バーチャルリング (群武)
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樋口楓は世界の主人公である。

これは決定事項であり、本人がどれだけ嫌がろうとも変えることのできない世界の理である。しかし、彼女には魔法少女の様な力もエルフの様な魔力も持っていないただの高校2年生。

彼女の知り合いには異世界の勇者や皇女、女神に悪魔、吸血鬼にファイアードレイクと彼女よりも主人公に向いている能力や立場の人間は数多く存在している。。

それでも彼女を中心に世界が回ってしまうのは何故か?

理由は単純、彼女が物語…いや、世界の主人公に選ばれてしまったからである。

 

 

「ふぁ〜」

 

とあるゲームのシーズンが新しくなったので珍しく深夜までゲーム配信を行っていた為、寝不足になり大きな欠伸が抑えきれない。

 

「楓ちゃん、朝から大きな欠伸ですね」

 

後ろから声をかけられたのに対して振り向く。

自分の束ねた銀髪のポニーテールが一瞬視界に入るが、とある人物に視線を持っていかれあまり気にならない。

 

「おはよ美兎ちゃん」

 

視線の先にいる彼女の名前は月ノ美兎(つきのみと)。

同じ高校に通う同級生でクラスの委員長。碧眼で髪は艷やかな黒髪を腰まで伸ばした見た目は清楚で生真面目な学級委員長を具現化した様な人物。

そんな彼女は学園で最も有名な1人である。

見た目と話し方から清楚なイメージを持たれがちな彼女ではあるが、実際はかなりの奇人であり変人である。

「そう言えば凛先輩は?」

 

「少し遅れるらしいですよ」

 

凛先輩とは私らの通うにじさんじ学園の先輩で本名は静凛(しずかりん)。

妖艶な見た目に穏やかな性格、それに加え落ち着いたトーンで話す彼女は学年問わずの人気者である。

私と美兎ちゃん、それにしずりんの3人合わせてJK組と呼ばれ、よく一緒に行動を共にしている。

 

「まだ時間もあるし少し待っとこか」

 

「それはいい案ですね。ところでずっと気になってたんですが、その小動物はなんですか?」

 

美兎ちゃんの指摘に気づいたのか小動物は怯えたのか少しこちらを警戒体勢に入る。

 

「わからへん」

 

「見た感じは猫っぽいですが、楓ちゃんが触れるってことは猫ではない?」

 

「そういう事になるんかな?それにしてもめっちゃ可愛ない?」

 

猫アレルギーの私は日頃触れない不満をぶつけるかのように小動物を可愛がる。

「楓ちゃん。撫ですぎですよ」

 

「美兎ちゃんも撫でてみ。めっちゃ気持ちいし」

 

「本当ですね。これは癖になりそう」

 

私達は学校に行くことを忘れじゃれ合い続ける。

そんな事を10分ほど行っていると突然声が聞こえる。

 

「ナッツ!やっと見つけた!」

 

「「あっ」」

 

呼び声に反応してかずっと撫で続けられていた小動物が声の主の方へ駆け寄る。

そこには栗色でツンツンの髪に優しい瞳をした少年が立っていた。

 

「その子、君のとこの?」

 

「ヒッ!…そ、そうです」

 

そんな私の声に怯えたのか小動物の様にビクビクする。それに連動してかナッツと言われた小動物も同じように萎縮している。

威圧したつもりもないのにここまで怯えられるとこちらが罪悪感を感じてしまう。

 

「そんな怯えんでも…」

 

「楓ちゃんは顔はいいけど怖いんですよね」

 

「美兎ちゃん、なんか言った?」

 

美兎ちゃんがボソッっと言った一言を聞き逃さなかった私は敢えてドスの効いた声で聞き返す。

私達の距離感ではこの様なやり取りは日常茶飯事だが少年萎縮してしまい固まってしまう。

予想外に怖がられてしまった為、空気が固まったのが分かる。

 

「10代目〜」

 

「ツナ〜」

 

そんな中、少し離れた所から2つの影が駆け寄ってくる。

片方は女性の中では長身な私より10センチは高く、走ってくるフォームから体を鍛えているのが分かる。それでも特に威圧感を感じないのは彼の表情が優しくずっとニコニコしているからだろう。

もう一方は私とほぼ変わらない身長に多数のアクセサリーを身につけおり、見た目の良さも相まってチャラい印象がある。彼は逆に私と美兎ちゃんの2人を警戒するようにガンを飛ばす。

私はその視線を真っ向から睨み返す。

 

「10代目!ご無事ですか!?この女に何かやられてませんか!?」

 

「あぁん?」

 

不当な悪人扱いされ不愉快に感じたので先程と同じようにドスの効いた声で対応する。

 

「ちょっと獄寺くん!初対面の人に失礼じゃないか!何もされてないしナッツの事を可愛がってくれてただけなんだから」

 

「そうでしたか。それは失礼しました」

 

獄寺と呼ばれた彼は先程とは打って変わって忠犬の様に尻尾が見えるくらい従順になる。

「ナッツを見つけてくれてありがとな。俺はツナの親友で山本武(やまもとたけし)って言うんだ。よろしくな」

 

太陽と見間違う様な笑顔に私達は自然と「よろしく」と返事をしていた。

山本くんの自己紹介を皮切りに今度はツナと呼ばれた栗色の髪の毛をした少年の口が開いた。

 

「俺は沢田綱吉。並盛中学2年です。ほら獄寺くんも」

 

「はい10代目!俺はボンゴレ10代目の右腕獄寺隼人」

 

どうやら獄寺はまだ私達に対して心を開いていないようで警戒し続けている。

別に敵対してる訳でもないのにそんな警戒する必要ある?

 

「獄寺くんそんなに警戒しなくていいよ」

 

「でも10代目…」

 

「この人たちは悪人じゃないよ。それにこの世界は未来と違って安全なんだから少しは気を緩めたら?」

 

「そうですね…10代目がそう言うなら」

 

どうやら獄寺の方が折れたようで少し警戒の色が弱まる。

 

「いや〜、この子凄く可愛いですね〜」

 

警戒が緩んだのも束の間、ツナの後ろで少し怯えているナッツに対して頬が緩みきった状態でなでなでしている人物が居た。

その声を聞いた瞬間、ツナ、山本くん、獄寺の3人はその場から飛び退き臨戦態勢に入る。

その動きは機敏で先程まで弱々しかったツナですら瞳に警戒の色が見える。

 

「凛先輩やっと来た」

 

「遅いですよ凛」

声の人物は先程から私達が待っていた人物の静凛であった。

遅れて来たしずりんはナッツを少し撫でてから「お待たせしました」と言いながら警戒する3人を無視して私達と合流する。

 

「お二人共おはようございます。あちらの方達はお知り合いですか?」

 

凛先輩の質問に対して、美兎ちゃんが先程聞いた自己紹介の内容をそのまま伝える。

一通り聞き終えた凛先輩は疑問を持ったようで、後ろに立っている3人へ向き直す。

 

「あの〜、ボンゴレとか10代目ってどういう事ですか?それに並盛中学ってこの辺には無い学校名ですよね」

 

私らが生活している地域の近くに並盛中学という学校も地名もない。

凛先輩の質問に対して今度はツナ、山本くん、獄寺の3人が首を傾げる。

どうやらお互いの認識に誤差が生まれているらしい。

 

「確かにさっきから獄寺が10代目って言ってるけどツナくんは何かチームのトップなん?」

 

凛先輩の質問に続いて私も気になっていたところを質問する。

 

「10代目って何かマフィアのボスみたいですね」

 

美兎ちゃんの冗談交じりに言った一言に対してツナの体がビクッと反応する。

 

「よく気づいたじゃねーか小さいの。こちらにおられるのはかの有名なマフィア、ボンゴレの現頭首の10代目だ」

 

「私(わたくし)には月ノ美兎って言うプリティーな名前があるんですー!」

 

「あれ?マフィアのボスって所はスルー?」

 

美兎ちゃんのツッコミがマフィアに対するものでは無かった事に驚くツナ

 

「まぁここら辺やったらマフィアのボスくらい居てもそこまで不思議じゃないよな」

 

「そうですね。悪魔に女神、エルフだって居ますからね。流石に背中が割れて中からプレデターでも出てきたら驚きますが」

 

「確かにまだにじさんじにプレデターは居ませんね」

 

私達はワハハと笑っているが今度はツナ達3人が話についていけずに頭の上でハテナを浮かべる。

 

「悪魔や女神がいるんですか?」

 

ツナが恐る恐る聞いた質問に対して私達は即答でYESと答える。

悪魔と言う言葉に獄寺が反応するが何か考えている為か口は挟まない。

 

「ここって地球ですよね?」

 

「地球にある日本ですよ」

 

「ですよね。でも俺の知ってる日本には悪魔や女神は居ないのに。…殺し屋の赤ん坊はいるけど」

 

ツナは戸惑いながら最後に小声で付け足す。

 

