オーバーロード・元ナザリックの騎士王 (魔女っ子アルト姫)
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1話

DMMO-RPG、ユグドラシルオンライン。

 

北欧神話をベースに作られた仮想空間で各々が一人の主人公として楽しめるこのゲームは爆発的な人気を誇っていた。数百種類に渡る種族、二千を超える職業、更に各プレイヤーの技量があれば外装等が自由にカスタマイズが出来る。余程の偶然か意図して合わせなければプレイヤーの数だけのキャラクターが存在しそれぞれが唯一無二の存在と成り得た、その特色は多くのユーザーを魅了し、各々が自分だけのキャラクターを作成して世界に一つだけのキャラクターで冒険を楽しむ事が出来た。

 

そんな多くのユーザーの中に、"王座へと腰を落ち着ける王"はいた。

 

 

世界の宝石を纏め上げたとしても到底届き得ない輝きを放つ聖なる白銀の鎧、獅子の様でもあり龍でもあるようなフルフェイスの兜は何処まで勇ましく雄々しくあらゆる羨望を集める。青を基調とした前垂れと鎧と同じ白銀の具足はそのものの精神を映し出す鏡のように存在しながら神秘さを帯び続けている。その王の姿は一見すれば人であった―――だがその実は人ではない。

 

竜人、異形種とカテゴライズされる存在でありその中でも特殊な種族を獲得していた存在―――ドラゴンズ・ハート(竜の心臓)、人間を選んだプレイヤーが特定の条件をクリアする事で変異、いや進化可能となる特殊な種族。それでも積み上げた人間種の種族レベルをドラゴン系種族に変換しつつ取得可能とするそれを持つ王、プレイヤー名:アルトリウス・ペンドラゴンは王座へと腰掛けながら思いを馳せる。

 

「12年……短かったな、短く楽しかった……」

 

今日、この日を以てユグドラシルは終わりを告げる。0時でユグドラシルはサービス終了となる、配信と同時に始めた身としては心から悲しく、そして尊い時間だったと思える。最古参と言えるアルトリウスはこのユグドラシルは自らの青春そのもの、破滅的な現実とは完全に別次元にあるだけではなく此処にはときめきと夢が溢れる。そんな世界を冒険できることがどれほどまでに楽しかった事か……だがそれも今日で終わる、終わってしまう……。そんな思いを同じように抱いてしまっているのだろうかと一人の友人の事を思う。

 

「モモンガさんもきっとログインしてるだろうな、あの人がいないなんてありえない」

 

ユグドラシル内でも悪名の高い、異形種のみで構成されたギルド、アインズ・ウール・ゴウン。異形種プレイヤーはモンスターとしてもカウントできる、というふざけた風潮を嫌い、そんな現状の打破や救済を目的に掲げながら積極的にPKKを行っていたギルド。それらはノリがいいギルドメンバーなどによって加速していき、一時には傭兵NPC、PLからなる1500人の大侵攻までされる程だった。

 

「フフフッ……」

 

『お前は純然たる悪、純粋悪になれる。俺と共に歩もうじゃないかアルトリウス』

『ウルベルトさん何言ってるですか突然!?アルトさんに失礼でしょ、すいませんアルトさん。アルトさんはカルマが全力で善に振り切れてるのにそれってなんか矛盾してますよ』

『いいや為せば成る!!善の皮を被った悪、良いじゃないか背徳的で!』

『何が背徳的だって!!?』

『凄い勢いで反応しないでください茶釜さん!?』

 

一時期ギルドに所属していた身としては本当に懐かしい日々が僅かな間に脳裏を過っていく。独立して自分でギルドを立ち上げ、アインズ・ウール・ゴウンに倣ってギルドホーム系ダンジョンを初見攻略(大反対を押し切って)、自らの居城へと生まれ変わらせて自分好みの城へと大改造していった。結果として誕生したのがアルトリウスが城とする『神聖領域巨城(-キャメロット-)』。改造に当たってそこまでレベルも高くなく、初見ボーナスを加味してもそこまでNPCの作成レベルが高くなかったのでアルトリウス自身が課金して可能な限りレベルを伸ばしたり様々な苦労があった。

 

当時攻略を手伝ってくれたのはアインズ・ウール・ゴウンの面々。既に独立していたのにも関わらず、攻略に付き合ってくれた。流石に初見攻略したいと言ったら2回目は嫌だと多くのメンバーに大反対されたのだが、ゴネまくった結果協力を勝ち取った(渋々&嫌々)。但しその後のギルドの内装やらギミックなどは一切手伝って貰えなかったのでそこが一番大変だったが……自分の理想の城を作り上げられたので結果的にそれはそれでよかったと胸を張って言える。

 

「本当に……凝りに凝ったな」

 

自分は過去に流行ったゲームなどが大好きだった、その中でも一番好きだったのがFateと呼ばれるシリーズだった。過去の英雄たちが登場するそれらが胸に、いや魂が震えるほどに好きだった。故にNPCもそれらに準拠して種族や職業などにも凝りに凝りまくった、スキルの構成やキャラクターに合わせたコンボなども考えていった結果……NPCを含めてギミックの完成に3年もかかったのは素直に笑い話。アインズ・ウール・ゴウンの面々(友人達)に手伝うと言われても拒否し、意地になっていった。というか自分が作り上げた物を途中で任せて中途半端に作り上げられるよりも細部まで満足できる領域に自分で持って行きたいという完全な欲望で行動した。

 

だがそれらも今日で消える……そう思うと心が痛む。あれだけ時間と愛を費やした物が一瞬で消えるなんて……いや考えるのはやめておこう。そう思いながら隣で自分へを見つめ続ける存在へと目を移す。自らが纏う鎧と酷く酷似した鎧を纏う、違う点があるとすれば兜は獅子の意匠のみである事。だがその兜は設定で外させているので見えているのは美しい黄金の髪を靡かせる絶世の美女、獅子王・アルトリア・ペンドラゴン。彼が一番好きだと言ってもいいキャラクターを再現したNPCだ。

 

「そう言えば以前ペロロンチーノさんに言われて、俺も同じ名前にしてそういう設定にしたんだよな」

 

思い出すのはこのキャメロットが完全な状態に持って行けた時にアインズ・ウール・ゴウンの皆を招待した時の事、折角なら同じ苗字にして夫婦という設定をフレーバーにしたらいいじゃないと言われた事が切っ掛けだった。ユグドラシルに結婚システムはないのであくまでフレーバーとして楽しみ程度だがそれはそれでありかもしれないと自分は乗ってキャラネームにペンドラゴンを追加して、アルトリアの設定に自分と夫婦の関係にあると記載した。

 

「……まあ確かにこんな美人と夫婦とか最高でしかないよな」

 

からかわれて、お前もペロロンチーノの同類か、と色々言われたりもしたがそれも楽しかった……本当にと思っていると自らにフレンドメッセージが飛んでくる。その相手はモモンガ、アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターで大切な友人の一人。

 

『もしもし』

『やっぱり居たんですねアルトさん、声が聞けてちょっと安心してます俺』

 

何処か安心感に満たされているようなでありながらも僅かな哀愁と寂しさを羽織っている声、それを聞いて少しばかり眉を顰める。そもそも此方に連絡を寄こしたのも気になる、ギルドメンバーとの語らいもあるだろうから遠慮して連絡しなかったのだが……如何やら違ったらしい。

 

『其れは俺の台詞です、良いんですかモモンガさん俺と話してて』

『大丈夫ですよというか俺としては今でもギルドメンバーのつもりですよ、まだアルトさんの旗飾ってますし』

『ちょっと、俺はもう独立しちゃってる身ですよ?』

『そう言わないでくださいよ、身勝手かもしれませんけど独立された後に多数決で残すって事に決めたんですよ。アルトさんはアインズ・ウール・ゴウンの名誉ギルドメンバーだって事にするって、皆さん大賛成でしたよ』

『それって本人に言わなきゃダメなやつでしょモモンガさん……』

『普通に忘れててすいません』

 

呆れとは裏腹に嬉しさの感情で溢れている事にモモンガは気付いている、呆れているように出喜んでくれている。今でも自分達は同じギルドだと、そんな宣言を喜んでくれている。仲間はずっと繋がっていると、そしてそんな反応をもっと喜んでいるのはモモンガ本人でもあった。

 

『アルトさんも今は王座ですか?』

『も、という事はモモンガさんも』

『ええっ。プレアデスとアルベドと一緒に……そうだアルトさん聞いてくださいよ。タブラさんってば俺も知らない間にアルベドに〈真なる無(ギンヌンガガプ)〉持たせてたんですよ』

『タブっさんアンタ何やってんだよ……』

『でしょ、そう思うでしょ?』

 

気付けばそのまま友人としての会話をし続けてしまっていた、矢張り気心のしれた友人同士もある為か会話も弾んでしまう。不思議な物で話をしているだけなのに本当に楽しい、本当に心からの楽しさを感じられている。

 

『それでアルベドの設定見てたんですけど、ちなみにビッチである。って最後にあったんですよ』

『なんというかタブっさんらしいな……あの人設定にアルベドは貞淑な淑女って書いたはずだから、そのギャップとしてそれねじ込んだな。あの人ならそうする』

『うわっタブラさんらしいですね確かに。でも女性としてこれってなんか……酷くないですか?』

『まあ分からなくもないですね、俺もペロっさんに獅子王(アルトリア)の設定にビッチって入力しようとか言いだしてマジギレしましたから』

『それはちょっと違くないですか?』

 

モモンガのそれは女性にそれは失礼だし守護者統括という名誉と責任ある立場に不相応ではないかという意味合い、アルトのそれは自らが望んで再現したキャラに不要且つ侮辱的な事を書こうとした事への怒りで全然違う物。

 

『でもまあそこはタブっさんの意思を尊重してあげるべきじゃないですかね、一文字一文字にタブっさんのフェチと魂が籠ってるんですし』

『フェ、フェチって……まあ確かにそうですよね、ちょっとギルド長権限で変えちゃおうかなって思ったんですけどそうするのは失礼ですもんね』

 

思いとどまる様にしてくれた事に感謝するモモンガに感謝されても困るアルトはそのまま話し込んでいた。ギルドの全盛期の事、キャメロット作成の苦労、共に冒険をした事などを話し続けていた。それだけするなら直接顔を合わせればいいだろうとも思われるかもしれないが終わるなら此処が良いと互いが自然に思いながら相手もきっとそう思うだろうと気遣って言葉に出さずに話し続けていると……間もなく終わりの時が迫り続けていた。

 

『モモンガさん、ユグドラシル2とか出たらその……一緒のギルドにまた誘って貰えたりして貰えます?』

『当たり前じゃないですか。誘うに決まってますよ、というか嫌だと言っても連れまわしますから覚悟してください』

『ハハハッそりゃいいや』

 

そんな最後はお互いに声を上げながらの終わりを飾ろうとした、寂しく悲しい終わりよりもずっといい終わりだと思いながら―――だがずっと笑っているのにそれが互いに分かり続けている、一体どうなっているのだろうか。全くサーバーダウンが実行されずにいる。

 

『……あれ、モモンガさんいます?』

『えっあっはいいますよ、あれっサーバーダウン起こらなくないですか?』

『不具合かな、え~最後ぐらいちゃんとしろよクソ運営』

『取り敢えず運営からのお知らせとか確認しましょうか』

 

と互いに運営サイトへと目を通そうとコンソールを操作しようとする……が一向にそれは出現せずに空を切るばかり、何も出来ない。壊れたか!?と焦る中で両者は更なる驚きを覚えた。

 

「如何かなさいましたかモモンガ様」

「如何しましたアルトリウス、問題でも」

 

「「えっ」」

 

『アルトさんなんかアルベドが話しかけてきたんですけど』

『こっちもアルトリアが話しかけてきました、もれなくCVが川澄 綾子さんですよ俺が間違う訳ないし絶対に間違いないうわっ初めてFateシリーズ触った時と同じ位興奮してる何だこれ最高かよなんだ神パッチ実装かクソ運営マジ有難う神かよ神運営かよ』

『手の平くるっくるしてますよ!?いやいやいやサービス終了するのにそれはないでしょう!?』

『あっそっか、えっじゃあこれって……』

 

『『何これ怖い』』

 

骸骨の見た目を持つ最強の魔法詠唱者と聖なる竜の騎士王は同時に戦慄し声に出してしまった。



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2話

「大丈夫ですかアルトリウス、何か問題が起きたのですか」

 

凛としながらもお淑やか、だが芯の通った美しさを纏いながらも言葉には僅かな不安が付き纏っている。それは妻として愛する者の様子が変化した事を敏感に察知した事に起因しているのだろう。獅子王・アルトリア・ペンドラゴンは原典とも言える聖剣の彼女とは違う、真面目かつ律儀で丁寧、そして負けず嫌い。だが合理的であり沈着冷静、王として理想的な在り方を体現する。そんな彼女が僅かでも乱れた感情を言葉に乗せる事は珍しい所かあり得ない。それを向けられるアルトリウスはそれ以上に混乱の極みに陥っていた。

 

「ぁぁっいや……だ、大丈夫だアルトリア。少しばかり思う所があって、だね……ごめん心配かけた」

「……それならいいのです、唯貴方が何処か不安そうだったのでつい……」

 

謝罪すると逆に自分が悪いのだと言わんばかりの言葉を吐き出し続けていく。そんな事を思うなんて貴方の妻として相応しくない言動だった、神聖領域巨城(キャメロット)の女王として情けない、唯自分は貴方が改めて自分と夫婦である事が最高だと言われて嬉しくなってしまったとしおらしくなりながらちょこんと飛び出ている所謂アホ毛を動物の尾のように倒しながら落ち込んでしまう。

 

「ああいや大丈夫だアルトリア!!君が私を心配してくれるという事はその、夫婦として当然の事でありそれだけ私の事を思いそしてよく見てくれているという事だろう!?だってほら、私兜付けたままなのに不安そうとか思えるって事はそれだけ通じ合ってる事なんだから!!」

「ア、アルトリウス……!!」

 

パァァと擬音が付きそうな程に花開いたような笑みを浮かべつつ、沈んでいたアホ毛がぶんぶんと動かしながら手を合わせて歓喜する。その表情は原典のシリーズでも見た事がないような表情、それにハートどころか魂を抉られて昇天しそうになるアルトリウス。この時は本気で今この瞬間に死んでもいいと思ったほど。だがそれをモモンガからの必死のフレンドメッセージが呼び戻し、咄嗟にアルトリアに此処から王座から離れる口実の指示を出す。

 

「ア、アルトリア突然で済まないがお願いを聞いて貰ってもいいかな」

「お願いなど言わないでください。このキャメロットにおいて至高の存在は唯一人、貴方を置いて他はない。貴方はお願いなどと言わずにただ命じてくれるだけでいい、私はそれに従います」

「い、いや流石にそれは……奥さんに命令とか出来る訳ないって……え、えっと君が適切だと思う者を連れてキャメロットの外部及び周辺の調査及び探索をして欲しい。但し直ぐにキャメロットに戻れる距離までで話が通じそうな相手がいた場合は可能な限り穏便に此処へご案内して」

「分かりました」

 

指示を承諾するとアルトリアは一気に引き締めた、それこそアルトリウスが良く知る獅子王としての表情だ。先程の弛緩した歓喜の表情も良いが矢張り彼女にはキリっとした表情が良く似合う、そして王座のある王の間から出る前に此方へと振り向きながら笑みを作って一言。「行ってきます貴方」と獅子王の兜を被りながら出発していった。

 

「やっべぇランサーアルトリアさんくっそカッコいい……俺の嫁最高過ぎかよ」

『アルトさん聞いてます!?アルトさん!!?』

「あっいけね忘れてた」

 

自分が望んでいた彼女が思考して会話をし感情を表現した、当時からどれだけそれを望んだ事だろうか。それが今実現したのだからアルトリウスの心情は最高潮に喜びに溢れていたが、モモンガからのメッセージをガン無視していた事を思い出して慌ててそれに応える。

 

『すいませんモモンガさん、なんかアルトリアが動いた上に喋りかけて来てくれてなんかキャパシティーオーバーしてました。しかもなんか指示を聞いてくれちゃって……』

『ああっやっぱりですか!?俺もさっき言いましたけどアルベドが話しかけてくる上にセバスたちも同じ感じで、しかも命令も聞いてくれちゃって……』

『そっちもですか!?いやいやいや何が如何なってるんだ……俺、NPC制作の為にプログラミングとかやりましたけど今のをAIにパッチ当てたじゃ説明付かないと思います』

 

表情に変化が付くというのは内部プログラム的にはとんでもない事になる、しかもアルトリアには感情などもあった。それらを考えると単純にユグドラシルⅡがサービス終了と同時にスタートしたとは思えない、そもそも始めるなら大々的に宣伝した方が運営する会社としても利益が高い。

 

『これ、もしかして前にペロっさんが言ってた昔のゲームとかでよくあった異世界転移的なあれですかね……』

『ええっでもそんなのあり得るんですか!?ああでもあり得るのかな、実はアルトさんと話が出来ない間にちょっとその……垢バンされるような事をしたんですけど何もされなくて……』

『おい何やってんだよギルマス』

 

言いにくそうにしているモモンガに対して容赦のないツッコミをぶっこむ。此方は此方でアルトリアに対して精一杯真摯に対応していたつもりなのに、向こうは向こうで何自分がやろうと思わなかった行為をやっているんだと。まあ確かにユグドラシルはそのような18禁行為には凄まじく厳しかった、行えば一発でアカウント凍結だってあり得る程。

 

『でも垢バンされないと……んで何やったん?』

『アルベドの胸をその……触って揉みました』

『たっさんに連行される覚悟はOK?ついでに感想どうぞ』

『や、柔らかったです……って何言わせるんですか!!?』

 

だがこの事実は一つの結論を導き出した、自分達がいる此処はユグドラシルではなく現実の世界であるという事。だが兎に角情報が欠如しすぎている、何もかもが理解の全てを超えているような状態になっている。

 

『取り敢えず今セバスに外の確認をさせてるところです、其方は如何なんですか!?』

『エロい事してたのを有耶無耶にしようとしやがって……まあこっちも概ね同じです、アルトリアに適切だと思うNPCを連れて外の確認をお願いしました』

『……取り敢えず互いの確認が終わってからまた連絡するって事にしますか?こっちも色々試してみたいので』

『賛成です』

 

その後、連絡魔法である〈伝言/メッセージ〉が通じる事を確認してからフレンドメッセージを切断する、そしてアルトリウスは深々と王座に身体を預けながら息を吐きだした。モモンガからの話を聞くとアルベドやプレアデス、いやナザリック地下大墳墓その物と共に転移している可能性がある。それを当てはめるとキャメロットも同様であり、そして自らが心血を注いで作り上げたFateシリーズの中でも特にお気に入りのキャラクター達で構成されたNPC達も同じように動く……しかも自分が書きこんだ設定やらが忠実に再現された状態で……。

 

「……あれっていう事はあれか、此処にはおっぱいタイツ師匠とかすまないさんとかもいるって事?えっ俺が書きこんだFateの設定そのままに―――何それ俺にとっての夢の園かよ」

 

この城を満たすNPC達、それは原典であるFateにある物を再現した者達。こよなく愛するそれらがそうあれかしと望んだ者のまま意志を持ち動く、そんな姿を見られるなんて至上の喜びに等しい。グフフフフッと騎士王としては相応しくない不気味で気色悪い笑みを浮かべるのであった、がそんな時に王座の間の扉が開け放たれた。驚きながら声を引っ込めながらそちらへと目をやるとそこには一人の騎士が立っていた、その騎士は入ると同時に兜を脱ぎながらその顔を露わにしながら自分に駆け寄ってきた。

 

「父上~!!!」

 

酷く天真爛漫そうに、笑みを作りながら駆け寄ってくる騎士は幼いアルトリアという表現がぴったり当て嵌まる。同じ位に成長したらきっと区別をつける事は困難だろうが何処か男らしくヤンチャそうなので区別は容易、そんな騎士の名前はモードレッド・ペンドラゴン。騎士王・アルトリウス・ペンドラゴンと獅子王・アルトリア・ペンドラゴンの子供。

 

「モ、モードレッドか。如何した」

「母上が父上の所に行けって言うから来たんだよ、私がいない間の守護を頼むってよ」

 

わんぱくでヤンチャそうないたずらっ子のように鼻の下を指でこすりながらえへへへっと口ずさみながら自分といられる事に対する喜びを全身で表現するようなモードレッドに猛烈な違和感を覚えた。いやこれはこれで可愛いし凄くありだな!!と胸をキュンキュン刺激して来てやばい、いやそうじゃなくて原典のモードレッドはこんな感じだったろうか!?という事である、自分は確りと原典を参照しながらアルトリアと同じ位に気を遣って……気を遣って……

 

「(ああ~そうだぁぁぁっ!!ペロっさんに言われてアルトリアを妻にする時に合わせて俺の子って事にしたんだっけ!!?)」

 

原典のモードレッドはある種、親であるアルトリア・ペンドラゴンに対して承認欲求などがあった。故に再現するに当たってアルトリアを妻にしたのだから自分の子供という事にした。この位は許されるかな……程度の軽い気持ちだった、正直妄想して楽しむ程度だったのだがまさかそれがこんな事になるなんて思いもしなかった……というか童貞なのに嫁と子供がいる王様という事になるのだろうか……意味が解らない。まあでも……

 

「そうかアルトリアに言われてか……だがいざという時には私がお前を守る、子に守られる親というのも情けないからな」

「じゃあさじゃあさ、一緒に戦おうぜ!!俺一回でいいから父上と肩を並べて戦ってみたかったんだよなぁ!!」

「勿論。ではその時はお前に私の背中を任せようかな。いやお前さえいれば私などいなくても敵はいないか、お前は私とアルトリアの自慢の子だ」

「そうか、そうかなぁっ!?父上ってば褒めるのうめぇなぁ~♪そう言われたらもう俺は張り切って父上護るしかねぇもんなぁ~♪」

「(何この子超かわいい)」

 

デレデレしながらもその手にした剣、クラレントを持ちながら自分に剣の腕前を見せるように演武を始めるモードレッド。親の目線を自分に釘付けにさせたいかの如くな行動に思わずアルトリウスは心から和んでしまっていた。最初こそ混乱したがこんな愛らしい子供がいて綺麗で可愛い奥さんもいるなら此処がどんな世界でもいいやぁと思えてしまってきた。だが彼は忘れていた……彼が作り上げたNPCは他にも存在し、その中には酷く重い愛情を向ける者もいる事を……。

 

「ぁぁぁぁっますたぁ(旦那様)、お会い出来て妻である清姫は幸せに御座いますぅ♡」

「お"いくそ蛇女、誰がテメェの旦那だぁ?父上の隣は母上って決まってんだ戯言抜かしてんじゃねえぞゴラァ!!!」

「あらあらあら相変わらず狂犬です事、母として貴方のような娘は戴けません。ますたぁの品位を下げてしまいますわぁ」

「―――おう誰がテメェの子だと……表出ろ今直ぐ殺してやる」

「やべぇっなんか大変な事になりそうだモモンガさん助けて」



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3話

「なあなあ父上、折角だからさ色々話聞かせてくれよ!!父上は色んな所を旅したり戦ったりしたんだろ、どんな奴がいてどんな旅をしたのかをさ!!」

 

王座の間の最奥、キャメロットの主たる王へと甘えるようにしながら瞳を輝かせながら是非とも話を聞きたいとせがむ我が子であるモードレッド。その姿は本来の彼女とは異なっている、言うなればIFの姿とも言えるライダーとしての彼女の性格が混在しておりそれを自らへと向けている。これも設定で自分とアルトリアの子供とした事の影響なのだろうか。

 

「そうだな、では何を語ろうかな……お前好みの強者の話が良いか、それとも私がこのキャメロットを作り上げる以前の旅の話をしようか……さてさてどれがいい、折角だお前が決めなさい」

「えっ良いのか!?そうだなぁ~つえぇ奴の話も興味あるけど旅の話も聞きたい……あぁ~もう全部聞きてぇよ父上ぇ!」

 

うが~!!と頭を抱えつつも全部聞かせてよぉと甘えてくる娘、如何してもこうも子供という物は親の心を強く揺さぶるのだろうか。親としての自覚はなかったのに話しているだけで一気に自覚が生まれ、そして可愛さに磨きがかかり続けて行く。愛おしくて愛おしくてしょうがない、そんなモードレッドの頭を撫でてやりながらしょうがないなと言いながら自分で決める事にした。

 

「そうだな、ではまずは世界の一つを征した称号を得た騎士であるたっち・みーさんの話からしてやろうか」

「おおっ!!あれだろ、父上が前に入ってたギルドのアインズ・ウール・ゴウンって所にいた超つえぇ騎士なんだろそいつ!!」

「ああそうだな、彼ほどに強い騎士は世界のどこを探しても見つからないだろうな」

 

キラキラとした瞳を向け続けながらたっち・みーについて思いを馳せていると早く早く続き~!!とせがんでくる娘の愛らしさにノックアウトされそうになりながらも同時に兜を被ったままで良かったと心から思う、何故ならば自分でも分かる程に頬がつり上がって若干攣りそうになっているからだ。リクエストに応えて続きを話してやろうとしたら王座の間の扉がノックされたのちにゆっくりと開けられた。

 

「チッ誰だよ……父上との時間を邪魔しやがって……」

 

扉を怒りと憎悪を込めて睨みつけるモードレッド、その表情は叛逆を掲げながらも最高の怒りを体現したそのものだった。原典でも見た事があるような顔におおっとなりつつも彼女の中で自分はどれだけ重いんだと呆れつつも誰が来たのかと顔を上げると……思わず思考が凍り付いてしまった。そうだ忘れていた、此処は自分の城で此処には自分の趣味で様々なシリーズキャラを再現している……しかもその中でも色々とやばいのが来てしまった。

 

「ぁぁぁぁっますたぁ(旦那様)、お会い出来て妻である清姫は幸せに御座いますぅ♡」

 

金色の瞳、流麗で美しい緑の長い髪は純白の着物に酷く映えるが米神の辺りから伸びている角のような物が彼女自身も単純な人間ではない事が分かる。彼女の名は清姫、ある意味でFateシリーズにおいても圧倒的な知名度を誇る嘘つき絶対焼き殺すガール、そして正統派でテンプレートなヤンデレキャラ……そして自分と結婚していると疑わない狂化ランク:EXのバーサーカーである。そうだ、原典のキャラを再現しているという事はこういう事もあり得るんだった……と思っているとモードが低い唸り声のような物を出しながらクラレントを肩に担ぎながら此方に駆け寄ってくる清姫を止める。

 

「お"いくそ蛇女、誰がテメェの旦那だぁ?父上の隣は母上って決まってんだ戯言抜かしてんじゃねえぞゴラァ!!!」

「あらあらあら相変わらず狂犬です事、母として貴方のような娘は戴けません。ますたぁの品位を下げてしまいますわぁ」

「―――おう誰がテメェの子だと……表出ろ今直ぐ殺してやる」

 

扇子で口元を隠しながら微笑みながら言葉を返す、あの怒気を前にあんな啖呵を切れる辺り流石としか言いようがない。だがモードレッドからすれば彼女のそれは母上であるアルトリアに対する絶対的な侮辱でしかなく怒り所が憎悪が沸き立ち、憤怒の嵐が巻き起こる。クラレントを強く握りしめながら今にもそれを振り下ろして清姫を殺してしまいそうな一触即発になってしまっている。

 

「(やべぇっなんか大変な事になりそうだモモンガさん助けてって言ってる場合じゃねぇ!?)」

 

これはある意味自分がまいた種のような物、責任もって自分が解決しなければ……ならばやる事は唯一つでしかない、彼女(清姫)は絶対的に嘘を嫌う。ならば思う事をそのまま伝えるしかない……!!と覚悟を決めながら手を叩いた。

 

ーーーシャンッ!!!

