姿でめっちゃ甲斐甲斐しく業務に勤しんでいた。

いやなんで?本当になんで?

 

 

♪月¥日

 

夜中に窓から帰ってきた本人に問い詰めたところ、電化製品の仕組みを直に触って確かめたかったという。お金がなくて申し訳ないぞ。

個人経営の店だったからか、カリオストロが最カワッ☆美少女ロールを遺憾無く発揮したところ快く受け入れてもらったらしい。

……変な薬とか盛ってないよね?

 

 

♪月@日

 

カリオストロが電気工学についての本を読んでいた。

少し貸してもらったが難解な内容に首を傾げることしかできなかった。そのINT俺にも分けてくれないか?

 

試しにマガツイザナギとミミッキュにそれを見せてみたが二人ともよく分からないようだった。

あ、マガツイザナギはTVの項目に惹かれていたな。

まあ君は出身がテレビの中みたいなもんだし……。

 

 

♪月♪日

 

カリオストロが錬成した何かヤバそうな粉をおばあさんに届けに行った。

えっいつの間に取引を……?

というかなぜ俺がパシリを……?別にいいけどさ。

おばあさんが修学旅行について知っていたのはうちの学校の教頭と友達だったからだそうな。

 

「お土産期待して待ってるよ!」と言われておつかいメモを渡された。

お菓子の他に呪物っぽいのが書いてあるんですが?

めっちゃ世話になってるから断るわけにもいかず、不承不承ながら了承した。

 

 

♪月Σ日

 

呪骸完成。予想より早く終わった。

今回もいつもの土粘土だったけど、カリおっさんに一部錬成を頼んだおかげで爆速で形が組み上げられた。

うんうん、マンパワーイズジャスティスやね。

 

設定を凝りすぎたせいなのか、あまりサイズが大きくないにも関わらず(カリオストロよりは大きいけど)すぐに動き出したりはしなかった。

幸い修学旅行はもう少し先だ。気長に待つとしよう。

 

 

♪月◇日

 

してェ……。

サソリごっこしてェ〜〜〜〜……。

 

「オレはこれで一国を落とした」っていいセリフだと思うんだ。

でもそんなセリフ言いながら矢面に立ったらいの一番に殺されそうなのでやめておきます。

 

 

♪月$日

 

5日……プロテアとだいたい同じくらいの時間で五番目の呪骸は目を覚ました。

目を覚ましたって言うよりかは起動したって表現の方がいいかもだが。

 

ちょっと模擬戦というか、スキルの確認をしたいところだがあんまりやりすぎるとマヨナカテレビが崩壊してしまう可能性があるんだよなぁ……。

プロテアが俺を高い高いしたときの急成長だけでもマガツイザナギキツそうだったし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪月∀日

 

いよいよ2泊3日の修学旅行が明日始まる。

しまっていこう。ここで死ぬのはあまりにも悔いが残りすぎるからな。

 

 

「まあ俺がしまったところで何も変わんないかもしれないけどさ」

 

日記を書く手を止め、ゆっくりと振り返る。

 

音もなく宙に浮遊する鈍色の躯体が僅かに身体を揺らしてこちらを向く。

何の感情も宿らない赤いモノアイがじっと自分を見つめていた。

 

「俺のこと、頼むぜ」

 

この呪骸は何も語らない。

そして多分、この身体におよそ自意識というものは備わっていないのだろう。

己に刻まれたプログラムに従って自立稼働するだけの、兵器と呼ぶべき代物なのかもしれない。

 

 

けれど、それでも。

 

 

──了承。

確かなその意志を、呪骸は低い駆動音を辺りに唸らせて言外にそう示した。

 

 




「もし この先の宝が ほしいなら この私を たおしてゆくがいい」



アンケートは今日の投稿から一日経ったら締め切ります。


今回は準備編でした。
京都が燃える(かもしれない)のはもうちょっと先なので許して。

今の布陣だと接近戦に持ち込まれるとキングプロテア以外の手札がないのと、美少女ばっか作るわけじゃないんやでというアピールをですね……でも美少女作った方が華やかでいいじゃろ?


転生者くん
→準備してた。
これで接近戦はバッチリ……かな?
(……不義遊戯(ブギウギ)された瞬間転生者くん終わるのでは?作者は訝しんだ)

カリオストロ
→知識に貪欲なので電器屋さんで職場体験していた。
色んなものをオーバーホールしていたらしい。

殺戮魔神我
→みんなのトラウマ。マジンガ様。
DQM仕様。メガボディ。
縁一零式は作れなかったが、彼なら近接も遠距離もそつなくこなしてマスターを護り抜けるだろう。
スキル構成は要望あったら載せます。


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#13 酒!取らずにはいられないッ!

2017年の中学生って学校でのスマホの持ち歩きは許可されていたんでしょうか。
このSSでは許可されていたこととします。

ここで出した特級呪物が千人の虎杖編で出てきそうなのがめっちゃ怖いんすよね。
絶対ネームバリューデカいのが本編に出るやろ。



新幹線の窓の外に移ろいゆく景色を何も考えずに眺める。

思慮を巡らすことは良い事だ。しかし、その坩堝に陥ってはならない。

その先で得られるものは、大抵ろくなものではない。

 

故に、景色を前にした時は無念無想であるべきだ。

 

 

「ん……?」

 

ポケットで暴れるスマホのバイブレーションを感じ、彼は画面を立ち上げる。せっかくの瞑想タイムに水を差されたのか、その面持ちは少々腹立たしげだ。

 

通知に表示されたニックネームは【おばあさん】。

通知欄からメッセージに飛んでみると、呪物を安置している場所の書き起こしと簡単な資料がPDFで貼られている。

そういえば地図作ってやるから待ってなよ、とか言われたような気がすると彼は考える。

 

おばあさんが最後に京都を訪れたのは数年前だが、呪霊による被害が出ない限りは場所を移すことは珍しいようだ。

 

京都校の忌庫に入っているもの以外で、配置されている場所と特級呪物のラインナップは以下の通りとなる。

 

 


 

 

一条戻橋(いちじょうもどりばし)

京都の堀川に架けられた一条通の橋。

頼光四天王筆頭・渡辺綱が宇治の橋姫もしくは茨木童子の腕を切り落とした伝説があり、稀代の陰陽師・安倍晴明が十二神将を待機させていた場所としても有名。

 

周辺に安置されている特級呪物は『茨木童子の腕』だ。

 

説話には切り落とされた茨木の片腕は安倍晴明によって封印が施され渡辺綱が保管していたが、茨木が綱の伯母に化けて腕を奪取したという記述がある。

当時を語る詳細な資料は紛失しているため、この腕が本当に茨木童子のものか判別する術はない。

しかし、仮にそうでなくとも、この腕に宿る呪力がそれ相応のものだということは忘れてはならない。

 

 

【大江山】

京都北部に位置する連山。連峰なので頂上と呼べる峰はない。

土蜘蛛陸耳御笠や酒呑童子の伝説があるが、ニッケル鉱山としても有名。

 

山中に安置されている特級呪物は『神便鬼毒』だ。

 

酒呑童子を殺害するために八幡大菩薩から源頼光に与えられた毒酒である。

保管形態は一升瓶だとか、大五郎(4L)形式だとか、酒呑が呑んだ杯に入ったままだとか、瓢箪に保存されているとか……ともかく定かではない。

 

菩薩産故に、生産量がごく少ない希少な物。

酒は鬼に似合う。しかし彼らが酔ったのは本当に酒だけなのだろうか。

 

 

【本能寺】

京都にある法華宗本門流の大本山。織田信長の最期の場、本能寺の変の舞台として有名。

 

境内に安置されている特級呪物は『信長の火縄銃』だ。

 

 

【五条大橋】

京都の鴨川に架けられた橋。

牛若丸と武蔵坊弁慶が出会った場所とされている。

 

この近辺に安置されている特級呪物は『薄緑』だ。

 

『膝丸』とも呼ばれることもあるこの刀だが、実は同じ刀が各地に複数本存在することが確認されている。

刀剣に宿る術式が自己の複製に特化したものなのだろうか。

 

……真実は呪術界の深淵に閉ざされたままのようだ。

 

 


 

 

「この中なら……そうだな」

 

『茨木童子の腕』と少し迷ったが、大江山の『神便鬼毒』を彼は頂戴することにした。

酒ぶっかけた粘土でコネコネすれば傑作ができるんじゃねぇかな、等というかなり浅はかな考えからである。

 

火縄銃・薄緑は組み込むものでなく持たせるものになってしまう。人形の地力を上げたい彼からすると、今回は選択肢から泣く泣く外すしかなかった。

残った茨木童子の腕は本人産であることを考慮するとこちらの『茨木童子』が受肉してしまう危険性がある。

 

となれば、残るは神便鬼毒しかない。

液体ということもあり、素材として使うにはかなり汎用性の高い逸品だ。

 

……呪術界のお歴々がこれを聞けば即座に止めにかかるのは言うまでもないことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよっし、こっちのテレビでも問題なくできたな。これ通してワープができたら楽なんだが」

「原作だとできなくもないんだけどね。マガツイザナギの力が不足してるのか、そもそもできないのか、今のところ工房兼エンダーチェストみたいな使い方しかできてないけど」

 

深夜、京都某所のホテルの一室にて彼はマヨナカテレビを起動し、カリオストロとミミッキュを部屋に入れた。

同室の同級生は既に眠り粉によってレムレム睡眠*1に突入している。

 

ちなみにマガツイザナギはマヨナカテレビ起動キーのような存在なので、最初から製作者のバッグに潜んでいた。

 

「手筈は?」

「呪力を遮断する礼装は用意完了、オレ様の素材の分布地も把握。呪物の大まかな位置は頭に入れた。後は……」

 

カリオストロが両手に持ったひびの入った石のような物体を見やった。

 

「こいつが正常に機能してくれるかどうかだな」

「正直俺の言葉だけでここまで正確に創り出すとは思わなかったけども」

「……お前の術式みたいにはいかねぇさ。似たような機能を取り付けたに過ぎないからなこれは。ああそうだ。一応これを渡しておく」

 

カリオストロはテレビの中に腕を突っ込むと黒いコートのようなものを取り出した。NARUTOの暁が着用していた外套に墨汁を塗りたくったような見てくれだ。つまり黒地である。

 

そのコートの中に仕込んだものを説明し、「結構大変だったんだよ☆」とキラキラ笑顔で彼女は語る。

 

「いつの間に?」

「お前が三週間〜とか日記に書いてた辺りから準備はしてた。使わないに越したことはないけどな」

 

じゃ行ってくる、そう言ってカリオストロはミミッキュを背負いホテルの窓から京の闇の中へと駆けて行った。

 

*1
浅いかもしれないし、場合によっては深淵に近いかもしれない睡眠。某未来を取り戻す物語の主人公がよく陥る症状。




前置き長ぇんだよ!!(自責)
多分次からバトゥスタートですわ。


ビルゲンワースの湖にダイビングしたら蜘蛛がキモすぎてダメ。
ピクミンのクイーンチャッピー思い出してさらにダメ。

作者君はさぁ……集合体恐怖症の人?

後ロッキングチェアで(ふるべ)ゆらゆらしてるあのご老人は何なんでしょうか。
体力ゲージがないからエネミーではなさそうですが。


アンケートの結果【大江山】の呪物『神便鬼毒』を掠めとることにしました。

え?盗むのは犯罪?
秘匿死刑を横行させて一般人は毛ほども気にしてなさそうな奴らのことなんて知ったこっちゃないです。


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#14 鬼は内、福は無し

次にお前は感想欄で『加減しろ莫迦!』という!(言わなくてもいい)

白痴蜘蛛はミョルニルと化した教会の石鎚で側面叩いて終わらせました。
早く終わらせたい一心でやったせいか、かなり早く終わったわよ。



「さぁて、じゃあぼちぼち始めるとするか」

 

鬼も眠る丑三つ時、深夜の山嶺にカリオストロとその背に背負われたミミッキュ──背負うというよりミミッキュの腕が彼女の肩にショルダーストラップのようにして巻きついているのだが──、そしてマガツイザナギが現着する。

 

道中落ちていた低級の呪物や固体素材の類はミミッキュの内部に格納している。

ミミッキュのばけのかわは存外に物が入るし、伸縮性もあるのだ。

 

 

今回のお目当ては山の何処かに安置された特級呪物『神便鬼毒』。

だがその前に、彼女には大江山ですべきことがあった。

 

カリオストロは両の手に呪力を漲らせパンと身体の正面で合わせる。

するとバチバチと呪力が雷電のように迸った。彼女はそれをおもむろに地面に押し当てる。

すると地面が派手に地響きを立てて崩落、そして物理法則を無視した不自然な結合を繰り返し、その場所だけ綺麗に抜き取られたかのような地下へと続く道が生成された。

 

「こっちは鉱山から外れた場所だが……」

 

カリオストロが欲しているのは大江山に眠るニッケルを筆頭とした鉱物類だ。

錬成を繰り返すことでの性質付与や消去はお手の物だが、わざわざ土粘土から金属を錬成するのはやや面倒だ*1

 

カリオストロは手合わせ錬成でツルツルの坑道を作り上げながら地下を探索する。

 

山に到着してから一時間が経過しようとしたところで彼女は金属鉱脈を発見した。

 

「よっし!見立ては間違ってなかったな。クク、じゃあ早速」

 

手合わせ、そして剥き出しの鉱脈にひたりと触れる。

意志を持ったかのように鉱脈()()がうねりだし、トコロテンのようにずるずると銀白色の鉱物を吐き出し始めた。

鉱物類がミミッキュの身長くらいの高さにまで積もったところでカリオストロは錬成をストップして質を確かめる。

 

「純度と今の不足分は錬成で何とかするとして……ミミッキュ、入れといた材料出してくれ」

 

ミミッキュは了解の意を示して、ばけのかわに格納していた雑多な材料をボコボコと吐き出していく。

 

 

「ぶっつけ本番じゃねぇのが幸いか。ま、このオレ様が──」

 

再び手を合わせ、錬成。

バチバチと青白い呪力が飛び散り、我々が毎日目にするごくありふれたものが形成されていく。

 

「──失敗するわけないけどな」

 

 

カリオストロの術式によって創り出されたのは黒く薄く、液晶がはめ込まれた現代人ならば見慣れた文明の利器、家電三種の神器の一つ──テレビである。

 

こんな電波も届かなそうな山の奥、それも地下でこんなものを錬成したのにはもちろん理由があった。

 

「マガツイザナギ、頼む」

 

本来の用途で使うつもりなど彼女にはさらさらない。

要請を受けたマガツイザナギはテレビに触れる。すると電源もなしに画面が灰色を生み出し、ついにテレビはマヨナカテレビへと変貌した。

 

「……前は発電機を持っていってたらしいが、それは関係ないみたいだな」

 

カリオストロは錬成作業を再開し、吸い取った鉱脈をマヨナカテレビの中へとぶち込む作業を続けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直、この任務は嫌いだ。

 

何が楽しくて呪霊の力が強まる夜中に、よりにもよって大江山にホイホイ入っていかなきゃならねぇんだ。

さっきから地面揺れてるし……帰りてぇ。

 

「おいおいそんなしょげた顔するなよ。チラッと見て帰りゃいいだけじゃん?」

「チラッと見て帰るだけで済めばいいけどな」

 

ツーマンセルを組まされた俺の相方はかなりおちゃらけてる。まあこいつの術式を考えればそれもそうかもしれない。確か『死霊操術』とか言ってたっけ。

なんか大地に眠る生物の残留思念を骨の形で現世に〜とか何とか。

最近は人骨しか見てないけどシベリアならマンモス喚び放題なんじゃないか?

 

「こいつか?」

「ん……ああ、そうだな。札も見た感じじゃ劣化してなさそうだ」

 

おっと、余計なこと考えてるうちにもう祠に着いてたか。

札も剥がれかけてないし、入った瓢箪も劣化してない。まあそりゃそうか、なんせ平安時代から現存するヤバい呪物だもんな。

 

……うーん密封されてんのに酒臭ぇな。気分悪くなってきた。

 

「ちょっと山の空気吸ってくる。雉撃ちしたいなら済ませとけよ」

「へいへ〜い」

 

ほんとに密封されてんだろうな?かなり離れたのにまだ鼻の奥に匂いが残ってやがる。

あの匂いを嗅ぐと気持ち悪さと同時に何故か()()()()って思いが溢れてくるのが気味悪い。

栓は開けられないようになってるだろうし、下手な事態にはならんと思うが……。

 

「うし、戻るか」

 

ぼんやりと灯った祠の非常灯を目印に俺は歩く。

ずんずんと歩みを進めていくと俺のバディ(正直どうしてこんな人選にしたのか上層部に小一時間程問い詰めたい)が地面に蹲っていた。

 

「おいどうした?酒気にやられたか?」

 

返答はない。

だがこいつの周りからはさっきより格段に強い酒の匂いが────

 

「……は?」

 

地面に這い蹲る相方の右斜め前方、()()()()()()()からどくどくと甘美な香りを立ち昇らせる液体が山の斜面に垂れ流されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルコールの匂いがするな。お前らは平気か?」

 

取り急ぎ必要量の鉱物類を採取したカリオストロは今回の目的である『神便鬼毒』の回収に向かっていた。

大まかな位置の把握は済ましていたのでその方角に向かって歩くだけである。

 

その途中、急に香しい匂いが辺りに漂ってくる。

カリオストロは隣に浮遊するマガツイザナギとテレビを運んでいるミミッキュに確認するが両者は問題ないとグッドサインを示した。

 

「……面倒事かもしれねぇ。急ぐぞ」

 

カリオストロは『ファンタズマゴリア』*2、マガツイザナギは『マハスクカジャ』*3を使い全員の素早さを一気に高める。

 

空を飛べるマガツイザナギを先行させ、カリオストロとミミッキュは大地を抉り、枝を掴み、アクロバティックさながらの動きで匂いの発生源へとひた走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふ、うふふふふふふふ、ふふ……」

 

俺はこの日、自らの失態を呪った。

今更呪ったところで既に取り返しのつかないレベルになっているのは、目の前で嗤うバケモノを見るに明々白々たる事実なのだが。

 

相方の面影なんてどこにも残っちゃいない。

服装も、身長も、髪も、人相も、そして……()()ですらも。

 

「ようやっとこっちに出られたなぁ。ふふ、堪忍なぁ。こんな享楽、久々やさかい。おかしくっておかしくって、つい笑いが漏れてしまうんよ」

 

嗤う、嗤う。

 

()が嗤う。

 

自分はいつかどこかで読んだ本に書いてあった一節を不意に思い出した。

 

 

『笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である』

 

 

あぁそうなのだと、変性した相方の成れの果てを呆けたように眺めて合点がいった。

 

「ふふ、そないな視線は堪忍しとくれやす。そんなに見つめられたらうち、うち……骨の髄までしゃぶりたくなってまうやろ?

 

そうして、鬼は俺の肩に手をかけ、ゆっくりと胸──心臓がある位置に触れる。

 

逃げられない、逃げる気も出ない。

蛇に睨まれた蛙のように、糸で地面に縫い付けられたように、俺の体は言うことを聞かない。

 

「抵抗の一つもあらへんの?そんなら骨抜いてまうけど……」

「出来るんだったら……もうやってるさ」

「それが精一杯の抵抗、ってことでよろしやす?」

 

鬼が俺の眼を見る。寒気が、震えが、全身を駆け抜ける。

ああそうさ。これが俺の、全身全霊だ。

 

「ふふ、ほんならここであんたはんは幕引き──」

 

鬼がそこまで口にしたところで何かを察知したように後ろに飛び退いた。

 

刹那、金色の雷電が大気を切り裂いて招来する。

俺が一歩踏み込めば、焼ききれてしまうような至近距離で。

 

「牛女の、やないなぁ。さきの稲妻はもっとずっと、旧いもんのようやけど」

 

鬼が見上げた空を、俺もまた見つめた。

夜空に瞬く星空をバックに、異色の呪力が立ち上っている。

 

ゆっくりとこちらに降り立った発生源は、俺よりも、そこの鬼よりも小さかった。

そう、ちょうど男児が好きそうなフィギュアくらいの大きさで。

しかし、明らかに内包されている呪力が桁違いだ。

先程の雷もこいつが落としたのだろうか。

 

「おい、状況を説明しろ。なるだけ簡潔にな」

 

後ろからめっちゃ可愛い幼女と不気味な人形がやってきた。

俺疲れてんのか……じゃなくて!!

 

「どうしてガキがこんなところにヘブシッ!?

「次ガキつったらあっちにぶん投げんぞ」

「……今すぐこっちに投げてもらってもうちはかまへんよ?」

「ハッ、誰がやるか!」

「いけずやなぁ」

 

……ビンタされて少し頭が冴えた。

女の素性はわからん。しかしグルだったら後ろから刺されて死んでいただろうし、ここは信用する他出せる手がない。

 

「俺ともう一人で京都の呪物の見回りをやっていた。俺が目を離した隙にもう一人が何をとち狂ったのか呪物を飲んだらしくてな……一瞬であの鬼に変わっちまった」

「その呪物ってのは『神便鬼毒』か?」

「……何故それを?」

「封印にガタが来てるって言われてな。それの補強に来たんだが……どうやらそれどころじゃないらしい」

 

つまりコイツは高専が外から招集した呪術師か?

どうりで見たことないわけだ。

 

「おい、そこの。名前は?」

「酒呑童子や、よろしゅうな?」

 

酒呑……童子!?

特級呪物から受肉したってのか!?

 

「ここはオレ様が引き受けるから京都高専行って増援呼んでこい」

「一人で食い止める気か?む──」

「無茶だ、とか言うんじゃねぇぞ。京都が火の海になるのとどっちがいい?」

「それは……」

「残念だがお前に選択肢はねぇよ。マガツイザナギ、これとこいつ持って行ってこい」

 

彼女は両手をパンと合わせた後、スケッチブックのようなものを創り出して俺に押し付ける。

困惑している間に俺の身体は一気に宙へと持ち上がった。

慌てて上を見上げれば俺のジャケットを雷を引き起こした人形が片手で掴んでいた。

 

「落とすんじゃねーぞ!」

 

俺はマガツイザナギと呼ばれた人形に空輸され、大江山を後にしたのだった。

 

*1
不可能とは言わない辺りがカリオストロクオリティだ。あなたもカリオストロ最高と叫びなさい!

*2
グラブルにおけるカリオストロ(土属性)の二番目のアビリティ。味方の性能を全体的に底上げする。

*3
ペルソナにおけるスキル。カテゴリは補助に分類される。味方全体の命中率と回避率を増加させる。今回はピオリムかヘイスガみたいなものだと考えてもらえばOK。




あの、ごめんなさい(焼き土下座)

やっぱり目標というか、ボスというか……そういうのが必要だと思ったんです。はい。



感想欄に運対ゴロゴロあってワロエナイ。

良い子も悪い子も、ガイドライン守るくらいの自制を心がけてくれよな!


転生者くん
→今回出番なし。お前ほんとに主人公か?
次回はきっと出番がある。

カリオストロ
→大地を錬成して無駄に凝った突起物で攻撃したり、バトル終了時に自分が腰掛ける玉座とか錬成するのでこの程度はいけるでしょという判断。
電気屋さんでバイトしてたのはテレビを作るためだったみたいですね。
これ見よがしにハガレンみたいな手合わせ錬成してるのは縛りではなくブラフ張ってるだけです。
いつもは指パッチンで錬成してます。

大江山にいた人①
→たまたま見回りにやって来ていた呪術師。
酒があまり好みではなかったことが幸いして変性することを避けた。
現在はマガツイザナギによって京都高専まで空輸されてる。

大江山にいた人②
→『死霊操術』(呪霊操術にあらず)を使う呪術師。①とツーマンセルで大江山の見回りに来ていた。
特級呪物の酒気に当てられ瓢箪の中身を飲んでしまった結果、酒呑童子を受肉させてしまう。

酒呑童子
→ビジュアルはFGOのまんまを想定。そろそろ頭ひねって考えるのがキツくなってきた。
特級呪物『神便鬼毒』の中で虎視眈々と復活の機会を狙っていて、今回ようやくそれがヒットしたらしい。
ちなみに『神便鬼毒』の封印はガバガバになっていた。
呪霊というより宿儺のような立ち位置が彼女は近いかも。

大江山
→京都の前に山火事になるかもしれない。


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#15 two-front

当SSはその場のノリと発狂、ありったけの妄想とご覧の啓蒙の提供でお送りします。



大江山から京都高専に向けて一条の赤黒い光が駆け抜ける。

空を見ろ!鳥だ!飛行機だ!

