転生ハドラーは魔王軍を辞めたい (友親 太一)
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第一話 転生ハドラーは魔王軍に就職しました

何番煎じか分からないダイ大の転生ものです。


「起きよ」

 

 ……うぅん……

 

「起きよ、ハドラー」

 

 ……うるさいなぁ……

 

「早く起きるのだ、ハドラー!!」

 

 ……今日は休みなんだからもう少し寝かせてよぅ……

 

「……あと5分だけぇzZ」

 

 ブチッッ!!! 

 

 ……何か切れた音がしたような? 

 

「闘魔最終掌ぉぉぉッッッ!!!」

 

「ぬわーーッッ!!??」

 

 ▼▼▼

 

 おー痛かった、さっきのは人生最悪のモーニングコールだったわ、転生してまだ5分だけど。

 えー改めまして、何故かダイの大冒険のハドラーに転生した元サラリーマンです、自分で言ってる事が意味分からんな。

 確か俺は残業終わって家帰ってそのまま爆睡したんだが、何故か起きたら漫画の世界に居てその登場人物になってた、本当に意味が分からん。

 

「……ハドラーよ、聞いてるのか?」

 

「ヘイヘイ、聞いてますよ〜」

 

 んで俺の前を歩いてるのはさっきの最悪モーニングコールかましてくれた張本人、無口キャラなのに参謀(笑)なミストバーン、まぁ直ぐに暗黒闘気で回復してくれたが。

 

「……大体だな貴様はだらけ過ぎてる。大魔王様に呼ばれたと言うのにそれを無視して寝てるなど……」

 

 そしてミストバーンはさっきから俺にグチグチと説教しまくってる。

 つかよ、ミストバーンって無口キャラじゃ無かったのかよ? 

 

 にしてもダイの大冒険かぁ、子供の頃は大好きで毎週ジャンプを楽しみにしてたっけ。

 だがよりもよってハドラーに転生かよ。

 どうせならダイかポップに転生したかったなぁ、それかヒュンケル、何なら女子だけどレオナやマァムでもまだマシだった。

 そりゃハドラーも好きなキャラだよ? 特に超魔生物になった後はムチャクチャカッコいいし。

 だかなぁ、自分がなるのははっきり言って勘弁して欲しい。

 大魔王バーンに爆弾(黒のコア)埋め込まれるはわぁ、あまつさえそのバーンによって爆死されそうになるわぁ、裏切り者としてバーンに切り捨てられるわぁ、最後は灰になって消えるわぁ、本当に嫌になる。

 ……何かハドラーの悲惨な理由の大半がバーンのような気がする。

 

 正直言えば今すぐにでも逃げ出したいが腹ん中に爆弾があるかも知れない状態ではそれも出来ん。

 逃げるにしても爆弾が無いのを確認するか取り除くかしてからじゃないと。

 つまり当分はバーンの下で働くしか無いんだよなぁ。

 

 そんな感じで無駄に長いミストバーンの説教を聞き流しながら、無駄な思想しながら無駄に長いバーンパレスの通路をひたすら歩くとこれまた無駄にデカイ門にたどり着いた。

 ここが大魔王の間か。

 

「……ハドラーよ、何度も言うようだが」

 

「わーった、わーった、大魔王様の前ではちゃんとしてますよ〜」

 

 ▼▼▼

 

 んで場面はかわりバーンの前にて頭を垂れる俺とミストバーン。

 

「くるしゅうない、面をあげよ」

 

 言われたとおり顔を上げると長い髭のおじいさんこと大魔王バーン(真ではない)がいた。

 いやはや流石大魔王、オーラが半端ねえわ。

 でも爆弾埋め込まれてる(かもしれない)張本人からしたら素直に従う気になれん。

 つか原作なら途中まで謎の影(笑)状態だったのにいきなり顔見せちゃってるがいいの? 

 

「ほぉハドラーよ、余を見ても驚かんのだな?」

 

 ええ、知ってましたし。

 と、そんな事を言ったら「なんで知ってるんだ?」って言われるのが目に見えてるから言わんけど。

 

「そんな事はありません。その放たれるオーラ、溢れんばかりのカリスマ性にこのハドラー驚愕しております。そしてそんな偉大な大魔王様に仕えられる事をとても光栄に思います」

 

 これぞ社会人奥義、とりあえず相手は褒めちぎる。

 伊達に前世で嫌な上司と何年も付き合っとらんわ、たとえ部下に爆弾仕込むような超パワハラ上司でも笑いながら褒めるぐらいお手のもんよ。

 こころなしか隣りにいるミストバーンもバーンを褒めたから嬉しそうにしてるしこれで何とかなるだろ。

 

「クククッ、中々面白い」

 

 何故笑われたし、今の俺のセリフに笑いどころ何かなかったろ。

 

「いや気にするなハドラーよ。さて早速そなたに命じる」

 

「は、なんなりと」

 

 どうせ新しい魔王軍作るから司令官やれっていうんでしょ? 

 

「余は最強の軍が欲しい、未来永劫称えられるようなそんな軍がな」

 

 それアタリ、原作通りやね。

 

「お前が作れ」

 

「はい……はいぃぃっ!?」

 

 ちょっと待て! 

 

「聞こえなかったか? ハドラー、お主が新たな魔王軍を作れと命じたのだ」

 

「わ、私がゼロから作るので?」

 

「そうだ」

 

「一人で?」

 

「そうだ、と言いたいがそれでは流石に可哀想だから隣りにいるミストバーンに手伝わせる」

 

 それでも結局二人だよね? 

 

「本気ですか?」

 

「本気だ」

 

 あ、バーンの目がマジだわ。

 嫌だと言いたい、無理だと言いたい、がそんな事を言ったら間違いなく処刑される。

 俺は泣く泣くイヤイヤ承諾した、つか承諾するしかない。

 

「……謹んでお受けします」

 

 そう言うとバーンの顔は分かりやすくニヤついてた、コノヤロめ俺のリアクション見て楽しんでるな。

 こうして俺は魔王軍を自分で作らなくてはならなくなった。

 そしてもう一つの決意も固めた。

 

 早くこんな魔王軍(ブラック企業)を辞めてやる、と。

 

 ▼▼▼

 

 オ・マ・ケ

 

 ハドラー退出後のバーンとミストバーン

 

「クククッ、ハドラーは中々愉快な顔になったものよの」

 

「……(それは貴方が無茶振りするからでしょ)」

 

「にしてもハドラーがアソコまで肝が座っておるとは、余はあやつの事を少々見くびっていたのしれん」

 

「それは私も思いました、もう少し小物だと思ってましたがバーン様を前にしても動じない姿勢には尊敬の念すら湧きます」

 

「クククッ、本当にそうだ。あの顔を見れただけでもわざわざ呼び出したかいがあるというもの。余もついあの態度を崩したくなるくらいにな」

 

「……(いやだからってゼロから魔王軍作れはないでしょ、ハドラーがショックで(●__●)って顔になってましたよ)」

 

「何だミストバーンよ、何か言いたいのか?」

 

「……いえ、ただ本当にハドラーに全て任しても良かったのかと思いまして」

 

「所詮は軍など余の暇つぶし。失敗したところでミストバーン、お主一人で地上を制圧すれは済む話よ」

 

「……(いや確かに私一人でもやろうと思えば出来ますがかなりの重労働ですよ? いや命令されたらやりますが出来たら勘弁して頂きたい)」

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「例え失敗してもその時のハドラーの反応を楽しめればそれだけでも価値があるというものよ」

 

「……(哀れハドラー、バーン様は完全にハドラーで遊ぶ気でいらっしゃる)」

 

「クククッ、ハドラーよ。しっかりと余を楽しませてくれよ?」

 

「……(流石にハドラーが気の毒だから私がしっかりとサポートしよう。バーン様の無茶振りの辛さは私が嫌ってほど分かってるし)」

 

 

 



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第二話 転生ハドラーはスカウトする

 前回、バーンからゼロから魔王軍作れと言われてしまった転生ハドラーこと俺。

 はぁー、んじゃイヤイヤながら仕事しますか、でも魔王軍作りって何からすればいいんだ? 

 

「んでミッちゃんよ、魔王軍作るのはいいが何から始めればいい?」

 

「オイ、お前は元魔王のクセにそんな事も分からんのか? と言うか私をミッちゃんと呼ぶな!」

 

 魔王やってた時は俺インストールされて無いから記憶無いんだよ。

 

「いいじゃん、いいじゃん、ミストバーンって何か言いにくいし」

 

「良くないわ! 言い難いと言うなら私の事はミストと呼べ! 分かったな!」

 

 ミッちゃんってあだ名、割と良いと思うんだけどダメなんだ。

 

「んじゃミッちゃ……ミスト、何からやれば良い?」

 

「今普通にミッちゃんって言いかけなかったか? まぁいい、とりあえず軍団長から決めたほうがいいだろう。軍団長さえ決めたら各団の兵士集めは団長にやらせれば良い」

 

「なるほどね。あ、そう言えばさぁ……」

 

「なんだ?」

 

「総司令はミストがやらん?」

 

「やらん。と言うかハドラー、バーン様がお前を我が軍に入れたのは魔軍司令にする為だぞ? それを私が司令になってしまったらバーン様のご意向を無視する事になるから絶対に駄目だ」

 

 ダメ元で言って見たがやっぱりダメか。

 魔軍司令にならなければ少しは楽出来ると思ったがそんなに甘くないか。

 こんな事でバーンに睨まれるのは避けたいし。

 

「しゃあない、司令はイヤイヤながら俺はやるよ。んで軍団長は何人集めればいい?」

 

「嫌なのは分かるがワザワザ口に出すな! まぁ六人がいいだろ」

 

「理由を聞いても?」

 

 原作読んだときも思ったが何で六人なんだ? 三人衆とか四天王とかのほうが一般的だと思うんよね。

 あと六人も集めんのシンドそうだし。

 

「理由か。お前も知ってると思うが六芒星と言うのは魔の象徴であり魔の力が増す、それにあやかってだな」

 

 俺はそんな理由知りません、原作ハドラーは知ってるかも知れんが。

 

「つまりゲン担ぎ?」

 

「……ざっくり言えばそうなるな」

 

「なら四人に減らさん?」

 

「減らしたら我らの負担が増すぞ?」

 

「よーし、六人集めるぞ!」

 

「……変わり身が早いな。まぁ私も軍団長はやるから実際には五人だな」

 

 そこらへんは原作通りなのね。

 にしてもバーンが気に入る軍団を作るのか、適当に集めたらアカンよなぁ。

 ここは俺の知識を活かす為にも原作メンバー集めた方がいいか。

 ならば……

 

「ミスト、誰かよさそうな奴を知らん?」

 

「……人間でもいいなら一人。丁度この前、散歩してたら才能ありそうな少年を拾って弟子にした。あの子ならいい長になるだろう」

 

 ヒュンケルの事ね。

 確かミストがヒュンケル拾った頃ってヒュンケルは十歳前後だった筈、と言うことは今は原作開始十年前ぐらいね、思ったほどは時間無いなぁ。

 

「贅沢言わんよ、人間でもなんでも強いならね」

 

「……!?」

 

 そして何故か驚くミスト、俺変な事言ったか? 

 

「……お前は人間を嫌っていたと思ってたんが。あと言い忘れてたがその子は元勇者アバンの弟子だぞ?」

 

 あーなるほど。

 そいや原作ハドラーはそんな感じやったね。

 まぁ今の俺には関係ないが。

 

「構わん構わん、俺は使えるなら誰でも使うよ」

 

 ヒュンケルをハブると原作からズレそうだし。

 

「そうか、なら良いが。なら二軍団の兵士は私が何とかしよう。私が暗黒闘気でコツコツ作れば『しりょうのきし』や『さまようよろい』辺りなら数を揃えられるだろう」

 

「そっちは頼んだ、んじゃ俺は残りの団長集めをしてくるわ」

 

 さぁて先ずは誰から勧誘するかな? 

 

 ▼▼▼

 

 〜クロコダインの場合〜

 

「おーっす、邪魔するわ」

 

「誰だ!? って貴様はハドラー、生きてたのか。敗戦の将がワシに何のようだ?」

 

「まぁまぁ、とりあえず呑まん? 旨い酒を土産にもってきたんだ」

 

「酒か…………まぁ折角来てくれたんだし、ゆっくりしてけ」

 

「(やった、原作知識で酒好きじゃないかと予想したが当たった。俺も酒は好きだし呑みながら勧誘しよう作戦は上手くいきそう)」

 

 ー三時間後ー

 

「ブハハハッ!! ハドラー、お前が持ってきた酒は旨いなぁ!」

 

「ガハハハッ!! お前がくれた鳥の丸焼きも中々旨いぞ、ツマミにピッタリだ。あ、クロコダインよ、ウチで働かん?」

 

「おういいぞ! お前さんも噂と違ってイイヤツだし、何よりお前さんと飲む酒が旨い!」

 

「(よっしゃ、まずは一人ゲット! 呑みにケーションは偉大やね)」

 

 〜ザボエラの場合〜

 

「(ザボエラかぁ。正直勧誘したくなぁ、弱いし卑怯だし裏切るし。だが俺が超魔生物になるには絶対に必要な人物でもあるんだよな)たのもー!」

 

「なんじゃウルサイ。ん、貴様はハドラーとか言う勇者に敗れた魔王じゃないか(笑)」

 

「(イラッ!)今の俺は大魔王バーン様に仕える魔軍司令ハドラーだ(いきなり嫌味かよ、マジこいつ部下にしたくねー)」

 

「(バーン様じゃと!? あの魔界の神の!?)……これは失礼、してその魔軍司令殿がこのワシになんの御用で? (これはチャンスかもしれん、上手いことこの男に取り入れば大魔王とのコネが出来るかも)」

 

「(バーンの名前出した瞬間に露骨に態度変えやがったな、この妖怪ジジィ)実はバーン様の命令で新しく軍を作る事になってな、お前をその軍団長に勧誘しにきた(コイツの性格上絶対に断らんだろうけど)」

 

「(キター!! これは成り上がるチャーンス!)それはそれは有り難い、是非ともそのお話受けましょう(ウシシッ、これでしみったれた生活とおさらば出来る!)」

 

「(即答かよ、ちょっとは悩めよな)そうか、なら準備でき次第でいいから我が城に来てくれ(どうせ俺の事も踏み台にすると考えてるんだろな)」

 

「(この頭の弱そうな奴を踏み台にしていずれはワシがバーン様の右腕に、いやそのバーン様すら出し抜いてワシが大魔王になってやる!)ヒヒヒ、了解しましたじゃ」

 

「おーい親父、客か?」

 

「こらザムザ! 勝手に話に入ってくるな。すいませんハドラー様、こやつはワシの息子でザムザと言います」

 

「構わん。ザムザと言ったか、お前も我が軍で働かないか? (ザムザ、確かコイツが超魔生物の研究をするはず、なら意地でも勧誘しないと)」

 

「へ? オレがですか? (いきなりなんだ?)」

 

「見たところ中々の才能がありそうだ、お前なら俺とバーン様の為に良く仕えてくれると思ってな(と言うかマジで頑張って研究してね)」

 

「は、はい! オ、オレで良ければ! (この人はオレを評価してくれる、親父ですら道具としか見てくれないオレを!)」

 

「うむ、二人ともバーン様にしっかりと尽くすんだぞ(さぁて、残り二人。次は……)」

 

 〜バランの場合〜

 

「しつれ……「貴様はハドラー! 死ねぇぇっ!」イイッ!? ちょっと待て、いきなり斬りつけないでって!!」

 

