ウルトラマンタイガ 〜NEW BUDDY, NEW RAINBOW!〜 (門矢零)
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プロローグ
第0話①


初めまして、門矢零(かどやれい)と申します。
今まで小説を読む側だった自分が初めて書く小説となります。
初の試みなので至らぬ点もあるかと思いますが、暖かい目で見守っていただけると嬉しいです。

まず初回はプロローグとして第0話になります。
書いてたら思いのほか長くなったので、2回に分けて投稿します。
同好会メンバーが出てくるのは後半からで1人しか出ませんが、よろしくお願いします。


とある宇宙で戦いが起こっていた。宇宙空間では銀色と赤の巨人─ウルトラマン達が優雅に飛び回る黒い影を追いながら、光線を放っていた。

 

「ヘアッ!」 「デュワッ!」

 

黒い影─その正体である漆黒の魔人に対し、初代ウルトラマン(以下、『ウルトラマン』と表記)は『スペシウム光線』、ウルトラセブンは『エメリウム光線』を撃つが、華麗にかわされていく。

 

???「フッ、フハハハハハ…」

 

「シュワッ!」

 

魔人が逃げる方向に先回りしていたゾフィーが『M87光線』を放つ。しかしそれも命中寸前で避けられ、魔人はそのまま真下へと急降下。3人のウルトラ戦士もその後を追う。

 

魔人が空間に浮いている岩塊に立った。その瞬間に背後から気配を感じ取り振り向くと、そこにはウルトラマンジャックとウルトラマンエースの姿があった。

 

「シェアッ!」 「トワァ!」

 

ジャックは『スペシウム光線』、エースは『メタリウム光線』をそれぞれ同時に放つ。だが魔人は足場にしていた岩塊から素早く離れてこれを回避する。外れた2本の光線は岩塊を粉々に粉砕した。

 

???「ハアッ!」

 

魔人はお返しとばかりに無数の光弾をジャックとエースに向けて飛ばすが、2人は左右に分かれて回避したため、命中しなかった。

 

その直後。

 

「タァーッ!」

 

魔人の頭上からウルトラマンタロウが右拳を突き出しながら急接近してきた。

 

???「グハッ…」

 

魔人はそれに反応できずにタロウのパンチを腹部に受け、転落していく。そしてその身は小惑星に叩きつけられた。

 

???「クッ、ウアァァァ…」

 

呻き声をあげながらその身を起こそうとする魔人の眼前に、6人のウルトラ戦士が降り立った。

 

宇宙警備隊隊長、『ゾフィー』。

怪獣退治の専門家、『ウルトラマン』。

真紅のファイター、『ウルトラセブン』。

帰ってきたウルトラマンこと、『ウルトラマンジャック』。

光線技の名手、『ウルトラマンエース』。

ウルトラマンNo.6、『ウルトラマンタロウ』。

 

彼らこそ、M78星雲・光の国の宇宙警備隊に属する『ウルトラ兄弟』の中で最も実力の高い6人の精鋭、『ウルトラ6兄弟』である。

 

ゾフィー「観念しろ、ダークキラーヒディアス!この宇宙でお前の好き勝手にはさせん!」

 

ウルトラ6兄弟と相対する漆黒の魔人─ダークキラーヒディアス。その姿はウルトラ戦士と非常によく似ていた。胸のカラータイマー、両肘のヒレ状の突起物、頭部のウルトラホーン、胸から肩を覆うプロテクター、額、両腕、両脚についたクリスタル状の紫の発光体、それらのパーツが歪んだ外骨格として暗黒の身体を内包している。

 

ヒディアス「ふっ、そう上手くいくかな?ウルトラ兄弟よ……」

タロウ「まさかあのウルトラダークキラーに息子がいたとはな。お前はトレギアが遺した危険な置き土産だ。我々がここで撃滅する!」

ヒディアス「僕は父のようにはいかないよ。それじゃあ…始めようか」

 

ヒディアスは余裕綽々と戦闘態勢の構えを取る。

 

同じくウルトラ6兄弟も戦闘の構えを取り、ヒディアスに向かって走り出した。

 

(BGM:ウルトラマン物語〜星の伝説〜)

 

最初に動いたのはウルトラマンとジャックだった。一旦足を止め、その場から2人で同時に『八つ裂き光輪』を発射する。

 

「シャッ!」 「ヘアッ!」

 

だがヒディアスはゆっくりと歩きながら最低限の動きで1発目を躱し、2発目を片手で弾く。

 

ゾフィーがヒディアスと距離を詰め、キックとパンチを打ち込む。

 

ゾフィー「フゥッ!トゥッ!テヤッ!」

 

だがヒディアスはそれらを軽く受け流し、左裏拳でゾフィーを払いのける。

 

ゾフィー「ウォッ⁉︎」

 

直後にウルトラマンが背後からヒディアスを押さえ込むが振り払われた…と思いきやその勢いで体を高速回転させてリング状の光の鎖、『キャッチリング』を放つ。

 

「ヘアッ!」

 

3本の光の輪がヒディアスの体を締めつける。そこへセブンが殴りかかるがヒディアスは咄嗟に回避して光の輪を引きちぎった。

 

「デュッ!」

 

間髪入れずにセブンが『ストップ光線』を撃ち、ヒディアスを金縛りにするがすぐに身体の自由を取り戻され、光弾による反撃を喰らう。

 

次に仕掛けたのはタロウだった。ヒディアスに体当たりし、更に右拳を振るうが左掌で受け止められる。その状態で睨み合う両者。

 

タロウ「くっ、こいつのパワーと打たれ強さはダークキラー以上か⁉︎」

 

ヒディアスは左手で受け止めていたタロウの右拳を振り払う。だがタロウはすかさずヒディアスのボディに連続パンチを打ち込む。

反撃としてヒディアスはハイキックを繰り出した。タロウはしゃがんで回避しながらエネルギーを溜め、膝立ちの姿勢から腕をTの字に組んで『ストリウム光線』を発射した。

 

タロウ「ホッ、タァァァァ!」

ヒディアス「ヌウッ⁉︎クッ、ハアッ!」

 

ヒディアスは両腕を顔の前で交差させて光線を防御し、3歩程後ずさりしながらもこれを防ぎ切った。そして両腕から巨大な紫色の光の刃を出現させ、正面に向けて斬撃を飛ばす。

 

エースは高くジャンプしてこれを回避し、着地と同時に両腕をクロスさせて上下に開き、半月型の光のカッター、『バーチカルギロチン』を作り出してヒディアスに向かっていく。

 

「テェェェェン!」

 

ヒディアスも両腕の光刃で対抗し、互いの技がぶつかり合う。両者の間で激しく火花が散り、やがて爆発した。

 

ヒディアスはなおもエースに斬りかかろうとするが、エースを庇うようにジャックが割って入り、手にしていた槍『ウルトラランス』で攻撃を受け止めた。そこから激しい剣戟を繰り広げるジャックとヒディアス。

 

「ヘアッ!シェア!アァァ!ヘアッ!」

 

その最中にジャックが隙を狙ってヒディアスに蹴りを入れる。

よろけたところにゾフィーとウルトラマンが『スペシウム光線』、セブンが『ワイドショット』、エースが『メタリウム光線』を同時に発射したが、ヒディアスは後方に跳び上がって回避した。

 

ヒディアス「ふう、やるじゃないか」

 

タロウ「くっ…こうなったら兄さんたち、『スーパーウルトラダイナマイト』を使います!」

ゾフィー「分かった。我々の力をタロウに分ける!」

 

ゾフィーたちウルトラ5兄弟は手からエネルギーを放出し、タロウに注ぎ込む。タロウはエネルギーを受け取りながら両腕を組み、開いて胸を張る。するとタロウの全身が激しく燃え上がった。

 

タロウ「スーパーウルトラダイナマイト!」

 

タロウはヒディアスに向かって走り出し、そのまま敵共々大爆発した。

それからしばらくして、粒子状のエネルギーが一点に集まり始め、徐々にタロウの体を形作っていき、完全に再生した。

 

タロウ「ハァ、ハァ…」

 

胸のカラータイマーを赤く点滅させながら地面に膝をつくタロウ。

 

ウルトラ5兄弟がタロウの元に駆け寄る。タロウの肩に手を当てながら労いの言葉をかけるゾフィー。

 

ゾフィー「やったな、タロウ」

 

『ウルトラダイナマイト』は強力な反面、デメリットも大きい。タロウは『ウルトラ心臓』という特殊な臓器を持っており、それが無傷なら問題なく再生できるが肉体への負担は相当なものであるため、闇雲には使用できない。

しかも今回使ったのは仲間から貰い受けたパワーで威力を底上げした強化版で、その反動も通常の比ではない。タロウはそれを分かった上でこの技を使ったのだ。このままでは埒があかないと判断し、一気に決着をつけるために。

 

だが…

 

ヒディアス「ハハハハハハハ!」

 

突如響いた笑い声。その方向に一斉に振り向くウルトラ6兄弟。彼らの視線の先で衝撃的な光景が広がっていた。禍々しい闇のオーラが集まり、そこから跡形もなく消し飛んだはずのヒディアスが現れた。

 

ゾフィー「なんだと⁉︎」

タロウ「バカな⁉︎」

ヒディアス「父のようにはいかないって言っただろう?力の無駄使いだな、ウルトラマンタロウ」

タロウ「なんという事だ…」

ゾフィー「奴は、これまで戦ってきた怨念の集合体とは違う!マイナスエネルギーが力の源であるのは間違いないが、ダークキラーのものとは明らかに力の質が異なっている!」

ヒディアス「その通り。負の感情から生まれるマイナスエネルギー…その概念も大きく変わった。『悪意』、『恐怖』、『憤怒』、『憎悪』、『絶望』、『闘争心』、『殺意』…僕はそれらから生み出される負のエネルギーを糧としているのさ」

 

そしてヒディアスは胸のカラータイマーから紫色の光線を放ち、ウルトラ6兄弟を吹き飛ばした。

 

タロウ・ゾフィー「グアァッ!」

ヒディアス「終わりだ、ウルトラ一族よ」

 

 

???「まだ終わっちゃいないぜ!」

ヒディアス「⁉︎」

 

 

続く。




微妙なところで区切りましたが、いかがでしたでしょうか?
文章表現がなかなか難しくて大変です。
後半に続きます。


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第0話②

かなり間が空いてしまってすみません。
プロローグ後半になります。
引き続きお楽しみください。


???「まだ終わっちゃいないぜ!」

 

威勢の良い声とともに新たな赤と銀色の巨人が現れ、ヒディアスに向かって強烈な飛び蹴りを浴びせた。不意をついた攻撃によろめくヒディアス。

 

ヒディアス「ガッ…クッ、何者だ!」

 

その巨人はヒディアスの前に降り立ち、名乗りを上げた。

 

タイガ「俺はタイガ!光の勇者、ウルトラマンタイガだ!」

 

タロウに似ているが、彼のものよりも小さなウルトラホーンが特徴の若きウルトラマン。

彼こそがウルトラマンタロウの息子、『ウルトラマンタイガ』である。

 

そしてそこにもう1人、鍛え抜かれた筋肉隆々の体付きと、黒と赤のカラーリングが特徴の『ウルトラマンタイタス』がタイガの右に降り立つ。

 

タイタス「力の賢者、タイタス!」

 

さらにもう1人、青い体に忍者を思わせる見た目が特徴の『ウルトラマンフーマ』がタイガの左に降り立った。

 

フーマ「風の覇者、フーマ!」

 

タイガ・タイタス・フーマ「俺(私)たちは、トライスクワッドだ!」

 

タイガ、タイタス、そしてフーマの3人から成るチーム『トライスクワッド』が戦場に到着した。

 

タロウ「お前達…」

ゾフィー「来たか、トライスクワッド!」

タイタス「お待たせしました!」

タイガ「無理しないでください、父さん。俺たちも戦います!」

タロウ「気をつけろ、奴は只者ではないぞ!」

タイガ「はい!行くぜ2人とも!」

タイタス「うむ!」

フーマ「おう!」

 

3人のウルトラマンが勇猛果敢にヒディアスに挑んで行く。

 

フーマ「俺が速攻で片付けてやるよ!」

 

フーマが得意の高速移動でヒディアスを翻弄しながらダメージを与えていく。

 

タイタス「賢者の拳が貴様を打ち砕く!」

 

フーマの連撃で怯んだところにタイタスが強烈な拳打で追い討ちをかける。重い打撃音が響き、ヒディアスはたまらず呻き声をあげる。

 

ヒディアス「グウッ…ガッ…グオォ!」

 

苦しみながら後ずさりするヒディアス。頭を上げるとその先で、タイガが全身を光らせてエネルギーを貯め、両腕をT字型に構えて『ストリウムブラスター』を放った。

 

タイガ「ストリウムブラスター!」

 

タイガの右腕から放たれた光線が命中し、ヒディアスは爆発に包まれる。

 

タイガ「やったか⁉︎」

 

しかし爆風の中から現れたヒディアスは何事もなかったかのように平然としていた。

 

ヒディアス「ハハハ、こんなものかい?」

タイガ「なに⁉︎」

ヒディアス「お遊びはもう終わりにしようか」

 

そう言うとヒディアスは地面からゆっくりと浮き上がり、背中から赤紫色の羽を展開し、胸のカラータイマーにエネルギーを集めていく。

 

ゾフィー「なんだ?」

タイガ「何をする気だ⁉︎」

 

身構えるトライスクワッドとウルトラ6兄弟。

 

ヒディアス「絶望と無力感に打ちひしがれるがいい。『クライシス・インパクト』の時のようにね!」

 

ヒディアスのカラータイマーから真っ赤な極太の光線が放たれた。だが、その目標はウルトラ戦士達ではなかった。そう、ヒディアスは発射直前で狙いを変えたのだ。

 

青く美しい星、『地球』へと。

 

タイガ「させるかぁぁぁぁ!」

 

真っ先に動いたのはタイガだった。それに同調するようにタイタスとフーマも反射的に動いていた。

 

タロウ「どうする気だ、タイガ待て!」

ゾフィー「タイタス、フーマ!」

 

3人は猛スピードで飛行し、地球を背にして並び立つと、正面に3人分の力を合わせた巨大なバリアを張って光線を受け止めた。

 

彼らは地球を壊させまいと、自ら盾になったのだ。

 

タロウ「よせ、お前たちの力で止められるものではない!」

 

タイガたちの全身にバリア越しに強い衝撃が走る。ピキッ、パキッと音を立てながら光の壁に亀裂が入り、そこから光が漏れていく。

 

フーマ「くそっ、なめた真似しやがって!」

タイタス「まさか地球を狙うとはな…」

タイガ「壊されてたまるか……父さんたちが愛した地球を!うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

3人は力を振り絞ったが、ついに限界を迎えた。

 

バリアは粉々に砕け散り、すさまじい爆発が起きた。なんとか地球破壊は免れたが、タイガたちは大気圏へと勢いよく吹き飛ばされ、地球へと落ちていく。

 

タイガ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

タイタス「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

フーマ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

タロウ「タイガァァァァァァァ!」

ヒディアス「ふっ、素晴らしい健闘だったね。では、ごきげんよう……」

 

ヒディアスはその場からフッと姿を消した。

 

ゾフィー「待て、ヒディアス!」

タロウ「うっ…うおぉぉおおおおおおおっ!」

 

またしても自分の目の前で息子を失うことになろうとは!

悔しさと哀しみのあまり拳を握り締めながら叫ぶタロウ。

 

 

────────────────────

 

 

3人のウルトラマンは大気圏の熱に焼かれながら降下していた。タイガは朦朧とする意識のなかで同じく降下しているタイタス、フーマに向かって必死に手を伸ばす。

 

タイタスとフーマの姿が光の粒子となって瞬く間に消えてゆく。

 

(…ダメだ…力が…抜けてゆく……タイタス…フーマ……父、さん…)

 

ここでタイガの意識は途絶え、彼の体も光の粒子となって消滅していくのだった…

 

 

────────────────────

 

 

そして時は流れ……季節は6月の初旬。

 

何処にでもあるマンションの一室。

 

そこにある部屋のベッドに一人の少年が眠っていた。

 

名前は『虹野 宏高(にじの ひろたか)』。

 

その少年はカーテンの隙間から漏れ出る朝日の光で目を覚ます。

 

宏高「……朝か…」

 

宏高はあくびをしながらベッドから身を起こし、洗面所に足を運んで顔を洗う。

 

朝食を済ませて、学校の制服に着替えた宏高はベランダに出た。

隣のベランダには先客が居た。

 

「あっ、おはよう。宏くん」

 

隣のベランダに居たのはライトピンクのミディアムヘアをハーフアップにし、右サイドに三つ編みシニヨンでまとめて前髪を左に流した少女。

 

宏高の幼馴染みの『上原歩夢』だ。

 

宏高「おはよう、歩夢。あれ?」

 

朝の挨拶を交わす2人の少年少女。しかし宏高は歩夢の着ている制服がいつもと違うことに疑問を感じていた。すると歩夢は宏高を見て微笑みながら宏高に指摘する。

 

歩夢「宏くん、今日から衣替えだよ?」

宏高「え?あっ、そっか…忘れてた。あはは…」

 

宏高は白のブラウスの上に黒色のブレザーを羽織り、黒のズボンを履いていたが、歩夢は水色のブラウスにベスト、黒のスカートを着用しており、その違いは一目瞭然だった。

 

宏高「…着替えてくる」

歩夢「ふふっ、遅刻しないでよ〜」

 

あわててベランダを出て部屋に戻る宏高。そしてしっかり夏服に着替え直した宏高は部屋を出て玄関に施錠し、すぐ右横で待っていた歩夢に声をかける。

 

宏高「お待たせ。行こっか」

歩夢「うん」

 

宏高は歩夢をとりなすと、先頭を切って歩き、歩夢も宏高の隣に並んで歩いていく。

 

通学路を歩いている中で、歩夢が口を開いた。

 

歩夢「ねぇ、宏くん。今日学校終わったら、一緒に買い物付き合ってくれない?」

宏高「買い物?」

歩夢「うん。新しいパスケースが欲しくって。出来れば、宏くんと…お揃いで…///」

宏高「いいよ。じゃあ終わったらいつものところに行って探そうか」

歩夢「ありがとう、宏くん!」

 

(お揃い、か…)

 

この時、俺は全く想像もしていなかった。今日この日、自分の運命を変える大きな出来事が起きようとは…

 

 

──────────────────────

 

 

その頃……

 

レインボーブリッジの主塔に白い薄手のパーカーの上に黒色のジャケットを羽織り、フードを被った少年が立っていた。

 

???「いい眺めだ。ここは最高の実験場になりそうだね…」




今回はここまでとなります!
3月1日、歩夢の誕生日から本格的に連載開始していこうと思います!
ウルトラ気合入れて脚本書いていきますよ!


第1話「トキメキの光」

タイガ「叫べ宏高!俺はお前で、お前は俺だ!」


お楽しみに。


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1st Season
トキメキの光#1


お待たせしました。いよいよ本編スタートです。
サブタイトルの「#1」は第1話の第1部というニュアンスになります。

では、どうぞ!



俺が手にした『光』。生まれた『ときめき』。

 

あの日から世界は…

 

大きく動き出した‼︎

 

 

 

それは何処にでもありふれた日常の放課後の一幕だった。

 

虹野宏高は幼馴染みの上原歩夢と一緒に女性受け抜群の小物や服等が売られているファンシーショップに来ていた。

2人は学校帰りで、制服のままファンシーショップの中を闊歩、商品を物色していた。

ポーチコーナーの前で止まり、歩夢が宏高に訊ねる。

 

歩夢「うーん、これはどう?」

宏高「少し女子っぽさが強めかなー」

 

宏高は歩夢から「お揃いのパスケースが欲しい」と言われたので、一緒に選ぶために彼女に同行していた。とはいえ宏高も一人の男子なので、女性向けの物を使うのはやはり抵抗があるというものだ。

そこで宏高は「自分が持っていても違和感がないような感じのがいいな」と提案したところ、歩夢も「いいよ」と言ってくれたので、それに合ったデザインの物を2人で探していた。

 

歩夢「どうしよっかー?」

宏高「他の店、行ってみよっか?」

 

宏高は何気なく当たり障りのない提案をし、歩夢はそれに「そうだねー」と同意。

 

宏高「この前ゲーセンで取り損ねたフィギュアさー、ネット見たらオークション出てて…」

歩夢「ぁ……」

 

店を後にしながら宏高が軽い世間話を振った時、歩夢が何かに気付いた様に入口付近のショーケースを見た。

 

つられて宏高も「ん?」と歩夢の視線の先を見つめ、その次の瞬間には宏高が「おっ!」と目を輝かせながら小走りしてショーケースの前に立った。

 

宏高「歩夢!これ良いんじゃない?」

歩夢「えっ?」

 

ショーケースの中にあったのは、フリル多めのピンクを基調とした可愛らしい半袖ワンピースだった。

この服は間違いなく歩夢に映える。そう思った宏高が歩夢に話題を振る。

 

宏高「似合うと思うよ!」

 

しかし歩夢の反応は芳しくなく、ちょっぴり頬を赤らめながら両手をワタワタと振って遠慮する。

 

歩夢「い、いいよ!可愛いとは思うけど子供っぽいって!」

宏高「そうかなぁ?最近までよく着てたじゃん」

歩夢「小学生の時の話でしょ?もうそういうのは卒業だよ」

宏高「興味があるなら着てみればいいじゃん。歩夢は何着たって可愛いんだから」

歩夢「もーう、またそんな適当な事を」

宏高「これでも本気で言ってるんだけどなぁ…あっ、これも見てよ!」

歩夢「ん?」

 

すると宏高はワンピースの隣にあった衣服に視線を移し、歩夢に声をかけた。

そこには幼女サイズの服があった。注目するべき点はフードにウサ耳が付いた白いパーカー。宏高はそれを見ながら言う。

 

宏高「幼稚園の時、こんな格好してたよね?」

 

歩夢も座り込んで言う。

 

歩夢「ああー、懐かしいねぇ」

 

すると宏高の脳裏に今のパーカーのピンクカラーを着た幼い歩夢の姿がよぎる。

 

『あゆぴょんだぴょん♪』

 

両手をウサ耳に見立てた上に、そんなセリフ付きで。

 

(あれ、今の歩夢でも見たいな…)

 

宏高は先程の姿を思い出しながら、些細な欲望を募らせつつ歩夢にリクエストしていた。

 

宏高「可愛かったな〜……ねぇ」

歩夢「んん?」

宏高「ちょっとやってみてよ」

歩夢「何を?」

 

歩夢がそう訊ねると、宏高は両手を耳の上に持っていき、ウサ耳の様に動かして言った。

 

宏高「あゆぴょん……」

歩夢「………はぁ?」

 

対する歩夢の反応は困惑と呆れが混じった辛口なもので、膝を伸ばしながら拒否した。

 

歩夢「やる訳ないでしょ⁉︎もーう……」

宏高「ええ〜……」

歩夢「なんかお腹空いてきちゃった。下降りない?」

 

逃れるように話題を変える歩夢。宏高もこれ以上ねだっても歩夢の意思が変わらないと判断して、歩夢の意見に同調する。

 

宏高「りょーかい。で、どうする?」

歩夢「やっぱりコッペパンじゃない?」

宏高「だよねー」

 

2人は下に降りてから外に出て、キッチンカーで移動販売している店からそれぞれコッペパンを買うと、近くのベンチに仲良く座って食べ始める。

 

歩夢の左横に座っている宏高が食べながら口を開く。

 

宏高「そういえば、今日の二限でさ〜……お、それ何味?」

歩夢「限定のレモン塩カスタードだよ」

宏高「へぇ、面白そうじゃん。俺も今度それにしてみよっかな」

 

宏高は興味深そうに歩夢の持っているコッペパンを見つめながら反応するが、歩夢としては彼の口元に付いたクリームが気になったのか、

 

歩夢「ほらぁ、付いてるよ?」

 

人差し指で拭うついでにそれを舌で舐めとり、今度は宏高のコッペパンを見て訊ねる。

 

歩夢「宏くんのは?」

宏高「2種類の生クリームをサンドしてチョココーティングしたチョコW。食べてみる?」

歩夢「あっ!じゃあさ……」

宏高「ん?」

 

歩夢は何かを思いついたのか、キョトンとする宏高を他所に自分の鞄の中に手を入れる。

そこから取り出したのはスマホ。

スマホのカメラを起動し、歩夢はスマホを横向きにして、左手でチョキを作ってから宏高に言う。

 

歩夢「ほらぁ、寄って寄って!」

 

それに宏高は「ああー!」と察しがついた様子で歩夢のスマホの画面に自分が収まるように彼女の隣にぴったり寄った。

 

歩夢「あーん♪」

 

歩夢の合図でパシャリと写真が撮られ、2人の少年少女はケラケラと笑い合う。

 

美しい青空の下、彼らはありふれた平和な日常を謳歌していた。

宏高は自分のコッペパンをむぐむぐ食べながら訊ねる。

 

宏高「この後、どうしようっか?」

歩夢「うーん……映画でも見る?」

宏高「なんかピンと来るのないんだよなー。ま、いつも通り適当に──」

 

その時だった。

 

宏高の言葉を遮るように、割と近くから黄色い歓声が響いてきた。

 

「「ん?」」

 

2人は揃ってその方角を見る。

 

宏高「何かのイベントかな?結構盛り上がってるようだけど……ねぇ、行ってみようよ!」

歩夢「うん!」

 

こうして2人はその場所を目指して走り出すのだった。

 

 

続く。




いかがでしたでしょうか?
次回はいよいよ、作者の推しである「あの子」が登場です!

投稿は不定期になりますが、なるべく早めに更新できるよう頑張っていきたいと思っています。


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トキメキの光#2

いや〜、書いてると思ったより文字数多くて自分でもビックリですね。

ストーリーは基本的にアニメ準拠で、たまにオリジナルエピソードを挟みながら展開していきます。




会場となっているのは、ダイバーシティ東京プラザ2Fフェスティバル広場。

そこには、ゆっくりと階段を下りてポジションに着こうとする、赤いアイドル衣装に身を包んだ美少女がいた。

 

彼女の名は『優木せつ菜』。

 

彼女がゆっくりと近づく度に歓声が大きくなる事から、彼女の人気の高さが伺える。

しかし一方で、こんな声も聞こえた。

 

観客1「あれ、せつ菜ちゃん1人?」

観客2「新しいグループのお披露目だったよね?」

 

まるで当初の予定と違う、というような意見。事実その通りなのだろう。

ステージに立つせつ菜の拳に自然と力が入る。そして彼女は気持ちを切り替え、歌い始めた。

 

(♪:CHASE!)

 

炎が吹き上がるステージでせつ菜は歌い、踊り、観客を魅了するパフォーマンスを見せる。

アニメのオープニングをイメージしたかのような疾走感溢れるこの曲は、見ている観客の多くを虜にしていく。

勿論、それは今来たばかりの宏高、歩夢の2人とて例外ではない。

そうしてる内にせつ菜のライブはラストスパートに入り、その時点で宏高は完全にせつ菜のパフォーマンスに釘付けになっていた。

 

時はあっという間に過ぎてゆく。

ライブは終わりを迎え、歌い終えたせつ菜は肩を上下させ、観客から声援や拍手を貰う中で深くお辞儀。

頭を下げる中、頬を伝っていく一筋の汗。そしてお辞儀を解き、観客に背を向けて静かに退場していく。

 

 

────────────────────

 

 

宏高と歩夢はせつ菜のライブに衝撃を受けていた。

興奮が冷めず、余韻から抜け出せない。

特に宏高は、自分の胸が猛烈に熱くなるような感覚に包まれていた。

それでも何とか最初に口を開いて感想を述べる。

 

宏高「すげぇ……」

歩夢「うん……」

宏高「だよね⁉︎凄かったよね⁉︎」

 

同意した歩夢の両手を宏高は両手で握る。

 

歩夢「う、うん……」

 

歩夢が頷けば、彼は両手を強く握りながら無邪気な笑顔で熱弁していく。

 

宏高「とてもカッコ良かったし、可愛かった‼︎スゴすぎるよ!あんな子がいるんだね!上手く言い表せないけど、すっごく最高な気分だ‼︎」

 

しかし対する歩夢は困惑気味の引きつった笑顔を浮かべ、終始押されっぱなしだった。

そして歩夢が口を開く。

 

歩夢「い、痛いよ…宏くん…」

宏高「あっ…ご、ごめん。つい…」

 

無意識に歩夢の両手を握る力を強めてしまっていたことに気付いた宏高は、我に返って彼女の手を離し、一言詫びた。

 

宏高「なんて子なんだろう?あっ、ポスター‼︎」

 

近くに設置されていた優木せつ菜に関連する看板を見つけると、そちらに寄っていく。

ポスターにはせつ菜の他に4人の少女が写っており、何より上に『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』と書かれていた。

 

宏高「これか!虹ヶ咲学園…スクールアイドル同好会……え?」

 

そこまで言って、宏高は奇妙な既視感を抱いた。

この学校の名前を、俺は知っている…

いや、知っているも何も自分達が通う高校の名前ではないか。

 

宏高「虹ヶ咲って……」

 

それに気付いた時、宏高と歩夢は顔を見合わせ、声を揃えて叫んだ。

 

宏高&歩夢「ウチの高校だぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 

 

 

 

これは、夢を追いかける9人の少女と1人の少年、そして光の使者たちの奇跡の物語である。

 

 

続く。




プロローグはこれにて終了です!

キャラ紹介

虹野 宏高(にじの ひろたか)
学年 2年生
誕生日 7月6日

主人公。普通科に所属。歩夢の幼馴染で、特撮とアニメが好き。趣味は音楽鑑賞。
虹野は「虹ヶ咲」の虹、宏高の「宏」はタイガの主人公、工藤ヒロユキから取っています。そして高坂穂乃果、高海千歌、高咲侑と、アニメの歴代主人公の名前に入っている「高」の字を入れました。


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トキメキの光#3

またやっちまった…。(ジャグラー風)
大変遅くなって申し訳ありません!

あぁ、もっとゆっくり執筆できる時間が欲しいなぁ……(願望)


次の日の朝。

 

宏高は自分の部屋のベッドでうつ伏せになって寝ていた。

枕元に置かれている宏高のスマホが鳴り出す。それは歩夢からの着信だった。

着信音が鳴り響く中でも、宏高はなかなか起きる気配がない。

 

その時だった。

 

『おい、宏高!携帯鳴ってるぞ!』

 

突然、宏高の頭の中に青年のような若々しい声が響いてきた。

 

宏高「ん…うぅーん……んぁ……誰?」

 

『ほら、起きろって!』

 

宏高「……ハッ⁉︎」

 

どこからか聞こえてくる大声に驚いて、宏高は大きく目を見開いた。

そして着信に気付くと、スマホを操作して音を止めた。

 

宏高「ふぁぁ……」

 

宏高は小さなあくびをして、ゆっくりとベッドから体を起こし、大きく背伸びをした。

 

宏高「んんーーー」

 

そして再びスマホを操作し、歩夢にメッセージを送って、宏高は立ち上がった。

先程の着信は歩夢からのモーニングコールだった。宏高と歩夢は家が隣同士で、毎朝同じ時間に一緒に家を出て学校に行っている。

宏高自身は朝に弱い方ではないのだが、今のように決まった時間にスムーズに起きられない時が偶にある。そんな時は歩夢が電話をかけて起こしてくれるのだ。

 

同じ頃、歩夢は既に制服に着替え、自分の机に置いた卓上ミラーの前でお団子をセットしていた。

ピコン、とスマホが鳴ると歩夢は椅子から立ち上がってベランダに出た。

そして宏高も部屋着のままベランダに出る。顔を合わせて朝の挨拶を交わす2人。

 

宏高「おはよう」

歩夢「おはよう」

 

すると宏高の口から思わず大きなあくびが出る。

 

宏高「ふぁぁ〜…」

歩夢「寝不足?」

宏高「うん、ちょっとね」

 

すぐに起きられなかったのはそれが理由だったようだ。

 

歩夢「遅刻しないでよ?」

宏高「…ああ」

 

身支度を終えた宏高は家を出て、先に外で待っていた歩夢に声をかける。

 

宏高「お待たせ。行こっか」

歩夢「うん」

 

こうして2人は学校に向かって歩き出した。

 

彼らが通っているのは、自由な校風と豊富な専攻が特色で、全国から優秀な人材が集まる人気校、虹ヶ咲学園。

施設はかなり広大で、外部の人間や方向音痴の生徒では確実に迷う。

また、全生徒に配布したタブレット端末で連絡事項を共有しており、プリント配布がない。

生徒が見る大きな学内掲示板の他に、廊下にも電光掲示板がある等、かなり先進的な学校である。

 

そんな虹ヶ咲の生徒である宏高と歩夢の2人は、今日も今日とて壮大な門をくぐり抜け、これまで通り学業に取り組み、放課後を迎えた。

 

そして現在。

歩夢は『西 部室棟』という表記が施された柱の前に立っていた。ここにいる目的は、待ち人である宏高を待っている事にある。

 

宏高「歩夢ーー!」

 

歩夢は自分を呼ぶ声に反応して振り向く。

ようやく待ち人がやってきた。

 

宏高「待った?」

歩夢「ううん。帰ろうっか?」

宏高「その前にさ……ちょっと寄りたいとこあるんだけど、いいかな?」

歩夢「んん?うん、勿論♪」

宏高「ありがとう!じゃ、行こうぜ!」

 

歩夢の了承を得た宏高は彼女の手を取ると、そのまま進路方向に引っ張っていく。

 

歩夢「ぁ……うわぁぁっ⁉︎えっ⁉︎ちょ、ちょっとぉ⁉︎」

 

歩夢は急に引っ張られた事で驚きの制止を叫ぶも、宏高の歩みは止まらない。

 

歩夢「ねぇ、どこ行くの⁉︎」

宏高「スクールアイドル同好会!」

歩夢「えっ……あ、あのっ…宏くん!」

 

歩夢の疑問で宏高が初めて目的地を口に出した瞬間、歩夢は待ってと言わんばかりに宏高を呼ぶ。

それにより足を止めて、振り向く宏高。

 

歩夢「私…まだ……」

 

気持ちの整理がつかない歩夢は、迷ったように言う。

 

宏高「俺、スクールアイドルって全然知らなかったからさ。そもそもジャンル外だったけど。昨日帰ってから、動画観たりとかしていろいろ調べたんだよね!」

歩夢「えっ……?」

 

歩夢がポカンと呆ける中、宏高は募った想いを語る。

 

宏高「みんなカッコ良くて、可愛くて、輝いていて……!自分と同じくらいの子たちが、あんなスゴいことやってるんだなって、マジで感動したんだ!」

 

右拳をぐっと握りながら、笑顔で歩夢に感想を述べる宏高。

 

宏高「でも、やっぱり一番は昨日のあの人!優木せつ菜ちゃんって言うんだって!」

歩夢「ちゃんっ⁉︎」

宏高「結構有名みたいなんだよね、神出鬼没のニジガク謎のスクールアイドル!なんて呼ばれてたり。昨日聴いたあの曲はほんといい曲だったな〜!次のライブ、決まってるなら行きたいな〜!」

 

完全にどハマりしていた。

宏高は音楽を聴くことが好きだ。自分のiPodを常に持ち歩き、電車での移動の時などにイヤホンでよく聴いている程に。

 

それだけ、優木せつ菜のライブが宏高に与えた影響は大きかった。

 

歩夢「で、でも!私達もう二年だし、2人で予備校通うって言ってたよね⁉︎スクールアイドルなんて追っかけてる暇無いんじゃ……!」

 

歩夢が遠回しに現実を見るよう諭すも、宏高は前向きに答える。

 

宏高「そこは大丈夫!ていうかプラス!せつ菜ちゃんの歌聴きながら課題やってたら、すっごく捗ったし、今日の体育でも絶好調だった!」

 

意気揚々と話し続ける宏高。

 

宏高「何かさ、体中に力が湧き上がってくるみたいで。こんな気持ちになったの初めてだ!」

 

どこまでも純粋で、無邪気で、素敵な宏高の笑顔。

それに毒気を抜かれたのか、歩夢は"しょうがないなぁ" と言わんばかりに肩を竦める。

歩夢は彼程スクールアイドルに興味がある訳ではない。

それでも、彼の為に付き合うくらいは考えていた。

 

宏高「先ずはご挨拶から!歩夢、行くよ!」

歩夢「ああっ⁉︎待ってー‼︎」

 

駆け出す宏高に続いて歩夢も駆け出した。

しばらく走っていると、2人はやがて部室棟エリアとなる広大なスペースにたどり着き、二階から全体を一望する。

 

宏高「おおー‼︎ここが部室棟かー…」

歩夢「そういえば、初めて来たね」

宏高「広いなー……」

歩夢「ねぇ、スクールアイドル同好会の部室ってどこ?」

 

歩夢が訊ねると、宏高は「さぁ…?」と呟き、それに歩夢が「えっ?」と困惑。

 

なんと幸先の悪いことか。

 

宏高「ホームページ見たら更新止まってたし、校内の案内図にも載ってなくてさ…」

 

歩夢がオロオロとした感じで訊ねる。

 

歩夢「じゃあ、どうやって?」

宏高「片っ端から聞いて回るしかないね。大丈夫!すぐ見つかるはずだよ!」

歩夢「ああ〜もう!」

 

宏高の無計画さに振り回される歩夢だった。

 

 

────────────────────

 

 

宏高「失礼しまーす……」

 

そうして最初に訪ねたのは、流し素麺を六人の少女でやっている部室。

何故流し素麺をやっているのだろうか?

 

部員「流し素麺同好会にようこそ!入部希望ですか?」

 

完全に流し素麺を主にした同好会だった。

それだけで6人も集まるのも不思議なものだが。

宏高はやんわり否定しつつ訊ねる。

 

宏高「あ、いえ……スクールアイドル同好会を探していて」

部員「知らないなぁ」

 

そう言って椀に入った素麺を啜る部長と思しき少女。

ポカンとした顔でそれを見つめる宏高。すると……

 

『…美味そうだな』

 

宏高「え?」

 

宏高の頭の中で謎の声が興味津々に呟く。それに思わず反応する宏高。

 

歩夢「失礼しましたっ」

宏高「おおっ⁉︎」

 

これ以上情報を得られないと見た歩夢は、宏高を引っ張りながら部室を後にする。その後も色んな生徒に訊ねて行くも、収穫は無し。

2人は途方に暮れていた。

 

宏高「全然見つからねぇ…」

歩夢「部活も生徒数も多いからね〜。同好会だけで百個以上あるらしいよ」

宏高「マジで…?」

 

げんなりした顔を見せる宏高。

同好会だけで百個以上、その上に正規の部活が加わるのだから、そんな顔をしてしまうのも無理はない。

 

宏高「ぁ……」

 

宏高は自分たちの前を通り過ぎようとしていたピンクの髪に金色の瞳を持つ少女に気付き、声をかけた。

 

宏高「あのー、すみませーん」

少女「……!」

 

呼び声に反応し、少女は宏高と歩夢の方に振り向く。

こちらを見つめてくる少女に2人は訊ねる。

 

歩夢「スクールアイドル同好会って……」

宏高「何処にあるか知ってる?」

少女「………」

 

少女から一向に返答がない。ジッとこちらを見つめるだけで、表情も1ミリも動かない。

 

宏高「もしかして、急ぎとかだった?」

少女「………」

 

宏高が気まずさを感じ始めていたその時……

 

???「どしたん?りなりー?」

少女「あ……愛さん」

 

もう1人、金髪の少女が現れた。

 

 

 

ピンク髪の少女『天王寺璃奈』とのコミュニケーションに困っていた宏高を助けたのは、金髪ポニーテールギャルの『宮下愛』だった。

事情を聞いた愛は案内図の前に立ち、「212」と書かれている場所を指して言った。

 

愛「ほら!スクールアイドル同好会はここだよ」

宏高「誰に聞いても分からなかったのに……」

 

宏高がその意外な情報提供に感心していると、愛は更なる情報を提供する。

 

愛「確か、今年出来たばっかの同好会だしね〜」

宏高「ありがとう!恩に着るよ!」

愛「どういたしまして♪」

 

愛は手を振りながら、その場を去ろうとする。

そのまま璃奈も去るかと思いきや、璃奈は蚊の鳴くような声と共に宏高の裾を引っ張り、意識を自分を向けた。

 

璃奈「ぁ……」

宏高「ん?」

 

3人の視線が向けられる中、璃奈はピクリとも動かない無表情で言う。

 

璃奈「……別に……急いでなかった。……少しビックリしただけ」

 

先程の無言タイムはそれが理由だったようだ。

しかもそれを気にして律儀に明かしてくれる辺り、根は良い子なのだと宏高は感じていた。

 

宏高「そっか。俺の方こそごめんね。いきなり声かけて驚かせちゃって」

 

「ビックリした」と言われたので、自分にも非があったと思った宏高は、璃奈に対して素直に謝った。

さらに璃奈はポツリと訊ねる。

 

璃奈「……好きなの?スクールアイドル」

宏高「え?ああ!ハマり出したばっかで、まだよく知らないところもあるけどね」

璃奈「そう……」

 

短く呟いた璃奈の興味は、次に歩夢へと移る。

 

璃奈「あなたも?」

歩夢「…えっ?う、うん……どうだろう?まだよく分からないかな?」

 

急な話の振られ方というよりも、宏高ほどスクールアイドルに興味がある訳ではない歩夢は、辿々しく答えるのが精一杯だった。

深く聞く気はなかったのか、「そう……」とだけ言って後は無言となる璃奈に、宏高は明るく礼を言った。

 

宏高「ありがとうね。今から行ってみるよ。行こう、歩夢!」

歩夢「う、うん!」

 

こうして宏高と歩夢は、ようやく判明した目的の場所に向かって駆け出して行くのだった。

 

 

続く。




今回も最後までありがとうございます!
宏高にしか聞こえない謎の声の正体とは⁉︎
もうお気づきの方は「ははーん、なるほどねぇ」みたいな感じで今後の展開を楽しみにしていてください!


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トキメキの光#4

ここでようやく同好会メンバーが出揃います。




宏高と歩夢の2人は教えられた場所、つまりスクールアイドル同好会の部室の前に辿り着いていた。

 

宏高「見つけた……虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会!」

歩夢「あの、宏「何をしているんですか?」……」

 

歩夢の疑問は後ろから飛んできた、どことなく冷たい声に遮られた。

 

宏高&歩夢「ん?」

 

後ろを振り向く2人。

そこには、眼鏡をかけて長い黒髪を左右で三つ編みにした少女がいた。

眼鏡少女は挨拶代わりに言う。

 

眼鏡少女「普通科二年、虹野宏高さん。上原歩夢さん」

宏高&歩夢「えっ…⁉︎」

 

名前を名乗ってないのに当てられた事に、驚きを隠せない宏高と歩夢。

 

歩夢「会った事……」

宏高「ありましたか?」

 

その問いに眼鏡少女は眼鏡の位置を直しつつ、キリッと答えた。

 

眼鏡少女「生徒会長たる者、当然、全生徒の名前を覚えているものです」

宏高&歩夢「えっ⁉︎生徒会長っ⁉︎」

 

宏高と歩夢は驚きの声を上げる。目の前の少女がサラッと有能発言した事よりも、生徒会長である事の方がよっぽど衝撃的だった。

そして生徒会長の少女は、初めて柔らかな笑みを浮かべながら名乗った。

 

生徒会長「中川菜々と申します」

 

宏高が歩夢の方を向いて思い出すように言う。

 

宏高「そういえば、生徒集会や朝礼の時に見た覚えがあるな……」

 

すると菜々は2人の間を通ってスクールアイドル同好会の扉の前に立つ。

 

菜々「この同好会に御用ですか?」

宏高「はい!優木せつ菜さんに会いに来たんです!」

 

菜々が訊ねると、宏高はワクワクしながらも、少し落ち着いた様子で答える。

 

その瞬間。

菜々の顔に陰りが差し、彼女が身に纏う雰囲気がガラリと変わった。

そして先程よりも冷たい声でこう告げる。

 

菜々「彼女はもう……ここには来ませんよ」

宏高&歩夢「えっ?」

 

菜々は2人の方に振り向くと、他人事の様に言った。

 

菜々「スクールアイドルはやめたそうです」

宏高「……えっ?」

 

宏高の思考が停止する。

その言葉の意味を理解し、戸惑いの表情を浮かべる。

しかし菜々は構わず続ける。

 

菜々「彼女だけではありません。このスクールアイドル同好会は……」

 

言いながら部名が書かれたプラカードに触れ、それを何の躊躇もなく取り外した。

 

菜々「只今を以て、廃部となりました」

宏高「なっ……⁉︎」

歩夢「ええっ⁉︎」

 

取り付く島もない残酷な現実を突きつけられ、宏高と歩夢は大きなショックを受ける。

予期せぬ事態だった。

スクールアイドルは今なお衰えを知らない、学生達に大人気の文化。

なのに。

待っていたのは、真逆の事実だった。

菜々は「失礼します」とだけ言うと、後は知らないとばかりに去っていく。

 

宏高「…何だって……」

歩夢「っ………」

 

後に残されたのは、絶望に暮れる宏高と、それを心配そうに見つめる歩夢だけだった。

 

 

────────────────────

 

 

一方その頃……

 

虹ヶ咲学園の屋上では、演劇部が練習をしていた。

その中に、腰まで届くダークブラウンのロングヘアをお嬢様結びにし、リボンで纏めた少女の姿があった。

 

彼女の名は『桜坂しずく』。

 

彼女は今、同じ演劇部の先輩や同級生達が注目する中、太宰治の『女生徒』の一節を読み上げていた。

 

しずく「明日もまた…同じ日が来るのだろう!幸福は一生来ないのだ!けれども…」

演劇部部長「はい、そこまで!」

 

部長がストップを入れ、部員達に指示を出す。

 

演劇部部長「じゃあ最後にグラウンド10周!」

部員一同「えぇーー⁉︎」

演劇部部長「文句言わずにさっさと行く!」

 

そしてしずくの元に近づく。

 

演劇部部長「しずく、聞いたよ。同好会の件。」

しずく「ぁ………」

演劇部部長「掛け持ちじゃなくなったわけだし、これからは演劇部に専念できるんでしょ?」

しずく「………」

 

しずくは演劇部とスクールアイドル同好会を兼部していた。しかし同好会が廃部となった事で、彼女の居場所は一つ失われたことになる。

心残りがある為か、部長に声をかけられてもしずくの表情は曇ったままだった。

 

 

 

虹ヶ咲学園の中庭の片隅。

比較的涼しい場所にあるベンチで一人の少女が寝ていた。

 

彼女の名は『近江彼方』。

 

彼方は家から持参でもしたのか、愛用品と思わしき枕に頭を乗せ、それはそれは気持ち良さそうに寝ていたが…

 

彼方「……ハッ⁉︎」

 

突然驚いて飛び上がる様に目を覚ました。

 

彼方「まずい!もうすぐ夕方じゃん。急がなきゃ、またせつ菜ちゃんに……あっ」

 

そこまで言って、彼方は思い出す。スクールアイドル同好会がどうなったかを。

 

彼方「もう、怒られないんだっけ……」

 

寂しそうに、再び枕に顔を埋める彼方。

 

 

────────────────────

 

 

同時刻。

虹ヶ咲学園の食堂の一角、窓際の席にその少女はいた。

赤毛の三つ編みおさげと頬に3つずつあるそばかす、幼い子供のような無垢な印象を覚える顔つきが特徴的な少女。

 

『エマ・ヴェルデ』。

 

それがスイスからの留学生である彼女の名前。

 

エマは端から見ても分かる程にナイーブに外の景色を眺め、次いで湯呑みに入ったお茶を見て溜め息を吐く。

そんな彼女に近づく少女が一人。

 

ウルフカットの青みがかかった黒髪を持つ大人っぽい美少女、『朝香果林』。

 

果林はコーヒー片手にエマの対面に座ると、気さくに話しかけた。

 

果林「元気ないわね、エマ」

エマ「果林ちゃん……モデルのお仕事は?」

果林「今日は休み」

エマ「そう……」

 

エマは微笑むが、すぐに心ここに有らずな顔で景色を眺める。

果林も同じ様に景色を眺めながら、何気なくエマに訊ねた。

 

果林「どうするの?スクールアイドル」

 

その問いにエマは、悩みを打ち明けるようにゆっくりと話し始める。

 

エマ「部長のせつ菜ちゃんに話そうとしたんだけど、連絡着かないんだ。少し活動を休止するだけって話だったのに……廃部だなんて……」

 

困惑、寂しさ、そして喪失感。

それらが混ざった表情で俯くエマを見て、果林は頬杖をつきながら、深く思考するような顔つきに変わる。

 

何かがおかしい。

活動休止の筈が、なぜ突然廃部という事になったのか。

妙な引っかかりが果林の頭に食い込んでくる。

しかし、いくらここで考えても答えは出ない。真相は、せつ菜の心の中にしかないのだから。

果林は頬杖を解くと、コーヒーを持ってから明るく言う。

 

果林「そんな顔しないで」

エマ「んぅ……?」

 

エマが顔を上げると、果林はコーヒーを一口飲んで、頼れるお姉さん感が溢れる言葉をかけた。

 

果林「力になれることあるかしら?」

エマ「ッ‼︎」

 

果林は元々面倒見が良く、尚且つ今回の相談相手は同じ寮生で友人のエマだ。

放っておけるわけがない。

果林の言葉に、エマの表情が僅かだが晴れた。

 

 

 

そして、虹ヶ咲学園の校舎を出て一人帰ろうとしていたセミショートヘアの少女、『中須かすみ』。

彼女は校舎から少し歩いたところで振り向き、吐き捨てるように言った。

 

かすみ「ぬぬぬぬぬ……かすみんはやっぱり、諦めませんよ‼︎」

 

 

────────────────────

 

 

スクールアイドル同好会が廃部、そして優木せつ菜がスクールアイドルを辞めたという二重のショックからなんとか抜け出した宏高は、歩夢と一緒に学園を出て、近くのベンチで休憩していた。

 

宏高「歩夢ー、それ何味?」

歩夢「限定のラクレットチーズ蜂蜜。食べる?」

宏高「いいの?なら食べる!」

歩夢「じゃあ半分こね?」

 

宏高が答えると、歩夢はやたらコッテリしてそうなパンを半分に千切る。

その際、チーズがデローンと伸びて切断面にしなだれかかる。

 

歩夢「はい」

宏高「いただきます」

 

歩夢は片方を宏高に渡し、2人は同じタイミングで頬張る。

 

宏高「美味いね、これ!」

歩夢「うん♪」

 

パンの美味しさに微笑む2人。しかしそれも束の間。

歩夢は沈んだ面持ちになり、暗い口調で切り出した。

 

歩夢「残念だったね…」

宏高「えっ?」

歩夢「せつ菜さん……でも!学校にはいる筈だし、会おうと思えば!」

宏高「それはいいよ」

 

歩夢の慰めたい気持ちが分かったのか、気にすることはないと言った調子でそう言った宏高は、空を見上げる。

 

宏高「やめたって聞いた時はかなり驚いたけど、何か思うところがあったのかもしれないし」

 

宏高はそう言ってしばらく黙った。

歩夢は新たなフォローをしようとしたが、結局上手い言葉が見つからず、同じく黙ってしまう。

やがて宏高は誰に言った訳でもない独り言を、なんとなしに呟いた。

 

宏高「やっぱり、難しいのかな?……夢、追いかけるのって」

 

呟いたその言葉には、何処か悔しさと弱気が混じっていた。

 

歩夢「……えっ?」

 

首を傾げた歩夢に、宏高は向き直って言う。

 

宏高「そういうことでしょ?アイドルやるにしても、何にしてもさ。自分の夢は、まだ無いけれど……夢を追いかけてる人を応援できたら、俺も、何かが始まる!……そんな気がしたんだけどな……」

歩夢「………」

 

歩夢は、何も言えなかった。

そんな事を彼が思っていた事を。

間接的に何かを成し遂げ、彼なりに新たな一歩を踏み出そうとしていた事を。

何も知らなかったから。

 

そして宏高はベンチから立ち上がり、再び歩夢の方に振り向き、明るい笑顔を浮かべて言った。

 

宏高「なんてね。とりあえずお台場寄って帰ろっか?」

歩夢「……うん!」

 

それに歩夢が笑顔で頷き、鞄を持って立ったその時……

 

ドオオオオオオオオオンッ‼︎

 

何か大きなものが落ちたような轟音が2人の耳に響き渡った。

 

宏高「───ッ⁉︎」

歩夢「な、なに…ッ⁉︎」

 

宏高と歩夢がビックリした様子で音の方角を見る。

2人の視線の先では、紫色の矢のような光弾が街中に降り注いでいた。

それだけでも驚きものだが、その直後にもっと驚くべきことが起こった。

光弾の落下地点に、上空から怪獣が降り立った。

黒い皮膚に赤い外殻。体中に生えた刃状の突起が特徴的な怪獣。

宏高と歩夢が呆然気味に現れた怪獣を見て言う。

 

歩夢「何……あれ……?」

宏高「“ヘルベロス”だ……!でも…どこか少し違うような……」

 

宏高はその怪獣を知っていた。

だがその姿は、真っ赤な目に両肘の巨大な刃、赤い外殻に禍々しい紫のラインが走った見た目をしており、彼の知るそれとは若干異なっていた。

 

宏高と歩夢が突然の事態に唖然とする中、咆哮を上げる最凶獣・ヘルベロスを遠目で見つめるフードを被った少年が一人。

その少年がこう呟いた。

 

???「思いっきり遊んでおいで……“キラーヘルベロス”」

 

 

続く。




宏高はなぜヘルベロスの事を知っていたのか?
その理由はこの第1話の終盤で明らかになります。


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トキメキの光#5

長いこと引っ張りましたが、ついにタイガが本格参戦です。
今回もよろしくお願いします!


突如現れた怪獣、キラーヘルベロスは腕を振り回し、豪快な足音を立てながらお台場の街中を暴れ回る。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーッ!!!」

 

宏高「このままじゃヤバい……歩夢、逃げるぞ!」

歩夢「きゃあっ⁉︎」

 

状況を飲み込みきれないまま歩夢の手を取って宏高は駆け出す。

 

(どうなってるんだよ……なんで、なんでこんな‼︎)

 

だが、突然宏高の足が止まった。いや、自分で足を止めたと言うべきか。

なぜなら彼は見つけてしまったからだ。人々がパニックで逃げ惑う中、立ち尽くしている少女の姿を。

 

(あの子はさっきの……)

 

その少女は部室棟でスクールアイドル同好会を探していた時に出会った、天王寺璃奈だった。

彼女は何かを探しているかのように、周囲をキョロキョロしていた。

 

宏高「おーい!」

璃奈「ぁ………」

 

宏高と歩夢は璃奈の元に駆け寄る。

 

宏高「何してるの⁉︎この辺りは危険だ!」

璃奈「…“あの子”が…」

宏高「…え?“あの子”って?」

璃奈「……さっき見つけた……白い子猫……」

 

璃奈によると帰り道の途中で捨てられていた子猫を見つけたのだが、その子猫が突然の怪獣襲来による驚きと恐怖から逃げ出してしまったので、追いかけていたのだという。

 

事情を聞いた宏高は目の前に佇んでいた璃奈の肩に手を置くと、一切の迷いがない声色で言った。

 

宏高「分かった、その子は俺が連れ戻してくる。だから君は早く逃げるんだ!」

歩夢「え?」

宏高「歩夢、この子と一緒に先に避難してて。俺、ちょっと行ってくる!」

歩夢「ちょっとって……!宏くん⁉︎」

 

そして宏高は逃げ惑う人々の流れに逆らって怪獣のいる方向に走り出した。

 

歩夢「宏くん……」

愛「あっ、りなりー!ほら早く逃げなきゃ!」

 

取り残された歩夢と璃奈の元に、愛が駆け込んできた。

 

愛「君も!」

歩夢「あっ……」

 

歩夢、愛、璃奈の3人は怪獣から離れるように再び走り出した。

 

(宏くん……お願い……無事に戻ってきて……)

 

 

 

その頃、宏高は璃奈の言っていた子猫を探して、周囲を見渡しながら街中を走り回っていた。

 

宏高「(どこだ……どこにいる……)あっ!」

 

そして見つけた。瞳が緑色の白猫の姿を。

 

宏高「いた!あれか!」

 

宏高は白猫を保護するためにゆっくり近づき、少しずつ距離を縮めていく。

 

だがその瞬間。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーッ!!!!」

 

キラーヘルベロスが腕のカッターから赤紫色の光刃、『キラーヘルスラッシュ』を放ち、それが数十メートル先にあるビルに直撃する。しかしそのビルは不運にも宏高の側にあるものだった。

 

宏高「………え?」

 

ビルはたちまち崩壊し、宏高の頭上に瓦礫の山が降り注ぐ。

 

宏高「嘘だろ…?うわぁ!」

 

『伏せろ、宏高!』

 

宏高は反射的に頭を両腕で覆った。だが無慈悲にもビルの破片は勢いよく地面に落下し、彼の周囲はすさまじい衝撃に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宏高「……うぅ………ん?」

 

宏高はゆっくりと目を開き、自分の身体に目を落とす。

十中八九破片の下敷きになるものだと思っていたが………どうやら自分の命に別状は無いらしい。代わりに粉砕され、細かく、小さくなった瓦礫が周囲に転がっていた。

 

まるで自分に当たる直前、見えない何かに守られたかのような気がした。

すると……

 

「ニャー………」

 

弱々しい猫の鳴き声が聞こえてきた。

 

宏高「……はっ、そうだ!」

 

宏高は思い出したように、自分の目の前にある瓦礫の山に近づく。覗き込むと、白猫が瓦礫のわずかな隙間に閉じ込められていた。

 

宏高「待ってろ……今助けてやるからな!」

 

宏高は白猫を助けようと、必死に手を伸ばす。

一方で、キラーヘルベロスの歩みは尚も止まらず、建物を破壊しながら徐々に宏高のいる所に迫ってくる。

 

宏高「うおっ⁉︎」

 

壊れた建物の破片が落ちた際の衝撃で、宏高の体勢が崩れ、白猫を閉じ込めている無造作に積み重なった瓦礫の山が揺れる。

このままでは瓦礫の山が完全に崩れ、白猫が下敷きになって死んでしまう。

 

宏高「まずい……急がないと!」

 

宏高の中で焦りが生まれる。再び瓦礫の隙間にいる白猫に向かって手を伸ばすが、数十センチ程足りない。

 

宏高「届けぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」

 

キラーヘルベロスは腕を振り下ろし、また別の建物を破壊する。破片が地面に崩れ落ちていき、宏高の周辺に再び強い衝撃が走る。

 

身の危険を感じ、思わず手を引っ込める宏高。そして迫り来るキラーヘルベロスの方を見つめる。

 

もう駄目なのか………心が折れかけたその時。

 

『どうする?』

 

宏高「……え?」

 

またあの声だ。今朝から時々頭の中に聞こえてくるこの声は一体何なのか。

宏高は咄嗟にその主を探す。だが何処にも見当たらない。

謎の声はそれに構わず続ける。

 

『今逃げればまだギリギリ助かるぞ』

 

宏高「バカ言うな!俺だけそんなこと出来るか!今逃げ出したら、俺は何のために……誰のためにここまで来て……!」

 

宏高の脳裏に浮かぶのは、あの時に見た璃奈の悲しげな表情。

あの子に「連れ戻す」と約束した。そのためにも、ここで自分が諦める訳にはいかない。

 

宏高「だから俺が……絶対助ける!」

 

キラーヘルベロスが宏高の姿に気付き、口から火球を吐いた。それは宏高の眼前に着弾し、激しい爆発と同時に周辺に炎が燃え広がっていく。

宏高は自身に迫ってくる炎を前に、最期を悟ってか静かに目を閉じる。その時、彼の体から眩い光が溢れ出した。

 

『お前の覚悟、受け取った!』

 

 

 

宏高「…………⁉︎」

 

宏高が目を開くと、そこには真っ白な空間が広がっていた。

さらに目の前には、小さなキーホルダーのような物体が浮かんでいる。

 

『宏高、俺たちでアイツを倒して、子猫も街も救うぞ!』

 

宏高「……えっ⁉︎これって……ウルトラマンタイガ⁉︎」

タイガ『俺のこと知ってるのか?』

宏高「いや知ってるも何も……てか、マジで本物のタイガなのか⁉︎」

タイガ『いいからとりあえず落ち着け!』

宏高「あ、はい」

タイガ『驚くのは分かるが、今はそんな余裕ないだろ』

宏高「うん、そうだな。いつから俺の中に居たのかは知らないけど、力を貸してくれるのか?」

タイガ『ああ!』

 

すると宏高の右手首に、ウルトラタイガアクセサリーの一種であるブレスレット、『ウルトラマンタロウレット』が出現、そしてそこから手甲型のアイテムに変化した。

 

宏高「……タイガスパーク……!」

 

本来ならこの世界では玩具として一般販売されているものだが、宏高の右腕に装着されているのは正真正銘の本物だ。

 

タイガ『俺はお前で、お前は俺だ!その手で俺を掴むんだ!』

宏高「よし!」

 

《カモン!》

 

タイガスパークの下部にあるレバーをスライドさせ、左手でタイガキーホルダーを掴む。

 

宏高「光の勇者!タイガ!」

 

左手に収めていたキーホルダーをタイガスパークを着けた右手で強く握り直す。

その瞬間、タイガスパーク中心部のクリスタルが赤く発光した。

 

タイガ『叫べ宏高!バディゴー!』

 

宏高は力を溜めるように大きく全身を捻り、天に向かって高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンタイガ!》

 

タイガ『────シュア!』

 

掛け声と共に赤と銀の巨人───『ウルトラマンタイガ』が地上に降り立った。

着地と同時に広がった風圧が辺りを焼け野原にしていた炎を消失させ、さらにキラーヘルベロスを転倒させた。

 

その光景は歩夢たちにも見えていた。歩夢、愛、璃奈の3人も驚きの声を上げる。

 

愛「何あれ⁉︎」

歩夢「もしかして………ウルトラマン……?」

愛「え?」

歩夢「ウルトラマンタイガ。宏くんがいつも言ってた……。」

璃奈「ウルトラマン……タイガ……」

愛「カッコいいじゃん!」

歩夢「でもどうして………」

 

元々ウルトラマンはテレビの中だけの存在。それが今、自分たちの目の前にいる。歩夢はその事に驚きと戸惑いを隠せなかった。

 

するとタイガが歩夢たちのいる所へゆっくりと近づいてきた。そして膝をつき、璃奈の前にゆっくりと左手を降ろす。そこには球体状の光の膜に包まれた白猫がいた。

 

璃奈「………あ!」

 

「ニャー!」

 

白猫は璃奈の姿を確認すると、彼女に向かって走っていく。

璃奈は自分の足元まで来たところで、白猫を優しく抱きかかえた。

見たところ、どこも怪我はしていないようだ。

 

璃奈「……ありがとう」

 

璃奈は目の前の巨人に向かって感謝の言葉を呟く。

それにタイガも「どういたしまして」というように小さく頷いた。

 

タイガは立ち上がるとキラーヘルベロスの方に振り向き、数歩前進してから戦闘の構えを取った。

 

タイガ『ハァッ!』

 

(BGM:ウルトラマン戦闘曲-形成逆転)

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーッ!!!!」

 

キラーヘルベロスは尻尾を振り上げるが、タイガは姿勢を低くしてこれを回避する。

続けて背中の棘を光らせ、『キラーヘルエッジサンダー』を放つ。紫色の無数の光弾がタイガの頭上に降り注ぐ。

 

タイガ『スワローバレット!』

 

タイガは腕を十字に組んで『スワローバレット』を連射し、上空から降ってくる光弾を1発残らず相殺した。

そこからタイガは勢いよく駆け出し、キラーヘルベロスに強烈な飛び蹴りを打ち込む。

立て続けに顔面を殴りつけ、胴を蹴り上げる。さらに横に回り込み、長い首を抱えてその巨体を地面へと叩きつけた。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーーッ!!!!」

 

キラーヘルベロスはすぐさま起き上がり、怒りの咆哮を上げる。

 

タイガ『こいつ、結構打たれ強くて厄介だな……』

宏高「やっぱり何らかの力で強化されてるのか……」

 

直後、キラーヘルベロスの角から赤紫の電撃『キラーヘルホーンサンダー』が放たれる。タイガは両腕を交差させ、足に力を込めて正面から受け止める。

 

タイガ『ぐっ……うぉぉおおおおおおおおおおお‼︎────ハァッ!』

 

交差させていた両腕を開いて、電撃を地面へと弾いた。

すると、タイガの胸のカラータイマーが赤く点滅し始める。

 

愛「なんかピコピコ言ってない?」

璃奈「……ウルトラマンは地球上では3分間しか活動できないの……」

 

キラーヘルベロスの攻勢は止まらず、今度は口から火球を放つ。

 

タイガ『ハァッ!』

 

タイガは右手の手刀でこれを両断。

そして右手を掲げ、次に両手を頭上で重ね、脇を締めつつ腰まで下げ、全身を虹色に光らせながらエネルギーを溜める。

そこから両腕をT字型に構え、右手のタイガスパークから虹色の光線を放った。

 

タイガ『ストリウムブラスター!』

 

光線は真っ直ぐキラーヘルベロスに直撃したが、弱々しい鳴き声を出しながら後ずさりしただけで、ダメージにはなったものの決定打にはならなかった。

 

タイガ『くっ、決めきれない!』

宏高「(……どうする?)……そうだ!タイガ、『プラズマゼロレット』はまだあるか?」

タイガ『え?…ああ!よし、それで行くぞ!』

宏高「オッケー!」

 

《カモン!》

 

宏高はタイガスパークのレバーを操作し、左手を掲げる。すると左手首に大型のブレスレット、『プラズマゼロレット』が出現した。

そこから宏高はプラズマゼロレットの後部にあるボタンを押し、中央のクリスタルと一対のブレードを展開。クリスタルの裏にある発光部にタイガスパークをかざし、下部にある赤いスイッチを2回押す。

 

《プラズマゼロレット、コネクトオン!》

 

するとタイガの体に『ウルトラマンゼロ』の幻影が重なる。

タイガは左腕を横に伸ばしてエネルギーをチャージし、腕をL字に組んで右腕から黄色の光線を放った。

 

タイガ『ワイドタイガショット!』

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーーーーッ!!!!」

 

2発目の光線を受け、肉体の耐久が限界を迎えたキラーヘルベロスは断末魔を轟かせながら大爆発した。

 

宏高「……やった……」

 

戦いを終えたタイガは両手を挙げて空高く飛び立っていった。

 

タイガ『シュア!』

 

 

続く。




いかがでしたでしょうか?
歩夢・愛・璃奈と何気にファミ通App組が揃ってましたね。
そしてニジガクの動物枠であるはんぺんを先行登場させました。
次回でようやく第1話完結です。


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トキメキの光#6

ようやく第1話ラストです。



タイガへの変身を解いた宏高は、赤い粒子状の光に包まれながら元いた場所へと降り立った。

 

タイガ『どうだ、俺の力は?』

宏高「俺がお前になったのか…?」

タイガ『やっぱこの地球には俺がいないとダメだな!』

宏高「本当に……夢じゃないんだよな?」

タイガ『夢じゃなかったら今こうして生きてないだろ』

宏高「ハハッ、だよね……おおっ」

 

宏高が後ろを振り返ると、そこには「イメージ体」と呼ばれるホログラム状のタイガの幻影が腕を組んで立っていた。

 

タイガ『随分反応薄いな……そこは「わぁ⁉︎」って言うところだろ?』

宏高「いや、なんとなくイメージ体でそこに居るような気がして」

タイガ『俺の方からこんなこと言うのも変だけどさ……お前一体何なんだよ?』

宏高「え?」

タイガ『俺や俺の持ってるプラズマゼロレットの事を知ってたり、とても初心者って雰囲気じゃなかったぞ?』

宏高「ああ、それは……タイガの活躍をテレビでバッチリ見てたから……かな」

タイガ『は?』

 

すると宏高はポケットからスマホを取り出し、ある画像を表示してタイガに見せた。

 

宏高「だって……ほら」

 

そこにはテレビ番組『ウルトラマンタイガ』のキービジュアルが映し出されていた。

 

タイガ『なっ……俺⁉︎それにタイタス、フーマに……ヒロユキ!これってどういう……「宏くーーーん!」ん?』

 

タイガの驚きの声は何処かから聞こえてきた宏高を呼ぶ声によって遮られた。

 

宏高「歩夢だ……俺を心配して探しに来たのか……ごめんタイガ、この話はまた後でな!」

タイガ『あ、おい!』

 

そういうと宏高は歩夢の声がする方を目指して駆け出して行った。

 

タイガ『ホント調子狂うぜ、まったく』

 

 

────────────────────

 

 

歩夢「どこにいるの……宏くん……」

 

怪獣によって破壊された建物の破片が転がり落ちている周辺を見渡しながら、宏高の姿を探す歩夢。

すると……

 

宏高「歩夢!」

 

背後から自分を呼ぶ声に振り向くと、そこには宏高がいた。

 

歩夢「宏くん!」

 

宏高の姿を見つけるや否や、彼の元に駆け寄る歩夢。

 

宏高「よかった……無事で」

歩夢「よかったじゃないよ!一緒に逃げてたのに、いきなり一人で逆方向に行って……怖かったんだから!……宏くんに何かあったらどうしようって……このまま二度と会えなくなるなんて嫌だって……そればかり考えちゃって……」

 

歩夢は涙目になりながら溜め込んでいた不安を吐露する。

 

宏高「ごめん……でも俺はちゃんとここにいるから……確かにちょっとヤバかったけど、あの巨人に助けてもらったんだ。ウルトラマンタイガにね」

 

不安にさせてしまったことを謝り、歩夢の頭を撫でながら彼女を宥める宏高。

それで幾分か落ち着きを取り戻した歩夢は、宏高の右手を自分の両手で包み込むと、涙声でこう言った。

 

歩夢「お願いだから……もう危ないことはしないでね……心配しちゃうから……」

宏高「ホントにごめん……」

歩夢「約束だよ?」

宏高「……努力はする」

歩夢「もーう……」

 

宏高の返答に歩夢は不満そうに頬を膨らますも、彼がここにいる事への安心感からいつものように柔らかな笑みを浮かべた。

 

そんな中、2人を陰から見つめる謎の人物がいた。その手には先程タイガに倒されたヘルベロスの顔をあしらった指輪が握られており、それを弄りながらこう呟いた。

 

???「いまいちキラープラズマが不十分だったか……」

 

その人物───白い薄手のパーカーに黒のジャケットを羽織り、フードを被った謎の少年は宏高と歩夢の方を一瞥して不敵な笑みを浮かべた後、その場から立ち去っていった。

 

 

────────────────────

 

 

怪獣による騒動が収まり、夕陽が完全に落ちて夜空が支配する時間帯。

今日はもう真っ直ぐ帰ろうという事になり、宏高と歩夢は並んで自宅への帰路を歩いていた。

やがてマンションが見え始めると、宏高が思い出したように話題を振る。

 

宏高「あっ!そういえば、明日の数学さー」

 

だが、いつまで経っても歩夢が着いてこない事に疑問を感じ、宏高は立ち止まって歩夢の方に振り返る。

 

宏高「歩夢?」

 

また何か不安になったのか。

だがどうにもそういう感じの表情ではない。

まるで、自分の中の迷いに答えを見つけ、決意しようとしているかのような。

そんな言い様のない表情をしていた。

やがて歩夢は口を開き……

 

歩夢「2人で……」

 

始まりとなる言葉を紡ぐ。

 

歩夢「2人で始めようよ!宏くん!」

宏高「……えっ?」

 

それが何を示しているのか、最初こそ宏高は分からず呆けてしまう。

歩夢は言葉を選ぶように慎重に続きを語る。

 

歩夢「私も見てたの。動画……スクールアイドルの。せつ菜さんのだけじゃなくて、たくさん……本当に凄いと思ったよ!自分の気持ちをあんなに真っ直ぐ伝えられるなんて!スクールアイドルって、本当に凄い!私もあんな風に出来たら、なんて素敵だろうって!」

 

それが歩夢が見出だした本心だった。

 

宏高「歩夢……」

歩夢「ごめんね?最初に言えなくて。本当は私もせつ菜さんに会ってみたかった。けど、会っちゃったら、自分の気持ちが止まらなくなりそうで怖かったの」

 

自然と歩夢は拳を握る。

 

歩夢「それでも……動き始めたなら、止めちゃいけない。我慢しちゃいけない」

 

歩夢は両手を胸の前で重ねると、2歩ほど進んで、目をギュッと閉じ、自分の気持ちに蓋をしている何かを抉じ開けるような表情を浮かべる。

宏高は黙ってそれを見守り、彼女の続きを無言で待つ。

やがて歩夢は意を決して打ち明ける。

 

歩夢「私、好きなの‼︎」

 

それを聞いた宏高はキョトンとした顔をするが、歩夢は照れ臭さから少し俯きながらも続ける。

 

歩夢「ピンクとか、可愛い服だって……今でも大好きだし、着てみたいって思う!」

 

そして歩夢は宏高に近づき、彼の左手を取るとこう言った。

 

歩夢「自分に素直になりたい。だから、見ててほしい」

 

そう言って、歩夢は持っていた鞄を置き捨て、近くにある幅広い階段を駆け上がり、踊り場の所で止まって宏高の方に振り返る。

 

歩夢「私は‼︎スクールアイドル、やってみたい‼︎」

宏高「………!」

 

そして歩夢は大きく深呼吸すると、共に歩む夢を詠った。

 

(♪:Dream with You)

 

 

 

 

 

宏高は歩夢の姿に何を思っただろうか。

ピンクの花弁が舞う中で、彼は何を幻想しただろうか。

それでも一つ言えるのは、宏高が歩夢に可能性を感じていたということ。

やがて歩夢の詩は終わり、彼女はゆっくりと階段を下りて、宏高の前に立つ。そして自分の鞄を拾い、その中からある物を2つ取り出しながら宏高に言う。

 

歩夢「今はまだ……勇気も自信も、全然だから。これが、精一杯」

 

それは花びらの模様が散りばめられた、ライトピンクと薄い黄緑色のパスケースで、歩夢は黄緑色の方を宏高に差し出して、彼を見つめながら言った。

 

歩夢「私の夢を、一緒に見てくれる?」

 

自然と歩夢の瞳が潤む。

是と答えてくれると期待している反面、非と言われる不安もあるのでそれは仕方がない。

 

それに対して宏高は微笑みながらパスケースを持つ歩夢の左手を両手で包み込んでからパスケースを受け取ると迷わず答えた。

 

宏高「勿論!いつだって俺は、歩夢の隣にいるから」

歩夢「っ〜〜〜〜‼︎」

 

嬉しさを超えた何かが、歩夢の心を埋め尽くし、込み上げてくる。

ちょっぴり涙が出てしまう。

それでもそれを抑え、歩夢は咲き誇る笑顔を向けた。

 

歩夢「うんっ!」

 

 

 

 

 

俺がタイガの……いや、ウルトラマンの光を得たのは偶然だったのかもしれない。

でも闘う事を決めたのは他でもない、俺自身だ。

俺が得た力で、歩夢や皆の夢を、笑顔を守れるなら……

 

 

続く。




これにて第1話終了です。
毎話これくらいの長さになると思いますが、気長に楽しんでいただけたらなと思っています。


次回 第2話「可愛さとおぞましさ」

ヒディアス「この世界は悪意で溢れている……」


お楽しみに。


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可愛さとおぞましさ#1

大変長らくお待たせいたしました。
第2話、かすみ回スタートです!