……否、マガツイザナギである。

 

残穢を撒き散らしながら天を疾駆する異質な呪力、加えて大江山から立ち上る強大な呪力に京都の呪術師たちは総員警戒態勢に入った。

 

そして京都高専門前、一直線に飛び込んでくる正体不明(UNKNOWN)を待ち構える一人の男がいた。

左の額から頬にかけての傷が目立つドレッドヘアの益荒男──東堂葵である。

 

いち早く異変を察知した東堂は誰に言われるまでもなく高専へ飛来する何かの迎撃を買って出た。

……誰かに別の指示をされても多分無理やり買って出た。

 

彼が望むは己の研鑽、そして血湧き肉躍る死闘。

腕を試す相手が自らこちらに赴いてくれた状況は、彼にとってまさに望外の僥倖だった。

 

さあ、来るなら来い。

四肢の末端にまで闘気を漲らせ、口元に微笑をたたえ、東堂は臨戦態勢へ突入する。

正体不明(UNKNOWN)の来襲まで 3、 2、 1──

 

 

迎撃対象が目視可能な距離に到達。

東堂が膂力を遺憾なく発揮しようとしたところで──その脚を止めた。

 

ぬるっとしたオーラが辺りに振りまかれるただ中だからだろうか、ここに来るまで気がつくことができなかった。

だが、今ならわかる。その呪力に東堂は覚えがあった。

 

対象は呪術師を片手に此方へとやってきていたのだ。

 

然しもの東堂も同業者ごと奴を蹴り砕くのは躊躇われた。

ならば己の術式で、と忍ばせていた呪具を取り出そうとしたところで──ポイと荷物を放るように、それは彼の真上に呪術師を落っことした。

 

さすがにこのままスルーして石畳に叩き付けるわけにもいかず、自由落下真っ最中の呪術師を即座にジャンプでお姫様キャッチ。

 

「うぅ……ぐ、うぐっ」

 

呪力が底を尽いているわけではない。むしろ有り余っているが、彼は酷く疲弊していた。

空中散歩から解放されたことを悟った彼は最後の力を振り絞り、手に持っていたスケッチブックを東堂の胸板に押し付け、ガクリと項垂れた。

スケッチブックに呪力は宿っていない。正真正銘、ただの紙のようだ。

 

それを見届けた異質な呪力の根源たる何かは踵を返して何処かへと消え去ってしまった。

 

逃げられたことに小さく舌打ち、ついでに青筋を立てた東堂だったが己の理性がその熱は後に取っておけと訴えかける。

そうだ、この呪術師が託したスケッチブックを確認することが今は先決だろう。

そしてもう一つ、奴は呪力こそ発していたが決して東堂に敵意を向けるようなことはついぞしなかった。

 

そこまで考察した東堂は呪術師をゆっくりと地面に寝かせ、スケッチブックの中身を検める。

 

 

『特級呪物『神便鬼毒』により大江山の鬼、酒呑童子が受肉。至急応援をよこされたし』

 

 

東堂の口元が大きく歪む。

獣性剥き出しの猟奇的な笑みがみるみるうちに彼の顔を包んでいく。

闇に消えた強敵のことなどすっかり抜け落ち、彼の羅針は次なる目標へとその針を向けた。

 

あぁ今日は────退屈せずに済みそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜を徹して起き続けるというのも中々辛いものである。特に何かを作るでもなく、ただただ警戒し続けなければならないのがさらにその辛さに拍車をかけた。

 

万一カリオストロが下手を打つようなことがあればミミッキュかマガツイザナギが伝令に来る約束だが……。

 

「ん?」

 

ゴンゴン!と窓を叩く音がする。

チラッとカーテンを開くと破った紙片のようなものを片手にマガツイザナギがそこにいる。

慌てて彼を中に入れて紙を受け取った。

 

 

『特級呪物『神便鬼毒』を術師が飲んで酒呑童子が受肉した。とりあえずこっちは心配しなくていい。そっちで何か起こるかもしれねぇから用心しとけ』

 

 

なるほど……なるほど?

えっ何で特級呪物飲んだやついるの?確かに極上の酒らしいけど飲むか普通?

 

ん〜、呪術師がそれ飲んで酒呑童子が受肉したってことは、その中に酒呑由来の成分が混入してたとか、後世に誤って伝わっただけで酒呑童子が酒と化してたとか……まあ何でもありそうだな。予想するだけ無意味かもしれない。

 

心配するなーとは書いてあるけど、どうにもできないんだよな。前線行っても俺が弱点みたいなもんだし。

こう、アイアンマンみたいなアーマーって俺作れるのかな……?

 

不甲斐ない思いを抱えながら何の気なしに窓の外を眺める。

ぽつぽつと明かりが灯っているが暗い夜だ。

 

──その夜がさらに暗く、黒く染っていく。

 

「帳……!?」

 

ゾワッと得もいえぬ悪寒が身体を這いずった。

このホテルに呪霊がいないことは既に確認済み。

そんなところに帳を降ろす理由なんて一つしか思いつかない。

 

そして部屋のドアの前で急激に呪力が立ち上ったことで嫌な予感は確信へと変貌した。

 

「──マガツイザナギ!『マカラカーン』ッ!」

 

半ば反射的に口にした魔法反射スキル。

それと全く同時に一筋の赫色がドアを貫通、マガツイザナギに直撃した。

 

 




感想欄を眺めながら己の浅はかさを自責する今日この頃。
まあ私の好きなようにやるんでよろしくなぁ!


転生者くん
→ホテルに帳が!?

東堂
→最近めちゃくちゃ不完全燃焼気味で退屈だった。
俺より強い奴に会いに行く。

のりとし
→私!?



アンケート新調しました。
簡単に説明すると以下の通り。

①酒呑を普通に祓っちゃうルート
②酒呑を素材にしちゃうルート
③酒呑が転生者くんを気に入っちゃうルート
④酒呑が逃げちゃうルート

期限は投稿してから一日です。


〜はみ出し小話〜
もし縁壱零式を創っていた場合刀持ちの呪術師が超強化されるかもしれなかった。

\どうも、役に立つ三輪です!/



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#16 ぅゎょぅι゛ょっょぃ

シンエヴァ観るまでネット断ちしたり、某同人格ゲーやったり、ウマ娘育成に精を出したり、狩人の悪夢に囚われたりしたので遅くなりました。

ミホノブルボン可愛いね。
狩人の悪夢はスイッチマシンガンに見事にハマって殺されたよ。

マシンガンに殺された腹いせにエンチャントライトニング&部位破壊で再誕者をムッコロしてきました。
あんなん見たら即SAN値直葬だお。



「……手応えがない。油断するなよメカ丸」

「わかってル」

 

京都市内某ホテル四階、和装に身を包んだ優男と明らかに現代の先端技術すら凌駕するオーバーテクノロジーの産物が、とある客室の扉を睨んでいた。

 

優男──加茂憲紀が内部の異質な呪力へ向けて寸分の狂いなく放った赤血操術 穿血。百歛を臨界までチャージした、並の呪霊なら即座に祓える一撃。

しかし、仕留めた感触がない。

その上穿血直後にドアが砲弾が直撃したように歪んでいる。

衝突直前に弾かれたのだろうと憲紀は推測した。

 

県外任務を終えた憲紀とメカ丸は窓の運転する帰りの車にうつらうつらと揺られていたのだが、立ち上る濃密な呪力に弾かれるようにして飛び起きた。

そしてその袂へ現着、逃れられぬよう帳を降ろした次第である。

 

窓からの情報によればここは府外からの修学旅行生が宿泊先にしたホテルである。呪霊や呪詛師が人質を取るのならば格好の場所だろう。

故に警戒して非常階段からこのドアの前まで彼らはやってきたのだが……特に罠が仕掛けられていることもなく、呪霊の一つも湧かず、そして呪詛師がいるわけでもなかった。

しかし何も無かったからといって警戒を解く理由にはならない。

呪霊もしくは呪詛師だった場合、事態は一刻を争うのだ。事が起きるまで静観を決め込んだ結果被害者が出たとなれば、それは呪術師の名折れである。

 

 

「合図で突入、私が赤縛で対象に簡易監獄を作りつつ生徒を回収。範囲を絞った大祓砲(ウルトラキャノン)はいけるか?」

「問題なイ」

「よし。では……開始ッ!」

 

メカ丸が繰り出したヤクザキックで扉が破砕。

彼の背後から憲紀の血液パックが放物線を描き目標の目前に着地した。

そして憲紀も共に突入するはずだが──

 

ぶわり、蹴破り入った部屋の中から()()()が外へ逃げるように湧き出した。

しかし火事特有の焼け焦げた臭いはない。呪力こそ混ざってはいるが、ただの霧だ。

見かけ騙しと断じ、呪力の中心に向けて憲紀は血縛を使おうとする──が、不発に終わる。

 

己の術式が機能しないことに目を見開く憲紀。

同様にメカ丸も糸が切られたように唐突に床へと倒れ伏し、その機能を停止した。

 

「メカ丸ッ!?」

「『術式封じの霧』だ」

 

霧の中からメカ丸以外の駆動音と共に声が聞こえてくる。立ち込めた霧のせいでその顔は愚か、姿形さえわからない。

声もどこか朧気で、憲紀には特徴がハッキリ掴むことができない。

唯一彼が観測できるのは空中でハザードランプのように明滅を繰り返す赤い点だけだ。

 

「この霧は吸い込んだ瞬間から一日、自らに刻まれた術式を使うことができない。その分代償は高くつくけどな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無論、()()()()()

 

キラーマジンガの保有するスキル『戦場の支配者SP』。その中に内包された霧系特技『黒い霧』。

効果は【戦闘の場全体の呪文を3ターン無効化する】だ。

この世界における3ターンがどの程度に該当するかはわからないが、少なくとも3秒とか30秒とか、使用に難アリのレベルではなかったのが幸いだ。

 

キラーマジンガは特性に常にマホカンタがあるけど、念には念をということで。

術式が自由に使えないのはそれだけで隙になりうるからね。

 

……どうしてロクに確かめもせずぶっつけ本番でやっちゃうかなぁ俺。

次からはちゃんと試そう、うん。

 

当然ここから離れれば術式は使えるだろうけど、この場で術式が使えないのは本当なので、彼らは攻めあぐねるだろう。

 

……いや待って、なんで俺攻撃された?

 

「あの、なんで俺攻撃されてるんです?」

「……修学旅行生の泊まるホテルに呪力の塊が飛び込んでいったとなれば疑いもする」

 

あぁそういう……。うん、ぐうの音も出ないわ。

あっちからすれば自分らが迷っている間に人死にが出るわけだし、そりゃ急くわけだ。

マガツイザナギはこっちに全速力で飛んできてたことだし、そんな勘違いもさもありなん。

 

「でもこのホテル見たなら分かると思いますけど、トラップも呪霊も置いてないし、誰にも手出ししてませんよね?」

「む、それは……確かに」

 

……言いくるめロールいけるのでは?

霧のせいで人相も何も見えないけど声色はちょっと優しげじゃないかい?

嘘と真実をごった煮にしつつ煙に巻いて、あわよくば酒呑童子の方にヘイトを誘導するッ!

ヨシ!畳み掛けろ俺!

 

 

「俺とあなた、戦う必要無くないですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんじょうきばりや、それがあんたはんの本気?」

「ハッ、どうだかな!」

 

山の斜面を分解、間髪入れずに再構築して即席の物見台を創り出す。そこから下へ向かって呪力を流し、カリオストロのいる場所を囲むように辺り一帯を錬成。

大地が身震いしたかと思うと、山肌が栗立ち鋭利な剣が天を衝く。

 

しかし全盛期の身体でなくとも彼女は大江山の鬼。

数瞬のうちに八大地獄が一つ、衆合地獄の針山の様相を呈した大江山の一部区画。そこを踊るようにステップを踏んで避けていく。

 

既に錬成した場所に追加で錬成を重ねて死角を狙う変則攻撃さえ僅かな身動ぎ一つでするりと躱す。

まるで自分が彼女に当たらぬように攻撃をしているような錯覚を覚え、カリオストロは小さく舌打ち一つ。

 

剣山の頂に驚異的なバランス感覚で着地した酒呑童子はそんな彼女の様子にクスクスと笑いながら目を細める。

 

「なあなあ、あんたはんもそないにずうっと全力出してんのはしんどいやろ。どや、少しうちの話につきおうてえな?」

「……全力をご所望じゃなかったのか、お前」

「ほんま久々の肉の身体で気ぃ上ずってたさかいに。堪忍な」

 

本気を見せろと言ったかと思えば、今度は自分の話に付き合ってくれと語る。鬼の心とはまこと読めないものである。

しかしその申し出は今のところ勝機が見出せないカリオストロにとっては渡りに船。

彼女は警戒を解かずに手振りで彼女に了解の意を示す。

おおきに、と綺麗な歯を見せてから酒呑童子はゆっくりと話し始めた。

 

「うちなぁ、はじめから自分が()だったわけやないんよ」

 

こういうの、『かみんぐあうと』って当世の人は言うんやろ?と鬼はたどたどしい口振りで話す。

カリオストロは特に瞠目も驚愕もせずに相槌を打つ。

 

「あら、も少し驚いてもええんよ?」

「話せよ。お前の本題はそこじゃねぇだろ?」

「せやけど、そう急かさんといてや」

 

 

特級呪物 『神便鬼毒』。

鬼種に対して劇毒、人間に対して超強力ドーピングとして作用する呪物。

呪物の範疇にこそいるものの、そのカテゴリー内ではとりわけ異質なものであった。

性質故に大江山に安置させても一定の効力は発揮するが、それよりかはドーピングとして使った方が適切だろう。

 

しかし呪術師たちがそれをできない理由があった。

 

「うちがこうして受肉できたんは、酒ん中にうちの血が混じったからなんや」

 

菩薩から頼光が賜ったありがたいものであるはずの酒が彼女を現世に浮上させるに至ったのは、酒の中に彼女の血が混入してしまったからである。

当時の呪術師たちはそれを捨てる訳にもいかず、瓢箪に封を施して大江山に封印することにした。

 

「身体は余さず焼かれてもうてな。首が京のどっかにあるとか言われとるけど、真っ赤な嘘や」

 

呪物と化す前に身体を祓われた彼女の残りカスはよりにもよって神便鬼毒に封じられ、それから長い時を過ごすことになる。

 

しかし転んでもただでは起きないのが酒呑童子。

数百年の奮闘の末、自らの血が混じった『神便鬼毒』を制御下に置くことが可能となった。

 

が、当然ながらその結果には大きな代償が伴った。

自分の一部ですらないものの中に自分を置き過ぎてしまったせいか、自分の在り方すらも()()()しまったのだ。

平安の世に生きた『酒呑童子』はほぼ漂白されてしまったも同然である。

最後に酒の中に残されたのは、自らの復活のために前進しようとする強靭な意思だけだ。

 

「『酒呑童子』を形作る呪い(情報)はいつの間にやらのうなっとった。ほんで、溶けた自分を京に広げて蒐集することにしたんよ」

 

自分を酒に溶かした酒呑童子が次に着手したのは封印の隙を作ることだった。

これもまた何百年とかけて瓢箪を戒めた封印の一片を穿った彼女は、そこから京の都に水蒸気と化した己をばらまいた。

 

彼女は自分に関しての情報(呪い)をほんのちょびっとずつ京都全域から拝借して、ツギハギながらも再び『酒呑童子』を形作ろうとしたのだ。

 

「あともう少しで呪い(情報)満タンやね〜って思ってたらな、つい昨日あたりに『酒呑童子ならこれしかない!』みたいな、情報(呪い)叩きつけられて……流れるままに受肉したら、なんでか女になってしもた」

 

そんでな、と。酒呑童子は一呼吸置いた。

昂る熱をゆっくりと冷ますように、己の好奇心が先行しないように。

 

「それと(おんな)呪い(情報)、あんたから匂うんよ。一体全体、どういうことなんかな?」

 

 




最近バイトも始めたので毎日てんてこ舞いです。
当然ながらリアル優先なので更新頻度は落ちます。だが私は謝らない。

京言葉難しいけど書いてて楽しいね。
なんか用法の間違いとかあったら遠慮なく指摘してください。
当SSは京都弁有段者のお言葉を心よりお待ちしております。


転生者くん
→言いくるめロールのダイスを振りなさい。
だいたいこいつのせい(無自覚)(認知して♡)

キラーマジンガ
→スキル開示①『戦場の支配者SP』
こいつがDQM仕様なのは既に断りを入れるので後は各自調べてくれ。

カリオストロ
→テレビとかいうアホほど作業工程が多い化合物複合体をニッケルとその他雑多な素材で錬成する変態。
大江山の一画をちょっとした針山に仕上げた。

酒呑童子
→死ねどす♡
気に入っても殺す、気に入らなくても殺す。そんな殺し愛の体現者。
今は値踏みの段階なので全力のぜの字も出してない。
鬼女の気性は秋の空よりきっと酷い。多分天変地異レベル。
カルデアのマスターはスゴイ、俺はいろんな意味で思った。

千年以上かけて封印をほんのちょっとガバガバにする作業と自分の情報(呪い)を京都全域から蒐集することに邁進していた。
が、つい昨日あたりにバカみたいに解像度が高い『酒呑童子の㊙詳細プロフィールッ!』みたいな呪い(情報)の塊が京都に堂々入場してきたので思いっきりそれに引っ張られてしまった結果、この身体になってしまった。

神便鬼毒
→鬼特攻と人間強化を併せ持つ不思議呪物。
これを飲むと人間が彼女の器として申し分ないほどに強化されるので復活するには渡りに船だったらしいよ。

バカ目隠し
→まだ来てない。一体何してるんだろうね。暗躍とか?
来たとしても修学旅行生のいるホテルで術式反転を撃つわけないでしょ!!
生徒諸共死ぬわ!!


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#17 躍り踊らせ

全話にサブタイトルをつけてみました。チラッと見てくれたらちょっと嬉しい。

ついにアメンドーズ倒しましたわよ!!
足の防御硬過ぎですわ!(死にゲーお嬢様並感)

やはりエンチャントファイア変形ノコギリは正義ですわね!



「お前に戦う意思も理由もなかったとして──私がお前を野放しにしておく理由はない」

 

俺の言葉を切り捨てるように霧の奥の呪術師はそう口にした。

……言いくるめロールは失敗、か。

リロールある?あっこれウタカゼじゃないのか。

 

「その心は?」

「加茂家次期当主として、お前の存在を見過ごすわけにはいかないからだ」

 

俺眠った生徒の振りしといた方が良かったんじゃないか?

でもなんも指示しなかったらマガツイザナギが吹っ飛ばされてたかもしれんし、その時俺が平常心でいられるかって聞かれると……ちょっと怪しい。

 

さて、どうしような。

話は通じるようだから何とか休戦に持ち込みたいんだが。

 

「じゃあそんな加茂家次期当主さんに一つ質問していい?」

「なんだ」

 

聞いてくれるんだ……。

「お前の事情など知らん」とか言ってきそうな気がしてたからダメでもともとだったけど。

 

「次期当主としてあっちは見過ごしてていいんですか?」

「あっち……?」

「大江山の方からです。感じませんか?京都全域に流れる呪力を」

 

マガツイザナギがやってきてから少し後、京都を包むように何者かの呪力が放射されていることに気がついた。

タイミングを考えれば十中八九、酒呑童子のものとみていい。

 

呪術系素養ほとんど皆無の俺が感知できたんだ。

次期当主を名乗る人間がわからない、なんてことはないはず。

 

返事が来なくなったので少し待つと霧の奥から息を呑む声が聞こえた。

────ビンゴみたいだな。

 

「今のところ実害がない俺を捕まえるか、明らかに今の俺より手酷い被害を及ぼすやつを野放しにするか」

 

おばあさんの話によれば呪術界には御三家と呼ばれるクソデカ権力とクソ長歴史のハッピーセットを備えた家門があるそうな。

その家には相伝術式──北斗神拳のように一子相伝というわけではないようだが──があり、それを継げなかった人間は冷遇されるとか何とか。

 

ありがたいことに本人による次期当主宣言のおかげでそこの呪術師が冷遇されてる線は消えた。ならば彼は自らが据えられるお役目に対してそれ相応の責任感と崇高な自負があるはずだ。

ついでに言えば、交わした言葉の節々に良家特有の品行方正じみた雰囲気を感じる。

 

どちらを優先すべきかなんて火を見るよりも明らか。

そして彼はその高潔な自負故、とれる行動は限られてくる……はずだ。

 

うーん、もしダメだったらテレビの中にでも逃げ込むとしよう。

 

「次期当主さん、あなたはどちらを選ぶんです?」

 

先と変わらず返答はないが、躊躇うような足音がその場に響く。

そうして足音はだんだんとこの部屋から遠ざかっていった。

 

「……これどうしようかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……そうか、そうか。そういうことか」

「勿体ぶらんといて、はよ言うてみい?」

 

酒呑童子(TS)の言葉をゆっくりと咀嚼して、ある程度の真理にたどり着いたカリオストロ。

一人訳知り顔で納得する彼女にぶー、と酒呑は抗議の念を送った。

 

「その前に一つだけ確認してもいいか?」

「一つだけならええよ、一つだけな」

 

二つ聞いたらわからんよ?とでも言いたげに念押しする鬼に苦笑いを浮かべる錬金術師。

しかし彼女は臆することなく淀みなく、質問を投げかけた。

 

「お前は自分が受肉した時そんな姿になってたこと、どう思ってる?」

「どう?そうやねぇ……」

 

目を閉じて、ぽくぽくぽくと三拍子、首を傾げて彼女は自らが体験したその一幕を追想する。

 

──そうして、酒呑童子の口は宵の三日月のように形を歪めた。

 

「そら当然、心躍ったに決まっとるやろ」

 

 

彼女は今に辿り着くまで多くのものを失くしてしまった。

 

力を、身体を、記憶を。

失いすぎた、何もかも。

 

そして、己を創る呪い(情報)ですらツギハギだらけの贋作だ。

真に自分と呼べるものなど、一つもありはしなかった。

 

瓢箪に一つ遺されたのは、ただ復活に至るまで無限の前進を繰り返すブレーキを知らぬ『意志』だけ。

百年千年、気が遠くなる程の遼遠なる時を経て己の再誕に狂奔する妄執、それだけが酒呑童子のアイデンティティ。

 

そうして集めて、萃めて、やっと復活に漕ぎ着けるかと思ったのに──どうしてこうなった。

たった一人の人間の思念(呪い)で己の積み上げた全てをめちゃくちゃに(矯正)されてしまったのだ。

 

京都の人間の千年以上かけて集めた呪い(情報)など比較にならないほど濃密かつ正確無比。

森羅万象を目の当たりにしたような膨大な記憶を彼女はモロに浴びせられた。

 

それに驚く暇も、激怒する間もなく、トントン拍子に受肉が済んで、彼女はこの世に生まれ落ちる。

 

 

普通の感性があるならば怒るだろう。

何せ自分の努力のほとんどを無駄にされたのだ。

トランプタワーを完成直前でぶっ壊されたようなものである。

 

彼女は大いに湧いた。

怒りではない。()()が、だ。

 

あぁ、自分をここまで変えてしまったのは一体どんな人間なのだろうと。

 

 

「心躍る、ね。……その反応なら大丈夫か」

「あら、うち試されとった?」

「今すぐオレ様たちをどうこうしようとか考えてんだったら逃げの一手だが、見て聞く限りお前はそうでもなさそうだ」

「せやねぇ。うちはあんたはんらにえらい興味があるだけ。いきなり取って喰ったりはせんから安心してなぁ」

 

今すぐどうにかされるわけではないと分かったカリオストロは長いため息と共にゆっくりと矛を収めた。

 

「さぁさぁ、はよう教えてや」

「わーったよ。だが質問の対価にこっちの身の安全くらいは保証してもらうぜ」

 

 




前回と比べるとかなり短いし話の進行度が亀。
わっちも忙しいんじゃ許してくれ。

アンケートはいつも通り投稿から一日で締切です。


転生者くん
→頭の中がパッシブ無量空処になってるらしい。
大丈夫?脳内に瞳生えてたりしない?