「黙れ! 貴様が地上侵略なんぞしたせいで妻は……妻は!!」

 

「(わ、忘れてた。そいやバランは旧魔王軍の生き残りと勘違いされて嫁さんと一緒に国から逃げたんだったけ、んで何やかんやあって嫁さんは死んだと、そら恨まれてるよね)ちょちょっと、俺の話を聞いてくれ!」

 

「問答無用! 貴様みたいな蛆虫、この場で切り捨てくれる! ギガブレイク!!」

 

「ヒエッ、ちょっと待てー!! (こんなん勧誘とか話し合い以前やないかい!! 兎に角逃げるぞ!!)」

 

 ーそのまま命懸けの鬼ごっこする事、二百時間ー

 

「ゼェゼェ、こ、この私からこれだけ逃げ続けたのは貴様が初めてだ、ゼェゼェ」

 

「ゼェゼェ、そ、そりゃどうも(死ぬ気で逃げたからだよ!)ゼェゼェ」

 

「ゼェゼェ、して貴様は何しに来たんだ? ゼェゼェ」

 

「ゼェゼェ(やっと話を聞く気になったか、ここからが本場だ)それはだな……」

 

 ーバランの説得、三時間ー

 

「まぁ良かろ。私も人間共に復讐する気ではいたし、バーンの計画とやらにも興味はある」

 

「(よっしゃー、バランの勧誘成功!)」

 

「だが貴様等が天地のバランスを崩すような事をしてみろ、その時は竜の騎士として貴様等を斬るからな! よく覚えとけ!」

 

「は、はい(ムチャクチャ疲れた、とりあえず残り一人だ)」

 

 ▼▼▼

 

 さてその残り一人が問題だ、原作では禁呪法生命体のフレイザードなんだが……転生ハドラーである俺は当然だが禁呪法なんぞ知らん。

 原作にも確か禁呪法を使うシーンは無かったからマジでやり方が分からん。

 

 ダメ元のダメ元でロン・ベルクを勧誘したら案の定ダメでした。

 最悪キルバーンにでもやらせ……たく無いなぁ、あれザボエラ以上の卑劣道化師だし。

 ホンマどないしよ。

 

 ▼▼▼

 

 オ・マ・ケ

 

「クククッ、ミストバーンよ、ハドラーは中々やりおるな」

 

「…………えぇまぁ(バーンパレスに帰ってきた時過労死しそうな程疲れてたけど)」

 

「しかもあの竜の騎士を余の配下に入れるとは。いかに余でもあのものを説得するとなると少々苦労はするだろうに」

 

「……(いやちょっとの苦労じゃすみませんよ、ハドラーもそのバランの説得が一番苦労してましたし。バランの必殺技を紙一重で避け続けて逃げ続けるとか私でも無理ですよ)」

 

「クククッ、ハドラーなら最高に愉快な魔王軍を作るだろ。楽しみだのう」

 

「……(あと魔影軍団と不死騎団の兵士作るの手伝って下さい。一人で作るのはかなり時間が掛かるんです、私にはヒュンケルの修行もあるし本当に忙しい)」

 

「ん、ミストバーンよ、何か言いたいのか?」

 

「……いえ、全てはバーン様の御心のままに(言えないし、言っても手伝わないのは分かってますが。私とハドラーが不死身で本当に良かった)」



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第三話 ハドラー3分クッキング

「ぱーぱぱっぱぱーぱ♪ ぱーぱぱっぱぱーぱ♪ 

 愛のある職場を、ハドラーがお送りしますペコ」

 

「……おいハドラー」

 

「皆様こんにちは。季節は春となりましたがまだまだ寒い日もありますね、さてそんな事は関係ありませんが本日のメニューは……」

 

「聞けハドラー!!!」

 

「……って何だよミスト」

 

「何だはこっちのセリフだ! 私を呼びつけたと思ったら意味不明な歌と踊りを見せられたんだぞ! 貴様は一体何がしたいんだ!」

 

「何がって最後の魔団長を作るんだが?」

 

 いやぁ探してみるもんやね、旧魔王軍の拠点漁ってみたら禁呪法のやり方が書いた研究書があったわ。

 どうやら原作ハドラーは見かけによらずに几帳面な性格だったらしく他にも地上侵攻作戦の計画書やら『キラーマシン』の設計図やら色々保管してあったわ、本当に助かる。

 

「……まて、色々とツッコミどころありすぎるから整理する。

 …………よし、まずは作るとは何だ、勧誘するんじゃなかったのか! 

 次、作るのはこの際置いとくしても冒頭の歌と踊りは何なんだ! 

 最後に、何故私を呼び出した!」

 

「色々忙しいやっちゃな。まぁ順に説明しましょ。

 一つ目の回答は勧誘が上手くいかないから禁呪法で作る事にしたのだ。

 二つ目のはぶっちゃけノリとストレス発散。

 三つ目の回答は初めて禁呪法なんぞ使うからそういうの詳しそうなミストに同席して欲しかったのと、一人でボケるのはシンドいからツッコミ役が欲しかったから」

 

「……ノリだとかツッコミ役が欲しいだとかフザけた事をぬかす貴様をシバキ倒したいとこだが禁呪法で軍団長を作るアイディアには賛成だな。今居るメンバーと同等以上の者などそうそう見つかるとは思えん」

 

 これは完全に俺の予想だけど原作ハドラーも色々探したが結局見つからなかったからフレイザードを作ったんじゃないかと思う、もし最初から禁呪法を使う気なら原作開始時点でフレイザードが一歳なのはおかしいと思うんよね。

 

「だろ? つうわけで続けるぞ。

 まず厚底の錬金釜を用意します。ここに砕いた『マグマの石』と『氷の結晶』を入れて適度にまぜます」

 

「……ノリはともかくやってる事はまともだな、手際もいい」

 

「次に『ちからのタネ』『スタミナのタネ』『ラックのタネ』などのタネを『薬草』と一緒に『にじのしずく』で一晩煮込んだものがこちらになります」

 

「……ハドラーよ、まさかこの茶番の為に昨日から準備してたのか?」

 

 ミストはずれ、実際には一週間掛かりました。

 材料集めるの苦労したわ。

 

「これも鍋に入れてひと煮立ちさせます。この時にアクが出るので取り除きます」

 

「……料理してるんじゃないんだからアクとか言うな、不純物といえ」

 

「最後に『まほうのたま』を入れて沸騰させたら出来上がりです」

 

「……ふむ、これで完成だな……『まほうのたま』? ちょっと待てぇぇ!!」 

 

「へ?」

 

「バカ者、そこは『まほうのたま』ではなく、いのちの……」

 

 ミストが言い終わる前に錬金釜がドカーンとバカでかい音を鳴らして爆発した。

 そして俺とミストは衝撃で部屋の壁に打ち付けられた。

 

「あービックリした!」

 

 瓦礫を退けなら起き上がる俺とミスト。

 

「ビックリした、じゃない! 我々が不死身の身体じゃ無かったら下手したら死んでるぞ!」

 

「でも成功したみたいよ?」

 

「んな馬鹿なことが……」

 

「ういっす!」

 

 爆発で起きた煙が晴れると右半分が炎、左半分が氷で出来たモンスターが笑顔で挨拶してきた。

 どうみてもフレイザードですね。

 

「……本当に成功してる」

 

「いやー良かった良かった。あ、俺はハドラー、お前を作ったもんだ。お前の名前はフレイザードな」

 

「フレイザードか、気に入ったぜ。あんたの事はオヤジと呼ぶわ」

 

 随分ノリの軽い奴だな、原作とは大違いだ。

 

「……そうだった、禁呪法で作った生命体は製作者の性格を反映する。つまりハドラーが二人に増えたのと同じになったのか」

 

 そういうと頭を抱えるミスト。

 へ? つまり俺ってこんな軽い感じなの? 

 

「まいっか。んしゃフレイザードよ、氷炎魔団の兵士を頑張って集めてくれよ」

 

「オヤジ、それってどうやるんだ?」

 

「……ミスト、兵士集めってどうやるん?」

 

「この大ボケ親子どもめ!! ええい仕方ない、フレイザードとか言ったな私について来い、今から暗黒闘気で『さまようよろい』を作るから私のやり方を見て覚えろ!」

 

「お願いしまーす!」

 

 そう言いながら部屋を出てくミストとフレイザード。

 何だかんだ言いながら面倒見が良いよなミスト。

 ヒュンケルにも暗黒闘気の使い方教えてるけど案外人に教えるのが好きなんかな? 

 そういえば……

 

「……ひょっとしなくても、この爆発で悲惨なことになった部屋の片付けって俺一人でやるの?」

 

 これ掃除するの何時間掛かるんだろう。

 とりあえずコレから片付けるか。

 

「愛のある職場を、ハドラーがお送りしましたペコ」

 

 やっぱ一人でオチをつけても虚しい……

 

 ▼▼▼

 

 お・ま・け

 

「のぅミストバーンよ、ちと余の出番が少ないと思うんだかな」

 

「……(それはバーン様が私とハドラーに魔王軍作り全部丸投げしたからです、出番が欲しいなら手伝って下さい)そんなことは無いと思います」

 

「まぁよい、ハドラーが作った呪法生命体、確かフレイザードとか言ったな、その者の出来はどうだ?」

 

「……ハドラーの性格を引き継いでるだけあってかなり優秀です、私が少し教えただけで『フレイム』などのモンスターを作れるようになりました」

 

「クククッ、そうか。この分だと魔王軍の完成はもう直ぐになりそうだのぅ」

 

「……(ただ途中から『ばくだんいわ』をこれでもかと言わんばかりに作るようになったのが気掛かりではあるんだが。与えた部屋にいっぱいの『ばくだんいわ』を見た時は私でも引いた、こんな事をバーン様に報告は出来ないが)」

 

「どうしたミストバーン?」

 

「……いえ、全てはバーン様の望むままに(嫌な予感がする)」

 

 



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第四話 ハドラーの天敵は書類?

 さてこれで六大魔団長がそろっていよいよ新魔王軍の本格始動……とはならんかった。

 そら団長だけ決まっても兵士はまだまだ足らんし武器、兵站など必要な物もまだまだある、こりゃ地上侵略なんぞ数年は先だね、いやビビリな元サラリーマンの俺からしたら侵略なんぞ出来たらやりたくないが。

 そんなこんなで俺が転生してはや数ヶ月経ちました。

 

 んで俺は今何してるかと言うと……

 

「書類が終わらん!!」

 

 山のような書類と真剣勝負してた。

 いやね、みんな最初は口頭で要望とか伝えてきたんだが当然ながら聖徳太子でもない俺はそれぞれ好き勝手言いまくる要望、質問を聞き取れるはずもなく各々に書類を書かして提出するように言ったんよね。

 これで万事解決……とはいかんかった、考えてもみい? クロコダインやバランが事務仕事の経験があると思うか? 

 当然ながら無い、なのであの二人の要望書は最初のは酷かった。

 

 クソ汚い字で「武器が足りん」や「食料よこせ」など殴り書き、流石においちゃんブチ切れました。

 んで何やかんや怒って教えてして何とか幼稚園児の落書きレベルから小学校の連絡帳レベルまで上げました。

 本当に苦労したよ、原作では好きなキャラだった二人が嫌いになりそうになるくらいには。

 幸いにもバーンの右腕として支配地域の統治とかで事務仕事になれてたミストと、科学者としての活動で研究結果の纏めなどを書くから文書を書くことになれてたザボエラがいて本当に助かってるわ。

 ヒュンケルはここ最近になってミストにひっついて魔団長の仕事を覚え始めたばかりだが、それでもクロコダインやバランよりマシな書類を出すのはどゆこと? 

 

 と、我が軍は書類仕事で早々にけつまずきました。

 へ? フレイザード? 右手が氷の岩、左が炎の岩のモンスターに字が書けるかよ! 

 んな訳で氷炎魔団の分はフレイザードの副官がやってるんだけど……

 

「カリカリ……ん、どうしました魔軍司令殿?」

 

「いや、相変わらずいい仕事ぶりやなあって思って」

 

「お褒めいただきありがとうございます」

 

 俺の横で本当に素晴らしい仕事ぶりを披露する……『ばくだんいわ』、そうフレイザードの副官は『ばくだんいわ』のロッキーなんよね。

 しかも事務仕事する為に腕が生えた特別製の、これじゃあドラクエというよりポケモンだよ。

 だがさっきも言ったようにその仕事ぶりは素晴らしいの一言に尽きる。

 早い、正確、丁寧の三拍子揃ったパーフェクト事務員なんよね、ロッキー。

 しかも字も流暢な達筆でマジで粗がない、本当に何で『ばくだんいわ』なんや? 絶対に自爆させたくない位には有能なんよね。

 てなわけで今も俺の書類仕事も手伝って貰ってるんだけどね。

 

「はい、私の分の仕事は終わりました。ではフレイザード様のもとに戻ります」

 

「相変わらず早いね、助かったわ」

 

 俺に軽い会釈するとゴロゴロと転がりながら俺の執務室(仮)を出てくロッキー、違和感が半端ないが有能な部下であるのでちょっとやそっとの違和感は無視する。

 

「うっし、俺の分も今日の分は取り敢えず一区切り。あーしんど」

 

 ……そいや俺って最近休んでないなぁ、てか寝てないなぁ。確か最後に寝たのって一ヶ月前位前だよなぁ、しかも5分だけ……なんだこのブラック企業。

 

「……考えだしたらムカついてきたぞ?」

 

 うん、労働基準法は大切だよね、この世界には無いけど。

 

「よし、今日残り半日は休もう」

 

 たとえバーンやミストが文句言っても知るもんか、兎に角半日は遊び倒したる。

 

 ▼▼▼

 

「よし、クッキーを作るか」

 

 何を隠そう、俺は大の甘党だ。

 だが今の魔王軍には甘味が足らん、と言うか皆無だ。

 なら無いなら自分で作ればいい。

 幸いな事に俺は前世でも料理は大得意だった、なら大量に作りためて仕事中に食べれば少しは気晴らしになる。

 ちなみにクッキーな理由は比較的簡単なのとちゃんと管理したら日持ちするからだ。

 

 んなこんなで3時間ほどキッチンに籠もってクッキー作りに熱中しました、その結果……

 

「しまった、作り過ぎた……」

 

 眼の前にはクッキーの山が出来ました、これは流石に一人では食いきれんな。

 

「そうだ、六大魔団長達に配るか!」

 

 部下を労るのも上司の仕事、お中元替わりにみんなに食べて貰おう! 

