突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが? (内藤悠月)
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ガチャ出現。

 朝、目を覚ますと、私の目覚めを出迎えてくれたのはガチャだった。

 スーパーやコンビニなどに置かれているあの二段重ねのやつだ。白い筐体に大きく膨らみカプセルを保持する部分。そして出てきたカプセルを受ける皿のあるあのタイプのマシンだ。

 ディスプレイには何も貼られておらず、無闇矢鱈に大量の黒いカプセルが入っているのが見て取れる。

 そんな筐体が部屋の真ん中に鎮座している。

 

 私は兄がこれを悪戯としてここにおいたのかと思ったが、それは違うらしい。

 なぜならこの筐体、重すぎる。

 動かそうとしてもピクリとも動かないのだ。

 まるで床に張り付いているのか、それともその場に固定されているかのごとく動かない。

 全体重をかけて少しでもずらそうとするが、それでも動かない。傾きすらしない。

 それどころか手にかけた部分が凹みすらしないのだ。

 動かすことを早々に諦め、部屋から出る。

 朝飯を食べてから考えよう。

 

 

 

 朝食を済ませ、ガチャと向き合う。

 その際に両親に筐体のことを聞いてみたのだが、全く心当たりがないと答えられたあげく、筐体を見せてもまるでなにもないかのような反応を返す。

 筐体のことを認識していないようだ。

 

 これは私にだけ見える幻覚のようなものか?

 

 私はそこではたと思いつく。ガチャなんだから回してみれば良いんじゃないかと。

 財布を引き出しから取り出し、筐体に向き合う。

 お金を投入しようとして新たな事実に気がつく。

 

 1回800円。しかも上も下も同じ値段だ。

 

 高い。

 なんだその値段は。本当にガチャかこれ。

 なにか別の排出機じゃないか。

 どこかの事務所ではこのタイプの筐体をログインボーナスと称して出社確認に使うと聞いたことがあるが、それの同類ではないのか。

 わけの分からなさに混乱を深める。

 

 なんで1回800円のガチャ筐体が部屋にあるんだよ!

 

 脳内で何度とも繰り返したツッコミがうっかり溢れる。

 

 これ以上ツッコミどころを見つけないうちにささっとお金を投入。手持ちの小銭を全部持っていかれた。

 なんでこんな訳のわからないものに金溶かしてるんだろうという虚無感に心が支配されそうになった。

 

 ガチャガチャ……と音を立てながらもなめらかに回るハンドル。

 排出されたカプセルは「SR」と書かれた白いカプセルだった。

 

 色が! 違う! それにその記号は別のガチャだろうが!

 

 些細な挙動から不条理を放つこの機械、壊してやろうかという気持ちにもなるが、今はカプセルだ。

 もしかしたらこの不条理を覆すだけのなにかが入っているかもしれない。

 もしそうなら私は許そう。

 そう思いながら蓋を開く。それと同時に、足元にどさっという音が。

 

 SR・高級ブランド牛 500g

 

 そう書かれた紙がカプセルの中に入っていた。音のした方向に視線を向けると、そこには高そうな桐箱に入った牛肉が落ちていた。

 

 クソがッ! 生物(ナマモノ)じゃねーか!

 

 

 結局その後、見なかったことにしたかった牛肉は冷蔵庫にしまっておいたら夕食の材料になりました。



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プラスチック硬貨

 今回の話に当たり、最初に言っておきたいことがある。

 私はこのマシンに一銭も払いたくないということと、こいつの微妙な排出のことだ。

 

 というのも、牛肉を排出した翌日、兄にこの筐体のことを話したのだ。

 悪戯好きの兄のことである。このようなマシンは大好物だろうと。

 

 だが兄にもこの筐体は見えておらず、その表情から話半分に聞いていると思われた。

 あまり頼れるような兄ではないが、反応が微妙だと私も悲しくなる。

 普段似たような悪戯を仕掛けるくせに、私がするとすぐこれだ。

 

 と思っていたのだが、兄は一味違った。

 その次の日の話になるが、いきなり100円玉の棒金を私に渡してきたのだ。

 曰くこれで回せ、と。そして出たものを見せろ、と。

 

 私は思った。うわぁ、この人マジかよ。

 

 渡されたからには仕方ない。回すしか無い。

 コインのガワを剥ぎ、一枚ずつ呑ませていく。だが、5枚目で異常が起こった。

 

 入れた硬貨がそのまま下のポケットに落ちてくるのである。

 

 何度繰り返しても同じようにストンと落ちてくる。未対応の硬貨だと言わんばかりに。

 いや100円玉だぞ!? なんでそうなる!?

 

 むかついた私は、コインを投入しつつ、空いた片手でハンドルを回し無理やりコインを噛ませる。

 これは適切なコインが入っていた場合内側に取り込むための機構がハンドルに連動しているために起こる現象だ。

 かつて兄が玩具のコインでガチャガチャを回すためにやってめちゃくちゃ店主に怒られていたのを見たことがある。

 その方法で回せるかと思ったが上手くは行かなかった。

 

 私は、これ以上回らないなら、とコイン返却のボタンを押し込みながらハンドルを元の位置に戻す。

 すると500円分の100円玉が排出されるはずだった。

 

 硬貨受けに落ちてきたのは2枚のコイン。なんと額面が250。

 

 250円玉ってなんだよ……。ふざけんなよこんなのに金使いたくねえ……。

 

 私は引き出しから玩具のコインを取り出す。幼少の時に親からおもちゃとして与えられたものだ。コインに2つの空気穴が空いているあれだ。

 

 それを額面が800円になるように組み合わせて投入。

 なんとたちの悪いことに金が足りない時のハンドルの手応えではない。あと少しで回りそうなのだ。

 重量差によるものか? そう思いコインを入れ替える。

 

 250円玉!

 100円玉!

 500円玉(玩具)!

 100円玉!

 

 回った。

 

 は?

 

 筐体特有の中身をかき回すあの手応え。そして排出される緑色のカプセル。

 また中身と色が違うカプセルが排出されたことと、それに書かれた「N」の記号にはもうツッコまない。

 

 中身は……両面とも表の500円玉だった。

 

 しかも作成年代が令和98年ンンンンンッ!

 クソがッ! ふざけるなッ!

 そんな年代なら硬貨デザイン変わってるに決まってるだろ!

 年号も変わるわ!

 しかもこの硬貨、たちの悪いことに500円白銅貨なのだ。

 今使われている500円玉の前のデザインである。

 それに令和年号が刻まれているわけねーだろ!

 

 これだからイヤなのだ。この筐体、牛肉といい500円玉を出してくるところといい、めちゃくちゃツッコミをさせてくる。

 はっきり言って疲れる。今日はあと一回、250円硬貨を使い切るつもりで回そう。

 

 ごとりと出てくる「R」と刻まれた白いカプセル。そして、硬貨受けにお釣りだと言わんばかりに出てくる150円玉。

 

 またじゃねーか!

 

 

 

 なお、カプセルの中身は香り付き消しゴム「女子大生の香り」だった。相当に気持ち悪い品だったが、兄はバカみたいな笑い方をしていたのでまあ、よしとしよう。

 

 

 

 

 そんなわけで。排出は狂っているし、正直なところこんなものに私は一銭も金を使いたくない。



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R すき焼きのレシピ本

 このガチャは基本的に“ブランド”というものにこだわりがあるらしい。

 一般的な物品……例えば「N」の記号が書かれたカプセルから出てきたカメノコタワシであるが、これはどこぞのブランド品だったそうだ。

 傾向としては消え物、消耗品が中心ではある。

 

 尤もサンプル数が12ほどなので正しいかは微妙なところだ。

 

 今回はそうではないもの、すなわち異常な排出品の話だ。

 

 

 

 ハンドルが滑らかに回っていく。

 今回投入したのは500ウォン変造硬貨と100円玉、玩具2枚だ。

 500ウォン変造硬貨は500ウォン硬貨にドリルで穴を空けることで重量を500円玉に近づけたものだ。

 主に自販機を騙して500円と認識させるために使用されていた。

 これが横行したために現在の500円玉に移行し、自販機も改修された、という都市伝説が存在する程度には有名な一品である。

 なんでそんな物があるかというと、これも兄のくだらない悪戯のためのコレクションの一つである。自販機から吐き出されたこの詐欺用のコインを後生大事に抱えていたと思ったらいきなり私の貯金箱に投入されていたのだ。

 

 現在でもコミケなど手渡しでコインを扱う場合で詐欺に使われるらしい。

 

 排出されたのは「R」と刻まれた白いカプセル。開封すると中から出てきたのは24ページほどの小冊子だった。

 明日の献立120選、と書かれた表題からもういきなり嫌な予感しかしない。24ページしかないのに120もどうやってレシピを詰めるつもりだ。

 

 ページを捲る。大きな一枚の写真で美味そうなすき焼きが描かれている。

 肉が纏う光沢の美しさからこれが相当良いレシピなのだろう、と感じさせられる。

 

 お腹空いてきたな。

 

 ページを捲る。美味そうなすき焼きのレシピが出てくる。

 ページを捲る。美味そうなすき焼きのレシピが出てくる。

 ページを捲る。美味そうなすき焼きのレシピが出てくる。

 ページを捲る。……。

 

 全部すき焼きじゃねーか!

 全部、見開きですき焼きじゃねーか!

 

 全部で12のレシピが載っていたが、その全てがすき焼きな上、内容もどうも同じだ。

 唯一写真だけは巧妙に違うものになっているが、それが余計すべてすき焼きしか載っていない事実を強調する。

 

 なまじ美味そうなだけになんなんだこのレシピ本……。

 

 

 さて。早速だがレシピに従ってすき焼きを作っていこうと思う。

 レシピ本がおかしなこととレシピが美味そうなことは別だ。

 

 材料は、牛肉、牛脂、白菜、ねぎ、しいたけ、人参、糸こんにゃく。

 そして割り下の材料が水、和風だし、酒、みりん、砂糖、ガラムマサラ、クミン、ターメリック、粉末唐辛子、油だ。

 この時点で、カレーでも作るのかという勢いでスパイスが登場しているが、これでレシピ通りなんだから恐れ入る。しかもご丁寧に混ぜ合わせる順番を間違えないようにとの注意書きだ。

 なおスパイスは兄が一時期カレー作りにハマっていた時の残りだ。

 

 割り下をフライパンの上で煮立たせながら書かれたとおりの順番でスパイスを投入。どうにも入れるたびに色がカレーに近づいていくことに不安を覚える。

 唐辛子まで投入し終え、それをゆっくりと冷ます。そこに油を大さじ1杯注ぐと、突如虹色に光りだし、見事な飴色の割り下となった。

 

 は?

 

 割り下を少し味見してみる。見事、というほか無い割り下の味だ。あんなに大量に入れたスパイスの風味がどこに行ったのか、さっぱりわからない。

 まあ、美味いからいいか。

 

 そう思って牛肉を炒め、具を投入。それに割り下を回しかけ、蓋をする。

 すき焼きって蓋してまで煮込む料理だったっけ?

 

 そう思ったのもつかの間。出来上がった料理の蓋を取るとそこには

 

 ワイバーンのフィレステーキ

 

 が出来上がっていた。

 

 ……。

 

 !? いや、なんでこれがワイバーンのフィレステーキだとわかった!?

 おかしいおかしいおかしい。そもそも使った肉は牛肉で、細切れの物だ。

 どうしてそれが一枚肉になっているのか、しかもそれがなんで“ワイバーン”なのか。

 それをどうしてそれだと認識できたのか、さっぱりわからない。だが、出来上がった料理はどう見てもワイバーンのフィレステーキなのだ。

 

 出来上がった得体のしれないなにかをそっと兄用の皿に盛り付ける。

 ご丁寧に付け合わせまで出来ているのできっと食べてくれるだろう。

 そっとテーブルに置いて、出来上がったものを見なかったことにした。

 

 

 

 

 

 翌日。あのステーキを大層気に入った兄がレシピを要求してきたので渡したところ、台所でビスマス結晶に似た虹色の鉱石を生成していた。

 スパイスを適当に同時投入したらしい。順番が大事ってそういう……?



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SSR 実験室

 一般的なガシャポンにもレアリティはある。これは一般的かと言われると私は知らないが、「アソート」と言うらしい。

 つまり、筐体に納められるカプセルの中にいくつ入っているか、という指標だ。

 1/50アソートならば、カプセル50個のうち一つの割合で入っている、という具合だ。

 仕入れする時は袋に入れられて運ばれてくるため、何がいくつ入っているか、ははじめから固定されていると言っても良い。

 全てを引いてしまえばどのような排出のものでも必ず手に入ると考えるべきか、通常の排出が10個に一つ程度であることを考えれば回し続けるのは割高だと考えるべきか。

 

 もっともそんな常識がこいつに通じるわけがない。

 今回は牛肉以来、久々に高ランクと思しき排出をした日の話だ。

 

 

 「SSR」と記号が振られた金色のカプセル。やはりこの記号はソーシャルゲームのレアリティに依存しているのか。確かに内容物もそんな感じではあった。

 「SR」で排出された牛肉よりも価値があるとは思えない物品ばかりだったからな。

 「N」は百均でも買えそうなモノ。ただし素人目には分かりづらいブランド物だ。一個単位で排出するのであまり意味がないが。

 「R」はどこかおかしいモノ。おかしいなりに大体役に立たない。

 「SR」は牛肉しか出たことがないからわからない。

 

 大雑把にはこんな感じだ。両面とも表の500円玉や匂い付き消しゴムなんかもあるから一概には断言できないが。

 

 で……今回のカプセル。金色に光り輝いている。美しい光沢だ。コレまでのカプセルはそんなことはなかったというのに。

 流石にワクワクする。

 早速開けてみよう。

 

 SSR・実験室

 

 と書かれた紙。それを見たと同時に、ゴトッ、とすごい音がして視線の先に扉が出現した。

 古めかしい重量感のある木製のドアだ。それが部屋の壁から50cmぐらいの地点に立っている。

 

 どこ○もドアかよ。

 

 その扉を見て思ったことはそれだ。その場に扉とフレームだけが直立しているため違和感がすごい。

 そしてものすごい邪魔だ。ドアだぞ? よりによって壁際中央を陣取っている。

 ガチャ筐体に比べれば壁寄りだがそれでも空間を無駄に占拠しているのだ。

 幸いなにも家具を置いていなかったため壁と扉の隙間で動かせない、みたいな問題が発生しなかった。

 

 これだからこのガチャは信用ならない。

 案の定扉の位置を動かそうとする試みは失敗に終わった。また部屋のデッドスペースが増える……。

 

 まあいい。問題はこの扉がなにかだ。実験室だと言う以上、どこか違う空間にでも繋がっているのだろう。

 そう思ってレバーハンドルに手をかけ、引く。ガン、と干渉する音。

 

 筐体にドアの縁が引っかかっていた。

 

 邪魔だこのガチャ!

 飛び蹴りをかましたいところだが、かましたところでこいつはてこでも動かん。

 

 筐体を回り込み扉の奥を覗くことにする。

 扉の向こうには草原が広がっていた。

 果てまで青々とした草原がだ。

 抜けるような青空に穏やかな気温が感じられる。

 

 これは実験室ではないのか?

 

 靴下を脱ぎ、そっと踏み出す。扉からは若干の段差がありバランスを崩しそうになった。

 草原特有の匂いが肺を満たし、眠気を呼び込む。

 ここで眠ると気持ちいいだろうな……。

 

 ふらふらと歩いてみた結果、扉を中心に30mほどの地点に見えない壁がある。

 また足元の草も芝生の如く奇妙に整っており、裸足で歩き回ったにしては足へのダメージが少ない。

 スマホのGPSは反応しない。いや反応してはいるのだがその座標は我が家を指している。

 

 実験室(露天)。いやなにをしてもいい個人用空間という意味では確かに実験室だ。

 だがだからって本当に何もない空間じゃないか。

 納得は行かない。これだからあの筐体は回したくない。

 

 考えていたら眠たくなってきた。

 寝よう。日差しは穏やかで風は優しい。きっと気持ちよく眠れる……。

 

 

 

 

 

 翌日、扉を開けてみると雨が降っていた。やっぱり外なのかよ。微妙に使えねえ。



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R 紅玉チョコレート

 日本におけるチョコレートの種類は極めて数が少ない。

 これは日本に輸入されてくるカカオ豆の種類が極めて限定されているためだ。

 カカオ豆の種類によってチョコレートの味は変わってくる。

 しかしその風味の差は日本人の舌に合わぬらしく、チョコレートを販売しているいくつかの会社による寡占が続いた結果、日本におけるチョコレートはほぼ三種類といっていいレベルで均一化されている。

 

 カカオの成分を中心に作られたブラックチョコレート。

 粉乳を加え味を整えたミルクチョコレート。

 カカオ豆からココアバターのみを使用し作られたホワイトチョコレート。

 

 商品による配合の差が存在するとしても、その差はカカオ豆の種類による差に比べれば微々たるものである。

 

 ここに近年、根本的に使用するカカオを見直すことで異なる味を創造することに成功したチョコレートが加わった。

 それがルビーチョコレート。ルビーカカオと呼ばれるよりすぐりのカカオから作られた美しいピンク色のチョコレートである。

 一般的に思い浮かべられるチョコの色合いと異なるのは、カカオの持つ成分の違いによるものだ。

 もとより赤いルビーカカオを加工した結果、添加物を加えていないにもかかわらずフルーティな味わいと香りを持つのだ。

 色合いの鮮やかさと独特の味わいから、これからどんどん新商品が出てくるであろうチョコレートである。

 

 

 長々と語ってしまったが、今回はそのルビーチョコレートを騙るなにかが出てきた話だ。

 

 

 

 

 我ながら悲しい話である。何が悲しくてヴァレンタインデーにこんなモノ(ガチャ)を回さなければならないのか。

 事の発端は例年のごとく兄とのチョコレート菓子製作勝負を行っていた時である。

 どちらがより美味いチョコレート菓子を作るか、という対決である。

 兄は彼女へのご機嫌取りのために作っている、らしい。その彼女に会ったことがないので真実かすらわからないし、なんなら出かけているところも見たことがない。

 

 まあ勝負自体はクリスマスにもお盆にもやっているので、おそらく妙な見栄を張っているだけだとは思うが……。

 

 フォンダン・オ・ショコラを焼き上げた私に向かって兄は突然なにかを思いついたようにこういったのだ。

 

 今日、ガチャ回したらチョコ出るんじゃね?

 

 と。やめろ。兄はそういうのを思いついたらすぐ実行するタイプだ。

 懐から財布が出てきて焦る。行動が早すぎる。

 

 というわけで回す羽目になった。

 500円玉の代わりにコインチョコを投入。これで壊れるならいっそ壊れてくれ。

 

 N・ブランドチョコレート

 

 と、季節感というものを完璧に理解した排出をしてくれやがる。普段は嫌がらせのような物品しか排出しないくせに。

 しかしこれは普通に当たりのほうだ。なにせまだ理解できる。

 カプセルに一粒しか入っていないが。

 たしかこのブランドのチョコレートは一粒300円程度。イカサマなしに回していたら普通に損である。

 

 兄にはやらん、と口の中に投げ込む。

 一回で終われば良かったものの、報告すると追加資金が飛んでくる。

 本当に面白そうなことには手段を選ばんなこの人は。

 

 R・紅玉(ルビー)チョコレート

 

 とさ、と牛肉の時に比べれば軽い音とともに箱が出現する。見るからに高級そうなチョコレートの箱だ。

 開けてみるとそこには、紅玉(ルビー)が並んでいた。

 

 宝石じゃねーか!

 

 ピジョンブラッドのようにも見える濃い赤のルビーが箱に8個並んでいる。

 こ、困る……。

 

 だが、箱からは香ばしいチョコレートの匂い。やはりなにかおかしい。

 手にとって見ると、ぬるりとしたチョコレートの油分のような感触。

 

 その、なにか? これは結晶化したチョコレートだと?

 おかしいところはその製法か?

 

 というか、紅玉(ルビー)とルビーチョコレートを掛けたジョークのつもりか!?

 くだらないギャグはやめろ!

 

 

 

 後日。きれいな宝石のように見えたチョコレートは、全て兄の腹の中に収まった。

 味の方は「美味い」だそうな。



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R 苗木

 庭というものに憧れたことはあるだろうか。私はない。

 部屋にしかり、庭にしかり、そこには必ず個人の世界が広がっている。

 どこに何が置かれているかから始まり、調光や植生に至るまで、こだわりが強い人間ほどその個人の考え方が投影されやすい。

 生活感に侵食されるのは個人がそこに生きているからであり、それ故にその場所には個人の考えが焼き付く。

 よほど慎重でもない限りそれを回避するすべはない。人が自分の場所に固執する生き物である限り。

 

 それ故にその場所に異物が存在するということは本来恐怖なのだろう。あのガチャ筐体のように。

 ……マジでなかったことになりませんかね、アレ。

 

 

 実験室という実質的な個人用の庭を手に入れた私だが、半径30mという個人で扱うにはやや広すぎる感覚のある空間である。

 そのため兄に見せてみたのだが、それからは本当にひどかった。

 元から私の部屋に遠慮なく入ってくる兄だったが、ここ一週間ぐらい私のプライバシーといったものを全く無視した出入りが行われていたのだ。

 それもこれも実験室にいろいろなモノを持ち込んでいるのが原因なのだが何をやっているのか。

 だいたい想像はつく。

 

 実験室の扉を開けると、テラスが出来上がっていた。木材だけを組み上げて作られたテラスは穏やかな風が感じられ、気持ちよく眠れそうだ。

 眠るで思い出したがこの実験室、夜がない。ずっと太陽が頂点にいるのだ。

 どこか日本ではないところにでも接続されているのかと思っていたが、そうではないらしい。

 

 まあいい、テラスの話だ。

 あの酔狂な兄の工作ながら出来が良い。足場もしっかりしているし、ひさしにもしっかり透明な板が入れてあり、雨にも対応できるようになっている。

 それにご丁寧に手すりまでついている。

 

 めちゃくちゃしっかりしたテラスじゃないかこれ。

 何やってんのあの人。

 

 ガチャ筐体が扉に干渉する関係上、大きな家具が持ち込めないのが不満だが、そこは文句を言っても仕方ないだろう。

 

 なお兄を褒めるとろくなことにならないので褒めなかった。

 

 今日はテラスが完成した祝いだとか言い出してガチャを回すことを急かされた。

 何かに付けて妙なことをしたがる兄としてはやはりお気に入りの道具らしい。

 いつもの白いカプセル。中身は

 

 R・苗木

 

 だ。なんというか、これが妙なアイテムなのだ。妙なのはいつものことなのだが、なんというかゴツゴツしていると言うか……。苗木であるのは間違いない。木の枝ではある。

 

 ドット絵をそのまま立体化した形をしているのだ。

 

 それも16×16、めちゃくちゃ低画素の、だ。

 なんだこれ……。

 

 普通の苗木のように植えれば良いのか? そもそも植えたところでなにか変わるのかこれ?

 

 わからん。なのでテラスのすぐ脇に雑に植えておいた。

 元気に育てよ植物くん。

 

 

 翌日。めちゃくちゃでかくなっていた。

 いや、本当にでかい。

 え、なんで? こんな急にでかくなるものなの?

 10m位あるんですけど。太さも2~3mぐらいありそうなんですけど。

 

 しかも、だ。あの低画素な苗木から出てきた木だ。

 幹がめちゃくちゃ四角いのだ。

 どうなってんのそれ……。

 

 四角い幹に四角い葉の塊が複数生っている奇妙な木が生えてしまった。

 世界観を侵されている気がする。多分気のせいだ。気のせいということにしておく。

 

 

 

 

 翌日。素手で木を破壊し、製材している兄の姿を見て、世界観が侵されていたのは気のせいではなかったことを知るのであった。



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R 詫び石

 特定のプロセスを経ることで、それ自体が変化したわけでもないのにその名や価値が変わる物がある。

 重要なのはそのプロセスを経ることであり、その名を冠することではない。

 特にそれが謝罪において使用されるものならなおのことだ。

 

 今回は何をしたいのかわからないものが出た話だ。

 

 

 

 

 

 ガチャを気に入っている兄から毎日のように回すことをせびられるのだが、私は可能な限り回したくないと思っている。

 基本的にろくでもないのだこれは。

 Nのブランド品でも微妙に役に立たず、実質ゴミが増えるだけであり、部屋に余計なものが増えるのを好まない私にとって害悪ですらある。というかそうなったのは兄のせいだ。

 しかし回さないと今度は兄は機嫌を損ねるのでそれはそれで面倒くさい。棒金まで受け取っている関係上、逆らいづらい。

 それがらぽん。出てきたカプセルからは、

 

 R・詫び石

 

 と書かれた紙とともに、虹色に光り輝く石が一つ入っていた。

 

 しかし何を詫びているのか全くわからない。

 本当に詫びる気持ちがこのガチャにあるのなら私の前から姿を消しているはずなのだ。

 ついでにいうとバグ修正などが行われた記憶もない。

 筐体が動かせるようになったのかと思って押してみたがやはりびくともしない。

 

 というか何の石だよコレ! 見るからにソーシャルゲームのガチャ石なんだけど!?

 しかも一つって! どうやって使うんだよコレ!

 

 混ざり合わない虹色に光り輝き、現実に存在しない奇妙な色彩を放つその石はただあるだけで奇妙な存在感がある。

 

 正直なところ、これがどういうものか検証する手段すら思いつかない。

 トンカチで叩いてみたり、ヤスリで削ろうとしたり、ノミで砕こうとしてみたのだが、びくともしないのだ。

 異常に硬度の高い石として大学にでも寄贈しようか……? いや、こんな得体のしれない石を渡したら面倒なことになるな。

 

 

 

 

 後日。私が興味を失ったあたりで兄が石を持ち出したことが判明した。

 兄が樹脂とストラップをつけて鞄にくくりつけていたらしいのだ。

 それっぽいデザインのため、何らかの“石”に心当たりがあるとそれのガチャ石に見えなくもない。話の種の一つのためにそんなことをしていたらしいのだが……。

 

 なぜ伝聞調かというと。これを兄の病室で聞いているからだ。赤信号を無視して突っ込んできたトラックに跳ねられた兄は、詫び石を“消費”。無傷で生還した。

 無傷だったとはいえ、兄はトラックに跳ねられたため体中を検査のために入院。

 その病室で石を勝手に持ち出したことを聞かされているわけだ。なんでだよ。

 

 兄に怪我がなくてよかったとは思うが。そうかぁ、それで、無傷、かぁ……。



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UR ガチャ

 本日、2月17日はガチャの日であるらしい。なんでも日本初のガチャマシンが商店に導入され販売が始まった日だそうだ。

 由来がしっかりしている分、他の語呂合わせでしかない記念日よりも遥かに記念日らしい。

 もともとは1回10円だったガチャも、物価の変動や商品の多様化に伴い、その現在の値段はおおよそ100円から500円のものが中心になっている。

 特に多様化の波は著しく、「公衆電話のフィギュア」や「可動する盆栽」といったよくわからない商品や、「カプセルがそのままダンゴムシに変形する」「カプセルを組み替えるとロボットの頭部になる」といったガチャの形状を活かした商品が出てくるなど様々な趣向が凝らされている。

 

 

 だが今回はそんな中でも凶悪なヤバいガチャが姿を現した話だ。

 

 

 

 気がつくと実験室内にログハウスが出来上がっていた。兄の仕業である。

 “何故か”加工しやすい木材を手に入れた兄は、完全におかしくなっていた。

 テラスだけでは飽き足らず何かを作りたいという欲求が無限に増大していたのだろう。その結果がコレだ。

 

 無駄にしっかりした作りに見えるログハウス。何故か垂直に切りそろえられている様に見える丸太で組まれた壁。窓は流石にガラスを持ち込めなかったのか、木板で蓋をするタイプだ。

 

 扉? そんなものないよ。

 

 正直このログハウスの材質に思考を巡らせたくない。

 というか、このあと絶対記念とか言ってガチャを回させるだろう、この兄は。

 

 そういう事になった。

 

 ゆっくりとハンドルを回しながら出てきたのは……うっわ見るからにヤベえ。

 虹色に発光するカプセルに、同じく虹色で書かれたURの文字。読みづらくてかなわない。

 めちゃくちゃ目がチカチカする。

 しかもこのカプセル、なんというかコレまでとは違う重量感があるのだ。

 本当に開けて大丈夫なやつなのかコレ。絶対ヤバい。

 

 だが開けるしか無い。なのでログハウスで開けることにした。

 ヤバいものが出ても破壊されるのはログハウスだけだ。

 

 カプセルを回して開ける。それと同時に、金床が落ちてきたかのような破壊的な重量が落ちてきた音がする。

 

 UR・ガチャ

 

 中の紙には、絶望が書かれていた。そっと音の方向に目を向けると、そこにはコインロッカーに似た巨大な筐体が、入り口の床を破壊して2割ほど沈み込んでいる。

 

 よりによって。

 よりによって。

 よりによってそれか。

 

 この、自販機とコインロッカーを悪魔合体させて、商品ディスプレイの代わりにこれでもかとカプセルを詰めたガチャ筐体。

 そう、悪名高き高額ガチャだ。その値段は基本1000円。1万円を呑む筐体もあるという。

 

 これの何がヤバいって、詐欺の温床なのだ。

 一般的でない筐体であるため、この筐体用に商品を卸している会社が存在しない。

 そのため、設置店舗側で中身を用意しているのだが、これがまためちゃくちゃに当たり外れが激しいのだ。

 それに高額なために、ガチャの内容も高額になりがちである。最新の家庭用ゲーム機で収まればいいが、最新のPCなんかが出てくると謳っている筐体すらある。

 が、そんなもん出てくる確率はいくつだ、という話だ。筐体には500個はカプセルが入りそうである。

 

 そういう高額商品か、詐欺だと暴くことを狙ってよくYouTuberがカプセルを全部引きにかかる動画を上げているが、資金切れでろくに当たっているところを見たことがない。

 

 それに実は目をそらしていることがもう一つある。

 

 筐体についているロッカー。これには高額商品をディスプレイするために窓がついている。

 そこに、見えているのだ。

 

 肉が。

 

 これ「SR・高級ブランド牛 500g」じゃねーか!

 やめろ、頭を抱えたくなる要素を増やすな!

 

 それだけ済めば良いのだが、電気コードも入っていないのに定期的にセールストークを放送しやがるのだ。

 癪に障る。

 

 しかし一番癪に障るのはその値段だ。1回3万円。ふざけているのか?

 3万て。

 詐欺ガチャでもそんなに欲張らない。

 

 私は窓から這い出て、もう二度とログハウスに近づかないことを誓うのだった。

 

 

 その後、兄にそのことを告げたのだが、兄にはあのガチャ筐体が見えていないようだった。そして3万円は流石に捻出できなかったようだ。なむさん。



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R 黒のまどうしょ

 おかしなアイテムにも強弱がある。それでも基本的に見た目と名称からその機能を類推することが可能だ。考えることができるだけで実際に何が起きるかは全く想像できないのだが。

 例えばNで出現したこの手紙封筒。なんと入れた内容が反転する。しかもその反転基準に一貫性がまったくない。

 ごみ袋にしようとちぎった紙を入れたあたりでその効果に気が付き、意味がわからない文章が出力されたときはマジか……となった。

 1字単位で逆さまになったり、紙質が反転したり(触っているのに触っていないような感触がしていた)きちんと言葉の意味が反転していたり、あと物理的に形が反転していたり。

 

 今回はその中でも直球が飛んできた時の話だ。

 

 

 

 R・黒のまどうしょ

 

 出てきたカプセルを開けると、一冊のノートが出てきた。

 いわゆるキャンパスノートである。規格化されたあの大きさの、パステルカラーのアレだ。

 出てきたそれも、例に漏れずパステルカラーだ。黄緑とはなかなか渋い色を選んでいる。

 それの表表紙に、ヘッタクソな字で「黒のまどうしょ」と書かれているのだ。おそらく使用されたペンはポスターカラーだ。インクが垂れた跡がある。

 

 パラパラ……とめくってみる。そこには魔法陣のようなものが書かれたページと、それの使い方が書かれたページとが交互に現れている。

 中の文字もまたきたない。読みづらくて仕方ない。

 

 しかし、これまでと比べても使い方が書かれているだけまだ親切である。

 詫び石とか本当に使い方がわからない。未だに。

 

 ええっと……なになに。

 

 2.魔法陣を切り離します。

 

 2。いきなり2から始まった。1はどうした。

 

 3.切り離した魔法陣を投げます。

 

 魔法陣なのに投げるのか。

 

 4.魔法が発動します。

 

 はい。……はい?

 そこで使用方法は終わっていた。雑すぎる。

 魔導書と書いてある以上、まあ魔法が使えるんだろうこれは。

 

 ペラペラとページをめくり見つけた、「ファイア」と書かれた魔法を試してみようと思う。

 魔法陣をページごと切り離す。ご丁寧に切り取りのミシン目まで入っていた。全体的に作りが雑なのになんでだ。

 

 切り離された魔法陣。なんというか渦巻くような無数の文字。魔術やなにかしかに詳しいわけではないが、魔法陣の造形は形に意味があるらしい。だが、見たことがない造形をしている。円なのか四角なのか、それすらも把握できない。

 強いて言うならQRコードに似ている? だろうか。

 

 安全のために実験室の中で投げることにする。

 初めて実験室が実験室らしい働きをしている。

 

 投げると紙はへろへろと飛んでいった。

 まあ当然だ。A4ノートをちぎっただけなんだから。

 

 やがて、地面に落ちる。すると強烈な閃光とともに、10mほどの火柱が上がった。

 

 やっべえ。ログハウスの壁が焦げた。

 一瞬だったから焦げるだけで済んだ。いや、一瞬で焦げている時点でだいぶ過剰火力だ。

 あんな手抜きなデザインからこんな火力が想像できるか!

 

 ほかも「サンダー」やら「ブリザード」やら大概な攻撃魔法しか載ってないんだぞこれ。

 現代日本で役に立つわけ無いだろこれ。

 どうすんだよこれ。

 

 

 

 こういう過剰気味な物品は兄の好みなので渡しておいた。きっと役立ててくれるだろう……。

 後日、キャンプ道具にしやがった。なんで使いこなせてるんだよあの人。



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N ダイスセット

 サイコロ。その歴史は古く、古代から様々な形で歴史に存在していた。

 特に正6面体で構成されたサイコロはアメリカや中国、インドなど、どこからでも見つかるほどポピュラーである。

 その原型は距骨と呼ばれる家畜のかかとの骨であり、投げることでランダムな4つの面を得る事ができる。

 サイコロはランダムな結果を得る事ができるということから様々な宗教行事に使われることもある。

 最も、一番多いのは賭博だろう。ランダムな結果が得られるものならやはりなんでも賭博にできる。

 

 今回はそのサイコロが出た話だ。

 

 

 

 ここ数日は兄が外出しており、ガチャを引くこと無く心穏やかに過ごせていた。だがそれは一時の静寂に過ぎず、兄が帰ってくることで終わった。

 まあ当然のことである。兄がいればガチャを引く。いなければ引かない。ただそれだけのことだ。

 回すことに心をかき乱されている時点で敗北なのだ。心頭滅却心頭滅却。

 なんでもないなんでもない。

 というわけで回す。

 

 N・ダイスセット

 

 見た感じ無難な物が出てきた。ダイスセットだ。透明なケースには12個ほど入っており、いくつかは見たことがない形状をしている。

 

 なんだこれ……。

 

 輪っか状の形をした1面サイコロ。メビウスの輪に似た形状をしており、投げても必ず同じ面が出るという。凝った作りだ。

 2面サイコロ。これはただのコインだ。

 6面サイコロが6つほど。ただ、なぜか何回か振ると時々7の面が出る。

 

 正12面サイコロ。こういうサイコロがあるとは聞いていたが実物は始めて見た。

 同様に正20面体サイコロも入っている。

 あと変なのだと24面体か。数字も書いてないしなんだこれ。

 

 まあそれよりも、だ。とびきり意味がわからないやつが一つ。

 

 3面体サイコロ。

 

 なんで成立しているのか全くわからない。どう見ても3つの面を持つサイコロなのだ。でも、そんなのは数学的にありえない。

 どうなってるんだ?

 ぱっと見た感じは三角形に近いサイコロなのだが、手に持って回してみると形が変動して見える。

 変形しているように見える、というわけではない。錯視のように形が変わって見えるのだ。

 しかし親指で面を押さえて見るとどうにもすべての面は均一な大きさであるようだ。

 

 全く訳がわからない。

 

 

 

 

 後日、兄が3面体サイコロを使ってソーシャルゲームのガチャの排出確率を操作する方法を編み出していた。

 サイコロを振ることによって確率を変動させるとかなんとか。

 流石にただのオカルトだと思わざるを得ない。



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R クラウドストレージ

 高速のネット回線が普及されるとともに、本体の持つ写真などのデータをより手軽に保存するためのサービスが普及し始めた。

 もとより外部にデータをバックアップするために作られたサービスだったが、スマホとそれに伴う高速回線の組み合わせはそれの需要を大きく拡大した。

 データ共有や、他のクラウドサービスと組み合わせたデータの編集が可能になるなど、クラウドストレージの需要はどんどん大きくなると言えるだろう。

 

 今回は、それを名乗るなにかが出た話だ。

 

 

 

 今日も今日とてガチャを回す羽目になる。まあ金を受け取っている以上回さないわけにも行かないのだが。言い訳の仕様がない。

 兄はそのへん面倒くさいのだ。

 いつもどおり適当に変造コインで額面をかさ増しして回す。

 白いカプセルのRの文字が書かれたいつものが出てくる。開けると

 

 R・クラウドストレージ

 

 と書かれた紙とともに、もこもことした四角い箱がとさっと絨毯の上に落ちた。

 雲をまとめて形を作ったような感じの箱だ。

 手触りもふわふわしている。

 ……なんだこれは。

 

 重量は軽く、かんたんに持ち上がる。

 振ってみる。

 すると紙が出てきた。

 そこには「クラウドストレージ」の一文。いや、知ってるから。

 

 わけがわからない。

 

 その後、小1時間ほどクッション代わりにしていたのだが、不注意からスマホをこの謎のもこもこに落としてしまった。

 するとスマホはもこもこに呑まれるように沈み込んでいく。

 

 えっ、もしかして雲の箱(クラウドストレージ)

 

 腕を突っ込んで中を探る。するとスマホが出てきた。

 それだけではない。なにかもこもこしたものが入っている。

 引っ張ると特に伸びること無く動くので内張りを掴んでいるわけではないみたいだ。

 

 引っ張り出すと、そこには全く同サイズのもこもこの箱が。

 えー?

 

 なにか嫌な予感がする。

 ガチャの捨て殻を閉じ、そのカプセルを引っ張り出した箱に押し込む。

 やはり沼に沈み込むようにもこもこの中に入っていく。

 

 問題はここからだ。直感が正しいとすると……

 

 ガチャから出てきたもこもこの箱の中からカプセルが出てきた。

 

 えっ、やっぱこれ中身を共有してるの?

 

 ということは……やはり、もこもこからもこもこの箱が出てきた。

 

 これは不味い。無限に増えかねない。

 兄が喜んでしまう。そうしたら私の部屋はこのもこもこで埋まってしまう。

 

 そっともこもこの箱をガチャから出てきたもこもこの箱に押し込む。

 ずずず、と沈み込むように入っていく。

 

 よかった、これで片付けられるのか。

 

 ……中身を共有する箱、か。一人で何に使えるんだ……?

 

 

 

 後日、このもこもこの箱でならガチャを始末……じゃない、片付けられるんじゃないかとかぶせてみた。

 沈み込むところまでは良かったのだが、今度はもこもこが動かせなくなった。

 何が何でも部屋の真ん中に居座るつもりらしい。

 持ち上げるとずるずると顔を出すガチャ筐体に変な声が出そうになったぞ。

 

 邪魔なガチャがクッションの代わりになるようにはなったからまあよしとしよう。



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R 第三の手

 人の腕は2本しかない。当たり前のことだ。

 当然人の効率はこの2本に限定される。

 そのため、人の使う道具は基本的に腕を拡張する形になっている。

 より多くの、より高精度の、より優れた、腕を求めて人の文明は成長してきたと言っていい。

 

 軍事において、この腕が2本しか無いということが問題であるとされ、ある装備が開発された。サードアームと呼ばれる、3本目の腕である。

 これは通常重量のために両手で持つしか無い武器を片手で持つための装備で、その見た目が腰から生えた腕なのだ。

 この装備を使うことでより効率的に武器を構えたり、保持したまま別の武器を構えるといった動作が可能になるわけだ。

 

 比較的簡単な構造でこのような効果が得られるのならば、もし人に3本目の腕があればどれだけ人の効率は変わるだろうか。

 

 今回は3本目の手が出た話だ。

 

 

 

 R・第三の手

 

 今日姿を現した景品はこれだ。

 なんというか、出来の良い手の模型が一つと、首掛けスピーカーのような形をしたなにか。

 

 無駄に手のクオリティが高く気持ち悪い。うっすらと血管が浮いているようにすら見える。

 

 しかしこれはなんだ? 手の模型……というわけではないはず。

 模型ならば首掛けスピーカーのようななにかがわからない。

 

 掛けてみるか……。そっと首にそれを掛けてみる。

 すると、それに反応したのか手がピクッと動いた。

 

 えっ、こわ。

 

 この首掛けスピーカーのようななにかに連動しているってことなのか。

 思わず両手を握りしめる。

 

 すると、それに連動するかのように手の模型が拳を握りしめた。

 

 ……ん? もしかして。

 頭の中にイメージを浮かべる。

 もぞもぞと動く手のイメージだ。手だけで地形を這うように。

 

 そのイメージに連動するかのように手の模型が動き出す。

 

 ほう、なるほど。第三の手と書いてあったが、本当に第三の手として機能するのかこれ。

 当たりじゃないか?

 

 しかし、問題はだ。

 異常なほど集中力が要求される。

 

 とにかく手を動かすのに脳で使ったことがない部分を使わされている気がするのだ。

 頭の不自然なところが熱を持っているような気がしてならない。

 

 

 小一時間使いづつけたが、扱いきれない。これなら素直に両手でものを扱ったほうが遥かに早いじゃないか。

 私の扱い方が悪いのかわからないが、ものをうまく持たせることすら出来なかった。

 

 地を這うことしか出来ない第三の手と、それを必死に動かそうとする私。

 なんかバカバカしくなってくる。

 

 私はそっと第三の手を拾い上げ、適当な袋に入れて忘れることにした。

 

 

 

 

 後日、兄が第三の手を浮かせる方法を発見した。

 曰く、ケツに力を入れる、だそうだ。

 しかし私がしても手は浮かび上がらなかった。

 

 結果。兄が第三の手をドローンのごとく飛ばして遊んでいる姿を数日見る羽目になった。

 問題があるとすればその姿はどう見てもホラー映画だ。

 夢に出そうで困る。



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R 鬼の角

 鬼。一般的に人型で怪力と鋭い角を持つ怪物として描かれる怪異である。

 またその漢字が当てられている通り、非常に残忍な性格としているとされる伝説が多い。

 超人的で恐ろしいイメージから、様々な役割が伝説や神話で当てはめられ、一概に悪とは言いづらい存在だ。

 特に昨今のサブカルチャーではその在り方は様々になっていることだろう。

 だが、角を持ち怪力を誇る超人という核は失われない。

 それが鬼の、鬼たらしめる特徴なのだから。

 

 今回は鬼になる話だ。

 

 

 

 

 このガチャの中身はどこから来ているのだろうか。

 基本的にこれらの中身になんらかの関係があるようには見えない。

 最初に引いたのもブランド肉だったことからも、どのような基準で景品が選択されているのかもわからない。

 ただ一つ言えるのは、基本的に常軌を逸しているということだ。

 

 明らかに別の法則に支配されている苗木に、異常現象を誘発するレシピに、事故から無傷で生還させる詫び石。

 どう考えても、それは科学的な法則の下にあるモノではない。

 

 兄以外に相談できる相手がいるわけでもなし。

 ガチャのことを考えていても思考は空回りするだけだ。

 

 今日も今日とてガチャを回す羽目になる。まあいつものことだが。

 ハンドルはなめらかに、コインはできるだけまがい物を。

 排出されたのは白いカプセルだった。開封してみる。

 

 R・鬼の角

 

 そう書かれた紙がカプセルの中にはいっていた。

 開けたと同時に足元に金属製のなにかが落ちてくる。

 

 人の頭にちょうど載せられるほどの円形をした金属に、動物の骨に似た質感の角と思しき部品がついている。

 一般的にサークレットと呼ばれる装飾具に似ている。

 かぶればちょうど角が額に来るように作られているのだろう。円形は人の頭にそうようにわずかに歪んでいる。

 

 ややゲームの装備品っぽいデザインではある。細かい装飾が無く、角がシンプルに目立つ作りをしている。

 これをかぶっていれば、少し離れた位置から見れば角が生えているように見えるだろう。

 

 しかし……このデザインでこれをかぶるやつはいるのか?

 微妙に角のクオリティがおかしいぞこれ。色合いがちょっと変なのだ。

 なんだよ赤と青って。しかも根本の装飾部分と色が合ってない。

 端的に言えば付け角としてもダサいのだ。 

 それに金属の輪の部分の歪曲具合も頭を締め付けられそうだ。

 

 ……それでもつけそうなやつ、一人いたな。兄だ。

 これが筐体から出た物でないただの装飾具でもつけかねない。

 

 鬼の角と書かれたサークレット、まあ大体効果は想像がつく。

 どうせ怪力を得るとかそんなところだろう。

 

 私はそっと頭に乗せてみる。うわ、金属部分がグラグラしてる。

 角も若干緩い。うかつにどこかにぶつけたらもげてしまいそうだ。

 

 そのまま、プラスチックコインを手に持って握りしめる。

 手の中でミシミシと音を立てて砕けていくコイン。

 ものすごい力だ。

 そして想像通りすぎる。

 

 同様に100円玉を握り、真っ二つに折り曲げる事ができた。

 本当にただ怪力を与えるだけのサークレットのようだ。

 

 つけている姿が本当にダサいことを除けば有用そうなアイテムだ。

 この間の操作性が完全にゴミもいいところな第三の手とは使い勝手が違うな。

 

 最も、ダサいからつけているところを誰にも見られたくない……。

 

 

 

 後日、兄に渡しておいたのだが。

 兄は実験室内で3mを超える大男になっていた。

 しかもその巨躯と怪力を活かして新たなログハウスを作成していた。街でも作る気か。

 鬼の角を外せばすぐに元に戻れるらしく、重機代わりにとても便利だとかなんとか。

 

 ……え、なんで? 試したときと効果違うじゃん。



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SSR 時を止める懐中時計

 人の持つ時間という概念は、太陽の巡りを分割することで生まれた。

 太陽が一巡りし、次の朝を迎える時間を1日。

 太陽が真上に来る時間を基準として午前午後。

 基準こそ詳しくはわからないが、それぞれが12等分されて1時間という概念が生まれ、そしてそれを分割した結果が今の時間概念だ。

 

 極端な話、我々の時間感覚は今ある形の時計によって作られたものだ。

 12と60で分割され、その進みを正確に記録する。

 私達はそれを意識するようになり、正確な時間に関する生き方を選択するようになった。

 

 時間は戻らない。時間は進み続ける。

 時計のようにそれを正確に測るものが存在するなら、否応にもそれを意識せざるを得ない。

 

 今回はその概念を破壊するモノが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 今日は一日災難な日だった。トラックに泥を跳ねられるわ、鳥のフンが落ちてきて上着が汚れるわ……。

 それに帰ってくるなり兄にうざ絡みされるわ。その後ガチャを回すことを要求されるわ。

 ぶっちゃけ回したくはないが、兄がワクワクしているので回さなかったらご機嫌取りに無駄な時間を使う羽目になることが容易に予想できる。

 なんだかんだ金を出されている以上、私はやるしか無いのだ。

 

 ハンドルを回す。排出されたのは「SSR」の文字が刻まれた金色のカプセルだ。

 一瞬、部屋を占拠するデカブツが出現する予感が脳裏をよぎる。

 

 SSR・時を止める懐中時計

 

 足元に落ちてきたのは古めかしい懐中時計だった。真鍮の外装で、文字盤には蓋がないタイプだ。

 一般的な懐中時計よりもやや一回りほど大きい。

 装飾はまったくなく、金属のツルリとした感触。実用性一辺倒といった感じだ。

 

 しかし、時を止める……?

 そんなあからさまなマジックアイテムがこの、正気とは思えない代物から排出されるだろうか。

 

 それにこの時計、動いていないのだ。

 ネジが巻かれていないのかと、竜頭を回してみたが一切手応えがない。

 それどころか、時刻合わせも出来ない。

 何のための竜頭だ。時間が調整できないなら懐中時計として使えないじゃないか。

 

 時針も分針もピタリと12を指し示し、動くことがない。

 耳を当ててみても動いている音を立てていない。

 

 いじってみていて気がついた。竜頭を軽く押すとわずかに沈み込むのだ。

 蓋のある懐中時計なら蓋を開くための動作だが、この懐中時計には蓋はない。

 

 これ、か……?

 親指に力を込めて竜頭を押し込む。異様に硬い。握力が悲鳴を上げている。

 

 カチッ。

 

 懐中時計が小気味よい音を立てるとともに、突如として周囲の音が消えた。

 普段なら聞こえているはずのリビングのテレビの音も、風の音も、外の車の走る音も、全てが止んだのだ。

 

 何が起こっているのか。本当に時間が止まった……?

 外を確認しようとしてカーテンに触れる。びくとも動かない。

 指が沈み込みすらしない。

 

 同様に、ドアノブは回らず、机の上の100円玉は一ミリもずれず、あとガチャのハンドルも回らない。

 全てが固定されている。

 

 これが時間を止める懐中時計の機能か。

 懐中時計の時針は逆行をし始めている。通常の時計と異なり逆に進んでいるのだ。

 おそらく……これは使用期限か。

 動かなかったのではなく、はじめからきちんと指し示すべきものを指し示していたのだ。

 これが切れるとどうなるかわからない。

 多分これが使えなくなるんだろう。

 

 そう思いをはせながら、竜頭をもう一度押し込む。

 恐ろしく硬い竜頭。両手で地面に押し付けながら体重をかけることで初めて押し込まれた。

 竜頭の異様な硬さに反して小気味よい音を立てる。

 すると周囲の音が帰ってくる。リビングのテレビの音や外の車の音……。

 

 まともな世界だ。

 

 他の物体に干渉できない以上、やはり実社会で役に立つ道具ではないだろう。

 私にはまともな使い方が思いつかない。

 

 

 

 

 

 後日。兄に貸したら時計を使って空中2段ジャンプができるようになっていた。なんで?



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SR お手伝い妖精

 物語には様々な妖精が存在する。

 道を違わせ、森に迷わせる者。

 従者として仕える者。

 危険な原生生物。

 魔法によって生み出される生き物。

 知恵と享楽を好む者。

 勇者を導く者。

 人類種の次の支配種になった生物。

 

 古典ファンタジーでは大体邪悪な生き物だったはずだが、随分と多様化した気がする。

 だがそのイメージは基本、小さい羽を生やした小人だ。

 それが妖精の根本的なイメージであり、それ以外の要素は物語の要求によって変化していく。

 

 

 今回は、そのよくわからないタイプの妖精が出た話だ。

 

 

 兄が新しい工具箱を注文した。明らかにログハウス改修用の工具だ。

 私の知らないうちに設備が充実して、今では兄の部屋より快適な空間と成っているのが解せない。

 そのせいですぐに私の部屋が通路代わりにされるのだ。

 

 いっそ私用の部屋を作らせるか。いや、下手にあの場所に入り浸るとすぐ体内時間が狂う。

 太陽が南中から動かない関係で、昼も夜も関係なく強い太陽光で照らされるため、体がいつまでも昼だと錯覚してしまうのだ。

 

 いつもの日課を済ませてしまおう。日課になっていることが悲しい……。

 ハンドルは珍しく軋んでいる。ゴリゴリという音とともに回す。

 排出された白色のカプセルにSRと刻まれている。生モノの予感がする。得体のしれない生モノが出られると困るが……。

 

 SR・お手伝い妖精

 

 クソが、何だよそれ!

 それが出た瞬間思い浮かんだのは、生き物は飼えない……ということだ。

 生き物に対して責任が持てない。

 飼っていたハムスターを二日で全滅させた経験もある。兄が。

 

 そこにいたのは、宙に浮くデフォルメされたサメ。

 青い肌はつるりとしているがぬいぐるみのような質感をしている。

 脳裏によぎる「お前を消す方法」。

 違う、それはイルカだ。サメではない。アサイラムか。それも違う。

 

 私の混乱をよそに、そのサメはこちらを窺うようにゆっくりと近づいてくる。

 

「はじめまして! お手伝い妖精です!」

 

 それは気さくに挨拶をしてきた。え、どう見てもサメじゃん。

 妖……精……?

 

 

 ヒアリングの結果、彼の名前はシャチだとわかった。シャチじゃなくてどう見てもサメじゃん。

 撫でさせてもらったが、手触りはつるつるしていて気持ちいい。こうしている間も撫でさせてもらっている。

 種族はお手伝い妖精、主人の下でお手伝いするために生まれてきた生き物らしい。

 

 ただ、この生き物という定義が非常に厄介である。

 なぜならこのサメ、好物がインチネジだ。

 

 そう、インチネジだ。

 モノを固定するのに使うあのネジだ。

 一般的に鋼材で作られているアレだ。

 

 インチネジは滅ぼさねばならないが、ミリネジとインチネジの違いは結局のところ、大きさの違いでしか無い。

 使っているスケールが違うために同じ数字で大きさが異なる。ただそれだけなのだ。

 

 だが、このサメはインチネジだけを食べる。

 ミリネジは食べない。

 

 そこに何の差があるのか。というかそもそもどうして金属で出来ているネジを食べるんだこいつは!

 しかも排泄とかしないらしい。ますます不可解だ。

 

 本当に生き物かこれ?

 

 

 よくわからない存在だ。

 考えるのをやめよう。

 実験室内の管理を彼に任せて送り出す。

 

 定期的にインチネジを与えておけばそのうちなにか、どう扱えばいいか考えつくだろう。

 シャチくんもそこそこ賢いので提案してくることもあろう。

 それを待てばいい。ただ待てば……。

 

 

 

 後日。実験室内にログハウスではなく立派な家が立っていた。

 平屋建てだがかなりしっかりした日本家屋だ。

 床は板張りで、障子の代わりに木板が使われていることを除けばそのまま生活できそうな程の完成度。

 

 兄がシャチくんに手伝わせて作ったモノだそうだ。マジかよ。



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R 逆ルームランプ

 人類の文明は明かりを手に入れたことで加速度的に発展した。

 それまで昼しか使えなかった時間を、夜も使えるようになったのだ。

 それによって生産性が大幅に向上し、あらゆる時間が効率的に使えるようになった。

 また暗い闇を照らすことで人の行動範囲は広がった。

 

 より安全に、より普遍的に進化していった結果、今や夜も人の領域となった。

 

 ただそれによって8時間労働なる非人道的な習慣が誕生してしまったという罪も存在する。

 常に技術が人を幸せにするとは限らない。ただ、人を救うには技術を発展させるしか無いのだ。

 

 だから今回はランプが出た話だ。

 

 

 

 

 

 実験室内は順調に開発が進んでいる。私の意志を無視して。

 優秀な助手を得た兄は水を得た魚のように凄まじい勢いで村を作っている。

 いつの間にやら森だけでなく畑まで出来ている。

 

 サメの妖精のシャチくんはまあまあ異常な製作能力を持っていた。

 そのせいでどこかで頭打ちするはずだった開発が加速しているのだ。

 

 どうやって成長しているのかよくわからない木々を製材し、それを道具に加工して、新たな資源を作り出す。

 そのサイクルが出来上がっている。

 

 まあそれはいい。部屋にずかずかと入り込まれるぐらいだ。

 それ自体どうかとは思うが実験室が出現する前からやっていたことだ。

 

 問題は、それに使うためにガチャを回す圧力が増していることだ。

 少しでも開発に役立つアイテムが出てしまえば、あの兄は使い方を思いつき実際に開発に役立ててしまう。

 回したくねぇ~。

 

 半ば私の意志を無視して回されたガチャから排出されたのはRの白いカプセルだ。

 開封するとともに足元に景品が落ちる。カプセル内にまともに納まってるの見たこと無いな。

 

 R・逆ルームランプ

 

 と書かれた紙とともに現れたのは宙に浮くルームランプだ。それも名前の通り逆さまにだ。

 

 台形のランプシェードを持つ、卓上型ルームランプで大きさは高さ30cmぐらい。

 やや大きいタイプのようだ。

 

 デザインは普通である。ランプシェードには麻に似た布が張られていて、ランプを支える土台がある。

 逆さまで宙に浮いていなければだたのルームランプだと思っていただろう。

 

 それが大体胸の高さで浮いている。

 手に持って動かせばその場から動かせるが、高さは固定されているらしく、手を離すとふわふわとした挙動をしながら元の位置まで戻っていく。

 

 ああ、あとコンセントがない。ルームランプには給電が必要だと思うのだが、それに類する基部が存在しない。

 世の中には充電式のルームランプもありはするが、その場合は充電用のコネクタがある。

 これにはそれすら無い。

 あるのは電源スイッチだけだ。どこから電気を供給しているのか。

 

 そこまで見て、ようやく電源を入れてみようと思った。

 基本的に関わるとろくなことにならないのだ。あまり触りたくないと思うのは仕方ないだろう。

 

 そのルームランプの電源スイッチは静電容量式だ。

 簡単に言えば金属部分に触れるだけで電源がオンオフされるタイプのスイッチだ。

 

 そっと触れる。

 

 突如、部屋の明かりが消えた。

 窓の外が突然夜になった。

 

 蛍光灯の明かりはついたまま、部屋の明るさだけが奪われている。

 驚きのあまり、窓を開けて見てしまった。

 

 開けられた窓だけに、そこに切り取られたかのように昼の光景が広がっている。

 

 そうか。これは、夜をもたらすルームランプか。

 おそらくこれの効果は一部屋。

 だから開けられた窓の先だけは昼の光景なんだ。

 

 ええー……。じゃあなんでこれは逆さまに浮いているんだ。機能に何も関係ないじゃないか。

 わけがわからない。

 

 しかし一部屋限定か。実験室内の家で使えば広い部屋が使える、と思ったが家の中がずっと真っ暗になってしまうな。

 ということは倉庫行きか。仕舞ってしまうにしても浮いてるから邪魔で仕方ない。

 

 

 

 

 後日。兄がこの逆ルームランプを使って実験室内に夜をもたらしていた。

 は?



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ガラクタ3種

 毎日のようにこの得体のしれないガチャを回していると、調べたはいいが用途がわからないモノがいくつか出てくる。

 見るからに普通の物ならばその用途に沿って使えばいい。

 しかしガチャから排出されるこれらはその用途にすら使えない物品であることが多いのだ。

 

 例えば、書いた字を消すと、黒鉛を並べ替えて市松模様を作る消しゴム。

 ものすごい勢いでノートが汚れるのでそのままゴミ箱に入れておいた。

 

 他にはこのペンダント。身につけていると事あるごとにテーマソングを流してくる。

 しかもどこかで聞いた版権ソングだ。恥ずかしいったりゃありゃしない。

 

 今回はそのガラクタの中からいくつか、まだわかるような気がしてくる物を紹介しようと思う。

 

 

 

 

 

 R・未だ抜かれぬ選定の剣

 

 これは現在、実験室の扉を入ってすぐの場所に居座っている1mほどの岩だ。

 その特徴としては、岩の上に見るからに豪華な長剣が突き刺さっていることだ。

 

 これを開けたときはテラスでだった。

 カプセルに重量感がある時は下手すると動かせないものが出現する可能性があるということを理解した案件だった。

 

 ……というか名前だ。引き抜こうとしてもびくともしない剣が刺さっているのだ。

 もうなにを言いたいかわかろうってものだ。

 

 未だ抜かれぬ選定の剣(エクスカリバー)ってか?

 このガチャはそういう、創作まで理解しているのか?

 というかお前、Rなのかよ。なんでだよ。

 本当に面倒な筐体である。

 

 剣の切れ味が異常なほど良いため、現在は木材の製材に使われている。

 ……そのために岩にはステップとなる階段が彫り込まれている。

 岩は中心に向かって硬度が高まっているらしく兄が加工に四苦八苦していた。

 

 なお兄はこの剣に対し金属切断用のグラインダーで切断を試みる予定だそうだ。

 取り外せたらもっと便利に使えるから、だと。

 

 

 

 

 R・ヒヒイロカネ

 

 お前Rなのかよ第二弾。出現したのは光沢感の強い赤色のインゴットだ。

 見るからに金属塊であり、一学生の身分では手も足も出なかった。

 

 いや、これ自体はどうでもいいのだ。

 これのせいで実験室内で冶金がはじまってしまったことが問題なのだ。

 加工には熱と電気が必要らしく、電気を流しながら鉄の棒で突くと餅のように加工が可能になるという。

 電気が流れていない場合熱を加えても形は変わらない。

 

 なんでそんなプロセスを経るのか、もよくわからないが、もっとよくわからないのは銅と合金すると増えることだ。

 銅の板を混ぜながらヒヒイロカネを柔らかくすると、目算で2倍ぐらいに増える。

 そのおかげで、実験室内でヒヒイロカネのインゴットが絶賛増殖中だ。

 

 作ったら作りっぱなしで何に使うわけでもないのに大量に作るあたり、兄はどうかしている。

 

 

 

 N・拳銃

 

 困る。本当に困る。法に触れてしまう。

 これが出現した時、どうしようかと本当に悩んだ。

 

 確かに、現代日本で調達可能なものではあるが、それは非合法な手段での話だ。

 一学生に過ぎない私が手に入れて良いものではない。

 

 幸い、弾はセットではなかったため、実験室の端に深く穴を掘って埋めることで見なかったことに出来た。よかったよかった。



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R 井戸(ポータブルタイプ)

 水は資源である。

 水がない場所に人は生存することは出来ず、またその水の質すら選ぶ。

 日本はその山脈と気候によって多くの水を有しどこでも自由に使えるが、他の国ではわずかな水を得るために長い距離を移動しなければならなかったりする。

 

 人は水を得るために様々な文明の利器を生み出した。

 それが井戸であり、水道であり、貯水湖、ダムである。

 

 今回はその利器である井戸が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 カプセルに感じる重量感。これは間違いなく大物だ。

 実験室内で開封する。

 

 R・井戸(ポータブルタイプ)

 

 井戸。そこに出現したのは石枠で組まれた円筒だ。木枠から釣瓶が落ちている。

 釣瓶を巻き上げるためのものか、ハンドルがついている。

 見かけは普通の井戸だ。

 そこに穴がなかったことを除けば、普通の井戸に見える。

 覗き込んでみても深い穴が広がっており、底が見えない。

 

 しかし、ポータブルタイプ?

 構造からしても、見た感じの重量感にしても、持ち運びできるようには見えない。

 というかどこから持ち上げようというのか。

 

 

 地面と接地していない部分を見つけてしまった。

 兄が鬼化した状態で踏み荒らした跡が残っていたらしい。

 まあそのあたり技術があるわけでも無い兄を責めるわけにもいかない。

 実験室自体草原であり若干凸凹しているのだ。

 

 ポータブルタイプ……。いやいや、まさかね。

 そう思いながら隙間に手を入れる。

 

 異常なほど軽い手応えで、井戸はあっさりと持ち上がった。

 それも片手で。

 

 は?

 

 片手で持ち上げられた井戸の底面はまるで切りそろえたかのように平坦だ。

 地面の上に見えていた部分、ただそれだけが切り取られて持ち上がっている。

 そして地面には重いものが乗っていた跡しかない。

 

 確かにこれなら持ち運べるだろう。

 片手で持ち上げているにもかかわらず、なぜか水平を維持し続けていることであるとか、500グラムも無いであろう手応えであるとか、これが持ち運びを考えて作られていることがわかる。

 斜め上の方向と技術で。

 

 そこは井戸の簡易組立てキットとかにしてほしかった。

 解体して原理が解明できれば一儲け……できたような気がするから。

 いや、そうでないからガチャ産の景品ではある。

 

 これどこに置いておこう。適当に置いておけば兄が勝手に使うだろう。

 実験室の開発が進んでしまうのは頭が痛いが……。

 

 なお組み上げた水は純水だった。どうなってんの?

 

 

 

 後日。兄が井戸(ポータブルタイプ)をログハウスの上に設置した結果、倒壊を起こしていた。

 落下で破損してはいなかった。それどころか瓦礫の上で不自然に水平を保っていた。

 どうも持ち上げている間だけ重量が軽くなるようだ。

 本当にどういう作りなんだ、これ。



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R 人をダメにするソファ

 ネットで一時期評判を呼び、爆発的に売れたあるソファーがある。

 それはビーズクッションソファーだ。

 中にパウダービーズが入っており、極めてもちもちした感触のソファーで、これが体にフィットすることで無重力感に似た一体感を生み出し、なんとも言えない心地よさを生み出しているのだ。

 私も欲しかったのだが、予算の関係で断念する羽目になった。

 今なら売り切れしているということもないとは思うのだが。

 

 今回はそのソファが出た話だ。まあいつものように思ったようなものにはならないのだが。

 

 

 

 

 

 

 実験室開発が著しい。

 金属を得たことによるものか、サメ妖精のシャチくんの登場によるものか。

 いや、両方だ。

 ヒヒイロカネとシャチくんの相性が異常なほど良い。

 

 その関係かわからないが、畑になっているスペースに見たこともない植物が生育し始めている。

 金属光沢を持つ葉を生い茂らせた植物など、私の知識には存在しない。

 これがまた美味そうな実をつけているのも良くない。

 

 これまた金属光沢を持つ球形の果実なのだが、非常に芳しい柑橘系の香りがするのだ。

 光沢の割に触ってみると柔らかく、よく熟れているようなのだ。

 

 しかし得体の知れないモノは食べない。食べてはいけない。

 せめて兄が食べるところを見てから食べるべきだと思う。

 

 

 回されるガチャ。白いカプセルが排出された。

 開ける。

 

 R・人をダメにするソファ

 

 とさ、と軽い音とともに足元に一辺80センチほどの大きさの布で出来た立方体が出現した。

 それは自重で潰れ、丸いもちもちとした形状になる。

 カプセル内の紙によればソファーらしい。……いや、見たことがあるぞ。ネットで話題になっていたやつだ。

 

 手触りももちもちサラサラとしていて、どうもその話題のソファーそのものの様に見える。

 いや、すでに一部おかしいといえばおかしいところはある。

 不自然にでかいのだ。

 こういうソファーは座るために高さが抑えられているはず。

 だが、これはそういう配慮もなく80センチもある。

 重量で潰れるから座れなくもないが。

 

 おかしい。普通だ。そんなことあるか? だってガチャだぞ?

 今までさんざんおかしなモノしか出して来なかったあのガチャだぞ?

 

 座ってみるか。

 そう思い腰掛けてみる。

 体を包み込むこのフィット感と、絶妙に体を固定するこのホールド感。

 うむ。人をダメにするソファそのものだ。

 

 いや本当に気持ちいいなこれ。

 当時値段が高くて手が出なかったが買うべきだったか。

 いや今回手に入ったからいいとすべきか?

 

 

 

 

 気がついたらソファーで寝てしまっていた。

 それで、だ。

 やはりこのソファーはガチャ産だった。間違いなく。

 

 ああ、この浮遊感。最高だよ。

 

 本当に浮いてなけりゃな!

 私は現在天井すれすれのあたりを逆さまに浮いている状態だ。

 無重力空間でソファーに座った状態で浮いているようなイメージだ。

 頭を上げると床が見える状態というのは中々不可思議な体験であると言える。

 

 しかし、体に感じる重力の方向はソファーの方向。

 すなわちソファーに座った時の姿勢のまま浮かび上がって、その状態で固定されているようなのだ。

 その上で体が自由に動く。

 ソファーの上で寝返りをうつぐらいなら出来そうではある。

 見ている人が混乱しそうな動きだ。

 

 しかし、これ飛び降りるしかないのか?

 体をよじればそう難しくはないと思う。

 

 意を決して飛び降りる。

 2mほどの微妙な高さだ。

 着地がちゃんと取れれば怪我にはならないだろう。

 

 そう思っていたが、この部屋にはアレがあった。

 そう、ガチャポンマシンである。

 無事目算を誤った私は、筐体に腹をこっぴどく打ち付ける羽目になるのだった。

 

 

 後日、ソファーはカバーにロープをくくりつけることで高さを制限して私の部屋に設置する事になった。

 無重力感といい、座り心地自体はいいんだ、座り心地自体は……!



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SR セーブポイント

 ゲームに於いてそれまでの攻略情報を記録することをセーブという。

 この記録を行うのに、特定の地点でしか行えないシステムが存在し、特にRPGでよく見られる。

 この特定の地点のことは一般的にセーブポイントと呼ばれる。

 主にゲームバランスのためにそのようなシステムは用意され、それがどこにあるかでプレイヤーの意識を誘導できる。

 どこにあるかでゲーム中で起こるイベントの頻度に意識を集中させ、数を調整することでプレイヤーにゲームオーバーを警戒させる。

 

 その見た目は大体結界かクリスタルのようなもの、あるいは教会だ。

 このイメージは大作RPGから来ている。

 私はオウムの見た目が好きかな。

 

 今回はそのセーブポイントが出現した話だ。

 

 

 

 

 実験室について、報告がある。

 どうもあの実験室、開発が進むごとに範囲を拡大しているようなのだ。

 最初に見たときは半径30m程度しかなかったのが、今では半径60mほどの広さになっている。

 大雑把に言って小学校の校庭2つ分ほどの広さだ。

 

 いささか個人所有するには広すぎる範囲になってきた感がある。

 最もお構いなしに開発を続けている兄のせいなのだが。

 

 最も普段私が使う範囲がテラスだけなのもあってあまり強く言えないところではある。

 そのテラスも兄の手製であるし、テラスに持ち込んでいる家具も兄の財布から出ている。

 

 ある種の共犯関係に近い、のだろうか。私と兄の関係は。

 困ったものだ。

 兄から得る利益は大体斜め上なのだ。

 

 今日もガチャを回す。

 できれば斜め上の手段で開発が進まない物が出ればいいが、多分望んでもそうはならない。

 ハンドルは今日もなめらかに回る。冷静に考えるとこれもおかしいな。カプセルの抵抗感がない。

 排出されるのは白いカプセル。SRと刻まれていて重量感がある。

 テラスに持ち込み開けることにする。

 

 SR・セーブポイント

 

 重量感のあるものが落下した。

 そこにあったのは宙に浮くクリスタルだ。

 台座の上にクリスタルが据えられ、その上にはSの文字が浮かんでいる。

 そして、クリスタルを囲むようにクリスタルに似た素材の円環が2つ交差しつつ回っている。

 全長は2mほど。薄らと発光しており、夜の闇の中から遠巻きで見てもはっきりと見えるだろう。

 

 ゲ、ゲームのセーブポイントだ……。

 

 ゲームのセーブポイントが出現した。

 え?

 いや、開発は進まなさそうだが、これはなんだ。

 

 まずは調べるところから始める。

 ゆっくりと触れてみるとひんやりしている。そして、それに対して反応はない。

 ……?

 

 まて、これどうやって使うんだ?

 セーブポイントである以上、セーブできるはず。

 で、セーブをするには何をすればいいんだ?

 

 見た目に可動しそうな部品はない。

 試しにクリスタルをノックしてみたが反応なし。

 本当にこれなんなんだ。

 

 いじくり回していると、わずかに円環が動いた。

 は?

 そしてその手応えに、あるものを思い出した。

 

 知恵の輪だ。

 これは、巨大な知恵の輪なんだ。

 

 え? マジ?

 セーブするのに知恵の輪を解かないといけないの?

 しかもこれ、恐ろしいことに手応えからすると、知恵の輪としての形が見えないのだ。

 透明な知恵の輪を解くことを要求するセーブポイント、なに?

 

 

 

 シャオラァ! 解いてやったぞ!

 3時間かかったわこのボケ!

 基本は2つの円環を回転させながら、見えないスリットと接続棒を交差させ続けることで少しずつ上に上がっていくという構造だった。

 コツコツぶつけながら形を脳内に構築していく作業、非常に面倒だった。

 

 それで、だ。

 現在外れた輪っかが手元に2つあるわけだが。

 よく見ると輪っかにはRとSの文字がびっしりと刻まれている。

 細かすぎて外してから気がつくほどだ。

 

 で……これはどうすれば……?

 思わず輪っかを両手で引っ張る。

 

 するとバキン、と音を立てて割れた。

 え?

 それと同時に脳裏に響く「セーブしました」の音声。

 

 外して割れたはずの輪っかが消失した。

 クリスタルに目を向けると、最初にあった通りの姿になっている。

 

 え? もしかしてあの面倒な知恵の輪を解き直し?

 二度とやりたくねえ……。

 

 

 後日、兄に教えたのだが、知恵の輪を解くのを速攻で諦めていた。まあ、そうなるな。



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R 罠

 罠。それは狩猟で獲物を捕らえるために使われたり、敵に拠点を侵入されたくない時に仕掛ける、危険な仕掛けだ。

 簡単なところでいうと、地面に穴を掘って相手を誘導する落とし穴、引っ掛けた足を吊り上げる括り縄、誘い込んだ相手を捕らえる捕獲器、触れた相手に電流を流す電気柵などがある。

 

 当然素人が遊び半分で仕掛けていいものではないし、あるのを見つけたら近づいてはいけないものだ。

 大体の場合怪我では済まない。

 

 今回はその罠が出た話だ。本来設置物であるはずのものが普通にガチャから出てくるの何なんだろうね。

 

 

 

 

 私の正面に座る兄が貪り食っているのは「N・海苔の佃煮」だ。

 これはガチャから出てきた見た目は普通の海苔の佃煮なのだが、なんと容器の中で増える。

 タッパー容器に入った形で出てきたからいいものの、ものすごい勢いで増えているので開けっ放しだと辺りが海苔の佃煮で埋め尽くされかねない。

 その見た目も相まって海苔まみれ(グレイ・グー)まっしぐらと言える。

 なお、味の方は普通だ。

 お茶請けにはいいが私の趣味ではない。

 

 テラスに来たのは回したガチャを開封するためだが、兄の前で開けていいものか。

 ろくなことになりそうにないが。

 まあよかろう。

 

 R・罠

 

 開封と同時に、テーブルの下に大きな箱が出現した。

 家電なんかを入れているディスプレイ用のダンボールに似ているが、よくわからない材質。

 サイズ感も家電なんかが入ってそうな感じだ。

 表面には「君にもできる! 罠作成キット!」の文字。

 

 うわあ。すでに面倒事になりそうな予感がすごい。

 だってこれ、あれじゃん。

 兄が仕掛けた罠に最終的に私が引っかかるやつじゃん。

 

 とにもかくにもテーブルの下から引きずり出す。

 おっも。何が入っているんだ。

 

 開封してみると、たくさんのプラモデルランナーのようなものと、宝石のようなものがいくつか。

 それと説明書だ。

 なになに……?

 

 パーツを組み合わせることで罠が完成! お手軽に恨みを晴らそう!

 

 ろくでもない。

 いや、本当にろくでもないな。

 なにをさせるつもりだ。

 

 説明書の続きを読むと、どうもプラモランナーからパーツを切り出し、組み立てることで罠が完成するという。

 宝石のようなパーツはその罠のコアで、これがないと罠にならないとのこと。

 

 うーしいっちょ組み立てるか。

 

 試しておかないと、兄が今にも触り始めようとしているからな。

 ヤバいことになりかねない。

 

 ぱぱっと組み立てられそうなやつを選ぼう。

 

 

 20分後。パーツは手でちぎれるやつ(タッチゲート)だったので簡単に外して組み立てることが出来た。

 出来上がったものはプラパーツで作られた魔法陣といった見かけ。

 可動などは無く、一塊になっている。

 これはプラモデルにする必要はあったのか……?

 

 そっと、実験室の地面に設置する。

 そして、それに対して適当なコインを投げつけることで起動を試みる。

 

 すると罠が仕掛けられている地点を中心に、地面が内側に開いた。

 覗き込むと虚空が広がっており、どこまでも落ちていきそうだ。

 

 組み立てたのは落とし穴。

 そこに穴がないのは確認済みだ。

 すなわち、突然穴が空いたことになる。

 

 うーんまじかぁ。

 これは兄を言い含めておかないと危険だ。

 

 私は付属のリムーバーで罠を除去しながら、兄に危険な使い方をするなと警告する羽目になった。

 面倒である。

 

 

 

 後日。実験室内に、立派な城が出現していた。

 は? なんでそうなった。

 R・罠の組み合わせをいじくり回して実験していた時に見つけたらしい。

 こいつ……人を罠に引っ掛けなければセーフだと思ってやがるな?



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R 湧きスポット

 ゲームによっては、モンスターの出現する地点が固定されている場合がある。

 この地点のことを湧きスポットと言ったり、言わなかったりする。

 この湧きスポットを専有してモンスターを狩り続けるのはRPGなどではよく見られる光景であり、通常効率の良い行動である。

 ゲームによってはマナー違反になる場合もあるので気をつけなければならないが。

 

 今回はその湧きスポットが出現した話だ。

 

 

 

 

 先日出現した城だが、中は迷宮となっていた。

 兄は必要なだけ整頓を済ませている、とは言っているが、そこかしこに罠が配置されていた。

 徘徊するサメに似た何かが、自発的に罠にかかっていたために危険な罠を踏むことはなかった。

 だが、そのせいで却って理外のモノが生み出されたという実感が湧いてしまう。

 

 なんで罠作成キットで城ができるんだ、と言いたいところだがこれはダンジョンだそうだ。

 もっというとこれは城ではなくて砦。

 私には違いがわからないが、どうも違うらしい。

 まあ確かに外見に可愛げがなかったので城ではないのだろう。

 

 ダンジョンかぁ……。何がどうなったらそうなるんだよ……。

 

 そうそう。今回引き当てた景品もダンジョン関係なんだ。

 ゲームなんかで良く設定されてるアレだ。

 

 R・湧きスポット

 

 出たときは驚いた。

 だってこれ、直径1mほどの“領域”なのだ。

 すなわち、空間である。

 出現した空間がそうなっているのかと思い、近づいて観察したりしたのだが。

 ほんのり光っているような気がするぐらいで、周りとあまり区別がつかない。

 

 わけがわからないのは、この“領域”持ち運びが可能なのだ。

 自分でも何を言っているかわからない。

 どうやっているかもよくわからない。

 

 ただ、その領域を持ち上げ、運ぶことができるのだ。

 井戸のように不自然な持ち上がり方をして水平を保っていることだけはわかるのだが……。

 

 というわけで、実験をするためにダンジョンだか城だか砦だかわからない建物にこの湧きスポットを持ってきたわけである。

 

 いや、持っていると手が光っているように見えてそれはそれで気持ち悪い。

 持っている時に動き出そうとしないかともヒヤヒヤする。

 

 私の脇にサメ妖精のシャチくんを控えさせる。

 彼には鉄パイプにL字管を取り付けたものを武器として持たせている。

 彼は小さな生き物だが、この鉄パイプを振り回させると結構な威力が出るのだ。

 護衛としては申し分ない。

 

 湧きスポットをダンジョンの部屋の奥に配置。囲むように罠作成キットで作ったトラバサミを配置していく。

 これで何が出てきても対処できるはず。

 

 私は折りたたみの椅子に腰掛け、スマホで動画を見ながらその時を待つ。

 使い方はわからないが、おそらく時間経過で出現するもののはずだ。

 

 

 1時間後。スマホで見ていた映画がいい感じに終わった辺りで、それは出現した。

 湧きスポットの中心からポンと軽い音を立てて、青いぷるぷるとしたスライムが現れたのだ。

 それはこちらに気がついたかのように体を震わせ、ゆっくりと向かってくる。

 

 そして、それはトラバサミを踏み、噛みつかれ、光の粒子となって消えた。

 

 ……え?

 そんな、え?

 

 なんでダンジョンのそこかしこにいるサメもどきの死体は消えてないのにそのスライムは消えるんだよ!

 

 スライムが消えた地点には、金貨のようなものが数枚落ちていた。

 ゲームか!

 ドロップアイテムとでも言いたいのか!

 

 なにかバカバカしい気持ちになった私は、湧きスポットを落とし穴の上に配置。

 そのまま放置して部屋に帰るのだった。

 

 

 

 後日。兄から大量の金貨を渡された。

 ダンジョンの機能としてダンジョン内の物品を集めたり配置したりする事ができるそうで、落とし穴にぎっしりと詰まっていた金貨の一部だそうだ。

 

 あと、兄の言うところではあのダンジョンにも湧きスポットの機能があるそうだ。

 あのサメもどきはそれから出現しているそうだ。

 

 効果が! かぶってるんだよ!



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R VRヘッドギア

 全感覚フルダイブ式ヴァーチャルリアリティ。

 多くのSFに登場する超技術であり、現実世界に肉体が制限された人類を電脳世界に接続することで、その精神を解放する技術でもある。

 その原理は作品によって様々だが、究極的に言えば脳を騙して幻覚を見せるというものであり、機械的に作られた夢の様なものだと言える。

 最近はそういった設備で行われるゲームを題材としたアニメも放送されている。

 

 今回はそのVRマシンが出現した話だ。

 実に夢の有りそうな話だ。

 

 

 

 兄がついにセーブポイントの使用に成功した。

 あれは根本的に異常に複雑な操作系を持つ物品であり、あのガチャとしては割とよくある仕様だった。

 他に例を上げるとしたら第三の手だろうか。

 あれは使用する人間に無限のリソースがあると思い込んでいる設計だったが。

 さて、兄はどうやってセーブポイントを使ったか。

 

 鬼の角による怪力を使ってクリスタル周囲に浮かんでいる輪を無理やり引きちぎったのである。

 

 確かに、輪を引っ張って壊せば使用できるとは言った。

 

 だからといって力技で破壊しないでほしい。

 私の3時間が否定されたような気がした。

 

 なお「R」の刻まれたリングの方の効果は未だに不明。

 セーブデータを読み込み(Load)してその地点でやり直す機能ではないようだ。

 

 まあセーブポイントはどうでもいい。

 今回ガチャから出現したのはこいつだ。

 

 R・AR/VRヘッドギア

 

 それはスマホやタブレットなんかを買った時に入れられている化粧箱に似た箱に入った状態で出現した。

 どこぞのリンゴ商品のパクリっぽいデザインなのはご愛嬌だろう。

 箱の中身は、後頭部を覆うヘッドギアと分厚い説明書と、USB充電器だ。

 

 中々高級品っぽい質感だ。

 

 中身の説明書は使用方法が書かれているかと思いきや、スマホの説明書ポエムを10倍ひどくしたような文章が続く。

 4割弱がその内容で埋め尽くされており、いまいち信用が置けない。

 一応残りはちゃんと使用方法が書かれていた。

 まあ、スマホの説明書と殆ど変わらない感じだが。

 

 これはヴァーチャルリアリティを利用したウェアラブルコンピュータで、フルダイブ型のVRゲームが楽しめる、と書いてある。

 ほう、VR。最近いろんなアニメで出てくるアレか。

 またARモードでウェアラブルコンピュータとして便利な機能をいくつも提供可能、とも書かれている。

 

 ヘッドギアをUSBで充電して、後頭部に装着して電源を入れれば使用できるらしい。

 充電はすでに終わらせてあるので電源を起動。

 頭の側面にでかい電源ボタンがあってしかも発光するのはかっこいいのかかっこわるいのか判断がつかない。

 

 起動と同時に、私の視界をオーバーライドするように様々な情報が現れた。

 一番目立つのは右上にある時計だ。時計の周囲にいくつかのアイコンが有り、これを指で突くイメージで動かせばその機能が使えるらしい。

 

 と、思っていたら初期設定のウインドウが出てきた。

 視界の中央にだ。

 私視点では、宙にウインドウが浮いているように見える。

 これを指でつついていたら不審者扱いされるのでは?

 

 まあいいか。今はどうせ自室だ。

 指でつついて初期設定を済ませる。

 

 無線LANの設定を済ませる。

 あとはアカウントの設定だが、アカウントを作成するためのサイトが存在しないようで、スキップするしかなかった。

 それと時計のスキンを選ぶ。アンティークなやつがかっこよかったので選択。

 

 ようやくと使えるようになった。

 

 なにがあるかな~。

 くるくると時計の周りのアイコンを指でつついて回す。

 手応えがなんか硬いのが気になるがまあいいだろう。

 

 メール、ファイル、カメラ、ミュージック、電卓、マップ、メモ、etc、etc……。

 

 スマホのデフォルトアプリか!

 ろくなのねーじゃねーか!

 

 なにかい、インストール出来ないか……?

 とそう考えアプリを探す。

 ストアアプリはあった。

 あったのだが。

 これまた接続先が存在しない。

 

 ろくなアプリが……ねえ!

 インストールもできねえ!

 じゃあ何ができるんだよ!

 スマホだってアプリ入れ替えられなきゃガラケーより使いづらいわ!

 

 また、プリセットのブラウザも性能がひどい。

 おそらく内製で作ろうとしたはいいが、工数が足りなかったのだろう。

 ホームページの表示までにかかる時間が微妙に長い。

 それに現在のWEBで中心に使われている技術の一部がフォローされていないせいで表示が欠けるのだ。

 おそらくこれが作られた時代ではその技術は使われていないのだろう。

 今のFlash Playerみたいなものだ。Flashはセキュリティに問題があり、2020年いっぱいで主要ブラウザでの実行が完全に打ち切られる。

 問題のある技術は切り捨てられる。

 世の常ではあるが……。

 

 まあいい。

 これはVRヘッドギアなのだ。

 しかもフルダイブの!

 

 ベッドに寝転がり、フルダイブを実行する。

 視界が暗くなり、全身から感覚が失われた。

 起動演出と思しき虹色の光が目に刺さっていたい。

 無重力感の中で暖かさだけが感じられ、視界の中央にポップアップが出現した。

 

「対応アプリがインストールされていません」

 

 ……。

 

 これに夢などなかったようだ。

 フルダイブモードが解除され、ベッドの上に全感覚が戻ってくる。

 

 ええ……。

 

 これではっきりした。

 これはガラクタだ。

 この世界に、このヘッドギアにインストールできるアプリは、存在しない。

 となると、使えるのはデフォルトのアプリだけだ。

 えーと、時計と、カレンダーと、地図と、メールと、あとブラウザか。一応カメラもあるな。

 

 スマホでいいわこんなもん!

 

 

 

 

 その後、色々いじくり回しながらどうにかして使えないかと触っていたのだが。

 唯一、動画だけは臨場感溢れる手段で視聴することが出来た。

 結果これは映画を見る道具となった。

 

 夢がねえ。



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R 素早さの指輪+2

 多くのRPGには、ステータスがある。ステータスがないRPGはかなり珍しい。

 そして、それを補助する要素として、装備アイテムがある。

 ゲームの中に登場する装備アイテムの殆どがそのステータスに数値を加算する仕様だ。

 すなわち、キャラクターのステータスと装備のステータスを足し合わせたものがキャラクターの最終ステータスであると言える。

 この数値の比率はゲームにもよる。

 だが、装備による加算ステータスが僅かで、つけてもつけなくても誤差でしかない、ということはないはずだ。

 

 今回はそのRPGの装備アイテムが出た話だ。

 

 

 

 

 実験室内で、ついに村落が誕生した。

 (ダンジョン)の中でうろついていたあのサメもどきは、ダンジョンの主である兄の指揮下にあるらしく、時々砦を出て木の伐採や畑の管理を行っている姿が見られるようになった。

 それだけでなく、砦を中心に伐採した木材で小さな家を建てて生活のようなことをしている、らしい。

 らしい、というのはサメもどきから自我のようなものが感じられないからだ。

 

 大方、ダンジョンで作れるアイテムの調査をさせているのだろう。

 だがその光景がどんどん村に近づいているのはどういうことだろうか。

 環境を村に近づけることで、より道具の環境に近い状況で実験できるからだろうか。

 

 兄の考えることはわからない。

 なにかのシミュレーションをやっているつもりかも知れないしな。

 ただ遊んでいるだけなら放っておいたほうが静かで良い。

 

 

 さて、今回の開封だ。

 

 最近気がついたことだが、2日以上ガチャを回さないでいるとあの筐体は異音を立て始める。

 ろくに睡眠も取れないので回すしか無いのだ。

 なんだこの二重苦は。

 

 するするとカプセルを開ける。今回もRの記号のものだ。

 

 R・素早さの指輪+2

 

 カプセルを開けると、足元に落ちたのは青い宝石の嵌った小さな指輪だった。

 精緻な銀細工で出来ているように見えるが、微妙に質感が違うから銀ではないかも知れない。

 宝石の方はラピスラズリのようだ。

 

 しかし、素早さの指輪……? しかもプラス修正値がついている。

 こういう時ゲームみたいにデータが閲覧できればどういう数値なのか一発で分かるのだが、残念ながらここは現実。

 そんなマネは出来ないのであった。

 

 もしかしたらガチャから出てきてできるようになるかも、と脳によぎる。

 できるようになってたまるか。

 

 まあ、普通の指輪だ。つけてみれば効果は分かるだろう。

 そう思って、左手の人差し指に嵌めてみた。

 

 ……うん?

 なにかが変わったようには感じない。

 

 試しに手を振ってみる。

 なにも速くなったようには感じない。

 

 もしやと思って、軽くダンジョンまで走ってみたが全く差がわからない。

 指輪を外して同じように折り返してみたが、全くわからない。

 

 ……どういうことだ?

 

 

 

 

 後日。兄を使って正確な測定を行った。

 やり方は単純。一定の距離を走らせるだけだ。

 その結果、わかったのは、この指輪を身に着けたものは大体5%ほど素早くなるということだ。

 実際タイムがそれぐらい縮んていた。

 ……ほとんど体調差で消えるな。

 

 やっぱり誤差じゃないか。これ。



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R 誰でも簡単変装マスク

 顔を知られたくない時に行うことといえば変装だ。

 例えば顔が隠れるように深くフードをかぶってみるとか、メガネを掛けてみるとか。

 とにかく印象を変えれば人の認識は簡単にごまかせる。

 有名なところでいうとほくろだろうか。

 顔の目立つ位置に大きめのほくろをつけておくだけでそこに意識を誘導し、顔全体の印象をごまかす事ができる、そうだ。

 

 極端な話、顔全体を変えてしまえば顔を知られることはないと言える。

 特に元の顔の印象に結びつかないように慎重に変えられるならなおさらだ。

 

 今回はそれを可能にする景品が出た話だ。

 ただし、ガチャ産である。

 

 

 

 

 サメ妖精のシャチくんが、気がついたら増えていた。

 具体的には3体になっていた。

 しかもどうもその3体は全て思考を共有しているらしく、3体で一人分の意識を持っているようだ。

 どうしてそうなっているのかさっぱりわからない。

 まあ元からサメの妖精だからわからないのは当然なのだが。

 

 しかし、増えた原因はわかっている。

 兄だ。

 兄がインチネジを一箱与えた次の日にこうなっていたのだ。

 

 一日一本でいいところを、100個入りの箱で与えていたのだ。

 そんなにたくさん与えたら栄養が大変なことになりそうだが、兄は報酬のつもりで与えているから手に負えない。

 その結果、見ての通り3体になっていたわけだ。

 

 3体になったことで助手としての効率が大幅に上がっていることを考えると、どう扱えばいいか悩ましいところだ。

 

 さて、それは置いておいて今日のガチャだ。

 今回、コイン排出ボタンを3回押してからハンドルを半分まで回し、おもむろに蹴りを入れてからゲーセンのコインを上の筐体に入れてから下の筐体のハンドルを回した結果、黒いカプセルを排出させることに成功した。

 なんでそうなるのかさっぱりわからないのだが排出されたのだ。

 特に記号も書かれていないカプセルだが、異様に固かった。

 

 R・誰でも簡単変装マスク

 

 出現した景品は、黒い全頭マスクだ。

 触った感じ、フリースに似た質感をしているのだが、目で見た時は光沢感のある高級そうな布なのがよくわからない。

 いや、よくわからないのはいつものことなのだが。

 

 目や口の穴が開いていないので、変装マスクとしてかぶっても使い勝手が悪そうだ。

 いや見た目は黒い被り物でしかないから不審すぎるな。

 

 ……変装マスクか。とにかく被ってみないことにはおかしな効果も判明しないだろう。

 被ってみる。

 内側の肌触りがとても良い。

 

 首まですっぽり覆ったところ、急に視界が開けた。

 本来布で覆われているはずの視界が、だ。

 まばたきも問題なく出来ている。

 それに呼吸も苦しくない。

 口を開閉するとマスクがそれに連動して動いているのを感じる。

 マスクをつけたまま食事すら出来てしまいそうだ。

 穴の空いていない全頭マスクだったはずなのに。

 

 これは……、被ったことによって効果が発揮されて、形が変わった?

 変装マスクっていうくらいだ。誰か知らない人間になっていることだろう。

 

 えーと鏡、鏡……。

 

 鏡に写った自分の顔を見て、私は呆れた。

 輝石のようなツルリとした頭部。光が“内部”に反射して白く輝いている。

 両眼と額に嵌った青い目。白目がまったくなく、不可思議な文様が浮かんでいる。

 そして、左右に開閉する口。映画で見たエイリアンのようだ。

 

 ケイ素生命体じゃねーか!

 

 え? なにこれ?

 つまりこれは、ケイ素生命体文化圏での変装マスクなわけ!?

 異星文明!?

 存在するのかそんなもの!? 確率的にありえないって証明されてたはずだぞ!?

 

 ……いや、ガチャが存在しないモノを出力しているのは今までもあったから驚くことではないか。

 

 しかし、モノボケ以外に使いみちがなさそうな物品になってしまった感のあるマスクだ。

 兄に与えればしばらく遊び倒すだろう。

 

 

 

 

 後日。兄は宝石でできたドラゴンのような姿になっていた。

 ……なんで?

 鬼の角と組み合わせた結果、ケイ素生命体文化圏に於ける鬼の姿に変じた、と兄は推測していたが。

 そうはならんやろ。



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R カヤック

 水上を移動する手段を人類はかなり早い段階で獲得した。

 丸太をくり抜いたカヌーはどの文明の痕跡でも見つかり、原始的な社会で交易を行うために利用されていた。

 インドネシア周辺では特に広域に渡ってカヌーによる交易が行われていた痕跡が見つかっており、水上移動が人類に及ぼした影響の大きさが伺いしれるだろう。

 

 カヤックはその中でも、上部を閉じた形状をしているカヌーであり、主に寒冷地で発展した。

 これは波風によって登場者の体が冷やされることを避けるためであり、また転覆した際に早急に復旧するための構造と言われている。

 

 今回はそのカヤックが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 兄が「N・スニーカーに踏まれた三葉虫の化石」を勝手に持ち出した。

 絶対に持ち出すな、ときつくいい含めていた物の一つである。

 

 この化石の問題点は2つある。

 一つは三葉虫がデカすぎるのである。

 三葉虫は通常3~5cmなのだが、この化石は30cmある。10倍だ。

 

 もう一つは、ガッツリスニーカーで踏んだ跡がついていることである。

 というのも、三葉虫を割り砕いた上に、つま先の足跡がセットで化石に成っているのである。

 

 その痕跡の鮮明さと言ったら、靴の種類まで特定出来そうなレベルである。

 こんなもの外に出せば面倒事に巻き込まれること間違いなしだ。

 

 こうなってくると他にも持ち出している可能性がある。

 確認して置かなければ。

 

 さて、今日のガチャである。

 コインを入れてからガチャに回し蹴りを入れたところ、青色のカプセルが排出された。

 中身は、というと。

 

 R・カヤック

 

 それが出現した瞬間、こちらに向かって倒れ込んできた。

 なんとカヤックが縦向きに出現したのだ。

 

 軽いとはいえその大きさである。

 私に向かって倒れてきたカヤックは私の頭に激突し、たんこぶを作った。

 

 仕返しか。ガチャマシンのくせに小癪な。

 

 それはそれとして出現したカヤックである。

 横転に対して対策がしてあるらしく、気がつけばデッキを上にして床に転がっていた。

 いや、水に浮かべているわけでもないのに奇妙なほどきれいにバランスを取っている。

 いやいやいや、なにか様子がおかしい。

 

 カヤックが僅かに床に沈み込んでいる。

 

 うん!?

 その不自然さに思わずカヤックに手を触れ、体重をかけてしまった。

 するとカヤックはまるで水に浮かんでいるかのように沈み込み、軽い手応えのままに滑り出したのだ。

 

 床を水のごとく浮くカヤックってか!?

 

 床には目に見えない“流れ”があるらしく、開きっぱなしの実験室の扉に向かってカヤックが流れていく。

 慌ててカヤックを引き上げる。

 総プラスチック製らしく軽い。

 鍛え方の足りない私でも簡単に持ち上がる。

 

 なんだこれ……。

 

 

 

 後日、カヤックをテラスに伏せて置いておいたのだが。

 兄がいつのまにやら、ヒヒイロカネによる複製を成功していた。

 兄自身にもなぜ複製できたのかわかっていないようで、本当になんで複製できているんだ。

 時々異常行動をする人ではあるが、今回は極めつけである。

 自分自身でもわかっていない行動はやめていただきたい。

 

 複製に成功したカヤックはサメ妖精のシャチくんがレースに使っていたのでまあ良しとしよう。

 もし持ち出ししていたら許さん。



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R マジック用コイン

 手品にはコインを使ったものが多数存在する。

 それは誰でも手軽に手に入れられる、手の中に収まるサイズの物品であり、誰もが知っている物だからだ。

 そしてそれが不可思議でありえない現象を起こすから人々は驚くのだ。

 そのために手品師は様々な手段を考え、それを実現するために修練を積む。

 

 今回はそのマジック用のコインが出た話だ。

 

 

 

 

 

 ヒヒイロカネを利用して、ガチャ用のコインを製造することに成功した。

 正確な金型が必要だと考えていたのだが、ガチャに使う分にはそんなものは必要なかったようだ。

 500円玉の大きさのヒヒイロカネの板と、100円玉の大きさの物を作れればそれで良かったようである。

 インゴットに電流を流しながら空になった掃除用のコロコロでコインの厚みまで押し伸ばしてコンパスで切り取って製造した。

 重量は硬貨と比べても3倍から5倍ぐらい重いのだが、この筐体はそんなことは関係なく呑んだ。

 軽いとダメなのにその差は何なんだと言いたくもなるが、使えるぶんには問題なかろう。

 

 そうやって排出されたカプセルはヒヒイロカネ製だった。

 筐体は理解した上で排出しているようである。

 本当に訳がわからない。

 

 こういうわけがわからないものについて考えるだけ無駄である。

 

 カプセルの中身は、というと。

 

 R・マジック用コイン

 

 開封と同時に、コインが転がって私のつま先に当たった。

 一見普通のペニー硬貨だ。何の変哲もない。

 

 マジック用というからには、なにか仕掛けがあるのだろう。

 指で摘んで、硬貨を眺めてみるが特に仕掛けのようなものは見当たらない。

 

 例えばコイン貫通マジックのコインには貫通用の穴が開けられているのだがこれにはそういったものが見当たらないのだ。

 

 どういうことだ……?

 頭を悩ませながら、コインを手の中で弄ぶ。

 兄が棒金で大量に渡してきたのを、私はガチャ差額分横領しているのだが、それを触っているうちに弄ぶのが手癖になっていたのだ。

 

 そして親指と人差指の間から人差し指と中指の間に転がした際にだ。

 通貨はダイム通貨にへと姿を変えた。

 

 は?

 

 手の中にある通貨はたしかにダイム通貨だ。

 変形した、とか温めると色が変わる、といったそういった普通のマジックのタネとは様子が違う。

 

 いやいやいや。それはいくらなんでも。

 タネがなさすぎる。

 

 マジックと称して本当に魔法を使うやつがあるか!

 しかも、しかも、しかも、しかも。

 そのトリガーがコインロールとか、マジシャンをバカにしてるのかコイツは。

 

 コインロールとはコインマジックを行うための初歩中の初歩で、簡単に言えばコインを手の中で自由自在に動かす、というものだ。

 一流の手品師が行うコインロールはまるで生きているかのようにコインが手の中で動き回るので一見の価値がある。

 だが、コインマジックに於いて、それは出来て当然の技なのだ。

 一部のコイン消失マジックはこのコインロールで観客から見えない位置に移動させているだけに過ぎない。

 他のタネを使っている場合もあるが、その場合でもコインロールが出来なければ話にならないのは変わらない。

 

 なんで私ができるかって?

 なんでだろうな……気がついたらできるようになっていた技ではある。

 

 話を戻して。

 コイツは。よりによってそのコインロールで姿を変えるのだ。

 人差し指の上から中指の上にコインを動かせばダイムに、中指から薬指でクオーターに、小指に動かせばニッケルに、更に薬指に動かせば1円玉に、中指へ移動させて100円玉に、人差し指に戻せば500円玉に。

 見ているぶんには面白いかも知れないが、そこにタネがない以上マジックでもなんでも無い。

 

 試しに転がしきったあと、フィンガーパームと呼ばれる手の内側に固定する技を試すとビットコインに化けた。

 

 なんだこれ……。

 

 

 

 

 

 後日、兄が2ユーロにコインを変化させていた。

 一体どんな動かし方をしたんだ。

 あ、2ユーロというのは2ユーロ硬貨のことではない。

 1ユーロ硬貨2枚のことだ。いや、なんで2枚になってるんだ。



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SR NPC(道具屋)

 RPGにおいてキャラクターは2つに分類できる。

 一つはプレイヤーが操ることができるプレイヤー・キャラクター。

 もう一つは、役割を与えられその役割の通りに動くノンプレイヤーキャラクターだ。

 ゲームの高品質化に伴い、ノンプレイヤーキャラクターは反応が多様になってきたが、基本的には役割に従った反応を返すのが仕事だ。

 そしてそれを逸脱することはない。

 逸脱したらきっとバグを起こしているだけだ。

 

 今回はそのNPCが出た話だ。

 え、意味がわからない? 私もわからない。

 

 

 

 

 

 兄が突如宝くじを当選させていた。

 どうこうことかわからないが、何でも3面ダイスとマジック用コインを組み合わせることで、次に起こり得るランダムな出来事の内容を調整する事が可能、だと言っている。

 そんなバカな……と言いたいところだが、実際に当選している宝くじを見せられると頭を抱えたくなる。

 

 しかし当たっている額面は10万円。たしかに普通には出ないとはいえ、まとめ買いすれば出ないこともないという微妙な線。

 本当に確率操作できるならもっとでかい額面で当ててほしいところだ。

 

 さて、本日のガチャだ。

 新たに使えるようになったヒヒイロカネ硬貨は、サメ妖精のシャチくんのうちの一体に量産させている。

 これによってほぼ無料でガチャを回せる様になったわけだ。

 そして排出されるヒヒイロカネ製のカプセル。今回は虹色の記号でSRと刻まれている。

 なんというか、材質が変わるのはいいが、記号が表記ブレしてるのどういうことなんだろうな。

 

 中身は、と。

 

 SR・NPC(道具屋)

 

 重量感があったのでテラスで開封したのだが、それは正解だった。

 私の正面に突如、おじさんが出現したのだ。

 恰幅の良い太鼓腹で、人の良さそうな笑顔を浮かべている。

 

 しかし、だ。このおじさん、極めて奇妙である。

 なぜなら、微動だにしないのだ。

 まるで機械じかけのよう。

 

 正直、サメ妖精が出現したより面食らっている。

 得体のしれなさで言えば他の景品より群を抜いている。

 しかし、だ。紙にはNPCと書かれている。

 では、このおじさんが、そうなのか?

 

 おずおずと声をかけてみる。

 すると、そのおじさんは突如電源が入ったかのように、「いらっしゃいませ」と声を上げたのだ。

 い、いらっしゃいませ? どういうことだ?

 疑問を他所に、おじさんはそこから「何をお求めでしょうか」と言葉を継ぐ。

 

 疑問を投げかけてもその答えは帰ってこない。

 ただその二言を狂ったように(いや、狂っているのだろう)繰り返すだけだ。

 

 なるほど、NPC。

 手首を取って脈を図ってみるが、ピクリともしていない。

 やはりか。

 

 これは人の形をした景品だ。

 サメ妖精のシャチくんともまた事情が違う。

 おそらくは生き物ですらないのだ。

 

 だとすればやることは一つ。

 商品を見せてくれ、だ。

 

 

 

 

 

 

 後日。NPCのおじさんは、ログハウスの端に仮設店舗を配置してそこに収めることになった。

 正直気味が悪いんだよな。

 また商品も同様にガチャから排出されるような理解を拒む物ばかりだった。

 モノフォチウってなに? 

 芋に似ていたから兄が栽培を始めているんだが。

 食った兄いわく芋のアップグレード版、らしいが胡散臭い。

 兄の味覚は微妙に信用がならないのだ。

 なお取引に必要な金は、ヒヒイロカネをNPCのおじさんに売却することで入手した。

 一体ヒヒイロカネがどこに消えているのか、そして商品がどこから出現しているのか。鞄の中はそれらしく膨らんでいるだけで未だ謎である。



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R 発光エフェクト

 ゲームや映画には場面を盛り上げるために、現実ではありえないような効果演出が行われる。

 基本的にそれは発光する粒子のようなもので行われる。それらを組み合わせることで、魔法的な爆発を表現したり、銃弾の軌跡を描いたりするのだ。

 キャラクターがなにか感動的なことをやってキラキラ消えていくアレである。

 

 今回はそのアレが出た話である。

 なんでこれ景品なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 NPCのおじさんが出現してから、村の様子が変化している。

 具体的には、明らかに物の種類が増えているのだ。

 あのサメもどきもNPCに似た存在らしく、特定のプロセスを繰り返す行動を取っている。

 つまりだ。今、あそこでは工業系サンドボックスゲームのようなことが行われているのだ。

 その結果なにが生産されているのかはわからないが、明らかに何かを管理し、生産している様子が見て取れる。

 

 道具屋のおじさんを介して、生産したものを売却し、物品を購入。その物品で次の商品を生産し、再び売却。

 この流れが形成されている。

 

 となると、おそらく買付されているのは銅だ。

 そして銅を粉砕精錬する作業と、ヒヒイロカネと合金する作業が同時に行われ、生産したヒヒイロカネを売却してなんらかの資金を得ている。

 

 もっともそんな資金を手に入れて何をするのかわからない。

 その金は当然外では使えないのだ。

 金貨を鋳潰しても同上。密輸扱いにしかならん。

 

 ということは販売リスト内になにかあるのだろう。

 そこまでして欲しい物とは一体。

 ろくでもない物でなければいいが。

 

 ろくでもない物といえばガチャだ。今日排出したカプセルなのだが、虹色に光り輝いているのである。

 それもいつもの光り輝き方ではなく、いわゆるパーティクル、光る粒子がまとわりついている、といった風体。

 現実にはありえない光り方をしているが、まああのガチャのことだそういうこともあるのだろうと納得……できるか?

 微妙なところだ。

 これまでにない現象が起こっているわけだし。

 

 とりあえず開封。開封と同時に光が消え、ヒヒイロカネ製のカプセルに戻った。

 

 R・発光エフェクト

 

 足元に餅のような物が落ちた。

 いや、それは正しいかわからない。

 なぜならそれは透明で、そもそも実体があるように見えないのだ。

 それは光の集合体、としか言いようがない。

 虹色に光る光の粉の集まり、というべきか。

 何が近いかといえば火だ。

 特に、宇宙空間での蝋燭の火のイメージが近い。

 そして時折、自身の色と同じ光の粉を周囲に飛ばしている。

 

 これは……触っても大丈夫だろうか。

 とりあえず床が燃える、といったことは起こっていないが、これがそうではないとは言い切れない。

 とりあえずつついてみるか。

 

 兄の用意した木材の端材にいい感じの棒があったので、これでつついてみる。

 

 するとその光は、延焼するかのように棒にまとわりついた。

 

 ……、あれ?

 棒全体が虹色の光を放つようになっただけで、棒自体に変化があるようには見えない。

 いや、虹色に光っている時点で玩具めいた不自然さはあるが、ただそれだけだ。

 手に触れている部分が熱いとかそういうこともない。

 

 ……紙にかかれているのは、発光エフェクト、の文字。

 ええー?

 

 

 なお発光エフェクトは棒から掴んで引き剥がせた。

 虚空を掴むような奇妙な感覚で、本当につかめているかわからなかったが、引っ張ってみると餅のような張り付き方をしているだけで、あっさりと剥がれ、一つの球形にまとまった。

 

 なに、この……なに?

 

 

 

 

 

 

 後日、兄が発光エフェクトを砦に貼り付けていた。

 虹色に光り輝き、異常な存在感を放つ砦。

 あの人やっぱバカじゃねーのか。



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R 魔剣

 世界各地の神話には、魔剣と呼ばれる、持ち主に災いをもたらしたり、過剰なほどの力を持つ危険な剣が存在する。

 一度抜き放てば、生き血を浴びるまで鞘に納まらず、必ず周囲に死を与える魔剣、ダインスレイフ。

 三度使えば、持ち主を死の運命に誘うというティルフィング。

 創作で言えば、斬った相手の生命と魂を吸い上げ、所有者に与え、その快楽に酔わせる魔剣、ストームブリンガーが有名だろうか。

 

 最も、魔法の力を持つ優れた剣のことを魔剣ということも多い。

 魔法の力があるから魔剣。わかりやすい話である。

 

 今回は、その魔法の剣が出た話である。

 

 

 

 

 

 

 兄が選定の剣の切断に成功した。

 都度、金属切断用のグラインダーを4枚消費し、うち3枚は破断するという恐ろしい硬度を持っていたが、現代技術の前ではそこが限界だったようだ。

 切断された結果、剣は輝きを失う……といったこともなく、美しい刀身のままだ。

 中程で切断されているためにだいぶ短くなっているが、切れ味は据え置きであり、これから兄がこれを使うと思うと色々悩むところだ。

 まあ、でかいナイフとして余生を過ごしてくれ。

 

 なおでかい岩はそのまま破壊不能だ。

 まあ剣先が刺さったままだからそれが理由なんだろうが。

 竜化した兄なら押せるようなので今度実験室の端まで移動させよう。

 

 と、聖剣が片付いたと思っていたのだが、次の剣がガチャから出現してしまったのだ。

 

 R・魔剣

 

 そいつは出現と同時にテラスに突き刺さった。

 意図的にその色に仕上げたと思われる漆黒の刀身に、歌う女性の姿が彫り込まれている。

 選定の剣は神聖な雰囲気を感じさせる美しさだったが、この魔剣は、威圧感のある美しさだ。

 そこにあるだけで圧を感じる。

 

 いやいやいや……、まさか、これも“選ばれし者じゃないと抜けない”とかじゃないだろうな。

 このテラスはガチャで荒んだ心を癒やす私の貴重なスペースなのだ。

 そこから見える光景がまあまあ地獄(兄のおもちゃ箱)だとしても、個人所有の庭という、ある種の理想の場所なのだ。

 そこに剣が鎮座されるのはメンタルに悪い。

 

 おもむろに引き抜いてみる。

 魔剣は金属で出来ているために結構な重量がある……ん?

 あっさり引き抜けている。

 ただただ重いだけだ。

 

 そのまま、私はその魔剣を構えてみた。

 おおよそ魔剣というのだから、切れ味が鋭いとかそういうところだろう。

 そういう推測をしながら。

 当たっていれば選定の剣が刺さっている岩を解体するついでにへし折ろう、とか考えてないぞ。

 

 剣を正眼の構えで握る。剣道などでよく見られる、相手に剣を向けた構えだ。

 痩身の私には持ち上げるだけでも一苦労だが、この剣の効果を知らずに放置するのは危険だと考える。

 

 構えがしっかりと定まった瞬間、魔剣は炎をまとった。

 持っているだけでかなり熱い。

 これは炎の魔剣ということか。

 

 いや、あっついなこれ! 熱気がどんどん伝わってくるぞ!

 熱いから止まれ!

 

 そう思いながらゆっくりと振り下ろす。

 それが地面につくと同時に、私の視界は氷塊で埋め尽くされた。

 

 は? 振り下ろしたら氷が出た?

 これは、イメージを力に変える魔剣、ということか?

 おそらくは割と極端に変化させるのだろう。

 

 ならば、と。もう一度振り下ろす。

 イメージするのは風だ。

 それも鋭く、切り裂くような風だ。

 

 ヒュン、という音とともに、目の前にあった岩に切り傷がつく。

 やはり、イメージを力に変える魔剣のようだ。

 

 これはいい。

 ……いや本当にそうか?

 現代社会で使い道があるか?

 

 ガチャのいつものアレだ。

 おもちゃにするぶんにはいいが、結局のところ社会の邪魔でしか無い物。

 本質的に少し前に出た拳銃と同じだ。

 危険物である以上、むやみに使うわけにはいかない。 

 

 さて、これをどうやってしまおうか。

 未だに炎をまとっているんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄は魔剣を使って家を作っていた。

 いや、何を言っているかわからないが、私もよくわからない。

 魔剣のイメージ具現の力を、畑にあったよくわからない蔦植物と苗木に組み合わせて造成しているようだ。

 その外見は映画などで見るエルフの住処という風情で中々ロマンがあるのだが、なぜそれを魔剣で作れると判断したのか本当にわからない。

 それについでと言わんばかりに鞘も作っていたから余計わからない。

 何をどうしたらそんな……そんな事ができるんだ……。



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R ゆめみるベッド

 人の人生の3分の1は眠りに支配されている。

 すなわち、人は人生の3分の1を寝床で過ごすということである。

 で、あるならば寝床の質が優れていればいるほど人生の質が優れている、とも言えよう。

 

 そのために様々な寝具が開発されてきたが、最終的に柔らかな布団に包まれる形が最適なようだ。

 現代では様々な柔らかさの寝具が存在する。

 そしてこれからも様々な素材で実現しようとするだろう。快適な睡眠のために。

 

 今回はその寝具の一つ、ベッドが出現した話だ。

 

 

 

 

 

 

 魔剣という新たな加工技術を手に入れた結果、大量に余っているヒヒイロカネがものすごい勢いで道具に加工されている。

 現状、最も多いのは農具だ。

 畑を何に使うのかわからない。

 だが、なにかを大切に育てている感じはあるので、兄にとって重要な何かがあるのだろう。

 ただの趣味というわけではなさそうだ。

 ……あのわけのわからない植物を品種改良してるんじゃなかろうな。

 やりかねない。

 とはいえ、そうしていたとしても私は現状維持だ。

 結局口を出さないあたり、私も同罪である。

 まあ良かろう。問題さえ起こさなければ。最も、あの兄はだいたい問題を起こすのだが。

 

 というわけで、今回のガチャだ。それは開封したと同時にテラスの一角を占拠する。

 フッカフカの布団が乗ったベッドだ。

 美しい木目の木枠にマットレスが乗せられ、あたたかそうな掛け布団がかけられている。

 

 R・ゆめみるベッド

 

 どのへんが夢見る、なのか私にはわからないが、とにかくフッカフカなのだ。

 白く分厚いマットレスに体重をかけるとどんどん腕が沈み込んでいく。

 

 これはきっと寝心地が良いだろう。

 正直今使っているベッドは、少し前に出たクッションに寝心地が負けていてどうにかしたかったのだ。

 いや、あのクッションの無重力感は癖になる、というだけでもある。

 

 しかし、ガチャ産のベッドだ。これで眠って本当に大丈夫か?

 予想できる効果は、

 1.夢の世界に入り込む

 2.ものすごい熟睡

 3.その逆

 あたりか。名前がゆめみるベッドだから、1の可能性が高い。

 

 ま、いいか。試せば分かる。

 スリッパを脱いで、そろりと布団の中に入り込む。

 

 すると、ベッドが浮かび上がった。

 うおおおおお!

 これもクッションと同じか!

 

 しかも、しかもだ。

 このベッド、浮かんでいる間めちゃくちゃ揺れるのだ。

 まるで荒波の中に浮かぶ小舟の如く。

 あまりに激しい揺れ方に、落ちてしまうのではないかと思うほどだ。

 これは酔う、酔ってしまう、寝れるわけ無いだろ!

 

 揺れる中から必死で這い出してベッドから飛び降りる。

 打ち付けた背中が痛い。

 

 どうしてこうなった……。

 ゆめみるって書いてあったんだからそうはならんやろ。

 

 嬉しいはずの景品が一転粗大ごみに化けたこのがっかり感、どうしてくれようか。

 テラスの一角を盛大に占拠していることも最悪である。

 兄ならなにか思いつくだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がベッドを乗りこなしていた。

 何を言っているかわからないと思うが、ベッドに乗って空を飛び回っていたのだからそういうほかない。

 ただ高度自体はそれほどでもない。せいぜい50cmから1mぐらい浮かんでいる、といった程度か。

 反面、ベッドとは思えない速度で飛んでいる。

 ぱっと見、オートバイぐらいの速度が出てるんだが?

 

 とりあえず速度を落とすことだけ注意して、私はこのベッドのことを記憶の底に投棄することを決めた。



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R 声

 人が進化の過程で手に入れた、人を人たらしめる要素が3つある。

 言わずもがな、他の生物とは一線を画する思考力を生み出す脳。

 思考力から生み出された道具を扱う繊細な手。

 そして、仲間との複雑な連携を可能とする声だ。

 それらは進化の過程で相互に強化され高度化していったものであるため、どれが最初だったかと言われると説明ができないが、それらを獲得したために人類は今日に至るまで文明を築き上げることができたと言えよう。

 

 今回はその声を手に入れた話だ。

 どういうことかって? 私にもわからん。

 

 

 

 

 

 

 褒めると面倒なことになるのであまり言いたくないが、竜化した兄の姿は、とても美しい。

 流水のように光の流れる結晶状の表皮を持つ体躯から六肢の太い手足が生え、円形の翼を持っている。翼は飛ぶためというより、空から降り注ぐ何かを防ぐために盾として得た形質のように見える。

 ケイ素生命体由来の水晶のような体はただそれだけで美しいのに、昆虫にも似た生命機構がその命の力強さを形作っているのだ。

 

 だが、それは人外の美だ。

 おそらくはあのマスクのケイ素生命体はカマキリに似た形態の種族なのだろう。

 それにおける鬼の概念の姿が、これなのだ。

 あらゆる暴力を物ともしない無敵の体と、破壊をもたらす怪力を持つ姿。

 そう考えれば竜に似ているのも必然かも知れない。

 

 まあその姿でもってやることが土方作業なのだから宝の持ち腐れもいいとこである。

 というかそれでいいなら元の鬼の姿で事足りる。

 

 さて、今回のガチャだ。

 

 R・声

 

 その意味不明な名称から出現したのは咽喉マイクに似た装置だ。

 やや古めかしい……というより、スチームパンク趣味の入った印象すらあるデザインをしている。

 しかしマイクのように見えるだけで、その実音声を出力するパーツが一つもない。

 イヤホンジャックもないのだ。

 

 なんだこれ。

 いまいちどういう物か想像しかねる。

 まあいいか。つけてみれば分かるだろう。

 

 そう思い首に巻く。そして咽喉マイクを押さえながら声を出してみた。

 

 すると私の口から、私の声とは全く違う美声が出た。

 私の声と同時に。

 

 なんだこれ……。変声するわけではないのか。

 私の声と同時に出ている以上、変声器ではない模様。

 適当な言葉を発してみると、どんどんわけが解らなっていく。

 

 なぜなら、その美声で語られている言語が全くわからないのだ。

 リンゴがアップル……に近いような気がする発音の単語になる。

 私の声はそのまま普通にリンゴと言っている関係上、めちゃくちゃ聞き取りづらいのもあって何を言っているのかわからないのだ。

 

 どうするかな。

 まあ、兄に聞かせればいいか。

 

 

 

 後日。兄がついに口から炎を吐いた。

 いや、順番に説明しても理解されないと思うが、説明させてくれ。

 あの後、兄に咽喉マイクを見せ、聞かせたのだが、何かに気がついた兄が、マイクをつけて鬼の角と、変装マスクと使って竜化したのだ。

 そして一言、「炎よ」と。

 それと同時に兄の口から猛烈な炎が吐き出されたのだ。

 

 兄いわく、あの咽喉マイクの正体は、「遺失した古言語の発声」を可能にする装置、だと。

 私が使っていたのはどうもラテン語の原型か、ラテン語そのものらしい。

 そしてもしかするともしかするんじゃないか、とついうっかりやってしまったらしい。

 

 どういうことなの?

 ケイ素生命体文明は魔法文明なの?

 なんで兄はそれに気がつけたの?

 なんで思いついたらすぐ実行しちゃうのこの人?



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R ダウジングロッド

 場所を知る、という占いにダウジングがある。

 これは主に失せ物探しや地下鉱脈を捜すなど、そのような用途に使われる物だ。

 軽く握った物が、ほとんど勝手に動作し、場所を指し示すという挙動をするため超常的な現象を起こしていると考えられ、占いに利用されてきた歴史がある。

 実際は人の思考が微細な動きに影響を与えるのが原因だそうだが。

 その道具の中でも有名なものが振り子とL字の棒だ。

 どちらも、捜し物の上で振れるのでとてもわかりやすい。

 

 今回はそのダウンジング道具である、ダウジングロッドが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば、湧きスポットから出てくるコインだが、NPCおじさんの道具屋で使えなかった。

 互換性がないことに驚きすらしない。

 ガチャはそもそもそういう物だからだ。

 ろくな互換性がない。

 だからこそ兄は平気で悪用しているとも言えるが。

 

 さて、今回のガチャだ。

 開封と同時に、二本のL字に曲がった棒が足元に落ちる。

 一切飾り気のない金属棒だ。

 

 R・ダウジングロッド

 

 なるほど。久々にわかりやすい物が出てきた。

 これを持って練り歩けということか。

 

 20年前ならいざ知らず、今どきダウジングロッドをもって練り歩いていたら不審者扱い待ったなしだ。

 となると、実験室内で試してみるということになるが。

 

 しかし、実験室は突如出現した特異な空間。

 実際に何かが埋まっている、ということが本当にあるのか怪しいところではある。

 

 ……いや、一箇所だけ何か埋まっている地点があったな。

 景品を試すためとはいえ、掘り返したくはないが。

 

 まあいいか。確認したら埋め戻せばいいだけの話だ。

 拳銃を埋めた地点の上まで、ダウジングロッドをゆるく手に持ちながら歩いていく。

 

 ダウジングロッドはたしかに拳銃を埋めた地点で振れ、開いた。

 スコップでザクザクと掘り起こす。

 

 すると、機関部が見えた。全く見覚えのない構造の。

 

 慌ててその場を掘り返す。

 そこから出てきたのは長銃身のボルトアクションライフルだ。

 見かけは第二次世界大戦期に使われていたものと思われる。

 

 いや、いやいや、おかしい。

 なんでボルトアクションライフルになっているんだ。

 周囲も掘り返してみたが拳銃は出てくることはなかった。

 

 私は何を見つけてしまったんだ。

 異常な現象が起こるのはいつものことだが、一度確認したものが化けると流石に焦る。

 

 そっとボルトアクションライフルを埋め戻し、見なかったことにする。

 

 さーて他にも何か埋まってないかな!

 

 

 

 

 

 後日。現実逃避として余計な行動をしたのが間違いだった。

 ダウンジングロッドは、南の端で別の反応を示してしまったのだ。

 手持ちのスコップでは発掘できなかったので兄とシャチくんを動員し、掘り起こしたのだが、出てきたのは遺跡と思しき建物の入り口だ。

 

 これに対し兄は探索隊を結成。サメもどき20体にシャチくん3体、兄1体の24体構成の上、これまでガチャで出現した武器になりそうな物で武装を固めていた。

 意気揚々と乗り込んでいった兄だったが、なんと積層構造となっていたダンジョンを一層で撤退。

 無数にスケルトンが湧き出し、サメもどき20体が全滅したとのこと。

 一層をクリアすることには成功したそうだが、湧きスポットを潰せなかったため二層にはいる前にサメもどきがどんどん損耗していき撤退を余儀なくされたそうな。

 

 まさか兄のおもちゃではなくガチのダンジョンが出現してしまうとは。

 

 あの……その……、困る。



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SR 鎚と金床

 人類が鉄を扱う過程で、2つの加工法を見出した。

 一つは鋳造。枠を作り、そこに液体化した金属を流し込むことで金属を望んだ形に加工する。

 もう一つは鍛造だ。熱して柔らかくなった金属を、丈夫な台と槌で叩くことで望んだ形になるまで加工する。

 どちらにも加工の難易度や手間の関係から、目的に合わせて手法を変えることが望ましいものだ。

 

 今回は鍛造に使う道具である、鎚と金床が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンを発掘してから、兄は忙しそうにしている。

 自前のダンジョンを持っているとはいえ、あれは罠作成キットから作られたものでしか無く、その性能は本物と比べると微妙、と言わざるを得ない。

 その差による結果があの撤退である。

 

 兄は発掘されたダンジョンの攻略を諦めてはいないようで、攻略のために必要な準備を整えている。

 例えばヒヒイロカネ製の装備だ。電気が流れていない限り極めて丈夫なヒヒイロカネを使って武器と防具を整えている。

 と言っても胸当てと盾をつけたサメもどきを前衛に並べるぐらいしか出来ないのだが。

 

 と、考えているとガチャから出てくるのだ。

 状況を引っ掻き回すような景品が。

 

 SR・鎚と金床

 

 それは出現と同時に、テラスの階段を破壊した。

 出現した景品は一般的な形状の金床と、その上に乗せられた金槌のセットだ。

 

 鍛造による金属加工に使われるそれは通常、炉がなければ役に立たないはずだがそれは金床と金槌だけで出現したのだ。

 それだけで出現したということは、単独で使用できるということ、だと思われる。

 

 つまり、ということは。

 そっと金床の上にヒヒイロカネを乗せ、金槌を叩きつける。

 

 すると、ヒヒイロカネはバーン、と激しい音を立て、その形状を変えた。

 

 漫画に出てくるハンマーなどの衝撃エフェクトの形に。

 

 どういうことだよ……。

 確かに金槌は叩きつけた。それも振りかぶるように。

 だからといって、衝撃エフェクトの形になるのはおかしいだろう。

 

 

 

 何度やっても衝撃エフェクトにしかならない。

 どんどん無駄になって変な形の金属を量産してしまう。

 忍びない、と思うことはないが、変な形にしかならないことで、私の正気が疑われるのが我慢ならない。

 なんでこれはこれにしかならないんだ。

 

 

 

 苦節、48回目。初めて衝撃エフェクト以外の形状に整形できた。

 金槌一発でヒヒイロカネが、剣の形状に変化したのだ。

 そしてこの鎚と金床の正体が判明した。

 魔剣と同じく、これもまたイメージを媒介に物の形を変形させる道具だ。

 それも、特定の形に限る模様。

 おそらくは剣を中心とした武器類の鍛造(と呼んでいいのかわからないが)を一撃で以て可能とする道具なのだ。

 他に何が作れるかはわからない。

 だが、作れるものに限れば、一撃で、高精度の道具の制作が可能のようだ。

 

 しかし、ここに問題がある。

 魔剣とは比にならぬほどの集中力を要求するのだ。

 その実、この剣を打てたことすら奇跡的である。

 一心不乱に剣を脳裏に描きながら、金槌を振り下ろす。

 そこに、金槌を振り下ろすというイメージを混ぜてはいけないのだ。

 もはや人間業とは言い難い。

 

 しくじればあの衝撃エフェクトに化けるのだ。

 正直なところ、普通に加工したほうが楽なのではなかろうか。

 

 そういうわけで、兄にテラスの修理を頼むとするのだった。

 

 

 

 

 後日。兄は斜め上の手段で鎚と金床によって剣の量産を実現した。

 言われてみれば簡単な話だったのだ。人間には不可能だと思われるなら、人間にやらせなければいいのだ。

 兄は、特定の思考だけを持つサメもどきを作り出し、そいつに鎚を振るわせたのだ。

 元より自我を持たぬサメもどきだが、AIのように特定の思考を走らせ続けることはできる。

 できるから巡回や護衛などが行えるのだ。

 兄はそこを逆手に取った。

 剣を思い浮かべ続けながら、腕だけ金槌を振りづつけるサメもどきを作り出し、金属と製造物の交換は他のサメもどきにやらせる。

 

 そしてそれによって兄の用意している武器の質は大幅に上昇した。

 魔剣で作れるのはせいぜい農具やメイスぐらいだったのだ。

 魔剣は、基本的に兄のイメージに左右されるので精度がでない。

 鎚と金床を使えば特定の形しか生産できないとはいえ、超精度の道具が生産できるそうだ。

 

 これらの武器で武装したサメもどき達により、発掘ダンジョンの一層を蹂躙。湧きスポットもサメもどきに囲ませて武器で叩き続けることで完封。

 兄は発掘ダンジョン一層の完全攻略を成し遂げたのだった。



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R お土産セット

 お土産。一般的に旅行先で見つけた名物などを知り合いに渡す行為である。

 そのため、渡す相手の好みに合うとは限らず、微妙なすれ違いによる不幸が発生しやすい習慣でもある。

 食べ物が口に合わない、はよくある話で、これはもらった人間以外が食べればいいが、海外旅行だと化粧品や香水など、合わないがために全く使われず死蔵するなど悲しい現象が起こったりもする。

 あと現地のその場所らしい置物なども結局箱にしまわれがちだ。

 私は叔父に月餅をお土産にもらった事があるのだが、そのあまりの粉っぽさに一口しか食べられなかった。

 

 ええ、何が言いたいかというと……今回そういうタイプの景品が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発掘ダンジョン一層の制圧が進んでいる。

 どうにも、一層ごとに仕掛けがあるらしくそれを解体することで湧きスポットからのスケルトンの出現が止められるようだ。

 そのことが判明したのはいいが、今度は仕掛けの解体に手こずっているのだ。

 というのも、どうもその仕掛けが壁に埋められているらしく、場所がわかってもそこにたどり着く手段がないのだ。

 現状は粗製のツルハシで掘り進めているとのこと。

 

 ……どうやってそれを把握したんだ兄。時々、兄は異常なカンの良さと理解力を発揮する。

 そしてだいたいろくでもないことになるのだ。

 勘弁してほしい。

 

 さて、今日のガチャだ。

 異音さえなければ回さないのだが、回さないと騒音を立てるのだから仕方ない。

 対策せずに旅行とか出たらヤバいことになるような気がする。

 

 排出されたカプセルは妙などどめ色をしていた。

 開封と同時に複数の物品が吐き出される。

 

 R・お土産セット

 

 出現したのはなんかでかい剣、木刀、箱の3つ。あと得体のしれない置物だ。

 というか、何のお土産だ? お前、ガチャだろ?

 どこに行ってきたというんだ。

 

 木刀には持ち手の部分に得体のしれないタイプグラフィーが施されている。というか何の文字だこれ。

 そして振ってみても特になにもない。というか、柱にしたたかにぶつけてへし折れてしまった。安物だ。

 

 で、この邪魔になりそうなでかい剣だが、そう、あれだ。

 お土産屋に置いてある、竜が絡まっている剣のアレが、そのまま実際の剣のサイズまでスケールアップされた物だ。

 そのおかげでめちゃくちゃ重い上に邪魔である。

 しかもしかも、ひと目で剣として使えなさそうというのが分かる。

 なぜならバリがすごいのだ。刃となる部分に余分な金属がついている以上これは切れない。絶対に切れない。

 あと魔剣の3倍ぐらい重くて振り回しすら出来なかった。持ち上がらん。

 幅広の剣だからそりゃそうもなるな。

 邪魔なのでテラスの前に投げ出しておいた。兄がいい感じにしてくれるだろう。

 

 で、最後。

 箱だ。包装紙に包まれた薄い箱だが、そこに書かれているのは「銘菓アトランティス饅頭」。

 饅頭。

 はい。

 アトランティス。

 はい。

 はいじゃないが。アトランティス? いやいやいや、どこからお土産買ってきてるんだよ。

 本当にどこだよ!

 じゃああの木刀も、竜の巻き付いた剣もアトランティス土産ってか!

 

 中身の饅頭は兄に食わせて確かめたが、普通の饅頭だった。

 なお味の評価はかなり微妙。あんこがたわしみたいな食感になっていたため。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。完全に記憶から消えていた得体のしれない置物だが、兄が発掘したダンジョンに持ち込んで、スケルトンに投げつけていた。

 どうも見た目と持ち上げた際の重さと実際の重量が全く釣り合っていないらしく、投げることでスケルトンの頭部を一撃で粉砕できるお手頃な投擲武器になるそうだ。

 

 邪神像みたいな見た目の置物だったが、一体何を象った置物だったんだろう。

 多少気になるくらいで別に私はいらないから、兄の投擲武器として頑張ってくれ。



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SSR 妖刀「鏡写し」

 妖刀。元を辿れば徳川家に仇なした志士が持っていた刀がことごとく村正の作だったところから来る呼び名だ。

 村正はその飾り気のない作りと、研ぎ澄まされた切れ味によって元より人斬り刀としての性質が強く、歴史にもとにかくその切れ味の鋭さによる逸話が多数残っている。

 この点、鋭さだけでなく刀身の美しさにも重点を置いた正宗と対比される事が多く、そのため2人の刀匠はその腕故に出会ったがやがて思想の違いにより決裂するという話が残っている。最も、この2人は同じ時代に生きた刀匠ではないので創作された逸話であるが。

 あとは妖刀といえば村雨だろうか。これは刀身が常に水に濡れ、その水は邪気を払い霧を呼ぶという、まさに魔剣なのだが、村正と混同されたがために妖刀として扱われる。

 近年の創作には様々な妖刀が登場し、村雨のように様々な能力を持っている事が多い。

 

 今回は……最強の妖刀が出現した話だ。

 刀が道具であることを逸脱しない以上、おそらくは。

 これが最強である。

 

 

 

 

 

 

 

 兄が、負傷した。

 二層の攻略中、仕掛けられていた罠によって押し込み用のサメもどきの動きが悪化し、全滅したのが原因だ。

 撤退の最中、スケルトンの集団に背後からざっくりとやられたようだ。 

 幸い、ボディーアーマー(いつの間に手に入れたのか、どこで手に入れたのか不明)を着込んでいたために打撲で済んでいたが一月はダンジョンの攻略に戻れないだろう、という傷である。

 

 心配はしていないのかって?

 もちろんしていない。

 というのも、もうすでに治っているからである。

 

 負傷した兄が戻ってきたときは心配して焦ったが、そのすぐ直後、兄は何かに気がついたように選定の剣を抜き、セーブポイントの輪っかを破壊したのだ。

 その直後、兄の負傷は嘘のように回復した。

 

 いや、は? となった。

 当然である。何が起こったのかわからない。

 兄が言うには、セーブポイントのRの正体がわかったからこその行動だった。

 R。「Refresh(リフレッシュ)」のRだ。

 Rの輪を破壊することで、兄は自身の負傷をリフレッシュしたのだ。

 

 こういう人だ。やはり心配するだけ損である。

 そのあとガチャを回すことをねだられた。まじかぁ。

 当人は自作のダンジョンに戻って戦力の再調達してるんだから適当な人である。

 

 で、ガチャから今回出てきたものなのだが。

 

 SSR・妖刀「鏡写し」

 

 そう、めちゃくちゃ高そうな日本刀が出現したのだ。

 鞘からしてこれまでの雑道具どもとはデザインが異なる。美しい朱色の鞘に、異様に凝った鍔。

 鍔のデザインは見たことがない造形をしている。

 何故かというと、そこに刻まれてるのは西洋竜、すなわちドラゴンだからだ。

 ただ見ているだけで食われてしまいそうなほどの威圧感を放つ造形は素晴らしい。

 また刀身には刃紋がなく、切れ味だけを追求したような物々しさがある。

 なにか独特の美学を感じる。

 

 銘まである景品は初めてだ。

 そっと鞘を左手で持ち、抜刀の構えをしてみる。

 恐ろしいほど静かに、集中力が研ぎ澄まされていく感覚がする。

 力の入り方もあまりに自然で、達人が刀を構えているならばこんな感覚なのだろうかと錯覚するほどだ。

 

 気がつけば、私は刀を振り抜いていた。

 テーブルの上に乗ったジュースの缶が真っ二つになっていることに気がついてから、その後に刀を抜いていることに意識するほど、あまりに自然にその一刀を放っていた。

 なんだこれは。

 そう思った直後、右腕にひどい重量感。腕の筋肉が抜き放った刀の重さについていけていない。

 

 そっと床におろして刀を鞘にしまう。なんというか、抜くよりも納める方が手間だ。

 何だったんだ、あの斬撃は。

 あまりに自然に缶を切り裂けただけに、自分がやったことだと理解できない。

 抜いて振ってみてもあんな見事な斬撃は使えまい。使えなかった。

 

 そう、何度試してみても。鞘を抜いた瞬間の抜刀だけがそうなるのだ。

 抜いている状態ではティッシュすら切れないのに、抜刀だけが達人をも超えるであろう一撃を放つ。

 

 わからない。

 一体何がどうなっているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄との検証によって、正体が判明した。

 この妖刀は、抜かれる一瞬だけ使用者が思い浮かべる最強の剣士に、使用者を仕立て上げる。すなわち、最も理想的な一太刀を放つことに特化した刀なのだ。

 

 それを理解してからの兄はすごかった。

 思い浮かべる理想的な一撃、に納刀まで含めることでこの妖刀による動作を最適化したのだ。

 もはや目に留まらぬ速度で角材に3回斬りつけて鞘に戻す。刀の長さを倍は超える距離にあるリンゴを切断する。

 そして巨木に育った木を切り捨てる。

 思い浮かべる最強の剣士、が何かはわからないが、たしかにこの剣は最強なのだろう。

 

 刀が道具である以上、道具が発揮できるその性能は使用者によって制限される。

 ならば、その使用者を最強の剣士にする刀があるのならば、それが最強の妖刀である。

 と言わんばかりの性能だ。確かに納得できる理屈ではある。

 

 最も、兄は鞘と柄を紐で縛り付け左手で握り、親指でカチカチと押し抜きながら、右手で選定の剣を振るうことを選んだ。

 選定の剣がめちゃくちゃな光を放ちながらスケルトンを薙ぎ払っていたのはなにがどう最強の剣士なんだろう。

 というか、ゲームのステータス差し替え特技みたいに妖刀を使うな。



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R 肉まん蒸し器

 肉まん。すっかりコンビニの定番商品となったアレだ。

 関東と関西で中身の肉が違うとか、新商品と称してとにかくいろいろなものが詰められる傾向にあるとか、とにかくファストフードとして手軽な食べ物だ。

 また調味料をつけるつけない、かけるかけないで地域差があることも有名だ。とくに酢醤油。

 やはりパンのように掴んでも手が汚れない作りが人気の秘密だろうか。

 日本人はパンに惣菜をひたすら挟む傾向にあるからそのあたりに理由があるかもしれない。

 

 今回はその肉まんを蒸す専用の機材が出た話だ。

 せいろじゃなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと、ダンジョンが移動していた。そう、兄の砦がだ。

 いつの間にやら発掘ダンジョンの上に陣取るように移動していた。

 攻略済みのダンジョンなら侵食できることに気がついた、と兄は言っているがそれがどういう意味なのかさっぱりわからない。

 そもそもようやく一層を攻略出来たばかりだというのにすぐにそのような仕掛けを使っていく兄の行動力がだいぶわからない。

 

 いやまあ、たしかにこうしなければならない問題はあったのだ。

 発掘されたダンジョンからスケルトンがさまよい出してくる可能性があったのだが、ずっと目を背けていたのだ。

 

 最悪埋めればいいだろうぐらいの気持ちでいた。

 というか兄にやらせればそれぐらいすぐ埋められるのだ。

 それが可能なだけの装備は整っている。なぜか。

 

 ほんとなんで整ってるんだろうなぁ……まあ、理由はこのガチャの引きと、兄の異様な発想力のせいなんだが。

 ……今日も開けるか。

 

 R・肉まん蒸し器

 

 出現したのはせいろだ。鍋の上に乗せる円筒が重ねられた籠で、鍋に水を、籠に蒸したいものを入れて使う道具だ。

 中華店の雑なイメージ図にかかれている円筒状の物を思い浮かべてみればだいたいそれであっている。

 しかし、名称が肉まん蒸し器か。いやー、常備してる食料に肉まんあったかな……。

 

 

 肉まんはなかった。なので代わりにホットケーキミックスを持ってきた。

 これを水で練って、カップに入れて蒸すことで蒸しケーキが作れるのだ。

 細かい材料も事前に袋に入れておいたので簡単に作れる。とてもお手軽だ。

 

 蒸し器が本格的なやつなので美味しく蒸し上がるのでは?

 そう思い、兄がいつの間にやら増設していたレンガ竈に蒸し器をセット。

 井戸水を鍋に入れて、蒸しケーキを蒸し上げる!

 

 

 20分後。無料配信の漫画を読んでいたら若干余計に時間が過ぎていた。

 まあ蒸しているだけだから多分長く火にかけていても問題ないだろう。

 水が空になってさえいなければ問題ないはず。そして、たっぷり入れておいたので空になっているはずはない。

 

 いざ開帳。

 

 そこにはホカホカになった肉まんが鎮座していた。

 

 は?

 肉まん蒸し器なんだから肉まんが出来上がるに決まってんだろ、と言わんばかりに見事な肉まんがそこに鎮座していた。

 皮の美しい光沢から、これは美味い肉まんだと主張されているような気すらする。

 

 だが、これは蒸しケーキを作っていたはずのところに出現したものだ。

 いつものことだがどうしてそうなったのかわからない。

 

 なのでそっと兄に差し入れすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 兄いわく。なんか粉っぽい食感の肉まんだったそうだ。

 食わせてからその肉まんの出自を話すと、その肉まん蒸し器でヒヒイロカネを蒸し始めるから本当に無茶苦茶な人である。

 

 なお、そのヒヒイロカネも無事肉まんになった。



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R 断ち切るハサミ

 馬鹿と鋏は使いよう、というように、ハサミという道具は切るという動作において不思議な構造をしている。

 構造上、ハサミは鋭く研がれている必要がない。二枚の刃で擦り合わされる一点に力を集中することで物体を裂く作りになっているためだ。

 このため、子供用のハサミはプラスチックで出来ている物が存在するほどだ。 

 またすり合わせる、という動作の都合、力点が移動していく。刃を滑らせたわけでもないのにものを切るという動作が可能なのだ。

 

 こうして考えてみると、変わった作りだと言える。

 最も、普通に鋭くなければ力を掛けられる点がうまく切るものの上に来ないのでいいものを使うべきではある。

 

 今回は、その性質を逸脱するハサミが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が、ヒヒイロカネを転換した肉まんを大学の研究室に持ち込んだ。

 さすがの兄も金属を変換した食べ物を食べる気にはならなかったらしく成分分析を行ったのだ。

 結果はといえば、ごくごく普通の肉まんだった。

 しかし交換が行われているわけではないらしい。

 あの肉まん蒸し器の肉まんは入れるものによって味が変わるのだ。

 

 つまり、あれはあらゆるものを肉まんとして食えるように変換する装置なのだ。

 ただし、味は入れたものに依存する。

 蒸しケーキが粉っぽい味になったように、ヒヒイロカネは光沢感のある高級な味になったのだ。

 いや、光沢感のある高級な味ってなんだよ、と言いたくもなるが、兄がそう言っている以上そうだとしか言いようがない。

 この辺り兄は嘘をつかない。

 

 うーむ、実質あらゆる物を食えるようにしてしまう蒸し器は人類の味方なのではなかろうか。

 まあ肉まんしか作れないのだが。

 

 さて、ガチャを回すか。

 ヒヒイロカネ製のコインを入れるようにしてからカプセルがヒヒイロカネ製になるようになったが、また最近違う種類の金属になるようになった。

 銀色をしているんだがアルミでもジュラルミンでも無い。これは一体。

 

 今回出現した景品はこれだ。

 

 R・断ち切るハサミ

 

 見た目は洋裁用の断ち切りバサミだ。ごつい鋼鉄製のハサミで、とにかくでかいのが特徴だ。

  刃の切れ味は微妙と言わざるを得ない。

 普通に閉じるだけでは紙すら切れないのだ。

 

 ハサミとして欠陥品と言わざるを得ない。

 

 カチカチとすり合わせながら手の中で弄ぶ。

 途端、何かを噛んだかのようにハサミが閉じなくなる。

 それと同時に感じる手応え。

 

 テラスの梁にハサミが食い込んでいた。

 

 何を言っているかわからないと思うが、私の手の中にあるハサミの刃が、テラスの梁に食い込んでいる、としか言いようがない。

 ハサミの位置から1m~1.5mぐらい上の梁に見えない刃が食いついている。

 

 大体わかった。

 私はハサミに力を入れて、閉じる。

 それと同時に、食い込んでいた刃が梁をえぐり取った。

 

 断ち切る、とは大層な名がつけられたものだ。

 実際は刃の距離を延長……いや、おそらくは刃の先に切断面が移動しているんだ。

 そして、その刃は対象をねじ切る。ハサミの基本動作を無視するようなえぐり方をする。

 どうしてそうなるのかはわからない。

 おそらくは……作ったやつの怠慢だ。実際に拡張してみたら人の握力ではハサミとして使えなくなった、とかその辺だろう。

 

 なんだよこれ。

 これはハサミじゃねえよ!

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がこのハサミを使ってダンジョンの壁を叩いていた。

 奇行はいつものことだが、何をやっているのかよくわからないのは珍しい。

 

 つついていたハサミに何かの手応えを感じたのか、そこでハサミを握り潰すように閉じて、兄は何かを切断した。

 それは壁の中にあるという仕掛けだ。

 

 そのハサミ壁の向こうを切れるってマジ?



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迷宮の遺物

 発掘したダンジョンは見るからに遺跡と言った風体だ。

 兄の作り出したダンジョンが石レンガを積んだだけの砦なのに対してひどく文明の匂いがする。

 しかしその造形に思い浮かぶ心当たりがなく、また壁に刻まれている文字も同様にわからなかった。

 特に文字は辞書まで借りてきてまで見比べたのだが、一致するものは存在しなかった。

 もっと深層に行けばなにか分かるのだろうか。

 

 発掘された経緯からして、本当にその場にはじめからあったのかも怪しいところだが、今その場所にあるのだからどうしようもない。

 そしてその場所に前からあったかどうか、調べる手段もない。

 

 ちなみにダンジョンの中で、モンスターに類される存在、具体的にはスケルトンが倒されるとたまに何か装備を落とす。

 まるでゲームだ。スケルトンの残骸も消えるように姿を消すから余計ゲームっぽいのである。

 

 今回は兄が発掘したダンジョンから拾ってきたその物品を紹介しよう。

 なお名前は兄が便宜上つけたものである。

 

 

 

 

 

 

 

 反撃の小手

 

 純銀で出来た小手。

 これをつけた状態だと、つけた方の腕が勝手に動いて敵を攻撃する。

 その際強引に体を動かすので筋を違えたりして結構筋肉に来るらしい。

 

 ダンジョンから戻ってきた兄に近づいた時に腹パンされたので私はこれが嫌いだ。

 

 なお兄は第三の手にこれをつけて敵にぶつけている。

 いくら第三の手が操作性悪いからって……。

 

 

 

 

 

 守りの指輪

 

 青い宝石がついた小さな指輪だ。

 身につけると、指輪を中心に直径30センチほどのバリアが展開する。

 

 バリア……。

 なんでバリアが出るのかよくわからない。

 

 また、指輪の円と平行にバリアが展開されるため、ものすごい邪魔なのだ。

 このバリア、結構頑丈で盾として優秀なのだが、出てくる面の関係上指がむき出しなのが使いづらい。

 

 というか素早さの指輪と比べて性能が違いすぎない?

 ガチャ産とダンジョン産の差なのか?

 

 兄は最初、拳を握り込んで親指に引っ掛けて使っていたが、そもそも盾を使うのが面倒だったらしい。

 それ以降はサメもどきの腕にはまっていた。

 

 

 

 

 

 

 宝箱

 

 蓋付きの箱。ゲームなどで見るあの形状の箱だ。

 中身はただのゴミ(割れた木の盾)だったので雑に捨てられていた。

 この宝箱、文字通り何でも入るので兄はダンジョン内の物を回収するために重宝している、らしい。

 というのも、体積を無視して箱の中に入れられるのだ。

 いわゆるアイテムボックスというやつだろうか。

 

 兄はこれをキャリーに乗せてサメもどきに運ばせている。

 一緒にクラウドストレージを入れている辺り、物をまとめてたくさん運ぶ気満々だ。

 

 なお、重量は完全に据え置きである。

 たくさん入れれば入れるだけ重くなる。

 

 

 

 

 

 柱

 

 柱。ダンジョンの一層の中央でフロアを支えていた柱の一つだ。

 ギリシャの遺跡にある柱に似た造形をしているが、見ていると微妙に似ていないような気がしてくる。

 ……え? なんで柱持ち帰ってきてるの?

 

 竜形態時の武器として振り回すためらしい。

 なんかどう振り回しても壊れないらしいよ。

 ……マジで?



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SR 機動戦闘車

 一口に戦車と言ってもいろいろある。

 一般的に思い浮かべる、砲とキャタピラと装甲を持つものが戦車と呼ばれる。

 しかし定義が曖昧で、よく似ているけど戦車ではないものが結構あるのだ。

 砲を中心にその攻撃力を移動可能にしたものを自走砲と呼ぶ。これはどちらかというと砲を運ぶことが中心で、直接的な戦闘を行うような作りとは言い難い。

 また装甲を持った車というべき物を装甲車という。この場合武器は機銃ぐらいしかついていない。

 

 機動戦闘車は通常の自動車と同じくタイヤを使って移動する戦車に似た乗り物である。

 大砲もついていてかなり強そうだ。

 

 今回はその機動戦闘車が出てきた話だ。

 銃よりも困る……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 実験室内に明らかにガラクタが増えている。

 というのも、発掘ダンジョンから見つかったアイテム類がどんどん種別を問わずに運び込まれているのだ。

 一番多いのは宝箱。とにかく容量があるからと言う理由で出るたびに回収され、雑に並べられているのだ。

 その他、エンジンのような物が置いてあったり、巨人用の弓のようなものが置いてあったりと本当に様々な種類がある。

 問題があるとすれば、その大半がただのガラクタだということだ。

 特殊な効果も道具としての機能もない鉄くずだらけである。

 適当に掘った穴に捨てられゴミ山がどんどんでかくなっている。

 

 兄は兄できちんと処分方法を考えているようだがどう考えてもろくでもないことしかしない気がする……!

 

 そうもこうも、同じタイミングでガチャからものすごいゴミが出現したせいもある。

 また出やがったのだデカブツが……!

 

 SR・機動戦闘車

 

 それは戦車だ!

 出現と同時に重量で地面にめり込み、動かなくなった戦車だ。

 いや、厳密には戦車ではない。6つのタイヤがついているからだ。

 私も詳しいわけではないので区別がつかないのだが、タイヤで走る場合は戦車ではなく、装輪車という乗り物に分類されるらしい。

 

 法的に個人所有が禁じられているが、禁じられている理由が武器に分類されているからであり、実は砲の発射機構を入念に潰せば所有自体は可能らしい。

 あまり詳しいとは言い難いので合っているかはわからない。

 

 が……ガチャから出現したこの乗り物にそんな気遣いがなされているはずもなく。

 銃と同じく弾が一発もはいっていないことが唯一の救いだ。

 だが、同様に動かすための燃料も一切入っていないため、テラスの真ん前を占拠している状況から動かしようがないのであった。

 

 マジでどうしようかこれ。

 仮にガソリンがあっても操作方法がわからないぞ。

 ぱっと見た感じ、レバーとかハンドルが多すぎる。

 実際に使われている戦車より絶対多いだろこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が10時間かけて10mほど移動させた。

 鬼化した兄なら力技で動かせると思ったのでやらせた。

 しかし、重量でタイヤが半分ぐらい埋まっていたせいで余計な力と時間が必要になってしまったのだ。

 戦闘車両は装甲や砲の関係上、重いとは聞いていたがこんな重いものなのか……?

 

 しかし、動かしようのない物がまた一つ増えてしまった。

 選定の岩もまだ片付いてないってのに。



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R プラスチックトランプ

 トランプ。カードに4種類の記号と1から13までの数字が刻まれた52枚とジョーカーを含めた53枚で一組とするカードセットだ。

 絵柄がシンプルなため様々なゲームに使えるほか、占いの道具や手品の道具など、ランダム性が要求される場合でも利用される。

 現在ではその源流は中国にあると考えられているが、詳しいことがあまりわかっていない。

 豆知識としては、スペードのエースだけ大きく派手な文様なのは、17世紀のイギリスでトランプに税金がかけられ、納税をした証拠としてスペードのエースにスタンプを押していたことから来ている。

 

 今回はそのトランプが出てきた話だ。

 プラスチック製のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がサメもどきの改造に着手した。

 今まではただの人手でしかなかったためダンジョンがはじめから生産できるサメもどきだけでよかったが、発掘ダンジョンを見つけてしまった以上、攻略するための戦力が必要となったのだ。

 一層はそれでどうにかなったが、二層はそうもいかないようで。

 二層がどうなっているか詳しくは聞いていないが、まあサメもどき、基本的にものすごいどんくさいのだ。

 動きはトロいし、自己判断力がかなり皆無だ。

 転んだときは自分で起き上がるぐらいはできるが、もしその際に負傷していても傷の手当をするとかそういうことをすることがない。

 なので動かしているサメもどきはマメにチェックしていないと気がついたら動かなくなっていたりする。

 

 そんなので戦闘をしようというのが本来間違いなのだが、なまじ数で押せていただけに改良への着手が遅れたのだ。

 いやまあ改良するための資材がない、というのもあるらしいのだが……。

 というか改良用の資材ってなんだ。

 

 まあどうでもいいか。

 今日のガチャだ。

 

 R・プラスチックトランプ

 

 そのトランプは海外製のプロテクターみたいな箱に入れられていた。

 開けると羽みたいに箱が広がる。

 動画サイトの手品紹介で見たことがあるトランプ、といった印象。

 若干高級感がある。

 

 トランプか……。

 異常な絵柄がある、とかだろうか。

 あるいは占いに使うと的中率がすごいことになっているとか?

 

 そう考えながら中身を手にとった時だ。

 私はこれのおかしいところを即座に理解した。

 

 このトランプ、異常に硬い。

 手触りや光沢はどう見てもプラスチックだ。

 だが、全く曲がらない。

 反りすらしないのだ。

 

 私はムキになってカードを一枚取り、曲げようとしてみるも、本当に反りすらしないのだ。

 カッターナイフで表面を削ろうとしても傷一つつかない。

 ペンチ2つで挟んで曲げようとしても曲がらない。

 

 頑丈すぎる。

 直球でおかしいのがきたな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。トランプが頑丈なのをいいことに、発掘ダンジョンの壁にトランプを釘のように打ち付けている兄の姿があった。

 トランプには当然数字が書かれているため、地図と数字を紐付けられる。

 そうすることで迷う可能性を減らせるのだ。

 

 看板代わりにトランプを使う兄。

 お前もおかしいよ……。

 



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R ロボット素体

 SF作品には数多くのロボットが出てくる。

 ここで言うロボットは主に人型をしていて、戦闘力があるやつだ。

 大きかったり、一点物だったりするアレだ。

 

 現実ではパワードローダーや人の歩行を真似て作られたロボット、あるいは4脚にして輸送を手伝うロボなど様々なロボットが登場している。

 もっとも、現段階では技術力を示すために作られている側面が強く、実用的なものはまだ現れていない段階だ。

 

 今回はそのロボットが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サメもどきの改良は続いている。

 最も実際にやっているのはNPCのおっさんに量産したヒヒイロカネを売っているだけなのだが。

 ダンジョンは構造上、中にはいってきた侵入者の数と土地から組み上げるよくわからない何かで生産するエネルギーが決まっているらしく、それの生産を増強するトーテムポールがNPCのおっさんの商品リストに乗っていたそうだ。

 生産したエネルギーでサメもどきの強化型を作れるため、どうしてもそれがたくさん必要なわけだ。

 いや、少し前にヒヒイロカネを量産していた時はそんなこと言っていなかったのだが、あのときはとにかく商品リストを上から全部買うために兄はヒヒイロカネを売却していたそうだ。

 

 しかし、聞く限り予定として必要なトーテムポールが少なくとも322本になってるんだが。

 ヒヒイロカネインゴットが約10万2000個換算だぞ。本当にそれで行けるのか、兄。

 いや、あのダンジョンの倉庫を見るに、なんとかしてしまいそうではある。

 

 まあいいか。ガチャ回そ。

 いや、回したくもないんだけど、回さないと異音立てるし……。

 最初に異音を立てたときは真夜中だったので本当に困る。

 

 R・ロボット素体

 

 それは直立した状態で出現したと思ったら、膝から崩れて倒れていった。

 おおよそ3メートルの金属の身体を持つ機械の人型。つまりロボットである。

 そう、それが酔っ払ったおっさんのごとく膝から崩れて倒れたのだ。

 

 あぶねえ。

 最も私は反応できず、ただ呆然と見ていることしか出来なかったのだが。

 私の方に倒れ込まなくてよかった。

 

 しかし、このロボットの造形は微妙だ。

 なんというか内部フレームだけしかないような気がする。

 というか装甲も無いから切り抜きから中身が透けて見えるんだけども。

 それもすっからかんなのだ。

 

 いや、素体とは書いてあったけども。

 コックピットと思しき部分すらないんだが。

 もしかしてコックピットは別景品なのか?

 

 だとすればあのガチャから本当に出るのか疑わしい。

 回していて同じ物が出てきた記憶がない。

 そして同じ系列の物が出てきたという記憶もない。

 

 いや、一回だけカステラがダブったことがあったな。

 それだって別の老舗のカステラだったが。

 しかも袋分けの一切れ。

 相変わらず800円ガチャで出す内容ではない。

 

 しかし小一時間弄ってもても動かし方がわからない。

 もしかしてまた邪魔な鉄くずを出現させてしまったのか。

 

 もう鉄くずいらないんだけど。

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がやってくれた。

 サメもどきをコックピット代わりに組み込むことでロボットとして立ち上がらせることに成功したのである。

 いや、なにやってんの?

 なんでそれが出来たのかよくわからない。

 しかも兄はそれをダンジョンに組み込み直した結果、ロボサメもどきが生産されるようになった。

 いや、本当に何をやってんの?

 相変わらず動作はどんくさく、3メートルある長身ですっ転ぶので近くにいると危ない。

 

 なお、ロボットは動かせるようになったとはいえ、発掘ダンジョン内には大きさの関係で入れなかった。



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R 充電器

 人は様々なガジェットを持ち歩くようになった。

 特にあらゆる人が持ち歩くようになったガジェットがスマートフォンである。

 スマートフォンカメラやインターネット、電話やメールと言った機能をひとまとめにし、誰もがどこでも使えるようになった。

 

 その結果、スマートフォンを使うために充電することに人は縛られるようになった。

 モバイルバッテリーといった別の電源を持ち歩く方法もなくもないが、それもまたデッドウエイトであり、事前に充電を行っておく手間も生じる。

 

 今回は現代社会の柵の1つ、充電器が出た話だ。

 早く無線電源供給開発されないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄はロボットを手に入れ生産できるようになったことによって、一度にまとめて大量のヒヒイロカネを量産するようになった。

 サメの頭部が胴体から生えた3メートルのロボットが、金属を餅つきしているとしか言いようがない光景が実験室で広がっている。

 どこから用意したのかわからない窯にヒヒイロカネを入れ、電気を流しながら銅の粉末をかけながら太い木の棒でこね回している。

 しかしそれを行うのに使われている電源が単一乾電池なのはどういう。その程度の電力で加工できるのかそれ。

 

 まあいいか。

 こいつらをまともに考えるだけ損するだけだ。

 

 今日のガチャから排出された景品はこれだ。

 

 R・充電器

 

 黒い箱にコンセント端子がついた、いわゆるスマートフォンなどに充電を行う充電器が出現した。

 コンセント端子が箱の中央についており、電源タップに差し込めば左右のコンセント穴を塞ぐこと請け合い、といった形状だ。

 また長い上にねじれているケーブルの先には、見たことがない端子がついている。

 奇妙なほど薄く、細長い。

 また、電極となる線が3本走っているのが見える。

 

 ……何だこの端子。

 一見ライトニングケーブルにも見えるが、電極の数が合わず、それにライトニングケーブルにはない爪がはみ出している。

 それにライトニングケーブルと比べて端子部分が長いのだ。

 何だこの端子……。

 

 ライトニングケーブルのように閉じた金属に電極が出ているタイプの端子ではある。

 そうなのだが、全くわからない。そもそも電極が奇数の時点で何のための端子なのかいまいち理解しかねる。

 流れるのは電気なのだから、行って帰ってくるために電極は2つ一組のはずなのだが……。

 

 一度調べて見る必要があるか。

 兄、電流計を持ってたかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がおもむろにサメもどきに充電していた。

 私の部屋から延長コードを引っ張り、テラスでサメもどきの背中におもむろに端子をずっぷりと。

 なにかガクガクと怪しい挙動をしているサメもどきの充電が完了すると、サメもどきの動きが少しだけ改善されていた。

 いや、頼りない動作なのはあまり変わっていないのだが、転びそうになってもこけなくなったのだ。

 そしてそのサメもどきをロボットのコックピットに据えることで、かなりまともに歩けるようになった。

 

 え、なんでサメもどきを充電しようと思ったの?

 なんで充電できてるの?



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SR 自動販売機

 自動販売機の歴史は意外に古い……というか、すでに古代エジプトには存在したらしい。

 古代エジプトに存在した自動販売機は、投入されたコインの重さを使って動作していて、それによって蛇口から水が出るという仕組みだ。

 とはいえ、これは単一の液体しか販売することが出来ない。

 この単一の物しか販売できないという問題は自動販売機の歴史にかなり長い間つきまとう。

 複数種類の商品を扱う、という点に置いてもどのように選択させるかで問題が出るし、また値段の差と通貨をどうやって認識するかという問題もある。

 幾重にも様々な機械が作られ、ガチャポンマシンもこの流れの中で誕生した機械だ。

 そこから自動販売機が複数種の商品を異なる価格で販売できるようになったのは1925年だ。

 さらにそこから紆余曲折の末、現在の形になっている。

 

 今回はその自動販売機が出現した話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実は現在実験室内には、4種類の通貨が存在する。

 1つは、ヒヒイロカネを切り出した鉄板。ガチャを回せるのでここでは通貨扱いしているが、ただの金属コインだ。

 2つ目に、湧きスポットから湧いたスライムを倒した時に出る金貨。NPCのおっさんが受け付けてくれない上、ガチャにも入らないので本当にただのゴミである。せめて鋳潰せれば金としておっさんに売れるのだが。

 3つ目に、NPCのおっさんに物を売った時に代金としてもらえる通貨だ。ちなみに紙幣だ。使えるからいいが、得体のしれない絵が書かれた紙でしかない。

 4つ目は、発掘したダンジョンのスケルトンを倒すと落とす金貨だ。これが湧きスポットで手に入る通貨ともデザインが異なる。これもNPCのおっさんが受け付けてくれないことがわかっている。ガチャに使えるかは不明。

 

 発掘したダンジョンの金貨は、サメ妖精のシャチくんが食べるので、餌用に兄が確保している。だからガチャに回す分が回ってこないのだ。

 まあヒヒイロカネコインはクッキー型で作れるので別にいいのだが……。

 

 しかしガチャからここのところ重量級の出現が多い。

 動かせない物はそこまで多くないのでマシだが、兄でも動かせない物は本当に邪魔になるので困る。

 とか考えていると重量級が出てくるのだ。

 

 SR・自動販売機

 

 ほら出た。

 そいつはテラスから出たすぐ脇に陣取る。テラスからの眺めといったものをまるっきり無視して。

 見かけはコーラを主軸に売っているドリンクベンダーの自販機そのものだ。

 日本でそこらじゅうで見る赤い自販機だ。

 ディスプレイにプラで作られた缶ジュースのモックアップが掲示されている。

 

 ……しかし、なんなんだこの並んでいるジュースの異様なラインナップは。

 試作品もかくや、というべきか、とにかく思いつきを形にしました! みたいな名称のジュースばかりが並んでいるのだ。

 サイダーのレタス味とか誰が飲むんだ。web上じゃパクチー味で大惨事になってたぞ。

 ミネラルウォーターの食べるラー油味とかすごくない? 食べる要素が全損してるじゃん。

 同じミネラルウォーターでも隣の「霞」の方がまだマシそうだ。

 

 試しに、パイン・コーラを買って(なお通貨は日本円)飲んでみた。

 

 不味い! コンペ落ち!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が自販機から謎の瓶ポーションを買い、サメもどきに飲ませていた。

 なんでポーション!? そんなファンタジーな商品並んでなかっただろ!?

 と思ったのだが、実はこの自販機は投入通貨によって商品が入れ替わるのだ。 

 ということは。

 今、実験室内には4種類の通貨が存在する。

 そして、無限に飲ませても問題ない実験体であるサメもどきがいる。

 

 兄の総当りに付き合わされ、貴重な休日を無駄に使わされるはめになった。

 有用そうな強化ポーションが3種類、飲むと自爆するポーションが2種類、強烈に弱体化するドリンクが1種類、etc、etc……。

 

 なお、その時に休憩がてら飲んだ霞は飲んだ気がしない味の水だった。

 これならいくらでも飲めるな。130円もするが。



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SR 自動販売機 その2

 自動販売機のような、なにかを自動で同じように処理を行う装置には必ず必要な作業がある。

 それは規格化である。ある物を同じ大きさ、同じ重量、同じ形に揃えることで、単一の機構で扱えるようにすることを規格化という。

 一口に瓶や缶といっても、いろいろな形がある。

 なんなら漬物を入れている瓶や、缶詰の缶も、瓶や缶であるわけで、そういったものが自販機で扱えないのは、自販機が要求する規格の形に合致しないからなのだ。

 通常、規格を統一するということには並々ならぬ労力が必要である。

 様々な企業が思惑を超えて同じ形にしなければならないからだ。

 ここで引っかかっていろいろな商品が歴史から消えてきた。

 コーラも瓶で売られているところ、殆ど無いだろう?

 

 今回は、前回出た自販機から出てきた飲み物の話だ。

 コイツは自分で選んで買えるだけまだガチャ筐体よりマシだな。

 

 

 

 

 

 

 

 現在も移動できずテラス前を占拠している自動販売機だが、こいつは実は電源がない。

 自動販売機は一般的な100ボルトコンセントで動作するのだが、これにはその電源ケーブルがないのだ。

 いやまあ、電力がなくても動くぐらいはガチャの産物ならばよくあることではある。

 Nのカプセルから何時間燃やそうが燃え尽きないアルコールランプが出たこともあるからな。

 

 問題があるとすれば、この自動販売機の商品にもそのどこから来ているのかわからない、ということが適応されていることだ。

 自動販売機は一般的に1つの商品に付き20~30個程度しかはいっていないのだが、兄の好奇心による実験で1つの商品がすでに60近い数排出されている。

 缶入りのミルク(なんのミルクかは記載されていない)を大量に山積みにしている光景はどうかと思う。

 というか缶入りミルクって美味いのか? 瓶で売られているイメージが強すぎてぱっと思いつかない。

 

 売り切れがないのは助かるが、商品ラインナップがコンペ落ちか妄想の産物としか言いようがないものばかりなので、それがいいことか悩む。

 

 日本円で買えるものでも、まず視界にはいっていくるのがフルーツおでん缶だ。

 これが何故かラインナップの中央に鎮座していて、げんなりするところからこの自動販売機に向き合うことが始まる。

 なお味は不味い。

 出汁に浸かったイチゴとパインとマンゴーが絶妙に奇妙なエグみを生み出し、さらに出汁自体もフルーツの甘さに汚染されて吐き気をもよおす混沌と化している。

 どう考えても不味いに決まっているんだよな、フルーツおでん。

 

 逆にマシなのが、パン缶だ。

 これは普通に自動販売機で売っているパンの缶詰のラインナップ変更版に見える。

 というのも、入っているパンがアンパンとクリームパンとカレーパンなのだ。

 それを無理に詰めているため、消費期限が缶詰としてはありえない1ヶ月になっている。

 元のパン缶が37ヶ月持つことを考えるとだいぶ短い。

 味? スーパーで売ってる惣菜パン。

 

 そして、総当たりで調べていて一番の当たりだったのは、湧きスポット産の金貨で買えたリンゴジュースである。

 投入しているのは金貨だというのに、25枚ほど自動販売機に呑ませないと買えないのが難点だが、味はその金額に見合う素晴らしいものだ。

 爽やかな酸味は春の風のように抜け、透き通った甘さが幸せな気持ちにさせてくれる。

 ラベルに張られているリンゴの絵が黄金に輝いていることを除けば最高の飲み物だ。

 

 

 

 

 

 

 後日。どうも兄が生物に進化を促すポーションを発見したらしく、サメもどきが、サメの頭部を持つゴリラのような姿になっていた。

 しかし、どんくさいのは改善されていないため、装甲を打ち付けて盾役にするとかなんとか。

 

 兄よ、サメもどきがいくらでも量産できるモンスターでしか無いからって改造することに躊躇がなさすぎる。



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R ちからのたね

 RPGにはよくステータスを向上させるアイテムが出現する。

 多くのRPGでは薬や種といった摂取して効果を発揮するアイテムに割り振られているため、俗称としてドーピングアイテムとも呼ばれる。

 その効果は基本的にステータスに紐付いたアイテムを使うと、そのステータスが小さく成長するというものである。

 その性質上、一度のプレイで出てくる数が限られているのだが、ゲームによっては無数に手に入れられる手段が模索される。

 多くの場合バグを利用した複製であり、ゲームバランスを破綻させる。

 そうでなくても、ゲームバランスの関係上使ったら使ったでレベルアップ時に効果が丸め込まれて消えてしまったりすることもある。

 このため、この手のアイテムはかなり慎重な扱いをされがちだ。

 

 今回はそのドーピングアイテムが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が自動販売機とNPCのおっさんを使って両替を行っていた。

 

 というのも、現状最も価値と数があるのが、湧きスポットから湧き出すモンスターのドロップする金貨なのだ。

 自動販売機が出現するまで使い道がなかったがために無駄に溜め込まれている。

 ようやくと自動販売機の出現で使い道ができたとはいえ、自動販売機のラインナップを見るに7割が地雷。

 人が飲んで大丈夫なのか怪しい物すらある。

 

 そこで兄は躊躇しない。

 片っ端からサメもどきに飲ませるだけに飽き足らず、どの缶ならNPCのおっさんが買取を受け付けるかを確かめていたのだ。

 結果、金貨で買える3種類のポーションをNPCのおっさんは買取することがわかった。

 飲むと爆死するポーションと、飲むと無限に悶え苦しんで死ぬポーションと、死んでようが飲ませると動き出すポーションの3種類なのだが。

 

 このおっさん、得体が知れなさすぎる……。

 まあこれにより大量に余っていた金貨が変換可能になったことで、兄の目標としていた物品も買えそうだ。

 この速度なら一週間後には。

 一週間後……マジか……。

 

 ろくなことになりそうにないXデーのことを考えていても仕方がないのでガチャを回す。

 いや、これもだいぶろくでもないんだが。

 

 R・ちからのたね

 

 出現したのは小汚い麻袋だ。この小汚いというのは、汚れているとかそういう意味ではなくめちゃくちゃ作りが甘くて汚く見える、という意味合いでの小汚いだ。

 なんというか適当に扱ってたらすぐ分解しそうである。

 中身は独特な匂いを放つ種が5つほど。

 

 名前からしてこの種が主となる景品なのだろうが、種か。

 食べると筋力が上がるとかそういう効果が予想できる。

 

 だが、これを口に含むのはだいぶ嫌悪感がある。

 なぜなら匂いがやばい上、つまんだ際の感触がぐに、とした腐っているもののそれなのだ。

 あと手についた汁が拭っても落ちない。

 

 どうしようこれ……。

 私はそっと畑の近くに埋めておいた。

 放って置いても勝手に育てるだろう。兄が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。畑が大変なことになっていた。

 そこに突如森が出現したのだ。

 無数のちからのたねをつけたツタ状の植物が相互に絡まり合うことで巨大なまりもにも似た森を形成している。

 また畑にあった植物の一部を巻き込み、すでに交雑が行われたのか見たこともない植物がいくらか混ざっている。

 や、やべぇーー。

 力を持った種ってか。そんな勢いで成長しないでほしい。

 うっかり外に投棄していたら大変なことになっているところだった。

 

 その後兄が全部刈り取った。

 ツタの生えたサメもどきが歩いているのを見たが気のせいだろう、多分。



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R 螺旋階段

 階段は人類がお手軽に上方向への移動を可能とした設備だ。

 その中でも螺旋階段はインテリア性を重視した階段で、リビングから見える位置に配置される事が多い。

 構造上、光が抜けやすい形に作ることが可能で、さらにはコンパクトにまとめられることから狭い家でも利用しやすいのだ。

 欠点があるとすれば踏み板が三角形の形状になることから足場となる面積が狭くなり、踏み外してしまうリスクがあることと、家具などの大きな荷物を運ぶことが難しくなることだ。

 

 今回はその螺旋階段が出現した話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツタの生えたサメもどきだが、見間違いじゃなかった。

 というのも、ちからのたねの植物塊を新種のモンスターだと勘違いした兄がサメもどきとダンジョンの機能で合成していたのだ。

 その結果、ツタの生えたサメもどきは頭から生えたツタを操る能力を獲得した。

 そしてときどき花を咲かせてちからのたねをつける。

 なおどんくさいのは据え置きのまま、というか前よりどんくさくなったまである。

 

 いやなんでツタを操る能力を獲得したんだ?

