ポケットモンスター Let’s Go! ピッピ (ディヴァ子)
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夢と冒険の世界にLet’s Go!

アオイ「いよいよ始まるッピ!」


「遂にこの時が来た……!」

 

 眼前に鎮座するNintendo Switch(ニンテンドー スイッチ)を見て、感動に打ち震える私。

 Nintendo Switch発売から早数年。親も友達もいない天涯孤独な私が手に入れるには大きな壁だった。成人しているとは言え、安アパートの独り暮らしにはきっついよ、五万円は……。

 だがしかし、私は勝ち取った。毎月毎月圧し掛かる出費に頭を悩ませ、それでも必死に節約と貯金を重ね続け、三年越しの苦労の末に、とうとう目標額に達した。

 本体であるNintendo Switchはもちろんの事、快適かつ長持ちさせる為の付属品、それとSwitch対応のゲームソフト――――――「ポケットモンスター Let's Go! イーブイ」を合計した、約五万円の大出費。月々のバイト代の約半額はさすがに堪えたが、私はやり遂げたのだ。

 ……どうして今頃LPLEシリーズなのかって?

 それはもちろん、私がピカチュウ版のファンだからだよ。

 私がまだ施設でお世話になっていた頃、施設長に頼み込んで買って貰った、最初にして唯一のポケモンソフト。中古の安売りかつ時代遅れのゲームであったが(私の子供時代はルビー・サファイアが流行っていた)、それでも人生初のゲームソフトは、私に大きな感動を齎した。それこそ、目から破壊光線が出るくらいに。

 確かに、ルビサファに比べれば大したグラフィックでもないし、内容もそこまでではないだろう。所詮、第一世代のリメイク作品である。

 だが、“ポケモンの連れ歩き”や、あのピカチュウが大谷voice(に近い何か)で鳴くというのは、間違いなくあの世代においても唯一無二の輝きを持っていたと言える。単に私がピカ版しか持っていないから、余計にそう思えていただけかもしれないが。

 その後もポケモンは新たな世代を重ねていくのだが、私は専ら第一世代とその後続たる第二世代ばかりプレイしていた。別に他の世代を否定する訳じゃないし、プレイ動画を見る限り充分に面白いとは思うのだけれど、やっぱり子供心にプレイした、あの感動を上回る事は出来ないのよね……。

 まぁ、それは置いておくとして、私の青春の思い出を飾ってくれたピカチュウ版のリメイク作品が発売される事になった。これは買うしかないっしょ。今は誰かに恵んで貰わなくちゃロクに買い物も出来ない身分じゃないしね。

 しかし、やっぱり約五万円の出費は痛過ぎる。おかげで発売から三年の月日が流れ、ブームもとっくに去っていた。流行りを追い掛ける気のない私にとってはどうでもいい事だが。

 ちなみに、何でピカチュウじゃなくてイーブイの方を買ったかと言われれば、事前情報でイーブイにも声優が付くと耳にしたからだ。前々から相棒にして連れ歩きたいと思っていたんですよ、あの子。私ならあのツンツン頭のようなチャンピオン(笑)な育て方はしないと断言出来る。あと、悠木voiceが聞きたいんじゃ~♪

 

「ふぅ……」

 

 そして、とうとうこの日がやって来た。あのピカ版の世界が一新されて帰ってくる、この日が。まさに王の帰還。今なら冥王すら余裕で倒せるくらいに気分が高揚している。

 嗚呼、ようやく私は……待ってろよ、相棒!

 

「Nintendo Switch……ON!」

 

 逸る気持ちを抑え、荒ぶる呼吸を整えて、私はNintendo Switchの電源を入れた――――――。

 

 

「はぅっ!?」

 

 その瞬間、目の前が真っ暗になった。

 さらに、全身の感覚が一気に失っていき、意識そのものも消える。あれ、何これ……わた どうな ぬ?

 

 

「………………!」

 

 そして、目を覚ますと、私は見知らぬ場所にいた。

 いつもの小汚い年季の入った四畳半ではなく、妙に小綺麗で生活感の薄い大き目の子供部屋。床はフローリングで、広さは十畳程。家具は勉強机に洋服箪笥、就寝ベッドとシンプルで、部屋の真ん中にはインチのデカいプラズマテレビとNintendo Switchが置かれた机が、赤い絨毯の上に佇んでいる。

 

 ここはどこだ……?

 私は誰だ……?

 

 とりあえず、ミュウツーの気分になって考えてみるも、答えは出ない。当たり前か。

 だが、混乱の極みにある私の疑問は、思わぬ形で解消される事となる。

 

「おーい、アオイ! 上がるぞー!」

 

 部屋の端っこにある階段の下から聞こえてくる、元気の良い男の子の声。勢いよく駆け上がってくる音と共に現れた彼は――――――LPLEのライバルキャラの少年だった。若干釣り目だが優し気で、鶏冠っぽいアホ毛が立った彼の姿を見た時、私は全てを理解した。

 

 嗚呼、私、ポケモンの世界にやって来てしまったのだ……と。

 

 元々LPLEの主人公も異世界にやって来た転移者(もしくは転生者)みたいな描写はあったが、まさか自分がそうなるとは。

 だが、私に去来するのは、恐怖や混乱――――――ではなく、感動だった。

 初めてピカ版を手にした時と同じ……いや、それを遥かに超える歓喜だった。

 

(私……ポケモンの世界にいるんだ!)

 

 あの憧れた異世界に、フィクションとしてではなく、現実として居る。これ程嬉しい事はない。幼い頃からの、叶う事のない筈だった夢が、今実現したのだから。

 

「どうした、変な顔して?」

 

 そんな感動に打ち震える私に水を差す、ライバルの誰かさん。

 まぁ、彼の言葉は最もな事なので、特に何も言わないが……そもそも、こいつの名前なんだっけ?

 

「キミ、誰だっけ?」

「ガーン!」

 

 ショックのパー、とでも叫びそうな顔になるライバル少年。そりゃそうか。

 でもね、本当に知らないんだよ。LPLEのライバルは固定の名前ないし、まだ考えてなかったし……。

 

「お前、幼馴染の顔と名前を忘れるとか……まぁいいや。「シン」だよ、「シン」! 「シン・トレース」! イッシュ人とカントー人のハーフで、お前の幼馴染だろうがよ! いいか、もう忘れるなよ!? 絶対にだからな!」

 

 だが、ライバル少年――――――シン・トレースはめげる事なく、丁寧に自己紹介してくれた。シンくんっていうのか。というか、ハーフだったのか。どうりで顔立ちがやけに整ってると思った。「ス」に濁点が付いてればよかったのに。

 それはそれとして、この状況は、おそらくオーキド博士にポケモンを貰いに行く流れだろう。

 アッハーン、あのオーキド博士に会えるのか。よし、すぐ行こう、そうしよう!

 

「と、とにかく、これからオレたちはオーキド博士の所に行って……」

「疾っ!」

「あっ、おい、アオイさん!?」

 

 驚くシンくんを尻目に、ダッシュで階段を降りる私。シンくんも「負けるかー!」と追い掛けて来るが、バイトで鍛えた私の脚力に敵う筈もなく……なかった。普通に追い付いてきやがった。さすがスーパーマサラ人。とても十歳児とは思えない。

 そんなこんなで、景色を楽しむ暇もなく、茶色の屋根が特徴的な割と貧乏臭い外観のオーキド研究所に辿り着いた私たちだったが、

 

「「……いない」」

 

 あろう事か、オーキド博士は研究所にいなかった。人を呼んでおいていないとか、どこほっつき歩いてるんだ、この野郎。

 

「仕方ない、探すか」

「そうね……」

 

 という訳で、博士を求めて彷徨い歩く事になった。

 それにしても、狭いなマサラタウン。家が三軒(内一軒は研究所)しかないとか、どんだけ閉鎖的なんだよ。科学の力ってスゲーの人や、お花大好き少女とかは、一体どこに住んでいるのだろう。

 雰囲気は良いんだけどね、雰囲気は。白い花が咲き乱れる、静かで穏やかな場所。それがマサラタウン。たまに帰省する分にはいいが、夢見る子供には狭く退屈な、つまらない町。

 言っちゃ悪いが、過疎化が進んだ限界集落そのものだった。これが未来のチャンピオンの故郷となるのだから、世の中分からないものである。

 

『ポッポー!』『ピヨン!』

「ふむふむ、なるほど……そうじゃったのか!」

 

 あ、いた。1番道路の草むらで、ポッポの群れと戯れている。

 今は亡き石塚voiceな彼を生で見られる日が来ようとは……!

 

「ユキナリ博士!」

「何で下の名前なんじゃ?」

「私が下の名前で呼ばれるのが嫌だからですよ」

「相変わらずの捻くれ者じゃの~」

「ちょっとした意趣返しです」

 

 つーか、道草食ってないでポケモンくださいよ。

 

「……おお、そう言えば、今日はアオイとシンにポケモンをあげるのじゃったな。さっそく研究所に……んんッ!? 何じゃ!?」

 

 気を取り直したオーキド博士と共に、研究所へ引き返そうとした、まさにその時――――――草むらをかき分け、こちらに向かって来る一匹のポケモンが!

 おっ、相棒との初対面イベントですか。ドンと来いです♪

 

『ピッピィ~♪』

 

 しかし、現れたのはイーブイでもなければピカチュウでもなく、ピンク色の妖精ポケモン……ピッピだった。何故にフォワイ!?

 だが、そんな私の驚きを余所に、ポケモンバトルが始まる。

 

 ――――――あっ、野生のピッピが飛び出してきた!

 

「人嫌いなピッピがこんな所まで来るとは、珍しい! せっかくじゃから、ポケモンを捕まえる練習をしよう!」

 

 いきなり無茶振りをしつつ、モンスターボールをくれるオーキド博士。

 LPLEは野生のポケモンと出会ってもポケモン同士のバトルにはならなず、基本的にボールで捕まえるだけとなる。捕獲に成功すると経験値が貰えるシステムなのだ。ようするにポケモンGOと同じである。

 むろん、ただ投げるだけでは捕まえられず、投げ方にコツがあったり、木の実を使って好感度を上げて捕獲率を上げたり、たまに逃げられたりと、こちらならではの要素がたくさんある。初代勢で言えば、常時サファリゾーンみたいなものだ。ラッキーやケンタロスにボールと時間を無駄遣いされたのはいい思い出である。

 とにかく、今は目の前のピッピだ。

 本来現れる筈のイーブイに代わって出て来たという事は、こいつも相棒要素があるという事。捕まえない訳にはいかない。

 

 食らいやがれ、超必殺☆飛鳥文化アタック!

 

 風を切るナイスピッチングでモンスターボールが飛んで行き、今にも指を振りそうなピッピにヒット。光と共に紅白カラーの球体に収まり、三回揺らいだ後、捕獲完了となる。意外と簡単だな。

 

「おおっ、上手いぞアオイ!」

 

 でも、面と向かって褒められると、ちょっと恥ずかしい。それ程でもある!

 

「初めてとは思えないくらいに上出来じゃ! さぁ、ボールを拾って、そのピッピに名前を付けてあげなさい!」

「はい!」

 

 熱いオーキドトークに促され、ボールを拾おうとした、その瞬間……ボールが跳ねた。ピョンピョンポンポン、グリングリンと。随分と元気な子ね。

 

「あ、どこに行くんじゃー!?」

 

 さらに、その勢いのまま、どこかへ向かって転がっていくモンスターボール。

 

(あ、研究所だ……)

 

 ボールの行き先はオーキド研究所だった。その上、ちゃっかり最初のポケモンが収まったボールに紛れて、テーブルで待ち構えている。

 一連の流れはまさに相棒イベントそのものだが、だったら何故イーブイじゃないんだ、と言いたい。

 

「おっ、アオイ、オーキド博士に会えたんだな!」

 

 私とオーキド博士の姿を見たシンくんが驚く。むしろ、何故こんな狭い町で見つけられなかったんだお前は、と私が聞きたい。

 

「それよりオーキド博士、確か最初のポケモンって二匹なんですよね? でも、ボールが三個あるんですが……」

 

 疲れてるのよトレース……じゃなくて、安心しろ、それはお前のせいじゃないから。

 

「いやいや、一つはさっきアオイが捕まえたピッピなんじゃよ」

「アオイ、自分でポケモン捕まえたのか!?」

 

 驚くシンくん。それに反応するかの如くボールのままジャンプするピッピに二度ビックリ。お前、可愛い本当に可愛いなぁ。世界の人気者にしてやろうか?

 

「はははははっ、面白いのう。さて、今度こそピッピを受け取るんじゃ」

 

 はいはい。

 

『ピッピィ~♪』

 

 すると、ボールに触れる前に中からピッピが飛び出して、結果的に彼(彼女?)の頭を撫でる形となった。うわっは、何これ、フワフワして気持ちいい~♪

 

「出たり入ったり、変わった奴じゃのう。しかし、随分とアオイを気に入っとるようじゃな。どうじゃ、アオイ、この子に名前を付けて、一緒に冒険してみるのもいいのではないかのう?」

「ふむ……」

 

 ニックネームって奴ですか。昔は五文字の制限があったけど、今は六文字まで付けられるからね。何にしよう?

 

「……あなたは「アカネ」よ」

 

 せっかくなので、生き別れた妹の名前を付けてみる事にした。ジョウトのコガネ娘と同じ名前だが、気にしてはいけない。ポケモン世界のテーマカラーがピンクの奴はロクなのがいないからな。汚い忍者とか、捻くれ婆とか、嫌味な天パーとか。

 

「よろしくね、アカネちゃん♪」

『ピッピィ~♪』

 

 ピッピも気に入ってくれたようで何より。

 

「いいなぁ、ピッピ。オレもピッピが欲しかったなぁ」

 

 ハッハッハッ、羨ましかろう。頼むから「オラーッ!」とか「ギエピー!」とか叫ぶ子には育たないで欲しい。

 

「……オレはこいつを相棒にします!」

 

 おっと、シンくんも相棒を決めた模様。通例ならピカチュウになる筈だが、すでに私という前例があるので、全く信用ならない。それこそラッキーが出て来ても、私は驚かないぞ。

 

『プリ~ン♪』

 

 かないみかかよ!

 確かにプリンのライバルに相応しいけど、どうしてそうなった。

 

「おっとそうじゃ、ポケモントレーナーになったお前たちに一つ頼みがある。これを持って行ってくれ」

 

 と、オーキド博士が真っ赤なタブレット――――――「ポケモン図鑑」を渡してきた。

 おお、これが本物のポケモン図鑑か!

 見掛けたポケモンのデータを自動で記録し、捕まえる事でより詳しく更新される、超ハイテクマシン。海外ではロトムを憑依させて更なる利便性を発揮するのだが、ここはカントーなので完全にただの図鑑である。充分にオーパーツだが。

 ……全世界のポケモンを完璧に記録した図鑑を完成させる。それがオーキド博士の夢であり、彼から私たちに託された願いだ。お爺ちゃんだもんね、博士。

 

「さぁ、さっそく出発してくれ! これはポケモンの歴史に残る、偉大な仕事なのじゃー!」

 

 荒ぶる爺、いや博士。まだ現役でも通じるんじゃないですかね?

 

「ポケモン図鑑……オレたち、これから色んなポケモンと出会っていくんだよな。スッゲェ楽しみだ!」

 

 シンくんも楽しそう。少年よ、大志を抱けって感じ。

 

「オレ、すぐに行くぜ。アオイも自分のペースで焦らずに頑張れよ!」

 

 そう言って、シンくんは足早に研究所を出て行った。まさに風雲児。負けてられないな。

 

「では、行ってきます、博士」

「ちゃんとお母さんにも報告するんじゃぞー?」

「分かってますよ。行くよ、アカネちゃん!」『ピピィ~♪』

 

 アカネを連れて、私もオーキド研究所を後にする。

 余談だが、この世界の母上様に報告すると、驚天動地で驚かれた。そんなにかよ。この世界の私はどういう扱いなんだ?

 ま、お小遣いとボールを結構貰えたから別にいいとして……さっそく、冒険の旅に出よう。目指すは隣町のトキワシティ。

 確かトキワシティではお使いイベントが、届けた後にはライバル戦があった筈だし、1番道路で手持ちを揃えつつアカネを鍛えようか。

 

「さて……」

 

 という事で、1番道路。出現するのは序盤鳥ことポッポに序盤ノーマルのコラッタ。後はマダツボミだかナゾノクサだったような気がするけど、詳しくは覚えていない。

 百聞は一見に如かず。直接足を運んで、確かめるまでよ!

 

『ピヨン!』

 

 ――――――あっ、野生のポッポが飛び出してきた!

 

「いっけーっ!」

 

 さぁ、夢にまで見た、私だけの物語の始まりだぁ!




◆アオイ・シズナ

 漢字で書くと「蒼衣 静奈」。物心付く前に捨てられた孤児であり、ひもじい思いをしながらも、捻じくれはしたが折れる事なく成長して来た。現在は立派に成人し、安月給のバイトを熟しつつ、安アパートで独り暮らしをしている。
 幼少期に孤児院の施設長に買って貰った「ポケットモンスター ピカチュウ版」の感動が忘れられず、長年の苦労の末、そのリメイクたる「ポケットモンスター Let’s Go! イーブイ」を購入し、いざプレイしようとした瞬間、ゲームの世界に憑依転移していた。
 心が荒んでいるので大抵の悪事は気にも留めず、自らも嬉々として手を染めるが、“殺し”だけはしないという、彼女なりの矜持がある。


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マサラタウンとトキワの森

アオイ:「そう言えばポケモンのアメってどうやって作るんだろうね?」


 そんなこんなで幾星霜……ではなく、約一時間後。

 

「……はぁ……はぁ……やっと着いた……っ!」『ピィ~』

 

 私は息を切らせながら、ようやくトキワシティに辿り着いた。

 途中、短パン小僧に目を付けられたが、まだコスメをしていないのが気に食わないのか、バトルに発展する事はなく、「もっといい服着てから出直してこい」みたいな事を言われて通された。正直有難かったが、ムカついたのは事実なので、後でボコボコにしてやろう。

 そして、道中でたくさんのポケモンを捕まえた。ポッポ、コラッタ、マダツボミ、ナゾノクサの計四種類。どうやら、この世界では“バージョン違い”による変化はないらしい。それもそうか。

 ただ、ゲームとしての設定が全く適用されていないかと言えばそんな事もなく、やっぱり野生ポケモンはボールゲットのみだし、技も四つまでに固定され、特性や持ち物の概念は存在しない。殆ど初代のあの感覚である。最近の作品に慣れ親しんだ人たちからすれば違和感があるだろうが、私はピカ版ファンなので別に気にならなかった。

 強いて言うならポケモンバトルを楽しめないのはちょっと残念だが、生きるか死ぬかの野生バトルを十代の少年少女が行うというのもアレな気がするので、素直に安全が保障されているトレーナーバトルで我慢しよう、そうしよう。最悪、殿堂入りしてから他の地方に旅立てばいいんだし。

 そうしてポケモンをどんどこ捕まえ、レベル上げを楽しみつつ進んでいたのだが、そこである問題に気付いた。

 

 ボールを投げ続けるのは、疲れる。

 

 ……いやね、十代に若返ってるし、体力にも自信はあったんだけど、こんな野球選手みたいな投球を何度も繰り返してるとね、疲れるんですよ、単純に。なるほど、こんなに毎日ぶん投げてれば、イシツブテ合戦なんて非常識な事も出来る訳だ。誰か助けて。

 無事にトキワシティに辿り着き、フレンドリーショップでお届け物を託されはしたけど、もう肩がヤバいので、今日は諦めて寝る事にした。幸い、ポケモンセンターの二階が宿屋になっているので、寝床には困らなかった。

 

『ピッピィ♪』「はぁ……可愛い♪」

 

 お布団で一緒に寝るアカネちゃんは、ただひたすらに可愛かった。ゲームだとツルツルにしか見えないけど、このピンクボディって繊毛で覆われてるのね。サラサラのフワフワで気持ちいい。さすがは人形に選ばれるだけの事はある。妖精ポケモンがエモいんじゃ~♪

 そうやってアカネちゃんと戯れている内に眠りに落ち、気付けば翌日の朝だった。昨夜はお楽しみでしたね。フレンドリーショップで朝ご飯を買い食いしてから、お届け物を持って研究所に向かう。

 ……まぁ、さすがに帰り道はポケモンゲットはしなかった。だって疲れるもん。

 ちなみに、ゲットしたポケモンの内、手持ち入りする予定の子はナゾノクサのみ。私、オニドリル派なのよね。ラッタは可愛くないし、ウツボットはタイプ被るし。あと、私がくさタイプが好き、という事情もある。今回は「ヒジュツ」のおかげで秘伝要員いらずなので、遠慮なく好き勝手に揃えさせてもらおう。

 

「ふぅ……やっと戻ってこれた」『ピッピィ』

 

 どうにかこうにか、オーキド研究所に辿り着いた私とアカネちゃん。道中ポケモンを捕まえまくったおかげで、レベルが9になっている。

 ……何でそんなゲーム的な情報があるんだよ、と聞かれれば、モンスターボールとそれに連動したポケモン図鑑にそういう機能があるから、と答えてやるのが世の情け。レベルや性格などのステータス表示の他、手持ちの認識や技数を四つに縛っているのも、これらの機械(マシン)が働き掛けているからのようである。科学の力ってすげー。

 もちろん、野生のポケモンにはそんな概念などない。だからこそボール合戦になっているのだろう。悪足掻きで殺されたら洒落にならんからね。その分、私の肩が死ぬけどなっ!

 

「おお、アオイじゃないか。どうしたんじゃ?」

 

 研究所に入ると、オーキド博士がビックリしながらも笑顔で迎えてくれた。

 

『ピッピィッ!』

 

 すると、アカネちゃんが背中の小さな羽でパタパタと飛び上がると、私のリュックサックにスッポリと納まった。ここがこの子の定位置であるらしい。トゲピーかな?

 まぁ、六キロの体重で頭の上に乗っかられたりするよかはマシだが。背後の目にもなってくれるし。

 

「おお、すっかりアカネはアオイの相棒じゃな! どうやら、アオイにはトレーナーとしての才能があるようじゃ!」

 

 褒めてくれるのは嬉しいですが、まずは荷物を受け取ってください。

 

「おお、スマンのう。ポケモンと仲良くなるのに、これは必須なんじゃよ」

 

 お届け物の中身は木の実のセットだった。ああ、これ後で貰えるんですね、分かります。

 

「おっ、アオイじゃん! ……えっ、ピッピともうそんなに仲良くなったのか? スゲェ!」

 

 と、何やら用事があって引き返していたライバルのシンくんとも早過ぎる再会。

 

「でも、ポケモンは捕まえるだけじゃない。トレーナー同士で戦わせる事も出来るんだぞ。どんな感じか、オレが教えてやるよ!」

 

 さらに、先輩風を吹かせたい彼とのバトルに発展。まるで意味が分からないが、良いだろう。人生初のポケモンバトル……ヤッテヤルデス!

 

「「勝負!」」

 

 ――――――ポケモントレーナーのシンが勝負を仕掛けて来たっ!

 

「行け、プリン!」『プリィッ!』

 

 そして、繰り出されるかないみか……否、ふうせんポケモンのプリン。

 相棒と言うだけあってアニメvoiceかつ、種族値のアップグレードが成されている模様。具体的に言うと、通常の物から合計値が165もアップしている。

 

・通常プリン HP:115 A:45 B:20 C:45 D:20 S:20 合計:270

・相棒プリン HP:140 A:50 B:70 C:55 D:75 S:45 合計:435

 

 数値にするとこんな感じ。

 元々HP以外に特筆する事がないに等しい雑魚ポケだっただからか、進化後のプクリンに匹敵するレベルでパワーアップしている。進化出来ないという条件付きがあるとは言え、進化前でこれは凄い。イーブイやピカチュウもビックリのテコ入れだ。何だこのピンクの悪魔は。

 

「行って、アカネちゃん!」

『ピッピィッ!』

 

 しかし、それはアカネちゃんも同じ事。

 

・通常ピッピ HP:70 A:45 B:48 C:60 D:65 S:35 合計:323

・相棒ピッピ HP:95 A:90 B:63 C:95 D:70 S:35 合計:453

 

 これが相棒ピッピの種族値。こちらも130のパンプアップが成されており、素早さこそ据え置きだが、進化後に迫る勢いである。

 その上、ピクシーと違って相棒ピッピは攻撃種族値も結構高い。あっても使い道のない無駄に覚えるパンチ技とかも活かせる、素晴らしい改変だ。

 ……そこはたとなく例のアイツ(ギエピー)に近付いてしまっている気がするのは、考えないようにしよう。

 総じて耐久の相棒プリン、攻撃の相棒ピッピと言ったところか。どちらもフェアリータイプなので、タイマン勝負だと確実に長期戦になる。それも踏まえてバランスのいいパーティーを考えろ、という事かもしれない。

 余談だが、今回のバトルはアカネちゃんとプリンの一騎打ち。手持ち全部を持ち出すと、さすがに戦力差が酷過ぎるからね。

 ま、どっちにしろ負けはないだろう。レベル差が3もあるし。

 

「プリン、「うたう」攻撃!」『プ~プゥ~、プゥ~プリ~ン♪』

『Zzz……』「あ、アカネちゃーん!」

 

 だが、速さが足りない!

 普通に先手を取られた上、命中率50%しかない歌うをミラクルヒットさせてきた。

 

「よし、そのまま「おうふくビンタ」!」『プリッ、プリッ、プリッ、プリィン!』

 

 さらに、まさかの往復ビンタによる多段攻撃。何だコイツ、早覚えの個体なのか。

 くそっ、これはマズい。どうにかして逆転しないと……いや、それ以前に早く起きないと。

 

「起きてアカネちゃん!」

『ZZZzz……』

「起きろゴルァッ!」『ピィッ!』

 

 よし、起きた。良い子だぞ、アカネちゃん。シンくんが「やめたげてよぉ!」と叫んでいるが、知った事じゃない。これが東北流なんだよ!

 

「反撃よ、アカネちゃん! 「ゆびをふる」!」

 

 こっちが早覚えしているのは指を振る。殆ど全ての技をランダムで一つだけ使えるギャンブル性の高い技である。今回選ばれたのはメガトンパンチだった。

 

『オラーッ!』

 

 オラーッて言っちゃった! やめろーっ、こんなのピッピじゃねぇ!

 

『プリーン!』

 

 アカネのメガトン級のパンチを食らい、悲鳴を残してブッ飛ばされるプリン。

 

「くっ、立て! 立つんだプリン!」『プリャリャ~ッ!』

 

 しかし、豊富なHPとそこそこの防御力のせいで一発KOとはいかず、歌うで再び眠らせようとしてくる。

 

「躱せ!」『ピッピ!』

 

 だが断る。初陣とは思えない息の合った動きで、アカネちゃんは見事に回避してくれた。単に命中率の関係で外れただけかもしれないが。

 

「よし、もう一度「ゆびをふる」!」『ピッピィ……!』

 

 食らえっ、二度目の指を振る(パルプンテ)

 

『オリャーッ!』『プリャッ!?』

 

 発動したのは「ピヨピヨパンチ」。今度はオリャーッとプリンを殴り飛ばし、二割の確率を無視して混乱状態に陥れた。

 どうしよう、声質はくぎゅぅって感じなのに、CV:山口眞弓に聞こえてしまうよ……。

 しかし、複合タイプのせいでかくとうタイプを等倍でしか受けられないプリン相手には都合が良い。反撃も混乱による自傷で回避出来た。このまま押し切ってやる!

 

「よっしゃっ! もう一回、「ゆびをふる」!」『ドリャーッ!』

『……プキャン!』「プ、プリーン!」

 

 ラストの指を振るが選択したのは、謎の技「コズミックパンチ」。星屑を纏った鋼の拳がプリンを打ち上げ、完全に戦闘不能にした。効果が抜群なので、おそらくはがねタイプの技だろうが、それよりも何でこいつはパンチ技しか発動しないんだ……。

 まぁいいさ、勝ったからな!

 

「お疲れ、アカネちゃん!」『ピピィ~♪』

 

 アカネちゃんとタッチして、勝利を労う。本当によく殺ってくれたよ、うん。ピッピらしさは欠片もなかったけど。

 

「あーあ、偉そうに言っておいて、オレ超恥ずかしいじゃん! ちゃんと育ててから戦えばよかったな……」

 

 いや、キミのプリンも充分凄いと思いますよ?

 それこそ、ちゃんと育てればアニメ版のプリン並みに活躍してくれる筈だよ、きっと。

 そして、シンくんは「また時々勝負しようなー!」と言って、再び冒険の旅に出て行った。相変わらず忙しない奴だ。グリーンと違って嫌味じゃないからいいけど。

 さーて、これにてチュートリアルも終了。私も本格的にポケモンマスターへの道を歩み始めるとしますか!

 

「では、気を付けて行くのじゃぞー!」

「了解です!」『ピッピ~♪』

 

 オーキド博士から激励と余った木の実を貰った私は、シンくんとのバトルで味わった高揚感をそのままに、今度こそ冒険の旅路へ着くのだった。

 次なる目標はニビシティのタケシ。つまりはジム戦である。敵はいわタイプばかりなので、ここはナゾノクサを育てておこう。ムーンフォースを覚えさせたいから、しばらく進化はお預けだけどね。テヘペロ♪

 という事で、まずはトキワシティを目指して歩く。

 

「あ、アオイちゃんじゃない。旅立つあなたに、ピッタリのコスチュームをあげるわ!」「ど、どうも……」

 

 1番道路で謎の贈り物(スポーツウェアらしい)を渡され、

 

「おっ、昨日のド素人か! 今度はトレーナーに相応しい格好をしているようだし、さっそくだけど、ポケモン勝負だっ!」「死ね」

 

 妙に律儀な短パン小僧のタイチにリベンジを果たし、

 

「おっ、アオイじゃん! 戦ってるとポケモンの体力や技ポイントが減ってるから、細目にポケモンセンター行かないと駄目だぞー」「はぁ……」

 

 先走っていたシンくんとまたしてもスピード再会を果たして、

 

「おっ、アオイ! お前もポケモンリーグ見に行くのか? オレも一目だけでもと思ったけど、ジムバッチがないとダメだってさ。まぁ、地道に強くなるしかないよね……って事で勝負だ!」「訳が分からないよ!?」

 

 22番道路で寄り道してたら、恐ろしい速度で先回りしていたシンくんと何故かバトルとなり、ギリギリの勝負を展開。

 こいつポッポなんてゲットしてやがったから、ナゾノクサが割とピンチだったが粉を撒いてどうにか突破し、相棒同士ではまたしても運ゲーで勝利をもぎ取った。今度は三色パンチだった。だから、何で指を振るとパンチになるんだよ……。

 その後、ポケセンで回復を済ませ、ショップでお買い物をして、常盤の森に挑戦――――――と言いたい所だったが、再び22番道路に逆戻り。

 もちろん、オニスズメを捕まえる為だ。シンくんがポッポを選ぶなら、こっちはオニスズメっしょ。という事で草むらへ……入った、その時。

 

『ホォゥクゥゥッ!』

 

 ――――――あっ、野生のオニスズメが飛び出してきたっ! キュピーン☆♪

 

「い、色違い、だと……!?」

 

 まさかの色違いでした。茶色い頭に赤い翼が特徴的な通常オニスズメに比べて、頭部は黄緑色、羽は黄色になっており、何となく豪華な感じがする。

 き、君が欲しい……っ!

 ここは木の実を貢いで、仲間になってもらおう。ほーら、木の実だよ~♪

 

『ケェーン♪』

 

 よすよす、喜んでくれとるなぁ。アニメだと凶暴な印象ばかりだが、この子は割と大人しいようである。そんな君はこのプレミアボールに入れてあげよう。えいっ♪

 

 1、2、3、カチッ! おめでとう、オニスズメをゲットしたよ!

 

 よっしゃあっ、さっそくボールから出して連れ歩くぜっ!

 

『ホォクゥッ!』

 

 ボールから繰り出されたオニスズメは色違い特有の星を振り撒きながら、私の周りを元気に跳び回っている。やっぱり飛ぶのは苦手なのね。でも可愛いから許す。可愛いは正義。

 さてさて、ステータスはどんな感じかな?

 

◆オニスズメ

 

・分類:ことりポケモン★

・タイプ:ノーマル/ひこう

・レベル:5

・性別:♂

・性格:ようき

・種族値: HP:40 A:60 B:30 C:31 D:31 S:70 合計:262

・覚えている技:「ネコにこばん」「つつく」「なきごえ」

・図鑑説明

 羽が短いので高く飛ぶのは苦手。縄張りを守る為に猛スピードで飛び回り、むしポケモンを探している。大きな鳴き声は一キロ先まで届く。単体では弱いが、オウム返しを使われると強い。群れると凶暴性が増す。

 

 ……何で猫に小判?

 鳥類には光物が好きな奴もいるけど、それは烏だし、雀のこいつが覚えているのには違和感がある。

 あれか、特別なオニドリルが配布された事あるけど、そのせいなのか。飛び道具かつ物理技だから、今は言う事ないけど、後で外すようにしよう。絶対に持て余すだろうし。

 ちなみに、アカネのステータスはこんな感じ。

 

◆ピッピ(アカネ)★

 

・分類:ようせいポケモン

・タイプ:フェアリー

・レベル:12

・性別:♀

・性格:ゆうかん

・種族値: HP:95 A:90 B:63 C:95 D:70 S:35 合計:453

・覚えている技:「ゆびをふる」「うたう」「ちいさくなる」「おうふくビンタ」

・図鑑説明

 姿や仕草が愛くるしくペットとして人気があるものの滅多に見つからない珍しいポケモン。満月の夜には人気のない所で集まって遊び踊り、月光の力を羽に宿して空中を浮遊するという。

 

 とにかく、これで確定メンバーが三匹になった。そろそろ先に進もう。

 

「よーし、キミは今から「ハヤテ」だ! 行くよ、ハヤテ!」『ケッケーン!』

 

 即興でニックネームも決めて、疾風の如くトキワの森へダッシュする。先頭はもちろんハヤテ。餌がいっぱいいるからね。

 トキワの森ではキャタピー系とビードル系はしっかりとコンプリート。ピカチュウは出てくれなかった。

 ここでのメンバー入りを果たしたのは、色違いのビードルくん。金銀版で最初に手に入れた色違いもビードルだったなぁ。今はもうスピアーになっちゃたけどね。ボール使いまくったし。

 で、ステータスはこちら。

 

◆スピアー(アキト)★

 

・分類:どくばちポケモン

・タイプ:むし/どく

・レベル:10

・性別:♂

・性格:いじっぱり

・種族値: HP:65 A:90 B:40 C:45 D:80 S:75 合計:395

・覚えている技:「いとをはく」「かたくなる」「どくばり」「ダブルニードル」

・図鑑説明

 高速で飛び回り、両手とお尻にある毒針で、敵を刺して刺して刺しまくる。両手の針より、お尻の針の方が実は毒性が高い。時には集団で襲い掛かる事もある、危険なむしポケモン。

 

 やたらイキってんなぁ、と思っていたら意地っ張りだった。メガ進化はまだ先だし、その場合も速さは足りてるので、決定力の上がるこの性格は当たりだろう。黒百合並みにとまでは言わないけど、是非とも殿堂入りまで頑張ってもらいたい。危うくニックネームを「さいきょー」にしかけたのは内緒。

 あと、今更気付いたけど、ウチのアカネちゃんも色違いだった。耳だけ分かりにくいんだよ……。

 

「ここがニビシティ……!」

 

 そんなこんなで、虫取り少年だのミニスカートだのを倒しまくりつつトキワの森を突破し、とうとうニビシティへ到着。トキワの森のトレーナーたちはあんまりにもアレだったので割愛。せめてバタフリーやスピアーに進化させてから出直せ。

 

「頑張ろうね、アカネちゃん!」『ピピーッ!』

 

 さぁ、人生初である生のジム戦、行ってみよう!




◆相棒ピッピ

・分類:ようせいポケモン
・タイプ:フェアリー
・性別:あり
・種族値
 HP:95
 こうげき:90
 ぼうぎょ:63
 とくこう:95
 とくぼう:70
 すばやさ:35
・図鑑説明
 稀に見られる特殊な個体。進化する為のエネルギーをステータスに繁栄させており、通常の物よりも遥かに能力が高い。更に特別な技を習得する事も可能。
 ただし、かなり我が強く意外と好戦的なので、仲良くなれるトレーナーはあまりいない。


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固い意志を持つ男とラブリーチャーミーなアイツら

アオイ:「個人的に、ニャースには常時喋って欲しかったなぁ……」


「あっ、アオイじゃん! ちょうど良かった!」

 

 だが、先回りされてしまった!

 何で行く先々にいるんですかね、シンくん。

 

「アオイ、この町にはポケモンジムがあってな、物凄く強いジムリーダーってトレーナーと戦えるんだ! 手ごわいけど、強くなりたいなら挑戦しないとだぞ!」

 

 さらに、このアドバイス。わざわざご苦労様だけど、知ってるよ。意地の悪いモブが強制的に挑戦させるからね。何なんだろうね、あの子?

 

『ピッピィ~♪』

「おっ、ピッピもやる気満々みたいだな! なら、これはオレからの応援の気持ちだぜ! ほらよ!」

 

 そして、またしてもバトル……ではなく、まさかの傷薬のお裾分けである。グリーンだったら確実に嫌味と共にバトルとなる所だが、優しいシンくんはそんなムカつく事はしないようだ。ええ子や。

 

「……じゃあ、オレ先行くから、アオイも頑張れよー!」

 

 その後、笑顔を振り撒きつつ、ニビジムへと先走るシンくん。若干照れた表情を見るに、もしかして私にほの字なのかな。本当に初々しいねぇ……。

 ま、ひとまずはポケセンだな。トキワの森にいたトレーナーは雑魚ばっかりだったけど、PPは減ってるからね。あと、ちょっとアカネちゃんをモフりたい。

 

「はい、ポケモンは皆元気になりましたよ!」『ラッキ~♪』

 

 0円スマイルでモンスターボールを返してくれるポケセンお姉さんとラッキーちゃん。アニポケだと「ジョーイさん」だけど、どう見ても「ナースさん」なのは如何なものか。

 ちなみに、アカネちゃんもこの時ばかりはボールに入る。返却と同時に即行で出てくるけど。

 

「ほーら、木の実ジュースだよ~♪」『ピッピ~♪』

 

 ポケモンたちが拾ってきた木の実を磨り潰して作った独自のアイテム「きのみジュース」を、アカネちゃんにプレゼント。それはそれは美味しそうに飲み、「にぱ~☆」と言わんばかりの笑みを浮かべて喜んだ。はぁ~ん、カワエエ♪

 余談だが、木の実はジュース以外にもジャムやドライフルーツにしてリュックにしまっている。糖分はいざって時に便利だからね。遭難した時とか。したくないけど。

 それから、ポケセンで買った「ニビあられ」をアカネちゃんと一緒に頬張りつつ、街の探索に移る。

 「ニビ」シティと言うだけあって、全体的に灰色掛かっており、特に石畳の街道が良い味を出している。さすがに屋根は他の色が使われているが。

 名所は何と言っても「ニビ科学博物館」だろう。ニビジムと並んで、この町の顔と言っても過言ではない。

 今は無理だが、裏口から入ると「ひみつのこはく」を手に入れられる。現状でも化石や隕石を見られるので、50円払ってでも是非行くべきである。

 ……と言うか、今すぐ行こう、そうしよう。

 

「わぁ~♪」『ピィ~♪』

 

 水族館とか動物園とかもそうだけど、静かに何かを観るって良いよね。有機物と無機物の差はあれど、それもまた乙。物言わぬ化石たちがカッコええんじゃ~♪

 さて、アカネちゃんともたっぷり遊んだし、さっそくニビジムに挑みますか。

 

「オース、未来のチャンピオン!」「こんにちはー。あ、これナゾノクサです」

 

 とりあえず、入り口の解説さんに挨拶しつつ、ジムミッションである「くさかみずタイプのポケモンを見せる」をクリア。LPLEではジム毎にこうしたミッションが課せられていて、クリアしなければ挑む事が出来ない。チャレンジャーの適正レベルを調整する為の措置なのだろうが、おかげで縛りプレイがしにくいという、マイナーな弊害が発生していたりする。私は別にする気はないけれど。

 それにしても、内装の進化が凄いな。石ころが連なる岩山になっていたり、しっかり観客席があったりと、第一世代の頃に比べてジム戦が一大イベントだという事がヒシヒシと伝わってくる。さすがにガラル地方には敵わないが、それでもこの発展具合には感動を禁じ得ない。

 

「待ちなー! 子供がタケシさんに何の用だ! タケシさんに挑戦なんて、一万光年早いんだよ!」

「うるせぇ! ガキが調子に乗るんじゃねぇ! この私に勝つなんて、一億光年は程遠いんだよ!」

 

 ピクニックガールのアキナを下し、頭の悪いハリキリ☆ボーイのトシカズにやんわりと間違いを指摘しつつ張っ倒す。どっちもイシツブテしか使わないから、完全にナゾノクサ無双だったので割愛。

 その代わりに、ウチの可愛いナゾノクサのステータスを御覧に入れましょう。

 

◆ナゾノクサ(ヒナゲシ)

 

・分類:ざっそうポケモン★

・タイプ:くさ/どく

・レベル:16

・性別:♀

・性格:ひかえめ

・種族値: HP:45 A:50 B:55 C:75 D:65 S:30 合計:320

・覚えている技:「すいとる」「せいちょう」「ようかいえき」「どくのこな」

・図鑑説明

 ただの草だと思って引き抜くと、気分の悪くなる鳴き声を上げる。夜になると二本の足で300メートルも歩くという。別名はアルキメンデス。

 

 考える葦みたいな別名を持つこの子は、そのものズバリ控えめな女の子。思慮深さと力強さを両立させた、キャワイイ大和撫子だ。能力的に特殊アタッカーになるだろうから、このまま30レベルまで育てる予定。ムーンフォース美味しいです。

 あと、引き抜くと叫ぶって、ようするにマンドラゴラだよね?

 クサイハナもラフレシアもモデルと違って肉食性のモンスターなので、危険性も加味して「ヒナゲシ」という名前になりました。ラフレシアになるとまさにナガミヒナゲシって感じの色合いになるからね。

 さてさて、ヒナゲシちゃんのお披露目はこれくらいにして、タケシへ挑むとしよう。初代は半裸の変態だったが、LPLEはアニメ準拠の恰好をしているので一安心である。

 

「俺はニビポケモンジムのリーダーのタケシ! 俺の固い意志は、俺のポケモンにも表れる! 硬くて我慢強い……そう、使うのはいわタイプばかりだ! フハハハハ、負けると分かっていて戦うか! ポケモントレーナーの性だな! 良いだろう、掛かって来い!」

 

 さらに、堅苦しくも暑苦しいセリフを宣いつつ、いつものあのポーズを取る。指を立てたら別の名前になりそうで怖い。

 

「やかましい、お姉さんの癖に生意気だぞっ!」

「何の話だ!?」

 

 黙れブリーダー、ポケモンは戦わせるものなんだよ!

 

「「勝負っ!」」

 

 ――――――ジムリーダーのタケシが勝負を仕掛けて来たっ!

 

「行けっ、イシツブテ!」『ゴォヴァアアアン!』

 

 繰り出されるは、がんせきポケモンのイシツブテ。たねポケとは思えない攻撃と防御、悲しくなるくらいに脆いタイプ耐性を併せ持つ、序盤随一のいわタイプだ。マサラ人はこれを雪玉感覚で投げ合う訳だが、保護者は一体何を考えているのだろう。

 

「ヒナゲシちゃん、「せいちょう」して「すいとる」攻撃よ!」『ニャゾォッ!』

 

 しかし、やっぱりヒナゲシちゃんの敵じゃない。いわ/じめんの複合タイプが、くさ/どくの特殊アタッカーに勝てる筈がなかった。

 

「くっ、戻れイシツブテ! 頼んだぞ、イワーク!」『イヴァアアアアアクゥッ!』

 

 出たな、いわタイプのポッポ!

 全長8メートルもあるのに、防御と素早さ以外は序盤ノーマル以下のステータスしかない、究極の見掛け倒し。大人の事情により弱くある事を、強いられているんだっ!

 

「イワーク、「いわおとし」!」『グヴォォォッ!』

「耐えてからの「すいとる」!」『ナゾ~ン♪』

「『イワァアアアアアクッ!』」

 

 むろん、余裕で勝ちました。だって、こいつもいわ/じめんタイプなんだもの……。

 

「くっ、敗れたか……! どうやら、君を見くびっていたようだ!」

 

 その後、技マシン01の「ずつき」とグレーバッチを貰い、ジム戦は終了。

 うーん、嬉しいっちゃ嬉しいけど、何だろう、この消化不良は。初代のいわタイプは攻撃と防御一辺倒だから、張り合いが無いんだよなぁ。強化後に期待しよう。その頃にはタケシも化石ポケモンをコンプリートしてるからね。カブトプスやオムスターはともかく、プテラがキツい……。

 

「ボンジュール!」

 

 と、ジムを出た所で、初代ライバルことグリーンくんが登場した。相変わらず頭がツンツンしてる。オーキド博士に頼まれてアドバイスに来たらしいが、残念、もう勝ったよ。

 さぁ、スーパーボールを置いて、さっさと失せるんだ。私、こいつ嫌いなんだよ。生で見るとよりムカつくし。

 

「じゃあな、バイビー!」

 

 おう、あくしろよ。ついでに二度とその面見せるな、バーカバーカ。

 さーてと、バッチも手に入ったし、いよいよニビシティともお別れね。次なる目的地はお月見山と、その先にあるハナダシティ。狙うはもちろん、ハナダジムのマイ☆ステディ、カスミである。

 そうと決まれば即行動。邪魔者(モブ)はもういないし、3番道路を通らせてもらいますよっと。

 ここではコラッタやオニスズメと言った序盤ノーマル組に加えて、サンドにアーボ、マンキーなんかが出てくる。特にマンキーは貴重なかくとうタイプ(なのにシバには使ってもらえない可哀想な子)だから、是非とも手に入れておきたい。使わないけどね。コレクションだよ、コレクション。あと経験値。

 トレーナーについては、特に何という事はない。精々、コーチトレーナーがフシギダネやニャースなど、ちょい珍しいポケモンを使ってくるのと、報酬に元気の欠片をくれる事のみ。マジで特筆すべき物がない。

 欲しいポケモンもいないし、ポケモンで回復してから、お月見山にインさせてもらいましょう。お邪魔しま~す♪

 

「ここがお月見山……」『ピィ……』

 

 薄暗い迷路のような洞窟が隣町まで長々と続く、カントー屈指の観光スポット。珍しいポケモンも多く、ピッピ系統やパラスにイワーク、頑張ればラッキーまで出てくるという、素晴らしい場所。月の石やポケモンの化石も、基本的にここでしか手に入らない。

 だが、一番のイベントと言えば、やはりロケット団との遭遇だろう。特にピカ版リメイクであるLPLEでは、あのラブリーチャーミーな連中が現れる。オラ、ワクワクして来っぞ!

 

「おっかしぃわねぇ……どこにあるのかしら?」「もう少し奥にあるんじゃないか?」

 

 あっ、いた。

 何かの尻尾みたいなロングの赤髪に凛とした顔立ちの美女と、センター分けの青髪に碧の瞳を持つキザったらしいバラの似合うイケメン。何より、黒地に白い上着を纏った専用の「R(ロケット)」団員服が、彼らという存在を物語っている。

 間違いない。ホワイトホールなあいつらだ。白い明日が待ってるぜ。

 く~っ、まさか、本当にこの日が来ようとは!

 

「そこの二人、何を話しているの!?」

 

 とりあえず、前振りをしてみよう。あの二人なら、必ず望む答えを返してくれる。

 

「何だかんだと聞かれたら!」

「答えてやるのが世の情け!」

「世界の破壊を防ぐ為!」

「世界の平和を守る為!」

「愛と正義の悪を貫く!」

「ラブリーチャーミーな敵役!」

「ムサシ!」

「コジロウ!」

「銀河を駆けるロケット団の二人には!」

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」

『ニャーんてにゃあっ!』

 

 シャキーンとポーズを決めたムサシとコジロウ、それと滑り込みで間に合ったニャース。そう言えば入り口の上で昼寝してたっけな。

 

「ちょっとアンタ、盗み聞きとは趣味が悪いわね!」

「つーか、ニャース、お前どこで何を見張ってたんだよ!?」

『ちゃんと呂畑の石ころを見張ってたにゃ』

「「ようするにサボってたんだろうが!」」

『猫は気紛れなのにゃ~♪』

 

 林原めぐみと三木眞一郎と犬山イヌコが仲良く喧嘩してる。良いぞこれ~♪ ←ソーナンス!

 欲を言えば、うえだゆうじがそこに加わってくれると尚嬉しいのだが、LPLEの環境下では仕方ない。レッド戦後の楽しみにしておこう。

 まぁ、それはそれとして、

 

「サイン下さいっ!」

「「『えぇっ!?』」」

 

 サインを求めたら物凄く驚かれた。「何言ってんだこいつ」って感じぃ~。解せぬ。

 

「……と、とにかく、化石は渡さないからな!」

「アレを売ってぼろ儲けするのよ!」

『バイバイにゃ~!』

 

 そして、聞いてもいない活動目的を捨て台詞に、ムコニャは洞窟の奥へと走り去って……否、逃げ去っていった。酷いなぁ。

 ま、しっかり追い掛けるんだけどね!

 その後、アイテムを拾ったり、ポケモンを捕まえたり、山男やミニスカートに短パン小僧と言ったモブを倒したりして、私たちも洞窟の奥へ歩を進める。月の石がいっぱい♪

 そうそう、ここでは初めて理科系の男が出てくるんですよ。こいつがまた厄介で、ベトベターなんか使いやがるから、地味に面倒なんだよね。毒ガスとか撃って来るし。

 

「アキトくん、「ずつき」!」『ブゥゥウン!』

「ぐわばぁあああっ!」『ベドァッ!』

 

 だので、毒の効かないスピアーのアキトくんでごり押したんだけどね。剣の舞を覚えないから、怒りで無理矢理に攻撃力を上げて、後は頭突きで怯みゲーですよ。レベル差もあるから、負ける要素はまるでなかった。いやぁ、楽勝楽勝。

 ちなみに、ラッキー欲しさにポケモンを捕まえ過ぎたせいで、アキトくんのレベルが18まで上がってしまった。技構成は「ダブルニードル」「きあいだめ」「ずつき」「いかり」となっている。えらく貧弱だが、序盤だから仕方ない。

 蛇足だが、こちらが残りメンバーの覚えている技。

 

◆相棒ピッピ(アカネ)Lv20:「ゆびをふる」「ちいさくなる」「どわすれ」「ずつき」

◆オニスズメ(ハヤテ)Lv19:「ネコにこばん」「つつく」「オウムがえし」「ずつき」

◆ナゾノクサ(ヒナゲシ)Lv18:「ようかいえき」「すいとる」「せいちょう」「どくのこな」

 

 技を覚えさせたい関係上、アキトくん以外の全員が進化前である。

 ヒナゲシちゃんは良いとして……ハヤテ、どうしてお前は猫に小判を手放さない。明らかに技スペース圧迫してんだろうが。いい加減に諦めろよ。飛び道具として便利なのは認めるけどさ。

 アカネちゃんもアカネちゃんで何故か指を振るを忘れさせてくれない。ギャンブル性強過ぎるから外したいんですけど。

 まったく、どうしてウチの子たちは捻くれ者ばっかりなんだ。控えめなヒナゲシちゃんを見習えよ。

 

「わぁ~、洞窟の中って意外と広いのね~!」

 

 あっ、ミニスカートのルリに喧嘩を売られた。手持ちはピッピ一匹。ここはアカネちゃんに任せよう。

 

「アカネちゃん、「ゆびをふる」!」『ピピィ~ン!』

「きゃーっ!」『ピャーッ!』

 

 フハハハ、アカネちゃんのメガトンパンチで一発だぜ!

 ……そろそろパンチ以外の技も引いてくれないかなぁ?

 

「大人の世界に首を突っ込むんじゃないわよ!」

 

 おっと、ムコニャ以外の下っ端団員(♀)もいた。意外と可愛い顔をしている。野郎もいたけど、そっちはカットで。十把一絡げに雑魚しかいないし。スリープならまだしも、コラッタとズバットなんぞ相手にもならん。

 

「あ、化石だ」

 

 そんなこんなでポケモンハンしながら歩いていたら、例の化石を発見した。「かいのかせき」と「こうらのかせき」の二つである。これをグレンタウンの化石研究所に持って行けばオムナイトとカブトを復活させられるのだが、大分先の話なので今はただの荷物でしかない。

 

「コラ、待てよっ! この化石は僕が見つけたんだ! だから、全部僕の物だぁ!」

 

 おや、理科系のミツハルが難癖を付けて来た。

 

「いいや、二つとも私の物だよ?」『ピ~ッピッピッピッ!』

「ヴァー」

 

 むろん、手加減無しでぶっ飛ばしてやった。レベル差って残酷よね。天使のテーゼみたいに。

 こうして私は化石を無事に両方共手に入れたのだが、

 

「お待ちぃーっ!」「ちょーっと待ったぁ!」『待つのにゃー!』

 

 そんな事を許すムコニャではない。見当違いの方へ進んでいた筈の三人が、電光石火の勢いで追い付き、行く手を阻んだ。

 

「勝手に追い抜くなんてズルいぞ!」「こうなったら、力尽くでも奪い取ってやるわっ!」

 

 さらに、そのまま初のダブルバトルへ移行。

 

 ――――――ロケット団のムサシとコジロウが勝負を仕掛けて来たっ!

 

「行きなさい、アーボ!」『シャヴォッ!』

「行けっ、ドガース!」『ドガァアスゥ!』

 

 繰り出されるは、アーボとドガース。レベルはそれぞれ12。フッ、勝ったな。

 でも、今回はカットしないよ。何せムコニャが相手だからね。きちんと応じないのは失礼に当たるわ。

 

「行って、アキトくん、ヒナゲシちゃん!」『ブブゥン!』『ニャゾゥ~!』

 

 という事で、私は毒の通じないアキトくんとヒナゲシちゃんを繰り出した。

 

「アキトくん、「いかり」! ヒナゲシちゃんは「せいちょう」よ!」

 

 まずは積み技。能力を上げて、一気に叩き潰す。

 

「させるか! ドガース、「クリアスモッグ」!」「アーボ、「あなをほる」よ!」

 

 くっ、能力変化を戻された上に、アーボは穴を掘ったか。技マシン使ってやがんな、この野郎。さすがは幹部候補、そこらの下っ端とはレベルが違うって事か。ポケモンのレベルは明らかに足りてないけど。

 フーム、毒状態の封殺も兼ねて起点にしてやろうかとも思ったけど、ここはガンガン攻めるべきかな。

 

「戻って、ヒナゲシちゃん! 行けっ、ハヤテ!」『ホォオクゥゥン!』

 

 とりあえず、ヒナゲシちゃんを狙っていたアーボの穴を掘るをスカす為、ハヤテくんと交代。

 

「アキトくん、ドガースに「ずつき」!」『ブゥン!』

『ドガァッ!?』「ドガース!」

 

 お次はアキトくんでドガースに頭突き攻撃。怯ませて動きを封じておく。その隙にアキトくんを引っ込めて、アカネちゃんにバトンタッチした。パワーはこの子が一番あるからね。

 

「馬鹿め! ドガース、「おにび」を食らわせろ! それから「クリアスモッグ」だ!」『ドガァースゥッ!』

『ギエピー!』

 

 あっ、しまった。フェアリーって毒に弱いんだった。たまに忘れちゃうんだよね、フェアリーのタイプ相性。

 つーか、とうとう言っちゃたなぁ、アカネちゃんよぉ!

 

「よぉーし! アーボ、「まきつく」でピッピを拘束しなさい!」『シャーッ!』

「させないわ! ハヤテ、「ネコにこばん」で押し留めろ!」『ケェーン!』

 

 ちゃっかりムサシがアーボで援護しようとしたので、ハヤテくんの猫に小判で牽制。威力はないけど、輝く小判が雨あられとなって降り注ぐので、良い目晦ましになる。エメラルドがスプラッシュする感じ。

 しかし、采配ミスしたせいで追い詰められている事実に変わりはない。ここらで勝負を仕掛けるべきだろう。

 

「くそっ! なら、このまま攻めてやるだけだ! 行け、ドガース! もう一度「クリアスモッグ」!」

「やらせるかぁ! アカネちゃん、必殺の「ゆびをふる」!」

 

 ドガースはステータス的にも技の威力的にも、アカネちゃんを確定三発でしか沈められないが、こちらも素の技だけでは乱数でも一発では仕留め切れない。ギャンブルだろうが何だろうが、ここで一発逆転の技を引くしかないのである。

 さぁ、良い技、来い! なるべくパンチじゃない奴!

 

『ピィィィィィッ!』

 

 そして、アカネちゃんが指を振るで引いたのは、

 

 ―――――――ギュゴァァァァ……カァッ! グヴァビビビビビビビビビビビビビッ! ドワォッ!

 

 は、破壊光線だとぉ!?

 しかも、指を振って引き当てたせいか、シークエンスがまんま魔○光殺砲だった。

 さらに、光線の周囲を星屑が遺伝子の如く舞い踊っているという、相棒限定と思われる特別なエフェクト付き。ヤバい、カッコ良過ぎる。

 

『ドグヴァアアアスッ!』「ごっつんこぉーっ!」

 

 当然、レベルが下のドガースが耐えられる筈もなく、一発で昇天した。さすがノーマル最強技、パないぜ。

 

「チッ! アーボ、「どくばり」でピッピを仕留めなさい!」

「ハヤテ、逆に「ずつき」でアーボを仕留めろ!」

『クァォッ!』『アボァッ!?』

 

 思うように動けなかったアーボも、蓄積ダメージ込みでハヤテくんの頭突きによって仕留める。

 これで彼らの手持ちはゼロ。勝負あり、である。

 

「「『やな感じぃ~!』」」

 

 はい、やな感じ頂きましたぁ!

 

「そんな貴方々に、この化石をプレゼントだ! あと、この金のコイキングもどうぞ♪」

「「『えぇーっ!?』」」

 

 そして、再びビックリ仰天顔。まさか化石(+500円で買っておいた色違いコイキング)を貰えるとは思っていなかったのだろう。負けたもんね。

 

「えっ、良いの?」「マジで?」

「うん。どっちもいらないからね。あと、化石のまま売るより、グレンタウンに行って復活させた方が金になると思うわよ?」

『ニャーが言うのもにゃんだけど、とんでもない悪党だにゃー』

 

 ハッハッハッハッ、それ程でもある。

 

「何だかんだかよく分らないけど……「「イイ感じ~♪」」『ニャッ!』

 

 私から化石を受け取り、ホクホク顔で去って行くムコニャ。

 意外と義理堅い彼らなら、後々こちらの利となる形で借りを返してくれるに違いない。情けは人の為ならず、だ。この世知辛い社会を生き抜くには、善意だけではやっていけないのである。

 あと、ムコニャにはしっかりと出世して、今までの苦労を報いて欲しいです、はい。頑張れロケット団。私はキミたちを応援しているぞ。

 

「ふぅ……お疲れ様、皆♪」『ピッピィ♪』『ブゥ~ン♪』『ニャゾ~♪』『クッケェ~ン♪』

 

 ムコニャを見送った後、頑張ってくれたポケモンたちを回復し、労ってあげる。捻くれていようが何だろうが、皆みんな可愛いんじゃ~♪

 

「さてと……行くか!」

 

 そんなこんなで、お月見山クリア。

 アイテムを回収しつつポケモンを捕まえたり、トレーナーを処刑したりしつつ先へ進み、遂にハナダシティへ。

 

「目指すはハナダジム! 次も勝つよ、アカネちゃん!」『ピッピ~♪』

 

 さぁ、お次はハナダジム。お転婆人魚カスミとのジム戦、行ってみよう。




◆シン・トレーズ

 主人公の幼馴染にしてライバルキャラ。カントー系イッシュ人の父親とカントー人の母親を持つハーフ。純朴な優しさを持つ好少年だが、ホラー系は大の苦手。心霊番組を見てしまったが最後、夜は一人でトイレに行けない。可愛いね。
 旅立ちの日を契機に何処か変わってしまった幼馴染に少し思う所はあるようだが、それでも彼女の事を純粋に想っている。


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ゴールデンボールブリッジとハナダのマイ☆ステディ!

アオイ:「ゲーフリって結構ギリギリを突いて来るよね」


「ここがハナダシティ……」

 

 ハナダシティ。水色の街。

 町を囲うように水路が巡っているのが特徴で、そこそこ発展している為、建造物も多い。片田舎をイメージしてもらえると分かりやすいだろう。個人経営の自転車屋とかあるし。

 名所は街中よりも外に多く、勝ち抜き戦を強いられる「ゴールデンボールブリッジ」、一押しのデートスポット「ハナダの岬」、そのすぐ近くにあるポケモンマニア「マサキの家」。ここら辺もスーパーやコンビニが町の端に寄りやすい片田舎らしさが出ている(偏見)。

 実を言うともう一つ名所があるのだが、そこは殿堂入り後にしか入れないので、今は考える必要はないだろう。

 

「さてと……」

 

 このまま金の玉ブリッジに向かうと、100%戦闘になる。歩き疲れた身としては遠慮願いたい。

 まずはポケセンで回復してから、自転車屋にでも行こうかな。ハートの鱗を回収しておきたいからね。

 

 ハイ、チャンチャンチャチャチャン♪

 

 よし、回復完了、鱗の回収も終了。好感度アップの噴水には500円を投了。コラッタはアローラでアリーヴェデルチ。空き巣に入られた民家は立ち入れないので今は無視。代わりに別の民家でフシギダネを頂いておいた。やっぱり捕まえ過ぎだよなぁ。

 さぁて、街中のイベントは一通り熟したし、サクサクっと金の玉を貰いに――――――、

 

「いや、待てよ?」

 

 そう言えば、ここのポケセンって、確か相棒技を覚えさせて貰えるんじゃないっけ?

 イーブイもピカチュウも持ってないけど、相棒はいるから、技くらい教えて貰える筈……だと思いたい。行ってみない事には分からないけど。

 ……ってな訳で、ポケセンに逆戻り。マーベラスなお兄さん、相棒技おせーて。

 

「君のピッピに相応しいマーベラスな技はこれだ!」

 

 さっそくマーベラスお兄さんからアカネちゃんの相棒技を紹介して貰ったのだが、

 

「コズミックパンチ」……タイプ:はがね、威力100、命中85。30%の確率で自分の防御と特防が上がる。

 

 あれ? これって確か、シンくんとの初戦で指を振る時に出た、あの謎パンチじゃね?

 内容的に、没収されたコメットパンチとコスモパワーの折衷技って所か。命中率にさえ目を瞑れば、使い勝手はかなり良い。シンくんの相棒プリンへの対抗策にもなるし、覚えない理由はないだろう。

 つーか、あの土壇場で相棒技を引いてたのかよ、アカネちゃん……。

 さて、何を忘れさせようかな。指を振るは何故か外せないとして――――――やっぱり、頭突きかな。もうノーマルじゃないしね。小さくなるも度忘れも、外すには惜しい。

 という事で、アカネちゃんは頭突きを忘れて、新しくコズミックパンチを覚えた。いきなりの大技である。相棒の力ってすげー。

 よし、これで今度こそイベントは消化し終えた。いよいよ以てフグリ橋に、

 

「ポ……しゃ……うひぃいいいっ!」

 

 行こうとしたら、シンくんが涙目になりながら勝負を仕掛けて来た。何でやねん。

 

「うひぁーっ!」『ポピョン!』

 

 初手はいつものポッポ。こっちはハヤテをぶつけておくか。

 

「ハヤテ、「ネコにこばん」で目晦ましてからの「ずつき」!」『ホォォクゥゥン!』

 

 うーん、何か最近、猫に小判が砂かけやフラッシュみたいな使い方になってきてるな。実はこれも相棒技的な特殊効果でもあんのかな?

 

『ポッポヤキ!』

 

 おっと、頭突きを躱して翼で打って来たぞ。原作よりもレベルが高いみたいだな。少なくとも15は超えている。ハナダジムのミッションが「レベル15以上のポケモンを見せる」事だから、違和感はない。

 というか、ちゃんと指示しろよシンくん。ポッポが可哀想だろ。

 

「ハヤテ、「オウムがえし」」『ケェーン!』

『ポァッ!』

 

 むろん、主人の指示を欠いたポケモンに負けるようなハヤテではなく、オウム返しで反撃しつつ、追加の猫に小判で仕留めた。一応物理技として認識されてるのね。

 

『ダネフジィッ!』

 

 次に繰り出されたのは……フシギダネ? ナゾノクサじゃなくて? その上アニメ声だと?

 まぁいいや。くさタイプじゃハヤテは倒せないよ。

 

「「ネコにこばん」で牽制しながら、「つつく」攻撃!」『カァーッ!』

『ダネネェッ!』

 

 さっきと同じように、猫に小判からの攻撃技。フシギダネも蔓の鞭で必死に迎撃して頑張ったものの、それに気を取られている間に本命を食らってしまい、倒れた。ダメージ的に野生産の個体らしい。どうりでポッポのレベル高いと思ったよ。

 

『………………!』

 

 最後に出て来たのは、もちろん相棒のプリン――――――、

 

『ピッカァッ!』

 

 ではなく、ピカチュウだった。何でだよ!?

 マ、マズい、これはさすがに想定外だ。

 どう足掻いても勝てないし、ハヤテには悪いけど、ここは一発耐えてからの反撃で少しでも削っておいて、死に出しのヒナゲシちゃんで逆転を……。

 

『ピカピカピカ、ピカチュウ!』

『ホォクァッ!』

 

 しかし、アクセルを効かせた急所攻撃――――――「ばちばちアクセル」で一発KOされてしまった。

 こいつ、相棒ピカチュウなのかよ! ズ、ズルい! 私は相棒イーブイ持ってないのに! 一体どこで手に入れたのか、後で詳しく!

 ……じゃなくて、マジでヤバいぞこれ。技を覚えるのを優先して進化させてこなかったのが、完全に裏目に出ている。相棒系のポケモン相手に、通常個体のタネポケで勝てる訳がない。種族値が二倍くらい違うからな。

 

「ごめん、ヒナゲシちゃん!」『ニャゾォ!』

 

 仕方ない。ヒナゲシちゃんをリリースして、少しでも削るしかないだろう。

 幸い、ヒナゲシちゃんには毒の粉がある。電気技も通りにくい。時間稼ぎには持って来いである。

 というか、彼女を犠牲にして活路を見出すしか、今の私に出来る事はないのだ。本当にごめんね、ヒナゲシちゃん……。

 

『ニャゾゾッ!』

 

 だが、ヒナゲシちゃんはやる気満々である。

 そうだよね……そう来なくっちゃ!

 

『ピッカァッ!』『ニャゾォッ!』

 

 再びばちばちアクセルを仕掛けてきた相棒ピカチュウの一撃を、鈍足な筈のヒナゲシちゃんが紙一重で躱し、すり抜け様に毒を浴びせた。

 

「よし、良いぞ! 更に「メガドレイン」!」『オニャノコォッ!』

 

 相棒ピカチュウが三度ばちばちアクセルを発動、今度はクリーンヒットしたのだが、抵抗力の関係でさすがに一発では落とされない。

 さらに、先手を取られる事を見越したメガドレイン(現在レベル22)によって、ヒナゲシちゃんの体力が回復する。

 

『ピカチュゥ……』

 

 毒のダメージも相俟って、遂に相棒ピカチュウが倒れた。あ、危ねぇ……。

 

『プリャァッ!』

 

 そして、ようやくシンの相棒プリンが登場。既に殺る気が漲っている。弱ったヒナゲシちゃんじゃ荷が重いか……。

 

「戻って、ヒナゲシちゃん! 行けっ、アキトくん!」『ブゥゥン!』

 

 ここは同じ相棒ポケモンのアカネちゃん――――――ではなく、何だかんだでレベルが22に上がって毒突きを覚えたアキトくんでガンガン攻めてやるぜ!

 

「アキトくん、「どくづき」!」『スピァッ!』

 

 さっそく使ってみました。LPLEの環境下でフェアリーの弱点を真面に突ける、貴重な毒技である。

 

『プリャン!』

 

 しかし、毒々しい両手の針がクリーンヒットしたにも関わらず、相棒プリンは落ちなかった。チクショウ、やっぱり種族値の差がキツい。毒にも出来なかったし。

 

『プ~ププゥ~プ~プリ~ン♪』

 

 すると、相棒プリンが歌う……否、第一の相棒技「ふわふわドリームリサイタル」でアキトくんを眠らせてしまった。

 幻のリサイタルホールを召喚し、魅惑の歌声で相手を二体まで眠り状態にさせる命中率80%の催眠技――――――ようするに、相棒プリン専用のダークホール(弱体化前)だ。何て恐ろしい技を使ってきやがる。

 だが、現状では相棒プリンに火力はない。ここは素直に引いて、アカネちゃんに任せよう。

 

「頼んだよ、アカネちゃん!」『ピッピィッ!』

 

 満を持して、アカネちゃん登場。

 

『プ~プリ~ン♪』

 

 その瞬間、二度目のふわふわドリームタイムが発動。抗えぬ睡魔がアカネちゃんを襲う。

 

「起きろ、アカネちゃん!」『ピッピャァッ!』

『プリャ~!』

 

 しかし、すぐに目を覚まし、覚えたばかりの相棒技コズミックパンチで攻撃。前回と同じく、流星を纏った鋼の拳が相棒プリンを沈めた。さすがはアイアンテールと同威力。破壊力が半端じゃなかった。アキトくんの毒突きのダメージも込みだろうが。

 

「ふぅ……」

 

 ど、どうにか勝てた。一歩間違えたら目の前が真っ暗だったよ。これはもう、ライバル(笑)なんて言えないな。

 

「……あー、えーっと、取り乱して悪かった。らしくないよな」

 

 バトルも終わり、ようやっと落ち着きを取り戻したシンくん。それはそうと、一体どうした。

 

「この先にあの有名なポケモンマニアが住んでるって言うから、珍しいポケモンがいるかなって、行ってみたんだ。でも、そこにいたのは……」

 

 彼の話を要約すると、喋るポケモンがいてビックリしたらしい。

 ああ、例のマサキイベントか。初見じゃビビるわな。犬が喋るようなもんだもん。私は事前知識が有るのと喋るニャースを生で見ているから、別に平気だけど。

 

「ひぇぇ! 話している自分が自分で怖くなる! アオイも近付くなよー!」

 

 そう言い残し(ついでに情けない悲鳴を残し)、シンくんは猛ダッシュで去って行った。いや、さすがにビビり過ぎやろ。

 結局、彼が一体どうやって相棒ピカチュウを見付けたのか聞きそびれたが、この場合は仕方あるまい。

 ――――――よし、今度こそ男の子ブリッジを攻略するぞ!

 

「五人勝ち抜けば、豪華な賞品が貰える! さて、お前に抜けられるかな!?」

 

 やたら豪華な橋の入り口にて、第一の刺客・虫取り少年のケンスケが勝負を仕掛けて来た……のはいいが、やはりさっきの死闘の後だと、はっきり言って温い。温過ぎる。他の連中も同様。全員がほぼレベル10だからなぁ。

 最後に金の玉で入団を勧めてくるロケット団の下っ端をボコボコにして、何事もなくクリア。適正レベルって大事よね。

 むろん、25番道路のモブトレーナーにも楽勝快勝で進み続け、マサキの家へ。ニドリーノと合体していた彼を転送装置で分離して、そのお礼にサント・アンヌ号のチケットを貰った。ついでに伝説の三鳥の姿も図鑑に登録しておく。

 うーん、実に粛々としたイベント進行。深みも凄みもないシュールギャグストーリーだから、多少はね?

 よしよし、これで近場のイベント消化は終了。回復も済んだ。あとはカスミに勝つだけである。

 という事で、お邪魔しまーす。

 

「おーす、未来のチャンピオン!」「こんにちはー。ハイ、これ相棒です」

 

 堂々のレベル24のアカネちゃんを見せ付けて、課題をクリア。左右に飛び込み台がいくつも配された、遊泳施設のようなジム内を進む。ビキニのお姉さんがエロ過ぎるんじゃ~い♪

 ちなみにこのビキニのお姉さん方、原点のLPLEと違い、名前も容姿もアニポケのニート三姉妹と同じだった。カスミがジムリーダーを務めている辺り、アニポケ以上に頭が上がらないのかもしれない。

 こうなって来ると、この世界が「LPLEと限りなく近い、アニメ要素もそこそこある平行世界」である可能性も出て来たな。どうでもいいけど。

 

「ふぅ……」

 

 うーむ、苦戦の欠片もなかったわね。ヒナギクちゃん無双でしたよ。やはりメガドレインが強過ぎる。さっきは進化させなかったのが裏目に出たけど、やっぱり切り札の一つくらいは確保しておきたいし、結果論ではあるが、進化しなくて正解だったろう。ニートが育成サボってただけの可能性もあるけど。

 そんなこんなで、ラストバトル。ハナダジムのジムリーダー、カスミの登場だ。

 

「キミはポケモンを育てる時、何かポリシーがある? ワタシのポリシーはね……みずタイプのポケモンで攻め手攻めて攻めまくる事よ!」

 

 オレンジ色の髪を短めのサイドテールで纏めた、勝気な雰囲気の美少女。ただし胸はない。

 アニメで幾度と見て来た、へそ出しの黄色い超ミニなノースリーブTシャツにデニムのホットパンツを穿き赤茶色のサスペンダーで吊っているという、実に露出が高いながらもボーイッシュな格好は、間違いなくLPLE版のカスミである。

 タケシやムコニャに引き続き、アニメのカスミをこうして目の前にすると、やっぱり感動するなぁ。

 

「さぁ、世界の美少女、カスミ様が相手になるわ! 行くわよ、マイ☆ステディ!」

 

 ――――――ジムリーダーのカスミが勝負を仕掛けて来たっ!

 

「GO、コダック!」『コァゥン?』

 

 おっと、初手はどう見てもカモノハシなコダック(Lv18)か。アニポケからの逆輸入でヒトデマンから変更になってるんだよね。確かこいつ念力覚えてるから、ヒナゲシちゃんやアキトくんじゃキツいか。

 

「ハヤテ、キミに決めたっ!」『ホォァクゥゥン!』

 

 となれば、ノーマルでオールラウンドなハヤテ(Lv24)が先発に相応しい。誰も電気技覚えてないからね。弱点は突けないけど、コダックならごり押しで何とかなるだろう。

 

「ハヤテ、いつもの!」『ケケェーン!』

 

 いつも通りの猫に小判目晦ましからの頭突き攻撃。描写的にこの子が一番の相棒みたいなノリだけど、一番はアカネちゃんなんです、信じて下さい。

 

「コダック、「かなしばり」!」『コダッ!』

 

 すると、コダックが金縛りで反撃。不可視の鎖がハヤテの脳神経を一時的に支配し、牽制用の猫に小判が封じられた。

 

「続けて「ねんりき」よ!」『コァコァッ!』

『クケェーン!』

 

 さらに、追撃の念力。空間が揺らぎ、ハヤテを打ちのめす。耐久力の無いハヤテには結構効く。

 

「「はねやすめ」!」『クゥ……』

 

 だが、羽休めだ。焼け石に水って感じだが、金縛りを解く時間稼ぎくらいにはなるだろう。

 

「コダック、休ませちゃ駄目よ、畳み掛けて! 「ねっとう」よ!」『コバァッ!』

 

 先手必勝のスピード勝負を好む性格だからか、カスミはすぐさま熱湯で畳み掛けて来た。三割の確率で火傷にしてくる、ほのおタイプ涙目な高性能みずタイプ技である。

 しかし、もう少し考えて攻撃した方がいいと思うぞ。ゲームじゃないんだからね。

 

「……今、「オウムがえし」!」『ホォォクァッ!』

「くっ……!」『クァァ……』

 

 と、ハヤテのオウム返しが発動。熱湯を撃ち返した。

 結果、双方火傷を負う、痛み分けとなった。

 

「まだよ! 火傷で攻撃力が落ちても、特殊攻撃なら関係ないわ! コダック、もう一度「ねっとう」!」『クァッガッ!』

「躱して戻れ、ハヤテ!」『ケェアーン!』

 

 攻め攻めのカスミはそのまま攻撃を続行してきたが、付き合ってやる筋合いはないので、ハヤテに「かわせっ!」させてから、ボールに戻す。繰り出すのは我がエース、アカネちゃんだ。

 

「アカネちゃん、「ゆびをふる」!」『ピッピカァーッ!』

 

 出合頭に指を振り、雷パンチを当てていく。安心と信頼の指を振るパンチである。

 

『キュー……』「戻って、コダック!」

 

 さすがに弱点を突かれてはどうしようもなく、弱っていたのも相俟って、コダックは倒れ伏した。

 

「今度はアナタよ、スターミー! マイ☆ステディ!」『ギュヴォルリリッ!』

 

 そして、代わりに繰り出されるは、カスミのエース・スターミー(Lv21)。紫色の星を二つ重ねた幾何学的ボディと宝石のような真っ赤なコアという、明らかに地球外生命体としか思えない容姿が特徴の、みず/エスパーの速攻アタッカーだ。さすが謎のポケモン、不思議過ぎる。

 事前情報を信じるならば、少なくとも熱湯とサイコウェーブを持っているだろうが、今までの傾向からしてあまり当てにはならない。レベルも21あるし。油断せずに行こう。

 

「スターミー、「ねっとう」!」『スタァッ!』

 

 うーむ、相変わらず早い。先手を取られた上に火傷を負わされてしまった。

 つーか、ここみずタイプのジムだよね? 何でここまで火傷負わされるの? うぉーす、火傷直しの用意はいいか!? 良くねぇよ!

 

「アカネちゃん!」『ピピィッ!』

 

 しかし、私を悲しませまいとアカネちゃんが気合で火傷を治し、指を振るを発動。またしても雷パンチを引き当て、その上で麻痺も叩き込んだ。とんでもない剛運である。

 

「もう一回よ!」『ピイッピチュ~!』

 

 さらに、先手を取れるようになったアカネちゃんが再び指を振り、今度はただの雷を発動。どう見てもサンダーでブレイクしそうなモーションで二億ボルトの稲妻をスターミーに食らわせる。

 

『ヘァッ……!』「スターミー!」

 

 よしよし、スターミー撃破だね。エース対決はアカネちゃんの勝ちである。

 さーて、さっそくブルーバッチと技マシン29の熱湯を――――――、

 

「フフッ……やるじゃない! さっきの子といい、骨のある挑戦者ばかりね! そんなアナタには、ワタシの切り札を使わせてもらうわ!」

「へっ?」

 

 あれれ~、終わりじゃないのぉ~?