「赤ん坊って言うのは先程からこちらを覗いてるあの子の事ですか?」

 

しずりんはそう言って屋根の上を指を指す。

その先には大きな瞳とタレ眉とクルッと巻いたもみあげ。ボルサリーノのソフト帽に黒スーツを着込んだ赤ん坊が居た。

ついでに言えば帽子の上にはカメレオンもいる。

 

「んな!何でそんなとこに居るんだよリボーン!」

 

「おー小僧も来てたのか」

 

リボーンと呼ばれた赤ん坊は一瞬少し驚いた表情を見せるがすぐに表情を戻し屋根から飛び降りる。

 

「危ない!」

 

咄嗟に私はリボーンと呼ばれた赤ん坊の落下地点へ一直線に走り出そうとする。しかし、その心配を他所にリボーンは頭の上に居たカメレオンがパラグライダーに変身し6人の方へ飛んでくる。

リボーンはスピードに乗って私の横を通り過ぎ斜め後ろにいたツナの方へ直進する。

 

「あがっ!」

 

「「「!?」」」

 

飛んできた勢いのままリボーンはツナへ飛び蹴りを食らわし、その反動を利用して器用に山本くんの肩へ着地する。

 

「何するんだよリボーン!」

 

「あれぐらい避けやがれダメツナ」

 

「大丈夫ですか10代目!」

 

蹴り飛ばされたツナへすぐさま獄寺が近寄り心配する。

山本くんは親友が蹴り飛ばされたと言うに心配どころか笑っている。

そんな光景を前に私達JK組は唖然とする。

一番最初に我に返ったしずりんが口を開く

 

「可愛いもみあげですね」

 

「待つんだ凛!今の光景で1番最初に言うことはそれじゃない!」

 

予想外の反応に美兎ちゃんは突っ込まずにはいられない。

 

「そやで凛。最初に褒めるのはスーツと帽子や」

 

「そうそう、この帽子高級品…って楓ちゃんも何言ってるんですか!」

 

美兎ちゃんはしずりんと私の2連続ボケに対してノリツッコミをしてしまう。

そんなボケた私達はツッコミには耳を貸さずにツナの心配をする。

 

「…って2人とも聞いてないし。それで沢田くん大丈夫ですか?」

 

「え…あ…はい。大丈夫です」

 

「ほらここ擦りむいてるで。これ使い」

 

「あ…ありがとうございます」

 

私は持っていた絆創膏を1つ渡す。

 

「おいツナ。こんな所で油を売ってないで早く学校へ行け」

 

リボーンはそう言ってツナのケツを蹴る。

 

「えー!未来から帰ってきたのに学校行くの!?今日くらい休ませてよ〜」

 

「甘えんじゃねぇ。じゃぁな」

 

もう1発食らわされたツナは渋々歩き出し、その後ろをリボーンを乗せた山本くんと獄寺が従うように歩く。

 

「そろそろ私達も学校に行きましょうか」

 

その後ろ姿を見送った私達は自分達が登校中である事を思い出し、登校を再開する。

 

 

「なぁ坊主」

 

先程まで能天気に笑っていた者と同一人物とは思えない程真剣な表情になる。

 

「いつからあの姉ちゃん居たんだ?」

 

「お前らが合流した時には居たぞ」

 

「マジか。ずっと警戒してたつもりなんだけどな」

 

少し困ったような表情になる山本。

剣士にとって背後を取られた事実は笑って見過ごせるものでは無いらしい。

 

「しかも俺に気付いたって事はお前ら以上に警戒心が強いみたいだな」

 

日頃人を褒めることが無いリボーンが初めて会った人物にここまで言わせるとは一体彼女らは何者なのか?

 

「そう言えば彼女らの名前聞きそびれちゃった」

 

「気にしなくてもすぐに会えるさ」

 

「何を根拠に言ってるんだ野球バカが!」

 

「でも山本が言うなら何だか会えそうだね」

 

「案外剣士の勘はバカにならないぞ」

 

以外にもツナとリボーンの意見が合致する。

 

「10代目とリボーンさんがそう言うなら…」

 

尊敬する2人からの後押しがあった為か渋々と言ったように折れる。

 

「それにしても少し変わった3人組だったね」

 

「そうっすね。やけにオーラがあるというか」

 

「案外身近に凄いやつが居るもんだな」

 

周りから見たら自分たちも充分に変わっているが、それには気づかない3人である。

 

「特にあの身長の高い人」

 

「関西弁で話して奴っすね」

 

3人は先程まで話していた銀髪のポニーテールで関西弁の女性を思い浮かべる。

ただの女子高生とは思えない程の威圧感。それはXANXUSや白蘭の様な凶悪な威圧感とは違う。どちらかと言うとハイパー死ぬ気モードのツナやキャバッローネファリミー10代目ボスディーノの様な安心感のあるオーラが漂っていた。

 

「流石のお前らも気づいたか」

 

「どういう事っすかリボーンさん」

 

何か意味深に放つリボーンの言葉に獄寺が真っ先に反応する。

 

「あいつは多分この世界の主人公だ」



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アーカイブ2

沢田綱吉、獄寺隼人、山本武の3人と別れいつもと変わらない日常の昼下がり、いつも通り校舎の屋上で昼寝をしながら今朝届いた物を眺める。

 

「この指輪なんなんなろ?」

 

そう言いながら自分と太陽の間に1つの指輪をかざす。

そこには爬虫類の様な生き物が象られている。

 

「トカゲか?やけに狂暴そうで羽っぽいのもあるしドラゴンか…?」

 

自分で言っていてもアホらしくなるが他に例えようが無い。

「やけに凝った装飾やし誰かからのプレゼントかな?」

 

もしその場合だとリアルバレを危惧しなくてはならないのでにじさんじ、もしくは他のライバーからのプレゼントと思いたい。

ライバーには多種多様な才能を持っている人が多いので誰かが作った可能性は低くない。

せっかくなので1度右手の中指にはめてみる。着け心地は予想以上に良く、まるで自分の指から象ったかのようにピッタリである。

 

「今日は活かした指輪をしてますね楓ちゃん」

 

校舎の屋上で指輪をはめた手を眺めていると聞き馴染みのある声が聞こえてくる。

視線の先には今朝一緒に登校していた月ノ美兎が顔を覗かしていた。

 

「今日の朝ポストに入っててん」

 

「楓ちゃんもですか?私もですよ」

 

そう言って美兎ちゃんは自分の手のひらをこちらに見せてくる。

その手には多分私と同じ素材で出来た指輪がはまっていた。

 

「美兎ちゃんの所にも届いてたんや。誰から届いたか分かる?」

 

私の問に対して美兎ちゃんは首を横に振る。

 

「やっぱ分からんか〜」

 

「もしかしたら、世界に選ばれた証とかですかね」

 

「そんな役目はちーさんかエクスくんに任せるわ」

 

見た目が10歳くらいで魔法少女の勇気ちひろ。

鎧と剣を背負った異世界の英雄エクスアルビオ。

ずっと私より英雄や主人公に向いている人種はこの学園に在籍している。

生まれながらにして英雄の子供でも無ければ超能力もない極普通の女子高生である私達に世界の運命は重すぎる。

 

「そう言えば楓ちゃん。今朝のニュースは見ましたか?」

 

「今日は寝坊してニュース見てないや。なんかあったん?」

 

「実は昨夜も出たらしいですよ通り魔」

 

「また出たんや。これで7件目やっけ?」

 

「いえ、昨夜は2箇所同時だったので合計で8件ですね」

 

「怖いな〜。美兎ちゃんも夜道は気をつけな」

 

「私よりも楓ちゃんの方が心配ですけどね」

 

何かと巻き込まれがちな私に対する心配はご最も。しかし、厄介事に首を突っ込むという点では美兎ちゃんも変わらないくらい危なかっかしい

 

「よし。帰りが遅くならへんように早く帰るか」

 

「何を言ってるんですか楓ちゃん。まだ午後の授業が残ってますよ」

 

流れでサボろうとするが流石委員長堂々とはサボらせてはくれない。

まぁ元々サボる気も無かったので大人しく教室へ帰るとしよう。

 

 

「「お疲れ様でした〜」」

 

私はひと仕事終えたので収録現場を後にする。そんな私と入れ替わりで現場にはリゼ・ヘルエスタさん、戌亥とこさん、アンジュ・カトリーナさんの3人組通称「さんばか」がコラボ配信の為に顔を出していた。

いつもならゆっくり話してから帰るが配信時間が迫っていたので3人は少しだけ話したらすぐに配信準備を始める。

こうなってしまっては私が居ると邪魔になるので現場を後にする。

 

 

樋口楓が収録を行っている間、静凛はいつも変わらない日常を過ごしていた。

 

「ん?この反応は…」

 

静凛は手元にある家中時計の様な物を開ける。そこには中心に1つ、10時の方向に大きな点滅が1つとその周辺に小さな点滅がいくつも重なっていた。

 

「そろそろ隠すのにも限界ですが…、まだちょっと早いですね…」

 

懐中時計を確認し、反応のあった方へ向かう。

遠目から怪しげな12個の影が確認できたためバレないように物陰から双眼鏡で覗き込む。

そこには黒で統一された隊服を着込んだ人物が11人と傘のような物を8本背負った人物が1人。

明らかに一般人とは違う風貌にため息が出る。

 

「あの服装に8本傘…。もしかしてヴァリアーのレヴィ・ア・タン…?また厄介な人が来ましたね…」

 

今までにも色んなマフィアや暗殺者がにじさんじ地区に迷い込んできたがここまで大物が迷い込んだ事はない。

 

「やっぱり今朝の出会いが原因?」

 

今朝出会った3人の少年と1人の赤ん坊を思い出す。この世界の住人では無い彼らとの遭遇が起因しているのではないか?