 サメもどきは植物系モンスターになったってことだろうか。

 

 まあいいか。

 そんなことより今日のガチャだ。

 今日の景品はカプセルの時点で重量があって困る。

 

 R・螺旋階段

 

 ほらもー。

 それは出現したと同時にテラスの屋根を粉砕して直立していた。

 いやよく見ると10度ぐらい傾いている。

 木製の階段がやや傾きながら床から生えてきて天井を破壊したようにも見える形で、螺旋階段が出現したのだ。

 

 何が嫌って、屋根の上に上がれるように階段が設置されていることだ。

 器用に踏み板が屋根の位置に噛み合っている。

 また、下も同じようにどこに続いているのかわからない降り階段が出現していてうんざりする。

 

 テラスを破壊するドリルかよ……。

 

 借りてきたサメもどきに思いっきり体当たりさせてみたががたつきすらしない。

 テラスの柱にぶちかませば破壊できるだけの威力があるタックルのはずだが。

 

 異様なほどしっかりしている螺旋階段だが、階段の先にあるのは屋根だけだ。

 そんな位置に階段が出現されても困る。

 

 とりあえず登るだけ登ってみるか。

 正直気乗りしないが、兄に好き勝手されるともっとやばい気がするからな。

 

 登りきった先にあったのは部屋だった。

 高級ホテルの一室のように凝ったインテリアの配置された寝室がそこにあった。

 

 いや、屋根の上、え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄は螺旋階段の上の部屋を占拠するようになった。

 実験室出現からずっとではあるが、そのたびに私の部屋を経由するせいで私のプライベート空間が存在しない。

 というか上の部屋は水回りが存在しないためトイレのたびに私の部屋を経由する必要があり、だいぶうっとおしいのだ。

 というかトイレなら自分で砦に設置していただろうが、そっちにいけよ、兄ィ!

 

 なお螺旋階段下の階には座敷牢が1つぽつんとあり、そこに得体のしれない人骨が置いてあった。

 いや、人型に近いというだけで、角が生えていたり鎖骨が4本あったりと微妙に人間とは思えない特徴が複数あったが、私は見なかったことにした。

 

 兄はその人骨を材料にサメ鬼人を作っていた。

 この人もしかして倫理観もないのかな?



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サメもどき

 ダンジョンから生まれるモンスターもまた生態系を形成する。

 植物のようにエネルギーを生み出すモノ。

 そのエネルギーを生み出すモノを運び、版図を広げるモノ。

 そしてそれらを喰らい、より強大な存在にへと成長し、脅威を退けるモノ。

 ダンジョンが形成するそれはいささか無機的で工場のそれを思わせるが、確かに総体として生き物の営みなのだ。

 

 今回は兄のダンジョンが次の段階にへと進む話だ。

 

 

 

 

 

 

 ついに兄が目標とする数のヒヒイロカネを揃えた。

 というのもヒヒイロカネが増えればそれだけ生産設備に使えるヒヒイロカネが増えるのであとはサメもどきを大量に用意してひたすら生産し、生産したヒヒイロカネで生産設備を用意し……を繰り返すだけでどんどん生産速度が上がったのだ。

 現在ヒヒイロカネを生産するサメもどきが5000体。うち半分がロボサメもどきに置き換えられているためとにかくにぎやかである。

 

 というか、サメもどきと呼んできたが実はあれには正式名称があるのだ。

 サメ亜人(シャークゴブリン)という亜人系のモンスターとサメ妖精系のモンスターの最下層モンスターだそうだ。

 その能力は最下層にふさわしく愚鈍。

 優れているところがあるとすれば妖精種らしくなにかモニュモニュすると分裂して増えるところだ。

 それも最下層のモンスター故に一度に10倍になる。

 

 増えることにコストが殆どかからないがダンジョンの戦力としてもかなり微妙な上、普通はほとんどダンジョンに利益をもたらさない。

 あくまで兄は人海戦術の人員として使えているだけで、個としての性能が要求される場面ではどうあっても足手まといにしかならないのだ。

 

 話を戻して。

 兄がヒヒイロカネを揃えてまで手に入れたかった商品とはこれだ。

 「冒険者のトーテムポール」だ。

 

 ダンジョンは理屈はわからないが地脈と侵入者を餌とする。

 これまではちょくちょく私を呼びつけて必要なだけの何かをかき集めていたのだが、それではサメ亜人(シャークゴブリン)を数匹生産することしか出来ない。

 そういう意味では雑に落とし穴の上に配置しておいた湧きスポットはかなりの量の餌を稼ぎ出していたらしいが、冒険者の石像を必要とするほどの量は稼げなかったのだ。

 

 冒険者のトーテムポールは、どういう原理かは全く不明だが、ダンジョンの中に配置すると今回兄が必要とする何かを生産し続けるのだ。

 何かって言い方分かりづらいな。ダンジョンポイントとか魔力とかとでも呼ぼう。

 冒険者の石像はとりあえずエントランスに雑に並べておくだけでダンジョンポイントをもりもり生産する。

 

 エントランスに雑に積み上げられた322体のトーテムポールが異様な存在感を放っている。

 これによってあのサメもどき達が次の段階に進化が可能になった。

 これは今夜あたりに兄はやるな。

 

 

 案の定私が寝ようと思った時に兄に呼び出された。

 ダンジョンの心臓部である砦の天守部分に怪しげな機械が絡まるように配置されている。

 というか創作でもめったに出ないめちゃくちゃ太いパイプが根っこのように広がっているあのタイプの機械だ。

 何であるんだよ。

 

 また天井部にはダンジョンのコアと思しき、あの罠作成キットの宝石がむき出しになっていた。

 くそ、あそこじゃリムーバー届かないじゃないか。

 

 兄は準備が整ったという。

 不敵に笑う兄だが、こういう表情をしているときはだいたい周囲の人間はろくな目に遭わないのだ。

 おそらく今回は……。

 

 外に配置されていたサメもどきがどんどん削除されていく。いや、回収か。

 これから行われるモンスターの進化のための薪にされるのであろう。

 その証拠に、目の前にある円筒状の……今日日創作じゃ見ないタイプの円筒状の機械の中に謎の液体が溜まっていっているのだ。

 そして、その液体の中心にどんどん光が集まっていく。

 それは心臓の鼓動のように明滅し、どんどん光が強くなっていく。 

 

 光の中から現れたのは、機械の体を持つ2mほどのモンスターだった。

 ワイヤーを束ねたような筋肉が全身を強烈に締め上げ、尋常ならざる怪力を生み出していることが一目で分かる。

 身体のいたる所にヒヒイロカネと同一と思われる金属の鱗がその身を強固に守り、そのままでも魔剣の一撃を防ぎそうなほどだ。

 そして鋭いブレードアンテナの生えた頭部は凶悪なサメの造形をし、これまでのボンクラな目をしたサメもどきとは明らかに違う目をしている。

 知性を感じさせる目。 

 

 サメ機人(シャークボーグ)の誕生だ!

 

 ……、サメ機人(シャークボーグ)

 訳がわからない事になっているが、これには理由がある。

 これまでの合成種の情報によって、より優秀なモンスターを生み出されたのだ。

 ツタが生えたやつ! ロボサメもどき! サメ鬼人! お前らは無駄じゃなかったよ……!

 いや、どうしてその情報がこうなるのかわからないが、出来たものはかなり強そうである。

 

 現状戦力がないと、発掘したダンジョンの調査もままならないから仕方ないけどさぁ……。

 なにかまた1つ、取り返しのつかない状況に進んだような気が私はするぞ。

 ガチャポンマシンが出現したあの日のような……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。まあ案の定というか、そうなって当然というか。兄が発掘したダンジョンの第二層を蹂躙した。

 自己判断能力を獲得したサメ機人(シャークボーグ)たちは、トラップを自ら踏み抜き破壊することで第二層の機能をほぼ無力化。

 配置されていたボスと思しき巨大なスケルトンをその怪力で引きちぎることによって撃破した。

 

 あれ~? そいつらそんなに強いの……こわ……。



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R 自転車

 自転車。市民の足であり、街の至るところでみる乗り物である。

 人の筋力を効率よく速度に変換でき、長距離移動しても疲れにくい乗り物である。

 そのため、道路の整備が遅れている発展途上国では重要な移動手段なのだ。

 また先進国でも排気ガスが発生しない点や場所を取らないこと、また運動になる点などから再評価が進んでいる。

 

 今回はその自転車が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近所のコンビニが閉店した。何かと便利でよく行っていたのだが、2件隣にコンビニが出来てしまったのが原因かわからないが、気がついたら詐欺などが行われがちな老人を集めて油などを売っている店になっていた。

 2件隣に新しくコンビニが出来たので利便性に変化はないが、違う系列の店のため並んでいるスイーツなどの商品が異なってしまった。

 

 あのコンビニのプリンは、系列店限定の代物で私の好物だったので微妙にショックだ。

 同じ系列店までは自転車を出さないと行けない距離。微妙に面倒くさい。

 

 

 今日のガチャを回そう。

 この筐体も見るたびに微妙にデザインが変わっているような気がする。

 日に当たって色褪せているのか?

 私以外に見えていないのに色褪せるとはいかに。

 

 R・自転車

 

 出現したのは、一般的なママチャリだ。

 見かけは黒のボディを持つ普通の自転車であり、おかしなところはなにもない。

 タイヤがでかいような気がするが、でかいタイヤの自転車も普通に売られている。

 これは私が大きなタイヤの自転車に馴染みがないだけだろう。

 

 しかし、自転車か。

 範囲拡大を続けているとはいえ、実験室内は自転車が必要な広さではない。

 かといってガチャ産の物品を外に持ち出すのはどうにも気が乗らない。

 大体ろくな目に遭わない気がするのだ。

 自転車なら……ブレーキが利かない、とか。

 ありえなくもない。

 

 とはいえ試さずに兄に渡すともっとやばい事態を引き起こすので自分で試すしかない。

 とりあえずストッパーを外して座面に座り……低いな。

 

 座面が低い。タイヤがでかいような気がしていたが、タイヤがでかいんじゃなくて不自然なほどサドルが低いんだ。

 さっさと高さを合わせよう……は?

 

 うわ、サドルを留める金具が生意気にもクイックレバー……、クロスバイクやロードバイクなどで使われる簡単にサドルを外せるタイプだ。

 なんでだよ。よく見るとタイヤの留め具も同じやつじゃん。

 

 留め具を外してサドルを引っ張る。

 勢い余ってサドルを引っこ抜いてしまった。

 というかこのサドル、短いな。

 

 サドルを手に持ったまま、私はサドルを戻そうと自転車に目を向けた時だ。

 そこにはサドルが刺さった自転車があった。

 

 自分が持っているものを見る。サドルだ。

 自転車を見る。サドルがある。

 

 うん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサドルをいくつも引き抜いていた。

 どうもこの自転車、パーツを再生成することで状態を維持しようとするらしく、わざとパンクさせるとズルリとタイヤが剥がれて新しいタイヤが現れるわ、ナットを外すと元の位置にナットが出現して分解させないわで整備性もへったくれもない。

 

 引き抜いたサドルはどうするんだって?

 リサイクルショップに売るんだと。

 そんなサドルばかり持ち込まれて迷惑じゃないか?



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R 箱

 箱根の伝統工芸品に秘密箱と呼ばれる、仕掛けの施された寄木細工がある。

 これはいわゆるパズルのように木が組み合わせてあり、これをずらしたり組み替えたりすることによって開封する事ができる箱なのだ。

 その性質上、宝石や硬貨などを隠す目的で作られたとされる。

 一見してただの箱に見えるためその効果は絶大であったであろう。

 最も、やたら作りの凝った箱であるため目立つような気がしてならない。

 

 今回は箱が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば、どうしてあんな得体のしれないサメモンスターが出てきたのか話していなかった気がする。

 兄の作り上げたダンジョンのモンスターの出現は基本的に地脈のエネルギーを使って行われていたのだが、その際にダンジョンの主の要素と、その主の部下の要素を使って基本となるモンスターの系統を作り出すそうだ。普通の人間ならゴブリンのような亜人が出現する。

 そう、サメ妖精のシャチくんだ。彼がいたからあのサメモンスターが誕生したのだ。

 

 そうなってくると疑問も湧く。

 サメ妖精のシャチくんはこんなにも可愛い(初見は面食らうが)のに、どうしてあんな感じになってしまったのか。

 手触りは似ている? マジで?

 触ってないからわからない。

 

 あとサメ鬼人はサメ機人作成時にそのままハイサメ鬼人に進化して、しゃべるようになった。

 

 さてガチャを回す。

 ろくでもない物が出ないといいな……。最近私の平穏乱され過ぎているからな。

 

 R・箱

 

 出現したのは陶器で出来た正六面体だ。

 おおよそ見た限りでは一切の継ぎ目なく、完全な正六面体のように思える。

 一辺11センチほどの小さな箱であり、陶器製の白が美しい。

 

 しかしだ。

 継ぎ目も色むらもない完全な立方体というだけでもうおかしい。

 というかこれは何に使う道具なんだ。

 さっぱりわからん。

 

 日の光にかざしながらくるくると影を観察してみるが、完全な立方体であるせいか、影がCGのように思える。

 それを持つ手だけが現実だと教えてくれるが、明らかに現実から浮いている物だと言わざるを得ない。

 

 しかしこれはなんなんだ。

 本当にただの箱か?

 そうやってくるくる回しながら触っていたところ、わずかに親指が沈み込んだ。

 そこにはなかったはずの切れ目が生じて、わずかに隙間が生じていた。

 

 慎重に親指を滑らせると、ある角度でその切れ目が生じたパーツがずれた。

 本当に僅かな動きだ。

 だがそれによって、長方形の板が生じて動いたのだ。

 完全な立方体だと思っていたのは、完全な工芸品だった。

 

 これは、秘密箱だ。

 純色の白と陶器製であることから気がつくのが遅れたのだ。

 完全な精度で作られたからくりの箱。

 目で見てわからない、それに触っても分かりづらいパズル仕掛け。

 面白くなってきた。

 

 

 

 苦闘3時間。

 全く切れ目がないのに、箱の角を30度回す操作が出てきたり、突然ルービックキューブの如く箱全体が回転したりと触っていて異常としかいいようがなかったがまあまあ楽しかった。

 脳の普段使わないところが刺激されまくって頭痛がするほどだ。

 異常なほど緻密な工芸品としか言いようがない。

 

 なお、開封して中から出てきたのは全く同じサイズの箱。

 入らないんですが……これ……。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機人(シャークボーグ)にやらせていた。

 結果。1時間で開封していた。

 

 マジかよ。



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R ホットサンドメーカー

 ホットサンドメーカーとは、お手軽にカリカリ熱々のホットサンドを作れる調理器具だ。

 二枚の金属板で挟み焼くため、両面ともに均等に火を通せる。

 また挟む際に圧力をかけるため、パンに様々な模様の焼き目を自由につけられることが特徴だ。

 その関係で最近はアニメやアーティストのコラボのホットサンドメーカーが出ている。

 

 今回はそのホットサンドメーカーが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 ハイサメ鬼人(ハイシャークオーガ)こと義綱さんは、京の出身らしい。

 合成で作られたモンスターが何を言っているのかと言いたくもなるが、どうも骨の人の記憶がそのまま残っているそうで。

 鬼の血に意識が侵食され、大江山を拠点に京の街で大暴れしていたところ、偉い侍に討伐され、あの座敷牢に閉じ込められたそうだ。

 元々、偉い人の息子だったのが怪異に襲われて鬼に変じたからか討伐しようにも政治的にどうのこうの、でめっちゃ揉めたらしい。

 それで座敷牢、と。

 

 ただその京、どうも日本じゃないっぽいんだよな。

 話を聞いているとどうにも知識と食い違うところが多すぎるというか。

 そもそも牛車は空を飛ぶものではない。

 義綱さんのいた京では牛車は空を飛ぶ乗り物だったそうだ。

 あと定期的に人を食う山門とか、どう聞いてもテレポート装置な羅生門とか、あと刀は光を鍛冶で鍛えて作るとかなんとか。

 あと腕が四本ある前提の文明が作られてる。現状腕が二本で不便そうにしてるからね、義綱さん。

 いや、絶対日本じゃねーな。

 

 ハイサメ鬼人(ハイシャークオーガ)になったことで意識の侵食がなくなったからかとても理知的な人である。

 こんなボンクラな部屋から出られないのは若干可愛そうではあるが、本人は兄と一緒に楽しそうにしているからいいのか?

 

 まあいいか。

 ガチャ回そ。

 

 R・ホットサンドメーカー

 

 ドサッと、調理器具が出現した。キャンプに持っていきやすい、直火式のホットサンドメーカーだ。

 一度に1つのホットサンドを焼けるタイプで、あとは蝶番から外してフライパンとしても使用できるみたいだ。

 

 しかしホットサンドメーカーか。

 たしか兄がキャンプに行く関係ですでに持っていたはずだ。

 ホットケーキを焼いたり、ワッフルを焼いたり、なにかと使い倒している印象がある。

 肉まんをカリカリに焼いたのは美味しかったな……。食いたくなってきた。

 肉まんあったかな。

 

 朝食のパンストックの中に肉まんがあったのでこれを、今回出現したホットサンドメーカーで焼くことにする。

 焚き火で。

 こうやって雑に焚き火できるのは実験室の良いところである。

 それにこのホットサンドメーカーが灰でぶっ壊れても惜しくないし。

 というかそれを見越してかすでに焚き火台と炭が用意してあるのだ。

 

 るーるるー。

 ホットサンドメーカーで肉まんを挟んで焼くこと5分。

 いい感じに火が通ったと思われるので、ホットサンドメーカーを開いてみると。

 肉まんには、ワイバーンの焼き目がついていた。

 思わずホットサンドメーカーの板面を見るが、そこには網状の模様しかない。

 

 ああ、これが今回の……。

 思ったより普通だな。

 そう思いながら肉まんをかじる。

 

 おっふ。中身がワイバーンのミンチだこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がホットサンドメーカーガチャをしていた。

 どうも焼くと中身がすり替わるようで、いろいろな食材を焼くことでなにがなにとすり替わるのか、それを試して回っている。

 食材の種類が変わることはそんなに無いが、その一方で明後日の方向にぶっ飛んだ現実に存在しない食材が出現するので飽きは来ない、という。

 そんなの食ってると腹壊しそうなんだけどな。

 まあ兄だしなぁ……。



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SR ドローン

 近年技術の発達によって我々の生活の前に現れた物といえば、ドローンである。

 これはいわゆるおもちゃのヘリコプターなどが高性能化したものであり、それまでと比べて精密な動作が可能になっている。

 人の直接的な操作を必要とせず自由に空を飛ぶ機械、という点に置いて、様々な用途が考えられている。

 今はカメラを搭載しての空撮が主だが、農薬を搭載して畑に散布する、宅配便を運ぶなどの用途が考えられており、研究開発も進んでいる。

 

 今回はそのドローンが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サメ機人(シャークボーグ)を手に入れた兄による発掘ダンジョン攻略は確実に続いており、すでに5層まで到達したそうだ。

 発掘ダンジョンは基本的に迷宮とシンプルな感圧式の罠、徘徊モンスターとしてスケルトン、あとは領域単位での負荷で構成されている。

 迷宮は必要ならば壁を破壊しながら進む兄の前に意味をなさず、罠は数に任せて踏み抜く漢探知式で突破し、徘徊モンスターも同じく数に任せて粉砕する。

 ただ、層ごとに目には見えない負荷のようなものが張り巡らされており、それは階層をまたぐごとに強くなるため、低ランクのモンスターはすぐに不調を引き起こしていたのだ。

 それもサメ機人(シャークボーグ)に進化したことで解決したため、もはや蹂躙である。

 一度にサメ機人(シャークボーグ)100体送り込む兄もどうかと思うが。

 

 なお5層にはボスと思しきモンスターであるアンデッドドラゴンが配置されており、それを攻略するために、兄はサメ妖精のシャチくんと、ハイサメ鬼人の義綱さんと作戦会議をしている姿が、テラスから見えている。

 流石に数押しでは勝てない、というかフロアが狭すぎるようだ。

 

 まあ私には関係ない話だが。

 すでに回してあるカプセルを開封する。

 

 SR・ドローン

 

 出現したのは、かなりごついドローンだ。

 2リットルのペットボトルを4つ束ねたようなごつい胴体と、50センチほどある円盤状のローターを装備したかなり攻撃的なデザインだ。

 胴体の下部には4本の細い足が生えており、更には何かを取り付けるためのマウントもついている。

 これがまたかなりガッチリした金具で固定されているのだ。

 

 一体何に使う用のドローンなんだか。

 本体の上にはめ込まれたコントローラーは扇風機のリモコン並に薄いあたり、相変わらずガチャ産の景品はちぐはぐである。

 

 充電は100Vコンセントで行うようで、メガネケーブルの穴がお尻に当たる部分に空いていたので充電。

 コントローラーはコントローラーで乾電池でいいの、作りが適当じゃない?

 

 充電が済んだところでささっとドローンを起動してみる。

 フィーン、とローターが甲高い音を立てながら、ドローンは浮かび上がる。

 お、薄っぺらいコントローラーの割にかなり操作性がいいな。

 

 視界の中、自由に空を飛ぶドローン。

 本当に自分のイメージしたように自由に飛ばせられる。

 加速させて飛ばせた後、急制動。その場に静止させたりもするが、これがまた、ピタッと動きを止められるのだ。

 

 その場に縫い留められたように。

 

 はじめから気がついていたのだが、やはりこのドローンはおかしい。

 ローター、回ってないよね? というか円盤だよねアレ。

 というか飛び上がる時、風を吹き出してなかったよね?

 ローターのあの高音、どう聞いてもモーターの回転音じゃないんだけど。

 ほんとに浮かび上がってるように飛んでるんだよねあのドローン。

 

 一体どうやって飛んでるんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。サメ機人(シャークボーグ)が空を飛んだ。

 サメ機人(シャークボーグ)の背面に装備されたドローンがサメ機人(シャークボーグ)を吊り上げ、飛行させているのだ。

 どうも4枚のローターはどういう原理かわからないがほぼ直接的に浮力を生じさせているらしく、ローターの下に物があろうが関係なく浮かび上がらせられる。

 

 しかも、サメ機人(シャークボーグ)に抱えられる形とはいえ兄も空を飛べるあたり、ドローンの荷重制限は相当ぶっ飛んでいるようだ。

 

 本当に何だあれ。



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R ホームベーカリー

 焼きたてのパンは美味い。これは小麦の質といったものを無視しても真理である。

 何が美味いってあの香りだ。

 香ばしいあの香りが部屋いっぱいに広がり、食欲をそそるのだ。

 

 そんな素晴らしい体験を可能にしてくれるのがホームベーカリーである。

 小麦粉と水を混ぜたパン種を投入しておくだけで自動で練り上げ、パンを焼き上げてくれる。

 まあ最も騒音が凄いのでそんなにいいものでもないそうだが。

 

 今回はそのホームベーカリーが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば加熱すると食品の中身が入れ替わるホットサンドメーカーだが。

 兄が肉まんの生地にコインを入れて包むとかいう無茶苦茶な手段で錬金術をしようとしていた。

 結果として、肉まん生地が発火。

 肉まん生地に含まれる空気が可燃性のガスに置き換えられた結果の出来事だったようだ。

 コインは無事、というか特に変化はなかった。

 

 流石に肉まん蒸し器のように、なんでもとは行かなかったようだ。

 

 と……また、調理器具が出現したんだ。

 使うのに効果の予想がつかないのでまあまあリスキーで困る。

 

 R・ホームベーカリー

 

 今回はパンを練って焼き上げる家電が出てきた。

 見かけは家電量販店で売っているような普通の全自動ホームベーカリーだ。

 不自然なところがあるとすれば、蓋に作り方のシールが貼ってあることぐらいか。

 

 えっとなになに。

 小麦粉と水を投入、蓋を閉じる。

 コンセントに接続して、ボタンを押す。

 10分後、完成。

 

 インスタント(簡単)かよ。

 ホームベーカリーってもっと面倒じゃなかったか確か。

 というか、10分ってなんだ10分って。あまりに早すぎる。

 

 まあいいか。

 小麦粉と水を書かれた分量投入する。

 これでいいのか……?

 もっと色々いれるものじゃないのか……?

 そんな疑問が脳裏によぎる。

 だが、書かれている以上、それが適正なのだろう。

 たとえうまく行かなかったとしても、まずは書かれていることに従うのが大切だ。

 失敗したことをその文章のせいにできるから。

 

 コンセントは部屋から引っ張ってきている物を使用。

 延長コードまみれで一度片付けないと出火しそうで怖い。

 

 電源ボタンを押す……、とそれと同時に、ホームベーカリーから轟音が響く。

 工事現場のそれに等しいだけの轟音だ。

 いや、うるせえ!

 

 ホームベーカリーはパン生地を練る関係でかなり大きな音が出ると聞いていたが、これはうるさすぎる。

 どこから出てるんだこの音は。

 

 今日日洗濯機でもそんなに震えないぞと言いたくもなる勢いでホームベーカリーは振動を続けている。

 というか接地面が時々浮いている。

 中のものを振り回しているからかグラグラといつ倒れてもおかしくない揺れ方をしているのだ。

 

 その傍若無人な動作は恐怖すら覚える。

 適当に置いていたら周囲の物を破壊していただろう。

 というか戸棚に置いて動かしたら間違いなくコップが割れる。

 

 チーン、と高らかな音とともに、ホームベーカリーは動作を停止した。

 本当に10分で作りやがった……。

 本来のホームベーカリーは生地をこねるのと、発酵させるのと、じっくり焼き上げるので5時間ぐらいかかるはずだが。

 

 蓋を開けてみる。

 そこには……、きつね色をした兵糧丸のような何かが一つだけ入っていた。

 え、これはなに。

 

 ただ、匂いは間違いなく焼き上げられたパンのそれだ。

 表面の色合いも焼き上げられたパンのそれなのだ。

 そこにあるのは兵糧丸のように圧縮された小さな球体が1つだけなのに。

 

 あまりに得体が知れない。

 そっとその兵糧丸を兄に渡すことを決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が肉まんをホームベーカリーに投入していた。

 あの兵糧丸は間違いなくパンだった。ただ、兵糧丸サイズになるまで圧縮されていただけだったのだ。

 いや、小麦粉と水しか使ってないからパンか? そこはまあいいか。

 兄が時間を掛けてかじりながら食べていたが味は普通とのこと。

 

 ホームベーカリーが入れられた食品を兵糧丸サイズに圧縮する、という点に注目したのかわからないが、兄は肉まんを兵糧丸にしているのだ。

 それで兵糧丸を作れてしまうんだから恐ろしい話だ。

 あのガクガクと恐怖を覚える動きの殆どは中身の圧縮に使われているということなんだから。

 じゃああのパン兵糧丸はどこから来たんだ。

 

 肉まん投入で出来上がる肉まん兵糧丸。

 小さく食べやすく、腹持ちがいい。

 最も味の方は圧縮された肉まん。

 

 何に使うつもりだ、兄よ。



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ガラクタ その2

 ガチャを何度も回していれば、愚にもつかない物が出てくることがある。

 ろくな効果もなく、イマイチ反応に困るものだ。

 軽いものならゴミ箱にでも捨てるのだが、大半が重くて困る。

 いやまあ、500キログラム前後なら鬼化した兄が運べるのでまだマシではあるのだが。

 

 そして重いために、結局実験室内に適当に放置するしかない。

 ただでさえ兄の産業廃棄物が増えていて散らかっているのに……。

 

 今回はそのガラクタの中からいくつか紹介しようと思う。

 

 

 

 

 

 

 N・リニアモーターカーの電極

 

 これはリニアモーターカーを浮かせるために使われている電磁石だ。

 とにかくでかく、重い。

 出現した時、これをどうしようかと本当に頭を悩ませたものだ。

 でかいし、重い。

 動かすのにも一苦労、使い道もない。

 

 現在は、兄がダンジョンに取り込んだ。

 磁力吸着トラップになったあたりやはり人を呑む危険なダンジョンである。

 近づくときは気をつけよう……。

 

 

 R・艤装

 

 艤装。船につけられた装備のことを指し……、これは艦隊擬人化ゲーの武装だ。

 本来船につけられる物を人型の生命体に装備させる物なだけあってアホほど重い。

 しかも使用資格が誰にもなかったために、動いているところすら見れなかった。

 

 そういうの得意そうなサメ機人でも装備出来ない。

 サメ鬼人の義綱さんも、サメ妖精のシャチくんも、試すだけ試したがそもそも立ち上がることすら出来ない。

 兄も私も同上。

 

 どういう装備制限がかかっているのかわからん、というかあれもどうやって背負ってるんだろうね。

 この艤装はつけようとすると腰辺りに吸い付くんだが。

 吸い付いたところで重いので立ち上がることすらままならない。

 

 装備の内訳はエンジン部と三連装砲が四門、甲板が二枚、あと正体不明のアームが一本。

 艦種はさっぱりわからなかった。

 

 現在はダンジョンで解析中。

 いや、解析とか高尚な作業はしていない。

 ただ兄がいじくり回して遊んでいるだけだ。

 

 

 R・犬用戦車

 

 犬用戦車。

 いや、何を言っているのかさっぱりわからないが、犬用の戦車らしいです、はい。

 見た目は派手な赤色に塗られた戦車……なのだが、そのサイズがとても小さい。

 全長が1mちょっとと、豆鉄砲なサイズの砲身を含めても2mと行かないぐらいの大きさなのだ。

 

 砲塔の天板は見事にくり抜かれていて、そこに乗るようなのだが、どうにも操作系がいまいち理解できない。

 犬用と書かれているように、犬が使うことを想定した操作系になっているようなのだが。

 ペダルが2つあるだけって思いきりが良すぎるでしょこれ。

 

 犬に教え込めば使えるようになるのか?

 本当に?

 かなり微妙だ。

 

 なお、サメ妖精のシャチくんは乗って動かすことが出来たが。

 3秒で普通に飛んで移動したほうが早いことに気がついて即倉庫行きとなった。

 

 

 R・ランプ

 

 これは普通のアンティークのランプだ。

 ただ壊れない。どんな力で振り回しても壊れない。

 問題があるとすれば、コンセントケーブルが千切れて無いんだよねこのランプ。

 本当に壊れないだけのランプなんだよな……。

 

 

 N・羊羹

 

 カプセルの中にぎっしり詰まっていた羊羹。

 兄に食わせてみたが、高級な羊羹だった。

 

 

 N・葉っぱ

 

 即埋めて見なかったことにした。



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R 物差し

 文明の深度はその文明が持つ物差し(スケール)に依存する。

 精度の取れないスケールを持った文明はその時点で工業において精度が出せなくなり、複雑な機械を作り上げることができなくなる。

 農業に於いても、農薬や水といったものの量を扱うのに分量の調整が不可能になる。

 適切な単位を扱うことで、文明は進歩してきたと言える。

 かつてギルドはその適切な単位を独占することによって利益を上げていたことすらあるように、優れた単位はただそれだけで文明に明日を見せるのだ。

 結論を言うとヤードポンド法は死滅しろ。

 

 今回は物差しが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝目が覚めると、アンデッドドラゴンの死体がテラスの前に置かれていた。

 その竜体のあちこちが砕け、焦げ、裂けている。

 あの兄のことだ、勝ったということを私に自慢したいがためにこれを持ってきたのだろうが、私にはそれがどれくらい凄いことなのかさっぱりわからない。

 というか、兄の基本戦術は量産モンスターによる特攻な手前、余計理解し難いのだ。

 ダンジョンに無謀な突撃を続けているように見える兄は、なんだかんだきっちりと安全対策を取っているのだ。

 その結果が量産モンスター特攻なのだから度し難いが。

 

 完全に腐りきった結果骨だけになったそのドラゴンは、肉がないために骨を砕くことでしか倒せない。

 しかし、それは尋常ならざる強度を持つ竜骨で構成されているためにほぼ不可能と言ってよかった。

 

 どうやって倒したのかというと。

 ドローンを装備したサメ機人(シャークボーグ)を大量に投入して、ヒヒイロカネワイヤーで強引に拘束した、と。

 いつの間にかドローンがサメ機人(シャークボーグ)の追加武装として量産されていることに首を傾げる。

 強引に拘束した後は魔剣やら妖刀やらの、相手の強度を問わず破壊が可能な武器を使って無理やり解体したそうだ。

 関節からバラバラに砕き、首を妖刀で切り落としたあたりで抵抗がなくなり、動かなくなったそうだ。

 

 逆にそれで動いていたらだいぶ怖い生き物だった。いやアンデッドだから死んでるのか?

 まあいいか。

 持って帰ってきたということはモンスターの材料にするつもりだろう。

 自慢だけで終わらせる人ではない、兄は。

 

 さーてガチャだ。

 いや、大した気晴らしにもならないが。

 

 R・物差し

 

 出現したのは50センチほどの大きさの金属の物差しだ。

 手に持って振っても特になにかおかしな現象が起こったりしないあたり、武器としての使用が考えられるものではないらしい。

 スケールも一般的なセンチで刻まれていて不自然なところはない。

 いや、なんか墨入れが薄いな?

 それぐらいか。

 

 しかし物差しか。

 兄が竹物差しを6本破壊していた思い出しかないな。

 そのたびに親に怒られていて大変そうだった。……大変そうだったのは母である。

 

 何かを測れば何がおかしいか分かるはずだ。

 多分。物差しである以上、測るところがおかしいはず。

 とりあえずこれでも測ってみるか。

 りんごジュースだ。

 

 そっとその高さに物差しを添わせてみる。

 えーと、大体11オンス。

 

 ……。

 オンスは液量だろうが!

 ビンに物差しを添わせた瞬間に目盛りがグニャリと動いて、単位が変わったの目で見えたぞ。

 いや、変わるにしても長さにしろ!

 なんで液量なんだよ!

 

 しかも目盛りが荒い!

 荒すぎる!

 計量カップよりもスカスカじゃねえか!

 

 

 その後、何度測ってもすぐ違う単位になったので物差しを思いっきりぶん投げた。

 一回も長さの単位にならなかったのは流石である。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が重量計にしていた。

 物差しに物を乗せると何故か目盛りがその乗せている物の重量を指し示すことを兄は見つけ出していたが、毎回その単位が違う単位になるため結局兄もぶん投げていた。

 金属の重量測るのにカラットで単位出されても困るんだよ……。



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R 片スリッパ

 2つで1つでなければならないもの、対で存在していなければならないものが世の中には存在する。

 食べ物を掴む箸、両足を怪我などから守り負担を和らげる靴、二本の金属線をまとめた電気ケーブル……。

 それらは2つ揃っていて初めてその機能を発揮できる。

 

 今回は、片方だけ出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が物差しの使い方を発見した。

 なんとどんな投げ方をしても同じ距離に飛ぶのだ。

 速度と回転はなぜかその飛距離に伴わずに毎回異なってまちまちなのだが、本当にぴたりと同じ距離に落ちるのだ。

 

 どういうわけかわからないが、自身に関わる長さを定量化している、ようだ。

 なんでそういう結果を出力するのかわからない。

 もしかすると、これは何かを測る方法なのかも知れない。

 

 いや、物差し投げて測る距離ってなんだよ……、と思ったが。

 実際、これなら同じ長さの距離を投げることによって測れてしまう。

 この物差しを当てて測るより投げるほうがまだ正確に測れるので頭を抱える。

 

 それに伴ってかはわからないが、最大飛距離の半分程度の距離の物体に目掛けて物差しを投げつけると、対象を粉砕する。

 当たった瞬間に物差しが異常な振動を起こすのだ。

 大体砕いたあたりで止まって落ちる。

 適当に投げていたが、結構危なかった。

 

 こういうのがあるから引きたくないんだよなガチャ。

 でも回さないと異音を立てて催促してくるので回すしか無い。

 私のプライベート空間を返してくれ。

 

 R・片スリッパ

 

 カプセルを開けて出てきたのは、スリッパだった。

 しかも片方だけだ。

 27センチサイズで、緑色の病院や公共機関でよく見るタイプのスリッパだ。

 

 ……?

 え、なんでスリッパが片方だけ出現したんだ。

 名前も片スリッパになっているということは、片方だけでいい、ということのはずだが。

 

 え?

 スリッパだぞ?

 片方だけで何に使うんだ? ツッコミ?

 

 虚空に虚しく響く私の「なんでやねん」。

 スリッパを握って振り抜いて見たが、そういう効果を持っているわけではないらしく、何の反応もない。

 

 試しに石をペシペシと叩いてみるが特に変化はない。

 本当になんだこのスリッパは。

 片方しか無いんだぞ。

 

 振り回してみたり、叩いてみたり、中に電池をいれてみたり、引っ張ってみたり、とりあえず思いつくことを試してみたがうんともすんとも言わない。

 

 やはり……履くのか?

 いやいやいや、だって片方しか無いんだぞ?

 履いて……どうするんだ。

 

 とりあえず履いてみる。

 そっと右足にはめて踏み出したその瞬間だ。

 思いっきりつんのめって転けそうになった。

 スリッパの下に目に見えない足場が出現している。

 

 は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。見えない足場を作り出すことで空中を自由に歩けるスリッパの片方だけ、を兄はめちゃくちゃ笑っていた。

 話だけ聞けば私だって笑う。

 なんで揃いで出現しないんだと。

 しかも脱げやすいスリッパでそんな物を作ったのは誰だよ、と。

 

 その後兄は無言でスリッパを真っ二つにして足に縛り付けて空を自由に歩いていた。

 マジかこの人……。



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R スノードーム

 地方性のないお土産として挙げられるものとして、なにがあるだろうか。

 何か竜の巻き付いた剣のキーホルダー。

 ガラスの中にレーザーで彫刻された置物。

 チョコレートをランドグシャで挟んだお菓子。

 まあ色々あるが、今回はスノードームについて話す。

 これはガラスの球体内に液体が満たされた置物で、中に小さなフィギュアが入っている。

 ひっくり返すと中身が撹拌され、液体と一緒に封入された白い粉が雪として降る、という仕掛けの置物だ。

 基本的に雪だるまなんかが入っているが、お土産としては中のフィギュアをご当地ならではのものにしていることが多い。

 そうするとなんで雪が降っているのかよくわからないシチュエーションになっていたりする。

 代わりにスパンコールを封入してあったりするがそれはそれで変だったりする。

 

 今回はスノードームが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 切断したスリッパだが、結局倉庫の肥やしになった。

 まあ当然である。見えない足場が生成されるのはスリッパの裏側のみ。

 足の外側だけでふんばれと言われているようなものである。

 兄は伊達や酔狂で生きているので、使えるかどうかで発想していない。

 あの人は面白ければいいのだ。

 その関係で実用まで至らなかったガラクタも結構増えていっているのだが。

 N・ライターを改造して作った火炎放射器は、最終的に派手な爆発を起こして実験していたサメもどきが1体消滅する羽目になったわけだし。

 

 しかし、本当にヤバいものには直接手を出さないあたり、異常に嗅覚が鋭い。

 本当に何なんだろうな、あの人は。

 

 さてガチャを回そう。

 

 R・スノードーム

 

 今回出現したのはスノードームだった。

 ガラスでできた球体の中に、この……なんだ? この建物は。

 奇妙な形状の建物が球体の中に建っている。

 わずかに浮いている雪の粉が落ちていく光景と不釣り合いですらある奇妙な印象を受ける。

 円柱を組みわせて重ねたような形の建物なのだ。

 SFに出てくるような建物だといえる。

 だがどのような文化でそのような建物が形成されるのか微妙なところだ。

 

 ひっくり返してかき混ぜてやると中の白い粉がぐるぐると渦巻く。

 普通のスノードームだな……。

 渦巻く雪は綺麗で、建物の見た目はともかく雪は綺麗に降りそうである。

 

 そっと、机の上にスノードームを置き直す。

 それと同時に、スノードームを中心に映像が投影された。

 スノードームの光景を拡張するかのように広がった映像は、どこからかやってきたドラゴンが建物に炎を浴びせている。

 

 は?

 というかめちゃくちゃ大きな音で火炎放射器みたいな音を立てていて騒々しい。

 雪はどこに行った。

 

 燃え上がり灰と化していく建物。

 それが中の液体の対流に乗って灰として降り始めた。

 

 ああー、雪だと思ってたのは建物の灰かぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がスノードームを、ダンジョン探索の囮につかうようになった。

 何しろ、やたら派手で轟音を立てるのである。

 モンスターの警戒を集めるのにうってつけだ。

 

 いやいやいや、そういうものじゃないでしょこれ……。



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R 鉋

 (カンナ)。木材の表面を削り、木目を整える工具だ。

 土台となる部品に、2枚の金属の刃を組み合わせることで表面を薄く切り、剥がすことを可能としている。

 ただこの工具の扱いは非常に難しく、切れ目なく削り取れる事ができるということはそれだけつっかえることなく扱うことができているということである。

 そして表面を均一に削り取るには、つっかえていてはいけない道具なのだ。

 下手に扱うとどう頑張っても表面をえぐり取ってガタガタにすることしか出来ないので本当に扱いが難しい道具なのだ。

 

 今回はその鉋が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スノードームをよく観察していると、その中に人のような生き物がいる事がわかる。

 ドームを振り回してもとくにその動きに巻き込まれる様子がないので中央の建物の付属品のようなもののようだ。

 もとより拡張現実のような虚実のわかりにくい景品であるが、ずっと見ていると建物を直す人の営みが見えてくるのはこれをひっくり返す罪悪感に駆られる。

 

 まあ兄は全く気にしないでひっくり返すのだが。

 そのたびに違う災害に襲われる建物が悲惨すぎる。

 

 まあいいか。

 今回のガチャでも見よう。

 

 R・鉋

 

 今回出現したのは大工道具の鉋だ。

 黒い2枚の刃が噛み合ったかなりしっかりした作りの鉋で、側面に焼印が押されている。

 しかし相変わらずどこの文字かわからない字が刻印されていてそれが何なのかはわからない。

 土台の木材の手触りはサラサラとしていて手に馴染む。

 しっかり掴んで使えそうだ。

 

 しかし鉋か。

 機能がシンプルなぶん、普通に使えば一目で効果がわかりそうな気はする。

 ようは削ればいいのだ。

 削って磨く道具なのだからそうすればいい。

 

 とはいえ手頃な素材は……、あった。

 テラスを作ったときの端材だ。

 兄が適当に買い込んだ木材のあまりが少しある。

 

 苗木から育った木材を使うようになってからこっちに見向きもしなくなったので別に使ってもいいだろう。

 適当に台を組み、木材を乗せ、鉋を滑らせるように削る。

 

 切れ味の良い刃はするすると気持ちのいいように表面を削れる。

 これは良い鉋だ。

 とても扱いやすい。

 思わず、セットした木材が薄々になるまで削りそうになる。

 

 もう一度削ろうと鉋を戻したその時だ。

 鉋の削りカスを吐き出す部分が、カスを吸い込んだ。

 

 は?

 削ったはずの表面が元に戻っている。

 いやそれは正確な表現ではない。

 よく見れば、そこに張り合わせたかのように削った木材がくっついている。

 指で剥がそうとしてみるが、完全に癒着しているようで少しも動かない。

 

 えっ。

 そういう?

 

 そっと木材を削って、削り節をつなげたまま、近くにあった石に滑らせてみた。

 結果、石の表面に木材の膜が張り付いた。

 はじめからそうだったかのように完全に一体化している。

 

 えっ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が鉋でヒヒイロカネを削って、サメ機人(シャークボーク)の表面に貼り付けていた。

 なんで金属のインゴットを削れているのか。

 電気を流しながら鉋がけしているからなのだが。

 

 恐れ知らずというかなんというか……。



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R ポスター

 ポスター。壁や柱などに貼り付けて使う広告媒体だ。

 その特徴は大量に印刷、掲示が可能なことで、その表現も1枚の紙であることから絵画、イラストレーション、写真など様々な手段が利用可能だ。

 また量産が可能なため、個人の部屋でのインテリアとして壁に貼り付けるなどの用途にも利用できる。

 そのため、公私問わず日本のあらゆる場所で見ることができる掲示物だといえよう。

 

 今回はそのポスターが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか兄がビデオカメラを持ち込んできた。

 スマホの台頭で中古市場に流れて値段が下がったビデオカメラのようで、かなりしっかりした作りのものだ。

 一方でストラップが千切れていたりする。

 見立てどおり中古だな。

 

 大体用途はわかっている。

 発掘ダンジョンの記録のためだろう。

 紙媒体とスマホを使ってこれまで記録をつけていたが、それだけだと物足りなくなってきたのだ。

 もっと広範な記録がつけたくなったに違いない。

 

 なにかと遺跡として情報量が多い場所なので、普通にいるだけでも圧倒される。

 人とは異なる生物の文明の産物だろう。

 ガチャを回しているとそういうのにぶち当たることが多いので麻痺している節があるが、このダンジョンには特にその痕跡が多いのだ。

 そういう物に兄が興味を示すかはともかく、何かを見出しているのは間違いない。

 

 対策チームとか立てかねないから警戒が必要そうである。

 持ち出さずに済む予感がしない。

 

 考えていても仕方ない。

 今日の分のガチャを回しておこう。

 

 R・ポスター

 

 排出されたのは細長い筒だ。フィルムに包まれているところから見て、巻いた状態のポスターだと思われる。

 下地の紙がすでに漆黒というほかない黒に染まっていて本当にこれはポスターか? という疑いがむくむくと立ち上る。

 いやでもポスターって書いてるしな……。

 

 とりあえず封を開けずにそのまま振ってみた。

 普通の風切り音。

 ここは普通のようだ。

 

 固くもないし柔らかくもない、黒い紙の割には普通の質感。

 開封してみると、そこに描かれていたのは荒野とガンマンの姿だ。

 夕日をバックに芸術性の高い構図で描かれているそれはそのまま部屋に貼っても良さそうである。

 タイトルは“紅の荒野”。マカロニ・ウェスタン、といった風情の映画のポスターだ。

 

 “紅の荒野”。ささっとスマホでググってみてもヒットしない。

 あー……。

 存在しない映画のポスターなのかこれ。

 想像以上に普通……いや、存在していることがおかしいとはいえ、これ自体は普通だと言える。

 

 どこか適当に貼っておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。実験室の扉に貼っておいた“紅の荒野”ポスターが、別のポスターになっていた。

 しかもよりによって選挙ポスターに変化していたのだ。

 自由共産党の杉浦吉敷という人物の物らしいのだが、そんな名称の政党は知らないし、そんな政治家はスマホでググっても出てこない。

 それに表情が微妙にイラッとする。

 なんだそのめちゃくちゃに胡散臭い笑顔は。

 

 しかしこのポスター、印刷が日替わりで変わるポスターなのか。

 想像以上にろくでもない景品だった。



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R タバコ

 タバコとはナス科のタバコという植物の葉から作られた嗜好品だ。

 葉を加熱し、葉に含まれる成分であるニコチンを煙として吸い込むことが最もポピュラーな嗜み方であり、現在それに最も最適化された形である紙巻タバコが普及している。

 またニコチンは中枢神経を刺激し、覚醒感や鎮静効果があり、これによって多幸感や認知能力の向上、アドレナリンの分泌などを促す。

 当然ながらそんな効果のある成分に依存性がないはずがなく、更には葉の燃焼によって生じる様々な毒性を持つ成分を煙として吸い込むのがタバコだ。

 刺激の足りなかった時代ならばともかく、今の時代ならば喫煙者の数は減り続けるだろう。

 

 今回はそのタバコが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クソ。兄があの発掘ダンジョンの何に興味を示したのかわかってしまった。

 魔法だ。

 なんでかわからないが、あのダンジョンは魔法としか言いようがない技術で動いているのだ。

 あの壁や罠の殆どがその魔法技術によるものであり、兄はそれを調べ尽くそうとしている。

 

 たちの悪いことに兄はすでに魔導書を手に入れている。

 それがどれぐらい当てになるかわからないが、すでに利用法を見出しているのだ。

 兄なら、魔法の正体を暴くぐらいやりかねない。

 それがどれだけ危険かを理解せずに、妙に鋭い嗅覚だけで望む結果を得てしまう。

 

 いや望んでいるかどうかも怪しい。兄は楽しければそれでいいから。

 これは放置していると不味いような気がする。

 ヤバい人間に気まぐれで社会を変革して破壊する力が与えられてしまう。

 さりとて、人の話を聞くような人間でもない。

 マジでどうするかな……。

 

 考えていても仕方ない。

 とりあえず今日の分のガチャを回しておこう。

 

 R・タバコ

 

 出現したのは青いパッケージのタバコ1箱だ。

 パッケージ自体はコンビニなどで見かけるタバコと大差がない。

 いや、よく見れば違うだろうが、タバコとして平均的なデザインだと言える。

 最も銘柄はスマホで検索しても一つも出てこない。

 

 しかし、タバコかぁ……。

 年齢の関係上吸うわけにはいかないが、多分吸うことで効果を発揮するタイプだと思われる。

 えー? どうやって試そう。

 

 とりあえず一本取り出して火をつけてみた。

 ダメだったらサメもどきを借りて吸わせてみるつもりだ。

 ……ていうか、なんか煙多くない?

 目に見えて煙の柱が立ち上っている。

 太い上に、なんか濃い。

 

 けっむ!

 思わず顔を背けてくしゃみをしてしまう。

 何だこのタバコ!

 煙の量が多いぞ!

 もっと減れ!

 

 と念じたところ、煙の量が減った。

 は?

 煙が私の意志を汲んだ?

 

 頭の中で煙をくねらせるイメージを浮かべ、指を通してタバコへと伝える。

 そのイメージに沿って、煙がくねる。

 ああ、なるほど……。

 

 このタバコは煙を操れるタバコなのか。

 ヤバい量の煙も、そのためにある、と。

 

 ところで隣に置いておいたりんごジュースが茶色に染まってるんだけど、もしかしてこのタバコ相当毒性強い?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が煙を球状に固めて持ち歩いていた。

 タバコの先に煙を球体のように溜め、それをスケルトンにぶつけて攻撃をしていたのだ。

 その膨大な煙の量から、実体を持つかのようにダメージを与えている。

 それにあの煙は相当な毒性があるようで、生き残ったスケルトンも毒に冒されたように倒れている。

 それに煙を縄のように編んでスケルトンを縛り付けるとかやっている。

 

 あぶねえタバコだな、おい。



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R フォークリフト

 フォークリフトとは、ツメを持ち、それによって荷物を保持、運搬が可能な乗り物だ。

 コンテナの下部にフォークリフトのツメを差し込む用の穴を開けておいたり、パレットと呼ばれるフォークリフトのツメに対応した台を利用することで、規格化された環境でのフォークリフト利用が可能になる。

 規格化された環境ではあらゆる種類の荷物が同じ方式で扱う事ができるため、フォークリフトのような一見融通の利かなさそうな車両が非常に優秀な働きをするのだ。

 

 今回はそのフォークリフトが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早速、兄が魔法を覚えてきた。

 いや、元々使えたが気がついていなかった、というのが正しいのかも知れない。

 というのも、R・黒のまどうしょに書かれている魔法をどうにかして無駄に紙を使わずに使えないかと試行錯誤していた時があったのだ。

 大雑把には全て失敗に終わったのだが、発掘ダンジョンで兄が厄介なものを見つけてきたのだ。

 それは魔法の杖、というべきか。

 金属の筒がついた棒を拾ってきたのだ。

 

 この棒、元々はちょっと強いスケルトンが持っていたもので、振ると何故か炎が飛んでくるというものだ。

 その構造は単純極まりなく、黒のまどうしょに書かれた魔法陣とよく似たものが中に入っているだけなのだが、どうもこの金属は魔法陣の発生させた効果を先に飛ばす性質があるようなのだ。

 

 魔法の原理こそまだわかっていないものの、この杖を使えば魔法が使える。

 兄に与えていいおもちゃなのかそれは?

 かなり微妙だ。

 まあ、現状炎が飛び出たり氷が飛び出たり雷が飛び出たりするだけなのでまあいいとしよう。

 

 ええい、ガチャだガチャ!

 さっさと終わらせられる面倒事はさっさと片付けるに限る。

 手間がかかりそうな面倒事はさっさと終わらせられるタイミングにだけ手を出すに限る。

 

 R・フォークリフト

 

 出現したのはフォークリフトだ。

 ツメが2本……いや、なんでかこれ3本あるな。普通は2本のはずだが。

 クソ、また規格違いか。

 いきなりこのフォークリフトが役に立たないものになったぞ。

 規格化されたパレットやコンテナを扱えるからフォークリフトは意味があるのだ。

 3本ツメじゃどうやっても使えないじゃないか。

 

 しかし……エンジンはかかるな。

 機動戦闘車はエンジンすらかからなかったことに比べればまだマシか。

 フォークリフトは後輪をハンドルで操作するタイプの乗り物だから操縦感がかなり特殊であるが、ベッドやらサメもどきやら、カヤックやらに乗るよりかは楽、かな。

 

 いや、実験室内で乗り回す乗り物があると楽だとかそういう話でしかないだけで、別にそこまで広いわけじゃないからいらないといえばいらないのだが。

 

 そう考えながら、ついうっかり少し上がっていた爪の部分に腰掛ける。

 

 ……は?

 

 ツメの部分が、まるで高級ソファーかと思うほどに座り心地がいい。

 どう見てもそうには見えない、金属のツメでしかないのに、全身を包むような安心感のある座り心地なのだ。

 しかもどのような体勢で座ってもその座り心地が変わらない。

 

 え?

 これ椅子なの?

 フォークリフトじゃん。

 しかもツメじゃん。

 

 え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がフォークリフトをサメ機人(シャークボーグ)に組み込んでいた。

 フォークリフトのお尻の部分からサメの頭部が突き出したような形状に変化しており、バックで実験室内を走り回っている。

 兄はそれのツメの部分に座ってサメ機人(シャークボーグ)の動きを制御しているようで、細かく指示を出しているのが見て取れるが。

 

 なんでそういう改造しちゃうかなぁ。

 



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R スピーカー

 スピーカーは電気信号を音声に変換する装置だ。

 元が電気的な信号であるため、電気的に大きさを変更でき、小さな音を大きな音へ変換することができる。

 その構造は単純極まりなく、コイルに電流を流すことで中に入れられた磁石が振動するというものだ。

 この振動を張り詰めた紙などで受け取ることで音に変化するのだ。

 構造が単純なだけに、スピーカーはその音を拾って反響させる筐体など、様々な工夫が施されている。

 

 今回はスピーカーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が魔法の杖を銃型に改造していた。

 銃と言っても、杖に粗製の銃床(ストック)をつけ、ハンマーとトリガーをつけただけという構造ではある。

 しかしハンマーで杖の底につけられた火薬を叩くことで振動によって魔法を発振、射撃するという構造だ。

 火薬は100均で売っているキャップをつけているだけではある。

 だが杖を機能させるにはそれで十分だったようだ。

 

 杖から発射された魔法はまっすぐ飛ぶ。

 弾速こそ私が全力で投げた野球ボールほどでしかないが、飛ぶのは魔法。

 炎の塊や当たると凍りつく何かや、電撃の球だ。

 危ないったりゃありゃしない。

 

 で、この魔法の杖銃がすでに4本出来ていてサメ機人(シャークボーグ)が装備を固めている。

 再装填は火薬キャップを交換するだけ、最悪振り回しても使える。

 雑な作りの割には性能がいい。

 杖を振り回すよりも命中率もいいあたり、兄の嗅覚の鋭さが伺える。

 

 魔法の原理も、なんで杖を使えば飛ばせるのかもわかっていないのにこんな改造を食らわせるあたりも、嗅覚が鋭いのがわかって嫌になるな。

 

 まあいい武器があれば兄がヤバい怪我するリスクも減ろう。

 それはいいことだ。

 だが魔法技術は捨てろ。

 

 さてガチャガチャ。

 回したくね~。

 

 R・スピーカー

 

 出現したのはアンティークな雰囲気の大型スピーカーだ。

 木製の筐体がでかく、重い。

 またコンセントケーブルと音声の 3.5ミリのステレオミニプラグが伸びている。

 なんで3.5ミリミニプラグなんだ……?

 イヤホンなどに使われるプラグではあるが、大型のスピーカーで使うには電圧とかの関係で採用されないもののはずだ。

 

 まあいいか。

 とにかく機能を試すためにスマホに端子を繋いで音を流してみる。

 

 ……?

 あれ? 鳴ってる?

 全く音が聞こえない。

 しかしスピーカーの表面は振動しているようで、指で軽く触れると振動のようなものが伝わってくる。

 動いていないわけではない、はずなんだよな……。

 

 頭をかしげる。

 振動はしている。

 だが音は出ていない。

 どういうことなんだ……。

 

 そう、頭を抱えようとして手で耳を覆った時だ。

 わずかに音が聞こえた。

 ええー……?

 

 そっと耳を両手で塞ぐ。

 すると先程よりはっきりスピーカーからの音が聞こえるのだ。

 え?

 どういうことなの?

 え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。あのスピーカーは「マイナスの音量」で音を出すスピーカーだった。

 何を言っているのかわからないが、私にもよくわからない。

 なんでも、音を妨げた状態だと聞こえる音になっているようだ。

 ようは耳を塞いだり、扉を閉じたり、隣の部屋だったりすると音が聞こえてくるということだ。

 

 兄は出力を改造して、音響爆弾にした。

 そして発掘ダンジョンのモンスターハウスとなっていた部屋をスピーカーの最大音量で破壊。

 スピーカーから発せられるマイナスの轟音によって部屋の内部にいた大量のスケルトンを粉砕したのだ。

 

 なおスピーカーはそれで壊れた。

 兄ぃ……。



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R 扇風機

 扇風機とは、羽を回して風を起こすことで、涼しさを作り出す機械だ。

 人は体の周りに空気の層を持っており、それは通常体温で温まっているために風で剥がす事によって涼しさを得ることができるのだ。

 最も、まとっている空気よりも大気のほうが暑かった場合、それは熱風でしかなく逆に体温が上昇してしまう結果になるだろう。

 わからないと思うならサウナで手や足に向かって息を吹きかけてみるといい。

 吹きかけられた部分が熱に晒されるはずである。

 

 今回はその扇風機が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発掘ダンジョンの6層にはたまに杖持ちのスケルトンが出る。

 この杖は前にも言ったとおり、振ると魔法が飛び出す不思議アイテムである。

 杖の中に魔法の書かれた紙をいれることでその書かれた魔法が誰でも使えるということは、この杖になにか秘密があるわけだ。

 最も紙自体も投げれば誰でも魔法が使えるので、使い方の差でしかない。

 

 ということはこの金属の杖は魔法を伝導する性質があるわけだ。

 この金属を制作したり、加工できれば魔法利用の幅が広がるような気はする。

 

 兄は実験のためと言って杖を鉄琴にした。

 

 

 

 見なかったことにしてガチャを回そう。

 そろそろ高レアないいものが出てきたりしないだろうか。

 というかそもそも同じ景品が出ててきたことがないのでレアリティの差にほとんど意味がないように思える。

 

 R・扇風機

 

 見た目は普通の家電が出てきた。

 季節商品のあの扇風機だ。

 普通のタイプの扇風機で一見構造におかしなところがあるようには見えない。

 いや、色はそうではないな。

 通常涼を感じるもののために寒色を使用される。

 だがコイツは羽が赤いのだ。

 それだけに回転している姿は相当暑苦しかろう。

 

 電源はUSBケーブル、サイズは一般家電。

 そして選べる風量は弱・中・強・最強。

 なんだこいつ。

 首振りが普通のピンを引っ張るタイプなあたりよくわからん。

 

 とりあえずポータブルバッテリーと接続して、弱でスイッチを入れる。

 ゆるゆるといった速度で回り始める扇風機の羽。

 

 ……なんか、もわっとした風が来ているぞ?

 うん?

 なんというかもったりとした空気が流れてきているような気がする。

 

 弱じゃよくわからないのでささっと強を入れてみる。

 

 ……熱っつ!

 真夏の風!

 扇風機から真夏の風が!

 

 熱風を吹き出す扇風機があるか!

 

 慌てて電源を切る。

 強でこれということは。

 最強は一体どうなってしまうんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が最強を試した。

 夏の気温を超え、一瞬で部屋をサウナ室にへと変えてしまうその火力に戦々恐々としていた私を見ながら、即座にダンジョン内にサウナを作成するあたり何が何でも使い倒すという意志すら感じる。

 最も兄はサウナを利用するような人間ではないので作ったのは完全に勢いだ。

 いつものことだがどうかしている。



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R ピンボール台

 ピンボール。傾いた盤面に金属球を転がし、フリッパーと呼ばれるヒレのようなパーツを操作して弾き、得点を稼ぐ遊具である。

 設計や筐体が古いことから、その構造はめちゃくちゃに複雑になっており、裏面は配線のおばけである。

 現在は専門の修理工でしか直せない。

 部品が残っておらず、その設計図も残っていないためだ。

 そんな状況であるにも関わらず、これは定期的なメンテナンスを必要とするのだ。

 現在ではゲーム機というよりかはアンティークとしての価値が高い物だと言えよう。

 

 今回はそのピンボール台が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発掘ダンジョンだが、実は6層から様相が変わってきた。

 これまでは遺跡然とした迷宮だったのだが、6層は廃墟の街といった状態だ。

 6層には天井がなく、常に星が見える夜の天蓋が広がっている。

 廃墟の街が広がっている以上、文明の痕跡がそこかしこに散らばっているのだが、兄は興味を示さない。

 兄の今の興味は魔法一択であり、ダンジョンの文明そのものではないからだ。

 

 しかし私は人以外の知性体文明の痕跡は興味がある。

 スケルトンを見るにヒューマノイド、すなわち人型生命体であることは間違いないのだが。

 発掘ダンジョン内はまだまだ危険地帯、というか4層より先の完全制圧も終わっていないので私は見に行くことが出来ない。

 

 とはいえ、行けたら行けたでろくな目にあわなさそうな気もするんだよなぁ……。

 すでにガチャという災厄を被っているわけだし。

 

 そのガチャも今日の分はこれだ。

 

 R・ピンボール台

 

 出現したのは一見普通のピンボール台だ。

 問題があるとすれば、見たこともないキャラクターがディスプレイ部に描かれ、見ていると不安になる造形をしていることだろうか。

 人型なのに腕が4本見えるし、その長さの比率もまちまちな上、デッサンが崩れているのでこう、心の内がザワザワするのだ。

 

 ピンボール本体はというと、これもまたあれだ。

 よく見るとホログラムだ。

 バンパーの裏にうっすらとなにもない背景の盤面が見える。

 え、ホログラムなのにボールを弾けるんですか?

 というかめちゃくちゃしっかりしたホログラムで視点を変えて観察してみても全くブレがない。

 こういうホログラムは大体視点を変えるとブレるのだが。

 

 試しにワンプレイやってみるか。

 湧きスポット産のコインを投入すると、ボールがセットされる。

 あ、このコインでいいのか。

 ボールはトリガーを弾いて飛ばすタイプのようだ。

 拳を振り下ろして球を発射する。

 バネとボールの手応えを感じるとともに、発射されたボールが実体のあるものだと理解した。

 そしてそのボールはホログラムのバンパーに弾かれて吹き飛ばされる。

 あまりに激しく飛ぶものだから私は反応できずに、ボールを落としてしまった。

 

 上のキャラクターの横に点数が表示される。

 かろうじて3桁の数字が表示されているが、バンパーに1回吹き飛ばされるごとに50点程度入っていたので本当にゴミみたいな得点だ。

 

 カラン、と何か音がして、ピンボール台の下を覗き込むと、そこにはガムボールが。

 ポイントに応じてガムボールをくれるとかそういう?

 

 なお味は言葉にし難い味で、強いて言うなら風邪を引いた時のタンのような味だった。そこもポイント比例なのかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 兄がピンボール台から謎の金属球を生成していた。

 曰く、カンストするまで弾き続けていたら出てきた、と。

 異常なほど高品質化したガムボールが金属と見間違えるほどの強度を獲得したとしか思えない。

 

 兄に何かしら新しいのを与えると妙なことを引き出すのはなんなの?



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R 座椅子

 座椅子。一般的にちゃぶ台などの高さに合わせて作られた椅子だ。

 座面がほとんど床と同じ高さに来るように作られ、背もたれが身体を包み込むような形状や材質で作られていることが多い。

 これは普通の椅子と比べても姿勢が変わりやすいため、きちんと形が出来ていないと背もたれとしての意味がなくなってしまうためだ。

 また近年はインテリアとして利用されるため、派手で鮮やかな色合いのものが多い。

 

 今回はその座椅子が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここのところ毎日のように発掘ダンジョンに潜っていたからか、兄が猫のように伸びていた。

 テラスから出てすぐの日当たりの良い草原に、ほとんど死体のように動かない状態で兄が寝転がっていたのだ。

 ああ、これは精神力が尽きたな。

 基本的にテンションが高く、思いつきをすぐさま実行に移す兄だが、数ヶ月に一回ぐらいの頻度で、全く動かなくなる。

 見るからに電池が切れたかのように動かなくなるので初見ではかなり驚く。

 もっとも医者にはただ体力が切れているだけで躁鬱ではないと言われているので、無視するのがいつもの扱い方だ。

 

 動かなくなる場所も大体安全な場所であるし、突然動かなくなるわけでもないので本当に心配するだけ損だ。

 でかい図体をして奇妙な伸び方をしているのでぎょっとしてつい声掛けされがちなのだ。

 周りに迷惑かけるのやめてくれない?

 

 うーん横で一緒に伸びてるサメ妖精のシャチくんがかわいい。

 

 さて今日のガチャだ。

 ろくでもない物が出てきませんように……。

 いや、このガチャそのものがろくでもないものだから何が出てきてもろくでもないのでは?

 

 R・座椅子

 

 出現した物は旅館などで見るタイプの、木を曲げて作られた座椅子だ。

 座面に円形の穴が空き、その上に座布団を敷いて座るタイプのものである。

 本当に旅館などで見かけそうな、作りのしっかりした座椅子であるが……。

 

 まあこれは一目でこれが異常だとわかるわな。

 これがおかしいとわからないやつは目が節穴で出来てるか、そういう世界から来た奴だけだわ。

 

 そう、腰掛けるのに丁度いい高さで浮いているのである。

 

 浮いているために摩擦がないのか、ゆっくりと回っている。

 手で座面を押してみたりもするが、一定の高さを保とうと反発する感覚がある。

 

 ……なんでこれ座椅子なんだ。

 しかも木製の。

 ご丁寧に、座布団がついてないし。

 

 座るのに丁度いい高さ、というのはとどのつまりキャスター付きのオフィスチェアの座面の高さなのだ。

 超技術を使ってまで浮かせる必要がない。

 普通にオフィスチェアでいいのだ。

 オフィスチェアの足を筒の中で浮かせてやるだけで十分すぎる。

 

 なんで座椅子を浮かせたんだ……。

 

 そっと座布団をセットして座ったら勢いよく座椅子が滑り出した。

 座布団というすっぽ抜けやすい敷物に座っていた私はそれについていけず、座椅子から滑落。

 

 摩擦がないからこうなるんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。案の定兄が座椅子に座ってエアホッケーのごとく実験室を縦横無尽に滑っていた。

 キャスター付きの椅子でやるのと対して変わらないアレなのではしたないからやめてほしいんだが……。



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SR スライム

 スライム。比較的近年に成立した、アメーバや細菌を元としたモンスターである。

 近年のRPGではもっぱらザコ敵としての役割が多く、ゲーム序盤で出会うことも多いモンスターだが、元をたどると物理攻撃無効だったり、武器の腐食だったり、分裂だったりとめちゃくちゃに凶悪な能力を持っている事が多いという評価に差があるモンスターでもある。

 

 今回はそのスライムが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半端に浮いた座椅子に座ったまま完全に気の抜けた表情をしている兄だが、この様子だと明日辺りには復帰するだろう。

 この気力が元に戻った瞬間が一番大変であり、最も兄に活力が満ちた瞬間なのだ。

 活力に満ちているためにその行動力は甚大。

 大体ろくでもないことをしでかす。

 

 前にしでかしたのはなんだったか。

 気がついたら他県の祭りに参加していて、神輿を破壊した、だったか?

 その時はその祭りの運営に盛大に気に入られていて、盛り上がったから良しとされていたが。

 

 今回は発掘ダンジョンを2層ぐらい一気に攻略してしまいそうではある。

 現状、1層攻略するのにも相当な時間を掛けているからな。

 

 まあいいや。

 ガチャを回そう。

 

 SR・スライム

 

 出現したのは指輪のついた瓶のようなものだ。

 結晶の形をした蓋に指輪が引っかかっており、おそらくこの指輪は中身に関係があるのだろう。

 中身は……透明で粘性の高い液体が充填されており、瓶を動かさなくてもなにかうごめいている。

 

 なんだろう。

 スライムってことはこれ玩具なんだろうか。

 中身の液体はとろとろしていて、なんでか動いているが。

 

 悩んでもしょうがないか。

 瓶についた指輪……、多分意味があるので中指にはめる。

 というか、指輪を外して、指にはめないと瓶の蓋がびくともしなかったのだ。

 なんらかの認証が働いている模様。

 

 中身を皿に出してみる……、すると、ぷるんと中身が一塊に皿に落ちた。

 でかい信玄餅みたいなものが皿の上に出て、今もプルプルとしている。

 

 指輪を嵌めているからだろう。

 直感で分かる。

 このプルプルとしているものは、モンスターの方のスライムだ。

 

 というか、このプルプルしている感覚が触ってもいないのにわかるのだ。

 おそらく指輪の力だろう。

 感覚を共有している、というほどではない。

 棒を持ったときに先端の感覚を感じ取るようなイメージだ。

 感覚を共有しているが、自分の感覚として受け取っていないような距離感。

 

 じゃあ、こういう事もできるのか?

 そっと脳裏にスライムを動かすイメージを浮かべ、指輪を通して送り込む。

 体の中の見えない力を押し出すように。

 

 そのイメージに応えるようにスライムは動き出し、手前に移動して、私の膝の上に落ちた。

 べしゃっという音を立てたためにうっかり驚いて地面に落としそうになる。

 最もスライムは落ちてもダメージはないようだ。

 

 表面は濡れていない。ツルツルとした感覚で触っていて気持ちいい。

 

 で、何だこれは。

 操れるスライム?

 それだけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がスライムを超巨大にしてクッションにしていた。

 どうも大きさや粘度、そして成分まで操れることを見切った兄は、スライムをクッション代わりにした。

 手触りといい、やわらかさといい、ひんやりとしているところといい、たしかにクッションとしては極上であろう。

 

 成分を変えられるのなら後で返してもらおう。

 兄に渡しておくと絶対危険だ。



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R 出汁が出る金具

 出汁とは、旨味成分を含んだ物の煮汁のことである。

 煮出すことによってその食品が含んだ旨味を溶かし込み、スープにするのだ。

 スープにすることによってその雑味が抜け、旨味を濃縮することができる。

 様々な味付けに対応し、またこのスープで煮込むことで旨味を食材に溶け込ませることができるなど、様々な用途に利用できる。

 

 今回はその出汁が出る金具が出てきた話だ。

 何を言っているのかわからないと思うが、私にもよくわかっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が、発掘ダンジョンを10層まで一気に踏破した。

 元気が有り余る状態になった兄は、即座に戦闘員を手配した。

 サメ機人(シャークボーグ)は機械であるがために改造することに適正があり、細々と発掘品やガチャ景品を組み込んだ強力な個体が簡単に生み出せる兄のおもちゃなのだ。

 それを20体。

 それに加えてサメもどきを60体、宝箱に詰めた状態で。

 サメ妖精のシャチくんを3体。

 ハイサメ鬼人(ハイシャークオーガ)の義綱さん。

 計85体のチームで、迷宮を蹂躙したと言える。

 

 6層より下の階層は迷宮というよりかは異界というべき状態で、森林、平原、都市、ジャングル、荒野など様々な環境に特化していて、それぞれに対応した罠やモンスターがいた、はずなのだが。

 兄はそれをサメ機人(シャークボーグ)たちへ的確な指揮によって粉砕。

 罠は解除する手段がないからとサメもどきに踏ませて力技で解除し、モンスターはサメ機人(シャークボーグ)の連携攻撃によって瞬殺する。

 

 最高にハイになった兄を止められるものはいなかった。

 いや、厳密には一体だけいたようではある。

 それは10層に出現したノーライフキングのリチャードさんだ。

 現在私の前でお茶を飲んでいる彼だが、発掘ダンジョンのスリートップの一人らしく、それに相応しいだけの力の持ち主である。

 膨大な数のスケルトンも彼の力によるものであり、アンデッドドラゴンぐらいなら同時に10体は出せるそうだ。

 それに彼いわく暗黒の魔法をいくつも使いこなせる。

 

 ……なんで兄勝ててるんだ?

 基本スペック差によるゴリ押ししかしていないはずなのに。

 

 まあいいか。

 ガチャを回しておこう。

 

 R・出汁が出る金具

 

 出現したのは、L字金具だ。

 主にL字に接続された木材を固定するために使われる。

 本棚を壁に固定するのにも使うな。

 薄くて細長い金属板を曲げたような形の金具である。

 

 ……出汁が出る?

 え?

 これ金具でしょ?

 

 なんでそうなるのか全くわからない。

 わからないやつに限ってこうやって注釈をつけてくるあたりも困る。

 わからないならわからないなりに見なかったことにしてゴミ箱に叩き込んでおけばいいからだ。

 わからないならそのまま誰にも認識されずにゴミとして消えるだけのはずなのに。

 

 とりあえず、煮出してみる……か?

 順調に増えているような気がするキャンプキットの中からコンロと小さな鍋を取り出し、金具と水を入れて火にかける。

 

 コトコトと、普通に沸騰する鍋。

 まあ金具が入っているだけで普通の水なわけだからおかしなことが起こるほうがおかしいのだが。

 

 しかし、金具が入っているだけでだんだん色が茶色になっていく液体は不安要素しか無い。

 マジでぇ?

 昆布煮出したときの出汁の色なんだよなこれ。

 しかしそのせいで余計得体のしれない汁になってしまった。

 

 本当に飲んで大丈夫なやつか……?

 少しだけ指につけて舐めてみる。

 

 昆布出汁だこれ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。あの出汁は結局兄がパスタを茹でるのに使ってしまった。

 得体のしれないものでも食べてしまうのはほんとどうかと思う。

 量が足りないからって3回ぐらい煮出し直していたのだが、3回目を最後に出汁が出なくなった。

 それ以降どれだけ茹でてもお湯にしかならなくなった。

 なんかさんざん振り回されただけの結果になってしまったような気がする。

 なんだったんだ……。



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R エンジェルハロ

 エンジェルハロ。すなわち天使の頭の上に浮いている輪っかのことである。

 霊的なオーラを簡略して表現したものであり、漫画などでは主に死者の魂であることを示すのによく使われる。

 また、髪の毛に浮かぶ光沢のことも天使の輪ということがあり、これは髪の質が相当に良くなければ浮かび上がらない。

 またビールジョッキに浮かぶ泡も天使の輪と呼ぶ時がある。こちらもビールジョッキの綺麗さやビールの質が良くなければ現れない。

 

 今回はそのエンジェルハロが出た話だ。

 輪っかだよ輪っか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノーライフキングのリチャードさんに簡単な暗黒魔法を教えてもらった。

 シャドーボールという影の塊を相手に投げつけるという、普通に野球ボールでも投げたほうが威力が出るんじゃねえかと思うほど低威力の魔法だ。

 リチャードさんが使ってもその程度の威力しか出ないあたり、マジで威力が低い。

 最もこの魔法はリチャードさんが弟子に魔法を教えるために作ったそうであり、魔法の基礎が全部詰まっている上、誰でも簡単に使えるというものなのだ。

 

 そう、誰でも簡単に使えてしまうのだ。

 教えられてからものの30分程度で、私は使えるようになってしまった。

 マジで?

 しかも才能があるらしいよ。

 困る。

 

 まあ魔法のことは置いといて、だ。

 いや、置いておいていいはずがないが、置いておくしか無い。

 現状は変な特技が増えただけだ。

 それでいいはずだ。

 

 さて、ガチャを回しておこう。

 せめて異音がしなければな……埃をかぶせておくんだがなあ。

 

 R・エンジェルハロ

 

 今回出現したのは、輪っかだ。

 輪っかとしか言いようがない。

 光が凝縮して出来たかのような、不確かな形を持つ輪っかだ。

 それが地面スレスレに浮いている。

 

 また浮いている景品か……。

 浮いている景品はだいたいろくなものじゃない。

 前回の座椅子もそうだし、クッションも、ベッドもそうだった。

 

 で、今回出てきたのはエンジェルハロ。ようは天使の輪っかだ。

 なんで輪っかだけそこにあるのか訳わかんねえ。

 

 これは……剣とか指輪とかの同類で、装備アイテムなんだろうな……。

 というか装備アイテムじゃなかったらなんなのか。

 輪投げの輪じゃないんだぞ。

 

 そっと頭の上に乗せてみる。

 輪っかは頭の上で浮かび上がり、それとともに私の身体もわずかに浮かび上がった。

 それと同時に、私の背中から何かが生えていく感覚。

 

 これは……羽!

 輪っかと同じく、光を固めて作ったかのような質感である。

 というか、すでに浮いているのに羽いるのか!?

 やはりというか、身体が浮いている!

 

 前に進もうと思えば滑るように進み、後ろに戻ろうとすれば同じように滑って戻る。

 天使や心霊のような超常存在のような動きが可能となっている。

 おそらくは空を自由に飛ぶこともできるだろう。

 これがこの輪っかの力か。

 ふむ。

 

 ただ、ものすごい欠点がある。

 すでに、すでに私の息が上がっているのだ。

 マラソンを全力疾走したかのような疲労感が全身に溜まっている。

 それに頭には徹夜明けのような重さが。

 きっつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。天使みたいな見た目になった兄が手から謎の光を放っていた。

 ちょっとした応用だ、とか言いながら手から謎の光を放つ兄、だいぶうざい。

 何なんだお前は。

 というか見た目がシュール過ぎる。

 ジャージのまま、天使の輪をつけるんじゃない。



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R 永久機関

 永久機関。それは無限にエネルギーを生産し続ける機械であり、人類の果てなき夢だ。

 一度作り上げるだけで、永遠にエネルギーを生み出し続ける夢の機械。

 ありとあらゆるエネルギー問題を解決し、あらゆる資源問題を無に帰す事が可能な超技術である。

 だが、それが故に純粋な熱力学によってその存在は否定され、実在が不可能だと証明されている。

 

 今回はその永久機関が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発掘ダンジョンの6層が廃墟の都市であることは言ったと思うが、7層になると若干様相が変わってくる。

 広陵とした荒野と、そこに点在する村の残骸、といった風情だ。

 それまでと比べてもかなりの広さがあるが、幸い端から端まで視界が通る。

 

 半径でいうと5km前後といったところだ。

 そこから先は巨大な崖のような壁に阻まれているのが見え、おそらくはそこが広さの限界なのだろう。

 上層の遺跡部分や、6層の廃墟の都市と比べればかなり広いとはいえ、視界がひらけているためにどこを調べればいいのかわかりやすい。

 

 例えば6層から降りてきた階段がある場所は壁となっている崖に空いた裂け目なため、8層に降りる階段があるのは同様に裂け目にあるだろうと考えることもできる。

 実際は南東にあった遺跡の中だったそうだが。

 

 この階層は日差しが弱く、秋の涼しさというべき心地いい空気がある。

 ただここもダンジョンの中で、湧きスポット潰しが終わっていないのでちらほらスケルトンがうろついているのが見える。

 

 もっとも出てくると同時にサメ機人(シャークボーグ)にボコられているので不憫だ。

 

 6層の観光ついでに覗いたが割と面白い場所ではある。

 さて帰ってガチャでも回そう。

 

 R・永久機関

 

 ああ、出て来ないわけがないとは思っていたがついに出てきた。

 シンプルに現代科学に喧嘩を売る景品の筆頭、永久機関だ。

 その構造は複数の歯車を重ね組み合わせたような部品で、なんの外力もなしに回り続けている。

 巻かれたゼンマイも、モーターも見当たらないのに噛み合った歯車だけが回っているのだ。

 

 カタカタカタと回り続ける、というか歯車の動きの関係上、床と干渉してカタカタ揺れ続けている。

 というか、本当にどうやって動いているんだ。

 噛み合った歯車だけで構成されているために、どうやって歯車同士が固定されているのか全くわからない。

 それなのに回り続けている。

 

 そして、これは永久機関であるからにはどうにかしてエネルギーが取り出せるはずなのだが。

 全てのパーツが歯車で構成されている関係上、固定ができない。

 固定しなければ歯車からエネルギーを取り出せない。

 

 ええー……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が永久機関にピッタリと合う外装を作り上げた。

 一番大きい歯車が外側に露出するように、それ以外の歯車が接地しないように覆われた外装は割とよくできている。

 ヒヒイロカネとサメ機人(シャークボーグ)を組み合わせれば、3Dプリンター程度の精度の金属加工は簡単に行えるそうだ。

 

 まあここまでやって、ようやく取り出せたエネルギーだが。

 模型用モーターを回して豆電球が弱々しく点灯する程度だった。

 弱い……。

 圧倒的にパワーが弱い……。



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SR 冒険者ギルド

 ギルド。元は都市開発などに参加した商人がその都市での独占的な権益を保護するために作られた組織である。

 しかし市場における商取引のすべてを独占したために、その反発として職人達によるギルドが立ち上げられ、商人のギルドに対して対抗として市政への参加を要求するようになった。

 現代のウェブ小説においてのギルドは、MMORPGにおける大規模なチームにギルドの名前を冠されていることに由来し、主に冒険者を管理するための組織として扱われている。

 

 今回はその冒険者ギルドが出た話だ。

 何言ってんのか自分でもわからないが、出てきたものは仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発掘ダンジョン6層は廃墟の都市だ。

 都市として見れば相当に狭い部類ではあるが、ダンジョンという地下構造体の中に出現するにはあまりに広い場所である。

 それまでの上層が興味深い装飾が施されているぐらいで単調な作りであることと比べると、突然別ゲーが始まるレベルで全く別の光景が広がっているのだ。

 また、街の中央に立派……いや、かつて立派であったであろう聖堂が建てられており、街のどこへ行こうともその聖堂を見ることができる。

 

 ゴシック調に近いような、でもよく見ると細部が違うような気がしてくる聖堂のデザインは興味深い。

 それが間違っているのではなく、おそらくその形に文化が育っていたのだ。

 あいにく専門家ではないので詳しいことが分かるわけではないが。

 

 聖堂を見ていると無性に武器を振り回して壁に弾かれたり、ローリングしたい気持ちになるが、そこまで身体能力が高くないのでやると怪我する。

 いや、武器自体はそこらを調べれば手頃なのが落ちているので振り回すこと自体は簡単なのだが。

 

 階段移動が大変だから見て回る時間がないのがつらいところだ。

 

 さて、ガチャを回しておこう。

 

 SR・冒険者ギルド

 

 それを開封した瞬間、テラスの隣に3階建ての大きな会館が出現した。

 看板には私には読めない文字が書かれており、剣を組み合わせたアイコンも描かれている。

 ええー……。

 

 カプセルの中にかかれている文面を見る限り、これは冒険者ギルド。

 冒険者ギルド……?

 冒険者ギルド。

 小説なんかに出てくる冒険者を管理する組織。

 え?

 

 軽い扉を開いて見た内部の様子は酒場となにかの受付が融合して雑多な印象を受ける。

 また掲示板の形式でたくさんの依頼書が貼ってある。

 

 その様子は私のような学生がうろちょろしていていい場所ではない。

 ただ、妙に不自然なところもある。

 扉を開けて覗き込んでいるにもかかわらず、誰もこっちに反応しないのだ。

 

 いやいやいや。

 脳裏に、NPCのおっちゃんがよぎる。

 いやいやまさか、出てきている組織そのものがNPCとかそういうことは。

 

 意を決して踏み込んでみるが、酒盛りをしている冒険者も、受付にいる人もこちらに反応しない。

 というか、一寸もこっちを見ないのだ。

 

 よく見るとその酒盛りも同じ動作を繰り返しているだけ。

 やっぱこれNPCだよ!

 NPCが集団で出現してしまったよ!

 

 しかし、冒険者ギルドという名が表す以上、何らかの機能があるはず。

 妙にでかい建物にNPCが複数いるだけ、ではないはずだ。

 

 そう思って受付に近づいてみる。

 すると。

 

「ご依頼でしょうか!」

 

 声がでかい。

 しかし冒険者に対して依頼は可能なようだ。

 護衛に採取に討伐。

 代金に等しいだけの仕事を依頼すれば受けてもらえるようだ。

 

 しかしNPCに仕事をやらせて大丈夫なのだろうか?

 あれはおっちゃんを見ている限り、基本動作を繰り返す人形でしか無い。

 下手に依頼なんかすると死んでしまうのではなかろうか。

 

 まあ最も、依頼票の文字が読めないんでその依頼すら出来ないんですけどね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が適当な金貨を代金に、発掘ダンジョンのマッピングを冒険者に依頼していた。

 依頼を申請すると同時に酒盛りをしていた冒険者が突然立ち上がり、その依頼票を受け取って発掘ダンジョンに向かっていった。

 壊れた操り人形みたいな動きで怖い。

 

 結果は傷だらけになった冒険者の姿と、6層までの地図だ。

 帰ってきた冒険者は受付で結果を渡すと、すぐに酒盛りの動作に戻った。

 そして酒盛りの動作をするたびに傷がもりもり治っていく怪奇現象を引き起こしていた。

 

 兄は自分で作った地図と照らし合わせながらその出来を確かめる。

 その精度はなんというか微妙で、兄が自分で描いたのとあんまり変わらないそうだ。

 6層前後で怪我しているあたり戦力としても微妙である。

 

 それならサメ機人(シャークボーグ)にやらせたほうが優秀そうだな。



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SR 冒険者ギルド その2

 創作において、冒険者ギルドという組織は複数の機能を有している。

 多いのは討伐対象の解体と買取だろう。これはモンスターをハントするアクションゲームを由来とする機能である。

 何であれ討伐したモンスターを解体して買取してもらわなければ金にならないので合理的ではある。

 なんにせよ、窓口は一元化すると利用する側としてはとても便利である。

 

 今回は、冒険者ギルドの機能について話そうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が依頼を利用して、私の知らないダンジョンの調査を行っていた。

 どうもこのギルドは私の知らない地点に接続されているらしく、周辺を含めて地図作成を依頼すると、その場所の地図が上がってくる。

 どうにも日本の風景じゃない、というか見たことがない鉱石サンプルなどを持って帰ってくるので異世界とつながっているっぽい。

 図鑑と照らし合わせても似たようなのがないんだよな。

 

 というかこれも鉱石サンプルじゃなくて生体組織の一部、有り体に言うと何らかの生物の骨らしいんだが。

 こんな結晶構造の骨を持つ生き物がいるってこと?

 異世界やべー……。

 

 さて。

 今日はガチャから出てきたこのN・最後の鍵束を使ってこの冒険者ギルドの屋荒らしをしようと思う。

 この最後の鍵束は、たとえどんな施錠であってもこれを使えば何でも開けられるという鍵が12本引っかかった鍵束だ。

 最も、一回使うと、中程から不自然に断裂して折れるので普段遣いできない。

 いやこんなもん普段遣いしようってのはどうかと思うが。

 カードキー式のオートロックマンションでも開けられるから本当に危ない。

 

 屋荒らしをしようと思った理由だが、このギルド、あちこちにそのギルドとしての機能を有した部屋があるようなのだ。

 だが利用できない。

 利用できない理由は簡単で、鍵がかかっているのだ。

 何故か受付で利用申請はできるのだが、受付が鍵を持っていないために受付の人がその扉の前まで行って立ち往生するのだ。

 そこでNPCの処理が止まってしまっている。

 

 なので今回何でも開けられる鍵で開けてしまおう、と思った次第だ。

 現状、使える機能が冒険者登録と依頼と食事の注文だけだからな。

 注文できる食事は異国風で濃い味なのだが、食べているとご飯が欲しくなる。

 というか食材からして異世界だが。

 走りきのこのスープってなに?

 

 とりあえず手前の鍵がかかった部屋から開けていこう。

 がちゃりと開いた先にあったのは血溜まりだ。

 明らかに床が血を受けることを前提にタイル張りにされている。

 ということはここは獲物を解体する部屋、ということか。

 大掛かりな包丁やら、吊り上げる用のフックやらがそういう部屋だと教えてくれる。

 

 獲物を外から搬入するようの大きな扉もあり、閂が掛けてある。

 その扉にあるのぞき窓から外を覗くと、街道やら商店の倉庫やらが見えたので兄には黙っておこう。

 

 次。

 開けた先にあったのは資料室だ。

 図書室のような部屋だが机にホコリが被っているあたり、相当使われていない部屋なのだろう。

 適当に本を取って読んでみるが、どこの国の文字かわからない……というかそもそも達筆すぎて文字が認識できない。

 せめて絵が入っているものがあればいいのだが、この中から探すのは面倒そうだ。

 

 次。

 これは特別でかい扉で、エントランスから奥に進む扉だ。

 どちらかというと外から強い力が加わっても壊れないように補強してあるといった印象で、ドアノブを鎖で縛り付けて鍵をかけている。

 鍵を外すと思ったよりも大きな音がした。

 

 重い扉を押し開けるとそこにあったのは訓練場。

 開けた先に教官と思しき人物が立っていてこっちを見た、ような気がしたので驚いて声をあげてしまった。

 あげた声に反応しなかったのでNPCのようだが。

 というかこの人、私が鍵を開けるまでずっとここに閉じ込められてたの?

 

 訓練場か。

 木の剣を始めとして訓練用の武器やら、訓練用の機材やらが適当に脇に押しのけられていて、それにグラウンドはなにか無理やり均したといった印象がある。

 適当に木刀を持って振ってみるが特になにかが起こるわけではない。

 わかってはいたが。

 

 NPCのおっさんが一人閉じ込められていたぐらいで面白いことは特になかったな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が訓練場を使ってやらかした。

 この訓練場、どうもRPGから持ってきたようなシステムらしく、金を払うと経過時間で能力やスキルが上昇するようなのだ。

 その訓練のゆるさは、なんと訓練場に指定時間いるだけで訓練が達成され、能力が上昇するのだ。

 それを理解した兄は、大量にある金貨を訓練場のおっさんに払い、サメ機人(シャークボーグ)20体を訓練場に閉じ込めたのだ。

 

 3日後出てきたサメ機人(シャークボーグ)はそれはもうムッキムキになっていた。

 これまでとは比べ物にならないほど素早く、怪力になっていたのだ。

 一体いくら金貨を渡したんだ。

 というかなんで訓練場にレベルキャップがないんだ。

 そして、どうして利用方法がわかったんだ兄よ。



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R ミートハンマー

 ミートハンマーとは、肉を叩いて筋を切り、柔らかくする調理器具である。

 最もハンマーであるため叩けば叩くほど肉は薄く広がっていくのが難点だ。

 繊維をほぐすことが目的のため、叩く面がギザギザとしている場合が多いが、ギザギザにあまり効果がないのか、そのまま平たいモノもちょこちょこ存在する。

 

 今回はそのミートハンマーが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が冒険者ギルドを使って何かを企んでいる。

 というのも、冒険者ギルドには雇用と呼ばれる機能が存在していることが判明してから、冒険者ギルドでなにか怪しい作業をしているのだ。

 雇用機能は、一口に言えば冒険者NPCを作り出す機能で、王道RPGの3作目にあった酒場のシステムから来てるんじゃないかと思われる。

 いや、RPGから来ていると考えないとあまりにゲーム然としすぎていてそんなのありえないだろとしか思えない。

 

 兄が怪しい作業をしているというのは、その冒険者NPCの作成と削除を繰り返していることだ。

 一回行うたびに相当の金額が持っていかれるが、使い道のない金貨が大量にあるためにそんなことは気にしていない模様。

 目の前で金貨の入った袋が消えていくの相当怖いんだが。

 

 しかし冒険者ガチャをすることでなにか特定の能力を持った冒険者を作ろうとしている。

 一体何の目的のためにそんなことをしているのかわからないが、どうせろくなことではなかろう。

 

 さてガチャでも回そう。

 これ、一日一回は回さないといけないのに回しても何も気分転換にならないのほんと詐欺のようなガチャだ。

 

 R・ミートハンマー

 

 出てきたのは金属製のハンマーだ。柄まで一体に金属で作られたもので、大きさから見ても調理用のもの。

 

 うん? これで兄の頭をやれと?

 いや、そういうわけではないはずだ。

 このガチャにそういう“思考”と呼べるものは存在しない。

 くだらないジョークを飛ばしてくることはあるが、それはあくまで景品の範囲だ。

 

 つまりこのハンマーは普通の調理器具。

 いや、普通ではない。

 すでに普通ではなかった。

 

 ミートハンマーは、基本的に肉を柔らかくするために使われる道具だ。

 叩くと繊維が千切れてやわらかくなる、そういう乱暴な理屈の調理器具であるが、それをこのガチャが解釈するとどうなるか。

 

 結果は見てのとおりだ。

 テーブルの天板が柔らかくなって垂れてしまっている。

 試すために適当にテーブルに振り下ろした私が悪いけどさぁ。

 こんなでろんでろんにしなくても良くない?

 

 これがさぁ。

 グミかって勢いでちぎれる。

 もうぶっちぶちよ。

 ヒレ肉より柔らかくなるの、逆にミートハンマーとして使いづらくないかこれ。

 

 まあ私の家でミートハンマー使うほど分厚い肉を調理することはないんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がドラゴンの肉をシチューにするのに使った。

 冒険者ギルドへの依頼で手に入れていたドラゴンの肉だが、これが鋼のように固く、妖刀でしか切断出来ない上、薄切りにしても歯では噛み切れないという恐ろしい肉だったのだ。

 兄はこれをミートハンマーで滅多打ち。

 でかい塊肉を、殴る面が麻雀牌ぐらいしかない小さなハンマーでポコポコしながら柔らかくし、シチューの材料にしていたのだ。

 最も、これで叩いた肉は柔らかくなりすぎるのでステーキには出来なかったのが残念なところなのだが、兄はそこをカバーするためシチューにしたのだ。

 ドラゴンの肉がトロットロに解けたシチューの味はというと。

 

 鉄臭かったです……。

 



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R ジャージ

 ジャージ。ジャージー織という生地を利用して作られたトレーニングウェアを指す言葉である。

 スポーツやトレーニングを行うのに使用される衣類であり、気軽に着られる衣類のため部屋着に利用されることもある。

 

 今回はそのジャージが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がついに目的の冒険者を引き当てた。

 その引き当てた冒険者だが、これがまた可愛らしい少年の魔法使いだった。

 まさか、兄にはその趣味が……? と一瞬思ったが容姿で選んでいたのならあんなに大量に冒険者ガチャを回さない。

 というかあの雇用システムでは性別を指定できるのに、男女を問わず出現していたのでそういう目的というわけではないと言い切れる。

 

 そこまでして手に入れたかった冒険者とはなんなのか。

 それはこの少年冒険者が持つ【旅歩き】という固有能力である。

 冒険者はそれぞれ固有の能力を持っているらしく、その大半が戦闘力の上昇か、傷の回復速度の上昇である。

 しかもその固有能力は職業や能力に関わらず完全にランダムで付与されているらしく、戦士の冒険者に魔法の威力アップがついていたり、盗賊に裁縫の出来が上がる能力がついていたりしたそうだ。

 

 そこで兄はあることを思いつく。

 それは、冒険者の迷宮踏破速度……というより、移動速度の上昇能力を持つものがいないか、ということだ。

 サメ機人(シャークボーグ)の全力移動による速度がだいたい時速50kmだが、それでも10層最深部まで行くのに3~4時間かかってしまう。

 こうなってくると行って帰ってくるだけで時間がなくなってしまう。

 兄はそれをどうにかできる人員を探し出すために冒険者ガチャに手を出したのだ。

 

 もっとも手を出した時点で本当に出るかどうか、全くわかっていなかった状態であの行動を始めているので大分ヤバい人だ。

 それで念願の少年魔法使いを引き当てているので否定もしづらい。

 この【旅歩き】、所有する冒険者の実力に応じて非戦闘時のパーティの移動速度が上昇する効果があるため、うってつけというわけだ。

 兄のことだからしばらくはパワーレベリングしてるだろうな。

 なお、冒険者を連れ回すには護衛依頼を出せば簡単にできる。

 

 さて、すでに回してあるこのガチャを開封しよう。

 久々に妙に軽いカプセルで不安がいっぱいだ。

 

 R・ジャージ

 

 出現したのは純白のジャージ上下一揃いだ。

 ドロが跳ねたらあっという間にシミになりそうな白さの、不安になるジャージである。

 装飾らしい装飾も一切なく、めちゃくちゃ潔いせいで、余計汚すのが怖くなる。

 

 しかしこのジャージ、サイズが私にぴったりだ。

 誂えたかのように手足の長さや腰まわりの大きさなど、恐ろしいほどしっくり来る。

 なんだ……?

 手足に馴染む、身体が自由に動く……。

 

 って、明らかに身体能力が上がっている。

 身体に軽く力を入れた感覚がすでにおかしいのだ。

 ギアが入っているというか、今なら全力の向こう側にたどり着けるというか。

 というか、元の足よりも速く走れそうというか。

 

 身体能力が上がっているとしか言いようがない。

 流石に鬼の角ほどの怪力が得られているわけではないが、今なら一人で本棚を移動させられるぐらいの力は出せそうだ。

 本当に身体が軽い。

 軽く走るだけでも身体の具合が違うことが分かる。

 腕立て伏せなんか普段10回も出来ないのに30回ぐらい平気で出来てしまう。

 

 ならばやることは1つだな。

 助走をつけて……。

 

 ガチャポンマシンに飛び蹴りだオラァッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。全身筋肉痛になった。

 どうもあのジャージは身体能力を引き出すだけだったらしい。

 限界を超えた力を発揮し続けた私の筋肉は、当然のように限界を迎え、全身に強烈な筋肉痛を残したのだった。

 

 なお兄はジャージのサイズのせいで着れなかった。

 ……すまない、嘘である。

 あの人は「着てさえいればいいんだろ着てさえいれば」という理屈で、ジャージを体に巻き付けたのだ。

 正直めちゃくちゃ不格好だったのだが、それでジャージは効果を発揮したのでだいぶどうかしている。

 私よりも体格のいい兄が使うと、相当身体能力が引き上げられるようで、垂直跳びで3m飛んで着地に失敗しかけたりしていた。

 

 その後? 少年魔法使いに巻きつけて経験値増加アイテム扱いされてるよ。



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R RARファイル

 .rar。いわゆるデータの圧縮形式の1つで、ZIPファイルと比べると高い圧縮率を持っている形式である。

 また他の圧縮形式とは異なり、多少のデータ欠損であれば修復が可能であるという特徴を持つ。

 日本国内では余り見る形式ではないが、海外のプログラムなどを落とそうとするとたまにこの形式で圧縮されていることがあるのだ。

 圧縮ファイルとしてのアイコンはバンドで束ねられた3冊の本といった風情である。

 

 今回はその圧縮ファイルが出てきた話だ。

 意味わかんねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【旅歩き】を持った少年魔法使いくんが、磔にされていた。

 いや正確に説明すると、木材に縛り付けられた状態でサメ機人(シャークボーグ)に背負われていた。

 

 兄ぃ……。

 

 仮にも人型の存在をそこまでぞんざいに扱えるの本当に何なんだ。

 なに? スケルトンに遭遇するたびに前にでて魔法を使おうとするのがうざったかった?

 こいつマジか。

 

 それで最終的に木材に縛り付けて担ぐという手段に出るのは本当にどうかしている。

 というか護衛依頼でいるんだから何らかの命令で下げられるのではとは思うのだが……。

 

 【旅歩き】の効果を発揮させるのには一緒にいるだけでいいあたりもこのような扱いが拍車をかけている。

 酷な扱いをされているが薄ぼんやりとした笑顔を浮かべている少年魔法使いが不憫だ……。

 しかし能力が上がれば扱いも変わろう。

 

 さて、ガチャを回そう。

 

 R・RARファイル

 

 出現したのは、ベルトで縛られた3冊の本だ。

 本は重なり合うことで1つの正方形に近い形状になっている。

 3色でカラフルな本である。

 

 ……いや、これ本じゃねえじゃん。

 PCデータの圧縮ファイルじゃねーか。

 なんで圧縮データが、実体化してここに出現してるんだよ!

 

 案の定というか、ベルトを弄り回しても外れない。

 一ミリもずれないのだ。

 本をずらして抜き取ろうとしてもガッチガチにくっついているのか動かないのだ。

 

 あーもう。

 開けさせる気がないのかこれ。

 しかも見かけよりもだいぶ重い。

 

 選定の剣を振りかぶって攻撃を加えてみても傷一つつかない。

 ガッチガチに圧縮されているのか、それは本の密度ではないのだ。

 

 これ本当に開けられるのか?

 圧縮ファイルってことは特定のルールに従って開ける方法があるハズなのだが。

 多分開けられないんだろうなこれ。

 

 物質化してるせいで処理できなさそうだもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がRARファイルを盾の素材にした。

 どうあっても傷つけられないために、結果的に最強の装甲材になるいつもの流れだ。

 加工可能ならば選定の剣の土台も鎧にしていたであろう兄にとって、圧縮ファイルであってもただの素材にすぎないのだ。

 

 欠点があるとすれば厚さがあって取り回しが悪いことかな!



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R 液体経験値タンク

 経験値。RPGなどで見られる、戦闘や冒険の経験を数値化したものである。

 これが一定値まで上昇することでレベルが上昇し、能力が向上するシステムのものが多い。

 また異なるタイプとして、貯めた経験値を一定値支払うことでレベルを購入するタイプのゲームも有り、これはアクションRPGなどで見られる。

 どちらも共有して言えるのは、それがキャラクター個人に割り振られた経験であり、代用が利かないということだ。

 当然である。経験という形がないものを概念化したのが経験値なのだから。

 

 今回は液体の経験値を貯蔵するタンクが出た話だ。

 何を言っているのかわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がカヤックを使って発掘ダンジョン一層の壁に突っ込んでものすごい勢いで振動していた。

 不自然に壁の角に突き刺さったカヤックの上からにこやかにこっちに手を振る兄の胡散臭さがヤバい。

 その様と言ったら、ゲームのバグで壁にはまり込んだキャラクターのようで、下手に触るとおかしな方向に吹き飛ばされるような気すらする。

 というかなにがどうなったらそうなるのかわからん。

 

 元々サメ機人(シャークボーグ)にカヤックを牽引させることでより速度を出して移動する方法を模索していたらしいが、なにがどうして壁にはまっているのか。

 確かに発掘ダンジョンは描いた地図を見る限り、空間の接続の正しさに疑問がある。

 明らかに同じ地点に違う部屋が重なっていたりするのだが、微妙に上がったり下がったりしているだけだと思っていた。

 だがこのカヤックの挙動を見る限り、若干いびつな空間の拡張が行われいているようだ。

 

 サメ機人(シャークボーグ)にカヤックを引き抜かせた(その過程でサメ機人(シャークボーグ)は両腕がもげた)兄は即座にその壁の破壊を命令。

 破壊された壁の先には隠し階段が鎮座していた。

 なるほど……カヤックはこの階段に流されて空間の隙間に落ち込んだのか……。

 

 さて、兄が階段の先に探索へ行ったのでガチャを回そう。

 面倒事はさっさと済ませるに限る。

 

 R・液体経験値タンク

 

 出現したのは、昔ながらの牛乳を入れる缶に似た形状のタンクだ。

 外部から中身が分かるように側面の一部が切り取られ、ガラスと置き換えられている以外はほぼほぼミルク缶である。

 しかもその見かけに対してかなり重い。

 液体が大量に入っていればその重量も納得ではあるのだが。

 

 そう、液体が入っていれば。

 中身には少しだけ液体が入っているのだ。

 そんな重量があるようには見えないがなにしろ液体なのでそんな印象はあまり意味を持たないだろう。

 一応、傾けて重心を移動させてみても中身の液体が重い手応えはない。

 

 というか、中に入っている液体がこれがまた、毒々しい透き通った緑色なのだ。

 なんだこの得体の知らない液体は。

 絵の具を溶いたとしてもこんな透き通った緑にはならないだろう。

 それにわずかに光っているような気もする。

 

 見るからにヤバそうな液体だ。

 え、どうしよ。

 このタンク、蓋が歪んでいて放り出しておくとそのうち気化しそうで怖いんだが。

 

 本当にヤバそうだったときはダンジョンに埋めるか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機人(シャークボーグ)に中身を飲ませた。

 こいつ正気か?! と思ったのもつかの間、飲み終えたサメ機人(シャークボーグ)の頭の上に「LEVEL UP!!」のエフェクトが出現。

 マジ? これそういう液体なの?

 

 それに機嫌を良くした兄が、タンクを担いだまま発掘ダンジョンに突撃。

 発掘ダンジョンに湧くスケルトンを蹂躙し、中身の緑色の液体を2倍にして帰ってきた。

 

 え?

 それ戦闘で増えるの?

 なにそれこわ。



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R かき氷機

 かき氷。氷を削り、ふわふわにしたものにシロップをかけて食す食べ物だ。

 その関係上、誰でも簡単にアレンジできる食べ物でもある。

 かけるシロップを変えるのはもちろん、練乳を足したり、あずきをかけたりするのは基本として、ソフトクリームを添えたり、野菜を凍らせたものを削ったり、山のように盛り付けたりと様々なアレンジが存在する。

 

 今回はそれを作る機械、かき氷機が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 液体経験値タンクは、結局湧きスポットのそばに設置されることになった。

 いちいち担いで戦闘させるのが邪魔になった、というか、湧きスポットの脇に置いておいたほうが効率が良かったのだ。

 小一時間で初期の量の2倍は増えているので相当な効率のようだ。

 

 そこまでして出来た液体は、少年魔法使いくんが飲まされている。

 ろうとを口に突っ込んで無理やり流し込むその姿は完全に犯罪のそれであり、そんな状況で薄い微笑みを浮かべている彼があまりに不憫だ。

 そして結局邪魔だから簀巻きにされたままサメ機人(シャークボーグ)に担がれるのだ。

 

 大雑把な指示しか出せない少年魔法使いくんが足手まといになるのは分かる。

 兄は常に大量のサメ機人(シャークボーグ)とサメもどきを全面に展開しながらダンジョンを攻略しているため、下手にうろちょろ動かれるとサメ機人(シャークボーグ)の連携に問題が出てくるのだ。

 

 ハイサメ鬼人(ハイシャークオーガ)の義綱さんも本来はそこからは外れるのだが、義綱さんは元々武人だったからか戦術的な連携が取れる人である。

 兄もサメ機人(シャークボーグ)を数体預けて独立部隊として動かすのも納得というか。

 

 兄に怪我されるのは困るから少年魔法使いくんを簀巻き扱いするのを止めるわけにはいかないのが困ったところだ。

 能力が向上すればその扱いも改善される……はず。

 

 考えを切り替えよう。

 ガチャを回そう、そうしよう。

 いやガチャは回したくないのだが。

 

 R・かき氷機

 

 出てきたのは、ペンギンがデザインされたかき氷機だ。

 頭の上にハンドルが付いていて、胴体の中に皿を入れるシンプルなタイプのかき氷機だ。

 かき氷機としても一番安いタイプではなかろうか。

 

 しかし季節外れな景品である。

 夏の暑い時期ならありがたいかも知れないが……。

 

 とりあえず試してみよう。

 冷蔵庫にあった氷を投入。

 うっかり冷蔵庫にあった氷をすべて持ってきてしまったので、後で水を補充して置かなければ。

 

 ハンドルを回して氷を削……ハンドル重っ!

 異常なほどハンドルが重い。

 総プラ製にしか見えないのに、金属で作られているかき氷機の刃が噛んだ時みたいな重さがある。

 ハンドルが全然回らんのだが!

 

 仕方ないので本体を固定しながら、ハンドルに掌底を打ち付ける。

 この方法で無理やり削ったかき氷は舌触りが悪くなるのだが回らないので仕方なかろう。

 最悪不味かったら兄に回そう。

 

 そこまでして削り出した氷は、ふわふわを通り越して、クリーム状だった。

 というか、現代の科学では作り出せないような気がするレベルのふわふわを実現してしまったため、クリームのような状態になってしまったというべきか。

 ありえないほど薄く、ありえないほど軽く、ありえないほど空気と溶け合った、究極のかき氷といえよう。

 

 味?

 タダの氷だからそんなもんないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がかき氷を使って防護服を試作していた。

 あのあとかき氷を兄に食わせようと思って放置していたのだが、何時間経とうが一向にかき氷が溶けなかったのだ。

 それを知った兄はすぐ緩衝材として服に詰め始めたのだ。

 いくら溶けないからといってかき氷を服に詰めるのはどうかと思う。

 

 そこまでして作った防護服は成果はというと、微妙だった。

 一般で売っている綿が詰まっているような物と比べて少しだけ優秀、というべきか。

 ダンジョンで使う防護服としてはゴミ、というべきか。

 防護服にはなったけど、思っていたような性能は出なかった。

 

 まあ、かき氷だしな。



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R 魔石

 魔石。主に魔力を秘めた宝石のことである。

 古今東西問わず、独特の輝きを秘めた石は神秘的な力を持っている物だと考えられており、現代でもパワーストーンとして流通している。

 最もそれらはいわゆる霊感商法……、言ってしまえば花言葉やらなんやらから逸脱しないものでしかない。

 しかし、人々を魅了し惹きつける石は、創作や神話において特別な力を持ったものとして登場しうる。

 

 今回は魔力を秘めた石の方が出た話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノーライフキングのリチャードさんは、とにかく人に魔法を教えるのが得意である。

 私が1つ魔法を覚え、それを使ってみせると驚きとともに褒めてくれるのだ。

 その凶暴……というか、鋭利な恐怖を掻き立てる見た目からは想像のつかない好々爺っぷりで出来たことを評価し、褒めてくれるために学習意欲が湧き上がる。

 初心者には分かりづらい細かい理屈を飛ばして、まずは使えるようになるところから始めるところからもその手腕は伺える。

 

 まあ一方で、自分の過去とか、魔法以外のことであるとかを語るのは下手くそなあたり相当な学者肌の人物だと言える。

 本当に要領を得ないというか、発掘ダンジョンのことすらもいまいち説明できないぐらいだからね。

 

 まあ魔法の研鑽のためにノーライフキングになったと言っているからそりゃ学者肌でも当然というか。

 魔法の研究を一人でするには、確かに人の寿命が短すぎるとは思う。

 

 教えてもらっている私が言うのもなんだが、この知識を持ち出すわけにはいかないのがなぁ。

 社会混乱とか起こしたくねー。

 混乱は兄だけで十分なのです。

 

 さて、ガチャを回しておこう。

 昨日回すタイミングが早かったせいか、すでに唸り声のような音をガチャが立て始めているので。

 

 R・魔石

 

 出現したのは、握りこぶしほどある赤い宝石だ。

 その宝石の赤は燃えるような色彩で、見るものを惹きつける。

 一方で、その加工は荒いとしか言いようがなく、せっかくの美しい宝石も台無しだと言うしか無い。

 というか一部に別の種類の岩がくっついたまま研磨されている。

 

 しかし、魔石、か。

 もう嫌なんだよな。

 見るからに魔力、としか言いようがないオーラを帯びているのが。

 もうどう見ても危険物じゃん。

 

 そう思ったのでとりあえず投げてみた。

 放物線を描いて飛ぶ魔石だが、特に反応もなくそのまま地面に落ちる。

 なんだ、手榴弾みたいに爆発する石ではないのか。

 

 うーむ。

 やりたくはないが……。

 

 そっと魔石を握り、握り……座りが悪い! 持ちづらいんだよ!

 握り、手の中で形になる前の魔法を回す。

 リチャードさんに教えてもらった魔法制御の基本の1つだ。

 魔法には魔法として形になる前の姿があるらしく、それは物質を透過するし透明で不定形であるという。

 まあマジックポイントとか、魔力とか言われる見えないエネルギーだと理解している。

 

 発掘ダンジョンから出てくるマジックアイテムのいくつかはこれで動かせるのがわかっているから、これで……。

 と思った矢先、魔石から火を吹いた。

 思わず前方に投げてしまったのだが、吹いた火は私のそばを離れない。

 

 私が使える魔法はシャドーボールとシャドーボルトのみ。

 この火の塊からは、私が使ったシャドーボールと同じ気配がするのだ。

 つまり、この火の塊はシャドーボールなのだ。

 思ったとおりシャドーボールのように操れる。

 

 え、ということはこの魔石は魔法の属性を変化させる……?

 そう考えれば、相当強力な景品だと言える。

 

 このサイズじゃなければなぁ!

 試してみたけど棒の先にくくりつけるとダメなんだってよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機人(シャークボーグ)に魔石を組み込んだ。

 途端サメ機人(シャークボーグ)は全身から炎を噴き出し、しかもそれを操っているように見えた。

 丸一日燃え続けて特に問題がないようで、そのまま兄が発掘ダンジョンの攻略に連れて行っていた。

 明かりになるし戦闘力もあがってるしで便利だとよ!

 



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SSR 神話の鍛冶屋

 神話には様々な名工が存在する。北欧神話のドワーフのダーインや、ギリシャ神話の神ヘパイストスなど、その能力は絶大だ。

 そしてそれらは優れた職人であるために、よく軽んじられて復讐として恐ろしいまでの呪いを込めた武器を作り上げることがある。

 道具を作るもの達を怒らせてはならない。

 その道具を扱うのは、自分自身なのだから。

 信用ならないものに自分の命を預けるようなものだ。

 相手を怒らせるということは、自分から相手を信用ならないものへと変えてしまう行為でしか無い。

 

 今回は神話の鍛冶屋が出た話だ。

 訳わかんねえ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が壁にめり込んで見つけた正体不明の階段の先にあったのは、ショートカット出来る階段だった。

 それは10層区切りで移動が可能になっているようで、兄は10層までおよそ30分で移動出来るようになった。

 最も、現状だと10層までしか開放されていないらしく、それ以外の層に移動するには結局徒歩で歩いていくしかない。

 それでも毎回えっちらほっちら10層まで歩いていく必要がなくなった分だいぶ時間に余裕が出来たと言える。

 

 それに徒歩移動になったとしても【旅歩き】の効果で行軍速度が上がっている。

 異界化している発掘ダンジョンを歩くのに疲労は少ないほうがいい。

 そして時間が短ければ疲労は少なくなる。

 

 兄もそれはわかっているようで……早速階段の環境を整備し始めた。

 なに?

 頑張ればWi-Fiも繋げられるって?

 また無茶なことしようとしてる……。

 

 さてガチャを回そう。

 これ自動で排出するように出来ないかな……。

 いやそうなったらそうなったで嫌な思いしかしないからダメだな。

 

 SSR 神話の鍛冶屋

 

 出現したのは……、脈打つ肉塊だった。

 それはモノリスに張り付いた状態で出現し、その全身を心臓かなにかのように脈打たせている。

 そしてその中央には、巨大なまぶたがある。

 そこに瞳があるのか。

 

 しかし……これが、神話の鍛冶屋?

 鍛冶屋でもないし、どういった神話の存在なのかもわからない。

 見た目が脈打つ肉塊でしかないのだ。

 心当たりはクトゥルフ神話ぐらいしかないが、クトゥルフ神話に鍛冶屋みたいな存在が出てくる話はなかったような気がするぞ。

 

 その肉塊はまどろんでいるのか、時折まぶたをぴくぴくと動かす。

 今は危険性はないように見える、が。

 不用意に接触して怒らせたらやべえものを出してきそうな気もするぞ。

 

 一体何処の神なのでしょうか?

 とりあえずヒヒイロカネのインゴットを複数個、お供えしてみた。

 その肉塊はその身体の下部から触手のようなものを伸ばし、インゴットを取り込む。

 お、これで良さそうだぞ。

 

 突如かっとその目を見開いた。

 身体と同等ほどの大きさのある目は、ぐるりと動き私を見つめ出したのだ。

 何かを計るように、じっくりと。

 その眼力に私は一歩も動けなくなる。

 

 やがて、肉塊が瞳を閉じると、まぶたの隙間からぺっと何かを吐き出した。

 ヒヒイロカネ製の小手……?

 

 これを、私に?

 サイズはピッタリみたいだけど、え?

 そういう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が肉塊に注文をつけていた。

 大量のヒヒイロカネを与えながら、必要な装備の注文をしていたのだ。

 こいつマジか。

 恐怖心とか、信心深さとかそういうものも無いのかよ。

 

 肉塊も聞いているのか聞いていないのか、せわしなくその瞳を動かし身体を脈動させている。

 それにインゴットはちゃっかり取り込んでいた。

 それと同時に装備を吐き出し続ける。

 

 それでサメ機人(シャークボーグ)を武装させて発掘ダンジョンに向かっていくのだから躊躇というものがない。

 肉塊製の装備は実際これまでの装備よりも優秀ではあった。

 

 だからってよくあんなわけわかんないのに注文つけられるな!?

 それも日本語でゴリ押しって!



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R 盾

 盾。攻撃を防ぐ防具の1つである。

 基本的に盾は攻撃を受け流すために使われる。

 真面目に正面から攻撃を受けてしまうと、持っている腕がイカれてしまうためだ。

 そのため構造が工夫されていて、武器をいなすことが出来るようになっている。

 二重の素材で出来ていたり、そもそも攻撃を受けたら割れることを前提に薄く作られていたり、だ。

 また大きく紋章を入れることが出来るため、騎士の誇りとして掲げられることもあったという。

 あと担架としても使われた。

 

 今回はその盾が出た話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発掘ダンジョン11層は、もはや異世界である。

 抜けるような空が広がり、また端が見えない平原が広がっている。

 ところどころに森が見える程度で、地平線の先まで獣道のような街道が続いている。

 地平線が見えていることから崖のような壁があったそれまでの層とは一線を画する広さだと言えよう。

 

 この広さをどうにかするために兄が用意した物がある。

 自転車とそれ用のキャリーである。

 ごつい体をしているサメ機人(シャークボーグ)に自転車を漕がせ、自分や荷物はキャリーに乗せるという手段だ。

 キャリーのスペースの狭さには実質アイテムボックスとして扱われている宝箱を乗せることで強引に解決。

 サメ機人(シャークボーグ)は乗る用の自転車は廃棄自転車から調達してサメ機人(シャークボーグ)に修理させるという徹底ぶりだ。

 

 と、ここまで良い手段のように書いているが。

 実際は1回でダメになったのだ。

 問題はシンプルで、サメ機人(シャークボーグ)の重量に自転車が耐えられなかったのだ。

 行って帰ってくるだけでフレームがひしゃげ、タイヤはスポークが断裂する始末。

 まあ金属の塊だからなサメ機人(シャークボーグ)

 

 さあてガチャを回そう。

 

 R・盾

 

 出現したのは、円形の盾だった。

 地面に少しだけ突き刺さり、その盾は直立していた。

 金属を重ねて作られているのが見て取れる作りで、装飾からもこれが高級な盾であることが分かる。

 また縁に何らかの留め具と思しきパーツが付いていて、妙に不安になる。

 強引に作り上げたが、売れなかったので装飾を足して高級路線にした、みたいな雰囲気があるのだ。

 いや、作りはしっかりしているので元もいいものではあろうが……。

 

 とりあえず持ち上げてみるか。

 私は正面から両脇を掴んで持ち上げ……普通に重い。

 私の貧弱な……いや一般的な学生の筋力では持ち上がらない。

 まあ金属製の円盤だ。そういうこともあろう。

 昔の騎士も筋力おばけだしな。

 

 しかしここに放置しているのもどうかと思うし、そもそも盾である以上、使い方は構えることだろう。

 せめて持ち手を持って試す必要がある。

 

 裏に移動し、持ち手を握ろうとして。

 私は前につんのめった。

 持ち手がすり抜けたのである。

 まるで幽霊のように。

 

 あ、ヤバ……、と思った矢先。

 そのまま身体が盾をすり抜けて、前転する形になった。

 

 うん?

 裏からかがみ込んで手で触れてみる。

 すり抜ける。

 はじめからそんな物品そこにありませんよ、と言わんばかりに手がすり抜けるのだ。

 幻覚かなにかを触っているような虚無を掴むような手応え。

 

 えっ。

 持ち手側から接触したものを透過する盾?

 まじで?

 超技術だけど、持てないじゃん!

 盾構えられないじゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機人(シャークボーグ)に構えさせた。

 強引に盾の両脇から掴ませることで、フリスビーかなにかのように握らせているのだ。

 確かに円形だからフリスビーのように持てば持てなくもないが、盾としての役割を果たさないのでは……?

 と思っていたら、盾を透過して杖で魔法を撃ち出す、パンチさせるなどの動作をして盾の使い方を模索していた。

 兄がぼそっと、これ、せめてサメ機人(シャークボーグ)に遠隔武器があればそこにかぶせて使えたのにな……とぼやいていたのが印象的だった。

 こいつ……。



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R 時短コーラのレシピ

 コーラ。濃縮されたシロップを水で溶いて飲む飲料……だった炭酸飲料である。

 コーラという名前は、元々コーラの実から抽出したコーラエキスからシロップが作られていたことから来ている。

 最も、現在はコーラの実に代わり、様々な香料や調味料を組み合わせて作るのが一般的だ。

 元は炭酸飲料ではなかったが、誤ってシロップを炭酸水で希釈して提供したのがきっかけで炭酸飲料となった。

 

 今回はそのコーラのレシピが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が発掘ダンジョンのショートカット階段の改修で困っているのは、明かりだ。

 発掘ダンジョン自体はなんやかんや、いろんな場所に半端に明かりが置かれていたり、フロアそのものが明るくなっていたりするのだが、ショートカットの階段にはそういったものが一切ない。

 そのため、夜の闇もかくや、というべき暗さが延々と続いているのだ。

 

 行って帰ってくるだけならば、サメ機人(シャークボーグ)の目と懐中電灯だけで十分なのだが、何度も往復するとなると流石に暗い。

 ショートカットとはいえ、ダンジョン。

 いつモンスターが迷い込んで闇の中に伏せていないとも限らない。

 

 なので少しでも明るくしないと危険……多分危険なのだ。

 最もサメ機人(シャークボーグ)の目なら夜の闇程度の暗さなら見えているのだが。

 

 さて、ガチャを回そう。

 

 R・時短コーラのレシピ

 

 出現したのは、なぐり書きがされたA4サイズの紙だ。

 そこに書かれているのは飲み物のレシピらしい。

 レシピか。

 すき焼きのレシピ以来のヤバいものが出てきて身構える。

 どうせこれも完成すると別物に化けるんやろ騙されんぞ。

 

 さりとて、これをそのまま兄に渡すとヤバいことになるのも必定。

 試すだけ試す必要はある。

 さて、材料は……と。

 

 ■材料

 炭酸水

 ミント

 ジンジャー

 ローリエ

 チリペッパー

 ガーリック

 クミン

 コリアンダー

 カルダモン

 ガラムマサラ

 ミックススパイス

 鷹の爪

 

 またカレー粉か!

 カレー粉じゃねーか!

 すき焼きの割り下でそれはもうやっただろ!

 

 うわ……しかもスパイスの内容が違うだけで手順が一緒だ……。

 とにかく順番通りに投入して混ぜる。

 ただそれだけ。

 ただそれだけでコーラのシロップが出来るので炭酸水で割って完成、だと書いてある。

 

 いや、少しだけ違うかな。

 炭酸水を少しずつ入れながらカレー粉を練る作業がある。

 カレー粉じゃない、シロップだ。

 

 とりあえず練ってしまおう。

 案外あっさり練上がり、トロトロのシロップ状に変化していくのだが、その過程でどんどんカレー粉色になっていくのが不安を誘う。

 

 色といい、匂いといいカレー粉そのものなのだ。

 いや、材料がカレーに使うスパイスだらけなんだからそりゃカレー粉にもなろうものではある。

 

 さて、シロップの出来上がり。

 カラメルみたいな粘度のカレー粉が出来上がってしまった……。

 不自然に透き通っているのが心をざわつかせる。

 

 しかし、結構時間がかかったけど何が時短だったんだ?

 まあいいか。

 出来たシロップに炭酸水を注いで希釈していく。

 

 炭酸水が注がれると共に、シロップは溶け、液体は青色に……。

 青色に発光し始める。

 それは、まるでチェレンコフ光のように。

 

 ガッ、放射線測定器(ガイガーカウンター)

 確か兄の道具箱にあったはず!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄は、ペットボトルに詰めたコーラをショートカット階段に明かり代わりに並べ始めた。

 未だ青色に発光しているコーラからは放射線は検出されなかった。

 明らかに危険なモノ……核反応のそれの光に見えたのだが、全くそんなことはなかった。

 一応帯電してるかとも思って電流計も突っ込んでみたが無反応。

 サメもどきに飲ませて毒性がないことも確認した。

 

 安全だとわかった兄は、よくわからない原理で尽きず光り続けるこれを階段に並べることにしたのだった。

 青く照らされる階段は神秘的である。

 それがペットボトルから照射された光じゃなければな。

 

 なお味は兄曰く、時が加速する味で美味い、だそうだ。

 意味わかんねえ。

 



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R 傘

 傘。雨や雪、日差しなど、頭上から降り注ぐものを遮り直接浴びないようにする道具だ。

 一般的には雨具として使われ、雨で頭や身体が濡れないように利用される。

 元々日傘として使われていたのが技術開発の結果雨除けとして使われるようになったとされている。

 和傘、洋傘、また用途によって構造が異なることはなく、持ち手とそこから伸びる中棒、傘布、それを支える骨で構成されている。

 

 今回はその傘が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青い光を放つコーラだが、どうも飲むと動作を加速する効果があるようだ。

 今も倍以上の速度とキレでカサカサと動いている兄を見るとそういう効果があると考えるしかない。

 自販機から出たジュースの中にもそういう効果を持ったポーションがあり、サメもどきで試した時にこういう動きをしていたような気がするのだ。

 自販機から出ていたものと比べると加速する効果の強さが高いようで、それによって異様な速度で動いている。

 こういうのをなんというんだっけか。

 RPGだと、ヘイスト効果? だったかな。

 行動順が変わるせいで戦術が大きく変わってしまうやつだ。

 

 あと兄の身体が青色に光ってるけどまあ大丈夫だろう。

 

 さてガチャでも回して面倒事を終わらせてしまおう。

 

 R・傘

 

 出現したのは一般的なビニール傘だ。

 割としっかりした作りのもののようで、コンビニに売っている安いビニール傘と比べても生地が分厚い。

 持ち手は普通のプラスチック製で、青色をしている。

 総じて、ホームセンターで売ってそうなビニール傘、といったところだろう。

 

 開いてくるくるといろいろな角度で眺めてみるが、おかしなことは見当たらない。

 てっきり、ビニール越しになにかおかしなものが見えるとか、違う世界が見えるとか、虹色に光り輝くとかそういうのを想像していた。

 あとはあれか。

 傘の内側から水が滴るとかそういう、存在を否定するようなの。

 この間N・ナイフで全く切れないのが出たからそういうものを疑ってしまう。

 

 しかし、待てど暮らせど効果が現れることはない。

 推測が間違っていたのだろう。

 傘だから、開けば分かると思っていたのだが。

 だって傘って開いて使うものであるから、当然開いて使っていればそのうち異常な動きをするだろうと。

 

 だが結局なにも見えてこないわけで。

 やっぱ雨が降らないとダメかな。

 ここのところ、雨は夜にしか降っているところを見ていないからいつ試せるか、といった感じもある。

 

 そう思いながら、傘をさしたまま一歩踏み出した。

 ふわりと浮かび上がる身体。

 焦りから空を漕ぐように足をばたつかせるがどんどん浮かび上がっていく。

 

 へ、あ、は?

 浮かび上がるどころか、空中で静止すら出来てしまう。

 なんというか、水の中に浮かんでいるような。

 不思議な手応えで空中を浮かんでいる。

 

 歩くよりも遅く、水を泳ぐよりも遅く。

 しかしそれでも空中を浮き歩いている。

 なんと説明していいかさっぱりわからない。

 

 さしていると、空中を歩ける傘ァ~~~?

 なんだよそれ!

 どこから来たんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が傘を持ったまま平泳ぎをしていた。

 そうはならんやろ……そうは……。

 

 微妙に心もとない浮力を分割したスリッパで強引に補って空中を泳いでいる。

 最も、その泳ぎの中、片手に傘を持ったままというアンバランスな状態を強制されているため、フォームは崩れまくっている始末。

 

 いつものむちゃくちゃだな……と思っていると。

 

 突然ドローンを掴んで高速移動し始める。

 浮力によって兄の身体から重さが失われたために、ドローンの推力を速度に使えるようになったのだ。

 ハチの如く機敏で気持ち悪い動きをする兄。

 

 こいつめちゃくちゃだな……。



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R 裁判所

 裁判所。国家の三権の1つ、司法を担う設備である。

 国というものには法が敷かれていなければ、国としてまとまることが出来ない。

 何がいけないことなのか、あるいは揉め事を仲裁するために存在する機関なのだ。

 原始的な社会では必ず長となるものが行っていたことから分かるように、権力があって初めて可能な仕事である。

 裁定を出すものよりも裁かれるものが強かったのならば、その裁定は守られないからだ。

 現代の国家ではその権力は分解され、様々な機関の機能となっているのだ。

 

 今回はその裁判所が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定というかなんというか、兄は空中機動に2日で飽きた。

 まあ当然である。

 体の筋肉のおかしなところを酷使し、筋肉痛になっているからな。

 それだけでなく、あれで飛行するには両手が塞がる欠点がある。

 基本的に両手を自由にしていないと落ち着かない兄がそれを許容できるはずがない。

 

 だいたい機動力という意味ではサメ機人(シャークボーグ)で十分足りているのだ。

 最近の兄はサメ機人(シャークボーグ)の背中にフォークリフトからもいだフォークと宝箱をつけてそこに座っているのだ。

 わざわざ飛行能力を得る必要がない。

 

 そのことに気がついたと同時に、傘を解体してサメ機人(シャークボーグ)にどうにか装備できないかと試行錯誤し始めるから次に何をやらかすことやら。

 サメ機人(シャークボーグ)が千切れたビニール被ってるみたいになってるぞ。

 

 さて、ガチャを回しておこう。

 でかいものが増えるせいで実験室内も全然片付かない……。

 

 R・裁判所

 

 出現したのは東京地方裁判所……すなわち、ビルである。

 ここに来て超がつくほどの大物が出現してしまった。

 前に出たギルドを遥かに上回る巨大建築物に私は目を白黒する。

 

 というか、まるっきり、その土地から写し取られたかのように裁判所がそのまま出現しているのだ。

 ニュースなどでたまに見る看板などもそのまま一緒に出現しており、そこが東京地方裁判所だとはっきりと分かる。

 思わずスマホで速報を調べる。

 東京地方裁判所が消滅したとなると相当な騒ぎになってしまう。

 

 ……が、一向に検索に引っかからない。

 30分も調べていれば1つぐらい引っかかるかと思っていたが、つい先程撮られた東京地方裁判所の写真まで出てきた。

 

 えー……?

 どこかから召喚されて出現しているわけではないのか。

 

 しかしでかい建物である。

 首都の行政施設は本当にでかいな。

 

 とりあえず中を調べてみるか。

 中に人がいたら困るからな……。

 そう思って敷地内に足を踏み入れたその時だ。

 

 ぴらっと私の前にA4サイズほどの紙が突然出現した。

 それにはびっしりと文字が書き込まれている。

 その内容といえば。

 私の名前と、私の行ってきた罪状だった。

 いや、取得物横領とか詐欺とか、偽証罪とか書かれてるんだけど。

 あと住居不法侵入?

 一つ一つ見ていけば心当たりがあるとはいえ、過剰評価をされて書かれている。

 取得物横領は小銭を拾っただけだし、詐欺と偽証罪はこれ、子供のときについた嘘じゃん。

 それに住居不法侵入に至っては目の前の発掘ダンジョンのことである。

 あとは銃器や刀剣類の違法な所持とか……。

 

 まじかー。

 こんなデカブツを召喚しておいて、やることがこんな……こんな……、みみっちい機能が……。

 

 なんなんだよこれ!

 なお、扉に鍵がかかっていて中には入れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がもらった用紙には恐ろしい数の器物破損罪が載せられていた。

 あ、スケルトンって法的には物品扱いなんだ……。



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SSR 寝袋

 寝袋。キャンプや登山などで利用される、持ち運びに適した寝具だ。

 その都合、重量と寝具としての性能と金額とがトレードオフの関係にある場合が多い。

 安い寝袋ならば薄っぺらく、地面の凹凸をそのまま伝えるが、高くて重い寝袋なら快適に眠れる、などだ。

 また軽くしようとすると必然的に値段が跳ね上がる。

 なぜなら特殊な素材を利用する傾向にあるためで、軽くて暖かくてフカフカの素材は大体高いのだ。

 

 今回は寝袋が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実は、兄には魔法の才能がない。

 ノーライフキングのリチャードさんに何度教わってもまともに使えなかったのだ。

 こういうののお約束だと魔力がないとか、魔法を使う才能に偏りがあるとかそういう要素が出てくるのだが、兄は根本的に使えない体質なんだそうだ。

 

 それを聞いた兄は一瞬悲しそうな顔をしたのだが、その30秒後には嬉々として黒のまどうしょの図面を複製し、改造を始めたので特に堪えた訳はなさそうだ。

 

 というかリチャードさんから教えてもらった知識から即その魔導書の改造を始めるあたり、才能そのものは溢れているように見える。

 頭“は”いいんだよな……。

 その頭を使って本当にろくでもないことをし続けたので困るのだが。

 

 ほら、もう新しい魔法の紙を作り上げて放っている。

 炎の……竜巻……?

 渦巻く炎が端に向かって直進していくのだ。

 銃器型の杖と相性が良すぎる。

 

 兄に与えてはいけない知識だった……。

 

 さて、ガチャを回そう。

 そろそろいいものでないかな。

 高い牛肉とか。

 そういうこと言ってるとA6牛肉とか出てきてドン引きするハメになるから期待は禁物だ。

 

 SSR・寝袋

 

 出現したのは、ポット型に押し込まれた布の塊だ。

 いわゆるかなり小さく折り畳める寝袋である。

 拳大ほどの大きさまで小さく出来るのは相当高い寝袋だけだ。

 

 開けようとして、ふと思う。

 もしかしてだが、バカみたいにでかいとかあるのでは?

 開封すると爆発的に広がる、とかありそうで困る。

 

 そっと広い場所で開けてみると、押し込められた寝袋が思ったとおり弾けるように広がった。

 広がった、はいいが普通のサイズだったので警戒が無駄になった。

 いや、中身の寝袋がはね飛んできたせいで思いっきり顔に当たって痛かったけども。

 

 しかし本当にしっかりした寝袋だ。

 材質もふかふかで寝心地が良さそう、だがあくまで寝袋相当では、の話でもある。

 これで寝ると身体がバッキバキになりそうだ。

 

 とはいえ寝袋。

 効果を確かめるには使って眠るしかない。

 しかし昼寝するには微妙な時間で困るな。

 

 そっと寝袋に身体を差し込んで、目を閉じる。

 微妙にゴワゴワしていて本当に寝付けるのか……。

 ねむ……。

 

 

 

 とえりゃぁ!

 気がつくといつの間にやら眠っていて、10時間ぐらいぐっすり眠った感覚と、身体がバッキバキになっている感覚とのダブルパンチで目が覚めた。

 やべえ!

 10時間も眠ってたら晩ごはんに降りてこないからって心配される!

 

 ガバっと起きて携帯を取り出して時間を確認。

 そこに書かれた時刻は、ガチャを引いてから20分も経っていない時間だ。

 当然、日付も変わっていない。

 

 ……?

 え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が発掘ダンジョンを攻略するのに寝袋を持ち込んだ。

 この寝袋、眠っている間、時間を操作して睡眠時間を1万分の1に圧縮する効果があるようでダンジョンを探索する兄としては本来睡眠に利用できる時間をすべて探索に利用できる景品でとても喜んでいた。

 最も、硬い地面で寝ると身体がバッキバキになる寝袋としての問題(しかも時間を操作する関係で寝袋自身も相対的に硬くなる)は、解消されておらず、兄はどうするのかと思っていると。

 寝袋の中に別に布団を詰めて解決したのだった。

 

 まあはい、そうですよね!

 サメ機人(シャークボーグ)はいくらでも荷物が持てるからかさばろうが問題はないわな!



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R 割引クーポン

 割引クーポン。主に集客のため、配られるチケットである。

 小冊子についていたり、チラシとして折り込まれていたり、レジで手渡されたりするものであり、利用することで通常よりお安く買い物できるというものだ。

 一見お得に見えるが、企業側が集客のために無料で配布しているものなのでそんなにお得じゃなかったりするアレである。

 

 今回はその割引クーポンが出た話だ。

 どこで使えるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 週末の3連休で、兄が発掘ダンジョンから帰ってこなかった。

 というのも、寝袋という究極に近い休息具と、不眠不休で動き続けられるサメ機人(シャークボーグ)との組み合わせは事実上全ての時間を利用して行動を可能とするのが原因で、最速の攻略に出たのだ。

 目指しているのはおそらく20層。

 論理的に考えれば、そこにショートカットとなる階段が見つかるはずであり、そこを利用して戻ってくるつもりなのだ。

 

 しかしその計画で本当に連休明けに戻ってこれるのかという疑いはある。

 12層以降は未だ未踏の領域であり、層をまたぐごとに領域が広くなっているのは間違いないのだから。

 

 いや、私が心配しなくてもそういうのは考えている人、のはず。

 考慮した上でアクセルを踏む人間なので巻き込まれる方は本当に大変なのだ。

 

 まあいいか。

 どうせちゃんと帰ってくるだろ。

 あの人、死線だけは絶対に超えないからな。

 異常なほどに見極めのセンスが鋭く、引き際は鮮やかである。

 

 ガチャでも回そう。

 

 R・割引クーポン

 

 出現したのは、ホチキスで留られた紙束である。

 細長い形をしていて、たまに見るクーポンの束とそっくりである。

 というか、中身をパラパラとめくってみると割引クーポンの束だ。

 

 えっ、なんのクーポン……?

 紙に書かれている企業のロゴは全く身に覚えのないものばかりであり、どこで使えるのか全くわからない。

 なんだよWに人魚が絡み酒してるみたいな形状のロゴは。

 

 それに、クーポンの内容もやばすぎる。

 人魚バーガー、4万5000円。

 正直これだけでめまいがしそうだ。

 こんなもの食べたら一口で不老不死になってしまう。

 というか、半端に人型をした生き物を食べるのは倫理的にどうなんだ。

 しかもクーポンの割引で90%オフしてその値段だ。

 

 それにショゴスフライ、3800円。

 神話生物を揚げ物にしようとは恐れ入る。

 本当に食っていいものか疑わしすぎる。

 切り分けて揚げられているために見た目はオニオンフライに似ているが、その内側にあるものの黒さが衣に滲み出ていてろくでもない色彩を生み出している。

 

 他にも世界樹のかき揚げバーガーとか、火の鳥ナゲットとか、ファフニールブラッドドリンクとか……。

 あまりにもアレなラインナップに絶句する。

 しかも高い。

 

 誰向けの商品だよ……。

 どこで使えるんだよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。発掘ダンジョンから帰ってきた兄がデリバリーオーダーした。

 は?

 クーポン束の裏に電話番号が書いてあり、試しにかけてみると実際に繋がったそうなのだ。

 正直なところどうしてそんな危険そうな電話をかけたのかと小一時間問い詰めたいところだが。

 目の前でショゴスフライを食われるとその気も失せる。

 よく食えるなそんなもの。



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R きぐるみ

 きぐるみ。人が着用することを想定したぬいぐるみである。

 等身大のぬいぐるみであるため、怪獣や擬人化した動物など、様々なキャラクターが作られている。

 キャンペーンなどで街頭に立っているのを見たことがあるはずだ。

 性質上、町中では非常に目立つため広告塔代わりに使われることもある。

 またブームが去った機運があるが、ゆるキャラのきぐるみに至っては個人制作され使われていたりするのだ。

 

 今回はそのきぐるみが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サメ妖精のシャチくんは、現在私の護衛兼執事として働いている。

 元々物品の制作や家事など、家の中で行う作業を得意としていたため、常々戦力に加えているのはどうかしていると考えていたのだ。

 

 武器を持たせればそれなりに戦えるが、そこまでである。

 サメ機人(シャークボーグ)がいる以上、むやみに危険に晒す必要もない。

 

 料理は絶品であるし、掃除や片付けの手際もいい。

 一家に一体欲しいレベルだ。

 まあ今8体に増えてるけど。

 

 さて、ガチャを回そう。

 次のろくでもない景品はなんだろな、と。

 全く期待はしていないが、ろくでもないものでなければいいな。

 

 R・きぐるみ

 

 出現したのは、サメのきぐるみだ。

 サメのきぐるみ……サメのきぐるみ?

 いや、どう見てもサメのきぐるみなのだ。

 

 一時期流行ったサメのぬいぐるみを、きぐるみサイズにまで大きくしただけ、という印象。

 作り自体はかなりしっかりしているもののようであるが、一方でサメの背中部分にジッパーが来ていてしかも目立つという雑な仕事も見て取れる。

 

 というか、足……足? に当たる腹ビレの部分が短すぎる。

 足を突っ込んだらこれそのままつんのめって転げそうだ。

 手に当たる胸ヒレもきぐるみにしては短い。

 

 うぬぬ……、とりあえず着てみるしかないか。

 背中のジッパーを開き、中を覗き込む。

 覗き込んだのはいいが、中に広がっているのは漆黒の闇だ。

 一体どうなってるんだ。

 ライトをかざしても全く明るくならない。

 

 ふ、不安が凄い……。

 本当にはいっていいものかわからない。

 さりとて、他に入れられそうなのは兄しか思い浮かばず。

 

 ええい、ままよ!

 勢いにまかせて足を突っ込む。

 ありえない方向にずんずんと足が入り込んでいく感覚だけがあり、やや恐怖心を覚える。

 だがきちんと端があったようで、足がついて踏ん張りが利くようになった。

 

 そのまま腕を通して頭をかぶり、サメ妖精のシャチくんにジッパーを上げさせる……。

 出来上がったのは、サメ妖精と同様に微妙に浮き上がったサメのキグルミ。

 

 シャチくんに持ってこさせた鏡には明らかに浮いている姿が写っているのに、私の足はしっかり地面に接地している感覚がある。

 それに手の指も、しっかりときぐるみを通したはずだが自由に動かせる感覚があるのだ。

 

 というか視界だ視界。

 思いっきりサメの頭を被っているはずなのにいつもどおりの視界すぎる。

 

 普通に動けて、ダンスも踊れるのが得体が知れない。

 宙に浮いた腹ビレで華麗なステップを踏んでいる姿は妙な笑いがこみ上げてくる。

 何だこのきぐるみ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメのきぐるみを着込んで空を飛んだ。

 きぐるみ内部にスリッパやドローン、あと傘を仕込んだことによって、ついに空を自由に泳げるようになったのだ。

 なんでそうなるのかはわからない。

 傘は広げたまま押し込んでいたし、スリッパは足の部分の底に行くように入れていたし、ドローンも胴体の部分に設置していただけだ。

 それがジッパーを上げるとひとまとめになって空を自由に泳げるようになるんだから意味不明である。

 

 というか泳ぎ方が堂に入っている。

 なんでそんななめらかにサメのきぐるみを動かせるんだ。



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R ゲーミング土鍋

 ゲーミング。主に、PCやPCの周辺機器に使われる接頭詞で、その特徴はゲームをすることに最適化されているということである。

 PCならばより処理速度を速く、グラフィックボードはより強力な物を。

 マウスならば、より軽く、より正確に動かせるように。

 キーボードならば可能な限りミスタイプを減らし、誤入力を軽減し、押しやすく。

 ……1680万色で光り輝く、というスラングではないはずだ、おそらく、多分。

 

 今回はそれに関係なく、多分関係なく、土鍋が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄曰く。20層にいたボスは、飛べないでかいトカゲ、だったそうだ。

 聞く限り、それはドラゴンなんじゃないかと私は思うのだが、確かめるすべはない。

 ただ、サメ機人(シャークボーグ)で勝てなさそうだった、という報告を聞けばなおのことドラゴンだろそれ、と思ってしまう。

 というか、でかいトカゲ自体がドラゴン扱いされてもおかしくないじゃんね?

 

 さて、兄はそのでかいトカゲをどうしたかというと、結局のところ正面からぶつかっていない。

 サメ機人(シャークボーグ)に搭載されていたスモークディスチャージャーでボス部屋を満たして視界を奪った後、数機で取り囲みその動きを押さえつけたからだ。

 押さえつけた、と言っても強引に力でやったわけではない。

 とにかくターゲットをサメ機人(シャークボーグ)数機に集中させたのだ。

 

 MMOなどで言われるタンクの役割をサメ機人(シャークボーグ)数機にさせて、残りは何をしていたかと言うと。

 ひたすら壁を叩いていた。

 とにかく目につく壁を手当たり次第に、だ。

 

 明らかに凶暴そうなボスを前にして、取る行動が隠し階段探し。

 確かに壁の中に隠し通路としての階段があることがわかっているとはいえ、よくもまあそんなことをする。

 

 真面目に戦ってたら時間内に帰ってこれなかったかもしれない?

 無茶な計画を立てた兄が悪いでしょ……。

 

 さて、ガチャを回そう。

 

 R・ゲーミング土鍋

 

 出現したのは普通の……いや、普通より一回り小さい土鍋だ。

 薄く平たく作られたその土鍋は、最近のIHなどの家電に対応するために規格化された構造を持っていて、最近の商品といった印象だ。

 昔ながらの形、というわけではないが、シンプルなだけに特徴はあまりない。

 

 土鍋、土鍋かぁ。

 鍋なだけに手軽に試そうとはならない。

 いかんせん、試すには一度に使う食品がもったいない。

 さりとて、いくらでも使えるヒヒイロカネを入れても意味がないだろうし……。

 

 いろいろ考えた結果、水だけ入れて煮込むことにした。

 まあ水だけならいくらでもあるし、最悪適当に捨てても問題なかろう。

 

 ぐつぐつと煮込みながら小一時間。

 土鍋の蓄熱が分厚いのか知らないが、沸騰するのにかなりの時間がかかってしまった。

 しかし、これで開けてみてなにも変わっていなかったらどうしようか。

 まあその時はその時だ。

 

 開いてみると、中に入っていたのは。

 虹色に光り輝くお湯だった。

 

 は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲーミング。1680万色に光り輝くことを意味する、スラングである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が虹色に光り輝く白米を作って食べていた。

 あの後、お湯は冷ましてから捨てたのだが、捨てた地点に虹色に光る植物が生えてきたことで兄に土鍋がバレてしまった。

 そしてあろうことか、それを面白がった兄が出汁と米を入れて炊き出したのだ。

 いや、炊くのはいい。

 でもなんで食べるかな!?

 そんな得体のしれない米を!?

 

 なお兄の身体が虹色に光るようなことはなかった。

 どういう差が……?



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R 成分抽出器

 成分抽出。それは固体や液体から特定の成分だけを取り出す作業だ。

 簡単に言うと、お茶の葉を煮てお茶を作る作業を抽出という。

 当たり前だが現代の科学はこれが無くては成立しない。

 なぜなら抽出とは、人類が手に入れた最古の化学的な分離手法だからだ。

 ある種の植物や血清のように、何らかの液体や固体の中に薬の成分が溶けていることは多い。

 多くの場合、薬の成分以外は必要ではなく、逆に害を齎すこともある。

 そうでなくても、純粋な物質というものは、成分の変化が予想しやすく科学的に非常に扱いやすい。

 

 今回はその成分抽出を行う装置が出た話だ。

 やかんではないぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がいそいそと次の発掘ダンジョン攻略の準備をしていた。

 現状の戦力では攻撃力不足で、あのドラゴンを倒すにはまともな武器がないのだ。

 まあ、サメ機人(シャークボーグ)の基本武装は拳で、とにかくその筋力で相手を打ち抜く戦法を得意としているからな。

 それが通じない相手となると、相当厳しくなる。

 

 そのため、兄が用意した武器はヒヒイロカネの大型ハンマーだ。

 シンプルな武器だが、サメ機人(シャークボーグ)の筋力で振り回すと簡単に発掘ダンジョンの壁を破壊できる。

 

 それに、あとはヒヒイロカネの剣だ。

 これはサメもどきにも持たせていたものと同じだが、サイズが違う。

 刃が恐ろしいほど肉厚で、まさしく鉄塊、と形容されうる。

 というか2メートル近いサメ機人(シャークボーグ)の体格に合わせて作られているため、3メートル位あるんじゃないか?

 

 そしてでかい武器をもたせたためにこれまでの連携が使いづらくなってしまった。

 振り回せば当然隣に攻撃が当たってしまう。

 そのため、並んで連携が取れるように訓練をしていたのだが……。

 

 翌日見たら武器が槍と盾に変わっていた。

 ファランクス……!

 

 いいや、ガチャ回そう。

 どうせろくでもないんだから、兄が死ななくなるような景品を出せよ~このやろー。

 

 R・成分抽出器

 

 出現したのは針のない注射器だった。

 注射器……というか、全体的にプラスチック出来ているし、いわゆるシリンジ? と呼ばれる物のようだ。

 科学実験に使うようなタイプのものだな。

 片手で扱うには少し大きい。

 

 しかし、成分抽出器?

 普通はそういうのは、化学的に薬品を入れたり、遠心分離機にかけて分けたり、溶媒(要するに水だ)に溶かし出したりするものだと聞いているが。

 

 いや、このガチャに常識とか説いても仕方ない。

 明らかに日本語を誤用している物品が出たことは一度や二度じゃない。

 

 まあいいや。注射器である以上、吸い上げて吐き出させればなにかこれの持つおかしさがわかるだろう。

 そう思って、飲んでいたりんごジュースに先端をつける。

 自販機から出てきたもので、あの妙に高いが美味しいやつだ。

 

 じゅじゅじゅ、と押し子を引き上げる。

 引っ張っていけば中身に液体のようなものが溜まっていくのが見えるが、何故かりんごジュースの方は量が変化せず、その色味をどんどん失って透明になっていく。

 

 筒の中に溜まっている液体がものすごく黄色いんだが……。

 え、こわ。

 一体何を抽出したというんだ。

 そっと別のコップを用意し、その中に吐き出させる。

 一気に、そいや!

 

 コップの中に吐き出されたのは黄金に輝くりんごだった。

 え?

 

 丁寧に8分の1カットされたりんごが、コップに入っている。

 これが、あの注射器から?

 え?

 

 なお、残ったジュースは、甘いだけの液体になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が、成分抽出器をサメ機人(シャークボーグ)に使っていた。

 なんと抽出されたのはサメで、空を自由に飛んでいることと兄の言うことを聞くことと人を襲わないこと以外はホオジロザメそのものだ。

 そして残ったサメ機人(シャークボーグ)は、搭乗式の3メートルほどあるロボットになっていた。

 えー……なにこれ……。

 恐ろしいことに私でも簡単に操縦できる上、フットワークが凄い。

 

 というかサメもどきとサメ機人(シャークボーグ)はどこかコミカルだったから怖くなかったけど、ホオジロザメは流石に怖いよ!

 片付けなさいよ!



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R ドラムスティック

 ドラムセット。複数のドラムとシンバルなどを一人の演奏者が演奏できるように配置したものである。

 その関係上、これ、といった組み合わせは存在しない。

 中には木魚が組み込まれていた話まで聞く、楽器そのものの自由度が高い楽器だと言える。

 

 今回はそのドラムのスティックが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が20層のドラゴンを袋叩きにした。

 サメ機人(シャークボーグ)は、どれだけ戦おうが疲労することはない。

 そして異常なほどにパワフルである。

 一体でならドラゴンに一方的に破壊されるかもしれないが、サメ機人(シャークボーグ)は恐ろしいことに能力に似合わず集団戦を得意としているのだ。

 

 集団戦自体は兄が仕込んだ戦術ではある。

 だがサメ機人(シャークボーグ)は全身が機械仕掛けで、自身の学習内容を他のサメ機人(シャークボーグ)に伝送することが出来るのだ。

 自我があるかどうかは自己主張しているところを見たことがないのでわからないが、伝送能力によってサメ機人(シャークボーグ)は1つの意識を共有していると言える。

 

 そして、頑丈な盾を持たせて複数体で相手の攻撃を受けることを覚えさせるだけでドラゴンの攻撃をしのげるようになったのだ。

 正面から受け止めるサメ機人(シャークボーグ)が緩衝となり、周囲のサメ機人(シャークボーグ)がそれを支える。

 人間がやれば腕がイカれてすぐに死んでしまうことも、サメ機人(シャークボーグ)の怪力でなら実現できる。

 実にスマートなゴリ押し戦術である。

 あとはドラゴンが死ぬまで槍で刺し続けるだけだ。

 

 そうやって兄は20層を攻略した。

 ノーライフキングのリチャードさんが言うには40層まであるからこれで折り返しだな。

 普通に遠い道のりである。

 

 兄のおもちゃのことは置いておいて、ガチャだ。

 いやガチャも兄のおもちゃであるといえばそうではあるが。

 

 R・ドラムスティック

 

 出現したのは棒だ。

 棒だ。

 春先に生えているつくしのような形状をしている棒だ。

 アーケードゲームの太鼓の奴に、本来のバチの代わりに置いてあったりするやつが一本だけ出てきた。

 

 いやまあドラムセットについているスティックだとはわかっているんだが、一本だけ出てきたものだから、変な言動になってしまった。

 片方しかないのではただの棒でしかないのでは?

 そもそもドラムセットがないから鳴らすものがないんだが。

 

 ほとんど何も考えず、スティックで適当にテーブルを叩いてみるが、なんというか手応えがいまいちだ。

 ペチペチ、と浅い音を立てていて、ただ木材同士が当たっているだけという印象。

 叩けば音が音が出るかと思ったんだが。

 

 適当に10分ほどいろいろ叩いてみたが、やっぱりダメ。

 楽器じゃないと駄目なパターンかな。

 うちにはないから試しようがない。

 

 そう思って飲みかけのコップをテーブルに置いた時だ。

 バン、とスネアドラムのような音がした。

 コップから。

 

 は?

 確かにテストの最中にコップをスティックで叩いて見てはいた。

 まさか叩いていたスティックで反応しないとか想像つくか普通?

 

 スティックで叩いたものが楽器になる、ただしスティックで叩くと元の材質で音を出す、ってところか?

 わけわかんねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がドラムセットを作った。

 作ったはいいが、構成されている物がアレだ。

 平皿4枚、茶碗2つ、お椀2つ、背の高いコップが2つ。

 これから何をするつもりですか? と言いたくもなる組み合わせのドラムセットを、なんと箸をスティック代わりに演奏しだしたのだ。

 激しく頭を上下させながら、食器を箸で叩く兄の姿が、とても見苦しい。

 

 思わずチョップを入れてやめさせた。

 お行儀が悪いのでやめなさいよね、ホント。



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R パスタマシン

 パスタマシン。簡単に言うと、簡単に麺を作成できる機械である。

 一般的なパスタマシンは、小麦粉をこねたものを平らに延ばすパーツと、その平らに伸ばした小麦粉を麺状にカットするパーツが組み合わさったものである。

 基本的に柔らかくて伸ばせるものなら何でも麺に出来るため、普通のパスタや麺を作るのに飽きた人物がよくおかしな物を材料に麺にしているのがインターネットで見られる光景だ。

 

 今回はパスタマシンが出た話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が成分抽出器で遊んでいた。

 どうもこの成分抽出器、抜き取った成分を注入することも出来るようで、サメ機人(シャークボーグ)を材料におもちゃにしていたのだ。

 最も、抜き取った成分はシリンジの中で液体であり、思ったような形には注入できない模様。

 その関係で毎回違う形に要素が混ざり合う。

 

 試しにサメと機人に分離したサメ機人(シャークボーグ)にサメを注入し直したところ、サメの上にロボが生えた、サメケンタウロスとでも言うべき得体のしれない生き物に変貌したのだ。

 というか全体がロボなので生き物ではない。

 

 こうなるとめちゃくちゃに遊びだすのが兄である。

 ヒヒイロカネから“なにか”を抜き取り、他のヒヒイロカネに注入することで新しい金属を作り出したり(抜き取られたヒヒイロカネはスライム状になった)、野菜にサメの要素を注入してサメ頭が実る気持ち悪い植物を作り出したり。

 

 極めつけは、20層で倒したドラゴンから抜き取った成分をサメ機人(シャークボーグ)に注入したことである。

 もはやサメともドラゴンとも言えない、人型のキメラを作り出してご満悦といった表情を兄はしていた。

 兄のダンジョンが認識している名前はサメ竜機人(シャークドラゴロイド)に変化していた、がキメラ過ぎて人と言うにはいささか語弊がある。

 頭2つ付いてるし。

 

 さてガチャを回しておこう。

 正直あれで遊んでいる兄に関わるとろくなことにならなそうである。

 最終的に人間をやめる羽目になりそう。

 

 R・パスタマシン

 

 出現したのは電動パスタマシンだった。

 簡単に説明すれば、上にトレイがあり、そこに麺の材料を投入すれば自動で練り上げて、麺の形で押し出してくれるという装置だ。

 正面についた穴から圧力を掛けて押し出されるため、麺の味は機材によって微妙に異なってくる。

 

 一人暮らしするならこれは必須! と兄の友人に勧められたこともあるが、実際いるかこれ?

 そんなものを買うより炊飯器のほうがずっと重要だと思うのだが……。

 

 まあとりあえず小麦粉と水と塩を適当に混ぜてパスタマシンに投入して、と。

 ホントはもっとしっかりと手順を踏んで混ぜておいたほうがだまにならなくて美味しいらしいが、今回は機能の実験。

 そこまでの手間を払う必要はない。

 というかそういうのを一括でやってくれるのが電動パスタマシンのはずだ。

 

 電源を入れると、突然ガガガガガガッ! と大きな音を立て出し、ガタガタと不安になる勢いで揺れ出す。

 大丈夫かこれ……? と思っていると、揺れがピークに達したのか突如跳ね上がり横倒しになった。

 その直後、麺が正面から射出された。

 そう、射出だ。

 

 ゴムで弾く程度の速度でしか無いが、麺が射出されテーブルに散らばる。

 出来上がった麺はというと。

 これは……!

 

 乾麺……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が小麦粉の代わりに肉まんを詰めていた。

 どうも、中に投入された物を麺状に練り上げて保存食にしてしまうのがこのパスタマシンの機能のようなのである。

 異常に乱暴な動作と、異常に早い製麺速度から繰り出される保存食の味は、ぶっちゃけ微妙だと言わざるを得ない。

 というか練りが甘くてムラが凄いのだ。

 

 なので兄は練らなくても美味しいものを試そうとしているのだが……。

 そこで肉まん詰めちゃうあたり、多分考えなしである。

 どうかしている。



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SR 光の剣

 映画やゲームには、ビームやレーザーを剣の形に束ねたものが登場する。

 昔の大作映画に登場したそれはSFのガジェットとして象徴的だったためにまたたく間に多くのSFに取り込まれそれぞれの作品で様々な理由付けを持って登場するのだ。

 最も、そのどれもが悲しいかな、現実には不可能としか言いようがないものである。

 光も量子も直進し、形を留めることはないからだ。

 きっとそれが可能となったならば、おそらくその剣は光らない。

 現実にはロマンの欠片もないな。

 

 今回はその光の剣が出た話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が暇なのかわからないが、サメ機人(シャークボーグ)用の武器に奇妙な装飾を付け加えていた。

 チョコペンみたいな形状のものを使って、ヒヒイロカネを盛り付けながらデザインを弄っているのだが。

 兄のデザインセンスがクソすぎるせいでたちの悪い宗教の絵か、あるいは子供が気合を入れて家中をインクまみれにした痕跡、と言った具合。

 長時間見ていると気分が悪くなりそうですらある。

 

 それを複数用意してやがるので完全に狂っている。

 完全に奇行のそれである。

 なんのためにそんな物を用意しているんだ。

 

 問い詰めると返ってきたのは、かっこいいだろ? の一言。

 こいつマジか?

 クソダサいよ!

 

 そう伝えると致命傷を受けたかのように動かなくなった。

 10分後には再起動していたのでこれは特に弱点にはならなさそうである。

 

 兄を仕留めそこなったからガチャを回しておこう。

 

 SR・光の剣

 

 出てきたのは金属製の筒だった。

 長さ15センチ程度、太さは麺棒ほど。

 親指あたりになにか電源のスイッチのようなものがあり、彫りの浅い握りに沿って握り込むとちょうどいい位置に来る。

 

 ……というか。

 映画のアレだー!

 4作目以降のほうが評判が良かったり、配給会社が変わったあたりから評価が怪しいことになったりしたアレに出てくる光る剣だ!

 

 テンションが上がる。

 上がるのはいいが、同時に警戒する。

 これは科学的にありえないものの最たる物である。

 電源を入れて振り回したら周囲一体を問答無用でズンバラリしてしまう可能性のほうが高いのだ。

 

 うっかり確かめずに兄に渡してみろ。

 ご近所様が廃墟と化すぞ。

 

 どこまでも伸びることを警戒して、垂直に筒を構えながらスイッチを入れる。

 ヴォン……という音と共に伸びる光。

 その光は青白く輝いていて、そして1メートルほどの長さで先端が丸くなっている。

 ただ持っているだけだと言うのに、その光は熱い。

 

 見かけは長いわけではない。

 だが……と思いながらゆっくりと振り下ろしてみた。

 片手持ちで握りにくく、手を滑らせそうである。

 

 振り下ろしきると同時にヴォンと音を立て、見かけどおりに接地した先の地面が焼き切れている。

 あ、見た目通りなんだ……。

 思わず振り回して遊びだしそうになる。

 ……が、これは危険物。

 思いっきり熱線が出ていて熱いのだ。

 うっかり身体のどこかに当たってしまうとそこで溶断されてしまう。

 

 振って遊ぶだけならおもちゃでいい。

 やはり現代社会は安全を突き詰めているな、とおかしなタイミングで実感するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が光の剣を使って未来予知をし始めていた。

 妖刀「鏡写し」を左手に持って、鍔をかちゃかちゃと鳴らす瞬間に光の剣を組みあわせているようで、その精度はかなり高い。

 他にも、光の剣を持った右手から念動力のようなものを放つなど、流石に人外としか言いようがない能力を使い始めている。

 いやおかしな使い方をして、妙な能力を会得するのはいつものことではあるのだが。

 

 なお、兄はその能力で宝くじを買っていた。

 数字を選んで買うタイプのやつである。

 こ、こいつ……!



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R 宝の地図

 様々な物語には、海賊が隠した宝であったり、失われた王家の隠し財宝であるといった本来外に出てこようのない宝のありかを記した地図が登場する。

 得てしてそれらは暗号のような形式で書かれており、わかるものにだけ道を開くというものだ。

 現実には存在し得ないが故ロマンというものがそこにあり、それ故に物語に映える。

 

 今回はその宝の地図が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発掘ダンジョンは、10層以降ダンジョンというよりなんらかの地形を切り取ったような形になっていることはもうすでに説明したと思う。

 廃墟や都市、ジャングルに荒野と様々なバリエーションが有るのはすでにわかっていると思うが、実はその造形はかなり単調である。

 

 荒野ならタダっ広いだけであり、廃墟はただ街が壊れただけ、ジャングルは本当に野放図に茂っているだけ、という有様。

 またどれもこれもその単調さに反比例するように広大な広さとなっている。

 

 まるで距離をそのまま壁にするかのように無駄に広い空間だけが置いてある。

 比較的ましな階層にはチラチラ建物が置いてあったりはするが。

 

 それ故に兄は攻略に苦慮している。

 そろそろ宝箱に車を詰めて持ち込みかねないが、車をそういうふうに扱うにはサメ機人(シャークボーグ)に持ち上げさせるしかない。

 ぼそっと「作るか……」みたいなことを言っていたような気がするが気のせいだろう。

 

 さて、ガチャを回しておこう。

 

 R・宝の地図

 

 出現したのは、小汚い紙だ。

 おそらくは羊皮紙のように見える材質で、その上に油絵の具のような絵の具が載せられている。

 バリッバリに乾燥して、下手に曲げようとすると絵の具が剥がれてしまいそうである。

 

 しかし、宝の地図?

 いくつか島のような絵が描かれていて、その島のことだろう、なんらかの名前が書き込まれているのが見て取れる。

 最もその文字もどこの国の文字かわからない。

 それ自体は今に始まったことではないが……。

 

 いやでも形から類推することは出来る、か?

 海に島、それに端に鳥……鳥? のようなものも描かれている。

 あと海竜な。

 地図につきもののイラスト描きではある。

 

 というか方角記号が書いてないからどこが北かわからねえ。

 くるくる回してみると、絵が歪んで形を変えているような気すらする。

 ……いや、これ変わってるな!?

 

 思わず持ち上げて角度を変えてみるが、明らかに違うアングルから書かれた地図に変化した。

 というか動かして見てよくわかった。

 島が動いている。

 テーブルに置いた状態では少しずつしか動いていなかったからわからなかったが、明らかにいくつかの島が動いて地図の形を変えているのだ。

 

 もしかして何らかの仕掛けが施されていて、それを解き明かさないと宝にはたどり着けない、ってやつか?

 そもそもどこの地図かわからない時点で、宝探しもしようがないが。

 

 いや、変なおもちゃが出てきてしまったな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が発掘ダンジョンの23層で群島にぶち当たった。

 どうもこの宝の地図はその群島と位置が一致するようで、兄はテンションを上げていたのだ。

 これから水上移動の手段を考えて宝を見つけて見せると大言壮語を吐いていた。

 と言うか金ならあるでしょ。

 

 というかダンジョンの内部の1層分の地図?

 そんなピンポイントな物、普通ガチャから出る?

 



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R かっこいいカブトムシ

 カブトムシ。主に小学生5年生男子に大人気の昆虫である。

 長く突き出た角につややかな外殻がロボのようなかっこよさを生んでいるのだ。

 また世界各地で異なる造形のカブトムシが存在し、それらもまた独特な色合いや角の形状でかっこよさを主張している、ような気がする。

 いや私は虫があんまり好きではないのでよくわからないのだが……。

 

 今回はカブトムシが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄のダンジョン攻略は難航している。

 原因はただ一つ、サメ機人(シャークボーグ)が重いことだ。

 サメ機人(シャークボーグ)が重いため、カヌーのようなものを作って用意しても乗せると沈んでしまうのだ。

 ちょっと想像すればわかると思うが、サメ機人(シャークボーグ)はサイボーグであるため金属の塊である。

 当たり前だがカヌーのような個人用の小型船はそんな金属の塊を載せることを想定していない。

 あくまで人間が乗ることを考えて作られるものだからだ。

 

 というわけで兄はサメ機人(シャークボーグ)が乗っても沈まないような船を作るところから始めなければならなくなったのだ。

 鉄の塊を浮かせるにはどれだけの大きさのバラストが必要なのかいまいちわからん。

 

 ドローンで飛ばそうにも数が足りないという。

 まあ兄のことだからどうにかするだろ、多分。

 

 さて、ガチャを回そう。

 ろくでもないものがでないといいな、とか言ってるとだいたいろくでもない物が出るのでここ最近は可能な限り無心で回すことにしている。

 

 R・かっこいいカブトムシ

 

 oh……。

 小学5年生男子が喜びそうなものが出現してしまった。

 

 それは虫かごに入れられて出現したカブトムシだった。

 甲殻の色からして日本の在来種のように見えるが……。

 

 そう、思いっきり改造されているのである。

 それも樹脂粘土で。

 

 角に盛り付けた後、ヤスリで削ったのか食玩のフィギュアも真っ青なエッジの効いたデザインに変わってしまっているし、カブトムシの額、とでも言っておくべきだろうか、そのあたりの位置にブレードアンテナのように鋭く尖った角が増設されている。

 幸い未塗装だったために人為的に改造されたことがわかるが、塗装なんてされていたら新種じゃないかと慌てるハメになったような気がする。

 

 角につけられた樹脂粘土が重いのか、カブトムシはよろよろとした動きをしている。

 悲惨な姿だ。

 

 小学生が考えるかっこいいを詰め込まれたせいで生き物としての機能を損なわれている。

 生き物の命を尊重できないことは、こんな残酷なことを招いてしまうのか。

 

 妙にしんみりした気分になる。

 兄には隠しておこう。

 ろくなことにならなさそうだし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が見つけたカブトムシからカブトムシを抽出して、サメ機人(シャークボーグ)に注入していた。

 こ、こいつ、こいつー!

 残された“かっこいい”は直視できないなにかになっているし、注入されたサメ機人(シャークボーグ)ももうサメなのかカブトムシなのかわからん姿になってるじゃないか。

 注入されたサメ機人(シャークボーグ)も角を持て余してバランスを崩しているし。

 こいつ倫理観がない。

 

 というか今思い出したぞ、この改造カブトムシ、兄が小学生5年生だったときにやらかした奴じゃねーか!