 

「出番よ、アズマオウ! マイ☆ステディ!」『ズマァオヴッ!』

「何ィ!?」

 

 ア、アズマオウだとぉ!? そこはトサキントじゃないのかよ!

 しかも、レベルは25。確実に滝登りを自力習得している。進化レベルに達していないが、6番道路で捕まえたのだろうか?

 

「驚いてる場合じゃないわよ! アズマオウ、「つのドリル」!」『アズァッ!』

「うっそぉん!?」『ギエピー!』

 

 その上、早覚えの個体なのか、ワタルよろしく改造個体なのか、まさかの角ドリルで一撃必殺して来た。さすがジムリーダークォリティ、必中必殺だぜ。ふざけんな。

 ど、どうする!? シンくんに引き続き、今回もまたピンチなんですけど!?

 お、落ち着け、落ち着いて素数を数えるんだ……!

 アズマオウはレベルこそ高いが、ステータス的にはスターミーより弱いし、エスパー技も使えない。角ドリルにさえ気を付ければ、一撃死は回避出来る筈……っ!

 

「アズマオウ、「サイケこうせん」!」『ズママママママッ!』

『ニャゾォ~!』『ブブゥン!』『クケェッ!』

 

 覚えてました。そう言えば基本技にあったねぇ、サイケ光線。アズマオウの特攻種族値は高くないが、そう言う問題でもないだろう、この場合は。

 こうして、私はカスミのアズマオウに四タテされ、スターミーのバブル光線に代わる新たなトラウマを植え付けられたのだった……。




◆ゴールデンボールブリッジ

 皆大好ききんのたまブリッジ。橋に居座るトレーナーたちを撃破すると高額アイテムの「きんのたま」を貰えるが、実はロケット団の新人勧誘の場でもある。モデルはどう考えてもあのブリッジだが、何故にボールを付けてしまったのか。
 ちなみに、ここを抜けるとハナダの岬に行けるのだが、ここはここで色々と突っ込見所満載のイベントが待っている。


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リベンジマッチとサント・アンヌ号

アオイ:「そう言えば、カクタス号って何の為に造られたんだろうね?」


「チックショーッ!」

 

 目の前が真っ暗になった私は、所持金の半分を渡しつつポケセンへ向かい、アカネちゃんたちを復活させた。

 ――――――嗚呼っ、クソッ、マジで悔しい!

 確かに気の緩みはあった。道中のトレーナーが雑魚過ぎて、何とかなるだろうと慢心していた。だからってアズマオウでドリルゲーはないだろう。

 ……いや、やっぱり油断した私が悪いな。アニポケ要素がより濃くなったって事は、LPLE独自の縛りを加味しても、トサキント系を使って来ない保証などない。本来ならない早覚えの概念もあったのだし、アズマオウが想定外の戦法を使う可能性を考えもしなかった、私の驕りが今回の敗北を招いたのだ。先入観って怖いね。

 

「……よっし!」

 

 だが、いつまでもウジウジ悩む程、私の精神年齢は低くない。見た目は年頃でも、心はとっくに大人のお姉さん(25)なのである。

 負けたのなら、それを糧として、次に勝てばそれでいい。ジムリーダーは逃げも隠れもしないのだから。

 そうと決まれば、ガンガンポケモンを捕まえて、どんどこレベルを上げて、技レパートリーを揃えるとしよう。ポケモン廃人の意地、舐めるなよっ!

 

「行けっ、モンスターボール!」

 

 私は売れる物を売ってお金を稼ぎ、ボールを買い貯めてからお月見山へ引き返し、ポケモンを捕まえまくった。

 

「痛っ……!」

 

 途中、右肩を痛めてしまったので、左手に持ち替えて続投。こんなもの、不出来なトレーナーのせいで全滅したアカネちゃんたちの痛みと悔しさに比べたら、屁でもない。

 結局、両腕が上がらないくらいにボールを投げ続け、手持ちの平均レベルが30程になった所で、ようやく止めた。

 

「うぐ……ぐ……!」

「馬鹿、何やってんだよアオイ!」

 

 というか、疲労困憊で倒れてしまい、更には、いつまでも追い付いて来ない私を心配したシンくんに助け起こされるという、かなり恥ずかしい醜態を晒す破目になった。廃人に運動なんて以ての外だった……ホント、何やってんだアオイ!

 

「ほれ、傷薬。人間にも結構効果があるから使えよ」

 

 ポケセンの二階に私をおんぶで運び終えたシンくんが、手持ちの良い傷薬を差し出してきた。これを持っているという事実が、彼との進捗具合の差を如実に語ってくる。バッチの個数や進行度合いでFSで買えるアイテムが変わってくるからね。

 正直、悔しい。無様な姿を晒し、ライバルの手を煩わせ、施しまで受けるなんて。どうやら私は自分が思っている以上に負けず嫌いな子供のようだ。

 

「ゴメン、脱がして塗って」

「はぁっ!?」

「肩がね、全然上がらないの……」

 

 しかし、心境云々以前に、物理的に彼のお世話になるしかなかった。悔しい……でもっ(ビクンビクン!

 

「うぅぅ……しょうがねぇなぁ!」

 

 顔を真っ赤にしながら、それでも恐る恐る上着を捲り、患部に良い傷薬を縫ってくれるシンくん。恥ずかしいのは私も一緒なんだよ。いくら仰向けとは言え、異性に素肌を晒すんだから。

 

「おおーっ、科学の力ってすげーっ!」

 

 すると、みるみる肩の痛みが引いていき、むしろ前より丈夫になっているような気さえする。

 

「ドワォッ!? 馬鹿ヤロウ、起き上がるなぁ!」

「キャーッ、エッチ!」

「オレのせいじゃなくね!? いいから服をちゃんと着ろ!」

 

 喜びのあまり、結局前も晒してしまった……もうお嫁に行けない!

 

「……ありがとね、シンくん。私、もう行くわ」

 

 まぁ、リベンジには行くんですがね。

 

「お、おい、もう少し休んだ方が……」

「無理。この鬱憤、すぐにでも晴らさないと、今夜は眠れそうもないし」

 

 ストレスは安眠の敵だからね。今夜も安心してグッスリと眠る為にも、倒させてもらうわよ、カスミ!

 

「あーもう、分かったよ! だけど、オレもついていくからな! またぶっ倒れられても敵わないし……」

「OK」

 

 ズドンと笑顔で応え、私たちはハナダジムへ向かう。気付けば外はもう朝。徹夜で投げてたのか、私。

 だが、この戦いで報われる。そう信じている。

 

「――――――また来たのね! なら、何度でも倒してあげるわ! それがジムリーダーの役割ですもの! さぁ、掛かってらっしゃい! マイ☆ステディ!」

「しゃーっ、オラーッ!」「頑張れ、アオイ!」

 

 ――――――ジムリーダーのカスミが勝負を仕掛けて来たっ!

 

「行って、コダック!」『カァモニョハシッ!』

「殺れっ、ヒナゲシちゃん!」『ニャゾ~ン!』

 

 初手はコダック(Lv18)とヒナゲシちゃん(Lv30)。レベル差が酷いが、知った事か。進化させていのも含めて、私の意地なんだよ、これはっ!

 

「ヒナゲシちゃん、「ムーンフォース」!」『ニャゾゾゾッ!』

『ダッコォッ!』「コダック!?」

 

 ステータスが同レベルでも、レベルの差が勝敗を分ける。ようやく習得したムーンフォースが、コダックを一撃で仕留めた。

 どうだ、これがお月見山で肩を壊し掛けてまで積み上げた、努力の結晶よっ!

 だが、慢心はしない。所詮、コダックは斥候。本命たるスターミーやアズマオウは、レベル差があってもステータスでは劣っているだろう。

 だから、全力で勝ちを取りに行くわっ!

 

「戻って、コダック! 行きなさい、スターミー! マイ☆ステディ!」『グギュルァアアヴン!』

 

 出たな、カスミのエース、スターミー!

 

「戻って、ヒナゲシちゃん! 雪辱を果たせ、ハヤテ!」『ホォクゥゥン!』

 

 こっちはハヤテ(Lv32)だ!

 

「スターミー、「ねっとう」!」『ヘァッ!』

 

 チッ、さすがに素早いな。11も差があって、先手を取れないとは。

 

「ハヤテ、避けて「こうそくいどう」!」『ケァーッ!』

 

 しかし、積み上げた信頼度は、以前とは段違いである。当たり前のように「かわせっ!」を実行しつつ、高速移動を積むハヤテ。

 

「なら、面攻撃で逃げ道を塞ぐまでよ! 「サイコウェーブ」!」『スタタミィイン!』

 

 すると、今度は攻撃範囲が広めのサイコウェーブで撃ち落としにきた。さすがはジムリーダー、判断力が高い。

 

「ハヤテ、「オムがえし」で相殺してから、「ネコにこばん」で目晦まし!」『ケケェン!』

 

 ならば、こっちも面攻撃だ。波紋同士が干渉し合い中和され、突破した小判の雨あられがスターミーに降り注ぐ。大したダメージではないが、目が眩んで命中率が下がったので、問題はない。やっぱり泥掛けだよな、この技……バグ?

 まぁいい。使える物は使ってやる。

 そして、この新技で勝利をもぎ取ってやる!

 

「食らわせろ、「ドリルくちばし」!」『ホォォクゥゥン!』

『ジュワァッ!』「スターミー!」

 

 ハヤテのドリル嘴が、スターミーを捉えた。赤いコアにヒビが入り、電池が切れるようにスターミーが引っくり返る。スターミー撃破、である。

 

「やるじゃない! なら、ワタシも切り札を使うわ! 行って、アズマオウ! マイ☆ステディ!」『ズマァオオヴッ!』

 

 最後はカスミのジョーカー、アズマオウ(Lv25)。前回は角ドリルとサイケ光線で四タテしてくれたが、今回はそうは行かないぞ!

 

「出番よ、アカネちゃん!」『ピッピィッ!』

 

 私はハヤテを引っ込め、アカネちゃん(Lv32)を繰り出した。今度こそケリを付けてやる!

 

「なるほど、レベルを上げて「つのドリル」を封じて来たわね! だけど、その程度で勝てると思ったら大間違いよ! アズマオウ、「どくづき」!」『ズマォヴッ!』

『ギピーッ!』「アカネちゃん……!」

 

 と、アズマオウの無慈悲な毒突きがアカネちゃんを襲う。くさタイプ対策か……!

 

『ピッ……ピィッ!』

「なっ!? 落とせないですって!?」

 

 だが、倒れない。悔しさをバネに強くなったのは、私だけじゃないのよ!

 

「食らいなさい、「ゆびをふる」!」『ピッピャーッ!』

『アズマァアアッ!』「ア、アズマオウ……!」

 

 さらに、マイフェイバリット技、指を振る攻撃。今回はまさかの地割れ。一撃必殺をやり返した形になる。物凄く地面からドローしそう。モンスターではない、神だっ!

 とにかく、これで今度こそジム戦は終了。私たちの勝ちだ。

 

「フフッ……負けたわ。アナタたちにもポリシーって物があったようね。さぁ、これがリーグ認定証のブルーバッチよ!」

 

 そして、ブルーバッチと熱湯の技マシンを手に入れて、ハナダジムクリアである。はぁ、長かった……。

 

「おめでとう、アオイ。よく頑張ったな!」

「ありがとう。正直、私もピカチュウが欲しかったわ……」

 

 シンくんの称賛に、苦笑いで応える私。うん、マジで欲しいですピカチュウ。それが駄目ならせめて相棒イーブイを下さい……。

 

「なら、オレとピカチュウの出会い、話してやろうか?」

「喜んで♪」

 

 そんな感じで、シンくんの話を聞きつつ、ポケモンセンターに戻る私たち。やり切ったせいでどっと疲れたし、今日はここまで。冒険の続きは明日にしよう。

 こうして、私たち二人の一日は長閑に過ぎていった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 つぎのひっ!

 

 昨夜はお楽しみでしたね。

 ……いや、男女のじょうじぃ、とかではなくてですね、普通に子供らしい会話だけです、本当なんです、信じて下さい。

 まぁ、それはともかく、次の目的地はクチバシティだ。ヒジュツ・ケサギリを手に入れなきゃいけないし、クチバジムにも挑まなければならない。やる事が盛りだくさんである。

 とは言え、その前にクリアしなければ問題もあるのだが。

 

「な、何スカ、アンタら!?」「悪党がドロボーしちゃ悪いってのかよ!」

 

 それが空き巣の犯人……ロケット団の下っ端の撃破、及び技マシン10「あなをほる」の入手だ。クチバシティに行くには、ここを避けては通れない。さっさと片付けてしまおう。

 

 ――――――ロケット団の下っ端のハルとフィロが勝負を仕掛けて来たっ!

 

 あ、こいつら名前有りなのね。原典だと一人の名無しなのに。やっぱり私と言う異物がいるせいで、本来の流れからズレて来ているのかな?

 ま、いっか。シンくんもいるし、ちょうどいい。このままダブルバトルである。

 

「行けっ、ピジョン!」『ピジョリリィン!』

「殺れっ、アキトくん!」『ホォォクゥン!』

 

 こちらの面子はピジョンとアキトくんの序盤鳥組だ。

 

「ぶっ飛ばせ、コラッタ!」『ヂュウッ!』

「やっちゃえ、スリープ!」『ロリダロリダ、グフフ!』

 

 対する下っ端共のポケモンは、アローラコラッタとスリープ。おい、鳴き声……。

 とりあえず、気持ち悪いので纏めて消去。文字通りレベルの差を見せ付けてやった。それから奴らがパクっていた技マシンを持ち主である民家の家主に渡し、感謝の気持ちとして手に入れておく。よくこんな見知らぬ他人に大事なマシンを渡せるな。盗まれたままでも良かったんじゃね?

 とにかく、これで5語番道路に進める。民家を土足で上がり、デカデカと開けられた壁の穴を通って、段差を楽しく越えながら南下していく(もちろんポケモンを捕まえながら)。

 途中、ヤマブキシティへのゲートを見付けるが、お茶を手に入れないと通れないので、今は無視してクチバシティを目指す。

 長い長い地下通路で落とし物をネコババしながら突き進み、出た先の6番道路にいる六人の雑魚を各個撃破して、ついに――――――、

 

「ここがクチバシティ!」『ピピィ♪』

 

 クチバシティに到着した。まんま港町である。

 ここで有名なのは、会長の話が長いポケモン大好きクラブ、ビリビリ野郎のマチス率いるクチバジム、すぐ近くの地下洞窟ディグダの穴。町外れにばかり名所があったハナダシティと違い、こちらは街にも見所がある。

 また、港には豪華客船サント・アンヌ号が停泊していて、居合い切りの代わりであるヒジュツ・ケサギリもここで学ぶ事が出来る。船長の船酔いによる嘔吐現場(レインボーロケットだん)と引き換えに。初代から思ってたけど、選ぶ長を間違っていると思う。

 

「実は今、サント・アンヌ号って豪華客船が港にいるんだぜー! チケットないから乗れないけどな!」『プップゥリ~ン♪』

 

 自慢げに言うシンくんだが、指を咥えて見ているしかないのだから恰好が付かない。その口振りとい、所持品の質の良さといい、さてはクチバシティで躓いてるな。チケットないとクリア出来ないもんね、クチバジム。この仕様、何とかならない物か。船長いなくなったら後続はどうすりゃいいんだよ。

 まぁ、今回は何とでもなるけどね。

 

「そーなのかー。そんなキミに、このチケットをプレゼントだ!」『ピッピッ!』

「えーっ!? 何で持ってんの!? って言うか、いいの!?」『プリャ!?』

「マサキに貰ったのよ。元に戻したお礼にね」

「ほへー」『プリーン』

 

 呆けた顔でチケットを受け取るシンくん。これで彼もヒジュツ・ケサギリを習得する事が出来る。

 さらに、今回は別口ではなく、私と一緒に乗船だ。これでサント・アンヌ号の中を、二人で楽しく散策出来る。やったねシンちゃん!

 ……あれ、これ普通にデートなのでは?

 

「じ、じゃあ、乗ろうか?」

「う、うん……」

 

 思わずお互いに顔を赤くしてしまう。ヤバい、意識したら、超恥ずかしい。確実に精神が肉体に引っ張られているなぁ、これ。生娘か私は。

 チ、チクショウ、この私が、こんな年下の男の子なんぞに……っ!

 でもね、言い訳させてくれるなら、異性とか同性とか関係なく、他人とここまで仲良くなったの、初めてなのよ。生まれてこの方ずっとボッチだったからね、私。所謂ゲームだけがトモダチである。自分で言ってて悲しくなるな……。

 と、とにかく乗船よ、乗船! これはあくまで育成ゲームのイベントなの! カードでも遊べるどっかのギャルゲーとは違うんだもん! 

 とりあえず、このままランデブーとかはないから安心して下さい。ポケモンマスターになれないし、後に置いてきぼりを食らう乗船者の事を考えると、次の停泊地は十中八九あそこだろうしね。今の手持ちで超獣(ウルトラビースト)を相手に勝つ自信なんぞないよ。

 

「船だーっ!」『ピッピ~♪』

「海だーっ!」『プリ~ン♪』

 

 金ヅルから報酬を巻き上げつつ船内を見て回り、甲板までやって来ました。船の舳先から見渡す海原って格別だよね。あ、メノクラゲ。

 

「タイタニックッ!」「いや、何してんだお前は!」

 

 豪華客船に乗るとね、ついついやりたくなっちゃうんだ。慌てたシンくんが後ろから抱き留めてきたせいで、本当に例のアレっぽくなっちゃったけど。ぐはっ!

 ちなみに、現在二人揃って貰った船乗り衣装に着替えてます。ハンカチーフはもちろん黄色。セーラー服を脱がさないで。

 さて、そんなこんなで船内のイベントを粗方片付けた私たちは、

 

「それで、オレのプリンも特別な技を覚えたんだよ」「へぇ~」

 

 全回復部屋でまったりしていた。船医のお姉さんが微笑みながら退出していったので、今は二人きりだ。

 いやね、別に何もありませんよ?

 つーか、昼間からイチャコラするとか、節操ないにも程があるだろ。どんなバカップルだよ。

 だので、昨日の続きと言うか、お互いの近況を語り合う、駄弁りを再開していた。シンくんがベッドに端座位、私が仰向けに寝転んでいるという、超だらしない格好で。色々と勘違いされそうなポジショニングだが、間違いはなかったとだけ言っておく。

 ああそう言えば、あの相棒ピカチュウはトキワの森ではなく、ハナダシティ側の4番道路で手に入れたらしい。何でもオニスズメの群れに襲われている所を助けに入ったら、甚く懐かれたとか。アニメかな?

 また、あのフシギダネは予想通り野生産だったようで、オニスズメを片っ端から捕獲していたら、いつの間にか現れていたそうな。という事は、ピカチュウとフシギダネは同時加入だったのか。意外である。

 あれからメンバーの入れ替えは起こっていないが、レベルは格段に上がっており、現状はこんな感じ。

 

◆相棒プリン Lv32:「ふわふわドリームリサイタル」「ねむる」「のしかかり」「かなしばり」

◆相棒ピカチュウ Lv29:「ばちばちアクセル」「10まんボルト」「でんじは」「あなをほる」

◆ピジョン Lv31:「でんこうせっか」「かぜおこし」「すなかけ」「はねやすめ」

◆フシギソウ Lv29:「はっぱカッター」「どくのこな」「せいちょう」「やどりぎのタネ」

 

 うん、原典よりレベルが高い上に、更にえげつない技構成になっている。眠り、麻痺、毒、命中率低下、技封じと、見事に嫌らしい搦め手が揃っているし、これ進化や技マシンの収集が済んだら、とんでもなく化けそう。さすがクチバシティで足止め食っていただけあって、成長性が半端ない。

 これ、対戦したらイライラするんだろうなぁ。使い手の性格は良い奴そのものなのに。

 

◆相棒ピッピ(アカネ)Lv33:「ゆびをふる」「アンコール」「コズミックパンチ」「ムーンフォース」

◆オニスズメ(ハヤテ)Lv33:「ネコにこばん」「ドリルくちばし」「オウムがえし」「こうそくいどう」

◆ナゾノクサ(ヒナゲシ)Lv32:「ようかいえき」「メガドレイン」「ムーンフォース」「どくどく」

◆スピアー(アキト)Lv32:「どくづき」「ミサイルばり」「げきりん」「こうそくいどう」

 

 対する私の手持ちの現状はこんな感じ。あれからゆるーくやっていたので進化もまだだが、レベルと技のレパートリーは結構いい線行ってると思う。ハヤテはとっくに進化出来るが、彼はヒナゲシちゃんと同じタイミングで進化させてあげたい。同期だからね。

 

「スッゲェ頑張ってるじゃん、アオイ。レベルもオレの手持ちより断然上だし、技も良いの揃ってるしな」

「そ、そうかな……?」

 

 やめてよ、普通に照れちゃうから。

 さて、話も一区切り付いたし、そろそろヒジュツを授かりに行こう。いい加減、心臓が持たなくなってきたし。向こうもそうだろうけど、そこは言わぬが華だ。

 

「オボロロロロロロッ!」

「「………………」」

 

 そして、この口からサイケ光線である。今までの甘々な雰囲気との落差が酷い。誰得なんだよこの光景。

 とりあえず、なるべく視界に入れず臭いも嗅がないように気を付けながら、良い傷薬(飲用)をあげて、船長の回復を図る。介護職やってるみたいで嫌だな……。

 その後、無事に復活した船長からヒジュツ・ケサギリを伝授してもらった。凄い船長の面目躍如ね。

 それから、用事を終えた私たちはサント・アンヌ号を降り、旅立つ船を相棒たちと一緒に見送った。

 

「あー、いっちゃった……どうしよう……」

 

 すると、背後から小さな女の子が登場。

 くすんだ金髪を肩口でお下げにした、若干日焼けした白人の幼女。襟口の広いスモックに紺のオーバーオールを穿き、その全てに絵の具が飛び散った、実にだらしのない格好。背中のハム型バッグには多種多様な画材が入っているのだろう。

 言うまでもない。後のフェアリータイプのキャプテン、マツリカだ。可愛いなぁ。

 

「えっと、キミは?」

「わたし、マツリカ。いま、かえりのふねにのりおくれたの」

 

 シンくんの質問にぬぼーっと答えるマツリカちゃん。そんなメリーさんみたいな言い方されても、そうですかとしか返せない。

 

「えにむちゅうで、しゅっこうじかんすぎてた」

 

 そう言えば、そんな設定だったな。ついさっきまで船長がよれよれのオロロロで留まっていたから、惜しかったわね。運がない子だな……。

 

「これからどうするの?」

「わかんない。とりあえず、えはかきたい」

「「………………」」

 

 マジでどうしようか。こんな幼女を置き去りにしたら、どこぞのロリープやロリーパーに攫われかねない。さすがに手持ちはいるだろうけど、あの系統どくタイプ技持ってるからな。

 

「しんぱいしてくれるの? だいじょうぶ、わたしにはこのこたちがいるから……」

 

 こちらの意図が伝わったのか、手持ちを繰り出してきた。面子はバリヤード(Lv28)、プリン(Lv25)、アローラロコン(Lv26)か。

 ……原典よりもレベルが高いとは言え、やっぱり心配になるな。プリンとアローラロコンはタネポケだし、バリヤードじゃあいつらの物理技に対処出来ない。せめて、プリンとアローラロコンが進化するか、ポケモンをもう一匹くらい増やして欲しいところ。

 

「……しんぱいしすぎ。そんなにしんじられないなら、しょうめいしてあげるよ……ちからずくでね!」

 

 どうやら、幼女は激おこぷんぷん丸のようです。マツリカさんもマツリカちゃんだった頃は、人並みのプライドはあるようである。子供特有の我儘とも言えるが。

 

 ――――――ポケモントレーナーのマツリカが勝負を仕掛けて来たっ!

 

「私が行くわ! やったれ、アキトくん!」『ブゥゥウウン!』

 

 という事で、私はアキトくんを繰り出した。ジム戦ではリベンジも含めて活躍させてあげられなかったからね。

 

「いって、バリバリ」『バリォン!』

 

 マツリカちゃんの先発はバリヤード。レベル的にもステータス的にも、負ける要素がまるでない。

 

「アキトくん、「どくづき」!」『ブルァッ!』

『バリリ……!』「バリバリっ!?」

 

 当然の結果だった。等倍とは言え、一致毒突きを耐えられる程、バリヤードの物理耐久は高くないからな。

 さて、こうなると最早、勝負は見えている。序盤虫だからと言ってタネポケに落とされる程脆くはないし、仕留められない程弱くもない。残りの面子はどく技に耐性がないし、一方的な勝負になるだろう。これを蹂躙と言わずして何と言う。

 

「ぬー」

 

 あっという間にアキトくんに無双されてしまい、膨れっ面になるマツリカちゃん。可愛い。

 

「わかった。ひとりじゃあるかない」

 

 それでも、勝負は勝負。自分から吹っ掛けた以上、素直になるしかなかった。

 

「……だから、つぎのびんがくるまで、めんどうみて。わたしのはじめて(のポケモンしょうぶ)、せきにんとって」

 

 しかし、マツリカちゃんは転んでも只では起きなかった。誤解を招くような事を言うなぁ!

 

「うーん……」「しょうがねぇなぁ……」

 

 こうなっては仕方ない。負かしたのはこちらだし、(精神年齢的に)大人として責任とやらを取ってあげよう。

 

「あれ、でも待って……?」

 

 そこで、ハタと気付く。

 

「どうした、アオイ?」

「確かサント・アンヌ号って、一年に一回しかクチバに寄港しないんじゃ……」

「あっ……」

 

 し、しまった、嵌められたぁ~!

 

「ぬふふ、よろしくね、おにーさん、おねーさん」

 

 私たちが頭を抱えるのと、マツリカちゃんが悪戯な笑顔を浮かべるのは同時だった。ぅゎょぅι゛ょっょぃ(強かさという意味で)。




◆マツリカ

 アローラ地方ポニ島出身の天才画家であり、後にフェアリータイプのキャプテンとなる少女。カントー地方にはアローラには無い風景やポケモンたちを描きにやって来たのだが、絵に夢中になり過ぎて船に乗り遅れた。一年に一回しか来ないサント・アンヌ号に。
 子供故の純真な悪戯心に溢れており、シンとアオイの関係を面白がって付いて行くことにした。バトルはまだまだ苦手で、その辺りも勉強したい模様。


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ライトニングタフガイと愛せない馬鹿たち

アオイ:「マチスってイッシュ地方出身らしいけど、イッシュのポケモン全然持ってないよね」


 それからそれから。

 

「おーす、未来のチャンピオン!」

「「こんにちはー」」「あろーらあろーらぁ」

 

 マツリカちゃんの面倒を見る事になってしまった私たちは、仕方がないと諦め、そのままクチバジムに挑む事にした。元々それが目的でサント・アンヌ号に乗船したんだからね。ヒジュツ・ケサギリでミッションの細い木をバッサリですよ。これ、向こう側の解説さんまで切れてないよね?

 

「ばっとる、ばっとる~♪」

 

 滅茶苦茶嬉しそうなマツリカちゃん。曰く「いきいきとしたポケモンたちをスケッチしたい」そうな。何とも画家らしい理由だ。

 だけど、目まぐるしいポケモンバトルを描写なんて、出来るのだろうか。

 

「だいじょうぶ、わたし、みただけでせいしょできる」

 

 葛飾北斎かお前は。富岳三十六景ならぬ、シロガネ三十六景とか描きそう。

 まぁ、描けると言うのなら、好きに描かせよう。危険地帯をウロチョロされるよかマシである。

 さてさて、無事にクチバジムへの挑戦と相成った訳だが……このジム、ひたすらに面倒臭い。相手がではなく、ギミックが、だ。何が悲しくてゴミ箱を必死に漁らなきゃならんのじゃい。

 だがしかし、私たちには相棒がいる。不思議なセンサーで感知すれば、楽勝よ!

 ……それでも十回くらいやり直しになったけど。この戦いが終わったら、私たち、放火するんだ♪

 

「オーッ、アナタたちがキョウのチョウセンシャでスカ! こんなオコドモがアイテとは、おわらいデース!」

 

 出たな、ライトニングタフガイ。実はロケット団の工作員とかじゃないだろうな。

 つーか、子供が相手だからって舐め過ぎだろこいつ。アンビリーボーな喋り方しやがって。マジでムカつくわ。野郎、ぶっ殺してやる!

 

「まずは私から行くわ」「おう、やったれやったれ」「がんばれー」

「HAHAHAHA! ベリーブレイブ、すばらしい! ……ですが、ポケモンバトル、そんなにあまくナーイ! みんなビリビリ、シビれさせてあげマース!」

 

 ――――――ロケット団の、じゃなかった、ジムリーダーのマチスが勝負を仕掛けて来たっ!

 

「GO、マルマイン!」『ヴィリイッ!』

 

 初手は爆弾ボールのマルマイン(Lv30)。原典ではビリリダマだが、今までの傾向が傾向なので、これくらいは想定内である。

 

「行って、アキトくん!」『ブゥゥン!』

 

 私の先発は、マツリカちゃんの時に引き続きアキトくんが勤める。そこそこの特殊耐久と攻撃力を買っての選抜だ。ドリルライナーがないのがちょっと辛いが、ないものは仕方ない。諦めよう。

 

「マルマイン、「10まんボルト」デース!」『ボォォォルッ!』

「アキトくん、耐えて「こうそくいどう」!」『ブブゥーン!』

 

 さっそく10万ボルトを食らってしまうが、どの道初代最速のマルマインを素の速さで追い抜くのは不可能なので、大人しく受けてから高速移動を積んでおく。幸いマルマインは絶望的に火力がないので、一発くらいは耐えられる。麻痺らなくて良かった。

 

「アキトくん、「げきりん」!」『ブヴヴヴヴヴヴッ!』

『マルマレェェン!』「Oh,NO! もどりなサーイ、マルマイン!」

 

 と、速さで追い抜いたアキトくんの必殺技、逆鱗が発動した。専用技以外で最強の威力を誇る物理ドラゴン技である。不一致だが、元々の威力とアキトくんの攻撃力が合わされば、モンスターボールのお化けくらい簡単に仕留められる。

 

「ゆきなサーイ、レアコイル!」『トラコルルイッ!』

「ぶっ飛ばせ、アキトくん!」『ブルヴァアアアア!』

 

 さらに、後続のレアコイル(Lv30)も、そのままブッ飛ばす。

 

「「ラスターカノン」デース!」『コルィィィン!』

『ピァ……!』「お疲れ、アキトくん」

 

 さすがに一撃必殺とは行かなかったが、敵の体力を半分以上削ったので、充分働いてくれたと言える。ド疲れさん。あとはアカネちゃんに任せなサーイ。

 

「殺れ、アカネちゃん!」『オラッピーッ!』

 

 まずは指を振るで炎のパンチを食らわせ、鋼ボディごとレアコイルを撲殺する。

 

「カタキをとるのデース、エレブー!」『ブールゥァッ!』

「同じ所に送ってやれ、アカネちゃん!」『オリャッピ!』

 

 続くエレブーズのマスコットキャラ、もといエレブー(Lv30)にはコズミックパンチをお見舞いしてやった。

 向こうも雷パンチで打ち合いに持ち込んで来たが、コズミックパンチの効果で耐久が上がったアカネちゃんを攻め落とすには至らず、やがて押し負け撃沈する。

 フン、お前はマイナー落ちだ。時代はやっぱりコイキングスよ。

 

「ウヌヌヌヌーッ! もうカンベンなりまセーン! ゆくのデース、マイ・フェイバリット、ライチュウ!」『ライヂュイン!』

 

 いよいよ進退窮まったマチスが繰り出したのは、彼の代名詞、ライチュウ(Lv32)。

 

 ただし、アローラの姿である。

 

 ただでさえ俺ガイルって感じの見た目してる癖に、アローラライチュウ使うなや。出身地的におかしくはないけどさ(※イッシュ地方とアローラ地方は割と近場)。

 

「ライチュウ、「ねこだまし」でヒルませて、「メガトンキック」デース!」『ライチュチュッ!』

『ギエピーッ!』

 

 その上、ピカ版の頃の名残りなのか、バリバリの武闘派だ。さすがストリートファイターの手持ちポケモン、テアーラだぜっ!

 

「イマデース、「サイコキネシス」!」『ヂュワッ!』

『ピピーッ!』

 

 そして、このサイコキネシスである。両刀とかズルい。

 この怒涛の攻めにはアカネちゃんも耐えられず、KOされた。クソッ、やるじゃない!

 

「……行って、ヒナゲシちゃん!」『ニャゾォッ!』

 

 うぬぬ、ヒナゲシちゃんを出したはいいが、勝てる未来が見えない。原種なら対抗出来なくもなかったのに、何でアローラなんだよ、ホント。

 

「むだデース! 「サイコキネシス」に「10まんボルト」デース!」『ヂュルァアアアッ!』

『ニャゾ~!』『ケェーン!』

 

 こうして、私たちはハナダジムに引き続き、またしても全滅の憂き目に遭った。やっぱレベルだけがポケモンバトルやないやなって、思いましたわ。

 

「HAHAHAHA! ショセンはおこども、でなおしてきなサーイ!」

 

 うわっ、何コイツ殺してぇ……!

 

「……仇はオレが取ってやる。お前は、早く回復して来い。リベンジ、するんだろう?」

「うん。……ごめんね?」

「イイって事よ!」

 

 という訳で、偽ガイルはシンくんに任せて、私は出戻るとしよう。

 もう、変に拘ってる場合じゃない。どんな矜持があろうが、勝てなければ全て無意味だ。やはり、“あの子”を連れて来るしかないだろう。

 

 それから、長い時間が経った……。

 

「――――――またかよ、おい」「ごめんチャイナ」

 

 私はまたしてもシンくんにおぶられていた。

 あの後、マチスに対抗する為、近場のディグダの穴でとあるポケモンを育てていたのだが、またまたやり過ぎちゃった結果、前回同様動けなくなった所を、見事に勝ち抜いて帰って来たシンくんに助け起こされた、という訳である。今度はマツリカちゃんというおまけ付きで。

 あーん、はーずかしー♪

 

「それで、次は勝てそうなのか?」

 

 言っても無駄だと思ったのか、それとも彼らしい優しさなのか、シンくんは特にお説教はせず、ただ勝てるのかどうか聞いてきた。

 

「モチのロン!」

 

 自信満々に答える私。おんぶされてるから、締まらないけどね。

 

「ほーほー、これがバカップルかー」

 

 おい、スケッチすんなや。

 

「……そ、それじゃあ、明日に備えて、今日はもう寝るか」

「そ、そーだねー」

 

 マツリカちゃんからの生暖かい視線から意識を逸らしつつ、私たちは眠りに着いた。

 

「いよっしゃあっ!」

 

 そして、次の日。私は帰って来た。にっくきクチバジムに。覚悟しろよ、マチス。今度はこっちが蹂躙してやる……!

 

「オーッ、ショウコリもなくやってきましタカ! でスガ、ナンどやってもム――――――」

「うるせぇ、死ねぇいぁあっ!」

「サイゴまでいわせなサーイ!」

 

 ――――――ジムリーダーのマチスが勝負を仕掛けて来たっ!

 

「マッタク、これだからおこどもハ……キョウイクしてやりなサーイ、マルマイン!」『マルヴァアアッ!』

 

 マチスの先発は、いつも通りのマルマイン。

 

「行っけぇ、アンズちゃん!」『クァアアン!』

 

 対する私の先発は、

 

「ニ、ニドクイン、でスト!?」

 

 色違いのニドクイン(Lv30)、アンズちゃんだ。実は最初の方で捕まえていたのである。使うつもりはなかったから、今の今までボックスに預けてたんだけどね。

 だが、ああも煽られちゃあ、こっちも手段は選んでいられない。じめんタイプでガチガチに対抗してやんよっ!

 

「こうなったら、「じばく」デース!」

「躱せっ!」『クァアアン!』

「NO~!」

 

 まずはマルマインの自爆を「かわせっ!」でスカして、

 

「ヌヌヌ! ならばレアコイル、「ラスターカノン」デース!」

「「あなをほる」!」『クワワワァン!』

「What!?」

 

 鈍いレアコイルを穴を掘るで下し、

 

「エレブー、カタキをとりなサーイ!」

「「あなをほる」!」『ククゥィン!』

「アッー!」

 

 対抗手段がまるでないエレブーを再びマイナー送りにして、エースのアローラライチュウを引きずり出した。

 

「もうユルしまセーン! ライチュウ、「サイコキネシス」!」『ララバァイ!』

 

 さっそくサイコキネシスを食らわせて来るが……アンズちゃんは落ちない。弱点技だろうと、彼女の耐久力なら一発くらいは耐えてくれる。

 

「「いかりのまえば」!」『グィィン!』

『ヂュア……ッ!』

 

 という事で、反撃の怒りの前歯で半死状態に追い込み、

 

「ヤられるマエにヤるだけデース! ライチュウ、「サイコキネシス」!」『ライヂュヂュッ!』

「躱して「かみくだく」!」『クァアアヴォン!』

『ヂュワアアアアッ!』「ライチュウゥゥゥ!?」

 

 さらに、サイコキネシスを躱して、文字通り噛み砕いて瀕死にしてやった。ざまぁ見さらせぇっ!

 ねぇ、どんな気分? ポッと出のポケモン一匹にやられるとか、ジムリーダーとして恥ずかしくないの~ん?

 

「オーノー、まけてしまいましタカ。きたえなおしデース……」

 

 そして、超悔しそうなマチスの顔(とオレンジバッチ&技マシン36「10まんボルト」)を報酬に、クチバジムをクリアした。殺ったネ!

 

「よーし、それじゃ記念に放火しようかぁ!」

「オーノーッ! やめ……やめなサァーイ!」

「気持ちは分かるけど、やめたげてよぉっ!」

「わ~、すっごくみにくいあらそいだぁ~♪」

 

 その後、積もりに積もった恨みつらみを晴らす為に一悶着あったのだが、それはまた別の話。

 放せ、放せっ! 私はこのジムを消し炭にしてやるんだぁーっ!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 べつのひっ!

 

「さて、出発しますか」

「「おーっ!」」

 

 リベンジを果たし、ついでにちょっとだけ燃やす事に成功して気分良く眠った私たちは、日の出と共に新たな旅路へと立った。シンくんとマツリカちゃんも一緒である。

 目指すはシオンタウンのポケモンタワー。そこでロケット団に関わるイベントが待っている。

 しかし、辿り着くまでに恐ろしく遠回りをしなければならない。まずはディグダの穴を抜けてヒジュツ・カガヤキを伝授してもらい、それからハナダシティに戻って9番道路及び10番道路、その先の岩山トンネルを抜け、ようやく到着となる。この間も小イベントが挟まってくるので、更に時間が掛かるだろう。

 それもこれも、ヤマブキシティを通らせてくれないからだ。ホント、お茶ぐらい我慢しろよ、クソ警備員が。

 まぁいいさ。行程が長いという事はレベリングになるし、何より皆とワイワイしながらの旅も乙な物である。せっかくの団体旅行なのだから、この機にいろいろと仲を深めたいものだ。

 

「まずはディグダの穴から……」

「だいすきクラブにはいかなくていいの?」

「あ、忘れてた」

 

 うーん、締まらないな。

 という事で、ポケモン大好きクラブの会長さんの有難い長話を聞き流して「おきがえセット」を頂き、ついでにジュンサーさんから性悪ゼニガメを貰い受け、空手王の意味不明なミッションもこなしてウィンディとペルシアンも入手。アローラなイシツブテもラッシャイ。

 

「あら、久しぶり。ちょっとディグダの穴に用事があるんだけど、一緒に行く?」「アッ、ハイ」

 

 で、何故かクチバに来ていたカスミの案内も受けつつ、ようやくディグダの穴に足を踏み入れた。とは言え、私は既に修行場として使ってたから、初めてじゃないんだけどね。

 

「バウワウ、おっきい」『グワゥン』

 

 ちなみに、貰ったウィンディはマツリカちゃんにあげた。幼女に歩かせるのもなんだし、ライドポケモンとして役立ってもらう事にした。実にジブリな光景である。

 

『ピキュキュ、クゥン!』

 

 おっと、早々にディグダの登場だ。その節はお世話様です。

 

「それじゃマツリカちゃん、捕まえてみようか?」

「うん? わたしがつかまえるの?」

「そりゃあ、トレーナーとして付いてくるなら、当たり前でしょ」

 

 面倒は見るが、甘やかすとは言っていない。自衛手段を確保する為にも、手持ちのポケモンは育てておかなきゃね。

 

「えーい♪」『キュー!』

 

 この後、めちゃめちゃゲットした。さすが後のキャプテン、なかなかやる。

 結果、マツリカちゃんの面子はこうなった。

 

◆バリヤード(バリバリ)Lv34:「サイケこうせん」「ひかりのかべ」「リフレクター」「10まんボルト」

◆プクリン(おやかたさま)Lv33:「うたう」「ねむる」「のしかかり」「かなしばり」

◆アローラロコン(キュウ)Lv33:「ふぶき」「マジカルシャイン」「あやしいひかり」「あなをほる」

◆ウィンディ(バウワウ)Lv50:「じゃれつく」「おにび」「げきりん」「フレアドライブ」

 

 何か一匹だけ桁違いかつ技構成もガチガチだが、人からの貰い物だから仕方ない。レベル以外は最初からこんな感じだったからね、この子。

 むしろ、よくもこんな良個体を譲る気になったな、あの空手王。勿体ないだろに。

 つーか、ニックネーム「おやかたさま」なのかよ、プクリン。将来銭ゲバになりそう……。

 

「出たーっ!」『ピッピィ!』

「「いぇーい!」」『プリリッ!』『バウッ!』

 

 特筆すべき事なく、ディグダの穴を通過した。だってディグダとダグトリオしか出て来ないんだもん。初代と違って、そこまで強敵じゃないし。

 それからヒジュツ・ケサギリで行ける所に行って、アイテムを回収していく。もちろん、リーフの石も。

 

「行くよ、ヒナゲシちゃん!」『ハナァ~ン♪』

 

 さぁ、ようやく進化の時間だぜ、ヒナゲシちゃん!

 

『ラァフリィィィィィッ!』

 

 眩い光が花開くように輝き、ヒナゲシちゃん(クサイハナ)が最終進化形態であるラフレシアに進化する。

 うん、ワタッコの親戚みたいで可愛い。鳴き声はプテラっぽいけど。

 

『ホォグルドォッ!』

 

 むろん、同期のハヤテも不思議な飴を使い、オニドリルへ進化。何だかんだでレベルが40になってしまった。

 

「これからもよろしくね、ハヤテ、ヒナゲシちゃん!」『ケァーッ!』『ラァン♪』

 

 嗚呼、皆良い子だなぁ。こんな采配ミスやらかすようなトレーナーに文句一つないなんて……。

 あ、今の面子はこんな感じです。

 

◆相棒ピッピ(アカネ)Lv42:「ゆびをふる」「アンコール」「コズミックパンチ」「ムーンフォース」

◆オニドリル(ハヤテ)Lv40:「ネコにこばん」「ドリルくちばし」「オウムがえし」「こうそくいどう」

◆ラフレシア(ヒナゲシ)Lv40:「ようかいえき」「メガドレイン」「ムーンフォース」「どくどく」

◆スピアー(アキト)Lv39:「どくづき」「ミサイルばり」「げきりん」「こうそくいどう」

◆ニドクイン(アンズ)Lv38:「どくどく」「かみくだく」「いかりのまえば」「あなをほる」

 

 いやぁ、感無量ですね。元より進化出来ないアカネちゃんを除いて、ようやく皆進化しましたよ。技構成は全然変わってないけど。早くタマムシデパートに行きたい……。

 

◆相棒プリン Lv45:「ふわふわドリームリサイタル」「ねむる」「のしかかり」「かなしばり」

◆相棒ピカチュウ Lv43:「ばちばちアクセル」「10まんボルト」「でんじは」「あなをほる」

◆ピジョット Lv43:「でんこうせっか」「エアスラッシュ」「すなかけ」「はねやすめ」

◆フシギバナ Lv42:「はなびらのまい」「すてみタックル」「どくのこな」「やどりぎのタネ」

 

 で、これが今のシンくんの手持ち。数が少ないからか、レベルで追い越されている。ステータス的にも分が悪い。これでガラガラとか加わるんだから、洒落にならねぇ。これは頑張らないとな!

 さてさて、やる事はやったし、ただの研究員如きが何故か知っているヒジュツ・カガヤキを伝授して貰ってから、ハナダシティへ逆戻り。

 お次は岩山トンネルのクリアが目標なのだが、

 

「やぁ、久しぶりっスねー」「あん時ゃあ世話になったな。たっぷりお返ししてやるよ」

「「「俺たち全員でなぁ!」」」

 

 9番道路に行こうとしたら、あの時のロケット団の下っ端コンビに絡まれた。それもいらんオマケ付きで。

 

「わ~、ポケットだんだ~。スケッチさせて~」

「ロケット団っス!」「何だよ、ポケット団って!?」

 

 こんな時までマイペースなマツリカちゃん。向こうはレベル50のバウワウが睨みを利かせているせいで手出し出来ないようだが、いつまでも指を咥えている筈がない。その為の“数”である。

 

「オマエら、そっちのガキンチョを見張っとけっス!」「こいつらは、俺たちが潰してやるぜぇ!」

 

 マツリカちゃんを仲間に任せて、ハルとフィロがダブルバトルを仕掛けてくる。やっぱりそうなったか。

 しかし、舐めてもらっちゃ困るよ。私たちも、あの時のままではないのだから。

 と、その時。

 

「あらあら、大のオトナが子供相手に袋叩きなんて、感心しないわね」

 

 背後を流れる水路から、凛とした女性の声が。

 

「あ、貴女は……!」

 

 その姿を見たシンくんが、驚きのあまり言葉を失う。それも仕方ない。

 橙色のポニーテルにキリッと眼鏡。端麗ながらも、ちょっとキツめの顔立ち。抜群のスタイルを紺のスーツにタイトスカートというピッチリした礼服で包む、艶美かつ力強い妙齢の女性。

 このラプラスの背中に女王様なポーズで座っている彼女こそ、カントー四天王が一番手、氷使いのカンナ、その人だ。

 

「……こっちのモブは引き受けるわ。そっちの二人はお願い出来るかしら?」

「「もちろん!」」

「いい返事ね。それじゃ行くわよ!」

 

 こうして、通りすがりのカンナさんに雑魚を任せ、私たちは思う存分ハル&フィロをボコる事になった。

 

「ヤロー、舐めやがって! 行くっス、ラッタ!」『ヂュアヴッ!』

「叩きのめせ、スリーパー!」『ロリダロリダ、ヒャッホウァッ!』

 

 おい、だから鳴き声。しかも、今更気付いたけど色違いだし。ただでさえロリコンなのに全身ピンクとか……。

 それにしても、アローラコラッタ(Lv22)はアローララッタ(Lv35)に、ロリープ(Lv22)はロリーパー(Lv35)に進化したのか。頑張って育ててるようだけど、正直役不足なのよね。

 

「ハヤテ、「ドリルくちばし」!」『ドリルルルッ!』

「ピカチュウ、「10まんボルト」!」『ピッカァッ!』

「「『『ヴァー!』』」」

 

 「スマイル0え~ん!」という謎の捨て台詞を残して、ハルとフィロは星になった。アニポケのやな感じポジションはこいつらなのかー。

 

「おほしさまきれい~♪」

 

 言ってやるな、マツリカちゃん。

 

「こっちも終わったわよ」

 

 こうして、エースのアカネちゃんやプリンを使うまでもなくロケット団をあしらった私たちに、カンナさんが優し気に声を掛けてくる。マジで三人相手でも物ともしなかったらしい。

 

「ロケット団は?」

「自己紹介したら勝手にビビって逃げて行ったわ」

 

 だらしねぇなぁ、ロケット団。それでも大人かよ。

 

「フーン、なるほど。バッチを集めているのね」

 

 こちらを値踏みするように見ながら、カンナさんがポツリと呟く。実際、値踏みしているのだろう。自分が後に対峙するかもしれない相手なのだから。

 

「ま、頑張りなさいな。……待ってるわよ」

 

 そう言って、カンナさんはラプラスと共に去った。滅茶苦茶クールでカッコいいけど、そもそも何しに来たんだ、あの人は。

 まぁいいや。冒険を再開しよう。

 その後は順調そのもので、特に苦も無く9番道路と10番道路を攻略。今更レベル20台じゃ相手にならんとですよ。マツリカちゃんの実践訓練になったからいいんだけどね。

 さらに、岩山トンネルも問題なし。暗いだけだから、多少はね?

 ――――――初代の時は、フラッシュすら必要なく攻略しちゃったのはいい思い出よね。

 あ、でもポケモンゲットは頑張りましたよ。ワンリキーとかサイホーンとかガルーラとか、しっかり集めたし。またキンツブテが出て来た時は、何も言えなくなってしまった……。

 

「シオンタウン、到着~♪」

「「わーい……」」

 

 そして、ただ長いだけの旅路を終えて、ようやっとシオンタウンに着いた。ホント、何とかならないのか、この遠回り道。

 さてさて、到着したシオンタウンだが――――――相変わらず不気味な街だな。

 紫苑をメインにした街路は昼間だと言うのに薄暗く、紫掛かった屋根がそれに拍車を掛けている。アジサイが咲き誇っているのは奇麗だが、雰囲気のせいでホラーの演出にしか見えない。街行く人々も高齢者が多く、町そのもの活気の無さが窺える。

 つーか、まんまゴーストタウンである。BGMはない筈なのに、耳にこびり付いて離れないのは何故だろうか。森の洋館といいストレンジャーハウスといい、ゲーフリ悪ふざけし過ぎだろ。

 

『カラァ~!』

「ん……?」

 

 と、私たちの目の前を、一匹のカラカラが通り過ぎて行く。向かう先は、死んだポケモンたちを供養するポケモンタワー。

 これはイベント案件ですね、分かります。

 

「アオイ……!」

「分かってる。追い掛けましょ」

「まてまて~」

 

 こうして、私たちは初代屈指のホラースポットへ足を踏み入れる事に相成ったのだった……。




◆ロケット団のハルとフィロ

 ロケット団の下っ端コンビ。
 ポケモンを道具だと考えている所謂「下衆な悪党」で、カリスマ性どころか矜持やプライドすらなく、自分たちさえ良ければそれでいいと思っている、救いようのない奴ら。
 二人共幼い頃にポケモンの暴走による災害で孤児となっており、傷を舐め合うように泥を啜りながら生きていた所を“団長”に拾われ、後にロケット団に入団した。
 その為、本質的にサカキを上司と認識しておらず、サカキを慕う連中の事を同じ人間とすら思っていない。


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死者の塔と悪の秘密基地

アオイ:「あの世界の幽霊ってどういう扱いなんだろうね?」


 ポケモンタワー。

 死んでしまったポケモンたちを供養する、言うなればポケモン専用の共同墓地。経営者はフジ老人という人物で、後ろ暗い過去の贖罪を兼ねて日々祈りを捧げているという。

 さて、そんなポケモンタワーだが、BGMこそ神秘的な物の、内部はホラーそのものだ。

 何せ攻撃不能かつ正体不明の幽霊がわらわら現れて立ち去るよう脅かしてくる上に、どう見てもラリっちゃってる祈祷師が片言で勝負を仕掛けてくるという、子供が本気で泣きかねない演出をプレゼントしてくれる。ゲーフリは一体何を考えてこんなマップを作ったんだろうか。

 余談だが、数年後にはラジオ塔になっていたりする。どう考えても曰く付き物件なのに。絶対にトークと一緒に呪い発信してるだろ。

 ――――――で、生のポケモンタワーはどんな感じかと言うと、

 

「………………」

 

 普通に怖かった。言葉も出ないくらいに。

 全体的に薄暗く、和洋折衷した墓石が延々と並ぶその様は、ここが明確に死者の眠る場所である事を示しており、心霊スポット特有の寒気とナニカの気配が常に感じられるという、ホラーの数え役満状態である。掛かる薄霧や滴る水滴が、もうどうしようもなく恐怖を駆り立ててくる。小さな物音でさえ心臓に悪かった。

 いや、ホント、マジで何でこんな場所作ったゲーフリ、ついでにフジ老人。子供を泣かせてそんなに嬉しいか。お前らの血の色何色だぁ!

 だが、カラカラが迷い込んでしまった以上、進むしかない。何故か出会ったばかりの婆さんから喪服まで貰っちゃったし。

 正直、イベントでなければ是非とも無視したいが、優しいシンくんが、

 

「でも……やっぱり……気になる……ぅ……!」

 

 などと、ウルウルの涙目でプルプルと訴え掛けてくるのだから、これは行くしかないっしょー。是非もなし!

 

「ごめんな、アオイ。こんな情けない奴で……だけど、何か……あったら、絶対……オレが……っ!」

「………………」

 

 ああん、チクショウ、可愛い! 抱きしめたい! お持ち帰りぃ~っ♪

 

「……フゥ」

 

 落ち着け。落ち着いて皿を数えるんだ。お皿は割った数だけ罰を受ける不憫な数字。私に恨みを募らせてくれる……駄目じゃねぇか。

 いや、うん、ホント落ち着こう。まずはカラカラだよ、カラカラ。どこに行きやがったあの素数ポケモン。

 

「キャララ~!」

 

 あっ、おった。

 しかし、素早さ種族値35とは思えない高速移動で奥へと消えて行ってしまう。ポケモンの素早さって、本当によく分らなくなるよね。マッハ2のスピードの癖に飛べない鳥よりも遅いジェットな鳥ポケモンとか、マッハポケモンを名乗りつつ宙を舞えない元陸鮫ポケモンとか。私の手持ちに一日中飛び続けられるスタミナの持ち主の割りに風船より体力ない奴いるけど。

 

「キェーッ!」

「ズワォッ!?」

 

 モッサリと歩き回っていたら、野生のキチ○イ……じゃなくて、トランス状態の祈祷師に襲い掛かられた。降霊師(イタコ)じゃないんだから、取り憑かれたらアカンやろ。ちゃんと仕事しろ。

 

「はーい、起きて下さい」

「ハッ……!」

 

 まぁ、苦戦はしないのだが。ゲンガーならまだしも、ゴースじゃねぇ……。

 

『タチサレ……ココカラ……タチサレ……』

「「「あっ……」」」

 

 だが、一勝負終えて油断した所を背後からデスルーラ。入り口に送り返されてしまった。

 そう言えば、今回の幽霊は逃げるしかないどころか、エンカウントしただけで追い返されてしまう親切設計(怒)なんだった。おかげで初代の時以上にシルフスコープがないとどうしようもなくなっている。死ね。死んでるけど。

 しかし、タイミング良くカラカラも寂しそうに出て来たので、結果オーライ。戻る手間が省けた、とでも思っておこう、そうしよう。

 

「ゆうれいさん、たのしそうだったね~」『バウッ!』

 

 キミは一体何を見聞きしたんだね、マツリカちゃんや。

 いやいや、それよりもあの素数なカラカラを――――――、

 

「何よもう、サカキ様の為にここまで来たのに、フジって爺さんいないじゃない!」

「あと探してないのは、ポケモンタワーの最上階だけだけど……」

「デッカい幽霊が邪魔で先に進めないのよねー」

『バトルも出来にゃーし、触ったら戻されるし、にゃんとかならにゃいかにゃ~?』

 

 おやおや、あんな所(8番道路の入り口近く)に、銀河を駆けるロケット団の二人とニャースがいるじゃないですか。目的は十中八九、フジ老人……というかフジ博士だろう。前回グレンタウンの話を振ったし、その過程で知ったのかな。

 

『マァーッ!』

 

 さらに、そんな困ったムコニャに、素数なカラカラが接触。

 

「あら~、ママに会いたいの~?」

『なら、会わせてやってもいいにゃ~?』

『マァーマァー!』

 

 そして、いつもの口車でカラカラを諭したムコニャは、そのまま8番道路の向こうへ走り去ってしまった。

 原典を信じるなら、フジ老人を見付けられなかった代わりに献上するつもりだった筈。そんな事をされてはガラガラお母さんに成仏して貰えなくなるので、連れ戻すしかない。

 ……どうでもいいが、彼らはカラカラの母上様が既に死んでいる――――――否、殺されている事を知っているのだろうか。アニポケのアイツらなら絶対にそんな事をしないだろうが、この世界線では分からない。

 いや、LPLEにはあのガイストじゃないアポロがいる筈だ。本人は知らないが、部下の誰かなら殺ってしまうかもしれない。ランスとかランスとかランスとか。

 だが、考えても仕方のない事だろう。終わったものは取り返しが付かず、普通は過去に戻れないのだから。

 

「あっ、カラカラが……!」

 

 さらに、本来は家に引き籠っている筈の、カラカラをお世話している女の子が、あわあわしているだけのモブに代わって登場。カラカラの母親であるガラガラがロケット団に攫われて二度と帰って来ていない事、最近になってポケモンタワーが幽霊の巣窟になってしまった事、カラカラとガラガラが彼女の大切な家族である事などを話してくれ、その上でカラカラの救出をお願いして来た。

 大丈夫、言われなくてもアポロはガイストにしてやるから安心して。

 

「あ、あいつら……アオイ、追い掛けよう!」

「そうね」『ピッピィ!』

「ごーごー、バウワウ!」『バゥヴァゥッ!』

 

 という事で、タマムシシティへGO! GO! GO! である。

 道中はカット。急いでいるし、何よりシンくんが燃えに燃えていたので、苦戦しないどころか相手が可哀想な事になっていた。さすがに最終進化形態のオンパレードは厳し過ぎると思うよ……。

 

「着いた!」「そうだねっ!」「フシギダネ!」

 

 そして、長ったらしい地下通路を抜けて、タマムシシティに到着。BGMの落差がしゅごい。

 タマムシシティは玉虫色の町というだけあってカラフルで、ヤマブキシティに次いで発展している。

 ただし、コンクリートジャングルそのものって感じのヤマブキシティと違って平屋の方が多く、あってもデパートやマンションなどの集合建築物ばかり。他にはゲームコーナー(というかパチンコスロット)や商店街、大衆食堂があるなど、かなり生活感に溢れている。

 雰囲気としては、大都市の郊外と言ったところか。地理的にもヤマブキシティの真隣なので、あながち間違いではあるまい。東京の世田谷区、S市の杜○町みたいなものだ。

 一方で発展に伴う弊害も発生しているらしく、ゲームコーナーに隣接する民家には大きな池があるのだが、今でこそニョロゾやヤドンが水中に生息しているが、しばらくするとベトベターやベトベトンしか現れなくなる。何があったし。

 しかし、メタな視点で言えば、一番の特徴は「町全体がロケット団の根城にされている」事だろう。

 ゲームコーナーの地下は秘密基地になってるし、街中を普通に下っ端がうろついている(ヤマブキシティにもいるが、アレは作戦上の理由であって、常駐している訳ではない)。ギャンブルを資金源にしてるとか、完全にマフィアのそれである。

 何の理由もなく新種ポケモンが一本釣り出来る辺り、タマムシデパートも彼らの傘下なのかもしれない。

 というか、カントーのFSはタマムシデパートの支店扱いなので、実質的にカントー全土が資金源と言える。マフィアの力ってすげーっ!

 そんな一癖も二癖もある虹色の町にやって来た訳だが、

 

(私はここでイーブイを、手に入れる……っ!)

 

 カラカラより、そっちの方が気になって仕方なかった。

 だってだって、私も相棒イーブイ、欲しいんだもんっ!

 よーし、カラカラ捜索に託けてイーブイ探しをしよう。確かタマムシマンションのどこかに伏線もなく放置されていた筈……っ!

 あれ、でもそのイベントって初代限定で、LPLEにはないんだっけ?

 うーん、何かその辺の記憶が怪しい。元々印象の薄いイベントだったからなぁ……。

 いや、だけどストーリーが歪になり始めているこの世界なら、ワンチャンあるかもしれないし――――――とにかくイーブイだぁ、イーブイをくれぇっ!

 

「よし、手分けして探そう!」『プリャリャ~!』

「わかった~」『バゥワゥ!』

「……了解!」『ピッピィ!』

 

 ……うん、行き先を知っているだけに、罪悪感が凄い。シンくんの真剣かつ決意に燃える瞳が心に突き刺さる。

 やめてシンくん、私のライフはとっくに0よっ!

 ごめんなさい、真面目に探します。イーブイもまだ諦めてないけど。

 さてさて、どこ行っちゃったのかな、カラカラ~?

 

「………………」

 

 とか言いつつ、タマムシマンションの屋上に来てしまった!

 チクショウ、やっぱり抗えないよ!

 ちょっとだけ、ちょっとだけだから、寄り道させて、お願いシクラメン!

 

「……あった!」

 

 何かポケモン通信講座とかいう今更感溢れる教室になってたから軽く絶望したけど、ありましたよモンスターボール!

 頼む、アイテムとか擬態ポケモンとか、そういうオチだけはやめてくれ!

 ただでさえシンくんを欺いてるのに、そんな事されたら、マジで心が折れちゃうからぁっ!

 

 ――――――それ、ポチッとなっ!

 

『イッブィッ♪』

「悠木碧~っ♪」

 

 ぃよっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!

 勝った、風呂入って来る!

 ……じゃなくて、ステータス確認をば。

 

◆相棒イーブイ(ユウキ)

 

・分類:しんかポケモン★

・タイプ:ノーマル

・レベル:15

・性別:♂

・性格:せっかち

・種族値: HP:65 A:75 B:70 C:65 D:85 S:75 合計:435

・覚えている技:「しっぽをふる」「でんこうせっか」「にどげり」「すなかけ」

・図鑑説明

 不規則で不安定な遺伝子を持つポケモンで、周囲の影響を受けやすい。環境が変わると、それに適応すべく突然変異を起こす。イーブイの遺伝子は、進化の秘密を解き明かすカギだ。

 

 よすよす、ちゃんと相棒くんですよ。そかそか、せっかちさんなのか。進化ポケモンに相応しいわね。♀じゃないのは残念だけど、誰もが通る道だから仕方ない。色違いだから許す。

 名前はユウキくん。男の子だからね。女の子だったらアオイにするつもりだったけど。……名前が被るか。

 

「よしよし♪」『イッブブィビィ~♪』

 

 あぁ~はぁ~♪ このモフモフが堪らないんじゃ~♪

 

『ピッピィ~!』「大丈夫だって。私の一番の相棒は、アカネちゃんだよ♪」

 

 嫉妬するアカネちゃんも超カワイイ~♪

 

「……よし!」

 

 いい加減、カラカラ探索に戻ろう。達成と同時に罪悪感が津波になって押し寄せて来た。これ以上、私利私欲で寄り道するのは、シンくんに申し訳が立たな過ぎる。相棒技はまた今度っ!

 

「あっ、アオイか。カラカラ見付かったか?」

「え、ええ……えーっとぉ、何か……あのゲームコーナーの方で、それっぽいのを見掛けたような……」

 

 出た途端にシンくんに詰め寄られたので、無茶苦茶不自然に答えてしまった。雰囲気から察するにバレてないようだけど、発覚したらどうなっちゃうんだろう。

 絶対に嫌われるよなぁ。よしんば嫌われずとも、関係はギクシャクするに違いない。

 それだけは嫌だっ! だから、真相は墓の中まで持って行く――――――、

 

「………………」

「……ハッ!」

 

 マ、マツリカちゃん……貴様、見ていたなっ!?

 

「おやつはわたしのすきなものを、むせいげんでね♪」

「……はい」

 

 チックショウ、抜け目ねぇ……!

 まぁいい、おやつくらい幾らでも買ってあげるさ。それでブクブクに太っても知らん、そんな事は私の管轄外だ。

 

「ここか……」

 

 ――――――で、件のゲームコーナー。その名も「ロケットゲームコーナー」。そのまんまである。隠す気あんのか。

 

「基地の入り口ってどこのボタンで入るんだっけ?」

「確か「ロケット団に相応しいポスターの裏」にあるって言ってたなぁ……」

『そんな事より、早くスロットを回すにゃ。ピ、ピカチュウ~♪』

 

 さらに、店内にはムコニャが、スロットマシンで絶賛おサボり中。

 

「おい、仕事しろよ」

「「えっ、ジャリガール!?」」『んにゃんだとぉ!?』

 

 あっ、しまった。思わず突っ込みを入れてしまった。

 

「おい、お前ら! カラカラをどこにやったんだよ!」

 

 しかも、シンくんまで乱入し、もう後には退けなくなった。こうなったら、しゃーなしだな。

 

「カラカラをどこにやったんだと聞かれたら!」

「答えてやるが世の情け!」

「世界の破壊を防ぐ為!」

「世界の平和を守る為!」

「愛と正義の悪を貫く!」

「ラブリーチャーミーな敵役!」

「ムサシ!」

「コジロウ!」

「銀河を駆けるロケット団の二人には!」

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」

『あっ、ニャーんてにゃあ~っ!』

 

 二度目の口上、ありがとうございます。サイン下さい……じゃなくて!

 

「カラカラなら、あそこでニビあられ食べてるわよ?」

 

 ムサシの指差す先を見てみれば、景品交換所の脇でニビあられを頬張るカラカラの姿が。なーに餌付けされたんだよ。

 ひとまず、無事で良かった。この三人が、ポケモンを殺っちまうような真似はしないと思っていたよ。ぞんざいには扱うかもしれないけどね。

 

「カラカラを返せっ!」

「やーなこった。あいつはサカキ様への献上品なんだよ!」

 

 シンくんが突っ掛かるが、コジロウは聞く耳を持たない。そりゃそうだよな。あのサカキに手ぶらで面会出来る訳がない。

 

「お前ら……カラカラのお母さんに会わせるなんて、嘘を吐いておいて、まだ……!」

「あら、嘘は言ってないわよ? ガラガラならこの前捕まえたしね」

「確か、アポロの野郎がサカキ様に献上したんだっけか?」

「そうそう。あの子もサカキ様に献上するんだから、会える事は会えるわよ~?」

『そうだにゃ~。サカキ様はじめんタイプの使い手だし、上手く使ってくれる筈なのにゃ~』

 

 うーむ、この感じだと、ガラガラが骨だけ取られて処分されてるのは知らなさそうね。最高幹部と幹部候補生の差って奴かな。あとサラッと情報漏洩。だから教えて貰えないんだよ。

 いずれにしろ、ガラガラを殺した犯人は、少なくともこの三人ではない。サカキも原典ではポケモンへの愛情自体は持っていたから、たぶん違う。

 そうなると、手を下したのは、やっぱりアポロか……それとも……。

 

「お前ら――――――」

「カラカラぐらいで、サカキ様が満足するかしらね~?」

 

 だが、一般人も大勢いる店内で大暴れする訳にもいかないし、このままじゃ話も出来ない。熱くなっている所を悪いけど、シンくんは下がっててね。

 ここからは、大人の時間である。

 

「あーら、何よジャリガール。アタシのやり方にケチでも付ける気?」

「まーまー、ムサシ、落ち着けって。こいつは話の分かる奴だし、少しくらい聞いてやろうぜ?」

『そうだにゃ~。ジャリガールのおかげで、グレンタウンの化石研究所ともパイプが出来て、サカキ様からの評価も上がったんだからにゃ~』

 

 私の言葉に食って掛かるムサシを、コジロウとニャースが宥めすかす。

 やっぱりね。思った通り、あの化石を持ち込んだ事で研究所と関りができ、ロケット団があの怪し過ぎるエセチャイナ研究員の秘密裏なスポンサーになった訳だ。

 元々グレンタウン自体がロケット団のポケモン兵器の開発拠点だった事だし、事故で一度は切れてしまった縁を、再び結び直した形になるのだろう。遺伝子組み換え技術が、化石の復活作業に挿げ替わっただけに過ぎない。

 元研究員だったカツラの監視を掻い潜るのは難しいかとも思ったが、ムコニャは変装技術や潜入能力だけは妙に高いので、それが功を奏したようである。

 

「あー、そうそう。これ、サカキ様に報酬として貰えたのよ~♪」『ピギィッ!』

「俺のなんて色違いだったぜ~♪」『キュギュゥッ!』

 

 と、ムサシとコジロウが自慢げにカブトと色違いのオムナイトを見せて来た。

 なるほど、サカキにとっては化石ポケモンそのものよりも、研究所との繋がりの方が大事だった訳か。

 まぁ、掘れば掘るだけ古代のポケモンが手に入るんだから、商業的にも軍事的にも価値が高いわよね。功績としてはかなりの物だし、報酬として支払われるのも当然だろう。

 何より、こいつらなら誰かと違い、手持ちのポケモンは大切にするだろうからね。まさに適材適所だ。

 

「大事にしてくれているようで何より。……返してくれないなら、交換と行こうじゃない」

 

 だからこそ、私はポケモン交換を申し出た。

 

「あら、また何かくれるのぉ~?」

「くれるポケモンによっては考えてやらんでもないぞ?」

『化石ポケモンより珍しい物で頼むにゃ~♪』

 

 途端に食い付いてくるムコニャ。いかにも「お前が望むなら考えてやる」みたいな言い方だけど、顔に「早くチョ~ダイ♪」って書いてあるぞ。

 うむうむ、実に俗物的で何より。やっぱり、こいつらはこうでなくっちゃね~♪

 

「それじゃ、この子と交換しましょう」

 

 私はボックスから件のポケモンが入ったボールを引き出した。最近の作品はわざわざパソコンに向かわなくてもいいのだから、便利になったものよねぇ。

 そして、スイッチを押して、召喚する。

 

「出ておいで、ミュウ!」

『ミュゥ~!』

 

 幻のポケモン、ミュウを。

 すっかり忘れてたけど、現実で買ったコントローラー、モンボ+だったんだよ。

 だから、当然中にはミュウが入ってた訳で。旅路の最中にボックス見てたら、普通にいた。嬉しさ以前に「ファッ!?」ってなったわ。一体何事かと思ったわよ。使わないけど。

 

「「『「えぇ~!?」』」」

 

 ムコニャどころか、さっきまで熱々だったシンくんも血相を変えて叫んだ。そりゃそうか。

 でもねぇ、デパートで一本釣り出来る幻のポケモンとか、正直そこまで有難みを感じないんだよねぇ。ミュウツーみたいな演出や達成感もないし。バグでデータをフィッシングしただけなんだから当たり前だけど。

 それにユウキを手に入れた今の私に、これ以上のスタメンは必要ない。ミュウツーについては一考の余地があるけどね。

 という事で、この子はキミたちにあげよう。大切にしてね♪

 

「ア、アンタ、正気なの!?」

「絶対に釣り合い取れてないだろ!?」

『何か企んでるのかにゃ!?』

 

 とは言え、素直には受け取れないか。幻のポケモンだもんね。仕方ないなぁ~。

 

「なら、この「ひみつのこはく」もプレゼントだ!」

「「『ブーッ!』」」

 

 もっと驚かれただけだった。解せぬ。

 

「ア、アオイ……何でこんな奴らに……!?」

 

 いや、だっていらないんだもん。絶対に使わないし。可愛がってくれる人にあげるのが一番だろうに。

 まぁ、彼が言いたい事はそういう事ではないんでしょうけどね。

 

「(シンくん。こいつらは、ガラガラ殺しの下手人じゃないわ)」

「(だけど……)」

「(彼らのポケモンを見て。あんなに懐いてる。確かに彼らは悪人だけど、冷酷非道な下衆ではないわ。きちんとポケモンと向き合える、“根は良い奴ら”よ)」

 

 より正確に言うなら、“憎めない奴”とか“愛すべき馬鹿”だろうけど。

 

「(ロケット団だからって、全部が全部、救いようのないクズって訳じゃない。そういう「一人が皆」っていう先入観は目を曇らせるだけでなく、自分にも不利益を齎すだけだわ)」

「………………」

 

 うん、納得出来ないって顔してる。

 だけどね、奇麗事だけじゃ、この鬼だらけの世間を渡っては行けないんだよ。

 

「(私たちの目的は、カラカラを取り返す事。それを忘れてはいけないわ)」

「(……ああ、そうだな。そうだった)」

 

 ゴメンね、ズルい言い方して。

 でも、安心して。

 

 ――――――こいつらは許しても、ロケット団の“病巣”を許す気はないから。

 

「は、ははは、なるほどなるほど、確かに化石ポケモンより珍しいな……出所は聞かないでおく」

『これをサカキ様に献上すれば、ニャーたち、間違いなく幹部に昇進にゃ!』

「よぉーし、そうと決まれば、サカキ様の下へLet's Goよ! ありがとね、ジャリガール。カラカラは勝手に持ち帰ってちょ~だい♪」

 

 そうこうしている内に、頭を切り替えたムコニャが、秘密基地の入り口があるポスターへ向かってロケットダッシュ。

 

「ちょっとアンタ、どきなさいよ! 急いでんのよ、アタシたち!」

「知るか! いいから、合言葉を言え!」

「ロケットパン~チ☆!」「ぐわーっ!」

 

 さらに、立ち塞がる見張り番をロケットパンチで殴り倒し、さっさと地下へ降りて行ってしまった。出入り口をポッカリと開けたまま。相変わらずやり方が雑である。……計画通り。

 

「さてと……シンくんは、これからどうしたい?」

 

 ロケットミサイルのように走り去ったムコニャを見送ってから、私はシンくんの方へ振り返った。

 

「えっ?」

「カラカラは取り戻せた。目的は達成したの。……だからこそ聞くわ。これから、シンくんはどうしたい?」

 

 イベントの関係上、個人的には帰るつもりなど毛頭ないけど、それはあくまで私の勝手。シンくんの今後の進退まで縛る気はない。彼は「シン・トレース」という一人の人間なのだから。

 

「………………」

 

 シンくんはしばし逡巡し、

 

「……やっぱり行くよ、オレ。あいつらは悪い奴じゃないのかもしれないけど、それでもロケット団は許せないから……」

 

 進む事に決めた。

 うんうん、実に彼らしい。それでこそシンくんだ。

 

「カラカラ、お前はどうする?」

『キャラ……? ……、……カラカラァッ!』

「そうか。なら、一緒に行こう」

 

 カラカラも行く気満々らしい。

 やっぱり、ムコニャはともかく、自分の母親を奪った奴らは許せないのだろう。

 

「アオイは――――――」

「もちろん行くわよ? あいつらとは腐れ縁だけど、ロケット団そのものに想う事は何もないからね」

「……だよな! ヘヘヘッ……!」

 

 こうして、私たちはロケット団の巣窟、地下秘密基地へ足を踏み入れたのだった。




◆ポケモンタワー

 死んだポケモンたちが眠る供養塔。グリーンのラッタも多分ここにいる。ミュウツーですら怯える幽霊がわんさかいる危険な心霊スポットとして皆のトラウマになっているが、あれはガラガラの未練が悪霊を引き寄せてしまっているだけで、普段からこの有様と言う訳ではない。じゃないとお墓参り出来ないから。
 管理者はフジ老人。捨てられたポケモンを養う保護施設「ポケモンの家」も含めて、過去にミュウツーを創り出してしまった罪滅ぼしとして運営しているが、当のミュウツー(※ゲーム世界の個体)はそんな事など気にも留めてないと思う。戦う事しか考えられないんだし、そもそも生き物は自分が生まれた意味など考えない。

 生き物は、今日も明日も“生きる為に生きている”のだ。


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青黒い闇と異次元の悪魔

アオイ:「町中をマフィアな奴がうろついている事を住人はどう思っているのだろうか」


 ロケット団、地下秘密基地。

 ロケットゲームコーナーの地下へ秘密裏に建造された、ロケット団のカントー地方における活動拠点であり、絶対に邪魔にしかならないワープパネルの罠が張り巡らされている。

 

「……うわっ、何だ!?」「真っ暗じゃないの!」「停電だーっ!」

 

 だけどさ、これ……断線されたら終わりじゃね?

 よーし、今の内に進めるだけ進もうか。ゲームでならまだしも、今更あのクソ程に面倒臭いクルクルダンスに付き合う気はないんだよ。

 いやぁ、楽ちん楽ちん。敵は暗闇で大混乱だけど、こっちはヒジュツ・カガヤキ(レーダーセンスで周囲の状況を鮮明に感知するヒジュツ)で確認し放題だもんね。

 ちなみに、バウワウは目立ち過ぎるので引っ込んでもらっているが、代わりにカラカラがマツリカちゃんを護衛している。傍目には遊んでいるようにか見えないけど。

 さぁさぁ、そんな事よりも、さくさくっとサカキ様の所に行っちゃうよ~♪

 

「ええい、落ち着きなさい! 予備電源に切り替えるのです!」

 

 おっと、この口調は……。

 しかも、間の悪い事に電源が復旧し、基地内に明かりが戻り始める。思ったより早かったな。さすがは世界を股に掛ける悪の組織か。

 

「(マズい、隠れるよ)」「(分かった)」「(あいさ~)」『(キャララ~)』『(ピイ!)』『(プリ!)』

 

 間一髪の所で、私たちは空き部屋のロッカーに隠れる事に成功した。あっぶねぇ。つーか、狭い……。

 

「まったく、杜撰ですね。当直は誰ですか!?」

 

 ロッカーの外から聞こえる声の主。

 僅かに見える外の世界で悪態を吐いていたのは、空色の髪を持つイケメン――――――ロケット団の最高幹部、アポロその人だった。いかにも冷酷非道なインテリって感じ。

 実にいけ好かない。原典ではムコニャが毛嫌いしてるらしいけど、気持ちは分かる。ムカつく顔してるよね。

 

「……ん?」

 

 あ、ヤバい、こっち見た。結構勘が鋭い奴だな。

 

「報告します!」

 

 しかし、駆け付けた下っ端の女団員が報連相に務めてくれたおかげで、アポロの気が逸れた。

 

「……分かりました。見に行きましょう。貴女はすぐに任務へ戻りなさい」

 

 よっしゃよっしゃ、そのまま二度と来るな。

 

「もう行ったから、出て来ても大丈夫よ?」

 

 だが、今度は女団員の方がこちらを見て来た。その上、しっかりバレとる。これは出て行くしかないな。

 

「アンタ、何者だ?」

「僕? 僕は美人スパイだよ。今はロケット団に潜入してるんだ~♪」

 

 ああ、ロケット団の衣装セットをくれる、例の自称・美人スパイの人か。

 でも、そのメタモンみたいな素朴な顔立ちを美人と称されると、違和感しかないのだが……。

 

「貴方たち、ロケット団を潰すつもりなんでしょ? だったら、そんな格好でうろついちゃ駄目だよ。ちょうど貴方たちにもピッタリのサイズがあるから、譲ってあ・げ・る♪」

 

 何とも都合のいい話だが、そう言えばハルとフィロも同い年くらいだったし、“少年兵”や“鉄砲玉”に属する年少団員が割といるのかもしれない。

 

「それじゃ、お互いに秘密って事で、バイバ~イ♪」

 

 そして、自称・美人スパイの人は、悪戯な笑顔(メタモン)でウインクしながら、配属場所へと戻って行った。

 ありがとう、五秒ぐらいは忘れないわ。

 

「……先を急ぎましょう」

 

 現在、地下二階。サカキの待つ地下四階はまだまだ先である。

 

「アオイ……お前、本当にスゲェよ……」

 

 と、お着替えを済ませ、基地内をウロウロしていたら、不意にシンくんがポツリと呟いた。

 

「どうしたのよ、急に?」

「だって、こんなに簡単に基地に侵入出来るなんて、思ってもみなかったしよ。何だかよく分らないけど、あのロケット団と交渉してる時も、まるで大人みたいだった」

「………………」

 

 まぁ、中身は成人してますしお寿司。

 

「それに比べて、オレ、熱くなってるばっかりで……オレだけじゃ、たぶん、上手く行かなかった……」

 

 目に見えてションボリと俯くシンくん。

 

「いいんだよ、シンくんはそのままで」

 

 どうせいつかは皆大人になっちゃうんだから、わざわざ今汚れる必要なんかない。

 

「えっ……?」

「キミは素直で優しい、しっかりとした芯のある、強い男の子だよ」

 

 だから、私みたいな……汚れ切った心の人間にはならないで。

 ポケモンどころか、こんな私とも友達になれる、その優しさを失わないで。

 例えその気持ちが、これから何百回裏切られる事になっても。

 

 ――――――それが、初めてキミと出会った時からの、変わらぬ願いだ。

 

「私は、そんなキミが好き」

「なぁっ!?」

 

 何か自分で言ってて小っ恥ずかしくなって来たな。つーか、告白じゃね、これ?