出来れば昨日の内に投稿したかった…
そうすれば実質しずかすだったのに…(何言ってんだ)

あと、新しいウルトラマンのシルエットもついに解禁されましたね!
ティガとの関係は⁉︎


世界で一番のワンダーランド!

 

そんな場所に行けると……思ってたのに……

 

 

〜回想〜

 

せつ菜「かすみさん‼︎もっと振りを大きく‼︎熱量が感じられません‼︎」

かすみ「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

息切れが激しく、疲労が一気に押し寄せてくる。

 

エマ「せつ菜ちゃん、少し休憩しよう。」

彼方「詰め込み過ぎは良くないよ〜」

 

そんなかすみを心配してか、エマと彼方がせつ菜を諌めるも彼女は折れない。

 

せつ菜「そんな時間はありません‼︎スクールアイドルが大好きなんでしょう?やりたいんでしょう⁉︎」

 

熱く語る先輩のその姿。

いつもなら同じスクールアイドルが好きな者として同調するところだが、今は只々鬱陶しい。

酷くムカムカする……。

 

せつ菜「こんなパフォーマンスでは、ファンの皆に、大好きな気持ちは届きませんよ‼︎」

 

おそらくこの時かすみは気付いてしまったのだろう。

この先輩とは目指す方向性がまるで違うということを。

それは他の3人とも……

 

それ故か、かすみはとうとう我慢の限界を迎え、今まで抑え込んでいた鬱憤や不満を吐き出してしまった。

 

かすみ「でも‼︎こんなの全然可愛くないですぅぅ‼︎」

 

 

〜現在〜

 

虹ヶ咲学園の生徒会室。そこで2人の少女が対面していた。

一人は生徒会長の中川菜々、もう一人は生徒会室に入ってきた朝香果林。

菜々は無機質な表情を向けて、これまた無機質なトーンで果林に訊ねる。

 

菜々「何の御用です?ライフデザイン学科三年の、朝香果林さん」

果林「ウッフフ♪生徒全員の名前を覚えてるって本当なのね」

 

予め知っていたのか、特に驚く様子を見せない果林は菜々に近づくと、「じゃあ」と前置きしてある事を切り出した。

 

果林「優木せつ菜さんの事も知ってる?」

菜々「……ええ」

 

一瞬の沈黙の後、菜々は答えた。

果林は菜々の正面に立つと、横の書類棚を見ながら話す。

 

果林「スクールアイドルに興味があって……でも、誰に聞いても、学科もクラスも分からないのよねぇ」

菜々「同好会は、優木さんとの話し合いの結果、廃部となりました。スクールアイドルの話なら、彼女はもう会わないと思いますよ?」

果林「………そう、残念♪」

 

再び書類棚の方をチラッと見ながら、言葉とは裏腹にどこか楽しげに含みのある笑顔で果林が言ったその時。

 

菜々「ご用件はそれで「キャー猫よー!」……?」

果林「?」

 

生徒会室の外から若干棒読み気味な悲鳴が聞こえてきた。

2人は同時に生徒会室の入口を見て、菜々が目をぱちくりさせる。

 

菜々「……猫?」

 

そして慌てて扉を開け放った瞬間……

 

菜々「うわっ⁉︎」

 

何かが顔に当たって怯んだ菜々はそのまま尻餅をついて倒れた。

飛んできたのは、白い猫だった。

猫は菜々の顔の上で足掻き、菜々にくぐもった声を出させながらも飛び退いて、何処かへと走り去る。

呼吸を妨げる存在が離れた事で大きく息を吐いた菜々は、

 

菜々「あっ、待ちなさい!」

 

直ぐ様猫を追って生徒会室を飛び出した。

後にただ一人残される果林。

だがしばらくして彼女も生徒会室を出て行く。

 

その時、果林と入れ替わるように一人の少女がこっそりと生徒会室に忍び込んでいった。

赤縁サングラスとマスクで顔を隠した中須かすみである。

かすみは生徒会室に誰もいない事を確認すると、生徒会長の机の引き出しを片っ端から漁り始めた。

そしてある物を発見し、歓喜の声を上げたのも束の間……

 

菜々「何をしているのですか?」

かすみ「……ワッ⁉︎」

 

かすみのすぐ後ろから冷たい声がした。

菜々が思ったよりも早く戻って来たのだ。

 

しばらくの沈黙。

眼鏡越しにかすみに冷たい視線を送る菜々。

サングラスとマスクの下で冷や汗が止まらないかすみ。

 

かすみ「きゃあぁぁぁぁ‼︎もう戻ってきたんですかぁぁ⁉︎」

 

慌てふためきながら机を挟んで菜々と距離をとるかすみ。

 

かすみ「しかし!目的は果たしました!さらば!」

菜々「あっ……お待ちなさい!」

 

菜々の制止に聞く耳持たず、かすみはダッシュで生徒会室を飛び出して行った。

 

菜々「……まったく……」

 

 

 

かすみ「はぁっ、はぁっ……」

 

虹ヶ咲学園の中庭まで逃げてきたかすみは、スカートのポケットから札のような物を取り出す。

それは「スクールアイドル同好会」と書かれたプラカードだった。

かすみはこれを取り返すために生徒会室を襲撃したのだ。

 

かすみ「にっひっひ♪大成功です♪」

 

 

────────────────────

 

 

そしてそのままスクールアイドル同好会があった部室に向かったかすみだったが、彼女を待ち受けていたのは残酷な現実だった。

 

かすみ「わ……私達の部室が……」

 

そこは既に『ワンダーフォーゲル部』という全く別の部屋になっていたのだ。

今のかすみはスクールアイドルがしちゃいけないような、絶望の二文字で表せる程の暗い表情を浮かべ、消えそうな程の掠れ声でそう呟いた。

 

カラン、とネームプレートを落とし、膝から崩れ落ちるかすみ。

 

かすみ「あぁ……あっ……あうううっ……」

 

そんな彼女に追い討ちをかけるかのように、靴底を強く叩く音が響く。

 

かすみ「ひっ…⁉︎」

 

肩をビクリと震わせ、顔を青ざめさせるかすみの背後から、怒りと呆れを含んだ無機質な声が降ってくる。

 

菜々「普通科一年、中須かすみさん?何を言いたいかは、分かっていますよね?」

 

眼鏡をキュピンと光らせ、無表情でかすみを見下ろすのは、ネームプレートを持って生徒会室から出たかすみを不審に思って追跡していた中川菜々だった。

 

かすみ「あわわわわわわわわわわ……っ⁉︎」

 

ギギギッと首を動かして背後を振り返ったかすみに、絶対零度の視線が突き刺さる。

しかし菜々は特にかすみを咎めることはせず、彼女に背を向けて無言でその場を去っていく。

 

かすみ「……ガクッ‼︎」

 

かすみはあまりのショックに手をついて四つん這いで項垂れるのだった。

 

 

────────────────────

 

 

場所は変わって食堂のカフェテリア。

 

かすみはアイドルが…と言うより女子がしちゃいけないような顔で手作りコッペパンをやけ食いしながら、隣に座っている桜坂しずくに愚痴をこぼしていた。

 

かすみ「あの意地悪生徒会長〜!」

しずく「怖かったね……でも、生徒会室に忍び込んだりするからだよ」

 

かすみの頭を撫でながら慰めつつも、正論を言うしずく。

そしてそこから哀しげな表情を浮かべて、ティーカップの紅茶を見つめながら呟いた。

 

しずく「部室……失くなったんだ……」

 

するとかすみは挑戦的な態度で強気な発言をする。

 

かすみ「こうなったら徹底抗戦だよ!しず子!」

しずく「ふぇ……?」

 

 

【かすみの脳内イメージ】

 

青い文字で『徹底』と書かれたプレートを持つエマ、ピンクの文字で『抗戦』と書かれたプレートを持つしずく、『部室をかえせー‼︎』と書かれた看板を持つかすみ、そして端で体育座りで眠っている彼方…。

 

かすみ「会長の横暴を許すなー‼︎」

「「「おおー‼︎」」」

 

 

〜現実〜

 

しずく「あっはは……気持ちは分かるよ……」

かすみ「でっしょー!」

 

しずくは苦笑いしながらもかすみに同情した後、訊ねる。

 

しずく「せつ菜さんには相談した?」

かすみ「ぁ……するわけないじゃん!そもそも部活以外で会った事なかったし!」

しずく「そうだね……」

 

かすみの言う通り、せつ菜は放課後の部活動の時間帯にしか姿を現さない、本当に謎の存在だ。

学年はおろか学科も一切分からないので、彼女と話をしたくても、自分たちからコンタクトをとることは出来ないのだ。

そんな時……

 

演劇部部長「しずく、行こ?」

 

演劇部の部長がしずくに声をかけた。

 

しずく「あ、はい」

 

彼女はかすみに笑顔を浮かべて軽く会釈し、かすみは緊張してぎこちない笑顔で返す。

しずくは鞄を肩に掛けながら立ち上がると、申し訳なさそうにかすみに退場の旨を伝える。

 

しずく「ごめんなさい。演劇部の稽古に行かなくちゃ」

かすみ「ふえっ?」

しずく「後で連絡するね?」

かすみ「ああっ、ちょっとぉぉ⁉︎」

 

かすみの制止も空しく、しずくは先輩の女子に付いていき、離れて行く。

 

かすみ「ぬっぐぅぅううううう〜‼︎」

 

 

────────────────────

 

 

さらに場所は変わって駅前。

 

そこでかすみはまたコッペパンをやけ食いしていた。

 

かすみ「しず子の薄情者ぉ!エマ先輩も彼方先輩も連絡取れないしぃ……!」

 

そして何かしらの決意を口にするかすみ。

 

かすみ「こうなったら、かすみんが部長になって、同好会を存続させるしか!可愛い溢れる、かすみんワンダーランドを作っちゃいますよーー‼︎」

 

その時だった。

 

宏高「でも、スクールアイドルやるったって、何から始めればいいんだ?」

かすみ「ええっ⁉︎」

 

かすみにとっては聞き逃せない、まさに天啓とも言える一言が背後から聞こえた。

俊敏な動きで背後を振り向いたかすみの目に映ったのは、2人の少年少女。

 

虹野宏高と上原歩夢だ。

歩夢が腕を組んで考え込む宏高に言う。

 

歩夢「スクールって言うくらいだから、部に入らないとダメなんだろうけど」

 

立て続けに宏高の中に居るタイガがテレパシーで言った。

 

タイガ『でも同好会はもう無いんだろ?これじゃあ御先真っ暗だぜ』

宏高「だよなぁ」

 

歩夢とタイガの両名に対して返事を返す宏高。

そんな2人の肩に、背後から忍び寄ったかすみは手を置いて話しかけた。

 

かすみ「せ〜んぱぁい♪」

宏高&歩夢「わっ⁉︎」

タイガ『誰だ?』

 

いきなり背後から現れたかすみに宏高と歩夢は驚くも、それに構わずかすみは見事な営業スマイルで勧誘を込めた問いを仕掛ける。

 

かすみ「スクールアイドルにご興味あるんですかぁ?」

宏高&歩夢「……ん?」

 

するとかすみは宏高を見て驚きの反応を見せる。

 

かすみ「……ん?…えっ…お、男の人?」

宏高「……ハハッ、まあ……そうなるよね……」

 

 

続く。




今回はここまでとなります!
ついに宏高とかすみが対面しました!果たしてこの出会いが何をもたらすのか…
スピンオフ小説の方も頑張って書いていきますので、そちらの方もよろしくお願いします!


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可愛さとおぞましさ#2

ようやく書けました……

かすみとの対面から夕方の場面まで書いていたらまさかの6000字超えになったので、今回は分割して連続投稿します。


とりあえず落ち着いて話し合おう、と言うことでかすみは宏高と歩夢を近くのベンチに座らせて、クルリと回りながら自己紹介した。

 

かすみ「スクールアイドル同好会、2代目部長のかすみんこと、中須かすみでーーすっ♪」

 

ぶりっ子仕草のオマケ付きで。

最初に食いついたのは宏高だった。

 

宏高「スクールアイドル同好会⁉︎俺は虹野宏高!」

歩夢「上原歩夢です……でも、同好会って廃部になったんじゃ?」

 

歩夢はかすみに名乗りつつ、訊ねる。

 

かすみ「諦めなければ同好会は永遠に続くのです!」

 

かすみはそう力説すると、自分の鞄をゴソゴソ探り、輪切りレモンを始めとした具材を挟んだコッペパンを2つ取り出して、宏高と歩夢に渡す。

 

かすみ「お近づきの印に、どうぞ♪」

宏高「いいの?」

かすみ「はいっ♪」

宏高「いただきまーす!」

 

2人は包装紙を破り、同じタイミングでコッペパンを口にする。

口をモゴモゴ動かして咀嚼、その味を堪能すると、歩夢と宏高は飛び上がる程に目を見開き、声を揃えて言った。

 

宏高&歩夢「んっ⁉︎美味しい‼︎」

宏高「これって、あそこのお店の?」

 

宏高が訊ねると、かすみは人差し指を振りながら答える。

 

かすみ「チッ、チッ、チッ。そのパンはかすみんの手作りですよぉ?」

 

宏高は心底感動したのか、キラキラした笑顔をかすみに向けて言う。

 

宏高「スゴいな‼︎流石スクールアイドル!こんなに可愛くて料理まで出来るのか!」

 

ナチュラルに褒めちぎる宏高に、かすみは目をぱちくりさせて反芻する。

 

かすみ「へぇぇっ?可愛い?」

 

そして言葉の意味を呑み込み、理解すると、次の瞬間には両手を頬に当ててモジモジし始めた。

 

かすみ「そんなぁ〜〜‼︎そりゃあ確かにかすみんは可愛いに決まってますけど〜♪宏高せんぱ〜い、見る目ありますね〜!」

歩夢「へっ?」

宏高「そうかな?」

歩夢「ふぅんっ⁉︎」

宏高「誰が見たって可愛いじゃないか!」

歩夢「ええっ⁉︎」

かすみ「ホントですかぁ〜?」

 

体をくねらせて舞い上がるかすみに、笑顔で褒めちぎる宏高、そして間でちょくちょく過剰に反応する歩夢。

するとかすみはズズイッと宏高に真正面から近づいて、上機嫌に言った。

 

かすみ「じゃあ先輩方ぁ♪そんな可愛いかすみんと、スクールアイドル活動始めませんかぁ?」

宏高「へっ?」

 

宏高がキョトンとすると、歩夢が宏高に視線を向けながら心配そうに訊ねた。

 

歩夢「大丈夫かなぁ?」

 

考え込む表情の宏高に、続けてタイガが言う。

 

タイガ『これは絶好のチャンスだぜ?乗らない手はないぞ?』

 

かすみ「大丈夫です!信じてください!かすみん、最強に可愛いスクールアイドル同好会にしてみせますから!」

歩夢「っ‼︎……可愛い……」

 

その言葉が琴線に触れたのか、歩夢は呟くように反芻すると、宏高に視線を向けた。

 

もっと可愛くなれば、宏高は自分を意識してくれるだろうか。喜んでくれるだろうか。

そんな考えが歩夢の脳を埋め尽くしていく。

やがて……。

 

歩夢「だったら……やろうかな?」

 

歩夢は入部の意思を表明した。かすみは歩夢の手を取って喜ぶ。

 

かすみ「入部決定ですね!」

 

ここで宏高が釘を刺すように挙手して告げた。

 

宏高「あ、一応言っとくけど俺はサポートする立場ってことで。歩夢を応援したいから」

かすみ「それって、専属マネージャーって事ですか?」

宏高「そうなるのかな?」

かすみ「ズルいですぅ!それならかすみんのサポートもしてください!」

歩夢「えっ⁉︎」

かすみ「スクールアイドルとしては、かすみんが先輩ですからねぇ。部長にはぁ、絶対服従ですよ♪」

 

てへぺろするかすみに、宏高は純粋な笑顔で答える。

 

宏高「分かったよ、中須さん」

かすみ「もっと気軽に呼んでくださいよぉ」

歩夢「だったら、かすかすだね!」

かすみ「わ゛あっ⁉︎"かすかす"じゃなくて"かすみん"ですぅ‼︎」

歩夢「"中須かすみ"だから"かすかす"かなぁって……」

かすみ「もぉぉう‼︎二度も言わないでください!かすみんって散々アピールしてるんだからそれでお願いしますよぉ!」

 

腕を組んで不満そうに頬を膨らますかすみ。

アピール方法が少し独特だった為、宏高が「アピールだったのか」と呟く。

そう思ったのは歩夢も同じだろう。

かすみは鞄を持ってこう言った。

 

かすみ「早速これから同好会を始めますよぉ!ついて来てくださぁぁい!」

 

 

────────────────────

 

 

それから、宏高と歩夢はかすみに連れられて場所探しをしていたが、近くの公園でご年配の方達とゲートボール、ドリルの音が煩い工事現場の側、たくさんの子供達が戯れる公園など、まともな場所がなかった。

と言うか、全て校外の場所である。

 

タイガ『なぁ、だんだん学校から遠ざかってないか?』

宏高「何でわざわざ学園の外に?」

 

肩車をしている女の子に頬を引っ張られながら、かすみはフニャフニャした感じの声で答える。

 

かすみ「かすみんは生徒会に睨まれてますから……校内での活動は厳しいのです……」

タイガ『一体何したんだよ?』

 

タイガが問い質すような目を向ける中、ふと宏高が閃いた。

 

宏高「ん〜……あ!彼処ならどうだ?」

 

 

────────────────────

 

 

宏高の提案の元、3人がやって来たのは東京湾近くの臨海公園だった。

周囲は木に囲まれ、人通りもあまりない。暑い時の日除けもあり、場所も広い。

スクールアイドルの練習場所としては最適だった。

 

かすみ「おぉ〜‼︎広いですぅぅ‼︎」

 

感激するかすみに宏高は訊ねる。

 

宏高「ここなら、迷惑にならないだろう?どうだい?」

かすみ「バッチリです‼︎ここにしましょう‼︎」

 

かすみはピースサインを立てて返答すると、スクールバッグからネームプレートを出し、目の前にある石造りのサークルベンチにバッグを置き、その上にネームプレートを立てる。

 

かすみ「じゃーーん!」

 

ネームプレートには、『かすみんのスクールアイドル同好会』と書かれていた。

 

明らかに何か書き足されたそれを見て宏高はある疑問を浮かばせた。

 

宏高「そのネームプレート……」

かすみ「かすみんが生徒会室から取り返してきました!」

 

かすみは胸を張って答えるが、続けて「……無断で」とボソリと言った。

 

宏高「……ぇ?」

歩夢「だから睨まれてるんだ……」

かすみ「何はともあれ、しばらくはここが虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部室ですよぉぉ‼︎ダンスや歌の練習は追々始めるとして、まずは部員をゲットです!」

 

かすみは話題をすり替える様に言う。

自業自得なだけに、あまり触れられたくないのだろう。

しかし部員募集からというのはどういう事なのか、そこに疑問を抱いた宏高が訊ねる。

 

宏高「何で部員募集からなの?」

かすみ「人がいっぱい居た方が、可愛いかすみんが引き立つからです!」

 

どう聞いても私利私欲な返答に苦笑する歩夢。

かすみはそれに構わず、スマホを取り出しながら言った。

 

かすみ「ともかく、手っ取り早く部員を集めるならこれでしょう!」

宏高&歩夢「……ん?」

 

 

続く。




今回もありがとうございます!

補足ですが、タイガの声は宏高にしか聞こえていません。(後々合流するタイタス、フーマも同様)
そして透明なイメージ体の姿で場面の所々に居ると想像しながら読んでいただけたらなと思います!


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可愛さとおぞましさ#3

まず最初に、皆さんにお詫びのお知らせがあります。

前の『#2』で区切る所を間違えた事による大きな編集ミスがあったため、慌てて書き足して編集し直しました。
本当に申し訳ございません。
今後こういった間違いの無いよう、再発防止に努めて参ります。

それでは、どうぞ!


こうして始まったのは、自己紹介の動画撮影。

まず一人目は手本として、かすみが名乗り出た。

宏高がかすみのスマホでカメラを回す中、かすみは自分なりのアピールを開始した。

 

かすみ「ヤッホー!皆のアイドル、かすみんだよ〜!かすみんー、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部長になったんだけどぉ……そんな大役が務まるか、とっても不安〜!でもぉ、応援してくれる皆の為に〜、日本一可愛いスクールアイドル目指して頑張るよっ♡」

 

そして撮影は終了。

しばらくの気まずい静寂で空気が満たされる中、最初に放たれたのは歩夢の間抜けな声だった。

 

歩夢「は?」

 

その一方で、宏高はかすみの自己紹介を高く評価していた。

 

宏高「おお〜!これがスクールアイドルの自己紹介か!はっきりと個性が表れてて、すごくいいね!」

歩夢「えっ?」

 

そしてもう一人、意外にも宏高以上にホットな対応をする者が。

 

タイガだ。

 

しばらく呆然としていたタイガだが、やがてじわじわと感動の波が押し寄せてきたのか、歓喜の声を上げた。

 

タイガ『すっげぇぇぇぇ‼︎マジで可愛くて、思わず見惚れちまった‼︎かすみん最高だぜ!』

 

宏高はタイガの反応に思わず「へっ⁉︎」と驚愕気味の引きつった表情を浮かべながら、背後にいるタイガの方を振り向く。

そんな中、かすみは照れ笑いしていた。

 

かすみ「えへへ〜♪宏高先輩〜、流石ぁ、分かってますね〜。これを動画サイトに投稿して、部員募集をします!次は歩夢先輩ですよ。今みたいな感じでお願いしますね。」

歩夢「えっ?えええぇっ⁉︎無理無理無理だよ‼︎恥ずかしいよ‼︎」

 

顔を真っ赤にして首を激しく左右に振る歩夢だが、かすみは折れない。

 

かすみ「何が恥ずかしいんですか⁉︎自己紹介はスクールアイドルの第一歩ですよ!」

歩夢「目が怖いよかすみちゃん……」

かすみ「大丈夫です!かすみん程じゃないですけど、歩夢先輩も十分可愛いですから。張り切って行きましょー!」

 

結局、流されるままに歩夢も自己紹介の動画撮影に駆り出された。

かすみが回すスマホのカメラを前に、歩夢は羞恥と緊張が混ざった表情を浮かべ、モジモジした動きを挟みながら話し出す。

 

歩夢「……あ!えっと……虹ヶ咲学園普通科二年の上原歩夢ですぅ……あ!あの私……ス、スク…」

かすみ「声が小さいですよ」

 

かすみのダメ出しが入りカットになってしまう。

 

歩夢「ご、ごめん……私‼︎スクールアイドルやりたくて‼︎」

かすみ「大き過ぎです。ちゃんとファンの皆を思い浮かべて」

歩夢「ファン……?」

 

と言われてもピンと来ないのか、歩夢は疲れたような溜め息を吐いた。

 

歩夢「はぁ……」

かすみ「不合格ですね」

 

その様子にかすみは容赦なく低評価を下し、宏高は苦い表情で「あちゃ〜…」と呟いた。

 

歩夢「い、いきなりは難しいよぉ!」

 

未だ羞恥が残ってる歩夢は、真っ赤な顔でかすみに抗議する。

それに思う所があるのか、かすみが歩夢にある提案をする。

 

かすみ「仕方ありませんねぇ。それでは両手を頭の上に」

歩夢「?……こう?」

 

かすみの動きを真似する歩夢。かすみは続けて指示を出し、

 

かすみ「語尾にピョンを付けてみましょう」

歩夢「ピョン⁉︎」

宏高「まさか?」

かすみ「ピョン!」

宏高「うさピョンか⁉︎」

 

宏高がそう言った瞬間、

 

歩夢「ええぇへえええええっ⁉︎」

 

歩夢はこれ以上ない程に耳まで顔を真っ赤に染め上げ、引きつった表情を浮かべて動揺した。

恥ずかしすぎてもう逃げたい。

そんな気持ちが歩夢の心に沸き上がってくるも、かすみはそれに構わず催促する。

 

かすみ「さぁ!」

歩夢「っ〜〜〜⁉︎」

かすみ「さぁぁぁっ‼︎」

歩夢「っ……‼︎」

 

開いた口は塞がらず、嫌な汗がダバダバと歩夢の顔を流れていく。

歩夢は助けを求めるように宏高の方を見るも、彼も期待の眼差しでこっちを見てるので、助け船を出してもらえないのは明白。

歩夢は体をプルプル震わせながら、やがてかなりの小声で紡いだ。

 

歩夢「あ……歩夢だピョン……

かすみ「声が小さい!もう1回!」

歩夢「歩夢だピョン‼︎」

かすみ「もっとうさピョンになりきって‼︎」

歩夢「うさピョンだピョン‼︎」

かすみ「ピョンに気持ちがこもってない‼︎」

歩夢「ピョーーーーーーン‼︎」

 

歩夢の自棄になった叫び声が臨海公園中に響き渡った。

 

 

────────────────────

 

 

陽は沈み夕方。

 

『JOYPOLIS』という大型ビル前にある木製ベンチに3人は移動して、それぞれ座っていた。

あれからも何度か撮り直したが、歩夢自身がかすみの様な自己紹介を恥ずかしがった結果、進捗は停滞。

今日中に撮り終えることは出来なかった。

かすみが暗い様子で俯く隣の歩夢に言う。

 

かすみ「週末には動画をアップするので、ちゃんと自主練しておいて下さいね?」

歩夢「可愛い怖い可愛い怖い可愛い怖い……」

 

歩夢は『可愛さ』の概念に恐怖を覚え、軽いトラウマになっていた。

ブツブツと呪詛の如く『可愛い』と『怖い』の2つの単語を連呼する様に、かすみは若干引いていた。

足を組んで座る宏高が苦笑したまま、かすみと話す。

 

宏高「可愛いって大変なんだね」

かすみ「アイドルの基本ですから」

宏高「でも、せつ菜ちゃんは可愛いって言うより、格好良いって感じだったよ」

かすみ「っ?せつ菜先輩を知ってるんですか?」

宏高「うん。一度遠くで見ただけなんだけどね」

 

そう言ってから、宏高は頭の片隅にずっと引っ掛かっていた事を訊ねる。

 

宏高「気になってたんだけど、同好会って何で廃部になったの?」

 

その問いにかすみは言いにくそうに俯く。

 

宏高「あ……言いたくないなら、無理には聞かないよ」

 

宏高はかすみを気遣ってそう言うが、やがて不満を思い出したような顔で、彼女は答えた。

 

かすみ「元はと言えば、せつ菜先輩がいけないんです」

宏高「?」

かすみ「グループを結成した時は、結構良い感じだったのに……お披露目ライブに目標を決めた辺りから、何かピリピリして来て……『こんなパフォーマンスでは、ファンの皆に大好きな気持ちは届きませんよーー‼︎』って‼︎だから、かすみんもムッキーってなっちゃって‼︎そのまま……活動、休止に……」

 

不満たらたらで言ったと思えば、声音を変えてせつ菜の真似で言ったり、でも最後は尻すぼみになって説明を終えるかすみ。

 

おそらく最初は、皆が同じ目標に向かって頑張っていたのだろう。

しかしその途中で個人のやりたい事、なりたいイメージ像が浮き彫りになり始め、意見が食い違い、歯車が合わなくなったのだ。

 

宏高は考え込む様に夕空を見上げ、

 

宏高「ん〜……かすみちゃんもせつ菜ちゃんも、ファンに届けたいものがあるんだよね?」

かすみ「当たり前ですよ!スクールアイドルにとって、応援してくれる皆は一番大切なんですから!より一層可愛い「くっ…⁉︎」アイドルである為にぃ「うううぅ…‼︎」……う?」

 

隣から再び呻く声が聞こえたかすみは、そちらに振り向く。

見れば歩夢が頭を抱えて再び『可愛さ』の概念に怯えていた。

 

歩夢「可愛いって何…?可愛いって難しい……可愛いって……」

 

そんな歩夢に2人のまたかと言わんばかりの視線が突き刺さる。

そしてかすみが言う。

 

かすみ「そんなんじゃ、ファンの皆に、可愛いは届きませんよ〜。……あっ!」

 

そこでふと、彼女は思い出す。思い出してしまった。

あの時のせつ菜の行動、それに不満が募る自分、理想を押し付けた事で歯車が狂い出したあの日の事を。

 

かすみ「……」

 

俯いて無言になってしまったかすみに、宏高が呼び掛ける。

 

宏高「かすみちゃん?どうかした?」

かすみ「もしかして……かすみん、同じ事してる……?」

 

彼女から返って来たのは、己の行動に対する疑問だった。

 

 

────────────────────

 

 

そしてその夜。

 

 

〜回想〜

 

かすみ「こんなの全然可愛くないですぅぅ‼︎熱いとかじゃなくって、かすみんは可愛い感じでやりたいんですぅ‼︎」

せつ菜「……っ‼︎」

 

 

〜現在〜

 

かすみは自室のベッドで横になり、枕に顔を埋めながら過去の自分を思い返し、後悔で唸っていた。 

 

 

 

時を同じくして……

 

 

 

???「そろそろ次の実験に入ろうか……」

 

謎の少年が、黒いカプセルを手にそう呟いた……。

 

 

続く。




今回はここまでとなります!
タイガ、まさかかすみんにハートを鷲掴みにされるとは…笑
そして次回から遂に“アイツ”が動き出します!


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可愛さとおぞましさ#4

待っていたよ!!!!
遂に新作の情報が解禁されました!
その名も『ウルトラマントリガー』‼︎

ウルトラ楽しみだぜ!


翌日の放課後。

 

ニジガクの中庭の、大きな日陰がある場所に、宮下愛と天王寺璃奈は居た。

2人はそこであるモノを眺めていた。

 

愛「フフフッ♪美味しいかい?」

 

愛は座り込んで、スマホで写真を撮りながら目の前にいる存在に話しかけていた。

その存在とは、一匹の白猫。以前の怪獣騒動の中で、タイガと宏高に救われた小さな命だ。

この猫は野良の迷い猫で、今は愛から与えられた餌を夢中で貪り食っている。

すると隣に座り込んでいた璃奈が愛に訊ねる。

 

璃奈「運動部の助っ人はいいの?」

愛「この後行くよ?」

璃奈「お家の人、どうだった?」

愛「やっぱダメだった〜飲食店だしねぇ」

璃奈「ウチのマンションもペット禁止」

 

2人が話し合っているのは、なんとかこの白猫の面倒を見られないか、についてだった。

いつまでもここに放置しておく訳にもいかないし、早い所ちゃんとした家で飼う方がこの白猫にとっても良い事なのだが、先程2人が言った様に、お互いの家庭の事情でそれは叶わない。

愛と璃奈は揃って「はぁ〜……」と溜め息を吐いた。

 

すると璃奈が何かに気付き、「ぁ……」と呟いて横を見る。

愛もそれにつられてそちらを見ると、石段ベンチに座る小柄な少女を視界に入れた。

 

璃奈「昨日、はんぺん連れてった人だ」

 

なんとこの白猫、既に名前が付けられていた。

 

 

 

(いつでも皆が戻って来られるように頑張ってたのに……)

 

かすみは「はぁぁぁぁぁ…‼︎」と盛大な溜め息を吐いて、自分の頭をポカポカ叩きながら嘆く。

 

かすみ「どうしたら良いんですか〜‼︎かすみん困っちゃいますぅぅぅぅうううぅぅぅぅ‼︎」

 

最後には両手で頭を抱え込み、左右に振り始めた。

すると突然、声が聞こえた。

 

宏高「悩み事?」

 

かすみの隣。そこにはいつの間にか宏高が座っていた。

宏高は両手を頭に当てて思考停止しているかすみを見ると、

 

宏高「へへぇっ♪」

 

何事もなかったかの様にはにかんだ。

それでようやく思考の時間が再開したのか、かすみは両腕をワタワタ振って驚いた。

 

かすみ「うわあぁぁぁぁああっ⁉︎いつの間にぃぃぃぃいいっ⁉︎」

宏高「そんなに驚かなくても……何か様子おかしかったから」

 

かすみは動きを止めて訊ねる。

 

かすみ「歩夢先輩は……?」

宏高「もう少し練習してから、公園行くってさ」

 

宏高が答えると、かすみは段々涙を滲ませ、

 

かすみ「……うぅぅ……うわあああああん‼︎」

 

突然泣いて宏高に抱きついた。驚きのあまりバランスを崩して後ろに倒れる宏高。

 

宏高「うわあああああっ⁉︎」

かすみ「宏高先ぱぁぁぁい〜〜‼︎」

宏高「ちょちょちょちょっとぉ⁉︎かすみちゃん⁉︎」

 

宏高はパニックになっていた。

この状況、道行く生徒に見られたら間違いなく誤解されてしまう。

しかし、そんな危ない空気を打ち砕いたのは、この学園の近くから聞こえてきた地響きの様な轟音だった。

 

 

 

数分前。

 

何処にでもあるような人気のない場所。

そこに一人の少年が立っていた。

 

少年は黒いカプセルを取り出し、それを起動させる。

 

???「ベムスター」

 

カプセルの先端が緑色に発光。それを二つの穴が空いてる取っ手付きの黒いアイテムに装填。

そして黒をベースに赤と紫の色が施され、中央に遺伝子の二重螺旋を模したようなシリンダー部分がある握力計のようなアイテムを取り出す。

それは『ウルトラマンジード』の変身アイテムである『ジードライザー』に酷似していた。

 

その名も『ダークネスライザー』。

 

少年はダークネスライザーを起動すると、装填ナックルを腰から外し、装填させたカプセルをライザーでスキャンする。それを空に向けて掲げ、トリガーを引くと、そこから緑の光が放たれた。

 

《ベムスター!》

 

やがてその光は、鳥のような顔をした怪獣となって街中に出現した。

 

 

 

頭に生えた角、両腕から生えた鋭い爪、そして腹部の五角形の口のような器官が特徴の『宇宙大怪獣・ベムスター』。

 

「ピギャーーーー‼︎クェーーーッ‼︎」

 

ベムスターは、建物を粉砕しながらゆっくり進行していく。

それを見た宏高の判断は早かった。

 

宏高「かすみちゃんは逃げて!」

かすみ「あっ……宏高先輩⁉︎」

 

突然の出来事に驚いたのも束の間、宏高はかすみに指示を出し、その場から駆け出すと、人気のない場所に移動。

 

タイガ『行くぜ、宏高!』

宏高「ああ!ニジガクには近づけさせない!」

 

宏高はタイガスパークを装着した右腕を掲げ、下部のレバーをスライドさせて待機状態にした。

 

《カモン!》

 

左手で腰に付けているタイガホルダーから『ウルトラマンタイガキーホルダー』を取り外す。

 

宏高「光の勇者!タイガ!」

 

左手に持ったキーホルダーを右手で握り直す。

するとキーホルダーからタイガスパークへとエネルギーが送り込まれ、中心部のクリスタルが赤く発光した。

 

タイガ『はあああああっ!ふっ!』

 

宏高は大きく全身を捻り、天高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンタイガ!》

 

タイガ『────シュア!』

 

巨大化したタイガは空中でアクロバティックに回転しながら地面に着地した。

そして戦闘の構えを取り、ベムスターに向かっていく。

 

タイガ『フッ‼︎』

 

「ピギャーーーー‼︎」

 

ベムスターも鳴き声を上げて向かってくるが、タイガはベムスターに体当たりをして、そこから前方へ押し返そうとする。

しかしベムスターも対抗して、タイガを押し返そうと突進を続ける。

 

タイガ『くっ……ぬうぅぅぅぅぅぅぅ……』

 

タイガはベムスターの右脚に蹴りを入れ、首に右肘打ちを喰らわせる。

 

タイガ『タアッ!』

 

タイガは更に右回し蹴りを喰らわせた。

ベムスターは四歩程後退りする。

 

「キィィィーーー‼︎」

 

ベムスターは頭部の角から破壊光線『ベムスタービーム』を発射し、タイガに直撃させる。

 

タイガ『ウワッ……グアアアアアッ⁉︎』

 

光線の直撃を受けて、よろめくタイガ。

 

宏高「タイガ!あいつには正面からの飛び道具は通用しない。後ろをとって、一気に粉砕するぞ‼︎」

タイガ『ああ!』

 

タイガは手先から『タイガスラッシュ』を放ち、ベムスターの光線を相殺する。

タイガはベムスターに向かって走り出し、そこからベムスターの背後に回り込んで押さえつけた後、その背中を勢いよく蹴り飛ばした。

 

タイガ『オリャッ!』

 

ベムスターはうつ伏せに倒れ、その身は地面に叩きつけられる。

 

「ピギャーーーー‼︎」

 

タイガ『もらったぜ!ストリウム……ブラスター!』

 

タイガはエネルギーを溜め、ストリウムブラスターを放つ。

が、これで決着とはならなかった。

ベムスターはうつ伏せに倒れたまま、バタバタと両腕を激しく動かす。

すると、その巨体はみるみる地面から浮上していき、やがてベムスターは空中へと逃れ、光線を回避した。

 

宏高「えぇぇぇえっ⁉︎」

タイガ『そんな芸当アリかよ⁉︎』

 

2人は完全に意表を突かれた。

そしてベムスターは低空飛行でタイガに急接近し、体当たりを喰らわす。

 

タイガ『グアァッ!』

 

勢いよく吹き飛ばされるタイガ。

ベムスターは空中で方向転換し、再びタイガに向かっていく。

タイガは立ち上がって体勢を立て直し、身構える。

 

宏高「来るぞ、タイガ!」

 

「クェーーーーッ‼︎」

 

タイガ『んなろぉ‼︎』

 

タイガはギリギリまでベムスターを引きつけると、横方向に飛び上がって回避しつつ、すれ違いざまにベムスターを殴りつけ、叩き落とした。

 

「キィィィーーー‼︎」

 

ベムスターは起き上がって、タイガを睨みつける。

 

タイガ『手こずらせてくれるぜ……』

宏高「流石はジャックを苦戦させただけはあるな」

 

タイガとベムスター、両者一歩も譲らぬ戦い。

そこに介入しようとする存在がいた。

それは、ベムスターを街に出現させた張本人である謎の少年。

 

???「ハハハッ、粘るねぇ。でもどこまで粘れるかな?」

 

少年は被っていた白いパーカーのフードを脱ぐと、首にかけていた円形のペンダントを取り出す。

それを右掌に乗せ、少年は静かに目を瞑り、精神を統一し始める。

するとペンダントが紫色に点滅し、そこからドス黒いオーラが溢れ出して、少年を包み込む。

それはみるみる大きくなっていき、やがてその中から黒い巨人が現れた。

 

タイガ『………!お前は……⁉︎』

 

その姿はタイガに似ていた。

短い2本の角、赤く鋭い目、胸のカラータイマー、両肘のヒレ状の突起物、そして額、両腕、両脚に付いたクリスタル状の発光体。

 

かすみ「何なんですか……あれ……」

 

この光景はかすみにも見えていた。

 

見るからにゾッとするような、おぞましい姿をした魔人。

 

その悪魔の名は────

 

 

 

ダークキラーヒディアス。

 

 

続く。




本作のメインヴィランがようやく登場です。
タイガ絶体絶命⁉︎


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可愛さとおぞましさ#5

※今回はだいぶシリアスな内容です。

人によっては好き嫌いがあるかと思います。ご了承ください。


街に現れた宇宙大怪獣・ベムスターと交戦するウルトラマンタイガ。

その最中に突如現れた黒い影、ダークキラーヒディアス。

 

タイガ『ヒディアス……!なぜ貴様がここに⁉︎』

ヒディアス「君の方こそ、どうしてこの地球に?」

 

質問を質問で返すヒディアス。

 

タイガ『ふざけやがってぇぇぇぇ‼︎うおおおおおっ‼︎』

 

タイガは怒りに任せて、怪獣そっちのけでヒディアスに殴りかかる。

しかしヒディアスは軽快な身のこなしでそれを躱していき、タイガの攻撃は全てあしらわれる。

 

ヒディアス「ほぉら、こっちだ……」

タイガ『ううぅ……うぉぉぉぉ!』

 

手招きしながら挑発するヒディアスに右拳を突き出すタイガだが、それも避けられると同時に逆に右腕を掴まれ、そのまま投げ飛ばされる。

 

タイガ『うおっ⁉︎』

 

タイガの体はその場で一回転し、勢いよく背中から地面に叩きつけられるが、素早く起き上がってヒディアスの方を向く。

 

ヒディアス「おやおや……もうダウンかい?」

タイガ『まだだっ‼︎』

 

タイガは完全に冷静さを欠いていた。

 

宏高「タイガ?いきなりどうした⁉︎」

 

宏高の声も届かないほど感情的になっているタイガは再びヒディアスに殴りかかるも余裕で受け流され、腹部と背部に連続でチョップを喰らう。

 

タイガ『ぐはっ……』

 

ヒディアスは右手にエネルギーを溜め、紫色の光球を放ち、タイガに直撃させる。

 

タイガ『グッ…ウゥゥゥ……グアアアアッ‼︎』

 

直撃を受けたタイガは一瞬固められたのち吹き飛ばされ、背後のビルに背中から倒れて瓦礫に埋もれてしまう。

タイガのカラータイマーが青から赤に変わり、点滅を始めた。

この光景にかすみが焦燥を持って言う。

 

かすみ「あわわわわわわ……っ⁉︎このままじゃウルトラマンが……‼︎」

 

劣勢に立たされたタイガに追い討ちをかけるように今まで蚊帳の外に置かれていたベムスターが襲いかかってきた。

 

「ピギャーーーー‼︎」

 

タイガ『クッ……邪魔をするな‼︎』

 

タイガはベムスターを追い払おうと、左拳で何度も殴りつける。そして力強いパンチを見舞おうとしたその時、ベムスターの腹部にある五角形の口、『吸引アトラクタースパウト』がガバッと開き、タイガの左拳を咥え込んだ。

 

タイガ『うおっ⁉︎』

宏高「しまった!」

 

タイガは腕を引き抜こうと足掻くも、びくともしない。

 

「クェーーーーッ‼︎」

 

その時、ヒディアスが動いた。

右腕に紫色の光の刃を出現させ、タイガとベムスターのいる方向へと走り出す。

 

かすみ「危ない‼︎」

 

思わずタイガに向かって叫ぶかすみ。

 

宏高「ヤバい、タイガ‼︎」

タイガ『……ッ‼︎』

 

ヒディアスは右腕の光刃をタイガ目掛けて突き出し、その切っ先はタイガの体を貫いた。

 

 

と思われたが……

 

 

ヒディアスの刃はベムスターの喉元を貫通しており、タイガは咄嗟に身を屈めたことで回避していた。

ベムスターが刺されたためか、腹部の口から左腕が抜けて、体の自由が戻ったタイガは後方へと倒れ込む。

 

「クェー……」

 

ヒディアスが光刃を引き抜くと、ベムスターは弱々しく鳴きながら、その場で大爆発した。

その光景に宏高は言葉も出なかった。

 

ヒディアス「あーあ、失敗か……」

 

何やら残念そうに呟くヒディアス。

 

タイガ『なぜ仲間を⁉︎』

ヒディアス「仲間?フッ、愚問だね。そいつはただの消耗品だ。いくらでも替えは利く。だから君の墓石にしようとしたまでさ。」

 

ヒディアスは最初からベムスターごとタイガを刺し貫くつもりだったのだ。

ベムスターが腹部の口でタイガの腕を押さえ込んだのをいいことに。

 

タイガ『お前が自分で呼び出したんだろう⁉︎』

ヒディアス「僕が呼び出したのなら、どう扱おうと僕の勝手じゃないか。」

 

その言葉を聞いた、宏高の中で何かが切れた。

 

彼の中で、黒く大きな感情が渦巻く。

 

それは────怒り。

 

インナースペースの中で黙り込んで俯いていた宏高は、静かに拳を握り締め、険しい表情で目の前の敵──ヒディアスを睨みつける。

 

宏高「お前ぇぇぇぇ……‼︎」

 

宏高の感情にシンクロするかのように、小刻みに震えながらゆっくりと立ち上がるタイガ。

 

宏高「お前だけは……ぶっ飛ばす‼︎」

 

タイガは再びヒディアスに殴りかかる。だがそれも余裕で受け止められ、逆に押さえ込まれる。

そのままタイガの耳元でヒディアスは言う。

 

ヒディアス「僕が怪獣を殺さなければ、もっと被害が出ていた。君たちからすれば結果オーライじゃないか。」

宏高「そういう問題じゃねぇ‼︎」

ヒディアス「この世界は悪意で溢れている……実力のある者が全てを決め、劣る者、意にそぐわぬ者は切り捨てる。それが宇宙の、自然の摂理さ。そしてその先にあるのは……破滅の果ての虚無だ。」

宏高「黙れ‼︎」

 

そしてヒディアスはタイガの拘束を解くと、そこから胸部に掌底を打ち込む。

 

タイガ『グワァッ‼︎』

 

タイガは大きく吹っ飛ばされ、地面に倒れ込む。

 

ヒディアス「人間などという不完全なモノの為に命を賭けるとは滑稽だな。君も、君の父親も」

タイガ『人間を……父さんを馬鹿にするな‼︎』

 

タイガは右手を掲げ、両手を頭上で重ね、腰まで下げる。

やがてエネルギーが充填されると、

 

タイガ『ストリウムブラスター!』

 

自身の得意技『ストリウムブラスター』を放つ。

それに対してヒディアスは胸のカラータイマーにエネルギーを集め、そこから真っ赤な光線『ヒディアストーム』を放った。

2人の光線はぶつかり合うが、徐々にタイガの光線がじわじわとかき消されていき、ヒディアスのヒディアストームが直撃して、タイガはまた大きく吹き飛ばされた。

 

タイガ『グアアアアッ⁉︎』

ヒディアス「フハハハハハ……」

 

ヒディアスは勝ち誇ってタイガを嘲笑すると、その場から空中に浮き上がっていく。

 

ヒディアス「今の君では全然張り合いが無い。でも楽しかったよ。では、この世の地獄でまた会おう。」

 

そしてヒディアスは、黒いオーラと共に忽然と姿を消した。

 

宏高「何なんだよ、あいつは⁉︎」

タイガ『奴の名は、ヒディアス。あいつがこの地球を破壊しようとした黒幕だ。』

宏高「なに……?」

タイガ『その所為で、俺はまた……!』

 

ヒディアスの攻撃を止め、地球を守ることはできたものの、実体を維持出来なくなり、仲間とも逸れてしまった。

タイガの脳裏に蘇る苦い記憶。

 

因縁の相手に敗れた悔しさを噛み締めながら、タイガはただ空を見つめていた。

 

 

────────────────────

 

 

変身を解いた宏高は学園内の目立たない場所に降り立つと、浮かない表情のまま中庭を歩いていた。

するとそこへ、

 

かすみ「あ、宏高先輩!」

 

宏高を見つけたかすみが走り込んできた。

 

宏高「かすみちゃん……」

かすみ「もう、どこ行ってたんですかぁ?……あれ?なんだか元気ないですねぇ」

宏高「え?……ううん、そんなことないよ」

 

宏高は適当に誤魔化すと、思い出したように言った。

 

宏高「そういうかすみちゃんだって、何か困ってたんじゃないの?」

かすみ「あっ……はい……」

宏高「とりあえず公園行こっか?歩夢が来るまで、相談に乗るからさ」

 

こうして宏高とかすみは仮の練習場所である臨海公園へと向かうのだった。

 

 

続く。




キャラ紹介

ダークキラーヒディアス

ウルトラマントレギアが惑星テンネブリスに微かに残留していたキラープラズマをかき集め、それを元に生み出したウルトラダークキラーの息子。宇宙人たちからは「トレギアの後継者」と呼ばれており、性格は冷酷かつ残忍。


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可愛さとおぞましさ#6

第2話ラストとなります。


後味が悪い結果に終わった戦闘の後、宏高がかすみと合流したその頃。

 

歩夢は学園内の誰も居ない場所で自己紹介の練習を始めようとしていた。

周りをしきりに確認し、深呼吸して練習開始。

両手をウサギ耳に見立てて、あざと可愛くやり始めた。

 

歩夢「新人スクールアイドルの、歩夢だピョン!臆病だから、寂しいと泣いちゃう〜!ピョーン!暖か…」

 

「…………」

 

しかし、不意に横から視線を感じて中断した。

顔中を嫌な汗が流れて覆う。

ただの勘違いであってほしい。悪い夢なら覚めてほしい。

そう思いたかった歩夢だが、現実は非情だった。

 

「フフッ♪」

 

歩夢「あわわわわわっ‼︎⁉︎」

 

歩夢は両腕をワタワタ振った後、心臓を掴まれたかの様に硬直した。

真っ赤になった顔をそちらに向ければ、そこにいたのはお姉さん感漂う女子生徒、朝香果林だった。

 

歩夢「こ、これはぁ、その……練習をしてて……ス、スス……」

 

穴があったら入りたい。

そんな羞恥に悶えながらも、必死に黒歴史を塗り替えんと弁明する歩夢だが、混乱で呂律が回らない。

そんな歩夢に果林は嘲笑するでもなく助け船を出した。

 

果林「スクールアイドル?」

 

顔を赤くしたまま首を激しく何度も縦に振って肯定する歩夢。

果林は再びクスリと笑い、

 

果林「フフッ。そう言う事?ごめんなさいね?とっておきの可愛い所見ちゃって。でも、それはあなたの言葉?」

歩夢「え……?」

果林「もっと伝える相手の事を意識した方が良いわよ?」

歩夢「……頭では分かってるんですけど、今の私にファンなんて居ませんし……あ!」

 

そこまで言いかけて、歩夢は思い出す。

ファンという漠然とした者より、もっと明確に頭の中に思い浮かべられる存在を。

自分がスクールアイドルをする原動力である、夢を見守ってくれる少年を。

 

歩夢「応援してくれる人なら……居ます!」

果林「ウフフッ♪お節介終わり。頑張ってね」

 

歩夢の中で何かが決まった。

それが分かった果林はクールに去って行った。

 

 

────────────────────

 

 

夕方。

 

レインボーブリッジが傍目に見える場所に、かすみと宏高はいた。

海水と淡水が混ざる水面を見つめながら、かすみは己の苦悩を独白する。

 

かすみ「かすみんには、一番大切にしたいものがあって……だから、スクールアイドルがやりたくて……それはきっと、皆もそうなんですけど……やりたい事はやりたいんです。けど、人にやりたい事を押し付けるのは嫌なんですよぉ。なのに、かすみん、歩夢先輩にそれをしちゃって……」

 

それを聞いた宏高は素直に感じた事をかすみに言った。

 

宏高「ん〜……つまり、それぞれやりたい事が違ってたって事でしょ?それで喧嘩しちゃうのは仕方ないと思うけどなぁ」

かすみ「仕方ないじゃ困るんです‼︎このままじゃ、また同好会が上手く行かなくなっちゃいますぅ‼︎」

 

本気で焦り、頭を抱えるかすみ。そんなかすみを見て宏高は、

 

宏高「ふふっ、悩んでるかすみんも可愛いよ?」

タイガ『確かに。ん?でも何で今それを言った?』

 

悩む後輩を可愛いと言ったのだ。

それにタイガが同調しつつどこかズレた返答だなと思ってツッコミを入れ、かすみは両手を頬に押し付け目をパチクリさせていたが、

 

かすみ「えっ?むぅーっ‼︎」

 

からかわれたと感じてムキーッと唸り、宏高をポカポカ叩きながら言う。

 

かすみ「先輩!こんな時にからかわないでくださいよぉ‼︎」

宏高「からかってないよ〜」

 

そこに歩夢が走って合流してきた。

 

歩夢「遅れてごめんなさーい‼︎」

宏高「おっ、歩夢!」

 

走った分の息を整えた歩夢はかすみに言う。

 

歩夢「あの、自己紹介なんだけど!」

かすみ「あ……」

 

さっきの独白で自分の過ちに気づいたかすみは歩夢にもういいと言おうとしたが、その前に歩夢が晴れやかな笑顔で言った。

 

歩夢「今、撮って貰って良い?」

かすみ「え……?」

 

呆然としたかすみは思わず宏高に助けを求めようと視線を向けるが、それに宏高は「フフッ」と笑う。

 

かすみ「あ、はい!」

 

かすみはスマホを取り出し、動画撮影の為に構えたと同時に歩夢は深呼吸1つしてから切り出す。

 

歩夢「じゃあ行くね!」

かすみ「……どうぞ……」

 

一体どういう心境の変化なのだろうか。

そうかすみが疑問に思う中、歩夢の自己紹介は始まった。

 

歩夢「虹ヶ咲学園普通科二年、上原歩夢です!自分の好きな事、やりたい事を表現したくて、スクールアイドル同好会に入りました!」

かすみ「ぁ……?」

 

自然とかすみの口から声が漏れた。

 

歩夢「まだまだ出来ない事もあるけど、一歩一歩、頑張る私を見守ってくれたら嬉しいです!宜しくね!えへっ♪」

 

最後に『あゆピョン』を取り入れて終了した撮影。

それはかすみらしい表現とはかけ離れたもの。

それでも、確かにかすみは歩夢の表現に惹かれるものを感じていた。

 

かすみ「わぁ……」

 

その証拠に惚けた呟きが出ている。

歩夢はそれに気づかず、やりきった様に両膝に両手を乗せ、不安そうな表情で訊ねた。

 

歩夢「どうかな?」

 

それに最初に反応したのは宏高で、歩夢の肩に手を置き、感想を述べた。

 

宏高「すっごく可愛い!歩夢らしい魅力が出てて、とても良かったよ」

 

宏高の素直な褒め言葉に、頬を赤らめる歩夢。

そこにかすみが空気を変える為のあからさまな咳払いを「コホンッ!」と1つして、2人の注意を向けさせる。

 

宏高&歩夢「ん?」

かすみ「かすみんの考えてたのとはちょっと違いますけどぉ、可愛いから合格です!」

歩夢「本当⁉︎うっふふふ♪良かった〜」

かすみ「うあっ⁉︎うぅ……」

 

歩夢の笑顔にかすみはバツが悪そうに顔を背けるが、そんな彼女の頭をポンポンしながら宏高は言う。

 

かすみ「ぁ……」

宏高「多分、やりたい事が違っても大丈夫だよ」

かすみ「え?」

宏高「上手く言えないけどさ、自分なりの一番をそれぞれ叶えるやり方って、きっとあると思うんだ」

かすみ「……そうでしょうか?」

宏高「なりたいものは違うけど、目指すものは同じかも…ってね。だからさ、探してみようよ!」

かすみ「??」

宏高「それに、その方が楽しいと思わない?」

 

宏高の言葉に、かすみは数秒思考する。

自分たちは、やり直せるのだろうか?

またやって、失敗したらどうしようという不安な気持ちはある。

でもそれは、ちゃんと互いが目指す方向を言わずに、押し付けあったから。

 

今なら大丈夫なんじゃないだろうか?

未だ悩むかすみに、歩夢が背中を押す様にクスリと笑いかけると、彼女もようやく覚悟を決められた。

 

かすみ「楽しいし、可愛いと思います!」

宏高「にひっ♪でしょ?」

かすみ「あははははっ♪先輩!見ててください‼︎」

 

迷いが晴れたかすみは何を思ったのか、背後の煉瓦造りのオブジェに走っていき、それに足をかけると塀の上によじ登る。

そして立ち上がると、祈る様に手を組み、

 

(色んな可愛いも格好良いも……一緒に居られる。そんな場所が本当に作れるなら……)

 

次の瞬間にはビシッ!と歩夢に人差し指を突きつけた。

 

かすみ「でも!歩夢先輩!どんなに素敵な同好会でも、世界で一番可愛いのは……かすみんですからね!」

 

宣戦布告した彼女は、いつだって頂点を目指すように、頂点に立つべく、人差し指を天に向けた。

 

(♪:Poppin' Up!)

 

 

 

 

 

彼女が構築し、彼女が目指す世界。

そこには一体、何が待っているのだろうか。

 

(色んな可愛いも格好良いも、一緒に居られる。そんな場所が本当に作れるなら……そこは絶対、世界で一番のワンダーランドです!)

 

 

────────────────────

 

 

同時刻。

 

果林はしずく、エマ、彼方の3人を伴って生徒会室を訪れ、菜々と対面していた。

 

果林「返すわ。生徒名簿。勝手に借りちゃってごめんなさいね。優木せつ菜と言う名前は、何処にも見つけられなかったわ」

 

他のメンバーが気まずそうに見守る中、果林は生徒名簿を菜々に返しながら言う。

かすみが生徒会室を襲撃したあの時、果林はその混乱に乗じて生徒名簿を密かに持ち出していたのだ。

 

『優木せつ菜』が何者なのかを探るために。

 

果林は犯人を追い詰める探偵のように、淡々と菜々に訊ねる。

 

果林「居ない筈のせつ菜と、どうやって廃部のやり取りが出来たのかしらね?」

 

笑顔なのに全く笑っていない目、探るような言葉尻が、無表情の菜々の心に刺さっていく。

そんな菜々に追い討ちをかけるように、果林の口から確信に満ちた言葉が飛び出した。

 

果林「教えてくれる?()()()()()さん?」

 

 

────────────────────

 

 

スクールアイドル同好会の新たなビジョンを見つけたかすみは、宏高、歩夢の2人と別れて、自宅への帰路についた。

いつも通る帰り道を往く中、彼女はずっと考えていた。

自分の悩みに正面から向き合ってくれた、心優しき先輩のことを。

そしてふと思った。

 

(かすみん……王子様に出会っちゃったかも)

 

その時だった。

前から歩いてきた男に気づかず、身体がぶつかってしまった。

 

かすみ「うわっ⁉︎」

 

ぶつかった拍子にコッペパンが1個、地面に落ちる。

 

かすみ「ご、ごめんなさいっ!かすみん、考え事してて……」

 

慌てふためきながら謝罪するかすみを、男は手で制した。

被っているフードと共にどこか不気味な雰囲気を纏う、不思議な少年だった。

 

???「こちらの方こそ、申し訳ない」

かすみ「い、いえ……そんな……あ!かすみんのお手製コッペパンが……」

 

かすみは落としたコッペパンを拾う。落ちた衝撃で、少し形が崩れてしまっていた。

 

???「それ、僕が貰ってもいいかな?君の力作を台無しにしてしまったお詫びに」

かすみ「え?でもこれ、落ちちゃったやつ……」

???「ちゃんと紙で包まれてるから大丈夫さ。君は何も気にしなくていいよ。何もね…」

 

前向きな物の見方で、少年は言った。

 

かすみ「は、はぁ……では、どうぞ……」

 

急におかしなことを言う少年に、かすみは呆気に取られながらもパンを差し出す。

 

???「ありがとう。君はかすみんって言うんだね?」

かすみ「あ、はい!かすみんは、常に可愛いを追い求めるスクールアイドルなのです!えっと……」

 

言葉を詰まらせるかすみの様子を察した少年は、突然彼女に詰め寄り、名乗った。

 

???「僕は霧崎。霧崎 幽とでもしておくよ」

かすみ「霧…崎さん……?」

霧崎「別に覚えてもらう必要はない。いずれ頭から離れなくなるからね」

かすみ「……?」

 

目をパチクリさせながら呆然とするかすみを余所に、霧崎は怪しげな言葉を言い残し去って行く。

そしてかすみとある程度距離が離れたところで、彼女から受け取ったコッペパンの包装紙を破り、かぶりつくと、

 

霧崎「……美味い」

 

と呟き、舌鼓を打つのだった。

 

 

続く。




キャラ紹介

霧崎 幽(きりさき ゆう)

ダークキラーヒディアスの地球での人間態の姿。見た目は『ガンダムEXA』の「イクス・トリム」。外見年齢は高校三年生。
白い薄手のパーカーの上に黒のジャケットを着ており、本来の姿に戻る時以外は常にフードを被っている。
闇のアイテムと怪獣のスパークドールズ、カード、カプセル、クリスタル、指輪を多数所持しており、「怪獣コレクター」の異名を持つ。
自ら戦う時はペンダント型のアイテム、「ヒディア・プラズマー」を用いて巨大化する。
キラープラズマを怪獣に注ぎ込んで強化することも可能。


今回もありがとうございました!
遂にヒディアスの人間態が明らかになりました!侑ちゃんが登場しない代わりに、ここで「ゆう」と言う名前を持ってきました。
次回はいよいよ、作者の推し回です!


