変態ばかりの学園ものエロゲーに転生したからヒロイン全員清楚に調教する (ブラックカボチャ)
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生徒会長・神宮寺聖歌編《1》
1話 エンドロールなプロローグ


アニメオタクの高校生。

大した特技もなければ、自慢できる経歴もない。数少ない友人とアニメやゲームの話をすることだけが青春の暗い奴。

そんな奴に何の奇跡か彼女が出来た。

 

ぼくは努力した。少しでもカッコよく見られようとオシャレして、欲しいというものがあれば必死でバイトして買ってあげて、大切にしていた宝物のオタクグッズだってそのために売った。彼女のために、ぼくは何もかもを捧げて、それで幸せだった。

 

 

「はぁ?あんたとか財布だから財布!何、彼氏面してんのよ、鏡見たことあんの?オタクがいつまでも夢見てんじゃねーよ、キモいんだよ!」

 

奇跡なんてなかった。現実(・・)は青春ラブコメのようにハッピーエンドが用意されてなんかいない。

 

初めて出来た彼女。

彼女が別の男と仲良さそうに歩いているのを目撃。問い詰めたら出てくる罵倒・罵倒・罵倒。

さらには彼女の本命であったらしい彼氏にボッコボコにされ、財布を奪われた。

 

あまりの絶望と、情けなさと、惨めさ。

 

人生最悪の日、ぼくはボロボロの体を引き摺り、朦朧とする意識の中、何とか帰宅しようとして――車に撥ねられた。

 

ああ、死ぬなこれ。

 

そう思った時、あまりにも精神にダメージを受けすぎたぼくは、死にたくないとかそんな人生に対してポジティブなことを考えられず、むしろこれで全部終わるとか、そんな風に思っていたと思う。

 

 

ただ、一つだけ確実に、何物にも変えられぬ程、強く思ったことがある。

 

 

「……ヒロインは清楚であれ……よ」

 

 

やっぱりヒロインは、浮気とかしないし、キープもしないし、清楚・清純・清廉潔白でな……い、と―――

 

 

 

 

 

 

姉にパシられて、深夜にコンビニへ買い物に行く弟。悲しいことにそれがぼく、綾辻 真白(あやつじ ましろ)の日常だ。

 

「ポテチ食べたい、買ってきて」

 

深夜アニメのリアルタイム視聴のため、待機していたぼくの元へノックもせずにやってきた姉はそれだけ言って帰っていた。理不尽過ぎんか?

 

まあ、アニメまでまだ少し時間があるし、それならついでにぼくも何か夜食でも買おうと、財布をポケットに突っ込んで外へ出た。

この時代、深夜だからといって真っ暗ということはない。そこそこ明るいし、そこそこ騒がしい。

コンビニで買い物を済まして、深夜の散歩に少しだけ心地良い気分になりながら、鼻唄を歌いそうなのを堪えていると、通りかかった公園で何やら不穏な気配を感じた。

 

男女で何かを言い争うような声だ。

 

うわ、巻き込まれたくないな、と思いつつ、ここを通らないことには帰れないので、何食わぬ顔で通り過ぎようとするが、やはり少し気になってしまうのが人間の性。ちらっと目を一瞬公園へ向けるとそこに、特徴的過ぎる銀髪が見えた。

 

「会長と……用務員さん?」

 

ぼくの通う高校の制服を身に纏った銀髪の少女なんて一人しかいない。我らが生徒会長、二年生の神宮寺 聖歌(じんぐうじ せいか)さんだ。

名前に掛けてか『聖女』なんて言われるほどに誰からも好かれる優しい人で、その美貌から崇拝レベルのファンも多く存在するくらい。文武両道、容姿端麗、羞花閉月、人を褒め称えるような言葉は大概の場合、彼女に当てはまる程。

確か、学園の理事長の孫娘で、当然ながらお嬢様。こんな夜中に、何にもない公園で、用務員さんと一緒にいるという状況は、まず考えられない人なのだ。

 

いや、まあ高校に入学してそう経っていない1年生のぼくからしたら、集会で見たことあるくらいで、当然ながら話したこともないわけだから、あくまでイメージでの推察なのだけど。

 

 

……なのに、どうしてか強い既視感を感じる。この状況(シチュエーション)に得体のしれない何か強大な、踏み入れたら戻れなくなるような、開けてはならない箱を目の前にしたような、そんな何かを感じているのだ。

 

縫い付けられたようにその場に留まったぼくの耳に、二人の会話は夜の澄んだ空気を切り裂くように、鋭く正確に届く。

 

 

「まさか生徒会長が露出狂とはな」

 

 

その言葉がトリガーだった。

 

一瞬にして頭の中に記憶が駆け巡る。

それはまるで映画やドラマを見ているように、俯瞰した、しかし、己こそが主人公なのだと入り込むような、不思議な感覚。瞬間的にとんでもない量の情報を処理したぼくの脳は、混乱しながらも、得た知識から一つの結論を導き出した。

 

夜中に誰もいない公園で向かい合う会長と用務員。

ぼくはそこへ全力で駆け出す。

 

想いが溢れる。これまでの人生で、それこそ前の人生(・・・・)でも感じたことのない程の感情の爆発。

 

「な・ん・で―――」

 

声を発すれば、流石にこの暗闇でも二人はぼくに気がつく。振り返る二人。その内、白髪混じりの髪がベタッと貼り付くようになった髪型の男、用務員に向けて拳を振り上げる。

そしてそのまま、下卑た笑みで固まったようなその醜く歪んだ顔面に拳を容赦なくぶち込みならがら全身全霊で叫ぶ。

 

 

「―――よりにもよって!エロゲーの世界なんだよっ!」

 

 

吹っ飛んでいく用務員と、驚愕している会長の顔。視界に広がるそれらは、やはりどう考えても、ぼくが前世でプレイしたことのあるエロゲー(R18)のキャラクターのものだった。

 

 

どうやらぼくは、18禁エロゲーの世界に転生していたらしい。






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2話 転生損

エロゲーの世界において、用務員は今時の小学生にとってのYouTuberくらい人気の花形職業だ。

その理由は、その職業の舞台装置としての優秀さにある。

学生と接点を持ちやすく、学校内を時間に縛られず行動でき、どの場所にいても怪しまれず――と、どんなエロシーンにも繋げやすい稀有な職業なのだ。

学校内の様々な施設の鍵を持っていたり、夜中に学校を利用しても不自然でないなど、他にも利点は多く、その使い勝手の良さ、シチュエーションの生みやすさはダントツだろう。

 

全国の至って真面目な用務員さん方には申し訳ないが、R18業界においては用務員というのはえっちな職業なのである(偏見)。 

 

つまり、その用務員が夜中に女生徒と一緒にいる状況は、もうR18展開スタート間違いなしな訳で、反射的に殴ってしまったけど問題ないと思われる。

 

さて、こんなに言っておいてなんだけど、ぼくは別にエロゲーに詳しいわけではない。友人にすすめられて何作かプレイしたくらいなもので、ぼくは生粋のアニオタなのである。

 

だからこそ思う。なんでエロゲーなんだよ!と。

 

転生したいアニメいっぱいあったよ!?好きなヒロインだって沢山いる!なのに、なんで、大してやったこともないエロゲーの世界なんですかね!

友達に押し付けられて1ルートだけプレイしたものの、いきなりバッドエンドで鬱になって投げ出したゲームなんですが!あまりに酷い展開だったために覚えていただけなんですがね!?