 い、いやいや、言葉の綾だからねっ!? ノーカン、ノーカン! ノーカンなんだぁっ!

 

「さぁ、急ぐわよっ!」

「ごまかした~」『カラカラ~』

「やかましいわっ!」

 

 このマセガキがぁーっ!

 

「……さすがに広いわね」

 

 うーむ、分かってはいたけど、ポケモンマフィアの基地というだけあって、かなり広い。無駄に複雑で、動線も最悪である。

 ホント、もう少し利便性を追求しろよ。これ絶対に下っ端も困ってるから。せめて回らないようにしなさい。

 とりあえず、道中ボコった下っ端の情報で、サカキのオフィスへは直通のエレベーターを使うしかなく、動かすには「エレベーターのかぎ」が必要な事が分かった。知ってるんですけどね。

 

「エレベーターが動かない? ハハハッ、当然っすよ!」

「俺たちが、ずっと守ってるんだからなぁ!」

 

 で、件の鍵を持ってる下っ端だが、まさかのハルとフィロだった。いや、何でこいつらなんだよ。

 

「行くっス、ラッタ!」『ヂュッ!』

「やっちまえ、スリーパー!」『ロリダロリダ、ブヒヒヒッ!』

 

 うーわー、しかもスリーパー(42)が鍵を振り子に使ってやがる。物凄く触りたくないんだけど。

 しかし、勝負は勝負だ。いくらレベルが上がっていようと、ポケモンバトルでこいつらに負ける要素は全くない。

 

「アキトくん、「ミサイルばり」!」『ブブブブブッ!』

「ピジョット、「エアスラッシュ」!」『ピジョォァ!』

「「ヴァーッ!」」

 

 もちろん、ストレート勝ち。手持ちも前と同じだし、相変わらず弱いなこいつら。

 

「使えないっスねぇ!」「この役立たずがぁ!」

『ヂゥ……!』『ロリィ……!』

 

 と、負けた腹癒せに、瀕死のアローララッタとスリーパーに鞭打つハルとフィロ。

 

「おいっ、止めろよ! 死んじゃうだろ!」

「だから何だってん言うんスか?」「死んだら別のポケモンを団長から貰えばいいんだよ!」

「なっ……!」

 

 シンくんが止めに入るが、全く躊躇する様子がない。

 ああ、なるほど。こいつらは、そういう奴らか。どうりで弱いと思ったよ。

 ……もしかして、

 

「だよねぇ! 弱いポケモンなんて、さっさと捨てちゃえばいいんだよ!」

「ア、アオイ、何を……、……っ!」

 

 初めこそ驚いたシンくんだったが、すぐに気付いて黙ってくれた。

 そりゃ、分かるよね。私、今絶対に目が淀んでるもん。

 

「おっ、話が分かるじゃないっスか」「だよなぁ~!」

「この前のガラガラとか、ホント使えなかったよね!」

「そーそー、大人しく捕まってれば怪我だけで済んだのに、無駄に抵抗しちゃって」「おかげで瀕死にさせちまったから、骨だけ取ったら後は用済みだったしな。馬鹿な奴だよ、マジで。ギャハハハハ!」

「ハハハハハハ! ホントに馬鹿だよ……お前らは。アカネ、「ゆびをふる」」

 

 もういいや。死ね。

 

『ピッピィ~ッ!』「「ギャアアアアアアッ!」」

 

 アカネちゃんの指を振るが破壊光線を引き当て、ハルとフィロを吹き飛ばす。さすがに頭に来ていたのか、割と遠慮容赦のない一撃だった。全身に火傷を負わされた二人が、壁に叩きつけられた後、ゴトリと床に転がる。まるでゴミのようだ……いや、実際にゴミか。

 

「戻って、アカネ。ヒナゲシ、「どくどく」」『フィリリリ……』

「「ぐげぁああああっ!」」

 

 さらに、傷口に猛毒を仕込んでやる。ゴミならどう扱ってもいいよね、別に。

 

「戻って、ヒナゲシ。アキト、「ミサイルば――――――」

「アオイ、よせっ! もう止めろ! そいつら死んじまうぞ!」

 

 と、さすがに止められた。レディに羽交い絞めなんて、案外積極的じゃないの、シンくん。

 

「大丈夫、死なせはしないわ。はい、「かいふくのくすり」。ここに置いておくから、頑張って取ってね。それじゃ、バイビー」

 

 私は追撃を諦め、代わりに少し離れた所に、どっかで拾った(マジでどこだったっけ?)なけなしの回復の薬を置いて、放っておくことにした。あの深手じゃ、辿り着く前に死ぬだろうし。

 

「うぐぐぐ……い、嫌だ、死にたくない……助けて、団長ぉ……!」「何で俺たちがこんな目に……壊れた道具を切り捨てる事の、どこが悪いんだよぉ……!」

 

 猛毒と火傷で苦しみのたうちながら、ハルとフィロが芋虫のように這いずっている。心なしか、アローララッタとスリーパーが嗤っているような気がした。

 当然だろう。どういう教育を受けたのかは知らないが、この二人は明確にポケモンを“道具”と認識しているのだから。年齢的に洗脳されたのかもしれないが、それこそ私の管轄外である。

 そもそも、私は別にポケモンを苛めようが、捨てようが、道具と見做していようが、文句を言う気はない。プレイヤーなんて、少なからずそういう一面、あるしな。厳選とか逃がしたりとかは、廃人なら当たり前だし。

 

 だけど、殺すのだけは駄目だ。明確に命を切り捨てたという現実(リアル)を、感じてしまうから。

 

 それをやってしまったこいつらを生かしておく気はない。私の不文律(こころ)を守る為に。

 

「くそっ……!」

 

 だが、死ぬ寸前で、葛藤に打ち勝ったであろうシンくんが、ハルとフィロに回復の薬を使用。二人は惜しい事に、一命を取り留めてしまった。

 

「チクショウ、覚えてるっスよ、オマエら!」「絶対に復讐してやるからなぁ!」

 

 しかし、ハルもフィロも感謝どころか反省する素振りさえ見せず、アローララッタとスリーパーを回収すると、さっさと行ってしまった。マジで救いようがないな、あいつら。ヒルカワって呼ぶぞコラ。

 

「………………」

 

 そのあんまりな態度に、意気消沈するシンくん。

 

「……ごめん、やり過ぎたわ」

 

 そんな彼の姿に、私は耐えられなかった。変わらないでと願っておきながら、自分が曇らせるような真似をしてどうする。

 

 ……ここは、ゲームの中じゃないんだぞ。

 

 瀕死のポケモンを痛め付ければ死ぬし、裏切られれば人の心なんて簡単に壊れる。皆みんな、生きているんだ。

 コマンド入力さえすれば都合良く立ち直る、ゲームの(・・・・)キャラクター(・・・・・・)なんかじゃ、無いんだよ……!

 いい加減に自覚しろよ、私の馬鹿……!

 

「………………」

 

 シンくんは何も言わなかった。応えて、くれなかった。ポケモンたちは、どうしていいか分からず、オロオロしている。

 

「………………」

 

 そんな私たちの姿を、マツリカちゃんは黙ってスケッチしていた。何を考えているのかは、皆目見当が付かない。とりあえす趣味が悪いとだけ言っておく。

 

「「「………………」」」

 

 そして、私たちは一言も会話がないまま、エレベーターの鍵を使い、サカキのいる最深部のオフィスへ向かう。

 

「えっ……!?」

 

 だが、エレベーターは地下四階では止まらず、何故かそのずっと下――――――存在しない筈の地下七階で止まった。

 そこにいたのは、

 

『おやおや、こんな所に人間が……それも外部の子供がやって来るとは、思いもしませんでしたよ』

 

 人語を介す、ポリゴンZだった。

 な、何でこんな所に……!?

 

「な、何だこいつ!? ポリゴンに似てるけど……何か違う!?」

 

 カントーには存在しないポケモンであるポリゴンZの姿に、シンくんが大絶賛大混乱。

 

「ぽりごん……?」

 

 さすがにアローラから来たマツリカちゃんなら知ってる……かと思われたが、首を傾げるばかり。まだこの頃はパッチの開発がなされていないのかもな。アップグレードさえない時代だし。

 だとすれば、ますます分からない。進化方法が確立されていないLPLEの世界に、どうしてポリゴンZがいるんだ!?

 そもそも、何で人間と会話出来るんだよ、このポリゴンZは!?

 

『ですが、見られてしまったのならば、致し方ありません。「偉大なる計画(プラン・イース)」の為にも、貴方たちには消えてもらいますよ!』

 

 しかし、疑問を氷解する暇もなく、戦闘に突入する。

 

 ――――――謎のポケモンが襲い掛かって来たっ!

 

「ハヤテ、「ネコにこばん」!」『ケァーン!』

 

 とにかく、挑んでくるなら、応じるしかない。私はハヤテを繰り出し、牽制も兼ねて猫に小判を放った。

 

『馬鹿ですねぇ!』

 

 だが、ポリゴンZはヒラリと躱し、トライアタックで攻撃してくる。

 

『ホァッ!』「ハヤテ!」

 

 炎、電気、氷の三属性のビームがデルタを描きながらハヤテを穿ち、地へ落とす。たった一発で瀕死である。

 こいつ、相当レベルが高いぞ……!

 

『死になさい』「あっ……」

 

 さらに、瀕死のハヤテには目もくれず、無防備になった私に破壊光線を放って来やがった。

 

 え、あ……嘘……私、これで……終わ――――――

 

「アオイっ!」「わっ……!?」

 

 しかし、咄嗟にシンくんが動いてくれたおかげで、何とか助かった。

 標的を失ったビームは鋼鉄の壁面を融解させ、グツグツにしてしまう。何て破壊力だよっ!

 

『チッ……ならば、今度こそ……』

 

 反動で動作が鈍っているが、再び私……否、私に狙いを付け始めるポリゴンZ。

 

『プリャアアアアアッ!』『ピッピィッ!』

『ぐわばぁああああああああああああっ!』

 

 だが、そこにプリンとアカネちゃんが割り込む。

 アカネちゃんはコズミックパンチで、プリンは「ころころスピンアタック」というスマブラっぽい新しい相棒技で攻撃を仕掛け、ポリゴンZを殴り飛ばし、撥ね飛ばした。

 

「バウワウッ!」『ガァヴォァッ!』

『ぐげぁああああああああああっ!』

 

 そして、バウワウのフレアドライブも直撃。燃え盛る伝説ポケモンが、人工ポケモンを聖なる炎で焼き焦がす。

 さすがレベル50の放つタイプ一致技。余裕の威力だ、火力が違いいますよ。

 

『うぐぐぐっ、高がピッピとプリン、ウィンディ如きが……! しかし、ここで倒れる訳にはいきません! また、相見えましょう……!』

 

 これはポリゴンZも堪えたようで、戦略的撤退(テレポート)で離脱した。あれだけ食らって瀕死にならないとか、化け物かよ。

 あ、カラカラもちょっとだけ頑張ったんだよ、骨が掠っただけだけど。

 

「……あ、ありがとう……でも、どうして……」

 

 どうして、私なんか、助けてくれたの?

 今の今まで、誰も、そんな事――――――、

 

「当たり前の事、聞くなよ……」

「………………っ!」

 

 私はシンくんに抱き着いた。

 そして、そのまま声を上げて泣いた。これまで一度もした事のない、大号泣だった。

 

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 あれだけの事をしておきながら、その相手に縋り付いて泣き喚くなんて恥ずかしい。

 でもね、涙がね……止まらないんだよぉ……っ!

 

「………………」

 

 そんな私とシンくんのツーショットを、マツリカちゃんがスケッチする。にこやかに。バウワウもカラカラも笑っていた。

 うわぁ~、ブッ飛ばしたくなるわぁ……!

 

「落ち着いたか?」

「う……ぐすっ……うん……」

「なら行こう」

「……うん!」

 

 そんなこんなで、謎のポケモンによる意味不明なイベントは、ひとまず幕を下ろした。

 これ、絶対にイベントフラグだ。後で再会する流れですね、分かります。

 

「いや、アンタら、秘密基地で何してんのよ……?」

「馬鹿なのか?」『馬鹿なのにゃ?』

 

 ……で、地下四階で降りた瞬間、ムコニャに見付かった。さすがに気付かれるよなぁ。

 

「まぁいいわ。丁度サカキ様と面会するところだったし、一緒に来なさいな」

「どこで手に入れたか知らんが、その恰好なら新入りで通じるだろ。紹介してやる」

『今までの借りをここで返してやるにゃ~♪』

 

 良い奴だな、お前ら。さすがは愛と正義の悪を貫く連中である。

 

「着いたわよ。失礼のないようにね」

 

 程なくして、オフィスの入り口に到着した。いよいよ以て、ロケット団のボス・サカキとのご対面だ。

 

「「失礼します!」」『失礼しますにゃっ!』

 

 エレベーターと同じくらいに重厚な扉にカードキーが差し込まれ、入力されたコードが厳重なロックを解除し、思ったよりも滑らかなスライドで開放される。

 内部はそこそこ程度の広さで、壁も床も天井も他の部屋と同じ金属パネルで構成されていた。地下施設なんだから仕方ないと言えばそれまでだが。

 その分、小物や調度品にはかなり金を掛けており、床にレッドカーペット、壁には赤と白のパネルが後付けされ、様々な資料が収められたアンティーク調の本棚や如何にもなオフィステーブルなどが置かれている。入り口から見て真正面の壁には、デカデカと「R」のエンブレムが飾られていた。

 何と言うか、質実剛健な雰囲気を持った、悪の組織のボスが座するに相応しい部屋である。

 

「……以上が、現状把握出来ている不穏分子です」

「なるほど、思っていた以上だな……」

 

 中ではちょうどアポロが何某かを報告しており、例のあの人が溜息を吐いている。

 オールバックに鋭い目付きという悪人面に、黒い一式物のスーツ(ただしYシャツは赤)を粋に着こなす、これぞマフィアのボスと言った感じの燻し銀。傍らには最高のペットたるシャムネコポケモンのペルシアンが寄り添っている。

 間違いない……こいつこそ、ロケット団の首領サカキだ。

 それにしても、相変わらずカッコいいなぁ。

 他の組織のボスも人の上に立つ雰囲気(オーラ)は持ってるんだけど、“悪のベテランさ”はサカキにしかないと思うんだよ、うん。

 マツブサはどちらかと言うとインテリ系だし、アオギリはただの海賊だし、アカギはざわざしてそうだし、ゲーチスは真ゲスの類友だし、フラダリは色々と惜しいけどアレだし、グズマは不良だし、ルザミーネはなぁにこれぇだし、ローズはそもそも悪人ですらないし……。

 ゲーフリよ、そろそろサカキの再来となる人物を登場させてもいいと思うぞ。

 あと、何かマトリさんっぽい女性秘書もいらっしゃいますが、本人なんですかね?

 とりあえずアレだ、

 

「サイン下さい!」

「「「いや、誰だお前は」」」

「「『ジャリガールぅぅぅっ!』」」「アオイぃぃっ!」「ありゃー」

 

 サインを強請ったら、総スカンを食らった。解せぬ。

 

「……本当に誰なのですか、貴方たちは? そこの幹部候補生、説明してくれますね?」

 

 落ち着きを取り戻したアポロが詰問してくれる。

 

「件の少女と、その友人です」

「ああ、報告書にあった、例の“外部協力者(ブローカー)”ですか」

 

 コジロウさんや、もっと言い方はなかったのかね。その通りだけどさ。

 

「はい。ポケモンの化石とそれを復活させる技術者の情報をリークしたのも彼女です。そして、“これ”も……」

『ミュゥ~!』

「「「なっ……!」」」

 

 さらに、さっき私があげたミュウをさっそく召喚。組織のトップ3の度肝を抜いた。

 おやおや、なかなか良いプレゼンしてくれるじゃない。これは私も頑張らないとな。

 

「い、一体どこでそのポケモンを――――――」

「フジ老人……いや、フジ博士からですよ。もちろん、居場所も知っています」

 

 開いた口が塞がらないアポロに、私が爆弾を投下。これで掴みは完璧ね♪

 シンくんが「そんなの聞いてない」って顔をしてるが、実際に言っていないから仕方ない。重要なのは、嘘だろうが何だろうが、相手の興味を引く事だよ。話が通らなきゃ、会話なんて出来ないんだから。

 

「……貴方、一体何者なのです?」

「見ての通りの子供ですよ。ポケモンマスターを夢見るね」

 

 そう言いつつ、サカキの方をチラリと見る事で、言外に「お前の表の顔も知っているぞ」と伝える。これならアナタも興味を持ってくれるわよね、サカキさん?

 

「良いだろう。話を聞いてやる」

「「サカキ様!?」」

「アポロ、マトリ。少し下がっていろ」

 

 案の定、サカキが動いた。アポロとマトリが驚愕しているが、知った事じゃないって感じ。

 

「「分かりました……」」

 

 こうなっては何を言っても無駄だと悟ったのか、二人は渋々と脇に下がった。ムコニャも珍しく無言で下がったので、私とシンくんとマツリカちゃんの三人とサカキが正面から向かい合う形になる。

 

「さて、まずはその恰好から説明してもらおうか?」

 

 あ、そこからスか。

 

「自称・美人スパイから貰いました」

「ほほう。そいつは“こいつ”の事か?」

 

 サカキがアポロに目配せし、アポロがそれに最新式のポケギアによるホログラムで応える。そこにはあの時のメタモンお姉さんが映し出されていた。

 

「はい、間違いありません」

「……こいつは、一部の部下を扇動して、クーデターを図っていた女狐だ。まさかスパイだったとはな」

 

 ああ、マジもんのスパイだったんだ、あの人。人間、見た目じゃ分からないものである。

 

「どういう関係だ?」

「お近付きになりたくて、不法侵入した時に出会いました。ちょうど良かったんで貰いましたけど、初対面ですよ?」

「………………」

 

 おうおう、懐疑的な目をしてますな。当たり前だけど。

 

「まぁ、信じてくれなくても構いませんけどね。ただ、少なくとも彼女の味方ではありませんよ。“ポケモンを道具扱い”して、殺してしまうような輩とは関わりたくないですから」

「………………!」

 

 この言葉に反応したのは、サカキではなくアポロだった。どうやら“当たり”みたいね。

 

「下っ端の中にいた、ハルとフィロ。あの二人、あのスパイの配下なんでしょう? 迂闊にも“団長”って連呼してましたしね。猿でも分かります」

「そいつらはどうした?」

「彼らが殺したガラガラと同じ末路を辿ってもらおうかと思いましたが、逃げられました」

「……どうして奴らがガラガラを殺したと?」

「カマを掛けて本人に聞きました。あいつらアホでしたからね。そうでしょう、アポロさん?」

 

 もう一度、アポロさんに振ってみる。今度は直接だ。

 

「ええ。あの二人は前々から暴走しがちでしたから、割と早く尻尾を掴めましたよ。わざと奴らの(・・・・・・)計画通り停電(・・・・・・)させたら(・・・・)、すぐに動きましたし」

 

 つまり、あのスパイさんは停電に乗じて何か事を起こそうとして、それをアポロに逆用されたのか。滅茶苦茶優秀じゃないですか。さすがは最高幹部である。

 

「シルフの回しモンですかね?」

「……どうしてそれを?」

「何となくです♪」

 

 でも、子供のカマには引っ掛かっちゃうお茶目さん。

 たぶん、中身の年齢は私の方が上だけどね。若手って感じだし。

 

「……目的は何です?」

「開発中の“シルフスコープ”ですよ。持ってるんでしょう?」

「………………!」

 

 いや、アポロさん、顔に出過ぎ。もう少し表情のコントロールを学びましょう。

 とは言え、企業秘密やら重要機密やらをベラベラ喋る子供が目の前にいたら、そういう顔したくなるのも分かるが。

 

「フジ博士は今、ポケモンタワーにいます。しかし、ポケモンタワーは今、どっかの馬鹿共が殺したポケモンの幽霊がうろつくせいで、先に進めません。だから、シルフスコープが必要なんですよ」

「ならば、シフルカンパニーに直接伺えばよろしいのでは?」

「あんな胡散臭い企業、信用出来ませんよ」

 

 個人的にだけど、シルフカンパニーって真面な企業じゃないと思うのよ。社長さんは誠実っぽいけど、社内の人間全てがそうだとは限らないし。マスターボールとかポリゴンとか、“夢はあるけど絶対に悪用される商品”を開発している辺り、社長・社員共々、後先を考えられないのかもしれない。歯止めが利かない探究者なんぞ、マッドサイエンティストと変わらん。

 そんな事だからロケット団に目を付けられ、企業スパイ(しかもダブルスパイっぽい)なんか生み出しちゃうんだよ。

 

「――――――その理屈だと、俺たちも信用出来ないんじゃないのか?」

 

 すると、黙って様子を見ていたサカキが口を挟んできた。確かにそうなんだけどね。

 

「私はね、和気藹々としたアットホームな職場だとか、福利厚生がしっかりしてますとか、人社一体だとか、そういうおべんちゃらを並べる連中が、一番大嫌いなんですよ」

 

 何が互いを尊重し合ってだ。ふざけるなよベイベロン。反吐が出るんだよ、クソが。

 

「まるで闇のような目だな。その年で、一体何を見て来たのやら……」

 

 そんな私の闇を感じ取ったサカキが、愉しそうに笑う。

 

「逆にそっちの少年は、燃え盛る火のようだな」

「……当然だ。オレは悪魔に魂を売る気はないからな」

 

 シンくんスゲェ。マフィアのボスに正面から喧嘩売っていやがる。

 

「ほう。ならば、何故ここにいる? その少女は媚びを売りに来たようだが……」

「アオイはそんな安っぽい奴じゃないさ。単に利用するつもりなだけだよ。アオイも、オレも」

 

 それ、フォローなんですかね?

 

「アオイが何を考えているかまでは分からない。でも、これだけははっきりしている。オレはポケモンを悪用し、あまつさえ殺しちまうようなロケット団を許さない。だけど、今のオレはただの子供だし、全然強くもない。だから……」

「だから?」

「だから、オレがいつか変えてやる! 今は無理でも、強くなって、絶対にお前の首を取ってやる!」

 

 そして、この正々堂々、威風堂々な下克上宣言。逆にカッコいいじゃないか、チクショウ。

 

「だから、この俺に力を貸せと? 他ならぬ敵を相手にか?」

「そうだ! オレは馬鹿で弱いし、割り切れも出来ないから、そんな事しか考えられないんだよ!」

「フハハハハハハハハハッ!」

 

 おおぅ、サカキが豪快に笑っていらっしゃる。マフィアのボスとしてではない、ジムリーダーとしての顔だ。

 

「いいな、その反骨精神。ウチの息子にも見習わせてやりたいもんだ」

 

 それって、一歩間違えば永遠に正体不明な、あの????(シルバー)くんですか。もういるんですね。

 

「それに、お前の濁った瞳。まさに悪道に相応しい」

 

 こっち見んな。あと少しくらいマツリカちゃんにも触れてあげてください。

 

「いいだろう。お前たちのロケット団への入団を認める」

「サカキ様!?」「こ、こんな得体の知れない連中を……」

「あくまで“仮”だ。深い所には関わらせないし、関わり方もこれまでと同じでいい。……寝首を掻きたければ掻いてみろ、小童共」

 

 実に悪い顔で、私たちの()入団を認めるサカキ。利用したいのはお互い様か。食えないおっさんだわ。

 

「アポロ、例の玩具をくれてやれ」

「ハッ……!」

 

 さらに、ようやく出ました、シルフスコープ。暗視ゴーグルにカメラを組み合わせたような、割と謎な見た目の機械である。

 

「シルフカンパニーとトキワコンツェルンは表向きこそ提携を結んでいるが、裏では競合相手でな。お互いに牽制し合ってるんだよ。この玩具も、こちらのスパイが持ち帰った物だ」

 

 この世界線ではロケットコンツェルンじゃなくて、トキワコンツェルンなのか。関係性がモロバレルだからね、仕方ないね。

 そんな事より、はよスコープよこせや。

 

「……とは言え、そんな大事な戦利品を、只でやる分けにはいかんな」

 

 しかし、サカキはニヤニヤするだけで、なかなか渡してくれない。さっき玩具って言うたやん、アンタ。

 

「アポロ、マトリ」

「「了解です!」」

 

 そして、彼の目配せと共に、モンスターボールを構えるアポロとマトリ。

 おや、この流れは……?

 

「欲しくば、奪って見せろ。それが入団と引き渡しの条件だ」

 

 なるほど、こましゃくれた媚びも、言葉だけの反骨精神も、確かな実力を見せてからにしろ……って事か。いいだろう、やってやる。

 

「しんぱんやるー」

 

 キミは自由だな、マツリカちゃん!

 

「行くよ、シンくん!」「おう!」

「子供とは言え、手加減はしませんよ!」「押して参ります!」

 

 ――――――ロケット団の最高幹部と秘書の、アポロとマトリが勝負を仕掛けて来たっ!




◆ロケットゲームコーナー

 ロケット団が運営するスロットゲームのお店。賞品がかなり豪華で、ポリゴンはここでしか手に入らない。賞品やスロットそのものに魅かれ、それなりのプレイヤーがここで散財したのではないかと思われる。
 その地下はロケット団の秘密基地となっており、最奥には悪の首領が座して待っている。


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ロケット団の最高幹部たちと母の愛

アオイ:「ヘルガーのいないアポロさんって、何か微妙だよね……」


「ルールはおたがいにいっぴきずつのダブルバトルで」『バウワウ!』『キャルァ!』

 

 えっ、マジでやんの?

 ま、いいけどさ。ようはボコればいいんだから。

 

「行けっ、ハヤテ!」『フォグルドォッ!』

「任せた、ピジョット!」『キュリィッ!』

 

 私たちが選んだのは、お互いのファルコン。先鋒と言えばこいつらでしょ。アニポケ的には呉越同舟って感じだろうけど。

 ちなみに、ハヤテは元気の欠片と傷薬を使って蘇生させました。死にっぱなしは可哀想だからね。

 あ、シンくんのピジョットの技構成はこんな感じ。

 

◆オニドリル(ハヤテ)Lv43:「ネコにこばん」「ドリルくちばし」「オウムがえし」「こうそくいどう」

◆ピジョット Lv46:「ねっぷう」「エアスラッシュ」「すなかけ」「はねやすめ」

 

 まさかの熱風を搭載したガチ使用である(でも砂掛けは絶対に外さない)。チャンピオンロードをクリアしてもいないのに、どうして思い出し技を覚えてるし。

 

「何か知らぬ間に覚えてた」

「マジかー」

 

 何その主人公補正。いや、彼の場合はライバル補正か。

 だったら私にもドリルライナー早く下さい、お願いします。シンくんだけズルい。

 

「行きなさい、マタドガス!」『ガッスヴヴヴッ!』

『お願いします、ベトベトン!』『ベヴァアアッ!』

 

 ……で、対するアポロとマトリが繰り出したのは、何とガラルマタドガス(Lv50)とアローラベトベトン(Lv48)。お試しとは思えないくらいバッチリ育て上げている。

 いやいやいや、何でリージョンフォームのポケモン持ってんのお前ら!?

 

「ワタシはガラル生まれなのですよ。育ちはカントーですがね」

「わたくしもカントー育ちのアローラ人です。「アローラ」よりも「こんにちは」って感じですね」

 

 さすがは世界を股に掛けるポケモンマフィア、国際色豊かだった。どういう家庭事情なのか非常に気になる所だが、今は勝負に集中だ。レベル差もあるし、余所見して勝てる相手ではない。

 

「ハヤテ、「ネコにこばん」!」『ケァアアアッ!』

「ピジョット、「すなかけ」!」『ピジョォアッ!』

 

 初手は私もシンくんも目晦ましから。お互いに手慣れたものである。

 

「主導権は握らせませんよ! マタドガス、「クリアスモッグ」!」『ドヴァ~!』

 

 だが、そんな子供騙しが通用する程、相手も伊達に(悪い)大人をやっていないらしく、マタドガスのクリアスモッグでデバフをかき消してしまった。コジロウのマタドガスといい、何でドガース系はサポート向きの技ばっかり使って来るんだよ!

 

「ベトベトン、「どくどく」!」『ベドドドォッ!』

 

 さらに、どくタイプ特有の必中猛毒でハヤテを狙撃。おい止めろ、ハヤトは蘇生したばっかりなんだぞ!?

 

『ホォグルドヴォッ!』「あ、回復した」

「何ですって!?」『ベァッ!?』

 

 しかし、私を悲しませまいと気合で治癒。さすがハヤテ、何ともないぜ。このシステム、結構便利だよねー。

 さぁて、搦め手が通じないのなら、押せ押せGOGOだ。

 

「ピジョット、「ねっぷう」!」『キョァアアアアッ!』

「ハヤテ、「ドリルくちばし」!」『ケェアアアアッ!』

 

 まずはピジョットが熱風でガラルマタドガスとアローラベトベトンにダメージを与えつつ火傷を負わせ、更にハヤテのドリル嘴がガラルマタドガスを直撃。ダメージの蓄積も相俟って、HPを一気に1/3まで減らす事が出来たものの、一撃とは行かなかった。やっぱりレベル差がキツいな……。

 

「マタドガス、「マジカルシャイン」!」『ピカドアガァース!』

「ベトベトン、「かみくだく」!」『ベドォォムッ!』

「くっ……!」「うわっ……!?」

 

 そして、反撃のマジカルシャインと噛み砕く。私たちの戦法をほぼそのまんまやり返された形になる。

 

「よし! マタドガス、追撃の「ヘドロばくだん」!」

「させるかっ! ピジョット、「エアスラッシュ」!」

 

 さらに、好機と見たか、ガラルマタドガスがヘドロ爆弾を放とうとしたが、シンくんのナイスな指示でピジョットのエアスラッシュが炸裂。見事に怯ませた。

 

「今だ! ハヤテ、「オウムがえし」!」『カァアアアッ!』

『ドヴァァァス!?』「くっ、マタドガス……!」

 

 そこへハヤテのオウム返しが発動。コピーしたヘドロ爆弾が着弾し、ガラルマタドガスを戦闘不能にした。複合タイプのせいで等倍な上に、威力も高いからな。タイプ不一致とは言え、耐えられる筈がない。

 

「おのれ! ベトベトン、「どくづき」!」『ベムラァッ!』

『ケァッ……!』「ハヤテ、お疲れさん」

 

 むろん、向こうも只ではやられず、攻撃直後の隙を毒突いて、アローラベトベトンがハヤテを撃墜した。これで残るはシンくんのピジョットとアローラベトベトンのみ。ダメージ的にもイーブンで、完全なタイマン勝負である。素早さではピジョットが勝るものの、アローラベトベトンは耐久力があるので油断ならない。

 はてさて、この勝負、どうなる事やら……。

 

「ピジョット、「エアスラッシュ」!」『ピジョァオオヴッ!』

「くぅっ……!」

 

 だが、勝負は案外一方的だった。ガラルマタドガスというサポート役がいなくなった事で速度差が浮き彫りになり、シンくんの剛運によって怯み続けたアローラベトベトンはロクに動けず、火傷のスリップダメージも加わって、あっという間に瀕死状態になった。

 やっぱ、怯みゲーってこえぇ……というか、シンくんのやり方がえげつねぇ。さすが砂掛け厨。金銀編のフェイバリット技は泥掛けかな?

 とにかく、これで試合は終了だ。

 

 ――――――ロケット団の最高幹部と秘書の、アポロとマトリに勝ったっ!

 

「しょうしゃ、シンおにいちゃんとアオイおねえちゃんのバカップルコンビ~♪」『ワンワン!』『カラカラ!』

 

 じゃかぁしいわぁっ!

 

「フッ……アポロとマトリを負かすか……素晴らしい。それでこそ、だ」

 

 すると、ペルシアンと戯れながら静観していたサカキが、称賛の拍手を送って来た。合格、という事だろう。

 

「さぁ、受け取れ」

「うわっと……!」

 

 そして、シルフスコープをぞんざいに投げてよこす。もうちょい大切に扱え。

 

「さて、それでは初任務だ。……ポケモンタワーに向かい、フジ博士と接触しろ。やり方は任せるが、少なくとも博士が昔創ったという“最強のポケモン”についての情報だけでも持ち帰れ」

 

 さらに、初任務を承った。“最強のポケモン”と言えば、言わずと知れたミュウツーだが……そうか、まだ詳細は分かってないんだな。

 

「ムサシ、コジロウ、ニャース。お前たちはアオイとシンのサポートをしてやれ。お互い学べる事があるだろうし、しっかり励めよ」

「「ハッ!」」『ニャッ!』

 

 あと、ムコニャも付属するらしい。現場主義のサカキらしい判断だ。新人にサポートを付けるとか、お互いに学び高め合うとか、有能過ぎんだろサカキ様。

 

「それと、我々は少し外に出てくる。シルフカンパニーと“大人の話合い”をしなければならないんでな」

 

 ああ、スパイのせいで被った損害をダシに社長を恫喝しに行くんですね、分かります。案外、シルフ乗っ取りイベントも間近なのかもしれない。これはあんまりノンビリしていられないな。

 

「さぁ、大見得を切ったんだ。結果を残して見せろ」

「りょーかい」「ああ」「いぇーい」

 

 そんなこんなで、私たちはロケット団員(仮)の初任務へ臨む事と相成った。

 

「さぁ、やって参りました……タマムシデパート!」

 

 そして、私たちはポケモンタワーに――――――ではなく、タマムシデパートにいた。

 

「いや、何でだよ?」

「私も少しくらい技を充実させて下さい」

「ゴメンナサイ」

 

 理由はもちろん、戦力強化である。単にシンくんとショッピングしたいとか、そいう訳ではない。ないったらない。

 いや、でもね、マジで技マシンが欲しいのよ。いくら何でも技レパートリーが貧弱過ぎるもん。せめてトライアタックやシャドーボールくらい買っておきたい。

 

「それにヒジュツも貰ったから、そんなに大急ぎで行かなくても大丈夫よ」

 

 そうそう、シルフスコープを入手したからか、ロケットゲームコーナーを出てすぐにヒジュツ・ソラワタリを頂きましたよ。これで行った事のある場所なら、どこにだってひとっ飛び。わざわざ歩いて回る必要がなくなる。

 

「……そう言えばそうだな。それにしても、何であんな風船だけで飛んで行けるんだろう?」

 

 ホント、それな。

 秘伝マシンの空を飛ぶはポケモンの技だから違和感はないが、このヒジュツ・ソラワタリは何と風船がたくさん付いたハンモック。気分はゲゲゲの鬼○郎だ。

 本当に、どうやって行き先をコントロールしているのだろう。

 

「つーかさ、あの風船から時々視線を感じるんだけど……気のせいだよな?」

「………………」

 

 風船……子供……ポケモン……まさか、あの風船の正体って――――――?

 

「……さーて、ちゃっちゃと買い物済まそうか、シンくん!」

「そうだな! カラカラの持ち主も待ってるだろうしなっ!」

 

 たぶん、これ以上考えない方がいい。SAN値どころか、魂を持って行かれる。

 という事で、タマムシデパートに突入。

 

「でっけぇ……」

 

 カントー地方のFSの総元締めというだけあって、滅茶苦茶デカい。外観は玉虫色にカラーリングされた一般的な五階建てのデパートだが、中身はもっと近未来的で、ホログラムガイドとか普通にある。エレベーターも無音、エスカレーターも静かと芸が細かい。

 各階層には他町では手に入らない珍しいアイテムがこれでもかと売られているが、今回用があるのは二階の技マシン売り場である。三階で技マシン03「てだすけ」を貰えるが……使わないから後日でいいだろう。

 

「何をお買い上げですか?」

「「「全部で」」」

「「「『えーっ!?』」」」

 

 店員とムコニャに驚かれたが、ハヤテが猫に小判をばら撒きまくってるおかげで、それなりに資産はあるんですよ。サカキからも軍資金と言う名のお小遣いを貰ったし。大人買いくらい余裕だった。

 よしよし、これで大分戦力が強化されたな。大丈夫、ムコニャにも使わせてあげるから安心してチョーダイ。

 

『ピッピィ~♪』『プリプリッ!』『プックリ~ン♪』

 

 と、私たちがお買い物に夢中になっている間に、アカネちゃんとプリン、おやかたさまが気付かぬ内にエレベーターに乗っていた。抜け駆けでデートでもするつもりか。

 しかも、トリプルとはやるじゃない……じゃなくて!

 

「「待てぇ~い!」」「まって、おやかたさまー」

 

 迷子になられても困るので、エレベータの向かう先――――――屋上広場にダッシュした。

 

「どこに……」

「わー、可愛い♪」『ピピィ~』『プリャリャ~』『トモダチ~♪』

 

 いた。自販機の近くで、幼女と戯れてる。

 ……あ、そう言えば、キミにジュースを買ってあげると、技マシン貰えるんでしたね。さっそく奢ってあげよう。

 

「あ、アタシにも頂戴な」「王冠はくれよ? 集めてるんだ」『ニャーはミックスオレを所望するにゃ~』「わたしも~♪」

 

 当然のように集ってくるムコニャとマツリカちゃん。そんなお前らが嫌いじゃないぜ。

 

「ハイ、シンくんにも」「おう、ありがとな」

 

 私たちもサイコソーダ(ビー玉入り)をゴクリ。激戦の後に飲む炭酸は格別ね♪

 

「……今度、もっとゆっくり来ような」「う、うん……」

 

 な、何よ、誘ってるの……? もちろんOKよ!

 

「さぁ、行こうか」「うん!」「ごーごーとぉ~♪」

 

 さてさて、買う物も買ったし、さっさと用事を済ませるとしよう。

 次はシオンタウンのポケモンタワー攻略。

 

 ……例の、“あのイベント”だ。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 ということで、ヒジュツ・ソラワタリでシオンタウンへひとっ飛び。

 ちなみに、ムコニャはちょっとレベリングをしたいそうで、最上階までのルートを確保した後で合流する手筈となっている。彼らはあくまでサポーター、新人研修の監督役なので間近にいないのは正しい姿勢なのだが、本当にそれでいいのかお前ら。別にいいけど。精々頑張り給え。

 

「「ただいま!」」「あろ~らぁ」

「あ、アオイさん、シンさん、マツリカちゃん!」

 

 まずはカラカラの飼い主さん家に寄り道。素数なカラカラの無事を確認して貰った。

 

「……ありがとうございました。もし良かったら、この子のお母さんのお墓参りに行きませんか? ちょうど今、お爺ちゃんがお祈りに向かってる筈だし、あなたたちの事、紹介したいの」

 

 ああ、家族だったのね、アナタたち。ジェネレーションズでもそうだったから違和感はないけど。

 余談だが、このお姉さんの名前はアイ。予想していたとは言え、洒落にならねぇ……。

 まぁ、そんなこんなで、カラカラのお母さんの墓参り――――――という名の幽霊(ガラガラ)イベントに向かう事となった。

 むろん、内部は幽霊だらけになっているので、シルフスコープの出番である。

 

「デュワッ!」

「いや、何だその掛け声……」

 

 だって、目に添えるアイテムと言えば恒点観測員340号じゃん、仕方ないよ。

 

「おー」

 

 スコープの一部が展開し、眩い光が放たれ、黒い影でしかなかった幽霊たちが、その正体を表す。

 

「幽霊の正体は、ゴースやゴーストだったのか……」

 

 たまに野生のカラカラが混じっているけど、気にしてはいけない。

 

「さぁ、そうと分かれば、じゃんじゃん捕まえましょう!」「おう!」「いぇ~い」

 

 この後、滅茶苦茶ゲットした。

 いやー、ゴーストは強敵でしたね。何であんなにデカいんだろう。明らかに進化後より大きいだろ、アレ。ガスだからか?

 ついでに、連鎖し過ぎたせいなのか、世界線の歪みなのか、野生のゲンガーが出て来た時には驚いた。前にどこかでゴローニャが出て来た事があったし、この世界はボッチに親切な設定なのかもしれない。これならカイリキーも問題なく野生でゲットかな?

 まぁ、誰も使わないけどな!

 

「タマ……シイ……ヨコ……セッ!」

「だが断る! アンズちゃん、「かみくだく」!」『クィィイン!』

 

 キチ○イ戦では、アンズちゃんに活躍してもらった。噛み砕くでゴーストタイプの弱点を突けるし、何よりクチバジム戦以来、あんまり出せてないからね。恩返しも兼ねて、彼女にも脚光を浴びせてあげないと。

 ちなみに、今の私たちの手持ちはこんな感じ。

 

《私のメンバー》

◆相棒ピッピ(アカネ)Lv49:「ゆびをふる」「ウルトラクッキング」「コズミックパンチ」「ムーンフォース」

◆オニドリル(ハヤテ)Lv49:「ネコにこばん」「ドリルくちばし」「はかいこうせん」「こうそくいどう」

◆ラフレシア(ヒナゲシ)Lv48:「ようかいえき」「メガドレイン」「ムーンフォース」「どくどく」

◆スピアー(アキト)Lv47:「どくづき」「ミサイルばり」「げきりん」「こうそくいどう」

◆ニドクイン(アンズ)Lv50:「どくどく」「かみくだく」「いかりのまえば」「あなをほる」

◆イーブイ(ユウキ)Lv45:「めらめらバーン」「いきいきバブル」「びりびりエレキ」「どばどばオーラ」

 

《シンくんのメンバー》

◆相棒プリン Lv53:「ふわふわドリームリサイタル」「ころころスピンアタック」「トライアタック」「かなしばり」

◆相棒ピカチュウ Lv51:「ばちばちアクセル」「10まんボルト」「ふわふわフォール」「あなをほる」

◆ピジョット Lv53:「ねっぷう」「エアスラッシュ」「すなかけ」「はねやすめ」

◆フシギバナ Lv51:「はなびらのまい」「パワーウィップ」「どくのこな」「やどりぎのタネ」

 

《マツリカちゃんのメンバー》

◆バリヤード(バリバリ)Lv45:「サイコキネシス」「ひかりのかべ」「リフレクター」「マジカルシャイン」

◆プクリン(おやかたさま)Lv45:「マジカルシャイン」「トライアタック」「10まんボルト」「はかいこうせん」

◆アローラキュウコン(キュウ)Lv47:「ふぶき」「マジカルシャイン」「あやしいひかり」「さいみんじゅつ」

◆ウィンディ(バウワウ)Lv63:「じゃれつく」「おにび」「げきりん」「フレアドライブ」

 

 うーん、相変わらず手持ちの数がレベルに影響してるな。技に関しては完全に見劣りしている。シンくんとマツリカちゃんだけ思い出し技使えてズルい。

 あと、バウワウがやっぱり強過ぎる。何で一匹だけレベルが60超えてるんだよ。これ、カツラのウィンディより強いんじゃなかろうか。

 とりあえず、早くドリルライナー下さいお願いします。もしくは技を思い出させて。

 それと蛇足だけど、マツリカちゃん、技マシン032「マジカルシャイン」を持ってました。さすがは後のフェアリータイプキャプテン。おかげである程度火力が上がったわ。感謝感謝。

 ……スマン、マジカルおやじ。お前は永遠に我を忘れていてくれ。

 

『タチサレ……ココカラ、タチサレ……』

 

 そうしてレベリングしつつ、最上階前に到着。例の巨大幽霊がゴァッと現れた。どの幽霊よりもデカいが、それだけ想いが強い、という事だろう。

 だって、この幽霊の正体は……。

 

「アオイ!」「分かってる!」

 

 さっそくシルフスコープを起動。清らかな光が、淀みに満ちた巨大幽霊の正体を暴き出す。

 

『ガラァ……!』

「あれは……」「(やっぱりか……)」

 

 ――――――幽霊の正体は、カラカラのお母さんの迷える魂だった。

 

『キャラァ! マーマーッ!』『………………!』

 

 ――――――優しいカラカラのお母さんに戻った魂は無事、天に昇って……消えていきました。

 

『カラァ……』

 

 数瞬の邂逅と会話、その後光となって消えて去ったガラガラに想いを馳せるカラカラ。初代の頃から何度も見てきた光景だけど、やはり心に来るものがある。

 本当の親子愛は、ガラガラとカラカラにこそ相応しいと思う。

 

「カラカラ、お前……っ!」

 

 そんな悲しみに暮れるカラカラを、シンくんが優しく抱き止める。

 

『キャルァッ!』

「カラカラ……」

 

 すると、それに応えるように、カラカラがギュッと抱き返し、

 

『ガラガラァッ!』

「えっ、お前……進化したのか!?」

 

 さらに、孤独を癒されたのがきっかけになったのか、そのままシンくんの胸中でガラガラに進化した。

 

 それも、アローラの姿に。

 

 ……え、マジで? どんな奇跡が重なるとそうなるの?

 

「あ、わたしのおまもり、ひかってる……」

 

 と、答えは案外近くにあった。そっか、マツリカちゃん、もうZクリスタル持ってるんだ。

 だけど、リージョンフォームはあくまで土地に適応した姿だから、メガシンカみたいに石を持ってるだけで進化する筈は……。

 いや、突っ込むのは野暮だな。

 ガラガラお母さんが、我が子を想って守護霊となり、カラカラもそれに応えて進化した。それでいいじゃないか。

 

「――――――その子、あなたの事が好きなのね。良かったら、貰ってくれる?」

「えっ……?」

「お母さんともちゃんとお別れ出来たし、その子にはもっと広い世界を知ってもらいたいの。お願い出来ないかしら?」

「……はい、必ず見せますよ――――――頂点の世界って奴をね!」

 

 そして、アイさんから譲り受け、正式にシンくんの仲間入り。やったね!

 それにしても、頂点の世界か。いっつも私を優先してくれてるけど、やっぱりその辺は男の子なんだね。可愛いし、カッコいい。

 で、こちらがアローラガラガラくんのステータス。

 

◆ガラガラ(アローラのすがた)

 

・分類:ほねずきポケモン

・タイプ:ほのお/ゴースト

・レベル:28

・性別:♂

・性格:わんぱく

・種族値: HP:60 A:80 B:110 C:50 D:80 S:45 合計:425

・覚えている技:「シャドーボーン」「ホネブーメラン」「つるぎのまい」「おにび」

・図鑑説明

 手にした骨は母の遺骨。死してなおも子を想う母の魂が炎となってガラガラを守り、ガラガラは母を弔う踊りを毎夜踊る。道端に盛り上がった土があったら、それは彼らのお墓だ。

 

 レベルこそ低いが、すでに実戦級の能力を持っている。原典では没収されてしまった専用技も完備。母は強し、だね。

 つーか、性格わんぱくなのか。確かにノリが良かったし、明るいシンくんとは相性バッチリかもしれない。マツリカちゃんと悪ノリする可能性もあるけど。

 

「この上が最上階……」

 

 こうして、私たちは新たな仲間を手に入れつつ、最上階への道を切り開いた。ガラガラお母さんのお墓も、そこにあるらしい。ムコニャとは関係性が原典とはまるで違うし、この先に待っているイベントも、ゲーム通りにとは行かないだろう。絶対何か想定外の事が起きるに決まってる。マジでフラグしかない。

 

「行きましょう」「ああ!」「おー」「はい!」『ピッピィ~♪』『プリプリ~♪』『ガラッ!』『バウッ!』

 

 さて、鬼が出るか蛇が出るか……ポケモンタワー最終ステージ、行ってみよう。




◆ガラガラの幽霊

 皆さんご存じトラウマメイカー。最初は幽霊たちの一員としてプレイヤーをビビらせ、シルクスコープを手に入れてからは涙とやるせなさを伝えてくる。
 その正体はポケモンタワーに出入りしているカラカラのお母さんで、死後も子供を想って地縛霊となっていた。ついでに最上階のロケット団員からトレーナーやカラカラを守る為でもあったのだが、幽霊になってしまった今、それを伝える術はなくなっていた……。
 ちなみに、正体を見破れば、戦わなくてもピッピ人形でスルー(というか放置)出来たりするが、可哀想なのでやめたげてよぉ!
 この先に、過去の罪悪感に囚われた哀れな老人が待っている。


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群青のマリオネットと明日への打ち上げ

アオイ:「青き龍は勝利を齎す」


 ポケモンタワー最上階。

 そこは天に召したポケモンたちに祈りを捧げ、冥福と来世の幸福を願う場所。大切な思い出を忘れずに、前へ進む為のターニングポイントでもある。未練がましい事この上ないが、言わぬが華だろう。

 

「………………」

 

 そんなお墓とお墓がオーバーレイネットワークを構築している、このホラースポットのど真ん中で、フジ老人は祈っていた。それはもう、一心不乱に。寄る年波も何のその、岩のように微動だにせず、祭壇へ向かって手を合わせ続けている。さすが原典では祈りに集中し過ぎてムコニャの出現にすら気付けなかった御人。

 正直、祈祷師よりヤバい奴にしか見えない。呼吸をしているのかすら若干怪しくなる。祈祷師は明らかにラリってるので分かりやすく怖いが、フジ老人の場合は一切喋らないのが逆に不気味だ。死んでないよね?

 まぁ、実際に彼の過去は仄暗いどころか、その不気味さに相応しい、カオスエクシーズチェンジしそうな勢いでヤバいのだが。ミュウツーの創造主だからね、仕方ないね。

 しかし、こちらにも要件という物がある。ポケモンの笛とか、ミュウツーの情報とか。

 

「お爺ちゃん、カラカラのお母さんは成仏したよ。さぁ、一緒に帰ろう?」

「………………」

 

 だから、いつまでも蝋人形になってないで、普通の老人に戻って下さいお願いします。

 つーか、実の娘に話し掛けられてるのに沈黙を守るなよ。冥福云々以前に、家族の絆を守れ。

 

「どうしよう、アオイ?」「うーん……」

 

 このままじゃ埒が明かないな。ここは一発、目覚めのメガトンパンチを――――――。

 と、その時。

 

「お爺ちゃん、そいつから離れて!」

 

 私たちの背後から、もう一人のアイさんが現れた。

 ……、…………、……って、えぇええええええっ!?

 

「「か、かげぶんしん!?」」「違います! 正真正銘のフジ・アイです!」

 

 私とシンくんのボケに律儀に突っ込んでくれるアイさん。

 いや、ちょっと待って、頭が追い付かない。この人が本物なら、あのアイさんは一体……?

 

「そこまでだぜっ!」「アタシたちが先よ!」「手柄は渡さないぜ、偽物ヤロウ!」『観念するのにゃ!』

 

 すると、これまた予想だにしない人物が登場。ムコニャに加えて、グリーンまで現れたのである。何でボンジュールがここに!?

 

「ラッタの墓参りさ」

 

 ですよねぇ。

 グリーンがポケモンタワーに訪れる理由なんて、一つしかない。

 

「それと、こいつを会わせてやりたかったのさ」『ヂュッ!』

 

 さらに、まさかのアローララッタを召喚。アローラの姿はカントー地方では発生しない筈だから、誰に貰ったのだろうか?

 

「でも、ノスタルジーに浸ってる場合でもないみたいだな!」

「でしょでしょ!」「俺たちの言う通りだったろ、ツンジャリ!」『感謝して敬うのにゃ!』

「誰がツンジャリだ! 感謝もしねぇよ!」

 

 そして、仲良く喧嘩するグリーンとムコニャ。LPLEはすでにグリーンたちマサラ組が旅立った後の物語なので、案外アニポケのサトシみたいな腐れ縁があるのかもしれない。

 でも、やっぱり現状を脳が処理しきれていない事に変わりはないのですが。

 結局、あの偽物は何者なんだよ!?

 

「それはそうと……いい加減、諦めたらどうだ、ブルー?」

 

 と、グリーンの鋭い目が偽アイの正体を見破る。

 

「ブルー?」

 

 それって、マサラ組最後の一人――――――初代当初は「三つ巴があるとしたらこんな奴」というコンセプトで設定だけされ、メディアミックスを除けばLPLEでようやく日の目を見た、あのブルー!?

 

「……フフフフフ、バレてしまったら仕方ないわね」

 

 すると、偽アイが怪盗みたいなノリで“皮”を剥ぎ、その正体を表した。

 

「そう、ある時は悲劇のヒロイン、ある時は悪の女スパイ、しかしてその正体は――――――世界最強のポケモントレーナー、ブルーちゃんよ!」

 

 少しウェーブが掛かった茶髪のロングに紺碧の瞳を持つ端麗な少女で、両裾にスリットが入ったノースリーブの黒いワンピースに水色のホットパンツという破廉恥な格好をしている。胸は慎ましく、お尻も小さい。可愛い黄色のバッグと、頭に生えた三本の動くアホ毛がチャームポイント。

 間違いない。苦節二十二年の時を乗り越え、現代に新生した謎のヒロインXY、ブルーその人だ。

 だが、今回はライバルや先輩というよりも、悪役令嬢というか、完全に峰不○子である。こいつもポケスペみたいな要素持ってんのか?

 それよりも、どうしてここにブルーが……いるかは考えるまでもないだろう。彼女の最終目標であるミュウツーの情報を求めに来たのだ。アイさんに化けていたのは、フジ老人に近付き易く、私たちと一緒にいても違和感がないからでしょうね。事実、全然分からなかったし。

 というか、悪の女スパイとか言ってるけど、ロケット団のあの人と関りがあったり?

 

「誰よそれ?」

「無関係でした!」

 

 まぁ、メタモンだからね、しょうがないね。彼女に今後の出番はあるのだろうか……。

 いや、それよりも、今は目の前のブルーにどう対処するかである。

 とは言え、彼女も私たちもトレーナーである以上、やる事は決まり切っている。正面切っての、ポケモンバトルだ。

 

「予定が狂ったけど、こうなったら実力行使よ! 行きなさい、アナタたち!」

『プァラァアアアッ!』『ギャハハハハァッ!』『ギィガァアアォヴッ!』『ガァルヴォォッ!』『クゥォンコォンコォン!』『グゥヴァアアメラァアアアアッ!』

 

 さっそく、手持ち全部を繰り出してくるブルー。

 メンバーは原典準拠でピクシー(Lv55)、ゲンガー(Lv57)、ウツボット(Lv58)、ガルーラ(Lv56)、キュウコン(Lv59)、カメックス(Lv68)……なのだが、どいつもこいつもプレッシャーが既存の物とはまるで違う上に、鳴き声がマジもんの怪獣みたいになってる。

 それぞれ天女超獣、エイリアン、磁力怪獣、ウラン怪獣、使徒っぽい邪神、超古代文明の生体兵器と、見事なまでに怪獣と宇宙人ばっかり(超獣混じってるけど)。どんなチョイスだよ。

 しかし、そっちがそう来るなら、こっちも手持ちを全部出して袋叩きに、

 

《ヒャッホッハッハッハッハッハッ!》

 

 ――――――謎の力が働き、手持ちを一匹しか出せなくなった!

 

 ……って、何だそりゃあ!? くそっ、マジでボールが反応しねぇ!

 

「仕方ない……頼んだわよ、アカネちゃん!」『ピッピィッ!』

「マジかよ! なら出番だ、プリン!」『プリィッ!』

「バウワウ!」『バァヴァアアゥ!』

「ブルー、お前……くそっ、行けぇ、バーナード(フシギバナ)!」『バァナァッ!』

「いいトコ見せて来なさい、カブトプス!」『キシャアアッ!』

「初陣だ、オムスター!」『ピギャアアッ!』

 

 という事で、こちらもポケモンを一匹ずつ展開する。

 対戦カードとしては、

 

・ピクシーVSアカネちゃん(相棒ピッピ)

・ゲンガーVS相棒プリン

・ウツボットVSバウワウ(ウィンディ)

・ガルーラVSカブトプス

・キュウコンVSオムスター

・バーナード(フシギバナ)VSクスクス(カメックス)

 

 という感じ。殆どがタイプ相性でこちら側が有利な組み合わせである。カブトプスは泣いていい。

 大体が相棒や切り札ポケモンだが、ムサシとコジロウはあえて化石ポケモンたち(どちらもLv42)の初陣とするつもりのようだ。

 大方、フジ老人に力を示すのが目的だろう。あるいは私に見せ付ける為か。どちらにしろ、彼らの実力がいかほどの物か、楽しみなカードには違いない。

 

 さぁ、ポケモンバトル、行ってみよう!

 

「ピクシー、「ムーンフォース」!」『ピィアァアアアアアッ!』

「アカネちゃん、躱して「コズミックパンチ」!」『オラーッ!』

 

 まずはアカネちゃんVSピクシー。

 ピクシーの放つムーンフォースを軽やかに躱し、カウンター気味にコズミックパンチを叩きこむ。効果は抜群だ。

 

「くっ、「かえんほうしゃ」!」『パァアァァアアッ!』

『ギピーッ!』「アカネちゃん!」

 

 しかし、さすがに一発では落とせず、反撃の火炎放射で火傷を負わされてしまった。たぶん、はがね対策だな。

 こうなっては、長期戦は無理に近い。短期決戦で勝負を付ける!

 

「「「ゆびをふる」!」」

『ピァアアアッ!』『ピッピピー!』

 

 互いに指を振り、どちらも破壊光線を引き当てる。勝敗は――――――、

 

『カァ……!』『ピピィ……!』

 

 くそっ、ドローか。

 だけど、進化態相手に良く戦ったわ、アカネちゃん♪

 さて、他の対戦カードは……っと。

 

「ゲンガー、「ヘドロばくだん」!」『カハハハハハッ!』

「プリン、耐えてくれ!」『プリィ……!』

 

 タイプ一致のヘドロ爆弾で抜群を取られるも、悲しませまいと耐え切るプリン。

 

「よしっ! プリン、「ふわふわドリームリサイタル」!」『プ~ププ~プ~プリ~ン♪』

 

 さらに、ふわふわドリームタイムでゲンガーを眠らせ、

 

「今だ! 「ころころスピンアタック」!」『プリャァ~ッ!』

『ギャヒャァッ!』「くっ……!」

 

 ころころスピンアタックを何度も叩き込み、轢殺した。さすがはシンくんの相棒である。是非とも戦いたくない。

 

「ウツボット、「パワーウィップ」!」『ギカァアアアヴォッ!』

「バウワウ、「フレアドライブ」でぬっころせ~!」『バヴワァアアアッ!』

 

 バウワウは普通に圧勝してた。おい、フェアリータイプ使えよ。

 

「ガルーラ、「かみなりパンチ」!」『ガヴォルァアアアアアッ!』

『キィィ……!』「カブトプス! 戻りなさい!」

「キュウコン、「アイアンテール」!」『クォォンコォンコォン!』

『ヒギィッ!』「くっ、戻れオムスター!」

 

 一方、初陣組はさすがにレベル差があったか、有利な相手にも関わらず押し負けてしまった。気にするな、最初は皆そんなものだよ。

 

「クスクス、「ふぶき」!」『グゥヴァアアメルァアアッ!』

「バーナード、「はなびらのまい」!」『ブゥワァナァア!』

 

 そして、最後は御三家勝負。双方共にメガシンカしており、凄まじい大技の応酬となっている。

 ただ、クスクスの技は命中率に難のある物が多く、タイプ相性が不利なのも相俟ってダメージレースで押し負けてしまい、先に倒れてしまった。

 だが、バーナードの蓄積ダメージも相当なもので、意地で持ち堪えていたものの、クスクスが倒れると、後を追うように戦闘不能となった。ちょっと微妙だが、ギリギリでバーナードの勝ちだろう。

 とにかく、これにてバトル終了。

 結果は三勝一分け二敗でこちらの勝ちだが、たった一人で二回も勝ち、実質的には二体を戦闘不能にしてしまった辺り、さすがは自称・最強のポケモントレーナーだ。タイマンだったらこっちが負けてたかもしれない。

 

「チックショウがぁ! これで終わったと思わないでよね! バイバイキ~ンだッ!」

 

 しかし、負けは負け。ブルーは悪態を吐きながらポケモンたちを回収すると、穴抜けの紐を発動。通りぬけ○ープの要領で亜空間ゲートを形成、さっさと逃げ出してしまった。

 前々から紐如きでどうやってダンジョンから抜け出しているのかと思っていたが、そんな使い方なのかよ!

 つーか、バイバイキーンってお前……。

 

「さてと、色々聞かせてくれるかな、キミたち?」

 

 とりあえず、戦いは終わった。

 ならば、聞きそびれていた事を纏めてお話願おう。私の脳内キャパシティはいっぱいいっぱいなんだよ!

 

「そうねぇ……」

 

 それから、墓場のど真ん中というホラースポットである事も忘れて、ムコニャたちから話を聞いた。

 まず、ムコニャとグリーンの関係。

 これは予想通り、アニポケのサトシポジションだった。ムコニャがまだ幹部候補生になる前、つまりペーペーもペーペーな下っ端時代からの腐れ縁であり、グリーンの珍しいイーブイ(相棒イーブイ)をバトルを仕掛けたのが始まりらしい。

 ちなみに、ブルーとはたまに張り合う同業者のような間柄で、無口なレッドとは殆ど関りが無かったそうな。そりゃそうだよな、喋らないんじゃね……。

 その後も、色んな現場で鉢合わせになるという奇妙な関係は続いていたのだが、グリーンがカントーリーグのチャンピオンに成ったのとほぼ同時期にムコニャも幹部候補生となり、それからは疎遠になっていたらしく、此度の再会も数年ぶりなんだとか。

 ……で、その再会現場というのが、まさかのアイさん宅。

 グリーンは墓参りのついでにフジ老人へご挨拶、ムコニャは私がまだ家にいるかどうかの確認だったそうで、一時は再会を祝してのポケモンバトル(ガチ)に発展し掛けたのだが、そこであげたミュウが「ここ見ろミュウミュウ」とばかりに家の中を指差した為、中断。聞き耳を立てると人の呻き声が聞こえてきたので、中に入ってみると、

 

「――――――部屋の奥で、その子が駿河問いになってたから、てっきりそういう趣味なのかと……」

「違いますから! ちゃんと拷問されてたんですっ!」

「いや、ちゃんと拷問されてるって何だよ」

 

 ようするに、ブルーに吊り責めされた挙句、そのまま放置されていた彼女を、ムコニャとグリーンが呉越同舟で助け船を出した、という事らしい。グリーンは知人だったろうし、ムコニャに至っては初対面でそれだったから、色々勘違いされたんだろうなぁ、可哀想に……。

 さらに、犯人が特徴からブルーだと判明、先行している私たちとの合流も兼ねて大急ぎでタワーを駆け上がり、今に至る、と。纏めるとこんな感じだろうか。

 

「でも、あのジャリンコ、前と随分雰囲気変わったわよねぇ?」

「だよな。前はもう少しユニークな奴だったんだけど……」

『今のあいつは、にゃんと言うか、鬼気迫る物があったにゃ。おみゃー、何か知らないのかにゃ?』

「いや、ブルーとは偶然出くわすだけだし、ここ二、三年は会ってないからなぁ……」

 

 だが、ブルーの有り様は馴染み深いグリーンたちでも不可解らしく、見た目も含めて大分様変わりしているそうな。マジで何があったんだろうね。あんまり興味ないけど。

 

「まぁ、それはそれとして、だ。おーい、爺さん! いい加減、お祈りタイムは終わりにしろよ! 日が暮れちまうよ!」

「ハッ……!」

 

 共闘はここまでだと言わんばかりにコジロウが耳元で叫ぶと、フジ老人はようやく我に返った。お前、実は寝てたんじゃないだろうな。

 

「えーと、どちら様ですかな?」

「どちら様ですかと聞かれたら!」

「答えてやるが――――――」

「あーはいはい、話が進まないからそこまでな、ロケット団」

 

 もちろん、いつもの口上を言おうとしたが、手慣れたグリーンに中断されてしまった。言わせてあげればいいのに。

 

「ロケット団、ですか……」

 

 「ロケット団」の名前が出た途端、フジ老人の表情が曇る。フジ博士だもんね、仕方ないね。

 

「そう、我々ロケット団は、アンタに用があってやって来た!」

「用件はもちろん、“最強のポケモン”についてよっ!」

『さぁ、キリキリ話すのにゃ!』

 

 おうおう、悪役ムーヴしてるねぇ。

 

「……それを知って、どうするおつもりなのですかな?」

「むろん、ゲットさせてもらう!」

「そして、アタシたちの為に戦ってもらうのよ!」

『サカキ様は最強のポケモン軍団を創ろうとしているのにゃ! “ミュウツー”は、その切り札になるのにゃ!』

 

 しかも、メッチャ機密事項バラしまくってる。お前ら、それで交渉が成立するとでも思ってんのか?

 

「お断りですな」

「そうよ! 助けてもらった事には感謝するけど、カラカラのお母さんを殺すような奴らに協力する事なんてないわ!」

 

 こっちもこっちでその返しはどうなのか。ポケモン殺すような連中言うてますやん。

 あー、もう、これじゃ埒が明かないよ。

 

「失敬な! 俺たちはそんな真似はしてねぇよ!」

「そうよ! 実行したお馬鹿たちは、こっちでしっかり粛清してやったわ!」

『にゃーたちは、世界の破壊を防ぐ悪にゃ! あんな裏切り者連中と一緒にするなにゃ!』

 

 おっと、そう切り返すか。ここはフォローを入れるべきかな。

 

「……それは、本当の事なの?」

「はい、本当です。私たちにも協力してくれました。彼らはロケット団ですが、根っからの悪人じゃありません。うっかり八兵衛みたいなもんです」

 

 だので、半信半疑なアイさんに、私が親身に話してあげる。もちろん、私とシンくんがロケット団員見習いだという事は伏せて。

 

「ああ。それに関しては、オレからも保証する。そいつらは小悪党だが、外道じゃない」

 

 と、グリーンからも援護射撃。さすがに付き合いが長いね。

 

「……あれは危険過ぎる。人の手に負えるモノではない」

 

 しかし、フジ老人は頑なに喋ろうとしない。

 そりゃそうか。倫理観云々以前にトラウマになっちゃってるもんな。

 むろん、罪悪感も多分にあるだろうが、根本的には恐怖心を抱いているからだろう。

 天才だった自分が手に負えなかったのに、どこの馬の骨とも知らぬ奴に御する事が出来る訳がない。その優し気な顔の奥底に、そんな気持ちがあるのだろう。

 天才なんて、科学者なんて、そんな物である。

 いくら後悔しようと、罪悪感に塗れようと、祈りを捧げ必死に贖罪しようと、三つ子の魂は百まで続く。そうでなければ、ミュウツーがあそこまで凶暴になる筈はない。

 

「違うな。アンタ()怖いだけだ」

「そうね。本当にミュウツーの事を想っているのなら、解放してあげるべきだわ。形はどうあれ、ポケモンは戦う生き物なんだから」

『そうにゃそうにゃ。人気のない所に逃がしたつもりだろうけど、それじゃ檻に閉じ込めてるのと変わらないにゃ』

「………………!」

 

 ムコニャの悪役故の言葉が重みとなって、フジ老人……否、フジ博士に圧し掛かる。

 なるほど、これ以上悪用されないよう、どこか人里離れた場所でそっとしておくと言えば、聞こえは良いだろう。

 だが、ムコニャの言うように、檻に閉じ込めているのと何が違う?

 せっかく呪縛から解き放たれたのに、“可哀想だから”と腫れ物扱いしては、結局同じ事ではないか。

 

 図鑑にもあるように、ミュウツーは戦いたくてウズウズしているのだ。誰がどう思い、考えようと、それは変わりない。

 

「……だから、捕まえようと言うのですか?」

「一緒に旅立つと言って欲しいな」

「我らロケット団は、世界を支配する悪の組織! その名の如く、常に高みを目指す、人類の願いその物なのよ!」

『だから、おみゃーだって、ロケット団にいたんじゃないのかにゃ? おみゃーの夢を叶える為に』

「………………!」

 

 そう、フジ博士だってロケット団と変わらない。

 自分の夢を叶える為、他人を利用して、挑み続けた。己の限界に。まだ見ぬ高みを目指して。

 人は生まれながらに欲深い生き物である。そこに善も悪もない。そんな物はただの後付け。失敗した後が怖いから。

 

 だから、根本的に、この世に触れてはいけない力や領域など、ないのだ。

 

 そうでなければ、そうして来なければ、そうし続けなければ、人は今もエテ公のままである。

 自分が人でありたいと願うなら、認めろ。人間、誰しも闇を持っていると。それを認め、自分を受け入れられれば、人はどこまでも進歩出来る。

 例えそれが危険で、血を吐きながら続ける悲しいマラソンだとしても、赤の女王のように走り続けろ。停滞が招くのは、真の意味での死と破滅だけだ。

 

「なるほど、忘れていたよ。儂は聖職者ではない、科学者だという事を……」

 

 すると、フジ博士……いや、フジ老人は憑き物が落ちたように微笑みながら、告げた。

 

「――――――奴は今、ハナダにいる。あの名もなき洞窟の主として。それ以上は何も言えんよ」

「ハナダの洞窟って……」

「あの、無茶苦茶強いポケモンで溢れ返ってる危険地帯か!?」

『これは予想外だにゃー』

 

 ハナダの洞窟という単語に、ムコニャたちが気色ばむ。

 当然よね。低くてもレベル50台、最深部だとレベル60を超える化け物染みた野生ポケモンが闊歩する魔窟だもん。内部も入り組んでるし、まさにラストダンジョンと呼ぶに相応しい難易度の迷宮である。

 それ故、カントー最強の猛者たるリーグチャンピオンでなければ立ち入る事が許されず、生半可な気持ちと実力で向かっても、帰らぬ人になるだけだ。

 

「これはアタシたちだけの一存じゃ決められないわね」

「とにかく、サカキ様に一報入れよう」

『そうだにゃ。まずは手柄の確保にゃ!』

「「そう、出世が一番大事~♪」」

 

 それでも出世欲を優先させるお前らが大好きです。

 

「まぁ、立ち話も何ですし、とにかく下に降りましょう。渡したい物もありますしな」

 

 と、これ以上の進展は見込めないと判断したのか、フジ老人がそんな提案をして来た。

 

『いや、誰のせいだよ』

 

 その瞬間だけ、彼以外の全員の気持ちが一致した。ホント、お前が言うな。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 それからそれから。

 

「これが「ポケモンのふえ」です」

 

 何やかんやで地上に戻って来た私たちは、フジ老人の家であり捨てられたポケモンを保護する施設でもあるポケモンハウスに集合。そこでついに使い減りしない眠気覚まし「ポケモンのふえ」とご対面した訳だが、

 

「おおっ……ダッせぇっ!」「おいっ!?」

 

 いや、だって……ねぇ?

 どう見ても、モンスターボールがくっ付いただけのリコーダーなんだもん。もっと厳かなデザインには出来なかったもんですかね。

 しかし、重要アイテムである事に変わりない。これがないとカビゴンを起こせず、先にも進めないからな。この際、意匠には目を瞑って機能性を取るとしよう。

 

「ポケモンの笛の奏でる音色は、ポケモンたちの心を癒し――――――」

「ああ、そういうのいいんで、早く下さい」

「酷い……」

 

 その手の講釈は聞き飽きてるんだよ。朝礼で垂れ流れる校長の長話と差して変わらん。

 

「だけど、そんなもんどうすんのよ?」

「これを吹いて、カビゴンを起こすのよ」

「ああ、12番道路と16番道路に寝っ転がってる、あのお邪魔虫ね」

「そうそう。ついでに捕まえられれば一石二鳥ね。カビゴンは強いわよ~?」

「むむむ、強いポケモンねぇ……」

 

 うむうむ、見事に食い付いて来ましたね、ムサシさん。

 

「そんなアナタには、カビゴンゲットのチャンスをプレゼントだ! もちろん、お手伝いもするよ!」

「いよっ、太っ腹!」

「レディに太っ腹言うなや」

 

 それはシルフの社長(モノホン)に言え。

 

「ちなみに、行き先はどっち?」

「もちろん、タマムシシティに近い、16番道路の方よ。タマムシジムへの挑戦はその後ね」

 

 むしろ、私にとってはカビゴンよりも、その先にポツンと立っているコーチトレーナーの方が遥かに重要である。

 何を隠そう、その人(ヌノシダさん)はハヤテやアンズちゃんのサブウェポンとなるドリルライナーの技マシンをくれるのだ。これで抜群を取れる範囲が一気に増える。特にアンズちゃんはタイプ一致なので、必殺の威力を発揮する事間違いなし。

 いやぁ、長かったねぇ、ここまで。セキエイ高原までドリルライナーなしとか、辛いにも程があるよ。ムコニャも報告とか色々あるだろうし、16番道路のカビゴンを狙うのがお互いの為であろう。

 そうと決まれば、タマムシシティまでレッツだGO!

 ……ただし、出発は明日の朝な!

 

「「さよ~なら~♪」」

「色々とありがとうございました!」「また遊びにおいで。歓迎するよ」

 

 という事で、私たちはアイさんの家に一晩だけ泊まらせてもらい、翌朝にはブレックファーストまでご馳走になり、その後アイさんとフジ老人に見送られつつヒジュツ・ソラワタリで大空へと舞い上がった。

 

「アタシらはコイツで行くわ!」「グレン直送便だぜぇ!」『プテラ、離陸なのにゃ!』

『ギィリリリリィィィイイッ!』

 

 ムコニャはさっき通信で送られたばかりのプテラに乗って、優雅に遊覧飛行。

 

「バウワウ、おねがい~」『バウッ!』

 

 マツリカちゃんはもちろんバウワウにポケライド。軽やかで力強い走りで、8番道路→地下通路→7番道路と駆け抜けていく。

 そう言えば、タケシからまだお茶貰ってなかったな。いい加減に遠回りも面倒臭いし、カビゴン起こしたらさっさと通れるようにしておこう、そうしよう。

 

「出たな……出たな、カビゴン!」

「いや、最初から微動だにしてないから……」

 

 そして、ゲートの向こうで全員集合しつつ、居眠りを続けるカビゴンの前に立った。

 つーか、よく見りゃこいつ、色違いじゃん。これで珍獣がまた増えるよ、やったねムコニャ♪

 さぁ、我が笛の音色で、目覚めよカビゴン!

 

「プルル~プルル~♪」

『ZZZzz……』

「……あれ?」

 

 だが、カビゴンは変わらずイビキを掻くだけで、起きる様子がまるでなかった。何でやねん。

 

「ヤロー、もう怒ったッピ! シンくん、バイオリン持って!」「えっ、何で!?」「いいからいいから、私を信じて!」「いや、あの……」

「マツリカちゃんはクラリネットね。アカネちゃんはトロボーンで、プリンちゃんはホルンをお願い」「おー」『ピッピィ♪』『プリャ~♪』「どっから出したの!?」

「ムサシはチェロ、コジロウはコントラバス、ニャースはティンパニ!」「フッ、久々ね……」「任せろ!」『目に物見せてやるにゃ!』「お前ら何者なんだよ!?」

 

 食らいやがれ、劇場版(こんしん)のタイトルコール! 軽音楽(バンド)でもミュージカルでもない……これがトレーナー(わたしたち)逆襲(オーケストラ)だっ!

 

 ……そんな楽器をどこから出したのかって?

 お前ら、もう少し大人になれ。

 

『ゴォン……』

 

 すると、私たちのソウルとハートが届いたのか、ようやくカビゴン(Lv34)が目を覚まし、

 

『ガァビゴォォオオオオオオオオオァン!』

 

 さらに、変身怪獣みたいな雄叫びを上げて襲い掛かって来た。寝惚けるどころか、テンション高過ぎィ!

 

「よーし、今度こそいいトコ見せなさい、カブトプス!」『シャアアッ!』

「雪辱の時だ、オムスター!」『ピギュィッ!』

 

 どうやら、ムサシとコジロウはもう一度カブトプスとオムスターにチャンスを与えるつもりのようである。今回はレベル差もあるし、キッチリと汚名を返上してくれるだろう。技も「あくび」「ねむる」「ずつき」「したでなめる」しかないし。

 

「カブトプス、「いわなだれ」!」『キキィィッ!』

「オムスター、「ねっとう」!」『ピギャアアッ!』

『ガァビヴォォォ……!』

 

 カブトプスの岩雪崩とオムスターの熱湯を浴びせられ、大ダメージを受けた上に火傷を負わされ怯みまで取られるカビゴン。良い技持ってやがんなチクショウ。私にも早くドリルライナー、プリーズ!

 

「トドメよ、「たきのぼり」!」『シャアアオラァッ!』

「仕留めろ、「れいとうビーム」!」『ゥッシャアッ!』

 

 亀○兄弟か己らは。ベルトの前にカビゴンをKOして、どうぞ。

 

『ゴォォォ……!』

 

 カビゴン、殆ど何も出来ないままダウン。コジロウの投げたゴージャスボールであっさりと捕獲された。アニポケより資産があって良かったね。

 

「あ、図鑑登録だけはさせてね」

「はいよー」

 

 どれどれ、何ぼのもんじゃい?