 こいつなにも成長していない!



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ガラクタ各種

 がらがらとガチャを回していれば、いまいち効果がわからなかったもの、説明するまでもない代物が出現することがある。

 それらは多くはNの刻まれたカプセルから出現するが高ランクであってもたまに効果がわからない物が出てくることもある。

 根本的に異なる文明に由来する物であれば使用方法が全くわからなくても仕方がない。

 最も、何かに由来しているとわかるものがレアなのはここまで出てきたものを見ればわかることだ。

 大概は完全に理解の及ばないものがたまに出るわけで、そういった物は全部倉庫にしまい込んでいる。

 危険物でなければいいが。

 

 今回はそういったガラクタ類の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 N・作りかけのケーキ

 

 これは半生のスポンジケーキと、絞り袋に半端に詰められたホイップクリームとが3段に重ねられたものだ。

 3枚に切り分けられたスポンジケーキの間に、ホイップクリームの詰まった絞り袋が挟んである。

 なんでスポンジに絞り袋が挟んであるのかさっぱりわからない上、スポンジはスポンジで半生でボロボロである。

 新手の現代芸術かなにかかとすら思わされたが、名称が作りかけのケーキなあたり失敗して適当にぶん投げた物のような気はする。

 でもだからって絞り袋は挟まんだろ。

 

 もっとも、出現と同時に地面に落ちてスポンジがバラバラに千切れたんだが……。

 兄が拾い食いしようとしたので静止するのが大変だった。

 

 

 

 N・シュレッダー

 

 これはシュレッダーだ。

 一目見れば手回し式のシュレッダーだとわかるが、こいつは明確にガラクタとして排出された景品だとわかる。

 なんと、紙をセットしてハンドルを回すと、裁断された風の模様が紙につく。

 そう、模様がつくだけなのだ。

 紙がベコベコにすらならないあたり、はじめからふざけている事がわかる。

 

 兄はスルメイカをぶっ刺して回して模様をつけて笑っていた。

 なにやってんの?

 スルメイカなら裂けるとでも思ったの?

 

 

 

 N・召喚石の欠片

 

 これは前に出た詫び石とおそらく同じ成分の石だ。

 詫び石と違うのは砕け散っている一欠片しかないというところだろうか。

 これ、集めると1つの石に出来るとかそういうシステムなんだろうか。

 最も今までこれは1つしか出てきていないため、全く集めようがない。

 これ単独で使えるとかそういう効果があるのかどうかもわからない。

 

 強いて言えばキラキラしていて綺麗、だというくらいだろうか。

 そのため兄がヒヒイロカネを使ってネックレスに加工していた。

 なおヒヒイロカネの自己主張が強すぎてダサい。

 せっかく石はきれいなのにな。

 

 

 

 R・キャタピラ

 

 キャタピラである。

 いや、本当に履帯だけが出現したのだ。

 ゴムで出来ているものではなく、戦車などに使われる金属製で重い履帯が出てきたので片付けるのに大変だった。

 

 しかもなぜかRランク。

 Rってことはなんらかしか、追加でおかしな機能があるはずだが、これを装備できる乗り物はなく、ただの置物にしかならない。

 

 兄はサメ機人(シャークボーグ)になんとかして回させていたが、結局効果の確認は出来なかった。

 

 

 

 R・球体のイデア

 

 完全な球体。

 こんなもんどないせいっちゅうねん。



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R 鉱石の種

 鉱石。一般的に溶岩が冷やされることで形作られたり、砂鉄が堆積したものが重量によって圧力をかけられて固まったりしたものである。

 鉱石と呼ばれるものは主に金属を含んでおり、様々な化学的手法でその中に含まれる金属を取り出す。

 文明において、金属の扱いは重要である。

 どれだけ優れた金属を作り出せるかが古代での戦闘能力に直結していたのだ。

 より優れた金属を得ることが出来ると文明は段階が上がると言ってもいい。

 

 今回は金属が収穫できる種が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が船もどきを作り上げた。

 結局のところ、サメ機人(シャークボーグ)に耐えられる船は作れなかった。

 作れなかったため、もうサメ機人(シャークボーグ)を泳がせよう、と兄は判断したのだ。

 

 実際、やってみるとどんどん沈んでいくサメ機人(シャークボーグ)達。

 重すぎて泳ぐという事ができないため、もう水底を直に歩かせたほうが早そうとかいうあまりに身も蓋もない結論にたどり着く。

 

 元がサメなだけに耐水性及び耐圧性は十分。

 歩いているうちに水底のデータも取れて一石二鳥と言わんばかりに集団を組み直していく兄。

 

 結果、船もどきを作り上げ、それをドローン装備のサメ機人(シャークボーグ)と水底を歩いているサメ機人(シャークボーグ)で引っ張ることにより流れに関わらず水上を自由に動ける船を手に入れていた。

 

 力技がすぎる。

 

 さてガチャを回そう。

 なんかこう、放置しているだけで毎月30万円ぐらい出力する装置とか出ないかな。

 絶対出ないな。

 

 R・鉱石の種

 

 なんかもう名前からして様子がおかしい種が出てきた……!

 もう見るからに金属光沢を放っている種だ。

 鉄で作られたオブジェだって言われても疑わない程度にメタリックである。

 

 オブジェじゃないとはっきりわかるのは、それが小さすぎるからである。

 とうもろこしの粒ぐらいの大きさしか無い物をどうしてオブジェだと言えようか。

 たくさんあれば他のものにも見えるだろうが、今回出たのは一粒だけだ。

 

 さてどうしようか。

 種である以上、植えるしか無いが。

 他と混ざると……他……ろくでもない植物しか無い畑に植えると混ざって微妙だな。

 よくわからないうちに兄が交配して変な植物を作りかねない。

 

 とりあえずプランターにでも植えておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。プランターから金属でできた木が生えていた。

 植物とは思えないような強度を持つ枝から、水晶めいた葉が成っている。

 光を浴びると喜んでいるのか、葉がキラキラと光るのだ。

 不規則に変化する光の動きはいくらでも眺めていられそうだ。

 

 なんか愛着が湧いてくるな……。

 インテリアとしても相当綺麗である。

 ただあるだけで優れた美術品のような美がある。

 植物の生命力を、金属で形作られているからだろうか。

  

 

 

 兄に見せたらすぐさま端の枝を剪定し、畑の木に接ぎ木をされた。

 よりによって接ぎ木元がちからのたねの木で、しかもそれでメキメキと成長を始めるんだから困る。

 いっそ異様な速度でおかしな形に成長している。

 たった一日で植物の塊を作り上げたちからのたねなんか接ぎ木したらそりゃやばいことになって当然なんだよな。

 

 とか思っていると、接ぎ木した日の夜には花を咲かせて実をつけていた。

 あのたね、生命力が旺盛すぎないか……?



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R ポテトフライヤー

 フライドポテト。じゃがいもを揚げて塩を振っただけの簡単料理である。

 お手軽に高カロリーで油たっぷり摂れるため大変人気があり、多くのハンバーガーチェーン店でサンドイッチのサイドメニューとして販売されている。

 チェーン店の味を自作するには、コーンシロップを入れてポテトの中に含まれるデンプンを入れ替える作業をすると美味しくなる……らしい。

 

 今回はそのポテトを揚げる装置が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が鉱石の種から育った植物から、金属を収穫していた。

 確かに金属質な植物ではあったが、枝や葉から本当に金属が取り出せるとは思わなかった。

 

 問題があるとすればそれを加工するだけの熱量を調達できないということだ。

 現状使える火といえばハンドバーナーぐらい。

 枝同士を溶接する程度のことはできるが、そこ止まりだ。

 

 ヒヒイロカネが火を必要としない金属だったためにそこまでの火力の炉を作っていないのだ。

 というか作るだけの技術力がない。

 一般の民間人に過ぎない兄がそういう技術を持ってないため、枝を集めるだけ集めて積み上げている。

 またガラクタ集めて……。

 

 さてガチャを回そう。

 ガラクタが増えなければいいが、大体こういうときに引くと新しいガラクタが出てくる。

 

 R・ポテトフライヤー

 

 ほらもー! 使いもしない調理器具がぁぁぁぁ!

 出現したのはご家庭にたまに置かれる家電のフライヤーだ。

 

 フライヤーというのはつまり、揚げ物専用の調理器具だ。

 多くの場合箱型で、中の油を一定の温度に自動で保ってくれる凄いやつだ。

 最近は卵に似た形で油を入れる部分が引き出しになっているタイプも見るようになった家電だ。

 火を直接使わず、電気で動き、蓋がついていると揚げ物による事故を回避できる凄いやつで、一時期油なしで揚げ物ができると話題になった商品も存在する。

 

 だいたい聞いてもらえればわかるが、一般のご家庭にはない。

 そこまで揚げ物し続けるような家庭がそんなに存在してたまるか。

 電気式な関係で一回に揚げられる量がそんなに多くないのも普及しない理由だろうか……。

 

 今回出てきたフライヤーだが、これはなんだろう。

 普通にフライヤーに見えるのだが、何故か頭にポテト、とついている。

 概ねポテトに関わるなにかがあるのだが、あいにく今手元はワッフル用の生地しか無い。

 ホットサンドメーカーで焼こうと思って用意したものなのだが。

 外側と中身が単一なものなら中身がすり替わることがないことがわかっているので安心してワッフルを焼ける。

 

 ……揚げてみるか。

 ワッフルの生地なら、ドーナツの代わりに揚げてもいいんじゃないか?

 同じようなものだ。

 どうせホットケーキミックスから作った生地だしな、これ。

 

 そっとコンセントに繋いだフライヤーを予熱。

 油はかなり少なめでいけそうだ。

 油が沸騰し始めたら、静かに円盤状になるようにワッフルの生地を流し込む。

 広がれ……。

 手首を使って生地を落としたほうが良かっただろうか。

 邪悪なもちもちドーナツみたいな形になってしまった。

 

 まあいいか。

 ここまで特に変化なし。

 揚げたものがフライドポテトに化けるのかと思っていたが、そういうわけでもなさそうだ。

 

 歪な形になってしまったが揚げたてのドーナツ。

 美味いはずだ。

 では実食。

 

 はむっ……。

 塩っ!

 はむっ……。

 じゃがいも!

 

 フライドポテト味になってるじゃねーか!

 ドーナツのもっちりとした食感とミスマッチすぎる!

 というかめちゃくちゃ油吸ってる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がフライドポテトを揚げていた。

 それもわざわざ台所でじゃがいもを細かく切り分けて、だ。

 バカな……そんな素直にガチャの景品を使うなんて……。 

 

 これならどんな下手くそでもフライドポテトを美味しく作れる?

 その使い方は思いつかなかった。



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SR ビーチチェア

 ビーチチェア。主に海やプールサイドで利用される、寝転がって使用するタイプの椅子である。

 主に水場で利用するために座面が乾きやすい布や、濡れても問題ないプラスチックのような素材で出来ている。

 海やプールの店舗側で設置してある場合は完全な固定式のものが配置されているが、個人で購入できるものは持ち運びしやすいように折り畳めるようになっていることが多い。

 通常、日差しを避けるためのパラソルと飲み物を置くためのテーブルとがセットで運用される。

 

 今回はそのビーチチェアが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定というか、なんというか。

 兄の23層攻略は行き詰まっている。

 結局船で移動することを諦めて、固定拠点として島を改造する方向で行くようだ。

 飛行能力のある戦力がいくつかあるため、そのモンスター達を島に派遣して調査していく方向に切り替えたようなのだ。

 

 兄もサメのきぐるみを着込んで飛ぶことで島から島への移動をしている。

 自身の護衛のために飛行能力のあるサメ機人(シャークボーグ)を量産しなければならない。

 しかし生産コストが妙に高いらしく、実際に量産されたのは空飛ぶホオジロザメだ。

 あれならサメ機人(シャークボーグ)から成分を搾り取るだけで作れるからな。

 

 兄もよくあんなのが飛んでる横を一緒になって飛べるね!?

 

 さてと、ガチャを回しておこう。

 ろくでもないものが出ませんように……。

 

 SR・ビーチチェア

 

 出現したのは椅子だ。

 寝転がって使用するタイプの椅子で、主にプールサイドなどで置かれているものだ。

 座面は布張り……というかメッシュ生地が張られていて、これまた弾力に富んでいる。

 一方でフレームは完全に固定されており、折りたたんで運ぶなどの行為は不可能のように見える。

 

 とりあえず座ってみる……が、特に変化はない。

 身体を包み込むような包容力があるわけでも、座るのを拒絶してくるわけでもない。

 普通だ。

 固定式なのに座面が布、というのは珍しい組み合わせかもしれないが、そこまでだ。

 

 しかし、まあ実験室のうららかな陽気の中で、それなりにいい椅子であるこれに座っていると眠くなるな。

 小説でも読むか……。

 

 

 

 

 

 

 

 私は、()()()()()()()()

 そう、私が今確かにいるこの場所は夢の中だ。

 

 眠りにつく前までに読んでいた小説の舞台であるイギリスの都市の中、カフェテリアの椅子で目を覚ました私は、ここが夢の中であると理解した。

 結局あの後小説の読みかけのまま寝落ちしたのだが、その瞬間にここで目を覚ましたのだ。

 

 いや、夢の中だから目を覚ましたという表現は不適当か?

 まあいいか。

 夢の中だと自覚していることと、夢の中なのに意識がはっきりしていること、このことがわかればいい。

 

 視界の先に古い英国式の町並みが広がっており、その建物のあちこちに歯車がはみ出ている。

 眠る前に読んでいた小説の舞台の特徴だ。

 

 なるほど、あのビーチチェアは夢を見せる……のか。

 ふーむ。

 小説の舞台となっている場所に夢の中で行ける、というのはなかなか楽しい……のか?

 ちょっと観光がてら、探索してみるか。

 

 

 

 ……あちこち歩きまわってみたが、人っ子一人いなかった。

 マジ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が発掘ダンジョンの写真を眺めながらビーチチェアを使っていた。

 しかもそれで23層から先に進むための階段を夢の中で見つけ出し、実際にその位置に下層に降りるための階段があったのだ。

 

 夢の中では生き物が出現することはない。

 どういう理屈かはわからないが、何度か試した結果そう結論づけるしかなかったのだ。

 ということは、発掘ダンジョンの写真を使えば、安全にダンジョンの内部調査が行える。

 

 と考えたであろう兄は、あっさりと実行した。

 実際それで見つけているんだから相当である。

 夢の中だとしても、出来る移動手段は徒歩しか無いから結構面倒なはずだが。

 

 なに? 夢の中だと水の上を歩ける?

 うるせえ。



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R 台車

 台車。主に荷物を載せて運搬するための車輪がついた台である。

 取っ手がついていて手動で動かすものから、車のような物に引っ掛けて引っ張って運ぶもの、引越し業者が使う板に車輪がついているだけのものなど、様々なタイプが存在する。

 最近の台車は車輪が大きくなっており、より楽に動かせるようになっている。

 技術革新は人からあまり見えないところにも恩恵があるものだ。

 

 今回はその台車が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢の中での調査と、飛行隊による調査との組み合わせによって、兄は23層から先に進むための道を見つけ出した。

 夢の中とやはり同じ位置に下の層へと降りる階段があったのだ。

 しかしそれでは終わらない。

 

 まだ宝の地図の座標を調べていないのだ。

 夢の中に宝の地図を持ち込む事はできないため、夢の中から調べるには正確な情報を集められない。

 

 調査しようにも、今度は宝の地図自体に暗号が仕掛けられているらしく、その解読に時間を使っている。

 どうも、時間経過で島が移動して仕掛けが起動する作りのようだが……。

 力技で島を動かせるわけではないので謎を解くしか無い。

 

 何日かかるかな。

 何日おとなしくしてるかな。

 

 まあ兄のことは置いておいて。

 ガチャを回しておこう。

 

 R・台車

 

 出現したのは台車だった。

 一般的な取っ手がついているタイプの台車で、荷台の部分には緑色の滑り止めが貼られている。

 そしてやや小さめの車輪が若干古い作りであることを物語っている。

 

 台車かぁ。

 兄が荷台に乗って走り回った結果、車輪を破壊していた思い出しか無い。

 あとは倉庫から荷物を取り出すのに使っていたような気がする。

 ……あれ? 私の家には台車を使うような倉庫はなかったはずだが。

 記憶違いか?

 

 しかし、これはガチャから出てきた景品。

 まともに荷物を載せていいものだとは思えない。

 

 そう思って取っ手に手をかけた時だ。

 突如として台車が走り出す。

 それに速度に合わせて私の身体が浮かび上がったのだ。

 

 台車がものすごい速度で走り出したから身体が浮かび上がった、のではない。

 台車の速度に関わらず、すごい速度で走っているように見えるように身体が浮かび上がっているのである。

 事実台車の速度は自転車で走る程度の速度でしか無い。

 

 身体が浮かび上がって、速度を感じるような勢いの風を感じているのに台車はとろとろと前に進んでいる。

 それに取っ手をハンドルのように切ると自由自在に動かせるようだが、そんな余裕はない。

 

 これどうやって降りるんだ?

 片手を離すと台車は止まり、身体もゆっくりと降りていった。

 なるほど、両手で掴むと走り出すのかこれ……。

 

 台車としてどうなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が台車の荷台に体育座りしていた。

 その状態で台車は兄の命令を受けているかのようにゴーカート並みの速度で走っている。

 なんでそんな自由に操作できるのかもよくわからない。

 後から私も試してみたがそんなに上手く動かせなかったのだ。

 どういう方法を使ったんだ。

 

 あ、荷台に荷物を乗せると今度は台車は動かなくなった。

 台車としても使えないのかよ。



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R 財布

 財布。主に金銭を入れて携帯するために使われる容器や袋のことである。

 現在の財布の原型は紙幣の登場と共に出現した。

 紙幣は雑にポケットなどに入れていると紛失したり破損してしまうためそれを保護するために生まれたといえる。

 それまでは硬貨だったため普通の袋で良かったのだ。

 道具は必要に応じて生まれる。

 財布もまたその1つである。

 

 今回はその財布が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が宝の地図の解読に飽きたのか、ロボットの操縦の練習をしていた。

 サメ機人(シャークボーグ)からサメを抜き取った結果誕生したこのロボは、適当に扱っても自分のイメージ通りに操縦が可能である。

 しかしだからといってそれが役に立つとは限らない。

 このロボは拡張された人体でしか無く、それを扱うパイロットの能力が如実に現れてしまうためだ。

 

 基本的な動作でなら運動神経の良さが要求され、武器を振るうならば武器の習熟が要求される。

 操作して遊ぶだけならただでかいだけの金属のでくのぼうである。

 人がその大きさに拡張されたところで、結局の所出来ることはあまり変わらないのだ。

 

 だからこそ兄は今、その巨体で何かが出来ないかと試している。

 操作で引き出せる機能の幅を可能な限り増やそうとしている。

 

 まあやってると分かるがでかいだけならサメ機人(シャークボーグ)にやらせたほうが効率もいいし確実なのだ。

 もっと大きいのならばサメもどきをねじ込んだあのジャンクロボもいる。

 

 ロボットに乗っていて楽しいのはわかるが、実際にどうやって使うかとなると微妙なところだ。

 武器持たせてもサメ機人(シャークボーグ)のほうが強いしな……。

 

 まあどうでもいいか。

 ガチャを回して今日の分を片付けておこう。

 

 R・財布

 

 出現したのは、黒い革作りの財布だった。

 二つ折りの紳士物で、開閉がえらく硬い。

 おそらくは革が馴染んでいないのだろうか、全体的にカッチカチである。

 ポケットなどに入れた日には太ももが痛くなること間違いなしだ。

 

 財布を開いてみると小銭入れとお札を入れるところと、あと本来クレジットカードを入れるところの代わりに小銭入れが。

 はい。

 見開きで小銭入れが2つあります。

 なんだこれ……。

 何のためにそんな作りを。

 

 というか妙に硬いと思ったらこれで厚みがひどいことになっていたせいか。

 元々硬めの革が余計に分厚いせいでとても硬い。

 ポケットに入れれば太ももにダメージを与える程度に硬い。

 

 まあ、部屋に置いておくぶんには使えるか。

 とりあえず使えるか試して……小銭入れに投入した500円玉が消失した。

 

 は?

 右の小銭入れに入れた硬貨が財布に食われた。

 ガチャ費用として兄から横領したぶんの小銭ではあるが、ガチャの景品に食われるのはかなり癪である。

 

 うおお、どこにやったあ!

 と反対側の小銭入れを開けると、そこには25セント硬貨が5枚入っていた。

 うん?

 500円玉を投入する前には入っていなかったはずだが。

 

 嫌な予感がして、小銭入れに100円玉を投入。

 すると先程と同じく100円玉が消失し、反対側の小銭入れに25セント硬貨が出現した。

 

 ははは、もしかして両替する財布だって?

 

 その過程でだいぶ目減りしてるじゃねーか!

 1ドル400円とかふざけるなよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が発掘ダンジョン産の金貨を財布に投入した。

 これでドル通貨に変化してくれれば、ガチャから出てくるものの現金化が捗るのだがそうは問屋が降ろさない。

 出てきたのは見たこともない銀貨だった。

 若干いびつな形をしていて、鋳造で作られている事がわかる。

 しかしその造形はこれまで入手した謎の通貨と比べて通貨として共通点がない。

 ということはこれは新規の通貨ということだ。

 

 この財布は何と交換してるんだよホント!



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R パワーアシストジーパン

 ジーパン。染色したデニム生地によって作られたズボンのことだ。

 主な特徴としてリベットで補強されているため、縫い目にかかる負担をリベットが防ぐ事ができる。

 アメリカのゴールドラッシュの時期に丈夫な作業着として販売され、鉱夫を中心に広まっていった。

 ゴールドラッシュが終了した後も優れたデザインから普段着として普及したためか、ゴールドラッシュ時期のジーンズは非常に高額なプレミアがついている。

 

 今回はそのジーパンが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がロボットの慣熟を終えたのか、凄まじいステップを刻んでいた。

 フットワークが鋭すぎて私の目には初動が追えない。

 殆ど瞬間移動みたいな動きをしているのだ。

 

 確かにその予兆はあった。

 あまりにもスムーズに操作出来るため、自分の身体の延長線上でしか操縦出来ていなかったのだ。

 しかしロボットはロボットで、私や兄の身体ではない。

 根本的にポテンシャルが違うのだ。

 

 すなわち、人の限界を超えた動作が可能。

 まあ出来るからってそれはサメ機人(シャークボーグ)にも出来ることだから結局サメ機人(シャークボーグ)にやらせたほうが優れているのだが……。

 

 出来るからって役に立つとは限らないあたり微妙なところだ。

 出来ると楽しいので私もちょっと練習してみようかな……。

 

 兄がやった後思いっきり酔って吐いていたのでやめておくことにした。

 

 さてガチャを済ませておこう。

 ろくなものが出ない……ろくなものが出ない……。

 

 R・パワーアシストジーパン

 

 出現したのはジーパンだった。

 一般的なものと比べるとリベットがでかく、目立つ。

 それに縫製自体もかなり分厚く大きく重ね縫いされており、強度を重視して作られていることが見て取れる。

 

 というか生地自体も2倍ぐらい分厚い。

 頑丈すぎてズボンだけで立つ。

 何のためにこんなガッチガチに……?

 あと頑丈すぎてポケットが開かない。

 

 とりあえず履いてみる……か?

 ズボンである以上、履けばなにかわかるかもしれない。

 パワーアシストって書いてある以上、そういう機能があると考えられるが……。

 

 そう思ってズボンを履きにかかる。

 硬い関係でひどく時間がかかる。

 曲がりはするが、足に沿って柔らかく動くといったことがない為にあちこちで足が引っかかる。

 それに無理に曲げようとするとかなり力がいる。

 突っ張った足でそれをするのはかなり疲れてしまう。

 

 そうやって苦労しながらなんとかジーパンを履く。

 硬いせいで動かすのにも一苦労……うおっ。

 

 立ち上がった瞬間、足に異常なほど力がかかっているのを感じた。

 それのせいで両足がプルプルするのだ。

 一歩一歩、歩くだけで破壊的な力がかかり、実験室の地面に強烈に足跡を残していく。

 しかし足に痛みはない。

 本当に足の力をアシストしているだけのようだ。

 そのせいでまったく制御が利いていないが。

 

 物は試しに、と兄が植林している畑の木に向かって、回し蹴りを放ってみた。

 ゴウ、と貧弱な私が放ったとは思えない風切り音と共に木にぶち当たり、音もなく木を粉砕、へし折ってしまった。

 

 えっ、そんなパワー出るのこれ。

 というか使ってて大丈夫なやつなのこれ。

 破壊的すぎるくせに、まともに歩くのもままならない。

 

 どうやって使えばいいんだこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が金属バットにパワーアシストジーパンを巻きつけた。

 一言で言えば、内側で生じる力を強化してアシストするジーパンだったために、棍棒のような物に巻きつけて振り回しても破壊力は跳ね上がった。

 履いたときに足がプルプルするのは、不随意運動を強化してしまったために暴走したから。

 ならばそういう要素の無い物に使えば問題は起こらない、と。 

 

 なんでそんな使い方を思いつくんだ、兄……。



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UR 惑星ガチャ

 ガチャ。主にカプセルトイを自動販売する装置とその機構を指す言葉である。

 内部機構の関係上、カプセルは球形かそれに準ずる形状が求められる。

 近年は景品そのものをカプセルの形状に変形させることでその景品のカプセル径を最大にしようという試みも行われている。

 カプセルそのものが景品ならばカプセルの大きさまで景品に使える、という発想である。

 事実その試みは上手く行っていると言える。大きなカプセルのサイズそのものから変形させるために、カプセルよりも大きな景品を排出できるからだ。

 

 今回は、ガチャが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日は、嫌な予感がして朝早くに目覚めた。

 それが何かはわからない。

 兄に散々振り回された結果、私の直感はかなり優れたものになってしまっている自負はあるが、それがどのような結果をもたらすのかまでは予想がつかないのだ。

 そしてそれがどこで起こるかもわからない関係で私に降りかかる危機を回避出来たこともない。

 

 だからこの直感で以て私に出来ることは覚悟することだけだ。

 これから新しいろくでもないことに出会うという覚悟。

 それに私の心情が揺るがされないように堪える覚悟。

 傍若無人を寛大な心で許す覚悟。

 その後全力で以て兄を〆る覚悟。

 

 人一人に出来ることなどたかが知れている。

 良くないことが起こるとわかっていても、本質的に何かが出来るわけではないのだ。

 ……まあ、覚悟ができる分、精神面にダメージが行かないように出来るから私はある意味タフ、かもしれない。

 

 と、そんなふうに一日中警戒していたわけだが、結局夕方になるまで何かが起こることはなかった。

 ということは、こいつかぁ。

 こいつが何かをやらかすのかぁ。

 目の前のガチャ筐体を恨めしい目で見つめるが、異常性があるとはいえただの無機物。

 なにかの反応を返してくるわけではない。

 

 回すかぁ。

 やだなぁ、こういうとき絶対ヤバいもの出てくるんだよなぁ。

 

 ヒヒイロカネの鉄板をコイン代わりに投入。

 回して出てきたのは虹色に光り輝くカプセルだ。

 虹色に光を反射するキラキラとしたカプセルに、ギラギラと虹色に光を放つURの文字が刻まれたあのカプセル。

 あのログハウスを粉砕した高額ガチャが出現したときと同じカプセルだった。

 

 うわぁ。

 私は、実験室のウッドデッキで開けることすら危険ではないかとすら思ってしまう。

 あのときは部屋で開けるのは危険だと感じたが、今回はもっとヤバいというか、空間が必要であると感じるのだ。

 

 というわけで実験室内の比較的開けた場所で開封してみるとする。

 

 UR・惑星ガチャ

 

 それは、まさしく塔だった。

 出現したのは超巨大なガチャポン筐体だ。

 灯台のような太い本体と、その上に載せられた本体の倍以上ある球形のカプセルケース。

 そしてその中に納められた()()

 ガチャの中のカプセルのように、惑星に似た何かが筐体の中にごろごろと入っているのだ。

 1つ1つが少なくとも2メートルはありそうである。

 

 は……?

 でかすぎる。

 あまりにでかすぎるガチャの出現に私は呆然とする。

 で、でかすぎる!

 なんだこれ、オブジェか!?

 

 しかも電光掲示板みたいな物がついていてそこに「一回無料!」とか流れている。

 やめろォ! それどうせ回さないと強制的に回させるやつだろ!

 

 そう思った途端、エンジンの始動音のような、冷蔵庫の唸り声のような、なんとも形容しがたい音を筐体が立て始めた。

 何かが温まるのを待つかのようにその音は非常にゆっくりと高音になっていく。

 

 それとともに筐体につけられたハンドルが重々しい歯車の音と共に回り始める。

 中のカプセルとして入れられた惑星が撹拌され、その順序を入れ替えながらその排出を決定していく。

 ガコン、と大きな音を立て、排出口から巨大な惑星カプセルが吐き出され、私の前にまで転がってきた。

 

 それは私の前で静止したから良かったものの、2メートルはある地球のような惑星の塊だ。

 内容を精査するまでもなく、邪魔である。

 

 なにより、けたたましい音を立てて電光掲示板に書かれていることが非常に煩わしいのだ。

 

 SSR・地球型惑星

 

 排出されたこれがそれだとでもいうのか。

 極めて高度な塗装が施されているのか、それの表面が電気的に変化しているのかわからないが、実際の地球の表面と同じように雲が対流している様子が見て取れるこれがそうだというのか。

 

 5分ほどいじくり回してみたが、見た目が地球っぽいだけでただの岩だったので放置することにした。

 

 出現したガチャ共々ものすごい邪魔だけど、まあオブジェぐらいにはなるか。

 日本科学未来館に飾ってあるやつみたいなもんだし!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。朝のニュースで、地球と火星の間に新しい惑星が発見されたと発表されていた。

 その惑星は、地球と同様に一つの衛星をもち、完全な生物の生育環境を備えた惑星であり、宇宙望遠鏡による光学観測の結果、()()()()()()()()()()()()()()()()

 それどころか、何らかの知的生命体が存在する可能性すら示唆されている。

 

 なぜそんな天体が今まで見つからなかったか、と言われると。

 それは突如出現したとしか言いようがないからだった。

 突然肉眼で見える範囲に明るく輝く星が出現。

 あまりにありえない現象が起こったために、天文学者達が総出で徹夜の調査を行った結果、突然出現したという結論に至るしかなかったという。

 

 あっ、その時間私があの惑星ガチャ引いた時間じゃん……。



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R 太るもと

 調味料。料理の調味に使用される材料である。

 人類が味覚の快楽のために追求し、今も新たな調味料が誕生して続けているものだ。

 その性質上、向き不向きはあれど食べられるならなんでも調味料に加工できると言ってもいい。

 鮭だって砕けばフレークとして調味料に出来る。

 ただ、それ専用に加工された調味料は、それ故に味の想像がつきやすく、調整が利きやすい。

 砂糖、塩、味噌、醤油、酢を聞いて味を想像できない日本人はいないはずだ。

 それ故、どれをどれだけ入れればどのように味が変化するのかイメージ出来る、はずだ。

 

 今回は、その調味料が出てきた話だ。

 まあろくなものではなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球と火星の間に新しい惑星が出現して、今世界は混乱の中にいる。

 

 1つは、その新しい惑星が地球に落ちてくるのではないか、という疑念だ。

 太陽系のダイナミクスは極めて繊細なバランスで成り立っており、巨大な天体が突如出現したとなると素人考えの上ではそれが崩れてしまう。

 しかしその徴候もなく、学者の計算では実際に仮に地球に衝突するにしても数千年から数万年は先になると発表された。

 まあ、生きているうちには関係ない話だが。

 

 2つ目は、どうやって調査をするのか、で揉めている。

 というのも衛星の打ち上げなどは予算が限られていおり、10年単位で計画を立てるため、突如出現した惑星を調査せよといきなり言われてもそんな予算も、計画も、人員も存在しないのだ。

 実際調査衛星を打ち上げられるのはいつになることやら。

 案外大国が金に物を言わせてすぐ調査に出すかもしれないが。

 

 3つ目は……完全に国際政治なのだが、某国がいきなりあの星の土地は我が領土であるとか言い出したことだ。

 宇宙条約で宇宙は誰の国のものでもないと定められているので完全に戯言である。

 

 というか、所有権があるならあの星は私の土地なのでは?

 いや、手の届かない位置にある土地とかいらんけども。

 

 ガチャを済ませておこう。

 

 R・太るもと

 

 出現したのは白い粉が入った調味料の瓶だった。

 瓶の側面に貼られたラベルには「太るもと!」と書かれており、その内容物に対してひどい不安を覚えさせられる。

 

 それに煽り文句が「暴力的なカロリーを!」だ。

 ひどい。

 ひどすぎる。

 使わせる気があるのかわからないレベルでひどい。

 ヘルシーブームはもはやブームと呼べないレベルで定着しているのになぜそれに逆行するような凶悪な煽り文句をつけているんだ。

 というか調味料のカロリーってなんだ。

 

 そう思って手に取り、ラベルの裏を見る。

 そこには、かけることでその食べ物のカロリーを増大させる、と書かれていた。

 というか材料欄にかかれているのが「カロリー」なんだが。

 概念でも抽出したのか?

 

 蓋を開けて匂いを嗅ぐと強烈に食欲が増す。

 一言で言えば異常。

 強烈に腹が減る匂いだ。

 ある種深夜に作ったアブラマシマシラーメンの匂いに近い。

 

 嗅覚だけで、この調味料は絶対に美味いと理解させられてしまう。

 これはヤバい。

 手を出していい調味料ではない。

 

 厳重に封印しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。3キロ太った。

 違うのだ、我慢できなくなったとかそういうのじゃなくて、試さずにはいられなかったと言うか。

 太るもとは振りかけた食品のカロリーを倍増させ、結果旨味がものすごいことになってしまう恐ろしい調味料で。

 それどころか、調味料自体もカロリーの塊で、カロリーイコール美味い、を体現しているのだ。

 

 というかまさか兄が黙って持ち出して、昼食に使ってくるとは思わなかったんだよ!

 味の魅力が暴力的すぎる!

 深夜のラーメンか!



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R タイヤ

 タイヤ。乗り物や手押し車など、何らかの物を地面に平行に移動する際に楽に扱えるように人類が作り出したものである。

 性質上、地面に接地している部分にはタイヤが必要になるため、ほぼ同じ大きさ、形状のものを作成する技術が求められる。

 また、さらに地面の凹凸をもろに受けるため、それを緩和する試みが人類の歴史上、何度も試行錯誤されてきた。

 

 今回はタイヤが出た話だ。

 タイヤだけ出てもどうしようもないって?

 まあはい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3キロ落とすのに大変苦労した。

 太るもとは兄が勢いで使い切ったため、これ以上肥えることはないが、一度ついた肉はそうそう落ちない。

 普通に生活しているぶんには体を維持する程度にしか食べ物を必要とせず、またその逆も然り。

 痩せるということは、体を維持するエネルギーよりも少ない食料摂取しかなく、それを行うには結局のところ2つしか無い。

 

 1つは食べる量を減らすことだ。

 シンプルでわかりやすい。維持するエネルギーよりも入ってくるエネルギーのほうが少なければ体内にあるエネルギー、つまり肉を使うしか無い。

 最も、身体がガタガタになるからやめたほうがいいが。

 

 もう1つは、体を動かして、維持に必要なエネルギーを引き上げることだ。

 運動量を増やせばそれだけエネルギーを必要とする。シンプルなことだ。

 問題は元々の身体の維持に使われているエネルギー自体が相当に大きいため、結構な量の運動をしなければならないことだ。

 

 日課にマラソンを加えてなんとか減らせた。

 ダイエットはもう二度とやりたくねえ。

 

 さて、ガチャをさっさとしてしまおう。

 あんまりガチャのこと考えたくねえ。

 

 R・タイヤ

 

 出現したのは、タイヤだった。

 乗用車用のあのゴムタイヤだ。

 銀の金属色のホイールに、黒いゴムがはまっている。

 

 横倒しの状態で出現したそれは、回っていた。

 ゴムが回転を止めているのか、時計の秒針ほどの速度でしか無いが、なんの外力も受けずに回転を続けている。

 

 直球で変なやつが来たな……。

 私は思わず呻く。

 

 回っている以上、手で触れたり持ち上げたりするとこれは即走り出してしまうだろう。

 さりとてここはテラス。

 私の憩いの場で、そんな場所にこれを置きっぱなしにはしたくない。

 というかすごい勢いで擦れて唸ってるし。

 

 うおおお、触りたくねぇぇぇ……。

 

 そうか。

 兄にやらせよう。

 こいつの変なところはどうせ勝手に回るだけだろうしな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機人(シャークボーグ)にタイヤを移動させようとした結果。

 サメ機人(シャークボーグ)がねじ切れた。

 がっしりと両手で押さえ込んで持ち上げようとしたところ、反動で両腕がねじ切れたのだ。

 それだけで済めばよかったのだが、腕の配線や骨格の残りが身体を強引に牽引。

 そのまま胴体まで破断させた。

 

 恐ろしい回転力……。

 サメ機人(シャークボーグ)がすごい力で押さえ込んだ為に起こった悲劇ではある。

 人間がやってもおそらくは手が滑るだけのオチになる。

 良くも悪くもサメ機人(シャークボーグ)の性能は人間の数十倍近い。

 

 なおタイヤは持ち上げた瞬間に縦向きになった結果、地平線の彼方にへと走り出して帰ってくることはなかった。

 グッバイホイール。

 戻ってくると兄が悪用を考えそうだからもう帰ってこないでくれ。



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SR ファンタジーなクリスタル

 クリスタル。いわゆる水晶や結晶の構造を持つ鉱石を指す言葉だ。

 透き通ったその見た目から、ファンタジーなどでは特別な力を持つアイテムとして登場することが多い。

 例えば強い魔力を持つエネルギー資源であったり、世界の環境を司る神のような存在であったり、ダンジョンの仕掛けを解く鍵だったりする。

 特に国産大作RPGでは必ずクリスタルが登場し、その存在が重要視……重要視? されている。

 少なくともドット絵だったときは重要な存在だったはず。

 それ以降は世界観がSFの方に寄っていった関係上目立った存在ではなくなったような気がする。

 

 今回はそのクリスタルが出てきた話だ。

 すでにセーブポイントがあるのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば、兄が宝の地図の読解に成功した。

 どうも時間と座標が大事だったらしく、23層の特定地点に移動してその場に10時間ほど地図を放置すると、地図が完全な形に変化したそうだ。

 地図の指し示す地点には別のダンジョンが存在していた。

 兄は今それの攻略のために準備を行っている。

 

 というかダンジョンの中にダンジョンがあるってどういうことなんだろうか。

 無駄に広いからそういうこともある、ということだろうか。

 

 それとも、この階層自体別のどこかからコピーでもするかのように写し取って移植している、ということだろうか。

 

 ノーライフキングのリチャードさんに聞いても、話していることの内容が要領を得ない。

 本当に自分の事や自分の立場の事になると話があやふやになる人である。

 

 まあどうせ永遠にわかりはしない問題に頭を悩ませていてもしょうがない。

 いつもどおりに終わらせられることから終わらせていこう。

 

 というわけでガチャを回す。

 どうせまともなものは出ない。

 諦めが大事……諦めが……。

 

 SR・ファンタジーなクリスタル

 

 出現したのは青く透き通った光を放つクリスタルだった。

 大きさは2mほどの細長い形をしていて、よく磨かれているのかその表面は艷やかだ。

 そしてそれは重力に逆らい宙に浮かび上がっている。

 膨大な力を蓄えていると言わんばかりに、内側から柔らかな光が溢れ出し、周囲を青く照らしている。

 

 コレに比べると、横に並んでいるセーブポイントが模造品に見えてくる程に、一目で感じられる存在感が違いすぎる。

 ……いや、違うな。コレを目指して作られたのがセーブポイントなのか?

 まあ、同じ世界観のものかどうかも怪しいし、考えるだけ無駄か。

 

 それにしても出現した位置が微妙に悪い。

 ちょっとずらすか。

 そう思ってクリスタルに触れた瞬間だ。

 

 脳裏に声が響く。

 

 >ジョブ:戦士が開放されました。

 >ジョブ:魔法使いが開放されました。

 >ジョブ:盗賊が開放されました。

 >ジョブ:僧侶が開放されました。

 

 うんっ!?

 あ、そういうクリスタルなのこれ!?

 というかその職業(ジョブ)は別の作品じゃない?

 いやアレだと断定していいものかどうかも疑わしいけどさぁ!

 

 というか開放されたジョブどうやって使うんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄は、サメ機人(シャークボーグ)を転職させた。

 サメ機人(シャークボーグ)にクリスタルを触れさせることによって職業を開放し、ダンジョンの設定からサメ機人(シャークボーグ)達の職業設定を変更したのだ。

 

 まさか、ただでさえ強いサメ機人(シャークボーグ)を全部戦士に転職させるとは。

 いくらなんでも脳筋がすぎる。

 スパルタか。

 サメ機人(シャークボーグ)はスパルタみたいなもんだったか。



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R うろつき戦車

 戦車。武器を搭載し戦闘を行う車両のことである。

 詳しい定義は他に譲るが、とにかく大砲を積んだ車だと思ってもらえればいい。

 基本的に装甲で固められ無限軌道で移動する乗り物である。

 現代の戦車は陸戦の王者であり、地上に於いて勝てるものは存在しない。

 

 今回はその戦車が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がめんどくさくなったのか、ダンジョンを爆破した。

 23層で発見した宝の地図に書かれた座標にあったダンジョンは複雑な迷宮のような作りだったのだ。

 最初は乗り込んで探索していたのだが、あまりに複雑……というか折返しばかりの構造に怒りを覚えたのか、壁を爆破しだしたのだ。

 

 すでに爆破に最適な魔法陣は開発済み。

 それをひたすらプリンターで印刷して投げ続けることでダンジョンの壁を爆発の衝撃で削り取っていく。

 

 発掘ダンジョンの壁ならいざ知らず、ただの遺跡のようなものでしかない宝の地図ダンジョンはそれでどんどん原型を無くしていった。

 瓦礫を搬出するサメ機人(シャークボーグ)の姿も相まって、完全に爆破解体の作業現場である。

 

 いやあ別にどうでもいい場所だから私は何も言わないけどさぁ。

 仮にも遺跡のように見える建物を爆破するのどうかと思うよ?

 

 さて。ガチャでも回しておくか。

 余計なものを片付けてしまおう。

 

 R・うろつき戦車

 

 出現したのは、生足だった。

 いや正確に言えば生体部品の太い足だ。

 その証拠に、足が灰色に塗装されており、人の足というよりかは触手のようなものに似ている。

 内部に骨のようなものが入っているのか、触手のように自由に動くわけではないようだが。

 

 そして、その生足2本の上に、砲塔がついている。

 戦車の大砲を装備する部分のパーツのことだ。

 それが砲塔だと言わんばかりに、なにやら長い砲がついている。

 

 ようは戦車のキャタピラの代わりに足が生えているものが出現したのだ。

 何だこれは。

 高さは2mもない感じで、砲塔全体の大きさもかなり縮小されているように見える。

 

 なんだ……なんだこれ……?

 

 意識があるのか、そうプログラミングされているのかはわからないが、その2本の足をうねらせるように回転させて自身の調子を確認している。

 ……動作が画一的だから多分プログラムだな。

 

 で、あれはそもそもなんなんだ。

 うろつき戦車とか書かれているが、戦車……戦車? 車の概念が壊れる。

 と言うか乗れるのか?

 

 そう考えていると、うろつき戦車が身体を低くして、まるで乗れと言わんばかりに待機する体勢になっていた。

 いや乗らないからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が乗って振り落とされていた。

 どうにも、セキュリティとして所有者以外が乗ると振り落とすような作りになっているようで、兄は所有者ではないと判断されたようなのだ。

 へっぽこな見た目と動きをしていても兵器らしく、使用権限は厳密に取られているようだ。

 

 その後?

 兄に言われて私が乗ったら振り落とされただけですけど。

 じゃあだれが所有者なんだよこれ。



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R 鎖

 鎖。金属の輪をつなげて作成された紐状の物のことである。

 糸を撚りあげて作り上げる綱と比べて、金属でできているぶん強度が優れている反面、重量は金属である通り非常に重い。

 またその無骨で物々しい見た目から、創作上では武器として使用される。

 主に鞭の代わりに振るったり、まるでしっぽのように自由に操ったりして、先端につけられた鏃や分銅を相手にぶつけたりする。

 

 今回はその鎖が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がついに宝の地図のダンジョンから宝箱を略奪してきた。

 これがまたバカでかいサイズの金庫で、しかも鍵がかかっていて開けられないのだ。

 どうにもダンジョン内に宝箱の鍵があったようなのだが、爆破の過程で破壊してしまったようなのだ。

 それらしいパズルの組み込まれた石版が砕けていたので多分これが関係していたはずなのだが。

 

 兄はサメ機人(シャークボーグ)にこれを担がせて実験室にまで持ち帰ってきていた。

 もうなにをしようかだいたい予測がつく。

 

 案の定グラインダーを取り出して金庫の扉を切断しにかかっていた。

 それもサメ機人(シャークボーグ)に扱わせることで正確に扉の鍵部分を破壊させていくのだ。

 

 ダンジョンのお約束に明後日の方向から蹴りを入れていくの本当に上手いな兄よ。

 そういうと兄は照れくさそうにしていた。

 別に褒めていない。

 

 さてガチャを回しておこう。

 こういうときって金庫が出て紛らわしくなったりするんだよな……。

 

 R・鎖

 

 出現したのは鎖だった。

 大きめの鎖素子が連なって出来ている鎖で、軽く持ち上げただけでも相当な重量がありそうに見える。

 あとメッキも何もされていないためにひどく鉄臭い。

 

 あと……それと。

 もう目に見えてイヤなのだが、鎖が浮いている。

 何かを参照して動いているように、空中で身じろぎするような動きをしているのだ。

 

 ええ……こわ。

 すでに空中に浮いているのもわからないし、なぜかそれで動いているのもわからない。

 

 しかし、ここに放置するわけにも行かず、試さないわけにもいかない。

 例によって機能を把握していないと兄がヤバい使い方を見つけてろくな目に遭わない。

 予習と対策は大事である。

 

 そう思って、鎖に触れた。

 その途端、鎖は私の意思に感応するがの如くぐにゃりと曲がったのだ。

 

 私の意思に従ってうねうねと動く鎖。

 面白いほどイメージに簡単に追従して来る。

 

 まるで創作の鎖使いのように、好き放題に鎖を動かせるために楽しくなってくる。

 ……が、これをまともに使おうってのは実際無理だろうな。

 

 だってさ……長さが60センチメートルしか無いんだぜ、これ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が壁や崖を登る道具にした。

 空中に固定できるってことは、つまり壁にも固定できるってことだろ? と言わんばかりに、握りとなる木材を端の金属にねじ込み、尺取虫の如く鎖をうねらせて伸ばしたり縮めたりすることで、垂直な壁をほぼ自動で登っていけるようにしたのだ。

 たしかに空中で動きを止められ、鎖なので身体を支えるのに十分な強度があるとは言え。

 60センチしかない鎖を使って壁を登ろうという発想は、頭がおかしいとしか言いようがない。

 

 命知らずかよ、兄……。



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R 心臓

 心臓。生物の中心に位置し、全身に血液を送り出す内臓である。

 筋肉の塊であり、入ってきた血液を筋力で圧力をかけることで押し出す構造となっている。

 生命の源と言ってもいい器官であり、それが故に古代では人の魂が宿る部分だと考えられてきた。

 そのため、生贄の儀式などで取り出されて神に捧げられる、愛や慈悲の精神の象徴として扱われるなど、宗教においても重要な位置に位置づけられる。

 

 今回はその心臓が出てきた話だ。

 こ、怖い……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が宝の金庫の破壊に成功した。

 サメ機人(シャークボーグ)がほとんど力技でこじ開けたその金庫の中には、まばゆいばかりの金貨銀貨の山と、宝石の類が大量に入っていた。

 

 金貨はいつもの発掘ダンジョンから見つかるものと同じものだが、銀貨も一緒に出てきたのは初めてである。

 金貨も銀貨も、鋳造で作られたであろう微妙に荒い造形に歪んだフォルムを持っている。

 そういう意味では昔の通貨だろうか、という印象も浮かぶ。

 

 宝石の類はこれがまた見事なカットのものがゴロゴロと入れられており、それにあった宝飾品に嵌められている。

 惜しむらくはこれがおそらく中世とかそういう印象を受ける作りだということだろうか。

 外に持ち出せば即骨董品としての評価を受けてしまう。

 出自が出自なだけに、出処を言えない。

 

 あとは……ヤバそうな武器とか、聖杯にしか見えないカップとか……。

 この辺はまた今度にしよう。

 

 先に今日のガチャを回しておこう。

 

 R・心臓

 

 出現した瞬間、それは自力で浮かび上がった。

 宙に浮いたまま、脈動を続けている。

 ドクン、ドクン、と近づかなくてもわかるほどにはっきりと音を立てているのだ。

 

 そう、それは心臓だった。

 人体から取り出されたまま、というものではなく、ある程度大雑把にデフォルメされた心臓ではある。

 だが内臓は内臓だ。

 それが宙に浮いて、しかも人から切り離されてなお動き続けている。

 何を循環させているのかもわからない。

 血管は何にもつながっておらず、そこから出るものも流れるものもなにもない。

 

 怖い!

 あまりの得体のしれなさに変な声が出そうになった。

 これまで得体のしれないものはいくらでも出てきたが、今回は別格だと言わざるを得ない。

 

 薄らぼんやりと赤い光をまとっているような気すらしてくるその赤い臓器は心拍に合わせてゆらゆらと揺れているのだ。

 それがそこにある、というだけで正直なところ恐怖を覚える。

 

 兄ぃ! なんとかして!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、と言わず。引いてすぐ兄を呼びつけて対処してもらった。

 その際、おかしなことが起こったのだが、なんとあの兄が及び腰になったのだ。

 あの命知らずな兄が、宙に浮く心臓に恐怖を覚えたのだ。

 兄もそれがありえないことだと思ったようで、すぐに耳栓を持ち出して自身の耳を塞いだのだ。

 いきなりそんな奇行をしたと思ったら、その直後に兄は動き出し二重にしたビニール袋に雑に心臓を入れて口を縛った。

 

 兄曰く、見ているものに恐怖を覚えさせる音を放つ心臓、だってよ。

 

 ……。

 心臓である必要が全くわからない。



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金庫の中身

 創作において、海賊は宝を溜め込むものだと相場が決まっている。

 それは宝を溜め込むことが出来る程の力を持つ強大な海賊が敵方や過去の偉人として登場するためであり、そうでない海賊は十把一絡げにやられるだけのモブに過ぎない。

 そしてそうした宝を溜め込む海賊は、必ず決まった場所に、罠や試練とともに宝を隠すのだ。

 それを得るにふさわしいものか試しているのか、単に宝を奪わせないための仕掛けなのか。

 いずれにせよ、物語を盛り上げるために罠と宝は用意される。

 出た以上は暴かれ、宝は誰かの手に収まるのだ。

 

 今回は宝の地図の座標にあった宝を検分する話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 改めて、金庫から出てきた金貨を見比べているとどうも違う絵柄のものが混ざっていることに気がつく。

 女性の横顔が描かれたものがほとんどだが、一部にはいかつい男の人が掘られているもの、またなんらかの家紋のようなものが造形されているものなど、同じ国で作られたとは想像し難いものが混ざっている。

 

 そう思いながらドラゴンの絵柄が描かれた金貨を手の中でもてあそぶ。

 これ両替とか利くんだろうか。

 というか、そもそも利用出来るだろうか。

 大きさもそんなに違わないし、金としての価値はそんなに差がないように思う。

 

 コインを弾き、後ろの箱へと飛ばす。

 直後、弾いたコインが爆発を起こした。

 百均のクラッカー程度の爆発だが、私の心臓を驚かすには十分な威力。

 そ、そういうのも混ざっているのか……。

 

 金貨の他に宝飾品に刀剣類と、見るからに金になりそうなものばかりが山積みとなっている。

 刀剣類よりは宝飾品が多いあたり、奪いやすい物を優先して集めたように見える。

 

 宝飾品が傷つかないように、ふわふわの材質が貼られた宝石箱に納めていく。

 まあ……最悪なんかあったときに……金に出来るから……。

 面倒事を呼び込みそうだが背に腹は代えられない時があるかもしれないから……。

 そう思いながら。

 ろくでもない効果が付与されてなければいいが。

 

 刀剣類はまとめて兄の倉庫に。

 どうせ使うだろう。

 

 と……目につく奴以外を片付けていったのだが。

 やっぱこれだよなぁ。

 一番目につく、そしていかにもヤバそうな代物。

 

 金で作られた器だ。

 いわゆる盃と呼ばれる、足が長い器である。

 酒を入れて飲むにはいささかでかすぎる節はある。

 運ぶのに私が両手で抱える必要があるほどの大きさがあるのだ。

 加えて、もう存在感がすごいのだ。

 中央にはめ込まれた赤い宝石がなにかの魔力を溜めているかのように怪しく輝き、その光を受けて金の盃がなにかを帯びてその色鮮やかさを強調している。

 

 それに、それにだ。

 その器の中には、得体のしれない液体が並々と満たされており、それは時折静かに波紋を広げるのだ。

 恐ろしいことに、ここまで金庫ごと爆撃を受けて、サメ機人(シャークボーグ)に乱雑に運ばれてきたはずなのにその中身は一滴足りともこぼれた形跡がない。

 

 ともすれば、だ。

 この中身は何があってもこぼれないのか、それとも逆に私が見てから器の内側に湧き出したのか。

 何れにせよ、恐ろしい液体である。

 中身の正体を確かめておかないことには、危険だと言わざるを得ない。

 

 そう思って、杯を持ち上げて運び出そうとしたときだ。

 足元にあった刀剣類を入れた箱に躓いて、思いっきり杯の中身を、地面にぶちまけてしまった。

 

 や、やってしまった……。

 私がかぶらなかっただけマシ、だと言っておくしか無い程度に見事にぶちまけてしまった。

 その結果地面がキラキラと光り輝いている。

 まるでなにかその土が力でも得たみたいに、だ。

 

 それで終わればよかったのだが、私が呆然と見ているうちに、その土からにょきにょきとなにかの植物の新芽が生え、ありえない速度で生育し始めたのだ。

 互いに絡まり合い、より大きな植物にへと変貌していく。

 

 おお、おお……。

 私の目の前で新たな植物が芽吹いたと思ったら、あっという間に大木に変わった……。

 もしかして、この杯の液体はこう……。

 生命の原液、的な……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が久々に呼び出したサメもどきに、杯の中身の液体を飲ませていた。

 それがどうなったかというと、恐ろしいほどの苦しみを感じているのか激しくのたうち、さらには全身からバキバキ、と激しい音を立てながらその形を変化させていったのだ。

 めったに声をあげないサメもどきが悲鳴をあげながら変化していった先にいたのは。

 サメ頭にサメ肌の……ゴリラ?

 丸太のように太い両腕を持った怪生物だった。

 

 それを見た兄はゲラゲラ笑ってるし、こいつほんま最悪だな、との思いを強くするのだった。

 あ、勢い余って兄がサメゴリラに殴られた。



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R お菓子のおまけ

 お菓子のおまけ。ある種の駄菓子には、小さな玩具がおまけとしてつけられている場合がある。

 多くはプラスチックか木製の小さな駒のようなものだが、時折変わったものを封入することがある。

 季節ごとに中身を変えることで新たな客を呼び込むことで売上を上げようというマーケティングによるものだが、ある日突然SNS上で奇妙なバズり方をした玩具も存在する。

 正直あのバズり方は……なんだったんだろう。

 持ってる持ってないで妙なマウントの取り合いが発生していた。

 

 今回はそのお菓子のおまけが出てきた話である。

 完全に外れでは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの生命の原液的なやつがはいった器は、最終的にサメ機人(シャークボーグ)の燃料になった。

 生き物が飲むと、強引にその存在を強烈な苦痛とともに進化させることがわかっていた。

 その反動がどのような形でもたらされるかわからない。

 その点、サメ機人(シャークボーグ)が飲んだ場合、その出力が50%向上したのだ。

 そう、出力の向上。

 もはや生物と見做されていないのか、それとも機械的な存在だと認識されているのか、微妙に分かりづらいところだが、この生命の原液的な奴を飲んでも致命的な反応が起こらなかったというのは重要な点だ。

 

 少なくとも、未だに追加で飲まされてものすごい苦しみを全身で表現しながら巨大化と縮小を続けているサメもどきと比べれば。

 これ破裂しないだろうな。

 

 なお生命の原液的なやつは使っても減らない。

 無くなってくれればこんな悲惨な膨らみ方をしなかったはずなのに……。

 

 最終的に強いサメになってくれ。

 私には祈ることしか出来ない。

 

 頭を切り替えてガチャでも回しておこう。

 

 R・お菓子のおまけ

 

 カプセルの中に、小さな箱が入っていた。

 一緒に入っていた紙の内容を加味すると、これはキャラメルのおまけに付いているおもちゃの箱だ。

 

 いや、なんでお菓子のおまけだけがガチャの景品から出てくるのか。

 お菓子はセットじゃないのか。

 というか、箱が入ってるの意味がわからない。

 カプセルから出すならもう直に入れておけよ!

 

 そう思いながら箱を開けて、中からおもちゃを出してみる。

 箱を右手で持ちながら、スナップを効かせて中身を滑らせて出した。

 出てきたのは、小さな独楽。

 ありふれたお菓子のおまけだ。

 いや、ここまではいい。

 

 空だと思って振ったらもう一個出てきたんだよ!

 からん、と箱と同じ程度の大きさの車の駒が、だ。

 

 は?

 一緒に入っているだけのスペースがあるはずがない。

 独楽だって箱の横幅と殆ど同じ大きさなのだ。

 

 そっと箱の中を覗き込むと、そこに入っていたのはよくわからない小さな人形。

 例によって、箱の大きさに合うように作られている。

 

 そうだな。

 お菓子のおまけとしてはなにもおかしくない。

 おかしいのはすでに中身を取り出した空箱に入っていることだ。

 

 そっと箱を逆さまに持って、上下に振る。

 そしたら出るわ出るわ、一回振るたびに違うおもちゃがどんどん出てくる。

 所詮お菓子のおまけでしか無いおもちゃだが、大量に出てくるとドン引きしそうになる。

 

 いや、なんでこんな……。

 こんないらねえよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が出てきたおもちゃをまとめてフリマアプリで売った。

 確かにおかしなところはなかったし、どれもこれも実際に出てるおもちゃだったけどさぁ。

 ろくでもないものなんだからせめて躊躇してくれ!



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R チャリオット

 戦車。今回の戦車は一般的にイメージされる、大砲のついていてキャタピラで走るアレではなく、馬に引かせる戦争用の馬車みたいなものである。

 御者と戦士を乗せることで、馬の速度で戦闘を行うことが出来る乗り物であり、騎兵の前の段階の兵科であると言える。

 また、馬車と同じく輸送の面でも優れているため、装甲車として利用しようと考えた人間が歴史上結構いたようだが、実際に使われたことはあまりないようだ。

 

 今回はその戦車、チャリオットが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がやっとこさ、次の層の攻略に移った。

 まともな移動手段がなかったり、惑星ガチャだったり、宝箱だったりで結構な時間がかかっていた。

 ダンジョンが不合理な空間だということはそれだけでも痛いほど理解できてしまうだろう。

 本来ダンジョンとは攻略されないために罠を張り巡らせるものであり、広大な空間は究極的に言えばただそれだけで進軍を阻む壁となる。

 それが海であればなおのこと、だ。

 島国が長い期間侵略の魔の手から逃れていた最大の理由は伊達ではないのだ。

 

 ダンジョンの途中にまともに船を持ち込む手段なんてあるはずがない。

 だからこそ兄は攻略に頭を捻り続けていたのだ。

 

 24層には何もなかった。

 訂正。

 空に浮かぶ島が転々と存在するだけで、上にも下にも右にも左にも青空がずっと続いている空間だった。

 

 こんなもんどうやって渡れと言うんだ。

 生命の原液的なやつでブーストしたサメ機人(シャークボーグ)に装備したドローンで兄は移動して25層への階段を見つけた。

 

 ……まあいいか。

 ガチャを回してティータイムにでもしよう。

 

 R・チャリオット

 

 出現したのはデカブツだった。

 いや、それの用途を考えると大きいわけではないか?

 半分で切り取って天蓋を無くした馬車のようなものが私の前に出現していた。

 

 手押し車にも似ているが、大きなタイヤを考えるとやはり馬や牛のような大きな動物に引かせるものだろう。

 そうそのなんだ、アニメでみたことがあるぞ。

 チャリオットってやつだ。

 

 ただ……やっぱこれ、ちょっと浮いてるんだよな。

 タイヤが接地していない。

 それに、乗るところにUSBのポートが付いている。

 

 ええ……。

 それに手すりのような部分の付け根に、LEDランプがいくつかついている。

 そのことが示すのは……。

 

 走ると発電してUSBバッテリーに充電する……?

 いや、タイヤが接地していないんだから走ろうがタイヤは回らず、発電出来るわけがないんだが。

 それに充電するポートがないせいで、本当にバッテリーとして使えるのかもわからない。

 

 兄にやらせるか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄はあのゴリラと化したサメもどきにこのチャリオットを引かせた。

 筋力が増したサメもどきは馬にも迫る速度で走り出し、半端に浮いているチャリオットは殆ど振り回されるような形で引かれているのだ。

 というかやっぱタイヤが接地していないせいですごい勢いで横滑りしている。

 地面を舐めて跳ねないのは魅力だが、他にない動きなせいで兄も対応に困っているようだ。

 

 充電? 1時間ぐらい走ったら、LEDライトを2分ぐらいつけられる程度に溜まってたよ。

 しょ、しょっぱい……。



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R 出入り口

 出入り口。建物が外界との出入りを管理するための扉だ。

 大きな建物であればあるほど、人の出入りが多ければ多いほど、より大きな出入り口が必要となる。

 そのため、扉の形状が特殊な物になることが多い。

 多くは二重の扉となっていて、風除室を作っており、それを自動ドアで開閉する。

 大きな扉であればあるほど、外気との交換が行われやすいため風除室が必要になるのだ。

 

 今回は出入り口が出てきた話だ。

 どこに出るんだって? わからん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだかんだ、結局兄はチャリオットを乗りこなしてしまった。

 普通の馬車のような牽引車両だと考えて乗ると振り回されるのなら、もっと違う発想で乗ればいい。

 兄がたどり着いたのは、ドローン装備のサメ機人(シャークボーグ)に牽かせることだった。

 

 サメ機人(シャークボーグ)の飛行能力で牽引することで、チャリオットはドローンと同じ高度で飛行できることがわかったのだ。

 牽引するという動作を行っている場合だけ、そのような挙動をする。

 つまり適当に空中に放置することや、投げて空中に静止させるような使い方はできないということだ。

 

 サメ機人(シャークボーグ)を御者代わりにする人力車として使われることになったが、これでもチャリオットと呼べるのだろうか。

 まあその飛んでる姿も大概シュールな動きをしているから、もとからチャリオットっぽくないと言えばぽくはないが。

 

 かくして自由に飛行できる手段を手に入れたのだった……。

 いや、サメのきぐるみもあるし元から飛べなくはないっちゃないが。

 

 まあいいか。

 ガチャでも回しておこう。

 こっちはこっちで気が重いんだよなぁ。

 

 R・出入り口

 

 出現したのは、出入り口だった。

 そう、ホテルの入口なんかにありそうなデザインのガラス張りの風除室の部分だけが出現したのだ。

 いや正確には内側の壁と思しき張り出しもくっついてきてはいる。

 どちらにしても、二重の扉だけが出現しているのだ。

 

 出入り口である以上、なにかを外と内で区切っているのだろうが、ここは実験室。

 開けた原っぱでしか無く、建物は……いくつかあるが、このような風除室が必要な場所ではない。

 

 というか、出現した位置では全く外と内を区切れていないのだ。

 壁となる出入り口が何もない空間に置いてあるだけ、としか言いようがない。

 その壁の端も途切れている関係上、本当に何の意味もない。

 

 ということは……中がヤバい可能性が高い。

 絶対ろくでもない。

 

 そっと入ってみようと踏み込んでみるが、自動ドアは開かなかった。

 ……?

 あ、こっちは外側なのか。

 外側からは入れないようになっているのか。

 おそらくは内側にいると判定されているから?

 

 妙な景品だ。

 二重ドアだけ出現している時点で奇妙ではあるのだが、しかも今いる場所を内側だと扱われているのはもっと奇妙だ。

 だがなんらかの基準で内側だと認識しているのだろう。

 

 だから、内側の扉から入ってみた。

 これは外に出るための扉。

 外側から入れないのは、内側に“ある”ものを外に出すための扉だから。

 内側にあるものを外から入れることは出来ない。

 

 イマイチ理解の深まらない思考を打ち切って、外への扉を開く。

 そこに広がっていたのは、宇宙だった。

 

 いや、それは厳密な言葉ではない。

 泡のような形をした()()が遠景に無数に浮かんでいる、そういう空間が扉の外に広がっていたからだ。

 

 あっ、外ってそういう……。

 この扉は世界の内外を区切る、そういう扉、なのか?

 そんなもん、Rで出されても困る……。

 

 そっと踵を返し、テープで扉を開けないように警告しておくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。テープを無視した兄が、サメ機人(シャークボーグ)()にへと送り出した。

 ()はまともな物理学の通用する世界ではないようで、ものの数分で反応途絶。

 見える範囲を飛行させていたにも関わらず、どこかへと飛んでいってしまった。

 

 扉を出ない限りは安全っぽいけれど、出ると外のルールに支配されることだけがわかったために、兄は……。

 

 ガチャから宇宙服でも出ないかな、とかのたまいはじめた。

 やめろ!

 そういうこというとろくでもないものが出てきちゃうだろ!



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R キメラ像

 置物。熊の木彫りだとか、軒先に置いてあるガーゴイル像だとか、犬の置物だとかのアレだ。

 芸術を目的とした物や部屋を飾るための物、宗教的に意味を持ったものなど、さまざまな置物が存在する。

 その多くは材料の関係上、重量が重い。

 

 今回は置物が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発掘ダンジョンの25層は、これまでの10層ごとに存在したボス部屋のある階層と同じくボス部屋が存在した。

 10層ごとの区切りかと思っていたが、きっと元々は5層ずつに存在したのを拡張した結果、上の層だけが分厚くなってしまったというやつだろう。

 まあこれまでの層を見ても、海だったり、本当になにもない島が浮いているだけの空間だったりと人が通り抜けられるように作られていない。

 それを考えれば、層を増設してダンジョンの難易度を無理に上げる必要もないと言えばない。

 

 ここまでダンジョンマスターとなる人物がいることを前提とした言い分だが、どうも“いた”ことだけは間違いないらしい。

 ノーライフキングのリチャードさんが言うには、200年前に一回会ったのが最後で、それ以降一度も顔を合わせていないらしいが……。

 

 もう死んでる可能性もあるな。

 兄が荒らす勢いで攻略しているのに何の反応もないからな。

 どっちにしても兄は最奥にたどり着くまで探索を辞めることはなさそうだが。

 

 怪我しない程度にがんばってね~。

 あと私を巻き込まないでくれ。

 

 さて、ガチャを回して今日の分を片付けてしまおう。

 

 R・キメラ像

 

 出現したのは木彫りの像だった。

 戸棚の上に飾れる程度の、両手で抱えられるサイズの像だ。

 木彫りの熊などをイメージしてもらえれば、大きさはだいたいそれで伝わるだろう。

 

 そう、そういう、置物が出現したのだ。

 たとえ頭が鮭で、胴体がゴリラ、下半身が馬の謎の生き物が彫刻されているからって慌てるようなことはない。

 

 というか彫刻としてのクオリティが優れているせいで余計キメラであることを実感させられる。

 頭は魚のヌメッとした表面が繊細なタッチで再現されているし、胴体はふわふわの毛をイメージさせるだけの緻密な作りになっているし、下半身の馬部分も手触りが殆ど馬の毛並みそのもののように感じられる。

 

 でも頭は鮭だし胴体はゴリラだし、下半身は馬なんだよ!

 なんだこの彫刻!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。彫刻は頭がサメ、胴体が人、下半身がムカデに変化していた。

 うわっ、気持ち悪っ。

 

 またこの彫刻、サメとムカデはともかく、胴体の人部分が痩せたガリガリのおっさんの物の為に、余計気持ち悪い造形になっているのだ。

 皮膚のたるみまで再現しちゃってさぁ……。

 振ったら揺れそうなぐらい出来が良いものだから余計気持ち悪いよね。

 

 それを見ていた兄が変に気に入って自分の部屋に飾るようになった。

 一体どこに気に入る要素が……?

 



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R マジックハンド

 マジックハンド。トリガーを引くことで先端についた手が開閉することで遠くのものを掴む事ができる道具である。

 玩具としては、掴む動きと同時に棒の部分に当たるパンタグラフ状の機構が伸縮することで長さが変化して相手を驚かせるなどの動作が可能となっている。

 手の届かない場所にあるものに手を届かせる為に利用される道具であるが、手の延長線上に動作が延長される関係上、操作には慣れが必要である。

 

 今回はそのマジックハンドが出てきた話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がたどり着いた25層はコロシアムだった。

 正確にはそれを中心とした複数の建物で構築された空間であり、ボスの座としてコロシアムが存在している。

 古代ローマにも似た造形の建物群が軒を連ねる光景はただそれだけで歴史ロマンを刺激される。

 

 しかしそこには人がいない。

 なにも生き物の痕跡がないのだ。

 ローマ調の建物には、人が生活しているような痕跡がない。

 花壇には花がない。

 井戸には桶が置かれていない。

 全ての窓ははめ込まれたまま、一度も開けられていないように見える。

 道に木の葉すら落ちていない。

 

 それに、建物と建物の間は人が通れないほど狭く作られているあたり、周囲の建物はダンジョンの壁でしか無いのだろう。

 そしてそれは順路に従って行けばコロシアムにたどり着くようになっている。

 

 兄はそこにいたボスを瞬殺した。

 ミノタウロスに似たモンスターはワンパンで頭部を吹き飛ばされていたのだ。

 レベルの上がったサメ機人(シャークボーグ)の敵ではなかった。

 

 わざわざ録画して見せつけてくるあたり、自慢したがりである。

 というかいつの間にレベルをあげていたのだろうか。

 

 まあいいか。

 ガチャを回そう。

 

 R・マジックハンド

 

 出現したのはマジックハンドだった。

 いわゆるパンタグラフ式の玩具のタイプのものだ。

 その先端には手袋を嵌めた手のような形の部品がついている。

 右手の造形をしている。

 

 握りはD字に似た形状であり、握り込むことで動作する作りになっているように見えるが、なにか不自然さも感じる。

 なにか仕掛けがあるような気がするが……。

 

 まあ動かしてみればいいか。

 そう思ってマジックハンドを右手で握り込む、が。

 

 持ち上げた時点で、先端の拳が軽く握られている。

 これでは伸ばしたときになにかを掴むことが出来ないのでは?

 

 まあいいか。

 元々無理矢理におかしな性質をつけられている事が多い景品だ。

 壊れていることもあるだろう。

 

 そう思って右手を握り込んで伸縮させてみると、動作に従って先端の拳が握り込まれた。

 ……。

 

 なにかがおかしい。

 そう思って、私はマジックハンドを左手に持ち替え、握り込んだ。

 

 するとどうだろうか。

 先端の拳がゆるく開いたままパンタグラフが伸ばされたのだ。

 

 左手を握り込んだまま、私は直感に従って右手を開閉してみた。

 やはりというかなんというか。

 マジックハンドは、私の右手の動作をトレースするかのごとく同じように動いたのだ。

 

 ああそういう……。

 右手に同期するマジックハンド?

 

 何に使うんだそれ。

 右手で持ったら全く意味がないじゃないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がマジックハンドを使ってコインを拾い上げていた。

 マジックハンドを伸ばした先も、パンタグラフ式なためにプラプラと安定しない。

 そして、遠くのものを取ろうとするにしても、パンタグラフ式の限界というべきか、そもそもそんなに長くないのだ。

 

 強いて言えば足元に落ちているものを拾い上げるぐらいだが、まあ……。

 兄はいちいち屈み込まなくてもドロップアイテムを拾えるようになったと喜んでいたが、元々自分でかがみ込んで拾ってない。

 全部サメもどきにやらせていたので、結局のところ使いみちがない。

 

 とか思ってたら、サメ機人(シャークボーグ)に組み込んで3本目の腕にする計画を立て始めた。

 

 うまくいくのかそれ。

 動作が同期するだけで、強度はマジックハンド程度しかないぞそれ。

 どうせ飽きて使わなくなるぞそれ。



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R ツインテール

 ツインテール。長めの髪を頭の両脇で2つに結んだ髪型のことである。

 通常幼い子どもがする髪型であり、そこから創作上に於いてはある種の幼さを表現するために使われたりもする。

 ある程度の長さがあれば髪の長さに依存せずにセットすることが出来るのでそこからのアレンジが可能な髪型でもある。

 

 今回はそのツインテールが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が発掘ダンジョンの攻略を切り上げた。

 25層を超えた先にあったのはなにもない虚空だったのだ。

 光すらない完全な闇に閉ざされた、完全に開けた空間。

 ダンジョンの攻略を阻む究極の壁とも言える空間そのもの。

 人が一度に進める距離には限りがあるために、どのような人間であってもそれ以上進めなくなる。

 いかに兄が手段を選ばない人間だからといって、限りなく広い空間に対してやれることは殆どないのだ。

 

 なので、兄はダンジョンによる侵食を進めるために攻略を切り上げたのだ。

 ここからはこれまでの層をダンジョンで掌握していく作業である。

 

 最もこれは……時間のかかる作業な上、めちゃくちゃ地味である。

 兄がやりきれるかというと……多分無理。

 すぐに自動化してしまえる手段を見つけ出してそれに投げ出してしまうだろう。

 

 丁度いい存在であるサメ機人(シャークボーグ)もあるからな。

 

 まあいいか。

 ガチャを回して忘れてしまおう。

 

 R・ツインテール

 

 出現したのは、毛の生えたカチューシャだった。

 カチューシャの両脇からエクステのようなものが伸びており、房を成している。

 もっともその毛は痛みまくっていて、みすぼらしいと言っても良かった。

 

 これは……これはなんだ?

 ツインテールと書かれている以上、メイン部分はこのエクステ部分なのだろう。

 不自然にピンクピンクしたカチューシャも大概だが、エクステも傷んだピンク色をしている。

 

 というか触ってると気持ち悪くなってくるんだが……。

 めちゃくちゃゴワゴワしている。

 一体どんな手入れをすればこんなボロボロに出来るんだという気持ちが心の奥底から湧いて出てきて仕方ない。

 

 で、これはどう使うんだ?

 いやまあどう見てもカチューシャであるため、頭に嵌めて使うんだろうが、正直使いたくねえ。

 さりとて試さないわけにも……ぐぬぬ。

 

 意を決して頭にカチューシャをはめる。

 その途端、急に周囲の風を感じるようになった。

 

 なにを感じているのかわからないが、周囲の風の流れを読み取ってあたりにあるものの形まで読み取れる。

 え、なにこわ。

 そう思って私は……エクステに触れた。

 

 軽く触れただけだと言うのに、私は理解してしまった。

 このカチューシャを通して、エクステに感覚が通っている。

 

 虫の触覚や猫のひげのようなものと同じだと考えればだいたいあっているだろう。

 どうやってやり取りしているのか不明だが、この髪には触覚が宿っている。

 

 え、こんなボロボロのエクステで?

 うわ、気持ち悪。

 

 なんか全身ごわごわした感覚がしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機人(シャークボーグ)に装備させて、斥候役にしていた。

 もともと優れていた感覚機能が数倍に跳ね上がったらしく、嬉しそうにしていたんだが、そのせいでピンクのツインテールをつけたサメ機人(シャークボーグ)が爆誕している。

 だいぶ気持ち悪いぞ!

 ゴリマッチョなのにツインテールってなんだよ!

 ピンクがあまりにも似合わなさすぎる!



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R 構築済みデッキ

 トレーディングカードゲームでは、初心者に導入用のデッキとして、すでに構築されたデッキが販売されていることがある。

 よりプレイヤーの間口をひろげることによって競技人口を増やしたいために、多くは使いやすく、それでいて少しだけ強いデッキになっている。

 最新のカードのパックを買ってデッキからいくらかカードを入れ替えて楽しめるように強いカードが多くなりすぎないようになっているのだ。

 

 今回はその構築済みデッキが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が自身のダンジョンを再構築している。

 より侵食に適した形に組み替えているのだ。

 そのせいで毎回見るたびに見た目が違っている。

 朝見たときは大木のような形だったのだが、今見た姿は巨大なゴーレムのような形になっていた。

 

 なんか昔の漫画で見たことある見た目だな。

 ラスボスの居城だったような気がする。

 

 変形するだけならともかく、形を変えるごとに地面をえぐって自分の領土に作り変えていく関係上、定期的に周囲でサメもどきが湧き出てきており、それの対処が疎かになっている。

 

 散らかしたらちゃんと片付けなさいよ。

 そのせいで周囲から出られないサメもどきが共食いを起こして大変なことになってるんだよ!

 

 そう怒ったらちゃんと片付けるようになりました。

 具体的にはダンジョンの周囲が整備された堀になった。

 湧いたサメもどきが全部堀の中に落ちて潰れていっている……。

 

 ……。

 ガチャを終わらせてしまおう。

 

 R・構築済みデッキ

 

 出現したのはプラスチックのシュリンクに納められたトレーディングカードゲームのデッキだった。

 パッケージには絶妙に読めない文字が書かれており、日本語のように見えるが読解不能だ。

 

 中のカードも裏面は青い印刷が施されており、枠があること以外は特に目立ったデザインではない。

 デザインに上下すら無いんだが。

 

 それに、このカードを見ているとどうやって遊ぶのかさっぱりわからない。

 カードのデザイン配置(フォーマット)こそその他大勢のトレーディングカードゲームと同じく、名前とイラストと効果からなる組み合わせだが、カードの優劣を決める数値がどこにも書かれていない。

 

 厳密にはコストと思しき数値が左上に書いてあるのだが、それもよくわからない。

 カードの効果で出るコストだと思うのだが、1枚から1点、多くても3点しか出ないのにカードのコスト自体は5点やら6点だ。

 それが全てのカードに付いているのだ。

 

 それに……カードの効果もいまいちわからない。

 アクションを+する効果が結構見つかるのだが、そのアクションが何をさしているのかさっぱりわからない。

 どこにも書いていないのだ。

 

 それに……デッキの3割を占める、この土地のカード。

 コストが高い割に、効果欄に何も書かれていない。

 そして下になにやらよくわからないアイコンと共に数字が書かれているだけなのだ。

 

 あとこの鍛冶屋のカードすごくない?

 使うだけでドロー+3だってよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がカードを一枚一枚並べているから何をしているのかと思ったら、置いたカードからイラストが3Dとして浮かび上がっていた。

 うわあ。

 そんな単純な効果を見落とすとか、普通にしくじりである。

 やらかした……。

 

 このよくわからないカードの正体だが、兄はわかったようだった。

 どうもデッキを構築するボードゲームのカードらしい。

 カードデザインがそれのものと一緒なんだそうだ。

 

 ……え?

 デッキを構築するボードゲーム?

 それって……ゲームの中でデッキを作るゲームだよな?

 

 それの構築済みデッキ……?



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SR 錬金術士のアトリエ

 ファンタジーの世界には、錬金術士という職業が存在する。

 これは作品によってどのような性質を持つかは異なるが、基本的には魔法やらを中心とした科学者だ。

 多くの場合、なんらかの知識を基に、なにか薬品や金属、魔法の道具などを作り出すことを生業としている。

 

 今回はその錬金術士の工房が出現した話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が冒険者ギルドの裏口に気がついた。

 これまでは発掘ダンジョンの調査……というか攻略をしていたためにずっと忙しく、目を向けることはなかったのに、手を休めるとすぐこれだ。

 

 ただこの裏口、やたら頑丈で傷んだ閂が掛けられており、しかも癒着しているのか全く外れないのだ。

 というか、日に日に腐って変な形に変化しているような気すらする。

 多分錯覚だ。

 表面の木目が錯視めいた文様を描いているせいである。

 

 しかしサメ機人(シャークボーグ)の一撃を受けて破壊されない閂ってなんなんだ。

 一方でこじ開けようとすると少しずつ動くあたり、閂としての機能はまだ生きているようだが。

 

 どうせ兄のことだから、24時間戦えるサメ機人(シャークボーグ)に24時間負荷を掛けさせ続けることで閂を開けさせる手段に出るだろう。

 出来る以上はやる。

 間違いない。

 

 見つかってしまったものはしょうがないので、考えないことにしよう。

 問題になりそうなものはきちんとその都度詰めればいいのだ。

 面倒くさいが。

 本当に面倒くさいが。

 

 さて、ガチャを回そう。

 こっちはこっちで毎回頭を抱えさせられるんだよな……。

 

 SR・錬金術士のアトリエ

 

 出現したのは、小屋だった。

 冒険者ギルドと比べると、小屋というしかないサイズの建物が出現したのだ。

 小さな平屋といった印象のある建物であり、木造で瓦張りは板のようなものを貼り付けているようにも見える。

 

 どういう文化圏の建物か類推するのは難しいが、一般的な家屋なのだろうと私は考える。

 とくに際立った作りや看板が存在するわけではないからだ。

 

 扉は薄い板を蝶番で留めたもののようで、手で軽く押すだけで簡単に開いた。

 それと同時になにかこもった匂い。

 煮だった薬品が煙になり、それが換気されずにそのまま残った、といった印象。

 

 錬金術士、か……。

 たしかに薬品を扱いそうな職業である。

 それを示すかのように、壁を埋め尽くすように本棚と本が存在していた。

 

 ただ……薬品の類はテーブルに置かれているだけで、後は様々な物が雑多に置かれた棚とあとは私室として使っていたのであろうベッドが一つ、そして……。

 

 部屋の中央に鎮座する謎の巨大な釜。

 恐ろしいことに、中に緑色の液体が入ったままになっており、しかも煮だっているのである。

 

 火もない釜なのになぜ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機人(シャークボーグ)に釜をかき混ぜさせてなにやら道具を作っていた。

 暇を持て余した兄は、アトリエにあった本を適当に手に取り、そこに描かれていた挿絵を元に釜に材料を投入しだしたのだ。

 何が出来上がるのかもわからない上、手順があっているのかどうかもわからないのにそれに手を出してしまう兄に頭を抱える。

 

 しかも自分でかき混ぜるとムラが出来るからってサメ機人(シャークボーグ)にやらせている。

 というかこういう作業はサメ妖精のシャチくんにやらせるべきなのでは……?

 

 そうして出来上がった軟膏は、塗ると爆発する性質を持っていた。

 いや軟膏が出来上がった時点でだいぶ得体が知れないんだが……。

 なんか釜の液体の底から器に入った完成品が引き上げられたし……。



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R おしぼり

 おしぼり。タオル地の布に水分を含ませたもので、主に手を拭くのに使用する道具である。

 また紙のような素材で使い捨ての形で利用する場合もある。

 元より衛生のために使用される道具であるため、使い捨てが可能な素材で作成するのは合理的であると言える。

 現代ではおしぼりをレンタルする商売も存在しており、これは飲食店などがおしぼりの利用によって洗濯が間に合わなくなった為に生まれた商売である。

 これもまた多くの人が必要としているが、実際に行うと手間な作業を代行する商売であり、合理的な商売だと言えよう。

 

 今回はそのおしぼりが出てきた話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が錬金術士のアトリエに入り浸るようになった。

 そして兄が真っ先に始めたのは、素材の同定だった。

 錬金術士のアトリエには大量の本があり、その殆どが何らかの道具や薬を作り出すレシピであるが、当然ながらそのレシピの中には共通する素材が利用されている事が多い。

 

 軟膏であれば油が、薬草が、金属であれば鉱石が、爆弾であれば火薬が。

 当然共通するものには共通する名前がつけられているものだ。

 挿絵が存在するレシピなら同じ形状の物を探して投入すればいいが、そうではないレシピのほうが圧倒的多数。

 それらを読解するためには、まず物の名前を知るところから始めたのだ。

 

 兄に実際出来る作業なのだろうか?

 図鑑が見つかれば話は早く進みそうだが、本の山の中から探すのは骨が折れそうである。

 

 私はサメ妖精のシャチくんに手伝うように指示を出して、火の粉がかぶらないようにしておくのだった。

 

 さてガチャを回そう。

 

 R・おしぼり

 

 出現したのはビニールに包まれたおしぼりだった。

 そう、飲食店で席につくともらえるアレだ。

 今回は普通のタオル布のおしぼりが入っているのが一目で分かる。

 

 だた……もうビニール袋がビッチャビチャなのだ。

 内側に結露が大量についていて、水滴が目に取れるほど……というか、端に溜まってしまっている。

 

 これでは開けると水がぶちまけられ、手が濡れてしまうだろう。

 だが開ける。

 開けるしか無いし、まあおしぼりだし絞れば吸わせられるだろうし……。

 

 当然というべきか出てきたおしぼりもビッチャビチャだった。

 流石にこれでは手を拭う事ができない。

 

 そう思って絞ったのだが。

 ぼたぼたぼた、とそのタオル片からは想像できない量の水が溢れ出した。

 まるで吸水素材のタオルを絞ったかのような量の水が、ハンドタオルサイズの布から溢れ出てきているのだ。

 

 ま、まあそういうこともあるだろう。

 たまたま保水力が高かっただけで……。

 

 そう思って絞ったあとのおしぼりを見ると。

 そこにあったのはびっちゃびちゃのおしぼりだった。

 

 うーん、これは……。

 びっちゃびちゃのおしぼりですね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄があの絞っても絞っても水が出てくるおしぼりを、体温を冷やす目的で使用していた。

 頭に乗せて熱を吸わせていたのだ。

 おしぼりの温度は常温の水程度、放置していればどんどん気化して熱を奪っていく。

 そしていくら絞ろうが水が尽きる様子はない。

 

 その上、もっと熱を持つ物を冷やし続けられるはずだ……と、熱を持つものを探し始める始末。

 おしぼりを頭に載せたまま何やってんだこの人……。



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R 炎のぬいぐるみ

 ぬいぐるみ。布と綿から作られた人形の一種だ。

 布をベースに作られているため、柔らかい曲面を中心とした形となりやすい。

 そのため複雑なデザインは丸め込まれ、可愛らしいデザインになりがちだ。

 また中身の充填剤や表面の布を変えることで感触を変化させることが簡単に行える。

 そのため今はビーズクッションのような素材で作ることでキャラクターのもちもちとした感触を再現しているものも存在するのだ。

 

 今回はぬいぐるみが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄はまだ錬金術士のアトリエで遊んでいる。

 すでに作り方がわかっている軟膏を量産するなど、やっていることは奇行のそれなのであるが、それでも錬金術? の経験値を稼いでいっている。

 

 具体的には、新しく丸薬が作れるようになった。

 この丸薬は飲み込んだものになんらかの効果をもたらす薬品らしく、最初に作った軟膏を材料にしたときはサメもどきが全身から発火する効果を持っていた。

 これは丸薬そのものの効果、というよりは爆発する軟膏を材料にしたためにそのような効果が出たらしく、他の材料から作った丸薬にはサメもどきの腕を増やす効果が出たのだ。

 

 解読が進んでいないから確かなことは言えないがどうにも材料にした薬品の効果を増強して与える効果がある、と兄は言っていた。

 え、じゃあその増えた腕はどの薬品の効果で……?

 

 まあいいか。

 どうせ自販機から出た謎ポーションが材料だ。

 自販機から出てくる謎ポーションの効果を私は把握していないが、兄は全部把握している。

 

 問題を起こさなければいいか……。

 

 さて、ガチャを回そう。

 こっちはこっちで問題を起こすからイヤなんだよなぁ。

 

 R・炎のぬいぐるみ

 

 出現したのは、デフォルメされた炎だった。

 一見、布と綿で作られたような質感をしているが、その見た目は実際の炎の如く揺らいでいる。

 全体が不定形につながって揺らめいているために、見ているだけで不安な感覚に襲われる。

 えっと……なんだこれ。

 私の前でアニメかなにかの炎の如く揺らめくぬいぐるみ。

 これについて、そう言わざるを得ない。

 

 はたしてこれはぬいぐるみか、炎か。

 微妙なところである。

 だが、どちらかなのか確かめないことにはこれを撤去することも出来ない。

 

 というわけで私は木の棒でつついてみた。

 ぬいぐるみのように木の棒がめり込む。

 思ったよりも柔らかい素材で出来ている。

 

 ……と思っていたら、つついた木の棒から煙が。

 だんだん煙が大きくなるにつれて、木に赤く燃えている部分が増えていく。

 

 やっべ。

 これ引火するのか。

 

 ただ、木の棒についた火は普通の火だった。

 なんだこれ。

 ぬいぐるみの火じゃないのかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が普通に右手で掴んで持ち歩いていた。

 揺らめくぬいぐるみが腕に絡みついて、炎の拳のようになっている。

 その燃える見た目に反してそれ自体は特に熱くないようで、可燃物を近づけなければ燃え移ることもないようだ。

 

 だからって自分からそれを掴んで持ち歩くやつがあるか。

 というか躊躇しなかったのかこいつ……。



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R 幸運のミサンガ

 ミサンガ。様々な色からなる刺繍糸を組み合わせて編み上げることで模様を作り出した組み紐のことである。

 日本では手や足に巻きつけて、紐が自然に切れると願いが叶うというジンクスが存在しており、一時期流行していた。

 

 今回はそのミサンガが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また兄が冒険者ギルドで、冒険者ガチャを始めた。

 錬金術士のアトリエを利用できる錬金術士を探し出すため、冒険者を作成しては消し、冒険者を作成しては消している。

 

 錬金術が可能な冒険者(ごろつき)とかいう矛盾した存在が本当に存在するのかわからないところがあるが、まあこの冒険者ギルドはゲームのギルドだ。

 いないとは言い切れない。

 それに便利そうな冒険者をストックしておく目的もある。

 

 強力な回復魔法が使えるかもしれない冒険者、旅に便利な能力を持つ冒険者、転移能力を持つ冒険者。

 今まで出てきたわけではないが、それに近い能力を持つ冒険者が何度かすでに出現してきているそうだ。

 

 ただな……兄は人型の生物のように見えるものの扱いが非常に悪いからな……。

 あんまりそういうのを許容していいのか微妙である。

 

 まあいいか。

 ガチャでも回しておこう。

 

 R・幸運のミサンガ

 

 出現したのは、鮮やかな青と赤の紐を組み合わせたミサンガだった。

 長さは腕に巻き付けて少し余る程度。

 普通の長さと言ってもいい。

 また若干幅が広く、その内側に凝った模様が施されている。

 

 特に目立つのはその中央に編み込まれた、透明な糸だろう。

 その部分だけまるで宝石が嵌っているかのように輝いて見えるのだ。

 

 美しいミサンガである。

 しかし、それだけなのだ。

 それ以上に変わった点もなく紐自体も別に太いとか異常に硬いとかそういうこともない。

 

 ましてや接頭詞が「幸運」。

 幸運とはなんぞや。

 実際にそれの効果が発揮されたとして、それを私が認識出来るのか?

 

 一応、腕に巻いてみてコイントスをしてみたのだが、特にコインの表裏が変わることはなかった。

 サイコロも同様である。

 気になるほどサイコロの出目が偏ることもなかった。

 幸運だというのなら1か6に偏っても不思議はないのだが。

 

 あるいはまあ……増加する幸運の量が微妙すぎて全くわからない、というやつかもしれない。

 前に出た素早さの指輪も増加値が微妙すぎてなんとも言い難い効果だった。

 

 ええ……どうやってこれ検証しよ……。

 幸運ってどうやって測れば……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が腕に巻いた状態で発掘ダンジョンに向かった。

 曰く、発掘ダンジョンに出現する宝箱は10個に1個は罠があり、爆発を起こすそうなのだ。

 厳密には半分には罠があり、うち4つはサメ機人(シャークボーグ)でなら問題なく引きちぎれ、残りの1つは目立つ爆発を起こす。

 

 幸運ならば爆発しないのではないか? と兄は考えたのだろう。

 結果はというと。

 爆発こそ起こさなかったものの、罠のある宝箱が6個。

 び、微妙……。

 効果があるのかどうか全然分からねえ!



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R 練気ストーブ

 ストーブ。部屋の気温を上げるために使われる暖房器具である。

 基本的には何らかの燃料を燃焼させることによって暖を取る。

 また、熱を発生させる関係上、その熱を他のことに利用して調理を行うなど他の用途に使われることもある。

 

 今回はストーブが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が錬金術士のアトリエの釜でうどんを茹でていた。

 調査に煮詰まったのかとおもったが、そうではないようで。

 

 なんでもどのように制作すればいいかわかっているものから制作してみることにしたそうなのだ。

 レシピの解読はサメ機人(シャークボーグ)にやらせている。

 その関係で手が空いている兄は、そのような手段でやれることからやってみたそうなのだ。

 

 結果?

 謎の緑色の液体が入っている釜の底から丼に入ったぶっかけうどんが引き上げられた。

 

 流石に得体が知れなさすぎるのでは?

 

 しかも兄はそれを普通に食ってるし……。

 味は普通。

 うどんそのものであり、レシピ通りの味。

 

 ……え?

 あの釜から引き上げたのにレシピ通りの味?

 マジで?

 

 錬金術士のアトリエの設備は摩訶不思議である。

 ……私も覚えるべきか?

 覚えれば兄に対しての抑止力にも……いやならない気がするな。

 

 まあいいか。

 ガチャを回そう。

 

 R・練気ストーブ

 

 出現したのは、なにか不安になる形状の円筒状のストーブだった。

 黒いメッキが施され、内部にヒーターとなるパーツが組み込まれている。

 そして動かすことが出来るように持ち手がつけられている。

 

 外見上ガスストーブのように見える。

 構造自体は学校用のストーブと同じなのだ。

 だとすれば、底のあたりにガスを供給するためのチューブが付いているはずなのだが……。

 

 それがないのだ。

 どこにもついていない。

 実はガスストーブじゃないとか、そういう可能性も考慮して見てみたのだが、燃料となるものを入れる口がない。

 

 点火スイッチしか見当たらない。

 押し込むとスイッチが入り、上げるとストーブが切れるあのスイッチだ。

 

 うーむ。

 スイッチ入れられるが、燃料は入れられない。

 じゃあ何を燃料に動くんだこれ?

 

 空気で動く、とかだと便利でいいのだが。

 そういう便利なのはあんまり出てこない。

 そもそもこれから暑くなるっていう時期にストーブを出して来ているだけでも信用ならんのだ。

 

 とりあえず点火してみるか。

 ガチガチ、とやや重いスイッチの音と共に、点火プラグから火が起こされ、ストーブが赤くなる。

 が……ストーブ自体は全然暖かくならない。

 

 うーん?

 なんで赤くなっているのかもよくわからない。

 そう思っていると。

 

 かっと、身体が熱くなった。

 突然、全力で走ったかのような疲労感と熱が身体に走ったのだ。

 体の中の力を練り上げた結果熱が生まれているような感覚。

 

 あっ、練気ってそういう?

 わけが……わけがわからない……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機人(シャークボーグ)達を練気ストーブに当てていた。

 別にサメ機人(シャークボーグ)を温めているわけではなく、ストーブに当てておくと運動能力が少し向上するんだそうだ。

 マジ?

 

 いや確かに気を練るって拳法などでは重要な動作らしいけれども。

 それをストーブ一つで実行出来るものなのだろうか。

 

 実行できているから出来るんだろう。

 だから気を良くしてサメ機人(シャークボーグ)に直接搭載しようとするのはやめるんだ兄ィ!



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R 新素材

 新素材。様々な分野において、その分野に新たに必要になったために開発される素材のことだ。

 多くの場合、それまでの素材では解決できなかった課題をクリアすることを目指し開発がされているため、それまでにない特性を備えている場合が多いのだ。

 あとはNASAが開発した新素材という謳い文句で深夜の通販番組に怪しい商品がでてくることがある、とかだろうか……。

 

 今回はその新素材が出てきた話だ。

 わけがわからないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄は結局、サメ機人(シャークボーグ)に練気ストーブを組み込んだ。

 その結果、サメ機人(シャークボーグ)は形態変化を引き起こし、サメ機武人(シャークボーグモンク)に進化したのだ。

 

 ……。

 サメ機武人(シャークボーグモンク)ってなに!?

 見た目はそれほど大きく変化したわけではないが、その立ち振舞はそれまでのサメ機人(シャークボーグ)とは一線を画する。

 なんというか……静かなのだ。

 それまでのサメ機人(シャークボーグ)は力の有り余る筋肉、といった印象の動きでしかなかった。

 だが、サメ機武人(シャークボーグモンク)のそれは一切無駄な力が入っておらず、それでいて研ぎ澄まされた静の動きなのだ。

 一目見ただけで凄腕の達人だとわかる。

 

 ハイサメ鬼人(ハイシャークオーガ)の義綱さんも武人だといえば武人だが、この人はフィジカルを鍛え抜いた果てに強いタイプの武人なのでやはり動きが暑苦しいというか、力技に見える。

 それと比べても……サメ機武人(シャークボーグモンク)は技を極めた武人に見えるのだ。

 

 兄もそう思ったのか、サメ機人(シャークボーグ)を寸勁でふっとばさせていた。

 見事なぶっ飛びっぷりだった。

 技を研鑽するとああなるものなのか?

 

 まあいいか。

 ガチャを回そう。

 

 R・新素材

 

 出現したのは、レンガほどの大きさの得体のしれないブロックだった。

 プラスチックにも似た光沢を放っているが、柔らかい素材なのか重力で反り返り中央が凹んでいる。

 なんだこれは……?

 

 一見、プラスチック粘土の類にも見えるが、紙に書かれているのは「新素材」。

 一体何をさして言っているのか全くわからない。

 

 しかも、だ。

 触れてみると硬いのだ。

 まるでプリンのように重力で歪んでいるのにも関わらず、指で押してもピクリともしない。

 それに、ほんのり温かい。

 シリコンやプラスチックのような素材の常温とは思えない生温かさがあってかなり気持ち悪い。

 

 それにうっかり持ち上げてしまったために指に絡みつくように重力で流れ出したのだ。

 強引に剥がそうとしてもプラスチックに近い硬さがあってなかなか動かせない。

 

 結局全部流れ切るまで剥がすことが出来なかったのだが。

 これは一体なんだったんだ。

 得体が知れないだけの謎素材はやめてもらいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が新素材を袋に詰めて、なにかに使えないかと思案していた。

 ダイラタンシー現象の究極系みたいな素材なのでなにかに使えるような気がする……と考え込んで10秒、そのままアトリエの釜に投入した。

 まあ、なんかいい感じになるだろう、と完全に何も考えていない発言とともに引き上げられたのは、チタン合金並の強度を持つプラスチックだった。

 

 でー、これどうするつもりなのかな、兄ィ?



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R 水筒

 水筒。飲料用の水を運搬、携帯するために作られた容器のことである。

 水を運搬するということは意外に難しい。

 完全に密閉された容器を作るには様々な技術が必要であり、さらにそれを携帯するにはある程度の強度を必要とする。

 さらにそれを携帯……つまり、どこでも簡便に利用可能な形で開閉を可能にするとなるとかなりの工作精度は必要なのだ。

 そのためそのような技術がなかった時代にはそのまま水が蓄積できるような容器を漆で固めるなどをして利用されていた。

 

 今回はその水筒が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が前に作り出した超硬度プラスチックとヒヒイロカネを混ぜ合わせてまたもや新しい素材を作り出した。

 ヒヒイロカネと合金したというのにその素材は、プラスチックに分類される有機材料に近い性質を持っており、しかもヒヒイロカネの増える特徴をそのまま受け継いでいる。

 具体的には金属釜の中で200度に熱した状態に水を加えると増えるワカメの如くその全体質量を増やす。

 それでいてプラスチックの加工の容易さと軽さ、金属の硬さを併せ持ってるっていうんだからとんでもない。

 

 謎の排出品である新素材は、新素材を作り出す材料だった、というわけだ。

 いやー、ろくでもない。

 特に質量保存の法則をガン無視して凄まじい勢いで増えるところがろくでもない。

 

 ヒヒイロカネのときも思ったが、一素材で世界を変えられる可能性があるのだいぶイヤな感じだ。

 絶対ろくでもない目に合う。

 あれやこれやの時点でだいぶ言い逃れ出来ない感じの物ばかりだからな。

 

 忘れてガチャを回しておこう。

 

 R・水筒

 

 出現したのは普通の水筒だった。

 タンブラーに蓋がついているような形状のもので、飲み口のようなものや注ぎ口が存在しないタイプの水筒だ。

 このタイプは蓋と本体だけで構成されているために洗いやすいために汚れなどを落としやすいが、飲むには直飲みか、別にコップを用意するかのために衛生面では疑問符がつく。

 あとはお茶っ葉と一緒に入れておくことで水出しのお茶を作って持ち出すみたいな使い方が出来るやつ……というべきか。

 

 蓋を開けて中身を見てみたが特に何も入っていない。

 常に満たされているとかそういうわけではないようだ。

 まあそういう物ならばすでに井戸があるからな。

 

 そう思って、中に井戸水を注いでみた。

 水筒の中を覗き込んでも水が満たされているだけのように見える。

 ただ匂いが井戸水のそれから変わったような気がする。

 なんというか、固くなったような……。

 

 そっとコップに移そうとしてみるも、逆さまにしても一向に出てくる様子がない。

 なので逆さまのまま上下に振ってみた。

 

 バシャンとコップの上にぶちまけられたのはゼリー状になった水だった。

 ぷるっぷるである。

 もう一度言おう。

 ぷるっぷるである。

 

 ぷるっぷるのものがぶちまけられたテラスは、まあ大惨事だ。

 ああ……もう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が水筒を使って、ジュースからゼリーを作り出した。

 あのあと水筒の中身をサメもどきに食わせることによって安全性を確認した兄は、即座にジュースを水筒に注いだのだ。

 その目論見は成功し、ぷるっぷるに固まったジュースが出来上がった。

 元がジュースであるために均一なそれは下手なゼリーよりも味がいい。

 久々にまともに上手く行ったのだが。

 

 それに気を良くして水筒に肉まんを詰めようとするのやめろ兄ィ!

 それをぷるっぷるにして何するつもりだ!

 



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R バッグ・クロージャー

 バッグ・クロージャー。食パンを買うと袋についているあのクリップのことだ。

 もともとリンゴを詰めた袋を閉じる方法として考案された。

 現在バッグ・クロージャーの特許はアメリカにあり、日本では一社のみが製造を行っている。

 

 今回はバッグ・クロージャーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やることもなく手持ち無沙汰となった兄は、発掘ダンジョンでモンスターを狩り続けている。

 

 目的はサメ機人(シャークボーグ)のレベル上げとランダムドロップの確認だ。

 これから兄は自分のダンジョンでこのダンジョンを塗りつぶす、というか現在進行系で侵食しているため、侵食しきってしまうとモンスターを倒してのレベルアップやランダムに出現するドロップアイテムを取得することができなくなる。

 

 能動的にモンスターを始末し続ける仕掛けがあるのなら話は別だが、配下となったモンスターを倒しても何も得られない、そうなのだ。

 

 確かに共食いで経験値やらアイテムやら出てくるのならすでに兄はやっているはずである。

 出来なくてよかったと言っておくべきか。

 出来ていたらある種の地獄絵図が形成されていたような気がするからな。

 

 さて、ガチャを回そう。

 ろくでもないものが出ませんように……。

 

 R・バッグ・クロージャー

 

 出現したのは、青色をした、食パンの袋を閉じるアレだった。

 材質も一般的なプラであり、縁が白っぽくなっているあたりもそれが普通の材質で出来ていることを物語っている。

 

 ただ……バッグ・クロージャーの内側の穴から見える風景が魚眼レンズの如く歪んで見えるのだ。

 とおりぬける光がたわんで、結果向こう側の風景が膨らんで見える、そんな印象が。

 

 なんとなく直感なのだが、これ結果的にそうなっているだけ、という気がする。

 袋を閉める目的のなにかの役割を持たされた結果、なぜか光が歪むようになったような。

 

 うーむ。

 とりあえず食パンの袋のクロージャーと交換してみよう。

 それでなにかわかるかもしれない。

 

 そっとパンの袋から絞った部分に、排出されたバッグ・クロージャーを取り付ける。

 歪んだ像を結んでいる割にはするっと嵌った。

 ……。

 何も起こらない?

 

 食パンの袋を持ち上げて振ってみても何かが違いがわからない。

 そう思ってクルンとひっくり返したときだ。

 

 中身の食パンがバッグ・クロージャーをすり抜け、テーブルの上に落ちた。

 ええー……。

 

 つまりなにか?

 これは閉じれないバッグ・クロージャー。

 つまりプラゴミかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄はバッグ・クロージャーに袋を押し込んだ。

 両サイドから無理やり押し込まれていく袋が、バッグ・クロージャーの内側に飲み込まれていく姿ははっきり言って異様な光景だった。

 

 最終的に袋の頭の部分だけがはみ出した見た目になったが、なんとそのはみ出した頭の部分から袋の中身に手を突っ込めるようになっていた。

 どうみても空間が歪んでいるとしか言いようがない。

 

 なお兄はそれを作ったはいいが結局全く使わない模様。

 ダンジョン産の宝箱のほうが便利なんだと。

 まあでかいし硬いからな……。



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SR 魔王の玉座

 玉座。王権を持つものや国家の君主など、権威主義のトップが座る象徴的な椅子のことである。

 創作においては……やはり、魔王と呼ばれる強大な力を持った存在が座っている印象が強いだろう。

 このような場合の玉座は往々にして巨大で、しかも装飾も極めて凝ったものとなっている。

 自らの力を誇示するように、あるいはなんらかの要石として。

 象徴的なものであるがために、あるだけで魔術的な効果を生み出すのだ。

 

 今回はその玉座が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何を思い立ったのか、兄は宝箱を改造し始めた。

 発掘ダンジョンから大量に回収してきた宝箱は、内部の空間が拡張されている他、時間が停止していることからアイテムボックスとして利用できる。

 ただ、かなり重量があることからサメ機人(シャークボーグ)に担がせるしか運ぶ手段がなかった。

 

 どうもそこに手を加えたいようなのだが、それで出来ることと言ったらとりあえずばらしてみることぐらいで。

 とりあえず宝箱についている装飾を外していく作業をしているのだ。

 

 これがまた妙に複雑、というかおそらく罠を仕掛けるための細工なのだろう。

 一つ一つが精巧な鍵のように内側に食い込んでいたりするのだ。

 ボロっちい見かけに反して内側は機械仕掛けである。

 

 それに、中身を拡張する仕掛けも内側に仕掛けられているようで、うかつにそれを叩き割った結果中身が縮んで大変なことになったりもした。

 流石に50センチメートルの箱に2メートルの棒は入らないからね……。

 

 まあいいや。

 兄のことだ、飽きるまで弄り回しているだろう。

 私はガチャを回してしまおう。

 

 SR・魔王の玉座

 

 出現したのは、巨大な椅子だった。

 高さが12メートルほどありそうな巨大な水晶を削り出して作り出されているそれは陽の光を吸って複雑な色を生み出している。

 しかも表面に掘られた意匠にその色が流れ込むことによってさながら神話の光景を描き出しているように見えるのだ。

 

 で、でかい……。

 透明な玉座でありながら、光を通すことで錯視的にステンドグラスのような造形を生み出している。

 高度すぎてどのような技術が使われているのか全く想像がつかない。

 

 しかしながら、だ。

 これは玉座なのだ。

 座るために作られた家具なのだ。

 ……いや、玉座を家具というのは語弊があるか?

 まあいい、重要なのは座れるってことだ。

 座面の大きさ自体は普通の人のサイズであり、難なく座れそうである。

 座面自体が巨人サイズとか、これまでのガチャを考えるとまあありえない話ではないからな。

 

 というわけで、私はその玉座に腰掛けてみる。

 お、座面に貼られたクッションがフカフカで座り心地がかなりいい。

 

 と思った瞬間だ。

 ぽんっと私の着ていた服が下着まで含めて周囲にぶちまけられた。

 その代わり私の身体を包み込んでいるのは漆黒のローブ。

 ご丁寧に、私の頭には付け角まで付けられている。

 

 な。

 なんだこれは。

 あまりに禍々しい衣装に、私は困惑する。

 座った人間を魔王にする玉座ってか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が座った結果、極めて邪悪な造形のフルプレートメイル(3メートル)が出現した。

 より厳密に言えば、兄が胴体部分に入った状態のフルプレートメイルだ。

 普通の人間サイズの椅子に無理やり座っている3メートルの鎧巨人の姿は、流石にどうかしている。

 

 そのうえなぜか手足が届いていないのに兄はそのフルプレートメイルをまるで着こなしているかのように動かしだしたのだ。

 その操作感は兄曰く「なんか油っぽい」。

 

 あっ、何かを思いついたように鬼の角と誰でも変装マスクを持ち出すのはやめるんだ。

 サメ機人(シャークボーグ)を座らせようとするのもやめろォ!



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R ハンマー

 ハンマー。すなわち槌のことであり、釘や岩などを打ち付けたり壊したりするための道具である。

 棒の先に重量のあるものをくっつけるだけで制作が可能だ。

 その単純な構造ゆえ、人類が最も最初に発明した道具だと考えられる。

 要は重いものを振り回せる道具なのだ。

 それ故、強さと活力を象徴するシンボルとして掲げられることもある。

 

 今回はそのハンマーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が魔王の玉座に座って得たフルプレートメイルは、魔王の名に恥じないだけの頑丈さと理力を持ち合わせていた。

 サメ機人(シャークボーグ)と正面からぶつかり合っても凹みすらせず、なんならそのまま投げ飛ばせるほどの力を発揮するのだ。

 

 3メートルある鎧をどうやって操作しているのか、その怪力はどこから来ているのか、なんで兄はぶつかった衝撃のダメージを受けていないのか、など疑問は尽きない。

 それにやたら黒の装飾が施されて邪悪な印象が合わさるとやはり魔王と形容するのがふさわしい鎧姿だと言える。

 中身も傍若無人で最悪だしな!

 

 ……兄の鎧があれだけ強いのなら、私が座ったときに出たこのローブもなにか特殊な力でも持っているのだろうか。

 特に怪力になったりはしていなかったが。

 

 まあいいか。

 また今度確認しよう。

 多分常識的な手段ではわからない気がする。

 

 さて、ガチャでも回しておこう。

 

 R・ハンマー

 

 出現したのは、異常なサイズの頭を持つハンマーだった。

 ヘッド部分にはこれみよがしに「100t」と書かれており、その見かけ以上に重いことを自己主張している。

 ……が、柄を握った手応えからしてそんな馬鹿げた重量ではない。

 

 というか質感からしてこのハンマーはゴムの塊なのだ。

 柄以外のほぼ全てがゴムで出来ているように見える。

 触った感じ相当硬いゴムのようではあるが。

 

 ハンマーなのだから何かに振り下ろすことで効果を発揮するだろうと私は考える。

 しかし、馬鹿げた重量ではないとはいえ、これが重くないというわけではない。

 洋樽ぐらいある巨大なゴムの塊が重くないわけないのだ。

 ゴムの比重は水とほぼ同値。

 種類によって前後するとはいえ、そんなに大きな差はないはず。

 つまり、ざっくり計算しても500キログラム前後はある。

 

 ……、いやそう考えるのなら手応えがおかしい。

 そう思って私は柄を握りしめ、そのハンマーを()()()()()

 持ち上げた腕にかかるスレッジハンマー程度の重量感。

 兄の工具箱(おもちゃばこ)に入っていたそれと殆ど変わらないのだ。

 

 異常にでかいハンマーを片手で持ち上げている私の姿。

 まるで漫画のようだ。

 

 私はそれを……そっと置くつもりだったのがうっかり手が滑って思いっきりテラスの床に叩きつけてしまった。

 スレッジハンマーと同等の重量がある塊を叩きつけられた床は、特に壊れることもなかった。

 

 ま、マンガ的すぎる。

 もしかしてだが、これは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメもどきの頭にハンマーで思いっきりフルスイングしていた。

 バコーン、と響き合わたる快音を立てながら、それを身に受けたサメもどきは全くの無傷。

 これは……、やっぱりと言うべきか。

 

 古いギャグ漫画に出てくるツッコミ用のハンマー……!



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R ミニカー

 ミニカー。車を模したミニチュアを指す言葉である。

 一般的に手に乗るサイズの大きさのものが主流であり、主に子供の玩具として販売されている。

 大きさの関係上、ギミックと呼べるものは多くは扉の開閉とタイヤの回転ぐらいだが、中にはプルバック式の仕掛けを使って走り出すものも存在する。

 

 今回はそのミニカーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がアトリエの釜で唐揚げを作っていた。

 いや、何を言っているのかわからないが、唐揚げを作っていたのだ。

 

 釜にボトルごと油を投入し、釜の中身の色が変わるまでかき混ぜ続けたあとに鶏肉を塊のまま投入して4時間煮続けるという、明らかに常軌を逸した作業工程でだ。

 なぜ4時間も煮るのか。

 なぜボトルごと油を投入するのか。

 

 そして、なぜそれで唐揚げが出来上がってしまっているのか。

 錬金術はあまりにも不可思議である。

 

 なお出来上がった唐揚げの味はちょっとそのぉ……。

 やばかったです。

 素揚げの鶏肉! としか言いようがない。

 まあ材料に唐揚げの衣となるものが投入されていない時点でそうなるのは約束されていたというか。

 

 うどんで上手く行ったからって唐揚げで試そうとするのは理解できたが、なぜそこでレシピどおりにやらなかったのか。

 いや錬金術ではこっちのほうが正しいのか?

 レシピノートを読んでいない私にはわからない。

 

 まあいいか。

 料理程度のレシピならば、兄は二三日で修正してまともなものが作れるようになるだろう。

 他の薬や道具でなければ。

 

 ガチャでも回そう。

 

 R・ミニカー

 

 出現したそれは……、出現と同時に地平線へ向かって走り出した。

 手のひらサイズの車が自転車ほどの速度で走り出したのだ。

 雑草に覆われた草原という悪路をものともせず、その小さな車輪でしっかりと地面と捉えながら。

 

 あっ、ちょっ、まっ。

 私は慌ててその車を追いかけ始める。

 時折そのミニカーは草を足場にたまに跳ねながらも、しっかりとその車体を走らせている。

 

 しかも不定期に曲がったり、空中で方向転換したりするために追いかけている私は散々振り回されている。

 それに速度が全然落ちない。

 その小さな体のどこにそれだけの動力が仕込まれているのかわからないが、私を振り回し続けるのには余りある。

 

 最終的に勢い余った結果ダンジョンの壁にめり込んだミニカーの両脇を指でつまむことによって捕まえることが出来た。

 つまみ上げたミニカーはまるで電池式でモーターで走らせる車のプラモデルの如く、タイヤを高速回転させて振動している。

 というか、勢いがすごすぎて指からすり抜けそうである。

 

 ところでこれどうやって切るんだ……?

 電池ボックスも電源スイッチも、なんなら動力となる仕掛けも見当たらない。

 

 なのでシャーシとガワを掴んで引っ張って外した。

 そこにあったのは、回転するシャフト。

 歯車もゼンマイもなにもない。

 シャフトをプラスチックのフレームが固定しているだけで、なんの動力にもつながっていない。

 

 ああはいはい。

 いつものいつもの。

 シャフトが回転しているだけなら景品としては普通ですらある。

 

 めちゃくちゃ走らされたけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機人(シャークボーグ)をミニカーに組み込んだ。

 サメ機人(シャークボーグ)にミニカーを、ではない。

 サメ機人(シャークボーグ)をミニカーに、である。

 ミニカーのガラス部分から見える内側にみっちりとサメ機人(シャークボーグ)が詰まっていればそう表現するしかあるまい。

 アトリエの釜か、ダンジョンの機能によるものかはわからないが。

 

 その結果、中に詰まっているサメ機人(シャークボーグ)の思考でミニカーを操作出来るようになった。

 これによって……ダンジョンの壁にめり込むだけの破壊力を持つ回転を加えながら跳躍突進を自由に使えるようになったのだ。

 

 ……。

 なにミニカーを武器に加工してんの!?

 いや放置しててもギャルギャル音をたて続けるだけのおもちゃだけども!



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R 画鋲

 画鋲。壁などに掲示物を固定する道具である。

 プラスチックや金属などで出来た頭に金属製の針がついた小さな道具であり、その頭は様々な形状が存在する。

 一般的な形状で言うならば平型の金属であったり、丸い頭であったり、なにかの駒のような形状だろう。

 これは針を固定して押し込んだり引っこ抜いたりできればなんでもいいのでデザイン性を優先したものも存在する。

 

 今回はその画鋲が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アトリエには常にサメ機人(シャークボーグ)が数体いる。

 その殆どは常に釜をかき回し続けているか、本を読み続けて情報を集積し続けているのだ。

 サメ機人(シャークボーグ)は機械であり、仕事を確実にこなすだけの能力がある。

 また喋ることこそしないが、実は頭脳労働もかなり得意だ。

 

 特にひたすら機械的な変換を行うことが出来る翻訳作業はサメ機人(シャークボーグ)は得意としている。

 文学や日記のような表現を中心とする文章は流石に苦手だが、レシピのような書かれているものを書かれているように扱う文章ならば問題なく翻訳出来る。

 

 そんなサメ機人(シャークボーグ)の作業だが……、実はかなり遅延している。

 原因はなんというか、書かれているレシピがあまりに達筆すぎるのだ。

 文字がうねりまくっていて、それも癖なのか字が繋がりまくっている。

 

 たとえ日本語で書かれていても絶対読めねえ……と言いたくなる。

 すでに文字の解読を済ませて書き出された文字の形状に対して、形が崩壊しすぎているのだ。

 これを読むのはまあまともでは無理だな。

 サメ機人(シャークボーグ)は機械だから時間をかければ読解できるだろうけども。

 

 そっちは兄に管理を任せて私はガチャを回す。

 今回はー、と。

 

 R・画鋲

 

 出現したのは画鋲だった。

 それも、カプセルの中に4つだ。

 4つしか無い画鋲で何をしろというのだ。

 

 白い球状の頭があしらわれた普通のサイズの画鋲。

 見た目に変わったような部分がないが、それが逆におかしく感じる。

 これの使い方を考えれば、もっと大きいのが正しい、そんな予感がするのだ。

 

 とりあえず適当に木材に突き刺してみてもなにか変わったことが起こったりはしない。

 いつもならこれをした時点で木材が発火したり、勢いよく画鋲が抜けたりするのだが。

 

 画鋲だからなにか紙を留めないといけないのか? と思い、A4用紙を木材に止めてみたがそれも不発。

 引っ張ってみるもあっさり裂けてしまった。

 

 んんー?

 画鋲なんだから画鋲としての使い方で逸脱するんじゃないかと思ってたが、勘違いか。

 最初に感じた直感もあって、答えが見えない。

 

 わけわかんねえ。

 そう思って私は画鋲を机に投げ出した。

 ぽん、と放り投げたはずだった。

 

 画鋲は、スカカカンと気持ちいい音を立てて、机に突き刺さったのだ。

 ええー……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。案の定というべきか、そうなると思っていたというべきか。

 兄が画鋲を手裏剣代わりにおもちゃにしていた。

 投擲に絶対的な適性を持つという不可解な性質をもった画鋲は、適当に投げるだけでもターゲットに正確に針が突き刺さるのだ。

 これは相手が金属であっても問答無用で突き刺さるため、結構危険なのではないかという気がしなくもない。

 

 とはいえ、所詮画鋲。

 針が刺さるといってもそんなに深くはないため、人に向かって投げてもちょっと怪我をするだけだ。

 

 なに? 毒?

 今までサメ機人(シャークボーグ)で粉砕できなかったモンスターとかいないんだからやめなさい。



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R シェルター

 シェルター。何らかの災害や危機が迫った際、その中に逃げ込むことでその災害や危機が去るまでその身を守り、安全に生存するための場所のことである。

 多くの場合はある程度の生活環境が整えられ、防護壁に囲まれた地下室である。

 天変地異や戦争など、長期間に渡って何らかの被害にあう可能性を想定していることから、内部には備蓄食料などを備えているのが当然であり、物によっては内部で数年間過ごすことも可能なほどだ。

 

 今回はそのシェルターが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば、魔王の玉座で出現した黒いローブだが。

 身につけている状態だと魔法の威力が凄まじいことになった。

 

 影の塊を投げつけるだけのシャドーボールが、ぶつけた場所の周囲を半径1メートルに渡って吹き飛ばす威力になっていたのだ。

 もともと野球ボールのほうが威力の有りそうな魔法を破壊的な威力になるまで増幅する黒いローブ。

 さすが魔王の一品という印象を受ける。

 

 ということは、これで簡単な防御の魔法を使えばまるで要塞のような防御力が得られる、ということか?

 攻防が完璧に揃っていて大変凶悪な魔王であると言えよう。

 

 兄が暴走したときの為にもっと魔法を覚えておくべきか?

 いや兄にはあの大量のサメ機人(シャークボーグ)がいるしな……。

 

 まあいいか。

 そうなったときに考えよう。

 

 ガチャを回して思考を切り替えよう。

 あまり切り替わらないというか、よりろくでもない方向に変わるというか……。

 

 R・シェルター

 

 今回出現したのは、鉄扉だった。

 鋼鉄で出来た扉が地面に直接出現したのだ。

 地面の面に沿って出現したその扉は、まるで金庫かなにかのように固そうな金属でできている。

 

 ここに扉が出たということは、出現と同時に地下室が出現した?

 完全に埋没しているその扉を見て、私は考える。

 

 開けてみればわかることか。

 私はその跳ね上げ式の扉のハンドルを引き上げる。

 すると内部に油圧式のジャッキでも仕込んであるのか、ゆっくりとその扉が持ち上がっていく。

 

 開ききった先にあったのは階段。

 開閉に反応したのか、明かりが順番についていき、奥に部屋があるのが見える。

 

 そして、奥にあった部屋は普通の部屋だった。

 そう、普通の部屋。

 

 ワンルームの普通の部屋だ。

 手前に台所があり、左手にユニットバスと思しき部屋があり、その先に()()()()()()()()()()()()()()部屋があるのだ。

 そこにはメタルラックで大量の備蓄食料と寝るためのベッド、娯楽としてのテレビ台が置いてある。

 シェルターとしてはかなりよく揃った部屋だと言える。

 

 この、壁一面を占拠する窓がなければな!

 どこから入ってきているのかさっぱりわからない陽光がこの部屋がシェルターだということを否定しているのだ。

 窓自体は完全に嵌め込みで、しかもすりガラスなせいで向こう側が見えない。

 

 何だこの部屋……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がシェルターにあった保存食を開封して食べていた。

 この保存食はすごい。

 なんたって賞味期限が2405.03.09と書かれている。

 2405年。

 400年は未来だ。

 

 ……、一体いつ作られたものかさっぱりわからない。

 案外この普通のワンルームに見えるシェルターも未来で作られたものなのだろうか。

 それなら陽光の入ってくる謎の窓にも超技術だとして納得出来なくもないが。

 

 現に陽光を再現する電灯はすでに存在するからな。

 

 なお食べた保存食は美味しいパスタだった。

 具材がパスタに練り込まれていることを除けば、調理法も茹でるだけと簡単。

 

 でも得体のしれないものを躊躇なく食べるのやめたほうがいいと思うよ兄よ。



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R パワードスーツ用ブレード

 パワードスーツ。簡単に言えば人間の力を拡張し、人の限界を超えた身体能力を発揮するための機械である。

 その性質上、大きさは人の一部位と同等から人と同じぐらい、そして上は青天井に大きくなる。

 一方で、どれほどまでに巨大化したとしても人の機能の拡張であるため、人間に出来ない動作は不可能である。

 そのため使用される道具は人が扱うそれと形状は大きく変化しないであろう。

 

 今回はそのパワードスーツ用の装備が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基本的にろくでもないガチャの景品は、兄のダンジョンの中に作った金庫に保管することにしている。

 ダンジョンの中は空間が歪んでおり、その気になればいくらでも拡張が可能なためだ。

 それに棚や清掃など、放置しておくのに何かと手間だったり、余計なコストがかかったりする部分もダンジョンの機能で埋め合わせられるため実質タダになる。

 

 Nランクで出現したポケットサイズ核爆弾などもそこに置いてあるのだ。

 最悪、金庫が吹き飛んでもダンジョンに問題が出ないようにガッチガチに防御を固めてある。

 具体的には金庫が脱落して奈落の底に落ちていくようになっている。

 

 最も、一度ミスで中身ごと金庫を落としたことがあるので、中に人がいる間は動作しないようになっているが。

 その時の金庫は今も水の底に沈んでいる。

 

 まあ保管庫のことなんてどうでもいいか。

 結局のところ、これまで出たヤバそうなやつはそこにいれられて、これからでるヤバそうなやつもそこに入れられる。

 ただそれだけのことだ。

 

 そして今日もそこに入れられるであろう景品を排出するわけだ。

 ろくでもねえ。

 

 R・パワードスーツ用ブレード

 

 出現したのは、巨大な剣だった。

 全長が10メートルほどもある剣だ。

 装飾らしい装飾もなく、極めて単純で実直な作りをしている。

 

 しいて普通の剣と差があるとするならば、握りになにやら固定用の金具がついていることか。

 

 ……でけえ。

 久々にでかすぎる上に動かさないと邪魔になるものが出たような気がする。

 

 それに、パワードスーツ用。

 この剣を使うためのパワードスーツが世の中に……いや、ガチャの景品の中に存在するってことだ。

 パワードスーツってのは結局のところ着ぐるみのようなもので……そんなバカでかい着ぐるみ、存在するか?

 

 いやああるんだろうなぁ……。

 そしていつか出てくるんだろうなぁ……。

 めっちゃ困るな……。

 

 それに……。

 この10メートルある剣、どうやって撤去しよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機人(シャークボーグ)を使ってパワードスーツ用ブレードを引き倒していた。

 パワードスーツが使う都合上、刃の部分はなまくらなのかと思っていたのだが、実はこれがメチャクチャに鋭い。

 髪の毛をふっと触れさせるだけで切断してしまうほどなのだ。

 

 当然そんなモノを無理やり動かせば周囲に危険が降りかかる。

 だから慎重に動かす必要があったのだが……。

 

 兄はサメ機人(シャークボーグ)を使って引きずり倒した。

 周囲に誰もいないからセーフ! みたいな理屈でかなり強引に動かしたのだ。

 いや確かに私と兄以外に人間はいないが。

 周囲に色々あるだろ!

 

 動かす過程でサメ機人(シャークボーグ)が3体切断されたが兄には誤差らしい。

 まあ兄的にはそりゃ誤差だろうな。

 いくらでも生産が利くんだから。



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R 蛇口

 蛇口。ひねると水が出てくるアレである。

 内側に栓が取り付けられており、それの開閉具合をつまみやレバーで調整することで液体の流量を調整するような作りになっている。

 また公共施設やスーパーなど、不特定多数の人間が使用する蛇口については、衛生上の関係から赤外線センサーによって自動で水を出すものが普及している。

 

 今回はその蛇口が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がシェルター内にあったディスクメディアの中身をあらためていた。

 そのシェルターがどのような世界に由来するものか微妙にわからないところがあるが、娯楽は共通だろうという考えだ。

 

 実際、ディスクメディアには映画と思しきものやゲームだと思われるものがいくつもあったのだが、問題は再生機器がわからない。

 見当たらないのではなくわからないのだ。

 テレビの横にそれらしきものは置いてあるのだが、どうやって電源を入れればいいのかわからない。

 

 試行錯誤の結果、円にちょぼがついたロゴに数秒触れ続けることによってその再生機器と思しき装置を起動させることに成功したのだが、今度は映像出力がどれかわからない。

 というかテレビのリモコンもない。

 なんらかの操作機器があるはずなのだが、ないのだ。

 

 もしかして思念操作とかそういうやつか、音声操作とかかもしれない。

 そうなってくるとお手上げだ。

 

 そうひとしきり悩んだあと、棚の下にリモコンが滑り込んでいたのを兄が発見。

 今度は再生機器の方の操作端末を探す番だ……!

 

 まあリモコンを探している兄を見ていてもしょうがないのでガチャを回してしまおう。

 今日は何が出てくるか。

 

 R・蛇口

 

 出現したのは蛇口だった。

 パイプに接続するためのねじ切りが存在していて、バルブに3つの突起がある一般的な銀色の蛇口だ。

 一般的に見られる蛇口と全く同じ金属でできている。

 

 ……、つまり普通の蛇口が、蛇口だけで出現したのだ。

 もちろんひねってみても何かが出てくるわけではない。

 ねじ切りの方もなにか吸っているわけでもないようだ。

 

 マジで普通の蛇口なのか?

 覗き込んでも構造上おかしいところはない。

 まあおかしいところが見て取れる景品のほうが少なかったから当てになるわけではないが。

 

 少し考えて……気がつく。

 やっぱりなにかに繋げる必要があるのでは?

 そう思ってねじ切り部分をテーブルに押し付けてみた。

 

 うにゅるん、と粘土にでも突っ込むような感触とともに、蛇口のねじ切り部分がテーブルにめり込んだ。

 それと同時に……いじっていたときにバルブが緩んでいたのか、蛇口の先端からとろりとなにか得体のしれない液体が流れ始めたのだ。

 

 うっ、この匂い……。

 木酢液かなにかだ!

 

 蛇口がテーブルを絞って液体を生成している!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄は蛇口をみかんに取り付けた。

 蛇口をひねるだけで出てくるみかんジュース。

 これがまた全く混ざりけがなくて美味いのだ。

 結局この蛇口は接続した物体が内包する液体を蛇口の先から流れ出させる効果を持っていた。

 なお吸われた側が乾燥して乾ききったり、みかんなら食べられなくなったりはしなかった。

 いつまでもみずみずしいままである。

 ということはおそらく複製……、ないし蛇口の先で合成して出しているようだ。

 

 でもさあ。

 そこから思いついたかのようにサメ機人(シャークボーグ)に蛇口をつけようとするのやめてくれない兄ィ?



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R 死体に貼る御札

 キョンシー。額に御札を貼られた動き回る死体のことである。

 キョンシー自体はきちんと祀られなかった死体がその怨念により動き出したゾンビだ。

 また御札が貼られたものは道士や符呪師などの儀式によって操られているものだ。

 その特徴といえば両手をまっすぐ伸ばした姿だろう。

 これは死後固くなってしまった肉体の関節が曲がらなくなっているためである。

 

 今回はそのキョンシー用の御札と思しきものが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発掘ダンジョンの宝箱から出現するものにはやはりと言うべきか共通の世界観、文化が見て取れる。

 一般的にファンタジーのそれだと言ってしまえるだろう。

 

 魔力を宿した指輪、炎を纏う魔剣、光を放つ盾など、マジックアイテムの数々。

 それに発掘ダンジョンの存在していたと思われる世界の文化が伺えるレリーフや木像、絵皿など。

 

 どれも現代社会では見つけることは出来ない代物だろう。

 またガチャの地獄めいたランダム世界観物品とは異なる、異なる世界への憧憬のようなものが感じられてロマンがある。

 

 いやホントガチャのあれは何?

 何を基準に景品を出現させているのかわからないし、どこから持ってきているのかもわからないが、世界観を統一する気が無いのだけははっきりわかる。

 すこしは発掘ダンジョンを見習ってほしいものだ。

 

 しかも強制的に回させてくるしさぁ……。

 ある日突然出現したのだから、ある日突然姿を消さないだろうか。

 

 はぁー。

 回すか。

 

 R・死体に貼る御札

 

 中華ァァァァァッー!

 ごった煮地獄世界観だって話したばかりで追加の新世界観やめろォ!

 

 出現したのは映画なんかで見るキョンシーの額に貼られている御札だ。

 黄色い紙に赤い字で何やら複雑な文字が書かれているものが10枚綴りで出現したのだ。

 

 で、何?

 死体に貼る御札?

 どう見ても貼り付けた対象がキョンシーになるやつじゃねーか。

 たまにRランクでこういう普通のマジックアイテムっぽいのが出てくるが、だいたいおかしなところにおかしな特徴を抱えているから油断ならない。

 

 というか死体なんて調達できるわけがなかろう。

 さて、どうするか……。

 

 私はそう考えて冷蔵庫から鮭の切り身を確保してきた。

 冷凍でガッチガチに凍りついているものだ。

 本来であれば明日の夕食になるものだが……。

 

 私はそっと、凍りついた鮭の切り身に御札を貼り付けた。

 切り身であっても死体は死体。

 これで何も無ければなにも効果がなかったよ、とでも言って焚付にでもするのだが。

 

 まあ……、そうは上手くはいかない。

 切り身はガタガタを動き出し、私の前で元気に飛び跳ねだした。

 そのガッチガチに凍りついた身体を、振動するモーターかなにかのように振ってだ。

 

 あっ、泳いだりはしないんだ。

 サメは平気で空を泳いでいたが。

 

 さて、この私の目の前でビッタンビッタン動いている冷凍鮭の切り身、どうしよう。

 暴れるたびに端から崩れてどんどんぼろぼろになっていくんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が発掘ダンジョンで回収してきた骨を組み合わせて遊んでいた。

 訂正。組み合わせた骨に死体に貼る御札を貼ることでなにやら得体のしれないキョンシーを作り出していた。

 

 兄がダンジョンで回収してきた骨はだいたい特殊なモンスターのもので、後々材料にしようとしていたものばかりだ。

 そのため、完成したキョンシーキメラはあまりにも生物としてかけ離れた姿をしていながら、想像を超えた力を秘めていた。

 硬直して曲がらなくなるような筋肉がないからってフットワークに優れた柔軟な動きをするのは完全にシュールな光景である。

 骨しか無いのに。

 

 なお切り身キョンシーは兄のおやつになった。

 まさか御札が貼られたままグリルにするとは……。



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R デジタルカメラ

 デジタルカメラ。レンズで捉えた風景をデジタルデータとして保存出来るカメラのことである。

 構造上、レンズを小さくできればカメラそのものを小さくすることが出来るため、様々な大きさやデザインのデジタルカメラが存在する。

 中にはアンティークなデザインのカメラをデジタルカメラとして復刻したものも存在するほどだ。

 また電子機器の小型化に伴って、指先の上に乗せられるサイズのデジタルカメラも存在している。

 

 今回はそのデジタルカメラが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がついに錬金術士のアトリエで新しい薬を作ることに成功した。

 出来上がったものは飲み薬で、なんと塗ると傷が目に見える速度で塞がっていくのだ。

 

 飲み薬なのに塗っちゃったの? と疑問も浮かぶが、飲むと回復力が過剰すぎるせいか、全身ががん細胞と化して死ぬ。

 サメもどきがそれで爆発して死んでいたから間違いない。

 

 そんな過剰になってしまった最大の原因は、兄の畑にある。

 今あそこに植わっている植物は兄がダンジョンで手を加えた改造品種であり、その殆どが通常の植物のそれを凌駕する生命力を持っているのだ。

 切り取ってもすぐに傷がふさがり、新しい葉が生えてくるほどだ。

 

 そんな植物を材料に使ってしまったために回復力が過剰になってしまったのだ。

 簡単なレシピなため、調整も利かないという。

 

 うーん危険!

 畑の植物を使わない方向で作り直してくれ!

 

 さて、私はガチャを回してしまおう。

 

 R・デジタルカメラ

 

 出現したのは、手のひらに乗るサイズのデジタルカメラだった。

 一時期主流になった銀色で箱型のデザインのもので、一般的なデザインであると言えよう。

 表に伸縮するレンズがあり、裏に小型のディスプレイがついている。

 

 想像以上に普通のデジタルカメラが出てきた。

 いわゆるファミリー向けのリーズナブルなモデルのものだと見て取れるが、どこを見ても会社のロゴのようなものは刻まれていない。

 それどころか底に貼られがちな警告シールもない。

 あとバッテリーの蓋もない。

 

 そして電源は……おっ、入った。

 軽快な起動音と共に、レンズが展開しカメラ前方の風景をディスプレイに映し出す。

 ここまでは普通のカメラだな。

 何やら特殊なフィルターが掛かっていたりとか、幽霊が見えるとかそういうものではなさそうである。

 

 なのでとりあえずシャッターを切ってみた。

 

 そして撮られた写真には、そこに存在しないはずの中年男性が写っていた。

 

 は!?

 思わずもう一枚取る。

 

 撮影したもう一枚には、違うポーズで中年男性が写っている。

 二度、三度、繰り返して撮影をしてみるがどの写真にも同じ中年男性が映り込むのだ。

 ポーズは一定でなく、しかも場所や動きに連続性があるわけではない。

 連射機能で撮ってみても、ポーズや位置こそ変わっていてもその中年男性が動いているようには見えないのだ。

 

 つまり、撮った瞬間に完全に無作為に写り込んだとしか言いようがない。

 

 うわっ、気持ち悪。

 なんだこのカメラ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。デジタルカメラは兄がダンジョンの機能の材料にした。

 カメラなら何でもいいからというのでさっさと処分したいと思っていたこれを渡したのだ。

 結果はというと。

 

 頭がでかいカメラになったサメ機人(シャークボーグ)が出てきた。

 何だこいつ……。



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SSR ビルダー

 SF系のモノ作りサバイバルゲームには、ビルダーと呼ばれるアイテムが存在する場合がある。

 これは簡単に言うと建物の建築や設備の構築を代理で行う装置で、よくわからないビームを照射しながらその場に建物などを生成するのだ。

 その手のゲームの場合プレイヤー一人だけで過酷な環境に投げ出されるため、建物などを作るだけの人員が存在しない。

 そのことに対するゲーム的な救済措置である。

 

 今回はそのビルダーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、サメ機人(シャークボーグ)の改造された姿を見る事が増えているような気がする。

 サメ要素が増えた結果、サメ頭が2つついたサメ機人(シャークボーグ)や、練気ストーブと合成されて誕生したモンク、暴走ミニカーに押し込まれた機体、カメラを頭部に組み込まれて巨大なカメラそのものになった機体、魔王化したモノ、それにスケルトンのドラゴンを注入された結果、サメのドラゴンのロボになったやつ……。

 

 極めつけは変形合体だ。

 複数のサメ機人(シャークボーグ)が全身のパーツとして変形して合体することでより巨大で強大な機体にへと変貌するように作られている。

 6体合体あたりならまだわかるのだが、実際ここにいるのは30体合体だ。

 その外見はもはや密集というべき代物だ。

 サメ機人(シャークボーグ)が各所に埋まった金属筋肉の塊である。

 

 多分パワードスーツ用のブレードを使わせるつもりで用意したんだろうが、その分でかくなるってことを考えなかったんだろうね。

 合体したまま呆然と立っているサメ機人(シャークボーグ)の姿はなんというか。

 たそがれているように見える。

 感情などないはずだから気のせいだろうが。

 

 やめやめ、サメ機人(シャークボーグ)の話とかしていても仕方ない。

 ガチャを回してしまおう。

 

 SSR・ビルダー

 

 出現したのはリモコンだった。

 傾いた照射部分とディスプレイ投影装置と丸いボタンが一つついたリモコンである。

 電源スイッチは照射部分の反対側についていた。

 

 しかし……はて、ビルダー?

 一体これがなんなのかイマイチわかりかねる。

 リモコンのようには見えるが、照射部分の巨大なレンズなどそうではないと主張している部分も存在する。

 自然に握ると照射部分が腕の先に来るように傾いているのは使用者のことを考えてのことだろうか。

 

 とりあえず起動してみる。

 それと同時にディスプレイに文字が浮かび、さらにそこからホログラムのウインドウが浮かび上がった。

 そこには周囲にある資材を認識しているらしく、利用するかのダイアログが出ていた。

 

 なんだこれ。

 超技術の一品であることはわかる。

 だってホログラムディスプレイだからな。

 だが資材を要求してくるのはわからない。

 

 のでとりあえず余りまくっている木材とヒヒイロカネを選択してみた。

 ホログラムを恐る恐る指でつついて指定したのだが、タッチウインドウになっているのならばこっちの大きなボタンは一体……?

 

 資材の選択を終えると、今度はモニターにその資材で作れるであろう建物や設備の選択画面。

 これも小屋を選択してみた。

 

 すると丸いボタンを押すように画面に指示が出る。

 それと同時に、照射部分からもホログラムが表示され、地面に選択した小屋のグラフィックが表示されていたのだ。

 

 うーん。

 もしかしてこれ、小屋が生成されるとか……?

 そんな気がしてきた。

 そんな装置をゲームで見たような気がする。

 

 とりあえずじゃまにならないところでボタンを押す。

 すると下から順番にまるでプリンターで生成しているかのように、グラフィックが浮かび上がるかのように小屋が生成された。

 

 ああ……ゲームそのまんまなのね。

 そう思って利用した資材置場に視線を向ける。

 

 そこにあったのは、無数の球形にえぐられた木材の山だった。

 まるでスッカスカのチーズのようである。

 向こう側が透けて見えるほどに穴だらけだ。

 若干ぞっとするほどに。

 

 なに再利用しづらい形で材料使ってんだよバカ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が発掘ダンジョンの支配のためにビルダーを利用した。

 ビルダーは一度解析したものなら材料次第で何でも作れるらしく、兄がダンジョンを侵食するために利用しているポインターを複製できたのだ。

 

 というか、ダンジョンの層そのものを材料として違う層に改造してしまえるのは効果範囲が広すぎるというべきなのか?

 再構築で仕掛けもなにもかもを破壊してしまえるため発掘ダンジョンの完全支配まで秒読みである。

 

 というか、兄に恐るべき環境改変のおもちゃを与えてしまった気がする……。



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R 隠し部屋

 屋敷を作る際、図面にない部屋を作り上げることがある。

 多くの場合は何らかの問題が起こった際に身を隠したり、脱出するための抜け道として用意されているものだ。

 また館もののミステリの定番の仕掛けでもある。

 本来の部屋からずれた位置に存在する隠し部屋が殺人のトリックに利用されるのだ。

 本来存在しない部屋が存在するがゆえに全うな思考ではその正体にたどり着くことが出来ないようになっているのだ。

 

 今回はその隠し部屋が出現した話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がビルダーで実験室の中を組み替えていた。

 ビルダーの機能によって建物であればいくらでも移動させ、作り変えることが出来るため、これまでメチャクチャな位置に出現していた建物を移動させていたのだ。

 

 具体的には東京地方裁判所。

 でかい、高い、入れないの三重苦である。

 

 これがなかなかいい位置を占拠しているのだ。

 移動させられるなら移動させたいと常々思っていたのだ。

 

 ビルダーが出現したためにようやく移動させられる。

 ……と思っていたのだが。

 でかすぎて認識対象外だった。

 

 ああー。

 まあそうなってしまうのか……。

 

 とりあえず場所が適当になっていた冒険者ギルドや錬金術士のアトリエ、自販機やら鍛冶屋を大通りのような配置に並べ直せただけよしとしよう。

 その間々に妙な建物を生やして遊んでいる兄も兄だが……。

 その触手がうねっているような形の家はなんなんだ。

 

 なお、ガチャは動かせなかった。南無。

 

 さてガチャを回そう。

 

 R・隠し部屋

 

 出現したのは、丸い宝石がついたアクセサリーだった。

 かんざしのような細長い棒とその先に鎖で宝石がぶら下がった作り……作り?

 いや、かんざしにするには微妙に棒が短い。

 アクセサリーかと思っていたが違うような気がしてきた。

 

 というか、これガチャの景品名が隠し部屋なのだ。

 部屋……?

 流石にどう見ても部屋には見えない。

 

 私がありえないと思いこんでいるだけでこの宝石の中に部屋があるのかもしれないと思って覗き込んでみたがそれも違うようだ。

 そもそも光を通して輝くような宝石ではなく、美しい色を持つラピスラズリのようなタイプの宝石なのだ。

 覗き込んだところで何かが見えるわけもない。

 

 かんざし……いや細長い棒の方が鍵にでもなっているのかと、棒で壁を突き回したり、鍵の代わりに鍵穴に突っ込んでみたりしてみたのだがそれも無反応。

 

 うーむ。わからん。

 そう考えて壁に背をもたれたときである。

 

 私の身体はバランスを崩して壁の方へと倒れ込んでしまった。

 そこに壁があるはずにも関わらずである。

 

 倒れた先には見知らぬ部屋、それもヨーロッパ風の部屋だった。

 小さな倉庫ほどの広さで通気孔ほどの窓しかない。

 

 えっ……。

 これが隠し部屋……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。色々調べた結果、この隠し部屋を手に持った状態で壁に背をつけると、その壁が隠し部屋への入り口になることがわかった。

 外からは決して見つからず、壁としか認識されない部屋。

 そして、この隠し部屋を持つものにしか入れない部屋。

 

 兄に渡すわけにはいかねえ……!

 ぜってえやべえことをやらかすぞあいつ……!



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R 漆黒のコート

 コート。オーバーコートの略語であり、外套のことである。

 最も外側に着る衣服であり、多くの場合その下に服を着込むため、大きくゆったりとした作りになっている。

 衣服を覆ってしまうため冬場のおしゃれとしては大きな要素を占めているため様々なデザインのものが存在している。

 

 今回はそれとは全く関係なくコート剤が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄は今、発掘ダンジョンを再度攻略している。

 すでに一度攻略し、マップもサメ機人(シャークボーグ)による巡回で作成済みである。

 それであるのになぜもう一度攻略しているのかと言えば、やはり兄のダンジョンによる侵食の補助作業だ。

 

 侵食に利用できるポインターがビルダーで制作出来ることは前回も言ったと思うが、このポインターを作るにはやはり現地に行く必要があるのだ。

 それにその場にそのポインターを作るだけの材料が存在するとは限らない。

 そのために材料を持ち込んでいるのだ。

 

 あとは発掘ダンジョン自体に存在する、発掘ダンジョンが使用しているポインターを探して破壊する作業も並行して行っている。

 これもビルダーでお手軽に壁を破壊できるようになったためである。

 

 つまり、だ。

 発掘ダンジョンはこれからスッカスカに破壊される。

 ……もしかして止めるべきか?

 いやまあビルダーにはセンサーもついてたから多分大丈夫だろう、多分。

 

 ガチャでも回そう。

 なーにーがーでーるーかーなー。

 ろくでもないモノがでなければいいが。

 

 R・漆黒のコート

 

 出現したのは、スプレー缶だった。

 エアダスターや油のスプレーのようなスプレー缶だ。

 

 その外面は真っ黒のフィルムが貼られており、その中身がわからないようになっている。

 というか、その黒こそが自身なのだと主張しているような気がする。

 なにせ名称が漆黒のコートなのだ。

 吹き付けたものが真っ黒に染められるようなコート剤でもおかしくはない。

 

 そう、おかしくはない。

 おかしくないことが、ガチャの景品としてはおかしいのだ。

 そんな普通のスプレー塗料みたいな代物だとはとても思えないのだ。

 

 そう思って、余っている木材に吹きかけて試してみることにする。

 振るとカラカラと音を立てるスプレー缶。

 吹出口を木材に向け、その頭を押し込んだ。

 

 シューと音を立てながら吹き付けられる黒い塗料。

 木材をどんどん漆黒に染めていき、その質感を変化させていく。

 どんどんと()()()()、木材に比べれば薄いものにへと。

 

 吹き付けきった先にあったのは、木材だったはずのもの。

 完全に形を変え、漆黒の外套(コート)にへと変化していた。

 

 ああ……。

 しょうもないダジャレじゃねーか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄はヒヒイロカネの塊に、漆黒のコートを吹き付けていた。

 漆黒のコートはコーティングしたものを真っ黒な外套に変化させるコート剤であり、どうも()()は元のモノのままなのだ。

 布の柔らかさしなやかさと、元となった素材の強度を併せ持つ外套が出来上がるわけだ。

 

 最初に実験したコートも、ハサミを入れると断面が木材のままであり、ハサミの手応えも木材を強引に切っている時のそれだった。

 だが着ると普通の外套のように着れるし、着心地も外套のそれなのだ。

 

 そこまで言えば兄がなぜヒヒイロカネの塊にコート剤を吹き付けているかわかるだろう。

 お手軽に鎧となるものを作り出そうとするんじゃないよ!



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R 生命力吸収装置

 生命力。減ると体調を崩し、極端な場合には死に至るリソースである。

 また心臓には生命力が宿るとして、それを生のまま食べる魔術が存在したりするなど、目に見えない液体のようなリソースだと認識されている。

 このため創作では何かと魔力に変換したり、必殺技に上乗せしたり、まじないの対価にしたり、他人から奪い取ったりと、便利に使われる傾向にある。

 

 今回はその生命力を吸い取る何かが出た話だ。

 現実に存在しない概念を操作するのやめてもらえませんかねぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がついにサメ機人(シャークボーグ)に漆黒のコートを吹きかけて外套にへと変換してしまった。

 まさか生物……生物? に使うとは思いもよらなかったし、なんなら生物に吹きかけても意味がないとすら思っていたのだ。

 

 だが兄にそんな常識は通用しない。

 使えるなら使う。

 それが可能であるのならば試す。

 

 思いつく思いつかないのラグこそあるが思いついたのなら実行しない理由がないのだ。

 こと兄に倫理観など期待できない。

 これはここ数ヶ月で実感したことだ。

 

 まあ実験室内でやってるぶんには法も犯さずにすむと考えているのだろう。

 せめて法に縛られててくれ。

 

 なおそんなことをしでかして作った黒い外套は、着るだけで着用した人間にサメ機人(シャークボーグ)の怪力を与え、しかもサメ機人(シャークボーグ)の判断で外套がうごめいて自動防御する代物になった。

 むやみに高性能である。

 

 ガチャを引こう。

 

 R・生命力吸収装置

 

 出現したのは、緑色に光る球体にグリップが付いた奇妙な道具だった。

 グリップには赤くて丸いボタンが付いていて、グリップのお尻の部分にはなにかのコードのようなものがついているのだ。

 またこのコードが適当なところにも簡単に張り付く。

 このコードでなにか情報をやり取りでもしているのだろうか。

 

 しかし生命力吸収装置とは、直球で危なそうなものが出てきた。

 いや刀剣類など、危ない代物は今までいくつも出てきたが、今回は毛色が違う。

 使うだけで直に人の命を奪いそうである。

 暴発すれば私の命すら危なそうだ。

 

 というか生命力ってなんだ。

 そんな目に見えないし、計測も出来ないものを吸収しないでくれ。

 体力とか元気とかならまだわかるが、生命力といわれると具体的にこれ、と言えるものがわからない。

 

 というわけで。

 とりあえず兄の畑で試してみることにした。

 

 コードを隣のウネのナスに接続し、目の前のトマト……トマト? 金属光沢をしたトマトのような植物に吸収装置を向ける。

 そして、ボタンを押し込むと緑色の球体から身体に悪そうな緑色の光が照射され、トマトがどんどん萎れていく。

 みずみずしい金属光沢が失われ、どんどん色味を失い、しわくちゃになっていく。

 その果てには黒ずんでその中身を全て失ったかのように細長くなってしまったのだ。

 

 うわ……、しかもカサカサになってしまった。

 手で触れると風化して粉末状になり、風に乗って飛んでいってしまった。

 これが生命力を失う、ということか。

 やはり恐ろしい道具である。

 

 なおコードをつなげたナスは光り輝いていた。

 やっべ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機人(シャークボーグ)の生命力を吸い出し、サメ機人(シャークボーグ)に注入する作業をしていた。

 吸い出されたサメ機人(シャークボーグ)は全身がサビつき、その体躯はどんどんやせ細って、最終的に崩壊して崩れ去った。

 そしてその生命力を与えられたサメ機人(シャークボーグ)はというと。

 それまでとはふたまわりも巨大化し、目に見える筋肉構造も太く強くなっていた。

 

 まあそういう事すると思ってたけど。

 実際にやられるとドン引きするな……。

 



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R サインポール

 サインポール。散髪屋の入り口でぐるぐる回っているアレだ。

 その由来は正確な記録が残っていないため、様々な説が存在し一概に間違っていると言い切れない場合が多い。

 また、砂糖菓子の有平糖、すなわちねじり模様の飴に似ているところから有平棒と呼ばれることもあるらしい。

 

 今回はそのサインポールが出てきた話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がなにやら、ゲームで見たことあるような武器を制作していた。

 のこぎりとナタの2つの形態を持つ凶悪な武器で、これがまた幅の広くて重量のある代物だ。

 しかも総ヒヒイロカネ製のせいで、どぎつい銅色に染まっておりこれまた目に悪いのだ。

 

 直剣や盾など、そういうシンプルな構造の武器ならその色味もまた有りだと言えるが、今回作っている武器はナタをベースとした無骨なもの。

 背面にのこぎりまで備えているとあっては、いささか強面がすぎる。

 そんな武器が赤い銅の色に染まっているのだ。

 

 正直なところ、いい印象を受けないと思う。

 なんのために作ったのかもわからない。

 作りたいから作ったにしては色味というかそういうものがあまりにも加味されなさすぎる。

 

 そう思っていると、兄は成分抽出機でそのナタからなにかを抜き出し、サメ機人(シャークボーグ)に注入したのだ。

 その結果……サメ機人(シャークボーグ)はのこぎり状の頭と、ゴシック調の服に似た外装を獲得した。

 これがしたかったのか……。

 

 残った武器? こんにゃくみたいになったよ。

 

 さて、ガチャを回してしまおう。

 ヤバそうな自慢話を聞かない為に。

 

 R・サインポール

 

 出現したのはサインポールだった。

 床屋なんかの玄関に置いてあって、くるくる回っているあれだ。

 あれが回転していない状態で、なぜか横倒しで出現したのだ。

 

 むむむ。

 おかしい。

 基本的によほど小さなモノか、直立していては安定しないものでもないかぎり、自身の利用方法に沿った向きで出現するのに、今回はいきなり横倒しで出現した。

 これはすなわち……立てるとなにかが起こる?

 

 なんというか、その時点でだいたい予想がつくな。

 どうせアレだろう。

 サインポールのくるくる回っている部分がドリルのように回転して地面に潜っていくとかそういう。

 

 そう思い、適当な場所にサインポールを抱えて運ぶ。

 邪魔にならない場所に、いつでも起こせるように抱えやすい位置で。

 

 まわりに問題になりそうなものは……なし。

 よし、起こすぞ。

 どっこいしょーい!

 

 サインポールが立ち上がると同時に、そのイメージ通りに内部の三色が回転を始める。

 回転と共になにやら揺れのようなものを感じ、少し視線をサインポールから脇に避けたその時だ。

 

 サインポールがある位置で基準に、そこが玄関になるように、地面から床屋が生えてきた。

 

 床屋が、生えてきた。

 地面を強引に押し上げるように床屋がせり上がってきたのだ。

 

 ええー……。

 そっちが生えるんかーい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が生えてきた床屋を利用していた。

 しかもカットされる前よりも髪の毛が伸びているではないか。

 なんか兄がいうには、ハサミを入れるたびにどんどん髪の毛が伸びていったとのこと。

 それはだいぶ気持ち悪いな……。

 

 しかもこいつ……しれっと髪の毛を後ろでまとめやがって……。

 長いのがうっとおしいのはわかるが、だいぶ似合ってないぞ兄……。



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R 氷結の斧

 斧。石器時代から世界中に存在する、木を切るために利用される道具のことである。

 基本的に長い柄の先端に鋭い刃をつけ、重量によって対象を切断する道具である。

 そのため、用途に沿って様々な形状が存在する。

 特に戦闘のために発達した斧の事を戦斧と呼ぶ。

 ただ、歴史の古い割には神話などに特別な名前を持つ武器としての斧は殆ど存在しない。

 やはりもともとが木材を加工するために使われる道具だからだろうか。

 

 今回は戦斧が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がそこそこ錬金術士のアトリエの使い方を理解したらしく、発掘ダンジョンで獲得した素材のチェックをしていた。

 錬金術の材料にするつもりらしい。

 

 錬金術で作り出した制作物は、素材となったものの特性というべきだろうか、その保有する能力を引き継いだ力を持っていることが多い。

 塗ると爆発する軟膏は、棚にあった爆発性の植物を材料にしてしまったためにそのような効果を持ってしまったようなのだ。

 

 そのため、より強い力を持つ素材ほど強力な制作物が作れるわけで、兄が持つ物の中で最も強い素材といえば発掘ダンジョンで手に入れたものだ。

 マジックアイテムと呼べるものもあれば、本来存在しない植物や、ドラゴンの素材など、常識離れした性質を持つ材料が多い。

 当然材料にすればそれらの持つなんらかの力を自由に扱えるようになる可能性があるわけで。

 

 まあチェックはするわな。

 どうせ明日には確認した内容を忘れてそうだが。

 

 私は私でガチャから出た景品を全て把握しているかと言われると微妙なところだ。

 そして今日もまた一つ増えるわけだ。

 

 R・氷結の斧

 

 出現したのは氷で出来た斧だった。

 何らかの理由で鋼ほどの硬度を得た氷を、時間を掛けて削り出したと言うべき無骨な見た目の斧である。

 そして持ち手には黒い革紐が巻きつけられ、握りにされているのだ。

 その性質は見た目だけでなく、その周囲にいるだけでもわかるだろう。

 

 明らかに空気が冷えているのだ。

 キンキンに冷えた氷がそこに置いてあるから冷えている、という感じではない。

 周囲の空気の持つ熱量が失われているのだ。

 体感で言えば、冷気が流れてきているというより、周りの空気の温度だけが下がったという印象だ。

 

 う、うーん。

 なんというか夏場に部屋においておけばクーラーを付けなくても部屋を冷やしてくれそうである。

 だが、Rランクで出た魔法の武器となると、どうしても魔剣を思い出す。

 あれは私の意志に反応して炎を巻き起こしたが、これは意志に反応する前から冷気を放っている。

 

 下手に触れると、過敏に反応した斧が周囲を凍てつかせてしまうのでは?

 現時点では涼しい程度にしか下がっていないが、これは武器である。

 相手をキンキンに冷やしてしまう効果があってもおかしくはない。

 

 考えあぐねた結果、私はサメ機人(シャークボーグ)から分離されたロボットを使って斧を運ぶことにした。

 触りさえしなけりゃ部屋を冷やせる便利道具になるのは違いないんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。魔剣を使いこなした兄が、この氷結の斧も使いこなせないわけがなかった。

 魔剣と違い、とにかく冷やすことに特化したこの斧は、案の定切りつけた相手を一瞬で凍らせそのまま破砕する代物だった。

 それに握りを持っている間は刃先には常にその性質が生じているらしくうかつに触ることも出来ないほどだ。

 

 というか持っていると寒い。

 私が握っているわけでもないのに周囲がものすごい勢いで冷やされて寒い。

 急に冬が来たのかと思う程度にはキンキンに冷やしてくれる。

 かなり余計である。



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R ボールペン

 ボールペン。ペンの先に付けられた鉄球が回転するとともに、抑えているインクをにじみ出すことで筆記することを可能にする文房具である。

 性質上、極めて小さな球体を作る技術、鉄球を軸先に固定する技術、インクの通る細い穴を作る技術、と精密な加工が必要な道具である。

 そんな精密機械が百均で数十本まとめて売られている現代社会は凄まじいものがあると言えよう。

 豊かさとはそういう物だ。

 

 今回はそのボールペンが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が木工細工で氷結の斧を固定するラックを作り出した。

 ガチャが出現して以来、兄の手先は明らかに器用になっている。

 必要にかられて色々なものを作るようになったせいだろう。

 

 今回作ったラックも、壁に立て掛けておけるように薄い箱のような形状をしていて、中に氷結の斧を固定するための留め具が用意されている。

 この留め具、氷結の斧を持ち出すことを考慮していないのかネジ留めしてしまえるようになっているのだ。

 また、箱の蓋も用意されていて、これがまた妙に気が利いているのか、複数の穴が空いている。

 つまり斧を出さなくても部屋が冷やせるようになっているのだ。

 

 自由に場所を移動させられるクーラーとして生まれ変わったと言える。

 クーラーにしてしまうのは私も考えたが、まさかここまでしっかりした箱にしてしまうとは。

 技術力を得てしまった兄が向かう先は一体どこだろうか。

 

 まあいいか。

 ガチャを回そう

 

 R・ボールペン

 

 出現したのは、黒のボールペンだった。

 クリアなプラスチックの本体に、黒のリフィルが装填された大量生産品のボールペンだ。

 ノック式で上のボタンを押すことでカチカチと軸先が出たり引っ込んだりするタイプのものだ。

 

 ボールペンか。

 シンプルなものだけに、その効果も複数、多岐にわたる用途が想像できる。

 書いたものがなにかになるとか、インクが尽きないとか、そもそも書けないとかそういうやつだ。

 

 そう思って私は紙を用意した。

 ボールペンである以上、なにか書くものが必要になる。

 そういう判断だ。

 

 そのため、私は特に意識することなく、ボールペンの頭をノックした。

 その瞬間、私の目の前の草原にまるでインクの塊のような黒のスライムが出現した。

 

 もう一度ノックする。

 スライムは消えた。

 

 もう一度ノックする。

 スライムが出現した。

 

 えー……。

 まさかノックするだけで効果を発揮するとは。

 それはボールペンである必要がないではないか。

 ボールペンは書くためにあるのであって、カチカチとノックするためにあるわけではない。

 

 とりあえずノックして書いてみたが特になにかが起こるわけではなかった。

 訳わかんねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がノックした瞬間に出現するスライムの制御方法を見つけ出した。

 このスライム、特定の文字を主食としているらしく、ボールペンで書いた字で操作出来ることがわかったのだ。

 

 Aと書くとうろつき、Sと書くと近くのものに噛み付く。

 それだけ。

 それ以外にも何らかしかコマンドが存在するはずだが、何を書いても反応しない。

 むしろよくAとSが反応すると気がついた、というべきだ。

 

 ついでにいうと、他のボールペンで書いた字でも反応した。

 じゃあなんでこれボールペンなんだよ!



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R 眼帯

 眼帯。基本的に目の病や傷を覆い隠し、不衛生にならないようにするための医療具及びそこから派生した装身具である。

 外部の光に対して眼球は過敏に反応するため、患部をできるだけ動かさないようにする必要がある怪我の場合視界を塞ぐなどの処理が必要になることがある。

 また目に負担をかけないために目を使用しないで済む状態にするなどに使われる。

 

 今回はその眼帯が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がボールペンから出現するスライムをラジコンにして遊んでいた。

 あのあと、4つほど操作可能な文字を見つけ出したのだ。

 具体的には数メートル直進させる記号と、数度回転させる記号を見つけ出した。

 これがまた既存の文字とは思えない形状をしているのだ。

 

 連なったDに似た文字と、回転する矢印に二本棒を加えたような文字とその関係性がいまいち読めない。

 やっぱ異世界の文字なんだろうか。

 だとすると探すのは面倒だと言わざるを得ない。

 

 というか兄はあのスライムを操って何をやっているんだ。

 ジャイロ操作しか出来ないから操作しづらそうにしているのはわかるが。

 

 そう思っていたら、スライムの通った跡で操作記号を書いていた。

 よりによってスライムをリセットする記号をだ。

 

 書き終わると同時に出現する10倍はでかいスライム。

 しかもそれが適当にうろつき出すからもう大変なことになった。

 壁にぶつかってはその壁をインクまみれにするわ、通った跡はべっとりとインクがついているわ……

 

 なおそのでかいスライムもボールペンをノックするとすぐ消えた。

 ええー……。

 

 ええい、忘れよう。

 ガチャだガチャ。

 こっちを終わらせて、思考を切り替えてしまおう。

 

 R・眼帯

 

 出現したのは、黒い眼帯だった。

 あのコミカルに描かれた海賊が身につけているあの紐で縛って片目を覆うアレだ。

 見た目古い作りをしていて、きちんと目を覆えるか微妙な構造をしている。

 紐が2本しか伸びておらず、それを結んで固定するために、眼帯の下側がカパカパしそうなのだ。

 

 それに表裏があるらしく、表面にはやたら凝った刺繍が入っている。

 家紋かなにかだろうか。

 ワイバーンに似た生き物があしらわれており、豪華な印象を受ける。

 というかその、目の造形が凝りすぎている。

 なんだその目、怖。

 

 見ての通り妙な一品だが、おそらく効果も妙な一品な予感がする。

 作りが適当なのは基本変だし、作りが凝っているやつも基本変だ。

 そして凝っているこれはおそらく変である。

 推測としては間違っていないはずだ。

 

 そう思った私は……、眼帯だしとりあえず付けてみるか、と頭にその眼帯を巻きつけた。

 その瞬間、眼帯で塞いだはずの左目に、私ではないものの視点からの映像が見えるようになったのだ。

 それは眼帯に映像が映し出されているという感じではなく、左目が受け取っている光が違うものになってしまった感じなのだ。

 右目と左目で違う視覚からはいる情報に大きな齟齬が発生した結果、私は大きくバランスを崩した。

 うっかり椅子から落ちそうになったのだ。

 

 左目はそのバランスを崩したのとは無関係に誰かの視点を……いや、これ兄の視点だ。

 ぶちまけたインクの片付けをしている手元が見て取れる。

 

 うええ、酔ってきた。

 思ったよりも視覚情報ってバランス感覚に影響与えるんだな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が眼帯の視覚情報を結びつける方法を見つけ出した。

 眼帯についた目の装飾が重要だったらしいのだ。

 これをこすりつけた相手の視界を複製して眼帯をつけた目に与えるようで、兄はそれをリンクさせたサメ機人(シャークボーグ)に偵察させながらその視界情報を共有するとかいう使い方を編み出していた。

 

 というかなんで兄はそれで酔わないの?

 わかってたら酔わないとかそういうやつなの?

 それとも酔う感覚がないの?



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R シュレッダー

 シュレッダー。主に機密性の高い文章や住所などが書かれたはがき、情報を残しておきたくない資料を粉々に切断することで破棄を行う道具である。

 その性質上、事務作業を行う職場では必須だと言える。

 構造は至って単純でハンドルを回すとのこぎりのようなブレードがついた2つのローラーが回転し、紙をずたずたに引き裂くことで情報を復元不可能にしているのだ。

 

 今回はそのシュレッダーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば、どうしても動かせないガチャ景品の艤装があったのを思い出した。

 今更思い出したとか言っているのは、私の目の前で兄が持ち出してきてサメ機人(シャークボーグ)に接続しようとしているからだ。

 前に試したときはそれで動かなかったというのに、何をしようというのか。

 

 どうにも、艤装に合わせて調整を施したサメ機人(シャークボーグ)を用意したらしく、それらしい接続端子が複数背部に存在している。

 そのどれもが元のサメ機人(シャークボーグ)には存在しない、大きくて大げさな物ばかりである。

 それに更に大げさな変換コネクタを接続し、それに艤装を接続している。

 

 それによって、ようやくというべきか。

 奇っ怪な音を立てながら艤装が起動し……サメ機人(シャークボーグ)ごと地面にめり込んだ。

 起動したら重量が増加したようである。

 

 強引にめり込んだ地面から抜け出し、匍匐前進の要領で移動する艤装付きサメ機人(シャークボーグ)

 もはやなんのための装備か全くわからん。

 だが兄はご満悦のようである。

 一体何を企んでいるんだ……。

 

 兄の企みは置いておいて、なんかすでに異音を発しているガチャを回す。

 今日はなんか早くない?

 昨日早く引いたせいか?

 

 R・シュレッダー

 

 出現したのはハンドシュレッダーと呼ばれる、シュレッダーの切断部分だけになったものだった。

 折りたたみ式のハンドルと、紙を入れて切断する部分とで構成されている。

 青いプラスチックがいかにもな文房具感を放っていて、若干チープだ。

 なんなら百均でも売ってそうである。

 500円くらいで。

 

 シュレッダーである以上、紙を装填してそれを粉々にする道具のはずである。

 というわけでチラシを用意してみた。

 近くのスーパーのものであり、様々な格安商品が掲載されている。

 

 そのチラシをシュレッダーにセットして、折りたたみ式のハンドルを起こして回転させる。

 その回転に合わせて紙がシュレッダーに飲まれていき、切断されたチラシが……あれ、切断されてない。

 

 だが、チラシの印字は切断され、めちゃくちゃにモザイクになっていた。

 そこに載っていた写真は明らかに元とは違う色になり、その配置がバラバラに入れ替えられている。

 それもシュレッダーの切り屑の紙幅で、だ。

 結果、モザイクパターンの紙に変わってしまっているのだ。

 

 なんだこのシュレッダー……。

 確かに情報は抹消できてそうだが。

 役割はきちんと果たしてはいるだろうが、なんだこのもやもや感は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がシュレッダーでモザイク柄の布を作っていた。

 シュレッダーが内部で刃を回している構造ではなかったのに目をつけた兄は、即柄物の布をシュレッダーに突っ込んだのだ。

 結果、きれいなモザイク模様の布が出来上がったからいいものの、めちゃくちゃに再配置される関係上、汚い色合いになる可能性だってあったというのに。

 

 なに? ダメだったらもう一度シュレッダーにかけるつもりだった?

 こいつ……。

 

 しかもその布をフリマアプリに出品。

 あっさり売れてしまったのだ。

 こいつ……。



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R マイバッグ

 マイバッグ。レジ袋がエコではないという話を受けて、買い物に持ち込むと様々なポイントがついていた袋だ。

 7月頭でのレジ袋有料義務化に伴い、これから一気に普及するとは思うが、衛生面などやや疑問が残る。

 パン類や菓子類など、きちんと包装された物ならば良いが、肉類や野菜類などの包装が完全でないものの汁気などがどんどんマイバッグなどに吸われてそれが雑菌の温床になる可能性が高いのだ。

 最もむやみにレジ袋を使用しないで済むのならそれに越したことはない。

 レジ袋は適切に焼却処理されなければ海に流れ、マイクロプラスチックとなって環境を汚染するためだ。

 

 今回はそのマイバッグが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が成分抽出器と生命力吸収装置の組み合わせによって、生命力の原液と呼ぶべき得体のしれない液体を作り出すことに成功していた。

 この液体は想像を絶するほどの生命力が込められており、わずか数滴地面に落とすだけでその場からメキメキと目に見える速度で植物が生え出すほどだ。

 

 この生命力の原液と液体経験値を錬金術士のアトリエの釜で調合することで生物の存在位階を一段階引き上げる進化の秘薬を作り出せる、と兄はのたまうのだ。

 なんでもそんな感じのレシピが見つかったそうなのだ。

 まじかい、と思ったが渡された翻訳済みのレシピを見るに事実のようである。

 

 流石に代替材料なため大量に量が必要なようだが……。

 作って何をするつもりなんだ兄……。

 

 まあいいか。

 どうせサメ機人(シャークボーグ)を強化するだけだ。

 もうすでに十分に強力であるように感じるが、兄がそこで終わりにするわけがない。

 強くできるならより強くする、そういうロマンの中で生きているわけだからな。

 

 ガチャを回してしまおう。

 

 R・マイバッグ

 

 出現したのは青い布で作られたバッグだった。

 簡単に折りたたみ、カバンの底に入れやすいように柔らかくて薄く丈夫な素材でできている。

 大きさは肩に掛けて邪魔にならない程度だ。

 マイバッグとしては一回りほど小さいか……?