 

転生できるならさ!

ファンタジーの世界で無双したり!SFの世界でチートしたり!異能バトルで俺Tueeeしたり!そういうのだろ!なんだよエロゲーの世界って!しかも良く知らないゲームだし!

 

そ・れ・に!

 

ぼくは!清楚なヒロインしか認めないんだよ!!このゲームのヒロイン、全員変態じゃん!文字通りR18級の変態達じゃん!こんなの転生損だよっ!前世の記憶がないままの方が良かったよ!

 

「あ、あの……」

 

ぼくが自らの状況と境遇を嘆いていると、困惑した様子の会長が近づいてきた。

ぼくが一方的に知っているだけで、勿論会長はぼくのことなんて知らないだろうから、会長視点では通り掛かった謎の男が、用務員を殴り倒した上にブツブツ何やら呟いているという、とんでもないカオスな状況というわけだ。正直、前世の記憶が蘇ったものの転生先がエロゲーの世界で絶望している、という状況のぼくの方がカオスといえばカオスだけど、何の説明もしないままでは、通りかかっただけで男をぶん殴った超ヤバい奴になってしまう。

 

「ぼくは貴女と同じ高校の生徒で、1年の綾辻真白(あやつじましろ)って言います。……その、会話が聞こえてしまって、会長が脅されている様だったので咄嗟に殴ってしまいました。まずかったでしょうか?」

 

まずはぼくの素性を知り安堵するが、それと同時に、会話が聞こえてしまって、のところで自らの行為がぼくにバレてしまっていることを悟り、顔を真っ赤にして、それでもぼくの問にはなんとか答えようとしたのか、フルフルと首を横に振った。

まあ、実際には殆ど話は聞こえていなかったのだが、ぼくは前世の記憶から彼女が何をしでかして用務員に脅されていたのかを知っているので、知られている、という点では一緒なので慰めにはならない。

 

で、彼女のやらかしたこと、というのが……露出である。自ら裸体を晒して楽しむという、ハイパー変態行為であるが、それを校内で実行し、用務員にその姿を撮影されてしまったことで脅されていたというわけだ。用務員の趣味は盗撮で、校内に隠しカメラを仕掛けているという設定だったはずなので、それで撮られたのだろう。

その写真をダシに、学園の理事長の孫娘が校内で露出なんてことになったらお前もお前の家族も終わりだな、とかなんとか、そんな感じで脅していたはず。

 

ぼくがプレイしたことのあるルートのヒロインは彼女ではないが、彼女は所謂メインヒロインという扱いなのかどのルートでも必ず用務員に脅されてR18展開に移行するある意味可哀想なキャラだったため、その程度の概要は知っていた。

 

 

「じゃあ、用務員さんは神宮寺家で適切に対処するということで」

 

「はい、学園の職員が逮捕となると良くないので一先ず内々に処理した後で、どうするか決定をすると思います……」

 

 

会長が落ち着くのを待ち、一先ず状況を整理する。

この状況をどうしようか話し合ってみると、この用務員の処遇について内々に処理、とか怖そうなことをさらっと言う会長。この用務員がどうなるのかは、聞かない方が良さそうだ。知らない方が良いことって世の中にはあると思います。例えばこの世界の真実(R18エロゲーの世界)とか、会長の性癖(露出狂)とかね!

 

「まあ、とにかく、これに懲りたら、その、露出とかするのは止めて下さい」

 

「あぅ……」

 

湯気が出そうなくらい、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯く会長。後輩に性癖晒されて、それを諭されるというのはとんでもない黒歴史だろう。とはいえ、黒歴史どころの騒ぎじゃないことになるところだったのだから、このくらいは代償として胸に刻んで欲しい。

 

「今回は何とかなりましたけど、こんなこと続けてたらこういうことはいくらでもありますからね」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

シュン、として謝る会長に思わず慰めそうになったが、ここはしっかり反省してもらわないと。そもそもの原因は会長の露出性癖にあるわけで、このまま続けてたら用務員ではない誰かに同じような状況に追い込まれる可能性も全然ある。

そういう破滅願望的なリスクを犯しているドキドキが堪らないのかもしれないが。

 

「さて、いつまでもこんなところにいてもですね。送りますから、帰りましょう」

 

会長がどこかに連絡すると、何やら清掃員のような格好をした人達が気絶した用務員を車に詰め込んでどこかに連れて行ってしまったためここにいる意味はもうない。これから内々に処理(意味深)されるのだろうが、もうぼくは知らん。だって怖いもの。

 

怖いといえばスマフォの着信履歴もだ。

ポテチが届かないからか、姉から鬼電が入っている。こちとらアニメのリアル視聴を諦めてやってるんだ。ポテチごときで構っていられるか!

姉の電話を無視してスマフォの電源切ると、会長と一緒に歩き出す。

 

さっき呼び出した人達に車で送ってもらえばと思ったが、なんでも会長はこっそり家を抜け出してきていたらしくバレないように帰りたいのだそうだ。道理で、呼び出した人達が来ても、こそこそ隠れていたわけだ。どういう言い訳をして呼び出したのかは知らないが、今、会長は家にいることになっている。このまま歩いて帰るしかなさそうだ。

 

あんなことがあった後だからか、会長はぼくの服の袖をぎゅっと片手で握っていた。

 

それを特に指摘せず、暫く無言で歩き続けていると、会長は沈黙に耐えかねたのか、ポツリポツリと話し始めた。

 

 

会長が露出という凶行に及んでいた、その理由を。




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3話 優等生の覚醒

 

「皆さん、私をなんでも出来て、誰にでも優しいと思っているんです……」

 

生徒会長という立場故か、理事長の娘という身分か、元来の性格か、会長は聖女と言われるほど、学園内の『優等生』として相応しい振る舞いをしている。誰にでも優しく、成績は優秀、運動神経は抜群で、非の打ち所がない完璧な人。それが生徒達が会長に抱く印象。

 

「そんなことないのに……。

苦手なものも、苦手な人もいて……それなのに、否定したり、断ったり、何も言えない自分がいて――本当の私は誰にも分かってもらえなくて」

 

それが露出の原因だったんだ。

本当の自分を見てもらいたい、という抑制された願望が、裸の自分を見せるという形で表面化してしまい、それに快楽を覚えるようになってしまった。

誰にも言えなかった悩み・コンプレックスは水風船の様に膨らみ続け、それは些細なことで破裂する。思春期なら、誰にでも大なり小なりあることかもしれない。

 

「最初は偶然でした」

 

大体数ヶ月前、会長が1年生の頃の話。

ちなみに会長は1年生の時から生徒会長である。

 

「最後の授業が体育の日、片付けを手伝っていて遅くなってしまったので体操着のまま生徒会室に向かいました。到着すると生徒会室には誰もいなかったので、丁度いいと思って着替えを始めたんです」

 

真面目な会長は生徒会活動に遅れてしまったことが申し訳なくて、着替えもせずに生徒会室へ向かったものの、やっぱり運動をした後の体操着のままというのは女子としては気になるところ。いないのならばと、着替えをすることにしたらしい。

更衣室は体育の授業が終わった後施錠されてしまうため、着替えの制服は持ってきていたとのこと。

 