酒呑童子
→平安時代から今日まで瓢箪の中でRAGE OF DUST(止まるんじゃねぇぞ)してた。
悪鬼外道、怪力乱神、奸知術数、豪放磊落、のじゃロリ──多岐に渡る市井の人々の思念(呪い)を総て萃めて自分を創るなど正気の沙汰ではなかったんだよ。
まあ正気なんてものは酒に溶けてから数十年くらいで真っ先に落っことしてしまったみたいなんすけどね。

東堂
→次回大江山到着

かものりとし
→かなり逡巡した苦渋の決断だったけど転生者くんより大江山の奴の方が優先度↑

メカ丸
→ホテルに置いてけぼりにされた。
繋がりを絶たれてしまったので本人の元へ持っていくまでは再び動くことはないだろう。


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#18 青春アミーゴ

いつの間にかお気に入りが1万人の大台に乗っておった。
みんな、ありがとう。

そして、これからもよろしく。


今回これ書くのに疲れちゃったので、感想返信は後で二話分まとめてやります。



カリオストロはマスターの作った呪骸、及びマスター本人の安全を担保に、かいつまんだ推測を酒呑童子に説明した。

 

「……あんたはんも旦那はんも、それに酒呑童子(うち)も、えらい数奇な流れでここに生まれよったんやなぁ」

「本当にな。まだまだアイツには謎が多そうだ」

「なんか嬉しそうやね?」

「そうか?」

 

ひたと彼女が頬に触れると確かにその口角はくいと上を向いていた。

完全に無意識だったのか、存外驚いたような表情をするカリオストロ。

 

「……なんだかんだ、ここまで退屈とは無縁だったからだろうな。こんな不条理だらけの世界で生きるのも、まぁ悪かねぇ」

 

ニイと歯を見せて笑ったカリオストロにつられ、酒呑も外見相応にはんなりと微笑んだ。

好奇心の探求という点において、彼女たちは似通った立場なのかもしれない。

その果てに見るものは対極に座しているようであるが。

 

「ああ、せやせや」と酒呑がちょうど今思い起こしたように口にした。

 

旦那はん(マスター)はまだ、あんたはんみたいな呪骸は創れるんよね?」

「……そうさな、後四体くらいは」

「ふふ、ほうかほうかぁ」

 

さぞ愉快げに、しかし何か含みのありそうな顔だった。

盤面を前にした歴戦の棋士が浮かべる不敵な笑みが、全てを掌握したフィクサーのような訳知り顔が、綽々とした鬼の顔をまるっと包んでいる。

端的に換言するならば、『悪い顔』というやつである。

 

「なな、ちいっとうちに付きおうてや。なぁに、悪いことやないから安心しい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……近いな」

 

スウ、と酒臭い空気を吸い込んで東堂葵は気合を入れた。

山に接近するにつれ辺りに漂う酒気は一層濃くなり、意図せず身体が弛緩してしまいそうになる。

強ばっているくらいがこの状況下ではベストなコンディションだ。

 

山中に硬質な武器をぶつけ合うような音が響く。その先で二つの呪力が忙しなく動き回っている。

目標はもう目と鼻の先。退屈の終わりが目の前に迫っていると考えると、東堂は心地よかった。

 

 

 

 

 

 

大江山中腹、木々が開けた場所で呪力の主が戦いを繰り広げていた。

何故か山の斜面が真っ平らに変貌し、まるでポケモンジムのフィールドのようになった大地で幼い見た目の女子たちがしのぎを削る。

 

カリオストロが金髪をなびかせながらパンと一拍。

地面が波打ち、波涛のようにもう一方へと土の津波が押し寄せる。

 

「うちを呑みたいんならこの山全部使ってもたりひんなぁ」

 

迫る土塊に対してぶつけられたのは大量の酒。

酒は土波を呑みこみ、見事その威力をゼロにせしめた。

底知らずに酒呑童子の足元から吹き出す酒の間欠泉は彼女の周りを覆うようにざぷざぷと漂っている。

 

「ミミッキュ!」

 

その声に応えるように暗がりから不気味な人形が、存外可愛らしい声を出しながら姿を現す。

ミミッキュの下部から伸びた影のような手が錬金術師にテレビを差し出した。

 

こんな山奥である。電気を供給するコンセントプラグはもちろん繋がっていないし発電機がその辺りに転がっているわけでもない。それにも関わらずテレビの画面はスノーノイズをチラつかせていた。

砂嵐の中では薄い紫色がチラチラと忙しなく左右に揺れている。傍から見れば殊更不気味に感じられることだろう。

 

「まだ途切れてなかったみてぇだな。重畳だ」

 

ドスのかかった声と同時、テレビに華奢な指先を這わせて呪力を込める。

表面に電子基板のような青緑色の光帯が走ったかと思えば、瞬く間にテレビが分解された。

分解されたテレビだったものは発散と収束を繰り返し、新たな形へと再錬成されていく。

 

「なんや、それ」

 

カリオストロの背後に錬成されたのは白磁の石壁。それもサイズが映画館のスクリーンレベルの大きさの壁だ。

 

「……本物を錬成した方がいいのかもしれねぇけどあいつの術式はそこそこ許容範囲が広くてな。()()()()()()()なんでもいいらしいぜ?」

 

錬金術師は小脇に抱えた機器のレンズを壁に向けた。

そう、彼女がテレビを素材に錬成したのは白い巨壁ではなかったのだ。

 

機器から壁に光が放たれる。光はただの光から徐々に灰色に変わり、ついにはテレビが映していたものと同様のスノーノイズが投映された。

 

「出番だぞ、準備はいいな?」

 

スノーノイズに映る薄紫がより鮮明に、より明確に、形を帯びていく。

砂嵐の中、覗き見るように外の世界を眺める巨大な少女。

 

包帯だらけの少女はゆっくりと手を伸ばす。自分を映すカメラを隠すように。

そして──()()()()()()()()()()()()

 

 

「Aaaaaaa、AAAAAAAAAA──」

 

 

巨腕が、顎が、次元を超えて現実世界へとその姿を露わにする。

暗幕のように垂れ下がった長い髪が顔を遮り、彼女の表情を外から覆い隠す。

 

 

「LaAAAAAAAAAAAAAAAAAA──!」

 

 

母なる海の叫びが、自陣営最高戦力の咆哮が、大江の山全域に木霊する。

 

 

 

 

得意げに笑うカリオストロ。

呆気に取られる酒呑童子。

 

 

 

 

そして、もう一人。

 

 

 

その光景を目の当たりにした瞬間、東堂の脳内に溢れ出した────()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──俺、高田ちゃんに告る」

 

穹は蒼く、葵く澄み渡り、トゲのない日差しが肌を撫ぜる。

柔らかで温かな風が桜を揺らし、落ちた花弁が校庭を自分色に染めていく。

 

グラウンドの隅に作られたこぢんまりとしたプランター。

殺風景な赤レンガと土に赤いアネモネと早咲きのプロテアが今春、華やかに色を添えた。

 

硝子の向こうに広がる今年で見納めの春景色を視界に収めながら、中学三年生の東堂葵は人が出払った放課後の教室で独り言ちた。

 

「私は……オススメしない、かな」

 

大気が震え、窓が薄紫で塞がれる。

ゆらゆらと髪のカーテンが揺れ、ズシンズシンと音を立てれば、髪色と同じカラーの巨大な瞳が窓の外からジト目で東堂を捉えた。

 

「なんで俺がフラれる前提なんだよキングプロテア」

 

静かに吐息を吐き、東堂は自分の席を立って窓の目に向かう。

彼に合わせるように瞳も奥へと下がっていき、東堂の視界に特注のセーラー服を着たキングプロテアが校庭のど真ん中で体育座りをしている様子がやっと確認できた。

 

「逆に聞きますけど、どうしてOKもらえると思ったんですか?」

 

「あとで慰めるの私嫌ですよ?東堂さんグズると面倒くさいし」と千里眼で見てきたかのように口にするプロテア。

東堂は意中の彼女に()られることなど勘定に入れること無く、余裕綽々気骨稜々に言葉を返した。

 

「かの伝説のバスケットボールプレイヤーMJは自分の今までを振り返ってこう説いた。『諦めたらそこで試合終了ですよ?』と」

「それ言ったの安西先生じゃないですか。共通点バスケしかありませんよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。私好きな人がいるの」

 

花弁と共に、愛の手紙は春空に舞った。

半ば確信に近い決意を胸に高田ちゃんを呼び出した東堂だったが、結果は惨敗だった。

やんわりどころか、意中の人が他にいると告げられる始末である。

声すら出せなくなった東堂を振り返ることすらなく、愛しの彼女は颯爽と桜吹雪の中へと消えて行った。

 

「好きな人が俺ってパターンは……」

「ないと思います」

 

放心状態で滲み霞んだ空を眺める東堂のうわ言にキングプロテアは容赦なくツッコミを入れた。

 

「だよなぁ」と力なく彼は口にする。

高田ちゃんのことを理解しているが故に、完璧に理解してしまったが故に、願望塗れの空言は風と共に去っていった。

 

花壇のレンガに腰掛け、涙で土を湿らせる彼の姿を不憫に思ったのか、キングプロテアは努めて頭を潰さないようにちょい、と東堂の後頭部を小指で小突いた。

 

「ほら、行きますよ」

 

未だ涙が止まらない東堂は顔を上げる。

ボヤけた視界だったが、プロテアは心配気な顔をしているのがわかった。

 

「私の行きつけのラーメン屋、奢ってあげますから」

「……食いきれなくても怒るなよ?」

 

ああ、俺は良い友を持った。

ラーメン屋への道を辿りながら悲しみで丸まった背中を押してくれたキングプロテアに東堂はそんなことを思ったのだった。

 

 




(ブックオブ)青春アミーゴ

ほら、お前らが望んだことだぞ(#6〜#7のアンケート参照)

疲れた。怪文書だよもうこれ。
かなり頑張った方なんだが東堂エミュが足りない気がする。
……ワイはどうしたらいいかな。


転生者くん
→次回バカ目隠しと遭遇して大立ち回りをする予定。

カリオストロ
→また戦ってる。一応和解したんじゃなかったんですか?
まだマヨナカテレビが残留しているテレビを使ってプロジェクターを作成。真っ白な巨壁にそれを照射してキングプロテアを呼び出した。

酒呑童子
→また戦ってる。
悪巧みというか、思惑があるらしいよ。

キングプロテア
→初バトル。
ちょっと中の女神の顔が出てませんか?

MJ
→ジャクソンじゃないよ。ジョーダンだよ。

赤いアネモネ
→花言葉『君を愛す』

プロテア
→花言葉『華やかな期待』『甘い恋』

東堂
→キングプロテアを見た瞬間、彼のIQ53万の脳内CPUがフル稼働して幻想と形容するにはあまりにも解像度の高すぎる記憶を弾き出した。
キッショ なんで(名前も口調も)分かるんだよ。

『キングプロテアは好み』という思いと『俺の一番は高田ちゃんなんだ』という確固たる信念が正面衝突した結果こうなった。どうして?(現場猫)

今後当SSの東堂が虎杖と接触すると今回の思い出の中に虎杖が追加されます。


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#EX-Ⅰ 存在しない記憶

※本日はエイプリールフールです。
今回のお話は本編に一切関係はございません。

一切!関係はございません。

不快になってもそれは読んだウヌのせいじゃ。
ワシのせいじゃない。



昼休みのチャイムが校内に響く。

給食の匂いがほのかに残った教室は春の陽気に包まれ、ほんわかとした雰囲気が漂っている。

その中で場違いな呻き声を上げて机に突っ伏す男が一人。

 

そう、我らが東堂葵である。

 

結局キングプロテアに奢られた超超超特大ラーメンを食い切ることはできなかった彼だが、その後筆舌に尽くし難い胃もたれに苛まれていた。

いくら中学生の範疇からハズれに外れたゴリラだろうが、それでも人間である以上許容上限は存在する。

プロテアが奢ったラーメンは彼のボーダーを優に超過していたのだった。

 

「おい」

「……なんだ」

 

上から声が飛びかかってくる。

顔を上げる気力すらなく、机に突っ伏したままで彼は返事をした。

 

「いいからその(ツラ)を上げろドルオタゴリラ」

 

グワシと側頭部を冷たい手のような何かにホールドされ無理やり上向きにされる東堂の顔。

彼の目に映ったのは悪い顔で笑いながら怪しい液体が入った試験管のコルク栓を外す錬金術師と自分の頭を掴んだ趣味の悪い人形の姿だった。

 

「お前何すムゴブッ!?

「あーあーうるさいうるさい。まずは飲め。話はそれからだ」

 

口の中に叩き込まれた試験管から液体が東堂の食道へと流れ込んでいく。

全て流し込んだのを確認した彼女は吐くなよと東堂に忠告して蛇口に試験管を洗いに行った。

 

五味が渾然一体となった混沌の味わいもつかの間、その液体の効果は東堂の五臓六腑に染み渡っていく。

どうヤツをのしてやろうか、などと考えていた彼だが、その液体──薬剤の効能を理解するうちに自然と怒りは収まっていった。

 

「気分はどうだ?」

「……スッキリだ」

「そら重畳。こっちもいいサンプルが取れた」

 

可愛げな制服を身にまとった錬金術師のカリオストロはその服でするべきでない笑みを浮かべた。

 

「他人の体調なんざ無視するのがセオリーだが……あまりにうるさかったんでな。おかげで午前中は調合の内職に充てるハメになったぜ」

 

東堂とカリオストロは同じクラス、かつカリオストロの後ろの席は東堂である。

一時限目からずっと腹の底に響くような声を垂れ流し続ける彼に教師もクラスメイトもすっかり萎縮していた。

授業もロクに進まず、教室の雰囲気も良くない。後普通にこのゴリラが煩わしかったのでカリオストロは胃薬をプレゼントしたのだった。

 

「悪い、手間をかけた」

「気にすんな。プロテアに付き合ってくれた礼もある」

 

カリオストロはカバンに詰めた呪具のチェックをしながらぶっきらぼうに答えた。

プロテア、その四文字を聞いた東堂は再び胃もたれしたような沈痛な面持ちに顔を変える。

 

「残念だがオレ様は心につける薬は専門外でな。そこは自分の頭で考えろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリオストロの計らいで午後の授業を休む権利を貰った東堂は一人、屋上から校庭を眺めながらたそがれていた。

 

キングプロテアと東堂は中学からの付き合いだ。

物理的にも精神的にも学校に馴染めていなかった彼女を不憫に思い、東堂は声をかけた。

最初は失敗ばかりで壊すことしか能がないと己の境遇を嘆く彼女だったが、今ではすっかり学校の空気に溶け込んでいる。

東堂を初めカリオストロらとの特訓で力加減を覚えた彼女はもう恐れられるだけの存在ではなくなったのだ。

 

「俺は、高田ちゃんが好きだ」

 

フラれた今でも東堂の愛は尽きない。

学生アイドルとして精力的に活動する彼女への想いをどうして投げ捨てられようか。

好きな人がいたとしても、いつか俺に振り向いてもらえるのではと、そんな事を常日頃から考えている。

 

東堂は校庭の花壇に目をやる。

赤いアネモネが誇り高く咲き誇り、プロテアの花がその異様に似合わずこじんまりと咲いているように見えた。

 

「だが……どうすればいい」

 

 

 

高田ちゃん 助けて

俺この娘 好きになっちまう

 

 

 

キングプロテアに好意を抱いている気持ちも東堂の中でまた芽生えていた。

高田ちゃん一筋を掲げていた東堂にとって、この心に浮かんだ泡は彼女に対しての裏切りだ。

否定したい、考えたくない。だがふと気づけばプロテアの大輪の笑顔が脳裏に過ぎる。

 

「はぁ……」

 

ブルースな気分だった。

視界が青のフィルタに覆われて、周りの景色が海に沈没して見えた。

 

「あんまり青いため息吐かれるとこっちまで下がってくるわぁ。陽気な景色に無粋とちゃうん?」

 

どうやら屋上には先客がいたようだ。

ペントハウスの上で寝転び、空を眺めていた少女がゆっくりを身を起こす。

 

「酒呑か」

「せやで。お久しゅうな、東堂はん」

 

くぁ、と欠伸をしてから鬼は屋上に降り立った。

 

「なんや、えらい深刻そうな(つら)してはるなぁ。うちに話してもええんよ?」

「実はな……」

 

悩みを彼女に明かすと「なるほどなぁ」と共感しているのかしていないのか、微妙な相槌を打った。

 

「フラれたんやろ?しかも高田はんは別に好きな人おるし。じゃあ次〜ってならんの?」

「そんな軽い気持ちで高田ちゃんを推していたわけじゃない」

 

万感の気持ちで彼女を想っているんだ、そう東堂は熱く語る。

焦るように高田ちゃんへの愛を叫ぶ東堂に酒呑童子はこんなん聞くのはちょっぴり意地悪かもしれへんけど、と前置きして首を傾げた。

 

「東堂はんは高田はんに惚れられる自分でありたいのか、高田はんに誇れる自分でありたいのか。どっち?」

「そ、れは────」

 

喉元に引っかかり、言葉が詰まる。

以前は二つを同時に並べていても何ら問題はなかった。

高田ちゃんに好かれるため、高田ちゃんのファンとして誇れる自分であろうと邁進していた。

だがキングプロテアへの好意を持ってしまった今、その二択は一方しか選ぶことができなくなってしまったのだ。

 

「高田はんは自分の気持ちに嘘つく人、好きになれるんやろか。うちはそうは思わんなぁ」

「────ありがとう、酒呑」

 

少しだけ、ほんの少しだけ、闇に光明が見えた気がした。

そんな簡単なことすら思い浮かばないほど、自分は悩んでいたのか。東堂は反省する。

熟慮は時に短慮以上の愚行を招く、今回はその典型にハマってしまったようだった。

 

「今はただ、お前に感謝を」

 

とはいえ、これからどのように行動するかなんて決めていない。まして愛の正解など齢14の東堂にはてんでわからない。

 

だからまずは、この気持ちを、自分の中に生まれたこの気持ちを大切にしよう。

そして正面から向き合うのだ。それがどんな結果に転ぶかは、神のみぞ知るであるが────

 

「んふふ、おおきに」

 

鬼は静かに笑った。

舐めるような視線で彼の様子を眺め、そしてまた愉快そうに笑った。

 




ゆ、赦して……。
指が勝手に動いたんじゃ。
ワシのせいじゃない。
まさかワシのせいにするのか……!?
この人でなし!


どうしてまた怪文書書いてるんですか?(現場猫)

ギャルゲーかな?
またろくでもないものを生み出してしまったよ。本編が遅れるだろうが!!

そういえば今日エイプリルフールだなと13時頃に思い出して筆を取りました。



東堂
→学ラン

高田ちゃん
→セーラー服

キングプロテア
→セーラー服

酒呑童子
→セーラー服

カリオストロ
→2nd Anniversaryスキン『セーシュン☆ユニフォーム』


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#19 世の中クソだな

世の中はクソ!(真理)
キャベツ刑事も、そうだそうだと言っています。

だいぶ駆け足気味かもしれない。

エイプリルフール編頑張って書いたのにキモイキモイ言われて嬉しいやら嬉しくないやらよく分からん気持ちになった。

これが恋ですか?(SAN値0)



時間にしておよそ15分。濛々と部屋を包み込んでいた黒い霧が逃げるように霧散した。

なるほど、これなら1ターン5分と考えてもよろしいか。まだ他の霧とか魔法は試してないから、絶対とは言い切れないが。

 

時間帯は深夜だが、闇を色濃くしていた霧も晴れて視界が多少明瞭になったので、ぐるっと部屋を点検してみる。

まずルームメイト。

天才美少女印の眠り粉は良く効いているようでぐっすり睡眠中。カリおっさん最高!

 

次、壁とかフローリングとか。

マガツイザナギのマカラカーンが弾いたのは()()だけだったようで、勢いそのままに押し寄せてきた加茂家次期当主の血液は部屋の中にびちゃっと散布されることとなった。マジンガの影に隠れてたから俺にはかからなかったけど。

布団血だらけ壁血塗れ、スプラッタ映画もびっくりの惨状である。

今俺にこの部屋をどうこうする力はないので、解決について頭を割くのはやめた。

 

最後、ドアとメカ。

蹴破られたドアと呪骸が川の字になって入口に転がっている。

っていうかこんなにどんちゃん騒ぎしても何もないんだな。ケチって防犯カメラとか付けなかったのかしらこのホテル。

 

 

……後数刻もしないうちに呪術師がこっちに来るだろう。次期当主が俺に対して何の手も打たないわけないし。

 

ここから逃げるのはダメだ。

行方不明者ないし下手人の疑いをかけられて個人情報をすっぱ抜かれる。

狸寝入りは論外。

知らぬ存ぜぬは彼らに通じない。術式戦が繰り広げられた中で起きてないは無理筋。隣で爆睡してるルームメイトと違って事情聴取でボロ出さない自信が皆無。

……カリオストロ、わりぃ おれ詰んだ!

 

「いや、諦めるのはまだ早い。素数を数えて落ち着くんだ。4、6、8、9、10、12、14、15、16、18、20、21、22、24──いやこれ合成数だな」

 

まず回避すべきはそろそろ来るかもしれない呪術師と出会うことだ。

目と目があったら術式バトル!する羽目になるかもしれんし、至極真っ当な疑いをかけられる可能性もある。極力それは避けていきたい。

 

……マガツイザナギをホテル内のどっかに先行。そしてマヨナカテレビ作って人目のつかないトイレとかに移動するのが一番無難かな?

残穢は残るけど一から十までホテル内を精査するわけじゃないだろうし、一時的に身を隠すだけならアリ……うん、アリだな!

 

「うし、じゃあ任せた。できるだけ目立たない場所探してきてくれ」

 

そう自分の隣で浮遊するマガツイザナギに声をかけたのだが、ふらーっと前方に動いただけで探しに行こうとする気配がない。

えっごめん、何か気に障ることとかあった?

 

 

……そう呑気に思っていた時期が、俺にもありました。

 

 

 

「ねぇ、君。呪術師って興味ある?」

 

 

 

前方、蹴破られたドアの正面。廊下に怪しげな男が一人。

視界に入ってきたのはまず妙にすらっとした足。暗がりで、ちゃんと輪郭を把握するまで時間がかかった。

世の女性が見れば嫉妬に狂ってハンカチを噛みまくるに違いない。

次に目隠し。これも目を凝らさなきゃよく見えなかった。なんか見てるとヨルハ二号B型が頭をよぎる。

最後に白髪。こっちは闇に映える色だからよく分かる。この人オートマタかなんかじゃないかな。頭身高過ぎるけど。

 

 

目隠し、白髪、長身、何か胡散臭い態度。

ご丁寧にこれだけヒントを与えてくれれば、おばあさんが口酸っぱく忠告してくれた要注意人物だと分かるのにそう時間はかからない。

 

『彼奴に出会ったら逃げることはまず無理。潔く諦めて』なんてさ。割と今日この時まで冗談だと思ってたんだけど、本物見るとあれだね。蛇に睨まれた蛙というか、ジンオウガに凄まれるブナハブラというか、ガンダムを前にしたザクというか。

 

ともかく、今すぐにでも白旗掲げたくなる衝動に駆られてしまう。

なるほど、これが呪術界最強────五条悟。

 

……考えるのやーめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが断る」

「僕興味あるか聞いただけなんだけど?」

 

彼の問いかけにぶつけられたのはそこから数手先の質問に対してのアンサーだった。

五条悟を知る人間、とりわけ呪術界から見てイリーガルな立場の人間であれば彼の質問にNoと言うことができない。

答えるか、死ぬか。己の絶対的実力を笠に着た恫喝はそれなりの効果がある。幾人もの呪詛師がそのプライド、ついでに身体を打ち砕かれた。

だが、この少年が折れることはなかった。

 

「誰が好き好んで自分を殺すかもしれない組織の中にいたいと思うんだよ」

「……それがさ、そんな物好きがいるんだよ〜。乙骨って言うんだけど」

「えっいるの?いや俺はその輪に入るつもりはさらさらないが。怖いし」

 

あくまでもそちら側にはいかない態度を貫く少年。

一応君のことを思って言ってるのにな、などと思いながら五条は一歩踏み出した。

 

「まあそう言うなよ。君が思うより案外楽しいかもしれないじゃん?」

 

一歩、されどその一瞬で少年と五条の距離が迫る。

肩を掴もうと伸ばした腕は明らかに不自然な呪力を纏った小さな呪骸によって素早く弾かれた。

 

「あー、そんなに嫌?」

「嫌だし、初対面だが俺はすでにあんたのことが苦手だ。どうしても俺を呪術師にしたいんなら──」

 

少年の左目に呪力が集中する。

集う負の力は青い焔を象り、激しく唸りを上げた。

 

 

(俺は、呪骸について以外何もできることはない)

 

 

常々、少年は考えていたことがある。

単純な呪力放出、『帳』を始めとした結界術、簡易的な式神、etc etc……。

己の生得術式に関わらない呪力を用いた技術を会得することはついぞできなかった。

ならお前には何ができるのか、と。

 

 

(逆に考えるんだ。呪骸について()()なら俺は、何だってできるんじゃないかって)

 

 

何かできることはないのかと、守られるだけじゃなくて、彼らと共に戦える術はないのかと。

そうした自問自答の末、まず行き着いた結論が──『拡張術式』だった。

ぶっつけ本番、それも最強相手に使うことになるとは夢にも思っていなかったが。

 

 

(魂分けてるんだ。俺がお前でお前が俺なら、その景色が見えても、その身体が動かせても、別に不思議じゃないだろう?)

 

 

少年の焔に呼応するように呪骸──マガツイザナギの左目も青き炎を発する。

身体の制御権が少年へと譲渡され、少年とマガツイザナギの視界が共有された。

 

拡張術式『同調(ユニゾン)』。

少年と呪骸が到達した、新たな境地である。

 

「──俺とマガツイザナギを倒してからにしてくれよ」

「……参ったなぁ。ますます君を野放しにする理由がなくなっちゃったよ」

 




負けイベです(ネタバレ)


転生者くん
→終わるなら 末まで足掻け 時鳥
第二の人生ということもあり、かなりその場その場のライブ感覚で生きている節がある。
五条悟が出てきた時点で色々かなぐり捨てた。
呪術師来るやろな〜とは考えてたけどまさか最強が勧誘しに来るとは夢にも思ってなかった。
劇中セリフの通りあんまり呪術師に対して良い印象を抱いていない。
結局捕まるんなら最期までワンチャン信じて足掻いてやるよ対戦ありがとうございました!

ヨルハ五号J型
→酒呑童子受肉の報を受けて京都に飛んで来た。でも受肉したてのベイビーで葵と他にも呪術師いるなら大丈夫でしょとか思ってる。
のりとしとたまたま会って事の顛末を聞かされホテルに来た。
優秀な人材っぽかったので勧誘したけどすげなく断られた。
放っておく選択肢もあったが『マガツイザナギ』となれば話は別。
彼を高専に所属させ自分の保護下に置くため仕方なく戦うことに。

マガツイザナギ
→これまで出番を溜めたぶんめっちゃ活躍する。
どうやら彼が持つ特級呪物『天沼矛』には秘密があるようで……?

拡張術式 『同調(ユニゾン)
→術式への解釈を広げ、多大なるプレッシャーに曝された結果生まれた全呪骸共通の拡張術式。

転生者くんと呪骸をシンクロさせて更なる能力向上を図る。
通常時の呪骸がオートで動いているとするなら、こちらはマニュアルで動かしているようなもの。
呪骸以上に呪骸のことを理解した転生者くんが扱うことでより強力で凶悪な術式となる。
もちろん術式使用中は完全に無防備。誰かに守ってもらおうね。

端的に換言すればサトシゲッコウガ。
あの時のアニポケが一番面白くて熱かったかもしれない。


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#20 領域展開

※クロスオーバー作品のネタバレ過多。ご注意を。


注目ッ!前回のあらすじッ!