次回 第3話「優木せつ菜」

宏高「俺はもう一度、君の歌を聴きたい!」


お楽しみに。


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優木せつ菜#1

お待たせしました。第3話、せつ菜回です。

スクスタのストーリーの方で、また大きな動きがあったようですね。
合同合宿、果たしてどうなるのか……。


夕陽が差し込む虹ヶ咲学園の生徒会室。

そこには生徒会長の中川菜々、そして対面には朝香果林、エマ・ヴェルデ、近江彼方、桜坂しずくがいる。

その中で中心となって話しているのは、果林だ。

 

果林「教えてくれる?優木せつ菜さん?」

 

菜々は果林に背中を向けて、無言を貫く。

まるで追及から逃れようとするかのように。

 

果林「否定しないのね?」

菜々「元々隠しきれるものとは思っていませんでしたから」

 

菜々は自分がせつ菜である事を認めたかのように言った。

そしてチラリと肩越しに果林を見ながら言葉を続ける。

 

菜々「ですが、同好会以外の方に指摘されたのは、予想外でした」

 

あくまでも中川菜々として振る舞う彼女に、果林はエマに視線を寄越しながら言う。

 

果林「たまたま同好会に親友がいてね。何で生徒会長が正体を隠してスクールアイドルをやっていたのか、興味があるんだけど……彼女達が今聞きたいのは、そこじゃないみたい」

 

エマが悲痛に呼び掛ける。

 

エマ「せつ菜ちゃん……」

 

一瞬、菜々の肩がピクリと動いた。

続けて彼方としずくが言う。

 

彼方「ちょっとお休みするだけって言ってたじゃん」

しずく「グループを解散した時に、決めてたんですか?私達とはもう……」

 

言ったきり、顔を俯かせるしずく。

彼女達は決して菜々を責めている訳ではない。

ただ単純に疑問なだけだ。

だがそれが菜々の心をチクチクと刺して責め立てたのか、エマがもう一度「せつ菜ちゃん!」と菜々を呼んだその時、

 

菜々「優木せつ菜はもういません‼︎」

 

彼女は初めて感情を露にした。

皆が思わず言葉を失う中、菜々の独白は続く。

 

菜々「私は!スクールアイドルをやめたんです‼︎もし皆さんがまだスクールアイドルを続けるなら、ラブライブを目指すつもりなら……皆さんだけで続けてください……!」

 

 

────────────────────

 

 

その日の夜。

 

菜々は自室で自身の持ち歌である『CHASE!』の衣裳を見つめていた。

 

(“大好き”を叫びたかった私が、他の人の“大好き”を傷つけた……私がなりたい自分は、こんなのじゃなかった。だから……)

 

そして菜々は衣裳を赤いアタッシュケースにしまうと、悲しげな表情を浮かべながらケースを閉じ、封印した。

しかしそこには、まだどこか未練があるようにも思える。

すると突然、扉をノックする音が聞こえた。

 

菜々母「菜々ー、入るわよー?」

菜々「あ、はい!」

 

菜々は慌ててアタッシュケースをクローゼットにしまうと、返事をしながら机に戻る。

そしてドアが開き、菜々の母親が飲み物を持って部屋に入ってきた。

 

菜々母「勉強、捗ってる?」

菜々「もちろん」

 

菜々は自信満々に答えると、母からホットココアの入ったマグカップを受け取る。

 

菜々母「来週模試でしょ?頑張ってね」

菜々「うん」

 

 

────────────────────

 

 

翌日の生徒会室。

 

現在、生徒会長の菜々と6人の女子生徒役員が会議をしていた。

 

菜々「分かりました。放課後の体育館使用の件については、私が話しておきます」

役員「お願いします」

 

菜々が役員メンバーを見渡しながら訊ねる。

 

菜々「他に議題はありませんか?」

 

すると三つ編みのおさげに眼鏡をかけた書記の少女が挙手した。

 

書記「はい。最近、困った子が校内に住み着いているみたいなんですが……」

菜々「どなたです?」

 

 

 

「ニャー!」

 

菜々「待ちなさぁぁぁぁぁぁい‼︎」

 

校内の叢を掻き分けて走り回る白猫を、学校指定のジャージに身を包み、捕獲用の網を持った菜々が追いかけていた。

生徒会書記の少女が言っていた困った子というのは、この白猫の事だった。

 

菜々「待てぇぇぇぇぇぇ‼︎コラ‼︎待ちなさい‼︎止まってください‼︎」

 

「ニャーーー!」

 

必死に追いかけ回す菜々だが、猫も必死なのでなかなか捕まえられない。

だが菜々は白猫のすばしっこさに振り回されながらも、ちゃっかり壁際に追い詰めていた。

 

菜々「ハァっ、ハァっ、ハァっ……もう逃げられませんよ……!」

 

観念しなさいと言わんばかりに網を振り翳す菜々。

しかしそこへピンク髪の女子生徒が駆け付け、白猫を捕まえた。

捕まえたというよりも、白猫が自ら彼女の胸に飛び込んだ様に見えた。

菜々が女子生徒に言う。

 

菜々「情報処理学科一年、天王寺璃奈さん?その猫を渡して下さい」

璃奈「……ダメ」

 

無表情ながらも確固たる意思を感じる。

菜々もどうしたものかと言った感じの表情をしている。

そこに金髪の少女、宮下愛が駆けつけた。

 

愛「その子、学校の近くで捨てられてたんだよね。どっちの家でも飼えなくてさ……」

 

愛が事情を説明するも、菜々は冷静に言う。

 

菜々「動物の放し飼いは、校則で禁じられています」

 

しかしこの言葉に璃奈は動じるどころか変わらずの無表情で菜々の瞳を真っ直ぐ見つめ、しかし両手は猫を庇うように抱えて撫でる事をやめない。

白猫は気持ち良さそうにニャーニャーと鳴いている。

すると菜々は何を思ったのか、璃奈に近づいて膝を折り、網を置いて、情愛のある優しい笑顔で璃奈に言った。

 

菜々「その子は天王寺さんの事が、大好きみたいですね。名前、何て言うんですか?」

璃奈「……はんぺん」

 

 

 

その後、はんぺんは菜々の計らいで『生徒会お散歩役員』なるものに就任する事となった。

飼うことは出来ないが、学校の一員に迎え入れる事は可能という理由で、校内への住み着きを許したのだ。

現在はんぺんは、愛と璃奈に見守られながら虹ヶ咲の校章が描かれた器に盛られたキャットフードを夢中で貪っている。

 

愛「生徒会お散歩役員就任、おめでとう。はんぺん」

璃奈「……おめでとう」

愛「よかったね、りなりー」

璃奈「……うん」

愛「飼うのはダメだけど、学校の一員に迎え入れる事は校則違反にはならないって、屁理屈だけど、良い屁理屈だよね!」

璃奈「うん。生徒会長、良い人だった」

 

「ニャー!」

 

そんな璃奈に同調するように、はんぺんも嬉しそうに鳴いた。

 

 

続く。




第3話のBパートで描かれた、あいりながはんぺんのニジガクへの仲間入りを祝うシーンを、早い段階で書かせてもらいました。
宏高は#2から登場します。
はんぺん、結構可愛いですよね〜。自分も猫は好きなんですけど、猫アレルギーというね……(;_;)


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優木せつ菜#2

この連休のおかげで、良い感じに筆が進んでいます。

感謝っ…!圧倒的感謝っ…!


愛と璃奈と別れ、菜々は校内の廊下を歩いていた。

音楽室を通り過ぎようとしたその時、ピアノの椅子に座っている一人の少年の姿に気づき、音楽室内を覗くと、そこには虹野宏高がいた。

 

耳にイヤホンを付け、音楽を聴きながらピアノに頬杖を突き、上機嫌に鼻歌を歌っている。

よくよく聞いてみれば、それは菜々の……優木せつ菜の曲、『CHASE!』だ。

それに気づいた菜々が、不意に呟いた。

 

菜々「何でその曲を……」

 

すると、菜々の気配に気づいた宏高が不意に顔を上げ、驚きの声を上げながら椅子から立ち上がり、慌ててイヤホンを外した。

 

宏高「ん?どわぁっ‼︎生徒会長⁉︎」

 

菜々がグランドピアノの側でワタワタしている宏高に向かって歩いて行きながら訊ねる。

 

菜々「虹野宏高さん。音楽室の使用許可は取ったんですか?」

宏高「いやぁ〜、あの〜……ごめんなさい‼︎」

 

直角に腰を曲げて頭を下げる宏高。

宏高は頭を上げると、その手を頭に当てて誤魔化し笑いを浮かべて言う。

 

宏高「あっははっ……すごく静かだったから、ついのんびりしたくなっちゃって」

菜々「はぁ……」

 

菜々は怒る気が失せたような溜め息を吐いた。

すると宏高が唐突に言った。

 

宏高「ところでさっき、せつ菜ちゃんの曲知ってるみたいな感じでしたよね?」

菜々「えっ⁉︎」

 

かと思えば菜々に興奮した様子で詰め寄り、早口で捲し立てた。

 

宏高「良い曲ですよね『CHASE!』‼︎動画とか観ました⁉︎もしかして、会長もせつ菜ちゃんのファンだったり⁉︎そうならそうと早く言ってくれれば良かったじゃないですか〜!せつ菜ちゃんの事色々語りましょうよ!あ、そうだ!『CHASE!』の他にオススメの動画あったら教えてくれません⁉︎探してるんだけど中々見つからなくて‼︎」

菜々「お、落ち着いてください‼︎」

宏高「あ!すいません……」

 

菜々の言葉で宏高は平静を取り戻し、菜々から距離を取る。

 

菜々「そういえば先日お会いした時、優木さんに会いたがっていましたね?」

宏高「はい!大好きですから!」

 

菜々の問いに宏高は笑顔で無自覚告白。

たちまち菜々の顔に朱が差す。

それに気づかずに宏高は窓の方へと歩きながら語り出す。

 

宏高「この前、ライブをやってて……凄かったんですよ。せつ菜ちゃんの言葉が、胸にズシンって来たんです。歌であんなに心が動いたのは、初めてでした」

菜々「…………」

宏高「俺、特撮とかアニメくらいしか夢中になれるものが無かったんだけど、あの日からスクールアイドルにハマって、今まで以上にすごく楽しいんです!歩夢と一緒に、同好会も入ったし…」

菜々「同好会?」

宏高「はい!かすみちゃんが誘ってくれて……あ」

 

そこまで言った瞬間、宏高は焦った様子でワタワタ両手を振った。

 

宏高「ち、違うんですよ!勝手に部活始めたとかじゃなくて……」

 

その様子を見た菜々はクスリと笑った。

 

菜々「特に問題ありませんよ。スクールアイドル同好会は一度廃部になりましたが、新しく立ち上げてはいけないと言う校則はありませんし」

宏高「え?」

菜々「部員が5人以上集まったら、いつでも申請に来て下さい」

宏高「そうなのか……」

菜々「……優木さんが聞いたら、喜ぶでしょうね」

 

自分の事なのに、何処か他人事のように言う菜々。

 

宏高「だとしたら、嬉しいな」

 

しばしの沈黙。

やがて口を開いたのは宏高だった。

 

宏高「何で辞めちゃったんだろう……せつ菜ちゃん」

 

飛び出したのは単純な疑問。

 

宏高「こんな事考えても仕方ないって分かってるんですけどね。きっとせつ菜ちゃんも、色々考えての事だろうし」

 

宏高は菜々を見るが、菜々は無言で窓の外の景色を眺めている。

宏高は続ける。

 

宏高「でも、時々思っちゃうんですよね。あのライブが最後じゃなくて……始まりだったら最高だろうなって」

菜々「…何でそんな事言うんですか」

宏高「え?」

 

ようやく菜々が発した言葉は、それだった。

いつも以上に冷淡な口調。

 

菜々「良い幕引きだったじゃないですか。せつ菜さんは、彼処で辞めて正解だったんです。あのまま続けていたら、彼女は部員の皆さんをもっと傷付けて、同好会は、再起不能になっていたはずです」

宏高「え?そんな事は──」

菜々「虹野さんは、ラブライブをご存知でしょうか?」

 

宏高の慰めを途中で強制的に打ち切り、菜々はそんな疑問をぶつけた。

 

宏高「ん?スクールアイドルの全国大会みたいなものですよね?」

菜々「その通りです」

 

日本中のスクールアイドル達が集い、パフォーマンスで競い合う。

それがラブライブ。

かつての菜々……せつ菜を含めた同好会も、そこを目指していた。

菜々は宏高に背を向け、感情を圧し殺したように話す。

 

菜々「ラブライブはスクールアイドルとそのファンにとって、最高のステージ。貴方もせつ菜さんのファンなら、そこに出て欲しいと思うでしょ?スクールアイドルが大好きだったせつ菜さんも、同好会を作り、グループを結成し……全国のアイドルグループとの競争に、勝ち抜こうとしていました」

 

懺悔にまみれた口調がこの場を支配する。

 

菜々「勝利に必要なのは、メンバーが1つの色に纏まる事。ですが、纏めようとすればする程、衝突は増えていって……」

 

菜々の中から、僅かに優木せつ菜の感情が顔を出す。

しかしそれは、自責の念。

 

菜々「その原因が、全部自分にある事に気付きました。せつ菜さんの大好きは、自分本意の我儘に過ぎませんでした」

 

自然と、菜々は拳を握っていた。

 

菜々「そんな彼女が、スクールアイドルになろうと思った事自体が、間違いだったのです。幻滅しましたか?」

 

宏高は……何も言えない。

せつ菜の心境を代弁するように語る菜々の言葉が、宏高の心に重くのしかかっていた。

重苦しい静寂が続く中、そこに歩夢が現れた。

 

歩夢「宏くん?」

 

宏高が歩夢の方に振り向いたのと同時に、

 

菜々「失礼します」

 

菜々は宏高の元から去り、音楽室を出て行った。

 

 

────────────────────

 

 

生徒会室に戻ってきた菜々は自分のノートパソコンで、以前お台場で行った自身のライブ映像を見返していた。

そのコメント欄には、多くの称賛の声が載せられていた。

韓国語や中国語で書かれたものもある。だがその中には、

 

でも、やめちゃったんだって

 

一体どうして?

 

もったいないね

 

ラブライブエントリーしないんだ

 

いい線いってたかもしれないのに

 

ラブライブへの参加を期待する声、引退を惜しむ声も数多くあった。

そのコメントの数々に菜々は心が揺らぎ、堪えかねて机に突っ伏す。

しばらくして落ち着いた菜々は頭を上げると、ノートパソコンを閉じ、鞄を持って校舎を出た。

 

【菜々の独白】

 

期待されるのは嫌いじゃなかったけど……一つくらい、自分の大好きなことも、やってみたかった。

私の“大好き”が、誰かの“大好き”を否定していたんだ。

それは結局、ただの我儘でしかなく、私の“大好き”は、ファンどころか……仲間にも届いていなかった。

ケジメでやったステージが、少しでも同好会の為になったのなら……優木せつ菜だけが消えて、新しい虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会が生まれる。

それが……私の最後の我儘です。

 

 

続く。




音楽室のくだりは、若干シチュエーションを変えました。
あと宏高はせつ菜のことをちゃん付けで呼んでいますが、本人の前ではさん付けで呼びます。
この時点では宏高は菜々がせつ菜であることを知らないので、違和感あるかもしれませんが…


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優木せつ菜#3

今日も投稿できました!

アニメイト通販でポチったフォトエッセイ3弾とニジガク1stライブのブルーレイ(今更)、昨日やっと届いた!
自分は3rd行けませんが、この週末に『with You』を観て、ライブ気分を味わいます!



宏高は音楽室で菜々と別れた後、歩夢と共にかすみに連れられ、スクールアイドル同好会の練習場所(仮)に向かっていた。

その途中で、飲み物を買いに寄ったニジガクの購買部でドリンクを物色していると、タイガが話しかけてきた。

 

タイガ『なぁ、宏高』

宏高「ん?」

タイガ『なんか怪しいと思わないか?あの生徒会長』

宏高「どういうことだ?」

タイガ『さっきの話、まるで自分自身の事を言っているような感じだったぜ』

宏高「えっ?」

タイガ『まさかとは思うが…「せんぱーい!」』

 

タイガの推理は、かすみによって遮られた。

 

かすみ「何買うか決まりましたぁ?早く行きましょうよぉ!」

宏高「ああ、分かったよ。かすみちゃん」

 

宏高達が会計を済ませて購買部を出ると、そこには果林、エマ、彼方、しずくの4人がいた。

 

しずく「探したよ。かすみさん」

かすみ「しず子?彼方先輩にエマ先輩も……」

宏高「あの……皆さんは?」

かすみ「かすみんと同じ、同好会のメンバーだった人達です」

歩夢「そういえば……」

 

歩夢は思い出した。

お台場で宏高と見た、せつ菜のライブ会場にあったポスターに彼女達が写っていたのを。

 

果林「ちょっとお話……いいかしら?」

 

 

────────────────────

 

 

場所は変わって臨海公園。

 

かすみ「えええぇぇぇぇ⁉︎意地悪生徒会長がせつ菜先輩ぃぃぃぃ⁉︎」

 

頭を押さえ、そこから頬を両手で挟みながら驚きの叫びを上げるかすみ。

果林達からせつ菜に関しての話を聞かされた宏高、歩夢、かすみの3人。

生徒会長の中川菜々がせつ菜であること、そしてそのせつ菜がスクールアイドル同好会を廃部にし、自身もスクールアイドルから遠ざかろうとしていることを。

 

かすみ「って言うか‼︎何でかすみんを置いてそんな大事な話をしに行ったんですかぁぁ⁉︎部外者のお姉さんは居たのにぃぃ‼︎」

 

除け者にされた事が余程不満だったのか、かすみは人差し指を果林に突きつける。

一方で“部外者”というワードにカチンと来たのか、果林は笑顔のようだが目が笑ってない、威圧感ある表情を浮かべてかすみに言った。

 

果林「へぇ〜?面白い事言う子ねぇ」

かすみ「ひぃぃぃぃ⁉︎ごめんなさい‼︎コッペパンあげるから許してくださいぃ……うう〜っ……」

 

かすみはしずくの後ろに隠れ、懐からコッペパンを出して怯えながら果林に差し出し許しを請う。

果林は姿勢正しく歩いて、かすみに近づくとコッペパンを受け取る。

 

果林「あら、美味しそう。ありがたく貰っておくわね」

 

しずくがかすみに言う。

 

しずく「学校中探しても居なかったから。スマホにも連絡入れたんだよ?」

かすみ「うえっ?本当?」

 

しずくに言われて、着信履歴を確認するかすみ。

 

かすみ「わあああっ‼︎全然気付かなかった‼︎」

 

すると宏高とタイガが呟いた。

 

タイガ『やっぱりな……』

宏高「あの菜々さんが……」

歩夢「ん……?」

 

歩夢が怪訝そうに首を傾げるが、それに宏高は気づかない。

エマが悲しそうに言う。

 

エマ「せつ菜ちゃん、本当にスクールアイドルを辞めるつもりみたい……」

 

続けて彼方も言う。

 

彼方「ちゃんと話そうとしたんだけど、取りつく島もなかったんだよ〜」

かすみ「そうなんですか……」

 

しょぼくれるかすみ。

事態は思った以上に深刻だ。

一同が黙り込む中、その沈黙を破ったのは果林だった。

 

果林「何か問題があるの?」

 

それに全員が「?」を浮かべると、果林は話す。

 

果林「あなた達の一番の目的は、もう果たしているように見えるけど?部員は5人以上居るみたいだし、生徒会も認めるって言ってるなら、同好会は今日にでも始められるでしょ?」

 

確かにその通りだ。

果林とせつ菜を除けば、今ここに居る者だけで6人。しずく達も戻ってくる気満々なので、書類上では何の問題もない。

 

果林「本人が辞めると言ってるんだし、無理に引き止める必要、無いんじゃない?」

 

果林の言う事は一理ある。

だが、それに納得しかねる者もいる。

 

宏高だ。

 

宏高「本当に辞めたいのだろうか……?」

果林「何でそう思うの?」

 

果林の問いに、宏高は逆に聞き返す。

かすみ以外のスクールアイドル同好会の元メンバーに。

 

宏高「皆さんは、どう思います?せつ菜ちゃん、辞めてもいいんですか?」

 

「「「それは嫌だよ‼︎」」」

 

息ピッタリに即答するエマ、彼方、しずくの3人。そしてその順に思いを打ち明ける。

 

エマ「せつ菜ちゃん、すっごく素敵なスクールアイドルだし!活動休止になったのは、私達の力不足もあるから……」

彼方「彼方ちゃん達、お姉さんなのに……皆を引っ張ってあげられなかった……」

しずく「お披露目ライブは流れてしまいましたけど……皆でステージに立ちたいと思って練習してきたんです!せつ菜さん抜きなんてありえません‼︎」

 

そこにかすみも続く。

 

かすみ「かすみんもそう思います‼︎せつ菜先輩は、絶対必要です!確かに、厳し過ぎた所も、ありましたけど……今はちょっとだけ気持ちが分かる気がするんですよ!前の繰り返しになるのは嫌ですけど……きっと、そうじゃないやり方もある筈で……それを見つけるには、かすみんと全然違うせつ菜先輩が居てくれないと、ダメなんだと思うんです‼︎」

 

すると彼方が急にかすみの背中に抱きつき、その頭を撫でながら言う。

 

彼方「大きくなったねぇ〜、かすみちゃ〜ん!」

かすみ「バカにしてませんかぁ⁉︎」

彼方「本気で褒めてるよ〜」

 

歩夢も宏高の意見に同調する。

 

歩夢「せつ菜ちゃんは私達に夢をくれた人だもんね!私も一緒にやりたい!」

宏高「ああ!」

タイガ『そうだな!』

 

しかし果林の一言で、その場の空気が一気に白ける。

 

果林「でも、結局はあの子の気持ち次第よね」

かすみ「また水を差すようなことを……」

タイガ『お前一体どっちの味方だよ……』

 

エマも果林に同調する。

 

エマ「確かに、果林ちゃんの言う通りだよ」

 

これにより再び全員が沈黙。

そんな中、宏高が唐突に左腕を上げ、自分の考えを告げた。

 

宏高「あの、俺の方から話してみてもいいかな?」

 

 

────────────────────

 

 

事態は翌日に起こった。

 

中川菜々がいつもの様に生徒会室で会議を開き、その時間を終えた時だ。

 

菜々「本日は以上です」

 

「「「「「「お疲れ様でした」」」」」」

 

ピーンポーンパーンポーン‼︎

 

校内放送のチャイムが突然鳴り響いた。

一体何事だろうか?

誰もが意識を放送に向ける中、上原歩夢の声によるアナウンスが響いた。

 

『普通科二年、中川菜々さん。優木せつ菜さん』

 

菜々「っ⁉︎」

 

歩夢の声でその名を呼ばれた事に、菜々の体は自然と反応する。

 

『至急西棟、屋上まで来て下さい』

 

菜々「…………」

副会長「会長、呼ばれてますよ?」

菜々「……ちょっと行って来ますね」

 

呼ばれたなら行くしかない。どんな話であっても。

席を立ち、生徒会室を出る菜々。

 

 

────────────────────

 

 

放送室では、歩夢が放送部員の少女たちに礼を言う傍ら、

 

歩夢「ありがとね〜」

かすみ「これ、お礼のブツです」

 

かすみが悪い笑顔を浮かべて、コッペパンで買収していた。

 

歩夢「かすみちゃん……」

 

それに歩夢は苦笑を浮かべた。

 

 

続く。




今回もありがとうございます!
次回、遂に宏高とせつ菜が対面します!


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優木せつ菜#4

第3話は5パートで区切ることになりそうです。

1stライブのDay1観ましたが、もう最高ですね!
2ndはどうしようか迷ってますが、3rdのBlu-rayは絶対買います!


西棟。

 

屋上に繋がる階段を昇って屋上に向かう途中、菜々は考えていた。

 

(わざわざ、せつ菜と一緒に呼び出すなんて……‼︎まさか、エマさん?あっいえ、朝香さんと考えた方が……)

 

中川菜々と優木せつ菜の組み合わせ。

事情を知らない者からすれば何て事のない情報だが、菜々本人としては気が気でない。

 

そうしてる内に屋上へと着いた菜々は、扉を開けて待ち人を確認する。

そこに居たのは、ガラス張りの転落防止ガードに両腕を乗せて黄昏る……宏高だった。

菜々が来た事に気付いた宏高は、ゆっくりと振り返り、真っ直ぐな目で菜々と向き合った。

少々……いやかなり意外な人物に、菜々は拍子抜けした顔で呟いた。

 

菜々「虹野宏高さん?」

宏高「やっと会えたね、せつ菜さん」

菜々「っ⁉︎」

 

菜々に向かって『せつ菜』と呼ぶ。

それは、優木せつ菜の正体が菜々である事を知っていなければ出来ない事。

そしてその事実を知る者は、ごく僅かしかいない。

菜々は努めて冷静に訊ねる。

 

菜々「エマさん達に聞いたんですね?」

宏高「そうなんだけど……音楽室で話してた時に、そうじゃないかなって」

 

実際告げ口の犯人はその通りだったが、その後に提示されたのは宏高の勘。

本当はタイガの勘だが。

物陰から歩夢、かすみ、しずく、彼方、エマが見守る中、対峙する虹野宏高と中川菜々。

最初に口を開いたのは菜々。

 

菜々「それで、どういうつもりですか?」

 

探りを入れるかのように菜々は問う。

自分が優木せつ菜だと知り、勧誘しに来たと思っているのだ。

その為の誘い文句がどう来るのか、それにより断りをどう言うか。

菜々はそれを考えていたが、直後に宏高から放たれたのは予想外の言葉だった。

 

宏高「ごめんなさい‼︎」

 

謝罪だった。しかも頭を下げるという行動込みの。

 

菜々「なっ⁉︎何ですかいきなり⁉︎」

 

当然慌てる菜々は宏高にその真意を確認する。

 

宏高「昨日、何でスクールアイドル辞めちゃったのかな、とか言っちゃって……何も知らなかったとはいえ、無神経過ぎたかなと……」

菜々「はぁ……気にしてませんよ?正体を隠していた私が悪いんですから。……話が終わったのなら」

 

突き放すように言って踵を返す菜々だが、宏高は手を伸ばして引き留める。

 

宏高「あ、まだあるんだ‼︎」

菜々「……何ですか?」

 

ここだ、と宏高は思った。

ここで言わなければ彼女は二度と立ち止まってくれない。

だからありったけの気持ちを込めて伝える。

 

宏高「俺は、幻滅なんてしてない」

菜々「……は?」

 

音楽室で菜々が、せつ菜の感情と共に問いかけた『幻滅しましたか?』という質問。

あの時は何も言えなかったが、事情を知った今なら言える。

 

宏高「スクールアイドルとして、せつ菜さんに同好会に戻ってきて欲しいんだ!」

菜々「へっ……⁉︎」

 

今度こそ、菜々に分かりやすく動揺の色が浮かぶ。

彼は何を言っている?

全てを聞いて、自分の過ちを知って、それでも尚勧誘してくる。

どうして?と菜々は心を乱し、そして半ば八つ当たり気味に感情を爆発させた。

 

菜々「何を……もう全部分かっているんでしょ⁉︎私が同好会に居たら、皆の為にならないんです‼︎私が居たら‼︎ラブライブに出られないんですよ⁉︎」

 

自分にそんな資格はない。

ただでさえ一人一人が異なるイメージを抱いている中で、どれだけ結束しようとしても、必ずまたどこかでバラバラになる。

それを考えると、どうしても最悪の未来が頭の中に流れてしまう。

だがそんな不安や思い込みを打ち砕くように、宏高も菜々に叫び返した。

 

宏高「だったら‼︎だったら()()()()()()()()()()()いい‼︎」

菜々「っ……⁉︎」

タイガ『宏高……お前……』

 

あまりの言葉に、菜々は思わず口をつぐんだ。

タイガも驚きを隠せない。

ラブライブはスクールアイドルをする全ての者にとって、目指すべきステージにして頂。

それを容易く、目の前の少年は一人の迷える少女の為に切り捨てた。

 

宏高「あっ、いや……!ラブライブがどうだからとかじゃなくて……!」

 

両手をワタワタ振って否定する宏高は、一度落ち着いてから言いたい事を頭の中で整理する。

 

宏高「俺はただ、せつ菜さんが幸せになれないのが……笑顔でいられないのが嫌なだけ。ラブライブみたいな最高のステージにこだわる必要は無いんだよ。せつ菜さんの歌が聴ければ、十分なんだ!」

 

宏高は未だ塞ぎ込むように俯く菜々に近づき、

 

宏高「スクールアイドルが居て、ファンが居る!それで良いんじゃないかな?」

 

屈託ない笑顔を向けた。

 

菜々「……どうして、こんな私に?」

 

少女は分からない。

取り返しのつかない過ちを犯した自分を、何故彼はここまで受け入れようとするのか。

何故そんな笑顔を向けられるのか。

そんな少女に、宏高は単純かつ素直な思いを口にする。

 

宏高「言ったじゃないか?大好きだって!こんなに好きにさせたのは、せつ菜さんなんだから」

菜々「っ……‼︎」

 

その言葉によって、中川菜々と優木せつ菜の心は救われた。

素直な気持ちだからこそ、どんな言葉よりも心に浸透してくる。

そう考えると、自然と頬が赤くなる。

 

菜々「……貴方みたいな人は、初めてです……期待されるのは嫌いじゃありません……ですが……本当に良いんですか?」

 

その問いに宏高は何も答えず、ただ笑顔で見守っている。

 

菜々「私の本当の我儘を……大好きを貫いても、良いんですか?」

 

一歩を踏み出せた。

心からの本心を素直に曝け出す事ができた。

それに宏高は迷わず答えると共に、改めて自身の望みを口にする。

 

宏高「勿論!俺はもう一度、君の歌を聴きたい!」

 

曇天を貫いて差し込む大量の日差しが、宏高の肯定の笑顔をより一層輝かせる。

 

菜々「っ……‼︎」

 

敵わない。もう自分の敗けだ。

根負けしたのに清々しい気持ちを抱えて、全てが吹っ切れた菜々は静かに目を閉じる。

そしてフッと笑うと、突然歩き出して宏高の隣を過ぎながら言う。

 

菜々「分かっているんですか?」

宏高「ん?」

菜々「貴方は今、自分が思ってる以上に、凄い事を言ったんですからね!」

 

やがて立ち止まると、彼女は眼鏡を外して胸ポケットに入れ、その三つ編みを解いた。

 

宏高「っ……‼︎」

 

その姿に宏高は開いた口が塞がらない。

菜々からせつ菜へと変わった少女は、振り向いて右拳を突き出す。

 

せつ菜「どうなっても知りませんよ⁉︎」

 

それに宏高も、笑顔で右拳を突き返して応える。

 

宏高「フッ……上等さ!」

 

再三忠告はした。何度も抵抗した。

それでも自分を迎え入れようとする少年に、少女は最高の手段で迎合する。

 

せつ菜「これは、始まりの歌です‼︎」

 

虹ヶ咲の屋上をステージに、復活した優木せつ菜のライブが始まった。

 

(♪:DIVE!)

 

 

 

 

 

そのライブを全校生徒が観ていた。

沸き上がる興奮を抑えずに、楽しそうな顔で。

せつ菜の強い歌声に誘われて、一人、また一人と生徒が集まってくる。

 

その中には、宮下愛と天王寺璃奈、朝香果林もいた。

愛はワクワクした表情で、璃奈は相変わらずの無表情で、そして果林は見守るようにライブを観ていた。

 

優木せつ菜の復活ライブを、宏高と歩夢とかすみ、しずくと彼方とエマは物陰で見守っていた。

各々が抱く気持ちはそれぞれだが、宏高の心は喜びと安堵に満ち溢れていた。

 

中川菜々の、優木せつ菜の笑顔。

彼が求めていたものが、確かにそこにはあった。

 

そして、優木せつ菜のプロローグは幕を閉じる。

右腕を掲げた決めポーズで息を荒げるせつ菜は、校内全体に響く声量で宣言した。

 

せつ菜「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会‼︎優木せつ菜でした‼︎」

 

直後にやって来たのは、空気を震わす程の歓声と拍手喝采の嵐。

愛も感動しながら手を叩き、果林はその場からゆっくりと立ち去る。

そして見守っていた同好会メンバーでは、先に宏高が動いた。

 

宏高「せつ菜さん‼︎」

せつ菜「うわあっ⁉︎」

 

感極まった宏高は、その感情の赴くままにせつ菜の両手を握ったが、せつ菜は突然の事に戸惑って驚きの声を上げる。

 

宏高「ありがとう‼︎」

せつ菜「ちょ、ちょっと⁉︎」

 

未だ状況を呑み込めないせつ菜の手を握りながら俯く宏高は、顔を上げて彼女の顔を見据えると「へへっ♪」と笑った。

その顔を数秒呆けた顔で見つめ返していたせつ菜も、

 

せつ菜「ぷっ……!あっはははははっ‼︎……私の方こそ、ありがとう」

 

やがて自然と笑い合う。そこにかすみがやって来て、ジト目で2人を見て言った。

 

かすみ「せぇんぱい、いつまで見つめ合ってるんですか?」

 

そこに歩夢が素直に感心した言葉を連ねる。

 

歩夢「やっぱり凄いねぇ‼︎」

宏高「ああ!」

せつ菜「皆さん、見ていたんですか?」

 

せつ菜の問いに、エマ、しずく、かすみの順に言う。

 

エマ「お帰りなさい!」

しずく「でも、少し盛り上がり過ぎかも」

かすみ「先生に見つかったら怒られちゃいますよ?」

彼方「どうする〜?生徒会長〜」

 

彼方が悪戯っ子めいた顔で訊ねると、せつ菜は不敵な笑顔で答えた。

 

せつ菜「今の私は、優木せつ菜ですよ‼︎見つかる前に、退散しましょう‼︎」

 

「「「「「「おーーー!」」」」」」

 

その時だった。

 

 

 

「クキュキュキュキュキュキュッ‼︎」

 

 

 

不気味な鳴き声と共に、街に巨大な怪物が現れた。

 

霧崎「歓声は一気に悲鳴へと変わる……」

 

 

続く。




優木せつ菜、ここに完全復活!
しかし、同時にそれは悲劇の始まりでもあった……
次回、タイガの戦いを描きます。今回の怪獣は?
第3話クライマックス!


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優木せつ菜#5

第3話ラストです。

アニガサキ2期決まったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
もう楽しみで仕方ありません!おかげで1期をラストまで遠慮なく書いていけます!

それでは、どうぞ!


虹ヶ咲学園の西棟屋上にて行われた優木せつ菜の復活ライブ。

それは宏高をはじめ、多くの生徒を魅了した。

しかしその熱気は、一人の少年の介入によって急激に冷めることになる。

 

少年──霧崎 幽は虹ヶ咲学園付近の人気のない場所で、左手に持った黒と赤のリング状のアイテム『ダークリング』を掲げると1枚のカードを赤いリングの中に通す。

 

《キングクラブ》

 

通されたカードは赤い粒子となり、空に向かって飛んでいく。そして粒子は街の中で、巨大な生物へと形を変えた。

それは、口に巨大な鋏を持ち、深緑と赤茶色の皮膚と極めて長い尻尾を持つ蟹に似た怪獣……ではなく、怪獣よりも強力な「超獣」だった。

 

『大蟹超獣・キングクラブ』だ。

 

「クキュキュキュキュキュキュッ‼︎」

 

宏高「こんな時に……!」

 

タイミングがあまりにも最悪すぎて、腹が立つ。

それでも宏高は己を落ち着かせて冷静になり、混乱で声が出ないせつ菜達から離れて物陰に入る。

 

宏高「行くぞ、タイガ!」

タイガ『ああ!』

 

宏高は右腕のタイガスパークのレバーを左手でスライドさせ、続けて腰のタイガホルダーからタイガキーホルダーを取り外し、タイガスパークを装着した右手で握り直す。

 

《カモン!》

 

宏高「光の勇者!タイガ!」

 

タイガ『はあああああっ!ふっ!』

 

中心部のクリスタルが赤く発光すると、宏高は天高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンタイガ!》

 

タイガ『────シュア!』

 

そして再び、ウルトラマンタイガが降り立つ。

 

 

かすみ「あ、ウルトラマンですよ!」

歩夢「やっぱり来てくれた……」

エマ「すごいね……」

彼方「彼方ちゃんも、近くで見るの初めて〜」

しずく「あれが……」

せつ菜「ウルトラマンタイガ……私たちのヒーローです‼︎」

 

 

────────────────────

 

 

(BGM:ウルトラマン戦闘曲-優勢)

 

お台場の街で対峙する、ウルトラマンタイガとキングクラブ。

 

宏高「折角の盛り上がりをぶち壊しやがって!」

タイガ『速攻で片付けるぞ!』

 

最初に仕掛けたのはタイガ。

キングクラブに向かって走り出すと、その胴体に跳び蹴りを叩き込む。

 

タイガ『タアッ!』

 

「クキュキュキュキュキュキュッ‼︎」

 

そこからタイガはキングクラブの頭部にチョップを打ち込み、さらに腹部に左脚で蹴りを入れる。

怯むキングクラブに追い討ちで連続パンチを打ち込んでから、その場でジャンプしてドロップキックを叩き込んだ。

 

タイガ『ウオオオオオオオッ!デヤッ‼︎』

 

「クキュキュキュキュキュキュッ‼︎」

 

しかしキングクラブはその威力に踏ん張ると、反撃の頭突きでタイガを怯ませ、

 

タイガ『うおっ⁉︎』

 

長い尻尾をタイガの頭に打ち付け、地面に倒した。

 

タイガ『グアッ⁉︎』

 

そしてキングクラブはここぞとばかりに口からドロドロとした溶解泡をタイガに向けて吐いた。

 

宏高「タイガ、避けろ!」

タイガ『あぶねっ‼︎』

 

宏高の指示にタイガは慌ててローリングで回避し、そこから後転に切り替えてキングクラブと距離を取り、間一髪で泡を浴びるのを回避した。

キングクラブは泡を吐くのをやめると、続けて眉間から高熱の火炎を噴射。

タイガはその火炎を運悪く、後転から起き上がった瞬間に浴びてしまった。

 

タイガ『ウワァッ⁉︎』

 

「クキュキュキュキュキュキュッ‼︎」

 

タイガが火炎で怯んだ所に、キングクラブは尻尾を振り回してタイガの首を絡め取る。

 

タイガ『グッ……ウウッ……』

 

尻尾による締め付け攻撃に苦悶するタイガ。

カラータイマーが青から赤に変わり、点滅を始める。

そしてキングクラブはタイガの首に巻き付けた尻尾を一旦解くと、そこから強く振り回してタイガの胸を打ち据え、後方へと吹き飛ばした。

 

タイガ『グアアッ⁉︎』

 

「クキュキュキュキュキュキュッ‼︎」

 

速攻で片付けると意気込んでいたタイガだが、思いの外劣勢に立たされていた。

 

タイガ『やっぱ超獣は、一段と手強いぜ……』

宏高「きっついぞ、これは……」

 

その時、

 

 

 

「ウルトラマンタイガさぁぁああああああああんっ‼︎」

 

 

 

タイガ『……っ⁉︎』

 

タイガの耳に届いてきたのは、喉が張り裂けんばかりに発せられた、自身の名を呼ぶ少女の叫び。

それは、インナースペース内の宏高にも届いていた。

声がする方向に視線を向けると、見覚えのある顔が視界の中心に収まった。

 

宏高「せつ菜さん……⁉︎」

 

どこからか取り出したマイクを片手に、虹ヶ咲学園の西棟屋上から自分たちに呼び掛けるせつ菜の姿が、そこにあった。

 

せつ菜「私は!私たちは信じています‼︎あなたの勝利を‼︎みんなの笑顔を、みんなの“大好き”を守ってくれると‼︎だから負けないでください‼︎タイガさん‼︎」

 

せつ菜の言葉に、タイガは力強く頷く。

 

せつ菜「私も一緒に戦いますよ!」

 

せつ菜は左手に持ったマイクを掲げると、タイガへの祈りを歌に乗せ、熱いエールを送った。

 

(♪:Buddy, steady, go!)

 

 

タイガ『聞こえる……せつ菜の歌が!全身に力が漲ってくるぜ!』

宏高「ああ、行くぞタイガ‼︎」

 

せつ菜の歌に奮起したタイガは、立ち上がって構えを取ると再びキングクラブに向かっていき、その腹に右ストレートを打ち込む。

 

タイガ『ハァッ!』

 

「クキュキュキュキュキュキュッ‼︎」

 

よろめくキングクラブにタイガは飛びついて、そこから頭部に左フックを打ち込み、立て続けに胴体にミドルキックを当て、右アッパーを顎に打ち込んだ。

 

タイガ『デヤッ!』

 

「クキュキュキュッ⁉︎」

 

タイガの猛反撃に気圧されるキングクラブは、反撃として長い尻尾を振り翳しタイガに打ち付けようとする。

 

タイガ『もう喰らうかよ!』

 

タイガは後方に飛び退きながら、手先からリング状のカッター光線『タイガ光輪』を放ち、キングクラブの尻尾を細切れにした。

 

「クキュキュキュキュッ⁉︎」

 

自慢の尻尾を切り裂かれ、仰天するキングクラブ。

 

タイガ『今だ宏高!』

 

《カモン!》

 

宏高はタイガスパークのレバーを操作し、左腕を掲げてプラズマゼロレットを出現させる。

そこから後部にあるボタンを押して中央のクリスタルと一対のブレードを展開し、クリスタルの裏にある発光部にタイガスパークをかざした後、下部の赤いスイッチを長押しした。

 

《プラズマゼロレット、コネクトオン!》

 

ウルトラマンゼロの幻影が一瞬重なった後、タイガは両腕を胸の前で構えてから交差させ、激しい炎に包まれながらエネルギーをチャージし、全身から虹色の人型の光線を発射した。

 

タイガ『タイガダイナマイトシュート‼︎』

 

強烈な光線の直撃を受けたキングクラブは、大爆発と共に跡形も無く消滅した。

 

キングクラブを倒したタイガは虹ヶ咲学園の方に振り向くと、屋上で熱唱し終えたせつ菜に向かって右拳を突き出す。

せつ菜もそれに応えて、とびきりの笑顔でタイガに右拳を突き返した。

そしてタイガは、両手を挙げて空高く飛び立っていった。

 

タイガ『シュア!』

 

 

────────────────────

 

 

タイガとキングクラブの戦闘が終わった頃の部室棟。

 

壁一面に幾つもある部室の扉。その中に『マッスル同好会』と書かれたネームプレートが掛けられたものがある。

その部室の扉からガタイが良い一人の男子生徒が出てきた。

 

「本日のトレーニングはこれにて終了です!賢者様‼︎」

 

???『うむ。また明日も頑張ろう!』

 

手に握っている何かに向かって話しかける男子生徒。

それは青い星型の宝石とウルトラマンの頭部がついた、細長い銀色のキーホルダーだった……

 

 

続く。




今回もありがとうございます!

なんとせつ菜が『Buddy, steady, go!』を歌うという、トンデモな演出をご用意しましたがいかがでしたでしょうか?
これは是非、ともりるにも歌って欲しいな〜って思いましたね。

そして『マッスル同好会』とは何ぞや⁉︎


次回 第4話「憎悪の剛腕」

タイタス「賢者の拳は全てを砕く!」


お楽しみに。


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憎悪の剛腕#1

スピンオフの方が難航し、かなり遅くなってしまい申し訳ありません。

第4話、今回はオリジナルエピソードになります。
オリキャラもたくさん出てきます。

それではどうぞ!


優木せつ菜の復活ライブで学園中が盛り上がっていた頃……

 

虹ヶ咲学園体育科の一年生で、陸上部に所属している少女『上城茉里(かみじょうまり)』。

彼女は陸上で1位を取る夢に向かって練習に励んでいたが、帰り道で暴走族に轢き逃げされ、病院に搬送された。

幸いにも大事には至らなかったが、彼女は足に再起不能の怪我を負い、選手生命を絶たれてしまった。

 

連絡を受けて病院に駆け付けた茉里の2つ上の兄『上城拳斗(かみじょうけんと)』は担当医から妹の状態を聞かされ、愕然とした。

茉里はそのまま入院の為、一人で家に帰った拳斗は自室に引きこもり、涙を流す。

 

どうしてこんなことに。

どうして妹が。

考えても考えても分からない。

 

失意のどん底にいた拳斗の耳に、突然聞こえてきた悪魔の囁き。

 

「少年に問う。何もせずただ絶望し続けているか、それとも……」

 

その声の主は────

 

 

────────────────────

 

 

せつ菜の復活ライブの翌日は土曜日だ。

この日、宏高は歩夢に誘われて街に遊びに出かけていた。

 

歩夢「ごめんね宏くん。朝来た途端におでかけしよう、なんて急すぎたかな?」

宏高「そんなことないよ。せっかくの休みだし、たまには息抜きも悪くない」

歩夢「宏くんはどこか行きたい場所ある?」

宏高「んー、これと言ってないし…適当に散策する?」

歩夢「そうだね、そうしよっか♪」

 

宏高と歩夢は街を散策し、買い物と食べ歩きを楽しんだ。

 

歩夢「あ、宏くん何か飲む?」

宏高「そうだね、歩き回ったから少し休憩しようか」

歩夢「うんっ、じゃあ飲み物買ってくるね♪」

 

そう言うと歩夢は飲み物を買いに行った。

 

タイガ『本当によく出来た幼馴染だな。あいつはきっと良い奥さんになるぞ』

 

タイガの言葉に宏高がふふっ、と1人微笑んでいると後ろから聞き覚えのある少女の声がした。

 

「宏高さん?」

 

振り返ると、そこにいたのは中川菜々だった。

 

宏高「あ、せつ……おっと、今は菜々会長だったね」

菜々「せつ菜、でもいいですよ。今は誰にも聞かれていませんし」

 

生徒会長の菜々がスクールアイドル『優木せつ菜』であることは、スクールアイドル同好会のメンバー間だけの秘密である。

なので部活動以外の時や場所では、彼女との接し方には気をつけなければならない。

 

宏高「分かったよ、せつ菜さん」

菜々「さ、さんもいりませんっ…///」

宏高「じゃあ……せつ菜…」

せつ菜「…はいっ……♪」

 

なんだかこそばゆい。

気まずくなってお互いに視線を外す宏高とせつ菜。

 

宏高「あ、そういえば…せつ菜は今日どうしたの?制服着てるし……」

せつ菜「生徒会の仕事で学園に行っていました。それも今終わったところで…」

宏高「そうなんだ……休日でも大変だね」

せつ菜「もう慣れました。それと同好会の件ですが、私の方で書類整理して新しい部室を確保しましたので、明後日から使用できますよ」

宏高「本当⁉︎そっか…ついに始まるんだな……」

 

宏高の中で期待が膨らむ。

 

せつ菜「宏高さんは?」

宏高「歩夢と遊んでてね。今飲み物買いに行ってて、待ってるところなんだ」

 

すると、両手に飲み物を持った歩夢が戻ってきた。

 

歩夢「宏くんお待たせ〜…あれ、せつ菜ちゃん?」

せつ菜「こんにちは、歩夢さん」

宏高「さっきばったり会ってね。生徒会の仕事があったんだってさ」

歩夢「そう……」

せつ菜「では私はこれで。今から病院に行ってきます」

宏高「病院?」

歩夢「せつ菜ちゃん、どこか悪いの?」

 

心配そうな顔で訊ねる歩夢。

 

せつ菜「いえ、ちょっとしたお見舞いです。体育科の女子生徒が一人大怪我をして、入院しているんです」

宏高「えっ……その子は大丈夫なの?」

せつ菜「はい。ですが残念なことに、彼女はもう陸上に復帰することは……」

歩夢「そんな……」

 

表情を曇らせる一同。

 

せつ菜「では、失礼します」

 

せつ菜は一言別れの挨拶を言って立ち去っていった。

それに合わせるように、宏高と歩夢も帰路についた。

 

歩夢「可哀想だね……その子……」

宏高「ああ……」

 

2人で話しながら横断歩道を渡ろうとしたその時、

 

ブルルルルルルン!!

 

激しい駆動音と共に、一台の黒いバイクが勢いよく走ってきた。

 

タイガ『宏高危ねぇ!』

宏高「歩夢っ‼︎」

歩夢「きゃっ‼︎」

 

宏高は歩夢の体を庇って倒れ込む。

 

宏高「あっぶねぇ……大丈夫?」

歩夢「うん…私は平気……」

 

(タイガが教えてくれなかったら、ヤバかった……)

 

宏高は心の中でタイガに感謝しながら、歩夢を立ち上がらせると再び一緒に歩き出した。

しかし彼は気付いていなかった。怒りに満ちた眼差しで、暴走族を見つめていた少年の存在に。

そしてその様子を、霧崎 幽が遠目から見ていた。

 

霧崎「復讐劇の………開演だ」

 

霧崎は不敵な笑みを浮かべながら、手に持っているカチンコを鳴らした。

 

 

続く。




いかがでしたでしょうか?

ゲストキャラの上城兄妹、拳斗と茉里。この2人の名前の由来はウルトラの父とウルトラの母の本名、『ケン』と『マリー』から来ています。
あと霧崎が持っていたカチンコですが、映画監督もしくは助監督が手に持っているアレのことです。


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憎悪の剛腕#2

もう6月ですね。

ニジガク3rdライブの事後通販で買った指定ジャージ、いつ頃届くかな…(選んだのは2年生)




虹ヶ咲学園にて生徒会の仕事を済ませた中川菜々は、病院を訪れていた。

受付で看護師から場所を聞き、病室へと足を運ぶ。

 

菜々「失礼します」

 

ドアをノックしてから病室に入る菜々。

 

茉里「生徒会長……」

菜々「こんにちは。体育科一年、上城茉里さん。お怪我の具合はいかがですか?」

茉里「はい……なんとか……」

菜々「陸上のことは、本当に残念でなりません……でも気落ちしないでください。まずはリハビリを頑張りましょう。私もお手伝いしますから」

茉里「ありがとうございます……会長」

 

「失礼します」

 

そこにもう一人、病室に入ってきた者が。

 

茉里「あ、(りき)さん」

力「こんにちは、茉里ちゃん。生徒会長も、お疲れ様です」

菜々「こんにちは。体育科三年、高岸 力(たかぎし りき)さん」

 

挨拶をしながらベッドに近づいてくるガタイの良い男子、『高岸 力』。

彼もまた虹ヶ咲学園の体育科に所属する生徒で、『マッスル同好会』の部長も務めている。

 

菜々「本日もトレーニングですか?」

力「はい!でも茉里ちゃんの事も気掛かりだったので、今日は早めに切り上げて来ました」

茉里「私のことはいいのに…」

力「そうはいかないよ。親友の妹だからね、心配して当然さ。そうだ、拳斗は?」

茉里「お兄ちゃんなら今朝一度来て、また出かけていきましたけど……」

力「おかしいな……あいつ今日はボクシング部に顔を出してなかったみたいだけど」

茉里「えっ?」

 

茉里の兄である拳斗も虹ヶ咲学園体育科の生徒で、力とは同級生だ。

彼はボクシング部に所属しているのだが、今日は練習に行っていないと聞いて、一抹の不安が茉里の頭をよぎった。

 

(お兄ちゃん……)

 

 

────────────────────

 

 

その頃、拳斗は暴走族の黒いバイクを探して彷徨っていた。

 

「どこだ……!」

 

辺りを見回しても、それは影も形もない。

 

「どこだっ……!」

 

次第次第に募っていく苛立ち。

 

「どこだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

木霊する叫び。

そんな拳斗の前に現れた一つの影。

 

「そんな闇雲に探したって、見つかるわけないじゃないか」

 

拳斗「誰だ……」

霧崎「はじめまして、だね。僕は霧崎 幽。君に力を授けに来た」

拳斗「その声……まさかお前が……」

 

拳斗は気付いた。目の前の少年が、昨夜自分に語り掛けてきた声の主であると。

 

霧崎「なかなか荒れてるねぇ、さまよえる復讐者君」

拳斗「馴れ馴れしくするな……」

霧崎「そろそろ頃合いかと思ってね……君に渡したスパークドールズを、少しだけ貸してくれないか?」

 

そう言って右手を差し出す霧崎。

それが何の事か分かった拳斗は、無言でポケットから一体の人形を取り出す。

それは人間の頭蓋骨に似た小さな頭部と、黄ばんだクリーム色の蛇腹のような鱗に覆われたマッシブな体格が特徴の『どくろ怪獣・レッドキング』のスパークドールズだった。

 

霧崎は拳斗からドールを受け取ると、マルチデバイス型の携帯端末を取り出した。

その端末は『ウルトラマンエックス』の変身アイテム『エクスデバイザー』に酷似した、その名も『ダークネスデバイザー』。

霧崎はダークネスデバイザーのディスプレイ下部にあるセンサーにレッドキングのドールの左足裏を押し当てる。

 

《ガオディクション、起動します。レッドキング、解析中》

 

ダークネスデバイザーに搭載されている機能、ガオディクション。

スパークドールズの怪獣の抱いている感情を解析することができる。

 

《解析完了しました》

 

その解析結果は、

 

《憤怒。憎悪。破壊》

 

霧崎「伝わってくるよ……君の心の底で、煮え滾る悪意が」

 

霧崎はそう言いながら拳斗にレッドキングのドールを差し出す。

拳斗が怪訝そうにドールを手に取ったその瞬間、まるで彼の感情に呼応するかのように、赤い光を放ちながらレッドキングのドールが変化した。

太く長くなった腕と、溶岩を思わせる黒と赤の皮膚を持つ『EXレッドキング』へと。

 

霧崎「そしてもう一つ、これを君に」

 

霧崎はさらに黒い短剣型のアイテムを取り出して、拳斗に差し出す。

 

霧崎「これは『ダークネススパーク』。力を解放するための物だ。これとスパークドールズを使えば、力が手に入る」

 

ダークネススパークを受け取り、決意に満ちた目でそれを見つめる拳斗。

 

拳斗「茉里の夢を壊した、アイツだけは許さない……」

 

彼は目的に向かって歩き出した。

小さく手を振りその後ろ姿を見送る霧崎。

 

霧崎「さあ壊すがいい。君が憎むものを、この鬱屈した世界を……」

 

 

続く。




ヒディアス(霧崎)が所有するダークネススパーク。これは見た目はダークスパークと同一ですが、柄にあるスパークフェイスカバーの下はダークルギエルではなく黒いギンガの顔になっているため、アイテムとしては別物です。

次回、拳斗の悪意が暴走する!


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憎悪の剛腕#3

DiverDivaの2ndシングルも、マジ最高だな!

あと3rdライブの事後物販も無事届きました!
パンフレットが、もうとにかく(内容が)濃い…!
Blu-ray絶対買ってやるからな!


日が暮れて街が暗くなり始めた頃。

 

スーパーに食料品の買い出しに来ていた宏高は、会計を済ませてレジ袋片手に店を出た。

 

宏高「ざっとこんなもんかな」

 

家に帰ろうとしたその時、タイガが何かを感じ取った。

 

タイガ『……っ!』

宏高「どうしたタイガ?」

タイガ『宏高……すぐ近くで強い闇の波動を感じる……!』

宏高「え?」

 

周辺を見回す宏高。その中で視界に入った一人の少年。

 

宏高「あの人は……」

タイガ『知ってるのか?』

宏高「ニジガクの校内新聞で見た事がある。ボクシング部の上級生の人だ。名前は確か……上城拳斗さん。まさか?」

タイガ『ああ。この異常なマイナスエネルギーは……あいつからだ』

宏高「何…⁉︎」

 

不吉な予感がする。

宏高は買った物を近くのコインロッカーに入れ、拳斗の後を追った。

 

 

────────────────────

 

 

霧崎からダークネススパークを与えられた事で、拳斗は更に強い憎しみの心に支配されていた。

それはもはや、自分ではどうする事も出来ないところまで来ていた。

そんな拳斗の前に現れたのは、高岸 力だった。

 

力「拳斗?」

拳斗「力……」

 

思わぬ所で鉢合わせた2人。

先に切り出したのは力だった。

 

力「どこで何してたんだ拳斗?部活の方にも行ってなかった様だし、茉里ちゃんも心配してたぞ?」

拳斗「ほっといてくれ……」

 

それだけ言って立ち去ろうとする拳斗だが、彼の様子に違和感を抱いた力は食い下がる。

 

力「どうしたんだよ拳斗⁉︎」

拳斗「お前には関係ない……どけっ‼︎」

 

拳斗の怒声から取っ組み合いになるが、そこに拳斗を追ってきた宏高が割って入る。

 

宏高「何してるんですか⁉︎」

拳斗「離せ‼︎」

宏高「うわっ!」

 

拳斗に突き飛ばされ、倒れ込む宏高を心配して駆け寄る力。

 

力「大丈夫か⁉︎」

宏高「は、はい……」

力「拳斗、なんでこんな事を⁉︎」

拳斗「黙れ‼︎お前は憎くないのか⁉︎茉里を傷付けておきながら、のうのうと走り回ってるアイツが‼︎」

力「お前まさか……?」

拳斗「俺の手で、茉里から夢を奪ったアイツに然るべき報いを与える……人間を超えた力で…!」

 

拳斗はダークネススパークを取り出し、胸の前で掲げる。

 

宏高「ダークスパーク⁉︎」

拳斗「…これで話は終わりだ」

 

ダークネススパークを振り下ろすと拳斗は紫色の霧に包まれ、その場から姿を消した。

 

宏高「拳斗さん⁉︎」

力「拳斗!」

 

宏高は拳斗が立っていた場所に駆け寄り周辺を見回すも、気配は完全に消えていた。

 

宏高「心当たりがあったら教えて下さい!あの人に何があったんですか⁉︎」

 

力を問い詰める宏高。

 

力「俺にも分からない……まさかあいつ、あの事故の事を引き摺って……」

宏高「事故?」

力「妹の茉里ちゃんが暴走族に轢かれて怪我をしたんだ。可哀想なことにあの子はもう、陸上には復帰できない…。多分、拳斗はそれを……」

宏高「ってことは……」

タイガ『せつ菜が言ってた入院中の生徒ってのは……』

宏高「あの人の……妹さん?」

 

宏高は頭の中でそれらの情報を総合し、一つの結論に至った。

妹を負傷させた暴走族とは、昼間に自分と歩夢も見た黒いバイクの事だろう。

拳斗はそのライダーに復讐しようとしている。

 

宏高「止めないと…!」

力「あ、おい!」

 

力の制止も聞かずに、宏高は走り出した。

 

 

────────────────────

 

 

その頃、黒いバイクの男は道端にバイクを止め、跨ったまま一休みしていた。

 

男「さて、そろそろ行くか」

 

男が出発しようとしたその時、目の前に拳斗が現れた。

 

拳斗「見つけたぞ……お前の所為で茉里は……!」

男「あ?何言ってんだお前?そこ退いてくれよ」

 

悪びれる様子もない男の言葉が、拳斗の心を逆撫でする。

 

拳斗「俺はお前を許さない…!」

 

拳斗はダークネススパークの先端をEXレッドキングのドールの左足裏にあるライブサインに当て、リードした。

 

《ダークライブ!EXレッドキング!》

 

直後、ドールから闇のエネルギーが放出される。

拳斗の体に闇を纏わせ、闇は拳斗に纏わり付き、そのまま強大なエネルギーと共に拳斗を怪獣へと変貌させた。

 

「キィファオオオオオオオオオ‼︎」

 

男「うわあああああああああっ‼︎」

 

男は恐れ慄き、バイクを発進させて逃げ出した。

それを追って、歩き出すEXレッドキング。

 

その光景は宏高にも見えていた。

 

宏高「あの人が怪獣に……⁉︎」

タイガ『ヒディアスの仕業だ…!あいつの怒りの感情を利用したんだ!』

宏高「そんな……」

 

動揺する宏高。しかし彼はそれを圧し殺し、拳斗を救う決意と共に、タイガスパークを装着した右腕を掲げた。

 

宏高「俺が止めてやる‼︎」

 

宏高は左手でタイガスパークのレバーをスライドさせる。

 

《カモン!》

 

さらに腰のタイガホルダーからタイガキーホルダーを取り外し、右手で握り直した。

 

宏高「光の勇者!タイガ!」

 

タイガ『はあああああっ!ふっ!』

 

タイガスパークの中心部のクリスタルが赤く発光すると、宏高は天高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンタイガ!》

 

タイガ『────シュア!』

 

夜の街に降り立ったタイガは、直ぐ様戦闘の構えを取る。

それに気付き、タイガの方に振り向くEXレッドキング。

 

「キィファオオオオオオオオオ‼︎」

 

タイガ『うおおおおおおおおおおっ‼︎』

 

勢いよくEXレッドキングに向かっていくタイガ。それに対してEXレッドキングは巨大な右腕を振るう。

 

タイガ『フッ!』

 

タイガはそれを受け止め、地面に叩き落とす。そこから左パンチを入れようとしたが、突然宏高に止められた。

 

宏高「待てタイガ!」

タイガ『何⁉︎』

宏高「無闇に倒せば、あの人を傷つけてしまう!」

 

怪獣にダークライブした人間は、怪獣を撃破すればスパークドールズと分離し解放されるが、僅かながら身体にダメージを負う。

それを考えると、どうしても躊躇してしまう。

 

タイガが固まってる間に、EXレッドキングは地面から右腕を持ち上げ、再びタイガ目掛けて振り回す。

我に返ったタイガは、後方に側転して間一髪回避した。

 

タイガ『ハッ!』

 

だがEXレッドキングはタイガに肉薄し、右裏拳でタイガを殴りつける。

 

タイガ『グアッ⁉︎』

 

タイガはよろめきながらも体勢を立て直すが、EXレッドキングはそこから右、左、右、左と連続でパンチを繰り出して、タイガを攻め立てる。

 

タイガ『グアッ⁉︎グウッ⁉︎ウワッ⁉︎グッ…⁉︎』

 

「キィファオオオオオオオオオ‼︎」

 

タイガ『グワアアアッ⁉︎』

 

最後に右ストレートが炸裂し、タイガは勢いよく吹き飛ばされて高層ビルに倒れ込み、瓦礫の山を作り上げる。

 

「キィファオオオオオオオオオ‼︎」

 

更なる追撃として、EXレッドキングは両腕を地面に強く叩きつける。

するとそこから炎が走り出し、タイガの足元でマグマが吹き出した。

これは『フレイムロード』という技だ。

 

タイガ『ウウッ…⁉︎グアッ…⁉︎』

 

EXレッドキング……否、拳斗の憎しみの力に圧倒されるタイガ。

その様子を、霧崎はアイスクリームを食べながら楽しそうに眺めていた。

 

 

続く。




だいぶシリアスな展開になりました。
宏高は、タイガはこの悪意を止められるのか⁉︎
次回、遂に賢者が立ち上がる!


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憎悪の剛腕#4

第4話ラストです。

長いこと引っ張りましたが、いよいよ力の賢者が合流します。
あと久し振りにかなりの長文です。

今日ついに鬼滅の刃、無限列車編のブルーレイが発売しましたね。
無限列車といえば煉獄さん、煉獄さんといえばタイタスですね笑

突然ですがここで愚痴を一つ。
最近、リアル仕事がウルトラ多忙すぎる!!!!