「すると、下着姿になったところで副会長の薫が入ってきてしまったんですね。

そのまま堂々としていれば良かったのに、なんだかいけないことをしている気がして咄嗟に隠れてしまったんです。カバンがテーブルに置いてあったからか、薫は私を探している様子で、それを、出るに出れずに、下着姿で隠れて息を潜めているのが、その、すごくドキドキして……とても興奮したんです」

 

 

遅れて来ておいて着替えをしているという罪悪感、更衣室でもないのに着替えをしていてはしたないという羞恥心。

それが、親友であり生徒会副会長の二階堂 薫(にかいどう かおる)から、身を隠すという行動に繋がり、一度隠れてしまえば出るに出られないのが心情。息を潜めた会長は、そのドキドキにハマってしまった。

 

「それから私はそういった行為に及ぶようになりました。初めは少しスカートの丈を短くするとか、そういう些細な、小さなことで満足していたのですが……」

 

「段々、満足できなくなってしまった」

 

「……はい。そこからどんどんエスカレートしていって、自分でも止められなくなり、やがて――」

 

「用務員に撮られてしまった、と」

 

会長がどんな行為に及んでいたのかは、完全にR18な、あんなことそんなこと、つまりは、色々履かない・着けないで学校生活をしてみたり、そもそも何も身に着けずに校内を巡回したり、と露出狂間違いなしなハイパー変態行為である。

 

まあ、あれだけ怖い目にあったのだ。これで流石に会長のその癖も収まるだろう。

今後は今までの行動を反省し、何か別の方法でストレスを発散するしかない。ゲームとか貸してみようか。偏見というかイメージだけどもあまりやったことなさそうだし。

 

 

「私、おかしいのでしょうか……」

 

「まあ、普通ではないでしょうね」

 

会長の呟きに正直に答える。一応、直球で「はい、おかしいです」と答えなかっただけ優しさだと思って頂きたい。

 

「ええ!?そこは励ましの言葉をかけるべきなのでは!?」

 

「いや、露出狂の変態を普通とは流石に」

 

涙目で驚愕している会長であるが、ここで甘やかしてはいけない。折角用務員から救ったのに、また露出されてはたまったものではないからね。

そんなぼくの厳しくも論理的な愛の鞭だったわけだけど、自分から訊いておいて、お気に召す回答ではなかったのかぷりぷりと怒り出す。

 

「貴方、さてはモテませんね!?」

 

励まし・慰めをご所望だったらしい会長の鋭利な言葉のナイフが突き刺さる。酷いことを言われた。けど、その通り過ぎるので反論は出来ず。バレンタインのチョコレートってあれ、都市伝説ですから。何なら無理矢理姉さんにチョコ渡されて、ホワイトデーに散々巻き上げられるわけで、言うならば、カツアゲ準備デーだから。

 

「顔みたら分かりません?」

 

「わ、私は……別に、その……良いと、思いますよ?」

 

「わー、うれしー(棒)」

 

冗談混じりに言ったのだが、会長はやや俯いてぼしょぼしょと答える。そういう反応、逆につらい。

性癖以外は聖女な会長のお世辞を真に受ける程、ぼくは自意識過剰ではない。

童顔、低身長のフツメンってどこにも需要ないからね。

一応の感想を伝えると、会長はぼくの明らかな棒反応にぷくっと頬を膨らませて、本当なのにっ、とプンプンだ。

 

そんな感じで会長に案内されるまま歩いていると。

 

「あ、ここです」

 

もう随分前からこの馬鹿デカイ豪邸が目に入っていたのだが、やはりここが、神宮寺邸らしい。

白を基調とした、デザイン性の高い角ばった豪邸は、家というより、城とか要塞とか、そんな雰囲気がある。ただ、ここは正面玄関の真裏で入り口のようなものは見当たらない。

 

「こっそり抜け出してきたのでここから帰るんです」

 

なんでも、ここだけがセンサーが作動しないらしく壁を乗り越えても警備にバレないのだとか。いや、気がついているのなら直そうよ!

 

「そしたら抜け出せなくなってしまうではないですか」

 

こういう抜け穴がエロゲー界では悲劇のタネになるんですがねぇ!

この言い草では、何度も抜け出している様だし、聖女とか言われている割に、意外とお転婆な面もあるらしい。

 

「今日は本当にありがとうございました。また後日、正式にお礼をさせて下さい」

 

「お礼なんて良いですよ。たまたま通り掛かっただけなんですから」

 

「だからこそ感謝しているのです。

貴方は義務でも仕事でもなく、ただ通り掛かっただけなのに私を助けてくれた。中々出来ることではありません」

 

ただ通り掛かっただけ、というのは確かだが、そこに義務感や使命感が無かったか、といえば嘘になる。

 

ぼくだけが知っている世界の真実。これから起こるであろう彼女の悲劇。

 

それを無視するなんて、ぼくでなくてもある程度の良心があればしないはずだ。

 

黙り込むぼくに、会長は下から見上げるように、ぐいっと顔を近づける。

 

「ですから、貴方は胸を張って私の感謝を受け取って下さい」

 

コツンっと胸を軽くその白くて小さな拳で小突かれる。

やや赤くなった会長の顔がくるっとひるがえるようにして離れる。

 

「では、おやすみなさい」

 

 

会長は、そのまま振り返ることなく、普段のどちらかというとおっとりした印象とは裏腹に、軽やかで俊敏な動きで壁を乗り越え、帰っていった。スタントマン顔負けである。

そういえばあの人、運動神経抜群だった。露出性癖がなければ、本当に有能な人なのである。

 

だから――彼女のきっと輝かしいのであろう未来を守れたということは、素直に誇ることにしよう。

 

感謝されるのはこそばゆいけど、せめて、胸を張って誇る。そうしなければ会長に失礼な気がした。

 

はぁ、何はともあれ、ぼくがエロゲーの世界に転生していると分かったものの、用務員が捕まった時点でゲームのシナリオは崩壊。ゲームとしてはエンディングを迎えている。

 

もうゲームの世界とかそんなことは関係ないし、ぼくも明日からいつもの日常に戻るのだろう。

 

とはいえ、世界がどうとか、そんなことより、今大事なことは。

 

 

「姉さん、絶対怒ってるよなぁ」

 

 

ぼくの命が危ない、ということだ。




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4話 襲撃の聖女

お怒りのお姉様に、会長を送った帰りに再度コンビニに寄って、買っておいた少し贅沢なアイスクリームを献上することで、何とか生き残って翌日。

未だ昨日の夜に何かあったのかと、疑いの目を向けてくる姉から逃れるように登校した。

 

あれだけの衝撃的な出来事があっても、平日ならば学校に行くしかない。幸いにも今日は金曜日、部活もやっていないぼくは明日から2連休を謳歌出来る。気持ちを落ち着けて、この世界がエロゲーであったことなど忘れてしまえば良い。そうしてしまえば、いつもの日常に戻るはずだ。

 

そんな風に考えながら至って平常通り、山も谷もない学校生活を終えて放課後。

 

「綾辻真白君いますか?」

 

神宮寺聖歌という人間が自身の人気、生徒の崇拝ぶりをどれだけ認識しているのか分からないが、そんな会長の放課後訪問でぼくの日常はあっさりと崩壊した。

 

ざわつくクラスメイト、突き刺さる男女問わずの、なんであいつ?という疑問の視線、中には嫉妬的なものまである。

 