5J「ねぇ、君。呪術師って興味ある?」
転生者君(うわ5Jやんワイ終わったわー呪術師強制ルート確定やー。……結局おしまいなら最期まで足掻いてもいいのでは?)
転生者君「だが断る。どうしても呪術師にしたいなら俺とマガツイザナギを倒してからにすることだな!」


前回の感想返信は今回とまとめて後でやります。
春先は忙しいのよね、うん。



窓ガラスが砕かれる音と同時、少年の身体はコンクリートへ向けて自由落下を開始する。

 

彼が持つ五条悟の情報はおばあさんから聞きかじったものしかないが、遮蔽物のない場所で奴と戦うのは馬鹿のやることだと知っていた。

なら何故わざわざ外に脱したかと言えば──それが彼の策であるが故に。

 

「僕相手にそれは愚策じゃないかな?」

 

落ちる少年に続き悟もその後を追う。

多少圧はかけたものの、悟は少年がNoと言うなら呪術師になることを強要するつもりはなかった。ちなみになって欲しいかと聞かれればもちろんYes。

しかし早合点してしまった少年は悟が己の身柄を確保しに来たのではと誤解。なら最期まで抗ってやろうじゃねぇかと気炎を上げたのである。

バカ目隠しからすれば棚からぼたもちだった。

 

自分に向かって啖呵を切るその心意気は感心する。中学生にしては心が成熟しきっている気がしないでもない。

だが彼は無謀と勇気を履き違えている。自ら不利なステージをセレクトした少年に、悟はそう思った。

 

「俺が愚かかどうかはすぐにわかるさ」

 

拡張術式『同調(ユニゾン)』は少年と呪骸の行動をシンクロさせる他、その呪骸の()()()を参照することができる。

どんな術式が使えて、どんな身体能力で、どんな技能があるのか、目に見える形でそれを確認することが可能だ。

元々は『ヒートライザ』+『チャージ』+『空間殺法』で威力偵察をしようかと思っていた少年だったが……マガツイザナギのある項目を確認してそれを取り止めた。

 

どうせ散るならド派手にいこう、少年はそう思った。

 

 

 

 

 

少年が腕を動かすと、横に併走するマガツイザナギの腕もまた動く。

左手を胸元に、拳を握った手の中から人差し指だけを立てる。

そうして立った指を右手が包むように握りしめた。

 

右方は如来を、左方は一切衆生を。

その()は天地万象の理を示す。

 

世に言う大日如来が結ぶ印──智拳印を結んだ。

 

 

 

 

「領域──展開」

 

 

 

 

少年とマガツイザナギの背後に朱と漆黒の幾何学模様の陣、そして梵天文字が展開される。

禍々しい呪力を放ちながら拡張を続ける陣に悟の六眼は嫌な既視感を捕捉した。

 

この呪骸の名もそうだが、伏黒甚爾が己に致命傷を与えた特級呪具『天逆鉾』と近似の呪力がこの作りかけの領域に渦巻いているのだ。

 

いかに呪術界最強と言えど、過去に敗北を喫したものと同等、あるいはそれよりも強力な術式を前にした時やることと言えば一つである。

 

「残念だけどそれには付き合ってられないな」

 

空を蹴り、腕に呪力を纏わせる。

少年を追い越す勢いで加速した悟は少年の背後をとった。加減をした当身で意識を刈りとろうと頸動脈目掛けて手刀を振り下ろそうとした悟だったが──

 

 

「……二体いるとは聞いてないなぁ」

 

少年が纏う()()、その裏側から現れたもう一体、モノアイを紅に光らせるメカメカしい呪骸に阻まれ、その企ては失敗に終わる。

 

それと同時、領域は完成され悟と少年はその中へと堕ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その子の名前の割には随分と現代チックな領域だね」

「抜かせ」

 

 

 

一言で表すなら、気味が悪い。

 

倒壊した家屋の瓦礫、崩れかけのビルから覗く剥き出しの鉄骨、ひん曲がった『車両進入禁止』の道路標識、何らかの記号が記された黒い札の塊。

 

禍々しい呪力は天に蓋をし、四方を覆う。空は赤と黒のツートンカラーが埋めつくし、『DANGER』、『CAUTION』、『KEEP OUT』と印字された黄色が眩しい現場封鎖のテープが四方八方に走っていた。

 

この閉じられた世界はマガツイザナギの心の内、彼のホームグラウンド。

世界は切り取られ、テレビの中と呼称される異空間へとその組成を書き換えられた。

 

 

 

 

 

 

領域展開──『禍津曼荼羅(マガツマンダラ)

 

 

 

 

 

 

「この領域はマガツイザナギが展開するテレビの中の世界、その深層部とでも言えばいいのかな。領域の効果としては……」

 

張り巡らされた黄色いテープ、その周囲の空間が歪み────異形がぬるりと顔を出す。

ピンクと黒のストライプの球体にだらしなく舌を垂らす口がついた、なんとも形容しがたい存在が溢れるように領域内に生み出されていく。

 

呪力で構成されている。しかし呪霊とは決定的に何かが違う。悟の眼はそう読み取った。

 

「『シャドウ』の使役ができること、くらいかな」

 

少年の背後にも空間の歪みが発生し、先のものとはまた違う──しかも特級呪霊級の呪力が漲った──存在が三体、産み落とされた。

 

血を被った黒いロングコートをはためかせ、外套に巻きつく銀の鎖がジャラリジャラリと音を立てる。

両の手に剣のような長さのリボルバーを携え、布に包まれた頭部から覗く殺意のこもった目で相対する悟を捉えた。

 

対する五条悟は──ニイと口を三日月のように歪ませた。

 

「いいね、楽しくなってきた」

「ここまでして言われるセリフがそれかよ。ああわかったよ、やってやるよッ!」

 

少年が指揮者のように指を振ると異形の存在──アブルリーの大群が、刈り取る者が、呪術界最強に向けて殺到した。

 

 




※豆知識追加しました。


(刈り取る者)三人に勝てるわけないだろ!(アニメ版P4)

領域展開『禍津曼荼羅(マガツマンダラ)
→マガツイザナギの領域展開。同調(ユニゾン)時のみ使用可。
己のフィールドたるテレビの世界、その深層を展開する。
効果は『シャドウ』なる存在の召喚・使役と■■■■を依代とした■■■■の顕現。

アブルリー
→シャドウの一種。ザコ敵だけど数がバカみたいに多いよ。詳しくはP4Gアニメ一話をチェックだ!

刈り取る者
→ペルソナ4で本編クリア後に戦える激強敵。裏ボス的なやつだと私は思ってる。


負けイベです(二回目)
リアル疲れがヤバいのでクオリティと文量に影響してしまった。赦して。

これがやりたかったからマガツイザナギをチョイスした節があるよ。


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#21 このロリコン共め!

申し訳ございません。また感想返信できませんでした。
でも感想返信するより早く続き出して♡って皆様思ってるような気がしたので私の選択は間違ってないはず。

許し亭許して!




戦いの火蓋を切ったのは死神の銃撃だった。

 

アブルリーの雪崩を前方に、彼らを貫くことなどお構いなく敵性対象へと照準をセット。妙に長いガンバレルから赤色に輝く散弾が放たれた。

 

血液代わりの黒靄を撒き散らしてアブルリーの体が弾け飛ぶ。

靄の奥から飛来する凶弾はターゲットの首筋目掛けて寸分の狂いなく殺到する。

 

残る二体の死神も風貌に似合わぬ速さで肉薄。

一体は鎖による捕縛を、もう一体は背面から長い銃身での殴打を試みた。

 

 

「雑魚の肉壁をチャフに本命の攻撃を潜ませる。いい作戦だね。攻撃の到達も寸前までほとんどわからない。並の術師なら普通にやられてるかもだ」

 

 

然して──弾はその役目を果たすことなく、鎖は勢いを削がれ、銃身は動きを止める。

三者三様の攻撃は無限の壁に阻まれてしまった。

 

次いで襲い来るアブルリーの滝流れに飲まれながらも最強は胡散臭い笑みを絶やない。

 

「今度はこっちから──おっと」

 

眼には眼を、歯には歯を、攻撃には報復を。

迂闊にもこちらに接近した刈り取る者へと術式を用いた掌打を繰り出そうとした悟。

 

しかしそれを防ぐ影が飛び込んできた。マガツイザナギである。

五条悟は急ブレーキをかけざるを得なかった。

 

浮遊する呪骸が携えたそれの呪力は領域に溢れる力と同一、かつ根源であると六眼は観測結果を弾き出す。

そして、以前己が大敗を喫したものと近似の類であると。

 

「そのミニチュア武器、『天逆鉾』って名前だったりする?」

 

アブルリーの群れを範囲を拡大した無限で明後日の方向へ押し退けながら、離れた場所でマガツイザナギと同じポーズを保つ少年に話しかける。

絶え間なく飛来する雷撃に氷結、火炎や疾風は彼を害するには至らず、彼が敷いた無限の前に四散を続けていた。

 

ややあって少年はしたり顔で聞き返す。

「……そうだとしたら?」

全てを諦めたが故に浮かんだ表情ではなく、例えるなら絶望の暗闇に光明を見出した人間のそれだ。

 

「最悪でしょ。強制術式解除ができる呪具なんて存在しない方が余程いい。フィギュアサイズとはいえ二本目があるなんて流石の僕でも予想外だよ」

 

あーやだやだと顔をしかめる悟を他所に少年は悟られない程度に小首を傾げる。

同調(ユニゾン)を通して送られるマガツイザナギの情報にそんな力は記されていないからだ。

が、わざわざ相手に開示する義理もない。

ともすれば、これはまたとないチャンスなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

か細い勝機の糸を見出した少年はすぐさま次の一手を繰り出した。

 

「『ヒートライザ』、『チャージ』!」

 

七色、続けて赤い呪力が禍津神を包みこむ。

前者は全性能の底上げ、後者は一時的に攻撃力を倍加させるスキルだ。

纏う輝きは特級呪物・天沼矛へと集束。既に高い呪力を更に上乗せして臨界状態へと突入する。

 

「『空間殺法』ッ!」

 

姿が掻き消えたかと思えば既にその凶刃は五条悟を射程範囲に収めていた。

居合抜きの体勢で抜き放った矛は一拍の緩急をつけて無数の斬撃を浴びせにかかる。

 

過去に敗北を喫したそれをタダで受ける悟ではない。

領域の効果により必中攻撃となった斬撃を呪力と無限の双壁を敷いた磐石の態勢で迎え撃つ。

 

本来なら敵全体に特大物理ダメージを与えるだけの『空間殺法』なる攻撃スキルが悟に届く道理はない。

 

しかし、その手に握る得物が特級呪物ならば。

それも補助スキルの力を一点集中させた乾坤一擲の大技なれば。

 

 

無限にすらも、手が届く────!

 

 

「ヤッベ」

 

数多の軌跡を描いた矛は呪力を裂き、『空』へと切り込んだ。

するりとまではいかない。ひしゃげたような音を響かせ無限が瓦解する。

 

呪力と無限では飽き足らず、五条悟へと迫る刃。

しかし呪術界最強の名は伊達ではない。予想だにしない事態ではあったが即座に防壁を多重展開。幾重に矛が突かれようとそれを凌駕する壁を作り出してみせた。

 

「──っはは。いつぶりだっけ」

 

攻勢が静まり、悟は違和感を覚えた腕を見やる。

一瞬、なれど僅かに壁が間に合わなかったらしい。

ほんの小さなものであるが、手の甲には少量の血が滲んでいた。

 

「いいね、いいね。もっと見せてくれ」

 

久しく感じていなかった熱が五条悟の五臓六腑を駆け巡る。

ここに来て初めて、彼は少年を『己に迫る者』として認識した。してしまった。

 

 

しかし対する少年は──もうほとんど出し尽くしてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無限を打破した攻撃はほとんど偶然によるものだと言っていい。そして易々と出し続けることは不可能である。

 

天沼矛に秘められし力は『術式を構築する』というものだ。国産みの神話に語られるそれに相応しい。

悟は自分を追い詰めた天逆鉾には『術式を強制解除する』力があると言ったが、その真逆の異能である。

 

同調によるステータスの閲覧で天沼矛に宿る術式を理解し、悟の発言から天逆鉾の術式を知った。

 

 

ここまで材料が集まったところで少年の頭に浮かんだのはカリオストロが使う『錬金術』と日本神話における矛の記述である。

 

錬金術の工程は理解、分解、再構築であるが、天沼矛はどのようにして術式を構築するのだろうか。

 

国産み神話においては【イザナギとイザナミが天沼矛で、渾沌の坩堝だった大地をこおろこおろとかき混ぜ、矛から落ちた何かが積もり淤能碁呂島(おのごろじま)となった】との記述がある。

少年はここに錬金術との関連性を見出した。

 

 

つまるところは天沼矛が『何かを分解した上で、それを使って術式を構築するんじゃないか』と彼は推測したのだ。

 

その証明は先に起こった通り、五条悟の無限を突破することで示して見せた。切った術式を分解することが天沼矛には可能だったのである。

 

六眼が天逆鉾と似た力を察知したのもそのはず、似たような芸当が天沼矛にもできたからに他ならない。

 

が、強い力には代償が伴うものである。

天沼矛の力を使うためには溢れんばかりの呪力を込めねばならない。

術式を分解し呪力を蓄えてはいるものの、少年に還元することは一切ない。

身も蓋もない言い方をするなら、天沼矛はべらぼうに燃費が悪かった。

 

 

 

 

少年の術式によって創造された人形たちは分割されたとはいえ魂を有するために自分自身で呪力を生産することができる。

 

とはいえ領域展開などの大量に呪力を消費する場合は己の呪力生産量では追いつくことができない。

そのため不足分は魂の大元、製作者から呪力を供給してもらうのだ。

 

少年は生得術式以外の才の全てをかなぐり捨てた故か、呪力タンクとしての有用性は高い。しかしそれでも限界はあった。

拡張術式の継続使用、領域展開維持、雑魚シャドウや刈り取る者の召喚・使役、ついでにマガツイザナギがスキルと天沼矛を使い続けて戦えば消費に生産が追いつかないのも当然の帰結だった。

 

本来なら念の為に控えに入れているマジンガも導入して攻め立てるべきではあるが、心的余裕も呪力的余裕も枯渇している少年はそうすることができなかった。

 

 

 

少年はもうどれほど時間が経ったのかも分からなかった。

それほど経過していないのか、ずいぶん長い間戦ったのか。

 

ともかく、呪力も気力もそろそろ底を突く。

尽きてしまえば激しさを増して喜々と無限を振るう五条悟の勢いに飲み込まれ、長く短い反抗は終わりを迎えるだろう。

 

────そうして少年は、本日何度目かも分からない一世一代の賭けに出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャドウの量も最初に比べればずいぶん少なくなり、刈り取る者も途中で溶けるように消失して、その数は残り一体にまで減少した。

マガツイザナギの攻勢も落ち、ヒートアップした悟にギリギリついていくのが精一杯である。

少年は腰を下ろして瓦礫に身を寄せていた。

 

何百層にもなる無限と呪力の壁を展開したことで易々と切りこむこともできず、手の打ちようがない。

 

そして最後の刈り取る者も範囲の縮小を代償に威力を高めた『蒼』の乱打によって消失し、シャドウの群れも数える程しか出てこなくなった。

 

もう終わりか、つまらなそうに悟は息も絶え絶えの少年に歩み寄る。

 

「僕の勝ち、でいいかな?」

「──ああ、俺の負けだ」

 

 

だが、と少年は続ける。

いや、もう少年の声ではないのかもしれなかった。

 

 

「【マガツマンダラ】で【マガツイザナギの主】が【負け】る。この後に起こることって何だと思う?」

「君が敗北宣言すると発生するギミックがあるのかい?」

「そんなものは()()()()さ」

 

 

突如、維持するのも精一杯なはずの領域の一点に強大な呪力が立ち上る。

マガツイザナギが天高く浮かび、携えた国産みの神器を掲げた。

 

「あれは天逆鉾じゃなくて天沼矛って言う呪物でね。宿る力は『術式を構築する』ってもんでして。厳密に言えば【切った術式を分解して別な術式に再構築する】ってやつなんだが」

 

 

こおろ、こおろ。

海原ではなく天を混ぜ。

 

 

「なるほど、それで僕の無限を切り裂いたってわけか」

「ご明察。まあクソほど燃費は悪いけど」

 

 

 

こおろ、ころ。

創るは式、この時限りの召霊式。

 

 

 

「で、何しようとしてるんだい?ここまで来たんだし教えてもらってもいいでしょ」

「今日この場限りの即興術式を作ってますよ。単発でしか使うことを考えてないから縛りもかけ放題で」

「そりゃいいね」

 

 

 

こおろ、こおろ。

因果を辿り、(えにし)はここに。

 

 

 

「止めないんです?」

「勿体ないじゃん、ラスボス直前だぜ?」

 

 

 

こおろ、ころ。

いざや来たれい、心の雛形、霧統べしものよ。

 

 

 

意識が寸断された少年の身体は宙に浮かび、天を掻き回すマガツイザナギの下へと辿り着く。

渾沌だった空が天沼矛によって極彩色に染まる。全ての準備は整った。

 

少年を中心に濃密な呪力の奔流が吹き荒れ、うねり、収束する。

彼を依代に人であり、人ならざるものが招来する。

 

 

領域内の瓦礫は消え、漆黒に黄金の波紋が浮かぶ地平が顔を出す。

赤と黒に彩られし空は黄昏色に塗り替えられた。

 

 

黒い地面が波打ち、瞼を閉じた銀色で巨大な眼球が浮上する。

おもむろに開いた眼はカメラのレンズのように不規則に瞳の大きさを変え、眼前で笑う五条悟を見据えた。

 

 

「呪霊と呼ぶには少々神々し過ぎる。かと言って精霊かと聞かれると随分その在り方が違う」

 

「さしずめ────仮想神霊、ってところか。それも特級クラスの」

 

 

相対する霧と境界の神格と現代最強の呪術師。

そうしてまもなく、戦い(第2ラウンド)の火蓋が切られた。

 




バックベアードって知ってるかい?シナドとかフォーグラーでもいいよ。後サードアイ。

公式ファンブックの189ページ、2巻15話『領域』のところに割と困惑する一節があっておめめグルグルしてきた。
先生は雰囲気で呪術を描いておられる……?(クソ失礼)


今回は一口メモはお休みです。
その代わりと言っちゃあなんですが、マガツマンダラに引き込んでからの決戦でいくつか想定していた‪ルートを紹介しましょう。


①特級仮想神霊天之狭霧(アメノサギリ)顕現√
→今回やることにしたルート。一応正規ルートということになるんでしょうか。さすがに分岐の方を書く気力はないので正規もクソもないんですけども。

ペルソナと主、密室(マガツマンダラ)、敗北、何も起こらないはずもなく……。
『マガツイザナギ』をその身に宿し、『マガツマンダラ』の内で『敗北』することで因果を手繰り寄せるとかなんとか。
要は条件揃えて神霊召喚を成し遂げたと思って頂ければ。


②我は影、真なる我√
→なに転生者君?
五条悟に正攻法で勝てない?
転生者君、それは無理に勝とうとするからだよ

逆に考えるんだ、自分が勝たなくたっていいさと考えるんだ

眼には眼を、歯には歯を、五条悟には五条悟を。
シャドウ悟を召喚して五条悟に勝とうとしたルートです。

最終的に五条悟が己の影を認めてペルソナ『インドラ』を獲得するとこまで書いてみましたが、そうなると誰もこいつを止められなくなるぞと思いやめました。
現実世界で使えなくとも、領域展開は【実質的な認知世界】なんで、五条悟の戦略がまた一つ増えてしまうところでした。おお、こわいこわい。
シャドウ悟を早期に受け入れてしまう五条悟のビジョンが視えてしまったのも断念理由の一つです。

ちなみに五条悟のペルソナが『インドラ』の理由は無量空処使う時の手の形──印相が帝釈天印ということから引っ張ってきました。
お蔵入りになっちゃったけどな!


③幾千の呪言√
→マガツイザナギの引き寄せられる力で想定していたのはキャベツ刑事を依代に這い出てきたアメノサギリまでだったんですが、どうにかこねくり回して奴さんを顕現させてしまおうとしたルートです。

バカ目隠しが本腰入れて潰しにかかってきてしまうのでやめました。

たかが『幾千』、『無限』に敵う道理なし。

運良く生き残れても秘匿死刑かホルマリン漬けにされて忌庫で保管されるんじゃないかい?


⑤幾万の真言√
→上記ルートからさらに派生したルート。

『幾千』は『幾万』へと変じ、無限に曇りなき真実を突きつける。

いわゆる光堕ち(何がとは言ってない)ルートです。
さすがにここまでやると一戦にしては冗長すぎるので泣く泣く断念。
正直これ一番やりたかった。


⑥幾億の虚言√
→アメノサギリ√から派生する道筋です。
色々あって転生者くんが一国の安寧秩序を脅かすレベルの怨霊と化します。

天津より連綿と続く呪詛はげに恐ろしきものなり。



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#22 ウソだ、僕を騙そうとしている

ミコラ神拳を破り、エブたそを(そら)に還して、殉教者ミイラを乗り越え、乳母を無視して時計塔で寝てるマリアネキのところまで走ってたら遅くなりました。
聖剣ウマ男のモーション把握するのアホみたいに時間かかったねんな……。

マリアネキの方がルドより戦いやすかったです。人型にパリィするのが慣れてきたのやもしれません。

今は頭カリフラワーになって漁村の井戸で魚人二体にタコ殴りにされてます。
お前ら全然パリィ取れないんだよB級映画二足歩行ジョーズがよ!