 

◆カビゴン

 

・分類:いねむりポケモン★

・タイプ:ノーマル

・レベル:35

・性別:♀

・性格:ゆうかん

・種族値: HP:160 A:110 B:65 C:65 D:110 S:30 合計:540

・覚えている技:「あくび」「ねむる」「ずつき」「ばかぢから」

・図鑑説明

 一日に400キロ食べないと満腹にならない食いしん坊。胃液は腐った物でも平気で消化してしまう程に強力で、ベトベトンの猛毒ですらカビゴンにとってはスパイスに過ぎない。子供がお腹の上で遊んでも気にしないくらいにおおらかだが、本気を出すとビックリするくらい激しく動く。

 

 うっへぇ、こいつ馬鹿力なんか覚えてやがったのか。撃たれてたらヤバかったな。

 ともかく、これで道は開けた。途中に蔓延るバッドガイやスキンヘッズ、キャンプボーイにピクニックガールを駆逐していき、

 

「死ねぇ!」

「ドペェーッ!」

 

 遂に出会えたコーチトレーナーのヌノシダをフルボッコにして、

 

「おら、技マシン出せ、ドララララァッ!」「ベホマァッ!」「やめたげてよぉ~!」

 

 ついでに本人もたこ殴りにして、技マシン058「ドリルライナー」を手に入れた。ヤッタネ!

 

「お礼も持ってけぇ!」「ギャアアアッ!」「もう許してあげて!」

 

 だってさぁ、砂とか毒とかばら撒いて来るから、ウザったくて仕方なかったんだもん。あと、平気で強化アメ使ってやがるし。くたばれこの野郎。

 

「……よしっ!」

 

 引き返して回復も済ませたし、準備はバッチリ。

 

「いざっ、タマムシジムへ!」「おう!」「「「がんばって~♪」」」『にゃっ!』

 

 さぁ、エリカお嬢様との対決だぁ!




◆ブルー

 レッド、グリーンと共に旅立った、三人目のマサラ組にして紅一点。寡黙なレッド、チャラいグリーンと比べて、強さにストイックで苛烈な一面がある。カントー最強のポケモン=ミュウツーをゲットしようとするも、主人公が一足先に捕まえており、“お前の物は私の物!”と言わんばかりに喧嘩を売った。けど負けた。
 本来は構想だけのキャラクターだったのだが、ピカブイにてまさかの正史入りを果たした。
 そして、この世界線では更に以前から暗躍しており、その様はまるで峰不二子。グリーン程ではないがムコニャとも因縁がある。
 しかし、何処か前の彼女とは違っていて――――――。


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花園のお嬢様とオーレンの片鱗

アオイ:「ナナシマがもっとフューチャーされてれば、オレンジ諸島みたくナナシマ限定のリージョンフォームとか出たんじゃないかと妄想してみたり」


 そして、大した苦も無く最終ステージへ。

 ……いや、あのね、さすがにここまで来て、レベル40前後とは言え、マダツボミだのナゾノクサだのタマタマだの、タネポケ程度に押し負けるとかね、あり得ないのよ。タイプもまる被りだし。

 特にミニスカートのミサコさん、マダツボミ三連星は止めろ。将来の就職先はキキョウシティで尼さんかな?

 という事で、二人のファルコンで一匹残らず串焼きの刑に処してやった。さすがタイマン勝負が大の苦手なくさタイプ、力押しに弱い。進化して出直しなぁ!

 ちなみに、ムコニャ(変装済み)とマツリカちゃんは見学のみで、最初こそはちゃんと応援してくれてたものの、途中からは仲良くニビあられをボリボリ食い散らかしてやがった。ぶっ殺すぞ。

 そんなこんなで、お目当てのエリカお嬢様にご対面。

 少し緑掛かった黒髪のおかっぱ頭に赤い櫛を差し、上が黄緑で下が紅色という組み合わせの袴姿をした、まさに大和撫子な風貌。顔立ちも優し気というか、ゆる~い感じで、おっとりした性格なのが窺える。親友ミカンちゃんとの会話を聞く限り、腹の内は若干黒いようだが……。

 さて、そんな自然(とからかい)を愛するお嬢様のエリカさんだが、

 

「ZZZzzz~♪」

 

 開幕早々、安定の立ち居眠りをかましてくれた。フジ老人といいカビゴンといい、何か寝てる奴ばっかりだな。コッチヲ見ロォ~!

 

「おっと、いけない。あまりにも良い陽気で、ついつい眠ってしまいましたわ」

「さいですか」

「あらあら、お爺様にお客様? それとも、わたくしへの挑戦者かしら? 言っておきますが、いくらわたくしを説得しても、シルフカンパニーに取り入る事は出来ませんよ?」

 

 ああ、こいつ穴久保版なのか。マジもんのお嬢様じゃん。

 LPLEでは生け花教室の他、この若さでタマムシ大学の講師を勤めたりしてるらしいけど、こっちだとどうなんだろうね。本人曰く「いくら脅しても無駄」らしいし、本格的な関りはまだ無いのかもしれない。

 あるいは、ジムリーダーとしての矜持か。ウダウダ言ってないで、実力で屈服させてみろ、と。袴姿の似合う大和撫子とは思えない、随分と強気な女性である。

 なら、こっちもそれに応えてやろうじゃないか。もちろん、先鋒はこの私ィッ!

 

「……そんな事に興味はないわ。私は貴女を倒しに来ただけよ」

「あらあら、試合の申し込みですの? そんな……わたくし、負けませんわよぉ?」

 

 ――――――ジムリーダーのエリカが勝負を仕掛けて来たっ!

 

「お願いしますわ、モンジャラ!」『ジュラァン!』

 

 エリカの一番手はモチのロン、ツルじょうポケモンのモンジャラ(Lv48)だ。

 今作では進化出来ないが、特攻種族値100から放たれる特殊技の威力は馬鹿にならない。

 さらに、意外と忘れられがちだが、モジャンボになる前から防御種族値が115もあり、低いHPを差し引いてもかなり固く、不一致の弱点攻撃程度では落とせない事も多々ある。突くとしたら特殊技で、だろう。

 

「なら、この子だ! お願い、ヒナゲシちゃん!」『ヒィリリリリィィッ!』

 

 という事で、特殊アタッカーのヒナゲシちゃん(Lv50)を召喚。ヘドロ爆弾がまだ無いのが少々不安だが、毒を食らわず草も半減(あと粉技無効)という意味では、彼女こそがモンジャラの相手をするのに相応しい。

 

「モンジャラ、「ヘドロばくだん」!」『オヴェェエエッ!』

『ラァッ!』「うへぇぁっ!?」

 

 チクショウ、向こうは搭載してんのかよ!

 どいつもこいつもズルしやがって……私にもくれよ、ヘドロ爆弾っ!

 

「ヤロー! ヒナゲシちゃん、「ようかいえき」で弱らせてから「ムーンフォース」!」『ヒィリリリィン!』

 

 しかし、所詮はタイプ不一致かつ等倍の威力。大したダメージにはならず、ヒナゲシちゃんはすぐさま立て直し、まずは溶解液で抜群を取りつつ特防を下げ、ムーンフォースを叩きこむ。ただでさえ40しかない特防種族値を更にダウンさせたんだから、効果が今一つだろうと関係ない。

 

『モジャラァァ……!』「お疲れ様ですわ、モンジャラ」

 

 怒涛の連続攻撃で倒れたモンジャラがボールに戻っていく。

 

「頼みましたよ、ラフレシア!」『ビュリリリィィッ!』

 

 お次に繰り出されたのは、切り札である筈のラフレシア(Lv50)。原色と色違いとのミラーマッチとは、胸が熱くなるな。

 

「ラフレシア、「ヘドロばくだん」!」『……ゥゥゥラァッ!』

 

 そして、このヘドロ爆弾である。だから、私にも技マシンを寄こせと、あれ程……っ!

 

「躱して「メガドレイン」!」『ラァイフチュッチュ!』

 

 むろん、二度も同じ手を食う程間抜けでもないので、躱させてメガドレインをお見舞いする。お花の蜜が美味しんじゃ~♪

 

「「メガドレイン」!」『フラワーッ!』

 

 すると、今度は向こうもメガドレインを発動。お互いに命を吸い合う形になる。

 

『『ラァアアアアアアアアアアアアッ!』』

 

 両者、一歩も譲らず吸って、吸われを繰り返し、

 

『ラァ……!』『リリィッ……!』

 

 同時に力尽き、倒れた。そりゃあ、同レベルで同程度のダメージを受けた状態で吸収技を撃ち合ってたらそうなるよね。

 

「お疲れ様です、戻って下さい」「よくやったわ、ヒナゲシちゃん」

 

 各々の花を労い愛でつつ、次のポケモンを召喚する。

 

「討ち取りなさい、ウツボット!」『カァアアアッ!』

「やったれ、ハヤテ!」『フォグルドォヴッ!』

 

 バトンを繋いだのは、ウツボット(Lv50)とハヤテ(Lv50)。これまた同レベル対決だ。何気に同格同士の戦いってしばらくしてないから新鮮だ。

 

「ハヤテ、「ネコにこばん」!」『ケァアアアアアアアッ!』

「ウツボット、躱して「ヘドロばくだん」!」『カァォッ!』

 

 だぁぁぁかぁぁぁらぁああああっ!

 これ見よがしにヘドロ爆弾使うなっつぅのぉおおおおおっ!

 大体、お前ステータス的には物理寄りだろうが。覚える技的に特殊寄りじゃないと差別化難しいけど。

 どうでもいいけど、こいつのどこにウェザーの要素があるんだろう。だったらオムスターがパワージェムを覚えたり、マグカルゴが卵産みを習得したっていいじゃないか。ブースターにフレアドライブ振ってる場合じゃないんだよ!

 

「クソがぁ! 小判に小判を小判まくれ!」『キェエイッ!』

「いや、ちょ、あの……眩しっ!」『キャアアアアアアッ!』

 

 うるせぇ、天罰覿面だ。そのままムスカってろ。

 

「トドメだっ! 「ドリルくちばし」!」『ホォグルルッ!』

「させませんわ! 「ふいうち」よ!」『キャォオオオッ!』

 

 だが、見えないながらも不意打ちを的確に当ててくる辺りは、さすがジムリーダーと言ったところか。ポケモン界における命中率は「100と0以外は信じるな」、はっきり分かんだね。

 だからいい加減外させて下さい、お願いします……あ、駄目ですか、そうですか。だったら早く倒せよ!

 

「もう一発「ドリルくちばし」!」『ケァルゥン!』

「ウツボット、「メガドレイン」!」『カァアア!』

 

 ハヤテのドリルが、ウツボットの見えない力が、光を伴い交差する。

 

『ホォグルドォッ!』『カァォォ……!』

 

 結果は、ハヤテの圧勝だった。そりゃそうだよね。いくら「100と0以外は信じるな」って言っても、外れる時はちゃんと外れるから。パワーウィップとかいう賭けに走らなかっただけ、まだマシだろう。

 さぁさぁさぁ、大人しくメガドレインの技マシンとレインボーバッチを貰――――――、

 

「切り札を使うしかないようですね! お行きなさい、フシギバナ!」『バァナァアアヴォッ!』

 

 知ってた。マチスも手持ちが四匹だったし、エリカお嬢様(・・・・・・)な時点で、こうなるとは思っていたよ。

 だけどさ、居眠り→ヘドロばくだんと来て、フシギバナの天丼ネタは止めーや。何で皆フシギバナを使うんだ。もっとリザードン使いなさいよ。カメックスはブルーが使ってたから許す。

 あと、ヘドロ爆弾は使うなよ!? 絶対に使うなよ!? フリじゃないからね!?

 

「行って、アカネちゃん!」『ピッピャーッ!』

「「パワーウィップ」で迎え打ちなさい、フシギバナ!」『バァナァアアッ!』

 

 よしよし、ちゃんと別の技を使ったね。

 しかし、タイプ一致パワーウィップの直撃は結構キツい。アイアンテールより威力あるからな。

 

「くそっ、アカネちゃん、「コズミックパンチ」!」『オラーッ!』

「倒れる訳にはいきません! フシギバナ、メガシンカ!」『バァヴォオオオオオッ!』

 

 さらに、アカネちゃんの渾身のコズミックパンチを、メガシンカして耐え切る。

 チクショウ、メガシンカ(それ)も天丼かよ、吸血植物みたいな声しやがって!

 

「フシギバナ、「じしん」で動きを止めてから「メガドレイン」!」『パァヴァァォッ!』

 

 重量級の身体がジムを揺らし、どこぞのアタック光線のような物が放たれ、アカネちゃんに大ダメージを与える。コスモパワーを引いてなかったらヤバかった。

 

「トドメですわ、「ヘドロばくだん」!」『パァヴァアアアアッ!』

 

 そして、このヘドロ爆弾である。いい加減にしろぉぁっ!

 

「頑張れ、アカネちゃん! 「ウルトラクッキング」!」『ドリャッピー!』

 

 だが、アカネちゃんは何とかメガドレインを持ち堪え、嫌がらせのようなヘドロ爆弾を悲しませまいと耐え切り、反撃として新たに習得していた「ウルトラクッキング」をお披露目した。

 技の分類はほのおタイプの特殊攻撃で威力は150もあり、与えたダメージの半分の数値だけ体力を回復するという破格の性能。

 また、この技中は長帽子のコック姿にコスチュームチェンジしており、手にはモンスターボールのような中華鍋とオタマを持っている。攻撃方法は相手を粒子化させてから鍋に吸い込み、そのままクッキングして食べてしまうという、割とおっかないものだ。

 しかし、相応のデメリットはあり、次のターンは反動で動けない上に素早さがガクッと下がってしまう。

 さらに、本来は「反動で動けない!」と表示すべき所を、この技は――――――、

 

『ブビッ!』

 

 ――――――アカネは太ってしまって動けない!

 

 そして、これである。ピンチを乗り越え、会心の逆転劇を決めたと思ったら、この有様だ。どいつもこいつもいい加減にしろ。

 アレだな、この技は余程の事が無い限り使わないようにしよう、そうしよう。可愛くないもん。

 私は絶対に、この子をギエピーにはしないぞ! これもフリじゃないからね!?

 ……何かもう手遅れな気もするが、気のせいである。

 

『ギュバァァァァ……!』「フシギバナ……っ!」

 

 何とも言い難い技で倒されたメガフシギバナが哀愁をさそう。再生怪獣、永眠って感じ。

 ともかく、これでエリカの手持ちは全滅させた。技マシンもバッチも我々の物だっ(キリ○マ感)!

 

「お強いのですね。いいですわ、レインボーバッチを差し上げましょう……それと、この技マシンも。さっきの戦いでも使われた、「メガドレイン」ですわ」

 

 活躍頻度で決めるのなら、ヘドロ爆弾下さいお願いします。

 まぁ、貰って困る物ではないし、バッチは必要不可欠な物なので、ありがたく頂戴するが。

 

「……そちらのお方も、挑戦ですか?」

「当然だぜっ!」

 

 その後、シンくんも恙なく勝利を修め、バッチをゲット。フシギバナにメガドレインを覚えさせた。

 ちなみに、現状の面子と技構成はこんな感じ。

 

《私のメンバー》

◆相棒ピッピ(アカネ)Lv52:「ゆびをふる」「ウルトラクッキング」「コズミックパンチ」「ムーンフォース」

◆オニドリル(ハヤテ)Lv51:「ネコにこばん」「ドリルくちばし」「ドリルライナー」「とんぼがえり」

◆ラフレシア(ヒナゲシ)Lv49:「ようかいえき」「メガドレイン」「ムーンフォース」「どくどく」

◆スピアー(アキト)Lv50:「どくづき」「ミサイルばり」「げきりん」「こうそくいどう」

◆ニドクイン(アンズ)Lv51:「どくづき」「かみくだく」「いかりのまえば」「ドリルライナー」

◆イーブイ(ユウキ)Lv50:「めらめらバーン」「いきいきバブル」「びりびりエレキ」「どばどばオーラ」

 

《シンくんのメンバー》

◆相棒プリン Lv57:「ふわふわドリームリサイタル」「ころころスピンアタック」「トライアタック」「かなしばり」

◆相棒ピカチュウ Lv55:「ばちばちアクセル」「10まんボルト」「ふわふわフォール」「でんじは」

◆ピジョット Lv58:「ねっぷう」「エアスラッシュ」「すなかけ」「はねやすめ」

◆フシギバナ Lv55:「メガドレイン」「やどりぎのタネ」「どくのこな」「まもる」

◆アローラガラガラ Lv56:「シャドーボーン」「フレアドライブ」「ホネブーメラン」「おにび」

 

《マツリカちゃんのメンバー》

◆バリヤード(バリバリ)Lv48:「サイコキネシス」「ひかりのかべ」「リフレクター」「マジカルシャイン」

◆プクリン(おやかたさま)Lv49:「マジカルシャイン」「トライアタック」「10まんボルト」「はかいこうせん」

◆アローラキュウコン(キュウ)Lv49:「ふぶき」「マジカルシャイン」「あやしいひかり」「さいみんじゅつ」

◆ウィンディ(バウワウ)Lv66:「じゃれつく」「おにび」「げきりん」「フレアドライブ」

 

 ハヤテは完全に偵察要員、ピジョットは威力偵察機みたいな構成になってるわね。アンズちゃんとアローラガラガラは物理アタッカー、フシギバナは居座り型に変化しつつある。これで毒々の技マシンが手に入ったら、更にえげつない事に……。

 マツリカちゃんの手持ちはレベル以外の変化が殆どないものの(氷の石はカンナさんから貰ったそうな)、バウワウは相変わらずレベルが先走っている。全速前進DA☆!

 あ、そうだ。

 

《ムサシの手持ち》

◆アーボック Lv52:「どくづき」「じしん」「かみくだく」「へびにらみ」

◆ラフレシア Lv50:「ヘドロばくだん」「はなびらのまい」「ムーンフォース」「まもる」

◆カブトプス Lv43:「いわなだれ」「たきのぼり」「アクアジェット」「きゅうけつ」

◆プテラ Lv35:「いわなだれ」「そらをとぶ」「かみくだく」「ステルスロック」

 

《コジロウの手持ち》

◆マタドガス Lv52:「どくどく」「へどろばくだん」「クリアスモッグ」「まもる」

◆ウツボット Lv45:「パワーウィップ」「どくづき」「ふいうち」「つるぎのまい」

◆オムスター Lv43:「ハイドロポンプ」「れいとうビーム」「まもる」「からをやぶる」

◆カビゴン Lv35:「あくび」「ねむる」「ずつき」「ばかぢから」

 

《ニャースの相棒》

◆ミュウ Lv52:「サイコキネシス」「あくのはどう」「かえんほうしゃ」「10まんボルト」

 

 ムコニャの手持ちがこれ。まだ見ていないが、ウツボット持ってたのかコジロウ。ムサシがラフレシアを持っているのは若干違和感があるが、もしかしたらあのそっくりさんのせいかもしれない。

 というか、案外いわタイプ率が高いな。ニビジムで修行でもして来たらどうだい?

 つーか、ミュウの持ち主ニャースになってんのかよ。コジロウの手持ちと見せ掛けて、そっちが本命か。何でやねん。翻訳してくれるからか。

 さて、回復を済ませたら、タマムシシティのどこかで途方に暮れている筈のタケシへ会いに行くとしよう。挨拶しに来ただけなのに出禁食らうとは可哀想に。タマムシジムは男子禁制だから仕方ないね。

 まぁ、同情も金もくれてやらないし、通路の警備員に賄賂する為のお茶を分捕るだけなのだが。不憫な男だ。

 

「……いないなぁ」

 

 回復後はすっかり陽も傾いて来たので自由時間としたのだが、何故かタケシが見付からない。原典ではタマムシデパートの近くにいる筈なのに。

 どしよう、このままだとお茶が貰えず、ゲートが通れな――――――、

 

「あ、いた」

 

 いた。それもタマムシジムの前に。こいつ、まさか……。

 

「……っ、違う! これは違うんだぁっ!」

「いや、何も言ってないよ!?」

 

 ――――――ジムリーダーのタケシが勝負を仕掛けて来たっ!

 

「何でだよ!?」

 

 だが、ポケモンバトルは始まってしまうのだった。

 

「い、行けぇ、イワーク!」『クゥルヴォォオオオォォッ!』

 

 初手はいきなりの切り札、イワーク……なのだが。

 

「クリスタルイワーク、だと……!?」

 

 それはいわ/じめんタイプの通常種ではなく、全身がヒンヤリとした結晶で構成された、クリスタルなイワークだった。

 えっ、この世界、オレンジ諸島あるの!?

 いや、その前に、こいつ何タイプだ!?

 おせーて、ポケモン図鑑!

 

◆イワーク(オーレンのすがた)

 

・分類:てつへびポケモン

・タイプ:はがね/こおり

・レベル:55

・性別:♂

・性格:ずぶとい

・種族値: HP:75 A:45 B:160 C:85 D:105 S:90 合計:560

・図鑑説明

 地中の奥深くで静かに暮らす。オーレン諸島の豊富なクリスタルが身体を構成する鉱物に変化を与え、この姿になった。口から吐く冷凍ビームは眼前の全てを凍てつかせる。

 

 オーレン、しょとう……?

 オレンジ諸島、もしくはナナシマの代替えか?

 それにしては専用のリージョンフォームがあるみたいだし、重要マップっぽいな。他にもオーレンの姿があるのだとしたら、是非とも見てみたい。

 ……と、今は目の前のオーレンイワークか。

 水に強く火に弱いというアニポケの設定を尊重したのか、はがね/こおりタイプになっている。いわとじめんをどこに忘れて来た。能力も何となく特殊寄りになってるし、合計種族値もまるで違う事から、別物と見るべきだろう。

 というか、赤の他人のポケモンをスキャンするとこんな表示なのね。さすがに技構成までは分からないかー。

 

「頼むわよ、ユウキ!」『ブイッ!』

 

 ここはユウキの出番ね。めらめらバーンがあるし。

 え、アカネちゃんのウルトラクッキングがあるだろうって? そんなの知らんなぁ。

 大体、こんな耐久寄りのポケモンを相手に反動技なんぞ使ってたらジリ貧になるわ。技構成も分からないのに、そんな危険な真似は出来ない。

 決して、太るのが嫌だからとか、そんな理由じゃない。ないったらない。

 

「イワーク、「れいとうビーム」!」『コァアアアアアッ!』

 

 オーレンイワークの冷凍ビームがユウキを襲う。

 チクショウ、こいつ、こんな図体して素早さ種族値が90もあるんだよなぁ!

 

「ユウキ、「めらめらバーン」!」『イィィブィッ!』

 

 しかし、やる事は変わらない。まずは四倍ダメージと確定火傷を負わせ、スリップダメージを稼ぐ。

 

「イワーク、「ラスターカノン」!」『ヴォヴォォオオッ!』

「躱して「どばどばオーラ」!」『ブッブゥゥイ!』

 

 さらに、どばどばオーラで光の壁を張って、被弾ダメージを減らす。これで場は出来上がった。あとはガンガン行こうぜ!

 

「イワーク、「冷凍ビーム」!」『コァアアアアッ!』

「うぐぅっ……耐えて「めらめらバーン」!」『ブゥゥ……ィイイイイッ!』

 

 敵の冷凍ビームを壁越しに耐え、反撃のめらめらバーン(火傷ダメージ込み)で仕留める。

 

『グォォオォォ……!』「ギャーッ!」

 

 タケシが倒れたオーレンイワークの下敷きになっているが、知った事じゃない。襲い掛かって来たのはそっちだからね。

 そもそも、ポケモン世界の住人はやたら頑丈なので、たぶん大丈夫な筈。

 

「ぬぐぐぐ……ふぅ……落ち着いた」

 

 ほらね。重さ200キロ超えの巨体に潰されても、落ち着いて対処すればこの通りである。さすがタケシ、何ともないぜ。

 まぁ、それはそれとして、

 

「何で覗きなんかしてたんですか?」

「いや、だから違う! シルフの社長さんからエリカさんに届け物を頼まれたんだが、何故か入れてもらえなくてな。もしかしたらジム戦で忙しいのかと思い、ずっと待っていたんだが……」

「そこ、男子禁制なんですよ」

「何だとぉ!? ば、馬鹿な……!」

 

 本当に不憫な男だなお前は。

 

「良かったら、お届けしましょうか?」

「おおっ、それは助かる! それと、これは迷惑代だ。受け取って欲しい」

 

 そう言って、タケシは「おーいニビ」という冷たい(目で見られそうな)緑茶とニビあられ、何かのフリーパスチケットを差し出してきた。お茶とあられはいいとして、このチケットは何だろう?

 

「それはオーレン諸島を行き来できるフリーパスチケットだ。オーレン諸島はカントー本土とは環境がまるで違い、それに合わせて姿形が変わった珍しいポケモンがたくさんいるから、是非訪れてみるべきだぞ。俺の隠し玉である、このイワークもそこで手に入れたんだ」

「おおっ……!」

 

 これは素晴らしい贈り物じゃないか!

 LPLEでは何故か存在を抹消されたナナシマの代わりにして、リージョンフォームの先駆けっぽいポケモンが多数生息していたオレンジ諸島の要素も取り込んだ、魅惑の離島・オーレン諸島。これは行くしかないっしょー。

 さぁ、早く用事を済ませて、シンくんたちと合流だっ!

 

「ありがとうございます、タケシさん! このお礼は三分くらい忘れません!」

「そこは一生にしておいてくれ。俺もちょくちょく行ってるし、向こうで会えたらよろしくな」

 

 そして、タケシとお別れを済ませ、エリカお嬢様にお届け物をして(その際、「またヨワシのパイですの? わたくし、これ好きじゃありませんのよね……」というアレな台詞を頂いた)、シンくんたちにオーレン諸島の事を話した。

 ちなみに、集合場所はいつものポケセン――――――ではなく、何とホテル。イーブイを探すのに夢中で気付かなかったけど、タマムシマンションがホテルになっていたのだ。

 正確に言うと、ホテルではなくデイリーマンションで、名前もタマムシマンションのまま。探していなくとも気付けなかったかもしれない。ゲームにはいらない要素だからね、そういうの。

 蛇足だけど、私たち三人とムコニャの二組で、複数人用の大部屋を一つずつ使っている。

 いや、別に全員個別に出来るっちゃ出来るけど、小市民特有の勿体無い精神が働きまして。ロケット団員は社宅として利用出来るから、更に料金が下がる上に期限もないって言うし。申し訳なさ過ぎて個室なんて使えません。

 アポロさん、ずっと影の薄い最高幹部(笑)とか思っててごめんなさい。メッチャ良い人やん、アンタ。

 何にしろ、久々にまともな個室だし(ポケセンの宿泊施設はタコ部屋かカプセルホテル形式)、思う存分休むとしよう。

 ……で、今は隣接されたレストランでお食事中。ポケモン世界も便利になった物ね。

 

「へー、凄いじゃないの!」「オーレン行きのチケットは高い上に色々規制があるから、なかなか行けない事で有名なんだぜ?」『それをフリーパスでゲットするとか、もはや意味不明にゃ!』「すごいすごーい」

 

 ムコニャとマツリカちゃんが、和風のステーキやハンバーグをがっつきながら、次々と称賛の言葉を贈ってくれる。

 ハハハハハ、そうだろう、凄かろう。もっと言って、もっと褒めて。これは私のお手柄ですよ~♪

 

「スッゲェじゃん。……でも、離島を探索するなら、せめてヒジュツ・ミズバシリやヒジュツ・オシダシくらいは覚えておきたいよな」

「それもそうね」

 

 シンくんのおかげで冷静になって気付けたけど、確かに離島マップはミズバシリやオシダシが無いと辛い。そうなると、最低でもセキチクシティを攻略しないと駄目か。

 いや、せっかくだからヤマブキジムもクリアしていくか。まだロケット団は事を起こしてないし、何かあれば連絡が来るだろうから、動くタイミングを掴みやすい。嵐が吹き荒れる前に、さっさと攻略してしまおう。

 グレンジムは母上様に近況報告するついでに。正直、あんまり負ける気しないからね。純正ほのおタイプしかいないもん。

 トキワジムは……アレだし、除外する方向で。楽しみは最後に取っておいてこそでしょ。

 

「じゃあ、まずはヤマブキシティに行ってから、セキチクジムとグレンジムを攻略して、それからオーレン諸島に行こうか」「そうだな」「わかったー」

「なら、アタシらはちょっとジム巡りでもしてくるわ」「サカキ様からも、幹部に相応しい実力を付けて来いって言われてるしな」『移動もプテラとギャラドスのおかげで楽ちんだから、スイスイ行ける筈にゃ』

 

 おっと、しばしムコニャとはお別れか。

 ま、今の三人の実力なら、そう苦労せずクリア出来るだろうし、セキチクジムをクリアしたらまた一緒になるんだから、別に寂しくも何ともないけど。

 

「……さっさとクリアしてきてよね」

「ハイハイ、分かってるわよ」「心配しなくても、幹部確定の俺たちが、そんなミスをする訳ないだろ」『大船に乗ったつもりでいるのにゃ~♪』

「おう、頑張れよー!」「ふぁいとー」

 

 そんな感じで私たちは部屋に戻り、眠りに着いた。ベッドに三人、川の字でした。イヤン♪

 さぁ、明日からは少し忙しいぞ。何せピンクの汚い忍者にエスパー少女(強)、熱血クイズおやじを倒さなきゃいけないからな。

 大丈夫、時間は掛かるだろうけど、私たちなら勝てる。

 大した月日じゃないけど、キミたちと積み重ねた時間は、今までの人生で一番に濃密で、楽しい日々だから。

 

 だから行こう、シンくん、マツリカちゃん。ポケモンマスターに続く、未来へのロードを……。




◆オーレンの姿

 カントー地方の最南端であるオーレン諸島に見られるリージョンフォーム。基本的にカントー地方のポケモンしかおらず、“他のリージョンフォームがあるポケモンはオーレンの姿に変質しにくい、もしくは全くしない”“他の地方で進化後が発覚しているポケモンは、進化出来ない代わりに種族値が同等レベルに上昇する”“メガストーンやZクリスタルなどの影響下にあるポケモンは変化しないが、逆に最終進化形でもオーレン諸島に居続ければ変化する可能性がある”などといった特徴がある。
 オーレンの姿は島中にある“青い輝石”の放つ「オーレン粒子(見た目は青い素粒子。ガラル粒子と似ているが、波長が違う)」が影響しており、濃度が高い場所ではポケモンが巨大化する事もあるという。
 ちなみに、似通った物が赤道付近の大陸にも存在するらしい。


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自称☆エスパー少女と汚いニンジャピンク

アオイ:「スプーンって、力いっぱいぶん投げれば普通に曲がると思うのよね」
シン:「最近の忍者って全く忍んでないよなぁ……」
マツリカ:「うぐいすパンおいしい」


 つぎのひ(`・ω・´)!

 

「さぁ、やって参りました、ヤマブキシティ! どの辺が山吹色なのか全く分かりません!」

「たぶん、歩道がそうなんじゃね?」「ほんとだー」『バウ!』

 

 私たちはヤマブキシティに到着した……徒歩で。だって、歩いて数分の隣町なんだもん。

 さて、そんな近場のヤマブキシティだが、発展具合は郊外であるタマムシシティとは雲泥の差がある。何せビル以外の建物が殆ど存在しないのである。平屋は精々、ポケセンとモノマネ娘の邸宅のみ。FSはビルと一体化しているし、エスパー親父の家でさえ、高層マンションの一階にある。

 うん、明らかにLPLE本編より発展してるな、これ。カントー地方最大の都市というキャッチコピーに偽りなし。

 いや、ゲームを現実に変換すると、これくらいは当然なのかな?

 まぁいいや。コンクリートジャングルになっていようが何だろうが、シルフイベントが発生していないヤマブキシティなど、ただのゴミゴミした大都会でしかない。

 あ、野生のニャースだ。木の実を恵んであげよう。しっかり繁殖して環境を破壊するんだよ。

 

「……で、まずはどうする?」

「そうねぇ……少し探索しましょうか」

「さんせー」

 

 という訳で、ちょっくら散策。理由は言うまでもなく、技マシンとかの回収である。

 

『やぁ、アオイ! えっ、私が誰かって――――――』

「いいからよこせや」

「うわーん、ママー!」

 

 まずはモノマネ娘と戯れ、

 

「分かっている、これが欲しいんだ――――――」

「黙ってよこせやぁ!」

「ドペェーッ!」

 

 エスパー親父に粗品(拳)を贈り、必要な技マシンをゲット。物真似は微妙だけど、サイキネはあると便利だからね。ついでに月の石もゲット。使い道がまるでないけど、ボックスの子たちでも進化させておけばいいか。

 

「よし、それじゃあヤマブキジム……じゃなくて、格闘道場に挑もうか!」

「何だこのボロ屋?」「ゴミ屋敷?」

「言ってやるなよ……」

 

 ……って事で、廃墟――――――じゃなくて、格闘道場に挑戦である。

 格闘道場と言えば、お隣さんのヤマブキジムとの勢力争いに負けてしまった悲劇の場所。見る限り、経営破綻寸前にまで追い込まれているように見える。

 まぁ、この初代はかくとうタイプ(笑)状態だったし、第七世代である筈のLPLEでも改善させて貰えなかったから仕方ないね。ついでに言うとヤマブキジムは一部がゴース系を使って来るので、余計に勝ち目がない。哀れなり。

 ただ、私なら頑張ったら勝てる自信はある。LPLEはしっかり特防の高さが反映されてるし、技構成と使い方次第でどうにでもなる。タイプ相性は基本にして極意だけど、ポケモンバトルはそれだけじゃない。今更言っても仕方ないが。

 さぁさぁ、それはともかく、サクサクとクリアしていきましょう。多少は手持ちが変わってるだろうけど、マジで脅威に感じない。使って来るのがワンリキー系かニョロモ系だもんなぁ。

 

「行けぃ、ニョロボン! 「ばかぢから」!」『ボォァンッ!』

「はいはい、アカネちゃん「ムーンフォース」」『ドリャー!』

「『ヴァー』」

 

 はい、終了。

 確かに面子やレベルはマシになってたけど、はがね技やどく技の無いかくとうタイプなんて、アカネちゃんの敵じゃないんですよ。

 唯一、空手大王のタケノリには少し苦戦したが(こいつニョロボンに毒突き搭載してやがった)、それだけだ。他にもエビワラーにサワムラー、カイリキーも繰り出して来たけど、やっぱり敵じゃなかった。

 むしろ、エビワラーを起点にコズミックパンチのコスモパワーを積めたので、アカネちゃん無双状態だった。出す順番が確実に間違ってる。道場がこうなったのもエスパーに弱い云々以前に、使い手に問題がある気がする。

 しっかりと修行してから出直して来やがれ!

 

「くっ……修行不足か! 道場は一旦閉める! だが、いつか必ず舞い戻り、ジムの座を勝ち取って見せようぞ! ……こいつらは看板代わりだ、持っていけぇい!」「……仕方ないわね、ワタシも付いて行くわ」

 

 しかし、まさかマジで修行の旅に出るとは思わなかった。それも道場閉鎖というおまけ付き(置き土産はエビワラーとサワムラー)。えっと、何かゴメン……。

 是非ともスリバチ山でコーチトレーナーのチヨリさんと末永く爆発して来て下さい!

 なお、門下生の一人(「どくづき」「たきのぼり」「ばかぢから」「さいみんじゅつ」という割とガチ構成なニョロボンを使って来たタイキさん)がロケット団に入団希望な模様。青年よ、大志を抱け。例え対人式破壊光線を食らう未来が待っていようとも。

 さてと、格闘道場は軽くクリアした事だし、このままの勢いでヤマブキジムに挑もう。

 

「さぁ、ヤマブキジムに挑戦よっ!」「おーっ!」「いぇー」『ピッピィ~♪』『プリ~ン♪』『バウワウ!』

 

 という事で、やって来ましたヤマブキジム。

 先述の通り、エスパータイプのジムなのにゴース系が混じっている不思議な場所で、内装も意味不明である。何をどうやってビル街をジムの中に造ったんだよ。あれか、超能力を使って亜空間でも形成してんのか。

 ま、別にいいさ。ワープパネルがちょっと面倒臭いだけで、苦戦する要素はない。最大火力がサイコキネシスの威力90止まりだし、LPLEはそこそこあく技が充実している。その上、エスパータイプは耐久力に難があるので、単純に力でも押し切れるだろう。

 ホント、何で負けたんだろう、格闘道場。ゴローニャとかサワムラーもいたじゃん。地震連打とか、真空飛び膝蹴りとか、突破出来る要素はあるのに。

 我が強い奴も結構いたから、全員で猪突猛進に仕掛けて返り討ちに遭ったのかもしれない。チームワークに欠ける道場って一体……。

 

「お前、ナツメに会おうとしてるな!?」

「黙れ小僧!」

 

 当たり前の事を未来予知と言い張る阿保を始末したり、

 

「ナツメさんは私より年下ですが……尊敬しています(ポッ♪」

「おい、しっかりしろ、エリートトレーナー」

 

 百合っぽいお姉さんを正気に戻し、

 

「迷えるトレーナーか……!」

「お前は色々と間違ってるぞ」

 

 神父みたいな事を言い出す祈祷師に喝を入れ(こいつ何気にゲンガー使って来やがった)、遂にナツメの下へ辿り着いた。

 正直、トレーナー戦よりワープパネルの方が辛かったです、ハイ。記憶が古過ぎて、ジャンプ位置なんぞもう覚えていないんじゃ~。

 

「……やっぱり来たわね! 予感がしたのよ! 何気にスプーンを投げて曲がって以来、私……エスパー少女なの」

「そーなのかー」

 

 どんだけ力いっぱい投げたんだろうね。そりゃ曲がるよ。

 それにしても、ナツメって意外と可愛い顔してるな。

 深緑のパッツンロングヘアーに赤紫色の瞳、キリッとした感じの顔立ちだけど、そのツンとした表情が逆に萌える。スタイルも良いし。何なんだ、あの胸部ミサイルは。ふざけてんのか。

 なお、恰好は相変わらず濃い赤を基調とした悪の女幹部っぽい感じの模様。腰巻やタイツは髪と同じ深緑色だが、同時に黄色いラインも入っているので、旧作やポケスペっぽい印象も受ける。さすがに鞭や人形は無いか……。

 だが、容姿は勝負に関係ない。倒させてもらおう!

 

「戦いはあまり好きじゃないけど、貴女が望むなら――――――私の力、見せてあげるわ!」

 

 ――――――ジムリーダーのナツメが勝負を仕掛けて来たっ!

 

「行って、バリヤード!」『バッバァ~ン!』

 

 ナツメの初手はバリヤード(Lv56)。何か初対面なのに強化後と同レベルになってるような気がするんだけど。

 まぁ、ジムリーダーは相手の強さに合わせて手持ちを替える決まりがあるみたいなので、単純にレベルを上げ過ぎたのかもしれない。

 ようするに、自分で自分の首を絞めただけの事だ。甘んじて受けよう。

 

「レッツGO、アンズちゃん!」『ギャアアォヴッ!』

 

 私のトップバッターはアンズちゃん(Lv53)。弱点は突かれるけど、こっちも抜群を取れるから、ごり押しで行くぜ行くぜ行くぜぇっ!

 

「バリヤード、「リフレクター」!」『バリリァッ!』

「アカネちゃん、突っ切って「どくづき」!」『クァォン!』

 

 リフレクターを張るのは良いが、お前の種族値じゃ焼け石に水だし、どくタイプが弱点になってるから、耐えられないと思うぞ。上手く毒も入ったし。

 

『バァバァーン!』

 

 何か倒れ方がカッコいい。我が生涯に一片の悔いなしって感じ。ラ○ウか貴様は。

 しかし、壁を張られたのも事実。ここは怒りの前歯も交えて着実に削って行こう。

 

「行って、ヤドラン!」『ヤァドラァン!』

 

 お次はヤドラン。壁を張られた状態で耐久ポケモンは結構キツいな。

 だが、交代はしないぞ……度忘れとか積まれちゃ、堪ったもんじゃないからなっ!

 

「アンズちゃん、「いかりのまえば」!」『ガァヴヴッ!』

「くっ……「サイコキネシス」!」『ドラァアアアンッ!』

「耐えろ! そして、「かみくだく」!」『ガヴォォン!』

『ガァァァァ……!』「ヤドラン……!」

 

 怒りの前歯でHPを半減させてからの噛み砕くで突破。アンズちゃんも致命傷に近いダメージを負ったが、これは大きい。タイミング良くリフレクターも時間切れになったし。これは流れが来てるぞぉ!

 

「仇を取って、ギャロップ!」『ヒィィイイイン!』

「ぶほぁっ!?」

 

 とか何とか思っていたら、ガラルギャロップが出て来た。マチス戦以来のリージョンフォームである。

 LPLEだとワイルドボルトもサイコカッターもなく、ほのおタイプ技も使えないが、それでもメガホーンやドリルライナーに角ドリルといったドリル技は健在なので、全く以てハンデになってない。

 まぁ、半死半生状態のアンズちゃんでは、どっちにしろとも耐えようがないけど。

 

「仕留めなさい、「ドリルライナー」!」『ギャルルルップッ!』

『キュアアアアァッ!』「……戻って、アンズちゃん。次はアナタよ、アカネちゃん!」『ピピピッ!』

 

 順当にアンズちゃんが倒れたので、控えのアカネちゃん(Lv55)と入れ替える。コズミックパンチでさっさと倒してしまおう。

 

「ギャロップ、「メガホーン」!」『ブルゥヒヒィィイイィン!』

「アカネちゃん、耐えて「コズミックパンチ」!」『オラーッ!』

 

 メガホーンなんて大技をキッチリ当てたのは褒めてやるが、その程度じゃアカネちゃんは倒れない。逆にコズミックパンチでぶっ飛ばしてやる!

 

『カッ……!』「ギャロップ……!」

 

 さすがに威力100で弱点を突かれては耐えられなかったのか、ギャロップは文字通り吹き飛び、ビルの下へと落下して行った。すぐボールに戻るんだろうけどね。

 さぁ、次は誰だ!?

 

「頼むわ、ルージュラ!」『ジュラジュラルージュラブッチュララン♪』

 

 何て鳴き声で登場するんだ、お前は。普通に気持ち悪いんですけど。

 

「「あくまのキッス」!」『ん~まっ♪』

「誰が食らうかぁ! アカネちゃん、全力で避けて「コズミックパンチ」!」『ドラララァッ!』

 

 汚物は消毒だぁ!

 

『イヤァアアアアン♪』「バ、バナナ! ……じゃなかった、ルージュラ!」

 

 貧弱な物理耐久故に一発KOされたルージュラが、バナナを残して倒れる。やっぱりそれが本体なのか。あと、バナナって、お前……。

 

「次は貴方よ! スリーパー!」『ロリダロリダ、ブヒョヒャヒャッ!』

「何でだぁあああああああっ!」『ピェール!』

 

 後続は、まさかのピンクなスリーパー。

 おい、もしかして、この個体って――――――。

 

「この子は人の醜さを知っている! だからこそ、共に戦うのよ!」

 

 ほほぅ、やっぱりあいつらの手持ちだった奴か。なら、グリーンのあの子もそうなのかな。

 ……つまり、あの二人、撤退してから改めて捨てたのか。マジで救いようがないな、あいつら。

 まぁ、アローララッタ共々、良いトレーナーに拾われて良かったと言っておこう。

 

「アカネちゃん、「ウルトラクッキング」!」『ハァアアアアアアッ!』

 

 だけど、気持ち悪いから死ねっ!

 食らいやがれ、ウルトラクッキングタァ~イムッ!

 

『ギィェエエエエエエエエエッ!』「ロリーパーぁぁああああああっ!」

 

 こうして、ロリコン共は始末された。

 つーかさ、実はそいつの事、嫌いだろ。ロリーパーって……。

 

「こうなっては仕方ない……最後の切り札を使うわ! 出番よ、フーディン!」『フゥゥディンッ!』

 

 さてさて、ようやくナツメの切り札、フーディン(Lv58)のお出ましか。

 

「目覚めし我が超能力(ちから)よ、フーディンにサイコパワーを与えよ! メガシンカ!」『フォッフォフォフォ……!』

 

 さらに、当然のようにメガシンカ。ケムール人みたいな声で笑っていやがる。

 エリカお嬢様の時から思ってたけど、ハードル上がり過ぎだろ。どの辺がトレーナーに合わせた選出なんだよ!

 

「さぁ、「めいそう」からの「サイコキネシス」よっ!」『ボフォフォフォフォフォフォッ!』

『ギエピーッ!』「アカネちゃーん!」

 

 もちろん、太って動けないアカネちゃんに成す術はなく、瞑想された上にサイコキネシスで止めを刺された。

 しかし、私にはまだ切り札が残っている。

 

「アカネちゃんの仇を取っといで、ユウキ!」『ブッブィッ!』

 

 それが相棒イーブイことユウキ(Lv66)だぁ!

 手持ちの不思議な飴全てを投入した、圧倒的レベル差を思い知れっ!

 

「フーディン、「はかいこうせん」!」『ビビビビビビビビッ!』

「『ブゥギャアアアアアアアアアアッ!』」

 

 いや、何でだよ!?

 有効打が無いからって、ごり押しするんじゃねぇ!

 

「だ、大丈夫、ユウキ?」『ブイッ!』

 

 ま、まぁ、私を悲しませまいとギリギリで耐えてくれたし、ここから反撃よ!

 

「ユウキ、「びりびりエレキ」!」『ンンッ……ブィッ!』

 

 まずは麻痺を入れて素早さを奪い、

 

「続けて「こちこちフロスト」!」『ブリャアアアアアッ!』

 

 いきいきバブルと入れ替えておいた「こちこちフロスト」で瞑想を無力化しつつダメージを与えていく。

 

「「はかいこうせん」!」『キュラキュラキュラッ!』

「躱して、「わるわるゾーン」でトドメよ!」『ブイブイブーイ!』

 

 そして、特防が元に戻った隙を突いて「わるわるゾーン」で抜群を取り、どうにか仕留めた。破壊光線が掠った時は生きた心地がしませんでした、本当に。

 

「は、激しい戦いだった……!」

「ある意味でな。後半、お互いにもうヤケクソだったろ」

 

 シンくん、辛辣ぅ~♪

 だが、勝ちは勝ちである。身ぐるみ剥されたくなかったら、さっさと瞑想の技マシンとゴールドバッチを頂こうか!

 

「なかなか楽しかったわ。……機会があったら、また戦いましょう」

 

 今更カッコ付けるなよ、エスパー少女。

 ま、いいさ。殿堂入りしたら考えてやるわ。

 

「それじゃ、バイビ~♪」

「それ、グリーンさんの台詞……」

「バイバイキ~ン」

「マツリカ、それはブルーの台詞……」

 

 その後、シンくんも無事ナツメに勝利。

 ピジョット(Lv61)のね、砂掛けエアスラッシュ羽休めがえげつないのよ。熱風で火傷も入れちゃうし。

 次鋒のアローラガラガラ(Lv59)も強かった。弱点突けるわごり押し出来るわ、やっぱり鬼火で火傷を入れるわと、とんでもないダークホースだった。きっと、お母さんも草葉の陰でビックリしてるよ。

 しかも、彼らを倒しても後にプリン(Lv60)やピカチュウ(Lv60)が控えている。どっちも相棒ポケモンな上に、催眠金縛り攻撃と先手で麻怯みを仕掛けて来るのだから、もう見てられなかった。ついでにレベル差が酷い……。

 確かに強いしカッコいいんだけど、ラストに彼がチャンピオンとして立ちはだかるかと思うと――――――勝てるのかな、これ? 無理じゃね?

 ともかく、これでヤマブキジムはクリア。もうヤマブキシティに用はない。さっさとセキチクシティへ行こう。

 

「よーし、それじゃあ、このままセキチクシティまで強行軍だぁ!」「オーッス!」「みらいのチャンピオ~ン」

 

 そういう事なので、一旦タマムシシティに飛んで行き、きちんと回復を済ませてから、元サイクリングロードである16番道路→17番道路→18番道路を駆け抜けていく。

 さすがに後半というだけあってトレーナーの手持ちも強く、どいつもこいつも最終進化形かつ実戦級のガチな技構成で攻めてくる。フルアタ型のスターミーだとか、エリカも使った不意打ちウツボットだとか、色々いましたよ。

 ただ、一番苦労したのは、意外な事に鳥使いのススムだ。

 こいつ、原典だとカモネギ(Lv39)×3を使って来るというネタ枠だったのだが、この世界では通常種(Lv59)、ガラル種(Lv59)、オーレン種(Lv59)の三タイプを使用する、色枠にメガシンカしていた。道中誰もオーレンポケモン使わなかったのに、何でお前だけ持ってるし。

 特にオーレンカモネギがヤバかった。何せこいつ、ネギガナイトに進化出来ないからって、ステータスを物凄く上げているんだもの。

 以下、オーレンカモネギのデータ。

 

◆カモネギ(オーレンのすがた)

 

・分類:けんごうポケモン

・タイプ:はがね

・レベル:59

・性別:♂

・種族値: HP:82 A:125 B:105 C:50 D:95 S:50 合計:507

・覚えている技:「スチールブレード」「ばかぢから」「つるぎのまい」「はねやすめ」

・図鑑説明

 山地の奥深くで、剣を交えるに相応しい敵を待ち続けている。厳しい修行で鍛えた身体は鋼のように硬く、剣の腕前は刀よりも鋭い。

 

 まさかのマサムネギ☆爆誕である。鋼のようなって言うか、はがねタイプそのものじゃん。

 ちなみに、「スチールブレード」は威力90の急所に当たり易い、はがねタイプ版のリーフブレードだ。これで専用技じゃなかったら完全に悪ふざけな性能である。リーフブレードは無いのに、どうしてこうなった。命中率が若干低め(95%)なのがせめてもの救いか。100%だったら殺す。

 しかし、まさかカモネギに追い詰められる日が来るとはなぁ……。

 アカネちゃんが一撃仕留められた時は肝が冷えたよ、マジで。油断は大敵って事ね。

 最近、苦戦らしい苦戦をして来なかったから、良い切り替えになったわ。ありがとう、ススムくん。ご飯でもおかわりしてて下さい。

 さぁ、勝って兜の緒を締めた事だし、セキチクシティへゲートインよっ!

 

「セキチクッ!」

「他に言う事ないのか……」

 

 ありませんけど、何か。

 だってさぁ、サファリゾーンの無いセキチクシティに何の価値があるのよ。ふれあいパークだけで、GOパークは無いっぽいし。ポケモンGOが存在しないからって、この仕打ちは無いでしょー。

 という事で、特に感動も何もなく、趣味も気持ちも悪い金の入歯をパークの園長に渡してヒジュツ・オシダシを学び、ラプラスお兄さんからヒジュツ・ミズバシリを教わり、ポケセンで相棒技を更新して、はい終了。実に粛々としたフラグ回収。つまんねぇ……。

 

「ここがバクチクジムかぁ!」

「また燃やしたりするなよ!?」

 

 さて、気を取り直して、セキチクジムに挑もう。言うまでもなく、どくタイプの使い手ばかりの汚いジムだ。

 汚物は消毒してやるよ、全力でなぁっ!

 

「うわっ、何これ面倒臭い……」

「言ってやるなよ、そういう試練なんだから」

 

 謎の靄が私たちの行く手を阻む。

 初代だと見えない壁が張り巡らされていたこのジムだが、LPLEだと目に見える靄が壁になっている。詩的に表現するなら、「霞みの迷宮」って所か。一体どういう仕組みなんだろう。

 

「あ、バリバリのともだちががんばってるー」

 

 マツリカちゃんに言われて見ると、至る所で通常種とガラル種のバリヤードが光の壁と冷気を放っていた。合理的ではあるけど、毒タイプのジムでエスパータイプのポケモン使うなよ。初代だとモブのエスパー率が異様なまでに高かったけどさ。

 一応、この世界はLPLEに近いので、ジムトレーナーたちの手持ちもどくタイプ持ちになっている。普通に最終進化形(フシギバナやゲンガーにニド夫妻など)を繰り出してくるがな!

 まぁ、ススムさんのおかげで気も引き締まってたから、割とサクサク攻略出来たけど。

 

「ファファファッ!」

 

 ぬっ、このエク○デスみたいな笑い声は……!

 

「小童如きが、拙者に勝負を挑むとは! 片腹痛いでござるわ!」

 

 出たな、ポケモン界の忍ばない汚シノビ!

 サ○ヤ人めいたツンツン頭に三白眼。若干ピンク掛かった紫色の忍装束に、朱色の防塵マスク。

 このまさに忍者やってますという出で立ちは、間違いなくキョウである。それも質量を持った残像なのか、四人もいやがる。すぐに一人に戻ったけど。

 入り口でも変化の術をかましてくれたけど、あれか、「忍術は凄いぞカッコいいぞーっ!」って事か。いい年して恥ずかしくないのか。

 あと、フシギバナ使って来たら殺す。もう天丼ネタはいいんだよ、お腹いっぱいなんだよ!

 

「相手を惑わせ、毒を食らわせ、手出しも叶わぬまま自滅させる! 変幻自在の忍びの技の極意、受けてみよ!」

「ならゲッコウガ使えよ」

 

 ――――――ジムリーダーのキョウが勝負を仕掛けて来たっ!

 

「行けぃ、マタドガス!」『ドヴァアアァスッ!』

 

 繰り出されたのは、原種のマタドガス(Lv60)。良かった、アポロさんみたいにガラル種とか使ってこなくて。

 

「行って、アンズちゃん!」『クァアアヴォン!』

 

 対する私はアンズちゃんを抜擢。どうだ、自分の娘と同じ名前の相手と戦う気分は。

 

「マタドガス、「だいばくはつ」!」「おいっ!」

 

 だが、マタドガス(やつ)は弾けた。微塵の躊躇もなく自爆させやがったよ、この人。

 

『クゥゥゥン……!』

 

 しかし、アンズちゃんは元々耐久寄りのステータス。不意の大爆発で沈む程軟じゃない。

 

「戻れ、マタドガス! 爆ぜろ、マタドガス!」「……ってコラァアアアッ!」

 

 でも、二発目は無理だった。

 悪の組織の最高幹部すら使って来なかった戦術を、二度も……貴様の血の色は何色だぁ! ピンク色かぁ!?

 

「ファファファッ! お主の手持ちで拙者のポケモンに対して優位に立てるポケモンが、ニドクインだけだというのは把握済みよ! 故に、先手を取って狩らせてもらった! マタドガスたちには済まないが、これもコラテラルダメージよぉ!」

 

 うわっ、何それ気持ち悪っ……!

 つーか、何英語(イッシュご)使ってんだよ。お前日本人(カントーじん)だろ。誇りは無いのか。売国奴め、成敗してくれる!

 ……とは言ったものの、実際にアンズちゃん以上の適役がいなかったのも事実。

 どくタイプの天敵は、毒状態に出来ないはがねタイプと、弱点を突いてくるじめんタイプとエスパータイプ。

 だが、ある意味一番苦手なのは、毒に出来ず遣り口も知っている同じどくタイプと言えるだろう。どいつもこいつもミラーマッチに備えてサブウェポン持ってるし。アーボックとかニド夫妻とか。マタドガスはじめん技が無いので、捨て駒にしたのだと思われる。汚いさすが忍者汚い。

 しかし、私の対抗策がアンズちゃんだけだと思うなよぅ!

 

「行け、ベトベトン!」『ベェヴァアアッ!』

「仇を穿て、ハヤト!」『ホォグルドォッ!』

 

 キョウが繰り出したのはベトベトン(Lv60)。対する私はハヤトだ。

 そう、私は知っている――――――お前が実は、防御のステータスが低い事を!

 

「ハヤテ、「ネコにこばん」からの「ドリルライナー」!」『ケァアアアン!』

 

 まずは猫に小判で目晦ましをしてから、新技のドリルライナーを食らわせる。タイプは不一致だが、効果は抜群なので蓄積ダメージは充分だろう。

 

「くっ、ならば「どくどく」!」『ゲロァヴァッ!』

「その前に「とんぼがえり」!」『ギャォオンッ!』

 

 さらに、必中毒々を先制トンボ返りで回避。代わりに出て来たアキトに直撃したが、どくタイプ持ちなので意味がない。

 

「アキト、追撃の「ドリルライナー」!」『ブゥゥウウウルル!』

『ベァヴォォォッ!』「ベトベトン……!」

 

 そして、アキトのドリルライナーでベトベトンを仕留めた。小さくなるとか、面倒な事をされる前に倒せてよかったぜ!

 

「ハハハハハ、どうだ見たか! これがどくタイプの使い方よぉ!」

「ア、アオイ、それ完全に悪役……」「あっくじょあっくじょ~♪」

 

 シンくんにドン引きされてるけど、知った事じゃない。

 あのウザったいキョウを翻弄出来ているかと思うと、嬉しくて堪らないのである。忍者やーいやーい、クソ忍者やーいやーい!

 ……って言うかさ、今更だけど私の手持ちどくタイプ率高くね?

 アンズちゃんにヒナゲシちゃんにアキトって、約半数がどく持ちなんですけど、どうなってんの?

 まぁいいや、事実は事実だし。何より、この勝負に勝てば、名実共に私がどくタイプ使い(セキチクジム)看板(バッチ)を頂けるんだからなぁ!

 

「おのれっ! だが、まだまだ勝負はこれからよぉ! 行けぃ、モルフォン!」『モルフリィィッ!』

 

 おっと、ある意味キョウの切り札、モルフォンのご登場だ。それも色違い。奇麗だなぁ。

 さて、このままアキトで挑むと、おそらくサイコキネシスで沈められる。どくタイプは絶対に同属対策してるからな。確実に搭載しているだろう。

 

「戻れ、アキト! 行けっ、ユウキ!」『ブッブィッ!』

 

 スピアーはモルフォンに素のポテンシャルで負けてるから、トンボ返りを撃つ前に撃ち落とされるし、ここはユウキに出てもらうしかない。不一致のサイコキネシスぐらい、幼女の皮を被ったモンスターであるユウキなら耐えられるだろう、たぶん。

 

「やはり引っ込めたか、「ヘドロばくだん」!」『フリヴァアアッ!』

「貴様ぁあああああああああああああああああああああああああっ!」

 

 そっちを天丼するなぁっ!

 つーか、ちょっ、痛いっ! タイプ一致は痛いっ!

 だが、屈しはしない! フラグじゃないぞ!?

 

「食らえ、「どばどばオーラ」!」『ブゥゥイイイイッ!』

 

 さらに、どばどばオーラで反撃。効果抜群な上に光の壁を張ってやったぞ、どうだこの野郎!

 

「「むしのさざめき」!」「躱して「どばどばオーラ」!」「「まもる」で防いで「サイコキネシス」!」「くっ……耐えて「めらめらバーン」!」

 

 そして、この攻防である。熱戦・激戦・超決戦って感じだ。キョウが相手のなのに。

 

『ブィッ……!』『フリィ……!』

 

 当然、そんなダメージレースを続けていれば、そこそこの耐久力しかない相棒イーブイとモルフォンが持ち堪えられる筈もなく、死力を尽くし合った末に、両者共倒れになった。

 くそぅ、便利屋ユウキが相討ちになるとは、やるな忍者めっ!

 だけど、何だろう……これ、すっごく……燃えて来たぁあああああっ!

 

「――――――本来、こいつを使ってはならんのだが……お主相手には、どうしても行かせたくなった! これで終いよぉ! 行くのだ、ゴルバット!」『ギヴヴヴヴヴァッ!』

 

 すると、その熱が伝わったのか、キョウがらしくない笑みを浮かべて、ゴージャスなボールから見た事もないゴルバットを繰り出した。鳴き声が吸血宇宙星人なんですけど(汗)。

 まるで青バージョンのグラフィックのように長い舌を出し、脚が魔物を思わせる四本指の手になった、ゴルバットとゴーストが融合してしまったかのような姿。その体色は、まさかのゴールデン(皮膜と目は黒)。ゴルバットがマジもんの黄○バットになった瞬間である。

 こいつ、もしかして……。

 

◆ゴルバット(オーレンのすがた)

 

・分類:かげうちポケモン

・タイプ:どく/ゴースト

・レベル:65

・性別:♀

・種族値: HP:95 A:80 B:90 C:85 D:95 S:90 合計:535

・図鑑説明

 古代の墓場によく現れる。辺りに漂う霊気を吸収し続ける内に、このような姿になった。闇に紛れて生きる、暗闇の住人なのだ。

 

 やっぱりか! 闇に紛れて生きるって、妖怪人間かお前は! タイプ的にもゴーストの分岐進化みたいやん!

 いや、それよりも、この合計種族値――――――完全にクロバットと同じだよね。ステータスは横並びだけど。

 もしかして、進化後が後に追加された種族って、オーレンの姿になると進化出来なくなる代わりに、ステータスが上昇するんじゃなかろうか。具体的に言うと、合計種族値が進化後と同等くらい、みたいな。

 でも、そうなると、オーレンイワークの+50がどこから来たのか分からないし……これは、要確認案件だな。

 というか、今は目の前のオーレンゴルバットだ。耐久力がシルヴァディと同じって、かなり硬いぞ。特攻もそこそこあるし、キョウの性格的にも特殊アタッカーか、特殊寄りの耐久型かもしれない。

 そうなると、出すべきは、

 

「行って、アカネちゃん!」『ドッピリャー!』

 

 やっぱり、馬火力に優れたアカネちゃんでしょ! タイプ相性なんぞゴリ押してくれるわ!

 

「ゴルバット、「ヘドロばくだん」!」『ゴヴォァアアアアッ!』

 

 くっ、再三に渡るヘドロ爆弾! お前、私に何か恨みでもあるのか!? 一応は初対面だよね!?

 

「アカネちゃん、「コズミックパンチ」!」『オラーッ!』

「その程度では落ちぬわ! 「へどろばくだん」!」『ギヴヴヴァッ!』

 

 チクショウ、やっぱり硬い。コズミックパンチに余裕で耐えた上に、もう一発ヘドロ爆弾撃って来やがった。おかげでアカネちゃんは瀕死寸前の毒状態だよ!

 キョウの遣り口からして、確実に羽休めを搭載しているだろうから、長期戦に持ち込むのは愚策である。ここは、アレを使うしかない……!

 

「ゴルバット、「はねやすめ」!」『グルルル……!』

 

 よし、予想通り耐久戦に持ち込んできたな。

 しかし、その選択肢が命取りだ。羽を休めるという事はつまり、着陸している事に他ならない。飛行生物が地に足着いている時点で、自分から逃げ道を塞いでいるも同然なんだよ!

 

「――――――今だ、アカネちゃん! 「ウルトラクッキング」!」『ドリャーッ!』

 

 食らえ、アカネちゃんのスーパーお料理タイム!

 

『ゴギャアアアアアッ!』「ゴルバット……!」

 

 さすがに威力150の不意打ちには耐え切れず、ゴルバットはとっても上手に焼けました~♪

 

『ピィ……』「お疲れ、アカネちゃん」

 

 太って動けないアカネちゃんを労いつつ、キョウへ振り返る。

 

「先手を取られたにも関わらず、あの切り返しに、先の先まで見通した戦略……見事だ。そんなお主には、このピンクバッチと、秘伝の技マシン「どくどく」を授けよう!」

 

 キョウは悔しがるでも遠吠えするでもなく、潔く負けを認め、称賛の言葉と報酬を授けてくれた。戦法こそ汚い奴だが、心意気だけは高潔であるらしい。

 

「拙者もまだまだでござるな。だが、ここで終わる拙者ではござらん。……次は大きく四天王を目指すとしよう! では、さらばだっ!」

 

 さらに、折れる事のない向上心も見せ付けて、煙のように退場。立つ鳥跡を濁さず、である。この後シンくんとも戦うので、もう一度姿を現さなければならないから、ちょっと間抜けではあるが。

 

「おめでとう、アオイ! 凄かったぜ!」「かった~♪」

「ありがとね、二人共。よーし、今夜は祝賀会よ!」

 

 ともかく、これでセキチクジムはクリア。

 もちろん、シンくんも勝ちました。相変わらず、やり方がキョウよりえげつないよ……。マジで彼に勝てるのか、私は?

 そんなこんなで、本日の冒険はここまで。今夜は宴会ねっ!




◆サファリゾーン

 珍しいポケモンを餌に金を巻き上げ、時間とボール(たぶんモンボ以上の安物)を無駄遣いさせる悪徳施設。ラッキーとケンタロスは絶対に許さない。あと拾った金の入歯は、溶かして玉にしてしまおう。ヤドンはヤドンのままでよし。
 ポケモンを客寄せパンダにして金を取る上に、捕獲させる気が更々無い酷過ぎる仕様もあってか、今では単なる「GOパーク」になってしまった。ホウエンにも同じ系列の施設があったようだが、そっちは値上げしたせいで客離れを起こし、赤字の末に社長が夜逃げして閉鎖したそうな。


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一時の里帰りと科学の奇跡

アオイ:「ラボラトリーのエラーイ博士って、世界線が違えばジュラシック・パーク辺りに就職してたと思うんだ」
シン:「お前は何を言ってるんだ」
マツリカ:「あんぱんおいしい」


 あくるひっ!;つД`)

 

「ふぁーあ……」

 

 私は拠点であるタマムシマンションの部屋で目を覚ました。隣ではマツリカちゃんとシンくんがスヤスヤ眠っている。半開きのクローゼットの中では、アカネちゃんとプリンが仲良くお互いを枕にしていた。持った空瓶が絶妙に親父臭い。

 いやー、昨夜はお楽しみ会でしたよ。

 お酒は未成年だから飲んでないけど、サイコソーダで乾杯して、デリバリーで頼んだピザや照り焼きチキンを頬張り、お菓子食いながらくっちゃべり、最後は疲れ果てて皆仲良く眠り状態になりましたわ。

 一応、途中から眠気も出て来たという事でベッドの上に移動してたけど、それでも布団も掛けずに寝ちゃいましたよ。それくらい楽しかったわ、マジで。

 こんな日が……喋り疲れて皆で寝ちゃうなんて日が、来るだなんて……どうしよう、目頭が――――――、

 

「んー、おはよう、アオイ」「ふにゃー」

 

 と、二人が起きた。アカネちゃんとプリンはまだ寝てるけど。

 

「さぁ、今日も張り切って行くわよ!」

「「おー」」

 

 私は誤魔化すように声を張り上げ、まだ微睡から覚めやらないマツリカちゃんとシンくんを叩き起こしてやるのだった。

 

「……今日はグレンタウンに行くのか?」

 

 朝シャンと軽めの朝食を済ませた所で、シンくんがマツリカちゃんの着替えを手伝いながら尋ねてくる。もう完全に親子だねキミら。母親は私かな?

 どんんだけ素早く大人の階段駆け上がったんだよ。マツリカちゃん原典よりも幼い感じだから、たぶん五歳前後だぞ。年齢換算すると小学生どころか幼稚園児で夫婦になった訳で……。

 『大事件! 幼児二人がまさかの出産!?』とかいう見出しで三面記事を飾りそう。で、後に『あの若過ぎる夫婦は今……!』とかいう、恒例の倫理観なんぞクソ食らえな番組でスクープされるんですね、分かります。

 いや、ホント、マジで勘弁して下さいって。私とシンくんは健全な関係なんです、信じて下さい。

 ああっ、一週間の謹慎はおよしになって~!

 

「そうね。早くオーレン諸島行きたいし」

 

 あと、いい加減にヘドロ爆弾の技マシン欲しいし。

 という事で、双子島は無視する方向で。スマンな戦闘力53万、そっちのルートは遠回りなんだ。後で必ず捕まえてあげるから安心して。具体的に言うと、殿堂入り後くらいに。

 さぁ、ひとまずマサラタウンにひとっ飛びして、それからグレンタウンに行こう。

 

「……帰って来たな」「うん……」「ここがシンおにいちゃんと、アオイおねえちゃんのふるさと……」

 

 そして、一瞬で里帰り。それでも上空から懐かしい景色が見えて来た時はドキドキしたし、着陸した時には感無量な気分になった。

 そう、私たちは帰って来たんだ、故郷(ここ)に。

 

「それじゃ、ちょっと挨拶してくるな」「あ、私も」「わたしはバウワウとスケッチしてる~」

 

 そんな感じで、とりあえず実家に近況報告。旅立ってから全然連絡を取ってなかったし、何だかんだで久し振りになる。

 ハ~イ、母上様、たっだいま~♪

 

「馬鹿者ぉおおおおっ!」

「ベホマぁああああっ!」

 

 殴られた。何でやねん。

 いや、気持ちは分かるよ。完全に音信不通だったもんね。だけど何でやねん。そこは言葉数少なく迎え入れてくれる所やろ。

 

「お黙り。こっちは心配でしょうがなかったわよ。旅の邪魔になると思ってしなかったけど、何度電話しようかと……」

「スイマセンごめんなさい御許しを」

「だが断る!」

 

 だが断られた。だから何でやねん。

 

「――――――今日一日、旅の話を聞かせてくれるのなら、許してあげるわ」

「あ、ハイ……」

 

 これは、グレンタウン入りは明日に延期だな。

 おそらく、シンくんも同じような目に遭っている事だろう。母は強し、だわね。しゃーなしだなっ!

 という事で、本日の遠征は中止。急遽親子水入らずの時間となった。マツリカちゃんを家に上げてるから、厳密には違うんだけどね。

 

「あらー、可愛い子ね。二人のお友達?」

「むすめです」

「えっ!?」「義理のね、義理の! 流れで疑似家族になってるだけだから!」「よろしくおねがいします、おかあさん」「ややこしくなるから黙ってろ!」

「う、う~ん……しかし、思ったよりしっかりした子ね。ユーモアもあるし。ねぇ、どこから来たの?」

「あろ~ら~」

「アローラから来たの? 一人で?」

「これでもみらいのキャプテンなので~」

「へ、へぇ~。何にしても凄いわ~」

 

 というか、むしろスーパーマツリカちゃんタイムだった。こういう小さい子って、絶対に構われるよね。

 まぁ、可愛いのは事実だし、ユーモアもあるのは認めるけど、しっかりしているかと言われると疑問符が付くぞ。今朝もシンくんにお着替えしてもらってたし。話が拗れるから言わないけど。

 

「それにしても、ジムバッチが六個かぁ……」

「もうすぐ七個になるわよ」

「フフフ、大した自信ねぇ?」

「そりゃ、お母さんの娘ですから」

「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない」

 

 本心ですよ。私のお母さんは、貴女だけだ。

 この後、滅茶苦茶お話した。初めてのジム戦とか、ロケット団との出会いとか、ハナダジムとクチバジムの洗礼とか、シンくんとの共歩きとか、マツリカちゃんとの初邂逅とか、シオンタウンやタマムシシティでの新たな出会いと別れとか、ヤマブキジムとセキチクジムでの激戦とか、もう色々と。

 むろん、ロケット団員への加入とか、ムコニャの素性とかは明かしていない。言える訳ないからね。

 それでも、身近な人に武勇伝を語るのは何か良いな、新鮮で。今までそんな相手、いなかったし……アレ、また目頭が――――――、

 

「……よーし、それじゃあ、お風呂に入ろうか、マツリカちゃん!」「シンおにいちゃんとでもいんだよ?」「だから勘違いされるような事を言うなぁ! 私たちはプリピュアなんだよぉ!」

「いや、プリピュアって何よ……」

 

 誤魔化そうとしたら、別の意味で勘違いされそうになった。この悪ガキぃ……!

 でも可愛いから許す。可愛いは正義です、エロい人にはそれが分かるんです。

 という事でザッパ~ン♪

 

「「はーふー」」

 

 広い湯船で、伸び伸びとだらける私たち。

 今更だけど、私の家って結構裕福だよね。湯船は大人三人分くらいあるし、子供は二階の個室を占領してるし。三人家族である事を想定しても、絶対に広過ぎると思うのよ。実は母上様(もしくは今は亡き父上様)って、富裕層だったりする?

 

「ママさん、もとジムリーダーだったんだってー」「へぇ、そーなのかー」

 

 灯台下暗し。意外と身近な人間程、分からない事も多い物である。今度もっとゆっくり聞きたいなぁ。

 

「いいいえだよねー」「そうだよねー」「……なんでそんなにたにんごとなのー?」

 

 一瞬、言葉に詰まる。そうだよね、変だよね。

 だけど、仕方ないんだ。転移前の“この身体”が持つ記憶はあるけど、所詮は他人の人生だし、どうしても実感は湧き難い。

 でも、私はこここそが故郷だと思っている。心の、という意味で。

 

「天邪鬼だから」「ふーん」

 

 マツリカちゃんはそれ以上追及して来る事はなかった。この子も結構謎が多いな。立ち振る舞いは子供同然なのに、妙な所で大人びてるし、勘の鋭さは大人顔負けである。いくら未来のキャプテンとは言え、それだけでは説明が付かないミステリアスさが、彼女にはある。

 ま、気を利かせてくれたのなら、乗っておこう。それがお互いの為だ。

 

「それじゃ、ジムバッチ六個獲得と久し振りの顔合わせに、カンパ~イ♪」

「「「イェーイ!」」」「ヒューヒュー♪」

 

 そして、夕食にシンくんとママさんもお誘いし、ご近所同士の祝賀会と相成った。シンくんもパパさん、いないんだよねぇ。何でかは聞かないけど。

 そんなこんなで、私たちははしゃぎにはしゃぎまくった。楽しかったよ、本当に……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 よくじつっ!(*^-^*)

 

「今度こそ行くぞぉおおおっ!」

「「イェーイッ!」」

「「いってらっしゃい」」

「「「いってきまーす!」」」

 

 二人の母に見送られ、私たちは故郷を後にした。

 目指すはグレンタウン、目的はグレンジムの打倒とヘドロ爆弾の入手。ヘドロ爆弾欲しいよヘドロ爆弾んんっ!

 という事で、21番水道なう。ラプラスとかギャラドスを持ってれば専用ライドが出来るんだけど、連れ歩いてないからボードに乗るしかない。

 あんまり突っ込みたくないけど、これのどこがヒジュツなんだろう。単にサーフィンしてるだけじゃん。一応はアカネちゃんがバランス調整してくれてるみたいだけど、やっぱりこれを波乗り扱いするのは無理あると思うのよ。危ないし。特に私の方はマツリカちゃんも乗せてるから余計に怖い。

 

「おーっと、生きのいいトレーナー発見!」

 

 しかし、そんなの知った事かとばかりにポケモン勝負を挑んでくる海パン野郎ズ。何でこの海域、大人のお姉さんいないの?

 むろん、そんな不届き者たちは海に沈めておきました。このロリコン共め!

 途中、コーチトレーナーのオオタさんから冷凍パンチの技マシンを強奪。彼女しかこの水路に癒しがいないのがキツい。

 だってさ、やっぱり選択なのか、どいつもこいつも最終進化形使って来るんだもん。初っ端からギャラドス六連打は厳しいわ。ラスト一匹はメガシンカしてきやがったし。モブがキーストーン使うなよ。あれか、コイキングから大切に育てたからか。ホップタウンにでも行ってろ、きっと優勝出来るから。

 そんなこんなで、割と満身創痍になりながら、21番道路を泳ぎ切った。水場だとファルコン組かアキトしか繰り出せないのが辛いね。アンズちゃんに波乗りでも覚えさせときゃ良かったかな。カツラ対策にもなるし……いや、じめん技あるから別にいいか。

 ともかく、何とか到着はした。いよいよ以てグレンタウンに上陸である。

 まずはポケセン、ポケセンはどこだぁ!

 

「……ハイ、お預かりしたポケモンは、皆元気になりましたよ♪」『ラッキ~♪』

「「あざーす」」

 

 結構こっ酷くやられていた手持ちのポケモンたちも、これで全快。

 相棒技の更新や技調整も終わったし、準備は万端。恒例のマップ探索と洒落込もう。まずは、かの有名なポケモン屋敷からかな~?

 

「なぁにこれぇ?」

 

 そう思っていたんですけどね。

 

「……テーマパーク、かな?」「すごーい」

 

 シンくんとマツリカちゃんが茫然と見上げる、視線の先にある物。

 それは「ダイグレンビオトープ」と書かれた、巨大な門だった。岩が積み上げられたかのような戸枠に、RPGによくよく出てくる木の門戸を嵌めた、いかにもなデザインのゲートが、島の南西端に聳え立っている。すぐ隣には化石研究所(グレンラボラトリー)が併設されている。

 さらに、門の奥にはグレン火山と、後付けされた人工島がある模様。規模からして、かなり広大に造られている様子。感覚的にグレンタウンと同じか、それ以上はありそう。

 いや、ホント何これ? ジュ○シックワールドか何かですか? もはや探索どころじゃないんですけど。

 

「と、とりあえず、ラボラトリーの人に聞いてみよう。絶対管理してるのあそこだし」

「そ、そうだな」「けんきゅーじょー♪」

 

 ……ってな訳で、グレンラボラトリーにお邪魔します。

 

「ようこそ、ダイグレンビオトープへ! ここでは、現代に蘇った古代に生きたポケモンたちを、間近で観察する事が出来ます! 入場料は大人1000円、子供500円になります!」

 

 入場早々にガイドのお姉さんに出迎えられた。何なんだよ一体。中も研究所というよりかは、その手のパークのロビーみたいに見えるし。

 つーか、この人って、

 

「……アテナさん、何やってんすか」

「バイトよ! ……悪い?」

「いいえ……」

 

 後の女幹部がこんな所で受付嬢やってるってのもどうなの?

 いや、でもこの施設ってロケット団の息が掛かってるし、幹部候補生がいてもおかしくはないのか。今は下積み中なのかな?

 なら、深くは追求せず、そっとしておこう。

 

「アナタたちが、あの有名なアオイちゃんとシンくん、それにマツリカちゃんね。話は聞いてるわ。アナタたちはフリーパスのVIP待遇で通せと所長から言われてるわ。しっかり楽しんで行きなさい。……自分たちが何を為したかをじっくりと、ね」

 

 とか思ってたら、向こうから爆弾を投げられました。やっぱそういう事なのかよ!

 

「えっと、所長にご挨拶する事は?」

「出来るわよ。今アポを取るわ」

 

 という事で、急遽予定を変更。グレンラボラトリー改めダイグレンビオトープの所長さんに面会する事にした。

 

「ハーイ、ワタシがエラーイ所長のウー博士ネ!」

 

 で、登場したのが、ガラルのウカッツ博士にも負けず劣らずに胡散臭いエラーイ博士こと、ヘンリー・ウー博士だ。

 いやいや、この手の施設にその名前はアカンでしょ。将来的に絶対やらかすもん。その前にグレン火山が噴火して、ダイグレンビオトープ/炎の王国とかになっちゃうかもしれないけどね。

 

「アナタが、例のメシアさんネ? その節はどうもセンキューアルよ!」

 

 相変わらず似非チャイナですねアナタ。その喋り、どうにかならない?