会長がぼくを見つけたのか、ニパッと天使のような笑顔を浮かべ小さく手を振ると、その視線は殺意にすら変化していった。

クラスの陰キャ、教室の隅で静かに暮らしているぼくにはあまりにキツイ。

しかし、このまま教室にいては、会長が突っ込んできて、事態が悪化するのは目に見えている。とはいっても素直に会長の所へ向かえば、それはそれでとんでもないことになりそうだ。

 

静まり返った教室。

 

「真白君、呼ばれてるよ?」

 

爽やかなイケメン、たしかピアノの世界的コンクールで最優秀賞受賞だかの経験も持つ、成績優秀な優等生、金剛要(こんごうかなめ)がその静寂を破るように、笑顔で声をあげたことで、ぼくはいよいよ追い込まれた。悪意なんて一切ない笑顔で言われては、無視するわけにもいかない。そんなことをしたらクラスの女子から総スカンを食らうことは間違いなし。ぼくは死ぬ。大して話したことないぼくのことも下の名前で呼ぶような陽キャLv100と違ってぼくの立場は危うい。

 

会長と金剛、二人の悪意なき純粋なはずの行為が、正に、前門の虎後門の狼となってぼくを襲う。

 

 

「あー、そういえばあれの提出が今日までだったかー」

 

鬼の棒読みになっているかもしれないが、会長は事務的な用事で来たんですよ、という必死のアピール。これでも、会長の手を煩わせるんじゃねぇ、という視線が突き刺さる理不尽。生きづらい世の中である。

 

「ふふ、来ちゃいました」

 

全男子が言われただけで惚れてしまいそうな飛び切り可愛いことを言う会長。下から見上げるように小首を傾げているのがあざといが、極自然にそれをやって、嫌味なく可愛いから女子にも嫌われないんだろう。

 

「会長、一先ず場所を移しましょうか」

 

これ以上ここにいては、クラスメイトからの視線だけで死んでしまいそうだ。今後の平和のためにもこの場を離れるのが最優先事項。

ぼくの提案に、会長は愛らしく、曲げた人差し指を唇に当てながら思考し、そうだぁ!と笑顔を浮かべる。この人、いちいち可愛い動作をしないと死ぬんだろうか。

 

「今日は生徒会はお休みなので生徒会室が空いているんですよ。そこでお話しましょう」

 

美味しいお茶菓子もありますよ、とスキップでもしそうなくらいご機嫌で生徒会室へ向かう会長。ぼくはその後ろを連れだと思われないくらいに距離を開けて着いていく。

 

「どうしてそんなに遠くに?」

 

訝しげに会長が訊ねてくるが、ぼくは頑なに会長の後ろを歩いていた。この人は本当に自分の人気ぶりを理解して欲しい。1年生の異性がご機嫌の会長と並んで歩いたりしたら、次の日、スキャンダルを起こした人気俳優くらい人が群がってくることになる。

 

どうにか会長の追求を回避し続け、生徒会室に到着。尾行している者がいないか入念に確認してから部屋に入る。

 

生徒会室は会社のオフィスのような雰囲気の中に学生らしい温かみのある部屋で、時折可愛らしいクッションやらマグネットやペンなどの小物が、女の子らしさを感じさせる。生徒会役員は大半が女子であるため、自然とそうなったのだろう。

 

「えっと、それで何の御用でしょう?」

 

あまり長居はしたくないので、紅茶を用意している会長を待たずに話し始める。美味しいお茶菓子があるとか言っていたのでここで話を切り出さないとお茶会になってしまいそうだ。会長と二人きりでお茶会だなんて、他の生徒にバレたらどんなことになるか想像したくもない。ここはぼくの平和な学園生活のためにも用件だけ聞いて、さっさと退散しなくては。

 

「後日お礼をするといったではないですか。それに、その言い方だと用がなければ話しかけてはいけないみたいで嫌です」

 

プンプン、という擬音がぴったりな、正に頬を膨らませたような怒り方は大変に可愛らしくはあるが、どうやらこれは長くなりそうだと、ぼくに確信させる妙な迫力があった。

 

「後日って昨日の今日ですよ?早くないですか?」

 

「お礼なのですから早い方が良いでしょう?」

 

その通りなのだが後日という表現から数日後くらいを想像して、何ならこのまま有耶無耶にならないかなーとすら思っていたぼくとしては、心の準備が出来ていないのだ。連絡先を特に教えていなかったとはいえ、まさか教室に突撃してくるとは。

普通に考えたら同じ学校に通っているのだから極自然なことと言えるが、『聖女』『優等生』として振る舞っている会長の行動としては、1年生の男子を訪ねて教室までやってくる、というのは不自然だ。

それこそ、教室がお祭り騒ぎになるくらいには一大事件。ぼくの華麗なる誤魔化しがなければ危ういところだっただろう。

 

 

「あの後どうなったのかも、お伝えしなくてはなりませんし」

 

「あんまり知りたくないんですが」

 

「そういうわけにはいきませんよ」

 

 

怖すぎるので事の顛末はそのまま闇に葬って欲しい。

ふふっと何故か楽しそうな会長であるが、なんかもうぼくには色々バレてしまっているからって取り繕わな過ぎじゃないか?

 

「それに、私が早く貴方とお話したかったのですよ。やはり、ありのままの自分でお話するのは楽しいですね」

 

子供っぽいくらいに屈託なく笑う会長。

そんなことを言われてしまうと、このお茶会から逃れることはもう不可能だ。狙ってやっているのだとしたら、会長は聖女どころが希代の悪女だと思う。




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5話 清楚宣誓

お茶菓子はマカロンだった。

カラフルで食品とは思えないような色のものもあるが、これが中々美味しい。甘いのもあれば、苦いのもあったりと色同様、味のバリエーションも様々だ。初めて食べたが、これを食べているだけで自分がおしゃれになった気がする。こうやってティーカップで紅茶を飲むなんて経験も相まって自分の格がワンランク上がった様だ。

 

「楽しくないお話は先に終わらせてしまいましょうか」

 

お茶会と称しておしゃべりする気満々の会長は、主題にして1番の重要案件をそう軽いノリで話し始めた。

 

内容を要約すると、こうだ。

用務員が犯罪者になってしまうのは学校としてもまずいし、証拠品として盗撮された映像が押収されると会長的にもまずい。よって、用務員は司法の力ではなく、神宮寺家の力によって、つまりは転勤という形で海外に飛ばされた。

奴の仕掛けていた隠しカメラも、昨日徹夜で神宮寺家のスタッフが探索、取り外したらしい。プライバシー保護を名目に、映像は確認せずに消去、カメラもそれを管理していたハードごと破壊されたとのこと。

会長が上手いこと根回しして、このような解決へと導いたらしいが、有能過ぎませんか?

自分の激やば画像は一切流出させず、神宮寺家の名誉を守り、用務員は海外追放。そもそもの発端が会長の安易な露出ということに目を瞑れば、あまりに有能。目を瞑ったままでいたい。

 

「さて、それでは改めまして、この度は本当にありがとうございました。私がこうして学校へ来れているのも貴方のおかげです」

 

「昨日も言いましたけど大げさですって。だからお礼もこのマカロンと、紅茶で十分過ぎます」

 

実際、会長と二人きりでお茶会だなんて、うちの学校なら全財産投げ出す奴もいそうな特権だ。お礼としては極上だろう。

それにぼくは、会長の未来を守れたことには胸を張ることにしたが、感謝されるようなことをしたとは思っていない。

 

「そういうわけにはいきません。それにもうお礼の品を用意してきましたので」

 

お礼なんていらないとは思いつつ、あの神宮寺聖歌が用意したお礼とはどんなものなのか、興味があるし、少しだけワクワクする。

 

立ち上がった会長。

何をするかと思えば、ゆっくりとブレザーのボタンを外していく。そのまま見せびらかすようにブレザーを脱ぐと、丁寧にハンガーに掛けた。

そして、次はブラウスのボタンに手を掛け――

 

「ん、んぅ」

 

「――って、なんで脱ぎ始めたんですか!?」

 

目の前で起きている出来事を正常に処理できず、しばらく眺めてしまったが、この人、ぼくの目の前で脱ぎ始めたんですが!?あまりの自然さに一瞬ぼくの方がおかしいのかと思ったわ!