「兎にも角にもこの辺で騒ぎを起こされたくないですね」

 

レヴィ・ア・タンという人物はかなり真面目な性格で女子供関係なく仕事を果たす事で有名である。

長時間滞在されてしまってはいつかにじさんじのライバーにまで被害が出かねない。

 

「彼らにはここで退場してもらいましょうか」

 

静凛は指に填めたリングから藍色の炎を出し、薄く全身を纏う。そしてもう1つのリングから青色の炎を出し、掌サイズの匣にはめ込む。

匣が開くのと同時にダネル NTWが出てくる。流石に持ち運ぶには大きすぎる為、出現させた場所からヴァリアーを狙う。

敵に気付かれないように雨の炎をダネル NTWに注ぎ込む。一撃で戦況を覆す為に編み出された技「マキシマムバースト」の準備を行う。

スコープを覗き1分ほど経ち射撃の準備が整う。敵はまだこちらに気付いてない事を確認し、引き金を引く。

その瞬間、青く光った弾丸が高速でレヴィ・ア・タンに向かって飛んでいく。弾丸は途中で分裂し11人の兵隊に直撃、隊長格であるレヴィ・ア・タンは直前に気付いたのか背負っていた傘を開いて被弾を避けたのが確認できた。

 

「流石にダメでしたか」

 

静凛は仕留めきれなかった事を確認して直ぐに武器をしまい場所を移動する。

スナイパーは1度撃てば場所がバレるため直ぐに移動するのは定石である。

いくら霧の炎で身を包んでいると言っても街全体を包みながら自身を完璧に隠すことは出来ない。

「誰か増援を…」

 

にじさんじライバーに持たされた連絡用スマホを取り出そうとした瞬間、嫌な予感が過りその場からすぐさま飛び退く。

その直後、先程まで居た場所には2本の傘が刺さる。

 

「誰だ貴様?」

 

「(流石に来るのが早すぎませんか…)」

 

相手から放たれる威圧感によって嫌な汗が背筋に流れるのが自分でもわかる。

下手な行動が直接命の危機に繋がるこの状況をどうやって切り抜けるか思考を巡らすが、いい案が出てこない。

霧の隠密は1度認識されてしまうともう一度隠れるには時間を空けなくてはならない。

ヴァリアーを相手に出来るとは思えないし、下手に動き回って他の幹部と鉢合わせる方が危険か。

「沈黙か…。関係の有無に関わらず見られたなら生かしてはおけぬ」

 

レヴィ・ア・タンは突き刺さった傘を抜き構える。その傘には緑色の稲妻が纏われており攻撃力が跳ね上がる。

 

「(雷の炎の性質は硬化。接近戦は不利ですね)」

 

静凛の持つリングは雨、霧、雲の3種類あるが、急ぎだった為武器は先程のダネル NTWしか持ってきていない。

 

「(さて、どうやって切り抜けましょうか)」

 

 

 

収録現場を出てから10分ほどした時、ふとお昼に話した内容を思い出す。

 

「バーチャル界も物騒になったもんやな」

 

私たちが生活を送っているバーチャル界は現実世界とは文字通り違う次元ではあるが現実世界の影響を受けてこういった事件は度々起こるし、事件の規模や多様性は現実を超える為、かなり危険ではあるが、にじさんじ地区に関しては今まで大きな事件は起きてない。その為、にじさんじ地区はバーチャル界一安全で安全じゃない地区として有名になっている。

 

「それにしても今日はやけに胸騒ぎがするな〜」

 

こういう時は十中八九悪い事が起きている。

 

「あんやあれ?流れ星か?」

 

暗い夜空に一筋の青い光が輝く。一体何が光ったのかは分からないが自分の中で不安が大きくなったのが分かる。

光が通った場所を眺め続けていると1つの影が発光元へ移動しているのが見える。

 

「(周りのみんなは何も気づいてないんか?)」

 

自分の周囲にはいつもより少ないが歩行者は確実に居るのに誰一人として気付いていない。

 

「(こんな事ある?私にしか見えてないとか…)」

 

今の状況に対して整理すれば何かと違和感を感じるが、今は気にするよりも先に不安のする方へ走り出す。




第2話も読んでいただきありがとうございます。
かなり見切り発車で書いているのでライバーの口調に違和感を感じた場合は教えて欲しいです。
ライバーの能力も募集中です。


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アーカイブ3

「うわ!爆発した!?」

 

私は不安のする所へ走っていると突如近くに建っていた古いビルが爆発する。

解体工事でもしているのか?一瞬そう思ったが、それにしては周囲に人は居ないし工事の看板もない。

 

「不安の種はここで間違いなさそうやけど、何処から入れるんやろ?」

 

そこには扉も窓も無い四角柱の建物が建っていた。

 

「何で今まで気付かんかったんやろ?」

 

先程までは全く気にならなかったのに爆発が起きた直後から違和感を感じ、不安の元凶と断定出来るほどの異彩を放っている。

 

「扉無いなら潰すか?」

 

近くに潰せそうな物が無いか探し回っていると再度爆発し、中から何か飛び出てくる。

 

「何や!?誰や!?」

 

中から出てきた者が自分の目の前に落ちそうになった為、咄嗟にキャッチするとそこには顔馴染みの女性が居た。

 

「何で凛先輩が落ちてきたん!?」

 

状況を整理したいが、凛先輩も気を失っているのか反応がない。

 

「また処刑対象が増えてしまったか」

 

そう言って爆発で出来た穴から1人の男性が降りてくる。

 

「誰やあんた!」

 

自分の第六感が逃げるように告げているが無視をする。

 

「ボンゴレ最強独立暗殺部隊ヴァリアー。雷の守護者レヴィ・ア・タン」

 

そう言った男は身長は190を超えアフロの髪型のせいもあってかとても大きく見える。

両手には傘?の様な物を持ち緑色に光っている。

 

「(それにボンゴレって今朝会ったあの子らと同じ所属のマフィアか?)」

 

気の弱そうな少年と一緒にいた少年2人、それとスーツを着た赤ん坊を思い出す。

 

「(確かあの子ボスって言われてたし、これを命令したのもあの子?)」

 

マフィアって設定じゃなかったんだ。そんなツッコミを心の中に収め、お姫様抱っこ状態の先輩を抱えたまま後方へ全力で駆け抜ける。

 

「あんなヤバそうな奴相手してられへんわ!」

 

何の力も持ち合わせていない自分と大柄で武器を持っている相手まともにやり合っても勝てる見込みは薄い。

 

「逃がさん」

 

レヴィ・ア・タンと名乗った男性はこちらの逃亡に対して直ぐに追いかけてくる。

元々距離は20メートル程しか離れてなかった上に人を1人抱えている為、距離は確実に縮まっていく。

 

「ヤバい。このままじゃすぐに追いつかれる」

 

脚を回転させるのと同時に頭も全力で回転させ攻略の糸口を探る。しかし、逃げ切れるような案は浮かばない。

都合よく能力が覚醒したり救援が来るのはフィクションの話で現実はそんなに甘くない。

「どこか身を隠せるところは!」

 

逃げながらも必死に辺りを見渡す。視界に入ったのは日常にありふれた物で武器になりそうな物は見つからない。絶望的な状況で唯一の救いは近くに曲がり角があり、まだ可能性が残っている事である。

スピード差的に次の曲がり角でいい案を見つけないと詰む!