暴走族に妹の茉里を傷つけられた上城拳斗。

彼のその憎しみが生んだ灼熱の怪獣、EXレッドキング。

 

負の感情の赴くままに猛威を振るうEXレッドキングを止めるべく応戦するウルトラマンタイガだったが、彼は劣勢に立たされていた。

 

EXレッドキングは巨大な腕を連続で地面に叩きつけ、『フレイムロード』を連発。

地中から吹き出すマグマに翻弄されるタイガ。

 

タイガ『グアッ⁉︎……グウッ⁉︎』

 

「キィファオオオオオオオオオ‼︎」

 

万事休すかと思われたその時、

 

「もうやめて!お兄ちゃん‼︎」

 

突然聞こえてきた少女の叫び。

すると、EXレッドキングの動きが止まった。

 

タイガ『……っ⁉︎』

 

攻撃が止み、恐る恐る顔を上げて声がした方角を見ると、その目に映り込んだのは病院の屋上に立つ茉里と彼女に肩を貸す力の姿だった。

 

 

 

時は拳斗がEXレッドキングにライブした瞬間に遡る。

 

力「か、怪獣……!」

 

『あれは……闇の力か!』

 

頭の中に響いた低い大人の声音に、力はポケットから銀色のキーホルダーを取り出して問いかける。

 

力「賢者様、それは一体……」

 

『あの怪獣は、君の友人が変わり果てた姿だ。彼の負の感情を利用した存在がいる』

 

力「何ですって……あれは拳斗だって言うんですか⁉︎そんな……」

 

混乱と驚愕の最中、ウルトラマンタイガが現れた。

 

『タイガ!……まさか私の仲間がこんな近くにいようとは……よもやよもやだ!』

 

力「え?賢者様って、ウルトラマンだったんですか⁉︎」

 

『ああ。今まで黙っていてすまない。ウルトラマンタイタス。それが私の名だ』

 

力「でもこのままタイガが怪獣と戦ったら、拳斗は……」

タイタス『彼も分かっているはずだ……しかし、これでは迂闊に手出しは出来ない』

力「ではどうすれば……」

タイタス『拳斗君には妹がいたな?彼女の言葉を聞けば、もしかしたら……』

力「でもそれでは茉里ちゃんが……」

タイタス『確かに傷を負っている彼女を駆り出すのはリスクが高いが、これしか他に方法がない。私も出来る限りのサポートはしよう』

力「分かりました…やれるだけやってみましょう‼︎」

 

意を決した力は茉里のいる病院へと走り出して行った。

 

そして現在。

 

拳斗「……茉里……」

 

茉里の声は、EXレッドキングの中に居る拳斗の耳にも届いていた。

彼女は力に支えられながら必死に呼び掛ける。

 

茉里「もうやめよう!暴力に任せても、何も解決しない!」

拳斗「…………」

茉里「聞いてお兄ちゃん!私ね……新しいことが……やりたいことが見つかったの!お兄ちゃんには、傍で見ててほしい……だから戻ってきて‼︎」

 

宏高も、インナースペースから拳斗の心に訴えかける。

 

宏高「俺だって…あんな乱暴な人は許せないし、大切な人を傷つけられて、恨みたい気持ちは分かる…!けど……復讐の為に命を奪っても、憎しみと哀しみが拡がるだけだ!これ以上妹さんを…友達を悲しませないでくれ‼︎」

 

その言葉に揺れ動く拳斗の心。

 

拳斗「茉里……俺は……うああああああああっ‼︎」

 

拳斗はその手に握っていたダークネススパークを、地面に叩きつけるように真下へと投げ捨てた。

 

タイタス『今だ!』

 

すると力から黄色い粒子状の光が溢れ出す。

 

力「これは……」

 

黄色い光がEXレッドキングに向かっていき、怪獣の胴体を貫くと、Uターンして力と茉里の元に戻ってくる。

そしてその中から、拳斗が現れた。

 

茉里「お兄ちゃん……!」

力「拳斗‼︎」

 

タイタスはこれを狙っていた。

闇の中で、拳斗に微かな「善意」が甦る瞬間を。

その隙を突いて、拳斗を「悪意」の呪縛から引き剥がしたのだ。

 

拳斗「茉里……力……」

茉里「お兄ちゃん…はぁ…っ…!」

 

安堵の涙を流しながら、そっと拳斗に抱きつく茉里。

 

拳斗「茉里……ごめんな……」

 

その様子を見守りながら、思わず貰い泣きする力。

そして、光の粒子状のタイタスに向かって礼を言う。

 

力「ありがとうございます…賢者様…!」

タイタス『どういたしまして。私も君には感謝している。この街を漂っていた私に身体を貸してくれて、ありがとう』

 

既に力と分離したタイタスは、彼に別れを告げる。

 

タイタス『力君、ここでお別れだ。私は仲間の元に帰る。短い間だったが、本当に楽しかった!』

 

力、拳斗、茉里に見送られながらタイタスは飛び立ち、タイガのカラータイマーへと入り込んで行った。

 

タイタス『久し振りだな、タイガ』

タイガ『タイタス‼︎近くに居たんなら、なんでもっと早く来てくれなかったんだよぉ⁉︎』

タイタス『ハハッ、すまない。まさか君もあの学園にいたとはな…驚いた』

 

インナースペースの中で、2人のウルトラマンが感動(?)の再会を果たしていた。

 

宏高「おいおい、再会早々揉めなさんなって」

タイタス『君がタイガの新たな相棒(バディ)か。ヒロユキよりも若いが、実に勇敢な少年だな』

宏高「俺は宏高。虹野宏高だ。タイタス、俺に力を貸してくれるか?」

タイタス『勿論!賢者、ウルトラマンタイタスの力をその手に‼︎』

宏高「ああ!」

 

タイタスがキーホルダーに変化すると、宏高は左手でタイガスパークのレバーをスライドさせ、キーホルダーを掴み取る。

 

《カモン!》

 

宏高「力の賢者!タイタス!」

 

右手でタイタスキーホルダーを握り直すと、キーホルダーからタイガスパークへとエネルギーが送り込まれ、中心部のクリスタルが黄色く発光した。

 

タイタス『うおおおおおっ!ふんっ!』

 

宏高は大きく全身を捻り、天高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンタイタス!》

 

タイタス『────フンッ!』

 

夜の街に筋肉隆々の体付きと、黒と赤のカラーリングが特徴の巨人───『ウルトラマンタイタス』がタイガと入れ替わるように現れた。

 

力「これが賢者様の姿か……」

 

 

 

タイタス『────ふんっ!』

 

タイタスは登場するや否や、『モストマスキュラー』のポーズを取り、上半身のたくましさを強調。

 

タイタス『────むんっ!』

 

続いて腰元へ手を持っていき、背中を広げる『ラット・スプレッド』。

 

タイタス『────ふぅんっ!』

 

最後に手を組んで身体を捻り、二の腕の太さをアピールする『サイドチェスト』。

 

(やると思った……)

 

突如として始まったボディビル大会に、宏高は呆れ気味に苦笑していた。

 

筋肉アピールに満足したタイタスは、完全に蚊帳の外状態だったEXレッドキングを見据え、戦闘態勢に入る。

 

「キィファオオオオオオ……」

 

タイタス『悪意の力だけで、尚も暴れるか……』

 

「キィファオオオオオオオオオ‼︎」

 

タイタス『賢者の拳は全てを砕く!』

 

(BGM:WISE MAN’S PUNCH)

 

EXレッドキングが繰り出してきた左拳を捉え、対抗するようにタイタスも正面から右拳を放った。

 

タイタス『ふん!』

 

両者の拳が衝突した直後、薄い衝撃波が周囲に拡散。

刹那、EXレッドキングの拳が弾かれ、タイタスの拳がレッドキングの腹部にクリーンヒット。

押し負けたEXレッドキングは後方へと勢いよく倒れ込んだ。

 

(やっぱすげぇ……)

 

「キィファオオオオオオオオオ‼︎」

 

ゆっくり起き上がり、咆哮を上げるEXレッドキング。

 

タイタス『ぉぉぉおおおおおおおおお‼︎てやぁっ‼︎』

 

タイタスは激しい地響きを立てながらEXレッドキングに向かって走り出し、強烈な体当たり『タイタスボンバー』を喰らわせた。

再び後方へと大きく吹っ飛ばされるEXレッドキング。

 

タイタス『それではとどめと行こう!』

 

タイタスは両腕を曲げて上腕二頭筋に力を込めた後、前の方で手を重ねて緑色のエネルギー弾を生成。

そして拳を引き絞り、眼前に生み出された光弾を、強烈なパンチで打ち出した。

 

タイタス『プラニウム……バスター!』

 

光弾の直撃を受けたEXレッドキングは掠れた鳴き声を遺し、その場で大爆発と共に消滅した。

 

新たに現れたウルトラマンの活躍により、怪獣の脅威は去った。

 

しかし……

 

霧崎「悪意を振り切ったか……」

 

EXレッドキングが爆散した場所を訪れた霧崎はそう呟くと、ダークネススパークとレッドキングのスパークドールズを回収して立ち去っていった。

 

 

────────────────────

 

 

その翌日の日曜日。

 

宏高は上城兄妹の様子を見に病院を訪れていた。

茉里は拳斗と看護師に助けられながら、リハビリに励んでいる。

 

後でせつ菜から聞いた事だが、茉里は学業に復帰したら体育科から音楽科への転科を考えているという。あの時言っていた「やりたいこと」と言うのは吹奏楽の事で、楽器には前々から興味があったそうだ。

 

そして例の暴走族の男は、昨日の怪獣騒動が収まった後警察に見つかり、道路交通法違反と傷害容疑で逮捕された。

 

宏高「あの人が元通りになってくれて良かったよ」

タイタス『ああ。しかし彼女の生き甲斐だった陸上の事は、本当に残念でならない……』

タイガ『俺の婆ちゃんにかかれば、たちまち全快なんだけどな……』

 

宏高は少し俯いた後、話題を変えるようにタイタスに訊ねた。

 

宏高「そういえばさ、タイタスっていつ頃からニジガクに居たの?」

タイタス『ああ、それは……』

 

タイタスはこれまでの経緯を話し始めた。

今から1週間ほど前、光の粒子となってお台場を彷徨っていたところを力と出会い、彼と一体化。それから2人は筋肉の話題で意気投合、これをきっかけに力は生徒会に直談判し、『マッスル同好会』を立ち上げたのである。

 

宏高「よく承認されたもんだな、ハハハ……」

タイガ『流しそうめん同好会とかいうのもあるくらいだしな』

宏高「でさ、マッスル同好会って何してるの?」

タイタス『上体起こし、腕立て伏せ、スクワットを各100回、これを毎日やる‼︎そうして更なるマッスルを追い求めるのだ‼︎』

宏高「は⁉︎ (何だよそれ!?どこぞの趣味でヒーローやってるハゲマントかよ!?)」

 

思わず頓狂な声を上げる宏高。

 

タイタス『どうだ?君もマッスル同好会に入らないか?』

宏高「間に合ってます!てか俺明日からスクールアイドル同好会だし!」

タイタス『ははっ、そうか。では改めて、よろしくお願いします!』

 

こうして、新たな仲間が加わった。

 

 

────────────────────

 

 

一方その頃……

 

愛「へぇ〜、スクールアイドルってこんなに大人気なんだ!」

 

宮下愛は自室でノートパソコンを使って、スクールアイドルについて夢中で調べていた。

きっかけは2日前に見た、せつ菜のライブだった。

 

愛「なんだろう……あのライブを見た時から、もうドキドキが収まんない!」

 

少女は「未知なるミチ」に向かって走り出す。

 

 

続く。




今回もありがとうございます!
書いていたら思った以上にハードな話になりましたが、いかがでしたでしょうか?
次回から本編に戻って、愛さん回となります。


次回 第5話「逸楽の疾風(はやて)

フーマ「どっちの手数が上か勝負しようじゃねぇか、ハサミ野郎!」


お楽しみに。


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逸楽の疾風(はやて)#1

大変お待たせしました。
第5話、愛さん回スタートです。

サブタイトルにある「逸楽」は気ままに遊び楽しむ、という意味があります。
まさに愛さんを表している熟語だと思いませんか?

そして、『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』スタートまであと1週間ですよ、皆さん!

それでは、どうぞ!


愛「わぁ………」

 

屋上から聴こえてくる歌に、盛り上がってる皆を見て……

 

愛「アハハッ♪」

 

太陽に向かって笑顔で手を伸ばす愛。

 

自分も未知なる道にチャレンジしてみたいって、そう思ったんだ……!

 

 

 

優木せつ菜が復活したあの日から3日が経った。

 

虹ヶ咲学園の休み時間、宮下愛と天王寺璃奈の2人はベンチに並んで座っていた。

璃奈の膝の上では、はんぺんがくつろいでいる。

 

愛「どうする?」

 

おもむろに口を開く愛。

せつ菜のライブを目撃して以来、愛は徐々にスクールアイドルに興味を抱き始めていた。

 

愛「やってみる?」

 

愛は誘うように璃奈に問いかける。

その言葉に迷っているのか、璃奈は黙ったままはんぺんの背中を撫で続けており、はんぺんも気持ち良さそうに「ニャ〜」と鳴いている。

 

愛「愛さんはやってみたい‼︎」

 

結論は既に出ていた。

璃奈も興味が湧いたのか、愛に突き動かされるように自身の気持ちを告げる。

 

璃奈「私も……やってみたい!」

愛「えへっ♪」

 

事が決まればやることは一つ。

2人はスクールアイドル同好会へと足を向けた。

 

 

────────────────────

 

 

その頃、宏高達は正式に復活したスクールアイドル同好会の新しい部室を掃除していた。

 

宏高「おりゃあああぁぁぁぁぁ‼︎」

かすみ「負けませんよ先ぱぁぁぁぁぁいっ‼︎」

タイガ『行けー!かすみん!』

 

歩夢とエマが床をモップ掛けしている下で、雑巾掛けで競争している宏高とかすみ。

しずくは窓を雑巾で拭いている。

そこにせつ菜と彼方が他の部室から貰った余りの椅子を持って戻ってきた。

 

せつ菜「余ってる椅子、貰ってきましたよ」

彼方「おぉ〜!綺麗になったねぇ〜」

 

歩夢が達成感有り気に言う。

 

歩夢「とりあえず、こんな所かな?」

 

それに答えたのはかすみだった。

 

かすみ「まだですよ?最後に〜」

 

そう言いながら、かすみは部室の外に出て行く。

それに釣られて全員が出た所で、かすみは見せつけるように同好会のネームプレートをドアに引っ掛けた。

 

タイガ『そういやこれがあったな!』

 

かすみは「ムフフ〜!」と嬉しそうにはにかみ、エマもはしゃぎ気味に言う。

 

エマ「ようやく復活だねぇ!」

タイタス『うむ!』

 

かすみは右腕を上げて宣言する。

 

かすみ「それじゃあ、スクールアイドル同好会!始めまーす!」

 

その時だった。

 

「ヤッホー!」

 

一同「ん?」

 

かすみの言葉の最後に被せるように、声が聞こえてきた。

声がした階段側を見ると、そこには右手を大きく振る愛と璃奈がいた。

愛は手を振りながら訊ねる。

 

愛「もしかして、スクールアイドル同好会の人達?」

 

それにせつ菜が答え、問い返す。

 

せつ菜「そうですが……お二人は確か……」

愛「情報処理学科二年!宮下愛だよ!」

璃奈「一年、天王寺璃奈…です」

 

すると宏高と歩夢、そしてタイガが何かに気付いたように声を上げる。

 

歩夢「あ!」

宏高「この間の……」

タイガ『あの子猫を助けた時以来だよな?』

 

すると愛の方も気付いたようで、

 

愛「お!2人共同好会入ってたんだ!実は愛さん達も、この前の屋上ライブ見て、何かドキドキして来ちゃってさ〜!」

 

その言葉にせつ菜が反応した。顔を赤くして照れている。

一方で宏高は愛に共感しながら言葉を返す。

 

宏高「分かるよ‼︎アツくて堪らなかったよね‼︎」

愛「うん!そうそう!」

璃奈「本当に、凄かった」

 

璃奈も無表情で賛美してくれる。

 

せつ菜「あ、ありがとうございます!」

 

声が上擦りながらも礼を言うせつ菜。

すると愛と璃奈は示し合わせる様に互いを見て「うん!」と頷くと、次の瞬間には宏高達としては願ったり叶ったりな事を言った。

 

愛「と言う訳で、二人共入部希望です!」

 

横チョキしながら言う愛に、かすみとエマが反応する。

 

かすみ「おぉー!」

エマ「大歓迎だよ〜!」

 

愛は腕捲りして言う。

 

愛「やるからにはバッチリ頑張るし、皆の事も手伝うよ!ところで、スクールアイドル同好会って何するの?」

一同「……え?」

 

せつ菜が歯切れ悪そうに答える。

 

せつ菜「えーっと……実は今、それを探している所でして……」

愛「ん?」

 

タイタス『私も気になっていたのだが……』

タイガ『えっ?……あ〜……』

 

どこから説明していいのか分からず、視線を逸らすタイガだった。

 

 

────────────────────

 

 

とりあえず2人を部室に招き入れて、これからについての会議を行う。

 

かすみ「勿論!やりたい事はあるんですよ‼︎」

 

ホワイトボードをバンッ‼︎と叩いて言うのはかすみ。

ボードにはでかでかと『ライブがやりたい』と書いてある。

そこにしずく、彼方、せつ菜が言う。

 

しずく「スクールアイドルですから、やっぱりライブですよね!」

彼方「結局まだやってないしね〜」

せつ菜「どんなライブにしたいか、皆で意見を出し合いましょう!」

 

すると真っ先に挙手したのはかすみ。

 

かすみ「かすみん、全国ツアーがやりたいです!」

 

続けてエマ、しずく、彼方、せつ菜の順に発言していく。

 

エマ「皆と輪になって踊りたいなぁ〜!」

しずく「曲の間にお芝居をやるのはどうでしょう?」

彼方「お昼寝タイムも欲しいなぁ〜」

せつ菜「皆の大好きを爆発させたいですね!火薬もドーンと派手に使って!」

タイガ『おいおい、それはやり過ぎだろ?』

宏高「海岸の地形変えちゃったり、島にヒビ入れちゃう気か?」

 

タイガと宏高のツッコミが飛ぶ。

そこに歩夢が苦笑して言う。

 

歩夢「火薬はちょっとぉ……私はもっと可愛いのが良いな」

 

その様子に、璃奈がボソリと呟き、

 

璃奈「白熱してる」

 

さらにそこへ、頭の後ろで両手を組んだ愛が感心しながら言った。

 

愛「皆言ってる事全然違うけど、凄いやる気だね」

一同「ん?」

愛「あれ?何か不味い事言った?」

 

空気が一瞬で静まり返ったものだから、焦った愛がそう訊ねると、かすみが「い、いえ……」と言って安心させる。

これに宏高が笑いながら愛と璃奈に訊ねる。

 

宏高「あっははっ!因みに、2人はどう?」

愛&璃奈「あ……」

 

訊ねられた2人は考え、愛は瞑目して悩み、

 

愛「ん〜……何だろうね?」

 

やがて笑顔で答えた。

 

愛「とにかく、楽しいのが良いかな!」

 

この答えに、かすみとしずくとエマは何かに気付いたように「あ!」と声を重ねる。

そこに歩夢とせつ菜が続く。

 

歩夢「それは確かにそうだね!」

せつ菜「ええ!最初は人も集まらないかもしれませんが、いつか沢山のファンの前で歌えるようになりたいですね!」

 

自分がどういうステージでどういうパフォーマンスをしたいか、それも大切だが根底として一番大事なのは、ライブをする当人も観客も楽しくある事。

 

せつ菜の視線を受けたかすみが言う。

 

かすみ「あ……コホン!ではライブの事は追々考えるとして……まずは…特訓です‼︎どんなライブをするにしても、パフォーマンスが素敵じゃなきゃファンがガッカリしちゃいますからね‼︎」

 

それにしずくと彼方が反応する。

 

しずく「特訓って、歌にダンスとか?」

彼方「ダンスかぁ〜」

 

それを皮切りに歩夢とエマ、せつ菜も意見を出す。

 

歩夢「私はまず、歌の練習がしたいなぁ」

エマ「だったら、しばらくの間、グループに分かれてやりたい練習をするのはどうかな?」

せつ菜「良いアイデアですね!」

 

それに愛が右手を挙げながら飛び付く。

 

愛「アタシ達、全部参加しても良い⁉︎」

 

せつ菜が「勿論です!」と答えると、愛は笑顔を璃奈に向けて言う。

 

愛「すっごく楽しみ‼︎ね!」

璃奈「うん」

 

タイタス『では私も、トレーニングに励むとしよう。マッスル、マッスル!』

 

こうして、分野毎にそれぞれの練習が始まった。

 

その頃、宏高達の地球には、1機の円盤が迫りつつあった……

 

 

続く。




新たな仲間を加えて、スクールアイドル同好会、ついに本格始動!
そして地球に近づいている円盤の正体とは?

宏高のせつ菜へのツッコミの意味が気になる方は、『仮面ライダーV3 火薬』と検索してみてください(笑)


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逸楽の疾風(はやて)#2

Eテレのアニガサキ再放送も終わってしまいましたね……
あとはスーパースターを見ながら2期を待つ感じでしょうか?

そして今日はタイガ第1話の放送からちょうど2年!あっという間ですねぇ……

『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』スタートまであと4日!


新たに愛と璃奈の2名が入部して、各々特訓をしようという事が決まり、彼方とエマ、そして全部に挑戦したいと言っていた愛と璃奈は屋上に来ていた。

さらに不思議な事に、ここには果林もいる。

彼女は本来なら部外者であるが、友人のエマに協力を求められてやって来たのだ。

 

そしてここで行う特訓というのは……ダンスだ。

その為に必要な事として、彼方と璃奈が前屈をしているが……

 

彼方「おおおぉぉぉぉ〜〜〜〜〜‼︎」

 

既に彼方は限界のようだ。

顔を真っ赤にしながらも必死に前に曲げようとするが、体が硬いので最初の体勢から数ミリ程度しか動いてない。

 

果林「もっと行けそうね」

彼方「無理無理無理ぃ〜〜〜‼︎」

 

前屈を手伝っている果林は容赦なく彼方の背中を押して、更に負荷を掛けてゆく。グキッ!と嫌な音が聞こえてきた。

 

一方の璃奈は……

 

璃奈「おおおぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!」

 

彼方より酷かった。1ミリも最初の体勢から動いてない。

苦しそうなのは声で分かるが、表情がそれと合っていない。

無表情に近いので余裕ありそうな気もするが、担当のエマが微妙そうな表情を浮かべてる事からして、本当に限界なのだろう。

 

これには果林も思わず、

 

果林「それが限界……?」

エマ「……そうみたい……」

 

エマも予想外過ぎて困惑している。

それから休憩を挟むと、彼方と璃奈は力なく倒れ込んだ。

 

「「ふぃ〜……」」

 

そんな2人と果林に視線を向けながらエマが言う。

 

エマ「ダンスをやるなら、先ずは体を柔らかくしなきゃ。果林ちゃんに教えてもらえて良かったよ」

果林「まぁ、時間があるからいいけど。さっ、続けるわよ」

彼方&璃奈「えっ⁉︎」

 

上体を起こした彼方は弱音を吐く。

 

彼方「彼方ちゃん壊れちゃうよ〜!」

 

すると横から愛が言う。

 

愛「大丈夫だよ!」

 

何か秘策があるのか、愛は力強くそう言って開脚前屈をする。

すると驚く事に、上半身がほぼ完全に地面に密着している。

これには全員が「おぉ〜!」と感心する。

 

愛「よっと。じゃあ、もう1回やってみようか!」

 

愛はそう言うと自身の指導の元に、彼方と璃奈に前屈をやらせる。

 

愛「息を大きく吸ってー」

 

「「すぅ〜〜〜〜」」

 

愛「ゆっくり吐いてー」

 

「「は〜〜〜〜〜」」

 

2人がゆっくり息を吐くと同時に、愛はここだと言わんばかりにニヤリとし、2人の背中を押した。

すると、さっきよりも滑らかに2人の上体は前に倒れたのだ。

 

彼方「おっ?」

璃奈「おっ?」

 

2人もそれを感じ取ったのか、目がキラキラ輝いている。

 

「「おお〜〜〜〜‼︎」」

 

愛「どう?ちょっとでも出来るようになると楽しくない?続けて行けば、もっと柔らかくなっていくし!」

璃奈「うん、頑張る」

 

璃奈は自信が付いたのか、意気込みを告げる。

 

果林「流石、部室棟のヒーローね」

エマ「ヒーロー?」

 

エマの問いに、果林が説明する。

 

果林「知らないの?彼女、色んな体育会系の部活で助っ人として活躍していて、結構有名なのよ?」

エマ「そうなんだぁ!」

 

エマが納得すると、彼方が果林に言う。

 

彼方「そういえば彼方ちゃん、てっきり果林ちゃんも同好会入ると思ってたよ〜」

果林「ん?そんな訳ないでしょ?私はエマの悲しむ顔が見たくなかっただけよ」

 

それに対して彼方と愛が「へぇ〜?」と果林を煽っている。

その表情に果林は若干顔を赤くしながら「な、何よ?」と訊くも、2人が何か言う前にエマが純粋な笑顔で「ありがと」と礼を述べる。

 

果林「っ‼︎……別に良いわよ……」

 

直後に照れ臭そうに視線を逸らしながら果林は言った。

 

 

────────────────────

 

 

柔軟体操を終えた愛と璃奈は部室に移動。

 

そこでかすみによる講義を体育座りで聞いていた。

どこから持ってきたのか、珍しく眼鏡をかけたかすみは言う。

 

かすみ「オッホン!これより、講義を始めます‼︎」

 

教鞭を『スクールアイドル概論』と書かれたホワイトボードに叩きつけるかすみ。

書き間違えたか、×を上から書かれて無かった事にされている『害』の文字が気になるところだが。

愛はポジティブに言い、しずくが訊ねる。

 

愛「面白そう!」

しずく「その眼鏡、どうしたの?」

かすみ「せつ菜先輩に借りました!……無断で」

 

眼鏡のツルをクイッと上げて、したり顔を浮かべるかすみ。

 

しずく「絶対怒られるよ⁉︎」

かすみ「話の腰を折らない‼︎桜坂君‼︎」

 

眼鏡の件を怒声で有耶無耶にしながら、かすみは教鞭をしずくに突きつけて指名する。

 

しずく「んっ⁉︎」

かすみ「スクールアイドルには何が必要なのか答えなさい‼︎」

しずく「ぇ、え〜っと……自分の気持ちを表現する事?」

 

数秒悩んでから辿々しく答えるしずく。

その結果は……

 

かすみ「正解!」

しずく「あ、正解なんだ……」

 

普通に正解だった。

 

かすみ「天王寺君にも同じ質問です!答えをどうぞ!」

璃奈「……ファンの人と気持ちを繋げる事?」

かすみ「正解!」

 

なんとこれも正解。

 

しずく「1つじゃないんだ……」

かすみ「最後に宮下君!」

愛「ん?アッハハハ!ごっめーん!分かんないや〜!」

 

頭を手にやって誤魔化し笑いを浮かべる愛。

これは流石に「不正解!」が出ると思っていたが、

 

かすみ「ピンポンピンポーン!それも正解でーす!」

愛「⁉︎」

しずく「何でっ⁉︎」

かすみ「あれぇ〜?しず子〜、分からないんですかぁ?」

しずく「むぅうっ!」

 

馬鹿にされたみたいで悔しいのか、可愛らしくむくれるしずく。

いまいち理由が分からない彼女達に、かすみは説明する。

 

かすみ「今の質問には、ハッキリした答えなんてないんです!ファンの皆さんに喜んで貰える事なら、どれも正解って事です!」

 

要するに同じスクールアイドルでも、個人によって特徴、アピールの仕方が変わるという事だ。

それに愛が感心する。

 

愛「へぇ〜!奥が深いんだねぇ!」

かすみ「ん〜〜〜〜っ‼︎合格☆」

 

その後、かすみはせつ菜に呼び出され、勝手に眼鏡を持ち出した件について絞られたのは…言うまでもない。

 

 

────────────────────

 

 

時を同じくして、お台場の街に1機の円盤が飛来した。

それは人気のない広場の上で停止・滞空し、地上に向かって光を照射。

その中から、1人のロングヘアーの女性が現れた。

 

「美しい…ここが地球なのですね……」

 

この時、彼女はまだ知らなかった。

この星で、「天才」で太陽のような少女との出会いが待ち受けていようとは。

 

 

続く。




円盤と共に地球にやってきた女性の正体とその目的は?

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逸楽の疾風(はやて)#3

『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』が遂に始まりましたね!
自分は後で見逃し配信でゆっくり観たいと思います。

そして今日はウルトラマンの日です!ケーキ食べながら盛大に祝いますよ!

それではどうぞ!


かすみからスクールアイドルの極意(?)を学んだ愛と璃奈の2人は、次に二年組の所に来た。

 

場所はレコーディングスタジオ。

 

そこで各々歌の練習をしていたが、ほぼカラオケのような状態になっている。

ちょうど今、歩夢が歌い終えたところだ。

皆が拍手を送る中、歩夢は手応えを言う。

 

歩夢「全然ダメだったぁ……」

 

それに愛、宏高、せつ菜がフォローする。

 

愛「そんな事ないって!」

宏高「ああ!」

せつ菜「私も歩夢さんの歌声大好きですよ!」

 

これにはウルトラマン達も絶賛していた。

 

タイタス『素晴らしい歌唱だったな』

タイガ『歩夢の歌、なかなかだろ?』

 

そしてせつ菜が歩夢に助言する。

 

せつ菜「当面の課題は、リラックスして歌えるようになる事ですね」

歩夢「はぁ……だよね……」

 

ショボンと落ち込む歩夢を、宏高は肩に手を置きながら励ます。

 

宏高「可愛く歌えてたよ?」

歩夢「そ、そう?」

 

すると宏高が周囲をキョロキョロ見回して呟いた。

 

宏高「しかし、学校にこんな場所があったとは驚いたなぁ」

 

せつ菜が説明する。

 

せつ菜「映像系の学科や部活が使っている収録ブースですからね。次はどなたが歌われますか?」

 

それに愛が真っ先に挙手して意見を放った。

 

愛「せっつーの歌が聴きたーい!」

せつ菜「せっつー?私の事ですか?」

 

せつ菜が確認すると、愛はあっさり肯定した。

 

愛「うん!ア・ダ・名!」

 

これに宏高が食いつく。

 

宏高「へぇ、いいじゃん。なら俺は?」

愛「ひろ!」

 

割とシンプルだった。さらに歩夢も訊ねる。

 

歩夢「じゃあ私は?」

頭「あゆピョン!」

歩夢「うぁっ⁉︎ピョンはやめてぇぇ…」

 

両頬を押さえて羞恥に赤面する歩夢。

 

宏高「えぇ〜?可愛いのに〜」

歩夢「もう!宏くん!」

 

歩夢は顔を赤くしたまま、弄ってきた宏高をポカポカ叩く。

そんな風にわいわいしていると、せつ菜が何かを見つけたようで、端末を手にわなわな震えていた。

 

せつ菜「こ、これは!」

 

隣に座っている璃奈が端末の画面を覗き込むと、そこにはとある一曲のタイトルが。

すると彼女は意外な反応を示した。

 

璃奈「新しく始まったアニメのエンディングだよね?」

せつ菜「っ‼︎観てるんですか⁉︎このシリーズを!」

 

この食いつき様である。

 

璃奈「うん。子供の頃からずっと観てる」

せつ菜「んん〜〜ぅあははははぁぁぁぁ‼︎」

 

せつ菜は生粋のアニメオタクだ。

思わぬオタ仲間の発見に、せつ菜は感激のあまり奇声を発して璃奈の手を取り、熱いマシンガントークを繰り広げる。

 

せつ菜「前のシリーズの第29話観ました⁉︎自分を犠牲にしてマグマに飛び込もうとしたジャッカルを、コスモスが抱き締める所を‼︎」

璃奈「激アツだった」

せつ菜「ですよねぇぇぇ‼︎」

 

興奮して立ち上がるせつ菜。

だが、璃奈の方は無感情トーンなので、両者の温度差が激しい。

宏高が興味深そうに言う。

 

宏高「せつ菜もアニメ好きなんだね」

 

その一言で、せつ菜は急に冷静になって座った。

 

せつ菜「えっ⁉︎あ、はい……親に禁止されているので、夜中にこっそり観てるんですが……」

 

璃奈が訊ねる。

 

璃奈「お家、厳しいの?」

せつ菜「まぁ、どちらかと言えば」

 

悲しそうな顔を浮かべるせつ菜。

スクールアイドルにせよ、サブカルチャーにせよ、自分の好きな事を肉親に理解されないというのは辛いものがある。

宏高が納得したように言う。

 

宏高「だから正体隠してたのか…」

 

それを聞いて愛が首を傾げた。

 

愛「正体?う〜〜ん?」

 

そしてせつ菜に近づき、彼女の顔を間近でじっくり見る。

数秒ほど観察して、ようやく気付いた。

 

愛「あー‼︎もしかして、生徒会長⁉︎」

せつ菜「はい……」

愛「そうだったんだー!水臭いなぁ〜!」

璃奈「この前は、ありがとう」

せつ菜「あ、いえ」

 

この言葉尻からして、璃奈も今気付いたようだ。

すると愛の口から、せつ菜にとっては願ったり叶ったりな言葉が出てきた。

 

愛「愛さんも、せっつーが話してたアニメ、チェックするね!」

せつ菜「え?」

愛「せっつーの熱い語り聞いてたら、楽しそうだな〜って思ったからさ!」

せつ菜「ぁ………楽しいですよ‼︎」

愛「うん!それじゃあ!ここからはアニソン縛りで行こーう!」

 

「「「「おー‼︎」」」」

 

いつの間にか練習である事を忘れて、カラオケ大会で盛り上がり始めた一同。

 

せつ菜「宏高さんは何を歌いますか?」

 

せつ菜から端末を受け取り、リストをチェックする宏高。

 

宏高「そうだな〜……あ、じゃあこれにしよ!」

 

端末を操作して曲を入れる宏高。選んだ曲は『TAKE ME HIGHER』。

『ウルトラマンティガ』のオープニングである。

 

これにはアニメのみならず、特撮も好きなせつ菜もテンション爆上がりであった。

 

 

────────────────────

 

 

全ての練習が終わり、宏高と歩夢、愛と璃奈は部室に戻っていた。

そこで愛が差し入れにと、取り出した漬物野菜を一緒に食べている。

漬物特有の匂いが漂う中でカリカリと小気味良い咀嚼音を響かせ、宏高と歩夢が感想を言う。

 

宏高「美味いな!」

愛「お婆ちゃん特製のぬか漬けだよ!」

歩夢「本当お婆ちゃんの味って感じだよね!」

愛「でしょー?」

 

そこに残りのメンバーが戻ってきた。

入って直ぐ様、漬物の匂いに顔をしかめたかすみは、鼻をつまんで文句を言う。

 

かすみ「うわぁぁ⁉︎何ですかこの臭いはぁ⁉︎」

愛「皆も食べる?」

 

愛が訊ねると、エマが「うん!食べたーい!」と興味を示し、歩夢は「おかえり〜!」と労い、宏高が「レッスン終わった?」と訊ねれば、しずくが「はい!」と返答する。

そんな中で彼方は、席に近づくなりグデ〜っと座り込む。

 

彼方「彼方ちゃんクタクタだよ〜……」

エマ「今日はもう終わりだね」

 

するとせつ菜がロッカーの前でかすみの方に振り向いて言う。

 

せつ菜「ああ、かすみさん。お話があるので、ちょっと残ってもらえますか?」

かすみ「め、眼鏡の事なら何度も“ごめんなさい”しましたよねぇ⁉︎」

せつ菜「それではなくて……」

タイガ『かすみん、また何かやらかしたのか?』

 

怒られた時の恐怖を思い出したのか、声を震わせて怯えるかすみに、せつ菜は微妙な表情を浮かべた。

 

 

続く。




ティガ25周年にちなんだ小ネタがありましたが、いかがでしたでしょうか?
フィギュアーツの真骨彫ティガ発売まで、あと3週間。

解説がかなり遅くなりましたが、本作品はウルトラシリーズがテレビ番組として存在している世界観となっております。
なのでこれまでのエピソードでも言っていたように、宏高はタイガ達や怪獣等の知識を持っているのです。

次回、愛と謎の女性が出会います。


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逸楽の疾風(はやて)#4

【悲報】S.H.Figuarts ウルティメイトシャイニングウルトラマンゼロ
まさかの在庫切れで買えず……



どお゛してだよお゛お゛お゛お゛お゛


時刻はすっかり夕方。

 

そんな中で、せつ菜とかすみを除いた同好会メンバーは校内にあるベンチに座って何気ない世間話をしていた。

彼方、エマ、歩夢の順に口を開く。

 

彼方「今週は土曜も集まるんだっけ〜?」

エマ「うん。お台場でランニングだよ?」

歩夢「ランニングかぁ……」

 

少しばかり不安なのか、憂鬱気味な声を出した歩夢に、宏高と愛が言う。

 

宏高「俺も一緒に走るから」

愛「走るのって気持ち良いよ?」

 

エマがしずくに訊ね、彼方がなんとなしに言う。

 

エマ「しずくちゃんは、この後演劇部?」

しずく「はい」

彼方「大変だね〜、掛け持ち〜」

しずく「好きでやっている事ですから」

 

そう言ったしずくの声音から嫌々や憂鬱な感情は全く感じ取れず、本気で苦もなくやっている事が見て取れる。

歩夢が愛に訊ねる。

 

歩夢「愛ちゃんは今も運動部の助っ人してるの?」

愛「勿論!だから、明日は来るのが遅くなるかも」

 

後輩2人の頑張りに感心を寄せた彼方が、エマの肩に頭を預けながら言う。

 

彼方「2人共頑張ってるね〜。ふわぁぁ……」

 

あくびをする彼方を横目にエマが璃奈に訊ねる。

 

エマ「同好会はどう?」

璃奈「…………楽しい」

 

数秒の沈黙の後に紡がれた一言。

しかし相変わらず表情と感情の起伏が少ない為、本当に楽しいと思ってくれてるのかと思い、エマは思わず「ん?」と首を傾げてしまう。

そんな璃奈に、愛が抱きついて頬をプニプニ突つきながらフォローする。

 

愛「こんなにウキウキなりなりー初めて見たよ!愛さんも楽しい!」

璃奈「……ごめんなさい。私、上手く気持ち出せなくて」

エマ「ううん。楽しんでくれてるなら良かった」

 

母性味溢れるように言うエマ。

愛は頭の後ろに手を回して言う。

 

愛「でも本当、他ではやってない事ばかりですっごく新鮮!」

 

宏高が不思議そうに訊ねた。

 

宏高「そんなに違うかな?」

愛「違うよ〜!かすみんが、アイドルはどれも正解って言ってたけど、実際その通りって言うか、皆やっぱりタイプ違うけど、すっごく優しくて面白くて、そこが最高って感じだし!このメンバーで、どんなライブする事になるんだろうって、考えただけでめっちゃワクワクするよ!」

 

それに彼方がポソッと、意味深な言葉を発した。

 

彼方「愛ちゃんは鋭いね〜」

 

彼方の言葉に全員が「え?」と振り向き、その真意に一番早く気付いたしずくが暗い面持ちで言った。

 

しずく「分かってはいるんです。私達が先に考えなきゃいけない事って……」

 

 

 

その頃、せつ菜とかすみは部室で今後の活動について話し合っていた。

 

かすみ「ソロアイドルですか……」

せつ菜「私達だから出来る新しい一歩です。部員一人一人が、ソロアイドルとしてステージに立つ。その選択肢は、皆さんの頭の中にもある筈です」

 

それにかすみは考え込むような表情を浮かべて言う。

 

かすみ「はい……でもそれって、簡単には決められないですよね……」

 

さらにせつ菜は続ける。

 

せつ菜「それともう一つ、提案があるんですが……」

かすみ「何ですか?」

 

 

 

一方、他のメンバー達も同じく、ソロ活動の件で話していた。

璃奈と彼方が言う。

 

璃奈「一人で…ステージに……」

彼方「ちょっと考えちゃうよね〜。グループは皆協力し合えるけど、ソロアイドルは誰にも助けては貰えないだろうし〜」

愛「あっ……!」

 

その言葉に、愛の顔色が変わった。

おそらくこの瞬間まで、グループで活動すると思っていたのだろう。

その前提が崩れ落ち、愛の中で動揺が渦巻く。

ここでしずくが不安を吐露する。

 

しずく「正直、不安です……皆さんに喜んで貰えるだけのものが、私一人に、あるのでしょうか……?」

 

それはこの場の誰もが思ってる事。

故に全員の不安を解消するような事を、無責任に誰も言えなかった。

 

 

────────────────────

 

 

(正解が一つなら、分かり易いよね……)

 

あれからずっと、愛は考えていた。

 

(スポーツにはルールがある……でも、愛さん達が目指すスクールアイドルには、そういうのがなくて、自分一人……)

 

これまで多くの運動部で助っ人をし、あらゆるスポーツを経験してきたが、その全てにおいて、初めから決められたルールがあった。

しかしスクールアイドル、ひいてはソロアイドル活動には、明確なルール、決まり事は無い。

 

(愛さんだけで、どんなスクールアイドルがやれるのかな?愛さんの正解って、何なのかな?こんな事、今まで考えた事なかったよ……)

 

学園の帰り道でも、愛は自問を繰り返す。

その時だった。

 

愛「……?」

 

広場を通り過ぎようとした時、一人立ち尽くしている女性の姿を見つけたのは。

 

愛「何してるの?」

 

気がつけば、愛は話しかけていた。

ずっとその場に佇んでいた全身黒ずくめの衣装を纏った女性は、不意に投げられた呼びかけに反応し、横に振り向く。

 

「街を……眺めていました……」

 

女性は淡々と答えると、愛に尋ねる。

 

「どうして……こんな私に?」

 

声をかけようと思ったのか、と視線が問いかけている。

 

愛「なんか寂しそうな顔してたから。それに、なんとなくりなりーに雰囲気似てたし」

 

「そうですか……」

 

納得したようなしていないような、そんな感じに女性は言った。

愛はそんな彼女の事がますます気になった。

 

愛「アタシは宮下愛。あなたは?」

 

「私は……アモル……」

 

愛「アモルかぁ……ねぇ、愛さんと友達になろうよ!」

アモル「私が……?」

愛「うん!ダメかな?」

 

アモルは一瞬戸惑いの表情を見せたが、愛の曇りなき笑顔を前に辿々しくも答える。

 

アモル「こんな私で…良ければ……」

愛「やった♪また新しい愛トモが出来たよ〜」

アモル「あい…とも?」

愛「愛さんの友達、略して『愛トモ』だよ、アモルン!」

 

いきなりあだ名で呼ぶ愛に、アモルは苦笑しながらも返す。

 

アモル「フフッ……おかしな人ですね」

 

すると、愛のスマホがピコン、と鳴った。

 

愛「おっ……ちょっとゴメンね」

 

確認すると、それはSNSのトークアプリに送られてきた、かすみからのメッセージだった。

 

【明日のランニング、朝の9時にレインボー公園に集合ですよー!】

 

さらに……

 

【ラジャーv(・・)】

 

璃奈からも了解のメッセージと共に、猫達が「YEAAAA!!」と興奮しているスタンプ、そして「OK」と猫がサムズアップしているスタンプが送られてきた。

 

【おっけー】

 

彼方からも返事が来る。

 

アモル「どうかしましたか?」

 

アモルが尋ねると、愛は申し訳なさそうに言った。

 

愛「ゴメン、愛さんそろそろ帰らないと。やる事いっぱいあるし、明日も朝早いから」

アモル「そうですか。お気をつけて」

愛「ありがと。じゃあまたね、アモルン!」

 

そう言って、愛はアモルと別れて再び帰路についた。

 

(暖かい……まるで太陽のよう……)

 

愛の後ろ姿を見送りながら、アモルは思っていた。

 

そんな彼女の正体が、新たな住処を求めて宇宙を旅している『バルタン星人』である事を、愛は知る由も無かった……

 

 

────────────────────

 

 

その夜、宏高は宿題を終わらせ、机の上で一息ついていた。

 

宏高「………」

 

何やら物思いにふけっている様子の宏高に、タイガが声をかける。

 

タイガ『どうした?考え事か?』

宏高「ああ、同好会の事でね」

タイガ『ソロ活動ってやつの事、だろ?』

 

当てるように訊ねるタイガ。

 

宏高「その通りだよ。スクールアイドル同好会は一度、グループでやろうとして失敗した。だからこそのソロアイドルだ。せつ菜は慣れてるかもしれないけど、他の皆は……」

 

それを聞いて、2人のウルトラマンは宏高に言った。

 

タイタス『確かに不安だろう、一人で歌うというのは。けれど、彼女達は仲間だ。側にいれば、不安や喜びを分かち合い、励まし合う事が出来る…私達のように』

タイガ『例えば、ステージに立つ歩夢の前には、お前がいる。それだけで気持ちは楽になるんじゃないか?』

 

その言葉に、宏高の表情が晴れた。

 

宏高「……確かにそうかも」

 

そしてタイガは、未だ行方の知れないもう1人の仲間に思いを馳せる。

 

(フーマ、お前は今どうしてる……)

 

 

続く。




キャラ紹介

バルタン星人アモル

故郷の星が崩壊した際に生き残ったバルタン星人の一人。
新たな住処を探して宇宙を旅する中で、宏高達の地球にやってきた。
侵略の意思は無く、ただ平穏に暮らせればそれでいいと考えている穏健派だが、実力行使で星を制圧しようとする過激派との対立に苦悩している。
人間態は川本美里とほぼ同年代の女性の姿をとっている(イメージはウルトラマンジャスティスの仮の姿であるジュリ)。
ちなみにアモルはラテン語で「愛」を意味する。


宇宙人とまで仲良くなっちゃうとは、愛さんのコミュ力ハンパないですね笑
せつ菜とかすみの話し合いの中で出てきた「提案」。その詳細はエマ回のラストで明らかになります。
そしてフーマは一体何処に⁉︎


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逸楽の疾風(はやて)#5

上げるのがかなり遅くなってしまった……






翌朝の7時。

 

愛は練習着に着替えて靴を履き、スライド式の木製扉を開けて外に出る。

捻挫等をしないように入念に準備運動をしてから、レインボー公園に向かって走り出した。

記憶を頼りに公園までの道を走り、息を規則的に吐き出しながら、無理のないペースでウォーミングアップしていく。

 

しばらく無言で走っている内にレインボー公園に到着したが、時間はまだ朝の8時4分。

 

愛「1時間前か……」

 

周辺を見回していると、“ある物”が愛の目に留まった。

階段の端、手すりの側まで近づくと、そこには青い輝石のペンダントが落ちていた。

愛は屈んで輝石を拾い、興味津々に見つめる。

 

愛「何これ……きれい……」

 

愛は輝石をポケットに入れると、そこから追加でレインボーブリッジの歩道を走るが、そこで思わぬ人物を見つけた。

 

愛「ん?」

 

「ふぅ……」

 

休憩中なのか、流れる汗をタオルで拭きながら佇むエマがいた。

 

愛「エマっちー!」

エマ「あ!愛ちゃん!」

愛「どうしたの?」

エマ「ちょっと早起きしちゃって。愛ちゃんは?」

愛「一緒!」

 

それから2人は歩道から見える青い景色を眺め始めた。

すると突然、エマが愛に訊ねた。

 

エマ「昨日はソロアイドルって聞いて、驚いた?」

愛「え……?確かに驚いたけど、一番驚いたのは自分に対してなんだよね」

エマ「ん?」

 

どういう事?と言いたそうな表情のエマに愛は言う。

 

愛「同好会の皆が悩んでるのって、自分を出せるかって事でしょ?今まで色んな部活で助っ人やってたけど……考えてみたら、皆と一緒にやる競技ばかりでさ。いやぁ〜、めっちゃハードル高いよね〜。……ソロアイドルかぁ……」

 

明るく苦笑したのも束の間、すぐに愛の表情は曇る。

降り積もる静寂の中、エマは切り出す。

 

エマ「……そろそろ走ろっか」

愛「ん?」

エマ「9時だし、もう行く時間だよ?」

 

しかし愛はエマの顔を見つめたまま、ジッと動かず、何も反応しない。

それにエマは首を傾げ、訊ねる。

 

エマ「どうしたの?」

 

その次の瞬間、

 

愛「……プッ!アハハハハハハ‼︎ウケるーー‼︎」

 

突然愛が笑い出した。しかも腹を抱えて、抱腹絶倒しそうな勢いで。

訳が分からずエマが狼狽する中、愛は依然大笑いしながら、その理由を言った。

 

愛「()()()()()()9()()だし行()()間って!アハハハハハ‼︎ダジャレだよねーー‼︎」

エマ「ダジャレ?あ、あぁ〜!」

愛「しかも上手いし!アッハハハハハハハ‼︎」

エマ「全然気付かなかったよ〜」

 

「「アハハハハハハ‼︎」」

 

2人はしきりに笑い合った。

この時、愛は気付いていなかったが、練習着のポケットに入れていた青い輝石が、愛の笑いに共鳴するかのように光っていた。

 

 

 

やがて2人は笑い終え、エマは手すりに両手を置いて言う。

 

エマ「ふぅ……愛ちゃんが同好会に来てくれて良かったぁ」

愛「え?何で?」

エマ「すっごく前向きでいてくれるから」

愛「そう?今はめっちゃ悩んでるけど」

エマ「でも、皆と居る時、いつも楽しそうにしてたよね?」

 

それは愛自身が気付いていない、他人から見る事で分かる側面だった。

 

エマ「私達、色々あって……ようやくスタートラインに立ったばかりなんだ。きっと、皆が不安で、でも本当は、それと同じ位、これからに期待していると思うんだ。そうじゃなきゃ、悩まないもの。まだ、一歩を踏み出す勇気が出ないだけ。愛ちゃんが来てから、同好会の皆の笑顔、すっごく増えてるんだよ?」

愛「そうなの?自覚ないけど?」

エマ「ないから凄いんだよ〜」

愛「そうかな?」

エマ「そうだよ」

愛「えへへ〜♪」

 

頭を掻いて照れ笑いを浮かべる愛。

 

愛「そっかぁ……」

 

どこか腑に落ちたように呟く愛。

それと同時に、愛は愛なりの、自分だけの答えの片鱗を掴み始めていた。

彼女は照らす太陽に向けて手を伸ばし、太陽を握った。

 

愛「ありがとう、エマっち!走って来る‼︎」

エマ「あ、愛ちゃん⁉︎」

 

エマが手を伸ばすも、愛は自分の心に沸き上がった気持ちに従って、元来た道を全速力で駆け出した。

 

(そんな事でいいんだ……!誰かに楽しんでもらう事が好き!自分で楽しむ事が好き!そんな『楽しい』を、皆と分かち合えるスクールアイドル‼︎……それが出来たら、アタシは未知なる道に、駆け出して行ける!()()だけに‼︎)

 

レインボー公園の真ん中で、愛のゲリラソロライブが始まった。

 

(♪:サイコーハート)

 

 

 

 

 

愛自身の楽しそうな笑顔、歌声、パフォーマンスに誘われて、公園にいた親子連れや同好会のメンバーが徐々に観客として集まってくる。

イメージではあるが、オレンジ色の景色がハッキリと目に浮かんでくる。

 

やがてライブは終わり、愛は両膝に両手を置いて、荒くなった息を整える。

そこに……拍手が広がった。歌い切った彼女に対する惜しみない讃美の拍手。

それを見渡して、愛はもう一つの結論に至った。

 

(皆と一緒……ステージは……一人じゃない‼︎)

 

その意味を理解した時、愛は自然と体で喜びを表した。

 

愛「サイッコォォォォォォォ‼︎」

 

そして、その光景を見ていた宏高が不意に言った。

 

宏高「凄いな……あれが愛さんのステージか」

一同「んん?」

 

全員の視線を浴びる中で、宏高は愛から感じた事を語る。

 

宏高「俺、皆のステージも見てみたい!一人だけど、一人一人だからこそ、色んな事が出来るかもしれない!そんな皆がライブをやったら、何かスゴい事になりそうな気がする!」

 

最初こそ、全員言葉を失う。

だが愛のステージを見た事で、既に彼女達の迷いは払拭されていた。

そこに宏高の後押しが来た事で、決心に変わる。

 

そんな中、彼方が言う。

 

彼方「何か、ヒロくんも凄いね〜」

宏高「え?」

 

続けてしずくが、璃奈が、触発されたように意気込み、

 

しずく「負けてられませんね!」

璃奈「燃えてきた」

 

エマが「うん!」と頷き、せつ菜とかすみは互いを見て笑い合う。

そして歩夢が締め括るように言った。

 

歩夢「そうだね!」

 

彼女達の未知なる挑戦が、幕を開けようとしている。

 

 

 

愛のライブを見に来た人々の中には、アモルの姿もあった。

それに気付いた愛が、彼女の元に駆け寄る。

 

愛「あ、アモルン!見に来てくれたの?」

アモル「聞こえてきました……あなたの歌が」

愛「ありがとう!スクールアイドルって、スッゴク最高だよ!」

アモル「スクール、アイドル……えぇ、実に素晴らしいですね」

 

そう言ってアモルは、周囲を見渡して思った。

 

(これほど多くの人達が、歌で一つにまとまって行くなんて……)

 

その時、レインボー公園の上空に、1機の円盤が現れた。

そして円盤からスクリーンが投映され、そこに映る1体の宇宙人による声明が街中に響き渡った。

 

《我々は、新天地を求めて彷徨う宇宙の放浪者、バルタンである》

 

その光景に、アモルは驚きと戸惑いを隠せなかった。

 

アモル「そんな……⁉︎どうして彼らが……‼︎」

愛「ぇ……アモルン、あいつの事知ってるの?」

 

バルタン星人の声明は続く。

 

《我々は、この星を新たな母星にする事に決めた。我々はこの地球を貰い受ける》

 

そう言った後、バルタン星人の円盤は浮上し、街を攻撃し始めた。

その光景に恐れ慄き、逃げ惑う人々。

同好会メンバーも動いたが、宏高は愛がアモルと一緒に自分達とは違う方向に逃げて行くのを目撃し、

 

(愛さん……?)

 

気づかれないように歩夢達から離れて、右腕のタイガスパークのレバーをスライドさせる。

 

《カモン!》

 

腰のタイガホルダーに装着されている2個のキーホルダーから、タイガキーホルダーを選択し、左手で取り外す。

 

宏高「光の勇者!タイガ!」

 

タイガスパークを装着した右手でキーホルダーを握り直すと、中心部のクリスタルが赤く発光した。

 

タイガ『はあああああっ!ふっ!』

 

宏高は天高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンタイガ!》

 

タイガ『────シュア!』

 

バルタン星人の侵略を止めるべく、ウルトラマンタイガが飛び立つ。

 

 

続く。




愛がスクールアイドル同好会の新たな「道」を切り開いたのも束の間、始まったバルタン星人(過激派)の侵略!
いよいよ銀河の風と共に、トライスクワッド最後の1人が現れる!


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逸楽の疾風(はやて)#6

大幅に更新遅れて、大変申し訳ございません!

遂にフーマ登場、そしてトライスクワッド集結です!

それではどうぞ!


お台場の街を飛行するバルタン星人の円盤。そしてそれを追跡するウルトラマンタイガ。

 

円盤からタイガ目掛けて光弾が発射される。タイガは飛行しながら体を捻ってそれを回避し、腕を十字に組んで放つ『スワローバレット』で迎撃するが、回避された。

 

タイガ『くっ……』

 

タイガは加速して上に飛び上がり、両腕を左右に広げてタイガスラッシュを大量かつシャワー状に撃ち出す『タイガスプラッシャー』を繰り出した。

 

タイガ『ハアッ!』

 

バルタンの円盤も光弾を連射して対抗するが、相殺しきれずに数発被弾し、ふらつきながら減速していく。

 

タイガ『そこだっ!』

 

タイガはこれを見逃さず、再びスワローバレットを連射し、今度は命中させた。

円盤は耐久の限界により墜落しながら空中で爆発四散、そして黒煙の中からバルタン星人(過激派)が飛び出した。

 

「フォッフォッフォッフォッ……」

 

バルタン星人はタイガに向かって突進し、そのまま衝突。そこから空中での縺れ合いになる。

バルタン星人の両手の巨大なハサミが何度もタイガを殴りつけるがタイガは怯まず蹴りを入れ、星人を突き放す。

すかさずタイガはスワローバレットを放ち、光弾はバルタン星人に命中した…その瞬間、星人の姿が消えた。

 

タイガ『……⁉︎』

 

瞬間移動で避けられたのだ。

一体何処に消えた。そして何処から来る。

周囲を警戒するタイガだが、既に背後を取られていた。

 

バルタン星人はタイガの背後から勢いよく右腕のハサミを振り下ろし、タイガを叩き落とした。

 

タイガ『うわああああああああっ‼︎』

 

タイガは街中に降下していき、強く地面に叩きつけられた。

 

「フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッ……」

 

高笑いを上げながら、バルタン星人もゆっくりと街中に降り立った。

 

 

 

タイガがバルタン星人(過激派)と交戦している一方、比較的安全な所に避難し座り込んだ愛とアモルは、この事態に焦った顔をしていた。

 

アモル「……どうして……こんな……」

愛「アモルン……」

 

そこへ、

 

「呑気に品定めなんてしてるから、先を越されるんだよ」

 

皮肉の込もった少年の言葉が2人にかかった。

愛とアモルは声がした方向、そこに立っていた目の前の少年に目を向ける。

 

アモル「霧崎……」

 

目の前の少年──霧崎 幽は棒付き飴を咥え、笑みを浮かべながら2人を見下ろしている。

 

アモル「貴方ですね……彼を煽動したのは……!」

愛「え……?」

 

バルタン星人(過激派)を一瞥しながら、静かな怒りと共に問い詰めるアモルに対してその通り、と言わんばかりの表情を浮かべる霧崎。

 

愛「ねぇ、アモルン……さっきからよく解らないよ……一体何の話?」

 

状況が飲み込めず戸惑う愛に、霧崎がアモルを指差しながら言い放つ。

 

霧崎「まだ分からないかい?彼女も()()()()()()なんだよ」

愛「えっ……」

霧崎「正確には、バルタン星人の穏健派だけどね」

 

驚く愛を他所に、霧崎は淡々と説明し始めた。

 

霧崎「バルタン星人達は故郷の星を失い、新天地を求めて宇宙を放浪していた………ところがその中で、移住に対する考え方の違いから、他の星と交渉し共存を呼びかける『穏健派』と、目星を付けた星を一方的に制圧して自分達の領土とする『過激派』に別れ、その対立は今も続いている……なんと惨めな話か」

 

アモルを嘲笑するかの様に嬉々として語る霧崎に、流石の愛も腹立たしさを覚えた。

 

愛「なんで……アモルンはこの街がだんだん好きになってきて、皆とも仲良くなれるかもしれなかったのに、どうしてそれを壊すような事をするの⁉︎」

霧崎「僕は過激派の連中に上手い話を提供しただけさ。所詮異星人は人間にとって畏怖の存在。遅かれ早かれ、いつかはこうなる運命(さだめ)だった。ほんの少しの間でも夢を見れたんだから良いじゃないか」

愛「だからって……!」

 

怒りに任せて霧崎に詰め寄ろうとする愛だったが、霧崎が左掌を向けた途端、愛の体が動かなくなった。

 

(え……金縛り…?)

 

霧崎「君には分からないだろうさ。誰彼構わず仲良しでも、一人一人との関係は薄く、ましてや特別な誰かに思い入れがある訳でもない君にはね。………そこ、危ないよ?」

 

霧崎が言うと、愛の近くに土埃が飛んで来た。

 

愛「きゃあっ⁉︎」

 

いつの間にか体の自由が戻っていた愛は咄嗟に両手で頭を覆い、身を屈める。

この土埃は、バルタン星人が両手のハサミから発射する『白色破壊光弾』をタイガが喰らい、吹き飛ばされて地面に倒れた際に発生したものだ。

恐る恐る顔を上げると、既に霧崎の姿はなかった。

 

 

 

一方、タイガはバルタン星人(過激派)の瞬間移動を用いた攪乱戦法に翻弄されていた。

消えては現れ、消えては現れの連続で心身共に追い詰められていくタイガ。

バルタン星人の横チョップで吹っ飛ばされ、再び地面に倒れ込む。

 

タイガ『グッ………ハァッ!』

 

タイガはすぐさま起き上がり、膝立ちの姿勢から反撃の『ストリウムブラスター』を放つ。

するとバルタン星人の胸部が開き、装備されていた『スペルゲン反射鏡』が出現した。

 

宏高「あっ……」

 

ストリウムブラスターは反射され、タイガの足元に直撃し爆発。逆にダメージを受けてしまった。

 

タイガ『グワアアアッ‼︎』

 

「フォッフォッフォッフォッフォッフォッ……」

 

勝ち誇ったように笑い声を上げるバルタン星人。

 

タイタス『私が替わろう!一気に一撃で!』

宏高「ダメだ!タイタスじゃあいつのスピードは捉えられない!ますます不利になる!」

タイガ『じゃあどうすんだよ⁉︎』

???『まあ落ち着けって!』

タイガ『⁉︎』

???『力ってのは臨機応変、適材適所に使い分けるモンだぜ?』

タイガ『その声は⁉︎』

 

突如聞こえてきた謎の声の主は、タイガのよく知る人物だった。

 

 

 

それと時を同じくして、愛の練習着のポケットに入っていた青い輝石が強く光り出した。

 

愛「ん……?」

 

それに気付き、ポケットから輝石のペンダントを取り出す愛。

 

アモル「それは……?」

愛「分かんない。けど、もしかしたら……」

 

そう言うと愛は、タイガに向けてペンダントを掲げた。

 

(お願い……届いて!)

 

愛の祈りに応えるかのように、ペンダントは青い光となって愛の手を離れ、タイガのカラータイマーへと入り込んで行った。

 

インナースペースの宏高の手に青い光が収まると、そこからキーホルダーが現れた。

 

宏高「まさか……」

 

???『よお、(あん)ちゃん。随分お困りのようじゃねぇか』

宏高「フーマ…?フーマなのか⁉︎」

フーマ『へぇ…俺の事を知ってるとは話が早ぇ。なら、やる事は分かってるよな?』

宏高「当然!ありがとうフーマ。俺は虹野宏高。よろしく」

フーマ『へっ、礼なら俺をここまで導いた金髪の嬢ちゃんに言いな』

宏高「……?」

 

宏高は一瞬ポカンとした後、俯きながらどこか納得したような表情を浮かべて、

 

(ありがとう……愛さん!)

 

心の中で愛に感謝すると、決意の眼差しで前を向き、タイガスパークのレバーをスライドさせた。

 

《カモン!》

 

宏高「風の覇者!フーマ!」

 

右手でフーマキーホルダーを握り直すと、キーホルダーからタイガスパークへとエネルギーが送り込まれ、中心部のクリスタルが青く発光した。

 

フーマ『はあああああっ!ふん!』

 

宏高は大きく全身を捻り、天高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンフーマ!》

 

フーマ『────セイヤッ!』

 

青く眩い光、激しく吹き荒れる疾風と共に、忍者を彷彿させる見た目が特徴の青い巨人───『ウルトラマンフーマ』が現れた。

 

フーマ『俺の名はフーマ。銀河の風と共に参上!』

 

 

 

インナースペースの中では、3人のウルトラマンが再会を喜んでいた。

 

タイガ『良い所で来てくれたな、フーマ‼︎』

タイタス『これでまた3人揃った‼︎』

 

そして3人は円陣を組み、

 

フーマ『生まれた星は違っていても!』

タイタス『共に進む場所は一つ!』

タイガ『我ら──』

 

タイガスパークを装着した右拳を突き合わせ、張り裂けんばかりの声量で言い放った。

 

『『『トライスクワッド‼︎』』』

 

 

続く。




今回はここまでとなります。
フーマとバルタンの忍者対決は次回に持ち越しで、第5話も次回でラストになります。

リアルが多忙なのは仕方ない事ですが、もう少し短い間隔で更新できるように頑張っていきたいです。


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逸楽の疾風(はやて)#7

第5話ラストです。

今回も文章長めですが、よろしくお願いします。


バルタン星人(過激派)との闘いの最中、タイガと宏高の元に合流したウルトラマンフーマ。

 

(BGM:覇道を往く風の如し)

 

フーマ『さあ、どっちの速さが上か勝負しようじゃねぇか、ハサミ野郎!』

 

「フォッフォッフォッフォッ……」

 

フーマ『俺のスピードについて来れるかよ!』

 

フーマは疾風の如きスピードでバルタン星人に肉薄し、水平チョップを打ち込むがバルタン星人は両手のハサミでこれを受け止める。

そこから両者は互いに後方へ飛び退いた直後、残像が見える程の素早い身のこなしで移動しながら、空中で何度も激しくぶつかり合う。

 

せつ菜「速い!速すぎです!」

彼方「彼方ちゃん、目回っちゃうよ〜」

 

それは同好会メンバーも目で追い切れないほどすさまじい光景だった。

 

やがてフーマとバルタン星人は地上に着地し、間髪入れずにフーマが格闘戦を仕掛ける。

バルタン星人はフーマの繰り出す手刀やキックを最小限の動きで躱し、受け流していくが、徐々にその勢いに圧されていく。

 

フーマ『お前の短所は分かってんだぜ!』

 

バルタン星人は『宇宙忍者』の異名の通り、分身などの様々な特殊能力を有しているがその反面、接近戦を苦手としている。

フーマは過去に自身の故郷『惑星O-50(オーフィフティ)』でバルタン星人と交戦した経験がある為、その欠点を把握していた。

追い込まれたバルタン星人は両手のハサミから『赤色冷凍光線』をフーマに打ち込もうとする。

 

フーマ『ハッ!』

 

フーマはその場で少し浮き、竜巻を纏いながら高速回転する『嵐風竜巻(らんぷうたつまき)』で光線を跳ね返した。

回転を止めると、そのまま宙に浮いた体勢からバルタン星人の胸部に飛び蹴りを入れ、そこから両足で何度も踏みつけるように連続蹴りを叩き込む。

 

フーマ『セイヤアアアアアアッ‼︎セヤッ!』

 

「フォッ」

 

フーマの百烈脚からのストレートキックで、バルタン星人は勢いよく後方に吹っ飛ばされ、背中から倒れ込む。

バルタン星人を蹴り飛ばしたフーマは地上にカッコ良く着地。だがその時、胸のカラータイマーが青から赤に点滅を始めた。

 

フーマ『おっと、遊びが過ぎたみてぇだな…そろそろ決めにかかるぜ。まだいけるよな、宏高!』

宏高「ああ!」

 

インナースペース内の宏高は高速移動に振り回された為か少し息が上がっていたが、フーマの問いかけに力強く答える。

 

フーマ『さぁて、ここいらで幕引きにするか、ハサミ野郎』

 

そう言ってフーマはバルタン星人に向かって右手をパーにして突き出す。

それに対し、バルタン星人は左手のハサミを突き出して笑う。

 

フーマ『何笑ってんだよ?』

 

「フォッ⁉︎」

 

フーマ『これはジャンケンのパーじゃねぇぞ。お前はあと5手で終わりってことだ!』

 

フーマは目にも止まらぬ速さでバルタン星人の背後に回ると、回し蹴りでバルタン星人の足を掬い、そこから力強く蹴り飛ばし、上空に高く打ち上げる。

フーマも高く飛び上がると、タイガスパークから形成した光の手裏剣を投げつけ、バルタン星人を縦真っ二つに両断。

 

フーマ『デェヤッ!セヤッ!』

 

さらに空中で側転しながら、小さな手裏剣状の光弾『光波手裏剣』を、続けて後方転回しながら光波手裏剣を鋭利な刃状にした『斬波の型』を扇状に5本、寸断されたバルタン星人の半身にそれぞれ放つ。

そしてフーマが忍者の様に左腕を背中に回して地上に着地すると、バルタン星人は空中で大爆発。

 

フーマは宣言通り、5手で星人を撃破したのだった。

 

これに歩夢やせつ菜達は歓声を上げ、愛も安堵の表情を浮かべていた。

 

愛「終わったよ……アモルン」

アモル「はい……」

 

 

 

しかし、これで終わりではなかった。

フーマとバルタン星人の戦いを、面白がりながら見ていた者がいた。

 

霧崎 幽である。

 

霧崎はバルタン星人が倒されたのを見届けると、パーカーのフードを脱ぎ、首にかけている円形のペンダント『ヒディア・プラズマー』を取り出して、精神を集中。

紫色に点滅するペンダントから溢れるドス黒いオーラに包まれ、ダークキラーヒディアスへと姿を変えた。

 

フーマは腕を高く振り上げて空を目指し飛び去ろうとした……その時だった。

 

フーマ『セイヤッチ!……うおっ⁉︎ウアアアッ‼︎』

 

何者かに真上から左胸辺りを蹴られ、地上に強く叩きつけられるフーマ。

 

フーマ『痛ってぇ……ッ⁉︎てめぇ、ヒディアス‼︎』

 

フーマを急襲したのは、ダークキラーヒディアスだった。

 

ヒディアス「やあO-50。大気圏に落ちた時は、真っ先に炭になっていたんじゃなかったか?」

フーマ『んだとぉ!』

 

ヒディアスの挑発にカッとなったフーマは、形振り構わずヒディアスに挑みかかる。

 

タイタス『落ち着けフーマ!奴のペースに乗せられているぞ!』

 

タイタスが諌めるもフーマは完全に頭に血が上っており、聞く耳を持たない。

スピーディーな格闘戦を繰り広げながら、さらにフーマを煽るヒディアス。

 

ヒディアス「フフ、忍者の真似事では僕は倒せない」

フーマ『やってやろうじゃねぇか、てっめぇ‼︎』

 

フーマの回し蹴りを回避し、距離を取るヒディアス。

 

フーマ『喰らえっ!極星光波手裏剣(きょくせいこうはしゅりけん)‼︎』

 

両手で円を描くようにタイガスパークにエネルギーをチャージし、黄金色の手裏剣型のエネルギー弾を飛ばす『極星光波手裏剣』をヒディアスに放つ。

先程バルタン星人を真っ二つにした、フーマの得意技だ。

光の手裏剣がヒディアス目掛けて飛んでいき、やがて命中、爆発する。

 

だがヒディアスは空中に逃れており、そのまま紫色のオーラと共に消えた。

 

ヒディアス「惜しい。フッフフフ……」

フーマ『待ちやがれ!』

タイガ『もう止せフーマ!これ以上は宏高が保たない!』

フーマ『クッ……!』

 

ようやく全てが終わり、変身解除した宏高だったが、彼の頭の中はだいぶカオスな事になっていた。

 

タイタス『まったくフーマ、『あん?』君は短気が過ぎる。もう少し落ち着いて行動してもらわんと』

フーマ『再会早々お説教はないぜ旦那。モタモタしてっと敵の方からトンズラされちまうだろ?』

タイタス『しかしだな……』

タイガ『お前らいっぺんに喋るな!宏高がパニックになってるだろ!』

宏高「分からん…こうなるともう何が何やら……」

 

さらにこの後、同好会の皆でランニングをしたのだが、宏高は先程の戦闘で体力を使ってしまったらしく、途中からヘトヘトだったという……

 

 

────────────────────

 

 

愛「どうしても行っちゃうの?」

 

夕暮れ時、愛は地球を去ろうとしていたアモルの元に居た。

 

アモル「はい。この星の人達には、大きな迷惑をかけてしまいましたから」

愛「アモルンの所為じゃないよ!悪いのは───」

アモル「分かっています。ですが私はバルタン星人。あんな事があった後では、こんな私でも受け入れてはもらえないでしょう」

 

アモルの言葉に悲しげな表情を浮かべる愛。

こんな時に慰めの言葉も思いつかない。

 

アモル「私達はこれからも旅を続けます。問題は山積みですが、あなたのおかげで希望が持てました。本当に感謝しています」

 

そう告げて、円盤に乗り込もうとするアモルだったが……

 

愛「待って‼︎」

アモル「……?」

愛「忘れないで……アモルンはこれからもずっと、愛トモだからっ‼︎」

アモル「───っ!……ありがとう……」

 

愛の方に振り向き、嬉し涙を浮かべながら微笑むアモル。

やがて円盤から光が照射され、アモルを包み込む。

 

アモル「さよなら……」

 

本来のバルタン星人としての姿に戻りながら、アモルは円盤へと吸い込まれ、お台場の街を飛び去って行った。

それを無言で見つめる愛の元に、宏高がやってきた。

 

宏高「あの人は行っちゃったのか」

愛「うん。……ねぇ、宏高?」

宏高「なに?」

愛「どうして人間も宇宙人も関係なく、皆仲良く出来ないんだろう?」

宏高「え…?」

愛「おばあちゃんもおねーちゃんも愛トモのみんなも、愛さんの周りは真っ直ぐな人ばかりだったから……今まで単に周りに恵まれてただけだったのかな……」

 

あの時、霧崎に言われた言葉が頭から離れず、複雑な心境を打ち明ける愛。

 

宏高「人とは違うものを見たらまず怖いと思ってしまうのは、ある意味人間の本能なのかもしれない。でも、気持ちが通じ合えば、生まれとか育ちとか全然関係ないと思うんだ」

愛「あ……」

 

愛は思い出す。この街で知り合ったたくさんの人達、そして学園の友人達の笑顔を。

 

宏高「誰に何を言われたかは知らないけどさ、愛の気持ちはちゃんと届いていたはずだよ」

愛「……うん、そうだね。ありがと、ひろ」

宏高「よかった、いつもの愛に戻って」

 

夕陽の中で笑い合う、宏高と愛だった。

 

 

────────────────────

 

 

後日。

 

部室にてそれは突然始まった。

 

愛「歩夢!サイコーに可愛いね!高2だけに!走るのってランランするよね!ランだけに!」

宏高「………?」

愛「次は同好会で、どうこう行こうかい‼︎」

宏高「あの〜……これって?」

 

椅子にポツンと座る宏高に、愛が駄洒落を聞かせているという世にも珍妙な光景。

愛の駄洒落もそうだが、それに対して微妙な反応を示す宏高に唖然としながら、せつ菜は真顔で言う。

 

せつ菜「いまいちウケてないみたいですね……」

 

それに歩夢が言う。

 

歩夢「宏くん、昔のコント番組とかでは大笑いするんだけどね……笑いのレベルが独特なところがあるから」

タイガ『何だこれ?』

タイタス『ほう、駄洒落か……』

 

これにはウルトラマン達も呆気にとられていた。

ただ一人を除いて……

 

フーマ『プッ…!ククッ…!』

 

フーマは何やら必死に力んで噴き出さないように堪えている様子だった。

 

タイガ『どうした、フーマ?』

フーマ『……あ?別にどうもしねぇけど』

 

適当に誤魔化すフーマ。そしてかすみが愛に訊ねる。

 

かすみ「何でいきなり駄洒落を?」

愛「スクールアイドルの特訓だよ!」

 

いきなり何が始まったのかと思えば、まさかの特訓の一環だった。

そんなありふれた何気ない日常にエマは「フフッ♪」と笑うが、すぐに曇った顔を浮かべて空を見上げた。

 

 

────────────────────

 

 

その頃、朝香果林は学生寮にある自分の部屋で椅子に座り、机に頬杖を突きながら考え事をしていた。

 

それは、スクールアイドル同好会の事。

親友のエマから相談を受けたのをきっかけに、何度も関わってきた。

けれど……

 

 

『力になれることあるかしら?』

 

『たまたま同好会に親友がいてね。何で生徒会長が正体を隠してスクールアイドルをやっていたのか、興味があるんだけど……』

 

『私はエマの悲しむ顔が見たくなかっただけよ』

 

 

そう、すべてはエマのため。スクールアイドルに興味があるからじゃない。

はずなのに……

 

果林は一つ溜息をつくと、机に置いてあるアイドル雑誌を見つめながら自身に問うように呟いた。

 

果林「どうしたいのかしら……私」

 

 

続く。




今回も読んで頂きありがとうございました!