 

 ▼▼▼

 

 〜クロコダインの場合〜

 

「おーい、クロコダイン。クッキー作ったんだが食べるか?」

 

「かたじけない、頂こう。モグモグ……旨いな、俺は甘い物はそこまで好きじゃないんだがこれならいくらでも食える」

 

「そうか、そうか。気に入ってくれて何よりだ」

 

 〜ミストバーン&ヒュンケルの場合〜

 

「おう二人とも修行か? 結構結構。クッキー焼いたから食え」

 

「……貴様はいきなり仕事休むと言い出したと思えば一体何をやってるんだ? (まぁ折角くれたんだ、私は食べれないが私の分はバーン様に献上しよう)」

 

「……うまい(くそ、父さんが死んだ原因の一つはハドラーが弱かったからなのに、それなのに無駄にクッキーが旨いのが悔しい!)」

 

「どうやらヒュンケルも気に入ったみたいだな、また作ったらやるからな( T_T)\(^-^ )」

 

「オレの頭を撫でるなハドラー!」

 

 〜ザボエラ&ザムザの場合〜

 

「おーいザボエラいるかー?」

 

「すいませんハドラー様。父は今出かけてます」

 

「ようザムザ、元気か? まぁ居ないなら仕方ない。クッキー作ったんだが食うか?」

 

「頂きます、モグモグ……美味しい! (思えば幼い頃にオヤジからお菓子なんか貰った事ないなオレ)ハドラー様、ありがとうございます!」

 

「おう、お前には期待してるからな。また作ってやるから研究がんばれよ!」

 

「はい! (ハドラー様が期待してくれる、このオレを!)」

 

 〜バラン&ラーハルトの場合〜

 

「うぃっす、バラン何やってるんだ?」

 

「カリカリ……見てわからぬか? 貴様に言われた書類の直しをしてる(# ゚Д゚)」

 

「魔軍司令殿、邪魔をしに来たらなら是非お引き取りを(~_~メ)」

 

「(苛ついてるなぁ、まぁこの二人は根っからの武闘派やからなぁ)まぁまぁ、差し入れにクッキー作って持ってきたんだ、食え」

 

「……貴様は一体何をやってる? まったくこのような軟弱な男が魔軍司令とは┐(´д`)┌」

 

「いっそのことバラン様が魔軍司令をやったほうがよろしいのでは?」

 

「おっマジで!? いやぁ助かるわ、実は先月から全く寝ずに働いていてよ、そろそろ精神が死にそうだったんだわ! うん、バランなら強いしバーン様も反対しんだろ!」

 

「……ラーハルトよ、冗談はよせ。魔軍司令殿、部下の非礼を詫びよう(一ヶ月休み無しだと!? 本当に冗談ではない、そんな苦行はまっぴらごめんだ!)」

 

「は! 魔軍司令殿、失礼しました(不眠不休だと!? このハドラーという男、只者ではないな。腐っても元魔王ということか)」

 

「……なんだ冗談か、まぁ気が変わったら言ってよ。俺からもバーン様に推薦すっからさ」

 

「……(絶対に天地がひっくり返っても私は拒否するぞ!)」

 

「……(バラン様がこれほどまでに戦慄するとは、魔軍司令侮りがたし)」

 

 〜フレイザード&ロッキーの場合〜

 

「おー……って、何じゃこの部屋は!? (部屋から溢れんばかりの『ばくだんいわ』の山って何!)」

 

「う〜ん、コイツは目の角度が……ってオヤジか、何のよう?」

 

「あ、魔軍司令殿。すいませんが魔軍司令殿からもフレイザード様に言って下さい。『ばくだんいわ』の私が言うのもあれですがフレイザード様は『ばくだんいわ』ばかり作り過ぎなんです」

 

「お、おう(『ばくだんいわ』だらけのモンスターハウスとか心臓に悪すぎる!)、フレイザードなしてそんなに『ばくだんいわ』ばかり作るんだ?」

 

「いやね、何か『ばくだんいわ』を作ってると心が和むと言うか落ち着く言うかそんな感じでついつい熱中しちまんよ」

 

「(フレイザード作るときに間違えて『まほうのたま』を使ったのが原因かな?)……『ばくだんいわ』を作るのもいいが他のモンスターも作れよ」

 

「へーい、んじゃ次は『ばくだんベビー』か『メガザルロック』でも作るよ」

 

「違う、そうじゃない。つうか……イテッ! (何か踏み潰した気が……)」

 

「ま、魔軍司令殿!? 今踏み潰したのはフレイザード様が作ったミニばくだんい……」

 

 ……その日、バーンパレスの一角で巨大な爆発があったそうだ。

 

 ▼▼▼

 

 オ・マ・ケ

 

「のうミストバーンよ。今日の大きな爆発は何だったのだポリポリ」

 

「……いえ大した事ではありません(フレイザードが作った『ミニばくだんいわ』が爆発したなんて口が裂けても言えない、ましてや誘爆して他の『ばくだんいわ』までも爆発したなんて。前回、嫌な予感がしてフレイザードの部屋をバーンパレスの端に移して正解だった)」

 

「そうか、お主が言うなら良かろうポリポリ」

 

「……(幸いにもバーン様はハドラーのクッキーに夢中で爆発にはさして興味無くて助かった。今後の為にもハドラーには苦労をかけるがまた作ってもらおう……爆発の後処理で泣きそうになってるハドラーにクッキーの追加を頼んだのは流石の私も心が痛んだがお陰でバーン様のお怒りを買わずに済んだんだ。ただハドラーが発狂しそうになったが……今度は私が酒でも持っていって労ってやろう)」



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第五話 ハドラーは引越ししました

 あー酷い目にあったわ。

 結局あれから三時間ほど爆発した部屋の後片付けしてたわ。

 不幸中の幸いロッキーは誘爆しなかったがね。

 ロッキーが「こんな事もあろうかと予め私の魔力は常に空にしてます」と備えていてくれて助かった、マジでロッキー優秀だわ。

 

 にしても折角の休みもあと少しか、だがまだやりたい事はあるぞ! 

 この身体は全く寝なくても問題無い、ついでに『ラリホー』も効かない! 

 ならば夜通し遊ぶぞ! 

 

 〜数時間後〜

 

「……入るぞハドラー……って何だこの部屋は!? デジャヴュか!?」

 

「ようミスト!」

 

 ミストが驚くのも無理は無い、部屋を埋め尽くさんばかりのキラーマシン……のミニチュア模型の山を見たらね、流石にフレイザードがやらかしたばかりだから自重して模型にした俺は賢いよね。

 だが模型とはいえクォリティには一切妥協してないぞ。

 

「……くそ、やはりフレイザードの凝り性はハドラー譲りか」

 

「やっぱそう思う?」

 

 俺もそうじゃないかと思ったんだよね。

 

「……答えの予想はつくが一応聞く、何故キラーマシンなんだ?」

 

「ぶっちゃけるとロボが好きだから」

 

「……予想通り下らない理由だった」

 

 失礼な、聞かれたから答えたのに。

 俺は何を隠そう前世はロボットアニメの大ファンだった。

 なので原作ハドラーが残してくれたキラーマシンの設計図を見たときは鳥肌が立つぐらい興奮したね。

 本当は1/1スケールで作りたいが材料も勿体無いし置く場所も無いから断念した。

 

「……まさかコイツらも『メガンテ』するとかないよな?」

 

 そう言いながら恐る恐るミニチュアキラーマシンをつつくミスト。

 

「キラーマシンが魔法使うかよ、つか全部模型でオモチャだし」

 

「…………なら良いが、しかし無駄に凝ってるな。特にこの黒いキラーマシンとか今にも動きそうだ」

 

「それ動くぞ、腕のボタン押してみ?」

 

「これか……ポチ」

 

 ポフっと軽い音を鳴らしながら飛び出したロケットパンチ、そしてそのロケットパンチが額に当たったミスト。

 

「ぷははは、やーい引っかかったww」

 

ブチッッ!!!

 

「闘魔最終掌ぉぉぉッッッ!!!」

 

「デジャヴューーッッ!!?」

 

 〜ハドラー、暗黒闘気で再生中〜

 

「いってぇ、ちっとは手加減してくれ」

 

「やかましい、貴様が下らんことをするからだ! ちゃんとこうやって暗黒闘気で回復してやってるんだ文句言うな!」

 

「むっちゃ痛かったんだが?」

 

「痛みなど我慢しろ。それに貴様の身体は暗黒闘気で再生させれば、するほど強くなるんだ。良かったな手軽に強くなれて?」

 

「それさっきおちょくった仕返しのつもり!? いや強くなるのは有り難いんだが、俺はどうせなら修行とかして強くなりたい派なんだけど」

 

 あいにく修行なんかしてる暇無いんだけどね。

 でも折角バトルマンガのキャラになったんだから修行して強くなってみたをやりたいよ、ドラゴンボールみたいな度を越した無茶修行は勘弁だけど。

 

「…………そうか、まぁ魔軍司令が弱いままではバーン様に申し訳ない。私から駄目元でバーン様に貴様の業務を減らしてもらえないか掛け合ってみる」

 

「へ、マジ?」

 

 いやそれならマジで助かるわ、やべぇミストが天使に見える。

 実際バランとキルバーン(実はたまーに顔を見せる、見せるだけであのヤロ仕事はまったく手伝わんけどな!)は俺の事をあからさまに見下してるし。

 今の俺だとこの二人には逆立ちしても勝てんから半端諦めて流してたけどね。

 

「お前はよく働いてる、バーン様の無茶振りに答え、魔王軍も当初の予定より早く形になりつつある。これならバーン様もお前を無下に出来まい……後ハドラーがクッキーを作る時間も確保しないとバーン様のご機嫌取りする手段が減るしボソッ」

 

 最後小声だったけど本音出てたぞミスト。

 そっかぁミストも苦労してんだなぁ。

 

「なんか俺等って報われなくない?」

 

「……言うな、私も思うが考えないようにしてるんだから」

 

 魔王軍のブラック企業体質の改善、本気で考えたほうがいいかな? ミストは無敵の体だけど、うつ病にでもならないか心配だし。

 

「取り敢えずそっちは頼んだわ、俺もなんとか時間作れんか自分で考えてみる」

 

「……そうしてくれ」

 

 なんか何とも言えない空気になったから空気を変えるために俺はミストに聞く。

 

「そいや何か俺に用があったんじゃない?」

 

「……アホなことをしてて忘れてた。ハドラーよ、明日引っ越すから準備しといてくれ」

 

「何となく理由が読めるが、ひょっとしんでもフレイザードのせい?」

 

「お前の読み通りだ、昨日みたいな事をまた起こされては堪らん。……私は不死身の体だがバーン様に聞かれた時ときは生きた心地がしなかったぞ。なので今は使ってないバーン様が所有する居城の一つに引っ越すぞ。バーン様には適当に兵士が増えてバーンパレスでは手狭になったとでも言っとく」

 

 マジかー、でもバーンから離れられるのは精神的にありがたい。

 後、密かに考えてた『俺様円満退職計画』の準備をするにも都合がいい。

 

「了解、準備するよ。他の団長達には言ってあるの?」

 

「……今から言いに行く。一応お前が魔王軍の責任者だから先に話を通しとこうと思って来たからな」

 

 そこはちゃんと上司として扱ってくれるのね、俺のとこにきた時点で既に決定事項だったけど。

 

「んじゃそっちは任した。……さて先ずはミニキラーマシンから荷造りするか」

 

「それは置いていけーーっっ!!」

 

 だが断る、こいつらは意地でも持ってくぞ! 

 

 ▼▼▼

 

 ~ハドラー達、鬼岩城に引っ越す~

 

「ミスト一つ聞いていいか? 鬼岩城って何年前に作った?」

 

「……数百年前だな」

 

「……その後はどうしてた?」

 

「…………完成した時点でバーン様が満足してそのまま放置してた、私もつい先日まで存在そのものを忘れてた」

 

「掃除ぐらいしろよーーっっ!!」

 

 鬼岩城に入って我々を最初に歓迎したのは数百年分のホコリの山でした。

 そして大量のGとそれを餌にしてたネズミとスライムも。

 鬼岩城ってバーンのお気に入りじゃなかったの? バーンは通販でダイエット器具を買ったらそのまま押し入れにしまって忘れるオカンかよ。

 

「こんなんで仕事出来ねぇよ、魔王軍全員で大掃除するぞミスト!」

 

「……異議無し」

 

 まさか鬼岩城で最初に出す命令が全軍上げての大掃除とは思わんかった。

 

 ~クロコダインの場合~

 

「ハドラー、またモップが折れたんだがもっと頑丈なのはないか?」

 

「この馬鹿力! モップ掛けをお前の全力でやるな、それで十本目だぞ。つかクロコダインの馬鹿力に耐えられるモップ何てあるか! 掃除はいいからお前は荷物を運び入れてくれ!」

 

「……了解した(すっごく怒られてしまった)」

 

 ~バランの場合~

 

「なぁハドラーよ、ホウキとはどう使うのだ?」

 

「ちょい待て、まさかバランは掃除したこと無いのか?」

 

「無い!」

 

「言い切ったよ! つかアンタ既婚者でしょ、まさか家事は全部嫁さんにやらせてたんか!?」

 

「失礼な、最初はちゃんと手伝ったぞ。何故か二回目以降は妻から絶対にやるなと言われたが」

 

「(バランの奥さんって確かお姫様だったよな、その奥さんにやるなって言われるレベルって)……もういい、バランもクロコダインと一緒に荷物運びしてくれ!」

 

「……かたじけない(ソアラにもこんな感じで怒られてたな、あぁ懐かしい)」

 

 ~ザボエラ&ザムザの場合~

 

「ザムザ、一つ聞きたいがザボエラはどこいった? (ー。ー#)」

 

「お、オヤジは忘れ物をしたと言って逃げ……いえ、取りに戻りました(汗)」

 

「逃げたのね!? そうなのね!? このクソ忙しい時にあの妖怪じじぃめ、絶対許さんぞ(#`皿´)」

 

「(怖! 今日のハドラー様は荒れてるなぁ)」

 

「……いっそのことサボり魔な妖怪じじぃを降格さして真面目なザムザに団長やらせるか」

 

「(オレを団長に!? ハドラー様はそこまでオレを買って下さっていらっしゃるのか!)ハドラー様、このザムザにお任せを。オヤジがいない分はこのオレが鬼岩城をピカピカに綺麗にして見せます!」

 

「お、おう。頼んだぞ(何かスッゲーやる気だな、何故に? にしてもザボエラはマジで降格させたいな、そんなことしたらバーンかミストに小言貰いそうだから出来んけど。書類仕事は出来るんだしザボエラはいっそのこと秘書官にでもしてしまいたいわ)」

 

 ~フレイザード&ロッキーの場合~

 

「フレイザード、何サボってるんだ?」

 

「別にサボってる訳じゃねーよ、やろうとしたらロッキーに止められて見学してろって言われて、しゃあなく見学してるだけよ」

 

「そうなのロッキー?」

 

「はい、失礼ですがフレイザード様のお身体で掃除されるとホコリに引火して火事になるか、壁が湿気ってカビる危険があると思い進言させて頂きました」

 

「ナイス、ロッキー(・∀・)b」

 

「全然ナイスじゃねーよ、オレが暇すぎて! ちくしょうめ、邪魔ならオレは『ばくだんいわ』でも作って暇潰ししてるよーだ」

 

「「それは絶対にやめろ(やめてください)!」」

 

「ハモって否定せんでいいやんか! なら外で出たゴミをメラで焼却処分する係をするよ、これならいいだろ!」

 

 〜ミスト&ヒュンケルの場合〜

 

「……で、お前はそのまま見回りをしてると?」

 

「いやだってミストよ、どいつもこいつも掃除一つ満足に出来ないんやから誰かが監視と指導するしかねぇべ? んで責任者は俺だから必然的に俺がやるしかねぇやん。ちゃんと口出しながら俺も掃除はしてるよ」

 

「……戦闘力優先で魔団長を選んだ弊害だな」

 

「本当にそれな、んでミストとヒュンケルは大丈夫なん?」

 

「……問題無い、ずっとバーン様の居住スペースの掃除は私が全てやってたから掃除は得意だ」

 

「オレもアバンに『戦士といえど家事も出来なければベリーナイスな一流とは言えません』と言われて最低限の家事は教わったから掃除は出来るよ」

 

「良かった、お前ら二人だけでもまともで本当に良かった(泣)」

 

「えーい、こんな事で泣くな。鬱陶しい!」

 

「……(オレ、ハドラーは嫌いだけどこれに関しては流石に同情するよ。にしてもミストバーンは普段は無口なのにハドラーが居るとよく喋るよな、相性がいいからか?)」

 

 ▼▼▼

 

 そんなこんなで我が軍の大掃除は一週間も掛かりました。

 まぁお陰で鬼岩城の構造を粗方理解できたけど。

 こんなんで魔王軍は本当に地上侵略を出来るんやろかと思うこの頃ですわ。

 

 ▼▼▼

 

 オ・マ・ケ

 

 〜バーンパレス、バーンとキルバーン〜

 

「……ハドラーもミストバーンも居ないとバーンパレスも静かだのぅ」

 

「……えぇ、まぁ(いやだからってボクを話し相手させる為だけに呼び出します!? 絶対に暇潰しの相手として呼び出したでしょ! てか初登場がオマケってボクの扱い酷くない!?)」

 

「のぅキルバーン。暇だから、ちとチェスの相手をしてくれ」

 

「はぁ(暇って自分で言っちゃったよこの人!? あぁ早くミストかハドラー君、帰ってきてバーン様の相手を代わって!)」

 

「キルバーンガンバレ♪ キルバーンガンバレ♪」

 

「ありがとうピロロ(この茶番も虚しいなぁ)」

 

*補足、鬼岩城の掃除が終わるまで二人は帰ってこなかったのでキルバーンは一週間ずっとバーンとチェスしてました。



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第六話 美人秘書登場!?