 

「鬼ごっこは終わりだ」

 

曲がり角にたどり着く直前、真後ろから死の宣告を受ける。その瞬間、半歩左に進路を変え相手の振り下ろした傘を避けるが、右肩をかすっただけで激痛が走る。

予想以上の痛みと傘が地面に当たった衝撃で生じた爆発でバランスを崩す。その拍子に抱えていた凛先輩をほり投げてしまう。

意識を失っている凛先輩と右腕を怪我してしまった影響で自分も受身が取れずに転がる。

今まで見ないように気を付けていたが転がった凛先輩が視界に入る。いつも私と美兎ちゃんのやり取りを笑顔で見守ってくれていた表情は無く、美しく同性でも憧れる肌は傷だらけになっていた。

私は敵わないと認識していても力無くもヨロヨロと立ち上がる。

 

「なぁ、1つ質問してもええか」

 

「冥土の土産に答えてやろう」

 

「凛先輩…あの女性を傷付けたのあんたで間違いないか?」

 

「あぁ。間違いない」

 

その返答を聞いた瞬間、自分の中で何かが切れる音が聞こえた。

 

「!?」

 

私の中で何かが切れる音が聞こえたのと同時に相手の表情が険しくなる。

 

「嵐の炎だと…。それになんて言う炎の量だ」

 

何か訳の分からない事をブツブツと言っているが意味が理解出来ない。

先程の右肩の怪我だけでなく強く握りすぎているのか拳も痛くなる。

「あんただけは絶対許さへん」

 

自分の生活を潰し、大切な先輩を傷つけたこいつだけは許さない。

 

「フハハハハ!嵐のリングとは都合がいい。それにそれだけの炎に耐えられるとは少なくともAランク以上だ!」

 

リング?炎?Aランク?訳の分からない事を言いながら険しい表情から歓喜の表情に変わる。

 

「これを持ち帰ればXANXUS様に喜んで貰える」

 

「さっきから何1人でブツブツ言っとんねん」

 

さっきから自分の感情が不安定になっている気がするが、自分の感情がそのまま力になる感じがする。これが火事場の馬鹿力ってやつか。

相手もこちらの力が漲っているのが分かったのか距離を詰めてくる。

 

「嵐の炎相手に遠距離戦は不利。雷の炎の硬化で接近戦に持ち込む!」

 

全身が緑色に発光しながら走ってくる。

本来なら有り得に光景に驚くはずだが今回は驚く余裕がない。しかし、焦る余裕が無いおかげか冷静になれる。

近づいてくる敵に対してこちらは右拳を引き射程範囲に入った瞬間右拳を顔面に打ち込む。

 

「ふん。雷の炎で防御力を上げた俺にその程度のパンチ効かぬわ!」

 

クリーンヒットしたにも関わらずまだ近ずいて来ようとする。

先程までは周囲が暗かったこともあり、ハッキリと認識出来ていなかった相手がしっかりと視界に収まる。

 

「雷の炎?そんなん知らんわ!私の目の前から消え失せろ!」

 

力が入り過ぎたせいか視界が赤くなるが、構わず力を入れ続ける。

敵の抵抗がなくなった瞬間、地面へ叩きつけるように拳を振り下ろす。

勢いがあり過ぎたのか敵は地面にめり込み周囲の地形を軽く変える。

自分の力がそれほど上がっていることには気づかず辛うじて息がある事を確認する。

 

「アンタらのボスに伝えとき、次私達の前に現れたらタダじゃ済まさへんからな」

 

意識があるかは分からないが取り敢えず言いたい事だけ伝える。

 

「ふぅ…」

 

少し気が抜けたのか身体中が一気に痛くなる。

痛い場所を見てみると全身が燃え上がっていた。

 

「てかこれ私燃えてる!?」

 

視界が赤いのは目が充血のせいではなく実際に燃えているのが原因らしい。

 

「どうやって消すん!?」

 

無意識に出してしまったせいか消し方が分からない。

不思議と熱さは無いが代わりに全身が切り裂かれているかのような痛みが襲ってくる。

 

「凛先輩なら何か知ってるかも!」

 

咄嗟に振り返ろうとするが体力の限界と全身の痛みでバランスを崩してしまい塀にもたれ掛かる。

 

「流石にあれだけ全力疾走したら足が縺れるのは仕方ないか。…うわ!」

 

もたれかかって少し休憩しようとした塀がいきなりバラバラに分解される。

 

「なになに!?どういうこと!?」

 

先程の戦闘で脆くなっていたのか、他に原因があったのか。それとも他に要因があるのか分からない為、思考よりも驚きが先に来る。

 

「楓さん。少しじっとしてください」

 

「凛先輩!」

 

先程まですっかり放置してしまっていた凛先輩はヨロヨロと重たそうに体を動かしながら近づいてくる。

 

「凛先輩の方がヤバいでしょ!」

 

全身が燃えている私と傷だらけの凛先輩。どちらも重症には変わりない。しかし、自分の状態というのは分からないもので私は凛先輩に肩を貸すために近寄る。

 

「待ってください楓さん。取り敢えず死ぬ気の炎を消してください」

 

「どうやって消すんですか?」

 

私は自分の意思でその死ぬ気の炎と言うものを出していない為、消し方が分からない。

 

「本来はリングを外せば消えるんですが…楓さんの場合全身から出てるんですよね…」

 

しずりんは少し考えてから自分のリングに炎を灯す。そこには鮮やかな青色の炎が揺らめいている。

 

「へぇ、しずりんは青なんや」

 

「そうですね〜。詳しい事は起きたら説明しますね」

 

その瞬間、全身を水のような物が覆う。すると死ぬ気の炎と呼ばれ、私自身を燃やしていた赤い炎はみるみる小さくなりやがて消える。

 

「それって…どういう…こと?…めっちゃ…体が……ダルい……んや…け……ど………」

 

私は全身の痛みと引き換えに意識を失ってしまった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回はでろーんが覚醒するお話でした。
後何話かはこういう形で各々に焦点を当てていきたいと思います。


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アーカイブ4

静凛がレヴィ・ア・タンへ攻撃を仕掛けるのと同時に他の場所でも同様に戦闘が勃発していた。

その内の1つはとある廃墟で行われていた。

 

「おい〜。お前ら僕の城を破壊するんじゃないよ〜」

 

悪魔と呼ぶには可愛らしいフォルムと声。コアラに悪魔の衣装を着させた様な見た目のでびでび・でびると極普通の一般美大生である鈴原るるは目の前に居るナイフを浮かした少年と自身が浮遊している赤ん坊の2人と対峙していた。

この2人はつい先程でびでび・でびるが言ったように(自称)城の壁を壊して侵入してきたのである。

「本当にこいつらがリングを持っているのかいマーモン?」

 

「間違いないはずだよ。僕の粘写で調べたんだからね」

 

リングや粘写といった聞き覚えのない会話を繰り広げる2人に対してでびでび・でびると鈴原るるは身動きが取れずにいた。

一見隙があるように見えるが常に宙に浮いたナイフがこちらを捉えている。

 

「びだいせい逃げろ」

 

いつもの愛らしい声ではなく、真剣で遊びのない声はこの場の緊張感を表している。

 

「でび様を置いて逃げれませんよ」

 

信仰の表れなのか友を置いていけないのか1人で逃げることを拒む鈴原るる。

 

「いいかびだいせい?僕は悪魔なんだよ?びだいせいが居たら僕が本気を出せないんだよ」

 

日頃の言動で忘れがちだが、でびでび・でびるは悪魔であり一般の人間よりも頑丈で強い。それに加えて日頃の配信のおかげで信者は30万を超え、悪魔としての力も強大になっている。

 

「シシ。コアラか悪魔か何か知らないけど俺には勝てないよ。だって俺、王子だもん」

 

そう言いきった瞬間、宙に浮いていたナイフがでびでび・でびると鈴原るる目掛けて一斉に襲いかかる。

 

「「!?」」

 

スピードこそ無いものの一斉に飛んできたナイフをでびでび・でびるは自身の爪で打ち落とす。しかし、ベルフェゴールとマーモンが驚いたのはそちらでは無い。

 

「凄いですね。宙に浮いただけじゃなくて飛んでくるんだもん」

 

元々人外の姿をしているでびでび・でびるが反応出来ることは想定内ではあるが、戦闘経験を積んだ事が無いはずの一般人の鈴原るるは華麗なステップで全てのナイフを避けきる。

 

「シシ。これは刻みがいがある。マーモンはそっちのコアラを任せた」

 

「ぼ〜くのどこがコアラだ〜。どっからどう見ても立派な悪魔だろ〜」

 

でびでび・でびるはベルフェゴールのナイフを打ち落とした両方の爪を広げる。その姿はまるでアリクイが威嚇をする時のポーズにそっくりである。

 

「まぁ何でもいいけど。僕も悪魔に幻術が効くのか興味あったし」

 

その言葉を皮切りに、無数の火柱が床から生える。咄嗟のことで判断が鈍ったでびでび・でびるは火柱に包み込まれる。

 

「でび様!」

 

それを目の当たりにした鈴原るるはでびでび・でびるの名前を呼ぶが返事はない。

 

「シシ。コアラの丸焼きかんせ〜い」

 

「だから僕は悪魔だって言ってるだろ〜」

 

ベルフェゴールはふざけた口調で言い放つが、それに反応したのは鈴原るるでもマーモンでもなかった。声は火柱の中から聞こえてくる。

 

「なんだこれ〜?暖かいシャワーか?」

 

火柱の中から何事も無かったかのように出てきたでびでび・でびるは先程までの愛らしい姿ではなく、体が大きくなり悪魔らしい姿になっていた。

 