愛さんの駄洒落ですが、あれ?フーマ、もしかしてウケてる?
フーマのリアクションは、某バルカンをイメージしています(笑)

そして完全オリジナルのシーンとして、ラストに果林の心の葛藤を描きました。
エマが空を見上げる場面から繋がるようにしましたが、いかがでしたでしょうか?


次回 第6話「キミとキモチ重ねて」

タイガ『宏高急げ、変身だ!』


お楽しみに。


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キミとキモチ重ねて#1

お待たせしました。
連載開始から今日でちょうど6ヶ月になりました。いや〜、なんかあっという間ですねぇ……

ちなみに今回のサブタイトルは、電撃G'sマガジンの果林&エマ特集のキャッチコピーが元になっています。

それとスクスタの新しいしずくのURが……尊すぎてヤベーイ!

というわけで第6話、エマ回スタートです。
それではどうぞ!


それは遡ること1ヶ月ほど前の、春先の季節。

 

スーツケースのキャスターをゴロゴロ転がして荷物を引き摺り、虹ヶ咲学園に編入してきた一人の女子高生がいた。

 

彼女の名は『エマ・ヴェルデ』。

 

風に飛ばされそうになる帽子を押さえて、彼女は自らが通う学園を見上げる。

立派な門構えに目を細め、少女は遠い故郷からわざわざ一人でこの日本にやってきた目的に想いを馳せる。

 

(どこまでも広がっている、スカイブルーの空!眩しすぎて見えなかった……!アイドルになった私に、どんな事が出来るのか!)

 

エマはスクールアイドルに憧れていた。

憧れた結果、自らもスクールアイドルになりたい一心でこの日本に来日し、これから待ち受ける未来に期待を膨らます。

 

エマ「………」

 

いつまでもここに突っ立ってる訳にもいかないので、エマは先ず辺りに人がいないかキョロキョロと見回し確認。

次いでその場に座り込み、肩に提げたバッグから案内書を取り出そうとするが、中々見つからない。

 

エマ「え〜っと、学生寮の地図ぅ……」

 

「どうかした?」

 

涼やかで大人っぽい女性の声が、エマの耳に入った。

エマがそちらを見上げると、そこには濃紺の髪をウルフカットに整えた、色気のある女子高生がいた。

エマは一瞬見惚れるも、女子高生が着ている制服が虹ヶ咲のものだと判断すると、直ぐ様起立して訊ねる。

 

エマ「あ、あの!虹ヶ咲学園の人ですか?」

 

これが、エマ・ヴェルデと朝香果林の出会いである。

 

 

────────────────────

 

 

時は少し経ち、場所は変わって虹ヶ咲学園のカフェスペース。

その角の隅っこの席に朝香果林は座っていた。

まるで自分の殻に閉じ籠るように。

そこへ、

 

「この前はありがとう♪」

 

つい最近聞いた声がお礼の言葉と共に降りかかる。

 

果林「あっ……あら……」

 

目の前にいたのは、エマだった。

両手には昼食が乗ったお盆を持っている。

続けて果林に訊ねるエマ。

 

エマ「一人?」

果林「ええ。騒がしいのは苦手なの」

エマ「そっかぁ。ウフフッ♪良かったら、一緒に食べてもいい?」

果林「……好きにしたら?」

 

するとエマは見るからに嬉しそうに笑い、果林の前に座った。

しかし。

 

果林「お……えっ?」

 

テーブルに置かれた彼女の昼食に果林は目を剥いた。

虹と書かれた丼に大盛で盛られたご飯、そして卵一個、醤油、水だけと随分質素なメニュー。

疑問符を頭に浮かべて絶句する果林を他所に、エマは笑顔で言う。

 

エマ「これ、スイスにいた時からず〜っと憧れてたのぉ‼︎」

 

そしてエマは生卵を手に取り、丼の縁にコッコッと軽くぶつけて罅を入れると、半分に割って白米に落とし、醤油をかける。

箸でぐちゃぐちゃに混ぜると、

 

エマ「あ〜むっ」

 

一気に口にかき込んだ。

 

エマ「う〜〜ん♪ボーノ♪」

 

満ち足りるような幸せな笑顔を浮かべ、感想を漏らすエマ。

それに果林は思わず可笑しそうに笑った。

 

果林「うっふふっ‼︎それを食べる為にわざわざ日本へ?」

エマ「えっ?ううん!そうじゃなくて‼︎」

果林「冗談よ」

エマ「なぁんだ〜。フフフッ♪」

 

どこまでも純粋なエマに果林はこの子はからかい甲斐がありそうだと確信する中、エマは日本に来た理由を話す。

 

エマ「私ね、スクールアイドルになりたくて日本に来たの」

果林「スクールアイドル?」

 

果林が聞き返すと、エマは祈るように両手を組み、瞑目して言った。

 

エマ「小さい頃、日本のアイドルの動画を見て、心がポカポカってなった事があったの。だから私も、そんな事が出来るアイドルになれたらっと思って」

果林「それで日本まで?フフッ♪やるじゃない!」

 

自分の夢を叶える為に、憧れの地に降り立ち、憧れを叶える。

そんな事を実際に行動に起こせる人物はそうはいない。それをやってのけたエマの意志の強さを、果林は素直に尊敬し賞賛した。

 

エマ「えっへへ♪」

 

嬉しそうに笑うエマ。

するとそこに2人の一年生らしき女子生徒が、恐る恐る果林に声をかけた。

 

「あの〜?朝香果林さんですか?」

 

果林「えっ?ええ……」

 

果林が戸惑い気味に答えると、2人の一年生は顔を見合わせて「わぁ……‼︎」と喜びを露にした。

 

女子生徒1「私達、雑誌でよく見てて!」

女子生徒2「ファンなんです‼︎」

果林「ありがと」

女子生徒1「これからも頑張ってください!」

 

応援のコメントを届けた2人は果林に一礼すると、興奮冷めやらぬ内に去っていく。

それをにこやかに見送る果林に、エマが不思議そうに訊ねた。

 

エマ「モデル…してるの?」

果林「ええ。読者モデルだけどね」

エマ「すごーい‼︎」

果林「アイドルだって凄いじゃない♪お互い頑張りましょ?」

 

それにエマはパァッと顔を輝かせ、「うん‼︎」と喜び全面に頷いた。

 

 

────────────────────

 

 

それからまた少し時が過ぎ、現在。

 

虹ヶ咲学園のカフェスペースにて、エマ・ヴェルデは昼食を摂っていた。

 

エマ「はむ!はむ!」

 

左手におにぎり、右手にフランスパンを持って、どちらにもがっつくように口に運んでいく。

 

エマ「どっちもボーノ!」

 

そしてこの幸せそうな笑顔。正しく幸福の絶頂と呼べる表情だ。

その様子を目の前に座る朝香果林は微笑ましいものを見るような表情で見守り、クスリと笑って言った。

 

果林「フフッ。相変わらず食べるわね、エマ」

エマ「だって美味しいんだもぉん!ウフフッ♪」

 

もう既にカフェスペースでは定位置となったこの隅っこの席に、座る席の順番。

出会ったあの時から続いてるこの何気ない習慣に果林はちょっとした郷愁に浸りつつ、エマに訊ねた。

 

果林「今日も……同好会?」

エマ「うん!メンバーも増えて、最近すっごく賑やかで。それにね、ソロアイドルをやろうってなってから、皆ますます張り切ってて!」

果林「そう」

 

どこか素っ気ない果林の相槌。

それにエマは気づかず、両手で頬杖をついてなんとなしに願望を口にした。

 

エマ「果林ちゃんも一緒にやれたら良いのになぁ〜」

果林「あ……」

 

僅かに声が上擦った。

しかしそれを誤魔化すように、果林は顔を窓に背けて言った。

 

果林「そういう賑やかなのは苦手って知ってるでしょ?」

エマ「そっかぁ……」

 

それなら仕方ないよね。

そう言いたそうなエマを置いて、果林はお盆を持って席を立った。

 

果林「じゃあ私、そろそろ行くわね」

エマ「え?果林ちゃん……?」

 

強引に話を切り上げて去り行く友人の背中に、エマは奇妙な違和感を覚えた。

自分を突き放すような冷たさ……その裏にはどこか寂しさも感じられた。

 

 

続く。




果たして果林の本心は……


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キミとキモチ重ねて#2

まさかランジュとミアも加わって、スクールアイドル同好会が12人になるとは……ウルトラびっくりですわ。

そして、栞子と3人のユニット名も『R3BIRTH』に決まりましたね。
翠いカナリア、早くフルで聴きたーい!



放課後のスクールアイドル同好会部室。

 

そこではソファーに座ったエマが、彼方に膝枕していた。

 

エマ「よ〜しよしよし〜」

彼方「ごろにゃ〜ん……」

 

エマの太腿の柔らかさと頭を撫でる手に、彼方は極上の気持ち良さを覚え、ゆったりした眠りに誘われる。

 

エマ「ウフフッ♪こうして撫でてると、ネーヴェちゃんを思い出すよ〜」

 

それにしずくが訊ねた。

 

しずく「スイスのお友達ですか?」

エマ「ううん。家で飼ってる子山羊だよ?」

 

『子山羊⁉︎』

 

寝ている彼方以外全員の声が重なった。

驚くのも当然である。

山羊と言えば牧場か動物園で飼われるもの。個人で飼うなど普通はありえない。

例えそれが子山羊でも。

 

だがそれは日本の常識であり、スイスという大自然に囲まれたエマの故郷ともなれば、そんな常識も色んな意味で変わるのだろう。

愛が食い気味に訊ねた。

 

愛「エマっちの家、山羊飼ってるの⁉︎」

エマ「うん!小さい頃はよく、山羊達に歌を聴いて貰って……懐かしいなぁ〜」

 

次に歩夢が訊ねた。

 

歩夢「エマさん、お家を離れてホームシックとかないんですか?」

 

たった一人で慣れない土地の学校に来ているのだ。

誰であろうと故郷への寂しさ、故郷に帰りたい気持ちを覚えるものだが、エマはそれを感じさせないくらいに明るく肯定した。

 

エマ「うん!同好会の皆と居ると、スイスの妹や弟達と居るみたいなんだもん。いつもワイワイ賑やかで」

 

それを聞いて璃奈が俯きながら無表情で「何か、嬉しい」と呟く。

 

エマ「でも家族は、私が日本でちゃんとやってるか心配みたい」

 

その言葉にタイガが反応し、意味深に呟いた。

 

タイガ『家族、か……』

宏高「タイガ?」

 

周囲に聞かれないよう、小声でタイガに訊ねる宏高。

 

タイガ『エマの話聞いてたら、また父さんに心配かけちゃったなって思ってさ……』

宏高「………」

 

かつて宇宙でダークキラーヒディアスと交戦した際、彼による地球破壊を身を挺して阻止したタイガ達トライスクワッド。

タロウの制止を振り切り飛び出した結果、彼らは体を維持できない程のダメージを受け、地球に落下。

再び離れ離れになるも、宏高を通じて再集結を果たし、今に至っている。

 

タイガ『でも後悔はしてないぜ。あの時俺達が動いてなかったら、お前や歩夢達がこうして笑い合う事も、エマのスクールアイドルになるって夢が叶う事もなかっただろうからな』

 

今もこの地球、もしかしたら自分達の身近に潜んでいるであろうヒディアス。

彼はかつてのトレギアのように、あらゆる手を使って歩夢達の周囲を掻き乱してくる。

彼女達の笑顔と希望を守る為にも、俺達は戦う。

この地球(ほし)で出会った、新たな相棒(虹野宏高)と共に。

 

タイガが決意を新たにする中、不意に部室の扉が開かれた。

入ってきたのはせつ菜とかすみの2人。

 

せつ菜「皆さんお揃いですね?」

 

宏高が声をかける。

 

宏高「遅かったね、2人共」

 

すると急にかすみが両手を腰にやって「フッフッフー♪」と不敵に笑い、それに歩夢が訊ねた。

 

歩夢「どうしたの、かすみちゃん?」

かすみ「ちょっとこれを観て下さい!」

 

そう言って彼女はパソコンの前に座ると、マウスを操作してネットを開き、動画サイトに掲載されたある動画を観せる。

 

宏高「歩夢の動画だ!」

 

宏高の言う通り、それは歩夢の自己紹介の動画だった。

 

歩夢「ど、どうしてこれを皆で……?」

 

僅かに羞恥と焦燥が混ざった声を震わせて、歩夢は訊ねる。

自分なりの答えを見つけ、恥ずかしくない気持ちで撮ったとは言え、それを後から見返すとなると顔から火が出そうになる。

しかもそれを全員で見るのだから、正直この場から逃げたくなる気持ちに歩夢は襲われる。

そんな事など露知らずにかすみは言う。

 

かすみ「実はこれ、最近再生数めちゃめちゃ増えてるんですよぉ!」

 

現在の再生回数は2095回。

自己紹介の動画としては驚きの数字で、全員が「おぉ〜」と驚嘆する。

璃奈が僅かにテンション高めな声で言う。

 

璃奈「コメントも沢山……」

歩夢「あ!ホントだ!」

 

コメント欄には、

 

この子は伸びる!

 

可愛い

 

天 使 降 臨

 

といった、歩夢を推して期待してくれるコメントばかりで溢れていた。

この結果を踏まえて、せつ菜は1つの提案を口にした。

 

せつ菜「そこで提案なんですが……」

 

『ん?』

 

せつ菜「私達もソロアイドルとして、プロモーションビデオを作りませんか?」

 

しずくがオウム返しに訊ねる。

 

しずく「プロモーションビデオですか?」

せつ菜「はい!自己紹介でも特技でも、自分をアピール出来るものを動画にしたいと思います!」

 

愛と宏高が興味を示す。

 

愛「へぇ〜、PVねぇ!面白そうじゃん!」

宏高「エマさん、家族に見せるのにも良いと思いますよ?どんなPVにしましょうか?」

エマ「えっ⁉︎う〜ん…どんな……か…」

 

急に言われても、パッとは思いつかない。

悩ましげに顔をしかめるエマ。

 

 

 

一方その頃、学園内では何人かの生徒がスマホでせつ菜のPVを視聴していた。

朝香果林もその一人である。カフェスペースのいつも座る席で、スマホの画面を見つめている。

 

スクールアイドル同好会の部室でも、メンバー全員がパソコンの周囲に集まり、PVを見返していた。

画面から流れるせつ菜のライブは改めて見てもやはり熱気があり、自然と心が躍る。

エマと宏高が感心気味に言う。

 

エマ「やっぱり格好良いね、せつ菜ちゃん」

宏高「もう結構再生されてるんだな!」

 

それにせつ菜本人が返す。

 

せつ菜「はい。おかげ様で」

 

愛が言う。

 

愛「これ、編集りなりーでしょ?」

璃奈「うん。宏高さんにアイディア沢山貰った」

宏高「ハハッ、それほど大した事は言ってないけどね」

 

それを聞いて、エマがかすみに訊ねる。

現在の同好会メンバーで、PVを撮った最後の一人がかすみだからだ。

 

エマ「かすみちゃんのは?」

かすみ「カモーン!かすみーん!」

 

待ってました!と言わんばかりに、かすみは意気揚々とマウスをクリック、次の動画のページを開く。

そして流れるは、かすみの自己紹介動画。

 

タイガ『おっ、あの時のやつだな!』

 

これに宏高が頷きながら言う。

 

宏高「ああ!かすみちゃんはやっぱり可愛い、だよな!」

タイガ『そうそう!』

かすみ「流石先輩!分かってくれてますねぇ!」

 

せつ菜が拳を握って言う。

 

せつ菜「これで知名度を上げれば、私達のライブも夢じゃありません!」

かすみ「皆さんもこのかすみんみたいに、アピール度満点のPVをお願いしますね!」

 

かすみがそう言うと、歩夢が記憶の棚から自分のアピールポイントを探す為に思考に耽る表情を浮かべ、宏高にも話を振る。

 

歩夢「アピールかぁ……私、どんな所をアピールしたら良いんだろう?」

宏高「ん〜……歩夢と言えば〜……」

歩夢「ウフッ♪何?」

 

自分のアイドルとしてのアピールポイントを列挙してくれるであろう宏高に期待の笑顔を向ける歩夢。

だが宏高が出したアピールポイントはアイドルとは少しズレたものだった。

 

宏高「ニコニコ笑ったかと思ったら、急に泣いたり、頬っぺ膨らませて怒ったり……ずーっと見てても飽きない感じ?」

歩夢「宏くん!それ全然アイドルっぽくないよ!むぅー!」

宏高「ほーらそれだよそれ!」

歩夢「もうっ!宏くん!」

 

宏高が人差し指を立てて指摘すると、歩夢はからかわれて悔しいのか宏高をポカポカ叩くも、彼の両掌に容易く受け止められる。

 

フーマ『なんか、苦いコーヒーが飲みてぇ気分だな……』

タイガ『ああ見えても付き合ってないんだぜ、あいつら』

 

そんな空気を変えるようにエマとしずくが宏高に言う。

 

エマ「ウフフッ♪宏高くんってよく見てるよね?歩夢ちゃんの事も、皆の事も」

しずく「それにスクールアイドルの事も色々調べてくれてて、助かります」

宏高「いや、そんな……俺、スクールアイドルはホントスゴいなって思ってて。だから皆を応援したくて!」

歩夢「ぇ……?」

 

その言葉に、彼方とせつ菜は気力を湧かせる。

 

彼方「こんなに近くで応援してくれる人が居るんなら、彼方ちゃん張り切っちゃう〜」

せつ菜「ですね。私も頑張らなきゃって思います」

かすみ「せつ菜先輩はそれ以上頑張らなくてもいいですよぉ!」

 

かすみが嫌味を言うも、せつ菜は更に意気込む。

 

せつ菜「いえ!まだまだ頑張らないと!」

かすみ「えー!それ以上頑張られるとぉ、かすみんの人気に影響が出ちゃうんですー!」

 

暖かい笑いに包まれる中、議題は次に移る。

 

 

続く。




同好会の皆で歩夢の自己紹介動画を見る場面に、ちょっとした遊び心を加えました。
皆さんお気づきになりましたか?

それでは次回もお楽しみに!


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キミとキモチ重ねて#3

トリガーの7・8話、ゼットとのコラボ回最高でした!
あの展開だと、また後半辺りに来てくれるんですかね?

明日から受注のデルタライズクローのフィギュアーツ、絶対予約してみせる!

それではどうぞ!


現在同好会のメンバーは、個人のPVにおけるイメージを捻り出す為の会議をしていた。

 

かすみ「お2人はこんな所でしょうか?」

 

彼方先パイ    愛先パイ

・パジャマ    ・ダジャレ

・子守唄     ・スポーツ

 

と書かれたホワイトボードを背後にかすみが言う。

ボードの『先輩』の部分が『先パイ』になっているのは、これを書いたかすみがあまり漢字が得意ではないからだろうか。

同じくホワイトボードの前に陣取るせつ菜がエマに訊ねる。

 

せつ菜「エマさんはPVのイメージってありますか?目指すアイドル像とか?」

エマ「私ね、人の心をポカポカさせちゃうようなアイドルになりたいって思ってて!」

 

朗らかな笑顔で答えるエマに宏高が「エマさんらしいかも」と賛同する。

 

エマ「でも、それがどんなアイドルなのかよく分からなくて……」

 

ポカポカというワードを口に出すのは簡単だ。

だがしかしそれをイメージして表現しようとすると、途端に頭を悩ませるほど難しくなる。

璃奈と愛が顔を見合わせて言う。

 

璃奈「心をポカポカ……」

愛「それって、どんなイメージかな?」

 

それを皮切りにどんどん意見が挙がっていく。

 

彼方「彼方ちゃんは枕とお布団だなぁ〜」

しずく「泣ける小説でしょうか?例えば、子犬と女の子が」

かすみ「かすみん特製コッペパンに決まってます!」

せつ菜「断然アニメです!」

 

歩夢「私はぬいぐるみ……かな?」

愛「お婆ちゃんのぬか漬け!」

宏高「特撮で決まりだろ!」

タイタス『ウルトラマッスルだ!』

フーマ『それもうポカポカ通り越して“暑苦しい”だぜ⁉︎』

 

苛烈する論争。

だが、宏高(とタイタス)まで言い終えたところで愛と璃奈、歩夢と宏高、エマと彼方がそれぞれ顔を見合わせ、同時に声を漏らす。

 

『ぁ……』

 

それにせつ菜が思わず笑い出しながら言う。

 

せつ菜「ウフフッ♪やっぱり私達バラバラですね」

 

それに同意するように宏高と歩夢も言う。

 

宏高「エマさんのイメージが大事かも」

歩夢「そうだね」

 

と言っても、やはりまだそのイメージが定まらない。

しずくは悩む素振りを見せて言う。

 

しずく「ん〜……演劇だったら、衣装を着るとイメージ湧いたりするんですけどね」

エマ「あっ…それなら……」

 

しずくの助言に反応したエマは、ある人物に電話した。

その相手は果林だった。

 

果林「え?衣装?」

 

 

────────────────────

 

 

エマが果林に電話をかけて数分後。

 

スクールアイドル同好会は、果林の案内で服飾同好会の部室にやってきた。

色とりどり、様々な種類の大量の衣装に女子陣は全員「わぁ〜‼︎」と歓喜の声を上げる。

そして早速物色し始め、宏高は遠くからこの様子を眺めている。

 

女子メンバーがエマに似合う衣装を和気藹々と話しながら物色する中、せつ菜は服飾同好会の部長の両手を取り礼を述べていた。

 

せつ菜「本当にありがとうございます‼︎」

服飾部長「い、いえ……!」

 

彼女もせつ菜のファンなのか、若干歓喜気味に声が上擦っていた。

彼方がエマの連絡を受けてここに案内してくれた果林に言う。

 

彼方「流石果林ちゃ〜ん。こんな同好会にツテがあるなんて〜」

果林「偶々クラスに部員の子が居ただけよ」

 

そう何ともないように告げる果林。

一方最初に着る衣装を決めて、試着室に入ったエマに愛は訊ねる。

 

愛「どう?エマっち!」

エマ「うん!ぴったり!」

 

その声の直後、試着室のカーテンが開き、ロングスカートのメイド服を着たエマが姿を現した。

それと同時に、宏高が様子を見に試着室の前にやって来る。

 

宏高「どんな感じ?」

 

その着こなしはあまりにも自然で、エマの雰囲気もあってか、ご奉仕精神旺盛な甘やかしメイドという背景をヒシヒシと感じ取れる。

これには宏高と愛が声を揃えて「おぉ〜‼︎」とどよめく。単純に似合い過ぎる事に感心したのだろう。

折角なのでエマはメイドの代表台詞を言ってみる。

 

エマ「お嬢様、ご主人様。お帰りなさいませ……なんてぇ」

 

しかし途中で少し恥ずかしくなったのか、俯き加減にはにかむ。

だがそれすらエマの魅力になるのだから、思わずかすみは悔しそうに唸る。

 

かすみ「ぐぬぬぅ……!可愛いぃ……!」

エマ「他にも試してみても良い?」

 

エマがそう訊ねると、宏高が「勿論!」と答えた。

そこから、エマは和を感じる為に浴衣を着たり、応援する気持ちを感じる為にチアガール衣装を着たり、果ては楽しさのあまりかクマの着ぐるみまで着てしまう。

 

エマ「がおーん!クマ・ヴェルデだよ?食べちゃうぞ〜!」

 

そう言ったエマに『なんか趣旨ズレてね?』とツッコむフーマに宏高は苦笑し、かすみは「これも衣装⁉︎」と怪訝そうに、しずくが「ですね」と肯定する。

エマはフフッと微笑んで、ふと思う。

 

(心をポカポカにするって、こういう感じなのかな?)

 

自分が目指すアイドル像。それは人の心をポカポカさせるスクールアイドル。

まだまだ曖昧で形は掴めないが、それでもほんのちょっとだけ、彼女はその欠片に手が触れた。

そこに果林が緑色の服を見せながらエマに言う。

 

果林「ねぇ、こっちはどうかしら?エマに似合うと思うんだけど」

愛「おっ、流石現役モデル!センス良い〜!」

 

すると宏高がエマに提案する。

 

宏高「そうだエマさん!次の衣装に着替える前に、皆で写真撮りませんか?」

エマ「良いよ!」

 

エマが了承すると、そこに歩夢とせつ菜も加わろうとする。

 

歩夢「だったら私も一緒に!」

せつ菜「私も!」

 

璃奈がスマホをカメラモードにして、良いポジションに設置する。

 

愛「じゃあこの辺にりなりーに入ってもらおう!」

璃奈「うん……分かった」

 

そしていざ集まって集合写真が撮られるその寸前、エマはふと思い立ったように端で見守る果林に言った。

 

エマ「あ……ねぇ!果林ちゃんも一緒に入ろう!」

果林「え?……私はいいわよ……」

 

果林はやんわり断るが、それでもエマは折れずに誘う。

 

エマ「え?一緒に撮ろうよぉ!」

果林「……」

 

それに果林はどこか陰のある顔でエマから目を逸らす。その時、ピロンピロンと軽快な音がした。

それは果林のスマホの着信音だった。

 

果林「ぁ……」

 

果林はスマホを取り出して画面を確認すると、「悪いけど行くわね」とだけ告げて去っていった。

 

エマ「果林ちゃん……?」

 

 

 

果林「インタビューですか?………はい。分かりました」

 

かかってきた電話はモデルの仕事依頼だった。果林は部室の外で応対し通話を終えると、先程まで居た服飾同好会の扉の方に振り向く。

その表情はどこか寂しそうにも見えるものだった。

 

 

続く。




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キミとキモチ重ねて#4

現在、Twitterでエビフライの呪いにかかってます。どうも、門矢零です。

ゼットのフィギュアーツ、オリジナルとデルタライズクロー買えてよかったーーー!


その日の夜。

 

果林は学生寮にある自分の部屋で、椅子に座って一枚の紙と向き合っていた。

 

果林「興味がある事?休みにやってみたい事?」

 

それはアンケート用紙だった。

これは放課後にかかってきた、モデルの仕事依頼の電話の内容にあったインタビューに関連したもので、このアンケート用紙はそこでのモデルの仕事で貰ったものだ。

果林は吸い込まれるように一番興味がある事の項目を見つめ、チラリと机上に置いてあるスクールアイドルの雑誌を見てから枠内に何かを書き込んだ。

 

果林「なんてね」

 

自嘲するように呟く果林。

その時、不意にコンコンとドアをノックする音が聞こえた。

 

『果林ちゃん?』

 

次いで聞こえた自分を呼ぶ声。

 

果林「エマ⁉︎ちょっと待って‼︎」

エマ『うん!』

 

果林は咄嗟にアンケート用紙をスクールアイドル雑誌に挟むと、出来る限り平静を装ってエマを招き入れた。

 

果林「どうぞ」

エマ「わぁ!またこんなに散らかして〜……」

 

部屋に入るなり、エマは散らかっている本類を簡単に片づける。

 

果林「そのままで良いのに」

 

エマは雑誌を集めながら、果林に言う。

 

エマ「今日はありがとね。あ!あの後の写真見る?」

果林「今はいいわ」

 

果林はベッドの上でそばに置いてあった雑誌を開きながらそう言った。

 

エマ「そう。……ん?」

 

その口振りに特に気にするエマではなかったが、不意に果林の机上にあった雑誌に目を向けた事で、その表情を輝かせる。

 

エマ「果林ちゃん!」

果林「ん?」

 

顔を本からエマの方に向けた果林の目に入ったのは、先程まで机に置いていたアイドル雑誌をこちらに見せつつ期待の笑顔を浮かべるエマだった。

 

エマ「フフッ、もしかして興味ある?」

果林「あ……‼︎」

 

僅かに動揺が走った。

 

エマ「だったら入ろう!同好会‼︎すっごく楽しいよ!皆本気でスクールアイドルやってて!」

 

このエマがここまで言うのだ。

さぞかしそれはきっと、とても楽しいのだろう。

しかし朝香果林は、

 

果林「……無いわよ?興味なんて全然」

 

逡巡するように俯き、エマから目線を逸らして言った。

それにエマが「え?」と虚を突かれたような顔を浮かべる中、彼女はどこか険を帯びた声音で続ける。

 

果林「その雑誌は、エマの為になるかと思っただけ」

エマ「でも……」

果林「私、読者モデルの仕事もあるし、スクールアイドルなんてやってる暇無いの。知ってるでしょ?」

 

突然流れ出す重苦しい空気。

予想外にも苛立ちが籠った態度の友人に、エマは困惑しながらもすがるように言う。

 

エマ「そっか……いつも手伝ってくれてたから、もしかしたら一緒に出来るのかもって……」

果林「頑張ってるエマを応援したいと思っただけよ。そんな風に思われるなら、()()()()()()()()

 

ハッキリと、拒絶の声がエマの耳に届く。

 

エマ「果林ちゃん……?」

果林「それ、持って行っていいわよ。衣装の参考にでもして。………それと、もう誘わないで」

 

明らかにこれ以上話したくない、と言わんばかりに話を切り上げる果林に、エマは何が彼女をそうさせるのか、どうしてそこまで意固地になるのか、何も分からないまま、場の空気に流されるままに彼女の部屋を出ていった。

そして寮の自室に戻ったエマは果林の部屋から持ち帰った雑誌を片手にベッドに寝転がり、

 

(どうして?あんなにムキになって。そんなに、嫌だった?分からないよ、果林ちゃん……)

 

先程の果林の冷たい態度に思い悩み、瞳を潤ませるのだった。

 

 

────────────────────

 

 

そして翌日。

 

エマのアピールPVを撮るために、同好会メンバーは中庭で撮影を行っていた。

撮影担当は璃奈で、立てた三脚にセットしたビデオカメラを使って花冠を被って座っているエマを撮っていた。

その様子を見て、彼方が言う。

 

彼方「うんうん!花とエマちゃん、合ってるねぇ〜!」

 

そこへレフ板を持ってきたせつ菜が宏高に訊ねる。

 

せつ菜「あれ?制服のままで良いんですか?」

宏高「まずは制服で。その後から沢山衣装替えをしていくんだ」

 

同じく小物を持っていた歩夢が「沢山?」と訊ねると、宏高は困ったように苦笑した。

 

宏高「結局1つに絞れなくてさ……それならいっそのこと全部着ちゃおうって事になった!」

 

無理に絞らなくても、色んな衣装を試して、その衣装が引き出すエマの魅力を模索していくという手もあるのでは?

そう考えた結果、こういう段取りに至ったのだ。

せつ菜はワクワク顔で言う。

 

せつ菜「面白いかもしれません!エマさんの色々な魅力が見られますね!」

 

ここで璃奈が淡々と言う。

 

璃奈「カメラ、オッケー」

宏高「じゃあ行きますよ!よーいスタート!」

 

宏高の合図でエマの撮影が始まったが、

 

エマ「……あ!虹ヶ咲学園国際交流学科三年、エマ・ヴェルデです」

 

奇妙な一拍を置いてエマは自己アピールを始めた。

その一拍はどこか心ここに有らずな様子があったし、アピールしてる今も本調子じゃなさそうな感じで、浮かべてる笑顔も少し曇っていた。

そんなエマに違和感を覚えた宏高とタイタス、彼方が不思議そうに言う。

 

宏高「どうしたんだ?エマさん」

タイタス『気分でも悪いのだろうか……?』

彼方「お眠なのかな〜?」

フーマ『いやアンタじゃねぇんだからよ』

 

フーマが彼方にツッコミを入れてる間に撮影は終了。

璃奈が撮影映像を宏高と共に確認してる傍ら、エマはせつ菜に花冠を渡す。

 

エマ「じゃあ着替えてくるね」

せつ菜「はい!」

 

 

 

次の衣装に着替える為に部室に移動したエマだったが、彼女は何もせず窓の外の景色を眺めながら、昨日の果林の言葉を思い出していた。

 

『無いわよ?興味なんて全然』

 

エマ「まるで違う人みたい。一体、どっちが本当の…」

 

すると突然、部室のドアをノックする音が聞こえた。

 

エマ「……あ!」

 

『エマさん、いいですか?』

 

ドア越しにエマを呼ぶ宏高の声。

 

エマ「うん!いいよ!」

 

エマが返事をすると、「失礼します」と言いながら宏高と一緒に付いて来た歩夢が部室に入ってきた。

 

エマ「どうしたの?」

宏高「だってエマさん、着替えからなかなか戻って来ないから」

歩夢「大丈夫ですか?どこか具合悪いとか……」

 

心配そうに訊ねる歩夢。

 

エマ「ううん。ごめんね、逆に心配させちゃって。本当は、皆の心をポカポカにしたいのに……」

宏高「エマさん?」

エマ「…ハッ!うん、大丈夫!着替えなきゃだよね!ちょっと待ってて」

宏高「はい」

 

どこか暗い顔で俯くエマだが、宏高の呼び掛けで我に返り、笑顔で答える。

宏高は邪魔しては悪いと思い部室を出ようとするが、エマの鞄に入っていた雑誌に気付き、興味本位で訊ねる。

 

宏高「お、これってスクールアイドルの……少し見てもいいですか?」

エマ「いいよ」

 

エマの許可を得た宏高は雑誌を手に取り、ページを開く。

するとそこから、ひらりと1枚の紙が落ちた。

 

エマ「…あっ」

 

エマは自分の足元に落ちた紙を拾い、目を通す。

それは昨夜、自分が果林の部屋を訪ねる前に、果林が記入していたアンケート用紙だった。

そこに記されていたのは……

 

 

Q.1:モデルとして心がけてることは?

毎日ストレッチすること

 

Q.2:今、一番興味があることは?

スクールアイドル

 

Q.3:休みにやってみたいことは?

友だちと思い切り遊ぶ

お台場をブラブラ食べ歩いたり

 

 

エマ「これ………果林ちゃん……!」

宏高&歩夢「ん?」

エマ「あの…ごめんね!……私、行ってくる!」

 

そう言ってエマは鞄を持ち、血相を変えて部室を飛び出して行った。

 

タイガ『どうしたんだ?』

 

宏高と歩夢は呆気にとられながら、その後ろ姿を見送るしかなかった。

 

 

続く。




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キミとキモチ重ねて#5

10月になりました。
9月の終わり頃は、ビッグニュースの嵐でしたね〜。

『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』情報解禁
S.H.Figuarts ウルトラマンタイガ トライストリウムレインボー商品化
ウルトラマントリガーの最強形態お披露目&リブット参戦

ギャラファイに至っては、あの時点でもう情報量がハンパなくて、来年の配信開始が待ち遠しいです。

さて、今回からバトルパートに突入です。
それではどうぞ!


エマが何を思ってかPV撮影の途中で学園を飛び出して行ったその頃、果林は寮の自室で困り果てていた。

 

果林「アンケート用紙……どこ行ったのかしら?」

 

モデルの仕事先に提出しなければならないインタビューのためのアンケート用紙が見つからないのだ。

それは昨夜、エマが自分の部屋に上がり込んだ時、半ば押し付けるような形で彼女にあげたスクールアイドル雑誌に慌てて挟み込んだのだが、余程焦っていたのか果林はその事すら忘れてしまっている様だった。

その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。

 

果林「ん?」

 

ドアを開けると、そこには息を切らせたエマが立っていた。

 

果林「え、エマ?」

 

エマは果林を見るや否や彼女の手を取り、

 

エマ「来て」

果林「えっ⁉︎」

 

と真剣な表情をしながらいつもと違う低いトーンで言うと、強引に部屋から引っ張り出した。

 

果林「ちょっと!一体何なの?」

 

突然寮の外に連れ出された果林は混乱するが、

 

エマ「今日、私に付き合って?お願い」

 

エマはそう言って、果林の手を取ったまま有無を言わせず走り出した。

 

果林「ちょ、ちょっとぉ⁉︎」

 

 

 

そこから2人は一緒にたこ焼きやアイスを食べ歩いたり、広場でイヤホン半分こをしたり、追いかけっこしたりと、お台場でのデートを満喫した。

最初は何かと思い戸惑っていた果林も、エマと遊んでいる内に次第に笑顔を見せるようになっていた。

そして2人が次に訪れたのは、日本科学未来館。

 

果林「こんなに遊んだの、久し振り!」

 

未来館の前で心から笑って感想を述べた果林に、エマも笑顔で答える。

 

エマ「私も嬉しい。だって、果林ちゃんのやりたいことを一つ叶えてあげられたから」

果林「え?」

エマ「あのね、果林ちゃん───」

 

エマが話を切り出そうとしたその時、カッ‼︎と周囲が緑色に光り輝き、その直後、

 

 

 

「カロロロロギニャアアアアァァオオオオッ‼︎」

 

 

 

天地に轟く咆哮が聞こえた。

エマと果林が振り向くと、そこには皿のように見開かれた真っ赤な目を持ち、全身を毒々しい緑色の鱗に覆われたヘビとライオンの間の子のような容姿を持つ怪獣がいた……

 

 

────────────────────

 

 

その頃、スクールアイドル同好会の部室ではエマを除くメンバー全員が集まっていた。

 

せつ菜「ではエマさんは、どこに行くかも言わずに突然飛び出して行ったと?」

宏高「うん。この本から落ちたプリントを見た途端、急に……」

 

エマから借りたスクールアイドル雑誌を見せながら、せつ菜に事情を説明する宏高。

エマ不在のためPV撮影は止むを得ず中止、これからどうするか皆が頭を悩ませていたその時、

 

かすみ「何ですかあれ⁉︎」

 

突然かすみが驚きの声を上げた。

それに釣られて宏高達が窓の外を見ると、街中で怪獣が暴れていた。

 

歩夢「怪獣……?」

愛「ヤバいじゃん……」

宏高「あれは、セグメゲル……!」

タイガ『ヒディアスの差し金か!』

 

皆が驚く中、せつ菜の携帯が鳴った。

 

せつ菜「もしもし?」

エマ【せつ菜ちゃん……】

 

掛けてきた相手は、エマだった。

 

せつ菜「エマさん?今どこにいるんですか⁉︎」

エマ【果林ちゃんと一緒なんだけど、近くに怪獣が出て…!】

せつ菜「えっ……」

 

せつ菜の隣で聞き耳を立てていた宏高は一瞬動揺しながらも、決意の眼差しで皆に気付かれぬようにこっそり部室を飛び出した。

 

かすみ「あれ?宏高先輩?」

 

 

 

宏高は急いで階段を駆け下り、学園の外へ。

 

フーマ『エマのやつ、部活すっぽかして何してたんだよ⁉︎』

タイタス『よせフーマ。彼女にも思う所があったのだ!』

宏高「とにかく、2人が危ない!」

タイガ『宏高急げ、変身だ!』

宏高「おう!」

 

宏高は走りながらタイガスパークを装着した右腕を掲げ、レバーをスライドさせる。

 

《カモン!》

 

腰のタイガホルダーに装着されている3個のキーホルダーから、タイガキーホルダーを選択し左手で取り外す。

 

宏高「光の勇者!タイガ!」

 

右手でキーホルダーを握り直すと、タイガスパーク中心部のクリスタルが赤く発光した。

 

タイガ『はあああああっ!ふっ!』

 

宏高は天高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンタイガ!》

 

タイガ『────シュア!』

 

登場と同時に空中で捻りを効かせ、タイガキックをセグメゲルに1発入れた。

 

エマ「ウルトラマンさんだぁ!」

果林「今のうちに逃げるわよ、エマ!」

 

タイガの登場に安堵と感激の表情を浮かべるエマに、冷静に避難を促す果林。

2人は安全な場所を目指して駆け出した。

 

 

お台場の街中で対峙するウルトラマンタイガとセグメゲル。

 

タイガ『おい、宏高見てみろ。あいつの目とあの模様……』

宏高「ああ。俺達が初めて戦ったヘルベロスと同じ……強化体か」

 

赤い目と、緑色の鱗のような皮膚の中に走っている紫のライン。

宏高の推測通り、このセグメゲルはヒディアスがキラープラズマを注入した怪獣リングから実体化させた、パワーアップ体であった。

 

その名も『毒炎怪獣・キラーセグメゲル』。

 

宏高「あいつの猛毒に気をつけろ!」

タイガ『ああ!』

 

「カロロロロギニャアアアアァァオオオオッ‼︎」

 

キラーセグメゲルは左、右と爪を振り下ろして来るが、タイガはそれを両腕で防御、続いてキラーセグメゲルは鋭い牙で咬みつき攻撃を繰り出そうとするも、タイガは半身を逸らして回避しカウンターの右フックをキラーセグメゲルの頭部に、そして左ミドルキックを腹部に打ち込んだ。

 

タイガ『ハッ!タアッ!』

 

しかしキラーセグメゲルはその威力に踏ん張ると、反撃の頭突きでタイガを後退させ、

 

タイガ『うおっ⁉︎』

 

「カロロロロギニャアアアアァァオオオオッ‼︎」

 

そこから背中の鋭い背鰭を青白く発光させると、その口から渦巻く青白い火炎の奔流『キラーフレイムボルテクス』をタイガに放った。

 

タイガ『フッ!』

 

タイガは右に側転して回避し、続けて腕を十字に組んで放つ『スワローバレット』を連射し、キラーフレイムボルテクスを相殺した。

 

タイガ『シュアッ!』

 

ここでキラーセグメゲルの動きが変わった。

今度は背鰭を毒々しい紫に点滅させてから頭部の角を赤く発光させ、口から毒を含んだ紫色の火炎放射『キラーセゲルフレイム』を放った。

 

宏高「来るぞ!」

 

宏高の合図にタイガはローリングで回避。間一髪で毒に侵されるのを免れた。のだが……

 

タイガ『危ねぇ危ねぇ。もうあの毒は懲り懲りだからな』

宏高「おい……何だよこれ……!」

 

安堵するタイガに対し、宏高は戦慄していた。

セゲルフレイムが着弾した場所を見ると、地面がみるみる溶け出していき、やがて陥没して巨大な穴が出来た。

 

タイガ『なんだと⁉︎』

 

驚愕するタイガに、再びキラーセゲルフレイムを放とうと背鰭を発光させるキラーセグメゲル。

 

宏高「タイガ!」

 

タイガが我に返った瞬間、2発目のキラーセゲルフレイムが放たれた。

タイガは光のバリアー『タイガウォール』を正面に展開してこれを防いだが、その瞬間異変が起こった。

毒炎を受け止めている光の壁が少しずつ溶解し、薄れていくのだ。

 

タイガ『嘘だろ⁉︎』

宏高「まさか、毒素まで強化されているのか⁉︎」

 

このままでは危険と判断し、タイガはバリアーを解いて素早く横に移動して回避した。

毒の炎を吐くのをやめたキラーセグメゲルは、鋭い牙で咬みつこうとタイガめがけて突進。これも避けられ、勢い余ってタイガの背後にあったビルの一角に齧り付き、そのまま噛み砕く。

するとキラーセグメゲルが咬んだ位置からだんだんビルが腐食していった。

 

タイガ『牙にも猛毒かよ⁉︎』

宏高「こいつは……ヤバい‼︎」

 

 

続く。




今回はここまでとなります!
ビルや光のバリアーさえも溶かしてしまう程の強力な毒を持つキラーセグメゲル。
どうする宏高⁉︎トライスクワッド⁉︎


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キミとキモチ重ねて#6

『MONSTER GIRLS』が神曲すぎる件
YouTubeでスクスタのMV鬼リピしまくってます笑

今回はバトルパートのみとなります。
それではどうぞ!




怪獣・キラーセグメゲルに応戦するタイガだったが、強烈な毒を含む攻撃を前に防戦一方になっていた。

そんな中、タイタスが提案する。

 

タイタス『確かあの怪獣には、召喚士のセゲル星人がいるはずだ』

タイガ『そうか!セゲル星人は体内に毒の抗体を持ってる!そいつを抑えれば……』

 

セグメゲルは自分達が生存可能な惑星を次々と侵略するセゲル星人によって召喚・使役される怪獣だ。

タイタスは過去にセグメゲルと交戦した時、不覚にも毒を浴びてしまったが、召喚士であるセゲル星人の女性、葵が自らを犠牲にして抗体を提供した事で事なきを得ている。だが……

 

宏高「……待った」

タイガ『え?』

宏高「あいつはヒディアスが強化した上で呼び出したんだろ?だからあの個体にはセゲル星人は関与していない……」

フーマ『って事はよ……』

 

 

 

霧崎「ご明察。キラーセグメゲルの毒に……抗体は存在しない」

 

怪獣を街に解き放った張本人、霧崎 幽はたこ焼きを片手に、パレットタウン大観覧車を背にして高みの見物と洒落込んでいた。

霧崎はたこ焼きにかかっているソースを爪楊枝に纏わせ、地面に一滴垂らしながら言った。

 

霧崎「たった一滴でも触れればその時点でアウト。それを差し引いて勝てたとしても、君達が味わうのは絶望だ。……プッハハハハハハ‼︎」

 

高笑いを上げると、無邪気な笑顔でたこ焼きを頬張るのだった。

 

 

 

打開策を見出せぬまま、戦況は悪化の一途を辿っていく。

キラーセグメゲルと距離を取り、高層ビルに一旦身を隠すタイガ。

 

フーマ『だったら俺か旦那に交代しろ!毒を喰らう前に片をつけてやる!』

宏高「待て‼︎」

フーマ『何でだよ!』

宏高「セグメゲルは体液にも毒が含まれてる。もしヒディアスがそこへ更に細工を施しているとしたら……」

タイガ『それってどんな……?』

宏高「撃破した瞬間、毒が街中に飛散するとか……」

 

もしそうだとしたらこの街が、街の人々が危険な目に晒される。

考えるだけで背筋が寒くなる。

 

フーマ『そいつは考え過ぎだぜ!』

タイタス『いや、ヒディアスならやりかねん!』

 

以前セグメゲルと戦った時、尻尾を切り落とした際に浴びた返り血も毒だった事を思い出し、タイタスも宏高に同調する。

 

(あの毒炎を1発でも喰らえばアウト……この場で撃破したら毒が飛び散る可能性が……そうなればエマさんも果林さんも……どうしたらいい……考えろ、考えろ………ハッ!)

 

宏高は何かを思いついた。

 

宏高「一か八かやるしかないな!」

タイガ『なに⁉︎』

宏高「順を追って話すから3人とも聞いてくれ……あいつを、宇宙の果てまで運び去って倒す!」

フーマ『は?』

タイタス『聞こうか』

 

宏高はまずタイガに訊ねる。

 

宏高「タイガ、お前は確か光線が得意だったよな?」

タイガ『え?あ、ああ!』

宏高「だったら出来るだろ?あの技!」

 

 

それから少しの時間が流れた後、ビルの影からタイガが飛び出し、キラーセグメゲルと向き合った。

キラーセグメゲルはタイガを見るや否や背鰭を紫に点滅させながらパワーを溜め、キラーセゲルフレイムの発射体勢に入る。

 

宏高「今だ!」

 

タイガは両腕を十字に組み、右手の甲のタイガスパークを向けた。

 

タイガ『プッシュリターン光線!』

 

直後、右腕のタイガスパーク中心部のクリスタルから半球状のバリアーが放たれ、それとほぼ同時にキラーセグメゲルの口から放たれたキラーセゲルフレイムを受け止めた。

 

タイガ『このまま押し返す!』

宏高「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」

 

半球状のバリアーは前方に押し出されていき、毒炎を吐き続けるキラーセグメゲルと徐々に距離を詰めていく。

そしてバリアーとキラーセグメゲルの顔の距離はゼロになり、キラーセグメゲルはバリアーに止められていた自分の毒をその身に浴びた。

 

「キィヤァァァアアアアオオッ⁉︎」

 

宏高「よし!」

 

悶え苦しむキラーセグメゲル。

あれだけ強い猛毒なら、自分自身が浴びても無事では済まないだろうと宏高は睨んだのだ。

作戦の第一段階の成功を見届けた宏高は、タイガスパークのレバーをスライドさせる。

 

《カモン!》

 

そして腰のタイガホルダーから左手でフーマキーホルダーを取り外し、タイガスパークを装着した右手で握り直すと、大きく全身を捻り、天高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「風の覇者!フーマ!」

 

フーマ『はあああああっ!ふん!』

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンフーマ!》

 

フーマ『────セイヤッ!』

 

タイガと入れ替わり、青い竜巻と共にフーマが現れた。

 

フーマ『こっからが勝負だぜ!』

 

キラーセグメゲルは荒れ狂いながらキラーフレイムボルテクスを連発するが、フーマは自慢の神速でその全てを避けていき、徐々にキラーセグメゲルと距離を詰めていく。

 

フーマ『ほらよっ!』

 

フーマは小さな手裏剣状の光弾『光波手裏剣』を放ってキラーセグメゲルを牽制。

光の手裏剣はキラーセグメゲルの口内に入って爆発した。

 

「キィヤァァァアアアアオオッ⁉︎」

 

思わぬダメージに大きく怯んで隙を見せたキラーセグメゲルの真後ろに回り込んだフーマ。

 

フーマ『後は頼むぜ旦那!』

タイタス『うむ!』

 

そう言うとフーマの姿は青い粒子と共に消え、タイタスと入れ替わった。

 

(BGM:ウルトラマンタイタス)

 

タイタスはキラーセグメゲルを掴むと、その身を高々と頭上に持ち上げながら、空高く飛び立った。

 

タイタス『ぬぅぅぅぅぅぅ!はあっ!』

 

エマと果林が空を見上げる中、タイタスと彼に持ち上げられたキラーセグメゲルの姿はみるみる小さくなっていき、やがて見えなくなった。

 

 

タイタス『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎』

 

胸のスターシンボルを赤に点滅させながら、タイタスはぐんぐん上昇し、宇宙空間に飛び出した。

 

タイタス『てぇやっ!』

 

そしてキラーセグメゲルを前方に放り投げると、タイガに交代した。

 

タイガ『最後の仕上げと行くぜ!』

 

《カモン!》

 

宏高はタイガスパークのレバーを操作し、左腕を掲げてプラズマゼロレットを出現させる。

後部のボタンを押して中央のクリスタルと一対のブレードを展開し、クリスタルの裏にある発光部にタイガスパークをかざした後、下部の赤いスイッチを長押しした。

 

《プラズマゼロレット、コネクトオン!》

 

ウルトラマンゼロの幻影と融合したタイガは両腕を胸の前で構えてから交差させてエネルギーをチャージし、最後に両腕を開いて撃つ必殺技『タイガダイナマイトシュート』を放つ。

 

タイガ『タイガダイナマイトシュート‼︎』

 

タイガの全身から放たれた虹色の光線は浮遊するキラーセグメゲルに直撃。

 

「キィヤァァァアアアアオオッ⁉︎」

 

弱々しい悲鳴を上げながら、毒炎怪獣は宇宙の真ん中で爆発した。

この時タイガは気づいていなかったが、爆発の中からピンポン玉くらいの小さな緑色の光が現れ、流星の如く地球に落下していった。

 

 

 

霧崎「僕の仕組んだカラクリを見破るとはねぇ……虹野宏高、油断ならない……」

 

霧崎は自分の足元に落ちてきた緑色の光の正体──セグメゲルの顔をあしらった指輪を拾いながら言った。

ダメージの影響か、指輪からは煙が吹き出している。

 

(だが、それも面白い……)

 

特に悔しがる素振りも見せず、空を見上げながら不気味な笑みを浮かべるのだった。

 

 

続く。




次回いよいよエマかりの尊さ全開、感動のラストです。


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キミとキモチ重ねて#7

お待たせしすぎて申し訳ございません!

またかなりの期間が空き、思った以上に長文になってしまいましたが、これにて第6話ラストです。

それではどうぞ!




宏高の機転と3人のウルトラマンの連携により、毒炎怪獣キラーセグメゲルの脅威は去った。

 

そして現在、日本科学未来館内にある巨大な地球儀のディスプレイ『ジオ・コスモス』の前に、エマと果林の姿はあった。

 

果林「ねぇ、さっきは私に何て言おうとしてたの?」

 

キラーセグメゲルが現れる直前から気になっていた事を訊ねる果林に、エマは鞄から1枚の紙を取り出し渡した。

 

エマ「果林ちゃん」

果林「ん?」

 

それはアンケート用紙だった。

果林がスクールアイドル雑誌に挟んで誤魔化し、そのままエマに持っていかれた経緯を持つアンケート用紙。

 

エマ「これ、果林ちゃんのでしょ?貰った雑誌に挟まってたの。それって、本当の気持ち?」

 

果林は沈んだ表情で用紙を受け取り折り畳むが、エマの問いかけで「え?」と虚を突かれた。

 

エマ「一番興味があるのがスクールアイドルって」

果林「……それは……」

 

エマは見てしまったのだ。

果林が用紙に書いてしまった本音を。

言葉を詰まらせる果林に、エマは悲痛な顔を浮かべて追及するように言った。

 

エマ「どうして言ってくれなかったの⁉︎私には興味の無いフリをして……ずっと……自分の心を仕舞い込んで……」

果林「…………」

 

俯いたまま無言の果林。

エマは責めてる訳ではないのだが、ここまでの経緯上、果林にとってはそう感じてしまう。

エマは悲しかった。

親友から何も相談されなかった事、素直に自分の気持ちを打ち明けてもらえなかった事が。

 

エマ「前に言ったの、覚えてる?」

果林「?」

エマ「私、見てくれた人の心をポカポカにするアイドルになりたいって。でも、私は一番近くに居る果林ちゃんの心も温めてあげられてなかった……そんな私が、誰かの心を変えるなんて、無理なのかもしれないけど……」

果林「エマ……」

 

哀しそうな顔で心情を吐露するエマの言葉に顔を上げる果林。

 

エマ「果林ちゃんの笑顔、久し振りに見たよ!私、もっと果林ちゃんに笑っててほしい!もっともっと、果林ちゃんの事知りたい‼︎」

果林「……」

 

包み隠さない真っ直ぐな気持ちをぶつけるエマに、果林は観念したようにぽつりぽつりと、心の奥底に閉じ込めていた思いを語り出した。

 

果林「エマの為に、同好会の事を手伝うようになって。そしたら……楽しかった」

エマ「っ⁉︎」

 

息を呑むエマを尻目に、果林は遠ざかるように歩いて話す。

 

果林「皆で一つの事に向かって、悩んだり、言い合いしたり、笑ったり。下らないと思ってずっと遠ざけてきた事が、全部……楽しかった。でも私は……朝香果林はそんなキャラじゃない」

 

戒めるように、己を律するように果林はそう言った。

 

果林「クールで格好付けて、大人振って……それが私なの。なのに今更……」

 

果林は心の何処かで恐れていたのかもしれない。

自分のイメージが崩れてしまうのではないか、モデルとしての自分を知り、応援してくれている人達から幻滅されてしまうのではないかと。

その所為で大切な友人であるエマにも冷たく当たってしまった。

 

果林「分かったでしょ?悪かったのは私。エマのせいじゃない。エマならきっと皆の心を……」

 

エマに対する後ろめたさ故か、未だ素直になれない。

そんな不器用で心が冷たくなってしまった果林を温めるように、エマは背後からそっと抱き締めた。

 

果林「あ……?」

エマ「良いんだよ、果林ちゃん。どんな果林ちゃんでも、笑顔で居られれば、それが1番だよ」

 

あらゆる果林を肯定し、受け入れるその言葉は、自然と果林の氷の心を解かしていく。

 

エマ「だから、きっと大丈夫」

果林「……」

 

その様子を、戦いを終えて地上に戻ってきていた宏高が物陰から見守っていた。

腕を組み、壁に背中を預けながら微笑ましそうに。

 

やがてエマは果林から離れ、少しばかり名残惜しそうに振り返った彼女に母性を感じさせる微笑みを向けた。

 

エマ「もっと果林ちゃんの気持ち、聞かせて?」

 

そしてエマは果林の全体像がよく見える位置まで離れ、手を差し出すと、

 

エマ「私に!」

 

その歌声を響かせた。

 

(♪:La Bella Patria)

 

 

 

 

 

それは以前、果林がエマのために選んでいた衣装と初めて果林に出会った時に被っていた帽子を纏って歌うエマと、たった一人の観客である果林の二人だけの世界。

透き通るようなエマの歌声は、果林の心に確かな変化をもたらした。

 

やがてエマは歌い終わり、真っ直ぐ果林を見る。

お互いの視線が交錯する中、最初に口を開いたのは果林だった。

 

果林「スクールアイドル……出来るかしら?私に」

 

未知の体験に及び腰になる果林に、エマは言う。

 

エマ「やりたいと思った時から、きっともう始まってるんだと思う!」

果林「っ……!」

 

その言葉に背中を押された果林は「うん」と頷くと、フフッと晴れ晴れとした笑顔を浮かべた。

 

「歓迎します」

 

果林「…?」

 

ふと声がした方から、宏高がやって来た。

 

エマ「宏高くん!」

果林「貴方…っ⁉︎」

 

思わぬ人物が現れたことに驚きを隠せない2人。

 

エマ「どうしてここに⁉︎」

宏高「すいません、心配になって飛び出して来ちゃいました」

 

頭を掻きながら苦笑する宏高。

 

宏高「2人とも無事で、本当に良かったです」

果林「…どこから聞いてたの?」

宏高「…えっと、同好会を手伝ってたら楽しかったって辺りから……」

 

つまりエマに抱き締められる所も見られたことになる。

果林は赤面しながら宏高から視線を逸らした。

 

宏高「どうです?楽しそうでしょう?スクールアイドル」

果林「……そうね。もう見てるだけじゃ物足りなくなってきたわ」

 

再び宏高と向き合って答える果林。

既に彼女の心は決まっていた。

 

 

────────────────────

 

 

そして後日、同好会の部室では……

 

かすみ「えええぇぇぇぇ⁉︎果林先輩もスクールアイドルにぃ⁉︎」

 

開幕早々、かすみの驚愕の声が響き渡っていた。

その理由は、全員が集まってる所にエマが果林を伴って入室、メンバーが何事かと思ってる中で、果林が入部表明したためである。

エマと彼方が嬉しそうに言う。

 

エマ「うん!果林ちゃんが居れば、もっともっと楽しくなるよ!」

彼方「だね〜」

 

部室の机の上でくつろぐフーマと胡座をかくタイガも、

 

フーマ『まさかあの姉ちゃんも仲間入りするとはな』

タイガ『ますます賑やかになりそうだな!』

 

せつ菜が歓迎する。

 

せつ菜「ようこそ!スクールアイドル同好会へ!」

果林「ありがと」

 

果林がそう言うと、かすみが腹黒い笑みを浮かべて果林を挑発する。

 

かすみ「でもぉ、モデルもやってるのに、同好会に入って大丈夫ですかぁ?」

 

それに対して果林は、大人の余裕を以って返す。

 

果林「ええ。モデルでもスクールアイドルでも、トップを取ってみせるわ」

かすみ「うぐっ⁉︎」

 

目論見が外れた事で呻くかすみ。

そこでパソコンを眺めていた璃奈が言う。

 

璃奈「あ……!エマさんのPV、再生数もコメントも、凄い伸びてる」

 

それにエマが手を合わせて喜び、宏高と彼の肩の上でスクワットをしているタイタスが言う。

 

エマ「本当⁉︎」

宏高「凄いです!エマさん!」

エマ「スイスの家族からも電話があってね!凄い喜んでくれてたの!」

タイタス『大成功だな!』

 

そこで果林が「当然よ」と不敵に呟き、そのままエマの肩に肘を乗せて続けた。

 

果林「私が撮ったんだもの」

エマ「果林ちゃんのは私が撮るね?」

果林「ええ。お願いねエマ」

エマ「うん!」

 

この日、同好会に新たな仲間が増えた。

一方、パソコンの前に座る璃奈は何か含みのある無表情で画面を眺めていた。

それに愛が目敏く気付き、璃奈に訊ねる。

 

愛「ん?どうしたん、りなりー?」

璃奈「あ…………何でもない」

 

一瞬、言おうかどうか迷ったが、結局口を閉ざす事にした璃奈。

今回の一件で心に変化があったのは何も果林だけではない。

ここにも一人、確かに変わろうとしている者がいた。

 

 

 

 

 

宏高「そういえばさ」

 

宏高が唐突に口を開き、率直な疑問を発した。

 

宏高「この新しいスクールアイドル同好会の部長って、結局誰なの?」

 

「「「「あっ……………」」」」

 

その言葉に固まる一同。

 

愛「たしかに……」

彼方「今まで考えてなかったね〜」

 

その時、せつ菜が話を切り出した。

 

せつ菜「その事で、皆さんにお話があります」

 

そして宏高に向き合うと、こう告げた。

 

せつ菜「虹野宏高さん。私たち、スクールアイドル同好会の部長になってくれませんか?」

 

…………………………えっ?