 

「――――――その、ここって……」

「ハイハイ、分かってるネ。ご自分の成し遂げた、イダーイな功績を確かめたいのでショウ? ご案内いたしまースヨ!」

「あ、ハイ」

 

 これ、村人Aと同じ類だ。話を進めるまでずっと同じ事を繰り返すアレ。

 まぁ、ちょうど良いし、お世話になろう。よろしくね、ウー博士。

 

「まずは園内をエスコートするネ!」

 

 さっそく、ウー博士がガンガン行こうぜしてくる。アンタ意外とアグレッシブだな。研究家って割とアウトドアだって言うしな。

 

「ここから先はコレに乗るヨ、危ないカラ」

 

 で、この紅白カラーのハマーである。完全にそういうパークかワールドだろ、ここ。

 

「今日は午前上がりだし、ワタシも乗せて頂戴な」

 

 ついでにアテナさんも相乗り。

 

「さぁ、ご覧アレ! 我がラボラトリーが到達した、人類の英知の結晶ヲ!」

「わー」「これは……」「きょうりゅうだー」

 

 そして、ラボラトリーから駆り出されたハマーに乗せられ、中生代過ぎるゲートを潜った先に待っていたのは――――――まさに、恐竜時代でした。

 プテラは当然として、ズガイドス系にタテトプス系、チゴラス系とアマルス系……と、何だあいつら。転移前でも見た事ない奴もいるぞ。この世界線限定のポケモンかな?

 ただ、“カントー地方の生態系を崩さない”というLPLEのルール上、観るだけだけどね。

 うーん、これ逃げ出したらどうなるんだろう……。

 

「その心配はないネ。ビオトープには至る所にグリーンバッチが仕掛けられてるから、誰も逃げられないネ」

「………………」

 

 出所が分かり易過ぎる。

 

「(ちなみに、ロケット団員のワッペンにも廉価版のグリーンバッチが縫い付けられてるのよ)」

 

 なるほど、だから盗んだポケモンも従うのか。野生ならいざ知らず、人から貰った(盗った)ポケモンが言う事を聞くのはおかしいと思ってたんだよ。権力の使い方が的確過ぎるわ。

 ちなみに、アテナさんを含むロケット団員が表立って動く場合、トキワコンツェルンの社員として活動するらしく、「T」と「K」が重なるように刻まれたバッチを付けるのが義務付けられている。

 これ、よく見ると「R」になるのがミソだよね。裏の顔がチラチラ垣間見える感じ。

 もちろん、私たちも付けている。おかげでトキワコンツェルン(もしくはロケット団)の関連企業は割引、または無料で利用出来るようになっている。便利な世の中になったものだ。私たち限定で、だけど。

 

「ほへー」「うはー」「わー」

 

 それにしても凄いな、ここだけまさに別世界だよ。

 常に雨が降り頻る鬱蒼としたジャングル、整った芝生の広がる大草原、何故か氷に閉ざされた岩山地帯、その中心に聳え立つグレン火山の威容。あからさまに人工的な環境だが、RPGのワールドマップを一ヶ所に凝縮したかのようなそのやらせ感が逆に良い。

 さらに、そこかしこ――――――エリアごとに、異なる種類のポケモンたちが闊歩している。イキイキと生き、スクスクと成長して、ノビノビと生きている。

 なるほど、だから生物生息空間(ビオトープ)か。

 当たり前だが、時代によって環境はガラリと変わるし、ニッチも千差万別である。異なる生態のポケモンを一ヶ所に収めるとなると、やはり人の手を加えざるを得ないのだろう。

 あー、ウー博士の気持ちメッチャ分かる。これが観られるなら、倫理観とかどうでも良くなるわ。神への冒涜上等、創造主に抗ってこそ、人間だろう?

 くーっ、これを観る事しか出来ないなんて、凄く悔しいっ!

 

「殿堂入り出来るだけの実力があるなら、使用許可が出るわよ?」

「「「マジか!」」」

 

 よっしゃあ、やったぜぇえええっ!

 これはもう、リーグチャンピオンになるしかないよね!

 いやー、ホントにマジで、ロケット団潰さなくて良かったぁ……。

 これ、ロケット団が解散してたら絶対に無かった要素でしょ。必要悪って言葉もあるし、勧善懲悪が正しいとは限らない。「正義は必ず勝つ」だとか「悪は必ず滅びる」だとか、いつの時代の話だよ。

 

「では、お次は我らがラボラトリーの中枢に行きまッショ!」

 

 その後、ゲートに戻った所で、ラボラトリーの核心にご案内。VIP過ぎませんかね、私たち。それ、絶対に職員以外立ち入り禁止だろ。

 

「こちらデース!」

「ここって……」

 

 だが、案内された場所は、本来ならばポケモン屋敷が立っているべき場所。

 しかし、蔦が巻き付いたお化け屋敷状態だった原典と違い、古風な――――――というか、ガラルに建っていても違和感の無さそうなレンガハウス風になっており、中では明らかに人が働いている。絶賛稼働中って感じ。

 えっ、ここも様変わりしてんの?

 

「どうでスカ? 素晴らしいでショー?」

「「「おーぅ!」」」

 

 自動ドアを潜ったその先は……何と水族館でした。

 もちろん、水槽の向こうを泳ぐのは、古代の化石ポケモンたち。ダイグレンビオトープが中生代の大地なら、こちらは古生代の海だ。

 スゲーッ、カブト系にオムナイト系、リリーラ系やアノプス系もいるよ!

 あと、やっぱり見覚えのないポケモンが――――――形状的にウィワクシアとハルキゲニア、かな?

 ま、いいか。とにかく言葉が出ない。ダイグレンビオトープは最高にハイって奴になるけど、こっちは厳かに興奮する。

 

「ここは「ダイグレンアクアリウム」。ご覧の通り、古代の海の化石ポケモンたちを展示しておりマス。ダイグレンビオトープは親子連れに人気ですが、こちらはカップルやお年寄りに人気があるでスヨ」

 

 ああ、やっぱり水族館なのね。そうだろうとは思ってたけど。

 どうでもいいけど、大紅蓮(ダイグレン)って八寒地獄の最下層の事なんだが、グレンタウンでその名前はありなのか。

 まぁ、双子島に居座ってるのは戦闘力53万の冷凍ポケモンだし、グレンは炎と氷を兼ねた、地獄をイメージした名前なのかもしれない。知らないけどね。

 いやー、でも水族館って良いよなぁ。単にガラスの向こうで水棲生物が蠢いているだけなんだけど、その何でもない事が心の情景を満たしてくれるんだよ。

 世のカップルが数あるデートコースの一つに水族館を選ぶのも分かる気がする。

 何と言うか、“静か”なんだよね、動物園と違って。ガラス越しだから水の音以外聞こえないし、基本室内だから薄暗く、何より雰囲気が静かにしろと言っている。ムードを作るにはピッタリだろう。

 

「……あれ?」

 

 つーか、これ水族館デートじゃね?

 

「「………………!」」

 

 そう思うと、急に恥ずかしくなってきた。大分慣れたと思ってたけど、まだまだ初心でピュアな子供なのよね、私たち。二人はプリピュア。

 

「――――――まぁ、ここは隠れ蓑でしてネ。本題は、地下にあるのでスヨ」

 

 と、ウー博士が怪しく笑う。ああ、そういう事ね。

 

「なるほど、屋敷の地下施設を接収したんですね」

「そういう事ですネ。ちなみに地下でラボラトリーと繋がってまスル」

「うーわー」

 

 さすがロケット団がパトロンに付いているだけの事はある、悪どい。そんなキミが素敵です。いいぞ、もっとやれ。愛と正義の悪を貫くんだっ!

 

「(もちろん、フジ博士の研究データも回収済みよ)」

「(ほうほう、それは素晴らしいじゃないですかー)」

 

 これでフジ博士も肩の荷が下りるでしょ(笑)。

 正直ねぇ、いくら悔やんだところで仕方ないと思うんだけど。いつかは誰かが辿り着く技術だし、何でもかんでも悪い方に考えてもしょうがないっしょ。せっかくの叡智と一度きりの人生なんだから、もっと楽しまなきゃ。

 どっちにしろ、生き物は他の命を犠牲にして生きているのだから。そこに良いも悪いもない。

 ミュウスリーの完成はいつですかー?

 

「では、ご案内致しまショ♪」

 

 そんな感じで表の顔であるアクアリウムを楽しんだ後、本命たる化石研究施設にお邪魔する事に、

 

「オーッス、皆集まれーいっ!」

 

 ……なる筈だったのだが、どこからか喧しい声が聞こえてきた。

 

「何でしょうか?」

「ああ、カツラさんがクイズを始めるんでショー。外のアクアショー会場の辺りにいまスヨ」

 

 カツラかよ。あの熱血クイズオヤジがここにいるのか。

 まぁ、カツラも元々はポケモン屋敷の関係者だし、いてもおかしくはないのか。カギも本来はここの地下マップで手に入れる物だし。

 つーか、うるせぇよ。何で外から中まで声が聞こえてくるんだよ。

 

「ちなみに、賞品は?」

「いくつかの技マシンや高価なアイテム、それにジムのカギ貰えまスル」

「マジかー」

 

 地下の置き土産回収されとる……。

 

「どうされマス?」

「うむむむ……」

 

 ラボトリーの中枢は気になるけど――――――ここは挑戦しよう!

 バッチは欲しいし、何よりかによりヘドロ爆弾が欲しいからなぁ!

 

「ごめんなさい、とりあえずサラッとブッ飛ばして来ますから」

「エラーイ自信でスネ。ま、お待ちしておりまスヨ。どっちにしろ(・・・・・・)、でスシ。シン様も行かれるのでしョウ?」「あ、はい」

 

 おい、何だどっちにしろって。強調するなよ気になるだろ。

 

「なら、ワタシはしばらくアテナ様と今後についてお話して待ってまスヨー」「勘違いされるような言い方しないでくれます?」「ではでは~♪」

 

 という事で、ひとまずラボラトリーの関連施設巡りは一旦中止して、私たちはカツラが騒いでいるであろうショー会場に向かった。

 

「……うわっ、いちゃったよ」

「アオイ、もっと優しく言ってあげて……」

 

 そして、件のショー会場。プールを中心として扇状に観客席が並ぶ、いかにもパウワウかジュゴン辺りがショーをやっていそうな場所の真ん中に、彼はいた。

 太陽よりも眩しい禿げ頭に白い箒のような髭を生やし、黒くて丸いグラサンを掛けたおっさんという、マッド味溢れる容姿。紺のYシャツとグレーのズボンに白衣を纏う、はぐれ研究員っぽい格好。炎の要素は赤いネクタイ以外は存在しない、詐欺にも程があるセンス。

 ああ、間違いない。禿げてんのにヅラを名乗るカツラさんや。相変わらず怪しい奴だな。グレンタウンはこんなのばっかりか。

 

「オーッと、そこの二人はチャレンジャーか! よかろう、挑んで来るがいい!」

 

 すると、カツラと目が合ってしまった上に、有無を言わさず大会に参加させやがった。

 いいだろう、この野郎。全問正解して、ヘドロ爆弾もジムの鍵も手に入れてやんよぉ!

 つーか、意外と参加者いるのね。パッと見でも五十人弱はいるんですけど。知識には自信があるけど、これ勝ち残れるか不安になって来たな。

 いや、私は手に入れるんだ、ヘドロ爆弾の技マシンを。ついでに鍵とバッチが貰えるとなお嬉しい。

 いい加減どくの特殊技が溶解液止まりじゃねぇ、やってらんないんだよっ!

 しゃーオラーッ、掛かって来いやぁっ! どうせ死ね死ね光線とかそんなレベルなんだるぉぅ!?

 

「では、第一問! “「ふんか」も覚える、イケてる「かざんポケモン」と言えば、次の内どれ!? 「マグカルゴ」「バクーダ」「バクフーン」「ヒードラン」”」

「よ、四択問題、だと……!?」

 

 くっ、このオヤジ、ガチなクイズを……!

 しかも、平然と他地域のポケモンの名前を出しちゃう辺り、手加減する気が一切ない。何て野郎だ。

 だが、私はアオイ・シズナ、異世界人の転移者である。この程度の問題、ノープログレムなんだよ!

 

「えっと、マグカルゴ!?」「うーんと、ヒードランかな!?」「うーん、どうだったっけ……?」

 

 挑戦者たちはそれぞれの知識と勘に従い、各々の解答席にゾロゾロと分かれていく。観客席が解答席も兼ねているらしく、問題に合わせて自動で色分けされたりなど、何気に芸が細かい。

 おい、待て、もしかしてこのノリって――――――、

 

「正解は「バクフーン」です! それ以外の解答者は外れです、馬鹿……」

 

 やかましいわ。正解したけど。

 

「そんな馬鹿たちは、ボッシュート!」

「「「ぎゃあああああああああ!」」」

 

 ガコンと音がして、私たちの立つ席以外の底が抜け、挑戦者たちが落下した。マジでやりやがったよ。

 

「ちなみに、落ちた人はダンジョンをクリアしないと再挑戦出来ませーん! それと、ダンジョン内にはワシの弟子がいるから、そいつらを倒さないとクリアと認められませーん! では、頑張ってちょうだ~い♪」

 

 さらに、舞台のバックにダンジョン内の様子が映し出され、中で四苦八苦する挑戦者たちの姿が窺えた。

 ああ、これジム戦も兼ねてるのか。ポケモン屋敷の頃と同じく野生のポケモンもうろついているし、修行にもなって一石二鳥だろう。ブーバーに焼かれてるよあの人、アハハハハ。

 余談だが、この様子は「カツラのクイズRe()QUEST(クエスト)」というタイトルで島全体に配信されているらしく、子供から大人まで人気の長寿番組となっている、とウー博士がメールで教えてくれた。ReBURSTみたいに言うなよ。

 

「正解した人には、このカツラさん人形をプレゼントします!」

 

 いらねぇっ!

 でも、これ集めないと挑戦出来ないんだろうなぁ……。

 

「続いて、第二問! “ポケモンリーグで戦う人数は何人!? 「四人」「五人」「六人」”」

 

 次の問題はちょっと優し目。四天王と現チャンピオンを含めた「五人」が正解だ。

 

「正解は……「五人」です! それ以外のお馬鹿さんはボッシュート!」

「「「ぐわぁああああああっ!」」」

 

 ああ、また挑戦者が物理的に脱落していく。どうしよう、もう二十人くらいに減ってるんですけど。

 

「続いて第三問! “「ゴーストタイプ」のポケモンの攻撃は「かくとうタイプ」に……!? 「こうかはばつぐん」「ふつう」「こうかはいまひとつ」「こうかがないようだ……」”」

 

 フム、これは基礎中の基礎だな。

 だけど、これ案外忘れてる人多いと思うのよ。ゴーストタイプとノーマルタイプは互いに無効だけど、かくとうタイプってどうだっけ、みたいな。かくとう側からの攻撃は無効になるからね。

 正解は「ふつう」。等倍である。ノーマルタイプよりもかくとうタイプの方が、ゴーストタイプに不利なのだ。

 まぁ、サブウェポンでどうにでもなるのがポケモン勝負でもあるのだが。

 

「正解は「ふつう」! 不正解の愚か者はお取り潰しでーす!」

「「な、なにをするだぁああああっ!」」

 

 数名の田舎紳士がボッシュート。人間を超える者になって再挑戦して下さい。

 

「第四問! “技マシン028とは「しねしねこうせん」でなければ、何? 「あなをほる」「きゅうけつ」「トライアタック」”」

 

 死ね死ね光線に拘るよねアナタ。

 正解は「トライアタック」。他の技は初代や別地方で収録されている技である。LPLEに限定しなければ全部正解というのが質が悪い。ホントに性格悪いなこのオヤジ。

 

「正解は「トライアタック」! バカモン共はボッシュート!」

「「はぐわぁああああああ!」」

 

 杜○町の殺人鬼みたいな声で落ちていく不正解者。くさタイプにでも生まれ変わってきて下さいな。

 

「第五問! “ワシの命の恩人であるポケモンは、どれ? 「ファイヤー」「サンダー」「フリーザー」”」

 

 おっと、最後は身の上話か。原典だとどれを選んでも正解だったが、さすがにそう上手くはいかないらしい。

 一応、グランタウンをしっかり探索していれば救済措置がある。島民からその逸話を聞けるのだ。

 という事で、正解は「ファイヤー」。その昔、雪山で遭難し掛けた時に現れ、彼を救ってくれたらしい。温めてくれたんだろうか。シチュエーション的にはフリーザーがトドメを刺しに来そうなもんだけど。

 

「正解は「ファイヤー」! 間違えた者はボッシュート!」

「「ヅラァアアアアアアアアアアッ!」」

 

 ヅラじゃない、カツラだ。

 さて、最終的に残ったのは私たち三人と、エリートっぽい人がちらほらと。合計で七人程だった。皆ポケモンの本場に住んでるのに、何で間違えるんだろう?

 まぁ、それはそれとして、全問正解したんだから、しっかりと頂こうか……ヘドロ爆弾を!

 

「ヨーシッ! まずは第一次クイズ大会を終了! 全問正解を成し遂げた、エリートなお前たちに、賞品を渡そう!」

 

 そう言って、カツラが一人一人に手渡しで賞品を授与していく。

 貰えたのは予想通り、本来ならポケモン屋敷で拾う筈だったアイテムたちで、ピーピーマックスなどの高級品に技マシン、ジムの鍵(今回は何故か「しょうりのカギ」になっている)と、良品ばかりだった。

 これは挑戦者も視聴者も減らない訳である。勝てば一攫千金、負けてもダンジョンで強くなれる上に同じレベルの物を手に入れられるのだから。

 

「さぁ、ワシ自慢のクイズをクリアしたお前らを、我がジムへ案内しよう! ついて来るがいい!」

 

 おっと、カツラがジムに移動するようだ。ここでジムのクイズ戦を終わらせたんだから、相応しい舞台に改変されてんだろうな?

 

「わぁ~、カツラさんだ~♪」「そう言えば、今回は結構合格者いるんだよねー」「皆見に行きますよ~♪」「挑戦者の人も頑張って~!」

 

 おおぅ、出た瞬間に浴びせられる、この老若男女を問わない島民たちからの熱い視線と声援よ。人気者ですね、カツラさんや。これは期待してもいいのかな~?

 

「……着いたぞ。ここが我がジムにして公共のスタジアム、「グレンジム」だぁ!」

 

 そして、このスタジアム化である。

 ええっ、マジかよ。ガラル地方ばりの本格的なスタジアムなんですけど。ライトアップとかもしてくれるし。この狭いグレンタウンに何造り上げてんだ、このオヤジは。

 しかし、燃える物は燃える。こんな仙台スタジアムみたいな大舞台でポケモン勝負が出来るなんて、夢のようじゃないか。

 ああ……ど、どうしよう……何かすでに気分はクライマックスなんですけど!?

 つーか、グレンタウンに来てからずっとこの調子なんだけど、このサプライズ具合は何なんだよぉーっ!?

 

「さぁ、我が試練をクリアした勇者たちよ! いよいよ勝負の時が来た! 知っての通りワシは燃える男、グレンジムのジムリーダー、カツラだ! ワシのポケモンは全てを焼いて焦がしまくる強者ばかりなのだぁ!」

 

 さらに、カツラのこの演説。大々的かつ連続的な爆発が起きたかと思うとフィールドに大文字が描かれ、その中心でカツラのグラサンも燃え上がっている。

 うわぁ、まるで剣盾のOPに立ち会っているようだ。ダイマックスとかしないだろうな……しないよね? してもいいのよ!?

 

「ウォースッ! 火傷治しの用意はいいか!?」

「いいともーっ!」

 

 ――――――ジムリーダーのカツラが勝負を仕掛けて来たっ!

 

 さぁ、燃える男カツラとのジムバトル、行ってみよう!




◆グレンラボラトリー

 元の名前は化石研究所。所長はとってもエラーイ博士。ここに化石を持ち込む事で、カブト・オムナイト・プテラを復活させてもらえる。ポケモン屋敷とも関わりのある施設で、所長共々かなり胡散臭い。
 この世界線では、アオイの干渉によりラボラトリーの規模拡大どころか、島の約半分がビオトープ化し、ポケモン屋敷が水族館になっていたりと、原形の「げ」の字すらない。


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熱血クイズ親父とラボラトリーの真実

アオイ:「「しねしねこうせん」って、どんな技なんだろうね? スペシウム光線みたいな感じ?」
シン:「いや、知らんがな」
マツリカ:「ビターチョコにがい……」


「行けぃっ、ブースター!」『ブゥルルルルッ!』

「行けっ、アンズちゃん!」『クゥァアアアン!』

 

 対面はブースター(Lv65)とアンズちゃん(Lv64)。おっと、ブーバーじゃないのか。

 だが、タイプ相性的にはこちらが有利だ。それにブースターは攻撃と特防こそ高いが、HPが低いので基本的には打たれ弱い。フレアドライブは怖いが、反動技なので更に撃たれ弱くなってしまうという欠点もある。

 つーかね、唯一王如きに負ける程、私は弱くねぇんだよ、ハハハハハ!

 

「燃えよブースター! その威容で眼前の敵を焼き尽くせ! ダイマックスだ!」

「何ィッ!?」

 

 本当にダイマックスしてきやがったぁ!

 えっ、嘘、マジで!? どういう事なの!?

 

『ブゥルォオオオオオオン!』

 

 私が驚愕している間に、ブースターのダイマックスが完了する。デカい。圧倒的に。

 しかし、通常のダイマックスと違い、グリッド化したボールに一度収納するのではなく、ボールから白いビームが放たれ、それがポケモンを螺旋状に包み込んで巨大化させるというシークエンスを経ており、纏う粒子や頭上の雲も赤ではなく青になっている。

 何と言うか、出方が完全にカプセル○獣だ。青いオーラを放っている事からも、ムゲンダイナとは別系統の力が適用されているのだろう。

 

「これはガラル地方で伝わる「ダイマックス」という現象だ! このバンドに仕込まれた特別な石と反応させる事により約三分間だけ巨大化し、技も特殊な物に変化する! だが、ワシが発見したこれは、ガラルで伝承される物とは別系統! 効果はほぼ同じだが、起源が全く違う! 故に面白い! だから、ワシはクイズを全問正解した強か者にのみ、この技術を見せる事にしているのだ!」

 

 な、なるほど~、懇切丁寧な説明、ありがとうございます。

 そうか、やっぱり起源が違うんだ。台詞からして大元がどんなポケモンなのかは研究中のようだが、使えるから使ってるって感じか。向こうでもそんな感じだからね。

 ――――――いや、もしかして、もしかしなくとも、あったりすのか、この地下に……パワースポットになるアレが!?

 こ、これは是非とも快勝して、ウー博士にご案内してもらうしかない!

 

「アンズちゃん、「ドリルライナー」!」『クルルルルルッ!』

 

 ともかく、今はポケモンバトルである。幸い素早さはアンズちゃんの方が高い。というかブースターは何であんなにすっトロいんだろう?

 

「そんな物でブースターは沈まない! 行け、ブースター! 反撃の「ダイバーン」!」『ブゥゥスタァアッ!』

 

 だが、ダイマックス化してHPが倍になっているブースターは効果抜群でも半分程度しか取れず、反撃の狼煙ならぬ火柱をぶちかまして来た。

 くそっ、フレアドライブをデメリット無しで打つとかズルい。ついでに晴れに状態になるから、ほのお技の威力が更に上がるし。

 つーか、対戦環境が殆ど初代レベルなこのLPLEで、ダイマックスからの天候操作とか、卑怯にも程があるだろ!

 ただ、やはり特性が適用されていないので天候パーティーを組むのは難しく、精々威力アップや一部のデメリットを無くすくらいしか使い道がない。そう思うと、まだまだ黎明期なんだよねー、この時期のカントー地方って。

 

『クァァァ……!』「耐えて、アンズちゃん!」

 

 しかし、耐久自慢のアンズちゃんは、さすがに一発では沈まないよ! HP八割方持っていかれたけど!

 そして、確定二発という事は、これでトドメだ!

 

「アンズちゃん、「ドリルライナー」!」『クルルォォォッ!』

『ブゥルォオオオオオオオオオオオッ!』

 

 アンズちゃんのドリルライナーに穿たれたブースターが、爆発と共にボールへ回収される。戻り方もカプセル怪○っぽい。まさに元ネタ回収。

 

「スッゴーイ!」「カッコいいー!」「あんなデッカいブースターを倒しちゃうなんて、ビックリだよ!」

 

 おおぅ、歓声がヤバい。テンション上がってくるわぁ!

 

「ほほぅ、ダイマックスしたブースターを倒すとはなかなかやるな。だが、勝負はまだまだこれからだっ! 行けぃ、キュウコン!」『コォォヴォオオォン!』

 

 カツラの次鋒はキュウコン(Lv67)。晴れた状態で放たれる大文字は正直キツいぞ。

 いや、でもまぁ、この時代はエナジーボールも神通力もないから、大分マシな方か。催眠怪しい光とかしてきたら殺す。

 

「まずは落とす! 「でんこうせっか」!」『クゥン!』

『ガァ……!』「戻って、アンズちゃん……」

 

 これは順当な結末。瀕死寸前のアンズちゃんで無理をするよりも死に出しした方がいい。ごめんね、アンズちゃん。

 

「さぁ、仇を取るんだ、ハヤテ!」『ホォグルドォッ!』

 

 私の二番手はハヤテ(Lv67)。今回はタイプ相性でアンズちゃんを選んだけど、本来はこいつが先鋒かつ偵察役だからね。

 だが、今回は違う。しっかりとアンズちゃんの仇を討ち取るんだっ!

 

「キュウコン、「だいもんじ」!」『コォォォ……!』

「ハヤテ、食らう前に「ネコにこばん」」『ケェアアアアン!』

『コァッ!?』

 

 よしよし、大文字を外してやったぞ。元より命中率の低い大技だし、更に目晦ましを食らっては、それこそ目も当てられまい。実はまともに猫に小判の追加効果っぽい物が初めて役に立ったのは内緒。

 

「ぬぅ……命中率が下がったか。「ネコにこばん」にそのような効果が……面白い!」

 

 ごめんなさい、たぶんそれ、ウチのハヤテだけです。もしかしたら修行次第で出来るのかもしれないけど、やり方は分からないんです、スイマセン。

 

「ならば、お前にも眩んでもらおう! 「あやしいひかり」!」『クォォオオオン!』

 

 すると、カツラはあっさりと大技攻めを捨て、変化技による搦め手に切り替えて来た。追尾式の怪しげな光がハヤテに迫る。

 

「させるか! ハヤテ、引き付けながら「とんぼがえり」!」『ホォグルドァッ!』

 

 しかし、食らう前に逆にトンボ返りを直撃させ、私の手元に戻り、見事に回避した。

 さっきは「アンズちゃんの仇を取れ」と言ったな、アレは嘘だ。ハヤテはあくまで偵察要員。引っ掻き回して情報を集めるのが仕事である。

 キュウコンの技構成はほぼ把握した。残り一枠はおそらく催眠術だろう。恐れる必要はない。ハヤテは充分に仕事をしてくれたからな。

 

「行けっ、ユウキ!」『ブッブィィッ!』

 

 ハヤテの代わりに繰り出したのはユウキ(Lv65)。この子にはいきいきバブルがあるからね。

 

「食らえ、「いきいきバブル」!」「その前に「でんこうせっか」!」

 

 フン、無駄無駄無駄ァ!

 いくらダメージを残そうとしても、攻撃すると同時に回復するいきいきバブルの前では無駄なのだぁ!

 

『クゥゥン……!』

 

 弱点を突かれた上に体力を吸い取られたキュウコンが倒れ伏す。姑息な蓄積ダメージもあったからな。これは耐え切れまい。

 

「……これが話に聞く、“相棒ポケモン”とその技か! 進化出来ないというハンデを背負ってもなお輝けるその能力、素晴らしい! これだからポケモンは面白い!」

 

 キュウコンが倒されたと言うのに、すっごく楽しそうですねカツラさん。やっぱり科学者だなぁ。

 

「ならば、ワシも全力で挑もう! 倒せ、ウィンディ! 「フレアドライブ」!」『グルヴァォォォッ!』

『ブィィィ……!』

 

 ぐっは、開幕フレアドライブはよせっ!

 だが、HPを減らしたのは命取りだったな。その体力、吸わせてもらう!

 

「ユウキ、「いきいきバブル」で反撃しろ!」『ブィィッ!』

『グゥゥゥゥッ!』

 

 ――――――しかし、ウィンディ(Lv68)はカツラを悲しませまいと持ち堪えたっ!

 

「嘘ぉっ!?」

「……スマン、ウィンディっ! 「フレアドライブ」で道連れにしろ!」『バウワァアアアッ!』

『ブィァッ!』「ユウキ!」

 

 くっそ、やられた。まさかカツラも絆補正を使って来るとは。

 いや、おかしくはないか。カツラは科学者であると同時にジムリーダーでもある。様々な角度からポケモンを観測する彼は、ある意味どんなジムリーダーよりもポケモンと理解し合っているのかもしれない。

 燃える男カツラ……名前通りに熱くさせてくれる奴だぜぃ!

 

「行けっ、ハヤテ!」「勝って来い、ギャロップ!」

『ホォグルドォッ!』『ヒィィイインッ!』

 

 次なる対面はハヤテとギャロップ(Lv67)。レベルは互角だが果たして……。

 

「ギャロップ、「つのドリル」!」「躱して「ネコにこばん」!」

 

 あっぶねっ! 意外と芸達者で知られるギャロップだけど、いきなり角ドリルしてくるなよ!?

 

「……未だ、「フレアドライブ」を叩き込め!」「しまった!」

 

 クソッたれが、角ドリルでビビらせた隙を突いて、猫に小判を食らう前にフレアドライブを入れて来やがった。

 

『……キィァァァ!』

 

 しかし、ハヤテは私を悲しませまいと持ち堪えてくれた。よし、いいぞ。

 

「ハヤテ、「ドリルライナー」!」「こちらも「ドリルライナー」だ!」

『ギャルルルルルッ!』『ヒヒィィルルルッ!』

 

 お互いに同じ技を放つハヤテとギャロップ。

 

「……と、見せ掛けて「とんぼがえり」!」「何だとぉっ!?」

 

 だが、それは囮だ。ハヤテは自分で止めを刺すタイプじゃないんだよ!

 

「代わりに「ドリルライナー」を食らわせてやれ、アキト!」『ブゥゥルルルルッ!』

『ブルァッ!』「くっ、戻れギャロップ!」

 

 入れ替えで出て来たアキト(Lv67)のドリルライナーで不意を打たれたギャロップがスタジアムに沈む。

 フレアドライブは諸刃の剣である。絶大な威力と引き換えに体力を消耗し隙を作る大技というのは、敵に流れを掴まれていると容易に突破されかねない。今回のようにね。

 しかし、ハヤテが深手を負い、交代先が限られる今、同じ手は二度と通用しないだろう。

 

「――――――大技故の穴を突く、その戦法、見事だ。ポケモン勝負は力業だけではないからな。だが、教えてやろう! 世の中には、抗い難い圧倒的かつ理不尽な暴力があるという事を! これがワシの切り札! 行けぃ、ブーバー!」『グァボォォォラァスッ!』

 

 何故なら、次の相手は最後の敵――――――カツラの切り札なのだから。

 

「……オーレンのブーバーか」

 

 形状にそこまで差異はないが、体色が青と銀に代わっており、その姿はさながら凍てつく炎、燃え上がる冷気だ。爪や目付きが鋭利な物になっている事も相俟って、どこかクールな印象も見受けられる。鳴き声が青色発泡怪獣だけど。赤色火炎怪獣じゃねぇのかよ。

 ちなみに、図鑑によるデータはこんな感じ。

 

◆ブーバー(オーレンのすがた)

 

・分類:ばくえんポケモン

・タイプ:ほのお

・レベル:70

・性別:♂

・性格:ひかえめ

・種族値: HP:80 A:95 B:77 C:110 D:85 S:103 合計:540

・図鑑説明

 蒼い炎は目に映る全ての物を蒸発させる。惑星(ほし)のコアから生まれたとも言われており、最大出力で吐かれた炎は一兆度にも達すると言う。

 

 一兆度ってアンタ、宇宙が収縮しちゃいますよ。どこぞの宇宙恐竜じゃないんだから、少しは自重してください。

 そうか、見た目的にこおりタイプが加わりそうなもんだが、ほのお単タイプのままなのか。

 まぁ、炎は青い方が高温だって言うし、ステータスもブーバーンと同レベルなので、問題ないのかもしれない。

 あと、図鑑に書いてあるからって、マジで蒼い炎使って来るんじゃないだろうな。それ伝説の技だからね、分かってる!?

 

「ブーバー、「あおいほのお」!」『ガァヴォォォオオッ!』

『ブッ……!?』「ア、アキト~!?」

 

 だが断られた。アキトが一瞬にして火蜂に早変わりする。

 チクショウ、オーレン諸島のポケモンって、自前の専用技だけじゃ飽き足らず、伝説系の技まで習得するのかよ!?

 

「フフフ……」

 

 いいじゃない。その喧嘩、買ってやるわよ。

 そっちがチート使うなら、こっちも主人公補正を見せてやるわっ!

 

「……狩り取れ、アカネ!」『ピッピィィッ!』

 

 という事で、行って来いアカネちゃん(Lv70)!

 

「ほぅ、そいつも相棒ポケモンのようだな。だが無意味よ! ブーバー、「あおいほのお」!」『ギュォォッ!』

 

 オーレンブーバーの蒼い炎が、今度はアカネちゃんを火炙りにしようとする。

 

「アカネちゃん、「コズミックパンチ」!」『オラーッ!』

『ゴァアアアアッ!』「ブーバー!?」

 

 しかし、アカネちゃんは怯むどころか正面から薙ぎ払い、コズミックパンチをカウンターで叩き込む。

 

「フハハハハハッ! どうだ、驚いたか! これがアメの力よっ!」

 

 そう、アカネちゃんはセキチクジム戦後、これから増えるであろうオーレン系のポケモンに対抗する為、手持ちのポケモンのアメ(LPLE版における努力値を振れるアイテム。オーキド博士にポケモンを送り付けるとお礼に貰える、やり込み要素の一つ)を殆ど全て投与したのである。今まで全然と言っていい程使ってこなかったので、上り幅が物凄い事になってしまった。相棒ポケモンである事を鑑みても、そのステータスは600族にも劣らない物となっている。文字通り我がパーティーの切り札だ。雑魚とは違うのだよ、雑魚とは!

 ちなみに、種族専用の余り物はジム戦後に投与する予定。ステータスがまるで違う物になるからね。ヌルゲーになるかと思って使って来なかったけど、さすがにセキチクジムでこりごりしてます、本当に。

 

『ブゥゥヴヴゥゥ……!』「まだやれるな、ブーバー!」

 

 だが、さすがはカツラの切り札、そう簡単には落ちてくれない。種族値合計540は伊達ではなかった。多少なりとも努力値は振ってあるだろうしね。

 

「なら行けぃ、「あおいほのお」を撃ちながら「ほのおのパンチ」!」『グァヴォォオオオッ!』

 

 さらに、オーレンブーバーは体勢を立て直すと同時に蒼い炎を盾にしながら、炎のパンチで襲い掛かってきた。シールドバッシュを仕掛けるとは、味な真似を……。

 

『ピィィッ!』「負けるな! ステータスはほぼ互角だ! やられる前にやれ! 「コズミックパンチ」!」

 

 しかし、そのくらいの小手先で倒れる程、アカネちゃんも場数を踏んでいない。そっちが殴り合いを望むなら、真っ向から打倒してやろう。

 

『グァボォォォラァスッ!』『ドリャーッピッピッピッ!』

 

 炎と流星を纏った拳が交差し、お互いの急所を的確に打ち合い、それでも両者一歩も譲らない。隕石が衝突したかのような轟音が断続的に響き、双方の顔や身体にクレーターを作っていく。隙を見て飛び道具を挟む事も忘れない(おかげでアカネちゃんは蒼い炎で火傷を負った)。

 行けっ、そこだ! フックフック! アッパーァアアアッ! 1、2、スマッシュ! 振り抜き様に指を立てて目潰しを食らわせるんだぁっ!

 

『ブバァァ……!』

 

 押し負けたのは、やはりオーレンブーバーの方だった。渾身のコズミックパンチが彼の顎を捉え、フィールドに沈める。

 アメの差ってね、それくらい凄いのよ。数値で言えば200も差が出るからね。少し振った程度では、全振り相手には絶対に勝てないのである。

 

『ゴガァアアアアアッ!』

 

 だが、それでもオーレンブーバーは戦闘不能にはならず、それどころか蒼い炎で反撃して来た。

 “少し振った程度”というのは訂正した方が良いかも。おそらく、防御系かHPに大分振っている。そうでなければ、アカネちゃんの暴力に耐え切った説明が付かない。さすがは科学者と言ったところか。熱いながらも、的確に数値で物事を見ている。ゲーマー向きだなこの人。

 しかし、耐えると言うのなら、倒れるまで攻撃するまでだ。君が死ぬまで、殺すのを止めない!

 

「アカネちゃん、「ゆびをふる」!」『ピァッ!』

 

 アカネちゃんの指を振るがトライアタックを引き当て、オーレンブーバーの顔面に直撃させる。

 

『グァヴォオオオオオッ!』

「躱せっ!」『ピィィッ!』

 

 だが、なおもオーレンブーバーは斃れず、蒼い炎を放って来た。アカネちゃんはギリギリで躱し、もう一度指を振る。今度はハイドロポンプを引いた。

 

『カァアアォオオオッ!』

「避けろ!」『ピァッ!?』

 

 しかし、それでもオーレンブーバーは耐え切り、蒼い炎はPP切れになったのか、代わりに大文字をぶっ放す。いや、こいつどんだけ硬いんだよ。だけど、それも限界のようだな。

 なら、今度こそトドメを刺してやる!

 

『ピピピピィ……ドリャーッ!』

 

 肩口を大の字が掠り、既に負っていた火傷の分も加えた激痛に悶えながらも、アカネちゃんは指を振って攻撃した。最後の一発は破壊光線である。

 

 ――――――ギュヴォォォォ……グヴァビビビビビビビビッ! ズワォッ!

 

『……、…………! ………………』

 

 ついに、ようやく、やっとこさ、オーレンブーバーは戦闘不能になった。タフネスにも程がある。斃れるその瞬間まで敵を殺しに掛かるとか、超獣かお前は。反撃されてたらやばかった……。

 

「くっ、負けたか……! だが、芯から燃え上がる熱い戦いだった! その証に、このクリムゾンバッチを進呈しよう! それと「だいもんじ」の技マシンもな。ジョウトの名物技で、向こうでは送り火とも言うそうだぞ」

「あざーっす!」

 

 そして、この瞬間グレンジムのクリアも達成となった。やったね☆!

 

「……信じてるからね!」「任せとけ!」

 

 もちろん、お次はシンくんの出番。ハイタッチで後を任せて、私はポケモンセンターに向かおう。さすがに火傷は案外厄介な怪我だからね。アカネちゃんに至っては蒼い炎を連打で食らってるし。

 さぁ、早くしないと、シンくんの雄姿を見逃しちゃう~♪

 

「おやおや、大分苦戦なされたようですね」

 

 そんな私の前に、立ちはだかる強敵――――――ではなく、

 

「アポロさん!? 何でここに!?」

 

 ロケット団最高幹部のアポロさんだった。後方のトップクラスのお方がホイホイ出歩いていいのか。

 

「なぁに、少しばかりラボラトリーの様子を見に来ただけですよ。アテナを派遣したのはワタシですからね」

「そうなんですか」

 

 有能な部下に相応の現場で実績を積ませ、それをちゃんと自分の目で確かめに来る、理想の上司ですね。何でロケット団やってるんだろう、この人。

 

「ついでに、貴女方の様子も拝見に参りました。貴女には色々な借りがありますからね。大いに期待していますよ」

「ハハハハハ……」

 

 ポケモンでもないのにプレッシャーを掛けないでください。PPじゃくてMP(メンタルポイント)が減ります。

 

「――――――そして、貴女はさっそく期待に応えてくれました。まさか、この極東の地で、由来は違うとは言え、ダイマックスを見られる日が来ようとは……」

 

 さらに、追加の精神攻撃。観られてたのかよ。止めて下さい。案外、私上司の視線に弱いんです。

 

「そ、そう言えば、アポロさんはガラル地方の出身なんでしたねぇ~?」

「ええ。あの日見たキレイハナのダイマックス、ワタシはまだ忘れていません」

 

 あの花みたいなノリで過去を語るの止めてくれませんか。仇名をあ○るするぞ。

 

「ですので、ご一緒しませんか? シンくんのバトルはまだ始まったばかりなのでしょう?」

「えっ、でも私、ポケモンの回復が――――――」

「こちらをどうぞ」

 

 チャンチャンチャチャン♪

 回復の薬と元気の塊とピーピーマックスの雨あられで、あっという間に全快してもらっちゃった。これはもう断れませんね。

 

「……分かりました。喜んでご一緒します」

「では、行きましょうか」

 

 チクショウ、まさかアポロさんにエスコートされる事になろうとは。

 勘違いしないでね、シンくん! これ、浮気とかじゃないからね!?

 

「あれれ~、もどったの~?」

 

 まだ観客席にいたマツリカちゃんが、不思議そうな顔でこちらを見る。私としても予定外だったんだよ。

 

「まおとこまでつれちゃって~♪」「間男言うなや」

 

 一体誰が仕込んだんだ、そんな知識。

 

「隣、失礼しますよ」

 

 そして、当たり前のように私の隣に座るアポロさん。や、止めてよね、シンくんに誤解されたらどうするのよ!

 

「ほほぅ、今度は初手にウィンディをダイマックスしましたか。「ダイバーン」と「ダイフェアリー」からの「げきりん」に繋げる辺り、さっきのアオイさんとの試合で闘志に火が付いたようですね。全く以て容赦がない」

 

 まぁ、当人は試合の方が気になるようだが。何だろう、この拍子抜け感。それはそれでムカつくな。

 だが、確かに容赦がないと思うのは同意する。ダイバーンで火力を上げつつ水技の威力を下げ、ダイフェアリーでミストフィールドを張り、混乱しない状態で逆鱗をぶっ放すとか、ガチガチにも程がある。おかげでシンくんにしては珍しく、ピジョット(Lv72)にフシギバナ(Lv70)と、いきなり手持ちを2タテされた。やっぱダイマックスつえぇ……。

 つーか、マジで大人気無いな、あのハゲ。シンくんもノリノリだからいいけど。嵐の中でも輝いてる~♪

 

「……そうですね。しかし、力押しが過ぎるのも事実です」

 

 ただ、ウィンディも被ダメを省みずゴリ押しした為、倍化したHPでさえ赤ラインに迫る程のダメージを受けた上、ピジョットとフシギバナが遅延戦闘に務めたせいで、ダイマックスは時間切れとなり、日差しも弱まってしまった。残るは、現状あまり意味のないミストフィールドのみ。

 そう、これこそがダイマックスの弱点。“ダイマックス中は技が全てダイマックス技となる”という特性上、小回りが利かないのだ。“力押しする”のではなく、“力押ししか出来ない”のである。シンくんのように時間稼ぎに徹されると、逃げ切られてしまう場合も多い。そういう意味では、ピジョットもフシギバナも充分に役割を果たしたと言える。

 

「そして、アローラガラガラで止めを刺して、終いですか。熱くなってる割にはクレバーな戦い方ですね、彼」

 

 さらに、万全の状態で繰り出されたアローラガラガラ(Lv73)に一閃され、ウィンディは遂に倒れた。続くブースターやキュウコンも、アローラガラガラのホネブーメランで纏めて薙ぎ倒される。ダイマックスを耐え凌ぎ、火傷にならない(・・・・・・・)物理アタッカー(・・・・・・・)を温存し続けた(・・・・・・・)、シンくんの作戦勝ちと言えた。

 その後はギャロップとロデオごっこを楽しんだものの、さすが被ダメが蓄積したのか、振り落とされた所にメガホーンを食らい、アローラガラガラも倒される。

 だが、次に繰り出された相棒ピカチュウ(Lv70)がばちばちアクセルで逆にギャロップを翻弄し、ざぶざぶサーフで麻痺にした後、ふわふわフォールで仕留めた。実に理想的な勝ち方だ。やっぱり相棒技が揃うと強いなぁ。

 

「でも、油断は出来ませんよ。次はあのオーレンブーバーですからね」

 

 問題はカツラの切り札、オーレンブーバーである。そこそこ硬い上に火力が高く、加えて生来の凶暴性で死ぬまで殺しに掛かって来る。言い方は悪いが、まるで生物兵器のような強さなのだ。いくらシンくんと言えど、苦戦は必至だろう。

 

「……まぁ、大丈夫でしょう。初見ならいざ知らず、すでに貴女が大分データを取りましたからね。多少は手古摺るでしょうが、問題なく勝てると思いますよ」

 

 しかし、アポロさんは大して心配していないようである。

 

「随分と信頼してますね」

「彼というより、貴女を信頼しているのですがね」

「はぁ?」

 

 と、ここで謎の発言。どういう事だそれは。

 

「――――――貴女がロケット団に齎した利益は、計り知れない物があります。ラボラトリーとの関係回復、スパイの駆逐、フジ博士の発見とミュウツーの手掛かりの入手、そしてカツラ博士(・・・・・)の再起」

「カツラ博士の再起?」

「ええ。ジムリーダーのカツラはフジ博士の盟友でしたが、彼が行方をくらませてからは、どこか消極的になっていました。しかし、貴女の介入によりラボラトリーが活性化し、更にフジ博士を発見した事で、再び研究者としての彼が復活しました。曰く「あんなしみったれた男にはならん!」そうですが、ワタシが思うに、ライバルの行方が分かって燻っていたやる気が再燃したのでしょう」

 

 なるほど、分かりやすい。疎遠になってた友達とバッタリ会うと、色々と込み上げて来るだろうねぇ。私にはいないけど。

 

「おかげで、秘匿していた筈(・・・・・・・)のダイマックス(・・・・・・・)をお披露目した上でラボラトリーとも協力し、グレンタウン全体を大々的に改造し、見事“ポケモン研究の最先端を行く町”として復興しました。今では人口も増加して、結構潤っているようですよ」

 

 ありゃま、そんな経緯があったのね。きっとランスやラムダ辺りが現場に駆り出されて、急ピッチで造ったんだろうなぁ。高々数ヵ月でようやるよ。

 

「ワタシが貴女を信頼している理由、ご理解頂けましたか? 何より、このワタシに真正面から挑んで倒した者を認められない程、狭量ではないのですよ」

 

 ははぁん、何だかんだ言いつつ、そこが一番の理由か。やっぱり貴方はロケット団の最高幹部ですよ。“力こそが全てなり”ってね。

 

「……おっと、もう決着のようですよ」

「うわぁ……」

 

 そうこうしている内に、相棒プリン(Lv75)がオーレンブーバーを吹っ飛ばしていた。

 決め手となったのは、「スヤスヤおやすみタイム」という新たな相棒技。効果は「ねむる」と同じなのだが、接触状態で発動すると攻撃判定(技タイプ:エスパー、威力180、命中75)が出るという一風変わった物で、凄まじい威力と引き換えに成功の可否に関わらず無防備に眠ってしまう、まさにハイリスクハイリターンな技だ。

 他にも「プリプリほうふくビンタ」(技タイプ:フェアリー、威力40、命中90)という“フェアリー版往復ビンタ(強)”やころころスピンアタックで牽制し、ふわふわドリームリサイタルで眠り状態に陥れて動きを止めるなど、もうこいつ一匹でいいじゃないかな状態だった。

 技構成が完全にスマブラな上にバランスが取れてるとか、そんなの卑怯よ。これ絶対タイマン張ったらアカネちゃんが負けるな。器用過ぎるもん。つーか、Lv75って……。

 

「さぁ、貴女の王子様(プリンス)を出迎えに行きましょうか」「そしてハネームンへ~♪」

 

 くっそ、ムカつくなこいつら。

 

「……勝って来たぜ、アオイ!」「信じてたよ、シンくん!」

 

 まぁそれはそれとして、私はちゃんとシンくんを出迎え、ハイタッチを交わした。思わずハグしちゃいそうになったのは内緒。まだそこまでは踏み込めないのよん。つーか、常日頃からベタベタくっ付いてるのもどうなの?

 さてさて、シンくんもジム戦をクリアした事だし、ウー博士と落ち合って、ラボトリーの中枢とやらに連れて行って貰おうかしらね~♪

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 そして、その日の夕方。

 

「これがラボラトリーの中枢――――――つまり、“極秘事項(ヒミツ♡)”アルヨ」

 

 ハート付けんなよ気持ち悪いな。

 という事で(?)、ジム戦をクリアした私たちは、ポケモンラボラトリーの中枢部――――――つまり、旧世界で言うポケモン屋敷の地下マップの最深部にやって来ていた。LPLEの原典では壊れた培養カプセルがあっただけだが、この世界ではラボラトリー&ロケット団に接収されている為、物凄くご立派な研究施設になっている。

 何と言うか、暗黒政府を築き上げそう。アポロさんがいるせいで余計にそう思える。

 ……で、極秘事項(ヒミツ)とやらの正体だが、

 

「なぁにこれぇ?」

「一応は隕石でスヨ。生きてますがネ(・・・・・・・)

 

 それは生きた隕石だった。

 直径は約2.4メートル。群青色の結晶体が凝り固まったような美しい外見だが、鉱物であるにも関わらず鼓動を打っており(その度に淡く点滅している)、これがただの石ではない事を如実に示している。形が歪なので、おそらくは大元から離れた“欠片”なのだろう。

 そんな色々と事案な隕石が、元はミュウツーが収まっていたであろうカプセルの中で息衝いている。悪の組織感がヤバい。フレア団もここまであからさまじゃなかったと思うぞ。

 

「これは、「ねがいぼし」なのですか?」

 

 おっと、ガラル出身のアポロさんがさっそく突っ込んで来ましたよ。

 

「詳しくは分かりませんガ、おそらく別物でショー。たぶん、ムゲンダイナとは別系統のポケモンの一部デース」

 

 ウー博士がドヤァっと答える。

 ガラル地方に降り注ぐ願い星と呼ばれる石は、ムゲンダイナというポケモンの一部と言われている。それをダイマックスバンドに仕込み、ガラル粒子なる物が発生する特定のパワースポットで使う事によって、ダイマックス化が引き起こされるのである。

 ようするに、ダイマックスとはムゲンダイナの力を借りる――――――と言うよりは、影響を受ける現象なのだ。

 本来はパワースポットで突発的に発現する自然災害のような物で、古い伝承などでは災厄扱いされているが、最近ではそのスケールの大きさに魅かれた一部のトレーナーたちが、公式の戦術として取り入れようと躍起になっているのだとか。言うまでもなく、その一部にはローズ委員長が含まれているのだろう。

 これらの情報は研究段階かつ極秘事項で、世間ではまだ公表されていないのだが、裏社会の有力者の間では結構有名な話らしい。ガラル出身かつ悪の組織の最高幹部であるアポロさんが詳しく知っているのは、逆に当然と言えるだろう。蛇の道は蛇か。

 だが、これがムゲンダイナと関りが無いのだとしたら、一体“何”の一部なのだろうか。これは転移前の知識にも無いので、全く以て分からない。アンノーン以上にアンノウンである。

 

「しかも、この隕石には“ポケモンの特性を打ち消す能力”があるようでシテ」

「えっ、特性? 何それ?」

 

 ウー博士の「特性」という発言に、シンくんが首を傾げる。ああそうか、知る訳ないもんね。

 

「ああ、カントーやジョウト以外の地方では、種族ごとに“特性”という固有の能力を持っているのですよ。技や道具とは関係ない、“体質”とでも言いましょうか。だので、他地方ではその特性を加味したバトルを行うのです」

「へー、例えば?」

「こちらではドガースにじめん技が当たりますが、他地方ではドガースにじめん技が効きません。「ふゆう」という特性で無効化しているのです」

「おおっ、そりゃ面白いなぁ! いつかオレもやってみたい!」

 

 分かり易い受け答え、ありがとうございます。アポロさんの解説はGOODだし、シンくんの反応はEXCELLENTでございます。可愛いなぁ~、お持ち帰りぃ~♪

 しかし、LPLEに特性が無い理由はそういう事だったのか。この世界線だけの話かもしれんけど。

 だけど、カントー地方だけでなくジョウト地方にまで影響が出ているって事は……あるのか、シロガネ山に。

 

「おや、察してくれたようでスネー、鋭い! その通りでございマス! まだ予想の段階ですが……あると思いまスヨー、シロガネ山に! それも特大のがザックザク~!」

 

 ちょくちょく発言が気持ち悪いねアナタ。いいんだけどさ。

 フムフム、ちゃんとジョウト地方もシロガネ山もあるけど、そこに私も知らない謎が隠されてるのか。レッドもそこの頂きにいるのかな?

 いやー、これはそそられますね。オーレン諸島といいジョウト地方といい、この世界線やり込み要素多過ぎでしょ~♪

 

「……まぁ、ようするにまだまだこれからって事でスヨ。ポケモンバトルはまだまだ発展しマス。新たなローカルルールだけでなく、地方を上げての大事業になるかもしれまセン。未来は限りなく広がっているのデース!」

 

 良い事言うね、ウー博士。是非そのまま突き進んで下さい。自己責任でね。

 

「さて、見ただけというのもアレですから、形のある物でお礼をしまショ。こちらをどうぞ~♪」

 

 さらに、言うべき事を言って満足したウー博士は、今度は白衣のポケットから見覚えのある輝石が。

 

「……さすがにダイマックスはまだ一般解禁出来ないので、代わりにメガストーンをお渡ししまショ~♪」

「「おおっ!」」「おー?」

 

 予想通り、メガストーンとメガバンドだった。御三家だけでなく、他のカントーポケモンの物も勢揃いしている。これもロケット団の伝手か、もしくは。

 何にしても嬉しい。本来なら御三家はバッチ全部入手後、それ以外は殿堂入りしないと手に入らないからね。その上、馬鹿高いし。あれ、絶対に転売ヤーだろ。

 

「カントーではまだまだ希少な物でシテ、風の噂ではポケモンリーグで転売してる輩もいるそうですノデ、皆さん気を付けてくださいネ」

 

 マジで転売ヤーだった。どうなってんだ、ポケモンリーグのセキュリティは。

 つーか、マッドに渡される代物の方が真面とはこれ如何に。倫理観仕事しろ。

 まぁ、それはそれとして、これで我がメンバーも大幅なパワーアップだ。特にハヤテとアキトの蜻蛉返りによるサイクル戦を組み込めるようになったのは大きい。ハヤテはまだしも、アキトは素のステータスに不安が満載だからね。

 そして、シンくんの手持ちはそれ以上に強化されている。何せメガシンカ持ちが二体だ。原典通りなら十中八九メガピジョットを繰り出すだろうが、この世界線ではそれも怪しい。下手すると見せ合いで心理フェイズを仕掛けて来る可能性すらある。決闘者かお前は。

 何にせよ、これで私たちは兼ねてより感じていた、火力不足を解決する事が出来た。手持ちを替えればいい話なんだけど、それが出来たら苦労しないのよねー。

 

「でも、こんなに良いのかな? それも只で」

「正当な報酬ですよ。それ程、ワタシたちは貴方々に期待していると思ってください」

 

 あまりの棚から牡丹餅具合にシンくんがちょっと怯んだが、そこへすかさずアポロさんがフォローを入れる。出来る上司は飴と鞭の使い方が上手いですなぁ。

 

「さて、我々から見せられる物は以上デス。機会がありましたら、いつでもお越しくだサイ。大歓迎でスヨ~♪」

 

 今度こそ店じまい、という感じで、ウー博士が別れを切り出して来た。所長という立場上、彼も色々と忙しいのだろう。それは私たちも同じだが。

 

「ありがとうございました」「ありがとな!」「バイバ~イ」

「それでは、地上に戻りましょうか」

 

 そういう事になった。

 

「ちょっと振りね、ジャリンコ共!」「俺たちは帰って来たぜ!」『ニャハハハハッ!』『ミュウミュウ~♪』

 

 だが、ラボラトリーを出た私たちに立ちはだかる強敵が。言うまでもなく、ムコニャ+ミュウの四人組である。

 

「おやおや、貴方たちがここに来たという事は……やり遂げたようですね?」

 

 しかし、アポロは驚かず、むしろやって来て当然、という顔だった。どういう事?

 いや、待て。確かムコニャたちは、幹部昇格の試験も兼ねてジム巡りに旅立った筈だ。その四人がここにいるって事は……?

 

「まさか……」

「モチコース!」「しっかり分捕って来たわよ、バッチ七つ!」『カツラにはさっき勝って来たばかりだにゃ』『ミュミュ~ン♪』

「「「おおーっ!」」」

 

 こいつはスゲェや!

 最後に把握している面子だとヤマブキジム辺りが鬼門になりそうだったが、そうか、無事に成し遂げたのか。

 つーか、早過ぎね?

 

「ウフフ~ン♪ このプテラちゃんのおかげで、どんな悪路も一っ飛びよ!」「俺のギャラドスなら水路も関係ないからな」『群がる雑魚はニャーのミュウでイチコロにゃ』『ミュウミュウ!』

 

 手持ちを使いこなしているようで何よりです。

 それはそうと、何故にそんな闘志ビンビンなんですかね?

 

「決まってるじゃない。アンタたち、オーレン諸島に行くんでしょ? その腕があるかどうか、見極めてやんのよ」「ついでに言えば、お前らとの“勝負”が幹部昇格の最終試験なのさ」『という事で、速やかにボコってやるのにゃ! ニャーたちの昇進の為ににゃあ!』『ミュッミューン!』

 

 なるほど、そういう事ね。アポロさんがわざわざここに来た本当の理由がこれか。立会人としてこれ以上はサカキ本人くらいしかいないだろう。

 つまり、舞台は整った訳だ。

 いいねぇ、そういうの。原典と違ってムコニャは味方だから、中々バトルの機会に恵まれなかったけど、原作以上の実力を持ったであろうこいつらと、こんな形で戦う事になるなんて、最高の展開じゃない。

 

「いいわ、掛かって来なさい!」「全力で行くぜ!」「わたしもやるー!」

「言われなくとも!」「我らロケット団!」『輝く未来が待っているのにゃ!』『ミューッ!』

 

 ――――――ロケット団のムサシとコジロウ、ニャースが勝負を仕掛けて来たっ!




◆ダイマックス

 ガラル地方に見られる、ポケモンの巨大化現象の事。ガラル粒子という赤い粒子物質ととあるポケモンの体の一部であるらしい願い星が密接に関係しており、今でこそバトルでも活かせるようになりつつあるが、本来は人間・ポケモン双方にとっては自然災害である。その起源は、遥か昔にガラル地方を滅ぼし掛けた「ブラックナイト」にあるという。
 カントー地方で見られる物は青い粒子物質が影響している為、おそらく起源が違うと思われ、赤道付近の大陸に伝わる「マガツキの悪夢」なる存在が関係していると考えられている。


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勝ちたい者と負けられない者たち

ムコニャ:「バトルしようぜっ!」
アオイ・シン・マツリカ:「OK!」


 ○月×日 記載者:アポロ・ガイスト

 

 本日、ワタシはロケット団の幹部候補生、ムサシ、コジロウ、ニャースの三名(?)の幹部昇格試験に立ち会った。

 内容はアオイ・シズナ、シン・トレース、マツリカ(本名不明)とのポケモンバトル。神童たちとの戦いである。対戦カードは「アオイVSムサシ」「シンVSコジロウ」「マツリカVSニャース」の三つ。ロケット団を大躍進させた功績を持つチーム同士だ、素晴らしい戦いを見せてくれるに違いない。

 特に注目すべきはアオイとムサシのバトルだろうか。両者共に各々のチームにおける実質的なリーダーであり、実力もある。才能だけで言えばコジロウやシンの方が上のようだが、彼女たちには男性陣二人にはない思い切りの良さがある。「運」が彼女らに味方しているとしか思えない時が多々あるのだ。そういう人間は土壇場に強い。だからこそのリーダー格なのだろう。

 さて、アオイとムサシの戦い(メインディッシュ)は最後を飾るとして、まずは先鋒――――――マツリカとニャースのバトルを観るとしようか。

 正直、この二人(?)の戦いの行く末は、全く以て予想出来ない。不思議少女と喋るニャースのポケモンバトルがどうなるか予見出来るのだとしたら、そいつは確実にSAN値不足だろう。正気に戻れ。

 

『フフフフフ、初めから全力投球にゃ!』

「がんばるー」

 

 何だろう、温度差が激しい。ニャースは強がりで、マツリカは余裕の表れにも見えるが、どうなのだろう。

 

『行くのにゃ、スリーパー!』『ロリダロリダウヒャヒャ!』

「ごー、バリバリ!」『バリヴァアアアッ!』

 

 さて、初手はロリコ……ではなく、ロリーパー……じゃなくて、スリーパー(Lv67)VSバリヤードのバリバリ(Lv65)。卑しい顔と惚け顔の戦いである。なぁにこれぇ?

 

「バリバリ、「ひかりのかべ」!」『バリバリジャーン!』

 

 まずはバリバリの光の壁。特殊攻撃に強くなる防御壁で攻撃に備えた。同じエスパータイプであるスリーパーの特攻技を警戒しての事だろうが、甘い。

 

『馬鹿めにゃ! スリーパー、「かみなりパンチ」にゃ!』『ロリィィタァッ!』

『バリァーッ!』「バリバリ!」

 

 スリーパーの雷パンチでバリバリが吹っ飛ぶ。痙攣している所を見るに、麻痺状態になったのだろう。

 そう、スリーパーは特殊一辺倒ではない。攻撃も特攻も同じくらいな上に人型なので、意外と芸達者なのだ。具体的に言うとユンゲラーやフーディンくらいに。

 

『畳み掛けるにゃ! 「ほのおのパンチ」からの「れいとうパンチ」にゃ!』『ローリロリロリロリィッ!』

『バッハァッ……!』「ぬー、もどって、バリバリ!」

 

 さらに、不意を突かれて隙だらけのバリバリを残る二色のパンチで殴り倒す。元々体力が無く防御も低いバリヤードに耐えられる筈も無い。雷パンチの時点で麻痺が入ったのも大きいだろう。

 だが、随分と思い切った技構成にした物だな。スリーパーの火力自体は低めだから、普通は補助技主体になるのだが。いや、むしろそれを逆手に取ったのか。とんだ変態である。

 

「いって、バウワウ!」『バウヴァァアアッ!』

 

 おっと、いきなり切り札(ジョーカー)を切ったか。先鋒が一方的に倒されるというディスアドバンテージを取り戻すつもりなのだろうが、少々急ぎ過ぎている気もする。あのニャースはそこまで甘い奴ではないぞ。

 

「バウワウ、「フレアドライブ」!」『バォオオオン!』

『耐えて「どくガス」にゃ!』『ロリーダス!』

 

 勝負を決めようとウィンディのバウワウ(Lv86)がフレアドライブを仕掛けるが、悲しませまいと持ち堪えたスリーパーは一撃では斃れず、火傷で瀕死になる前に放った毒ガスでバウワウは毒状態になってしまった。反動技を繰り出した後にこれは痛い。そう掛からずに倒れてしまうだろう。

 やはりこのニャース、強かだ。ウー博士に研究させたくなる。さすがに人員を実験台にはしないけど……ねぇ?

 

『にゃんか一瞬寒気がしたけど、気にしないにゃ! 行くのにゃ、ヤドラン!』『ドルァアアン!』

 

 ニャースが次に繰り出したのはヤドラン(Lv70)。鈍足耐久型でみずタイプという、これでもかと言わんばかりの弱点タイプを出して来たな。

 

「……っ! バウワウ、「げきりん」!」『バォォオッ!』

 

 もう勝ち筋は無いと見たか、マツリカはバウワウに逆鱗を指示した。最後の鼬っ屁という奴だろう。

 しかし、仕留めるには至らず。耐久寄りのヤドランはそう簡単には落ちない。

 

『ヤドラン、「なみのり」にゃ!』『ヤッド~ン!』

 

 そして、ヤドランの波乗りで止めが入る。レベル差はあるが、さすがに蓄積ダメージは如何ともし難かったようだな。

 これで残るはマツリカが二体、ニャースが三体。まだミュウがいる事を考えると、マツリカの方が圧倒的に不利である。

 だが、ポケモン勝負に不測の事態は付き物。果たしてどうなる事やら。

 

「ごー、おやかたさま! 「はかいこうせん」!」『タァーッ!』

『にゃにぃ!?』『ドッドォラ~!』

 

 とか考えていたら、まさかの開幕破壊光線でヤドランを吹き飛ばした。それがプクリン(Lv68)のやる事か。たぶん、飴で特攻を滅茶苦茶上げてるな、アレ。

 

『よくもやってくれたにゃあ! 仇討ちにゃ、行けぇ!』『ジュラジュラムラムラジュラムラムラ!』

 

 ニャースの三番手はルージュラ(Lv69)。仇名は「まさこ」だろうか。

 

『ひとみちゃん、「あくまのキッス」にゃ!』

 

 ひとみだった。何でや。

 

『ジュラァアアム!』『アッー!』

 

 物凄い速さで接近し、悪魔と言うより悪夢な接吻を施すルージュラのひとみ。吐き気を催す邪悪がそこにいた。

 

『このまま仕留めるにゃ! 「ふぶき」!』『サンタクロォォース!』

 

 さらに、こおりタイプの大技・吹雪を仕掛ける。今明らかに喋ったよね?

 

「おやかたさま、あんなところにひゃくまんえんが!」『トリャーッ!』

 

 金に反応して目覚めた。さすがおやかたさま。友達にはなりたくない。

 

「かわして「マジカルシャイン」!」『プックリ~ン♪』

『目がー!』『シンカー!』

 

 そして、マジカルシャインで目晦まし。場外戦術を使うな。あと、やっぱり喋ってるよね、ひとみさん?

 だが、悪くない。どうやら純粋な戦術面ではニャースの方が上手だし、平均レベルでも劣るマツリカも必死なのだろう。

 

「おやかたさま、「かえんほうしゃ」!」『チェリャー!』

 

 さらに、まさかの火炎放射。フェアリータイプが火を吹くなと言いたい。

 

『ジュラァ~ン……!』『ああっ、ひとみちゃん!』

 

 バリヤードと同レベルの耐久力しかないルージュラではこの猛攻は防ぎ切れず、あっという間にバナナになった。いつもの光景だ。悲壮感(笑)。

 さて、これでマツリカの方が有利になった。体力馬鹿のプクリンを落とすのは相当苦労するだろう。どうする、ニャース?

 

『……ついにおみゃーの出番みたいだにゃ! 勝って来い、ミュウ!』『ミュ~!』

 

 そして、ニャースのラストバッター、ミュウ(Lv75)が遂にベースイン。

 

『まずは「でんじは」! それから「わるだくみ」して「サイコキネシス」にゃ!』『ミュミュミューン!』

『ししょー!』「おやかたさま~!」

 

 さらに、怒涛の三連コンボで妖精のようなお方を仕留めた。やはり幻のポケモン、普通に強い。

 

「……くぅっ! いって、キュウちゃん!」『フリィイイズ!』

『「シャドーボール」!』『ミュラーッ!』

 

 マツリカも最後の一体であるアローラキュウコンのキュウ(Lv68)を繰り出すも、悪巧みしたミュウを止められる道理はなかった。

 

『コォオオン!』「うわーん、やなかんじぃ~!」

 

 シャドーボールでキュウが撃破され、マツリカはやな感じになった。それ相手の捨て台詞。

 うーむ、結果だけ見ると、マツリカの実戦経験の少なさが目立つ形になったな。特に戦術面は課題が多い。これからに期待するとしよう。

 さてさて、こちらの決着はついたとして、シンとコジロウの方はどうだろうか?

 

「お前に勝つ為に、バッチリ鍛えて来たぜ!」「上等!」

 

 往年のライバル同士という感じにメンチを切る二人。

 コジロウは高貴な生まれだが反発心の末に堕落した謂わばダークサイドであり、対するシンは普通の家庭ながらも幾つもの困難を挫けず乗り越えて来たライトサイド。まさにヒーローVSダークヒーローである。

 精神力はどちらも勇者級なので、より強い方が勝つだろう。

 

「行けッ、ギャラドス!」『ギャヴォォオオオオッ!』

「頼むぞ、ピジョット!」『ピジョォヴァゥゥッ!』

 

 コジロウの一番手はギャラドス(Lv76)で、シンの先鋒がピジョット(Lv76)。シンはいつも通りだが、コジロウはパターンを変えて来たようだ。対面的にはコジロウ側が有利である。

 

「ギャラドス!」「ピジョット!」

「「メガシンカだ!」」

『ゴァアアアアッ!』『ピジョォァッ!』

 

 おっと、お互いにメガシンカしたか。双方のメガバンドとキーストーンが光り輝き、ポケモンが丸い隕石のを思わせる“殻”に包まれると、まるで生まれ変わるように突き破りながらメガ状態となる。いつ見てもふつくしい光景だ。

 

「ピジョット、「すなかけ」!」『ピジョッ!』

「躱せ!」『ギャルアァアアッ!』

 

 さっそくメガピジョットが砂掛けするが、これは躱される。

 

「食らえ、「かみくだく」!」『ガァヴォオオオン!』

「くっ……反撃だ、「エアスラッシュ」!」『ピッ……ジョォアアアアヴッ!』

 

 そして、メガギャラドスのタイプ一致噛み砕くでメガピジョットは防御を下げられる程のダメージを受けたが、エアスラッシュで怯ませる事で追撃を防いだ。

 

「よし! ピジョット、「すなか――――――」

「「ちょうはつ」!」

 

 そのまま砂掛けを食らわせようとしたものの、そちらは挑発で封じられてしまった。これで羽休めも使えない。

 フム……徹底的だな、コジロウ。意地でもシンのペースにさせないつもりか。

 しかし、彼はその程度では止まらんぞ。

 

「決めろギャラドス! 「たきのぼり」!」『ギャルヴォオオオオッ!』

「させるか! 戻れピジョット! 行け、フシギバナ!」『バナァアアッ!』

 

 と、止めを刺さんと襲い来るメガギャラドスに対し、シンはさっさとメガピジョットを引っ込め、代わりにフシギバナ(Lv75)を繰り出した。

 

「「やどりぎのタネ」!」『バナバナァッ!』

 

 さらに、宿り木の種を植え付ける。遠回しに交代を強制する厭らしい技である。

 

「戻れ、ギャラドス! 行け、ウツボット!」『キャーッ♪』「ギャーッ! 違う、俺じゃないぃいいいっ!」

 

 あ、食われた。じゃなくて、ウツボット(Lv76)に交代した。

 だが、上手い。宿り木の種は何故かくさタイプには通じないし、タイプこそ同一だが、シンの技構成ではウツボットに有利を取れないので、引っ込めるしかないのだ。

 

「戻れ、フシギバナ! 行け、ガラガラ!」『ガラァアアアッ!』

 

 案の定、フシギバナが引っ込み、代打としてアローラガラガラ(Lv77)が出て来た。タイプ的にウツボットはかなり不利だが、どう出る?

 

「ウツボット、「ヘドロばくだん」!」『キャアアアアォッ!』

 

 ゴリ押しした。

 しかし、全くの無策という訳ではない。ガラガラ系統は鈍足かつ特防が若干低いので、等倍でもそこそこダメージにはなる。

 

『ガラッ……!』「ガラガラ!」

 

 その上、毒が入ったようである。火傷にならない物理アタッカーではあるが、状態異常にならない訳ではないので、これは結構辛い。

 

「……「フレアドライブ」!」『ボラボラボラボラッ!』

『キャーッ!』「ウツボット!」

 

 だが、シンの方もゴリ押した。さすがに一撃必殺とはならなかったが、ウツボットは火傷を負ってしまった。タイプ一致のフレアドライブを食らった上でこれなので、おそらく次は無いだろう。

 

「クソッ、「メガドレイン」!」「「フレアドライブ」!」

『ギッ……!』『ガ……ラ……!』

 

 そして、最後に大技をぶつけ合い、全く同時に双方が倒れた。

 お互いに一体失った上で、メガシンカも切っている。戦況はどちらが不利とも言えない。実に良い勝負だ。楽しませてくれる。

 

「頼むぞ、マタドガス!」『マァァタドガァアアス!』

「勝って来い、ピカチュウ!」『ピッカァアアアッ!』

 

 お次はマタドガス(Lv81)とピカチュウ(Lv75)。レベルが結構開いているが、あのピカチュウは相棒タイプの特別版なので油断は出来ない。マタドガスは素早さで負けているし、火力も割とどっこいどっこいだし。

 

「ピカチュウ、「ばちばちアクセル」!」「マタドガス、「まもる」!」

『ピカチューッ!』『ドヴァアアアズ!』

 

 いきなりシンが先制技を仕掛けたが、それは守るで防がれてしまった。

 

「「でんじは」!」「「どくどく」!」

『ビカァ……!』『マタドー……!』

 

 次は両者共に状態異常技。相棒ピカチュウは猛毒を浴び、マタドガスは身体が痺れた。毒守とか厭らしいぞ、コジロウ。シンのフシギバナもそうだけどね。

 

「「10まんボルト」!」「「シャドーボール」!」

『ピッカァアアアア!』『マァタドギャアアス!』

 

 お次はお互いに攻撃技。強力な電撃と影の塊が、双方の体力を奪う。相棒ピカチュウは継続ダメージ、マタドガスは行動制限が掛かっている為、拘泥している暇はない。

 

「もう一度、「10まんボルト」!」「「まもる」!」

 

 今度は押せ押せのシンに対して、コジロウは時間稼ぎを選んだ。

 

『ドゥ……!』「くっ!」

 

 しかし、運悪く痺れて動けないマタドガスに10万ボルトが直撃。

 

「ピカチュウ、もう一度だ!」『ピッカチュゥウウウウッ!』

『マタドァアアアッ!』「くっ、戻れマタドガス!」

 

 さらに、力を振り絞った相棒ピカチュウの雷撃がマタドガスを襲い、戦闘不能にした。

 かなりギリギリの勝負だったな。ダメージ的に10万ボルトは三発当てないと倒せなかったし、耐久的に守るで一度時間稼ぎ出来れば、逆にマタドガスがヘドロ爆弾で倒せていただろう。単純に運の差と言える。

 

「行けっ、ピジョット!」「出番だ、ガーちゃん!」

『ピジョォァアアヴヴッ!』『ガァアアアォン!』

 

 続いての対面はメガピジョットとウィンディのガーちゃん(Lv80)。構成技とレベルの関係上、今回は圧倒的にシンの側が不利である。ここは場作りに徹するか、引っ込めるしかない。

 まぁ、戻したポケモンで対抗出来るかどうかは別問題だが。アローラガラガラを早くに失ってしまったのが痛いな。火傷をばら撒くウィンディをさっさと片付けるには彼が一番の適任だった。

 

「ガーちゃん、「だいもんじ」!」『ガヴォォオッ!』

「くっ……耐えて「すなかけ」!」『ピジョォアッ!』

 

 フム、シンは場作りを優先したようだ。敵のメインウェポンが大技である事を鑑みても正しい選択である。これが後々どう響くのか……。

 

「ならば「フレアドライブ」でトドメだ!」『ガァアアッ!』

『ピジョォアッ……!』「くっ、戻れピジョット!」

 

 だが、さすがに一発だけでは効果が薄く、フレアドライブで止めを刺された。これは仕方ない。むしろ良くやった方だろう。

 さて、シンの次なる一手は?

