【習作】ぼくの将来設計はまちがってないハズ (ネギトロメイデン)
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二年生の幕開け

二次創作を書くのも投稿するのも何もかもが初挑戦です。


 『高校一年を振り返って思うこと』

 2年F組、禅定寺弾正《ぜんじょうじだんじょう》

 高校一年生で私は勉学と勤労に力を入れました。何故かというと、ぼくは将来いい大学に進んでそこで好成績を収め、一流の企業に就職して出世街道を歩みたいからです。そのためには高校の成績を良くする必要があり、また推薦を貰うためにも成績は重要です。そうした考えのもと僕は一年間を過ごし、無事に二年生に進級することが出来ました。なので勉学に力を入れることは良いことだと思います。

 また大学に進学すると、試験のためにサークルに入ることは必須です。そこで時間とお金を取られることを考えると今のうちにお金を作っておけば進学後も余裕を持って勉強することができます。だから、お金を稼ぐことも自分に必要なことです。

 両親は今の成績を維持できるなら高校二年生は好きに過ごしていいと言ってくれています。ぼく自身、三年生に進級したらアルバイトをやめて勉学一本に絞ろうと思っています。なのでそれまでは将来のために苦しくとも努力を続けていこうと思っています。読んでいただきありがとうございました。

 ‐終‐

 

「禅定寺、私は高校生活で印象に残った思い出について書けといったはずだが。これはどういうつもりだ?」

 放課後の職員室、運動部がグラウンドを所狭しと走り回り元気な雄たけびを上げる中

 ぼく、禅定寺弾正は担任の先生に作文のことでお叱りを受けていた。放課後はさっさと家に帰って予習をしたいぼくにとって午後5時を回っても家に帰れないというのはなかなかの苦痛だ。

「先生、印象に残っていることがまさにそれだったのでそう書いたんですよ」

 バイトと勉強以外でしてたことといえば読書くらいだしね。今のクラスでも暇なときは本を読んで出るし。そういえばぼくのほかにも休み時間に本読んでる人がいたな、いつもニヤニヤしててキモかったけど。

「印象に残ったこととうのはつまりこの総武高校での思い出ということだ。たとえば学校行事、体育祭文化祭マラソン大会クラスマッチとかあっただろう」

 

 ありましたね、そんなの。文化祭は出てませんけど。たしか……体育祭で走ってマラソン大会でも走ってクラスマッチもやっぱり走りました。作文の内容、走ったことについて書けば呼び出されなかったのかな?まぁ出会って間もない相手だし、知らなくて当たり前か。

 

「先生、ぼくは文化祭には参加していません。先ほど挙げられたほかの行事ではひたすら走ってました」

「そうだったな。だが君は運動系の行事では活躍していたじゃないか、体育祭ではリレーで最終走者を務めていたし、マラソン大会では運動部員たちを抜き去って一位だったと聞いてるが」

 

  知られてたのか。ぼくは、思わず先生の目を見てしまう。HRの後に呼び出しを受けた時は何も思わなかったが、情の深い女性なのかもしれない。なんで独身なんだろう、世界の悪意が原因なのかな?

 

「何か失礼なことを考えているな?」

「いえ、ぜんぜんまったく、はい」

 

 開かれた手がぼくの顔面をつかむ直前で止まる。黙ってたらこのままアイアンクローされてたのだろうか。先生は笑顔だが目が笑っていない。これも世界ってやつが悪いんだ。一応先生にいい出会いが訪れるよう祈っときますね。

 

 ぼくの方から言いたいことは特にない。話が無いならもう帰らせて欲しい。と思った矢先、

 

 「禅定寺、君はその―――恋人や友達はいるのか?」

 

 急に真顔になってそう聞かれた。凛々しいお顔だ。友達も恋人もいらないけど将来的に結婚はしたい、でもそうなると恋人は必要か。こちらも合わせて顔を作って、答える。

 

「恋人は―――自立してから作ろうかと思ってます」

 

 ハァ、とため息をつかれてしまった。ぼくはそんなに外れたことを言ってしまったのだろうか。人それぞれ考えが違うのは当然だから合わないことは気にしないけど、呆れられるのは傷つく。