「でび様!」

 

「びだいせいは何を心配してるんだ?このくらい崇高な悪魔の僕なら余裕だよ」

 

「シシ。マーモンの幻術効いてないじゃん」

 

「ムッ。あんなの小手調べさ。タダで僕の必殺技を見せたくなかったから手加減しただけさ」

 

そう言うとマーモンは自身の首から下げたおしゃぶりに巻かれていた鎖を外す。今まで光っていなかったおしゃぶりが輝きだし、それに呼応するかのようにマーモンの上に居た黒いカエルが白い巻きガエルへと変化する。

 

「バイパーミラージュ!」

 

マーモンが技名を叫んだ瞬間でびでび・でびるは地面から突き出てきた槍で串刺しにされる。

先程と同様に直ぐに動くと思われたでびでび・でびるは鮮血を撒き散らしピクリとも動かない。

 

「いやー!!」

 

その残虐な光景を目の当たりにしてしまった鈴原るるはでびでび・でびるの元へヨロヨロと近寄り、無惨な姿を直視した直後、頭を抱え、叫び、膝から崩れ落ちる。

大きくなっていた体はみるみる縮み元の大きさになる。いつも周りに気を使っていた瞳に光はなく、ふさふさの毛は血でべっとりと濡れている。大きな爪を握っても何の反応もない。

 

これが死

 

鈴原るるもゲーム内では頻繁に死んでいるが現実で死に直面したのはこれが初めてだ。

目前の景色に絶望を覚え、自身に飛来するナイフを避けようともしない。否、逃げる気力が湧かないのである。

奇跡的にもナイフは狙いが外れたのか鈴原るるの両隣に突き刺さる。

 

「ムッ。何やってんだい。止まった敵くらい仕留めてくれないと追加で料金を請求するよ」

 

「シシ。どうせこいつ死んだも同然だし、ちょっと遊んでるだけだよ。まぁこれでおしまいにするけど!」

 

もう勝利を信じて疑わない2人は軽口を叩きながらベルフェゴールは最後にトドメのナイフを投げる。

 

「(そっか…。こいつらのせいで…でび様は……)」

 

心の中で目の前の敵を睨みながらグサッという音ともに心臓に1本のナイフが突き刺さる。




でび様の口調って戦闘時だとふざけてるように聞こえて難しいです。
でび様訛りの表現が出来なかったので想像で補完して貰えると幸いです。


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アーカイブ5

伝説の赤ん坊(アルコバレーノ)の1人で最強の術士と呼ばれたマーモンは目の前で起きている現象に騒然としていた。

味方であるベルフェゴールのナイフがターゲットである女学生鈴原るるの胸に突き刺さったまでは良かった。しかし、その直後術士であるはずのマーモンは自分自身の目を疑った。

 

「おいマーモン。あれはどういう事だ?」

 

「そんな事聞かれても僕にも分からないよ」

 

確実に殺したと思ったターゲットがゾンビの様に生き返ったのである。

 

 

 

驚きを隠せないマーモンとは対象に鈴原るるは不思議な体験をしていた。

先程まで全身が擦り傷だらけで痛くない場所を探す方が難しいくらい酷使されていた肉体。そこに1本のナイフが心臓に突き刺さった直後異変が起きた。

本来心臓を刺されればほとんどの生物は死ぬはずだが、鈴原るるは死ぬどころか全身から黄色いオーラの様な物を出しながら立ち上がったのである。

 

「なんだろこれ?凄く調子がいい」

 

自身が纏っている炎に驚きながらも、少しジャンプをして体調を把握する。その瞬間、目の前がパッと明るくなり先程まで見えていた景色が溶けるようにして変わっていく。

一頻り景色が変わると腕に抱えていたでびでび・でびるの死体が消える。

 

「気がついたかびだいせい?!」

 

「あれ?でび様?」

 

いきなりの出来事に困惑する鈴原るる。

それもそのはず、先程まで死体となって、冷たくなっていたはずのでびでび・でびるは大小様々な傷があるものの生きていたからである。

「そんな!?僕の幻術がこんな小娘に破られるなんて!」

 

「シシ。マーモンのやつ術士でも無いやつに幻術破られてやんの」

 

「ムッ。うるさいよ。こんなのたまたまさ!」

 

自然と語尾が強くなるマーモンは作り上げた様々な種類のサメで鈴原るるを襲う。しかし、鈴原るるの力を込めた拳を受けサメ達は霧散する。

 

「あれ?消えちゃった」

 

その光景に驚きながらもでびでび・でびるは口を開く。

 

「いつ間にお前は死ぬ気の炎を使えるようになったんだ!?」

 

自分の身に起きている状況を把握しきれていない鈴原るるは頭の上にハテナを浮かべる。

 

「でび様。死ぬ気の炎って何ですか?」

 

「今は説明している場合じゃないんだよ!この匣に死ぬ気の炎を注入すんだよ!」

 

でびでび・でびるはいつも通り舌足らずの口調で鈴原るるに1つの匣を渡す。匣には1箇所穴が空いておりそれ以外には黄色い装飾が施されていた。

 

「どうやって注入するんですか!?」

 

いきなりの指示と初めて聞く単語に混乱している鈴原るるは自身の周りから出ている炎を必死に入れようとする。

 

「違うんだよ!リング…指輪の炎を入れるんだよ!」

 

「そんな事言われても私指輪何てしてないですよ!」

 

「じゃぁ!何でお前死ぬ気の炎出してんの!?」

 

「そんなの知らないですよでび様!」

 

リング無しで死ぬ気の炎を出す為には他に出力する機械か武器が必要となる。XANXUSの様に己の力のみで出すことも可能ではあるが才能と努力は必須である。

そんな事を知るはずも無い鈴原るるは自分がどれほど凄いことをしているのか知る由もない。

 

「あっ!指輪って言えば!」

 

何かを思い出したのか鈴原るるは自分の服に着いていたチェーンを外す。

 

「でび様!これですか?」

 

チェーンを通されていたリングからチェーンを外し、でびでび・でびるに見せる。

 

「それだよそれ〜!早く指にはめて死ぬ気の炎を出すんだよ!」

 

鈴原るるは言われるがまま動くが、肝心の死ぬ気の炎が出ない。

 

「でび様!どうやって炎を灯すんですか?」

 

案外無意識で出来ていることを意識的に行うことは難しい。特にいきなり出来てしまった事は尚更である。

 

「シシ。死ぬ気の炎を灯すには覚悟が必要なんだよ。一般人の小娘には無理だよ!」

 

ベルフェゴールは複数のナイフを色んな方へ投げる。一見的外れな方向だが、ナイフは急激に方向転換し鈴原るるを襲う。

 

「びだいせい!」

 

でびでび・でびるは大きくなった体で鈴原るるを包み込むことで守る。しかし、爪ほど固くない毛では全てを防ぎ切る事は出来ずに血が垂れる。

 

「でび様。私には覚悟とかは分からないけど、この人達には負けたくない!」

 

その一言に反応したのか、あるいは自分の言葉で腹がくくれたのか、リングに黄色い炎が灯る。その炎は段々大きくなり、鈴原るるだけでなくでびでび・でびるまでも飲み込む。

 

「びだいせいは晴の守護者みたいだね〜」

 

晴の守護者とは何なのか?この触れても熱くなく傷を癒す炎は何なのか?聞きたいことは山々だが、そこはぐっと堪える。

 

「でび様。聞きたいこといっぱいあるけど、それはこの人たちを倒したら聞くね」

 

一切の迷いのない瞳にでびでび・でびるを写した後、手に持っている匣へ炎を注入する。

 

「これは…?」

 

匣の中から出てきたのは湾曲した刀身が特徴のグルカナイフ通称ククリナイフが左右に1本ずつの合計2本である。

 

「シシ。こいつらリング以外にもボックスも持ってるじゃん」

 

「でも晴の守護者の匣にしては珍しいね。これは高値で売れるかも」

 

「ならさっさと殺っちまお」

 

ベルフェゴールは新しく取り出したナイフを鈴原るる目掛けて投げるが全て打ち落とされる。

 

「シシ、やるじゃん」

 

それでも尚投げ続けるベルフェゴールは時にナイフの軌道を曲げるなどして鈴原るるに傷を付けるが、晴の活性の効果ですぐに治る。

 

「そろそろこっちから行こうかな!」

 

一通りナイフを弾いた所で鈴原るるは攻めに転じる。

 

「!?」

 

しかし、動き出した瞬間見えない刃によって体を切り刻まれる。

 

「びだいせい!」

 

「でび様来ちゃダメ!」

 

でびでび・でびるは咄嗟に駆け寄ろうとするが、鈴原るるの一言で立ち止まる。

 

「シシ。おっしー。もうちょっとで真っ二つだったのに」

 