 

「行くぞ、プリン!」『プップリャ~!』

 

 おっと、切り札の相棒プリン(Lv82)を繰り出すか。

 ま、レベル差を考えれば仕方あるまい。フシギバナでは勝ち目は無く、何よりコジロウにはまだあのポケモンが残っている。くさタイプを温存したい気持ちは分かる。

 

「好きにさせるな、ガーちゃん! 「フレアドライブ」!」『バヴォゥッ!』

 

 しかし、コジロウのポケモンはどこまでも容赦がない。技構成はガチガチだし、ポケモンとの信頼も完璧だ。彼は他の幹部候補生には足りない物を持っている。その力があのシンをここまで追い詰めた。推したワタシの鼻も高くなるというもの。

 

「……プリン、「ふわふわドリームリサイタル」!」『プゥ~、ププ――――――』

「させるか! ガーちゃん、「フレアドライブ」で決めろ!」『ガァアアアアッ!』

 

 砂掛けによるデバフを物ともせずフレアドライブを当て、ふわふわドリームリサイタルすらも出鼻を挫こうと、もう一度フレアドライブを仕掛けるウィンディ。プリンを相手に反動技は危険だが、長期戦に持ち込まれると不利なのはコジロウ側なので、さっさと倒してしまうつもりなのだろう。

 

「――――――今だ、「スヤスヤおやすみタイム」!」『プリ~ン……』

『ガッ……!』「ガ、ガーちゃん!」

 

 だが、それは罠だった。眠りとダメージを同時に発現する相棒技スヤスヤおやすみタイムによって、ウィンディが一撃でダウンさせられる。反動ダメージを込みでも凄まじい威力である。完璧に射程圏内へ誘い込まれたな。

 

「……クソッ、頼んだぞ、ギャラドス! 「たきのぼり」!」『ギャラァアアアォッ!』

 

 しかし、ピンチは誰かのいいチャンス。相棒プリンは今、完全に無防備だ。超火力と超回復を両立したが故のデメリットである。いくらHPの高いプリンでも、メガギャラドスの猛攻を耐え切れる保証は無い。

 

「戻れ、プリン! 行け、フシギバナ!」『バナァアアアッ!』

 

 だが、入れ替えで躱された。みずタイプに抵抗力のあるフシギバナなだけあり、普通に耐え切っている。

 

「馬鹿め! そいつを待っていたんだよ! 「かみくだく」!」『ギャルヴォォォッ!』

「フシギバナ、「どくどく」!」『バナバナッ!』

「押し切れ、「かみくだく」!」『ギャォオオオッ!』

「うぐっ……「やどりぎのタネ」!」『バナナ……!』

「トドメだぁっ! 「かみくだく」!」『ギャラァアアアアアッ!』

『バ……ナ……』「お疲れ様……戻れ、フシギバナ!」

 

 とは言え、レベル差は如何ともし難く、素早さでも負けているので、噛み砕くでごり押しされてしまった。コジロウのギャラドスは確かドラゴンテールを持っているので場を荒らす事も出来た筈だが、眠り対策も兼ねてフシギバナの殲滅を優先したようだ。

 

「……プリン、「ころころスピンアタック」!」『プリャーッ!』

『ギャォォォ……!』「……戻れ、ギャラドス。よくやったぞ」

 

 そして、滝登りを一発貰ったものの、万全に近い状態で目を覚ました相棒プリンが、メガギャラドスを撃破する。

 これで最後の一体同士。ラストバトル、開始である。

 

「勝って来い、オムスター!」『キュゥギュゥゥッ!』

 

 現れるは、コジロウ最強の手持ちポケモン、オムスター(Lv86)。紫に変色したボディが特徴的な、色違いの個体だ。

 

「そいつは……」

「そうだ。お前らのおかげで手に入れられた、あのオムナイトさ。どうだ、強そうだろう?」

「ああ。……だからこそ、叩き潰してやるぜ!」

「いいぜ、掛かって来なぁ!」

「そうさせてもらう! 「ふわふわドリームタイム」!」『プリン!』

「させるかぁ! 「からをやぶる」で距離を取れ!」『キシャアアッ!』

 

 相棒プリンがふわふわドリームタイムを歌い出した瞬間、オムスターは殻を破る事で身軽になり、スヤスヤおやすみタイムで追撃を食らう前に距離を取る。コジロウもさっきのウィンディの敗北からシッカリと学んでいるようである。感心感心。

 

「……よし、もう一度「からをやぶる」だ!」『キュゥギュィイッ!』

 

 さらに、再び殻を破るで決定力をアップ。体力馬鹿のプリンを仕留めるには、強力な一撃を食らわせるしか無いのを分かっているのだろう。

 しかし、それをシンが許し続けるかと言われると、また別の話だ。

 

「「ころころスピンアタック」!」『プリャリャリャリャッ!』

 

 敵が時間を稼ぎながら力を溜めようとしているのが分かるや否や、シンは催眠戦術をさっさと切り捨て、ころころスピンアタックで猛攻を仕掛けた。逃げ回るオムスターを、風船とは思えない勢いで追い掛ける相棒プリン。何かシュールだな。

 さて、どっちが先に焦れるか……。

 

「オムスター、「いわなだれ」!」『オムスタァァアア!』

 

 と、コジロウがオムスターに岩雪崩を指示した。空気中の砂塵が圧縮・硬化する事で形成された岩石群が、雪崩となって相棒プリンに襲い掛かる。

 だが、元々命中率の低い技な上に動きながら発動したとあっては、そうそう当たりはしない。

 

「プリン、そのまま轢き潰せ!」『プゥゥゥリャアアアアアアアッ!』

 

 案の定、避けられる――――――どころか、正面から薙ぎ払われ、オムスターは相棒プリンのころころスピンアタックを諸に食らってしまった。

 いや、違う。よく見ると触手で上手く受け流している。守るを使ったのだ。

 

「……オムスター、そろそろ反撃だ! 「ハイドロポンプ」!」『キュギョォアアア!』

 

 しかも、そのまま後ろに回り込み、至近距離からハイドロポンプを食らわせ、逆に相棒プリンを吹っ飛ばし返した。

 

「くっ、やるじゃねぇか!」

「言っただろう! 俺はお前を倒しに来たんだってなぁ!」

 

 自分のエースと互角以上に戦うオムスターの姿に、シンが嬉しそうに鼻を擦り、コジロウがニヒルに笑みを浮かべる。

 いやはや、本当によくやる。

 さっきの攻防も、殻を破るで身軽になっていなければ、吹っ飛んでいたのはオムスターの方だったろう。それ程に相棒ポケモンの使う相棒技は脅威であり、それを往なして反撃に転じるオムスターが強く、指示役のコジロウが強かという事だ。

 正直、あのアオイ以上に強い天才シンが相手では、善戦こそすれど勝利は望めないと持っていたが、これはどっちが勝ってもおかしくない。

 

「プリン、地面に「プリプリほうふくビンタ」からの「スヤスヤおやすみタイム」!」

 

 それは対戦相手であるシンが一番分かっているのか、一気に勝負を仕掛けて来た。弾き飛ばされた相棒プリンに地面を殴打させる事で反転、急接近してスヤスヤおやすみタイムを直撃させた。あの一瞬でこんな事を思い付くとは、何とも型破りで天才的な戦闘センスである。

 

「……耐えろ、オムスター! 「いわなだれ」で怯ませて「ハイドロポンプ」!」『……キシャアアアアッ!』

 

 しかし、オムスターは倒れない。コジロウを悲しませまいとギリギリで持ち堪え、怒涛の反撃を繰り出した。

 

「クソがっ! プリン、「ころころスピンアタック」!」『……プリィィッ!』

 

 これには相棒プリンも堪らず目を覚まし、再度ころころスピンアタックを繰り出した。一撃で体力がレッドゾーンまで持って行かれた為、これ以上の遅延戦闘は望めない。まさにこれがラストアタック。

 

「「ハイドロポンプ」!」『プギャアアォッ!』

 

 そして、最後の力を振り絞ったオムスターが渾身のハイドロポンプを放ち、相棒プリンと正面衝突、両者共に動かなくなる。果たしてどっちが勝ったのか。

 

『プギィ……!』『プリャァ……!』

 

 結果はドロー。両者共倒れに終わった。

 

「……チッ、また勝てなかったぜッ!」

「いや、オレも負けなかっただけだよ」

 

 それぞれのエースを手元に戻したコジロウとシンが、互いの健闘を称え合った。これぞ男の友情である。泣けるね。

 さてさて、熱き決闘者たちの戦いは引き分けで終わったが、レディースの方はどうなる事やら。

 

「アタシが今ここにいるのはアンタのおかげ。でも、手加減はしないわよ?」

「もちろん。そもそも、加減して勝てる相手だとでも?」

「相変わらずの減らず口ねぇ。まぁいいわ、勝つのはアタシよ。あの時、初めて味わった本当の挫折……そして、そこから始まった栄達の道……その先にアンタがいると言うなら、叩きのめしてやるだけだわ!」

「やれるもんならやってみなっ! 七転八倒、上等! 私は何度挫かれても力尽くで通って来た! 私のチャンピオンロードは雑草だらけ……そう、私一色よ!」

「「バトル!」」

 

 お互いに煽り合い、絶対に勝つという自負の下、ムサシとアオイの戦いが始まった。

 

「行って、ハヤテ!」『ホォグルドォッ!』

「やっちゃいな、アーボック!」『シャァァボック!』

 

 初手は双方の偵察役、オニドリルのハヤテ(Lv75)とアーボック(Lv75)。

 

「ハヤテ、「ネコにこばん」!」『カァアアアッ!』

 

 さっそくオニドリルが猫に小判で目晦ましを食らわせる。彼女のオニドリルはこれが厄介なのだ。本来はただのお小遣い稼ぎにしかならない技をフラッシュの上位互換にまで昇華し、目を潰しつつダメージを与えてくる。

 おかげでアーボックの蛇睨みも見事に外した。普通は絶対に回避出来ない技なだけに、猫に小判の目晦ましがどれ程に面倒なのかが分かるだろう。

 

「よし、「ドリルライナー」だ!」『ホォグルアァッ!』

 

 さらに、オニドリルがドリルライナーで追撃。嘴を中心にドリルのように回転し、アーボックをドリドリに穿とうとする。

 

「躱して!」『アヴォァッ!』

 

 だが、アーボックは余裕で躱してしまった。コジロウ同様、ポケモンとの絆は深いようだな。

 

「「ふいうち」!」「くっ、「とんぼがえり」!」

 

 その後、さっさと逃げ出そうとしたオニドリルに、アーボックの不意打ちが刺さる。交代こそ出来たが、これは中々に痛い。オニドリルとしては、素早さを活かして無傷で引っ込むつもりだっただろうからな。

 

「行って、ユウキ!」『ブッブイッ!』

 

 入れ替えで出て来たのは、白銀の毛並みが美しい相棒イーブイのユウキ(Lv74)。進化後のポケモンたちをイメージした相棒技を八つも操る、万能選手である。

 

「くっ……「ふいうち」!」「当たらない! 「どばどばオーラ」!」

『ンン……ブイッ!』『シャボァァ……!』

 

 好きにはさせまいとアーボックが再び不意打ちを仕掛けるも、先程の目晦ましが効いてしまっているせいか外してしまい、相棒イーブイのどばどばオーラが直撃する。威力が90もある上に光の壁を張る効果もあるので、アオイの方が優位に立ったと言える。この場合、アーボックが特殊型かどうかは関係ない。相手はもう虫の息だからだ。

 

「「へびにらみ」!」「させない! 「めらめらバーン」!」

『イッブィィイッ!』『ボァ……』

 

 そして、蛇睨みが入る前に相棒イーブイがアーボックを下した。

 まぁ、当然と言えば当然だが。あの相棒イーブイの性格はせっかち。ギリギリだが、アーボックよりも素早く動けるのである。

 

「やっちゃって、ベロリンガ!」『ンベロォ~ン♪』

 

 ムサシの次なるポケモンは、舐め回しポケモンのベロリンガ(Lv75)。黄色の身体にクリーム色の模様が走った、色違いの個体だ。そこそこの火力と耐久力を持つバランス型のポケモンであり、技のデパートでもある。万能とまではいかないので、器用貧乏と言うべきかもしれない。

 

「ユウキ、「めらめらバーン」!」『ブィァッ!』

「ベロリンガ、「パワーウィップ」!」『ベロロロロォッ!』

 

 相棒イーブイがめらめらバーンを叩き込むが、ベロリンガは大して気にせずパワーウィップを食らわせた。火傷を負っていなければ、一撃で半死半生に追い込めたであろう。

 しかし、やはり素早さ勝負に持ち込まれると不利なのはベロリンガの方である。何故なら、相棒イーブイには吸収技のいきいきバブルがある。相棒技は全て威力が90もあるので、ダメージレースから言って、先にへばるのはベロリンガだろう。奴の体力はそこそこだからな。

 だが、それは相棒イーブイ側に問題が無ければ、という話だ。状態異常は一方通行ではない。

 

「ベロリンガ、「どくどく」!」『オヴェェッ!』

『ブィッ!?』「ユウキ!」

 

 体力が尽きる前に、ベロリンガが相棒イーブイを猛毒状態にした。

 

「クソッ、「いきいきバブル」!」『ブイァッ!』

『ベロ~ン……』「お疲れさん」

 

 その後、再三に亘るいきいきバブルと火傷のダメージでベロリンガは落ちたが、相棒イーブイの体力もイエローゾーンかつ猛毒状態であり、おそらく次の攻防で倒れる事だろう。

 その点、ベロリンガは充分役割を果たしたと言える。面倒な相棒系のポケモンは、多少の犠牲を払ってでも優先的に落としたいからである。

 ひとまず、これで一体ずつ手持ちを失った。二人共六体ずつ持っているので、残りは後五体ずつ。これは長丁場になりそうだ。

 

「行くのよ、カブトプス!」『プギャァアアス!』

 

 次にムサシが繰り出したのは、コジロウのオムスターと同じく、化石研究所とのパイプを繋いだ功績で与えられたカブトが進化した、カブトプス(Lv80)。進化前の面影がまるでない凶暴な化石ポケモンである。その見た目通りの物理アタッカーで、いわタイプにしては俊敏性も高い。

 

「カブトプス、「アクアジェット」!」『プシャアアアッ!』

『ブィァアアッ!』「くっ、戻ってユウキ!」

 

 さらに、先制技のアクアジェットも持つ為、こうして弱った相手からの反撃を許さない。弱点の多さを加味しても、育て上げれば頼りになるポケモンだ。絆も同期のオムスター並みに深いので、素のポテンシャル以上の力を発揮するだろう。

 

「敵討ちよ、ヒナゲシちゃん!」『ビュリィイイイリリリッ!』

 

 対するアオイが繰り出したのは、ワタッコのような色合いをしたラフレシアのヒナゲシ(Lv73)。状態異常を器用に使いこなす特殊アタッカーである。カブトプスはくさ技が四倍ダメージなので、対面的には最悪と言っていい。

 

「戻って、カブトプス! アンタが頼りよ、ラフレシア!」『フラァァアアアッ!』

 

 しかし、そんな事はムサシも先刻承知。くさ技を撃ってくるのを見越して、ラフレシア(Lv74)と交代した。まさかのラフレシア同士のミラーマッチだ。ヒナゲシのメガドレインが先に入っているが、正直大差ないだろう。こうなるとお互いに決め手が全く無いので、交代するしかない。

 

「戻って、ヒナゲシ! 行け、アキト!」『ブゥゥウウウウヴヴヴヴヴン!』

「戻りな、ラフレシア! もう一度よ、カブトプス!」『プギャァヴォッ!』

 

 予想通り、双方同時にポケモンを交代。出て来たのは、カブトプスとスピアーのアキト(Lv76)。

 

「アキト、メガシンカだ!」『ギャヴォォオオオオッ!』

 

 そして、出遭い頭にメガシンカするスピアー。見た目通り速度と攻撃力に極振りした尖った性能であり、アタッカーとしての性能ならカブトプスよりもずっと上である。

 

「カブトプス、「アクアジェット」で距離を取って!」『スプラッシャォオオオッ!』

 

 だが、カブトプスにはスピアーにはない先制技がある。アクアの力でジェットの限り縦横無尽に逃げ回る彼女を捕まえるのは至難の業だろう。

 

「そのまま「つるぎのまい」!」『プギャァアアアアッシュ!』

 

 さらに、剣の舞で決定力をアップ。どんどん手が付けられなくなって来た。

 

「調子に乗るなよ! アキト、「げきりん」!」『キャァァヴォォォッ!』

『プギィッ!?』「うへぇっ、マジで!?」

 

 しかし、攻撃力はともかく、素早さはメガスピアーの方が圧倒的に高い。アクアジェットで攻撃するのではなく距離を取るのは上手いが、何時までも逃げられると思ったら大間違いである。何せプテラやサンダースどころか、あのマルマインに迫る勢いなのだから。速さが足りてる。

 その上、攻撃力がカイリキーを超える百万パワーになってしまう為、例えそれが蜻蛉返りでも大ダメージを受ける事必至だ。今更だけど、あんな細身でメガギャラドスやメガカイロスと同レベルの攻撃力を発揮するって、どういう事なんだろうか……。

 

「……だけど不用意ね! 「いわなだれ」!」『プギャアアアアッ!』

 

 だが、ムサシもそのポケモンも、転んでも只では起きない。吹っ飛ばされながらも岩雪崩をお見舞いした。

 

「当たらなければどうという事は無い! 続けて「げきりん」!」『ガァアアアアッ!』

「何ですってぇ!? 「アクアジェット」で躱して!」『プシャアォッ!』

 

 しかし、常軌を逸した機動力を持ったメガスピアーにいわ技を当てるのは難しく、全弾回避された上に再び逆鱗をかまして来た。カブトプスはアクアジェットで何とか避けたが、このままではじり貧だろう。

 

『ギャォオオッ!』『プシュゥゥ……!』

 

 そして、とうとうメガスピアーのランスがカブトプスを捉えた。

 

「……今よ! 「いわなだれ」!」『キシャアアアアッ!』

『ブヴヴヴッ!』「アキト!」

 

 だが、それは罠であり、カブトプスはランスをガッシリと掴んで押さえ込むと、自分ごと岩雪崩を発生させ、メガスピアーに大ダメージを与えた。メガスピアーはアタック性能と引き換えに防御面が低いままなので、おそらく次は無い。

 

「そのまま「アクアジェット」よ!」「させるか! 「とんぼがえり」!」

 

 しかし、メガスピアーは仕留められる寸前に、力尽くで蜻蛉返りを使い、手持ちへ避難した。

 

「今度は確実に仕留めろ! ヒナゲシちゃん、「メガドレイン」!」『ヒニァアアアゲシャッ!』

『カッ……!』「……くぅっ! 戻って、カブトプス!」

 

 さらに、入れ替わりで再び現れた色違いのラフレシアがメガドレインで返り討ちにする。メガドレインを警戒した立ち回りをしていたムサシだったが、アオイが得意とするサイクル戦を捌き切れずに、エースの一角を落とされてしまった。

 さすがはアオイ、シンとは別ベクトルで面倒臭い奴である。知識だけでなく、それを活かす知恵と度胸も持ち合わせているし、いざとなれば外道な事も割とやる。悪女とは彼女のような者を言うのだろう。

 ……だが、ワタシは知っている。今アオイが相手をしているムサシもまた、一流の悪の華である事を。

 

「フフフッ……アンタの手の内、大体見せてもらったわ。結構な犠牲を払ったけど、本番はこれからよ」

 

 そして、ムサシは繰り出した。サイクル戦を得意とするアオイにとって、最悪な相手となるポケモンを。

 

「これがアタシの切り札――――――行きなさい、プテラ!」『ギュリィイイイイリリィッ!』

 

 ラフレシアそっくりの声で現れたのは、古代の翼竜ポケモン、プテラだ。メガシンカポケモンには敵わないが、それでも高い素早さと攻撃力を持つ高速アタッカー。

 しかし、彼にはもう一つの顔がある。それが、

 

「プテラ、メガシンカしてから「ステルスロック」!」『カァアアッ!』

 

 ムサシの指示で、プテラが黒い岩が疎らに生えた刺々しい姿にメガシンカを果たし、間髪入れず見えない岩をばら撒く。

 そう、これがプテラのもう一つの顔。サイクル戦の天敵にして、逆に相手にそれを強いて苦しめる、ステロ撒きのエースである。

 しかも、メガシンカを切って来た。これにより攻撃力と素早さに磨きが掛かり、メガスピアーでさえ追い抜いてしまう。同速はメガフーディンかマルマインしかいない。まさに対アオイ用の決戦兵器と言える。

 初めから出さなかったのは、手持ちの把握と相棒ポケモンや弱点ポケモンの消費を強いる為だろう。

 事実、メガスピアーは出た瞬間に瀕死が確定しているし、オニドリルやラフレシアでは仕留める前に押し負ける。ニドクインや相棒ピッピであればいい勝負をするかもしれないが、怯みや回復技も持ち合わせるメガプテラが相手では、どうなるかは分からない。

 そもそも、出た傍から弱る上に常に先手を取られるというのは、本当に辛いのだ。泣きっ面に蜂である。

 

「チクショウ! ヒナゲシちゃん、「ムーンフォース」!」『フリリィリリリッ!』

 

 色違いのラフレシアも決死の攻撃を仕掛けるが、一撃で仕留めるには至らない。細身な見た目に反して、案外硬いのだ、メガプテラは。

 だが、ムサシの嫌がらせはこれだけでは留まらない。

 

「オーッホッホッホッ! 貧弱貧弱ぅ! プテラ、「ふきとばし」! それから「はねやすめ」よ!」『カァアアアッ!』

『ブヴヴ……!』「ア、アキト……!」

 

 まずは吹き飛ばしで強制的に繰り出されたメガスピアーが仕留められ、次のポケモンが出るまでの間に羽休めでメガプテラが全快となり、

 

「クソッタレ! 行け、アンズちゃん! 「ドリルライナー」!」『ギャヴォオオオッ!』

「躱しなさい! そして、もう一度「ふきとばし」よ!」『ギュリリィィィッ!』

『ホグルァ……!』「ハ、ハヤテ!」

「仕留めなさい、「いわなだれ」!」『ギャゴァアアアアッ!』

『ホァアアッ!』「クソがぁっ!」

 

 さらに、せめて一太刀と放たれたニドクインのドリルライナーも難なく躱されてしまい、再び強制出場させられたオニドリルが岩雪崩で仕留められる。

 

「アンズちゃん、「どくづき」!」『ギュゥゥゥッ!』

「おっと、危ない。もう一度「ふきとばし」よ」『ガァォォッ!』

『ラァァッ……!』「ヒナゲシちゃん……「ムーンフォース」!」

「無駄よ! こっちの方が速いわ! 「いわなだれ」!」『ギュリィイイイリリッ!』

『フラァ……!』「くっ……!」

「ほらほら、もう一度「ふきとばし」よ!」『カァアアアアッ!』

「チックショウがぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 その後も、怯みを交えた鬼畜な強制交代によってニドクイン、ラフレシアもとうとう陥落。

 

「アカネちゃん、「コズミックパンチ」!」『オラァーッ!』

『ギョァアアアアッ!』「……戻って、プテラ。お疲れ様」

 

 さすがに相棒ピッピの暴力(しかも弱点技)には屈してしまったが、何の問題もない。何故なら、アオイにはもう手持ちがいないのだから。

 

「これで終わりよ。楽にしてあげなさい、ラッキー」『ラッキ~♪』

 

 そして、最後の最後に出て来たのがこれだ。ピンクの悪魔こと、ラッキーである。こいつは色違いだからピンクではないが。

 異常な体力と高い特防で特殊アタッカーを骨抜きにし、HPに物を言わせた継戦能力で並みの物理アタッカーを寄せ付けず、卵産みによって傷さえ癒してみせる、難攻不落の害悪要塞。それがラッキーだ。ついでにトライアタックで様々な状態異常も狙って来るから余計に質が悪い。どの辺が幸運ポケモンなのだろう。

 倒すには一撃必殺級のダメージを与えるしかないのだが……。

 

「あっ……」『ぴえん……』

 

 あ、絶望した。そりゃそうだよね。いくら相棒技が強力でも、ラッキーを一撃で仕留められる程ではない。

 そこからはもう、凄惨の一言だった。毒々、トライアタック、卵産み、小さくなる、という悪魔的な技構成をしているせいで相棒ピッピの攻撃は悉く外れ、降り掛かる状態異常が体力をどんどん削って行き、頑張って与えたダメージもすぐに全回復されてしまった。まさに踏んだり蹴ったりだ。

 むしろ、アオイはよくやった方である。自分の天敵であるメガプテラをようやく倒したと思ったら、ラッキーに孤軍奮闘を強いられたのだから。ついでに言えば、そこまでやってもまだラフレシアが残っていたりする。鬼か。

 おそらく、ワタシだったら勝負を投げ出している。「ふざけるなぁ!」と殴り掛かったかもしれない。それだけの事を、アオイはやらされたのだ。

 しかし、それは手の内が知られている、という情報アドバンテージの差が影響しているのも事実。ムサシがメガプテラを切り札に据えていたのがその証拠である。

 そんな不利な中、ムサシの手持ちの半数以上を仕留めたアオイもまた、素晴らしいトレーナーと言える。お互いの手札も知れた事だし、今後に期待するとしよう。

 

「……フゥ、負けたよ。完敗ね」

「でも、それくらいで諦めるアンタじゃないでしょ?」

「もちろん」

 

 それは本人たちが一番分かっているようで、戦いが終わってみれば、笑顔で握手を交わしていた。彼女らはライバルであると同時に、旅を共にした仲間でもあるのだ。

 さて、試合も終わった事だし、ワタシも役目を果たすとするか。

 

「――――――皆さん、お疲れ様です。これにて試合は終了。一人は引き分けでしたが、負けではありませんし……認めましょう。これで今日から貴方たちは候補生を卒業し、正式にロケット団幹部を任命します。追ってサカキ様からもお言葉を頂けるでしょう。今日はもう遅いですし、英気を養いなさい」

「「はっ!」」『了解ですのにゃ!』

 

 ムサシ、コジロウ、ニャースが恭しく跪き、幹部専用のバッチを受け取る。ミュウは上った月を見上げているが、まぁいいでしょう。

 

「貴方たちも、協力ありがとうございます。この埋め合わせはいずれ」

「いいって事よ」「良い薬にもなったからね」「くやし~」

 

 何か一人納得していないようだが、アオイたちも概ね好意的な返事をしてくれた。

 こうして、昇進を巡るポケモン勝負は、ムサシたちの勝利という形で幕を閉じた。




◆ロケット団

 カントー地方を中心に悪事を働くポケモンマフィア。本拠地はタマムシシティの地下秘密基地で、目標は分かり易く世界征服。マフィアと言うだけあって、場合によってはポケモンを殺めてしまう事すらある悪の軍団だが、首領であるサカキ自体はポケモンを大切にする人物なので、単に暴走し易い下っ端がいるだけのような気がする。
 さらに、この世界線では“ある人物”によって内部分裂寸前の状態であり、アオイというイレギュラーの介入を機に「病巣」を排除して、自浄する事に成功した。


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オーレンの始まりとレイドバトル

アオイ:「今日からオーレン入りだよ!」
シン&マツリカ「イェーイ!」


 後日、クチバシティにて。

 

「そんじゃ、行ってらっしゃい」「お土産待ってるぜ」『ニャーたちは一足先に最後のジムに挑んでくるにゃ』「いい旅を」

 

 私たちはムコニャとアポロさん、その他諸々の幹部候補生からの見送りを背に、オーレン諸島を目指して旅立った。サント・アンヌ号よりは小さいが、それでも充分に大きなフェリーに乗船し大海原へ。「栄光丸」という若干心配になる名前の船に身を任せた、楽しい楽しいクルージングの始まりである。

 オーレン諸島は現実で言う伊豆諸島や小笠原諸島に相当するので、割と時間が掛かる。さすがに船中箔こそ無いが、昼食はここで済ませる事になるだろう。どんな料理が出て来るか楽しみだ。

 

「いやぁ、強くなったよな、あいつら」

 

 甲板の船上レストランでシーフードパエリア(材料はシェルダーか?)を頬張りながら、シンくんが呟く。ほっぺにご飯粒を付けちゃって、可愛いんだ♪

 

「そうだね。……個人的には二度と戦いたくないくらいに強くなったよ、うん」

 

 私は口に含んだシーフードパスタをゴクリと呑み込んでから答えた。

 正直、ステロ撒きは無いと思う。あんなピンポイントな対策して来やがって。それをメガプテラにやらせるとか前衛的にも程がある。

 あと、ラッキーを見た時はマジで心が折れた。絶望しか無かったよ、本当に。

 ちなみに、今回は見送ったが、ステロ撒きをメインに据えた昆布戦術に特化した技構成にする案もあったらしい。覚えられる奴がいっぱいいるもんね。お願いだから止めろ下さい、死んでしまいます。

 うーん、旅パだからいいやと思ってなぁなぁにして来たけど、そろそろメンバー調整も必要なのかなぁ……?

 

「そうか? オレはもう一回やりたいけどな」

「シンくんには分からないよ、あの絶望感は……」

「でもさ、そこは事前情報の差だろ? 大丈夫だって」

「そうだけどさー」

 

 だけど、私対策でなくても普通に強いんだよね、ムサシの手持ち。後々ソーナンスが加わったり、ラッキーがハピナスになってたりしたらと思うと、ゾッとする。害悪過ぎんだろ。

 つーかさ、何であいつ、あんなにいわタイプの扱い上手いの?

 ひょっとしたら、本気でタケシより使いこなしてんじゃない?

 

「わたしももういっかいたたかいたい。こんどこそぼっこぼこにしてやるもん」『バウッ!』

 

 海老チャーハンがメインのお子様ランチをがっつきながら、マツリカちゃんがリベンジを誓う。バウワウも闘志が燃え滾っているようである。私程じゃないけど、結構遊ばれてたもんね。ニャースがあんなに強いトレーナーになるとはなぁ。びっくりポンや。

 

「まーまー、せっかくの旨い飯なんだし、もっと楽しもうぜ」

「そうだね」「りょーかい」

 

 まぁ、今更あーだこーだ言っても仕方ないし、切り替えていこう。ご飯が美味しいのは確かだし。

 

「気持ちイイなー」「そだねー」「ほわー」『ピッピィ~♪』『プリィ~♪』『ワウ……』

 

 昼食後はサマーベッドでお昼寝タイム。波の囁きを聞きながらの日光浴は最高に気持ちが良いな。トロピカルジュース美味しい。

 ちなみに今現在、全員が水着姿となっている。甲板の一角がプールになっており、誰もが自由に使う事が出来るのだ。とは言え、乗船者はそこまでいないので、実質貸し切りみたいなものだが。

 だが、そんな楽しいお昼タイムも、すぐに終わった。

 

「あーら、良い御身分ね。金持ちのボンボンは羽振りが違うわ」

 

 私たちを見下ろす、紺色のワンピースに蒼いサングラスが良く似合う、見目麗しい美少女。

 

「「ブルー!?」」

 

 ポケモンタワー以来となる、ブルーの登場であった。

 

「ポケモン?」『バウ?』

 

 そっちのブルーじゃないよ、マツリカちゃん。

 

「お、お前、何でここに?」

「バカンス以外の理由があるかしら?」

「…………」

「信用がないわねー」

 

 黙るシンくんと、あり得なーいなブルー。

 いや、普通に信用出来んわ。お前、あの時殺しに掛かって来ただろうが。

 

「……ま、本命はポケモンだけどね」

 

 ブルーがプールの縁に艶めかしく腰を下ろしながらニヤリと笑う。やっぱりか。

 

「オーレン諸島は島中にある輝石の影響で独自の進化を遂げたポケモンがわんさかいる。だけど(・・・)それだけ(・・・・)じゃないのよ(・・・・・・)

「どういう意味よ?」

「さーてね。それは自分で調べなさいな。フィールドワークはポケモントレーナーの基本よ。それじゃ、バイバイキ~ン♪」

 

 さらに、意味深な事を言うだけ言って、去って行った。何なんだあいつは。

 まぁ、一触発の事態にならなかっただけでも良しとするか。正直、面と向かって勝てる相手じゃないからな。前回も六人掛かりで袋叩きにしたのに、危うく負けそうになったし。マサラ組つえぇ……。

 

「お、見えて来たぞ」

 

 そんなこんなで、地平線にオーレン諸島が見えて来た。

 

「ほわぁ……!」

 

 思わず変な声が出てしまった。

 世界線が違えばナナシマやオレンジ諸島だったであろうそこは、大小三十の島が連なる孤島群であり、カントー本土と比べれば手狭ではある。

 しかし、起伏の激しさ故に手付かずな自然が多く残っているのに加えて、CV:竹中直人の帝王が居そうな結晶塔が樹木の如く無数に生えており、日の光を反射して島全体が虹色に輝いている。特に一番大きな島に生えている一際大きな結晶塔はもはや世界樹であり、空いっぱいにクリスタルの枝葉を広げている。

 なるほど、確かにこれは独自の進化を遂げるのも頷ける。本当にカントーとは環境がまるで違うんだな。すっごい楽しみ~♪

 

《オボン島ニドミ港に到着致しました。お忘れ物の無いよう、お降りください》

 

 そして、下船のアナウンスと同時に港へ到着し、私たちはオーレン諸島に足を踏み入れた。どうやらここはオボン島というらしい。現世で言う父島列島だろうか。

 

「閑散とした港だな」

 

 シンくんの言う通り、待合所はそこそこ立派だが人の数は少なかった。やはり離島だから住民自体が少ないのだろう。人集りの大半が観光客というのは人口の少ない場所では珍しくはない。

 ただ、物資の積み下ろしに関しては忙しいらしく、作業員の皆さんとポケモンたちがせっせと働いている。カイリキー系統は何処でも重労働してるなぁ。

 

「アローラナッシーがいるー」

 

 と、さっそくマツリカちゃんがポケモンを発見。道端にヤシの木よろしくアローラナッシーが点在している。もちろん本物のヤシもあるが、明らかにナッシーの方が目立っていた。

 それにしても、アローラナッシーがいるのか。さすがは小笠原諸島モチーフ、ホウエン地方以上の南国模様である。という事は、他にもアローラのポケモンが見られるのかな?

 いや、本当に見たいのは、既知であるアローラの物ではなく、オーレン独自のリージョンフォームだ。まだクリスタルなイワーク(はがね/こおり)しか見ていないし。

 

「なぁ、アオイ……あれって……!?」

「あっ!」

 

 よーく見ると、アローラナッシーたちの足元に、ピンク色のポケモンがいる。芝生の上でスースーと眠る、桜餅みたいな四足動物。何となくサイっぽいが……?

 よし、さっそく図鑑で調べよう!

 

◆サイホーン(オーレンのすがた)

 

・分類:まんまるポケモン

・タイプ:くさ/フェアリー

・レベル:38

・性別:♀

・種族値: HP:105 A:45 B:120 C:45 D:130 S:40 合計:485

・図鑑説明

 和やかな陽気に当てられる内にトゲトゲしさが失われ、身も心も丸くなった。くさタイプの根本で昼寝する事が大好き。日中は光合成でエネルギーを溜め夜に活動するのだが、それでも動きはゆっくりまったり。今日も明日も木の実を食んで過ごしたい。

 

「サイホーンなのアレ!?」

 

 言われてみると確かにサイホーンの要素は見受けられるが、外皮はプルプルで背中が葉っぱのようになっており、どちらかと言うとモンスターファームのモッチーに似ている。モッチー(ポケモンのすがた)ってか。

 いやー、でも可愛いな、あれ。寝ているだけで全く動かないし、遠目には桜餅にしか見えないから、凄くホッコリする。と言うか美味しそう。ユキハミとかナマコブシの色違いと並べたら、完全にお菓子である。

 

「わー、かわいいー。いっしょにねるー」『バウ』『…………? ……zzZZZ』

 

 さっそくマツリカちゃんが絡みに行き、その背中へ抱き着くように乗っかる。オーレンサイホーンは一瞬目を覚ましたが、気にする事なく再び寝入ってしまった。可愛いねキミら。平和だ。

 

「あっちのあれはラフレシアか!?」

「ベロリンガにバタフリーもいるわよ!」

 

 さらに、次々と見付かるオーレンの姿を持つポケモンたち。キレイハナのように等身の上がったラフレシア、疫病吐きっぽくなったベロリンガ、キョダイマックス形態に近い姿をしたバタフリー。全員基本色がピンク系なのが特徴だ。

 

◆ラフレシア(オーレンのすがた)

 

・分類:ようかポケモン

・タイプ:くさ/フェアリー

・レベル:45

・性別:♀

・種族値: HP:80 A:40 B:45 C:105 D:60 S:125 合計:490

・図鑑説明

 燦々と降り注ぐ陽光と、肥沃なオーレンの大地に育まれ、陽気な性格になった。歌と踊りに合わせて、甘い香りの花粉を鬼のようにばら撒く。花粉には強力な依存性と幻覚作用があり、吸ったが最後、二度と止められなくなり、やがて苗床にされてしまう。

 

◆ベロリンガ(オーレンのすがた)

 

・分類:まるのみポケモン

・タイプ:ノーマル/フェアリー

・レベル:41

・性別:♀

・種族値: HP:125 A:85 B:105 C:90 D:105 S:5 合計:515

・図鑑説明

 肥大化した身体を維持する為、目に付く獲物は何でも丸呑み。ベロの消化能力が格段に上がっており、呑んだ食べ物を次々と栄養に変えて、次の獲物を狙う。飛び出す巻き舌は、肉眼で捉えるのは不可能だ。

 

◆バタフリー(オーレンのすがた)

 

・分類:ようちょうポケモン

・タイプ:むし/フェアリー

・レベル:39

・性別:♀

・種族値: HP:120 A:15 B:50 C:150 D:80 S:80 合計:495

・図鑑説明

 オーレンの大地から溢れ出るエネルギーに当てられて巨大化した。鱗粉で特殊攻撃を無効化し、目や触角からビームを放って攻撃する。メガスピアーとは不倶戴天の関係。

 

 図鑑の解説を見るに、オボン島はフェアリータイプやくさタイプ、ノーマルタイプが多いらしい。だからピンクなのか。温暖な気候で育った為か、身体が大きく“見た目は”穏やかなポケモンばかりである。実際の生態は割と怖いようだけど。

 

「……シンくん、私、死ぬのかな?」

「お前は何を言ってるんだ。いや、気持ちは分かるけどな」

 

 だよねー。感動的だもん。

 アローラの姿やガラルの姿、先行登場していた一部のオーレンの姿を見ていた時から思っていたけど、リージョンフォームってこんなに変わる物なんだなぁ。全体的にファンシーなのがアレだけど、島によってはもっとカッコいい奴がいるかもしれないし、逆に禍々しい輩がいるかもしれない。

 くーっ、夢が広がるじゃないの!

 

「シンくん、さっそく捕まえに行こうかぁ!」

「おう! ……って、アレ? マツリカは?」

「ゑ?」

 

 いつの間にか、マツリカちゃんの姿が見えない。こういう場合、大抵子供はロクな事をやらかさないからな、早く見つけないと。

 

「あっ、あいつ山の方に!」

 

 シンくんが港近くの山を指差した。見ると、確かにオーレンサイドンに跨って森へ入って行くマツリカちゃんの姿が。

 おい、マジか。さっそくやりやがったよ、あの自由人。

 クソッ、でも子供ってそういう物だよな。好奇心旺盛で、危機管理能力がない。だから、それが命に関わるような事でも、そうなるまでは気にも留めず近付いてしまう。全国のお父さんやお母さんが背負う苦労が分かった気がした。

 つーか、バウワウに続いてオーレンサイドンをライドポケモンにしたのか。ある意味凄いな、あの子。

 ――――――って、感心してる場合じゃねぇ!

 

「れっつごー、ドンベェ!」『もしゅもしゅ~♪』

「Let’s Go! じゃねぇ!」「つーか、名前ェ!」

 

 止める間もなく入山してしまったマツリカちゃんを追う形で、私たちも鬱蒼とした森に足を踏み入れる。ここにも様々なオーレンの姿をしたポケモンがいたが、ゆったり見てる余裕はない。ポケモンより先に、あのお馬鹿を捕まえなければ。

 

「わー、なにあれー?」

 

 だが、子供というのは、こちらの思い通りに動かない物。山に入っただけでは飽き足らず、マツリカちゃんは更なるトラブルを巻き起こそうとしていた。

 マツリカちゃんが今まさしく触れようとしている物体。青白い光の柱を立てる、群青色の結晶体。

 

 それはガラル地方で言う、ワイルドエリアの“巣穴”だった。

 

 巣穴とは、エネルギーが凝り固まった異空間。そこには常にダイマックスする程に力を溜め込んだ主がいる。四人掛かりで挑まねば勝てない相手に、たった一人で近付いてしまえば、当然の事ながら命は無い。

 

「待っ――――――」

「待つんだ! 巣穴に近付いてはいけない!」

 

 と、何処からともなく、地元民と思われる黄土色のジャケットを着た青年が止めに入ってきた。誰だこいつ。どこぞの空気で裸になって異世界入りする決闘者に似ているが、気にしたら負けだろう。

 

「うひゃあっ!?」

 

 しかし、その大地を揺るがすような大声のせいでビックリしたマツリカちゃんが、結局巣穴に触れてしまった。

 

「………………!?」

 

 その瞬間、巣穴の光が一際強まり、同時に何かの記憶が雪崩れ込んで来る。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 何時か、何処かの海岸で。

 

『パァアアアアルゥ!』『ダイグギャアアッ!』『ビショアアアヴヴッ!』

 

 空間を司るポケモン:パルキア、時間を司るポケモン:ディアルガ、反物質を司るポケモン:ギラティナ(アナザーフォルム)が、大海原へ向けて咆哮を上げていた。それは神と呼ばれしポケモンとは思えない、“威嚇”の雄叫びだった。

 

『来るぞ……!』

 

 その傍らに立つのは、彼らの創造主たる神:アルセウス。彼もまた、海から来る何かに警戒心を強めている。

 

『プァァグゥヴウウウウウン!』

 

 そして、その何かは現れた。

 水陸両用の空中神殿「エイル」に座す、オムスターの親玉みたいな深淵の邪神「ガタトゥルフ」。

 

『ボォフォフォフォフォォォ!』『ギャァハハハハァウフハハハッ!』『ゼオン……ピポポポポポッ!』

 

 さらに、祭壇から次々と現れる、三柱の邪神たち。

 一柱は黄ばんだ衣のような外殻を纏う触手生命体「スターバルド」。

 一柱は全身に宝石を輝かせ、世界を嗤う闇の巨人「ナイラーア」。

 一柱は頭に紅蓮の烈火の逆巻かせる、破壊の権化「グアクト」。

 

『ヒャッホッハッハッハッハッハッハッ!』

 

 そして、彼ら四柱を束ねる存在と思しき、白黒が反転したゲームのインベーダーを本体にして闇の衣をランクルスの如く纏わせた、奇怪で不気味な赤子のポケモン「アザスト」。傍らには、アザストを祀る踊りを舞う、完全に狂ってしまった人間たちもいる。イケニエニナリマショウ、と。

 そう、彼らは外宇宙より来たりし侵略者。ポケモンらしからぬ、明確な悪を持ったあくタイプの勢力だ。

 彼らは遥か南の大陸に隕石として飛来し、大陸の生態系を蹂躙した後、次の標的としてこの地を選んだ。忌まわしき創造神を駆逐する為に。

 

『アザスト……全てを虚無に呑み込むモノよ! これ以上の狼藉は許さん! 裁きを受けるがいい! デェアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 もちろん、そんな事を許すアルセウスではない。迫り来る闇黒生命体へ向けて、フェアリータイプに変えた裁きの礫を撃つ。

 

『イヒヒャホホッハハハハハハッヒヒヒヒッ!』

 

 だが、アザストの放つ不気味なオーラが、裁きの礫のタイプを無くしてしまった。一応はダメージこそ入っているが、青い闇の力を蓄えた邪神たちは全くと言っていい程堪えていない。あの凄まじいステータスを破るには、相当な力がいるだろう。

 さらに、アザストが謎の力で狂気に囚われていた人々を一人残らずダークライに変えてしまい、大群となって押し寄せて来た。

 

『くっ、やはりか……奴らにタイプの有利不利は存在しない! お前たち、死ぬ気で挑め! 奴らは苦痛も恐怖も感じない――――――闇そのものなのだ!』

 

 レギオンも真っ青な、その悍ましい軍勢を前に、アルセウスは決死の覚悟を決め、自らの子供たちと共に前へ出た。

 そして!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「……、…………!?」

 

 そして、私は正気に戻った。意識が飛んでいたのは、ほんの一瞬だったようで、目の前では今まさに巣穴の主が、カプセル怪獣の如く召喚されようとしていた。

 

「今のは……?」

 

 サイコメトリー、みたいなものか?

 私は何時からエスパー少女になったんだ。ナツメと戦ったせいか?

 

「アオイも見たのか?」

 

 私だけでなく、シンくんも見た様子。他の二人は特にそんな感じは見受けられない。この違いは一体何だろう。

 いや、それよりも今は眼前の主ポケモンへの対処を……って言うか、カントーのレイドバトルって、巣穴の外でやるの!?

 待って待って待って、心の準備どころか、何の用意もしてないんですけど!?

 

『ギィグヴァアアアアアヴッ!』

 

 しかし、時は待ってくれない。有翼怪獣のように叫喚しながら現れたのは、ピジョット(おーれんのすがた)。通常種とそこまで違いは無いが、頭に角が生え、尾羽がメガピジョットの飾り羽を思わせる尻尾に変わっている。

 

◆ピジョット(オーレンのすがた)

 

・分類:かいちょうポケモン

・タイプ:ドラゴン/ひこう

・レベル:75

・性別:♀

・種族値: HP:103 A:70 B:80 C:145 D:80 S:101 合計:579

・図鑑説明

 オーレンの姿となったピジョット。島の結晶を取り込む内に皮膚に硬い鱗が発生し、タイプもドラゴンに変化してしまった。竜の肉体は強靭で、口から吐く破壊光線は全ての文明を消し去ってしまう。

 

 ギャラドスかお前は。見た目が羽毛恐竜になっただけでなく、性格まで苛烈になってしまったらしい。確かにこの種族値で破壊光線をぶっ放されたらヤバそう。

 

「くっ、こうなれば仕方ない! 君たち、レイドバトルに参加してくれ!」

 

 すると、通りすがりの青年が、レイドバトルを申し込んできた。誰だか知らんが、願ったり叶ったりだ。

 

「行こう、シンくん!」「分かった! マツリカ、お前も早く来い!」「わかったー」

 

 ――――――マックスレイドバトル、開始ィッ!




◆マックスレイドバトル

 ポケモンの巣穴に潜む主ポケモンとの戦いにおける特別ルールの事。基本的に主VSトレーナー四人で成立し、ポケモンは一匹ずつしか使えない。一定時間経つか、ポケモンが四回程瀕死になると巣から追い出されてしまう。勝つと様々なアイテムや主だったポケモンを入手出来る。
 オーレン地方のレイドバトルは、主が巣穴の「外」に飛び出す事で始まる為、ガラル地方よりも周囲への被害が発生し易く、不意に始まってしまいがちなので、危険度は断然に高い。


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新たな出会いとしばしの別れ

アオイ:「二年後、シャボンディ諸島で!」
シン:「何時何処の話なんだそれは」
マツリカ:「さくらもちおいしそう」


「お願い、アカネちゃん!」『ピッピーッ!』

「行けっ、プリン!」『プリャーッ!』

「バウワウ、ごー!」『バウッ!』

 

 私たちはそれぞれの相棒を繰り出した。全員がフェアリー技を持っているので、相性的には有利だろう。

 残るは三沢似の人だが、

 

「行って来い、デカいサンド!」『ゴヴヴヴヴッ!』

 

 彼が繰り出したそれは、若干緑掛かった金色の装甲を持つ、大陸の如き重量感のあるポケモン――――――、

 

「こいつは以前、グレン火山の活動が一際活発になった際、カツラさんと共に調査へ向かった時に見つけたポケモンだ。手頃な資料では正体は掴めず、タイプと色合いから、とりあえずデカいサンドと呼んで……」

「それ伝説のポケモンんんんんんっ!」

 

 まさかの色違いなグラードンだった。デカいサンド言うの止めーや。

 もしかして、近い将来にグラン火山が大噴火する原因って、こいつだったんじゃね?

 そうだとしたら、ファインプレーだぞ、三沢似の人!

 

「ほぅ、こいつはグラードンと言うのか。どんなポケモンなんだい?」

「えっとね――――――」

 

 状況が状況なので、とりあえず簡単な概要(ホウエン地方の伝説のポケモンで、日照りで大地を広げたと言われている事)を説明して差し上げた。

 すると、三沢似の人は大層喜び、

 

「なるほど! そいつは素晴らしいな! まさに「大地のミサワ」たる、この俺に相応しい!」

 

 流れるように自己紹介してくれた。言い方がまるで地獄のミサワだ。やっぱり三沢で大地なんかい。早くタニヤさん紹介しなくちゃ。

 

「それにしても、君はポケモンに詳しいな! ホウエンと言えば、シンオウ程ではないが、大分遠いだろう? その年で他の地方を回っているのかい?」

「い、いえ、そういう訳では……」

 

 えっ、何コイツ、グイグイ来るんですけど。止めて、私にはシンくんという人が……。

 

「――――――おい、目の前の相手に集中しろよ」

 

 と、シンくんが至極真っ当な指摘をして来た。心なしか不機嫌そうなのが、ちょっと嬉しい。

 

「ふりんー」『ワンワン』

 

 うるせぇファンシー組。

 

『ギィグヴァアアアヴッ!』

「……来るぞ! 備えろ!」

 

 埒が明かないと見たか、それともイチャ付くなと言いたいのか、オーレンピジョットが龍の波動を放って来た。エフェクトが酸素分子も破壊しそうな勢いで怖い。

 

「アカネちゃん、身体張れぇ!」『ドリャッピーッ!』

「プリン、お前も受けろ!」『プップリャーッ!』

 

 だが、無意味だ。アカネちゃんもプリンもフェアリータイプ。ドラゴン技は効かんのです。

 

「バウワウッ!」『バヴォオオンッ!』

 

 さらに、マツリカちゃんのじゃれつくが炸裂。大ダメージを与えた。

 

『ギャヴォオオオオオッ!』

『プリャ~!』「プリン!」

 

 手傷を負わされ、怒り狂ったオーレンピジョットがダイジェットを放って来た。結構なダメージが入ったが、元々耐久寄りのプリンはこれくらいでは落ちない。

 ただ、相手の素早さが上がってしまったのは問題がある。アカネちゃんもプリンも鈍足だし、バウワウも図鑑と違って風のように速い訳じゃないからね。先手を許し続けるのはさすがにマズい。

 こうなったら……無敵のグラードンで何とかして下さいよォ~!

 

「よし、良い感じに削ってくれたな! ここからは大地のミサワのターンだ! 行くぞ、グラードン! ダイマックスだっ!」『ゴォヴォオオオオオッ!』

 

 ようやく真面な名前で呼ばれたのが嬉しいのか、ニッコニコの笑顔で大はしゃぎしながらダイマックスするグラードン。やっぱデカいサンドだな、こいつ。

 しかし、腐っても黄ばんでても、伝説のポケモン。ステータスがアホみたいに高いし、ダイマックスした事で耐久力も上がっている。ついでに技も必中になっているから、外す心配がない。グラードンの習得技的に、ダイロックじゃないと有効打がないからな。

 

「グラードン、「ダイロック」!」『グルヴォオオオオッ!』

『ギィグゴァアアアッ!』

 

 そして、岩雪崩を変化させたダイロックが、オーレンピジョットに深手を負わせる。ダイマックスしているとは言え、そこまで耐久力は無いからね、ピジョットは。

 

「目がーっ!」『ピッピィーッ!』

「何かスマン……」『グォォォン』

 

 砂嵐はちょっと痛いけどな!

 だが、それはオーレンピジョットも同じ事。HPが赤ラインのチャンドラーなど、恐るるに足らん。羽休めで回復した所で、無駄無駄無駄ァ!

 

「アカネちゃん、「ムーンライトフィーバー」!」

 

 何故なら、この日の為に新しい相棒技を覚えさせて来たからな!

 

『ピッピ、ピッピ、ピッピッピィ~♪』

 

 アカネちゃんがリズミカルに指を振ると、何処からともなくピッピやピィが現れ、周囲をピョンピョンと舞い踊り始める。一歩ごとに星屑が煌めき、それらがアカネちゃんの頭上に集まって満月となった。

 さらに、満月から放たれる強力な光が、アカネちゃんを一時的にピクシーへと進化させ、

 

『ドリャーッ!』『ギャォォォッ!』

 

 何故かか○はめ波みたいな波動をぶっ放して、オーレンピジョットを月に代わってお仕置きした。遂に瀕死へ追い込まれたオーレンピジョットが、大爆発を起こしながら倒れ伏す。

 そう、これぞアカネちゃん第三の相棒技「ムーンライトフィーバー」。威力150、命中率95のフェアリー版破壊光線である。ウルトラクッキングのような追加効果は無いが、タイプ一致の大技であり、破壊力はこちらの方が遥かに高い。

 しかし、破壊光線の系譜なので、当然デメリットはあるのだが、

 

 ――――――老いぼれたアカネは腰砕けだっ!

 

 この表示ですよ。アレか、月の石を喰い過ぎて爺さんになった、あの話がモデルなのか。

 くそぅ、このままだと、その内に「これでぼくはミュウスリーだッピ」してしまう……!

 

「よし、倒したぞ! 捕まえるんだ! そうすれば大人しくなる! このバンドを嵌めるんだ!」

「ああ、そうだった……」

 

 アカネBBAのインパクトが強過ぎて忘れてた。せっかくボス級のオーレンポケモンを倒したんだ、捕獲せにゃ損、損や!

 

「行っけぇ、プレミアボール!」

 

 私はミサワからダイマックスバンドと思しき物を借りつつ、ちょいと買い溜めておいたプレミアボールをグリッド化して投擲し、オーレンピジョットを捕獲した。ヤッタネ!

 

◆ピジョット(オーレンのすがた)

 

 HP:103 A:70 B:80 C:145 D:80 S:101 合計:579

              ↓

 HP:103 A:60 B:70 C:125 D:70 S:101 合計:529

 

「おやおやおや?」

 

 オーレンピジョットが自分のポケモンになった瞬間、何故か種族値が下がったぞ?

 下がった数値はちょうど50……あ、そうか、主ポケモンはバフが掛かってるのか。能力値ではなく種族値その物を改造してしまう辺り、オーレン諸島のパワースポットの異質さがよく分る。あの幻覚で見たポケモンが力の由来なのだとしたら、頷けるな。完全にクトゥルフ神話から遊びに来てたもんね、あいつら。

 あと、オーレンイワークの+50の正体が分かった。あれ、メガシンカでアップする筈だった種族値の半分だ。一時的な爆上げが出来ない代わりに常時力が増している、という扱いなのだろう。なるほど、強い訳である。

 

「やったな、アオイ!」「いや~、それ程でも~♪」

 

 褒めてくれるのは嬉しいが、大体は通りすがりのミサワのおかげだよ。とりあえずお礼言っておこう。

 

「助けてくれて、どうもありがとうございます」

「いや、当然の事をしたまでさ。それよりも、君たち本土の方から来たんだろう? だったら注意した方がいい。オーレンのポケモンは強過ぎるから、本土のようにボールを投げただけでは捕獲出来ないんだ。ポケモン同士で戦わせて、しっかり弱らせないといけないんだよ」

「へぇ……」

 

 つまり、従来の野生のポケモンバトルと同じになるって事か。その方がやり易くていいかもね。方も痛くならないし。

 

「ともかく、一度ポケモンセンターへ行こう。こんな山奥じゃ話もゆっくり出来ないしね」

「賛成です。良いよね?」「そりゃそうだわな」「わかったー」

 

 という事で、大地のミサワに案内されるまま、ダイタウンというダイマックスしそうな名前の町へと移動した。

 ニドミ港と直結しているオボン島最大の集落で、今いる山の麓――――――つまりは最初に降り立った町だ。初見の通り、観光客向けの街であり、飲食店に土産屋、宿泊施設が多く見られる。

 逆に民家やスーパーの類は少ない。と言うか、ポケセンがFSとスーパーを兼任している。観光用のスペースを優先したのだろう。

 ようするに、観光第一住民第二な、観光名所によく有りがちな街並みだった。普段は閑散としているのも頷けるな。

 そんなダイタウンの街中にイイ感じな喫茶店を見付けたので、とりあえずそこに腰を落ち着ける事にした。お茶とスイートポテトを注文し、面と向かって座る。ミサワ一人と、私たち三人である。面接かな?

 

「さて、改めまして、俺はミサワ。こう見えても地質学者だ。皆からは「大地のミサワ」と呼ばれているよ。同時にオーレンリーグのジムリーダーも務めている」

オーレンリーグの(・・・・・・・・)ジムリーダー(・・・・・・)?」

「ああ、カントー本土と違って、オーレン諸島はジム自体が少ないから、ジムリーダーが四天王も兼任しているんだよ」

「なるほど……」

 

 オレンジ諸島と同じようなローカルルールなのか。基本的に人口が少ないからね、仕方ないね。

 それにしても、こいつジムリーダーだったのか。どうりで普通に伝説のポケモンを持ち歩いている訳だよ。桁違いに強いポケモンが跋扈するオーレン諸島のトップ4ともなれば、相当な実力に違いない。チャンピオンって誰なんだろう?

 

「君たちは観光で来たのかい?」

「そんなとこです」

「なら、もう少しオーレン諸島について知っておいた方がいいかもね。勝手に自爆されてイメージダウンするのも嫌だし」

「スイマセン……」

 

 地元民の切実な声を聞いた気がした。

 そうだよなー、モラルの低い観光客って、受け入れる側としてはデメリットしかないもんなー。反省。

 

「じゃあ、オーレン諸島とカントー本土の大まかな違いを説明しよう」

 

 そんな訳で、大地のミサワ先生にご教授願う事と相成った。

 

「大きな違いは三つ。

 

①オーレン諸島にはリージョンフォームがあり、地質的な影響でカントー本土よりも力強く、ポケモンバトルで弱らせなければボールで捕獲出来ない。

②オーレン諸島各地にある巣穴には主たるポケモンがおり、必ずレイドバトルになってしまう為、基本的に自然区画では四人以上で行動する事。

③オーレン諸島は人口が少ない為、ジムとリーグが兼任されていて、ジムリーダー四人に勝つとチャンピオンに挑む事が出来る。

 

 ……こんな感じかな」

 

 フムフム、分かり易い。

 それじゃあ、マツリカちゃんがゲットしちゃった、あのオーレンサイホーンは、単に気が良いだけだったのか。やっぱりフェアリーに好かれ易いんだねー。

 

「ジムって全部オボン島にあるの?」

 

 と、シンくんが挙手した。

 

「良い質問だね。答えはNOだ。他のジムはウイ島、マゴ島、バンジ島の三つに分散している。それらの島を巡り、全て倒した者だけが、最果ての孤島に待つチャンピオンに挑む事が許されるのさ」

 

 ほへー、アローラ地方みたいな事をやっているのか。ま、似たような土地柄だしね。

 それにしても……最果ての孤島、か。ゲームでは何処かも分からぬ遠方の地としか説明されていないが、この世界ではどうなのだろう。

 一応、チャンピオンと言う名の人間が住んでいるので、無人島ではないのだが、相当に過酷な環境なのではなかろうか。それこそギアナ高地みたいに。

 

「……どうしようか、アオイ?」

「どうしようねぇ……?」

 

 正直、悩む。アローラよろしく島巡りをしてジムに挑戦してもいいし、ジムをガン無視してポケモンを乱獲するのも悪くない。単純に観光するのもいいだろう。

 

「私は山籠もりでもして、修行したいんだけど。皆はどうしたい?」

「山籠もりて……無茶はするなよ?」

「大丈夫だって。それより、どうする?」

「オレはやっぱり、ジムに挑戦したいかな。ロケット団(あいつら)も強くなってるだろうし」

「わたしはもっとフェアリーとあそびたい~」

 

 フーム、そうなるとシンくんがジム巡りで、マツリカちゃんは観光って事になるのか。見事にバラバラだな。

 

 ――――――プルルルルン♪

 

「おっと、失礼……」

 

 電話が掛かって来た。ロケット団の秘話回線からだ。発信者は誰だろう?

 

「もしもし?」

《アオイか。私だ。サカキだ》

「ブーッ!」

 

 飲んでいたお茶を吹き出してしまった。

 

「どうした!?」

「いや、何でも……」

 

 いいや、何でもはある。何故ロケット団の首領様が直で電話を掛けて来る。

 ともかく、ミサワ氏にはバレないように会話を続けよう。

 

《取り込み中か?》

「いえ、問題は無いです」

《……誰かいるようだな。まぁいい、お前なら上手く合わせられるだろう》

 

 信頼が厚いこって。アポロさんの口添えでもあったか?

 ……で、ご用件は何かな?

 

《ひとまず、オーレン入りおめでとう。アポロやムサシたちから聞いているぞ。見事に負けたそうじゃないか》

「……ノーコメントで」

《別に咎めたりする気はないさ。人は負けて強くなる。立ち上がる事が出来ない奴が弱いのだ》

 

 まさに悪の美学ですね。大いに賛同します。

 

「そう言えば、彼女らは今どうしてます?」

《今まさに目の前にいるよ。バッチを賭けてな》

 

 うへぇ、あいつらトキワでジム戦してんのかよ。順調に勝ち進んでいて嬉しいような、あれ以上強くなられたら困るような……。

 

《代わるか?》

「いいえ。集中させてあげて下さい」

《分かった。では、こちらからも手短に用件を伝えよう。お前たちには、オーレン諸島での領土開拓を担ってもらう。オーレン諸島は規制が厳しいから、下っ端共では上手く忍び込めないのでな。かと言って、幹部連中はそれぞれの持ち場で手が離せない》

「だから、フリーな私たちに任せると?」

《そういう事だ。不服か?》

「いいえ、貴方の為なら喜んで。皆にもよろしく言っておいて下さい」

《分かった。では、期待している》

「ハイ」

 

 私は通話を切った。

 フフフ、こいつはいい。まさかサカキ様から直々の任務とはね。今後の方針は決まったな。

 

「親御さんかい?」

 

 ミサワ氏が何となく尋ねてくる。探りを入れられているような気がするな。ここで馬鹿正直に答える程、私も馬鹿じゃないが。

 

「旅先でお世話になっている人ですよ。ポケモンが大好きで、是非ともオーレンのポケモンを見てみたいそうです。だから、捕まえるついでに大いに楽しんで来い、と」

「なるほどね。良い人じゃないか」

 

 ええ、“根は”良い人ですよ、ホント。悪役として最良の物件です。

 

「それで、どうするのか決まったのかい?」

「はい。……私たちは、ここから別々に行動したいと思います」

「「ゑ?」」

 

 シンくんとマツリカちゃんが呆けているが、構っている場合じゃない。サカキ様からミッションを受け取り、ミサワ氏がジムリーダーだと分かった今、最大限利用させてもらうとしよう。

 

「私は修行を、シンくんはジム巡りを、マツリカちゃんは観光をしたい。なら、それぞれがしたい事をすればいい。いつも一緒にいるのもいいけど、偶には別行動をして、視野を広げるのも良いと思うんです。旅路に出会いと別れは付き物ですからね。それこそ、現地で友人知人を作るのもまた一興でしょう」

「なるほど、確かにな」「それもいいかもねー」

 

 若干思う所はあるようだが、シンくんたちも納得してくれた。私たちだけの合図で、ちゃんと任務だって伝えたからね。ロケット団の一員なのだから、従わない訳にはいかない。

 まぁ、会おうと思えば何時でも会えるし。タマムシマンション辺りで。

 ともかく、ここで一旦分かれて各島で人脈の輪を広げられれば、ロケット団は更に発展する。オーレン諸島もトキワコンツェルンと仲良くなれるし、良い事尽くめである。

 悪の片棒を担ぐ事を除けばね。

 だけど、人間大なり小なり悪い事をしているんだし、何よりカニより世の中お金が全てだ。資金力の無い奴に成せる事は無い。

 

「そうか。なら、各地のジムリーダーに紹介状を書こう。スムーズに挑戦出来る筈だよ。フリーパス自体は持っているんだろう?」

 

 すると、ミサワ氏から有難い申し出が。

 

「はい、持ってます」

「なら、好きに島を巡ると良い。若者は挑戦して何ぼだ。若い時の経験は、一生役に立つよ」

「ありがとうございます! ……でも、見ず知らずの子供に、どうしてそこまで?」

「グラードンの事を教えて貰ったお礼だよ。それに、若人が頑張る姿を見るのは単純に嬉しいからね。ジムリーダーとして、何より大人として、ね」

 

 器が大きいなぁ。さすがは大地のミサワ。何処ぞの裸ックスと一緒にしてスイマセン。

 

「わたしはどうするのー?」

 

 あ、さすがにマツリカちゃんの一人歩きはマズいか。

 

「なら、この子は俺が面倒を見ておこう。聞けば、フェアリータイプと仲良くなり易いそうじゃないか。俺はあんまりフェアリータイプには懐かれないから、この機会に仲良くなってみたいんだよ」

 

 これまた有難い申し出だが、可愛いなアンタ。

 

「マツリカちゃんはそれでいい?」「うん。このひと、いいひとだからー」

 

 ああ、マツリカちゃんって勘が良いんだっけか。ならその直感に任せるのも良いな。最悪バウワウに乗って逃げれば良いんだし。

 

「……ちゃんと連絡はしろよ」「ええ、毎日でも」

 

 シンくんとはこれでいい。彼とは何時でも何処でも、心は繋がっているから。

 

「なら、ここで一旦お別れだ」「うん」「じゃあ、いずれまた……オボン島で!」

 

 何かシャボンディ諸島編みたいなノリで、私たちは分かれた。

 

 私はバンジ島で武者修行を。

 シンくんはウイ島で最初のジム戦を。

 マツリカちゃんはこのままオボン島でミサワ氏とゆったりまったり二人旅を。

 

 各々が目的の為に動き出す。次に会う時が楽しみね。

 

 さぁ、本格的なオーレン諸島編の始まりだぁ!




◆オーレンリーグ

 オーレン諸島特有のリーグ。人口が少なく、島の面積も狭い為、四人のジムリーダーがそのまま四天王を兼任しており、それら全てに勝つとチャンピオンに挑む事が出来る。
 人数こそ少ない物の、カントーの秘境であるオーレン諸島で鍛え上げられた実力は確かな物で、下手するとカントーポケモンリーグの四天王並みに強い。


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バンジ島の主と侵略者

アオイ:「バンジの実って、実際にはどんな味するんだろうね?」


「着いたーっ!」

 

 ――――――で、やって来ました、オーレン諸島最北端の島、バンジ島。現実で言う聟島に位置している。

 最北端と言うだけあって、温暖なオーレン諸島にしては珍しく涼し目で、島の中心に行く程寒くなる……らしいよ、同船者曰く。何でも、生えている結晶の影響で島ごとに気候や棲み付くポケモンのタイプが変わるのだとか。

 ちなみに、バンジ島はこおりタイプが多い。理由は言うまでもなく、この荒涼とした風景とヒンヤリとした気候のせいだろう。

 ついでに、付近にあるマゴ島とイア島(現世の媒島と嫁島に当たる場所)は、それぞれはがねタイプといわタイプが多い。

 基本的にこれら三つの島は草木が少なく、岩肌が露出した痩せた土地なのが特徴である。畑や田んぼなど夢のまた夢だ。

 

 ようするに、ほぼ無人島である。

 

 住んでいるのは、精々ジムリーダーとその関係者のみ。後は観光客か、私のような好き者だけだ。

 だが、修行という観点に関しては、他の島よりも優れていると言えるだろう。何せ無人島だからね。頼れるのは自分と手持ちのポケモンだけ。強くなければ、成らなければ、生き残れない。

 また、修行に訪れた各地の強いトレーナーとレイドバトルを通じて仲良くなる、という事も出来る。今日の敵は明日の友みたいな感じに。私に友達を作れるのかは怪しいけど。

 そんなこんなで、私はバンジ島への一歩を踏み出したのだが、

 

「ギャーッ!」

 

 いきなり踏み外した。

 踏み外したというか、ズボッと穴に落ちた。何この天然の落とし穴!?

 

『イヴォァアアアアアアァァクゥゥゥッ!』

「オーレンイワークの掘った穴だったぁ!」

 

 そして、このエンカウントである。ふざけるなよ貴様。主ポケモンじゃなかっただけまだマシだが、それでもオーレンのイワークはキツいよ。先頭アカネちゃんなんだけど!?

 いや待て、落ち着け、落ち着いて虚数を数えるんだ。あいつははがねだが、こおりタイプでもある。アカネちゃんの相棒技があれば、楽に倒せる筈だ。タブンネ。

 さっそく実戦訓練と行こうじゃないか!

 

「アカネちゃん、「コズミックパンチ」!」『ドリャッピーッ!』

 

 まずはコズミックパンチで先制打。コスモパワーを誘発して敵の反撃に備える。

 

『ゴォヴァアアァアアアアアアアッ!』

『ギエピーッ!』「アカネちゃーん!」

 

 すると、まさかのダイヤストームを放って来た。それ幻のポケモンが使う奴やん……。

 しかし、こっちは既にコスモパワーを積んでいるので、余裕を持って耐え切った。所詮はポッポに毛が生えた程度の攻撃力か。でも防御が上がるのは痛いな。さっさとご退場願おう。

 

「アカネちゃん、「ウルトラクッキング」!」『オリャッピーッ!』

『グォォォォ……!』

 

 よし、美味しく頂きましたよ。とりあえず捕まっとけ。モンスターボール!

 

「フゥ……それにしても寒いな」

 

 ホッと吐いた一息が白い。今気付いたけど、穴――――――と言うか洞窟の中、霰降ってるわ。雪も積もってるし。地下の穴倉なのに、銀世界っておかしくない?

 これも、結晶塔の為せる業か……!

 

「あ、アローラロコンだ」

 

 だが、そのおかげで様々なこおりタイプのポケモンが棲み付いており、目に付くだけでもアローラキュウコン系やアローラサンドパン系、ガラルバリヤードにオーレンイワークなど、色々といる。

 それにあれは……ニドランの♂と♀か?

 よし、ちょっと調べてみよう。

 

◆ニドラン♂(オーレンのすがた)

 

・分類:つららばりポケモン

・タイプ:こおり

・レベル:35

・性別:♂

・種族値: HP:46 A:57 B:40 C:60 D:40 S:30 合計:275

・図鑑説明

 ニドラン♂のオーレンの姿。草木も生えない過酷な環境で、氷を食べて生きていく内にこおりタイプになった。額の鋭い針には毒こそ無いが、刺されると凍傷に罹ってしまう。それでも倒せない敵には仲間を呼んで応戦する。

 

 

◆ニドラン♀(オーレンのすがた)

 

・分類:つららばりポケモン

・タイプ:こおり

・レベル:32

・性別:♀

・種族値: HP:55 A:47 B:52 C:40 D:60 S:21 合計:275

・図鑑説明

 ニドラン♀のオーレンの姿。草木も生えない過酷な環境で、氷を食べて生きていく内にこおりタイプになった。鋭く頑丈な前歯は氷塊をも噛み砕いてしまう程に強い。強い敵には群れて対抗する。

 

 へぇ、こおり単タイプなのか。進化したらこおり/じめんになりそう。近くにいたニドリーノやニドリーナもこおり単タイプだったし。

 それとあの寝てるデカい奴は……オーレンのカビゴンか。何かフッサフサの雪男みたいになってるんですけど。

 

◆カビゴン(オーレンのすがた)

 

・分類:ふゆごもりポケモン

・タイプ:こおり/フェアリー

・レベル:71

・性別:♂

・種族値: HP:180 A:110 B:110 C:35 D:110 S:5 合計:540

・図鑑説明

 寒冷地に進出し、怠け癖に拍車が掛かった。人生の殆どを冬眠して過ごし、夏の僅かな間のみ活動する。覚醒中の食欲は凄まじく、周囲のありとあらゆる生き物を食べ尽くしてしまう。その量、一日にして5トン。食べれば食べる程に成長する為、手が付けられない。

 

 うん、象熊かな?

 こおりタイプは受けに向いてないけど、ここまで硬い上に攻撃力もあるとなると、相当に厄介な要塞である。この世代にトリックルームが存在しないのが悔やまれる性能ね。それでも強いけど。問題はこおりとフェアリーの物理技自体がそこまで威力がない事だが、サブウェポンだけでも充分な気もする。

 いやぁ、怖いなこいつ。せっかく眠てるんだし、そっとしておこう。

 ……と、思ったんだけどねぇ。

 

 ――――――モサッ。

 

「ん?」

 

 何か踏ん付けたか?

 

『コパァァァル!』

「オーレンのコンパン踏ん付けちまったぁ!」

 

 オーレンコンパンでした。毛が真っ白で触角が氷みたいになっとる。

 

◆コンパン(オーレンのすがた)

 

・分類:ゆきむしポケモン

・タイプ:むし/こおり

・レベル:41

・性別:♂

・種族値: HP:60 A:40 B:50 C:65 D:55 S:35 合計:305

・図鑑説明

 寒冷地に適応した姿。どんな寒さもフサフサした体毛のおかげでヘッチャラ。食事の時以外は丸まって過ごす。雪景色の中に潜むコンパンを見付けるのは至難の業だ。ただ、分からな過ぎて間違えて踏まれる事も多い。

 

 雪原のイシツブテポジションになったのか。何て迷惑な奴だよ、こんな時に!

 

『コッパァァアアアッ!』

「ドワォ!」

 

 踏ん付けられて激おこぷんぷん丸になったオーレンコンパンが、オーロラビームを放って来た。

 

『ニドァッ!』

 

 それ自体は避けられたのだが、射線上に運悪くオーレンニドラン♀がいて、バッチリ直撃。

 

『ニドニド!』『ギャウッ!』

 

 どう見てもオーレンコンパンのせいなのだが、そんなの関係ねぇとばかりに仲間を招集、群れを成して襲い掛かって来た。

 余談だが、オーレンコンパンはさっさと逃げ出している。クソッタレがぁ!

 

「仕方ない。行け、アンズちゃん!」『クィィイイン!』

 

 ここはニドクインという立場を活かして、追い払って貰おう。

 ちなみに、オーレンに旅立つ前に技の見直しをしている。それがこちら。

 

《私のメンバー》

 

◆相棒ピッピ(アカネ)Lv82:「ゆびをふる」「ウルトラクッキング」「コズミックパンチ」「ムーンライトフィーバー」

◆オニドリル(ハヤテ)Lv80:「ネコにこばん」「ドリルくちばし」「ドリルライナー」「とんぼがえり」

◆ラフレシア(ヒナゲシ)Lv77:「ヘドロばくだん」「メガドレイン」「ムーンフォース」「どくどく」

◆スピアー《メガシンカ》(アキト)Lv79:「どくづき」「とんぼがえり」「げきりん」「ドリルライナー」

◆ニドクイン(アンズ)Lv81:「どくづき」「かえんほうしゃ」「れいとうビーム」「じしん」

◆相棒イーブイ(ユウキ)Lv82:「めらめらバーン」「いきいきバブル」「びりびりエレキ」「どばどばオーラ」

 

 せっかくなので、アンズちゃんには技のデパート嬢になってもらいました。前の構成だと接近戦オンリーだったからね。努力値を全ての能力に振れるピカブイの使用上、特化する意味はあまりない。アンズちゃん遅いし。地震はあの後サカキ様からプテラ便で技マシンを送って貰いました。ありがたや。

 もちろん、向き不向きはあるので、アキトとハヤテは物理アタッカーのままだし、ヒナゲシちゃんは特殊技オンリーだ。ユウキに至っては一切変わってないしね。

 ある意味一番変わったのはアカネちゃんかもしれない。相棒技もここまで揃うと感無量である。全部で四つあるらしいけど、最後の一つってどんな技なんだろう?

 まぁいいや。とりあえず、あの氷兎共を纏めて、薙ぎ払えッ!

 

『ニドォーン!』『ニャーッ!』『キーィッ!』

 

 直撃した者は瀕死となり、免れた者も一目散に逃げだした。倒れた連中は漏れなくゲットしましたとも。家族が増えたよ(オーレンのだけど)、やったねアンズちゃん!

 ――――――これで終われば、良かったんだけどなぁ。

 

『ガァァァゴォオオオオオオオオヴ!』

「あ、ヤバッ……」

 

 アンズちゃんの炎が飛び火して、文字通りオーレンカビゴンの尻に火を付けてしまった。冬眠中に起こされたので、完全にブチ切れている。鳴き声が完璧に伝説怪獣ですよ。

 ゴメン、今回は私が悪いや。

 つーか、何でこう立て続けに色々起こるワケ!? 穴に落ちただけなのにィ!

 だけど、このままむざむざと食べられてしまうつもりはない。倒させてもらう!

 

「サンドパン、「アイアンテール」!」『パギュウッ!』

『ゴァァアアアッ!?』

 

 しかし、私が覚悟完了する前に、アローラサンドパンが割って入って来た。タイプ一致のアイアンテールが見事に当たり、四倍ダメージを受けたオーレンカビゴンは戦意を喪失し、ゴロゴロと転がって逃亡する。ゴローニャかお前は。

 というか、今の声って……?

 

「お久しぶり。こんな所で何してるの?」

「カンナさん!?」

 

 ハナダシティ以来となる、カンナさんの登場であった。

 ひとまず、近況と現状の報告をしよう。かくかくしかじか、冬のバーゲンセール。

 

「……へぇ、タケシくんからフリーパスを貰ったの。なのにこんな雪塗れの場所で武者修行なんて、貴女も物好きねぇ」

 

 うん、シンくんにも濁してそう言われました。ほっといて下さい。

 

「そう言うカンナさんはどうしてここへ?」

「えっ? 普通に遊びに来たんだけど?」

 

 サラッと言い切るカンナさん。こんな氷獄に遊び感覚で来るとか、四天王ヤベェ。レベルが違うわ。

 

「……まぁ、ちゃんとした用事もあるんだけどね」

「と言うと?」

「洞窟の奥に居る子に会いに来たのよ。今度エクストラに挑戦するトレーナーが来るみたいだから」

「うん?」

 

 何か話が見えて来ないな。エクストラって何ぞ?

 

「ああ、エクストラってのはリーグの難易度よ。「ノーマル」「ハード」「エクストラ」の三つに分かれていて、エクストラは一番レベルが高いのよ」

 

 へー、この世界のリーグには難易度選択なんてあるのか。明らかにヤバそうだけど、具体的にはどう違うのだろうか。

 

「ノーマルは一般的に知られている面子ね。ハードはそこにアローラやガラルのポケモンが加わるの。エクストラは最近追加された難易度で、オーレンのポケモンも使うし、メガシンカやダイマックスも遠慮なく使う、一言で言えば“何でもあり”の戦いね。はっきり言って、エクストラをクリア出来る挑戦者なんていないと思うわ。ワタシたちの大マジな本気だもの」

「うーわー」

 

 今明かされる、衝撃のシンジ3~♪

 ダイマックスを公開レベルに託けるとか、ウーさん頑張り過ぎやろ。言動から考えて、四天王はそこそこ前から使えるようになっていたようだが、それでもインパクトは大きい。マジで勝てないかもしれん。

 

「……じゃあ、会いに来た子って言うのは」

「そ、エクストラレベルのメンバーになっている子よ。ここの環境が気に入ってるみたいだから、エクストラの挑戦者が現れた時にだけ迎えに来るの。とは言え、普段から暇を見つけて遊びには来てるんだけどね」

「へー」

 

 この洞窟の奥に、一体何が居るって言うんだ。氷使いのカンナさんが使うのだから、当然こおりタイプだろうが……。

 

「何なら一緒に来る?」

「え、見せちゃって良いんですか?」

「その程度で対策される程、あの子は軟じゃないわ」

 

 スッゲェ自信。絶対に負けないと確信してますよ、あの目は。ますます気になるわ。

 だが、そこまで言うのなら、有難く同行させてもらおう。修行しに来た身として言うのも何だけど、この洞窟怖いもん。さっきの騒動のせいで、一人で生き残れる気が全くしなくなってきた。

 と、その時。

 

「おや、いきなり走り出して、何処に行ったのかと思えば。そちらの方は誰ですか、カンナさん?」

 

 雪の降り頻る洞窟の奥から、見知らぬ男が現れた。

 いや、私はこいつを知っている。直接会った訳(・・・・・・)ではないが(・・・・・)見て知っている(・・・・・・・)

 彼の名はイツキ。後にカンナと交代で四天王入りを果たす、エスパータイプの使い手である。私はトゥートゥーの人として記憶してました、ごめんなさい。

 それにしても、この二人はどういう関係なのだろう。カンナさんはまだ分かるが、イツキさんは何でこんな所に?

 

「ワタシのお気に入りの一人よ」

「ああ、前に言っていた、あの三人組の一人ですか。相当お強いのでしょうね」

「もちろん。ここへ修行に来るくらいだからね」

 

 うーん、会話を聞く限り、かなり親密な間柄のようだが……?

 

「初めまして。ボクはイツキと申します。カンナさんとは古くからの付き合いでしてね。都合が合った時に、テレポート役として扱き使われているので大変ですよ」

「そんな言い方ってなくない?」

「だったらご自分でテレポートなさい。ルージュラを持っているでしょうが」

「趣味じゃないのよ」

「じゃあ文句を言わないで下さい」

 

 なるほど、古馴染みか。腐れ縁と言ってもいいかもしれない。少なくとも、カップルとかそんな感じではなさそう。そもそも、イツキさん男かどうか分からないしね。

 

「えっと、アオイです。ここへは修行に来たんですが、予想外のハプニングに巻き込まれまして。カンナさんには危ない所を助けてもらいました」

「そうですか。察するに、イワークとディグダの掘った穴ぼこを踏み外しましたね。よくあるんですよ、この「マカハドマの洞窟」では」

 

 ここ、マカハドマの洞窟って言うんだ。

 へー、ふーん……地獄ですね、八寒の。だから寒いのか、ここは?