 先生は椅子にもたれて、天井を見上げながらうんうんとうなっている。

「連れて行くべきか―――しかし彼の場合―――」

 どうでもいい話だけど、上を向いたことで胸が強調されてエロイ。やばいな、こういう時に勃●しちゃうと相当恥ずかしいぞ。お叱りを受けて興奮したと思われたら最悪だ。女性教師陣からの風当たりが強くなること間違いなし。ここは心を無にすることで乗り切らないと。むぅ……

 

「―――禅定寺、おい禅定寺」

 

「はいっ!」

 

 先生は怪訝そうな顔で僕を見つめている。失敗した、心を無にし過ぎていた。でもおかげで下のほうは収まっていた。これなら堂々と胸を張って話せる。 

 

「とりあえずだ、レポートは書き直し」

「はい!わかりました直します」

「よし。ところで禅定寺、これから時間はあるかね?」

「え?はい、ありますよ。何故ですか?」

「紹介したい場所がある。来るならレポートの件は完全に手打ちにしよう」

「わかりました、お願いします」

 言って頭を下げる。

 顔を上げると先生のドヤ顔がそこにあった。チョロいとか思われてるのかな?

 

 先生は椅子から立ち上がりずかずかと進んでいく。ぼくは後1m位の位置で付いていく。

 職員室の扉を抜けて廊下に出たところで一人の男と目が合った。とりあえず会釈をしたが、男は僕を睨み

「―ッ」

 と舌打ち?をして顔を逸らした。この人、失礼だ

「比企谷~、その辺で時間を潰してろと言ったろう」

「してましたよ、さっきまで。遅かったんで本読んじまったんすよ」

 気だるさを全身から滲ませた男が手にした本をひらひらと動かしてそう返す。

「それはすまなかった。この禅定寺の指導が予想外に長引いてしまってな、これから君を連れて行く予定だったところに彼も同行することになった。ほら、自己紹介しろ」

 そうした態度を気にした様子もなく、先生は気さくに答えた。自己紹介?この人と?

 気乗りしない。彼―――比企谷君はぬぼーっとした目でこちらを見たと思ったら逸らしたり、見たりを繰り返している。腫れ物に触るような態度とはこういうものだろうか。まぁいいや、先生に言われたことは早く済まそう。

「初めまして、二年F組の禅定寺弾正です」

「――――比企谷八幡、です」

 ヒキガヤ――――どんな字を書くのだろうか。読みだけ聞くといじりやすい苗字だな、ぼくはやらないけど。満足げに頷いている。自己紹介しただけなんだけどね。

「自己紹介も済んだことだし君たち、付いてきたまえ」

 ピンと背筋を伸ばしてまたずかずかと歩き始めた。ぼくとヒキガヤ君もそれに続く。ほかに人がいないせいか、二人横に並んで歩いているが会話は無い。三人分の足音だけが廊下に響いていた。

 

 やがてたどり着いた場所は、何の変哲もない教室だった。クラス名や教室名が書かれているはずのプレートは真っ白。ここに何があるというんだろう。見てはいないが、黙っているのでヒキガヤ君も同じことを思っていそうだ。先生は扉に手をかけ、からりと開けた。

 

 その教室には無造作に積み上げられた椅子と机、そして女が一人いた。女は窓から差す光を浴びながら本を読んでいた。その姿は可憐で―――ぼくは見とれてしまっていた。結婚するならこういう人がいいな、老いれば皆同じかもしれないけど。

 

 彼女はぼくたち三人に気くと、本に栞を挟んで顔を上げた。やっぱり整っているなぁ、クラスの女たちと同じ生き物なの?