 俺達が鬼岩城に引越してから半年が経ちました。

 あの大掃除の後に一度バーンに報告しに戻ったら何故かキルバーンにムッチャ感謝されると言う珍事があったものの、それ以外はこれと言って変わった事はない。

 本当にあの時のキルバーンは何だったんだ? ついでにキルバーンはあれからバーンパレスにも鬼岩城にも全く顔見せんくなった、いや本当に何故に? 

 

 んで例のミストからバーンに俺の仕事を減らしてもらえないかって言って貰える件だが、案の定というかやっぱりと言うか却下された。

 バーンの野郎め、「不死身の体を与えたんだから問題は無かろう」って言いやがってムカつく。

 こちとら体が不死身でも精神は一般人だっつうの! 

 まぁその後、珍しくミストが本当に申し訳無さそうに謝ってくれて詫びにと酒をたんまりくれたし、この件でミストを責める気は無いよ。

 あくまでもミストはね、バーンは絶対許すまじ。

 

 しゃあないので代案を自分で考えに考えて、ついに先月ひらめいて実行した。

 切っ掛けは氷炎魔団のロッキーと不死騎団のモルグ(三ヶ月前にヒュンケルの副官に就任した)と話した時だ。

 二人を見て「そうだ、俺も優秀な副官兼秘書を雇おう」と思いついた訳よ。

 いや自分でも何で思いつかんかったんやろと思う、多分仕事のし過ぎで思考能力落ちたんやな。

 優秀な秘書が居れば俺の仕事が減るって簡単な発想が出ん程に俺は疲れてたらしいね。

 

 だが問題はその副官をどこから連れてくるかだ。

 ロッキーやモルグを引き抜くのは論外、そんな事をしたら氷炎魔団と不死騎団が機能しなくなるしフレイザードとヒュンケルに恨まれる。

 当然ながら他の軍から引き抜くのも無し。

 んじゃ六大魔団に所属してない奴を秘書にする案もあったが、そもそもそんな奴は俺の部下にはおらん。

 原作ではアークデーモンやホークマンが司令直属の親衛隊だったが、今の魔王軍は親衛隊なんぞ俺の命令で作って無い。

 考えれば分かるが今の俺は鬼岩城に半引きこもりの中間管理職、はっきり言って親衛隊なんかあっても無駄なんだよね。

 だから原作で親衛隊だった悪魔系モンスターは百獣魔団と妖魔師団に割り振ったんよ。

 お陰で百獣魔団には貴重な魔法の使える兵士が、妖魔師団にはそれまで居なかった肉弾戦をやれる兵士が入って両軍団には感謝されたよ。

 そもそも悪魔系モンスターに秘書やれるようなインテリは居ないから仮に親衛隊があったとしても秘書には出来ない。

 

 んじゃどうするか? フレイザードん時と同じで作れば良いやんと考えたんよね。

 アイディアとしてはフレイザードの色違いを風と雷を使えるように作って「唸れ疾風、轟け雷光!」って叫ばすってのがあったんだがね、激熱。

 だがそれだとフレイザードと同じで書類仕事が出来ないから当然ながら却下。

 なら原作知識の中から秘書をやれる奴を作ればいいやんってなった。

 んで、そのやれそうな奴とはズバリ『ハドラー親衛騎団』。

 その中から一人をフライングして作る事にした、原作からズレそうだが背に腹は代えられないよね。

 

 そんで次の問題は材料、オリハルコンのチェス駒は当然ながら今の時点でバーンから貰えるわけも無し。

 仮にバーンに頂戴と言っても「何で知ってる?」ってなってメンドウな事になる。

 しゃあないのでバーンに近状報告する時についでにバーンパレスの宝物庫にコッソリ忍び込んで(この為にモシャスの呪文覚えてキルバーンに化けた)鎧の魔剣から少しパーツをパクりました。

 一応パクった後に自分でアムドってみたら(一度やってみたかったんだよね、鎧化(アムド)!)カブトが冠みたくなっただけなんで問題無いよね、原作でもカブト無くても大丈夫ぽかったし。

 ただ後々バーンから鎧の魔剣を貰える筈のヒュンケルには流石に悪いなぁって思って、俺特製のフォンダンショコラをプレゼントしました。

 ヒュンケルには「いきなり何だコイツ?」って顔されたが美味しそうに完食してくれたから良いだろう。

 

 それからパクったパーツ溶かしてチェス駒にして、フレイザードの時と同じように禁呪法を使って(ちゃんと今回は命の石を使ったぞ!)秘書を制作しました。

 

 で、その秘書が……

 

「ハドラー様、次の書類持って来ました! ほらさっさとやって下さい!」

 

「ハイッ!」

 

 ご存じ親衛騎団の実質リーダー、クイーンのアルビナスちゃんです。

 いや他のメンバーってザ・武人ってタイプだから秘書やらすなら彼女しか選択肢無いよね。

 ちゃんと非本気時でも腕は出してるように調整しましたよ、じゃないと事務仕事やらせられないし。

 アルビナスはロッキー並みの優秀な副官です、もっそい仕事早いし俺のスケジュール管理もしてくれます。

 お陰で一日10時間から12時間働けば仕事は終わるようになったし月に一日か二日はちゃんと休めるようになったんよ。

 本当にアルビナスには感謝しかないんだが、

 

「ホラ、そんな猫背で仕事しない! 魔軍司令とあろうものが事務仕事とは言え、みっともない姿を晒してはダメです!」

 

「イエスッ!」

 

 めっちゃ性格キツくて、めっちゃ俺に厳しいんだよね。

 最初の頃は俺の返事一つにすらお説教が飛びました。

 なので今では俺の返事は「ハイ!」か「イエス!」しかありません、どこの軍隊だよ、いやココは魔王軍だけどね。

 

「やぁハドラーよ、元気か?」

 

「ノックぐらいしろよ、ミスト」

 

 そんな感じで仕事を頑張ってると超ご機嫌で俺の執務室に入ってきたミスト。

 表情は分かりにくい顔してるくせに明らかに機嫌が良いと分かるオーラをガンガン放ってる。

 コイツはアルビナスが魔軍司令補佐になってらあからさまに楽しそうにしてるんだよね。

 

「これはミストバーン様、本日はどのようなご用件で?」

 

「やぁアルビナス、今日もハドラーを尻にひいてるな。結構結構w あ、コレ昨日頼まれた調査書だ」

 

 そしてアルビナスとクソ仲が良い。

 これはミストがアルビナスに惚れた、とかじゃなくて単純にミストがツッコミ役をやらなくて仕事が楽になったから。

 アルビナスの性格のキツさはさっきも言ったが、実はそれは俺以外にも厳しかったりする。

 アルビナスからしたら兄にあたるフレイザードにサボり常習者ザボエラ、更にはバランやバーンにすら問題があれば言葉で問答無用に切り込む姿には頼もしさを越えて恐ろしくなるレベルだよ。

 お陰でバーンからの無茶振りがゴッソリ減り俺とミストは大分楽になった。

 そんな感じなのでミストはアルビナスをいたく気に入ってるのよね。

 

「ありがとうございます、ミストバーン様の仕事は正確で助かりますわ」

 

「いやいや、アルビナスのおかげだ。じっくりと仕事出来るのがこれ程有り難い事などと実感出来たのは数百年ぶりだ。実は私もハドラーの真似をしてシャドーと言う名の副官を作ったのだが奴はアルビナス程は優秀でなくてな。いやぁハドラーが本当に羨ましいww」

 

「ミストてめぇ、絶対に分かってて言ってるでしょ!? つかキャラ崩壊する位あからさまに笑うな!」

 

 コイツの無口キャラどこいったし! 

 

「ハドラー様、言葉が汚い!」

 

「ハイッ!」

 

「プププッw  いやぁハドラーのツッコミをしなくて良くなって本当に助かるww」

 

 そこ!? え、ミストが一番喜んでるとこソコなの!? 

 

 そんなこんなで仕事する時間は減ったが精神的疲労は前より増えた気がする。

 俺、今日の仕事終わったらキラーマシン模型を三体作るんだ、電飾仕込んで目が光るやつを。

 そんな死亡フラグモドキを心の中で建てながら俺は残りの仕事に手を付ける。

 

「ハドラー様! ここの計算が間違ってますよ!」

 

「イエッサー! すいませんサー!」

 

 アルビナス怖い……。

 

 ▼▼▼

 

 オ・マ・ケ

 

「のぅミストバーンよ。お主、最近は機嫌がいいのだな」

 

「いえいえ、そんな事はありませんバーン様w(アルビナスのおかげですw)」

 

「その様子で否定されても丸わかりなんだがな。しかしアルビナスとか言ったか、ハドラーの新しい副官はハドラー以上のやり手よのぅ。余に対して臆するどころか逆に論破してくるとは。余が論戦とは言え負けを認めたのは初めてよ」

 

「ええ、彼女はハドラーの娘だけあってかなりのツワモノです(もうそれが一番助かる、バーン様の無茶振りが無いだけでこれ程までに日常が楽になるとはw)」

 

「ああいった豪の女を人間達は鬼嫁と呼ぶのだったな。まさに鬼神の如き気迫を持つ者よ」

 

「……(鬼嫁w バーン様も上手いこと仰る。ハドラーは気付いてないがアルビナスは明らかにハドラーに好意を抱いてるしピッタリな肩書だ。そうだ、あの二人が結婚する日が来たら私からたんまりとご祝儀を贈ろう。クククッ、楽しみだww)」




「唸れ疾風、轟け雷鳴」はシャンタウロン放つ時の撃龍神の口上です、分からない方は検索お願いします。
いや火と氷の半々でフレイザードって超竜神に似てんなぁって思ったら、緑と黄色の撃龍神カラーのフレイザードが頭に浮かんでつい(^^ゞ

4月8日追記 「唸れ疾風、轟け雷鳴」→「唸れ疾風、轟け雷光」に修正
自己自自爆弃遺一蓮托生型さん、ご指摘ありがとうございます。
ついでに後書きのシャンタウロンもシャントウロン(双頭竜)が正解みたいです、ウィキ見て確認しました。
結論、うる覚えネタを思いつきでぶっ込むの良くない(^^ゞ


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第七話 ハドラーの日常(前編)

書き溜めはここまでです。明日以降は不定期更新となります。

あと鎧の魔剣について質問がありましたので回答を。
今作の鎧の魔剣の頭部は鎧の魔槍の様な冠型で、剣を収納する時は額の部分に柄の部分が短くなって額に張り付き、額当ての様になります。
刃の部分は原作通り頭部向かってに鎖状に伸びます。
剣を使う時は柄の部分が伸びてソコを掴み、剣に変形します。

ハドラーがパーツを盗んだ時にアムドして試して「収納する時出来ないとヤバいなぁ」と思って改造しました。
キラーマシンを作るときに培った技術あったので改造出来ました、と後付しときます(^^ゞ


 アルビナスが俺の副官件秘書になって数ヶ月が経った。

 アルビナスのおかげで俺の生活は前とは比べ物にならない程にまともになったよ。

 仕事中は確かにアルビナスからの鋭すぎるツッコミは喰らうが仕事以外は自由しさせてくれるからね。

 いやぁ寝なくても良い体とはいえ、毎日ちゃんと寝ないと精神が磨り減るから寝れるだけでも本当に助かる。

 今日はそんな俺の一日を紹介しよう。

 

 〜6時00分〜

 

「ハドラー様、起床のお時間です」

 

「ふぁ〜、おはようアルビナス」

 

 毎朝6時00分ピッタリにアルビナスが起こしてくれる、有り難いのだが何故か毎度俺のベッドの横におるんよね? 俺は確かに寝室にカギをして寝てるんだが。

 

「今日のモーニングはハムエッグとポテトサラダとジャムトーストとハドラー様の好きな甘ーいカプチーノです」

 

「何時もありがとうな」

 

 そして必ず朝飯の用意もされてる、本当に不思議なんだが俺の好みも完全に把握されてるんだよね。

 あれか、禁呪法で生み出したからアルビナスの好みが俺と一緒なんかね? 

 

「さぁ、さっさと食べて仕度して下さい。今日もお仕事は沢山ありますよ?」

 

「はーい」

 

 〜7時00分、仕事開始〜

 

 さて仕事するか、つっても以前に比べたら格段に楽なんよね。

 何故なら、

 

「ハドラー様、今日優先するべき書類はこちらになります。またこちらの書類は明日までに終われば良いのでソチラが終わり次第お願いします。後、この書類はハドラー様のサインが無くても良いモノですので私が代わりにやります、後で確認だけお願いします」

 

 アルビナスが優先度の高い順に割り振ってくれるからね。

 しかも以前は下から上がってきた書類に不備があれば前は俺が直接書いた奴のとこ行って確認したが今はアルビナスがやってくれる。

 

「ハドラー様、姿勢が悪いです! 司令ならいつなんどきでも人に見られて恥ずかしくない姿をして下さい!」

 

「はいっ!」

 

 この説教さえ無ければ本当にアルビナスは最高なんだけどね。

 

 〜12時00分〜

 

 んー、昼やな。

 

「ハドラー様、ランチのお時間です」

 

「本当に毎回時間に正確やね」

 

 俺、アルビナス作るときに時計でも混ぜたっけな? そう思う程にはアルビナスは時間を厳守する。

 

「食べながらで良いので聞いて下さい」

 

 俺はムシャムシャと昼飯食いながら頷く、前に食いながら返事したら「お行儀が悪い!」って怒られたからね。

 

「現在の各団の兵士集めの状況報告です。魔影軍団、不死騎団は順調です。ミストバーン様、ヒュンケル様の両名により、かなりの数の兵士が揃いました。ですがそろそろ『さまようよろい』の材料となる鎧や『しりょうきし』用の死体のストック等が尽きそうです」

 

 その辺はしゃあないよね、暗黒闘気さえあればいくらでも作れるといえど材料は要るからね。

 

「次に妖魔師団ですが数は揃いましたが質に関してはイマイチといったところですね。個々の兵士一人一人の習得魔法のレベルが低いです」

 

 それな、原作やゲームでは中位上位の呪文をバンバン使ってたモンスターでも、この世界では個々のレベル次第で覚えてる呪文で違う。

 俺は食後の茶をすすりながらアルビナスに自分の意見を言う。

 

「その辺はザボエラ、ザムザが頑張って各兵士のレベル上げやってもらうしかないね」

 

「はい、ですが副官のザムザ様はともかくザボエラ様は……」

 

「またサボってバーン様のトコにゴマスリに行ったの?」

 

 ザボエラはどうも俺をナメきってるみたいで、しょっちゅう仕事をザムザに押し付けてバーンのトコに行こうとする。

 原作では途中までは原作ハドラーにもゴマスリしてたが、この世界では俺が任せた仕事を放置してまでバーンに直接取り入ろうとするんよね。

 多分、原作ハドラーとは違い俺が出世とか保身に一切興味無いから取り入る旨味が少ないとか思ってるんかね。

 あの妖怪ジジイめ、書類作成能力と研究者としては超がつくレベルの一流だから魔団長にしてるがそうじゃ無かったらザムザとマジで交代させたい、残念ながらまだザボエラの方が能力は上だから交代させられないけど。

 ザムザがザボエラ以上に成長したらガチで交代させようと密かに決めてたりするのよね。

 

「ち、しゃあないから午後からザボエラに説教するか」

 

「ハドラー様、それには及びません」

 

 へ? 