 

手を叩いたとは思えない程に神秘的で厳かな音が鳴り響いた。その音で我に帰るように振り返るモードレッドと自分に熱のこもった視線を向け続けている清姫、その視線が自分へと向いた事を確認しながら声を出す。

 

「そこまでだモードレッド、お前の母を想う気持ちは分かる。だが同じキャメロットに住まう者に刃を向けてはならない」

「で、でも父上此奴はよぉ!!」

「モードレッド」

「うぅっ……はい……」

 

シュン……解り易い程に気落ちしてしまった彼女は剣を抑えめながら俯いてしまった。酷く申し訳ないがそれでも同じギルドのNPC同士で殺し合いをさせる訳には行かないのだ。続けて期待に胸を膨らませている清姫へと言葉を向ける。

 

「清姫」

「はいますたぁ♡」

「お前が私に向ける気持ちは嬉しく思う、可憐な美少女に此処まで愛されるというのは男冥利に尽きるという物だ」

「そんな照れてしまいますわぁ♡」

 

ピンク色の空気を纏いながらハートを生み出し続けている彼女にモードレッドは僅かに顔色を悪くする、もしかしてこの女を母と呼ばなく行けないのかと不安になってきている。父であるアルトリウスは酷く非常に温厚で慈悲深い、そんな彼ならば愛を向けてくる女をその深い懐で受け止める事もあり得る……。そして次の言葉を待つ。

 

「だがな、私には愛する妻(アルトリア)がいるのだ。気持ちは嬉しく思うが私にその愛に応えない、済まない」

 

それを聞いてモードレッドは心の底からガッツポーズを取った、なんて誠実な人なんだ父上は!!と改めて憧れを向け直しながら悔しがるであろう清姫へと目を向けるのだが彼女は全く堪えてないように笑みを湛えながら静かに返答した。

 

「―――はい、存じ上げております。ますたぁが獅子王様を愛されている事は重々承知しております、その上で私はますたぁを愛しているのです♡この愛は永遠に貴方様へと捧げる悠久の愛、例え私の愛をお受け取りになさらずとも私はますたぁを想い続けるだけで御座います」

 

と一片の曇りもなく応えて見せる彼女にアルトリウスは素直に返答に困ってしまった、告白を断る以上に勇気が必要だったのに何だこの結末は……と言いたくなってきた。モードレッドも同じ気持ちなのかうわぁっ……と素直に口に出しながら引いている。この世界に転移した際に何か影響したのだろうか、と思っていると改めて口を開いた。

 

「そしてますたぁお伝えしたい事が御座います、アルトリア様より命令された城内の調査は終了いたしました。城内全て何も問題はないとの事です」

「そうか、ご苦労だったな。下がって良い」

「はい、ではますたぁまた♡」

「さっさと出てけ!!」

 

ガルルルルッ!!!威嚇するような唸り声を上げて清姫をさっさと外へと追いやっていく姿を見つつもアルトリアは外の調査と並行してキャメロットの内部調査も同時に命じていたのかと素直に驚く。仕事が出来る女という事はこういう事だと言わんばかりの有能っぷりに言葉が出ない。だがそれは同時に深い安堵と共にある。何故ならばキャメロットの何処にも問題はない、つまり自分が把握している物がそのままこの世界と共にやって来たという事であるという事―――後は外の様子が分かれば手を打つ事が可能となってくる。

 

「ったく何なんだよあいつ!!父上には母上が居るって分かって上でだと!?ふざけやがって!!!」

 

と憤慨する娘を見つめる中で自らに〈伝言/メッセージ〉が飛んできた、相手はアルトリアから。

 

『アルトリウス、私です』

『アルトリア、外はどんな感じ』

『それが……少々面倒な事になっていますね、これから戻り直接報告したいと思いますがいいでしょうか』

『ああそれでいい』

『では同時に守護者も招集します、そこで全体へ』

 

その〈伝言/メッセージ〉の後に王座の間に集まってくる守護者たち、それは自分が設定したNPCの中でも重要な役職を担う者達。キャメロットは巨城ではあるが外見と内部の大きさは比例しない、内部は異空間のようになっており複数の階層(フロア)へと分割されておりそれぞれは主である守護者たちが望む環境にされている。そして今、王座の間にはそれらの階層の主である守護者たちとそれらを束ねるアルトリアが自らを見つめていた。

 

「―――では皆、我らが至高の御方……騎士王・アルトリウス・ペンドラゴンへ忠誠の義を」

 

その声の元に並び立った守護者たちは自らの名を忠誠と共に捧げる、跪きながら騎士王たる存在へ捧げられるそれらはどれ程大きく、素晴らしい物なのだろうか。

 

「第一階層守護者 "セイバー" ジークフリート。御身の前に」

 

「第二階層守護者 "ライダー" マンドリカルド。お、御身の前に」

 

「第三階層守護者 "アサシン" 酒呑童子。旦那はんの前にぃ」

 

「第四階層守護者 "アーチャー" ケイローン。御身の前に」

 

「だいごっかいそうしゅごしゃ "ばーさーかー" あすてりおす。いるよ」

 

「第六階層守護者 "ランサー" スカサハ。此処に居るぞ」

 

「第七階層守護者 "キャスター" マーリン。此処にいるよ」

 

「守護者統括 "ランサー" アルトリア・ペンドラゴン、御身の前に」

 

名と共に捧げられた物、その重みはアルトリウスも感じている。思わず息を飲んでしまいながらもそれに負けないように気を強く持ちながらそれらと向かい合う、今目の前に広がる光景は自分が望んだ者故に、ならば望んだ者として堂々とあるべきだと思いながらそれらを手に取り懐へと仕舞いこむ。そして思わず漏らしてしまった言葉

 

「ぁぁっ……これこそ俺が望んだ夢の光景だ……」

 

それらを受け取った守護者たちはそれぞれの反応を見せつつも全員が喜びの渦の中にある様であった……。




ナザリックをリスペクトしつつも趣味全開のアルトリウス。尚他にも趣味全開な所はいっぱいある模様。

因みにマーリンはグランドクソ野郎じゃなくてグランドろくでなしお姉さんだったりする。なんであっちじゃないかって?野郎よりこっちの方が好みなんだよ趣味なんだよ悪いか。


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4話

忠誠が捧げられると直ぐにアルトリアからの報告が始まり、アルトリウスは言葉を詰まらせる事になってしまった。

 

「草原だと、キャメロットが草原に?」

「はい。嘗て我らが城が存在したのは他者を寄せ付けぬ程の絶壁を誇り天を貫かんばかりの大山脈に背後を備えながらも見通しの良い砂漠、しかし見渡す限りの草原。周囲にモンスターなどは存在せず、居たのは小動物のみ。空は晴れ渡った星空のみ、天空城などの物も存在しません」

「そうか、手間を掛けさせたなアルトリア」

 

矢張り転移している、モモンガからの話を総合しても此処は明確にユグドラシルではない事は確実だろう。恐らくだが自分は騎士王としての力を振るう事も出来るのだろう、自分の中に意識を向けてみればスキルなどが一気に脳内を駆け巡っていき使用後のクールタイムまでが確認出来る。明確にユグドラシルというゲームのシステムがこの世界の法則の一つとして機能している、謎だらけだが今やれることを一つ一つ行って行くしかない。まずはキャメロットの隠蔽、内部に異空間が広がる城とはいえそれでもキャメロットは相当に巨大な城。それが草原に出現したならば余計なやっかみを受ける可能性がある。

 

「マーリン、お前の力でキャメロットの隠蔽は出来るか」

 

言葉を向けたのは第七階層守護者、花の魔術師マーリン。酷く浮世離れした絶世の美女だがその実は人と夢魔との混血、綺麗なお姉さんを自称するが何処か童顔な印象がある為か少女のように見えてしょうがない。そして彼女は原典(Fate)で言う所のプロトマーリン、本来は男性であるのだがアルトリウスの趣味で此方側を採用した経緯がある。そんなマーリンは愉快そうにしながらも涼やかな声で応える。

 

「雑作もないよ、私の力をもってすれば一瞬だね。これでもやる時はやるんだからもっと信用してくれて、君は王らしくやれで良いんだからさ」

 

ウィンクを飛ばしながらマイペースに笑いながら応える、周囲からお前はもっと確りとしろと言いたげな視線が飛んでくるのだが構う事もなくマーリンは続ける。

 

「私達は君によって創造された存在だ、その力は君が一番知っている。だからやれで良いんだよ、例え難しい事でもきっと成し遂げて見せるから」

 

酷いマイペースに見えてその中心には創造主であるアルトリウスへの忠義に満ち溢れている、此処の場にいる者は自分に不向きで難しい命令が下されたとしてもそれを達成する為の全力を尽くす。それは当然の事なのだから、君は王様らしく唯命令を下すだけで良いんだから、自分達は配下としてそれを実行するまでだ。そう告げる、それにはその場の全員が頷いた。それはこの場にいる全員の本意だと言わんばかり。

 

「(確かに知ってるけど確認したかっただけなんだけど……それに命令って言うのも何かなぁ……)」

 

アルトリウスは自分に向けられてくる敬意と忠誠に戸惑いすら感じている、確かに彼らにとって自分は創造主。それだけ自分の存在が重いのだろうか……清姫では解りにくかったがあのスカサハが他の面々と向けてくる物が同じ、という事はそういう事なのかもしれない……。

 

「そうか、ではマーリン、幻術の件は任せる」

「お姉さんに任せなさい♪」

 

ウィンクでそれに返しながら命令を貰えた事が酷く嬉しそうに声を弾ませている、他の守護者たちもマーリンに対する視線は大役である守護者としてもっと確りしろという物だったのに心なしか羨ましそうにしている。特にアステリオスはそれが顕著なのか口元に指をやっている、可愛い。

 

「スカサハ、ケイローン」

「「はっ」」

 

同時に上げられた瞳に驚きと共に違和感を覚える、だがそれをぐっと堪えながらも指示を出す。

 

「優れた武芸者であり戦士、そして指導者としても優れている両名にはキャメロット防衛のためのシステムの構築を行ってくれ。各自の判断の元、様々な状況に対応する者を選抜し対応出来ぬ事などはないと言える程のチームを作り上げてくれ」

「お任せを、寧ろその命令を待って居た程。漸く我らが戦士として王の役に立てる、これ程の喜びはない……感謝するぞアルトリウス」

「ご期待に添えるよう、死力を尽くす所存」

 

所々にスカサハらしさこそ感じられるが矢張り自分が設定したそれらよりも何か根幹に自分への敬意があるらしい、少々コレジャナイ感がするがこれはこれで凄いアリだなとポジティブに考えておく。

 

「ジークフリート、マンドリカルド、酒呑童子、アステリオス、お前達も必要であれば手を貸しこのキャメロットを護る為に尽力してくれ」

「「「「はっ!!」」」」

 

一先ずはこんな所かなぁ……と内心で溜息混じりにそろそろモモンガさんに連絡してキャメロットの皆と共に居る事やらなんか草原にいる事も伝えるべきだろうなと思っている時の事だった、アルトリアが声を上げる。

 

「アルトリウス、周辺地理の確認のために動かしていたアサシンより連絡が。此処よりそれほど遠くない地点にナザリック地下大墳墓を発見したとの事です」

 

その言葉に守護者全員に驚きが走った。ナザリック地下大墳墓、嘗てアルトリウスが所属していたアインズ・ウール・ゴウンの拠点。それが同じように近くに存在している事は非常に喜ばしい事、アインズ・ウール・ゴウンは完全な味方、というよりも何方かと言ったら神聖領域巨城(キャメロット)は対等な関係として同盟を結んでいる。それを改めて聞いたアルトリウスは思わず腰を浮かべながらも声を上げる、アルベドの名前を聞いていたからきっとそうだろうと思っていたが、改めて聞くと嬉しさがこみあげてくる。

 

「おおっ本当か!?そうか、ではモモンガさんもいるという事だな……そうか良くやってくれた、では近々正式な使者を出して」

「いえ既に私の方で家令セバス・チャンと接触させ、此方の事をお伝えしております。彼方も此方の存在を確認出来て安堵の息を漏らしていたとの事です」

「―――えっ」

 

思わず驚きに満ちた声が出た、自分がやろうとしていたずっと上の事を既にアルトリアは行っていた。今もアサシンはセバスたちと情報交換を行いながらも共に周辺地理の調査を行い続けているとの事、向こう側としてもアルトリウスはモモンガと同じく至高の御方々の一人として扱われているらしく直ぐに行動を共にしたとの事。

 

「そ、そうか流石アルトリア……素晴らしいぞ」

「いえ貴方の妻として当然のことをしたまで……」

 

僅かながらに頬を赤らめながら何か、他の面々を牽制するかのように呟いた。それに何やら一瞬女性陣が反応したような気がしたのだが、もう気にしない事にして置こう。というか嫁が有能過ぎて自分がやる事が冗談抜きでなくなってきている、この後もアルトリウスは指示を出そうとするが外に出るまでにすべて指示を出されていたのがやる事がなくなっていた。自虐的にお飾りの王とはこういう事かと思う。

 

「では皆、今後の活躍を期待する」

 

そう言い残して、というかもう耐えきれなくなったのかアルトリウスは装備していたギルドの指輪(リング・オブ・キャメロット)の転移機能を使って王座の間から自分の部屋に逃げるように転移した。一応周囲に誰もいない事を確認しながらもキングサイズのベットに腰掛けながら深い深いため息を吐いた。

 

「もう、アルトリアだけで良いんじゃねぇかな……」

 

確かにランサーアルトリアは王として理想的な存在、そこにちょっと手を加えて出来ぬことなど存在せぬ完璧な女騎士と書き加えた。確かに書いたけど思った以上に完璧すぎてもう自分のお飾り感が半端なかった。NPC達の自分への忠義云々はもうそういう物として受け取るしかないだろう、だが一応自分はこの城の王なのである。それなのに……と凹んでいるとフレンドメッセージが飛んでくる。

 

『あっ通じた!アルトさんって凄いんですね俺がなんか混乱してる間にセバスとコンタクト取りながらも既に協力体制が出来上がりつつあるんです!!こっちなんて魔法のテストしてて、その間にアルトさんはもっと前に進んでたんですね、超手際良いですね!!』

『……うわぁぁぁぁぁ!!!!モモンガさんまでそんな事言うんだぁぁぁぁ!!!』

『えっ!?ええええっっっ!!?どういう事ですか!!?』

『うわぁぁぁぁん童貞拗らせたポン骨が虐めてくるよぉぉぉぉ!!!!』

『ちょっ何ですかそれぇ!!!?というかアンタだって童貞でしょうが!!』

 

 

10分後

 

 

『いやホントすいません……』

『ああいやそういう事だったんですね……まあ気持ちは分かりますよ』

 

漸く落ち着いたので話を聞いて見るとモモンガは酷く納得した。確かにアルトリウスはキャメロットの王として相応しい振る舞いを見せなければならなかった、だがそれを全てアルトリアに取られてしまって事になる。同じようにナザリック地下大墳墓の王として守護者たちが望む支配者を演じなければいけないんだと思っていたモモンガはその気持ちが酷く理解出来た。

 

『取り敢えず近々直接会いませんか、こっちの皆もアルトさんに会いたがってますし』

『えっマジですか?』

『なんか超評価高かったですよ』

 

アルトリウス・ペンドラゴンは至高の御方々の一人にして自らの力の限界を見定める為に遠征を行い自らの城を勝ち取った。そしてそれはアインズ・ウール・ゴウンからの独立を以て立証され、自らのギルドを立ち上げ同盟を結んだ事でその力はモモンガと同格の物である。

 

『ええっ……単純に男なら一国一城の主でありたいってロマン目的で独立しただけなんですけど……』

『多分これ、俺達がアルトさんを名誉ギルドメンバーにしたからこういう扱いになったと思うんです』

『マジかぁ……』

 

つまりナザリックでもキャメロットと同じような扱いを受けるという事になるのだろうか、いやナザリックは他のギルドメンバーたちが作り上げたNPC達がいるのである意味では此処よりも凄い事になりかねないのだろうか……。ちょっと怖くなってきた。

 

『こっちはこっちでなんか凄いっすよ、俺が設定した原典のキャラではあるんですがそれ以上に俺に対する敬意とか忠誠心がやばいっす』

『ああやっぱり……こっちもです。何それ高評価、えっお前マジでそれ言ってんの、というか本当に俺の事?って思いましたもん』

『……今度二人っきりで会って語り明かしません?』

『ああ、良いですねそれ……』




ルーラー辺りのエクストラクラスもちゃんといますのでご安心を。領域守護者的な立ち位置だったりするのでいなかっただけです。


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5話

世界の変貌から間もなく三日が過ぎ経とうとしていた。自らの居城にしてギルド『神聖領域巨城(-キャメロット-)』と共に異世界へと転移したアルトリウス・ペンドラゴンは変貌している世界に驚きながらも少しずつそれらを咀嚼しながらも共に異なる世界へと転移した友人にして同盟を結んだギルドの主、モモンガと時折フレンドメッセージにて言葉を交わしながらこの世界は何処までユグドラシルの法則が通じているのか、ギルドや自分達と共にやって来たアイテムや魔法に変更点などがないだろうかと一つ一つ洗い出しながら前に進もうとしていた。

 

上がってきている報告書に記載されているのは自分が集め、友人らに譲られたりした数々の武具。それらはギルドの栄光と共に武力を誇示する為の力、その力の調査について。この世界においては所謂香りづけ設定(フレーバー)とされている物が概念や現象として現れる。紅茶のアイテムの説明文に記入された一文「一度口にすれば全身の疲れは消え去る程の美味」という物があれば味わった事の無い美味と共に疲れが消え去る。そんな物ならばよいが、物によってフレーバーとして呪いが与えられている武具も存在する。それらも現れるのか、という事を調査するようにしたが如何やら現れるらしい。使う武器やアイテムなども気を付かなければならない……。

 

「アルトリウス様、少しばかりお休みになられては如何でしょうか」

「ああ」

 

報告書と睨めっこしていると小休止する事を勧められた、気付かなかったが随分な時間を仕事していたらしい。報告書から目を反らしてみると何やら肩が凝ったような気がする、病は気からという奴だろうか。そんな自分へと差し出された紅茶を一口、リアルで味わえない様な美味しさが全身を駆け巡っていく。これは最高級ではあるが普通の紅茶、だがそれでもこの味が堪らなく好きだ。

 

「嗚呼っ心が安らぐ……」

 

竜にも獅子にも見える兜は当然つけていない、常時付けているのはあれな気がするので外している。横目で自分に紅茶を淹れてくれた人物へと目をやるとそこではニコニコとしながらも紅茶を楽しむ自分に嬉しさを滲ませている聖女の姿がある。彼女も当然再現NPC、ルーラー・ジャンヌ・ダルク。

 

「ジャンヌ、この階層の皆は元気か」

「皆息災です、主たるアルトリウス様の為に誠心誠意尽くす事が我らの喜び故に皆一時一時に祈りを捧げながら責務に励んでいる事でしょう!!」

「そ、そうか……」

 

三日もすれば慣れてきた筈だが矢張りまだ慣れない部分もある。ジャンヌの役割は裁定、各階層の守護者らの役割を正当に評価した上で王たる自分に報告し場合によっては裁きを下す役職を任せられた近衛騎士団の聖女。が、彼女も例に漏れずに自分へ敬意、いや元がジャンヌ・ダルクという聖女なだけあって自分へ崇拝の域の何かを向けている。そんな彼女が持ってきた報告書を読んでいたのだが……

 

「そう言えば何故お前が紅茶を……?」

「え、えっとそれはですね……」

「当然私から奪って行ったからさ」

 

執務室の扉が開けられると共に気障で皮肉屋な言葉が飛んでくると共にジャンヌがゲッ……と言いたげな表情を作りながら眉を顰めながらそちらへと目をやった。そこには家令兼副料理長を兼任するアーチャー・エミヤがあった。

 

「やれやれジャンヌ、君はもう少し落ち着きという物を持てないのかね。それでもキャメロットの聖女様かね、それで裁定という役職をこなせるとはとてもではないが思えないが……それとも私の仕事を奪う事が裁定だったのかな」

「い、いえエミヤそのですね……折角報告書を持って行くのですから親切心で貴方が持って行く紅茶を私が代わりに持って行けばあなたは直ぐに別の仕事に移れるんじゃないかなぁ~って……」

「その気遣いには感服するが私にも自分の仕事はやり遂げるという矜持がある、それを邪魔されては私としては不服だ。我らが王へと全意識を集中させ、様々な要素を極限に高めた品を届けるという使命を私から奪ったわけだからね」

 

腕組をしながらも怒りを込めた鋭い瞳を投げ掛けながらも的確にジャンヌを責めて立てて行くエミヤ、立場的には裁定の役目を持つ彼女の方が上なのだが基本的にエミヤは相手に物怖じしない。礼儀こそ守るが相手が格上だろうが言いたい事はズバッと物申す。これこそエミヤだと言わんばかりに満足するアルトリウスは助け舟を出してやる事にする。

 

「成程、エミヤが準備をしたならばこの紅茶の味も頷ける。ならばもう一度この味を作り出す事も可能だろう」

「話を聞いていたと思ったのだがね、君が口にしている物は様々な要素が極限に高めた品だ。それを易々と生み出せると思うのかね?」

 

例え自らの王だろうがこの物言い、それにエミヤはムッとするがそれを無視して言葉を続ける。

 

「出来るさ。出来ないならハッキリ言うだろう、お前は」

「フッ……良いだろう、ではそこの聖女が私から奪った物よりも更に素晴らしい物を用意しよう」

「楽しみにさせて貰おう」

 

不敵そうだが信頼されている言葉に心が躍っているのか表情には喜びが漏れている、そしてその一つを提供する為に歩き出す前に一度ジャンヌを一瞥すると執務室から出て行くのだった。それにホッと胸を撫で下ろすのだが、溜息をついたアルトリウスに瞳を向けられてしまう。

 

「ジャンヌ。中立の立場でこのキャメロットを裁定しなければならない、そんな立場がエミヤから仕事を奪うのは中立とは言えないぞ」

「も、申し訳御座いません!!近衛騎士団の聖女でありながら、なんとお詫びを申し上げればよいのか……!!この命を以て、謝罪を!!」

 

アルトリウスは出来るだけ声を荒げず、諭すように問いかけたつもりだったがそれだけでもジャンヌにとっては果てしない絶望と失望の渦に呑まれてしまった。近衛騎士団の聖女という名誉ある役職を賜りながらもその役目を汚すような行いをしたという事実が一気に精神を蝕んでいった。この事で失望され、見放されるなんて絶対に嫌だと思ったのか命を持って謝罪しようとした。

 

「ちょっ!?馬鹿止めろ!!?」

 

突然のそれにアルトリウスは椅子を跳ね飛ばすようにしながらも懐から取り出した短刀で首を跳ね飛ばそうとするジャンヌの腕を掴んで止めた。あと少しで刃が肌を傷付けてしまうあと一歩の所だった、そんな自分をまるで神に縋るかのように懇願する聖女。

 

「良いかジャンヌ、間違いは誰にでも存在する。だがそれで容易に命を絶つなどという行為へ及ぶな、過ちは自らの行いで償え」

「アルト、リウス様……」

「―――私が生み出したお前達が、私の為に死ぬなんて事は二度と口に、出さないでくれ……」

 

思わず声が震えてしまった。自分が望んだ彼らが自分の為に死ぬ、そんな事は心から嫌だと思う。彼らにとって自分は創造主かもしれないが、自分にとっては彼らはもっと大切な存在。夢であり理想である、そんな彼らと共に居れるだけで自分は幸せなんだからその幸せを自ら壊すなんて事は絶対にしないで欲しいとジャンヌに問う。

 

「―――承知、致しました……愚かな行為に及ぼうとした事をお許しください……そして必ず此度の失態、それを返上する活躍をお約束いたします」

「ああっそれでいい、そして先程の言葉を皆に伝えてくれ」

「承知致しました、それでは失礼いたします」

 

涙を拭いながら凛々しく表情を作りながらも笑顔を浮かべて執務室から去っていくジャンヌを見送りながら椅子に座り直すが、「はぁぁぁぁぁっっっ……」という言葉と共にずり落ちるように身体を沈めてしまった。

 

「やべぇなこれ……敬意とか忠誠じゃねぇよ、これじゃあ完全な崇拝だ……ジャンヌでこれって他の騎士道を重んじる連中とかこれ以上な訳?うわぁっ……」

 

脳裏に過るのは複数のNPC。騎士として誇りを持っていたりする者もいる訳でそれらは騎士としての忠義に加えてジャンヌの様な崇拝まであると考えると……下手に怒れなくなる。いや今回の一件は寧ろ抑制にも繋がる訳だからよかったかも知れない、それでも心臓が飛び出そうになる位ビビったが……。

 

「でもこれ、モモンガさん大丈夫なのかな……」

 

自分が生み出したNPCでこれなら一人を除いて他はすべて他のギルドメンバーが生み出したNPC達がいるナザリックにいるモモンガは大丈夫なのだろうか……。不安が過ってきたのでフレンドメッセージでモモンガへと問いかけてみる事にした。

 

『あ~あ~モモンガさん、此方アルトリウス。今大丈夫ですか』

『此方モモンガ、大丈夫ですよ如何しました?』

『いやさ、モモンガさんNPCの皆の事でちょっと……』

 

と先程あったジャンヌの事を言いながらナザリックの事を聞いて見ると『あぁっ……』となんだか既視感が溢れるような溜息が漏れてきた時点でなんだか察する事が出来てきた。

 

『こっちも似たような事がありましたよ、ちょっと怒鳴っただけで死んで侘びますなんて言うもんだからもう大慌てですよ……ああそうか、その時にそう言うべきだったのか……失敗したなぁ……』

『やっぱりか……NPC達が向けてくるのって忠誠って言うよりか崇拝のそれですよね……なんというか、精神的に堪えません?』

『めっちゃ堪えます、しかも何処行くにも付いてくるのでなんかもうストレスマッハですよ』

 

それは正直自分も感じていた事だ、キャメロットを歩けば出会う全てが深々と頭を下げて挨拶をすれば歓喜の顔で此方を見る。正直肩が凝るし精神的な疲労も積み重なっていく、自分としては気軽に親子として接してくれるモードレッド、子供のようなNPCらの存在が酷く有難かった。その時ばかりは自分の素を出せている気がしてならなかった……。

 

『……モモンガさん一度会いませんか、こうして話は何時でも出来ますけど顔は合わせておくべきでしょう。顔を突き合わせて話した方が気分も晴れるでしょ』

『是非会って話を聞いて欲しいです……』

『それじゃあ俺の方から一度ナザリックに出向きますよ、そこで思いっきり口聞きますよ』

『有難う御座います……それじゃあ地表にセバスを待機させますから出発が決まったら教えて貰っても良いですか?』

『分かりました、んじゃ後で』

 

メッセージを切断しながらも天井を見上げながらいよいよナザリックに足を踏み入れる時かと思案する、あそこは自分にとっても大切な場所だ。またそこに行ける事は非常に喜ばしい。何せキャメロットはナザリックを参考にしている部分が多いのだから……それと折角行くのならNPC達も連れて行こうと思ってアルトリアに〈伝言/メッセージ〉を飛ばす。

 

『アルトリア、ナザリックに顔を出そうと思う。付いてきてくれるか』

『勿論ですアルトリウス、妻としてもキャメロットの獅子王としても共に行ける事は名誉な事です。では既に選抜したメンバーに連絡を入れ準備取り掛かります』

 

それを聞いてやっぱりそういうメンバーも編成済みだったのか、と妻のやり手加減にある種の諦めが見え始めているアルトリウスであった。



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6話

「さて、行くか」

「参りましょう、モモンガ殿をお待たせするのも悪いでしょう」

 

そんな言葉を受けながらも遂にアルトリウスはキャメロットの外へと足を踏み出した。今回自分がナザリックに連れて行くのはアルトリアが選抜した強くありながらもキャメロットの格を決して下げる事のない猛者ばかり。中には階層守護者のスカサハ、ジークフリートそしてアステリオスもその中に名を連ねている事から戦闘力という点においても抜かり無しと言わんばかりの布陣にアルトリウスは戦争行くんじゃねぇんだけど内心で思った。

 

「これは―――」

 

外に足を踏み出した瞬間にやりすぎているのではないだろうかなどという事は頭から吹き飛んでいた。広がっているのはアルトリアの報告通りの草原、頬を撫でる風は心地良い。だがそれ以上に感激させたのは見上げた空の美しさだった、既に夜の帳が降りているのにも拘らず暗さを感じずにいるのは自らの身体が変わったからではない。星だ、夜空に輝く無数の星々が夜を明るく照らしている。

 

「綺麗な空……何て素晴らしい……」

 

自分達が居た世界、リアルでの世界は既に死へと向かい続けていた。最早環境回復の兆しは無く、ただ汚染が加速し続けており空はスモッグの雲で覆われその先の星を見る事も出来ない程の世界。だが今自分が見つめている世界は本当の世界の在り方だ、穢れを感じさせないほどの美しさがある世界……かつてのギルドメンバー、ブルー・プラネットが自然について熱弁していたのも今ならわかる。これは―――心を奪われる。

 

「―――アルトリア、私はこの景色を見られただけで幸せだと感じている。嗚呼っ……素晴らしい」

「貴方が嬉しそうな顔をしている、それを近くで感じられるだけで我々にとっては喜びの嵐」

「―――いやすまない、友を待たせるところだったな。行こう」

 

多くの騎士たちを伴い向かうは懐かしくナザリック地下大墳墓。魔法などによって一気に移動する事も考えたが……アルトリウスはモモンガに断りのメッセージを入れてからゆっくりと星空の下を歩いていく事にした。友と一緒に楽しみたいと思うよりも先に、星空を歩く事で堪能してしまった……だがそれをモモンガは快く許してくれた。後でこっそりで一緒に見に行きましょうという密約と共に。

 

「父上そんなにすげぇのかこの空って?」

「ああ、凄いぞ。モードレッドよく見ておきなさい―――これから私達はこの世界で生きて、冒険するだから」

「冒険……冒険していいのか父上!!?」

「直ぐには難しいだろうがああ、何時か冒険しよう」

「っしゃあ!!なあなあ父上も一緒に冒険しようぜ!!」

「こらモードレッド、気持ちは分かりますが貴方は今近衛としているのですよ。王を守る為の役職をこなさなければだめでしょう」

 

途中、モードレッドとの戯れも何時も以上に楽しく感じられた。ブルー・プラネットが言っていた、大昔汚染がひどくなかった時代は家族で野外でテントを張ってキャンプファイヤーで調理したカレーを食べながら夜空を愛でるのが極上の贅沢だと。今度それをやるのも良いなぁと妄想しながらも進んでいくと見えてきたナザリックの地上部分である霊廟。サービス終了前の二日前にも訪れた筈なのに酷く久しぶりな気がしてしまう。

 

「ほぅあれが噂に名が高いナザリックの霊廟、いかんな少しばかし疼いてしまうわ」

 

と霊廟へと向かいながらもスカサハがそんな言葉を漏らしてしまう。彼女ほどの戦士からすればあれだけを見てもそこの主たる者の力、そしてそれらを守護する者達の力を予測する事も可能なのだろう。そしてそれらと仕合って見たいという欲求に駆られてしまっているのか自らの獲物である真紅の槍を力を込めて握りしめてしまう。

 

「そう慌てるなスカサハ、後日試合を申し込めるように話を通しておく」

「フフフッ配下に対する気配り、痛み入るぞアルトリウス」

「おいおいマスターずりぃじゃねぇか俺にもやらせてくれよ」

 

そんな言葉を漏らすのはスカサハの配下でランサー・クー・フーリン。戦士として強者と戦えることはどれ程までに嬉しい事なのか分かった上でそんな言い方をするのはずるいと口にする。

 

「安心しろクー・フーリン、その機会は希望する者全員に与えるつもりでいる。コキュートスもお前達を気に入る事だろうからな」

「おっ嬉しい事言ってくれるじゃねぇかやっぱうちのマスターは部下の心を掴むのが上手いねぇ、コキュートスっつうと武人武御雷の旦那の奴だよな。腕が鳴るねぇ……今から楽しみでしょうがねぇぜ」

 

猛犬を異名とするだけあって酷く獰猛そうな笑みを浮かべながらも来るであろう未来での戦いを予想しながら、今から滾ってしょうがないらしい。これは漏れなく戦士系の皆に言えることだがアルトリアは溜息混じりに言う。

 

「結構な事ですが今回ナザリックへと向かう理由は戦う為ではないでしょう、あくまで同盟相手でもありアルトリウスが名を連ねていたアインズ・ウール・ゴウンへの御挨拶なのです、故にそのような闘気を溢れさすことは控えなさい」

「済まんな。我ら戦士にとっての本能でもあるのだ、これはキャメロットに戻り次第我々で試合をして発散するとする」

「やれやれっ品のねぇ奴らだぜ」

「テメェが言うか。マスターの娘の癖に色気も品もねぇテメェが」

「っるせぇな俺は良いんだよこれで!!」

 

「ますたー、うれしそう」

「んっそうかアステリオス、そう見えるか?」

「うん。とってもにこにこだよ、うれしそうでたのしそう」

 