 彼女がぼくを見たのは一瞬で、平塚先生に目を移すとノックをしろだのしないだのと話し出した。暇になったので隣のヒキガヤ君の方を向く。彼はそれに気づかず、彼女に釘付けになっていた。

 

「それで、そっちのぬぼーっとした二人組は?」

 

 彼女の冷めた瞳がぼくたちを捉えていた。ぬぼーって人の状態を表す言葉だっけ?少し傷ついたよ。ヒキガヤ君も同じなようで目がわずかに下を向き、口をもそもそ動かている。

 

「ああ、入部希望者だよ。右から禅定寺と比企谷だ」

 

 先生に促されてどうも―と会釈をしたら、ヒキガヤ君とはもってしまった。思わず彼の方を見たら、向こうもぼくを見ていて、すぐ前を向きなおした。先生はドヤ顔でぼくとヒキガヤ君を眺めている。件の彼女は目をすっと細め、冷たくため息をついた。引かれちゃったか。

 

「二年F組比企谷八幡です」

「同じく、禅定寺弾正です。先生、入部というのは?」

 

 ここは何部で、ヒキガヤ君はともかくぼくが入部希望者になっているのは何故なのか。

 

「比企谷、君にはさっきの件のペナルティとしてここでの部活動を命じる。禅定寺、先のレポートで推薦を貰いたいと言っていたな。部活動に参加してくれれば、それを理由に君を推してやれるぞ」

 

 推薦してやるから部活動に入れ、ということらしい。ヒキガヤ君はペナルティだそうだが一体何をやったのか。

 

「そういうわけで、この二人を置いてやってくれるか?彼らの更生が私の依頼だ」

 

 先生は彼女に向き直って告げる。更生されるほど酷かったのかな、ぼくのレポート。

 

「更生ですか、それなら先生が殴る蹴るして行うのがいいと思いますが」

 

 見かけに反して怖いことを言う女だった。先生が体罰は禁じられてるから出来ない、と言うと彼女は服の襟元を掻き合わせてぼくらを交互に睨み付ける。何なの?

 

「お断りします。そこの背の高い方はさっきからずっと私を値踏みしていますし、隣の彼は下心に満ちた下卑た目が不快です。はっきり言って身の危険を感じます」

 

 そう言って睨む目がより険しくなる。

 

「安心したまえ、この二人は理由こそ違えどリスクリターンの計算に関してはしっかりしている。刑事罰に問われるような真似をして身を滅ぼすことを何より避けたがる。彼らのそこだけは信用していい」

「何一つ褒められてねぇ……。違うでしょう?もっとこう、常識的な判断ができるとか、そんな感じで――」

 

 ヒキガヤ君がぼくの意思を代弁してくれた。先生のいうことも事実だけど、言い方ってもんがね。しかし彼女はその説明で納得してしまったようで、ヒキガヤ君はそのことに対してツッコミを入れている。芸人になれるんじゃないか?

 

「まぁ、先生からの依頼を無碍にはできませんし……。承りました」

 

彼女が心底から嫌だという顔でそう言うと、先生は満足げに微笑み、任せたとだけ言って教室を出て行った。こうしてひどいことをいう女とぬぼーっとした男二人だけが教室に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 




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顔合わせとこれからの話

見てくれる人がいるのが純粋にうれしいです。
筆が折れ、ネタが尽きるまでは頑張ります。
ちなみに主人公弾正の精神年齢は中学生と老人を足して2で割ったようなイメージです。


 カチカチカチカチと時計の秒針の音だけが響く夕暮れの教室の中、ぼくもヒキガヤ君も彼女も無言を貫いていた。

 一人でいるのは苦じゃないけれど立ちっぱなしというのは足が辛い。椅子に座りたいが机と椅子は彼女の後ろにあるので、一言聞くべきか無視して取りに行くべきか迷っていると、隣で”がるるるるー”という唸り声が聞こえた。どこの野良犬だと思って見たらヒキガヤ君だった。

 

「そんなところで気持ち悪い唸り声をあげてないで座ったら?隣のあなたも」

 

 侮蔑たっぷりの表情でため息をつきながら彼女はそう言った。ヒキガヤ君はひるんで言葉が出せていない。ぼくは”どうも”とだけ告げて椅子を二つ手に取り、うち一つをヒキガヤ君に渡した。

 

「……ども」

 