 

 そして開いてみた中身だが、光でも吸収しているかのように暗い。

 びっくりするほど暗い。

 影になっているのかと陽光が中に入るようにかざしてみたがそれでも暗いのだ。

 

 なんだ……?

 なんで暗くなってるんだ?

 それに風も流れ込んでいるような気がする。

 

 うーむ。

 とりあえず手元にあるこのコップをバッグの中に入れてみることにする。

 するとだ。

 コップが透けていって、やがて消えてしまったのだ。

 取り出そうとしても手応えもなし。

 

 入れたものを呑むマイバッグって何に使えるんだ。

 ゴミ箱か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が色んなものをマイバッグの中に投入した結果、その全てを飲み込み最終的に中に見たこともない物が出現していた。

 それは金属の箱のような物であり、銀色のボディが光にかざされると虹色に輝く。

 そして箱の中身には、その金属の箱と同じ材質の金属の塊が。

 

 キラキラしてきれいな金属だが、これは一体。

 というかマイバッグから出てきていいものなのか?

 

 案の定兄はこれを加工、とりあえずと言わんばかりに剣を作っていた。

 まるでプラスチックのように軽く、紙のように加工しやすく、ガラスのように透き通って美しい素材を利用した剣は、使い勝手がいいらしく兄がワクワクした顔で振り回していた。

 

 危ないからやめようか。



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竜鮫迷宮機神&サメ機巧天使

 モンスターは進化する。

 作品によっても異なるが、多くの場合上位種が存在し、レベルが上がるにつれてより上位のモンスターにへと生まれ変わるのだ。

 この考え方はおそらく、RPGの色変更モンスターなどから来ているものだろう。

 なによりより強い個体に変化していくのにはロマンがある。

 進化の果てにどのような能力を得るのか、などワクワクする要素がつまっているのだ。

 

 今回はサメ機人(シャークボーグ)がついに進化してしまう話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が、ブラックホールを作り出した。

 訂正。兄が進化の秘薬をよりによってダンジョンに使用した。

 

 その結果、ダンジョンが進化に必要なリソースや情報を得るために周囲にいたサメ機人(シャークボーグ)達を吸い込み始めたのだ。

 ダンジョンの上部にブラックホールのような黒い球体が生じ、周囲のモンスター達を吸い上げていく。

 それだけではなく、周囲にある大量のジャンクをも吸い込み、その機能をも取り込んでいっているようなのだ。

 

 なにかを飲み込むたびにその形を変え、どんどん次の形態にへと変化していくダンジョン。

 なんなら発掘ダンジョンの内部に出現していたスケルトンたちも吸い出されて飲み込まれていっている。

 

 発掘ダンジョン自体が影響を受けていないのは、ダンジョンの支配関係故だろうか。 

 兄も発掘ダンジョンに干渉するには侵食が必要だと言っていたしな。

 

 とくにそういう保護やら支配やらを受けていないギルドや錬金術士のアトリエは早々に飲み込まれた。

 本当に根こそぎである。

 地平線の向こうから地面を巻き上げているのすら見えるのだから恐ろしい。

 

 それが兄と私には影響がないのがあまりにも不自然である。

 実験室の扉を中心とした数メートルの範囲には風すら来ない。

 なんらかの保護が働いているような気がする。

 

 いや、まさかサメ機人(シャークボーグ)に使うと思っていた進化の秘薬を、ダンジョンに対して使うとは。

 生物ですら無いダンジョンに使えるとは思わなかったし、当然ながらまさかそんな風に使うとは思わなかった。

 

 全てを吸い上げた結果、ダンジョンはそれまでとは異なる巨大な機械じかけにへと変貌した。

 巨大な四本の脚部で支えられた城のような建造物に、その前部にフィギュアヘッドのように城とほぼ同等の大きさのサメ機人(シャークボーグ)の上半身が生えている。

 一言で言えば城を背負う亀……だろうか。

 頭部の代わりにサメ機人(シャークボーグ)が生えているし、足は虫のように一度上に伸びてから下に降ろされた形状であるし、尾は尾で別の建物をくっつけているように見えるが。

 ああ、あとそれに巨大で機械仕掛けの翼が生えているのだ。

 どう見ても飛べる重量じゃねえだろ、と言いたくなる大きさのくせに、だ。

 前にガチャで見たドローンの羽に似た形の円盤がついているから、それで重力制御でもするつもりだろうか。

 

 それに私の横で「竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)の完成だ!」と興奮してる兄がうざい。

 びっくりするほどうざい。

 いまだかつてこんな興奮をしていたことがあっただろうか。

 

 それに、だ。

 最後の仕上げと言わんばかりに、残ったテラスと扉を地面ごと持ち上げて、城の頂上に据えやがった。

 見晴らしこそ良くなったものの、それのせいでだいぶ現実離れした状況に変わってしまった。

 

 私の平穏が終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。私の前に、機械じかけの天使のような何かが一体、傅いていた。

 なんでも兄が執事代わりに寄越したとかなんとか。

 大方、ダンジョンの進化で生産できるようになったモンスターだろう。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)という名称があるらしく、名前から分かる通りサメ頭の天使である。

 つまりこいつらが次の兄被害担当だ。

 

 しかも私に傅いているこいつは胸部にお手伝い妖精のシャチくんを格納している。

 つまりこいつはシャチくんのパワードスーツとして改造されているのだ。

 誕生と同時に、ただのパワードスーツに改造されるサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)……。

 早速被害にあっているとしか言いようがない。

 南無。



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R ポップコーンメーカー

 ポップコーン。元を辿ればネイティブアメリカンやメキシコの先住民たちが食べていた主食である。

 紀元前3600年頃にはすでに存在していたらしく、遺跡からポップコーンの痕跡が見つかっているほどだ。

 現在のように菓子として食べられるようになったのは19世紀後半で、その頃は糖蜜を掛けて甘くしたものであったそうだ。

 現在の塩味が主流になったのは世界恐慌時代に、すべてのものが値上がりした中で塩味のポップコーンだけあまり値上がりしなかった事から来ている。

 

 今回はそのポップコーンを作る機械が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)はとにかくでかい。

 外から見れば山が歩いているような威容であるし、それは頂上にあるテラスから見える景色も山の頂上のそれに等しいほど高く広い。

 

 当然それは頭部として据え付けられたサメ機人(シャークボーグ)も同じだ。

 一体何と戦うつもりなのかと言いたくなる超巨大なサイボーグである。

 その見た目に相応しいだけの演算力も備えているらしく、これまでに出来なかった作業も可能になっている。

 具体的にはアトリエの本の翻訳と技術研究だ。

 

 そして視線を反対側に向ければ、尾のようなパーツが掴んでいる塔のような建物。

 竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)の進化の時には気が付かなかったのだが、この掴んでいる塔のようなものは、発掘したダンジョンだった。

 よく見ると頂上に当たる部分が発掘ダンジョンの入口と同じなのだ。

 ダンジョンの上層がすでに侵食済みである事を利用して強引に引っこ抜き、半端に融合させた結果だそうだ。

 これで下層の攻略に取り掛かれる、と兄は言っていたが、下層攻略のためにここまでしてしまうのか。

 発掘ダンジョンを破壊しなかっただけマシだと言うべきなのか。

 

 疑問は尽きない。

 が、兄のやることにいちいち疑問を覚えていると疲れるので忘れよう。

 そちらのほうが健康にいい。

 

 というわけで、思考を切り替えてガチャを回す。

 

 R・ポップコーンメーカー

 

 出現したのは、祭りや個人商店の入り口、テーマパークなどにたまに置かれているポップコーンを量産するタイプの筐体調理器だった。

 ガラス張りの箱の中に、銀色の小さな鍋が浮かされ、鍋の中でポップコーンの種が加熱されて弾けたものだけが出てくる構造のものだ。

 ぱっと見た感じではUFOキャッチャーのようにも見えなくもない。

 

 とりあえず電源をいれてみるか。

 私の部屋から雑に引かれている延長コードのタップ穴にポップコーンメーカーのコンセントを接続。

 そして電源スイッチを入れると、まだ中になにも入れていないのにも関わらずポコポコとボップコーンを生産し始めたのだ。

 

 電源を入れる前に何も入っていないことを確認したはずだが、ポップコーンと思しきものが放出されているのだ。

 おかげで持ってきたポップコーンの種が無駄になってしまった。

 というかこの無から生産されたポップコーンは食べても大丈夫なやつなのだろうか。

 

 うーむ。

 見た目におかしなところはないし、匂いも良く火が通ったポップコーンのものだ。

 ちぎってみたが中身も普通のポップコーン。

 

 うーむ。

 兄に食べさせるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がポップコーンメーカーの釜にコーンポタージュの粉を投入した。

 

 あのあと兄にポップコーンを食べさせてみたが、その感想は味がしない、だった。

 なんと全く味付けがなされておらず、塩すらかかっていなかったのだ。

 いや普通作られたばかりのポップコーンには味がついていないのが当然だが、このポップコーンはそもそも無から生成されたもの。

 味がついているかもしれないと考えるのは普通のことではなかろうか。

 

 そこで兄が取った行動は、何も入っていないポップコーンメーカーの鍋にコーンポタージュの粉を投入することだった。

 粉だけを投入して起動したポップコーンメーカーは、黄色く染まったポップコーンを生成。

 兄の目論見通りコーンポタージュ味のポップコーンを生成したのだった。

 

 その後また肉まんを投入しようとしたので止めるのに手こずった。

 すぐ肉まんを投入しようとするのやめろォ!



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SSR 山のようなダイヤモンド

 ダイヤモンド。天然のものでならば最も硬い物質であり、宝飾品としても最上級の価値を持つ宝石である。

 炭素によって作られた透き通った結晶構造が光を複雑に反射することで美しい輝きを放つのが特徴だ。

 当然ながらより大きな物ほど価値が高くなり、世界最大の原石は59億円の値が付けられたそうだ。

 その世界最大の原石の重量が約621グラム。

 ペットボトルよりも重い、手のひらに載せるというべき大きさの物。

 炭素が重量によって圧縮されてできるものなので、そこまで育ったことがある種の奇跡だと言ってもいい。

 

 今回は小さな山ほどある大きなダイヤモンドが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)に取り込まれた建物群だが、それらは背中の城の中に再配置されている。

 頂上に存在する階段を降りると、そこにデパートの飲食フロアのようにそれまで出現した建物達が押し込まれている。

 そう、建物の枠の中に建物を押し込んでいるのだ。

 ダンジョンの一フロアにガチャ産の建物達が無理やり移設され、建て直されている。

 

 フロア階層の天井の高さがそれなりにあるため壊れた建物こそ無いが、前とは違う形になってしまっている建物もちらほらある。

 

 例えば錬金術士のアトリエは、扉と壁が取っ払われ、排気ダクトが増えている。

 そしてサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が数体出入りをしたり解読作業ををしている。

 壁が取り払われたために机や椅子をより多く配置できるようになったため、人員はかつてのアトリエと比べると明らかに多くなっているように見える。

 

 冒険者ギルドはほとんど変わっていなかった。

 組み変わっていると扉の向こうの異世界のことを考えなくて楽で良かったのだが。

 

 はー。

 ガチャでも回そ。

 

 SSR・山のようなダイヤモンド

 

 出現したのは、高さが3~4メートルほどあるように見えるダイヤモンドだった。

 いわゆるラウンドブリリアントカットと言われる、上から見て円形に見え、横から見ると五角形に見えるあの代表的な形状のものだ。

 

 やったー、大金持ちだー! ととても喜べる状況ではない。

 あまりにでかすぎるのだ。

 仮に何らかの手段で一撃を加えて砕いても、その一欠片だけで世界最大のダイヤモンドの大きさを簡単に超えてしまうだろう。

 

 そんな物を持ち出せるかというと否だ。

 これまではそれらの特色によって持ち出せないものが多かったが、今回はただ単純に大きさだけでその価値を持ち出すわけに行かない物となっている。

 

 で、あれば置いておくしか無いわけだが。

 今度は、集光して光り輝いてめちゃくちゃ眩しいのだ。

 これだけでかいダイヤモンドとなると、集める光の量も別格。

 その輝きは当然のことながら凡百の宝石を超え、同等のものなどこの世に一つたりとも存在しないだろう。

 

 結果。

 おそらく国と引き換えにしてもお釣りが来るような大秘宝でありながら、ただただ邪魔でしかない代物となった。

 どうすんだよこれ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がそのダイヤモンドを、機神の頭部に据え付けた。

 そのデカさに見合うだけの巨大な輝きは、機神の威容をより強大に見せるだろう。

 その巨躯を飾るにふさわしい宝石は確かにこのダイヤモンドしかあるまい。

 

 で、それを誰に見せるつもりなんですかね、兄は。

 こんなでかい上に自我があるか疑わしいやつが着飾ったところで見せる相手がいなけりゃ意味ないんだが?

 

 私に見せるつもりがないのは間違いない。

 だって城の頂上からだと機神の後頭部しか見えない。

 設置位置からして、正面から見たときに初めて宝飾品として意味があるのだ。

 

 もしかして、兄はなにかと接触することを想定している……?

 この巨体が……?



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R 台所

 台所。調理を行うために必要なシンクやコンロなどがひとまとめになった場所のことだ。

 その関係上、広いほうがいいが、家の建坪との兼ね合いもあってなかなか苦しい配置になっている台所も多い。

 特に最小サイズの場合、コンロが電気式のものが一口とシンクとだけで構成されていて、まな板を置く場所がない場合もままあるのだ。

 特に現代では食洗機や炊飯器、レンジなど場所をとる調理家電も多くなってきているので広い台所はやはり理想であると言えよう。

 

 今回は台所が出現した話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、実験室の扉を入ってすぐにあるテラスは、兄の作り出したダンジョンの頂上にある。

 これはダンジョンが竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)に進化した際にほとんど強引にテラスと扉を移設されたためだ。

 

 というのも、竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)に進化するのに、半径数キロメートルにあったもの全てをリソースとして飲み込んだので、周囲が完全に水没してしまったため、頂上に移設するしかなかったのだ。

 ならそんなことすんなよとも言いたくなるが、まあ兄である。

 絶対聞きゃしねえ。

 

 そうやって移設したダンジョンの頂上はおおよそ半径100メートルほどの庭園となっている。

 植生はまだまだこれから、といった感じではあるが、無駄にでかいダンジョンの頂上であるため見晴らしはいい。

 最も青空と地平線上まで広がる海しか見えないが。

 

 そしてこれまであった建物達は、この庭園の一つ下の階層にダンジョンの一部として取り込まれたというわけだ。

 そう言えばこれまで出てきた物を納めている倉庫もそこにあった。

 これまでのガチャの景品もそのまま入っていたため、ダンジョンの材料にされたわけではないようである。

 

 こうして振り返るとろくでもないものばかりだな。

 兄のダンジョンも、ガチャの景品も。

 これ以上できれば増えないで欲しいところだが……。

 

 すでに唸り声をあげているガチャの筐体を早く回さないとご近所迷惑になってしまう。

 いつもどおりヒヒイロカネ製のコインを投入してガチャを回す。

 そして、出現したものが部屋を圧迫しないよういつもどおりにテラスでカプセルを開封する。

 

 R・台所

 

 それはテラスの隅を占拠するように出現した。

 台所だ。

 設置式のコンロとシンク、台の下に設置された食洗機とオーブンで構成されたやや大きめの代物である。

 組み込み式(ビルドイン)の家電が複数組み込まれているあたり、一般的と言うにはやや厳しい。

 

 業務用か?

 そう思うとそんな気がしてくる、といった程度である。

 いまいち釈然としないぼんやりとした印象を受けるのだ。

 台所に詳しくないからだろうか?

 

 が……、実際そんな事はどうでもいい。

 問題になるのは、これがどうろくでもないかだ。

 兄に悪用されて大変なことにならないようにそのろくでもなさを暴かなければならない。

 

 というわけで、野菜炒めの材料を用意した。

 野菜と豚肉である。

 これをぱぱぱっと炒めて野菜炒めを作る過程で、その効果を見つけられるだろうという考えである。

 台所のコンロでも、シンクでも、食洗機でも、とりあえず使ってしまうつもりだ。

 

 そう思って、食材を台所においた瞬間である。

 私の目の前から食材が姿を消し、代わりに皿に盛られた野菜炒めが出現した。

 

 は?

 いや、は?

 

 過程……あの、過程。

 過程を省略する台所、なのかこれ。

 

 えー……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が台所をサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に運ばせたかと思うと、それを錬金術士のアトリエに設置した。

 配管などははじめからつながってなかったあたり、ガチャ産である。

 

 兄が錬金術士のアトリエになぜ持ち込んだかというと、まあだいたい想像がつくと思うが錬金術そのものの過程をスキップするためだ。

 錬金術の基本は台所で大体できる、とアトリエにあった日記に書かれていたのも理由だろう。

 兄はそれを真に受けて、釜の近くに台所を運び込んだのだ。

 

 結果はというと、兄の思惑通りにまんまと成功。

 持ち込んだ謎の鉱石(発掘ダンジョンの方で採れる)が一瞬にしてインゴットに精錬された。

 

 あの……料理……料理かそれ……。

 その鉱石の精錬には台所一ミリも関係ないじゃん!

 なんで出来てるんだよ!



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R 猫の像

 猫。特に家猫は古来より人のパートナーとして寄り添ってきた。

 その痕跡は各地の伝説や神話に見て取れる。

 エジプト神話のバステト神の存在や、猫に関わることわざが複数存在することや、欧州では麦穂の精霊として扱われていたことなど、手繰って調べようと思えばいくらでも出てくることだろう。

 それほど昔から猫は人々に愛されてきたのだ。

 

 今回は猫の像が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機神となった迷宮の膨大としか言いようがない演算能力によって、錬金術士のアトリエにある本の言語の解析が終わった。

 対訳が可能な単語リストが生成され、現在はそれを利用しての翻訳作業が進められている。

 所々に現実には存在し得ない素材や概念が記述されているためにその点において翻訳に難が出ているが、許容するしかない範囲である。

 

 それによって何が出来上がるかというと、大量の錬金術のレシピである。

 その殆どは魔法薬であり、特定の病に効くだとか、骨折が治るだとか、熱を冷ますだとかの効能を持っているものばかりである。

 だが、それに分類されないものが問題なのだ。

 

 周囲一帯を一瞬にして氷漬けにする爆弾。

 落雷を呼び寄せる石。

 勝手に暴れまわるボーリングの球のようなもの。

 

 多分錬金術士が自衛のために利用していたと思われる危険物のレシピがゴロゴロあるのだ。

 その上、しれっと無限に飲水が得られる壺のレシピもあるあたり、兄は世界を変革する物を引き寄せる才能がある。

 

 その才能が一番困るんだよなぁ。

 危険物で遊んでいる時の兄も大概困るが、ガチャの景品には一夜にして世界を変えてしまう代物が多すぎる。

 そして兄はそれを理解する才能に溢れてしまっている。

 

 そしてそれがうかつに公開されたりすると私は間違いなく騒動に巻き込まれるのだ。

 やめてくれ。

 現状でも困ってるのに騒動が世界規模になったらもう死ぬ未来しか見えない。

 あるいは死ぬよりひどい目に遭うか。

 少なくともテラスでお茶を飲めるような生活は不可能になるだろう。

 

 それまでも片鱗こそあったが、やはりガチャが出現してから目覚めた才能である。

 ちょこちょこいいものやら便利なものも出てきているが、私のガチャへの心象が一向に改善されない理由の一つでもある。

 

 毎回次が怖いというかなんというか……。

 ぶっちゃけ詰んでいるが、それでも先延ばしできるなら先延ばししたい。

 

 そういうわけで今日も今日とてガチャを回すハメになるわけだ。

 前門の兄、後門のガチャ騒音。

 やってらんねえ。

 

 R・猫の像

 

 出現したのは伸びをしたポーズをしている猫の置物だった。

 素材の風味を生かしたのか、黒い地に瞳と耳だけが塗り分けられている。

 また、台座のようなものがなく、直接足が床に接地する作りだ。

 

 置……物?

 この間出たキメラティックな置物は時間経過で変化する代物だったが、この猫の像もそうなんだろうか。

 例えば猫の視線の先にビームを浴びせるとか。

 

 それともこのお尻のところにある蓋のようなものが関係あるのだろうか。

 内側から接着剤かなにかで固められているのか開きそうにもないが。

 

 そう思って像を弄り回していたら、なにか猫の股のあたりに押し込めるボタンのようなものを見つけた。

 目視で見つからなかったのは像の分割線に沿って配置されていたせいだ。

 

 それにボタンとしてはかなり硬い。

 これまでのガチガチだった景品のスイッチと比べると、なんというか、セーフティーとして硬くなっている感じだ。

 力づくで角に叩きつけて押し込んでも入らないだろう。

 

 というわけで押して見る。

 指に力を込めて押し込めばやや遅いといった速度でボタンが沈み込み、そしてカチ、と音を立てた。

 

 その音とともに、突如猫の像の口から鳴き声のようなものが出、しかも目からレーザーが照射されたのだ。

 そのレーザーは柱に穴を開け、その向こう側へと突き抜けていった。

 

 え、ええー……。

 もしかしてビームが出るかも、とは思ったけども。

 マジで出すやつがある……?

 

 しかも一回出したらもう出なくなったし。

 なんなんだよもう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が猫の像からもう一発発射した。

 でなくなったと思っていたのは、リロードが必要だったためだった。

 猫の喉に当たる部分に同じように押し込みのボタンが存在し、そちらのボタンを押し込むことでリロードされる、という仕組みだったのだ。

 なおお尻の蓋はダミー。

 兄が強引にこじ開けたがなにもなかった。

 

 どうしてそんなめんどくさい仕組みになっているのか、なぜそんな代物を猫の像に組み込んでいるのか。

 毎回毎回、どうしてこんなおかしなこり方をするのか。

 

 ガチャの景品にいちいち突っ込んでいては身が持たないが……。

 なんでそうなるんだよ!



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R 氷

 氷。固体になった水であり、飲み物を冷やすのに使われたり、熱を持った体を冷やすのに使用される物だ。

 その製造には、文明の技術力が必要となる。

 なぜなら水を冷やすだけで出来るため、その冷やすという作業にどれだけの技術が利用できるのかが問われるためだ。

 温度を下げるという技術はシンプルであるがために、科学的に単純な理屈でしか実現できないため、投入するエネルギーの量に必然的に依存する。

 そして効率的でない技術は普及しない。

 現在でこそそのための道具である冷蔵庫が一般に普及しているが、かつては氷を乗せて食品を冷やしていた時代があるほど、冷却を効率的に行うのは難しかったのだ。

 

 今回は氷の塊が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)の最大の特徴は、進化である。

 心臓部に存在する炉心が、常に進化の秘薬を生産し続け、それを全身に供給し続けることでその存在を進化させ続けているのだ。

 

 それを兄から聞いたとき、あまりにも無茶苦茶すぎると思ったものだ。

 心臓が脈打つたびに強くなる、そんな存在がいて許されるのか、と。

 呼吸するたび強くなる、そんな存在が存在していられるのか、と。

 それに関しては存在できてるんだから出来ているとしか言いようがない。

 

 すでに巨体を手に入れているが故、その進化で内部構造を変化させ続けているようだ。

 より強靭に、より複雑に、より高度に。

 元がダンジョンだったために、もはや兄でも全貌がわからないほど複雑になってしまったフロアが存在するほどだ。

 一体何を招くつもりか全くわからない。

 ドラゴンが侵入してきても瞬殺出来るダンジョンとかそれはもはやダンジョンなのか?

 

 しかもその進化の秘薬、余剰分が出て少しずつ溜まっているそうである。

 放っておくと自分で飲みだしそうなのが兄だ。

 モンスターに使っているうちは良いが、人が飲むとどうなるかわかったものではない。

 きちんと言い含めておこう。

 

 だがその前にガチャの消化だ。

 少しずつ異音を立てるペースが早まっているような気がするが、気のせいだろう。

 さぼってガチャを回すのが遅れたり、早めに回したりしているからな。

 

 R・氷

 

 出現したのは氷の塊だった。

 適当に氷山だけを転移させたかのように、テラスから見える視界いっぱいに氷の塊が出現したのだ。

 それもかなり純度の高い氷だ。

 形が歪みこそすれ、向こう側の景色がきれいに見えるのだ。

 

 そして……寒い。

 巨大な氷が出現したために、周囲の空気が冷やされているのだ。

 

 それに……この氷、あれだけ周囲を冷やしたというのに表面が溶け出していないのだ。

 太陽の光と、周囲の気温で溶け出していてもおかしくないというのに、その表面はさらさらしている。

 普通、外気に晒された氷は表面が溶け出してつるつるしだすというのに、だ。

 

 ええー……。

 でかい+つめたい+変化しない。

 置いておくだけで邪魔は他にもあったが、これは置いておくだけで周囲の温度をガンガン冷やしてしまう。

 斧はその点、使わないときは倉庫にでもしまっておけばいい。

 これはでかすぎてしまえない。

 

 とても、とても邪魔だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がダンジョン内の再配置で氷を移動させた。

 移動させた先の部屋を氷室にしてしまうあたり兄はガチャの景品を無駄にしない。

 

 最も、その作った氷室を利用する予定がないので本当に無駄にしていないかは疑問符がつくが。

 ダンジョンに冷やしておく必要があるものが存在しない。

 

 モンスターの素材などで腐りそうなものがあるならわかるが、そういうのもまだ集めていない。

 じゃあ何のために作ったんだ。

 

 どうせ作りたかったから、でしかないだろうなぁ。

 こんな氷それぐらいにしか使えないだろうし……。



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SR 掲示板

 掲示板。主に掲示物を掲示するために利用されるものだ。

 日本ではゴミ出しの日程や習い事の誘いのチラシなどが掲示されている程度のものだ。

 ファンタジーなゲームなどでは、依頼を掲示していて、そこを中心にモンスターの討伐、物品の納品の執り行いなどを行っている作品もある。

 

 今回はその掲示板が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は兄のダンジョンの尖兵であり、兄の思いつきの犠牲者である。

 サメ機人(シャークボーグ)と同じく、ダンジョンからいくらでも生産可能であり、その戦闘能力に至ってはサメ機人(シャークボーグ)の三倍(兄の目測)である。

 

 これまで兄がめちゃくちゃに改造してきたサメ機人(シャークボーグ)の能力を受け継ぎ、超視力、武術技能、無重力飛行能力など、様々な能力を兼ね備えた結果、機巧天使などという大げさな名称の存在に進化してしまったと私は考えている。

 サメ機人(シャークボーグ)がそういう進化をしていたからだ。

 

 で、その大げさな進化をした結果やることと言えば、大まかに言って2つである。

 現状尻尾に強引に接続されている発掘ダンジョンへ特攻を掛けて、そこから出てくる物品を強奪する。

 もう一つが錬金術士のアトリエで、レシピの解読作業とそのレシピの実験である。

 

 つまり、時間が立てば立つほど兄の総体としての能力が高まっていくということで……。

 あまりそういう方向で能力を高めないでほしい。

 

 なぜそんな事を思い出していたかというと、今日のガチャでこんな物が出てきたからだ。

 

 SR・掲示板

 

 それは無数の()()が貼られた掲示板だ。

 黒っぽい木材で作られているのか、くすんだ色合いの枠組みにコルクボードのようなものが貼られ、その上から大量の依頼票がピン留めされている。

 雨よけと思しき屋根がついているが、斜めに降った雨で依頼票が汚れてしまいそうな形状だ。

 

 そして、その大量の依頼票の中に、こんな物があったのだ。

 

 ・サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)2体の納品

  報酬:邪神槍グザベル 1つ

  期限:4日

 

 うーん、ツッコミどころが多い。

 なんでサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を要求しているのか。

 報酬の邪神槍グザベルってなんだ。

 名前からして邪神の使っていた武器か、邪神の作った武器だとわかるが。

 期限が日付じゃなくて日数で書かれているのはなんでだ。

 

 そして、この依頼を達成する方法がどこにあるのか、と。

 どこかの世界にあった掲示板が複製されて出現した、ならまだいいのだ。

 そういうこともあるね、で納得できる。

 でもこの依頼票は思いっきり日本語で書かれている。

 

 そこから類推出来ることは……。

 絶対コレ、この掲示板が依頼票を自動生成してるよね!?

 

 そう考えるのが妥当だ。

 つまり、依頼を生成するのがこの掲示板の特異性。

 生成するなら、同様に達成も可能な可能性がある。

 

 そう思って、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を2体もらってきた。

 兄は面白そうなことにコストを惜しまない。

 そしてガチャから出てくるものは全て面白そうなものである。

 なので私がガチャの景品にやることに対して兄はコストを惜しまない。

 

 私はサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を伴って、その依頼票を掲示板から引きちぎった。

 その途端、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)がぎゅるんと音を立てて掲示板に吸い込まれ、それと同時に掲示板の下から禍々しい槍が吐き出された。

 

 えっ。

 自販機かよ。

 というか、達成の仕方よ。

 なにその飲み込み方。

 最近ガチャの景品がおかしいことにも慣れてきてしまっているが、だいぶ常軌を逸した手段で納品物を回収している。

 

 呑んだサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)はどこに消えたんだ。

 そして、この槍はどこから出現させたんだ。

 

 そして、なにより頭によぎる兄の行動。

 絶対に……絶対、おもちゃにするだろこれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がもう、もう見たこと無い武器や防具、植物の苗を手に入れていた。

 案の定というか、掲示板の依頼票は書かれた日数で消滅し、新しい依頼票にへと変化していた。

 達成された依頼は達成と同時に新しい依頼票を生成するらしく、兄はそれを逆手にとって、複数の依頼を達成し続けることで未知の世界の未知の物品を手に入れ続ける手段として掲示板を利用するようになったのだ。

 

 よりにもよって、というか、多分自動生成している関係なんだろうが、兄に達成できない依頼が出現しないせいでそのループに終わりが存在しない。

 納品依頼でも見たことがない名称の物が出てきたら大体発掘ダンジョンから手に入るドロップ品だし、討伐の依頼が出てきたら同じように大体発掘ダンジョンの中にそのモンスターは必ずいる。

 

 それを使ってアイテム名やモンスター名を紐付けする作業をやっているのはわかるが。

 その過程で最高にろくでもない武器や防具や素材が集まってきていて非常に……非常に困る。

 邪神の心臓とか何に使うつもりだ。

 

 これから兄のせいでろくでもないことが起こる(確定)!



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R 鑑定のメガネ

 鑑定。異世界転移ものの小説では必ずと言っていいほど出てくる魔法やスキルだ。

 主にアイテムの正体を暴く際や、モンスターの能力を覗き見るなどの用途に使われる。

 作品によっては絶大な効果を持っており、おおよそ森羅万象の全てを暴いてしまう。

 適切な道具の使い方からモンスターの弱点、なんならその能力の全てを開示してしまうことによりメタゲームが崩壊することで一方的な勝利を得る事ができるほどだ。

 

 今回はそこまで強くない鑑定のメガネが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が、軍隊を設立した。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に掲示板の報酬で手に入れた装備を身に纏わせて軍団としたのだ。

 

 その装備がまた、邪神の軍勢か何かか? と言いたくなるような禍々しい代物ばかりであり、元が天使だというのに凶悪な見た目となっている。

 うねった触手のような穂先を持つ槍を握り、龍鱗を帯びた銃を背負い、歪にねじれた鎧を身につけ、おどろおどろしい怪物が描かれた盾を持った軍隊。

 

 それが120体構成の3部隊ほど、城の頂上、テラスの前に並んでいるのだからゾっとする。

 兄がこれからやらかす事を考えて、ではなく単純に見た目からだ。

 私はサメ機人(シャークボーグ)あたりから慣れてしまっているが、こいつらはそこにいるだけでも威圧感がすごいのだ。

 元はモンスターなのだから当然ではあるが、それらがより邪悪な見た目の装備を身に着けて集団で整列していたら誰だって気圧される。

 

 気圧されないのはそれを組織した人物ぐらいだろう。

 本当に何に使うつもりなんだこれ。

 

 そう聞くと一言「偵察」と。

 兄は……一体何を想定しているんだ……。

 

 その軍団が3方のそれぞれの方角に向かって城から飛び立っていくのを眺めながら、ガチャを回す。

 眺め終わってからガチャに向き合ったのだが、今日は随分筐体の色艶がいい気がする。

 何かを吸っている……?

 

 R・鑑定のメガネ

 

 出現したのは丸いレンズのメガネだった。

 銀縁で小さなレンズを保持している。

 レンズが小さいのもあって、掛けているだけでだいぶ胡散臭い見た目になるだろう。

 それにレンズ越しに見える視界も狭い。

 

 しかも枕詞に鑑定の……とついている。

 ということはマジックアイテムかこれ。

 レンズ越しに見た対象を鑑定して、その情報を抜き出す……とかそういう。

 

 本当にそうならもっと早く出てきてほしかったよ……。

 これまで出てきたガチャのアレやコレやの使い方を暴くのにこんな便利なものは無いだろう。

 これ1つで必要な情報を好きなだけ閲覧できるわけだからな。

 

 そう思って、私は鑑定のメガネを掛けた。

 視界いっぱいに広がる「レベル:56284」の文字。

 

 うん?

 しかも、その数字は数十秒ごとに1ずつ加算され、どんどん大きくなっていっている。

 それに加えて地面スレスレに辛うじて、何らかの文字情報が埋まっているのが見える。

 

 まさか……と思って、視線を上に上げた。

 

 そこに書いてあったのは「モンスター名:竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)」の文字。

 

 あっ。

 やっぱり鑑定の効果がダンジョンに吸われて、ダンジョンのステータス表示しか出来てない。

 しかも対象の大きさに比例しているのか、その鑑定結果もバカみたいなサイズで表示されている。

 そのせいで全く読めない。

 

 ええー……。

 これじゃまともに使えないじゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。普通に実験室から出て鑑定すれば良いんじゃないかと気がついて、ガチャの景品に視線を向けたのだが。

 名称以外が黒塗りになって、まともに読めない。

 まともに読めたのはNランクの景品ばかりだった。

 えっ、もしかして鑑定のメガネよりランクの低いものしか鑑定できない……?

 

 兄のダンジョンに湧くモンスターなら問題なく鑑定できるあたりまともに使わせる気がまったくないと言わざるを得ない。

 

 なお鑑定のメガネを手に入れて喜んだのは兄である。

 これでまた一段階錬金術の研究が進むそうだ。

 

 あーはいはい。

 早めに鑑定のメガネのグレードアップ版をお願いします。

 ガチャの景品からの研究だと永遠に出来上がらなさそうだけどな!



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ダンジョンアタック

 ダンジョン。ファンタジーでおなじみの、侵入型のマップである。

 基本的にモンスターが徘徊し、罠が仕掛けられていて、財宝が眠っているのが特徴だ。

 というか、物語には意味がない要素が出てくることがないので必ずその要素を満たすダンジョンが出てくる。

 求める財宝のために、あるいは必要ななにかを得るために、そこにいるであろう怪物たちと対峙する。

 それがダンジョンだ。

 ダンジョンは常に誰にでも平等で、誰だろうと殺しにかかってくる。

 そして生き残れるのは真の強者のみである。

 

 今回は発掘ダンジョンを攻略する話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また兄が部隊を整えていた。

 今回のサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の集団は邪神めいた装備ではなく、とにかく様々な種類の装備が混在していて雑多であるという印象を受ける。

 

 というか、前回単一に揃った装備が用意できていたのが本来おかしいのだ。

 わざわざそのために依頼をこなし続けたのか、手に入る素材から量産可能な装備を選択したのかはわからない。

 

 そして今回は明らかに性能で選んだであろうちぐはぐな装備身にまとったサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が総勢20体。

 何のために作り上げたかというと、発掘ダンジョンの攻略のためである。

 

 前回、完全な虚無の空間が広がっている26層で足踏みをさせられていた兄だが、ダンジョンの侵食によってその場所を自身のダンジョンにし、足場を作ろうとしていた。

 事実、それは順調に進んでいたのだ。

 

 だがその虚空の中を自由に飛べるサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の出現が兄の考えを変えた。

 つまり……飛行戦力によるいつもの(ゴリ押し)にへとだ。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に補給の概念はない。

 疲労もなく、休息も必要ない。

 それでいてサメ機人(シャークボーグ)よりも相互に情報をやり取りする能力に長けている。

 この通信能力は竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)の膨大な演算能力の副次的な作用だと言えるが。

 

 それらも相まって、兄なしで突っ込ませても問題なく対処が可能になっているのだ。

 兄は常に竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)越しにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)達に指示を出すことも出来る。

 

 それによって、26層の全長100kmにも及ぶ虚空を突っ切り、次の層にへと飛び込んだのだ。

 そこにあったのは、かつて誰かが生活していたであろう居住空間だった。

 

 様々な生産装置と、畑のようなものが混在していてこれを作った人物は片付けるのが苦手なんだろうと私は思った。

 ダンジョンのモニタ越しでも明らかに散らかっているのがわかる。

 

 27層の端に残っていた建物の中には、一人分のミイラがベッドに横たわっていた。

 この人物が、このダンジョンのダンジョンマスターだった。

 

 周囲に残る日記からもそれが伺える。

 逐一解析翻訳しながらなので細かいニュアンスが拾えていないが、それでもこの人物がどのような人物だったか読み取れる。

 ただ一人でダンジョンに囚われ、ダンジョンの一部となってしまった男だった。

 話し相手もおらず最後には狂ってしまっていたのか、その文章も異常だと言わざるを得ない。

 

 まあ兄は特に気にせず屋荒らししていたが。

 こいつ……倫理観がないのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。27層の居住区よりも下の階層には、ダンジョンの維持に必要なものがそれはもう雑に詰め込まれていた。

 ダンジョンポイントを自動生産する結晶。

 水を生み出しすべての階層に供給する宝玉。

 空気を生み出して、同じようにすべての階層に供給する魔石。

 環境を操作し、維持する黒曜石の柱。

 そして最下層には巨大なダンジョンコアが鎮座していた。

 

 それらを全て……兄は竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)に取り込ませた。

 場所さえわかっていればこっちのもんじゃい、と言いながら発掘ダンジョンの下から侵食したのだ。

 

 兄がこれで何を得たのかというと……。

 発掘ダンジョンの中で生まれるモンスターやドロップ品や財宝を自由に生産可能になった。

 発掘ダンジョン内の恵まれた環境を完全に支配したためにそれらの土地を自由に使えるという利益もだ。

 

 なんか国でも作り出しそうな勢いである。

 いやいやまさか……そんなことは……。



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UR 新ガチャ大陸

 新大陸。かつての人類が探し求め、そしてたどり着いた新天地を指す言葉である。

 海に阻まれ、出会うことのなかった新たな土地であり、新たな資源の眠る場所でもある。

 多くの場合、新たな要素との出会いは、多くの恵みと災厄を招くものだ。

 人々を飢えから救う食材や新たなる技術を生み出す鉱石、そして人々を死に至らしめる病まで。

 そして、それらを求める人々によって争いもまた生まれるのだ。

 

 今回は新大陸が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が発掘ダンジョンの地図を作っていた。

 ダンジョンの侵食も終わり、完全に兄のダンジョンの一部になった発掘ダンジョンであるが、その内部構造はややこしい。

 

 上層の一般的なダンジョンのやたら入り組んでいたせいで兄がほとんど破壊して突破した迷宮部分や、下層のそれぞれの階層で異なる地形と気候を持つ空間とで作るべき地図は異なってくる。

 それに細々とサブのダンジョンが存在しているので、それらの確認も行わなければならない。

 

 それぞれ未だ回収出来ていないギミックや財宝なども残されていて兄はそれをダンジョンの機能によるピーピングで見つけてはそれをサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に回収させている。

 だが、それを行わせるにも地図があったほうが良いのだ。

 なぜなら……、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)がどこにいるのか、兄が見失うためである。

 

 兄は遠隔での指示出しに慣れていないため、何がどこにいるのかの認識を損ない、結果的に前線にいるサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に対しておかしな指示をしてしまう。

 出撃命令を出したすぐあとに別の場所への出撃命令を出したりなどを何回かやらかした。

 

 あれもこれもダンジョンの機能をどう動かせばいいのかよくわからないせいなのだが……。

 

 まあ兄が珍しく間の抜けたことをやってるだけの話だしどうでもいいか。

 ガチャを回してしまおう。

 

 UR・新ガチャ大陸

 

 カプセルを開けた瞬間、なにか空気が変わったような気がした。

 紙切れが一枚入っていただけの空のカプセルだったが、それが故に余計に焦燥感を掻き立てる。

 なに? 新ガチャ大陸?

 

 突如、地面が揺れた。

 訂正。突然竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)がその進路を変えたのだ。

 それによって屋上が揺れた。

 

 その上、階段を駆け上がってきた兄がこっちに向かってこんなことを言うのだ。

 新大陸を見つけたぞ! と。

 

 兄が表示するモニターには、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の視界が同期している。

 その視界の先に、確かに森や山を持った大地があるのだ。

 

 あとついでに、山をも超える大きさのガチャの筐体もだ。

 まるでその大陸が誰のものかを主張するために、巨大な御神体をおいたかのようだ。

 

 ああー……。

 タイミングが良すぎる。

 だとすれば、あれはガチャで出現した新大陸。

 すなわち新ガチャ大陸。

 

 ええー……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。新ガチャ大陸のことがニュースになっていた。

 なんで!?

 

 というのも、例の新惑星だ。

 あの惑星の観測中、巨大なガチャの筐体が存在する大陸が突如として出現したと報道されているのだ。

 しかも、それに近づく超巨大構造体の姿までバッチリ望遠鏡の映像に写っている。

 

 大陸が突然出現したことによる混乱と、それに足で歩いて接近する超巨大構造体の存在への恐怖とでニュースの内容も非常に荒れている。

 

 なお某国は大陸の所有権が我が国にある、と主張していた。

 お前ブレねえな。



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☆☆☆☆ 戦闘用全身義体

 全身義体。人体の一部を機械に置き換える義体化の極致であり、技術によって人を超えるものである。

 多くのSF作品では軍事用の技術として発展しているものであり、やはりそのような改造を施しているものはどこか荒っぽい雰囲気をまとっている。

 その身体には人にはない機能を有している場合が多く、周囲の仲間とネット接続することで高度な連携を図る、衛星とリンクすることでその視覚範囲を大幅に拡大する、極めつけは機械じかけによる怪力だろう。

 それらは工学技術によって実現されており、一足飛びで作り上げることは出来ない。

 現実に作り上げるには解決しなければならない問題が多く存在していて実現可能か疑わしい技術の1つだ。

 

 今回は全身義体が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が新大陸に行く準備を整えている。 

 行く、と言っても兄はあくまでダンジョンから出ず、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を変装させて偵察に行かせるつもりのようだ。

 まあ未知の病原菌とかもらってくると対処が出来ないのと、下手に怪我をすると治療の際にうまく言い訳できないとかいう、色んな意味で利己的な理由である。

 

 じゃあ発掘ダンジョンは良かったのかとも言いたくなるが、その辺、兄は適当である。

 明日には別の理由をひねり出して突撃している可能性だってあるわけだ。

 夢と好奇心を抑えられないのだ。

 

 最も、兄の危機管理能力には目をみはるものがある。

 本当にやばいならギリギリ危険が及ばないところで立ち止まることだろう。

 多分。

 

 今日出たN・ハンドスピナーを回しながら、兄の準備を後ろから眺めていたのだが。

 突如思いついたかのように立ち上がり、こちらに向き直してこういったのだ。

 あのURの高額ガチャを回そう、と。

 

 こいつ正気か?

 1回3万円もする、どう見ても詐欺の温床になっているガチャ筐体を回そう、と?

 しかもダンジョンの進化に巻き込まれてどこに行ったのかわからない。

 

 そう言ったら、床からせり上がってくる例の高額ガチャ。

 ダンジョンに取り込まれてダンジョンの一部になってしまっているようで、いつでもダンジョンの中に配置出来るようになってしまっているようである。

 

 最も、兄には見えていないようではあるが、ダンジョン内であるためそこにあるということは認識出来ているようだ。

 

 兄に手渡される3万円。

 マジ?

 マジでやるの?

 

 兄に促されるまま、そのガチャに3万円を呑ませる。

 機械音とともに3万円が内部にへと取り込まれ、それと同時にカプセルが撹拌され始める。

 イラッとする陽気な音楽とともに、通常のカプセルと比べてもふたまわり近くでかいカプセルが排出された。

 そのカプセルの外装には星のマークが4つ刻まれている。

 

 だから! そのレアリティ表記はガチャのものじゃねーだろ!

 

 部屋に出たガチャと同じツッコミを入れさせられる時点でこいつはクソだ。

 しかもカプセルがでかいせいで開けづらい。

 

 ☆☆☆☆・戦闘用全身義体

 

 出現したのは、ロボットだった。

 成人男性ほどの大きさに様々な機械が詰め込まれた結果、映画に出てくる未来からやってきたアンドロイドのような造形をしている。

 

 それはなにかを求めるように手を動かし、しかし動力不足なのか行き倒れるように動かなくなった。

 赤い瞳のランプが弱々しく光っている。

 

 えっ、えー?

 ロボット……? いや、カプセルの内側には戦闘用の全身義体だと書かれている。

 ということは、これは誰かが中に……?

 

 とそこまで思い至ったところで、兄がその戦闘用全身義体の頭部を押さえ、ボタンを押し込んだ。

 それと同時に開く頭部。

 中には何も入っていなかった。

 

 多くの場合頭脳を納める頭部の部分に、だ。

 だとすればどうやって先程は動いたのか。

 

 だが、兄は何かに気がついたように……倉庫になにかを取りに行ってしまった。

 

 この不気味ななにかを置いたまま私を一人にするのはやめてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後。兄は倉庫から第三の手を取り出してきた。

 異常なほど操作性に欠けた、浮遊する腕を人間に追加する……言い方を変えれば義体技術の1つである。

 

 兄はその第三の手を、額にリンゴのマークの掘られた戦闘用全身義体の頭部の中に押し込んで閉じたのだ。

 そして第三の手の操作部を首に掛けて、第三の手を動かした。

 

 どうしてそれで動くのか、全くわからないが兄の指示を受けた全身義体がすくっと立ち上がり、兄のイメージどおりに動き出す。

 第三の手を頭脳パーツ代わりにして、兄の手足となった全身義体。

 

 兄曰く、この手の全身義体は動作を補助するAIが入っているもので、さっき動いたのもそれの処理によるもの、だと。

 第三の手を入れて動いた理由になっていないような気がするが、一応筋は通る。

 しかも、頭脳の接続コネクタのようなものが存在していなかったところから、非接触式の思考情報のやり取りを行っているものだと判断。

 同様に思考情報をやり取りしている第三の手を頭脳代わりに投入してみることを思いついた、と。

 

 だがなんでその事に気がついたのか、そこから第三の手を入れるという発想を実行してしまえるのか。

 私にはわからない。

 

 そのテンションで新大陸に迷惑かけないでくれよ!



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配布SR 疎通の指輪

 意思疎通。言葉を交わしその意思を伝え合うことである。

 異世界召喚ものの小説では、元の言語に関わらず現地の言語に何らかの手段で適応し、意思疎通を可能とする。

 何らかの魔法で言語が自動で翻訳される、脳に直接言語をインストールする、言葉に乗せられた意思を直接相手に届ける、特別なスキルによってあらゆる言語を理解する、などだ。

 これによって言葉の壁を乗り越える。

 言語の壁は分厚い壁であるため、シナリオで大きなウエイトをしめてしまう。

 それを主軸にした作品でない限り、邪魔でしか無いのだ。

 

 今回はその意思疎通のための景品が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は兄から回収した戦闘用全身義体in第三の手の操作練習をしていた。

 新ガチャ大陸には、地球の人工衛星からの観測で人工的な構造物があることがわかっている。

 つまりはそこになにかしらの文明社会が存在するということだ。

 それが人型の生物かはわからないが……。

 

 そして、知的生物がいるということは、だ。

 これから兄が迷惑をかける可能性がある。

 これから数多くのサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)をけしかけ、相手の文明に余計な影響を及ぼすことだろう。

 

 それが英雄か悪人か、はたまた怪物として排斥されるか、それがどれかはわからないが1つだけわかることがある。

 兄のことだから絶対配慮が足りない。

 

 いや、配慮しているかもしれないがズレているのだ。

 基本的に慎重さが足りない。

 

 なので、現地の情報を集めやすいように私も自由に動かせる駒を用意しようと全身義体の操作の練習をしているわけだ。

 これがあれば兄が暴走することもなくなるのでは、と。

 

 そう思って練習していると、ガチャが異音を立て始める。

 今日はホラー風の悲鳴だ。

 これ私だけに聞こえているから良いもの、他の人に聞こえていたら良いご近所迷惑である。

 ガチャを黙らせるためにヒヒイロカネのコインを投入し、ハンドルを回す。

 出現したのは「配布」と書かれたカプセル。

 うわ……。

 

 配布SR・疎通の指輪

 

 出現したのは指輪だ。

 青い小さな宝石の嵌められたシンプルなデザインで、どのような服にも合いそうである。

 が……指輪はどうでもいい。

 

 配布SRってなんだよ!

 ソシャゲか!

 しかもガチャを回して出てきてるんだから配布でもなんでもねえ!

 

 配布レアというのはソシャゲのイベントなどの報酬で貰えることのあるレアリティのことだ。

 大体は最高レアの一段階下のレアリティの物が配布される。

 最高レアの場合もある。

 

 その共通した特徴と言えば……やはりガチャからは出てこないというところだろう。

 そりゃそうだ。

 イベントの目玉として用意しているんだから、ガチャから出てきては意味がない。

 

 で。

 なんでお前はガチャから出てきてるんだ!

 しかも出てきたのはこれから必要になるであろう、言葉の壁を乗り越えるための装備。

 なにかガチャに見透かされて足元を見られているような気がする。

 

 めちゃくちゃ便利なのは一目でわかるけどさぁ。

 こう、あのガチャから()()()()()感のあるこれにはあまりいい印象を抱かない。

 

 指輪の効果の確認はネット配信サービスで洋画を見るだけで済ませた。

 原語がそのまま理解できるのってだいぶやばいなこれ。

 なぜかその言葉の意味が完璧に理解できてしまう。

 スラングなどにも対応しているせいか、言葉と同時に文化背景までまとめて理解させてくるから脳が疲れるのが難点ではある。

 

 便利だからなんか余計むかつくな……なんだよ配布って!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が、疎通の指輪を使って魔法言語を理解した。

 だいぶ前に出た咽喉マイク型の景品である「R・声」で発声したあの魔法原語だ。

 ケイ素生命体の遺失古語であり、どうも力ある言葉形式の魔法のようなのだが。

 

 兄は疎通の指輪を使って、強引にその言語を理解しにかかったのだ。

 言語の文化背景までまとめて理解する仕様上、魔法言語ならばその使い方までまとめて理解できてしまう。

 ノーライフキングのリチャードさんに教わっても覚えられなかったからって!

 

 しかもそれをサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に覚えさせたからもう大変である。

 発声するだけで使える超技術な魔法を、いくらでも生産できるモンスターが使うのだから。

 

 まさかそんなところからそんな方法で新しい能力を得るとか、聞いてないよ兄ぃ……。



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R カタパルト

 カタパルト。なんらかの物を動力を使って高速で射出する機構を指す言葉である。

 中世に於いては、主に岩などを弾力やテコの原理を用いて敵の城を攻撃する兵器であったし、現代では空母から戦闘機を勢いよく射出して発進させるための機構だ。

 何らかの物を勢いよく発射させたいという欲求……じゃない、発想は様々な地点で発生する。

 例えば宇宙船をより少ないエネルギーで発射させるために極めて長いレールを持ったカタパルトで加速してやる方法が考えられてる。

 最もまだ実用段階に至っていないあたり、やはり乱暴な技術なのだろう。

 

 今回はそのカタパルトが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がニュースの映像とにらめっこしていた。

 竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)が写り込んでいたあのニュースの映像をだ。

 その映像と現在周囲に見える風景から、現在位置を割り出そうと、そして向かうべき場所を見定めようとしているのだ。

 

 研究用とはいえ、それほど解像度の高くない画像である。

 軍事衛星などの国家機密に触れるような性能のものは使えないだろうし、それが表に出てくることもない。

 所詮ジャーナリストに見せられる程度の解像度しか無いものだ。

 

 だが兄には()がある。

 無数に存在し、空を自由に泳ぐ目だ。

 鳥よりも速く飛べるために、一日にかなりの距離を移動することが出来る。

 

 そう、偵察用に用意したサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)である。

 それらが今も飛び回り、大陸の地図情報を竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)にへと蓄積させているのだ。

 

 兄はそれだけでは足りないと考えているのか、それともサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の行動範囲では地図の収集効率が良くないのか。

 それで現在出来上がっている地図とニュースの映像とをにらめっこしている。

 

 まあ場所が特定出来たからって、ダンジョンの移動方向が変わるぐらいなのだが。

 

 うーむ。

 ガチャでも回そう。

 

 R・カタパルト

 

 出現したのは、半径4メートルほどのトランポリンに似た機械だった。

 上部にトランポリンかなにかに似た円形のラバーが張られており、その周囲に円形の機械が組み合わさっている。

 そして四方にアンカーとしての機能を持つのだろうか、張り出しが存在する。

 形状だけを見るとコマの玩具のスタジアムにも似ている。

 

 そしてその機能は……めちゃくちゃシンプルなように見える。

 大きくて丸いボタンが1つだけ存在するのだ。

 これを押せば、これはカタパルトとしての機能を発揮する。

 見た目から判断するに多分そういう構造だ。

 

 そう思って、私はそのラバーの上に石を転がす。

 うまく真ん中に乗らなかったが、まあ良いだろう。

 私は、思い切り良く丸いボタンに拳を叩きつけた。

 

 その途端、パン、という音とともに石が射出された。真上に。

 あまりの速度で射出されたからか、その石の欠片が霧状になってその軌跡を描いている。

 あと、空に見える雲に円形に穴が空いている。

 

 いやー……。

 見たまんまだとは思っていたけれど。

 まさかこんな勢いで真上に射出するカタパルトだとは。

 

 しかもラバー部分に乗ったものを何の動作もなく真上に飛ばしてしまうのは超技術であると言えよう。

 一体どんな力で吹き飛ばしているのやら。

 

 ……でも真上にしか射出できないカタパルトってあんまり意味なくない?

 ロケットだってある程度傾いた角度で飛んでいくのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がカタパルトを使ってサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を打ち上げた。

 カタパルトを見せて、その機能を説明した途端にこれだ。

 流れるようにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)をカタパルトに乗せて発射しやがった。

 

 もっと高いところを飛ぶサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が欲しかったんだと証言しているが、衛星からの映像を見て思いついたことなのは間違いない。

 確かにより高いところからならより遠くまで見通せるのはごくごく当たり前のことだが。

 

 だからってこんな、どこまで飛んでいくかわからないカタパルトを使わなくても。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を仮にも生き物だと思っている私が間違っているのか?

 それとも使い捨ての利く機械だと思ってる兄が正しいのか?

 

 あんまり考えても答えがでなさそうである。



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R 菌床

 菌床。きのこが生育するのに必要な培地のことである。

 具体的には木材にしいたけの菌を植え付けたものや、おがくずにしめじの菌を混ぜたもののことだ。

 きのこを育てるには必要なものであり、これらを買って育てている。

 また、より美味しいきのこを作るためにはこの菌床に手を加える場合も多い。

 貝の粉末などを菌床に加えて育てている、といった手法だ。

 

 今回はその菌床が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が街道と思しき道を発見した。

 カタパルトで打ち上げたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は高高度からその仕事を果たし、地上の地形を把握するのに必要な情報を集めてくれた。

 

 その結果、これまで調査していたよりも西に知的生物の手が入ったと思しき地形が存在する事がわかったのだ。

 馬車に似た乗り物が複数回通った結果踏み固められて出来た道のようで、草原の中に線を引くように土がむき出しになっている。

 それは西に向かう途中で林に入っていく。

 東に向かうと山脈を迂回するように北にそれた道が続いており、西だけではなく北にも街があるであろうことを示している。

 

 兄は早速そこにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を向かわせる。

 最もサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の速度で移動してもどれほど時間がかかるかわかったものではない。

 数時間程度、といったところだろうか。

 

 異世界の調査ということで横にいれば楽しめるかと思ったが、思ったよりも暇だな。

 ダンジョンの管制室に椅子を置いて命令を出している兄を横目に眺めているが、微妙である。

 見たこともない植物が生えているようにも見えるが、まあその程度だ。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が強すぎるのか野生動物は近づきすらしない。

 

 暇を持て余した私は、予め回しておいたガチャのカプセルを取り出す。

 回したタイミングで管制室に引きずり込まれたのだ。

 もうここで開けてしまおう。

 でかいものはまあ……最悪ダンジョンの再配置で移動させてもらう。

 

 R・菌床

 

 出現したのは、おがくずの塊だった。

 一般向けに販売されているしいたけの栽培キットのようなものである。

 あとこれにカバーとしてかぶせるビニール袋もセットで出てきている。

 

 それに……それだけではない。

 この菌床、いきなりきのこが生えているのだ。

 なんの菌床か自己主張するためにはじめから生えているのだとは思うが、ガチャの気の利かせ方はなにかおかしい。

 

 そして、生えているきのこはというと。

 松茸である。

 あの香り松茸味シメジの松茸だ。

 

 それが上部からそそり立っているのだ。

 松茸は生きたアカマツにしか生えないきのこのはずだが、なぜかこの菌床から生えてきている。

 

 ええー……?

 なにこのきのこ、というか菌床。

 いきなり松茸が生えているのはまあいい。

 よくみるとその松茸の根本に小さな松茸が生え始めているのだ。

 

 なんで……?

 なんで松茸が菌床から生えてきてるの?

 しかもこれからの経験からすると、やっぱこの松茸増えるよね?

 

 この菌床、こわ。

 何が起こっているのか推察すら出来ない。

 

 なにより、松茸を見る兄の目がやばい。

 得体のしれない松茸を食おうという食い意地がやばい。

 まあ兄は松茸好きだもんな……。

 

 私はそっと兄に菌床を手渡す。

 兄ならこう……いい感じにしてくれるだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。ダンジョンの一フロアに松茸の栽培場が出現した。

 菌床をほぐしてダンジョンのフロアに合成してしまうことで、もう地面からびっくりするほど松茸が生えている状態を作り出したのだ。

 ちょっと覗くだけでも松茸があちこちに生えていて、しかもはいるとうっかり松茸を踏んづけてしまうほどに。

 

 いやあ松茸食べ放題ですね!

 いくらなんでも無理くりな出現をしたせいで、私の中で松茸が得体が知れないきのこになってしまった。

 

 食べづれえ……。

 複雑な気持ちになって食べづれえ……。

 

 しかも兄が毎食なんらかしか食卓に上げるせいで、余計に辛い。

 少しは気にしてよ!



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R ヒールポーション

 ポーション。ファンタジーに出てくる魔法薬を指す言葉である。

 最も多く登場する効果は飲むことで傷を癒やす、だろうか。

 魔女や錬金術士などが作って売り歩いている姿が一般的なイメージだろう。

 あるいは普通に店売りしているか。

 魔法薬というだけあって、多くの場合効果は劇的で、傷を一瞬のうちに、あるいは数分で直してしまう。

 

 今回はヒールポーションが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、こんな日が来るとは思っていたが。

 いや、これまでもちょこちょこあったのだが。

 ベースとなる物が違うものだったり、似たようなものでも違う効果を持っていたりしたのだが。

 

 まさか完全下位互換が出てくるとは。

 

 R・ヒールポーション

 

 今日のガチャで出てきたのは、瓶詰めのヒールポーションだ。

 瓶の中に緑色に薄く光る液体が入っている。

 見ての通り、魔法的な輝き方だ。

 仮にこれが魔法でないとしたらやばい液体だとしか言いようがないだろう。

 

 だが、これの効果を確かめる必要はない。

 なぜなら……、このヒールポーション、自動販売機のラインナップに入っているからだ。

 すでに兄がサメもどきを使って実験済みである。

 

 まあそういうこともあるだろうとは思ってはいるが、実際に出てくると面食らうところがある。

 ガチャの景品というのは、そもそもダブるものなのだ。

 むしろこれまであまりかぶってこなかったのが奇跡だと言えよう。

 

 さて、中身のわかっているこれをどうしようか……。

 そう思っていると、兄が騒ぎ出す。

 モニターの1つを指差して私を呼びつけるのだ。

 

 いや何かあったら私を呼ぶように言っておいたけれども。

 最近動いてないから元気の有り余っているようでテンションが高い。

 

 指さされたモニターには、トリケラトプスのような生き物が引く馬車のような乗り物。

 そしてそれを守るように騎士が立っている。

 

 一瞬、兄がバカみたいにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を突っ込ませて警戒状態にさせたのかと思ったがそうでもないらしい。

 より引いたカメラの映像を見ると、そこには空を回遊するサメの姿と、小人型のサメに似たなにかが写っていた。

 

 どうもそのサメが馬車を襲っているようで、作戦もへったくれもない動きでサメのようななにかが騎士に攻撃を仕掛けている。

 鑑定のメガネには、その生き物の種族名が映し出されていた。

 コモンサメリン、と。

 

 コモンサメリン。

 どこから突っ込めば良いんだろうか。

 頭にレアリティがついていることだろうか。

 それとも、ゴブリンめいた特徴を持っているサメに、サメリンとかいう適当な名前がついていることだろうか。

 あるいは、サメに手足が生えていることだろうか。

 

 それに空を回遊しているサメもサメだ。

 こっちはこっちで嫌になる名前がついている。

 なんとフライングシャークガチャだ。

 

 その名の通り、脇腹にコインの投入口とハンドルがついている。

 その身についたハンドルがたまに回転して、周囲に新しいコモンサメリンを出現させているのだ。

 それ以外はただのサメで、サメが空中を回遊しているという点についてはもはやツッコミを入れるのは野暮だと言えるだろう。

 

 それにそのフライングシャークガチャにはなにか胡散臭いおっさんが乗っていて、口汚くサメ共に命令を出している。

 その言動から、どうも都市を追放された野盗の類らしいが。

 運良くフライングシャークガチャを従えられただの、これで一稼ぎしてやるだの、聞くに耐えない言動をしているのだ。

 

 ただ、それを言えるだけの事はあって、一度に10体ものサメリンを出現させている。

 十連ガチャもかくやの速度でモンスターを生産してけしかけてくるのには騎士も溜まったものではない。

 

 いつしか騎士たちは押し込まれ、サメリンの数に押されて一人の騎士が昏倒したのだ。

 

 それを見ていた私は、慌てて兄にフライングシャークガチャを攻撃するように指示を出す。

 しまった。ぼんやり見ていたが助ける手段があるのを忘れていた。

 

 こういう場合の兄はどう動くかわかったものではない。

 フライングシャークガチャを入手するために騎士たちを見殺しにするまである。

 

 指示を出した瞬間、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は一瞬でフライングシャークガチャの首を刎ねた。

 本当に一瞬である。

 その脚力で近くにあった木を足場に、縮地めいた動きをしたのだろうか。

 

 それに続くように、次から次へと空からサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が降り立ち、サメリンを殲滅していく。

 うねる邪神の槍を薙ぐだけでサメリンは溶けるように死んでいく。

 

 その場に残ったのは、盗賊くずれと騎士たち数人、そしてサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)だ。

 一時はサメリンに集られていた馬車も無事のようである。

 血しぶきで汚れているが。

 

 騎士たちがサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を見る目は、見る目は……、いや何だこの目は。

 何人かはまるで祈るように手を合わせ、隊長格と思しき騎士は、どうすればいいのかわからないと言った表情である。

 

 うーむ。

 はやまってやらかしてしまったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後。兄は私の左手を指差す。

 左手に持っていたヒールポーションをこっちにプリーズ、となんかむかつく口調で言われたので、とりあえず渡すと同時に膝蹴りをお見舞いしてやった。

 

 兄は受け取ったヒールポーションを台に載せ、そのすぐあとにそのポーションは姿を消した。

 どこに消えたのかと思った矢先、モニターのサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の手の中に移動していた。

 

 兄はドヤ顔で機神に進化したときに得た能力の1つだと紹介している。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)はそのヒールポーションを負傷した騎士に振りかけた。

 その行動が騎士たちにとって突然だったためか警戒されたが、騎士の傷が塞がると今度は拝まれた。

 

 これは……案の定まずいことになったのでは……?



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ガチャレクシア来訪

 物語にはテンプレートがある。

 概ね「起こり得そうなこと」と「起こったら盛り上がりそうなこと」のパターンと組み合わせで出来ているものだ。

 だから物語では助けた美女は主人公に惚れるし、主人公は困っている人に手を差し伸ばすのだ。

 起こり得そうなことは物語の説得力を増すし、起こったら盛り上がりそうなことは字の通り盛り上がりどころを作ることが出来るだろう。

 だがどこにでもあるようなことをしても盛り上がらないし退屈になってしまう。

 だから物語を書くときは説得力を欠かないように少しずつ要素を入れ替えて書かれていく。

 

 今回はテンプレ的な展開が発生した話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲われていた馬車をサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)で助けたはいいが、騎士たちに拝まれていてどう声を掛けて良いのやらわからない。

 こういう時に躊躇しない兄だが、こっちはフライングシャークガチャの死体を回収してきてそれの検分にテンションを上げている真っ最中で、役に立ちそうにはない。

 

 「天使様……」「天使様だ……」と拝む声から察するに、案の定というか、やっぱりというべきか天使という種は信仰の対象のようである。

 それが自分たちのピンチに舞い降りて窮地を救ってくれたのだから、そりゃそうもなるか。

 最初こそ敵対的なものかと警戒していたが、ヒールポーションで治療してからは敵対的ではないと思われたらしく、そのもとより持ち合わせているであろう信仰心から祈りを捧げられている真っ最中である。

 それらしい会話も聞き取れている。

 

 まあ、この天使、機械仕掛けな上、サメ頭なんだけどな。

 

 さてホントどうやって声をかけよう。

 うかつに声をかけると神とか言われて信仰されてしまう。

 いや今私がいる場所は機神の中だしこのダンジョンは神みたいなもんだけどさぁ!?

 

 そう混乱していると、馬車から一人のお嬢さんが降りてきた。

 年齢は私と同年代に見えるが、その立ち振舞は優雅でありわずかにだがカリスマのようなものも感じる。

 ややラフに見えるドレスを完璧に着こなしているあたり、貴族のように見える。

 

 やっぱ中世ヨーロッパ風かぁ。

 まあガチャ産だしなぁ。

 そのように思考が明後日の方向に飛びそうになったところ、そのお嬢さんがこちらに向かって声をかけてくる。

 

 儀礼的な挨拶とともに、彼女はエリスと名乗った。

 助けられた感謝の言葉とともに、こちらが何者かを訪ねて来る。

 

 助かるぅ。

 こう、話しやすい空気を作るのが上手い人っているよね。

 なので私は予め兄と話し合って決めていた名前を語ることにする。

 

 私達はリュウコウ(竜鮫)

 大陸を調べるために旅をしている者です、と。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)越しにその言葉を告げると、騎士たちにどよめきが広がる。

 ごめんねー、そっちの神話の天使じゃなくて。

 

 それに続けて、道に迷っていて近くの街に行きたいことも伝える。

 自分で言っていてなんだが、このサメ頭を街に入れたがる人間がいるとは思えない。

 

 だがエリスさんは目を輝かせて歓迎しますわ、と言い放った。

 豪胆というかなんというか。

 それに続けて、私の街ガチャレクシアへ案内しましょう、と。

 

 ガチャレクシア。

 ガチャ、レクシア。

 マジっすかぁ……。

 

 なんかもういきなりイヤなワードがついた街で幸先がわるい気がする。

 いや新ガチャ大陸何だからそういう事もあるのか。

 

 これだからガチャ産はイヤなんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。細々とした会話をしながら、ガチャレクシアにへと向かう一行。

 とりあえず顔は兄に命じて作らせたフードつきのマントを転送することで隠す方針で行くことにした。

 翼は……まあ畳めばよかろう。

 マントに収まればなんとかなる。

 あと現地の騎士と比べてもだいぶ身長が高いが、そっちもなんとかなるはずだ。

 

 数時間馬車を走らせた結果、見えてきたのは城塞に守られた都市だった。

 様々な色の金属が積み上げられて随分ときらびやかな城塞である。

 そして、視線を少し上げれば見えてくる最高にイヤなもの。

 

 そう、巨大なガチャ筐体である。

 衛星写真に映るほどの大きさではないが、それでも塔かなにかとみまごうほどの巨大さである。

 しかもエリスさんが言うには、内部がダンジョンになっていて、入るたびに姿を変えるそうだ。

 

 だからここは迷宮都市ガチャレクシア。

 迷宮探索を基幹産業とした、冒険者の街だ。

 

 うーん、最初に出会う街がこれで良いんだろうか……。

 良いんだろうな……だって新ガチャ大陸だしな……。

 多分他の街も似たりよったりな気がしてならない……。



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R 惑星儀

 地球儀。地球の表面を球体によって表現した模型である。

 平面の地図では表現できない正確な方位や角度、距離などを正確に表現することが可能で、その大きさは表面の地図の縮尺によって決まる。

 地球を模して作られているため、スポットライトなどを利用して太陽に見立てることで日や季節の変化を表現することも可能だ。

 

 今回は、新惑星の惑星儀が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガチャレクシアに到着してからというもの、色々と慌ただしく環境を整える作業に追われていた。

 ガチャレクシアには様々な人種が入り乱れており、トカゲだったり獣だったり、はたまた岩だったりな人が一杯いたのだ。

 その関係で翼を隠せばサメ頭の人だと誤認される程度で済んだ。

 宿はガチャレクシアの領主の娘だったエリスさんは別宅を快く貸してくれたが、無駄飯ぐらいになるわけにはいかない。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は食事を摂らないが、そういう問題ではないのだ。

 人が複数人生活するだけで色々な資源を利用する。

 活動状態のサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)も人間と比べれば遥かに少ないとはいえ、使うものは使うのだ。

 例えば清掃とか洗濯とか。

 それに色々調べようと思うと金がいる。

 

 それでどうしようか、と考えていたのだが。

 最悪、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)をあのガチャガチャダンジョンに突入させることも考えた。

 それってこの間まで兄がやっていたことと特に違いがなく、兄がすぐ飽きて大変なことになるような気がしてやめておこうとなったのだ。

 

 その直後だよ!

 うっかり兄に疎通の指輪を貸してしまったために、兄は百均の茶碗を商人に高値で売りつけやがった!

 あの手この手で詐欺の常套句を並べ立てて、茶碗1つを金貨3枚にまで釣り上げやがった。

 目を離すとこういうことやりだすから本当にこいつは……。

 

 ウィンウィンだろ? だって?

 うるせえ。

 

 はー。

 アホなことする兄は放っておいて、ガチャの消化をしてしまおう。

 それカプセルを開封。

 

 R・惑星儀

 

 出現したのは地球儀だった。

 大きさは直径30センチほどの抱えるサイズのものだ。

 一般的な地球儀と同じく、海を青で地形を緑や茶色で塗り分けられている。

 だが、その表面には見たこともない大陸が配置されていて、地球のそれではない。

 

 じゃあ一体この地球儀はなんなのか。

 不自然に偏った大陸の存在が、ややイヤな予感を駆り立てる。

 まさか……これは惑星ガチャで出た惑星では……。

 

 そう思ってニュースの映像をスマホで再生する。

 そのニュース映像は、新ガチャ大陸が出現したときのものだ。

 小さなシミのような形で機神が写り込んでいる。

 

 んんんー~……?

 違う、大陸の形が違う。

 新ガチャ大陸は円盤のような形をした大陸だが、この地球儀にかかれている大陸は三角形に近い形状をしている。

 そして、その端は大規模に凍っていることが書き込まれている。

 

 うーむ。

 一体これは。

 そう思って惑星儀をくるくる回していたときだ。

 よく見ると南極あたりになにか書かれている事に気がついた。

 

 アルファ・ケンタウリ第四惑星の南極。

 

 なんだその雑な名称は。

 というか、アルファ・ケンタウリ。

 

 地球から一番近い恒星の名前である。

 もし地球がだめになったときの計画では度々登場する恒星で、その距離は地球からわずか四光年ほどである。

 そのため定期的に観測が行われ……理論上地球型惑星が存在するのではないか、などとなにかと話題になる星である。

 

 で、だ。

 この地球儀は……アルファ・ケンタウリの第四惑星のもの、と。

 

 は?

 マジ?

 

 こういうロマン系を明後日の方向から持ってくるの本当にやめてほしい。

 SFの鉄板ネタの1つをこういう形で持ってこられても困るんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が惑星儀の隠し機能に気がついた。

 なんと、惑星儀の頭にある突起を押し込むと、その惑星上に自身の味方がどこにいるかまち針のようなものでプロットされるのだ!

 

 アルファ・ケンタウリの惑星に味方がいるわけ無いだろ!

 実際にプロットされるのは現在の惑星での座標のようで、惑星ガチャの惑星のどこにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)がいるのかが配置される。

 地図上はアルファ・ケンタウリ第四惑星のままで、だ。

 

 緯度と経度は合っているように見えるが。

 地図が全く別物じゃ役に立つわけねーだろボケ!



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R 竜肉切り落とし500グラム

 食肉にも色々ある。

 例えばロースは肩から腰に掛けての部位の肉で、ローストするのに適した肉という意味だ。

 これは生き物の部位によって味わいが異なるからである。

 よく動かされ、力が込められる部位には筋肉が増え、あまり動かない部位には脂肪が蓄えられる。

 また、動作に必要な筋繊維の走り方によっても味わいが異なる。

 当然それらを同じものとして扱うわけにはいかない。

 場合によっては他の部位と比べても飛び抜けて美味しい部位が存在する可能性もあるからだ。

 

 今回はそんなことに関係なく、ドラゴンのクズ肉が出た話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 経緯はともかく、金を手に入れた兄はまず市場の調査を始めた。

 そこで何が売られているか、何が食べられているか。

 そしてどのように売られているか。

 それを知ることはその社会を知ることになる。

 

 ただ……まあ専門家ではない兄と私である。

 ざっと見たところで「知らないものが売っているな」とか「えらく肉が多いな」ぐらいしかわからない。

 強いていうなら屋台形式の商店が多い。

 おそらくは定期的にこの場を入れ替える必要があるために移動可能な店舗が中心になるように発展したのだろう。

 屋台の背後に並んでいる建物は倉庫のように見える。

 

 そこまでして街道を広くしておく必要があるということだ。

 それも不定期に広くする必要がある。

 

 そんな用途、一体どこで……と思っていると。

 鐘が鳴り出し、それと同時に屋台がすごい速度で撤収を始めたのだ。

 そして屋台が去ったあと……ガチャガチャダンジョンの方からそれはやってきた。

 巨大な家のようなものが、自走している。

 履帯のようなものを履いているのか、地面をえぐるように前進している。

 そしてその背には、竜の死体を背負っているのだ。

 

 聞けばあれは冒険者の所有物の中の1つであり、ダンジョンでは年に数度出てくる産出品だそうだ。

 あれを搬出するのに街道を広くする必要があるのか……。

 それにあの背負っている竜の死体は、解体して食肉にするんだと。

 豪快だなぁ。

 

 さて。

 ガチャが唸っているので回すとしよう。

 

 R・竜肉切り落とし500グラム

 

 出現したのは白いパッケージに載せられた肉だった。

 スーパーなどで売っている豚肉や牛肉のパッケージをイメージすれば丁度いいだろうか。

 それの中に、ボロボロな肉が入っているのだ。

 パッケージの表記に従えば、竜の切り落としが、である。

 

 うーん竜の肉。

 ワイバーンの肉なら兄に食わせたことがあるが、あれは硬い。

 とにかく空を飛ぶ生き物なので筋肉質なのだ。

 

 そしてこの竜の肉もそれに外れず、かなり筋っぽい。

 薄く脂肪が入っているのが見えるが、それの周囲に筋が走っているのだ。

 薄切りになっていてもだいぶ固そうに見えるのは相当である。

 

 さて、どうするかな……。

 牛肉なら一人で食べてもいいが、これは竜の肉である。

 得体のしれないものなのは変わらない。

 

 というか、本当に食って良い肉なのかもわからない。

 なにせ竜である。

 種類にもよるが、毒を持っているものも少なくない。

 

 食肉加工されているから行けるか?

 でもガチャの景品だしなぁ。

 

 こんなに悩むのには理由がある。

 ドラゴンの肉は、ものによってはとても美味いのだ。

 調理の技術が要求される場合も多いが、それに見合うだけの暴力的な旨味を秘めている事が多い。

 

 最も毒も旨味も創作上の話であって……この竜肉がそれに当たるかは微妙なところではある。

 そもそも切り落としはクズ肉だ。

 本当に竜の肉が旨くてもこの部位が美味いとは限らない。

 

 うーん……。

 やっぱやめよう!

 得体が知れないものを食べて腹を壊すかもしれないしな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が竜肉をビーフシチューに投入しやがった。

 実質ドラゴンシチューと化したビーフシチューを、何の説明もなく家族に振る舞う兄。

 もし毒があったらどうするんだと思ったが、この兄、先に竜肉を少しだけ焼いてつまみ食いしている。

 

 だからといって説明もなくドラゴンの肉を投入していい理由にはならない。

 

 で、味?

 やはり硬くて噛みごたえがあったが、噛めば噛むほど旨味が出て美味しゅうございましたァ!



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R 人工肉培養機

 人工肉。科学的に合成されたり、培養されて作られた肉のことである。

 家畜の命を奪うことなく肉を作り出し、摂取することが出来るため、殺生を好まない菜食主義者などに需要がある、とされる。

 また科学的に作成されているために不純物を含まない。

 そのため、味の調整も科学的に可能であるのだ。

 

 今回はその人工肉培養機が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜の肉をいたくお気に召された兄は、ガチャレクシアの食材に近い肉があるのではないかと考え、様々な種類のモンスターの肉を買い込み始めた。

 ただでさえ金策を持ち合わせていないというのにそういうことをされるとすぐ素寒貧になりかねない。

 まだ茶碗を売った金が残っているとはいえ、どうするつもりなのか。

 

 それで買い込んできた肉は基本的にモンスターのものである。

 ダンジョンに出現するモンスターを解体して得られた肉だ。

 ほとんどジビエのような気がするが、まあ取れる場所から取るというのは合理的であると言えよう。

 

 ミノタウロスの肉、オークの肉、コカトリスの肉となんというかそれっぽいファンタジー食材に、地竜と呼ばれる恐竜に似た形のドラゴンの肉を確保してきた。

 とりあえず試すといって一人焼肉をしているが、どうにも微妙そうである。

 まあ現代で食べられる美味しい肉というのは品種改良の結果であり、モンスターは野生種だ。

 野生種の肉は基本硬い。

 筋繊維が発達しているからである。

 

 それをどうにかしないと美味しく食べることが出来ないわけだが……。

 そういう手間も惜しんで焼肉をにしたため、結局微妙だったわけだ。

 

 なおお目当てのドラゴン肉は違う種類のものだった模様。

 トカゲのような味……と言っていたが兄よ、トカゲを食べたことが……?

 

 まあいいか。

 ガチャを回そう。

 

 R・人工肉培養機

 

 出現したのは大型の機械だった。

 フードプロセッサーにパスタマシンとミートミンサーをくっつけたような見た目の機械であり、下部につまみやボタンが取り付けられている。

 そしてそれらを強引に縛り上げるようにパイプのようなものがまとわりついている。

 

 また操作盤には簡単な説明が書かれており、フードプロセッサー部分に肉を投入すると人工肉を生産する……と書かれている。

 

 肉を投入すると、人工肉を生産する。

 それは人工肉ではないのでは……?

 

 あまりにもその前提の踏みにじりっぷりに頭を抱える。

 普通人工肉は、培養液から肉を増殖させるとか、溶液を作って肉を印刷するとかそういう方式で生産されるものだ。

 そんなミンチ肉からハンバーグを作るみたいな方式で作れるものではないはずだが。

 

 まあ書いてあるからにはその方式で実際利用するのだろう。

 なので、兄の一人焼肉で余ったミノタウロス肉をフードプロセッサーの受け口に投入する。

 つまみにはメモリが書かれてあり、赤身と脂身や筋の割合が決められるようなのでとりあえず柔らかくなりそうな組み合わせにセットしておく。

 

 セットが終わったところでスイッチオン。

 それと同時にガガガガ、とものすごい音を立てながら投入したミノタウロス肉がミンチを超え液体にへと変貌していく。

 それが下から吸い上げられているのかその量を減少させていく。

 

 するとミートミンサーとパスタマシン部分のパーツが回転を始め、やがてプリンターの印刷音のようなシャカシャカいう音とともに、隙間から肉が出力された。

 まるでプリンターみたいに吐き出してきたせいで、受けるためのバットを慌てて持ち出す羽目になった。

 

 出てきた肉は……見事なまでの霜降り肉だった。

 細かく脂肪が入っていて、口の中に入れるととろけそうである。

 

 ところでこれ、やっぱり人工肉ではなくない?

 よくて再構築肉じゃない?

 というか、培養してなくない?

 

 なお肉の味は兄に食わせたところ、野性的でガツンとくる旨味と霜降り肉の柔らかさが合わさった特上肉、とのこと。

 マジ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が人工肉培養機に肉まんを詰め込んだ。

 やるとは思っていたが、実際に出てきた肉を見るとまじかこいつ……という印象だ。

 出来上がったものは肉ではあった。

 ただ、肉自体がパンのような構造……ようは無数の気泡を持つふわふわとした食感になっていて、食べると絶対違和感を覚えるであろう代物になっているのだ。

 

 作っているのは間違いなく肉だろう。

 だが、これは一体何を培養しているっていうんだ?

 原型を留めないほどにミキサーに掛けられる材料を考えると、何をしているのか疑わしい。

 

 ただ味自体は改善されるんだよなぁ。

 スーパーでグラムあたり100円の肉が霜降りになるんだから優れた機械ではある。

 

 これは一体何を食わされているんだ……。



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R ダミー人形

 ダミー人形。車などの実験で使用される、人型の実験用人形のことである。

 この人形は重量や重心などが、人に近い状況で実験が可能なように人間のそれを模して作られている。

 具体的には、車が衝突した時にどのように乗っている人間が吹き飛ばされてダメージを負うかの実験に使用され、シートベルトの有用性などを証明している。

 

 今回はそのダミー人形が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局のところ、兄はダンジョンから出てきた素材や武器防具などを売ることに決めたようだ。

 単純な素材ならばガチャレクシアでも珍しい代物ではなく、また武器防具の類はいっそのことガチャレクシアのほうが多様性に富んでいるといっていいほどに様々なものが存在していたので、普通に買取してもらえた。

 

 下手に茶碗を売られるよりもガチャレクシアの経済を混乱させたり、面倒な足がついたりしそうにないものを選んで売っている今の方がマシだ。

 商品自体もガチャレクシアはガチャダンジョンの影響でガチャの景品に似た代物が多く出回っている関係上、そんなに目立たないと思う。

 兄もそれがわかっているのか兄基準でそこそこ良い宝剣とか宝石がいっぱいついた盾とか売っている。

 

 しかし改めて検分してもろくなものがないな。

 使い物にならない金貨が多すぎるし、使い方すらわからない変な反り方をした剣が何本もあるし、鎧に至ってはとにかくでかい。

 

 神様が爪楊枝に使っていそうな謎ビームを出す持ち手の分かりづらい武器まであるぞ。

 なお色は金色。

 だいぶ趣味が悪い。

 

 まあ今回の売却で倉庫もだいぶスッキリするだろう。

 

 私はガチャを回してしまおうかな。

 

 R・ダミー人形

 

 出現したのは、人間大の大きさの人形だった。

 車の衝撃実験などに使われて運転席に乗せられて毎回悲惨な目に合っているあの人形が出てきたのだ。

 

 しかも、だ。

 この人形、重いのである。

 人間の重心や重量を再現しているだけあって、だいぶ重い。

 なんなら私の体重よりも重い。

 なまじ人間サイズだから運べそうなのが辛い。

 

 それになにか効果があるのだろうな……と思うが、車の衝突実験をするわけにもいかない。

 というか車がない。

 ガチャがこっちの事情とか勘案しないのはわかっているが、役に立たないものを出されても困る。

 

 とりあえず倉庫にでも運ぼう、と抱えて引きずる。

 途中、腕が疲れてしまって、うっかりダミー人形を頭から落としてしまった。

 

 そのときである。

 頭の部分から「5」と吹き出しのようなものが出てきたのだ。

 それはモンスターをハントするゲームの最新作でやっと追加されたダメージを視覚化したようなものと同じように見える。

 

 私は思い切って、ダミー人形の頭を叩いてみた。

 先程と同様に、「1」と浮かび上がる。

 

 ……。

 なんだこれ。

 

 ダメージ表示をするダミー人形。

 便利なのか、便利じゃないのか、かなり分かりづらい。

 このダメージ表示、普通にかぶって見えなかったり、ダミー人形自体にめり込んでいたりするのだ。

 

 いや、使いみちとか無いだろ!

 学生は車の衝突実験とかしないからな!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄はダミー人形を立てた柱に縛り付けて的にした。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の武器はこれまで強そう、か強く見える効果がついている、で選んでいた。

 だが、ダメージ表示が行えるダミー人形が出てきたことで、武器の攻撃力という面で評価が可能になったのだ。

 

 そのために柱に縛り付けられて、武器でボコボコに殴られるダミー人形。

 明らかにそういう用途で使うべき人形ではないはずだが……。

 

 というか武器でボコボコにされても壊れないのねこのダミー人形。

 車の衝突実験させる気も無いじゃんこれ!



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R 出前機

 出前機。出前のバイクに取り付けられている、乗せているものを振動から守るアームのことだ。

 通常、岡持ちなどをセット出来るようになっていて、その乗せたものの水平を保ち続ける。

 これの開発によって出前の商品を振動から守るために片手が岡持ちで塞がる事がなくなり、より安全に出前を運ぶ事ができるようになった。

 というか、日本にはこういう装置も含めて出前文化が存在するのに食品配達サービスが成長してきてるのどういうことなんです?

 

 今回はその出前機が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が闘技場でサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を戦わせていた。

 ガチャガチャダンジョンを探索している冒険者の実力が見たいとか言い出して、闘技場の大会にエントリーしたのだ。

 結果はというと、やはりというべきか圧勝である。

 

 というのも邪神槍が強すぎた。

 振るだけで闇属性っぽいオーラが溢れ出し、目の前の敵を一掃したのだ。

 まるで煙のように相手を包み込み、意識を刈り取った。

 

 ええええー?

 割合雑に手に入れた装備であるにも関わらず、この威力である。

 それも撫でるように振るわれただけだというのに。

 

 流石にそれだと検証にならないために、槍も盾も投げ捨てて徒手空拳で挑ませたのだが、これがまた千切っては投げ、千切っては投げ。

 普段の微動だにしない姿から想像もつかないほどぬるりとした動きで相手の武器を絡め取り、絞め落としていった。

 

 うーむ。

 サメ機人(シャークボーグ)の戦闘経験とその獲得した能力を余すところなく継承したサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)はやはり常軌を逸した戦闘能力だと言える。

 人間範疇の生物であるガチャレクシアの人々では流石に相手にならないのか。

 

 まあその圧勝が原因で闘技場のオーナーに気に入られてしまい、チャンピオンとの勝負が約束されたのは幸か不幸か。

 今回の目的を考えれば、不幸ではないような気もするが……。

 

 まあいいか、どうでも。

 私は私でガチャを済ませてしまおう。

 

 R・出前機

 

 出現したのは、バイクだった。

 いわゆるカブと呼ばれるタイプのバイクで、多分コピー生産品だ。

 そして後部の荷物を固定する部分に金属のフレームと岡持ちが装備されている。

 

 これは……出前用のバイクだな?

 もうぱっと見ただけで用途がわかるだけなにか安心感がある。

 だが……これはガチャの景品。

 余計な機能が付け加えられていることは自明。

 

 そう思って、とりあえず岡持ちの中に水を入れたコップを乗せてみた。

 特に反応なし。

 

 うーん?

 とりあえずバイクのエンジンを掛けてみる。

 ガソリンは入っていたのか、スムーズにエンジンが掛かり、その排気音を立て始めるとともに。

 ガシャーン、という明らかにコップを派手に倒して割ったような音が聞こえた。

 

 バイクのステップが立ったままなのを確認して、岡持ちを開ける。

 そこには、横倒しになって割れたコップが入っていた。

 

 oh……。

 この出前機というやつは、乗せた岡持ちを揺らさないように作られているはずだが。

 こいつは……その逆みたいだな。

 

 色々試した結果。

 どういう原理になっているかはわからないが、この出前機はどうもかかった振動を増大させるようである。

 全く出前を守る気がない。

 

 こんなもんどうやって使えば良いんだよ……。

 ペットボトルに飲み物を入れて混ぜる、とか思いついたが、ペットボトルはペットボトルで破裂させてくるから本当に使えねえ。

 

 何に使えるんだよこれ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がバイクから出前機を外した。

 まあ、そのなんだ。

 出前機とバイクの関係は追加パーツと本体なわけで、追加パーツが役に立たないのなら外せばいいだけの話だったのだ。

 

 その上、兄は出前機のパーツを分解して振動増幅器を作り出した。

 ただ、作ったはいいが何に使えば良いのかわからん、みたいな顔をするのはやめろ。

 兄はすぐ新しいガラクタを作り出すんだから困る。

 

 なおバイクにはナンバープレートがついておらず、ガソリンが一滴も入っていないのにエンジンがかかる為、車検にも出せそうにない。

 

 どうすっかなぁ、このバイク。

 私バイク乗れないんだよなぁ。



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SR 戦狼の指輪

 人狼(ワーウルフ)。満月の夜に狼の姿にへと変じる伝説上の存在だ。

 獣の姿に変じる戦士の話は世界の各地に存在し、その土地に根付いた力強い生き物の姿を借り受けている事が多い。

 こと、人狼は狼の出没する地域には必ずその伝説が存在している。

 これは狼が世界的に見ても崇拝の対象だった事に起因する。

 そしてそれは森林の伐採などによって狼が家畜を襲う害獣にへと変化することによって反転し、邪悪なイメージが付与されてしまったのだ。

 それ故、人狼は人を襲うものだと認識されている。

 

 今回は狼の指輪が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が闘技場のチャンピオンに叩きのめされた。

 さすがはガチャレクシア一の戦闘技巧者というべきか、ダンジョンに集まる冒険者の中でも最強の存在だというべきなのか。

 モンスターとしての能力や魔法を使用しない縛りプレイだったとはいえ、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の身体能力は人類のそれを遥かに凌駕している。

 それを相手取り、あろうことか鮮やかに勝利してみせたチャンピオンは本当に強い。

 

 最初の打ち合いは剣と斧を両手に構えたチャンピオンが、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の持つ槍を叩き落とし。

 武器を構え直すために距離を置けば弓を構えて動きを潰してくるし。

 インファイトに持ち込めば、極まっているはずのサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の格闘技を、上から押さえ込んで的確にカウンターを決めてくるし。

 

 強い……強すぎる。

 この人に比べると大会に出ていた他の参加者がゴミのようである。

 チャンピオンが隔絶したレベルで強いのか、参加者が弱いのかは微妙なところだ。

 参加していない冒険者も多そうだし。

 

 なおその戦いを見ていた兄はというと、めちゃくちゃ悔しがっていた。

 隠しておかないといけない能力がなければ勝てていたのに、とか言い出している。

 

 そもそもサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の最大の強みは、魔法が使えることでも、身体能力が高いことでも、高速飛行出来ることでも、頭がいいことでもない。

 高性能なサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が数千体規模で出現させられることだ。

 それは前身のサメ機人(シャークボーグ)のときから変わらず、より強化されているといえる。

 

 ぶっちゃけなにを相手する気でこんな物を……とは思うが。

 強さはロマンなんだから仕方ない。

 ……と兄は言っていた。

 やめて欲しい。

 

 いい試合を見たあとにガチャを回すのは正直気が重いが、回しておかないと後でうるさいので回しておく。

 本当に……あの騒音さえなければ……。

 

 SR・戦狼の指輪

 

 出現したのは狼の頭部を模した飾りが施された銀の指輪だった。

 瞳のかわりに黒い宝石が嵌められ、光の反射からか生きているようにも見えなくもない。

 

 しかし戦狼とは。

 もう文字面を見るだけでも戦うために生まれてきた、と主張しているようではないか。

 それだけでもうだいぶろくでもないというか。

 いや、ガチャレクシアに到達している今ならこういうのも役に立つのか?

 役に立ってほしくないなぁ。

 その状況って私襲われてるじゃん。

 

 とりあえず。

 この指輪を試そう。

 えーと、人差し指に嵌めて……。

 

 嵌めた途端、半透明の狼が見えるようになった。

 出現した、という感じではない。

 はじめから指輪に寄り添っていたような感じだ。

 

 お、おお、おおお……。

 その狼は身じろぎ1つしない。

 生きているのかどうかも疑わしい。

 呼吸しているようにも見えない。

 

 最初私はその狼に恐怖を覚えているのかと思ったが、違った。

 未知の感覚に混乱していただけだった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 理解してからはすぐだった。

 私はその半透明の狼を、まるで手足のように動かせた。

 本当に手足のように、だ。

 どう動かすか、を自覚することなく動かすことが出来たのだ。

 

 手を動かして作業するのに、指の関節の角度を気にしないように、狼を動かせる。

 まあそのせいで狼の動きというにはややぎこちない動きになってしまっているが。

 

 それに意識すれば狼の見ているものを感じることが出来る。

 鼻も利くため、匂いで周囲を探る事もできる。

 

 うーむ。

 すごい子だ。

 思わず抱きしめてしまったが、これは自分の腕を抱いているようなものでは? という思考もよぎる。

 だがもふもふの毛皮の前にそんな思考はすぐ抜けた。

 

 しかし、これを兄に渡すと自爆特攻させそうだな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄に指輪を貸すと、なぜか兄は狼男となってしまった。

 指輪を嵌めると、なにやら青いオーラの立ち上る狼の獣人にへと姿を変えてしまったのだ。

 どういうことなの、と思ったが、魔王の玉座も私と兄で発揮する効果が違った。

 ということは、だ。

 これは身につけた人に、戦狼の力を与える指輪なのだろう。

 

 私には霊体めいた狼を操る力を。

 兄にはその身に狼を降ろす力を。

 

 形こそ違えど、戦狼の力だ。

 強力なマジックアイテムと言えるだろう。

 

 と、まあ考えている横で、その……筋肉を誇示するようなポーズをするのはやめてもらえないか兄よ。

 狼男と化して筋肉量が大幅に増しているのはわかったから!



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R 特殊造型カメラ

 特殊造型。ドラマなどで使われる模型のことだ。

 特撮などで破壊される柱、本来は持ち上げられない大きさのコンクリートの破片、舞台に利用されるセットなど、様々なところで使用されている。

 現実に存在しない物を用意出来るという点で優れているが、近年は3DCGの台頭によりその技術はやや失われつつある。

 

 今回はその特殊造型をしてしまうカメラが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつのまにやら兄が冒険者たちと仲良くなっていた。

 まあ粗暴な冒険者と、テンションの高い兄とは、まあ相性もよかろう。

 闘技場でのトーナメントでその実力が認められたことから、冒険者たちには一目置かれていたのだ。

 そこにつけこんで……というと流石に人聞きが悪いので、ガチャガチャダンジョンの話を聞くために声をかけたそうだ。

 

 ダンジョンのモンスターの話、罠の話、戦い方の話と聞き出していき、だんだんと親近感を覚えていったのだろう。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)越しではもどかしいと、その場に乗り込もうとしたのだ。

 

 もちろんそんなこと認められるわけはなく。

 二人で色々考えて直接乗り込まないことを決めたのだ。

 やばい病原菌を持ち込む可能性も、持ち帰る可能性もある。

 それをやらかしたら、確実にやばいことになる。

 

 なので全身義体を操作して絞め技を掛けておいた。

 いろいろあってレベルが上がっている兄にはダメージにもならないが冷静にはなるだろう。

 ついでに氷を頭に乗せておく。

 

 兄の頭を物理的に冷やしている間に、予め回しておいたこのガチャカプセルを開封してしまおう。

 

 R・特殊造型カメラ

 

 出現したのはポラロイドカメラのようなものだった。

 弁当箱のような平たい作りのカメラで、前面の部分が開いてフラッシュライトとレンズが出てくるようになっている。

 そして下部に写真を吐き出すためのスリッドが走っている。

 

 ポラロイドカメラ……、いや特殊造型カメラってなんだ。

 私の知識にない代物なだけに、何を言っているのかわからない。

 まあ、まともな代物ではないと思う。

 

 というわけで、兄を撮影してみる。

 組技を掛けられて身動きが取れない兄の姿が写真として吐き出され……その写真が地面に落ちた瞬間。

 兄とそれを押さえ込む義体が写真から出現したのだ。

 

 写真と……というか、その出現した兄と義体の向こう側にいる兄と全く同じ形をしている。

 強いていうと、写真から出現した兄は呼吸をしていない。

 

 え、こわ……。

 このカメラは何を出力したのか。

 

 思わず出現したほうの兄に触れてみる……うん?

 手応えから違和感を覚え、腕を引っ張った。

 根本からボキン、と折れて外れる腕。

 それを見て爆笑する兄。

 

 もげた腕の断面は発泡スチロールだった。

 

 つまり……このカメラは、発泡スチロール製の複製を作り出すカメラ……!

 いやなんだよそれ。

 

 便利そうではあるけれども!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。案の定、特殊造型カメラは兄のおもちゃになった。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)にポーズをとらせ、それを撮影するだけでもクオリティの高いスチロールフィギュアが出来るわけだからまあおもちゃにならないわけがない。

 なんなら変身能力を持つモンスターでも作り出して、それを撮影することで売却の利くものでも作ろうかとか考えているっぽい。

 

 よくよく考えると。

 特殊造型って現実に存在しないものを作る仕事だから、現実に在るものを複製するこのカメラは特殊造型とは違わなくない……?



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R 無人島防災カバン

 遭難。山に登ったり、飛行機事故にあったり、海難事故にあったりした際に発生する人のいない場所にたどり着いてしまって帰ることが出来ない状態のことだ。

 そうなってしまった場合、助けが来るまで自力で生き残らなければならない。

 その場合、物を言うのは知識だ。

 どのような水が安全なのか、何が食べられるのか、どこで眠れば良いのか、どのようにして拠点を維持するのか。

 様々な知識が要求され、1つ欠けるごとに救出までの生存確率が下がっていく。

 知は力なり。

 極限状況であればあるこそ、知識は力を持つと言えよう。

 

 今回は遭難したときのことを想定した景品が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定というべきか、やっぱりというべきか。

 兄が我慢できなくなってサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)をガチャガチャダンジョンに突入させた。

 

 ガチャガチャダンジョンの内部は異様としか言いようがなかった。

 なんというか、とにかく単調なのだ。

 すべての地形がマス状に区切られているが如く、一定の大きさのフロアで構成されている。

 壁は全く同じ形状のものが並んでいるし、分岐路はどこも全く同じ形状で見ていて区別がつかない。

 流石に分岐ごとに分かれている廊下の数も違うし、出てくる部屋の大きさも異なるのだが……。

 機神の能力の一部としてマッピングが出来なければわずか数分で迷子になっていただろう。

 

 それに出てくるモンスターもだいぶレパートリーが狂っている。

 前にも見たコモンサメリンはダンジョンのどこでも見ることが出来、たまにアンコモンサメリンが混ざっている。

 それに☆☆キャタピラーとか、N鹿とか……。

 

 出てくるモンスターの種類が種類なだけに、なんというかダンジョン感がない。

 見ているだけでいつものあのガチャに翻弄されるあの気持ちが沸き立ってくるのだ。

 

 まあ大陸はガチャ産だし、ダンジョンはガチャガチャだからそりゃガチャのように翻弄してくるだろう。

 うんざりである。

 

 そして今日の分のガチャをまだ回していないことに気がついた。

 あのガチャは朝起きたときに回す、とか特定の習慣に紐付けると必ず周期がズレて音を立ててその習慣の邪魔をしてくるのでタイミングを決めるのが難しいのだ。

 

 R・無人島防災カバン

 

 無人島。

 防災。

 カバン。

 

 出現したのは防災カバンだった。

 鮮やかなオレンジ色のリュックで、中に色々入っていることが外からも見て取れる。

 リュックサックとしてみても生地が相当に分厚く作られているように見える。

 

 とりあえずカバンを開けてみるとだ。

 中にはいろいろはいっている。

 ナイフにロープ、ろうそく、マッチ、あと奥に入っているのは毛布だろうか。

 それと得体のしれないスプレー缶となにかタブレット菓子に似たもの、缶の救急箱のようなもの。

 潰してしまえる水筒にコンパスにホイッスル。

 そして……この本。

 

 無人島遭難サバイバルガイドだ。

 もうタイトルで無人島に遭難した時にどうやってサバイバルするのかが書かれていることがわかる。

 とりあえずページをめくってみると、防災カバンの中に入っているものの説明が乗っている。

 

 カバンの奥に入っていた毛布だと思ったものはテントと寝袋だった。

 なんでもリユーズ社製のかなりコンパクトに畳めるものだそうだ。

 ……うん?

 

 で、タブレット菓子に似たものは浄水タブレット。

 水に投入すると根こそぎ地形を改善して飲める水にする……とか。

 ……うん?

 

 救急箱には銀色のペースト状のものが入っていて、これを患部に塗るとナノマシンで治療出来るとかなんとか。

 飲むと病気を治療できるとかなんとか。

 ……うん?

 

 で、極めつけはこのスプレー缶だ。

 ガイドブックに描かれている図形を地面にこのスプレー缶で描くと、魔法が使える、以上。

 

 ……。

 超技術じゃねーか!

 超技術で作られたサバイバルグッズを適当に詰め合わせたカバンじゃねーか!

 というか最後、魔法って世界観違うじゃねーか!

 

 で、これさぁ。

 無人島で遭難したとき用の道具ってお前。

 

 こんなでけえカバン、無人島に遭難したとき持ってるわけねーだろ!

 誰向けの商品だよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が中身を色々ひっくり返して試していた。

 テントは地面に投げつけるだけで勝手にポップアップしたし、薬は切断した腕をくっつけるとかいう超性能を発揮したし、浄水タブレットは地面に落とすと飲める水が溜まった池を作り出した。

 

 確認しなかった中にあった乾パンの缶なんかひどく、土を入れると乾パンになる。

 なお味は土を焼いて作ったパンのようである。

 まじで非常食なのな。

 

 兄的に今回収穫だったのはスプレー缶、というかそれをつかって描く魔法陣の方である。

 これは兄がずっと調べていた魔法陣と共通規格のようなのだ。

 

 これにより兄の魔法技術が成長してしまう。

 筆記による魔法と音声による魔法とで、なにか企んでいるような気がする。

 解析元さえ見つかれば、機神の頭脳を使えばだいたいのものを作ってしまえるために……ろくでもないことをしでかす気がする。

 

 全く別系統の魔法同士の融合で済めば良さそう、と思ってしまうあたり相当兄に毒されている実感がある。

 どーにかろくでもないことになりませんように!



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R 屏風

 屏風。部屋を仕切ったり、装飾を施したりするのに使用する家具だ。

 その構造は木の枠にふすまに似たものを数枚つなぎ合わせたものであり、たたむことが出来るようになっている。

 大きな部屋を2つに仕切ったり、風を避けるために使用されていたとされている。

 また、大きなキャンバスのようなものなのでそこに鮮やかな絵を施すことで美術品としての用途も存在する。

 掲示するにしても開いて置くだけなので手軽だと言えよう。

 

 今回は屏風が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱりというべきか、兄がやらかしやがった。

 音と図形の魔法から新体系を編み出し、文字通り誰でも扱える魔法を作り上げたのだ。

 音で本の中に記された魔法陣を喚起し、同じように音で対象を決定し、そして呪文の難しい構成要素は魔法陣側に記録しておく。

 これによって手軽に誰でも魔法が使えるようになったのだ。

 

 言葉の魔法はそれを記憶し、読解し、自身で組み立てなければまともに魔法が使えず、図形の魔法は記述の手間と知識を要求する割には使い捨てである。

 杖を使えばごまかせるが、命中精度に難があったために兄は銃型の杖を作っていたのだ。

 だがそれでは魔法本来が持つ柔軟性が死んでいた。

 

 だからこそ、魔導書の形で魔法の構成要素を記録しておき、音によってその構成要素を読み出すという形式にすることで魔法の柔軟性を取り戻したのだ。

 どちらも全く違う世界の魔法のはずだというのに、あっさりと組み合わせてしまう機神の演算能力には目を瞠る。

 

 いや、兄の発想か。

 この方法で魔法陣を分解して利用出来ると考えたからこそ機神はそれに応える形で出力しただけなのだ。

 

 結果、魔導書を片手に構えて呪文を唱える魔法使いスタイルに回帰したのは奇跡というかなんというか。

 

 さて、ガチャでも回すか。

 

 R・屏風

 

 出現したのは屏風だった。

 時代劇なんかでたまに見るアレである。

 

 屏風と言えばやはり有名なのは一休さんのとんちだろう。

 屏風に描かれたトラが夜な夜な抜け出すので捕まえて欲しいと問われ、では捕まえるのでトラを出してくださいと答えたというアレだ。

 

 この屏風もその説話に漏れず、というべきか。

 見事なトラが描かれている。

 

 どれぐらい見事かって、()()()()()()()()()()()()()()くらいだ。

 

 いやあわかりやすいというか……なんというか……。

 正直わかりやすくてまだなにかあるんじゃないかと勘ぐってしまう。

 

 なにかあった場合は……やはり、トラが出てくる、だろうか。

 絵の時点ですでに動いているのだから、出てきて暴れまわる、くらいのことはしても不思議ではない。

 

 だがそんなわかりやすいものだろうか。

 なまじ初見でわかってしまう効果があっただけに疑ってしまう。

 

 とりあえず畳んでおくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。屏風の中の絵に、手を振る兄とトラを絞め上げるサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の姿があった。

 は? と思っていると、兄が屏風から上半身を出してこちらにこいと手招きをしてくる。

 なんでも絵の部分は異空間になっていて、トラはその中に入っていただけだそうだ。

 だからサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を突っ込ませてトラを締め上げている、と。

 

 全然わからねえ。

 なんでそれに気がついたのか。

 どうしてトラのいる場所に入ろうと思ったのか。

 

 あとそれってやっぱトラ、放置してたら出てきて暴れてたってことですよね!?

 



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SR 魔法拳銃

 魔法拳銃。ファンタジーの作品でたまに登場する、魔法技術によって作られた拳銃のことだ。

 その構造や仕組みははやり作品によって異なり、魔力をそのまま弾丸として射出するもの、専用に作られた魔法を発射するもの、弾丸に封入された魔法を発射するもの、銃の動作が魔法発動のために必要な動作であるもの、魔法によって装填された弾丸を射出するものなど様々だ。

 だがその中で共通する要素があるとすれば、それが魔法的な技術で動いているということだ。

 

 今回はその魔法銃が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはりというか、なんというべきか。

 案の定、兄はガチャレクシアで作成した魔導書の販売を始めた。

 予め宗教などを調べて異端と告発されないかなどまで確認した上での行動ではある。

 あるが、危険な行動には変わりないだろう。

 

 なので、領主の娘であるエリスさんを抱き込んでの行動だ。

 ダンジョン探索で潤っているガチャレクシアにとって新しい風となりうる魔導書は歓迎され……いや一悶着あったが歓迎された。

 

 一悶着というのは、とにかくこの魔導書、説明しづらいのだ。

 起動の鍵である力ある言葉は正確に発音出来なければならないために、これの教導をどうするかの問題が発生した。

 販売するには多くの人に説明できなければならない。

 

 どうするか、と兄が思案している……フリをしている。

 ろくでもないことを思いついているが、私にどう説明するか考えているときの顔だ。

 どうせ止めてもやるんだからやらせるに限る。

 

 その方法というのは、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)による説明。

 結局数による力押しじゃねーか。

 

 機神とのリンクによって人を超えた知能を持つサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の解説。

 それによってエリスさんの子飼いの冒険者たちに魔導書を持たせることに成功した。

 というか説明が上手すぎてほとんど洗脳みたいであった。

 

 これで兄製の魔導書がガチャレクシアで販売されるようになった。

 昨日今日出来上がったばかりの魔導書とは思えない速度である。

 

 事故とか起こらなければいいが。

 まあこれで定期収入も入るだろうし……。

 

 さて、ガチャを回してしまおう。

 

 SR・魔法拳銃

 

 出現したのは拳銃だった。

 六連装のリボルバーのように見える、小さめの拳銃である。

 そして、それは玩具のようにあちこちに装飾が施されている。

 私の知る拳銃といった感じの造型ではない。

 

 青い金属で作られたフレームに対して、赤い金属を削り出して作られたと思しき銃身がねじ込まれ、さらにはそれには極めて細かい線で魔法陣のようなものが彫り込まれている。

 星型のアイアンサイトは覗き込むと着弾位置と思しき位置に赤い点が浮かび上がって見える。

 

 なにより、シリンダーだ。

 ここには銃弾の代わりに、6色の宝石が詰め込まれているのだ。

 それぞれがなにかの役割を担っているように、それぞれが異なる色の光を反射している。

 

 魔法……拳銃。

 私はシャチくんに命じて、拳銃を構えさせる。

 ハンマーを起こすと本来リボルバーならそのシリンダーを回転させるのだが、この拳銃はそんな動作をしなかった。

 

 そして、引き金を引かせる。

 ターゲットとなった木材が凍てつき、砕け散った。

 反動はなく、そして弾が落ちて着弾地点がブレることなく。

 

 うーん。

 シャチくんに近寄って、そのシリンダーを開けさせる。

 そこに嵌っていたのは青い宝石だった。

 

 そこで私は緑色の宝石にシリンダーを回転させて銃身に合わせた。

 同じように木材をターゲットにしてもう一度撃たせる。

 今度は木材が真っ二つになった。

 

 ああ。

 やはりこの銃は魔法を発射する銃、のようである。

 仕組みは……この宝石に入っている魔法を使うのだろう。

 だからシリンダーは実質魔法の選択機能として使われているようだ。

 

 ……。

 え、こんなの魔導書作って売った日に出る?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄は宝石に別の魔法を充填する方法を見つけ出した。

 ……なおその宝石は拳銃に嵌っているものを指す言葉ではない。

 単純に、宝石に魔法を込める方法を見つけ出したのだ。

 

 拳銃にびっしりと書き込まれていた魔法陣を機神に読解させた兄はその魔法陣の中に宝石に魔法を込める式が入っていることに気がついたのだ。

 しかもその魔法は条件に従って自動実行が可能。

 拳銃は実行された魔法を弾の形に圧縮して発射するための構造だったのだ。

 

 さて、その仕掛けを見つけた兄はというと。

 早速魔導書の改造に取り掛かった。

 より簡便に扱えるように動作を補助する魔法を組み込むために。

 

 機神をこき使い過ぎではこの兄……。



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R ヒートシンク

 ヒートシンク。金属のひだのような構造を複数持つ部品で、主に貼り付けられた機械の熱を逃がすために利用される。

 このヒートシンク、金属の塊を斜めに削るように剥がし、それを縦に起こすことで作られている。

 また熱を逃がすために熱伝導率の高い金属が利用される。

 PCのCPUを冷やすために利用されることも多いが、構造上、ホコリが溜まりやすく古いパソコンだとホコリまみれになっていたりする。

 

 今回はそのヒートシンクが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンから回収した宝石を使って、兄は魔法封入の実験を繰り返している。

 宝石の質が封入できる魔法の質に影響を及ぼすのでその選択に困っているようである。

 

 だから兄はどうしたかというと。

 宝石を材料にモンスターを生み出した。

 

 いわゆるミミック系のモンスターであり、通常は宝だと思って持ち上げた冒険者に襲いかかるものだ。

 だが兄はそこから限界までモンスターの持つ機能を削ることで、魔法を封入するための能力を作り出したのだ。

 

 そこまでして作り出したモンスターになんの魔法を封入しようとしていたのかというと、簡単に言うと翻訳魔法である。

 ただ、魔法的な翻訳というより、単語ごとの一対一翻訳である。

 

 これによって、一般的な言語でも言葉の魔法を発動にしようとしたのだ。

 一単語ごとに魔法で置き換えて、その置き換えた単語で言葉の魔法を発動させて、その魔法で魔法陣を呼び出して……とまどろっこしい動作をさせようとしていて。

 

 めんどくさくなったのか、モンスターに言葉を聞かせて、それに反応して魔法を使わせる形式に変更していた。

 

 それはそのぉ……、魔導書にモンスターを実装する、ということですか兄よ。

 そうですか兄よ。

 実質モンスターを売っているようなものですね兄よ。

 

 まあいいか。

 ガッチガチに機能制限した結果、反応して魔法を使う以外の能力がないから問題にならないだろう、多分。

 

 さて、ガチャを回そう。

 

 R・ヒートシンク

 

 出現したのはA4ノートサイズの大きさのヒートシンクだった。

 厚さはヒートシンクとしては薄いほうで、5センチメートルもない。

 それにひだも少なくスカスカである。

 

 そして、なにより。

 持っている手が熱いのだ。

 それも徐々に熱量を増しているような気がする。

 

 ホカホカである。

 炊きたてのご飯と同じぐらいホカホカになっている。

 やっぱりである。

 

 このヒートシンク、周囲の熱を集めてどんどん加熱している。

 しかも逃さないせいで周りのものが冷えることがない。

 

 いや、違うな。

 ある程度の高温で変化しなくなった。

 まるでカイロのように熱を維持している。

 

 ……これ、ヒートシンクじゃなくね?

 カイロじゃね?

 

 再利用出来る点に於いてはカイロよりも優れているが……。

 これはヒートシンクだ。

 他のものの熱を冷やすのが目的の道具だ。

 

 高熱で温めてしまっては意味がない。

 

 なんのための道具だよ!

 それにカイロにするにはでかすぎる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がヒートシンクを分割してカイロに加工した。

 ヒートシンクの特徴であるあのひだを分割しても熱を持つ特性が失われなかったのである。

 なのでただの暖かくて平たい金属板に加工できてしまったのだ。

 

 便利な大きさになるまで分割をし続けられたヒートシンク。

 元よりその役割を果たせなかったものは、その要素すら奪われる結末になった。

 

 加工で便利使い出来るだけマシというべきか。

 

 加工しないと使いみちがないものをガチャの景品にしないで欲しい……。



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R ゲームパッド

 ゲームパッド。ゲーム用のコントローラーであり、人の手に馴染むように二股に分かれた足の存在する装置だ。

 機種によってそのボタンの配置や種類は異なるが、キャラクターの移動やメニューの操作のために十字キーが必ずと行っていいほどついている。

 人の手の形に合わせて様々な位置にボタンやジョイスティックが配置され、またスピーカーやバイブレーターなど色々な機能が盛り込まれる傾向にある。

 

 今回はそのゲームパッドが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄は結局、別付けのパーツとして詠唱を代行する装置を完成させた。

 一度魔物化した宝石は魔法を記録するのに最適な素材になることがわかってからは、宝石型のミミックを量産してからそれを倒して宝石に変える作業を行っていた。

 

 そこまでして作る詠唱代行器は、人の言葉と魔法陣の形とを仲介するプログラムのようなものである。

 この仲介処理を挟むことでより安全で、より簡単に魔導書を扱えるようにしようとしているのだ。

 

 言葉の魔法を覚えるのは非常に手間である。

 兄は疎通の指輪のチートで一足飛びに理解したが、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が説明して冒険者達に覚えさせるのに1単語に数時間もかかっている。

 そんなペースでは魔導書が売れない。

 

 詠唱代行器はいくつかのコマンドワードの組み合わせを発音すると、そのコマンドワードに沿った内容の言葉の魔法を発話し、それによって魔導書の魔法陣を読み出す仕組みである。

 まどろっこしい動作をしているようだが、これが一番効率的で精度の高く柔軟性の高い魔法が使えるんだから仕方ない。

 

 直接魔力が扱えるなら別だが。

 いやー、そりゃ魔法使いは偉いわけだわ。

 魔力を練り練りしていろんな魔法を作れるし、その使い方は魔力を持つ者に継承可能。

 知識を独占するのもむべなるかな。

 

 ……この魔導書、魔法ギルドとかそういうのが殴り込みに来たりしないよな?

 後ろ盾は……後ろ盾は得てるから……。

 きっと大丈夫のはず……。

 

 思考を切り替えるためにガチャでも回そう。

 いやこんなもんを思考を切り替えるのに使うのはどうかしているが、思考が強引に切り替わるのは事実だ。

 

 R・ゲームパッド

 

 出現したのはゲームのコントローラーだった。

 それも初期も初期の茶色で四角い形状のもの。

 箱型のコントローラーからケーブルが伸び、その先に吸盤のような接続端子が繋がっているのだ。

 

 なんだこのゲームパッド……。

 見たこともない接続端子に、見覚えのあるデザインのコントローラー。

 何に繋いで、何を操作しようというのかわかったものではない。

 

 先端が吸盤になっていて何に繋がるのかと弄んでいる。

 具体的にはテーブルに押し付けたのだ。

 すると、チュポン、という音とともに接続端子がテーブルに刺さる。

 

 ええー……。

 接続端子はしっかりと刺さっているのか、軽い力ではびくともしない。

 

 しかたなく、コントローラーの十字キーを押してみた。

 それに反応したのか、ゴッゴッゴッ、と音を立てながら地面を擦りつつ移動するテーブル。

 

 ああ……やっぱり。

 接続したものを操るゲームパッドだったかぁ。

 

 うん、物は面白いと言っていいと思う。

 ぬいぐるみなんかを動かせば相当楽しいんじゃないだろうか。

 まあ問題があるとすれば……。

 

 この接続ケーブルが1メートルもないことかな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄はゲームパッドを複製し、ケーブルを延長した。

 機神の解析能力と生産能力によって複製されたそれは関節にあたるものを持つものしか動かせない劣化品だったが、普通に考えてそれで十分である。

 

 兄は複製したゲームパッドに人形をつなぎ、人形にCCDカメラ(盗撮なんかに使うやつだ)を持たせることでドローンもどきを作っていた。

 そう、ドローンもどきである。

 ぶっちゃけドローンで事足りるため、人形を操作して遊ぶ用途にしか使えない。

 

 そう思っていたら、2メートルぐらいありそうな巨大な金属フレームの人形に取り付けて操作しだす。

 やばい人だ……。



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SSR ログインボーナス

 ログインボーナス。それはソーシャルゲームなどにおいて、毎日プレイしてもらうために用意された撒き餌である。

 なおプレイヤー側も起動するだけ起動して遊ばないという選択で対抗するためほとんどの場合は無駄だと言っていいだろう。

 ただ始めたばかりのプレイヤーなどを継続させる施策としてはあり……なのだろうか。

 まあ貰えるものは貰っておけばいい。

 ろくでもないもので無い限りは。

 

 今回はそのログインボーナスが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完成した魔導書はガチャレクシアで大いに売れた。

 これがもう、生産が追いつかない勢いで売れたのだ。

 50冊用意した大学ノート2冊分の厚さの魔導書が一瞬で捌けた。

 

 というのも、最初に売れるようにと魔導書に収録した魔法が治癒魔法だったのだ。

 冒険者という職業は傷病の尽きない仕事であり、傷を癒やす手段の需要はそこかしこに存在している。

 ガチャレクシアの宗教の神官なども治癒が使えるようなのだが、高いのだ。

 その分実力は高いが。

 ちぎれた腕をくっつけられる治癒魔法の使い手って、街単位に普通にいていい存在なのか?

 

 他にある治癒手段といえばポーションだが、ガチャガチャダンジョンからのドロップ品しか存在しないため希少でこちらも値段が高い。

 薬草類は傷の治りを早くしてくれるが、まあ現実的な範囲の効果しかない。

 

 そういうわけで、初期投資こそ必要だが気軽に使用できる魔導書は人気商品となった。

 どこでもいつでも誰でも、剣で切られた傷を塞ぐ程度の治癒魔法が使える。

 しかも物理攻撃の効きにくい敵に有効な魔法もついでに使える。

 

 まあ人気になって当然、といった感じだ。

 ちょっと人気になり過ぎなきらいもあり、厄介なことを招かなければいいが。

 

 さて、ガチャを回すか。

 

 SSR・ログインボーナス

 

 う、あ。

 出てしまった。

 一目でろくでもないものだとわかる代物が。

 

 出現したのはトランクケースだ。

 アンティークなデザインをしていて、美しい色合いをしている。

 その見事な作りは、持っているだけでおしゃれさをアピール出来るだろう。

 半開きの状態で、内側にあるものがなければ、だが。

 

 開いた中身から照らされるように出ているのは、ホログラフィックなプレートだ。

 ちょうどゲームのウインドウのように見える。

 そして、そのウインドウには、「ログインボーナス」と浮かれて頭でもおかしくなったかのようなフォントで書かれているのだ。

 

 わけわかんないのでちゃった……。

 人生のログインボーナスってなに。

 あまりにも存在そのものが謎である。

 

 しかも、このログインボーナスが提示している今日のボーナスの内容があまりにも即物的過ぎて引く。

 なんと、現金である。

 ウインドウに張り付くように、千円札が出現しているのだ。

 

 その上、1週間単位でログインボーナスがローテーションする用に作られているらしくそこに表示されている7日目がだいぶ問題だ。

 一万円札である。

 ちょ、直接的すぎる。

 

 そこまでして集めようとしている対象はなんなんだ。

 ログインボーナスだけが宙に浮いていて、それがなにを招こうとしているのか全く読めない。

 なんのためのログインボーナスなのか。

 

 どうせなにもないんだろうな!

 なんかあるならあのガチャもうとっくに消えてるはずだしな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。ログインボーナス二日目の報酬が、詫び石だった。

 訂正、かなり前にガチャから詫び石として排出された石が、召喚石として報酬にされたのだ。

 しかも3個。

 ソシャゲの石のような景品だなとは思っていたが、マジで召喚石だとは。

 

 その3個の石を見て兄は何を思ったのか、円形の魔法陣状のなにかを地面に描き、それに向かって石を投げ込んだのだ。

 突如光を放ちながら回転する石。

 

 光が収まった果てに出現したのは、鉄の剣だった。

 えっ、召喚石とは書いてあったけども。

 まさか本当に召喚出来るとは思わない。

 

 だってそういうのって普通、召喚するための装置が必要で、石はそれを動かすためのリソースじゃん!

 なんで手書きの魔法陣と石だけで召喚できてるんだよ!

 

 



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R 墓石(遺伝子組み換えでない)

 墓石。墓の位置を示すために立てられる石作りのことである。

 亡くなった人を弔うために立てられるものであり、残された人が故人を想うために立てられるものでもある。

 人の遺体を埋めた場所を示すためのものであるためか、そのイメージは基本的に暗い。

 創作においてはゾンビが下から出てきたり、なにかと荒らされたり……。

 まあ他人の墓などそんなものである。

 

 今回はその墓石が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ログインボーナス……そう、ログインボーナスである。

 ログインボーナスというのは様々な企画で色んなものを配るのが恒例となっているのだが、このログインボーナスと名乗るトランクケースもそれに漏れず、よくわからない企画を提示してきている。

 

 その企画とは「サービス開始直前キャンペーン」だ。

 何を言っているのかわからない。

 ログインボーナスはソーシャルゲームのサービスが動いているときに配られるボーナスであり、動いていない時に配られるのでは意味がわからなくなる。

 

 でもこのログインボーナスは、まだサービス開始していない、と自己主張しているのだ。

 一体何が始まろうとしているのか。

 

 それに、配られるアイテムもアイテムだ。

 レベルアップクリスタル、というなにかを育成する用の緑色の結晶が1回で10個も出現した。

 これがこぶし大の大きさなので微妙に場所を取る。

 召喚石は手のひらに乗るサイズだったことを考えるとめちゃくちゃでかい。

 

 そしてそのクリスタルを見た兄は……、片手に持ちそれを握りつぶした。

 リンゴよりもあっさりと砕け散ったクリスタルは、はじめから存在しないかのように光の粒にへと変換された。

 そして、兄の体を中心に緑色の光のエフェクトが一瞬生じた。

 それと同時に聞こえる、レベルアップ音。

 

 うーん、マジかぁ。

 兄のレベルがまた上がってしまった。

 しかもこの結晶、これから1ヶ月毎日配られるってマジ?

 週毎で5万円もついてくるあたり、ログインボーナスを取らせ続ける気満々である。

 

 考えたくねえ……。

 

 はー、やめやめ。

 今日の分のガチャを片付けてしまおう。

 

 R・墓石(遺伝子組み換えでない)

 

 遺伝子組み換えでない。

 いきなり何を言っているんだ。

 墓石に遺伝子もなにも無いだろう。

 

 そう思わず言ってしまう。

 だって出現したのは、かなりしっかりとした墓石なのだ。

 石材を一から削り出したであろう、一体造型である。

 碑文が刻まれた本体に、石の棺桶が接続された見たことのない作りではあるが、それでも遺伝子だのなんだのいう余地はない。

 石なのだから。

 

 それに石棺の中にはなにも入っていない。

 はじめから蓋が開いていて、蓋が横に避けられていたのだ。

 だから、中身が遺伝子組み換えされていないとかそういう話でもない。

 

 で……これはどうやって使うのだろうか。

 遺伝子組み換えでない、とはどういう意味だろうか。

 わからん……何もわからん……。

 

 とりあえず石棺の中に、そのへんに生えていた花を入れてみた。

 突如、ゴゴゴゴと音を立てながら石棺の蓋が閉まり始めたのだ。

 思わず腕を引っ込めてしまった。

 

 完全に蓋が閉まってから数分。

 その間、墓石は何やら周囲から紫のオーラのようなものを集めて吸い上げていた。

 一体どこからそんなものを吸い出しているのか。

 というかその吸っているのはなんなのか。

 なんとなく、それがあるのは良くないものだと直感で感じる。

 

 そして、紫のオーラのようなものを吸い上げきった後。

 石棺の蓋が閉まったときと同じようにひとりでに開いていく。

 ゴン、と重いものを落とす音とともに蓋は完全に開ききり、脇にへと落ちた。

 

 中に入っていたのは、植物の塊だった。

 いやより厳密には植物の茎が無数に絡まりあった結果、人骨のような形を形成しているのだ。 

 それのあちこちに花が咲いており、ファンシーな見た目に反してかなり不気味である。

 

 その塊は、起き上がりこちらを見ると、私に向かって傅いた。

 まるで生きているように動き出したのだ。

 それは屍を模したものだというのに、植物の塊でしか無いはずなのに。

 

 そこで、はたと気づく。

 あっ、遺伝子組み換えでないってこいつのこと!?

 いやモンスターの遺伝子とか気にしねえよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。あの植物スケルトンは私の命令を聞く事がわかったので、どんなものかと試しに動かしてみた……のだが。

 なんと階段を降りる動作の途中で転んで地面に頭から激突。

 その直後光の粒子となって、ドロップアイテムの小さな花となってしまった。

 

 あまりの弱さに横で見ていた兄は大笑い。

 しかもそこからヒヒイロカネ肉まんを石棺に詰めようとする。

 

 やめろ、肉まん臭くなるだろ!

 しかも大量に用意して詰めれば多分強くなるとか言い出す。

 有り得そうではあるが。

 

 だからってなんで肉まんなんだよ!

 肉まんスケルトンとかネタにもならねえだろうが!



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R 組み立て式ペットボトルロケット

 ペットボトルロケット。ガス圧によってペットボトルで作られたロケットを空高く飛ばすおもちゃである。

 非常に簡単に作れる割に勢いよく飛んでいくため、日本各地で競技としてペットボトルロケットの打ち上げも行われている。

 その構造は炭酸のペットボトルに安定のための羽をつけ、圧力に耐える弁とそれに空気を送り込むポンプで構成されていて、弁を開放することで推進剤として入れられた水を放出して空を飛ぶ。

 圧力に耐えられる弁の作成がやや難しいが、今は市販している部品があるので誰でも簡単にペットボトルロケットを作成できる。

 

 今回はそのペットボトルロケットが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔導書が案の定厄介事を運んできた。

 小さな屋台を利用した露天商形式で売っていたのだが、そこに因縁をつけてくるチンピラ……というか、多分よその商人の子飼いと思われる男たちがわらわらと集まってきたのだ。

 

 しかも武力をちらつかせて魔導書をどこから仕入れているのかだの、みかじめ料をせびってくるだの、しまいには適当なルールを持ち出して強引に差し押さえしようとしてきたのだ。

 

 なにか、評判の悪い商人がいるということは聞いていたが、まさかここまでするとは。

 大方、暴力で他の商人を押さえつけてアコギな真似をしているのだろうが……。

 その商人の取り巻きは相当な阿呆のようである。

 

 なぜなら。

 彼らの目の前にいる店員は……超絶技巧者であるチャンピオンに、身体能力だけで競り合ったサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)だ。

 大規模な興行だったというのにその情報を知らずに殴り込みにくるのだから阿呆だと言わざるを得ない。

 

 結果はというと、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ……、まああっという間にチンピラどもは制圧された。

 さーて、このあとの始末、どうしようか。

 

 まあ兄がなんかいい感じにするだろうから放っておこう。

 私は今日の分のガチャを回してしまうことにする。

 

 R・組み立て式ペットボトルロケット

 

 出現したのはまるででかいプラモかラジコンの箱のようなものだった。

 いわゆる外装が厚紙で出来ているあれである。

 

 中身は……ペットボトル……に似たプラスチック製の製品。

 概ね一リットルペットボトルに似ているが、切れ込みやねじこみなどの造型が表面に造形されている。

 そして、それに組み合わせるであろうプラスチックの翼が3つ。

 先端のコーンとなるプラパーツ。

 あと弁とポンプと発射台だ。

 

 これは……ペットボトルロケットだな。

 いや紙に書いてあったからペットボトルロケットなのははじめから分かっていたが、たまに名前と違うものが入っていることがあるから確認は大事だ。

 

 しかししっかりした箱に入っていることから、これが製品だということがわかるが、たかだかペットボトルロケットを製品にする必要があったのかは微妙なところだ。

 弁が厄介なだけで、羽も先端のコーンも厚紙で作れるし、ポンプは自転車の空気入れでいい。

 ペットボトルはもうジュースを飲んだ空き容器でいいわけだ。

 これは一式揃えて入れてあるあたりまあ、専用に設計はされているのだろう。

 

 とりあえず組み立ててみるか。

 

 ついているペットボトルには飲み口が上下に存在する。

 ここに先端のコーンをねじ込み、下部と思われる部分には羽をねじ込む用の凹みが存在するので羽をねじ込む。

 ついで、弁を飲み口にねじ込んで……なんかねじ込んでばっかりだな。

 あとは弁を発射台に接続して、発射台にポンプを繋いで完成だ。

 

 造型はともかく、ペットボトルロケットを打ち上げるにしてはしっかりしすぎた作りである。

 発射台も重量があり、ペットボトルロケットの発射に振り回されてまっすぐ飛ばない、ということはなかろう。

 で……なんでこのペットボトルロケットは垂直に上をむいているのか。

 中に入れた水の量もこころなしか減っているような気がする。

 

 もう嫌な予感しかしないが、空気を入れていく。

 ある程度入れると空気が漏れ出してこれ以上入らないということを主張しだすのだが、そこまで行くのに数十回もポンプを上下させている時点で相当に変である。

 

 さて、発射させてみるか。

 私はペットボトルロケットの弁を解放した。

 

 その途端、勢いよく私に水を浴びせかけてペットボトルロケットは空に向かって飛んでいった。

 空の彼方、遥か向こうに。

 

 かなり速い速度で飛んでいったため目で追うのが大変だった。

 空の小さな点になるまで数十秒とかからなかった。

 

 どこまで飛んでいくねーん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。朝食を食べていた時にニュースで新惑星のことが報道されていた。

 新惑星に存在する超巨大構造体からミサイルのようなものが打ち上げられたとのニュースだ。

 それは成層圏まで飛んで、そこで推進剤が無くなったのか落ちていった、と。

 衛星で監視していることに対しての警告だと考えられる、と偉そうな学者先生がしたり顔で語っていた。

 

 その時飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになった。

 あのペットボトルロケット、宇宙まで飛んでいったのかよ。

 

 ただペットボトルロケット飛ばしただけでーす!

 兄が発射台使ってもう一本飛ばしてそっちもすごい勢いで空高く飛んでいったけどただペットボトルロケット飛ばしただけでーす!



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R 巨人の右腕

 巨人。神話などで語られるでかい人を指す言葉だ。

 巨人と言われると現代の我々はつい10メートルを超える巨体を思い浮かべてしまうが、実際神話で語られる巨人は3メートルぐらいの大きさらしい。

 その特徴は……基本的に大きい以外では媒体や神話によってバラバラで、共通したイメージはあまりないと言ってもいい。

 ただ信仰される存在ではなかったようだ。

 

 今回はその巨人の一部が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が治癒魔法だけを抜き出して印刷した紙を売り出した。

 この兄、商才があるかどうかはわからないが需要のあるものを売るという商売の基本を知っているらしい。

 

 魔法陣の魔法だけならば印刷機でいくらでも量産が利く。

 使い捨てになるが、それを上回る需要が存在するため飛ぶように売れることだろう。

 

 そしてそれを用意するために……御札サイズに加工するのに、数十体のサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)がハサミで紙を切っている光景が出来上がっている。

 でかい図体をしているサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が机に縮こまって作業している姿はなんというかシュールな光景だ。

 

 数がいるからこういう作業にも駆り出されるのだろうが……、適材適所という考えとは程遠い光景である。

 まあおいおい効率のいい方法を見つけていくことだろう。

 

 なぜか兄が混ざってハサミ使ってる光景を見ると流石にそう思わざるを得ないというか……。

 

 まあそんなアホなことをしている兄は置いておいて。

 私は今日の分のガチャを終わらせてしまおう。

 

 R・巨人の右腕

 

 出現したのは……でかい右腕だった。

 岩盤のごとき硬い甲殻に覆われた、2メートルほどの腕である。

 

 巨人というよりもゴーレムといったほうが近いような気がするその造型はとても生き物の腕だとは思えない。

 岩を強引に削り出したと言われたほうがまだ納得がいく。

 

 その腕の中央に球体のコアのようなものがあり、それは心臓のように光を瞬かせている。

 そして、その光がヒビにそって腕全体に流れ出しているのだ。

 光る液体のようなそれは腕からは溢れ出さないようで、うまいこと還流しているようである。

 

 で……これはどうやって使うのか。

 そもそも腕は道具ではない。

 腕だけ出されてもなんの役に立つのかという話だ。

 

 そう思って……腕の周りをぐるりと回って調べてみると。

 肩口あたりに腕を入れられるほどの大きさの穴が空いているのだ。

 これは……腕を突っ込めってことか?

 

 そう解釈した私は……腕を入れてみた。

 その途端、右腕に広がる熱い感覚。

 高温を感じているが、それは自分の腕を焼く感覚ではなく、ただただ熱を持ったために熱く感じている。

 不思議な感覚だ。

 灼熱に耐える生き物が火の中にいるのならこういう感覚になるのだろうか。

 

 私は指を動かしてみる。

 指を動かすのに従って、巨人の右腕の指が動くのだ。

 つまり。

 これは人の腕を巨人サイズに拡張する強化外骨格だと言える。

 

 ……このサイズで、腕だけで?

 でかいを通り越して邪魔である。

 人間の体ではこの腕を支えることすら出来ない。

 肘を地面につけたまま、前腕を持ち上げることぐらいしか出来ないのだ。

 

 あっ、違う。

 なにか、腕の力をぐっと押し出すように動かすと、なにか中に力がたまるのを感じる。

 そしてそれを吐き出すように腕を動かすと。

 

 手のひらから溶岩の塊が飛び出した。

 赤々を熱を帯びた溶岩である。

 

 ええー……。

 動かせない腕に半端に強力だけど射程のない武器がついている。

 それがなんの役に立つんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。鬼の角を使って鬼化した兄が右腕を装備。

 右腕が大型化した鬼へと変貌していた。

 

 しかもその右腕から炎を吐き出すわ、溶岩をぶん投げるわでテストと称して大暴れしていた。

 パンチ一発でサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を行動不能に追い込むのだから恐ろしい。

 

 面白がってるのはわかったから溶岩撒き散らすのやめろ!

 テラスが燃える!



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R 悪魔の帽子

 帽子。主に頭部の装飾や熱中症の防止など様々な用途で利用される衣服の1つだ。

 その用途に合わせて様々な形状や素材が利用されている。

 熱中症を避けるために利用されるのはつばが大きく作られた日陰になる帽子であるし、装飾に利用されるのは材質に拘られ伝統的なデザインを踏襲した帽子である。

 他の衣類と比べてもその用途や形状は多様だと言えよう。

 

 今回は帽子が出てきた話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が帽子を作っていた。

 掲載する魔法の種類を絞っても売れるのなら、本の形に纏めておく必要がなくないか、という結論から帽子に魔法陣を仕込んで売ることにしたのだ。

 

 その試作品をサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に手縫いさせているのだが、魔法陣を仕込むのに苦労している。

 帽子というからには当然布製であるが、それに文字を刻む方法といえば刺繍だ。

 兄もとりあえずそれで刻んでいるのだが、元よりこの魔方陣、QRコード並みに複雑なのである。

 

 まあそんなもん手縫いでやってられるか……と言いたいところだがサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は実際やれているから凄まじい。

 それでも効率が悪いのだ。

 ミシンのような正確さと速度で針を入れては抜く作業をしているが、このペースでは1つ作るのにどれだけかかるかわかったものではない。

 

 そこで兄は……はじめから魔法陣の描かれた布を作り出した。

 錬金術士のアトリエで作られた布で、布そのものの色が魔法陣の模様になっているのだ。

 作るのにやたらと精密な作業が必要だったようだが、機神の能力にかかれば完全に誤差の範囲である。

 

 なんかもっと簡単な手段で達成できることを超技術で回避したような気がするがまあ良いだろう。

 なお、作った布は帽子の型紙に合わせてみたら魔法陣がはみ出て作り直しになった。

 南無。

 

 さて、ガチャを回すか。

 

 R・悪魔の帽子

 

 出現したのは帽子だった。

 白いテンガロンハットである。

 そして飾り布がついているのだ。

 それは帽子の後部にへと伸び、たなびいている。

 

 そう、重力に反してたなびいているのだ。

 それに飾り布全体にひび割れのような光が走っていて、それは時々脈動している。

 

 飾り布がついているだけなのに羽根でもつけているかのような伊達の効いた帽子である。

 洒脱っぷりで言えばおしゃれマフラーにも似ていているような気がする。

 

 で、このおしゃれ上級者向けの帽子は、どんな効果があるんですか、と。

 そう考えながら私はこの帽子をかぶる。

 しかし、名前が悪魔の帽子。

 一体なにがその名を冠するのに影響を与えたのか。

 

 ……すぐわかった。

 帽子をかぶったら、背中に黒い羽根が生えた。

 それも見るからに黒い、コウモリ型の羽根である。

 

 いわゆる悪魔キャラが背中にしょっているやつで、触っても感触がなかったために非実体として浮かび上がっているようだ。

 根本は宙に浮いていて、節目に鋭い爪が三本ついている。

 

 私はこの羽根は飛べるのかと思って少しジャンプしてみた。

 羽根は空中で開き、その滞空時間をわずかに引き伸ばす。

 そしてややゆっくりと地面に着地する。

 

 ……。

 えっ、これだけ?

 羽根を動かせるのかと思って意識してみても多少バサバサするぐらいでどうにも動かしづらい。

 というか羽根に感覚が通っていないために動いているのか動いていないのかもイマイチ知覚できていないのだ。

 一応根本だけはかなり自由に動かせるっぽいが。

 

 正直こういう分かりづらいのはかなり困る。

 一目で即危険物だとわかるのなら即封印できて楽なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が悪魔の帽子をかぶって、羽根でマッスルポーズを取っていた。

 コウモリの羽根の形をしているため、それに沿って動かせば羽根はかなり柔軟に動くことがわかったのだ。

 ただ、感覚が通っていないためにその動きはすぐ引っかかる。

 

 そして、コウモリはフルーツを器用に掴んで食べる事ができる。

 

 兄は器用に羽根をたたみ、その先についた鋭い爪を指代わりにして物を掴む。

 感覚が通っていないというのに、どうしてそこまで器用に使えるのか私にはわからない。

 

 そして、そう動くことを確認した兄は。

 爪を揃えて槍のように真っすぐ伸ばし。

 羽根を根本から射出した。

 

 10メートルほど先にあった木材に突き刺さり、そこで伸び切ったゴムのように羽は兄にへと戻ってくる。

 木材を爪の先に突き刺したまま。

 

 えっ、なにその使い方。

 いややけにゲームっぽいなとは思っていたが。

 

 本当にその動作を再現するやつがあるか!



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R 失せ物タンブラー

 タンブラーグラス。飲み物などを入れるために使われるガラス製の食器のことである。

 一般的にシリンダーの形状をしている。

 これはもともと獣の角を加工して作られた器を指す言葉から来ているためである。

 またシリンダー型から想像できるようにその容量にはかなり幅がある。

 

 今回はそのタンブラーグラスが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄の立てる露天の屋台も商品が充実してきた。

 数冊の魔導書に回復魔法の魔法陣の描かれたお札がたくさん、魔法が仕込んである帽子、そしてブロック状の食べ物。

 

 ……ブロック状の食べ物。

 いつの間にか私の知らないものが商品に加えられている。

 堅焼きのブロックビスケットのようなもののように見える。

 

 そのことについて、私は兄を問い詰めたのだが。

 なんでも、馴染みの客を作る目的で用意した物だそうなのだ。

 前回のチンピラ襲撃事件の反撃のためにももうすこし冒険者に味方を作っておきたかったとのこと。

 

 領主の娘のエリスさんにも相談した結果だという。

 味方は多ければ多い方がいいのはまあわからなくもないが。

 実力のある冒険者を味方につけられればそれだけガチャレクシアでの地盤が固まる。

 

 で……肝心のこのブロック状の食べ物だが。

 どうも錬金術士のアトリエで作られた食べ物だ。

 噛みごたえのあるビスケットのような食感にかなりの旨味が練り込まれている。

 常食するには微妙な味だが、保存食としてはだいぶ美味い。

 機神に出力してもらったデータを見るに、栄養価も考えられているらしい。

 そして、完全無菌状態なのでかなり日持ちもする、そうだ。

 

 これが錬金術的に合成された食べ物で、元になったのがダンジョン産の鉱石だということを除けば……。

 時々あの錬金釜は得体の知れない変換を行うので油断も隙もない。

 

 うーん、保存食のことを考えるのはやめよう。

 ガチャだガチャ。

 

 R・失せ物タンブラー

 

 出現したのはガラス製のタンブラーグラスだった。

 厚めの透明なガラスでできていて一回り小さいところをみると、プリンの容器のようにも見える。

 そして底が分厚くなっているだけで全く飾り気がない。

 

 で……今回はコップか。

 前回出た水筒を思い出す。

 あれは入れた液体をゼリー状に固めてしまうものだったが……。

 

 どうせこれも似たようなものだろう。

 注いだ液体をなにかに変えるなり味を変えるなり……。

 だからそう思って水を注いでみた。

 

 注げば注ぐほど、入れた端から消えていく水。

 

 こ、今回はコップとしての役割すら果たさないのか……。

 名前にある失せ物とはこのことなのか。

 

 まあおもちゃにしかならないなこのタンブラー。

 池に沈めれば池を干上がらせることぐらいは出来るだろうが、する意味もないわけだし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が井戸から汲み上げた水をタンブラーにひたすら注ぎ続けた結果。

 タンブラーの中に100円玉が出現したのだ。

 

 失せ物タンブラーがなぜ100円玉をとも思ったが。

 同じようにバカみたいに水を注ぎ続けた結果、次に財布が出てきた。

 

 その財布は、兄が随分昔に落として無くした財布だった。

 小学生の時の話である。

 

 えっ、これはつまり水となくしたものを交換するタンブラーグラス……?

 いや、それはこう。

 タンブラーでやるには不便すぎるだろ!

 

 もっとでかい入れ物でやれ!



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R 超撥水ビーチサンダル

 ビーチサンダル。ウレタンやゴムなどでできた靴底に鼻緒をつけた、そのまま水につけても問題ない履物のことである。

 極めて簡単な作りであるため、その材料によって値段が変わり、安いものならば百均でも手に入る。

 

 今回はそのビーチサンダルが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サメ機巧天使(シャークマシンボーグ)の別働隊が、新たな知能を持つ生き物と接触した。

 それはブーステッドシャイニングドラゴンガチャ。

 陽の光を浴びて白色に輝く美しいドラゴンだった。

 

 ガチャレクシアから見て北にそびえる巨大な山岳の奥地に住んでいたそのドラゴンにサメ機巧天使(シャークマシンボーグ)が近づいた際、あちらから声を掛けられたのだ。

 もともとそのサメ機巧天使(シャークマシンボーグ)たちは地形を調べ、土地を調べれるために放たれていた個体である。

 そのため、周辺を調べるための装備で身を固めていたのだが、そのドラゴンの気配に気づくことができず、不用意に近づいてしまう結果となったのだ。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンボーグ)が気が付かないということは相当高レベルな相手である。

 もしうかつに戦闘になったならば、この調査部隊は全滅することだろう。

 むやみに戦力を損耗するのは得策ではない。

 

 そう、身構えていたのだが……。

 ブーステッドシャイニングドラゴンガチャが話しかけてきたのはこれ以上先に進むと危険だから、という理由だった。

 なんでも山の向こう側には瘴気に満ちた土地があるらしく。

 そこに踏み込んだ生命はことごとくその形を崩して怪物に成り果てるのだという。

 

 彼の同胞もその瘴気の影響を受けて化け物になってしまったらしく。

 しかも世界の脅威になって随分昔に討伐されたとかなんとか。

 その悲劇を繰り返さないためにこの場で一人門番をしているそうだ。

 

 うっ。

 すごいいい人だった。

 私と兄が警戒したのがバカみたいじゃないか。

 私達は……その周辺を調べるためにきたと言い訳して……、サメ機巧天使(シャークマシンボーグ)たちにその場所に逗留させることにした。

 

 兄の目はすでに瘴気にへと向いている。

 機会を伺って突っ込ませる気満々である。

 

 その時が来たら止めるのは私か……。

 止めるための手段を考えておかなくては。

 

 さあて、思考を切り替えてガチャを回してしまおう。

 

 R・超撥水ビーチサンダル

 

 出現したのは青い色をしたビーチサンダルだった。

 靴底はウレタン製、鼻緒はビニール製の、百均でもてにはいりそうな普通のビーチサンダルである。

 特にプリントもなにも施されておらず、本当に安っぽい。

 

 で……超撥水。

 効果が名前になっているものはまあちょこちょこあったが。

 超撥水かぁ。

 ビーチサンダルって普通撥水素材でできていなかったか?

 水が染み込んでビチャビチャになるビーチサンダルというのは聞いたことがない。

 

 だが名前になっている……ということはなにか特別、ということなのだろう。

 だから、私はとりあえずコップに入れた水をビーチサンダルに掛けてみた。

 

 ビーチサンダルの上で水滴になる水。

 確かに普通のビーチサンダルと違って、雨合羽の表面のように水を弾いて染み込まないようになっているようで、水滴のままビーチサンダルの表面を滑って落ちていく。

 

 ……これだけ?

 想像以上にしょっぱい。

 確かに表面が濡れていることがないビーチサンダルは……まあ珍しいかも知れない。

 濡れていなければビーチの砂にまみれることも……まあ少なくなるだろう。

 

 ……ガチャの割にはおとなしいというか。

 まだなんかあるような気がしてならない。

 

 水に浮く……はビーチサンダルなら普通のことだし。

 別に撥水で水を押しのけているわけでもなし。

 

 本当にこれだけか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が水の上に立っていた。

 超撥水ビーチサンダルを履いて、浅いビニールプールに水を満たして。

 その上に、撥水で立っていたのだ。

 

 やはりというかなんというか、ビーチサンダルが水を弾く力が強すぎて人を水の上に立たせる事ができてしまえるようだった。

 これかあ。

 見逃していたのはこれか。

 

 でもまあ。

 水を弾くということは、水を掴む力が弱いとも取れる。

 そんなもので水の上に立とうというのは……。

 

 そう考えたのとほぼ同時に、兄が盛大にすっ転んだ。

 超撥水ビーチサンダルと水の間には摩擦がない。

 摩擦の代わりになる力も存在しない。

 

 つまり。

 うかつに身じろぎすれば足元が滑ってすっ転ぶ。

 

 いやまあ、わかっていても試すのが兄という男だ。

 出来るからやる。

 できそうだからやる。

 そうして機神まで作っちゃったわけで。

 

 でも怪我とかはやめてくれよ!?

 親や医者に説明できないんだから!



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R エアコンのリモコン

 リモコン。赤外線や電磁波など、目には見えないものを使って対象の機械を操作するための器具である。

 リモコンが利用される場合は、操作を行うにはボタン配置に問題がある、大型の機械で配置場所に手が届かない、などの理由が存在する。

 家電で当てはまるといえばテレビ、エアコン、電灯だろうか。

 また、これらのリモコンは多機能化に伴いボタンの数が多くなる傾向にある。

 何でもかんでもワンボタンで実行できるようにした結果、リモコンの盤面がびっしりボタンで埋め尽くされるのだ。

 

 今回はそのエアコンのリモコンが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山脈の調査は順調だ。

 弱いながらも瘴気の影響を受けて変化したのか、動植物はどれもこれも特別な……というか、変な生態をしているのだ。

 

 山奥にしか生息していないというのにお金を主食にしている熊や。見るからにガチャのハンドルが背中に付いているイタチ、でかいカマキリ。

 あと特に語るべきなのは、ガチャのカプセルを被ったゴブリンだろうか。

 

 このゴブリン、アンコモンガチャゴブリンというのだが、集まるとくっついて一体のゴブリンに進化するのだ。

 進化したところでアンコモンガチャゴブリンのままなのだが、その能力は一回りほど成長する。

 しかもどういう原理かはわからないが、モンスターを狩るたびに一体ずつ増えるのだ。

 

 ならものすごい勢いで増えるのでは?

 と思われるだろうが、というか私も思ったが、所詮ゴブリン。

 周囲に生息するモンスターにとってはおやつでしか無い。

 

 たまに強いやつが生き残って群れを広げるが、それも調子に乗って強いモンスターに襲いかかり、全滅する光景が何回かあった。

 

 やはりゴブリンは……バカなんだな。

 兄はなにか余計なことを考えているような気がする。

 例えば、その融合進化する能力をどうにかしてサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に組み込めないか、とか……。

 

 まあいいか。

 今日の分のガチャを回してしまおう。

 

 R・エアコンのリモコン

 

 出現したのはエアコンのリモコンだった。

 あのディスプレイがついていて、温度を上下の矢印で操作するあのリモコンである。

 白物家電のリモコンらしく、白い色合いだ。

 

 で……なんでエアコンのリモコンだけ出現したのだろうか。

 リモコンだけあっても何かが操作できるわけではない。

 

 とりあえず部屋のエアコンで試してみるか、とリモコンを向けてみる。

 リモコンのディスプレイにはすでに温度が表示されていた。

 

 ……ん?

 エアコンのリモコンはその殆どがエアコンが動作しているときのみ温度を表示するようになっている。

 省電力というのもあるのだろうが、必要ないから消しているというのもあるのだろう。

 

 つまり表示されているということはどこかでこれに対応するエアコンが動いている、ということだ。

 よく見ると電源ボタンがない。

 

 そこで私は嫌な予感がした。

 表示されている温度は32度。

 スマホで確認した本日の気温は32度。

 

 あっ、絶対やばいやつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がリモコンをいじくり回した。

 気をつけて封印したというのに、兄はやはり試してしまったのだ。

 

 その結果。

 その日は記録的な低気温となった。

 真夏の中の一日だというのに、気温が27度まで突如下がり、ニュースにまで成ってしまった。

 

 絶対やばいからさわるなって言ったのに!

 あの野郎ゥッ!



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R ポストイット

 ポストイット。弱い糊が付けられた小さな紙片で、メモ書きをノートやモニタなどに貼り付けるための文房具だ。

 もともとは貼り付けた紙片のことを指していた言葉だったが、糊の付けられた製品が出てきてからはこちらを指す言葉に変化した。

 その誕生の経緯はたまたま弱い接着剤ができて、たまたま栞に接着剤をつけて固定したい人がいた、という偶然が重なった結果である。

 日常的に利用されるモノが変なきっかけで生まれている、ということはよくある話だ。

 

 今回はそのポストイットが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山脈での調査を行っているサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が、何やら胡散臭い連中を見つけた。

 黒ずくめで体に縛り付けて固定しているような衣服を纏った何やら怪しげな一団だ。

 

 しかも顔まで布で覆っていて、その布にはなにやら紋章のような物が入っている。

 それに山脈の洞窟を改造して複数人で住んでいるようで、時々狩りにでてモンスターを集めているようなのだ。

 

 胡散臭い。

 絶対胡散臭い。

 なにやらやたら胡散臭い宗教の匂いがする。

 

 いや、普通の宗教の調査部門の集まり、ならまあいい。

 これが社会的に排斥されているような危険な宗教集団だったら……だったら……。

 

 うん?

 その場合どうすれば良いんだ?

 別に私達は正義の味方ではないし、彼らがいるのは街から遠く離れた山奥だ。

 彼らなりに社会に適応して生活している結果がここにいることなのかも知れないわけで。

 

 そう、関係ないはずだ。

 彼らがモンスターに魔法陣が張り巡らされた首輪をつけて従えているとか、吸うと気持ちよくなるお薬を作っているとか、せっせと何かの儀式の準備をしているとか、まあ関係ないはずだ。

 

 彼らは私たちには関係ないはずなのでガチャを回そう。

 

 R・ポストイット

 

 出現したのはポストイットだった。

 黄色い付箋で、長さが5センチメートル程度のもの。

 幅は1センチメートルくらいか?

 付箋としてもだいぶ小さい部類だ。

 

 ポストイット。

 大体変な効果がありそうである。

 多分効果を発揮するには貼り付ける必要があるのだと思うが……。

 

 そう思って、テーブルにポストイットを貼り付けてみた。

 なんか接着剤が弱い気がする。

 貼り付けているのに風が吹けば剥がれてしまいそうだ。

 

 で……効果の程は。

 何も変化していない。

 

 触ってみても叩いてみても反応がない。

 と、いうことは何かを書き込まないといけないんだろうか。

 

 そう思ってポストイットに「あたたかい」と書いてみた。

 まるで缶ジュースである。

 

 書き込んだ途端、テーブルがポカポカしはじめた。

 こたつの中の空気と同じぐらい、テーブルが暖かくなっているのである。

 

 うわー。

 案の定というかなんというか。

 兄が悪用しそうな効果である。

 

 しかし……このヘタらせたポストイット並の接着力しかないこれで悪用出来るかな。

 多分ムリだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄はサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の装甲の隙間にポストイットを仕込ませた。

 貼り付けたポストイットを剥がれないように装甲で固定したのだ。

 

 実験として貼り付けられたポストイットは「やわらかい」と書かれたもの。

 それによってサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の見た目からは想像できない柔軟性を発揮し、2メートル超えの巨躯を壁の隙間に滑り込ませるパフォーマンスを行ったのだ。

 まるで猫のようである。

 

 剥がれるかも知れないなら……固定してしまえばいい。

 まあ兄らしい強引な解法である。

 ボンドを塗って固定するのも試したが、異常なほど接着力が落ちたのであえなくボツとなった。

 あくまで弱い接着力でくっついている必要があるらしい。

 

 で……兄はポストイット片手に、どうするか考えあぐねている。

 貼り付けるに足る言葉が思いつかないらしい。

 別になんでもいいだろそこはァ!?



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R ノンオイルポテトチップス調理器

 ポテトチップス。言わずと知れたスナック菓子の王様である。

 薄く切った芋を揚げて味を整えるだけで出来上がるそのお手軽さと、材料が芋であることから効率的に炭水化物を摂取できるところがポテトチップスの優れた部分である。

 また近年では、油で揚げないノンフライ調理というものが登場して、それによって揚げないポテトチップスも出てきている。

 

 今回はそのポテトチップスを作るための専用調理器具が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まで気がついていなかったのだが。

 ガチャレクシアにも隠れるように黒ずくめの教団の人員が出入りしていた。

 

 裏路地で怪しげなチンピラどもと密会をしていたり、小間使いと思われる男性と密会していたり、冒険者相手になにか薬のようなものを売っていたりしていたのだ。

 それに、どこかの商会の倉庫を拠点として出入りしているようである。

 

 わからないのは、どうやって移動しているか、である。

 昨日山で見たかかとに泥をつけた男が、今日ガチャレクシアで見つけてしまったのだ。

 

 徒歩で移動したのなら十数日は掛かってしまう距離にある山脈から、である。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の目視による分析ではかかとに付いている泥は同じ成分であり、あの山から持ち込まれたものなのは間違いない。

 

 えー……。

 これやばいんじゃないの……。

 兄は兄で気持ち悪い笑顔を浮かべているし、ろくでもないことになるんじゃないかこれ。

 

 ま、まあいいか。

 ガチャでも回そう。

 

 R・ノンオイルポテトチップス調理器

 

 出現したのは炊飯器だった。

 いや違う、炊飯器みたいな形をしたなにかの調理器具だ。

 上に開閉可能な蓋がついていて、その中にはヒートシンクみたいな形状の部品が円形に並んでいる。

 

 炊飯器並みに場所を取る割に、その名前はポテトチップス調理器。

 用途があまりに限定的すぎる。

 

 それに……なんだ。

 ノンフライのポテトチップスってそんなに旨くないイメージが有る。

 カラッとしていなくてパリパリとした食感じゃないのだ。

 

 とはいえ……まあ、試してみないことには何も始まらない。

 私はじゃがいもをスライサーで薄切りにし、水気を切ってからそのノンオイルポテトチップス調理器にセットした。

 ヒートシンクのような形状のパーツに立てるように薄切りじゃがいもを刺していく。

 

 これ、この作業だ。

 ノンフライのポテトチップスには色々問題点があるが、中でもこの作業が一番めんどくさいのだ。

 揚げるのならくっつかないように雑に油に投入するだけでいい。

 

 蓋を閉じて、炊飯器のような操作パネルから自動モードで調理を開始。

 タイマーが表示されるがなぜか60分。

 ノンフライのポテトチップスってそんなに時間がかかったものだったか?

 

 

 

 60分後。

 チーン、と電子レンジのような音をともに調理器は動作を停止した。

 蓋を開くと、そこにはチョコが掛かったポテトチップスが並んでいる。

 

 ……なんでチョコ掛かってんの?

 どこにもそんなモノはセットされていない。

 しかも、ポテト部分はしっかりと揚がっているように見える。

 

 1つ取って食べてみる。

 一口食べるごとにチョコの油分とポテトチップスの油分が口に広がる。

 味はうまいのにその過程の全てに疑問符がつくせいで味の印象がまとまらない。

 

 どこから来たんだこの油とチョコレート……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がチーズの掛かったピザ味のポテトチップスを作り出した。

 もう油でこってりしているポテトチップスの中でも特にこってりしているあのポテトチップスを、だ。

 ノンオイルはどこ行った。

 

 兄が調べた結果では、中で調理されたポテトチップスにランダムに味付けをする調理器具だそうだ。

 その過程で、油で揚げる作業も味付けとみなされている、らしい。

 そのためだけに兄はじゃがいもを10個ほど消費したのだから間違いない。

 

 他と比べればまともな景品だけれども。

 なんだこの納得いかない感じは……!



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SR ニンジャ(5体セット)

 忍者。日本固有の職業で、諜報や破壊活動など、敵地に忍び込んで様々な工作を行う集団のことである。

 彼らは様々な道具や知識を用いて相手の認識を撹乱するすべを持っている。

 それらは創作などにおいてひどく誇張されがちで、ほとんど魔法のような技術として扱われているのだ。

 そのため一部のネット上では忍者ではなくニンジャ、なんて呼ばれていたりする。

 

 今回はそのニンジャが出てきた話だ。

 ニンジャの方だよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を使って、あの黒ずくめの教団の男から気持ちよくなるお薬を奪い取っていた。

 山脈の中で一人で行動していた男を出会い頭に意識を刈り取り、その持ち物を物色するという形でだ。

 機械仕掛けゆえの正確な手際であった。

 

 なぜそんなマネに出たのかというと、その成分を調べたかったそうなのだ。

 機神の解析能力にかかれば、まともな物質であればあらゆる性質を丸裸に出来る。

 多分世界を変えうる新薬の製造も簡単にできるだろうほどにだ。

 

 そして調査された気持ちよくなるお薬だが、案の定というかなんというか。

 かなり強い依存性があるようである。

 脳に成分が寄生し、薬が摂取できないと強烈な飢餓感に囚われるようになっている。

 その乾きを癒せるのはこの薬だけである。

 

 ひどい薬だ。

 しかもそれで終わりではないらしい。

 どういう原理かは不明だが、薬自体が生命力を吸い上げ、どこかにへと流している。

 

 うわー、絶対邪教の儀式に使ってるよ……。

 街を蝕むついでに生贄まで手に入る薬とかやばすぎる。

 

 兄はなんというか。

 楽しそうにしている。

 叩き潰しても良い悪を見つけた、とそう言いたげな表情で。

 

 ろ、ろくでもない……!

 

 まあいいか。

 問題は起こさないだろう。

 今回は解決する側になる、多分。

 

 というわけでガチャを回してしまおう。

 

 SR・ニンジャ(5体セット)

 

 ……ニンジャ。

 いや、ニンジャなんで?

 

 出現したのは黒い影のようなものだった。

 球体の影。

 丸い形にまとまった黒いもやもや。

 それが5つほど出現したのだ。

 

 それは私がカプセルの中の紙に意識を取られているうちに私の影に潜り込み、一体化していった。

 それに伴って妙に濃くなる私の影。

 

 ……うわ。

 これは寄生……されたか?

 ガチャの景品に、寄生された?

 

 ちょっと気味が悪くなって、力強く影を踏みつける。

 間抜けな動きになったが、それで正解だったらしい。

 影からその黒いもやが飛び出し、人型になって私に向かって傅いたのだ。

 

 それは喋らない。

 言葉を持ち合わせていないのか、発声器官がないのかわからないが。

 それは少し逡巡したあと、どこからか取り出した紙を私に手渡した。

 

 我々は貴方の忠実なしもべ、ニンジャです。

 

 そう書かれていた。

 ニンジャ。

 ……そうか。

 ニンジャか。

 

 え、ニンジャ?

 この黒い靄が?

 人ですら無いものがニンジャとして私に仕える、と?

 

 困惑が強い。

 私はどうすれば良いんだ。

 こいつらをどう使えば良いんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄の直感が冴え渡り、彼らの使い方を暴き立てた。

 まず彼らは私の命令に忠実に従う。

 影のような体は、私に取り憑いたのと同じように影に溶け込める。

 

 そしてこいつらが最も得意とするのは。

 忍術である。

 そう、諜報や撹乱に利用される道具や知識群……ではなく。

 創作なんかに出てくる魔法みたいな技術の方だ。

 

 火遁を命じると口から火を吐き。

 水遁を命じると口から水を吐き。

 土遁を命じると周囲の地面を操ってみせる。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)と比べると地味ではあるがそれらの忍術は確実に相手を仕留めるために洗練されているように見える。

 それにそれらを利用して姿を隠したりも出来る模様。

 影から影へワープしたり、影を濃くすることで見つからないようにしたり、だ。

 

 つまりこいつらは……黒いもやのような姿をしているくせに、創作のニンジャのような能力を持っているのだ。

 

 だからこれは言っておこう。

 Oh……ニンジャ……。



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R 瞬間漬物壺

 漬物。様々な食品を塩やお酢などの漬け込める材料に漬け込み熟成させることで保存に適した食品に加工したものだ。

 その過程で様々な風味がつくため、味の好みが大きく分かれる食品でもある。

 長期保存を目的とした加工であるため、各国で様々な食品が存在しており、中には正気を疑うような製法のものも存在する。

 

 今回はその漬物用の壺が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはエリスさんと気持ちよくなるお薬撲滅のための計画を詰めている時に起こった。

 街の至るところに存在する商会の倉庫。

 それの内側から膨れ上がるように、巨大な化け物が3体も出現したのだ。

 

 まるで魔物を練り合わせて作り上げたようなその怪物は邪神の似姿と言っても信じられるだろう。

 それほどまでに、歪でありながらその化け物たちは似通っていた。

 

 その大きさ、おおよそ12メートル。

 捻じくれた角を持つヤギの頭部を持っていて、体は複数の魔物をパズルのように組み合わせて作られている。

 

 

 出現したと同時にその体から黒い霧のようなものを吹き出し周囲の人々の生命力を吸い上げているようだ。

 その証拠に、霧を吸った人々は呼吸困難で苦しんでいるようには見えず、疲労で倒れたかのように動かなくなっていく。

 

 これから対処しようと思っていた案件が突如爆発して大惨事を引き起こしている。

 一手、二手遅かったのか、あるいはそもそも初めから間に合っていなかったのかは微妙なところだ。

 

 この脅威に……兄は。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に一言命じた。

 倒せ、と。

 

 その命を受けたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は邪神槍グザベルを全力で以て振り抜き……化け物の上半身を消し飛ばした。

 同様の動作を残りのサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)も行う。

 まるで畑でも耕すかというノリで上半身を吹き飛ばされる化け物たち。

 

 いや、まあ、そうね。

 現在レベルが7万を超えてる機神のバックアップを受けてるサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)なら並のモンスターは敵じゃないわな。

 

 上半身を吹き飛ばされて動かなくなった下半身だけが街に残っていた。

 吐き出された黒い霧も風に乗って薄まっていく。

 

 さぁて。

 私はガチャを回してしまうか。

 

 R・瞬間漬物壺

 

 出現したのは蓋付きの壺だった。

 壺の平均的な大きさなどはいまいちわからないが、とりあえず中に水が1リットルほど入りそうな大きさの壺である。

 その色は典型的な壺らしく茶色であり、特に装飾は存在しない。

 

 で……瞬間漬物。

 字面を見るに、一瞬で漬物が出来上がる、というもののように思える。

 書かれている以上、多分そうなんだろう。

 

 なのでとりあえずきゅうりを持ってきてみた。

 そっと布に乗せて壺の中に入れてみる。

 そして蓋を閉じて……開けて覗いてみた。

 

 そこには糠まみれになったきゅうりと、同じく糠まみれになった布が入っていた。

 ……いやこの挙動、ついこの間も見たぞ!?

 ポテチ調理器の亜種じゃねーか!

 

 なおきゅうりの漬物の味は内側までしっかり漬かっていてとても美味しかったです。

 一緒に入れた布は糠の色で完全に染まってしまって、臭いが落ちないので捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が牛肉のブロックを投入した。

 結果、どのような過程で調理されたのか一見分かりづらい熟成肉に変化した。

 なにかの成分に漬けこまれていたように見えるが、それがなんなのかはわからない。

 ハムのように塩や香辛料を擦り込んでいるようにも見えるが、それにしては表面が真っ黒である。

 

 それに断面もしっかりなにかに漬かっているようで、その色味は鮮やかなまでのピンク色。

 牛肉だったとは思えないほどの色合いである。

 

 なお焼いて食った兄の感想はというと。

 異星の動物の肉でも食っているかのようだ……。

 だった。

 歯ごたえが牛肉のそれではなく、ねっとりとした舌触りなのもそれを加速させている、そうだ。

 

 漬物だって言ってるのになんでこの人牛肉を投入したんだ……。



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R パンドラと不思議な部屋

 ゲームにおいて、神話はフリー素材である。

 登場するモンスターに神話に登場する化け物や神の名を冠するのはごくごく当たり前に行われていることである。

 神話はそれだけで様々な能力を持った人、神、モンスター、武具にあふれているため、それらから名前を借りてくることもよくある。

 特に有名なRPGでは、名前だけ借りてきて神話に由来する能力を全くもっていないとかいう状態だったりする。

 例えばリヴァイアサンとか。

 

 今回はそのゲームの要素だと思われる何かが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然出現した化け物を討伐しても麻薬騒動は収まらない。

 案の定というかなんというべきか、あの黒ずくめの教団連中は地下に潜って姿を現さなくなったのだ。

 どこの路地を覗いても、怪しい建物を探しても見当たらない。

 

 黒ずくめの衣装、というのがすでに視線誘導の意味合いがあったのかも知れない。

 探すにしてもあの格好を目印にしてしまう。

 あんな怪しい格好でうろつく人間なんていないというのに。

 

 あ、化け物が出現した倉庫の持ち主だが、あの屋台にチンピラをけしかけてきた評判の悪い商会のものだった。

 あそこは廃倉庫で使っていなかったのを勝手に利用されただけだと証言しているが……。

 

 兄は早速サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を調査のために潜り込ませた。

 戦闘に特化しているため調査能力は数だよりなサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)でうまくいくだろうか……。

 

 そっちは兄に任せて、だ。

 私はガチャを回してしまうことにする。

 

 R・パンドラと不思議な部屋

 

 出現したのは小屋だった。

 ギリシャの石造りのような造型の小屋で、パルテノン神殿を小さくしたみたいな形をしている。

 最も、その外装は色とりどりに塗装されているのだが……。

 

 で、小屋。

 紙を見るに内部は部屋になっているのだろうが、この胡散臭い名前に警戒心が湧く。

 まるで同人のゲームに出てきそうな名前だ。

 ちょっと凝った作りのゲームシステムが実装されていそうである。

 微妙にパロディが入っているように見えるのも同人ゲームのように見える理由の1つだ。

 

 こういうのってだいたい独りよがりな要素になっていて分かりづらいんだよな。

 あるいは無視して進めても問題なかったり。

 

 私はそっと中を覗き込む。

 そこにあったのは……なにかを改造するような機械じかけのアームが複数本。

 そして人を乗せるための台だ。

 台の脇に操作パネルと思しき装置も置いてある。

 

 あー……そういう。

 パンドラという名前と、ギリシャ風のデザインは偽装か、あるいは素材がなかったんだな。

 そう思って見てみると、内装がなんというか……()()()()だ。

 とても小さくて四角い箱の集まりでできているように見える。

 

 ……いややっぱこれどう見ても人体改造系じゃん。

 台に乗った人間を改造して能力を付与していくタイプのやつじゃん!

 こえーよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を台に乗せ、改造を施した。

 いわゆるスキルツリーを操作するタイプのゲームシステムのものだったようで、そこにはサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が取れるであろうスキルがずらりと並んでいた。

 

 そしてスキルの代価として表示されていたのは。

 寿命だった。

 

 ゲームを類推するしかないが、寿命をリソースとして消費し、死ぬ前に目的を達成するようなRPGだったのだろうか。

 明らかに凝りすぎている。

 

 とりあえず兄が何も考えずに特盛にしたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は体中に怪しい機械を埋め込まれ、挙動が不安定になっていた。

 全身から緑色の体液を垂れ流しながら、ガクガクと震えている。

 

 えー。

 これ駄目なんじゃないの……。

 ゲームのものを景品として現実に引きずり出した結果、バグったみたいな。

 

 こわ……。



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R 腕部用ロケット

 ロケット。推進剤を燃やすことで反作用を得て加速する推進装置のことである。

 多くは爆薬を積んだ兵器を飛ばすために使われている。

 だが一般的に思い浮かべられるのは宇宙へ上がるためのロケットだろう。

 炎を吹き上げながら空へと飛んでいくロケットの姿は、宇宙の壮大さと相まってロマンであると言える。

 

 今回はそのロケットを腕に取り付ける物が出てきた話だ。

 よりによってそこ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山脈の方の黒ずくめの教団のアジトから人がいなくなったので、兄はサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を忍び込ませた。

 これまではサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の隠密能力の低さから、調査に入ることができなかった場所。

 でかい図体と、姿を隠すことに向かない羽と、あと純粋にそういう技能を持っていないため、人がいるとわかっている危険地帯には入れなかった。

 

 だが前回の化け物の件であの黒ずくめの教団は姿を隠す必要が出てきた。

 危険な集団だと認識されてしまっては活動ができなくなってしまう。

 そのため、化け物と教団を結び付けられないように証拠を消して倉庫や洞窟から去ったのだ。

 最も全部サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が見ていたので隠蔽工作は全く意味を成さないのだが。

 

 だが、隠蔽がうまくいかなかったということを除けば、その撤退は鮮やかなものである。

 どうやって消えたのかわからないのだから。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)なら一人ぐらいどこに行ったのか見つけてもおかしくないのだが、どこへ行ったのかさっぱりわからない。

 

 そのためアジトとなっていた洞窟に潜り込んだのだ。

 そこに広がっていたのは、ダンジョン。

 それも人為的に作られたであろうものだ。

 兄が勢いとともに出入りをしていたあのダンジョンと同じ、ダンジョンのコアの力で作られたダンジョンだ。

 

 うーん。

 これはダメだ。

 調査しようにも……広すぎる。

 

 だから私は……今日は兄に全部投げて、ガチャを回すことにする。

 

 R・腕部用ロケット

 

 出現したのは1メートルほどの大きさのロケットだった。

 全体的に造型はスペースシャトルのロケットに似ている。

 ロケットの側面に突起があり、その中に操縦桿型の握りがついている。

 

 握り。

 え、握り?

 つまりこれの名称と合わせて考えると、握るとロケットが点火して空を飛び出すってことか?

 握った人を引きずって?

 

 あまりに暴力的な構造に頭を抱える。

 それでどうやって空を飛ぼうというのだ。

 背中に背負うならまだしも、腕にロケットをくっつけて空を飛ぼうという発想はイカれている。

 

 そのイメージ通りなら私が試すわけにはいかないわけだが。

 危険すぎる。

 

 どうするかなぁ。

 とりあえず飛べるやつに試させる、というのが良さそうだが。

 飛べるやつ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄は背中に腕を生やしたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を作り出した。

 背中の真ん中に腕が一本生えているのである。

 

 というのも、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に腕部用ロケットを試しに使わせたのだが。

 思いっきり空中でおかしな方向に飛び、きりもみ状態で地面に激突したのだ。

 

 推力自体は制御できているようだが、ついている位置が致命的に悪い。

 そのせいでロケットから生じた推進力が体を軸に回転するエネルギーに変換されてしまっているのだ。

 そうなってしまっては演算能力の高いサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)でも御しきれない。

 

 だから兄は……。

 動作が回転に変わらない位置に腕をつけることで腕部用ロケットを制御することにした。

 背中ならば、きりもみ回転に入ってしまいそうになっても、羽で回転を抑制してバランスを取ることが出来る。

 

 そうやって飛んでみたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は……。

 なんと羽だけで飛んだときとほとんど変わらない速度だった。

 制御は完璧にこなしているが、その制御に羽の動きを持っていかれ、速度が出せないのが原因だった。

 

 えー……。

 じゃあこれどうやっても使えないってことでは……?

 危険物じゃん……。



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R 進化素材

 ソーシャルゲームなどには、キャラクターの能力が段階で制限されている場合がある。

 この段階を突破して次なる成長を可能とする作業を進化とか限界突破とか言うのだ。

 作品によってこの扱いはまちまちである。

 場合によっては同一のキャラクターを何枚も集めなければこの能力の制限を開放できないことがあり、かなりの課金を強いられることになるだろう。

 ユーザーフレンドリーがいいかと言われると商売的には微妙なところではあるが……。

 

 今回はその進化に必要な素材が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チキチキ第二回ダンジョン攻略回始まるよー。

 と完全に気が狂ったかのような発言を飛ばしてくる兄。

 テンションが上っているのか、疲れているのかいまいち判断に困る。

 

 それに第二回ではない。

 発掘したダンジョンの内部にはいくつか別オブジェクトとしてダンジョンが存在したし、覗く程度だがガチャレクシアのダンジョンも調査している。

 

 まあそれは置いといて、だ。

 黒ずくめの教団のダンジョンはいわゆる洞窟を手掘りで拡張した()()()()()()ダンジョンだ。

 よく見れば地面の石の配置や壁の掘削のパターンがある間隔で全く同じものが並んでいるところが、ダンジョンのコアによって作られているか否かを見極めるポイントである。

 

 兄は攻略のために完全装備状態のサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を30体用意した。

 質を伴った数の暴力でダンジョンのギミックを薙ぎ払う気満々である。

 それにこれまでのダンジョン探索で便利だった装備も整えてあるあたり、だいぶ本気だ。

 

 そうやって話しているうちに、ダンジョンの第一層が攻略された。

 駆け足でモンスターを蹂躙するサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)

 

 そしてエレベーターのようなものを見つけたが、セキュリティの関係で動かないようである。

 じゃあどうしたかというと……兄はエレベーターを破壊した。

 ああ、うん……。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)はかなり自由に飛べるからね……。

 

 探索は兄に任せて、私はガチャを回してしまおう。

 

 R・進化素材

 

 進化素材。

 確かに拾い上げて私の手の中にあるはずなのだが、その形を目で捉える事ができない物が出た。

 丸いような気もするし、四角いような気もする。

 透明にも見えるし、青く光っているような気もする。

 とにかく不確かだ。

 そこにあることだけはわかるが、それがなんなのかは釈然としない。

 

 で……、これはなんだ?

 進化素材、とあるが、それは何を指す言葉なのかもわからない。

 わかるのは進化のための素材、だということぐらいだ。

 

 ソシャゲか?

 もしかしてソシャゲか?

 ソシャゲのキャラクター強化用の素材、ってことか?

 

 だとすれば詫び石のようにイマイチ不確かな形をしていても納得できる……というか。

 詫び石もこんな感じで不確かだった。

 詫び石は石としての共通イメージがあるだけ、まだまとまった見た目をしていたが。

 進化のための素材は作品によってそのイメージはだいぶばらつく……というか、共通したイメージはないと言っても良い。

 

 だからといってこんなぼやっとしたモノを出さないでくれよォ!

 手に乗ってる感覚もだいぶ違和感があるんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が進化素材をサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に使おうとしたが、使えなかった。

 1つではサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を進化させるには足りないようである。

 

 だから兄はサメ妖精のシャチくんに進化素材を与えた。

 それを飲み込んだシャチくんは全身をボコボコさせながら形を変え……。

 

 最終的に元のサメがデフォルメされたような姿に戻った。

 ただ、全身にソシャゲ的な模様と装飾品が追加されている。

 その孔雀のような尾の飾りは何に使うのかね?

 

 そして、進化したことによってシャチくんは新しい能力を手に入れた。

 なんと。

 自分よりもレベルの低い相手を確実に即死させる結界である。

 

 過剰だよ!

 なんで進化素材を1つ使っただけの一段階進化でそんな過剰な能力が手に入るんだよ!



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R ゲーミング魔法陣

 魔法陣。もともと外界と内界を区切るために使われた円陣のことである。

 悪魔を召喚するなどを行う際に、魔法陣の中に立つことで悪魔からの干渉を防ぐ、などの用途で使われる。

 ただ……創作の影響からか、魔法を使う際に生じるエフェクトのような扱いをされている。

 魔法陣の中に悪魔を召喚したり、魔力をためると自動で展開されたり、内側や外側のモノの形を組み替えたりなどだ。

 

 今回はその魔法陣が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乗り込んだダンジョンは4層しかなかった。

 そしてその4階層はセキュリティのしっかりしたエレベーターでのみ接続されている。

 階段のような動力を使わない移動手段が完全に存在しないのだ。

 防衛という意味では侵入経路が存在しないのは最良の防御だと言っていいだろう。

 

 第一層を危険なモンスターまみれにしておくことで人が入れないようにもしているためそのセキュリティに気がつくこともない、という寸法だ。

 まあサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は蹂躙したが。

 

 エレベーターを破壊して潜り込んだサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が見つけたのは、捕獲したモンスターを改造してキメラにしている研究施設と、巨大な魔法陣。

 空間的に歪んでおり、ねじれた空間はどこかに繋がっているようである。

 

 こんなわかりやすい仕掛け、兄が試さないわけがない。

 当然のようにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)と突入させた。

 

 そして突入させたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が出てきたのはガチャレクシアの、あの化け物が出てきた倉庫があった場所だった。

 同様にダンジョンと他の倉庫を繋ぐ魔法陣も存在していた。

 

 つまり奴らはこのテレポート魔法陣で出入りをしていた、と。

 巨大な穴だ。

 あんな怪しい商品を抱えて検問を素通りするわけである。

 

 ダンジョン荒らしに兄が夢中になっているうちに、ガチャを回してしまうことにする。

 

 R・ゲーミング魔法陣

 

 魔法陣。

 私の目の前に、虹色に光り輝く魔法陣が出現した。

 訂正、1677万色に光り輝く魔法陣が出現した。

 だって名前にゲーミングって付いてるんだもん!

 

 いやゲーミング魔法陣ってなんだよ。

 百歩譲って魔法陣は良いだろう。

 非実体っぽくて、線だけが地面スレスレに浮かんでいるのも、光っているのもまあ分かる。

 魔法陣だしな。

 

 でもゲーミングってなんだよ!

 この気が狂ったかのように色が変わり続ける虹色を見せられるこっちの身にもなってくれ!

 それにこのタイプのゲーミングな代物何個目だよ!

 

 ……はあ。

 まあいい。

 で、この魔法陣は、魔法陣だからなにかの魔法の力を秘めているはず。

 とりあえず魔力を注いでみるか?

 

 そう思って、私はシャドーボールを練るイメージで体から力を押し出す。

 うちにある水を血管に通して、それを指先から放出するような感覚。

 便宜上魔力と呼んでいるそれを、魔法陣にへと流す。

 

 するとそのエネルギーを、魔法陣が吸っていく。

 そして……。

 魔法陣はより力強く光り始めた。

 もはや見ていては目がおかしくなってしまうほどの明滅を繰り返す。

 その色はのたうちまわるかのように変化を繰り返し、吐き気をもよおすほどだ。

 

 そこまでの過剰演出の果てに……、光が弱まった。

 そして、魔法陣の中央には、なにもなかった。

 

 ……。

 お前光るだけかよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄はこの目に喧しい魔法陣を踏むと、体力を急速に奪われることを発見した。

 というか、兄が勢い余って踏んづけただけなのだが。

 みるみるうちに元気を失っていく兄。

 兄が言うには急に空腹感に襲われるようだ、とのこと。

 

 そしてその吸った体力を使って光り輝く魔法陣。

 その光はまるで煽っているようで。

 

 うわあ……すげえムカつく……。



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R 拳の心得

 ステゴロ最強。文明がいかに進もうとも、拳1つで最強だと証明したがる男どもは多い。

 極めて原始的な暴力であるが、より効率化された暴力である銃の登場によってその価値は先鋭化したと言えよう。

 我こそが最強なり、と堂々と胸を張れるのは、結局のところ自分が生まれ持ったものとそれを磨き上げたもので勝ち取った強さだけだからだ。

 

 今回は……なんだろうなこれ。

 なんて説明すれば良いのか……。

 多分、武術書。

 武術書が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒ずくめの教団のダンジョンに残っていた資料を、ガチャレクシアの領主にへと押し付けた。

 機神を使って調査してもいいが、それだと余計な仕事を抱え込んでしまい、その上余計な立場まで手に入れてしまいかねない。

 それに現地に司法があるのに私刑めいたことをするのはどうかと思う。

 

 それに、黒ずくめの教団のダンジョンには謎がある。

 5層しかない小さなダンジョンで、層の広さも常識的なものだったが、ダンジョンのコアが見つからないのだ。

 隠し通路や下の階層がありそうなところを拳でぶち抜いて調べぬいた結果である。

 

 兄は、この作りのダンジョンにダンジョンのコアが無いということはありえない、と言い切っている。

 自然に生成されるダンジョン……いや、建造物がああいった構造になるはずがない、と。

 

 そして兄は推論を重ねる。

 だとすれば……、ダンジョンを作り出せる魔法があるのか、あるいは。

 飛び地を作り出せるダンジョンを、あの教団が所有しているのか。

 

 そうだとしたら、だいぶろくでもないな。

 兄がダンジョンを持っているだけでもろくでもないのに、明らかに犯罪に使おうとしている集団がダンジョンを持っているなんて。

 

 まあダンジョンを見つけさえすれば兄のサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が粉砕するだろう。

 過剰なほどの質を伴った数とかいう、戦場における最大のチートであるわけだから。

 

 ふう。

 ガチャレクシアの心配はよそに置いといて、ガチャでも回そう。

 

 R・拳の心得

 

 出現したのは和綴じの本だった。

 その表紙には拳の心得とだけ書かれてあり、著者名などは記されていない。

 また、表紙の素材は和紙に似ているが、どことなくポリエステルっぽい手触りのものが使われている。

 

 拳の……心得?

 なにかの武術書だろうか。

 拳法家が自らの技を残すために本を記すということは理解できるが。

 

 そう思ってページをめくってみると、そこにあったのは白紙だった。

 めくろうがめくろうが、何も記されていないページだけが続いている。

 

 なんだ、これは。

 何も書かれていない本に意味があるとでも思うのか。

 それともなにか、これを持った状態で技を使うと記録されていく、とかそういうやつか?

 

 その考えが浮かんだ時点でその本を強引にポケットにねじ込み、空手の構えを取ってみた。

 全身の筋肉が自分の意志に従って、それが形になっていく感覚。

 

 そこから正拳突きをしてみる。

 所詮素人のマネごと、だと思って放った拳は空気の壁を破って音を立てた。

 

 んんんん~~~?

 もしかしてアレか?

 この本は、持ってる人間に、()()()()を刻むのか?

 

 そう思って、回し蹴りを放ってみる。

 普段はそこまで上がりもしない足が、見事な回し蹴りの弧を描く。

 そこに竹でもあれば、へし折れたであろうほどに。

 

 やはり、格闘技のキレが増しているように思える。

 つまり……。

 妖刀と同じじゃねーか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄は懐に拳の心得を入れたまま、ロボットを操縦してみせた。

 サメ機人(シャークボーグ)から要素抽出した余りのロボットだが、乗って操縦できる点で楽しい乗り物だったのだが。

 兄はそれで見事なまでの格闘技を扱ってみせた。

 無論、拳の心得による補助によって可能にしている……ことではある。

 なんでロボットに適応されているのかはわからないが。

 

 そうやってひとしきり動作を確かめたあと兄は。

 これ、人間離れした動きはできないっぽい、と言ってのけた。

 

 何を期待しているんだ兄は。

 妖刀でできたからって……。

 人間の体に過剰に期待し過ぎだよ!



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SR UFO

 UFO。未確認飛行物体の略称で、文字通りその正体が判明していない飛行物のことだ。

 基本的に宇宙人の乗り物とされ、その独特のフォルムからなんらかの超技術によって空を飛んでいると考えられている。

 反重力とか、そういうのである。

 またUFOにもいくつか定番の形が存在していて、円盤型、葉巻型など、どことなく円に近いなめらかな形状だ。

 まあそれらの定番のイメージはほとんど捏造写真が元になっているのだが。

 

 今回はそのUFOが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が黒ずくめの教団がどこに行ったのかの痕跡を発見した。

 第5層にテレポートの魔法陣が描かれていたであろう跡を見つけたのだ。

 ご丁寧に食器棚でその扉を隠し、使用後に魔法陣が風化するように細工を加えてある。

 他のテレポートの魔法陣にそんな細工が施されていないあたり、これはこのダンジョンを放棄するために利用されたと見て間違いない。

 

 だとすれば行き先だが……。

 これが全くわからない。

 風化しているせいで魔法陣の構成を読むことができず、実行して試すこともできないからだ。

 しかもダンジョンのバックアップを前提としているのならば、それを外部から直すというのも不可能である。

 

 だからというか。

 兄が選んだ手段は、ダンジョンの侵食だった。

 機神から慌ただしく侵食用の杭をサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が運んでいく……。

 仮にも天使の造型だからか神秘的な光景になっている。

 

 5層なら二、三日で終わるだろうな。

 ほっといてガチャでも回そう。

 

 SR・UFO

 

 出現したのはUFOだった。

 1メートルほどの銀色の円盤で、円盤の内側に一人乗りの座席がついている。

 屋根に当たるものはついていないため、操縦席がむき出しでこれは乗って安全な乗り物なのかと疑念を抱く。

 

 屋根があればアダムスキー型のUFOに似ているだろう、と感じる。

 突起部分がスパッと切り取られたような形状である。

 椅子の背もたれだけがその断面から顔を出している。

 

 とりあえず試してみるか、と操縦席を覗き込んで見る。

 そこにあったのは、ベルト付きの椅子、ハンドルらしき二本の棒、差し込まれたままの鍵、あとペダル

 たったそれだけだ。

 

 うん!?

 こんな、こんな簡素な操縦系でUFOを飛ばせると思っているのか。

 車だってそれ用に最適化された操作系である挙動の切り替えのためのレバーと方向の変更のためのハンドルで構成されているのだ。

 こんな、大昔のロボットアニメの操縦桿みたいなハンドルでUFOを飛ばせるか!

 

 飛ぶ乗り物に乗って実験するのは危険なので、もともと空を飛べるサメ妖精のシャチくんに操縦のテストを頼んだ。

 なんの操作を基準にしたのか不明だが浮かび上がるUFO。

 そして、突如物理法則を無視したジグザク飛行をし始める。

 加速、急停止。

 その操縦系からは想像できないほどキレのある動き。

 

 なんなんだよもう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。あのあと私も乗ってみたのだが、その操縦系に反して……というか、レバーに触れることなく操作できてしまった。

 操作できてしまったために、逆になんてあるのかわからなくなった操縦レバー。

 操作性自体は非常に良好なのだが……。

 

 UFOで空を飛ぶことは気持ちよかった。

 慣性から完全に解き放たれたUFOは新幹線よりも静かに加速するが、最高速まで一瞬で到達する矛盾じみた動きをする。

 まあそのたびに風圧に晒されるが、それもまた心地いいと言っていいだろう。

 

 が、兄は操縦レバーを見て、すぐさまそれを引き抜いたのだ。

 USBメモリでも引き抜くかのようにあっさりと抜けたレバーを握りしめた兄は。

 UFOに乗らずにそれを操作し始めた。

 

 人も乗せずに飛び回るUFO。

 人というそれを既知に仕立てる要素が失われた結果、怪円盤が飛んでいるようにしか見えなくなる。

 というかなまじ操縦席のようなものが見えているだけに異常な動作をしているように見えるのだ。

 

 あのー、お兄様?

 乗って楽しまないんですか?

 ああっ、カメラは、カメラはおやめください!



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R ロストレポート

 レポート。実験や観察などの記録を集め、報告を行うために必要な形式にまとめた書面のことだ。

 総じて、他人に読ませる必要があるため、形式を整える必要があり、その能力には人によって差がある。

 だから常に人が読めるものが出来上がるとは限らない。

 まして先鋭化した分野でのレポートとなれば、その分野を学んでいる人間でも読めない代物が出来上がる場合もあるだろう。

 読みやすい文章とはかくも難しいものである。

 

 今回はそのレポートが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄のダンジョン侵食が完了した。

 一瞬だった。

 わずか5層しか存在せず、ダンジョン侵食などという埒外の攻撃に対して耐性を持たなかったためにわずか1日で陥落したのだ。

 

 そして、兄は侵食したダンジョンから情報を吸い上げにかかる。

 ダンジョンが保有する情報というのは、ダンジョンの名称やこれまでの侵入者、どんなモンスターがいるか、どんな地形を作れるか……などなど。

 フィールドワークでは手に入らない、形而上の情報をダンジョンは保有しており、それは本来ダンジョンコアからしか閲覧できないものだ。

 だが、侵食したダンジョンは侵食した側のダンジョンとなり、その情報もいくらでも盗み見れる。

 重要な情報はあまり読み出せないのだが……。

 

 まあ今回はそういうわけでもなかったようだ。

 ダンジョン名で、欲しかった情報が手に入ったからだ。

 その名称は「北限迷宮・飛び地」。

 つまり……北限迷宮というダンジョンの飛び地だ。

 十中八九、逃げ込んだ先もそこだろう。

 

 そして北限迷宮がある場所はすでにわかっている。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の調査部隊が地形調査の際にいくつかダンジョンを見つけていたからだ。

 それがあるのはガチャレクシアから北に存在する山脈の中。

 

 そこもまた、魔境と呼ばれる危険地帯である。

 あいつら危険な場所に潜り込むのが好きなのか……?

 

 はー、ガチャでも回そ。

 いやこれもろくでもないものが出てくるから頭抱えるけども。

 

 R・ロストレポート

 

 出現したのはクリップで留められた紙束だった。

 数十枚のコピー用紙を束ねたそれは、一番上の紙を表紙としている。

 そしてその表紙に書かれている文面はというと。

 

「平行世界12群・地球における遺失物の調査報告書」

 である。

 

 平行世界12群。

 当然のように平行世界が存在していることを示唆されているような気がする。

 これがどこから取り寄せられたものかはわからないが。

 仮に平行世界があったとして、私のいる世界が平行世界12群かも疑わしいしな。

 

 表紙からしてろくでもない代物であることはもうわかりきっているのだが、とりあえず中身を見てみよう。

 日本だけでも年間400万件近い遺失物(おとしもの)をまとめた資料、怖いような気もするが。

 

「信仰を原材料にした神の鋳造法」

「信仰を原動力とした現実改変手法」

「自我」

 

 私はそっとページを閉じる。

 違うわこれ。

 落とし物をまとめた資料とかそういうやつじゃないわ。

 

 多分世界から失われた概念、法則をまとめた資料だわ。

 

 私の!

 手に!

 余る!

 

 なんだよこれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。機神に資料を読み込ませた兄が、ある1つの概念を再生させた。

 それは「人間の脳に眠る可能性」だ。

 人間の脳は7~8割使われていない……という古い学説で、現代では完全に否定されているものである。

 この学説を下敷きにSF作品で超能力が出てきたりしていたのだが、最近はめっきり見なくなったような気がする。

 流石に古いネタだからだろうか?

 

 どうやって再生させたかはともかく(自室でこっそり魔術儀式組み立ててやがった)。

 それをした結果どうなったかというと。

 

 テレビにサイコキネシスを使う少年が出ていた。

 ちやほやされながら、ボールペンを念力で浮かすパフォーマンスをしている。

 

 ……大惨事だよ!



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R CD

 コンパクトディスク。光ディスクの1つで、レコードの代わりに音楽を記録するために作られたメディアである。

 音楽を記録するために作られたため、一口にCDと言ってもその品質には大きなばらつきがある。

 記録面は通常アルミで作られているのだが、保存性を高めるために金を使うものが存在するほどだ。

 逆に、ポリカーボネートが湿気で分解することを利用して開封から数週間で使い物にならないように作られたものまで存在する。

 

 今回はそのCDが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が北限迷宮で見たのはまるでモンスターのように徘徊する黒ずくめの教団の集団だった。

 なにかの命令に盲目に従うように、まるで軍隊のように規律正しい動きで一定の範囲を巡回し続ける。

 その動きは、キレの差や思考の柔軟さの差はあるが、サメ機人(シャークボーグ)のそれを思い出させる。

 

 隙を見計らって一体捕らえるとそのフードの下に隠れていたのはやはりと言うべきか、人形のようなモンスターだった。

 顔こそ人に似せてあるが、その体は球関節で繋がれている。

 これは人になりすまして街に忍び込むために作られたモンスターだと兄は一目で理解したようである。

 

 そう、このダンジョンは明確に人の街を侵略するつもりでモンスターを送り込んでいる。

 ならばこのダンジョンは破壊しなければならない。

 

 というわけで、兄は総攻撃のための準備を整え始めたわけだ。

 せこせこサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を量産し、機神の能力を確認している。

 

 わたしにやれることはないのでガチャを回そう。

 

 R・CD

 

 出現したのはCDだった。

 表紙の入れられていないプラスチックケースに納められたそれの表面は無地の薄緑色であり、わずかに光沢を持っている。

 見かけは家電量販店でいくらでも買えそうなCDである。

 

 そして裏面を見るとそこには装飾が施されているのがわかる。

 CDの構造上、そこに装飾が入っていると読み込まなくなるはずだが、がっつり絵が透かしの形で入っているのだ。

 それに光にかざして傾けてみると、データがCDいっぱいっぱいに書き込まれているのがわかる。

 CDの裏面の内側、曇った色をした部分にはデータが書き込まれているのだ。

 それがCDの端まで来ている。

 ということはこれにはなにか音楽が入っている、はずである。

 

 というわけで、兄の部屋でホコリを被っていたCDプレーヤーを勝手に持ち出してきた。

 どうせ使っていないのだから問題なかろう。

 

 そう思ってCDプレーヤーを起動してみたのだが、どうも様子がおかしい。

 というか、片方スピーカーが破れているようで音がおかしいのだ。

 動くかどうか確かめただけでこれとは。

 試すぶんには問題ないが、これはこのあと廃棄だな。

 

 私はCDプレーヤーにCDをセットして再生してみた。

 流れ出すクラシック音楽。

 それはまるでオーケストラのコンサートを聞いているような、見事な音質と臨場感を持っているのだ。

 片方スピーカーが壊れていて音がおかしくなるはずだというのに。

 

 え……こわ。

 正常な動きをしていることが異常だなんて。

 それに、このオンボロCDプレーヤーには本来出せないであろう低音まで出ている。

 

 何が何でもこの曲を聴かせるという執念を感じる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄はCDをレコードプレーヤーに乗せて回転させていた。

 レコードプレーヤーから流れるCDに記録されているはずのクラシック。

 しかも数時間流しっぱなしにしていたのだが、さっきから同じ曲が1つも流れてこない。

 数時間流しているのに違う曲が流れ続けているのだ。

 

 CDに記録できる音楽の長さは74分。

 規格の関係でそれ以上は記録できない。

 だから、どこかでループして同じ曲が流れるはずなのだ。

 

 ……まあレコードプレーヤーに乗せられて音楽を奏でてるCDの時点で語るだけの価値はないか!



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R 隕鉄の鎧

 隕鉄。いわゆる隕石に含まれている金属のことで、地球上では生成できない成分を含んでいることが多い。

 隕石に含まれているため、地表にまで落ちてくる過程でかなり小さく摩耗しているのが常で、武器に利用されている例は少ない。

 そのため存在している実例はどれも美術品として非常に高い値段が付けられているのだ。

 隕石の大きさ、それを加工できる技術なども相まって値段が凄まじいことになるわけだ。

 そして……隕鉄で作られた拳銃は億単位の値段がついている。

 

 今回はその隕鉄でできた鎧が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)軍団を投入した北限迷宮は地獄絵図だった。

 地面が3で、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が7とかいう過剰密度でもってダンジョンを埋め尽くし、モンスターを出会い頭に武器と拳で吹き飛ばしていく。

 たまに反撃を食らうが、食らったサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)はキャスリングとかいう機神の能力で無傷のサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)と入れ替えられ、戦線自体を無傷の状態に保つ。

 トラップは踏み抜こうがサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)には大したダメージにならず、致命傷を与えるようなものもキャスリングでなかったことにする。

 

 蹂躙だ。

 兄と機神が最も得意とする戦術……いや戦術と呼べるレベルではない。

 ただ大量の数で押しているだけなのだから。

 だがこの異常なほどのレベルを持つ機神ならそれを可能にしてしまう。

 

 出来るならやるのが最適解。

 兄はそういうものを躊躇しない。

 結果地獄絵図が展開されるわけだ。

 ひどい話である。

 

 攻略もそのうち終わるだろうし、先にガチャを回しておこう。

 

 R・隕鉄の鎧

 

 出現したのは鎧だった。

 胴体と肩を覆うように金属のプレートで守られた作りの鎧である。

 削り出し特有の、引っかき傷にも似た表面の模様とその向こう側に透けて見える格子状の金属光沢。

 複数種類の金属が溶け合ってできた独特のムラが地球上では生成不可能な構造を生み出している。

 

 ……。

 いやいやいやいや。

 ありえないでしょこれ。

 

 この鎧の肩当てだけ見ても、単一の金属を削り出して作られていることがわかる。

 わかるのが問題なのだ。

 隕鉄というのは非常に貴重な素材で、でかいモノを手に入れるのはほぼ不可能。

 この肩当てのサイズが削り出せる隕鉄なんぞ、博物館に展示されていてもおかしくないほどの大きさになる。

 いわんや、この胸当てになっているプレートはもう……地球上で本当に手に入る大きさなのかすらわからん。

 隕鉄ってのは基本不純物まみれで、石が混ざっているものなのだ。

 鉱石のように避けて取り出せるが、その避けた結果の隕鉄からこれだけきれいなプレートを削り出せるか、というと……。

 

 いや、作ろうと思えば作れなくはない、のか?

 博物館に収蔵されているような、歴史に残るほどの隕石を加工すれば作れなくもない、か。

 でかいものは本当にでかいからな。

 

 ……ってことはこれ実質国宝級の代物じゃん!

 こ、困る!

 そんな代物、管理しきれない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が隕鉄の鎧を分解して、肩当てだけで実験したところ……。

 異常なほどの魔法耐性があることがわかった。

 投げつけた魔法が触れることすらできずに消滅するほど強力な魔法耐性が生じているようなのだ。

 

 確かに、隕鉄から加工された刀は霊的な力を持つものとして献上されていたりする。

 それを踏まえればありえなくもないが。

 

 なおのこと使えないよこれ!

 ものとしての価値が証明されてしまうと余計使えないよ!



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R 肉肉しい苗木

 木とはなにかをならせるものである。

 果実や花、あるいは葉……。

 木という存在が存続するため空に向かってその枝を広げその先に種の生存に必要なものをならせるのだ。

 その中でも人は食用が可能なものをならせる木を選んで育ててきた。

 多くの果物はそうして作られたものである。

 より美味しいものをならせるため交配させ、大切に育て……それを繰り返してきた結果である。

 

 今回は肉がなる木の苗木が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北限迷宮の5層にはかつての発掘ダンジョンと同じようにボスと呼べるモンスターが存在していた。

 骨を削り出した部品で作られたドラゴンだ。

 その竜種とも球関節人形ともとれるが、そのどちらもでもないモンスターがそれ以上の進行を阻む。

 

 兄が言うには、ダンジョンにはその場所から動かせなくなる代わりに、強力なモンスターを召喚する手段があるという。

 その手段で呼び出されたモンスターは制約に見合うだけの特殊な能力を持ち合わせている。

 配下のモンスターを強化する能力であったり、多段変化する能力であったり、擬似的な不死であったり。

 

 配置されたドラゴンが持つのは周囲の材料を利用しての欠損修復能力だ。

 しかもこの周囲の材料というのは、生きているものすら対象とする。

 つまり……サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)も取り込まれてしまう。

 よりにもよって極上の素材として。

 取り込まれたら取り込まれただけパワーアップして襲いかかってくる。

 

 それに対して兄はどうしたかというと。

 吸収されない程度に距離をとってひたすら魔法を撃ち込み続けた。

 ダンジョンの壁や床が吸収できなくなるまで消費させ、モンスターの核を露出。

 それを魔法の狙撃によって破壊したのだ。

 

 対策が早い。

 前衛だったサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が全部材料として取り込まれてすぐそれに気がつくのはこう……どういう発想だ。

 そう聞いてみると別のギミックがあるならまたその時に対処するつもりだった、と兄は答えた。

 

 結局のところ、数で圧殺できそうならする、いつもの兄だった。

 

 まあ見ていても仕方ないし、ガチャを回してしまおう。

 

 R・肉肉しい苗木

 

 出現したのは肉だった。

 脈打つ剥ぎ出しの肉、と形容するのが正しいだろう。

 なんとなく苗木に似た形をしているが、皮を剥がれた肉が表面を覆っている以上、これは肉だろう。

 なんの肉かはわからないが。

 

 で……これはなんだって?

 肉肉しい苗木?

 これを苗木だと呼ぶのか?

 この枝の形になっているだけの肉塊を?

 

 ……まあガチャがそう言っているのならそうなのだろう。

 用途が間違っていても、そのものの名称が間違っていたことは……なかったはずだ。

 用途がバグっているだけで、名称自体は間違えない。

 

 なので私は……余っている木材とボンドでプランターを作り、それに苗木を突き刺した。

 盛られた土から飛び出す肉塊にしか見えない。

 こころなしか震えているように見えるのが余計ひどい。

 

 うわー……育っても育たなくても嫌すぎる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。苗木は2メートル程度まで成長した。

 その肉肉しい見た目はそのままに、肉の葉をつけ、内臓のような花を咲かせているのだ。

 グロい。

 あまりにもグロい。

 それだけで済めば良いのだが。

 

 なにか果実のようなものをつけているのだ。

 脂肪のような皮を纏っており、白い部分と赤い部分が入り混じっている。

 どことなく霜降り肉に見えるのがろくでもない。

 

 まあ兄は全く気にせずそれを収穫したのだが。

 2つに割ってみると中身はまるで内臓。

 分厚い肉に包まれて、内蔵のミニチュアみたいなものが入っている。

 

 兄はそれを躊躇なく焼いて、実験用(モルモット代わり)のサメもどきに食わせていた。

 せめて……せめてそんな得体のしれない肉を食わせるのを躊躇して……。



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R 使い捨てマスク(10枚入り)

 マスク。昨今の事情を鑑みるにたくさん利用されているアレだ。

 ウイルスを通さないように複数種類の繊維を重ね合わせて作られている使い捨てマスクは、衛生面の問題で使いまわしが推奨されない。

 人の呼気には雑菌が大量についており……マスクは当然それをモロに受ける。

 それを放置するということは、雑菌を繁殖させるのと同義である。

 いわんや、使い回しなど……。

 

 今回はそのマスク……多分このマスクが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が倒したボスモンスターの遺骸を回収してキャッキャウフフしていた。

 いやテンションが上がっていて気持ち悪いことになっていた。

 

 周囲の材料を取り込んで自己改造する能力を持ったモンスターの遺骸を材料に、その能力を組み込んだサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を作成する。

 これによってサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の能力はまた一段階進歩するといえる。

 

 つまり何が言いたいかと言うと……複数のサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を取り込んで、次の段階に進化する可能性を持ったサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が製作可能になったのだ。

 それは全身を面白おかしく組み替えながら取り込んだサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の能力を1つに束ねていくだろう。

 

 うーん、このろくでもなさ。

 兄の好物なのだからまあ、ああも気持ち悪い状況にもなるだろう。

 どうしようかな。

 ほっとこ。

 

 というわけでガチャを回すことにする。

 

 R・使い捨てマスク(10枚入り)

 

 出現したのは使い捨てマスクの箱だった。

 いわゆるボール紙でできたあの箱である。

 そこに質の悪いフォントで使い捨てマスクと書かれている。

 

 ……のは良いのだが、箱の形がスクエア……真四角に近いのはなぜだろう。

 普通マスクの箱はそのマスクの形状に合わせて横長になっているものだと思うのだが。

 いや、立体マスクの箱は真四角に近いか?

 なんにせよ、箱にはマスクの絵も描かれていない以上中身を知ることはできない。

 

 一片の胡散臭さを感じながらも箱を開けてみることにする。

 そこに入っていたのは、目の部分だけくり抜かれた全頭マスクだった。

 

 マスク違いじゃねーか!

 いや、素材は使い捨てマスクのモノに近い。

 というかウレタンのマスクのようにすら見える。

 折りたたんでいるものを広げることで顔に合わせるのではなく、立体縫製でピッタリ合うように作られているようだ。

 

 取り出してみてみると、耳掛け式のマスクのようである。

 額まで覆えることを除けば。

 

 うーん、困る。

 とりあえず付けてみることでしか効果がわからないが、身につけたところでなにか目に見えてわかる効果を持っているような気がしない。

 

 兄に……兄に試させるか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄の顔にマスクをかぶせると、そこには金髪碧眼の美女の顔があった。

 兄のガタイの良い体に美女の顔がついていて非常に気持ち悪いことになっている。

 しかも表情が変わらない。

 喋っても口が動かない。

 そのせいで余計作り物感が凄まじい。

 

 というかなんで顔だけ変わるんだ……。

 名称は使い捨てマスクだというのに……。

 

 ……ハッ!

 もしかして、使い捨ての(マスク)!?

 なにその、犯罪者御用達な代物!?

 

 それにしたってこんな……こんな……。

 ちぐはぐな顔にしなくてもいいだろ!

 犯罪用だとしても不便すぎるわ!



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R ロボットのプラモデル

 ロボットのプラモデル。いわゆるアレである。

 長期にロボットものの作品を抱え続けて、それのプラモデルを出し続けた結果、プラモデルといえばそのロボットもののプラモデルだと認識されるまでになったものである。

 特に初心者でも簡単に組み立てられるように技術力を使っており、プラスチックのランナーが存在する以上ニッパーが本来必要なのだが、それが不要なモデルまで存在するほどだ。

 最近はオリジナルの機体を作る流行に乗ってか、プラモデル同士を戦わせるアニメも放送しているほどだ。

 

 今回はそのプラモデルが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガチャレクシアで大変なことになっていた。

 どこに潜んでいたのか、黒ずくめの教団がわらわらと湧いてきて破壊活動をし始めたのだ。

 その行動は無秩序であり、暴れて混乱を巻き起こす事自体が目的のように見える。

 しかもその黒ずくめの教団がフライングシャークガチャを呼び出すせいで数がものすごいことになっているのだ。

 

 それによって建物が破壊されていく、が。

 対抗しているのは街にいた冒険者や騎士団だ。

 兄が安価でばらまいた魔導書のおかげで継戦能力が大幅に強化されているからか、敵の数をものともせず一掃していく。

 

 それにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が独自判断で行動したのかフライングシャークガチャに狙撃を食らわせている。

 前回の戦闘で学習していたのか、数の暴力の恐ろしさを理解しているのか。

 どちらにせよ、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に比べれば人間は弱い。

 多少強かろうが数で押し込まれれば負傷するし、その負傷が元で動きが鈍り、それが原因で殺されることになるだろう。

 

 その点、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)にその弱点はない。

 そもそも理不尽なほど強いし、数で押し込まれようがそれ以上の数で圧殺する。

 やられようが機神のバックアップで元気な個体に入れ替われる。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)と冒険者と騎士団が各々各地で対処した結果、黒ずくめの反乱に対処する事はできた。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が対処した周辺だけ更地になっているような気がするが気のせいだろう。

 別に自爆した個体がいたわけじゃないんだからね!

 

 さーてガチャでも回そう。

 

 R・ロボットのプラモデル

 

 おおう。

 リアルでグレードな初代ロボットのプラモデルが出てきたぞ?

 厚みのある箱に鮮やかなイラストが載っている。

 それに横に作例が載せられているがどれもバチッとポーズが決まっている。

 初心者はそもそも関節の動かし方がわからないからここまで決まらないんだが。

 

 まあ、プラモデルなんだからとりあえず組み立ててみるか。

 ニッパーは……兄の道具箱から拝借。

 小物用と思しきニッパーを確保した。

 あと接着剤もあったから勝手に持ってきた。

 これだけ道具があればいいだろう。

 

 そうやって意気揚々と箱を開けてみたら、だ。

 箱からランナーが飛び出てきて机の上にぶちまけられた。

 きっちきちに入っていたとかそういうわけではなく、ひとりでに飛び出したのだ。

 

 しかもそれは勝手にランナーから分離して、パーツを組み合わせていく。

 小さな生き物が跳ねるような速度ではあるが、ほとんどすべてのパーツが同時にそれを行っているのだからものすごいペースで組み上がっていく。

 

 最後に頭がくっついて、完成した。

 私は何も手を出していない。

 えっ。

 えっ?

 

 そのプラモは銃を持ってポーズを取った。

 最終回の印象的なポーズを。

 

 えっ?

 

 いやまあ……こう……。

 プラモデルって作って楽しむものだろ!

 なんで勝手に組み上がってるんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。特に動かなくなったので兄が部屋の本棚に飾るようになった。

 私の部屋の本棚に。

 

 こ、こいつ……。

 飾るなら自分の部屋に飾れよ!

 なんでだよ!

 私は別にこれいらねーよ!



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R うにの木

 うに。海でとれるトゲトゲした生き物だ。

 中にはトゲに毒を持っている種類もいる。

 食べ物としてはそのトゲの殻の中にある内臓を加工して食べるのが一般的である。

 

 今回はうにの木が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北限迷宮捜索は代わり映えもしない状況だ。

 5層までの北限迷宮の光景とたいして変わらない景色が続いている。

 つまり、びっしりサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)がダンジョンの地形を埋め尽くし、兄の都合で根こそぎ破壊し続けている。

 

 時々、人形を生産する部屋と修理する部屋が存在し、そこには黒ずくめの教団の衣装や人に擬態するためのマスクなどがちらほらと見つかる。

 ダンジョンの機能で生産したのだろう、どれもピタリと同じ形状をしている。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の目で見ても全く同じものだと認識されている。

 縫製の細かさや折り返しの長さなどが全く同じなのである。

 

 人形の生産装置も雑においただけで導線もなにもあったものではなく、人の出入りというものを全く考えていない。

 ダンジョンの機能を使って生産された人形を移動させているようである。

 生産装置が邪魔で入れない部屋とか普通にあったから、多分正しい。

 

 そしてそういう装置や衣装をどんどん盗んで機神のダンジョンに転送する兄。

 敵対者だとほんとこういう嫌がらせめいた動きを躊躇しなくなる。

 

 まあここまで来るのに階層を更地にしてきてるから今更か。

 

 北限迷宮のことがだんだんどうでも良くなってきたな。

 次に見たときにはボスとの遭遇かな。

 ガチャでも回そ。

 

 R・うにの木

 

 出現したのは鉢植えだった。

 それもめちゃくちゃでかい鉢に10メートルぐらいある木が植わっているのだ。

 普通ヤシの木とかを鉢植えするのに使われるサイズのものである。

 

 なんの種類かはわからないが、全体のシルエットはヤシの木に似ている。

 だが樹皮の表面や葉の付き方など、あらゆる点がヤシの木ではない。

 というかそんな形の木、あるか?

 と言いたくなる木である。

 あまりにも自分の周囲に無く見たことのない種類の木なのだ。

 多分異世界のものだと思う。

 

 で……これがまたヤシの木のような形で、枝の根元に栗のイガのようなものがなっているのだ。

 

 ……。

 いがぐり。

 まさかこの栗のことを指して、うにと言ってるんじゃなかろうなこの景品は。

 

 ガチャのことだから全く否定できないのが苦しい。

 なんならいがぐりの中から本当にウニが出てきてもおかしくない。

 

 そう思って私は木を軽く揺らす。

 落ちてきたいがぐりを靴で踏んで中身を開くのだ。

 開いた中身に入っていたのは普通の栗……に見えるもの。

 

 い、いや、まさか、そんな。

 これで終わるとは私には……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄に焼いて食わせた。

 サメもどきによる毒味もすでに終わらせてある。

 兄は味わうように焼き栗を平らげた。

 

 で、味はというと。

 生うに、だそうだ。

 焼いたのに!?

 

 そして兄は実験と称して、焼き栗に醤油をぶっかけた。

 その結果、味がプリンに変わった。

 

 は?

 そうはならんやろ!



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SSR 邪神殺しの聖剣

 聖剣。様々な神話や英雄譚で語られる、神やそれに類するものから与えられる超常の力を秘めた剣のことである。

 魔剣と異なり、使い手を自ら選び取る性質を持っていることが多く、それ故その剣を手に入れたものは大きな運命のうねりに飲み込まれる。

 引き抜いたために王となる定めを背負い、そして最後には国を滅ぼすしかなかったアーサー王が最近だと一番思い浮かべやすい聖剣の担い手だろう。

 

 今回はその聖剣が出てきた話だ。

 よりにもよって、タイミングよく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北限迷宮最深部にたどり着いたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)達と、その目を借りている兄が見たのは邪神だった。

 おぞましい色彩でその全身をテカらせ、張り付いた肉片によって周囲の建材と一体化している。

 クトゥルフ系の邪神をよりめちゃくちゃにミキサーしたような見た目だ。

 それだけでなく、無秩序に生えた瞳は、目を合わせるだけで致命的な影響を及ぼすらしく、全身機械仕掛けのサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が吐き気とバランス感覚の喪失に襲われている。

 存在しない感覚を想起させるのはそれだけで異常だと言っていい。

 

 手や足といった、動作に使用するような感覚器を持ち合わせていないようで、ただ脈動するだけの肉塊のように見えるが、その肉塊がこれまで見てきたモンスターと融合しているため、不用意に近づけば取り込まれその肉体の一部とされるだろう。

 それも、同化してその能力の一部に混ぜられる。

 そう、あの肉塊は学習しているのだ。

 周囲のものと同化することによって。

 

 精神攻撃をなんとか乗り越えたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)によって遠距離から魔法を浴びせ続けているのだが、全く効いているようには見えない。

 それどころか、動けないように見える肉塊を器用に変形させ、取り込んだモンスターを自分の体かのように器用に操って反撃してくるのだ。

 

 あまりの攻撃の効かなさっぷりに兄はなにか概念的な防御能力でも持っているのではないかと疑っている。

 ガチャの景品にたまにある、完全破壊耐性のような。

 

 もしそうなら……サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)では勝てない。

 持ち合わせているのは魔法と物理攻撃だけだ。

 概念的な異能は無い。

 

 千日手になっている兄を横目に……私はガチャのカプセルを開封する。

 1時間ぐらいずっと状況が変わらないから飽きてきたんだよね。

 

 SSR・邪神殺しの聖剣

 

 ……はい。

 青い透き通った宝石を磨き上げて剣に仕立て上げたような、美しい剣が出てきた。

 刃渡りは90センチほどで幅が広い。

 片手で振り回すにはでかすぎる剣である。

 

 それにこの青い刀身は不思議な光を内に秘めている。

 温かいような、それでいて心が安らぐような、そんなゆらめきのような光だ。

 心なしか、体力が回復しているような気もする。

 ゆっくりとだが元気になっていく感じがするのだ。

 

 そして、そんな美しくも優しい印象を受けるこの剣には、“邪神殺し”なるやたら物騒な名前がついている。

 もうなんというか。

 使い方がわかったような気がする。

 

 私はそっと兄に邪神殺しの聖剣を手渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 邪神殺しの聖剣を持ったサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を機神の能力で戦線に送りつけた瞬間、戦況は一変した。

 剣に宿るあのゆらめきのような光が邪神の弱点らしく、剣を掲げるだけで邪神に対して魔法が通り始めたのだ。

 それでもなおアホほど硬いのだが、聖剣で斬りつけるたびにその耐性もどんどん失われていく。

 

 肉塊を切り飛ばしても、肉片も生きたままなので切断したところで効果は薄い。

 だが聖剣は断面から邪神を消滅させていくためかなりのダメージになっているように見える。

 

 あの聖剣、芸術品のような見た目のくせにえげつない性能してるな……。

 明らかに振るうたびにその力を増して、斬撃に青白い炎まで載せるようになっている。

 

 邪神も負けじと、肉片をかき集めて変形し、街で見たあの怪物に似た姿にへと変身するのだが。

 小さくまとまってしまったせいで、聖剣による上段斬りで真っ二つになってしまった。

 

 死体も青白い炎に包まれて燃えていく。

 その光景は幻想的ではある。

 凄惨な暴力が振るわれたあとだということと燃えているのは邪神の死体だということを除けば。

 

 ただ今回。

 ガチャからあまりにも都合よくこんなものが出てきたことが一番怖い。

 ガチャがあるのは私の部屋でなにからそれを知ったのか。

 そもそもガチャを引いたのは邪神に遭遇する前である。

 

 やっぱりあのガチャ、得体が知れない……。



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R 絵本

 絵本。子供に読み聞かせるために、大きな絵の見やすい本のことである。

 視覚的に子供の意識を誘導するため本の紙面いっぱいいっぱいに絵が入れられていることが多い。

 仕掛けの施された絵本も存在し、開くと絵が飛び出すモノや布でできているモノなど様々なものが存在する。

 

 今回は絵本が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの邪神がダンジョンの主だったようで、死亡と同時にダンジョンはその機能を停止した。

 まるで死んだ生き物のようになったダンジョンはあらゆる鍵やセキュリティが沈黙している。

 それは機神のダンジョンによる侵食を簡単に受けてしまうということだ。

 

 兄はダンジョンが持つ情報を抜き出すために、侵食用の資材を大量に持ち込ませている。

 もとよりそのすべてを奪い尽くすためにダンジョンに潜っているのだから持ってきていないほうが変だと言えよう。

 

 そうやってダンジョンそのものを支配すると、このダンジョンが何をしようとしていたかがわかってくる。

 それは……邪神召喚。

 あの肉塊は邪神の端末、分け御霊のようなもので、虚空の向こう側にある本体を呼び出そうとしていたのだ。

 

 うーんやばい。

 本体が出てきてたらワンチャン地球にも影響があったとか兄が言っている。

 しかもガチャレクシアに出てきたモンスターは召喚用のコストとして町の人間の命をかき集めるためのモンスターだったようである。

 作るのが手間なようで、ダンジョンから直接生産できない。

 

 これであの邪神のことは終わりであればいいが……。

 

 あまりあの気持ち悪い肉塊のことを考えていると吐き気がしそうなので、ガチャを回そう。

 

 R・絵本

 

 出現したのは絵本だった。

 真四角に近い形状の本で、表紙には厚紙が入っている。

 なにより、一番困るのは表紙に描かれているのがサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)だということだ。

 

 タイトルが「聖剣の勇者と邪神の眷属」。

 うわーろくでもない。

 パラパラとめくってみるが、どうもガチャレクシアに来てからのサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の働きが、伝承風にアレンジされてまとめ直されている。

 

 神の命を受けてガチャレクシアを調査しにきた事になっているサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に始まり、孤高の竜に出会って話をしたこと、突如として現れた邪神の眷属を街の人々と協力して打ち倒したこと、そして単身乗り込んで邪神の端末と相対し、苦戦を強いられたこと。

 そして、ハイライトとして神から聖剣を授けられたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が邪神の端末を屠るシーン。

 

 うーん、脚色がひどい。

 流石になかったことは書かれていないが、あったことが思いっきり盛られていることと、兄と私が神扱いされていることがひどすぎる。

 もうちょっとこう、どうにかならなかったのか?

 

 まあ、主人公が混ざりものとはいえ天使なせいだとは思うが。

 天使の上司は神だ。

 必然的に、天使を従える私達は神扱いされる。

 

 がああああ!

 存在自体が黒歴史になりそうな絵本で身悶えしそうになる。

 イラストは……めちゃくちゃいいというのに……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が排出された絵本を読みながら爆笑していた。

 その脚色っぷりが兄の琴線に触れたのだろう。

 こういう、一見まともに見えるたちの悪いものも兄の好物である。

 読み解くことによってその正体を暴き出すのが楽しい、とのこと。

 

 しかし、今回は平行世界や異世界のどこにも存在しなさそうなものが出てきたな。

 これまではそういう、どこかの世界のものを複製しているのだろうという独特な質感があったのだが。

 今回の絵本は金払ったら日本でも作れそうである。

 

 それだけに内容が……。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を使ってやったことが記録されていることに一抹の不安を覚える。

 ガチャ……お前、どこからその情報を……。



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R 手帳

 手帳。主に予定やスケジュール、メモ書きなどを行う持ち歩き用のノートのことである。

 いろいろな機能を盛り込んだシステム手帳というものも存在する。

 基本的には立ったまま手帳とペンだけで文字が書けることが望ましい。

 いつでもどこでも机のような安定した台座が存在するわけではないし、筆記しておく必要がある時に机となるものがあるとは限らないからだ。

 

 今回はその手帳が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 北限迷宮で得られる珍しいものがないかと兄は戦利品漁りをしている。

 ダンジョンごとにその固有の要素がアイテムやモンスターや階層などにばらまかれ、それが形になって現れることがあるのだ。

 兄の機神はそういうものの極致であるといえる。

 機械仕掛けによって完全に繋がった、群れにして個。

 

 邪神の端末がダンジョンの主をしていたのだから、それに特化したなにかがあるはずなのだ。

 兄はそう言って最深部を漁っている。

 

 仮に何か見つけたとしても、邪神由来のモノなんて大体ろくでもないと思うのだが。

 あの肉塊が少しでも残っているとか考えると気持ち悪いしな。

 

 結局兄はダンジョンのコアを奪ったにとどまった。

 ろくなものが見つからなかったためである。

 あるものはほとんど肉塊に取り込まれて、邪神復活のためのリソースにされていたようだ。

 

 がっかりしている兄を尻目に、私は回しておいたカプセルを開封する。

 

 R・手帳

 

 出現したのは手帳だった。

 カバーに革が使われているかなり本格的なやつである。

 黒い革が丁寧に張られ、歪みなく装丁されている。

 

 で……手帳、か。

 その中身をパラパラとめくってみるが、スケジュールのようなものが書き込まれているわけでもなく完全に無地のページが続いている。

 手帳としての機能も、そうやって文字を書き込めるだけのようである。

 なんならあの栞代わりにする紐すらない。

 ペンを留めておく輪っかもない。

 

 と、いうことは。

 ページになにかを書き込めば効果を発揮するタイプ……だろうか。

 明後日の方向でページを破るとなにか効果が、とかもありそうではあるが。

 

 とりあえず試してみよう。

 そう思ってボールペンを手に取り、サラサラと書き込んでみる。

 「まりも」と。

 

 いや、深い意味はないんだ。

 たまたま頭に浮かんだのがまりもだったんだ。

 

 書き込んだページが急に膨らみだし、パン、と軽い音を立てながら破裂した。

 それと同時に、ページが破裂した場所にまりもが出現した。

 それは水気を含んだまま、地面にべちゃと落ちる。

 

 ……。

 まりも。

 そっかー。

 書いたものが出現する手帳、か。

 

 なんか普通に異能ものっぽいアイテムが……。

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が色々出そうと試していた。

 結果、手帳のページよりも大きいものは出せないことが判明した。

 手帳の大きさよりも小さくても、高さが手帳よりも高いと出せないということもわかった。

 また、生き物は死体でしか出せないようである。

 

 そこまで理解して……兄はカステラを半ダースで生成したのだ。

 生成限界の大きさのカステラを、である。

 

 なお、カステラの味はインク味だった。

 つ、使えねえ……。



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R ギガグランドピアノ

 グランドピアノ。ボディと呼ばれる、弦が張られ音を反響させる部分が地面に平行になるように作られたピアノのことである。

 ボディに取れる空間が大きければ大きいほど、長い弦を張ることができ、そのほうが音の響きが優れている。

 そのため、グランドピアノは弦を長く張ることができるように地面に平行になるように制作されるのだ。

 その分場所を取ってしまうので専門的なホールでしか置くことができない。

 より小さいサイズで製作することも出来るが、それは音色が貧弱になるのと引き換えである。

 

 今回はそのグランドピアノが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう見るべきものもないと、北限迷宮からさっさとサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を兄は撤収させた。

 そのままダンジョン攻略中に調べていた大陸の地形図のチェックに移ったのだ。

 

 宇宙にへと上げたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の定点観測によって、新惑星には3つの大陸があることと、一つの大陸に都市がいくつも存在していることが判明している。

 そのうちの1つがガチャレクシアだ。

 他の都市と比べても……二回りほど大きいように見えるのは飼いならされたダンジョンによる恩恵だろう。

 

 また、北極点に近い北部ほど、紫色の奇妙な瘴気に覆われている。

 これがあの竜が言っていた危険地帯なのだろう。

 この瘴気は風の対流にのって広がっているようで、山に阻まれる形で広がりそこねているが、かなり広域を覆っている。

 

 あれ大丈夫なんだろうか。

 なんというか、画面越しにも邪神の端末と同じ気配がするのだ。

 あの長時間見ていると吐き気を催してくる感じが似ている。

 

 あの門番の竜がいたところを見るに、相当昔から広がっているようだが。

 まあ兄も気になっているようだし、兄に任せておけばいいか。

 

 私はガチャを回してしまうことにする。

 

 R・ギガグランドピアノ

 

 出現したのは、超巨大なグランドピアノだった。

 でかい。

 とにかくでかい。

 ぱっと見ただけでも、本体だけで10メートルぐらいありそうだ。

 

 それに、あの蓋もでかい。

 一辺が10メートルぐらいあるピアノなのだから当然だろうが、中に人がすっぽり入れる……というか人が住めそうなぐらいにでかい。

 デカければデカいほど音がいいとは聞くが、こんなにでかくてまともに作れているのか、甚だ疑問である。

 

 一番狂っているのは鍵盤だ。

 まるでオルガンのように、何列も鍵盤が並んでいるのだ。

 互い違いに並べられた鍵盤はそれだけで頭がおかしくなりそうである。

 

 人に弾けるのか?

 腕が4本ぐらいいるんじゃないか?

 ちなみにペダルも10本ぐらいついている。

 そんなに何に使うんだ。

 

 とりあえず弾いてみるか……と、2列目の鍵盤を押してみた。

 それとともに鳴るのは、どう聞いてもピアノのものではない、管楽器のような音。

 もしかして、と思って3列目の鍵盤を押さえると、そこから鳴り響くのはエレキギターのような激しい音だった。

 

 いやいやいや。

 お前は電子ピアノか!

 どこをどう見ても魔改造されたグランドピアノにしか見えないのに、そんな違う楽器の音を立ててどうするんだ!

 しかもデカいことがなにも活かされていない!

 邪魔なだけだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が見事な演奏を披露していた。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を3体並べて、ムッキムキのモンスターがひしめき合っている中、ちまちま鍵盤を押さえさせながら、だ。

 鳴る楽器が違うだけで、弾くとちゃんと音がなるのは変わらないから楽器として使える。

 

 一度兄がさらっと弾いてみせた曲を、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)にアレンジさせながら連弾させているのだ。

 いやさらっと弾けている兄もなんなんだと言いたいところだが、弾けるのはこれ一曲きりらしい。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の演奏は素晴らしいのだが。

 なんでよりによってキャラクターものの音頭なんだろう。

 確かに近所の祭りではいつも流れている曲だが。

 

 なんでこれ一曲だけ兄はピアノで弾けるんだ?



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北限迷宮での回収物

 ダンジョンには必ず、得るべき宝物が存在する。

 それはモンスターの素材であったり、命を落とした冒険者の遺品だったり、隠された財宝だったりする。

 そして、冒険者たちはその利益を求めてダンジョンへ潜るのだ。

 危険には相応しいだけの利益が伴わなければならない。

 

 今回は、ダンジョンから回収してきた遺物を調べる話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 骨の竜の遺骸

 

 中ボスだった竜の残骸だ。

 兄がサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)にその能力を組み込むために持って帰ってきたもの、なのだが……。

 

 なんというか、これ、残骸……というかなんというか。

 恒星のイメージ映像みたいな形をしているのだ。

 

 そのせいで燃える球体を雑に片手に掴んでいるサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)という、わけのわからない状態になっている。

 

 なんでこんな形に……。

 

 

 

 フライングシャークガチャのジュエル

 

 このジュエルは、砕くことによって使用者に従属したフライングシャークガチャを呼び出す宝石だ。

 これを使ってあちこちでテロするつもりだったのだろう。

 際限なくモンスターを呼び出し続けられるフライングシャークガチャは、それだけでだいぶ強力なモンスターだ。

 実際、ものすごい数で継戦能力を削り取ってくるのがエグい。

 胴体に組み込まれたガチャは生命力を使って回しているので、回し続けると死ぬらしいが……。

 

 なお、フライングシャークガチャは野生種である。

 野良であちこちに存在する普遍的な危険生物なのだ。

 

 こんな胡乱な生物があちこちに……。

 

 

 

 人形製造装置

 

 大量にあったので大量にかっぱらってきた、モンスター生産装置だ。

 これで作れるモンスターはストーン・マリオネットというらしい。

 

 このストーン・マリオネット、どう分解して見ても中身が石でできており、生きているようには見えない。

 それに、自発的な行動をしないため、動かしづらいのだ。

 一応命令すれば一定の範囲をうろつかせたり、敵にむかってけしかけたりは出来るようではあるが。

 知能面ではサメもどきにも勝てるか怪しい。

 

 どうやってこれ操ってたんだ……あの邪神……。

 

 

 

 邪神の心臓

 

 うん。

 まあ、やるとは思っていたよ。

 何持ち帰ってきてんだバカ兄ィ!

 

 これはあの邪神の端末の核だ。

 球体に近い肉塊で、筋肉の塊のようにも見える。

 内側には蜘蛛の巣のように肉塊同士が糸のようなもので繋がれているのが見て取れる。

 真っ二つになっているが、切断された状態でなお脈打っているのだ。

 

 というか、真っ二つになってる肉塊を近づけると再生しようとし始めるので離して保存しているのだ。

 これでもダンジョンから見て死んだ判定になっているのに、まだ蘇生しようとするあたり相当生命力が強い。

 

 兄いわく。

 邪神の本体から魔力を吸って、その魔力を使って大陸中の負の想念をかき集め、魔力を増幅している、そうだ。

 本体の魔力をスターターにして、負の想念で駆動する装置のような構造だと言える。

 そこまで原理がわかっている理由は唯一つ。

 

 すでに心臓の半分を部品として魔力を生み出す炉に組み込んだからだ。

 中に入っている心臓が集めてきた魔力を、強制的に吸い上げる構造になっている。

 

 兄は、負の想念を燃料に発電できるなんてすっげぇエコだな! とかものすごいことを言っている。

 実際生み出しているのは魔力なので発電しているわけではないのだが、まあ感覚的に言いたいことはわからなくもないが……。

 

 あまりにも非人道的すぎて、ドン引きだよ!




カクヨムで新作をちょっと書いてます。

皆崎綺譚と奇妙な友人たち 或いは異能を持ったロクでなし達の話
https://kakuyomu.jp/works/16816452219793775782


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UR 無限連結式転移ゲート

 ワープ。それははるか宇宙へと旅立つのに必要な空間制御技術だ。

 原理はいたってシンプルで、空間を折り曲げて短くしてしまうだけだ。

 短くなった空間の上を移動すれば折りたたまれた空間の分だけ、移動に必要な距離が短くなるという寸法だ。

 まあ口で言う分には簡単だが、現実問題としてどうやって空間を曲げれば良いのかという話になってくる。

 現代技術で空間に干渉することは不可能なのだ。

 ただ……空間が歪むという現象は起こりうることだけがわかっている。

 

 今回は、空間が歪んだ話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 UR・無限連結式転移ゲート

 

 出現してしまった……。

 私の視線の先、テラスから見える大陸の端。

 そこに超巨大な……、それこそSFでしか見たことがないサイズの塔が出現していた。

 それは天高く、空の向こう側まで続いている。

 

 すなわち、宇宙エレベーター。

 天の向こう側、重力のくびきを超えて宇宙にへと飛び出す超巨大建造物だ。

 

 幸い、出現位置は崖であり、思いっきり魔物がうろついている危険地帯のため人がいなかった。

 というか海中を起点に出現したようで、大陸の端に掛かっているのは基部の一部である。

 

 見えている基部だけでも竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)の数倍はデカい。

 機神が乗り上げて問題がなさそうなほどだ。

 そしてその周囲には港湾設備としてだろうか、メガフロートが存在している。

 その上に倉庫が立ち並びそれを利用する人々を待っているようだ。

 

 やべえよ……でかすぎるよこれ……。

 出現しただけで地球から観測できるレベルででけえよ……。

 しかもガチャ景品だから当然の如く、瞬間的に出現している。

 新惑星のときの比ではない。

 監視されている中で突然出現したのだから、誰だって超常現象を疑う。

 

 しかも超技術による建造物だ。

 どう考えても興味を惹かれないわけがない。

 ただでさえこちらにある文明に興味津々なのだ。

 

 ……と、そこまで考えて、カプセルの中に残った紙に目を落とした。

 

 無限連結式転移ゲート

 

 ……。

 無限連結式。

 転移ゲート。

 

 無限連結式はまあいい。

 多分使われている技術の名称だろう。

 問題はその後だ。

 

 転移ゲート。

 転移ゲート!?

 この超巨大な建造物は、宇宙エレベーターではなくて転移ゲートだと申すか!?

 

 すなわち、宇宙にまで上がらなければ実現できないタイプの超技術が使われていて、しかもそれは転移ゲートだと。

 ありえねえ……。

 実験室のドアも似たようなもんだが、この宇宙エレベーターには明らかにもっとやばい技術が使われている。

 

 だがそのヤバさがなにかさっぱりわからない。

 私の認識していないところでもっとやばいことが起きているような、そんな気がしてならないのだが、宇宙エレベーターは直立しているだけである。

 

 兄に言ってサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を送り込まないと行けないかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方。夕食を食べているときである。

 静かに味噌汁を啜っていると、そのニュースは始まった。

 

 沖縄本島の沖合に、突如として出現した超巨大建造物の映像が。

 

 私は味噌汁を吹き出しそうになった。

 その超巨大建造物には見覚えがある、というか実験室のドアを抜ければすぐ見える。

 

 無限連結式転移ゲートじゃねーか!

 

 イヤな直感がビンビン反応していたのはこれが原因か。

 見事に対になるように作られているらしく、デザインもそっくりである。

 

 えええええ……。

 しかもバリアのようなものが張られているらしく、近づいた船が見えない力で押しのけられている映像が流れている。

 って、そのバリアも超技術じゃねーか!

 

 案の定、色んな国が声明を出す事態になっている。

 宇宙まで伸びていて、しかも宇宙ステーションのようなものまで備えている突如出現した超巨大建造物、国家として手中に収めたいという気持ちはわからないでもない。

 

 えー……。

 あんな、あるだけで社会をしっちゃかめっちゃかにしそうな代物。

 ガチャから出現したから多分私の所有物扱いになってるはずなんだよな……。

 

 めっちゃ困る……。



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UR 無限連結式転移ゲート その2

 世界は時に一夜にして激変する。

 それは政治の結果だったり、革命であったり、戦争であったり、新たなテクノロジーの誕生であったり。

 あるいは、もっと小さなスケールでもいい。

 劇的な出会いとか、別れとか、急激な体調不良とか、引っ越しとか。

 

 ぐだぐだ言っているが、今回はあの宇宙エレベーターの話だ。

 世界は変わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの無限連結式転移ゲートだが、やはりというかなんというか。

 案の定大きな騒ぎになっている。

 

 新天体とは比にならない。

 新天体はあくまで空の外側、宇宙の出来事でしか無い。

 ベテルギウスが爆発するとかしないとか、そういうものの延長だと言ってしまえる。

 色々面白い出来事が起こっている、と言える程度で、日常に変化が生まれるわけではない。

 

 だがあの宇宙エレベーターは違う。

 ただ存在するだけで脅威なのだ。

 どのような理屈で存在しているのか、出現したのか全く不明な超巨大建造物。

 人間はそんなものが永遠に存在していられるとは想像できない。

 突如現れたものは、突如として壊れるものだ。

 

 簡単に言おう。

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 なにせ宇宙にまで届き、そこで倒れずに直立し続けている巨大な杖のようなものなのだ。

 それが重力に従って振り下ろされるだけで、その下にあるものは簡単に吹き飛ばされるだろう。

 

 そして、そのことを示すように、その塔はどこからでも見えるのだ。

 よく晴れた日ならば、東京からでも空に線が入っているのが見える、とニュースで言っていた。

 しかもその線がしなっているように見える。

 

 その上、あの塔は調査を拒む仕様。

 入ろうにもあのバリアが人を寄せ付けない。

 

 よって世界はアレに対する恐怖と……そして、そこに眠るであろう利益を巡って混沌とした状況になっているのだ。

 

 はーこわ、近寄らんとこ。

 とはならないのがこのガチャの怖いところと、兄の性分。

 調べておかないと、この巨大な塔を知るものがいなくなるのだ。

 

 というわけで、兄からサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)30体を借りて調査チームを作ることにする。

 基本武装は剣と盾、あとは飛行性能を強化したものを用意。

 

 新惑星側の無限連結式転移ゲートに機神を突っ込ませて、バリアを強引に突破する作戦だ。

 いかな強固なセキュリティとはいえ、機神の能力を持ってすれば紙のようなものである。

 突っ込んだ後はサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を突入させて制圧する。

 

 そう思って……というか兄をしばいて機神を突っ込ませたのだが。

 バリアがあると思っていた位置に何の手応えもなく、素通りしたのだ。

 まるで招かれるように。

 

 バリアは周囲の海流にも微妙に影響を及ぼしているのが地球側のニュースでわかっていたので、バリアが切れているということはないのは間違いない。

 ということは、私達……というか多分私がこの宇宙エレベーターに招かれている。

 

 ええー……。

 予想はできていた出来事ではある。

 だが実際に起こると……ちょっとアレだな。

 あれだけ散々地球で人を拒んでおいて、私は招くのそれはそれで考えざるを得ない。

 

 だが、やることは変わらない。

 私はサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に内部の調査を命じた。

 

 

 

 

 

 

 

 はぁーーー。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を突入させたことによって、この超巨大な塔はどうやって重力に逆らっているのか、直に理解させられてしまった。

 

 内部の重力がめちゃくちゃになっているのである。

 いや、建造物として極めて筋の通った入り乱れ方になってはいる。

 入り口からまっすぐ進むと、螺旋状に重力が歪んでいって、塔の内部から外側に向かって重力が働くように重力が変化しているのだ。

 

 簡単に言うと。

 入り口から車をまっすぐ走らせ、直進させ続けると、宇宙の中継センターに到着する。

 塔の内側が道路として整備されているのだ。

 

 重力を歪めているために、重力の影響を受けない宇宙エレベーター。

 強引な存在をもっと強引な方法で成立させている。

 

 宇宙エレベーター基部あたりにセキュリティの制御室があるのを見つけてあるけど、地球側のセキュリティを解放して良いのだろうか?

 いや、地球側まで行かないとセキュリティは切れないが、どうせ中継センターまで上がれば地球側に行けるのだ。

 まだ確認はしてないが、多分行けるだろう。

 

 超技術過ぎて開示して良いのかわかんねえ……。



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UR 無限連結式転移ゲート その3

 宇宙エレベーター。そのメインとなるステーションは地球上でいえば、36000キロメートル上空の静止衛星軌道に位置する。

 このステーションが人類が宇宙に飛び立つための中継点であり、ここを起点に宇宙の開発を行えるようになる。

 しかもロケットの打ち上げでは成し遂げられないほど低コストで、だ。

 つまりこれを押さえた国家が、宇宙開発の覇権を握ることになる。

 

 今回は、頑張ってステーションまで行く話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 基部……新惑星側地上ターミナルを制圧したサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)だが、実はまだステーションまで向かっていない。

 というのも、ステーションまでめちゃくちゃ遠いのだ。

 車で直進出来るように作ってあるとはいえ、その距離36000キロメートル。

 地球を半周するより遠い。

 

 とりあえず前進させているが、あまりにも長い距離と、完全に閉鎖されている状況によって、延々先の見えないトンネルを走り続けているような気分にもなる。

 300キロごとに塔の節として作られたのか急に広くなる部分が存在しているが、何のためにあるのかわからない。

 多分建造の際にできた接続部のようなもののような気はする。

 突如として出現したものに建造の都合が存在するのかというのは不明だが。

 

 そうやって1600キロメートルほど前進していたときだった。

 機神が捉えていたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の座標が、突如として上空16000キロメートルにへと()()()

 慌ててサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)にへと停止命令を出させ、飛んだ地点の調査を行わせる。

 

 その地点はちょうど節目となる側面が見られる。

 だが、それが他の節目と比べても広く、別の技術でできているように見えるのだ。

 膨らみの中程になにか、輪のような部品が見えている。

 

 兄はなにかに気がついたように、その輪を堺に、2体のサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が境を間にして向き合うように配置した。

 手を伸ばせば握り合えるような距離で並べているにも関わらず。

 機神のマップには、1600キロメートルと16000キロメートルに分かれてサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が配置されていることが表示されている。

 

 ……。

 む、無限連結式……。

 そこの輪の部品を境に、空間が歪められて接続されている。

 1600キロメートルと16000キロメートルというやたら中途半端な距離でだ。

 

 ん、ん?

 これもしかして、36000キロメートルまで行っても、ステーション無い可能性があるな。

 なにせ無限連結式だ。

 空間を跳躍してしまうあの輪のパーツが無限に重ねられて、それによって地球と新惑星を直結している可能性だって当然ある。

 

 だとすれば地球側まで行くのはやはり危険……か?

 わからん……どうすれば正解か、わからん……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あった。静止衛星軌道ステーションはあった。

 あのあと、19000キロメートルから3万3000キロメートルへ同じように跳躍し、合計で7600キロメートルの直進で到着できた。

 大体日本列島の2倍の距離である。

 モスクワ鉄道よりも短い。

 

 で、ステーションだが、かなり広い。

 車で移動する必要がある程度には大きい宇宙用コロニーといった感じの場所が広がっていて、重力が逆向きに生じている。

 天井に当たる部分がガラスに近い素材でできているのか透明で、星の地表を見渡すことが出来るようになっているのだ。

 それに円盤状の形状をしていて、それは同じように天井を見ればその形が見て取れる。

 

 で……すでに打ち上げてあるサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の観測では、円盤に複数のソーラーパネルと宇宙開発用の設備が取り付けてあるのが判明しているのだが。

 円盤コロニーの内側から見ると、どう見ても円盤コロニーが4つ、接続されているようにしか見えないのだ。

 

 と、いうことは。

 輪っか状のパーツで接続されていて向こう側に見える円盤コロニーは、他の星にある無限連結式転移ゲートの円盤コロニー、だということか。

 

 ……4つ。

 新惑星と地球のものを省いて考えても、あと2つ。

 よその惑星に無限連結式転移ゲートが存在するってこと、か?

 

 やめてくれよ……。

 新惑星と地球の無限連結式転移ゲートだけでも手一杯だっていうのに、そんな、別惑星の存在を示唆するのはマジでやめてくれよ……。



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UR 無限連結式転移ゲート その4

 手に余るモノを管理する場合、その大きさや概念を切り分けて自らの管理可能な形に変えてしまうのが望ましい。

 特定の手順を守っていればそれが管理できるという状態にするのが理想形である。

 たとえば土地は運用会社に預けることによって、運用会社との契約を気にするだけですむようになる。

 兵器の管理も、整備と保存と使用で権限を分けることによって、それが危険なものだと意識しなくてもすむようになる。

 

 今回は手に余るモノを一元化してしまう話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄がせっせと無限連結式転移ゲートにへとサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を送り込んでいる。

 静止軌道衛星ステーションの調査、管理にとにかく人員が必要であるためだ。

 

 静止軌道衛星ステーションは5つのステーションが転移ゲートによって連結しているため、外部から見た大きさよりもだいぶ広い。

 それに、ステーションから降りて宇宙エレベーターの周囲も調査しなければならない。

 そのため、人員はいくらいても足りないのだ。

 

 ……まあ、だからといって一息に3000体も生産したのは勢いがつきすぎているという気はするが。

 何が起こるかわからないからそれぐらい必要、だということだろうか。

 

 それに、ダンジョンからステーションへとなにかを運び込んでいるような気がする。

 ステーション同士を繋ぐ転移ゲートをいい感じに閉鎖しておかないと、後々問題を起こしそうだから、それを閉じておくための資材……に見えるが、その中にちらちらと見覚えのある物品が混ざっている。

 

 そう、ダンジョン侵食用の柱だ。

 ダンジョンとの情報のやり取りを円滑にし、その周辺を自身のダンジョンにへと組み入れる、侵食を行う資材。

 

 ダンジョンとはいえ、それは建造物である。

 自然の洞窟を整え、古い遺跡を利用し、迷宮を築きあげる。

 今でこそ機神と化しているが、兄のダンジョンは本来そういうものなのだ。

 

 しかもその事に気がついたのは……だいぶ運び込みが終わってからである。

 見えている新惑星の宇宙エレベーターのダンジョン化率、すでに78%。

 なんなら地球側の宇宙エレベーターも静止軌道衛星ステーションがすでにダンジョンとなっている。

 

 手が……手が早い……!

 まあ、ダンジョン化してしまえば内側にあるものはいくらでも好きな地点に転移させられる。

 作業効率を上げるためだと……、と思ったのだが。

 

 兄の目的は違った。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)で宇宙エレベーターを完全に占拠することで、施設を世界に向けて開放すると言ってのけたのだ。

 そこにある以上、周囲の国が干渉してくるのは必定。

 だからこそ、こちらから宇宙エレベーターを開放し、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の国家として体裁を整えることで周辺国から過剰な干渉をされないようにするのだと。

 

 うーん、ストラテジー。

 ダンジョンはその内側で完結する完全環境(アーコロジー)だからこそ取れる強硬策。

 武力をちらつかせてくるならサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)で殲滅してやると言わんばかりの手法である。

 

 確かに開示せずに放置していると世界に無用な混乱を引き起こして、最終的に私の平穏が毟られるような気がしなくもないが。

 開放するのもそれはそれで問題を起こしそうで困る。

 

 とはいえダンジョン化しておけば何かと便利……ぐぬぬぬ。

 

 私は、面倒になって兄にダンジョン化させることだけ許可するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと、新惑星側の宇宙エレベータープラットホームに、機神が接続されていた。

 たくさんのケーブルのようなもので接続され、プラットホームに格納されていたのだ。

 テラスはプラットホームよりも高いため周囲の視界は開けたままだが、宇宙エレベーターの巨大な塔が視界のすぐ目の前に立っているのはだいぶ存在感がすごい。

 

 しかもすでに新惑星側の無限連結式転移ゲートを掌握したそうで、早速開発が進んでいる。

 それらしく、国家に見えるように環境を整えているのだ。

 

 もうどうにでもなーれ。

 



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UR 無限連結式転移ゲート その5

 惑星。恒星の周囲を回る、恒星になるほど質量の大きくない星のことである。

 ついこの間、うっかりガチャを回したことによって太陽系の惑星は増えてしまったが、それでも宇宙に存在する惑星の数に比べれば限りなく誤差に近いと言える。

 ただ、それが地球型惑星……いわゆる生命が住める星となれば話は異なる。

 宇宙にどれだけの生命が住める星が存在するのか。

 地球という星は限りなく奇跡に近いバランスで成り立っているのだ。

 同じような星が生まれている確率は非常に低い。

 現在の観測技術でも、そのような星は1つしか見つけられていないのだ。

 ……いや、新惑星を入れると2つか?

 

 今回は、転移ゲートの先を見に行く話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっという間に、外部から見て国家として成り立っているように見せかけられる程度に環境が整えられた。

 機神の頭脳さまさまである。

 どのような文化が存在し、どのような建築物があって、どんな政治を行っているのかを一夜にしてでっち上げてくれた。

 

 とりあえずステーションと宇宙エレベーターの道路を繋ぐ転移ゲートを塞ぎ、5つの円盤状ステーションを国土として構築された国家は、なんというか……ディストピアっぽい。

 建物が画一的なのが原因だろう。

 白い箱状の建物が几帳面に並べられていて、そこにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が入居している形である。

 

 あと商店も少ないし商売っ気もない。

 まあディストピアっぽく見えても、実際の中身はモンスターハウスである。

 防衛用のモンスターが待機している部屋が複数ある、と考えれば不自然ではない。

 

 で……次の問題だが。

 5つのステーションはそれぞれ5つの惑星に存在している。

 地球、ガチャレクシアのある惑星、その他3つの星。

 地球側のゲートを開通する……しないに関わらず、他の惑星は調査して置かなければならない。

 

 と言っても、ステーションの天井から見える景色はそれぞれ致命的なレベルで異なるので降りたところで何かがわかるかと言われると微妙なところだ。

 

 1つは完全に凍りついた星だ。

 ステーションから外に出たサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の観測によると、視界の端から端まで氷のようなものが地上を覆っているように見える。

 この氷がなんなのかは降りて調べてみないことにはわからないが、生命が住んでいるようには見えない。

 文明の痕跡のようなものすら見えないのだ。

 

 2つ目は極彩色の植物が育ちまくっている星だ。

 もう見える範囲が虹色……というか色んな色に染まりまくっている。

 漫画に出てきた生命力が異常なほど溢れた島、と言われても納得するだろう。

 しかも100メートル級の体を持ったドラゴンに似た生き物がそこかしこに飛んでいるのだ。

 こっちはこっちでさっさと部隊を展開しておかないと、宇宙エレベーターを攻撃されて大変なことになりそうである。

 

 そして……3つ目。

 惑星そのものが機械化された星。

 超文明じゃねーか!

 

 いや、訂正しよう。

 ダイソン球に似た建造物の上に宇宙用エレベーターが出現している。

 六角形のフレームが星を覆っていて、それの上に地上としてモジュールが嵌っているのだ。

 

 ……。

 いやどっちにしろ超文明じゃねーか!

 

 生物のようなものは見られず突如出現した宇宙エレベーターにも無反応であることが逆に怖い。

 夜には地上にある建造物の灯りだと思われる光が星空のように輝いているのが見えてるため、なにかいるのは間違いないはずなのだが。

 

 本当になんで無反応なんだろうか。

 地球でもなにかいろんな国の警察とか軍隊とか、公式非公式問わず寄ってきてはバリアに阻まれて追い返されていたのだが。

 

 ……。

 ろ、ろくな星がねえ……!

 辛うじて自分の常識で計れる氷の星がまだマシな部類ってどういうことだよ。

 この氷の星は惑星の図鑑を見ていれば割とよく見かける部類である。

 氷の成分が異なることが多いが、大体恒星から遠いのを理由にガスが凍りついているだけだからだ。

 

 その他は……もうお手上げである。

 世界観が違いすぎる。

 魔法が上乗せされただけのガチャレクシアはイージーモードだったのだなという気がしてくる。

 

 踏み入れば何もかもが新しい概念に覆われてそうな、極彩色の植物の星と、そもそもどう関わっていいかわからんSFにでも出てきそうな超文明の星。

 どうやって調査すればいいっていうんだこれ……。



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UR 無限連結式転移ゲート その6

 何事にも準備がある。突然物事が起こるということはほとんどありえない。

 多くの災害は気象条件の積み重ねであるし、陰謀は突然生えてきたりしない。

 何かをするには、それを行うのに必要な条件や資材が必要なのだ。

 人を招く準備、立ち入りを禁止しておく用意、情報を予め隠しておく、必要な道具を取り揃えるなど……。

 

 今回は準備を行う回だ。

 氷の惑星で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニュースでは国連が宇宙エレベーターの調査をすると報道していた。

 日本や周辺の国の調査ではにっちもさっちもいかないためにより多くの人員を集めて調べようとしているのだ。

 

 まあ、当然である。

 押さえればそのまま宇宙の覇権を握れる建造物の調査を他国にいつまでもやらせていられるわけがない。

 それ故国際社会が圧力をかけ、調査団が結成されたというわけだ。

 

 兄は思ったよりも遅かったな……と言っていたが、私はもっと遅くても良いと思う。

 複数の国家が入り乱れると、非常に政治が面倒なことになるからな。

 

 兄はサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を調査団にチラ見せさせるなどの奇行を行うことで、宇宙エレベーター開放への予定を進めている。

 それにはまだこなさないといけないことも当然多く、バリアを解除して人を招けるのはいつになることか。

 

 なお他の惑星のうち1つ、凍りついた惑星は全部ダンジョン化した。

 もともと生物が縄張りとしていない土地は一瞬でダンジョンで侵食できるのである。

 森や平地など、生き物がいそうな土地は大体生物がいるのでそれの縄張りに抵触して、少しずつしか進められないのだが。

 あと建造物も時間がかかる。

 

 全く生命のいない未開の地である氷の惑星はその点、ダンジョンが侵食するには手軽だった。

 一瞬で星1つを飲み込んで……そのすべてをダンジョンの一部としてしまった。

 

 ダンジョンが示す氷の主成分は水やメタン、アンモニア。

 いわゆる天王星型惑星の成分である。

 太陽のような恒星が見えるが、やたら遠いせいで地表は冷え切っている。

 具体的にはマイナス200度ぐらいだ。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)も動作が怪しくなるレベルで寒い。

 

 しかも、分厚い氷の下にはメタンが溜まっているらしいのだ。

 地表を機神に取り込ませ分析した結果、びっくりするくらい大量に。

 重力によって内側に引き寄せられ、圧縮されたのかは微妙にわからないところである。

 

 問題は、うかつにダンジョンの機能を使って環境を変動させると大爆発を起こす可能性があることだ。

 環境を整える機能を持つダンジョンであるから可能なことではあるが……うかつに使えなくなってしまった。

 

 まあ兄は臨機応変にメタンプラントを設置したのだが。

 機神が30秒で設計して、配置してくれました。

 本当にとんでもないやつだ。

 

 しかもこれのせいで、地球の国家との取引材料を手に入れてしまった。

 天然ガス資源である。

 シーレーンとか無視して輸入できる燃料である。

 

 よ、よりによって……。

 もろに政治の影響を受けそうな資源を回収できる状態にするとは……。

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば、この氷の惑星。

 アルファ・ケンタウリにあるようである。

 機神のマップ表示がほとんどバグったかのように宇宙全域を表示しているのだが、そのマップの配置図にわかっている星の名前も載っている。

 氷の惑星を拡大して見ると、その氷の惑星が所属する恒星の名前も見えてくるのだが……。

 表示されていたのがケンタウルス座のα星。

 複数の恒星を持つ連星系とされる星である。

 

 また地球型惑星があるとされ、SFでよく話題になる星でもある。

 その中の1つとなると……。

 長期的に見ると非常に面倒なことを起こしそうで頭を抱えそうだ。

 

 よし、忘れよう!

 私と兄が黙っていれば地球の国がこのことを知ることは永遠にないはずだからな!



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UR 無限連結式転移ゲート その7

 人々は利益を求めて争う。感情すらもそのための道具に過ぎない。

 より有利な地位を、より多くの富を、より優位な道徳性を。

 そしてそれらを調整し、可能な限り現実的な形に落とし込むのが政治の仕事である。

 そこには高い論理性が求められるだろう。

 そこには広い知見が求められるだろう。

 そして、その理想の政治家にたどり着けている人間など一人もいないだろう。

 

 今回はついに開放することになった話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえばガチャから出てきた新惑星だが、いつのまにやら俗称がついていた。

 日本だと霧星(きりほし)、海外だとmist planet(霧に包まれた惑星)だ。

 地球から観測すると霧に包まれているように見えるのと、突然現れて情報が霧に包まれていることから来ている名称である。

 

 いや、霧に包まれているように見えるのは、地球と比べると雲が多いからである。

 ぶっちゃけ宇宙から見えれば地球もだいぶ霧に包まれているように見える。

 宇宙のスケールをなめているのか? と言いたくなる名称だ。

 

 正式な名称を誰が決めるのかで揉めているとかそういう話も聞いたが、どうでもいい話である。

 命名するだけでも一大事、権威を握る握らないの騒動はろくでもないだけだ。

 ガチャレクシアで聞いたときはそもそも世界が1つに閉じているという意識がないために名称がなかったしな。

 

 名前の話は置いといて。

 ようやっと宇宙エレベーターの準備が整った。

 準備が整った、というか、人様を招いていい感じに見せられる程度の環境を整えられたというべきか。

 

 まだ静止衛星軌道ステーションまで()()()人間を運ぶ準備が終わっていないが、基礎部を開放できる程度には整ったのだ。

 四六時中カメラでデバガメしようとしている奴らがいるのでそれに気付かれないようにダンジョンの機能で環境を整える作業は……面倒だった。

 いや、やってたのは兄と機神だが、まあ。

 なにかにつけてどんな建物が必要か聞いてくるのでめんどくさかった。

 

 おかげで基礎部にコンビニみたいなものができてしまった。

 コンビニと言うにはいささかデカいが。

 ホームセンターぐらいある。

 

 売っているものはダンジョンの物品だ。

 武器防具は売れないので、炎の力を秘めた鉱石であるとか、水につけると発電する石だったり、エリクサーだったりを並べている。

 しかもダンジョンで生成したものなので不純物が皆無で、無菌状態だ。

 一緒に食べ物も売っている。

 ガチャレクシアにあった食べ物をアレンジしたものばかりである。

 

 ぶっちゃけダンジョンのものを売って金策をするための設備だ。

 いや、私が言ったのは売店みたいな、来た人の日用品のための店のつもりだったのだが。

 

 その他、各種施設を用意して……そのすべてにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を配備した。

 準備は……整った。

 多分。

 きっと。

 なんか問題が起きても兄の責任でしょ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。朝のニュースで、宇宙エレベーターのことをやっていた。

 突如バリアが消え、侵入可能になった宇宙エレベーターへ調査団が乗り込む映像が流れ、その先で調査団が、サメの頭を持ち、機械の体をした天使に遭遇するところまでが収められていた。

 調査団の人々はその姿を見て、明らかに警戒しているものと、宗教的な奇跡にでも直面したかのような驚きを見せているものに分かれていた。

 

 調査団の中には軍人もいたようで、銃を一度は向けるが、隊長と思われる人に下ろすように言われている。

 疎通の指輪の翻訳によると、「アレを撃って倒せると思うか?」と。

 まあムリだな。

 多分ロケットランチャーでも耐える。

 なんなら艦載兵器でも耐えかねない。

 

 また、そんなふうに緊張の走った調査団だが、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が敵対的な行動を取らなかったため、なんとか友好的な雰囲気を作り出せている。

 あとサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が日本語と中国語と英語で語りかけたのが大きかったようだ。

 未知の化け物から、対話可能な知性体にへとクラスチェンジしたわけだ。

 

 そして基部にある迎賓館に調査団は一泊し、今日から調査が始める、とのこと。

 調査というか、交流というか。

 一応調べられたくないところには、踏み入ると真空になって、ついでに固定ダメージが発生する罠を仕掛けてあるし、それを説明するようにも言ってあるから余計な秘密がバレることはなさそうだが。

 

 そう思っていると最後に爆弾が飛んできた。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)たちの国の名称……というか政治制度である。

 

 直接神託制。

 

 すなわち、神の言葉で政治が動かされ、成り立っている。

 

 事実だけど……実質事実だけどォ!

 それ、色んな国に誤解を招くから!



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R 亡国の歴史書

 歴史書。その国がたどった歴史を記した本のことである。

 多くの場合、自らの国が由緒あるものだと残すために書かれるもので、敵国のことは悪辣に書かれていたりする。

 また、その関係で偽物の歴史が残され、後世で混乱をもたらすことも多い。

 そのため、歴史の研究はいろいろな地域に残る歴史の情報を突き合わせる必要があり、大変な作業だと言えよう。

 

 今回は滅んだ国の歴史書が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙エレベーターの基礎部であるターミナルを開放したことによって、色んな国が調査という名目を掲げて使節団を送り込んでくるようになった。

 現状、頼み込まれてもエレベーターの上に上げることはできないが、兄がばらまいておいたダンジョンの品々のおかげで、調査団の目をそちらに向けることに成功している。

 

 しかしめんどくさいのはうちだけに品物を降ろせって奴らである。

 アメリカやら中国やらの……強行派閥の人間だと機神は分析しているが……。

 利権を握ろうと必死でうっとおしい。

 

 なおそれに対応するサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は機神と直結して人間を遥かに超える知性を獲得しているので、そういう追求をのらりくらりとかわしていっている。

 別に欲しい物とかないので殿様商売である。

 お前らの提示する条件のものは大体機神が作れる。

 

 日本は意外としたたかで、沖縄の開発に取り掛かったようである。

 これから直接貿易するにしても、直近の港として寄れるのはアドバンテージであり、利益をもたらすと判断したようだ。

 関税も取れるしな。

 

 近い≒便利≒儲かる。

 あまりにもわかりやすい方程式だ。

 わかり易すぎるから私も沖縄に投資しておこうかな……。

 

 ……金ないわ。

 

 はー。

 がっかりしたところでガチャを回そう。

 なんか久々な気がするな。

 毎日回していたはずだが。

 

 R・亡国の歴史書

 

 出現したのは分厚い本だった。

 しかもだいぶでかく、そして重い。

 小さなテーブルに乗せればその天板がその本だけで埋まりそうな大きさである。

 

 それに装丁が厳重で、革のように見えるがなにか科学的に合成されたようにみえる素材と、めちゃくちゃ硬い素材を張り合わせて表紙が作られている。

 いや本の装丁にどれだけの労力を使っているんだ。

 ついてる鍵もやたら厳重で、鍵穴が4つも見える。

 

 まあ厳重にロックされていても、鍵は開いているんだが。

 初めから開いているから、多分鍵をかけられる仕様ってだけなんだろう。

 

 とりあえず表紙をめくってみる。

 表紙は装甲のような装丁が施されているだけでタイトルもなにもないからな。

 

 めくった先には、竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)が描かれていた。

 いや、細部こそ異なる。

 思いっきり宇宙エレベーターを取り込んで一体化していたり、機神部分のデザインが変わっていたりこそしている。

 

 私は、それを見て……そっと表紙を閉じた。

 よし、見なかったことにしよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄はその歴史書を機神に閲覧分析させた。

 表紙に使われている革は核攻撃にも耐えるであろう強度を持っていることがわかったり、情報を取り込んだ機神の姿が進化して歴史書に載っていた姿に変貌したりといろいろあったが……。

 

 一番やばかったのは、分析が終わったと同時に、その存在が世界と矛盾したのか、突然歴史書が消滅したことである。

 まるでバグでも走ったかのようにノイズ……としか言いようがない現象が発生して、歴史書は消え去ったのだ。

 

 え、えー……。

 こわ。

 やっぱあの歴史書は未来から呼び出された本だったのか?

 

 機神の現在レベル、10万4292。

 歴史書に載っていたレベルは、39兆4825億3482万5925。

 

 一体何が起こったって言うんだ……。



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R 変身ベルト

 変身ベルト。日曜朝の特撮ヒーローの象徴的な装備である。

 ちなみにベルトを使わないタイプのヒーローも普通にいる。

 近年の傾向としては、特別なアイテムをベルトに嵌めることでそれに宿っている力を引き出して変身する代物だ。

 そして特別なアイテムを巡って戦ったり、戦わなかったりする。

 怪人とヒーローが同じアイテムを使って変身するという、ダークヒーロー的な要素を抱えていたり、いなかったりするのが話にアクセントを添えるのだ。

 でも裏モチーフがドラッグなのが存在するのはどうかと思うよ?

 

 今回はその変身ベルトが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球側の開放が済んで、色々やり取りをやっている裏で、霧星でも似たような作業をしていた。

 こちらでは宇宙エレベーターを開放するなどの作業をしたわけではない。

 他所に国として認めてもらうことで、余計なちょっかいをかけられないようにする作業だ。

 

 霧星における人類の生存圏はめちゃくちゃ狭い。

 いろんなところで危険なモンスターが湧くため、それを追い払い続けるコストが高くなりすぎるためだ。

 どう転んでも人が死ぬ場所では人は生きていけない。

 

 我らが宇宙エレベーターがある場所は、そういう危険地帯の1つである。

 RPGなら魔王城とかあってもおかしくないレベルの僻地。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)なら自由に空を飛んで移動できるため地形に足を取られることもないが、人間は違う。

 こんなところまで好き好んで踏み込んでくる国も無い。

 

 なので、兄は周辺にサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を放出して、国をでっち上げた。

 建造物を立て、畑を作り、産業を興す。

 静止衛星軌道ステーションでやったことをそのまま同じように、霧星の土地でやったのだ。

 

 これで人が来ても、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の国だと認識されることだろう。

 そして宇宙エレベーターもその国の建造物だと。

 

 なお、国をたてて都市を作り上げた時点でダンジョンの一部に取り込まれてダンジョン扱いになったのは内緒だ。

 

 さて、ガチャを回すとするか。

 いい加減良いもの出てこないかなぁ……。

 いや出るわけないんだけど。

 

 R・変身ベルト

 

 出現したのは、日曜朝にやっているヒーローのベルト……に似たものだった。

 似てはいるのだが、デザインが違う。

 四角形の箱にひし形の装飾が施されているのだが、右側になにかを装填するようなスロットが存在している。

 

 似ているが、違うものだと思う。

 スマホでささっと調べてみたが同じ形のものは存在していない。

 

 で、これはどうやって使うものなんだ。

 ベルトというには、巻いて使うものなんだろうが、このスロットはどういう意味があるんだ。

 なにかを装填する?

 多分元ネタと同じなら装填して変身する、が正しい使い方のはず。

 

 が、その装填するべきアイテムが存在しない。

 私は……どうすれば良いんだコレ。

 

 こういうとき兄は必ず雑になにかをやる。

 そしてそれからヒントを得る。

 

 だから兄のやり方を真似てみることにした。

 建材の残りのレンガを手に取り、そのスロットへと装填してみたのだ。

 

 スロットにレンガがはまり込むと同時、ベルトが軽快な音を流しながら、周囲にレンガの柱のようなものを生成しだす。

 それが光の塵になると、私の体に向かって流れ込んできたのだ。

 

 光が収まると同時、私の姿は変わっていた。

 黒いしっかりとしたインナースーツの上に、レンガでできた装甲を纏ったヒーローの姿に。

 

 ……、弱そう!

 装甲をレンガで軽く叩いてみると、脆いのかあっさりと剥離を起こす。

 

 レンガで変身できるのはともかく。

 いや変身できるのでもだいぶあれなんだが。

 

 めちゃくちゃ動きづらいよこれ!

 全身に石でもくっついてるみたいに重い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が、ベルトにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を装填して変身した。

 私がレンガで変身したときよりもヒーローらしいデザインにまとまっている。

 レンガで変身したときの写真、撮ってあるけどどう見てもようがんまじんだもんなぁ。

 

 しかもスーツとしての性能も段違いだった。

 垂直跳びで200メートルぐらい飛び、飛行能力も備え、身体能力も大幅に向上している。

 レンガなんか全身が重いだけで、装甲も叩くだけで割れるダメダメだったというのに。

 

 そう、考えていたら。

 兄が肉まんを装填した姿に変わっていた。

 フカフカの皮と、中の肉のあんが全身にぶちまけられて配置された、前衛的な姿。

 

 なんだよそれ!

 



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R 無敵病院

 病院。医学に精通した医師が常駐し、治療を受けることができる施設のことだ。

 治療を行うために、常に最新の設備を備え、様々な技術を導入し、そして衛生管理を徹底している。

 人の命は繊細であり、吹けば飛ぶような脆さを持っている。

 それを必死に食い止め、救い上げるためにその力とあり方を振るい続ける場所なのだ。

 

 今回は無敵だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜鮫神国(ひでえ名前だ)の国土は、氷の星1つと宇宙エレベーター5基と霧星における宇宙エレベーターの周辺だ。

 地球側ではまだ承認を得られていないが、国家とは名乗りあげれば立ち上げる事ができる程度のものでしか無い。

 それを守るだけの政治力と軍事力があるかどうかが結局のところ国土を保証する。

 

 他の場所はどうなのだ、と言われると大変困るのだが、実は全然調査が進んでいない。

 機械じかけの星……というか、多分SFに出てくるダイソン球と思しき星は未だに反応がなく、調査を出していいものなのかも判断に困っているし、極彩色の星に至っては、自然環境が敵だ。

 

 土地そのものが膨大な生命力を持っているらしく、木がものすごい勢いで成長してサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を絞め殺すのは序の口、島が動いたと思ったら巨大な亀だった、空を飛んでいる飛竜が砂漠の砂から飛び出したサメに食われて砂海に沈んでいく、など魔境中の魔境なのだ。

 霧星の魔境よりもひどい。

 

 それに宇宙エレベーターの周囲に異常なほど磁界を蓄えた昆布が生えまくっていて、電子機器の塊のようなものであるサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)と相性が悪い。

 調査拠点を建てるのもままならない。

 

 クソデカいマグロのような生き物が突っ込んできて、なすすべなく昆布に絡まって死んでいったぐらいヤバい代物である。

 この昆布のおかげで危険なモンスターが宇宙エレベーターに近づかないようではあるが。

 

 さて。

 ガチャでも回すか。

 

 R・無敵病院

 

 出現したのは、病院だった。

 それも、倒壊してすでに廃墟になっているものである。

 なにか巨大なものがぶつかって病棟がえぐれたような形。

 それに窓ガラスは例外なく割れていて、吹きさらしになってしまっている。

 

 なにが無敵病院だ。

 入り口の看板に堂々と掲げられているそのバカバカしい名称に悪態をつく。

 思いっきり崩壊してるじゃないか……そう思いながら、入り口の自動ドアに近づく。

 すると、割れてしまっている自動ドアは私に反応したのか、自動で開いたのだ。

 

 ……電力が生きている。

 しかも、見えている受付の見た目が思いっきりSFだ。

 ホログラフィックなモニターが複数枚表示され、館内の情報を管理しているように見える。

 

 しかも、入り口脇にある自販機で薬を売っている。

 ナノマシン軟膏とか……回復ドリンクとか……あと「腕がもげても大丈夫! 再生カプセル」とか……。

 いや最後。

 それは自販機で販売していいレベルの薬とは到底思えない。

 

 これは、中に踏み入るのだいぶ危険なやつでは。

 薬品で汚染されている場合、足を踏み入れるだけで危険なことも多い。

 放置されていた医療用の放射線源が大事故を起こした話も聞くしな。

 

 よーし、兄をパシるか!

 

 

 

 

 

 後日。サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の調査隊が無敵病院に踏み込んだ。

 内部には掃除用のドローンがまだ生きているらしく、床に埃が積もっているようなことはなかった。

 ただ、手術室のような部屋は無数の機械のアームが生えていてそれによって手術を行うような構造だったし、病室の一部はカプセルのようなものが並んでいる。

 それに殆どの機械は生きているようで、電力が不足して動かなくなっているだけのようだ。

 

 そして、無敵病院の最奥で見つけたのは。

 巨大な装置がなにかの錠剤を生成し続けている部屋だった。

 この部屋に無敵病院の発電力がすべて回され、使用されている。

 

 そこに残されていた資料を読むに、生成されている薬の薬効は「完全な健康」と「蘇生」。

 

 蘇生。

 完全な健康。

 

 そんなメチャクチャな……。

 たしかにそんなものが作れるならば、病院としては異端もいいところだろう。

 まさに無敵だ。

 

 まあ、問題はこれ人間用じゃないっぽいんだよな!

 どこを調べても、カルテに載ってる患者の姿が人間じゃねえ!

 

 3本足で、丸い胴体から一本腕が伸びてる生命体ってなんだよ!



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SSR 地上戦艦

 戦艦。戦うために作られた巨大な艦艇のことである。

 細かい分類は軍事に詳しい人やサイトに譲るとして、その特徴は強力な砲を積んでいることと、巨大さから来る重装甲さだろう。

 砲は巨大になればなるほどその射程距離は広くなっていく。

 そのため、より遠くから敵を一方的に攻撃できる。

 高威力で、敵よりも有利な地点から攻撃し続けられる戦艦が弱いわけがないのだ。

 なお、もっと有利な地点である空からの攻撃を受けて廃れた。

 

 今回は地上戦艦が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球側国家へ、ダンジョンの資源を放出して、宇宙エレベーターから視線をそらそう大作戦で放出している資源だが、実は有形無形問わず社会を揺るがしかねないものばかりである。

 鉱石資源には普通にミスリルが混ざっていてヤバい。

 機械技術には例の羽が回らないドローンの飛行技術が普通に開示されていてヤバい。

 薬物資源には魔法のように傷を癒やすダンジョン産のポーションを売っていてヤバい。

 

 まあ最もヤバいのはさらっと魔法技術を開示していることだが。

 来ている調査団の人々に教授する形で行われているそれはノーライフキングのリチャードさんの研究によって得られた知識である。

 本人から広めてくれと頼まれているのもあるが……なんでよりによって地球側で。

 

 いや、わからなくもない。

 教育制度が整っている環境でもなければリチャードさんの魔法は普及させられない。

 彼の願いを叶えるにはこうするしか無いだろう。

 

 まー、兄が考えてるのは絶対そんなことじゃなさそうだけどな!

 魔法放流したら世界はどうなるかな、とか思ってるに違いない。

 本当にひでえやつだ。

 

 そしてその魔法に案の定釣られて宇宙エレベーターの調査を遅延させる国際社会よ。

 いいことか悪いことか微妙にわからん。

 

 さて、ガチャを回そう。

 世界が変わるとかなんとか、ぶっちゃけ()()の私にはあまり関係がない。

 

 SSR・地上戦艦

 

 その戦艦は超弩級戦艦だった。

 巨大な複合装甲と階層状の甲板を持ち、複数の砲を備え、そして無限軌道によって地上を強引に走る、そういう戦艦だった。

 オレンジ色に塗られたその体は荒野に紛れるためだろう。

 おそらく夕焼けの中でなら姿を見失うほど。

 

 その戦艦が、テラスから見える海に出現と同時に沈んだ。

 流石に海岸線が近い場所なので海底に無限軌道がつき、砂地であるために徐々に重量で埋まっていっている。

 

 いやあデカい。

 機神のボディと同じぐらいデカい戦艦だが、あいにくと地上用。

 海上に適正はなかったようだ。

 

 はー……。

 デカブツじゃん。

 宇宙エレベーターほどじゃないが、だいぶデカブツじゃん。

 普通に邪魔じゃん。

 しかも兵器じゃん。

 

 どーすっかなぁ。

 動かすにしても早くしないとそのまま座礁してしまう……。

 

 

 

 

 

 

 

 兄に指示して、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を向かわせた。

 幸い、湖などを強引に踏破する前提で作られていたようで、浸水などはなかったが、海底にはその重量を支えられるような場所がない。

 長時間放置しているとそのままずぶずぶと地面の下にめり込んでいくのは必定。

 

 調査も程々に、さっさと動かして移動させる方針で動いていたのだが。

 あるレバーを下げた瞬間、地上戦艦が怪しげな振動をしはじめながら、そのブロック構造を展開させ始めたのだ。

 

 エンジンの起動レバーだと思って降ろしたのは他の機能のものだったらしい。

 操縦席にこれみよがしに、エネルギーと書かれたレバーがあればそれが動力だと思うのは仕方ないはずだ。

 

 地上戦艦はその形をどんどん組み換え、ついには()()()()()()

 それは人型に似た姿だった。

 

 おま……お前……。

 巨大ロボットかよ!

 機神よりもデカいロボが海底に直立している状態。

 いや砂地だから膝まで埋まってるな。

 

 うーん。

 デカブツがもっと扱いに困るデカブツになってしまった。

 ま、まあ海底を進めないキャタピラより、歩けるだけマシ、だと言えるか。

 

 邪魔なものが……増えてしまった……!



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R ぬののふく

 ぬののふく。RPGの初期の初期、最序盤で手に入る防具のことだ。

 その名の通り、ただの私服である。

 防具屋というより、よろず屋のような雑貨を扱う店で買えそうな代物だ。

 強度も市販の布並、とても防具とは呼べない代物である。

 だが、そんなものでも無いよりはマシだ。

 

 今回はそのぬののふくが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上戦艦の解析中、不意に機械じかけの星に関する情報を手に入れた。

 地上戦艦の中に眠っているデータの中に、過去の機械じかけの星の情報があったのだ。

 

 どうも機械じかけの星は機械生命体の住む星だったようだ。

 巨大なマザーと呼ばれる機械生命体が自身に似せた機械を作り出し、それが生命として定着したのがあの星だったのだ。

 

 そしてこの地上戦艦もその機械生命体のうちの一体。

 すでに生物としては死んでいるらしく、意識の残滓すら掬い上げることはできない。

 記録映像はいくつか出てくるが、記憶と呼べるようなデータが破損している。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)も機械生命体なので、この手のデータの違いを理解できるのだ。

 まあそのせいで兄は頭脳に当たる部分にサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を接続して、その体を乗っ取ろうとしているのだが。

 

 しかし地上戦艦の記憶の中にある機械じかけの星の映像には、たくさんの機械生命体で活気に溢れた街の姿が写っていた。

 だが宇宙エレベーターから見えるその星の姿は、まるで死んだかのように静かだ。

 わずかに光を灯しているだけでその動きも見られない。

 

 この星に何があったのだろうか。

 生き物がいたはずなのに無反応なのはやはりおかしい。

 警戒してる場合じゃないかも知れない。

 

 まあ、それをするのは兄だから置いといて。

 私は今日のガチャを回すことにする。

 

 R・ぬののふく

 

 出現したのはクリップピンだった。

 ネクタイを留めるピンみたいなやつである。

 横に広い留め具の上に、プラスチックに似た素材の板が張られていて、そこに「 :ぬののふく」と彫刻されているのだ。

 

 ……。

 なんだこれ。

 だいぶ変なのが出てきたぞ。

 というか、似たようなのをちょっと前にカプセルトイで見たような気がする。

 

 クリップピンだからとりあえずなにかに留めるのが使い方なんだろうが……。

 だから、近くにいた兄のジャージの襟首に挟んで見ることにした。

 

 挟むと同時、プレートの文字の空欄にEの表示が灯る。

 それとともに兄のジャージがぬののふくに変化した。

 

 いや、視覚的にはジャージのままである。

 だが、それを言葉にしようとするとぬののふくになるのだ。

 というか、脳があれはぬののふくだと理解してしまっている。

 

 それの防御力が3であることとか、麻でできていることとか、売値が10Gだ、ということとか。

 ぬののふくであることをむりやり納得させてこようとする。

 

 だが、何度でも言うが視覚的にはジャージなのだ。

 白色の普通のジャージなのだ。

 

 それはぬののふくではない!

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がプレートの表面をこすったら落ちたとか言って、「:」だけ残ったクリップピンをこちらに見せてきた。

 彫刻されていたはずなのに、指でこすったら印字が落ちた、と。

 いや何だよそれ。

 

 しかも兄はそこにゆうしゃのよろいとマーカーで書き込んで、ジャージに留めやがったのだ。

 とたんにゆうしゃのよろいになるジャージ。

 

 もうなんだよ……。

 しかも兄、この状態で防御力があるか試しだすし……。

 

 結果?

 成功だよ!

 普通に魔法攻撃を弾き返したよ!



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R 仮面

 仮面。それは顔を隠すために使用される装身具だ。

 顔を隠すということには様々な役割がある。

 一つは、神降ろし。

 神の姿を象った仮面を身につけることで、神としての役割を演じる。

 一つには、立場を隠すこと。

 これによってお互いの立場や権力を気にせずに関わり合うことを可能にする。

 顔を隠す、なにかを被る。

 これらによって、違う人物を演じる。

 これこそが仮面の力である。

 

 今回はその仮面が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほとんど勢いで国際社会に吐き出した魔法だが。

 やっぱファンタジーに憧れる人間は多いようで、大ウケしている。

 

 素質こそ少し求められるものの、知識と努力で誰でも使えるようになる魔法。

 その可能性には人類文明を次のステージにへと引き上げるほどのインパクトがある。

 そういう建前を抜きにしても、ロマンがある。

 

 今は黒い球を作って投げることしか出来ていないが、すでにそれをいじくり回して形を変えることに成功した人が出てきている。

 もう数週間もすれば特別な性質を持った魔法を自分で作り出す人すら出てくるはずだ。

 

 そうなってくると社会は魔法の開示を求めてくるだろう。

 国家は開示せざるを得なくなる。

 

 私達はもう国際社会に魔法を渡した。

 色々まだ秘匿している知識はあるが、そのうち吐き出すつもりでもある。

 知識は万人に須らく与えられなければならない。

 

 危険だと言うなら国が管理するべきなのだ。

 私や兄がそれを握っていていいものではない。

 私が危険に晒されるというのならいくらでも隠し通すが、そうでないならやはり知識は開示されるべきだ。

 

 え、ガチャ?

 あれは思いっきり例外ですよ例外。

 あんなもん開示したら兄みたいな人間が100人単位で押し寄せてくるじゃん!

 

 さて。

 そのガチャを回そう。

 

 R・仮面

 

 出現したのは白い仮面だった。

 つるりとした皿のようにも見える陶器製の仮面である。

 通し紐があって、それで頭の後ろで留める構造だ。

 

 そして、なにより目につくのは何も書かれておらず、凹凸もない表面だ。

 造型もなにも施されていないその表面にはうっすらと透明ななにかがかぶさっているように見える。

 二重の素材で表面が作られているのだ。

 

 一体なんなんだろうか。

 手触りはつるつるしていて気持ちいいが、何の目的でそんな構造になっているのか。

 釉薬って感じの厚さではないし。

 

 とりあえずつけてみるか。

 つけてみればわかるだろうし……。

 

 私はそっとその仮面を被ってみた。

 まるで当たり前だと言っているかのように開ける視界。

 仮面などないかのように周りを見ることが出来ている。

 

 そして……仮面の透明素材部分が発光していた。

 スマホのインカメラで見ているかぎりではそうだとしか言いようがない。

 液晶画面のように、光っているのだ。

 

 しかもそれの真ん中にピクトグラムが浮かんでいる。

 私の感情を示すかのように、呆れを表した絵文字だ。

 

 ああ、うん……。

 仮面だから顔が隠れるからね、うん。

 

 だからってそんな赤裸々に人の感情開示しなくてもいいんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄はこの仮面をサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)にかぶせていた。

 その見た目はSFっぽいマスクをつけた二人組のバンドかなにかか? と思わざるを得ない。

 顔を隠している液晶部分があまりにもそのバンドを連想させるのだ。

 

 それにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)のつけた仮面にはQRコードが浮かんでいた。

 読み取ってみると、そこに書かれていたのは「困惑」の二文字。

 

 そりゃ困惑するわな!

 あまりにも意味分かんないもん!

 



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R 夢日記

 夢日記。その日見た夢を記録する行為だ。

 夢は目覚めてからわずか数分でその記憶が抜けていく。

 これを書き留めることによってその夢を忘れぬようにする事ができる。

 書き留め、忘れないようにすることを続けることによって、やがては夢を夢だと自覚したまま見る明晰夢に入れるようになるらしい。

 また、発狂するという噂はデマである。

 

 今回はその夢日記が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機械じかけの星への調査を開始した。

 こちらよりも高度な技術を持つ文明ということで下手にちょっかいをかけると大変なことになるのでは? と警戒して調査できていなかったのだが。

 地上戦艦の調査で、明らかに様子がおかしいことがわかったために調べないわけには行かなくなってしまったのだ。

 

 もし調査に赴いてそこの住人に出会えるならよし。

 出会えないなら……出会えるまで調査を続行する。

 

 そうして機械じかけの星に足を踏み入れた瞬間、兄は何かを直感した。

 

 ()()()()()()()()()()

 兄はそう静かに告げる。

 

 は?

 地球よりも遥かに巨大なように見える星を覆い尽くす巨大構造体が、ダンジョン?

 そんなことあるのか?

 兄も氷の星をダンジョンにしているが、あれはもとからある地形を侵食したに過ぎない。

 

 だがこの星はモジュール化されているとはいえ、大量の資材で以て作り上げられているのだ。

 ヤバいとしか言いようがない。

 どれだけの時間がこの星に使われているのか予想もつかない。

 

 で、そんな星に踏み入ったのに無反応なのは余計おかしい。

 ダンジョンは一つの生き物のようなものだ。

 常にその全身に目を見張らせ、中にいるものを知ろうとする。

 

 だからなんらかしかアプローチがあっておかしくないはずなのだが……。

 なーんもない。

 びっくりするほど無い。

 

 もしかしてこの星、死んでるんじゃないかなぁ……。

 

 まあいいや。

 探索してればわかるでしょ多分。

 私はガチャを回してしまおう。

 

 R・夢日記

 

 出現したのは黒い大学ノートだった。

 その表紙にきったない字でゆめにっきと書かれている。

 

 しかも表紙を捲った先にも同様の汚い字が続いている。

 それはどうも使い方のようで……判読に時間がかかりそうな文字がぎっしり詰まっている。

 表紙の裏に。

 

 いやぁ……これ、名前を書くと死ぬノートみたいな……。

 そう思うと途端にそれのパロディのような気がしてきた。

 この汚い字もあの骨のような文字を日本語に落とし込んだらこうなった……みたいな。

 

 まあいいや。

 中身だ中身。

 表紙の裏にぎっしりと説明が書かれている以外は、白紙がずっと続いている。

 中に何かが書き込まれている様子もない。

 

 使い方は、というと。

 細かいルールが多く成約もややこしいが、書いた文章の内容が夢になる、というもの。

 

 思ったより普通だな……。

 思わせぶりな見た目の割には、パッとしない。

 

 強いて言うなら他人でも適応可能なとこぐらいか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が使った……使ったはいいのだが。

 思いっきり禁則に触れやがった。

 

 中に書かれていた禁則事項に、「夢にある少女が出てくるが干渉してはいけない」とある。

 具体的に何が起こるのかわからないが、夢に共通の存在が出てくるとかまあ危険な都市伝説などでは鉄板のネタである。

 そしてそういうものに出てくる存在はまあ……大体ヤバい。

 いろんな手段で殺しに来る。

 

 で、兄はあろうことか、その少女を絞め落とした。

 絞め落とした。

 

 もう聞いているだけで最悪の絵面である。

 まあまあガタイのいい兄が、正体はともかく見た目は少女の存在を。

 犯罪か何かで?

 

 しかも、これドロップアイテム、と夢に出てくる少女の姿が宝石の中に彫られた指輪を見せられてるのはなんなの?

 私はそれにどう反応すればいいの?

 というか夢の中の存在のドロップアイテムってなに?

 



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R エアダスター

 エアダスター。パソコンなどの水を使って清掃すると問題になりそうなものについた埃を吹き飛ばす事務用品である。

 内部に圧縮された空気が充填されていて、コレを吹き出すことによって埃を吹き飛ばす作りになっている。

 ただそれだけの作りなので長時間放出していると内部の空気の圧力が下がり、それに伴ってエアコンと同じ原理で温度が下がってしまうことがある。

 

 今回はそのエアダスターが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機械じかけの星の調査を進めているが……びっくりするほど地形が代わり映えしない。

 モジュール化されているため基本的に同じ建物が並んでいる……というのはいいのだが。

 大体そういう建物は利用者の関係で見た目が変化していることが多い、はずなのだ。

 

 いわゆる生活感。

 玄関の脇に自転車が置かれているとか、傘を立てていた跡がシミになっているとか。

 店なら看板を取り付けていた痕跡であるとか、外装を塗装していたりだとか。

 

 そういうものがまったくない。

 いや、あったが失われたと言うべきか。

 なにもかもが風化して、元のモジュール建造物だけが残っている。

 

 しかも何もかもが一様に風化した跡が残っていて、マジで何があったんだと言いたくなる状況である。

 あたりに積もっている塵のようなものが関係あるのだろうか。

 

 廃墟ならともかく。

 生気が失われた都市を歩くのは血の気が引く。

 恐ろしいなにかが起こったのではないか、そんな想像を巡らせてしまう。

 

 ここと繋がっているのは危険なのでは……?

 そうとすら考えてしまう。

 

 ろくでもない場所ではないか……。

 そう思っている私を他所に、兄は周辺に散らばっている塵と、残骸を回収して機神に調べるように指示を出していた。

 

 こいつ……怖気づくとかないのか?

 いや兄だしな……そりゃそうだわな……。

 

 ちょっと調子が悪くなったところで今日のカプセルを開封。

 ろくでもないものをろくでもないもので中和するのはどうかと思うが、まあてもとにあるのがこれしかないしな。

 

 R・エアダスター

 

 出現したのはスプレー缶だった。

 エアダスターとあるから、清掃に使う窒素ガスが詰まったものだ。

 パッケージには何も書かれておらず、白いビニールが貼られているだけだ。

 

 エアダスター……。

 まあろくでもないものだとは思うが。

 思いの外普通である。

 

 だって使い方が対象に向けて、ノズルを押し込むだけ。

 その動作以外で効果を発揮することはなさそうである。

 あるとしたら爆発するぐらいだ。

 

 そう思って、とりあえず埃まみれになっている機材に向けてノズルを押してみた。

 突如ものすごい勢い、エアダスターとは思えないほどの風速でガスが吹き出され機材に積もっていた埃を一瞬にして消し飛ばした。

 

 そう、消し飛ばした。

 吹きかけられた端から、舞い上がって消滅していったのだ。

 光の塵になって。

 

 ええー……。

 機能を超強化した代物だったかー。

 それにしては風量がえげつないんだが。

 人に向けて使ったら人を吹っ飛ばせそうなぐらいの勢いだったんだが。

 

 う、うーん、なんだこれ。

 思いの外用途が普通だったせいで、扱いに困る。

 掃除に使うぶんには普通のエアダスター使うよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が機械じかけの星の調査にこのエアダスターを持ち込んだ。

 建物に向かってエアダスターを吹き付けた瞬間、その表面を覆っていたであろう塵をぶちまけて消滅させたのだ。

 

 そこにあったのは、知的生命体が生活していたであろう色合いの建物だった。

 というか建造物の見た目まで変わってしまっている。

 なにか塵が何もかもを覆い尽くして、画一化してしまっていたようだ。

 

 えっ、なにそれこわ。

 じゃあなにその塵。

 得体が知れなさすぎる……。



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SR プログレスバー

 プログレスバー。データの更新やアップデート、情報の読み込みなどで進捗を表示するバーのことだ。

 通常、左から右へゲージがいっぱいになると作業が終了したことを示すようになっている。

 まあ凝った形のものもあって、ゲージ自体がアニメーションしていたり、輪っか型のゲージなども存在していたり。

 都合長時間見せられるものなので少しでも見た目をよくしようという考えなんだろうが大体そうなった時点で席を立つのがよくある話だ。

 だって長いからね……。

 

 今回はそのプログレスバーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 塵の調査結果はというと。

 これは死んだナノマシンだった。

 あの場には極小の機械が大量に積もっていたのだ。

 

 すでにその機能を停止していて、どのようなものだったかはわからない。

 機神の解析ではウイルスっぽい、と表現されているが……。

 

 それがあんな大量に、街を覆い尽くすほどの勢いで被さっているのは本当に何があったのか。

 もしかしてナノマシンが何もかもを飲み込む終焉(グレイグーシナリオ)とかじゃないだろうな。

 さすがに真っ白に被さっているだけで動いていないからそうではないはずだが。

 

 白いナノマシンウイルスに感染して、その体を全部その白いナノマシンに置換されて爆発するやべえ病気が流行ったとかそんなのかな!

 適当言った。

 流石にないやろ。

 

 ぼんくらなことを考えてないで、すでに喧しいガチャを回す。

 いつものカプセル。

 

 SR・プログレスバー

 

 出現したのは、プログレスバーだった。

 長方形で、その内側をゲージが伸びていくあのバーだ。

 

 ……。

 それが、空中に浮いている。

 厚さはなく、紙切れのようなものが何の力も掛けられずに浮いているのだ。

 しかも触った感じかなり硬い。

 

 え、なにこれ。

 長さは1メートル、高さは20センチほど。

 その場に留まったまま動くことなく……いや動いてるな。

 ゲージがわずかに少しずつ増えている。

 それ以外に動きはない。

 押しても動かない。

 

 いやホントなにこれ。

 何が増えているの!?

 

 プログレスバーってのは進捗を表示するものだ。

 つまり裏でなにかを作業しているのだ。

 このゲージの裏で。

 

 ええー。

 こわいこわいこわいこわい。

 

 本当に何やってんの?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。満ちた。

 プログレスバーの表示が満ちた。

 たまるのに数日掛かっていたあたり、だいぶ遅い代物ではある。

 こういう時間がかかるやつは予定時間を表示してほしいものだ。

 

 プログレスバーが満たされた瞬間、地面に魔法陣に似た……いやコレよく見ると警告表示だ。

 黄色と黒のしましまにバーコード、警告を表すであろう記号があちこちに施されて、よくわからない人が見れば魔法陣に見える何かが展開している。

 テラスいっぱいいっぱいにそれが広がって……。

 

 そしてその魔法陣もどきをゲートとして、その内側になにかを召喚した。

 白い塵に覆われた巨大な球体だ。

 それには溝のようなものが刻まれ、そこから可動するかのようである。

 

 白い……塵?

 白い塵!?

 

 テラス一杯に現れた巨大な球体をびっしりと白い塵が覆っている。

 その色合いは、モニター越しに見たあの機械じかけの星で見た塵と同じものだ。

 ただサンプルとか考える前に、あまりに埃っぽいのでエアダスターで吹き飛ばしてしまった。

 

 そこにあったのは美しい銀の金属に包まれた球体。

 サイズが数倍近いが、地上戦艦の頭脳部品と同じものだった。

 

 えー。

 また……。

 

 めちゃくちゃ持て余すものが出てきてしまった……。



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SR プログレスバー その2

 物事にはからくりが存在する。

 一見魔法のように見える物事も、常に何らかの原理の上に存在しているのだ。

 道理に合わないことがあっても、どこか私の見えないところにその法則が存在しているはずなのだ。

 人はその法則を暴いてその知識を積み上げてきたのだ。

 それが胡散臭いガチャに乱されてたまるか……いやコレは関係ない。

 

 今回は、神が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 プログレスバーによって出現した銀色の球体。

 兄が調べた結果、これはあの星の機械生命体のものであると判明した。

 

 いや、あの白い塵を見ればそれを知るのは一目でわかる。

 重要なのはこの球体がどうして現れたかということだ。

 

 そのためにはこの金属球体が何なのかを知る必要があるが。

 結局あの星の機械生命体だってことぐらいしかわかってないんだよなぁ。

 兄の役立たずめ。

 

 金属皮膜に覆われていて、強引にこじ開けて中身を調べるわけにも行かず。

 でかすぎて場所を移すにも手間取りそうであり。

 正体はわからないし邪魔だしで本当にどうしてやろうか。

 

 そう思って軽く手を触れた瞬間である。

 こういうのに触れるのは菌類などの関係でぶっちゃけ良くないのだが、もはやテラスを占拠している時点で言及するのが馬鹿らしい状況だ。

 だから完全にうかつで触ってしまったのだが。

 

 その途端に、溝に光が走って球体が変形し始めたのだ。

 

 いや正確には球体の表面が滑って展開していくという方が正しいだろうか。

 一箇所可動するたびに隙間に詰まっていたであろう埃をぶちまけてくれるのでめちゃくちゃけむい。

 白い塵ではないが、思いっきり土埃をぶちまけてくる。

 

 そしてその装甲を展開し終わったあとに出てきたのは、神々しい球体……また球体かよ!

 コレまでと違い、それは明らかに光を蓄えている。

 中に走る光は何かを考えるように揺らめいている、と思わせる。

 思考を具現化するのならこんな形状だろう、と。

 

 ……もしかしてこれ光コンピュータ!?

 量子コンピュータの究極系とされるそれそのもの。

 

 うわあ、もともと手に余るけど、もっと手に余る物が出てきちゃったぞ。

 明らかになにか計算しているようなチカチカした点滅とか、絶対怪しいやつじゃん。

 

 これが何であれ、絶対困るやつ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄は、その球体に対して、ダンジョンの侵食を試みた。

 ダンジョンの一部となることでその機能をダンジョンが取り込む事ができるアレだ。

 氷の星を飲み込み、宇宙エレベーターと同化したアレであるが、今回は危険かもしれないと兄は言っていた。

 

 これが演算装置だった場合、この球体に何らかの意思が宿っている可能性がある。

 そして意思が宿っていたなら、機神が乗っ取られる可能性があるのだ。

 

 その場合は機神の演算能力でゴリ押してどうにかするしかないが、うまくいくかはわからない。

 でも多分大丈夫でしょ、と兄は球体をダンジョンに取り込んだ。

 

 それはあっさりと終わった。

 懸念していた意思が宿っている可能性は問題なかった。

 いや、意思は宿っていたのだが、その意思は眠っていたのだ。

 それも1000万もの数の意思が。

 

 そして、すでに死んでいる意思の残滓が記録として残っていた。

 この球体は、あの機械じかけの星のダンジョンマスターの頭脳体だった。

 人間で言うところの脳である。

 

 そのダンジョンマスターは、ある日出現したガチャから手に入れたダンジョンコアと融合し、脆弱でしかなかった命を機械にへと置換えながら世界をダンジョンで統一したそうだ。

 彼は自身を拡張しながら、世界を発展させていく神として降臨した。

 すべてが機械にへと置き換わっているがゆえに、精神を次の体にへと移し替えるということが常態化した社会。

 その社会に対して、ある日突然攻撃が加えられたのだ。

 

 機械生命体の体に寄生して、その体を乗っ取りその体をすべて置換えてしまうナノマシンという攻撃を。

 その挙動は超強力なインフルエンザのようなものだ。

 

 一度感染したら必ず死ぬ。

 そして、死亡時に爆発してそのウイルスたるナノマシンをばらまく。

 しかもナノマシンであるがゆえに接触感染する。

 

 星はもう地獄絵図となった。

 治療することも出来ない。

 できることは精神を次の体にへと移し替えることしかなかった。

 しかもその体を作る工場はどんどんナノマシンによって失われていく。

 

 ダンジョンマスターが選んだ最後の手段が、この球体だった。

 自身の持つ最大の演算能力のコアに、すべての住人の精神を記録して保存する。

 時が来れば新たな星へと転移して、そこでダンジョンを広げ、機械生命体たちを再生させる。

 まさにノアの箱舟だ。

 

 が……、あまりに長い時だったのだろう。

 ダンジョンマスターの意思はすでに死に絶えていた。

 精神の寿命がどれほどのものかはわからないが……。

 

 転移させるための処理があのプログレスバーだったわけか。

 なんとも壮大な話だ。

 SRだが。

 

 なお兄はそんな話を無視して、その球体に宿る意思たちを躊躇なくリセット。

 情報を吸い上げるだけ吸い上げて、完全に平滑化しやがった。

 巨大な演算装置を手に入れた上に、ダンジョンコアの機能強化まで出来てホクホク顔である。

 

 こ、こいつ……。

 やっていいこととわるいことが……!



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R 電動工具

 電動工具。電気を動力とした工具である。

 人力で行うには少々手間取る作業を非常に簡単に行える工具だ。

 その都合、高速で回転したり、釘を高速で打ち出したりするのでその扱いには慎重にならなければならない。

 強力な道具ほど、危険が伴うものなのだ。

 

 今回はその電動工具が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機械じかけの星の神のコアを取り込んだ結果、機神はまた一段階その能力を向上させた。

 人間サイズの精神体であれば数億近い数を分割思考可能とし、その内側にほぼ完璧な世界を構築することすら可能な演算能力。

 かつて機械じかけの星が持っていた技術のすべてを完全に取り込み、それを再現して見せる工業力。

 複数のダンジョンコアを取り込んだために、侵食能力及び生産能力が大幅に強化。

 

 星ひとつを統べる神に相応しいだけの力を手に入れてしまった。

 少し前まではあと数ヶ月でレベルが7桁に到達して、世界を一方的に変えてしまうぐらいの力を手に入れるだろうとは思っていたが。

 あっさり超えた。

 本当にあっさりと。

 

 レベルこそまだ6桁だが、すでに前に算出した7桁のステータスを大幅に超えている。

 ステータスが高ければダンジョンとしての生産能力も跳ね上がる。

 

 それで……今作れる最大のものを言うと、だ。

 星間航行戦艦。

 星の海を股にかけ、戦う事ができる宇宙戦艦だ。

 

 な、何世代先の技術だよ。

 しかもそれを艦隊規模で生産できる。

 作る意味はないが、作れてしまう。

 

 くっそやべえやつゥ……。

 兄のおもちゃにするにはでかすぎるやつぅ……。

 

 それは置いておいて。

 私はガチャを回そう。

 戦艦とか作らんやろ、いらんし。

 

 R・電動工具

 

 出現したのは、大きな工具箱だった。

 中にはインパクトドライバーをはじめとする電動工具が一式。

 ヘッドを交換することで様々な用途に利用できる形式のものが2つほど入っていて、それ用の交換部品がたくさん入っている。

 そして大型のバッテリーが3つ。

 

 工具、工具かー。

 兄の工具箱に入っているのは手で使うものばかりで、電動の物はあまりない。

 なのでテレビで見たことがあるものだとしか言いようがない。

 

 それに、電動工具は危険なものだ。

 その危険なものに説明書がついていないのは釈然としないが、ヤバそうなのに触れなければ大丈夫だろう。

 

 そう思って、ドライバーが付けられた電動工具を取り出した。

 これならネジを締めるだけである。

 

 テーブルに適当な木材を乗せて、ドライバーにネジをくっつける。

 磁石で吸着したネジはまるでドリルのようだ。

 それを木材に付け、トリガーを引いた。

 

 その途端、ネジから生まれた渦のような白い衝撃が周囲に撒き散らされ、テーブルを分解したのだ。

 丁寧に釘やら接着剤やらを剥がし取り、組み立てられる前の姿に。

 

 そして私の服もその白い衝撃に巻き込まれ、完全に糸くずになった。

 布が解ければただの糸。

 それを全身で実感するはめになった。

 

 ……私が何をしたっていうんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。あの電動工具は、使用した物を分解する道具だった。

 生き物には効果を発揮しないが、工具や機械などで組み立てられたものを組み立てられる前の形に分解してしまうのだ。

 

 兄がそれをどうしたかというと……、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に組み込んだ。

 理由は簡単である。

 これに接続されたドリルは、どんな人工物であろうと解体してみせる。

 

 つまり……建築物すらもだ。

 それはダンジョンの外壁などにも言える。

 手っ取り早く言えば、ダンジョンを解体するための武装にしやがったのだ。

 

 これでどんな障害も粉砕できる、と言ってのける兄。

 確かに調査には邪魔なものが多かったが、これまでも力押しで攻略してきておいて。

 こんな物を使う必要など、どこにもない。

 

 兄はもう、すぐおもちゃにするー。

 



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R おみくじサイコロ

 サイコロ。最も普及した乱数発生器であり、ランダムな数値が必要な遊びに利用される道具だ。

 複数の面からなる立方体に数字を振り、それを投げて転がすことによって向いた面に書かれた数値を得る事ができる。

 その関係上、思いつく限りの面数のサイコロが存在している。

 100面ダイスとか。

 実際面数が多くなればなるほど、球に近づくため、投げた後止まらなくなるから実用性は低くなる。

 

 今回はそのサイコロが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が、ゲームを作っていた。

 機神に命じて自動生成させているだけだが、確かにゲームを作っていた。

 よりによってVRの。

 

 前に出たVRヘッドギアを解析して人が使えるVR装置を作り出した兄は次に思ったのが「普及させたいな」だった。

 正直やめて欲しい。

 人類にはまだ早い。

 

 機神が抱えるやべえ知識は無数にあるが、最終的に開示するつもりとしても順序というものがある。

 それを理解して技術として利用できるようにならなければ意味がない。

 機神が物を与えるだけではそれを阻害してしまう。

 

 というかまだ輸出契約も全然整ってないのにもう売るものの事考えてるのこの人。

 しかもVR用のゲームまで作ってさぁ。

 あまり凝っていないシステムとはいえ、オンラインFPSをもう遊べるレベルに仕上げているの、機神の演算能力どれだけ傾けてんの!?

 

 あと機神がこういう高性能な物を作って売るとそれだけで市場を寡占状態にしてしまうリスクが高すぎる。

 数十世代は先の技術で物を作れるので、スマートフォンを生産させればCPUの性能が10万倍とか普通に有り得る。

 そうなると、他所の技術開発が進まなくなってその分野の技術が完全に死ぬ。

 

 そういう意味でも売りに出さないで欲しい……。

 機神が人類文明に食い込みすぎるのはだいぶ危険である。

 何かあったときに責任のとりようが本当にないんだから!

 

 はー、なんで人類文明に神視点で関わるようなことになっているのか。

 やめやめ、ガチャを回そ。

 

 R・おみくじダイス

 

 出現したのはサイコロだった。

 6面の白いプラスチックに、それぞれ「大吉」「中吉」「小吉」「凶」「大凶」「最強」と書かれている。

 ……最強?

 

 サイコロの面にそれぞれおみくじの結果を書くことで、おみくじの代用とした玩具的なもの、のように見える。

 見える、といったのはこれがガチャ産だということが気がかりだからだ。

 どう考えても、振ると面に相応しいなにかが起こる。

 

 えー。

 とりあえずこれを振って確かめないといけないわけですが。

 振りたくねえなぁああああ。

 大凶が出る可能性があるのがすでに嫌だし、最強とかいうわけのわからない出目が存在するのがもっと嫌だ。

 

 うううう、そい!

 サイコロは転がり、やがて止まる。

 出目にあったのは……「中吉」。

 それと同時に、ぽんと音を立てておみくじがサイコロの脇に出現した。

 

 白い紙の真ん中に短い文章が書かれている。

 「金運よし」、と。

 金運……。

 

 ……あれ。

 なんか下が……、私の部屋の扉の方が騒がしいな。

 母親がなにか私を呼んでいるような?

 

「お父さん宝くじあたったってー!」

 

 え、ええー!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が静止も聞かずに振った。

 

 父が当てた宝くじは高額当選だった。

 なんと3桁万円。

 間違いなくあのおみくじサイコロのせいである。

 しかも、これが中吉で出てきたということがメチャクチャに怖い。

 

 大吉ならどうなってしまうのか。

 逆に言えば……大凶ははっきり言ってヤバい。

 生死に関わる案件が間違いなく起こる。

 隕石が直撃して死亡とか、ありえない死に方をしてもおかしくない。

 

 でそんな代物を、静止したにも関わらず振りやがった。

 出た目は「最強」。

 

 そっかー……よりによってそれ引いちゃうか……。

 それと同時に、バラバラバラ……と大量のサイコロが空から降り始める。

 その全てがおみくじサイコロであり。

 そしてそのすべてが海中に落ちていった。

 

 あー……。

 なるほどねー……。

 大量のサイコロで出た幸運と不運が全部おっかぶさるわけね……。

 

 それが6分の1で出るの!?

 ヤバすぎるでしょ!?



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R 洗濯バサミ

 洗濯バサミ。洗濯物を物干しざおに留めるために使う道具だ。

 もともとは割いた木を布が挟めるように加工したものであったが、ほとんど引っ掛けているだけであるためよく落下した。

 現在のバネ付きのものは19世紀から20世紀にかけて発明されたものである。

 また、バネが仕込まれていることから子供の興味をひくものであり、なにかと工作の材料にされがちだ。

 

 今回はその洗濯バサミが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙エレベーター用の電車を兄は機神に命じて製造していた。

 宇宙エレベーター内では重力方向が横向きになるため垂直ではなく直線での移動となる。

 そして……その距離は人が移動するにはあまりにも遠い。

 

 日本列島を北から南まで移動するのに電車を使うような話だ。

 そのためには速度を稼ぐ必要がある。

 それも人が乗っても安全な形で。

 

 速度を出すだけなら簡単なのだ。

 ただ爆速のロケットを用意すればいい。

 そして、それを使うと宇宙エレベーターの意味がまったくない。

 

 そこで機神が提案したのは磁力加速式。

 リニアモーターカーだった。

 しかも、線路を完全真空状態にすることで空気抵抗すらゼロにする代物。

 

 これにより想定されるステーションへの所要時間はだいたい20時間ほど。

 ものの積載量もかなりの量でも速度を維持できる。

 ……と、機神は試算している。

 

 こうしてみると宇宙エレベーターって無茶な計画だな……。

 ガチャ産だから車やらで物を運べるが、人間の技術で作るにはワイヤーを登るエレベーターを作る必要がある。

 一体何日掛けて持ち上げる計画なんだろうか。

 そしてそれで採算がとれる計画らしいのがすごい。

 うーむ、未来に思いを馳せる技術はやっぱどれもヤバい代物だと思ってしまうな。

 

 飽きたところでガチャでも回そう。

 

 R・洗濯バサミ

 

 出現したのは洗濯バサミだった。

 Aに近い形のプラスチック製のもので、その数5つ。

 そのすべてが青い素材でできている。

 

 洗濯バサミ……洗濯バサミか。

 開いたり閉じたりするが特に異変なし。

 というか噛み合わせが悪くて開くだけでキイキイと音を立てている。

 

 安っぽいなぁ。

 安っぽいあたり、普通に使う代物じゃないような気がする。

 

 そう思って洗濯バサミと指先でトントンと叩くと、飛んだ。

 洗濯バサミがテーブルを滑走路の如く滑っていって飛んだのだ。

 

 まるで小さな戦闘機だとでも言うように私の周囲を飛び回る洗濯バサミ。

 お前は戦闘機ではない。

 

 しかも私の些細な脳波を受け取って飛んでいるようでイメージ通り……というわけには行かないが割と操作が可能だ。

 複数の洗濯バサミが編隊を組んで飛ぶ姿は、かっこいいとか余り思わない。

 はっきり言ってシュールだ。

 本当に洗濯バサミが飛んでいるだけなんだ……。

 

 なんだこれ……。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が洗濯バサミを組み合わせて飛ばしていた。

 洗濯バサミを組み合わせて飛行機を作る遊びは子供の遊びだと言えるが、この洗濯バサミも同様に組み合わせてしまえるらしい。

 組み合わせた洗濯バサミはそれが一つの機体として空を飛び出す。

 重量バランスなどの影響も受けるようで、左右対称でないと墜落するとか、前後で重量のバランスが取れていないと墜落するとか、変な遊びごたえがある。

 

 で、兄はというと。

 どこからか持ってきた洗濯バサミを混在させてバカでかい洗濯バサミの戦闘機を作り上げたのだ。

 そしてそれは……明らかに元の洗濯バサミとは違うというのに飛び始めた。

 

 ええ……、それ混ぜて作れるの……。

 しかもその戦闘機、ミサイルと称してなにか小さい洗濯バサミを無から生成して発射しだす。

 当たると花火程度の火力が出て……危ないからこっちに飛ばしてくるな!

 

 思わず空手チョップを食らわせてしまった。

 強度は洗濯バサミ相応。

 対処が簡単で良かった。

 兄が変なおもちゃにしても簡単にどうにかできるな。



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R ミニチュア

 ミニチュア。なにかを模した小さな造形物を指す言葉である。

 大体の場合手のひらに乗る程度のサイズであり、主にディスプレイするためにコレクションするアイテムだ。

 特にデザイン性の高いもの、再現性の高いものはコレクションとしての価値が高くなる。

 また個人で制作する人もいる。

 小さいだけに精密な作業が要求され、それがうまくいくと強い達成感があるためだ。

 

 今回はそのミニチュアが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うーん、困ったぞ。

 宇宙エレベーターの調査団の数はどんどん増え、今では基部の上に用意した建物を埋め尽くし、一つの街として機能するレベルに集まっている。

 そのたびに建造物を解放し、その内部にダンジョンの機能で中身をでっち上げることで急速な速度で設備を用意しているのだが。

 

 全然間に合ってなくて客船持ち込んだ国がある。

 確かに生活の拠点としては申し分ないだろうけども。

 

 しかも一度やるやつが出ると、どんどん真似する国が出る。

 宇宙エレベーターの周囲には大小様々な船が停泊し、それらがそれぞれの国の領土として扱われることを利用して、お互いに牽制をしているようなのだ。

 流石に軍艦はお帰り願っている。

 

 どの船も現状吐き出しているものをその場で分析できるようにしてあるぐらいではある。

 情報のやり取りを密にできるように通信装置もかなり強力なものが積んであるらしい。

 

 めちゃくちゃ期待されている……。

 世界中から注目されるというのはこういうことになるのか。

 いやまあ、魔法とか吐き出した都合、それを警戒し、ついでにドンドコ取り込もうという姿勢は理解できるが。

 

 政治が絡むとどこからどこまで、どういう順番で吐き出せばいいかわからなくなるから困るね。

 適当に吐き出してもあっさり持って帰ってくれるぐらいが丁度いいが、完全に夢物語でしか無い。

 

 政治に思いを馳せていても、まあなるようにしかならないので、今日の作業であるガチャを回す。

 

 R・ミニチュア

 

 出現したのはミニチュアだった。

 手のひらに乗るサイズのもので、極めて精密な造型をしている。

 細部にまで作り込まれているので窓のようなところを覗き込むとその中身まで作られていることすら見て取れるのだ。

 妄執に囚われた職人が人生を賭して作り上げたと言われても納得するほどのクオリティだ。

 

 まあ、これが竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)でなければ、だが。

 本当に出所がわからない代物が出てくるとそのたびに困惑しているが、妄執狂レベルの造形物が出てくるとそれはそれで別の困惑がこみ上げてくる。

 

 一体誰がこんなもん作るというのか、という感情だ。

 テラスまで作り込まれていて、優雅にくつろいでいる私の姿までそこにあるんだぞ。

 作ったやつは完全に狂っている。

 手のひらに乗るサイズの機神の、その背面のテラスにいる私って、これ本当にどんなサイズだ。

 

 ぶっちゃけ現代技術で作成不能なサイズじゃなかろうか。

 

 ああ、あと完全につくりこまれているので、歩く。

 声を掛けると声のした方に四本の足でよたよたと歩く。

 

 内部まで作り込まれてるのか……。

 流石にレベルまでは存在しなかった。

 歩けるだけだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が機神に複製させて、宇宙エレベーターの基部で売った。

 さすがに内部構造はオミットして複製したものだが、外装の精密さはほぼ完全に再現されており、テラスの作りすら完璧に造形されている。

 流石に私の姿は削り取られているが。

 あと手足や機神が可動もする。

 

 複製され、売店に並べられた機神のミニチュアは飛ぶように売れた。

 お値段600万円という明らかに高すぎる値段と、あえて神の像として銘打って売ったにも関わらず、である。

 いやまあ使われている超技術を鑑みれば手を出す価値はあるかもしれないが。

 

 今なら何でも高値で売れるんじゃないかと兄がすごい悪い顔をしている。

 やめなさいよねそういうの。

 そういう詐欺をすると後々面倒なことになるんだから!



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R クリスマスツリー

 クリスマスツリー。クリスマスに飾り付けを行うもみの木を指すものだ。

 一般の家庭にはもみの木は存在しないためもみの木を模したものや、それ用に用意された小さな植木に飾り付けを行う。

 近年ではイベントとして巨大なクリスマスツリーを飾る場所も多くなってきている。

 様々な趣向を凝らし、来る人を喜ばせようとデザインに注力しているのだ。

 

 今回はクリスマスツリーが出てきた話だ。

 まだ残暑も厳しいこんな時期に!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか知らんが気がついたら魔法を使ったスポーツが開催されていた。

 審判が魔法を使って作ったボールを、選手は魔法を使って作ったラケットで相手の陣地に打ち返すテニスのようなスポーツだ。

 

 この競技、妙に難しい。

 まずラケットを作るのが難しくて羽子板みたいな形状になっているプレイヤーが多数。

 しかも集中力を切らすと魔力が離散する。

 その上、審判ごとに作れるボールの質が異なるので打ち返しても思ったとおりに飛んでくれない。

 

 その関係でめちゃくちゃ集中力を使う。

 そして、めちゃくちゃ魔法の練習になる。

 プログラムのように論理的なものを感覚だけで扱う、魔法の要を遊びながら養えるのだ。

 

 それにしたってめちゃくちゃきついと思うけどねこれ。

 その全てがシャドーボールの応用で出来るとはいえ、一番集中力を使う維持をずっとしていなければならないのだ。

 

 それをなんとか維持しながらやれてるあたり、来ているのはやっぱ専門家集団だなという感じだ。

 頭を使うのに慣れているというべきか。

 

 ……私?

 シャドーボールの操作の延長で、もう漫画の影使いみたいに自由に動かせる様になったけど。

 ぶっちゃけそのまま1時間ぐらい漫画読みながらでも維持できる。

 

 宇宙エレベーター基部に変なスポーツが誕生したのは置いといて。

 ガチャを回そう。

 

 R・クリスマスツリー

 

 出現したのはクリスマスツリーだった。

 ……この、まだ残暑が続く今日に、クリスマスツリー?

 あまりにも季節外れな代物である。

 しかも、普通の三角形のクリスマスツリーではなく、なにか下のほうがでっぷりしている。

 その上、巻き付いた電飾が電源もなしにすでに光っているのだ。

 

 うーん、邪魔な代物が出てきてしまった。

 2メートルぐらいあって結構デカい。

 どうやって動かそうかな……。

 

 そう思って近づいたときだった。

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 でっぷりした部分と上部の細くなっている部分との間が開いて、私の頭を飲み込んだのだ。

 

 噛み付く力はそんなに強くなく、非力な私でも強引にはがせる程度だが……。

 クリスマスツリーが襲ってくるって。

 襲ってくるって。

 陳腐なB級ホラーか。

 

 枝を集めて腕みたいな形状に変え、振り回してこっちに向かってくるが下半身はプラスチックの爪でしかなく、ほとんど動かせてない。

 私はその遅いクリスマスツリーから距離を取る。

 

 すると今度は電飾をピカピカと光らせ……そこからレーザーを撃ってきたのだ。

 威力は服が焦げる程度。

 それも断続的にしか出せないため、燃やすとかそういうことも無い。

 

 目に当たれば失明するかもだが……。

 私はそうなる前に魔力を固める。

 影の矢を飛ばす魔法であるシャドーボルトをクリスマスツリーに叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。私の魔法でばらばらになったクリスマスツリーを兄が修理した。

 まあ直すのはいいのだが、直してる途中で兄がほとんど襲われる形になっていたのだが。

 まるで気にしていない様子でクリスマスツリーを押さえ込み、壊れた箇所を直していく兄の姿は……ぶっちゃけシュールである。

 

 クリスマスツリーに羽交い締めを食らわせている状況というのがすでにシュールであるが、それがその羽交い締めの対象を直すためなんだから余計シュールだ。

 

 そこまでして直す必要もない。

 いや違うな……、なにか今余計なもの組み込んだぞこいつ!

 何入れた!

 

 掲示板の報酬の世界樹の枝……だと……。

 

 その後、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)30体掛かりでクリスマスツリーを押さえ込む羽目になった。

 この考えなしめ……。




カクヨム掲載した時期は9月でした。


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SSR 世界樹

 世界樹。元は多くの神話に語られる、その枝の内に複数の世界を抱える巨大な木を指す言葉だ。

 巨大な生命力の塊であり、枯れてしまうと世界が死んでしまうほどだ。

 そこから様々な創作ではその世界樹の苗木のような存在がいくつも出てくる。

 そのほとんどの作品での葉や触れた水は特別な力を帯びている。

 それだけでもその力の強大さが伺え、世界そのものを維持していることすら多い。

 

 今回はその世界樹が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっとというべきか、機械じかけの星の併呑が完了した。

 星を覆うダンジョンの管理権限を強だ……獲得したため、簡単に侵食が可能になったため、兄はサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を各地にへと派遣。

 侵食に使用するための基準をばらまいたのだ。

 

 その過程には色々あった。

 機能が死んでいないガードロボットに襲われ、それに対してサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を数十倍の数けしかける羽目になったり。

 機能が死んでいない自動兵器に襲われ、それに対してサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を数十倍の数けしかける羽目になったり。

 機能が死んでいない自動販売機に襲われ、それに対してサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を数十倍の数けしかける羽目になったり。

 

 ……なんか襲われてばっかりだな。

 まあセキュリティがしっかりしているのが原因だ。

 というか一部白い塵に侵食されながらも、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に勝る性能を維持しているあの機械群ヤバすぎる。

 

 あとなんか、この星、変形合体機能があるみたいなんだが。

 何を想定してそんな機能を……?

 

 まあいいか。

 技術は吸い上げられるだけ吸い上げ終わっているし、現状死の星であるためどうするか悩ましいところである。

 資源は掘り尽くしてそうだし、白い塵を片付けるのもしなければならないし……。

 

 まあ考えるのは兄だが。

 私は横で見ているだけなので楽な身分である。

 さて、ガチャを回してしまおう。

 

 SSR・世界樹

 

 世界樹。

 掲示板の依頼の報酬で枝やら雫やら葉やらが出てきていて、どれもヤベエ級の素材だったのだが、ついに本体が出て来たか。

 先日も枝で一悶着あったばかりであるし、葉に触れた雫は致命傷を即座に塞ぐほどの薬の材料になるし、葉はもう煎じて飲ませると死人が生き返る。

 

 まあそういうヤバい代物なんだが……。

 どこに出現したんだ?

 テラスを見渡しても、それらしい植物が見当たらない。

 

 うーん……?

 そう首を傾げる私の耳に、メキメキという音が聞こえてくる。

 なにか、こうアニメなどで木がすごい勢いで成長していくときに鳴るような音だ。

 

 音のする方、すなわち宇宙エレベーターのある方向に視線を向けると。

 

 宇宙エレベーターと同じほどの大きさもある幹が、宇宙エレベーターを添え木に成長していく姿があった。

 枝を絡ませ宇宙エレベーターと同化していく。

 その姿は森の侵食というより、宇宙エレベーターと一つになっていくようである。

 

 いや、やっぱ融合していってるな。

 枝の隙間から見える宇宙エレベーターの外装がだんだん樹皮に似た物に変わっていっているもん。

 あと基部も明らかに植物の根のような形状に変わってきている。

 

 おっとー?

 ヤバいものひいたか?

 

 

 

 

 

 後日。完全に宇宙エレベーターに同化した世界樹は、なんというかこう……。

 ヤバいことになった。

 静止衛星軌道上まで伸びる超巨大な大樹になったにも関わらず、その巨体を完全に維持している。

 兄が言うには、どうも違う理が働いているらしく、樹皮を境に別空間と化しているとのこと。

 

 そして宇宙エレベーターの中はというと。

 その内側を完全に別世界と化した。

 幅数キロほどの円筒状の宇宙エレベーターの内側を、まるでアニメで見たコロニーのように。

 宇宙までの3万6000キロメートルまでを自然豊かな環境へと変化させたのだ。

 なお宇宙エレベーターの太さは1キロメートルもない。

 明らかに空間が拡張されている。

 

 なお、上層はもっとヤバい。

 宇宙エレベーターの中腹ほどから広げた枝の上にいくつかの別世界が広がり、その中に様々な環境が再現されているのだ。

 それも、一つ一つが東京ぐらいの広さで。

 

 しかもそれが直接地続きになっている。

 どういう原理でそうなっているのかわからないが、本当に基部から歩いて枝の別世界に行けるのだ。

 なお時間は問わないものとする。

 

 ついでに、静止衛星軌道ステーションも同様に異世界化し、都市国家ぐらいなら入りそうな草原となってしまった。

 建物はそのまま移設され、ゲートは繋がったまま形を変えたが。

 

 なお生育の時点でダンジョンの一部扱いになっていた模様。

 一気に領土が広がってしまった。

 突然湧いて出た十数万平方メートルもの領土、普通に扱いかねる。

 しかも7~8個の東京サイズの別世界もプラスだ。

 ついでにいうと基部はめちゃくちゃ険しい植物ダンジョンと化した。

 全容が機神の出力した地図でしか把握できない。

 

 世界樹は世界を乗せた樹だとは聞いていたが。

 まさかここまで……。

 

 私は世界樹の枝の上にへと移動した機神の背中のテラスから、真昼の星空を眺めながらため息をついた。



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SSR 世界樹 その2

 世界樹はその内に複数の世界を抱く。

 それはつまり……ある種、神に近しい存在であると言ってもいいだろう。

 命を育みその一生を見届ける存在。

 それはやはり信仰の対象となるだろう。

 ただ巨大なだけの樹にすら神が宿るとされるのなら、世界樹には一体何が宿るのだろうか。

 

 今回は世界樹で世界が大変なことになった話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ。

 案の定というか。

 世界樹の出現で、流石にガチャレクシアは混乱のさなかにあった。

 

 突然超巨大な樹が出てきたのだからまあ、混乱しないほうがおかしい。

 宇宙エレベーターのときはそれが何なのかわからないのと、空の向こうに線が走ったようにしか見えないことから、そういうこともあるだろうと流されていたのだが。

 植物の樹は彼らの常識の中にあるものだ。

 それが突然生えてきたというのなら混乱も起こる。

 

 それに世界樹が根っこを伸ばし、そこから枝が伸びる形で樹海を広げている。

 もとからある森と一体化することで世界を複雑に切り分け、その樹由来の生命力に満ちた小世界へと作り変えていく。

 

 もともと偽装用に用意した国も飲み込まれて、まるでエルフの国みたいな見た目になってしまっている。

 世界樹はダンジョンであるため、全く不都合はないが、外部に見せて言い訳するためとしてのカードとしては微妙な感じになってしまった。

 

 でー、ガチャレクシアではいくつか反応が分かれた。

 

 一つは、信仰対象と捉え、熱心に拝むもの。

 巨大な樹はただそれだけで信仰対象である。

 それを遥かに超え、宇宙にまで届く神の樹を崇める、というか神の与えたものだと考えているようなのだ。

 この考えは街の中に住む一般人に多い。

 

 まあ、間違いではない。

 周囲には機械仕掛けとはいえ大量に天使がいるし。

 神ではなくてガチャから出てきただけだ。

 

 一つは、危険な魔物だとして、討伐しようという動き。

 ガチャレクシア周辺の森にはトレントと呼ばれる動き回って人を襲う木のモンスターが生息している。

 その中でも超強力なものが世界樹だと考えているのだ。

 この考えは血の気の多い冒険者に多い。

 

 まあ、どうやって倒すかという致命的な問題から皆目を背けているのだが。

 要はそう言っていれば箔がつくから言っているだけなのだ。

 実際成し遂げられるならそれこそ神話の英雄である。

 

 一つは、異変として調査しようという動き。

 これはまあ統治者側の考えだな。

 それが危険なものか、それとも益をもたらすものなのかどうか確かめなければならないと考えている。

 まあ、仮に利益を得られるものなら利権に食い込もうと考えているものも多いようで牽制しあっているようだ。

 

 これはこれで問題がある。

 そもそも世界樹までどうやってたどり着くかである。

 霧星(きりほし)の環境は過酷であり、人が住める土地は限られている。

 そこを出て調査に赴くということは、危険地帯を踏破できるだけの実力者が必要なのだ。

 

 で。

 それが出来る人員として、名指しされたのが。

 うちのサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)だった。

 単独で危険生物を討伐出来る実力を持つ集団。

 

 笑う。

 マッチポンプじゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おっと。

 そう言えばこの件にはもう一つ、関わってくる陣営があるんだった。

 それは地球側である。

 

 突如霧星(きりほし)側の宇宙エレベーターに異変が起こり、超巨大な樹に変貌したのだからまあ、正気になる。

 魔法技術の供与、ダンジョン資源の販売など、これまでの社会の常識を覆し新たな技術を生み出す代物だった。

 だがそもそも、宇宙エレベーターへ調査に入ろうとしていたのは宇宙へ進出することとあわよくば霧星(きりほし)に踏み入ろうという算段だったはず。

 

 国を名乗って、しかも利益を与えてくる存在を無碍にするつもりはないはずだが。

 調査団として目的を違える理由にはならない。

 

 結果、宇宙エレベーターの利用を求める交渉を要求してくるようになった。

 すまない!

 まだ準備が終わってないんだ!

 

 そもそもまだ人を安全に運ぶ手段が確立されてないんだ!



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R 黄金のスカラベ

 スカラベ。フンコロガシとも呼ばれる虫の一種だ。

 古代エジプトでは丸い玉を転がす姿から、太陽を運ぶ神の化身として信仰されている。

 そのため、多くの壁画や装飾品のモチーフに利用されてきた。

 その丸い形に分割線を書くだけでもスカラベのような形になるためわかりやすい意匠としての側面もあったのだろう。

 

 今回はそのスカラベが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 意図せずしてマッチポンプの形になってしまったガチャレクシア側での騒動だが、すぐ撤回された。

 理由は簡単である。

 向かう途中にある森が、完全に異界化してダンジョンに変貌していたからだ。

 その森が世界樹から続く巨大な根の一部からなっていることがあちこちから隆起し巻き上げている根を見てもわかる。

 

 ガチャレクシアは前も言ったとおりに、ダンジョンから得られる資源で成り立っている街だ。

 そのため、ダンジョンの取り扱いやそれの周辺を開発する技術などが集積されている。

 それを使って新たな街を作ろうという方向に切り替わったのだ。

 

 そもそも利益を目的に行動していた集団だからそりゃそうなる。

 世界樹を調査するにもダンジョンの踏破は必須。

 そしてそれはある意味で外様であるサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に利権を与えてしまうようなものだ。

 ダンジョンの先行踏破はダンジョンに関する知識を独占出来る。

 故に、依頼は撤回された。

 

 最もその森のダンジョンは世界樹によって作られたダンジョンなんだが。

 領域としては、機神の支配下にあるものだと言える。

 だからサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)にとっては自宅も同然で、調査もクソもない。

 

 だから兄は体のいい防壁が出来た、と……。 

 ダンジョンの構造を難化し、そしてランダムポップモンスターを増強。

 ドロップ品の品質を上げることで、それ以上進ませないようにした。

 

 なんというか、兄が他人を餌で釣る方法を身につけていっているような気がする……。

 

 はー。

 まあいいか。

 ガチャを回すとする。

 

 R・黄金のスカラベ

 

 出現したのは、その全身を黄金で作り上げられた、機械じかけのスカラベだ。

 全身が歯車で出来ていることを示すように、外装の隙間から歯車が顔を覗かせており、それは動くたびに回転をしている。

 

 まあ、それだけなら機械仕掛けのスカラベでしか無いんだが。

 これがまあ、直径1メートル50センチぐらいあるとなると話は変わってくる。

 背中に座面と思しき凹みも付けられていて、明らかに上に誰かが乗る想定で作られているのだ。

 

 ええー……。

 機械仕掛けの虫型の、乗り物。

 なんというか、もうその時点で用途がさっぱりわからない。

 効率的でない。

 乗り物というものは効率を追求するものだ。

 

 まあとりあえず座ってみるか。

 手に持てるハンドルのようなものがなく、安定に欠きそうな座席だが、実際座ってみると意外と安定している。

 どっしりと座ると、びっくりするぐらいバランスが取りやすい。

 無理な姿勢をしても倒れなさそうなぐらいである。

 

 そして、座るとスカラベは動き出す。

 私の意志を読み取る、というより私がどうしたいかを考えて動いている、そんな感じだ。

 6本の足でゆっくりと歩くのだが、思いの外安定している。

 

 なんというか。

 自動で動く座布団……みたいな……。

 想像以上に安定しているのと、乗り心地がとてもいいせいで、余計座布団感がある。

 

 なんだ……これ……。

 足は遅い。

 はっきり言って遅い。

 何に使うために作られたものかやっぱりわからない。

 

 さっぱりわからん。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がデカい球を転がさせていた。

 スカラベの上に座ったまま、2メートルぐらいある球体を、あのスカラベ特有の運び方で。

 どうして安定しているのかと感じるぐらい不自然なほど、兄は傾いている。

 普通に滑り落ちておかしくないのに、安定している。

 

 ……。

 えっ。

 そんな球体、転がしながら運ぶ用途ある?

 

 変な機能が見つかっても、結局用途がわからない。

 ……、これまじで何に使うものなんだ……。

 



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R エアガン

 エアガン。小さなプラスチック製の弾をガス圧によって発射する銃の玩具のことだ。

 これを使用して広い場所で撃ち合ったり、的を狙って得点を競い合ったり、普通に撃つことそのものを楽しんだりする。

 また電動で銃の動作を再現するものも存在する。

 銃は基本的に反動を利用して動作を行う物が多いため、エアガンのガス圧では動きの再現ができないためだ。

 

 今回はそのエアガンが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実は、宇宙エレベーターの全長は36000キロメートルではない。

 72000キロメートルが正しかったりする。

 これは、静止衛星軌道ステーションや宇宙エレベーター全体を安定させるためのカウンターウエイトとして伸びているシャフトが存在するためだ。

 

 それに宇宙エレベーターの節……最近サメ機巧天使が全体をチェックしたためにわかったのだが、この節は中継ステーションである。

 静止衛星軌道上だけでなく、そこから深宇宙へと飛び立つために存在する高軌道ステーションと地上へとシャトルを下ろすために利用される低軌道ステーションの2つが存在していたのだ。

 

 いや、たしかに宇宙エレベーターを高速道路のようなものだと考えると、途中にサービスエリアぐらい広い地点が存在するな、とは思っていたのだ。

 まさかそれもステーションだったとは。

 

 で、人を迎え入れるにはまず安全に高速で移動できる移動設備を用意することと。

 この節に当たる地点を開発して休息が可能なようにする必要がある。

 

 アホほど長い上に、やたら単調な道中を耐えられる人間はいないんじゃないか……?

 宇宙開発となるともう静止衛星軌道や高軌道のステーションまで行く必要があって余計遠い。

 

 初期の兄の計画がずさんすぎるのもあるが、やることがどんどん増えていく。

 開発する必要のある環境がどんどん増えていく。

 いや、土地が増えたのは世界樹のせいだが……。

 

 私は計画のネタ出しをしながら、ガチャを引く。

 

 R・エアガン

 

 出現したのは、アサルトライフルのエアガンだった。

 ややチープなプラスチック製の電動ガンと呼ばれるタイプのエアガンのように見える。

 いわゆるロシアの傑作銃、というかどんなにこき使っても乱雑に使っても壊れないアサルトライフルを模したもののようだ。

 

 ふーむ。

 紙にはエアガンと書いてあるが。

 マガジンを外してみても確かにプラスチックの弾が入っている。

 

 とりあえず撃ってみるか。

 テラスの外縁部に的となる木材を置き、少し離れた位置からエアガンを構える。

 そして引き金を引くと、バババババと実銃の音を再現したであろう作動音と共に、プラスチックの弾が発射された。

 

 その弾は木材にへと当たり、跳ね返る。

 特に威力もおかしなところがなく、弾に変な事が起こっているわけでもない。

 

 んー?

 そう、頭をかしげている間、トリガーを引きっぱなしにしていた。

 出ども、出ども尽きない弾。

 すでにテラスの縁に置いた木材の下に弾が山積みになっているのに、まだ弾が出続ける。

 

 ええええ……。

 まさかの無限弾倉。

 いや実銃で出られるよりましなのか?

 

 なんというか……、最強のエアガンを作ろうとでもしたのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。無限弾倉だけじゃなった。

 兄が調子に乗ってというか、無駄に射程をとって試し撃ちをしたのだ。

 発射された弾丸は重力に従って落ちることなく、銃口からまっすぐに進んでテラスの縁にあたったのだ。

 なお狙ったのはその上の木材の模様。

 

 発射されてからずっとまっすぐ進む、といえば優れた性能のように聞こえるが、そもそもエアガンな上、精度が低い代物だ。

 普通に撃っても狙った場所に真っすぐ飛ばない代物なのだ。

 重力の影響を受けないだけで、銃のブレは解消されるわけではない。

 

 やっぱ最強のエアガンでも作ろうとして、選んだ銃が悪かった失敗作だよねこれ!?



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R ステージマイク

 マイク。声を受け取って電気信号に変化させる道具だ。

 一度電気信号となった音声は簡単に加工が可能になるため、様々な装置を通すことで好きなエフェクトをかけたり、音量を大きくしたり出来る。

 そのため音質に優れたマイクを使いたくなるが、音質の優れたマイクは構造上繊細な部品を利用している場合が多い。

 特に優れているものは軽く落としただけで壊れる。

 なんならマイクを叩くだけで壊れる。

 なのでマイクは丁寧に扱おう。

 

 今回はそのマイクが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョン産の素材を利用した発電機の試作品が完成したと発表があった。

 開発したアメリカの研究機関は他国に牽制するために開示したように見えるが、その性能はすでに既存の発電機を超えていた。

 

 その発電機はダンジョン産の発電する石を組み込んだ2メートル四方の箱のような形をしている。

 内部に水を循環させることで水を電気に変換する構造になっており……、その変換する効率が核分裂のそれをはるかに凌駕しているのだ。

 これが示すのは、液体の水が持つ総エネルギーを発散させることなく電気に変換しているということであり。

 ダンジョンの素材である石は、ただの触媒であるため消耗しないということだ。

 

 まあこれは、はい。

 次世代の発電はこれで決まりですね、はい。

 

 国際政治的に言えば、この技術を押さえないと他国に遅れを取ることは確実となったわけだ。

 そうなるとたいへんめんどくさいことに……発注が増える。

 

 ダンジョン生産品なのでいくらでも生産出来るが、一度に用意できる量には限りがあり、しかもそれを争奪しあうような状況だ。

 そして調査隊はそれぞれ国家を背負って来ているわけで……。

 

 大変横暴な客が増えて困る。

 まあサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に勝てる人間など一人もいないのでいくらでもつまみ出せるが。

 面倒な客であることには変わりない。

 

 はー、ガチャでも回そ。

 

 R・ステージマイク

 

 出現したのは、いわゆるスケルトンマイクと呼ばれるような、金属の骨組みに覆われたマイクだった。

 古いステージの映像でミュージシャンが手で握って歌っているあのマイクだ。

 

 ……、出現したときからわずかにホワイトノイズのような音が聞こえている。

 ノイズキャンセリングでも仕込んであるのだろうか?

 

 まあいい、とりあえず試してみるだけだ。

 配線も何もないということは、このマイクは単独で動作するタイプのものだ。

 本来なにかとつながって利用される代物が切り離されて単独で動作するようになっているものはガチャから結構出てくる。

 つまりはこれも同じだ。

 多分、声を吹き込むと近くから拡大した音として発するような物のはず。

 

 そう思って、私は声を出した。

 

「         」

 

 声は、出なかった。

 違う、確かに喉までは出ているのだ。

 それが、口先から……マイクで打ち消されている。

 

 さっき聞こえていたホワイトノイズの正体はこれだったのだ。

 自分の耳に声が届かないほど強力なノイズキャンセリングならば、周囲の音を打ち消そうとして出た音がホワイトノイズとして聞こえていたわけだ。

 

 ……よりによってステージマイクで!?

 これ使ったら放送事故確実じゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がハンモックで昼寝するのに、頭のあたりにステージマイクを置いて使っていた。

 周囲の音を問答無用で打ち消すステージマイクは、周囲の煩わしい音を消すのに最適な景品であると言える。

 人の声を完全に消してしまうほどだ。

 その中で眠るのは完全な無音の世界で眠るのとあまり変わらないだろう。

 

 まあ、兄が昼寝しているのはテラスなんだが。

 もともと煩わしい音とか無い。

 強いて言えば、機神の駆動音だが、これはなんというか、大きさの割には小さいため意識しなければ聞くこともない。

 

 こいつ……。

 ただ使いたかっただけじゃん!

 使ってみたかっただけじゃん!