アステリオスが思わず表情に付いての言及してきた、如何やらかなり嬉しそうにしているらしい。実際本当に楽しくてしょうがない、理想とも言える皆に囲まれながらもそれらが楽しそうにしている。これを楽しいと言わずとして何を楽しいと表現するのか……本当に嬉しい。

 

「そう言えばアステリオス、ケイローンの所に通っていると聞いたが何をしているんだ?」

「え、ええと……ぼくはしゅごしゃだから、もっともっとがんばらないといけないとおもって、せんせいにいろいろ、おしえてもらったの。しせいとかことばづかい、とかいろいろ……」

「そうか頑張っているのだなアステリオス、お前がお前らしくいる事が一番だ。だがその努力は非常に嬉しい、これからも頑張れよ」

「!!う、うんぼくますたーのためにがんばる!!」

 

嬉しそうな顔になりながらも両腕を構えて強さをアピールするようなポーズを取りながらも頑張る!!と繰り返すアステリオス。そう言えばケイローンには子供達から特に慕われていて時間を見つけては授業をしている設定を与えていた気がする。それがこんな所に波及していたのは予想外だったが、これはこれで愛らしい、非常に可愛い。

 

そんなやり取りを続けているとあっという間に霊廟が迫ってきた。そして霊廟の前で待機している執事とその後ろに控えている美しい6人メイドたちが目についた。その姿になつかしさを覚えつつもその前へと立つとその全員が礼を取った。

 

「フフフッ何故だろうな、さほど時間も経っていない筈なのに久しく感じられるのは何故だろうな……息災かセバス」

「ハッ!!アルトリウス・ペンドラゴン様」

「プレアデスたちも元気そうで何よりだ、君達が歓迎とは……中々どうして込み上げてくる物があるな」

 

臣下の礼を取り続けているセバスら、彼らにとってアルトリウスも至高の御方の一人。その中でもたった一人で同じギルドを切り盛りしながらアインズ・ウール・ゴウンの主であるモモンガと対等に立ったという認識がある。故かそんな言葉を掛けられてその場の全員が心からの歓喜を感じながら再びアルトリウスと会えた事に感激していた。

 

「モモンガ様からはアルトリウス・ペンドラゴン様と騎士の皆様々へ最大限の礼を以て接するようにと命じられております。我らが出迎えるのは当然の事、お気遣い無きように……」

「済まないな。では、ああいやそれではセバス、プレアデス。我らの案内を頼めるか?」

『ハッ!!』

 

セバスらはこの時、望外の喜びに溢れていた。このナザリックの事を知り尽くしているのはギルドに所属したのだから当然の事。故に自分達の案内など必要ではない筈なのに自分達の顔を立てる為に態々案内をするように頼んだ。そのような事は執事やメイド冥利に尽きる。歓喜に震えながら案内をする彼らキャメロットの皆を案内した。

 

「面を上げよ」

『ハッ!!』

 

ナザリック地下大墳墓第十階層、玉座。ナザリックの心臓部、その最奥に存在する玉座にて今モモンガが玉座へと付きながら階層守護者を呼び出していた。そこに集うはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーが作り上げたNPC達。

 

「さて今回集まって貰った理由はそうだな……お前達、アルトリウス・ペンドラゴンさんの事を覚えているか」

「覚えているかなどとんでもございません、かの御方を忘れるなどという愚行をする者はこのナザリックに存在致しませぬ!!」

 

モモンガに対する問いに白いドレスを身に纏う守護者統括たるサキュバス、アルベドが応える。その言葉に守護者全員が同意を浮かべる、それにモモンガは満足しながらも言葉を続ける。

 

「私も彼を忘れるなどという事をするとは思ってはいない、このギルドから独立し自らの城を勝ち取ったのは彼一人のみだ。その時にあの人はギルドから除名してくれて構わないと言ったのだがな、我々はそれを良しとはせずに名を残し続けている。そして今―――その彼がこの世界にいる事が判明しナザリックにとってこれ以上とない吉報となった。そしてアルトリウスさんは是非ともナザリックへと足を踏み入れたいと仰ってくれた」

 

おおっ!!喜びの声が守護者から溢れた。かの騎士王が再びこのナザリックに、それがどれだけ嬉しいのかモモンガには推し量る事は出来ない。喜んでるなぁ……程度にしか見えないが、彼が思ってる以上に歓喜に溢れている。一部守護者からは喜びとは全く別な興奮で大変な事になっている。

 

「ではモモンガ様、早急にアルトリウス・ペンドラゴン様をお迎えする準備を整えます。かの騎士王を迎えるにあたりこれ以上という事もない程の盛大な式典を行うのが相応しいかと」

 

第七階層守護者、デミウルゴスが眼鏡を輝かせながらそう進言する。モモンガもそれは考えた、折角このナザリックに来てくれるのだったら盛大なパーティを開くのも楽しそうだなぁと。だがそれを少し笑いながらやんわりと否定する。

 

「それも良いな、だがアルトリウスさんはきっと普段通りのお前達が出迎えてくれるだけで極上の歓迎だと喜ぶ筈だ―――だろう友よ」

 

そんな言葉と共に開け放たれる王座の間の扉、その奥から姿を見せるのは多くの臣下を従えながら姿を現す騎士の王。

 

「ああ、私にとってそれが極上だとも。友よ」



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7話

姿を現したる騎士たちの王は神々しい鎧、そして勇ましく兜を身に纏いながらも自らの力を誇示するかのような剣を腰へと佩く。数多の騎士、戦士たちを引き連れながらも王座の間へと足を踏み入れ、一歩また一歩と歩みを進めるために耳を刺激するような涼やか且つ重厚な鎧の音はナザリックの階層守護者たちに歓喜を与えつつも深い畏敬の念を抱かせながらも自らの身体を退けながら彼の王への道を開けた。

 

自然とキャメロットの騎士、戦士たちは待機する姿勢へと移りながら騎士王とその伴侶たる獅子王は共にナザリックの最高支配者へと向かって行き、向かい合うと自然と手を取り合った。

 

「この時を待ちわびたぞ、余り待たせてくれるな友よ」

「此方も色々あってな。それはそちらとて承知している筈、その言葉は些か意地が悪いぞ」

「ハハハッすまんな」

 

強い握手をしながらもナザリック、キャメロット双方のNPC達はその光景を神々が成す神話の一ページのような目で見つめ続ける。―――が実際は言葉では荘厳さを出しているが内心ではアルトリウスが〈伝言/メッセージ〉でモモンガへと文句を言っていた。

 

『あだだだだだっちょっとモモンガさんアンタなんかスキル切り忘れてません!?ふっつうに痛てぇんですけど!?』

『えっあっしまった〈負の接触/ネガティブ・タッチ〉か!?すいません忘れました!?』

『アンタアルベドの胸揉んでからなんかポン骨化してない!?』

『ちょっとその事はもう言わないでくださいよ!?』

 

内心をひた隠しにしながら互いに色々とぶつけ合いながらも握手を終えながらモモンガはアルトリアへと目を向ける。

 

「こうして此処で会うのは初めてだな、私の伴侶のアルトリア・ペンドラゴンだ。まあ説明は不要だろうがな」

「まあそれなりに私もキャメロットに行っていたから知らぬ間柄ではない。久しいなアルトリア、息災か」

「お久しぶりですモモンガ殿」

 

軽い挨拶を行っているのだが、アルトリアの事がモモンガの口から出た際にアルベドたちは凄まじい驚きようであった。あのアルトリウスに既に伴侶である存在がいるという事はそれだけの衝撃を生むに等しい爆弾発言だったらしい。どうやらそれらの話はユグドラシル時代でもあまりされなかったらしい。そして挨拶を終えるとナザリックの守護者たちへと目を向けた。

 

「シャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴス、そしてアルベド。ナザリックの階層守護者諸君、再びこうして会えることを私は嬉しく思う―――嗚呼っ矢張り此処も私にとっては魂の場所なのだな。酷く落ち着くよ」

 

その言葉は守護者たちに喜び、安心感、感謝、様々な思いを抱かせる物だった。矢張りこの方もナザリックを心から愛しておられるのだと分かりきっていた事だがその事を改めて言葉にされるとあり得ない程の嬉しさを感じずにはいられない……。そしてモモンガとアルトリウスは更なる言葉を口にする。

 

「我が守護者各位、アルトリウスさんは我がギルドの一員であると同時にギルドの長でもある。そんな彼と私は全く同じ権限を有する、そしてこの時を以てアインズ・ウール・ゴウンと神聖領域巨城は更なる連携を取る必要が生まれる」

「それらは我らだけではなく、アインズ・ウール・ゴウン並びに神聖領域巨城を守る事に通ずる。故に我らが命ずる」

「「我らが守護者たち。我らへと向ける忠義、忠誠を我らに捧げよ!!そして我らと共に歩むのだ!!」」

 

その命令に双方のギルドのNPC達、全員が頷き言葉を発し了解した。互いにバレない様にひっそりと通じ合いながら合わせて放った言葉が完璧に決まった事を確認しつつも安心し、NPC同士の交流の時間を取ると同時に自分達はこれからの方針を協議するという名目でその場を離れる事にした。互いにギルドの指輪を用いてモモンガの執務室へと転移して、誰もいない事を確認すると互いに深い深いため息を吐き出すのであった。

 

「お、終わったぁぁぁぁぁっっ~……」

「お疲れさんです……やっべぇよキャメロットで慣れたつもりだけど全然だ……」

「俺もですよ……というかアルトさんあの人数相手によくも今まで……俺なんてアルベド達だけでもいっぱいいっぱいなのに……」

 

多人数での協議用のソファに互いに崩れ落ちるように座りながら支配者との仮面をかなぐり捨て、お互いに素を出して話し合う。もう出来る事ならば堅苦しい事なんて御免だがそうもいかない、なので此処で存分に素を出して英気を養うしかない。

 

「というか本当に美人ですねアルトリア、しかもあれで王としても完璧なんでしょ?そりゃアルトさんも疎外感に恐れますよね」

「モモンガさんだってアルベドとデミウルゴスまでいるんだからもう丸投げしてりゃいいでしょは一緒だよっつうかマジで童貞なのに子持ち嫁持ちになって如何しようって感じだよ」

「リア充死ねって奴ですね、嫉妬マスク使いますよ」

「アルベドの胸揉んだ奴が何をほざくか、というかアルベドのビッチ設定がそのままなんだからそのうち純潔奪い来るだろうから大丈夫大丈夫お前だってすぐにこっちの仲間入りになるから気にすんな」

「いや気にしますよそれはそれで!?」

 

プレイヤーとしての会話っというよりも完全にギルドメンバー同士、友人同士の会話。会話だけなら今までもしてきたがモモンガは目の前に相手が確りいるという事に深い安心感を覚えながらナザリックでは出来ない軽口を叩きながら友人の言葉にツッコミをいれたりふざけ合ったりする。それを行う度にストレスが激減していくのを感じながら。

 

「それで俺の評価が高すぎて本当に俺の事を言ってるんだよな!?の連続で……もう気が休まる時間がなくて、まあ感情の起伏が大きくなったら勝手に精神の安定化が起きるんですけど……そのせいで大喜びもし難くて」

「あ~そりゃ辛いな、そうだモモンガさんあれは如何した。異形種プレイヤー必須の指輪」

「〈人化の指輪〉ですか、ソロ時代が短かったから俺持ってないんですよ」

「んじゃ俺の一個いる?昔にガチャ引いたらはずれの奴が出てきたから、これあれば多分モモンガさんでも飯食えるだろ。リアルと違って飯が最高に美味いんだから食わなきゃ損だぜ」

「―――マジですかそれ」

「エミヤと紅閻魔の料理食って暫く思考が停止した俺が言うんだ間違いない」

「是非ください」

 

同じ異形種ではあるが、スケルトン系のモモンガとドラゴン系のアルトリウスでは大きな差もあり認識にも違いは出てくる。その辺りを確認するだけでも情報としては非常に大きいし足並みを揃える意味でもこの話し合いは価値がある。そんな話の途中にモモンガは神妙な声色で問いかけてきた。

 

「あ、あのアルトさん……アルトさんはその戻りたい、ですか……そのリアルに」

「!」

 

その言葉に含まれていた感情からして非常に勇気を出した言葉なのだろう。モモンガは自分の骨の手を見ながらもリアルを思い出しながら語りだす。

 

「俺はユグドラシルが全て、でした。家族もいないし友人もギルドの皆以外には居ませんでした……だから今の俺にとってはナザリックが全て……でもアルトさんは如何ですか、もしもリアルに戻りたいなら俺は……それを全力で支援したいです」

「―――何を言いだすかと思えば、何を言ってるんだよギルマス」

 

呆れたような声に顔を上げるとそこには兜を小脇に抱えながらジト目で此方を見つめているアルトリウスがいる。

 

「俺にとってもキャメロットは全てだ。3年をかけて自分の手で作り上げた理想郷だ、それをサービス終了だからと言って捨てられるほど俺は冷たい男じゃない。それに今リアルに戻っても結局俺に待っているのは天涯孤独なままで寂しくて機械的に仕事をこなす日々なんだよ、生き甲斐だったキャメロットもユグドラシルもない世界に戻るのは俺は嫌だね」

「アルトさん……!」

 

輝く瞳で見つめてくるモモンガ、彼へと述べた言葉に偽りなど無く本心だ。キャメロットには苦労と失敗の数々があり、その度に重なる修正作業があったがその末に生まれたがあの城だ。その城には自分の全てが含まれている、それを否定する事などしたくないしもう二度と手放したくはない。今度は自分があの城を守り続けたいと心から思う。

 

「折角出来た嫁と子供を捨てる程俺は落ちぶれちゃいねぇよ」

「ですよね、すいません分かってたはずなのに野暮な事聞いちゃって」

「しょうがあるまいよ、これはもしもたっさんとかと一緒だったら確実に聞くだろうし」

「あ~……たっちさんはリアルに奥さんもお子さんもいますからね」

 

そんな友人同士のやり取りを復活させつつもモモンガは内心で歓喜していた。あれほどキャメロットに愛情を注いでいたアルトリウスならばきっと、と思っていたがユグドラシルでは話さなかったリアルの事情などもあれば話も変わってくるだろうと不安もあった、だがそれが完璧に払拭された事で心の中にあった重しが完全に取れたと言ってもいい。これで漸く身軽になって前に進めるような気がする。

 

「ナザリックにはある程度滞在しますか?みんな喜びますよ」

「あ~如何すっかなぁ……ありだけど今回は挨拶で来てるから一旦帰るよ。それで個人的に遊びに来る事にする、そうした方が対応しやすいだろ。何時までも俺のNPC達を連れまわす訳にも行かないし、その代わりにコキュートス辺りにうちのNPCが試合したいって伝えてくれない?」

「勿論いいですよ、きっとコキュートスも喜びますよ。俺が相手をしてあげられればいいんですけど流石に厳しいですから」

「それでも普通に勝つだろうけどな、モモンガさんは」

 

改めて握手をしながらも互いに助け合ってこの世界で頑張っていこうと誓い合う。未知の世界だが手を取り合って出来る事をこなしていけばきっとやっていけると確信を持ちながら、二人は王座の間へと戻ってみた。そこではNPC達が思った以上に楽しそうにしていたので胸を撫で下ろしこれからの事への期待を高めながら未来への希望を募らせていくのであった。

 

「その、アルベドから是非にと夫婦の円満のコツを聞かれたのですが……どう答えれば良いでしょうか」

「そ、そうだな……まずは小さな事から互いの事を知り合う事を経て行くというのは如何だ?いきなり大きなことをするのはあれだし、まあゆっくりとする事だな!!」

「流石アルトリウス・ペンドラゴン様!!」

 

『モモンガさん、アンタを見るアルベドの目がやべぇよ。完全に獲物を定めた肉食獣の目になってんぞ……ついでにシャルティアも』

『ひぃぃぃぃっっっ!!?アルトさん助けてくださいよぉ!?』

『……非常時はキャメロットに逃げてきていい位の事しか出来ないと思うぞ』

『十分です!!』



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8話

アインズ・ウール・ゴウンとキャメロット。同盟関係にあるギルドとの関係を強める事に成功した訪問の翌日、アルトリウスは自身の執務室で周辺地域の洗い出しで分かってきた情報などに目を通しながらもそれらをモモンガへと共有させる為にギルド間でのチャットなどに使用されるモニター型のアイテムにコピーを差し出した、するとコピーは吸い込まれていき画面の向こう側にいるモモンガへと転送させる。

 

『あざっすアルトさん、それにしてもキャメロットって俺が思ってた以上に色んな人材いるんですね……』

「そりゃそうよ、俺が心血注いだキャメロットだぜ。言うなれば弐式炎雷(にしきん)の下位互換のアサシンがそれなりにいるよ」

 

自慢するように胸を張るアルトリウス。キャメロットが誇る隠密作戦部隊には原典で言う所のアサシンらが所属しており、そこには忍者やスパイ、刺客などが多くいる。その中でも今回大活躍しているのは百貌のハサン、人格の数だけ別個体としての自分を生み出せるという宝具(コンボ)妄想幻像(ザバーニーヤ)の為に種族や職業などを厳選した。それが今回大活躍中、主としても鼻高々。

 

『でもレベル的にはかなり低くなっちゃうんですよね』

「まあそこがネックだけどそこも原作再現だから俺は気にしてない。レベル的には15~20ぐらいかな」

『うわぁかなり低いですね』

 

百貌のレベルは70だが妄想幻像を最大まで発動させると本体と各個体のレベルは一気に下がっていく、このレベルは相当に弱いレベルに入るのでアルトリウスとしても無理はさせる気はなく危険な状況に判断したら即刻撤退せよという指示を厳命している。これについて百貌自身は使い捨てる事こそが最も効率が良く本望だと申し出ようとしたが、ジャンヌから伝えられた言葉を思い出し自分の身を案じそして帰ってくる事こそが一番の望みだと知ってそれを受け入れてくれている。

 

「一応近くに別のアサシンを待機させてるから大丈夫だとは思う、いざという時は直ぐに応援も出す」

『それが良いと思います。それにしてもアルトさんのお陰で大分周辺地理の情報も出揃いましたし後はこっちでも周辺警戒の為の事を考えないとなぁ……』

「ニグレドとかにずっと警戒させるのもあれですもんね、なんかいい感じのアイテムってありませんでしたっけ」

『う~んパッと思いつくのは遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)ですかね』

「いやでもそれって直ぐに見つかっちゃう奴じゃありません?」

 

などと言った協議を行い続けるナザリックとキャメロットの王たち。基本的この時間は応接室には彼らのみ、そしてこの時間だけがモモンガとしては心が安らぐ時間だった。言い方は悪いかもしれないがナザリックの皆の為に支配者たらんとする演技をしているので精神的に疲れは溜まる、それの解消に大いに役立っている。

 

『こっちでも色々探してみますね、俺アンデッドなんで疲労とかしないのでやっときます』

「程々にしといた方が良いよモモンガさん。精神は疲労するんだ、適度に人化して飯でも食えよ」

『ああっご飯はちゃんと食べてますよ、やばいですよねリアルのあれら何なんだってレベルです』

 

如何やらプレゼントした〈人化の指輪〉は有効的に活用されているらしい。そして思うのはリアルがどれだけ酷い世界だったかという事ばかりだった、そろそろ会話を切ろうとしていたのだが溢れんばかりの愚痴が出まくってしまう。会社の上司が女と遊ぶために仕事を押し付けてくるだの、ブラックすぎるだのといった話が本当に耐えない。

 

『んっあっもう直ぐ食事の時間だ、すいません一旦切りますね』

「乙乙~んじゃまた後で」

 

報告と情報共有の時間である筈なのに毎回決まって気軽なチャット気分になってしまう、まあこの場合は致し方ないだろうと思っている。モモンガの場合はナザリックで極めて素になりにくいのだから。自分が作ったNPCならばなれるだろうと思うだろうが彼の場合そうではない、彼にとって己のNPCは生きる黒歴史なのだから……。

 

「失礼するよマスター、食事をお持ちした」

「嗚呼っありがとうエミヤ。今日のメニューは?」

「ご希望通りに和食を用意した、存分に食べてくれ。料理長も腕を振るえて嬉しいと言っていたよ」

 

それを考えるのは後にしよう、と取り敢えずエミヤの持って来てくれた食事へと手を伸ばす。叫びたくなる程に美味しかった。そして食事が終わって少ししてからアルトリウスの姿はナザリックにあった、先程の話を続きをする為である。

 

「これがスクロール、これで視点の回転……右回転左回転で……あれっズームは何だろ」

「操縦桿イメージすると上手くいくなこれ」

「操縦桿……う~ん……」

 

と一緒になって遠隔視の鏡の操作確認を行っている、ユグドラシル時代(ゲーム)ではクリックなどの簡単操作だったが現実となってしまっているいまではそんな操作は受け付けない。ボディランゲージで操作を行えるという事は分かったので取り敢えず色んな動作をして、どれがどんな操作になるのかを一つ一つ確認している所である。そんな二人を見つめているのはモモンガの執務室で控えていたセバス、そして御付として付いてきたモードレッド。

 

「ズームは……あれどれだ?」

「なあなあ父上俺にもやらせてくれよ、拡大ならこうじゃねぇかな」

「―――おおっ本当だ、やるなモードレッド」

「へへん、直感だけどな♪」

 

父親であるアルトリウスの鏡を覗き込みながらもタッチパネルの一部を指で伸ばすような動作をすると拡大、その逆をすると縮小となるらしい。流石の直感だとモードレッドを褒める、それを受けてモードレッドは素直に喜びながら笑顔になりながら頭を撫でてと言わんばかりに頭を差し出してくるので優しく撫でてやる。そんな様子を見てモモンガは羨ましそうに見る、自分もNPCとあんな関係だったらいいのになぁ……という思いを込めながら。

 

「さて、それではアルトさんの報告と照らし合わせながら偵察をしてみるか……アルトさん俺の鏡でやりますから報告書の方をお願いします」

「分かった」

 

と二人して鏡を覗きながらも報告書の地点かどうかを確認している主たちを見つめるセバスとモードレッド。ややシュールな所があったが漸く上手くいったのか村を見つける事が出来た。これが恐らく発見した村という奴だろう、一先ず自分達の目でどんな文明レベルなのかを調べようと拡大してみると―――そこに広がっていたのは鎧に剣などで武装した騎士の集団に村人が襲われる光景、鏡にはまた一人が騎士に斬り殺されてしまった。

 

「これは……何だ」

「―――こりゃ騎士たちが一方的に村人を殺してる、村人の顔には何で自分達が殺されるのか分かって無いって浮かんでる。だが騎士には目的があって殺してるように見えるぜモモンガ様」

 

質問に応えるようにモードレッドが持ち前の直感と騎士としての視点で意見を述べた。だがそれはそう言った意図ではない、モモンガは驚いていた。映画などでもあり得ないような生々しい人の死に絶える姿、血飛沫が空を舞い地面を染め上げ、零れ落ちる内臓……普通ならば声を上げても可笑しくないのに何も感じない、まるで目の前で虫の狩りを見ているかのような如何でも良さげに想っている自分がいた。即刻〈伝言/メッセージ〉を飛ばす。

 

『アルトさん俺、なんか変です。この光景を見ても何も感じません……!!』

『……奇遇だな俺もだ。これが異形種になってる影響って奴か……同族意識がねぇだけでこんなにも変わるのか……マジか』

『それなら指輪をしたら変わりますかね』

『価値はあると思う、やろう』

 

異形種化が影響ならば―――と共に人へと変化する指輪をして再び鏡を見る、また一人人間が殺された。それを見て二人の心は、荒れない程度には冷静だった。戦争映画でゴア表現を見た位の変化しか起きていない。兎も角冷静になりつつも二人は協議する、このままこれを見過ごすか、否かを。

 

「モードレッド、お前は如何見る」

「如何って言われてもな……何とも言えねぇよ父上、村人が悪いかもしれねぇし騎士がわりぃかもしれねぇ。だけどよ……」

 

拳を握り込みながら、歯軋りをさせながらモードレッドは怒りを感じている顔で応えた。

 

「この騎士たちは明らかに無抵抗な奴まで殺してやがる、抵抗しねぇって意思表示してる奴まで……俺はこいつらが大っ嫌いだ!!」

 

それだけはハッキリさせたいと言わんばかりの大きな声で宣言する、それにはセバスも同意見なのか僅かに頷いていた。それを聞きながらモモンガもそれには同意を浮かべる、事情があるかもしれないが自分達の目には明らかな一方的な虐殺にしか見えない。そしてそれに強く同意を浮かべたのは騎士王でもあるアルトリウス。

 

「俺もこいつらは嫌いだ―――モモンガさん、行かせてくれないか。この世界での我々の力を知る為にも」

「……分かりました、何れにしろこの世界における強さの検証は必要ですからね……ですが私も指示出したら直ぐに行きますので無茶はしないでください。〈転移門/ゲート〉」

 

モモンガは目の前に異空間の門を作り出す。ユグドラシルにおける距離無限、転移失敗率0の確実な移動魔法として重宝していた魔法を展開してアルトリウスを送り出す準備を完了させる。それに感謝しながらアルトリウスは腰にある剣の鞘に手をやりつつもモードレッドに目をやる。元より承知だと言わんばかりの瞳をしている。きっと自分が思っている通りだろうが、兜を被りながら敢えて言った。

 

「行くぞモードレッド、これがこの世界における我らが初陣だ」

「おう父上」

 

モモンガによって生み出された異空間の門、躊躇する事もなく二人はそこへと入っていくと鏡にはその姿が映し出されていた。



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9話

〈転移門/ゲート〉を超えた先、そこでは今にも剣を振り下ろして幼い妹を庇っている少女にとどめ刺そうとしている騎士らの姿があった。少女の背中には浅いが剣による傷が存在しており痛々しい。単なる村娘である彼女からすれば絶する痛みだろう、それから必死に耐えながら妹だけでも……!!と言わんばかりの表情のまま我が身を盾にする少女、その行動がまるで神に届いたかのように、異空間から騎士を伴う王が姿を現した。

 

「なっ何だお前ら!?」

「村の奴らが雇ってた用心棒か何かか!?」

 

突然姿を現したアルトリウスとモードレッドに騎士にそぐわない存在らが言葉を口にするが、先程とは打って変わったように鎧越しにも分かるように身体を震わせて恐怖している。〈聖騎士の威光〉というスキルが発動している故の反応、本来はボスなどの取り巻きの雑魚などの牽制目的に使用されるスキルで相手に恐慌などのステータス異常を齎す。相手がアンデッドなどの存在ならば更なる異常を齎すものだが……如何やら十分過ぎる程に機能しているらしい。

 

「痴れ者がっ……!!!」

 

目の前で傷ついた少女を目の当たりにすると湧き上がってくる怒りがある、それは自らが騎士王と呼ばれる故か、それとも自らのカルマ値が善に振り切れているからこそ眼前の騎士崩れの悪意を敏感に感じ取れているからだろうか。理由は分からないが瞬時に抜刀する、音速を超えた閃光抜刀。空間には金色の光が残り香を残すかのように残光を残しながら振るわれた、その剣は〈勝利すべき黄金の剣(カリバーン)〉。選定の剣とも呼ばれるアルトリウスの副武装、本来の武器よりも劣るがそちらを抜く気になれずに此方を抜いてしまった。が、武器としてはそこまでではないこれで倒せるのかと抜いてから疑問に思った―――のだが

 

「えっ」

 

振るわれた一撃、それは背後にあった樹木ごと切断するかの如き一閃。だが剣は木を傷付ける事もなく騎士崩れの身を切り裂いた。聖剣にして名刀の神髄を発揮し敵の首を地面へと転がした。その出来事に隣のもう一人は悲鳴を上げながら後退ろうとするのだが、そこへモードレッドの回し蹴りが炸裂して兜ごと頭部を潰しながら大地の肥やしと成り果てた。

 

「下衆が……崩れだろうが最後に騎士として死ぬ機会すら捨てやがって。クソが……テメェなんざ父上の手にかかる事も烏滸がましい」

「アルトさん、お待たせしました」

 

既にその名乗れる事も出来ないだろうが、最後の最後にせめて気骨を示してから死ねる機会を失ったそれを侮蔑しながらも言葉を吐き捨てた。そんな直後にモモンガが姿を現した。人化を行ったまま姿を現している為に黒髪の痩せ気味のやや普通よりのイケメンの魔法詠唱者に見える、それを見つつもアルトリウスは骸骨のままだったら流石にビックリされただろうなと思いながら兜を外しながら少女らに目線を合わせるように膝をついた。

 

「大丈夫かい」

「はっはい……あ、あのえとえっと……」

 

死を覚悟していたからだろうか、突然自分を殺そうとしていた者達が逆に殺されて助かった事で頭の中で言葉を作り上げる事が出来ないのか目を白黒させながら唯々うまく喋れない事を繰り返している。無理もない事だろうと思いつつも落ち着くまで待つ事にする。

 

「アルトさん相手はどのぐらいでした?」

「カリバーンの一閃で即死するぐらい、俺もビックリした」

「えっでもカリバーンって式典向きな武器で全然ですよね、それで瞬殺ですか?」

「一瞬。後モードレッドの蹴り一発で」

 

握った拳を開きながらボンッと付け加えて説明するとモモンガは倒された敵を見て流石に弱すぎないかと首を傾げた。確かにアルトリウスはカンストプレイヤーだが使った武装はそこまでではない、モードレッドの蹴り一発で一撃という事を踏まえて弱すぎないかと思う。基礎的な戦闘力だけで何とかなるという事でいいのだろうかと思いつつも念の為も踏まえて盾は必要だなと思ってモモンガは一度人化を解除してからスキルを発動する。

 

「〈中位アンデッド創造、死の騎士(デス・ナイト)〉」

 

黒い霧が近くに転がっていた騎士の死体を包み込み、溶け込んでいく。同時に死んだ騎士の身体を持ち上げていきながらも姿を変貌させていく、それらはユグドラシルとは全く違う方法での作成だったので思わずモモンガもアルトリウスも顔を顰めながらうげっ……と口に出してしまった。そして間もなくすると完成したのは死の騎士。先程の騎士崩れが死を経て騎士になったのかと思うとストーリー性めいたものを感じる。それを見たモードレッドは声を上げながら興味深そうに死の騎士を見つめている。

 

「へぇっ~これがアンデッドの騎士かぁ、さっきの奴よりずっと騎士らしいな」

「そうかもしれないなモードレッド、さて死の騎士よ。そこに転がっている騎士の仲間がこの先の村にもいる、そいつらを消せ」

「オオオァアアアアアアアアア!!!!!」

 