 

「それで、アオイさんはこれからどうするのです?」

「カンナさんに誘われましたので、一緒に洞窟の奥へ行こうかと思います」

「ほほぅ、カンナさんが“彼女”を見せるのですか。随分と信頼されていますね。珍しいです」

 

 そうなんだ。

 正直、一目会っただけの相手を、そこまで信用する感覚がよく分りませんがねぇ。私だったら絶対に忘れる自信がある。ポケモンの世界って優しい。

 

「それじゃあ、立ち話も何だし、奥へ進みましょうか」「それもそうですね」「了解です」

 

 そんなこんなで、私たちはマカハドマの洞窟の最奥を目指して、歩くのを再開した。モッサリと積もった雪に沈まないよう、各々のポケモンの背に乗って移動する。私はアキトに、イツキさんはネイティオに乗り、カンナさんはアローラサンドパンでカーリングをしていた。楽しそうですね。

 道中、色んなオーレンポケモンに出会った。

 ニド一族に加えて、オーレンのビリリダマとマルマイン、オーレンオムナイトにオーレンオムスター、更にはオーレンヒトデマンとオーレンスターミーもいた。どういうラインナップなんだ。

 

◆ビリリダマ(オーレンのすがた)

 

・分類:ひょうだんポケモン

・タイプ:でんき/こおり

・レベル:45

・性別:不明

・種族値: HP:30 A:20 B:40 C:60 D:40 S:140 合計:330

・図鑑説明

 雪山に捨てられたモンスターボールが変異したと言われている。人に出会うと電気を利用した猛スピードで転がってきて、強烈なスパークを食らわせる。普段は氷を食べている。

 

◆マルマイン

 

・分類:ひょうだんポケモン

・タイプ:でんき/こおり

・レベル:81

・性別:不明

・種族値: HP:50 A:30 B:60 C:85 D:60 S:205 合計:490

・図鑑説明

 体内に猛烈な冷気を溜め込んでおり、周囲の水分を凍結させて弾丸を作って、電気の力で発射する。自爆する時には周囲一帯を氷弾の雨あられが襲う。大好物は凍死した生き物。

 

◆オムナイト(オーレンのすがた)

 

・分類:さかまきポケモン

・タイプ:こおり/みず

・レベル:55

・性別:♀

・種族値: HP:90 A:40 B:35 C:100 D:55 S:35 合計:355

・図鑑説明

 必死に生きているのに絶滅させようとする世の理に、自分自身が凍り付いてしまった。心も体もガラスのように繊細でナイーブだが、切れた時は殊更に冷酷になる。

 

◆オムスター(オーレンのすがた)

 

・分類:さかまきポケモン

・タイプ:こおり/みず

・レベル:78

・性別:♂

・種族値: HP:115 A:60 B:70 C:125 D:70 S:55 合計:495

・図鑑説明

 開き直ってハイになった。邪魔する者は躍るように痛め付け、鼻歌交じりに捕食する。体から放たれる冷気は絶対零度の威力がある。

 

◆ヒトデマン(オーレンのすがた)

 

・分類:けっしょうポケモン

・タイプ:こおり/エスパー

・レベル:33

・性別:不明

・種族値: HP:45 A:30 B:50 C:80 D:50 S:85 合計:340

・図鑑説明

 ヒトデマンの本来の姿と言われている。通常のヒトデマンとは鳴き声も違う。極寒の宇宙を乗り切る為、こおりタイプになったらしい。高速回転しながら敵を切り裂くその姿は、まさにアイスカッター。

 

◆スターミー(オーレンのすがた)

 

・分類:なぞめいたポケモン

・タイプ:こおり/エスパー

・レベル:65

・性別:不明

・種族値: HP:75 A:60 B:80 C:110 D:80 S:115 合計:520

・図鑑説明

 銀河の果てからやって来た、星の戦士。とある使命を果たす為に地球へと飛来したらしい。輝くコアから放たれるビームは必殺の威力を持つ。寒さには強いが熱には弱く、温暖な地域では三分間しか戦えない。

 

 何こいつら、怖いんですけど……。

 マルマインはレジエレキより速いし、オムスターは陰キャになってるし、スターミーは恒点観測員になってるし。デュワッ、じゃねぇよ。

 カンナさんやイツキさんの協力があったから捕まえられたけど、一人だったら野垂れ死んでたな、これ。ウチはこおりが苦手な子が多いのよ!

 そうして銀世界の洞窟を進み続ける事、約二時間。ようやく最奥の間へ辿り着いた。

 

「奇麗……」

 

 そこはまさしく、氷の城だった。

 広さはスタジアム級。中央に聳え立つ結晶塔を中心に、樹氷が無数に生え、常に粉雪が降り頻っている。積もった雪が綿アメみたいで、何だか美味しそうだ。ジャック・スケリントンが訪れたクリスマスタウンも、こんな感じだったのかもしれない。

 さらに、結晶塔の根元にある、氷の玉座にて静かに眠る、一話の鳥。

 

「紹介するわ。この子がワタシの切り札、フリーザーのクウラよ」

『コォォルルゥウン!』

 

 それは伝説の鳥ポケモンの一匹――――――れいとうポケモンのフリーザーだった。ニックネームはまさかの戦闘力53万の兄貴。何でや。

 

「なるほどね……」

 

 確かにこれは切り札ですわ。エクストラは何でもありだそうだけど、伝説のポケモン使うとか、マジで自重しないな。これは他の四天王も心配になってくるな。オーレンのジムリーダーたちもね。

 

「……ええと、いつかお手合わせするかもしれないので、その時はよろしくお願いします」

『ヒュォォオオン!』

 

 「何時でも相手になってやる」と言っている感じがした。自信満々じゃないですか。こっちこそ楽しみにしてるよ。

 

「さて、ワタシはこの後イツキと一緒に地上へ戻るけど、貴女はどうするの?」

「えっと、それじゃあ――――――」

 

 ご一緒させて下さい、と言おうとして、言えなかった。

 

「危ない!」「……っ!?」

 

 突如、イツキさんに押し倒されてしまったからである。

 

「すみません、痛くありませんでしたか?」「いいえ、大丈夫です。むしろ、助かりました。ありがとうございます」

 

 とは言え、セクハラ呼ばわりするつもりはない。性別:イツキだし、何よりも、

 

『コォォラヌゥ!』

 

 空間を鏡のようにかち割って出現した、鳥ポケモンの放ったビームから、私を守ってくれたのだから。

 

「何よ、あいつ!?」

 

 突然の襲撃に驚くカンナさんだが、私はそれ以上に驚いている。

 だって、あのポケモンは――――――、

 

「フリーザー、ですか?」

「いいえ、紛い物ですよ。ガラルからやって来た、ね」

 

 れいこくポケモン、ガラルフリーザーなんだもの。一体どうして、どうやってここに……!?

 

『ヒュィイイヴヴヴッ!』

 

 だが、疑問が氷解する暇もなく、ガラルフリーザーが襲い掛かって来た。高原竜のような鳴き声を上げて。

 

 ――――――野生のフリーザー(ガラルのすがた)が現れたッ!




◆フリーザー(ガラルのすがた)

・分類:れいこくポケモン
・タイプ:エスパー/ひこう
・性別:ふめい
・特性:かちき→無効化中
・種族値
 HP:90
 こうげき:85
 ぼうぎょ:85
 とくこう:125
 とくぼう:100
 すばやさ:90
・図鑑説明
 凍りついたかのように体の自由を奪うビームを撃ち出す、フリーザーの名を持つポケモン。冷酷で卑劣な性格。サイコパワーで作った羽根の刃は、分厚い鉄板も紙のように切り裂く。常にサイコパワーにより浮遊している為、翼を羽ばたかせる事は殆どない。渡りを行い、何十年に一度かの間隔でカンムリ雪原に姿を現す。


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凍てつく悪魔と頼もしき者たち

アオイ:「フリーザーの紛い物め!」
?????:『紛い物だと? 貴様に何が分かる!』


『キョァアアアッ!』

 

 ガラルフリーザーが目からビーム……もとい、凍てつく視線を発射し、フリーザーのクウラを狙い撃つ。さっきのは射線上にいる私を邪魔だと思っての事のようである。

 人を羽虫扱いとは、舐めてくれるじゃない!

 

『コォルルルゥン!』

 

 フリーザーは避けるどころか、ミラーコートで跳ね返した。それ自体は躱されたものの、ガラルフリーザーを驚かせるには充分だったようで、一瞬だが動きが止まる。

 

「カンナさん、イツキさん! あいつはエスパー/ひこうタイプですっ!」

「分かったわ! クウラ、「れいとうビーム」よ!」『コォオオオオッ!』

「助かります! ネイティオ、「シャドーボール」!」『トゥートゥー!』

 

 その隙にカンナさんがクウラに冷凍ビームを、イツキさんがネイティオにシャドーボールを指示した。どちらもガラルフリーザーの弱点技だ。

 

「頼むわよ、ユウキ!」『ブイッ!』

 

 ついでに私もユウキを繰り出しておく。アカネちゃんを行かせてもいいのだが、弱点を突けるつける技が無いので、ユウキに任せる事にした。びりびりエレキを食らいやがれ!

 

『コォォラヌゥゥッ!』

 

 だが、ガラルフリーザーは確定麻痺技であるびりびりエレキのみを器用に避け、冷凍ビームとシャドーボールのダメージは自己再生で回復して、物の見事に振り出しに戻してくれやがった。

 

『ヒュィイイイッ!』『キュゥアアアアッ!』『コォォォラヌゥッ!』

 

 しかも、カンムリ雪原の遭遇時よろしく三体に分裂して、私、カンナさん、イツキさんのそれぞれに襲い掛かって来た。

 

「ユウキ、「びりびりエレキ」!」『ブィッ!』

『ヒュィイイイヴヴヴッ!』

「クソッ、上手く避けるな! それに――――――」

 

 

 どうやら全員が実体を持つ“分裂体”であるらしく、カンナさんたちが反撃しても消えず、自己再生を交えながら攻撃を仕掛けていた。面倒臭い奴だな。

 というか、回避率アップも含めて、相手が速過ぎてびりびりエレキが当てられない。確定で麻痺してしまうのがサイコパワーで分かっているのかもね。ユウキじゃちょっと無理かな。

 

「戻れ、ユウキ! 行け、アキト! メガシンカよ!」『ブヴヴウウウウウン!』

 

 よし、ここはメガアキトに任せよう。タイプ的には不利だけど、動き回る相手には、こちらがそれ以上に動いて攪乱するしかない。

 

『ブブゥウッ!』『ヒュィィィヴッ!』

 

 アキトとガラルフリーザーが壮絶なドッグファイトを繰り広げる。エアスラッシュを躱しながら、毒突きを放って毒状態を狙う。

 だが、向こうが飛び道具なのに対してこちらは接近戦オンリーなので、どうしても射程の差が出て来る。

 しかし、それは承知の上である。互いに攻撃が当たらず、痺れを切らして凍てつく視線を放って来た時が勝負だ。

 

『コォォラヌゥッ!』

 

 来たっ!

 

「アキト、「とんぼがえり」! ハヤテ、「ねこにこばん」!」『ホォグルドォッ!』

『ギギョォアアアアアアッ!』

 

 ガラルフリーザーが凍てつく視線を撃つ素振りを見せた瞬間、アキトは蜻蛉返りでハヤテと入れ替わり、猫に小判で文字通りの目潰しをしてやった。攻撃の起点が目からだったのが仇になったな!

 

「ハヤテ、「とんぼがえり」! アンズちゃん、「れいとうビーム」だ!」『クィイイインッ!』

『コァアアアッ!』

 

 そして、蜻蛉返りでハヤテとアンズちゃんを交換。目が眩んで怯んでいるガラルフリーザーに、アンズちゃんが冷凍ビームを食らわせ、氷状態にした。

 びりびりエレキが警戒されているのなら、別の技にすればいい。それも既に放たれている技で、今度はタイプ一致でも何でもない、となれば、多少なりとも油断するだろう。実はアンズちゃんの方がユウキより速いしね。

 仮にも名前がフリーザーなのに、バッチリ凍り付いているのには違和感しかないが、気にしたら負け。

 ともかく、これで何とか……、

 

『トゥートゥー!』

 

 突如、ネイティオが目の前にテレポートしてきた。

 さらに、間を置かずに別方向から、イツキさんと戦っている筈のガラルフリーザーのエアスラッシュが飛んで来て、ネイティオの身体を切り刻む。凍ってしまって動けなくなった分身ごと。

 あいつ、使い物にならないと分かるや否や、自分すらさっさと切り捨てやがった。れいこくポケモンの分類に恥じない非道さである。

 だが、的確な判断だ。ネイティオを始末し、あわよくば私とポケモンを一網打尽にする。少なくとも前者は上手く行った。

 

「くっ……!」「イツキさん!」

 

 その上、ネイティオが離れた一瞬の隙を突いて、イツキにも手痛いダメージを与えている。何の躊躇いもなくトレーナーを狙う辺り、奴の性格が窺える。

 しかし、その徹底した遣り方は、今回に限っては悪手だったぞ。

 

「こんのぉぉ……調子に乗ってんじゃないわよぉっ! クウラ、「ふぶき」!」『ホォォォォォ……!』

 

 カンナさんをマジ切れさせちゃったんだからな!

 

『キュゥイイゥ……ヒュィイヴヴヴゥ、ビュィィヴヴヴ、ギュィイイイヴヴヴァッ!』

 

 クウラの目と額の結晶が青白く輝き、視界の全てがホワイトアウトしてしまう程の猛烈な吹雪を巻き起こす。地方が違えば、特性は「ゆきがくれ」だったかもな。

 

『キョァアッ!』『ヒュィイッ!』

 

 既に自己再生が追い付かないくらいにダメージが蓄積し始めていた二体のガラルフリーザーは、核怪獣染みたクウラの吹雪を諸に受け、瞬く間に瀕死寸前に追い込まれた。

 

『グ……ギ、ギ……!』

「フーディン、「シャドーボール」!」「アンズちゃん、「れいとうビーム」!」

『ギャアアアアアアアアッ!』

 

 それでもしぶとく反撃しようとしていたので、私とイツキさんがトドメを刺してやった。いい加減、しつこいんだよ!

 

「イツキさん、ボールを!」「……っ、分かりました!」

 

 ガラルフリーザーが戦闘不能になったのを見て、私はイツキさんに捕獲の権利を譲った。二度も助けてもらったお礼って奴である。

 

「お前のような高慢ちきの外道は、ボクが躾けて差し上げますよ!」

『……、…………、………………!』

 

 ――――――カチッ☆!

 

 イツキさんの投げたゴージャスボールが、見事にガラルフリーザーを捕獲した。金持ってんなアンタ。

 こうして、突然現れ、いきなり襲い掛かって来た、悪逆非道なれいこくポケモンは、将来の四天王が持つ切り札として、その手中に収まる事となった。

 あの空間のひび割れもいつの間にか塞がっていたし、万事は解決。バンジ島だけに?

 

「フゥ、終わったようですね」

「そうね。アオイもお疲れ様。さぁ、目的は果たした事だし、洞窟を出ましょう。イツキ、テレポートをお願いね」

「……こんな時まで働かせますか、貴女は」

「薬代はちゃんと出すわよ」

「ハイハイ、分かりましたよ……」

 

 そして、一番疲れている筈のイツキさんの手を借りて、私たちはマカハドマの洞窟を後にしたのだった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「何処かの巣穴でレイドバトルでもしませんか?」

 

 バンジ島唯一のポケセンで回復を済ませ、少し落ち着いた所で、私はそう切り出した。緑茶が美味しい。

 

「まぁ、リーグ開催までまだ日があるから別にいいけど、一人足りないんじゃない?」

「ボクは既に勘定されてるんですか?」

「あら、レディからの誘いを断るの?」

「相手にもよりますねぇ……」

 

 楽しそうだねキミら。

 しかし、人数不足は確かに問題ね。何処かにいいカモ……じゃなかった、トレーナーはいないかしら?

 

「あっ、カンナさん! やっと見付けました! ……それにアオイじゃない。何でいるの?」

 

 と、そこへ救世主――――――ハナダジムのお転婆娘こと、カスミが登場した。

 

「何でいるかって、それはこっちの台詞なんですけど?」

「うーん……ま、それもそうね。もちろん、カンナさんに会う為よ! この前ハナダに来た時はニアミスしちゃったし。で、用事でオーレン諸島に出掛けてるって、通りすがりのシバさんから聞いたから、居ても立ってもいられなくて、飛んで来たってワケ」

 

 なるほど、追っ掛けか。アニポケでカンナさんのファンだったのが、ピカブイにも逆輸入されてるらしいからね。この世界でそうなっていてもおかしくはない。

 

「……あの脳筋馬鹿、人のプライベートをペラペラと」

 

 おっと、カンナさんのウーハーに対する心証が少し下がりましたよ。たぶん、私でも下がると思うけど。

 

「ともかく、カンナさんを追い掛けて来たのなら話が早いです。カスミさん、カンナさんたちと一緒にレイドバトルしません? ちょうど一人募集していた所なので」

「えっ!? マジで!? もちろんOKよ!」

 

 よしよし、ファンクラブなら断らないと思っていたよ。これで人数問題は解決ね。

 

「……そう言えば、オーレン諸島ってそこそこ入島制限厳しいんじゃないでしたっけ?」

「あら知らないの? ジムリーダー特権よ。フリーパスなら皆が持ってるわ」

 

 その分、立場を維持するのが大変なんだけどね、とカスミは続けた。苦労してるんやなぁ。良いポケモン出たら譲ってあげよう。

 

「……ところで、そっちの人はどなた?」

「ああ、触れてはくれるんですね。イツキと申します。どうぞよろしく」

 

 何気にカスミに存在すら気付かれていなかった、イツキさんであった。不憫な奴。

 

「ハイハイ、それじゃあレイドしに行きますか。良いスポットを知ってるから、案内してあげる」

 

 まるでこれから観光でも行くかのような口振り。さすがカンナさん、カスミが憧れるのも分かるわー。

 

「そうですね! 行きましょう、そうしましょう!」「カスミさん元気ですねー」「ボクはむしろ吸われましたよ……」

 

 そういう事になった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 それからそれから。

 

「ここがそうよ」

 

 さっきみたいに踏み外さないよう気を付けながら歩く事しばらく、私たちは巣穴の前に辿り着いた。これに触れると主ポケモンが飛び出して来て、有無を言わさずレイドバトルになってしまうから気を付けなくては。

 それにしても、頼もしい面子だなぁ。四天王に四天王候補、ジムリーダーって。今ならグリーンに勝てる気がする。自意識過剰かもしれないけどね。

 とにかく、私は今からこの面々と、ガラル地方でもないのにレイドバトルが出来る。燃えて来たぁ! 雪山の麓だから寒いけど!

 

「準備はいいかしら?」

「ハイ、カンナさん!」「大丈夫ですよー」「何時でもどうぞ」

「いいようね。さて、鬼が出るか蛇が出るか……行くわよ!」

 

 カンナさんが巣穴の縁に触れる。その瞬間、青白い螺旋の光が虚空を渦巻き、やがて巨大な主ポケモンを召喚した。

 

『ガァアアアギィイイングルォオオオッ!』

 

 現れたのは、オーレンのニドキング。通常種を青白くして、背中に氷の翼を生やした感じの姿をしている。目付きが初期の頃と同じくらいに鋭い。

 どうでもいいけど、見た目はデストロイアっぽいのに、鳴き声がG兵器のメカゴジラなのはどうにかならんのか。どっちも耐熱仕様ではあるけど、こいつ自身はこおりタイプだろうから、微妙にマッチしていない。

 ……うーん、私の予想ではこおり/じめんだと思うのだが、どうだろう?

 

◆ニドキング(オーレンのすがた)

 

・分類:ひょうごくポケモン

・タイプ:こおり/ドラゴン

・レベル:89

・性別:♂

・種族値: HP:104 A:102 B:95 C:125 D:95 S:35 合計:555

・図鑑説明

 凍てつく大地の支配者。口から吐く竜の波動はあらゆる物を破壊し、身体から放たれる凍てつく波動は全ての時を止めてしまう。同族意識が高く、例え自分の家族でなくとも仲間が傷付く事を許さず、それを為す敵も許さない。

 

 ド、ドラゴン……だと……ッ!?

 いや、違和感はないけど、マジで恐竜になるとは。オーレンイワークといい、元の要素何処に置いてきた。このノリだと、ニドクインの方もドラゴンタイプになっている可能性も……。

 つーか、特攻ヤベェ。主限定の補正が掛かっているとしても、ガラルフリーザーと同値はマズいだろ!?

 

「お願い、アカネちゃん!」『ピッピィッ!』

 

 だが、ドラゴンタイプだと言うのなら、アカネちゃんの出番だ。図鑑に思いっきり竜の波動って書いてあるし、メイン技の一つを潰せるのなら、使わない手はない。

 

「行きなさい、ラプラス!」『クェエエン!』

「頼みますよ、ヤドラン!」『ドラァン!』

「出て来て、スターミー! マイ☆ステディ!」『ギュルラン!』

 

 カンナさんたちも手持ちを繰り出す。ラプラスにヤドラン、スターミーか。悪くないな。ヤドランがガラルの姿だけど。世界を旅しているというだけの事はあるなぁ、イツキさん。

 

「イツキさん、何そのヤドラン!? 見た目が普通のと違うんですけど!?」

「世界は広い、という事ですよ」

「へぇ、スゴーイ……」

 

 カスミから見たらまるで別物なので滅茶苦茶ビックリしていたが、イツキさんが余裕の態度で答えたので、それ以上追及する事は無く、スゴーイで終わってしまった。

 まぁ、そもそも今は突っ込みを入れてる場合じゃないしね。目の前の敵に集中しましょう。

 

「アカネちゃん、「ゆびをふる」!」『ピッピィ~♪』

 

 という事で、久々に使ってみました、指を振る。引いたのはこの指止まれ。指を振って指技を引くのもどうかと思うが、今回は具合がいい。相手のドラゴン技を一手に引き受けられるからね。

 

『ガァァギィイヴン!』「無駄無駄ァッ!」

 

 案の定、オーレンニドキングはダイドラグーンを放とうとしていたので、見事にスカす事が出来た。ヤッタネ!

 

「ナイスアシストよ! スターミー、「10まんボルト」!」『ギュルァアアン!』

 

 すると、チャンスと見たカスミがスターミーに10万ボルトを指示。高圧の電撃がオーレンニドキングを襲い、麻痺状態にする。やっぱり持ってるな、この人。

 

「畳み掛けるわよ! ラプラス、「りゅうのはどう」!」『キュアアアアアッ!』

「言われずとも! ヤドラン、「シェルアームズ」!」『ドックラァアアンッ!』

 

 さらに、カンナさんのラプラスとイツキさんのガラルヤドランが追撃。一気にバリア形成レベルまでHPを減らした。これを割れば一気に倒すのが楽になる。

 そうなると、誰かダイマックスをしなければ効率が悪いのだけれど――――――何と私、ダイマックスバンドを借りっぱなしだった事に今気付いた。やっちまったぜ!

 しかし、あるなら使わせてもらおう。便利な道具は使わなきゃ損だからね。

 

「……アカネちゃん、ダイマックスよ!」『ジュワッピーッ!』

 

 さながら光の巨人の如くダイマックスするアカネちゃん。元が可愛いから、デカくなると逆に怖い。

 

「アカネちゃん、「ダイスチル」!」『ドリャアーッ!』

 

 アカネちゃんのダイスチルが炸裂し、五重層のバリアを二枚分削る。

 

「スターミー、「サイコキネシス」!」『ジュラララン!』

 

 続いて、スターミーのタイプ一致サイコキネシスが炸裂。残るはあと二枚。

 

「ラプラス、「りゅうのはどう」!」『キャアアアアッ!』

「ヤドラン、「サイコキネシス」!」『ドッドォラァン!』

 

 その後、ラプラスの竜の波動とヤドランのサイコキネシスが残存するバリアを全て叩き割り、オーレンニドキングの能力を大きく下げた。それも麻痺でバグるオマケ付き。これはチャンスね!

 

「アカネちゃん、もう一度「ダイスチル」!」『ウリャリャリャッピ!』

『ゴァァァアアアアアッ!』

 

 そして、アカネちゃんのダイスチルが再び炸裂し、オーレンニドキングは倒れた。食らえ、プレミアボール!

 ……陸生のこおりタイプを見ると、何故かプレミアボールに入れたくなるのよね。

 ともかく、オーレンニドキング、ゲットだぜ~♪

 

 HP:104 A:102 B:95 C:125 D:95 S:35 合計:555

               ↓

 HP:94 A:102 B:75 C:125 D:75 S:35 合計:505

 

 うむ、やっぱり下がったか。でも攻撃系の種族値はそのままなのね。怖いわー、このポケモン……。

 

「さっすがアオイ、やるじゃない!」

「それ程でも~♪」

 

 角ドリルで初見殺しかまして来た人に言われても、あんまり嬉しくないけどね~♪

 

「さぁ、この調子でどんどん行きましょう!」

「OKです!」「了解です!」「構いませんよ」

 

 という事で、次なる巣穴へLet’s Go!

 

『ホォルリリリィッ!』

 

 今度の主はオーレンモルフォン。角が雪の結晶と化し、体色が色違いの物と同じになっている。心なしかオオミズアオのようにフサフサだった。

 ただ、さっきニドキングショックがあったばかりなので、一応は確認しておこう。

 

◆モルフォン(オーレンのすがた)

 

・分類:ふゆがポケモン

・タイプ:むし/こおり

・レベル:91

・性別:♂

・種族値: HP:80 A:55 B:70 C:105 D:75 S:120 合計:500

・図鑑説明

 冬の化身と言われるポケモン。冬の訪れと共に現れ、羽ばたきながら粉雪をばら撒く。怒ると猛吹雪を引き起こし、あっという間に敵を凍死させてしまう。

 

 フゥ……ちゃんとむし/こおりだった。タイプ的にはモスノウと全く一緒だな。無効と違ってムッチャ速いけど。ストライクより速いって凄いな。さすがにアギルダーには負けるけどね。それでも速いし、特攻が高い。面倒臭い奴だなぁ……。

 

「よし! 行って、アンズちゃん!」『コァアアアン!』

 

 ここは火炎放射を覚えているアンズちゃんで、毒を無効化しながら攻めたろ……と思ったのだが、

 

「あれ!?」『クァン?』「いや、クァンじゃないが!?」

 

 いつの間にか、アンズちゃんがオーレンニドクインになってました。オーレンニドキングのように翼こそ無いが、肩や尻尾の先に氷の結晶が形成されていて、まるでスペースゴジラみたいな姿になっている。もしかして飛べたりするのか?

 だが、どうして急にオーレンの姿になったのだろう。

 もしかして、さっきのガラルフリーザとの死闘で、何か影響を受けたのか?

 でも、リージョンフォームって、タネポケから変化している種は、生まれた時からじゃないと変質しないんじゃなかったっけ?

 だけど、オーレン諸島自体が本筋からすればイレギュラーな存在だし、よく分らんなぁ……。

 とりあえず、図鑑見とくか。

 

◆ニドクイン(オーレンのすがた)(アンズ)

 

・分類:ひょうごくポケモン

・タイプ:こおり/ドラゴン

・レベル:83

・性別:♂

・種族値: HP:100 A:92 B:97 C:95 D:95 S:26 合計:505

・図鑑説明

 氷獄の貴婦人とも呼ばれる、高貴なポケモン。立ち振る舞いにも気品が溢れ、見る者を魅了し釘付けにする。そして、考える事を止めた獲物を凍らせ、コレクションにしてしまう。

 

 意外と図鑑説明が怖いんですけど。ウチのアンズちゃんはそんな事しないよっ!

 いや、今はそんな事よりバトルだ、バトル!

 

「と、とにかく、行くよ、アンズちゃん!」『コァアアン!』

 

 どんなに姿形が変わっても、アンズちゃんはアンズちゃんだからね!

 

「よーし、ワタシも! アズマオウ、マイ☆ステディ!」『ズマァヴォゥ!』

「行きなさい、ジュゴン!」『ジュゴォォゥン!』

「頼みますよ、ネイティオ!」『トゥートゥー!』

 

 カスミたちも順次ポケモンを繰り出す。あ、トラウマ居る……。

 まぁ、今回の相手はレベルが高い以外はそこまで凶悪じゃないから、一気に攻めていこう。弱点突かれる心配も無いしね。

 

『ヒュォオオオオッ!』

 

 訂正、こいつ吹雪をダイアイスで放って来やがった。これで約5ターンは必中吹雪が来る訳である。ヤバい、さっさと片付けないと、アンズちゃんとジュゴンはともかく、アズマオウとネイティオがスリップダメージで事故死する。

 

「次はワタシが行くわ! ジュゴン、ダイマックスよ!」『ジュゴォアアアアアッ!』

 

 おおっ、ジュゴンがダイマックスした。何かトドラの親戚みたいで嫌だな。206便消滅させそう。

 

「ジュゴン、「ダイストリーム」!」『ゴァアアアアアアアッ!』

 

 ジュゴンの口から、波動砲のような激流が放たれ、天候を雨に変える。

 ナイスです、カンナさん! これで霰をかき消しただけでなく、みず技の威力も上がった。アズマオウの本領発揮である。

 

「アズマオウ、「たきのぼり」!」『ズマァッ!』

『キィィィイイイッ!』

 

 よしよし、バリア圏内までHPを減らせたぞ。枚数も三枚だし、そんなに苦労しないで済みそう。

 さあ、シン・アンズちゃんよ、キミの力を見せてやれ!

 

「アンズちゃん、「れいとうビーム」!」『コォオオオッ!』

 

 おお、タイプ一致は威力が違うわ。バリアのせいで意味ないけど。

 

「ネイティオ、「エアスラッシュ」からの「ふいうち」!」『トゥートゥーンッ!』

 

 さらに、ネイティオの畳み掛けるような連続攻撃でバリアが消滅。オーレンモルフォンは丸裸にされた。

 

『キシャアアアアアアッ!』

『クァァァン……!』「耐えて、アンズちゃん!」

 

 苦し紛れにオーレンモルフォンがダイワームとダイアイスを立て続けにアンズちゃんへ放って来たが、それくらいじゃ落とされないぞ!

 つーか、何で私たちだけ狙い撃ちなんだよ、ぶっ殺すぞ!

 

「仕留めなさい、ジュゴン! 「ダイストリーム」!」『ゴァアアアアヴォッ!』

『フォルリィィ……!』

 

 そして、カンナさんのジュゴンがダイストリームで止めを刺し、何故かゲットを許されたのでゲットしたった。ヤッタゼ!

 

 HP:80 A:55 B:70 C:105 D:75 S:120 合計:500

              ↓  

 HP:70 A:55 B:60 C:105 D:55 S:110 合計:450

 

 ハイ、下がりましたー。それでも速いんだけどねー。

 

「……貴女、本当にやるわねぇ」

 

 と、ホクホクしている私を見て、カンナさんがニヤリと笑った。

 おやおや、その不敵な笑顔は何ですかな?

 

「せっかくだから、バンジ島のジムに挑まない? 強いわよ、“あの子”は……」

 

 ぬっ、そんな言い方されると気になるじゃないですか。

 ウムムム、私としては、まだ挑むつもりは無かったんだけど……。

 いや、カンナさんの口振りからして、彼女のライバルか弟子に当たる人物だろうから、戦う意味は大いにあるだろう。アンズちゃんも新たな力を得た事だし(ついでに見せ場が無かった事だし)、何より女は度胸だ。やったろうじゃないの!

 

「――――――受けて立ちますよ!」

「そう来なくっちゃ。案内するわ♪」

 

 こうして、私はバンジ島の最奥――――――バンジジムに挑戦する事と相成った。




◆バンジ島

 荒涼とした大地が広がる、凍てついた島。結晶の影響によって島全体が寒冷化しており、様々なこおりタイプのポケモンが見られる。主はカンナのフリーザーで、オーレンイワークが掘り進んで造った地下迷宮の最奥地に潜んでいる。
 元々は無人島だったのだが、環境調査を名目に若干だが人の手が加わっており、今ではジムもあるが、当然ながらジムの関係者以外は誰も居ない。
 一応、ポケモンセンターはあるものの、遠隔操作のメタルジョーイさんが勤めているのみであり、常駐する人間は皆無である。


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氷結の姫君と虫の知らせ

アオイ:「何とかは高い所に上りたがるって言うよねー」
カスミ:「本当よねー」
カンナ&イツキ「………………」


「……着いたわよ」

 

 カンナさんに導かれ、辿り着いたのは、バンジ島の最奥地であるダイオウ山の頂上。そこにバンジジムがある。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

 つまり、滅茶苦茶疲れた。何が悲しくて、こんなサスツルギが波打つ大雪山モドキを、徒歩で登らにゃならんのだぁ、凍死するわっ!

 

「だらしないわねぇ」

「四天王の体力と同じにしないで下さい」

 

 チクショウ、涼しい顔しやがって。厚着してても寒いんだよ、こっちは!

 

「フーッ……フーッ……こんなんじゃ、カンナさんには……追い付けな――――――」

「とりあえずユウキに暖めて貰え! 今寝たら、確実に死ぬぞ!」『ブッブイィィ!』

 

 見ろ、この有様を。カスミの意識に霞が掛かってるじゃないか……ってつまらぁぁん! 何を言ってるんだ、私はぁあああああっ!

 クッソ、私も半ば意識が遠退いてやがるからな。頭の中までお寒いよ畜生め。

 つーか、何でカンナさんは平気なの? 本当に同じ人間なんですか、貴女は?

 ちなみに、イツキさんは既に地点登録しているらしく、ネイティオに跨って一っ飛びしていた。ズルい!

 

「ほら、早く入らないと死んじゃうわよ?」

「誰のせいだと思ってんだぁ、このほでなしがぁっ! カスミぃ、しっかりしろぉ!」「嗚呼、お母さん……そこにいたのね……」「違うから! それスマイル0円の死神だからぁ!」

 

 と、ともかく、中へ退避しなければ……。

 

「――――――って、中も寒いのかよぉっ!」

 

 しかし、避難先であるジムの中も氷漬けのスケートリンク状態だった。これ、ゲームで見たぞ。チョウジタウン辺りでなぁ!

 さらに、待ち構えるトレーナーたちの格好と来たら、タキシードやドレス+スケート靴と、今にも氷上でミュージカルをやりそうな物ばかり。服のチョイスとメイクから考えて、お題目は「美女と野獣」だろう。こいつら正気か。

 

「ラ~ララ~♪ 私はラ・ベル~♪ 羊飼いの末娘~♪」

「だから何だぁああああああああああああああああっ!」

 

 まずは一人目。自分で美女を名乗るな。手持ちはもちろん、こおりタイプ。オーレンスターミー(Lv75)を繰り出して来た。

 

「ユウキ、「めらめらバーン」!」『ブィイイッ!』

「あ~ん♪」『ギュァ~ン♪』

 

 むろん、ユウキのめらめらバーンで一発である。レベルを上げて出直して来い!

 

『ア~ア~♪ 俺は~、醜い野獣のリンドブルム~♪』

「二度と陽の目を拝めない顔にしてやらぁあああっ!」

 

 氷上をガチガチになりながら進んだ先にいたのは、カエンジシっぽい仮面を被った男性役者。手持ちはオーレンニドキング(Lv78)。

 

「ニドキング、「れいとうビーム」~♪」『ガァギィイインッ!』

「すっこんでろぉ! アカネちゃん、「コズミックパンチ」!」『オンドリャーッ!』

「『ギャアアアアアッ!』」

 

 精進が足りんわ、このライオン丸モドキがぁ!

 

「僕らは双子の王子様~♪」「スワンナとクレイナンだよぉ~ん♪」

「鶴は亀と躍ってろやぁ! テメェら焼き鳥にして食ってやるぁ!」

「「ヒィイイイイイッ!?」」

 

 手足の感覚がなくなり始めた頃に出くわしたのは、白鳥と鶴のコスプレをした王子様。その癖出してくるのはアローラサンドパン(Lv79)とアローラキュウコン(Lv79)。そこはスワンナとかじゃねぇのかよ。

 

「ユウキ、「めらめらバーン」! アカネちゃん、「コズミックパンチ」!」『ブッブィッ!』『ピィーッ!』

「「ドワォ~♪」」

 

 今更四倍弱点持ちが相手になるかぁ!

 クソッタレが、あまりにも寒過ぎて苛々して来た。もう取り繕う余裕もない。凍えている筈なのに何故か身体が段々熱くなって来たし、いい加減に店長……いや、ジムリーダーを呼べぇえええぇいっ!

 ぶっ殺してやるからよぉおおおおおおぅ!

 

「……来たわね」

 

 そして、ちょっと小太りな姉妹コンビや世界一ツイてなさそうな王様を撃破した果てに、私は辿り着いた。

 純白に青いラインが入ったドレスを纏う、金髪巨乳の美少女。頭には赤と白の薔薇の付いたカチューシャをしている。何か変人な兄貴がいそう。

 

「私はアスカ! バンジジムのジムリーダーよ! ここバンジジムは――――――」

「御ぉぉ託はいいからぁ、さっさと掛かって来ぉぉおい! さもなきゃクチバジムみてぇに放火してぇ、ここを火の海にしてやんぞぉぁっ!?」

「ええぇっ!? ちょ、待っ……れ、冷静に――――――」

「喧しいやぁっ! ハラワタが凍り付きそうなせいで、頭が煮え繰り返ってんだぃよぉっ! ぶっ殺してやるから、その首差し出せってんだぁああああっ!」

「何この子!? カ、カンナさーん!? 久し振りに来てくれたと思ったら、どうしてこんな犯罪者を連れて来たんですかーっ!? だ、誰か助けてーっ!」

 

 じゃかぁしいわ、こちとら天下のロケット団ぞ。そこらのチンピラと一緒にするんじゃねぇ!

 余談だが、そんな私たちのやり取りを見ていたカンナさんの反応は、

 

「アッハハハハハハッ! 表裏のありそうな子だとは思ってたけど、予想以上ね! 本当に最高よ、最高ッ!」

 

 抱腹絶倒の大笑いだった。

 あんた、人の事そんな目で見てたのか。ぶっ殺すぞ!

 

「コホン……と、とにかく、挑んで来ると言うなら相手になるわ。行くわよ、テンジョウインの名の下に!」

 

 ――――――ジムリーダーのアスカが勝負を仕掛けて来たッ!

 

「凍り付かせなさい、マルマイン!」『コッコォオリッ!』

「やってみろやぁ! 逆にローストしてやらぁ! トレーナーごと食っちまえ、ユウキぃ!」『ブ、ブィ!?』

「何なのよマジでこの子はーっ!?」『ボォ~ル……!』

 

 初手はアスカがオーレンマルマイン(Lv83)、私はユウキ(Lv84)を繰り出した。何か全員に怯えられているような気がするが、知るか。私は早く麓に帰りたいんだよぉっ!

 

「お、脅かしてイニシアチブを握ろうったって、そうはいかないわよ! マルマイン、「でんじは」!」『コォボォール!』

 

 まずはオーレンマルマインが麻痺を撒いてきた。速さは元からこっちが負けているので、バグり狙いか後続への繋ぎでしかない。

 

「ユウキぃ、気合で直して「めらめらバーン」だぁっ!」『ブィ……ブィイイッ!』

「嘘でしょ!?」『バリマルゥ……!』

 

 ユウキは私を悲しませまいと自力で麻痺を治して、代わりにめらめらバーンをオーレンマルマインに叩き込んで火傷状態にした。

 

「マルマイン、あなたならまだ行けるわ!」『バリ……コォオオオオル!』

 

 だが、向こうも気合で火傷を治癒して、スリップダメージを防いだ。さすがジムリーダー、ポケモンとの絆はバッチリのようである。

 

「マルマイン、麻痺はもういいわ! 「れいとうビーム」よ!」『コォボォオオオル!』

 

 さらに、搦め手を即座に諦め、冷凍ビームをぶっ放して来た。良い判断だ、このアマァッ!

 

「ユウキ、「いきいきバブル」!」『ンンン……ブイッ!』

 

 だので、こっちもゴリ押しする事にした。残り僅かなその体力、糧とさせてもらう!

 

「……戻って、マルマイン。凍えさせるのよ、カビゴン!」『ガァビゴォオオオン!』

 

 倒れたオーレンマルマインと交代で現れたのは、オーレンカビゴン(Lv82)。出たな鳴き声:伝説怪獣め。

 

「ユウキ、「めらめらバーン」!」『ブイッ!』

 

 とりあえず、火傷は入れておく。こいつ、素早さと特攻をかなぐり捨てた代わりに、原種以上の耐久力を持った物理アタッカーになったからな。攻撃力を下げておいて損はない。効果は抜群だしね。はがねタイプが欲しい。

 

「カビゴン、「れいとうパンチ」!」『ゴォオオオン!』

「当たるなよ、ユウキぃ!」『ブッブーイ!』

 

 攻撃力が下がっていようがお構いなしか。どうせ眠るだろうしね。

 ならば、ライフちゅっちゅギガントしてくれるわ!

 

「ユウキ、「いきいきバブル」!」『ンン……ブイッ!』

「カビゴン、「ねむる」!」『ンズズズ……ZZZzzz……』

「やはり眠って体力回復を図ったな! 戻れ、ユウキ! 行け、アカネちゃん! 「コズミックパンチ」でカビゴンを亡き者にしろッ!」『ウリャーッピ!』

『………………!』

 

 眠ってしまったが故に、見す見すポケモン交換を許し、アカネちゃんのコズミックパンチによる四倍ダメージを食らってしまうオーレンカビゴン。いくら硬くとも、さすがに四倍ダメージは痛かろうて。それでもHP半分削れてないんだけどな!

 しかし、コズミックパンチにはコスモパワー効果もある。寝ている間に要塞化させてもらうよ。

 

『……ンゴァアアアアッ!』

 

 おっと、思ったよりも早く目覚めたな。

 だが、時既に遅し。もう耐久力は一段階上がっている。このまま硬さを前面に出してゴリ押しだ!

 

「アカネちゃん、続けて「コズミックパンチ」!」『ウリャーッ!』

「カビゴン、「れいとうパンチ」で殴り返しなさい!」『ゴァッ!』

 

 くっ、さすがに体重差があるか。火傷も治ってるし、パワーは向こうのが上だからね。

 

「カビゴン、「ねむる」!」『ZZZzzz……』

 

 しかも、また眠りやがった。ニート過ぎんだろ。叩き起こしてやる!

 

「アカネちゃん、「ゆびをふる」!」『ピェーイ♪』

 

 引いたのは嫌な音。若干地味だが、最初から城塞なオーレンカビゴン相手には絶妙な技だ。遠慮なく永眠させてやる!

 

「アカネちゃん、「コズミックパンチ」からの「ウルトラクッキング」!」『ゲンキもりもりピーッ!』

『ゴァアアアアッ!』「カビゴン!」

 

 そして、下がった防御を突きまくる弱点攻撃により、オーレンカビゴンは陥落した。

 

「相手は動けない。仕留めるチャンスよ、ニドクイン!」『コァアアン!』

 

 次なるアスカのポケモンは、通常色のオーレンニドクイン(Lv84)。素早さはアカネちゃんの方が勝っているが、どの道今は太って動けないので、考慮する必要は無いだろう。

 

「ニドクイン、「アイアンテール」!」『キュァアアン!』

『ギエーッ!』「アカネちゃん!」

 

 耐久力の一段階アップに成功していたおかげで一撃では落とされなかったが、さすがにもう無理か。

 

「更に「こおりのつぶて」よ!」『コァアアアン!』

『ピィ……!』「戻って、アカネちゃん。……八つ裂きにしろ、アキトぉ! メガシンカぁ!」『ブゥウウン!』

 

 瀕死になったアカネちゃんを戻し、私はアキトを展開してメガシンカさせた。タイプ相性は微妙だが、こいつには逆鱗があるんだよ!

 

「「こおりのつぶて」!」『コァッ!』

「このぉっ! 「げきりん」!」『ビァアアアアアアッ!』

『コァァァ……!』「戻って、ニドクイン!」

 

 氷の礫で鼬の最後っ屁を食らってしまったが、問題なく八つ裂きにしてやった。イピカイエ~♪

 

「氷結させるのよ、オムスター!」『コルァアアアッ!』

 

 お次はオーレンオムスター(Lv83)か。原種よりも種族値配分が良くなり、特攻も上がっている。こいつも特攻種族値がガラルフリーザーなんだよなぁ……。

 

「オムスター、「アクアジェット」で離れて「からをやぶる」!」『オッスタァアアアッ!』

 

 チクショウ、積まれた!

 逆鱗で暴走状態になっている隙を突かれたな。やってくれる。

 

「「アクアジェット」で動き回りながら、「れいとうビーム」を連打よ!」『オッスオッス!』

「「とんぼがえり」!」『ブブ……ブヴォオオン!』「チッ……!」

 

 くそぅ、駄目か。混乱しちゃったからな。仕方ない、次はこいつに任せるか。

 

「冷凍食品にしてやれ、アンズちゃん!」『コァアアン!』

 

 こおりタイプにはこおりタイプでしょ。お互いに抜群の有効打が無いけど、アンズちゃんには飛び道具だけでなく、地形攻撃も揃っている。逃げるだけじゃ勝てないぞ!

 

「アンズちゃん、「じしん」で足止めしてから「りゅうのはどう」!」『クァアアアアッ!』

 

 さっそく地震でジェットの限り逃げ回っているオーレンオムスターの動きを乱し、竜の波動を食らわせようとした。

 

「オムスター、「なみのり」!」『オッムスターン!』

 

 だが、オーレンオムスターは地面が揺さぶられたのを逆用して波に乗り、反撃して来た。やりやがったな、この野郎!

 

「「れいとうビーム」で凍らせろ!」『クォォオオオッ!』

 

 しかし、私は転んでも只では起きない。発生した大波を冷凍ビームで凍らせ、乗りに乗っていたオーレンオムスターの動きをさっき以上に乱した。これにはオーレンオムスターもバランスを崩し、隙を晒す。

 

「更に「じしん」、そして「れいとうビーム」!」『コォルァアアアアアン!』

 

 さらに、氷山となった波を地震で崩して、落ちて来た所を冷凍ビームで狙撃した。

 

「「どくづき」!」『コァアアアン!』

『キュゥ……!』「オムスター……!」

 

 そして、一気に懐へ飛び込んで、毒突きで仕留めた。いくら素の耐久力が高くても、殻を破った状態で、あの怒涛の連撃を受け切れる訳がない。

 これで私の残りは手負いのアンズちゃんとユウキ、無傷のヒナゲシちゃん。アスカは正体不明の一体のみ。

 さぁ、最後のポケモンを出すがいい、バンジジムのジムリーダー、テンジョウイン・アスカぁっ!

 

「……まさか、ここまで追い詰められるとはね! だけど、この子を引き出した以上、容赦はしないわ! 行きなさい、フリーザー!」

『コォォラァスゥ!』

 

 繰り出されたのは、伝説の鳥ポケモンであるフリーザー(Lv90)。それも色違いの個体で、より吹雪の化身を思わせる姿をしている。

 ……さすがはカンナの弟子、切り札に伝説のポケモンを持ち込むとか、本当に容赦ない。

 

「良いだろう、フリーザーなんて捨てて掛かって来い! 怖いのかぁ!?」

「誰が捨てるか! 滅茶苦茶ビビってるじゃないの、いい加減にしろ!」

 

 チッ、捨ててくれないのか。なら、命を捨てて掛かって行くしかないなぁ!?

 

「戻れ、アンズちゃん! 行け、ユウキ!」『ブイッ!』

 

 今、私の手持ちにいわ伎を持っている子はいない。四倍弱点を突けないのは痛いが、ここは確定麻痺で動きを封じるとしよう。

 

「フリーザー、「れいとうビーム」!」『ビュィイイヴッ!』

「頑張れ、ユウキ! あなたなら耐えられる!」『ブィィ!』

 

 準伝説級の冷凍ビームは正直キツいが、耐えられない事も無い。元々フリーザーの特攻はパッとしないからね。ピカブイ世代だと真面なひこう技も無いし。

 

「食らえ、「びりびりエレキ」!」『ブッブゥーイ!』

 

 ユウキのびりびりエレキが当たり、フリーザーが麻痺状態になる。

 

「……治しなさい、フリーザー!」『ヒュォオオッ!』

 

 当たり前のように麻痺を治すなぁ!

 

「フリーザー、「エアスラッシュ」!」『ビュゥイイヴヴッ!』

「何ィ!?」『ブイッ!?』

 

 さらに、この世代では覚えるはずの無いエアスラッシュで怯ませてきた。一体どうして!?

 

「こう見えて、オーレン諸島は技マシンの開発に余念が無いのよ。技レコードが大量に手に入るからね」

「くっ……そういう事か……!」

 

 技レコードを含むレイドバトルの報酬は、主ポケモンたちが宿していたエネルギーが固形化した物であり、それを研究すればカントー地方には存在しない技マシンの開発など朝飯前なのだろう。この世界はポケモン在りきだからね。

 ……となると、本土に公開されてないだけで、既に100番台まで製造されてるんじゃないか!?

 マズいな。今更と言えば今更だけど、既存の知識が通じないのは、こっちが不利だぞ。

 

「「いきいきバブル」!」「「ミラーコート」!」

『ブィァ……!』『コォラスゥッ!』

 

 クソがっ、ミラーコートも搭載してるのかよっ!

 どうする、ユウキが落ちたとなると、本格的に有効な奴がいないぞ!?

 

「――――――仕方ないわね」

 

 私はそっと、ヒナゲシちゃんのボールを触った。ミラーコートを持ったこおり/ひこうタイプを相手に、彼女を出した所で狩られるだけである。

 そんな事は(・・・・・)分かっている(・・・・・・)ヒナゲシちゃんも(・・・・・・・・)分かっている(・・・・・・)

 

「頼むわよ、ヒナゲシちゃん!」『ラフリィイイイイイッ!』

 

 全てを分かり合った私たちは、フリーザーの前に立った。

 

「……フリーザーを前にくさタイプを出すとはね。焼が回ったのかしら? でも、容赦はしないわ! 食らいなさい、「れいとうビーム」!」『ギュィイイイヴヴッ!』

 

 そんな私たちに、無慈悲なれいとうビームが襲い掛かる。

 

「――――――ヒナゲシちゃん、「どくどく」!」『ラッフゥッ!』

「くっ!?」『コォォォ……!』

 

 だが、只ではやられない。何度でも言うが、フリーザーの特攻そのものはパッとしないのだ。だからこそ、一撃程度なら耐えられる。

 そして、どくタイプが放つ猛毒は躱しようが無いし、簡単に治癒も出来んぞ。その毒々には、散って行った他の子たちの意志(おんねん)が宿ってるんだからな。恨み晴らさでおくべきかぁ!

 

「「エアスラッシュ」!」『キョァアアアッ!』

「お疲れ、ヒナゲシちゃん……良くやったわ」『フリィ……』

 

 追撃のエアスラッシュでヒナゲシちゃんは倒れたが、猛毒に犯されたフリーザーはどんどん体力が削られている。彼女の瀕死は無駄ではないのである。

 さぁ、覚悟は良いか、フリーザー!

 いくらミラーコートを張っていてもダメージ全てを無くす事は出来ないし、物理攻撃の前に反射も何もないだろう!

 

「仇を取って、アンズちゃん! 「どくづき」!」『コァアアアアン!』

「「はねやすめ」!」『コォラスゥ……!』

 

 アンズちゃん渾身の毒突きと猛毒によるスリップダメージで、フリーザーが堪らず羽休めをする。

 

「無駄だ! 猛毒は時間が経てば経つ程効果が強まる! 仕留めろ、アンズちゃん!」『ギャォオオオオッ!』

「「エアスラッシュ」!」『ビュィイイヴヴ!』

 

 さらに、エアスラッシュで見事に怯ませてきた。

 しかし、やっぱり無駄な足掻きだ。土壇場でそこまでやれるのはさすがだけど、着陸した時点でお前の負けなんだよ!

 

「「じしん」!」「しまった!?」

『コァアアアアッ!』『コォラスゥゥ……!』

 

 羽休めをしたばっかりに地震が当たるようになってしまったフリーザーは、そのまま二度と再び飛び上がる事なく瀕死となった。回復技も使い様ね。

 

「……勝った」

 

 あれだけ煮え滾っていた頭は、クールに熱くなっている。血が滾る勝負というのは、些細な苛々など忘却の彼方に吹っ飛んでしまうのだろう。何とも清々しい気持ちだ。

 だから、

 

「……さて、元気の塊でユウキを復活させなきゃ。「めらめらバーン」で早く放火しないと」

「やめてよ!? カンナさん! やっぱこの子怖いです! 早く、早く連れて帰って下さい!」

 

 ちくせぅ、放火し損ねちゃった♪

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「ハァ……疲れた……」

「お疲れさん」

「お互いにね」

 

 バンジジムを後にして、ポケセンまで帰って来た私は、カスミと一緒に思いっきりダレていた。

 だって仕方ないだろう? 寒かったんだからさぁ。ポケセンだけが私とカスミの安息地なのよ。

 

「いやぁ、まさかフリーザーを使ったあの子に勝つとはねぇ」

 

 近くでお茶を啜るカンナさんが嬉しそうに言う。対面ではイツキさんがケーキを食べていた。平和だなぁ、こいつら。

 

「……そう言えば、アンズちゃんって何で急にオーレンの姿になったんですかね?」

「今更ねぇ」

「確かに今更ですけど、そもそもゆっくり聞いてる暇がなかったでしょうが……」

 

 ようやく落ち着いた事だし、この機会に聞いてみようか。

 

「オーレンのリージョンフォームは、“適合した土地で経験値を得てレベルアップする”と変わるのよ。とは言え、普通はレベルが1や2上がった所じゃ変化しない筈なんだけどね。アンズちゃんは特別適合し易い子だったのっかも」

「はぁ……」

 

 褒められているんだろうが、やっぱり出自を知ってると、ちょっと怖いな……。

 

「それで、この後はどうするのかしら?」

「うーん……」

 

 レベルアップで変化すると言うのなら、他の島にも行ってみるかな?

 

「とりあえず、マゴ島に行ってみようかと思います」

 

 誰かはがねタイプになってくれないかなー。

 

「あらそうなの。なら、ここでお別れね。ワタシもいい加減、ポケモンリーグに戻らないといけないし」

「ボクもそろそろ行かないと……」

「アタシもジムに帰らなきゃなー。姉さんたちが何してるか分かったもんじゃないしね」

 

 フム、異色過ぎるこのチームも、ここで解散か。

 だが、旅に別れは付き物だし、新たな出会いへの前振りでもある。何だかんだで楽しかったし、連絡先も貰ったから、充分に成果は上げたと言えるだろう。

 という事で、私たちはポケセンの前で笑顔のお別れをしようとしたのだが、

 

『ギュルルルル!』『ギュルァアン!』『ヘァッ!』『デュア!』

「な、何だ!?」

 

 突然、何処からともなくオーレンのヒトデマンとスターミーが大集結して、私たちを取り囲んだ。

 

「何々、何なのよ、この状況!?」

「知らないわよ!」

「ワタシにも分からないわねぇ……」

「謎過ぎる……」

 

 しかし、攻撃するでもなく、敵意も感じない。一体何が目的なのだろう。

 

「……、…………っ!?」

 

 すると、オーレンスターミーたちが何かの映像をテレパシーで送って来た。

 

「……シンくん!?」

 

 そこに映っていたのは、不気味なポケモンと対峙するシンくんの姿。状況はよく分らないが、剣呑としている事だけは確かである。虫の知らせって奴だろう。

 

「シンくん……」

 

 海を隔てたウイ島で、一体何が……!?




◆テンジョウイン・アスカ

 バンジジムのジムリーダーにして、カンナの弟子。彼女に師事された事を誇りに思っており、いつかその氷壁を乗り越えようと弛まぬ努力を続けている。使用ポケモンはこおりタイプで、切り札はフリーザー。一応はダイマックスも扱うが、あんまり好きではないので極力しないようにしている。
 ちなみに、風来坊で変人な困った兄がいる。


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火山の人工島とスピードバトル

シン:「何でわざわざ火山島に住みたがるんだろうね?」
???:「温泉が湧くからじゃない?」


「来たな、チャレンジャー! 俺はユウギ! ウイジムの十代目ジムリーダー、ユウギだ! 俺の扱うポケモンは燃え盛るほのおタイプだ! さぁ、楽しいポケモンバトルをしようぜ! ガッチャ☆!」

 

 火山をモチーフにしたステージのど真ん中で、オッドアイの茶髪少年――――――ユウギ・ジューダイ・ムトーが二本指をピッとこちらへ突き付けて来た。

 彼はウイジムのジムリーダーにして、熱血クイズ親父の孫……ようするに燃える男だ。専門タイプはもちろん、ほのおタイプ。火傷治しの用意が間に合わない程の苛烈な戦い方をするらしく、一部では「覇王」とまで呼ばれている。正しき闇の心でも持ってるんだろうか。

 そんな最初からクライマックスなスタジアムに立つのは、このオレ――――――シン・トレース。数々の苦難を乗り越え、立ちはだかる強敵を打倒し、遂にこの場へ辿り着いた。目的はただ一つ。ユウギからバッチをもぎ取る事である。

 つまりは、戦って勝つだけだ。

 だが、事ここに至るまでの過程が無ければ、盛り上がりもクソも無い。

 だから、オレが島に到着し、ジムリーダー戦になるまでの事を話そう。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「ここがウイ島……」

 

 どんぶらこっこどんぶらこっこ、小型船に揺られる事、約一時間。オレは火山の島、ウイ島へ到着した。

 とは言え、直接島の土を踏んだ訳ではない。

 ウイ島は巨大な海底火山の海面から出た先端部分で、言うなれば島そのものが大きな火口だ。

 当然、内部に秘めるエネルギーは膨大であり、常に煙が立ち込め、場合によっては噴火する事もある危険地帯である。

 だので、人々は島の沿岸部を取り囲むように、人工島を添え付けた。アローラ地方ポニ島の「海の民の村」を参考にしているらしく、緊急時には人工島自体が船となって分散し、避難する事が出来るそうだ。火山島ならではの対策だろう。そう言えば、アローラ地方も海底火山が隆起して形成されたんだっけな、マトリ曰く。

 そんなウイ島周りの人工島に上陸した、その時、

 

「おめでとうございまーす!」「入島1000人目のお客様を記念して、島内の施設をフリーパスで豪遊し放題ですよー!」

「は、はぁ……」

 

 何か大歓迎された。ジョーイさんとジュンサーさんがチアリーダーの恰好でポンポン☆ダリアしてる。

 その上、入島1000人目の記念とやらで、島中の施設を只で使い放題らしい。こりゃあ、ツイてるぜ~♪

 

「よーし、それじゃあ、バッチリ楽しませてもらうかな~♪」

 

 どうせ、ジムに挑むには準備がいるしね。何でジムだけが山頂の火口付近にあるんだよ、おかしいだろ。

 

「まずは腹ごしらえでもするか」

 

 腹が減っては戦も出来ぬ。シズナとお別れしてから何も食べてないからなぁ。

 さーて、良いお店は……「カロス料理店:ファイアロー」……ここにしよう。看板に偽りがなければ、本格的なカロス料理が楽しめる店だそうだからね。海産物の豊富なオーレン諸島の特色を活かした味わいを、是非とも堪能したい所である。

 

「……ん?」

 

 と、入店直後に、物凄く見覚えのある人物の姿が。白衣にグラサンでハゲの髭オヤジという、特徴のあり過ぎる男。

 

「……おぅ? オーッス、マサラの青少年! ここへは観光か?」

「ジムへ挑戦するんですよ。今は羽休め中ですがね、カツラさん」

 

 言うまでもなく、グレンジムの燃える男、カツラさんだ。全く以て違和感は無いが、どうしてこんな辺境に?

 

「――――――“恩人”に、会いに来たんだよ」

「恩人?」

「ああ。ワシを命の危機から救ってくれた“女”さ」

 

 それって……。

 

「それと、久々に孫の顔を見ようかと思っての」

「えっ、お孫さんがいるんですか?」

「ああ。ここのジムリーダーを務めとるよ」

 

 納得した。ウイ島はほのおタイプが隆盛だって同船した観光客が言っていたし、ジムリーダーがほのおタイプを専門にしていてもおかしくはない。そのジムリーダーが燃える男の孫である事も。

 

「……言っとくが、あの子の情報を渡す気はないぞ?」

「構いませんよ。大体予測が付きますし。そもそも、事前情報があっても強くなければ意味はない」

「ハッハッハッ! 言いよる。まぁ、その通りではあるわな。それより、何か注文したらどうだね? ここは料理店だ。席に着くなら何か頼まねば」

「そうですね、その通りです」

 

 そういう事になった。

 やがて、注文した大盛りのキッシュと熱々のフリカッセが運ばれて来て、目の前に置かれる。どちらも美味しそうである。

 ……うん、良い腕してる。

 

「ちなみに、今後の予定は?」

「これを食べ終わって、腹ごなしをしてから、すぐに向かうつもりだが、一緒に来るかね? 案内してやろう。“ワシを倒した強者”だと紹介してやれば、大喜びで挑んで来るだろう。全力でな」

「ありがとうございます!」

 

 やった、色々と手間が省けたぞ。こうもトントン拍子で話が進むとはな。幸先が良過ぎて怖いくらいだよ。

 だが、有難い事には変わりないので、遠慮なくご一緒させてもらおうか。

 という事で、さっさと食事を済ませ、登山の準備に入る。まずは買い物だな。

 ――――――いや、その前にシズナに電話しなきゃな。無事にウイ島へ到着したって連絡入れないと。

 

「あー、もしもし、アオイか?」

《あら、シンくん、もう着いたの?》

「そっちはまだなのか?」

《船がエンストした。今救助を呼んでる》

「そ、そうなんだ……」

 

 開始早々何をやっているのだろう、あの子は。

 

「大丈夫なのか?」

《大丈夫よ。救助艇に燃料貰ったし、もうすぐ着くわよ》

「そうか……とにかく、気を付けろよ?」

《心配性ねぇ》

「お前には色々と前科があるからな……遭難したり、放火したり……」

 

 まぁ、それだけが理由ではないけどね。

 

《大丈夫よ……たぶん》

「おい、その間は何だ」

《アッハッハッハッ、愛してるわシンく~ん♪》

 

 そう宣って、シズナは慌てて電話を切った。追及を逃れる為だろう。……オレの気も知らないで。

 

「愛の語らいは終わったかね?」

「ええ、バッチリと」

 

 カツラさんを待たせるのもアレだし、早く移動するか。

 

「……ズワォ!?」「何じゃーい!?」

「うぅ……!」

 

 と、思った瞬間、空から女の人が降って来た。何でや。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「うぅぅ……ラオス!」

「大丈夫そうだなぁ!」

 

 ふざけてんのかこいつは。寝言にしても酷過ぎるぞ。

 しかし、彼女が落下の衝撃で気絶しているのも事実。放っておく訳にもいくまい。傷だらけだし、折角の美人さんが台無しだ。

 というか、この人は一体何故に空から落ちて来たのだろう?

 だが、答えは向こうからやって来た。ウイ島本土の方から。

 

『ガァァヴォオオオッ!』『コギュイイイイッ!』

 

 それは、争い合う二体のポケモン。一体はオーレンブーバーで、もう一体は――――――オーレンのシードラか!?

 と、とにかく、図鑑で詳細を……!

 

◆シードラ(オーレンのすがた)

 

・分類:かいりゅうポケモン

・タイプ:みず/ドラゴン

・レベル:73

・性別:あり

・種族値: HP:95 A:95 B:95 C:95 D:95 S:65 合計:540

・図鑑説明

 深海からの使者。遥か海の底に眠る王の命令で動き、あらあゆる敵を殲滅する。頭頂部の長い鬣にある毒の棘は猛毒で、刺すだけでなく発射する事も出来る。口から吐く竜の波動は鋼鉄をも原子に分解してしまう。オーレンのブーバーとは仲が悪く、出会った傍から戦い始めてしまう。

 

 海底の王って何やねん。

 つーか、とうとうドラゴンタイプになったのか、シードラ。ドラゴンポケモン(笑)だった時代が懐かしいね。見た目も竜宮から使わされたニシンの王様ってくらいに派手だしな。

 図鑑説明から察するに、毒突きや竜の波動を覚えている筈。種族値とタイプ的に耐久力も結構あるし、厄介な相手である。一筋縄では行かなそうだ。

 しかも、奴さんは不倶戴天の敵と対面してブチ切れ中。とても“話し合い”で治まる状態じゃない。このお姉さんも、この二体の諍いに巻き込まれたのだろう。

 だが、オレたちが立っているここは人工島。本物の陸地程の耐久性は望めない。このまま殺し合いを黙って見ていては、いずれ沈んでしまう。もしくは、沈む前に切り離されるか。

 何にしても、奴らを倒す以外の道は無い。オレたちが生き残る為にも。

 

「おい、そこの青い火男と赤い笹かま野郎! こっちを向けぇ!」

『ゴァアアアッ!?』『キュィィィッ!?』

 

 オレの言葉が分かっているのか、それとも直感的に馬鹿にされていると思ったか。どっちにしろ頭に来たのは変わらないようで、怒髪天を突く勢いで襲い掛かって来た。

 

「カツラさん!」

「分かっとる!」

『プリーン!』『バァヴォォン!』

 

 オレはプリンを、カツラさんはウインディを繰り出した。即興のタッグバトルである。先に潰すべきはオーレンシードラだ。幸いこちらはドラゴンタイプの弱点を突ける。ダブルバトルの基本は、片割れを落とすのが定石だからな。

 

『コギュァアアアッ!』『ガァヴォオオオラッ!』

 

 さっきまでの諍いは何処へやら、一転して協力し合い、不意を突くような形で同時に攻撃を仕掛けてきた。ハイドロポンプがウインディ、蒼い炎がプリンに飛んで来る。

 

「「躱せ!」」『プリッ!』『ヴァォン!』

 

 しかし、当たらなければどうという事は無い。相棒との信頼関係はバッチリだからな!

 

「プリン、「ふわふわドリームリサイタル」でオーレンブーバーを眠らせろ!」『プゥ~、ププゥ~、プ~プリ~ン♪』『ZZZzzz……』

「よし、良いぞ! ウインディ、シードラに「じゃれつく」!」『バヴァッ!』『ホグュィィッ!?』

 

 よっしゃ、効果は抜群だぜ!

 

『コギュィイイイッ!』

「…………っ! プリン、「ころころスピンアタック」でウインディを守れッ!」『プリッ!』

 

 クソッ、さすがに耐久力があるな。ハイドロポンプで反撃して来るとは。

 だが、弱っているのは事実だし、何よりオーレンシードラはウインディよりも遅い。

 

「ウインディ、今度は「げきりん」だ!」『ガヴォオオオッ!』

『ギギュゥヴヴヴヴ……!』

 

 二度に渡る弱点攻撃で、遂にオーレンシードラが倒れる。残るはオーレンブーバーのみ。

 

『ガァヴォォオオオオッ!』『プリャッ!?』

 

 すると、タイミング悪くオーレンブーバーが目を覚まし、プリンにアイアンテールを当てて来た。チクショウ、やりやがったなぁ!

 

「ウインディ!」『ガヴォオオッ!』

『ガヴォォォオラァッ!?』

「ありがとうございます! プリン、組み付いて「スヤスヤおやすみタイム」!」『プリ~ン♪』

『ゴァアアアアアアアアアアアア!』

 

 カツラさんのナイスな横槍のおかげでプリンが接近でき、必殺のスヤスヤおやすみタイムを食らわせてやった。プリンの添い寝が、オーレンブーバーを永遠の眠り(瀕死)に誘う。

 

「今だ、シン!」「了解です! 行っけぇ、モンスターボール!」

 

 さらに、気絶した二体を無事ゲット。とりあえずボックス送りにしておいた。オレに火男や深海魚を使う趣味は無い。

 ともかく、これで島に平和が戻った。

 

「……フゥ、良くやったぞ、シン」

「それ程でも。それより――――――」

 

 後は、この女性だな。詳しい話を聞かないと……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 それからそれから。

 

「いやー、助かったわ。ありがとネ♪」

 

 人間の病院も兼任している島のポケセンへ緊急搬送された彼女は、落下の勢いこそ凄かったものの大した怪我はなく、割とすぐに目を覚ました。丈夫な人だな。

 

「………………」

「なぁ~に見てんの?」

「な、何でもないよ!」

 

 クソッ、からかいやがって。美人なのは認めるけどよ。

 青白いウェーブヘアに端麗な容姿。艶めかしい身体を露出度の高い黒のボディコンドレスで包み込み、これでもかと色香を醸し出している。

 彼女の名前はカリン。シロガネ山を挟んだお隣さんであるジョウト地方から遥々やって来たらしい。あくタイプを専門にしているようで、ブラッキーというイーブイの新たな進化態を連れ添っていた。

 

「それで、カリンさんとやら。どうして空から降って来たんだね? まぁ、大方の予測は付くが……」

 

 オレが話していても埒が明かないと見たか、カツラさんがさっさと話を切り出した。事実その通りだから何も言えない。

 

「アナタの思っている通りよ。あの二体の諍いに巻き込まれたの。強いポケモンを探していたらね」

 

 うん、何の変哲もない理由だな。実に分かり易い。

 しかし、あくタイプの専門家が、どうしてほのおタイプばかりのウイ島に?

 

「チケットを買い間違えたのよ。初めてだったからね」

 

 まさかのドジっ子だった。可愛いなアンタ。

 

「……言っとくが、ここはほのおタイプばっかりだぞ?」

「知ってるわよ、言われなくとも。だから、どうするか迷ってるの。もうお金が無いしねー」

 

 貧乏旅行かよ。

 ちなみに、999人目のお客様だったそうな。運の無い人である。

 

「……しょうがねぇなぁ!」

「急にどうしたのかしら?」

「泊る金が無いんだろう? なら、一緒に来なよ。1000人目記念のフリーパス貰ったから、“お連れ様”って事で何とかしてもらえるだろうからさ」

「フーン……」

 

 オレの提案に、カリンが艶めかしく微笑む。その顔止めろ。

 

「それはそうと、アナタ強そうね?」

「いきなりですね」

 

 まぁ、それなりに強いとは思うよ?

 

「なら、ちょっと勝負してくれない?」

「何でだよ……」

 

 唐突過ぎるだろうに。

 

「トレーナー同士、目と目が合ったら勝負の合図でしょ?」

「挨拶もままならないだろ」

 

 死の淵から覚めたら即バトルって、死体蹴りと何が違うんだ?

 

「えー、いいでしょー? ロクにポケモンも捕まえられなかったし、誰かに八つ当たりしたいのよー」

「手前勝手にも程がある」

 

 だけど、この強引なノリ……誰かに似てるんだよなー。

 

「カツラさん、どうしましょう?」

「フーム……ま、一試合くらいならいいだろう。ただし、1VS1の一本勝負で頼むぞ。さすがにフルバトルする程は待てんからな」

「スイマセン……」

 

 カツラさんも待ってくれるようだし、ここは勝負を受けた方が良いだろう。そうでもしないと、この女は絶対に認めないだろうからなぁ。

 うーん、やっぱり誰かに似ている気がする。誰にだろうねー?

 

「よっしゃ! それじゃあ、外に出ましょう。船で聞いたんだけど、ここならではの戦い方があるらしいから、それで勝負ね!」

「おう、良いぜ!」

 

 正直、無視して先に進みたいが、そのウイ島ならではのバトル形式というのには興味がある。是非とも体験してみたい。

 という事で、オレたちはウイ島のバトルコートに移動したのだが、

 

「……何でバイクなんだよ!?」

 

 何故かサイバーパンクなバイクが並ぶガレージに辿り着いてしまった。どういう事だってばよ。

 

「“スピードの中で進化したバトル”らしいわよ。人呼んで「スピードバトル」だって」

「まるで意味が分からんぞ!?」

「あ、子供はそっちのスケボーを使うそうよ。足に付けるだけで疾風(かぜ)になれるんだって」

「更に意味☆不明だわ」

 

 何でバイクやスケボーに乗ってポケモンバトルせにゃならんのだ。おかしいだろ。

 だが、ここまで来て尻尾を巻いて引き返す気はない。オレはシズナみたいに“見た目は子供、頭脳は大人”って訳じゃないけど、それならそれで子供らしく、楽しませて貰おうじゃないか!

 あと、単純にあのエンジンと合体してしまったスケボーに乗ってみたい。面白そうだもん。あのバイクが走る姿も見てみたいしな!

 

《スピードバトルが始まります。スピードバトルが始まります。ルート上の島民の皆様は直ちに退避して下さい。バトルレーンの形成を開始。ウイジムに申請、オーソリゼーション》

 

 と、人工知能のメタルボイスが島中に鳴り響き、人工島が形を変え始め、瞬く間にスピードバトル用のコースが形成される。エラい大事じゃないですか、やだー。

 

《さぁ、始まりましたぞ、「スピードバトル」! スピードの中で進化した新たなポケモンバトル、たっぷりとお楽しみ下さーい!》

「カツラさん?」「ノリノリねぇ……」

 

 実は一番楽しみにしてただろ、カツラさんや。司会までしちゃってさ。

 

《それでは……バトル開始ィイイイイイイイ!》

 

 そして、オレとカリンは疾風(かぜ)になった。マシンのエンジンが唸り、オレたちをスピードの世界へ誘う。レーンと化した街並みが落書きのように左右を通り過ぎていき、火山の麓が故の熱風が頬を撫ぜる。

 うん、普通に危ないからね。カリンはバイクだし、オレはスケボーだし、その癖マジもんのレース用のマシン並みの速度出てるし。これ、転んだらクラッシュだけでは済まないぞ。粗挽き肉団子になっちゃうぜ!

 マジでさ、何でこんな事するの? 普通にバトル出来ないの? 馬鹿なの、死ぬの?

 しかし、ルールそのものは割と面白い。

 コース上に用意されている立体映像(ソリットビジョン)のアイコンを通過すると、ステータスアップや回復をする事ができ、それらはポケモンだけでなくマシンも対象に入っている。

 さらに、周回ごとに「スキルカウンター」というポイントを稼げ、点数を消費する事で様々な有利効果を得られる。どちらもレースを盛り上げる要素だろう。

 そして、相手の手持ちを全て倒すと勝利となる。大体そんな感じだ。レースとミニゲームを上手く組み合わせた、優良なバトル形式と言えるだろう。

 これでスピードの世界に溶けるような勢いがなければなぁ。本当に惜しい。

 ともかく、今は勝負(レース)に集中しよう。疾風(かぜ)になれと言うのなら、ひこうタイプで行ってやろうじゃないか。

 

「行け、ピジョット!」『ピジョォヴァアゥッ!』

 

 という事で、オレはピジョットを繰り出した。大きな翼を広げ、オレと一緒に風を切る。

 

「頼むわよ、ドンカラス!」『ドワォオオオッ!』

 

 対するカリンは、見た事も無いポケモンを繰り出した。ワタリガラスとソフト帽のマフィアを組み合わせたような姿をした、首領(ドン)を名乗るに相応しい鳥ポケモンである。タイプもあく/ひこうの複合みたいだし。

 

「何だそいつ!?」

「ジョウト地方のポケモンよ。ヤミカラスという鳥ポケモンが闇の石で進化するの。……と言っても、最初に確認されたのはシンオウ地方なんだけどね」

「そーなのかー」

 

 つまり、ジョウトからの刺客、という事か。カリンもジョウトの出身だから、ある意味カントーVSジョウトの戦い、と言えるかもしれない。受けて立つぜ!

 

「ピジョット、「メガシンカ」!」『ピジョォォヴァァアヴヴヴヴッ!』

《あーっと、シン選手、さっそくピジョットをメガシンカさせたぁっ!》

 

 まずはピジョットをメガシンカ。ステータスで有利に立つ。それから砂を掛けて、熱風疾風エアスラッシュだ。

 

「甘いわね、チョコレートより!」

 

 だが、カリンはこちらには目もくれず、「スピーダー」のアイコンを通過する。これによりドンカラスのスピードが飛躍的に上がり、メガピジョットと大差ない速度を得た。

 

「ドンカラス、「ふいうち」で牽制して「あやしいひかり」!」『ドワァアアアォッ!』

《おおぅ、スピードバトルならではの技の使い方! 初参加とは思えない技巧だぞぉ!》

 

 さらに、不意打ちで出鼻を挫き、怪しい光で混乱させてきた。クソッ、初参加の癖に手慣れてやがるな。

 しかし、何時までもやられっぱなしではない。アイコンはオレにも利用出来る。ドンカラスの熱風による追撃を敢て何もせずに受け、「なんでもなおし」で回復するのを優先した。

 

「ピジョット、「とんぼがえり」で距離を開けて、「ねっぷう」!」「こっちも「ねっぷう」よ!」

《おーっと、ここで「ねっぷう」同士の撃ち合い! メガピジョットが「スペシャルアップ」、ドンカラスは「スペシャルガード」を取っているので、互いに全く譲らなーい!》

 

 そして、それぞれ「スペシャルアップ」と「スペシャルガード」のアイコンを通過してからの、熱風同士の撃ち合い。互いに命を削り合う、まさにデッドヒートだ。燃えるぜぇ(物理)!

 

「「……ん?」」

 

 と、そこへ水を差すような出来事が。

 

「おい、何だアレ?」「空が……割れた……!?」「何、あのポケモン!?」

 

 騒ぐ群衆の指差す先……そこに居るは、空間を鏡のように割って現れた、邪悪な鳥。何処かファイヤーに似ているが、全身が赤黒く燃え上がっており、大分禍々しくなっている。

 そんな邪炎の怪鳥が、今まさにヒートアップしているメガピジョットとドンカラスの間に割って入る。燃え上がる怒りを伴って。

 ……お前は一体、何だ!?

 

『ギャヴィィヴァアアアアアッ!』

 

 ――――――野生のファイヤー(ガラルのすがた)が現れたッ!




◆ファイヤー(ガラルのすがた)

・分類:じゃあくポケモン
・タイプ:あく/ひこう
・性別:ふめい
・特性:ぎゃくじょう→無効化中
・種族値
 HP:90
 こうげき:85
 ぼうぎょ:90
 とくこう:100
 とくぼう:125
 すばやさ:90
・図鑑説明
 邪悪なオーラを炎のように燃え上がらせるその姿から、ファイヤーと名付けられたポケモン。その邪炎に当てられると精魂が尽き果て、真っ白に燃え尽きてしまう。傲岸不遜で嫉妬深い、かなり拗れた性格。何十年に一度かの間隔でカンムリ雪原に降臨する。


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燃え上がる怒りと焼き尽くす炎

シン:「ガッチャ☆!」
ユウギ:「ガッチャ☆!」
カリン:「で、ポン!」


「グェェヴァアアアアッ!」

 

 ガラルファイヤーが力強く羽ばたき、邪悪なオーラを火の粉のように巻き散らして来た。図鑑説明を信じるなら、あれが「もえあがるいかり」である。これであくタイプ技とか嘘だろ。

 

「躱せ!」「避けなさい!」

『ピジョヴォァッ!』『ズワォオオッ!』

 

 奇襲同然にも関わらず、ピジョットたちは冷静に指示を聞き、燃え上がる怒りから逃れる。

 

「何アレ、ファイヤー?」

「いや、パチモンだよ。アンタの大好きなあくタイプだよ!」

「えっ、何それ欲しい!」

「あくどい奴だなアンタも……」

 

 どんだけあくタイプポケモン欲しいんだよ。気持ちは分かるけどね。

 だが、ここがオーレン諸島で向こうが襲って来ている以上、倒すしかない。奴も伝説のポケモンである事には変わりないのだから、地力不足を補う為にも、ここはカリンと協力して立ち向かうべきだろう。

 初めてのスピードバトルで共闘プレイとか、なかなかにハードな展開だな。マジで、どうしてこうなった?