そう言った直後、戦闘でボロボロになった城の天井から大きな木がでびでび・でびるの前に落ちてくる。

地面に接触した瞬間、ドスと確かな重さを感じさせる音が響く。

 

「流石にこの大きさは洒落にならね〜」

 

目の前の光景に肝を冷やしながら目の前の木から距離をとるが縦に落ちてきた木は二つに割れ、でびでび・でびると鈴原るるお互いの方へ倒れてくる。

 

「「!?」」

 

咄嗟の事だが予想出来ていた為 、鈴原るるは手に持ったククリナイフで切り刻みでびでび・でびるは余裕を持って避ける。

切り刻まれた木は小さくなり鈴原るるの周りへ落ち、回避された木は倒れた衝撃で土煙が上がる。

 

「でび様大丈夫ですか〜?」

 

土煙で姿が見えない相方へいつも通りの声で問いかける。

 

「こっちは大丈夫だ〜……びだいせい止まれ!何か変だ!」

 

土煙が落ち着き鈴原るるの方を目視したでびでび・でびるは何かに気付き鈴原るるを制止し、目の前にある木を少し触る。

 

「この感触……!?そいつナイフ以外も使ってるぞ!」

 

鈴原るるでびでび・でびるの制止が聞こえるよりも前に攻撃へ転じる為に1歩踏み出すが、2歩目が出ない。と言うよりも出せないと言うのが正解である。

 

「準備は整ったかいベル」

 

「シシ。完成〜」

 

「一体何が……!」

 

鈴原るるは次の1歩を踏み出そうと力を入れるが見えない力のせいで前に出ることが出来ない。それでも前に出ようとするが、力を入れれば入れるほど見えない何かが体にくい込み肌を裂く。

 

「やめろびだいせい!そいつはピアノ線の様な細い糸を使ってるんだ!力を入れすぎたら」

 

「え?」

 

でびでび・でびるの言葉が鈴原るるに届いた時には遅く、左肘から先が無くなる。

ボトッという左腕が地面に落ちる生々しい音と現実とは思えない大量に流れる血。

常人ならば直ぐに絶命するような状況にも関わらず、鈴原るるは獰猛な笑みを浮かべる。

 

「シシ。こいつバケモ…ンかよ!?」

 

少し距離を置いて状況を観察していたベルフェゴールへ血飛沫を上げながら切り落とした左腕が飛んでくる。

 

「おっと…!?」

 

その腕を難なく避け、改めて向き直すと目前に鈴原るるの拳が迫る。

予想以上に詰めのスピードが速く右ストレートの直撃を受ける。

 

「ベル!」

 

重い一撃に吹き飛ばされベルフェゴールは壁を破壊しながら城の外へ吹き飛ばされる。

 

「ムッ。こいつ腕が無くなってからの方が強い…」

 

相手の思わぬ覚醒に動揺したマーモンだが、直ぐに気持ちを切り替え新しい幻術を生み出す。

 

「ムッ。どういうことだ?」

 

 

 

赤ん坊になる前から最強の術師として名を馳せていたマーモンことバイパーは初めての経験をしていた。それは自身が生み出した幻覚が思い通りに動かないのである。術師同士の戦いならば支配権を奪われた可能性はあるが、でびでび・でびると鈴原るるは両方とも術士ではない。

 

「諦めろ〜あかんぼう」

「ムッ。どういうことかな」

 

「お前も気付いてるんだろ〜?術師が思い通りに術が使えない状況がどういう事なのか」

 

「何が言いたいんだい?」

 

「あかんぼう。お前はびだいせいに恐怖を感じているんだよ」

 

精神力がものを言う術師が技を使えないという事は心が折れている証拠である。

「そんなの!僕は認めない!」

 

もし、認めてしまえば術師としての死を認める事になる。そんな事を最強術士のマーモンは認めない。この状況で自身の精神状態を安定させるには相手をよりファンデにさせる。その為に全力攻撃と言わんばかりの怪物を召喚する。

 

「悪鬼羅刹!」

 

その言葉で一体の怪物が召喚される。でびでび・でびるの前に現れたのは2mを超える大きな体に赤い皮膚、獰猛な牙と額から生えた2本の角、そして手には棘のある棍棒。その見た目はまさに…

 

「鬼か…」

 

日本の伝承で最もメジャーな妖怪。そして戦闘力においても最強クラスの怪物。

 

「僕の中で最強のモンスターだよ。恐怖を感じな……え?」

いい切る前に召喚された鬼はでびでび・でびるの爪で呆気なく切り裂かれ霧散する。一体何が起きたのか理解できないマーモンは呆気に取られる。

 

「はぁ〜おまえ、本当の恐怖っていうのはな〜」

 

愛らしい姿に似つかわしくない威圧感を放ちながら振り返ったでびでび・でびるは言い放つ。

 

「はっぱのASMRの事を言うんだよ〜」

 

「何を言ってるか分からないけどこれは引いた方が良さそうだね」

 

「こんるる〜」

 

後ろから振り下ろされた2本のククリナイフが当たる瞬間、自身を爆発させる。

 

「やった!?」

 

「いや、逃げられたね〜」

 

「ですよね」

 

「っておまえ、何で左腕引っ付いてんの?」

 

「何でって?こう左腕をギュッとくっ付けたら治りました」

 

「やっぱりお前人間じゃないねぇ!」



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アーカイブ6

「なぁ舞元。アレヤバくない?」

 

そう言ったのは白いスーツにピンクのシャツ。とかなり目立つ服装にも目がいかないようなメイクと髪色が特徴のにじさんじライバージョー力一

 

「絶対ヤバいだろ」

 

そう答えたのはいつもの私服とは違い黒のスーツを見に包み屈強な体格に若白髪と一見ヤクザの小市民舞元啓介

その2人の視線の先には長い銀髪に左手に括り付けられた刀身が剥き出しの剣。そしてその後ろを漂う体調6mを超えるホホジロザメ。

 

「逆に安心出来る材料が欲しいくらいだよ!」

 

気付かれないように少し離れたところから様子を見る2人。後ろ姿は長髪という事もあり女性と勘違いしそうになるが、振り返り鋭い眼光が見えた瞬間、男性しかもかなりヤバいやつという認識で統一される。長髪男性が振り向いた瞬間姿を隠す。

 

「ゔおぉい!そこの白黒スーツ!」

 

しかし、どうやら視認されていたらしく、離れた位置にいた舞元啓介とジョー力一でも鼓膜が壊れるかと思うくらいの声量をぶつけられる。

 

「やっべ!気づかれた!」

 

「逃げろ!」

 

2人は長髪男性の叫びを気にも止めずにすぐ様逃げ出す。

 

「てか!何でサメが宙に浮いてるんだよ!」

 

「そんなの知らねーよ!シャー〇ネードの特撮とかじゃねーか!?」

 

シャー〇ネードとは駄作と言われながらも全6シリーズまで続いた名作。その時活躍した生物が舞元らを後ろから宙を泳ぎ追いかけてくる獰猛な魚類の鮫である。

 

「やべぇ!追いかけてきやがった!」

 

猛スピードで追いかけてくる鮫を背に持てる限り全力で走る2人。農家で鍛えた足腰の舞元啓介と運動神経の良いジョー力一は勢いよく変わる景色に目もくれず迷路のような裏路地を走り抜ける。

 

「巻いたか!?」

 

「ゔおぉい!待ちやがれ!」

 

「まだ追っかけてくんのかよ!」

 

どれだけ走ろうとも追いかけてくるロン毛と鮫を相手に一瞬立ち向かう事を考えたが、キラリと光る刃と歯に戦意が失せる。

 

「てかさっきからおかしくないか?」

 

「何が!?市中で鮫に追われるほどおかしな状況とかなくね!?」

 

何かに気づいたのかジョー力一は辺りを見回す。

現在は逃走に逃避を重ね街中から裏路地とありとあらゆる所を走り回った。刀を振り回して鮫に乗ったロン毛に追われていれている白スーツのピエロと黒スーツの一見ヤクザ。どう考えても周りの視線を独り占めする様な集団にも関わらず笑い声も叫び声すら聞こえてこない。

 

「人がいない?」

 

「そんな事どうでも良くね!?力一!そこ右!」

 

舞元啓介の掛け声に合わせて同じ角を右へ曲がると先程の違和感とは裏腹に1つの人影が見える。

その人影は舞元啓介とジョー力一の2人を見ると大きく手を振る。

 

「おーい。力一に啓介ではないかの〜」

 

2人の名前を呼ぶのは四尺半程の身長に額から生えた2本の角が特徴の竜胆尊(りんどうみこと)

 

「尊様逃げて〜!」

 

「え?え?」

 

大の男2人が必死の形相で迫ってくる。一瞬何事か分からなかった竜胆尊だが、その直後に2人が曲がってきた角から巨大な鮫が姿を現す。

状況は理解できなくても危険を感じ取り、2人の方へ距離を詰める。

 

「「なんでこっち来んの!?」」

 