 

「身内以外の男性に贈り物をするのは初めてだったので、インターネットで調べたのですが、男女間でのプレゼントには『プレゼントは私』という文化があるようで」

 

「偏った調査!」

 

つまり、この人自分をお礼の品とするために脱ぎ始めたってこと!?一体どういう経緯でそんな思考に決定したんですかね!

 

「大丈夫です。私はとても……ドキドキしています」

 

「ただの露出狂だぁあああー!?会長、反省してないんですか!?」

 

昨日の今日で何してんだこの人!学習能力ないの!?貴女、学年1位の才女でしたよね!?昨日、滅茶苦茶反省してましたよね!?

 

「反省していますよぉ。やはり不特定多数に見られてしまってはトラブルに発展するのは必至。つまりは特定の方に見せる分には何の問題も発生しません」

 

「問題しかないが!?根本が違うんですよ!露出を止めましょうって話で、そして何よりその特定の方とやらをぼくにしないで欲しいんですがぁ!?」

 

人の話を全く聞かずに恍惚の笑みを浮かべながらブラウスを脱ぎ捨て、その歳不相応に成長した果実を包む真っ白な下着が全開。その上、スカートまで脱ごうとしており、もう止まる気がないどころが、顔を上気させ、はあはあ息が乱れている。お巡りさん助けてください!

 

「見ていてくれれば良いんですよぉ。そう、舐め回すように、じっとりと」

 

もう表情がR18化している。お礼とか適当なこと言ってただ脱ぎたいだけじゃないか!もしや、ぼくの昨日の行動って余計なお世話だったのでは!?

 

「思ったとおり、貴方に(・・・)見て頂くのはとてもドキドキします。この感覚、良い、とても良いですぅ♡」

 

完全に下着姿になった会長が身をよじって身悶えており、遂に待ったなしな状況になったため、ぼくは咄嗟に、近くにあったブランケットを引っ掴み会長に投げた。

 

「はぶっ」

 

顔面でブランケットを受けた会長の体を、広がったブラケットが隠す。全身を隠すには大きさが足りなかったが、辛うじてパンツを隠すことに成功している。

 

「会長!」

 

会長がそれを取り払う前に、ぼくは勢いよく立ち上がった。

 

やるべきことを悟った。覚悟を決めた。

 

ならば自らの信念に誓い、宣言をしよう。ぼくの使命を。

 

 

「ぼくは!女の子は清楚であるべきだと思っています!」

 

女の子は清楚であるべき。

それがぼくの信念にして理想。

 

そして、女の子に清楚を求める以上、自らも誠実であるべきだと思っている。恋人でもない女性の裸体を眺めるようなことをしてしまっては、ぼくはもう世界の清楚な女性と付き合う権利も、会話し触れる権利も、ない。

 

だから、ぼくはいつか将来を誓い合う清楚な女性としか、R18な展開にするわけにはいかないのだ!

 

「露出して喜ぶなど破廉恥な行為は言語道断、当然ながら即刻、止めるべきです!ですが、会長は口でいくら言っても行動を改めないようなので――」

 

押し付けだろうと何だろうと、ぼくは清楚・清純・清廉潔白な女の子が良い!そうでなければ、ヒロインとは断固として認めない!

ここがエロゲーの世界で、会長がエロゲーのヒロイン、露出狂であることを運命づけられた生粋の変態であろうとも。

 

その運命、ぼくが変えてみせよう!

 

 

「――ぼくが貴女を、本物の清楚に調教しますっ!」

 

この世界に抗って、会長をエロゲーヒロインから、聖女という名の通りの、清楚で、清らか、清純な、理想の女性にしてみせる!

 

 

ぼくの決意表明に、ぽかんとしている会長。訪れる静寂。

 

 

 

 

――ガチャリとドアの開く音。

 

 

続いて、ドサッと荷物が落ちる音。生徒会室にいるのはぼくたち二人だけ。ドアが開いた以上、それは部屋に人が入ってきたということで。

 

「………調教、だと?」

 

 

女性にしては高いスラッと伸びた背丈に、艷やかな黒髪のポニーテール。

生徒会室に入ってきたのは生徒会副会長、二階堂薫。そして、彼女の視界に広がるのは、下着姿をブランケットで隠した会長と、立ち上がってそれを見下ろすぼく。

 

 

はい、ぼく終わりましたー。





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生徒会長・神宮寺聖歌編《2》
6話 親友


タワーになったケーキスタンドに、やや小ぶりなケーキ達が宝石のような輝きを放ち、並べられている。

目の前の友人はそれを熱心にスマフォで写真に収めると、イチゴがふんだんに載せられたショートケーキと、シンプルに粉砂糖のみで装飾されたガトーショコラを自分の皿に移した。

 

「なあ、親友よ。何故、ぼくたちは男二人で、このメルヘンでファンシーなケーキ屋でデザートバイキングなんかしてるんだ?」

 

「回答1、それは今日が土曜日で、お互いに暇で、俺がケーキを食べたかったからだ」

 

土曜日。

ぼくは白とピンクで配色された街で流行りのパティスリー(たぶんケーキ屋のオシャレな言い方)に来ていた。姉さんが来たいと行っていた程度には女子に人気のこの店は当然ながら、女子中高生や大学生のお姉様方で溢れかえっている。幸いなのはデザートを所定の場所に各々取りに行く形式ではなく、注文する形式であるため、席を立つ必要がないということだ。

 

「周り女子ばかりで気まずいです。帰りたいです」

 

こんな空間に男二人でいては多少なりとも注目されるのは必然だが、しかし、ぼくが耐えかねているのはそういう類の、珍種を見るような視線ではなく、ぼくと親友との関係を疑問視するようなものだ。

 

「回答2、安心しろ。周囲の奴らからみたら(・・・・・・・・・・)、俺達は男女に(・・・)見えている。そして何より――」

 

そう、男女に見えている(・・・・・・・・)からこそ疑問視される。男女でケーキバイキングなんて、それは基本的にカップルのデートという捉え方をされることになるわけで、そうなるとぼくと、この親友の容姿を比較されたりするわけだけど。

 

「――その辺の有象無象より俺の方が可愛い(・・・・・・・)超可愛い(・・・・)

 

言ってることは最低だが、それをナルシストと切り捨てられない程度にはその容姿は客観的には(・・・・・)、整っている。いや、整い過ぎている。

 

早乙女(さおとめ)歌成(かな)

本日の装いは黒髪ロングに、黒のワンピース。その上からカーディガンを羽織った由緒正しいコテコテお嬢様スタイル。どっからどう見ても美少女であるが――生物学上は彼、つまりは()である。

 