 嫌そうな顔でそう言われた。あれー?おかしいなー。いつもなら笑顔で受け入れてもらえるのに。苛立ちを呑み込んでぼくも椅子に座る。彼女はというとぼくらには一切関心を示さず、手にした文庫本を読んでいる。先生はぼくたちをここに連れてきて、部活動をしろと言った。ということはこの教室はそのための部室、あるいは何かしら関係のある場所ということになる。無言で本を読み続ける彼女の様子からして文芸部か?児童文学研究部とかかも知れないが。ヒキガヤ君に視線を移すと彼もまた考え込んでいるようで、じっと彼女を見つめている。ぼくが見ていることには気づかないほど熱心に彼女を見ている。

 

「ここって文芸部なんですか?」

 

 視線を彼女へと戻して聞いてみる。先生がやれと言ったのだから別に何部でも構わないけれど活動内容が分からないのではどうしようもないからね。

 

「なぜそう思ったのかしら?」

 

 意外――といった顔でそう問い返してきた。

 

「質問に質問で返すなぁ……いや何でもないです。本を読んでいたので、はい」

 

 重苦しい空気を変えたくておどけてみたら氷のような視線が射抜いてきたのでやめた。この反応からして文芸部というのも当たっていない気がする。様子を見る限りヒキガヤ君も文芸部だと思っていたようだ。

 

 彼女はしばらく考え込むような仕草をしてから

 

「はずれ」

 

 とすごく馬鹿にしたような笑いまで付けてそう言った。なかなかにイラつかせてくれる女だった。

 

「それじゃ何部なんだよ?」

 

 そう問うヒキガヤ君の声にも苛立ちが混じっていた。やっぱり文芸部だと思ってたんだね。

 では、ヒントを上げようかしら?」

 

 また馬鹿にしたような顔でそう言われた。

 

「いや、いいよ。ぼくの負けでいいからさ、何する部かだけ教えてよ」

 

 もう少しでイライラが髪の毛を突き抜けそうだったので彼女の提案を切り捨てた。経験談だけどこういう相手はまともに取り合うほど喜ばせるだけだ。こちらの苛立ちが少しは伝わるように、表情もしっかり作って続ける。

 

「先生に言われたからこうして来てるんですよ?ぼくたちは」

 

 彼女は少しだけ驚いたみたいだった。がすぐに持ち直し、ぼくをキッと睨み付け

 

「奉仕部よ」

 とだけ教えてくれた。ほうしぶ―――奉仕部であってるのかな?

 

「ほうしぶ?つまり何する部活なんだ?ボランティアでもすんのかよ」

 

 タイミングを待っていたのか、間髪入れずヒキガヤ君が彼女に問いかける。何というか、塾の先生に質問する時を思い出すなぁ。他校の生徒が多いから先に来た方の話が終わるまで待つしかないんだよね。

 

「平塚先生曰く、優れた人間には憐れな者を救う義務がある、のだそうよ」

 

「ノブレス・オブリュージュってやつですね」

 

「……そうよ。頼まれた以上は責任を果たします。あなたたちの矯正は引き受けたわ、感謝なさい」

 

 出鼻を挫いちゃってごめんね~(笑)、にしてもぼくもヒキガヤ君も彼女に強く当たってるのに一歩も引かないな。彼女の自業自得とはいえ。ノブレス・オブリュージュか、腕組みしこちらを見据える彼女は確かに貴族っぽいな。

 ん?ちょっとまてよ。憐れってそれぼくたちのこと?いやヒキガヤ君のことは知らないけど、ぼくのどこが憐れなんだ?

 

「君って随分と不躾な女なんだね、幼稚園からやり直せば?」

「こんのアマ…」

 

 ぼくとヒキガヤ君は同時に口を開いていた。ついで互いを見る。ぼくはもう言いたいことはいったので”どうぞ”っと首を振って彼に示した。彼が何か言いたそうにしてから彼女に向き直ったとき、

 

「雪ノ下、邪魔するぞ」

「ノックを……」

「悪い悪い、まぁ気にせず続けてくれ。様子を見に来ただけなんでな」

 