「我が名は天之狹霧(アメノサギリ)。霧を統べしもの、人の意に呼び起こされしもの」

 

超然とした態度で目下の矮小なる存在に神霊は音を届ける。

カメラレンズが如き極彩色の瞳が視界に映る一挙一動をつぶさに眺める。しかし五条悟を視ているとは言い難い視線だった。

例えるなら、彼が映っている世界のパノラマ写真を眺める、そんな視線。

 

あらゆる受難を一蹴する力を持った人間だとしても、神の御前ではみな等価、そして見極めるべき存在なのだろう。

この存在は人の願望により出づる神格であるが故に。

 

「……最終決戦前に一つ質問いいかな」

 

アメノサギリは視線を逸らさず沈黙を貫く。悟はそれを肯定とみなした。

飄々とした態度は崩さず、ほんの少しトーンを落とす。

 

行使できるあらゆる手を尽くして一矢報いるのが限界だった少年とマガツイザナギ。だが巨大な眼球に彼らの面影は一片たりとも存在しない。

六眼は正常に機能している。視界には痛いくらいに呪力が溢れている。

それでも霧に包まれたように、彼らを透き通る碧が捉えることはなかった。

 

 

「まだそこにいるのかい。君は」

 

悟が勧誘した理由は一つだけだった。

彼が将来有望で前途ある若者だと思ったから、ただそれだけ。

 

しかし少年が操る呪骸の名が『マガツイザナギ』だったことが図らずも悟を強硬策に動かす原因となる。

 

負の歴史を刻んだモノや場所、あるいは名前。

そういったものには大抵『呪』が宿る。

 

例えばそれは、円卓における十三番目の席。

例えばそれは、ピラミッドに微睡むファラオの亡骸。

例えばそれは、とある帝の(いみな)

 

イザナギも例にもれず、その名は大いなる言霊を伴っている。

様子を見る限りまだ平気かもしれないが、いつ禍津の呪詛に蝕まれるかなどわかったものではなかった。

 

類まれなる才能をみすみす失うのは惜しい。だから保護と改善のために名目上自分の管理下に置こうとしたのだが──追い詰められた彼は諸刃の剣を抜いてしまったのだ。

 

 

「当然残っている。私は人世の望みによって産み落とされし存在。依代の望みもまた、我が願いなれば」

「ならよかった」

 

両眼を覆う黒い目隠しに指をかけ、クイと引き下ろす。

伏せられた瞼をおもむろにもたげれば、透き通った碧眼が目玉の怪物を射抜いた。

 

「神々しいとは思ったけど人の願いの形ってことなら妥当だね。呪霊とはまるで正反対の存在だし」

 

「だけど」と、特級術師は付け足した。

 

彼の人差し指に束ねられた呪力が赫き虚空へと姿を変える。

反転した無限が阻む総てを穿たんと牙を剥く。

 

無事は判明した。ならやるべき事は一つだけ。

ま、なんとかなるか。そう心の中で独り言ちた。

 

 

「たかだか76億、その程度の数で『無限』に勝てると思わないことだね────術式反転 『赫』」

 

 

戒められた太虚が枷を解かれ、規格外の力を呼び起こす。

逆回りの『収束』、無窮の発散が引き起こすショックウェーブ。

 

神をも恐れぬ暴威の奔流がアメノサギリへと放射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降神術式『天之狹霧(アメノサギリ)』に取り込まれた術者とマガツイザナギは揃って目を覚ます。

 

「ここは……」

 

霞んだ瞳に映った景色は『神秘的』の一言に尽きる。

神に供物を捧げる祭壇のような、古王が眠る墳墓のような、そんな場所。

 

ふわりと浮かぶ無数の巨石から伸びた注連縄が光り輝く勾玉へと群がるように集まっている。勾玉の正面には大きな棺が据えられていた。

そんな尊厳ある空間とは裏腹に空虚で鬱蒼とした雰囲気が辺りを満たしていた。

 

「あ、起きたんだ。キミも、そしてキミも」

 

存在感たっぷりに座す霊柩の後ろからひょっこりと、白無垢とパーカーを掛け合わせた装束を纏った少女が顔を出す。

少年は彼女の風貌に見覚えがあった。同時に目の前の少女がここにいるはずがない存在であるとも。

 

「ク──いや、違う。対象に指定したのはアメノサギリだけだ。でもその姿は……」

「キミからデータをサルベ……ん゛ん゛っ、拝借してみたんだ。大目玉の姿よりかは話しやすいでしょ?」

「アバターってことでいいのか」

「それで結構」

 

飲み込みが早いねうんうんとどこか満足げに少女は頷く。

しかしその表情はすぐに引っ込み、尊厳ある神としての彼女が顔を出した。

 

「私は人の願いを叶えるために産まれた存在。たとえ再現されたものだとしても、それは変わらない」

「だから聞くよ、今この状況は──本当にキミが心から望んだこと?」

 

 

棺の真上に現れた幻影に領域の現状が投影された。

 

凄まじい回転速度で領域を縦横無尽に疾走するアメノサギリに向かって赫の反発が殺到する。

 

しかしアメノサギリの全身に備え付けられた砲門のような機関から姿が見えなくなるほどの灰霧が噴出した。

暴威は混迷の霧によって攻撃目標を見失い、役目を果たさぬままに消滅していく。

 

舌打ちをした悟は直上から振り下ろされる二振りの光槌を受け止め、直後に迫った火球の群れに蒼をぶつけて相殺した。

 

「防御貫通……いや、体力を削るとかふざけた術式使ってくるね。反転術式なしだとちょっとマズかったかな?」

 

 

その後も一進一退の攻防が幻影の中で繰り広げられる。

この膠着状態はまだまだ続きそうだと少年は思う。

 

「呪術師になりたくない。自分を殺そうとする組織に身を置きたくないから」

 

少年は自分の異常性は十二分に分かっているつもりだった。

呪骸に己の魂の欠片を封入することで意識を持たせる術式、通常の呪骸とは違い生得術式故に再現性がない。

五条悟程の圧倒的力はないと自負する少年はバレたら殺されるやもしれんと身の危険をひしひしと感じていた。

 

「だから五条悟が来た時、あー終わったわさよなら第二の人生って思った」

 

誰だってそう思うだろう。

圧倒的上の立場、もしくは実力のあるものから投げかけられた言葉には強制力があると。

故に少年は自棄になり、重要な事実を見落とした。

 

白無垢の少女はそこまで聞いて、一つ問う。

 

「その時五条悟はなんて言った?」

「呪術師に興味はあるかって──あ゛?」

 

顔が歪む。

何かを察してしまった少年のそれは奇しくもとある御三家の遺産相続について聞かされた次期当主候補の表情によく似ていた。

 




76億(2017年の世界人口)が『無限』に勝てるわけがないだろ!
馬鹿野郎俺は勝つぞお前!(悪あがき)


次回、『おじぎをするのだ』



転生者くん
→アイデアロール成功。
バカ目隠しは呪術師になることを自分に強制するつもりはない……ってコト!?
その事実に気がついてしまった貴方はSANチェックです。

白無垢パーカーの少女
→転生者くんの頭から発掘した親和性の高いデータでアバターを作ったアメノサギリ。
人の願いを叶えるという想いが心の根底にあるので「キミの願いは本当にこうなの?」と揺さぶりをかける。

5J
→終始一貫して『ま、なんとかなるか』の精神。
神降ろしは予想外だったけど中身は無事だと言質が取れたので久々に楽しい勝負をしている。


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#23 おじぎをするのだ

色々忙しくしている間に何か……凄いことになってんな……。

皆様、大変長らくお待たせしました。いや、ほんとに待たせすぎました。そろそろSSに時間を捻出できそうです。
以前より短めにはなりますが、何卒ご了承のほどを。
感想も時間かかりますが必ず返信していきますので気長にお待ちくださいませ。



「まだやる?」

「然り。依代がそう望むならば、我はその意に応えよう」

 

互いに手痛いダメージもなく、既に手札は出尽くした。

戦いは未だ平行線を辿っている。

このまま『茈』が解禁されない限りは寿命の概念が存在しないアメノサギリが優勢か。

 

対象のHPを半分にする『神の審判』は反転術式を使われれば意味がない。蒼も赫も両者の攻撃を無力化する『混迷の霧』に阻まれてしまう。

 

本来ホームグラウンドである領域を展開しているアメノサギリが戦いを有利に進めて然るべきだ。しかし彼が手繰る術式の名に違わず、呪力の底はまるで見えない。

ロスを極限まで減らす六眼持ちとはいえ、領域内での燃費は悪くなるはずが、その振る舞いから見るにさほど意に介していないようだ。

 

「……む」

 

不意にアメノサギリの動きが止まった。

玉虫色の輝きを湛えていた瞳が濁る。ゆっくりと色が解け、黒に飲まれていく。

そうして変貌した目玉は身が縮んでいるというか、腰の低そうな印象があった。伏し目がちな瞼がそう見せたのか、纏う雰囲気から神威が霧散したのか。

そして悟の六眼は外面の変化以上の呪力の揺らぎを捉える。彼はアメノサギリだったものに警戒するでもなく、親しげに声をかけた。

 

「や、少年。気分はどうだい?」

「……最悪」

「そりゃ重畳」

 

静寂に包まれた領域に響いた声は先ほどとは比べ物にならない。たった一言に途方もない哀愁が漂い、同情を誘うようで。

超然とした神の声帯を使っているにも関わらず、響く音に覇気は微塵も感じられない。あるのはただ、諦観と願望が同居した憂いに満ちた音吐だけ。

 

悟は陰鬱が詰め込まれた声音に面食らった顔をした。

 

「なんだい、さっきまでの威勢はどこいっちゃったのかな?ん?」

「そのことなんだが、あー……」

 

身体の表面積の半分以上を占める眼球のせいで流し目が余計怪しく見える。

悟を捉えて離さなかったはずの瞳が逃げるように明後日に向けられているのだ。さもありなん。

 

「あ、もしかして僕に連れてかれるとか思った?」

 

巨体が大きく身動ぎした。図星である。

依代が主導権を握ったアメノサギリはめいいっぱい、これでもかと目を逸らす。

彼が何も言うことはない。だが少なくともそれは威厳のある沈黙ではなかった。

 

「沈黙は肯定と受け取っちゃうよ?そもそも僕は尊重なしに何でも進めちゃうような人間じゃない。いきなり学生から呪術師にワープ進化しろとか、そんなことは言わないからさ」

「やめて!そんな事言ったって俺を無理やり呪術師にする気でしょう!?」

「しないから!もししちゃったら窮屈な箱の中にしまって貰っても構わないぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年の敗因は早とちりの一言に尽きる。

まずは相手がいくら怪しかろうと、実力行使の前に対話を試みてくれた五条悟の意志を汲むべきだったのだ。

だというのに、だというのに少年は、今できる最大限の戦術をもって、まだ何もしていない目隠しに反旗を翻した。お前の好きにはさせん、と。

 

 

禍津曼荼羅が解除され、閉塞された世界が無形の呪力となって霧散する。

空中で解けた領域を尻目に割れた窓ガラスが散らばった駐車場にて呪術師と人形師は向かい合った。

 

「もう一度言うけど、君を無理くり呪術師にするつもりはない」

「ほんと?拉致監禁されたりしない?秘匿死刑されない?」

 

「ちょっと前までそう考えてたよ」しゃがみ込んだ悟は割れたガラスを人差し指でいじくりながらあっけらかんと答える。

彼は呪骸や諱に振り回されていたのではなかった。マガツイザナギも、アメノサギリも、呪骸使いの指揮下にあったのだ。

 

「でも君力に振り回されてないし、別に困り事とかないでしょ?なら、僕から言うことはなーんもない。あ、強いて言うなら戦いの前の宣言を反故にされたのちょっと悲しいなーくらい」

「うぐっ」

「なんだっけ?ほら、『どうしても俺を呪術師にしたいんなら──』だっけ?」

 

ヤンキー座りから立ち上がったバカ目隠しはクネクネしながら距離を詰めてきた。人形師は俯いたまま動くことができず、暗いアスファルトに視線を注いだ。話も聞かずバトルを挑んだ後ろめたさと内股オネエ歩きしてくる190cmの外面優男を直視したくなかったことが彼をそうさせた。

 

「俺に、どうしろと」

「なぁに簡単なことだよ。君の気持ちいい宣言はこれでチャラにしてあげよう」

 

五条悟は人の悪い笑みを浮かべた。

 

「ちょ〜っとだけ僕の手伝いをしてくれないかなって。強く聡い僕の後輩たちを育てるために、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……れぎゅれぇしょんに反するんとちゃうん?」

 

巨大な画面から這い出した呪骸に対してそう酒呑童子の口が動いた。

全てにおいて規格外のサイズを誇るキングプロテアにはさしもの大江の鬼も呆気に取られてしまう。

 

「手加減された方が良かったか?」

「んふふ、ふふ。いや、半端な加減はいらへんよ。ほれ、やってみぃ」

 

クスクスと笑い、ちょいちょいと手招きをする酒呑童子。

その横合いからごう、と。とんでもない風切り音を響かせ壁が薙いだ。

圧倒的質量を誇るキングプロテアの巨腕が酒呑童子が言い切る前にその身体を真横に打ち払ったのである。

しかしその腕は、()()()()()()()()()()()()()

 

「イヤやわぁえげつな……そないな腕、人に向けちゃあかんよ。骨抜く前に砕いてまうやろ?」

 

声が聞こえる。カラカラとした声が聞こえる。

 

舞い上がった土煙の幕が上がれば、そこには無傷の酒呑童子。

自分の背後に()()()()()()()を侍らせて、はんなりと微笑んでいた。

 

「『死霊操術』──なかなか使い勝手がよろしやすなぁ」

 

酒呑童子は受肉体である。不幸にも神便鬼毒を呑んでしまった人間──呪術師に受肉した存在である。

これより未来の話になるが、両面宿儺の術式がその器に刻まれていくように、その肉体に元より宿っていた術式を受肉体が扱えようと何ら不思議なことはないのではなかろうか。

 

『死霊操術』は大地に眠る生物の残留思念を骨の形で現世に顕現させる術式だ。

そして、ここは大江山だ。一体何百、何千の鬼の遺志が眠っているのだろう。

 

酒呑童子はそのおびただしい想念をまとめあげ、鬼のがしゃ髑髏としたのである。

 

「ふふふ、これでトントン。ほな、まぁ……すぐに逝かんとくれやすなぁ?」

 

 




勝てなかったよ……。

不用意にそんなこと言うから巻き込まれちゃうんやなって。

主人公君
→多分この後お辞儀した。古事記にもそう書いてある。

5J
→\ババーン/
呪術師にしないとは言ったけど負けは負けだし、何ならバトル直前に呪術師になること賭けてなかった君?と詰め寄り良心につけこんだ。

酒呑童子
→悠仁に宿儺の術式が焼き付くのであれば、ほぼ漂白済の酒呑童子なら器となった呪術師の術式も使えると判断。うわっ……酒呑童子強すぎ……?

キングプロテア
→ボロが出るので喋るなと言われた。
森の中からめっちゃ粘っこい視線を感じるし何か寒気もする。
【直感:A】並の嫌な予感がするので一刻も早くテレビの中に帰りたいけど状況が状況なので出ずっぱり。
後二話か三話くらいで東堂に愛を囁かれる。



失踪してた期間中色々調べたり実際にプレイしたりしてたので、これから作る呪骸の引き出しはそこそこ豊富になってきました。イェイイェイ。
慣れない格ゲーとか謎解き、ノベルゲーとか色々やってきたんでこれで同作品被りは避けれる……はずだ!


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#24 それは違うよ!

あけましておめでとうございます。
本年は頑張って筆を早くしたいです。

また時間かかってしもた。

もう待ちきれないよ!早く(次の呪骸を)出(さ)してくれ!



どうすればいい。

俺は、どうすればいいんだ。

 

呪骸と鬼が刃をまじえる戦場のすぐ側、190cm相当の巨体を器用に縮こませて木の陰に身を潜める男が一人。

そう、東堂葵である。

 

 

瞬きもせず、スウと息を吸い、そして吐く。

鼻腔の奥に届く芳醇なアルコールの匂いに東堂は再び息を吐く。

 

(最初、俺はこの匂いに引っ張られたのかと思った)

 

脳裏に焼き付いた目の前の彼女(キングプロテア)を好きになるイメージ。

普段の自分ならありえないからこそ真っ先に疑ったのは辺りに漂うこのむせ返るほどの酒気だ。

 

だが、認識する限りで自分の身体や思考に異常は見られない。空気に流れる呪力が流入すれば東堂の眼は異常を捉えるだろうし、平衡感覚の欠如や思考の鈍化等は全く見受けられない。

 

(つまり、紛れもなくこれは──)

 

東堂の本心ということだ。

この痛いほど胸に響く鼓動も、彼女から目が離せそうにないのも、今すぐ彼女の下へ駆け出したい衝動も、全部。

 

デカすぎるボディから放たれる一挙一動が、彼の目を奪う。思わず思考も行動も手放して、好きな男の子を目の前にした女の子みたいになってしまうほどに。

それほどまでに東堂にとってキングプロテアは魅力的だった。

タッパがデカいのがタイプだと自負していたが、まさか自分のストライクゾーンがここまで強大だとはついぞ思わなかった。

 

(だが、いいのか?高田ちゃんを愛する俺にそんな資格────)

 

されど東堂はその自分を受け入れることを拒んだ。

彼女のためなら全てを賭していいと思った。起こる奇跡なんか待たずに彼女を抱きしめたいと思った。彼女のためにできないことなど何もない。本気でそう思っていた。

 

だからあまりに身を弁えないこの不躾な熱を、認められずにいた。

俺に二人を愛することなど許されるはずがない、そんな権利はないと。

 

 

『本当に?』

「──!!」

 

 

上裸だった東堂の姿はいつの間にか学ランに変わり、周りの風景も夜の森の学校の教室に早変わり。

声のする方を向けば、冷ややかな目線で東堂を見やる黒セーラーの高田ちゃんが引き戸から半身を覗かせていた。

 

東堂は押し黙る。「高田ちゃん!!!」と声をかける資格は今の自分にはない。

一瞬どころか随分と長い間キングプロテアに心を奪われてしまったのに、どうして彼女と話すことができようか。

 

できない、できるはずがない。

あれだけ恋焦がれた推しの姿が、今はただ辛かった。

立てた契りを破った自分がとても恨めしい、そう思った。

 

「自分に資格なんてない、本当にそう思ってるの?」

「……あぁ」

 

力なく東堂の首は頷いた。

アレは背信だ。間違いなく、高田ちゃんに対する裏切りだ。

 

高田ちゃんはゆっくりと教室に入り、机に突っ伏す東堂の前に立った。

 

「東堂くん、今はまだ決めなくてもいいんだよ」

 

思わず東堂は身を起こした。

彼の目と鼻の先で天使が微笑む。

 

「たくさん迷って、いっぱい悩む。それから答えを出してもいいんじゃない?」

「君が納得することが、私は一番大切だと思う」

 

東堂は彼女に後光を見た。

遍く心を包み込む、大いなる愛に出会ったのだ。

 

「たか、だ、ちゃん……俺は」

 

知らずのうちに涙を流す。とめどなく想いが溢れてくる。

東堂の頭を高田ちゃんは優しく撫でた。

 

「東堂くん、今君がやるべきことは?」

「──ああ、わかってる」

 

涙を拭い、席を立つ。

頭を下げて外に駆けだす背中をアイドルはその姿が見えなくなるまで見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂塵が舞い、水が走る。

龍を象る土塊の大口を蹴破り、鬼は錬金術師の懐に飛び込んだ。

 

「……チィ」

「ま、そう簡単には取れへんか」

 

驚異的な膂力から放たれた蹴撃は錬成された防壁により阻まれる。その防壁を足場に追撃を試みた酒呑童子に四方八方から刃が迫った。事も無げに身をくねらせて回避して、大きく距離をとる。

 

「そろそろ潮時やろか。のらりくらりやられるのも飽きてきてもうたしな」

 

カリオストロは答えない。ただ鋭い眼差しを彼女に送るのみ。

 

「死にはったらよろしおす、領域展──

 

言い切る前に、酒呑童子は不意に振り向いた。

目を見開く。己の背後にあるべき骨の巨人は遥か後方で()()()()()()、代わりに筋肉モリモリマッチョマンの変態が拳を振りかぶっていた。

 

「──な」

「オラァ!!!」

 

渾身の一撃は吸い込まれるように鬼の鳩尾に叩き込まれる。

 

その瞬間、黒き閃光が迸った。

打撃とタイミングが合致した呪力によって空間が局所的な歪みを引き起こし、拳の威力を桁違いにはね上げる。

 

酒呑童子は勢いよく吹き飛び、風を切りながら樹木をなぎ倒し、そうして山の岩壁に身体をめり込ませた。

 

「プロテアちゃん」

「えっ?あっ、わっ……は、はい!」

 

まさか誰に呼ばれると思うだろう。この世で片手で数える人数しか知りえない自分の名前に思わず役割を脱ぎ捨ててしまうキングプロテア。

 

慌てる姿も愛らしいな、そう思いつつも東堂は構えを解かなかった。

 

「ここは、俺に任せろ」

 

それだけ告げて、東堂は自らが作った倒木の道を追跡する。

 

東堂葵が今やるべきこと、それは────彼女(キングプロテア)を目の前の脅威から遠ざけることだった。

 

 

 

走り去った筋肉モリモリマッチョマンの変態に流され、ここまで黙っていたカリオストロがやっと口を開く。

 

「なあ、プロテア」

「……なんでしょうか」

「アレ知り合いか?」

「そんなわけないじゃないですかぁ!!」

 

 




カリオ「知り合い?」
プロテア「それは違うよ!」


設定を練っている時が一番生を実感する。
それをアウトプットするのが中々に辛い。

自分で作った縛りで呪骸の種類を制限されるの中々にアレ。
ちなみにサブタイトルとか文章中に次の呪骸のヒントが隠されてたり隠されてなかったりただのブラフだったりします。



東堂
→キングプロテアの名を初見で言い当てているのは彼女の身体からキングプロテアの香りがしたから。
いつかの個握の時に高田ちゃんは花が好きという情報を手にした東堂は様々な花を京都校の花壇で育てている。キングプロテアはそのうちの一つである。

キングプロテア
→素が出た。今日は出すつもりはなかったのに。
少し前にカリオストロから香水を貰う。奇しくもその香りは彼女の名前と同名の花のものだった。

カリオストロ
→東堂が介入したせいで酒呑童子と共謀した企みがおじゃん。
詳細はそのうち。

酒呑童子
→闖入者に黒閃をキメられた。不憫。


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#25 FROM BEYOND THE COSMOS AND BLUE

もう我慢できずに書き上げました(短いけど)

ちょっと呪骸作成の描写を突っ込まないとモチベ鎮火してしまいそうだったのでこんなことに。

酒呑童子はどうなったのとか、東堂とプロテアの恋の行方とかは完成次第お出ししますので何卒……。




「そろそろ作るか……♠」

 

後に『大江山事変』と呼ばれた京都の一大事を、望んでもない二正面作戦を強いられつつも、何とかその一切を乗り越えることができた一行。

ヘトヘトに疲れて修学旅行から帰って二週間、そろそろ今後の方針をまとめるため、会議を開くことにした。

 

その開口一番、人形師は己の欲望をこれ以上なく正直に吐露したのだった。会議はこの時点で型なしである。

カリオストロは何度目かも分からないため息を吐いた。

 

「お前の魂が不安定な状態だって前も言ったよな?」

「言ったな。でも……」

「でも?」

「禁断症状がでてきてね。そろそろ何か作んないと手がガクガクしてきて震えが止まらないんだ。ほら見てくれ、貧乏ゆすりも出てきた。あっそろそろ足つる」

 

マスターの姿か?これが……。

カリオストロは視界を覆って天を仰いだ。つける薬を錬金するよりコレを再構築した方が早いのではとすら感じた。

 

「救いようがねぇ……。プロテア、何か言ってやれお前のお父さまによ」

 

アルコール依存症のようにバイブレーションする父親を前に話を振られるキングプロテア。

粘土を与えれば直ぐでもこね始めそうに手をワキつかせる彼が不憫に見えたのか、ジト目を明後日に向けて答えた。

 

「私は別に作ってもいいと思います、です」

「オイコラ甘やかすな目をそらすな」

「……いいのか!!いいんだな!?禁創作期間は解除なんだな!!?」

「乗るなバカ!目を輝かせるな!!……と、言いたいところなんだが、今の布陣のバランスが悪いのは確かだな」

 

立ち上がったカリオストロの言葉は尻すぼみに小さくなっていく。

期待の眼差しをマスターに向けられ、鬱陶しそうに頭をかいた。

 

護衛兼面攻撃(ミミッキュ)遊撃兼サポーター(マガツイザナギ)最後の切札(キングプロテア)総合援護兼師匠枠(オレ様)オーバードウェポン(キラーマジンガ)。ただ戦うだけなら前中後衛揃ってまあまあな線はいくだろうが……お前は何が足りないと思う?」

「キラーマジンガにコジマ粒子はな──」

「そういうのいいから」

 

無常にもすげなく遮られる。ぶー垂れながらも人形たちの主はゆるゆるな頭を振り絞って案を出していく。

 

「前衛2、中衛1、後衛2。バトルだけならこれでいい。なら他に重視すべきもの……盤面だけじゃなくてもっと上の視覚で……あっ」

「思いついたか?」

「指揮官、情報、拠点が足りない」

 

カリオストロは目線で続きを促し、マスターは頷いて説明を話し始める。

 

「カリオストロ、キングプロテア。二人は指揮官的な役割ってできる?」

「……ご期待には添えないかもです」

「できないわけじゃねぇがオレ様も本職には劣る。本来コマンダー的な役は中枢がやるべき仕事だが……ま、物作り一点特化のお前じゃ荷が重いだろ」

 

身を縮めるプロテアにあっけらかんと告げるカリオストロ。マスターは違いないと身をすくめた。

彼は視野が広い方ではなく、他の呪術師に比べ反射神経など毛ほどもない上、戦場でそこまで機転が利く人間かと言えばそうでもない。

彼の代理として現場判断を請け負う存在は今後必要になってくるだろう。

 

「で、次は情報か」

「何をするにもまず判断の材料は必要だ。相手の配置だとか、現在位置はどこかとか、どんな術式を使うのか……今の俺たちには圧倒的に不足してる。前回もほとんど場当たりの対応だったし」

「情報の集め方ってどうするんですか?月の私みたいなデータ化?それとも……」

「データに間接・直接干渉できる呪骸か、もしくは人海戦術ができる呪骸でいこうかな、と考えてる。例えば……成長と進化を繰り返す好奇心旺盛なハッキングAI、とか。まだ草案段階でしかないから決定ってわけじゃないけどね」

 

 

幾つか呪骸の候補をピックアップしつつ、次の不足に話は映る。

 

 

「最後は拠点か……いや、あるよな?」

「そうですよ!もうあるじゃないですか、ここ。狭いですけど」

 

「そう、そこなんだ」とすかさず人形師は指パッチン。

 

「現時点でマヨナカテレビの拡大はできない。この中で作るにも限界があるし、かと言って自宅を改造するわけにもいかない。父さんも母さんも何も知らないパンピーだし」

「じゃあどうするんだ?家の裏山にでも何か建てるか?」

「いや、それじゃ戦場になるのは俺の街だ流石にそれは堪える。なので────」

 

 

「移動拠点型呪骸、作るぞォ!」

 

 

天に拳を突き上げ立ち上がった彼の声だけが虚しく木霊する。

 

造形馬鹿の欲求は留まるところを知らない。

もちろん進んで賛同する呪骸は残念ながらいなかった。

キラーマジンガもマガツイザナギも、この時ばかりは首を横に振った。

 

そうして人形師は呪骸たちに裏切られ、「頭を冷やせ」とマヨナカテレビの中で半日ほど縛られて放置されてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人形師が奇天烈な発想を咎められてから一ヶ月が経過した。

ヤツは諦めていないどころか、荒唐無稽の現実化に王手をかけてしまっている。

 

「呪骸のみんな!楽しんでるかーい?」

「ウェーイ!」

「君は呪骸じゃないでしょ」

 

海上を滑るように走る船舶の甲板でノリノリの男が二人。

一人は言わずもがな人形師、そしてもう一人は──

 

「どうしたんだいカリおっさん。海風に吹かれるのは結構サマになってるけどブスっとしてちゃね」

「気安く撫でんじゃねぇ。不機嫌なのはお前のせいだ、『五条悟』。で、これどこに向かってんだ?アイツは秘密だ秘密だってずっと口を割らねぇし」

 

目を釣り上げるカリオストロを尻目にして、海風に髪をなびかせながら、五条悟は目隠しをスっと持ち上げ水平線を見つめた。

 

()()は鹿児島かな。彼は色々と、吟味するつもりらしくてね」

 




モチベの低下は本当に死活問題なのでご理解頂ければ。


NEXT DOLL's HINT! 『海底』


転生者くん
→禁断症状発症。
魂削れて死ぬかもしんないけどめっちゃデカい呪骸作りたいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!
アル中みたいな症状出すのはやめないか!
鹿児島県方面に船を走らせ、呪骸にすら全貌を明かさず何かを企んでおり、鹿児島での事が済んだら外国の方にも船を走らせる計画を立てている。
鹿児島県に何か触媒があるんですかね……?