主題を先に短くまとめてから話し出す独特の口調で、一人称も俺と話し方は男らしいが、その声は中性的といえば中性的ではあるが普通に女の子だ。声は女装している時は変えているらしいが、そもそもぼくはこいつが女装していない時を見たことがないので、素の声は知らない。

 

ただ、ぼくにとっては一番の親友であるのは確かでそんなことは些細なことだ。

 

 

「だから気まずいんだよ。皆のなんであんな奴が?という視線が女子から向けられるからめっちゃ傷つく」

 

同性からの視線であれば、持たざる者の嫉妬と流すことも出来るが、異性からのぼくらの組み合わせを疑問視するような視線は本当にダメージが大きい。

 

「解決案1。真白も女装すれば良い。君の顔なら俺ほどとは言わないが、その視線の主達よりは余程可愛くなるぞ」

 

「それは男のぼくには望みはないということでしょうか」

 

もはや、男としては歌成の容姿に釣り合うことは不可能と、言われているような気がしないでもなかったので訊いてみる。

 

「非回答。それに言及するのは止めておこう。真白が可哀想だ」

 

「実質言ってますよね、それ!」

 

容赦なき友人の言葉にツッコんでみるが、悪いとも思っていない友人は愛らしくリップの塗られたお口で、満足そうにケーキを食べている。こいつはぼくが困ったり、嫌がるのが大好きな意地悪な奴なのである。そんなだからぼくしか友達がいないのだ。

 

そういう気持ちを込めてジトッと視線を向ければ、その意味を察したのか、フォークに指したイチゴをぼくに向けて。

 

「訂正。俺にはオトモダチが沢山いる。そして、真白こそ俺しか友達いないだろ」

 

こいつの言うオトモダチというのは表面上の付き合いをしている、謂わば、知り合いくらいの人達のことだ。まあ、クラスに話す知り合いもいないくらいのぼくよりマシなことは確かではあるけど、どんぐりの背比べじゃないだろうか。

 

「一人いれば十分。お前ほど変わった奴と友達ならそれは百人分に換算できないか」

 

 

友達なら歌成がいれば退屈しないし、楽しいし、十分だ。

それに、女装男子、それもこのクオリティ、街中を堂々と歩いて、十人が十人、美少女と認識するレベルの奴は中々いない。友達としてのレアリティなら相当なもの。

 

本音と、若干の皮肉としてそれを口にしたわけだが、こういう時妙に素直に受け取るのが早乙女歌成の憎めないところである。

 

ぼくの言葉を聞いた歌成は得意気に髪を払った。男の癖にケーキより甘い、花みたいな匂いが香る。

 

「賛同。分かっているじゃないか。喜べ、俺は友達百人以上に相当する可愛さ、美しさだ」

 

「ご機嫌で何よりだ」

 

基本的に無愛想で表情に起伏があまりない歌成ではあるが、ぼくくらいになると、些細な変化からその感情を読み取ることも容易。どうやら珍しいくらいご機嫌らしい。ずっと来たかった店らしいし、楽しんでいるのなら、本当に何より。

 

まあ、歌成と行動していれば大なり小なりそういう視線は向けられるものだ。今日はケーキバイキングということで場所柄いつもより視線が痛かったため口に出したが、そんなに深刻なわけじゃない。それを分かっているから歌成も冗談みたいに話しているのだ。こいつは我儘で意地悪だけど人が本気で嫌がることはしない。

 

「本題。それで、相談とはなんだ?」

 

そして、真剣に話さなくてはならないのはこれからだ。大体、お互いに暇な土曜日には自然と二人で集まるが、今日に限ってはぼくから相談を持ち掛けた。

 

今ぼくは、かつてない危機に瀕している。

これを解決するため相談できるのは親友である歌成しかいないだろう。

 

ぼくは意を決して口を開く。

 

「――実は明日、女の子とデートをすることになったんだがぼくは一体どうしたらいいんだ」

 

「笑止。嘘ならもっとマシな嘘吐けよ、童貞」

 

笑われた。いや、嘲笑われた。男と分かっていても、美少女顔のこいつにこんなこと言われると傷つくので切実に止めてほしい。言い方が悪いよね、ぼくは単に貞操を守っているだけなのに。

 

このままではぼくはこいつの中で、妄想に取り憑かれた哀れな童貞ということになってしまいそうなので、訂正するためにも、昨日のことを振り返りつつ、説明するしかないようだ。

 

そう、ぼくが生徒会長・神宮寺聖歌を清楚に調教してエロゲーヒロインを脱却させることを宣誓し、そこへ悪魔みたいなタイミングで副会長である二階堂薫が入ってきてしまった、混沌の修羅場から、こうして生き残った顛末を。




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7話 急転直下

ゲームやアニメにおいて、現実世界と寸分変わらない世界観が舞台だったとしても、ありえない設定や描写は付き物だ。

それはフィクションとして物語を盛り上げるためには必要不可欠なエッセンスであり、それがあるから現実を忘れて楽しめるエンターテイメントとして成り立つわけであるが、仮にそれが現実となったらどうだろうか。

 

例えば髪色や瞳の色。

前世の記憶を取り戻すまで全く何にも疑問に思わなかったが、そもそも純日本人の会長が銀髪碧眼というのは、明らかにゲームの設定があらゆる法則に優先して、世界に反映されている証明だ。

 

つまりは、神宮寺聖歌という人間は、その髪色が設定通り反映されている以上、ゲーム通りの性能(スペック)を持つということに他ならない。

 

ゲームにおいて序盤で早々に用務員の餌食になり、R18展開に突入するため、そのスペックが発揮されることは殆ど無かったが、ゲームの物語に直接的に関係しないからとゲームの制作陣が盛り過ぎたのか、そのスペックはチート級、運動能力・頭脳・家柄・容姿、全てにおいて秀でた完全無欠の才女だ。

 

つまり。

 

神宮寺聖歌は露出性癖こそあるが、それ以外においてほぼ完璧な性能を持つ超人。

 

故に彼女は、下着姿をブランケットで隠して、1年生の男子(ぼく)と二人きりでいたという状況を親友に見られたとて、それを隠し通すべく一瞬にして頭をフル回転させ、最適解を導き出したのだろう。

 

その行動は早かった。

 

「ふもっ!?」

 

体に巻いていたブランケットを投げる。投げ方は既にぼくのを見ている。彼女であれば、それだけでコントロールは完璧、狙い通りにブランケットは二階堂薫先輩の顔面で広がり、覆い隠した。

 

そして、それを実行したことがあるが故に、ぼくも会長の意図に気が付き、咄嗟に反応することが出来た。

二階堂先輩の顔面を覆ったそれを取られる前に、正面に陣取り、その視界を遮ったのだ。

 

見事な機転、完璧な連携、それを持ってして、稼げた時間は十秒にも満たない。

 

「何をする聖……歌?」

 

二階堂先輩は煩わしそうにブランケットを取り払い、目の前のぼくをキッと一瞬睨むと、視線を会長に向ける。そこにいたのは――

 

「ごめんなさい、急に入ってくるものだから驚いてしまって。何かあったのですか、薫?」

 

――制服をきっちりと着こなし、小首を傾げている会長だった。

 

 

 

 

 

 

 

ぼくと会長が並んで座り、テーブルを挟んだ向かい側に生徒会副会長、二階堂薫先輩が座った。その目にはまだ疑いの色が色濃くあり、出された紅茶とマカロンにも口を付けずに、腕を組んでじっとこっちを見ている。

 

「私の目には聖歌が下着姿でそこの男に襲われているように見えたのだが……」

 

困惑した様子の二階堂先輩に心底同情しつつ、ここで頷いては、ぼくは無実の罪で人生終了となるため、スルーする。そもそも、襲ってないし、むしろぼくが襲われてたし、この状況で最大の被害者はぼくだと切実に訴えたい。

 

「薫。学校、それも私達の生徒会室でそんな不埒な事許すわけがないでしょう?」

 

と、1番不埒な張本人が申しております。学校、それも生徒会室で露出して覚醒した変態は誰でしたっけ?