 先生は鷹揚に笑っているが、首筋に汗が浮かんでいるのが見える。出ていくふりをして実は覗いていたとか?彼女……雪ノ下さんが危ないと思ったのかもしれない。口喧嘩で彼女は負けるつもりなど無かっただろうが、女一人に対して男が二人だしね。心配になるのは当然か。

 

「出待ちしてたんですか?」

「ちっ違うわ馬鹿者、様子を見に来ただけだと言ったろう」

 否定する先生の姿はやはり怪しく、ぼくは確信が持てた。

 

「いくら頭に来たって女に殴りかかるようなことはしませんよ。運が良かったね雪ノ下さん」

「発言が矛盾しまくっているんだが……」

 先生は額に手を当ててため息を付いた。もちろん冗談ですよ?

「先生、俺を更生ってなんですか?あとここってなんなんですか?」

「雪ノ下から説明は無かったかね?端的に言ってしまえば、自己変革を促し悩みを解決することだ。精神と時の部屋、あるいは少女革命ウテナと言ったほうが伝わるかな?」

「先生、最初のやつしかわかりません」

「ほとんどの高校生には伝わりませんよ、それ。あと年齢がバレ」

「何か言ったか?」

「……なんでもないっす」

 冷ややかな視線に貫かれて、ヒキガヤ君は押し黙った。

「先生、ぼくのレポートって更生されなきゃいけないほど酷いものだったんですか?」

 更生だの変革だの言われちゃってるしね。思いの丈を綴っただけにこれはショックだ。そうだと言われたら粛として受け入れるつもりではいるけれど。

「そうっすよ、なんで更生なんか……そんなもの求めてないんすけど」

 不満があるのは彼も同じなようだ。先生は首を傾げた。

「何を言っているの?あなたたちは変わらないと社会的にまずいレベルよ」

「君もそれに当てはまるとぼくは思いますが」

「なんですって?」

 ものすごい正論をいうような顔でぼくら二人を罵倒する彼女に思わずそう返してしまった。冷気をまとった視線の中に怒りの炎が垣間見えて迫力が増している。

「禅定寺、君はなかなかに負けず嫌いな性分のようだな。雪ノ下、君ももう少し言葉を選びなさい」

 先生はやれやれと肩をすくめた。負けず嫌いねぇ……。

「とにかく、ここに連れてこられた時点で少しは感じないのかしら?自身の人間性について、変わるべきだとは思わないの?向上心が皆無なのかしら?」

 うん。ちっとも言動に変化が無いや。ここは敢えて口を開かず表情だけで応じよう。雪ノ下さんはしばらくぼくと睨み合い――ヒキガヤ君の方を見た。

「他人に俺の『自分』を語られるのが不快だってんだよ。人に言われたくらいで変わるようなもん『自分』っていわねぇだろ、そもそも自己というのはだな――」

「自分を客観視できてないだけでしょう」

 偉大な心理学者のようなセリフをヒキガヤ君が続けようとしたところを雪ノ下さんはバッサリと切り捨てた。

「長くなるのなら帰ってもよろしいですか?」

「駄目に決まっているだろう禅定寺。比企谷と雪ノ下も落ち着きたまえ」

 空気を読まないぼくの言葉をしっかりと拾った上で二人の仲裁もこなす。さすがです、先生。

「禅定寺はともかく、君たち二人がの主張が衝突しているのはわかった。いいぞ、私はこういう少年漫画のような展開が大好きなんだ」

「そうですか」

「何言ってんすか?」

「下らない」

「むぐっ……オホン、こうしよう。これから私が君らのもとに悩める子羊を導く、彼らを君たちなりに救ってみたまえ。そしてお互いの正しさを証明するのだ。どちらが人に奉仕できるか!?ガンダムファイ――」