 

「ザボエラ様はバーンパレスに移動中のとこを私とミストバーン様で捕まえて、今は自室で椅子に縛り付けて頭と膝に漬物石を乗せた状態で仕事をさせてますわ。ふふふっ、監視役をミストバーン様にお借りしたパペットマン三体にやらせてますから魔法で脱出する事も出来ませんからご安心して下さい」

 

 自業自得なんだがちょっとだけザボエラに同情、つかウチの副官が優秀すぎて怖い。

 

「次は百獣魔団です、こちらは地上のモンスターの勧誘をしてますが、やはり人間達に気付かれない様にとなると、かなり手こずってますね」

 

 これはクロコダインに能力が足りんと言うより俺のせいやね。

 俺がクロコダインにくれぐれも目立つなと言ったから手こずってるんよ。

 何でこんな指示出したかと言うとアバン達、現在の勇者パーティに気付かれない為。

 原作開始時点では勇者の家庭教師の仕事ばかりで自身の鍛錬をサボってたのと老化(確か原作開始時点で三十前後やから全盛期は過ぎてるよね)で衰えたアバンだが、今はまだ二十代で全盛期バリバリ。

 おまけに当たりさせすれば問答無用で消滅させる『メドローア』を使えるマトリフ、数十秒なら本気出したミストと戦えるブロキーナまでいる。

 マァムの両親に関してはどれ程強いか分からんが、それでも勇者パーティの一員だから弱いことはないやろ。

 

 そんな連中にいくら獣王と言えど準備が万全では無い状態で戦わすなんて自殺行為以外の何物でもない。

 だでクロコダイン自身は渋ったが人間達に極力見つからん様に行動すりように言ってあるんよ。

 どうせ俺とバーンが地上に拠点移したらモンスターは凶暴化するんだし、クロコダインはゆっくりと原作のガルーダみたいな中隊長やれるような忠臣探しをしてくれればいいさ。

 

「そして超竜軍団ですがハッキリ申し上げると、この軍が一番兵士の集まりが悪いですね」

 

 これもしゃあないよ。

 ドラゴン種は強力だがそれ故に個体数が少なく、しかも群れる習性が無い。

 だから、いかに竜の騎士バランと言えど一体づつ探して力で一度上下関係を叩き込まないといけないのよね。

 

「百獣魔団と超竜軍団は予想通りやね。まぁゆっくりやって貰うしかないさ」

 

「ではクロコダイン様とバラン様には、そうお伝えしときます」

 

 本当は魔界のモンスター達を軍を組み込めば楽なんだが、それは出来ない。

 実は魔界のモンスターには致命的な弱点がある、それは太陽光に弱いって事だ。

 魔界にはもう何万年と太陽光が無い、その為に魔界のモンスター達は太陽が無くても生きていける様に進化した。

 これ自体はいい事なんだが逆に言えば太陽光、もっと言うなら太陽光に含まれる紫外線に耐性が無いんよ、どこぞの乙女の柔肌かよ。

 皮膚が厚かったり、そもそも生物として強靭な種族なら大丈夫だが、スライムベスや大ミミズみたいな皮膚の弱いモンスターだと一時間もあれば紫外線で焼かれて死ぬ。

 そうでなくても大抵のモンスターなら皮膚の炎症は避けられない。

 これは完全に俺の予想だが原作で魔界のモンスターの出番が少なかったのも、この弱点があったからじゃないかな? 

 

 バーンは魔界に太陽光を注ぎ込む為に地上を吹き飛ばすつもりだが、この計画自体この弱点のせいで実は破綻してるんじゃないかね? 

 ちなみに俺の種族である魔族は強靭な種族に該当するので日光の下でもへっちゃら、でも地上行くときは念の為に日焼け止めクリームを塗ってるよ、肌荒れ防止は大事よね。

 

「では最後の氷炎魔団ですが……」

 

「いや言わなくていい、何となく予想できるし」

 

 フレイザードだしね。

 

「ですが業務ですので一応報告します。数自体はかなり揃いましたが、その内の1/3が『ばくだんいわ』なのが気になりますね」

 

「あいつはブレないね、本当に」

 

 フレイザードはアルビナス以上に俺の性格を受け継いでるから説教しにくいのよね、自分自身を怒ってるみたいで。

 妥協案として鬼岩城の外にプレハブ小屋を作って『ばくだんいわ』専用とした、んだが既に一つ目が埋まり二つ目のプレハブ小屋も既に半分埋まったよ、そろそろ三つ目作らなかんな。

 だが職人肌なフレイザードが丹精込めて作った『ばくだんいわ』の出来は良いんよね。

 普通の『ばくだんいわ』の数倍の威力のメガンテを誇るフレイザード特製『ばくだんいわ』は侵略戦争しようとしてる我が軍には有用なんよ、神風要員として。

 だから余計に注意しにくいんよね。

 

「報告は以上です」

 

「報告ありがとう、んじゃ午後の仕事するか」

 

 〜13時00分、午後の仕事開始〜

 

 さて次の書類は……げ、バーンからかよ。

 バーンは用事ある時は前は悪魔の目玉使って直接呼び出されたがアルビナスに言われて(心が折れるまで怒られたとも言うザマァww)からは、ちゃんと書面と言う形で伝えてくれる様になった。

 嫌だが読むか、何々……今の魔王軍の組織図を知りたい、か。

 以外とまともやな。

 

 アルビナス作る前は、やれ暇だからチェスの相手をしろだの、やれどれだけ強いから知りたいからバランと一騎討しろだの、と無茶振りばかりしてきたんよね。

 その度にミストと酒好きなクロコダインと三人で(偶にザムザも加わって四人で)愚痴りながら呑んだなぁ、まぁミストは呑めんから一方的に聞いてる事が多かったが、だが偶にミストが半ギレして俺とクロコダインが聞き役になる日もあった。

 

 まぁそんな事は置いといて、現在の魔王軍の報告書作るか。

 

 まずはトップ、大魔王バーンやね。

 この下に本来は右腕たるミストが要るんだが今は魔団長だから外す、と。

 だから大魔王直属の部下は普段殆ど居ない死神キルバーンと、前世で言うとの警備部に該当するマキシマム率いるバーンパレス守護部隊の十六体のチェス戦士がいる(以前、宝物庫に忍び込んだ時にオリハルコンの駒無いなぁって思ったら全部この部隊が使ってやがったよ、チクショー)。

 ちなみに何故かマキシマムに俺はアホみたいに嫌われてるので殆ど話した事がない、何故に? 

 

 んで次は俺、つまり魔軍司令ハドラーと魔軍司令補佐アルビナスが所属する司令部。

 本来なら更にこの下に司令直属の親衛隊が所属するんだが俺の命令で作ってないから司令部所属は俺達二人だけやね。

 まぁアルビナスが優秀やし忙しい時はミスト、ロッキー、ザムザが手伝ってくれるから今は二人でも問題無いよ。

 この司令部が前世で言うとの総務部兼経理部に該当する。

 

 次は百獣魔団、団長は獣王クロコダインで副官はガルーダ。

 いや副官が喋れないモンスターな時点で色々アレだがクロコダイン自体が事務仕事を期待出来ないからもう色々と諦めた。

 所属する兵は植物系、動物系モンスター、虫系モンスター、スライム種などに加えて俺が割り振ったホークマンやガーゴイルなどの呪文を比較的に得意とする悪魔系モンスターやね。

 

 そんで超竜軍団の団長は竜の騎士バラン、副官は竜騎衆の陸戦騎ラーハルト。

 他にも鳥人間やトドマンが竜騎衆が居たはずだが俺は見たことない。

 所属する兵はドラゴン、ヒドラ、ガメゴンロードなどのドラゴン種。

 この二つの軍団は現在は地上にて兵士集めしてるから前世で言うとの営業部やね。

 

 次は不死騎団、団長は若きエースのヒュンケル、副官は腐った死体なのに全く腐ってないモルグ。

 所属する兵はゾンビやガイコツなどのアンデッドモンスターだ、余談だが不死騎団にも悪魔系モンスターを割り振ろうとしたんだがヒュンケルに思いっきり断られた、ぴえん。

 

 んで氷炎魔団、団長は俺の長子のフレイザード、副官は頼れる事務員で爆発しない『ばくだんいわ』のロッキー。

 所属する兵はフレイム、ブリザードなどのエレメント系にゴーレムやストーンマンなどの物質系、そしてフレイザードの趣味で山のように作られた『ばくだんいわ』……。

 

 この二つの軍団に関しては今は育成枠やね、基本兵士作り以外の仕事はあまり振らんようにしてる

 団長二人がまだ若いし自分の修行に集中して欲しいからなるべく余分な仕事を回さんようにしてる。

 その代わりに副官達は司令部に借りてるけどね。

 

 お次は妖魔師団、団長はサボり魔妖怪ジジイのザボエラ、副官はその息子な筈なのに性格は全く似なかった妖魔学士ザムザ。

 所属する兵は魔法使い型モンスターに悪魔の目玉、あとは俺が割り振ったアークデーモンやトロールなど肉弾戦が得意な悪魔系モンスターだ。

 ここは技術開発部やね、俺が超魔生物になる為に必要だからなるべく予算を回すようにしてる。

 ミストやアルビナスに睨まれんように予算を増やすのは大変だが俺の将来的に絶対に必要な部署でもある。

 

 最後は魔影軍団、団長は俺の苦労人仲間のミストことミストバーン、副官はミストの分身のシャドー。

 所属する兵は暗黒闘気で出来てるゴースト型や『さまようよろい』などのリビングアーマータイプのモンスターやね。

 ミストが魔王軍最古参なもんで俺が色々頼ってる軍やね、正直今からでも良いからミストと司令代わって欲しいよ

 

 と、改めて思い返すとに我が軍も形になったなぁと思う。

 まだまだ完成とは言えないが原作開始までには何とかなるでしょ。

 さてこれらの情報をバーンに見られても問題ない書類にしたら、そろそろ今日の業務も終わりか。

 今日は仕事終わったら何しようかな? 

 

 ▼▼▼

 

 オ・マ・ケ

 

「ではこれより第一回、魔王軍副官会議を始めます。司会進行は魔軍司令補佐の私、アルビナスがやらせて頂きます。まずは初対面の方もいらっしゃいますから自己紹介からお願いしますm(_ _)m」

 

「クァクァ、クァー! (百獣魔団のガルーダだ、よろしく!)」

 

「(何故鳥がここに?)超竜軍団の陸戦騎、ラーハルトだ」

 

「はじめまして、氷炎魔団の副官をさせて頂いておりますロッキーです」

 

「おや次は私ですな。モルグと申します。所属は不死騎団です」チリーン♪

 

「魔影軍団副官のシャドーです、シャドーだけに影が薄いですがこの会議では頑張ってアピールするつもりですので、よろしくおねがいします」

 

「キヒヒ、最後はオレか。妖魔学士ザムザだ。所属は妖魔師団、よろしくな(本当は司令部所属になってハドラー様の右腕になりたいが)」

 

「(何やらザムザ様から不穏な気配が、気の所為?)この会議は我々副官が所属に関係なく意見を交換する場として設けました。皆様どんどん意見を言って下さいね」

 

 ▼▼▼

 

「……ミストバーンよ、ついにオマケにまで余の出番が無くなってしまったんだが」

 

「……(バーン様、自業自得ですw)」




魔界のモンスターが日光に弱い設定は本作オリジナルです、原作ではそんな描写はありません。
魔界のモンスターが出番が少ない理由をこじつけた結果こんな感じになりました。


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第八話 ハドラーの日常(後編)

今回は超難産でした、具体的にはアルビナスが。
もうアルビナスが暴走して書きにくい書きにくい(汗)


 〜18時00分〜

 

 うっし、バーンに出す書類は終了っと。

 思ったより時間が掛かったな。

 

 コンコン

 

「ハドラー様、そろそろ業務終了のお時間です」

 

「うん、本当に時間に正解やね」

 

 律儀にノックして入ってきた来たのはやはりアルビナス。

 この部屋はアルビナスの執務室でもあるから、いちいちノックしなくても良いって言ってあるんだけどね。

 本当にアルビナスはきっちりした性格だよね、俺の性格が反映されてるか疑うレベルで。

 

「ありがとうございます。書類は私が回収して大魔王様に提出しときます。ハドラー様お疲れ様でした」

 

「おつかれ〜。アルビナスも提出したら、ちゃんと休みなよ」

 

 〜19時00分〜

 

 今日の業務が終わりアルビナスが用意した晩飯を食べたら、残りは待ちに待った自由時間。

 さて、先ずは明日の仕事中に食べるオヤツを作るか。

 ……よし、明日はドーナツにしよう。

 味はプレーン、チョコ、抹茶、あとはそうだな……バーンに渡すようにコーヒー味でも作るか、前にコーヒー味のプリン渡したら、えらく気に入ってたし。

 

 本当はバーンの為になんぞ作りたくないがミストに頼まれてる為に、しゃあなく毎回バーンの分も用意してる。

 ただバーンにだけ渡すのは癪なので魔王軍みんなの分も用意してるよ。

 その為かなりの量になるのだが毎回大量に作るもんで俺も慣れた、ハイスペックな魔族の体はそう簡単に疲れないしね、

 ちなみにバーンに渡す役はミストがやってる。

 俺が一度、直接渡したらバーンが色々と注文つけて俺がキレかけたからミストが気を遣ってくれてんよね、ミストに感謝、バーンに怨念。

 

 さて先ずは大量の油をメラゾーマで温めるか。

 

 〜20時00分〜

 

 そして出来上がった大量のドーナツの山、こんなけ作っても直ぐに無くなるんよね。

 俺の作るオヤツは部下たちに大好評で毎回全部無くなる。

 うん、作った側としては嬉しい限りだ。

 俺は作ったドーナツのうち二人分を持って厨房を後にする。

 

 〜20時10分〜

 

「おーい。フレイザードにヒュンケル、夜食持ってきたぞ」

 

「おうオヤジ、待ってたぜ」

 

「……チッ」

 

 訓練所に着いた俺を機嫌よく出迎えてくれたフレイザードと、その逆にあからさまに不機嫌な態度のヒュンケル、二人とも修行に励んでるみたいで結構結構。

 フレイザードとヒュンケルはよく一緒に修行してる、二人とも団長の中では若いという共通点があるから仲は良いんよね。

 ただし俺はヒュンケルに嫌われてる。

 まぁ転生する前とはいえヒュンケルの育ての親を処刑してるし仕方ないよ。

 ヒュンケルは何時も通り俺と入れ替わるように黙って訓練場を出てく、ただしシッカリと自分の分のドーナツは持ってね。

 