逃避を呼びかけた相手が逆の行動を取ったため困惑する2人。竜胆尊はそんな2人を無視し手に持った刀で迫り来る鮫を一刀両断しようとする。

舞元啓介とジョー力一は二人の間を通り抜けた友人を助ける為に切り替えし、来た道の方を向く。するとそこには餌を飲み込もうと大きく口を開けていた鮫が上下の二枚おろしになっていた。

「何やってんの尊様!?」

あまりの出来事に突っ込む舞元啓介と驚きすぎて顎が地面にめり込みそうなくらい口を開けたジョーカー。

 

「切ったらダメじゃった!?」

 

ツッコミの勢いに負け、自分が悪い事してしまったのではと顔を青くする竜胆尊。

 

「全然いいけど!」

 

「取り敢えずまずは逃げろ!」

 

2人は竜胆尊の両手を取って再び走り出そうするが、威圧的な声に身動きが取れなくなってしまう。

 

「ゔおぉい!これはどういう事だ!?」

 

声の主は予想通り剣を片手に巻き付けたロン毛だった。

 

「チッ、マーモンの奴不良品を渡しやがったな」

 

先程までの声量と打って変わってぶつくさと小さな声で何か言っているが聞き取れない。

 

「まぁこんなもんに頼らなくても俺なら一瞬で3枚に下ろせるがな。おい!お前ら!1つ聞きたいことがある!」

 

ロン毛の声量と威圧感にビビりながらも舞元啓介とジョー力一は竜胆尊を隠すように1歩前へ出る。

 

「あぁ?何だてめー?」

 

舞元啓介は両手をポケットに入れ高圧的に対応するが、背中には冷や汗をかき両足は震えてさっきの1歩より前に動かない。1歩踏み出しただけで先程まで受けていた威圧感が殺気へと変わり火照った体が一気に冷たくなる。

 

「さっき俺様の匣兵器を斬りやがったのはどこのどいつだ!?」

 

匣兵器とは何か分からない3人だが、何を指しているのかは検討は着く。大方先程の鮫の事だろう。

 

「アレを切ったのは妾じゃよ」

 

竜胆尊は舞元啓介とジョーカーの間から顔を出し自分から名乗り出る。

 

「は!そんな小娘が俺様の暴風鮫( スクアーロ・グランデ・ピオッジャ)を切れるわけがねー!」

 

そう叫び突っ込んでくるロン毛に対して、竜胆尊は右手に持った刀で迎え撃つ。

 

「小娘扱いされたのは久方ぶりじゃの」

 

見た目こそ幼く見える竜胆尊ではあるが、実際は9900歳と彼女以上の年齢はにじさんじの中ではベルモンド・バンデラス、モイラ、雪汝の3人しかいない。

年齢だけでなく力も人間とは比べ物にならない程強く、油断していたロン毛は押し返される。

 

「意外とやるじゃねぇか!」

 

「うぬこそ人の子にしてはやるの!」

 

2人は互いの刀を弾き距離をとる。

1度の打ち合いで何か感じ取ったのかお互い構えていた剣を下ろす。

 

「俺様はボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアー所属!スペルビ・スクアーロ!」

 

「妾はにじさんじ所属竜胆尊じゃ!」

 

双方名乗りを上げ終えるのを待ち、名乗り終えたのが開戦の合図となり激しい打ち合いが始まる。

最初の太刀筋は辛うじて目で追えたが、徐々にスピードは上がり直ぐに常人では追えない剣戟になる。そんな激しい戦闘に周囲は巻き込まれる形で被害が出る。

スクアーロと名乗ったロン毛の攻撃を竜胆尊が受ければ、衝撃で足元が割れ、竜胆尊が刀を振れば剣圧で木々が揺れる。

幾度となく打ち合い続けた両者は大小様々な傷を作りながらも辞める気配はない。傷の増えたスクアーロは獰猛さを増し、竜胆尊は逆に足取りが悪くなる。

 

「おい力一。尊様の様子おかしくないか?」

 

「こんだけ激しく動いてたら体力が減るのは仕方が無いだろ」

 

2人の心配を他所にスクアーロと竜胆尊は未だに激しく剣と刀をぶつける。

 

「ゔお゙ぉい!てめー!まだ何か隠し持ってるだろ!」

 

何かに気付いたらスクアーロは竜胆尊の袖を斬る。そして中から出てきた物体を器用に弾き手元に収める。

 

「なんだこれ?」

 

スクアーロはそう言って手の中にある物体を眺める。周りが暗くなって色は分からないが形からその物体が瓶である事が分かる。瓶の中にはまだ液体が入っているようでチャプンという音がする。

 

「妾の酒に触れるんじゃない!」

 

血相を変えた竜胆尊はスクアーロが反応出来ないスピードで肉薄し、瓶を取り返す。そしてそのスピードのまま舞元啓介とジョーカーの前に移動し、瓶を渡す。

 

「お主らこれを持っておいて欲しいのじゃ」

 

「尊様これは!?」

 

手渡された瓶のラベルには「Vノ酒」と記載されている。

とある酒場とライバーがコラボした時の商品で発売はもう少し先である。

これを見て舞元啓介は何かに気づいたのか少し焦ったように問いかける

 

「もしかして尊様結構飲まれてます?」

 

「ちょびっとだけ」

 

指を少し広げ少量を表すが 手渡された瓶は軽く竜胆尊の頬は薄ら赤く足元がおぼつかない。

 

「絶対嘘じゃん!もうほとんど残ってないし!」

 

「だって!寂しかったんじゃもん!折角今日届いたのにアンジュはリゼ達とコラボじゃしお主らとは連絡が着かぬし…」

 

「それはアイツに追われてたから…」

 

「もういいもん!アイツ3枚おろしにしてフカヒレを酒のつまみにするもん!」

 

飲酒状態での激しい動きのせいがお酒に強い竜胆尊に酔いが回り、若干支離死滅な内容を口走る。

 

「ゔおぉい!別れの挨拶は済んだか!?」

 

どうやら礼儀正しく待ってくれていたスクアーロも我慢の限界がきたらしく、容赦なく突っ込んでくる。それに対し、竜胆尊は今まで以上に鋭い踏み込みでスクアーロの剣を弾き返す。

先程までの覚束無い足取りから思いもよらない一撃に体勢を崩したスクアーロへ間髪入れずに追撃を行う。

袈裟斬りからの鋭い横一線への切り返し、少し空いた距離を一瞬で詰め鳩尾へ掌底を打ち込む。スクアーロは咄嗟に掌底を避ける為、体を半分ズラすが、掌底は脇腹にヒットし、バランスを崩す。

スクアーロがバランスを崩したのを機に竜胆尊は怒涛の攻撃を仕掛ける。見たことない技からとある漫画に出てくる技を模倣しての連続攻撃を繰り広げる。

多種多様な剣技を見せる竜胆尊に対してスクアーロは絶妙な剣さばきでそれらの攻撃を全て受け止める。

 

「もうお前の剣技は見切った!」

 

スクアーロの言葉は現実となり、竜胆尊の攻撃を受け止めるだけでなく攻撃に転じ始める。

 

「これヤバくないか?」

 

「かなりヤバいな…」

 

先程とは打って変わって目の前で繰り広げられる防戦一方の攻防に舞元啓介とジョーカーは身を隠しながら冷や汗をかく。

人間よりも遥かに強い鬼を圧倒する剣士。漫画ですら見ることの少ない景色を目の前にジョーカーは自身の脚に力を入れ直し立つ。

 

「Hiジョー児!」

 

ジョーカーが立つのを合図に摩訶不思議な曲が流れ出す。

足は肩幅より広く広げ、腰は落とし手を上、左手を下にしてひじを曲げ、胸の前で平行に保つ。流れる音楽に合わせ両手で両膝を2回叩く。次に胸の位置にある両手を頭より上に振り上げる。この動作を複数回繰り返す。同じ動作が3回目に差し掛かったタイミングで動きのなかったスクアーロは我に返ったように猛然と突っ込んでくる。

一瞬で距離を詰められ、振り下ろされた剣がジョーカーに当たるよりも先にスクアーロが横へ吹き飛ばされる。

 

「よっしゃー!どうじゃわれ!」

 

そこにはドロップキック後の受身を失敗し横たわる舞元啓介がガッツポーズを決めていた。しかし、そんな声を嘲笑うかのように大ボリュームの声が返ってくる。

 

「ゔおぉい!テメーら!中々やるじゃねーか!」

 

吹き飛んだはずのスクアーロにダメージはなく、標的がジョーカーから舞元啓介へと変わる。敵とすら認識していなかった者からの不意の一撃にも関わらず自分で横へ飛ぶことで衝撃を受け流した事を理解した時には舞元啓介とジョーカーは走り出していた。

 

「ゔおぉい!何逃げてやがる!」

 

「当たり前だろーが!」

 

「あんなヤバいやつ相手してられっか」

 