 

数秒の沈黙。

聞き間違いか?と思いながら目をぱちくりさせた後、自分を指差しながら驚きの声を上げた。

 

宏高「俺が部長ぉぉぉぉ⁉︎

 

 

愛と璃奈が同好会に入って間もない頃、せつ菜とかすみがソロ活動について話し合っていた時まで遡る。

 

かすみ「宏高先輩を部長に……ですか?」

せつ菜「はい。最初の頃は、私が自分の好きって気持ちを無理に共有させてしまったせいで、あんな事になってしまいました」

かすみ「………」

せつ菜「でもあの人なら……宏高さんならきっと、私たちそれぞれの“大好き”を、受け止めてくれるはずです」

かすみ「ぁ……」

 

『自分なりの一番をそれぞれ叶えるやり方って、きっとあると思うんだ』

 

『なりたいものは違うけど、目指すものは同じかも…ってね』

 

かつて宏高に言われた言葉を思い出すかすみ。

 

かすみ「……いいと思います!宏高先輩に、もっと可愛いかすみんを見てもらいたいです!」

せつ菜「フフッ、では決まりですね♪」

 

 

そして現在。

 

せつ菜「どう思いますか?皆さん」

歩夢「宏くんが部長……私もいいと思う!」

彼方「同好会唯一の男の子……彼方ちゃんもいいと思うなぁ〜」

しずく「異議なしですね♪」

宏高「い、いや、でも……っ」

 

タイガ『いいじゃんか、やれるだけやってみろよ!』

タイタス『君の発想力のおかげで、我々はセグメゲルに勝つことが出来た。君ほど相応しい部長はいないだろう!』

フーマ『悪くないと思うぜ?』

 

宏高「(タイガ達まで……)皆がそこまで言うなら、いっちょやってやりますか‼︎」

 

トライスクワッドからも背中を押され、ついに折れた宏高。

 

果林「これからよろしくね、部長さん♪」

エマ「よろしくね〜」

愛「よろしく!ぶちょー」

璃奈「よろしく」

 

こうしてスクールアイドル同好会は、新たなスタートを切った。

 

 

続く。




オレが部長でウルトラマン

今回もありがとうございます!
第5話でせつ菜がかすみに言っていた「提案」というのは、宏高をスクールアイドル同好会の部長に推薦することでした。
アニメ版では結局部長が誰なのかはっきりしていなかった為、スクスタ同様、「あなた」に相当する宏高が部長になる展開にしました。
あと軽いネタバレですが、これ以降かすみは同好会の副部長を自称するようになります笑

次回は璃奈回の前にもう1話、オリジナルエピソードを挟みます。
この回のメインはせつ菜になる予定です。


次回 第7話「怪しすぎる隣人」

???「ライオンは生きる為に全力で兎を倒すものさ」


お楽しみに。


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怪しすぎる隣人#1

第6話完結から2ヶ月近く間が空いてしまって大変申し訳ございません。
ここ最近、色々ありすぎてなかなか手がつけられず、こんなにも時間が経ってしまいましたが、私は元気です。

今回、第7話はオリジナルエピソードになります。

それではどうぞ。


宏高「よし、今日の練習はここまで!皆お疲れ様!」

 

「「「お疲れ様でした〜!♪」」」

 

時刻は18時、部長である宏高の掛け声とともにこの日の練習は終わった。

 

果林「ねぇ、宏高?居残り練習って出来るかしら?」

宏高「え?…あぁ、先生に申告して、書類出せば遅くても20時までなら…かすみちゃんとせつ菜も残るって言ってますし」

果林「それじゃあ、今日は私も少し残るわ」

宏高「分かりました、俺は部室に居るので練習が終わったらお声がけください」

 

こうしてせつ菜、かすみ、果林の3人は居残り練習をする事となった。

 

宏高「…そうだ、歩夢っ」

歩夢「ん…宏くん、どうしたの?」

宏高「せつ菜たちがもう少し練習していくって言うから、俺も少し残ってく。3人が夜遅くに帰るのも…危ないからね」

歩夢「そう、なんだ…うん、分かった!宏くんの分もご飯作って待ってるね!///」

愛「あっはは!待ってよ歩夢〜♪」

璃奈「宏高さん、お疲れ様でした」

 

恥ずかしそうに帰る歩夢と、それを笑いながら追いかける愛と璃奈を見送る宏高だった。

 

 

────────────────────

 

 

時刻は19時を過ぎ、宏高が待つ部室に練習を終えたせつ菜達が入ってきた。

 

宏高「ん…皆もう終わった?はい、お水」

かすみ「あっ、宏高先輩ありがとうございます〜♪」

せつ菜「ありがとうございます!」

果林「ありがとう、気が利くじゃない♪」

 

宏高が差し出した水の入ったペットボトルを受け取りながら礼を言うかすみ達。

 

かすみ「此処の所最近多いですよね、怪獣とか宇宙人とか」

果林「そうね…でもその度にウルトラマンも現れて…ホントどうなってるのかしら」

せつ菜「カッコいいですよねウルトラマンタイガ!」

 

思わず宏高の頬が緩む。

 

かすみ「それに最近出てきたもう2人…あれも何なんでしょう?」

宏高「タイタスと……」

せつ菜「フーマですね!」

 

宏高に合わせてせつ菜も答える。

 

せつ菜「あの3人はトライスクワッドというチームを組み、宇宙の平和の為に戦っているんです!それにしても、本物のウルトラマンたちが来るなんて、本当にスゴいと思いませんか⁉︎」

果林「そ、そうね……とりあえず落ち着きましょう?」

 

興奮したように捲し立ててくるせつ菜に苦笑する果林だった。

 

 

────────────────────

 

 

その頃、虹ヶ咲学園の校門の前に一人の青年が立っていた。

 

???「はぁ、今日もせつ菜ちゃん出て来ないなぁ……」

 

せつ菜のストーカーか、それとも出待ちか。

これ以上待っていても仕方ないと、青年が諦めて帰ろうとしたその時だった。

突如夜空に一機の円盤が現れ、そこから一体の宇宙人が降り立った。

 

???『……ここが地球か、なかなか悪くない星だな』

青年「あ、ああ……」

 

緑色の目を持ち、全身が白黒の迷路のような幾何学模様で覆われた宇宙人を見て、青年は青ざめた顔を浮かべる。

宇宙人は青年の存在に気付くと、彼を数秒見つめてから歓喜気味に言った。

 

???『むっ………はっはっは!まさかこの星に着いて早々、獲物に出くわすとは……なんと運の良いことか!』

 

宇宙人は腰のホルスターからライフルを抜くと、その銃口を青年に向けた。

 

 

 

時を同じくして、制服に着替えた宏高とせつ菜が校舎から出てきた。

せつ菜は眼鏡に三つ編み、つまり生徒会長『中川菜々』の姿になっていた。

 

宏高「それじゃあまた明日ね、せつ菜」

菜々「おやすみなさい、宏高さん」

 

「うわあああああぁぁぁぁっ‼︎」

 

菜々「?」

宏高「なんだ?」

 

突然聞こえてきた悲鳴に宏高と菜々は振り向き、その方角へと走り出した。

 

 

 

青年「や、やめてくれ……」

???『貴様は我ら異次元同盟の理念に背き、ボスの逆鱗に触れた。そんな貴様を粛清するために私が来たのだ!』

 

宇宙人は銃口を向けたまま、淡々と語る。

そしてライフルの引き金に指をかけたその時───

 

「こっちだ!」

「誰かいるみたいですよ!」

 

???『なっ…ええい、人間に見つかる訳には……覚えておけ、次に会った時が貴様の最期だ!』

 

宇宙人は捨て台詞を残して、その場から姿を消した。

安堵した青年の元に、宏高と菜々が駆け寄る。

 

宏高「大丈夫ですか?」

青年「あ、はい……なんとか」

菜々「一体何があったんですか?只事ではなさそうでしたが……」

青年「そ、それは……」

宏高「菜々、とりあえず一旦ここを離れよう。話はそれからで…えっと……」

青年「伊刈(いかり)……アツシです」

 

青年はそう名乗った。

そしてこの後、宏高と菜々の2人は驚愕の事実を知る事になる……

 

 

続く。




果たして地球にやってきた宇宙人の正体とは⁉︎
異次元同盟とは何か?
そしてなぜアツシは狙われたのか?

早めの更新頑張りますので、次回をお楽しみに!


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怪しすぎる隣人#2

ようやく書けました……(-。-;

なんとかしてかつてのペースに戻していかなくては……

それではどうぞ。


同好会の活動を終えて帰ろうとしていたところ、何者かに襲われていた伊刈アツシという青年を助けた宏高と菜々。

とりあえず話を聞くために彼の家に向かうことになったのだが、その中で菜々はある違和感を抱いていた。

 

(あれ…?この道って……)

 

宏高「どうしたの?」

菜々「えっ?あ、はい…この通り、私が登下校でよく通ってる道なんですが……」

宏高「そうなんだ……」

 

そうこう話している内に辿り着いたのは1つの高級マンション。

アツシは宏高と菜々を案内しながら、ある一室を指して言った。

 

アツシ「ここが自分の家です」

菜々「ここって……」

宏高「?」

菜々「私の家の隣じゃないですか⁉︎」

宏高「えっ⁉︎」

 

 

 

偶然出会った青年が自分の家のお隣さんだったという事に驚きながらも菜々と宏高はテーブルを挟んでアツシから先程の騒動について事情を聞くことにした。

 

菜々「では改めまして、虹ヶ咲学園生徒会長の中川菜々です」

宏高「スクールアイドル同好会部長の虹野宏高です」

アツシ「スクールアイドル同好会⁉︎ということは、せつ菜ちゃんを知っていますよね⁉︎」

宏高「はい、それはもちろん……(この人、せつ菜の熱狂的なファンか…?)」

 

スクールアイドル同好会と聞いた途端に嬉しそうな反応を見せるアツシと、それに少したじろぎながら答える宏高。

 

アツシ「せつ菜ちゃんのパフォーマンスを見てからホント夢中になりまして!もうせつ菜ちゃんしか勝たんですよ‼︎」

宏高「そ、それはどうも……」

 

宏高が菜々の方をチラッと見ると、

 

(な、なんでこっちを見るんですか…っ⁉︎私がせつ菜だって気づかれちゃったらどうするんです…っ)

 

普段通り平静を装ってはいるものの、内心かなり動揺している様子だった。

 

菜々「あなたがせつ菜さんのファンだということはよく分かりました。それよりも、先程は学園の前で一体何があったのですか?」

アツシ「はい…あ、でも…これから話す事は、お二人だけの秘密にしていただけるとありがたいのですが……」

宏高「それはどういう事です?」

アツシ「何故なら……自分は宇宙人だからです」

 

 

 

……………はい?

 

 

 

いきなり何を言い出すのかと思えば、まさかの『私は宇宙人』発言。

 

菜々「あ、あの…正直よく意味が……」

アツシ「では証拠をお目に掛けましょう」

 

そう言うとアツシは粒子状の光に包まれながら、徐々に真の姿を現し始めた。

 

菜々「なっ……」

宏高「その耳…あんたまさか⁉︎」

 

宏高には一目で分かったその正体は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イカルス星人だった。

 

イカルス「自分の本名は、空間を操れる宇宙人達が集う『異次元同盟』の“元”構成員、イカルス星人のサーティスです」

 

サーティスは自己紹介を終えると再び人間の姿に変身し、事の顛末を語り出した。

 

アツシ「今月の頭くらいに、侵略の下準備の為にボスの命令でこの地球にやってきたんです。それからこの星に留まり街中を見て回っている中で、偶然出会っちゃったんですよ。『優木せつ菜』ちゃんに!その時たまたまライブをやってまして、あの時の感動ときたら……」

 

熱弁するアツシに唖然としながらも、宏高は訊ねる。

 

宏高「それって、どこでやってたか覚えていますか?」

アツシ「ダイバーシティって所でしたね〜」

 

(歩夢と一緒に見た時だ……!)

 

宏高が初めてスクールアイドルを知り、せつ菜のライブに魅了されたあの日、アツシもあの場に居たのだ。

 

アツシ「それ以来見事に彼女に夢中になった自分は、侵略の事なんてすっかり忘れて推し活にのめり込んで行きました」

菜々「あの、ちょっと待ってください……それが今回の騒ぎとどういう関係があるんです?」

 

ここまでの話を聞いて浮かんだ疑問を口にする菜々。

 

アツシ「痺れを切らした異次元同盟が自分を始末する為に暗殺者を送り込んで来たんですよ。口封じの為に……さっき運悪くそいつに出会して、襲われかけました」

宏高「そうか……いつまで経っても動きがないから、裏切り者と決めつけられてしまった訳だ」

タイガ『それ完全に自業自得だろ?』

菜々「成程、そういう事ですか……でしたら、しばらくは不要不急の外出を控えた方がいいですね」

 

驚きながらも納得した宏高と菜々。

 

アツシ「信じてくれるんですか?」

菜々「最近は何かと信じられない事ばかり起きてますからね。それにあなたは悪い人ではないと感じましたから……よろしければ是非また、ゆっくりお話を聞かせてください」

宏高「俺もせつ菜さんの歌が好きですし、ひたむきに応援してくれる人が居るとなれば彼女もすごく喜ぶと思います」

アツシ「ありがとうございます!」

 

そして宏高と菜々はアツシの家を出て、それぞれの家に帰って行く。

と言っても菜々はすぐ隣だが。

2人は扉の前で軽く談話する。

 

菜々「宏高さんはどう思います?あの人のこと」

宏高「イカルス星人だったのと、せつ菜の大ファンだっていう事には俺も驚いたけど、出来ることなら助けてあげたい……かな」

 

全ての宇宙人が悪だとは限らない。

かつて愛と心を通わせた、あのバルタン星人のような者もいるのだから。

 

宏高「お隣さんなんだし、力になってあげようよ。俺も協力するからさ。もし何か困ったら連絡して?」

菜々「そうですね。では宏高さん、おやすみなさい」

宏高「おやすみ、菜々」

 

 

────────────────────

 

 

翌朝のとある廃屋。

 

その部屋の中にポツンと置かれているロッキングチェアに、霧崎 幽は座っていた。

そこに近づく一つの影。

 

???『待たせてしまったかな?』

霧崎「……いいえ」

 

霧崎は椅子から立ち上がりながら返事を返す。

 

???『一応自己紹介しておこう。異次元同盟に属する暗殺者、ギギ・アサシンだ。君が依頼人の霧崎 幽だな?』

霧崎「噂は聞いていますよ。凄腕な上に容赦無いとね」

ギギ『褒め言葉として受け取っておこう。話によれば、標的はかつて我が同胞を二度も葬ったウルトラの一族だと言うではないか』

霧崎「なるべく追い込んだ上で、確実に仕留めて頂きたい」

 

霧崎からギギ・アサシンへの依頼───それは自身の障害であるウルトラマンタイガ達トライスクワッドの抹殺だった。

 

ギギ『心得た。ではこれで契約は成立だな……と言いたいところだが、腹を割って話そうという気は無いのか君は?まるで礼儀がなっていない』

霧崎「フッ……流石は一流の暗殺者。すぐ気付いたのは君くらいだよ」

 

霧崎は笑みを浮かべながらそう言うと、被っていたフードを脱ぎ、目を紫色に光らせ、ドス黒いオーラと共に真の姿──ダークキラーヒディアスへと姿を変えた。

 

ギギ『なんと…!あのトレギアの後継者だったのか!』

ヒディアス「それは肩書きだよ。僕にはちゃんとヒディアスという名前があるんだけどね」

ギギ『おぉ…我がボス、エンドラ様も一度お目にかかりたいとおっしゃっていたのでな……これは失礼した』

ヒディアス「それはどうも」

ギギ『ではそう遠くない内に吉報をお届けしよう』

 

ギギ・アサシンは立ち去ろうとしたが、ふと何かを思い出し再び振り返ってヒディアスに訊ねる。

 

ギギ『それともう一つ、私は今ボスから裏切り者を始末する命を受けて行動している。そちらと並行して行ってもよろしいか?』

ヒディアス「構わないよ。一思いに楽にしてやるといい」

 

かくして、悪魔の影が動き出した。

 

 

続く。




キャラ紹介

イカルス星人サーティス

異次元同盟に所属していたイカルス星人の同族。
ボスであるイカルス星人エンドラの命により斥候として宏高達の地球にやってきたが、偶然優木せつ菜のライブを目撃。それ以降彼女に夢中になり、ファン活動にのめり込んで任務を放棄してしまう。
その為に裏切り者のレッテルを貼られ、新たに送り込まれたギギ・アサシンに命を狙われることになる。


三面異次元人ギギ・アサシン

異次元同盟に所属し、イカルス星人サーティスを抹殺する為に派遣された暗殺者のギギ。
戦闘能力が高く、縮小光線銃と同型のライフル、近接武器のシグルブレイドを装備しており、格闘戦にも優れている。
エンドラの命令でサーティス、そして霧崎(ヒディアス)の依頼でトライスクワッドを狙う。


自身のファンを公言するイカルス星人との出会いに戸惑うせつ菜。
隣に住む菜々がせつ菜である事を知らないサーティス(アツシ)。
そんな2人に迫るギギ・アサシンの魔の手!
その時宏高は⁉︎


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怪しすぎる隣人#3

またこんなに遅くなってしまいました(~_~;)

早くこの悪循環から抜け出さなくては……




これはせつ菜の夢の中……

 

せつ菜「…あれっ、この部屋って…」

 

不思議なことにどこか見覚えのある部屋に居る夢を見た。

…それも部屋着の格好で。

 

せつ菜「ここは少なくとも私の部屋ではないようですね…では一体どこなのでしょうか…?」

 

そう思い、夢の中で立ち上がろうとしたその時…

 

???「せつ菜おまたせ〜、お風呂上がったよ〜」

 

ドア越しに聞こえてきたのは…知り合って間もない、あの人の声だった。

 

せつ菜「ア、アツシさん…っ⁉︎///」

 

戸惑っている間にもドアは開き…

 

アツシ「さっぱりした〜……ん?なにしてんの?」

せつ菜「…え、い…いえ、何もっ!///」

アツシ「……何か隠してるでしょ?」

せつ菜「…そんな事は…」

アツシ「嘘だね」

 

アツシはせつ菜を壁際に追いやり、右手で壁ドンした。

 

アツシ「当ててあげようか。自分はどうしてここに居るんだろう、と疑問に思ってる…違う?」

せつ菜「…そ、そうです…///」

 

アツシはせつ菜を引き寄せると、背後に回り込んで後ろから抱きしめた。

 

せつ菜「…あっ…!」

アツシ「ヤダなぁ……だって俺達、付き合ってて一緒に住んでるじゃん」

せつ菜「…ええっ⁉︎///」

 

さらにアツシはせつ菜を抱いたまま彼女の頭を撫で始めた。

 

せつ菜(こ、これは…夢なんですよね…っ⁈)

 

するとせつ菜は、突然頭部に違和感を感じた。

触れている手の感触は、明らかに人間のものではなかった。

 

せつ菜「…へっ…?」

 

後ろを振り向いたせつ菜の視界に入ったのは……

 

アツシではなく、イカルス星人だった。

 

せつ菜の悲鳴が部屋中に響き渡った。

 

 

────────────────────

 

 

そして朝……

 

せつ菜「……んんっ……はっ!!!!」

 

目覚めの悪い夢と共に、せつ菜はベッドの上で勢いよく起き上がった。

周囲を見回すと、そこはもちろん自分の部屋だった。

 

せつ菜「…な、何であんな夢を…っ///…うぅ〜…支度、しなきゃ…」

 

雑念を振り払うかのようにせつ菜は支度を始め、

 

菜々「いってきます」

 

玄関を出て、隣の部屋の扉を一瞥してから歩き出した。

 

 

────────────────────

 

 

そして放課後。

 

今日は部活動が休みで、生徒会の仕事もスムーズに進み、その日の分の仕事は完了した。

久しぶりにゆっくり休もうと思い、まっすぐ家に帰っている途中、通りかかった公園のベンチに座っている一人の人物を見つけ、声をかけた。

 

菜々「アツシさん」

アツシ「あ……菜々さん」

 

アツシが振り向いて軽く会釈をした後、菜々はアツシの隣に座った。

 

菜々「出歩いて大丈夫なんですか?また襲われたりしたら……」

アツシ「バイトがありますからね…それに人が多い所なら、奴は襲って来ませんよ」

 

アツシは近くのコンビニでアルバイトをしており、その帰り道だったのだ。

 

菜々「随分慣れているんですね。地球(ここ)での暮らしに」

アツシ「いえ、全然ですよ…でもこのまま、ずっとこの地球(ほし)で平凡に暮らしていけたら、それも悪くないなって」

 

彼はすっかり今の生活を気に入っていた。その心の中に、最初の頃の侵略の意志は微塵も残っていなかった。

 

アツシ「なんか不思議なんですよね…こんなに前向きでいられるのは……これもせつ菜ちゃんのおかげでしょうかね?」

菜々「ふふっ、何ですかそれ?」

 

思わず笑ってしまう菜々。

 

アツシ「せつ菜ちゃんの歌を聴いてから、自分の中で何かが変わったような感じで……何でも出来そうだって思える……それだけスゴいんですよ」

菜々「…いえ、そんな……///」

アツシ「…?」

菜々「…あっ、な、なんでもないですっ!」

 

率直な褒め言葉に思わず反応してしまい、菜々は慌てて誤魔化した。

 

 

『そんなモノに現を抜かしていたとはな』

 

 

背後から聞こえた声にアツシと菜々が振り向くと、そこにはギギ・アサシンが立っていた。

 

アツシ「あっ…!」

菜々「……っ!」

 

ギギ『反逆者は生かしておかぬのが異次元同盟の掟。そしてそれを始末するのが暗殺者(アサシン)としての私の役目。覚悟は良いな?』

 

ギギ・アサシンはライフルの銃口を2人に向けた。

 

 

────────────────────

 

 

その頃、宏高は歩夢と2人でバスを降り、家に帰る途中だった。

すると突然、宏高のスマホから通知音が鳴った。

 

宏高「ん?」

 

確認するとそれはせつ菜からのメッセージだったのだが、その内容はアニメキャラが『HELP!』と助けを求めているスタンプのみだった。

 

宏高「?」

 

その意味が分からずに目を細めながら画面を見つめる宏高に、スマホを覗き込みながらタイガ達が言った。

 

フーマ『なんかヤバそうじゃねぇか?』

タイタス『もしやこれは……』

タイガ『せつ菜からのSOSだ!』

宏高「…え?(まさか、アツシさんと一緒なのか⁉︎)」

 

このままではせつ菜が危ない。

 

歩夢「宏くん…どうしたの?」

宏高「ごめん…学園に忘れ物しちゃったみたい……先に帰ってて!」

歩夢「あっ、宏くん!………もう…」

 

 

 

上手いことを言って動いたのは良いが、宏高はそこで大きな問題に気付いた。

 

(そもそもどこだよ⁉︎)

 

場所が分からなければ助けに行きようがない。

宏高がまごついていると、

 

フーマ『宏高、ちょっとした手品を見せてやるぜ。俺を握りな』

宏高「握るって……あ、そっか」

 

左手で腰のタイガホルダーからフーマキーホルダーを取り外す宏高。

それを頭の方に持っていき、意識を集中させると、宏高の脳内に不思議なビジョンが浮かんできた。

 

(これは……街中の景色か…?)

 

そして見つけた。公園で宇宙人に襲われそうになっている男女2人組の姿を。

 

宏高「…居た!」

フーマ『どうよ、俺の『超振動探知(ウルトラソナー)』は?さぁ、このままかっとばすぜ!』

宏高「ああ!」

 

宏高は全速力で走り出した。

 

 

続く。




走れ宏高!

この小説のオリジナル要素として、宏高は変身していない状態でタイガ達のキーホルダーを握ると、そのウルトラマンに応じた能力の一部を行使することが出来ます(例えばフーマを持てば足が速くなる、タイタスなら怪力を発揮など)。


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怪しすぎる隣人#4

お待たせしすぎて本当に申し訳ございません。
ようやく書けました。

そして今日からついに『ウルトラマントリガー エピソードZ』が公開ですね。
自分はウルトラサブスクの方で観ます。

それではどうぞ。


ギギ『踊れ踊れ!ハッハッハッハッハ!』

 

ギギ・アサシンは後退りしながら逃げる菜々とアツシに向けて威嚇射撃をする。

菜々とアツシは滑り台の蔭に隠れた。

 

アツシ「流石にもうおしまいか……」

菜々「まだ終わってませんよ!」

 

半ば諦め気味のアツシを励ます菜々。

 

ギギ『勇敢だな、お嬢さん。だが私は無益な殺生をしない主義でな。今ここで大人しくそいつを差し出せば、君だけでも見逃してあげよう。いかがかな?』

 

それに対し菜々は、

 

菜々「お断りします!」

 

きっぱり断った。

 

ギギ『そうか、残念だ……しかし解せんな。そいつも宇宙人なのだぞ?なぜそこまで肩を持つ?』

アツシ「そうだよ、自分なんかのために何でそこまで…」

菜々「なぜって…それは……」

 

アツシを庇うように立つ菜々は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼鏡と髪留めを外し、彼に向き合って叫んだ。

 

菜々「私が………()()()()()だからですっ‼︎」

アツシ「っ……⁉︎」

 

突然の事にアツシは言葉が出なかった。

まさか自身が推してやまない少女の正体が、虹ヶ咲学園の生徒会長だったとは。

そんな彼女が、自分のすぐ身近にいようとは。

 

 

 

それと時を同じくして、宏高がせつ菜達の居る公園に辿り着いた。

 

宏高「はぁっ、はぁっ、ここか……」

 

物陰から状況を確認すると、驚きのあまり目を見開いた。

星人達の前で、せつ菜が変装を解いていたのだ。

 

宏高「せつ…菜…?」

タイガ『あいつまさか、自分の正体を…!』

 

だが今はそれどころではない。

 

宏高「いや、そんな事より早く2人を…」

タイガ『待て宏高、ここは俺が行く。ちょっと体借りるぜ!』

宏高「えっ?うあっ!」

 

宏高の体を、何かが入り込んだような感覚が襲った。

 

宏高「なっ、なんだ…?」

 

宏高の意思に反して腕が勝手に動き、右腕のタイガスパークを起動させる。

 

《カモン!》

 

そして左手で腰のタイガホルダーからタイガキーホルダーを取り外し、右手に持ち替える。

すると宏高の体が赤い光に包まれ、ウルトラマンタイガの姿に変わった。

 

《ウルトラマンタイガ!》

 

しかし巨大化はせず、人間大サイズのままで。

 

宏高「え、何これ……。タイガ、こんな事も出来たのか?」

タイガ『いや、俺も初めてやってみたんだが、どうやら上手くいったようだな』

宏高「まぐれ(わざ)かよ…」

タイガ『でもこの姿はあまり長く保てない。せいぜい1分くらいだ』

宏高「その間にギギをせつ菜から引き離す!」

タイガ『行くぞ!』

 

 

 

アツシ「な…菜々さんが……せつ菜ちゃん…?」

せつ菜「隠しててすみません……でもこれが、本当の私なんです…」

 

頭を下げてアツシに謝るせつ菜と、あまりの衝撃に未だ開いた口が塞がらないアツシ。

だが……

 

ギギ『茶番は終わったか?』

 

冷徹な発言によって、目の前の無情な現実に引き戻される。

 

ギギ『では、さらばだ』

せつ菜「……っ!」

 

せつ菜が目を閉じる中、ギギ・アサシンがライフルの引き金に指をかけ、いざその銃口が火を吹こうとしたその時───

 

 

 

『やらせるかよ‼︎』

 

 

 

ギギ『⁉︎』

 

どこからともなく飛び出してきた等身大タイガが、ギギ・アサシンの胴体に飛び蹴りを喰らわせた。

 

ギギ『ぐおっ⁉︎』

 

突然の不意打ちに勢いよく後方に吹き飛ばされるギギ・アサシン。

せつ菜がおそるおそる目を開けると、目の前にタイガが降り立った。

 

せつ菜「タイガさん……!」

 

間一髪のところで現れたヒーローの姿に、せつ菜は目を輝かせる。

 

ギギ『おのれぇ……むっ、貴様…ウルトラマンか!まさかターゲットが自らやって来るとは……これぞ一石二鳥!』

タイガ『標的には俺たちも入ってたって訳か』

 

ギギの発言に全てを察したタイガは、身構えながら言った。

 

ギギ『悪いがとことん追い詰めるように言われているのでな、覚悟してもらおう!』

 

ギギ・アサシンは再びライフルを構え、今度はタイガめがけて発砲。

タイガは『タイガウォール』を展開して銃弾を防ぐと、せつ菜とアツシの方を向いて左腕を振り、ここから逃げるよう促す。

 

せつ菜「行きましょう!」

アツシ「は、はい!」

 

2人が離れていくと、タイガはライフルを避けながらギギ・アサシンに向かっていき、抑え込む。

 

ギギ『ぬおっ⁉︎こいつ!』

タイガ『場所を変えようぜ!シュアッ!』

 

タイガはギギ・アサシンを抱えながら空に向かって飛び上がった。

しかしギギ・アサシンは空中でタイガを引き剥がそうと抵抗する。

 

ギギ『離せ無礼者!』

タイガ『グアッ!』

 

ギギ・アサシンはタイガを蹴り飛ばし自由の身になると、その場で巨大化。

 

タイガ『こっちも行くぜ!』

 

対するタイガも巨大化し、街中に降り立つ。

戦いの火蓋は切って落とされた。

 

ギギ『ここからが本番だ。行くぞ!』

 

まずはギギ・アサシンがライフルを発射し、先制。

タイガは最小限の動きでこれを躱し、『スワローバレット』で反撃する。

互いに避けては撃ち返す、市街地で繰り広げられる銃撃戦。

 

しかし、少しずつ流れが変わり始める。

ギギ・アサシンは右手のライフルから銃弾を撃っているが、これに対してタイガはその都度腕を十字に組んで光弾を放っているため、回避から反撃に移るまでに僅かな隙がある。

その隙をギギ・アサシンは見逃さなかった。

 

ギギ『遅い!』

 

ギギ・アサシンの撃った銃弾がタイガの頭擦れ擦れを横切り、タイガは驚いて体勢を崩す。

 

タイガ『うおっ⁉︎』

ギギ『隙だらけだぞ!』

 

背を向けてしまったタイガに、ギギ・アサシンのライフルが直撃した。

 

タイガ『グアアッ!』

宏高「痛ってぇ!」

ギギ『脆いぞ!』

 

さらに1発、2発とタイガの背中にライフルを撃ち込むギギ・アサシン。

宏高の背中にも針で刺されたような激痛が襲い掛かる。

 

タイガ『ガアッ…ウアアアッ…!』

 

苦悶しながら、膝を突くタイガ。

 

タイガ『クッ…シュアッ!』

 

そこから立膝のままギギ・アサシンに振り向き、上空に飛び上がって銃弾を回避。

 

ギギ『何⁉︎』

 

ギギ・アサシンは再びタイガめがけてライフルを撃つが、タイガはムーンサルトスピンを繰り返して華麗に避けていく。

 

タイガ『やってくれるな…こっちも鋭いのかましてやるぜ!』

 

《カモン!》

 

宏高はタイガスパークのレバーを操作し、左腕を掲げてプラズマゼロレットを出現させる。

後部のボタンを押して中央のクリスタルと一対のブレードを展開し、クリスタルの裏にある発光部にタイガスパークをかざした後、下部の赤いスイッチを1回押した。

 

《プラズマゼロレット、コネクトオン!》

 

ウルトラマンゼロの幻影が一瞬重なった後、空中でタイガは左腕を横に伸ばしてエネルギーをチャージしてから左の腰に、右腕を水平に曲げて胸の前に持ってくる。

その体勢で額のビームランプから青色の稲妻を帯びた細い光線を放つ。

 

タイガ『タイガエメリウムブラスター!』

ギギ『なんの!ならばこちらも!』

 

ギギ・アサシンはそれに対抗し、目から緑色の光線『グラビトンビーム』を放つ。

両者の間で2つの光線はぶつかり合い火花を散らすが、威力が互角なため消失し、その反動に2体はたじろぐ。

 

 

 

霧崎「そうだ……それでいい。派手にやってくれれば、それだけ僕の目当てに近づけるというものだからね……」

 

何やら意味深な事を呟きながら霧崎 幽はタイガとギギ・アサシンの戦闘を見つめていた。

そして右手に持っていたチョコエッグを握り潰して粉々にすると、微笑みながら少しずつ食べ始めた。

 

 

 

タイガが地上に着地すると、タイタスが交代を申し出た。

 

タイタス『私が行こう。この自慢の筋肉を以て奴の飛び道具を封じ込む!』

 

《カモン!》

 

宏高はタイガスパークのレバーをスライドさせると、腰のタイガホルダーから左手でタイタスキーホルダーを取り外し、右手で握り直す。

 

宏高「力の賢者!タイタス!」

 

タイタス『うおおおおおっ!ふんっ!』

 

宏高は大きく全身を捻り、天高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンタイタス!》

 

タイタス『────フンッ!』

 

タイガと入れ替わって現れたタイタスは、筋肉アピールをしてからプロレスラーのような構えを取った。

 

ギギ『(別のウルトラマンに変わった…?)フン、ややこしい事をやったって、驚くものか!』

 

ギギ・アサシンはゆっくり歩いて接近してくるタイタスにライフルを撃つ。

命中するもタイタスの胸筋に弾かれ、明後日の方向に飛んでいく。

2発目も同じく弾かれ、3発目も余裕でボディビルのポーズを取るタイタスの右肩によって弾かれた。

 

ギギ『何だそれは⁉︎』

 

ライフルが通用しないと分かるや否や、ギギ・アサシンは戸惑いの声を上げながらもライフルを腰のホルスターに納め、格闘戦に切り替える。

そこから取っ組み合いになるが、タイタスの怪力に圧倒され、投げ飛ばされるギギ・アサシン。

 

ギギ『ぐおおっ⁉︎』

タイタス『鍛え方がなってないな。私が適切なトレーニング方法を教えようか?』

ギギ『ぬぅ…余計なお世話だ!その星、粉々にしてくれる!』

タイタス『貴様…U40の勲章を愚弄するか!』

 

タイタスは右拳を黄緑色に光り輝かせ、ギギ・アサシンに向かっていく。

 

ギギ『おぉりゃぁぁぁ!』

 

タイタスの『ワイズマンズフィスト』とギギ・アサシンの正拳突きがぶつかり合い、辺り一帯は強い衝撃に包まれた。

 

 

続く。




微妙なところではありますが、長文になってきたのでここで区切ります。
次回でこのエピソードは完結予定です。


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怪しすぎる隣人#5

苦節4ヶ月

あまりにも時間がかかりすぎてしまいましたが、これにて第7話ラストです。

トリガーのエピソードZ、本当に最高でした!
出来ることならスクリーンで観たかったんですが、私の地域ではやってないのと、このご時世で映画館に行きづらいのもあって、なかなか難しいですね。
せめてシン・ウルトラマンはあの大画面で観たい……

そしてアニガサキ2期まであと2日!

それではどうぞ!


ウルトラマンとギギ・アサシンの交戦は続いている。

真っ向から拳をぶつけ合ったウルトラマンタイタスとギギ・アサシンだが、パワーではタイタスの方が圧倒的に上だった。

 

ギギ『ぬわああああぁぁぁぁあ‼︎』

 

打ち負けたギギ・アサシンは大きく吹っ飛ばされて宙を舞うも、なんとか体勢を立て直し、着地。

しかし、あまりにも場所が悪すぎた。

なぜなら着地地点には、避難していたせつ菜とアツシが居たからだ。

 

ギギ『えぇい忌々しい!……ん?』

 

ギギ・アサシンは足元にいるせつ菜とアツシに気付くと、2人を見下ろしながら悔し紛れに悪態をつき、ライフルの銃口を向ける。

 

ギギ『貴様の介入がなければここまでケチが付くこともなかったのだ!』

 

これはせつ菜に対して言っている様だった。

 

宏高「ヤバい!」

 

タイタスから素早くバトンタッチしたフーマは、高速でギギ・アサシンの元に向かっていく。

 

ギギ『消えろ!』

 

もはや形振り構わずに、ギギ・アサシンがライフルの引き金を引いた瞬間───

 

フーマ『グアアッ!』

 

間一髪でフーマが割って入り、銃弾をその背に受けてせつ菜とアツシを庇った。

直後にフーマのカラータイマーが青から赤に点滅を始める。

 

フーマ『痛ってぇじゃねぇか!』

ギギ『今度は青か、鬱陶しい!』

 

フーマは即座に立ち上がってお返しとばかりに一回転からの右後ろ回し蹴り、更にそこから右回し蹴りを打ち込み、ギギ・アサシンを後退させる。

 

フーマ『セイヤッ!』

ギギ『おのれっ!』

フーマ『セヤアアッ!』

ギギ『おおっ⁉︎』

 

せつ菜「ありがとうございますフーマさん‼︎負けないでー‼︎」

 

せつ菜が大声でフーマに礼を言うと、フーマは「どういたしまして」と言うように一瞬せつ菜の方に振り向いた後、ギギ・アサシンに向かって行った。

そんなせつ菜を見て、アツシは不思議そうに訊ねる。

 

アツシ「なんでそこまで、誰かのために体を張れるの?ウルトラマンも、君も…」

 

アツシの問いにせつ菜は、青空を仰ぎながら語った。

 

せつ菜「私には、『大好き』を世界中に溢れさせるという野望があるんです」

 

それが彼女がスクールアイドルになった理由。

 

せつ菜「ですが…私は自分の『大好き』を抑えきれずに、仲間に押し付けてしまって……それで一度は、夢を諦めようとしました」

アツシ「そういえば……」

 

その言葉を聞き、アツシは思い出した。

せつ菜のライブ動画のコメント欄に、彼女の引退を惜しむ声があった事を。

 

せつ菜「けれどある人が、そんな私を…『優木せつ菜』を繋ぎ止めてくれました。最高のステージじゃなくても、私の歌を聴けるならそれでいい。自分の好きな事を我慢しなくてもいいんだって……そのおかげで、私はまた自分の『大好き』を叫ぶことが出来ています。守りたかったんですよ。あなたの『大好き』を…」

アツシ「せつ菜ちゃん……」

 

 

 

(BGM:ウルトラマンフーマ)

 

一方その頃、フーマとギギ・アサシンは激しい攻防を繰り広げていた。

 

フーマ『セイヤッ!』

ギギ『なんの!』

 

フーマの手刀とギギ・アサシンの銃撃と打撃、それらの捌き合いと反撃の応酬が続き、その中でライフルの流れ弾が地上に着弾し、建物が壊れていく。

ギギ・アサシンは左腰からシグルブレイドを引き抜くと、素早い剣捌きでフーマに斬りかかる。

 

フーマ『うおっ⁉︎』

 

フーマはその太刀筋に徐々に翻弄されていき、

 

ギギ『もらった!』

 

繰り出されたシグルブレイドの一突きによってその身を刺し貫かれた───

 

と思われた。

 

ギギ『⁉︎』

 

確かに目の前の相手を捉えていたのに、まるで手応えがなかったのだ。

 

フーマ『こっちだぜ』

 

フーマはギギ・アサシンの背後に回り込んでいた。

超高速で移動することで発生させた『神速残像』により、ギギ・アサシンの目を欺いたのだ。

 

ギギ『なんだと⁉︎』

 

ギギ・アサシンは驚きながらもシグルブレイドを横に薙ぎ払うが、受け止められて下からシグルブレイドを弾き飛ばされる。

 

フーマ『セイッ!』

ギギ『なっ⁉︎』

 

フーマはそこから跳躍し、宙を舞うシグルブレイドをキャッチすると、勢いよくギギ・アサシンに投げつけた。

 

フーマ『セヤッ!』

 

シグルブレイドは一直線に飛んでいき、自身の手から得物が離れて動揺していたギギ・アサシンの左胸に深々と突き刺さった。

 

ギギ『ぬあっ…!ガッ…』

 

さらに追撃として上空からフーマの強力な踵落とし『迅雷蹴撃』がギギ・アサシンの脳天に炸裂した。

 

フーマ『セヤアッ!』

ギギ『ガハッ…!』

 

頭上からの攻撃で大ダメージを負ったギギ・アサシンは、意識が朦朧とした状態でふらついている。

 

フーマ『これで終わりだ!』

 

フーマは両手で円を描くようにタイガスパークにエネルギーをチャージし、光の手裏剣を形成すると、それをギギ・アサシン目掛けて放った。

 

フーマ『極星光波手裏剣(きょくせいこうはしゅりけん)!』

 

投擲された光波手裏剣の尖端の一部が、ギギ・アサシンの胸に刺さっているシグルブレイドの柄に命中。

これによってシグルブレイドが押し出され、ギギ・アサシンの胸は完全に貫かれた。

 

ギギ『バカな…このような醜態、エンドラ様に申し訳が立た…』

 

ギギ・アサシンはその場で数秒立ち尽くした後、崩れ落ちるように倒れ、大爆発した。

 

これを見たせつ菜とアツシは歓声を上げ、それをバックにフーマは飛び去って行った。

 

 

────────────────────

 

 

宇宙空間に滞在する一機の宇宙船。

それは異次元同盟が所有し、拠点としているものだ。

 

「何⁉︎ギギ・アサシンがやられただと⁉︎」

 

その中で驚きの声を上げたのは、クリーム色のマントのようなものを羽織っている異次元同盟のボス、『イカルス星人エンドラ』である。

エンドラが従えている宇宙人の中には、三面怪人ダダ、音波怪人ベル星人、四次元宇宙人バム星人などの姿があった。

 

ダダ「いかがいたしましょう?」

エンドラ「むぅ…」

 

すると突然、銃声が響き渡った。

直後、エンドラの側に居たダダが力なく倒れ、ピクリとも動かなくなった。

 

一同「⁉︎」

 

驚く一同の前に現れたのは、ダークキラーヒディアス。

その手には、ギギ・アサシンのライフルが握られている。

 

バム星人「ヒディアスだ…!」

エンドラ「貴様、一体どこから…!そしてなぜそれを…!」

ヒディアス「ごきげんようボス。ギギ・アサシンの事は残念でしたね」

エンドラ「まさか…!」

ヒディアス「さて、単刀直入に言いましょう。あなたが持っている、『殺し屋超獣バラバ』のスパークドールズを、明け渡していただきたい」

 

ヒディアスの目的はギギ・アサシンを利用して、エンドラからバラバのスパークドールズを奪うことだったのだ。

 

エンドラ「フン!そんな事をして、我々に何のメリットがあると言う⁉︎」

 

ヒディアスは両腕から紫色の光刃を出現させながら、脅し同然の交渉を突きつける。

 

ヒディアス「この場を最小限の被害で収められる。いかがかな?」

エンドラ「くっ……」

 

渋々承諾し、エンドラがバラバのスパークドールズを投げ渡すと、ヒディアスは光刃を収めてそれを受け取る。

 

ヒディアス「賢明だね」

 

しかしヒディアスは直後に『ダークネススパーク』を取り出し、その先端をエンドラに向けて闇の波動を放つ。

 

エンドラ「うっ…ぐおおおおおっ!」

 

闇の波動を浴びたエンドラは、苦しみながらスパークドールズに変化。

そしてそれを満足げに拾い上げるヒディアス。

 

バム星人「エンドラ様!」

ベル星人「貴様…騙したな!」

ヒディアス「あなた方も用無しだ。では……さようなら」

 

ヒディアスは手から紫色の光球を発生させると、それを地面に叩きつけた。

これによって宇宙船は大爆発し、

 

異次元同盟は────壊滅した。

 

 

────────────────────

 

 

宏高「引っ越したって?」

 

翌日、放課後に生徒会室を訪ねた宏高は、菜々からアツシ(サーティス)のその後の動向について聞いていた。

 

菜々「はい。今朝挨拶をしようと思って行ってみたら、空き家になっていました」

宏高「そっか…あの人は狙われてる身だもんな……」

菜々「ええ。でもせめてお別れの一言くらいは言ってほしかったです…」

 

ギギ・アサシンは倒されたが、いつまた異次元同盟から新たな追手がやってくるか分からない。

これからは場所を転々としながらの逃亡生活を送っていく事になるだろう。

もっとも、異次元同盟は崩壊したので、アツシと彼の身を案じる菜々(せつ菜)と宏高が案ずる事はないのだが……

 

 

────────────────────

 

 

イカルス星人サーティス、その仮の姿である伊刈アツシは新天地に向かって歩みを進めていた。

その途中でアツシは一度立ち止まり、上着のポケットに手を入れると、あるものを取り出し数秒見つめる。

 

それは、せつ菜とのツーショット写真。

あの後、戦いが終わってから合流した宏高が撮影したものだ。

 

アツシは一瞬微笑み、大切な宝物をポケットにしまうと、再び歩き出したのだった。

 

 

続く。




今回もありがとうございました!
ヒディアスが回収した2体のスパークドールズ、これが何を意味するかは後々明らかになります。

いや〜、本当に長かったです……何でこんなに苦戦してしまったんでしょうか?
リアルな話になりますが、一つだけ言い訳させていただくと、今年に入ってから諸事情で3ヶ月ほど交代勤務が夜勤と遅番、交互での出勤になっていて平日に書き進める気力を残せなかったのが要因でした。
ですがそれももう終わりそうなので、これから少しずつペースも戻していけそうな気がします。

次回から再び本編に戻って、璃奈回になります。


次回 第8話「ツナグカガヤキ(☆>▽<☆)」

タイガ『そうだ……この力、この光を俺は知っている……!』


お楽しみに。


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ツナグカガヤキ(☆>▽<☆)#1

アニガサキ2期の2話で、滑り台を滑ってエマに抱き着いた璃奈が可愛かった件

大変長らくお待たせいたしました。
第8話、璃奈回スタートです。

アニガサキ2期もかなり盛り上がってますが、もうすぐ配信が始まる『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』の方もめちゃくちゃ楽しみです。

それではどうぞ。


それは春、満開の桜が咲き誇っていた季節の出来事。

 

新入生達は高校以前からの仲や、気が合う者同士、またはその両方で新旧のグループを作り、浅くも深い親交を深めていた。

しかし中には、誰とも趣味が合わなかったり、なかなか声をかけられずに孤立してしまう者もいる。

 

天王寺璃奈という少女もその一人だった。

 

「ねぇねぇ!帰り、どっか寄ってかない?」

 

「あっ!じゃあ私、ゲーセン行きたい!」

 

その日もいつも通りの放課後を迎え、真っ直ぐ帰宅する為に机の上で鞄に荷物を纏めていた璃奈。

すると不意に、教室の片隅からそんな会話が聞こえてきた。

 

璃奈「ん?」

 

気になる璃奈はそちらに無表情の顔を向け、会話の主である三人の女子生徒を視界に入れる。

黒髪で眼鏡の色葉、右の髪を括った茶髪のサイドテールの今日子、そして黄土色のロングヘアで長身の浅希だ。

 

色葉「え〜、ゲーセン?」

今日子「欲しいぬいぐるみあるんだよ〜」

色葉&浅希「フフッ」

色葉「いいよ。行こっ」

今日子「アハハッ、やった!」

色葉「超久しぶりに行くなぁ」

 

仲睦まじいその様子を見つめる璃奈の表情は変わらず無だったが、どことなく羨ましいという色が浮き出ていた。

 

璃奈「ゲーセン……」

 

ポツリと呟く。

 

璃奈自身は騒がしいのが苦手とか、人と繋がる事が嫌とか、孤高でいたい訳じゃない。

むしろその逆で、多くの人と繋がりたいと思っているし、友人を作って楽しく騒ぎたいと思っている。

だがどんなに楽しくても表情が変わらない彼女に親しい友人というものはなかなか作れず、結局はいつも諦めていた。

 

だからといって、ぼっちのままで終わるつもりは更々ない。

 

今日子「ぬいぐるみ取る!」

色葉「何が欲しいの?」

今日子「え〜とね、くまちゃんが欲しい」

 

意を決した璃奈は椅子から立ち上がり、スクールバッグを持つと色葉達に話しかける。

 

璃奈「あ……あの!」

浅希「ん?」

 

無表情で俯く璃奈の心は今、とてつもない緊張でドキドキしていた。

 

(喋らなきゃ……!)

 

彼女達はゲームセンターに行くと言っていた。

好都合な事にパーカーのポケットにはゲームセンターで使える割引券が入っている。

これを仲良くなれる好機と捉え、璃奈は無意識にポケット内の割引券に手を伸ばす。

 

しかし、自分を変えるというのは、簡単なことではない。

 

璃奈「あっ……」

 

璃奈は人見知りだ。

それが祟って、口は僅かに動くものの、肝心の言葉が出てこない。

振り絞った小さな勇気がポキリと折れていく。

やがて璃奈は逃げるように彼女達に背を向けた。

 

その様子に「ん?」と怪訝そうに首を傾げる浅希達に向かって、どこか寂しさを感じられそうな無表情を向けて彼女は言う。

 

璃奈「何でもない……」

 

そしてそのまま廊下に出ていき、仲の良い友人達と話す生徒達にチラチラ羨ましそうな視線を向けつつ、その隙間を縫うように早足で抜けていく。

 

(思いを伝えることって、難しい……)

 

そして校舎の外に出ると、隣の窓ガラスに映る自分の姿を見つめる。

窓ガラスに映る璃奈の表情は、やはり無表情。

その事実が、更に璃奈の心に追い打ちをかける。

 

(私の場合は特にそう……)

 

璃奈は口が映ってる所に人差し指でカーブを描く。

そうすると、ガラスの虚像だけを見れば、璃奈が笑っているように見える。

それは璃奈が一番望む願望だった。

 

(『友達になりたい』……そんな一言を言うのにも、ハードルがある)

 

彼女はポケットからアトラクションパーク『東京ジョイポリス』の割引券を出した。

最早璃奈にとっては何の意味もなくなった紙切れ。

それに璃奈の寂しさと未練が乗った力が加わって、僅かに皺が寄る。

 

やはり自分には無理なのか。

諦めきれない、だけど諦めるしかない。そんな身の丈に合わない願い。

このまま三年間、友人が誰一人としていない高校生活を送るのだろう……

そんな悲しい覚悟を受け入れようとしたその時……

 

「ど〜したの?フフッ」

 

横から声がかかった。

そちらを向けば、一人の女子生徒がいた。

金髪のセミショートヘアを位置が高めのポニーテールにしている、自分よりも背の高い少女、宮下愛。

襟元の赤いリボン、つまり上の学年である愛に、璃奈は見上げつつ内心萎縮してしまう。

 

(上級生……怖い……)

 

愛「怖くないよ〜」

璃奈「あ…」

 

璃奈は愛の言葉に奇妙な引っ掛かりを覚えた。

今の自分はデフォルトの無表情なのに、何故この人は自分が怖がってると分かったのだろうか?

璃奈が疑問を口にする前に、愛が言った。

 

愛「何か君、元気なさそうだったからさ〜」

璃奈「え?」

 

ただの当てずっぽう、本能的直感だった。

だが璃奈はどこか嬉しかった。

傍から見れば何を考えてるか分からない、1ミリも表情が変わらない自分の事を、ちゃんと理解してくれるかもしれない人物がようやく現れたのだから。

 

愛「あっ、ジョイポリの割引券じゃ〜ん!ここって楽しいよね!」

 

しかし聞かれた途端、璃奈は頭を下げて割引券を愛に差し出した。

 

愛「え?」

璃奈「お友達と行って下さい」

 

もしここで遊びに誘えていたら、また違ったルートになっていたかもしれない。

璃奈はつくづく自分の人見知りを呪った。

そして愛から返ってきた答えは、

 

愛「あ〜……じゃあ、一緒に行こっか!」

 

意外にも、璃奈を誘う言葉だった。

 

璃奈「…え?」

 

愛は思わず固まる璃奈の手を取ると、

 

愛「ほら!レッツゴー!」

 

笑顔で前方を指差しながら璃奈の手を引いて、東京ジョイポリスへと向かった。

 

(初めて、人とつながることができた)

 

これが璃奈と愛の出会い。

この日をきっかけに、璃奈の日常は一変した。

常に彼女の近くには愛がいた。

休み時間は勿論、放課後も、遊ぶ時も。

 

時は流れ、優木せつ菜のライブに胸打たれた璃奈は、愛と共にスクールアイドル同好会に入り、そこでの新たな出会いを経て、今に至っている。

 

(そして今の私は、もっとたくさんの人達とつながりたいと思っている。今からでも……変われるんだ!)

 

 

────────────────────

 

 

そして現在。

 

愛「りなりー!来る!」

璃奈「分かってる!」

 

顔の上半分を覆う巨大なゴーグルを頭に装着した愛と璃奈が、ショットガンを構える。

2人の眼前からは、無数の雛鳥に似た灰色のモンスターが迫ってきていた。

ショットガンを連射し、弾切れになれば即座にリロードして再度連射。移動も駆使しつつモンスターを撃破していく。

 

一方その頃……

 

宏高「うわああぁぁああぁっ⁉︎」

 

宏高が悲鳴を上げていた。

 

宏高「ヤバいヤバいヤバい!挟まれたんだけどぉ‼︎」

 

どうやらモンスター達の挟み撃ちに遭ってしまったようだ。

宏高も必死に迎撃しているが、このままでは危ない。

 

歩夢「今行くよ!宏くん!」

 

歩夢は銃撃しつつ宏高の元へと急ぐ。

 

璃奈「すぐ救援に向かう!」

 

それに続くように、璃奈は遮蔽物を利用しながら、愛は銃撃しながら正面突破で宏高の援護に向かう。

 

愛「愛さんに任せなさ〜い‼︎」

 

愛、璃奈、宏高、歩夢の4人は一体何をしているのかと言うと……

 

東京ジョイポリス内にある、VRを使ったシューティングゲームアトラクションで遊んでいた。

 

 

続く。




読んで頂きありがとうございました!
今回はここまでとなります。冒頭の場面だけで、これだけ長い文章になるとは……

またここから頑張って書き進めていきますので、続きを楽しみにしていてください。


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ツナグカガヤキ(☆>▽<☆)#2

『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』第1話からめっちゃ飛ばしてて興奮の連続でした。

そして今日のアニガサキはA・ZU・NA回ですね。


宏高&愛「楽しかった〜!」

 

ゲームを終えて皆でジュースを飲んでいる中、宏高と愛が満足そうに感想を溢した。

先程プレイしていたシューティングゲームはヘッドマウントディスプレイを利用した最新のVR技術と、プレイヤーが能動的に動くことが出来る「フリーローム」というゲーム性により、圧倒的な仮想現実への没入感を体験することができる。

何より協力プレイが可能なガンシューティングというのがまた熱い。

 

歩夢と宏高が言う。

 

歩夢「子供の時に来たことあるけど、今はこんなアトラクションもあるんだねぇ!」

宏高「二人ともすっごく上手かったよな!」

愛「えへへっ♪りなりーとは、結構来てるんだ〜♪」

 

愛が快活に笑いながら答えると、歩夢が璃奈に訊ねる。

 

歩夢「こういうの得意なの?」

璃奈「……ゲームは好き」

 

余程面白かったのか、やや興奮気味に宏高が提案する。

 

宏高「今日はダメだったけど、今度また皆で来ようぜ!」

 

彼の言う皆とは、スクールアイドル同好会のメンバー全員でということだ。

かなりの大所帯になるが、それはそれで楽しいかもしれない。

璃奈もそれを想像したのか、無表情だが嬉しそうに「うん」と頷き、歩夢は「次は何やろっか?」と問いかけながら他のアトラクションに目を向ける。

 

そんな中……

 

タイガ『なぁ……さっきのは一体何だったんだ?』

タイタス『私にも分からん…彼らは幻影を見せられていたのだろうか?』

フーマ『いや違ぇだろ…でもおかしいよな?敵なんてどこにもいねぇのにドカドカ撃っててよ…』

 

トライスクワッドの3人はVRゲームを楽しんでいた宏高達の様子を思い出し、困惑していた。

 

その時、

 

「天王寺さん?」

 

璃奈を呼ぶ声が聞こえた。

 

璃奈「あ…」

 

歩夢達が振り向くと、そこには虹ヶ咲の制服を着た3人の女子がいた。

色葉、今日子、そして浅希。

彼女達もまた、学校終わりに遊びに来ていたのだ。

 

今日子「やっぱり天王寺さんだ!」

 

歩夢達の元へ駆け寄る3人。

宏高が璃奈に訊ねる。

 

宏高「友達?」

璃奈「……クラスメート」

 

すると色葉と今日子が、それぞれ凄い食い気味に愛と歩夢の顔を凝視し始めた。

 

色葉「もしかして…愛先輩⁉︎」

愛「うおっ」

今日子「歩夢ちゃん⁉︎」

歩夢「えっ?ええ……」

 

まるで有名人に会ったかのような、物凄いキラキラした目で見られたのか、少々引き気味な2人。

その横で宏高がいつ預けられたか分からない歩夢と愛、そして自分のドリンクのカップを抱えて、ポカンとしている。

 

色葉「スクールアイドル同好会のPV観ました!愛先輩サイコーでした!」

愛「お〜、ありがと〜!」

今日子「歩夢ちゃんも可愛くって、私ファンになっちゃいました!」

歩夢「直接感想言ってもらえるの初めて…フフッ、嬉しい!」

色葉・今日子・浅希「かわいい!」

 

自分の事みたいに嬉しく思ったのか、その様子に微笑む宏高。

 

璃奈「あ…」

 

その一方で、表情を少し曇らせながら俯く璃奈。

すると浅希達が璃奈の方に振り向いて言った。

 

浅希「天王寺さんのも観たよ!」

璃奈「あ…」

 

ここで璃奈のPVについて軽く説明しよう。

それは彼女自身がイラストを使った二次元方法で制作したキャラクター、顔がパソコンの画面で尻尾がコードになっているデフォルメ猫の動画のことである。

 

『ニャーン!とう!ハジメマシテ。天王寺璃奈ダヨ!』

 

動きや口調が可愛らしく、コメントではかなり好評のようだ。

実際、彼女達もそう思っていたようで……

 

浅希「あのキャラ、面白いよね!」

色葉「うんうん、動きとか!」

 

璃奈を褒めちぎっていた。

 

璃奈「ん…」

 

璃奈は相変わらずの無表情だが、どこか照れているような反応を示す。

すると今日子が、気になる発言をした。

 

今日子「もしかして皆さん、ライブの下見に来たんですか?」

 

その言葉に璃奈が「ん?」と疑問を浮かべ、歩夢が訊ねる。

 

歩夢「ライブ?」

今日子「ジョイポリスのステージ、最近スクールアイドルもよくライブしてますよね!」

色葉「先週、近くの東雲学院もやったみたいですよ?」

 

宏高が興味津々に相槌を打つ。

 

宏高「そうなんだ……」

 

今日子「早く皆さんのライブ見たいです!」

浅希「私も見たいです!」

色葉「ライブやって下さいよ〜!」

 

彼女達の要望の声から、スクールアイドル同好会が予想以上に期待されている事が窺い知れる。

それを後ろで聞いていた璃奈の中に、ある思いが芽生える。

 

(友達に…なりたい……)

 

そして何かを決意したように一言呟いた。

 

璃奈「……やる」

 

それは皆に聞こえていたようで、浅希、宏高、色葉、今日子が璃奈の方に振り向き、歩夢と愛が目をぱちくりさせた。

 

一同「ん?」

 

その中で璃奈はハッキリと宣言した。

 

璃奈「私、ここでライブやる!」

 

 

────────────────────

 

 

翌日の部室。

 

かすみ「えぇぇぇぇぇ⁉︎ライブぅぅぅぅ⁉︎」

 

かすみが驚きのあまりダンッと丸テーブルを叩きながら席を立って璃奈に注目する。

昨日の事、つまりジョイポリスでライブをする件について話したら、この反応が返ってきた。

他のメンバーも多かれ少なかれ驚きの反応を示してる中、璃奈は淡々と頷く。

 

璃奈「うん」

 

せつ菜が困惑したように言う。

 

せつ菜「それは急な話ですね……」

 

それもそのはず、璃奈はアイドルとしては経験が浅い。

柔軟性、ダンス、歌唱力、全てにおいて不十分だ。

しかしそれは璃奈自身も承知しているようで……

 

璃奈「いろいろ足りないのは分かってる。でも、皆に見てほしくなって…それに、PVはキャラに頼っちゃったから…クラスの子達は良いって言ってくれたけど……あれは、ほんとの私じゃないから……ダメ…かな?」

 

璃奈のその言葉に、全員押し黙る。

その沈黙を打ち破ったのは、愛だった。

 

愛「良いんじゃない?」

璃奈「あ…」

 

続いてエマ、しずく、せつ菜も賛同する。

 

エマ「決めるのは璃奈ちゃんだよ?」

しずく「私は、璃奈さんの決めた事を応援しますよ!」

せつ菜「そうです!チャレンジしたいという気持ちは大事なことだと思います!」

 

メンバーの後押しを受けて、璃奈は「うん」と頷く。

そこで果林が璃奈に訊ねる。

 

果林「それで、いつやる予定なの?」

璃奈「たまたま空きが出たから、来週の土曜…」

かすみ「ほんとに急じゃん!」

 

宏高がかすみを宥めつつ璃奈に言う。

 

宏高「まあまあ。俺も協力するよ!」

璃奈「いいの?」

愛「愛さんも手伝う!」

 

愛が言えば、歩夢とせつ菜もそれに続く。

 

歩夢「わ、私も!」

せつ菜「もちろん私もです!」

 

彼方が両手で頬杖をついて言う。

 

彼方「結局みんな応援するんじゃ〜ん」

 

璃奈は無表情ながらも照れ臭そうに俯き、ポツリと呟いた。

 

璃奈「……ありがとう」

 

 

 

璃奈をソファーに座らせ、その隣に愛が陣取る中で会議が始まった。

宏高がホワイトボードにマジックペンで『見せるぜ衝撃!璃奈ちゃんソロライブ大作戦‼︎』と書くと、璃奈と愛の方に振り向いて言う。

 

宏高「ステージ演出は、ある程度希望に沿ってくれるようだけど…」

璃奈「…映像は自分で作れる」

愛「りなりー、得意だもんね!」

璃奈「うん。でも……」

愛「ん?」

 

璃奈はそこで一度言い淀んでから、不安げに言った。

 

璃奈「パフォーマンスは自信ない…」

 

璃奈はお世辞にも運動神経が良いとは言えない。

だがそれをなんとかする為に、そして自分を変える為に彼女は知識を欲する。

 

璃奈「だから、教えて欲しい!」

 

 

続く。




ちょうど今は連休なので、この内にどんどん書き進めていけたらなと思っています。


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ツナグカガヤキ(☆>▽<☆)#3

なかなか思うように進まないなぁ……

今日はツブイマで『運命の衝突』第2話配信ですね。


天王寺璃奈のソロライブに向けて、より良いパフォーマンスをする為の特訓が始まった。

先ず手始めに、屋上で前屈ストレッチをする事になった。

見守るメンバーはエマ、果林、そして宏高。

エマは前屈体勢の璃奈の両肩に両手を置き、璃奈が深呼吸してから、彼女のタイミングに合わせて前へ押してやる。

 

璃奈「スゥ〜……ハァ〜……」

 

なんと、加入して間もない頃と比べて曲がっていた。

それに気付いたエマと果林が感心する。

 

エマ「わぁ!」

果林「曲がるようになったわねぇ」

 

それを聞いてフーマが訊ねてきたので、宏高が声を潜めて答える。

 

フーマ『そんなに酷かったのか?璃奈ちゃん』

宏高「うん、最初は1ミリも曲がらなかったらしい」

エマ「毎日柔軟してたもんね」

璃奈「うん」

 

 

────────────────────

 

 

続いて中庭で発声練習。

 

指導するのは演劇経験のあるしずく。

璃奈の他に、かすみと彼方も参加している。

 

しずく「口を思いっきり広げて〜」

 

息を吸い、腹から声を出す。

 

しずく「すうっ…♪アーーーーーー」

かすみ・彼方・璃奈「♪アーーーーーー」

 

しずくに続いて発声する3人だが、かすみは息が長続きせず「ああ〜…」と声が上擦って音程が狂ってしまう。

 

しずく「♪ア ア ア ア ア ア ア ア アー」

彼方&璃奈「♪ア ア ア ア ア ア ア ア アー」

かすみ「♪ア ア ア ア ア ア ア ア ア〜…」

 

そして次は唇を震わせる練習。

 

しずく「プルルルルルルルル…」

 

しかしこれがなかなか地味に難しい。

だがそれを苦もなくやり続けるしずく。

 

彼方&璃奈「プルルルルルルルル…」

かすみ「プシュッ、ううっ…」

彼方&璃奈「プルルルルルルルル…」

かすみ「プルルル…ううっ…」

 

かすみと璃奈は脂汗を滲ませ、彼方は何やらウトウトしている。

すると突然、彼方がフラッと後ろに倒れ……

 

そのまま寝落ちした。

 

彼方「すや〜…」

しずく「彼方さん⁉︎」

かすみ「寝てる⁉︎どうしよしず子⁉︎」

璃奈「プルルルルルルルル…」

 

これに動じずやり続ける璃奈にも驚きだが。

 

 

────────────────────

 

 

かすみ「こんにちは〜!今日はかすみん〜、会場のみんなを夢中にさせる魔法、かけちゃいますからね〜!」

 

場所は部室に移り、そこでかすみがライブを想定した台詞を吐いている。

そしてそれを盛り上げるのは、ボールペンをサイリウムに見立てている宏高と愛、そしてタイガだ。

 

宏高「もうかかってるよー!」

タイガ『とっくに夢中だぜ!』

愛「イェイイェーイ!いいよ〜かすかす〜!」

 

璃奈は宏高と愛の間に座ってその様子を無表情で眺めている。

 

かすみ「かすかすって呼ばないで下さい!ぷんっ!」

 

腕を組んでそっぽを向くかすみ。

そのタイミングで璃奈が質問し、せつ菜が答える。

 

璃奈「これは何の練習?」

せつ菜「MCですよ」

 

次は歩夢がチャレンジ。

 

歩夢「えっと……今日は来てくれてありがとうございます。……一歩ずつ頑張っていくので、応援よろしくお願いしますね!」

 

愛「うひょ〜!」

宏高「歩夢ー!今日も可愛いぜー!」

歩夢「えっ⁉︎照れるよ……」

宏高「そういう所も可愛いぜー!」

 

本当に頬を赤くして照れる歩夢と、途端にヒートアップした盛り上がりを見せる宏高。

髪弄って照れたり、健気さを見せたりする仕草から垣間見えるメインヒロイン力が、彼をそうさせるのだろうか。

 

かすみ「むむっ!かすみんだって…!可愛さなら負けてませんよ〜!」

 

どこか悔しさを覚えてか、対抗意識を燃やして割って入り、苦笑いしながらアピールするかすみ。

その時、いつも通り無表情の璃奈が淡々と言う。

 

璃奈「…難しそう」

 

それを見かねて、かすみとせつ菜が言う。

 

かすみ「ん〜、そっか〜。まあ、MCをやらないスタイルもありますからねぇ」

せつ菜「今度のライブではやらない方向でいきますか?」

璃奈「ううん、やる!」

 

即答でせつ菜の案を蹴った璃奈は、一度目を伏せてから考え、再びせつ菜の方を見据えて言った。

 

璃奈「今回は……出来ないからやらないは、無しだから」

 

璃奈の強い意思を聞いたせつ菜は、フフッと笑って一言告げた。

 

せつ菜「…了解です」

 

 

────────────────────

 

 

後日。

 

この日は休日で、私服姿の愛、宏高、歩夢は璃奈の家に招かれた。

ただ璃奈の家はかなり特殊で、到着した途端、初見組の一人である宏高が驚きの声を上げる。

 

宏高「ここが璃奈ちゃんのお家⁉︎」

璃奈「うん」

フーマ『でっけぇなぁ〜』

タイガ『光の国の建物と同じくらいデカいんじゃないか?』

 

目の前に聳え立つのは1つの高層マンション。

大手企業のオフィスビルと見紛うような、璃奈の家庭のイメージとはだいぶかけ離れた、とても豪華なマンションだ。

彼女の家はこのマンション内にある。

 

璃奈「ライブ用の映像、試しに作ってみたから意見が欲しい」

 

璃奈はそう言って宏高達を案内しながらマンションに入り、エントランス内に設置されている機械にスマホを翳し、ロビーのガラスドアを解錠。

そして部屋の玄関前に来ると、再びスマホを操作して専用アプリを起動し、それを使って部屋のドアを解錠した。

これに再び宏高は驚愕する。

 

宏高「えっ⁉︎スマホで鍵の開け閉めを?」

璃奈「家のことは全部、これで出来るようにしてある」

 

璃奈は基本的に家では一人なので、鍵のロックはスマホと連携して行えるようにしているのだという。

 

歩夢&宏高「おお〜!」

 

そして部屋に入り、璃奈の自室に入室。

先ず視界に入るのは、取り揃えられたパソコンやキーボード、スピーカー等の沢山の機材だ。

歩夢がパソコンに向かう璃奈に言う。

 

歩夢「機械とかも得意なんだね!」

璃奈「うん」

 

キーボードをカタカタ叩きながら、璃奈は自身の境遇や今の心境をポツリポツリと打ち明ける。

 

璃奈「私、小さい頃から表情出すの苦手で、友達いなかったから…」

宏高・歩夢・愛「あ…」

璃奈「一人で出来る遊びばっかりしてたんだ。だから…高校生になって……こんなに毎日がワクワクするなんて、思わなかった。こんなに、変われるなんて、思わなかった」

 

彼女は椅子から立ち上がると、宏高達の方を向いた。

 

璃奈「みんなに、すごく感謝してる。私……頑張るよ!」

 

すると愛が璃奈をギュッと抱き締めて、

 

璃奈「あっ…」

愛「ライブ、成功させようね!」

 

そう言うと、璃奈も静かに応えた。

 

璃奈「…うん」

 

 

続く。




ライブに向けて更に意気込む璃奈だが、思わぬところで事態は一変する……

ちなみに宏高の私服は『ギンガ』の主人公、礼堂ヒカルを意識したものとなっています。


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ツナグカガヤキ(☆>▽<☆)#4

今回は少し短めです。


歩夢「ワンツースリーフォー、ファイブシックスセブンエイト」

 

歩夢のカウントと手拍子に合わせてステップを踏む璃奈。

その後も璃奈は同好会の皆に協力してもらいながら、ダンスレッスンや曲作りに熱心に打ち込んだ。

 

(そうだ……もう私は………この前までの私とは違う!)