「相変わらずオヤジはヒュンケルに嫌われてるなムシャムシャ」

 

 氷の手で器用に凍らせないようにドーナツを食べるフレイザードはヤレヤレといった感じで話しかけてくる。

 

「しゃあない、アイツの父親とは昔色々あったからね。それでもヒュンケルが俺の作ったオヤツを食べてくれるだけで満足してるよ。フレイザードもその事でヒュンケルを責めるなよ?」

 

「わーってるよムシャムシャ」

 

 そう言い終わるとフレイザードは残ったドーナツを黙って食べる。

 ヒュンケルに関してはいつかは和解したいけど溝は深い、どうしたもんかね。

 

 〜20時30分〜

 

「うっし、食べ終わったぞオヤジ」

 

「おう、んじゃやるか」

 

 最近この時間はフレイザードと修行する事が多い、偶にクロコダインがいる時は混ざることもあるが基本は二人だね。

 ヒュンケルには嫌われてるし、ザムザ、ザボエラ親子は夜遅くまで研究してるし、バランは殆ど鬼岩城に居ないし居たとしても見下してる俺とは修行するわけ無い、ミストはこの時間は大体バーンのとこ行ってるかヒュンケルと修行、必然的にフレイザードと二人っきりで修行する事になる。

 ちなみにアルビナスにも声はかけたんだが「私には他にやる事がありますので」と断られたので、それからは誘ってない。

 アルビナスも呪法生命体とはいえ女の子やし、父親の俺と四六時中一緒に居るのは嫌だと思うからね。

 

 それに息子と二人っきりで修行するこの時間が俺は割と好きだったりするんよね。

 

「それ、『フィンガー・フレア・ボムズ』! と、そいやオヤジ」

 

「アチチッ、『マヒャド』で防御! っと何だフレイザード?」

 

 どうでもいいが必殺呪文を使いながら緩く会話する俺等って変に器用だよね。

 

「いやヒュンケルの事なんだがな、どうもオレとの修行の後も一人で修行してるみたいなんだよ。なら『マヒャド』返し!」

 

「そらヒュンケルらしく勤勉やな。なら足払いじゃ!」

 

「いやそれは良いんだがよ、やっぱ一人で修行しても効率が悪いと言うか寂しいと言うか。なんのジャンプで避けるわ!」

 

「師匠のミストと修行してるんじゃなかったんか? 甘いぜ『イオナズン』!」

 

「それがミストバーンには免許皆伝を貰ったみたいで最近は一緒に修行して無いらしいんよ。なら『トベルーラ』で空中に逃げる!」

 

 そいやこの前ミストが「ヒュンケルには暗黒闘気の使い方は全て教えた、闘魔傀儡掌だけなら師の私をも超えてしまったしな」って自慢気に言ってたわ。

 あからさまに嬉しそうにしてたしミストも大概師匠バカやね。

 どうでもいいが至近距離で放った呪文をどうして避けるれるんだよ? フレイザードの戦闘センスもパねえわ。

 

「……なら俺がここに来るのをやめるか? 追撃の『ベギラゴン』じゃぁ!」

 

 それは寂しいが可愛い部下の為なら我慢するよ。

 

「いや、それはオレが嫌だ。オレはオヤジと修行するの好きだし。モーションでバレバレだぜオヤジ!」

 

 嬉しい事言ってくれるぜ。

 あと普通に『ベギラゴン』避けられたぜ、この前覚えたばかりの新呪文なのに。

 

「ならどうするんだ? っと、『ヘルズクロー』連打だ!」

 

「それなんだがよオヤジ。ヒュンケルの修行相手出来そうな奴を紹介してくんない? っつ、だが避けれないことは無い!」

 

 マジか、これも避けるかよ。

 つうかヒュンケルの修行相手ね、他の団長達は多忙だしなぁ。

 団長以外で修行相手になるようなヒュンケルと同等の戦闘力がある奴なんて……

 

「……一人、心当たりがあったわ。ちよっ、おま! それはヤバいって!」

 

「本当か、教えてくれ! お返しだ、問答無用の『フィンガー・フレア・ボムズ』十連打ぁぁ!!」

 

「バランとこの副官のラーハルト、アイツなら同じ戦士だし年も近いだろうから良いライバルになるんじゃないかな? なんの、ヤケクソの『マヒャド』十連打で防いだるぅぅ!」

 

 と、こんな感じで俺等親子の修行は毎回雑談しながらながら熾烈を極めるんだよね。

 

 にしてもヒュンケルとラーハルトかぁ、良いコンビになりそうだしダメ元で会わしてみっかな? 

 

 〜23時00分〜

 

 フレイザードとの修行が終わり、回復&風呂も終わり一日もそろそろ終わる、さて寝る……と思った? 残念、まだやる事があるんだよ。

 それは……

 

「さて、キラーマシン作りの続きするか!」

 

 キラーマシン模型の制作なんだよね。

 

「今日はジョイント付けて合体機構を……いや先にブースター付けるか」

 

 最近は色々なパーツやギミックを作ってキラーマシンに仕込むのが楽しい、既にキラーマシンぽさが無くなりかけとるが顔がキラーマシンならキラーマシンだよな! 

 ……まぁ今作ってるのはノリでツインアイ型なんだけどね(^^ゞ

 

 俺の一日の中で最も安らげる時間なので、どんなに疲れててもキラーマシン制作だけは欠かしたことないんよね。

 はぁ、やっぱ楽しい。

 こんなんだからフレイザードの『ばくだんいわ』作りを強く注意することが出来ないんだよね、気持ちが嫌ってほど分かるから。

 フレイザードも今頃は『ばくだんいわ』作りに熱中してるだろうし。

 そいやアルビナスはどうなんだろ? アイツの趣味って聞いたことないな、今度聞いてみるか。

 

 〜0時00分〜

 

 おっと、そろそろ寝る時間だ。

 あんまし遅くまでやってるとまたアルビナスに怒られるから寝るか。

 

「んじゃ、おやすみ〜」

 

 誰も居ない自室だが俺は挨拶してから寝る癖があるんよね。

 ではでは、おやすみ〜。

 

 ▼▼▼

 

「は〜、やっぱり素晴らしいわぁ、ハドラー様ぁ♡」

 

 私、アルビナスには絶対に誰にも知られてはいけない趣味がある。

 それはハドラー様を悪魔の目玉で観察すること。

 この悪魔の目玉はザボエラに頼んで(脅して無理やりとも言う)作らしたレムオルを常時使用する特製の悪魔の目玉。

 ザボエラには他言無用と口酸っぱく脅してあるからこの悪魔の目玉の存在はハドラー様も知らない。

 

 私の日課は業務終了後にこの悪魔の目玉でハドラー様を愛でること。

 

「楽しそうに料理をするハドラー様も、凛々しく修行するハドラー様も、真剣に模型作りするハドラー様も、みんなみんなス・テ・キ♡」

 

 あぁこの映像を永遠に保存出来たら良いのに。

 そうだ、今度またザボエラに頼んで(脅して)映像を保存出来るように改良させましょう。

 

「さて、ハドラー様のお食事の仕込みをしなくては」

 

 明日の朝食は小倉トーストにしましょう、でもそれだけだと栄養が偏るからポタージュとサラダも。

 

「そしてそれが終わったら今度はハドラー様の寝顔を堪能しましょう♡」

 

 はぁ私が寝なくてもよい呪法生命体で本当に良かった、だって朝までずっとハドラー様の寝顔を見る事が出来るんですもの。

 

「ハドラー様、おやすみなさい♡」

 

 さぁ愛するハドラー様の為に今日もがんばりますわよ! 

 

 ▼▼▼

 

 オ・マ・ケ

 

「では初回の今回の議題はズバリ、上司への不満です。ではガルーダ様からどうぞ」

 

「クァ、クァー。クァ! (クロコダインの旦那の不満か、だったら少し痩せて欲しい事かな。クロコダインの旦那を掴んで飛ぶんだが重くて毎回シンドイんだよね!)」

 

「なるほど、それは確かに辛そうですね。では次はラーハルト様、おねがいします」

 

「(何故アルビナスはガルーダの言葉が分かるんだ?)オレはバラン様への不満など無い、バランは最高の主君だからな……まぁ、あえて上げるなら書類仕事をもう少し出来るようになって欲しい事ぐらいか」

 

「ありがとうございます、事務能力に関してはバラン様に精進して頂きたいと私も常々思っております。次はロッキー様、おねがいします」

 

「フレイザード様の不満ですか、それなら一つしかありませんね。まぁアルビナス殿も予想出来ると思いますが『ばくだんいわ』を大量に作り過ぎることです。私自身もその一体なので強くは言えませんが、外の『ばくだんいわ』小屋なんて完全に危険物保管庫となってますから怖くて近づけ無いですよ」

 

「本当にそうですね。ロッキー様と同じでフレイザード兄様の作る『ばくだんいわ』は非常に出来が良いから、また困りモノですわ。ではモルグ様おねがいします」

 

 

「ヒュンケル様の不満ですか。不満と言うか心配事ですがヒュンケル様は憎しみに囚われ過ぎてる傾向にありまして。無論それがヒュンケル様の強さの源になってるんですが、もう少し力を抜いて気を楽にして頂けたらと思っております。本当は友達でも居たら少しは気が紛れるんでしょうがヒュンケル様は魔王軍唯一の人間ですから孤立気味でして」チリーン♪

 

「まるでモルグ様はヒュンケル様の父親みたいですね。ラーハルト様はヒュンケル様とお年も近いですから、ご友人になれるのでは?」

 

「オレが? まぁ友人になれるかどうかは分からんが修行相手位なら構わんぞ」

 

「それで結構ですのでおねがいします」

 

「ありがとうございます、ラーハルトさん。ヒュンケル様を何とぞよろしくお願いします」チリーン♪

 

「では次はシャドー様お願いします」

 

「……私、先程言った様に影が薄いんですよね。まぁ影のモンスターですから仕方ないですが。だからと言って眼の前に居るのに気づかないって、ミストバーン様あんまりですよーーっっっ!」

 

「……何というか魂の叫びですね。ではザムザ様、お願いします」

 

「キヒヒ、やっとオレか。オヤジへの不満なら腐るほどあるぜ。まずすぐに仕事をサボるだろ、次に俺に仕事を押し付けるだろ、そのくせ俺の事を道具としか思ってないだろ……と、言い出したらきりが無いが、とにかく最低のオヤジだぜ。いいよなアルビナスは、父親がハドラー様で。俺もハドラー様の子供に生まれたかったよ」

 

「(先程感じた不穏な気配の正体はコレか!)まぁザボエラ様には、またキツーイおしおきをしときます」

 

「あぁ頼んだぜ(出来たらオレを司令部に転属させて欲しいが、それは流石に無理か)」

 

「(ザムザ、ハドラー様の右腕の座は渡しません!)では最後に私、アルビナスが言わせて頂きます。皆様も知っての通りハドラー様はとても優秀で知的で素敵なお方ですが、少々気を抜くとダラケてしまうのが不満ですね。無論ダラケたハドラー様も可愛らしくて素敵なんですが、その姿を部下達に見られるのは我慢なりません。あんなに素晴らしい方なのにダラケた姿を見られて馬鹿にされるなどあってはならないのです!」

 

「クァ(へー)」

 

「(不満というか殆どノロケでは?)」

 

「(と言うか完全にノロケてますね。いやはや魔軍司令殿も隅に置けないですな)」

 

「(でもハドラー様本人は気づいてないと言うのがまた。ヒュンケル様にも恋人が出来たら私も安心出来るんですがね)」チリーン♪

 

「(それだけ好きならば付き合えば良いのでは? お似合いのカップルだと思うのですが)」

 

「(わかる、わかるぞアルビナス! ハドラー様ほど素晴らしい上司は他に居ないよな!)」

 

「おっと私とした事がはしたない姿を失礼しまたした// ではこれにて第一回魔王軍副官会議を終わらせて頂きます。皆様、本日はお集まり頂きありがとうございました」




補足、ハドラーとフレイザードが原作では未使用の呪文を使用してますがコレは修行の成果で作者が間違えた訳ではありません。


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第九話 大家族スペシャル

誤字脱字報告してくれた方、ありがとうございますm(_ _)m


「あー、憂鬱だ」

 

 今日は月イチのバーンへの定期報告の日、俺はこの日が大嫌いなんだよね。

 

「ハドラー様、嫌なのは分かりますが態度には出さないで下さいね」

 

 その為に俺達はバーンパレスにわざわざ来てる、わざわざと言うがルーラで一瞬なんだけどね。

 ちなみにメンバーは俺、アルビナス、ミスト、そして何かとバーンに気に入られてるヒュンケルの四人。

 ザボエラの奴も参加したがったがアイツが居ると只でさえ面倒くさい報告が更に長引く。

 だからアルビナスが魔力空にしたうえでザムザ監視の元に鬼岩城で留守番&書類仕事をさせてるよ。

 

「……良いでは無いかハドラー、アルビナスが加わってからバーン様の無茶振りはほぼ無くなったのだぞ?」

 

「ミスト、俺は大魔王様に会うだけで気が滅入るの」

 

 よくミストは何千年もバーンの部下をやってられるよな、マジ尊敬するわ。

 話題を変えるために俺は後ろを歩いてたヒュンケルに話しかける。

 

「ヒュンケル、ラーハルト達との修行は順調?」

 

「……まぁ悪くない。ラーハルトもフレイザードも強者だから学ぶ事は多いし」

 

 この前ダメ元でラーハルトにヒュンケルの相手を頼んだから意外な事に二つ返事でオッケー貰えたよ。

 もう少し気難しい奴かと思ったが結構いい奴だったみたいね。

 それから俺が仕事中は三人で、俺がフレイザードと修行してる時はヒュンケルとラーハルトの二人で修行してる。

 パワーに長けて近距離からの剣術を得意とするヒュンケル、スピードに長けて中距離からの槍術を得意とするラーハルト、魔力に長けて遠距離からの魔法を得意とするフレイザード、とタイプがバラバラだから良い鍛錬になってる様だ。

 

「よかよか。三人とも若いんだし仲良くしてくれよ」

 

「……チッ!」

 

 だからといって俺への態度は相変わらずだけどね。

 

 ▼▼▼

 

 んでもって、こちら魔王の間。

 

「ふむ、皆のもの面を上げるが良い」

 

 ちなみにバーンは薄い垂れ幕の向こうで謎の影(笑)の状態です。

 どうもバーンは俺、ミスト、キルバーン以外には素顔を見せる気は無いみたいなんよね。

 だったら呼ばなきゃいいやん、と言いたいが悲しきかな、上司の命令には逆らえん宮仕えな俺達なんよね。

 

「……久々に余の出番が来たな」

 

「……バーン様、本編でメタな発言は控えて下さい」

 

 あら珍しい、ミストがバーンにツッコんでら。

 

「……ふむ、では本題に入ろう。ハドラーよ、この前の報告書を読ませて貰ったぞ」

 

 あー、アレね。

 あの無駄に時間掛かった奴か。

 

「そして読んで気になったのだが、何故お主は親衛隊を持たぬのだ?」

 

 え、そこ気になったの? 

 

「は! 私は司令官故に前線に出る機会は少なく、親衛隊を作る戦力を他の部隊に割り振る方が軍全体の戦力を上げられると思い、敢えて親衛隊は作りませんでした」

 

 そんなん当たり前だよね、バーンは平和ボケし過ぎて頭もボケたんか? 