咆哮、身の毛がよだつかのような恐ろしく本能へと訴えかけるかのような凄まじい咆哮、殺気を込めた咆哮をもって了承とした。思わず少女二人は震えるが、アルトリウスが背中を撫でてやって安心させてやる。モモンガは満足げに次へと進もうとするのだがなんと死の騎士はそのまま村へと走りだしてしまった。思わずあっけに取られてしまう。

 

「あ、あれぇ~……いや確かに命令したけどそれはこれから村に行ったらってつもりだったんだけど……もしかして自由度が違うのかな」

「留まらずに行っちゃった……まあ流石に直ぐにやられないんじゃないかな、防御よりな奴だし」

 

直後、開いていた〈転移門/ゲート〉から全身を鎧で包んだアルベドが姿を現した。彼女には申し訳ないが死の騎士の代わりに自分達の守りをモードレッドと一緒にお願いすることにしよう。

 

「準備に時間がかかり申し訳ございません」

「気にするなアルベドよ。私とアルトリウスさんの守りをモードレッドと共に任せる」

「はっお任せください!!」

「おう任せてくれよ!!」

 

胸を叩きながら任された!と笑うモードレッドに頼もしい限りだと漏らしながらもアルトリウスは虚空へと手を伸ばす、すると黒い靄へと手が消える。ゲームではよくあるアイテムボックスはユグドラシルではこんな風になるらしい、そしてそこから治癒の薬(ポーション)を取り出すとそれを少女へと差し出した。

 

「背中の怪我もある、これを飲むといい。傷が癒える」

「赤いっ……!?血っいえポーション、なんですか……?」

 

何処か震えような声と共に瓶を受け取る彼女にモモンガと共に首を傾げた。これはユグドラシルの初心者にお世話になった最下級品〈下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)〉、もしかしたらこの世界におけるポーションというのは違う色なのかという疑問を抱きつつも大丈夫だから飲みなさいと後押しすると助けて貰ったのだからと一気に飲み干す。すると傷は一瞬で塞がり痛みなども消え失せた、それを感じてまるで奇跡でも起こったかのような反応をする少女を見ながらも兜を被り直すとモモンガが気を利かせて防御魔法をかけてやる。

 

「それで恐らく大丈夫だろう、それとこれを渡しておく。それを使えばゴブリンが現れお前を守護する事だろう」

「行こう友よ」

「ああ」

 

その場を去ろうとする自分達は少女は呼び止めながらあらん限りの感謝を込めながら頭を下げ、出来れば名前を教えて欲しいと懇願する。それに応えるように二人は名乗る。

 

「アインズ・ウール・ゴウンの支配者、モモンガだ」

「キャメロットの騎士王、アルトリウス・ペンドラゴン」

 

 

死の騎士を追うような形で村へと向かって行く最中にも先程の仲間だと思われる存在らの死体などが転がる。それは死の騎士が道すがら仕留めた者もあるが護衛という役目をこなしているモードレッドの力によるものでもある。

 

「父上~もういなさそうだぜ~」

「ではそのまま先導を頼むぞ」

「え~い任された~」

 

嬉しそうに前を歩いている娘を見続けるアルトリウス、頼もしいと思いつつも本当に可愛いなぁと親馬鹿になる親の気持ちが分かってきた。そんな親子を見つつもアルベドにモモンガはある事を質問してみた。

 

「アルベド、モードレッドはアルトさんの子と言う事になるがお前達からすればどんな印象なんだ?」

 

正確に言えば実の子供という設定が与えられているNPC、だがナザリックからすれば至高の御方の子供という事は揺るがない。とすると何か変わってくるのだろうかという純粋な興味だった。それに対してアルベドの答えは対等だと応える。

 

「アルトリウス様の御息女様ですが、堅苦しいのは苦手だから対等な関係を希望されましたのでそのようにしております。改めた方が宜しいでしょうか」

「いや当人がそう望んでいるのであればそうした方が良いだろう」

 

矢張りその辺りも気を遣うのかと思うと同時に自分のNPCの事を考えてしまう。仮にあれをナザリックの皆と対面させた場合、息子として扱われたりするのだろうかと内心不安に思っている。その辺りは自分で何とかするしかないか……となんだか心なしか肩が重くりながらも村へと道を進んでいく。そしてそこで死の騎士による騎士たちの蹂躙が起きているのを見て益々この世界でのレベル帯が気になるのであった。



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10話

村へと到着した時、そこでは既に死の騎士によって村を襲っていた集団は壊滅的な被害を被っておりほぼ全員が死に絶えていた。数人は残っていたがそれらに対しては警告を発しそれらを上へと通達させるメッセンジャーとして追い払うという形を取った。その際にモモンガは本名を名乗らずに我々はという言い方をして集団の名としてアインズ・ウール・ゴウンの名を名乗った。そしてその後によそ行きの名前としてアインズ・ウール・ゴウンを名乗っていいかとアルトリウスに尋ねるのであった。

 

『モモンガがこの世界にいるかは分からないですけど、小動物と同じって言うのは何かあれかなぁって』

『別にいいと思うよ、というかギルド長なんだしそれを使うのは悪くないんじゃね?後他にもプレイヤーが居たら警告にもなるし一石二鳥って奴だよ』

 

好意的な反応を返して貰った事に安心しながら外ではそう名乗ることを決めたモモンガ。村に恩を売りつつも周辺地理の詳しい情報を求めた、キャメロットのアサシンの情報はあるが現地で得られるものもあれば更に明確な事が分かると踏んだ上の行動だった。この村、カルネ村が属するリ・エスティーゼ王国、王国との対立を続けるバハルス帝国、人類の護り手を謳うスレイン法国などの周辺国家や一番近くの大きな都市のエ・ランテルなどの情報を取得できたのでまずまずの収穫だと素直にモモンガは満足気であった。

 

「さて色々と情報が出てきましたね、俺としては冒険者なんかが気になります」

「同じく。だが聞いた限りだと対モンスターへの傭兵というイメージだな」

「近々エ・ランテルと言う所にアサシンの派遣をお願い出来ます?」

「請け負った」

 

葬儀の為に村長夫妻が出て行ったのに合わせて自分達も情報の整理などを行う為に話をすることにする。今回の一件は結果的に動いて正解だった、それに安心しつつも思考を巡らせるが視界の端で葬儀が見えたのだが……そこでジャンヌがシスター的な役割をしているのが見えた。流石聖女なだけあって様になっているのだが何故彼女が此処にいるのだろうか。

 

「アルトさん、ジャンヌ呼んでたんですか?」

「いや俺じゃない。アルトリアの指示を受けてキャメロットから来たらしい、せめてもう一人連れて行ってくださいって言付け預かりながら」

「予知スキルでもあるんですかアルトリアって」

「ある種直感がそれに該当するのかも」

 

確かにこれは疎外感を感じるなと納得しながらもアルベドやデミウルゴスとは別の意味で高次元な優秀さを見せ付けるアルトリアに苦労を察する。そしてジャンヌが死者を悼み冥福を祈る言葉を捧げている時に泣き崩れている少女らを見た、それは自分達が助けた少女たち……姉のエンリ・エモットとネム・エモットが映り込んだ。死の騎士が村に足を踏み入れた段階で既に両親は死んでいた、致し方ないとはいえあんな姿を見ると胸が締め付けられるような気分になる。それを察したようにアルトリウスが肩を叩く。

 

「そう思うならこの村の再建に手を貸そう、折角友好的な関係を築けたんだ。たっさんもそう言うさ」

「です、よね……せめて未来が充実するように手を貸してあげましょう。きっと、たっちさんもそう言いますよね」

 

そう言われて僅かばかり胸が軽くなった気がした。過去は変えられないが未来ならば変えられる、そう思いながら出来る限りの支援はしようと決意しながらも村の中を見て回る事にした。リアルでは見られない自然がいっぱいの中にある村、それだけで様々な刺激が得られて楽しさがあった。幸いな事に村を助けたことで村長や村人たちは酷く協力的、それに支援を重ねれば自分達の立場は強固になるだろう。そんな中で兜の中から人間を見つめているアルベドの視線に侮蔑がある事に気付く。

 

「アルベドよ、人間が嫌いか?」

「脆弱な生き物。下等生物。虫のように踏みつぶしたらどれほど綺麗になることでしょうか、いえ例外はおりますが」

 

異形種らしいと言えばらしい、だが折角協力関係を築けたのにこれは頂けない。

 

「その考えを捨てろとは言わん、だがこの村では冷静に優しく振る舞え。演技というのも重要だぞ」

「アルベドよ、確かに人間は脆弱だ。だがそれだけで判断するのはナザリックに不利益を齎す、そこは気を付けておけ。驕りは死を招くぞ」

「承知致しました」

 

これなら大丈夫だろうと思い、日も落ち始めているのでそろそろ帰ろうかと思っている時の事。周辺警戒から戻って来たと思われるモードレッドが集まっていた村長たちに情報を伝えているのだが何やら戸惑いと混乱が起きているらしい。モードレッドはやれやれっと言った風な反応をしているが自分達に気付くと手を振ってくる。そちらへと向かいながら話を聞いて見る。

 

「如何されました、村長殿」

「おおっアインズ様にアルトリウス様。実は先程モードレッド殿からお話を聞いたのですが、村に騎士風の格好をした馬に乗った一団が近づいて来ているそうでして……先程の仲間ではないかと思いまして……」

 

話しながらも僅かな期待がある事に二人は気付いている。だが失礼に当たるのではないだろうかと不安に思いながら伏せている。まあ断るつもりはないのだが。

 

「如何する父上に……アインズ様?」

「では私達が何とかしましょう、村長殿は私達と共に。他の皆さんは集会所へ」

「モードレッド、ジャンヌと共に彼らを守れ。そしてアルベドは我らと共に」

「畏まりしました」

「あいよ父上。んじゃ皆を集めて集会所に急げ~」

 

軽いノリだがそれが村人たちには接しやすい所があるのかモードレッドの指示に素直に従いながら急いで移動していく。村長も酷く安心したようにその場に残る、流石に緊張しているようだが自分達を信頼してくれているのか逃げ出そうなどはせずに立っている。ジャンヌの誘導などもあって速やかに村人の移動が終了し、村長と共にその馬に乗った一団を迎え撃つことにするモモンガ一行。暫しすると二十人ほどの騎兵たちが隊列を組み、広場へと進入してきた。その装備に統一性はなく、まとまりの無い傭兵集団を連想させるが何処か連帯感と規則正しい隊列に傭兵では無い事を理解する。そして先頭である屈強な男が声を出す。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士たちを討伐する為に王のご命令を受け、村々を回っているものである」

「王国戦士長……もしや、あの……王直属の超精鋭……」

 

かつて王国の御前試合で優勝を果たした人物で、王直属の精鋭兵士たちを指揮しているという話を以前商人から聞いたらしい。流石に本人かの判別は出来ないがカルネ村は辺境の村に当たるのでその辺りは致し方ないだろう。

 

「あなたが村長か、隣にいる者は何者だ?」

「この方々は……」

「いえそれには及びません、初めまして王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン、旅をしながら研究を続ける魔法詠唱者です」

「アルトリウス・ペンドラゴンと申します、我らは丁度この村を訪ねた際に襲撃に遭われていたので助けたのです」

「っ……!!この村を救って頂き感謝の言葉もありません」

 

それを聞いて馬上に居た戦士長は馬を降りると迷う事もなく頭を下げながら村を助けてくれた事への感謝を述べた。王国の戦士長がどの程度の立場なのかいまいち分からないが戦士らを纏める者が何も分からない相手に頭を下げるのは凄い事だろう。そして同時に戦士長、ガゼフの人格の良さが滲み出ている。非常に好感が持てる男だ。

 

「いえ此方も旅をしている身、この辺りの情報を頂く為に助けたので無償ではありません故」

「報酬、では冒険者という事で宜しいのですかな」

「それに近い物、ではあるかもしれませんね。各地を転々としながら研究をしておりますので」

 

それを聞きながらもガゼフは何やら探るような素振りをしながらも自国の民を救ってくれた恩人へ余り失礼な事は出来ないと言葉をそこで止めつつも見事な鎧に身を包むアルトリウスへと目を移すのであった。

 

「ペンドラゴン殿はもしや貴族なのでしょうか、お名前もそうですが纏われる鎧も見た事がない程に素晴らしい……」

「そのような物です。大昔に没落していますので平民と変わりません」

「それは、申し訳ない事をお聞きしてしまいました」

 

気にしなくていいと返す。ある意味で自分よりも騎士らしい、一般的に騎士といえば礼儀正しい真面目な人格者といったイメージがあるのだがこの戦士長はそれにピッタリと当て嵌まっている。そんな思いを抱いている時ガゼフの配下であるひとりの騎兵が村に駆け込んできた。そして、大声で緊急事態の発令を告げる。

 

「戦士長!大変です、村の周囲に複数の人影を確認しました。村を包囲しながら接近中です!!」

「何っ!?」

 

『やれやれ、まだまだイベントは続きそうだな』

『みたいですね……』




実はジャンヌかゲオル先生かで悩んでました。


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11話

「父上、村全体が包囲されてるぜ。しかも等間隔に、訓練されてる上に連携も取れてる」

「そうか……モードレッド、皆には落ち着き冷静でいるようにと」

「その点は問題ねぇよ。ジャンヌの奴がお伽噺を聞かせてその辺りを纏めてる」

 

村長の家へと移動しつつそこからこっそりと覗き込むようにしているガゼフ配下の兵士たち、その視線の先には3人、それぞれが一体の天使を伴いながら少しながら此方へと迫ってきている様子があった。それが伴っている天使を二人は見た事がある。ユグドラシルにも存在していた天使系モンスターの炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)

 

「炎の上位天使……ユグドラシルのモンスターも居るって事ですかね」

「如何だろうな、プレイヤーが魔法を広めたって可能性もあるにはあるのかな」

「ありそうですね……また調べる事が増えましたね」

 

と二人でこそこそと話しているとガゼフから話が飛んでくる。これだけの数の魔法詠唱者を揃えているのはスレイン法国、しかも神官長直轄の特殊工作部隊―――六色聖典のどれかだろうと語る。スレイン法国、王国と敵対している帝国とは別の国であるから狙われるだけこのガゼフという男は途轍もない男という事になるのだろう。そんな事を語るガゼフは神妙な顔で言葉を紡ぐ。

 

「ゴウン殿、そしてペンドラゴン殿。差し出がましいがもう一度この村を守っては頂けないだろうか、我らは包囲網を突破し囮となる」

「宜しいのですか戦士長殿」

「奴らの狙いは私、ならばこの村が狙われる可能性は低いでしょう……ですが万が一という事もあり得ます」

 

真っ直ぐとした瞳で此方を見てくる、リアルではたっち・みー以外は見た事もないような曇りも迷いもない気高い瞳に素直にモモンガとアルトリウスは好感を抱いた。自分を狙っているという事は紛れもなく確実に命の危険がある、だがそれに対する恐怖もない。寧ろ食い破ってやるという意志に満ちている。

 

「承知致しました。アインズ・ウール・ゴウンの名に懸けて」

「同じく。騎士としての誇りと名誉にかけて」

「―――忝い……!!」

 

頭を下げようとするガゼフを止めながらもアルトリウスは手を差し伸べる、一瞬困った顔をしたが直ぐに理解したガゼフはその手を力強く握った。そしてモモンガとも強い握手を交わす。

 

「では戦士長、これを持っていてください」

「これは―――いえゴウン殿からの贈り物です、何であろうと受け取らせて頂きます」

 

そう言いながら差し出された不思議な木彫りの人形を受け取り懐へと入れるガゼフ、その正体を直ぐにアルトリウスは悟りながら苦笑しそれなら自分も何か送った方が良いなと腰の後ろへと回しながらアイテムボックスからこっそりと一本の剣を取り出しそれをガゼフへと差し出した。ガゼフは受け取りながら鞘から少しだけ抜いてみるとその刃に浮かび上がる波紋の美しさに一瞬惚ける。

 

「其方もお持ちください、貴方に幸運があらんことを」

「何と素晴らしい剣……このような業物、このガゼフ見た事がない。感謝するアルトリウス殿」

 

深々と感謝を浮かべながら貰った剣を腰へと佩きながらそのまま部下を連れて馬を走らせていく、村から遠ざかって行く彼らを見送りながらもモモンガはアルトリウスに尋ねた。

 

「良かったんですか剣までプレゼントしちゃって」

「単なる聖遺物(レリック)の武器だ、痛手にもならんよ。それに俺はあの戦士長が気に入った、それは君も同じではないのかね」

「フフフッバレたかね。中々如何して好意を抱くに値する気持ちのいい男だったからな」

 

なんだかんだでモモンガもガゼフにはいい印象しか抱いていない。少々真っ直ぐすぎるとも思うがそこがまたいい。それはたっち・みーを思い起こさせるからかは分からないが―――それに戦士長と有効な関係を築いておくことは将来的に良い財産にも成り得るだろうという打算もあるので100%の善意という訳ではない。

 

「んっ如何したモードレッド」

「……別に」

「別にではないだろう、何が気に入らん」

 

視界の端で何やらむくれている我が子に気付く。問い詰めてみると不満げにしながら言葉にしてくれた。

 

「だってよぉ……父上から贈り物貰ってる上にモモ……アインズ様にまで気に入られてるとかずりぃじゃねぇかよ」

「何だそんな事か……何気にするな、私にとって大切なのはお前の方だよ。だからアルベドもそんな顔をするな、なあアインズ」

「ハハハッなんだ存外に可愛らしいではないか二人とも」

「く、くふぅ~!!!」

「「ちょっアルベドぉ!!?」」

 

僅かなピンチを迎えながらもなんとかその場を切り抜けて暫くすると遂にその時が来たとモモンガとアルトリウスは笑うのであった。

 

 

 

ガゼフ・ストロノーフの抹殺、その任を受けた本来は亜人種やモンスターを狩る事を目的とする陽光聖典を率いる隊長であるニグン・グリッド・ルーインは任務の成功を確信した。様々な手回しの末にガゼフ・ストロノーフをおびき出し、そして今殺す所まで迫っている。だが驚かせることもあった。

 

「まだまだァ!!!」

 

ガゼフにはまだ覇気がある、それらと共に振るわれる剣はこれ以上も無く美しく煌びやか。そして振るわれると同時にガゼフ自身が大きく移動していくという力を秘めている。そして何より炎の上位天使を容易に切断するという圧倒的な切れ味。あれほどの物など本国でも見た事がない。魔法の武器は酷く希少、そして王国にあんな武器があるなんて聞いていない。

 

「ペンドラゴン殿、貴方から頂いた剣は誠に、素晴らしい!!!」

 

全身に大きな傷を作りながらも未だにガゼフが健在である大きな要因がアルトリウスが譲渡した剣、力を込めて握り腕を振るえば身体を其方へ移動させる。それに気付いたガゼフはもう碌に走る事も出来ない程に疲弊した身体でありながらも戦い続けていた。だが―――既に限界を超えている身体、天使を倒した所でまた新しい天使が召喚されてしまう。これ以上は無理かと考える頭を無理矢理振り払いながら最後まで剣を振るおうとした時の事―――

 

「な、に……?」

 

突如として景色が変わった。そこには先程訪れた村の村長に村人たちが集まっており、その奥には見た事もないような美しい女性が子供達をあやしながら物語を聞かせている。何が起こっているのかと困惑するのだが、不意に懐からアインズから貰った木彫りの人形が消えていくのを見た。それだけではなく周囲には自分と共に最後まで戦ってくれていた部下たちがいた。

 

「そうか、ゴウン殿……ペンドラゴン殿……」

 

不意に力が抜けて行く、きっとあの二人が……と思いながらも心配そうに駆け寄る村長の声など聞こえぬままガゼフは疲労と受けた傷によって倒れこむように意識を手放した。

 

 

 

「何者だ、貴様ら。ガゼフ・ストロノーフを何処へやった」

 

不快そうに、怪訝そうに問いを投げかけてくる男に不敵に笑いながら顔を上げたモモンガとアルトリウスはそれに応える。

 

「初めましてスレイン法国の皆さん。私の名前はアインズ・ウール・ゴウン。親しみを込めて、アインズ、と呼んでいただければ幸い」

「アルトリウス・ペンドラゴン、アルトで構いませんよ。隣にいるのはモードレッド、そしてアルベド―――そして戦士長殿の代わりに貴様らに死を運んできた」

 

その言葉をニグンは鼻で笑った。何を愚かな事を言うのかと、この戦力差で自分達に勝つつもりなのか、此方には多くの炎の上位天使に自らが召喚した監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)がいるのが見えないのか。何が目的かは分からないが早々に消し去りガゼフ抹殺の任を再開させて貰うと言わんばかりに攻撃を命ずる。

 

「そして聞く、村へとあの連中を嗾けたのはお前達か」

「あの連中……ああ、奴らか。そうだと言ったら?」

 

恐らくカルネ村へと放った部隊の事だろうと思いながら肯定しながらも嘲笑った。それを聞いてアルトリウス、そしてモードレッドは怒りを覚えながら共に抜刀し迫り来ていた炎の上位天使を一刀両断する。振るわれたカリバーン、そしてモードレッドのクラレント。それらは紙を切るかのように天使を切断しながら光の粒子へと変えてしまう。

 

「なっ―――これは、何が起きて……!?貴様何をしたぁ!!?」

 

「黙れ、騎士を貶める愚か者。貴様らの行いは我が城に住まう者らへの冒涜だ」

 

自然と剣を握る力が強まって行ってしまった、これ程までに怒りを感じるのは本当に何故なのか分からない。だが分かる事はある―――こいつらは死んでもいい、いや殺すべきだとアルトリウスは強く思ってしまった。そしてモモンガへ許可を求める。

 

「アインズ、あれらへの処刑をやらせてくれ」

「私は構わない、ならば見せてやろう―――聖剣の力を」

「ああ、アルベドにモードレッド。よく見ておけ、騎士王たる私の力の一端をな」

 

前へ出たアルトリウスにニグンは言いようのない恐怖を覚えた、それはスキルによるものもあるだろうがそれだけではない。奴らは今何と言ったのか、聖剣と言ったのか、確かに手にした剣はあり得ない程に美しく神々しい、ニグンの脳裏にとある可能性が過り始める中でカリバーンは更なる光を放ち始める。それはまるで朝焼けの光のように優しさに満ち溢れている。

 

「王の選定を司る剣よ、邪悪を断つ力を纏え―――勝利すべき黄金の剣(カリバーン)!!!!」

 

黄金の光は剣から溢れんばかりの渦を作り、嵐となりながら振るわれた。それは一瞬のうちに天使らを飲み込んでいくと瞬時に消滅させていく。黄金の嵐が過ぎ去った後には自分達の力は何も残っておらず何が起こったのかも理解出来ない。だがニグンは恐慌しながらも懐から結晶を取り出す、任務前に切り札として下賜されたこれならばこの場を切り抜けられる。

 

「そ、総員時間を稼げ!!最高位天使を、召喚する!!!あのような攻撃、そう何度も出来る訳が―――」

「―――生憎連発可能だ、勝利すべき黄金の剣(カリバーン)!!!!」

 

再度放たれた黄金の光は一瞬のうちに陽光聖典を飲み込んで大爆発させていく。その光景にモードレッドは瞳をキラキラさせながら父上の戦いを見れた!!と興奮し、アルベドはくふぅ~!!!!と別のベクトルの興奮を露わにしている。

 

「流石ですねアルトリウスさん、ちゃんと色々考えてくれてたみたいで安心しました」

「まあマジで殺しそうになったけどね……一応〈峰打ち〉使ってたから全員瀕死ではあるけど生きてる筈だ」

 

カリバーンを肩に担ぎながらもアルトリウスは一息つく。勢いのまま殺しそうになったが情報収集が出来なくなると思いとどまって相手のHPを1だけ残すスキル〈峰打ち〉を発動させていた。大爆発に呑まれていたがそれでもニグンらは生きてはいる、重傷で死に掛けではあるが。その時、空間が割れて即座に元に戻った。

 

「攻性防壁に何か引っかかったみたいです」

「情報系魔法でそれらを見張ってたのか、でもそうなるとお返しが飛んだよね」

「ええ、まあ強化した〈爆発(エクスプロージョン)〉ですからそこまでの被害にはなってないかもしれませんね。取り敢えずさっさと引き上げましょうか」

「だな」

 

こうしてカルネ村における戦いは終わりを告げたのであった。




ガゼフに渡した剣、元ネタ分かる人居るかな。妖怪大戦争って映画でこんなのがあったんですよ。

後カリバーンの峰打ちで股間撃ち抜こうとしたけど想像して肝が冷えたので止めました。


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12話

アルトリウスの手によって倒された陽光聖典はそのままナザリックへと連行され、そこで特別情報収集官のニューロニストへと引き渡され情報の引き出しが行われた。一度村へと戻りそこでガゼフと対面し簡単な話とその後の事を伝える。何とか追い払う事が出来たという事にして置く事になった。王都に来た際にはぜひもてなしをさせて欲しいと念押しをされた上で別れる事になった。

 

「情報はニューロニストに任せるとしてカルネ村の復興は如何しましょうか」

「それならキャメロットから出そう、適材適所な奴がいる。ウチのアーチャーに適任者がいる」

「……ああっ俵 藤太ですね!!」

 

モモンガも心当たりがあった。キャメロットはアルトリウス・ペンドラゴンが一人で作り上げたギルドにして拠点、そこに居るNPCは全て彼が手掛けている。が装備の作成などにはモモンガも手を貸した事がある。俵 藤太は神話級アイテムとのコンボでほぼ無限に食料を生み出す事が出来る、村の復興の手伝いをしながら村を守るにはうってつけの存在と言えるだろう。

 

「本当に多種多様ですねキャメロットって」

「まあ全部俺の趣味だけどな」

 

今のこの身体もそうだが……その趣味が今大いに役立とうとしていると考えると中々趣味も侮れない。

 

「これからの方針ですけど……如何します」

「じゃあまず言っておく。モモンガさん、アンタ冒険者やりたいって思ってるだろ」

「―――バレました?」

 

遠慮する事なくニヤリと笑う友人に肩をすくめるがそれは自分も同じだった。冒険者、なんて心が躍る響きだろうか。未知を探検するユグドラシルプレイヤーとしては興味を抱かないわけがない。早速アサシンにエ・ランテルへの派遣して調査をお願いして詳細を調べてみる事にしよう。

 

「だって冒険者なんてワクワクしない訳ないじゃないですか、唯でさえこの世界はこんなにも綺麗なんですから。冒険してみたいって思うのは当然でしょ!?」

「それには同感。血沸き肉が躍るって奴か」

「俺今骨だけですけどね」

 

本来なら寒いギャグに白けを覚える筈だがこの時は思わず互いに噴き出してしまった。そして方針の一つは決まった、冒険に出るである。

 

「と言っても簡単じゃないだろうけどな……」

「そうですね、この世界のレベルの把握もありますし……幾らアルトさんのカリバーンで一発だったとはいえ……」

「違うそっちじゃない」

 

えっじゃあどれ?と首を傾げているモモンガ。如何やら本気で分かっていないらしい、溜息混じりに如何やって皆の納得を得るかだよっと伝えると漸く理解出来たのか、あっ……と顎が垂れ下がるように揺れる。

 

「俺もそうだけどNPCの皆を納得させないと行けないぞ、名目やらも必要だしトップが態々そんな事をする理由を作らないといけない」

「ムゥゥゥッッ……確かに。特にアルベドとかデミウルゴスは頭良いですし……アルトさんはアルトリアに丸投げすれば行けるんじゃ……」

「バカタレ。それはあくまで俺の役目を代わりに遂行できるだけで俺を心配しないとは別問題。第一、キャメロットの皆もナザリックの皆並に俺に対して敬意を捧げてる」

「モードレッドが結構フランクだったんで忘れてました……」

「あの子にはマジで救われてるよ……」

 

だが確かに名目は必要だ。アルベドたちを納得させられるだけの材料を揃える必要がある、何とか捻出しなければとモモンガも本気で頭を捻っている。

 

「何人かお供として連れて行くとかですかね」

「妥当な所だね、誰を連れて行くかってのもあるけど……でも誰にするよ、キャメロットからは簡単だけどナザリックは見た目からして異形種で御座いますって奴のオンパレードだぞ」

「そこなんですよねぇ……」

 

情報収集にしても目立ち過ぎるのは問題、カルネ村でもその辺りは自分達が人間に擬態していたからというのも大きかった。〈人化の指輪〉も数がある訳ではないのでせめて見た目は完全に人間と同じ物が好ましい。そうなると大幅に数は絞られてくるが、アサシンと連携した情報収集メンバーの編成もあるので数を連れて行く訳には行かない、せめて一人か二人が限度と言った所だろう。

 

「う~ん守護者たちだとアルベドにデミウルゴス、コキュートスは確実にアウト。シャルティア、アウラ、マーレはセーフだけど……戦力面は問題ないけど問題は見た目とかなんだよなぁ……」

「というかシャルティアは吸血鬼だから除外が妥当でしょ」

「確かに。あの二人も幼過ぎるから除外かな……」

 

これで階層守護者は全滅という事になる。まあ彼らを長期間外に出す事は少々怖さもあるし出来る事ならば守りに徹していて欲しいという気持ちもある。

 

「とするとエントマを除いたプレアデス辺りが妥当かな……カルネ村にはウチからも一人出すとして、パーティ的な役割としてはヒーラーなんかもいるよな。アルトさんは連れて行くとしたら誰を連れて行きます?」

「俺ならそうだな……探索役(シーカー)としてアサシンを連れて行くかな」

「それならアルトさんが近接アタッカーで俺が魔法による遠距離だから、ヒーラーでルプスレギナ辺りが妥当かな」

 

冒険者を行うに当たってのメンバーの目星を付けながらもどんな風な冒険をしようかなぁとワクワクしている友人に素直に頬が緩む。

 

「まあその辺りは決めておくといいさ、それと俺は好い加減に戻るよ」

「それじゃあ送りますよ」

 

ほい、一言と共に〈転移門/ゲート〉が開かれる。キャメロットへと直通、感謝しつつも異空間を潜りながら自分の城の指輪を装着してキャメロットへと戻るとそこではアルトリアが待ち構えていた。

 

「お帰りなさい貴方」

「た、ただいま……」

 

不思議な迫力に満ちており言葉に詰まりかける、決して表情が荒れている訳ではない。寧ろ見惚れる程に美しい笑みを浮かべながら自分の帰りを待ってくれていた……筈なのに何も言えなくなる。これはあれだ……アインズ・ウール・ゴウンに所属している時にぶくぶく茶釜とやまいこに叩きこまれた逆らってはいけない時と全く同じだ……。