真顔で二階堂先輩を諭す会長に思わずそう言いたくなったが、ぼくの人生が人質となっているため黙っているしかない。

そんなぼくに、会長が貸しですよ、とばかりに視線を送ってくるが、勿論、ただのマッチポンプなので、後で説教するだけだ。マジでこの人のせいで人生終了しそうだったのだから、誤魔化せたとしても大説教コースである。そもそも会長が急に脱ぎ出したりしなければこんなことにならなかったからね!

 

「だが私は確かに……」

 

「そうだ薫、今日は生徒会活動はお休みなのにどうかしたのかしら?」

 

二階堂先輩の呟きを遮り、畳み掛けるように質問する会長。そうして二階堂先輩の意識を逸していき、有耶無耶にしようという作戦なのだろう。シンプルながら角の立たない作戦だ。

 

「えっ、ああ。なんでも聖歌が1年生の男子と楽しそうに歩いていたと話題になっていてな、気になって来てみたんだが……」

 

作戦失敗。

話はまたぼくに戻ってきた上に、二階堂先輩が滅茶苦茶怖い顔でこちらを睨んでいる。美人の怒り顔は本当に怖い。

 

「あら、そんなことで態々?」

 

「そんなこと、ではない。聖歌が生徒会メンバー以外を贔屓にしたんだぞ?それも一年生の男子だ」

 

本来であれば『そんなこと』で済むようなことが『そんなこと』ではなくなってしまうのが、聖女と呼ばれている程に崇拝され、神聖視すらされている神宮寺聖歌なのだ。

 

生徒会長・神宮寺聖歌は平等だ。

それ故に、親友であり生徒会副会長・二階堂薫先輩や、他の生徒会メンバー以外とは特別親しくしたりすることはない。誰にでも優しく、誰にでも笑いかけ、ただ誰かを贔屓したりはしない。それ故の聖女。

 

常に完璧で、美しく、平等で、慈悲深いことを当然とされている。彼女の立場が、彼女の能力が、彼女の周囲の人間が、そうさせているのだ。

 

それはどんなに重いプレッシャーなのだろうか。

 

神宮寺聖歌という狭い箱に閉じ込められて、聖女というラベルを貼られて、一挙手一投足をその箱の中で、ラベルのイメージ通りに遂行しなくてはならないのは。

 

「私は嬉しかったぞ。お前は少々優等生過ぎるからな」

 

この、二階堂先輩が会長の親友足り得ているのは、彼女が神宮寺聖歌を対等として扱い、会長がそうして神宮寺聖歌を演じていることを察しているからなのだろう。

それを気遣い、ただ責めたり咎めたりもせず、心を許せる友として共に歩み、見守ることの出来る人格者なのだ。

 

「――だが、距離が些か近過ぎやしないか?」

 

その会長の親友が、会長が平等に接さなかったとしても騒ぐことはしないだろう理解者が、こうまでぼくに突っかかるのは、会長が露出していたせいで、未だぼくに婦女暴行的な疑いがかけられていることと――

 

「そうでしょうか?」

 

――会長がそれはもうぼくにピッタリとくっついているからだ。ぼくと二階堂先輩に面識がない以上、会長がぼくの隣に座ることは極自然なんだけど、椅子をこれでもかと近づけて、肩と肩どころが腕と腕が重なるくらい近くに座っているのはおかしくないですか?

二階堂先輩でなくても、疑問に思うし、この人には何とか雑に誤魔化したとはいえ、会長の露出現場を見られているというのにそんなことをしては、ぼくと会長に何かあります、と言っているようなものだ。

そりゃ、ぼくのこと睨むよ!全然態度が軟化しないわけだよ!

 

「聖歌が私達以外とも仲良く接するのは大いに結構。しかし、それが不埒な輩ならば、黙って見過ごすわけにはいかない」

 

ドンッ、と机に両手を置き身を乗り出した二階堂先輩が真剣な顔でぼくらを見る。

その丁寧に磨かれた黒曜石のような瞳からは、心の底から親友の身を心配する不安感と、私が親友を守るという正義感とが見え隠れして、会長との確かな友情を感じた。

 

それはきっと、会長にも伝わったのだろう。

会長は、ふっと、微笑むように優しく笑みを零すと、その瞳に信頼を返すように、強く見つめてゆっくり口を開いた。

 

「彼は綾辻真白君。実はこの度――」

 

ぐいっと引き寄せられたかと思うと、これまでの人生で感じたことのない柔らかい感触が腕を包み、思考が真っ白になってしまって、それが会長がぼくの腕に抱きついているからだと気がついたときにはもう遅かった。

 

 

「――彼と私はお付き合いすることになりました」

 

 

飛び切りの笑顔で、そう荒唐無稽なことを宣言する会長。

 

 

 

 

ああ、もうお家帰りたい……。




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8話 神宮寺聖歌

神宮寺聖歌は、『神宮寺聖歌』が嫌いだ。

だから。

 

「まさか生徒会長が露出狂とはな」

 

夜の公園。関わったこともない用務員に自らの痴態が納められた映像を見せられて最初に思ったのは――ああ、これで終われるであった。

 

『神宮寺聖歌』を終われる。辱められ、貶められ、蔑まれても、それで終われるのなら、それで良いと思った。

 

回避する術はあったのだろう。

聖歌の能力(スペック)と神宮寺家の権力(パワー)があれば、どうとでもなる程度のことでしかなかったはずだ。それでも聖歌にそうしようとする意欲は湧かなかった。

 

彼女の欲求(露出)とは、誰かに見つけて欲しくて、そうして神宮寺聖歌を壊して欲しくて――終わらせて欲しいと願う破滅願望だったのだから。

 

そう、思ってしまう程に、願ってしまう程に、神宮寺聖歌は、『神宮寺聖歌』が嫌いなのだ。

 

いや、嫌いだった(・・・)のだ。

 

 

 

 

神宮寺聖歌、5歳。

 

プラチナのように高貴で重厚な輝きを放つ銀色の美しい髪を小さくツインテールにして、聖歌は、腕を組み、精一杯背伸びするように背筋を伸ばして、胸を張っていた。

その顔は自信に満ち溢れ、やってやったぜという達成感に満ちている。簡単にいえば、ドヤ顔である。

 

「ああ、なんてこと……」

 

そのドヤ顔幼女の背面にある外壁には、デカデカと、ペンキでグチャグチャとした何かが描かれていた。赤・青・緑、規則性なく塗りたくられたそれは、誰がどう見ても落書き以外の何物でもなかった。

ああ、と使用人はそれを見て震え――

 

「なんて、素晴らしいんでしょうか、お嬢様!これぞ芸術!天才的な色彩感覚でございますぅ!」

 

――なんてことだと褒め称えた。

 

「これはただのらくがきよ」

 