 

璃奈自身の心も、良いライブにしようという熱意に満ち溢れていた。

そして、デフォルメ猫による告知動画をネットに公開し、それは東京ジョイポリス内でも上映された。

 

『ニャッ!クルッ!天王寺璃奈、ライブ開催決定!会場は東京ジョイポリス!みんな〜、来てね〜!ニャンッ!』

 

 

 

練習に打ち込んでいると時が経つのは早いもので、璃奈のソロライブまであと僅かとなった。

パフォーマンスをする為に必要な柔軟性、曲、歌唱力、それら全ては完成に近づき、今は仕上げの段階に入っている。

その為に中庭で練習している中、かすみが水筒片手に壁に背を預けて言う。

 

かすみ「ダンス、良い感じになってきたね〜、りな子!」

璃奈「そうかな?」

 

不安げな璃奈を励ますようにせつ菜も言う。

 

せつ菜「ええ。この調子で頑張りましょう!」

璃奈「…うん」

 

するとそこへ、

 

今日子「あっ、天王寺さ〜ん!」

 

璃奈と同じクラスの、あの女子生徒3人がやってきた。

 

色葉「練習頑張ってるね〜!」

浅希「ライブ、今週だよね?」

今日子「新しい動画見たよ〜!」

浅希「そうそう!」

 

璃奈がライブをしたいと言い出したきっかけを作った3人の同級生。

そんな彼女達に一言伝えたいのか、璃奈はストレッチを中断して立ち上がる。

 

(今の私なら……)

 

彼女は変わりたい一心でここまで頑張ってきた。

その片鱗を少しでも見せたいのだろう。

璃奈は勇気を出して今日子達に歩み寄る。

 

今日子&浅希「ん?」

色葉「あ…」

璃奈「もし、良かったら……もし、良かったら…!……あ」

 

友達になって欲しい、そう言おうとした璃奈だが、ふと何かに気付き横の窓ガラスを見る。

そこに映っているのは無表情の璃奈の顔。

 

璃奈「あ…!」

 

次の瞬間、璃奈はまるでトラウマを思い出したかのように目を悲痛に見開いた。

 

色葉「天王寺さん…?」

璃奈「…何でもない……」

 

全てに絶望したような、明らかに哀愁漂う雰囲気を醸し出しながら肩を落とす璃奈はそのまま去ってしまう。

慌ててせつ菜が呼び止めるも、

 

せつ菜「璃奈さん!」

璃奈「…今日は、帰るね……」

かすみ&せつ菜「あ…」

 

璃奈はそれだけ言って、踵を返す事も、振り向く事もしなかった。

 

 

────────────────────

 

 

天王寺璃奈は夕焼けの街並みをとぼとぼと歩いていた。

脳裏に浮かぶのは、先程ガラスに映った無表情の自分。

それが意味するのは、変わる為の努力が報われなかった結果。

 

(私は……)

 

変われると思っていた。

何をやっても笑顔になれない、心は暖かいのに表情に出せない。

そんな自分を変えたい、周りともっと繋がりたい一心で、ライブという手段を通して変化を求めた。

実際やり甲斐も成長も感じていたし、いつも一緒にいてくれる人からも応援された。

 

なのに……こんな結果に終わってしまった。

周囲の期待を裏切り、応援も無駄にしてしまった。

決意は失意に、自信は危惧に、そして楽しみは懸念に変わり、自らが自らの評価を落としていく。

やはりダメなのかと、自分には無理なんじゃないかと。

 

(私は…変われない……)

 

一度深みに落ちてしまったら最後、戻る事も出来ずに沈んでいくだけ。

 

 

 

マンションのエントランス目前まで来た所で、突然カランと、璃奈の背後で何かが地面に落ちる音が聞こえた。

 

璃奈「?……何、これ?」

 

璃奈は振り返り、落ちているそれを拾う。

それは大きな一つ目が特徴の、モンスターの顔があしらわれた不気味な意匠の指輪だった。

 

璃奈「…何か、ちょっと怖い……」

 

そう言いながらもどこか惹かれるものがあるのか、指輪を数秒見つめた後、そのままポケットに突っ込んで持ち帰り……

 

部屋の扉を、カーテンを閉め切って光を遮断すると、自室の真ん中で体育座りをして蹲る。

 

天王寺璃奈は、暗闇という名の殻に閉じ籠もった。

 

 

 

璃奈の家があるマンションの屋上に、霧崎 幽は居た。

そして何かに期待しているかのような独り言を呟く。

 

霧崎「どんな成長を見せるか楽しみだ……」

 

それと時を同じくして、璃奈のポケットに入っている指輪が、人の啜り泣きにも薄ら笑いにも聞こえる不気味な声を発しながら、怪しい光を放ち始めた。

 

 

 

場所は変わり、アクアシティお台場神社。

 

そこで巫女服に身を包み、紫色の長髪を1本に束ねた少女が、何か恐ろしい事を予感したようにじっと遠くを見つめていた。

 

 

続く。




読んでいただきありがとうございます!

意気消沈した璃奈が拾った指輪。
それは、これから彼女とその仲間達に降りかかる災厄の種だった……!

そして謎の巫女の正体とは?


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ツナグカガヤキ(☆>▽<☆)#5

大変長らくお待たせいたしました。

ついにアニガサキの方でも、同好会が13人になりましたね。
これからの展開が楽しみです。

前回が短めだった反動からか、今回は結構長めの文章になりましたがよろしくお願いします。

それではどうぞ。



翌日、練習場の1つである屋上に璃奈を除く同好会メンバーが全員集まっていた。

だがそこには、いつものような賑やかな空気は流れていなかった。

何故なら、いよいよ明日に控えたライブの主役である璃奈が学校に来ていないからだ。

長い沈黙を破り、果林が宏高に訊ねる。

 

果林「練習、始める?」

宏高「えっ…?でも璃奈ちゃんが──」

果林「来ないでしょ。連絡しても繋がらないんだから」

一同『あ…』

 

宏高の言葉を途中で打ち切るように事実を突きつける果林。

璃奈が突然練習をやめて去った後、何度も電話をかけたり、メッセージを送ったりした。

しかし璃奈からの返答はどれも無反応だった。

場に重苦しい空気が漂う中、かすみが非難めいた口調で果林に反論する。

 

かすみ「何でですか⁉︎りな子のライブは明日なんですよ⁉︎あんなに頑張って準備してたのに!」

果林「決めるのは璃奈ちゃんよ」

 

それは璃奈がライブをしたいと言い出した時、エマが言っていた言葉だ。

 

かすみ「うぅ…」

 

果林のドライな正論対応に、悔しそうに唸るかすみ。

確かに果林の言う通り、これは璃奈の気持ちの問題だ。

それでも、同学年の仲間として彼女の頑張りを身近で見てきたかすみには、素直に納得できる事ではなかった。

いつまでもここで燻ってる訳にはいかないと判断した果林が提案する。

 

果林「今日はもう解散にしない?」

宏高「え⁉︎」

タイガ『は?』

フーマ『おい姉ちゃん、さっきから何……⁉︎』

 

宏高とタイガが驚愕し、反論しようとするフーマをタイタスが手で制する中、ジッと果林の事を観察していたエマは親友としての直感で、彼女の本心を言い当てる。

 

エマ「果林ちゃん……拗ねてる?」

果林「あっ……何で私が⁉︎」

 

図星なようだが、それを悟られまいと必死に果林は言い繕うも、エマと彼方にそれを台無しにされた。

 

エマ「明日は、モデルのお仕事入れないようにしてたもんね」

彼方「本当は璃奈ちゃんのライブ、楽しみにしてたんじゃな〜い?」

果林「あ…私はライブの内容に興味があっただけよ!」

 

回りくどい形で自白する果林だが、それを聞いてすかさずかすみが、仮にも先輩である彼女を面白がってからかう。

 

かすみ「そうなんですかぁ〜?果林先輩も可愛いところあるんですねぇ〜」

果林「お黙り!」

 

イラッときた果林はかすみの頬を引っ張る。

 

かすみ「ふぇ〜許してくらはい〜…」

 

そんな茶番を尻目に愛は決意の眼差しで、

 

愛「ちょっと行ってくる!」

かすみ「えっ、愛先輩⁉︎」

 

慌てるかすみの制止を無視して、真っ直ぐ璃奈の元へと走り出した。

図らずもこれが着火剤となり、誰もが頭の中でやる事は一つという結論に至ると、次に宏高が駆け出した。

 

宏高「俺も行くよ!」

歩夢「宏くん!」

かすみ「どこ行くんですか⁉︎」

 

かすみがそう叫ぶと、しずくが彼女の手を引っ張りながら答え、彼方もそれに続く。

 

しずく「璃奈さんのところだよ!」

かすみ「へ⁉︎」

彼方「まぁ、ほっとけないよねぇ〜」

果林「結局、皆で行くのね……」

 

何処か分かり切ってたような態度の果林に、思わずせつ菜は訊ねる。

 

せつ菜「行かないんですか?」

 

それに果林は当然と言うように笑顔で答えた。

 

果林「行くわよ!」

 

 

────────────────────

 

 

天王寺璃奈は、今も自室の中に居た。

 

彼女は暗闇の中でただ一点、スマホの画面を見つめている。

そこに映っているのは動画サイトの検索結果で、リストにはかすみと歩夢の自己紹介動画がある。

すると璃奈の部屋にチャイムが鳴り響き、その音で我に返る璃奈。

 

おそらく自分を心配して、同好会の誰かが押し掛けて来たのだろう。

だが途中で逃げ出した後ろめたさから、二回目のチャイムが鳴っても応じる事なく、切なそうな表情でスマホの画面から目を逸らした。

 

璃奈「ん…」

 

 

 

一方、天王寺家に到着した宏高達同好会メンバーは、ロビーにあるインターホンを使って璃奈の部屋にチャイムを鳴らし、接触を試みていた。

だが一回では応答しなかったので、二回目で愛がインターホンに近づき、彼女を中心にメンバー全員、更にはタイガ達トライスクワッドがカメラのレンズを覗き込む中、呼び掛ける。

 

愛「りなりー!居る?」

 

その瞬間、愛の声に反応して再びスマホの画面に目をやった璃奈が、思わず「うわっ!」と驚きの声を上げた。

その声は愛達にも届いたようだが、応じたのが璃奈本人とは限らないので、せつ菜が愛に注意する。

 

せつ菜「愛さん!いきなり『りなりー』はどうかと思いますよ?」

愛「あ…ごめんごめん。普段この時間はりなりー1人だって聞いてたから」

 

エマとかすみが言う。

 

エマ「今、璃奈ちゃんの声聞こえた気がするよ?」

かすみ「ほんとですかぁ?」

 

立ち位置的に背伸びしてるからか、少々キツそうなかすみを尻目に、愛はレンズを見つめてその向こう側の璃奈と真っ直ぐ視線を合わせる。

 

愛「りなりー」

璃奈「あ…」

愛「少しだけ…いいかな?」

 

優しくかつ真剣な愛の呼び掛けに何かを感じ取ったのか、璃奈はしばらく無言で考えた後、心の扉を少しだけ解放するようにマンションの正面玄関のロックを解錠した。

 

一同『あ…』

 

 

 

それからオートロック式のロビーを越えて玄関の扉をくぐり、璃奈の部屋までやってきた同好会一行。

先頭に立つ宏高が、恐る恐る扉を開けた。

 

宏高「お…お邪魔しま〜す………璃奈ちゃ〜ん?」

 

部屋の中は真っ暗で、鬱々しい雰囲気が漂っている。

流石に全員は入れないので、宏高、かすみ、愛、歩夢の4人が部屋に入り、他は廊下で待機する中、宏高は璃奈を呼ぶ。

 

タイガ『あれ、何処だ?』

フーマ『居留守……じゃねぇよな?』

璃奈「……ここだよ」

 

「「「「ハッ⁉︎」」」」

 

思わず宏高達4人はギョッとした。

返ってきた璃奈の声はまるで壁を挟んでいるかのようにくぐもっており、部屋の電気を点けてみれば、真ん中に大きなダンボールが1つ、ポツンと置かれていた。

どういう訳か璃奈はダンボールの中に入っており、彼女の声もそこから聞こえてきた。

これに驚いたかすみが大声を上げる。

 

かすみ「えええっ⁉︎何でダンボールぅぅ⁉︎」

宏高「シッ!」

 

そんなかすみをすかさず宏高が背後から両肩を掴んで引き寄せ、静かにの合図をした。

今の璃奈はとてもナイーブなので、迂闊に刺激してはいけないと思ったのだ。

そんな中、愛はダンボールに近づく。

 

愛「りなりー」

璃奈「ごめんね…勝手に休んで……」

 

彼女から返ってきたのは、素直に謝罪の言葉だった。

 

愛「ほんとだよ。心配したんだぞ?」

 

優しく叱りつつも、ダンボールの前にしゃがみ込んで璃奈に話しかける愛。

 

愛「どうしたの?」

 

責めるでもなく、本当に心配しているからこそ来る言葉に、璃奈は心が申し訳なさでいっぱいになるのを実感しながら独白する。

 

璃奈「自分が…恥ずかしくて……私は、何も変わってなかった」

 

甦ってくる過去の苦い記憶。

 

璃奈「昔から、楽しいのに怒ってるって思われちゃったり……仲良くしたいのに、誰とも仲良くなれなかった……今もクラスに友達はいないよ。全部私のせいなんだ」

 

思い通りに表情が出ずに、それで苦悩していた日々。

心では喜怒哀楽を感じているのに、それが上手く表せない自分の不器用さに嫌気が差す。

 

璃奈「もちろん、それじゃダメだと思って、高校で変わろうとしたけど…最初はやっぱりダメで……でも!そんな時に、愛さんと会えた。スクールアイドルの凄さを知る事が出来た。もう一度、変わる努力をしてみようって思えた。歌でたくさんの人と繋がれるスクールアイドルなら、私は変われるかもって…」

 

それでも、自分を理解してくれる人達が現れた。

こんな自分でも人と繋がれる道を見出した。

決して不可能ではないのだと、彼女はもう一度奮起した。

 

けれど。

 

璃奈「でも…皆はこんな事でって思うかもしれないけど……どうしても気になっちゃうんだ…自分の表情が……ずっとそれで失敗し続けてきたから……」

 

過去の失敗は、ずっと璃奈の心を蝕み続けてきた。

心に溜まっていた不安を打ち明ける度に悔しさが込み上げ、声が悲しみで震える。

ダンボールの中で、自然と璃奈は泣き顔を隠すように顔を両手で押さえていた。

 

璃奈「ああ…ダメだ…誤解されるかもって思ったら…胸が痛くて……ぎゅううって…!こんなんじゃ…このままじゃ!うっ……っ……私は、皆と繋がる事なんて出来ないよ……ごめんなさい…!」

宏高・歩夢・かすみ「あ…」

 

少女は自分に絶望していた。

どんなに努力をしても、もがいても自分は変われないのだと。

仲間に応援され、手伝って貰ったのに、結果が出せない事に申し訳なさと不甲斐なさでやるせなくなる。

そんな璃奈の大きな悩みに、誰もが慰めの言葉を思い付けずに口をつぐむ中、宏高が最初に口を開いた。

 

宏高「ありがとうね」

璃奈「えっ…?」

 

ダンボールの中でキョトンとする璃奈に、宏高は愛の隣に片膝を付いてしゃがみ込み、落ち着いた声音で言う。

 

宏高「璃奈ちゃんの気持ち、話してくれて」

愛「うん。愛さんもそう思うよ」

 

一拍置いて、宏高はさらに続ける。

 

宏高「俺……璃奈ちゃんのライブ、見たいな」

璃奈「あ…」

宏高「今はまだ出来ない事があっても…無理してすぐに出来るようにしなくても、いいんじゃない?」

璃奈「……え?」

 

それは一体どういう事かと思い、ダンボールの中で顔を上げた璃奈に、しずくが彼女の長所を挙げる。

 

しずく「そうですよね。璃奈さんには出来るところ、たくさんあるのに!」

璃奈「そんなの!「頑張り屋さんなところとか」あ……」

 

否定しようとした璃奈の声を遮るように歩夢も長所を挙げ、それに続くように果林が、宏高が、せつ菜が彼女の長所を挙げていく。

 

果林「諦めないところもね」

宏高「機械に詳しいし」

せつ菜「動物にも優しいですよね」

 

それに愛が良い意味で不満を露にする。

 

愛「みんな〜!どんどん言っちゃってズルいよ〜!」

 

璃奈との付き合いが女子勢の中では一番長い愛としては嬉しい反面、璃奈の長所を立て続けに言われて先を越されたと思ったのか、モヤモヤする部分もあった。

 

愛「よぉ〜し、愛さんも!」

 

愛は立ち上がると、某世界を股に掛ける大泥棒よろしくダンボール越しに思いっきり璃奈に抱きついた。

 

璃奈「うわっ!」

愛「フフッ」

璃奈「ちょっと…」

愛「ん?」

璃奈「恥ずかしい……」

 

表情こそ見えないものの、明らかに照れている璃奈の声。

そこにかすみが言う。

 

かすみ「りな子。ダメなところも武器に変えるのが、一人前のアイドルだよ?」

璃奈「あ…!」

 

さらに愛と歩夢がフォローする。

 

愛「そうそう。出来ない事は、出来る事でカバーすればいいってね。一緒に考えてみようよ!」

歩夢「まだ時間あるし」

 

言われて璃奈はようやく気付いた。

当たり前の事だったのに、トラウマに囚われて見失っていた事実。

自分はもう一人ではない。

愛だけじゃなく、こんなにもたくさんの仲間が側にいる。

 

それに気付いた瞬間、その事実を改めて痛感した瞬間、璃奈は自然とその言葉を発していた。

 

璃奈「……ありがとう」

 

その言葉と声の抑揚が、璃奈はもう大丈夫だという事を物語っていた。

 

せつ菜「フフッ、璃奈さんとこういうお話できたの、初めてですね」

璃奈「あっ…」

彼方「そういえばそうだねぇ〜」

璃奈「ああ……もしかして……」

 

せつ菜の何気ない一言を聞いて何を思ったのか璃奈は突然立ち上がり、宏高と愛と歩夢はビックリして尻餅をついた。

 

歩夢・愛・かすみ「わあっ!」

宏高「うおっ⁉︎」

 

そしてダンボールを被ったまま窓ガラスの方に歩いていき、勢いよくカーテンを開ける。

暖かな日の光が室内に差し込む中、璃奈は嬉しそうな声を上げた。

 

璃奈「これだ!」

 

どうやら何か妙案が浮かんだらしい。

ダンボールを押し退けて、メンバーと向かい合ったその時……

 

璃奈の練習着のポケットから紫色の光が漏れ出し、かすみが目を見張る。

 

かすみ「何の光⁉︎」

タイタス『この禍々しい波動は…⁉︎』

 

何かと思い璃奈はポケットに手を入れ、そこに入っていた物を取り出す。

それは昨日、家に帰る直前に拾った奇怪な指輪。

 

愛「……りなりー?」

宏高「それって……」

 

 

「フエッフェェェェェッ‼︎」

 

 

不気味な笑い声を発し、さらに強い光を放ちながら、指輪は璃奈の掌を離れて宙に浮き上がる。

 

タイガ『怪獣の指輪だと⁉︎』

宏高「⁉︎」

 

宏高は璃奈の手を引っ張り、自分達の方に引き寄せて指輪から遠ざけると、今度はひとりでに動く指輪を捕まえようと手を伸ばす。

しかし彼の手は空を切り、指輪は猛スピードで璃奈の部屋を飛び出してお台場の街中へ。

指輪はマンションから然程離れていない場所に停滞すると、紫色の輝きと共に魔獣へと変貌した。

 

「ワキャキャキャキャキィイイイイィィエエッ‼︎」

 

位置が逆転した口と目、胴体に浮かぶ赤い目の顔のような模様、体の各所に生えた何本もの触手、巨大な黒い翼が特徴の悪魔のような巨獣。

 

霧崎「おはよう、キラーナイトファング。さあ……朝食の時間だ」

 

『悪夢魔獣・キラーナイトファング』の出現に、お台場の街は一気にパニック状態になった。

 

 

続く。




璃奈が自信を取り戻したのも束の間、姿を現す悪意の化身!
果たして宏高は、タイガは悪魔を止められるのか⁉︎

璃奈の家のインターホンのカメラを全員で覗き込む場面ですが、半透明なイメージ体のタイガとフーマはかすみの、タイタスは果林の隣に居ます(笑)

そして今回登場するキラーナイトファングの色ですが、頭部・脚部・翼・尻尾に赤いラインが走った見た目を想像してもらえたらありがたいです。
(通常個体は元々紫のカラーリングなので)

次回もお楽しみに!


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ツナグカガヤキ(☆>▽<☆)#6

大変長らくお待たせしてすみません。

先週、ようやくシン・ウルトラマンを観ることが出来ました。
あれは確かに2回以上観たくなりますよね。

それと今回、今後のストーリー展開に関わる場面を一部フライングで描きました。

それではどうぞ。


仲間達の励ましで天王寺璃奈が自信を取り戻したのも束の間、突如出現した『悪夢魔獣・キラーナイトファング』。

 

宏高「ナイトファングだと…!」

 

璃奈の部屋の窓ガラスの前で宏高が目を見張る中、愛が璃奈に訊ねる。

 

愛「りなりー……あの指輪、一体どうしたの?」

璃奈「昨日の帰りに……偶然拾って……」

かすみ「そんな事より早く逃げましょうよ!」

 

かすみが退散を促した瞬間、キラーナイトファングの動きが変わった。

頭部を開き、その中に隠されている充血したように真っ赤な一つ目から、邪悪な怪音波『キラーナイトメアウェイブ』を放ち始めた。

 

「フエッフェェェェェッ‼︎」

 

宏高「何だ…?」

 

宏高達が困惑する中、目に見えない危険を察知したタイガが叫ぶ。

 

タイガ『まずいぞ宏高!奴が発してる音は…!』

 

これを聞いた宏高がすぐに指示を出した。

 

宏高「みんな耳を塞ぐんだ!」

歩夢「えっ…?」

果林「何も聞こえないわよ?」

 

当然の反応である。

果林の言う通り、周囲に爆音が流れている訳でもないのに耳を塞げと言われても、理解し難い事だ。

 

宏高「早く‼︎」

 

それでも必死に呼び掛ける宏高だが、一気に脱力感に襲われ意識を失い、ドサッとその場に倒れ込んだ。

 

歩夢「宏くんっ‼︎大丈夫⁉︎宏く……」

 

歩夢が直ぐに宏高の元に駆け寄って呼び掛けるが、彼女も意識を失い、宏高の胸の上に倒れ込む。

それに続いてかすみ、しずく、せつ菜と、同好会メンバーが次々と倒れていく。

 

愛「…っ!りなりー!」

 

愛は戸惑いながらも咄嗟に璃奈の机の上に立てかけられているヘッドホンを取り、璃奈の頭に被せて自身も耳を塞ぐ。

 

 

 

 

 

愛「……あれ?」

 

それから十数秒は経ったが、愛と璃奈の身には何も起こらない。

愛は恐る恐るゆっくりと耳から手を離すが、問題なく意識を保っている。

ヘッドホンをしている璃奈はともかく、なぜ自分は平気なのか。

 

愛「何なの……一体……」

 

愛と璃奈が困惑する中、宏高達は悪夢にうなされていた。

 

 

【宏高の悪夢】

 

宏高「……ここは……」

 

暗闇の世界に一人、宏高は立っていた。

 

宏高「みんな……」

 

彼の目の前には、同好会の仲間達が立っていた。

しかし一人また一人と、宏高の前から同好会メンバーが去っていく。

必死に手を伸ばすが、誰も歩みを止める者はおらず、最終的に自分一人だけが取り残された。

 

宏高「もしこのまま…俺は何も見つけられなかったら……」

 

 

【歩夢の悪夢】

 

私の隣にはいつも宏くんが居る。スクールアイドルを始めてからも、それは変わらない。

けれど、かすみちゃんとの出会いがきっかけで同好会がもう一度始まってから、私たちの周りにはどんどん仲間が増えていって……

 

宏くんは人当たりがいいから、かすみちゃんやせつ菜ちゃん、かつての同好会の人達ともすぐに打ち解けて、仲良くなった。

そんな宏くんを見ていると、どこかモヤモヤした気分になる。

大丈夫、そんな事ないって自分に言い聞かせても、やっぱり不安で……

 

歩夢「宏くん……」

 

今…あなたの目に映っているのは、私?それとも……

 

 

【しずくの悪夢】

 

私はもともと物語や空想の世界が大好きで、小さい頃はぬいぐるみに名前をつけて、お友達に見立てて遊んだりしていた。

そのうちに設定を考えるのが楽しくなってきて、でもそれが膨らめば膨らむほど、周りから変な目で見られるようになっていった。

もし、かすみさんや同好会の皆からも幻滅されたりなんてしたら……

 

しずく「嫌だ………嫌だよそんなの……」

 

 

強制的に悪夢を見せられ、うなされている宏高達からは悪夢のエネルギーが放出されていた。

それは彼等だけではなく、街中でキラーナイトメアウェイブを聞いた人々も同様であり、溢れ出る苦しみのエネルギーがキラーナイトファングの第3の目に吸い込まれていく。

その光景を、霧崎 幽は愉快げに眺めていた。

 

霧崎「人間誰しもが抱え、心の奥底に封じ込めている迷いや不安……そういったネガティブな感情を糧にしてここまで成長するとはね……期待以上だ」

 

 

────────────────────

 

 

璃奈「見て、愛さん」

 

璃奈はパソコンに向かって、キラーナイトファングの分析を行っていた。

 

璃奈「あの怪獣の目から、私達には聞こえない特殊な音波が流れてる」

愛「ひろ達が倒れちゃったのは、その影響?でもどうして愛さんやりなりーはなんともないの?」

 

璃奈は既にヘッドホンを外しているが、愛と同様にキラーナイトメアウェイブの影響下でも問題なく意識を保っている。

 

璃奈「…それは分からない……でもこれと同じ音波をぶつければ、互いに打ち消し合ってみんな目を覚ますはず」

 

璃奈は編集ソフトを使い、慣れた手つきでキラーナイトメアウェイブと同じ、とは言えないがそれに限りなく近い逆位相の音波を含んだ音楽を作製し、机上のスピーカーから再生。

部屋から廊下にかけて音楽が流れる中、まず最初に宏高が静かに目を開けた。

 

宏高「…ん……んんっ………ハッ!」

 

意識が吸い込まれるように戻ってくるのを感じた。

だが体を起こそうとしたその時、

 

宏高「…えっ?」

 

よく見たら、歩夢が自分の胸の上に乗っていた。

 

宏高「歩夢……歩夢!」

歩夢「ん……宏くん……えっ⁉︎///」

 

宏高は一瞬驚きながらも肩を揺すって呼び掛ける。

歩夢は瞼を開くと同時に今自分が置かれている状況を認識すると、赤面しながら飛び起きた。

 

歩夢「ご、ごめん!私…///」

 

他のメンバーも目を覚ましていき、起き上がろうとする所に愛が駆け寄る。

 

愛「せっつー!しずく!かすかす!」

かすみ「かすかすじゃなくて『かすみん』です‼︎」

愛「よし、大丈夫そうだ」

 

 

 

果林「一体何だったの?」

愛「あの怪獣が流してる音波の所為で、みんな悪い夢を見せられてたんだよ」

宏高「でももう大丈夫です。……この部屋の中だけは」

 

キラーナイトメアウェイブの放出は未だ続いている。

その中で唯一催眠効果から抜け出せたのは、スクールアイドル同好会のメンバーだけだ。

 

(一体どうすれば……)

 

ナイトファングを倒すには、地球のパワーとウルトラマンの光を合わせた力が必要だ。

だが今はフォトンアースにはなれない。

頭を悩ませる宏高に、タイタスが助言した。

 

タイタス『臨機応変だ!』

宏高「えっ?」

タイタス『今し方お嬢さんが言ったばかりではないか。出来ない事は出来る事でカバーすれば良いとな!』

フーマ『アイツの目を潰して音波を止める。そっから先はいつも通りだ』

タイガ『パワーアップが出来なくても、戦い方はいくらでもあるぜ!』

 

そうだ。答えは一つじゃない。

それに代わる方法を探しながら、自分達なりの戦いをすれば良いのだ。

 

宏高「……よし」

 

宏高はポケットからiPodを取り出すと、璃奈に頼み込んだ。

 

宏高「璃奈ちゃん、今この部屋に流してる音楽のデータをここに入れてくれない?」

璃奈「……いいよ」

 

璃奈は宏高のiPodを受け取ると、コードを使ってパソコンと同期させ、データを転送。

 

璃奈「…はい」

宏高「ありがと」

愛「ひろ、どうするつもり?」

宏高「ちょっと外の様子を見てくる。皆はここで待ってて!」

歩夢「あ、宏くん!」

 

歩夢が制止するも、宏高はイヤホンを両耳に入れて音楽を再生すると、部屋を飛び出していった。

そしてマンションの外に出ると、目の前に居るキラーナイトファングを見据える。

 

(よし、問題ないな)

 

イヤホンから流れている音楽のおかげで身体に異常がないのを確認した宏高は、

 

タイガ『やるぞ、宏高!』

宏高「ああ!」

 

タイガスパークを装着した右腕を掲げ、レバーをスライドさせる。

 

《カモン!》

 

腰のタイガホルダーに装着されている3個のキーホルダーから、タイガキーホルダーを選択し左手で取り外す。

 

宏高「光の勇者!タイガ!」

 

右手でキーホルダーを握り直すと、タイガスパーク中心部のクリスタルが赤く発光。

 

タイガ「はあああああっ!ふっ!」

 

宏高は天高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンタイガ!》

 

タイガ『────シュア!』

 

街中に佇むキラーナイトファングの頭部に、強い飛び蹴りを喰らわせながら、ウルトラマンタイガが現れた。

 

 

続く。




次回から本格的にバトルパートに突入です。

宏高達が悪夢を見せられるシーンですが、全員分描くのは難しいので一部に絞らせてもらいました。
キラーナイトメアウェイブについて補足ですが、人が抱えるネガティブな感情を呼び起こし、それを悪夢として見せる作用があるため、元々前向きな性格である愛と仲間に励まされて迷いを振り切ったばかりの璃奈には効かなかったのです。

次回、あいりなの勇気が奇跡を起こす⁉︎


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ツナグカガヤキ(☆>▽<☆)#7

大変長らくお待たせいたしました。
またしても1ヶ月近く間が空いてしまい申し訳ございません。

今日は私の推し、優木せつ菜の誕生日ですね!

それでは本編をどうぞ!



「ワキャキャキャキャキィイイイイィィエエッ‼︎」

 

タイガ『フッ!』

 

颯爽と街中に降り立ったタイガが、戦闘の構えを取りながらキラーナイトファングと対峙する。

興を削がれたキラーナイトファングは頭部の第3の目を閉じると、派手に暴れ出した。

 

「ワキャキャキャキャキィイイイイィィエエッ‼︎」

 

宏高「まずはアイツの目を叩く!」

 

インナースペース内で耳にイヤホンを付けた宏高が指示を出す。

キラーナイトメアウェイブ対策として音楽を聴きながら戦闘を行っているが、タイガ達の声は宏高の脳内に直接響いてくるので、コミュニケーションに支障はない。

タイガは頷き、キラーナイトファングにぶつかっていくが、取っ組み合う中でキラーナイトファングの腕の触手に捕まり、首を締めつけられる。

 

タイガ『グアッ……』

 

身動きが取れないタイガに、キラーナイトファングの第3の目から放出されたキラーナイトメアウェイブが直撃する。

 

「フエッフェェェェェッ‼︎」

 

タイガ『ウワァッ!』

 

後方に吹き飛ばされたタイガは再びキラーナイトファングに向かって行こうとするが、ここで彼に異変が起こる。

 

タイガ『……⁉︎』

 

タイガの脳裏に浮かんでくるのは、この地球に来てからのこれまでの戦いの記憶。

 

因縁の敵、ダークキラーヒディアスと再び遭遇した時は感情的になっていた事もあり、軽くあしらわれた。

 

以前のギギ・アサシン戦でも、銃撃戦で一瞬の隙を突かれて一気に不利となり、光線技のぶつけ合いでも押し切れなかった。

 

果たしてこの先、こんな調子で地球を守り続けられるのか。

頭を抱えて苦しむタイガの心の中で、マイナスな感情が渦巻く。

 

タイガ『グウッ……ウウッ……』

 

「ワキャキャキャキャキィイイイイィィエエッ‼︎」

 

キラーナイトファングの咆哮で我に返ったタイガに強力な火球『キラーファングヴォルボール』が直撃する。

 

タイガ『グアッ⁉︎』

 

 

 

戦闘の様子を璃奈の自室から見ていた同好会メンバー達も、不安そうな表情を浮かべていた。

 

かすみ「何とかならないんですか⁉︎ねぇ、りな子!」

璃奈「………」

 

今部屋に流してる音楽を直接キラーナイトファングに向けて流せば的確なサポートになるかもしれないが、外に出ればまた悪夢に陥ってしまう。

しかし、黙り込んで俯く璃奈の胸中には、ある思いがあった。

 

(あの怪獣を生み出してしまったのが私なら、私がなんとかしなくちゃ……)

 

璃奈は椅子から立ち上がると、自室から飛び出した。

 

愛「りなりー⁉︎」

エマ「璃奈ちゃん⁉︎」

 

愛は璃奈を追いかけようとするが、せつ菜に止められる。

 

せつ菜「愛さん!今出ていくのは危険ですよ!」

愛「アタシは大丈夫だから!」

 

そう言って、愛も部屋を飛び出して行った。

 

 

────────────────────

 

 

璃奈は走っていた。

自分が行ったところで、出来ることなんて何もない。

それでも動かずにはいられなかった。

 

璃奈は足を止め、目の前で起こっているタイガとキラーナイトファングの戦いを見据える。

 

愛「りなりー!」

 

璃奈の元に愛が追いついてきた。

 

璃奈「愛さん……」

愛「りなりー……もしかして、責任感じてる?」

璃奈「……え?」

 

表情こそ変わらないものの、驚く璃奈。

この人には何でも分かってしまうんだな、と。

愛は璃奈の手を取ると、励ますように言った。

 

愛「りなりー。さっき自分は何も変わってないって言ってたけど、そんなことないよ。同好会に入って、ライブをしたいって言った時から、りなりーは確かに変わってた。表情に出てなくても、気持ちはちゃんと日々の行動に出てたんだよ。愛さんが言うんだから間違いないっ‼︎」

璃奈「……!」

 

思わず璃奈の目が潤む。その時、

 

「太陽みたいに明るい子だね」

 

愛「へ?」

璃奈「?」

 

音もなく目の前に姿を現した少女の存在に気付いた愛は頓狂な声を上げ、璃奈も少女の方に振り向く。

腰まで伸びた紫色の髪を1本に束ね、巫女服に身を包み、柔らかな笑みを浮かべているやや大人びた少女。

 

璃奈「あなたは……?」

???「通りすがりの巫女さん……かな?」

 

面白がるような笑みを浮かべながら名乗った後、少女は興味深そうに2人を見つめて言った。

 

巫女「君たちは……ちょっと特別みたいだね」

璃奈「…え?」

愛「どういう意味?」

巫女「うーん……君たち自身に分からないなら、私にも分からないかな〜」

愛「ええ……?」

 

よく理解できないことを発しながら、巫女の少女はタイガと怪獣の戦闘に目を向ける。

愛は困惑しながらも璃奈と共に同じ方向を向く。

 

巫女「あいつは人の苦しみを糧にして恐怖を振り撒く悪魔。特に不安やプレッシャーといった、ネガティブな感情を好んでるの」

璃奈「やっぱりあの時から……」

 

部屋に籠って塞ぎ込んでいる間に怪獣はずっと成長を続け、そして実体化した。

その事実に璃奈の心が締めつけられる。

 

巫女「“彼”を助けたい?」

 

璃奈の気持ちを見透かしたように彼女は問いかけてくる。

それに対し、璃奈は迷わず無言で頷いた。

 

いつまでも支えられてばかりじゃいけない。

いつか愛みたいに、誰かを“支える人”になりたい。

 

巫女「なら、手を出して」

 

巫女の少女は璃奈が差し出した両手に自身の手を添えると、身体から凄まじい輝きを放出させた。

 

璃奈「うわっ……⁉︎」

愛「何?何……?」

巫女「……スピリチュアルでしょ?」

 

やがて巫女の少女の光は集束していき、

 

巫女「私の……この地球(ほし)の願いを、()()に届けてくれる?」

 

そう少女がこぼした次の瞬間、光り輝く黄金色の剣へと変化を遂げ、璃奈がそれを手に取る。

 

(熱い……)

 

強い光を放つ剣の熱に、思わず手を離しそうになる璃奈。

そんな璃奈の手を横から握る愛。

 

璃奈「愛さん……」

愛「一緒にやろう。りなりー」

璃奈「……うん」

 

愛と璃奈は2人で剣を構え直すと、

 

愛「行くよ!せーの‼︎」

 

合図と同時に剣をタイガ目掛けて一直線に投げた。

 

 

 

『この地球(ほし)と……あの子達の夢を……守ってあげてね』

 

タイガ『……うおっ⁉︎』

宏高「何だ……?」

 

幻想的な声と共に物凄い速度で迫ってきた黄金のエネルギーがタイガのカラータイマーに入り込み、剣の形となってインナースペース内に居る宏高の目の前に降りてくる。

 

宏高「これって……まさか…⁉︎」

タイガ『そうだ……この力、この光を俺は知っている……!』

 

宏高が腰のホルダーからタイガキーホルダーを外して黄金色の剣の前にかざすと、剣がキーホルダーに宿り、新たな“力”として顕現した。

タイガのキーホルダーは二回りほど大きくなり、クリスタルも3つに増えている。

 

宏高「おいタイガ……!」

タイガ『あぁ!力が戻ってくるぜ!』

宏高「取り戻したこの力で……アイツを倒すぞ!」

 

《カモン!》

 

宏高はタイガスパークのレバーを操作すると、キーホルダー上部にある2つの球体を青、金の順にタイガスパークにかざす。

 

《アース!》

 

《シャイン!》

 

宏高「輝きの力を手に!」

 

右手でキーホルダーを握り締めた直後、上部のカバーが翼を広げるように展開。

 

タイガ『うおおおおおおおおっ!ふんっ!』

 

脚から胸部にかけてタイガの全身に黄金の鎧が装着されていき、頭部のウルトラホーンも金色に変化し大振りになる。

宏高は両腕を大きく回しながら全身を捻り、天に向かって右腕を高く突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディィィィィ……ゴー!」

 

《ウルトラマンタイガ!フォトンアース‼︎》

 

タイガ『────シュアッ!』

 

鎧を纏った力強くも神々しい、大地天空の勇者。

 

『ウルトラマンタイガ フォトンアース』。

 

まさに復活の瞬間である。

 

タイガ『………ハアッ!』

 

(BGM:タイガ・フォトンアース)

 

「ワキャキャキャキャキィイイイイィィエエッ‼︎」

 

キラーナイトファングはそれがどうしたと言わんばかりに口からキラーファングヴォルボールを2連射する。

タイガは右拳を振り下ろして1発目を叩き落とし、裏拳で2発目を弾き返した。

キラーナイトファングの足元に跳ね返った火球が着弾し、爆風に慄く。

 

「ワキャキャキャキャキィイイイイィィエエッ⁉︎」

 

逆上したキラーナイトファングはタイガに向かっていくが、腕の触手による攻撃は悉く受け止められ、反撃の掌底を喰らう。

 

タイガ『ハッ!』

 

キラーナイトファングは尚もタイガに挑みかかるが、逆に腕を押さえ付けられる。

するとタイガに再びキラーナイトメアウェイブを浴びせようと、頭部の第3の目を向けた。

 

「フエッフェェェェェッ‼︎」

 

しかしタイガはそれに気付いて、右回し蹴りをキラーナイトファングの頭部に喰らわせる。

 

タイガ『シュアッ!』

 

「フエェェェェッ⁉︎」

 

あまりの衝撃にキラーナイトファングは怯み、追い討ちでタイガは右パンチ、左ストレートからの連続パンチと重みのある連続攻撃を叩き込んでいき、そして蹴り飛ばす。

 

タイガ『ウオォォォォッ!フンッ!』

 

「ワキャキャキャキャキィイイイイィィエエッ⁉︎」

 

タイガは脇を締めつつ両手を腰まで下げ、全身を金色に光らせながら地球のエネルギーを体内に集中。

そこからストリウムブラスターと同じ構えを取り、トドメの一撃を放った。

 

タイガ『オーラム……ストリウゥゥムッ‼︎』

 

右腕のタイガスパークから金色の光線『オーラムストリウム』が迸り、キラーナイトファングに直撃。

 

「フエッフェェェェェッ⁉︎」

 

魔獣はゆっくりと倒れ、直後に悲鳴を上げながら大爆発した。

 

 

続く。




遂にフォトンアースの力を取り戻したタイガ。
愛と璃奈、そしてタイガに力を貸した巫女は結局何者だったのか…………
それは読者の皆さんのご想像にお任せします。

次回:一難去ってまた一難?


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ツナグカガヤキ(☆>▽<☆)#8

第8話ラストです。

フォトンアースのフィギュアーツまだでしょうか?


ウルトラマンタイガ・フォトンアースの活躍でキラーナイトファングは撃破された。

それによってキラーナイトメアウェイブの影響は消え失せ、悪夢を見せられていた街中の人々は一斉に目を覚ました。

 

愛「やったねりなりー!」

璃奈「……うん!」

 

これにて一件落着、と思われたが……

 

この戦いの一部始終を見ていた霧崎 幽は笑みを浮かべながらパーカーのフードを脱ぎ、首にかけているヒディア・プラズマーを取り出して精神を集中すると、ペンダントから溢れ出るドス黒いオーラに包まれた。

 

カラータイマーを点滅させながら佇むタイガは、立ち上る白煙に背を向けてその場から飛び去ろうとしたが、背後に何かの気配を感じて勢いよく振り向く。

 

タイガ『…⁉︎』

 

目を凝らすと、白煙の中からダークキラーヒディアスが現れた。

 

ヒディアス「……フッフフフフフフ……」

タイガ『ヒディアス!』

ヒディアス「それがフォトンアースか。勇ましいね………見せておくれよ。君の更なる力を……」

 

挑発するヒディアスに向かって走り出すタイガ。

 

タイガ『ハアァァァァッ‼︎』

ヒディアス「フッ!」

 

間合いが詰まったところでヒディアスは右の蹴りをするがタイガは左足を上げて受け止める。

 

ヒディアス「ハアッ!」

 

ヒディアスは続いて右回し蹴りをするが、

 

タイガ『グッ……』

 

それをタイガは両腕で受け止める。

 

ヒディアス「ほぉ……見かけによらず機敏だねぇ」

 

連続で攻撃を防がれた事に動揺するどころか、むしろそんな状況すら楽しんでいるかのような素振りを見せながら、ヒディアスは左の手刀を突き出すが、タイガは頭を左にずらして回避。

 

ヒディアス「ハッ!」

タイガ『フッ!』

 

タイガは反撃の左スイングを打つが、ヒディアスは仰け反って避け、右スイングを打つも、タイガは腰を屈めて避ける。

 

タイガ『ハッ!』

ヒディアス「フッ!」

タイガ『グウッ……』

 

そしてそこから右腕を互いに押し合い膠着状態に入る。

 

ヒディアス「フフフフ……」

タイガ『クッ…!』

 

タイガとヒディアスは互いに後方に飛び退いて一旦距離を取った後、ヒディアスは右腕を突き出す。

タイガも左腕を引き、ヒディアスが近づいた瞬間に突き出す。

互いの拳は弾き合って当たらなかったが、その反動でタイガは右拳を、ヒディアスは左拳を突き出す。

それは両者の頬に当たり、派手に火花が散る。

 

 

しばらくの静寂。

 

 

ヒディアス「ヌウッ……」

 

ヒディアスは小さな呻き声を上げ、二歩後退。

なぜならヒディアスのパンチはタイガの頬の数センチ手前で止まっており、対するタイガのパンチはヒディアスの頬にクリーンヒットしたからだ。

 

ヒディアス「やるねぇ…いい線行ってるよ。これからますます楽しめそうだ」

 

そう言ってヒディアスは忽然と姿を消した。

 

タイガ『…⁉︎』

 

タイガは周囲を見回すが、闇の気配は完全に消えていた。

 

タイガ『クッ…!』

 

今度こそ一安心……といったところでタイガは自身を見上げている愛と璃奈に気づいて顔を向け、小さく頷く。

 

タイガ『シュアッ!』

 

そして空高く飛び去っていった。

 

 

 

霧崎は煙を上げるナイトファングの指輪を拾い上げ、その手に深く握り込む。

彼の顔に浮かぶのは、悔しさでも敗北感でもなく……

 

霧崎「今回の実験も面白かったよ。君達が滅びるのが先か、僕の目的達成が先か……どちらに転がっても僕は楽しめる」

 

一種の達成感を感じているような表情で、霧崎は独りごちた。

 

 

────────────────────

 

 

そして翌日。

 

遂にジョイポリスでの璃奈のライブ当日を迎えた。

昨日あれだけ大変な事が起きた中でも、観客席には多くの観客達が来てくれていた。

誰も彼もが、喜楽に包まれた顔で璃奈のライブを心待ちにしており、その中にはもちろん色葉、今日子、浅希の姿もあった。

 

色葉「わあ……!結構集まってるね!」

浅希「天王寺さん、昨日休んでたけど大丈夫かな?」

 

ステージ裏で、璃奈は宏高によって何かを装着されていた。

 

宏高「よし、OK!」

 

それは白い電光ボードが取り付けられたヘッドホン。

 

その名も『オートエモーションコンバート璃奈ちゃんボード』。

 

内蔵されたカメラがボード裏に外の景色を映し出すことで視界を確保すると共に、璃奈の感情に合った表情をリアルタイムでモニターに投影できる優れ物だ。

 

それを頭に装着して立ち上がった璃奈は、悠然とステージに向かって歩いて行く。

その後ろ姿を見守る宏高と歩夢と愛は思う。

 

(((頑張れ!)))

 

しずくと果林とエマは願う。

 

(((頑張れ!)))

 

かすみと彼方と菜々は祈る。

 

(((頑張れ!)))

 

そしてトライスクワッドの3人も璃奈にエールを送る。

 

『『『頑張れ(よ)!』』』

 

ステージが暗転すると、大きなスクリーンに璃奈をデフォルメした猫のキャラが映し出された。

 

『ニャニャーン!』

 

今日子「あれって!」

 

『初めまして!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の、天王寺璃奈です!今日は、今の私にできる精一杯のライブを見て貰いたいです!楽しんでくれると嬉しいな!』

 

白いスモークと共にスクリーンが左右にゆっくり割れ、観客席がざわめく中、スクリーンの後ろに立っていたアイドル衣装の璃奈が現れる。

灰色を基調とした衣装に、背中の天使の羽と猫の尻尾のように垂れたプラグを模した装飾、そして何よりも人目を引く顔のボード。

璃奈は左右を見回し、次いで下を向いて「ぁ……」とか細く声を上げる。

 

下の床は璃奈自身が映る程に光沢があり、彼女はそこに映るボードを眺める。

 

今の自分は、心の底から楽しめているだろうか。

 

そんな彼女の問いに答えるように、真顔だったボードの表情は……とびきりの笑顔に変わる。

 

璃奈「わぁ……えへっ‼︎」

 

それだけで彼女は自身の成長を、変化を実感できていた。

 

(♪:ツナガルコネクト)

 

 

 

 

 

電波系デジタルな音楽が流れる中で、歌い踊る璃奈。

パフォーマンスの中でボードはコロコロ表情を変えていき、璃奈の気持ちをしっかりと表していた。

 

やがてライブは終わり、観客達から歓声と拍車喝采が巻き起こった。

それを裏で見守っていた同好会の仲間達からも。

璃奈は肩を上下させながら、パフォーマンスをやりきった達成感と、ライブ中という限られた時間の中で多くの人と繋がる事が出来た満足感に浸っていた。

 

璃奈「はぁっ、はぁっ………皆と…繋がった!璃奈ちゃんボード『にっこりん』‼︎」

 

 

────────────────────

 

 

ライブから2日後の月曜日。

 

登校してきた璃奈が教室に入ると、早速と言うべきか、真っ先に色葉、今日子、浅希の3人が璃奈に声をかけてきた。

 

浅希「おはよう、天王寺さん!」

今日子「ライブ最高だった!」

 

璃奈が「ぁ……」と戸惑っていると、色葉が提案してきた。

 

色葉「いっぱい感想言いたいんだけど、お昼とか一緒にどうかな?」

璃奈「っ……!」

 

それは璃奈が何よりも望んでいた光景の1つで、彼女達と距離を縮める絶好のチャンス。

しかし素の自分のままでは、また躓いてしまう。

そこで璃奈は、スクールバッグからスケッチブックを出してピンクのペンで何かを描き始めた。

 

色葉・今日子・浅希「ん?」

 

それはデフォルメした彼女自身の似顔絵。

誰がどこから見ても、とびきりのにっこり笑顔と分かる表情を描いた璃奈は、それを自分の顔の前に掲げて答えた。

 

璃奈「うん!一緒に食べたい!」

 

璃奈は決して感情がない訳じゃない。

 

今のように嬉しい時には声が跳ね上がっており、喜色も混じっている。

 

ただ上手く表情に出せないだけで、そこさえ何とかすれば、彼女も周りと何も変わらない感受性が豊かな女の子なのだから。

 

 

────────────────────

 

 

昼休みのカフェテリア。

 

宏高は頬杖を突き、学食のプレート…ではなくタイガのキーホルダーを見つめながら、考え込んでいた。

 

(あの時、タイガに地球の光を与えてくれたのは誰だったんだろう……)

 

「ひーろ♪」

 

宏高「うぉっ」

 

いきなり誰かに呼ばれ、肩を叩かれた。

驚きながらも背後を振り返ると、そこにはお弁当箱を持った愛がいた。

 

愛「なーに難しい顔してんの?隣いい?」

宏高「あぁ、いいよ。あれ?璃奈ちゃんはどうしたの?」

 

珍しく璃奈と一緒じゃない事を不思議に思い、宏高が訊ねる。

 

愛「りなりーはね、今日はクラスの子達と一緒に食べるって!」

宏高「……そっか」

 

自分の事のように嬉しそうに答える愛。それに納得しながら、宏高は頭の中でタイガ達に向けて言った。

 

(たぶんあの力は……この地球がくれたのかもしれないな)

 

タイガ『地球が……って、どういう意味だよ?』

 

(そのままの意味さ。この地球が俺達に力を貸してくれたってこと)

 

タイタス『あの奇跡は、地球の意思によるものだと……君はそう言いたいのか?』

 

(ああ)

 

宏高は以前の戦いの時の事を思い出していた。

 

あの光───黄金の剣が現れた時、『地球を守ってほしい』と願う声を聞いた。

その声が、怪獣騒動の時に愛と璃奈が出会ったという巫女の少女のものだったとしたら、ある程度の辻褄は合う。

 

そして改めて自分に言い聞かせるように、宏高は心の中で呟いた。

 

(守ってみせるよ。地球も……皆の夢も)

 

 

続く。




今回も読んで頂きありがとうございます!
今までで一番パートが長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?

これでアニガサキ1期の折り返し(?)地点まで来ました。
次回から彼方回です。

どうか今後も、『タイガNBNR』をよろしくお願いします!


次回 第9話「夢の彼方に」

フーマ『先手必勝!烈蹴撃(ストライクスマッシュ)!』


お楽しみに。


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夢の彼方に#1

大変長らくお待たせしてすみません。

アパート暮らしとなるとなかなか自分の時間が取れなくて、その影響で効率が悪くなるばかりですが、どうか温かく見守っていただけると幸いです。

デッカーの14話、情報量が多すぎてハンパなかったですね。
ダイナミックタイプの勇姿共々、次回が楽しみでなりません。

第9話、彼方回スタートです。

Happy Birthdayあかりん!


彼方ちゃんはいつも全力です。

 

スーパーの制服に身を包み、青果物の品出しをしている彼方。

そしてアルバイトが終われば家に帰り、台所に立って夕飯を作る。

 

(週5日のアルバイトも、お料理を作るのも、世界一大好きな遥ちゃんの笑顔が見られるなら……どーんと来いだよ〜)

 

遥は彼方の妹だ。

彼女は姉が作った肉じゃがを一口食べると、笑顔で感想を言う。

 

遥「美味しい!」

 

それに彼方は笑顔でピースをして応え、自身も味噌汁を飲む。

 

遥「お母さんは?」

彼方「夜勤だから、もう出たみたい」

遥「そうなんだ……」

 

彼方と遥の母親は夜勤を含む仕事をしており、家を空けている事がほとんどであるため、そんな母に代わって彼方が家事全般を引き受けているのだ。

すると遥がキラキラした顔で彼方に告げる。

 

遥「あのねお姉ちゃん!今度の日曜日、ライブに出る事になったんだよ!」

彼方「ほんと⁉︎すご〜い!どこでどこで?」

遥「お台場のヴィーナスフォート…。私、センターに選ばれて…」

 

照れ笑いを浮かべながら答える遥。

姉の彼方とは通う学校こそ違えど、彼女もスクールアイドルの世界に身を置いている。

そこでセンターの座を掴んだのだから、妹大好き彼方としては自分の事のように喜ばしい事だった。

飛び付く勢いで立ち上がり、遥の手を取る彼方。

 

遥「おお…」

彼方「遥ちゃん、最前列で見るよ!すごいなぁ〜、東雲学院のスクールアイドル部のセンターなんて〜!頑張ってたもんね〜」

遥「へへっ、私もお姉ちゃんのライブ、早く見てみたいなぁ」

彼方「彼方ちゃんも、早く遥ちゃんに見せたいよ〜」

 

 

 

もう既に夜も遅い時間帯。

 

彼方は自室の勉強机と向き合い、デスクライトが照らす中勉強に励んでいた。

その中で自身のスクールアイドル衣装のイラストを一瞥し「フフッ」と微笑んだ後、再び課題に取り掛かる。

 

(お姉ちゃん、明日も朝早いのにまだ寝ないのかな……)

 

二段ベッドの上の布団に入っていた遥は彼方の方をしばらく見つめた後、寝返りを打って眠りに就いた。

 

 

────────────────────

 

 

翌朝。

 

早起きした彼方は台所に立って、卵焼きを焼いていた。

 

遥「おはよう、お姉ちゃん」

 

そこへ起床した遥がやってきた。

 

彼方「おはよ〜。今朝は随分早いねぇ」

遥「うん!手伝おうと思って」

彼方「いいよいいよ〜、遥ちゃんはゆっくりしてて〜」

遥「でも…」

彼方「もうすぐだから、待っててね〜」

 

彼方の返事にどこか寂しそうな表情を浮かべる遥。

するとそこから一転、真剣な表情で彼方に申し出た。

 

遥「お姉ちゃん!……あのね、今日お姉ちゃんの同好会、見学しに行ってもいい?」

彼方「ん?」

 

それを聞いて彼方は、晴れやかな満面の笑みで了承した。

 

彼方「わぁ…!大歓迎!」

 

 

────────────────────

 

 

そして時は過ぎ、放課後の虹ヶ咲学園。

 

宏高、歩夢、せつ菜の3人は学園の玄関前に来て、見学にやって来た遥と顔合わせをしていた。

緊張した様子で背筋をピンと伸ばす彼女の傍らで、彼方が喜ばしそうに紹介する。

 

彼方「ジャーン!遥ちゃんで〜す!」

遥「っ……今日はよろしくお願いします!」

 

礼儀正しく頭を下げる遥に、宏高が歩み寄る。

 

宏高「凄いな……まさかあの東雲学院で注目度No.1の近江遥ちゃんに会えるなんてね」

遥「いえ、そんな……」

 

遥は謙遜するように答え、歩夢は先程の幼馴染みの発言の事で本人に訊ねる。

 

歩夢「宏くん、他校のスクールアイドルもチェックしてるんだね…」

宏高「これでも部長だからね。情報収集もしておかないと。それに、都内でも有名なスクールアイドル部に期待の1年生現る!って、ネットでも話題になってたし」

彼方「そうなんだよ〜!ヒロくんよく見てる〜!フフッ」

 

大好きな妹が褒められて上機嫌な彼方。

その一方で、

 

遥「急なお願いだったのに、ありがとうございます」

 

申し訳なさそうな遥に対し、

 

せつ菜「いえ!お越し頂いて光栄です!」

 

とせつ菜が言う中、タイガ達も遥を称賛する。

 

フーマ『可愛い上に…』

タイタス『礼儀正しく…』

タイガ『天使だな!』

 

彼方「何かね〜、最近の彼方ちゃんがと〜っても楽しそうだから、同好会に興味津々なんだって〜」

 

彼方が事情を話すと、宏高が肯定的に彼方の態度を明かす。

 

宏高「確かに彼方さん、どんな練習も楽しそうだもんな」

彼方「フフフ…今日の彼方ちゃんは一味違うよ〜!」

 

そう言ってドヤ顔をしながら曲がった左腕で天を指差す彼方。

ふと歩夢が感動したように言う。

 

歩夢「妹さんも彼方さんの様子を見たいって、ステキな関係だよね!」

 

それに宏高が「ああ」と同意すると、両手を叩いて締め括った。

 

宏高「よっしゃ!遥ちゃんに、ニジガクのスクールアイドルの良い所、いっぱい見て貰うか!」

 

 

続く。




今回はここまでになります。
ニジガクを訪れた遥の真意は…?


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夢の彼方に#2

Happy Birthday、自分!

それでは、彼方回の続きをお楽しみください。



宏高達が遥を迎えに行ってる間の部室。

 

そこでは果林、愛、しずく、そしてかすみが軽い話し合いをしていた。

『先手必勝‼︎』と斜めにデカデカと書かれたボードの前で、かすみがどこかズレた意気込みを語る。

 

かすみ「彼方先輩の妹とはいえ、敵情視察に来たことに変わりありません!ここは如何に我々が圧倒的ダークホースのスクールアイドルであるか、見せつけてやりましょう‼︎」

 

そう言ってボードをバンッ!と叩く。

しずくが恐る恐るかすみに訊ねる。

 

しずく「あの〜、スクールアイドルはライバルではあっても、敵ではないのでは?」

かすみ「いいえ敵です!しかも相手は同じ1年生なのに、ネットでちやほや…じゃなくて、注目されてて羨ましい!いや悔しい‼︎」

 

本音が隠し切れずに駄々漏れである。

 

かすみ「そう思うでしょ、しず子!」

しずく「えぇ……私は別に…」

かすみ「そこは悔しがってぇ!もうっ!宏高先輩も甘いんですよ!対抗意識が足りないと言うか、優しすぎると言うか……まぁ、そんな所も……ゴニョゴニョ…///」

 

不満を爆発させたかと思えば、最後は頬を赤くしながらかすみは言った。

最後の所はよく聞き取れなかったが。

すると後頭部で両手を組んでる愛が言う。

 

愛「おぉ〜!かすみん、燃えてる〜!」

かすみ「我々が東雲学院のスクールアイドル部に負けてないって事を、宏高先輩に代わって、この副部長のかすみんが証明してみせます‼︎」

愛「え?かすみんって副部長なの?」

しずく「自称ですけど……」

 

スクールアイドル同好会復活の為に奔走していた時こそ部長を名乗っていたかすみであるが、宏高にその地位を譲ってからも同好会の中心的存在であり続けたいからか、はたまた宏高の隣に並びたいからか、先程しずくが言ったように今では自ら副部長を名乗っている。

ここで果林が核心を突いた指摘をする。

 

果林「でも実際、知名度に関してはうちと東雲学院じゃ、天と地ほどの差があるわよ?」

かすみ「うぐっ!それを言われると……」

 

痛い所を突かれて呻くかすみに、愛が微妙なフォローを入れる。

 

愛「校内では、割と有名になってきたんだけどね〜」

 

“割と”という事は知らない生徒もまだまだいるという事だ。

先ずは全校生徒全員に周知させなくてはならない。

すると部室のドアが開き、四角い箱を持ったエマと璃奈が戻ってきた。

 

愛「ん?」

エマ「ティーセットを借りてきたよ〜」

 

遥を歓迎する準備として、ティーセットを借りに行っていたのだ。

エマと璃奈は楽しそうに言う。

 

エマ「遥ちゃんに会うの、とっても楽しみだね〜」

璃奈「うん。天使みたいに可愛いって、彼方さんよく言ってるし」

かすみ「可愛さでは負けませんよ!」

 

愛もテーブルをバンッ!と叩くと、

 

愛「よぉ〜し、愛さんも気()()入れちゃおっかな〜、()だけに!なんてね!アハハハハッ!」

 

お得意のダジャレを交えながら張り切る愛と、その横で苦笑いを浮かべる果林であった。

 

 

 

その後、宏高達が遥を連れて部室に帰ってきた。

 

遥「近江遥です。よろしくお願いします」

 

律儀に礼儀正しく頭を下げて挨拶をする遥。

それに対してしずくから歓迎の挨拶が始まり、

 

しずく「こちらこそよろしくお願いいたします」

 

次に愛と果林。

 

愛「楽しんでってね〜!」

果林「よろしくね」

 

その次にエマ、最後に璃奈で締めくくった。

 

エマ「待ってたよ〜!」

璃奈「よろしく。璃奈ちゃんボード『にっこりん!』」

遥「わぁ…ありがとうございます!」

 

遥が若干気圧されている中、何故か後ろを向いているかすみ。

そして振り向くと、

 

かすみ「はじめまして〜!あなたの『可愛い』はここにいる!スペシャルスクールアイドルかすみんこと、中須かすみです!今日はかすみんに会いに来てくれてありがと〜!」

 

かなりあざとい自己紹介をかました。

しかしかすみの眼前には人っ子一人おらず……

 

かすみ「ゔええっ⁉︎」

 

そして慌てて廊下に飛び出し、既に階下に移動していたメンバーに向かって叫んだ。

 

かすみ「ちょっとぉぉ‼︎置いてかないで下さいよぉぉぉぉ‼︎」

 

この状況に思わずタイガがツッコミを入れた。

 

タイガ『お前ら随分と薄情だな⁉︎』

 

 

────────────────────

 

 

遥と顔合わせした後、練習風景を見て貰う為に宏高達は広い校庭に移動した。

 

先ずはメンバー皆でランニング。

 

彼方「うおおおおおぉぉぉぉ‼︎」

 

特に今日の彼方は凄い。

開幕から全力ダッシュで、愛と並走している。

 

彼方「遥ちゃぁぁぁぁん‼︎」

 

しかも走りながら遥に手を振るほどの余裕ぶり。

遥も律儀に手を振り返しながら、驚いたように言う。

 

遥「お姉ちゃんが、あんなに速く走るなんて……!」

 

普段の生活態度からでは想像できない、と言うような反応だ。

 

宏高「うん。同好会の活動が再開してから、彼方さん凄く頑張ってるんだよ」

遥「そうなんですね……」

宏高「…?」

 

それを聞いて急に百面相し始めた遥に、宏高はどこか違和感を感じていた。

 

 

────────────────────

 

 

次のメニューは屋上でストレッチ。

 

彼方「うおおおおお〜〜〜〜〜〜‼︎」

 

顔を赤くしながら、必死の形相で前屈する彼方。

しかしまだまだ硬いのか、上手く爪先に触れない。

そんな彼方の背を押しながら、歩夢がフォローする。

 

歩夢「彼方さん!良い感じです!昨日より出来ている気がします!」

フーマ『そうかぁ?』

 

フーマはそう言うが、実際昨日よりかは数センチ曲がっているし、遥の手前もある。

 

ベキベキ鳴ってはいけない音が鳴ってる気がするが。

 

 

 

次に腕立て伏せ。

 

彼方「うおおおおお〜〜〜〜〜〜‼︎」

 

再び必死の形相を浮かべる彼方に、隣でファイルを持っている宏高が褒める。

 

宏高「いいですよ彼方さん!今までで一番低い!」

彼方「うっ…くっ…うう……」

遥「頑張れお姉ちゃん!」

 

腕がプルプル震えてる中、遥が声援を送るも、

 

彼方「ぎゃふんっ」

 

限界が来てドサッ!と倒れた。

 

宏高「彼方さん⁉︎」

 

因みにすぐ隣では愛、そしてその隣でタイタスがスイスイ腕立てを行っていた。

 

 

 

最後はバランスボールでプランク。

 

彼方「うおおおおお〜〜〜〜〜〜‼︎」

 

隣で余裕綽々にこなす果林とは違って、またまた必死の形相で汗も大分流している彼方に、せつ菜が言う。

 

せつ菜「良いですね彼方さん!良い調子!」

 

しかしその直後、彼方は足を滑らせてしまい、運悪く背後にいたかすみの顔面にバランスボールがクリーンヒット!

 

彼方「ひゃいん!」

かすみ「うあっ!」

タイガ『かすみん⁉︎』

 

こんなはずでは…というような表情でぐったりした様子の彼方に、せつ菜が告げた。

 

せつ菜「では、今日の練習はここまでにしましょう」

 

 

続く。




スクールアイドル同好会から温かい歓迎を受ける遥だったが……


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夢の彼方に#3

デッカーのEDは『カナタトオク』と『ヒカリカナタ』、そして遥の誕生日に公開されたすずめの戸締まりの主題歌は『カナタハルカ』…

そんなに彼方が好きになったのか?音楽業界(笑)


練習が一通り終わって、そこから皆が楽しい気分になれるメインイベントたる遥の歓迎会が始まる。

 

部室の丸テーブルの上にはティーセットを使った何品かのパン類やお菓子が揃えられ、宏高の仕切り直しのセリフを合図にメンバーは声を揃えて歓迎する。

 

宏高「改めまして〜」

 

一同「ようこそ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会へ‼︎」

 

遥「凄いっ…!本格的…っ!」

 

当の迎えられた遥は、目の前のご馳走や本格的ティータイムに目を奪われてそれどころではなかった。

せつ菜はその様子に微笑み、宏高は遥を座らせる。

 

せつ菜「喜んで頂けて嬉しいです!」

宏高「さぁ、座って座って」

遥「あ、はい!」

 

主役である遥が座れば、他のメンバーも次々に着席していく。

エマは申し訳なさそうに、かすみは自慢げに言う。

 

エマ「急いで準備したから、お菓子はクッキーしか焼けなくて」

かすみ「かすみんは特製コッペパンを用意しました!」

遥「可愛い〜!」

 

遥がコッペパンやクッキーの出来栄えに感激していると、かすみが腕を組んでドヤ顔で言った。

 

かすみ「フフンッ♪それほどでもありますよぉ」

 

そしてようやく各々が歓迎会のご馳走に手を付けていき、かすみ特製コッペパンを食べた彼方がキラキラした顔で遥に言う。

 

彼方「んんっ⁉︎遥ちゃん!これ彼方ちゃんイチオシ〜!」

遥「じゃあ!はむっ」

 

彼方に勧められて、遥も特製コッペパンを口に含む。

 

遥「美味ひぃ〜!」

 

遥は片手で落ちそうになる頬を押さえて表情を幸福に緩め、それを見てかすみが「ニッシッシ♪」と笑ってガッツポーズを決める。

自身の手作りパンが褒められて上機嫌になっていると、エマはクッキーを食べながら、果林は紅茶を飲みながら遥に勧める。

 

エマ「クッキーも沢山食べてね?」

果林「そうね。エマが食べ過ぎる前に」

エマ「果林ちゃ〜ん!」

 

そんなやり取りに一同が「アハハハハハハッ‼︎」と楽しげに笑う中、宏高は遥に訊ねる。

 

宏高「今日、見てみてどうだった?」

遥「あ…はい!お姉ちゃんも皆さんも楽しそうでした!それぞれの個性に合った練習もあって、素敵な同好会ですね!」

宏高「ありがと。そう言ってもらえて嬉しいよ」

 

その直後、ガタッ!と大きな物音がした。

 

宏高&遥「ん?」

 

2人の目の前で、彼方が突然テーブルに突っ伏してしまったのだ。

 

遥「え…お姉ちゃん…?」

 

呆然とする遥を尻目に、しずくは言う。

 

しずく「大丈夫ですよ」

 

そして寝てしまった彼方の頭に枕を差し込み、エマがブランケットを背中に掛けた。

 

しずく「枕はちゃんとありますから」

遥「え⁉︎」

エマ「この枕、彼方ちゃんのお気に入りなの。寝心地良いんだって」

 

エマがそう言うと、遥は動揺したように訊ねる。

 

遥「あの!お姉ちゃんはよく寝ちゃうんですか?」

しずく「はい。私の知る限り、彼方さんは寝るのが大好きだと思いますよ?」

エマ「特に膝枕で寝るのが好きだよね」

遥「膝枕ぁ⁉︎」

 

しずくとエマの返答に上擦ったような声で驚く遥に、愛も言う。

 

愛「そうそう!愛さんもしてあげたよ〜」

遥「お姉ちゃん……皆さんに膝枕をしてもらうほど、頻繁に寝ているんですね…」

 

どこか難しい顔を浮かべる遥を他所に、しずくと璃奈はここ最近の彼方の居眠り態度を思い返す。

 

しずく「そう言われると…最近、いつにも増してよく寝ているような……」

璃奈「確かに……練習しながら……寝てた」

宏高「…そうなの?」

しずく「はい。この前も、全然起きないくらい熟睡してて……」

 

そして全員の視線が熟睡してる彼方に集中する。

 

エマ「彼方ちゃん…?」

 

試しにエマが声をかけてみるも、彼方が起きる気配はなかった。

 

 

 

外は夕方になり、寝てしまった彼方の事は起きるまでそっとしておく事になり、部室では遥との会話が続いていた。

 

宏高「俺は、皆からの推薦で部長になったんだ」

遥「へぇ〜!そうだったんですね!」

 

宏高が遥に自身が部長になったきっかけを話していると、ようやく寝ていた彼方が起きた。

 

彼方「……あれ?」

遥「目、覚めた?」

 

寝惚け眼で周囲を見回す彼方に遥がそう訊ねると、

 

彼方「…ハッ⁉︎くぅ〜っ!遥ちゃんにお姉ちゃんの恥ずかしい所見られてしまった〜〜っ!」

 

彼方は状況を理解して完全に目を覚まし、枕を顔に押し付けて羞恥に悶える。

 

遥「恥ずかしくなんかないよお姉ちゃん。疲れて当然だよ?いっぱい無理してるんだから」

彼方「…ん?無理してるって、何を?」

遥「やっぱり……」

彼方「遥ちゃん?」

 

彼方が無意識だった事にますます心配そうな顔をする遥に対し、彼方は本当に心当たりがないような顔をしている。

そんな彼方に気付かせる為に遥は言う。

 

遥「お姉ちゃん、同好会が再開してから、あんまり寝てないでしょ?」

彼方「うん。つい楽しくて〜」

遥「私、お姉ちゃんが忙しすぎて、倒れちゃうんじゃないかって心配で……それで、今日見学に来たの」

彼方「そうだったの?」

 

それが遥が、虹ヶ咲学園を訪ねた理由だった。

 

遥「でも、今日のお姉ちゃんは、疲れなんて感じさせないくらい元気で楽しそうで、すごく嬉しかった!いつも私を優先してくれたお姉ちゃんが、やっとやりたい事に出会えたんだ!って」

彼方「遥ちゃん……」

 

宏高(……?)