 

「カルネ村には藤太の派遣準備を済ませております、王国戦士長が村を去りましたら即座に派遣します」

「さ、流石だな……」

「恐れ入ります」

 

もう慣れた筈のそれも酷く恐怖を感じられた。周囲の近衛兵も心なしか顔を背けている気がする。

 

「では執務室にて詳しいお話を」

「分かった……」

 

ガッチリと腕を組まれて逃がさないからという意志と意思が感じられてもうやけくそ気味に指輪の転移機能を使いながら共に執務室へと転移した。そのまま椅子へと連行されて対面させられるアルトリウス、そしてサラッと腕を外す時に指に手を掛けられて指輪を没収される。

 

「あの、何で指輪没収されるのかな……?」

「んっ?」

「何でもございません」

 

あれは絶対に逆らってはいけない類の笑みだと悟る、以前あった茶釜とやまいこがブチ切れるという大惨事と同じだった。あの時ほどギルメンが団結して収束に尽力した事も無かっただろう。あんな事を仕出かしたのに問題児のままだったるし☆ふぁーには尊敬を向けるべきなのかも……いややっぱりやめておこう。

 

「アルトリウス、貴方はご自分の立場という物を理解しているのですか。確かに貴方はアインズ・ウール・ゴウンのメンバーの一人ですがこのキャメロットの騎士王なのです。その騎士が依然調査が不十分な世界の騎士へと戦いを挑むのがどれほどまでに危険なのか分からないとは言わせませんよ」

「あ、あの時はモードレッドを連れていたし」

「確かにあの子の実力はキャメロットの中でも有数です、だとしてもです。最低二人の護衛が絶対の条件です、ですから後から貴方の意思を尊重してジャンヌを行かせたのです。どうせこの後も貴方は冒険者業を行いたいというのでしょうね、既にジャンヌから話は聞いています」

 

本当にどれだけ頭が回るんだと内心で毒づく。その中でアルトリアは小さく呟いた。

 

「―――貴方が行かなければ行けない理由があるのですか、そんなにこの世界を見たいのですか」

 

嘘を言っても恐らくバレるだろう、それだけ彼女は優れている。故にアルトリウスは降参するように本音を語る。

 

「ああ、見てみたい。リアルとは比べ物にならないこの美しい世界を見たい、冒険したい、巡ってみたい、そこに嘘はない」

「この世界が貴方にとって危険な物だとしても、ですか」

「危険のない冒険なんて御免被る、それは唯の旅行だ」

「旅行、でも良いじゃないですか……」

 

震える声のまま素直にアルトリアも本音を伝える。至高の御方であり自らを含めてキャメロット全ての創造主の意向は出来る限り尊重したいし叶えてあげたい、その為に与えられた全てを行使して尽くすのが獅子王たる自分の責務であるとは思っているが……何より夫が帰ってこないという事が怖いのだ。そんな心配をするのはおこがましいかもしれない、このキャメロットで一番強いのはアルトリウス―――だからこそ怖い。

 

「アルトリア、君の不安は分かる。確かにそうするべきかもしれない」

「ならば―――!!」

「だからこそだ」

 

席を立ちながらアルトリウスは剣に手を掛けた、カリバーンではない。本当の、自らの剣に手を掛けた。騎士王たる所以の剣、それに触れながらアルトリアの肩に手を置く。

 

「私はこの世界の全てを見たい、恐れていては何も出来ない。例え困難が目の前に来たとしても騎士として戦うだけだ―――だからアルトリア、私を支えてくれ。私と共に生きてくれ」

「―――ッ」

 

その言葉を受けて一瞬言葉を失うが直後に、少しだけ噴き出しながら笑ってしまった。

 

「何ですかその言葉、私とあなたはもう夫婦なのに改めてのプロポーズですか?」

「何度プロポーズしても良いじゃないか」

「ええそうですね―――分かりました、それじゃあ今回のお説教はここまでにします。ですが今度からは気を付けてくださいね」

 

眉間に指を置きながら念押しする妻に頷く、それを見るとなら良し♪と明るい声で応えながら指輪を指へと嵌め直してくれた。それに対する嬉しさを感じながらそう言えば夫婦らしい事が出来ていないなと思った。

 

「では折角プロポーズをしたんだから夫婦らしい事でもするかい、一緒に食事でもするか」

「あらっそこはベッドに誘ってくださると思ったのですが?」

「また今度」

「では楽しみにしておきます」



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13話

「全く君も酔狂だな、食事ならば此方から執務室へと持って行くというのに……」

「済まないな、だがアルトリアの事を考えると此方に来て正解だとは思っているがね」

「それについては同感だな」

 

視線を横にズラせばそこでは満面の笑みを作りながら食事を行っているアルトリアの姿がある……のだが、問題はその食事スピードである。原典、聖剣の彼女はかなりの健啖家であったが聖槍の彼女である所謂ランサーアルトリアは如何なのか分からなかった。が実際は身長も伸びているためか、同じかそれ以上によく食べる。マナーは非常に正しいのでその辺りの心配はする必要はないのだが……何処にあれだけの量が入っていくのかと思える勢い。

 

「だが意外だったな、我らが王が家庭的な味付けが好みだとは」

 

アルトリアの隣で食事をしているアルトリウス、彼が今食べているのは鶏の照り焼き。付け合わせとして茹で野菜に味噌汁、そして白米があるキャメロットの大食堂では定番的な定食のセット。今まで執務室などに料理を運んでいたエミヤとしては王に相応しい豪華な物を準備していたのだが家庭的な料理を美味しそうに食べる姿は酷く新鮮。そもそも騎士王が此処で食事をする事自体が新鮮だが。

 

「王であるこそ、かもしれないな。王とは民がいてこそだ、民がいて王がいる。そんな王が家庭の味を知らないのは可笑しいだろう?」

「成程、我らが王は非常に柔軟な思考且つ視野が広い事が分かった。私としては非常に好感が持てる」

「有難う。それじゃあ米のお代わりを頼めるか」

「ああ、任せておくといい。それと追加の照り焼きの準備もしておこう」

 

器を受け取りながら厨房へと入っていくエミヤの背中は心なしかウキウキしているように映った。

 

「おっマスターじゃねえか、なんだよ今日はここで食ってんのか」

「随伴しても宜しいかなマスター」

「嗚呼っ好きにして構わないぞ」

 

ドカリっと乱雑な音を立てながら目の前に席に着いたのはクー・フーリンとスカサハ。如何やら二人も食事の時間だったらしい、基本的に大食堂では何時でも食事を取る事は出来る。階層によっては鍛錬や巡回などをしている関係でバラバラだったり一緒だったりする。

 

「珍しいじゃねえか、何時もは自分の部屋だろ?」

「偶には夫婦らしい事をしようと言う事になってな、共に食事をな」

「なる程の、それでアルトリアの顔が普段以上に綻んでいる訳じゃな」

「顔だけじゃなくて喰う量も増えてねぇかこれ」

 

焼肉定食の肉に手を出しつつも凄い量を食べ続けているマスターの伴侶を若干白い目で見る、食べ方自体は非常に清楚且つ礼儀正しい物だがそれもこの量が前では台無しという物だ。アルトリアも基本的にここで食べるが、此処までは食べない。

 

「フフフッアルトリウスが隣にいてくれるだけでご飯が美味しく感じます♪」

「そりゃ結構な事だが……何処に入ってんだよ」

「言うだけ無駄だ、奴は普段からこうじゃ」

 

これだけの食事を見せ付けられたら百年の恋も冷めそうなものだが、この程度で思いを変える程にアルトリウスが彼女に抱く思いは安くも軽くはない。幸せな横顔を見ながら自らの幸せを感じる、嫉妬心さえ覚えるいい夫婦関係だと言わざる言えない。

 

「んでわざわざここで飯食ってんのは本当にそれだけか?」

「ああそれだけだ―――そうだスカサハ、要望の仕合の許可は下りた」

「おおっ……それは、我らにとっての朗報……」

 

妖艶で凛々しい女としての顔が一変、戦士としての表情へと変わる。思わず箸を置きながらもその手に槍を握りながら滾る闘争心を鎮めようと試みている。階層守護者である前に彼女は戦士、強い相手と手合わせをする事で感じる感情は非常に大きい。

 

「腕が鳴るねぇ……!!当然俺も言っていいんだろうなマスター」

「無論。コキュートスも武人として楽しみにしているとの事だ」

「いかんな、マスターの前だというのに気が昂って致し方ない……んっすまない、恥ずかしい所を見せたな」

 

口元に指をやりつつ僅かに恥じらいを浮かべながら流し目で此方を見てくるスカサハ、その姿は非常に妖艶で美しいのに可憐さを纏っている。本来あり得ないような姿に思わずグッとくる。エロさもあるのに清楚的でもあり、美しいというのは非常にずるいのではないだろうかと思える。

 

「戦士としては当然の反応だ、恥ずかしがる事など無いさ」

「我らがマスターは本当に心の掴み方を心得ておる、ついらしくもない姿を見せてしもうた」

「カマトトぶるのも大概にしろってんだ……似合ってねぇんだよ」

「―――ほう、如何やらもう一度死の国へと招いた方が良いようだな……」

 

クー・フーリンとスカサハの言い合いは遂に互いのぶつかり合いまで発展、二人は大急ぎで食事を済ませると自分達の階層へと向かって行く。そこでぶつかり合うつもりなのだろう……クー・フーリンも上等だと言っていたがきっとスカサハも本気になって叩き潰すつもりなのだろう。ランサーが死んだ!!という事にならなければいいのだが……。

 

「やれやれ相変わらずですね……ご馳走様でした」

「食べ終わったか」

「ええっ今日も非常に美味でした」

 

口元を優雅に拭いてから手を合わせる、手の凝った料理も良いがこう言った簡単に出来る家庭的な味わいも良い物だと実感する。時折此処で食べる事を決めつつ執務室へと戻る。

 

「何時もながらエミヤと紅閻魔の料理は最高です」

「全くだな」

 

酷く満足そうにしている妻に笑みを浮かべながら自らの席に付く、腹も心も満ちて非常に気分が良い。その気分のまま妻にある事を聞こうと思ったのだが折角いい気分なんだからほかの事にして置こうと話題を変えておく。

 

「アルトリア、君は何か私としたい事はないか」

「そうですね……ベッドで私を抱いてくださったら限りなく嬉しいですよ」

「何か、随分とそれ推すね。なんかあった」

 

聞いて見るとナザリックにNPCを伴って行った際、アルトリウスとモモンガが話している間のNPC同士の交友時間中に様々な話をしたときに至高の御方のお世継ぎの爺やポジションをコキュートスが目指しているという話を聞いた。

 

『その辺りはアルトリアに聞いた方が良いのではないかい、既にモードレッドという御息女がいる訳だしね』

『そこで私に振るのですかデミウルゴス、まあ確かに私とアルトリウスの子ですけど……ま、まあ彼が望むであれば次の子を産む事だって私は……』

『ォォォッ!!デハソノ時、是非私ニ剣ノ指導ヲサセテ貰イタイ!!……ォォォッ流石ニ御座イマス坊チャマ、コレデハコノ爺ヲ追イ抜クノモ早イ事……』

 

「という事がありまして」

「コキュートスにそんな一面があったのか……」

 

武人という設定のコキュートスが爺やに憧れているというは意外だった。息を荒くしながらも妄想に耽るなんて予想外過ぎる、そんな事もあってアルトリアとしては自分が望むならばそのつもりだと言いたいのだろう。まあ確かにモモンガはアンデッドな上にスケルトン、子供を望む事は難しいだろうしある意味正しいかもしれない。〈人化の指輪〉がそこまで出来るのかは分からないが……希望はあるかもしれないとコキュートスに教えてあげよう、ついでにアルベドとシャルティアにも言ってやろうと決意する。

 

「ま、まあその時が来たらという事にしよう」

「フフフッそう言ってくださるだけで嬉しいですね、では……」

 

そう言いながら自分の手の中に鍵を渡す、一体何の鍵かと思ったがそれは彼女の私室の鍵だった。ギルドの指輪でキャメロット内は自由に転移可能なので意味はないのだが、そういう意味ではなく……これは違う意味を示しているのだと直ぐに分かり、そしてそっと耳元で囁かれる。

 

「何時でも、待っていますから……お好きな時に私を求めてください」

「っ~……!!!!ズ、ズルくないか……!?」

「これでもスカサハとのやり取りで嫉妬しているんですからこの位は許してくださいね」

 

彼女なりの仕返しだと分かると何も言えなくなる。確かに妻帯者である自分が他の女性とあんなやり取りをするのは余り良い事とは言えないかもしれない……

 

「ああでも側室は容認しますからね、その時にはちゃんと私に言ってくださいね」

「そこは認めていいのか!?」

「貴方の一番、そこだけを譲れないだけです」

 

という訳ではないらしい。単純に明確化させる事が目的、自分以外の女性を求めても何も言わないが自分が正妻である事は忘れないでねっという彼女なりの嫉妬を込めたメッセージ。だとしても如何したらいいのだろうか……交際経験なしの童貞には辛い宣言であった……。

 

「そうですね、折角ですから私とあなたでゲームに興じるというのは如何でしょうか」

「ゲーム、構わないが何を」

「そうですね―――」

 

ポンと手を叩きながらも指で文字を描くようにしながら一回転。すると彼女を周囲を光が包み込んでいく、いや回転に合わさるように光が彼女に纏われていく。先程まで纏われていた鎧が変化し、柔らかな純白の装いへと変貌していく。そして頭からは長い兎の耳が飛び出している、その姿は正しくバニーガール。唐突な変貌に目が点になる。

 

「カードで勝負は如何でしょうか、私自信がありますよ」

「っ―――」

「ああこの格好ですか、折角ですから着替えてみました。似合いますか?」

「眩しくて直視できない……」

「フフフッ如何やらこの姿も気に入って下さったのですね、嬉しいです」

 

嬉しそうにしている彼女に眩しさを覚えつつもアルトリウスはある事を思い出した。聖剣の彼女もそうだが聖槍の彼女にはバリエーションとも言える姿が存在している。それらをフレーバーテキストとして書き込んだ記憶がある、確かにあった、そうなるともしかして……と若干嫌な予感を感じてしまうのだが直後に抱き着きながら耳元で囁く彼女に思考が飛ぶ。

 

「ねぇっ……貴方、一勝負如何でしょうか……賭けはせず、あくまで遊びという事で……」

「っ―――分かった……やろうか」

「ええっ嬉しいです貴方♡」

「(分かってやってる、絶対分かってやってる!!?)」

「(フフフッあと少し行けばという感じですね、初心な人♪でもそこも愛おしい)」

 

この後、カードで戦うが一々アルトリアの動作が艶めかしくエロかったからか惨敗した。その様子を見てアルトリアは優雅そうに笑うのであった。




獅子王様とのイチャイチャ、書きたかったから書いた、反省も後悔もしていない。


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14話

エ・ランテル。三重の城壁に囲まれている城壁都市。正しく都市その物が壁といった印象を受ける。その城壁を二つ潜ったところのエリアは市民の為のエリアで様々な立場の住民が日々の営みがある。商いに勤しむ商人が声を張り上げて盛んに客を呼び込んでいた。しかしある一団が歩いている姿を見ると思わず目が留まり、声が静まり返る。先頭を歩く漆黒に輝きつつも金と紫の文様の入っている全身鎧は様々な羨望の視線を集める。だがその隣を歩く男の赤と金が織り交ざった鎧も素晴らしい物だった。

 

そんな二人に続く二人の美女。一方は健康的に焼けた小麦色の肌がスリットの入った修道女は何処か淫靡な印象を与える、燃えるような赤い髪も酷く魅力的。そしてもう一方は幼い印象こそ受けるが確りとした瞳を作っている淡い紫色の髪をしている可憐な少女、だが彼女は確りと鎧を身に纏っておりその上から簡易的なマントを羽織っている―――がそれ以上に目を引くのは彼女の身の丈程もある巨大な盾。華奢な少女が持てるようなものではない筈なのに……と様々な目で見られているが彼ら気にせずに歩き続けて行く。

 

「しかしエ・ランテルに来て早々絡まれるとはな」

「何、何れ彼らも私達に噛みついた事に後悔する」

 

そう言葉を作るのは黒い鎧の騎士、名をモモン……と言ってもその正体は当然ナザリックのモモンガである。そして隣の騎士はアルトリウス、いやアーサーである。話し合いを重ねた結果として遂に冒険者業を行う事になった二人は条件であった僕を連れてエ・ランテルへと乗り込んだ。それに因んで偽名も用意した上で装備も変えてきた。モモンの鎧はモモンガの魔法、アーサーの鎧はキャメロットの鍛冶スキルを持つNPC達が腕を振るってくれたものを使用している。

 

「しっかしその鎧……カッコいいですよね!!」

「それは良いんだけどなんか悪目立ちしないかこれ」

「いやいやイケてますって!!」

 

アルトリウスとしては流石にこれは目立つのではないかと心配しているが、モモンガはそれを気にせずに気に入っている。元々の鎧にセイバー・ラーマの要素と色を組み込んだような物になっている。因みにラーマに決まるまでNPCの皆が大いに言い争ったのでじゃんけんで決めろ!!と言った所、ラーマが勝ち上がったからこうなった。

 

「ルギナ、マリー行くぞ」

「はいっす!!」

「はいっ!!マシュ・キリエライト……じゃありませんでした、マリー確りと任務を遂行してみせます!!」

 

ルプスレギナはルギナという偽名、そして大きな盾を持つのはシールダー・マシュ・キリエライト。当初はアサシンにすべきかと思ったのだがアサシンはアサシンで情報収集などに専念して貰う為に未知の世界に対する備えとして圧倒的な防御力と魔法の扱いにも長けるマシュが選出された。そして彼女の偽名はマリーである。

 

 

「アーサー、如何する」

「フムッ……さてどうしようか」

 

酒場兼宿屋でのもめ事を乗り越え、問題も無く冒険者への登録も済ませる事は出来たのだがある事を失念していた、文字が読めない。異世界なのだから文字などが違っても当然なのだがうっかりしていた。流石に此処まで来て受付でお願いするのはカッコ悪いのでは、と思ったが登録の際に代筆をお願いしたのでもう気にするべき物ではないのかもしれないが……。どんな依頼にすべきか迷っている時、後ろから声を掛けられる―――どうやらかなり目を引いてしまったらしく興味を持たれたらしい。

 

「あのご依頼が決まってないのであれば私達と一緒に仕事をしませんか」

「仕事、ですか。その内容をお聞きしても?」

 

一度アーサーへと視線を移すモモンに頷く、このまま停滞し続けるよりはいいだろうと話を受ける事にした。そして話す場として冒険者たちの打ち合わせ場所として使われる中二階へと通された。

 

「改めまして……本当に申し訳ありません。私たちは『漆黒の剣』というチームを組んでおります、私がリーダーをしているペテル・モークです。こちらがチームの目であり耳であるレンジャーのルクルット・ボルブ、ドルイドのダイン・ウッドワンダーです」

「宜しく☆」

「宜しくするのである」

 

爽やかそうな青年、ペテルが挨拶をしつつメンバーの紹介へと移っていく。隣のレンジャーのルクルットは随分とにこやかにしつつルギナとマリーへと笑いかけている。そんなルクルットの隣で他のメンバーと比べるやや歳が言っているようだが丁寧な言葉遣いをするダイン。

 

「そしてチームの頭脳、ニニャ―――術者(スペルキャスター)

「宜しくお願いします。しかしその二つ名やめません、恥ずかしいです」

「いいじゃないですか」

 

漆黒の剣の中で最も若く寧ろ幼いという印象を受ける少年ニニャ。如何やら彼は生まれ持った異能(タレント)持ちらしく、それが二つ名に影響しているらしい。タレントとはこの世界における固有の物、偶に人間が生まれ持った力でその種類は千差万別。ニニャの物は『魔法適正』。魔法の習熟が通常の倍近く早いらしく8年かかる魔法を4年で習得可能になるという物らしい。同じく魔法詠唱者のモモンガは素直に羨ましいと思った。

 

だがこのエ・ランテルにはより強力なタレント持ちがいるという話を聞く事が出来た。ンフィーレア・バレアレ。あらゆるマジックアイテムを使用可能という物、それを聞いて思わず緊張が走ってしまった。恐ろしいと思うと同時に是非ともその力を押さえておきたいと思いながらも此方の話をしておく。

 

「改めまして私はモモンと申します、一応このパーティのリーダーを務めております」

「アーサー、好きなように呼んでくれて構わない」

「そしてルギナとマリーです」

「宜しくっすよ」

「宜しくお願いします」

 

気軽な挨拶とキッチリとした挨拶の対照的な美女のそれらに漆黒の剣の面々も頭を下げる。それらを受けて即座にルクルットが動いた。

 

「所で一つお聞きしたい、レギナさんとマリーちゃんとお二人はどんな関係なのでしょうか!?」

 

それにペテルらはまた始まった……と言いたげな態度を作る、恐らく何時もの事なのだろう。それらを考慮しなくてもルギナとマリーは絶世の美女、惹かれるのは当然だろうし男としては気持ちは非常に分かる。

 

「仲間だが……」

「惚れました付き合ってください!!!」

「普通に嫌っす、凄い軽薄だしタイプじゃないっす」

「ガハッ!!!」

 

ど真ん中を突き抜けた遠慮を一切込めない本音に思わず膝をつくように崩れ落ちる、下手に言い回すよりこう言った方がダメージが大きいという事を心得て敢えてそんな言い方をしたのだろう。事実、僅かにルギナの口元が持ち上がっており愉悦を感じているように見える。そこへまるで縋るようにマリーへと視線を移す、天使のような笑みで笑いかけてくるので一縷の望みをかけるのだが―――

 

「ごめんなさい、あの見ないでもらえますか―――気持ち悪いです」

「―――……」

「ル、ルクルットが崩れ落ちたのである!!?」

 

まるで砂になるように崩れ落ちる姿に慌ててダインが抱き起すが、口からは魂のような物が漏れており真っ白になっている。何の遠慮もない直球の拒否、そこに追い打ちを掛けるかのように飛んできた心を抉る拒絶。流石に精神的なダメージがキャパシティを超えたのだろう……哀れだが同情はしないでおく。

 

「すいません仲間がご迷惑を……」

「い、いえ此方こそ……(よ、容赦ねぇ……)」

 

そんな所へ受付嬢がやってくる、何やら自分達を名指しした依頼が舞い込んだとの事。思わず顔を見合わせるが自分達は既にペテルたちと仕事をすると約束をしてしまっている。断るべきかと思案するとペテルは嫌な顔一つせずに言う。

 

「是非其方を優先してくださいモモンさん、折角の名指しの依頼ですし」

「いえしかし……ではこうしましょう、お話を聞いてから決めます。その時に内容にもよりますが合同で受けられるかどうかを確認して共に受けるというのは」

「そんな気を遣って頂かなくてもいいのに……いえ、これ以上は無粋ですね。そうさせて頂きます」

 

とまずは依頼人を確認し、依頼を決める事になったのだが……その依頼を持ってきたのは件のタレント持ち、ンフィーレア・バレアレであった。接点も何もない筈なのに……と思っていたが如何やら酒場で一悶着を起きた事を聞いたからとの事。しかも捻じ伏せたのはモモンらよりも上位の冒険者、格上の冒険者を倒せる最下級冒険者、だから雇いたいとの事だった。何処か引っかかるが兎も角それを漆黒の剣のメンバーそれに巻き込みつつ受ける事にしたのであった。

 

「後さ、何でモモンガさんたっさんリスペクトな鎧なの。それじゃあ魔法とか全然でしょ」

「まあそうなんですけど、この世界でどのぐらい通用するかのテストです。後純粋に前衛にも興味あったので」

「成程ね……まあマシュもいるから大丈夫だとは思うけど」



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15話

「しかしマリーさんは凄いですね、そんな身の丈程もある盾を軽々と……」

「一応盾役(タンク)として申し分ない程度には鍛えてますから」

「いやいやそれ程の力とは恐れ入るのである、しかしルギナ殿の〈中傷治癒/ミドル・キュアウーンズ〉も素晴らしかったのである」

「いやぁ褒められちゃったすねぇ♪」

 

「それを言うなら先程のモモンさんとアーサーさんだって凄まじかったですよ。まさかオーガを一刀両断するなんて……」

「私は元々筋力がある方でしたので、それを伸ばすように鍛えていたのです。アーサーのような技量は皆無でして」

「だからと言ってグレートソード二刀流出来るまで鍛えるか普通」

「ロマンだろう」

「分かるぜ、俺もそう言う力強さには憧れるからな!!やっぱりルギナちゃんとマリーちゃんもそう言うとこを慕ってるのか……!?」

 

護衛対象であるンフィーレア・バレアレを守るように彼が乗る馬車の周囲に展開するにしながら警戒を行いながら歩いて行く冒険者、漆黒の剣とモモン、アーサー、ルギナ、マリー。漆黒の剣は見事なチームワークと戦術を組み合わせながら迫ってきたゴブリンやオーガを撃破していたがモモン達は圧倒的な個人の力を見せ付けた。

 

モモンは150㎝を超えるグレートソードで二刀流しながら一刀の下にオーガを切り伏せ、アーサーは長さだけならばグレートソードを上回る程の175㎝の大太刀でオーガが気付けぬほどの繊細な一撃を。マリーはンフィーレアの守りに徹していた為に強さこそ分からなかったが、自分の身体を簡単に覆えてしまう程の盾を軽々と振るっているので相当な実力であると想定できる。そしてルギナは怪我をした漆黒の剣の傷は直ぐに癒せる……矢張りただ物ではないと思いながら先日の事を思う。

 

 

「お祖母ちゃん、このポーション……色が」

「ウムッ……」

 

ンフィーレアは稀代の薬師とも呼ばれる祖母であるリィジー・バレアレと共に店を切り盛りしていた。そこにブリタという女性冒険者の客が来た、ポーションを鑑定して欲しいという事でそれを受けたのだが、そのポーションの色が赤かったのである。初めてみるようなそれに祖母の反応を見つつ、リィジーは〈道具鑑定/アプレーザル・マジックアイテム〉と〈付与魔法探知/ディテクト・エンチャント〉の魔法による鑑定を行ったが―――

 

「これは―――」

 

言葉を呑み、沈黙を作った直後に大きく笑い始めた祖母。その理由はそのポーションが真の意味で完成された癒しの薬、神の血を意味する赤いポーション。リィジーも単なる伝説としてしか思っていなかった存在を目の当たりにして素直に驚きと笑いを漏らさずにはいられなかった。使用した際の効果は第二位階の魔法相当、価値は金貨8枚相当……だがリィジーは金貨32枚で売って欲しいと頼むほどの物だった。それ程の物なのかとンフィーレアも驚きを隠せなかった。結局ブリタはそれを売らずにお守りとして取っておくことに決めて帰っていったが、代わりに入手経路を教えて貰えた。

 

「ンフィーレア、動くなら早い方が良い。せめて接点だけでも作っておいた方がこれからの財産になるじゃろう」

「分かったよお祖母ちゃん」

 

このポーションの製造方法を知っているかもしれない人物への接触、あわよくば方法を知る事を目的に依頼を出す事に決めた―――そんな二人を見つめる不可視の人影が影から見ている事を二人は知らなかった。

 

 

『っつう事らしいよ、アサシンが教えてくれた』

『マジですか……あれユグドラシルでは一番下のポーションなんだけどなぁ……』

 

ンフィーレアの依頼を含めて彼に付いての報告で分かった事をモモンガへと共有する。如何やらこの世界は自分達が思っている以上に低いレベルにあるらしい。常人が到達出来る魔法の領域は第三位階、ポーションは劣化するので保存の魔法をかけるのが一般的。英雄と呼ばれる者の領域は第五位階、そう考えると陽光聖典のニグンは第四位階の監視の権天使を召喚出来ていた。相当に優秀な部類なのではないだろうか。

 

『そう考えるとナザリックとキャメロットってこの世界基準だととんでもない過剰戦力だったりするんですかね』

『まあだろうな。昔タブっさんとたっさんが見せてくれた映画の怪獣的な感じじゃないかな』

『わ、笑えない……』

 

そう考えるとこの世界での活動は積極的に行えるのではないだろうかと一瞬考えるのだが、それを直ぐに戒める。自分達だけが転移している訳ではない、その可能性は否定出来ない。仮にこの世界に異形種狩りを積極的に行っていたギルドやプレイヤーなどがいた場合には明確に敵と成り得るし神話級アイテムの装備があるかもしれない……いやもっと最悪なの事も考えられる。

 

『……世界級(ワールド)アイテム、あると思いますか』

『ないと言い切れない。いやあると仮定して行動すべき、そう相談したから貸し出しを決めたんだろ』

 

二人が最も警戒しているのはそれだった。他にもプレイヤーがいる場合、世界一つにも匹敵する力を秘める運営公認のチートアイテム群、世界級アイテム。破格の能力を秘めているバランスブレイカー、それらに対抗できるのは同じく世界級アイテムのみ。だが幸いな事にナザリックはユグドラシル全ギルド最高である11個の世界級アイテムを所持しているのである程度ならば貸し出して対抗する事が出来る。

 

「よしっ出来た、食事にしましょう」

「おっ待ってたぜ!!」

 

如何やら話し込んでいる内に野営の準備が済んだらしい。夕食も出来たらしいので其方に合流しつつ〈伝言/メッセージ〉による会議を続ける。

 

『シャルティアに世界級アイテムを持たせて任務に当たらせてるけど……何もないのが一番ですよ』

『まあ備えあれば患いなしだ、何もない事を祈ろう』

『ですね』

 

そこで話を打ち切ると回ってきたスープを受け取る、共に出されるパンなどは流石に質が悪いがもっと酷いリアルで生きていた二人にとっては確りとした食材を使った料理なのでこれでも十分なご馳走。最近拠点での料理に慣れてきたので少し心配だったので普通に美味しいと思えて少しホッとする一方でこういうのを貧乏舌って言うのかなと苦笑した。

 

「しかしモモンさんも凄かったけどアーサーさんの剣術も素晴らしかったですね」

「全くなのである。あれほどの長剣をまるで手足のように扱いながらもあの剣技、いやはや天晴でしたぞ」

「何、剣を振るい続けた人生だった故な」

 

鎧と同じくアーサーの使う大太刀もキャメロットの鍛冶師、特にセイバー・千子 村正が腕を振るった一太刀。ラーマの鎧を模したように刀についても様々な者たちから自分の剣をと候補が上げられて行った。その中で採用されたのがアサシン・佐々木 小次郎の物干し竿であった。最初村正は「選りに選ってこれをか……」と難色を示したが、直ぐに肉食獣のような笑みを浮かべ「やってやろうじゃねぇか」と焔をくべ、鉄を打った。