「ええ、ええ、まあ、まあ!落書きでこのセンスだとは私としたことがお見逸れしました!」

 

子供なら誰しもが一度はしたことがあるかもしれない落書き。壁に、床に、あるいは家具や家電に、意味もなく描いてしまって大惨事になり、叱られる。

 

聖歌とて、それを想像していた。いや、期待(・・)していた。だから称賛が返ってきたとき、子供ながらに聖歌は恐怖を感じた。

そしてその漠然とした恐怖は、聖歌の中で、徐々に大きく、明確に、重大になっていく。

 

 

 

神宮寺聖歌、6歳。

 

家庭教師の授業をサボった。

理由なんてなかった。ただ、何となくそういう気分ではなかっただけ。教師に落ち度はなかったし、勉強が嫌いなわけではない。家庭教師による授業をボイコットし、自室に引きこもっていた聖歌の元へ父がやってきた。父は真剣な顔で、聖歌を真っ直ぐ見つめて言った。

 

「なんだ、教師が気に入らなかったのか。あいつならもう辞めさせたから。お前は天才なんだ。そのお前に教えさせてやっている(・・・・・・・・・・)のに飽きられるような無能はいらんさ」

 

聖歌は分かっていた。授業をサボったのは完全に己が悪いと。なのに、父はお前は悪くないという。それどころが悪者は先生で、その先生はクビにしたと。

 

自らの頭を撫でる父の手が、どうしてか凄く怖かった。

 

 

神宮寺聖歌、7歳。

 

苦手な食べ物が入っていて、出された食事を残した。シェフがクビになった。自分の我儘のせいだった。

 

庭で遊んでいる時に、木の枝に服を引っ掛けて少し破れた。付き添っていた使用人と、管理していた庭師がクビになった。自分の不注意のせいだった。

 

 

朝寝坊して学校に遅刻した。聖歌専属世話係の使用人と、送迎の運転手がクビになった。自分の怠慢のせいだった。

 

 

テストの点数が少し下がった。また家庭教師がクビになった。自分の努力不足のせいだった。

 

 

クラスに突っかかってくる子がいた。いつの間にか転校し、街から家族ごと消えていた。自分が仲良く出来なかったせいだった。

 

 

仲良くしている友人がいた。その子がいじめられ始め、転校した。自分が仲良くし過ぎたせいだった。

 

 

神宮寺聖歌、8歳。

 

聖歌は理解した。

自らの立場と役割と影響を。

 

聖歌がやることを否定し、正してくれる人間はおらず、間違ったことをすれば、失敗すれば、誰かが理不尽に苦しむことになる。

 

8歳にしてそれを悟った聖歌は常に正しくあろうとした。完璧であろうとした。

 

聖歌にはそれを文字通り完璧にこなせてしまうだけの性能(スペック)が、備わってしまっていた(・・・・・・)

運動能力・頭脳・家柄・容姿――人を強烈に惹き付ける圧倒的カリスマ性。

 

やがて、神宮寺聖歌は『聖女』と呼ばれるようになっていた。

 

――運命(ゲーム設定)の通りに。

 

 

偽りだらけの、演じ、作られた『神宮寺聖歌』が、心底嫌いになった。

 

 

そして現在。神宮寺聖歌、16歳。

 

『神宮寺聖歌』は終わった。

 

それは自らを陥れようとした用務員の手による破滅的なものではない。その場を通り掛かった、同じ学校の一年生によって穏やかに消え去っていった。

 

綾辻真白。

彼は自分の醜い欲求(露出)を知って、欠点(弱音)を聞いて、至極真っ当に、聖歌を叱り、正直に聖歌の異常性をぶつけた。そして、その上で突き放すことはしなかった。聖女としてではない、ただの神宮寺聖歌と普通に(・・・)接してくれた。

 

この人は叱ってくれる。本当の自分を見て、この自分の醜いところを見ても、変わらずにいてくれる。

 

この人の側でなら、自分が自分でいられる。もう『神宮寺聖歌』を演じる必要はないのだ。

 

欲しかった。どうしようもなく、この上なく。側に置いて手放したくなかった。

 

 

「綾辻真白君いますか?」

 

 

神宮寺聖歌という人間の人気、生徒の崇拝ぶりは、嫌という程分かっていた。そうして真白の元を訪ねれば瞬く間に噂が広がることも。この学園では絶滅危惧種並に珍しい、随分と聖歌に敵意剥き出しの生徒がこのクラスにはいたが、それで止まるようなら初めから聖歌は動いていない。

そのまま、雑な小細工をして教室を出た真白と予定通り(・・・・)生徒会室へ。

 

「大丈夫です。私はとても……ドキドキしています」

 

「ただの露出狂だぁあああー!?会長、反省してないんですか!?」

 

聖歌にもう露出癖はないはずだった。

そんなことをしなくても、己を見てくれる人間が目の前にいるのだから。ただこうして悪い事をしてそれを咎められるのが嬉しかった。慌てている真白を見ているとドキドキする。もっと見せたいと思ってしまう。

 

「思ったとおり、貴方に(・・・)見て頂くのはとてもドキドキします。この感覚、良い、とても良いですぅ♡」

 

幼少期から自身を偽り続けてきたことから、本当の自分を見て欲しいという想いは人一倍強い。結局、破滅願望があろうとなかろうと、聖歌の露出癖はもう既に、彼女を形成する一部となっていたのだろう。

聖歌はそれを自覚しながら、それも良いと思った。己のその邪さが、不完全さが愛おしい。

 

この時まで聖歌にあった真白への感情はまだ執着で、それが花開いたのは、聖歌でさえ予想できなかった真白の宣誓によってだ。

 

 

「露出して喜ぶなど破廉恥な行為は言語道断、当然ながら即刻、止めるべきです!ですが、会長は口でいくら言っても行動を改めないようなので――ぼくが貴女を、本物の清楚に調教しますっ!」

 

嬉しかった。かつてないほどの至上の喜びが聖歌を貫く。

その宣誓は、聖歌にとって何よりも熱烈で情熱的で魅力的な――告白だった。

 

だってそれは、本当の自分を見ても、自分に幻滅せずに、見捨てずに、周囲に押し付けずに、叱って、正して、共に歩んでくれるということに他ならない。

 

――それはなんて、愛おしいのか。

 

 

神宮寺聖歌はもう聖女なんかじゃない。

 

誰にでも優しく、誰にでも笑いかけ、誰かを贔屓したりはしない。常に完璧で、美しく、平等で、慈悲深い彼女はもう終わったから。

 

ただ壁に落書きをして無邪気に楽しむあの頃のような、今の偽りのない自分が、少しだけ好きになった。

 

だから。

 

我儘でも、醜くても、不平等でも、傲慢でも。

 

 

欲しいものをこの手に収め、絶対に手放さないと決めた。

 

 

「彼は綾辻真白君。実はこの度――彼と私はお付き合いすることになりました」

 

 

これは宣戦布告だ。

聖女としての偽りの神宮寺聖歌が終わり、生まれ変わった新しい神宮寺聖歌から、調教師(綾辻真白)への宣誓(首輪)

 

――もう後戻りはさせない。

 

ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの著作に、こんな言葉がある。

 

『怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。 深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』

 

 

――私が貴方を、立派な調教師に調教してあげますね……私なしでは生きていけないように♡

 

 

運命(ゲームシナリオ)は崩壊し、世界は新たなルートへと突入した。渦中の綾辻真白を置き去りにしたまま。

 




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