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R 犬

 犬。古来より人間のパートナーとして寄り添ってきた生き物だ。

 狼が家畜化したものだとされ、現在では様々な犬種が存在している。

 牧羊犬と呼ばれる、羊を管理するために種を選定され訓練された犬や、狩猟犬と言って、獲物の匂いを追う犬など、人の暮らしを助けてきた生き物でもある。

 

 今回はその犬が出てきた話だ。

 ……なんか違わなくない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 世の中には瞬間的な発想力で機神を上回る天才がそこそこいる。

 そのことに気がついたのは……、今日のニュースだ。

 中国の研究所で、直径30メートルにもなってしまったがあの羽の回らないドローンの飛行原理を再現した装置を作り上げたことが取り上げられていたのだ。

 

 あのドローンは私には詳しくわかっていない原理で浮き上がっている超技術であり、すでに機神によって解析済みとはいえ、開示するには少し早すぎたか? と考えていたものだった。

 だが、実際はこれだ。

 

 世界には私の想像を超える天才がいて、知識を与えれば打てば響くようにそれを実現してみせるのだ。

 まるで魔法のようである。

 

 いや違った。

 魔法使いは私か。

 くだらない冗談はおいておいて、本当にすごい。

 

 でもまあ、同時にちょっと困るところではある。

 兄が今か今かと色んなものを放出したがるのだ。

 それがどんな影響を及ぼすか全く考えない。

 機神に算出もさせているのに参考にしない。

 

 だから止めるのに苦労する。

 もうちょっと思慮深くなってもらえないかなぁ。

 無理か。

 発想と衝動と思いつきの人だからまあ、無理か……。

 

 はー、ガチャ回そ。

 気分転換にはならないが……。

 

 R・犬

 

 出現したのは、機械だった。

 それは四足歩行の、犬を模した機械……いわゆるペットロボットというやつである。

 

 まあそれはいいとして。

 思いっきりロボットアニメの戦闘ロボみたいなデザインになっていることもまあいい。

 実際のペットロボットにもそういうデザインのものが存在するらしいしな。

 

 犬ってなんだよ。

 名称が雑すぎる。

 

 まあ確かに?

 このペットロボットは犬そのものの動きをしている。

 足りていない関節を器用に使って、犬の動作の模倣を行っている。

 確かに犬ってこういう動きするよね、と言いたくなる動きをしているのだ。

 

 だが犬って言わないだろこれ。

 どう見ても犬型のロボットである。

 

 変なところに引っかかって一人頭を悩ませているところに、すり寄ってくる犬型ロボ。

 犬そのものの動きであるため、通常愛らしいと言える動作なのだが。

 いかんせんその露骨なロボデザインが邪魔をする。

 

 頭のハッチはなんなの、と言いたくなる。

 口の中に銃のようなものが造形されている。

 背中にはペイロードを意識したかのようなジョイントがある。

 

 もう、こう……なんなの……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が襲われていた。

 犬型のロボットに、襲われていたのだ。

 

 犬が好き……かどうかはともかく、兄はこういう生き物に触れようとしがちだ。

 多分動くものに興味があるんだと思う。

 

 それでまあ、犬型ロボットなので兄は撫でようとしたのだ。

 その手をなぜか噛まれた。

 

 それからは敵とみなされたのか、思いっきり飛びかかられたり、爪で切られたり噛まれたりとすごい状態だった。

 いやはや、何がそこまで駆り立てるんだろうか。

 もしかして犬に嫌われているのでは?

 

 まあ兄は兄なので、レベル差でノーダメージなんだが。

 こいつはこいつで人間やめてやがるな……。

 

 



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R 自動改札

 自動改札。駅に設置されている、切符を読み込ませるアレである。

 改札は乗客が電車を利用する際の切符の確認を行っている設備であり、大量の人をさばくために高速な処理が求められる。

 そのためタッチして進むような電子化された定期券はものすごい技術の塊だったりする。

 

 今回はその自動改札が出てきた話だ。

 いや、これだけ出てこられても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の話を聞かないで工作員を送り込んでくる国もある。

 基本的に宇宙エレベーターは全域ダンジョンであるため機神は内部の人間の位置と行動のすべてを把握していて、しかもサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を好きな位置に転移させられるため、そういう侵入して調べようという魂胆は無駄に終わるわけだが。

 

 そういう工作員は拘束し朝方に見晴らしのいい広場に吊るすようにしている。

 マスクも剥いだ上、国籍と名前と所属を英語と日本語と中国語で書いたボードを首から提げた状態でだ。

 

 あんまりこういうことされると締め出しちゃうぞ♡ という意思表示だ。

 夕方には送り込んできた国の所属船に押し付けて片付けている。

 いやあ、本当にどこの国も送り込んでくるので片付けるのも一苦労だ。

 

 出し抜きたいのはどこの国も同じなんだな、と。

 でもまあそういう事されると、こっちとしては強硬策を取らざるを得ない。

 

 神の目から逃れられると思ってるのならどんどん送ってくればいいと思うよ!

 出禁にするだけだからね!

 

 まあそういうことを考えるのは兄だが。

 私は結局ガチャを回して安眠妨害されないようにするだけである。

 

 R・自動改札

 

 出現したのは自動改札だった……自動改札?

 駅にある切符を入れるアレだ。

 その設備が出現した。

 

 金属板の足場に対して、左右の読み取り機が存在しているという作りなのだが、これだけ存在していると違和感しか無い。

 ある意味で鳥居などに似た結界としての役割がある物なだけに、それが単独で広い場所に置いてあると妙に落ち着かない感じがするのだ。

 

 電源もないのにIC定期券の読み取り部分が光っているのはもうガチャの定めだとして。

 使えと言わんばかりにIC定期券が足元に置いてあるのもなんかもうイヤである。

 

 まあ私には試すしか無いのだが。

 その定期券を拾い、タッチ部分に触れてみる。

 

 ちゃんと認証されたようで、光り方が変わった。

 私はその自動改札を抜ける。

 

 抜けた先にはテラスが変わらず存在……してなかった。

 見たこともない駅のプラットホームだった。

 どちらかと言うとモノレールやニュートラムなどの駅に似ている。

 

 いや、見たことがないというか、駅名表示が竜鮫迷宮機神(ドラゴシャークダンジョンマシンゴッド)テラスになっている時点でだいぶ……。

 間違いなく存在していないはずの駅だと理解できる。

 

 ついでにいうと電車は止まったままである。

 銀色のフレームの電車で、若干未来っぽいデザイン。

 日本の技術ではないな……という印象がある程度だ。

 強いて言うなら平行世界のサイバーパンク日本が使ってそうな電車である。

 

 電光掲示板には「現在、他の駅が存在しないため発車を見合わせております」との表示が。

 ????

 駅が存在しない?

 

 いや、何?

 なんなの?

 

 

 

 

 

 後日。兄が狂ったように自動改札を生産していた。

 内容を説明し、IC定期券を渡して兄に確認させたのだが、何かに気づいたように兄は機神に解析をさせたのだ。

 その結果、20余りの自動改札を生産することに成功した。

 

 機神、万能の神すぎる……。

 ガチャ産の代物をあっさり複製して生産してしまう、しかも多分技術も読解して理解している。

 IC定期券も解析済みで、内容を書き換えることにも成功しているようだ。

 

 で、兄が用意した改札をどうしたかというと。

 宇宙エレベーターの各所に配置した。

 まだ霧星側だけだが。

 

 そうした結果どうなったかというと。

 地点ごとで改札が一つの駅を構築し、それぞれを、あの動かなかった列車で移動できるようになったのだ。

 しかも1区間ごとに十数分程度の速度で。

 

 わ、ワープ……。

 しかも割と古典的な方法の方の……。

 空間を短縮して移動するタイプのワープを、駅舎と電車の形でしてやがる、この自動改札。

 プラットホームそのものは異空間にある関係で駅自体もかなり小さい作りに出来るから、余計ワープ感がある。

 

 静止軌道ステーションまで、まさかの数時間で到達出来てしまう。

 新幹線で東京と大阪を往復する感覚で宇宙まで上がれてしまう。

 これまでさんざん頭を悩ませてきた課題がまたガチャ産の景品であっさり吹っ飛んだといえる。

 

 これがレアリティRか……。

 いや、機神がなきゃ複製すら出来ないんだからまあ、そうか。

 複数引く前提か……。

 

 これまでダブりとか見たこと無いのに、複数引く前提の景品が存在すんのこれ!?



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R 教室の机

 教室の机。一度に大量に購入されるために見た目がほぼ同じものが大量に存在するものである。

 多くの場合、使用する児童の成長に合わせて高さが変えられるようにネジ止めで足が固定されいている。

 また、大きさの都合の良さから、一般でも購入する人がいるそうだ。

 

 今回はその教室の机が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 電車の整備は進んでいる。

 構造上地下鉄に似たあの自動改札内の電車は、どんなに複数で複雑な配置をしようと直線にその駅を配置する。

 

 それに駅を増やせば増やすほど駅と駅の間隔が短くなるのだ。

 終着駅までの時間、距離が固定の作りのようである。

 

 自動改札を宇宙エレベーターの各所と各ステーションに配置することで霧星側宇宙エレベーターwith世界樹をわずか2時間で移動できるようになったのだ。

 最も高い地点にある高軌道ステーションまでその時間で行けるようになったのだからかなりの時間短縮である。

 世界樹の枝に広がる小世界にも駅を配置してあるので移動の手間もない。

 

 いやあ、めちゃくちゃだな!

 時速36000キロである。

 えーと、ざっくりマッハ30?

 電車の出す速度じゃねえな。

 しかも途中で寄り道してるからもっと速い。

 

 超技術すぎて他人にお見せできない代物である。

 まあ、機神はもう完全に解析済みで別バージョンまで作り上げているっぽいんだが。

 地球に存在する素材と加工技術だけで作れるダウンスケール版まで設計済みだという。

 マジか……。

 

 将来的に世界中をワープ列車が走り回る未来を予見して、それを見なかったことにしつつ。

 今日の分のガチャを回すことにする。

 

 R・教室の机

 

 出現したのは小学校の教室によくある机だった。

 天板が木で出来てていて、フレームが金属製のものだ。

 大概一緒に扱われる椅子はついていない。

 

 で……、教室の机。

 机だけ出されても微妙に困るな。

 天板がしっかりしていることぐらいしかわからない。

 

 高さが変わるとか……、ネジが固すぎて動かない。

 教室の机のネジって固すぎて開かないのはまあ普通だが。

 

 うーむわからん。

 全然わからん。

 

 引き出し部分に手を突っ込んでみたり、とりあえずなにかを入れてみたり、逆さまにしてみたり、コップを乗せてみたり。

 いろいろ試してみたがうんともすんとも。

 

 実はなにもない机……だとか……?

 その可能性はある……のか……?

 わからねえ。

 さっぱりわからねえ。

 ものが頑丈だということしかわからねえ。

 

 よくわからないまま、体重をかけたその時だ。

 机が、わずかに地面にめり込んだ。

 床がきしんで凹んだ、ではない。

 一瞬、沼に沈み込むように地面にめり込んだのだ。

 

 それと同時に、明らかにどこから発生したのかわからない力が机に掛かった。

 私はその力に弾き飛ばされ、それによって押さえつける力が無くなったせいで机が空へと飛び上がったのだ。

 

 明らかに重心が中心にある不自然な吹っ飛び方をしている机。

 いや……まさか……もしかして……。

 

 ハヴォック的な……?

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が机の上にコップを置くだけで振動する角度を見つけた。

 わずかに傾けたコップを角から机の上に下ろすことで、不自然にカタカタカタカタと揺れ続けるポイントを見つけ出したのだ。

 

 全く意味がわからない。

 この机がゲーム的な物理演算法則に支配されていて、うっかり地面にめり込むなどの現象を引き起こすことはわかっていたのだが。

 

 こういう、意味のわからないことをするのはまあ兄のサガだが。

 コップを振動させて何が面白いんだ。

 

 そう思っていたらコップの下にコインを挟んで圧力を掛けることで、コインをものすごい速度で飛ばして遊び始めた。

 撃つたびに木材に突き刺さっている。

 

 変なことしてすぐ危険を引き出すのもうなんなの……?



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R スマホ

 スマホ。小型のパソコンと言ってもいいほどに処理能力と機能性を高めた携帯電話のことだ。

 ある会社が発表した新たな携帯電話の概念はあっという間に世界を変え、今では一人一つのスマホを持つのが当たり前になってしまった。

 電子決済まで出来るようになっているのだからもはや生活には必須のものだと言える。

 きっとこれからももっと便利になっていくだろう。

 

 今回はスマホが出て来た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サメ型のお手伝い妖精のシャチくんは今、兄の手伝いをするために……800体に増殖した。

 成長した結果その数まで増殖出来るようになったというか、ダンジョンの成長に従って経験値を獲得したというか。

 この手のモンスターって進化すると見た目が変わるのが常……というかサメもどきは順調に変化してきたけれど、シャチくんは数が増えただけで変わっていない。

 

 その数を使って何をしているかというと、小世界の管理である。

 現在世界樹の枝には複数の世界が展開されているが、それを全部、とりあえずいい感じに維持している。

 

 そう、いい感じにである。

 小世界は基本的に独立した完全環境(アーコロジー)であり、外部からの物質的、エネルギー的な流入は存在しない。

 強いて言うなら日光ぐらいである。

 

 ダンジョンであるため足りない分を強引に補うことは出来る。

 出来るとはいえ、ダンジョンの持つリソースを消費するので少ないほうがいい。

 アクアリウムのように一つの世界ですべてが完結している方が無駄な消費が少なくなるのだ。

 

 シャチくんはこの、バランスを整える作業をしている。

 まあ兄にいかにも繊細そうな作業は絶対苦手だから適材適所だ。

 

 その作業に800体もいらないだろって?

 まあ、はい。

 

 ガチャを回そう。

 

 R・スマホ

 

 出現したのはスマホだった。

 背面がガラスコートで作られた、一昔前の流行りのスマホデザインに見える。

 今の流行りは技術的なものに引きずられ歪められているため、この頃のデザインが良かったという人も多い感じのデザインである。

 まあ、無難なデザインと言う感じでもあるが。

 

 電源は……ついた。

 起動と同時に、梨のアイコンが浮かび上がる。

 

 ……梨?

 全く見たことのないOSが立ち上がっていく。

 UIもなんか見たこと無い感じの……。

 

 いや、触った感じは普通のスマホだな。

 OSを見て分かる通り、製造が見たこともない企業になっていることぐらいか。

 

 ちょっと触り続けてみたがよくわからない、と思っていたのだが。

 なにか指がかじかむ。

 寒い中でスマホをいじり続けたように、指が動かしづらい。

 

 不自然に思って、反対の手でスマホを触ってみる。

 氷のように冷たい。

 それも、稼働に合わせて熱が奪われたようである。

 でなければ私がこんな冷え切っているスマホに気が付かないわけがない。

 

 えっ、発熱の代わりに吸熱するスマホ……?

 

 

 

 

 

 後日。兄はスマホカバーをつけることでスマホの過冷却を華麗に回避していた。

 ……兄が普通にスマホを使っている……だと……。

 なにかしら変なことをやらかしてくれる兄が、こんなわかりやすく異常なものを普通に使うなんてありえない、と思っていたら。

 

 やっぱ機神にさらっと解析させて、吸熱発電素子を作り上げていた。

 周囲の熱を限界まで奪い取って電気に換えるヤバい素子だ。

 マクスウェルも真っ青である。

 

 なお機神が解析してもOSの正体はわからなかった。

 梨……梨かぁ……。



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各種ガラクタ

 ガチャを回していくと……というか、埒外の物が手に入るルートが複数存在する現状では、多種多様なガラクタが手に入る。

 迷宮に眠る遺物、依頼の報酬、機神の生み出す発明品、ガチャから吐き出される技術的特異点。

 どれもこれも世界を変えるだけの力を持つ()()()()だ。

 個人の手に余り、それ故に価値を見いだされないガラクタである。

 きっと然るべき人や機関の手に渡れば素晴らしい価値のものもあるだろう。

 だが、私にとっては頭を悩ませるゴミでしか無い。

 

 今回はそのガラクタを紹介する回である。

 

 

 

 

 

 

 

 N・ウエディングケーキ

 

 こいつはまあ名前の通りの代物だ。

 4段重ねのウエディングケーキで、支えとしてプラスチックの台座が使われている巨大な作品だと言える。

 

 これは……ひどく簡単な特性を持っている。

 それは、食べても減らない。

 そして、一切腐敗しない。

 

 一回兄が頂上部分のケーキ食い尽くしたのに次の日には完全再生してたんだよな……。

 わざわざ兄はカメラを回していたのだが、再生能力特化のラスボスみたいな再生の仕方をしていた。

 

 兄もよく食うな……。

 未だに間食代わりに食っているところを見かけるのでヤバい。

 

 

 

 機甲神の聖典

 

 これは掲示板依頼の報酬で手に入れたものだ。

 大きさA4サイズ、厚さ辞書並の分厚い魔導書なのだが。

 内容が機神を礼賛するものであり、手に持ったまま一節を唱えると機神に由来する魔法が生じるのだ。

 

 機神に由来する魔法ってなに?

 どこだかわからない異世界で機神信仰が広まっている様子。

 別の機神かも知れないが、これ(うち)以外に機神がいることを想像するのはちょっと……。

 

 使える魔法は「サモン・ハイマシンシャーク(機械サメ呼ぶ魔法)」とか「シャークバイト(噛み跡をつける魔法)」とか、あとは「デミゴッド・カリキュレーター(自動で書類を処理する魔法)」とか。

 やっぱこれ、うちの機神では……。

 

 

 

 無限演算式情報炉

 

 これは……機神が制作したプログラムだ。

 スパコンで走らせるような超巨大なプログラムなのだが。

 なんの演算を行っているかと言うと、発電である。

 

 そう、発電。

 スパコン並の演算力を電力に変換する。

 このプログラム自体に電力を演算力に変換する式が組み込まれているので、一度起動してしまえばスパコンが壊れようが演算し続けるため、実質的に永久機関である。

 

 算出された電力は液体に近いゼリーのような形で精製されるのだが、このゼリーも大概ヤバい。

 乾電池に近い形の金属の中に入れるだけで電力を放出する。

 

 兄が言うには超高密度エネルギー物質だとかなんとか……。

 なんでスパコンの計算でこんなものを生成できるのか謎でしか無い。

 

 世界に提供……出来るわけないよなぁ……。

 

 

 

 覇王の玉璽

 

 これは邪神の迷宮からサルベージした遺物……なんだが。

 いわゆるマジックアイテムの中でも特別深度がヤバい代物のようなのだ。

 マジックアイテムは深度が深ければ深いほど、軽率に概念を弄くり始める。

 魔法的な抵抗力を持たない人間にとって致命的な効果を発揮するのだ。

 

 その効果は「国家の所有」。

 この玉璽は国家そのものであり、逆説的にこの玉璽を持つものは国家の所有者、つまり王であるということを示すゲキヤバアイテムだ。

 

 うん?

 よくわからない?

 簡単に言おう。

 

 これを使うだけで、日本だろうがアメリカだろうが、中国だろうが、簡単に国を手に入れられる。

 概念的に所有権を奪ってしまえるのだ。

 

 うわぁ……。

 手に、手に余るぅ……。

 

 



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R クッキークリームサンドリムーバー

 クッキークリームサンド。2枚のクッキーをクリームで貼り付けたものだ。

 ココアクッキーに白いクリームを挟んだものが主流である。

 牛乳につけて食べると美味しいらしい。

 

 今回はそのクッキークリームサンドを剥がして2枚のクッキーにする道具が出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョン資源による技術開発に遅れて、魔法研究所が設立されたことがニュースで発表されていた。

 魔法研究所。

 リアルに聞くと面食らうワードである。

 

 しかしダンジョンによってもたらされた魔法を研究し、いち早くその知識を利用できるようになることは、世界で覇権を取るのに必須。

 国策として研究するための場所を設立するのは当然というべきである。

 

 なんて言ったって超技術である。

 開示こそしていないが機械で実行する手段もあり、自動詠唱させるための方法も存在も存在し。

 工業的に利用出来ないはずがない。

 

 というか、すでに開示した魔法の中に、金属を好きな形に整形する魔法が存在していて、それが金属加工の分野にさっさと寄越せやと突き上げを食らっているらしいのだ。

 金属をまるで粘土のように加工できるが、イメージを固定するのがめちゃくちゃ難しい魔法である。

 そのため工業で利用するには機械実行を実現するしか無いのだが。

 

 それを無視してでも、最大精度で元素配置までイジれるのでそりゃあほしいわな。

 だいぶ修練が先行している私でも吐くほど集中力を要求するので実用化はだいぶ先である。

 

 魔法研究所には頑張って欲しいものだ。

 

 さーて、ガチャを回そう。

 

 R・クッキークリームサンドリムーバー

 

 出現したのはミキサーぐらいデカい、食品用の機械だった。

 やたら分厚いコインを入れるようなシリンダーが上部についており、下部には同形状のシリンダーが3つ存在している。

 また電動で動作するのか、コンセントケーブルもついている。

 

 それにしたって食卓の上に置いてあったら切れる大きさである。

 フードプロセッサーでもこんなにでかくない、というか。

 作りがスマートでないために、余計デカいような印象を受けるのだ。

 

 で、極めつけは?

 このクッキークリームサンドリムーバーとかいう、ふざけた名前である。

 クッキークリームサンドを剥がす(リムーブ)装置だぁ?

 そのためだけにこんなデカい装置を用意してしまうバカバカしさたるや。

 というか剥がすだけなら手で取れる。

 

 とりあえず試すために兄のおやつを持ってきた。

 束ごと上部のシリンダーに入れると自動で選り分けてくれるらしいのだが。

 

 ミキサー並の音を立てながら、上部のクッキークリームサンドが機械に飲み込まれていく。

 中でなにかを切っているような音がして、それが止まると下部のシリンダー3つにそれぞれ、ココアクッキーと内側のクリームとココアクッキーに分離され排出された。

 

 ……普通!

 やっぱこれ手ではがせるよ!

 うまくはがせてないのかクッキーにクリーム、普通にちょっと残ってるしさぁ!

 シリンダーに雑にクリーム投下したせいで取り出すのもめんどくさそうだしさぁ。

 というか、きれいに剥がすのならナイフで十分だよ!

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が、くっついてりゃなんでもええんやろ、と言わんばかりに接着した金属板を投入した。

 結果、薄くスライスされた金属板が3枚出来上がった。

 

 うん!?

 クリームを剥離するためだけにどんだけ鋭い刃を使っているのか。

 そして、そこまで鋭い刃を使っておいて、ちょっと剥がしそこねてるのもなんなの?

 

 で、そんな鋭い刃があるなら、って早速解体しようとしてる兄もなんなの!?

 やめて!

 これ以上面倒事を増やさないで!



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R 水鉄砲

 水鉄砲。それは水に様々な方法で圧力を加えたりすることで勢いよく水を飛ばす玩具である。

 簡単な作りのものでは、竹の筒に穴を開けて布の塊をつけた棒で水を圧縮する方法でも遊ぶ事ができる。

 また電動の物まで存在しているそうで、水遊びにどこまで本気なんだ……という気がしないでもない。

 

 今回はその水鉄砲が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言えば、まだ進んでいない調査がある。

 機械じかけの星はダンジョン化したとはいえその内容はほとんどわかっていないし、極彩色の星はそもそも調査に踏み入れていない。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)で踏み入れない危険地帯ってなんだ。

 単独で宇宙を航行可能なヤバいモンスターだというのに、それ以上の脅威がゴロゴロしているのだ。

 

 基本的に出てくるモンスターやら地形やら植物やらが全部漫画に出てくるような異能を持っていると思っていい。

 磁力操作食らわせてくる昆布ってなんだ。

 バリア張る鳥ってなんだ。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の胴をすっぱり切断してしまう尻尾を持つ恐竜ってなんだ。

 急成長して絞め殺してくる植物ってなんだ。

 

 まあ一つ一つ、調べては対処法を組み立てて少しだけ前進している。

 飛び跳ねて弾丸のように突き刺さってくる魚を受け流せる盾を持たせたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を用意し。

 植物を焼き払うための魔法を用意し。

 建物を強化できる素材を用意し。

 

 それらを以て、最寄りの土地に橋頭堡を築くことに成功したのだ。

 ほとんど要塞なんだが。

 

 これによって鋼よりも硬い木材を手に入れられるようになった。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を絞め殺す木を加工したものではある。

 

 まあ、硬すぎて使いようがないんだけどな!

 調査団相手に売ればなにか使い道を見出してくれるんじゃないかな。

 

 ぼんくら素材は置いておいて、ガチャ回そ。

 

 R・水鉄砲

 

 出現したのは水鉄砲だった。

 後部に水を入れるタンクがあり、銃口の下部に圧力を加えるためのポンプがある、割とお高いやつである。

 しかもデカい。

 抱えるほどの大きさがある。

 

 しかもタンクにはすでに水が満たされていて、重いのだ。

 2リットルペットボトルぐらいあるタンクなので当然それに見合うほどの重量がある。

 水鉄砲自身の重さを考えると、とても遊びに持ち出す気になれない重さだ。

 

 加圧ポンプも硬い、というか重い。

 明らかに一回で入れる空気の量じゃないだろ、と言いたくなる重さが手に伝わってくる。

 というか押し込むと空気が漏れる。

 

 そこまでして用意して発射した水は、レーザーのように細く、鋭く飛ぶ。

 飛ぶが……あくまで水鉄砲最上位の精度とパワーである。

 人に向けると怒られるかも知れない程度の力しか無い。

 飛距離はあるが……。

 

 これは普通の水鉄砲では……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が水鉄砲でダンジョンのスケルトンを消滅させていた。

 どういうことなの!?

 と思ったが、どうもこの水鉄砲。

 加圧すると同時に、充填されている水を聖水に変えるようなのだ。

 聖なる属性に弱いスケルトンは溶けるように消滅する程度には強力な聖水に。

 

 なにその……。

 なんに使うつもりで作ってんだよ……。

 

 途中でめんどくさくなった兄はタンクを外して直接スケルトンにぶっかけていた。

 まあ……そうなるな……。



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R かゆみ止め

 かゆみ止め。主に蚊や虫に噛まれ、かゆみを発生させる毒を打ち込まれたときに塗る薬である。

 薬にもよるが、クラゲの毒にも効く物も存在する。

 よく見かけるのはヘッドとなるスポンジ状のパーツに液体を染み込ませたものと、チューブに入った軟膏型の物だ。

 患部に塗るとなるとこの形状に落ち着くのだろう。

 

 今回はそのかゆみ止めが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 兄が何を思ったか、プランターに世界樹の枝を接ぎ木した。

 即問い詰めることになったが、回答は「思いついちゃったから、つい」である。

 いつもならこの段階で止めるのだが、今回はもうそれは出来なかった。

 

 なぜなら、接ぎ木した時点でものすごい勢いで成長し始めていたからである。

 このことを予想していたのか、極彩色の星側の宇宙エレベーター基部でやっていたが、なぜそれが予想できていたのに実行に移してしまったのかそれがわからない。

 

 メキメキと勢いよく成長しながら宇宙エレベーターと同化していく世界樹の姿は、まあガチャから出てきた時と全く変わらない様子なので割愛するが。

 

 様子が違うところがあるとすれば、前回よりも明らかに太い樹に育ってることかな!

 あまりに太くなりすぎたせいで、巨大な根がいくつもむき出しになっている。

 まるでマングローブのようだが、中央に幹と同じぐらい太い根もあるので微妙に形が違う。

 その根の生え方も足を出すかのように枝を伸ばして岩盤に突き刺すという植物のそれとは思えない動きだった。

 

 やはりこの星は栄養が豊富なのだろうか。

 世界樹の侵食速度が別物のようだ。

 

 うーん、あの野郎これが狙いだったな?

 攻略できないからって世界樹で蹂躙しようとしてんじゃねえよ!

 それなりに上手く行っていることが余計ムカつく。

 

 はー。

 まあいいか。

 ガチャ回そ。

 

 R・かゆみ止め

 

 出現したのはかゆみ止めだった。

 プラスチック製の頭部がスポンジ状になっているものだ。

 どことも知れないメーカーの、中国のパチもんっぽいデザインをしている。

 

 うーん。

 薬かぁ……。

 こういうの、試すのどうなんだろうなぁ……。

 

 まあいいか。

 ヘッドを軽く小指で触る。

 

 すると……。

 じわじわと指先が痒くなってくる。

 それも、蚊に噛まれたときに感じるタイプのかゆみだ。

 

 こうなってくるともう無性に掻きたくなってくる。

 指先をさすってしまう。

 

 いやいやいやいや……。

 罠かよ。

 ジョークグッズタイプの、嫌がらせ系の罠かよ。

 かゆいから薬塗ってるっていうのに、塗るとかゆくなる薬って。

 

 手元に置いてると絶対やらかすから困る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が薬を混ぜた。

 薬を絞り出して、自販機で買えるポーションと混ぜやがったのだ。

 混ぜると同時に変色し、なんというか……こう……ゲーミング! な感じの色合いになっている。

 というか、色水っていうよりこれ光ってますよね?

 

 そして、それを塗ったサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)曰く、味がする。

 味がする。

 

 え?

 それに疑問を持った兄が小指に薬をつける。

 兄は一言、甘い、と。

 

 指先で甘さを感じる、変な薬に変化していたのだ。

 えっ、じゃああのかゆみも、実はかゆみじゃなくて幻覚的ななにかなわけ!?

 

 たしかに洗い流したら痒くなくなったけども!

 



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SR 才能の卵

 才能。人に与えられた先天的な物事に対する向き不向きである。

 また特に優れた才気はただそれだけで人の人生を定めてしまうほどの影響力がある。

 才能があることも無いことも、人は必ず振り回されるだろう。

 本質的にそれは人の性格に寄り添わない。

 その人が持つ構造と蓄積の発露でしか無い。

 だからうまく理解して付き合っていくしか無いのだ。

 

 今回はその才能が出てきた話だ。

 困る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うーん。

 爆弾が見つかった。

 宇宙エレベーターの基部の端に爆弾が仕掛けられているのが発見されたのだ。

 

 いやまあ、潜在的な敵はかなり多いだろうとは思っていたが。

 神を名乗ったり。

 無差別に技術をばらまいたり。

 無差別に資源をばらまいたり。

 まあ、国際社会上ではヘイトを買いそうな行動ではある。

 

 関わった派閥は成長し、関われなかった派閥は衰退する。

 政治的に見ればそういう災害だとしか言いようがない。

 あまりにも暴力的だ。

 

 国家間の力学においてもそうだ。

 あのダンジョン産の発電する石一つで、すでに原油価格はだいぶ下がっているのだ。

 原油の販売に依存していた国からどう見られているかは、言うまでもない。

 

 しかし、しかしだ。

 財宝の眠る塔として国際社会のあらゆる国々に敵対して略奪される(もちろんそのすべてを返り討ちにして血の海を作ることになるだろうが)よりも、私達と仲良くしたほうが様々な利益がありますよと提示するほうが、平和なのだ。

 平和であることが闘争を呼ばない保証がないが、流れる血の量と頭を悩ます頻度は少なくなる、はずだ。

 

 選択は間違いじゃない。

 放置していれば乗り込まれて迎撃しなければならなかった。

 締め出せばきっと不法占有の誹りによって乗り込まれていた。

 知識を与えなければ……。

 国際社会ははっきり言って蛮族だ。

 あの手この手で収奪しようと掛かってきたに違いない。

 

 いやぁこわーいね。

 機神の未来予測があるからどうにかなってるけども。

 

 まあ先のことは置いといて。

 ガチャを回そう。

 

 SR・才能の卵

 

 出現したのは巨大な像だった。

 青い宝石のような卵型の像で、下部に皿にような装飾が施されている。 

 運ぶにしても抱える必要があるほどの大きさだ。

 卵型の宝石を飾るにしてもでかすぎるような気はする。

 

 とりあえず、これがなにか試さなければ。

 そう思って宝石に触れようとすると。

 腕が宝石にずぼっと突き刺さった。

 

 完全にめり込んでいる。

 温かいゼリーの中にあるような感覚があるが、視覚的には宝石を透過して腕が入っているようにしか見えない。

 動かすのも若干抵抗感があるだけである。

 

 なんだこれ……。

 そっと腕を引き抜く。

 宝石にはなんの穴も開いておらず、引き抜いた腕にはなんの異常も……いや、あるな。

 手の甲にタトゥーのようなものが入っている。

 複雑な文様で火を象ったような形をしたタトゥー。

 

 ……令呪かよ。

 いや、なんだこれは。

 めっちゃ困る。

 こすっても消えないし。

 

 そう思っているとすぅ、とタトゥーが消えた。

 え、と驚いて意識を向けるとまた浮かび上がってくる。

 

 と、とりあえずオンオフは出来るのか。

 変に見咎められなくて良かった、と胸をなでおろす。

 

 ……いや、これなんだよ。

 物の名称は才能の卵、だったが。

 それとタトゥーが勝手に刻まれるのと、なんの関係が!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が身一つでテレポートしだした。

 

 あのあと、色々調べてみたが正体はわからず、とりあえず放置しておくことにしたのだが。

 読書すると恐ろしいほど滑らかに内容が頭に入ってくる。

 軽く走るとどんどんフォームが正しいものに近づいていき、楽に走れるようになっていく。

 難しかったゲームも笑えるほど手に馴染む。

 

 とどのつまり……あの自称卵は人に才能を与える物だったのだ。

 今までの自分と矛盾なくそれがつながっていることに若干の恐怖を覚える。

 

 で、だ。

 こういうものを悪用することに掛けては超一流の兄だ。

 簡単に才能の究極に手を伸ばしてしまう。

 

 才能、個性の究極。

 ある意味でオンリーワンなそれを創作的に表現するのならこう呼ぶのがふさわしいだろう。

 

 異能。

 

 漫画なんかで出てくる超能力とか、そういうものだ。

 そして兄はそれに届くための物を知っている。

 複数種類の魔法を知識として持っている。

 

 結果。

 兄固有の、完全にどういう原理でそれをなしているのかわからない魔法を組み上げた。

 身一つで、好きな位置に転移する兄。

 紙切れを転移させてコンクリートブロックを切断する兄。

 横着してテーブルからリモコンをテレポートさせる兄。

 

 私が真似しようとしても再現出来ないあたり、あれはまさに卵なんだろう。

 望んだものにその中身を開示する。

 目覚めてすらいない状態の余波でほぼ万能に近い才能が手に入っているあたりマジでヤバい。

 

 その事に気がついた兄がサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に紋章を付与しようとしてるんだけどどう止めればいいんだろうか。

 止めなくてもいいか……。

 諦めと呆れのため息を私は落とした。



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R 賞金首の手配書

 賞金首。何らかの法を犯し、賞金をかけられるまでに至った悪党である。

 都合、賞金の額が大きければ大きいほどその犯した罪は大きくなる傾向にある。

 創作においては倒せば金が手に入る存在とあって、ファンタジーやらゲームやらでは結構出てくることのある名称だろう。

 特にあるRPGでは作中に出てくる殆どのボスが賞金首であり、倒すと結構馬鹿にならない金額の賞金がもらえる形になっているほどだ。

 

 今回はその賞金首の手配書が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの才能の卵から得た刻印から、杖が出てきた。

 私の才能が形になった杖だと触れた瞬間に理解してしまったのだが、結構突然出てきたので割と危なかった。

 テラスでくつろいでる時だったのでどうにかなったが。

 

 で……この杖、だいぶヤバい。

 握った瞬間、私の魔法で法則を改変してしまえることがわかってしまった。

 ごくごく当たり前の世界を、魔力に任せて作り変えてしまえるほどの力。

 そこまでしなくても、台風を対消滅させる程度の出力の魔法を使えるほどこの杖は増幅力に優れている。

 

 やべえ。

 この杖を手に持っているだけで魔法の制御能力も跳ね上がっている。

 今なら出力に任せて無から黄金を作り出せるかも知れない。

 

 いや、そんな過大な能力、何に使うんだよ……。

 正直私の手に余る。

 手に余らないものが存在したか? と聞かれるとかなり微妙なところだが。

 

 そう考えていると紋章の中に杖が引っ込んだ。

 出し入れは自由らしい。

 

 便利なのかそうでないのか。

 かなり微妙だ……。

 

 まあいいか。

 ガチャを回そう。

 

 R・賞金首の手配書

 

 出現したのは、紐によって綴じられた冊子のようなものだった。

 少しだけ厚い紙を表紙に、ポスターのようなものが綴じられている。

 そして内容はというと、名称の通り賞金首の手配書がいくつも束ねられていた。

 紙の質がページによってバラバラで、掲示されていたものをまとめ直したもののようである。

 

 それも、モンスターの手配書だ。

 どれも危険度の高いモンスターであるようで、その特徴が注記されている。

 中には見ただけでアウト、とかいうやばすぎる代物まで存在する。

 

 これは……異世界の手配書、ということなんだろうか。

 内容は凝っているが、どうにもこの世界や霧星に存在する生き物ではない。

 機械改造(サイバネ)したタコとか、まあ霧星にはいないし、機械じかけの星にも同様に存在しないし、地球にいるはずもない。

 

 そうして、パラパラとめくっていると。

 綴じが甘かったのか、1ページが抜け、ひらひらと落ちていく。

 拾おうとかがんだ瞬間、目の前にそのページに描かれていた賞金首が出現した。

 

 ああおわああー!?

 出現したのはその甲殻に兵器を搭載したクワガタムシ。

 なんかもう当たり前のようにでかく、軽自動車よりもデカいその体はそれだけで危険である。

 

 反射的に魔力のこもった拳を振り抜き、その頭部を粉砕してしまったが。

 極めて丁寧な修練と先天的な才能に、増設されたあの紋章によるバフで凄まじい威力となった魔法は、巨大化したことによって硬質化したクワガタムシの甲殻をまるで紙のようにぶち抜く。

 

 うーん。

 思ったよりも危ないやつだなこれ……。

 どっちが? と聞かれると、どっちも、って答えるやつだが。

 

 ええー……。

 絶対兄がおもちゃにするじゃんこれ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。案の定おもちゃにした。

 賞金首は撃破するとその場にその存在に由来するアイテムをドロップする。

 なんかゲームっぽいなと思ったが、どうもゲームの代物のようなのでゲームそのままのようである。

 

 まあ、そうなってくると一回でドロップアイテムを網羅出来るわけではない。

 そのため、兄は賞金首を何度も呼び出してはサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を使って即座に始末することを繰り返しているのだ。

 そのたびに積み上がるガラクタ……。

 

 何に使うのかわからないガラクタを積み上げるのやめてもらっていいです?

 なんかヌメッとした液体とか、まじで何に使うつもり!?



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R 魔女のほうき

 魔女のほうき。魔女のイメージの一部で、魔女が自由に空を飛ぶために使われる道具だ。

 これにまたがることにより、魔女は自由に空を飛ぶのだ。

 もともと魔女の集会に集まるために使われていたとされる魔女の軟膏と呼ばれる薬が元の話になっているらしい。

 この薬は……まあ塗ると幻覚を見せるそうで。

 つまりはそういうことである。

 

 今回はその魔女のほうきが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか気が付かないうちに、テラスから見える場所にノイシュヴァンシュタイン城のようなものが建築されている。

 ついでになんか雲というか、闇というか、ぼんやりしたなにかを纏っているせいで魔王城に見えなくもない。

 

 誰がそんな物を作ったかというと……まあ兄しかいないわな。

 これだけでなく、塔とか市街地とか、とにかく建造物のようななにかの試作品をいくつか作っているのだ。

 スペースが空いているのでなにをしていようが構わないのだが。

 

 問題があるとすれば、その殆どが単独のダンジョンとして機能していることかな!

 魔王城にしか見えない城はすでにスケルトンがうろついているし、市街地にはゴブリンのような生き物が見える。

 塔は窓から明らかに変な植物が見えているし、なんなら空間が歪んでいる。

 

 大方おもちゃにするために作ってるんだろうが、なんのためのおもちゃなのかさっぱりわからない。

 ここらへんでダンジョンマスターらしい事してみるかなー、とかいういつもの発作か?

 だとするならだいぶ困るが。

 

 まあ、いいか……。

 今すぐもんだいになるわけじゃないし……。

 ガチャ回そ。

 

 R・魔女のほうき

 

 出現したのはほうきだった。

 枝をまとめて掃くための房にしている、あの一般的なイメージのアレだ。

 そして房と持ち手の接続部には布が巻かれている。

 

 で、これは魔女のほうきなわけだが。

 これまでも飛べるものはいくつも出てきた。

 だいたいろくでもないというか、操作性に難があったものばかりな気がするが。

 

 ものすごい振動するベッドとか、もう物自体が不穏なUFOとか。

 あとドローン。

 人が乗るのには向いていない代物だが、飛ぶ事はできた。

 少なくとも兄はぶら下がって飛んでた。

 

 で、この魔女のほうきはというと……。

 あっさり、しかもめちゃくちゃ安定している。

 腰掛けるように座ってみたが、本当に集中も何もしなくても飛べる。

 自転車か? と言いたくなる程度には乗りやすい。

 

 速度が遅い、イメージする魔女のほうきのそれより遥かに遅いが。

 代わりにめちゃくちゃ乗りやすいのだ。

 

 こんな……。

 こんな普通なものが出てきていいのか……!?

 あのでたらめなガチャから……!?

 

 

 

 

 

 後日。兄がほうきを立てた状態で手に持ち、そのままの状態で浮いていた。

 ほうきに浮力が発生しているとかそういう、ぱっと思いつく理屈をすっとばして、ほうきを手に持っているだけで兄は浮かび上がっているのだ。

 

 ふわぁ……とドヤ顔で浮かんでいる兄を見ているとぶん殴りたい気持ちが強くなってくる。

 というか、まともに見えたあのほうきもやっぱまともじゃなかったのか。

 

 なんでそんなことを思いついてしまったのかきくと、アニメでやってたから……と。

 なんで試しちゃうかなぁ……。



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R 証拠品

 証拠品。それは犯罪の痕跡を残した物品を指す言葉である。

 犯行に使われた凶器、血のついたボタン、現場に残された毛髪。

 いずれもその時間に何が起こったかを指し示す重要な手がかりである。

 だからこそ警察や探偵といった職業は証拠となるものがないか探し回るのだ。

 

 今回はその証拠品が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わぁ。

 私の視線の先で、魔王城が宙に浮いてる。

 建物の基礎ごと浮かび上がっており、そのせいで周囲の土もまとめて飛んでいるのだ。

 

 もう誰がやらかしているかというと、兄だ。

 突然思いついたかのように、魔女のほうきを持って魔王城の方まで走っていったかと思えばこのざまである。

 

 ちょっと魔法で視力を強化して見ると、片手に魔女のほうきを持った兄が城の頂上で壁に手を触れているのが見える。

 大方、どれぐらいの重量を持ち上げられるかと唐突に思いついたから、持ち上げに行ったのだろう。

 

 いや、だからって……その……。

 城を持ち上げることから始めるの、なに?

 もっとこう、色々あっただろ!

 

 あの倉庫に保存してあるヒヒイロカネ塊とか!

 あの木材の山とか!

 あそこでじゃまになってる車とか!

 

 とりあえず手元にある最大から試すの本当になんでなんだ……。

 その方が派手だからか?

 派手だからか?

 多分派手だからだな。

 

 思いつきで行動する人だからその動きに全く予想がつかない。

 いや、予想できたところでどうにか出来る気はしないが……。

 

 まあいいや。

 現在進行系で浮いている魔王城を放置して、ガチャを回そう。

 

 R・証拠品

 

 出現したのはチャック付きのポリ袋と……それに入った血まみれの包丁だ。

 出現したときは驚きこそしたが、まあ普通の包丁である。

 ポリ袋に入れられているということは犯行からしばらく経っているはずだというのにその血は全く乾いていない。

 

 で……えー?

 証拠品?

 これが?

 

 全く何に使うのかわからない。

 というか、普通に使いみちがない可能性もある。

 血まみれだから取り出して試してみようという気にもならない。

 なんなら血によって指紋がべったりついている。

 

 というか、見ていると気持ち悪くなってくるのだが……。

 まるで自分がそれを使って人を刺したかのような、嫌なイメージが脳裏をよぎるのだ。

 それは妙なほどのリアリティを帯びている。

 

 結局なんの証拠かもさっぱりわからない。

 物が物だけに、流石に触りたくない。

 

 これはもういいや。

 兄も多分ダメだろうし!

 

 

 

 

 

 後日。兄は証拠品の使い道を見出した。

 これを、この包丁の出自がわかっていない相手に渡すことでその相手を冤罪にハメる事ができるのだ。

 

 ……うん?!

 どうやってその使い方に気がついたんだ!?

 なんか気がついたらその使い方を見つけて、説明しだしたので何をやらかしたのかさっぱりわからない。

 

 えっ、こわ。

 まじで何をしたんだ兄。

 何かをしていたような心当たりも無いのに、なんでわかったんだ。

 

 もしかしてこの景品……、置いとくだけでも人をハメる……?



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R 姿勢制御モジュール

 姿勢制御モジュール。人工衛星のような、宇宙で活躍する機械に搭載されることの多い部品の一つだ。

 その機能は機体の向きを保つことである。

 宇宙空間には空気抵抗もなにもないため、しばしばバランスの崩れた力がかかると回転運動に変化してしまうことがある。

 これを打ち消し、本来の向きを維持するために姿勢を制御するモジュールが必要となるのだ。

 また昨今はドローンのような、なにもない空中でバランスを取る必要がある機械が増えてきている。

 これらにも利用され、その需要は大きくなっていくことだろう。

 

 今回はその姿勢制御モジュールが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 はわわわ。

 エルフがやってきた。

 そのエルフは徒歩でやってきて、機神の前に傅いている。

 

 あいや、なんでエルフがいるの!?

 と思ったのだが。

 それは向こうから語ってきた。

 

 世界樹の小世界は上から順番に番号は振られている。

 管理の都合で便宜上そういう名称にしてあると言うだけではあるが。

 第7の枝(セブンスブランチ)で生まれたと主張するエルフたちは、巡礼のために徒歩で機神が安置されているここ……第9の枝(ナインスブランチ)まで来たというのだ。

 その距離ははっきり言ってめちゃくちゃ遠い。

 まだ自然動物もモンスターも少ないが植物だけは大量にあるので食料には困らなかっただろうが、道は整備されていないため遠いとかそういう次元ではないはずなのだが。

 

 え、ええー……。

 エルフ、自然発生する生き物なのか。

 巡礼に来ているエルフは皆少女のように見える。

 これは顔が良すぎて性別がわからないという意味である。

 

 兄は案の定見落としていたので住人票を作成しなければと考えを巡らせていると。

 エルフたちがテラスにいる私を見つけて祈りの声を大きくする。

 

 なんか私のことを大地と慈愛の神とか言われてるんだが……ええ……。

 

 神扱いが堪えたのでエルフのことは後回しだ。

 ガチャを回そう。

 

 R・姿勢制御モジュール

 

 出現したのはフレームで出来た四角い箱だった。

 内部でディスクのようなものが数枚高速回転している。

 あとそれと。

 テーブルの上で、角だけを接地した状態で直立しているのだ。

 

 なんかこれ、ちょっと前に見たことあるな。

 確か宇宙開発の技術発表で展示されていたやつだ。

 ネットで話題になっていた記憶がある。

 

 なんというか、おもちゃ……だな。

 ガチャから出てきたから余計そう感じるのか、もともと技術展示用の物であるために用途がないからそう思うのか。

 微妙なところだ。

 

 とりあえず、移動させようと触ったときだった。

 指先が振れただけで、全身にかかる力が支配された、そう感じた。

 

 全身の力がおかしい。

 現状を維持しようとしている。

 手を伸ばすために若干前のめりだった姿勢そのままで、バランスが取れてしまっているような、異様な状態。

 

 姿勢制御モジュールをつまんだ腕を動かすが、その反動は他の部位にまで伝わらず。

 立ち上がるが体幹はブレず。

 踏み込んだつま先立ちのまま、全身のバランスが釣り合う。

 

 いや、ほんとどうなってるの?

 右手を掲げて、左腕をだらりと垂らし、右足はつま先立ちで、胴体は前のめり、左足は後ろ向きに伸ばされた状態で。

 なぜか全く倒れる兆候がない。

 

 し、姿勢を……制御されている……。

 筋力を操られている感じではない。

 かかる力だけが制御されている、そんな感じだ。

 

 しかもその姿勢制御モジュールも指先に角がくっついているだけで逆向きにしても落ちない。

 

 これはもしかして……結構面倒なものが出てしまったのでは……?

 

 

 

 

 後日。兄が、姿勢制御モジュールを使って浮いていた。

 姿勢制御モジュールは体の部位を動かそうとしない限り、その位置に固定しようと力を掛け続ける装置だ。

 それをうまく利用すると、こうなる、と言いながら。

 

 柱に髪の毛の先を着けた状態で、横向きに浮いている兄が。

 何だそれは。

 

 というか、器用に髪の毛を動かしながら柱を登っていく兄。

 何をやってるんだこいつは……いやそれ本当にどうやってんの!?

 

 順調に怪物化しているような気がする兄。

 いや、違うな。

 ノーライフキングと鬼人がすでに幹部にいて、機械化した天使を配下に従える存在……。

 

 うーん魔王。

 もしかして早めに討伐しておくべきかな?



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SR 至高の寝床

 寝床。それは人が眠るために誂える場所のことだ。

 ベッドを始めとして、その周囲に眠りを補助する道具や、寝起きにする作業を助ける家具などを配置してあるものをいう。

 人の睡眠は些細なことでその質を落とす。

 それを高めるために人は様々な方法を考え、実行するのだ。

 それらをひとまとめにしたものが寝床である。

 

 今回はその寝床が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 熱心に祈りを捧げているエルフたちだが。

 機神のパワーで調べてみると、第7の枝(セブンスブランチ)に集落が3つ出来ていた。

 彼らはその3つの集落の代表として巡礼の訪れたというわけなのだ。

 

 で……なんで来たかというと。

 簡潔に言うと、生まれたので報告に来ました、というものだ。

 世界樹の葉っぱから木の実みたいに自然発生したらしい。

 うーん。

 

 確かに神が実在し、それを知覚できるのなら報告にも来るか。

 日本人も子供が生まれたら神社に参拝したりするしな。

 七五三とかはそもそもそういう行事だ。

 

 今はノーライフキングのリチャードさんに応対を任せている。

 この人、政治も出来るわ魔法研究は天才的だわ、人当たりもいいわで自分の過去を話すこと以外完璧の超人か? と思う。

 まあ年の功というやつだろう。

 そして、そんなリチャードさんはエルフ達からは偉大なる死の神として扱われている。

 まあ、はい。

 

 あとその話の中で兄が邪神扱いされてて笑った。

 運命と偶然の邪神ってなんだよ。

 

 はー、まあいいや。

 ガチャ回そ。

 

 SR・至高の寝床

 

 出現したのは巨大なベッドだった。

 ぱっと見てもダブルサイズのベッドのようであり、またベッドの頭の部分に大小様々な棚もついている。

 それにベッドの下には引き出しがついていて、服などをしまえるようになっている。

 

 べ、ベッドだ……。

 一目でそれが非常に高品質なベッドであることがわかる。

 かけられたシーツの表面のきめ細やかさ、滑らかさから。

 枕の柔らかさ、掛け布団の重さまで。

 どれ一つをとっても最高のものであると見ただけでわかる。

 

 なんなら光り輝いているようにすら見える。

 完全に錯覚なのだが、それが優れているものだと強引に理解させてくるほどのクオリティなので結果光っているように見えるのだ。

 

 というか……見るからに快適そうで……。

 からだが……すいよせられる……。

 

 

 

 

 

 

 

 はっ。

 気がついたら1時間半眠っていた。

 軽く昼寝をすると割とはっきりと夢を見る方なのだが、その夢すら見ないほど深く眠れてしまっていた。

 全身にあった疲れも見事なほど取れていて、しかも頭も冴えている。

 

 びっくりするほど寝具としての質が……質がいい……!

 なんだこれ、天国か?

 天国の雲の上で眠っていたのか?

 

 もはやそういう代物のようだとしか思えない。

 そこでこの景品の名を思い出す。

 至高の寝床。

 なるほど。

 

 久々にすごくいいものが出た……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が、これは空を飛んだりしないのか? とか抜かしていた。

 言いよる。

 

 というか機神の分析では普通のベッドを、なにか超技術か魔法技術か錬金術かで品質を限りなく最高に引き上げている代物だそうだ。

 概念的な品質を引き上げている……どういうことだ?

 すごいモノがいいのはわかるが。

 

 そして、ついでと言わんばかりに、モノの品質を引き上げる技術を見つけ出す機神の解析力ヤバい。

 出来ることがわかっていて、それが施されているものが手元にあれば分析出来るとかそういう理屈らしい。

 

 兄はそれで木刀の品質を引き上げて、木材を切断できるようにしていた。

 いや……なにやってんの!?



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R うちわ

 うちわ。骨組みに紙を貼った道具で、夏場に暑さを凌ぐために使用するものだ。

 これを使ってあおぐことで風を起こして少しでも涼を得ようとする涙ぐましい道具であると言える。

 いや近年の温暖化の影響で上がった気温を考えるとこんなものではどうしようもないというか、体の一部を冷やすのに使うのが精一杯というか。

 夏の風物詩だったのは今は昔、このまま数を減らしていく道具のような気がする。

 

 今回はそのうちわが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 結局エルフたちをどうしたかというと。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)随伴の下、お帰りいただいた。

 もともとそろそろ帰る予定だったそうなので、それに付添をつけた形だ。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を送り出したのには理由がある。

 それはエルフの里の調査と管理だ。

 機神が世界樹の中を知る手段はレーダーのようにどこに何がいるか、という情報をもとにシュミレートする形である。

 普通にダンジョンを管理するぶんにはそれで事足りるのだが、今回は住民を調査管理するのに使うのでサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を送り込んで直接観測する必要があるのだ。

 

 いやまあ、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を直接お届け! する方法もあるし、それを利用して全域を光学観測する方法もあるのだが、今回は送り届けるついでだ。

 電車の初の客にもなってもらう。

 

 きちんとした自我のある初の国民なので丁重に扱わなければ。

 家を建てたり、ライフラインを引いたり、学校を建てたり。

 ダンジョンなので計画を立てれば一瞬で出来上がるのは良いところだ。

 中継ステーションで行ってるそれはそれっぽいだけだからなぁ。

 

 なにより、きちんと扱うことで。

 兄がヤベえ実験ぶっこまないように牽制しなければなぁ!

 エルフの森を開墾とか、普通にやらかしかねないからなこいつ!

 

 さて、それなりに手配も済んだことだし。

 ガチャ回そ。

 

 R・うちわ

 

 出現したのはうちわだった。

 しかも、その表面には見たこともない家電量販店の広告が貼られているものだ。

 スマホでググっても出てこない。

 

 まあ、それ自体はガチャの景品ではありふれた要素だ。

 存在しないアニメのグッズが出てきたこともあった。

 その時は下に©表示まであるのに検索して出てこないのはちょっと怖かったが……。

 

 まあ今となってはありふれたことだ。

 ラージカメラと書かれたその家電量販店の広告は、そのぉ……なんか中途半端なところで映像を切り取ったような変な絵になっている。

 客を招くポーズを取ろうとして、その途中で止まったみたいな。

 

 まあいいか。

 うちわなんだからあおぐのが正しい使い方だ。

 そう思ってあおいでみる。

 

 ……?

 あれ、風が来ない。

 ちゃんとあおいでいるはずなのに全く風が来ない。

 

 もしかして労力が打ち消されている?

 どれだけあおごうが風は起こらない。

 必然、うちわとして役に立たない。

 

 そこで手を止めて。

 ……うん?

 書かれている広告が変わっている、ような気がする。

 ちょっとだけ絵が移動しているような。

 

 うーむ、なんなんだこれ……。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がものすごい勢いでうちわを仰いでいた。

 腕がちぎれんばかりの速度でうちわを振り回している。

 高レベルになったことで高まっている筋力は、おおよそ人に出せる筋力とは比較にならない力を発揮できる。

 できるが、それを全部使ってやってることがうちわをあおぐことだ。

 当然その全力でも全く風は来ない。

 

 途中で手を止めた兄は、なぜか達成感に満ちた顔をしている。

 イラッとする顔だ。

 しかもこっちにうちわを突き出して……。

 

 なん……だと……。

 うちわに貼られた広告の絵が、動いている。

 まるでテレビCMを再生しているかのように。

 

 なお、音声がないのでなんのCMかさっぱりわからない。

 おっさんが流れているだろう曲に合わせて踊っているだけだ。

 あと店舗名が大きく表示される。

 

 もう、こう……。

 なんだよ!

 なんなんだよこれ!



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R クレーンゲーム

 クレーンゲーム。それは悪夢の貯金箱である。

 内側にディスプレイされた景品を、鉤爪型のアームで掴んで落とすことで入手できる……という遊技機だ。

 しかし、今ゲーセンなどに置いてあるクレーンゲーム機は確率機といい、投入された金額が一定になるまでアームが弱く景品を持ち上げられないものばかりである。

 まあ、設定金額まで金を入れれば取れなくもないので一長一短ではあるが……。

 

 今回はそのクレーンゲームが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エルフの里を整備している合間に、魔法を学習していた調査団のメンツがだいぶ入れ替わっていた。

 機神が作り出した超わかりやすい代わりに超分厚い教科書と、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)による直接授業と、監督している環境下で自由に練習を行う修練場の三形式で魔法の知識開示を行っているのだが。

 直接授業に参加しているメンツがだいぶ入れ替わっている。

 あと、修練場に来ている人が大幅に増えている。

 

 つまり……魔法を学ぶためだけに来ている人が増えて来ている。

 というか教室がだいぶギュウギュウになってしまっているのだ。

 

 これは……拡張しないといけないやつだな?

 すでに大講堂並の広さがある教室なのだが……。

 まあ未来技術として学びに来ているし、皆、国の威信を掛けて参加しているので意欲に溢れている。

 そのため教えるスペース以外では問題は余り起こっていない。

 

 ……あれ、これ別の技術を開示したらプラットフォームがパンクするやつでは。

 魔法以外のもあれやこれや、まだ大量にあるというのに。

 

 そんなことを兄に話していたら、すっと世界樹の接ぎ木を持ち出そうとした。

 それで土地を広げようとするのはやめろ。

 

 兄に回し蹴りを加えたあと。

 ガチャを回すことにする。

 

 R・クレーンゲーム

 

 出現したのはクレーンゲームの筐体だった。

 なんか似たようなのが前に出たような気がしなくもない。

 箱はまあどこのゲームセンターでも見る、一般的なクレーンゲームのものだ。

 

 だが……中身はそうではない。

 見たこともない作品のフィギュアが飾られている。

 きっちりアニメのタイトルロゴまで入っていて、まるでその手の景品のようだが、スマホでググってもそのアニメは出てこない。

 しかし、まあこれは普通だな。

 

 どっちかというと問題があるとすれば、レバーの横にボタンが3つ並んでいることだ。

 一般的な横に移動するボタンと奥に移動するボタン。

 それに加えて、謎の三枚の板と上向きの矢印が書かれたボタンだ。

 

 なんとなくだが、SFの次元面の説明に出てくるような絵に見える。

 ……いや、レバーがあるのもおかしいな。

 よくわからないが……やってみればわかるか。

 

 そう思って百円玉を投入する。

 いきなりその上昇ボタンが点灯した。

 うわぁ……。

 

 押して見る。

 すると、クレーンゲームの内部が上に上がり始めた。

 上部には天板があるというのに、乗せられた台ごと景品が飲み込まれていき、やがて下部からべつの台がせり上がってくる。

 全く違う様相、というか小さな世界のように丁寧にジオラマされた盤面だ。

 

 ボタンから手を離し、うっかりレバーに触れてしまう。

 すると、今度はジオラマがレバーの動きに沿ってずれた。

 ガラス面を境界に、際に達したものは消え去り、反対側の面から別のなにかが出てくる。

 

 う、うーん?

 なんだこれは。

 盤面が異常すぎて何が起こってるのかわからない。

 

 なお残り2つのボタンは普通だった。

 あとアームが弱すぎて景品をつかめない。

 複雑そうな形のものを掴んだのに滑るってなんだよ。

 

 

 

 

 後日。兄がクレーンゲームのガラスを外した。

 後から気がついたのだがガラス面のすべてが一枚ガラスで作られていて、開ける方法が存在していなかったのだ。

 だから兄はドライバーを持ち出し……ネジを一つ一つ外してガラスを取り外したのだ。

 

 そこには何もなかった。

 完全な無である。

 なんなら景品を落とすようの穴すら無い。

 アームもない。

 だが、ガラス越しに見ると存在しているのだ。

 

 ええー……。

 しかも兄がレバーをいじくり回した結果、見える盤面の一辺の長さが、少なくとも一キロメートルほどあることがわかった。

 そこには様々な景品が乗せられていて……中には生き物みたいに動いているものすらあったのだ。

 

 なんだこれ。

 動いている景品の集落みたいなものまで見つけて、もうなんなんだよこれ。

 兄はアームをぶつけて壊そうとするし。

 アームが超弱いせいで舐めるだけで終わったが。

 

 いや、ほんとなにこれ。

 あまりにわけがわからないし、景品も取れないので。

 倉庫に封印することとなった、南無。



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R パーカー

 パーカー。もとは寒冷地での衣類で、フードをつけることによって体の熱を逃さないようにするものだった。

 現在の日本に普及しているパーカーはスウェットシャツにフードを着けたものでアメリカではフーディと呼ばれているらしい。

 もともとは労働者向けの商品だったが、そのデザインからファッションとして現在は流通している。

 

 今回はそのパーカーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 なんの気無しにテレビを着けたら、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)特集をやっていた。

 なんというか、現実を侵食してきたな……という実感が湧く。

 

 その番組では彼らとの接触から、彼らからもたらされた技術やら、あと宇宙エレベーターに関してコメンテーターとかいう無責任な連中が好き勝手に言っていた。

 が……ぶっちゃけキレがない。

 コメントの鋭さというか、煽動力が全然足りていない。

 

 やれ宇宙人だ、超常存在だ、と抜かすダメなやつもいれば、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の見た目をあげつらってボロクソに言うやつもいる。

 それ人間相手だと差別発言でぶっ殺されるやつだぞ。

 あとSFの読みすぎなやつもいて、幼年期の終りを引用して人類を次の段階に進化させる存在だと崇拝にも似た言動をしているやつもいる。

 

 まあ、コメンテーターが適当なことを言うのは今に始まったことではないが、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は彼らの想像の範疇を遥かに超えた存在だからだろう。

 漫画やアニメから出てきたと言われたほうがまだ現実味がある存在だからな。

 

 きちんとした言説を発表できるのは実際に関わった学者ぐらいだ。

 あれが()に統率される傀儡でしかないことに気がついている調査団メンバーもちょこちょこいるみたいだからな。

 なにか隠そうとする場合だと、頭がいいやつは厄介だなぁ! 

 

 さて、番組は消して、と。

 ガチャを回そう。

 

 R・パーカー

 

 出現したのはグレー一色のパーカーだった。

 サイズはやや大きめ、フードはかなり大きめの代物。

 そして、それは出現と同時に直立している。

 

 そう、立っているのだ。

 どういう原理かわからんが、布の強度を超えて直立している。

 

 お、おお……?

 私は恐る恐る近づく。

 すると、パーカーはこちらに気がついたかのように、器用に二本の腕で這いずってこちらに向かってきたのだ。

 

 うおおお!

 上半身だけになったゾンビみたいにこっちに這い寄ってくるパーカー。

 中身もないのにフードを首のように動かしている姿は完全にホラーである。

 

 思わず影のボールをぶつける魔法で攻撃してしまった。

 その一撃で昏倒したのか、動かなくなるパーカー。

 

 いや、何なんだこのパーカー……。

 明らかにパーカーの強度ではない。

 そしてパーカーは普通動き回らない。

 ついでにパーカーは私の魔法に耐えたりしない。

 

 いやほんとなんだったんだ……。

 

 

 

 

 

 後日。兄がパーカーを手懐け、着ていた。

 パーカーを手懐けるとかよくわからない状況になっているがそうだとしか言いようがない。

 兄によく懐いたパーカーを、兄が着ることで発揮できる筋力が倍ぐらいになるそうだ。

 パーカーが覆っているところ限定で、だが。

 

 パーカーとフリスビーで遊ぶ兄……。

 シュールだ。

 器用にフードの口で咥えているパーカーもだいぶおかしい。

 

 いやもう、ほんとなんなの……。



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R コーヒーメーカー

 コーヒーメーカー。それは自動でコーヒーを淹れてくれる機械だ。

 方式は様々だが共通するのはお湯を自動で沸かして、それをコーヒーの粉やカプセルに合わせるところだ。

 お手軽に淹れたてコーヒーを楽しめるということで、様々な商品が存在する。

 コーヒーを飲む頻度や、手入れの手間、コーヒーの淹れ方などと相談して決めるのが望ましい。

 

 今回はそのコーヒーメーカーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 兄がダンジョン管理のメニューを眺めていると、宇宙エレベーターの内部を改装する機能があることに気がついた。

 宇宙エレベーター単独では、専用道路しか選択できなかったのだが、世界樹と同化した結果様々な地形情報を取得。

 その結果、ダンジョンの内部を改装する機能によって異世界を展開することが可能となったのだ。

 

 基部のスペースが圧迫している現状、兄は躊躇なくそれを展開することを決めた。

 展開した地形はコロニー。

 いわゆる宇宙で生活するための場所であり、静止衛星軌道ステーションの内側に広がっている地形そのものである。

 

 問題があるとすれば、天井に当たる窓からなにか違う星空が見えてるってことかな。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に調査させたら、どうも基部の位置から見えるはずの宇宙の光景らしい。

 大気と太陽を無視して宇宙をそのまま目視できる状態になっているわけだ。

 

 微妙に解放しづらい感じになってしまったが、兄はまあこれでいいかとか言ってる。

 適当すぎる……。

 

 まあ空間問題は解決した。

 最大拡張したら現状のプラットホームの倍ぐらい広くなったからな。

 基部内部は基部の内側にあるものだから当然基部より狭いはずであるが。

 ダンジョンだし普通か……。

 

 ガチャを回そう。

 

 R・コーヒーメーカー

 

 出現したのはコーヒーメーカーだった。 

 それもカプセル式のもので、カプセルをセットして水を入れるとコーヒーが出てくるやつだ。

 コーヒー以外にも紅茶なんかも淹れられるらしい。

 

 あと、それとカプセルが箱でついてきている。

 どれどれ……。

 エスプレッソやら、なんか色々コーヒー類が12個ほど。

 紅茶やら緑茶やらが6個。

 あと……。

 オレンジジュース、牛乳、タピオカドリンク。

 

 オリーブオイル、クレオソート、ガソリン、重油。

 液体経験値、そして液化()()

 

 ああ、うん……。

 なるほどね……。

 

 ろくでもないやつだわこれ。

 使わなくてもわかるやつだ。

 

 もう見るからに装填したカプセルの液体を出力するやつじゃん!

 重油とか出したくねえよ!

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が液化知識を装填して淹れていた。

 淹れられた液体は透き通った黒色というべきか、なんというか微妙に形容し難い色合いをしている。

 兄はそれを……サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に飲ませた。

 

 流石に自分から飲む愚を犯さないというか、それならサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)にも飲ませるなというか。

 飲まされたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は爆発的な知識の奔流に翻弄されたのか、しばらく動かなくなった。

 

 再起動したあとのサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)はなんというか。

 動きにこころなしかキレがましているような気がする。

 というか、獲得した知識を機神が全部吸い上げてまとめているのだがこれがまたちょっとやばい知識というか。

 

 邪神系のやつなんだよなぁー!

 魔法と組み合わせると無限に悪さ、というか簡単に世界を滅ぼせる知識である。

 精神の壁を壊して一つに溶け合うための方法とか、心の壁を具現化して盾にする方法とか。

 精神という概念を瓦解させるための100の方法が載っていて、本当にろくでもない。

 

 だから……な?

 二杯目行こうとするな兄ィ!



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R 聖剣(贋作)

 贋作。本物を写し取り、その真贋を見極められない相手を騙して売りつけるために用意されたモノのことだ。

 その都合、制作には技量が求められる。

 逆に言えば写し取れるだけの技量があればいくらでも作れるものであるので当然本物の価値とは比べ物にならない。

 最も、中には贋作が有名になってしまった結果、その贋作を贋作として展示する芸術家も存在する。

 

 今回はその贋作が出てきた話だ。

 聖剣の。

 

 

 

 

 

 

 ついでと言わんばかりに兄は宇宙エレベーターの塔に当たる部分を改装した。

 円筒状の内側に大地が広がる、世界樹の中と同じ光景にへと。

 様々な地形や環境に富んだ土地である。

 

 アニメなんかに出てくる円筒型のスペースコロニーをイメージしてもらえれば大体あっている。

 あれの採光用の窓の部分まで土地が広がっていて、3万6000キロメートル続いているようになっているだけだ。

 

 まあダンジョンだから出来る無茶だ。

 太陽光も入ってこないのに光で満ちているのも、足りない水を循環させているのも、植物を配置しているのも。

 本来維持出来ないがダンジョンなので。

 地下に高温の砂漠を展開することも可能である。

 

 細かい調整は全部機神がやってくれる。

 環境同時の接続や空気対流などの環境要素を整えるなど、だいぶ高度な計算を行っているが、まあ機神の演算能力なら問題ない。

 

 というか、これまで機神がやってくれていたから改装機能の要素追加に気が付かなかったというか。

 口頭で言ったらやってくれてたからなぁ。

 

 さて、私はガチャを回してしまおう。

 

 R・聖剣(贋作)

 

 出現したのは……聖剣……聖剣? だった。

 かなり前に兄が切断した選定の剣のものと同じ柄と刀身の色合いをしている。

 刀身も折れておらず、きちんと研がれているように見える。

 

 んだけども。

 なんか、異様に軽いんだよなこれ……。

 手応えを感じる重量ではあるが、剣と呼ぶには軽すぎるのだ。

 

 試しに爪で叩いてみたら、空っぽのプラスチックのような音を立てる。

 玩具のプラスチックの剣を叩いたみたいな音だ。

 しかも百均で売ってそうなやつである。

 

 見た目はしっかり本物っぽいんだけどなぁ。

 指で圧力を掛けるとプラスチックよろしく凹む。

 なんなら曲がる。

 

 プラスチックでは再現できないだろう刀身の鋭さや装飾の細かさまで再現してあるから相当作りはいい。

 どれぐらい作りが良いかと言うと……。

 木材をすっぱりと切断してしまう程度には。

 

 聖剣と比べるまでもない程度の切れ味だが、普通の剣よりは優れている。

 まあ、振るたびになんかヴオンヴオン音を立てるんだけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が聖剣(贋作)からビームを出した。

 妖刀を組み合わせて選定の剣からビームを照射していたが、贋作でも試しやがったのだ。

 結果はというと、成功。

 激しい光を放って木材を発火させることが出来た。

 

 まあ問題はそれに聖剣(贋作)が耐えられなくて溶けたことだけどな!

 まじでプラスチックで出来ていてビームの熱に耐えられなかったのだ。

 

 溶けたプラスチックを調べてもただのプラスチックとしかわからず。

 なんであんなに精巧に作れていたのかどうして剣として振るえていたのかもさっぱりわからない。

 

 あと、どこからブオンブオン言ってたのかわからない。

 中身は空っぽで、なんの機械も入っていなかったのだ。

 

 なんなんだよほんと!

 贋作に変な技術入れてくるの、なに!?

 というか、本物の聖剣でもそんな音しないでしょ!?



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R タンス

 タンス。日本で古くから利用されている、衣類などをしまうために利用される木製の家具だ。

 一般的に複数の引き出しから構成されていて、入れるものによって引き出しの大きさが異なる。

 着物などを入れるために横に長くなっているものや、薬の材料をしまうために小さく引き出しが切り分けられたものなど、用途に合わせ適した大きさが存在するのだ。

 

 今回はそのタンスが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 宇宙エレベーター基部内部を解放したら、案の定混乱が起きた。

 まああんな、天井見上げたら宇宙が見えるコロニーを利用可能にされたらそりゃ困惑するというか。

 自分の国との技術力の差を感じずにはいられないだろう。

 

 まあ、ただの機神のダンジョンコアによるいかさま(チート)なんだが。

 霧星側ではダンジョン内は空間が歪んで見た目より広いのは常識ではあるが、現代社会においてそんな常識を持っているのはラノベ読みぐらいだ。

 そのラノベ読みでもきちんと現実と小説を切り分けて考えるんだから当然、ありえないものだと認識するだろう。

 

 ダンジョンコアなぁ。

 ダンジョンを生み出して世界を滅ぼしにかかるスーパーアイテムなのだが、これも機神が製造出来るんだよな。

 兄が魔王城とか作ってたのはそれを試していたからなわけで。

 

 ダンジョン周りは開示して良い技術かわかんねえ。

 魔法とかばらまいている時点でどうこういう内容ではないかもしれんが。

 現代日本でダンジョン出現とかちょっと笑えんよ。

 生物一人を主にする仕様も現代社会じゃだいぶヤバいからね。

 

 あ、でも空間拡張技術をダンジョンコアから切り出せる可能性はあるか。

 使えると色々便利な技術のはずだ。

 長期計画に書き加えておこう……。

 大体兄かガチャにメチャクチャにされるんだけどな、この計画!

 

 さて。

 ガチャ回そう。

 

 R・タンス

 

 出現したのは、随分と背の低い和ダンスだった。

 多分棚なんかの上に置くものなのだろう。

 引き出しが3つあり、上に2つ、下が1つ引き出しがついている。

 

 引き出しは美しい木目から見て取れる通り、滑らかに引き出せる。

 だがどの引き出しも空っぽである。

 当然っちゃ当然だが、景品によってはいきなり何かが入っている時があるので警戒は必要だ。

 

 引き出してなにもない、ということは。

 中になにか入れるとなにかある、ということだろうか。

 私はそう思って、上の引き出しの左に石を、右に木片を入れた。

 

 そっと、引き出しを戻し、下の引き出しを引く。

 中には、かまぼこのように木片の上に張り付いた石が入っていた。

 

 そっと戻す。

 もう一度引き出す。

 

 中には、木目の隙間が石で置き換えられた木片が入っていた。

 

 ああ、うん、そういうことね……。

 入れたものを混ぜちゃうやつかぁ……。

 

 

 

 

 

 後日。兄が左を引きながら右を戻し、下を引きつつ天板を叩くことで、天板がぱかっと開くことを見つけ出した。

 何その操作!?

 

 天板が開いた中には、なにか宝石のようなものが入っていた。

 兄はこれの代わりに野球ボールを投入。

 上の左右の引き出しに適当なものを入れて、下の引き出しを開けた。

 

 そこに入っていたのは、投入したもので作られたグローブだった。

 合成処理には天板に入っているものの影響を受けるようである。

 

 ……いやいやいやいや。

 なんで直感でそんな方法を見つけ出せるんだ。

 

 というかそこから更に、下の引き出しに入れたモノを天板に入れたもので再解釈して、上の左右の引き出しから分解したものを取り出すとかいう、あまりにも不可解極まる動作まで見つけ出す始末。

 

 相変わらず……その無駄に鋭い直感は……なに……?



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R カタログ

 カタログ。それは様々な商品を掲載している小冊子のことである。

 そのカタログが何をまとめて掲載しているかで名称が変わり、頭にその商品にちなむ名称が付けられることが多い。

 オークションに出展されている商品をまとめてあるならオークションカタログ、通信販売の商品がまとめてあるなら通販カタログ、などだ。

 掲載されている商品を見てもらわなければ物は売れないため、無料で配られることが多い。

 

 今回はそのカタログが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 空間拡張技術の切り出しに成功した。

 かなりあっさり出来上がった。

 

 もともとダンジョンコアの解析はずっと進めていたようで、その構成要素の読解は殆ど終わっていたのである。

 それからダンジョンコアを機能ごとに分解した結果、空間拡張技術を取り出すことに成功したのだ。

 

 でまあ……これがやっぱ開示できるようなものではなかったのだ。

 ちょっと応用するだけで空間拡張を施した空間同士を接続することが可能。

 人類の夢の一つ、ワープが超お手軽に出来てしまう。

 

 ワープだけなら良いのだが、いや良くないが、もっとヤバいのはそれを簡単に維持出来るということだ。

 ほとんどすべての輸送の概念を消滅させてしまう。

 まだ列車も開示してないのにそんなもん開示したら……どうしようもない。

 

 物事には順番というものがあるのだ。

 普通に軍事転用されそうなのもイヤである。

 かといって、機神に使わせるかというと、ダンジョンの機能でやれるから用途がないという始末。

 

 あまりにもままならない。

 面倒なので……もうどうにでもな~れ、と投げ出すことにする。

 機神がいい感じにまとめて適当なタイミングで吐き出すだろう、きっと。

 

 さて、私はガチャでも回すかな。

 

 R・カタログ

 

 出現したのは通信販売のカタログだった。

 一見普通の服類などのを売っている通販のカタログなのだが……。

 

 めくって機能表示を見ると耐熱とか耐雷とか書かれているのは普通じゃねえよなぁ!

 なんで普通の衣類に防刃性やら防弾性やらを求めた記述が入っているのか。

 逆に洗濯表示は一切ない。

 全部洗濯機で丸洗い出来るみたいな記述がちょろっとだけ書いてあるだけだ。

 

 載っているのが普通の服なだけに、異様な感じがする。

 というか、冊子の中に夏服とか冬服の概念がない。

 全部オールシーズンだ。

 

 その割には長袖でズボンだし、ロングスカートもあるし、でどうなってるのか。

 それも冬場に着るには生地が薄いように見える。

 

 そして最後のページには注文表と、電話番号だ。

 24桁もある電話番号はどこにつながるのかさっぱりわからん。

 というかこんなに桁があると押し間違える。

 

 また異世界の代物かなぁこれ……。

 でも発行年数が2045年になってるんだよな……。

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が注文しやがった。

 まーたやりやがったよこの野郎。

 24桁もあるくっそ長い携帯番号をよどみなく入力して、そのままシャツとスラックスを注文しやがったのだ。

 

 翌日、普通に配達で届いたその服はというと。

 なんか着てると熱が平滑化されて心地よい温度に保たれているような気がする……とか兄が言い出す。

 感想がふわっとしている。

 まあ空調が効いている機神内ではどんな服でもそんな感想になるような気はするが。

 

 なのでその後実験と称して氷室に突っ込んでいった。

 氷室の中で平然としている兄を見て……。

 

 なんだあの服……。

 



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R ガレオン船

 ガレオン船。要するにデカい帆船のことである。

 一般的に帆船と言われて思い浮かべる、複数枚の帆を持つ大型の船が大体ガレオン船だ。

 大型の砲を複数積むことを前提に作られているため、全長が長く幅が狭い作りになっている。

 もっとも、細長くなった関係で安定に欠く側面もある。

 

 今回はそのガレオン船が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 国連に加入するしないみたいな話が上がってきた。

 現状、利益を一方的に供出することと無駄に強いサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を配置して武力を誇示することで国として認識させている状況だ。

 それだとちょっと困ることもたまにあるわけで。

 

 なので国連に加入して金を搾り取ろうという算段が、国連側で動いている、とかなんとか。

 一方的に技術や資源を売り続けている化け物を、国という軛に嵌めたいのだ。

 恐ろしい怪物ではなく、話が通じる隣人であると思い込みたいのだ。

 そのためには共通のルールが必要である。

 

 なので国連に参加させようという話が上がってくるわけだ。

 半分ぐらい使った金を回収する目的があるような気もするが、こちらとしても完全な自活が可能なため死蔵するしか無い金である。

 ほしいならくれてやっても構わない。

 舐められて足元見られるのは困るが。

 

 ただ国土が思いっきり人工島で、国土と呼べる土地が存在しないのでちょっと面倒そうである。

 国際法だとちゃんとした土地がないと認められないのだ。

 それに宇宙エレベーターの所在は日本の排他的経済水域に思いっきりかぶっている。

 

 変な揉め方してそうだなぁ……。

 

 さて。

 ガチャを回そう。

 

 R・ガレオン船

 

 それは出現と同時に、テラスからはみ出ていた。

 縁にギリギリ引っかかることで落ちなかっただけ、というべき状態である。

 巨大な船がテラスに出現したのだから当然であるが。

 

 出現したのはガレオン船だった。

 いや、この船が本当にガレオン船かどうかはちょっとわからない。

 詳しいわけではないからな。

 紙にはガレオン船って書いてあったから多分ガレオン船だろう。

 

 船としておかしいところはない。

 風もないのに帆が膨らんでいるぐらいだろうか。

 いや、弱い風が吹いてるからそれを受け取っているのか?

 帆ってそんな効率のいいものだっただろうか。

 

 というか、上からなにか半透明の人型がちらちらこちらを見ているような気がするのだが。

 ご丁寧にバンダナをつけて、ボロボロの服を着ている。

 というか、海賊の幽霊みたいな姿だ。

 

 いや、やっぱあれモンスターだよね?

 レイスとかゴーストとかそういう……。

 

 

 

 

 

 その後。兄が乗り込んで大乱闘していた。

 やっぱりあれダンジョンだったらしい。

 全3層、難易度は中級程度、パイレーツゴーストというモンスターが無限湧きする仕様。

 ガレオン船型のダンジョンで、そのまま海に出せば動かせるそういう代物だと。

 

 移動式ダンジョンか。

 機神はモンスター化したダンジョンだから微妙にそういう移動可能なダンジョンとは違うんだよね。

 本来はこういう、特別な移動可能な代物の中にダンジョンが展開するのが移動可能なダンジョンの仕様、らしいのだが。

 

 それから兄は、空母をダンジョン化すればすごいのでは……? とかいう戯言を抜かしだす。

 空母とか手に入れる余裕……は……。

 

 機神がすぐ脇に空母を即時生産しやがった。

 いや、兄がやらせたから機神はなにも悪くない。

 

 ああそっかぁ。

 地球側にある宇宙エレベーターも、機神の一部だったねそういや……。

 周囲にわらわら寄ってきている軍艦戦艦やらを調べてしまう時間はあったか。

 最近はどうにかしてインターネットを引けないか試行錯誤までしている。

 

 そうやって作り出した空母ダンジョンは……空を飛んでいた。

 スラスターを吹かしながらホバリングしている。

 

 航空母艦ってそういう意味じゃねーから!



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R 消臭剤

 消臭剤。部屋や服、トイレなど様々な要因で悪臭が発生しがちな場所の匂いと取るための薬品だ。

 用途によって置型の物やスプレータイプの物を使い分ける。

 匂いとは分子なのでそれを化学的に分解したり、捕まえることでその匂いを逃さないなど様々な方法が利用されている。

 方法によって対処できる悪臭が異なるため、利用する際はパッケージを良く読むのがおすすめだ。

 

 今回はその消臭剤が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば、宇宙エレベーター出現とサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)との接触によって、その最寄の港となった沖縄にはかなりの金が落ちているようである。

 これから宇宙エレベーターとの取引やアクセスなどを行うのに丁度いい場所なのは前にも言ったとは思うが、それを見越しての開発がメチャクチャ進んでいる。

 

 米軍の基地の中にすでに魔法に関する研究所が建てられていたり、港の拡張工事が始まっていたり、宇宙エレベーターに行く人達向けのホテルが用意されていたり。

 まあ降って湧いた産業……というか事業なので変なバブルが起こっているという感もなくはないが。

 

 あとは宇宙エレベーターをひと目拝みに観光に来る人達な。

 地球側の宇宙エレベーターは超でかいだけで普通の塔なのでわざわざ見に来る価値があるかと言われると微妙なところだが。

 超でかい塔って時点で見に来たくなる人達もいる、ということだろうか。

 

 あと調査団が追い払ったマスコミも沖縄でスクラムを組んでる。

 港の端にカメラ並べてるのは意味があるのかそれ?

 うまく潜り込めなかった連中なので行動がバグってるのかもしれない。

 

 いろんな思惑があって、国際的な調査団からあぶれた人間がそれでも諦めきれずに沖縄に集まる構図はなんというか。

 ろくでもねえなぁ、という感じだ。

 あ、当然活動家もいる。

 

 さて、ガチャでも回そう。

 

 R・消臭剤

 

 出現したのは紫色の消臭剤だった。

 トイレに置くような箱型で、中にゼリーのような消臭剤が入っているものだ。

 上部が骨組みのようになっていて、中の消臭剤と匂いを反応させやすいようになっている。

 

 ゼリータイプのもの、ということは中のシール蓋を剥がすだけで使えるようになるもののハズ。

 中の熨斗みたいなのを濡らして引き出すとかそういう面倒なやつではない。

 

 そう思って上蓋を外すと、内蓋が付けられている。

 それを思い切りよく開けると。

 

 突然世界は音を失った。

 

 ……違う。

 消え失せたのは匂いだ。

 テラスは風が運んでくる土の匂いや、飾られた花の匂い、芝生の青い匂いなど様々な匂いがする。

 私が飲んでいる紅茶やりんごジュースだってそうだ。

 あと自販機の動作するオゾン臭。

 

 そういう、様々な匂いが、一瞬で。

 すべて消え失せた。

 

 そして消臭剤自体も匂いを持たない。

 こういう消臭剤なら香り付けもやってそうだが、まったくなかった。

 

 結果。

 なにもない匂いだけが残る。

 なにもない。

 無の香りだ。

 

 全く匂いがしないというのはそれだけで不安になる。

 私は、そっと消臭剤の内蓋を押し込んで締め直した。

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が気配を消すのに消臭剤を使った。

 消臭剤を開封した状態でしばらくいると、全身から匂いという匂いが失われる。

 服が吸った汗の匂いも、口臭も、体臭もその全てが、だ。

 結果、匂いに反応する生き物に対して絶対的と言っても良いほど、気配を消すことが出来る。

 

 ……そんなもん使えるようになってどうすんだよ、という気はするが。

 そこまでして気配を消す必要がある状況が、今の兄にあるのか?

 まして匂いで追いかけてくる生き物から気配を消す必要が……。

 

 狼ぐらいなら片腕で返り討ちにできるだろこの野郎。

 何に使うつもりだよ消臭剤を!



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SSR VR夢想迷宮

 VRMMO。小説などでもはや定番というほどに広まった設定の一つで、文字通りヴァーチャルリアリティによって一つの世界を構築し、その箱庭でMMORPG……ようはオンラインRPGをやるというなかなか荒唐無稽な代物である。

 一つに、完全な全感覚型ヴァーチャルリアリティを実現する技術。

 二つに、その技術を使って、違和感を引き起こさない程度にリアリティのある状態を作り出す技術。

 どう考えても無限に技術力を要求し、実現できなさそう、と考えてしまう。

 視覚と聴覚は簡単でも、他の感覚をうまく騙すのは難しい。

 

 今回はそのVRゲームが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SSR・VR夢想迷宮

 

 出現したのは、サーバーだった。

 高さ4メートルほどの直方体で、その部品はまるでゲームやアニメ、ドラマなんかに出てくる超AIのように光っている。

 まあ現実的なサーバーではなく創作的なサーバーであると理解してくれればいい。

 

 で……ん……うん?

 インターフェースとなるモニターもなにもない。

 静かに青い光が筋に沿って流れているだけで、なにか反応があるわけでもない。

 

 普通……普通?

 普通かこれ?

 接続するような端子もなにもないから何が動いているのか調べることも出来ないんだよなぁ。

 完全に独立している。

 

 じゃあなんのために出てきたのかさっぱりわからん。

 機神に解析させるか……。

 他のおかしい景品類ならともかく、電子機器のこれならいくらでも読み出せるだろ多分……。

 

 

 

 翌日。

 機神の解析待ちでそのまま夜が明けてしまった。

 進展らしい進展は……あったのだが、それより先に答えを見つける羽目になってしまった。

 

 ネットで話題になってしまっている。

 宇宙エレベーターを撮影したら、スマホになにか変なアプリが配信されてきた、と。

 そしてそれを起動したら、まるで小説のVRゲームみたいに意識がゲーム空間に入り込んだ、と。

 

 ひえっ……。

 普通にログアウト出来ているからそういう書き込みがあるんだろう。

 安全面は問題なさそうだが、いやしかし。

 

 ゾッとする話だ。

 出現すると同時に、ダンジョンの一部になる景品は世界樹を始めこれまでも結構あったが、まさかダンジョンそのものを配信のためのアンテナにするとは。

 

 しかもその配信しているゲームアプリも超技術というか、もはやオカルトのそれである。

 意識を取り込んで、多分あのサーバーの中に反映しているのだから。

 あのサーバーの中でゲームが動いていて、ユーザーはそれをプレイしている。

 

 一番面倒なのは管理権限があるのかないのかわからないってことなんだけどな!

 制御できないVRゲームとか危険極まりねえ!

 

 

 

 

 

 

 後日。機神の解析の結果、接続と管理権限の獲得に成功した。

 成功したがいいが、出来ることがマップの追加とイベントの開催、新要素の追加ぐらいだ。

 ゲームバランスは全自動で取られているようで、兄が雑に実装したものも完璧なバランスで動作している。

 なお、ゲームを止める権限も、プレイヤーを追い出す権限も存在しない。

 メンテと称して動作しないようにすることも出来ない。

 

 あとアプリと未知の技術で通信していることもわかった。

 アプリを起動すると人の脳とアプリが相互に通信するようになり、アプリとこのサーバーが接続されてゲームの世界に入り込む構造になっているようだ。

 不慮の事態が起こってもアプリ側が吸収する作りになっている。

 

 ダンジョン運営に国もどきの運営に加えて、VRゲームの運営までやらされんの!?

 これはこれで放置してると余計な問題起こしそうだし!

 

 本当になんなんだよ!



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SSR VR夢想迷宮 その2

 VRのゲームを題材にした小説には、ゲームとしてログインした先が異世界だった、というものがあったりする。

 現実と錯覚するほどのリアリティを作り出す最も簡単な方法は現実でやること、と言ってしまうかのように、VRを実現するよりも遥かに強烈な超技術を持ち出してくる。

 異世界に干渉し、一方的に影響力を持ち、しかも世界そのものをおもちゃにしてしまう。

 

 今回は、世界を作る話だ。

 

 

 

 

 

 

 機神は、その内側に膨大な演算能力を抱いている。

 この演算能力は地球上に存在するすべての分子の運動を計算し、しかもそれをした上でかなり演算力が余る。

 つまりは……演算だけでその内側に世界を作り出してしまう事ができるということだ。

 ぶっちゃけ膨大すぎて持て余している。

 

 いきなりこんな話をしだしたのはこう……まああのVRゲームサーバーが原因だ。

 あのサーバー、しれっと機神の演算能力に匹敵する力がある。

 つまり……地球上、おそらくは太陽系内までのすべての分子の動きを計算してしまえる演算能力があるっぽいのだ。

 

 もっとも、それに特化した演算機構が使われているから、という理由はある。

 文字通りあらゆる物質の動作とその特性を計算し、その動きを実現してみせるやばめの演算装置が積まれていて、しかもそれが複数個入っているのだ。

 多分一つでも地球に与えたらあらゆる病気が過去のものになったり、理想の金属をあっさり作り出せるぐらいヤバい。

 

 しかもその演算能力がゲーム運営のためだけに使われているのがヤバい。

 なんでこんなもん積んでんだ、ともなる。

 

 まあ、サーバー内に異世界を構築するためなんですけどね!

 まじでやめてほしい。

 哲学で言うところのシミュレーション仮説をマジで実現できるサーバーとかそれだけで持て余す。

 

 そこまでして実現されているゲーム内容(異世界)はというと……。

 うっかり滅んじゃった未来(ポストアポカリプス)である。

 

 ある日突然、都市の中心に巨大な大木が出現し、そこからモンスターが溢れ出し、社会はそれに耐えきれず崩壊。

 人々は廃墟を中心にまとまり……モンスターハンターと呼ばれる職業の人たちがモンスターと戦って資源を得る、という殺して奪い取る(ハックアンドスラッシュ)なゲームだ。

 

 プレイヤーはモンスターハンターに……というわけでもなく、才能の卵から才能を与えられた人、でしか無い。

 そう、あのガチャから出てきたアレである。

 このゲームの物……というより、出現したときにあの卵をゲーム要素として取り込んだようなのだ。

 

 なので、街中で一般人として生活するプレイも可能だ。

 MMOでいうところの生産職みたいなもんだな。

 

 もっとも、大木の内側にあるダンジョンでパンツァーとか言う3~4メートルぐらいのロボットを見つけてそれに乗って戦うのがメイン要素かな?

 まあ乗らないでもモンスターを殴って倒せるクラス(職業)は存在するし、なんならそのロボットが侵入できない場所がマップに一杯あるというバランスなのだが。

 

 すべての分子を計算して動かしている関係上、そのパンツァー、現実世界で作れるのが問題なんだよなぁ。

 物理学的・魔法学的な機械でしか無いので、現実で普通に生産してしまえる。

 

 ちょっと……というかかなり進んだ未来がうっかり滅んだ世界観なので、ビームソードとか光学式銃(ビームライフル)とか、普通に手に入る……なんなら初期装備で手に入るゲームなので、その仕様はちょっと怖いが。

 

 

 

 

 

 後日。調査団が魔力を電力に変換する装置を作っていた。

 調査団の中にいた、魔法に長けた人がプレイヤーになっていて、しかもパンツァーの修理をしている中で見つけ出した代物だった。

 魔力を動力に変換するパンツァーの機構を転用し、発電機を回す手法である。

 

 あーもう!

 いきなりゲーム内の物の構造が現実でも動くことがバレてるじゃねーか!

 



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R ピザ窯

 ピザ窯。レンガを積み上げ、内側を薪で熱することで同じ層に存在する料理に火を通す作りの窯のことである。

 一般的にピザを焼くのに使われる。

 料理が薪と隣り合った状態で熱されるため、熱放射が閉じ込められ、内部までじっくりと焼く事ができるので弱火で長時間焼きたいものにぴったりである。

 

 今回はそのピザ窯が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 VRゲームのアクティブユーザーが10万人を突破した。

 マジで?

 こんな超がつくほど胡散臭くて、しかも全く予想がつかない代物に10万人もプレイヤーが居ることにびっくりだ。

 

 確かに現実と全く遜色ないリアリティと、それを全身で感じられる異世界の感覚、ゲーム故に何でも出来る全能感はそれが一般販売のゲームだと言うのなら他社を一方的に突き放すほどの売りになるだろう。

 だが実際は宇宙エレベーターを撮影したら勝手に配信される超怪しいアプリである。

 そんなの普通やるか!?

 

 超常慣れしすぎではなかろうか。

 兄ほどではないだろうが、アニメみたいなことが起こってもおかしくない世界になっていると感じている人間が少なからずいる、と10万人のアクティブユーザーから感じさせられる。

 

 物理学的・魔法学的に可能なことはすべて実現可能だからそりゃ何でも出来るゲームだけどさぁ。

 一体何を目的にプレイしているんだという気にもなるが。

 

 ネットで反響を調べると、ことごとく上がってくる「飯がうまい」……。

 なに!?

 飯食うためにやってるの君ら!?

 食っても現実の腹は膨れないぞ!?

 

 はあ。

 あのゲームの話は置いといて。

 ガチャを回そう。

 

 R・ピザ窯

 

 出現したのは、無駄に立派な作りの石窯だった。

 レンガを積み重ね、しっかりと隙間を埋めた代物。

 決して分厚いものではないが、かなりがっちりと作られている。

 

 飯の話した後に出現する窯よ……。

 まあそれは良いんだが、調理器具とか調理設備ってだいたいろくでもない……まあ景品でろくでもなくないものが無いんだが。

 

 んー、どうすっかなー。

 試すにしても調理をするには大げさすぎるし……。

 簡単にパンでも焼くか。

 

 そういうことでパンを手早く作ることにする。

 ピザ窯に薪と火を入れ、50分ほど予熱しておく。

 その時間の間に、パン生地を作っておくのだ。

 

 いい感じにパン生地が出来上がったら、ピザ窯に入れるために小さく切り分けて。

 それをトレーに乗せてピザ窯の前へ。

 パン生地たちを焼くためにピザ窯を開けると……。

 

 そこには、火が消えて、代わりにピザが入っていた。

 ピザ。

 たっぷりのサラミと、チーズが乗せられたシンプルなピザだ。

 

 ああ、うん……。

 

 このパン生地どうしてくれるの!?

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を使って、ピザ窯の内部に火炎魔法をブチ込んでいた。

 あのピザ窯、内側に満たされた炎をピザに変換するとかいう、いつもの明後日にぶっ飛んだ効果を持っていたのだ。

 窯だからって火をそのまま食料に変換するのはどうかと思う。

 

 しかも。

 その味や種類は、火の質に依存する。

 火力が強ければ強いほど、より美味しい物になるのだ。

 

 なので兄は……現状の最大火力をブチ込んだのだ。

 いや、最大火力は嘘だった。

 現状の最大火力は杖+魔王装備+機神バフを乗せた私の魔法だった。

 まあ私が使えるのは基本闇属性なので結局ピザ窯には入れても意味がないんだが。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の火炎魔法を使って作ったピザはというと。

 なんか見たこともない得体のしれない食材が大量に乗っていた。

 食べられるヘドロみたいなやつとか、スライスされているのにうめき声を上げるきのことか、あと火が通っているのに赤々としたサイコロ肉とか。

 

 まあ、兄は食べたが。

 この男、躊躇がなさすぎる……!

 

 なお味の方は、「理解を拒む味」とのこと。



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R ドリル

 ドリル。孔を開けるために使われる工具を指す言葉である。

 回転しながら対象を削ることで少しずつ穴を掘り進める構造になっている。

 アニメ……特にロボットアニメでは円錐形で螺旋状のものがドリルと呼ばれて武器として利用されることがあるが、あの形状は一体どこから来たのだろうか。

 アレを突きこんで回転しても穴は開けられないと思うのだが……。

 

 今回はそのドリルが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 あのVRゲーム、しれっと完全翻訳機能が存在している。

 この完全翻訳機能、完全に言語の壁を破壊し、あらゆるプレイヤーが共通の言葉を話す事ができるのだ。

 発言を一度特殊な内的言語に翻訳してから、相手の使用している言語に翻訳し直すというなんというか迂遠な方法を取っているが。

 

 動かす体もアバターであり……究極的に、一切の人種や民族の差を意識させないことが出来る。

 ある意味で平等な世界が広がっている、といえよう。

 

 まあ、そんなゲームでも、プレイヤー毎に持っている文化と、アバターの傾向、あとクラスでまとまって行動している事が多いのは面白いところだが。

 人は共通点を見出して集まる生き物だということがよく分かる。

 

 特に……生産職は作るものでまとまっている。

 素材の融通やらで集まっていると便利であるし、より大きな物を作ろうとすると人が必要だ。

 それに、同じ物を作ろうと考えてプレイしている仲間である。

 必然、より集まる。

 

 まあ中には宇宙エレベーター調査団の人員が参加している魔法解析集団があったりするんだけどな!

 もうすでにゲームが現実と同じ挙動をしてるって気がついてるよあいつら!

 

 まあいいか。

 うまく使う分には文句も無かろう。

 どうせ才能の卵の影響もあって現実にはうまくもちこめまい。

 ガチャ回そ。

 

 R・ドリル

 

 出現したのはドリルだった。

 その大きさ、1メートルと少し。

 棒型で螺旋状のドリルビットが、ミニガンの本体から生えているような形状。

 

 うわああ、武器だこれ!?

 ドリルとは本来穴をあけるための工具だ。

 だからこんなデカいものは……武器だとしかありえない。

 

 ドリルもかろうじて工具のドリルビットの形状をしているが、こんなに長い物を実際に使ったら簡単に折れてしまうだろう。

 つまり、まあ……ものとしてメチャクチャである。

 ロボットアニメの武器かなにかか?

 

 しかし。

 でかく、総金属製で見るからに重そうなのだが、握って持ち上げてみるとこれがまた軽い。

 手軽に取り回しが出来る。

 異様に手に馴染むというか。

 

 見様見真似、というか軽く思いつくような動きをしてみても滑らかに動かせる。

 持ち手が特殊な形状になった槍のようにも感じるのだ。

 

 なので、そのままドリルの原動機を動かしてみた。

 きっと、手に馴染むように動くだろう、と。

 

 回転を始めるドリルビット。

 それに対して、明らかにモーターが激しい動作をしているはずなのにブレることのない本体。

 

 普通、ドリルが回転すれば振動し、それを抑えるために手は震える。

 だが、これは全く振動しない。

 まったく、ぶれない。

 

 こいつ……こんな、こんなくだらないことのために。

 ベクトル制御してやがるな!?

 

 そのままドリルを試し切り用の木材に振り下ろす。

 それは回転によってえぐり取られるように切断された。

 

 

 

 

 

 

 後日。ドリルがベクトル制御されていることを逆手に取ったのか、兄がドリルで曲芸をしていた。

 ドリルを棒のようにぐるぐる回しながら、体の表面を滑らせているのだ。

 それがまるで魔法のように手元に戻ってくる。

 

 動作をベクトル制御している以上、ドリルのどこかしからに触れていればそれはドリルを手に持っているものと同じと扱われ、振れている位置で固定される。

 そういう仕様だと見抜いての奇行なのだが。

 

 よくそんな回転する危険物を振り回そうと思えるな!

 ちょっとは警戒してくれ!



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R USBライト

 USBライト。USBポートから電力を受けて発光するライトだ。

 ノートパソコンの脇に置いて手元を手軽に明るく出来るため大変便利である。

 またLEDをほとんど直接給電端子に接続すれば出来てしまうため100均でも買うことが出来る。

 長時間の使用は火を吹く可能性があるのでちゃんとしたものを買うべきだが……。

 

 今回はそのUSBライトが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 あのVRゲーム、実は世界の見え方を調整することが出来る。

 いかに現実を完璧にシミュレーションしているからといって、完璧なリアリティは完璧なゴア表現を呼び込んでしまうためだ。

 そのためアニメっぽい視界に切り替えたり、3Dゲームっぽい視界に切り替えたり出来るようになっている。

 あ、中には水彩画風とか油絵風とかいう訳分かんないのもあったな。

 

 まあ基本的な見え方も、現実のそれとはちょっと異なるのだが。

 いろいろゲーム的な補正がかかっている関係上、現実では存在しているはずの現象であったり、スキルによる補正であったりによって現実のそれとは微妙に違って見えているのだ。

 

 例えば……土埃は起こるが、それによって埃が舞ったりしない。

 砲撃によって起こる爆炎で視界が遮られたりしない。

 光源がないはずの洞窟なのにはっきりと視界が確保できる。

 

 こういった補正が色々かかっているので、やっぱり目ざとい人にはわかってしまうようである。

 まあ、現実そのままじゃゲームにならないから、多少は……とは思うが。

 

 さて。

 ガチャを回そう。

 

 R・USBライト

 

 出現したのはUSBライトだった。

 USBケーブルが伸びた土台から金属製の首とその先にLEDがついたものだ。

 一般的な卓上ランプのようなものである。

 

 百均で売ってそうなチープな作りだ。

 金属製の蛇腹の首は根本の立て付けが甘くグラグラしているし、透けて見える基盤にもまともに抵抗が乗っていない。

 ボタンもなんか触るとフラフラしてずれるし……。

 

 ま、まあそんなものでも、つけることは可能だろう。

 百均の電灯でもつかないということはないはずだから。

 

 そう思って、USBケーブルを電源アダプタに接続する。

 そして電源ボタンを入れると……。

 

 USBライトの頭につけられたLEDが激しく発光し、レーザーのような光を放ったのだ。

 強い光の反動によって転倒しかけるUSBライト。

 光を照射されて焦げるテラスの柱。

 

 し、シンプルの高火力で来やがった……。

 慌てて止めなければ火災を引き起こしてもおかしくなかった。

 

 なんでこんなチープなライトがレーザー並の光学収束してるんだよ!

 レンズも何もなかっただろうが!

 

 

 

 

 後日。兄がUSBライトを分解していた。

 多くの場合、ライトを明るくするには電圧を上げる必要があるが、これにはそんな部品は使われていなかった。

 だから兄はそれが気になって……、それを作れないかといじくり回しているのだ。

 

 電圧を上げる部品、というか構造がわかればレールガンが作れる、とか言っている。

 作ってどうするんだ。

 それに機神なら3分で有りものからレールガンぐらい作れるだろ。

 

 結局兄は、LEDチップを弾丸としたレールガンモドキを作っていた。

 なんでそうなるの!?

 

 発射と同時に着弾するほどの速度を叩き出し、その上着弾地点で超強力な閃光を放つ、なんというか……。

 変な兵器だ。

 LED発射してもそうはならんだろ。

 

 というか、USBライトに5つしかついてないものを消耗品にしてどうするんだよ!?

 



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R 翼

 翼。空を飛ぶタイプの生き物が持つ飛行のための器官である。

 その機能も羽ばたくことで空気を蹴って体を持ち上げることや、空気の層に乗って滑空することなど様々な手段で飛ぶことを実現している。

 中にはトビヘビという、体全体を平べったくしてS字にまげることによって翼とする生き物もいるのだ。

 

 今回はその翼が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 大学でも作るかー、と調査団の人たちにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)越しに相談をしてみたら、メチャクチャ乗り気そうだった。

 現状、街の形こそしているがそれは強引に整えただけで人が住んでいた結果出来上がったものではない。

 そのため、あちこちに不自然な点が大量にあるのだ。

 基部外縁部に至っては、仮設の建物が立ち並び、その外側に停泊した客船をホテル代わりにしているような状況である。

 

 そのため区画整備してもっと研究やら、交易やらがしやすい環境を整えようと兄は思ったのだ。

 なんなら人が住んでもいいとすら思っている。

 人が来すぎてそうしないと対処できなさそうという理由もあるが。

 

 そしてその区画整備の中心として大学を提案したら……まあびっくりするぐらい食いついてきたよね。

 確かに客船や仮設の建造物を実験室にするのは無理があったか。

 

 動きが早い国はもう予算まで付けてくる。

 まだそういう計画があるって話をしただけなのに、随分と身軽なことで。

 

 ついでと言わんばかりに日本及びアメリカと海底ケーブルを引く計画も出てきている。

 まあ……確かに現状衛星通信で無理してるしな。

 そちらは優先的に許可を兄が出していた。

 

 なお、宇宙エレベーターとインターネットが海底ケーブルで直結すると、機神は世論をほとんど自由に操作できる模様。

 いやしないしさせないけどね?

 

 さて、ガチャを回そう。

 

 R・翼

 

 今回ガチャから出現したのは……したのは……あれ、なにもない。

 カプセルの中には紙しか入っておらず、その紙には翼、とだけ書かれている。

 翼……?

 

 首を傾げながら、椅子にもたれかかる。

 そうするとパサ、となにかふかふかしたものに体が包まれた。

 パサ?

 

 そっと首を回すと、私の背中から白い翼が生えている。

 絵画に出てくる天使の翼のような、美しい純白のものだ。

 手入れが行きどいているように、その白は薄い光沢をまとっているように見える。

 

 腕を上げるように、翼を持ち上げてみる。

 それは私の思考に沿って、腕を動かすのと同じように、それが当然だというように。

 当たり前に動いた。

 生まれたときから翼が生えているかのように動かせる。

 

 ……。

 うわああああああ!?

 ついに直に改造してきたー!?

 

 あんまりすぎて驚くのが遅れてしまった。

 根本がどうなっているのか。

 腕が届かないし首が回らないから見えない位置という。

 どうも内側の肩甲骨あたりから生えているような感じなのだが。

 

 それに、だな……。

 ちょっと羽ばたくだけで、それこそ絵画の天使の如く浮ける。

 ホバリングしているという感じではない。

 本当にふわっとした浮遊感だ。

 

 って、飛んでる場合じゃない。

 兄ぃ! ちょっとこの翼見てくれー!

 

 

 

 

 

 その後。翼は兄が引っ張ったら簡単に外れた。

 一人では取れない位置にくっつくのがイヤらしい。

 しかも外すときの抵抗感はセロハンテープぐらいの接着力である。

 

 そうやってもいだ翼を兄はじっと見て。

 そのまま自分の背中にくっつけた。

 直後翼が黒く染まり、悪魔の羽根のように変化する。

 

 そのまま、ものすごい速度でその場を飛び去り、ほとんど豆粒みたいな大きさになる距離まで飛んでいった。

 音速の壁に挑戦、とかぽそっとつぶやいていたような気がする。

 おーい、かえってこーい。

 

 新しい手段で自由に空が飛べるからってはしゃぐな!



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R 家

 家。人が居住するために利用する建物のことだ。

 最も最初に出現したであろう建物であるため、その形状は地域によって非常に多様性が富む。

 環境に適合するために、一見どのような合理性を持つのかわからない構造のものが誕生していたりするのだ。

 また、新素材や新建築方法などで新しい姿の家が生まれることもある。

 

 今回はその家が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 うおお、日本の海上自衛隊と海上保安庁はメチャクチャ忙しそうにしている。

 宇宙エレベーターのある場所が日本の排他的経済水域なため、実はサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の国には海上での警察権がなかったりするのだ。

 

 というのも割譲するにしても、権利関係の話をするにしても、めんどくさい交渉がいっぱい必要で、それには時間がかかる。

 なので初手から日本におまかせしてしまったのだ。

 交渉は機神が続けているが、今は海上のことは全面的に預ける形になっている。

 

 要は縄張りを荒らされたくないというアレだ。

 あとから来た輩にでかい面されたくないというメンツの話でもある。

 

 なのでまー、人……というかサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)だけ貸してうちではノータッチ、の形にしたのだ。

 なお、宇宙エレベーター基部で行った犯罪は締め上げた上、立入禁止にしてその国に突き返している。

 

 ばれないと思ってるのか周辺で密猟とか密輸取引とかすごいんだよね!

 確かに大事が起こっていて、結構混乱している場所ではあるが。

 

 なので、兄のエセ国家のせいで海上保安庁は大忙しである。

 海の治安のために頑張ってほしい。

 

 さて、ガチャでも回そう。

 

 R・家

 

 出現したのは家……ではなく、小さな家のジオラマだった。

 庭付き一戸建ての立派な家である。

 赤い屋根の建造物で、中身まで作り込まれていてタンスやらテーブルやらが覗き込んだ窓から見えている。

 

 ジオラマ……?

 中に入っているものはどれもこれも、本当に縮尺を縮めて配置したかのように異常なほどのクオリティを持っている。

 外壁の汚れ方なんかも、新築数ヶ月目です、とありありと主張しているように見える。

 

 どうなってんだ……?

 そう思って玄関に当たる部分に置かれた置物を手に取ろうとしたその時だった。

 私の体が、ジオラマの中に吸い込まれた。

 

 吸い込まれる際にジオラマと同じ縮尺まで縮んでしまったらしい。

 ジオラマの家だったものが、今の私の視界には一般的な家と同じ大きさに見える。

 そして、その背景にはいつものテラスが超巨大に見えるのだ。

 

 うーむ。

 入り込める家の模型、ってことかな……?

 家の壁は木製で出来ているようにみえるし、地面は土が盛られている。

 もともとあった家の縮尺を縮めてジオラマに入れただけのようにも見えなくない。

 

 家の中も、ジオラマで再現されたものというよりも、普通の家を縮めただけだと思える。

 ジオラマならばこんな目の細かい布をカーテンやベッドには使えないだろう。

 制作できるかも怪しい。

 

 ……というか戻れるだろうかこれ。

 そう思って玄関の先にある門から出たら普通に元の大きさに戻った。

 

 家……。

 家かぁ。

 

 これを家として扱うのは無理がない……?

 

 

 

 

 

 後日。兄が、家に持ち込んだ物を置き去りにして、それを外側からピンセットで取り出す、という方法で物品を圧縮する方法を見つけ出していた。

 持ち込んだものは何であれジオラマサイズまで小さくなる。

 それを逆手に取って……という感じだろうか。

 

 なお、ジオラマサイズに小さくする利点は特にない。

 衝撃を与えるとすぐ元の大きさに戻るのもあって、ただただ危険になるだけだ。

 

 なので兄は、岩などを掴んだ状態で持ち込んで小さくして……投げる。

 投げつけた衝撃で元の大きさに戻るからそれをぶつける!

 みたいな使い方を試していた。

 

 ……。

 なんでこの人、すぐ武器にしようとするの!?



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R 延長コード

 延長コード。それを指す対象は様々だが、ここでは最も一般的なコンセントを延長し、その間口を増やす代物のことだ。

 その外見の通り、コンセントから電気を供給して、複数のコンセントに振り分ける事ができる。

 出来るのだが、それは一つのコンセントから電力を引っ張ることに他ならず、過剰に電気を消費するものを接続すると火災の原因にもなる。

 そのため一つのコンセントから複数の延長コードを利用するのは危険なのでやめよう。

 

 今回はその延長コードが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 ようやく、本当にようやく。

 静止衛星軌道ステーションに、調査団の人たちを招く事ができた。

 

 あのワープする列車の駅の誤魔化しに随分と時間がかかってしまったが、概ね計画通りに順調に準備できたと言えよう。

 まあその計画、数回修正されてるんだけどな!

 

 調査、視察と言ってもこっちが用意した順路に沿って観光するだけの簡単なものだ。

 向こうもこちらの技術力を見る目的はあるが、そこまで深いものではない。

 お互いに協力的なポーズをするための視察のようなものである。

 

 まあ、さかしまのステーション居住区を見て絶句し、他のステーションへの接続ゲートを見て絶句し、とひたすら驚かせ続ける結果となってしまったが。

 清掃用ドローンとか動かしまくってるし、光源は謎の力で浮いてるし、なんなら静止衛星軌道上にあるというのに重力が働いているところとか、ワープ航法の列車とか。

 

 これ報告しても信じてもらえないレベルの超技術だよなぁ、とか思わなくもない。

 でもまあ、機神にとってはこれぐらい小手先の技術だったりするからどうにかして飲み込んでほしい。

 これから共存しようとしている相手はこういう存在……神とその眷属だからな。

 

 さーて。

 私はガチャを回そう。

 

 R・延長コード

 

 出現したのは延長コードだった。

 コンセントに突っ込むプラグが一つ、コンセントを差し込む端子が一つの、純粋に電源ケーブルを伸ばす用途に使われる延長コードだ。

 色は白い。

 

 ……。

 うん?

 長さが2メートルほどあるのだが、手にもつと、変な手応えがある。

 不自然に重い、というか。

 ケーブルが硬い印象を受けるのだ。

 

 手で曲げてみる感じは柔らかい普通の延長コードなのだが。

 なんなんだ?

 

 そう思っていると。

 延長コードが、蛇のようにその電線をくねらせはじめたのだ。

 私の手の中から逃げ出そうと暴れだす。

 

 その力は思いの外強く、私はうっかり手を離してしまった。

 元が延長コードだったとは思えない速度でするするとテラスを駆け抜け、木の枝に身を隠した。

 

 うーん、変な生き物が出てきてしまったぞ……。

 

 

 

 

 後日。なんかもういつの間にか繁殖して増えていた。

 複数の延長コードが絡まった巣が木の枝に出来上がっている。

 

 なんでこんな事になったかというと、まあ兄だ。

 兄が、餌と称して延長コードやら、AVケーブルやらを与えた結果、それらが延長コードの蛇と同じ性質を得た……。

 いや、違うな。

 よく見るとデザインが違うので、食べたか取り込んだかして、それを生み直した感じだろうか。

 

 巣にかかったケーブルも半透明で抜け殻で出来ているとわかる。

 延長コードの抜け殻、あまりにも理解し難い概念だが……そこにあるから納得するしか無い。

 ひどい話だ。

 

 それにさぁ、兄がどこから引っ張り出してきたのかわからない三色ケーブルが、その端子を頭として蛇になってるんだけど。

 どうもその頭同士が仲悪いみたいで巣の中で喧嘩してるのが見えてるんだよね。

 

 なんでだよ!

 そこは一体の蛇になるんじゃないのかよ!



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R 耐火服

 耐火服。消防士などが火から身を守るために利用する服のことだ。

 その性質上、極めて分厚い生地が利用されている。

 不燃性の繊維を重ねて断熱することによって火の影響を防ごうとしているのだから分厚くなってしまうのは必然だ。

 それによって火から人を守っているのだから。

 

 今回はその耐火服が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 機神のレベルが100万を突破した。

 あれから順調にレベルを増加させていたのだが、ついに100万突破したのかと感慨も……湧かない。

 そもそも機神が誕生しなければこんな厄介なダンジョンを抱えるハメにならなかったのではないか……と思ってすらいる。

 

 まあレベルが上がることによって出来ることが増えるのは良いことだ。

 レベルの向上で配下としての別ダンジョンを作成出来るようになったし、分体として単独飛行して世界中を飛び回るダンジョンとかいうもう何言ってるのかわからない代物まで作れるようになった。

 

 で。

 レベル100万に到達して何が出来るようになったかというと。

 浮遊大陸の作成だ。

 

 特定高度に浮かび続ける巨大な島であり、ダンジョンであるがゆえに外界から環境を隔離可能な独立領域だ。

 うーん神の御業。

 ぶっちゃけ世界樹の枝と比べると……空間拡張されてないだけで独立した世界を作れるのと対して変わらん。

 しかも空間拡張に関してはそもそもダンジョンなので標準装備だ。

 

 枝じゃん……。

 実質独立した世界樹の枝じゃん……。

 

 兄は試しに、と宇宙空間に浮遊大陸を作成しやがった。

 霧星側の静止衛星軌道ステーションだった枝の脇に浮かび上がったその島。

 内部は完全に独立し、その中ですべてが循環しているため、なんならすぐにでも人が住めそうな環境になっているといえる。

 

 なにか兄がニヤニヤしている。

 絶対ろくでもないこと考えてる……!

 

 まあいいか。

 ガチャ回そ。

 

 R・耐火服

 

 出現したのはオレンジの服だった。

 あの消防士が着ている火の中に入っていっても負傷しないあの服だ。

 いや、限界はあるし、服だけでは当然酸欠は防げないからそこまで高性能というわけではないが。

 

 で……なんかハンガーに掛けられているのか、ストックと共に直立している耐火服だ。

 パッと見た感じではなにか変わっているという気はしない。

 

 とりあえず着てみるか?

 いや、見るからに重そうだから着るの嫌だな……。

 仕方ない。

 私はサメ妖精のシャチくんを呼んで、着せることにした。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)パワードスーツの上から耐火服を着た結果はというと……ものすごいズングリムックリになったな……と言った感じだ。

 もともとガタイがいいアレを着込んだシャチくんの上から、分厚くてごつい耐火服を着ているのだから当然ではある。

 

 しかし着てすぐわかるような効果はなし。

 もしかして耐火能力が上がっているとか?

 

 そんな気がしてきた。

 だとしたら……どうやって試せば良いんだ?

 私は元の耐火服の耐熱性能とか知らないから比較しようもない。

 

 ええい、兄にやらせよう。

 

 

 

 

 

 後日。兄は機神の吐く炎に耐火服を着せたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を晒した。

 そう、機神はドラゴンでもあるから口から炎を吐けるのだ。

 ……初めて聞いた機能である。

 いや機神が戦闘するような状況って超危険なので知る機会が存在しなかったことは幸運な……多分幸運のはずだ。

 

 だが、機神のレベルは100万。

 当然吐く炎にもそのレベルによる補正が乗せられる。

 実験用に置いておいた耐火レンガやヒヒイロカネが一瞬で溶解するほどの高熱を口から吹き付ける。

 しかも機神の制御能力によるものか、その熱量は範囲内に完全に閉じ込められている。

 

 バカじゃないの!?

 耐火性能をテストするようには言ったけど、なんで真っ先にその超高火力なの!?

 もっと!

 段階を! 

 踏めよ!

 

 なお、耐火服はその超火力に耐えきった。

 中のサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)も無事だった。

 ……酸素はなくなったので呼吸するような生物だったら即死だったらしいが。

 

 いや……性能ヤバいな!?



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SR マギコンピュータ

 マジックパンク。いわゆるサイエンスフィクションの派生系である、蒸気機関がとてつもない発展を遂げたスチームパンク、の発展型である。

 これは魔法という現実に存在しなかった技術が突然出現、ないしはじめからあった魔法が産業革命のように大発展した結果の世界を描く作品のことだ。

 ファンタジーと異なるのは、魔法を前提とした社会の構築に重きが置かれている点だろうか。

 世界観だけがマジックパンクで話自体はそれほど重きを置かれていない作品もあるにはあるが。

 

 今回はそのマジックパンクの産物が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 ああもう、兄が浮遊大陸を作って何かを企んでいると思ったらこれかよ。

 兄は国連向けに浮遊大陸を貸与するつもりなのだ。

 静止衛星軌道上に浮かぶ浮遊大陸はステーションに機材を外付けするよりも遥かに利便性が高い。

 

 理解不明な原理で大気が固定されているだけなので、ロケットを建造すればそのまま飛び立てるのだ。

 回収も減速しながら浮遊大陸に落とせば簡単に行える。

 大気の厚みは100メートルもないからな。

 

 確かに便利は便利だが……。

 いや、静止衛星軌道ステーションでもあんだけ驚いていたんだからあんなもん提供したら腰抜かすぞ国連が。

 

 変な揉め方しそうでやめてほしい……が、ステーションの貸し出しもそれはそれで管理できなさそうではある。

 宇宙開発向きのハッチには限りがあるからな。

 また、ステーションと接続できる規格が実はまだ地球の技術だと作れない。

 

 そういう意味では……まあ、浮遊大陸を貸与したほうがマシ……ではあるのか。

 いやあ、でも揉めそうだなぁ!

 

 はー。

 ガチャ回そ。

 

 SR・マギコンピュータ

 

 出現したのは指でつまめるほどの大きさのクリスタルだった。

 長さ6センチほどの直方体で、その表面には複雑なカットが入っている。

 透き通った赤色の結晶構造が美しい。

 

 で……だ。

 私、これ触った瞬間に分かっちゃったんだよな。

 私のもともとあったそれなりの才能に才能の卵でブーストされた、おそらく人類の限界を凌駕した魔法の才能の影響だとは思うんだけど。

 

 これ、兄が必死こいて作ろうとしていた魔法の詠唱機だわ。

 結局詠唱が出来る宝石型のモンスターを作って解決していたが、本当はこういうのが作りたかったのだ。

 

 出来ることは魔法の制御と構築の補助、あとは一部の魔法の自動実行である。

 使用者の魔力を貯蔵して、それを燃料代わりに動作するようで。

 

 しかもさぁ。

 魔力でいじると中にユーザーインターフェースがあるみたいで、なんとなく読めるんだよね。

 頭の中にメニューとか、スマホのホーム画面みたいなのが開く感じ。

 

 うーんこれすげーわ。

 今の私よりもすごい魔法が、魔力を注ぐだけで使える。

 手頃なところでいうと……金属加工?

 原子配列並べ直して理論値強度を発揮できる完全な金属を作り出せる。

 このマギコンピュータの演算力だけでそれが出来てしまうのだ。

 

 それで終わればよかったのだが……。

 ユーザーインターフェースの中に、ガッツリこのマギコンピュータの設計図が入っている。

 なんなら材料を揃えればボタン一つと魔力で簡単に作れてしまう。

 

 絶対兄が量産するじゃん!

 

 

 

 

 

 後日。やっぱり兄が量産した。

 よっぽど才能がない人間でもない限り誰でも魔法が使える代物を兄が量産しないわけがなかった。

 もう持たせるだけで魔法の構築技術が向上するためサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の部品として組み込みだしたのだ。

 

 しかも相互でネットワークを形成するようになり……サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)全体でも機神と同等に近い演算能力を持つように。

 統括するのは機神だからほとんど機神の演算力が倍に増えたようなもんである。

 

 しかもそれが魔法と魔力運用に特化した演算器となると。

 もう魔法だけで北半球をまるっと吹き飛ばせるようになってしまった。

 はっきり言って過剰火力である。

 

 本当に何に使うんだよそれ、という物を手軽に用意するのはどうかしている。

 思いついたから作った、って本当にやめてくれよ兄ィ!



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R チャージングハンドル

 奴隷が回すアレ。仕掛けにつながった動力として、石臼のような形状のものに棒がついたものを奴隷が押す、というなんというか……映画でしか見たことがない代物のことである。

 近いものはガレオン船の錨を上げ下ろしするのに使うものだろうか。

 まあ無益な労働のアイコンとして使われがち……だろう。

 多分。

 

 今回はその奴隷が回すあれにしか見えないやつが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近のニュースは宇宙エレベーターのことと国連の動向ばかりだ。

 まあそうなるのは仕方ないとして。

 気になるのは各国の動きである。

 

 特に中国。

 あの国が一番工作員送り込んでくる率が高いんだよ。

 アメリカも似たようなものだが、アメリカはとにかく情報を集めて交渉を有利に進めたいという意図がある動きでわかりやすい。

 まあ機神のセキュリティはただの人間には抜けんのだが。

 

 中国は……まあ本当にわからん。

 物資を強奪しようとするのは序の口で、まだ立ち入り禁止にしてある区域に強引に踏み入って()()()()になったヤツやら、魔法を駆使して侵入したはいいがダンジョン化した森に迷い込んだせいでいまだに出られないヤツやら。

 あとはなんらかの政治意図を持って問題起こす奴ら。

 何を目的としてるのかはわからんが治安が悪くなるのでやめてほしい。

 あと賄賂もやめろ。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)には意味がないから。

 

 日本は……目立つ動きは沖縄開発だろうか。

 貿易拠点にしようとしている。

 宇宙エレベーターは人工島な関係で、そんなにでかい船を停められないのもあって、沖縄の貿易拠点化はかなりでかいだろう。

 

 あと水面下だと防衛関係の協定を結ぼうと交渉が来ていたりする。

 不可侵条約とかそういうやつだな。

 まあ目と鼻の先に超科学大国(推定)が出現したらまあ、そういう条約がなければ安心できない。

 

 うーん……国際情勢は……手に余るな!

 機神の実質的な未来予知がなきゃ兄に対処は出来なかっただろうなぁ。

 機神サマサマなり。

 

 さて、私はガチャでも回そう。

 

 R・チャージングハンドル

 

 出現したのは、土台に輪っか状のパーツが乗せられ、その周囲に棒が突き出した……奴隷が回すアレに見えるものだった。

 テーブルに乗る程度の大きさだが……何だこれは。

 土台には黄色と黒の警告色で彩られており、持ち手と思しき棒の端には赤いランプがついている。

 

 えっ……マジでなにこれ。

 この持ち手のような棒は押すと回る。

 そして、赤いランプが点灯する。

 それだけだ。

 

 見た目よりも軽い力で回せるが、それがどういう意味を持つのかさっぱりわからない。

 チャージングって書いてるからぜんまい仕掛けで逆回転でもするのかと思ったが、勢いよく回してもまるでハンドスピナーのように回るだけだ。

 

 本当に……なんだこれ!?

 

 

 

 

 

 後日。兄がバカみたいに勢いよく回していた。

 回転させているチャージングハンドルの脇に、スマホを置いた状態でだ。

 

 そのバカみたいな行動を取っている理由が、そのスマホだった。

 兄が回すたびに、スマホの充電マークが点灯したり途切れたりするのだ。

 

 えっ、それ発電装置なの……?

 しかもなぜか無線給電している。

 訳わかんねえ。

 

 あまりにもくだらないその装置にあきれていると、兄は私的なバーベキュー用の石窯の横にチャージングハンドルをくっつけて、回し始めた。

 すると、薪もないのに火が起こる。

 その火は回転に合わせて強くなったり弱くなったりしているのだ。

 

 えええ……。

 なんで気がついたんだその機能に。

 そしてチャージングハンドルを背中に背負ってサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に回させようとするのもやめろォ!



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R お茶碗

 お茶碗。米を盛るために使われる食器である。

 もともとは茶の湯においてお茶を入れて飲むための器だったのだが、鉄道網の普及と共に陶磁器製のご飯茶碗が普及し、これがメジャーなお茶碗となった。

 様々なサイズが存在し、自身の食べ切れる量の物を選ぶ事ができる。

 

 今回はその茶碗が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 利益を得ようとするのではなく、邪魔な敵として妨害しようとしてくる国もある。

 これは主に産油国……中東あたりの国からが多い。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)のもたらした資源は思いっきり石油資源と食い合う、と考えているのだ。

 実際はそうじゃないんだけどな。

 

 しかし利権というものに強引に割り込んだように見えるため、国際的な場で圧をかけるなどの行動が行われている。

 こっちはテロまがいの行動が無いだけ中国と比べればマシだが、いつ殴り込みに来てもおかしくないのが恐ろしいところではある。

 あと神を名乗っちゃってるのも絶対気に食わないと思われてる。

 

 というかあの宣言のせいで敵に回さなくていい組織を敵に回してるところはあるんだよな。

 アメリカやイギリスでも一部過激寄りの宗教組織が目の敵にしているし、なんなら国会の議題にも上がっているようである。

 一神教の国は大体その辺引っかかっているようで、対処に困っているところが多い。

 権益のためにその問題に目をつぶっている国がほとんどだが。

 

 あー、世界が平和にならねーかなー。

 どうあがいても乱す側だからどだい無理であるが。

 

 ガチャを回そう。

 

 R・お茶碗

 

 出現したのは、ご飯がこんもり盛られたお茶碗だった。

 青い色合いのお茶碗に、ずいぶんと色艶の良い白米が乗っているのだ。

 

 米……だよな。

 炊きたて特有の、ホカホカとした湯気が立ち上っている。

 細かい蒸気すら目に見えるようだ。

 一見してなにか変わっているようには見えない。

 いや、炊きたての米がガチャから景品として出てきている事自体は変わっているが。

 

 なんでまた白米なんかが……。

 そう思って、白米を箸で持ち上げてみる。

 持ち上げてみた感じはというと、高い米のような気がする。

 身がしっかり引き締まっていて箸からでも弾力がわかるほどだ。

 それに見た目きめ細やかなのだ。

 

 高そうな米だなぁ……、そう思いながら掴んだ米を皿に移す。

 そうして茶碗に目を戻すと。

 そこには元と同じように盛られた米。

 

 うん?

 皿には移された米が乗っている。

 お茶碗には、はじめと同じ量米が乗っている。

 

 食べても減らないご飯茶碗じゃん……。

 無限に白米を食べられるおデブさんの夢かよ。

 

 そんな……ジョークグッズみたいな……。

 

 

 

 

 

 後日。兄がせっせと炊飯器に、お茶碗の米を移し替えていた。

 やめろ、ガチャ産の得体のしれない米を家族に食わせようとするな。

 

 なおそうやって移し替えている兄の手にはすでに試し食いするために作ったであろうおにぎりが握られている。

 おにぎりの形に握ったら中に具が生成されてお得だった、とか抜かしている。

 

 そんな訳解んない事が起こってるなら炊飯器に移し替えるのやめろ!

 高い米で美味しい?

 それが関係あるわけないだろ!



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R 毛抜き

 毛抜き。鼻毛やすね毛、脇毛など、毛を掴んで引き抜くのに使われるピンセット状の器具だ。

 シンプルに掴んで引っ張るという構造なため、毛穴にはダメージが入りがちで余り推奨出来ない道具でもある。

 引き抜いた毛穴から雑菌が入って膿む危険性があるためだ。

 

 今回はその毛抜きが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 あのVRゲームはというとアクティブユーザーが20万人を超えたあたりで評価が安定し、概ね高評価のようである。

 世界的には、機神が運営をしているゲーム、ということで超技術は見逃されているという感じだ。

 いや、解析はしているようだがその作業が実を結ぶことはないだろう。

 

 基本料無料、課金なし、超高クオリティのリアリティ、圧倒的な自由度、誰にでも与えられる万能の才能(スキルアシスト)、と商売っ気のなさから変な陰謀論が立てられていたりもする。

 曰く機神は人間の思考パターンを学習しているとか。

 洗脳しようとしている、とか。

 本当になんでやってるんだろうな。

 私にもわからん。

 

 あとなにかに利用できないかと調べて回っている組織も結構あるな。

 現実に出来ることなら全部できるのと、その上でゲーム的に出来ることが載っているのでそのうちそれに気がついて、なにか作り始める気はするが。

 教育機関を設置して、地理的な制限によって教育を受けられない生徒に教育を提供したりとか。

 スパコンをゲーム内で作り上げて、その計算結果を持ち帰ったり。

 

 不法占拠して領土を主張するとかされなければ何をしていてもノータッチのつもりである。

 いや、すでにゲーム内マップの広さが自動アップデートですでに地球の表面積の2倍に到達しているから領土宣言されても問題ないのか……?

 

 まあいいか。

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R。毛抜き

 

 出現したのは毛抜きだった。

 黒い金属製のピンセットで、先が平たくなっている。

 

 毛抜き……かぁ。

 みるからに毛を抜くためにある道具で、もう毛を抜こうとするとなにかいらん効果が発揮されることは間違いない。

 例えば……毛を掴むと、周囲の毛も一緒に抜けるとか。

 そんな勢いで抜けるとめちゃくちゃ痛い。

 

 まあそんな安易なことはないだろう。

 そう思って毛……毛……。

 いつのまにか横に座っていた兄の髪の毛を毛抜きで掴んだ。

 

 思いっきり引っ張ると……。

 ずるずるずる、と毛が抜ける。

 兄の毛根からどんどん、どこにこんなに毛が入っていたんだと言いたくなるぐらい長い毛が抜け……抜け……。

 

 抜けてねえ!

 掴んだはずの毛がそのまま引っ張っただけ伸びて、メチャクチャ長い毛になってる!

 兄の短い髪の毛から一本だけ1メートルぐらい伸びている状況になってめっちゃ気持ち悪い。

 

 毛が抜けない毛抜きに意味があるのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄は毛抜きを片手に機神の体内に潜り……毛抜きを使って機神の体組織の一部を引き伸ばして持ってきた。

 機神のレベルアップに伴って物理学を超越する特殊金属に育ったその体組織は機神の中でも極めて貴重な部位で……体に突き刺しているだけで1秒毎にレベルが1上がる。

 何らかの手段で機神を倒すとドロップするレアアイテムだぞーとか兄が抜かしている程度の物だ。

 それを兄は……毛抜きで引っ張って増やしてきた。

 

 わあ、ろくでもない。

 しかも切り分けて自分自身の肩に突き刺してる。

 

 本当に躊躇がないね!?

 



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R 電話の子機

 電話の子機。据え置きの電話の本体から離れた位置で着信を受けるために用意された小さな電話機のことである。

 本体から無線で接続されているため、配線に囚われず自由な位置に配置することが出来るのだ。

 また子機を複数用意することで本体をたくさん利用する必要もなくなるわけである。

 

 今回はその子機が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 浮遊大陸。

 そう、浮遊大陸。

 あれの写真と共に、国連への貸与を考えていると調査団に話したら何人か驚きが過ぎて気絶した。

 

 ひと目見ただけでその価値を理解できたのだろう。

 そしてそれが手に余ることに思考が巡ったのだろう。

 はっきり言って調査団の規模の組織では手に余る案件である。

 

 調査団はもともと政治的な集団ではあるが、その内情はかなり混沌としている。

 基本的に利益を独占させないために牽制しあっているのだ。

 仲良さそうにしていてもそれは個人間のものでしかなく、政治的には常に敵対していると言っても良い。

 

 で……一番肝心な、というかもともとの目的である宇宙開発の分野でこんな爆弾提示されたらそりゃ……まあねえ。

 気絶で済んでよかったね、というか。

 彼らにはこれから自分の国と国連にこれを報告する仕事があるんだから話はちゃんと聞いてほしい、というか。

 

 兄が無茶振りしているのは申し訳ないと思っているが、この程度で驚かないでほしい。

 まだいろいろ、世界を単独で覆せる技術がいっぱい残ってるんだから!

 

 さて、ガチャを回そう。

 

 R・電話の子機

 

 出現したのは子機だった。

 いや、電話の子機単品で出されても困る。

 銀色に塗装されたこの子機は部屋に置いていても不自然ではない程度に普通の作りだ。

 

 だから……なおのこと、なんで子機だけ出てきたんだ。

 普通本体とセットだろ。

 そういうの今まで一杯あっただろ!

 

 子機の台座が親機になっているタイプの据え置き電話かとも思ったが、紙にばっちり子機と書かれている以上、これは電話の子機である。

 持ち上げて回して見ても、子機である。

 

 え……なにこれ……。

 さっぱりわからない。

 なまじ機械なだけに触ってみる気にもなれないし……。

 

 そう思っていると。

 突然、けたたましく子機が音楽を鳴らし始めた。

 ディスプレイには、着信元の電話番号が表示されている。

 

 えっ、なに、なに。

 怖い怖い怖い!

 

 思わずぶん投げてしまった。

 思いっきり角から落ちたが壊れたりしていない。

 そして着信は思ったよりも早く……というか、流れ始めた音楽が1ループもしないうちに切れた。

 

 えっ……こわ。

 なんなんだようもう……。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が色々検証した結果。

 無事盗聴用の電話子機であると判明しました。

 どんどんぱふぱふー。

 

 いや全く祝えないが。

 この子機、近くにある電話に着信があると、その着信を乗っ取ってその電話の子機のように振る舞うという……だいぶたちが悪い景品だった。

 親機にされた電話の会話を傍受する、なんならその着信を勝手にこの子機で受け取ってしまうことすら出来てしまう。

 しかも親機は機種を問わない。

 

 はー……ろくでもない。

 直球で犯罪に使えそうなものは本当にろくでもない。

 

 でもまあ……兄には悪用出来ない……はずだ。

 なぜなら、機神ならそもそも電話を傍受するどころではなく、情報そのものを一方的に抜き出せるからだ。

 

 機神にもっとヤバい機能があるだけじゃねーか!



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R 鑑定石

 鑑定石。WEBの小説などで割とよく出てくる、触った人の能力や犯罪歴などを表示する石のことである。

 その細かい機能は作品によりけりだが、共通しているのは触れた人間の能力の一部ないし全部を開示するということだ。

 それにより、多くの場合主人公の力を誇示することとなる。

 万一ダメだったとしても、そこから生まれる印象を覆す事によってやはり力を誇示することになるのだ。

 

 今回はその鑑定石が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 機械じかけの星の調査中、その深部で邪神の霧を発見した。

 機械じかけの星はその名の通り……星自体が機械化しており、なぜか変形機構まで有している。

 そのため、星の中央にまで探索を進めることが可能なのだが……。

 

 まさかその深部で邪神の放つ霧を発見することになるとは。

 霧星の北極部分を埋め尽くすあの紫色でとても健康に悪そうな霧である。

 通常の生き物なら踏み込むだけで変質し、怪物化するとかなんとか。

 

 でも探索しているのはサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)なので問答無用で踏み込む。

 霧が埋め尽くすフロアの先にあったのは……まさかの邪神の心臓。

 心臓だけが鼓動し周囲を侵食している。

 

 まあ兄はすぐさまぶった切れるサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を派遣して、真っ二つにしたあと魔力炉に加工しやがったが。

 問題はなんでそれがそんなものが機械じかけの星にあったのかということだが……。

 情報を漁っても出てきそうにないのが厄介なところだ。

 

 はー、厄介なもの見つけたあとだとガチャ回すのマジで嫌だな。

 厄介なものしか出てこないもんアレ。

 関わりたくねー。

 

 R・鑑定石

 

 出現したのは球体の水晶だった。

 きれいに透き通っており、占い師が占いに使ってそうな代物である。

 傷一つなく、埃すらついていない。

 最も雑に机の上に置かれているが。

 

 で……なんだって?

 鑑定石?

 WEB小説なんかに出てくるやつか?

 素性なんかを調べるのに使われる物だったはずだ。

 

 で、使い方は……触れば良いのか?

 小説などではそれで使えていたはず。

 それで、ものすごいステータスが判明して周りに驚かれる、という。

 まあ今の私の周りには人なんていないが。

 

 というわけで、とりあえず触れて試してみることにした。

 そっと手を乗せる。

 

 その瞬間、水晶から閃光弾のような光が溢れ出した。

 うおあぁあああぁあぁぁ!

 目が!

 目がぁ!

 

 あまりに強い光だったため、目に激痛が走る。

 視界も定まらない。

 白く飛んでしまっていて、目の前にあるものがなにかわからない状態だ。

 

 なんでだ、なんでこんな……強烈な光が。

 霞む目を押さえながら、考える。

 なにが、それを……。

 

 うすらと戻ってきた視力で、水晶を見る。

 そこには文字表記などが浮かんでいるのではなく、中に未だ強い光を浮かべていた。

 

 もしかしてこれ、は……。

 魔力測定するタイプ……!

 

 

 

 

 

 後日。兄が触ったらなんか白くて小さい光が一つ浮かんでいるだけだった。

 散々、兄は魔法周りに才能がないと思っていたがまさかそんなに弱いとは。

 

 あの鑑定石は触った人間の魔力を、光の粒の大きさと色と数で表すタイプの石だった。

 数と色の違いは未だ詳しく分かっていない……というか調べ方がないのでどうしようもないのだが、大きさだけは分かっている。

 その色に対応する魔力の強さだ。

 

 つまり光の強さがそのままその触れた人間の魔力の強さとなる。

 才能の卵で増幅されまくった私の魔法の才能がそのまま、超巨大な光となって私の目を焼いたのだ。

 

 うぐ、おおおお……。

 目薬がないとまだ痛むんだぞこのやろう……。

 だから機神に触れさせて試そうとするのやめろ兄ィ!

 どうせ閃光弾になるだけだから!



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R 幽霊屋敷

 幽霊屋敷。一般的に幽霊が出るとされる屋敷のことである。

 日本では凄惨な事件や、自殺などその場で人が死んだことが引き金となって幽霊屋敷になるとされている。

 その場が呪われるから幽霊のような陰のものが集まると考えられているのだ。

 対して、イギリスでは妖精のようなものが憑くことで幽霊屋敷になるとされ、縁起がいいもの扱いされているらしい。

 

 今回はその幽霊屋敷が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 機械星(機械じかけの星)から邪神の霧が見つかったことで兄はもっと深く邪神について調査することを決めた。

 手始めに邪神の心臓を解析することを指示したのだが、これがまず難航している。

 

 構成があまりにもよくわからない、というか普通の肉の塊なのになぜそういう挙動をしているのかさっぱりわからないのだ。

 顕微鏡のように拡大して見てみるとDNAの表面になにか書き込まれているように見えるが、それが何を意味しているのかもわからない。

 

 機神で解析できない、というより解析するために必要な要素が欠けている。

 ロゼッタストーンとなるものがなにもない。

 何も見えない暗闇の向こう側を推し量るようなものである。

 

 なので兄は……サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を霧星の北部に広がる邪神の霧の中に突入させた。

 通り道を守っていたドラゴンとの約束を守るために、宇宙(そら)から。

 

 え、ええー!?

 なんか、雑じゃない!?

 やり方が、雑じゃない!?

 

 世界樹の枝からロケットのように発射して霧の中に落とすって、あまりに雑すぎる。

 それならあの竜と交渉したほうがよっぽどマシだったのでは……。

 

 まあいいか。

 確実ではある。

 帰ってこれないだけで。

 

 ガチャ回そ。

 

 R・幽霊屋敷

 

 出現したのは……出現したのは……。

 なんだこれは。

 魔力視でようやくおぼろげに見えるなにか。

 建物のように見えるが、地に足がついておらず半端に浮いている。

 

 ……うん。

 幽霊屋敷、か。

 いやこれは違うじゃねえか!

 幽霊が出る屋敷、じゃなくて、幽霊になってる屋敷じゃねーか!

 なんか漫画で出てきたことあるぞ!

 

 いや、あれとは微妙に仕様が違うから全く別物と言っていいが。

 あれは隙間に折りたたまれてたし……こんなおぼろげじゃなかったし……。

 

 蜃気楼のように佇むその屋敷をしっかりと目視するのは難しい。

 もともと無い感覚を魔力で強引に強化してやっと見えている、といった感じだ。

 

 近づいて触れてみても……蜃気楼のように掴めない。

 手がすり抜けてしまう。

 

 触れない以上、入ることも出来ない。

 いや、押し込めば入れるけど、それは入ったうちに入るのか? という疑問も浮かぶ。

 

 ええー……なんだこれ……。

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)による魔力強化を受けながら幽霊屋敷に押し込んだ。

 何故かドアからではなく壁から体を押し付けて侵入した。

 

 侵入した兄が言うには、中はきれいに整頓された屋敷で、そして部屋の真ん中に死体があった、らしい。

 

 死体。

 死体の幽霊。

 

 もう何なんだよそれ……。

 幽霊でもなんでもねえじゃん……。

 



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R 麻雀牌

 麻雀。中国で生まれ、今なお広くプレイヤーの存在するボードゲームだ。

 その詳しいルールなどは置いておいて、基本的なルールはポーカーのように引いた牌から絵を合わせることだ。

 その組み合わせがややこしいほど得点が高くなる。

 

 今回はその麻雀牌が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 邪神の霧、瘴気の中に投下されたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が見たのは山脈の周囲の生物と比べても明らかにかけ離れた、異形の怪物だった。

 肉肉しいのからメカメカしいのまで、多種多様である。

 

 肉肉しいやつだと、丸い体から状況に合わせて体の一部を変形させて武器や盾にするカースドテンタウィールとか。

 メカメカしいやつだと、常に体をチックタックとせわしなく音を立てていて、それに引き寄せられた他の怪物は、その体に触れると同時に()()()に感染。

 病気のように全身が機械化して動けなくなったところをバリバリと食うチクタクローカスツとか。

 

 背中からむき出しになっている骨からチェーンガンのように血液をぶっ放して敵対者を蜂の巣にしているブラガントリケラとか。

 酸性の液体をジェット噴射して、周囲の生き物をボロボロにしながら飛行するアシドミス・マンタとか。

 

 瘴気で変質した生き物は見てきたつもりだったがこれはなんというか……ろくでもないというか。

 ほとんど元の生き物の原型をとどめていない。

 カプセルかぶってるとかかわいいもんだったわ。

 

 それに植物も似たりよったりである。

 おかげで地形がわかりづらいったらありやしない。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が視覚に余り頼らない、というか様々な感覚を複合的に使う生き物だったおかげでギリギリ地形情報が集まっているが。

 

 まあ細かいのは兄に任せておいて。

 ガチャを回そう。

 

 R・麻雀牌

 

 出現したのは……いや、久々にカプセルの中に入っていた。

 入っていたのは、「東北」と書かれた麻雀牌だ。

 裏は青色で、あと上面にネジ穴が空いている。

 

 ……。

 麻雀牌が一個だけ!?

 しかも東北ってなに!?

 そのネジ穴、強引に根付用のネジをねじ込んでたのを外した、みたいにプラクズが付いてるんですけど?!

 

 手に持った感じというか、触った感じというかは麻雀牌のそれなのだが。

 普通に狂っているのでこれがなんなのか全然わからん。

 パチンとテーブルに叩きつけてみたりするがなにか反応があるわけではない。

 

 えっ、困る……。

 対処に困る……。

 全然推測も出来ないんだが……。

 

 

 

 

 後日。兄がこの東北牌を麻雀の牌に混ぜやがった。

 混ぜると同時に同化して区別がつかなくなるわ、やっていると謎の役が出るようになるわ(三色きりたんぽってなんだよ)、しかもその異常現象にだれも気が付かなくなるわで回収が遅れた。

 

 あと、回収したは良いんだけど。

 牌が手元に二つある。

 

 「東北」牌と「秋田」牌だ。

 混ぜられたせいで増えたっぽい。

 

 秋田!?

 なんでそういうふうに増えるの!?

 意味わかんなすぎるでしょ!?

 

 



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R 馬車

 馬車。馬に引かせる車両の一つである。

 人や物を運ぶのに適した形状のもので、車輪を使用して馬が軽快に運べるようになっている。

 人に長く寄り添ってきた馬を動力にする車両であるため、その発展には様々な技術が使われて改良されてきた。

 WEB小説では散々あてこすられてきた要素ではある。

 

 今回はその馬車が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 霧星の北部を覆う邪神の霧、瘴気はあまりにも範囲が広く、そして深い。

 霧の形をしたダンジョンであると言っても良い。

 まともな方位は機能せず、なんなら空間が重なり合って同じ座標のはずなのに違う場所に出る、なども普通に起こる。

 何枚も適当にシールを重ね張りして、そのシール一つ一つが一つの空間、地形になっているような感じだ。

 

 より下部にあるシールほど瘴気が濃く、視界を阻む仕様である。

 それにどう移動すれば違うシールに移動できるのかも微妙に分かりづらい。

 5通りぐらい違う方法で移動できたりする。

 

 これは入るのが危険なわけだ。

 引き返しても瘴気に侵されて化物化してしまう。

 かといって進めば進むほどどんどん迷ってしまう非常に危険な構造になっている。

 

 機神にかかればそんな危険地帯でもマッピング出来る、出来るが……。

 どこに進めば良いのかさっぱりわからないため、結局無策で数に任せて調べ回ることしか出来ていない。

 

 補給とか休息とかで戻る必要がないサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)にしか出来ない仕事すぎる……。

 こんな手段、軍やら冒険者やらにやらせたらブーイングどころでは済まない。

 

 作業が全然進まないと面倒になってくるな……。

 兄も飽きてあやとりしてるし。

 逆になんであやとりしてるんだこいつ。

 

 はー、まあいいか。

 ガチャ回そ。

 

 R・馬車

 

 出現したのは、馬車だった。

 まるでお貴族様が乗っていそうな豪奢な作りのもので、扉には紋章も記されている。

 また屋根の先端部分にはランタンも吊るされていておしゃれだ。

 

 まあ、大きさが巨人サイズなんだけど……。

 ドアが高さ3メートルぐらいある。

 ほとんど家だ。

 

 そして、それを引くために馬をつなぐパーツは二つしか無い。

 つまり……これは一頭の馬で動かす馬車なのだ。

 想定されている馬もだいぶでかい。

 同じく高さが3メートルぐらいありそうである。

 全長にすると7メートルぐらいか?

 そんなサイズ、馬だけでほとんど戦車みたいなもんだ。

 

 ……ふむ。

 シンプルに巨人サイズは……まあ……。

 景品としては普通だな!

 

 ……。

 だいぶ毒されてる気がする……。

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)4体を馬代わりに押させて馬車を走らせていた。

 走らせていたのはいいが、一定速度を超えると目の前の空間にワープゲートを開いてかなり先にジャンプする事がわかったのだ。

 

 一度のジャンプで10キロメートルぐらい、だろうか。

 跳躍先になにかあろうとも強引に割り込んで破壊して直進する。

 でかいだけに頑丈で、突っ込もうがほとんど傷もつかない。

 

 ……。

 やっぱ戦車じゃんこれ!

 なんで貴族が乗ってそうな豪華絢爛な作りなんだよ!



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R 桜吹雪

 桜。日本の代表的な季節の花で、春に満開になるピンク色の花弁が美しい植物だ。

 接ぎ木によって繁殖されているため、非常に病気に弱く枝が折れるなどのきっかけがあるとすぐに傷んでしまう。

 また花がすぐ散ってしまうため風が吹くとその花弁が宙を舞うさまはとても美しい。

 

 今回はその……桜……? が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 もくもくと瘴気を吐き出す洞穴を複数発見した。

 それはいくつか見つかっており、そのどれもが……ただそれだけで地獄のような濃度の瘴気を吐き出しているのだ。

 いや、洞穴っていうか地面に空いた穴っていうべきものも結構あるが。

 

 もう、瘴気が濃すぎて視界が機能していない。

 赤外線センサーなんかも併用しているが、それすらも通さないためもう視界に頼って移動するのは無理なのではという結論に至りつつある。

 

 幸い、空間を少し曲げて周囲の重力を図るとかいう、あまりにも超常すぎる方法で周囲の地形は把握できている。

 周囲に存在するものの質量を把握する機能であるため、よっぽどのことがない限りごまかされない非常に優秀な方法だ。

 超常的すぎるが。

 魔法で実現しているので私も使える。

 

 最もそれでも探知出来る範囲はそんなに広くないので、やはりその穴に踏み込む必要があるのだが……。

 瘴気が濃すぎてサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)でも全身に不調が出る。

 機械生命体なのに筋弛緩状態になったり、酩酊状態になったりするのだ。

 そういう生命の壁を曖昧にしてしまうのも霧の効果と言える。

 

 結構厄介だぞ……。

 これ以上濃い場所があるとサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)でも耐えられない。

 変質したサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は制御できるのか?

 

 わからない。

 そもそも単独でも洒落にならないぐらい強いサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を実験として変質させるのも危険である。

 

 うーん、厄介。

 とりあえずこの件は置いておいて、ガチャを回そう。

 

 R・桜吹雪

 

 出現したのは……出現したのは……。

 なにか、桜吹雪が舞っている空間、だった。

 

 いや、なにかこう、バレーボールくらいの大きさの空間の中に桜吹雪が舞っているのだ。

 膜のようなものはなく、本当にその空間に桜の花弁が飛んでいるだけ。

 その空間から出た花弁は溶けるように消え、またどこかから吹き込まれるように空間内に現れる。

 

 ……んんんん?

 これ、もしかして……。

 

 そう思って、その空間にずんむ、と手を突っ込む。

 若干粘っこい空気に触れている感じがして、()()()()()()()()()()()()()()

 

 私が手を振るとその軌跡に沿って桜吹雪が舞う。

 激しく振れば振るほど、派手に大きく。

 

 ……。

 これ発光エフェクトの同類じゃねえか!

 また変なエフェクト増やしやがって!

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が妖刀「鏡写し」に桜吹雪のエフェクトをくっつけていた。

 刀の軌跡に沿って舞う桜吹雪は美しく……ぶっちゃけ現実離れしすぎていてCG映画のようである。

 

 ただ、そこで終わればよかったのだが。

 テンションの上がりすぎた兄は、そのまま体を深く沈めた居合のポーズを取り。

 「コォォォォ」と喉の奥からひねり出したような音を立て。

 

 ほとんど瞬間移動のような速度で、前に踏み込み、すれ違いざまに的代わりの木材を切断した。

 

 10メートルほどを一瞬で詰めすれ違いざまに一閃……居合斬りをしたのである。

 その区間には残滓として桜吹雪が舞っていて、見た目は良いのだが。

 

 兄がもともと立っていた場所には音速の壁を超えた瞬間に発生する輪っか状の雲が出来ている上。

 その無茶な挙動をしたせいで兄がダメージを受けていた。

 高レベル由来の訳解んない耐久力のおかげで、骨折のような負傷は無いみたいだが……。

 

 漫画の技だろうと再現できちゃう妖刀でしたらそりゃそうなるだろ!

 レベルが上ってなかったら死んでたぞ兄ィ!



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R 食品サンプル

 食品サンプル。読んで字のごとく、食品のサンプルである。

 主に飲食店などの店頭に、提供可能な料理のサンプルとして配置されている。

 この食品サンプル、ロウのような素材から手作業で作られているため非常に手間がかかっているのだ。

 また食品の質感を再現するために様々な職人技が使われている。

 

 今回はその食品サンプルが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 あんまり瘴気が濃すぎてどうしようもないので、兄は機神の機能を使って対瘴気装備を作成していた。

 装備効果を優先して装備していたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に初めての耐性付きの装備が支給されることとなる。

 

 で、最初に出てきたのは……宇宙服のようなものだった。

 まあ気密を重視して用意した服となるとそうなるのは必然と言えるが、これでは戦闘行動はほとんど不可能である。

 

 というのも、それを使って高濃度地帯に突入することでデータを集める予定のようなのだ。

 服が少しでもダメージを受けたら強制送還する形で。

 

 機神という存在にとって情報は多ければ多いほどいい。

 人類を遥かに超越した頭脳は適切な情報さえあれば十分な対策を打ち出せる。

 人類のようにイデオロギーや思い込み、誤情報に囚われることがない。

 

 でもまぁ……邪神の心臓を調べてもわからないところが多かったのも事実。

 この装備での調査で本当に情報が集まればいいが。

 

 さて、私はガチャでも回すか。

 

 R・食品サンプル

 

 出現したのは食品サンプルだった。

 それもナポリタンスパゲッティにラーメン、寿司といった様々な食品サンプルがまとめて出現している。

 また、どれもこれもクオリティが高く……本物の食品のようだ。

 触ってみれば違うとわかるが。

 

 こういう、飾って使うものが出てくると困る。

 いや、どの景品も困りはするのだが、使い方がわかっていれば少しぐらいどう使えば試せるかがわかるので多少楽というか。

 

 置物はもう、置いておくぐらいしか使い道がわからない。

 ましてこれは食品サンプルだ。

 一般のご家庭で何に使うんだよ。

 ままごとか?

 

 わ、わかんねえ……。

 ついてる箸は固定されているし、ラーメンのスープも完全に固まっている。

 どこかが可動してなにかが出てくるとかそういうわけでもなさそうだ。

 継ぎ目もないしな。

 

 全然わからん……。

 

 

 

 

 

 後日。兄が食品サンプルを貪り食っていた。

 

 は?

 いや、は?

 

 なに食品サンプル食ってんの!? と声をかけた瞬間、食品サンプルは兄の歯を通さなくなる。

 は?

 

 食品サンプルは兄の食べ残しの形に変化している。

 半端に食い込んだ箸はてこでも動かないと言った具合だ。

 

 え、もしかして。

 食品サンプルと認識していない間は、食べ物として食べられる……?

 いやいや、そんな。

 

 食品サンプルだろ!

 なんで食える様になってんだ!

 意味わかんねえだろ!

 

 なお食った兄は特に不調はなかった。

 お尻から固形物が出てくることもなかった。

 

 食べた分は食べ物扱いなのね……。



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R ジャック・オ・ランタン

 ジャック・オ・ランタン。黄色いカボチャを飾り切りすることで髑髏に見立てた季節の飾り物だ。

 主にハロウィンに飾られる。

 もともとはアイルランドやスコットランドあたりの伝承で鬼火のような存在だったが移民などで利用される作物が変化した結果かぼちゃに落ち着いた。

 

 今回はそのジャック・オ・ランタンが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 瘴気に対して耐性を持つ服を使い潰した結果、よく瘴気に浸したヒヒイロカネを防護剤に使うと瘴気を遮断出来る事が判明した。

 本当になんでもありだなあの金属。

 

 作成する工程で濃厚な瘴気を加圧して液体化させ、それをヒヒイロカネと合金……合金? することでどす黒い紫色をした金属が出来上がる。

 この金属は瘴気に対して異常なほど耐性を持っていて、なんと雑に作ったヘルメットをかぶせた生き物を瘴気に突入させても変質しないほどなのだ。

 ……どういう原理で防護してんのそれ?

 

 詳細は不明だが金属自体が瘴気を吸っているようであり、巨大な金属塊を用意して瘴気を吸わせる実験も行っている。

 瘴気をよく吸った金属とヒヒイロカネを合金するとまた質量が2倍に増える……といういつものアレ。

 本当にわけがわからない金属である。

 

 で、調査部隊はこの瘴気ヒヒイロカネで全身を覆って進むわけだが……。

 どす黒い紫色で全身を覆われると、悪魔というか。

 威圧感がすごい。

 

 いや、金属光沢からしておどろおどろしい代物を全身隅々まで、液体でも頭からかぶったかのように身に着けているものだから。

 地獄から来たと言われても納得してしまうぐらい邪悪な見た目になっているのだ。

 デザイン自体はまともなんだがな……。

 

 まあサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の武装姿とかどこかに見せるわけではないから見た目に拘る必要はないか。

 ガチャ回そ。

 

 R・ジャック・オ・ランタン

 

 出現したのはかぼちゃだった。

 一抱えもある大きなかぼちゃで、顔が飾り切りされている。

 いわゆるジャック・オ・ランタンというやつだ。

 ハロウィンなんかに並べられがちなアレ。

 

 で……なんか中に青白い火が灯っている。

 中に電飾のようなものが無いのは頭の部分が開くようになっていて開けられるから確認済み。

 つまり、顔から見たときだけ中に青白い火が見えるのだ。

 

 ふうむ……。

 なんなんだろうなこれ……。

 そう思っていると。

 

「ガハハハ! なにか悩みはないか! 俺様が聞いてやる!」

 

 と若干チープなスピーカーから出たような声がジャック・オ・ランタンから鳴り響いた。

 うん!?

 

「ガハハハ! なにか悩みはないか! 俺様が聞いてやる!」

 

 あっ、ループした。

 なるほど、NPCみたいな……。

 それでかぼちゃ頭に相談するのか。

 なんというか……微妙なやつだ。

 誰かに見られたら笑われるやつすぎる。

 

 まあ、試さないわけには行かないので、とりあえず明日の天気でも聞いてみるか。

 

「明日は……晴れ! ラッキーアイテムはドラだ! ガハハハ!」

 

 占いロボットかな?

 しかもラッキーアイテムがドラって。

 持ち歩けるものじゃない。

 

 半端に役に立たない物って……困るよね!

 なお、翌日の天気は曇っていた。

 

 

 

 

 

 後日。兄がまさかの使い方を見つけ出した。

 このジャック・オ・ランタン、基本的に相談に対して占いで答えるのだが、前述の通り精度が甘い。

 だが、逆に占いを行ってその解釈を行わせると途端に精度が跳ね上がるのだ。

 

 つまり。

 こいつの前で悩み事を確定させ、自分の手で占いを行い。

 その解釈を聞くことで、擬似的な未来予知が可能なのだ。

 

 兄はこれを使って……また宝くじを当てにかかった。

 10面ダイスを使って、どの番号が正解かをサイコロを振り続けることによって探り出したのだ。

 こと、解釈にかかっては超精度のジャック・オ・ランタン。

 未来の宝くじの桁とサイコロの出目が一致した時点で、一致したと回答する。

 

 あ、ああ……うん。

 それでやることが宝くじなのね、兄ぃ……。

 今更金とか必要な人じゃないでしょ、兄ィ……。



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SR SFバイク

 バイク。二輪で走行する一人乗りの乗り物である。

 そのコンパクトにまとまった機械であるため、様々な装飾として機能を載せることが可能で、より大きいエンジンを積んで速度を重視することや逆に小さくすることで車に積めるほど小さくすることも出来る。

 また一人乗りであるために様々な創作でクールなキャラクターの乗り物として表現されることもある。

 

 今回はそのバイクが出てきた話だ。

 どう見てもSFの。

 

 

 

 

 

 

 装備も整ったので、瘴気が極めて濃い洞窟にへとサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を投入した。

 相変わらず霧が濃すぎるため、視界は確保出来ないが例によってサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)には問題ない。

 そのせいで視界とか確保しない前提でヘルメット作ってしまっていて、かなりいかつい見た目になってしまっているが。

 

 そこまでして潜った洞窟は深いだけでほとんど一本道だった。

 地下から生える煙突のように煙だけを吐き続けるために作られたかのような。

 実際、なにかダンジョンのようなものがあったような痕跡があるが、それが上から下までぶち抜かれているのだ。

 残骸が残っているおかげで楽に下れるが。

 

 そうして下っていった先にいたのは……まあ邪神だった。

 気が付かず前衛だったサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)がうっかり踏んでしまい、下半身を邪神に飲み込まれる事故が発生したが上半身をパージし対処。

 それで反撃として攻撃されるかと思ったのだが……。

 

 なーんかこの邪神動きが鈍い。

 まるで考えに没頭しているかのような。

 兄は邪神本体とのリンクが強すぎてぼーっとしている感じ、とか言っている。

 

 まあ何にせよチャンスだったので囲んで袋叩きにした。

 さあ、これを後何回やればいいのかな!

 

 先の予定は置いといて。

 私はガチャを回そう。

 

 SR・SFバイク

 

 出現したのは大型のバイクだった。

 見るからに馬力のでかそうなバイクで……そして、流線型のボディが美しい。

 

 そう、SFに出てきそうなバイクが出現したのだ。

 未来的なデザインで、なんか至るところに光のラインが走っている。

 タイヤなんか真ん中のスポークが完全に抜けていて、輪っかをタイヤのように回す構造だ。

 

 ほう……ほう。

 紫に塗装されているのは著作権避けかな? と言いたくなるほど、何かのSFに出ていたような気がするクールなデザインなのだ。

 それになにか……武装と思しきものがたくさんついている。

 バイクの顔となるフロントカウル部分には何かを仕込んでいるかのように分割線が入っているし……。

 

 あとハンドルの間にタッチパネルが搭載されている。

 スピードメーターと思しき表示が行われているが、その下にミサイルやらワイヤーやらレールガンやら書かれているのだ。

 うーん、やはり武装が内蔵されているのか……。

 

 とりあえず走らせてみる。

 バイク初心者……というか、テラスで乗ったことしか無い私でもびっくりするほどスムーズに乗れる。

 エンジンの立ち上がりがスムーズで、滑らかに加速する感覚が気持ちいい。

 

 なんでガチャの景品は操作性が良いのと悪いので両極端なんだ。

 物がいいと余計気になってしまう……。

 

 

 

 

 

 後日。兄がバイクをロボットに変形させていた。

 背中に当たる部分に座席が来て、頭部の後ろにハンドルが来ている。

 パーツを各部に再配置して縦に細長いロボットだ。

 

 まあそれはいいのだが……、変形のボタンがあったのは私も気がついていた。

 なんで装甲のように変形したサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)がくっついているのかな?

 

 なに?

 ハードポイントがあったからサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を接続した?

 そうしてから変形させたらこうなった?

 

 全然何言ってんのかわかんねえ……。

 そうはならんやろ……そうは……。



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R 大学ノート

 大学ノート。パステルカラーの表紙と糊付けされた背表紙をもつ罫線の引かれたB5サイズのノートである。

 またその名称の由来は、初期に作られたものが非常に高品質な素材を利用していてとても庶民に手が出せる値段でなかったため、東大生ほど勉強ができなければ使えない、と言われたところから来ている。

 

 今回はその大学ノートが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 あれからいくつか噴出地点を潰して回っているが、邪神に関する情報は余り集まらない。

 まあ当然といえば当然である。

 何かを作ったり、何かを記録したりする生き物……生き物? ではない。

 対訳となるなにかを見つけるのも、実質砂漠の中から小さな砂金を見つけ出すようなものだ。

 

 だがそこは機神。

 邪神を解体して得られる素材や、邪神の本体との接続に使っているなにかを読み取ることで少しずつ情報を集めている。

 本当に微々たるものだが……。

 

 その過程で、しれっと瘴気の持つ生物改造の能力を獲得していた。

 機神が合成したガスを浴びせかけると、生き物が変質して違う生き物にへと変貌するのである。

 その生き物は機神の眷属となり……サメ機械化される。

 

 ああー……。

 やはりそこでもサメと機械。

 存在の根底にサメが存在している。

 まるで呪いのようだ。

 

 もっとマシな生き物になったり……しないか。

 なるなら最初からサメもどきなんて出てこないしな……。

 

 はー……。

 ガチャ回そ。

 

 R・大学ノート

 

 出現したのは大学ノートだった。

 ピンク色をした表紙のもので、中には罫線が引かれている。

 作りそのものは普通のものだ。

 当然表紙裏に説明書きなんかがあったりもしない。

 

 そう、どう見ても普通なのだ。

 表紙になにかタイトルのようなものがついていたりしない。

 中になにやら魔法陣やら怪しい呪文が書かれていたりしない。

 

 普通の大学ノートだ。

 ということは……書くことで何かが起こる、ということのハズだ。

 流石にページを紙飛行機にして飛ばしたらなにか変な効果が出るとかそういうものではないだろう。

 

 そう思って部屋からシャーペンを取ってくる。

 そして、1ページ目にサラサラサラ……と、五十音を書いてみた。

 書いている間は反応がなく、絵を描かないといけないかな? と思っていると。

 

 突如、文字が浮かび上がり、動き始めた。

 ノートから脱走してうごめくように走り出す。

 うぞぞぞぞ、と背筋に虫酸が走る。

 

 シャーペンの文字が蠢いているのだ。

 はっきり言って気持ち悪い。

 大量のアリが突然ノートの上に発生したような感じだ。

 

 しかも書かれた文字の形によってその動きは異なるのだ。

 這いずるもの、器用に突き出た文字を足のように使うもの、全身をバネのように使うもの、分かれたパーツを投げて引っ張る動きをするもの……。

 

 ばらばらの動きをするものだから余計に。

 気持ち悪いんじゃあ!

 

 

 

 

 後日。兄が逃げ出した文字をケースに入れて飼育してみていた。

 抜け出した文字は暗いところを好むらしく、テラスの隙間から下に落ちていったのだが、兄はそれを観察したいと虫を飼育するケースに文字を流し込んだのだ。

 

 ただ雑に流し込んだだけなので黒い水が動いているように見える。

 しかも……共食いをしだした。

 

 同族の文字をバリバリと……いやどこに口があるの? と言いたくなる動きで捕食しているのだ。

 食われた側はその体……というか文字が欠けていき、最後には動かなくなる。

 

 あ、こいつら死ぬんだ……と思っていると。

 ものの30分程度で、全部の文字が動かなくなった。

 少しだけ厚みのある黒鉛の塊が重なって山になっている。

 

 き、気持ち悪い……。

 切り抜いた文字みたいなのが大量に重なっているだけでもだいぶゾッとするのに。

 これがさっきまで動いていたと考えると、だいぶ気持ち悪い。

 

 ……え、ということはこれテラスの下に散らばってるの。

 イヤぁ……。



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R 踏切

 踏切。それは道路と線路を交差するために設けられた設備だ。

 線路が地上を走るように設置されている以上、それは境界として機能する。

 巨大で高速な乗り物がその上を走るため不用意に侵入するのは危険なのだ。

 それを安全に……乗り越えて通行するために用意されているのが踏切である。

 通行スケジュールに沿って電車が来ない間一時的に通行可能にするようになっているのだ。

 

 今回はその踏切が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 邪神の素材を利用して、邪神の本体に情報攻撃を仕掛けるサーバーを機神が作成した。

 人間を一発で傀儡に出来る洗脳系の魔法と人間を一発で廃人に出来る精神攻撃系の魔法の組み合わせと、DoS攻撃(とりあえず一杯けしかける)を魔法で再現したものを機械実行できるようにしたものである。

 簡単に言えば……一秒間に10万回洗脳魔法を相手にかける機械だ。

 

 

 また邪神の本体に接続する都合上、危険である。

 そのため電源まで内蔵して完全にスタンドアロンで動作する構造だ。

 もし逆に攻撃されたら自壊するようになっている。

 それでもダメだったらサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が攻撃して破壊する。

 

 それを……10機。

 兄は完全に勢いで生産した。

 これだけあれば出力負けはしないだろうとかなんとか。

 

 結果はというと。

 10機起動からわずか1分で邪神の本体の反応がなくなった。

 反応を見るために生かしておいた噴出孔の邪神が突然、枯れたように死んだのだ。

 

 えっ……。

 えっ?!

 

 いやまさかそんな……。

 仮にも神の名を冠するものが……。

 

 まあいいや。

 ガチャ回そ。

 

 R・踏切

 

 出現したのは踏切だった。

 土台から切り取られたようにその場に乗せられるように出現したそれは、僅かな傾斜があるために地面ときっちり接している。

 それはすでに踏切が降ろされていて、警報灯も点灯していた。

 だが警報音だけは鳴っていない。

 

 そして……これの一番やばいところは。

 この踏切の向こう側に、「望郷」が広がっているところだ。

 

 夏の青空が広がり、傍らにはひまわりが咲く。

 舗装されていない土がむき出しの道路が地平線の先にまでずっと伸びている。

 

 もはや日本のどこにもないであろう()()()が線路の向こう側に広がっているのだ。

 その風景が私の心をかきむしる。

 

 私自身、その風景を見たことがないというのに、その光景を「懐かしい」と感じるのだ。

 そんな気持ちを覚えるほど、私は老けていない。

 

 私は精神防御の魔法を使う。

 まるで煙のように、懐かしいという気持ちが消えていく。

 

 くそ、これ無理やり懐かしいと思わせるのかよ!