 

その末に生まれた大太刀が今アーサーが背負う剣、銘は決めてくれていいと言われたのでアルトリウスは天目村正とする事にした。銘を聞くと村正は少しばかり呆れながらも嬉しそうに言った。

 

『―――天目一箇神*1たぁ大層な(モン)にしたな、まあいいさ。好きに使ってくんな』

 

この大太刀は中々に良い。西洋剣ばかりだったのに加えて酷く長いので扱えるか心配だったが扱いやすく頑丈で切れ味も抜群、流石の腕前だと言いたくなる程の物だった。モモンガも自分も一本打って欲しいなぁと思う程、矢張り日本刀や太刀という存在は男の心を滾らせる。

 

「何事も積み重ね、基礎こそ奥義なりとはよく言った物だ」

「アーサー殿のお言葉、正しく真理であるな」

「確かに基礎がしっかりしてないと応用も出来ませんからね」

「俺は直ぐに奥義とか覚えたいけどな」

「そんなんだからお前は何時までもフラフラしてるんじゃないのか、アーサーさんを見習って基礎から鍛え直したらどうだ?」

「おいそれどういう意味だよ」

 

楽し気な会話を行う漆黒の剣を見ていると思わず昔の事を思い出す。自分達もギルドメンバーとは色んな事を話したり、楽しんだりもした。本当に輝ける時代だったとモモンは星を見ながらそう思ってしまったが、自分にも仲間がいるじゃないかと思い直す。

 

「そう言えば何故皆さんは漆黒の剣という名前なのですか、見た所黒い剣を使ってる方は無いように思えますが」

「ああっそれですか、漆黒の剣というは十三英雄の黒騎士が持っていたという剣の事でして……」

 

彼らのチーム名の由来から始まり、それからはチームの事や個人の事などを話して思った以上のに楽しい時間を過ごす事が出来た。同時にそんな剣があるなら自分達も冒険で探したいなぁと冒険心が擽られたりもした。まだまだ冒険とは言えないが、十二分にモモンガとアルトリウスは楽しさを覚えながら漆黒の剣と会話を楽しむのであった。

*1
日本神話に登場する製鉄・鍛冶の神。



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16話

なだらかな丘を越えた先にある村が漸く見えたか、あれがカルネ村―――ンフィーレアは疑問を頭に浮かべた。村の周囲を囲うように丸太を主軸に据えた頑強そうな壁なんてなかった筈だと、それはルクルットも同じように感じ取ったのかもしれない。思わず弓へと手を伸ばしながら警戒するその先には先日戦ったのと同じゴブリンの姿があった。

 

「そこで止まってくだせえ。武器も手放すのをお忘れなく」

「ゴブリン……全員囲まれてるぜ」

 

忠告と同時に草むらに隠れていたゴブリンが一斉に顔を出す。総数的には20そこそこ、弓や槍、剣を構えたゴブリンたちに周囲を完全に取り囲まれている。数の優位を捉えている上に完全な包囲、不利を通り越して負け確実な状況に漆黒の剣の面々は顔を顰めた。この状況を脱する手立てが思いつかなかった、モモンやアーサーの力があればなんとかなるだろうかと思うが二人は真っ先に両手を上げて戦闘の意志がない事を表明した。

 

「落ち着きましょう、向こう側も戦闘を積極的に行うつもりはないようで。ンフィーレアさんもいますし避けられるのなら避けましょう」

「御理解の程、感謝しやすぜ旦那方。出来れば此方も戦闘は避けたい、特に旦那方とはね」

 

不敵に笑っているが向こう側としても自分達の実力の差が明らかになっているのも分かっている、故に穏便に済ませたいと思っているらしい。ペテル達もそれに沿うべきかと武器を収めようとした時に門の近くへと近寄ってくる少女ともう一人、鮮やかな着物を着崩しながら弓を背負っている勇ましい男の姿見えてきた。

 

「おおっ客人かな」

「エンリの姐さんに藤太の兄さん、丁度いい所に」

「ゴブリンさんどうしたのってンフィーレア!?」

「エッエンリ!!?」

 

そこに現れたのはカルネ村に向かう前に救った少女、エンリ・エモットとキャメロットから派遣したアーチャー・俵 藤太であった。何やら誤解が解けたのか村の中へと入る事が出来た一行。ンフィーレアは一度エンリと話をする為に離れ、漆黒の剣は少し休憩する事にしたらしいのでモモンとアーサーは藤太と話をする事にした。

 

「藤太、カルネ村の復興は順調そうか。村を囲う壁は見たが」

「尽力させて貰っておりますぞ、カルネ村の皆も五体満足無病息災意気軒昂!!何せ喰う事に限っては困らせる事はあり得ないですからなっ!!ハハハハハハッ!!!」

 

高らかに笑う藤太に村の中を見渡すモモンは確かに、と言葉を漏らした。荒れている部分は無く綺麗な村へと生まれ変わっている、田畑も十二分にあり収穫も期待出来る。そして試験的にコメを育てる田なども小さいながらに完備されている辺り流石日本人の英雄だと言わざるを得ない。カルネ村では白米は好評らしい。そしてある部分を指差すとそこでは村人たちがゴブリン達に習いながら弓を引いて矢を藁を束ねた的目掛けて放っている。

 

「弓、ですか。藤太さんが教えたのですか?」

「俺も教えはしたが基本はゴブリンらだな、俺のような和弓を使える者は少数でな」

「でも全然じゃないっすか?」

「ハハハハハッいやはや手厳しいな!!だが10日ほど前までは全然だったのだ、それを踏まえれば上々なのですよルプスレギナ殿」

 

マシュやルプスレギナの言葉に暖かい目線を作る藤太に二人は同意だった。彼らは戦う術を持たなかった村人だった。だが家族を奪われた経験がそれを変えた、自分達の身を、家族を守るための力を付けたいという思いが実を結び始めている。家族を助けてあげれなかったが未来へ向かう事は助けられる、それが出来て少しばかり安心した。

 

「さてそれでは俺は皆の為に飯でも作りに行こうかな、今日は腕を振るうとしようか!!マシュ殿もルプスレギナ殿も期待してくれてよいですぞ」

「はいっ藤太さんのお料理はエミヤさんにも負けない程ですから楽しみです」

「おおっキャメロットの副料理長さんにも負けない程なんすか、それは楽しみっすねぇ」

「ハハハハッ美しいお嬢さん方に期待されると気合も入るなぁ!!」

 

高笑いをしながら遠ざかって行く藤太を見送りながら胸を撫で下ろした、心の何処かでカルネ村の事は気になっていたらしい。だがこれなら安心出来る。だがそこへ息を切らすように走ってくるンフィーレアが迫ってきた。

 

「あ、あのっ……モモンさんとアーサーさんはアインズ・ウール・ゴウンさんとアルトリウス・ペンドラゴンさんなのでしょうか!!?」

「んなっ!!?何処でそれを……!?」

「馬鹿……認めてるようなリアクションすんな……」

「あっ……」

 

誤魔化そうかと思っていた所にモモンの慌てぶり、もう隠しようもない……マシュは盾を握る力を強め、ルプスレギナは瞳を鋭くしているが抑えるように言いつつも溜息混じりに認めた。

 

「ああそうだ、事情があって名を隠していた」

「やっぱり―――あ、あのすいません僕は別に言いふらそうとかじゃなくてその……ぼ、僕の好きな人を、エンリを助けてくれた事へのお礼を言いたくて……」

 

顔を赤らめながらも素直に白状するンフィーレア。矢張りポーションを持つ者への興味と製法を知りたかったという知識欲から依頼を出したらしい、と言っても二人からすれば実害もない上に自分達の事も秘匿してくれるという事なので咎めるつもりもない。可能であればこれからもいい関係を築いて行けたらと思いながら去っていく背中を見送った後―――アルトリウスはモモンガの頭を一発殴った。

 

「ったぁ!?」

「もうちょっと腹芸っていうのも覚えようぜモモンガさん。驚いたのは分かるけどさ」

「も、申し訳ありません……」

「しっかしあのポーションがこの世界だとそんなに価値があるなんて……なあモモンガさん、いっその事彼にポーションの研究を委ねてみるのも悪くないんじゃないのか?」

「えっどういうことですか先輩っじゃなくてマスター」

 

口調を直しながらのマシュの疑問に答える、基本的にユグドラシルのアイテムは補充はする事が出来ない。魔法を封じ込める巻物(スクロール)の材料も現在捜索しているようにこの世界でユグドラシルのアイテムの代用が出来るならばしたい。そしてそれをポーションでも行う、この世界でユグドラシルポーションを研究させて同じ物を生み出す事が出来れば大きな利になる。それをンフィーレアに委ねるのもありかもしれない。

 

「悪くないですね、可能ならば彼がカルネ村に移住して研究してくれると一番いいんですが……」

「その辺りは今後の交渉次第じゃないでしょうか、資金や設備を持つという条件にしつつそれらを使って効果を高めたポーション販売は許可するとかにしたら……」

「無理矢理は駄目なのでしょうか」

「出来る限り穏便に行いたい。折角友好関係を築けている、そこは有効に使うべきだ」

「成程っ流石至高の御方々!!!」

 

 

「ここからが薬草の採集ポイントになりますので護衛をお願いします」

 

談話も終了し、休憩も十分にとってから漸く本題である薬草採取へと入る事になる、森の賢王と呼ばれる強大な魔獣のテリトリー。そのテリトリーが故にある種安全は確保されているが件の魔獣が問題になる位だろう。それでもモンスターと遭遇する可能性が高まりかなり危険な行為であるので冒険者である皆は入念に準備を整えてきた。 

 

「モモンさん達が居るなら何とかなるだろ、あれほどの力を持っている方が一緒なら心強いですし」

「万が一森の賢王と出会った場合なんですけど、出来れば倒さずに追い返すことは可能ですか?カルネ村が被害に遭わなかったのも賢王の縄張りだったからです」

「何とかやってみましょう、それに賢王と呼ばれるのであれば戦う事が不利益と考えてくれるかもしれないしな」

 

正直な所、力付くで上下を分からせてやった方が簡単で楽なのだが……此処はそう言う事にしておこう。実際は自分達の力を知らしめる為にモモンガがアウラに指示を出して森の賢王を誘き出させている。敢えて戦う事で名声を高めようのが目的。殺さないという約束もあるので爪の一本や尻尾を切り取って持ち帰る程度にしておくとしよう。

 

 

「……おい不味いぜ、なんかでかいのがすげぇ速度でこっちに来てる……!!」

 

順調に薬草採取が行われていき、十分な量に達しようとしていた時の事だった。ルクルットが森の異変と凄まじい気配が迫ってくるのを感知。馬の速度などではない、それ以上の速度で乱立する木々の間を縫うように爆走している。もう間もなく此処へとやってくると警告を飛ばす。

 

「森の賢王か!?」

「分からないけどそう仮定した方がいいかもしれねぇ!!」

「では打ち合わせ通りに此処はモモン殿らにお任せし、我らはンフィーレア殿を連れて退却するとしよう!」

「それが一番だ!!」

「はいっ!!」

 

前もって決めていた通りに手早く荷物を纏めてンフィーレアを守るようにしながら漆黒の剣は撤退していく。行ったのを確認すると武器へと手を掛け構えを取る。そしてその直後に木々の隙間から突如としてとんでもないスピードで鞭のような物が身体を貫かんと迫りアーサーへと炸裂しようとする―――直前にマリーが前へと出るとそれを完璧に受け止めて別の方向へと受け流す、するとそれは一気に森の中へと消えていく。

 

「マリー手応えは」

「まるで鋼鉄のようでした……しかもあの速度とあんなに自在に……」

 

 

―――それがしの初撃を完璧に防ぐとは……天晴でござる。

 

 

「「……それがし……ござる?」」

 

マリーの分析をまるで上書きするように響いてくる声の言葉を聞き返すかのように呟いてしまう、そんな言葉をギルドメンバーの武人武御雷、弐式炎雷がそんな言葉を使っていたような記憶がある。

 

 

―――さて、それがしの縄張りに土足で侵入してきた者よ。いま退くのであれば、先程の見事な防御に免じて追わずにおくでござるが……どうするでござるか?

 

 

「愚問だな。そういう貴様こそ姿を見せたらどうだ」

 

 

―――言うではござらぬか……ならばそれがしの偉容に瞠目し、畏怖するがよいでござるよ!

 

 

 

声と共に木々の間から声の主が姿を遂に姿を見せる。その姿を見たモモンとアーサーは思わず言葉を失った、まさかこんな魔獣が居るなんて思いもしなかった、いやユグドラシルでもいなかった。彼らの常識では当てはまらない魔獣がそこにいた。

 

 

―――驚愕に動揺、それに支配されているようでござるな。それは正しい反応でござる、生物として正しい反応でござる。

 

 

マリーとルギナはそんな事ないと二人の顔を見る、そこには動きを完全に止め、驚愕している姿があった。まさか至高の御方である二人を驚愕させるなんてと……と思う中で強い警戒心を抱く中で二人は思わず口を揃えるようにしながら言ってしまった。何故ならば―――

 

「「お前の種族……ジャンガリアンハムスターって言わないか?」」

「―――なんとぉっ!!もしやそれがしの種族を知っているのでござるか!?」

 

その姿は余りにも巨大で20メートル近い尻尾が異様ではあるが、どう見ても見た目はジャンガリアンハムスターだ。愛玩動物としてペット人気も高いあのハムスターが目の前にいたらそりゃ驚くだろう。

 

「大きいフォウさん、みたいです」

「いや流石にフォウ君とは違うと思うよマシュ……」



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17話

エ・ランテルに到着したモモンガ達は視線を集めていた。既に日は落ち、夜の帳が降りている中でも住民だけではなく街中を行く旅人や商人の視線を賞賛と驚愕に染め上げながら集め続けていた。どよめきの中心部に立っているホワイトパール色の毛色に大魔獣に腰掛けるようにしている漆黒の鎧を纏った剣士モモン、その周囲にはそれらの視線に満足するようなルギナ、魔獣の毛に触れて嬉しそうにするマリー、兜の下で複雑そうな表情を浮かべるアーサーがいる。

 

『ううぅぅぅっ……とんだ羞恥プレイだぁ……』

『が、頑張れモモンガさん。周囲の視線は取り敢えず完全に称賛とかだから……』

『だったら代わって下さいよぉ……』

 

トブの大森林、そこに君臨している大魔獣たる森の賢王。その正体は20メートル近い尻尾を持つ3mを超える巨大ジャンガリアンハムスターだった。当初の予定では切り伏せてて尻尾やらを確保する予定だったが……思っていた以上に知能があるので森の賢王を配下にしたとすれば名声も高まるとの事で力の差を見せ付け、従属させる事にした。まあ信じられないかもしれないと思ったのだが―――

 

『凄い、なんて立派な魔獣なんだ!!?』

『強大な力と叡智を感じるのである!!』

『これだけの魔獣を従えるとは、ルギナちゃんとマリーちゃんを連れまわる事はあるなぁ!!』

『私達だけでは間違いなく皆殺しだったでしょう……流石はモモンさんとアーサーさんです!!』

 

モモンガとアルトリウスからすればこれは唯のデカいジャンガリアンハムスターにしか見えない、確かに大きいが何方かと言えば可愛らしいという感想が真っ先に出るのだが……矢張り異世界故に感覚も異なるという事なのだろうか……。そんな賢王を従えたのでいざ凱旋した……のだが気分的にはもう羞恥プレイのそれである。

 

『……アルトさんのアドバイス通りに胡坐で座って正解でした……流石にでかいハムスターに大股開いて座りたくは……ないです……』

『それでもこの世界的にはドラゴンに跨る竜騎士とかペガサスに乗る聖騎士みてぇな目で見られてるんだろうな……やっぱ異世界だわ此処』

 

もう絶えずアルトリウスとの念話代わりの〈伝言/メッセージ〉をやって居なければやってられない。

 

「それではモモンさん達はこれから森の賢王の登録ですね。私たちはンフィーレアさんを手伝って荷降ろしをしてきます、またあとで合流しましょう」

「ええっではまた後で」

 

一旦ンフィーレアと漆黒の剣と離れて自分達は組合へと向かう、そんな中でモモンとアーサー達は森の賢王の名前を考えていた。

 

『ハムスケとかダイフクも良いですかね』

『ハムスターが相手だと思うとまともなネーミングで安心したよ』

『何か信用無いですね』

『異形種動物園』

『う"っ』

 

生憎モモンガのネーミングセンスは良くない事はアルトリウスは勿論、ギルドメンバー内では周知の事実だった。アインズ・ウール・ゴウンの名前になる前に彼が出した名前の案は「異形種動物園」だった。その時はギャグという扱いになって済まされたが……その対象を考えれば今回はまともな事に安心感を覚えるのであった。そして組合に到着した時に登録した際に彼が決めた名前はハムスケとなった。これで雌だったらどうするのだろうかと思ったが某などと言っていたし多分大丈夫だろう……尚、ハムスケが雌だった事が後日無事に判明した。

 

 

「しかし大森林の伝説の大魔獣がこれ程に精強だったとは……長生きはするもんじゃな」

「そう言われると照れるでござる~」

 

無事に登録も終了しンフィーレアが待つ店へと向かっている途中で彼の祖母であるリィジー・バレアレと遭遇する。丁度店に戻るという事なので道すがら話をしながら向かって行く。そして到着し店の中には行った時、思わずハムスケが呟いた。

 

「殿、何やら血の匂いがするでござる」

「血……モモン」

「ああ、リィジー殿我らが先に」

 

その言葉にマリーとルギナがリィジーの守りを固めさせながら先へと行く。匂いがする方向へ……店の奥、薬草の保管庫、其方へと足を向けていった先にあったのは……変わり果てた姿となった漆黒の剣、殺され、貶められ、ゾンビへと変えられた哀れな姿にカリバーンを取り出して抜刀、ゾンビを沈めると―――アルトリウスは迷う事も無くアイテムボックスから魔法が込められた指輪を取り出す。

 

「アルトさんそれは……」

「レアガチャで引いた指輪、こいつには第九位階魔法〈真なる蘇生/トゥルー・リザレクション〉が込められてる。回数制限はないがその代わりに消費魔力は数倍になる、使わせてくれないか」

 

取り出した意味は何かは分からなかった、だが騎士としての本能が何かを叫んでいるのかもしれない。純粋に助けたいという思いか、それとも……旅の間の礼か。分からないがモモンガもそれを許可し〈真なる蘇生/トゥルー・リザレクション〉が発動されると、聖なる光が彼らの魂を現世へと呼び戻し蘇生が成された。

 

「モモン、さん……ンフィーレ、アさんがっ……攫われ、ました……!!」

 

最後の一言を告げるとペテルは意識をまた失った、リィジーらを呼びルギナに治癒を任せながらある事を決める。

 

「リイジー殿、彼らはお孫さんを守ろうとしてくれたようだ。私としては彼らの代わりにお孫さんを救出に行く。その代わりに彼らを見ていてもらっても良いだろうか」

「その程度の事ならばお安い御用じゃ、宜しく頼みたい……!!」

 

漆黒の剣を彼女に任せつつもモモンガはアルトリウスの身勝手を咎めずに寧ろ同意見を浮かべていた。指輪にて人化しているからだろうが、彼らには本当に世話になった。何より……まるで嘗てのギルドメンバーのように仲良く連携も取れていた彼らを気に入っていた、だからこそ決めた。このような事を仕出かした輩を討ち取ってやると。部屋を一つ借りながらエ・ランテルの地図を広げながら作戦会議を行う。

 

「アーサーさん如何されますか」

「先程ペテル達を別室に運んだ時に荷物を見たが、金目の物はそのまま。だが彼らの冒険者プレートのみが奪われていた」

「プレート、をですか。でも何の為にそんな物を奪うんすかね?」

「ハンティングトロフィー代わり、だろうな。記念品のつもりか……それを探すには―――〈物体発見/ロケート・オブジェクト〉だな」

 

アイテムボックスから無限の背負い袋を取り出し、そこからスクロールを取り出して地図の上に置く。それでは早速発動させますとルギナは手を伸ばすがそれを止めながら追加のスクロールを出していく。

 

「情報収集系の魔法使用時には様々な下準備を行う、対抗魔法へのカウンターや偽報を与える魔法も同時に発動させる。これが基本だ」

「胸に刻むっす!!」

 

とにかく相手の情報を収集し一気に叩く。これこそアインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明、ぷにっと萌え考案の誰でも楽々PK術。今回もそれに則って動く、全てのスクロールを発動し終えて場所を特定するとルギナは地図でそれを示す。そこはエ・ランテルの墓地、同時に映像を映し出す魔法を使って情報を収集するとそこには無数のアンデッドの軍勢の中に佇むンフィーレアの姿がある。

 

「確定か……だが様子が可笑しいな、洗脳でもされているのか」

「彼のタレントはどんなマジックアイテムでも使える、それを利用されたか」

「……あり得るな。どんな企てかは知らんが真正面から叩き潰してやろうじゃないか、そうされた方が相手も憤るだろうし我々の名声の為にもなる」

 

相手を上回る戦略で蹂躙するのも良いが長い時間を掛けた戦略をシンプルな真っ向手段で叩き潰すのも相手の心を粉砕するには有効、ぷにっと萌えもそう言っていた。

 

「うっひゃあそれは心が躍るっす~!!」

「マリー、全力を尽くします!」

「行こう」

「ああ」




漆黒の剣は生存させる事にしました。

ある種アルトリウスのキャラ付けの一環というか方向性、みたいなものですかね。

ゾンビ化しているの蘇生できるのかとも思いましたが……高位の第九位階の蘇生魔法によるものだからOKという事にします。


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18話

エ・ランテル外周部の城壁内の四分の一、巨大な区画を丸ごと使用しているのは共同墓地。これほどまでに巨大な区画を墓地として使うのは理由がある。それは戦争の際に拠点として扱われるだけではない。死者が集まる場所、生者が死を迎えたその場所には不浄なる命が生まれてくる場合が多い。墓地に不浄なる者、即ちアンデッドが発生したとしてもある程度の数ならば隔離出来る。だがそのまま放置するわけではない。

 

アンデッドを野放しにし続ければ負の力が強まり、より上位のアンデッドが湧きだしてしまう。そしてより上位のアンデッドが現れれば更に負の力が強まり―――と言った負のスパイラルを防止する為にも定期的に冒険者が墓地の中へと入ってアンデッドを狩るのだが、今その墓地では衛兵たちが大騒ぎを起こしていた。

 

 

―――墓地を埋め尽くさんとする限りのアンデッドの大群が迫っている。

 

 

途轍もない数のアンデッドが壁をよじ登ろうとする、それらを阻止するために長槍を振り下ろしては持ち上げ再び振り下ろすのを何度も繰り返す。繰り返すうちに自分の鼻につく腐敗臭が嗅覚をマヒさせている、それだけ長い時間彼らは自らの役目を必死に全うしている。だが徐々に疲労が溜まっていく。疲労という概念がないアンデッドはただただ壁を登ろうとしてくる。衛兵の隊長は後退の命令を出す、自分達だけでは到底対応しきれない。応援を待って殲滅するしかないと思っていた時の事、更なる絶望が到達した。

 

集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)。自分達だけでは決して倒せないような巨大なアンデッドが姿を現した。壁すら余裕で超えてくるような巨体に絶望を感じていた時だった。その巨人の頭部が消し飛んだ、ゆっくりと後ろへと崩れ落ちて行く巨体と音が響く中で、地面に見事なグレートソードが刺さった。それを引き抜きながら肩に担居たのは―――屈強な魔獣を連れた全身鎧の戦士たちだった。

 

「夜は静寂、というのが定番だと知らないらしいな」

「アンデッドにとっては今こそが騒ぎ時、なのかもしれないな」

「成程一理あるな」

 

彼らが着用している金属製のプレートを見て冒険者か!?と希望を抱く中でそれが銅のプレートであることに気付きそれらが無に帰そうとするが、それが如何したと言わんばかりに言った。

 

「門を開けろ、この先に用がある」

「よ、用がある!?今この先の墓地はアンデッドが山ほどいるんだぞ!?無数の数のアンデッドが!!」

「それがこの私に、モモンに何か関係があるのか」

 

圧倒的なほどに自信を持つ戦士、威圧的な言葉に思わず威圧されて何も言えなくなる。だがそんな事知った事かと、門の向こう側のアンデッドが濁流のように門を何度も何度も乱暴にぶつかり続けて行く。マナーがなっていないなと呟きながらモモンは僅かに身体を小さくすると瞬時に飛び上がった。

 

「では勝手に行かせて貰おう。行くぞルギナ」

「はいっすモモンさん!!」

「承知したでござる殿!」

「続くぞ、遅れるなマリー!!」

「はいっマリー戦闘開始します!!」

 

そんな言葉を残してその一団はまるで小さな溝を超えるかのような軽快さで壁の向こう側へと行ってしまった。嵐が過ぎ去った地のような静けさが衛兵の間に広がっていく、僅かな時間が経ってもいない筈だが衛兵たちが気付いた。アンデッドの呻き声が全くしない。壁の向こう側を恐る恐る視界に入れると居たはずのアンデッドの群れが居ない、先程まで自分達を殺そうと壁を乗り越えようとしていたあの亡者たちが……。それどころか遠くからは剣戟の音が聞こえてくる。

 

「俺達は、伝説を見てるのか……?漆黒の戦士と赤金の戦士―――いや英雄だ、あれは間違いなく英雄なんだ……」

 

 

「行くでござるよぉ!!」

「お願いしますっやぁぁぁっっ!!」

 

尾をバネに、発射装置のようにして一気に打ち上げられたように加速したマリーは大地へと突撃するようにしながら大盾を振り下ろした猛チャージでアンデッドを纏めて粉砕する。それと同時に盾を振り上げながら魔力を放出してその衝撃波でそれらを吹き飛ばしながら一気に後退しハムスケの上へと着地する。そこへと殺到するアンデッドらの前にルギナが躍り出ると笑みを浮かべながら魔法を発動させる。

 

魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)・〈中傷治癒/ミドル・キュアウーンズ〉っす!!」

 

広範囲指定を行った上での回復魔法。本来は生者を癒す為の魔法だがそれは死者であるアンデッドには毒となり、命を奪う脅威となる。それらを受けて一気にアンデッドの群れに穴が開いて行く。

 

「マリー殿もルギナ殿も素晴らしいで御座るな!!」

「いえ私なんてまだまだです」

「でも褒められるのは悪い気はしないっすねぇ♪」

「しかし随分と某らに集まって、来るで御座るな!!」

 

長い尾で周囲を一気に掃除するように薙ぎ払いながらハムスケは異常な数のアンデッドに驚く。元々アンデッドは生者を憎んでおり積極的に被害を与えるという性質がある。それ故にマリー達は集中的に狙われてしまう、モモンガもそれを理解しているのかちゃっかり指輪を外しておりアルトリウスに敵が向かいやすくなっている。

 

「まあいいけどさ……にしても凄い数だなっ!……こんだけの数を呪文で揃えるとして、どれが該当するか分かるぅモモンガさん!!」

「多分っ!!ですけどこれだけの数となると!!第七位階の〈不死の軍勢/アンデス・アーミー〉だと思います!!」

 

迫ってくるアンデッドを狩りながら思い当たる魔法を尋ねてみると直ぐに答えは帰ってきた。流石は取得している718の魔法を暗記しているだけのユグドラシル廃人、尊敬を向けつつもそう考えるとまだまだ数が居る事になってくる。流石に時間を掛け過ぎるのもあれだろうとモモンガは<中位アンデッド創造>を発動し自らの下僕となる物を作り出しアンデッドの相手をさせていく。有象無象程度ならば無双できるので心配ない、更にこの墓地に何者かが侵入しないように、した場合の追い返す為の下位のアンデッドも創造しておく。これでいざという時は遠慮なく自分達の全力を出す舞台が出来上がった。

 

「マリー達は見張りも兼ねてそこで待っていてくれ」

「分かりました、お気をつけて」

「お待ちしてるでござるよ~殿~」

「お気を付けて行ってらっしゃいませ」

 

「カジット様……」

 

霊廟の入り口付近にて儀式を行っている内の一人が小声で中心部にいるローブの老人に言う。小声だろうと自分達にとっては聞こえる、声をかけるにしても名前を出す時点でアウトなのだがそれ以上に色々な所がアウト過ぎると同じく魔法詠唱者であるモモンガは溜息をつく。

 

「……貴様らアンデッドの群れを突破してきたのか?」

 

儀式を邪魔されたからか、それとも名前を呼んだ一人に苛立っているのか忌々しげにカジットが質問を投げ掛けてきた。暢気な物だ、見れば分かるだろうに。

 

「頭の外だけじゃなくて中もないようだな、見て分からないのか」

「……プッ」

 

呆れたモモンの声に思わずアーサーが噴き出した、幸いな事に聞こえていなかったらしい。肘で突かれたので咳払いしつつもアーサーは気を取り直して真面目な声で言う。

 

「ンフィーレア・バレアレを返して貰おう、そして―――其方にいる刺突武器を持ったお嬢さんも出てこい。隠れていたとしても俺から逃れられると思うな」

 

それに応じるように霊廟から一人の女が顔を出す、愉悦に歪ませながらも自分の優位を信じ切っている表情と甘ったるい声が特徴的な金色の髪をしたマントを羽織った女。

 

「あっははっいや~バレバレみたいだったしさ。隠れてても仕方ないなって思ったからいいよねカジっちゃん」

「お主……」

「それで其方さんのお名前を聞いても良いのかな、あっ私はクレマンティーヌ。宜しく♪」

 

歪みながらも良い声を響かせながら此方を品定めするかのような瞳を向けてくるクレマンティーヌに冷めた目を投げ続けながら一応アーサーとだけ名乗っておく。

 

「モモン、あの女は私が相手をしよう。それが礼儀だろう―――格の違いを見せてやろう」

「勿論だとも」

「クレマンティーヌとやら、あちらで戦うとしよう。君もその方が楽しめる事だろうからな」

「自信タップリだねぇ……良い声してるし私の好みの男かもぉ……そうだとしたら、少し長生きできるかもよ」

 

淫靡な言葉を作りながらアーサーの後に続いていく、それに揺らぐアーサーではなく真っ直ぐと歩き続けて行く。それに硬派な所も高印象と勝手に好感度を上げて行くクレマンティーヌに何やら複雑な寒気を覚えてしまう―――主に某溶岩水泳部にも似た何かと妻の何かを感じた気がした。