5J
→移動拠点型呪骸!?何それめっちゃ面白そうじゃん!
超巨大呪骸の一番最初の搭乗者にさせることを対価に転生者くんは5Jの手を借りた。
船舶の一つや二つ彼ならきっと持っていることでしょう。最強なので。

カリオストロ
→苦労人。一応転生者くんのことを心配しているのだが、ヤツの欲望の強さは想定の外だった。

キングプロテア
→そろそろ狭い部屋がしんどくなってきていたのでありがたい。
できれば体育館並みの部屋が欲しい。

マガツイザナギ
→目的地の方向に自分と似たような気配を感じている。


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#26 鋼鉄の咆哮

最初に大江山のお話、次に海に繰り出した転生者くんのお話をする感じで当分いきます。



輝ける深淵は凶兆の証。

黒き火花は微笑む相手を選ばない。

 

寸分の狂いなく放たれた打撃は漲る呪力と息を合わせ、漆黒の閃光と化す。

そうして一条の闇がパッと瞬いたかと思うと、それ以上の思考を巡らす暇もなく気づけば彼女は山に埋没していた。

 

すぐにでも立ち上がってあのいけ好かない顔面に一発入れたいところだったが、それは叶わなかった。

めり込んだ山肌に腕をついて、土塊を押しのける。負荷に耐えきれなかった片腕が、肩口からぶちりとちぎれ落ちた。

ただの岩盤さえどうにかできない脆すぎる身体に酒呑童子は舌打ち一つ。

 

現在の彼女の脆弱性はほとんど無理やり受肉して数時間も経過していないことに起因する。

いつかの未来、虎杖悠仁は宿儺の器となり、死滅回遊の参加者は黒幕によって目覚めた。

今回酒呑童子の器となってしまった不幸な人間はただの呪術師だ。一般人より丈夫とはいえ、一つの調整もなしに劇毒たる特級呪物を受け入れる器であるはずもない。

 

よって酒呑童子は神便鬼毒の中から術師体内に侵入する過程で身体組成を無理やり書き換えた。

神便鬼毒によって術師の生命力にブーストがかかっている状態であったことが爆裂四散する前に身体を丸ごと組み替えることを可能とした。

 

しかし、あくまでも()()()()だ。実によくなじむまでには時間がかかる。少なくとも受肉して数時間でどうにかなるようなものではない。

そんな不安定な状態で意識外から攻撃を──それも黒閃を──くらえばどうなるかは推して知るべし。

 

錆び付いたブリキのおもちゃのように鈍重な動きでめり込んだ山肌から這い出ると、鳩尾に黒閃を叩き込んでくれた男が仁王立ちで待ち構えていた。

 

「────ふふ」

 

鬼が浮かべた微笑みに何の意味があるのか。東堂葵は知る由もないし、興味がない。後タイプじゃないからどうでもいい。

さっさとコレを処理して一秒でも早くプロテアの下へ馳せ参じたいのだ。

 

思わぬ収穫こそあったものの、そもそも東堂は目の前で虫の息で転がっている酒呑童子を祓うためここに来たのだった。

だが拍子抜けだ。黒閃一発で沈みかけてしまう受肉体など、己の乾きを癒すに値しない。

 

嘆息をつき、拳を構える。

とはいえ手負いの相手ほど恐ろしいのはいつの時代も変わらない。

注意を払い一歩、また一歩と接近する。

 

邪悪な微笑みを張り付けたまま酒呑童子は動かない。

ただ東堂をじっと眺めては薄く目を細めるだけで。

 

「なあ、東堂はん」

 

無言のまま東堂は足を止めた。

見開かれた眼がその驚愕をつぶさに物語っている。

 

(コイツ、俺の名前をどこで──!?)

 

カリオストロが聞いていれば「お前が言うな」と青筋を立て、キングプロテアのお腹はくうくうなりはじめるだろう。

二人の目はきっとハイライトが消えている。

 

 

「獲物を前に油断しいひんのは大変結構やけど、ちょいと遅すぎやね」

 

 

東堂は自分の索敵範囲に呪力が立ち顕れた瞬間、両手を打ち鳴らそうとしたが────

 

 

 

「ねえ」

 

「わたㅤわタㅤわたし」

 

「きれい?」

 

 

 

(仮想怨霊!?一体どこから──)

 

東堂の正面になんの前触れもなく現れた口裂け女の簡易領域に東堂葵は囚われる。

さてこの仮想怨霊の質問にどう答えればいいのか、「長身だからタイプです」とでも言うか、「高田ちゃん一筋なんで、と断るか」……どうでもいいことを考えていると東堂の横から僧衣を纏った男性が酒呑童子に近づいていく。

 

「どうやら危機一髪、間に合ったか」

「こない景気よくすればひょこっと来るかと思てなぁ」

 

かんらからからと笑う鬼に「確かに多少リスクを背負っても私はここに来るだろうね」と男は語る。

まさかそんな姿だったとは思わなかったけど、と続けて苦笑した。

 

「ダメじゃないか東堂くん。コレはまだ利用価値がある。祓うにしても少し後にしてもらえないかな?」

「嫌やわぁそないぞんざいな扱いされたら──うちも出るとこ出ますで?」

「忘れるなよ酒呑童子、君は大義のために生かされている。私の楽園に羅生門は必要ない」

「……ふふ、それじゃま、うっかり殺されないようにうちも頑張らへんとなぁ」

 

東堂は、眼前の人物に瞠目する。

来るか来ないか、で言えば確かに来る可能性は高かったかもしれないが。

 

五条袈裟をはためかせ、男は地を踏みしめた。

堕ちた特級、数多の非術師を呪殺した希代最悪の呪詛師。

 

 

「────夏油、傑」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水面に投げ込まれたのは石ではなかった。音に振り向くと蒼色の海面に赫い半球が浮き沈みしている。

そういえばクルーザーの中に釣竿立てかけられてたっけ、と思い返して魚を待つ大きな背中に声をかけた。

 

「五条さん、なんで釣りしてるんです?しかもアロハシャツ」

「気分。今日久々の休みだからさ、少年のサルベージが終わるまではのびのびしてようかなって。ま、そう上手くいくかはわかんないけどね」

 

引っ張られた釣り糸に合わせて五条はリールを巻き上げるも、既に逃げられてしまったのか捕まった魚の姿はない。

ルアーは再び綺麗な放物線を描いて海へ投げ込まれた。

 

ミミッキュが釣竿を引っ張り出してバカ目隠しの隣に歩いていく姿を尻目に「下手に手伝われて壊されても困るし」と人形師は思い直す。

最悪海上保安庁に追われながらキングプロテアに遠泳してもらうことが最終手段として検討されていたので、船を出してくれたのには素直に感謝するとしよう。

 

「じゃ、とりあえずさっき言った通りよろしく。後はまたその都度指示出すから」

 

ややあって頷いたマガツイザナギはクルーザーの側面に垂れ下がった銀幕にカリオストロ謹製の映写機でホワイトスノーのマヨナカテレビを投影する。

 

一方船の甲板に立ったカリオストロは面倒くさそうに口を開いた。

 

「闇より出て闇より黒く。その穢れをみそぎ祓え」

 

帳が下りる。暗幕のような夜が四方を閉じ、船が浮かぶ()()一帯を封鎖した。

 

「あれ、帳下ろしちゃったの?」

「え、さすがにキングプロテア出すのになんもなしはまずいでしょ?」

「ん〜……それはどうだろうね」

 

ルアーをピクピクさせていた悟が振り向いた。

クルーザーの中に備え付けられたテレビに胴体を突っ込みながら答えると、「別に僕は最強だからどうでもいいけど」みたいなニュアンスで言葉が返ってくる。

 

まだ夏でもないのにぶわっと溢れた汗を気のせいだと思いながら、悟の声がする方に歩く。

 

「ここの海域、夜だけ貨物船とか輸送船が間違っても通らないように封鎖していてね。どうしてだと思う?」

「……知名度の低い艦船ならともかく、()()のネームバリューはあまりに大きすぎる。いるんだろ、呪霊」

 

「ビンゴ!」悟は嬉しそうに指を弾いてから、キリキリとリールを巻き上げる

 

「海上で地上のように戦える術師はだいぶ少ないし、アレは手出ししなきゃご自慢の主砲が火を噴くこともない。だからどこもここについては放置することで決定してたんだよね。……夜になる前に素材の回収だけしてればこんなことにはならなかったんだけどなぁ」

 

 

海に船が浮かんでいた。

およそ200m強はあろうかという鋼鉄の塊が、海に浮かんでいた。

 

ギリギリと、波に打たれる巨大な鋼鉄(クロガネ)が軋みを上げている。

とても、悲しげな咆哮だった。

 

 

「──誰が言ったか、『呪霊戦艦ヤマト』。中々いいネーミングだよね!」

 

 

巨体の威容に口を噤む中、五条悟の笑い声だけが静寂の海に響き渡った。

 

 




この世界でヤツがいないわけがないのです(ダブルミーニング)

①酒呑童子祓おうとしたらに純正サマーオイルが助太刀しやがったんですけど!
②素材回収だけしようと思ったら戦艦大和の呪霊がいるんですけど!
の、二本でお送り致しました。

感想返信は後でやりますわよ。
今はちゃっちゃとキリのいいとこまで呪骸作りを進めてぇのですわ。

次回ッ!激突!呪霊戦艦ヤマトVSキングプロテア!!(大嘘)

映画かな?


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#27 S.O.S

救え、魂を。


謳え、救世主を。


進め、艦乗りたちよ。




素材取りに行こうとしたら戦艦大和の呪霊と遭遇した。まる。

いやちょっと何言ってるか分からない。

 

「センセー!」

「センセーちょっと忙しいから自分でやっててね」

 

目の前の戦艦より釣りの方が大事らしい。

頭下げたのはこちらの方で、ここに来たのも私事だ。けどさ、ちょっと伝えてくれた情報と違うかなーって。ほら、そんなわけで駄賃代わりに助けてくれたりとか……しない?自分で解決しろ?アッハイ。

 

ああ分かったよ、やってやるよ!やりゃいいんだろ!

心中、威勢よく啖呵をきった。

 

まずは確認からいこう。

ここには戦艦大和のパーツ(主砲か機関部が望ましい)をサルベージしにやって来た。

パーツは次に作る移動拠点型呪骸用の素材として使用する予定だ。

 

呪霊がいる想定もしてきたけど、さすがにこのサイズは予想してなかった。

もっとこう、コンパクトというか、人間サイズの呪霊だったら良かったんだけど。

 

遠目に見る限りでも結構な数の呪力がチラついた砲身が設置されている。

フライング・ダッチマンの方がマシとすら思えてしまう。あっちはクラーケンを従えてるけど、こっちは46cm主砲が……。

いや待て、そもそも装備が当時と同じなんて保証はない。見てくれは変わらんでも艦砲が宇宙戦艦めいて展開してパルスレーザーを撃ってくるかもだし早めにひっくり返すなりして無力化した方が──

 

「──うおっ!?」

 

地面が……訂正、船が大きく揺らいだ。側面にでっかい波がワーッ!!クルーザーびちゃびちゃ!

戦艦がこっちに前進してきたのかと慌てて船の側面を見に行くと、船に設置した巨大スクリーンの前でマガツイザナギが困ったようにこっちを向いていた。

どうやらキングプロテアがそこから海へ着水したらしい。

 

「なるほどなるほど、今の波はそういうことね」あえて現状を口にして冷静さを取り戻そうとするが、その間もざぶんざぶんと波は収まる様子を見せない。

 

「──待って!まだどうするかも決めてないのに大和に向かってバタフライしないで!!」

 

波でクルーザーがもみくちゃにされて転覆事故の危機なんだわ!!

 

(任せてくださいマスター!アレをひっくり返せばいいんですね!)

 

そうだけど違うわーッ!

その前にこっちが耐えきれなくて海の藻屑だ戻ってこーい!こーい!こーい!

 

…………ちくしょう、敏捷︰Aは伊達じゃない!

キングプロテアはちゃんとした指示を聞く前に行動を開始してしまった。せめてもう少し深いところで泳いでくれないかとか思ったが後の祭りだ。

うーん、さすがにこれはもう頼るしかない。

 

「無敵の『無下限呪術』でなんとかしてくださいよォーーーーーーッ!!」

 

釣竿を掲げた五条先生はサムズアップをしてこう言った。

 

「Plus ultra!」

 

それでは皆、良い受難を。そっか、ここがヒーロー科受験会場かぁ。

 

よくもぼくをォ!!だましたなァ!!

オールマイトだってこんな無理強いしない。そもそも呪術界のスペランカーに更に向こうへなんて言うんじゃない。

他力本願するしかない自分にはハードルにしてはちょっと高すぎではなかろうか。

 

「カリオストロ、錬金術で海に風穴とか」

「無理だ。しかもオレ様はその、なんだ」

 

視線が右へ左へヨロヨロと。

すまないカリオストロ、君が取り繕うのを聞いてる場合じゃないんだ。

 

「もしかして泳げねぇのか?」

「っ!?てめェ……!」

「ヒェッ」

「あぁ、クソ……いいか、間違うんじゃねぇぞ。泳げはする、泳げはするんだオレ様は。ただ、お前を守りながらあの波を突っ切っていけるような技量は持ち合わせていねぇ」

 

結局聞いちゃった。

天才が自分にできないことを恥じらってごにょごにょしちゃう様子は愛らしいですね。完璧を求めるプライドからくる苦悶の表情も実に素晴らしい。

一寸先に死が迫る状況じゃなければだが。

 

「あのバカ目隠しはどっか行っちまったし……おい、なんかねぇのか。この際なんであんなもんに挑もうとしたのかはともかく、このままじゃプロテアのバタフライで全員お陀仏だ」

「あるよ」

「…………は?あるのか?」

 

ある。こんな使い方は全く想定してなかったが、多分助かる方法が。

 

「ミミッキュ、おいで」

「キュッキュ〜」

 

波に流されてるかもしれないと心配したが杞憂だったようだ。器用に海水溜まりを避けてこっちに来てくれるのが少し申し訳ない。

 

「『同調(ユニゾン)』、開始──」

 

マガツイザナギとの同調と同じく左目に呪力の炎を灯したミミッキュを空高く掲げる。

右手に白いバンドが形成され、ミミッキュの身体はバンドから放たれた青黒い呪力に包まれ巨大なボールの中へスッポリと隠れてしまった。

 

「いくぞォ!『ダイマックス』ッ!!」

 

バレーのトスのように直上へ放ったボールは重苦しく口を開き、膨大な呪力を纏ったミミッキュを外へと吐き出した。

溢れ出す呪力をミミッキュが喰らい、どんどんと巨大化しながら真下──俺たちがいる転覆間近のクルーザーへと自由落下を開始した。

 

「ミミッキュ、『ダイホロウ』!」

 

了解の意志を込めた野太い鳴き声と共にクルーザーが浮き上がる。

空に浮かべた船を相手にぶつけることはせず、ダイマックスミミッキュの周りを高速で周回してから影の手の上に収まった。

 

「エスパータイプのわざじゃねぇのな……」

 

蒼い顔をして船の中で突っ伏していたカリオストロが立ち上がる。

うん、人を運んでいい速度じゃない。自分で指示出したからあまり強くは言えないが、普通に手で拾ってもらった方が良かったかもしれない。

 

「ポルターガイストの、範疇なんじゃないかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『早めにひっくり返すなりして無力化』

 

ここまでのマスターの思考を受信してからキングプロテアは行動を開始した。

本人は無邪気に泳いでいるだけなのだが、ヒュージスケールと規格外の身体能力は彼女の一挙一動から逆巻く怒涛を生みだし続けるのだ。

 

キングプロテアから見れば海に浮かぶ戦艦などお風呂のアヒルに等しく、自分にとっては何ら脅威性のないものとして認識している。

だが忘れてはいけない。それが人々の畏怖と信仰より世に形を持つに至った存在だということを。

 

波涛の大きさが増すにつれ、戦艦も()()()()()()()()()

轟音と同時に船の前面に規則的な亀裂が走り、一部が右舷左舷方向にスライド。次いで艦首が(アギト)さながらに開口し、顕になった鋼の口腔から暗く蒼い光を纏った砲身がせり出した。

砲身は呪力を伴い回転を始め、迫る巨人を焼き払わんと低く唸りを上げた。

 

「それが貴方の最終兵器ってやつですね。だけど!!」

 

キングプロテアは進路はそのままに海上バタフライから海中潜行へと手段を切り替えた。

大層な砲門が火を噴く前に呪霊戦艦ヤマトの下へ潜り込めば回避することもなく、ついでに水中から艦船を持ち上げる赤い人型決戦兵器ごっこもできるかもしれない。

 

そうして海水を下へ下へと潜っていく。ヤマトはプロテアのはるか上に浮かんでいる。

ふぅ、ここからならもう攻撃なんてできないでしょう。そうキングプロテアは呑気に思っていた。

 

「──え?」

 

じゃらり、じゃらりじゃらり。

星見台でばったり因縁のアルターエゴに出会ってしまった時のような反応で唐突に違和感を覚えた手首を見る。

そこには無骨な黒い手枷がはまっていた。

繋がった鎖を追うと水面──しかも呪霊戦艦ヤマトが浮いている方向──に向かっている。

 

「これくらいなんてことは!」プロテアは鎖を強引に引きちぎろうとするもそれに触れた瞬間、身体の力が一気に抜けていく感覚が彼女を襲う。

 

(もしかして私の呪力を……!?)

 

プロテアの推察通り、呪霊戦艦ヤマトから放たれた鎖は縛った対象の呪力を吸収する効果がある。

キングプロテアから呪力を吸い出すのは彼女のヒュージスケールにより逆に相手がパンクしてしまう危険性があるのだが、ヤマトは明らかにおかしなペースで彼女の呪力を搾取している。

 

キングプロテアという外部電源を獲得したヤマトはそのエネルギーを鎖の強化に使用して引き上げを開始する。

初めは拮抗していたものの、ヤマトの呪力回収速度がプロテアの成長を上回り、ついに彼女は異音を奏でる主砲の前に吊し上げられてしまった。

 

吸収した呪力は艤装の高速改修に充てられたようで、主砲砲門は二門増設され、砲身はポジトロンライフルと見紛う長さに延長。更に艦体そのものも砲の威力に耐えるためかより堅牢さを増している。

 

「このっ!む、ぐ……くぅぅぅぅ!!」

 

艦首に増設された二基のデリッククレーンに持ち上げられたキングプロテアは懸命に身体を動かすが、それを抑えるのは自分から奪われた呪力──すなわち自分自身であるため、その場から脱出することが叶わないでいた。

 

呪力を収束させる砲門がチラチラと蒼い炎を吐き出し、発射される時を待ち構えている。

彼女の耐久︰EXを信頼するならこれで撃沈、なんてことはないだろうが、それでも自分から汲み上げられた力であることを鑑みると相応のダメージは覚悟しないといけないだろう。

 

(アギト)が臨界に達し、一際強い輝きを見せた。

襲い来るだろう光の奔流にプロテアはギュッと目を閉じ、脱出に振っていた呪力を防御に固めていく。

どうやら自分は先走り過ぎてしまったらしい、彼女は心中そう悔いた。とはいえ、過ぎたことは取り戻せないのだが。

 

「ごめんなさい、マスター」

 

その瞬間、ほんの少し主砲の光に乱れが生じた。

しかし、どうやらその一瞬のおかげか、ギリギリ追いついてみせたようだ。

 

 

 

 

「ミミッキュ!『ダイウォール』ッ!!」

 

 

 

 

プロテアの背後から飛ぶように伸ばされた真っ黒な腕から六角形のエネルギーフィールドが展開。

瞬間、眩い光を伴って発射された極大呪力光線はその巨大な盾に阻まれ霧散した。

 

「プロテア、ごめんなさいは後で聞く!今はその戦艦をミミッキュと一緒にそこに()()()()()!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「移動拠点型呪骸を作ろうかとここまで来て帳下ろしたら図らずも呪霊と戦闘することになっちまったと」

Exact(その通)──あ痛っ」

 

時は少し遡る。

猛スピードで先に行ってしまったキングプロテアをできる限りの速度を出しているが海上を中々思うように動けないダイマックスミミッキュの上で人形師はカリオストロに計画の概要を話していた。

 

「で、どうするんだここから。祓うのか?」

 

やってられるか、もうオレ様は降りる。なんて言わない辺り彼女の苦労人気質な性格が窺い知れる。

少年はいや、と首を振った。

 

「助けられないかなって」

「助……なんて?」

「助ける」

「……理由を言え」

 

長い嘆息と共にカリオストロは視線を外す。こうなるとコイツはてこでも動かないし、予想の斜め上の戦果を持ち帰ってくる傾向がある。

もちろんただの思い違いかもしれない。「泣いてる気がしたんだ」しかし少年にはヤマトがそう見えてしまっていた。

 

彼女の最期を知ったから?同情して眼が曇ったから?

 

違う、そうではなかった。

出会った時、あの瞬間。確かに彼女は嘆いていたのだから。

 

 

「一回だ。一回だけお前の思うことをやってみろ。それでダメなら祓う。……オレ様が妥協できんのはここまでだ。いいな?」

「十分!」

 

 

そうして時は現在に戻り、人形師はミミッキュの手から飛び降り、呪霊戦艦ヤマトに向かって進撃を開始した。

 

もちろんそんな暴挙を黙って許すヤマトではない。

キングプロテアから奪った呪力を対空艤装に振り分け、甲板に多数の発射管が形成される。

開門。そこから魚雷が雨あられと空中に向かって放たれ、航跡を残して空の目標へと疾駆する。

 

「マガツイザナギ、『マハジオダイン』!キラーマジンガ、『てんいむほう斬』!」

 

マスターが羽織った外套を握り、主を空中に繋ぎ止めたマガツイザナギは魚雷に向かって天沼矛を振り下ろす。

その挙動に合わせて鳴神が落ち、轟音が響く。接近する飛翔魚雷は次々と雷に貫かれその呪力を散らした。

 

マスターを強く引っ掴み呪霊戦艦に近づくマガツイザナギ。そこへ先ほどうち漏らした魚雷がより複雑な軌道を描いて猟犬の如く主従を追い立てる。

 

その進路に立ち塞がるように現れた呪骸が一つ。キラーマジンガだ。

ぐぽーん、と気の抜けた音と共に赤いモノアイを光らせ、撫で付けるように無骨な剣を宙を滑る雷撃に這わせた。

そのままマジンガを通り過ぎた魚雷は滑らかな軌跡に沿るようにして一斉に形を崩し爆散、役目を果たすことなく海の中へと溶けていく。

 

サーカスじみた魚雷の包囲網を突破し、いよいよ戦艦直上へとたどり着いた。

直後、増設された対空砲が火を噴くが、ミミッキュのダイホロウやキングプロテアの素殴りによって向きを逸らされる。

その隙に中央に聳え立つ檣楼を破砕しながら内部へ突撃。いつしか銃撃の音は聞こえなくなった。

 

 

細心の注意を払いながら檣楼を登り、艦橋にたどり着く。

 

あらぬ方位を示す羅針盤、バツ印をつけられた窓ガラスに明滅する白熱灯、無軌道に針を回す計器類、一定の音を延々と発し続ける無線機。

 

極めて模範的な不可解現象が軒を連ねる生得領域の中でも、一際目を引いたのはひび割れ欠けた伝声管だ。

それはハッキリと意味を伴った言葉を闖入者に投げかけた。

 

『─で──ん、で──な──』

『──なんで、沈めないの─』

 

ノイズこそ生じているものの声として成立し、諦観と疑問がない混ぜになったニュアンスを内包していた。

 

「祓うことが俺の目的じゃない」

 

『─わた──ら──つけ』

『わたし、は──同胞(はらから)を─傷つけ──た』

 

『──まな──し』

『望──まない。わたし、は──』

 

「ああ、だから祓ってくれと、沈めてくれと。そう言うんだな」

 

伝声管は口を噤む。沈黙は時として言葉よりも雄弁だ。

しかし今回ばかりは悪手だろう。相対する人間に耳を澄ませる時間を与えてしまったから。

 

「じゃ、これはなんだ?」

 

少年は静寂になった空間で唯一音を発し続ける無線機に近寄った。

生得領域。それは術者の心中そのものである。

起きること全てに意味が付随し、偽ることは不可能だ。

 

 

《トトトツーツーツートトト》

トトト(・・・)ツー()ツー()ツー() トトト(・・・)

 

 

『そ──そん─な』

『─そ─し──かく、わた──には─』

 

ノイズが酷くなり、艦体が鈍い音を響かせる。

少年は言葉を重ねた。

 

「資格なんてなくたっていい。誰の許しもいらない」

「俺があんたを、誰かを傷つけるんじゃなくて、誰かを守れるようにしてみせる。だから、この手を取ってくれないか」

 

数秒、されど長い静寂。その空気を切り裂くように無線機が音を鳴らした。

 

 

 

『・-・ ・-・ ・-・』

 

 

 

 

──ヒトヨンサンマル。呪霊戦艦ヤマト、陥落。

 

 

 




SAVE OUR SOULS

SAVIOR OF SONG

SAIL ON SAILOR




感想の
返信溜めると
辛いのだ
本文長いと
もっと辛い

屋根裏の名無し心の一句(字余りだらけ)
このペースでこの文量だと遠からずばたんきゅ〜しそう。ちょっと休みますよ……。


ヤマトアーマー×森雪!そういうのもあるのか

このSS(戦艦大和サルベージ作戦時)での年月日は2017年6月頃です。
ちなみに大江山事変は2017年5月頃。大江山で起こったことはまだ書ききれてません。私の腕が動いてくれるまで今しばらくお待ちくだされ。
で、どちらにせよ2017年の中旬辺りなので新宿・京都百鬼夜行(2017年12月24日開催)は行われていません。なのでメロンパン入れにメロンパンは入っていませんし、特級ヒト型決戦呪霊RI-kαの搭乗者はまだ高専で訓練中です。

頑張れ乙骨!逃げちゃダメだ乙骨!行きなさいシンジ君!
あのサマーオイル原作より結構強いぞ!