 

「なるほど、お主の意見も一理あるな。だが今後本格的に地上侵攻するのに護衛は必要であろう?」

 

「まぁ……」

 

 あ、このパターンはマズイ。

 

「お主は魔王をやってた時から自身で前線に出るのが好きであろう?」

 

 そいや原作ハドラーはそんな感じやったね。

 俺は御免こうむるけど。

 

「なら今後の為に親衛隊を持て」

 

 はいキター、ひっさしぶりの無茶振り来ましたよー。

 いや、今回はバーンの言う事も間違ってないが。

 だが断る、今更親衛隊なんぞ持ったらマジで前線に出なかんやん。

 元一般人の俺はそんなん嫌だ。

 ここは一つ、またアルビナスに助……

 

「なるほど、大魔王様の仰る通り確かにハドラー様を守る為にも親衛隊は必要ですね」

 

 ……からねぇ! 

 え、何アルビナスもバーンに同意してんの!? 

 なら今度はミストに……

 

「……アルビナスが一人でハドラーの補佐を続けるのは負担も大きいでしょう。そういった意味でも親衛隊を作るのは悪くないですね」

 

 裏切られたー! 

 なんでアルビナスもミストも珍しくバーンに同意してんの!? 

 俺、人殺しなんてやりたくないんですけど! 

 ここは最後の砦、バーンに可愛がられてるヒュンケルが否定したらバーンも意見を変えて……

 

「……大魔王様のお言葉は全てに優先します」

 

 ……くれる前にヒュンケル本人の肯定貰いました。

 つかそれ、ミストの決め台詞ですから。

 いやぁ流石ミストの弟子だぁね、無感情な感じが原作のミストとそっくりだなぁ。

 ……ちくしょう、ヒュンケルめ。

 さっさと帰りたいから適当に返事してるな。

 ヒュンケルはバーンのご機嫌取りの為に毎回連れて来てるからか、最近は感情殺してバーンの話を流す術を習得してるからなぁ。

 

 この四面楚歌な場面、挽回は不可能だよね。

 はぁ、これ否定するの無理だよね。

 

「はい、ご命令通り親衛隊を作ります(泣)」

 

 もう諦めたよ。

 

 ▼▼▼

 

 さぁて、嫌々ながら親衛隊を作ることになった俺。

 問題はメンバーを何処から連れてくるかだ。

 百獣魔団と妖魔師団に割り振った悪魔系モンスターを回収するのは当然無し、そんな事したら両軍からひんしゅくを買うのが目に見えてらぁ。

 

 ……しゃあない、またフライング禁呪法を使うか。

 原作からズレるリスクがあるが、そんなん今更やし気にするのも面倒だ。

 問題が起きたらそんときに対策考えるさ。

 

 んで前回と同じくモシャスでキルバーンに化けて宝物庫から材料を失敬しました。

 流石に二回も鎧の魔剣からパクるのは気が引けたので、今回は鎧の魔槍からパクったよ。

 今回も試しにアムドってみたら肩パーツが無くなっただけだし問題ないやろ。

 つかスピード自慢のラーハルトには余分なパーツは無いほうが軽くなるから合理的だよね? と自分に言い訳しとく。

 ……やっぱ心が痛むからラーハルトには俺特性のフルーツタルトを作って持ってこう、ラーハルトは以前作ったフルーツゼリーをえらく気に入ってたし喜んでくれるでしょ。

 

 んでパクった鎧の魔槍のパーツに、前にアルビナスを作った時に余った鎧の魔剣のパーツ(キラーマシンに使おうと思って取っておいたのにチクショー!)を合わせてチェス駒を四つ作って、後は禁呪法って完成と。

 

「おーいオヤジ、用ってなんだ?」

 

「ハドラー様、言われた通りフレイザード兄様を呼んできましたよ」

 

 と、丁度タイミング良くフレイザードとアルビナスが合流してくれた。

 

「おーきたきた、今お前達の兄弟を作ってるところだぞ」

 

「兄弟だぁ?」

 

「なるほど、私達と同じ禁呪法で親衛隊を作る事にしたんですね。流石ハドラー様」

 

 フレイザードは首を傾げながら、アルビナスは感心した様子で俺の作業を見つめる。

 そして錬金釜が強い光を放ちその光が収まると4体のメタリックカラーな戦士達が姿を表す。

 

「オレは忠実なる兵士(ボーン)、ヒム!」

 

「私は戦場を駆ける疾風の騎士(ナイト)・シグマ! 以後お見知りおきを」

 

「我が名は僧正(ビショップ)フェンブレン! 完全無欠の狩人よ!」

 

「……城兵(ルック)……ブロック……ブローム!」

 

 おー、色んな意味で上手くいったわ。

 流石に三回目となると俺も慣れたもんだな。

 今回、俺は禁呪法を使う時に色々実験したんだが見事に全部成功したわ。

 

 実験内容を説明しよう。

 まず一つ目、複数の禁呪法生命体を同時に作れるか。

 二つ目は予めチェス駒に情報を刻んでおく(今回は各々の名前を駒の底に書いといた)と、その情報は禁呪法生命体の記憶に反映されるか。

 三つ目は原作で殆ど喋れなかったブロックを喋れるように出来るか。

 実験の成果は見ての通り大成功、いやぁ良かった良かった。

 

「おぅ、よろしく。俺はハドラーだ。んでコッチの二人は……」

 

「オレはお前等の兄貴のフレイザード。よろしく!」

 

「私は女王(クイーン)アルビナス。貴方達の姉にあたる者です。皆様、ハドラー様の為に誠心誠意尽くすように!」

 

「「「「御意! (ブローム!)」」」」

 

 おー流石アルビナス、一瞬でコイツ等をまとめ上げてるわ。

 

「お前達はこのアルビナスをリーダーとした『ハドラー親衛騎団』の隊員だ。みんな頑張ってくれよ!」

 

「……あれ、オレは?」

 

「……フレイザード、お前は氷炎魔団の軍団長だろ」

 

 フレイザードのボケにツッコミつつ俺は子供達の顔を見て考える。

 ……もう後戻り出来ないな。

 守るべき部下達がいる、可愛い子供達がいる。

 本当は怖いし嫌だが、俺は……地上を……人を……破壊する……魔軍司令……なんだ。

 覚悟……決める、しか……ないか。

 

 ふと自分の拳を見ると血が滲んでた、魔族の、青い血が……

 

 ▼▼▼

 

 〜アルビナス視点〜

 

 何やら考え込んたご様子でハドラー様は執務室に戻られた。

 少し顔色が悪かったから心配ですわ。

 

「……で、オレ達は何をすればいいんだ姉御?」

 

 ヒムと名付けられた新たな兄弟に呼び掛けられて私は思考をやめる。

 

「今、説明します。我々ハドラー親衛騎団の主な任務はこの鬼岩城の警備となります。それ以外に司令部の一員としての雑務もありますがソレは追々説明します。そして何より大事な任務は、ハドラー様の剣となり盾となりハドラー様をお守りすることです!」

 

 そう、それが何より重要。

 その為の親衛騎団なのです! 

 

「お、おう(姉御、すっげー気迫だな)」

 

「ふむ(姉上の言うとおりだ、その為にこのシグマは生まれたのだからな)」

 

「行意! (何か姉者に逆らっては気がするのはワシの気のせい?)」

 

「……イエス……ブローム(姉ちゃんコワイ)」

 

 おや、何やら気後れしてますね。

 いけませんね、ハドラー様の名を冠する親衛騎団とあろうものがそんなんでは。

 ここは弟達を鍛える必要がありますね。

 

「ではこれより我等、親衛騎団は訓練を行います。みんな私についてくるように!」

 

「へ? (いきなり?)」

 

「了解した(望むところだ!)」

 

「御意(何故ワシは姉者に逆らえんの?)」

 

「ブローム(手加減してくれますように)」

 

「あー、お前等の兄貴として一つ警告しとくわ……命が惜しかったら死ぬ気で頑張れよ、マジで」

 

「「「「へ? (何、その不吉な警告!?)」」」」

 

 あら流石フレイザード兄様、よくご存知で。

 ふふふ、覚悟して下さいね弟達。

 

 ▼▼▼

 

 〜訓練所〜

 

「ほらほら、そんな事でハドラー親衛騎団が務まりますか! ニードルサウザンド! サウザンドボール! オマケでベギラゴン!」

 

「いやオレ等生まれたばかりだってぇの!」

 

「く、フレイザードの警告はこの事か!」

 

「てか姉者、最初から足出して本気モードではないか!」

 

「……姉ちゃんテカゲンして」

 

「まだまだ! ここからが本番ですよ!」

 

「「「「マジですか!? (ブローム!?)」」」」

 

 ▼▼▼

 

「ほら次は筆記テストしますよ。席についてください」

 

「いやさっきも言ったがオレ達は生まれたばっかだよ! それでテス「あ゛? 文句ありますか?」……ありません」

 

「ヒム、諦めろ。フェンブレンもそう思……って居ない!?」

 

「……ニゲタ」

 

「全く無駄な事を。チェンジ本気モード!」

 

「グハッ! ワ、ワシに一瞬で!?」

 

「おしおきです、テァッ!」

 

 ドスッ! バキッ! 

 

「……すげー、一瞬でフェンブレンを捕まえてパイルドライバー(※プロレス技、日本名は脳天杭打ち)をキメたよ」

 

「……あぁ、無駄の無い完璧な技だったな」

 

「……姉ちゃん、コワイ……フェンブレン、バカ……」

 

「さぁさっさとテストを始めますわよ。フェンブレン、何時まで寝てるんですか!」

 

「り、理不尽じゃ……」

 

 ▼▼▼

 

 〜テスト後〜

 

「ヒム、何ですかこの点数! 何で貴方だけ0点なんです!?」

 

「だから生まれたばっかでテストが出来るかよ!?」

 

「お黙り! 我々禁呪法生命体は生まれながらにハドラー様の知識を受け継いでます、それを確かめる為のテストなのに何で貴方だけ0点なんですか!?」

 

「え、オレだけなの!?」

 

「ふむ、私は90点だぞ」

 

「ワシは20点だ」

 

「……ブロックは60点。ヒム、バカ……」

 

「裏切り者ーッ!」

 

「これは補習授業の必要がありますね。ヒム、フェンブレン、この問題集をやりなさい! 終わったら再試します!」

 

「ワシも!?」

 

「当たり前です。ヒム程じゃないとはいえフェンブレンも赤点です。今日は終わるまで帰しません!」

 

「「姉御(姉者)、それは厳し過ぎるよー!!」」

 

「さてブロック、我々は補習授業も無いしハドラー様の手伝いをしよう」

 

「……サンセイ」

 

「「待って! オレを(ワシを)置いていかないで!!」」

 

「さぁ二人とも、ビシバシいきますわよ!」

 

「「ヒエーッ!!」」

 

 愛しのハドラー様、見ていて下さい。

 アルビナスが必ずこの愚弟達を鍛え上げて立派な親衛騎団員にしてみせますわ。

 

「弟達、覚悟しなさい!」

 

 ▼▼▼

 

 オ・マ・ケ

 

 〜数日後、魔王の間〜

 

「ヒュンケル、ラーハルトよ。くるしゅうない、面をあげるがよい」

 

「「はっ!」」

 

「……良かった、オマケにも余の出番があった」

 

「「はぁ?」」

 

「いやこちらの事だ、気にするな。さて、そなた等を呼んだのは他でもない。そなた等が魔王軍きっての戦士と認め、その証を授ける」

 

 〜ヒュンケルの前に鎧の魔剣、ラーハルトの前に鎧の魔槍が亜空間から現れる〜

 

「おぉ、これは見るからに禍々しい(だがデザインが悪いな、大魔王様の趣味か?)」

 

「これは一目で名品と分かります(でも先が重くて使い難そうだ)」

 

「ふむ、それは魔界の名工、ロン・ベルクの傑作『鎧の魔剣』と『鎧の魔槍』だ。二人とも手に持ち鎧化(アムド)と叫ぶが良い」

 

「「鎧化(アムド)!」」

 

「二人とも良く似合っておるぞ(ん? 何やら鎧のデザインが記憶と違うような、余の気の所為か? 光魔の杖の出来に満足して、この二つはそのま宝物庫に放置して忘れてたからな、記憶違いもあるか)」

 

「ありがとうございます、大魔王様! (でもやっぱりデザインは微妙だな、剣は間違いなく名刀だから使うけど)」

 

「必ずやこの槍を持って大魔王様に勝利をお約束します(でもオレはスピードで避ける戦闘スタイルだから鎧は余り意味はないな、槍は間違いなく名品だから使うが)」

 

「ふむ、二人とも期待しておるぞ(ふふふ、まぁ良い。久々に余の存在感を示せれて満足よ)」

 

 ▼▼▼

 

 オ・マ・ケ・そのニ 

 

 〜ヒュンケル、ラーハルト、バーンパレスからの帰り道〜

 

「そういえばヒュンケル、昨日ハドラーからフルーツタルトを貰ったんだが一緒に食わないか?」

 

「いいのか? ハドラーの作る菓子は今や魔王軍では取り合うほどの人気なのにオレに分けて」

 

「構わんよ、正直いきなりなんの脈略も無く渡されてどうしようかと戸惑ってな。あとアホみたいにデカいタルトで一人で食いきれそうにないんだ」

 

「……ハドラーは時々そういう事するからな、オレも以前あったよ。正直オレもハドラーの菓子は好物でな、ありがたく頂くよ」

 

「よし決まりだ、鬼岩城に戻ったらオレの部屋に来てくれ」




補足 ヒム、フェンブレンにもちゃんとハドラーの記憶は反映されてます。
ただ今回のアルビナスのテストは事務能力があるかどうかを確かめるテストで二人は事務能力に関する記憶は反映されなかっただけです、これは個体差なんで実は仕方ないんですけどね。
その証拠にヒムはパイルドライバーの事を生まれながらに知ってます、つまりヒムは戦闘に関する知識は受け継いでる事になります。
ちなみにフレイザードが仮に同じテストを受けたら70点位です。
フレイザードは身体の構造上、ペンが持てないだけで事務能力はハドラーから受け継いでますよ。
更に言うならアルビナスなら余裕で100点です、秘書させる為に作られたんで当り前ですがね。


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第十話 やっとこさ原作エピソード

 時は巡って現在は原作開始、約一年前。

 まずはここ数年の間にあったことを説明しよう。

 

 ハドラー親衛騎団の面々が魔王軍の愉快な仲間に加わった事で我が軍に大きな変化があった。

 まずは訓練、ハドラー親衛騎団は原作でも生まれながらの天才揃いだった、それはこの世界でも当てはまる。

 ヒュンケル、ラーハルト、フレイザードの三人の修行に親衛騎団が加わったことでかなり内容が濃くなり、ついでにヒュンケルが鎧の魔剣、ラーハルトが鎧の魔槍をバーンから貰って(俺が知らんうちに貰ってた)から更に濃すぎてカオスな事になった。

 

 あいつ等が練習場ぶっ壊してキレたアルビナスが全員に正座させて説教してるのも最早日常となりつつある。

 ついでにとばっちりで俺も説教されるのにも慣れた。

 いやあいつ等、修行を頑張るのは良いんだが熱くなりすぎるとやり過ぎるんだよね。

 特にお互いをライバル視してる同士が模擬戦すると特にその傾向が酷い。

 ヒュンケルとヒムの原作でもライバルだったコンビをはじめ、ラーハルトとシグマのスピード自慢コンビ、クロコダイン(ちょっと前に兵士集めを一区切り付けて戻ってきた)とブロックのパワー自慢コンビ、この3パターンで模擬戦すると特にやらす率が高い。