 ふざけんな!

 

 

 

 

 

 後日。兄が勢いで踏切を乗り越えたところ、無から出現した電車に撥ねられた。

 本当に突然である。

 そんな兆候もなかったのに兄が踏切の中程についたあたりで突然電車が現れて兄を轢いたのだ。

 

 すでにレベルの上がっている兄は電車に撥ねられた程度ではダメージを受けないが、無理やり侵入しようとすると何度でも電車が出てくる。

 まるで向こう側に行けないように……というか、踏切が入ってきた人間を餌にするために轢き潰しているようである。

 

 なんなんだよこの踏切。

 バーもずっと降りっぱなしで開かないし、向こう側に行こうとすれば電車にはねられるし。

 

 ミミックか?

 ミミックの類なのか?

 人を食う妖怪なのか?

 

 あ、兄がサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を使って電車を押さえ込んだ。

 無理やり向こう側に行って……青空を手で叩いた。

 

 え!?

 それ書き割りなの!?



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R ICチップ・C

 ICチップ。情報が書き込まれた小さなチップで、電気を流すとその入力にしたがって計算を行うものだ。

 内部は非常に細かい電気の通り道の集合体となっていて、この通り道が条件に沿ってオンオフが切り替わることによって計算を行っている。

 これらに必要な計算式を焼き、基盤に取り付けることで複雑な機械を制御することが出来るのだ。

 

 今回はそのICチップが出てきた話だ。

 

 

 

 

 邪神の本体があっさり死んだ。

 いや、死んだというか正確には精神が白紙になったというべきか。

 生き物はそれまでの経験や本能といったものから組み上げられたプログラムのようなものに従って生きている、と言える。

 かなりざっくばらんな表現だが。

 そのプログラムに当たるものと、あと経験とか本能とか記憶とかが根こそぎ消し飛んだ。

 

 それによって改造した洗脳魔法で好きな命令を書き込めるようになった……。

 いや、書き込めるようになったじゃないが。

 何ナチュラルに生命倫理を踏みにじろうとしてるんだ、兄は。

 

 というか抵抗がなくなった関係で邪神の本体がある場所を逆探知出来たのだが。

 これが非常に困る、というかなんというか。

 なんと説明して良いのか……。

 

 上位のレイヤー、次元に根を張っていた存在なのだ。

 霊的な次元での存在であり、まさに上位者と言うべき生物である。

 一番説明に困るのがその存在がある場所そのもの。

 なんて言えば良いのかわからない。

 

 宗教的な表現を使うなら天国のような世界だ。

 肉の体に囚われない場所……と言う意味合いでは概ねその表現が近い……ハズ。

 具体的にはさっぱりわからん。

 

 まあそういう霊的存在をうっかり洗脳してしまったので……。

 まじでこれどうしよう。

 なんかこう……間違いなくろくでもないことになるよね!?

 最大で次元上昇(アセンション)できそうな素材は困る!

 

 はー……。

 まあいいや。

 ガチャ回そ。

 

 R・ICチップ・C

 

 出現したのはICチップだった。

 指先に乗る程度の小さな……いや、ICチップ基準ではでかいのか? まあ小さくて黒いチップが出てきたのだ。

 そしてその表面には妙に凝った造形のフォントで「C」と書かれている。

 

 C?

 いや何を指している言葉なのかさっぱりわからねえ。

 普通チップの表面には型番や商品名が刻印されていて、壊れたときに交換が利くようになっているはずなのだが。

 

 それにICチップとなると、基盤に取り付けるものだが。

 あいにくと基盤なんてものを持っていない。

 

 なのでサメ妖精のシャチくんの額に貼ってみた。

 ピタッと張り付くがそれはシャチくんの肌がもちもちしているから張り付いているだけであり、とくになにか変わった効果が発生したわけではない。

 

 うーむ。

 機神に調べさせるか……。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。機神に解析させた。

 機神によって解析できるのは基本的に科学的な手法によるものだ。

 人類が細かくデータをつけるのとは比べ物にならないくらい精度の高い情報を解析によって作り上げることが出来るが、それはあくまで現実の範疇に縛られる。

 魔法やら新しい物も組み込まれているが、結局のところそれも科学的な手法に組み込める程度には論理的なものだ。

 

 普段景品を解析しないのは……まあ、解析しても何もわからないからである。

 完全に現実の理屈を超越している物ばかりが出てくるから本当にイヤになる。

 

 でまあ今回のチップはというと。

 なんらかしか変な効果があってもおかしくはない……が、機神で調べているのはそこではない。

 

 中身のデータだ。

 中身に刻まれているデータを見ればなにかわかるんじゃないかと思って調べたのだ。

 

 結果はというと。

 中に刻まれていた解読不能データと共に、何かの設計図が入っていた。

 その設計図で制作できる道具はこのICチップを4枚組み込むと特別な効果を発揮する……というものであり。

 

 これを4枚集めろってか!?

 どう考えてもガチャから出てこねえよ!

 コンプガチャよりひでえ!



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R 枚数の多いトランプ

 トランプ。前にも紹介したような気がするが、4つのスートと13までの番号が振られたカードの束だ。

 このスートと番号の組み合わせによって52枚、番外であるジョーカーを加えて53枚を一組とするトランプは、様々なゲームに利用できる。

 カードに割り振られた役割がシンプルでかつ偏りがないため様々なゲームを考案できるという点において優れたデザインであると言えよう。

 

 今回はそのトランプが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 結局邪神の残骸は機神が回収した。

 洗脳魔法で機神の近くまで誘導して、機神の霊的実体で掴み上げるというなんというか微妙な手段で固定している。

 まあ仕方ないと言えば仕方ないのだ。

 

 単純に、霊的次元でどうこうできる技術力がない。

 いや洗脳サーバーを通じて邪神を動かしてどうのこうの、は可能だがまだその邪神に何が出来るのかよく分かっていない。

 

 まあそれを調べるためにガッチリ掴める位置まで移動させたというのが今回した作業だ。

 機神なら多少干渉出来るが、霊的次元からすればひよこに足が生えた程度でしか無いだろう。

 まあこっちも精神攻撃系の魔法をいつでも好きなだけぶっ放せるので攻撃力だけはあるが。

 

 まあ、まともな物理法則が通用する世界ではない。

 物質世界における機械じかけの神である機神には……現時点では微妙に手を出しあぐねる領域である。

 

 つまり。

 邪神をいじくり回してまた進化する……。

 霊的次元に適合した新しい力を獲得するだろう、多分。

 

 本当にこいつ際限ねえな……。

 

 はあ。

 ガチャ回そ。

 

 R・枚数の多いトランプ

 

 出現したのはトランプだった。

 ただ、その箱が異常なほど分厚い。

 箱から見ても中にはいっているトランプの枚数は100枚以上。

 薄い紙を使ったトランプのようであるが、その枚数によって指で摘みそこねるほどの分厚さになっている。

 

 箱から出してみても……やっぱり多い。

 100枚じゃ利かないほどの枚数だ。

 200枚超えデッキ(バベル)かな?

 

 まあ、実際150枚前後ぐらいのようである。

 隣に同じような紙のトランプを用意してみたら3倍前後ぐらい。

 それにしたって無闇矢鱈に多いが。

 

 で、これはトランプを3セット混ぜたものなのかと思って私は1枚目をめくってみる。

 炎のような形をしたスートに、25とやたらでかい数字がついていた。

 

 うーん……。

 トランプじゃねーじゃんこれ。

 多分トランプと同じような構成なんだとは思うが、スートと数字がバグっているタイプの景品だろうか。

 いや、それで本当に終わるか?

 

 そう思ってカットしてみた。

 枚数が多いので非常に切りにくい。

 うまく混ざっているのか不安になる。

 

 うまく混ざったと思いたいぐらいにはカットした。

 なので、上から5枚めくってみる。

 

 火の5。

 ダイヤの5。

 水の5。

 丸の5。

 スペードの5。

 

 うわあ、メチャクチャなファイブカードが出来上がっちゃったぞ。

 いやスートも統一しろよ。

 

 というか……これじゃ遊べなくない?

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がトランプを使って爆発を起こしていた。

 何がどうしたらそうなるのか。

 

 トランプの起源はタロットカードだと言われていて、まあこれは占いはもちろん魔術なんかに使われることもある由緒正しいやつなわけで。

 どうもそういうヤツだったらしい。

 

 カードを山札からドロー!

 組み合わせて効果を発揮!

 相手に大ダメージ!

 

 といった具合で、トランプを投げつけて魔法のような現象を引き起こしていた。

 しかもものすごい勢いでトランプを消費しているはずなのだが、山札は一向に減る様子がない。

 

 うーん。

 やっぱトランプってそういうものじゃなくない!?

 トランプは武器じゃねえよ!



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R 潜水艇

 潜水艇。読んで字の如く、水に潜る船のことである。

 主に海中の遊覧や海底の調査などに使われ、人を不可知の領域へと運ぶ事ができる乗り物だ。

 ただ、海中という極めて特殊な環境に適応するため、どうしても搭乗者よりも耐水圧や空気の確保など、環境の維持にその構造のほとんどを持っていかれがちである。

 

 今回はその潜水艇が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 浮遊大陸の貸し出しの件だが、なんだか思ったよりも順調に進んでいる。

 あんまりにもあんまりな超技術を見せつけたものだから、国際社会は争うよりもより多くを獲得するためによりスムーズに交渉を進めようという方向に舵を切ったようだ。

 

 いちいち一つ一つで粘るよりも、次から次へと出してくる超技術をいかに拾うかの方が重要だと考えられているのだ。

 そのためにはそれを有効に使えるだけの学術的な組織が必要となる。

 

 宇宙エレベーターから降りてきた超技術を読解し、それを人類に扱える形にする……。

 こういうと巫女みたいだな。

 その超技術降ろしてるの機神だからまんざら間違いでもないが。

 

 まあなんだって良い。

 景品から出てきたやべえ技術を一人で抱えているのが辛いから全部投げちまおうぜ! から始まっている交流である。

 なので面倒事は少なければ少ないほどよい。

 

 世界を良くしようとかあまり考えていないからこんな馬鹿げた手法も取れるわけで……。

 だがカモられるのだけは勘弁な!

 そういう事されると侵攻しないといけなくなるから!

 

 さて。

 ガチャを回そう。

 

 R・潜水艇

 

 それは出現と同時に、地面に沈んでいった。

 入り口のハッチだけが地面の床に浮かんでおり……あまりにも現実がバグった光景にたじろいでしまう。

 ハッチに白色の塗装が施されている分、余計にシュールにみえるというか……。

 

 出現した一瞬に見えたその全体像は潜水艇のものだった。

 一人乗りであろう、小さくて丸い機体で、全体を白色で塗られていた、ように見えた。

 

 どうのこうの考えていても仕方ない。

 どうせこいつは乗り込めばわかるタイプだ。

 そう思い、思い切ってハッチを開ける。

 

 開けると同時、こもった空気の匂いがあふれ出す。

 淀んだ独特のあの空気感だ。

 わずかに帯びた熱が、中の気温を伺わせる。

 

 中を覗き込むと、狭いスペースに強引に配置したように見える座席と操縦桿が所狭しと並んでいた。

 様々な計器が正面の窓……ではなくモニターの周囲に取り付けられその情報を表示している。

 

 狭い。

 とにかく狭い。

 兄では体を入れることすら出来ないと思えるほどに狭い。

 

 本当にいろいろなものがギッチギチに詰まっているのだ。

 本当に人を乗せる気があるのかと思わなくもない。

 

 私はなんとか体を滑り込ませるようにして座席につく。

 さーてテスト……。

 

 ……。

 これ、どうやって動かすんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 後日。サメ妖精のシャチくんにテストとして操縦してもらった。

 触っただけで操縦方法がわかる、というかだいたい似たような乗り物は操作系が一緒だ。

 シャチくんは確認こそしていないがあらゆる乗り物を操縦できる。

 そのため、この潜水艇も完璧とは言えないが操縦できるというわけだ。

 

 その結果はというと。

 ズブズブと厚さのない壁やらに沈み込んだり、地面をすり抜けて下の階に落ちたり。

 なんというか、床面を面と捉えて、それに対して潜航しているようである。

 

 二次元平面に対する潜航とはなんぞやという感じだが、まあ紙の表が床面だとすると紙の裏に入り込む感じだろうか。

 表側である床面からは決して見ることは出来ない。

 

 まあそんな……無駄にすごい感じのことをやっているが。

 これでやれることって何……。

 



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R 義手

 義手。その名の通り、腕の代わりである。

 何らかの事故で腕を失う怪我をしたものが、その不便を解消するために利用する道具だ。

 創作においては何かと変なギミックが搭載されがちである。

 例えば銃とか。

 変形して増えるとか。

 また思考にそって自由に動く代物もよく登場する。

 

 今回はその義手が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 一部の企業が魔法を利用した製品の開発を始めたらしい。

 らしいというのは、この手の事業に関わる殆どの企業は提供した超技術を解読してそれを自社の技術にしようというところばかりであり、魔法に触れているところが少ないからだ。

 

 金属加工など、たしかに未来扱えれば美味しい技術ではあるが、まだその詳細な知識が扱えていない以上、今手を出すのは得策でないのだ。

 将来的に投資していこう、みたいな方針が普通である。

 今無理に獲得しようとしても派手に全世界に開示とか起こりかねないしな。

 

 で、その一部の企業とやらがどこでその魔法技術を手に入れたかと言うと。

 

 あの! VR! ゲーム! だよ!

 また在野の天才か!

 

 (いろいろな)ゲーム補正で使える魔法を、現実で再現したヤツがいたのだ。

 しかもそれを製品開発に転用するあたり、相当な切れ者のようである。

 何が出てくるかはさっぱりわからんが。

 

 機神が魔法技術による製品を出してくるよりも健全か。

 技術ってのはやっぱり研鑽して積み重ねていくもので神みたいな存在から与えられるものじゃないしな。

 

 はー。

 ガチャしよ。

 

 R・義手

 

 出現したのは義手だった。

 剥き出しの金属フレームが銀色にひかり、フレームに直に印刷された基盤も隙間から覗ける。

 軽量化の名目でだろうか、スカスカで肉抜き穴がかなりの数空いていた。

 

 二の腕の中ほどまでの義手で、肘の作りも球関節のそれというよりは、複数の金属フレームが滑らかに繋がれている作りだ。

 軽く曲げてみてもひどく自然に曲がる。

 はじめからそうであるかのように。

 

 まるで美術品だ。

 印刷された基盤はまるで装飾のように見える。

 金属フレームは徹底して磨き出しがされているようで異常なほど滑らかだ。

 そして関節部の違和感すら感じさせない自然な作り込み。

 

 なんのために作られたのかわからないほどクオリティが高い。

 飾っておくなら義手である必要はない。

 身につけるならもはや過剰だと言える。

 使い勝手は良さそうだが……。

 

 そこであることに気がついた。

 あ、これもしかして。

 未来の製品……?

 

 そう考えれば説明もつく。

 美術品のように見えるのは未来の洗練された技術で作られているからだ。

 ごく自然に曲がるのは利用者の事を考えて作られているから。

 

 ふうむ。

 純粋にすごいヤツだ……。

 

 

 

 

 

 後日。兄が義手の肘の部分からロケットのように発射するギミックを見つけた。

 それは前提条件が変わってくるだろうが!

 

 まるで金属でできたスライムのように変形し発射される拳。

 同様に変形して槍のようになる義手。

 

 もう何なんだよそれ!

 なんで兄もそんな使い方見つけてくるんだよ!

 



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R 長ネギ

 長ネギ。ヒガンバナ科に属する食用の植物であり野菜だ。

 主に薬味として食品に添えられるのが一般的である。

 高い栄養価から、焼いたネギを食べることによって風邪を治すなどの民間療法が存在している。

 殺菌作用を持つため効果的だといえよう。

 

 今回はその長ネギが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 なんか知らないうちに機神にBGMが付けられていた。

 どういう原理で鳴らしているのかわからないが、機神の内部に入ると突然BGMが聞こえだすのだ。

 しかも、エリアをまたぐごとにシームレスに曲が切り替わる仕様。

 

 完全にバカみたいな代物だ。

 兄はゲームのダンジョンみたいにしたくてこの機能を作ってみたのだろうが、実際にいるとメチャクチャ気が散る。

 なにより状況にBGMが全然あっていないのだ。

 

 そもそも流れているBGMはなんだ?

 有名RPGを機神にアレンジさせたみたいな代物がほとんどである。

 そして機神は兄の趣味を反映させて、無駄に荘厳な曲を仕立て上げているのだ。

 機神の内装は実用性重視で、そんな荘厳な曲が似合うような場所ではない。

 

 結果、内部にいると非常にやかましいのだ。

 音量は小さいのだが……。

 

 とりあえず司令室にいた兄に飛び蹴りを仕掛けてやめさせた。

 センスが! なさすぎる!

 

 さて。

 ガチャを回そう。

 

 R・長ネギ

 

 出現したのは長ネギだった。

 青々とした先っぽと、はっきりとした白色のとても良さげな長ネギである。

 根もついているが泥はついていない。

 

 しかし……ネギか。

 食品が出た以上、食べることで効果を発揮しそうだが、ネギ。

 どう調理しても食品だけを際立たせるには焼くぐらいしか調理方法が思いつかない。

 焼いて良いものか?

 

 まだよく分かっていないのに火にかけるのはどうにも。

 これで食べるとやばいものとか普通にありえる。

 ものすごい勢いで髪の毛が生えたりとか。

 

 そう思って軽く手に握ってみる。

 不思議と吸い付いてくる握り心地。

 そしてネギなので軽い。

 

 思わず軽く振ってしまった。

 さっくりとテーブルを豆腐のごとく切断してみせる長ネギ。

 目をみはる私。

 

 いやいやいやいや。

 まさか長ネギがテーブルをぶった切るとか想像できるわけ無いじゃん。

 想像できたらただの狂人じゃん。

 

 そうはならんだろうが!!!

 

 

 

 

 

 後日。兄がネギから汁を絞って糸に塗りたくっていた。

 汁がついたものはネギであると扱われるようで……、振るった糸が容赦なく木材をぶった切るのを見せつけられている。

 

 いやいやいや。

 なんでネギが物体切断の力を持っているのか。

 未だに納得がいっていない。

 

 なんでだよ!

 兄もなんで適応して変な道具作ってるんだよ!

 ネギを内蔵した木剣ってなんだよ!

 加工ネギ槍ってなんだよ!

 

 あと切ったネギの根本からまた育てなおそうとしてやがる……!



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R 時計塔

 時計塔。時計を周囲から見やすいように高く作られた建造物のことである。

 公共施設など、街の中心機能になる施設に併設されることが多く、また古くは鐘の音で時間を知らせる役割もあった。

 現在は街の景観のためにモニュメントとして建てられることが多い。

 これは個人用の時計の普及によって、時計塔の知らせる時間を当てにする必要がなくなったためである。

 

 今回はその時計塔が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 植えたネギが剣山みたいになっていた。

 小さな根っこから競うように複数の頭が出たと思ったらそれが元のネギよりも大きなサイズに育ってしまったのだ。

 

 うーん、どうしてこうなったのか。

 しかもそのネギすべてに切断能力が宿っているらしく、不用意に近づくとあっさり足を持っていかれかねない。

 素材はただのネギだと言うのに。

 

 まあネギがなくても農場に足を踏み入れるのは危険なのだが。

 もう何が育てられているのか把握していない。

 外側から見るだけでもろくでもない植物が生えまくっていることだけはわかる。

 

 もういろんな金属鉱石が生っているトマトに似た植物とかもうね?

 前と比べるとだいぶ変わったな……という感じもある。

 あと植物庭園なんかにありがちな生け垣の迷宮を作っている蔦植物とか。

 一つの種から勝手にこうなっていることを除けばきれいなのだが。

 

 まあ、外に出さなければやかましく言う必要もない。

 適当に放置しておこう……。

 

 さてガチャ回そう。

 

 R・時計塔

 

 出現したのは建造物だった。

 それも見上げるほど巨大な塔である。

 その塔の上層部には時計が据え付けられており、現在の時刻を示していた。

 

 テラスの端……ではなく、それはテラスの外側に出現していたのだ。

 

 うおん、機神に新しいパーツが増えてしまった。

 幸いテラスの外側というか、城上部の空きスペースに強引にねじ込んだというか。

 テラスと同じ高さに扉が付けられているが、それは高さを揃えた結果のように見える。

 本来の入り口はテラスよりも下にあるのだろう。

 

 しかもまたこの時計塔がゴシック調で……機神のデザインに全く調和していない。

 機神はまあ無骨なデザインであり、白亜の城! とかとても言えるような代物ではない。

 良くて要塞とかそういうやつだ。

 質実剛健と言えば聞こえは良いが。

 

 それに装飾過多なゴシック調の時計塔が強引に生えているのは……。

 ぶっちゃけシュールというか、なんというか。

 不釣り合いではある。

 

 というか……。

 時計塔がゴシックホラーに出てきそうなデザインなんだよなぁ!

 豪華な分だけ怖い!

 ご丁寧に()()まで入っている。

 

 いやあこれ……幽霊が出てきたりしないよな……?

 

 

 

 

 

 後日。兄が内部の調査に出た。

 内部はホコリまみれであり、いかにもホラーの舞台になりそうな外見となっている。

 だが、特に何も起こることなく時計の裏まで上がれてしまった。

 

 そこで兄が見たのは、12個の穴だった。

 ちょうど瓶がハマる大きさの穴だ。

 だから好奇心が旺盛な兄は……そこにポーションの瓶をぶっ刺した。

 

 鐘の音とともに拡散されるポーションの効果。

 聞こえる範囲にいた生き物にポーションの効果が反映され、その傷を癒やし疲労を回復させる。

 たまたま傷を癒やすポーションだったから良かったものの、ダメージを与えるポーションだったりしたらどうなっていたことやら。

 

 というかポーションの効果を拡散させる時計塔ってなんだよ!

 何に使うために作ったんだそんなのもの!



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R ヒモ

 ヒモ。女に寄生して生活をするだめな男のことである。

 違う、縄よりも細い、細長いものを指す言葉だ。

 繊維を撚り合わせることで出来上がる糸を更に撚り合わせて作る物が一般的である。

 また繊維なら大体なんでも紐に出来るのでポリプロピレンやナイロン、紙、ゴムなど様々な材料を紐として利用できる様になっている。

 

 今回はそのヒモが出てきた話だ。

 

 

 

 

 そういや気がついたらあのVRゲームでイベントが始まっていた。

 本当に気が付かないうちにイベントが始まっていたのだ。

 いくつかのイベントがプリセットされているらしく、それが自動で実行されている。

 

 まあ大体はモンスターを倒すとイベントアイテムが手に入り、イベント限定の装備やら消耗品やらと交換できるというやつなのだが。

 ソーシャルゲームかな?

 まあMMOのイベントも似たようなもんらしいが。

 

 目玉となる交換品は季節に合わせたデザインの家である。

 交換すると鍵が渡され、それを空間に突き刺して回すと異空間への入り口が展開するという代物だ。

 一時的な拠点にしても恒常的な拠点にするにしても、どちらにしても手軽に家が手に入る機会であるため参加者も多いようだ。

 

 変に流行ってるような気がする……。

 私の友人もやっているとかなんとか言っていて、やらないかと誘われているのだ。

 困る。

 

 まあそんな話はおいておいて。

 ガチャを回そう。

 

 R・ヒモ

 

 出現したのは二つのフックが両端に付けられたヒモだった。

 ポリエチレンの梱包用のヒモだ。

 白色をしていて、ホームセンターなどに山積みで売っているようなやつである。

 それが50センチぐらいの長さで出てきた。

 

 フック……?

 不自然に短いことと合わせて、なにかに使うために加工した道具に見えるが、本当に何に使う道具だこれ。

 梁に引っ掛けて洗濯物を吊るす……とか?

 

 それにしたって中途半端な長さだ。

 50センチほどのヒモって何かを延長するために使うものだと思うのだが、フックが付いているせいで微妙に判別に困る。

 

 試しに振り回してみるが特に反応なし。

 むしろ金属製のフックが危ない程度だ。

 

 えー……なんだこれ。

 わからん。

 棒に巻きつけてみても反応なし。

 

 んー、わからない。

 普通のヒモとフックに見えるんだよなぁ。

 短いぐらいで。

 ヒモも大した太さでは無いから何かを引っ張るとかそういう用途でもないはず。

 

 わからん。

 ちょっと軒にでも引っ掛けておくか……。

 

 

 

 

 

 

 翌日。フックの先端になにやら茶封筒が引っかかっていた。

 封筒には女性によるものと思しき字で「パチンコ代」と書かれている。

 中身は……5000円札だった。

 

 ……。

 ヒモってそっちのヒモかよ!

 しかもどっから出てきたんだこの封筒!

 

 いや、もしかしてこれは。

 私がヒモ扱いされてる!?

 

 そんな気がしてきた。

 人の気持ちを愚弄することにかけては一流のあのガチャの景品だ。

 人のことを決めつけてひでえ扱いするのもありえる。

 

 それに……ログインボーナスと被ってんだよ!

 効果が!

 しかも1日あたりの金額こっちのほうがでけえじゃねえか!

 

 まああっちは定期的に変なイベント発生させて色々変なものくれるけどさ……。

 

 後日、ヒモの先に定期的に気持ち悪い手紙が引っかかるようになったので倉庫にしまった。

 やっぱろくでもない代物だ……。



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R 発光体

 発光体。太陽や炎など自ら光を放つものを指す言葉である。

 電球なども発光体だ。

 人は発光するものを使って夜の闇と戦ってきた。

 それはより多くの時間を得ることに繋がり、更にはそれは人の文明を大きく広げるに至る。

 明るいということは人にとって重要なことなのだ。

 

 今回はその発光体が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ニュースで反宇宙エレベーターデモの特集をやっていた。

 なんでも国会議事堂の前に集まってデモをやったそうで、微妙な人数集まっている映像が流れている。

 

 そのデモは政府に彼らとの国交を結ぶことを批判したり、宇宙エレベーターを攻撃して破壊しろという割と凶暴な発言やら、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を差別するような発言を繰り返している。

 侵略宇宙人だったらどうするんだとか荒唐無稽な発言まで取り上げられている。

 その行動に共通しているように見えるのは、恐怖だ。

 

 わからないから怖い。

 得体が知れないから怖い。

 ……人間じゃないから怖い。

 

 まあ、気持ちはわかる。

 完全に日常を引き裂く一筋の矢のようなものだ。

 人類を遥かに超える機神の頭脳から生み出されたもの、ダンジョンから生み出されたもの、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)たち、そして宇宙エレベーターそのもの。

 その全てが日常を塗り替えて作り変えてしまう存在だ。

 

 ぶっちゃけガチャから段階を踏んでなかったら私もあっち側だった気がする。

 デモに参加するとかはなくても、漠然とした不安として抱えて……抱えて……。

 

 漠然とした不安は今も抱えたままだな。

 だって私室の真ん中に未だにガチャ居座ってるし。

 機神への扉を言い訳に私の部屋は実質廊下と化しているし。

 

 うーん、やっぱろくでもないなあのガチャ!

 なんで私のところに出現したんだ。

 

 ……はー。

 もう異音立ててるし今日の分のガチャを回そう。

 

 R・発光体

 

 出現したのは……うお、まぶしっ!!

 なにか懐中電灯並に光っている小さななにかが出現した。

 その小さくて丸いものがものっすごい勢いで光っているため直視が出来ない。

 

 思わず布巾をかぶせる。

 大きさはビー玉ほどのようで、布巾の下から光を放って自身の存在を主張しているようだ。

 

 えっと……なんだこれ。

 またこの世のものではないものが出てきたぞ。

 現代技術で再現できなさそうな景品はやめてほしい。

 あとよくわからない代物も。

 判断に困るので。

 

 手で触った感じもビー玉みたいで、ついでにガラスのような素材でできているように感じる。

 また熱もない。

 すごくひんやりしている。

 

 ランプの先などにつけてシェードをつければおしゃれで便利なルームランプになりそうだが……。

 まあ作れたところで一点物とか、微妙な感じだ。

 それが私好みのデザインに仕上げられるかどうかにはかなり疑問である。

 

 というかこんなもの組み込んだ物、欲しいか?

 電源が切れないランプとか欠陥も良いところだ。

 

 それにしたって材料……材料かこれ?

 ピンポイントに役に立たなさそうな代物が出てくるとは。

 

 また倉庫の肥やしだよ!

 

 

 

 

 

 後日。兄が発光体を砕いてそれを材料に発光するガラスを作り出した。

 そのガラスは透明でありながらそれ自体が蛍光灯のように光を放っている。

 

 ええー!?

 即座に砕く判断をする兄はどうかしている。

 どんな用途がわからないものでもどうしてももったいないという気持ちが湧くはずだが。

 まして一点物。

 壊しても惜しくないはずが……。

 

 いや、惜しくはないか。

 失敗したら失敗したで、ゴミが増えるだけではある。

 

 でもガラスに混ぜれば新しい素材を作れるってなんで閃くのか。

 前例か。

 前例のせいか。

 前例があるからって何しても良いわけじゃないぞ。

 

 ヒヒイロカネもそんな使わないのに山のように量産しやがってよ!



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R 割り箸

 割り箸。最近はコンビニでもらう分ぐらいしか見かけることのなくなった使い捨ての箸のことである。

 使い捨てであるというところから批判を受けやすく、その結果飲食店などではプラスチックの箸を使うことが多くなっている。

 実際は間伐材を利用して作られているため割り箸の利用を減らしてもエコでもなんでも無いのは有名な話ではあるが。

 

 今回はその割り箸が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 世界樹内の整備が全然終わらない。

 単純に一辺が3万6000キロメートルもある本体内の土地に道路を引いたりするだけでも大変だと言うのに、それに加えて枝に広がる小世界も管理する必要がある。

 しかもなにかあるとすぐ状況が変わるため、ジャングルと化している区域が結構多い。

 

 生物相の作成やらを行うつもりだった兄も、あまりの見通しのたたなさにぶん投げるほどである。

 一応ダンジョンだから機神の制御下にあるはずなんだけどなぁ?

 

 そんなこんなな理由で現状駅舎が各地に点在しているだけ、という微妙さ。

 まあエルフたちが採集の足に使っているようなので無駄ではないのだが……。

 

 兄はなんというか、街をしっかりと仕上げている都合、全体も整えたいと思っているようだ。

 ま、その街も世界樹に侵食されたついでで中世風の城塞都市に化けてるんだけどな!

 

 まあ世界樹はそのうち落ち着くだろう。

 機神が制御しているからどうにでもなる。

 今は変動の最中なだけだ、きっと。

 私はガチャを回しておこう。

 

 R・割り箸

 

 出現したのは透明なビニールに入った割り箸30個セットだった。

 一つ一つ紙袋に入れられた割り箸は、かなりしっかりした木材を材料にしているように見える。

 というかこれ普通に箸を作る種類の木材では?

 なんで割り箸を作ってんの?

 

 とりあえず出してみるか。

 割り箸の質に反して、梱包は百均でも見そうなぐらいチープである。

 粘着面を剥がして、中の割り箸を取り出し紙袋を外す。

 

 そして割り箸を割ろうとするが……。

 かってえ。

 なんだこれ。

 いやあと少し力を加えれば割れそうではあるが、明らかに材質のせいでめちゃくちゃ硬い。

 

 普通の箸をへし折るような力がかかっているのだ。

 これ力加減……というか指先の動きを間違えるとおかしな折れ方をする。

 

 まあ、なんとか折れたのだが。

 案の定中程でバキッと折れて、頭の部分が不格好になってしまった。

 

 ま、まあいいか……。

 実際これで何が出来るかだ。

 重要なのはそれだけ。

 

 だから色々はさみ倒してみたのだが。

 ずるんと、コップの中から水をつまんで引きずり出したのはちょっと。

 なんというか。

 

 きもちわるっ!

 そうはならんだろ!

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が割り箸を使って新技を作り上げていた。

 なにもない空間から()をつまんで投げつけるとかいう、あまりにも常識と乖離しすぎたなにかだ。

 

 つまみ上げた無は的にしている木材に、まるでレーザーで撃ち抜いたかのようなきれいな穴を空ける。

 現実に穴を空けて、そこに周囲の空気を詰め直しました! みたいに、みごとにくりぬかれているのだ。

 毛羽立ちなんかもない。

 

 いや今更ながら何をどうすればそうなるのか。

 え? 本当は無限を掴みたかった?

 うるせえ、漫画じゃねーんだよ!



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SR 3Dプリンター

 3Dプリンター。特殊な素材を様々な手段で硬化させることでプリンターのように立体物を()()出来る機械だ。

 立体物を薄い層に分解し、それを硬化した素材で重ねていくことで作成するため、機械の精度や素材の質が立体物のクオリティに影響を与えやすい。

 特に一度に重ねる層の厚さは素材の柔らかさや機械のアームの動作精度で簡単に狂ってしまうため、購入を検討する場合は利用者の感想をよく確認したほうが良い。

 

 今回はその3Dプリンターが出てきた話だ。

 

 

 

 

 そういえば今日はひっきりなしに自衛隊やら海上保安庁やらの船やヘリがやってきてきた。

 海の守りを丸投げしてサメ機巧天使(ひと)だけ貸しているという状態の彼らがこちらまで来るのは割と珍しい。

 近づかなくても周囲だけで対処出来るというのもあるが。

 

 なんでも……爆破テロ予告が日本の警察庁宛に届いたそうだ。

 いたずらじゃないかなぁ、という気もするが警戒しないわけにはいかない。

 というかなんで日本警察宛に?

 うちが公的な窓口を直接基部に設置している役所的な場所にしか持ってないからかな?

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)はそういうことされても死なないが、調査団と来ている人たちは別だ。

 半分ぐらいはTNT程度の爆発なら耐えられるレベルの魔法を覚えているが、それでも怪我人が出る可能性は高くなる。

 怪我人が出るとまー、国際問題ですかね。

 

 人員を増やして対応した結果、下手人はのこのこボートに乗って近づこうとしていたので簡単に捕まえられたが。

 船にたっぷり爆薬載せてなにするつもりだったんだか。

 

 警備体制を強化しないと行けないかなぁ。

 増やすのは簡単だけれども。

 問題が起こったときに逃げ込めるシェルターとか用意するべきなんだろうか?

 

 まあ兄がなにか考えるだろう。

 私は今日の分のガチャを回そう。

 

 SR・3Dプリンター

 

 出現したのは倉庫ほどの大きさがある巨大な機械だった。

 内側の上部には2本のアームが取り付けられており、その天井部はアームが自由に移動出来るようにレールが付けられている。

 下部には生産物を外に運び出すためだろうか、ベルトコンベアのようなものが取り付けられていて、それが外側まで伸びている。

 また出力部であるベルトコンベアの横には、端末と思しき水晶のような画面を持つ機械がくっついていた。

 

 うーんでかい。

 3Dプリンターって業務用でも大型ロッカーぐらいの大きさじゃなかったか。

 少なくとも部屋に収まらないサイズではないはずだ。

 

 そして材料を入れる部分もない。

 何らかのタンクだったり、液体を受け止めるバットのようなものだったりがあるはずなのだが、それがないのだ。

 まあ……どうせ無から生成するんだろう。

 

 しかし本当にでかいな。

 何を生産するつもりでこんな物を作ったのだろうか。

 そう思って操作盤に近づくと。

 

「ヴラド・カンパニー製多次元プリンター“アイザック”のご購入、ありがとうございます。本製品はゆりかごから戦車まで、ありとあらゆる物を生産が可能となっております。また、データにない物であっても別売りのデータパッケージを購入することで生産が可能になる場合もございます」

 

 と、流暢なアナウンスが流れ出した。

 というか説明の時点で3Dプリンターですら無い。

 

「まずはテストとなる製品を生産してみましょう!」

 

 アナウンスが告げると、操作盤の表示が切り替わり、そこには戦車が表示されていた。

 いらねえ。

 いきなり生産するものじゃねえ。

 だがチュートリアルであるからかキャンセル操作を受け付けず、従うしか無いという。

 

 アームが動き出し、その先端からレーザーのような光をベルトコンベアのなにもない部分に照射する。

 すると照射された部分にくず鉄のようなものが生成され、それが光によって延長されることによってそれはどんどん戦車の形にへとなっていく。

 しかもわずか数分でだ。

 

 チーン、という音とともにベルトコンベアが動き出し、戦車が筺体の中から吐き出された。

 はい。

 見事に戦車です。

 

 しかもハッチを覗き込んでみるとまるでSFのロボット物みたいなコックピットだ。

 一人乗りで操縦できるようになっているように見える。

 

 あーはいはい。

 もしかして未来技術だな?

 

 また軽率に未来から技術を先取りしてさぁ!

 機神の演算より進んだ技術を平気で出してくるのやめてほしいなぁ!

 

 

 

 

 

 後日。あまりにも邪魔だったので機神に取り込ませた。

 ぶっちゃけ生産という意味では機神の内蔵しているプラントのほうが性能はいいのだが、クソでかい筺体が内包している無限資源とあと未来技術目当てで兄は機神に飲み込ませたのだ。

 

 取り込んだ機神曰くだいたい2090年代の装置で、富裕層から企業向けの商品だそうだ。

 こんなものを個人所有する金持ちがいるのか……未来……。

 というか戦車を生産出来る時点でほんと何に使うつもりなんだ。

 めっちゃ物騒である。

 

 なお取り込んだ機神はというと。

 これまでダンジョンの資源として生産できなかった素材が生産できるようになり。

 未来の技術系統を獲得し。

 テラスから見える本体が2時間ぐらい機嫌良さそうに揺れていた。

 

 情動……あったんだ機神……。



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R ボードゲームNo.23

 ボードゲーム。紙でできたボードに様々なコマを配置したりして遊ぶ卓上遊戯の一つである。

 日本だと人の一生を戯画化してろくでもない人生を送らせるボードゲームが一強でそれ以外のボードゲームというとマイナーなものとなってしまう。

 一方欧米では大人向けの遊戯として様々な商品が存在する。

 土地の所有権を巡って経済戦争を繰り広げるものや、デッキを構築することそのものをルールに組み込んだものなど、様々な物が存在するのだ。

 

 今回はそのボードゲームが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 兄が裏でコソコソとなにかをしていると思ったら、ペーパーカンパニーを複数作成するとかいう、これからやらかします! と言いたげなことをやっていた。

 それもアメリカと日本とドイツの三カ国でだ。

 

 何をするつもりなのかと思っていたのだが、兄はVRヘッドセットを生産して売ることを諦めていなかったのだ。

 なので現在の人間にわかるように情報を限界まで分解した設計図をその会社越しにわざと()()させた。

 

 この流出に焦ったのはゲームハードを作っている会社や、スマホのOSを作っているような会社だった。

 兄が投げた餌に食いついたとも言うが。

 

 あまりにも先進的で理論すら影も形もないようなものが木っ端の会社で研究されていたのだからそりゃ焦る。

 一応機神から提供された技術の中には混ざっていたが高度すぎて研究できなかったものが、だ。

 結果、どこの会社も慌ててそれの研究に取り掛かる事となる。

 

 機神で生産して売れないなら、誰かに売らせればいいみたいなノリでそんな事する普通!?

 でもまあするから兄なんだよな……。

 

 まあ、直に供与して便宜図ったと思われるよりかはマシ……か。

 時々こういうことするから警戒する必要があるんだよなぁ。

 

 はー。

 まあいいか。

 ガチャ回そ。

 

 R・ボードゲームNo.23

 

 出現したのは箱だった。

 箱には「No.23」とだけ書かれており。プラスチックのパーツを積み上げていく様子がイラストで描かれている。

 ただ……その……すごくいびつです……。

 積み上げられた城のようなものは明らかに重力に逆らっている。

 

 ええー……?

 しかもこのボードゲーム、対戦ゲームのようだ。

 なになに……?

 

 城を作り上げてぶつけ合う……?

 遊び方がそのやたら不安定な見た目に反して乱雑!

 

 ううーん。

 兄とやってみるか……。

 

 

 

 

 後日。兄と時間を作ってあのボードゲームで遊んでみることにした。

 毎手番ごとに城のパーツを5つランダムに獲得し、そのうち3つを自分の城に増設するという、何をどうやってもメチャクチャな構造になるルールだ。

 これで5順行って自分の城を作り、相手の城を破壊する……というゲームなのだが。

 

 ぶつけるたびにガンガン外れ、そのたびに手番を繰り返して増設し……という、本当にどうやってくっつけているのか、どうやってぶつけるたびに動かしているのか、と言いたくなる凄まじいゲームだ。

 だって引いてパーツを選ぶ以外に城に手を触れていないのだから。

 

 パーツごとに異なる武器がついているのもメチャクチャさを引き立てる。

 なぜか槍やら剣やら近接武装ばかりで、ろくな遠距離武器がないのも気になる。

 

 というかこれボードゲームか!?

 なんというか、そこはかとなく携帯ゲーム機のゲームみたいな匂いがしてるんだが!?

 

 城と城の殴り合いは激しくて見ごたえがあるとは思う。

 パーツの選択も戦略性がある、ように感じる。

 

 それだけに余計、こう……。

 狂ってるよねこれ。

 

 シンプルに様子がおかしいゲームだ。

 超技術って感じでもない。

 ってことは、これはガチャのオリジナルボードゲーム……?

 

 それが少なくともあと22個は存在するってこと!?

 これまでこれ以外一個も出てないのに?

 

 絶対出てこねえだろ……。

 ICチップのときより私はそう思ったのだった。



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R インスタント麺製造機

 インスタント麺。それは揚げるなどの長期保存に適した方法で調理し、手軽に食する事ができるように加工した麺のことだ。

 熱湯で煮るだけでラーメンが食べられるため現代の日本では広く普及しており、その種類も膨大である。

 また手軽に作れるということは要素を付け足すことも簡単ということで、様々な野菜や肉などを一緒に調理して栄養バランスを整えることも簡単だ。

 

 今回はそのインスタント麺を作る装置が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 都市計画は順調に進んでいる。

 ダンジョンパワーで街の建造物をゴリ押し生産できるんだからそりゃ当然というべきではあるが。

 当初の予定を5年単位で前倒しで進めている形になっている。

 

 だってまあ……大学の建築とか普通数年掛かりだからね。

 調査団の参加国だってそのつもりで計画を動かしているはずだ。

 建築できたところから、発言力の大きい国が先に入っていく……みたいな絵を描いていたはずだ。

 

 その大学が一瞬で出来上がってるんだからもうめちゃくちゃである。

 うちが入る、いやこっちが先だと変な揉め方をしはじめかねない。

 

 というか、すでに各国の大使館にあたる建物は置いてあるのだが。

 ちょっと研究設備に飢えすぎでは?

 いや、最新技術……というか宇宙エレベーターから与えられた技術をいちいち持ち帰って研究とかクソめんどくさいのか。

 そうじゃなきゃ客船に機材積んで船寄せたりしないな。

 研究者連中も可能な限り居座りたいとか考えてそう。

 

 うーん、まあいいか!

 研究が進むぶんには大歓迎だ。

 なんたって進まないことには機神の技術開示出来ねえからな!

 ガンガン研究してくれ!

 

 さて、私はガチャを回そう。

 

 R・インスタント麺製造機

 

 出現したのは台所程度の大きさの機械だった。

 化粧板などが施されていない金属の筺体は、工場の機械を思わせる。

 

 うーん機械。

 ここのところ機械が複数出ているような気がする。

 まあそれは別にどうでもいいっちゃどうでもいいのだが。

 

 で、なんだって?

 インスタント麺製造機?

 調理系の景品はだいたいろくでもないんだよなぁ。

 

 どれぐらいろくでもないって……ほら、手を触れてすらいないのにすでに勝手に動き出しているところとか。

 結構な音を立てながら動いているので触るのも危険な状態だと言える。

 

 なにか改造手術でもしてんの? それとも廃材の解体でもしてんのか? みたいな音を立て続けている機械は、突如チーン、という音とともに吐き出すように小さな袋を放出した。

 それは……コンビニなどでもよく見るインスタント麺の袋だった。

 

 うわあ、無から生産するタイプだこれ。

 しかも出力したのは……なに?

 「横浜一丁 チンゲン菜と空気味」?

 ふざけてんのか?

 

 なんだよその……パチモノみたいな名前は!

 ついでにチンゲン菜と空気味ってなんだよ!

 なんで混ぜた!

 

 わけわかんねえ……。

 

 

 

 

 

 後日。兄が色々投入したりした結果。

 まともな味が出力されることはない事が判明した。

 

 というのも、この機械。

 投入された物とランダムで選択された物との混合でインスタント麺を作り出すのだ。

 必然、わけのわからない組み合わせになる。

 

 味噌とコーラ味のインスタント麺とか。

 醤油とローストビーフ味のインスタント麺とか。

 かまぼこと粉砕豚骨味のインスタント麺とか。

 

 しかもこれらはまだ食えるものが混ぜられているだけマシである。

 ランダムで選択される味には、人間が食していいものではないものが平気で混ざるのだ。

 確率自体は低いが。

 

 で……兄は兄で、比較的マシそうな組み合わせのインスタント麺を試しに食って「まずい」と言っているし。

 そりゃまずいだろ!

 どう見てもまずい組み合わせしか出てないじゃん!



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R プール

 プール。水泳や水遊びなど、水を使ったレクリエーションのために用意された施設のことである。

 また扱うものが水であるため、その形はかなり自由が利き、波を起こすことで海を疑似体験するようなプールや、水流を作ることでゆっくりと流されるようなプールを作ることが可能だ。

 またナイトプールといって夜の時間帯に幻想的なライトアップを行うことで非日常的な演出を行っているものも存在する。

 

 今回はそのプールが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 私は時々、なぜあのガチャが私の部屋に出現したのかということについて考える。

 ……いや、あんまり考えないようにしている。

 それでも考えてしまう。

 

 宇宙エレベーターが出現したのはガチャから排出されたからだ。

 機神が誕生したのは、兄がダンジョンをこねくり回した結果だ。

 霧星が出現したのは……これもガチャの結果だ。

 

 物事には因果があって、ガチャの景品ですらその因果から外れることはない。

 ただそれがブラックボックスになっているだけで、その因果から外れたことを起こすものは存在しない。

 ありえない物を排出するガチャから出てきたものだから、当然常識ではありえないことを起こすだけ、だと言える。

 トートロジーだが。

 

 だが……あのガチャだけは違う。

 完全に、あの日。

 なんの因果もなく私に災害として襲いかかった。

 というか、部屋の真ん中に突然不審物が出現する因果が存在するなら教えてほしいくらいだ。

 

 本当になんで出現したのかマジでわかんねえんだよなぁ……。

 こわい。

 

 はー。

 こんな気分でガチャ回したくないけどもう異音立ててるので回す。

 

 R・プール

 

 出現したのはプールだった。

 コンクリート製で1.5メートルほどの台が出現しており、その中にプールが配置されている。

 また遊泳用のプールのようで、色とりどりのタイルで装飾されていて、更には様々な形のプールが配置されていた。

 

 ……うん?

 外から見たときはテラスを埋め尽くす程度の大きさだと思っていたのに、備え付けの階段を登って上がってみたらだいぶ広い。

 市民プールよりも広い。

 何なら郊外にありがちなでかいプールアイランド的な場所と同じぐらい広い。

 

 うわあ。

 また大きさが狂っているタイプの物が出ていたぞ。

 いやまあ、空間が拡張されているように見えるだけで、ねじれていたりとかしないから素直な方ではあるが。

 

 ……ちょっと見て回るか。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が休日を潰して()()()()()にでかけた。

 あのプール、見かけよりも広いというか……広すぎた。

 

 ざっと見て回っただけでも遊園地を遥かに凌ぐ広さがあったというのに、それで終わりではなく外側に更に広がっていたのだ。

 同じ空が見えていたからてっきり限りがあると思っていたが、そうではなかったのだ。

 

 どこまで行ってもどこまで行っても広がっているプール。

 あと時々売店。

 それに外側に行けば行くほど豪華……というかややこしい作りのプールが増えていく。

 

 兄は果てを見るために旅立った……数時間後に帰ってきた。

 テレポート噛ませながら高レベル由来の高速移動していたがキリがないから帰ってきたらしい。

 

 大阪東京間ぐらいの距離移動したとかマジ?

 広すぎるだろ……。

 



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R 柵

 柵。領域を区切り分けるために使われる隙間の空いた板状のもののことだ。

 構造上、柱となる素材とそれに渡す横向きの素材があれば手軽に作ることができる程度のものである。

 そのため、用途に合わせてその素材や構造などを変更する事が可能だ。

 まあ近年は金網状の物を柱に固定する柵が一番多く見かける柵だろう。

 

 今回はその柵が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 最近ゆっくり漫画を読む時間のなかった兄が漫画を読んでいた。

 いや、読む時間自体はあったのだが、その時間をすべてガチャとダンジョンに熱中していたため、追いかけていたシリーズを後追いしているのだ。

 

 のだが……恐ろしくページ送りが早い。

 1ページ1秒も読んでないように見える。

 目なんかグリングリン動いて気持ち悪い。

 

 なんかおかしいと思ったら高レベル由来の高速機動で漫画を読んでやがった。

 集中すると時間感覚が伸張されて1秒が1分ぐらいに感じることすらできるらしい。

 最もそこまで感覚加速するのは静かな場所でほとんど動かない状況ぐらいだそうだが。

 ……つまり、読書である。

 

 なーんか違わなくない……?

 ゲームで「すばやさ」とか「AGI」とか「反応速度」とか表現される数値ってそういうものではなくない?

 

 いやまあ、実際の人間にレベルを実装したらそうなるのか……?

 兄のあの分かってるからいいやぐらいの対応はそれはそれで怖いのだが。

 

 はー。

 まあいいか。

 問題が起こっても兄が結局どうにかすることだ。

 私はガチャを回す。

 

 R・柵

 

 出現したのは柵だった。

 腰ほどまである金属製の柵で、枠に溶接して作られている。

 また鉄板の支えがついていて、自由な位置に動かせるようになっている。

 バリケードなどに使われる、置いて使う代物だ。

 

 柵……。

 なんか不便そうな物が出てきた。

 どうせ置いておくだけで効果を発揮するものだし、それがろくでもないものだと非常に困るというかなんというか。

 

 とりあえず試してみるか……と柵に手を伸ばす。

 枠の上部を掴んで持ち上げて動かそうと伸ばしたのだ。

 だがその手は、なにか見えない壁に当たって伸ばしきれない。

 

 柵の上方向の延長線上になにか壁が生じている。

 不可視の障壁だ。

 

 えー……。

 その壁があるせいで枠の上部から指を回り込ませて柵を持ち上げることが出来ない。

 横から回り込ませようとしても柵の内側に同様に見えない壁があるせいで枠を掴むことすら出来ない。

 

 ……。

 なんだこれ。

 いや、柵としてはかなり優れたものなのだ。

 柵のある場所を何が何でも通らせない。

 

 だがこれ小さいんだよなぁ!

 同じものを複数個並べることで区切る道具なのだ。

 それが一個だけ出されても扱いに困る。

 

 これどうやって使わせるつもりだったんだろう。

 

 

 

 

 

 後日。兄は力技で柵を振り回し武器の代わりにしていた。

 見えない壁は高さおよそ3メートルほど、幅が柵と同じというもので、その動きは柵に完全に同期している。

 見えない壁は極端なまでの硬さを持っており、何があっても壊れない。

 色々試したから間違いないはずだ。

 

 だから兄は、柵を強引に握りしめて武器代わりに振り回す方法を試し始めたのだ。

 壊れない道具≒強力な武器、という明らかに間違った等式が兄の中に存在しているようにも思える。

 

 頑丈なものは武器代わりにとりあえず振り回してみるのやめてもらえないかな!?



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R 旅人の杖

 杖。体を支える用途に使われる細くて長い棒状の道具のことだ。

 主に歩行の補助に使われるため、足と同じ程度の長さが望ましい。

 また権威の象徴としても扱われる側面がありそれぞれの宗教などによってその役割は異なる。

 

 今日はその杖が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 日常……そう、日常の話である。

 私の私室はガチャによって完全に変容し、ただの通路として扱われているのはもはや語るべくもないがそれ以外の日常……つまり人間関係とかなにか。

 

 ガチャの出現やそれ以降の宇宙エレベーターの出現などでそれらが変化したかというと……。

 実は何も変化していない。

 びっくりするほど変化していない。

 凪だよ凪!

 ワイドショーがやかましくなったのとゲームのお誘いが来るぐらいだ。

 

 ガチャが出てきてからだいぶ立つが、こういう案件に遭遇したらメン・イン・ブラックみたいな人たちが来たり、世界の影で戦ってるなんちゃらかんちゃらに遭遇したり、そういうことが一度もない。

 特に後者なんか存在するのなら間違いなく接触してきているはずの組織とか見たことも出会ったこともない。

 

 現状、私と兄の持つ魔力……まあMP(マジックポイント)みたいなものの量は完全にぶっ壊れていて、二人で日本の総電力を賄うことすらできる。

 これは多少隠そうとしてもすぐ見つかるレベルの量だ。

 私だって探知系の魔法を使えば兄の居場所を常時把握できる。

 

 逆に言えば、そういう組織的なものがあればすぐ見つかってしまうはずなのだ。

 つまり少なくとも日本にはそういう異能の組織的なものは存在しないということである。

 

 ……ガチャは存在するのにそういう神秘は存在しないんだなぁ。

 教わったからと言って異世界の魔法が当たり前に使えるのはそれはそれで変だなぁと思っていたのだが。

 

 ……今日の分、回すか。

 

 R・旅人の杖

 

 出現したのは杖だった。

 長さは1メートルほど、頭の部分に4つの宝玉がはめられた特徴的なデザインが施されている。

 なんというか……ゲームの魔法使いが持っていそうな杖だ。

 

 でも名称は旅人の杖。

 クラス(役割)が違う。

 魔法使いのものではないようではある。

 

 旅人……旅人ねえ。

 手にもつと体が軽くなるとかそういうわけでもない。

 この透き通った宝玉もよくわからない。

 きれいではあるが。

 

 とりあえず兄に倣って振ってみるが反応なし。

 こういうマジックアイテムが出てきたときが微妙に困るんだよな……。

 地球の常識で使えない時があるから。

 

 わからん……わからん……。

 そう考えながら、杖で地面をコツコツと叩いたときだった。

 宝玉の一つの中に周囲の風景が映り込む。

 それは今若干イライラしている私の姿を映している。

 

 ……カメラ?

 もしかしてカメラなのかこれ?

 異世界のカメラ?

 

 ……不便すぎない!?

 

 

 

 

 

 後日。兄が旅人の杖を使ってテレポートした。

 あの杖、カメラじゃなかった。

 

 あの杖は4つまで座標を記憶し、その地点にへとテレポートする杖だった。

 なるほど、だから旅人の杖。

 好きな場所まで時間に縛られず移動できる、自由の道具だ。

 しかも4つの宝玉はそれぞれ、その場所のリアルタイムの情景を映し出すために実質監視カメラのような使い方もできるという。

 

 ……で、兄はどうやってそれに気がついたんだい?

 振り回してたらワープした?

 

 とりあえずで景品を振り回すのやめろい!



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R 今川焼きでも大判焼きでも太鼓饅頭でもない回転焼きを焼ける機械

 今川焼き。小麦粉の生地にあんこを入れて焼き型で焼いた和菓子である。

 日本全国どこでも見られる、専門店も存在する和菓子であるが……その最大の特徴は各地で名称にばらつきがあることだろう。

 地味に厄介である。

 県民性……というか地域差というか、まあそういうのに取り憑かれて変な揉め方をすることも多い。

 まあ、自分の知る知識が正しいと思いこむのは人のサガだが。

 

 今回はそれを焼く機械が出てきた話だ。

 

 

 

 

 兄が機神紹介クソPVを作っていた。

 クソPVである。

 どこから調達したのかわからない妙に滑らかなアナウンスと共に、機神の姿を舐めるように撮影したもので……低予算で作ったクソ商品説明かな? と思わせる出来なのだ。

 

 いやなんで自分で作っちゃったかなぁ。

 というか、わざとパロディとしてクソPV作っただろこれ。

 そういう、伝わらないボケをお偉方に披露しようとするのマジでやめろ。

 

 兄はなぜかこういうボケを好むから適度にシバいて方向転換させないと絶対やらかすんだよなぁ。

 うん? もしかして一週間寝てないのかな? と言いたくなるような案を突然出してきたりする。

 宇宙エレベーター基部に機神をキャスリング(転移)させて世界を驚かそうぜ! とか。

 もう地球にもダンジョン展開して世界征服しようぜ! とか。

 

 何がイヤってやったらやれそうなところ。

 ボケそのものは伝わらなくてもそれで起こせる()()は間違いなく達成できる。

 

 なんで時々倫理観のネジがすっ飛んでいくんだろうな……。

 兄だからかな……兄だからだな……。

 

 はー。

 まあいいや。

 ガチャ回そ。

 

 R・今川焼きでも大判焼きでも太鼓饅頭でもない回転焼きを焼ける機械

 

 ……なんて?

 なにかクソややこしい機械が出てきてしまった。

 その焼型は奇妙にのたうっており、まるでクトゥルー神話に語られる都市の外壁のような形状になっている。

 本体自体も金属製であるにも関わらず生物的な曲線を描いており……生き物を加工して作られたといっても納得しそうな形状だ。

 

 で、そんな創作神話の呪物と言われても問題なさそうな代物の名称が「今川焼きでも大判焼きでも太鼓饅頭でもない回転焼きを焼ける機械」。

 なんて?

 いや、ほんとなんて?

 

 どう見ても呪物なこれを使って、やることがそれ?

 というか、今川焼きも大判焼きも太鼓饅頭も回転焼きも、地方で名称が違うだけの全く同じものだろ。

 なにをどうやって選り分けるつもりだ。

 というかそののたうった金型で回転焼きが作れるのか。

 

 うわー……試したくねえ……。

 というか回転焼きの作り方わからねー……。

 めんどくせー……。

 

 兄にやらせるか……。

 

 

 

 

 後日。兄が回転焼きを焼いた。

 のたうった鉄板の上に生地を流し込むと、不自然に流動して回転焼きの形にまとまるのだ。

 何度やってもそうなる。

 

 そして出来上がったのは……回転焼きだった。

 回転焼きだとしか言えない。

 今川焼きでもないし、大判焼きでも、太鼓饅頭でもない。

 それは回転焼きだった。

 

 うーん、明らかに認識に介入されているわ。

 どう見ても回転焼き。

 そうとしか言えねえもんこれ。

 ありえないでしょ。

 

 だって「これは今川焼き(かいてんやき)である」が声として出せねえもん。

 何なんだよこれ。

 無駄に強度の高い認識介入しやがって。

 

 兄は兄でその呪物でたいやき(回転焼き)を焼こうとするんじゃねえ!

 すでにややこしいのに!



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SSR クラスシステム

 クラス。今回はゲームにおける役割を職業になぞらえて分配したものである。

 前衛で攻撃を受け止め、味方を守るものを戦士や騎士。

 後衛から高火力で敵を薙ぎ払う者を魔法使い。

 傷ついた味方を癒やし治療する者を僧侶。

 そういった形で割り振り、そのクラスに見合った能力を与える。

 そういったゲームシステムだ。

 所有するクラスによってキャラクターの表現が容易なため様々なRPGに実装されている。

 

 今回はそのシステムが出てきてしまった話である。

 

 

 

 

 

 

 VRゲームで兄の監修したダンジョンが数日前に開放された。

 期間限定のイベントとして開放され、踏破者にはユニークな装備が与えられるとあってか参加者はだいぶ多い。

 各地に複数の期間限定ダンジョンとして出現しているため、プレイヤー同士のブッキングなどが起こらないようになっていて無駄に凝っている。

 

 で、現在のその踏破者というと……。

 0である。

 全くのゼロ。

 なんならトッププレイヤーでもダンジョンの半分も進んでいない。

 

 理由は極めて簡単で……兄の悪辣なるダンジョンマスターっぷりによって、難攻不落と化しているためだ。

 基本的に層ごとに要素を反転して、前の層で対処に使用した装備やスキルに対してメタを張るという、嫌がらせもいいところな階層構成。

 数で攻略しようとするのなら分断を、ソロで攻略しようとするなら数を要求するというクリアさせる気があるのかと言わんばかりの要素ばかりである。

 

 評判は……ボスドロップが美味しいが踏破させる気がない、これエンドコンテンツを実験的に実装しているだけでは……、時間が無限に吸われる、階層ごとの踏破報酬が沼、など。

 なぜか好意的だ。

 なんで?

 

 まあ評判がいいならいいか……。

 ガチャ回そう。

 

 SSR・クラスシステム

 

 出現したのは巨大な水晶塊だった。

 陽光を受けて薄く虹色に光るその石は山の中に埋まっていた塊を無理やり引きずり出してきたと感じるほどに大きくいびつだった。

 何よりも不可思議なのは、その水晶の中に紋章が浮かんでいることだ。

 

 なんとなく見たことがあるというか、才能の卵に与えられた紋章に似ているような気がする。

 あの卵が最大まで育つとこうなるのかなぁ、という感じだ。

 

 で……しかもこの塊がクラスシステム?

 クラスシステムってなんだ。

 ゲームか?

 

 とにもかくにも、調べてみないとわからないので触れてみると。

 ポーンと空中にゲームか何かのウインドウのようなものが開く。

 そこには私の名前と、空欄になっているクラスがあった。

 

 私はそっとそのウインドウに触れてみる。

 すると追加のウインドウが開き……そこには。

 「獲得可能なクラス一覧」が載っていた。

 

 ん……んんんん?

 戦士……僧侶……魔法使い……、変なところだと魔導相談役(マギコンサルタント)だとか。

 いや、うん……。

 

 これやっぱゲームのアレだろ!?

 なんで出てくるんだよ!

 世界がまた一つ狂うだろ!

 

 しかもさあ……これさぁ……。

 クラスクリスタルじゃなくてクラス()()()()なんだよな……。

 

 絶対まだなんかある……困る……。

 

 

 

 

 後日。兄がクリスタルの一部を砕いた。

 いつもの直感が囁いた結果である。

 なお砕かれたクリスタルは、砕かれた端からまるで細胞が増殖するかのように再生。

 ある種生物的な治り方をしたのが気持ち悪い。

 

 で……問題はだ。

 この砕いたクリスタルである。

 この砕いた側にも紋章が浮かび上がっているのだ。

 

 う、うーん。

 これはシステム……システムなのか……。

 水晶はシステムをばらまくための端末でしか無いようである。

 あるいはネットワーク的なやつかもしれんが。

 

 紋章が浮かんでいるってことは当然触ればクラスを獲得できるわけで。

 砕けば増殖するのは……つまり普及させるための特性である。

 

 なお兄のクラスリストにはサメ指揮官があったことは書いておこう。

 サメ指揮官とは一体……。



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SSR クラスシステム その2

 クラス。それは世界観によって様々な扱いをされるものである。

 ゲームで多いのは、キャラクターを作成できるタイプのゲームでの能力による役割分けだろうか。

 いわゆる現在のRPGの形の祖にあたるゲームから職業(クラス)でキャラクターの能力を分けていた。

 創作物では、神から与えられた恩寵などの形でクラスが表現されていることがある。

 また何らかの遺物から与えられた力の場合も存在する。

 

 今回はそのクラスをいじってみる話だ。

 

 

 

 

 

 兄が色々いじくり回した結果、クリスタルを粉末状にして飲ませることでいつでも好きなときにクラスを切り替えられる事がわかった。

 ……いや、いきなりメチャクチャなことしていてドン引きするんですけど?

 

 というのもいつもの人体実験(サメたいじっけん)で体内に組み込むことでクラスシステムをいつでも使えるようになったので、それを生物でやればどうなるかを……兄は自分の体で試しやがった。

 流石にごくわずかを舐め取っただけではあるが……。

 

 ウインドウは使用者本人にしか見えないから問題ないだとか、少しだけだから大丈夫だとか、そういう言い訳を重ねる兄に呆れる。

 なんで危険だと思わなかったのか。

 まあ兄だからなぁ。

 

 そんな状態で兄はクラスシステムをいじくり回していた。

 それで分かったことが三つ。

 

 一つはクラスを獲得するとクラスに沿った身体能力と特殊能力が手に入ること。

 戦士なら力が強くなって体が頑丈になる。

 

 二つは一人に一つのクラスしか獲得できないこと。

 他のクラスが欲しければ今持っているクラスを外す必要がある。

 

 三つは特殊なクラスを獲得するには条件を満たしている必要があること。

 これまで何をしてきたかが参照されるらしく、高度な魔法制御を覚えている私には高ランクの魔法使いのクラスが開放されていた。

 ついでにいうとノーライフキングのクラスもあったのでいつでもアンデッド化できる。

 

 で、そういうメチャクチャドン引きなことをしながら調査していた兄が最終的に獲得したクラスは……【超サメ(スペリオルシャーク)】である。

 超サメ。

 うん、何言ってんだ。

 

 複数の強力なサメを従えた者にだけつける特殊なクラスであり、その主だった能力は自身含む味方のサメの能力の100%強化だ。

 ……100%?

 クラス補正でだいぶ能力上がってるのに?

 完全にぶっ壊れた能力だが、クラスを獲得可能にする条件もやたら厳しいようである。

 現に私のクラスリストには載っていない。

 

 ……というかこれ、本来サメ類が使用するクラスじゃない?

 人間が使用するものではなくない?

 絶対違うよね?

 

 そう思ってたら《完全鮫化》とかいうスキルの効果でサメに変身しだした。

 それも8本の触腕を持ち、二つの頭を持ち竜巻を纏ったサメに。

 何だこいつ……。

 

 

 

 

 

 後日。兄が液体経験値を使ってクラスのレベルを上げていた。

 そう、クラスにもレベルがあったのだ。

 いや、無いほうが変ではある。

 ゲームシステムのようなものであるなら当然その能力の多寡を表すのに、そして成長を行うのにレベルのようなものは必要だ。

 

 ああそれ使えるんだ……。

 明らかに別システムの物のはずなのだが。

 というかどうやってクラスと兄本体との経験値分配をしているのかよくわからない。

 

 あとさぁ。

 コップ一杯飲むだけで二桁レベル上がってるのなに?

 明らかに上昇量がおかしい。

 そんなもりっと増えるもんだっけ!?

 明らかに仕様の違うものを強引につないでいるような気がする……。

 

 まあクラスを持たない人間を超人に進化させるような液体だ。

 クラスという器に注げばおかしな増え方をしてもおかしくはない……か……?

 

 そう思っていたら、コップ2杯目で兄のクラスレベルはカンストした。

 それ以上上がらないことを示すように、クリスタルで確認できる次のレベルまでの経験値表示が無くなっている。

 

 やっぱこれおかしいって!

 普通に飲んでもこんな勢いでレベル上がらなかっただろ!?



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R 光学迷彩

 光学迷彩。文字通り光を制御することで実質的に透明になる迷彩機能のことである。

 これを実現するために現実ではメタマテリアルと呼ばれる負の屈折率を持つ素材を利用して迷彩効果を得ようとしている。

 その成果はというと、現状ではマントに背景の映像が浮かんでいる……といった感じだ。

 長期的に見れば完全な実現は不可能ではなさそうである。

 

 今回はその光学迷彩が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 クラスシステムをすべてのサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に実装した結果、街は一気にその生活感を増した。

 基本的にサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の思考パターンは少ない。

 戦闘に由来するものと生物に由来するものと機械に由来するものの組み合わせで知性が構築されており、それらに由来する欲求も持ち合わせているが、自発的な思考というものは皆無だと言える。

 AIのような機械知性に戦闘技術を乗せて、脊髄反射を別途に組み込んであると考えれば大体あっている。

 これは自我の構築がなされていない、というかダンジョンの機能の一部としての存在だから総体としての思考を共有できればそれでいいためだ。

 

 複数並べようがサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)ごとに個体差と呼べるものはなく、死んでも代わりがいる。

 そんな状況ではまあ自我と呼べるものを持ち合わせているのは機神だけになっても仕方あるまい。

 

 だが、クラスシステムの実装によってそれは大きく変わった。

 クラスという役割によって、それまでと異なる思考を必要としたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は……そのクラスに沿った知性を獲得した。

 最も職業倫理とか職業理念とかそういうのに沿った思考でしか無いが。

 

 ただ異なる思考を持った知性が複数あるということはそれが新たな物事へのブレイクスルーとなるのだ。

 事実、画一的だった静止衛星軌道上ステーションの街モドキが、曲がりなりにも街として動き始めている。

 

 エルフの里とかあるしもうちょっと発展するといい感じになりそうだ。

 最悪全部放棄しても維持できる状態になるといいな……。

 

 さて。

 ガチャを回そう。

 

 R・光学迷彩

 

 出現したのは青い色をしたレインコートのように大きなマントだった。

 頭からかぶることにより全身が布に覆われる、そういうサイズのもの。

 かなり大きめのフードも付いていて顔まですっぽり隠れる。

 

 外見はでかいだけのマント。

 だがガチャの紙にはこれが光学迷彩だと書かれている。

 見た目青色で透過していたりはしないのだが。

 

 まあとりあえず着てみるか。

 そう思って頭からかぶる。

 すると、電源が入ったのか、着ることによって起動するようになっていたのか。

 マントの表面に別の色が浮かび始めた。

 

 その色はどんどんと色味を調整していくように変化し、やがて完全にその向こう側にあるであろう色にへと到達する。

 完全に透明になったわけではない。

 私は着ているために至近距離から見ている。

 それ故にマントのシワなどが見えているが……。

 

 これ、1~2メートルも離れたら背景に溶け込むのでは……。

 そう思わせる程に、精巧に向こう側を写し取っている。

 この間ネットニュースで見た研究中の光学迷彩よりも遥かに出来が良い。

 

 ……出来が良いのは良いんだが。

 なんなら10年後には普通に実用化されてそうというかなんというか。

 それぐらいの……妙なしょっぱさがある。

 

 近づいて見ると輪郭が歪んで見える程度とかそういうレベルに到達しているわけではないのだ。

 あくまでマントの表面を迷彩効果を施す程度。

 極めて注意深い人が見れば一発でバレる。

 

 なんか……中途半端だなこれ!

 SFのなり損ないみたいだ……。

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が機神に光学迷彩を解析させて、完成版を作り上げた。

 わざわざ兄が私を驚かすために部屋の前にそれを着て立っていたから間違いない。

 気が付かなかったので思いっきりボディーブローを食らわせてしまったじゃないか。

 

 この完成版の光学迷彩は本当にすごい。

 剥き出しの顔と足の先以外は完全に透明になっているのだ。

 近づいてみても、わずかに気配があるだけで視覚的には全くわからない。

 

 いやまあ、私もサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)も実は魔法的に透明になる手段がいくらでもあるから驚くようなことではないのだが……。

 なお兄には使えない。

 

 ……いやまて。

 なんで機神は解析できたんだ?

 あれは純粋な科学の産物ってこと?

 マジで?

 ガチャの景品なのに?

 

 なんというか……。

 困る……。

 未来の技術を軽率に与えるのはやめていただきたい。

 

 なまじ機神で簡単に実現できるだけに、持て余すんだよォ!



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R 宅配ボックス

 宅配ボックス。それは忙しい現代人のために用意された、不在でも宅配便を受け取れる箱のことである。

 特に近年、宅配の需要が高まっているため、不在による二度手間を無くす目的で普及が急がれている。

 基本的に外部から鍵を掛けられるようになっていて、それの解除は内側から、もしくは所有者のみに可能な方法によってセキュリティを担保しているのだ。

 

 今回はその宅配ボックスが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 クラスシステムは本当に広範である。

 特に条件が設定されておらず、適性も必要としないクラスだけでも10万を超えるほどだ。

 その総数故に適性と嗜好に沿ったクラスが優先的に表示される。

 

 まあそれだけ数があると変なクラスも結構あるのだが。

 【賽子博徒(ダイスギャンブラー)】とかピンポイントすぎる上にろくでなししかつかなさそうなクラスだったり、【動く死体(ウォーキング・デッド)】とかいう死んでいないと効果を発揮しないクラスだったり、【無駄な才能(アンチジーニアス)】とか獲得すると適性や才能が激減する反適性反才能の謎クラスがあったり、【小さな羽虫(リトルバグス)】に至ってはなぜか人が獲得できる虫用のクラスだったりする。

 

 そんなわけわかんないクラスでも、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)には兄の実験根性が染み付いているのか獲得している個体がちらほらいたりするのだが。

 まあレベルを上げると別のクラスが開放される可能性もあるから上げておく価値はある。

 でもそれなら先に一般的なクラスの派生を確認しておくべきなのでは……。

 

 考えても無駄そうではある。

 特に指示なくサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が自主的にクラス選択してるからなぁ……。

 

 まあいいか。

 ガチャを回そう。

 

 R・宅配ボックス

 

 出現したのはコインロッカーのような形をした箱だった。

 白塗りが施されており、タッチパネルのようなものが一枠を埋めている。

 金属で作られていることが手触りからも分かり、かなりの重量感もある。

 

 宅配ボックス……というにはあまりに枠が多い。

 一般的な段ボール箱を入れられる大きさの枠が6枠、縦長の箱を入れられる枠が2枠、何を入れるのかわからないでかい枠が1枠。

 なんというか、個人用にしては枠が多く、マンション用には少なすぎる。

 駅前とかにおいてあるコインロッカーを一組だけ持ってきたと言われたほうがまだわかりやすい気すらする。

 

 まあいいか。

 とりあえず一つづつ開けてみよう。

 でかい枠を開ける。

 空。

 長い枠を開ける。

 空。

 

 そんな感じに、順繰りに開けていって中身がどうなっているのか確かめていった。

 特におかしなこともなく普通の作りである。

 容積が拡張されていたりもしない。

 

 ……ん、一つだけ開かない。

 すでになにかが入っているらしく、タッチパネルからロックを解除しないと開けられないようである。

 

 ……うわあ、なにかが入っているってもうイヤすぎる。

 内部に設置された感圧板に物が載っているとロックが掛かり、付属の説明書についていたロックナンバーを押すことで解除、中身を取り出せる仕組みになっているが。

 ……説明書?

 

 ……もしかしてこの中に入っているの、説明書では?

 取り出せないじゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 後日。日に日に開かなくなる枠に怯えながら兄がサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を使った総当りで開けることに成功した。

 中に入っていたのはやはり説明書と……得体のしれない小包だった。

 

 差出人の名称はなく、宛先が私の名前になっていること以外はぱっと見た感じ異常なところはないが……。

 兄は躊躇なく開封する。

 中身は浄水器の交換用フィルター。

 

 ……え?

 なんで?

 なんでそんなものが……?

 

 他の開かなくなった枠も同様に開けていくと、そこには見覚えのあるダンボールが。

 それはこの間兄が抽選に当たって届いたばかりのゲームハードの入った箱だった。

 

 ……んんんん?

 もしかして……。

 

 ご近所の宅配便をコピーして入れてる……!?

 



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R ランプ

 ランプ。燃料を燃やして火を灯す照明器具だ。

 ただ日本でランプというと、いわゆるアラジンが持つ魔法のランプのような形状のものを思い浮かべるだろう。

 中に魔人が封じ込められており、擦ると願いを三つまで叶えてもらえるという物。

 願いを叶えると魔人が開放されたりされなかったりする。

 まあ願いを叶えるアイテムがろくでもないのは古今東西変わりない。

 

 今回はそのランプが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)へのクラスの普及で輸出できる商品が大幅に増えてしまった。

 魔法を利用したマジックアイテムやそれに連なる工芸品の数々を生産可能になったため、それらをお土産として販売しだしたのだが売れる売れる。

 

 まあまずマジックアイテムだから売れる。

 内容こそ子供の玩具のようなものばかりではあるが、逆にそれがお土産としての価値を高めている。

 内容がチープだからこそ逆に安全であるというわけだ。

 

 次に無駄に精緻な工芸品。

 マジックアイテム加工の延長線で作ったものだが、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の職人を遥かに凌駕する器用さによってその緻密さは並の工芸品を超えているのだ。

 そのため、お偉方に手土産として買っていく需要が高い。

 

 あと、そもそも宇宙エレベーター産のお土産って今めちゃくちゃウケが良い。

 オークションで目が飛び出るような金額で転売されているほどだ。

 どっから流れたんやろなぁ……。

 

 これまでなんというか実用品とか素材とかしか出してなかったのもあってか、工芸品は出したら出しただけ売れる状態だ。

 金の多寡など意味がない状態であるにも関わらず、兄は商売っ気を出してどんどん補充する始末。

 

 まあ、目玉が増える分には良いか……。

 あんまり普通じゃない部分ばかりクローズアップされると変な()()とか生えそうだしな。

 宗教団体が生まれるのは困る。

 

 はー。

 ガチャ回そ。

 

 R・ランプ

 

 出現したのはアラビアンなランプだった。

 真鍮で出来た優雅な作りで、美しい金色をしている。

 細長くなった吹出口から気化した油に火をつける構造のようだ。

 

 アラビアンランプ……。

 なんというか見るからにアレである。

 アラジンのランプである。

 擦ると魔人が出てくるアレだ。

 

 と、いうことは……使い方は擦る?

 普通に火を付けてみても特に異常なことは起こらない。

 比較的きれいに火が灯るだけである。

 

 ふむ。

 やはりこすってみるべきか。

 一般的な使い方をしても普通なのだから一般的でない使い方をしてみるべきだ。

 

 そう思って台拭きで拭いてみた。

 途端、ランプの口から火炎放射器のように猛烈な勢いで炎が吹き出し……。

 

 吹き出したまま止まった。

 ということはこれは火炎放射器かな?

 

 いや、なんか炎の音と一緒になにか声のようなものが聞こえる……ような気がする。

 うーん、多分気のせいだな。

 メラメラパチパチ、音がうるさいだけである。

 

 あとこの炎、見掛け倒しで木材に触れても燃えない。

 ほとんど熱もない。

 炎の形をしたエフェクトというか……。

 

 いやまあ、燃え移ってたらテラスが大変なことになっていたからこれはこれで良かったと言うべきか。

 なんか中途半端な道具だな……。

 

 

 

 

 

 後日。兄がランプから炎の魔人を呼び出すことに成功した。

 ただし30秒だけ。

 

 あのランプ、やっぱり魔人が封印されてるタイプだったのだ。

 炎の勢いを操ってそれを体として出現する魔人で……炎はランプの中身のオイルを消費する。

 

 擦れば擦るほどより大きな炎を出せるランプで、かなり大きな炎を出さないと魔人は呼び出せない。

 魔人を呼び出せるほど大きな炎を出すと、あっという間にオイルを使い切ってしまうのだ。

 

 オイルを補充して呼び出すたびに、なにか言いたげな表情をしてすぐオイル切れで引っ込む魔人。

 なんか可哀想になってきたがオイルを補充し続ける手段はない。

 

 なんというか……。

 ひでえ景品である。

 結局兄は火炎放射モドキとしておもちゃにしだすし……。



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R 魔法紋章

 紋章。それはヨーロッパにおいて公的な組織や団体などを示すために使われた図案のことである。

 簡単に言えば家紋のようなものだ。

 また、意匠ごとに意味があり……それらは当然、創作等において魔法と非常に相性がいい。

 魔法とはすなわち意味を見出すことであり、その意味から力を捻出するためだ。

 そのため、本来の紋章の役割から外れて、魔法を使うための紋章が出てくる作品も存在する。

 

 今回はその魔法用の紋章が出てきた話だ。

 

 

 

 

 そういえばクラスシステムの恩恵を一番受けているのは、基部で教師として働くサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)だ。

 主な仕事が魔法技術の伝授であるため、必然的に授業の形式をとる形となる。

 すると、教師のクラスが恐ろしいほどビタ、とハマるのだ。

 

 教師のクラスは派生も複数存在するが、共通する特徴として自身が持つ知識を正確に生徒に伝授する。

 これが魔法という未知にして理解し難い技術を伝授するためにメチャクチャ効果的だったのだ。

 

 もちろん魔法だけではない。

 様々な工学の知識の伝授にも役に立っている。

 資料の編集には編集者や学者などの派生クラスが効率を引き上げているし、実地での技術の伝授では技師などのクラスが正確な伝授を可能にしている。

 

 結果として、それまで隔絶しすぎていて説明に時間がかかり、結果効率が微妙だった知識の伝授がスムーズに進むようになった。

 ただあまりにスムーズになりすぎて、変な信仰心とか生まれてそうで怖い。

 ほとんど神託みたいな勢いだしな。

 

 まあ集まっている調査団も各国のエリート。

 元々頭のいい人たちだから大丈夫だろう。

 きっと理解し始めるフェーズに入ったと思ってもらえるはず。

 

 はー。

 あっちの悩みは置いておいて。

 ガチャを回そう。

 

 R・魔法紋章

 

 出現したのは水晶球だった。

 透き通った……というか、透明な水晶の中になにか赤い紋章が浮かんでいる。

 それはこちらを見つめるかのように、動かすとその角度を変化させる。

 

 魔法……紋章?

 令呪とかそんな呼ばれ方をしそうな、タトゥーにも似た紋章である。

 それは竜の頭にも見える形状をしているが、なまじ単色で描かれているため断言はできない。

 他の形状にも見えなくもないからな。

 手裏剣とか。

 

 で……それが水晶の中に浮かんでいるわけだが。

 これはどういう……どういう道具なんだ?

 さっぱりわからない。

 

 魔力を流すと、反応して光り出すが……それ以上なにかを引き起こすという感じでもない。

 手応えもあまりない。

 

 創作なんかではこの球体から人の体に移して、紋章由来の魔法を使える! とかそういうヤツなのだが。

 全然そういう反応を示さないからお手上げである。

 

 なんだ?

 適性かなにかに引っかかっているのか。

 私だから使えないのか。

 なにか専用の魔法が必要なのか。

 そもそも使い方が違うのか。

 

 何やっても反応しないからどうしようもねえなこれ。

 ぶん投げて壁にぶつけても反応なし。

 こすりつけても反応なし。

 

 わっけわかんねえ。

 諦めるか!

 

 

 

 

 後日。なぜか兄が使い方を見つけた。

 世界樹の中を調査するにも足が必要ということで、兄は機神にサソリ型のロボを作らせていたのだ。

 不整地を歩くために多脚型で、あと木々を切断できるハサミと無意味に高出力ビームが出る尾を付けた乗り物である。

 あと魔力を使って地ならしもできるようにしてある。

 

 で、魔法紋章をどう使ったというと。

 その乗り物の胴体部分に軽く置いたら光を放って融合した。

 結果、胴体に紋章が刻まれていたのだ。

 

 いや……うん……なんだこれは。

 紋章が刻まれた結果、炎をまとって突撃できるようにはなったが、ぶっちゃけ無駄機能……というかいらない機能である。

 その程度なら元から付けられる。

 

 と、思っていたら兄が操作UIから何かをいじって……。

 尻尾の先から火球を発射したのだ。

 発射と同時に紋章が光っていたため、おそらくは紋章の機能で引き出して。

 

 えっ……つまりなにか?

 あれは乗り物をマジックアイテム化する紋章?

 なんか違う気がするが……。



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R 車輪

 車輪。軸に取り付けた回転可能な円形の部品のことである。

 主に接地したものを動かすために、足として取り付けられる。

 円形であるため、これを回転させることで乗せたものを動かすことができるため様々な乗り物や台車などに使われている部品だと言えよう。

 

 今回はその車輪が出てきた話だ。

 車輪だけ出てきても……。

 

 

 

 

 

 

 先日の、サソリ型ロボにくっついた魔法紋章だが。

 これはどうも魔法の術式や回路……のようなものであるそうだ。

 

 ノーライフキングのリチャードさんや私などが使う、基部で教えている魔法は基本的に魔力を一定のルールで加工することで効果を発揮する。

 かなり語弊を含むが魔力という水をプログラムに通すイメージだ。

 それによって魔法効果を実現する。

 

 で……あの紋章は、魔力を生み出す部分と、実行するのに必要なプログラムの部分を含む代物だったのだ。

 つまり貼り付ければ誰でも魔法が使える。

 ただし……機械にしか張り付かないが。

 

 ……普通はそれ使い物にならなくない?

 現状剥がし方がわからないので他に転用も出来ないし。

 あのサソリロボも、操作プログラムに機神の処理が入っているから紋章にアクセス出来たようなものだ。

 

 機械にしか使えないとなると、実質マギコンピューターの下位互換と言わざるを得ない。

 マギコンピューターは量産が効くからな。

 元々機械的な代物なので分解して機械全体に組み込むのも容易い。

 というか機神がもう組み込み用チップ型のマギコンピューターを開発している。

 

 そうなるとこう……。

 紋章がかっこいい、以外に利点がない。

 上位互換が存在するのは世の常とはいうが……。

 

 まあいいか。

 今日の分のガチャを回してしまおう。

 

 R・車輪

 

 出現したのは車輪だった。

 木製のフレームに金属で出来た補強が外周を覆っている。

 一般的に馬車の車輪と言われて思い浮かべるようなものだ。

 

 で、車輪。

 車輪だけ出てこられても困る。

 なんに使うんだよ。

 処刑か?

 

 流石にそういう目的の物ではないとは思うが、ガチャの景品である。

 時折用途が明後日にぶっ飛んだ物が出てくるのは分かりきったこと。

 これがそうではないとは言い切れない。

 

 とりあえず……転がしてみるか。

 そう思って車輪を掴んだときだった。

 

 掴んだ手の指先が()()になった。

 

 ……?

 いや、何を言っているのかわからないが。

 確かに私の指先は間違いなく()()になっている。

 

 えっ、怖い怖い。

 通したものに()()という概念を付与する車輪!?

 どう考えても犯罪にしか使われないやつじゃん!

 

 しかも車輪って!

 インテリアとしてごまかそうとしてるだろこれ!

 

 物自体が非合法すぎる……!

 

 

 

 

 

 後日。兄が悪用しようとしていたが、結局非合法な物にしか使えないとぶん投げていた。

 まあ大麻を合法化するとかそういう使い方しか思いつかねえわな!

 基部のヤバ気なお土産群に使うわけにも行かないし。

 

 というか、合法になって助かるものがなにもない。

 基本的に持ち出しさえしなければなんの問題もないものばかりなのだ。

 非合法なものを持ち歩く必要がどこにもない。

 

 ……ところで兄よ、その合法になった酒瓶は何に使うんだい?



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R 寸胴鍋

 寸胴鍋。縦に長い大型の鍋で、主に厨房などで大量のスープを煮るのに使われる調理器具だ。

 だが、現代日本で一番多く見かけるのはラーメン屋だろう。

 ラーメンのスープを煮るのにも使い、麺を茹でるのにも使う。

 大量の水が入れることで温度を一定に保つのが簡単なため麺の茹で加減を時間で管理できる。

 それによって均一で高速なラーメンの提供を可能にしているのだ。

 

 今回はその寸胴鍋が出てきた話だ。

 

 

 

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の中からちょこちょこ上位のクラスに昇格する者が出てきた。

 早いと言うか、なんというか。

 元々サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が優秀なのに加え、下位の基本となるクラスの成長速度が早いことも理由だ。

 

 どうも基礎となるクラスのレベルを最大まで上げると、上級のクラスが開放され獲得可能になる仕様で……それがどこまで続いているのかさっぱり読めないという。

 基本的に条件が厳しいクラスほど強力な力を秘めているようだが。

 

 まあ……一段階上位になるたびにクラス数が数倍に跳ね上がるというのもあって、マジで網羅できなさそうではある。

 兄は可能な限り情報をまとめたいみたいだが……。

 

 まあクラスのことは置いておいて。

 私はガチャを回すことにしよう。

 

 R・寸胴鍋

 

 出現したのは寸胴鍋だった。

 それもかなりでかいもの。

 ラーメン屋で豚骨を煮ていたりするあのサイズの寸胴鍋である。

 もう見るからに邪魔……というか私の力で運べるか微妙なサイズだ。

 

 ええ……ほとんど固定して使うようなやつじゃん……。

 こんなのが出てこられても困るんだが。

 これを扱える設備がない。

 

 いや、用意しようと思えば用意できるが……。

 多分正規の使い方じゃないしなぁ。

 

 そう思いながらも魔法で地面を加工してかまどをでっち上げる。

 寸胴鍋を乗せた見た目は……どちらかというとドラム缶風呂。

 不安定にならないように魔法で均してある分、倒れてしまう危険性はなさそうではある。

 

 試す……試す?

 これを?

 何を入れて何をすれば良いんだ。

 なまじでかい分、扱いに困るぞ。

 

 とりあえずペットボトルの水を持ってきて、沸かすことにしてみた。

 なにか反応があるならこれで反応するはず。

 鍋に水を注いで、かまどに薪を入れて火を付ける。

 

 そして数分待つと……お湯!

 沸騰したお湯!

 

 中には沸騰したお湯が入っていた。

 まあ、当然である。

 水を入れた鍋を火に掛けると熱湯になる、当然のことだ。

 

 でもこれはガチャの景品だ。

 その当然を蹴っ飛ばしてめちゃくちゃする代物のはずなのだ。

 それがなんで普通のお湯が!?

 

 ……はあ。

 多分疲れているんだ。

 これまで狂ったものしか出てこなかったしな。

 無限の強度を持つ寸胴鍋かもしれない。

 引っ張ると伸びる鍋かも。

 

 一応試したけど全然わかんねえ……。

 なん何だこれ。

 本当に鍋なのか?

 

 もしかして普通の寸胴鍋?

 

 

 

 

 

 後日。兄が使い方を見つけ出し、それによってラーメンを錬成した。

 そう、錬成。

 調理じゃない。

 

 もう最高にろくでもない代物だった。

 だって、ねえ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかもある程度知能が高い生き物でないと反応しない。

 ろくでもねえ代物だ。

 手っ取り早く言えば、最も材料に向いているのは人間だ。

 

 兄はどうしたかって?

 下級天使を生産して鍋に突っ込んだ。

 サメもどきで変換できたからいけるやろと、天使をラーメンに変換してみせた。

 

 能力に劣るからこれまで生産されなかっただけで、ほとんど人間の上位互換のような存在である下級天使を、だ。

 なお、上位互換という言葉には容姿も含む。

 

 まじかよ……この人倫理観無いのかよ……。

 いや知ってたけど……。

 モンスターだから何してもいいとか思ってるのでは……?

 

 なお、味には言及しないことにする。

 言及すると寸胴鍋自体を()()にしないといけなくなる程度にはヤバいので……。



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R かつら

 かつら。頭部にかぶせることで髪の毛を補ったり別の髪型にしたりするものだ。

 古くは人の毛から作られていた。

 今は化学繊維で作られているものも存在する。

 西洋ではノミやシラミを避けるために髪の毛を短く刈り、代わりにファッションとしてかつらを利用していたらしい。

 

 今回はそのかつらが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 そう言えば、特殊な閉鎖環境だと、変わった文化が醸成されることがあるが、宇宙エレベーター基部でもそれが発生している。

 具合的には屋台街が出現しているのだ。

 

 調査団の人たちはエリートというか、まあ宇宙エレベーターの調査のために来ているのと技術を学びに来ている人たちがほとんどなわけで。

 そうすると飯の問題が発生するのだ。

 最初は軍隊の糧食やら、こちら側で用意した食堂やらを利用するわけだが、当然飽きてくる。

 そうなってくると隣にいる他の国の飯が気になってくるのだ。

 

 だんだんそういう空気が醸成されていった結果、誰かが「じゃあ食べ比べやろうぜ」と発案したようで。

 それが回数を重ねるごとにでかい屋台街を形成しだした。

 

 基本的に軍隊の飯炊き部隊が出してるから味が一定しているのもあって、毎回盛況のようである。

 管理は発案者と機神とでやってるから安全……ではあるし。

 

 屋台側にサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が混ざってるのはびっくりしたけどね!?

 なにやらせてんの!?

 しかもあんまり売れてない。

 

 まあ基部の文化は置いといて。

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R・かつら

 

 出現したのはかつらだった。

 肩ほどまでの長さの頭全部を覆うかつらで、その色は黒。

 質感からしても人の毛のように見える。

 ただ引っ張ってみるとちょっと伸びたので化学繊維製のようだ。

 

 かつらかぁ。

 なんかかぶるのを忌避する感じのある代物だ。

 普通に毛の塊って気持ち悪くない?

 いや、気持ち悪くないようにちゃんと作ってあるんだろうけども。

 

 まあかつらはかぶるものだ。

 かぶるために作られたものだから、かぶることが使用方法である。

 そう思って、私は出現したかつらを被ってみた。

 

 はら、と抜け落ちる髪。

 

 その抜け落ちた髪は、かつらのものの黒ではなく、私の髪色だった。

 長さもそう、私のもの。

 

 んっ、んんー?

 とっさにかつらを外す。

 そして思わず髪の毛を触ってしまった。

 

 どこにも抜け落ちてしまったような跡はない。

 足元には結構バッサリと落ちて……円形ハゲになってもおかしくない量の髪が落ちているというのに。

 

 と、いうことは。

 このかつらから生成されたということ。

 

 このクソジョークグッズがよぉ!

 思わず地面にかつらを叩きつける。

 

 いたずらを仕掛けるにしても、流石にたちが悪すぎる代物だ。

 ましてふざけてかつらを被ったら髪が抜け落ちる、とか悪夢の類だと言える。

 

 ただ……。

 兄はめっちゃ好きそうなんだよなこういうの!

 

 

 

 

 

 

 後日。案の定兄が試しに被って一人大笑いしていた。

 しかも数十分かぶり続けて、恐ろしい量の抜け毛を作り上げるほどである。

 何に使うつもりなんだその大量の毛。

 

 実にお気に召したのか、かぶると毛が抜け落ちるかつらを自作。

 付箋の糊並に弱い糊を作って、それで毛を接着するほどの凝りようだ。

 そしてそんな弱い糊を使っているから、かぶると当然抜け落ちる。

 

 そしてそういうジョークグッズを友人に仕掛けたようで。

 メッセージアプリで私に抗議が来たんですけど?

 こういうのは自分のところで片付けてもらえます?

 

 〆ても反省しないから……って。

 私が兄を〆ても反省はしないよあの人!



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R 電子カイロ

 カイロ。寒い冬に体を温めるために使う、小さな熱源のことだ。

 主に鉄の粉と木炭を配合した使い捨てのものが主流である。

 しかし、使い捨てはもったいないとのことで、電子レンジで温め直せる保温材が入ったものや、モバイルバッテリーを使って発熱するものなども近年には発売されている。

 

 今回はそのカイロが出てきた話だ。

 

 

 

 

 そう言えば、ようやくと国連への加盟が完了した。

 竜鮫機神国(ドラグシャーク)とかいうあまりにも額面の圧が強い名称で登録することになったので完全に浮いている。

 本当に国かこれ?

 

 まあ国としての実体はともかく、これによっていろいろな権利が認められて色々やりやすくなったわけだ。

 具体的には一方的に輸出し続けることで無駄に集まってきている金を放出すること。

 

 いやほんと、世界経済に影響を与えるだけのヤバい資源を大量に持っていて、しかもそれを快く売ってくれる存在なわけだこの国は。

 当然それを買うには金が必要なわけで。

 ただでばらまくわけにも行かないから資源価値に見合うだけの値段を付けているのだが。

 

 これが問題なのだ。

 売ることはするが、なにも買わない。

 必要なものなどなにもないから、なにも買わない。

 すなわち無限に金をため続けることになる。

 

 一箇所に金がとどまると経済が死に始めるので可能な限り吐き出したかったのだ。

 マジで大国を殺せる量が集まっている。

 

 なので投資したり投資したり投資したりして浪費したかったのだが……。

 国としての主体がなかったのでどうしようもなかったんだよな。

 そっち方面で使える人手もなかったし。

 

 でもこれでおおっぴらに投資できるようになった。

 投資すればそれだけ経済が回せる。

 

 これで世界はまた一つ良くなった……はずだ。

 今日の分のガチャ回そう。

 

 R・電子カイロ

 

 出現したのはモバイルバッテリーのようなものだった。

 卵にも似た柔らかい楕円形をした、薄い本体はポケットに忍ばせるのに丁度いい大きさをしている。

 それに、電源を入れていないというのにすでにほのかに温かい。

 素材が特殊なのだろうか?

 

 で、だ。

 何よりも目立つ、表面に浮かび上がったLEDで表示された操作盤だ。

 温度を示すであろうLEDが点灯しておらず、その代わりに電源ボタンのようなマークが浮かんでいる。

 全体的にちょっと暗く表示してあるのは電源を入れていないからだろうな。

 

 ただ……温度を示すLEDの穴……というか影が、やたら多いのはなんだろう。

 そんな細かく温度調整することあるか?

 ただのカイロで?

 

 まあグダグダ悩んでいても仕方ないか。

 電源のマークに触れるとそれと同時に温度のランプが灯る。

 それにプラスとマイナスの記号……。

 

 とりあえずプラスに触れてみる。

 すると温度のランプが一つ隣に動いた。

 先程よりもより赤い。

 

 カイロ自身の温度も、すでに使い捨てのものと同じほどに温まっているのだが。

 まだ8段階ぐらい温度を上げられる。

 減らす方向でも10段階は下げられそうという。

 

 やっぱ多いよなこれ!?

 どう考えても限界を超えて加熱するやつじゃん!

 しかもより下げるボタンとか考えたくもねえ。

 数からして、ざっくりマイナス30度ぐらいまで下がりそうである。

 

 普通に危険物だ。

 興味本位でいじると普通に火傷してしまう。

 

 ふ、封印!

 片付けてしまおう!

 

 

 

 

 後日。兄が素手でカイロを握りしめながら最高温度にまで上げた。

 瞬間的に周囲の気温が50度まで上がり、カイロは焼けた石炭のように赤い光を放っている。

 まともな生物ならばそれだけで火傷し、うだる暑さによって体調も狂う環境。

 だが兄は尋常な生物ではない。

 

 その肉体に限っては超高レベルに至った超越者である。

 おおよそ地球上での温度変化でダメージは……受けるけど問題ない範囲だ。

 

 あと、そのクソフィジカルを使って最低温度まで引き下げる……と瞬間的に周囲の空気が凍りつく。

 あらゆるものに霜が降りて冷え切っているようだ。

 

 過剰すぎるな……あのカイロ……。

 明らかにまともな人間が触っていいものではなかった。

 瞬間的な加熱と冷却は危険すぎる。

 

 兄はまともではないので普通に触っているが……。



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UR 秘密結社

 秘密結社。それは社会の闇に隠れ、なんらかの陰謀を張り巡らせる組織のことだ。

 それ故、陰謀論や創作などと非常に相性がいい。

 イルミナティとか、実在の組織だというのに秘密結社扱いされてなにかと陰謀に顔を出している扱いにされてたりするほどだ。

 あと現代異能ものだと何かと登場する。

 異能者をまとめ上げる組織が必要となり、それを現代社会に露呈させないとなると必然的に秘密結社となるためだ。

 

 今回はその秘密結社が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 今日のガチャは、何が起こったのかわからなかった。

 ガチャの常は基本的に、開封と同時に中身が飛び出す。

 それが安定して配置できる場所に出現するようになっているのだ。

 

 だから宇宙エレベーターはテラスから見える場所に出現したし、惑星ガチャはまあ……ガチャの形でとはいえ目に見える形で出現した。

 物理的な実体のないやつもちょこちょこあったが、それだって私の目に見えるものだった。

 なんやかんや触ったりも出来たしな。

 

 で、だ。

 今日のはというと……。

 

 UR・秘密結社

 

 秘密結社。

 入っていたのはそれが書かれた紙だけだった。

 思わず裏も見たが特に何も書かれていない。

 周囲を見渡してもなにもない。

 

 しかもUR(ウルトラレア)である。

 これまでも高額のガチャが出てきたり、惑星が出現したり、宇宙エレベーターが出てきて世界がめちゃくちゃになったりしてきた。

 とどのつまり、他と比べても単独で世界をめちゃくちゃにできる代物の可能性が高い。

 

 しかもそれがよりによって私の目の前に出てきてない。

 どこにあるのかすら不明である。

 どうのこうの言うまでもなく、危険だ。

 

 調査すら出来ないの流石にヤバくない!?

 だって危険物が野放しだぜ!?

 兄に出たのをそのまま手渡しするよりやべーよ!

 

 ……とはいえ。

 どこにあるのか、そしてそれがなんなのかわからないものを探すというのは雲をつかむような話である。

 探しようがない。

 

 はー。

 無理でしょ。

 諦めよ。

 

 

 

 

 

 

 夜中に突然、コンビニスイーツが食べたくなって自転車を走らせていた時だった。

 よく馴染んだ、それでいて町中で感じるはずのない気配を、私の無意識に張り巡らせる探知魔法が拾い上げた。

 怖気のするような深い死の気配。

 死せる王の持つ黄泉の吐息。

 

 ……まあ簡単に言えばノーライフキングのリチャードさんに近い気配だ。

 アンデッドの持つ独特の気配を、日本の町中で感じ取ったのだ。

 リチャードさんに比べると、遥かに弱いが。

 

 それと同時に、明らかに人避けの結界が張られていることにも気がつく。

 魔力量の関係で人払いの効果が私には発揮しなかったようだが。

 というかだいぶ強力だなこれ。

 内側で起こっていることを認識させないぐらいの力がある。

 

 で、そこまでして隠したいものとは……。

 視線の先にそれがあった。

 人避けと認識阻害の二重の性質の結界によって隠されていたものが、結界を認識することによって晴らされたのだ。

 

 そこにいたのは、燃える剣を構えた少女とかつて人だったであろう異形の怪物だった。

 その全身から骨を突き出して鎧のように纏った怪物は、少女に対してその骨の爪を振るう。

 相対する少女は剣でそれを受けると……そのまま剣の炎を爪へと延焼させた。

 

 う、うーん……。

 漫画みたいな出来事が私の目の前で起こっている。

 少女の来ている服に至ってはこう……まさにライトノベルのヒロイン! って感じだ。

 細部に鎧のようなものを組み合わせた学生服のようなもの、というべきか。

 

 さて。

 私はどうするべきだろうか。

 なんというか、すでにものすごい嫌な予感がしていて、見なかったことにしたい。

 この状況そのものが、というか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 ガチャによる魔改造によって私の魔力はリチャードさんを基準にしても破格な領域に到達している。

 また、リチャードさんが言うには、それだけ強力な魔力を持ったものは、それだけ特別な星、運命に引き寄せられやすい、と。

 だから、今日まで出会わないということは本来ありえないことだったのだ。

 今回の出来事は才能の卵に触れたあの日に出会ってもおかしくないレベルである。

 

 とするとアレか……。

 秘密結社……。

 やだもー。

 

 そうやって一人頭を抱えていると、鍔迫り合いを繰り返している状況の少女がこちらに気がついたようである。

 

「……なっ! 一般人!? 早くここから逃げて! こいつは危険なんだから!」

 

 ……いい子そうではある。

 というか頭を抱えているうちに随分傷だらけになっている。

 私に忠告なんかしているから思いっきりふっ飛ばされて壁に叩きつけられているほどだ。

 

 はー、やれやれ。

 ()()拘束魔法《シャドウバインド》。

 もはや何度も撃った関係で、指を鳴らす(シングルアクション)だけで使えるようになった魔法を骨の化け物に放つ。

 

 影から伸び出て、茨となって対象を縛り付けるそれは、概念のレベルで行動を封じる。

 というかそこまでしないとヤバいときの兄は止められないとその域にまで強化した魔法だ。

 リチャードさんよりも弱い相手なら指先一つすら動かせなくなるだろう。

 その証拠に……その骨を生やしたりする能力ですら使えなくなっているようだ。

 

「そんな、虐殺(ジェノサイド)級をあっさりと縛り上げるなんて。貴方、何者なの……?」

 

 さあ、私は何者になるんだろうね?

 ガチャから出てきた()()()()()()である君からは……何に見えてるんだろうね?

 うーん、絶対ろくでもない!



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UR 秘密結社 その2

 異能。それは人智や道理というものを超えた、物理法則に基づかない能力の総称である。

 いわゆる能力バトルものでの看板となる要素であり作品によってその起源とルールは異なるが……基本的に一人一種の異能は共通する。

 これは能力がそのまま個性につながるために、複数持たせるとキャラクターが立たなくなるからである。

 複雑になりすぎるために、能力バトルのキモである攻略が読者についていけなくなるという理由も存在するが……。

 

 今回は、その組織に接触する話だ。

 

 

 

 

 

 さて。

 思わず逃げてしまった。

 テレポートまでして逃げ帰ってしまった。

 

 ついうっかりというか、面倒事の予感がしてその場を離れる選択をしてしまったのだ。

 あの少女、しつこそうだったしなぁ。

 

 だから今日出会った出来事について、機神に調べさせることにした。

 国連の加入と調査団の要望の兼ね合いでネット回線をすでに基部に導入しているため、機神はそこから世界中のインターネットにアクセスできる。

 機神にとってあらゆるセキュリティは障子紙のようなものでしか無いため、調べれば必ず情報を拾い上げられるだろう。

 

 そう思っていたのだが……。

 真っ先に上がってきた情報にドン引きする。

 

 一昨日と今日を比較した結果、時空間に歪みが生じていること。

 それによって、93%しか算出される歴史が一致しないこと。

 ……なんらかの歴史改変が生じているということ。

 

 ……は?

 歴史が7%も狂ってんの?

 どう考えてもあの秘密結社のせいじゃん!

 

 出現しただけで歴史改変を起こして、あのような出来事を引き起こしたということなのか?

 出現した秘密結社は改変された出来事の裏に関わっているのは間違いない。

 あのような怪物が歴史の影に跋扈していればそりゃぁ7%も狂うというかなんというか……。

 

 いや、少女は戦っていたから秘密結社は対処する側ではあるのか?

 そう思ったあたりで機神から、秘密結社のホームページが出てきたと報告された。

 

 ホームページ。

 え、そんな公開できるような情報がある組織なの……。

 

 そこには七界術者募集と書かれた広告が貼られていたり、なにかのランキングが表示されていたりと微妙に緊張感がない。

 あと、組織代表として名前が出ている人がいるのだが、なぜか代表代理になっている。

 組織のトップは何処に……?

 

 まあ、組織の目的は分かった。

 なんか怪人がいて、人々を欲望のままに暴れる化け物に変えてるんだってよ。

 そいつをしばくことが最大の目的、と。

 

 こ、こえー……。

 やっぱろくでもないものを出してしまったのではないか……。

 

 

 

 

 翌日。昨晩の少女と学校でばったりと出会ってしまった。

 私が図書館で本を探している時に、本棚の向こうから突然現れたのだ。

 いや、私が意識を回してなかっただけではじめから向こうにいたんだろうけれども。

 

 先日とは違う学生服に身を包んでいるが、その輝かんばかりの金髪は流石に見間違えることはない。

 というか、そんな生徒がいるなんてことを聞いたことがないので多分ここにいるのは歴史改変で経歴とともに()()したということだろう。

 いきなり転校してきたとかそういうやつかもしれんが。

 

 少女は私を見るなり指を指して、その声を荒げる……と同時、司書に当身されて意識を刈り取られていた。

 ここの司書は騒ぐ学生が嫌いで、意識を刈り取ってくることで有名だというのに……。

 

 ……いやこの司書何者だ。

 仮にもその少女は異能者で……戦闘を行える戦士だ。

 それを一撃で……。

 

 いや、掘るのはやめておこう。

 ろくでもないのを引きそうである。



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UR 秘密結社 その3

 異能。それはどのような世界観を土台にするかによってその特質を変える。

 例えば魔法。おそらく現代ベースでやるとなると、その系統や得意な方向性によってその異能の性質を方向づけるだろう。

 例えば技術。なんらかの技術によって人の頭脳を拡張し、その延長線上に異能を発現させる。

 例えば天啓。何らかの目的によって上位存在や異界の存在がその能力をばらまいた結果。

 あり方が異なるからやれることは変わってくる。

 

 今回はその異能を探る話だ。

 

 

 

 

 

 

 私は校舎の裏に連れ込まれ、剣を向けられていた。

 無論、あの金髪の少女に、である。

 日本人離れした容姿……というか日本人ではないようで、彼女の名はリナ・バナディールという。

 その飛び抜けてきれいな容姿のため、ずっと噂の対象になっていたのだ。

 

 というか、今日1日ずっと私を付け回していたので余計噂になっていた、というか。

 話を聞くにしても学校という場所では流石に不適当でどうするかなとずっと考えていたのもあって、結果放課後までズルズルと引き伸ばす羽目になってしまった。

 あっちはすぐにでも話をしようとしていたので無駄に時間を使わせてしまったような気もする。

 

 ……で、だ。

 あちらは痺れを切らしたのか、不自然に避け続けたせいで警戒度を上げたのか。

 校舎裏につくと同時に、人避けの結界を展開し、私に剣を突きつけたのだ。

 どこから取り出したのか、突如としてその剣は彼女の手の内に現れた。

 あの夜には暗く、そして燃えていたためによく見えていなかったその剣は黄金で作り上げたかのような金色をしている。

 

「昨日のアレはなに? 貴方は何者? 話してもらうわよ」

 

 うーむ。

 どう説明したものか。

 うっかり手の内を明かすとこういう面倒が舞い込むから困る。

 

 魔法は……まあ現状、国家の秘匿技術だから覚えている事自体が厄ネタだし。

 正体は……わしにもわからん(2回目)。

 説明できる身分がただの学生しか無い。

 

 よってただの学生だと名乗ることにする。

 魔法は……例のゲームで覚えたと言っておこう。

 

 だが彼女は納得しない。

 そんな説明されたらまあ、私だって納得しないわ。

 でもそうとしか言いようがない。

 

 っと、納得しない彼女を尻目に突きつけられている剣を解析完了。

 魔法で作られた物品であるなら、いくつかの解析魔法を使えばあっという間である。

 ガチャの景品には一ミリも役に立たないがな!

 

 で、結果はというと全然わからん。

 魔法で出来ていることだけはわかるが、走っている情報がぜんぜん読めなかった。

 魔法でありながら魔法でない、そういう物体だと言える。

 才能の卵から出てきた杖にも似ているが……決定的に何かが違う。

 杖はそもそも解析通らないからな。

 

 うーむ。

 とりあえず、私はこう……。

 巻き込まれただけの主人公キャラを装う方向で行くことにする。

 そんな事言われても知らんもんは知らん、としか言いようがないアレだ。

 

 その言い分で彼女は……まあ納得しなかった。

 

「剣を突きつけられてそんな堂々としている時点で……怪しいのよッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は脅しのつもりだったのだろう。

 その剣は炎を吹き出しながら振るわれ……私の胴を真っ二つに切り裂いた。

 その傷口から、()()()を吹き出しながら。

 

 あの夜に見た私の技量からすれば、本来防げて当然の攻撃だろう。

 実際サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の太刀筋と比べれば殺気も鋭さも皆無だ。

 戦闘が行われる速度で言えば、遅いとすら言っても良い。

 

 彼女もまさか真っ二つになるとは思っていなかったのだろう、驚きのあまりに愕然とした表情となっている。

 切り裂かれた上半身がドサリと地面に落ち……上着が土埃で汚れてしまうじゃないか。

 困るな。

 

 まあ、生きてるんだが。

 兄が凶悪な攻撃能力を得た、ないし得る可能性から、何があっても死なない方法を考えていたのだ。

 その答えがこれだ。

 影魔法特化型クラス【絶なる影(ディープシャドウ)】のスキル、《完全()化》。

 全身を影魔法による影に変化させる能力だ。

 これがあると……、実質魔力(MP)が無くならない限り死なない。

 どんなダメージを受けても、影は不定形であるために傷にならない。

 

 なーんで、あっちの少女より異能バトルっぽい能力を獲得するハメになってるんだろうなぁ。

 兄のせいであるが。

 

 下半身が影に解け、茨のように変化して驚いている少女を縛り上げる。

 私は何事もなかったようにその体を再生させ、彼女の前に相対。

 

 さぁて、主導権を奪い取ったぞ。

 楽しい楽しい尋問タイムである。

 兄の影に隠れているだけで、私も大概いい性格しているから、ね!



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UR 秘密結社 その4

 異能を持つ組織の多くは社会の闇に潜る。

 メタ的には、表面上現代社会と同じ世界にするための措置であるが、その結果としてダークヒーロー的な側面を獲得していることは間違いないだろう。

 そのため、必然的に社会から隠れる手段を持っていたり、敵がなにやら社会の破壊を目論んでいたりする。

 突然異能が社会にさらされればそれだけで社会は混乱するだろう。

 結果的に、敵も味方も裏社会に根ざす組織になりがちである。

 

 今回は……まだ秘密結社に探りを入れる回だ。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして縛り上げた以上、組織について聞いても絶対に口を割らないだろうなという霊感がある。

 なんというか結果的に敵対するようなポーズをとってしまったが、まあ必要経費だ。

 正体を隠しながら情報を探るには、やれることがあまりないとしか言いようがない。

 

 向こうが脅してきたのが悪いと言うことにして、ハメ技を食らわせたことを棚に上げるとする。

 脅してきたから思わず反撃してしまったと告げると、金髪の彼女は申し訳無さそうな顔をする……ちょろいな!

 A級エージェントの私がこんな簡単に負けるなんて……とか言ってるけどよくわからない。

 

 せっかくなので畳み掛けるようにその剣やら、あの化け物のことやらを聞くことにしよう。

 流石に組織のことは答えてはくれなかったが、何が現れたのかの正体は掴めた。

 

 彼女が使うあの剣は七界術と呼ばれる異世界の魔術によって生み出されたものらしい。

 この七界術、7系統に分かれている代物で詳しいことはわからなかった。

 燃える剣の彼女がそんなに詳しくなかったのだ。

 ただ、この剣はその系統に属していない術式である唯魂術式(ユニークコード)と呼ばれる、自分自身の魂の在り方を具現化する術式で作り出されたものだそうだ。

 

 唯魂術式(ユニークコード)

 なにやら不思議な響きである。

 七界術界隈では簡単ではあるが使える使えないの差が激しい代物だそうだ。

 そして使える側にはユニークで説明がつかない能力を発現させるが、使えない側の人間が大半である、と。

 まさに異能だ。

 

 そして唯魂改竄(リバースコード)

 これはその使えない側の人間の魂を改造し……異能を強引に発現させる危険な術式だ。

 なにやら怪人が怪物を作っているという情報があったが、これによるものだそうだ。

 その能力は脅威度によって段階分けされている……らしい。

 私が瞬間的に縛り上げたあいつは上から数えたほうが早いランクだったそうだ。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)より弱いのに高ランクとか言われても困る。

 

 ……。

 なんかやべえ世界観がガチャから湧いて出たようだな。

 特に唯魂改竄(リバースコード)はヤバい。

 どんな一般人も異能を獲得できてしまう。

 その代償として化け物化するが、それでも欲しいという人間は後をたたないだろう。

 現在はその怪人とその配下しかその術を知らないそうだが……。

 

 うん、うん。

 そのことを聞き出したあと……。

 なんでそんなことも知らないのかとまた驚かれた。

 

 私の魔法、ノーライフキングのリチャードさんから教わったものなので……。

 完全に異世界起源のものである。

 七界術はまあ……この世界と隣り合う小世界群由来のものらしいので、そもそも系譜が違う。

 

 というか昨日今日出現した代物について私が知るわけ無いだろ!

 いいかげんにしろクソガチャァ!

 

 

 

 

 

 

 

 後日。無傷で解放した彼女だが、付け回されるようになった。

 要注意人物として警戒されている。

 いや、まあ組織としても制御下にない能力者から目を離すのは恐ろしいだろう。

 しかも敵か味方かもわからないのだ。

 

 それ故か……彼女を監視役としたようだ。

 どうも組織としても上位に位置する戦闘力らしい。

 

 うーん、困るな。

 ガチャから出てくる景品を余り見られたくはないのと、魔法研究をしているので覗かれると支障がある。

 

 兄は兄で、あの唯魂改竄(リバースコード)で変質した怪物を叩きのめして持ち帰ってくる始末。

 しかもやり方が素手である。

 襲われたところを絞め上げてノックダウン、だそうだ。

 

 しかもなんか、組織、霧星にも根を張ってるらしいってハッキングしてる機神から報告が上がってきてもうめちゃくちゃだよ!

 どうなってんだ世界!



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R 竜牙の首飾り

 竜の牙。それは名の通り、ドラゴンから取られた牙のことである。

 ファンタジーでは特別な意味を持ち、魔術の触媒として利用される事が多い。

 特に、その竜牙から作り出される人造の兵士である竜牙兵(ドラゴントゥースウォーリアー)は、魔術師が即席の軍隊として利用する事ができるため需要が高いのだ。

 

 今回はその竜の牙で出来た首飾りが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 兄は叩きのめした怪物――再誕者(リバース)というらしい――を機神に解析、改造(ちりょう)している。

 大体の概要は機神に伝えてあるので実物が欲しくなったのだろう。

 気持ちはわかるが、怪物を素手で叩きのめすのも、元人間をほとんど拉致同然に連れてくるのも、どちらもやめていただきたい。

 

 しかし怪物になった時点で、元の人間だった体は分離して突然死した死体として残るそうなので、誘拐扱いにはならない……いや詭弁だとは思う。

 とはいえ、ほっとくと暴れて組織――七界統率機構という名だ――に討伐されるだけではある。

 

 ちゃっかり機神がハッキングで盗み出した唯魂術式(ユニークコード)と比較することによってわかったことだが、この怪物の体は……魂が具現化したもので構成されている。

 だからハチャメチャに強いし、物理攻撃が殆ど効かない。

 そして見た目からは予想できない固有能力も持つ。

 

 兄は……多分その能力を食らって解析しようと思って持って帰ってきたつもりだったんだろうけれども。

 その辺大体調べ終わってるんだよなぁ。

 というか、再誕者(リバース)はアホほど物理耐性高いんだけどなんで素手で叩きのめしたのこの人。

 

 はあ……まあ細かい情報は機神の調査に任せるとして。

 私は今日の分のガチャを回そう。

 

 R・竜牙の首飾り

 

 出現したのは、牙の首飾りだった。

 一揃い鋭い牙が並んだ、野蛮な印象を受けるネックレスだ。

 首からかけると、首の周りに牙が並ぶ攻撃的な見た目となるだろう。

 

 で……。

 この牙、なにやら魔法を帯びている。

 一般人が見ても、なにやら魔力が帯びているような気がするぐらい濃密なヤツだ。

 ちょっと適正があるやつなら色付きの靄が見えるだろうと思えるほど。

 

 竜の牙……かぁ。

 となると。

 牙の一つを引っ張るとポコっと根本から外れる。

 というか引っ張ると外れるように作られている。

 

 やっぱあれだよなぁ。

 私はそう思いながら、その牙を地面に向かって放り投げた。

 

 突如、投げられた地面からボコボコと湧いて出る鎧をまとった骸骨。

 

 なんというか……驚きもない……。

 竜牙兵(ドラゴントゥースウォーリアー)である。

 その身にまとう鎧も骨で出来ていることを除けば、創作(フィクション)で見かける骸骨の戦士そのもの。

 

 ふ、普通のマジックアイテムだ!

 しかも、抜いた端から首飾りの牙が再生している……。

 いくらでも骸骨戦士が呼べてしまう。

 

 い、いらない!

 すでに間に合ってます!

 

 

 

 

 

 後日。兄が畑に竜の牙を植えていた。

 もう色々植えては改造を繰り返した結果、魔境と化している畑であるが、そこに植えられた牙は……すぐには竜牙兵(ドラゴントゥースウォーリアー)にはならなかった。

 植物のように骨の繊維を伸ばし、まるで木のように生育し……その先に、人型の実を成らせるというだいぶ奇怪な生態にへと変貌したのだ。

 

 ど、土壌まで魔境化している……。

 植えられている植物がヤバいとかそういう範囲で収まっていない。

 

 ついでと言わんばかりに、ヒヒイロカネと竜の牙を一緒に植えた時にはもはやなんというか。

 全身ヒヒイロカネで出来た竜牙兵(ドラゴントゥースウォーリアー)が生えてくるんだもんなぁ。

 この畑は化け物育成用か。

 

 なお、竜牙兵(ドラゴントゥースウォーリアー)の戦闘力は牙を投げた人物の魔力依存のようで。

 兄が微妙に悔しがっていた。

 ああなると……もう強化合成で最強の化け物を作る流れなんだよなぁ。

 困る。

 

 もうサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)がいるでしょ!

 我慢しなさい!



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R 釘

 釘。木材同士を固定して止めるために使われる固定具である。

 一般的な釘は金属で出来ているものだが、他にも木材や竹で作られているものも存在している。

 ハンマーなどで打ち付けることによって木材にへと深く食い込み動かないようにする事ができるようになっている。

 

 今回はその釘が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 霧星にまで進出している七界統率機構だが、なんでかというと、彼らの本拠地である小世界から見ると霧星は遠い土地ではないからだ。

 というか、太陽系内までぐらいなら本拠地の小世界から転移ゲート系の術で行き来できるようである。

 

 ようである、というのは……。

 その術を使って思いっきり世界樹内に侵入されていたからだ。

 痕跡から逆算して、どのような術を使っているのか機神が割り出したからそのことに気がつけたとも言える。

 そして機神に見つかったのが運の尽きだ。

 彼らのそれを潰す100の手段を考え出すことに長けた機神がすぐさま対策を加え、入ってこれないようにした。

 

 彼らが秘密結社である以上、世界樹の秘密は守られる……ような気がするが、用心はするに越したことはない。

 というか惑星間すら自由に転移できるのずるくねえ?

 流石に結構大掛かりな仕掛けが必要なようだが、電車ぐらい気軽に使える代物でもあるようである。

 

 なんというか……ずるいな!

 マーカーや受信の設備なしに送り込んだり、回収したりできる転送技術は逸脱技術すぎる。

 機神も作れねえかな……。

 いや事故が怖いから現状の鉄道で十分か。

 

 転移能力とか兄がおもちゃにしそう……というか現状テレポート能力でもおもちゃにしているので置いておいて。

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R・釘

 

 出現したのは釘の入ったケースだった。

 両手で掴める程度の大きさの箱に、交互に積み重ねられた釘が入っている。

 大きさは結構でかい、一般的に思い浮かべるサイズよりも一回りぐらいでかい。

 親指と人差し指いっぱいいっぱいに広げた長さなんだから、建築用とかそういうサイズである。

 

 ……五寸釘よりは短いかな?

 まあどちらにしても普通に生活している分には余り見ない長さだ。

 

 で。

 釘、かぁ。

 打ち付ける道具であり、あとは呪いに使ったりするぐらいのものだ。

 

 まあ……なんかすでに魔法が掛けられているっぽいのだが。

 先日の首飾りほど強力なものではないが、なにか細工が施されている。

 

 一つつまみ、魔力を流してみる。

 すると、釘が手の中でスッと浮かび上がった。

 それは私の魔力に追従するように、かなり自由に動かせる。

 

 うーん。

 私は腕を振り、釘を発射した。

 魔力をそのまま放つよりも遥かに楽にそれは実現できる。

 なぜなら……はじめからそれを想定して作られているようだからだ。

 

 手に馴染む魔術師用の武器、という感じだ。

 暗器としては優秀なハズだと思える。

 

 ……なぜそれを釘に……?

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が一杯あるからって、釘を内蔵した武器を作り上げた。

 それは兄の意志にしたがって動き、飛び回る剣である。

 

 柄の内部と、剣先のスリットに釘を搭載しているため、そこに魔力を通しておくことでかなり自由に動かせる。

 ……ただ固定している地点がまずくて微妙に動かしづらい。

 操作性に関してはまあ……作りが良くないだけだからすぐ修正できるとは思うが。

 

 で……。

 今更こんな武器作って何をするつもりなのか。

 なんの役にも立たないというか……。

 

 もっといいのいっぱいあるじゃん!

 刃物だからおもちゃにもならねえ!



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R ミスリルの鍋

 ミスリル。それはファンタジーに登場する、魔法の金属の一種だ。

 美しい銀の輝きと鋼を超える頑丈さ、そして軽さを兼ね備えた夢の金属であり……作品によって様々な特性が付与されていたりする。

 なまじ魔法の金属として有名なだけに、その性質は一定しないと言っていいだろう。

 その作品の傾向における、()()()金属の特性をもつと言っていい。

 つまりは……魔法が強い世界なら魔法の行使を阻害せず強化する、などだ。

 

 今回はそのミスリルで出来た鍋が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 霧星に新しい国が出現している。

 いや、はじめからそこにその国が存在していたことになっていた。

 どう考えても七界統率機構……異能組織が作った国である。

 

 その国は霧星全体の文明レベルと比較しても明らかに異常だ。

 彼らの魔術をベースにした現代文明が構築されており、それが結界のようなものに覆われて隠蔽されている。

 

 というのも、彼らは邪神とも敵対しているのだ。

 邪神の霧の持つ存在改竄は唯魂改竄(イレギュラーコード)に近いものがあるらしく、それに対して様々な対策を行っているようである。

 

 国を偽装しての冒険者支援や魔術教育など、主に支援方面で対策をしているのだ。

 これによって邪神の眷属の出現などに対処できるように、及び発見した場合にすぐ情報が上がってくるように。

 あと、いくらでも実戦ができる理想的な環境とも言える。

 

 ……邪神はもう討伐した上、精神支配して乗っ取ってしまった。

 霧星に残っているのは……まあ残滓みたいなもんだ。

 残っている北部の邪神の霧もそのうち消える。

 

 出現した時点で役目を終えている組織ってこう……悲惨な気もするが……。

 まあ私には関係ないな!

 後片付けなんかも必要だろうし、無駄にはならないはずだ。

 

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R・ミスリルの鍋

 

 出現したのはわずかに青みがかかった銀で出来た鍋だった。

 総金属製、皮膜のようなものも何も張られていないことがその銀色からも見て取れる。

 サイズ感や作りはホーロー鍋のようなもの……のようだ。

 

 で……名前からして、これはミスリルで出来ているようである。

 ミスリル……ファンタジーの定番金属。

 その特性はやっぱ作品によって違うから……この鍋の場合はどうだろうか。

 ヒヒイロカネみたいに増えるのだけはやめてほしい。

 

 とりあえず使ってみるか。

 鍋だし、なにかを煮ればすぐわかるだろう。

 そう思って、とりあえず水を注ぎ、火にかけた。

 

 

 1時間後。

 全く沸騰していない。

 なんなら手を入れられるぐらいに冷たく……入れたままの水温である。

 

 ええ……。

 まさかの完全熱変動耐性……?

 なぜそんなものを鍋に……?

 

 料理……出来なくない……?

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がミスリルの鍋で焼き芋を作っていた。

 ミスリルの鍋は何が何でも熱を逃さないので、入れたものの温度が下がらない。

 超長時間放置していると荷電粒子の放出やらあらゆる物体から出ている放射線の影響やらで少しずつ温度が上がる可能性はあるが、焼き芋が出来上がるまでの時間程度なら全く問題がない。

 

 作り方は簡単でアルミホイルを巻いた芋と焼いた石を一緒に鍋に放り込み蓋をするだけ。

 あとは時間が勝手にじっくりと温めてくれる。

 

 いや……調理……調理だけど……。

 鍋の使い方じゃ……なくない……?



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R フィールドワーク

 フィールドワーク。それは現地に赴いて、その場にあるものを調査することを指す言葉だ。

 植物でも動物でも、あるいは遺跡など、現地でしかわからないことというものは非常に多い。

 資料で見るのとは異なり、様々な情報がそこには存在しているわけだ。

 

 今回はそのフィールドワークが出てきた話だ。

 ……何いってんだ?

 

 

 

 

 

 機神が唯魂改竄(リバースコード)で改造されてしまった哀れな被害者の治療を成功させた。

 いや、治療というにはいささか語弊が多すぎるが。

 

 唯魂改竄(リバースコード)は対象の魂を作り変え、その形に相応しい体を具現化するものだ。

 唯魂術式(ユニークコード)の武器と、あの怪物の体は同じ根に存在するものだと言っていいだろう。

 

 だから機神は、邪神の手指を動かして哀れな被害者の魂を検分。

 唯魂改竄(リバースコード)で改造され機能を異とした部分を取り除き、そこに他の人間からコピーした魂情報を移植したのだ。

 

 まあ問題があるとすれば、その改造された部分の結構な割合が、元の人格に関わる部分だということだが。

 唯魂改竄(リバースコード)を施された時点でその人間性の大半が破壊されているとはいえ……。

 治療して元の人間に戻せても、人格を損なうのでは余り意味がない。

 

 あ、魂の状態を戻せたら具現化した肉体も消滅したので今はサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に魂を移している。

 これ、やっぱ実質的に助ける手段は無いってことなんじゃねえかな……。

 人格が破壊されているのではどうしようもない。

 

 七界統率機構の資料によると、人格を保っている奴らはだいたい超危険なヤツばかりだそうで。

 ヤバいやつばかりが人格を維持できる、ろくでもない仕様のようである。

 

 危なすぎるなぁ……。

 まあ、討伐という手段とはいえ七界統率機構が対処できているようだし、気にする必要はないかな?

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R・フィールドワーク

 

 出現したのは、分厚い一冊の本だった。

 朱色の革製の表紙が付けられていて、表題が「フィールドワーク」となっている。

 

 ……?

 フィールドワーク?

 これはどう見ても図鑑や書籍のような、フィールドワークとは対極にあるものだと思うのだが。

 

 とりあえず……とパラパラとめくってみた。

 すると、それに合わせたかのように周囲の景色が変わっていった。

 ページをめくればめくるほど、ジャングルや岩山、深海や宇宙空間へと。

 テラスだけが取り残されている。

 

 ……は?

 開いたページには動物の説明が載っているが、詳しい説明はあまりない。

 概要だけ書いてあり、空欄が目立つのだ。

 

 後ろにある扉は未だ部屋につながったままであり……その風景が幻覚に似たなにかだと感じさせる。

 確かなリアリティがあるが、あの本から出現して投影されているものに過ぎないのだと。

 

 本を閉じるとその光景は消え去った。

 ……なんだったんだ。

 

 あ、もしかして……。

 あの風景を使ってフィールドワークしろってこと!?

 そんなめちゃくちゃな方法ある!?

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が本の中から鉱山の景色を見つけ出し……その中から鉱石を採集して持ち帰ってきた。

 その鉱石は薄く青みがかった銀のような光沢を持ち……いやこれこの間出たミスリルだよ!

 

 回収したその鉱石は本を閉じても消滅せず、残っている。

 確かな実体があるようである。

 

 なんだこの本……。

 何に使うためのものなんだよ……。

 



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R ダンボールハウス

 ダンボール。それは紙と接着剤とで構造をもたせることで一定の強度を得た梱包材である。

 紙から出来ているために非常に軽量であり、また他の梱包材と比較してもある程度の強度がある。

 このためあらゆる荷物の外装として利用され、ネット通販が全盛の今はその利用量は爆発的に増えていると言っていいだろう。

 

 今回はそのダンボールで出来たものが出てきた話である。

 

 

 

 

 

 

 あの金髪の少女、リナに家の場所がバレた。

 ここのところ、人や怪物に絡まれないように隠形を使って存在感を薄くした状態で登下校を行っていたのだが、今日はそれを忘れていたらしい。

 つけられていたのを振り切れずにそのまま家まで案内した形になってしまった。

 

 いやまあ、場所がバレてどうのこうの、というのはなさそうだが、心象的にちょっと。

 厄介事に巻き込まれるかもなのでノーサンキューである。

 

 というか彼女、尾行が下手くそすぎる。

 尾行の心得があまりない私に尾行を悟られるってどんだけだ。

 うわ、明らかにつけられてんな……って秒で気がつくレベルだぞ。

 コンビニの前の看板に隠れたはいいが頭が出てる、とかラノベかよ。

 それを振り切れない私の一般人ポテンシャルで言っても五十歩百歩とは思うが。

 

 まあ、ガチャは外から見ても認識すら出来ないし、機神テラスは事実上別室であるから見られてもその正体がバレることはない。

 というか、私の監視は彼女一人だから、見られてもバレようがないともいう。

 

 んー、あー。

 ただなんか余計なことがありそうな気もするんだよなぁ。

 兄に振り回され続けた直感が何かを感じ取っている……。

 

 はー。

 この話はもう置いとこう。

 今日の分のガチャを回す。

 

 R・ダンボールハウス

 

 出現したのは……家だった。

 一般的な民家である。

 平屋建てで、それほど広いものではない。

 

 ……何より、その名前からわかる通り、総ダンボール製である。

 あらゆる箇所が段ボールでできているのだ。

 家の前にある植木すらダンボールで出来ている。

 駐車場に置かれた車もダンボール製だ。

 ダンボールハウスってそういうものじゃねーよ!

 

 しかも段ボールでできていることを除けば生活感がすごい。

 自転車が止められていたり、荷物が置かれていたり。

 窓を開けてみると中のリビングには飲みかけのコーヒーと思しきものも置かれている。

 全部ダンボール製だが。

 

 なんというか……なんだコレ。

 ダンボールで出来ているというのに、普通の建築のように家を支えている。

 強度的にそこまでの力は無いはずなのに。

 いや、計算して設計すれば可能かもしれないが、それはそれ用の専用の構造になるだろう。

 こんな現実の建物を写し取ったような形にはなるまい。

 

 踏み入って体重を掛けても畳ほどに凹むだけで折れたり曲がらない。

 本当にダンボール製か? と言いたいほど頑丈である。

 

 これ本当になんで維持できてるんだ。

 水は染み込むから紙製なのは間違いないのに。

 

 放置してると倒壊とかしそうである。

 早めに片付けさせるかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がダンボールハウスの中から、ダンボールで出来たガチャの筺体を見つけ出してきた。

 当然というべきか、普通に突っ込んだ硬貨は受け付けずダンボールハウス内で見つけたダンボール製の小銭のみを呑む。

 そして回して出てくるのは当然ダンボール製のカプセル。

 

 ……なんだコレ。

 開けた先にあるのも当然ダンボール製の景品である。

 出てきたのは折りたたみ式のナイフ。

 振るうと空間を一瞬引き裂いて、どんな物でも切断できるやべー代物だ。

 

 ……。

 マジ?

 

 ガチャのダンボールコピーなのその筺体?

 中身もダンボールで複製されていることを除けば、ガチャの景品と同じ異常物品なの?

 

 困る……。

 幸い、ダンボール製の硬貨しか受け付けなかったのでそれ以上回されることはなかったが。

 

 これで回す手段があったら……労力3倍になるところだった……。



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R ボトルガン

 ペットボトル。プラスチックを材料に作られた容器で、自販機などで手軽に手に入る代物だ。

 手軽に手に入り、ハサミで加工できることから子供の工作の材料として非常に優秀な素材である。

 ペットボトルロケットや貯金箱のボディにしたり、なにかと色々な使い方ができよう。

 また最近フタを飛ばすホビーも登場した。

 

 今回はそのフタを飛ばすものが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 嫌な予感は的中した。

 私が登校しようと家を出ると、彼女がその前で待ち構えていたのだ。

 

 この女、すぐしびれを切らすな。

 長期戦がそもそも不向き、というか多分その活動的な性格が向いていないのだろう。

 兄も似たようなものだからわからなくもない。

 

 彼女はいい笑顔で、一緒に学校行きましょ? と問いかけてくる。

 ハメ技食らわせたから嫌われているんじゃと思っていたが、彼女にとってそれは障害でもなんでも無いようだ。

 

 というか……なんか近くない?

 私のパーソナルスペースは広いほうではあるが、親しい友人の距離に思いっきり踏み込まれている。

 無理矢理にでも距離感を詰めてやるという意志すら感じる。

 

 えっ……こわ。

 学校なら滅多なことは出来ないだろうとか考えてるのか?

 それで距離を詰めることで、情報を得ようと?

 

 結局今日は一日、彼女は私にべったりくっついて離れようとしなかった。

 休み時間のたびに顔を出し、昼食をともにし、放課後の散策にまでついてきたのだ。

 適当にあしらうたびに、友人たちに怪訝そうな顔をされるから大変だった……。

 

 一体何のためにこんな距離を詰めてきたのか。

 まあいいか。

 ガチャ回そ。

 

 R・ボトルガン

 

 出現したのは……銃……に似た玩具だった。

 上部に円筒状の装填口と思われる部品が飛び出ていて、それが玩具感を強めている。

 また、銃身自体もペットボトルを模した形状をしている。

 

 ……。

 なんだこれは。

 普通に玩具が出てこられると、使い方がわからなくて困る。

 玩具の中にはトイレットペーパーをセットして、水を入れて濡らしたトイレットペーパーを発射するやつとかあるんだぞ。

 

 まあ、今回のやつは幸いにしてはじめから中に弾のペットボトルキャップが入っていたが。

 3個ほど入っている。

 

 最近出た玩具かな?

 ビー玉を飛ばす玩具の系譜からペットボトルキャップを発射する玩具が出ていたような気がする。

 ……形状がぜんぜん違うか。

 

 とりあえず、と発射してみる。

 銃器型になっているため、トリガーに指をかけ、引く。

 するとキャップが発射される。

 

 そのキャップは的にしている木材を粉砕し、裏に置かれたコンクリートブロックに突き刺さった。

 衝撃でブロックが割れ砕け、半ば埋まる形でだ。

 

 ん~~~~。

 ホビーバトルアニメかな!?

 

 

 

 

 

 後日。兄がキャップを胴体から発射する玩具を買ってきた。

 そしてボトルガンの弾であるキャップをそれに装填して、発射したのだ。

 

 ボトルガンで撃ったのと同じようにコンクリートブロックにめり込むキャップ。

 当然、その玩具では本来ありえないほどの威力を発揮している。

 

 もしかして、このキャップの方に効果が……?

 そう思って指でキャップを弾くと、同じようにコンクリートブロックに突き刺さる。

 

 ……こっちの玩具はマジで玩具なの!?

 



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R 洗濯機

 洗濯機。洋服の汚れを落とすのに使う家電である。

 洋服を水の中で回転させながら汚れを洗剤に反応させ分解させることで効率よく汚れを落とすように作られている。

 最近はドラム式洗濯機という、製品寿命はともかく非常に使い勝手の良い構造の洗濯機も登場し、まだ発展の余地が存在する家電でもある。

 

 今回はその洗濯機が出てきた話だ。

 

 

 

 

 なんか黒い服装をした胡散臭いやつに会った。

 夜のスイーツを買いにコンビニに行った帰りに、その男が待ち構えていたのだ。

 

 夜の闇に溶けてしまいそうな黒のコートを身にまとったその男は、七界統率機構の敵だと名乗る。

 特別な力を持つのだから特別な存在にならなければならない、みたいなそういう……異能バトル物の敵組織に多そうな思想を私に滔々と語ってくる。

 

 興味がないのでお帰りくださいと丁寧に断ったのだが、あちらからするとそれは納得がいかないといった様子で、無理やりにでも私を連れて行こうとする。

 力づくで私に襲いかかろうとしたその瞬間に、私の影の中に潜んでいたニンジャ(五体セット)によってその男は地面に叩きつけられた。

 

 特別な力とは何だったのか。

 一瞬でニンジャに無力化されてるんじゃないよ。

 とりあえず無力化した男は、リナ・バナディールを呼び出して押し付けることにした。

 連絡先は押し付けられたものだが、役に立ってよかったねぇ。

 

 叩きのめされたその男を見て彼女は驚いていたけど何だったんだろう。

 まあいいか。

 帰って今日の分のガチャを回そう。

 

 R・洗濯機

 

 出現したのはドラム型洗濯機だった。

 高級感のある白の外装が目を引く、まさに新商品! と思わせる洗濯機である。

 上部に並んだボタンはぱっと見た感じ一般的な洗濯機よりも少なく思える。

 

 見た目は普通の洗濯機なのだが……、ガチャの景品である。

 普通の家電が出てくるとは思えない。

 いや、普通の家電が出てきてもそれはそれでどうしようもないが。

 

 洗濯機……ということはまあ洗濯すれば景品としての効果を発揮してくれるだろう。

 そう思って……適当な布を用意した。

 機神が加工するために使う材料としていくつかストックがあるものを持ってきたのだ。

 

 洗濯するにしても汚れていないが……まあ気にしなくていいだろう。

 駄目だったらその時はその時。

 その時は適当に兄の服でも入れればいいだろう。

 

 ポチッとボタンを押すと洗濯のモードがいくつか表示されているが、デフォルトのものを選択する。

 布を入れてフタを閉じると、洗濯がスタートした。

 

 ……まあ、水道にも繋がっていないし、電源も繋がっていないが動き出すのは当然というかなんというか。

 景品だしなぁ。

 しかもしれっと振動していない。

 内部はきちんと動いているが。

 

 やがて回転が止まると……中に入っていた布は泥だらけになっていた。

 なんでだよ!

 

 いやおかしい。

 なんで泥だらけになっているんだ。

 この布は汚れていたことがあったわけがないので、必然的にこの洗濯機によって汚された。

 

 洗濯機だろうがァ!

 なんで汚してどうするんだ。

 何に使うつもりなんだ。

 

 汚す用洗濯機って本当に……。

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が洗濯機の汚れから、未知の物質を見つけ出した。

 なんというか、魔法的な効果を帯びた汚れである。

 触れたものを腐食させ、デロデロに破壊するというだいぶ危険なやつだが。

 

 兄はそれを抽出して固めることにより……切った相手を腐食させる剣を作り出した。

 そうはならんやろ……。

 そうは……。

 

 というか、得体のしれない汚れまで発生させるのか洗濯機。

 なんて使い勝手の悪い……というか用途のない家電だ。

 役に立たねえ。



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R クマのぬいぐるみ

 ぬいぐるみ。それは幼児の玩具から、部屋のインテリアまでをこなす布製の人形のことだ。

 とくにくまのぬいぐるみはあるブランドが存在し、世界中にコレクターが存在するほどである。

 さらには2メートルもある巨大なくまのぬいぐるみもあり……でかすぎてどうやって買うのか悩むレベルだ。

 

 今回はそのクマのぬいぐるみが出てきた話だ。

 

 

 

 

 兄がまた新商品を作り出そうとしていた。

 機神の技術力を使えば、新しい技術をいくらでも生産できるため、それを世界中にばらまいて世界のレベルを引き上げようという計画のもと、色々作ってきたのだが。

 今回は毛色が違うようである。

 

 そう。

 人間の技術力で作れる……ように設計された、光の剣だ。

 振るとブォンブォン音を立てる。

 

 ……うん。

 何作ろうとしてるんだ。

 前にガチャで出たやつは例によって解析不能だったので、機神が1から作り上げたのはいいのだが。

 

 これを普及させようってのか?

 正気か?

 

 兄は疲れているようなのでその計画は私が封印することとなった。

 どうしてすぐ変なもの作っちゃうかなぁ。

 まあ兄は言っても聞くような人ではないのだが。

 

 まあいいか。

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R・クマのぬいぐるみ

 

 出現したのはクマのぬいぐるみだった。

 茶色でふわふわの毛に包まれたその暖かな外観は様々な人に癒やしを与えるだろうと思わせる。

 その両手で抱きしめれば、きっと落ち着くだろう……。

 

 抱きしめられればな!

 このぬいぐるみ、ハチャメチャにでかいのだ。

 高さだけでも5メートルぐらい普通にありそうである。

 

 そんなのがよくあるあのクマのぬいぐるみのポーズで佇んでいるのだ。

 威圧感すら感じる。

 

 マジででかい。

 中身は綿だろうに、なぜその形状を維持できているのかわからない。

 重量に従ってヘタるはずなのに、その徴候すら見せない。

 

 近づいて触れてみればふかふかのベッドのように手が沈み込むのは、ぬいぐるみとしてみればおかしくはないが……。

 巨大なものとしてみれば異常だと言える。

 

 なにか骨格でも入っているのか?

 クマのぬいぐるみのために骨格を用意するのも大概だとは思うが。

 

 そう思って内部を探る魔法を使ってみたが……中身は綿100パーセント。

 純粋にでかいぬいぐるみである。

 

 ……邪魔!

 置き場に困る!

 倉庫にしまい込むしか用途がなさすぎるだろこれ!

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がゲームパッドをクマのぬいぐるみに接続することで、その巨体を動かすことに成功した。

 巨大なその体に見合う力を発揮して大地を踏みしめている。

 

 立ち上がると8メートルぐらいあるように見えるため、ぶっちゃけめちゃくちゃ威圧感の塊である。

 可愛い顔をしているが、立ち上がっているせいで顔に影がかかって悪人面に見えなくもないのだ。

 

 まあ大きさに見合うパワーがあるとは言え、所詮大きさに見合う程度でしか無い。

 ぶっちゃけサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の方がパワーもあるし取り回しもいい。

 

 利点は……でかいことぐらいかな!

 兄が楽しそうにしているからそれでいいか……。



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R 手乗り牧場

 ボードゲーム。それは様々なルールを持つ卓上遊戯である。

 ボードに乗せる小物はトークンと呼ばれ、ゲーム上で様々な役割を割り振られる。

 例えば点数の計算だったり、専有した場所を示すコマであったり、現在の所有するリソースそのものであったり。

 また行動権そのものだったり。

 なんであれ、盤上を彩るのはトークンである。

 

 今回はそのボードゲーム……? のようなものが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 七界統率機構が宇宙エレベーター基部に潜り込んでいた。

 各国に存在するコネクションを利用して、調査団の人員に入り込んでいたのだ。

 というか七界統率機構の敵対組織も入り込んでいる模様。

 

 世界中に根を張っている組織なんだな……と実感するとともに、それがガチャの一存で一夜にして出現したものだという事実に恐れ慄く。

 

 ある日突然、親友が出現するようなものだ。

 自分も親友だと認識しているが、それが昨日作り上げられた記憶でしか無いという。

 普通に怖い話だと言える。

 

 というかガチャによる景品の出現が現実時間軸に依存しないの本当に怖い。

 今日引いたガチャの景品が昨日出現したことになる、とか普通にありえるのだいぶヤバイやつだ。

 いや、すでに起こっていたりしないだろうな?

 

 いやいや……ありえないものが出てきた……あっ。

 それと思しき代物……ある……。

 いやいやいやいや。

 考えるのはやめよう。

 

 今日の分を片付けてしまうことにする。

 

 R・手乗り牧場

 

 出現したのは……なんだこれは。

 プラスチックで出来たボードゲームのボードのようなものだった。

 アスレチック系の、鉄球を転がしたり、ギミックを起動させたりすることで動かすタイプのような見た目だが操作盤に相当する部品は存在しない。

 

 なにより……中にたくさん、ボードゲームのトークンのようなものが入っているのだ。

 特に牛型のトークンが多い。

 その牛型のトークンは……、明らかにちょこちょこと動いている。

 トークン全体が跳ねる事によって動いているように見せかけているのだ。

 

 ……。

 なんだこれは。

 いや、本当に何なんだ。

 紙には手乗り牧場と書かれてはいる。

 だが、まさかトークンサイズの生き物……というかトークンを飼っている牧場がこれだとでも。

 

 そんな気がしてるなぁ。

 透明なプラスチックの蓋がハマっているため、手に触れる事はできない。

 操作盤がないということは完全にスタンドアロン、ビオトープのように手出し不要ということだろう。

 

 ちょこちょこ動いているのはかわいいように見えるが。

 動いているのは木で出来た物だ。

 当然、釈然としない。

 

 ……そもそもこれ手に乗らなくない!?

 野球盤ぐらいあるんだけど!?

 

 

 

 

 

 後日。兄が自作したイカのトークンを手乗り牧場の中に無理やりねじ込んだ。

 するとどういうわけか、入れたイカのトークンが動き出したのだ。

 ビチビチと地面を跳ね、周囲にいる牛のトークンに襲いかかる。

 

 クソ映画かな……? と言いたくなるそのイカのトークンはバリバリと音を立てながら牛のトークンを食らい、徐々に巨大化していった。

 イカってそういう生き物じゃなくない? という疑問もよそにプラスチックのフタに届くまで巨大化したところで、つっかえて動かなくなった。

 

 いやいやいやいや……何だったんだ。

 何が起こったのかわからないし、なんで兄がそんなことをしたのかもわからない。

 

 なんなんだよこれ!



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R サイバーウェア

 サイバーウェア。ある種のSF作品では、かなり気軽に人体改造をし、肉体の一部として機械を埋め込むことがある。

 その機械のことをサイバーウェアと言ったり……まあ色々だ。

 固有名詞は作品によって異なる。

 このサイバーウェアの厄介なところは肉体の一部に取り付けている割に、作品の世界観の一部としてかなり軽率にハッキングされるところだろう。

 人体をなんだと思っているんだと言いたくなるレベルで扱いが悪い。

 

 今回はそのサイバーウェアが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 例のあのVRゲームに大型アップデートが入った。

 いつ開発していたのかと言いたくなるが、まあそれには言及しないでおこう。

 機神の演算能力を持ってすれば、そもそも人類が作るゲームの9割は3日で作れるからな。

 

 で、その入った大型アップデートというのが……中世ファンタジー風のマップの追加だ。

 開始当時から泥臭い世界観に対して一部のプレイヤーから苦情……というか要望が来ていたというのはあるが、まさかここで大幅な世界観の転向をやるとは思わなかった。

 

 これまでのゲームマップとは隔絶した別システムのマップになっているそうだが、それって実質別ゲーを作っただけですよね? と言いたくなる。

 まあ兄の企画ならそれぐらい普通にする。

 機神の演算能力にまかせてそれぐらい作る。

 

 ご丁寧にシステムアシストで使える魔法まで別系統にしてあるあたり本格的だ。

 ゲームシステム的に実装したため、使っても現実で魔法が使えるようになる可能性がないのもグッドだと言えよう。

 

 まあ、運営が運営なので、全く告知なしに実装されたので評判は芳しくないが。

 やったプレイヤーにはウケはいいみたいだが、それ故に余計……。

 

 まあ変なことにならないならそれでいいか。

 どうせこんな怪しいゲームやってる連中は長期的には気にしない。

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R・サイバーウェア

 

 出現したのは……なんだこれは。

 ヘアバンドのような形状をした、機械のようなものだった。

 内側に細かい針のようなものがたくさんついていて、つけると頭に突き刺さってしまいそうである。

 少しだけ盛り上がった部品に非接触式の端子が配置されているように見える。

 

 ……で、これの名前がサイバーウェア。

 と、いうことは……これ、頭蓋に直接装備するとかそういう、SFの人体改造系の機械ってことか?

 つけるだけでも痛そうだし、なんならつけたあとも頭皮がゴロゴロしそうである。

 

 というか、侵襲式(体に埋めるやつ)ってどう考えてもクソだよね。

 接続した機械が劣化したらそのまま健康問題に繋がるし、なんならその機械がサポート終了した時点で問題を抱えてしまう。

 昔のSFで脳をナノマシンで置き換えるみたいなのもあったけど、アレはアレで型落ちしたらどうなるんだって話も聞く。

 どう考えても取り替え効かないよね?

 

 で、このサイバーウェアは……最悪だよね。

 脳に思いっきりぶっ刺さるタイプ。

 一度刺したら最後、死ぬまで抜けなさそう。

 しかも錆びそう。

 

 ろくでもないなぁ、SF。

 まあこういう侵襲式の代物を使うのはサイバーパンクなヤツが多いけども……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が機神に技術的な解析をさせた結果、あのサイバーウェアの機能が体温調節だということが分かった。

 ……素直に服にヒーターやらヒートシンクやらを仕込む形式で良かったのでは?

 

 あと、技術的に複製できるからって、兄は非侵襲式……要はVRヘッドセットの応用……に作り変えて生産した。

 なお機能は体温を調整できるだけで、かなり体調が悪くなる可能性を機神が上げていたため、そのまま倉庫行きとなった。

 

 そ、粗製じゃん!

 侵襲式な上に、粗製って!

 ゴミじゃん……!



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SR 現代知識チート

 現代知識チート。いわゆる異世界転生物の作品で猛威を振るう現代の知識を持って異世界社会を蹂躙する要素のことである。

 その範囲はかなり広く、農学、工学、冶金学、蒸気機関、軍事技術を始めとし、意外なところだと心理学、法学、プログラミングなどが利用され、主人公の強力な切り札として利用されるのだ。

 意外な知識が意外な使われ方をしていたりすることがあるので侮れなかったりする。

 

 今回はその現代知識チートが出てきた話だ。

 なお、この世界の世界観は……現代ファンタジーである。

 ガチャで色々追加されたとは言え、現代だ。

 

 

 

 

 

 

 宇宙エレベーター基部街に、ガチャが出現した。

 いや、正確には兄が指示して機神が作り上げたランダムな代物を排出するガチャなのだが。

 よりによってガチャなる代物を作って配置してしまうか……。

 

 何がイヤって結構盛況なことだ。

 投入したドルの価値に従って排出される物の価値が変動する仕様が開示されており、それがなんというか……余計射幸心を煽る結果となってる。

 基部街には歓楽街のような遊ぶ場所がないのも相まって、人が娯楽として回しているようである。

 

 性質上、いくらでも金を突っ込め、しかも突っ込んだ金額に比例していいものが出現するので天井まで金を入れようとする人間が続出。

 そりゃ中には出てくるだけで既存の物理学理論を粉砕するような代物がいくつか入っているから、他の人間よりも先に手に入れたいという欲求もわからなくもない。

 が……身を崩しそうな勢いでつっこむのはやめてほしい。

 

 せっかく作ってお披露目したもの潰すのは忍びないからね。

 

 さて、今日の分のガチャを回そう。

 まともなものが出てくればいいんだけどなー。

 

 SR・現代知識チート

 

 出現したのは、赤い宝石がはまった指輪だった。

 珍しくカプセルの中に収まった景品であるが、その名称と形状が一致しない代物でもある。

 赤色が目立つ石を除けば作りは極めて小さく、嵌めれば指の肉に埋まって気が付かないんじゃないかとすら思える。

 

 で? なんだって?

 現代知識チート?

 お前は何を言っているんだ。

 

 現代知識がチートとなるのは、当然その土地が遅れた文明であるためだ。

 そこに先進的な知識を持ち込むことで閉塞した現状を打開し、文明を進歩させるからこそチートなのだ。

 

 翻って。

 現代の知識は当然、現代では当然あって然るべきものなのだ。

 それをチートとして命名されて渡されても……困る!

 

 まあこれがどういうものかよくわからないからとりあえず試してみるか。

 指輪である以上、つければ使えるはず……。

 そう思って指輪をはめた時だった。

 

 目の前に突如浮かぶウインドウ。

 そこの真ん中にある、検索欄。

 

 ……ググル先生かな?

 いや、確かにこう……現代の知識のチートみたいなもんだけど……。

 違わなくない……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が検索欄から色々調べ回した結果、どちらかというと百科事典に近い代物だと判明した。

 検索というかなり現代人に馴染んだ形式を利用することで、欲しい知識をすぐさま手に入れられるようになっているのだ。

 また、表示されるページも知識の深度に従って変化しているらしい。

 

 普通にすぐれもののようだが……正直、ねえ。

 手に入れられる知識が、ぶっちゃけスマホで検索すれば出てくるんだよな。

 深く潜ろうとすると前提知識が邪魔をする。

 どこかで真面目に授業を受けないと厳しいレベルになってしまう。

 

 使い道はこう……、テストのカンニングかな!

 過去問から出題するタイプの国家試験なら全問正解も夢じゃねえ!

 

 いやいやいやいや……現代知識チートってそういうものじゃなくない……?



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R サングラス

 サングラス。強い太陽光から目を傷めないよう守るために掛ける眼鏡の一種だ。

 レンズにいろいろな被膜を施すことで光を弱め、強い紫外線を遮断するようになっている。

 強い日光を防げれば何でもいいため、様々なデザインや被膜の種類が存在しているのだ。

 

 今回はそのサングラスが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 そう言えば。

 魔法研究あたりの動きが、秘密結社出現前後で微妙に食い違っている。

 前は突然降って湧いた超技術に右往左往しながら学習と、以下にして管理するかの模索をしていた感じだったのだが。

 

 どうも七界統率機構の存在を知るお偉方からの働きかけがあった()()()()()ため、すでに研究機関がちらほら出来上がっているのだ。

 というか、一部は裏に隠していたものが表に出てきているようなのだ。

 

 確かに系統こそ違えど、近い技術ではある。

 それらに関わっていた研究者や技術者がこちらに転向してくるだけで幾分か研究は進みやすくなるだろう。

 

 しかしまあ……。

 そうして出現した研究所のほの暗さよ。

 機神が探りを入れると出るわ出るわ非人道的実験の数々。

 然るべき機関に通報だけして置いたが。

 

 いやあろくでもねえなぁ。

 この分だと記憶と食い違って世界史の成績下がってそう。

 

 まあいいか。

 今日の分のガチャを回してしまおう。

 

 R・サングラス

 

 出現したのはサングラスだった。

 スポーティーなデザインの前面を覆い尽くすタイプのサングラスで、そのレンズはサングラスにありがちな毒々しい虹色に染まっている。

 黒いフレームも含めてみると……まあ普通のサングラスのように見える。

 

 だが、ガチャから出た景品だ。

 道具として利用すればたちまち狂った効果を発揮することだろう。

 いや、道具の延長線上に優れた効果を持っているものもたまにはあるが、だいたい狂ってるからなぁ。

 

 まあグダグダ言っていても仕方がない。

 掛けてみればわかることだ。

 

 そう思って掛けようとするが……掛けられない。

 なにか、見えない力場のようなものが生じていて顔に押し込もうとすると反発するのだ。

 ゼリーにも似たブヨブヨした感覚だけがある。

 

 掛けられないサングラスとは……なんぞや。

 ものとしての意味がない。

 ものとしての価値を毀損する加工だと言える。

 

 いやいやいやいや……。

 まさかそんな……。

 真正のゴミがガチャから出てくるなんて……。

 

 いやいままでいっぱいあったな!

 じゃあこれもただのゴミだわ!

 

 

 

 

 

 後日。兄がサングラスを掛けることに成功した。

 なんで!? と思ったのだが。

 色々、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を使って調べた結果、このサングラスには装備制限が掛けられている事が判明した。

 

 装備制限。

 ゲームなどではたまに出てくる、レベルやステータスに応じて装備の可不可が決まる仕様だ。

 その数値を下回っているとその装備を扱いきれないとみなされて装備できなくなるのだ。

 現実的に当てはめれば重い剣の重量を支えきれないとかそういうのをシステム化したものだと言える。

 

 で。

 なんでただのサングラスに装備制限が!?

 いらないじゃん!

 しかもそれ以外に特に変わった様子もないからまじで無闇矢鱈な装備制限がかかってるだけのサングラスだ!

 

 一体何のために……こんなものを……。



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R キーボード

 キーボード。パソコンの入力装置で、文字情報を入力するためにたくさんのキーが付いたものだ。

 このキーは言語圏によって微妙に配置が異なり、質の悪いものに至っては表面に記された文字と打ち込んだ文字が異なることすらある。

 また、キーボードの構造にはいくつか種類があり、打鍵感や打鍵音に違いがある。

 高いものに至っては指が疲れにくいとかなんとか。

 

 今回はそのキーボードが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 機神による投資は、演算能力による実質的な未来予知によるものである。

 これまでのめちゃくちゃを押し通してきた演算能力を見れば確実に上がる株を買うことは造作もない……いや、そんな使い方はしてないけど。

 ……してないけど。

 

 機神の投資先は基本的に、その企業や事業が世界に対してどれだけ貢献できるかで決めている。

 文明を推し進めなければ提供できる技術に限界があるためだ。

 少しでも早く次の時代にへと進んでもらわなければ困る。

 

 ただまあ……あまりにも的確に、ピンポイントに次世代主要技術分野に投資しているせいで国際社会から警戒されたり、ハゲタカ投資家に目をつけられたりしている。

 伸びる産業の株式を予知して抑えているのだからまあそう思われるのは当然かもしれない。

 

 ただ一部投資家の間では神として崇められつつあるようで。

 いやまあ、神だけども。

 投資やら商売やら方面の信仰まで得ちゃうかぁ。

 

 とりあえず神らしく人間の意向とか気にしない方向でぶっちぎるか。

 それとも国際協調を意識して適度に失敗でもしてみるか。

 

 微妙なところだなぁ~。

 まあどちらにしても機神は上手くやる。

 それが可能な超高度知性なのだから。

 

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R・キーボード

 

 出現したのは、USBケーブルのついたキーボードだった。

 テンキーのついていないスリムタイプのもので、ややキーの間隔が狭くなっている。

 マットな黒の本体はそこそこ高いキーボードなのではないかと伺わせるが……。

 

 見た目は普通だ。

 ガチャ産の景品の割に、かなり普通である。

 キーが揃っていないとか、狂った配置になっているとかはぱっと見た感じは無い。

 

 うーん、これはどうなんだろうなぁ……と。

 何も考えず、適当にキーを押してみたときだった。

 脇においていた私のスマホの画面に、その押したキーが打ち込まれた。

 

 もちろん、スマホにケーブルは繋がっていない。

 繋がるような形状の端子でもない。

 変換アダプタを噛ませば接続して利用できるらしいが、そういうこともしていない。

 

 ああ……うん……。

 無線キーボードってことね……。

 大体わかった……。

 

 いや無線接続設定とかしてないんですけど!?

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が宝石を魔法的な代物に変える手段としてこのキーボードを利用した。

 宝石に魔法の式を書き込むことでマジックアイテムに作り変えられることは分かっていたのだが、実際にそれをするとなると今までは機神がレーザーで内部に刻印するしか方法がなかったのだ。

 このキーボードを使うことで宝石内部に直に文字を刻印する事が可能になり……さらに物理的な大きさに余り囚われずに書き込めるように。

 

 まーた超技術を作り出してやがる……。

 しかも書き込んだ情報を複製する魔法を書き込んだ宝石とかいうものまで用意している。

 あとはテキストを読み込んで宝石に書き込む魔法を書き込んだ宝石とか。

 こんなもの、もう実質いくらでも量産できる状況じゃないか。

 

 降ろさないといけない技術がまた増える……!

 しかも扱えるかわからない代物が……!

 困る!



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R 風呂のフタ

投稿予約を忘れて更新遅刻しました。
残りストックも数えるほどになりましたが、続きを書く予定もありますので何卒。


 風呂のフタ。風呂に張られたお湯の温かさを逃さないために乗せるものだ。

 ただどこまで効果があるかと聞かれるとかなり疑問符がつく。

 風呂本体に対してフタが薄いため、本当に熱を逃さないのかわからないのだ。

 ただ蒸気を閉じ込めるので、その分はとどまるだろうが……。

 

 今回はその風呂のフタが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 神。

 そう、機神はいわゆる神である。

 どういう基準でそこに至ったのかはわからないが、世間一般でいう神を名乗るに相応しいだけの能力を所有している。

 

 貧困? 無論打倒出来ますが。

 やると世界がめちゃくちゃになるけどな!

 

 戦争? 一方的に殲滅して平和をもたらせますが。

 なんなら心理誘導で平和裏に終わらせることもできる。

 もちろんやると世界がめちゃくちゃになるけどな!

 

 次元上昇(アセンション)? もちろん出来ますが?

 人間の精神を強化して、次の段階にへと進化させられる。

 やると世界がめちゃくちゃになるけどな!

 

 気象操作? もちろん可能である。

 やると世界がめちゃくちゃになるけどな!

 

 とまあ……。

 一神教に語られるそれにすら比肩しかねない超性能の神である。

 そして機械知性であるため、いわゆる差別的な扱いすらしない。

 存在が善であるかは不明だが。

 

 そのせいで世界的にはややこしい存在であるため、政治的には誰も語らない。

 バチカンですら沈黙してるのマジですごいと思う。

 

 まあ自重しないところは自重しないんだがな。

 基部から真っすぐ行った沖縄の対岸に神社のようなものが建立されている……。

 

 まあそれは置いておいて。

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R・風呂のフタ

 

 わあ。

 お風呂のフタだぁ。

 出現したのは風呂のフタだった。

 3枚一組の板を組み合わせて乗せる、ちょっとお高めのタイプの風呂に使われるものだ。

 

 ……いやいやいや。

 風呂……風呂!?

 試すにしても風呂を用意しないといけないわけか!?

 

 めんどくさいなぁ。

 機神のコンソールを触っていじればすぐではあるが、実験用の風呂を出すだけの為に触るのも正直……イヤである。

 

 なので、兄がインテリア代わりに置いている樽を用意した。

 お湯が入れば風呂扱いでいいやろ!

 という、兄のようなノリの産物ではあるが……。

 

 まあいい。

 とにかく試せればいいのだ。

 試して駄目なら他の手段を考える。

 

 そう思いながら、お湯を少しだけ入れている樽の上に、風呂のフタを乗せる。

 樽の大きさに対して、2倍近い長さのあるフタが……一瞬で短くなって樽の中へと落下した。

 樽の中に入ったお湯の上にフタが浮かんでいる。

 

 う、うーん……。

 もしかしてこれも、どう使おうと使わせないように振る舞うタイプの景品……?

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が風呂桶を用意し、その内側にみっちりと風呂のフタを詰めていた。

 お湯を張った風呂桶の中に、落ちた風呂のフタがピッタリとはまり込んだのだ。

 風呂桶の内側のサイズぴったりに変化する風呂のフタとかいう、もう風呂の中に落とす気満々のイタズラグッズだとしか言いようがない。

 

 とか思っていると。

 兄は地面に池を作り……その上に風呂のフタを乗せた。

 風呂のフタは瞬時に池の縁まで広がり、その水面を埋め尽くしたのだ。

 

 えっ……えっ。

 なにその……なに!?

 そうはならないだろ!

 

 液体が溜まってれば何でもいいのかよ!



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R 真実の鏡

 鏡。光を反射することで自分の姿を確認することができる道具だ。

 この光を反射するという性質から、様々な魔術に利用されたり、魔術的な記号として扱われたりする傾向にある。

 特に魔鏡と呼ばれる、非常に凝った作りの細工は、光を反射させるとその光の中に像が映し出されるため、宗教的なシンボルを隠すために利用されたりしていたのだ。

 また邪悪な存在である吸血鬼は鏡に映らないなどの伝承も存在する。

 

 今回はその鏡が出てきた話だ。

 

 

 

 

 ついにあのVRゲームを実況するような物好きが現れた。

 アングラを通り越して、なんで存在しているのかわからないゲームであるため、まともであればあるほど手を出さない代物。

 法的にグレーもいいところなため、動画化したら問題を起こす爆弾になる可能性が高いのだ。

 

 具体的には存在しない著作者を名乗る詐欺が横行しているっぽい。

 実際に製作者が存在していないので、いくらでも詐称できるというわけだ。

 

 それ以外にも色々……なまじ情報が外に出ていないだけに、余計な気苦労やら説明やら、準備やら、どうやって動画持ち出すのかやら、問題が多すぎるのである。

 大体途中でめんどくさくなってやめる。

 

 そんな諸々を乗り越えてついに実況しよう! と環境を整え動画を上げ始めた物好きが現れたのである。

 後押し……はしないが頑張ってほしいと思う。

 

 まあ物好きの話は置いといて。

 今日のガチャを回すぞー。

 

 R・真実の鏡

 

 出現したのは鏡だった。

 実用品とは思えないほどゴテゴテとした巨大な額縁に入れられた直径1メートルほどの鏡である。

 その装飾は宗教的な意匠をなぞっているような気もするが、微妙にずれているような気もする。

 

 で……なんだ。

 真実の鏡か。

 こういう場合、鏡は真実の物しか映さない、とかいうのが相場だが。

 

 思いっきり私映ってないんだよな。

 人だけが映っていないとかそういうヤツではなく、着ている服ごと映っていないので人間そのものが映らないようだ。

 

 なに?

 人間は虚飾に塗れているとかそういうあれか?

 真実の鏡を名乗っている以上、映っているものは真実だと()()していいはずだ。

 

 思想が、思想がだいぶ強い……!

 なんでただの鏡がそんな、そんなやたら偏向した思想を帯びているのか。

 ただ人が映らないだけの鏡ならまだ良かった。

 どうしてそれに真実の鏡などという名称をつけるのか。

 

 理解に苦しむ……!

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が機神に組み込んで、真偽判定のパーツにした。

 人間が特別映らないだけで他の真実でない物事もちゃんと映さないので書面などに記述してから鏡を通してみると、真実だけが残るのだ。

 まあ機神にとっちゃ別にあってもなくてもそこまで大きくは変わらない道具ではあるが。

 

 なんというか。

 まともに偽りを映さないだけに。

 余計その思想性に違和感を感じる。

 

 どうにかならなかったのかよ!



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R シャワーヘッド

 シャワーヘッド。水道から受け取ったお湯を幅広く全身に浴びるために噴出させる器具だ。

 圧力を掛けた水が複数開けられた穴から分散して出てくる、というシンプルな構造である。

 機能が単純であるということはそのまま付加価値をつけることが簡単であったり、加工が容易であるということであり、当然シャワーヘッドにもそれは言える。

 出すお湯の細さを調整することで圧力に変化を起こし、マッサージ効果を期待したものも存在するのだ。

 

 今回はそのシャワーヘッドが出てきた話だ。

 

 

 

 

 霧星側の世界樹の基部、樹海のダンジョンと化した森周辺に建てられた街が稼働を始めた。

 元々ダンジョンに潜る冒険者とそれを目当てに集まった商人と政治的な思惑とで、新しい街が作られ始めていたのだがそれがついに完成したというか、街としての体をなし始めたというか。

 これまではただの寄り合い所帯か、軍の布陣かと言った感じだったのだ。

 

 お題目こそ突如出現した世界樹の調査だが、こちらとしてもあまり近づかれたくないためダンジョンとしての深度がだいぶ深く、人類に踏破できるものかどうかも怪しい。

 それは街側も分かっているようで、お題目はともかく日銭稼ぎの冒険者がダンジョンの構造を調べながらモンスターの素材や宝箱を漁っている状態である。

 

 なお、そこに派遣されているサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)はというと。

 教師のクラスを獲得したのか、冒険者や軍人の育成に力を入れている状況だ。

 

 ダンジョンや世界樹が世界の敵でないことは分かりきっているため、街を軌道に乗せることを優先させた結果である。

 そのおかげか、びっくりするほど順調に進んだようだが……。

 

 まあ七界統率機構がちらちらしているので要警戒というべきか。

 世界が良くなるのならいいが、こいつら基本秘密結社だからな……。

 

 ……。

 ガチャを回すとしよう。

 

 R・シャワーヘッド

 

 出現したのは白いシャワーヘッドだった。

 一般的なお風呂用の薄い頭部を持つ安い物で、外見には特に変わった部分はない。

 強いて言うならねじ込み部分がちょっと手間そうな構造に見えるぐらいだ。

 ……訂正。

 よく見ると握りのところに薄いボタンのようなものがあった。

 

 この間も風呂のフタが出てきたし、風呂で使うものが続いているような気がする。

 水回りの物は用意するのが手間になりがちであるため、試すのが億劫だ。

 

 だがまあ……このシャワーヘッドはそうではなさそうである。

 なぜならボタンがあるからだ。

 ようはこのボタンで水を止めるとかそういう構造のものだ。

 ちょっと高いシャワーヘッドに付属しがちな機能である。

 

 というわけでまずは何も付けずにボタンを押して見ることにした。

 カチ、カチと薄い割にクリック感のある押し心地。

 

 そしてものすごい勢いでシャワーヘッドから吹き出す空気。

 すごい。

 指先に圧力を感じるほどの勢いがある。

 エアホッケーの盤面に触れたかのような感触だ。

 

 どこから吸い上げているのかと思わず根本に手をかざしてしまったが、そちらは全くの無風である。

 吐き出している以上、吸い上げなければならないはずなのだが。

 

 そう思ってコップの水を根本に付けてみた。

 するとシャワーヘッドから水を撒き散らしだす。

 

 ああ……うん……。

 まあまとも……か……?