 

「それにしても本当に良い声してるねぇ~顔が見たいなぁ……見せてよお兄さん♪」

「……」

「そぉんな所もまた魅力的ィ~そぉいえば私が店で殺した雑魚はお仲間だったの、だから怒っちゃった?」

 

必要以上に嘲るように、彼女は言った。殺した時の感触、死にざまの表情、ベラベラと自分から様々な事を喋り出す。だがそれはそれで滑稽に思えた、彼女が殺したと思っている漆黒の剣は自分が生き返らせたのだから……それももしかしたら聖騎士でもあり竜である特異な自分故だろうか思いながらそろそろいいだろうと足を止めて振り返る。

 

「ここいらで始めるのぉ~いいよ、クレマンティーヌお姉さんが貴方を存分に可愛がってあげる。その兜の下が良い男だったら―――もっともっと可愛がるけどね」

「遠慮しておく」

 

天目村正を抜き放ち腰を落としながら構えるとクレマンティーヌは愉悦を感じながらもマントを広げた。そこにあったのは鱗鎧(スケイルアーマー)と見間違えるような物だった。だが実際はもっと悍ましい物。無数の冒険者のプレートがぶら下がっている。白金、金、銀、鉄、銅。中にはそれ以上の輝きもある、それは彼女の戦歴を象徴するトロフィー。

 

「良い趣味をしてるな全く……」

「有難うねぇ~貴方みたいないい声で言われると嬉しくなっちゃうぅ~ン」

「皮肉だクソが……」

 

思わず素になりながらも更に力を込めて握る。紛れも無く、この世界における強者との戦いだ。決して油断はせず、戦うと決める―――此処が本当の意味での異世界での自分の初陣。



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19話

天目村正を構えながらも静かな視線を向けつつも思考する、自分の戦闘力という物がどれほどまでに通用するのだろうか。この世界における戦闘は数回、だがどれも満足いくものではない、自分のそれが明確に通用するのかという問いかけに対する返答にはならない。だが今回はそれに足るだけの戦闘が出来るだろう……そう思う中で視界の端、モモンの居る方向に銀に見える灰色の体色の龍が見えた気がした。

 

骨の龍(スケリトル・ドラゴン)

「なぁんだあんま驚かないね。単独で勝つには少なくとも金級以上の冒険者じゃないとね~、銅であるアンタらには勝てる道理はないってお話よん♪分かったら降参しちゃったらぁ~ん?可愛がってあげるからさぁ~……この英雄の領域に踏み込んだクレマンティーヌ様がねぇぇええ!!」

 

その声を聞いても剣を収める気などない。骨の龍のレベルは20に届かない程度しかない、例えモモンのままだとしても片手間で倒せる敵でしかない。だから意識を向けるだけ無駄だと割り切る。降参の意志などないと分かるとその手にスティレットと呼ばれる刺突武器を手にすると四足獣のような体勢になり地面を蹴ると爆発的な加速を見せながら一気に距離を詰めた。そこから一気にスティレットを突き立てんとするが0から一気に始動したアーサーは天目村正を振るう、彼女が動くよりもずっと早く胴を捉えんと―――

 

「〈不落要塞〉〈流水加速〉」

「ッ!!」

 

ずっと先に捉える筈の刃が止まる、そこにはスティレットで自分の一撃を受け止めているクレマンティーヌの姿がある。同時に自分のスキルが発動する、相手がどんなスキルや魔法を発動しているのかを知る事が出来るスキルだが―――そこには〈不落要塞〉〈流水加速〉という見た事も無い名前が二つ並ぶ、これがこの世界特有の武技という奴だろうか。そう思うとぬるりと刃をすり抜けるような動作で懐に飛び込んで自分の肩へとスティレットを突き立てようとするが鎧はそれをあっさりと弾いた。それに一瞬顔を顰めるが即座に斬り返してきたそれを回避しつつ距離を取る。

 

「硬っい鎧ね~、何で出来てるんだが、でも次はそうはいかない」

「成程な。これが英雄の領域に足を踏み入れた物の力という奴か……」

 

その言葉に益々歪んだ笑みを浮かべた、漸く実力の差という物を思い知ったのかと加速した。

 

「アハハハ漸く分かってくれたんだねぇ~まあいいよ、今のあなたの一撃も凄かったしねぇ~ただ生かすだけは勿体ないから取りついで上げる、その代わり―――」

「だが武技というのは興味深いな、ユグドラシルにはない技術だ……これは研究のし甲斐があるな」

 

額に青筋が浮かぶ、この自分が声を掛けてやっているというのにガン無視。酷く腹立たしい、より明確に力の差を痛みと共に分からせてやらないとダメという事か、それはそれでいい、あの声が苦痛に歪んで自分に救いを懇願する所を見たくなってきてしまった。

 

〈疾風走破〉〈超回避〉〈能力向上〉〈能力超向上〉紛れもない自分の渾身の力を込めた一撃を放つ武技の四つ重ね合わせ、能力を大きく引き上げた末に放つ一撃は間違いなくあの鎧を貫いて肉を抉る事だろう、その先に待つ痛みの声を早く聞きたいと疾駆する。先程よりも早く到達する、あの一撃よりも早く、さあ今こそその身体にこのスティレットを―――

 

「〈峰打ち〉」

 

砕け散った、知覚するよりもずっと早くスティレットが砕け散る破片が宙を舞った。同時に身体が痛みを認識するよりも先にその身体に峰による斬撃と打撃のはざまの一撃が炸裂した。命すら刈り取らんする筈の一撃は彼女の命を活かしながらも地面に叩き伏せた、そして伏せられてから漸くダメージを認識した身体は全く動かなくなっていた。

 

「―――ッナ、何をっ……!?」

「こんな所で命を散らせるのは勿体ない、その力を我が下で活かせ」

「勝手な、事をっ―――」

 

声が掠れる、肺の中の空気を一気に吐き出したからか呼吸もまともに出来なくなっていた。一先ずは息を整える事をしなければならない……と思っている中で奥から肩に布で丸められたンフィーレアを担いだモモンがハムスケらを連れてやって来たのを見て目を見開いた、骨の龍を一人で倒したというのか。

 

「骨の龍が見えたが終わったらしいな」

「途中から死の騎士も混ざっていた、まああんなの軽い物さ。後聞いてくれユグドラシルには無かったアイテムも見つけたぞ」

「ほうっそれは上々だな」

 

旧知の友人同士の会話を始めるように、その二人の間にはもう戦いの空気など無かった。それに死の騎士まで居たのにそれまで倒したというのか、どんな常識外れの力なんだと思っていると黒い騎士が此方を見た。思わず低い声で悲鳴を上げてしまう。

 

「まだ生きているが、とどめを刺さないのか」

「武技とやらに興味が湧いてね、研究する価値はあると思うぞ」

「ふぅむ……戦士長の時も思ったが、もしかして武技とはこの世界の人間がユグドラシルプレイヤーに対抗する為に編み出した技術なのかもな」

「成程……確かにありそうだな」

 

ぷれい、やー……!?その言葉を聞いて、クレマンティーヌの頭は真っ白になった。ではこの二人はぷれいやーなのか、法国が神と崇めるあのぷれいやーだというのだろうか。だとしたら自分はなんて無謀で神を恐れぬ愚行を行ってしまったのかと青を通し越して灰色になる。

 

「ぁ、ぁぁっ……」

「それで如何するんだ」

「キャメロットで預かる、もしも俺達が覚えられるならば覚えておきたいだろう」

「それは確かに、心が躍るな」

 

その希望が沸き上がった、先程も聞いたが自分は生きる事が出来るのだろう。そして何よりあのぷれいやーの配下になるのだ、一転した喜びが沸き上がってくる。膝を突くように自分の顔を覗き込んでくるアーサーは兜を外しながら自分を見下ろした、その時に初めて見れた戦っていた騎士の素顔を見た時に言葉を忘れる程に見惚れてしまった。天に眩く星々のように輝き、研ぎ澄まされた刃をも上回る鋭い瞳に吟遊詩人が語る詩を鼻で笑えるような美貌。

 

「クレマンティーヌ、私の下に来い。築き上げた研鑽、技量を私の為に使え」

「―――ぃぃっ……」

 

未だに言葉は出ず、だが小さく、今できる最大級の了解を示す為に頷いた。が直後に力尽きるように意識を失った、不思議な事に恐怖はなく唯々安心感と言う揺り籠に揺られるように……落ちていった。

 

「至高の御方々が前にいるのになんて失礼な……今直ぐたたき起こしますか」

「いや軽い回復をさせてやってくれ、峰打ちに留めたがそれでもダメージは深刻な筈だ」

「分かりました」

 

ルギナに回復をさせている間に〈伝言/メッセージ〉を使用してエ・ランテルに配置していたアサシンの一人を呼び出す。程なくして忍者装束を身に纏った赤髪の少年、アサシン・風魔 小太郎が到着した。

 

「アサシン・風魔 小太郎。ただいま到着しました」

「ご苦労。小太郎、この女をキャメロットに運べ。丁重にもてなすように言っておいてくれ、彼女は武技というこの世界固有の技術研究に貢献させる」

「承知致しました」

 

担ぎ上げられたクレマンティーヌ、そのまま夜明けの朝日を避けるような素早い身のこなしで駆け抜けていく。その姿を見送りながらモモンへと向き直る。

 

「これで依頼は完了、かな」

「ああ、それじゃあ―――凱旋しようじゃないか」

 

大袈裟に真紅のマントをはためかせながら歩き出す友に僅かに肩を竦めながらもその後に続く事にした。

 

「凱旋であるならば是非とも某の背に乗られては如何でござろうか!?」

「い、いやンフィーレアもいる事だし乗る訳には、そうだアーサーを乗せてやってくれ!!」

「おおっそれでは!」

 

『……モモンガさん、アンタ根に持ってるだろ』

『いや何の事ですかね、別にアルトさんにも味わって欲しいなぁ程度にしか思ってないですよ』



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20話

エ・ランテルの共同墓地にて発生したアンデッドの異常な大量発生、それを引き起こしたのは一つの都市をアンデッドが跳梁跋扈する死都に変えた秘密結社・ズーラーノーン。大地を埋め尽くす数千という数の死者の軍勢がエ・ランテルの全ての飲み込まんとしたのを阻止したのはたった4人、しかも銅級の冒険者チームであった。後に冒険者組合が現場を調査したところ、骨の龍だけでは飽き足らず、たった一体で小国の軍事力に匹敵すると評される伝説のアンデッドの死の騎士(デス・ナイト)の残骸まで見つかった。

 

この騒動を鎮め、誘拐されたンフィーレア・バレアレを救出したモモンとアーサーはエ・ランテルの人々から羨望、感謝、尊敬、様々な視線を向けられるようになり同時に銅級から一気に破格とも言える昇級を行い一気にオリハルコン級の冒険者と認められた。"漆黒の英雄"モモン、"赤金の騎士"アーサーとして名をエ・ランテルだけではなく周辺諸国に轟かせる事になった。

 

 

「それでンフィーレアが付けられた〈叡者の額冠〉っていうユグドラシルにもなかったアイテムだった訳でした。まあ壊しちゃいましたけど」

「良かったのか、依頼達成にはしょうがないとはいえ」

「ちょっと惜しいとは思いましたけど、依頼失敗はアインズ・ウール・ゴウンの名が泣くと思いまして」

「カッコいい事言っちゃってまぁ、そう言いながらコレクター心が少し泣いてるんじゃないの」

「まあぶっちゃけるとそうですね」

 

エ・ランテルでの一仕事を終えた二人は揃って戻って来て今はモモンガの執務室で雑談混じりな話をしている。

 

「それにしても死の騎士を倒しただけで一気に最高位冒険者の一歩手前ってなんかあれですね……凄い強くてニューゲーム感が」

「禿同。この世界における英雄連中のレベルは大体20~30って認識が良いみたいね」

「となると百貌がやられる心配は余りないって事になりますからよかったですね」

「まあね」

 

クレマンティーヌのレベルは31。本人も人外、英雄の領域に足を踏み入れた存在と言っていたので恐らくこの見立てで間違っていないと思われる。それでもナザリックやキャメロット基準では雑魚と言うしかないのだが……自分達が強すぎるのかこの世界のレベルが低いと言うべきなのか微妙なライン。

 

「それでクレマンティーヌはこっちで預かっていいんだよな」

「アルトさんが倒した相手ですし構いませんよ。それにしてもそんなに凄かったんですか武技は」

「研究する甲斐はあると思うよ、彼女自身が使ってた身体能力向上系の奴があったんだけどそれを使った彼女の強さは40はあったと思う」

「―――それは、確かに研究したくなりますね」

 

クレマンティーヌの場合は〈能力向上〉〈能力超向上〉の二つを併用していたがそれでもレベル31の戦士職が40レベルに足を踏み入れている事はかなりの事。それらがもしも自分達も習得可能であるならば是非とも修得したい、使ってみたいという欲もあるがそれ以上に不安な事もある。仮にカンストプレイヤーが完璧に武技を扱えた場合の脅威度はどうなるのだろうか。もしも完璧に使えた場合、ワールド・チャンピオンであるたっち・みーをステータスの上で上回る可能性すらあり得る。武技の上昇率はレベルによる増減するのか、その上昇率は、種類は、何と何が併用できるのか、これからどんどん調べていかなければならないだろう。

 

「油断はしないでおこう、タレントを含めてこの世界にはまだまだ不確定要素が多すぎる。慎重に進んで損はしない筈だ」

「そう、ですね……茶釜さんが言ってましたもんね、備えあれば嬉しいなっだったかな」

「なんか違うよそれ、多分憂いなしだと思う」

 

兎も角この世界における強者にして武技の使い手を得られた事は非常に大きい、これからの研究にも役立つし彼女でレベリングの実験を試みつつそれによってどれだけ武技の性能が上がるのかも検証も可能になってくる。しかしこうなってくると他にも武技の使い手を確保したくなる。これからの方針に一つ新しい物が追加しておく事にしよう。

 

「魔法系の武技ってないんですかね、あったら絶対に覚えたいんですけど」

「いやぁそれは如何なんだろう……それこそ自分でバフ魔法掛けるのが早いんじゃない?」

「そっかぁ……」

 

僅かに肩を落とす友人に僅かに罪悪感が沸いてしまう、後でクレマンティーヌにそんな武技に心当たりがないかぐらいは聞いて置く事にしよう。そんな時、モモンガに〈伝言/メッセージ〉が入ったらしく耳辺りに手をやる。意味はないのだが何となくやってしまう癖、ユグドラシルでもあんな風にやる必要はないのにやってしまう動作があったなぁと懐かしく思う。

 

「そうか、成程……むぅっ」

 

何やら複雑そうなな声を上げながら声に出してしまっている事に気付くと、咳払いと共に声を静めた。暫くした後にそれは途切れて向き直った。

 

「シャルティア達です、如何にも武技使いを見つけたらしいですけどシャルティアの〈血の狂乱〉が発動してその隙に逃げられちゃったみたいです」

「あらら」

「でも代わりに前にポーション渡しちゃったブリタって冒険者からそれを回収できたらしいです、まあ解除のために使っちゃったらしいですけどいいですよね別に」

「まあ別に痛くはないからね」

 

ですねと同意するモモンガ。吸血鬼の固有スキル〈血の狂乱〉は血を浴び続けると戦闘力が増大する代償に精神的制御が利かなくなるというデメリット的な側面を持つ物。それが発動する隙に逃げられたが共に居たスカサハが確保していたポーションを投げつけて解除したとの事。乱暴だが確実で迅速だと言わざるを得ない。

 

「それでその後に謎の集団と戦闘になったらしいです、でもスカサハが全力で戦うべきだと進言して直ぐに全滅させたらしいです」

「―――スカサハが?」

 

それを聞いて目を丸くしてしまった。あの影の国の女王にして戦士として最上位の実力を持つ彼女が全力で戦うべきだと進言をした、つまりその集団にはそれだけの危険性があった、シャルティア自身もその言葉に驚いたらしいが直ぐにそれを了承し全力戦闘を開始したとの事。結果は敵集団を全滅させての勝利―――したのだが……。

 

「スカサハは宝具を切ったそうです、それでその内の一人を確実に仕留めたと」

「あれを、切った?」

 

キャメロットのNPC達はFateの再現キャラクター、それ故のその象徴である宝具に値する必殺のコンボや武具を装備している。それらにも一切妥協をしなかった為に多額の課金や長期間入手に時間を要したりしたのでアルトリウスは3年という時間を要した。そしてスカサハの持つ二本の槍、それこそが彼女の宝具―――貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ・オルタナティブ)

 

穿つは心臓、狙えば必中。心臓を穿つ破滅の槍。躱すことなど出来ず、躱し続ける度に再度標的を襲う槍。クー・フーリンも同じく所持するその槍、スカサハのそれは彼の物よりは旧式に当たるがそれでも二本扱う彼女のそれで仕留められぬ物など存在せぬ。

 

「あれを切らせたってどんな相手だ、クレマンティーヌ以上の奴がいたって事になるぞ」

「プレイヤー関連、ですね。装備品はすべて回収してナザリックに戻ってくるらしいです」

「詳しく調べてみる必要があるな……」

 

スカサハの戦士としての直感が告げた全力戦闘推奨の相手、全滅させる事は出来たとの事だが必ず絡繰りがある筈。徹底的に調べ上げる事を決めつつもこの世界には自分達の脅威となりうる存在が居る事を再認識しながら改めて慎重に進んでいく事を決める。

 

「……」

「如何したんですかアルトさん」

「いやさ、俺の3年は本当に価値があったんだなぁって……」

「その点に関しては本当に俺尊敬してますよアルトさんの事」



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21話

ナザリック第十階層玉座の間。本来そこに鎮座する王はアインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターたるモモンガのみ、だがこの時ばかりはその隣にアルトリウス・ペンドラゴンが妻であるアルトリア・ペンドラゴンを伴ってそこに居た。アルトリア自身はアルベドのように一歩引いた場所で待機している。そして眼前には階層守護者たちが立ち並び、そこには今回の中心と成り得るシャルティアとスカサハの姿もあった。

 

「シャルティアよ。此度の任務ご苦労だった、詳しい報告を聞く前にお前が確保したというアイテムを見せて貰う事にしよう」

「はっ。此方でありんす、どうぞお納めください」

 

モモンガの言葉と共に彼女の配下である〈吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・プライド)〉が今回の任務で入手したアイテムを献上する。そこにあるのは会敵した相手の鎧や武器、盾などなどが立ち並んでいるがその中には異様に思えるようなものもあった。丁寧に畳まれているそれは白銀の生地に天に昇る龍が金糸で刺繍されているドレス……鎧などを見てもかなりの練度を感じさせる部隊の中にこのドレスを着せた物を入れるのか、と疑問に思う中でアルトリウスはスカサハに問う。

 

「スカサハ、シャルティアに全力戦闘すべきと進言したそうだな。それは敵か、それとも武具か」

「強いて言うなれば後者、奴ら自身は大した脅威ではなかったが―――武具は別だ、私はそのドレスそしてそのみすぼらしい槍に脅威を感じた」

 

膝を付きながらも答えるスカサハ。彼女の物言いは配下である者には少々相応しくないのではと思う者もいるだろうがアルトリウスが何も言わない所を見るにそうあれかしと思って創造されたのだろうと思う、事実としてそうである。そしてそれを聞きながらモモンガと共にドレス、そして他と見ても異常な程に浮いている槍に目を向けた。

 

「友よ」

「ああっ〈道具上位鑑定/オール・アプレーザル・マジックアイテム〉」

 

モモンガは鑑定を行う為の魔法を行使する。未知のアイテムを鑑定するこの瞬間に感じるドキドキ感に少し高揚している二人、そしてまずドレスの鑑定を行ったモモンガは思わず言葉を失った。そしてその直後にらしくもない大声を上げた。

 

「―――ッ……世界級(ワールド)アイテム、世界級アイテムですよアルトリウスさん!!?このドレス世界級アイテムです!!」

「マジぃ!!?」

「ガチですガチ!!」

 

思わずアルトリウスすら大声を上げてしまう程の衝撃だった。それはユグドラシルプレイヤーとしての喜び、公式認定のぶっ壊れバランスブレイカーの一つを入手できた物とこの世界にも存在するのか!?という驚きが入り乱れた物であった。余りの事に王たらんとしていた二人の取り繕いは一瞬でぶっ飛んでしまった。可能性として考えていなかった訳ではないのだがいざ直面すると驚愕する。

 

「ア、アルトリウス?」

「いよっ―――ご、ごほん済まない取り乱してしまって……すまないキャメロットの王として相応しくない姿を見せた」

「いえ王とて貴方ですよ、そんな貴方が見せる姿は全ては王に相応しいのです。それに―――私個人としては貴方の可愛らしい姿を見れて嬉しいですよ」

「皆の前だぞ……」

「ふふふっすいません」

 

と夫婦の空気と光景を作り出す二人にモモンガも冷静さを取り戻す。そんな二人の姿にデミウルゴスは悪魔らしからぬ笑いを浮かべ、コキュートスは何やらを考えているのか息を荒くしている。アルベドとシャルティアは別の意味で息が荒くなっている、ナザリックで健全なのはアウラとマーレ位だろうか。スカサハも何処か可愛らしい所を見れて役得と言いたげな笑みを浮かべている。

 

「さて次はこの槍か……なんというかどれ〈道具上位鑑定/オール・アプレーザル・マジックアイテム〉……ッ!!?」

「ど、どったのモモンガさん」

 

発動後、思わず下顎がプランプランと揺れる程に大口を開けてしまったモモンガ。これが顎が外れるという奴だろうか、と思いつつも尋ねる。暫し呆然とする中漸く再起動したモモンガは咳払いしながら調子を取り戻してシャルティアとスカサハを大きな声で褒めた。

 

「シャルティア、そしてスカサハ。其方の活躍は正しく世界に匹敵する、まさか二つのWI(世界級アイテム)をこの手に収められるとは思いもしなかった」

「二つ!?まさかその槍もか!?」

「ああ、スカサハの読みは当たっていたという事だ。しかも友よ、この槍は二十の一つ―――〈聖者殺しの槍(ロンギヌス)〉だ」

「ッ!!!?」

 

守護者たちに衝撃が走る中でアルトリウスはそれを上回る衝撃を受けていた。その槍もWIだという事も驚きだがそれ以上なのがそれが二十と呼ばれるWIの一角だという事。二十、WIの中でも使い切りであるが故、さらに凶悪な効果を持つ二十種類を指す。しかもロンギヌスと言えばアルトリウスも聞いた事がある物で超がつくレベルで凶悪な物に入る

 

まずドレスのWI、名を〈傾城傾国〉。効果そのものは対象にした相手を精神支配し支配下におく物、これならば他のアイテムや魔法、スキルでも代用出来るのだがこれがWIである事を加味すると精神支配する事が出来ないアンデッド系も支配出来ると思われる。つまりシャルティアを支配下に置く事が可能になる、この時点でスカサハが全力戦闘を推奨したのがどれだけ正解だったのかが良く分かる。

 

そして〈聖者殺しの槍〉……これは使用者を完全に抹消する代わりに使った相手も完全に抹消するという力を秘める。使用されればWIによってしか蘇生出来ない危険極まりない槍、そんな槍まで備えていた部隊……一体どこになるのだろうかと二人は考えるが、以前の陽光聖典が〈魔封じの水晶〉を持っていた事をスレイン法国の部隊であった可能性が高いと思案する。そしてクレマンティーヌに確認したところで、彼女が元々所属していたスレイン法国最強の部隊の漆黒聖典であると判明。

 

「シャルティアそしてスカサハ。今回二人の活躍は著しい、何故ならば世界一つに等しい宝を手に入れたのだからな。これに相応しい褒美を与えんと行けないな友よ」

「ほ、褒美など……畏れ多くございます!!私は御二方にお褒め頂くだけ十分過ぎるほどの褒美でありんす!!」

 

その言葉にシャルティアは頬を赤く染めながらも頭を下げて懇願するように言葉を紡いだ。ナザリックにいる者たちにとっての喜びとは即ち至高の御方に仕える事。モモンガとアルトリウスに仕える事こそ喜びでありそれこそが喜びであり褒美のようなもの。これ以上何か貰おうなど考え付きもしなかった事。

 

「フムッその気持ちは素晴らしいがそれでは我々の気が済まん、言葉だけで済ませるほどに軽い事ではない、是非受け取ってくれ」

「そのようなお言葉だけでも私は……!!」

「スカサハは如何だ」

「フムッ……そこまで言われてしまっては断る事など出来ますまい」

 

シャルティアと違って余り取り乱す事も無く褒美を受け取る事にするスカサハにモモンガは素直にこういうので良いんだよ、そう言う態度で……と内心で呟く。ではスカサハには自分が褒美を与えるべきだなと思いながらモモンガにフレンドメッセージを繋ぐ。

 

『モモンガさん、じゃあスカサハには俺から与えても良いかな』

『ですねそれが道理ですし、じゃあシャルティアからは俺から……でも何与えればいいんだろ……ペロロンチーノさんのアイテムとか喜んでくれますかね』

『あ~確かにそれはありだと思うよ、俺達やモモンガさんの反応見る限りそれぞれのギルメンのアイテムとか凄い喜びそう』

『よし!!それじゃあそうしますね』

 

「スカサハ、お前自身が望む物はあるか。あるのであればそれを褒美とする事も吝かではないが」

「欲しい物……そうさな」

 

少々思案する顔を作りながらも一瞬横目でアルトリアを見て口角を持ち上げた、それを見てアルトリアはあっまさか……と何かを察知したのかそれを止めようと言葉を出そうとするよりも早くスカサハがそれを形にした。

 

「アルトリウスからの愛、女として愛して貰いたいといったら叶えてくれるのかな」

 

ワザと口元に手を持って行き隠しつつも頬を朱に染めながら恥ずかし気に瞳を潜めたその姿は妖艶で可憐、美しさのバランスが凄まじく男の本能を撃ち抜くようだった。まさかの要求にモモンガは再び顎が外れている、そして興奮する声などが吸血鬼からあった。そんな手があるのか!?と言わんばかりの声にモモンガは大慌てで先手を打ってペロロンチーノのアイテムを与える!!と言っておく。

 

「わ、私からの愛……!?いやそれはその……えっと」

「フフフッ愛い顔をなさる、だがそれは褒美でなく自力で其方から勝ち取るとするからご安心なされよ。そうさな―――一対一の模擬戦を所望しよう、無論ガチバトルでな」

「そ、そうか……分かった、では時間を見て行うとしよう……(嗚呼っビックリした……)」

 

別の意見が出た事にアルトリウスは安心しつつそれを受け入れるのだが、彼は焦りのあまり気付けていなかった。彼女自身が自分を口説き落とす宣言をしてアルトリアに対する宣戦布告染みた言葉を発した事に……元々アルトリアは側室には賛成ではあるが目の前で自分の夫が自分に向けている愛を奪い去ると宣言した相手に寛容になる事は難しい。そして両者は目線だけで会話をする。

 

 

―――胡坐を掻くのであれば、儂がマスターの愛を掻っ攫うぞ獅子王殿。

 

―――良い度胸ですねスカサハ、良いでしょう、その安い挑発買って上げましょう。

 

 

と何やら女同士の静か且つ熱い戦いの幕開けが起こっている事に気付けないアルトリウスへモモンガから言葉が脳裏に届いた。

 

『これから大変ですから頑張ってくださいねアルトさん、俺応援しますから!!』

『何他人事みてぇに言ってんだこの野郎、お前だって指輪で人化出来るんだから狙われる立場なんだぞ。よしそういう事なら俺はシャルティアとアルベドに全力で支援するからなよし今決めた絶対にそうする』

『ごめんなさいごめんなさい調子に乗りましたぁ!!!』



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22話

自らの城へと戻ったアルトリウスは一先ず自分の席に着きながらも唸り声を上げ息を吐き出しながら、これからの事を思案するように高い天井を見上げてしまった。予想していた事が当たった事が嬉しいような出来る事ならばあたって欲しくなかったような気分になっている、複雑に絡み合ったそれを解す事を諦めて取り敢えずこれからの事を考える。

 

「法国か……WIを抑えられた事は大きいが、これで向こうも脅威を認識した筈……どう動くだろうな」

 

最強とされる漆黒聖典の全滅とWIの喪失。法国からしたら最強の戦力と最上位の装備を失った事になるがそれによってどう動くだろうか、取り戻そうとするかそれとも迂闊に手を出そうとはしなくなるか……何方にせよこの世界で自分達以外のユグドラシルプレイヤーの存在が明確化しより一層の注意を払って行動すべき事が分かる。

 

「ナザリックは良いとして、問題はこっちだな……つうか向こうにWIがありすぎんだよなぁ……」

 

WIの対策として外部へと出向く高レベル者にはWIの貸し出す事を決めたのはいい、だがそれはナザリックだからこそ取れる手段であって此方はそれは取れない。警戒網や部隊の編制や作成行動中の警戒の徹底化などをして対策していくしかないだろう。やる事が増えてきて若干頭が痛くなってきた、自分は軍師キャラではないからこういった事を考えるのは苦手だというのに……全く以て王様をやるのも楽ではないという文句は虚空へと消える。

 

「かと言ってアルトリアに任せっぱなしなんて格好がつかないし……気合入れて考えるしかないか」

 

姿勢を正しながら改めてキャメロットに存在するNPCと既に行われている編成を確認して頭をひねる。3年という時間を掛けて作り上げたキャメロット、そこには課金などで上げたNPC作成レベルで再現した者達がいる。待機している者はいるのでそれらを動員してサポート部隊を作らせるのも良いだろう、かと言ってやりすぎると城自体の守りが手薄になるので匙加減が重要になる。

 

「その点でしたら既に私の方で指示を出しておきました」

「……フッ流石だなアルトリア」

「感謝の極み」

 

小一時間頭を悩ませながら考え抜いた部隊編成、個人的にもこれは良いだろうと思っていざアルトリアの意見を聞いて見て修正やら調整をしてみようと確認しようとしたら既に行われていて自分の苦労が無駄になった。加えてその部隊編成には隙などが全くない程に完璧な物だったので余計にアルトリウスは何も言えなくなった。

 

「暫くは各国の情報収集を行いながら法国を警戒します、他の国にもプレイヤーの遺産がないとは言い切れません」

「確かにな……二十の一つが見つかったら油断は出来ないな……全員に通達してくれ、危険だと判断したら全力で撤退しろと。場合によっては全力戦闘を許可すると」

「既にそのように、スカサハの意見を元にしながらある程度の指標も構築しましたのでこれである程度の危険回避は可能になるでしょう。一部の者は難しいかもしれませんが……」