 

何かおかしい。

宏高だけがそう感じている中、遥は続ける。

 

遥「今のお姉ちゃんには、同好会がとても大事な場所だって、よく分かったの。だから私、決めたよ」

彼方「ん?何を?」

 

話についていけない彼方。

そんな姉の目をまっすぐ見つめ、遥は自身の決意を告げる。

 

遥「私……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スクールアイドル辞める‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

ほんの数瞬。

この部室内の空間だけ時が止まったかに思えるような、そんな沈黙が続いた。

1分くらい経ったような気がする。

ようやく、言葉の意味を呑み込めた彼方から微かに反応が聞こえた。

 

彼方「ん⁉︎」

 

そして、宏高は驚愕し、彼方は絶叫した。

 

宏高「なっ……⁉︎」

彼方「えええええええええええっ⁉︎」

 

他のメンバー全員も、戸惑いを隠せない。

 

『えっ……』

 

彼方「や……やめ……どっ……⁉︎」

 

彼方は問い質そうとするも、あまりの動揺とショックで上手く呂律が回らない。

代わりに宏高が問い詰める。

 

宏高「どうしてさ⁉︎」

遥「このままじゃ、お姉ちゃんが体壊しちゃうから……」

彼方「彼方ちゃんが寝ちゃったせいで、遥ちゃんの事心配させちゃったの?大丈夫だよ〜!」

 

何とか思い止まらせようと妹を宥める彼方だが、遥は椅子から立ち上がって強く反論する。

 

遥「全然大丈夫じゃないよ‼︎」

彼方「ああっ……あ……」

遥「お姉ちゃんはお母さんが忙しいからって、お家の事全部して!家計を助けたいからって、アルバイト掛け持ちして!奨学金貰ってるからって、勉強も頑張って‼︎その上スクールアイドルもなんて、誰だって倒れちゃうよ‼︎」

 

それは大事な姉の為に、妹として出来る最大限の思いやりと恩返しだった。

やがて遥は姉の重荷を外す思いで呟く。

 

遥「もういいの……」

彼方「ぇ…?」

遥「私の事より、お姉ちゃんにはやりたい事を全力でやって欲しいの」

彼方「……遥ちゃん……」

 

ここで情報を整理する為に、しずくが恐る恐る遥に訊ねる。

 

しずく「あの〜……その為に遥さんはスクールアイドルを辞めるんですか?」

遥「はい」

 

しずくの問いにも毅然と返す遥。

それだけで彼女の引退宣言が本物であるという事が嫌でも伝わってくる。

当然、彼方がそれを良しとする筈がなく、遥の両肩を掴んで言い聞かせるように言う。

 

彼方「ダ、ダメ!そんな、遥ちゃんは夢を諦めちゃダメぇ‼︎」

遥「お姉ちゃんが苦労してるの分かってて、夢を追いかけるなんて出来ないよ‼︎」

彼方「あっ……そんなの、気にしなくていいんだよ〜。だって、遥ちゃんは大事な妹なんだもん」

遥「どうして……?妹だったら、気にしちゃいけないの?」

彼方「心配させちゃってごめんね?彼方ちゃん、もっと頑張るから!」

 

違う。

 

自分が伝えたい事はそうじゃないのに中々分かってくれない彼方に、遥は初めて姉に対して激情を抱いた。

 

遥「…っ!お姉ちゃんの、分からず屋‼︎」

 

遂に業を煮やした遥は、そのまま部室を飛び出してしまった。

 

彼方「あっ!」

宏高「遥ちゃん⁉︎」

 

宏高は慌てて起立してから、「俺見てくる!」と言って遥を追いかけて部室を出る。

取り残されたメンバー、特に彼方は追いかける事すら出来なかった。

遥のあんな言葉を聞いてしまったから。

 

彼方「は……遥ちゃんが……怒った……?」

 

遥があんな風に声を荒げて怒る所を初めて見た彼方は、思考が真っ白になる程に茫然自失してしまっていた。

 

 

────────────────────

 

 

虹ヶ咲学園の正面入口。

 

宏高「遥ちゃ〜ん!」

遥「あ…」

宏高「ハァ……ハァ……」

 

学園を出ようとしていた遥を呼び止めた宏高は、気まずそうな表情で訊ねる。

 

宏高「本気なの?スクールアイドル辞めるって」

遥「はい」

宏高「ぁ……君は、それで良いの?」

遥「もう、決めた事なんです。お姉ちゃんが背負ってきたものは、今度は、私が背負うべきなんです。お姉ちゃんの事、よろしくお願いします」

 

そう言って頭を下げた後、遥は宏高に背を向け、そのまま去ってしまった。

宏高はその場に立ち尽くし、先程の遥の言葉の意味を考えていた。

 

彼方が背負ってきたものを遥が背負う。

それはつまり、姉の苦労や負担をこれからは遥が引き受けるという事。

 

スクールアイドルを捨ててまで。

 

とてもそんな境遇の中で、彼方がスクールアイドルをやっていける訳がない。

 

そんなのは絶対にダメだ。

きっと何か他に良い方法があるはず。

 

彼方と遥、どちらの夢も大切だと思う宏高は、再び遥を呼び止めようとしたが───

 

フーマ『その辺にしときな』

 

フーマに止められた。

 

タイガ『宏高……こればかりはあいつら2人の問題だ』

タイタス『ここで君が無闇に首を突っ込んでも、かえって状況を悪化させるだけだ……』

宏高「…っ!それでも……」

タイタス『今は様子を見るしかない』

 

ウルトラマン達に諭され、宏高はもどかしい気持ちで遥の背中を見送るしかなかった。

 

 

続く。




すれ違う(彼方)()……


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夢の彼方に#4

Happy Birthday彼方!!

大変長らくお待たせいたしました!
彼方回もいよいよ大詰めです。


翌日。

 

校内の中庭でスクールアイドル同好会の面々は弁当や購買の食品をそれぞれ持ち寄って昼食を摂っていたが、その輪に広がる空気はとても重かった。

 

昨日あんな出来事があったので、当然と言えよう。

特に彼方はその中心にいた人物なので、一際重い空気を放っていた。

 

いたたまれなくなった宏高が彼方に「あの…」と話しかけるが、それを遮るように彼方は哀愁を帯びた声で喋り出した。

 

彼方「昨日の夜ね……」

宏高「………」

彼方「遥ちゃんと、話そうとしたの」

 

 

昨夜の近江家。

 

この日も母親が夜勤で不在の中、姉妹2人で夕食を摂っていた。

黙々と食べ進める遥に対し、未だ妹の引退宣言を聞いたショックを引きずっているのか、スプーンが進まない彼方。

 

遥「ごちそうさま」

彼方「あ……」

 

遥が椅子から立ち上がり、食器を重ねている所で彼方が切り出す。

 

彼方「ねえ、スクールアイドルを…」

遥「その話題は、もうおしまいにしよう?」

 

食器を流しに入れながら遥は続ける。

 

遥「お姉ちゃんと喧嘩したくて、辞める訳じゃないから。今度のライブ、絶対来てね!」

 

 

遥にとっては最後のライブになる場所には必ず来て欲しいと、一切の悔いが無いような笑顔で言われたのだ。

 

彼方「…って言われたら、何も言えなくなっちゃって……」

 

彼方は寂しそうに、哀しそうに言う。

 

彼方「遥ちゃん、せっかくスクールアイドルになったのに、心配かけちゃって……遥ちゃんが辞めるくらいなら……いっそ、彼方ちゃんが…」

宏高「それはダメだ‼︎」

彼方「あっ……⁉︎」

 

罪悪感で押し潰されそうになった彼方が自棄になったようにそんな事を言うと、宏高が強い口調で否定した。

 

宏高「あなたと遥ちゃんのどちらかが夢を捨てるなんて事、絶対にあっちゃいけない!」

彼方「ヒロくん……」

 

するとエマが立ち上がり、目線だけを宏高に向けてキョトンとする彼方の隣に座って、訊ねる。

 

エマ「彼方ちゃん。それは本当に、彼方ちゃんが望んでいる事なの?」

 

それに対し彼方は数秒考えて、顔を下に向けながら否定した。

 

彼方「……違う。彼方ちゃんの望みは……ずっと探してた夢は……ここにある」

 

思い出すのは、同好会が再び始まってからのこれまでの日々。

 

彼方「同好会が再開してから、ずっと楽しかったんだ〜。やりたい事がどんどん増えていって、それを一緒に目指す仲間が居るのがすごく幸せで…」

 

楽しかった事、嬉しかった事、悩んだ事……それら全てが彼方にとってかけがえのない思い出。

 

彼方「皆との同好会は、彼方ちゃんにとってもう、大事な、失いたくない場所なんだよ」

 

それを再び失うなど、彼方には考えられない。

なぜならそれが、近江彼方という少女の一部になっているから。

 

彼方「でも、遥ちゃんの幸せも守りたいの……そんなの、我儘だよね?」

 

それを即座に否定したのは、果林だった。

 

果林「そうかしら?それって我儘じゃなくて、自分に正直って言うんじゃない?」

 

続いてエマ、歩夢、タイタス、璃奈が言う。

 

エマ「うん!自分に嘘ついてるより、ずっと良いと思うよ」

歩夢「きっと遥ちゃんも、彼方さんの幸せを守りたいんだと思います!」

タイタス『姉は妹の為に、妹は姉の為に。素晴らしい姉妹ではないか!』

璃奈「似た者姉妹だと思う」

彼方「似た者姉妹?」

 

彼方が不思議そうに訊ねると、愛と菜々、フーマが言う。

 

愛「だって、二人とも言ってる事一緒だよ?」

菜々「そうですね。お二人とも全部自分一人で解決しようとしています」

フーマ『それで互いに譲れないでぶつかり合ってちゃ、世話ないぜ』

彼方「でも遥ちゃんは、彼方ちゃんが守らないと!」

 

未だ姉の責任として言い募る彼方だが、そこで宏高とタイガが静かながらも強く響く口調で言った。

 

宏高「彼方さん、遥ちゃんはもう、守ってもらうだけの人じゃないと思います」

彼方「え?」

宏高「だってそうじゃなきゃ、お姉さんの事を助けたいって、あんなに真剣になりませんよ」

タイガ『あの子にも、自分で頑張ってみようって気持ちがあるんだ。もっと信じてあげようぜ?』

彼方「ぁ……」

 

それが決定的になり、今まで彼方の中に根付いていた固定概念が崩れ、より遥の笑顔や言葉が鮮明化され、彼方自身の誤った認識を正していく。

 

彼方「……何となく、分かったような気がする……」

 

まだほんの僅かで、全てを理解できた訳じゃない。

それでも彼方は、遥の成長を、自分を想い労る妹の気持ちを汲み取る事が出来た。

彼方はその場から立ち上がると、仲間達の前で言う。

 

彼方「遥ちゃんにちゃんと伝えなきゃ!」

 

 

────────────────────

 

 

日曜日のヴィーナスフォート。

 

そこには東雲学院スクールアイドル部のライブを一目見ようと、たくさんの観客が設けられたステージに詰めかけていた。

そんな様子をステージの裏側から、遥が不安そうに眺めている。

センターとして歌う不安も勿論あるのだが、大好きな姉が来ていない事に大きな不安を抱いていた。

そこに同じメンバーの金髪異国系少女のクリスティーナがやってくる。

 

クリスティーナ「遥さん!お客様ですよ」

 

それに続いてやって来たのは、宏高とせつ菜。

他のメンバーは、2階の客席で待機している。

 

遥「わあ!来て下さってありがとうございます!あの、お姉ちゃんは一緒じゃないんですか?今日はどうしても見て欲しいんです。だって……」

 

遥が緊張した様子でそう言うと、宏高は彼女の両手を取って何処かへと引いていく。

 

宏高「遥ちゃん、行こう」

遥「え?」

宏高「彼方さんが待ってる!」

遥「ええっ⁉︎」

 

その様子を後ろから見ながら、残されたせつ菜とクリスティーナは互いを見ながらフフッと笑い合った。

 

 

1階の観客席の最前列に連れてこられた遥は何が何だか分からず、宏高に訊ねる。

 

遥「あの、何なんですか?」

宏高「まぁ、見てなって」

 

すると照明が消え、ステージに菫色のライトが照らされた。

遥がそちらに注意を向けると、そのタイミングでステージに紫の踊り子衣装を纏った彼方がコツコツと進んできた。

彼方は中央に立つと、最前列に佇む遥に目敏く気づいてウインクを送った。

 

彼方「フフッ♪」

遥「あ…!」

 

全く展開が読めず戸惑うばかりの遥を置いて、彼方のライブは始まった。

 

(♪:Butterfly)

 

 

 

 

 

それは人生を共に歩んできた遥へと向けた、蝶の羽ばたきがイメージの将来の「夢」を応援する歌。

 

歓声が沸き上がる中、パフォーマンスを終えた彼方がステージ裏に戻ると、そこに遥がやってきて勢いよく抱きついてきた。

 

遥「お姉ちゃ〜ん!」

彼方「うおっ!おおっと〜」

遥「素敵なライブだった〜!」

彼方「遥ちゃん」

 

宏高とせつ菜が見守る中、最初に切り出したのは彼方。

 

彼方「ごめんね。遥ちゃんの事、分かってなくて……遥ちゃん、彼方ちゃんの事、とっても大事に想ってくれていたんだね。……ありがとう」

遥「あ…」

 

遥を抱きしめながら謝ると同時に感謝を伝えると、自分たちのこれからについての考えを述べていく。

 

彼方「あのね、二人とも同じ想いなら、お互いを支え合っていけると思うの」

遥「支え合って…?」

彼方「これからは家の事いっぱい手伝ってね。お互い助け合って、スクールアイドル続けていこ?二人で夢を叶えようよ」

遥「お姉ちゃんはそれでいいの?アルバイトをしながらスクールアイドルって、やっぱり大変だよ?」

彼方「平気平気!だって、遥ちゃんがスクールアイドルをするのも、彼方ちゃんの夢なんだもん!」

遥「お姉ちゃん……」

 

迷いの表情を浮かべながら俯く遥に対し、彼方は勝ち誇ったように挑発する。

 

彼方「あれ〜?遥ちゃんは〜、彼方ちゃんがこんな素敵なライブをしたのに、今日で辞めるなんて悔しいって思わないの?」

遥「それは……思う……」

彼方「フフッ」

 

そして彼方は手を差し出して言う。

 

彼方「スクールアイドルではライバルだよ?お互い頑張ろ!」

 

その言葉に目を潤ませながら、遥は強く「うん!」と頷き、彼方の手を取る。

こうして二人は、元の仲良し姉妹に戻った。

その光景を、宏高とせつ菜は喜ばしげに見つめていた。

 

タイガ『どうやら、お前の望んだ結末になったみたいだな』

宏高「…ああ」

 

クリスティーナ「続ける決心をしたようですね」

 

そこへクリスティーナと、同じ東雲学院スクールアイドル部のメンバーである『支倉かさね』がやってきた。

 

宏高「すみません…急なお願いをして、時間を作ってもらっちゃって……」

せつ菜「彼方さんの為にステージを貸して下さり、ありがとうございます」

かさね「おかげでメンバーの危機が救われたよ〜!それに、とっても素敵なライブで、やる気もらっちゃった!」

宏高&せつ菜「あ…!フフッ」

 

その時。

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴ………

 

 

 

 

宏高「…⁉︎」

せつ菜「何ですか…?」

 

遥「お姉ちゃん……」

彼方「……」

 

ヴィーナスフォートが微かに揺れた。

 

悪意の獣が、そこに近付いている。

 

 

続く。




近江姉妹が和解したのも束の間、それを壊すかのように悪意は降り立つ……

次回が彼方回のラストになります。
なんとか頑張って書いていきますので、どうか応援よろしくお願いします。


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夢の彼方に#5

新年明けましておめでとうございます。
2023年最初の更新です。

第9話ラストです。
今回のバトルパート、タイガの出番はありません。
理由はスピンオフの第8回を読んで頂ければ分かると思います。
https://syosetu.org/novel/254427/

それではどうぞ!


「キュイイイイイイイイイッ‼︎」

 

ヴィーナスフォートを中心とした半径10メートルの所に怪獣が現れた。

下半身から頭が生えているという、奇抜な見た目をしたムカデのような怪獣。

 

『百足怪獣・ムカデンダー』である。

 

それにより近隣の街や住民には避難勧告が出され、ヴィーナスフォートの中に居る人々も突然の怪獣災害でパニックに陥っていた。

そんな中で、宏高はせつ菜に言う。

 

宏高「せつ菜、彼方さん達を連れて皆と合流しててくれ!」

せつ菜「宏高さんっ⁉︎」

クリスティーナ「一体どちらへ⁉︎」

 

せつ菜とクリスティーナが制止の声をかけるも宏高は止まらず、ステージ裏から飛び出していく。

そんな中、会場の出入口に向かって走っていく宏高の姿が、2階の客席に居る果林の目に留まった。

 

果林「……?」

 

 

────────────────────

 

 

裏口から外に出た宏高はヴィーナスフォートに近付いてくるムカデンダーの姿を捉えて身構える。

 

フーマ『ったく、次は遥の番だって時によ!』

宏高「敵さんはそんなのお構い無しさ。行くぞフーマ!」

 

宏高はタイガスパークを装着した右腕を掲げ、レバーをスライドさせる。

 

《カモン!》

 

腰のタイガホルダーから左手でフーマキーホルダーを取り外し、右手で握り直すとタイガスパーク中心部のクリスタルが青く発光。

 

宏高「風の覇者!フーマ!」

 

フーマ『はあああああっ!ふん!』

 

宏高は天高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンフーマ!》

 

フーマ『────セイヤッ!』

 

フーマはムカデンダーの前に降り立ち、ファイティングポーズを取って構える。

 

フーマ『さっさと終わらせるぜ!』

宏高「あ、おい待て!」

 

宏高が制止するも、フーマは攻撃態勢に入り、

 

フーマ『先手必勝!烈蹴撃(ストライクスマッシュ)!』

 

タイガスパークから放出したエネルギーを右足に集め、白い稲妻を帯びた回し蹴り『烈蹴撃(ストライクスマッシュ)』を繰り出した。

それを喰らったムカデンダーの首は勢いよく吹っ飛ばされ、地面に滑り落ちる。

 

フーマ『何だ?随分呆気ねぇな』

 

その時、衝撃的な事が起こった。

 

ムカデンダーの首がひとりでに動き出し、兎のようにピョンピョン飛び跳ねているのだ。

 

フーマ『ハァ⁉︎』

 

フーマが意表を突かれている間に、残った胴体が背後からフーマを急襲する。

 

フーマ『うおっ⁉︎』

 

ムカデンダー(胴体)に連続で殴りつけられ、そこから吹き飛ばされて地面に倒れ込むフーマ。

その隙に分離していた首と胴体が合流し、ピタッとくっついて元に戻った。

 

フーマ『おいおい、何だってんだこの怪獣⁉︎』

宏高「ムカデンダーは頭と胴体をそれぞれ別々に動かせるんだ」

フーマ『それ先に言ってくれよ!』

宏高「先走ったのそっちでしょうに!」

 

「キュイイイイイイイイイッ‼︎」

 

宏高と少々揉めながらもフーマは再びムカデンダーに向かっていき、蹴りを入れて続けざまにムカデンダーを掴んで前方に投げ飛ばす。

 

フーマ『フッ!セイヤッ!』

 

「キュイイイイッ⁉︎」

 

宏高「あいつにも弱点はある。もう一度頭と胴体を引き離せ!」

フーマ『あいよ!』

 

フーマは倒れ込んだムカデンダーに馬乗りになり、怪獣の硬い皮膚をも切り裂く素早いチョップ『破岩斬鉄拳』でムカデンダーの首を切断した。

そしてムカデンダーの胴体を背負い投げし、首を追いかける。

 

フーマ『捕まえたぜ!』

 

ムカデンダーの首を押さえ込んだその時、胴体の方に変化が起きた。

何やら突然苦しみ出したのだ。

 

フーマ『?……ははーん……』

 

宏高が教える前にムカデンダーの弱点に気付いたフーマは、頭をガシガシしながら胴体を翻弄。

胴体は苦しみながら左へ、右へと行ったり来たりしている。

 

宏高「(フーマのやつ、完全に楽しんでるな……)」

 

ムカデンダーは首と胴体を別々に動かせるが、痛覚や感覚を共有している為、どちらかがダメージを受けるともう片方も反応するという弱点がある。

 

フーマ『ほらよっ!』

 

フーマがムカデンダーの頭に目潰しをすると、胴体が某大佐のように目を押さえるような仕草をしながら崩れ落ちた。

 

タイガ『なかなか惨い事するなお前……』

フーマ『旦那後はよろしく〜!』

 

フーマは気が済んだのか、タイタスに出番を振った。

 

宏高「すげぇ中途半端なとこで代わるなぁ」

 

《カモン!》

 

宏高はタイガスパークのレバーをスライドさせ、タイガホルダーから左手でタイタスキーホルダーを右手で握り直す。

 

宏高「力の賢者!タイタス!」

 

タイタス『うおおおおおっ!ふんっ!』

 

大きく全身を捻り、天高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンタイタス!》

 

タイタス『────フンッ!』

 

フーマと入れ替わって現れたタイタスはムカデンダーの頭の角を持ち、ハンマー投げの如く3回ほどターンして、首を豪快に上空へ放り投げた。

その後を追って気絶したように動かなくなった胴体が空に向かって飛んで行く。

このままではまた首と胴体が合体してしまう。

しかし、それを黙って見過ごすタイタスではない。

 

タイタス『星の一閃、アストロビィィィム‼︎』

 

額のアストロスポットから星型のエフェクトが連続している一直線の黄緑色の光線『アストロビーム』が放たれ、ムカデンダーの首を破壊。

分身を失い、残った胴体が事切れたようにゆっくりと転落していく。

 

タイタス『うおおおおっ!』

 

タイタスは上空目掛けて高く飛び上がり、『ワイズマンズフィスト』でムカデンダーの胴体を木っ端微塵に粉砕すると、そのまま飛び去って行った。

 

 

 

 

ムカデンダーがタイタスに倒された後、宏高が変身を解いて戻って来た瞬間に東雲学院スクールアイドル部のステージが始まり、彼方は遥との約束通り最前列で見届けた。

 

 

────────────────────

 

 

それから数日後。

 

ジュー……

 

遥「あっちゃ〜……」

 

遥は台所で彼方から料理を教わっていた。

だがなかなか上手くいかずに玉子焼きを黒く焦がしてしまう。

 

彼方「それ彼方ちゃんが食べる〜」

遥「お姉ちゃんは、もっと上手に出来た方食べて!」

彼方「気にしないのに〜」

遥「私が気にするの!やっぱり私がアルバイトして、お姉ちゃんが料理した方が……」

彼方「遥ちゃんのアルバイトはダ〜メ!」

 

遥が役割交代を提案するも、彼方は断固として却下。

 

遥「むぅ……過保護!」

彼方「いいんだも〜ん、遥ちゃんのお料理食べられて、幸せなんだも〜ん。フフッ」

遥「もう!………夕飯の時、作り方教えて…?」

 

遥が頬を膨らませつつも照れ臭そうにお願いすると、

 

彼方「あ……もちろん!」

 

彼方は満面の笑みで妹の頼みに応えたのだった。

 

 

続く。

 




最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます!

今回出現したムカデンダー、描写こそありませんでしたが、これもヒディアス(霧崎)が召喚した個体です。
こんな感じで、タロウの怪獣もちょくちょく登場させていきます。

次回からようやく作者の推し、しずく回に突入します!
そしてその次も推しの果林回なので、これは気を引き締めていかなくてはなりませんね……

今年も『タイガNBNR』をよろしくお願いします!


次回 第10話「夕立ちの告白」

ヒディアス「どこまでも予想の斜め上を行く奴らだ…!」


お楽しみに。


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夕立ちの告白#1

皆様ご無沙汰しております。
お待たせしました。お待たせしすぎて本当に申し訳ございません(>_<)

前々から書いてはいたのに、どうしてこんなに間が空いてしまったのだろうか……

何はともあれ第10話、本日誕生日のしずく回がスタートです。

Happy Birthdayしずく‼️



「ある街の、ある劇場に、1人の少女がいました。彼女の夢は、この街一番の歌手になる事。」

 

ステージ上でスポットライトを浴びながら独白する、白いドレスを纏った少女。

 

「そして、沢山の人に歌を届ける事。あなたの、理想のヒロインになりたいんです!」

 

「無理だよ」

 

背後から現れたもう一人の少女がそれを否定する。

彼女は黒いドレスと仮面を身につけている以外、白いドレスの少女と瓜二つだった。

 

「私の歌なんて、誰にも届かない。本当は分かっているんでしょう?あなたは、私だもの……」

 

白と黒、それは少女の光と影……

 

 

────────────────────

 

 

「ハハハハハハハハハッ‼︎」

 

それはいつも通りの日常の最中に起きた。

突如、空からダークキラーヒディアスが大きな高笑いと共に現れたのだ。

ヒディアスは両腕に紫色の光刃を出現させると、着地と同時に地面の上に叩きつけた。

これによって辺りが破壊され、その凄まじい衝撃に逃げ惑う人々が振動に足を取られて転倒していく。

 

ヒディアス「フフフフ……」

 

その光景を虹ヶ咲学園の教室から目撃した宏高は瞬時に察知した危機に突き動かされるように校舎を飛び出し、人気のない場所に移動。

 

宏高「行くぞタイガ!」

タイガ『おう!』

 

宏高はタイガスパークを装着した右腕を掲げ、レバーをスライドさせる。

 

《カモン!》

 

腰のタイガホルダーからタイガキーホルダーを選択して左手で取り外し、右手に握り変える。

 

宏高「光の勇者!タイガ!」

 

タイガ『はあああああっ!ふっ!』

 

宏高は天高く右腕を突き上げながら叫んだ。

 

宏高「バディー……ゴー!」

 

《ウルトラマンタイガ!》

 

タイガ『────シュア!』

 

タイガは勢いよく地面に着地すると、ヒディアスに向かって戦闘の構えを取る。

 

タイガ『ハッ‼︎』

ヒディアス「………やぁ」

タイガ『ヒディアス………うおおおおおおっ‼︎』

 

両拳を握り締めながら、ヒディアスに向かっていくタイガ。

 

ヒディアス「物の見事に獲物が食い付いたな!」

 

タイガは高く飛び上がってパンチを繰り出そうとするが、ガラ空きになった胴回りにヒディアスのハイキックを喰らう。

 

タイガ『ヘアッ‼︎』

ヒディアス「フッ‼︎」

タイガ『グウッ⁉︎』

 

タイガは一瞬よろけるも、反撃としてヒディアスに右膝蹴り、続けて右エルボーを打ち込むが軽々と受け止められ、更にそこから繰り出した右回し蹴りもヒラリと躱される。

 

タイガ『フッ‼︎』

ヒディアス「フンッ……」

タイガ『デヤッ‼︎』

ヒディアス「…ハハハッ…」

 

間合いを取って睨み合うタイガとヒディアス。

その時、上空から一つの光の物体が落下してきた。

 

タイガ『何だ⁉︎』

ヒディアス「おぉ……ゲスト様のご到着か」

 

両者が同時に振り向くと、白煙の中からポセイドンの武器、トライデントを思わせる三叉の槍を持った宇宙人が現れた。

 

???「………」

 

タイガ『あいつは……バルキー星人?』

宏高「ラースだと⁉︎」

フーマ『知ってんのか?』

宏高「昔あったゲームに出てきたバルキー星人の同族だ。でも何でこの地球に?」

 

このラースと呼ばれるバルキー星人は、頭部が鯱を思わせるような形状をしていたり、各部のデザインがゴージャスになっていたりと、非常にヒロイックな見た目をしていた。

宏高が疑問に思う中、ヒディアスはラースに近づいて話しかける。

 

ヒディアス「お膳立ては整えた。そしてこれはもう一つ、僕からのプレゼントだ」

 

ヒディアスはそう言うと、掌から水色の発光体を取り出し、その場で軽く放り投げた。

そこから左横にずれると、発光体はカッ‼︎と青く光り輝き、怪獣に変貌した。

 

「グエエエエエエェェェッ‼︎」

 

鼻先に角を生やした二足歩行型の怪獣、『竜巻怪獣・シーゴラス』である。

 

宏高「シーゴラス……!」

 

ヒディアス「この怪獣は君の好きに使っていい。では、後はご自由にどうぞ」

ラース「フンッ……」

 

そしてヒディアスは紫色のオーラと共に、煙のように姿を消した。

 

タイガ『あいつ、一体何がしたかったんだ⁉︎』

タイタス『とにかく今は目の前の敵だ!』

宏高「シーゴラスは絶対ここで倒す!津波なんか起こさせてたまるか!」

タイガ『ああ!』

 

タイタスと宏高の声で我に返ったタイガは、眼前のシーゴラスとラースを見据え、身構える。

 

ラース「……やれ」

 

「グエエエエエエェェェッ‼︎」

 

タイガはシーゴラスに向かって走り出し、接近直後に重心を下げてタックルを喰らわせる。

 

タイガ『ヘアッ!』

 

するとそこへラースが槍を振り翳して襲いかかるも、タイガは既の所で回避、バク転で後退し距離を取る。

 

《カモン!》

 

宏高はタイガスパークのレバーを操作し、左腕を掲げてプラズマゼロレットを出現させる。

後部のボタンを押して中央のクリスタルと一対のブレードを展開し、クリスタルの裏の発光部に右手をかざした後、下部の赤いスイッチを1回押した。

 

《プラズマゼロレット、コネクトオン!》

 

ウルトラマンゼロの幻影が一瞬重なった後、タイガは左腕を横に伸ばしてエネルギーをチャージしてから左腰に、右腕を水平に曲げて胸の前に持っていくと、額のビームランプから光線を放った。

 

タイガ『タイガエメリウムブラスター‼︎』

 

青色の細い光線はシーゴラスの頭部に命中し、角を粉砕。

これによってシーゴラスは、津波や雷を自在に操る事は出来なくなった。

 

「グエエエエエエェェェッ⁉︎」

 

続けてタイガは右腕を右腰に、左腕を水平に曲げて胸の前に持っていき、先程と逆の構えで二発目のエメリウムブラスターをラースめがけて発射するも、槍で軽々と弾かれてダメージにはならなかった。

 

宏高「このまま一気にやる!」

 

タイガがシーゴラスに向かって走り出した瞬間、黄色い光に包まれてタイタスと交代。

タイタスは真正面から強烈なパンチを打ち込み、シーゴラスを吹き飛ばす。

 

タイタス『てやぁっ‼︎』

 

「グエエエエエエェェェッ⁉︎」

 

そこからタイタスはボディビルのポージングをしながら緑色のエネルギー光球を生成すると、右手のパンチで豪快に打ち出した。

 

タイタス『プラニウムバスター‼︎』

 

光球は物凄いスピードで飛んでいき、起き上がった直後のシーゴラスに直撃。

 

「グエエエエエエェェェッ⁉︎」

 

シーゴラスは悲鳴を上げながら大爆発した。

 

タイタス『よし、残るは……ぐおっ⁉︎』

 

突如、背中に受けた衝撃に思わず呻くタイタス。

背後からラースの攻撃を受けたのだ。

タイタスはすぐさま振り向き、更に繰り出されてきた槍の一突きを両手で受け止める。

 

タイタス『後ろとは卑怯な!』

フーマ『旦那、ここは俺にやらせろ!』

タイタス『任せた!』

 

その直後、タイタスは青い光に包まれ、フーマと交代。

 

フーマ『俺が相手をしてやるぜ!』

 

ラースはフーマ目掛けて連続で槍を振り回すが、フーマは身を躱してそれらを悉く往なしていく。

そこからフーマは肩から斜めに振り下ろされたラースの槍を右腕で受け止めてから左手で弾くと、連続で手刀を繰り出して反撃する。

 

フーマ『セヤッ‼︎』

ラース「グッ…⁉︎」

 

さらに追い討ちとしてフーマは右脚を高く振り上げて踵落としを繰り出すが、ラースはこれをギリギリで回避。

 

フーマ『ハアッ‼︎』

ラース「ヌウッ…!」

 

ラースはお返しとばかりに槍でフーマの足元を薙ぎ払うが、フーマは瞬時に飛び退き、回し蹴りの『疾風蹴撃』で反撃した。

 

フーマ『セイヤッ‼︎』

ラース「グオッ⁉︎」

 

しかしラースはその威力に踏ん張ると、額のランプから『バルキービーム』を連射する。

だがフーマは、それを手刀で軽々と弾き飛ばした。

 

フーマ『何だ?悪あがきはもう終わりか?』

 

フーマはラースを挑発すると、両手で円を描くようにタイガスパークにエネルギーをチャージし、形成した光の手裏剣をラース目掛けて放った。

 

フーマ『極星光波手裏剣(きょくせいこうはしゅりけん)‼︎』

 

ラース「流石に分が悪いか……」

 

不利を悟ったラースは高く跳び上がって手裏剣を避けると、その場から離脱した。

 

フーマ『チッ、逃げやがったか……』

タイタス『だが奴はまた来るぞ』

宏高「……」

 

宏高は何か考え込んでいた。

 

タイガ『宏高?』

宏高「……ああ。あの時ヒディアスは、獲物が食い付いたと言ってた……」

タイタス『我々を誘き出し、バルキー星人と引き合わせる為に暴れたのか……』

フーマ『回りくどい事しやがって……』

 

再びラースが現れた時の為に、宏高とトライスクワッドは警戒を強めるのだった。

 

 

続く。




いきなり戦闘シーンから始まりましたが、次回から本編に入ります。

ちなみに今回の敵であるバルキー星人ラースは、今は亡きカードゲーム『大怪獣ラッシュ』に登場していたキャラクターです。
卑怯な戦法を嫌いフェアプレイを重んじる性格ですが、本作のラースはそれとは真逆の冷酷な性格になっています。


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夕立ちの告白#2

何故だ…何故にこうも筆が乗らないのだ……⁉︎

いよいよ今月からレグロスのスピンオフが配信、7月から『ウルトラマンブレーザー』の放送がスタートと、今年もウルトラが大盛り上がりです。

アニガサキのOVAも楽しみですね。




バルキー星人ラースが襲来した次の日の虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部室。

 

この日は新聞部の生徒達が同好会の取材に来ており、メンバーを撮影、そして話を伺い取材していた。

最初の被写体は歩夢で、恥ずかしそうにぎこちなく笑う歩夢に宏高が声援を送る。

 

歩夢「えへへ♪」

宏高「可愛いよ、歩夢」

タイガ『そのあどけない感じ、良いな!』

 

次は大人の余裕的な笑みを浮かべながら片肘をつく果林。

 

果林「フフッ♪」

タイタス『お嬢さんも素敵な表情だ』

 

次はダブルピースのポーズを決める愛。

 

愛「イエーイ!」

フーマ『相変わらず元気だなぁ』

 

その1人1人をトライスクワッドも褒めていた。

 

宏高「皆すごく良いよ!」

 

愛の写真を撮り終えた所でかすみが挙手し、

 

かすみ「はいは〜い!次はかすみんの番です〜!えへへ〜!」

 

愛の隣にドカリと座って自分の写真撮影を促す。

その様子に他のメンバー達の笑い声が響く中、少し離れた所ではしずくが新聞部の部長である眼鏡をかけた女子生徒からインタビューを受けていた。

 

新聞部部長「では次に、桜坂さんがどんなスクールアイドルを目指しているのか、教えて下さい」

しずく「私は、愛されるスクールアイドルを、演じたいと思っています」

新聞部部長「…と、言いますと?」

 

怪訝そうに聞き返す新聞部部長に向かって、しずくは胸に手を当て瞑目しながら言う。

 

しずく「皆さんにとって理想のアイドルを想像して、その子になりきるんです!」

新聞部部長「では、今この瞬間も、桜坂さんは理想のスクールアイドルを演じている、という事ですか?」

しずく「はい」

新聞部部長「成る程!演劇部に所属している、桜坂さんらしいアイドル像ですね!」

しずく「フフフッ」

 

ニコリと、それこそ女優のように微笑むしずくに、新聞部部長は別の話題を持ち出した。

 

新聞部部長「そういえば今度、藤黄学園との合同演劇祭が開催されるそうですが……」

しずく「ええ。藤黄学園と虹ヶ咲が、それぞれ別の演目で公演を行うんです」

新聞部部長「虹ヶ咲の主役に抜擢されたのは、桜坂さんだそうですね!是非とも、校内新聞を読む生徒達に、一言お願いします!」

しずく「精一杯演じますので、是非見に来て下さいね!」

 

こうして、しずくのインタビューは終わった。

すると宏高が、ほぅと息を吐くしずくの側に行って話しかける。

 

宏高「お疲れ様。インタビュー、とても流暢だったね。俺だったら言葉に詰まって上手く話せないよ」

しずく「宏高さん……」

宏高「しずくちゃんは本当に演劇が好きなんだね。この前も部室で台本読んでたし」

しずく「あの時ですね……もう懐かしく思います」

 

 

遡ること数日前。

 

夕日が差し込むスクールアイドル同好会の部室でしずくは一人、台本を見つめていた。

 

しずく「………」

 

「しずくちゃん?」

 

しずく「……っ!」

 

突然名前を呼ばれて我に返ったしずくは、声がした部室の入口の方に振り向く。

そこには宏高が居た。

 

しずく「宏高さん……」

宏高「どうしたの?まだ帰らないの?」

しずく「すみません、つい読み耽っちゃって……あの、宏高さんは?」

宏高「帰る前に部室の見回り。これも部長の仕事だから」

 

そう言って宏高はしずくに近寄り台本を覗き込みながら訊ねる。

 

宏高「もしかして、次の公演が近いとか?」

しずく「はい。今度実演練習がありまして……」

宏高「なるほど……でもあまり詰め込み過ぎちゃダメだよ?掛け持ちなんだし、無理のないようにね」

しずく「ありがとうございます。では、私もそろそろ行きますね」

 

そう言うとしずくは立ち上がり、鞄に台本をしまい肩に掛けると、宏高に会釈した。

 

しずく「お疲れ様でした」

宏高「うん、気をつけてね」

 

こうして2人はそれぞれの帰路についた。

 

 

そして現在。

 

揃って先日の事を思い返した後、しずくは宏高に言う。

 

しずく「宏高さんも私が主役の公演、見に来てくれますよね?」

宏高「勿論。楽しみにしてるね」

 

 

────────────────────

 

 

しかし翌日……

 

しずく「こ、降板ですか⁉︎」

 

演劇部の部室に、しずくの動揺する声が響き渡った。

鏡面貼りの壁に背を預ける演劇部部長は言う。

 

演劇部部長「今回の役は、しずくとはちょっと違ったみたいだから」

しずく「ダメな所があれば言って下さい!私、頑張りますから‼︎」

 

藁にも縋る思いで懇願するしずく。

日々の努力が実を結び、主役に選ばれたのだと思っていた。

だからこそ、その成果を宏高にも見てもらいたくて、彼を観客として誘った。

ここに来て降板と言われても、納得できる訳がない。

 

演劇部部長は言う。

 

演劇部部長「この役は、自分を曝け出す感じで演じて欲しかったの」

しずく「曝け出す…?」

演劇部部長「役柄も歌手って設定だし、スクールアイドルのしずくなら、適任かなって思ったんだけど……」

 

しずくは昨日、インタビューで自分は常に演じている、と答えた。

それは即ち演じる事に慣れ過ぎて、本来のしずくを見せる事が難しくなってしまったという事だ。

おそらく部長は彼女のその欠点を見抜き、降板を言い渡したのだろう。

だからと言って素直に引き下がるしずくではない。

 

しずく「……もう一度、チャンスを下さい!」

 

 

続く。




自分を見せるというのは、とても簡単な事ではなく……

アニガサキの1期ではしずくが侑の名前を1回も呼んでないと知って驚いたので、今作は宏高としずくの掛け合いマシマシで描いていきます。


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夕立ちの告白#3

大変長らくお待たせしてしまいました。
ようやく書けました。

『NEXT SKY』観てきました!もう最高でした!そこからさらに劇場3部作に続くとは予想外で、ますますニジガクのこれからが楽しみになりましたね。

あと衝撃だったのが、あの「オートエモーションコンバート 璃奈ちゃんボード」が商品化される事ですね。ぶっちゃけ欲しい笑

それではどうぞ!


とある日の放課後。

 

かすみが廊下を歩いていると、通り過ぎようとした教室から声が聞こえてきた。

 

かすみ「ん?」

 

扉の窓から覗いてみると、そこではしずくが1人演劇の練習をしていた。

 

しずく「私、歌いたいの!沢山の人に歌声を届けたい!私が歌に込めるのは、喜びと感動と少しの熱狂!……ぁ……」

 

主役の台詞を、本来の曝け出した自分らしく振る舞うも、どこか役者がかる、何かが違うとしずくは感じてしまい、落胆してしまう。

 

芝居をしながら自分を曝け出す。

 

どんな風に演じればそれらしくなるのか、今までにない理想像を掴むのに、彼女は迷走していた。

 

かすみ「しず子?」

 

 

────────────────────

 

 

それから少し時間が経ち、スクールアイドル同好会の部室。

 

宏高が学園支給のタブレットに同好会のインタビューが載った校内新聞を表示して、メンバー全員に見せていた。

 

宏高「皆見てくれ!この前の初めてのインタビューが、校内新聞に載ったぞ!」

 

宏高の喜ばしげな声音に釣られて、歩夢、愛、果林、エマが言う。

 

歩夢「わぁ〜!」

愛「皆めっちゃ良い感じじゃ〜ん!」

果林「結構評判良いみたいよ?」

エマ「またインタビューしてもらえると良いね!」

 

そんな中かすみは、密かにしずくの方を見ていた。

十数分前の思い悩む友人の様子が、かすみの中で尾を引いていたから。

ここでせつ菜が提案する。

 

せつ菜「今度は、練習風景をメインに取材してもらう、というのはどうでしょう?」

 

それに笑顔で賛同したのはしずくだった。

 

しずく「それ、すごく良いアイデアです!せつ菜さん!」

 

それを見て、かすみはホッとしながら小さく呟く。

 

かすみ「なんだ…いつも通りじゃん」

 

空き教室で見かけた時は、いつもと違うマイナス方向な様子だったので少し心配していたが、この調子ならそれはただの思い過ごしだったと、かすみは一安心できた。

ここで宏高が別の記事に話題を移す。

 

宏高「それに、演劇部の公演の事も書いてある」

 

画面をスワイプしてページを捲ると、公演のお知らせやしずくのインタビューが掲載されていた。

 

愛「どれどれ?」

 

その瞬間、見るからにしずくの表情が変わった。

 

しずく「あっ……」

 

動揺、困惑、申し訳なさ、焦燥。

それらが綯い交ぜになった悲痛な表情。

それに気付いたのは、先程から観察していたかすみだけ。

 

かすみ「ぁ……」

 

しかしその表情も一瞬で消えたので、他のメンバーが気付く事はなかった。

腕組みした宏高と彼方が言う。

 

宏高「それにしても凄いよ、1年生で主役なんて」

彼方「彼方ちゃん、絶対見に行くよ〜!」

しずく「はい。ありがとうございます」

 

笑顔で返答したしずくだが、その表情にどこかぎこちなさがあるのを、かすみは薄々感じ取っていた。

 

 

────────────────────

 

 

翌日。

 

璃奈「しずくちゃんの様子がおかしい?」

 

かすみは璃奈が居るクラスに赴き、しずくの変化について話し合っていた。

璃奈のオウム返しにかすみは首肯し、

 

かすみ「うん。何かね、いつものしず子よりも、しゅ〜んって感じで……」

 

それに璃奈が難しそうな(?)顔を浮かべて、右に、上に首を傾げる。

 

璃奈「ん〜…そうだったような…そうじゃなかったような……」

 

何せ璃奈は昨日のしずくの様子を把握していない為、答えるのも曖昧だった。

そこで、他にもこの場に居合わせている、璃奈が最近仲良くなった女子三人組の内の一人、色葉が思い出したように言う。

 

色葉「そういえば……主役、降ろされちゃったって聞いたけど……」

かすみ「え⁉︎何それ!」

 

驚くかすみに、浅希が言う。

 

浅希「演劇部の子が言ってたの。それで、もう一回オーディションがあるって……」

かすみ&璃奈「ぁ……」

 

その情報は初耳だが、これではっきりした。

しずくの様子がおかしい原因は、それだと。

 

 

────────────────────

 

 

その頃、しずくは屋上での自主練を終えて、1人で帰ろうと校内を歩いていた。

 

しかしその顔つきはとても明るいとは言い難いものだった。

 

それもそのはず、一度主役の座を勝ち取りながらも、演じ方の方向性の違いから再度オーディションをする事になった。

それは仕方ないにしても、しずくは演劇部部長から指示されたイメージを未だ掴めず思い悩み、只々時間が過ぎていくばかり。

指示された役に成り切れない理由は、自分でも分かっている。

だがそれを表に出そうとしても、しずく自身の頭が、心が、いつだって拒んでしまう。

 

再オーディションまでもうあまり時間が無いというのに。

 

しずく「はぁ……」

 

もう何度目になるか分からない小さな溜め息を吐いた、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『居場所が欲しくないか?』

 

しずく「……っ‼︎」

 

自分の周りには誰もいないはずの空間に反響する男性の声。

しずくは反射的に顔を上げ、怯えるような眼差しで周囲を見回すが、やはり人影は無い。

 

『何にも囚われる事なく、ありのままの自分でいられる……そんな世界が……』

 

再び聞こえてきた声の主は、まるでしずくの頭の中に直接話しかけるように囁く。

 

しずく「何なの……この声……」

 

不穏な気持ちに襲われるしずくだが、それを打ち破ったのは、手を掴まれる感触と共に耳に滑り込んできた、聞き慣れた声だった。

 

かすみ「しず子、確保ぉ!」

 

気づけば自分の周囲には、かすみと璃奈が来ていた。

 

しずく「か、かすみさん⁉︎何?」

かすみ「りな子!」

璃奈「ラジャー。璃奈ちゃんボード『拘束!』」

 

混乱するしずくを尻目に、璃奈がかすみの指示で『璃奈ちゃんボード』を使ってしずくの視界を後ろから遮る。

ご丁寧にペンの色がしずくの髪と同じブラウンで、髪型も彼女のものになっている。

 

しずく「ちょ、ちょっと!これじゃ前が…!」

かすみ「それじゃあ、しゅっぱ〜つ!」

しずく「うわわわわわわっ⁉︎」

璃奈「おー!」

 

突然の事で理解が追いつかないしずくの手をかすみが引っ張り先導、璃奈は後ろからしずくの背中を押してサポートするが、目隠しされてるしずくからすれば足元が不安でならない。

 

しずく「えっ?ええええええええっ⁉︎」

 

 

続く。




しずくを元気づけようと動いたかすみ達だが……
そしてしずくの心を揺さぶる悪魔の囁き……その正体は?


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夕立ちの告白#4

大変長らくお待たせいたしました。

これでも地道に書き進めておりますので、気長にお待ちいただけると幸いです。
ホントこの状況、何とかしたい……

それではどうぞ。


ヴィーナスフォート内にあるファミレス。

 

かすみ&璃奈「おおおおぉ〜‼︎」

 

そこの一角に座っているかすみ、しずく、璃奈の1年生三人。

そのうち二人は、テーブルの中央に堂々と聳え立つ巨大なパンケーキを前に、驚愕と感動の入り交じった声を上げていた。

 

その名もマウンテンパンケーキ。

 

七色の生地と苺クリームが何層にも重なった、食べれば間違いなく胃もたれする、山の如きスイーツだ。

璃奈としずくが慄き気味に言う。

 

璃奈「これが……伝説の…!」

しずく「ほんとに食べるの?」

 

かすみが得意げかつ自信満々に言う。

 

かすみ「マウンテンパンケーキ、0勝5敗のかすみんが、2人に完食の極意を教えてあげる!」

璃奈「勝ててない……」

 

これまで何度も挑戦していた上に、全て惨敗に終わっていたという事実が明らかになった。

いざ実食と思われたその時、しずくがある疑問を発する。

 

しずく「あの…かすみさん?どうして食器が一人分余計にあるの?」

 

よく見るとテーブルに座っているのは三人なのに、皿とナイフとフォークは四人分用意されているのだ。

店に入る時も、かすみは店員に四名だと言っていたので、ずっとその意味が気になっていた。

 

かすみ「う〜ん……もうそろそろ来ると思うんだけど〜」

 

何かを待っている様子のかすみ。

ちょうど噂をしていた所でかすみが振り向くと、待ち人がそこに立っていた。

 

宏高だ。

 

彼は店員の女性と問答を一言二言交わすと、かすみ達を見つけて、彼女達の元へと歩いていく。

 

宏高「いたいた。あれ、しずくちゃんと璃奈ちゃんも一緒だったんだね」

かすみ「宏高先輩!お待ちしてました〜!」

宏高「急に呼び出してどうしたのかと思ったら……一緒に遊びたいなら早めに言ってくれればよかったのに」

かすみ「すみませ〜ん。どうしても宏高先輩の協力が必要でしたので〜」

宏高「協力?」

 

宏高はテーブルに目をやり、そこに置かれたマウンテンパンケーキを見て驚きの声を上げた。

 

宏高「えっ⁉︎何だこれ⁉︎」

 

しかしかすみは華麗にスルーしてナイフとフォークを手に取る。

 

かすみ「助っ人の宏高先輩も来てくれたという事で、それじゃあ始めるよ!ひたすら食べ続けるべし!いざ、かかれ〜!」

 

璃奈もナイフとフォークで一部を切り取り、皿に乗せる。

 

璃奈「いただきます!」

宏高「マジっすか……」

フーマ『お前……かすみに良いようにパシられたな』

 

苦笑い気味にフーマが言った。

 

かすみ「はむっ」

 

パンケーキを口に運ぶかすみと璃奈。

直後、その甘さと食感にかすみは両拳を頬に当て、璃奈は笑顔の『璃奈ちゃんボード』を使って感想を言う。

 

かすみ「ん〜!美味しい〜!」

璃奈「ふわふわすぎる!」

しずく「ぁ……」

 

その様子を呆然と眺めていたしずくだったが、不意に何かをかすみから差し出された。

それはフォークに突き刺さったケーキの一欠片。

 

しずく「あっ」

かすみ「ほら。しず子も!」

 

ポカンと眺めていたしずくだが、やがて差し出されたケーキを小さく、一口啄む。

 

しずく「はむっ…ん……美味しい!」

かすみ「でしょ〜?」

 

笑顔を自然と浮かべるしずくにかすみはそう言い、璃奈もボードを使いつつサムズアップする。

 

璃奈「ハッピー」

 

その様子をしずくの隣で微笑ましく見ていた宏高も、かすみに急き立てられてパンケーキを皿に取り始める。

 

かすみ「宏高先輩もですよ!」

宏高「はいはい」

かすみ「行っくぞ〜!目指せ完食〜!」

 

 

────────────────────

 

 

十数分後。

 

四人は何とかマウンテンパンケーキを完食し、苦しそうだが満足げな顔を浮かべてファミレスを出た。

璃奈はボードを使って今の気持ちを表現する。

 

璃奈「璃奈ちゃんボード『お腹パンパン……』」

 

かすみは右手を上げて三人にハイタッチを求める。

 

かすみ「初勝利!イエーイ!」

 

それにしずくと璃奈、そして宏高が声に出して応じ、ハイタッチした。

 

しずく「やったね!」

璃奈「イェイ!」

宏高「ああ!」

 

 

 

時間もあったので、それから四人は色々見て回る事に。

 

先ずは雑貨屋。

そこでかすみは目をキラキラさせていた。

 

かすみ「可愛い〜!」

 

 

続いてオーディオショップ。

そこで璃奈は陳列されたBluetoothヘッドホンを見つめて「おおっ!これは…!」と声を上げる。

 

 

道中でしずくが、他の客が連れて歩いている一匹の大型犬を見つけ、頭を撫でながら喜ばしそうに言う。

 

しずく「この子、うちのオフィーリアに似てます〜!」

 

 

ヴィーナスフォート内の噴水広場。

 

宏高がかすみから渡されたスマホをカメラに三人の集合写真を撮る。

 

宏高「撮るよ〜」

かすみ「はーい」

しずく「フフッ」

璃奈「うん」

 

 

散々遊び倒した後、四人は喉が渇いたので外に停まっているキッチンカーの所に行った。

そこでメニューを眺めるかすみが、大いに悩む表情でメニューの看板と睨めっこしている。

 

かすみ「う〜ん……ん〜どうしよっかな〜?可愛いかすみん迷っちゃう!」

宏高「じっくり選んでいいからね」

 

どうやらこれは宏高の奢りのようだ。

その様子を既に注文してもらっていたドリンクを飲みながら見ていた璃奈だが、不意に離れた所に立つしずくの方に視線をやる。

しずくは窓ガラスに貼られている、昔に上映された映画のポスターを見ていた。

 

作品のタイトルは『AUDREY』──オードリー。

 

好きなものや憧れのものを見るかのような視線でポスターを眺めるしずくに、璃奈が話しかける。

 

璃奈「好きなの?昔の映画」

しずく「あっ」

璃奈「もしかして、しずくちゃんが演技を始めたのって、こういうの見てたから?」

しずく「そう…かな。それもあるけど……」

 

そこで句切ると、しずくはポツリポツリと話し始めた。

自分が演劇をするようになった理由と、その根底にあるものを。

 

しずく「私ね、演じてる時が一番堂々としていられるの。誰の目も気にならないし………自分が、桜坂しずくだって事を忘れられるの」

 

その刹那、しずくは暗い顔を浮かべた。

そこから浮き出ているのは自己嫌悪。

 

璃奈「ぁ……」

 

それに目敏く気づいた璃奈は、一瞬迷いながらも声に出して訊いてみる。

 

璃奈「自分が嫌なの?」

しずく「ご…ごめんね。変な話して。忘れて?」

 

しずくは両手を振って話を逸らそうとするが、一度聞いてしまった璃奈からすれば、早々忘れる事など出来ず……

そこにかすみが飛び込んでくる。

 

かすみ「あ〜っ‼︎また暗い顔してるぅ‼︎スマイルだよ、しず子!えへっ♪」

しずく「かすみさん……」

かすみ「今日は嫌な事全部忘れて、パーっと遊ぼ?それで元気出たら、オーディション頑張って、主役取り返そう!」

 

 

 

宏高「えっ……?」

 

後から遅れてきた宏高の小さな驚きの声にかすみと璃奈が振り向き、しずくは申し訳なさそうに目を伏せながら言う。

 

しずく「知ってたんだ……」

 

自分が気遣われていた事をしずくはこのタイミングで初めて知り、それを見たかすみは遠慮気味に萎縮してしまう。

 

かすみ「うん……でも、別に内緒にしなくても良いじゃん!私達応援するし!」

しずく「……」

かすみ「それに!もししず子が落ち込んでるなら、話を聞くぐらい…」

しずく「大丈夫!」

かすみ「えっ?」

 

かすみの言葉を途中で遮って、しずくは言う。

 

しずく「心配しないで?私は平気だから。二人共ありがとう!それに…宏高さんも」

璃奈「しずくちゃん……」

宏高「……」

 

何て事ないと言わんばかりに笑うしずくだが、璃奈と宏高には分かってしまった。

それが空元気な作り笑顔である事を。

 

しずく「今日はもう帰らなきゃ。じゃあね?」

 

そう言ってしずくは宏高に頭を下げつつ、先に帰ってしまった。

残された三人はしずくを追いかけて止めようにも、何故か足がそこに縫い止められたような感じがして、全く動く事が出来なかった。

 

 

続く。




マウンテンパンケーキの場面は、かすみに謀られた宏高を加えた四人でのシチュエーションにしました。

一人別れたしずくに闇の魔の手が…⁉︎


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夕立ちの告白#5

大変長らくお待たせいたしました。

璃奈ちゃんボード楽しみだなぁ〜

それではどうぞ!



半ば逃げ去る形でかすみ達から離れたしずくだったが、帰る途中で壮絶な葛藤を繰り広げていた。

 

演じていない、素の自分を見せたい。

かすみ達にはきっと受け入れてもらえる筈。

そう信じたいけど、やっぱり怖い。

 

(だって……)

 

幼い頃のトラウマが、再びしずくの心に浮かび上がる。

 

みんなと少しだけ違う。

 

ただそれだけの事だったけど、自分はいつも不安だった。

 

(私は……)

 

変な子って思われたくない。嫌われたくない。

 

でも歌いたい。皆の心に響く歌を。

その為には自分を曝け出し、受け入れなければならない。

 

(でも……!)

 

やがて誰も居ない場所で彼女は壁に背を預け、

 

しずく「出来ないよ……曝け出すなんて……」

 

そのまま脱力するように座り込み、膝を抱えた。

 

しずく「嫌い……こんな私……」

 

同好会の仲間達の事は信じている。

話せばきっと受け入れてもらえる。

けれど、過去のトラウマがどうしてもそんな淡い期待の邪魔をする。

 

話してもし変な子って思われたら?

嫌われたらどうしよう?

そんな思考が次々と出てくる。

そしてそんな不安を抱く自分に嫌気が差す。

 

 

 

 

 

 

 

 

『居場所が欲しくないか?』

 

しずく「……っ‼︎」

 

まただ。

あの時と同じ、正体の分からぬ男性の声。

 

『何にも囚われる事なく、ありのままの自分でいられる……』

 

しずくが頭を上げると、白い薄手のパーカーに黒いジャケットを羽織り、フードを被った少年がいつの間にか自身に背を向けて立っていた。

 

しずく「あの……あなたは…?」

 

怪訝そうに訊ねるしずくに、少年は振り向きながら答える。

 

霧崎「僕は霧崎 幽。随分お悩みのようだね、桜坂しずく」

しずく「えっ……」

霧崎「分かるさ……君の苦悩も、憂鬱も……僕には手に取るように……」

 

全てを見透かしたような霧崎の言葉に戸惑いを隠せないしずく。

そんな事は気にも留めず、霧崎はしずくに近づくと、彼女の顔の前に右手を差し出し、指を鳴らす。

その瞬間、しずくの頭の中に不吉なビジョンと共に霧崎の声が流れ込んでくる。

 

 

霧崎「君は本当の自分を見せたいと思っている。しかしそれによって親しい者達が離れていく事を恐れている。違うかい?」

 

しずく「わ、私は……!」

 

霧崎「私は?自分を見つめ直して、もう迷いなく歌えると?でも一向に覚悟が決まらずこのザマだ」

 

しずく「あ、ああ……っ」

 

混乱と驚愕と不安の渦に放り込まれ、精神がプレッシャーの荒波に襲われガタガタになってくる。

そんなしずくに霧崎は追い討ちをかける。

 

霧崎「教えてあげよう……仮面で自身を偽らずとも、君が君でいられる世界…それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“孤独”と“静寂”だ」

 

そして、しずくの眼前から真っ黒な影を纏った腕が飛び出し、彼女の眉間を人差し指で小突く。

 

 

その直後、しずくは一気に脱力し、ゆっくり横に倒れて気絶した。

霧崎がニヤリとした笑みを浮かべると、そこにバルキー星人ラースが現れる。

 

ラース「こいつか…ウルトラマンと接点を持つ小娘と言うのは……」

霧崎「ああ。正確にはその中の一人だけどね。彼女を使えば、確実に獲物を釣れる」

ラース「ほう………では、この娘は貰っていくぞ」

霧崎「ご自由に」

 

霧崎はしずくの頭のリボンを引っ張って解き持ち去ると、ラースはしずくを肩に担ぎ一瞬でその場から姿を消し去るのだった。

 

 

────────────────────

 

 

一方その頃……

 

宏高「そうか……しずくちゃんが……」

 

しずくが帰った後、宏高はかすみと璃奈から事情を聞いていた。

 

かすみ「はい……だからりな子と一緒に元気づけてあげよー!と思って……」

璃奈「うん」

かすみ「宏高先輩をいきなり呼び出したのは悪かったと思ってます……でもこの前のしず子、宏高先輩と話してる時すごく楽しそうだったから……」

宏高「……なるほど。かすみちゃんは本当に友達思いで、しずくちゃんの事もよく見てるんだね」

かすみ「ぇ……そ、それはもう、しず子とは同好会設立からの仲ですから!」

 

宏高に褒められて、一瞬戸惑いながらも見栄を張るかすみ。

 

宏高「あのさ、しずくちゃんの事は俺に任せてくれないかな?」

かすみ「えっ?」

宏高「あんな事聞いちゃったら、やっぱりほっとけないからね。明日俺の方でも話を聞いてみるよ」

かすみ「あっ…はい……」

宏高「とりあえず今日はもう帰ろっか。じゃ、2人も気をつけてね。楽しかったよ」

璃奈「宏高さん、また明日」

 

宏高はそう言ってかすみと璃奈と別れたが、数歩歩いてから突然かすみの方に振り向いて言った。

 

宏高「あ、そうだ。何か大食いの時は今度からちゃんと言ってね?」

かすみ「やっぱ怒ってる⁉︎」

 

 

 

ヴィーナスフォートを出ようと歩いている途中で、宏高は突然誰かに声をかけられた。

 

???「あの〜……すいません」

宏高「はい?」

 

その人物はフードを被っており、いかにも暑苦しそうな服装をしている少年──霧崎 幽だった。

 

霧崎「虹ヶ咲学園の方ですよね?実はさっき、こんな物を拾ったんですけど……」

 

そう言って霧崎は徐に赤いリボンを取り出し、宏高に見せた。

 

宏高「⁉︎」

 

そのリボンを見て宏高はすぐに気づいた。

それはしずくがいつも頭に付けているものだった。

リボンを受け取りながら宏高は訊ねる。

 

宏高「これを一体何処で…?」

霧崎「向こうの方でですね。虹ヶ咲の制服を着ていたからもしかして、と思ったんですが……」

 

嫌な予感がした宏高は、霧崎に構わず彼が指した方向に向かって駆け出した。

取り残された霧崎は、不敵な笑みを浮かべながらその後ろ姿を見送った。

 

 

 

宏高は人気のない場所でしずくの物と思われる鞄とドリンクを発見した。

そして一度辺りを見回した後、腰のタイガホルダーからフーマキーホルダーを取り外して頭の方に持っていき、意識を集中させる。

 

(……見つけた!)

 

そして宏高は、急いでしずくが居ると思しき場所へと向かうのだった。

 

 

────────────────────

 

 

宏高がヴィーナスフォートを出たその頃。

 

今はもう使われていない倉庫のような建物の中に、バルキー星人ラースの姿はあった。

その横でしずくは縄を使って椅子に縛り付けて拘束されていた。

 

しずく「……ん、んんっ……えっ?」

 

気がついたしずくは自分が今置かれている状況に困惑し、更に目の前に立っているラースを見て、思わず息を呑んだ。

 

しずく「う、宇宙人……!」

ラース「お目覚めか?」

しずく「私をどうするつもりなんですか⁉︎この縄を解いてください‼︎」

 

しずくはラースに非難を浴びせるも、彼は全く動じる事なく淡々と告げる。

 

ラース「お前はウルトラマンを倒す為の人質であり、餌だ。もっと騒いで奴等を呼び寄せろ」

しずく「ぇ……?……一体、何がしたいんですか?そもそも私とウルトラマンにどういう関係が……?」

 

ラースの返答に一瞬意味が分からず唖然とするも、反論するしずくだが……。

 

ラース「なんだ……お前達何も知らないのか」

 

そうラースは小さく呟く。

 

ラース「ウルトラマン共はな、お前達スクールアイドル同好会とやらのすぐ近くに居るそうだ」

 

そう答えるラースの言葉にしずくは強く衝撃を受ける。

 

しずく「それって、どういう事ですか……?」

ラース「()()()()からの情報でな。何をしている、泣き喚いて餌を釣れ!」

 

ラースがしずくを恫喝したその時、扉が開く音が聞こえた。

それに気づいたラースが後ろを振り返ると、出入り口の方に宏高の姿があった。

 

しずく「宏高さん……⁉︎」

ラース「何だ坊主…?こんな所に何の用だ?」

 

完全に相手を見下したようなラースの問いに、宏高は毅然として答える。

 

宏高「大事な後輩を返してもらいに来た」

しずく「宏高さんいけません!危ないですよ!」

ラース「フン……身の程知らずにも程があるな。大口も休み休み叩け」

 

ラースは宏高の要求を突っ撥ね無視しようとしたが、それで引き下がる宏高ではなく……

 

宏高「だったら何が何でも返してもらおうか!」

 

宏高はその場から走り出して一気にラースに詰め寄り、強烈なパンチを叩き込む。

 

ラース「ガッ……⁉︎」

 

宏高のパンチを胴に喰らったラースは、信じられない程の勢いで吹っ飛ばされた。

その光景に驚きを隠せないしずく。

この時宏高は予め右手にタイタスキーホルダーを握り締めており、腕力を強化していたのだ。

 

その隙に宏高はしずくに駆け寄ると、足元に落ちていたガラス片でしずくを拘束している縄を取り外し、彼女を解放する。

 

宏高「大丈夫か?しずくちゃん」

しずく「宏高さん……っ」

 

絶望的とも言えるこの状況の中、望むタイミングで助けに来てくれた先輩に、しずくは目が潤むと同時に鼓動が早鐘を打つ。

 

宏高「今のうちにここを出よう!」

しずく「は、はいっ!」

 

宏高はしずくの手を引っ張り、倉庫から脱していく。

それからしばらくして、ラースが起き上がった。

 

ラース「ヌゥ……!このままで済むと思うな……‼︎」

 

 

続く。




しずくを助け出した宏高だったが、無防備にも彼女の前で力を使ってしまい……


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