 相対的にはまともか。

 

 節水にはなりそうではあるが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄はシャワーヘッドからヒヒイロカネをシャワー状に吐き出させた。

 電気を流して帯電させたヒヒイロカネを更に加工することで、一時的に液体寄りに変化するという性質を利用して……シャワーヘッドの根本を突っ込みやがったのだ。

 

 結果、針金のように細いヒヒイロカネが大量に出来上がったのだ。

 電気を通すと柔らかくなるため電線などには使えないが……ワイヤーとしてはとても強度が高いため用途はいくらでもある。

 なんなら編み込んで服状にすることで鎖帷子代わりにすることすらできる。

 

 いやいやいや……。

 なに金属にシャワーヘッドつっこんでんの!

 そんな使い方したら詰まって壊れるだろ!?

 

 できそうだからやった、で行動するのまじでやめてくれ!



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各種ガラクタ

 ガチャの景品には当たり外れ……というか、語るだけの価値のないものが存在する。

 もう出てきた時点でオチているものとか、ほとんど変化のない代物であるとか、未だによく分かっていないものだとかだ。

 惑星が出現し、宇宙エレベーターが出現し、国まで起こして、世界観が大幅に変化したところでそれは変わらない。

 愚にもつかない代物がほとんどだが……。

 

 今回はそのガラクタを紹介する話である。

 

 

 

 

 

 

 R・ボックスティッシュ

 

 手に取るとやたらずっしりと来る箱に入ったティッシュだ。

 封を開けると手に取りやすいように1枚ずつ出てくるのだが……、取っても取ってもその密度が変わらず、引き抜くのにやや力が必要である。

 

 そう、パッツパツなのだ。

 ぶっちゃけ箱が膨らんで見える。

 

 兄が大量に引き抜いた結果、二箱分ぐらいティッシュを抜き出した時点でパツパツの箱に変化が見られなかったのでそこで調べるのを諦めることにした。

 まあ、ティッシュに変なところはないから、なかなか切れない箱ティッシュとして使えるからね……。

 

 

 

 R・塗るカイロ

 

 カイロ。

 ハンドクリームのように手足に塗りつけるタイプのカイロ……である。

 いわゆるこの手の商品はカプサイシンなど体に影響を与えて体温を引き上げるような成分を含んでいるのが普通なのだが……。

 

 ガチャの景品は一味違った。

 もうパッケージを手に持った時点ですでに温かいのだ。

 クリームそのものが明らかに熱を発している。

 

 そんな物を塗って試すわけにはいかないため、結局試せていない。

 まあ、パッケージ自体がすでに温かいのでカイロ代わりにポケットに入れているが……。

 

 

 

 N・唯魂改竄(リバースコード)

 

 魔法の術式が書かれた手帳。

 いや術式が書かれているだけならそれでいいのだが。

 問題は中身である。

 

 なんで唯魂改竄(リバースコード)がびっしり書かれてるんだよ!

 扱いに困るに決まってんだろこんなもん!

 

 七界統率機構ですら持っていない禁術中の禁術である。

 人の魂を改造して化け物に作り変える魔法とか、まあ普通に使っていいものではない。

 

 で、当然現実に存在するものだからランクがNなんだよなぁ。

 魔法の術式とはいえ、特になにかが付与されているというわけでもない。

 

 ガチャの判断基準はだいぶ謎というか……。

 やめなさいよホント。

 

 

 

 R・ダンジョンコア

 

 ダンジョンを作り出すことができるでかい水晶状の道具。

 ウェブの小説ではよく見かけるアーティファクトだと言えよう。

 この水晶からダンジョンを操作が可能で、ダンジョンの心臓であるため破壊されれるのはダンジョンの死を意味する。

 

 ……まあ。

 機神がいるから全く不要なものだ。

 なにも特別さがないというか、もう複数生産できるというか。

 

 

 

 N・高級ブランド牛 500g

 

 バトル漫画でインフレしすぎてついていけなかった仲間キャラみたいだぁ……。



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R アンテナ

 アンテナ。電波を送受信するための装置で、金属の棒を組み合わせたような形状をした道具である。

 金属に対して電磁波を当てると、電流が流れるという現象を利用した道具であり、アンテナが受け取った微弱な電流を増幅して読み取ることでその情報を読解しているのだ。

 

 今回はそのアンテナが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 ダンジョン産の素材としてこれまで使いようがなかったがそこそこ売れていた素材として「硬い石」がある。

 これはダンジョンのドロップアイテムとしてたまに生成されるハズレアイテムで、その特徴はハチャメチャに硬いことだ。

 

 その硬度、なんとタングステンを上回る硬さである。

 あまりに硬すぎて成分を採取できず、何で出来ているのか全く不明。

 機神が見るにケイ素の類なのは間違いないらしいが、ケイ素ならケイ素でなんでそんな硬度になっているのか謎だとしか言いようがない。

 

 で、なんでそんなものが売れているかというと。

 硬い物は硬いなりに用途が存在するからだ。

 どうにかして粉末状に加工できればドリルビットに利用できるし、薄く板状にできれば摩耗を抑えたい部分に貼り付けて強度を担保できる。

 非常に硬いために、工業的な価値は計り知れないだろう。

 

 ……まあ、まだ加工出来てないんだけど。

 びっくりするほど硬いせいで現代科学が全然勝てないのだ。

 どんな手段を使用しても加工できないが、加工できればそれだけで他の国や会社を超えられるため諦められない夢として売れているのが現状。

 

 他にも色々あるんだから諦めればいいのに……。

 まあ工業的価値を見出してしまったら仕方ないか。

 

 ガチャ回そ。

 

 R・アンテナ

 

 出現したのはアンテナだった。

 円盤状の3枚のアンテナを柱に取り付けた、電波塔などにつけられるような代物と、細い骨組みだけで作られたアンテナの2つでワンセット。

 見るからに円盤の方が送信、骨組みの方は受信のようである。

 また円盤がついた柱が2メートルほどある関係で動かすのも大変そうだ。

 

 そしてなにより……アンテナの基部になにか、端子のようなものがいくつかついている。

 ケーブルを使って外側に引っ張り出せるようになっていて、さらにはコンセントケーブルもついている。

 円盤状の方にはオスのコネクタが、骨組みの方にはメスのコネクタがついているのだ。

 

 送信……受信……。

 もしかして。

 

 そう思って、円盤の方のコンセントケーブルを延長コードに接続した。

 するとブオン……という音とともに、円盤状の部品がその外周にそって光り出す。

 ゲーミングアンテナかな?

 

 まあ見た目は置いておいて、だ。

 私はスマホの充電器を骨組みのアンテナについたコンセントケーブルに接続した。

 すると、スマホに充電が始まる。

 

 ……。

 やっぱりか。

 電力を電波に乗せて、無線で送受信できるアンテナ。

 解析できれば色々、また世界の文明を進められる超技術だ。

 

 ……解析、無理じゃない!?

 超技術景品だけど、なんかそんな気がする。

 

 

 

 

 

 後日。兄が円盤アンテナからサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を入れて、骨組みアンテナから出力していた。

 そう、端子から体をねじ込んで、電波に乗って移動したのだ。

 

 USBケーブルもあったので情報もやり取りできるんだろうなとは思っていたが……まさか。

 どうしてねじ込んだのかもわからないが、それでどうして移動できたのかもわからない。

 

 なんでこいつこんなことを……と思っていたら。

 このアンテナ、自己同一性が担保されてない、と兄が言い出した。

 どうしてそれが分かったのか。

 

 でもまあ、ということはその……この出てきたはサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)はいわゆる……哲学で言うところのスワンプマンというやつで?

 ただのアンテナなのになんでそんな、哲学的な命題が出てくるんだ。

 

 そんなヤバい仕様があるのなら下手に解析して技術化できないじゃん!



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SR 銀の手

 小手。いわゆる腕部を守るために使われる防具のことである。

 古今東西問わず、腕を潰して戦力を大幅に下げようという発想は存在する。

 腕は武器を持つのに大事な部位であり、同時に胴体と比べても守りが薄くなりがちな部位でもある。

 そのため、その腕を機能しないようにすれば戦いにおいて優位に立てるわけだ。

 小手はその部位を守るために作られた防具だ。

 

 今回はその小手が出てきた話だ。

 

 

 

 チラチラとテレビなどで新技術由来の商品が紹介され始めている。

 UFOのように空を飛ぶ乗り物であったり、水を電気に変える発電機であったりといった、生活を一変させるほどの代物……ではない日常に入り込むようなものだ。

 

 それはエレベーターからもたらされた素材をわずかに使った軟膏だった。

 刷り込むと手荒れがなくなるというもので……実際素材を使っているのか怪しいところすらある代物である。

 

 というか医薬部外品なのでそこまで強力な効果は実証できなかったようだ。

 これは多分付加価値として素材を使ったはいいが、思ったよりも効果が出なかった感じなのだろう。

 今は申請で弾かれないことを祈っているみたいなコメントが出ていて笑うしか無い。

 

 マイナスイオンじゃねーんだぞ。

 正真正銘の超技術や超素材も使う人間次第でしか無いということをまざまざと見せつけられる。

 せめて健康被害が出ないことを祈ろう。

 

 さてと。

 今日の分のガチャを回そう。

 

 SR・銀の手

 

 出現したのは銀でできた美しい小手だった。

 両手で一揃いの金属製の物で、手首までを覆うように作られている。

 

 銀の手……というと。

 ケルト神話の神であるヌアザの義手、アガートラムを思い浮かべる。

 様々な創作物で利用される超常的な義手としてその存在感は……マニアックな作品なら割とよく出てくることだろう。

 

 まあこれは手袋に近い形状の物だから義手ではないが……。

 一見金属に見える部分も伸縮性があるようで手を入れようと引っ張ると伸びる。

 それでいて叩くと硬いから不思議な金属だ。

 

 とりあえず着けてみることにした。

 なんというか、ウエットスーツを着るようなぬるりとした感覚。

 乾いているのにしっとりしているような。

 手にピッタリと張り付いているからそのように感じているのだろう。

 

 で、着けてみた感じとすれば……。

 わからん。

 特におかしな感じはないし、なにかが使えるようになった感じもない。

 

 小手を着けている割には手指がかなり細かく動かせるくらいで……。

 金属の硬さによる阻害感がまったくない。

 ゴム手袋でもここまでスムーズには動かせないだろう。

 

 ……SRにしては地味だな?

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が銀の手をはめた状態で絵を書いていた。しかも左手で。

 そう、銀の手の本当の効果は、手指の器用さを引き上げることだったのだ。

 それは特に利き腕でない方に強く働くようで……、器用な人間の数倍の器用さを装着者にもたらし、両利きにするのだ。

 

 ガチャの景品を使ってまで書いた兄の絵はというと。

 その……前衛芸術です……。

 

 一目で理解を拒む。

 あらゆる技術を注ぎ込んで作られたゴミ、というべきか。

 なまじ高度な技術が読み取れるだけに、その絵の下手くそさが際立つ。

 SR景品の効果で超正確なデッサンが出来ているだけに……。

 

 ……あれ、この景品、もしかして面倒事も無いしあたりなのでは?

 器用さは便利だしな。



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R 竹刀

 竹刀。剣道などで使われる修練用の道具だ。

 刀剣を模して作られた木刀は、修練に使うにしても重量があり、素振りなどでは問題ないが試合などでは負傷を引き起こす。

 その問題を解決するために作られたのが竹刀である。

 竹を組みわせて作られた竹刀は勢いよく叩きつけても激しい音が出るだけで負傷を引き起こすほどではない。

 ただし取り扱いを間違えるとそれなりに強度がある棒なので危険ではある。

 

 今回はその竹刀が出てきた話だ。

 

 

 

 

 今ならガチャ筺体を動かせるのではないかと思った。

 魔法を身に着け、最高の才能を獲得し、特殊なクラスも習得した。

 人を超越した能力を得た今の私なら動かせるのではないか、と。

 

 まあ結論から言うと。

 ピクリとも動かなかった。

 

 使いたくもなかった消滅魔法をぶつけても削ることすら出来なかった。

 影で包み込んで空間を切断隔離しても動かせなかった。

 超怪力で物を押す念動力の魔法でも動かなかった。

 

 それだけ凶悪な威力の魔法をぶつけても欠けすらしないガチャ筺体の異常な強度にもうんざりする。

 表面が汚れすらしないのだ。

 

 しかも超存在と化した兄ですら、未だにその目で見ることも、触れることも出来ない。

 私が兄の手をとって押し付けることだけはできるのだが、それだけだ。

 兄が手を動かそうとすればその時点ですり抜ける。

 

 相変わらず……これは。

 なんなんだよ!

 

 はー。

 音立て始めたからガチャ回そ。

 

 R・竹刀

 

 出現したのは竹刀だった。

 一般的な竹を組み合わせた作りのもので、特にカーボンとか金属とかが使われている様子はない。

 

 ただ手に持つとやたらずっしりとしている。

 私が非力で竹刀が全体的にそうなのか、この竹刀が特別重いのかは判断がつかないが……。

 

 とりあえず振ってみるか。

 その重量感の割に軽く振るえる。

 腕の延長線として使える、剣の理想のような手応えだと言えよう。

 

 なので楽しくなって思いっきり振ってしまった。

 アニメの派手な剣技を真似するように、勢い良く。

 

 竹刀の先端から斬撃が生じて、遠くにあった木材を切断した。

 かまいたちのような鋭い風のようなものが飛んだのだ。

 木材は達人の振るう剣を振り下ろしたかのように見事な断面を晒している。

 

 ……ええー……。

 竹刀って怪我しないように作られたものじゃねえの……?

 それをこう……武器として使えるようにして……。

 

 ただの暗器じゃん!

 

 

 

 

 

 後日。兄が竹刀をおもちゃにしていた。

 斬撃が飛ぶという、漫画やアニメぐらいでしか見ない代物に兄はテンションを上げ……いやこれまで斬撃を飛ばす手段は別にいくらでもあっただろうが、竹刀だけで出せるから楽しくなってしまったようだ。

 

 兄が全力で振り回すたびに周囲に撒き散らされる斬撃。

 間違いなく近づくと怪我をする状況である。

 兄が落ち着くまで押さえつけることも出来ない。

 

 バカ兄ィ!

 危険物扱ってる自覚を持てー!



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R ブラスナックル

 ブラスナックル。指にはめて使う金属製の武器でパンチ力を強化する目的で使われる。

 基本的には握りと拳を保護するための金属枠で構成された道具だ。

 メリケンサック、ナックルダスター、カイザーナックルなど様々な名称や俗称が存在し、これがどこにでもあるありふれた道具であるかを証明している。

 

 今回はそのブラスナックルが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 なにやら随分と期間が空いたような気がする。

 兄に親知らずが生えてきて、それの抜歯をするしないで両親が妙に怯えたような反応をしていたのだ。

 抜いた穴に病原菌感染した経験があるらしく、それの激痛を事細かに説明するとかいう聞いてる側も痛くなる話を聞かされる羽目になってしまった。

 

 よりによって兄の親知らずは横向きに生えていて、しかも思いっきり手前の歯を押しているという状態で早めに抜かないと手前の歯までだめになる状態だったそうで。

 まあ物怖じしない兄は両親の話を聞き流して抜いてきた。

 

 問題はその後である。

 この兄、しれっと抜歯した穴を回復系魔法で治しやがった。

 はじめからそこに親知らずがなかったかのようにきれいに塞がっている。

 

 ……これ、歯医者に怪しまれねえかな。

 絶対怪しまれるよな……。

 どう説明するつもりなんだ。

 

 アレほどバレるようなことはやめてくれと言っているのに。

 ……意外とバレなかったりするのかな。

 まあ、魔法が存在することは世に知らしめたからな。

 

 はあ……。

 まあいいか。

 どうにかするだろ、兄が。

 だめだったらだめだったでその時だ。

 

 ガチャをひこう。

 

 R・ブラスナックル

 

 出現したのはカイザーナックルだった。

 青いプラスチック製の安物で、力を込めて握るとわずかにたわむあたり、簡単に壊れそうな代物である。

 

 うーん。

 武器かぁ。

 拳にはめて使うような武器、となるとやっぱり何かを殴ることで試す必要があるわけだが。

 

 微妙に指が入らねえんだよなぁ、このブラスナックル。

 私の指は細い方だと思うのだが、その指が穴に入らないのだ。

 第二関節で詰まる。

 

 本当にこれ人間用か? と言いたくもなるが、まあ私よりも手が小さい人なら普通に入りそうではある。

 ガチャ景品だから実は微妙に大きさが変わって誰が使っても第二関節で詰まる様になってる、とかありそうだが……。

 

 直感でしかないがそれは違いそうである。

 なぜなら、指に詰まっている状態のブラスナックルがすでに妙な圧力というか手応えというか、力を感じるのだ。

 指を動かすと壁に沿って滑るような感じだ。

 

 仕方ないので指の根元の関節を真っすぐ伸ばして指先を折りたたむ。

 指先だけで拳を作るようなイメージだ。

 このままパンチすれば中指の関節が当たるような形である。

 

 折りたたんだ指先だけでブラスナックルを保持しているため殴るためには不安定だ。

 だが、ブラスナックルの効果を試すには十分である。

 

 木材を的に、私は拳を振り抜く。

 パン、と軽い音とともに木材に拳大の穴が空いた。

 木材そのものに触れる寸前に、だ。

 

 わあ……。

 力場……力場? みたいなものが生じている。

 斥力が拳から放たれて木材に穴を開けたのだ。

 

 これまでのガチャと比べれば普通だと言える。

 だが、なにかこう、嫌な予感がしなくもない。

 

 具体的には、兄がなにか悪用するような、そんな予感が……!

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がブラスナックルから斥力フィールドを展開した。

 外側から飛んできた射撃物を弾くバリアである。

 なにがどうなってそうなったのかさっぱりわからない。

 斥力力場を全身に広げて、力場に触れたものを弾くようにしているようだ。

 

 しかも兄は、そのブラスナックルを振り抜くことで目の前を衝撃波で吹き飛ばすという変な技を編み出していたのだ。

 放つ瞬間にラムダ……なんとか、とか言っていた。

 また漫画の技か?

 

 なんだその……なんだその引き出し……。

 そうはならんやろ……。



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R ミディアムレアなソファー

 ソファー。インテリアの一つであり、リビングにて腰掛ける座椅子の一種だ。

 性質上、ソファーの上に長時間座り続けるものであるためその品質や構造にはある程度こだわりたい。

 高さやクッションの柔らかさなど、モノの相性は人によって異なるからだ。

 合っていないものを使っていると体を痛める原因にもなりかねない。

 またインテリアとして部屋の雰囲気に合うかどうかなどの違いもあってなかなか奥深い家具だと言えよう。

 

 今回はそのソファーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 例のVRゲームに、七界統率機構のギルドができていた。

 魔法研究のためのギルドで、VRゲームに実装されている魔法を解析してそれを現実に持ち出すことを目的としているようだ。

 

 特にギルド名義で現実に持ち出して技術提供出来るのが大きいようで、組織内の技術のうち開放してしまって良い理論を援用しているようである。

 それで実装されてない魔法を内部で使って無双しているフシがあるのはどういうことなのか。

 厳密な組織だと思っていたのだが……。

 

 末端が派手に遊んでいるだけなのか、それとも、といった感じだ。

 こういうデータに記録されない情報は集められないのが機神の欠点だと言えよう。

 

 ……うーん、まあいいか!

 別に運営に問題が生じているわけでもないし、ハッキング行為が行われているわけでもない。

 痛い腹を探られているわけでもない。

 

 ならどうでもいいか。

 今日の分のガチャを消化してしまおう。

 

 R・ミディアムレアなソファー

 

 出現したのは、パチパチと火の音を立てているソファーだった。

 表面がすでにこんがりと焼けていてギリギリ原型を保っているようには見えるが、触れると崩れてしまうのではないかと思わなくもない。

 

 しかし、ミディアムレアて。

 肉の焼き加減じゃないんだぞ。

 ソファーを火で炙ってミディアムレアとか抜かしたら普通は思いっきりぶん殴られる。

 

 しかも火の気が消えていない。

 表面の焼色がついて独特の色味になったクッションの中からはまだ火の音がしているわけで……手を近づけるとカイロほどの熱気すら感じる。

 

 ……これ、座ったら危ないのでは?

 確かに元の機能を損なって役立たずになっている景品は珍しくないが、正規の手段で利用すると危険そうに見えるのは珍しい気がする。

 そうでもないか。

 危ないのも結構あったか。

 

 まあ、それはおいておいて。

 

 やっぱ燃えてるよなぁ、このソファー。

 どう考えても座れるものじゃないし……。

 それに、運ぶにしても木製の肘掛けも熱を帯びていて熱そうだ。

 

 どうしよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がステーキ肉を乗せたフライパンを、ソファーの上においた。

 おいた瞬間に肉に火が通り、ミディアムレアに熱されたステーキにへと調理されたのだ。

 

 ……ええー。

 つまりなんだ?

 乗せたモノをミディアムレアに火通ししてしまうソファー?

 

 つまり超絶に危険なトラップじゃん……。

 座ったら即死じゃん……。



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R 製図台

 製図台。名の通り製図を行うために利用される机だ。

 アームに懸架された大型の定規やコンパスなどの筆記具、傾斜をつけられるようになっている盤面など独特の外見になっているのが特徴だろう。

 もちろん書く図によってその作りは変わってくるが、基本的に楽に図面を書くことが出来るように大型の天板と傾斜をつけられるようになっているのは共通だと思う。

 

 今回はその製図台が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 機神からもたらされた技術の解析によって、マンマシンインターフェース……つまりフルダイブ型のVR装置の基礎技術の一つが研究レベルとはいえ実現された。

 朝のニュースでそんなことが紹介されていたのだ。

 

 なんでも、頭につけた電極を拾って、外付けされた義肢の感覚を送受信し自由に動かせるようになったとかなんとか。

 ただ被験者は三本目の腕がある感覚に全く慣れない、と発言している。

 

 また仮想空間の体を動かすみたいなプログラムも並行して実験しているようだ。

 そちらは違和感との戦いのようで、皮膚感覚のズレがひどいと発言されていた。

 

 技術開発は……遠いな……。

 VRのゲーム機が出るのはいつになることやら。

 VRヘッドセットを複製解析して渡してもこの進捗だもんなぁ!

 

 さあて。

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R・製図台

 

 出現したのは傾いた机だった。

 天板が大きく傾き、その上に用紙を挟み込んで止めるのに使われる巨大な金具のようなものとそれに接続された定規のようなもの。

 そしてA3程度の大きさの紙が載せられていた。

 

 つまり……製図台である。

 載せられている紙にはなにか、機械のようなものの図が書き込まれていて、それは時間とともに少しずつ内容が変化しているように見える。

 というか、人の手によって修正されているような動作で、製図の記述が変化していっているのだ。

 

 線に消しゴムをかけて消すように、ペンで線を引くように、数値を書き込んではそれを修正するように。

 実際に人の手を加えてその作業が行われているわけでもないのに、書かれた製図は変化し続けている。

 

 えっと……。

 自動製図台とでも言いたいのだろうか。

 少しずつ書かれている図面が改良されているような気もするが、手書きであるがためにその速度は遅々として進まない。

 まあ、製図は時間がかかる作業ではある。

 

 ……なんだこれ。

 まともな製図ならば人の手でやったほうが早そうだし。

 まともじゃない製図ならそれ用に別の装置なりなんなりを用意したほうが良さそうだし。

 物がでかいだけに、かなり邪魔にしかならない気がする。

 

 こういう反応に困るやつが一番困るんだよ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄は機神が作り出した超高性能なAIの設計図を製図台にセットした。

 それは機神でもってしても改良が不可能なほどに高性能化され、おおよそ人類文明では到達不可能なほどの代物……と兄は言っていた。

 それを製図台にセットしたのだ。

 

 そして製図台はというと……それを少しずつ、改良し始めたのだった。

 もはや設計図上だけで演算を行えるほどの超AIを、である。

 

 翌日には設計図が周囲を認識して、魔法による文字表示を行えるように。

 翌々日にはその文字表示を介して意思疎通が可能なほどに。

 

 どんな図面でも改良出来るからって……新しい化け物を作るのやめてもらっていいです!?



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R ノミ

 ノミ。彫刻などに使用する先が平たい刃物のことである。

 これをハンマーで打ち付けることによって硬い石を削り出し、その形を整えたり、木材にくぼみを掘るのに利用される。

 特に彫刻では石をこれによって削っていくことで像を形作るため、非常に繊細な操作を要求されるだろう。

 どう考えても気が長くなるような時間がかかる。

 美術館に飾られているような彫刻は一体どれだけの時間がかかっているのか、もはや想像もつかないほどだ。

 

 今回はそのノミが出てきた話である。

 

 

 

 

 

 

 だんだん魔法の深淵がわかってきた。

 マギコンピュータから実行出来るように、それは機械じかけのようなルールに従って動いている。

 一見無秩序なように見えて、実際とっちらかっていて無秩序なのだが、ルールが存在しないわけではない。

 当然、願えばすべて叶うようなものではない、と思われている。

 

 だが、違うのだ。

 魔力は真に全能だと気がついた。

 その万能を扱えないのは人間側に問題があったのだ。

 

 微に入り細に入り、どのように何を変化させるのか、それさえイメージできればあらゆる魔法技術は不要なのだ。

 これは願えばあらゆる出来事が叶うといっても過言ではない。

 

 ……まあ人間には想像不可能だが。

 こんな魔力の操作、私でムリなのに人類に可能なわけあるかい!

 

 まあ逆に言えば。

 技術的に間違いがあっても、イメージをきちんと構築できれば魔法は発動してしまうわけで。

 これ絶対研究の邪魔になるやつゥ……。

 

 まあいいか。

 性急に文明を推し進める必要もあるまい。

 神じゃないんだから。

 

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R ノミ

 

 出現した瞬間、刃物が私の足に向かって落ちてきた。

 とっさに引っ込めることで回避出来たが、ガチャはたまにこういう不意打ちを飛ばしてくるから本当に油断ならない。

 一回、N 地獄の業火が出て周囲が焼き払われそうになったこともあったような。

 

 ともあれ、出てきた刃物である。

 訂正、ノミである。

 木とか石とかを削る工具で、ハンマーとセットで使うものなのだが。

 そのハンマーはついてきていない。

 

 ノミだけかぁ。

 試すにはハンマーが必要そう、と思って軽く動かしていたときだ。

 

 ノミが、さくっと空気中に刺さった。

 断面から青いゆらめきのようなものが見え、なにかえぐってはいけないものをえぐってしまったという感覚だけが私の手に伝わってくる。

 そっとノミを引くと、その空間には傷跡のように裂け目のようなものが出来ていた。

 

 その裂け目に鉛筆を突っ込むとガリガリと音を立てて砕いていく。

 

 ……うーん、危険物!

 空中に浮かんでる上、縁とかも無いから避けようもないってな!

 やっべぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 兄はノミを武器として扱い……敵となるなにかを確実に殺害できるナイフとした。

 空間すらえぐってしまうノミはあらゆる硬度を無効化しその傷跡を粉砕してしまう。

 防げるのは空間を操作するような魔法だけだ。

 

 まあ兄が振り回すたびに危険な空間の裂け目によるデストラップが増えていくんだが……。

 クラスシステムで空間を直す魔法が使えるクラスがあったからいいけど、なかったらどうするつもりだったんだこいつ。

 考えてない……もしくはサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に考えさせるんだろうな……。




これにてカクヨムに掲載されていたすべての話が掲載完了となります。
続きはガチャによって作者が神格化するまでお待ち下さい。


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R キーワード能力

 キーワード能力。カードゲームなどでよくある、特定の単語を使用することでその挙動を定義した能力のことだ。

 多くのカードゲームでよく見られるのはタップである。

 縦向きに置かれたカードを横向きに変更することで、1ターンに1度ごとのコストを処理する事ができる。

 こういったモノを積み上げることによってゲームの過剰な複雑さを回避しつつ、戦略性を高めるのだ。

 

 今回はそのキーワード能力が出てきた話だ。

 

 

 

 

 リナ・バナディールが忙しそうにしている。

 私の尾行の頻度が下がっており、私から何かを聞き出そうとすることがなくなった。

 そして、私の魔力探知になにかが引っかかる頻度が跳ね上がった。

 

 そこかしこで怪人が現れては怪物をばら撒いているようで、あの秘密結社がひっきりなしに対応に追われているようなのだ。

 異能バトルモノ的に最終決戦でも近いんだろうか。

 

 まあ私には関係ないことだが。

 世界の裏側でごちゃごちゃしているのは、正直気分は良くない……というか世界観を侵されている感はある。

 あるが……もう今さらだ。

 慣れるしかない。

 

 はー。

 ガチャの消化をしてしまおう。

 そろそろ異音を撒き散らす時間が来てしまう。

 

 R・キーワード能力

 

 出現したのはバッジだった。

 中学生がつけているようなネームプレートのような分厚いプラスチックに彫り込みで文字が刻まれている作りのものだ。

 数個ある長方形型の板には、それぞれ異なる文面が刻まれており……

 

「二回攻撃」

「飛行」

「蹂躙」

「スレイヤー」

 

 ……などだ。

 厚手でしっかりしている割にチープな印象が拭えないそれからはカプセルトイらしさをはっきりと感じる。

 まあ、カプセルトイは一つのカプセルに5~6個まとめてねじ込んだりしないが。

 

 で、その効果だが。

 バッジである以上、つけることによってなにか変な効果を発揮するタイプだろう。

 他の元からずれた効果を持つ景品に比べれば、バッジとしての機能を保っているだけマシな部類だとは言える。

 

 とりあえず試してみるか。

 どうせ身につけたら書かれた効果を発揮する道具だろう。

 そう思って私は「飛行」と書かれたバッジを服につけた。

 

 ……。

 何も起こらない。

 飛行と書かれているにも関わらず、浮かび上がることもなく。

 飛ぶイメージを組み立ててみても、なにも反応しない。

 

 アレぇ!?

 

 

 

 

 

 後日。兄が使い方を見つけ出した。

 カードゲームにおけるキーワード能力は基本的に、そのほとんどがカード同士の戦闘を解決する際に効果を発揮する。

 つまりだ。

 身につけた状態で、そのキーワードに沿った処理……動作を行わなければならなかったのだ。

 

「二回攻撃」を身に着けたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は攻撃の瞬間に重なり合うような形で二人に分裂して相手を攻撃し。

「飛行」をつけたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)はその攻撃を透過するように回避し。

「スレイヤー」をつけたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は攻撃が触れた相手を即死させた。

 

 う、うーん。

 起動条件がカードゲームのそれと同じとも限らないし。

 検証……検証しづらい……!



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R イビルカツサンド

 カツサンド。食パンでカツを挟んだ惣菜で、パン屋などでは間違いなく売っている手軽な食べ物である。

 メンチカツを挟んだメンチカツサンド、ヒレカツを挟んだヒレカツサンド、ロースカツを挟んだロースカツサンドなど、カツを変えるだけでも異なる惣菜パンとなるのも手軽であるといえよう。

 ただ、家で作ろうとするとカツを揚げる手間がとてもめんどくさいモノでもある。

 

 今回はそのカツサンドのイビル版が出てきた話だ。

 ……イビル版?

 

 

 

 

 

 

 私はそれを見たとき絶句した。

 幾人もの人を捻じ曲げて練り上げて作ったような巨大なオブジェ。

 それが駅前の噴水広場のど真ん中に置かれていたのだ。

 

 大きさは噴水広場の範囲よりもわずかに小さい程度で、その広場を実質的に利用不可能にしている。

 というか、あったベンチを踏み潰してひしゃげさせていることからも突然出現した、ないし不法投棄されたのは誰が見ても明らかだろう。

 

 ……そう、本来は誰が見ても。

 それだけ異常なものでありながら、駅前という人が集まる場所であるにも関わらず。

 誰もそれに注意を払わないのだ。

 

 まるではじめからあったかのように。

 

 最も、ただの魔法による欺瞞だが。

 ある物体をはじめからそこにあった、という形に魔法でねじって何かを作り変えただけである。

 それはある種、唯魂改竄の術式に似ている。

 

 ガチャから排出されたわけでもないのに驚かせやがって。

 私はそのオブジェになにか引っかかるものを感じながら、それを放置することにした。

 ガチャを回さないと行けないんだ……。

 

 R・イビルカツサンド

 

 出現したのはカツサンドだった。

 カツサンド専門店で売られているような形式の箱にカツサンドが4切れ入っている。

 そして、挟まれているカツだが……なにか、禍々しい紫色だ。

 

 イビルカツサンド?

 イビルってなんだよ。

 この禍々しい色のカツのことか?

 悪属性の肉ってなんだよ。

 

 脳裏によぎるツッコミの数々。

 そして、それに回答できるような人物も、手段も存在しない。

 ただひたすら不可解なだけである。

 

 それに、だ。

 尋常じゃないほど魔力を帯びている。

 見た目は色がヤバい以外はただのカツだと言うのに。

 術式の気配はないから、マジックアイテムというよりは魔力を帯びているだけの肉なのだが。

 

 カツサンドだから食べ……食べ……食べるのこれ?

 もう見るからにヤバそうな色してるし、肉のまとう気配も渦巻いているようである。

 食べられないってことはなさそうだが。

 それ以外の面はとても美味そうではある。匂いとか。

 

 ほっとくとヤバい菌が湧きそうなのも扱いに困る……。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が食った。

 イビルカツサンドを見つけ出した兄はその胡散臭い見た目に怯まず、そのまま口をつけたのだ。

 よくそんなやばめなモノを食えるな……と思っていたが、そこで終わらなかったのが困りもの。

 なんと兄は……塊の牛肉を買ってきて、包丁を使ってイビル肉と聖ミートに切り分けたのだ。

 

 ……は?

 テレポート能力のちょっとした応用?

 それで目方の量が2倍に膨れる理由が一ミリもわからないんだが?

 イビル肉と聖ミートってなに?

 

 また兄が変な技能を手に入れてしまった……。



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N 神の奇跡

 奇跡。それは神やそれに連なる者が引き起こす超常の現象。

 そして、そこから転じてごく僅かな可能性を引き寄せた出来事もまた奇跡と呼ぶ。

 ありえないからこそ奇跡であり、それが幸運であるからこその奇跡である。

 自由にそれを引き起こせるのならもはやそれは奇跡でもなんでもないのだろう。

 

 今回はその奇跡が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 基本的にガチャの景品を持ち出さないように、持ち出させないようにしているがその中にもいくつか例外がある。

 

 例えば、一つはガチャ石だ。

 ガチャが現れた最初期に出現したそれは、その後のガチャ景品から継続的に出現するようになった。

 兄によるいくつかの検証を行った結果、瞬間的な重傷、即死をほぼ無効化できる事がわかっているため、お守り代わりに持ち歩くようにしているのだ。

 

 2つ目には、情報を偽装する類のものだ。

 というのも、魔法で遊んでいるだけだというのに魔力量が尋常でないほどの量に成長してしまっているのだ。

 魔力を制御しない状態で垂れ流しているだけで、東京を覆い尽くせるほどの量である。

 もはや日本のどこからでも魔力視で見えるレベルである。

 なのでいくつかのガチャ景品を改造して情報隠蔽用に所持しているのだ。

 

 そして3つ目だが……。

 いくつかあるが、目立つのは今日引いたこれ、だろう。

 

 N 神の奇跡

 

 指先でつまめるほどの大きさの白い球体である。

 神の奇跡とかめちゃくちゃ大層な名前がついているが、まあ()な用途は魔術触媒だ。

 なにかと便利なやつなのである。

 

 魔法を使っていると何かとやらかしがちなのが暴発した結果、呪いのようなものに変化を起こしてしまうことだ。

 これがまあ初心者なら二三日多少運が悪くなってソシャゲのガチャでSSRが引けなくなるとかそういうレベルで済むのだが。

 

 私の魔力規模でやらかすと国が滅ぶ。

 台風が40個ぐらい来たり、日本全域のプレートが跳ね跳んでものすごい地震が起こったりする。

 魔力制御の技術は完璧なのでやらかすことはないが、絶対はない。

 

 そういうときに手っ取り早く解呪できるのがこの神の奇跡なのである。

 もはや神としか言いようがない奇跡をいくらでも引き起こせる便利グッズだ。

 天変地異も好きなだけ起こせる。

 

 欠点? 使用者が()として信仰されてないと使えないだけ。

 大変手軽である。

 

 

 

 

 その日の夜。

 久々に家族で外食にへと出かけた帰り道。

 コンビニに寄ろうと駅前まで一人で出てきたときだった。

 

 あの駅前に不法に置かれたオブジェ。

 そのオブジェの中の()()()()()()()()()と目が合った。

 冷たい金属の裸体を、オブジェの中に絡ませながら。

 

 違う。

 これまでずっと、通る際には見られていたというのに気が付かなかったのだ。

 この私が、あの程度の魔法欺瞞で、目くらましをされていたのだ。

 

 言い訳するなら興味がなかったからちゃんと見ていなかったということになるが、それはあのオブジェの持つ欺瞞の方向性と同じである。

 結局のところ、私もまたあの程度のものに視線を逸らさせられていたことになる。

 

 ムカついてきた。

 私の周囲(リナ)にこんな手を伸ばしておいてタダで済むと思っている魂胆。

 私を欺いていい気になっているであろう性根。

 

 異能組織の人間が何人オブジェになろうが知ったことではないが、私の知り合いをこうされて……。

 私でもなんでこんな苛ついているのかわからん。

 だが、応報は必要だろう。

 

 なので手っ取り早く。

 

 《呪詛返し(カースド・ヴェンジェンス)》アーンド《神罰(パニッシュメント)》。

 

 神の奇跡を前提とした、即席の神罰魔法を発動する。

 オブジェに起こっていた事象(呪い)を否定し、それを術者にへと返す魔法と、対象の罪業に比例した術式強化をもたらす魔法だ。

 

 神の権能とやらをぶっ放した影響か、3個あったはずの神の奇跡のうち一つはひび割れ、一つは砂に帰ってしまったが。

 効果はしっかりと発揮したようだ。

 

 オブジェだったものは、数十人の全裸の人間にへと変わっていた。

 その中にリナ・バナディールも混ざっている。

 

 うーん。これ以上面倒なことにならないうちに逃げよう。

 そう判断した私は、そのままコンビニにへとダッシュするのだった。



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R グラビトンクッキー

 クッキー。それはサクサクとした食感の焼き菓子だ。

 ビスケットとは語源が異なるだけで同じものを指しているらしく、国によって混同されていたりすることがあるそうだ。

 様々なものを混ぜ込む事が可能で、チョコチップやドライフルーツを加えることで食感や味を変えることができるため様々なレパートリーが存在する。

 

 今回はそのクッキーが出現した話だ。

 

 

 

 

 

 

 あの像から解放された組織の連中がニュースになることはなかった。

 大した情報操作能力である。

 

 解放されたのとほとんど同時に組織のバックアップメンバーが動き出して放心状態の彼らを保護していたのだ。

 それと同時に人目を避ける結界のようなものを展開していたのでそれが原因だろう。

 彫像のものほど強力ではないが、一般人に認識させないのには十分である。

 

 それに報道関係のコネなどもかなり強固だ。

 これを駆使することで大体の情報を握りつぶせ、更にはそれでも黙らない相手は……洗脳することすらできる。

 

 うーん危険な組織。

 やはり関わるべきではないのでは?

 

 あー……でも。

 月曜日の学校で顔を合わせてしまうか……。

 

 ……。

 考えるのはやめてガチャを消化してしまおう。

 

 R・グラビトンクッキー

 

 出現したのはクッキーが入ったビンだった。

 ビンの外装にはラベルが貼られており、それがクッキーであることを記述している。

 また中身には内側に黒いチョコレートのようなものを蓄えたクッキーがいくつも入っているのが見てとれる。

 

 ……ラベルに暗黒宇宙のグラビトンチョコレートブレンドクッキーと書かれたロゴさえなければまともなものに見えたのだが。

 

 このチョコレートのように見えるものは重力子(グラビトン)ってことなのか?

 異常な食料の中でも常軌を逸脱している。

 なんならビンの中の空間が揺らいで見えるほどだ。

 

 恐る恐る一枚だけクッキーを取り出してみるが。

 人生でも経験したことがないほどの美味そうな匂いを漂わせている。

 チョコレートの宝石を超えた光沢と、芸術的なほどの完成度を誇るクッキーの組み合わせは、食べ物の領域を遥かに逸脱していた。

 なんなんだこれは。

 

 そのクオリティに……私の直感は激しく警鐘を鳴らす。

 これは旨い、と。

 危険を知らせないそれが信用できるとは思えないが、直感でなくても美味いであろうことは誰だって見ればわかる。

 

 どう考えても食べて良いものではない。

 グラビトンなどと書かれているものがまともな人類に食べられるはずもなかろう。

 それにラベルには水爆10個分のエネルギーを凝縮などという文面が踊っているのだ。

 人が食べて良いものではない、はずだ。

 

 だが。

 私は負けてしまった。

 その暴力的な美味さに。

 

 うっっま。

 

 

 

 

 

 

 後日。思わず一ビン食い尽くしてしまったのだが。

 数時間空けてからビンを見ると、中にクッキーが再生していた。

 食い尽くす前の数と同じだけ入っていたのだ。

 

 ん、ん? と首を傾げていると。

 兄が指先でビンの蓋を叩き始める。

 

 するとビンの蓋の裏側からクッキーが生成されてビンの中に落ちていった。

 いや、それはその……。

 

 この美味さのものが増えられるのは困る……!



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R 完全な栄養

 栄養。それは食事によって補給する成分のことだ。

 糖質やタンパク質、脂質など体を動かすのに必要な栄養素やビタミンAやビタミンCなどの体の体調を整える栄養素など様々なものが存在する。

 そしてそれらをバランス良くとることが健康への正道だと言えよう。

 

 今回はその栄養が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんかリナ・バナディールが一回り強くなっているような気がする。

 魔力量などの関係で、私は相手の大体の強さを一目で見分けられるのだが、昨日今日で伸びるとは思えないレベルでリナの強さが上がっているのだ。

 

 なんでやろなぁ……。

 と思ったがまあ、どうせあのクッキーだろう。

 学校でおやつとして食べていたものを分け与えたのが悪かった。

 

 膨大なエネルギー量を秘めたやばいクッキーである。

 当然食べた人間に影響があって然るべきだったのだ。

 

 そうかそうか、食べるとそのエネルギー量が経験値に振り込まれるのか……。

 うん、やばいね。

 下手に配れなくなったじゃないか。

 いや旨すぎるからもともと配りづらい代物ではあるんだが。

 

 というか、私は一ビン食べてもほとんどそういう影響がないのはもしかして……。

 

 まあいいか。

 今日の分のガチャを回してしまおう。

 

 R・完全な栄養

 

 出現したのは一般的なグミなどを入れているようなパッケージだった。

 中になにか四角くて固いものが入っているようである。

 そして、そのパッケージにはでかでかと「完全な栄養素」と書かれていた。

 

 ……カプセルの中の紙と微妙に文面が違う。

 それに食べ物として、真っ白のパッケージはあまりにも食欲が失せる。

 商品として作られているのか本当に? と疑いたくなる代物だ。

 

 で……なんだ。

 封を切って中身を見ると入っているのはカップ麺の中に入っている謎の肉のようなもの。

 硬さといい形といい、大きさといい、ちょうどそれぐらいだ。

 匂いもまた香ばしい醤油のそれで、謎肉感がものすごい。

 

 栄養価を調整した追加の加薬のようなものかな、と思ってパッケージの裏を見ると。

 そこに書かれていたのは、一粒2600キロカロリーの文字。

 

 ……。

 成人男性の必要カロリーをたった一個で取れる謎肉!??!?!

 

 いやいや。

 書かれている文面が事実ならば、謎肉感覚でラーメンに載せたら一瞬でカロリーオーバーだ。

 気が付かずに食べ続ければあっという間に太る。

 

 この間のクッキーも太る代物だったのに!

 なんで今回も太る代物なんだよ!

 しかも不意打ちで太らせに来る!

 

 もう中に菓子の如く30個ぐらい入ってるしさぁ。

 流し込むだけで人を殺せるんじゃないか?

 どうせほかの栄養素も一日分に合わせて入っているだろうし。

 

 微妙に扱いづれえ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が機神にこの謎肉を解析させた。

 なんか製法を調べたかったらしいのだが……。

 

 解析した結果、工場ができていた。

 なんでそうなるのかわからないが、解析したら中から工場の設計図が出てきたとかなんとか。

 

 うん……うん?

 なんで?



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R シール蓋

 シール蓋。それはプラスチック製の専用パック容器の蓋である。

 柔らかい素材で出来ており、容器に対して密着することで中身を密封状態にできることが利点だ。

 それにより、様々な食品の長期保存が可能になる。

 食品を湿気から、乾燥から、雑菌から防ぐことができるのだ。

 また素材の関係上透明なものも多く、冷蔵庫などで管理しやすいのも特徴である。

 

 今回はそのシール蓋だけが出てきた話だ。

 

 

 

 

 そういえば呪詛返しが通った。

 探査系の魔法も組み込んで、呪詛返しがそのあとどうなったかずっと追跡していたのだが。

 数日ばかり抵抗され、なかなか通らなかったのだ。

 

 身代わりを使った防壁が数十。

 意識をそらすような結界の類が数百。

 いわゆるお守りのような霊的防御を引き上げるものが数千。

 そして極めつけは要塞と誤認するレベルの無尽蔵に近い生命力。

 

 おそらくはただあるだけで呪いの類を支配できるレベルの怪物だった。

 まあ呪詛返しで食い散らかしたが。

 あっちがだいぶ強力なものを使っていたのが悪い。

 報復系の魔法とはつまりそういう、相手の出力に合わせて強大化する代物だから。

 

 その結果、山形あたりの山の一部がまるまる金属化するという事件も起こったが……。

 組織がなんとかするだろ多分。

 もともと彼らの敵だし。

 

 私は今日の分のガチャを回そう。

 

 R・シール蓋

 

 出現したのはシール蓋だった。

 あの百均なんかでも食料品を入れるために売っているパック容器の、蓋だけ。

 クリアな白色で、どんな棚にも合わせやすい色合いとなっている。

 

 しかし。

 蓋だけ出てこられても困る。

 しかも、五角形だ。

 

 五角形のパック容器って。

 どこで売ってるんだ。

 売っているところでは売っているような気もするが、絶対割高のおしゃれ家具系のやつだ。

 

 で。

 これはどうやってつかうのか。

 相方となる容器の方はなく、合わせられる代わりのものも思い浮かばない。

 なにせ五角形だ。

 見つけることすら困難だろう。

 

 あまりに思い浮かばなかったために、とりあえずじゃまになるな、と。

 手元にあったジュースのコップにかぶせた。

 ただの手癖だったのだ。

 

 バコッという音とともに、大きくふらつくコップ。

 粉末状になった中身。

 ガッチガチに張り付いたシール蓋。

 

 何が起こったのかと蓋を剥がそうとするが、コップのフチとぴっちりくっついてしまっていて剥がれない。

 まるで内側から吸い上げているようだ。

 

 コップのフチに強引にナイフを差し込むことでなんとか剥がしたのだが……。

 剥がした瞬間、コップが空気を吸ったのだ。

 

 え、えー……。

 もしかして、密封状態にするために、中身を真空にするシール蓋……?

 一瞬でジュースが粉状に凍りつくレベルに真空にするのはなんというか。

 よくコップが割れなかったな。

 

 それなりに有用そうにみえるが。

 変な形のせいで不便極まる……!

 

 

 

 

 

 後日。兄は圧力鍋を使って、このシール蓋を利用し始めた。

 圧力鍋なら、シール蓋で排気口を塞ぐだけで中身を真空にできるのだ。

 動作原理は真空脱気室と呼ばれる機械に近い。

 

 一瞬で料理に味を染み込ませたりなど、とにかく変な使いみちはいっぱいあるが……。

 圧力鍋にシール蓋が乗っている見た目はシュールこの上ない。

 しかも蓋を開けるのに結構な力がいる。

 

 結局どうなったかというと。

 何度か兄がインスタント麺を試作したあと、開放の力に耐えられずにシール蓋は裂けた。

 

 流石にゼロ気圧に耐えられる素材じゃなかったかー。



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SR タブレットPC

 タブレットPC。一言でいうとスマートフォンのでかい版である。

 内部のOSがスマホと同一のものが主流なのも相まって、大きなスマートフォンという扱いは間違いではない。

 だが、画面の大幅な拡大がもたらすものは単なるスマホの延長のそれではない。

 視野の拡大はスマホでは不可能な作業をも可能にし、物によってはワークマシンとしての運用すら可能になるのだ。

 

 今回はそのタブレットPCが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 兄が金属化した山の一部を少しだけ切り出してきた。

 なにか特殊な素材じゃないかと期待しての行動らしいが、結果は空振りだった模様。

 

 一応、機神の畑で取れる金属サボテンと同種の生体金属だったのだが、それはつまり栽培できる程度のモノでしか無い。

 いや、こんなものが栽培できている時点でなにかおかしいのだが、すでにあるものを手に入れてもどうしようもないというところはある。

 

 一応こいつを粒子状にすると3Dプリンターから硬度や柔軟性まで調節して出力できる素材になるあたり、文明を100年押し進める代物ではあるが。

 けれどそこにあるからって誰でも使えるとは限らないし、あの山もどうなるかわからんなー。

 

 まあ、そんなことは置いておいて。

 今日の分のガチャを処理してしまおう。

 

 SR・タブレットPC

 

 出現したのはタブレットPCだった。

 銀色のボディをした、一般的な形状のものである。

 一般家庭でも普通に使われているであろうブランドのもの、のように見えなくもない。

 

 起動してみるとそこに表示されたのは、ファミレスのメニューだった。

 メインのOSでもなく、アプリの一覧でもなく、ファミレスのメニューが真っ先に立ち上がったのだ。

 

 メニューの内容を見るに一般的なファミレス……というか、多分知ってる店のモノとほぼ同じ作り。

 並んでいる商品もほぼ同じだろう。

 ポテトや唐揚げ、ハンバーグ、オムライス、ピザ、パスタ……節操がない。

 見たこともない料理まで並んでいるあたり、このモデルとなったファミレスは手広くやっていたのだろうか?

 あまり行かない店であるためかわからない。

 

 まあいい。

 メニューを見るに、注文をすればなにか効果を発揮するタイプの景品だろう。

 そう思って、ポテトを注文表に入れて注文した、その時だ。

 

「ご注文のポテトです~」

 

 そう言いながら。

 マネキンの人形が熱々のポテトを持った状態でテーブルのすぐ横に現れたのだ。

 無機質な顔がこちらを見もせず、ポテトをテーブルに置いて去っていく。

 視線から切れるとそのマネキンは消失したようだ。

 

 中途半端に人の動きを真似た、人間性に欠けた動作だった。

 人によっては生理的な嫌悪感も覚えるだろう。

 

 で、ポテト。

 一見普通のポテトに見えるが、ほとんど無から生成されたものだ。

 これ、食って大丈夫なものなのだろうか……。

 

 

 

 

 

 後日。兄が色々注文して食べることを繰り返し、ただただ便利に使えることだけが判明した。

 ……もちろんただ便利なだけではない。

 そう、きっちり代償が取られるのだ。

 料金を。

 

 一般的なラストオーダー時間になると突然マネキンが出現し、注文した料理の分の代金をきっちり徴収してくるのだ。

 またメニューから会計を押すことでも代金を処理できる。

 

 ……これは簡易ファミレスってこと?

 便利なのか……それとも。



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R ボトルシップ

 ボトルシップ。その名の通り、ボトルの中に入れられた船の模型のことである。

 主にインテリアとしての用途や、プラモデルのように組み立てる趣味に使用されるものだ。

 小さな口からピンセットでパーツを入れて組み立てる関係上、本来入らないものがビンに入っているという印象を受けるだろう。

 そこが人を引きつけるのだと言える。

 今回はそのボトルシップが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 例の秘密結社の動きがここのところ変になっている。

 理由はまあ、組織の大目標が突然解消されてしまったことだろう。

 敵対してた怪人が突如消失したのだからこの手の組織は簡単にバグる。

 

 特にヤバいのは政治的に動いて組織を私物化しようとする派閥だ。

 どこでもありふれているといっていい連中ではあるが、混乱に乗じて動かれると非常に面倒なことになっていそうである。

 

 これが国際政治に影響を及ぼすとか……うーん、ありそうでダメ。

 そもそも世界の影に入り込んだ組織である。

 その影響力は計り知れない。

 

 介入……する必要あるかな……?

 いやいや……そこまでするのはそれはそれでどうかとも思わなくもない。

 

 ……まあいいか。

 とりあえず今日の分のガチャを回そう。

 

 R・ボトルシップ

 

 出現したのはガラス瓶だった。

 それも酒瓶を大幅に大きくしたような形状で、中に船が浮いている。

 いわゆるボトルシップというものだ。

 

 中の船は一般的な帆船のようであり、細かい装飾からも身分が高い人が乗るものを想定して作られたもののようだ。

 レジンや液体が入っていないのにも関わらず、中空に浮いているのはいつものガチャ景品といった感じ。

 手にとってビンを回しても傾く素振りすらしない。

 

 それと。

 この手のボトルシップはコルクなりなんなりで口を閉じるものだが、このビンにはなにか銀色の金属で閉じられている。

 独特の装飾が施されていて、そこだけ世界観が違うというか、マジックアイテムっぽい雰囲気を漂わせているのだ。

 中心にそれっぽい突起もある。

 

 う、うーん。

 これを触れってことなのか?

 得体のしれなさがものすごいんだが。

 

 しかし試さないわけにもいかない。

 そう思って触る。

 ツルツルとした、金属のような感触である。

 手触りは悪くないけどなにもないな……。

 

 と思った途端だ。

 先端にあった突起が指先の圧で引っ込んだ。

 つまり、スイッチである。

 

 押し込まれた瞬間、私は船の上にいた。

 

 は?

 空はガラスで覆われて、その向こう側に小屋のようなもの。

 足元には、明らかにガレオン船。

 かなりしっかりした作りのものである。

 

 ええー……。

 ということはこれは、ボトルシップの中。

 蓋にあるボタンを押すと中に入るボトルシップってこと……?

 どうやって帰るんだよこれ。

 

 最悪破壊すればいいか……。

 そう思って、私は船内の探索を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 後日。兄は船の底で財宝を見つけた。

 脱出はマストの柱に蓋と同じ形のスイッチがあったのでそれを押すだけだった。

 普通に出入りできる作りだったのだ。

 

 となると、だ。

 船としてきちんと作られているこのボトルシップは探索しがいがあるわけで。

 鋲の一つ一つまで作り込まれている……というか、普通の船を瓶の中に閉じ込めた代物のようである。

 

 この船がなんだったのかはわからないが、当然船には物資を積む倉庫がある。

 そこで兄が財宝を見つけたのだ。

 大量の金貨に宝石の数々。

 

 まあ、お宝を手に入れてもどうしようもないが。

 この程度のもの、ほとんど無限に生産できるじゃん!



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R 割符

 割符。それはいわゆるパスワードのように唯一性を証明するために使われる代物だ。

 名の示すように、2つに割った板を片方ずつ所有し、確認時に組み合わせることでそれが偽物でないことを証明するようになっている。

 物理的なトークンであるため、合言葉のような情報漏洩などの問題を回避できるのだ。

 

 今回はその割符が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 お手伝い妖精のシャチくん(サメ)が「シャークメイド」に進化していた。

 ちょっと目を離したスキに、というかどれが原因でそう変化したのかまるでわからない。

 自動生産される液体経験値やら、機械サメの神やら、クラスシステムやら、モンスターの類が変化するには理由付けするのに十分な代物がゴロゴロしているせいだ。

 

 それに、なんだこの美少女は。

 ほっぺたもちもちである。

 青い髪の毛サラサラである。

 サメめいたしっぽはつやつやである。

 

 でも美少女になったからって食性変わらないんだよな……。

 こいつの主食インチネジなんだよな。

 まあ、人型になって手伝えることが増えたのを喜んでいるからまあいいか。

 

 それはおいておいて、今日の分のガチャを回そう。

 

 R・割符

 

 出現したのは大きなお盆ほどもある巨大な割符だった。

 円盤状で中央に分割するための複雑な線が入っているのが見て取れる。

 そして、その線で分割されるためか精密な筆致の彫刻が彫り込まれていた。

 

 飾っておくだけでも芸術作品として評価されそうなそれは、割符としてガチャから出てきたものである。

 と、いうことはなにかに使う道具というわけで。

 

 でも割符。

 普通は合言葉代わりに半欠けづつを複数人で分けて持ち歩くようなものだ。

 完全に揃っている以上、その役割も果たせまい。

 

 とりあえず分割してみるか?

 そう思ってひっぱってみるが、なかなか外れない。

 固定されているというより、なにか磁石のようなもので張り付いているのだ。

 私の筋力では引き剥がせない。

 魔法使えば剥がせそうだが、そこまでするのは癪だな。

 

 なのでシャークメイドに進化したシャチくんに引っ張らせた。

 ジリジリとその割符の距離は離れ、そして磁力が途切れると同時にパリンと音を立てる。

 

 シャチくんが手に持っていたのは2枚の割符だった。

 2つに分割された割符、ではない。

 完全にくっついた状態の割符が2枚、である。

 

 割符としての役割果たせねえじゃねえか!

 なんのためにあるんだよこれ!

 

 

 

 

 後日。兄は割符を分割し続け……その結果、分割するごとに絵が変わることがわかった。

 分割されるたびに生成される側の割符の彫刻はどうも元々の彫刻と同一ではないようなのだ。

 引っ張った側の彫刻にぴったり合う造形になっているが、その文様は様々。

 表現される四季が入れ替わっていたり、ドラゴンが犬になっていたり、そもそも生き物の造形がなくなっていたり。

 

 兄はそれを分割し続け、気に入った造形のモノを自分の部屋に飾ったのだった。

 ああ……うん……たしかに美術品ではあるな……。



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SR ホテル壷中天

 壺中天。いわゆる別天地や異郷、桃源郷なんかの類である。

 壺中天の場合は壺の中に世界が広がっているもので、天国のような場所であるとされる。

 また、長時間いると時間の速度の違いで時代に取り残されるという竜宮城のような話もあったりなかったり。

 今回はその壺……のようなものが出た話だ。

 

 

 

 危惧していたあの異能組織の動向だが、分裂しかかっている。

 現状抱えている魔法技術を開放するか、秘匿するか。

 組織を秘匿すべきか、解散すべきか。

 そういった諸々で内部紛争の状態にあるようなのだ。

 

 最大の存在意義を失った組織は、必然脆い。

 それまでにどれだけ腐敗しているかにもよるが、穏当に解散できる組織など存在しない。

 存続するために利権を貪ろうとするのが、組織というものなのだ。

 それが権利団体や政治団体であれば、特に。

 

 これ近いうちに分裂して異能的な内戦が始まるんじゃなかろうか。

 暴力ありきの世界の組織であるため、その手段も必然的に暴力になり得る。

 国内外の有力者にも関係者がいるからまとまらないだろうしなぁ……。

 

 裏でゴソゴソやってる分にはまだいいが。

 表に噴出すると洒落にならん……。

 

 まあそんなことはおいておいて、ガチャを回そう。

 

 SR・ホテル壺中天

 

 出現したのは、高さ2メートルほどのスノードームのようなものだった。

 台座は金に似た素材で作られているように見え、透明な球体の中に豪華な洋館のようなものが置かれている。

 その全体的な作りは工業品でない手作りのスノードームがこんな感じになるだろうか。

 ()()でかすぎるが。

 

 そしてガチャの景品である以上、ただのスノードームではないはずだ。

 そう思ってガラスに触れると、水面に沈むようにガラスの中にへと手が貫通した。

 

 あー……はいはい。

 そういうやつね。

 この間ボトルシップが出たばかりじゃねーか!

 

 まさかのネタかぶり。

 どうせ中に建物が広がっているパターンである。

 それに2メートルもあるとなれば、こちらのほうが劣化版だと言わざるを得ない。

 いや、船とホテルならホテルのほうがいいか?

 微妙なところだ。

 

 そう思って。

 ガラスの中にへと身体を潜り込ませるとそこには。

 

 ずらずらと並んだ美男美女のホテルマンたちの姿。

 彼ら彼女らは私を見て、こう呼んだのだった。

 

 ようこそいらっしゃいました、オーナー、と。

 

 

 

 後日。いや後日じゃねえな。

 あのあとホテルマンたちに誘導されてホテルの設備を紹介されつつそのまま一泊したのだが。

 ホテルから出たら1分も経っていなかった。

 スマホの時刻合わせもして日付を再確認したから間違いない。

 

 あのスノードーム状のものの中の時間は加速されていて、しかもホテルとしての完全な機能を備えているのだ。

 それは……まあ……つまり……なんだ?

 マヨヒガの類かなにかか? 鶯浄土かなにかか?

 しかも私にホテルの経営権があるらしい。マジか。

 

 いやまあでもネットも完全に繋がってたし、温泉も食事も最高だったし……。



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R 妖刀ムラサマ

 妖刀。それは様々な理由で呪われた刀のことだ。

 例えば人を切りすぎた結果、その血とともに怨念がこびりついたもの。

 例えば初めから呪いとともに作られたもの。

 例えば曰くによって逸話が盛られたもの。

 そしてそういった妖刀は往々にして切った相手と、持ち主に厄災をもたらす。

 

 今回はその妖刀が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 機神が運営している(させられている)あのVRMMORPGで、組織の人間同士のPvPが明らかに増加している。

 どうも派閥同士でしばきあいが発生しているようなのだ。

 

 あのゲームは完全に物理法則を再現しており、そのうえ魔法技術も完全に再現されている。

 プレイヤーが使えるスキルは原則魔法の自動化による上乗せであり、魔法が使える人間であればスキルなしに魔法が使えるのだ。

 

 そして、ゲームであるために死んでもいくらでもやり直せる。

 つまり、どんな危険な魔法実験を実行できるのだ。

 

 そういった実験を行っているチームは複数あり、組織の構成員もまた例外ではない。

 むしろ積極的に有効利用していると言えよう。

 

 それらは当然派閥ごとにまとまっており……、険悪なムードから殴り合いに発展しているのだ。

 めちゃくちゃ良くない機運である。

 

 というかゲーム内での研究成果の横奪まで発生している模様。

 モラルはないのか。

 

 社会不安として顕在化しなければいいが、最大で内戦までありうる連中がこうも険悪になっているのは困るな……。

 だからといって直接的にできることもあまりないのだが。 

 

 はー。

 まあおいておいて。

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R・妖刀ムラサマ

 

 出現したのは日本刀……日本刀か? これ? 日本刀のようなものだった。

 赤くて凝った鞘に入れられた刀剣で、鍔は円形のものではなく、十字状のものがつけられていてどうにも日本刀っぽくない。

 イメージの問題だろうか。

 

 それにムラサマて。

 昔のゲームの有名な誤植の一つではあるが、まともな刀につける名前ではない。

 

 そんなどこかトンチキ日本の雰囲気を漂わせている刀だが、冠は妖刀である。

 つまりはまあ、危険な武器なのだ。

 思い浮かべた動作をなんでもかんでも再現したり、握った人物を操ったりしたりする。

 

 なので細心の注意を払いながら引き抜いたのだが。

 

 スパン。

 

 と。

 軽い音を立てながら、引き抜いた鞘が切断された。

 引き抜いただけで触れていた鞘がその切れ味に負けたのだ。

 ギリギリ、指の内側に線上の切り傷ができるだけで済んだのは不幸中の幸いだろうか。

 これぐらいならすぐ治るが……。

 

 刀としてもあまりにも切れ味が鋭すぎる。

 軽くレンガに刃を押し当てて見たところ、ほとんど重さだけの力にも関わらずバターでも切るかのような感覚で切れていく。

 刀を支えてるだけでレンガに沈み込んでいくのだ。

 

 というか軽く持ち上げるだけでの振ったような音が……。

 もしかして空気の層を切り裂いて真空でも作ってる?

 だとすれば危ないなんてもんじゃないが……。

 

 

 

 

 後日。兄は空間を切ることに成功した。

 妖刀ムラサマはただただ切れ味がいいだけの刀であり、切れ味が鋭すぎるために持ち手を簡単に傷つける、そういう代物だ。

 だが兄はなんというか、それを全力で振るったのだ。

 結果、その鋭さは空間にすら作用し、真っ二つにした。

 

 兄の実験で空間はもうズタボロよ!

 魔法でわりと手軽に修復できるからいいものを……。



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SSR ARクラウドエンジン

 クラウドシステム。ネットサービスの一種で、サーバーサイドで処理を行うことでどの端末からでも同じサービスを受けられるシステムである。

 ネット越しにサービスを利用できるようになり、端末の性能に縛られない展開が可能になり、ネット回線の向上にともなってその利便性も拡大し続けているのだ。

 

 今回は、もっと困るものが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 基部の街で魔法を研究しているグループのメンバーのうちの一人が、VRMMO内の魔法スキルの一つ、錬金を現実で再現した。

 この錬金という魔法、めちゃくちゃ単純で石を別の金属類に変換するというものすごい雑な魔法で作りも荒い魔法なのだが。

 なんと変換先を指定できないのだ。

 石をランダムに別種の金属類に変換するという代物であり、ゲーム的にはあまり有効ではないものではある。

 

 もう魔法の出現から資源の価値は下がりつつあるが、これの存在はもっとヤバいと言えよう。

 ほとんど無から資源を作れてしまう。

 

 つまり暗殺者だ。

 研究を潰すために暗殺者がダース単位で送られてくる可能性が出てきた。

 

 この街、治安維持が大変すぎる。

 街の研究室のそこかしこで現在の政治バランスを粉砕しうる技術が開発されてるの、まともなら気が狂う。

 

 現状でもディストピアレベルで巡回させてるのにさぁ……。

 また警備を増やす必要がありそうで困る。

 

 さて、今日のガチャを回そう。

 

 SSR・ARクラウドエンジン

 

 出現したのはあのVRMMOと同型に見えるサーバーだった。

 私は即座に身構え、スマホのカメラを向けて挙動を探る。

 

 写真……反応なし。

 動画……反応なし。

 スマホに不可解なアプリ……なし。

 

 VRの時は、後から確認したがサーバーを写真に取るだけでもアプリが配信されていたが、これはそうではない模様。

 

 調査系の魔法でも使いたいが、対象となったものの情報を全部脳にブチ込む仕様の魔法しか持ち合わせがない。

 ガチャの景品に使うと死ぬ。

 死にかける。

 回復魔法で復帰できるけどまともに情報が取れないから使えない。

 

 とりあえず触ってみるか……と、サーバーに触れた瞬間。

 サーバーの表面に光が走り、私の目の前に、ウインドウのようなものが開いた。

 

 ホログラムのような、ARのような。

 感覚的にこれはARだな。

 視点を揺らしてみてもゆるく追従する仕様、視野に余計な光が入ってこないことから、なんらかの方法で脳か意識かに投射されている。

 あと名称もARとなっているし……。

 

 で、なんだこのウインドウは。

 おそらくはそのサーバーの操作コンソールなんだろうけれども。

 いくつものアプリアイコンのようなものが並んでいる中に、一つ見覚えのあるものが混ざっている。

 

 VRMMOのゲームアイコンじゃねえか!

 え、なに?

 これでもはやスマホにすら縛られなくなるの!?

 

 

 

 

 後日。兄がいじくり回した結果。

 なぜかあのコンソールからVRMMOの管理権限を取得した。

 現状、機神によるバックドアからの制御・管理だったため、使えない機能がいくつもあったのだ。

 

 どうも完全にサーバー間で情報をやり取りしているようで、このARウインドウからゲームを弄って新規イベントやら新スキルの追加やらマップの拡張やらが行えるようになっている。

 というか本来はこれとセットで運用する代物だったのか?

 

 それに……このサーバー。

 クラウドの名を冠する通り……と言っていいのか。

 指定した利用者の意識に対して、ARのアプリを配信できる。

 

 何を言っているのかわからないって?

 簡単に言おう。

 誰でもどこでも、特別なモノなしでAR表示のスマホが使えるようになるんだよ!

 しかもアプリで機能拡張できてしまう代物。

 VRMMO内の魔法スキルもアプリとして一部実装されている始末。

 なおVRMMOはプリセットアプリとして入っていた。

 

 う、うわー……。

 真面目に起動できねえ。

 VRヘッドギアはまだモノがあるからマシ、とかそういう評価になってしまう程度にヤバい。

 

 データも処理もすべてサーバー側で行っているから全配信してしまえば世界を牛耳れる。

 代わりに人類はほぼ無限の演算力を手に入れる。

 うぃんうぃんで世界は幸せに包まれる。

 

 もちろんダメだな。

 ヤバすぎて封印するべき。

 そうするべき。



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SSR ARクラウドエンジン その2

 拡張現実。ホログラフィックなどを現実の視界に被せることで、情報を伝える技術のことである。

 看板の情報を拡張したり、博物館の説明文を表示したりと、微妙に使えそうで使えなさそうな技術だ。

 スマホなどの携帯端末に使うにしてもホログラフィック系の操作はどうにも直感的になりきらないため、未来に流行るかどうかは……未知数。

 

 今回はクラウドエンジンをいじる回だ。

 

 

 

 

 

 

 クラウドエンジンのあのウインドウは、とても便利である。

 パソコンのようにスマホアプリを複数、自分の視界内に浮かべて実行することができる。

 それに大体のプログラムの代替品がインストール済み。

 自分が設計中の魔法をサクサクっとプログラム化するアプリもあった。

 

 画面サイズに縛られずに視界にウェブブラウザを複数展開でき、それを思考で自由に動かせるので高速で情報収集可能である。

 あとちょっと裏技的ではあるが、魔法と複合すると情報をまるごと直接取り込めるのだ。

 

 概ねスマホとPCの完全上位互換であり、そして完全に互換しているため、それらでできることはすべてできる意識拡張型の謎AR。

 つまりそれらの産業とついでに通信業者を一撃で壊滅させられる代物、というわけだ。

 

 絶対開放できない。

 勝手に開放されてたVRゲームとは違ってこっちは利用者を指定してやらないと配信されないので安全ではあるが……。

 

 というか、VRゲームと関連している話なのだが。

 このARクラウドエンジン、魂と通信している。

 

 いきなり何を言っているのかわからないと思うが、このサーバーの出現にともなってVRゲームの方で開放された機能があるのだ。

 それがマインドアップロードである。

 

 マインドアップロード。

 ようは意識をサーバー上にアップロードすることでサーバー上の情報生命体となる技術なのだが。

 これがこのサーバーでは、魂をサーバーにアップロードすることで実現しているのだ。

 そして、それの前段階として魂と通信してAR表示を行っている。

 

 それの影響かは分からないが、拡張現実の応答性……ようは操作の反応の良さと操作性があらゆる機械よりもいい。

 アプリ越しに操作する系のおもちゃの応答性も跳ね上がる。

 

 で、だ。

 この機能によって、VRゲームをゲームプレイヤーにとっての冥界に変えられるのだ。

 死んだらゲーム世界に転生していた、とかいうweb小説にありがちな展開を実際にやれてしまう。

 しかもあのVRゲームは世界をまるごと演算できるヤバいサーバーである。

 

 本気でやれば簡単に世界を作れてしまうので、異世界転生をガチでやれる環境になってしまった。

 なお死ななくても自発的・強制的にマインドアップロードの機能を使うことはできるので異世界転移もできる。

 

 ろくでもない……。

 なんのための機能だよと思ったが。

 まあ世界が終わるようなことがあったら退避先として……。

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がマジで異世界を作成してしまった。

 ARクラウドエンジンの出現でVRゲームのアップデートが、ジェンガを積み上げるのと同じぐらい簡単になったというのはあるが。

 まじで異世界を作るやつがあるか。

 

 内部での歴史まで自動生成されて本物の異世界と化している。

 え、これゲームとして開放するの?

 マジ?



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R ホロウエレクトラムインゴット

 金属。古来より人々のそばにあり、加工によって様々な道具になる素材だ。

 人類の文明は金属の精錬とともにあったと言ってもいい。

 新たな金属が扱える様になるたび、人々の力は増し、そして新たな道具が生み出される。

 現代でこそその恩恵を実感することはないが、現代であっても新たな金属が発見されるたびに工業の常識は変わってきたのだ。

 

 今回は変な金属が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 まじかぁ……。

 大方予想していたことではあるが、内紛の混乱にまぎれて組織の内部資料がいくつか流失したことを機神がキャッチした。

 

 あの組織が握っている情報は現状開示されている魔法技術のそれを大きく上回っている。

 当然のことだが、研究している年季が違うのだ。

 技術的に優れているのは当然と言える。

 

 だが、ここで問題になるのは、あの組織が戦闘を主とした組織であること。

 つまり人を殺める技術に長けているのだ。

 

 そういう技術が流失するということは……まあろくでもない。

 裏社会に流れれば治安は悪化するし、どこぞの国家に流れればそれを巡ってスパイ合戦となる。

 

 ろくでもないことになりそうだ。

 緩和するには……知識を開示してそれらの奪い合いにならないようにする、ことぐらいか?

 

 さて、ろくでもないことは置いておいて、今日の分のガチャを回してしまおう。

 

 R・ホロウエレクトラムインゴット

 

 出現したのは透明ななにかだった。

 それはまるで分厚いガラスのように透き通っていて、それでいて。

 まるで光を屈折していなかった。

 

 そう、インゴット状の何かがそこに置かれている、というより視覚的には画像編集ソフトでそこに半透明にした画像を貼り付けたようにしか見えないのだ。

 透明度自体はガラス程度なのだが、そのあまりにも光が曲がらないために正確な視認ができない。

 というか光が反射しなかったら気が付きもしないだろう。

 

 なに……この……なに?

 手に持ってみるとその感触は固く、金属の類のように感じる。

 名前にもあるエレクトラムは金と銀の合金だったはず。

 なぜそれがこんな透明度の高い代物に?

 

 というかなんか透明感がやっぱおかしいんだよな。

 手に持ってるのにできの悪い心霊写真の幽霊のようにしか見えない。

 インゴットの幽霊かな?

 

 触れているとなにか、怖気のするひんやり感もあるし。

 嫌な手汗も出てくる。

 本当になんだこの金属。

 

 というか金属なのかも怪しいが……。

 機神が調べればなにかわかるだろうか。

 

 

 

 

 後日。兄が幽体化した。

 機神があのインゴットを調べた結果、どうも幽霊を金属化させることで作られた代物らしく。

 そして、この金属を使って作られた道具は幽体の特性を得られるのだ。

 つまり……これで剣を作れば幽霊を切りつけられるし。

 鎧を作れば幽体化して物理攻撃を透過できるのだ。

 

 兄は金属を糸状にしてパーカーを編み上げ、それを身につけることによって自在に幽体化できるようになった。

 見えない人にはとことん見えない代物だ。

 

 ……。

 というか幽霊って実在するの!?

 しかもそれを材料にしちゃうってどういうことなの!?



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R バックラー

 バックラー。盾の一種で小さめで円形のモノである。

 大きな盾と違って全身を守ったりはできないが、それを比べて軽量で動かしやすいため、ピンポイントな防御が可能であり、技量がモノをいう。

 主に相手の武器を打ち払うように使うことが基本的な使い方だった模様。

 

 今回はそのバックラーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 なんか世界で初めて軍事周りで魔法が使われたとかニュースで流れてきたぞ。

 魔法だなんだと言ってもただの技術なので、国の法律と使う人間の倫理観に依存するのは仕方ないところではあるが。

 軍事技術に取り入れられているのは情報として把握していたので驚きもない。

 

 要は魔法技術の軍事転用ができる目処が経ったので公表されたという話だが、本当にそうなのか疑わしい。

 初心者が使う攻撃魔法とか、威力も精度も拳銃以下なのだ。

 

 強いて言えばバフを掛けた特殊部隊がアサルトライフルで突撃かけるとかそういう研究が進んでいるとかなんとかも、機神がキャッチしているが……。

 ニュースに流れてたの、派手目な攻撃魔法のデモンストレーションだったんだよなぁ。

 

 多分どこかの独裁国家のデモンストレーションだったんだろう。

 ちゃんとニュースを見ていなかったので詳しくはわからないが、そんなものをマスコミが無批判に流してるのどうかとは思う。

 

 さて、今日の分のガチャを回すとするか。

 

 R・バックラー

 

 出現したのは小さな円盤状の盾だった。

 それは薄くて盾というにはやや小さすぎる代物である。

 それに色ガラスのようにくすんだ透明だった。

 

 盾。

 ダンジョンからいくつか出土してたり、機神が護身用に小さくてバリアを貼るものを開発していたりで、この庭では割と見る物ではある。

 前にも透過がおかしい盾もガチャから排出されているし。

 

 で、紙にはバックラー、と。

 いつもなら盾とだけそっけない名前を書いているはずだが、種類まで書いているのはまあ、多分そういうことだろう。

 

 そう思って、左手で構えて的にしている木材を弾くように小突いた。

 強烈な破裂音とともに空の彼方へと吹っ飛んでいく木材。

 

 あー……。

 弾いて使う盾だとは聞いたことがあるが。

 そんな勢いで弾かなくても……。

 

 

 

 後日。兄が拳につけてグローブ代わりにしていた。

 パッとしない特徴として、受けた衝撃を打ち消すこともできるようで、どんなに力を入れて殴っても拳を痛めることがないのだそうだ。

 

 それに、やはりそのやたら強力な弾く力は殴った場合でも効果を発揮する。

 それはつまり……、兄のパンチ力がやばいことになるということだ。

 

 具体的には1立方メートルある鉄塊を空の彼方へと吹き飛ばす程度には。

 

 多分アレ宇宙に飛んでいったな。

 地球に落ちなければいいが。



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R 攻略掲示板

 掲示板。それは告知したい内容を記載した紙を貼り付けるために使われるものだ。

 様々な地域の情報がそこに貼られて地域の交流に一役買っている。

 そこから転じて、WEB上では情報を交換する場所となった。

 最も……人が集まっているからと言ってまともな情報が集まるとは限らないが。

 

 今回は掲示板が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 うお……ゲーム内での組織が完全に抗争状態になってサーバー……というか街一つが完全に吹き飛んだ。

 一部特殊なイベントが埋め込まれている事もあって、消し飛んだ街とNPCは数週間程度かけて再生するように設定されている。

 だが、本当に消し飛ぶ事態になるとは思わなかった。

 

 抗争している組織のメンバー……どっちサイドの人員かは分からないが、リアルで使える儀式魔法をぶっ放したやつがいたようである。

 そのおかげでWEB上の掲示板ではその街へのログインを避けるように警告が流れている。

 というかまだ断続的に攻撃が続いているのだ。

 私の見立てではあれは一週間流星群を落とし続ける魔法である。

 そりゃ終わらん。

 

 一応対策はしてあるからほぼ放置でいいが……。

 やれるように設定してあることを理由にBANするのもどうかと思うが、現状抗争やって他のプレイヤーに迷惑を掛けているのでBAN不可避。

 ブッパした本人はBANしておいた。

 

 これからどんどん悪化してBANする数増えるんだろうな……。

 めんどくせえ……。

 そしてゲーム内で収まらなくなって、大変なことになるかもしれないと考えると胃が痛い……。

 

 まあ置いておいて。

 今日の分の悩みの種を片付けよう。

 

 R・攻略掲示板

 

 出現したのは、一般的な掲示板だった。

 自治体とかのゴミ出しの説明なんかがよく貼ってあるアレだ。

 一見普通の金属でフレームが作られ、貼られたチラシが雨に濡れないためにガラス窓がハマっている。

 

 で。

 そんな掲示板に掲示されてる内容だが。

 なんかチャット欄みたいなものが印刷されて貼られてるんだが……?

 

 いや、この投稿番号と名称と日付の並びは……Webの掲示板!

 それが複数の張り紙に印字されている。

 

 は?

 タイトルもついているからどこのスレッドのものかわからないわけではないが。

 何故かそれが貼り付けられていることに若干恐怖を感じる。

 それも掲示範囲にびっしりと。

 

 しかも。

 更新があったのか、印字されている文字が増える。

 書き込まれた内容が追加で増えているのだ。

 

 えっ。

 これ、なんのための物なの……。

 こわ……。

 

 

 

 

 後日。兄は書かれている紙をむしり取った。

 なんの問題もなく、普通に剥がせたのだが。

 剥がした後も印字の更新が続いたのだ。

 まあ、そもそもA4程度の大きさの紙に書き込める量はたかが知れているが。

 

 しかも剥がしたら剥がしたでその下から同じような紙が出てくるだけだし。

 いやホントなにに使うんだよこれ……。



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R 全身鎧

 全身鎧。それは全身を金属などでできた装甲で覆う鎧のことだ。

 このような鎧は関節の構造や装甲の加工などで技術が求められるため、高額になりがちだった。

 中世ヨーロッパではその値段故に代々受け継いだ全身鎧などが存在していたそうだ。

 鎧が一体として作られている故にそうなるため、分けて作られるのが普通ではあるが……。

 

 今回はその一体成型された全身鎧が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 霧星にて例の組織主導の戦争が発生。

 もうめちゃくちゃだよ。

 

 なんか大陸の帝国が半ば組織の傀儡だったらしく、組織の上層部がバグった結果反乱が発生。

 しかもそれを好機と見た周辺諸国が一斉に切り取りにかかるという地獄絵図。

 中世やらファンタジー世界やらではままある光景とはいえ、実際に起こるとドン引きするというかなんというか。

 

 強権的な外交で相当恨みを買っていたが、組織が入り込んでいるのは諸外国も同じことで、それでなんとかバランスを取っていたようだが。

 上が崩れると下はめちゃくちゃになるのは世の習いである。

 

 これ絶対こっちでも吹き出すよなー!

 対処考えさせておかないと……。

 

 まあそれは機神に任せるとして。

 今日のガチャを回そう。

 

 R・全身鎧

 

 出現したのはおおよそ3メートルほどの体躯がある全身鎧だった。

 なにかの生き物の甲殻を加工して作られたもののようで、加工されようと生々しい生命力を感じる。

 それに生物とは思えない白銀の色合いを持つ甲殻はそれがファンタジーに属する代物であることを物語っていた。

 

 うお、でけえ……。

 サメ機構天使(シャークマシンエンジェル)も大きいといえば大きいが、あれとくらべてもやはり大きい。

 見上げて首が痛くなる。

 

 さて、これをどうしたものか。

 どのようなものか調べないといけないな、と考えていたところ。

 

 突如、その全身鎧が私の前に屈み、臣下の礼と思しきポーズを取ったのだ。

 デカすぎて頭が私の顔より下に降りてないが。

 

 そしてそれは命令を待つかのように佇む。

 

 ふーん、なるほどね……。

 命令を聞く従者とかそういうやつ。

 デカくて戦闘力がありそうな代物なのでそういう用途なのだろう。

 

 ……。

 いらんわ!

 有り余ってるんだよ戦力は!

 何と戦うつもりで戦力拡充してるんだよ!

 

 

 

 

 後日。この鎧は兄にも屈み込み、臣下の礼を取った。

 いや、兄だけではない。

 リチャードさんにも、サメ妖精のシャチくんにも、何なら。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)にもそのポーズを取りやがったのだ。

 

 こ、こいつ、判断がついていない。

 生き物や、生き物のように見えるモノならなんでもかんでも見境なく主君と仰ぐポンコツだったのだ。

 

 や、役に立たねえ。

 それどころか危険ですらある。

 もし人の目に触れれもすれば、こいつはすぐにでもそいつを主君として仰いで、暴れ出すだろう。

 

 図体でかいし、制御も効かんってどうなんだよ!

 凄まじくジャマ!



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R スーパースーパーボール

 スーパーボール。弾性の高いゴムを材料として作られたボールの玩具である。

 跳ね返る力が非常に高いため思わぬ方向に飛び回ったり、強く跳ね返って激しく動いたりするのを楽しめる。

 また、様々なレクリエーションに使用でき、スーパーボールすくいや的あてなどの縁日的なもので良く利用されていた。

 

 今回はそのスーパーボールが出てきた話だ。

 

 

 

 

 とりあえず、基部の街にいる組織の人間を抱き込むところから機神は始めるようだった。

 組織の崩壊が始まっている今、それが作り出した秩序は壊れざるを得ない。

 その秩序に関する情報を手に入れるため、コネを作っておこうという算段である。

 

 まあコネ自体は今までの情報開示や技術交流で出来上がっているのだが。

 もっと密にやり取りできるように腹を割る予定だ。

 

 あと一部お偉方も来ているようなので積極的に釘を差しておく。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の軍事演習などを行うことで対異能戦能力を持っていることを見せつけておくのだ。

 もしなんかやらかしたら即介入できるようになっとるからな、というアピールである。

 

 非合法存在のくせに世界秩序に寄与してる世界組織とかホント……対処に困るな。

 雑に滅ぼすとかするとめちゃくちゃ大変なことになるやつだし……。

 首をすげ替えるにしても、理念が死んでいるのではまともな首は座るまい。

 

 結局ことが起こりそうなのをマメに潰していくしかないっぽいなぁ。

 ガチャを回してしまったこと、世界を俯瞰できること、それだけで面倒ごとがどんどん舞い込む。

 

 だから……回したくないけど。

 今日の分のガチャを回さなければならない。

 

 R・スーパースーパーボール

 

 出現したのは……おわっ!

 

 それは落下と同時に地面を跳ね返り、空の彼方へと飛んでいった。

 一瞬軌跡の中に青い球体が見えたのでそれが景品だったのだろう。

 いやまさか、ウッドデッキを跳ねて日除けを破壊して空に飛んでいくとは……。

 

 で、その景品は何だったんだ、と紙を広げてみる。

 

 スーパースーパーボール。

 

 はい、そうですか。

 それはスーパーなスーパーボールでございますね。

 

 そのまんまじゃねえか!

 どうせアレだろう。

 反発力を強化した代物とかそういう。

 手元にとどまることなく遥か彼方に吹っ飛んでいったので確認も検証もできないが……。

 

 いや、なんかそれだけではないような気がしている。

 反発力が強いだけでこうなるか?

 テラスの屋根を破壊するだけのパワーを瞬時に蓄えて跳ね返るものか?

 

 テラスの床は反発で破壊されていないのだ。

 反発というものは当然触れたものと触れられたものの両方にかかる力なのだ。

 天井を貫くには、床も反発力で破壊されていなければならない。

 

 つまりはまあ。

 床に触れた瞬間に屋根を破壊するだけのエネルギーをどこからか得て、そのまま空の彼方へぶっ飛んでいったのだ。

 予想が正しければ、天井に触れた瞬間に再加速したはずである。

 

 鉄塊のときも思ったが。

 あれが地球に落ちなければいいが……。

 

 

 

 

 

 後日。飛んでいったスーパースーパーボールが地球側の軌道エレベーターを破壊した。

 いや、正確にはステーションの側面に増設された枝と呼ばれるブロックにスーパースーパーボールがかすめたのだ。

 そのせいでかすめたブロックは大幅に裂け、一時機能不全にへと陥った。

 その後自動修復によって5時間で回復したはいいが、直撃していたら目も当てられなかっただろう。

 

 いや……どこでそんだけの運動エネルギー溜めたんだよ!?

 というかこんな危険物スーパーボールとして排出するな!?



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R ヨーヨー

 ヨーヨー。2枚の円盤によって作られた玩具で、高速回転させて紐を伝わせることで様々な動きを作り出すものである。

 安定して回転させたり、きれいに回し続けるにはコツが必要であり、競技のルールによって決められた複雑なトリックにいたってはコマを回転させたままあやとりするようなものだ。

 

 今回はそのヨーヨーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 例の組織からどんどん亡命者が出てきて、ついにネットの与太話に名前が出てきた。

 ガチ抗争に発展する前に情報が表の社会に流れ出したのはいいことなのか悪いことなのか判断につきかねるところだが。

 いつ火がついて大事になるかわからない状態なのは困る。

 

 というかもう基部街でテロを起こしかけてるんだよ!

 魔法式の爆弾が基部街に持ち込まれたのを憲兵担当のサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が抑えている。

 それが複数件ともなると、ぶっちゃけ大事になるのは秒読みである。

 

 文民統制もされていない暴力装置とか暴走しないわけがないわけで、倫理観も何処かに落としてきた状態になっている。

 まあ彼らからしたらこっちは商売敵だからね。しかたないね。

 

 だからといってテロは許されないが……。

 組織、雑に殲滅していいわけではなく、私にはその権利も義務もないわけで。

 結果的に対応が後手後手になってしまっている感はある。

 どないせいっちゅうねん。

 

 はー。対処計画は立てさせているが。

 うまい手段が有るわけではなく、結局順番に対処するしかないという。

 困るぅ……。

 

 まあいいか。

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R・ヨーヨー

 

 出現したのはヨーヨーだった。

 いわゆるアメリカンヨーヨーと言われる、あの円盤二枚のやつだ。

 青い半透明のクリア素材でできていて、内部に光っている素材が入っている。

 

 ヨーヨー……ヨーヨーか……。

 私、あんまり上手くないんだよな。

 なんか全然ちゃんと回せないのだ。

 似たような玩具だとけん玉も苦手である。

 

 とはいえ。

 回してみるしかないだろう。

 そう思って糸の輪に指を通す。

 この糸も半透明というか、なんか物質じゃなくて霊体てきなものじゃない? 感。

 

 手に馴染むサイズ感、うまく回せるだろうか。

 そう思って手首をスナップさせて下向きに投げると。

 

 驚くほどまっすぐに、きれいにそれは投げ出され回転を始めた。

 糸を張り詰め、そこに固定されるように。

 

 うん?

 

 ゆっくりと手首を動かすと……ヨーヨーはその場に固定されたまま、糸は傾きはじめる。

 動かしたことがまったく回転に影響を受けず、高さすら変わらず。

 

 くいっと手首を引っ張ると、糸を高速で巻き上げてヨーヨーが戻ってきた。

 これは……なんというか……。

 

 空間に固定されるヨーヨー……?

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がヨーヨーを使って異常なトリックを披露し始めた。

 まるで野球ボールを投げるようなフォームでヨーヨーを横向きにぶん投げると同時、ヨーヨーはまるで慣性を無視するようにジグザグに飛ぶ。

 そして、糸をジグザグに残したまま、空中にピタっと止まって高速回転していた。

 他にも、自分の周囲を幾何学模様を描き出すように飛ばせたり、遥か彼方までヨーヨーを走らせたり。

 

 いや……なんだこのヨーヨー!?



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SR 高級ブランド牛 500g

 牛肉。食肉の一種で、牛の肉だ。

 一般的に流通している肉の一種でもあり、スーパーで簡単に手に入る。

 その中でも特に味と品質にこだわって育てられた牛の肉は、値段が高く、味もとても良い。

 

 今回はブランド牛が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 所有権。そう所有権である。

 惑星やら秘密結社やら、出てくるだけ出てきて私に無限に迷惑しか掛けてこないアレだが、概念的に所有権は私にある、らしい。

 というのも、機神のリソース回復にモロに影響を与えていたのだ。

 

 機神が持つ能力に異界化の能力があるのは軌道エレベーターを見ればわかると思うが、これはダンジョン操作の能力である。

 これが内部の命のリソースに比例して操れる範囲が広がる、まあ小説にありがちなアレだ。

 

 そう、内部で活動する人間の数が多ければ多いほどダンジョンポイントがたくさんもらえるやつだ。

 ちょーっと違うし、システムがそうなっているわけではないが、概ね概念としてはそれであっている。

 

 で、だ。

 そのポイントの収支が、軌道エレベーターに自然湧きしたエルフやら、基部街の研究者たちの数と全く合わない。

 どれくらい合わないかというと、10万倍ぐらい合わない。

 明らかに多すぎるのだ。

 

 そして、その出処があの星と組織である。

 あそこに所属している人間や生物の分、ポイントがたくさんもらえている、というわけだ。 

 

 なんでやねん……。

 機神がもう驚くような速度でレベル上がっていたからくりがこれである。

 いや、自己生産してる分が半分ぐらいあるが、それは置いておいて。

 

 というわけで、あの星も組織も一応所有権“は”私にある模様。

 だからって何もできるわけじゃなんだけどな!

 概念干渉は……流石にちょっとしかできないからな。

 

 さて、今日の分のガチャを回そう。

 

 

 SR・高級ブランド牛 500g

 

 肉だ。

 肉が出た。

 

 桐箱に収められた、美しいサシの入った牛肉である。

 もう一目でうまいことが予想できる牛肉が出現したのだ。

 

 久々に出現した牛肉である。

 しかもガチャ初期に出てきた高級ブランド牛肉と同じモノだと思われる。

 だって紙に書いてあること一緒だし。

 

 あのときのSR牛肉なら、旨いことはわかっている。

 本当に美味かったのだ。

 美味かったからその得体のしれなさで頭を抱えたくもなるのだが。

 

 で、その牛肉がまた出現した。

 前にでたRとしてではなく、SRとして。

 そのレアリティの差は、いかほどのものか。

 

 そう思って、私は魔力視を発動させたのだ。

 ははは、まさか反応があるまい、と。

 

 そこに見えたのは、膨大な魔力量。

 尋常ならざる量である。

 濃密過ぎて、肉本体が見えなくなるほどの魔力を帯びていた。

 

 は?

 その魔力量、ざっくり見積もっても水爆10個分のエネルギーを秘めたクッキー100枚以上。

 魔力資源として魔法現象に変換するだけで地球どころか太陽系まで消し飛ばせる量である。

 

 これを、食ったってこと?

 家族ですき焼きにして?

 

 食べたあと特に異常なこともなかったので特に問題はないだろうが……。

 実態を知ってしまうとやはり食べる気は失せてしまう。

 

 というか高級ブランドって。

 まさかこんな膨大な魔力量の牛を作る畜産の概念が存在しうるってこと?

 

 

 

 

 

 後日。食った。

 クソ! やられた!

 機神内の保管庫にしまっておいたのだが、兄があっさり見つけ出し、夕食の材料にしやがったのだ。

 

 オラァ! エンシェントドラゴンのフィレステーキだ! じゃないよ!

 なにすき焼きのレシピ使ってとんでもないモノ作ってるんだ!

 しかも魔力量が10倍以上に増えてるぅぅぅぅぅ!?

 

 残しておくわけにもいかないので食べたが。

 味?

 最高でした。

 普通の人なら食ったら感動で死ぬね。



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R 碧の指輪

 指輪。それは装身具の一種であり、指に身につけるものだ。

 シンプルな金属の輪っかのようなものから、大きな宝石をつけたり細工を施したものまで、様々なものが存在している。

 また、ファンタジーでは手軽に身につけることができることから、魔法が込められたものが多数存在し、火山にまでわざわざ捨てに行く羽目になったりする。

 

 今回はその指輪が出てきた話だ。

 

 

 

 

 ついにあの組織から大規模な離反者が出た。

 組織のゴタゴタについていけなくなった構成員や、自由に振る舞うべきだと考える幹部らが一気に組織を脱退したのだ。

 

 引き抜きに引き抜きを重ねた結果、組織はもうスカスカというか、ヤバい状態にある。

 組織の看板を使って悪さしたい人間と、組織をなんとか維持したい人間との二極化の状態だ。

 本部で抗争を始めるのも近い。

 

 まあほっとくとろくなことにならんと引き抜きやってたのは機神の国も同じではある。

 機神はいろんな手段で情報をかき集められるが、人間にしか集められない情報というのもあるからな。

 今回の内情とか、だいぶ協力者使って集めたところがある。

 

 その情報を聞き、兄はいつでも突撃できるように部隊を編成し始めた。

 野良化する魔法使いやら、抗争の激化やらに対応するための部隊である。

 使う羽目にならなければいいが。

 

 そんな面倒なことは置いておいて。

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R・碧の指輪

 

 出現したのは指輪だった。

 大きくて青い宝石のようなものが中央に嵌められた豪華な指輪だ。

 まるで夜明けの海のような、複雑な色合いの青。

 

 そして私はそれを見て、一目でろくでもない代物だろうなと直感した。

 宝石の留具にとどまらず、指輪全体にびっしりと走っている装飾は見る人が見れば魔術的な代物だと即座にわかるほどに情念がこもっている。

 そして、それらは宝石を中心に循環しているのだ。

 

 これは嵌めても大丈夫なやつなのか?

 そういう疑いすら浮かんでくる。

 

 こういうときは……そうだ。

 私は指を鳴らす。

 

 すると影が立ち上り、大雑把な人型にへと形を変えていく。

 実体化した影に行動ルーチンを埋め込んだ、影のゴーレムのようなものを即席で作り出してみた。

 普段は大きな腕などを作って兄を押さえつけたりするのだが、こういう使い方もできる便利な魔法である。

 

 概ね人といった風体の黒い影の塊が出来上がる。

 普段ならばそこに命令をして、仕事をさせるところだが、今回は景品の実験である。

 手を差し出させて、その指に碧の指輪をはめた。

 

 突如、その影が沸き立つように、姿を変え始めた。

 沸騰したかのようにその形を激しく歪め、より精緻な形にへと作り変わっていく。

 

 それは少女だった。

 深い夜をあつらえたような黒のドレスを身にまとい、暗い霧のようなものが周囲に漂う。

 そしてそれに対称的な金の髪に赤い瞳。

 それは吸血鬼の少女、のようだった。

 

 お、おう……。

 胸元のスカーフに指輪が付いている。

 それが影人形だったものであることを示しているが……。

 

 挨拶ついでに手を振ってみる。

 それは()()()()()()()()()()()()私の動きに追従した。

 なんというか……。

 

 これは。

 え!?

 影ゴーレムの見た目が変わっただけってこと!?

 意識通せば思い通りに動かせる……ってこと!?

 

 

 

 

 

 後日。兄が手当たり次第に指輪を嵌めさせていた。

 指輪を外せば吸血鬼っぽい少女は形が崩れ、元の影にへと戻った。

 それを見た兄は追加で他に効果がないかとサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)やらサメ妖精のシャチくんやらに指輪をつけさせてみたのだが……。

 特に変化はなく。

 というか真っ先に自分の指に嵌めたよね!?

 

 どうも異能や魔法を拡張し、限界突破させて美少女化する指輪のようである。

 美少女化している状態の異能は人型としての能力を獲得し、その上とても頑丈になっていた。

 

 なんだその……なんだ。

 変なヘキをガチャで出さないでもらいたい。

 普通に扱いづらいんだよ!



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R キマイラの翼

 キマイラ。複数の生物の特徴を持つギリシャ神話の怪物のことである。

 ライオンの頭にヤギの胴体、蛇の尾を持ち、しかも口からは炎を吐くという。

 これらの特徴から、複数の生物の特徴を合成した生物のことをキメラと呼ぶようになった。

 ファンタジーではもはやおなじみのモンスターであり、その出自も様々。

 作品によって個性が出る生物のなっている。

 

 今回はそのキマイラの翼が出てきた話だ。

 

 

 

 

 七界統率機構の本部にてついにクーデターが発生。

 組織を我が物にしようとする悪人どもが組織を乗っ取るためにクーデターを引き起こしたのだ。

 本部は組織に属しているものしか入れない異界にあるため、そのクーデターが外に迷惑を掛けることはないが、その分凄惨なことになるだろう。

 

 本部には貴重な資源や情報がたんまりあるため、火事場泥棒的に侵入を試みる連中も出てくる可能性もある。

 籍を残しているがすでに離脱していて盗みを働こうとするろくでもないやつが……すでに数人いたからな。

 

 兄はそいつらを排除するついでにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を組織本部へと派遣。

 セキュリティを力技で引きちぎって組織を乗っ取った強硬派を制圧した。

 

 裏組織なので非合法行為・国際法違反を行ってもセーフ。

 その理論で派遣したために後始末が面倒そうである。

 まあそれも機神がやるが。

 穏健派幹部がもう、人間かどうか怪しい形になっちゃってるとか兄が言ってるから本当にどうなることやら。

 

 とりあえず今日のガチャまわそ。

 

 R・キマイラの翼

 

 出現したのは魔物の一部のようなものだった。

 コウモリと鳥とアゲハチョウの羽を混ぜ合わせたような奇っ怪な見た目の翼である。

 独特の光沢から、鮮やかな虹色に光り輝いていて、そのおかしな見た目に反して芸術のような美しさをしていた。

 

 ……キマイラの翼。

 ツッコミどころの多い名前だ。

 古くからある王道RPGに出てくる街へ移動するために使う消費アイテムみたいな名前をしているが、私の前に落ちているのはどう見ても魔物素材だ。

 

 そもそもでかい。

 片方で畳1枚分ぐらいの大きさがあり、運ぶにしても面倒な大きさだ。

 担いで運ぶしか無い。

 袋に入れても背負いきれないだろう。

 

 で、これはどうやって使うんだ。

 モンスターの合成素材?

 それとも飾る?

 あるいは撫でるとか?

 

 いろいろ考えながら、それを掲げた瞬間だった。

 私の体がふわりと浮き上がり。

 青い空へと高速で飛ばされたのだ。

 

 おわああああああああ!

 どこいくねーん!

 

 

 

 

 

 

 飛んだ先は私の家の玄関の前だった。

 大気圏を突き抜け、宇宙空間を高速で通り抜け、わずか数十秒で家の前まで飛んでくる事となったのだ。

 特に風の影響も真空の影響も熱圏の影響も圧縮断熱の影響も受けなかったが、突然生身で宇宙遊泳させられる身にもなってくれ。

 

 というか飛ぶってことはやっぱりこれ、RPGのアレと同じ効果なのか。

 実際に体験するとだいぶ怖い。

 目的地にものすごい勢いで落ちるわけだからな。

 

 私はそのあと、とりあえず兄にキマイラの翼を使わせた。

 やっぱりワープとかじゃなくて空にものすごい勢いで飛んでいくのか……。



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R 双曲線のタリスマン

 タリスマン。簡単に言えばお守りのことだ。

 お守りであるためその役割は多岐にわたり、材質や刻まれた模様などでその効果も変わってくる。

 当然、創作物ではそんなものが即物的な効果を持たないわけがなく、ちょっと身につけるだけで能力が向上する凄まじい物となっていたりするわけだ。

 

 今回はそのタリスマンが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 組織の本部の地下に神の遺体と呼ばれる遺物が保管されていたと兄が言っていた。

 なんかでかい巨人の死体みたいな代物で、だいぶ部品取りされて肉であるとか皮であるとかがもう何も残っていなかったそうだ。

 まあ、本当に神の遺体だったのなら骨まで全部利用可能な資源である。

 現物を見てないのでなんとも言えないが。

 

 なんでも組織の初期に異人から持ち込まれたもので、組織を拡大するのに大変役立ったとかなんとか。

 世界の影に潜んでいただけあって、持っているものもろくでもない。

 というか過激派がクーデターのドサクサで持ち出そうとしていたとかなんとか。

 

 兄は追加で倉庫を確認するといって現地に追加でサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を派遣していた。

 目録がなぜか紛失していてなにがあるのかまるでわかっていない状態になっているってどういうことなの……。

 しかも目録ないのクーデター関係ないんですってよ。

 マジ?

 

 まあ目録がめちゃくちゃなのはうちも同じか……。

 そして今日もそこに一つ増えるわけで。

 ガチャを回そう。

 

 R・双曲線のタリスマン

 

 出現したのは……うわっ。

 一目で膨大な神性を秘めていることがわかるタリスマンだった。

 

 魔力を目に通して世界を見れば、多かれ少なかれ(というかごく少量)かつて神だったものの力を帯びているモノがあちこちに散らばっていることが見て取れる。

 それは宗教のシンボルだったり、全く無関係な残骸だったりするわけだが。

 実際にきっちり神の力を降ろせたモノは運命とかそういうものに干渉して、いいことだったりわるいことだったりを引き寄せる。

 

 で、だ。

 神の力を手っ取り早く人の手で制御して使う方法が、仏像だったりシンボルだったり、お守りだったりの代物だ。

 「類感魔術」の応用でどうのこうの、というやつで、ようはかつて神だったものの似姿やそれに繋がったものの複製、行いの模倣などでモノに力を降ろせる。

 最も、これで降ろせるのは微々たるものだが。

 完全な再現、複製というものはそもそも人の手に余るものなのである。

 

 もう一つの方法として。

 神そのものの加工である。

 御神木を加工したギターやら、蛇神の尾から出てきた剣やら、まあこちらの手段だ。

 「感染魔術」の応用も含むが、神だったものを材料にすれば神の力が得られるのは想像しやすいだろう。

 

 それで、このタリスマンはどちらかというと。

 後者……しかも、神直々にその神の力を分けて作られたタリスマンである。

 というかそう考えないと説明できない。

 神そのものとしか言いようがない神性を帯びているのだ。

 

 しかも……どこの神だよ。

 絶対地球やこの世界の神ではない。

 その気配ではない。

 

 ついでにいうと、昇神(アポセオシス)によって生まれた機神とはまた別種。

 生まれついての神の手によるものだ。

 霧星になぜか実在した神格類と比べても異質である。

 

 まあ……異世界の神なんだろうなぁ……。

 このガチャはどこから景品を呼び出しているのか。

 

 

 

 

 

 

 後日。N 神の奇跡より手軽に使える便利タリスマンだとわかった。

 景品を放置するわけにもいかないので弄り回して調べていたのだが、アホみたいな神の力を宿しているのでそれをちょっと抽出して魔法に組み込むことができたのだ。

 

 無加工の神の力ではなく、明らかになにかの用途……まあ加護のために形が整えられていたため、簡単に魔法を拡張できる。

 身につけておけば魔法上級者が使う呪いぐらいなら簡単に弾けるし、ちゃんと魔法に組み込んで防御すれば神クラスの魔法使い……まあ私が全力で放つ呪いでも完全に防ぐことだってできる。

 他にも魔法で運気調整してやれば、簡単に宝くじも当てられるだろう。

 

 しかもこれだけめちゃくちゃしておいて。

 なんの神かわかってないから、本来の加護を引き出せてないってところがヤバい。

 この出力から考えると、仮に戦神だったりした場合、「どこにいるかわからない敵対者が消滅する」ぐらいの効果を発揮してもおかしくない。

 

 というかこれがR?

 SRで神格そのものが出てきそうで怖いんだけど?



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R ミセリコルデ

 ミセリコルデ。それは短剣の一種であるスティレットの別名である。

 主に相手にとどめを刺すために使われるところから「慈悲の短剣」という意味の別名を持っているのだ。

 武器としては多少鋭い程度の短剣なので鎧の隙間を狙って使うのが基本的な使い方である。

 

 今回はそのミセリコルデが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 うっかり組織を潰したせいで政治系の面倒がたくさん発生してしまったようだ。

 結果、兄はそちらの解決に組織の本部に詰めっぱなしになっている。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)越しの作業とはいえ、兄にこういう仕事が務まるのかと不安になってしまう。

 

 機神が事前に集めておいた元メンバーや離反者達の情報と人材によって作業そのものは順調に進んでいるようだが……。

 特に強硬派の中にもろにテロや犯罪に加担してる人間がたくさんいたため、それの処理も無駄に手間取らせるという。

 

 しかも組織の内規に従うと悪・即・斬で人権もクソもないのでそれに従うわけにもいかない。

 誰に任せるかとかも完全に手探り。

 世界に放出するとそのまま世界終了もありうる人材に技術に資産……本当にろくでもないな!

 

 まあそんな面倒なことに自分から突っ込んだ兄はおいておいて。

 今日のぶんのガチャを回そう。

 

 R・ミセリコルデ

 

 出現したのは短剣だった。

 黒い十字架を模した短剣で、刺突に特化した代物である。

 創作などではあまり出番がない代物だが……。

 

 特に見た目には特筆するようなこともなく、なんというか普通だ。

 飾りっ気のなさが実際に使われていたようなもの、あるいはそれらの複製品といった風体を醸し出している。

 

 短剣……慈悲……。

 私はとりあえずなにかをこれでつついてみることにした。

 人殺す用の短剣なんだからなにか刺さないとわからない、はず。

 

 そう思って私はテーブルにミセリコルデを突き立てた。

 

 突如、破裂するようにばらばらになるテーブル。

 まるで自分は役目を終えた、と言わんばかりに崩壊している。

 

 えー……。

 こわ。

 試しに椅子や看板やらもつついてみたが、それらも同様に壊れて役目を果たさない状態になった。

 

 えっと、これはつまり。

 モノが……即死した?

 ミセリコルデに慈悲を与えられて?

 

 ジョークにしては危険すぎる代物である。

 万が一、人に向けられたら。

 いや、手から滑り落として足に落ちたら。

 そこにあるのは死である。

 

 これどうしよ。

 危ない……危ない?

 破壊力だけなら兄の拳のほうが上ではあるが。

 どこにしまっておくかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が実験した結果、生物を傷つけられないことが判明した。

 目ざとくこの短剣を見つけ出した兄は、即サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)にぶっ刺したのだ。

 

 だがサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は無傷。

 兄の力で以てナイフを突き刺せばサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の生体装甲ぐらい、紙をちぎるよりも簡単に貫けるはずなのだ。

 それでも無傷。

 

 思いっきり振りかぶろうが、鈍器のように叩きつけようが、複合スキルを載せて攻撃を叩き込もうが無傷。

 どう頑張っても1ミリも刺さらない。

 

 無生物だけ……殺す短剣……ってこと?

 それにしてもこれ使うと残骸にしかならないから使い道もないんだが……。



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R レールガン

 レールガン。それは電磁力によって砲弾を発射する兵器である。

 火薬に依存せず砲弾を発射できるため、軍艦などで利用することを考えて研究が進められていた兵器だったが、砲の威力も発電機の電力も要求水準に満たなかったことから研究が打ち切られたらしい。

 

 今回はそのレールガンが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 あの組織の経理、やっべえ。

 世界中に根を張る巨大組織であるからには複雑怪奇な経理をしていることは想像に固くないものだが、実際のそれはもうひどいものだった。

 

 そこかしこにある横領の痕跡。

 実態のない不動産取引や異常なほど高額になっている医療費、なんなら薬物密輸の痕跡まで。

 国や企業に限らず、でかい組織には寄生虫がつきものだが、これは本当にひどい。

 

 裏の組織であるためにまともに監査が入らないせいで横領し放題というだいぶやばい状態だった。

 というか年間ごとの記録を見ていると、横領で過去に数十人粛清されているのに一向に減ってないのものすごいぞ。

 

 機神にチェックさせればさせるほどこういうの出てくるから恐ろしい……。

 人間の部品取りの記録とか丁寧につけてあったりするしさぁ!

 

 はー。潰したほうがいいんじゃないだろうかとも思うが、潰すと組織に混ざっている犯罪者予備軍が野に放たれるという。

 めっちゃこまる……。

 

 今日の分のガチャ回して頭を切り替えよう……。

 

 R・レールガン

 

 出現したのは火器だった。

 いや、大型のマシンガンにも似た銃器で、なんというかSFの戦艦のサブ兵装を雑に手持ちに改造したみたいな形状である。

 予想通りなら人間が扱う武器ではないだろう。

 

 で、レールガン。

 紙にはそう書いてある。

 そういう超技術の兵器が登場、で景品として扱われいてるのか、それともなにか余計なプラスアルファがあるのか。

 

 とりあえず見てみるか、と弾のチェックから始めようと動きそうな部品に触れてみると。

 脳裏に部品の正確な寸法が思い浮かんだ。

 そして、その部品がどのような機能を果たしているのかを。

 

 う、ううん!?

 そっと隙間から影の魔法を這わせると。

 

 内部の発電機の構造を理解する。

 水を分解と結合を繰り返し循環させることでエネルギーを発生させ、しかも90%以上の水を再利用可能な超エコロジー発電機。

 なんなら図面を引けるレベルで構造を理解してしまっている。

 

 えっ、なにこれは。

 リバースエンジニアリング特化レールガン!?

 分解して解析する用途の景品なの!?

 

 発電機だけでもこれである。

 なら基本的な武装部分も革新的な技術が使われていることだろう。

 ぱっと思いつくだけでも冷却システムは様々な分野で応用できる。

 

 なにがいやって、関連技術まで理解してしまった。

 私はもう発電機械の専門家になったといえる。

 多分大学卒業程度の。

 

 調べれば調べるほど、余計な知識が植え付けられる。

 リバースエンジニアリングするものに、それによって得られる知識を極めて正確に与える兵器。

 

 もちろんこんなものが外に出たら……めっちゃ面倒だ。

 兄も調べるだろうけども……。

 

 

 

 

 後日。兄はサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)にレールガンを解析させた。

 そしてそれらを共有させ……高速で技術書を執筆させたのだ。

 そう、レールガンを構成する、現代に存在しない技術の知識を。

 

 それを……どうするつもりなのか。

 国家との取引に使うとかなんとか。

 発電機を試しにつくるのもいいとかなんとか。

 

 また世界が荒れるんじゃー!?



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R 腹筋ローラー

 腹筋ローラー。それは腹筋を鍛えるために使われる筋トレグッズである。

 車輪にハンドルが付いた見た目をしており、足とその車輪だけで体を支えて車輪を前後させることで腹筋に負荷を掛けるのだ。

 これがなんというか……めちゃくちゃきつい。

 前につんのめる形になるので、車輪が滑りそうになるのだ。

 総じて手軽な割に大変な筋トレグッズだと言える。

 

 今回はその腹筋ローラーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 組織の片付けが全然終わらねえ。

 奴らがよくわからず倉庫に押し込んだマジックなアイテム群が多すぎる。

 危険すぎる代物だったり、放出すれば文明がまた一段階進むようなものだったり、なんで組織で運用してないの? と言いたくなるものだったり。

 聖剣魔剣霊剣の類が数百積まれていたり。

 

 何がアレって鑑定できる人間がいねえんだよな、組織に。

 だからこれらがホコリをかぶっている。

 そのせいで暴走してダンジョンハック状態になってるわけだがー!?

 

 襲ってきた本を魔法で撃ち落とし、空間変動を兄が拳で叩き割り、リチャードさんがヤバい物品を封印し。

 これを数時間やって……終わりが見えないという。

 

 倉庫ごと封印したいが、それをするにはあまりにも財宝の宝庫という。

 これは時間かかりそうだ……。

 

 さて、とりあえずガチャ片付けよう。

 今日はあらかじめ引いたものを組織の執務室で開ける。

 

 R・腹筋ローラー

 

 出現したのは、腹筋ローラーだった。

 黒い車輪が2つくっついた棒といった印象の筋トレグッズだ。

 

 しかもやや安っぽい印象の作りをしている。

 微妙にグリップが反っていてこれでトレーニングしたくねえなぁ~! って気持ちにさせられるのだ。

 

 車輪もなんか……溝入ってない?

 自転車のタイヤみたいな、グリップ用の溝が入っている。

 そんなに分厚いものではないのでシティサイクルのような溝だが、そんなものが腹筋ローラーに必要なのだろうか?

 普通の腹筋ローラーはゴムを巻いているだけだと思うのだが。

 

 まあ……いいか。

 とりあえず普通に試して、変な効果が見つからなかったらその時はその時だ。

 

 そう思って、膝コロと呼ばれる、膝を立てた形での体勢をとり。

 体を前に押し出した瞬間だった。

 

 うおおおおお!

 体が持っていかれる!

 

 突如として、車輪が加速。

 明らかに自分が前に押し出したよりも強い力で加速しているのだ。

 

 私はそのままつんのめって倒れ。

 腹筋ローラーは激しい回転音を立てながら、壁に激突したのだった。

 

 ええ……。

 片手に持った腹筋ローラーを、回してみる。

 すると、ハンドスピナーよりもよく回る。

 加えられた力よりも明らかに強く。

 

 まーたエネルギーの変換効率が100%超えてる代物だよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が腹筋ローラーを地球ゴマみたいにして遊んでいた。

 回転する円盤に棒がついていれば地球ゴマのように倒れないコマのようになるのはまあわかる。

 だがその円盤が加速し続けているように見えるのはどういうことだ。

 

 うん?

 円盤回しまくって遊んでいたら減速しなくなった?

 なにやってんの?



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SR 運命ノート

 運命。それは未来において起こることが決定しているという考え方だ。

 その解釈は様々だが、その未来を変えるには往々にして大変な労力がかかるもの。

 そして大体ろくでもない出来事である。

 多くは予言によってもたらされ、それをくつがえすために多くの英雄が四苦八苦して、そして死んでいく。

 

 今回はその運命を定めるノートが出てきた話だ。

 

 

 

 

 結局倉庫の代物は機神にアイテムボックス的な魔法道具を開発させて強引に運ぶことにした。

 ガチャの景品を解析して断片的に分かっている知識を組み合わせれば、複数の入り口を持つアイテムボックスを製作可能だ。

 

 そのアイテムボックスにより、倉庫にあったアイテムをどんどん送り込める体勢が整った。

 つまり……サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)による強引な人海戦術で強制お片付けできるようになったということだ。

 

 全部回収したあとで順番に機神と私とリチャードさんで鑑定作業を行う予定である。

 アイテムボックスはインデックス化できるようになっているため潜りながら調べるようなことをしなくて済む。

 

 あそうそう。

 いわゆる鑑定系の魔法も完成した。

 アイテムボックスのような箱の中身も調べることができるのでとても便利……のように見えて。

 

 情報処理にめちゃくちゃ時間がかかるのが欠点だ。

 ケーキみたいなモノを鑑定するのに私でも半日魔法を掛け続ける必要があってなかなか、ガチャの景品に使えるものではない。

 というかR以上だと鑑定に数日、SR以上だと数週間かかる予想が出てるから現実的じゃねえ。

 機神が並列化して数百個単位で鑑定できるから倉庫の代物を調べるにはちょうどいいけども。

 

 まあ倉庫事情は置いておいて。

 今日の分のガチャを開封しよう。

 

 SR・運命ノート

 

 出現したのは黒い表紙に白地で文字が書かれたA4ノートだった。

 どこの言語かわからない、というかおそらく魔法的な意味が込められた文字が表題としてつけられたそのノートは、だいぶ厄い気配を放っている。

 

 というかあれだ。

 名前を書くとその人物が死ぬノートと同じデザインだ。

 文字の装飾が無骨なせいで他のノートとして再利用もできなさそうである。

 

 で、中身は……と。

 裏表紙に白い文字でなにか書かれている。

 これは……表紙の文字と違って英語だな。

 

 なになに?

 1.このノートに書かれた出来事は記述通りに実現される。

 

 ……。

 はい。

 まあ、景品名からわかってはいた。

 私はさらさらと白紙のページに「私のペンが床に落ちる」と書く。

 

 しっかりと持っていたにも関わらず、ペンが指をすり抜けてテーブルに落ち、そのまま転がっていて机の反対側で落ちた。

 

 あー……。

 

 2.書かれた記述は運命となって現実となる。例外はない。

 

 多分これ相当強制力があるタイプだ。

 例えば「兄がケーキを持ってくる」と書けば、即座にドアを開けて兄が入ってくるだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あーやだやだ。

 未来を知ることはその未来に縛られることだとか創作ではよく見かけるが。

 こういう縛り方も存在するんだなぁ。

 

 じゃ、面倒事は片付けてしまうに限る。

 

「このノートは消滅する」

 

 

 

 

 

 

 後日。思い返して見ると。

 なんでガチャの消滅を書いておかなかったんだろう。

 あの時は欠片も思い浮かばなかったのだ。

 

 いや、理由は大体わかっている。

 あのノートよりも、ガチャの持つ()()のほうが強かったのだ。

 

 あのノートは書かれたことが運命となり、必ず実現する。

 逆説的に言えば、書かれないことは実現しない。

 そしてこの手の能力には更に逆説的な概念があるのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 運命とはつまり、そういうことだ。

 本当にろくでもない。



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R スマートカード

 カード。現代社会では様々な場所で利用される小さい板のことだ。

 その素材は紙からプラスチック、PVC、金属と形状さえあっていればどのような材料で作ってもよい。

 クレジットカードには金属で作られたものも存在するそうだ。

 またICチップなどを入れることで電子的な機能をもたせたもの、逆にイラストが印刷されただけのものなど、様々なモノが存在する。

 

 今回はそのカードが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの組織が倉庫で死蔵していたものの中で鑑定が済んだモノを、組織の中の警察的な役割を果たしていた部署に卸した。

 この部署は機神が予見した問題に対処するために設立された部署で、主な仕事は異能持ちの犯罪者をしばくことと、組織の裏切り者をしばくことである。

 

 いやね、崩壊したときに利権を持ち逃げしようとしたやつとか、横領しようとしたやつとか、武力でマフィア化しようとしたやつとか、いっぱいいるわけですよ。

 大規模なやつは大体止めたが、細々としたやつは結構大量に残っている。

 

 特にレガシーを売っぱらってどうのこうの系が非常に困る。

 魔法技術はやっと芽が出たばかりの分野であり、それをめちゃくちゃに破壊しうる技術の放流は……困るのである。

 兄がやってる? 機神の計画に組み込まれてるからセーフなはず。

 

 というかただのマフィアが持っていい代物じゃないものばかり持ち出そうとした形跡があるんだよな。

 射抜かれると超能力に覚醒する矢とか。

 もう一人の自分を影として使役するタロットカードとか。

 人型の異能兵器とか。

 ケルベロスを召喚できる本とか。

 

 持ち出して何するつもりだったんだよ。

 

 こういう輩に対応するために警務部署には機神で量産可能だと判断した代物を卸したわけだが……。

 どういうわけか平均的な戦闘のレベルが跳ねた。

 

 なに? 「まるで今までがおもりを付けたまま泳いでいたような感覚」?

 倉庫の代物が強いのか、適切なレベルの装備が支給できていなかったのか、教育が行き届いていなかったのか。

 

 まあどれでもいいか。

 警務部隊が強いぶんには特に問題はないしな。

 今日のぶんのガチャ回そ。

 

 R・スマートカード

 

 出現したのはクレジットカードサイズのカードだった。

 薄い金属板のような質感のカードで、表面には細い線のような光が走っている。

 

 カード……?

 触れてみると、表面に光が波打つ。

 美術的に非常に美しい代物だと言える。

 

 きれいではあるが、何なんだこれは。

 当然のように現代技術では作れない代物であるのはわかるが。

 

 夜の闇を割く流れ星のような細く長い光。

 カードの表面をそれが走っていく。

 

 ……あれ。

 ガチャの景品はどれもこれも魔力許容量が多く、どんな代物でも魔力電池にできてしまうぐらい魔力を注げる。

 保存する機能があるわけではないので一時的にな取り置きに使える程度の余計な要素ではある。

 だが、このカードは……底なしだ。

 軽く指先から魔力を注いでやるとぐんぐん吸い取っていく。

 

 どんなものでも抵抗はあり、魔力のような異質なものは注ぎにくいのが常。

 だがこのカードはスポンジが水を吸うかのように吸い上げていく。

 

 これは……注いだはしから魔力が逃げているので保存するためのカードというわけではなさそうだが。

 

 なんだ……?

 何かを入れる、貯めるモノ?

 カードが?

 

 

 

 後日。機神の解析ですぐに分かった。

 これは記憶媒体だ。

 こんな薄っぺらい媒体に、なんと450YB(ヨタバイト)入るらしい。

 あまりに馴染みがない単位なのでわかりそうな範囲にすると、大体450兆TB(テラバイト)だ。

 人間の脳が大体17.5TBぐらいだそうなので、25兆人の脳を保存できる容量だ。

 

 ちなみに中身はほぼ空。

 システム領域が少しだけ入っているだけだった。

 

 しかも機神なら生産できそうってさ!

 どういう技術してんの!?



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R 換金の壺

 壺。日製のローグライク系ではおなじみのアイテムで、入れることによって効果を発揮するアイテム群だ。

 その用途は様々で、装備品を合成したり、荷物を多く持ち運ぶためだったり、あとは正体の分からないアイテムを鑑定したり。

 ただ必ずしも便利なアイテムであるとは限らない。

 

 今回はその壺が出てきた話だ。

 

 

 

 

 信仰が溜まったので神器を作ろうと思う。

 いきなり何を言い出すのかと言えば、実はリソースの話である。

 

 魔法は魔力を消費して現象を引き起こす技術で、魔力が無ければ始まらないものだ。

 そして神の力においてこの魔力に当たるのが信仰。

 

 これが実は危険な量溜まってるんだよね……!

 魔力はあくまで使用者自身が使()()力なのに対し、信仰は使()()()()力なのが問題だ。

 

 神とか信仰とか銘打って本末転倒な話だが、信仰は言ってしまえば「こうしてほしい・こうなってほしい」という願いが元となっている。

 過剰に溜まりすぎるとそれに引きずられて人格とか姿とか能力だとか色々なものに歪みが生じたりするのだ。

 かと言って消費するにしても、その信仰に沿った形でないと大体バグって暴走するという。

 これではどっちが力を使っているのかわかったもんじゃない。

 畏れの類なら制御可能な範囲でぶっ放して発散してやればいいだけなのだが。

 

 しかもうかつに人間に信仰が溜まったりするとそれだけでカリスマ性を発揮したりしはじめてまずかったりする。

 私もちょっと危うい状態なんだよねこれ……!

 

 ちょうどいい材料も組織の倉庫から手に入ったし、製造系の能力は機神がガッツリ握っている。

 多少、クオリティが低くても信仰を消費して信仰リソースが貯まらないようにしてくれればいい。

 なのてパパパっとそれ用の魔術式を書いて機神に案出しさせることにして。

 

 今日の分のガチャを開けよう。

 

 R・換金の壺

 

 出現したのは壺だった。

 やや悪趣味よりのデザインと金の色合いをした壺で、なにやら円環状の文様が刻まれている。

 

 で、換金の壺。

 見る限りでは入れたものを換金する壺だと考えられるが、それで素直に通るとは思えないが……。

 

 とりあえず金属でも入れてみようか。

 そう思ってヒヒイロカネのインゴットを持ってこさせて入れさせた。

 壺の口に入らない大きさのはずのインゴットがちゅるんと壺の中に取り込まれ……チャリン、と音を立てる。

 

 中を覗いてみると……そこには何枚かの金属硬貨。

 入れた金属の値段に見合っているのかわからないが、枚数は少ない。

 

 ひっくり返して硬貨を落とすと。

 でてきたのは、銀貨のようだった。

 見たことのない造形の丸い硬貨。

 

 そんなに小判やらなんやらに詳しい訳では無いが。

 どこの小銭だこれ。

 

 どこかの教会を模した彫り込みと人の横顔の彫り込み。

 横顔にはどことなく人間っぽくない意匠が施されている。

 宗教の神様をモチーフにした硬貨だろうか?

 

 換金されたとはいえ、結局使えない小銭とあれば意味がない。

 何に使えるのか、なぜ換金されたのか、どれぐらいの価値があるのか。

 何もわからない。

 

 数字も書いてないし……。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が小銭を消費して魔法を使った。

 どういうわけだか、兄が小銭を握りしめながら魔法を行使することで銀貨を魔力代わりにしたのだ。

 他にも銀貨を使えば機神の能力によるモノの生産のコストの代わりにできたり、なんならサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に飲ませることでレベルを上げることもできた。

 調査を続ければなんにでも使えそうだと、兄は言っていた。

 雑にプランターに埋めれば植物の栄養の代わりにもなりそうだとも。

 

 つまりあの壺は入れたものを換金し……万能リソースにへと変換するものだったのだ。

 ほとんど完全物質、なんでにでも変化する石のようなもの。

 というか大量にインゴット投入したら賢者の石を素材にしたと思しき赤い硬貨が出てきた。

 

 しかも神器のコア部品に最良って。

 信仰ベースの人造神作れるって。

 

 そこまでの代物はいらねえ!



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SR バギー・ホッパーと秘密のカギ

 鍵。それは閉ざされた扉を開けるのに使う小さな道具だ。

 鍵と錠で一セットであり対応したものだけが開閉可能なようになっている。

 なら鍵だけがある場合は。

 なにかを開くためにあるのだろう。

 

 今回はそのカギが出ていた話だ。

 

 

 

 

 

 

 神器はあっさり完成した。

 まあはいるような邪魔もなく、技術面も機神が担当。

 失敗する要素がないといえばない。

 

 核に紅色の硬貨を使い、安定性を強化し、さらに増幅する効果を持つ。

 ぶっちゃけ出力過剰だ。

 一切の信仰の供給がなくても最低限の動作すら可能になってしまった。

 

 で、そこまでして作った神器の効果はというと。

 一つの国家における学習効率を向上、である。

 範囲内にいる人間の学びの効率を大幅に強化するのだ。

 範囲を国家規模にしたので一人あたりの強化率はだいぶ低くなったが、あまり高いのも考えものだったので好都合だった。

 

 供給される信仰の総量にもよるが大体10%から30%の程度の強化が行われるはず。

 基部の街にいる人間ならば普段よりちょっと調子がいいかな、ぐらいの範囲にとどまる。

 そもそも学習効率は環境に影響されて結構振れ幅が大きいからな。

 

 これで魔法技術を外に出す効率も上がる。

 外に出すより早く知識や技術が溜まっていく現状、この速度は上げておきたい。

 一般的な国家ならともかく、竜鮫神国にとっては利点はない。

 技術格差はいくらでも作れる。

 ならもっと世界に発展してもらったほうが()()になる。

 

 まあそれはいいか。

 今日の分のガチャを回そう。

 

 SR・バギー・ホッパーと秘密のカギ

 

 パクリじゃねえか。

 カプセルを開け、中に入っていた紙を見てそう思った。

 

 出現したのは鍵だった。

 一般的なものではなく、ファンタジー映画などに出てくるような棒状で装飾の多い代物である。

 細かな宝石で彩られた見事な銀細工の一品だ。

 

 で、鍵。

 鍵だけ出されても困る。

 基本的に鍵と錠は一対だ。

 同時に存在しなければ意味がない。

 

 ということはなにかを開くためにあるはずだが。

 とりあえず色々突き刺してみることにした。

 

 テーブル。反応なし。

 柱。反応なし。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)。反応なし。

 サメ妖精のシャチくん。反応なし。

 私の頭。反応なし。

 自室の扉。反応なし。

 

 扉の鍵穴。反応あり。

 ヒットした。

 ズルゥと、スライムか何かが侵入するがごとく、先端が液状にも似た動きをして鍵穴にはまり込んだのだ。

 普通に引っ張って抜けそうだが、今回は効果の確認。

 ガチャン、と鍵を回す。

 

 ギギギ、といつもより重苦しい音を立てたながら扉を開くと、それは見たことがない部屋だった。

 ざっくり体育館ぐらいの広さのある、石材で作られた城の一室のような部屋が扉の先に広がっている。

 扉の先は私の部屋だったはずだが?

 

 というかこの鍵の名前のパクリ元に出てくるアレでは。

 あったりなかったり、必要なものが揃ってたり大きさが変わったりするあの部屋。

 ……というか秘密の部屋はそっちじゃねえ!

 

 部屋の検証……。

 えー。

 面倒そう。

 

 元ネタ通りだとすると、なにからてをつけていいものか。

 なんでもありすぎるのは本当に困る!

 

 

 

 後日。兄が部屋の検証をした。

 具体的には鍵を差し込むときに強く思い浮かべた内装に変化する部屋だったようだ。

 割と困るのがこの鍵もリソースの概念がぶっ壊れた代物で、兄が思い浮かべて開いた部屋が「完全な永久機関発電機が置いてある部屋」。

 当然通らないと思ったのに、あけたらあったよね。

 それも家庭用発電機ぐらいの大きさのものが数十個並んでたよね。

 その上最大出力が核融合炉並だったよね。

 

 どないせいっちゅうねん!



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R デザイナーズ四畳半

 四畳半。それは狭いアパートの一室のことである。

 畳が4枚半おける程度の広さのことであり、単身で生活する最小単位だといえよう。

 かつての学生の下宿などではこの大きさの部屋が提供されていたことがあるらしい。

 ただ、現代で生活するには狭いような気もする。

 

 今回はその四畳半が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 神器、想定外なほどに効きすぎた。

 いや、設計通りの出力で、設計通りの性能を発揮しているが、問題はその効果を受けている人々の方だったのだ。

 現在、基部の街に来ている人間はそのほとんどが学者と軍人だ。

 

 商店の類も、各国が認可のもとにPX(酒保)、ようは軍隊が抱える購買部が展開されている。

 民間にはまだ開放していないためである。

 どこもかしこも国家機密だらけで、民間に開示出来ねえ。

 

 で、効きすぎたのは学者の方……だけでなく、軍人の方もだ。

 ここに来ているのは全員エリート中のエリートなのだ。

 そりゃみんな頭がいい。

 

 そんな連中に学習効率増加の割合バフを与えるとどうなるか。

 元の能力が高いので、バフによる上昇量がすごいことになる。

 

 特に頭脳労働で食ってる学者連中はやばい。

 一日体調不良になると、一日仕事がダメになるレベルで最前線を走っている人間ばかりだったのを完全に失念していた。

 もうスポンジが水を吸うように魔法の理論を吸収している。

 その学習速度、私と同程度かわずかに劣る程度である。

 

 魔法技術の学習が早いことはいいことなのだが。

 効きすぎて神器バフバレる可能性ががががが……。

 

 まあいいか。

 どうせ直接神託制国家だ。

 その影響下にある人間に恩寵とかあっても……いいだろ、多分。

 誤魔化しは効く。

 

 今日の分のガチャを開けてしまおう。

 

 R・デザイナーズ四畳半

 

 出現したのは……箱? 箱だった。

 木材となにやら断熱材のような素材で組み立てられたその箱はどことなく超でかいユニットバスのような感じがする。

 窓もつけられていて……これは部屋の内装部品が、なぜか組み立てられた状態で出現した物のようだ。

 

 外観は不格好だが、それも致し方ない。

 本来壁や天井にくっついているはずのパーツがガワになってしまっているんだからな。

 

 まあ、それは置いておいて。

 内装である。

 ぶっちゃけ、紙に書いてある内容の時点であんまり期待していない。

 適当抜かしやがって、という気持ちにもなる。

 

 そう思いながら、据え付けられた扉を開ける。

 

 うわあ、シャレオツ……。

 

 箱の中身は、ずいぶんと生活感のない、やたら洗練されたデザインの部屋があった。

 デザイナーズ四畳半の名前の通り、四畳半の空間に詰め込めるだけデザインを詰め込んだ部屋である。

 畳が4枚半しか置けない部屋をおしゃれに仕上げているのは感嘆するが。

 

 そのせいで……余計狭く感じるというか……。

 圧迫感がある……。

 おしゃれなせいでかえって住みづらそうな部屋になってしまっている。

 

 デザインの見本に使われていたものとかそういうやつだろうか。

 余計不便に見えて売れなさそうだな……。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が片手でその箱を引きずっていき。

 抱えるサイズの瓶にねじ込んでいた。

 

 どういうわけか、スライムやゼリーのように形を変えながら瓶にデザイナーズ四畳半が押し込まれていき、入りきってしまったのだ。

 瓶の口に扉が向いた形で。

 

 しかも扉を開けて覗いてみるとそこにはあの四畳半。

 兄は瓶の中へと平気で出入りしていた。

 

 ええー……。

 なに?

 あの箱、もしかして。

 

 四畳半という空間そのもの、なの?

 閉所ならなんにでも入っちゃうの?

 

 無意識にガチャの景品が普通の“変”であることを期待してしまったのが失敗だったのか……。



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R パチンコ

 パチンコ。それは遊技機の一つである。

 金属の球を弾き、盤面上に打たれた釘によって誘導され、特定の穴に球が落ちることで得点となる遊技機だ。

 スロットと組み合わせたパチンコは日本で大きなシェアを持っており、ギャンブルといえばコレと言ってもいい。

 

 今回はそのパチンコが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 組織が霧星にも根を伸ばしていたのを忘れていた。

 ある程度対処はしていたのだけれど、機神任せになっている。

 機械の神は機械であること、神であることの両輪によって人心がわからない。

 なので確認作業を怠るとやらかすような気がする。

 

 裏からいくつかの国を操っていた組織だが、崩壊によってそれぞれの国ごとに分裂したのを、機神が指示を出して制圧。

 とりあえず傀儡にして維持していたのだが。

 これをどうしようかなぁ、と考えているところ。

 

 事実上の属国である。

 いらねえ、と思わなくもないが、これらの国は基本的に組織ありきで維持されていた国。

 突然崩壊したからって引き上げると大変なことになる。

 

 適度に干渉しながら、徐々に手を引くように指示しておいた。

 まあなんか起こったりしたら結局手出しする必要が出てきそうだが。

 

 その辺は置いておいて。

 今日の分のガチャを開けよう。

 

 R・パチンコ

 

 出現したのはパチンコだった。

 遊技機の方である。

 金属弾を飛ばす方ではない。

 機種は……ちょっと前にやっていたアニメのモノ。

 

 パチンコ……パチンコか。

 ギャンブルであるからか、印象は良くない。

 

 でもまあとりあえず試さないと効果がわからん。

 とりあえず遊んで……遊んで……。

 

 アレ!?

 これどうやって遊ぶんだ!?

 

 普通、コインなりお札なり球なりを入れるところがあるはずだが。

 それがない。

 

 となると受け皿にパチンコ玉をいれてやる必要があるのだが……。

 そんなものはない。

 流石に兄に用意させるのも面倒である。

 

 もしかしてなくても玉が出るかもとハンドルをひねってみるが……。

 なにも出ない。

 

 ……いや、なにか出ている。

 小さいがポン、ポンとなにかが弾かれて出ているような音がしているのだ。

 空気の音?

 

 もしかして。

 そう思ってビー玉を受け皿に入れてやった。

 

 するんとビー玉がパチンコ台に吸い込まれ。

 上からはじき出された。

 そして、ガラスと台の間で詰まった。

 

 は?

 有り余っているコインを受け皿に入れる。

 コインは取り込まれ、上から落ちてきて釘に引っかかった。

 

 え?

 どんなものでもパチンコ玉として発射できるパチンコ台……ってことか?

 その結果、無為に詰まってるだけなんだが?

 なんのためにこんなものを……。

 

 

 

 

 

 後日。兄がBB弾を流し込んでパチンコを動かした。

 BB弾ならパチンコ玉よりも小さく、どこでも買え、詰まることもない。

 すぐこの発想ができる兄はまあ……いつも通りといえばいつも通りだが、頭の回転が早い。

 

 パラパラパラ……とBB弾が転がる。

 パチンコ玉ほどの高揚感もない虚しさが募っていく。

 少したったあたりで、ポケットにBB弾が入ってスロットが回り始める。

 

 で……全然掛からないという。

 シンプルに渋い。

 BB弾をパチンコ玉代わりにしているからという感じではない。

 

 全然スロット当たらねえ。

 当たったときにどうなるかも見ておきたかったのに。

 

 流石に付き合ってらんねぇ。

 倉庫行きだ!



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R コロコロ

 コロコロ。粘着テープでホコリなどをくっつけて取る清掃道具だ。

 手軽に使える点や汚れがひと目で分かる点など、利点は多い道具である。

 布製品にも使えるので手が空いているときにコロコロして掃除できるのが非常に便利だ。

 

 今回はそのコロコロが出てきた話だ。

 

 

 

 

 組織の技術の中で機神が再現できなかった、というか再現する前に止めた技術がいくつかある。

 

 一つは生きた繊維。

 生き物を分解して糸にするというもので……これで服を作るとかなり強力な装備品になる、らしい。

 

 絶対ダメだろ。

 兄がやらかすに決まってるだろそれ。

 

 一つは魂の結晶化。

 これも生きた繊維と同じで、生き物を素材にする技術だ。

 人間を材料にする技術なのでもっとダメ。

 人の魂を結晶にして取り出し、魔術の増幅装置にする技術なのだが、組織でも超高コストだったのであまり利用されなかったようだ。

 利用されたケースは大体ヤバい能力持ちを封印するためか、死にかけのベテランを保存するためだったようだが……。

 

 当然ダメだろ。

 兄がやらかすに決まってるだろそれ。

 

 一つは真銀錬成。

 これは機神が再現出来なかった、というかなにか相性が悪くて再現しようがなかったのだ。

 真銀という名称の魔術用の特別な金属を作り出すものなのだが……。

 まあ出来上がる金属がヒヒイロカネ加工品の劣化なのでいらないといえばいらない。

 

 複数の神格をこき使う術式になっててそりゃ機神には相性が悪い。

 これ使ってて大丈夫だったのか? という疑いも立つ。

 

 いやあ……ヤバい技術が目白押しですね、という。

 歴史の長い組織なので一時期運用していたとか、回収だけして保存していたとかでヤバい技術が蓄積しがちだというのはある。

 でもこれらは運用してたからヤバいなぁ。

 

 まあいいか。

 全部終わった話だ。

 今日の分のガチャを開けよう。

 

 R・コロコロ

 

 出現したのは粘着テープクリーナーだった。

 一般的にはコロコロと呼ばれるあれである。

 

 ロール部分がプラの箱に収められている形状のものが出現した。

 セットされているロールも市販のもののように見えるが……。

 

 さて。

 とりあえず服にでも試してみようか。

 よくわからない景品と比べると手軽に使えるからありがたい。

 

 そう思いながら服にコロコロとしてみた。

 ベタと服に張り付き、細かいホコリや汚れが剥がれて……。

 

 うん。

 普通だ。

 汚れが全部くっついて取れるとかそういう品だと思ったが、そうでもないのか?

 

 うーん。

 わからない。

 コロコロしたのが服だからか?

 

 そう思ってテーブルの表面をコロコロしてみた。

 テーブルの表面のダメージが剥がれて新品同然になる。

 

 あー……そういう。

 そりゃ服じゃわからんか。

 この服はそれほど傷んでいるわけでもない。

 

 しかし、テーブルの表面ツルツルになったな。

 コロコロとしてはこれ正しいのか?

 

 

 

 

 後日。兄がより詳しい条件を見つけ出した。

 より正確には表面の汚れや痛みを全てくっつけて剥がし取る代物だったようだ。

 しかも、ロール紙は取り替え可能。

 市販品でも同様に効果を発揮した。

 

 というか、一度組み替えたロール紙なら効果を発揮した。

 一度コロコロにセットしたロール紙を外して、他のコロコロにセットしても同じように汚れや痛みを剥がし取れるし。

 なんならロール紙をセットしたコロコロからロール紙を外して新しいロール紙をくっつければ同じように剥がし取れる。

 

 感染……している……。

 景品の特性が感染してる……。



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R レトルトカレー

 レトルト。元々は釜を意味する単語が、加圧過熱殺菌の意味を付与され、最終的にその調理法で作られた保存食を指す言葉になったものだ。

 現在様々な保存食が存在し、その中で特に様々な種類があるのはカレーである。

 そのおかげでどこでも美味しいレトルトカレーが手に入るというわけだ。

 

 今回はそのレトルトカレーが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 あ、あああああー!

 神器が想定外の挙動をし始めた。

 いや、想定通りの挙動をしているのだが、前提条件が想定外の形になってしまったために、想定の範囲を逸脱してしまったのだ。

 

 なにが変わったかというと、属国。

 霧星にある組織の属国が、効果範囲に加わっていたのである。

 向こうの国にはまだ気が付かれていないし、劇的な効果を発揮している様子もないが、効果があるのは事実。

 

 ええー。どういうことなのか。

 組織の属国を認識して、それを管理下に入れたのが原因なのか。

 多分それが原因だとは思う。

 管理下にないなら属国ではないしな。

 

 属国として機能するようになった結果、一つの国を対象とする神器は、属国を国の傘下にあるものとして認識し、効果範囲としてしまったのだ。

 これだと帝国主義だよー。

 

 形が変わりえるものを神器の対象にしたのが失敗だったか。

 それとも惑星間の距離を無視できるほどに広い効果の射程が問題なのか。

 

 学習効率増加だからまだマシだが……。

 効果範囲が広がればそれだけ神器が集められる信仰は増えてしまうわけで。

 

 厄介なことにならなければいいが、多分無理だな。

 現地の神格を無自覚に支配してるぐらいはありそう。

 

 とりあえずそれは置いておいて、ガチャ開けよう。

 

 R・レトルトカレー

 

 出現したのは銀の包みだった。

 レトルトパウチである。

 その表面にはカレーとだけ書かれており、袋ごとレンジで温められることも記載されていた。

 

 しかも、なんかパンパンに詰まっている。

 やわらかクッションの類じゃないんだから、と言いたくぐらいにパンパンだ。

 封を切るのにこんなに入っていると手が汚れそうである。

 

 とりあえず開けてみるか。

 最悪冷蔵庫に入れておけば兄が食うだろう。

 

 そう思って、兄が作った木皿に向けて封を切る。

 傾け、中身を流し出すと、その量は明らかにおかしかった。

 

 一般的なカレー皿サイズの木皿に並々と盛り付けられたカレー。

 一向に中身の減っていないレトルトパウチ。

 

 ははーん。

 もしかしてこれ、無限にカレーが出てくるな?

 

 

 

 

 後日。兄はカレー工場にレトルトパウチを組み込んだ。

 逆さにしたレトルトパウチから垂れ流されるカレーを詰め替えるだけの簡単な工場である。

 そんなの作ってどうするんだよと思うが、兄も何も考えてないと思う。

 

 いや、一応エルフとかの食い扶持がないわけではないのでこの手の食料生産はないよりはマシなのだが。

 たちの悪い量生産するので消費しきれないと思うのだが。

 

 え、ダンジョンに食わせてリソースにする?

 そう……。



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SSR MRポータルゲート

 MR。複合現実といって、仮想現実と現実の情報を重ね合わせることで高度な情報のやり取りを可能にする概念である。

 概ね拡張現実のちょっとすごい版ぐらいの理解で問題ない。

 新技術ゆえの過渡期で概念が整理され切っていないものなのだ。

 そのため、これから先どうなるか読めない部分でもある。

 

 今回はそれ……を名乗るなにかが出てきた話だ。

 

 

 

 

 組織の部署をガンガン解体して小さい組織を作って割当していく作業を始めた。

 なんだかんだ裏に潜んで世界を回していた人材どもである。

 遊ばせているのはもったいない。

 

 つまりはまあ、都合のいいように動かせるように人員配置しているというわけだが。

 どいつもこいつも尖った人員ばかり、しかも戦闘職多め。

 他には潜入工作員が多いのは動かしやすくて助かる、という感想が出てくるほどだ。

 

 マッドサイエンティストがグロス単位でいるわ、世が世なら救国の英雄になってるやつが同じぐらいいるわ、大国の官僚組織としてそのまま動かせるような人員はいるわ。

 どういう組織を作ればいいのかわからんレベルである。

 

 だが、わかることはある。

 こいつらをひとまとめにしていると、善意で盛大にやらかす。

 ほぼ間違いなく。

 

 なので分割して小さい組織をいっぱい作るのだが……。

 管理、できるんだろうか。

 まあ機神なら行けるか……。

 

 それは置いておいて。

 今日のガチャを開けよう。

 

 SSR・MRポータルゲート

 

 出現したのはノートパソコンだった。

 やたらめったらに大量のケーブルに繋がれたそれは、どこかで見たことのあるような色合いの筐体をしている。

 ……いや、どう考えてもVRMMOのサーバーと同じ素材で出来てるよね。

 

 そして、名称。

 紙にかかれたのはMR、ミックスドリアリティ。

 どう考えてもあのサーバーに関係ある代物だ。

 

 しかもポータルゲートってなに。

 ノートパソコンにはあるサイトのようなものが表示されていて、それは確かにポータルサイトのようなデザインにも見えなくもない。

 というかVRMMOのポータルサイトはARのサーバーが出現したときに自動生成されたからもうある。

 だが、それとは別のサイトだ。

 

 そのサイトには様々な場所が表示されている。

 その地形はどこかで見たような……どこだっけ?

 とりあえず、試しにクリックしてみると。

 

 パソコンをおいているテーブルの隣に突如、扉のような形のゆらぎが現れた。

 空間そのものの繋がりが書き換えられた、とかそういうイメージのゆらぎである。

 縁が揺らいでおり、そしてその枠の内側には、クリックした画像の場所が見えていた。

 

 ……。

 空間転移系かぁ……。

 別の場所と空間を繋げて移動する、どこでもドア的なやつ。

 そう思って、そのゆらぎの向こう側を覗いてみたのだが。

 

 その先にいたのは、見覚えのあるロボットがモンスターを追いかけ回している姿。

 

 はい。

 VRMMOのロボットじゃんあれ……。

 というか追いかけ回されてるモンスターもVRMMOのやつじゃん……。

 

 ということはこれは。

 あのVRMMOの中に生身の肉体で入れるモノ。

 

 ミックスドリアリティってそういうことじゃなくない!?

 

 

 

 翌日。兄があの扉を出現させる位置を変える方法を見つけた。

 事前に設定してやることにより、好きな位置に扉を出現させられるようだった。

 そして、現実⇔現実間、現実⇔VRMMO間、VRMMO⇔VRMMO間で移動が可能なことも判明した。

 

 ようは好きなところに配置できるワープゲートだ。

 やばくない要素がない。

 

 というか、事実上のフロンティアとして使えてしまう。

 VRMMOであるから土地も資源も好きなように設定できる。

 そしてそれにゲートを開く。

 資源を収奪して持ち出す。

 それが割と簡単にできてしまう。

 

 植民地にするのもほぼ同じ動きで可能。

 土地の安全も繋がりも自由自在だ。

 

 土地と資源なんか、すでに持て余してるんだよ!

 新しく利用できるようになっても困る!



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R 歯磨き粉

 歯磨き粉。歯磨きをするときに使用するものだ。

 現在はペースト状のものが主流で、歯に有効な成分が含まれているものが多い。

 また、汚れを落とすために研磨剤が入っているが、荒いものは歯を傷つけてしまう可能性があるので注意が必要だ。

 

 今回はその歯磨き粉が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポータルゲートは流通革命を引き起こした。

 兄は早速機神にポータルゲートを取り込ませ、その機能を能力として増設したのだ。

 それによって何が起こるか。

 ゲートの展開位置とその展開数の拡大である。

 

 一度ゲーム内を経由するとはいえ、空間を飛び越えての移動を可能にするポータルゲートは、機神の抱える物品輸送を劇的に改善する。

 具体的には世界中、好きな位置にサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を送り込めるようになった。

 割りと元々だったような気もするが。

 

 現状、機神の支配領域が無駄に広がってしまっている。

 そのため、移動の効率化は良いことのはずだが、どうしてこんなろくでもないことを引き寄せる予感しかしないのだろうか。

 

 多分ガチャ産だからだな……。

 追加パーツが出てきてもっと厄介になるやつ……。

 

 まあ、今日の分も開けてしまわないといけないのだが。

 

 R・歯磨き粉

 

 出現したのは歯磨き粉だった。

 白いパッケージに入ったチューブのやつである。

 

 見かけは普通のモノだが、こんなにも使いたくないと思わせるのは歯磨き粉だからだろう。

 口に入れるものである。

 食い物ならまだマシだが、薬の類となると普通のものでも躊躇してしまうようなものが混ざっている場合があるからだ。

 

 でもまあ、ちょっと出して見るだけなら良いだろう。

 そう思ってキャップを外して見ると。

 

 うわぁ、光ってる……。

 

 虹色に規則性のある輝き方をしていた。

 そう、ゲーミングパソコンに搭載されているような、あの虹色の輝きである。

 

 えっ、ゲーミング?

 ゲーミング歯磨き粉なの?

 

 これを歯に塗って磨く……それはもうすごいことになりそう。

 口の中が虹色発光だ。

 なにかのヤバい病気にしか見えない。

 そして、当然そんなものを試そうとも思えない。

 

 えーい、倉庫に投棄!

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の歯に歯磨き粉を使った。

 結果はというと。

 

 虹色に泡立って吐き捨てられた歯磨き粉と。

 同じく虹色に光り輝くようになった、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の歯だった。

 

 うわあ。

 どういう効果か、磨かれた歯も虹色に光っている。

 色相環に沿って色が変化していくあの虹色に。

 口の中はそのままに、歯だけがそのような色合いになっている。

 

 これ、実験してたら私がこうなってたってことだよね!?

 歯ブラシで擦っても落ちないみたいだしさぁ!



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R デッキケース

 デッキ。今回はカードゲームにおけるデッキのことだ。

 ゲームを行うために選択して決められた枚数のカードの束となったものがデッキであり、これを持ち寄って対戦したりする。

 プレイヤーはより強いデッキを作るためにカードを集めたりするわけだ。

 そしてトレーディング要素のあるカードのデッキは、一束で結構な金額になる。

 

 今回はそれ用の箱、デッキケースが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 前にガチャから出たスマートカードを材料に、兄が機神にコンピュータを作らせた。

 カードの厚みが2倍程度になって、その表面に画面が表示されている。

 

 ……。

 なんの端末?

 

 いや、多分兄のことだから作れそうだと思ったので作ったのだろう。

 容量がヨタバイトの携帯端末をそんな簡単に作らないでほしい。

 

 現状スマートフォンと呼べるほどの機能もない。

 複雑な計算ができるだけの板である。

 まあコンピュータもOSが入ってなければそんなものだが。

 

 それにメモリ以外の部分の技術をどうまとめるかで混乱があって、中途半端に魔法を組み込んでいるせいで作りがめちゃくちゃである。

 兄の初期設計が10割悪い。

 

 これにスマホのOSを入れられるように設計し直すとか言ってたが。

 完成したところで使い道もないだろ……。

 

 兄がガチャの景品もどきを作っているのは脇に置いておいて。

 今日のガチャを回そう。

 

 R・デッキケース

 

 出現したのは小さな箱だった。

 青い合皮のようなものが貼られた手のひらに乗るサイズの箱で、蓋はマグネットで閉まっている。

 手触りはさらさらとしていて、比較的お高めの代物の予感。

 

 まあだからといってガチャの景品がまともに使えるわけがないのだが。

 開いてみると中は当然空。

 なにかが入っているほうが困るといえば困るが。

 

 そして箱の大きさはというと。

 カードゲームの一般的なデッキが入りそうな大きさである。

 やはりカードを入れてみないと効果は分からなさそうという感じだが……。

 

 どうしたものかな。

 カードゲーム、持ってないんだよな。

 とりあえず1枚だけなにか入れてみる……?

 

 そう思って、財布の中からポイントカードを取り出す。

 特に会員登録などをしないでもカードだけ配布してそのまま使えるタイプのRのポイントカードである。

 厚手なので効果を見極めるにはちょうどいいだろう多分。

 

 カードを入れて、蓋を閉める。

 それと同時に、手の中のデッキケースの重みが増した。

 明らかに重くなっている。

 軽く振ると、ゴソ、と束が動くような音。

 

 ……。

 これ、増えてるな?

 多分増えてるな?

 

 恐る恐るデッキケースを開けてみると、そこには白いカードが数十枚入っていた。

 しかも全部カードのナンバーは同じだ。

 

 トレーディングカードゲームのカードを増やす。

 1枚10万円超えるものも当たり前にあるゲームのカードを?

 

 絶対ヤバいじゃん……!

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄が硬貨を増殖させた。

 兄の検証の結果、“枚”で数えられるものならなんでもデッキケースいっぱいになるまで複製して増やしてしまえるとのこと。

 当然1万円札も……、こっちは通し番号があるから偽札扱いになるとは思う。

 

 硬貨……。

 まあ、使い道はね。

 社会から消えるお金だからね。

 

 はい。

 ガチャに使わせていただきます……。



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R ハーブ

 ハーブ。ミントやバジルといった、香りのある草の総称のことだ。

 料理の香り付けや薬、防虫などといった用途で使われる事が多い。

 また、大麻の代用品としてのハーブ、といったものまで存在する。

 

 今回は草が出てきた話だ。

 

 

 

 組織が崩壊した際に持ち出された物品の一つ、トランスαという薬を回収した。

 これは飲んだ人間を超人に作り変える薬である。

 どんな負傷を負っても肉体を修復し、かつ超常の能力を所有する超人にだ。

 

 それだけ強力な薬であるからには当然強烈な副作用がある。

 一つは変化に耐えられずの死亡。

 グズグズの肉のスープに変化して死ぬ。

 これが大体9割。

 

 一つは人間性の喪失。

 まともな人間的感性が失われて、大体において人間社会に害をなす存在と化す。

 しかも治療法もないという……。

 これが大体1割。

 

 そして、1%程度の確率で人間性を保ったまま超人化する。

 そのままその力で調子に乗って犯罪を犯して人間社会に害をなす存在と化す。

 

 こんな感じにろくでもない薬を回収した。

 しかも、薬なんでこれ量産可能なんだよね。

 レシピも一緒に流出して回収した。

 

 下手するとどこかで量産されてるかもしれないってこと!?

 対策考えないといけないやつでは。

 組織をバシバシこき使って対処しないと。

 

 まあそれは一旦置いておいて。

 今日の分のガチャを回そう。

 

 R・ハーブ

 

 出現したのは葉っぱだった。

 きれいな緑色……いや発色が良すぎる緑色の葉っぱである。

 そして匂いがすごい。

 ミントをすりつぶしたみたいな、濃厚でつんのめる匂いが、とくに触れても居ない葉っぱから漂っている。

 

 きっつ。

 匂いきっつ。

 

 しかもなんか……“色”を感じる。

 虹色のような、光っているような。

 明らかに嗅覚から、色を感じ取っている。

 

 やっべえ。

 幻覚症状か、共感覚か。

 そのどちらにしても、匂いだけでそれを喚起している。

 薬効が強すぎる。

 

 とりあえずしまって……。

 

 

 

 

 後日。兄がハーブを材料にしたうえ、増やした。

 なんか葉っぱを地植えしたらミントみたいな勢いで広がって増えてしまった。

 発色の良すぎる緑が目に痛い。

 

 それに当然薬効も兄は調べており、普通にすりつぶして飲ませるとアッパー系の覚醒剤になるらしい。

 さらにそこから成分を抽出して、他の薬と混ぜ合わせると……今度は、混ぜた薬の薬効を超強化する。

 劇的に効きすぎるようになるので、薬の量の方を減らさないと危険なレベルに効くようになるそうだ。

 

 トランスαに混ぜて量調整すると50%ぐらいの確率で人間性を保てる、と機神は算出している。

 残りの50%は人間性破壊するらしいが。

 どっちにしても危険人物が爆誕するってことじゃないか。

 

 つまりまた扱いに困る代物だってことだな?

 うかつに出せないものが……また増えた……。



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R アプリアイコン

 アプリ。アプリケーションを語源として、主にスマートフォンに提供されるプログラムを指す言葉だ。

 一般的にはアプリストアから自動でインストールする形式で提供されている。

 用途によって様々なアプリが提供されており、個人でも作成、配布出来る関係上その数は膨大だ。

 

 今回はそのアプリが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 組織が集めていたものの中には、妙に現代的なものもある。

 たとえばこれ、スマホ型のなにか。

 中身にはなにかのアプリが動いており……それを他人に見せるとその人物の意識を乗っ取るのだ。アプリが。

 以後、見せられた人物はアプリで操作可能になる。

 

 しかもなんとなんとこれ、回収された記録が残っているのが18世紀。

 どう見てもスマホ、というか普通にAndroidOSが走っているのに、フランス革命とかのあの時代に回収されているのだ。

 しかも貴族が使っていたから族滅したとかなんとか。

 

 なんで物質的にはただのスマホなのに壊れずに動き続けているのか。

 魔法的な現象でもないのに人の意識を乗っ取れる原理とか。

 うっかりアプリのコピー試したらできちゃったとか。

 

 ガチャの景品でも持て余しているというのに。

 あの組織の倉庫のはそれの数十倍の数が眠っていて扱いに困る。

 

 今日の分のガチャを開けてしまおう。

 

 R・アプリアイコン

 

 出現したのはアクリルの板のようなもの数枚だった。

 指先でつまめるサイズの角が丸い正方形である。

 そして、内側にイラストが書かれていた。

 

 ……。

 これ、スマホアプリのアイコンじゃね?

 アクリルフィギュアの要領で印刷されたアプリアイコンである。

 ウェブブラウザのそれと表計算、文書作成のものと、あとは位置情報を使ったゲームのアイコン、あとアプリストア。

 

 なんだこれ……。

 電脳上のものを現実に持ってきたものはこれまでもいくつか出てきたが、どれもわけがわからない。

 現実とコンピュータとの間では大きな差が存在するわけで。

 それを強引に埋め合わせたり、形だけ整えてきたりするので困惑する結果になりがちなのだ。

 

 そう思って、そのアイコンを指先で叩く。

 板の中央を、スマホをタップするように。

 

 ぽふん、と音を立てて、それは開いた。

 アイコンのすこし上にウインドウのようなものが空中に開いたのだ。

 そう、アイコンに書かれているアプリのものである。

 

 はい。

 中空に開いたウインドウは、まるでVRかなにかのような質感をしている。

 現実に投影されているが、指先には冷たい板のような感触。

 

 そして、そのアプリは指先に沿って動く。

 そのアイコンのアプリのもの、そのもののように。

 ブラウザなら……普通にウェブサイトが開けた。

 特に無線に接続しているとかしていないのに。

 

 う、うーん……。

 便利なのか、不便なのか。

 そもそも意味がわからないし。

 なんかのジョークで作った、という印象が拭えない。

 

 

 

 

 

 後日。兄がアプリアイコンを増やした。

 アプリストアからアプリをインストールすることで、ポロポロと新しいアプリアイコンが出現したのだ。

 どこにインストールしたのか、というかよくそれをしようと思ったな。

 

 しかも増やしたアプリは、今流行っているゲームのものをいくつか。

 普通に起動して、普通にデータ引き継ぎして、並行でゲームを進め始める兄。

 

 普通に便利使い始めるのやめてもらっていいです!?



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R ブーメラン

 ブーメラン。それは狩猟に使われていたとされる武器の一種だ。

 くの字に削り出された木の加工品であり、投げると空力によって弧を描きながら飛ぶ。

 投げられる棍棒としての用途として使われ、戻ってこないものはカイリーというらしい。

 

 今回はそのブーメランが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 兄がアプリアイコンを弄り回した結果、妙に機能が充実していることがわかった。

 アイコンをポケットに入れた状態で上からタップすると、視界のいい感じの場所にアプリが開いたり。

 カメラアプリを使うと、視界に枠が浮かんで、その範囲をカメラに収められたり。

 使用者に合わせてその挙動を変化させる。

 

 指でつまんでタップすることで、スマホのような板状に展開させる事もできる。

 これで持ち歩いていても不審にならない……が。

 

 そもそもミュートがかけられないので持ち歩くにも不便である。

 音ガンガンに漏れる。

 一括でミュートかけられないのがこんなに不便だとは思わなかった。

 

 一応、アプリ側から音量を絞ることはできるが……。

 事前にやらないといけないのはやはり面倒だ。

 

 まあどうにでもなる範囲ではある。

 アプリだけ浮いて動作すればそういうこともある。

 他の景品もそんなもんだ。

 

 今日のガチャを開封しよう。

 

 R・ブーメラン

 

 出現したのはブーメランだった。

 

 プラ製ではなく、しっかりとした木製のものである。

 ニスが塗られ、丁寧に作られた一品。

 職人が手ずから削って制作したと思われる。

 

 そんなブーメランが出現したのだ。

 

 芸術品として作られているわけではない。

 実用を突き詰めた結果という印象。

 

 つまりはまあ。投げればいいのだろう。

 シンプルなだけにわかりやすい。

 

 そう思ってブーメランを投げたときだった。

 

 手元から離れた瞬間、急加速して飛んでいくブーメラン。

 まるで竜巻のように回転し、周囲を旋回し、空の彼方へ抜けていき、そのまま戻ってくるかと思いきや後ろに抜け。

 そのまま一回転してから私の手元に帰ってきた。

 

 わあ。

 アクロバット。

 

 なんというか、ブーメランを高性能化しすぎたといった感触である。

 スピードもそうだが、旋回性能が高すぎてくるくる回り過ぎだ。

 ブーメランは狩猟の道具に使われていたと聞くが、これは使えるのか?

 小回りは効かなさそうだが。

 

 まあいいか。

 ものはわかったんだ。

 倉庫にでも入れておこう……。

 

 

 

 後日。兄がまるで遠隔操作型の兵器のかのようにブーメランを操っていた。

 他人が投げたものを見るとそうなるとかそういうことではない。

 明らかに兄は、そのブーメランの軌跡を制御している。

 

 なんでも投げ方にコツが有るとかなんとか。

 イメージが大切とか。

 

 ただあの激しい動きは制御できるものだったのか。

 まあ武器だしな。

 狙ったところに当てられなかったら困るわな。

 

 そう思っていると。

 兄がブーメランで的の大岩破壊した……。



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R アワリティア

 強欲(アワリティア)。七つの大罪に分類される人の中にある悪のことである。

 強すぎる「欲しい」という気持ちを基本的に指す言葉だ。

 というか大罪は欲望で分類している以上、これは実質「その他」の区分では? とも思わなくもない。

 

 今回はその強欲が出てきた話だ。どういうこと?

 

 

 

 

 組織が変な情報を上げてきた。

 なんというか、これまでの系統に分類されない新たな異能による犯罪が発生した、とかなんとか。

 いまいち釈然としないというか、組織の方もよくわかっていない情報だった。

 

 なにやら、脳が改造されていて、そこに解読不能な術式が刻まれていた、とのこと。

 その改造が人為的か生得的かは不明。ただ通常の人間の構造ではなかった、と。

 

 そして刻まれた術式に魔力を流すと、異能として発現したので犯罪に使われたらしい。

 なにか力を手に入れるとすぐ犯罪に走るなぁ、地球の人間。

 

 問題はこの能力が組織には全く解析できなかったってこと。

 系統として魔法技術じゃないかもしれない。

 

 えー……。

 ここにきて別系統の異能……。

 しかしまあ、異能ものってたまにそういう展開のものもある。

 

 話の展開の都合、別のルールで成り立っている異能を提示すると可能性が広がるためだ。

 ということは、これはUR・秘密結社の余波……か?

 

 とりあえずサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に検査をさせておこう。

 

 私はガチャを開けるとする。

 

 R・アワリティア

 

 出現したのは金属片だった。

 薄い六角形の銀の板で、そこになにやら文字のようなものが刻印されている。

 そして、その表面には螺鈿細工のような質感でびっしりと記号が浮かび上がっていた。

 

 えっと……その。

 なに?

 アワリティア(強欲)

 

 強欲といえば、七つの大罪にて語られる人の罪であり……そんなものにカテゴライズされてるから異能ものではもう味がしないレベルでこすられているものだ。

 そして、そもそもそれらでも物質ではない。概念である。

 異能名だったり称号だったり席次だったり。

 じゃあこれはなんなのか?

 

 とくに魔力的なものを感じないから魔法系統の代物でもなし。

 接続端子のようなものもないから機械でもないように見える。

 

 なにかの触媒……だったら調べようがない。

 その場合全く別系統の技術だ。

 それが真ならばおそらく錬金術だろう。

 

 ……だめだ。思いつかない。

 これがなにか調べる手段がない。

 機神に解析させるのも手だが、時間がかかる。

 

 じゃあ、倉庫行きかぁ。

 

 

 

 

 後日。兄がやりやがった。

 なんとあの金属片をサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に飲み込ませたのである。

 そうすると、なにかに反応するように……サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は分身能力を発現した。

 

 ああ……。

 人体融合型の異能物品かぁ……。

 異能の力を宿したアイテムを適合者に投与したり融合させたりすることで異能を使えるようにするタイプの異能モノ。

 何らかの理由でそのアイテムが失われると同時に能力がなくなるので話の展開に貢献したりしなかったりするやつ。

 

 えっ、最低でもこれ7つあるってこと?



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R ラーメン屋のチャーハン

 チャーハン。炒めた米の料理のことである。

 中華の定番であり、家庭の定番であり、男飯の定番。

 手軽に作れる割には、様々な方法が考案されていたり、いろんな具材が入れられていたり、奥深い料理だ。

 

 今回はそのチャーハンが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 件の異能をサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に調査させた。

 精神系魔法による記憶捜査、痕跡追跡系スキルによる情報確認、過去視による直接視認。

 これらを組み合わせることによって、通常の犯罪ならばどんなものでも暴き立てることができるだろう。

 

 そう、普通の犯罪ならば。

 だがそうではなかったのだ。

 

 精神系魔法で記憶を探ろうとしたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)はバックファイアで頭部の記憶領域が破壊され。

 痕跡追跡を行ったものは、一切それを見つけることができず。

 過去視に至っては、魔眼のようなものによって迎撃され、捻れて胴がちぎれた。

 

 えっ……マジ?

 一介の犯罪者程度が、このレベルの情報防御を行っているとは思えない。

 つまりはまあ、この異能をばらまいている真犯人がいて、そいつが徹底的に情報を隠しているということだ。

 

 ええー……。

 また怪人じゃん。

 困る。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に攻撃を通せる怪人、相当能力が高い。

 これ以上は機神による支援か、さらに強化した個体を用意するか。

 

 そもそも情報を手に入れるのが先か。

 

 異能自体の解析は一向に進んでいない。

 ただ、R・アワリティアとは別の代物ではあるらしい。

 系統が近ければ話は早かったんだけどなぁ。

 

 まあいいや。

 今日のガチャを回してしまおう。

 

 R・ラーメン屋のチャーハン

 

 出現したのはチャーハンだった。

 八角の皿に半球状に盛られたチャーハンである。

 米がきれいなきつね色に染まり、細かく刻まれたチャーシューと卵が混ぜ込まれている。

 鮮やかなネギが彩りを添えていて、見た目だけでもそれが美味であることを訴えかけているのだ。

 

 だが。それらですらこのチャーハンにとって余分である。

 それは、匂い。

 強烈に本能に訴えかける匂い。

 

 いまだかつて嗅いだことのないような、それだけでそれが人生で食べることのない旨さの代物であることがわかるような。

 その香り高さ、眠っている人にかがせれば一発で目を覚ますだろう。

 

 というか匂いが強すぎる。

 あまりに強すぎて、罠を疑うほどだ。

 ベイト剤、毒餌のようなものにすら思える。

 

 皿を手にとって見れば、細かな湯気がくゆりと立ち上り、それがまだ出来立てであることをみせ、そしてそれによって更に匂いが広がる。

 異常な匂い。

 一切しつこくもなく、強すぎるわけでもない。

 ただ強烈に感情と空腹を刺激する()()である。

 

 絶対食べたらやばいだろこれ。

 ただで済むわけが……わけが……。

 

 気がつけば私の手はレンゲを握っていた。

 だめだ、意識を持っていかれる……。

 どこから取り出したのかもわからない。

 影でいつの間にか作ったのかもしれない。

 

 恐る恐る、チャーハンにレンゲを近づけ……そこで止まった。

 自制心が働いたわけではない。

 

 単に、固かったのだ。

 

 まるでひとつのモノのように……というか、ひとかたまり。

 そう、つまり。

 

 これ食品サンプルじゃねえか!

 

 

 

 

 後日。兄がサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)に食わせた。

 食品サンプルであるチャーハンを、である。

 

 強引に分解してみせ、一欠片を流し込ませた。

 その結果。

 食べたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は……、チャーハンの匂いがするようになった。

 

 そう、あのチャーハンの匂いを。

 ついでに言うと、その匂いのものは()()()という実感とともに。

 

 やっぱ罠じゃん!



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