「ああ、確かにあれは無理だろうな」

 

思わず納得せざるを得ない。キャメロットにも自分に反抗的とまでは言わないが従順という訳でもない存在はいる、何方かと言えば同格という認識を示しているといった方が正しいだろうか……元ネタを考えればそれだけでも十分過ぎる位の驚愕なのだが……かと言って引き際を知らない者達でもないのでその辺りの心配はし過ぎなくていいかもしれない。

 

「ですがアルトリウスが如何してもというのであれば喜んで力を貸してやるという言葉は預かっておりますが……如何します?」

「なんというか本当にらしい言葉だ……出来ればそんな事態が来ないと願いたい」

「全くです」

 

自分を同盟相手と示す二名のNPCはキャメロットの中でも最上位に位置する力を持つ存在、あれらを出すという事はそれだけの異常か危険な立場に立たされるという事なのだから……。

 

「アルトリア、クレマンティーヌの様子は如何だ」

「このキャメロットを満喫しているようです、何やら精神的な問題もあったようですがルーラー・アストライアが保証するとの事です」

「彼女が保証するならまあ大丈夫だろうが……別の意味で大丈夫か」

「ケルトキャンプを受けるよりは大丈夫ですよ」

 

そこを引き合いに出されると何も言えなくなるアルトリウス、取り敢えず彼女の無事を祈っておく事にしたのであった。

 

「武技についての研究は進んでいるか?」

「まだ始めたばかりですから何とも……ですが矢張り皆興味を持っておりますので研究自体は進んでいくと思います」

「そうか……覚えられたら覚えたいからな」

 

戦士としての血が騒ぐのだろうか、主にケルトを中心とした戦士の皆は武技というこの世界特有の技術に強い興味を示し、これを体得もしくはオリジナルの技を生み出したいと研究への意欲的な姿勢を示している。それにNPCが覚えられるのならばプレイヤーである自分も覚えられる可能性がグッと高まるので成功を期待している。

 

「それでアルトリウス、また直ぐに冒険者業に戻るのですか」

「んっ……?」

 

急にそんな事を尋ねてくるアルトリアの表情はどこか寂し気にする子供のようで何処か庇護欲が掻き立てられる。愛する夫が城を離れている事に対して寂しさを感じてしまっているのだろうか、出来る事ならば時間が許す限り一緒に居たいのだろう。それを感じ取ったのか笑みを浮かべる。

 

「いやある程度時間は置く予定さ。次までは―――そうだね、夫婦としての時間を取るとするよ」

「―――っそ、そうですか!」

 

と一瞬で煌びやかな笑みを浮かべるのだが直ぐに軽い咳払いをしながらきりっとした顔になりながら、キャメロットの主なのだから城を長く開け続ける事はいけないと言葉で顔の赤みと恥ずかしさを誤魔化す姿は酷く可愛らしい。

 

「では―――折角ですので私と共に夜空のランデブーと行きませんか。ドゥン・スタリオンに供に跨って夜空を駆ける、ロマンチックだと思いますよ」

「おや、護衛を付けなくてもいいのかい」

「ロマンチックに欠けてしまいますが……貴方の安全の為ですから、夜空をバックにキスの一つでもしてくださいましたら満足出来るのですがね」

「……せめて二人っきりの限定にしてくれ」

「では今此処でお願いしてもいいのですね?」

「君には勝てそうにないな本当に……」




そろそろNPC視点を入れようかな……。


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23話

「あ~……気軽に寝そべる事が出来てウダウダできるって最高の贅沢だ~」

「全くですね~……」

 

キャメロットの騎士王、アルトリウスは久しぶりにナザリックを訪れていた。目的地はナザリックに設定してあったアルトリウスの自室、キャメロットを立ち上げた際に脱退したのでもう無くなったと思ったら自分が持ち出した物が無くなっているだけでそのまま残っていた。モモンガ曰く無くしてしまうのもなんだか勿体ない気がしたので残したとの事。

 

「いやぁそれにしてもこれ美味しいですね、なんて言いましたっけ?」

「バウムクーヘンだよ、ドイツのお菓子なのに知らなかったのか」

「いや軍服とかその辺りしか調べませんでしたので」

 

そこにあるのは最高支配者の二人ではなく、唯のモモンガとアルトリウスの姿であった。互いにアイテムを使う事で人化を行ってお土産として持ってきたエミヤ製のバウムクーヘンを食べて適当に駄弁っている。

 

「んであいつは動かさないのか?能力的にもモモンガさんの影武者としては適役だろ」

「いやそうなんですけど……」

 

口籠るモモンガ、いやという訳ではないのだが気が進まないというのが殆どだろう。まあ気持ちは分かる、キャメロットの皆と違ってモモンガのNPCは完全なオリジナル……そしてモモンガのカッコイイが詰め込まれた物。自分が愛したFateのキャラ再現などとは違うのだから。それが意志を持って動くのだから悶絶物なのだろう。

 

「アルトさんは良いですよね~……俺のパンドラみたいなことはあり得ない訳なんですから……」

「そこは自分で作ったんだから受け入れなさいよ……というか俺の場合はテーマとしてオリジナルを入れる事があり得ないだけだよ」

「ムゥッ……俺もそういう方向にすべきだったか……」

 

ブー垂れながらもバウムクーヘンを頬張る死の支配者。それを見ながら紅茶を啜る騎士王、何とも妙な絵だなと内心で呟くアルトリウスであった。

 

「そう言えばさモモンガさん知ってるか、コキュートスが俺かモモンガさんの子供の爺やになりたいって思ってるの」

「えっ何ですかそれ全然知りませんよ、あいつそんなキャラでしたか!?」

「いや俺も聞いてびっくりしたけどさ」

 

そんな会話にモモンガは寝込んだまま興味津々と言った表情で友人の方を向く。最近は支配者として頑張っていたんだから偶には羽目を外しても怒られる事はないだろう。

 

「いや俺骸骨だから世継ぎとか絶対無理……」

「ああその辺りは大丈夫、俺がアルベドとシャルティアに〈人化の指輪〉で行為出来るって言っといたわ。ついでにアドバイスもしといた」

「何してくれてんだテメェェェェ!!!!道理で二人の視線が妙に熱いと思ったわ!!!い、いやアルベドは兎も角シャルティアは無理だからそれで断れる!!」

「まだ余ってた指輪上げといたぞ、俺に抜かりはない」

「騎士王この野郎ォォォオオオオオ!!!!!」

 

 

 

 

 

執務室ではアルトリアが夫の代わりにキャメロットの業務の代行を行っていた。本来はアルトリウスが行うべき事柄なのだが、自分で片づけられる事ならば彼にさせる訳には行かないという思い故に率先して仕事を行っているアルトリア。そんな彼女へと報告に来たのはスカサハ、新しくキャメロットの一員となったクレマンティーヌに関する報告を持って来ていた。

 

「フムッ……成程、つまり我々が武技を習得するという事は十分に可能だと思う訳ですね」

「恐らくな。まだまだ途上故に何とも言えんが儂は可能だと思う」

 

今現在キャメロットで行われているのはこの世界特有の技術、即ち武技の研究と修得。クレマンティーヌには武技の指導教官として活動をして貰いながら様々な指導を行って貰っている。最初こそキャメロットに委縮、気絶の嵐だったが次第に慣れていったのか今では普通に過ごす事が出来ている。

 

「可能だと思う、ですか」

「ああ。曰く精神力を消費するという話だがその辺りはいまいち掴めなくてな。一先ずは手合わせを繰り返し武技という存在を肌で感じ、矛を交える事でラーニングしていくしかないだろうな」

 

全く未知の技術に対して流石のスカサハも苦戦している、という風に感じられるが実際は全く異なっている事をアルトリアは見抜いている。既に基礎的な部分は掴む事は出来ている、だがそれを如何発揮するかが出来ていないだけ。何かきっかけがあればすぐにでも華が開くような段階には来ているのだろう、矢張りクレマンティーヌという天才(この世界基準)を引き入れる事が出来たのは幸運だった。

 

「流石はアルトリウスですね、きっとあの人は此処まで織り込み済みだったのでしょう」

「―――矢張りか?」

「ええ。あの人はこのキャメロットの事を全て熟知しています、スカサハならば直ぐに武技を習得する事が出来ると踏んだ。そしてそれは私達に圧倒的な利となる……そしてその先をも」

 

武技という物は興味深い、仮にスカサハがクレマンティーヌと同じ武技が使えるようになればその実力は一気に跳ね上がって行く。そしてそれはWIに対する切り札にも成り得るかもしれない、それらと自分達の全てと宝具を併せた時にどんな物になるのか楽しみで致し方ない。

 

「しかしそうなるとこの世界の住人での実験も必要になりますね、彼女が優れているのは分かります。レベルも上がっていることも分かりますが、逆に一般的な者だとどれ程のペースでレベルが上がるのか、そして力をつけるのかも気になります」

「ならばリザードマンを使ってみるか、アサシンからの報告では近隣に居るという話だろう」

 

知っていますと言いながら手元の資料の中にあるトブの大森林を中心とした調査報告書内にあったリザードマンに対する物を見る。此処から幾らか勧誘して試すのも悪くないが……好い加減に仕事を寄こせと煩い者にやらせるのもいい、文句は言う癖に得意分野が良いというのだから面倒な事この上ない。

 

「アルトリウスの手を患せる訳には行きませんし何とかしましょう」

「本当にお主はアルトリウスの為ならば幾らでも働くの」

「当然でしょう、王の妻というのはそういう物です」

 

胸を張るアルトリア、そんな彼女に対してひらひらと手を振りながら去っていくスカサハ。やる事があると言いながらもその本心は彼女の惚気話を避ける為。去っていくのを見つつムゥっと僅かに唸りながらも溜息一つでそれを飛ばしながら仕事に取り掛かる。

 

「アルトリウス……貴方は私達の為に身を粉にしてくれた……ならば、その愛に報いる事こそが私達が示す事が出来る愛」

 

彼女は知っている。このキャメロットを完成させる為に奔走し続けていた愛する夫の姿の事、時折玉座に腰を降ろしつつも眉間に指を当てながらため息を漏らす姿。唸り声と共に怒りを吐き捨てながら計画を練る姿、自分を見て微笑みながら頑張るからっと呟く姿を……全て知っている。故に彼女は奉仕する、完璧にこなす、全ては夫の為に……。

 

「私の想いを分かって下さるならば早くベットで抱いてくださればいいのに……私の部屋の鍵だって渡したのに……そんなに私は魅力がないのでしょうか……ならば今度、唐突にバニーになって迫りましょうか。いえいっその事……悩殺を狙うべきでは……彼は私が思う以上に初心ですからきっと行けますね、そしてベットに連れ込んで……うむそうしましょういえその位しないときっと抱いてくださりませんでしょう。そしてそれで外れてアプローチを掛けてくださるはずです、こうしてはいられませんもっと綿密な計画を練る為に早く終わらせましょう」

 

そう思うとさっさと仕事を片付ける為に書類に向かう事にした、何時だって自分を奮い立たせるのは夫への愛なのだから。そして自分にはもう一つ完璧な武器がある―――

 

「そういう訳ですから手伝ってくださいね―――二人で悩殺しますよ」

「フンッ良いだろう、だが先は私だぞ―――私」

 

獅子王とした何処か反対のような姿、漆黒の鎧を身に纏ったもう一人の獅子王―――アルトリア・ペンドラゴンの姿があった。

 

 

「ぶえっくしょぉい!!!」

「うおっ!?大丈夫ですか凄いデカかったですけど」

「何か急に鼻が……アルトリアが俺を襲う計画でも立ててるのか……?」

「一瞬リア充死ねって言い掛けましたけど俺も人の事言えないので言いません」




アルトリウス、とんでもない(設定)をしたのを忘れている模様。


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24話

モルガンを二体お迎えできたので初投稿です。


「漸く戻りましたか、貴方が目を通すべきものはあるのです。早く席に着きなさい」

 

モモンガに〈転移門/ゲート〉で送って貰って早々、思わずアルトリウスは一応被っておいた兜の下で凄い顔をした。我が家に帰って早々これですかと言わんばかりの表情を隠す事が出来て本当に良かったと思いつつも出来るだけ態度を王足らんとしたもので一貫して押し通しながら席に着いた。何せ目の前に居る相手が相手なので真面目に取り組まなければいけない。

 

「済まない、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーとして話さなければいけない事も色々とあってな」

「成程それは理解しますがアインズ・ウール・ゴウンのメンバーである、がそれは過去の話でありキャメロットの騎士王。何方を優先すべきは明白な筈」

「それは分かる、だが彼らの協力無くしてこのキャメロットを作り出す事が出来なかったのも事実だろう」

「フンッまあいいでしょう、この程度にしてあげます。早くこれに目を通しなさい」

 

そう言いながら書類の束を執務室の机の上に積み上げる、一体どっからそれを出したんだよと言いたくなるような量に口角が引き攣った。

 

「相変わらず多いな……いや、というかどっから出した」

「乙女の秘密を探るのは極刑という言葉を知らないのですか」

「分かったこれ以上は言わない」

 

何処か不機嫌そうにしながらも何処か嬉しそうにしているのが見え隠している。これも自分が書き加えてしまった設定の影響なのかと思うと非常に心苦しい、モモンガの自作NPCに対する思いはこんな感じなのかと何処かで理解しそうになるが全く違うなと最終判断を下すのであった。

 

「(いや後悔はないよ色々と、だって此処は俺の性癖とか趣味を全開に盛り込んだ城だもんねうん……でもさ……)」

「武技についてはまだ好ましい報告は上げられていませんね、怠慢ですね」

「別世界の技術だ、そう焦る必要はない。逆に焦られて半端になっても困る」

 

青白い肌は幻想的で何処か銀色を帯びている白い髪と共にこの世の物とは思えない美しさを醸し出す。騎士王の影、と言わんばかりに黒と青色を基調としたドレスを着用している為か、肌や髪の色を相まって何処か影を感じさせる。妖精のような印象を受けるがその実を知ればきっとそれまで抱いていた物など無くなる。キャメロットの実質的な№2、宰相ともいうべきポジションに腰を落ち着ける魔女。バーサーカー・モルガン。

 

「冒険者としてご活躍とは全く、その程度の役目など他の者にさせればいいんでしょう」

「そう言う所は似るな、アルトリアにも言われた。だから君にも言おう、私は冒険をしたいんだよ」

「……ハァッ発言が被っていた事に苛立ちを覚えている所に予想していた言葉が来て呆れています」

 

モルガン・ル・フェイ。このキャメロットにおける彼女は基本的には原典における彼女と同じと言って変わりはない―――と言いたい所だが、何方かと言えば異聞帯の彼女の要素の方が強い。アルトリアの姉である事は変わらない、が彼女は原典にないものが追加されている。アルトリアを自分の妻という事にした際にモルガンの事を如何するべきかと悩んだ事があった。その時に自分はとんでもない設定を入れてしまった。

 

 

―――表面上はアルトリアとアルトリウスの結婚を認めているが、本心は略奪愛を行う気が満々であり機会を虎視眈々と狙い続けている感情重いヤンデレ気味のクーデレ。

 

 

と書きこんでしまったのである。もう完全にあれです、モルガンの設定やら見た目やらが好みにストライクだったので悪乗りでやってしまった事である。本当の所、彼女をキャメロット入りさせた時に頭の中でフレーバー的に彼女とアルトリアが一緒の城に居るのは相当な無理ゲーだろうと思った結果、考え出されたのがこれである。考えた結果がこれである。

 

「しかしマーリン、奴だけは容認出来ない。このキャメロットを隠しているのはあのマーリンの幻術、他の手立てを考えるべきです」

「良くやってくれているよ、そこを評価せずにただ拒絶するのは違うと私は思うが」

「あの愉快犯が何時まで完璧な仕事をする確証があると思いますか、第二第三の手立てを構築する事は可笑しくはないでしょう」

「分かった分かった、ならば君自ら納得の行く案を提出してくれ。アルトリアには見せずに私の方で判断はする」

 

そういうとすぐさま顔に浮かべていた嫌悪感が引っ込んで頬を赤くしながらもまるでアルトリアのような笑みを作り始めた。こうしてみると矢張り姉妹なのだなという事を強く実感するがそれに気づいたのか直ぐに収めてしまい僅かに口角が上がるのみにとどめた。

 

「っ……流石は我が夫、良く分かっていますね」

「君と結婚した覚えはない」

「ですが今に見ておきなさい。必ず私のものにします、ええっ近々遅くないうちに」

 

モルガンらしい狡猾そうな魔女の笑みを浮かべながら声を上げる姿に自分はこれに喜べばいいのか分からなくなってきた。男としては美女に好かれるのは好ましい、だが清姫の一件があったので素直に喜べなくなっている。スカサハの事も踏まえると下手すればキャメロットにいる女性陣から似たような物を向けられている可能性まであるのだから……いやそう考えると表面的にして言葉やら行動にしているモルガンが一周して一番対処しやすいのだろうか。

 

「さて次です、寧ろこれが本題です―――竜王と名乗る者と妖精騎士が遭遇しました」

「―――済まないもう一度言ってくれるかな」




はいっという訳でモルガン様、キャメロットにてご登場です。出すかは悩みましたが、所謂アルベド的なポジションについて貰って、アルトリウスを巡ってアルトリアとキャットファイトして貰う予定です(半分嘘)。

後、言動とか性格とかなんか違くねっていうのはご了承ください。


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25話

突然上がってきた報告に思わずアルトリウスは聞き返してしまった、一体この宰相様はなんと言ってくれたのだろうか。竜王、竜王と言ってくれたのだろうか。

 

「竜王と名乗る者と妖精騎士が遭遇しました」

「……ハァァァッッッ」

 

思わず深い深い溜息が出てしまった。ユグドラシルにおいてもドラゴンという存在は強大であった、単純なAIであったとしてもエネミー補正を受けた100レベルは適切なスキルや武器を持たぬのであれば苦戦は間逃れず対策をしていたとしても油断する事が一切できない相手でもあった。そんなドラゴンの中でも特に強大とされる存在こそが竜の王、ドラゴンロード。それが接触してきた……想定こそしていたがこうも最悪のど真ん中を突き抜けてくれるといっそ清々しく感じられる。

 

「いや遭遇し無事に情報を持ち帰ってくれたという事は相手には敵対する意思はないのだな」

「今のところは、と付くでしょうがそのようです。そして妖精騎士ガウェインに接触した際にはプレイヤーか否か、という問いを掛けてきたそうです」

 

それを聞いて益々アルトリウスの中での要警戒度数が上昇している。この世界においてプレイヤーの存在は明確でありそれを認識している相手という事にもなる。そして何故竜王と名乗る者なのかという事については現れたのが白銀の鎧だったからである、それを操っている本人が竜王との事だがその真偽は確かめられていないので本当に竜王なのかも怪しいとの事だが……。

 

「本当に竜王だと仮定すべきか……相手のレベルも分からないが100と想定して動く方が良い」

「賛成です」

 

幸いな事にこのキャメロットには竜への特攻を持ち合わせている存在は複数存在している、それと上手く連携を取る事が出来れば最低でも一矢報いる事が出来るだろう。

 

「……のんびり冒険者家業に勤しむという訳にも行かなくなってきたという事か……やれやれっ儘ならんな」

「私としては喜ばしい事ですね、貴方がこのキャメロットに居続けるのですから。そうすれば私があれから寝取るチャンスも来る訳ですから」

「それはない。あったとしても側室に迎える程度だ」

「それこそあり得ませんね、私こそが貴方の正室に相応しい」

 

と胸を張って渾身のドヤ顔を浮かべるモルガンに兜の下で何言ってんだこいつと言わんばかりの表情を作るのだが、こんな彼女にした元凶が自分だという事を思い出して何とも言えない気分になってきた。だとしても王としてはこれ程までに重要な情報を持って来てくれた宰相に対する礼は確りしなければならないと思いながら立ちあがりながらその頭へと手を差し伸べて軽く撫でる。

 

「だが有難うモルガン、君のお陰でこの世界における最大の脅威となりうる存在の情報を得る事が出来た。情報は力、これを基に対策を打てる」

「いっいえ私は宰相として当然且つ妻としてですねあのっ……」

「兎に角有難う」

 

少しだけ強く頭を撫でてから指輪を使って転移を行いながらフレンドメッセージでモモンガに連絡して竜王の事を伝えておく。この時、完全にリラックスしていたモモンガは自室でひっくり返るような衝撃を受けるのであった。

 

「フッフフフフフッ……!!いいですよこれはっこのまま私の優秀さを見せ付け続ける事で徐々にアルトリウスの信頼をあれよりも高めていきながら何れはっクフックフフフフ……!!」

 

純白の肌を赤く染めながら笑いを抑えきれずに色々と漏れ出してしまっているモルガン、その姿は魔女という言葉に相応しい程に不気味な光景だったのかアルトリウスに会いに来たアルトリアが部屋に入った際に全力でいやな顔をしたのだが……自分に気付かずに笑い続けているそれを見てそっと扉を閉めてその場を立ち去る程だった。

 

「ド、ドラゴンロードですか……うっわぁっマジかよぉ……ドラゴンってだけで警戒対象ではあるのにその上でロードって……い、いや向こうはプレイヤーの事を知った上で対話して来たんですから戦闘以外の道を模索する事は可能な筈……!!」

「是非とも俺もそう願いたいわ……」

「というかアルトリウスさんが何とか出来ないんですか?ある意味貴方もドラゴンみたいなもんでしょ」

 

フレンドメッセージを送った直後、モモンガ側から開かれた〈転移門/ゲート〉を通り再度ナザリックへと訪れたアルトリウス。その目的はもちろん竜王への対策を如何にするかという物であったが現状では警戒しておく以上の手立てがないので何とも言えない。

 

「本当に竜王なのかと言う所さえもありますからね……」

「そっちの対応は俺の方でやるしかないね、というか実際あったのもこっちの妖精騎士な訳だし……でも俺達ドラゴンに対する手立てがあって良かったよな」

「全くですね」

 

キャメロットの竜特攻持ち、そしてナザリックではモモンガ自身がドラゴンに対する備えを有している。そう言った意味である程度の対策は立てやすい状況にはある。そう言った意味では幸運だった。

 

「でもこうなるとより一層パンドラを動かすべきじゃないか、モモンガさんの影武者として」

「うっ……確かに竜王という脅威を前にすると出来れば出したくはないという俺の我儘を通す訳にも……」

 

モルガンの一件もあるのでモモンガのパンドラズ・アクターへの気持ちへの理解度が深まっているアルトリウス。出したくはないという気持ちは分かるのだがこの辺りは上手い事、整理を付けて貰うしかないだろう。

 

「なんというかこの世界でも頭が痛くなるような問題が出て来ちゃいましたって感じですね……」

「だァね……まあ竜王の件もそうだけどさ、そっちはそっちでアルベドとかシャルティア大丈夫かい。まあ俺のせいだけどさ」

「……全然大丈夫じゃねぇですよ。指輪を付けている時を見計らうように来るんですよ……しかもどっちも完全に野獣の眼光ですよ、本当に何してくれんですか」

「安心しろ、俺はキャメロットの女性陣に狙われてるから。というかついさっきモルガンに堂々と自分が正室になり替わる宣言された」

「……うわぁっ」




女性関係問題>竜王。


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26話

「成程、それで僕にという訳ですね」

「商いならば一番かと思ってね、ドレイクも悪くはないと思ったが派手になると思ってな」

「ハハハッ確かに船長さんだとそうなりかねませんもんね」

 

執務室、中心部にある対談用のソファに腰掛けながら紅茶に舌鼓をしながら心地の良い笑い声を聞く。目の前のサーヴァント、ライダーは自分の事を主と認めつつも友人として接してくれるので個人的には気が楽で良い。そして隣の黒髪美女もモリモリとお茶菓子を食べている。

 

「おいアルトリウス、紅茶のお代わりだ」

「こらこらこら僕達のマスターに失礼だってば」

「いやいいさっほら紅茶だ、ついでにこれは如何かな」

 

紅茶のお代わりを淹れながらもカップにある形をしたチョコを渡すとそれを見て目を輝かせながらも嬉しそうにした。

 

「おおっ見ろカエルだ、カエルチョコレートだぞ。これにはお竜さんも嬉しさのあまりカエルぴょこぴょこお竜さん、カエルヤッホーだ」

「はいはい良かったねお竜さん、ごめんねっマスター」

「何時もの事だろう」

 

目の前のサーヴァント・ライダー、坂本 龍馬とその相棒兼最愛の人のお竜さん。この二人にはある仕事を頼む事にしている、それは周辺国家のうちの一つであるバハルス帝国への潜入である。単純な潜入ならばアサシンへと任せるのだが今回の仕事はキャメロットが外貨を得る為の仕事も兼ねているので商人としての経験もある龍馬に頼む事にした。

 

「他にも連れて行きたいメンバーが要れば連れて行けばいい、流石に階層守護者は困るがな」

「その辺りは僕も弁えてるよ、そうだな……ミス・クレーンにパラケルスス辺りかな」

「既に出す店を決めたのか、流石に手早いな」

「いやぁこの位はなんて事はないさ、後はこの世界のレベルに合わせて販売品を決めるだけかな」

 

紅茶を飲みながらも龍馬は既に帝国でどのように立ち回るかが見えているのだろう、品物に関しては此方からも支援する事は可能なので拡大なども対応出来る。生産系ビルドをしているメンバーを連れて行って現地でも作業をして貰いつつ、様々な事をするつもりなのだろう。様々な意味で頼りになる男で何よりだと言わざるを得ない。

 

「お竜さん龍馬の護衛は任せるぞ、いざという時は徹底的にやってくれて構わない」

「おおっ任せておくと良い。お竜さんが頼りになり過ぎて困る位に凄い所を見せるぞ、その暁にはもっとカエルくれ」

「期待させて貰うよお竜さん、でも加減は考えようね」

 

一先ず帝国行きメンバーの選定とどのように活動するかを決める為に退出していく龍馬を見送る、生憎凡庸な頭脳しかない自分は一つ一つを時間をかけて確実にこなしていくしかない。その為には自分が再現した英雄たちの力を借りるのが一番、どのサーヴァントを再現したかは把握しているのでそれは簡単。その能力を別の所で活用できないかと割と真剣に思っていたりもする。

 

「……竜王の問題もある、まだまだ問題は山積みだ」

 

目下最大の問題は妖精騎士ガウェインに接触を図ってきたという竜王。モモンガとも何度も話し合ったが、明確な解決策は出ていない。向こうが交渉する気があるならばそれに応じるが、敵対するならば本気で対抗策を考えなければいけないので本当に頭が痛い。

 

「―――俺は騎士王としてしっかりやれてんのかなぁ……」

 

素直に吐露する自分の不安。キャメロットの皆が思う騎士王、獅子王の夫としての騎士王、アインズ・ウール・ゴウンとしての騎士王。正直言って不安だらけ、それはモモンガも同じ。ナザリックの皆が求める至高の41人の纏め役を、アインズを演じている。それらの苦労を語り合えているので気は楽ではあるが、それでも不安という物は生まれ続ける。

 

「アルトリウス、如何かしましたか?」

「んっ……何でもないよ」

 

ソファに腰掛けたまま、冷めた紅茶の入ったカップを見つめ続ける自分に戻ってきたアルトリアが声をかける。

 

「アルトリウス……?」

 

素直な心配を思わず表に出してしまうアルトリア、見た事も無いような何も考えず無のままでいる夫の事が心配で致し方なかった。自分が何か至らないのか、それとも何か……と必死に思考する。唯々冷めて不味くなった紅茶に映る自分を見続ける愛する者の姿にどうしようもない不安を覚えてしまった。だがこんな時こそ妻である自分が確りしなければという自覚を持ちながら隣に座り肩に頭を預ける。

 

「何が如何したかは分かりません、ですが貴方には私がいます。ですから―――普段の貴方でいてください」

 

そんな問いかけを出されたアルトリウスはその暖かさが有難かった、思考が堂々巡りしてしまう前にその言葉で我に返る事が出来た。普段通りの自分、そのままでいいと言われたのが酷く有難かったような気がした。

 

「……済まないアルトリア、この世界の不確定要素の事や竜王について深く考えすぎたようだ」

「フフフッ大丈夫ですよ。何せ貴方は聖なる竜の騎士王です、加えてこのキャメロットには竜殺しだけではなく竜そのものもいるのですから」

「―――そうだ、そうだったな。私の愛したキャメロットが恐れる物はないか……」

 

漸く気持ちが前向きに向いたところでアルトリアへと礼を言おうとした時だった、反対側から柔らかで暖かな感触が腕を包んだ。そうそれは酷く知っているような柔らかさで……誰かが来たのかと思って其方へと顔を向けてみると―――

 

「フフフッ中々に可愛い顔をするじゃないか、我が夫(アルトリウス)

「アッアルトリア・オルタ!?」

 

そこに居たのは獅子王たる妻とは真逆の存在と言ってもいい別側面の彼女、漆黒の鎧に身を包みながらも此方に妖艶且つ鋭い瞳で熱い視線を送ってくる。そしてこの時、アルトリウスは重大な事を思い出したのであった。

 

「(そうだ思い出した!!フレーバーテキストとしてアルトリア・オルタの事を書いたんだった!!?)」

 

此方の彼女も当然原典にてしっかりと登場しているサーヴァント、しかし獅子王である彼女を作った際に折角だからという事でオルタの事も書き込んだ。もう一人の彼女であり独立し己の意志で実体化するという風に書いた覚えがある。完全に忘れていた、と思うのもつかの間だった。アルトリアはバニー衣装へと変身しつつ同じように腕を絡ませながら胸を押しあてる。

 

「なぁっアルトリウス……もう焦らすのはやめろ、これ程までに私達が求めているのだ……そろそろ、良いのではないか。なぁ私」

「ええそうですね(オルタ)。もう我慢の限界という奴です、悪いと思っているのならばというのは聞こえが悪いですがこの際何方でもいいです」

 

今日ほど本能が命の危機を警告した日はないだろう、レッドアラートが鳴り響く中で指輪の転移機能を使おうと思うのだが両サイドから同時に息を吹きかけられ思考が凍り付く。

 

「「さぁっ―――存分に、愛し合いましょう……貴方♡」」

 

そのままアルトリウスは二人のアルトリアに連行されて部屋の奥へと消えていった。そして……

 

「ど、如何しましたアルトさんなんか……痩せました?」

「……モモンガさん、アルベドとシャルティアには気を付けろよ」

「なんか凄い不安なタイミングで忠告されてませんか俺!?」




騎士王、喰われる。


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