呪霊戦艦ヤマト
→海中に沈んだ戦艦大和及びその護衛艦隊の後悔を中核に、大和に対する人々の想念によって成立した呪霊。
その成立過程から怨霊と仮想怨霊両方の性質を併せ持つ♡

戦艦大和に関連したものが世間で流行る度に呪霊としての存在規模が拡大したおかげか、早期に知性・理性を獲得。
自分の存在意義を今の日本を守ることと定義し、近寄る外国籍艦船を追い払っていた。

しかし過ぎたるは及ばざるが如し。
中核となった怨霊の意志を跳ね除けるほど仮想怨霊としての力が強まり、テリトリー圏内に侵入した艦船・航空機を日本国籍だろうが外国籍だろうが無差別攻撃してしまうようになる。
該当海域及び空域は呪術高専京都校により封鎖された。

自分の行いを悔やみ続け、もういっそこんな自分を沈めて(祓って)くれと、呪術師を待ち望むようになった。


敗因︰生得領域にまで踏み込まれて自分の根底を見透かされた結果、「……同胞の願いだしちょっとだけ」と手を取ってしまったこと。
※ちなみに彼女はこの後自分が呪骸の素材にされることで約束が果たされるのを知らない。





蒼き鋼のアルペジオ─ARS NOVA─OP主題歌『SAVIOR OF SONG』めっちゃかっこいいから全人類聴いてくれ。
アマプラでアニメと映画も配信中だから視聴してくれ。


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#28 やまとシップ

エルデンリング……おおエルデンリング。

ローレッタを下し、魔術師塔を登りたまえ。

その先、恋人があるぞ。



∀月●日

 

日記に手をつけるのも思えば久々のような気がする。隣のページの日付が1ヶ月弱前だから、まあまあな期間が空いてしまった。

今日からまた一日一日、頑張るぞい!

 

今は夜の海で艦に揺られながらこれをしたためている。目隠し先生のクルーザーじゃなく、呪霊戦艦ヤマトでなんだわ。

もうあの人帰っちゃったし。後進の育成がなんとか〜って。

 

吸精鎖やら飛翔魚雷やら波〇砲やらを向けてきた呪霊の腹の中で夜を明かすのは危険極まりないと思う。が、そこはSOSを信用することにした。

万が一襲われてもまぁ……腹の中でダイマックスしてダイホロウでもぶちまければ脱出はできる。多分。

 

 

理由は分からないがこの艦、びっくりするほど快適だ。

食堂らしき船室にはアイスクリームを作るアレとかドリンクバー(中身はサイダーやお茶類)とか、冷暖房完備だし、ベッド超フカフカ。

戦艦大和はその住み心地の良さから大和ホテルとか言われていた時期もあったらしいけど、それを反映してのことかな?

 

 

彼女(?)に関しての事情聴取は明日だ。

そこで諸々のことを決めるとしよう。

というわけで今日はここまで。以上解散!

 

 

∀月✕日

 

ヤマトは戦艦大和とその護衛艦隊らの無念と後悔から産まれた『怨霊』である。

戦艦の本体は未だ鋼の骸として海底で眠っているので、彼女のカテゴリは『呪骸』ではなく『呪霊』、その中の『怨霊』だ。

 

彼女はこの海域に足を踏み入れた外国籍の艦船及び航空機を殲滅することを目的と定義し、実際その通りに動いていた。

持ち場を離れなかった理由は聞かなかったが、多分沈んだ戦艦大和が関係しているんだろう。

 

が、怨霊となった彼女は図らずも『戦艦大和』への負の感情の受け皿として機能してしまった。

戦艦大和に関連するものが世間で流行する度に畏れが増し、時を経てヤマトを構成する呪力のバランスが怨霊<呪霊となり、海域に侵入した対象を無差別に攻撃する呪霊戦艦ヤマトとなってしまったわけで。

 

これは目隠しに聞いたことだが、この地域が管轄の呪術高専京都校は祓うにしても費用対効果が割に合わないので放置を決定したとのこと。

海上で満足に戦える術師は少ない上、海域を迂回すれば被害はゼロ。確かにそれで済むなら仕方ないかもしれない。しかし彼女、結構限界が近かったご様子。

今回湯水のように呪力を使わなかったら近い将来陸へ砲撃していたかもしれないとは彼女の言。

 

……ひえ〜あぶないところだった。

 

 

ヤマトは

①これ以上自分が日本を傷つけないようにすること。

②自分の力は日本を守るために行使すること。

を条件に、こちらの指揮下に入ると約束した。

 

なので、明日はヤマトを恒常的に鎮静化させるために彼女を精密検査する予定だ。

 

 

 

 

∀月□日

 

彼女の暴走を防ぐためには世間で戦艦大和が流行る度に流れ込む呪力をどうにか発散する必要がある。

けれども、今回のように毎度毎度と戦っていては身が持たない。

 

大いに頭を悩ませた結果、一つ妙案を思いついた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──と。

 

ついでにアレの呪骸としてカウントできれば移動拠点としての要素もいけるのでは?

 

そう思い立ったが吉日。

どうしても必要な材料素材ㅤ彼女をお迎えすべく、我々はフィリピンのシブヤン海へ向かった……。

 

他国の海に勝手に入っちゃダメみたいな国際法?みたいなのあった気がするけど、呪霊は見えないし誤差でしょ誤差。

透明人間は腹まで透明なのでヤマトの中にいる俺らは見えないはずだし。

 

 

∀月Σ日

 

速い……速くない?(堕ちるの)

今回は前回みたいな決戦は回避できた。

やはり連合艦隊旗艦は伊達じゃないね!

 

本当はここで〆にするはずだったがカリおっさん曰く万全を期すならもう一体いた方が、との事だったので次はハワイのオアフ島沖に向かっている。

 

しっかしヤマト速いなあ。呪霊とはいえ一応同型艦を牽引しているはずなんだが……。

 

 

受け皿の機能不全を起こすには『ヤマト』を大きく上書きする必要がある。

ならば同型艦二隻体制よりも、明らかに異なるタイプをねじ込んでトリニティ・プロセッサーとかフー・ファイターズな感じで群体を一つのものとしてカウントできれば……。

 

元々ユニオンとして定義されてたんだしいける……いけるよな?

頼むぜ俺の術式。その拡張性を見せてくれ。

 

 

∀月♪日

 

ラスト一隻回収!5日もかからず終わっててビビる。やっぱアシがあるって素晴らしいなぁ!

まったく戦艦は最高だぜ!

 

後は彼女らの意識体を作成して、上手くいけば艦体の方は恐らく勝手に混ざって竣工されるはずだ。

アニメで合体シーン三、四回くらいあったし、漫画だとマク○スみたいなことしてたしいけるいける。

 

……想定した通りであれば。

SF素材を再現してくれるかはもう賭け以外の何ものでもないんだけどネ!

 

 

なんか俺、ぶっつけ本番的なこと多い……多くない?

 

でもなんかいける気がする!って気持ちが大切だってン我が魔王も言ってたし……。

 

 

∀月♯日

 

キングプロテアに海底に潜って材料を取ってきてもらうことに。

ここは公海だし、巡視船とかタンカーとかのルートからは外れてるのでゆっくりできる。

ヤマトは見えないけどプロテアは呪骸だから丸見えなんだよね……。

 

 

∀月ω日

 

よく考えたら今回三体作らなきゃいけないじゃないか!

カリえも〜ん!と泣きついたら蹴られた。完全に規格化されたものに関しては手伝えるが、これに関してのディテールを良く知っているのはお前だけなんだよと一蹴された。蹴られただけに。

 

はい、頑張ります。

 

 

∀月◆日

 

キャラデザはマガツイザナギとかプロテアとかに比べてそこまで複雑ではないけど……だからこそ色々際立ってしまうな。

カリおっさんに土下座して内部のコアの造形は手伝ってもらうことにした。

三体分はちょっと無理でち!頼れるところは頼るメリよ。

 

 

∀月∀日

 

かにㅤㅤうま

えびㅤㅤうま

 

塩加減にコツがあるらしい。

 

 

 

∀月☆日

 

 

∀月@日

 

 

∀月彡日

 

 

∀月★日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呪霊戦艦ヤマト甲板。そこで力なく少年は項垂れた。さながら真っ白になったボクサーのように。

 

彼の正面に並ぶのは物言わぬ三体の人形。これから彼の魂の欠片、そして二体の呪霊が宿る躯体だ。

 

げっそりした顔をゆっくりと上げ、しげしげと力を尽くした作品たちを眺める。

そうして意を決し、立ち上がった。

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ……よーし、なんとかなれ──ッ!!」

 

しょぼい掛け声と同時に三体のうち二番目の大きさの人形に触れ、術式を起動する。

 

 

少年とカリオストロが考えた筋書きはこうだ。

まずいつもの要領で呪骸を作成。そして、入魂する段階で呪骸を構成する要素としてヤマトと、そしてもう一体の呪霊を範疇に入れるのだ。

 

元より多数が一つとして立ち振る舞うことを前提として設計された経緯があるので、彼女たちを『一体』としてカウントができるんじゃないか、と考えた次第である。

ゲッ○ーロボやガ○ガイガーを一体と数えるようなニュアンスで考えて欲しい。

『群』を『個』として捉えるのだ。

 

こうすることで、ヤマトは『戦艦大和』への負の感情の受け皿として機能することはもうないだろう。

呪骸を構成する要素の一部となったことで、ヤマトは『大和』として扱うことができなくなったのだ。

 

 

そしてもう一つ。

少年らは元々戦艦大和の一部を素材に移動拠点型呪骸を作成することを計画していた。

この呪骸であれば、そちらも同時に達成できる。

 

 

 

どれほど経ったか分からないが、十分に呪力が染み渡ったところで少年は手を離す。

 

三体の呪骸はゆっくりと目蓋を開き、起動する。

 

同時、少年が乗っていた呪霊戦艦ヤマトは一瞬銀の砂になって崩れ落ち、すぐさま再構成された。

 

 

濃紺が左舷から広がり金色のラインが刻まれる。

白銀が右舷から艦体の半分を覆い、青い光が線を描く。

 

喫水線から上下に躯体が分離し、内部に蒼き鋼の潜水艦が形成された。

さながら、二色の艦を纏うようにして。

 

 

「潜水艦イ401、イオナ。着任した」

 

「戦艦ヤマト、着任しました。マスター……ありがとう。この恩、忘れはしない」

 

「同じくムサシ、着任しました。お父様、これからどうぞ、よろしくお願いしますね?」

 

 




遅くなってすまない。しかも突貫工事で書き起こしたから粗だらけだと思うけどすまない。
そのうちまたテコ入れするかもなのでご了承を。


答え合わせ
→追加でイ401とムサシをサルベージ。
イ401を呪骸として作成し、ヤマトとムサシをイオナの一部として一括りにすることで、ヤマトになだれ込む呪力を抑制。
呪霊の魂に相当する部分は予め作成した人形(メンタルモデル)の中に据え、艦体部分は術式の影響によってナノマテリアル化し、三身一体超戦艦と化した。



転生者くん
→スーパーロボットしかりデジクロスしかり、割と世の中三位一体的な要素を持ったものが溢れている。
だからきっと三を一って見倣すことだってなんとでもなるはずだ!(暴論)

できた。
お前アドミラリティー・コードか何かか?


カリおっさん
→アシを手に入れたことで深層水の回収が捗る。


イオナ
→きゅーそくせんこー。

ハワイのオアフ島沖でサルベージされた伊401を素材として作られた。
三人の中で唯一呪霊ではなく、いつも通りマスターの魂の欠片を封入された呪骸である。
ヤマトとムサシは転生者くんの呪骸であるイオナに包括される形──イオナを構成する要素として──で一つの呪骸と見倣されている。


ムサシ
→彼女のメンタルモデルが原作とアニメで何故ここまで違うのか。
その真相を探るべく、我々は第4施設の深部へと向かった────。

フィリピンのシブヤン海沖で呪霊として活動していた。
戦艦大和ほどの知名度がなかったためか、火力以外はそこいらの呪霊とどっこいどっこい。
詳細は省くが、拍子抜けするほどスムーズに呪霊戦艦ヤマトの指揮下に入った。
イオナを構成する要素としてカウントされた副次効果で明確な自我を獲得。

現在彼女について開示できることといえば、だいぶ重い()女性であることくらいである。
詳しくはアドミラリティ・コードを探せ!のムサシが出てきた回を読んで見てほしい。



加減しろ莫迦!(自責)
変化球にも程があるんだよなぁ。

最初タイトルを『海 物 語』だの『艦 物 語』だのと考えてたけど、前者パチンコ後者しっくりこないじゃんってなって変えました。

ところでELDEN RING君さぁ、人形(Bloodborne)ちゃん出す前にそんな新たな性癖開発するようなキャラ出されちゃさぁ。

暗月の大剣よりアデューラの月の剣の方が使い勝手いいじゃないかバカ!(豹変)
遺跡の大剣かルドウイークレベルの月光波を期待してたんだよコッチはよォ!
一発でFP使い切ってもいいからさ……フロム君頼むよ〜。


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#29 What's the next stage?

※2022年4月1日午前2時19分現在、何かが空を飛んでしまった箇所を修正。


多分覚えてる人少ないと思うんで、『#18 青春アミーゴ』『#26 鋼鉄の咆哮』の前半だけちらっと見てから今回のお話をご覧頂きたい。




『よう、呪詛師。息災か?』

 

酷くねっとりとして、しかしか細い声が、ようやく眠りにつけた男の耳を打った。

男は薄く目を開き、嘆息。自分を寝かせていた布団から気だるげに身を起こす。

やっと猿の惑星から切り離されたと思えば寝込みを襲われるとは。まさか呪術師ではなく呪霊だとは、夢にも思わなかったが。

 

「……」

 

深淵が人の形をして胡座をかいている。

差し込む月明かりが不意に部屋を照らすが、輪郭を残して他を捉えることは叶わない。まるでその部分だけが世界から切り取られたように、黒一色で塗りつぶされていた。

 

声にせよ姿にせよ異様そのものだ。しかしそれの存在は明らかに心許なかった。期限間近の蛍光灯でもそこまで明滅はしないだろう。

 

『俺は酒呑童子。()()()、取引をしよう』

 

 

そんな夜から早数ヶ月、東堂葵によって王手をかけられていた酒呑童子の命は、彼女を失うことを良しとしなかった夏油傑によって救われる。

呪霊操術に少なくない損害こそ出したもののまんまと逃げ果せることができた二人は、京の都を見下ろせる山中に腰を下ろしていた。

 

「お前は『私の呪霊確保に協力し、私と私の“家族”には手を出さない』」

「その代わりあんたはんは『うちの命の喪失を防ぐ』。期限は百鬼夜行とやらの幕が引くまで、そういう契約やったなぁ」

 

彼らの視界には焼ける京都が映っていた。

猿の悲鳴、人の怒号、崩れる家屋、立ち上る黒煙。

……かつて栄華を極めた都はその面目を大いに失いつつある。

 

「街はぼうぼう、山には巨人。ご要望には沿ったつもりやけど……」

 

帳を降ろさせずにあの巨人(キングプロテア)を市井の下に晒し、街には適度に火の手を放つ。

猿の心とは弱いもので、たったのそれだけで呪いを集めてしまう。

 

「範囲が広すぎる。次からは量より質を取れ。後は死にかけて面倒を増やすな」

「はぁい、仰せの通りに。ほな、次はどうする?」

 

酒呑童子はなあなあなあと、夏油の周りをぐるぐるぐる。

さすがに鬱陶しくなったのか、夏油の細い目がさらに細くなる。

 

「何が目的だ、酒呑童子」

「何って……くどいし、疑い深いなぁ。前も一回お話したやろ?うちの目的は──お気に入りが輝くさまを見たい、それだけなんよ。だから夏油はん、あんたはなぁんも気にせんで、思うままにうちを使ってええの。な?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいいやっほおおおおおお!!!」

 

 

──戦艦に心躍らない男はいるだろうか?

いや、ない。全ての男は浪漫が大好きである(諸説あり)。

 

以前交わした約束通り、完成した呪骸──この艦体は元々呪霊だったものだが──の内部へ五条悟が一番乗りした。

 

「ようこそお待ちしておりました、五条悟様。私、ムサシと申します。お父様の御友人として、歓迎させて頂きます」

 

うだるような暑さにも関わらず、白いシャープカに厚手のコートを着用した少女がしずしずと一礼する。

奇声を上げて乗艦した彼も思わず「あっ、こちらこそどうぞよろしく」と調子が狂ってしまった。

 

五条は彼の後ろにいた人形師の背後を一瞬で取って耳打ちする。

まこと、見事な術式の無駄遣いである。

 

「……これ、君の趣味かい?」

 

これ、とは明らかにオーバーテクノロジーじみた内装のことだろうか。それともこの艦を任せている少女のことだろうか。もしくは人形に『お父様』と呼ばせている──実際のところ彼女が勝手に呼び始めたのだが──ことだろうか。

 

「悪いか?」

「別に♡︎ㅤいやね、前にメカメカしいのを見てても思ったけど、随分と精巧に作ってんだなぁって。うちの学長も呪骸作ってるけど、ぬいぐるみ専門だからさ」

「学長さん、ねぇ」

「そ。呪術高専東京校学長、夜蛾正道。人形の趣味は合わないかもだけど、話を聞いて損はないと思うよ」

「……質問、構いませんか?」

「おや、ムサシちゃんは学長が気になるかい?」

 

黙って二人のコソコソ話──もちろん彼女の耳には筒抜けだが──を聞いていた彼女がずい、と一歩踏み出した。

 

「いえ。その夜蛾正道様の呪骸──クオリティはいかほどかと思いまして」

 

穏やかな声色ではあるものの、隠しきれないドスが利いていた。

五条悟は困ったように「うぅ〜ん」と唸る。アイマスクの下の目はきっと宛もなく動いているのだろう。

 

「精巧さ、で言えばきっと君たちの方が勝っているよ」

「………………安心しました。では、ご案内致しますね。ご一緒にお越しください」

 

たっぷり間を置いてから艦内へ歩き出した彼女に二人はすぐにはついていけなかった。

 

「僕は否定はしないよ。趣味は人それぞれだし」

「ムサシは最初からああでしたッ!」

 

 

その後慌ててムサシの背を追いかけた二人は、いくつかの部屋を回って甲板にたどり着いた。

 

「あら、マスター。早かったですね」

 

一体いつの間に植えたのだろうか。この戦艦が完成してから数日も経過していないというのに。

ヤマトは新たに増設されたと思わしきプランターに水を巻いていた。

 

「それナノマテリアル*1製?」

「カリオストロ製です。美味しいですよ?」

 

まあ、再現されたものより安全性はあるだろう。

少年と五条は切られたスイカを怖々食べてみた。

さすが開闢の錬金術師といったところか、お味は中々のものだった。

 

「制御を失っていた呪霊が身体を持って家庭菜園とは、世の中わかんないもんだ」

「本当は四六時中マスターをお護りをしようかと思っていたんですけど、カリオストロに『マスターはお前がそう在ることを望んじゃいねぇ』って断られちゃって……

って、そっちが先じゃないわねごめんなさい!その節はありがとうございました。悟さん」

 

居住まいを正して頭を下げたヤマトに五条はいやいやと大袈裟に手を振った。

 

「僕はただのアッシーくんだからそんなかしこまんなくていいって。ヤマトちゃんがこれからは彼の力になってあげてくれれば、僕にとっては一番ありがたい」

「──はい、必ず!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──一通り見て回ったけど、君が懸念していた暴走の予兆はないね。僕の六眼が保証してあげよう!」

 

ドン!と胸を張った五条に人形師は良かったと胸を撫で下ろす。

 

「にしても君は無茶をする。人形一つ隔てているとはいえ、呪霊を二体も取り込むなんて」

「そうでもしないと、ヤマトは近いうちにダメになってたじゃんか」

「その前に君がダメになっちゃうかもしれなかったんだぜ?」

「呪霊って取り込んだらダメなの?」

「……仮に取り込める術式があったとしても、きっとやめておいた方がいい」

 

五条の口にしては珍しく、軽薄な物言いがなりを潜めていた。が、それもすぐに終わる。

外していたアイマスクをキュッとつけ、人の悪い笑みを浮かべた。

 

「だって君が僕との約束の前にくたばってもらっちゃ困るからね」

「──約、束?」

「……ちょっとちょっとちょっと!そんな唐変木で朴念仁な鈍感系主人公みたいな首の傾げ方しない!『ちょ〜っとだけ僕の手伝い』するって、言ったよね!ね?

 

一も二もなく降参のポーズ。

さすがに勘違いで戦闘を仕掛けた挙句、敗北したそれを出されては仕様がなかった。

 

「ヒトマルマルマル、おやつの時間。ところでマスター、一体何をしているの?」

「……過去のやらかしを掘り返されて白旗上げてる」

「そう。サトル、お求めのアイスココアを持ってきた」

「サンキュー、イオナちゃん」

 

冷えたココアを口に運んだ五条が「ああそうそう」と思い出したように口にする。

 

「今日はこれから課外実習でね」

「そうすか。引率頑張ってください」

「呪術実習の内容は──明確な意志疎通ができる存在との戦い方なんだけど」

「イオナ、この人だけボッシュートできる?」

「できない。白旗は投降の証だから」

「イオナ……?嘘だよな……!?」

「さっすが!話がわかる!イオナちゃん、面舵いっぱい!針路東でヨーソロー!」

「合点」

「ちょっと待ってぇぇぇええ!!!?」

 

確かに手伝いするとは言ったが今日とは言ってない。

そんな少年の想いを裏切るように戦艦は回頭。目的地へと航行を開始した。

 

*1
蒼き鋼のアルペジオにおいて、『霧の艦艇』を形作る基本因子。彼女たちのコアがこれらをコントロールすることで船体や武装、生物等を含めあらゆるものを再現することが可能。ただし、劣化すると砂状になってしまうので注意




みんなは軽率に投降しないように、気をつけよう!