 ついでに何かと運が無くて要領が悪いからアルビナスにシバかれる率が高いフェンブレンをフレイザードが慰めてる光景も日常となった。

 ……フェンブレンは強く生きろ。

 

 だがやはり親衛騎団で最強はアルビナスだ、普段は修行に参加しないけどキレたら俺より強いんだよね、マジパネェ。

 上記のメンバーをまとめてシバキあげる技量は本当に大したもんだと思うよ。

 今のアルビナスならバランやキルバーンにも勝てる気がするのは気の所為じゃない気がしないでもない。

 

 と、問題も起こす親衛騎団だが仕事はちゃんとやるんだよね。

 特にシグマは頭も良く誠実な性格だから今では親衛騎団のサブリーダーのポジションに着いてる。

 事務能力も高いし本当に助かるわ。

 

 何気にブロックも見かけによらずに事務能力が高いのも助かる。

 ただバカでかいアイツ用に特注で机と椅子と筆記用具一式揃えるのは中々の出費だったがね。

 ……うん、調子に乗って俺が自腹で出だすとか言わなきゃ良かったと後悔してる、おかげで一時期財布の中身が寂しい事になったし。

 

 その二人とは逆に事務能力皆無なヒムとフェンブレンも中々役に立ってるよ。

 普段の鬼岩城の警備とは別にヒムは持ち前の兄貴肌を活かすために六大魔団の兵士達を鍛えるトレーナーの仕事もさせてる。

 特に団員数最大を誇る故にクロコダイン一人では面倒見きれん百獣魔団と、未だに団員集めに苦戦してる為に中々バランが帰って来れない超竜軍団の面倒を見てくれるのは本当に助かる。

 ……まぁラーハルトとはソリが合わないのか、しょっちゅう喧嘩してアルビナスに叱られてるのはご愛嬌だろ。

 ちなみにクロコダインとはウマが合うみたいで仲良くしてるよ。

 

 んで最後はフェンブレンだが……アイツは何というか……ご愁傷様としか言うしかない。

 別に悪い奴じゃないんだが要領が悪く失敗が多いんだよね。

 んで見かねたアルビナスが鍛えるために自分の助手と言う名のパシリにしちゃったのがアイツの運の尽き。

 とにかく色んな雑用をアルビナスにやらされて、んで失敗する度にアルビナスに説教とおしおきされるんだよ。

 見てて気の毒になったから何度か俺もアルビナスに手加減するように言ったんだが、その度に「ハドラー『様』は甘過ぎます!」と言われて俺も一緒に説教されるから俺も静観する事にした、アルビナス怖い。

 まぁおかげでフェンブレンの要領の悪さも大分マシになって説教される回数も大分減ったよ。

 ただちょっと前に失敗した罰として鬼岩城の裏にゴミ捨て場を掘ってる姿を見た時は俺も思わず目を逸らしたが。

 

「ワシのツインソードピニングはゴミ捨て用の穴を掘る為にあるんじゃなーい(泣)」

 

 と、ガチ泣きながら叫んでたのがまた哀れ。

 ……本当に強く生きろよ。

 

 とまあ、なんやかんやハドラー親衛騎団の面々は魔王軍に馴染んでました、ええ事だ(フェンブレンからは目を逸らしながら)。

 

 あとコレは凄く重要な事だがザムザがついに超魔生物の基礎理論を構築した。

 いやぁマジで良かった、本当に良かった! 

 ザムザ曰く「まだまだ荒削りで実験も必要ですが実用化はそれほど遠くないですよ」とのこと。

 本当にザムザは優秀な研究者やわ。

 俺、喜んだ勢いで思わずバーンにザムザを軍団長に昇格するように提案しちゃったわ、あっさり却下されたけど。

 以外な事にバーンはザボエラをソコソコ気に入ってるんだよね、バーン曰く「卑怯で姑息なとこが見てて飽きない」んだと。

 

 その事をザムザに謝るとザムザは落ち込むかと思ったら以外な事に前向きな返答貰って俺ビックリしたよ。

 

「キシシッ、大丈夫ですよハドラー様。この超魔生物理論を完璧にして実力でオヤジを蹴落として軍団長になってみせますから。大魔王様にもそうお伝え下さい」

 

 と、自信に満ちた力強い言葉を貰って俺は思わず涙出てきたよ。

 ザボエラ、お前が見下してる息子はお前の知らない間に立派に成長してるぞ。

 ザボエラがその事に気付く日が今から楽しみだ。

 そんな自慢の部下に激励の意味も込めて俺特製のチーズケーキをご馳走したのも懐かしなぁ。

 

 それ以外だと超竜軍団を除く六大魔団の兵士が実戦可能な人数に達して魔王軍は本格的に活動可能な状態になった。

 原作とは違い各軍団同士の交流も盛んに行われる為、多分原作の魔王軍より強いと思うよ。

 ……ダイ達は大丈夫かな、まさか一瞬で勇者パーティが全滅とか無いよね。

 

 と、ここ数年であった事をザックリ纏めてみた。

 うん、ダイ達アバンの使徒は超ガンバレ、本当に頑張ってくれんと俺が困る。

 

 ▼▼▼

 

 〜鬼岩城、魔王の間〜

 

 んでところ代わってコチラは魔王の間、俺と軍団長とその副官達はバーンに呼ばれてここに集合してる。

 なんでも鬼岩城の改築工事完了の式典をするんだとよ。

 

「ふぁ~あ〜」

 

「ハドラー様! アクビなんてみっともないですよ!」

 

「だってよアルビナス、もう一時間も待ちぼうけだぜ?」

 

「……まぁ今回はハドラーの気持ちも分からんでもないがな」

 

 本当に無駄な時間だ、まぁ昔と違って仕事が山積みって訳じゃないから良いが。

 別に俺とアルビナスが少々居なくても今の司令部はハドラー親衛騎団が居るから全然大丈夫だけど。

 

 ふと周りを見回すと各々がグループを作って雑談して暇を潰していた。

 フレイザード、ヒュンケル、ラーハルトの若手トリオは修行の話で盛り上がってる。

 バラン、クロコダインの武人コンビはお互いの現状報告をしてるな。

 んでザムザ、ロッキー、モルグ、ガルーダ、シャドーの副官ズは何故か俺が作る菓子はプリンとケーキのどっちが美味いか議論で白熱してる、いや本当に何故に? 

 で、ザボエラはグループから溢れたから一人黙って部屋の隅にいる、日頃の行いってこういう時にモロに響くよね。

 で、最後は俺、アルビナス、ミストの魔王軍のブレーン組、俺達もさっきから雑談で暇を潰してる。

 

「そいやミスト、キルバーンとマキシマムは来ないのか?」

 

「……一応は声はかけたがキルは自分は鬼岩城に所属してないと言って逃げ……いや、断った」

 

「思いっきり逃げたと言っとるがな。んでマキシマムは?」

 

「……アイツはキッパリと『ハドラーが居る鬼岩城に誰が行くか!』と言い切りったぞ、あのハイエナは一度思い知らせる必要があるな」

 

「ミストバーン様、その時は私もお手伝いしますわ!」

 

 マキシマムは本当に俺が嫌いなんだな。

 以前理由は聞いたんだが、その理由が俺がバーンに目をかけられて魔軍司令の立場に居るのが気に入らんのだと。

 なら魔軍司令代わってくれと言いたいが、アイツはキングのチェス駒から生まれたから守るは得意なんだが、逆に自ら行動して攻める方は苦手なんだよね。あと自信過剰でまぁまぁやからす、これじゃあ司令には出来んよ。

 まぁマキシマムはこれからもバーンパレスの守衛を頑張って貰うさ。

 

 ……本当に誰か魔軍司令代わってくんないかな、最近バーンの期待がヤバイ位高まって本当に辛い(泣)

 バーンの野郎め、何が「ハドラーなら地上侵攻など余裕だろ?」だ、何が「地上制圧後は余の右腕として地上の支配を任してやる」だ。

 そんなん俺は一切御免こうむる。

 俺は老後は子供達に囲まれて趣味の模型作りとお菓子作りしながらゆっくり過ごしたいんだよ! 

 はぁ、早く辞めたい。

 

 ▼▼▼

 

 

 それからしばらくして大魔王バーン登場。

 マジで退屈な時間やったわぁ。

 

「バーン様、六大魔団長及びその副官揃っております」

 

代表して俺がバーンに話しかける、一応責任者だからね。

 

「うむ。何度見ても実に頼もしい顔ぶれ、余は大変満足しておる」

 

 そら原作知識でアンタが満足するメンバー掻き集めたからね。

 これで満足しんとか吐かしやがったら俺キレていいよね? 

 

「では鬼岩城の改築を記念して余が特別に褒美をとらせよう」

 

 そして俺達の前に現れるトンデモナイ熱さの業火、その中心に趣味の悪いデザインのメダルが浮いてる。

 

「これは『暴魔のメダル』、さぁ我にと思わん者は手に取るが良い」

 

 あー思い出した、そいや原作でこんな場面あったね、 確かこれでバーンへの忠誠心を試したんだったな。

 

 ふと部下達を見るとみんな尻込みしてる。

 ヒュンケルやバランなどの耐性持ちすらビビる炎ってコレ多分カイザーフェニックスの炎よね? 

 『オイどうする』そんな気持ちを込めてミストに目線を送るとミストから『ハドラーに任した』と目線で返事を貰った。

 ……うん、ミストは傍観する気らしい。

 

 はぁしゃあない、ここは上司の俺ががんばりますか。

 俺の身体なら多分全身火傷で済む……と、思いたい。

 ……どうやら何人かは俺と同じように覚悟を決めたみたいだ。

 こいつ等に取らして火傷させるのはしのびない、そう自分に言い聞かして手をのばす……筈だった。

 だが俺は結局手を伸ばすことは無かった。

 横に居たフレイザードが業魔のメダルを掻っさらったから。

 

「ケッ! どいつもこいつも情けねえな、この程度で何ビビってやがる。あんまりにも遅いんでオレが代わりに貰ってやったわ」

 

 そう豪語するフレイザードだが氷の半身がかなり溶けてとても痛々しい姿をしてる。

 

「見事なりフレイザード。その勇猛さに余はいたく感心したぞ。フレイザード、今から魔王軍の切り込み隊長を名乗るが良い」

 

「……切り込み隊長ね、まぁ悪くねぇ。その肩書き有り難く頂きますよ大魔王様」

 

 ニヒルに笑いながらバーンにそう言い返すフレイザードは俺の知らないフレイザードに見えた気がした。

 

 ▼▼▼

 

 あの後、満足したバーンは鬼岩城から消え、俺はフレイザードを魔力で回復してる。

 横でアルビナスが心配そうに見つめてる。

 

「イテテ! オヤジぃ、もうちょい優しく回復してよ」

 

「……フレイザード、なんでこんな危険なことした?」

 

 あの場に居たメンバーの中で氷の半身を持つフレイザードは特に手をのばしちゃいけない一人だった。

 

「だから、全員ビビって……「そういう事じゃない!!」」

 

 俺の怒鳴り声でフレイザードは黙る。

 

「お前の身体だと下手したらコアまで焼けて死んだかもしれないんだぞ? それをわかってるのか!」

 

 原作では大丈夫だった、だから大丈夫、そんな保証はもう無いんだ。

 ここはもう『現実』なんだから。

 もしバーンが原作より強い炎を出してたら? もしフレイザードが原作よりコアの耐久力が低かった? あり得たかも知れない息子が死んだかも知れない現実に俺は震える。

 

「……オレを心配してくれるのはありがてぇがよ、オレもいつまでも子供じゃねぇんだよ」

 

「フレイザード……」

 

「オレはオヤジの子供であるが、オレはアンタの部下の氷炎将軍『魔王軍の切り込み隊長』フレイザードでもあるんだ。オレは己の意思でこの暴魔のメダルを取り『魔王軍の切り込み隊長』の名を得た。なぁオヤジ、これでも不安か? まだオレは未熟に見えっか?」

 

「そんな事は……」

 

「なら心配せずに信じてくれよ、オレを。オレは自分の意思で戦ってそして必ず生きて帰ってくる。だからさ、そんな顔すんなよ」

 

 フレイザードに言われて俺はアルビナスを見る……アルビナスの金属の身体に反射した俺の顔を。

 俺の顔は今にも泣きそうな情けない顔をしてた。

 

「オヤジいや、魔軍司令ハドラー殿、アンタの部下フレイザードはアンタが生み出し鍛えた最強の戦士だ。だから何度も言うが心配するな」

 

 ……フレイザードのその言葉に俺は黙って聞いてることしか出来なかった。

 

 ▼▼▼

 

 〜フレイザード視点〜

 

 オレを回復し終わったオヤジはアルビナスと一緒に自分の執務室に戻っていった。

 オヤジはあの後一言も喋らなかった。

 

 オヤジは昔からそうだった。

 魔族の癖にどこか抜けててお調子者で……優しい。

 本当は地上侵略なんぞ出来る性格じゃ無いのにオレたち子供の為に、部下の為にって無理ばかりしやがる。

 だから、これからはオレがオヤジの代わりに戦う。

 オヤジがやりたくない地上侵略はオレがやってやる。

 

 オレは大魔王の為なんかに戦わない、フレイザードが戦うのは魔軍司令ハドラーの為だけだ。

 オレはオヤジの為に戦う。

 だからよ、全部終わったらまた二人で修行しようぜ。

 くだらない雑談しながらやるあの時間はオレが一番好きな時間だからよ。

 なぁオヤジ、全部終わったらアルビナス達と一緒に魔王軍なんか辞めて家族みんなでどっか遊びに行こうぜ。

 

 だからよ、もうあんな顔すんなよ、あんな今にも泣きそうな顔をよ。

 

「フレイザード兄様」

 

「アルビナスか、どうした? オヤジと一緒じゃないのか?」

 

「……一言だけ言いたくて私だけ戻ってきました……もう、あんな無茶しないで下さい」

 

「……そら聞けねぇわ」

 

「!!!」

 

「ハドラーの長兄、フレイザードの仕事はオヤジの前に立ち、オヤジの敵と戦うことだからよ」

 

「……ならせめて、せめて無事に帰って来て下さい。もうハドラー様のあんな顔は見たくないです」

 

「へいへい、アルビナスはオヤジのサポートを頼むぞ」

 

 もうすぐ地上侵略作戦が始まる。

 オレは絶対に死なないからよ、だからオヤジ、心配するなよ。

 

 ▼▼▼

 

 〜バーンパレス、魔王の間〜

 

「……バーン様、何故遅刻したんですか?」

 

「なにミストバーンよ、その方が大魔王の威厳を示せるだろ?」

 

「……で、本当の理由は?」

 

「……寝坊した」

 

「そんな事だと思いました。次からは私が呼びに行きますから二度とこのような事は無いようにおねがいします」

 

「ミストバーン、このことは……」

 

「分かってます、誰にも言いませんよ。そうそうバーン様に言っておきます」

 

「何だ?」

 

「少しは運動して下さい。ローブで隠してもわかりますよ、太りましたね?」

 

「!!!」

 

「……全く、ハドラーと私に仕事を全部丸投げしてハドラーの作るお菓子を食べまくるからそうなるんですよ。大体ですね、ハドラーが幾ら優秀だからと言って全部押し付けて……グチグチ」

 

「……(ミストバーンは最近余に対して遠慮が無くなってきた気がするのぉ。と言うか何時までこの説教は続くのだ?)」

 

※その後、一時間ほどバーンは説教されました。



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