「言わせませんよ」

 さっと手を伸ばして先生の口を塞いだ。Gガンは世代じゃないからね。

「うひゃっ!?」

 思わず手を放してしまった。先生がぼくの手を思い切り舐め回したのだ、淑女のすることじゃないよ……。

「禅定寺、君女性の顔に無遠慮に手を伸ばすのはやめたまえ」

「ならその手を舐め回すのもやめてくださいよ」

 それを聞いて二人はうへぇ……と顔を歪めた。そりゃ普通はドン引きだよね。先生は羞恥で赤く染まった顔で咳払いをし、

「とにかく!自らの正義を証明するために戦いたまえ!君たちに拒否権はない」

「横暴すぎる……」

 そういいながらもヒキガヤ君に焦りは見られない。勝負なんて別に負けてもいいやとか考えてるんだろうな。

「先生、それ僕は関係ないですよね?」

「何を言うんだ、君も参加するに決まっているだろう。何のために連れてきたと思っているんだ?」

「ぼくは二人の主張にぶつけるようなものありませんよ」

「かもしれないな。が、心情的にはどっちよりだね?」

「心情的にはですか……」

 言うとほぼ同時にヒキガヤ君と雪ノ下さんがぼくの方を振り返った。今まで二人だけの世界にいたのに切り替えの早いことだよ。こういう時女子の味方する人って大抵あとで男子からも女子からも孤立するんだよね、よし

「心情的には、ヒキガヤ君よりですかね。髪の毛一本分くらいですけど」

 雪ノ下さんの差すような視線を受けて、つい付け加えてしまった。

「よし!勝負の図式はこうだ、雪ノ下VS奉仕部男子連合軍。一対二というのは卑怯に感じるかもしれんが、雪ノ下と男連中とではコーディネイターとナチュラルくらいには戦力差があるから十分だろう」

 その例えだと生まれた時から勝負がついてるってことになりませんか?そんなつもりは無いんでしょうけど。

「死力を尽くした勝負をしてもらうのだから、当然メリットも用意しよう。勝った方が負けた方に何でも命令できるというのはどうだ?」

「なんでもっ!?」

 ヒキガヤ君……。雪ノ下さんが凄い目になっちゃったよ?ぼくも命令したいことはあるけどね?泣いて謝らせるとかどうかな。

「お断りします。特にこの男が相手だと貞操の危険を感じるのでお断りします」

「だってさヒキガヤ君」

「だってさじゃねぇよっ!?いや男子高校生が卑猥なことばっかり考えてるとか偏見だって!つーかお前こっち側だろうが!」

 そうだったね、いやもう解散しない?ぼくは言われてないし。

「さしもの雪ノ下と言えども血気盛んな男子二人を相手にしては怖気づくか……やはり勝つ自信がないのかね?」

 意地の悪い笑顔で雪ノ下さんを煽る先生。おい、やめろアラサー。雪ノ下さんすごいむっとしてるから!間違いなく乗ってきちゃうから!

「……いいでしょう。挑発に乗るのは癪ですけど、受けて立ちます。その男たちの処分もついにやって差し上げましょう」

「決まりだな」

「いや決まりだなって、ヒキガヤ君は顔を見ればやる気なのがわかりますが、僕は?」

「禅定寺、確か君自分の信条についてやると決めたら全力と書いていたな。まさかここまで来て”ぼく関係ありません”なんてのが通用すると思っているのかね」

「ものすごい横暴ですね……」

「うむ。教師をやっていて良かったと思うことの一つだな」

「職権乱用ですよ!?」

 ハハハと鷹揚に笑って僕の言葉を先生は受け流した。

「わかりましたよ、やりますよ。ただしぼくがぎゃふんと言わせるのは雪ノ下さんじゃなく、先生ですよ!」

「ほう……そう来たか。楽しくなってきたじゃないか、やはり勝負というのは見ているだけじゃつまらないからな。勝負の裁定は私の独断で下すから、あまり意識せず……適当に適切に頑張りたまえ」

 そう言い残して、先生は颯爽と去って行った。残されたのはニヤケ面が戻っていないヒキガヤ君と、不機嫌そうな雪ノ下さんと、ぼく。やがてチャイムが鳴り雪ノ下さんはぼく達に何の言葉も掛けずに本を片付けて教室を出て行った。男二人は微妙な顔を見合わせて、やっぱり何も喋らなかった。

 明日から面倒なことになりそうだなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の弾正(だんじょう)は子供の面が強く出てました。そのうち老成した部分も
出てくると思います、たぶん。


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