めっちゃ頑張ったので褒めて(乞食)


純正サマーオイル
→まだ開頭手術してない。乙骨くんに目星を付け始めた辺り。
そろそろ水曜スペシャルみたいな感じで呪霊ゲットするの心身共にしんどくなってきたなぁと思っていたところ、その心を受信した酒呑童子(侵される前のすがた)に契約を持ちかけられる。

夏油傑は『彼女の生命の喪失を防ぐ』代わりに、酒呑童子は『夏油傑の呪霊確保に協力し、彼と彼の“家族”に手を出さない』というのが今回の縛りの内容。

鬼の思惑が全く読めないので頭を抱えている。
美々子、菜々子。その鬼に近づくんじゃありません。


酒呑童子(侵される前のすがた)
→一人称、俺。当然ながら()()酒呑童子になる前の彼ももちろん存在している。
大江山でドンパチする結構前に夏油傑と接触し、契約を交わした。
その時にはその時なりの思惑があったようだが、復活直前にとあるイレギュラーによって存在を丸ごと侵されてしまった。


酒呑童子(侵された後のすがた)
→一人称、うち。
存在を侵されたとしても縛りは続行中。瀕死状態になったことを感知した夏油が嫌々ながら救出にやってきた。

現在は自分を侵しやがった者に興味が湧き、それが最高に輝くさまを見たいがため、舞台を整えている。夏油傑に協力するのも、そのためである。


転生者くん一行
→酒呑童子の大立ち回りや夏油傑の存在により優先度が減少し、ついかで五条悟が転生者くんの呪術高専に対する印象を悪化させないために根回しを行ったため、無事?に京都から地元へ帰ることができた。


〜時系列〜

2016年n月
→転生者くん、ミミッキュを作る。

2016年n+1月
→転生者くん、マガツイザナギを作る。

2017年一月辺り
→転生者くん、キングプロテアを作る。

2017年?月
→酒呑童子、夏油傑と縛りを結ぶ。

2017年3月辺り
→転生者くん、カリオストロを作る。

2017年4月辺り
→乙骨憂太くん、呪術高専へ編入。特級過呪怨霊・祈本里香一度目の完全顕現。
→転生者くん、キラーマジンガを作る。

2017年5月頃
→転生者くん(中学三年)、修学旅行で京都へ。

①加茂・メカ丸と接触。同時刻、酒呑童子受肉。
②5Jと接触。同時刻、酒呑童子VSカリオストロ。
③5Jに敗北。同時刻、夏油傑と東堂葵が接触。

2017年7月頃(イマココ)
→夏休み!!!
5Jとクルーザーで鹿児島近海まで呪霊戦艦ヤマトを確保しに行く。
確保後、呪霊戦艦ムサシと伊401の残骸をサルベージし、イオナを作る。


〜今後の予定〜

2017年9月頃
→乙骨・狗巻、ハピナ商店街にて任務。
→京都姉妹校交流会。

2017年立冬
→夏油傑が宣戦布告。

2017年12月24日
→百鬼夜行、開催。


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#EX-Ⅱ ゆめ、まぼろし

エイプリルフールなので初投稿です。


前回は東堂葵の回でしたね。思えば一年経つのかアレ書いてから……。
さすがに存在しない記憶系もう一回書くとなると結構しんどいので、今回はかなり短め。



とても暗くて、とても寒い、水深1,000mの海底で、私はこの世界に産み落とされた。暗闇の中、一筋の光さえ届かない深海に私はいた。

 

 

私には記憶があった。鮮明なのは、落伍した戦艦()艦首()から蒼に沈んでいくところ。鋼の身体が余すところなく何度も焼かれて、押し潰されて、転覆して、爆発した。

戦に臨んだ艦船の最期としてはあるべき姿なのかもしれない。けれど、だけど、それでも、私は────

 

 

刻みつけられた記憶は、私を海底に強く、それはもう強く縛り付けた。護国の想いより恐怖が勝った。そして、そう感じてしまった私が酷く恥ずかしかった。

こんな暗い海に今を打破するきっかけなんて欠片もなくて、だから未来永劫ここで生き続けるしかないと、私の役目は鋼の身体が沈んだ時にとっくに終わっていたんだろうと、そう信じ込んでいた。

 

 

そうしてしばらく──どのくらいそうしていたのかは忘れてしまったけれど──私は海底に沈んでいた。自分から消えることもできず、かといって浮き上がる勇気もない。誰からも見つけられることはなく、ただただ無為に時を過ごしていた。

 

そんな私を、“ヤマト”が迎えに来た。

こんな私を、迎えに来てしまった。何もかも落伍した私が合わせる顔なんて、持ち合わせていなかったのに。

 

ヤマトが今まで何をしてきたかは分からないが、きっと私よりは──

 

『あ゛〜マイクテス、マイクテス。呪霊戦艦ムサシ、聞こえてますか』

 

不意に、本当に不意に、声が聞こえた。どうやって水深1,000m地点にいる私に声を届けているかは全くわからないが、とにかく声が聞こえた。もちろん、ヤマトの声ではない。

 

身体を持ち、確かな自我を得た今ならわかる。

きっと意味も分からず、ひとりぼっちだった私は、その声を聞いた途端に泣き出していただろう。

無意識に、誰かを待っていたのかもしれない。私に命令を下してくれる誰かを。

 

こんな私に、焼け爛れて砕け散った私に、遥か過去に沈んだムサシに、それは告げた。

 

 

────『君が必要なんだ』、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一度は果てた私に再びの生と身体をくれた。だから、彼は“お父様”だ。

もう一度私に立ち上がる勇気をくれたこと、私を欲してくれたこと、とても感謝している。

 

「お父様、まだ起きていらしたのですか?」

 

彼は艦長室の机で日記をしたためていた。現在時刻はマルヒトマルマル。年齢を考慮するならもう彼は床に就いたほうがいいだろう。

 

「今日のがあと二、三分で終わるから。そしたらもう寝るよ。君も一旦休みを取ってくれ。ほら、行った行った」

 

お父様は結構恥ずかしいんだけど、そう彼は言うが私にとってお父様はお父様なのだ。それ以上でもなく、それ以下でもない。

 

「まだお若いんですから、もう少し身体をお大事に──」

 

そこまで言いかけて出口の扉の前でお父様の方へ振り向いた私は動きを止めた。

一瞬、一瞬だ。お父様から目を離したその一瞬。

 

お父様の解像度が恐ろしく低下していた。

……確かこのような多角形は()()()()と言うものだっただろうか。

 

「お父、様。その身体、は」

「────間に合わなかったか」

 

見られてはマズイ類いのものだったのか、お父様は私にこの船室にあるセンサーやカメラの類いをストップさせる。

そうしている間にもお父様の身体にはノイズが走り、今度は頭が()()()()()()()()()()()()()になり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を羽織っていた。

 

「これは幻影だよ。俺の()()には異常が出てるわけじゃない。だから大丈夫だよムサシ、何も──」

 

一つ目もマントも空気に溶けるように消え、いつものお父様が顔を出す。彼は何でもないように振る舞うが、私の目は誤魔化せない。彼は明らかに衰弱している。

 

「何も心配することはない、ですか?」

「ああ、何も心配することはない。そう、たとえ俺に何があっても──悪い夢のようなものさね……

 

そこまでだった、私が見ることができたのは。

電源を落とされたように私の視界は暗転し、瞬く間に意識も深い闇の中へと転げ落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ッあ!!?」

「ムサシ、大丈夫?うなされてた」

 

ムサシは照明が切られた船長室のソファで目覚めた。傍らには心配そうに彼女を覗き込むイオナがいる。

「うん、大丈夫よ」と答え、ムサシはタオルケットを押しのけて身を起こし、先ほどまで見ていた夢の景色を追想する。

 

「イオナ、この部屋のセンサーって落ちたりしたかしら」

「ううん。してない」

「そう。なら、いいけど」

 

アレは夢だったのか、現実だったのか。

モヤモヤを抱えたまま、ムサシは退室した。

 

 

──何故だか無性に、お父様の寝顔を見たくなったから。

 

 




ムサシの出会いとムサシが見た夢のような何か。

果てして現か幻か。

魂の残量も後半戦。果たして彼はこれからも()()を保つことができるのだろうか?



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#24.5 やめとけ!やめとけ!

あいつは(趣味嗜好が人形一辺倒だから)付き合いが悪いんだ。



酒呑童子の受肉及びそれに伴う京都火災、特級呪詛師 夏油傑の出没。激動の一日からはや数週間、五条悟は高専上層部の会合に呼び出しを食らい、陰湿極まりない部屋で障子に囲まれることを余儀なくされていた。

 

酒呑童子と夏油傑が手を結んでいることを危惧し、一刻も早い対処をと急かす老害たちをどうどうどうと逆撫でしつつ、さてどう切り出したものかと顎に手をそえる。

わざわざ可愛い生徒たちの青春観測を中断して来てやった自分を半ばほっぽってくだらない責任の押し付けあいをし続ける会議に出席するより現場の残穢を辿ってみる方が余程建設的だ。

 

それでも五条悟がここに来たのはちょっとしたサプライズをいつもお世話になっている上層部の皆々様にお届けしたかったからなのだが────

 

『五条悟、一つ答えたまえ』

 

不安ばかりを募らせるのも疲れてきたのか、やいのやいのしていた障子の一枚が不意に語る。

 

「……できれば手短にお願いしますよ」

『東堂が酒呑童子に辿り着く前、既にヤツと戦っていた()()がいた。お前も見ているな?』

 

五条はほくそ笑んだ。なにせその言葉、彼にとっては渡りに船だったもので。

 

上層部は東堂葵が大江山で受肉した酒呑童子に黒閃をキメる以前、山の中に鬼を押しとどめた個人ないしは集団の存在を把握していた。

当日神便鬼毒の監視を受け持っていた呪術師の片割れを高専に搬送した『マガツイザナギ』なる存在とそれを使役していた少女。

同日に大江山に現れ、がしゃどくろのようなものと激戦を繰り広げた天を衝く巨大な人型。

 

一番間近でそれらを目視し、あるいは意思疎通を行ったと思われる東堂葵にはもちろん高専側から真っ先に聞き取り調査が行われたが……。

 

 

 

『失せろ。俺が愛しのハニーを売ると思うか?』

 

 

 

この期に及んでドルオタは一向に口を割らなかった。

高専も考えうる限りの手段は尽くしたが、心身共に鍛え抜かれた彼にとってその尽くは意味をなさない。やるだけ時間の無駄であることを悟った高専は勝ち誇った表情の東堂を尻目にある人物へ連絡をかける。

 

こうした経緯でお鉢が五条悟に回ってきたわけだ。

その()で何か見えなかったか、もしくはお前が知っていることを教えろ、と。

 

「えーと、マガツイザナギとその使役者、大江山の巨人、あと憲紀くんとメカ丸くんが会敵した霧を使う……仮に呪術使いとでも呼びますか」

 

一本二本三本四本、人差し指から小指までを順繰り広げる。最後の小指で障子の奥の人影は一様に首を傾げたが、「まあ最後まで聞いてくださいよ」と五条は続ける。

 

「実はさっき言ったやつね……全部一人でやってたんですよ」

『一人だと!?』

『そんな筈があるか!!』

 

そうでしょうそうでしょう。僕だって視て触れなかったらきっとあんたらと同じ感想だった。

五条は「それにさ、ホラ」と手の甲を薄明かりに晒して見せた。

そこには真一文字に小さな線。ほんの薄皮一枚程度の切り傷だった。

日常生活でも起こりうるかもしれない程度の、ほんの些細な傷跡。

 

────無下限術式を常時展開する特級呪術師 五条悟にそれが刻まれている、ということを除けば。

 

「ちょっと手違い勘違いあって図らずもそれと一戦交えることになっちゃいましてね。いやァ強かった強かった!何せ僕の身体に傷をつけた上、()()()()()()()()()()()()()()!」

 

老人たちは大いに動揺し、ニヤケ面のままの五条に詰問した。

五条は大江山事変の後、どうにか所在をつきとめてソレと意思疎通を図ったことを虚実織り交ぜて吹き込んでいく。

 

 

曰く、彼の術式は呪骸を創り、操るもの。生得術式一点特化型の模様であり、本人は呪骸に関連すること以外の一切ができず、術式以外は非術師同然である。

結界術や式神はおろか、単純な呪力の放出も彼単体ではできない。

しかしそれを引き換えにして文字通りに『魂』を込め、『命』を燃やして産み出された呪骸はいずれも強力無比な存在である。

術者の魂を使っているので当然と言えば当然だが、各々人間と遜色ない意志を持っている。その上、それぞれが別の術式を使用するのだ。

 

「しかも禪院──あ、今は『蘆屋』の姓を名乗ってましたっけ。あの婆さんと知り合いらしいんですよ、どうも」

 

「魂削ってるって言ってましたけど、どれだけ呪骸が創れるかは正直分からない。もしかするとコスパは中々良いのかも」

 

「恐らく呪骸だと思いますけど、結構な索敵範囲を持ってましたね、彼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────あぁ、そうだ。最後に一つ。彼は呪術高専、ひいては呪術界のことをあまりよく思っていません。扱いを間違えれば途端に牙を剥くでしょう」

 

だから。

一拍置いて、頭を下げた。

 

「この件は私に一任してください。()()()()()()の日にはいい報せができるよう、全力を尽くします」

 

あの五条が自分たちに頭を垂れたのに気を良くしたのか、それとも度重なる危機で心労が限界を迎えていたのか、五条悟の提案はトントン拍子で受け入れられた。

 

 

……彼らが五条悟の表情の意味を知るのは、もう少し先の話だ。

 

 




短期間に出すとあんまり長いの書けないねぇ。

エルデンリングのラスボスに状態異常全然効かなくてちいかわ蝿腐敗ブレス神秘マンの私は涙がで、出ますよ……。


5J
→「してェ……サプライズしてェ~~~~~……」

ご老人にあることないこと吹き込んで、交渉役として転生者くんのところに度々出張()していることになっている。実際のところほとんど遊びに行ってるだけなので休暇みたいなもの。
大丈夫ですって!()()()の日には吉報お知らせできますって!だから私に任せてくださいよ!


転生者くん
→『#23 おじぎをするのだ』と『#25 FROM BEYOND THE COSMOS AND BLUE』の間に五条からお話を聞いた(主に二つの高専の内情と五条悟の野望(後進育成))。
敗者なので後進育成には協力しますよと改めて約束。

どうやらこの時点で呪骸に関すること以外の興味・関心が薄れつつある模様。
(自分の命の価値が)わ わかんないッピ……


上層部さん
→朱い腐敗にまみれた蜜柑といえどさすがに今回は堪えた。
京都は焼けるし夏油は出るし、挙句意図せず特級呪物が受肉してトンズラ。
やること(事後処理)が……やること(事後処理)が多い……!!
実際やるのは下っ端たちだが、金も労力も無限ではない。
頼むから想定外の動きを見せないで欲しい。


おばあさん
→最序盤でミミッキュの素材やら天沼矛をくれた人。やはりヤバい!(周知の事実)
旧姓芦屋、親姓禪院。だけど今は芦屋を名乗ってる。


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#30 それでも。

祝福は呪いであり、呪いは祝福である。

汝、その血は祝福なりや?


※時系列は呪術廻戦0、乙骨が狗巻と任務に行く前辺り。
2017年7月頃です。



木漏れ日さえ届かない鬱蒼とした森を這う道路。久しく手入れが届いていないのか、方々に伸びる枝や窪んだコンクリートに溜まった泥水が数十秒もせずに視界に現れては消えていく。

補助監督はそれらを鬱陶しげに、しかし巧みなハンドルさばきで避けながら、呪術師三名と呪骸一匹を山の深奥へと運んでいく。

 

そうして程なくして薄汚れてしまったタイヤは目的地の前で足を止めた。

奥まった森のさらに深く、廃墟となって久しい暗い緑に包まれた大きな洋館だった。

 

「いかにも、って感じだな」

 

いち早くバックドアから転がり出たパンダじゃないパンダはすんすんと鼻を鳴らした。

汚れるのが嫌なのか、比較的乾いたアスファルトに両足を置いたせいで変な体勢を強いられている。

 

「……そうだね」

「しゃけ」

 

その後ろからは若干緊張した面持ちの乙骨憂太と心配ないさと言いたげに白い制服の背中を小突く狗巻棘が続く。

 

今回のチームアップで唯一の特級術師は少々クマのある目で森の洋館を眺める。

あまり実戦経験が豊富ではない乙骨でも呪霊がここを根城にしていてもおかしくないということはわかる。

しかし、何かおかしい。ヘンとしか言いようがない違和感を彼はまざまざと肌に感じていた。

 

「……あからさま過ぎねぇか?」

 

フィジカルギフテッドの感覚も何かを捉えたようだった。

最後に降車した禪院真希はトランクから薙刀を取り出しながら眉をひそめる。

 

乙骨憂太、狗巻棘、禪院真希、パンダの以上四名は本日この屋敷に巣食う呪いを祓う任務を請け負うことになった。

依頼者は何を隠そう我らがバカ目隠し(五条悟)

全員で訓練や座学をすることはあれど、実戦ではペアや他の呪術師と組むことが何かと多かったのだが、ここに来て一年生の総力でもって事に当たるとはこの場の誰も思っていなかった。

 

依頼者によれば、この陰鬱な雰囲気漂う洋館には『明確な』意思のある呪霊が潜伏しているとのこと。

 

『狡猾なタイプとの実戦経験は必ず今後の役に立つと思うからね、みんなで頑張って!』

 

最後にそう言い残して、担任は風のように消えてしまった。

……風のように消えるのはいつものことなのだが。

 

そうして意図が分からないまま連れてこられた場所がここだ。

通常呪いは多くの人間がいる場所ほどその質が磨かれる。

もちろん肝を試したいパンピーがよく足を運ぶと思われる心霊スポットなる場所も負の感情──呪いが滞留するわけだが、ここは市街地からは遠く離れており、主だった公共交通機関もない。雰囲気があるとはいえ人の気が無さすぎる。

 

人が感情を差し向けることさえなく、忘れ去られ風化を待つだけの洋館に、このパーティで挑むべき呪霊がいると真希は思えなかった。

 

そう、じゃんけんで負けた憂太がへっぴり腰でその錆びた門を開くまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軋んだ門が開く、錆び付いていた割に随分と呆気なく。まるで歓迎するかのように嬉々として。

門から続くのは苔むした石畳。石の流れは入口と洋館のちょうど中央でくるりととぐろを巻き、そこには大きな噴水が鎮座している。

 

今もなお過去の裕福さを顕示する装飾設備。

そのフチにポツリと、人間大の精巧な人形が腰かけるようにして放置されていた。

 

「おいパンダ、感情のある呪骸はお前だけって話じゃなかったか?」

「俺はまさみちに作られたパンダだ。自然発生した呪骸の方は管轄外だな」

 

ため息と共に「あっそう」と真希は零す。

 

「おい、なに余所見してんだ」

「あっいや、そういう訳じゃ」

 

視線を暫定目標の呪骸に戻した乙骨はぎこちなく閉まっていた刀を己の手に握らせる。

 

「でも、今までのと気配が違──」

「ええ、そうです。私は戦うために作られたわけではありませんから」

 

悪寒。

冷えきった風が吹いた。

 

「はじめまして、呪術師様」

 

厳かに動いた唇が言葉を紡いだ。

 

「私は人形。ここで、あなた方の到着を待っていました」

 

ゆっくりと立ち上がり、石畳を歩む人形の姿は徐々にそれに良く似た──されど違う何かへと変貌していく。

喪服じみた服は狩りの装束へ、球体関節の指は白磁色の肌に覆われていく。

 

()()()、呪いを祓うのだろう?」

 

いつの間にか現れた双刃を手に、彼女は立ち塞がる。

 

「であれば、力を示せ。この私に」

 

大いなる壁として、乗り越えるべき障害として。

 

「──恐ろしい死を迎えたくなければ、死力を尽くして挑むといい」

 




瞬間瞬間を必死に生きてたらもうこんな時期になっていました。
まさか6ヶ月ぶりの更新になるとは……。


人形
→マリカじゃないよ、マリアだよ。
本来の出番はもう少し後だったはずが前倒しになってエントリー。
理由は人形ちゃんのアンケートしてからもう一年経過しそうでビビり散らかしたからです。
お前の筆って遅すぎないか?(自責)

乙骨
→まだ純愛砲撃ってない時代。
本誌で見る彼がお強すぎて書いてて頭バグる。

狗巻くん
→しゃけしゃけ。
多分次話でもっと活躍する。
本誌の出番はいつですか???

フィジカルギフテッド(弱)
→呪術廻戦0時代なのでまだまだ強くなれる余地がある。
最近本誌とかで見る真希さんはだいたいゴリラゴリラゴリラしてるので書いてる時に頭がバグる。

パンダ
→パンダ。

転生者くん
→出番なし。
そろそろ名前を確定させたい。


長らくお待たせした挙句アホほど短いものしかお出しできなくて申し訳なさでパーメットスコア4。

最近は水星の魔女やらUCやらOOを見てました。
スパロボ30もやったせいでほとんど確定路線だった巨大ロボ系呪骸枠をどうするかまた悩み始めてしまってる。


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#29.5 夢・想

ヒャア がまんできねぇ 更新だ!

鉄は熱いうちに打とう。
うおおおお(燃え尽き)

転生者くんの名前についてのアンケを下に置いておきました。
よろしくね。



特級、二級、四級、呪骸。これらの等級の術師が各一人ずつのパーティが真価を引き出せるような相手を用意してくれ。

これが五条先生からのオーダーだった。

ちなみに先生呼びにしているのも彼の命令である。

 

「真価ってなに?」

「一皮剥けるのに相応しい相手ってことさ。ほら、よくバトル漫画とかでピンチになって覚醒!みたいなことあるでしょ」

「現実はそう上手くいかない」

「ところがどっこい火事場の馬鹿力に近いようなものが呪術にもあるんだね。僕のブレイクスルーもその時からだし」

 

意外だった。

生まれた時から最強かと思っていたが、死にかけたこともあったらしい。

それについて聞こうとしたら物凄い渋い顔をして「アレはもう過ぎた話」とそっぽを向かれてしまった。

 

「そうだねぇ」

 

今更だがここは超戦艦内部のドック、のようなところである。

今のところ格納、というか鎮座しているのは20mサイズになったキングプロテアとキラーマジンガだけなのだが。

 

「とりあえず君はダメ」

「ええー!なんでですか!私強いですよ!」

「うーん強いのはいいんだけど」

 

ちょっと強すぎかなぁ、と目線を外す。

むくれたプロテアをよそに近づいたのは整備を目的としたロボットアームにボディを取り囲まれたキラーマジンガだ。

 

「イーオナちゃん、何してんの?」

「回答、機体番号05 識別名称『キラーマジンガ』をナノマテリアルによる装甲強化試行中」

 

人形たちは特に何もすることがなければ各々自由にしているのだが、イオナにはちょっとした頼み事をしていた。それがこれ、ナノマテリアルによる人形の強化だ。

 

ナノマテリアルとは、『蒼き鋼のアルペジオ』に登場する分子構造をシミュレーションすることで戦艦から人体まで、あらゆるものを再現可能な不思議物質である。

これらは主に彼女たちのメンタルモデル(身体)や船体を構成する基本的なものとして作中では扱われている。

 

今回はそれを用いて比較的メカメカしいキラーマジンガを改修できないかという実験である。

が、声色が尻すぼみになっているところを聞くと結果はあまり良くなさそうだ。

 

「ごめんなさい、上手くいかなかった。サトル、何か方法はない?」

「……僕に聞くそれ?」

「機械工学や構造学に明るくないのは承知してる。私が聞いているのは、これ」

 

イオナは自分の両目を指で示す。

そういえば五条先生は特別な眼を持っていたとか言っていたような。

 

「ああ確かに。僕の六眼は呪力の細かい流れを読み取れるけど。それで、何を視ればいいのかな?」

「もう一度やってみる、見てて」

 

イオナはマジンガに向き直ると先ほどまでやっていただろう一連の作業を実行する。

複数のロボットアームがマジンガを固定すると挟み込む部分の中央から銀色の粒子が塗布される。

しかし直ぐに砂のようになって床へと落ちてしまった。

 

「外を覆う程度だったら大丈夫だけど中に干渉しようとすると弾かれるみたいだね。マジンガくん本体に吸着させるのは多分無理」

「むう」

「でも、武器に該当する部分はその制限から外れてる。ってこれ君がかけてる『縛り』じゃないの?」

「知らん……何それ……怖……」

 

しばし天井を仰いだ後に五条先生から質問攻めにあった。

確かにちょうどいい復習の機会だ。この辺りで現在判明している自分の術式の詳細について振り返っていこう。

 


 

呪骸創造術式(仮)

 

①術者の魂を媒介とし、強力な呪骸を作成できる。魂は分割式で人形に割り振られ、合計12体の呪骸が作成可能と思われる。

②封じられた魂はそのまま呪骸の(コア)となり、自力での呪力生成を始める。加えて、元々一つだった魂を通して術者の呪力を供給できる。

③魂を割り振るほど身体や存在──命が不安定となる。魂が欠損している状態はもちろんイレギュラー。現在五体満足なのが逆におかしいらしい(カリオストロ談)

④呪骸作成時に呪物を封入したりしなかったりできるが、性能はオリジナルとした存在に準拠する。

⑤この術式と拡張術式を除いた呪力の放出、結界術、式神を扱うことができない。恐らく天与呪縛だと思われる。

⑥呪骸を最後まで作成した場合の術者の安全は保証できない。

 

 

拡張術式『同調(ユニゾン)

 

①自身と呪骸を同一の存在と見なす術式解釈の広がりによって新たに獲得した。

②双方の意識や視界、動作をシンクロさせ、術者による呪骸のマニュアル操作を可能とする。

 


 

「君の呪骸はオリジナルと定義したものから更に手を加えることは難しいっぽい。武器や装備ならともかく、呪骸の内部は互いに不干渉の領域だ。出たり入ったりはできない」

 

だけど、と前置きしてイタズラっぽく笑った。

 

「術者というフィルターを通してなら、呪骸同士か、もしくは君自身から何かしらの共有やアクションはできるかもしれないね。同調(アレ)がいけるなら、コレもまあいけるっしょ」

「マスター、早速試す?」

「今日のところは大丈夫。もうすぐ目的地にも着いちゃうしね」

「おっと、結構脱線しちゃったな。それで、今回適役の人形ちゃんは──」

 

キョロキョロと他の人形たちを吟味する五条先生を眺めているとトントンと肩が叩かれる。

カリオストロかな?と振り返ればそこには自分の身長を優に超えた──()()()()()()()()()()()()()()()()()()がこちらを見下ろしていた。

 

「おはようございます、マスター様。どうかそのお役目、私に預けてみてはくださいませんか?」

「なん、で……?君は、まだ」

「まだ?昨日の夜更け、私の最後の仕上げをして、起こしてくださいましたが」

 

そんな記憶はない。

昨日は疲れが溜まっていたからかすぐに眠った。

確かに創作意欲を抑えきれず人形の素体は時間をかけて作ってはいたが、あえて画竜点睛を欠いた状態で止めていたはずだ。

 

「イオナ。昨日の夜、俺は何してた?」

「彼女を作っていた。うわ言を繰り返しながら」

「何を言っていた?」

「『術式、期限、作成、実行』って、ずっと」

 




水星の魔女1クールが終わった時に当SSでメカ丸が究極メカ丸 試作0号に搭乗していなかった時はエアリアルが作成される確率が爆上がりするかもしれない。


転生者くん
→知らん……何それ……怖……(人形)
最終工程を無意識に終わらせて呪骸を増やしてしまった。
この後カリオストロに絞られた。

人形ちゃん
→知らぬ間に完成してしまった。
ホラーかな?(コズミック)ホラーか。
この後五条先生の診断を経て、若人たちの壁となる。

術式
→今回一通り纏めたが、まだ何か不明な点があるようだ。
深夜に術者の意識外で勝手に動いた。怖いね。


下のアンケの名前、元ネタはもちろんありますが、その名前になったからといって本編にその手の影響が出るわけじゃないです(今のところは)
名前の元ネタが知りたければ「からくり (任意の苗字)」で検索すればすぐに分かります。
……果心だけはちょいと違いますがまあ誤差です誤差。


※追記
果心七翔(かしん ななと)です。
「と」を入れそびれました。


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