そもそも舞元啓介とジョーカーは先程の攻撃で相手にダメージを与えられるとは微塵も思っていない。

 

「尊様も!」

 

「ほいなのじゃ」

 

竜胆尊は地面に攻撃を当てスクアーロの視界を塞ぐ。しかし、そんな小細工は直ぐに破られる。

視界が晴れた先には竜胆尊でもなくましてや舞元啓介やジョーカーでもなかった。

 

「虚空」

 

その視線の先に居た1人の男子高校生は中指に填めたリングから紫色の炎を灯しながらその一言でスクアーロの周りに突如紫色の雲が増殖し始める。

 

「ゔおぉい!これは何だ!?」

 

スクアーロは次々と増えてくる雲を斬るが、全く効果はなく飲み込まれる。姿が見えなくなると雲の増殖は止まり質量を感じる球体へと変形する。

 

「取り敢えず時間が無いので逃げましょう」

 

男子高校生の制服に身を包み竹刀袋を背負った青年は「こっちへ」というと走り出す。

 

 

しばらく走り紫色の球体が見てなくなったのを確認すると、我慢の出来なくなった舞元啓介は走りながら剣持刀也へ問いかける。

 

「これはどこに向かってるんだ剣持?」

 

「そう慌てないでくださいよ。もうすぐ着きますから」

 

そう言われた3人は頭に?を浮かべる。すぐに着くと言われても周囲は木々が生い茂る森の中。建物所か人すら見当たらない場所で一体何処に着くというのか。



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アーカイブ7

「チャイカさんあちらのお客さんはお知り合いですかぁ?」

 

 真っ白な髪を背中まで伸ばし色々と丸い外見の椎名唯華は目の前に立っているメイド服を着たムキムキのオカマエルフの花畑チャイカに小声で話しかける。

 

「お前絶対見た目で判断しただろ」

 

 いつも配信ではおちゃらけた雰囲気の花畑チャイカではあるが珍しく落ち着いたトーンでツッコミを入れる。

 2人の視線の先には陽気なオカマがコーヒーを啜りながら何やらメモを取っているようだ。

 

「と言うかお前は働け」

 

「いやいや何言ってるんですかりぃだ。あてぃしは看板娘なんでここでお茶するのが仕事ですよぉ〜」

 

「看板娘をしたいならならしっかり働くんだよ」

 

「大丈夫ですよ〜。私の代わりにしっかり働いてくれる子いるじゃないですかぁ〜」

 

 陽気なオカマの次に見たのは1人で注文を取りながら新しく入店してきたお客様を空いてる席へ案内する。

 店内はそこまで広くないがウエイトレスが1人で回すには若干広く忙しそうにしている。

 

「夜見お茶〜」

 

 自身がウエイトレスの立場という事を忘れた椎名唯華は注文しようとするが、流石にオーナーである花畑チャイカに止められる。

 

「ほらあんたも働くんだよ」

 

「しゃ〜ないな〜」

 

 はぁとわざとらしくため息を着いて立ち上がった瞬間、タイミングを見計らったように注文が入る。

 

「ちょっといいかしら〜?」

 

 注文の主は陽気なオカマのお客さんだった。椎名唯華は1度夜見れなの方を向いてアイコンタクトを送るが、当の本人はそれに気づけない位慌ただしく注文を取っていた。

 夜見れなを身代わりに出来なかった為、次の囮として花畑チャイカを犠牲にしようとするが、そちらはそちらで料理に追われてそれどころでは無い。

 いくらクズと言われている椎名唯華でも無視することは出来なかった為、メニューを取るべくオカマの所へ歩み寄る。

 

「もぉ〜来るのが遅いわよ〜」

 

 口調はオカマというより少しオネェに近い感じで少し文句を言ってから特大パフェを1つ注文する。

 

「りいだぁ特大パフェ2()()

 

 

 

「いや〜今日も忙しかったすね〜」

 

 椎名唯華は特大パフェを美味しそうに頬張りながら言う。

 

「わざとオーダーミスして賄いにしてる奴が何言ってんだい」

 

「そうですよ〜。椎名先輩がサボってる間大変だったんですから〜」

 

 甘い声質に黒と白の2色の髪色が特徴の夜見れなか少し文句を言いながらも椎名唯華から差し出されたパフェのソフトクリーム部分を食べて機嫌を治す。

 

「いやいやいや〜、お客さんも看板娘にオーダー取ってもらえて夜身はチヤホヤされて、りいだぁはお店が繁盛して、私は楽できてみんな幸せじゃないですか〜」

 

「最後の1文しか思ってないだろ」

 

「椎名先輩嘘ですよね」

 

 日頃の行いの結果、椎名唯華の言い分は聞き入れて貰えずバッサリと切り捨てられる。

 

カラン

 

 不意に扉に付けたドアベルがなり、視線が自然と扉に集まる。しかし、そこには誰も立っておらず人影もない。

 風のイタズラか聞き間違いだと思い、3人は視線を戻すが……

 

「「!?」」

 

 花畑チャイカと夜見れなはいつの間にか椎名唯華の後ろに立っていた人影に驚き身動きが取れなくなる。

 当の本人はそれに気付いておらず相変わらずパフェを頬張る。その後ろで振りかぶられた拳が頭に当たる直前

 

「あっ、スプーン落とした」

 

 いつもの幸運の結果か第1撃目を躱す。そして、硬直が治り身動きが取れるようになった夜見れなが懐に入れていたトランプを素早く投げつける。

 

「もぉやだわぁ〜」

 

 トランプを投げつけられた人物は目にも止まらぬ速さの拳で打ち砕く。

 

「椎名!」

 

 一瞬視線が外れたのを見逃さずに花畑チャイカは椎名唯華を抱えて店の外へ走り出す。

 

「あぁ〜私のパフェ〜」

 

 状況を理解していない椎名唯華のセリフに2人はツッコミを入れる余裕もなく逃げる。

 

 

 

「「はぁはぁはぁ……」」

 

 全速力で逃げた2人とわけも分からず抱えられていた1人は人気のない所で息を潜めていた。

 

「一体なんだったんだ…?」

 

「全然分からないです……でも椎名先輩を狙ってたのは確かです……」

 

「なぁ2人とも何言ってるん?」

 

 未だに状況を理解出来ていない椎名唯華は我慢していた口を開く。椎名唯華はゲスや三下と呼ばれるが空気が読めない訳では無い、どちらかと言うと読める方ではあるが流石にこれ以上は我慢が出来なかったようだ。

 あの状況を背にしていた椎名唯華に花畑チャイカは説明する。

 

 

「あてぃしそんな人から恨まれるような事したことないっすよ〜」

 

 椎名唯華の発言に2人から「いや、あるだろ」と突っ込まれる。

 

「椎名あんた借金とかしてないだろうね?」

 

「流石のあてぃしでも命狙われるほどの借金はしないっすよ」

 

 弁明する椎名唯華ではあるが、暗に命を狙われない程度にお金は借りた事があるらしい。

 

「もういいかしらぁ〜?」

 

 どこからとも無くオカマの声が聞こえてくる。その声と話し方を聞いた瞬間、3人の頭の中に1人のオカマを思い浮かべる。

 

「最後のお別れの挨拶は済んだかしら?」

 

 声のする方を向くとそこには予想通りオカマが立っていた。

 

「あんた何で椎名を狙うんだい?」

 

 花畑チャイカは椎名唯華を隠すように前に立つ。

 

「命を狙ったわけじゃないのよ〜。本当の狙いはそこのお嬢ちゃんが付けてるゆ・び・わ♪」

 

 そう指さされた先は椎名唯華の中指だった。そこには1つの指輪が嵌められている。

 

「もしかして盗んだ?」

 

 万が一の可能性に花畑チャイカは恐る恐る聞くが、椎名唯華は全力で否定する。

 

「ちゃいますよりいだぁ!今朝起きたら届いててん!」

 

「椎名先輩罪を認めましょうよ」

 

「だから違うって〜。何となく気に入ったから付けてただけやねん。指輪如きで命狙われるくらいならこんなん捨てるわ」

 

 そう言うと椎名唯華は自身の左中指に嵌めていた指輪を外し、花畑チャイカに渡す。

 

「椎名?これはどういう事?」

 

「いや、流石のあてぃしでも命狙ってきた奴に近付きたくないわ」

 

「そんなの私も同じよ。……全く、……いいわ。私が渡してくる」

 

 いつもの癖で面倒事を押し付けられた花畑チャイカは意外と大人しくしていたオカマの方に指輪を持って近寄る。

 残り10メートルを切るタイミングで花畑チャイカは軽くステップを踏んでから全力で遠投する。

 

「まぁ!なんて事するのぉ!」

 

 あの指輪はかなり大切な物だったのだろう。3人を無視してオカマは自身の後方へ投げられた指輪を追いかけていく。

 

「ほらさっさと逃げるわよ」

 

 いつの間にか装着したチャイカアーマーのフル出力で3人はその場を後にする。



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