 しかし、ほぼ初対面の相手と成り行きでタッグバトルなんて、それはそれで燃える展開じゃないか。ヤッテヤルゼェ!

 

「ピジョット、「ねっぷう」!」『ピジョォッ!』

 

 メガピジョットの熱風がガラルファイヤーに吹き付ける。

 だが、ガラルファイヤーはヒラリと舞い踊るように躱し、エアスラッシュで反撃して来た。

 

『グハッハッハッハッハッ!』

「あ、あいつ……!」「アイコンを……!」

 

 さらに、それを囮に悪巧みをしつつスペシャルアップのアイコンを通過し、自らの特攻を爆上げした。あいつ、見ただけで理解したってのか……!?

 

『ギャヴィィヴァアアアォッ!』

「ドンカラス!」『ズワォッ!』

 

 その上、何の迷いもなくカリンを攻撃。ドンカラスが守らなければ、確実にエアスラッシュが彼女を切り刻んだだろう。悪逆非道を地で行く、とんでもない奴だ。

 

「この野郎! ピジョット、「エアスラッシュ」!」『ピジョォアアアアッ!』

 

 オレはカリンへの追撃を防ぐ為、スピーダーのアイコンを通ってから、メガピジョットにエアスラッシュを指示した。

 しかし、ガラルファイヤーはそれさえもスラリと躱し――――――何と、ダイマックスのアイコンを通りやがった。これはマズい!

 

『ギョォアアアッ!』

 

 ガラルファイヤーが螺旋の光を纏いながら、ズワォッと巨大化する。その姿はまさしく空の大怪獣だ。

 

『ギィヴェァアアアアッ!』

「きゃあっ!」『ガァッ!』

 

 そして、肥大化した破壊衝動に任せるまま、またしてもカリン目掛けてダイジェットを放った。今回はドンカラスも守り切れず、カリン諸共に宙へ投げ出される。このままでは海に落ちてしまう。

 しかも、ガラルファイヤーはダイアークで追撃する気満々のようで、落下中のドンカラスとカリンに狙いを定めていた。

 

『グワォッ!』「うっ……!」

 

 だが、ダイアークが放たれる直前、ドンカラスがカリンを熱風でオレに向けて吹き飛ばした。何とかキャッチ出来たので、カリンはどうにか地面に叩き付けられずに済んだものの、ドンカラスはダイアークがダイレクトに当たり、瀕死となる。海面へダイブする前にカリンが最後の力を振り絞って回収したから、沈まずに済んだようだが、早くポケセンに連れて行かないとマズい。

 

『グフハハハハハ、グヴァォアアアアアアッ!』

 

 ポケモン一体を瀕死に追い込み、人一人を死なせようとしてなお、ガラルファイヤーは心底愉しそうに嘲笑う。悪魔だ……っ!

 

『ギィヴェアアアアォッ!』

「くっ……!」

 

 さらに、今度はオレ目掛けてダイジェットの発射態勢に入った。カリンごと海に沈めるつもりらしい。対抗しようにも良いアイコンが見当たらず、まさに絶体絶命のピンチ。

 

「ウフフフ……いいわ、あの子……欲しいわぁ……」

「こんな時に何言ってんだ、この馬鹿!」

 

 意識が朦朧としているせいか、自身の欲望が駄々洩れになっているカリン。こいつがあくタイプ使いである理由が分かった気がする。

 

『グフハハハ……ギヴェァッ!?』

 

 と、その時。

 

「イヤッホォォォウッ!」『キィィウィイイイッ!』

 

 ウイ島の火口が噴火を起こし、その火柱の中から本物のファイヤーに跨った、一人の少年が現れる。

 

「ファイヤー、ダイマックスだ!」『キィィウォオオオアッ!』

 

 そして、自己紹介をする間もなく、少年は自ら空中へダイブ。飛行能力を持ったスケボーで宙を舞いつつ、ファイヤーをダイマックスさせた。

 

『ギィヴェァアアアアッ!』

 

 すると、ガラルファイヤーは即座に闖入者へ狙いをシフトし、ダイジェットを撃ち放つ。

 

『キィウェアアアアアッ!』

 

 ファイヤーもダイバーンで応戦。凄まじい熱波と暴風を巻き起こしながら、やがて爆発・相殺した。

 

「うごぁあああっ!」

 

 おかげでクラッシュしかけましたよ、クソッタレがぁ!

 

「うっ……ここは誰? アタシはドコモ?」

「auだっ!」

 

 その衝撃で、カリンが目を覚ます。

 

「あ、アタシのファイヤーだぁ……」

「寝惚けてんじゃねぇ! お前のでもねぇし!」

 

 この女は……!

 

「まったく……しっかり掴まってろよぉ!」「きゃっ!?」

 

 しかし、こいつのボケに付き合っている暇はない。ファイヤー同士で争ってる間に、こっちも態勢を立て直さないと。まずはスピーダーとスペシャルアップのアイコンを通って、それからスキルカウンターを三つに増やし(いつの間にか三周してた)、最後にダイマックスのアイコンを目指す。

 

「はぁああああっ!」「…………っ!」

 

 途中、攻撃の余波で吹っ飛んで来た瓦礫をギリギリで回避しながら、ようやくダイマックスのアイコンを取った。よっしゃ、これで勝つる!

 

「ピジョット、ダイマックスしろ!」『ピジョォォァヴヴヴッ!』

 

 メガピジョットが元のピジョットに戻りつつ、巨大化する。ウー博士が言うには、メガシンカやはダイマックスと両立する事が出来ないらしく、メガシンカ形態が解除された上で大きくなるんだそうな。当然ステータスは下がるものの、ダイマックスの影響で結局はパワーアップするので問題は無い。

 

「ピジョット、「ダイジェット」!」「ファイヤー、「ダイバーン」!」

『『キョァアアアアアッ!』』

『グヴォァアアアア……ッ!』

 

 ピジョットのダイジェットとファイヤーのダイバーンが混じり合い巨大な火柱となり、螺旋を描きながらガラルファイヤーを穿つ。さすがにこの合わせ技には耐え切れなかったようで、ガラルファイヤーは大爆発を起こして果てた。

 

「えい」「あっ……」

 

 ――――――で、カリンがこっそり投げたダークボールによって捕獲された。

 

「ファイヤー、ゲットだぜぇ……」

「このアマァッ!」

 

 こいつ、誰に似ているのか分かった。

 強かで、野心家で、危なっかしい、世界一不幸な美少女(?)……シズナ(あいつ)に、そっくりなんだよ、性格が。

 こうして、カリンが美味しい所を全て持っていた事で、スピードバトルはお開きとなった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 五年後……ではなく、五十分後。

 

「じーちゃん!」「おお、ユウギか! 相変わらず豪快じゃのう!」

 

 通りすがりのファイヤー野郎――――――ユウギ・ジューダイ・ムトーは、祖父であるカツラと抱擁を交わしていた。ナケルネ。

 

「いやぁ、感動の名場面ね」

「お前が言うと途端に白々しくなるな」

 

 そんな二人を茶化すカリンに、オレはしっかりと突っ込みを入れた。

 ガラルファイヤー捕獲後、オレたちは一旦ポケセンへ戻り、傷付いたポケモンたちを癒した。カリンはその辺に実っていた“ウイ”なる木の実を貪り食ってたら、何か回復した。こいつ、本当に同じ人間なのか?

 ……で、街の復興はポケモンレンジャーの皆さんが迅速かつ正確に行うとの事なので、後始末を丸投げしつつ、最初の港で落ち合ったという訳である。

 まぁ、それはそれとして、

 

「ジムチャレンジしよう!」

「元気ねぇ~」

「お前が言うか?」

「……って言うか、アタシ、年上なんだけど?」

「聞こえんなぁ~」

 

 貴様に敬語など不要!

 つーか、お前なんぞどうでもいい。オレが用あるのはカツラさんとユウギさんなんだよ。

 

「カツラさん、ユウギさん!」

「ウム、分かっとる。ウイジムに挑むのだろう? ……ユウギも構わんな?」

「もっちろん! 君、さっき俺と共闘してくれた奴だろう? 君となら最高に楽しい勝負が出来そうだぜ!」

 

 カツラさんに尋ねられ、気持ちの良い笑顔で快諾するユウギさん。似た者家族だなぁ。

 

「それじゃあ、上で待ってるぜ! スタートはA地区のゲートからだから、頑張って登って来いよ!」『キュァアアッ!』

 

 その後、ユウギさんはファイヤーに跨り、火山の頂きへと飛んで行った。彼の言い振りからして、火山の頂上にジムがあるのではなく、島の本土全体がジムとして扱われているらしい。スケールデケェ。

 という事で、オレ(と何故かカリン)はA地区にあるジムのゲートへ辿り着いたのだが、

 

「――――――またスピードバトル(これ)かよ!」「皆好きねぇ~」

 

 待ち構えていたのは、搭乗者と合体出来そうな真紅のバイク。全長5メートルもある、文字通りのモンスターマシンだ。結局は疾風(かぜ)になるのかよ!

 

「……今度はアタシが運転してあげるわ」

 

 と、カリンがタンデムを申し出て来た。

 一応、二人乗りをしても挑むトレーナーしか戦えないので、ルール上は問題無いが、急にどうした?

 

「なぁに、勝負に集中出来るようによ。さっき助けてくれた、お・れ・い♪」

「気持ち悪いなぁ」

「いや、何でよ!?」

 

 まぁ、協力してくれると言うのなら、有難く手を貸してもらおう。

 そんなこんなで、オレとカリンは「フェニックスエール」なる大型の赤いバイクにタンデムシートして、ウイジムのスタートラインに立った。

 

《ウイジム戦が開始されます。システム起動、ソリッドレーンを展開。挑戦者はスタートラインでお待ち下さい》

 

 さらに、ウイ島本土を螺旋状に登る人造レーンが展開。どうやら道全体がナノマシンによって構成されているようで、陽光を反射してピクセル光を放っている。ふつくしい。

 

《さぁさぁ始まりました、ウイジム戦! 挑戦者は、先程ジムリーダーのユウギと共にガラルファイヤーを打倒した英雄、シン・トレースくんです!》

「やっぱりアンタが解説なのか……」「暇な人ね」

《それではカウントダウン開始! 3、2、1……バトル開始ィイイイイイッ!》

 

 そして、やっぱり解説役に名乗り出たカツラさんの開始宣言により、スピードバトルのフラッグが振られた。

 

「行くわよっ!」「レスキューファイヤー!」

 

 開始と共にカリンがエンジンをフルスロットルさせる。その爆発音を伴うスタートダッシュは、まさに「発射」と呼ぶに相応しい。風除けが無ければ首が吹っ飛ぶ所だった。やっぱ危ねぇよこの競技……。

 

『キィ~ッヒャッヒャッヒャ!』

 

 と、螺旋のソリッドレーンを駆け登っている最中、キチ○イ染みた笑い声を上げながら、レースに乱入して来る一人の少年。おそらく彼が第一の刺客なのだろう。

 年頃はオレと同じか上くらいの、赤いロングヘアーの男の子で、白地に赤いラインの入った、サイバネティックなコスチュームに身を包んでいる。子供だからか乗り物はスケボーであり、さっきのオレのようにジェットの限り突っ走っているのだが、そんな接続で大丈夫か。

 

『僕はチルア! さぁ、絶望のサーキットを刻んで貰おうかなぁ!? 行けっ、シードラ!』『コギュィイッ!』

「「またお前か」」

 

 そんなウイジム最初の対戦相手であるチルアたんが繰り出して来たのは、ついさっき振りのオーレンシードラ。こちらは色違いのようで、青地に緑のサーキットが血走った体色をしている。宙を泳ぐその姿はまさしくドラゴンタイプという感じで、なかなかにカッコいい。

 

「出番だ、ピカチュウ!」『ピカピーッ!』

 

 対するオレのポケモンはピカチュウ。質量のあるソリッドビジョンが足場になっているのか、サーフボードで波に乗っている。これなら他のポケモンでも足場に困る事は無さそうである。

 

「ピカチュウ、「10まんボルト」!」『ピッカーッ!』

 

 まずは10万ボルトで先手を打つ。上手く麻痺が入ったようで、オーレンシードラの動きが鈍った。

 

『フッ……甘いねぇ!』「何ッ!?」

 

 だが、チルアは目敏く何でも治しのアイコンを通過して、オーレンシードラの麻痺をあっという間に解いてしまった。

 

『キィ~ッハッハッハッ! シードラ、「ねっとう」! げぇきりゅうそぉ~♪』『キィイイッ!』

 

 さらに、ポケモン顔負けのアクロバットをかましてスペシャルアップのアイコンまでゲット。特攻の上がった状態で熱湯を放って来た。

 ……つーか、今更だけど、ほのおタイプのジムなのに何でみずタイプ出して来た!?

 しかし、今は対処するのが先だ。熱湯の火傷率の高さは異様だから、食らう訳にはいかない。

 

「行くわよ、シン!」「おう! ピカチュウ、「ふわふわフォール」!」『ピカピーッ!』

 

 カリンが「スピーダー」を取り、オレがふわふわフォールを指示して、ピカチュウが熱湯を回避しつつ空から奇襲を仕掛ける。速度の上がった一連の動きは、疾風どころか閃光だった。

 

『ギィッ……!』『シードラ!?』

「今だ、「ざぶざぶサーフ」で接近して、「ばちばちアクセル」からの「10まんボルト」!」『ピッ、ピカチュウ!』

『『グワァアアアアアッ!』』

 

 そして、怯んだ所に再び麻痺を入れ、回復する暇を与えない連続攻撃でオーレンシードラを沈める。手持ちは一匹のようで、チルアは悔しそうにコースアウトしていった。

 

『次はこの俺、ラシードだ! 蜂のように踊り、ミツバチのように死ね! 行け、カブトプス!』『キュルァアアッ!』

 

 だが、入れ替わりで次なる刺客、ラシードが登場。

 白銀の髪を逆立たせた攻撃的な青年で、チルアとよく似たスーツを纏っており、こちらは青いサーキットがライディングしている。乗り物は大人だからか、オレたち以上にゴツいモンスターバイクを唸らせていた。

 ――――――で、ラシード平隊員が出して来たのが、オーレンカブトプス。見た目ははがね入り(スティーリー)って感じだが、

 

◆カブトプス(オーレンのすがた)

 

・分類:こうかくポケモン

・タイプ:はがね/みず

・レベル:80

・性別:あり

・種族値: HP:80 A:105 B:70 C:50 D:70 S:115 合計:495

・図鑑説明

 カブトプスの真の姿。周囲の鉄鉱石を取り込み、鋼の甲羅を持つに至った。手にする鎌は戦艦すら一刀両断する。凶暴で残忍な性格。

 

 ほのおタイプじゃないんかい!

 オーレンシードラもそうだけど、「ほのおタイプのジム」の看板に偽りあり過ぎだろ、いい加減にしろ!

 

『カブトプス、「アクアジェット」で接近して、「ラスターブレード」!』『コァアアッ!』

『ビガァッ……!』「火傷だと!?」

 

 オーレンカブトプスに斬り付けられたピカチュウが火傷を負った。あのはがねタイプの専用技、追加で火傷状態にする能力があるらしいな。

 

『「きゅうけつ」で止めを刺せ!』『キシャアアッ!』

 

 さらに、オーレンカブトプスが胸部装甲を展開して触手のように蠢く節足をピカチュウへ突き刺し、体力を吸い尽くして戦闘不能にしてしまった。攻撃方法がグロい……。

 

「戻れ、ピカチュウ! 行けっ、ピジョット! メガシンカだ!」『ピジョォオヴァゥゥッ!』

 

 オレはピカチュウを引っ込め、メガピジョットを差し向けた。現状、カブトプス相手に大立ち回り出来る奴がこいつしかいないからな。

 だが、出したからには勝たせて貰おう!

 

『フン、閑古鳥が。墜ちるがいい! スキルカウンターを3つ消費し、ピジョットにダメージを与える!』

 

 すると、ラシードがスキルカウンターを消費して、メガピジョットにダメージを与えて来た。これはルールによる攻撃なので、守るで防ぐ事が出来ないのが厄介である。

 それにしても、もう三周してたのか。相変わらず速過ぎて感覚が狂うな、このバトルは。

 しかし、その程度じゃメガピジョットは墜ちないし、追撃なんて許さないぞ!

 

「ピジョット、「すなかけ」からの「ねっぷう」&「エアスラッシュ」!」『ピジョヴァアッ!』

 

 という事で、不意を突こうとしていたオーレンカブトプスの目を砂掛けで潰し、熱風の刃で怯ませた。

 もちろん、これだけでは終わらない。オレはやられたら五倍返しにする主義だ。食らいやがれ、熱風のエアスラッシュ……ゴォレンダァッ!

 

「第一、第二、第三、第四、第五打ァッ!」『ドゥォアアアアアアアッ!』

 

 五回連続で怯るませて、ラシ/ードするだけの簡単なお仕事です。

 

『フハハハハハ、やるではないか! ならば、我らの本当の力を見せてやろう! この儂、ホセーヨがなぁ!』

 

 と、居なくなった下っ端に代わり、やたらマッチョな禿げ爺のホセーヨが登場。服装はチルアとラシードの色違いで、この人は黄色がメインの模様。

 あと、何故かマシンに乗らず、自ら走っている。物凄いスピードで。はぇーよ。

 

『出でよ、キングラー! トォオオオウッ!』『キシュシュシュシュ!』

 

 とか思っていたら、繰り出したオーレンキングラーと合体(乗っただけ)した。どうしてバイクと合体(というか騎乗)しないんだ!?

 つーか、このキングラー、妙に速くない!?

 

◆キングラー(オーレンのすがた)

 

・分類:うちあげポケモン

・タイプ:みず/ほのお

・レベル:82

・性別:あり

・種族値: HP:75 A:110 B:50 C:130 D:50 S:115 合計:530

・図鑑説明

 キングラーの怒りの姿。環境破壊により棲み処を追われた末に火山の力を身に付け、復讐の道を直走る。ハサミから撃ち出されるビームは小島をも吹き飛ばす。

 

 とんでもねぇ生き急ぎ野郎だった。

 しかも、「スペシャルアップ」でドーピングを果たし、ますます手が付けられない状態に。これ、食らったら吹っ飛ぶ処か蒸発しそう。

 

『ハァーハッハッハッハッ! これで儂らは最強無敵! サーキット完成へのエンドフェイズだぁ! 絶望せよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

 

 ホセーヨお爺ちゃんもハイテンションで何よりです。誰か助けて。

 

「ひぃいいいっ!」「怖いよぉ!」

 

 これにはカリンも……つーかオレも、恐怖のあまりスピードアップ。ついでにスキルカウンターを6つ消費して、メガピジョットのHP以外の全ステータスを一段階アップしておいた。

 は、早く焼野原にしなくちゃ!

 

『喰らうがいい、「クロスフレイム」!』『キシャァアアォッ!』

「「ドワォッ!?」」『ピジョォオッ!』

 

 だが、先手を“撃って”きたのはホセーヨonキングラー。巨大なハサミから発射された灼熱の炎が螺旋を描き、こちらに迫って来る。

 

「ピジョット、「とんぼがえり」! 行け、ガラガラ! 「ホネブーメラン」!」『ガラガラーダ!』

『何ィッ!?』

 

 しかし、持ち前の機動力で炎を掻い潜ったメガピジョットが蜻蛉返りで帰還。入れ替わりで出て来たアローラガラガラが、ホネブーメランでオーレンキングラーを強襲する。

 

「……止めだ! 「シャドーボーン」!」『ガラガランダァッ!』

『キシュラアアアアアアアッ!』『むぐぉおおおおおおおおっ!?』

 

 そして、クリティカッターを取得したアローラガラガラのシャドーボーンが急所にヒット。オーレンキングラーは蟹鍋になった。バイバイ、じーちゃん!

 

「フゥ……ようやく着いたわね」「ああ……」

 

 その後、火山の頂上である火口に到着。そこはレースのゴールラインであり、

 

「来たな、チャレンジャー! 俺はユウギ! ウイジムの十代目ジムリーダー、ユウギだ! 俺の扱うポケモンは燃え盛るほのおタイプだ! さぁ、楽しいポケモンバトルをしようぜ! ガッチャ☆!」

 

 ウイジムのジムリーダー、ユウギ・ジューダイ・ムトーとの戦いを意味している。

 

 ――――――ジムリーダーのユウギが勝負を仕掛けて来たッ!

 

「さてと、お前には本気の姿で挑まないとな! 行くぞ、お前ら!」『『『おう!』』』

 

 すると、何処からともなくフェイドアウトしたチルア・ラシード・ホセーヨが飛来。

 

『チルア、ラシード、ホセーヨの三人で、トリプルコンタクト融合! ユニヴァアアアアアアアアアアアアアアスッ!』

 

 さらに、どういう訳か機械粒子(ナノマシン)化した三人を身に纏った(・・・・・)

 そう、あの三人はユウギが作ったマシンドールだったのだ! なぁにそれぇ……。

 

『さぁ、限界バトルの始まりだぁあああああああっ!』

 

 そして、三つの色を織り交ぜた覇王モードにフォルムチェンジしたユウギが高らかに宣戦布告するのと同時に火山が噴火。

 

『キョァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 マグマの中から、あのファイヤーが姿を現した。雄々しくも美しい、実に素晴らしいご尊顔であるが、

 

「ドワォ!?」「シ、シィイイイイン!?」

 

 爆風で吹っ飛ばされた身としては、そんな事を気にしてる場合じゃなかった。

 

《スピーダー、「バトルモード」へ移行。搭乗者と共に戦います》

 

 だが、何かの箍が外れてしまったバイクが変形し、オレを包み込むように合体した。これぞまさしく赤い彗星。重量は増した筈なのに、身体が三倍くらい軽いぜぇっ!

 

 

『良いぞ、シン! それでこそだ! こっちも行くぜぇ!』『キョアアアアヴッ!』

 

 と、ユウギも当たり前のように飛翔。ファイヤーと共に襲い掛かって来た。

 

『行けぇ、プリン!』『プリャアアアアアッ!』

 

 オレはプリンを繰り出し、ころころスピンアタックを仕掛ける。最早岩を砕く威力を秘めているのだが、

 

『ファイヤー、「ゴッドバード」!』『キィイイォオオッ!』

『プリャーッ!』『くっ……!』

 

 何とゴッドバードで返り討ちにされてしまった。さすがは伝説のポケモン、桁が違う。

 

『「ふわふわドリームリサイタル」!』『プッチンプリャリャッ!』

 

 しかし、オレのプリンも伊達に相棒は務めていない。神話級の一撃だろうと、一発で落ちる程軟ではないのである。

 

『気合いだァ!』『コァアアアアッ!』

『嘘ォッ!?』『プリィン!?』

 

 だが、まさかのド根性で無効化されてしまった。絆が深過ぎる。いや、業か? ……ポケモン業!

 

『「だいもんじ」!』『キョォオオオオオオッ!』

『プヤ~ン!』『くっ、戻れ!』

 

 さらに、ファイヤーの超火力な大文字が直撃。プリンは今度こそ戦闘不能となった。

 つ、強い。少しでも削れればと思ったが、普通に押し切られてしまった。

 だけど、まだ終わりではない。オレにはフシギバナ、アローラガラガラ、ピジョットが残っている。向こうはファイヤーしか使う気が無いようだし、数の暴力で圧し潰してやる!

 

『無駄だぁっ! ファイヤー、蹂躙しろ!』『キォオオオオッ!』

『バナァッ!』『クソッ!』

 

 しかし、ファイヤーの火力は凄まじく、ロクにダメージを与えられぬまま、フシギバナが撃沈。

 

『「ホネブーメラン」!』『「まもる」からの「だいもんじ」! そして、「ゴッドバード」!』

 

 アローラガラガラの決死の特攻も、守るで防がれ大文字で焼かれた上に、ゴッドバードで撃破された。これで残るはピジョットのみ。

 

《「だいもんじ」被弾。姿勢制御が出来ません》『ズワーッ!?』

 

 その上、余熱がスピーダーのバランサーを狂わせ、オレは墜落する事となった。

 チクショウ、やはり伝説級を相手にするのは無理があるのか……!?

 

「馬鹿、諦めてんじゃないわよ!」

 

 すると、地表に取り残されたカリンが激を飛ばして来た。

 

「強いポケモン、弱いポケモン……そんなの人の勝手だけどねぇ! トレーナーがしっかりしなきゃ、どんなポケモンも弱くなるのよ!」

『……だよなぁっ! 頼むぞ、ピジョット!』『ピジョォオオオオッ!』

 

 そうだ、まだ終わってはいない。オレはメガピジョットを繰り出しつつ、“ある物”を探す。

 勢いで忘れそうになっていたが、マシンの表示を見る限り、このジム戦もさっきのスピードバトルの延長。つまり、アイコンを取りさえすれば、まだ逆転出来る可能性はある。

 ただ、普通のでは駄目だろう。もっととびっきりの凄い奴が……!

 

『――――――あった!』

 

 それは「?」としか書かれていない、不思議なアイコン。取って見なければ分からない、一発逆転のギャンブルカードだ。

 だが、ここまで追い詰められている以上、その可能性に賭けてみるしかない。

 そして、オレが引いたアイコンの効果は、

 

『……「ゆびをふる」×5だぁ!』『なん……だと……!?』

 

 何とシズナのピッピお得意の指を振るが5セット。本来覚えられないポケモンも行使出来る辺り、ユウギの才覚が光る。

 しかし、今はその天才さが仇になったな!

 

『ピジョット、「アクセルロック」五連打ぁっ!』『ピジョォオオオオオオッ!』

 

 そして、指を振るが引き当てたのは、アクセルロックという知らない技。尖った岩を身に纏い、電光石火の攻撃を食らわせるらしい。

 これが最後のラッシュデュエルだぁっ!

 

『第一打ぁ!』

『くっ、躱せ!』『キョォァッ!』

 

 一発目は絆パワーで完全回避。

 

『第二打ぁ!』

『「まもる」!』『キュゥゥッ!』

 

 二発目も守るで防がれた。

 

『第三打ぁーっ!』

『ぐぁっ!?』『キョァアアアッ!』

 

 だが、三発目は見切れず直撃。

 

『第四打ぁっ!』

『ぬぐぅぅっ!』『キィィィッ!』

 

 四発目で致命的な一撃を加え、

 

『これで終わりだ! 第五打ァアアアッ!』

『がぁあああああ!』『ギギャアアアッ!』

 

 第五打で完全に瀕死となり、ファイヤーは火口へと落ちていった。マグマで傷を癒すのだろう。覇王ユウギも大☆爆★発した事だし、これで一件落着だな!




◆ユウギ・ジューダイ・ムトー

 ウイジムの十代目ジムリーダーにして、カツラの孫。ほのおタイプの使い手。
 普段から熱い限界バトルを求める生き急ぎ野郎で、祖父から受け継いだ科学の才能をフルに発揮する事により、血迷った方向へサーキット・コンバインしてしまった大馬鹿者。彼の人生は燃え上がる炎その物であり、誰にも止められないし、止まらない。
 そんな思わず蒸発してしまう程の熱気に一目惚れしたファイヤーが、ユウギの相棒である。カツラを神秘的に救った頃のお淑やかさは何処へ行ったのか、今の彼女は主人と同レベルの脳筋バトルジャンキーだったりする。
 そして、今日もまた、自分たちを滾らせる挑戦者を待っているのだ。

※ルールとマナーを守って楽しくバトルしよう!


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お楽しみの夜と新しい朝

シン:「激しい戦いだった……!」
カリン:「単なる勢いじゃない?」


「楽しいデュエルだったぜ!」

「いや、デュエルじゃねぇよ」

「俺に勝った証に、このバッチと技マシンを受け取ってくれ!」

「人の話聞けよ」

「だけど、次は勝つぜ! 必ずな!」『チョー楽しめたよ!』『カオス・エクシーズ・チェンジだ!』『絶望したぁ! ワシの頭は焼野原と化した!』

「一人ずつ話せよ」

 

 という事で、オレは見事ウイジムを制し、バッチと火炎放射の技マシンを貰い、四人の見送りを受けつつ下山した。

 

「お疲れさーん。帰りも送ってあげるわねー」『ギュァアアアッ!』

 

 ガラルファイヤーの背中に乗せられて。全然熱くないし、むしろ冷たいくらいなのだが、どうにも眩暈がする。疲れてるのかなぁ?

 

「ハイ、到着」「ふぃー」

 

 その後、無事にポケセン前に到着。

 

「ワッハッハッハッ、素晴らしい戦いだったぞ! 思わずワシまで参加する所じゃった!」

「ホセーヨ、禿げ」

「禿げではない、カツラだぁ!」

 

 カツラさんの暑苦しい称賛を受けたので、とりあえず受け流しておいた。疲れてるんですよ、マジで。まさか空中戦(ドッグファイト)になるとは思って無かったし。

 

《お疲れ様です、マスター》

「何で来たし」

 

 さらに、何故かスピーダーが自動運転で追い付いてきた。マスターになった覚えは無いんですけど。

 嗚呼、もういい。とにかく休ませてくれ。さすがにくたびれたし、これ以上無理するとマヂで死ぬ。オレはスヤスヤおやすみタイムに入るんだよ!

 

「あ、寝る前にホテル紹介してくれない?」

 

 だのに、この女は……!

 しかし、放り出す訳にもいかず、ジュンサーさんが紹介してくれた割と良さ気なホテルにカリンを押し付けた所で、オレは力尽きて意識を失った。想像以上に疲労が溜まっていたらしい。やっぱり、子供にトラパーごっこは無理があったよ……。

 

『………………』

 

 途中、やたらとスターミーたちに見られていた気がしたが、何なんだろうね、アレ?

 そうでなくとも、スターミーって何考えてるか分からないし、むしろもっと前からジロジロ見られてたような……嗚呼、もう駄目だ、オヤスミマ~ン♪

 

 そして、数時間後。

 

「……ハッ!」

 

 オレは知らない天井を見上げながら目を覚ましたのだが、

 

「はうぁっ!?」

 

 どういう訳か、素っ裸だった。何でや。

 しかも、寝転んでいたのはピンクい感じのダブルベッド。何がどうしてこうなった。

 

「あら、お目覚め?」「何でお前まで裸なんだよ!?」

 

 さらに、お風呂場から一糸纏わぬカリンが登場。遂に女性の全裸を見てしまった……。

 

「そりゃもちろん、一緒にお風呂に入るからよ?」「どういう事だってばよ!?」

 

 まるで意味が分からんぞぉ!

 

「だって、アンタ汗だくだったじゃない。揺すっても全然起きないし、一先ず身体は拭いといたけど、ちゃんと湯船に浸からないと疲れが取れないわよ?」

「だからって、何でお前まで一緒に入るんだよ!?」

「大丈夫大丈夫、未成年を喰う程ガッツいて無いから」

「そういう問題じゃねぇよ!」

 

 心の問題なんだよ!

 

「そもそも、アンタ彼女持ちなんでしょ?」

「なっ……!?」

「出所はカツラさんね。決戦前に電話を掛けるとか、なかなか見せ付けてくれるじゃないの」

「あのクソ爺ィッ!」

 

 火口に突き落としてやろうか。愛しの女(ファイヤー)と会えるんだぞ、喜べよ、アアァン!?

 

「ま、そういう事だから、諦めて洗いっこしましょうね~♪」

「放せ! 放せ!」

 

 だが、オレのライフはとっくに0だったようで、上手く力が入らず、そのまま浴場へと連行されてしまった。もう何をしても無駄だと悟ったので、以降はカリンの為すがままにされる。さすがに前方は死守したが。

 

「……結構広いな」

 

 ホテルの浴室だから、てっきりシャワーしか無いかと思っていたが、意外な事に中はかなり広く、石造りの大浴場になっていた。陸亀っぽい浴槽に、溶岩とカタツムリの合子みたいな蛇口が温泉を注いでいる。

 さすがは火山島の町である。お風呂周りへの力の入れ具合が半端じゃない。

 

「そりゃあ、お風呂場でも出来るようにっていう、ホテルのサービスだもん」

「は?」

 

 何だ、その言い草は。それじゃあ、まるで此処が――――――、

 

「……知らずにチェックインしたの? ここ、そういうホテル(・・・・・・・)よ?」

「アッークセルシンクロォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 もう駄目だ、明鏡止水(クリアマインド)の境地には至れない。

 つーか、取り締まる人間が何て所を紹介してるんだよ、ジュンサーさん。もしかして、そういう趣味がお有りですか?

 

「うーん、アタシにそんなつもりは毛頭ないけど、これじゃあ、まるで現地――――――」

「それ以上言うなぁ!」

 

 シズナに何て言い訳すりゃいいんだぁ!

 

「まぁ、それはそれ、これはこれという事で。次はアタシを洗って頂戴ね~♪」

「………………」

 

 もう、どうにでもなぁ~れ♪

 

「疲れた……」

 

 結局、色々と酷い目に遭ったオレは、そのままベッドインする事になった。別に致す気は無いよ?

 そんな体力も精神力も、とっくのとうに尽き果ててるからなぁ!

 

「あ~ら、釣れないわねぇ~ん♪」

 

 カリン(こいつ)のせいで。

 一体どういうつもりなんだろう。揶揄うにしても度が過ぎるぞ。

 

「お礼のつもりだけど?」

「あのなぁ……」

 

 オレはシズナ一筋です。お前なんかお呼びじゃねぇ!

 

「それにしても、アオイちゃんだっけ? アタシも会ってみたいわぁ~」

「全力で遠慮願いたいな」

「どうして?」

「誤解しか生まないからだよ!」

 

 ついでに修羅場も生まれるかもしれない。あいつ、容赦しない時は本当に悪鬼羅刹と化すからな。火薬庫にニトログリセリンをストレートで投げ込むような物だ。オーレン諸島始まって以来の大惨事になるだろう。それだけは防がねば。

 ……何でオレ、こんな目に遭ってるんでしょうね。誰か助けて。

 

「でもでも、シンくんはこれからもジム巡りするんでしょう? だったら、一緒に付いて行こうかしらね~♪」

「断固として拒絶するわ。それより、いい加減寝かせてくれよ。オレの身体はもうボドボドなんだよ」

「嘘だッ!」

「ドンドコドーンだ! いいから寝かせろぉぁっ!」

「ハイハイ、お疲れマンボ~♪」

「古い……ッ!」

 

 そんな感じで、カリンの凍える風を受けつつ、眠りに着いたオレだったが――――――、

 

「……トイレ」

「ウ~ン……呼んだぁ~?」

「黙れ便女」

 

 夜中に目が覚めてしまった。そう言えば、島に着いてから一回もトイレに行ってねぇや。さすがにそれだけ放置していれば、催す物くらいある。

 という事で、ふざけた戯言を寝ながら呟く阿保を尻目に、ベッドから抜け出した。

 

「……ん?」

 

 すると、指に何かが引っ掛かり、スルリと床に落ちる。

 

「ペンダント?」

 

 それはカリンの物と思われるネックレスだった。小粒なチェーンが組み合わさっただけのシンプルな作りだが、飾り付けられた一個の宝石に思わず目が留まる。

 

「おいおい、これって……」

 

 一見すると良く出来たスターサファイアでしかないが、六条の星ではなく、何故か五条の星になっている。加えて石全体が淡く発光しており、よくよく見ると粒子物質を放っているのが分る。

 どう見てもカントー版願い星の加工品です、本当にありがとうございました。

 この女、何て物をペンダントにしてんだよ。何処で使い方を習った?

 

「ムニャムニャ……説明書を読んだのよ……」

「いや、煩いけど……」

 

 今すぐその本持って来いや寝坊助ェ。

 まぁいいや。これはトイレに流してしまうとして――――――、

 

「……っ!」

 

 拾った瞬間、不思議な光景がフラッシュバックする。最初に巣穴に触れてしまった、あの時と同じように。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 満天の星空。荒れ果てた大地。誰も何も居ない、死の世界。

 

『………………!』

 

 そこへ墜ちる、一筋の蒼き流星。それが骸と化したナニカへと宿り、死した命に再び脈動を与えた。

 蘇ったそれは、闇色の身体に七色の宝石を埋め込んだ、人型生命体。外宇宙より来たりし邪神の一柱。

 しかし、(なかみ)はまるで違う。青を基調とした特殊部隊の戦闘服に身を包んだ、真ん中分けの髪型をした人間の美女であり、顔立ちこそ若々しいが、その心は怒りと憎しみに支配され、すっかり老衰してしまっている。泣きながら笑い、嗤いながら怒っているような、歪な存在だった。

 そして、人の心を宿した邪神は、己に起こった事を確認し、理解すると、

 

『……フフフ。誰かの為に命を張るのも、誰かを愛するのも、もうウンザリ。私も好きにさせて貰うわぁ』

 

 本当の悪魔になった。彼女が望む、人としての姿に。

 一見すると素朴で目立たない、メタモンよりも緩い顔をした、無害そうな少女だが、実際は――――――、

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「……ハッ!?」

 

 と、映像はそこで終わり、オレは正気に戻った。

 

「今のは……」

 

 言うまでも無く石に宿った記憶だろうが、時系列としては前回の怪獣大戦争が終結した後だろう。ナイラーアとかいう奴は死んでたし。

 だけど、奴が取った人間形態の顔……アレって、

 

『………………』

「……っ、誰だ!?」

 

 いつの間にか、ドアの近くに妙な発光体がプカプカと浮かんでいた。それは扉を音も無くすり抜け、廊下へと出て行く。

 

「ま、待てっ!」

 

 オレは衝動的にその光の後を追った。どう考えても無謀な行為だが、一気に押し寄せた情報量のせいで冷静な判断が出来なかったのかもしれない。

 だから(・・・)、なのか。

 

『やぁ、シン・トレースくん。我々は君が来るのを待っていたのだ』

 

 ある筈の無い(・・・・・・)地下室(・・・)に、誘い込まれたのは。

 襖に畳、ちゃぶ台という和風の部屋に鎮座する、奇妙な物体。どこかスターミーに似ているが、身体はより刺々しい漆黒の結晶体となっており、コアは爛々と紫色に輝いている。とてもエスパータイプには見えない。

 だが、そいつがスターミーのリージョンフォームだと分かる。それもオーレンの物とは違う、全く別の存在であると。

 何の根拠も無いが、オレは瞬時に理解出来た。

 否、させられた(・・・・・)と言った方が正しいか。こいつは最初から自己紹介(テレキネシス)をしながら、待ち構えていたのだから。

 

『歓迎するよ。何なら、カリンも呼んだらどうだい?』

「……どういう事だ? 何が目的で、オレを呼んだ?」

 

 オレは警戒しつつも、奴と対面する形で腰を下ろした。どうせ丸腰なのだ。開き直ってやればいい。

 

『我々は君を救いに来たのだよ』

 

 すると、スターミー(?)は素っ頓狂な事を言い出した。

 

「……それはオレをこのままチェックアウトさせて貰えるって事か? 経費はそっち持ちで?」

『いやいや、そんなチャチな物じゃないよ。チェックアウトするのはホテルではなく、この惑星(ほし)からさ』

「はぁ? オレに宇宙旅行しろってのか?」

『端的に言えばそうなるかな』

 

 ますます以て訳が分からない。何でそんな事をせにゃならんのだ。

 しかし、スターミーみたいな奴は話を続ける。

 

『この惑星はもうすぐ滅ぶ。いや、生態系と言った方が正しいかな。通常種のスターミー(げんちのなかま)を通して観て来たから、よーく分かる』

 

 さらに、とんでもない事を宣いやがった。

 

「何を言ってるんだ……?」

『おや? 君はビジョンを見たんじゃないのかい? 輝石に宿った破滅の記憶を……』

「………………!」

 

 どうして、それを知っている。

 

『驚く程の事ではないだろう。我が同族たちは、そういう能力に長けているのだから』

 

 こいつも記憶を見たのか、それともオレの頭を読んだのか。どっちもあり得そうで、どっちも正しいようにも思える。

 もしくはこいつが見せた(・・・・・・・)可能性(・・・)もあるが、今のオレには判断しかねた。何せ、話に食い付いちまってるからな。

 

『アザストの封印はもうじき解ける。本当の悪魔となったナイラーアの手引きによってね。そうなってしまえば、今度こそアルセウスでも止められまい。だから、せめて将来が有望な若者たちだけでも、惑星の外へ逃がそうと、遥々やって来たんだよ。我々がかつてそうしたようにね』

 

 つまり、こいつらの故郷はアザスト率いる邪神たちに滅ぼされ、母星を捨てて逃げた口らしい。

 人語を介する辺り、その遣り方は――――――、

 

「……自分の仲間を……自分の親を見捨てたのか?」

 

 たぶん、そういう事だろう。ユンゲラーがそうであるように、実は人間とポケモンの境は割と曖昧である。

 なら、人と一体化した(・・・・・・・)ポケモン(・・・・)がいても、おかしくはない。こいつらはそうやって、星を逃げ出したのだ。

 

『託されたと言って欲しいね。あのままでは、我々は完全に滅亡していた。それ程の存在なのだよ、アザストは』

「………………」

 

 まぁ、理解は出来る。オレも親なら、道連れにするくらいなら断腸の思いで送り出すだろう。例え悲しみと憎しみを背負わせる事になっても。

 だが、今のオレは子供で、そうしたいとは“まだ”思えない。

 そもそも、何故わざわざオレに声を掛けたのだろう。将来有望な奴なら、そこら中にいるだろうに。例えば、シズナとか。

 

『彼女は駄目だ。連れては行けない』

 

 すると、スターミーもどきが、今までの軟らかい口調とは違う、鋭く冷たい声色で断固拒否した。

 

「何でだよ?」

『彼女は闇に魅入られ過ぎている。ナイラーアだけではない。もっと面倒な奴(・・・・・・・)に目を付けられている。一緒に連れ出しては、皆が危険に晒されてしまうだろう。……薄々君も勘付いているんじゃないかね?』

「………………!」

 

 言われてオレはハッとする。

 そうだ、あいつは昔から運が悪過ぎる。どうしてそこで、という所で決まって酷い目に遭う。

 そして、周りの人間は悉くそれに巻き込まれる。付いて行くだけでロケット団に足を踏み入れ、電話をしただけなのにガラルファイヤーに襲われたように。

 全くの偶然かもしれないが、それにしてはあまりにも狙い澄ましている。

 まるで、運命が彼女を(・・・・・・)排除しようと(・・・・・・)している(・・・・)ようである。

 それに、あの真っ黒なポリゴンだ。あいつは確実に、シズナを敵視している。自分の計画を邪魔したから。

 確かに、シズナと行動を共にしていると、それらの厄介事に巻き込まれ続けるだろうな。

 

 だけど(・・・)

 

「――――――なら、お断りだね。悪い大人には付いて行くなって、母ちゃんに言われてるんだよ」

 

 あいつを置き去りにするくらいなら、一緒に死んだ方がマシだ。

 

『なるほど、愛を取るか。実に純粋で純真な発想だ。子供らしくて大変よろしい。まぁ、子供の心が純真だと思うのは人間だけだがね……』

 

 悪いスターミーは特に驚く事も無く、嬉々としてオレの返答を受け入れた。若干見下された気もするが、気にしても仕方ないだろう。

 

『だが、我々にも矜持はある。誰が何と言うと、すべき事をするまでさ。“希望を繋げる”為にね』

 

 しかし、退くつもりは毛頭ないようで、急激に殺気を迸らせて、宙に浮いた。このまま、この部屋ごと念力で圧し潰す気だろうか。もしくは、気絶させてお持ち帰りするか。

 何れにしろ、オレたちは今、完全な敵対関係になった訳だ。

 

『さぁ、命を捨てて掛かって来るがいい。どの道、我々を退けられないようなら、アザストに滅ぼされるだけさ』

《滅ぶのはあなた方だけです。マスターは関係ありません》「掴まって!」

 

 と、天上を突き破って、カリンを乗せたスピーダーが乱入。奴を空の彼方まで撥ね飛ばしつつオレを回収し、外へ脱出した。

 

「これは……」

 

 外の世界は、想像を絶する物だった。

 

「星が多い」

 

 夜空に瞬く、異様な数の星々。もしかしなくても、アレが全部――――――、

 

《スピーダー、バトルモードに移行します。装着!》「……って、おい!?」

 

 だが、悪夢から覚める間もなく、スピーダーがオレに憑依装着。どうやら、迎撃する気満々のようである。おい馬鹿ヤメロ。

 

「シンくん!」『ヘァッ!』「颯爽登場、ですかね?」『コォォラヌゥ!』

「アオイ!? ……と、スターミー? あと、誰?」

 

 さらに、オーレンのスターミーに乗ったシズナが登場。お前、その状態でバンジ島から飛んで来たのかよ。何で!?

 あと、どう見てもガラル出身のフリーザーに跨った、そのスカした野郎について詳しくお願いします。

 

「よばれてとびでてダダダダーン」『バリバラヌゥ!』

 

 ついでに、ガラルの姿と思われるサンダーに乗ったマツリカまで馳せ参じる。飛べないからって海上を走って来るな。

 

「役者は揃ったってワケ? なら、遠慮も容赦も無しで行くわよ!」『ギェヴァアアアッ!』

 

 そして、駆逐してやると言わんばかりに、カリンもそのまま戦闘に参加。

 

「間に合った!」「ギリギリセーフ、かしらね?」「こいつはホットだぜ!」「じっちゃんの名に懸けて!」

 

 次いで現れた、本物の三鳥に乗った持ち主たちも駆け付け、いよいよ連合軍染みて来た。

 敵は無数。瞬く星々、その全て。暗黒のスターフィッシュたちが、洪水のように押し寄せて来る。

 

『キャハハハハハハハハッ!』

 

 さらに、その先頭に立つ一体が、更なる進化を遂げた。スターミーを頭に、ドレスを着こんだ女性のような結晶の身体を形成した、美しくも禍々しい悪の華。自らを偉大なる種族だと勘違いしている、ただの悪魔たち。

 

「どりゃぁああああっ!」『ピジョォヴァアアヴヴッ!』

 

 サイケでサイコな空中戦が始まる。白星と黒星が舞い踊り、真偽を問わぬ火と氷と雷が轟き、眩い光と激しい爆発が夜の闇を彩る。良いも悪いも何もない、空虚で無意味な戦いは続く。

 ――――――そして!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「疲れた……」

 

 オレたちは朝を迎えた。

 夜通し戦った末に、闇のスターミーたちは残念そうに何処かへと去って行き、後には疲れ切ったオレたちだけが取り残されたのだ。

 結局、あいつらの真意も真偽も分からない。少なくとも、一方的にキャトルミューティレーションされなかっただけマシだった、という感じか。出来れば二度と関わりたくないね。

 

「昨夜はお楽しみでしたね?」

「アー、聞こえない、聞こえなーい」

 

 と言うか、オレとしては宇宙に連れ去るくらいなら、この修羅場をどうにかして欲しかった。

 皆が皆、虫の知らせがあって駆け付けたとの事だが、だからってカリンと二人でホテルから出て来る瞬間まで目撃しなくても良かろうに。

 

「初めまして、アオイ・シズナさん♪ アタシ、シンくんの今のパートナー(・・・・・・・)、カリンと申しま~す♪」

「そうですか。そしてサヨウナラ、カリンさん」

 

 ――――――嗚呼、誰か助けて。




◆スターミー(ティアーザのすがた)

・分類:べつのポケモン
・タイプ:ほのお/あく
・性別:ふめい
・特性:??????→発動中
・種族値
 HP:97
 こうげき:47
 ぼうぎょ:73
 とくこう:127
 とくぼう:73
 すばやさ:103
・図鑑説明
 オオキナ ホシ オチテ チイサナ ホシ タクサン ウマレタ


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ウーハーとバリラナイ雷鳥

マツリカ:「おひさしブリタ~ニア~♪」
ミサワ:「タイタンの物真似かい?」


 俺の名はミサワ・ダイチ。オーレン諸島オボン島のジムリーダーを務めている者だ。専門はじめんタイプで、皆からは「大地のミサワ」と呼ばれる事が多い。名前ひっくり返しただけとか言わないで。

 船便の関係上、俺がオーレン諸島最初の関門と言えなくもないが、オーレンリーグは順序に決まりは無いので、実力は皆ほぼ互角である。全員、伝説のポケモンを所持してるしね。俺のがそうだって知ったのは最近だけど。

 さて、そんな俺だが、つい先日面白い観光客に巡り合った。カントーから来た本土人であり、余所者故の無警戒さで主ポケモンの巣穴に近付き襲われていた所に偶然出くわし、そのまま成り行きでチームを組んで、潜んでいたオーレンピジョットを見事に撃破する事が出来た。

 その観光客というのが、シン・トレース、アオイ・シズナ、マツリカ(フルネーム不明)の三人だ。彼らはポケモントレーナーであり、旅立ちから半月もしない内に本土のバッチを7つも集めた猛者である。場合によっては数年掛かる武者修行を、この短期間で成し遂げたのは、まさに才能と言えるだろう。

 だが、そう言った類は稀ながら過去にもいたし、ジムリーダーは突破出来ても四天王で躓いて(特にカンナで)挫折してしまった才ある若者も沢山見てきたので、そういう意味では物珍しいだけのトレーナーだった。

 しかし、この三人は今まで見てきた者たちとは、何処か違う。具体的に“こう”とは言えないが、何となく雰囲気が違った。抽象的に表現するなら、シンは「光」でアオイは「闇」、マツリカは「混沌」といった感じか。それもハッキリと明暗が分けられている訳でもなく、皆一様に何処かが捻じくれていた。

 そういう人間は大抵の場合、何かしら特別な体験……もしくは“トラウマ”を抱えているものだ。あの歳で、一体どんな経験をして来たのやら。何れにしろ、他の有象無象とは一味違う事だけは確かである。

 だので、俺は「三手に分かれる」という彼らの提案に便乗する形で、マツリカの保護観察役を買って出た。

 彼女は三人の中で、一番不可思議な子供だ。率直なシンや腹に一物抱えていそうなアオイと違い、何を考えているのかさっぱり分からない。フェアリータイプの専門家らしく、ほやーんとしているかと思えば、妙に大人びた言動を度々見せてくる。

 こんな不思議少女、放っておくのは勿体無い。是非とも何をやらかし、どんな混沌を生み出すのか、見てみたいじゃないか。これでもカオス理論が好きなのでね。

 という訳で、「単純に旅行がしたい」と言うマツリカに随伴する事と相成ったのだが、

 

「ふぇありーいっぱーい♪」

『フリフリ~♪』『ラフリィィン♪』『ニャ~ン♪』『ンベロ~♪』『ピクシ~♪』『プクリィ~♪』『モフ』『バウ』

 

 開始早々ほっこりした。何このファンシーな空間。マツリカを中心に、様々なフェアリータイプのポケモンが寄り添ってるんだけど。オーレンバタフリーに、オーレンラフレシア、オーレンニャース、オーレンベロリンガ、通常のピクシーとプクリン、彼女の手持ちのオーレンサイホーンなど、錚々たる顔ぶれである(ウインディは除く)。実にゆるふわしている。一緒に混ざりたいくらいだ。

 

『フシャーッ!』

「……うーん、やはり駄目か」

 

 だが、試しに近付いてみると、一番手前にいたオーレンニャースに威嚇された。相も変わらず、俺はフェアリータイプに嫌われているらしい。何がそんなに気に食わないのだろう。

 しかし、俺はめげないぞ。見た感じ、普段よりかは警戒心が薄れている。ここは――――――、

 

「ほぉ~ら、美味しい「いかりまんじゅう」だよ~?」

 

 餌付けだ! ※捕獲目的以外で安易に野生のポケモンへ餌付けをしてはいけません。

 

『……にゃあ』

 

 おお、思った通り、訝しげだが寄って来たぞ。よしよし、このままどうにか仲良しに……、

 

 ――――――ズワォオオオオッ!

 

『にゃー!?』

「ああっ!」

 

 だが、あと一歩で手が届くという所で、突然響いた爆音により、驚いたポケモンたちが離散してしまった。何て事を。一体何処のどいつだ?

 ……いや、というか、真面目にこの爆発は何だ?

 

「あっちー」

「「ニュートン山」の方か!」

 

 マツリカの指差す方を見てみれば、ニュートン山の麓辺りで煙が上がっている。何が原因かは知らないが、その後も断続的に爆発が起こっている事を鑑みるに、元凶は未だにあそこに存在するのだろう。オボン島を預かる身として、確かめに行かねば。

 

「マツリカちゃんは……どうする?」

 

 保護を買って出た身としては、ここに留まって貰うべきなのだろうが、しかし、この子は普通じゃないし真面じゃない。あの二人に好んで付き添うような女の子だからね。過保護に接するより手綱を握るような感覚で付き合う方が、お互いの為であろう。

 

「いくー」

 

 ほらね、やっぱりこうなった。

 ――――――全く、俺も悪い大人だね。善き見本である前に、自分の好奇心を優先するのだから。研究者の性かな?

 ともかく、俺たちはそれぞれのポケモンに跨り、現場へ急行した。

 ちなみに、マツリカが乗っているのはウインディで、俺の相棒はオーレンのドードリオだ。タイプはじめん/ひこう。原種と違って特殊寄りであり、姿形も大分違う。ジョウト地方に住むキリンリキの如く頭部二つが尻尾のように生えている上に明確な翼が見えるので、初見だと別のポケモンに勘違いされる事は必至である。

 そのステータスは、こんな感じ。

 

◆ドードリオ(オーレンのすがた)

 

・分類:ポケモン

・タイプ:じめん/ひこう

・レベル:85

・性別:♂

・種族値: HP:60 A:60 B:70 C:110 D:70 S:110 合計:470

・図鑑説明

 警戒心が非常に強く、並大抵の愛情では決して靡かないが、一度信頼を置いたトレーナーには何処までも付き従う義理堅さを持つ。尻尾の双頭は高性能なレーダーで、360度死角が存在しない。大地の力を用いた強力な攻撃を行う。

 

 実に理想的な種族配分だ。無駄が殆どない。オーレンの充実した技マシンのおかげで、覚える技も一味違う。俺の切り札がグラードンなら、先鋒役はこのドードリオである。

 実際、彼は多くのトレーナーを単騎で返り討ちにして来た実力者だ。俺からの信頼も厚い。彼がいれば、大抵の事は解決するだろう。例え相手が伝説のポケモンだとしても。

 ……そう思っていた時期が、俺にもありました。

 

「「なぁにこれぇ?」」

 

 だってさ、ポケモンと素手で互角に殴り合う人間が目の前に居たら、どうしていいか分からなくなりません?

 それとも俺の感性がおかしいのか……いや、そこだけは断固否定させて貰おう。おかしいのは、あの人間である。

 ――――――って、ちょっと待て、あの人って……、

 

「凄まじいパワーだ! 貴様、かくとうタイプだな? ならば、全力で叩きのめしてくれよう! ウー! ハーッ!」

 

 四天王のシバさんじゃん。こんな所で何をしてるんだ、あの人は。

 

『バリバラヌッ!』

 

 しかも、対戦相手はサンダーに良く似た鳥ポケモン。原種と違って下半身の発達が著しく、その反面翼は飾り程度にしかない。形状的にドードーやドードリオと同じく、走る事に特化した種族なのだろう。

 確かガラルにはカントーの伝説の三鳥と似通った鳥ポケモンが三竦みを成していると風の噂で聞いたが、あれがそうなのだろうか?

 ともかく、そのガラルサンダーと四天王のシバが、草原の真ん中で睨みを聞かせ合っている。

 さっきの爆発音の原因が彼らだとすると、交戦したはいいが予想以上に拮抗してしまった為、今のような膠着状態になったのだと思われる。

 うーん、意味不明だ。何がどうしてこうなった。

 

「さぁ、答えろ! ……いかり饅頭は何処にある!」

 

 チョウジタウンに行け。

 いや、ダイタウンでも売ってるから麓に降りろ。俺のはあげない。何となく嫌だから。

 

『………………』

 

 すると、ガラルサンダーがサッと目を逸らした。

 その仕草、ま、まさか……そういう事、なのか?

 

「ねーねー、もしかしてあのとりさん……」

「言わんといてあげて」

 

 おそらくだが、あの鳥、シバさんのいかり饅頭を盗み食いしてしまったのだろう。シバさんがいかり饅頭を好んでいるのは有名な話。食べ物の恨みは恐ろしいと言うし、彼もそのせいで怒っているのかもしれない。

 合点が行ったと同時に、呆れ果てた。ホント、何してんだお前ら。

 

『バリバァアアン!』

「ぬぅん!」

 

 しかし、理由が判明した所で、止められるかどうかは別問題だ。ガラルサンダーは雷鳴轟く飛び蹴りを放ってるし、シバさんは平気でそれを防いでるし。

 うーん、真面なポケモントレーナーが関わっちゃいけないような気がする。帰っちゃ駄目かな?

 

「……って言うか、凄いねキミ」

 

 それはそれとして、隣で“シバさんとガラルサンダーの戦闘シーン”を超高速で描くマツリカの姿に、俺は思わず脱帽した。ラフ画とは言え、この速さは正直に凄いと思う。手に残像が出来てるもん。

 

「かくのはとくいぶんやだからー」

 

 そういう問題だろうか。普通は得意分野だからと言って、「シロガネ三十六景」を描いたクズハ・ホクシンみたいな真似は出来ないと思うんだけど。どういう動体視力と瞬間記憶能力を持っているんだ、この子は。

 

「ウーハウハウハウハウゥゥハァアアアッ!」

『ギャォオオオッ!』

 

 そうこうしている内に、戦況が変化した。何とシバさんが推し始めたのである。そんな馬鹿な。人間を卒業しないで下さい、シバさん。

 

「知らぬと言うなら仕方なし! 我が拳の錆となるがいい!」

「だーめー!」『バウヴァアアアッ!』

「ぬぉおおおおっ!?」

 

 だが、シバさんがいよいよ止めを刺さんと拳を振り上げた所で、マツリカちゃんが待ったを掛ける。ウインディのフレアドライブで。物理的過ぎる……。

 

「ぬぅ……どういうつもりだ、見知らぬ少女よ。そいつは饅頭泥棒なのだぞ?」

「いいおとなが、おまんじゅうのいっこやにこで、がたがたさわがないのー!」

「ぬぬぬ……!」

 

 うーむ、ド正論。確かに良い大人のやる事じゃないわな。

 

「そんなにおまんじゅうがほしいなら、わたしのあげるー」

「何ッ、それは本当か!?」『バリバラヌッ!』

 

 幼女に餌付けされる四天王と伝説の鳥ポケモンがそこにいた。それでいいのかアンタら。

 つーか、お前はさっき盗み食いしたばかりだろう、ガラルサンダー。意地汚いにも程がある。本当に伝説のポケモンなのか?

 あーあー、顎の下撫でられちゃってまぁ……。

 とりあえず、これで万事解決――――――なのかぁ?

 正直、かなり釈然としないのだが。怪我人が出なかっただけ、良しとしよう。尚シバさんは人間を辞めているので除く物とする。

 ともかく、これで謎の爆発事件は一件落着……と思った、その時。

 

『バリバリルゥウウッ!』

 

 突如、青天の霹靂が轟いた。大木のように太い雷がシバさんたち目掛けて叩き落ちる。幸いマツリカはガラルサンダーに乗せられる形で逃げ果せたものの、一歩間違えば死人が出ていた。シバさんは直撃したけど、気絶しているだけみたいだから別にいいや。

 

「……あれは!」

 

 誰がこんな馬鹿な真似をしたのかと空を見上げると、そこには稲妻迸る原種のサンダーと、その背に仁王立ちする、とても見覚えのある男の姿が。

 癖の強いギザギザの黒髪に吊り目という高圧的な顔立ちで、黄・黒・緑の無限光(アイン・ソフ・オウル)が描かれた赤シャツの上から黒地に白いラインが入ったロングコートを羽織り、やたらと刺々しいアームド仕様のズボンを穿いているなど、何処の魔王だと言わんばかりの容姿をしている。

 

「――――――マゴ島を治めるジムリーダーの君が、わざわざ何をしに来たのだ、マンジョウメくん?」

「略さずきちんと呼べ。オレの名は……一、十、百、千、マンジョウメ・サンダーぁ!」

 

 そう、彼こそはマゴ島のジムリーダーを務める男、マンジョウメ・サンダー・ジューンブライドである。マンジョウメ・サンダーが苗字で、ジューンブライド(通称:ジュン)が名前だ。海外の出身らしく、貴族の末裔なんだとか。

 まぁ、そんな事はどうでも良いとして、わざわざ海を渡ってまで彼は一体何をしに来たのだろう。少なくとも観光だとか、穏便な理由ではない気がする。

 

「質問に答えよう! オレはそこの余所者を排除しに来たのさ! このオレの相棒たる、サンダーの紛い物をな!」

 

 ジュンはマツリカを乗せたガラルサンダーをビシッと指差して、そう宣った。つまりは縄張り争いみたいな物らしい。それで人がいるのもお構いなしにサンダーするとか、迷惑千万な奴である。昔からそうだが。

 

「なんでそんなことするのー? このこはまいごなだけだよー?」

 

 当然、マツリカが抗議する。……えっ、迷子なの、その鳥?

 

「知れた事! 生物は己の縄張りを侵される事を良しとしない! ここオーレン諸島はサンダーを含む三鳥の縄張りだ。そこに似たような輩が現れたとなれば、排除するのは当然だろう!」

 

 アローラやガラルの姿のポケモンが居るのに今更何を言うのかと思ってしまいがちだが、オーレン諸島に住まうポケモンたちとガラルサンダーとでは事情が違う。他のリージョンフォームはオーレン諸島の環境に影響を受けて後天的に変化した物だが、ガラルサンダーはポッと出で現れた謂わば外来種だ。孤島群という閉鎖空間に外来生物が持ち込まれた先に待つのは破滅である。

 だから、ジュンの対応は強ち間違ってはいない。人を巻き添えにするのは大問題だけど。

 

「いじめちゃだめー!」

 

 しかし、そんな事情を察せられる程、マツリカは大人ではなかった。

 いや、実は理解しているのかもしれないが、納得はしていないのだろう。聞く所によると、彼女も絶賛迷子中らしいので、ガラルサンダーに同情しているのかもしれない。ガラルサンダーが本当にただの迷子なら、の話だが。

 

「知らん! そんな事はオレの管轄外だ! 邪魔立てするなら、お前も排除するまでだぁ!」

 

 むろん、ジュンが聞く耳を持つ訳がなかった。

 彼は貴族の末裔かつ末弟でジムリーダーという複雑怪奇な立場と環境のせいで色々と屈折してしまっており、そのせいで過激な思考に陥りがちで、言った事は本当にやってしまう男なのだ。このままではマツリカが危ない。

 

「よせ、マンジョウメ! その子を預かっている身として、これ以上の狼藉は許さないぞ!」

「マンジョウメ・サンダーと呼べ! ……フン、貴様の知り合いだったか。それは悪い事をしたと言いたい所だが、そんなの知らんなぁ! オレの雷撃で全て消し飛ばしてやる!」

「……それ、じめんタイプの使い手に言う台詞か?」

「やかましい! いいから掛かって来い!」

 

 よし、相変わらず単純で助かった。挑発には直ぐに乗っかると思っていたよ。

 

「サンダーは奴を仕留めろ!」「何ィ!?」

 

 だが、勝負が始まる前に、ジュンがサンダーにガラルサンダーへの攻撃を命じた。口からプラズマの塊を撃ち出す。

 しまった、さすがに甘く見過ぎたか。まさか、自分の切り札を追撃に回すとはな。

 

「逃げろ、マツリカちゃん!」「ひゃー!」『ギャルルァアアッ!』

 

 俺の迫真な声に素早く反応したガラルサンダーが、マツリカを乗せたまま走り出す。それをジュンのサンダーが空中から襲い掛かる。

 

『バリバラヌ!』『バリバリル!』

 

 幾ら持久力にも優れる走鳥類とは言え、空から狙われ続けていたら身が持たない――――――と思っていたら、何とガラルサンダーの身体が浮き上がった。凄まじい助走の果てに空中に躍り出たのである。

 どうやって飛び続けているのかは疑問だが、箒のような尾羽から何かが噴き出ているので、それで飛行しているのだろう。ミサイルみたいな奴だ。ガラル三鳥は渡りを行うと言うが、あれなら納得出来る。

 

「さぁ……お望み通り、ポケモンバトルと行こうか」

「くっ……」

 

 そして、こっちもこっちで戦いが始まる。予定とは少し違うが、今更言っても仕方あるまい。

 ようは倒してしまえばいのだろう?

 さっさとこの馬鹿を片付けて、マツリカを救出だ。

 

「「バトル!」」

 

 ――――――ジムリーダーのマンジョウメ・サンダーが勝負を仕掛けて来たッ!




◆サンダー(ガラルのすがた)

・分類:けんきゃくポケモン
・タイプ:かくとう/ひこう
・性別:ふめい
・特性:まけんき→無効化中
・種族値
 HP:90
 こうげき:125
 ぼうぎょ:90
 とくこう:85
 とくぼう:90
 すばやさ:100
・図鑑説明
 羽毛が擦れる時、バチバチと電気のような音がする事から、サンダーと呼ばれてきたポケモン。一蹴りでダンプカーを粉々にする脚力を持つ。時速300キロで山を駆けるという。渡りを行い、何十年に一度かの間隔でカンムリ雪原にやって来る。


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大怪鳥空中決戦とサンダーブレイク

ジュン:「オレの名前を言ってみろ!」
マツリカ:「きんだいちはじ――――――」
ジュン:「違ーう! マンジョウメ・サンダーだぁ!」


『バリバラヌッ!』

『バリバリルァ!』

 

 ガラルサンダーが上昇し、サンダーが後を追う。単純な直進速度はガラルサンダーの方が上のようで、少しずつ距離を取っていく。そうはさせまいとサンダーが10万ボルトを放った。

 

「バリバリ!」『バッバァン!』

 

 だが、マツリカの繰り出したバリヤードの光の壁で防がれ、大したダメージにはならった。とは言え効果抜群の技なのでガラルサンダーも一時失速、地表スレスレの低空飛行となる。

 

『ゴァッ! ガォッ! ゴヴァッ!』

 

 さらに、サンダーが電磁砲を三連打して来た。どうにか左旋回して躱したものの、直撃すれば一撃で瀕死となるだろう。ガラルサンダーは冷や汗を掻きつつ、しかし、このまま埒が明かないと、コブラ機動で転身。サンダーと真正面から向き合った。

 

「キュウちゃん、「れいとうビーム」!」『コォオオオン!』

『ギャヴォォオオッ!?』

 

 反撃はマツリカが担当した。近接戦特化のガラルサンダーには飛び道具が一切なく、サンダーに対する有効打を全く持ち合わせていないので、攻撃はマツリカのポケモンに任せる事にしたのである。他力本願とか言わない。

 

『ギョァアアアアアッ!』

 

 まさかの不意打ちにサンダーはバレルロールでどうにか対処したが、さすがに全弾回避は無理だったらしく、三連打の最後を食らってしまい、墜落した。輝く結晶塔を粉砕し、キラキラした煙を上げる。

 

『バリバルヴァアアアアッ!』

 

 それでも撃破には至らなかったようで、自らダイマックス化して奮起した。

 

「「ダイマックス」!」『バリバラヌゥッ!』

 

 だが、これはチャンスでもある。空中戦では勝ち目がなくとも、地上での接近戦ならこちらが有利だ。当たり前のようにマツリカがミサワから貰ったダイマックスバンドを起動させ、ガラルサンダーもダイマックスする。

 

『ガギヴィァアアッ!』

『ギゴァアヴヴヴッ!』

 

 サンダーがダイジェットを纏ったドリル嘴で、ガラルサンダーがダイナックルの力を宿した雷鳴蹴りで応戦する。

 しかし、やはり地上戦ではガラルサンダーの方が強く、サンダーのドリル嘴はダイマックス化した見切りで悉く避けられ、雷鳴蹴りで加速度的にダメージが蓄積していく。マツリカが的確に壁を張ったのも結構痛い。

 

『バリバラヌァッ!』『ゴギャアアッ!』

 

 最後はガラルサンダーがドリル嘴をやり返し、サンダーを吹き飛ばした。もはや瀕死も同然だろう。

 しかも、激突した衝撃で一際大きな結晶塔が倒壊。サンダーに圧し掛かって来た。潰される直前に10万ボルトを放ったものの、避ける事は叶わず、そのまま生き埋めになってしまうのだった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「行け、エビワラー!」『パンチィッ!』

「迎え撃て、ドードリオ!」『ドリドリオォッ!』

 

 そして、別の地点(こちら)でも、ポケモンバトルが始まった。ジュンがオーレンエビワラー(Lv83)を繰り出し、ミサワがオーレンドードリオ(Lv85)を召喚する。

 

(対面ではこちらが有利だが……)

 

 オーレンエビワラーはかくとう/でんきの複合タイプ。じめん/ひこうタイプであるオーレンドードリオの方が有利ではある。

 だが、オーレンエビワラーは原種よりも脆い代わりに素早さが高く、冷凍パンチもしっかりと覚えるので、技の面ではオーレンドードリオの方が不利である。勝ち筋としては、いかに接近を許さず遠距離から仕留めるかに掛かっているだろう。

 

「ドードリオ、距離を取りながら「だいちのちから」!」『ドリォオオッ!』

「エビワラー、「みきり」で躱して接近しろ!」『ビワラァアッ!』

 

 お互いにそれを理解し合っているのか、オーレンドードリオは逃げながら大地の力を放ち、オーレンエビワラーは攻撃を見切りながら距離を詰めていく。

 ちなみに、大地の力はミサワが開発した技マシンで、見切りはオーレン諸島に住むかくとうタイプが自然習得する守り系の技である。

 

「ドードリオ、「だいちのちから」!」『ドリドリドリィッ!』

『グググッ!』「エビワラー!」

 

 と、オーレンドードリオの大地の力が遂にオーレンエビワラーを捉えた。見切りにしろ守るにしろ、連続で出すと失敗し易いのが難点だ。

 

「よし、「エアスラッシュ」で仕留めろ!」『ギャォオオッ!』

「……掛ったな、アホが! エビワラー、「コークスクリュー」!」『ビワララァッ!』

『ドリャッ!?』「しまった……!」

 

 しかし、チャンスと見てオーレンドードリオが放ったエアスラッシュを、オーレンエビワラーはギリギリで回避してそのまま接近。準専用技の「コークスクリュー(威力80、命中率95)」を食らわせた。

 コークスクリューは回転技の一種で、拳を捻り込んで敵を怯ませるかくとう技である。エアスラッシュは羽ばたきを利用する関係上、どうしても一瞬だが動きが止まってしまう為、そこを突かれた形になる。欲張って怯みゲーを狙ったのが仇となった。

 

「今だ、「れいとうパンチ」!」『ドラァッ!』

『ギャオオオッ!』「くっ、戻れドードリオ!」

 

 さらに、怯んで動けなくなった所にオーレンエビワラーの冷凍パンチが直撃。これには堪らずオーレンドードリオは倒れた。

 

「行け、ダグトリオ! 「ふいうち」!」「くっ……!」

 

 だが、やられっ放しのミサワではない。アローラダグトリオ(Lv86)が早々に不意打ちを決めて、オーレンエビワラーを仕留めた。やられたら倍返しにするのが、ミサワの信条だ。

 

「やれ、ウツボット!」『カァアアアッ!』

「戻れ、ダグトリオ! 行け、ガルーラ!」『ガルァアアッ!』

「戻れ、ウツボット! 勝て、レアコイル!」『スチルルッ!』

 

 続いての対面はアローラダグトリオとオーレンウツボット(くさ/でんき:Lv86)……の筈が、互いにポケモンを入れ換え合って、最終的にオーレンガルーラ(じめん/ドラゴン:Lv84)とオーレンレアコイル(はがね/でんき:Lv85)の対決となった。相性的に仕方ないね。

 余談として、オーレンガルーラはサイドンのような角が生えた以外はあまり変化がないのだが、オーレンレアコイルは元の姿とは天と地程の差がある。三つのコイルが連結しているのは同じだけど、繋がり方が違う。お団子状態のコイルをそれぞれの磁石が数珠の如くくっ付けているという――――――どこぞのスグキエルとそっくりである。その見た目通り(?)、かなり素早い。

 

「……行くぞ、ガルーラ! 「じしん」!」『ガルォオオオッ!』

「させるか! レアコイル、「まもる」で防いでから距離を取れ! 狙いを付けさせるな!」『ジィジィイン!』

 

 そして、ようやく交戦。いきなり地震をかまそうとしたオーレンガルーラだったが、高速特殊アタッカーであるオーレンレアコイルにはすぐに逃げられてしまった。

 

「「ラスタービーム」!」『キィイイン!』

『ガルゥッ!』「ぬぅ……!」

 

 さらに、空を泳ぐように逃げながら、準専用技の「ラスタービーム(威力110、命中率85)」を放って来る。ラスターブレードと同じく、一定確率で火傷を負わせる追加効果があり、それが見事的中した。これでオーレンガルーラは機能不全に陥ったと言っていい。物理アタッカーにとって、火傷は致命傷なのだ。

 

「――――――「からげんき」!」『ガルァアアアアアッ!』

『ギィィッ!?』「くっ……!」

 

 しかし、それすら見越していたのか、オーレンガルーラは空元気を発揮。火傷の攻撃力半減というデバフを無視して大暴れした。不一致かつ抵抗力の壁はあるが、素早い分原種よりも耐久力が低いオーレンレアコイルは大ダメージを受け、再び天を舞う事無く地に落ちた。

 

「おのれ! ギャラドス、「ハイドロポンプ」で仕留めろ!」『ゴギャアアアォス!』

『ガルォ……!』「チッ……戻れ、ガルーラ!」

 

 だが、さすがに火傷の蓄積ダメージは如何ともし難く、次に繰り出されたオーレンギャラドス(でんき/ドラゴン:Lv87)のハイドロポンプでオーレンガルーラも倒れた。

 

「頼むぞ、ニョロボン!」『ボキュォン!』

 

 次なるミサワのポケモンはオーレンニョロボン(みず/じめん:Lv87)。若干ピパピパに似た、沼蛙風の姿をしている。金ぴかの鯱染みた鯉のぼりと妙にやる気のあるピパピパが対峙する光景は、若干シュールである。

 

「ニョロボン、「だいちのちから」!」『ボンボォーン!』

「ギャラドス、「りゅうのはどう」!」『ギャォオオオ!』

 

 どちらも攻撃的な性格であり、お互いに真っ向勝負だ。災害級の大怪獣バトルが繰り広げられる。

 

「――――――「れいとうパンチ」!」「ぬぅっ……!」

 

 そして、一瞬の隙を突き、オーレンニョロボンがオーレンギャラドスを沈めた。

 

「名誉挽回だ、ウツボット! 「パワーウィップ」!」『カァアアアヴッ!』

『ボンバァ……!』「……お疲れ様、ニョロボン」

 

 しかし、ノーガード戦法をし過ぎたので、再び召喚されたオーレンウツボットのパワーウィップでオーレンニョロボンも退場する。

 ここまでは、まさに一進一退の攻防。

 だが、これからは違う。押され気味のミサワだが、彼にはまだ切り札が残っている。

 

「……勝つぞ、グラードン!」『ガヴォォオオン!』

 

 そう、デカいサンド……ではなく、グラードン(Lv93)の登場である。

 

「ウツボット、「パワーウィップ」!」『カァクァアアアッ!』

「グラードン、「ほのおのパンチ」!」『グラァアアドォン!』

 

 さらに、オーレンウツボットのタイプ一致パワーウィップを物ともせず、炎のパンチ一発でKOしてしまった。

 

「くそっ、行け、ケンタロス! 「フレアドライブ」!」『ブモォオオオッ!』

「耐えろ! そして「だんがいのつるぎ」だ!」『グヴォオオオオオオオッ!』

 

 そして、ジュンの最後の手持ち、オーレンケンタロス(でんき/ほのお:Lv88)の放った渾身のフレアドライブで大ダメージを受けたものの、倒れる事無く反撃。断崖の剣で串刺しにして倒した。

 傍から見た者の一部は、「これだから伝説厨は」などと揶揄する事だろう。

 しかし、これはルールに則った勝負。別に伝説が禁止という訳ではないし、そもそもお互いに一体ずつ持っている。自ら手放したのはジュンの方だ。自分からケンカを売っておいて卑怯もクソもあるまい。

 

「……クソッタレ! オレが負けるだなんて、あり得るかぁあああああっ!」

 

 ただし、理解と納得は別物。元より捩じくれ捻くれているジュンは、己が挑んだ勝負に敗けた事が認められず、あろう事かミサワにリアルファイトを仕掛けた。もはやジムリーダーの矜持など頭にない。単なる悔し紛れの腹いせである。

 

「ウーハーッ!」「ぐへぁっ!?」

 

 だが、ポケモンバトルにラフファイトは許されない物。ジュンの悪足掻きは、今頃になって目を覚ましたシバに阻止され、勝負も決した。

 

「――――――向こうはどうなった!?」

 

 ようやく終わったバトルの余韻に浸る事無く、ミサワはマツリカたちの姿を探した。

 その視線の先では――――――、

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『………………』「………………」

 

 瓦礫と一定の距離を保ちつつ、様子を窺うガラルサンダー(とマツリカ)。

 

『……ギャオォオオオオッ!』

 

 すると、突然瓦礫の山が閃光を放ちながら爆裂四散、目を覚ましたサンダーが10万ボルトをビーム状にして発射した。

 

『………………!』「バリバリ……!」『バリヤーッ!』

『バリバラルァッ!』

 

 ギリギリで避けたガラルサンダーはそのまま空へ逃げ(マツリカはバリヤードに壁を貼って貰い必死にしがみ付いている)、サンダーも後を追って上昇する。

 雲を突き抜け、成層圏すら飛び越えて、大気圏へ。澄んだ青が遠ざかり、暗黒の海が見え始めようと、二羽は尚も上へ上へと昇り続ける。

 

『ゴギャォッ!』

 

 と、怒りでブーストの掛かったサンダーがガラルサンダーを僅かに追い越し、翼を広げて襲い掛かった。

 

『バリバラヌッ!』

 

 しかし、ガラルサンダーはこのまま逃げて落とされるならばと、自爆覚悟で突撃。両脚で組み付き、自ら飛行を止めて自由落下状態となる。

 

『ギャォオオオオオオオオオッ、ゴギャァアアアアアア!』

『バリバリダーッ!』「………………!」『バリバリィ!』

 

 空気摩擦により、燃え上がりながら墜ちていく二羽の鳥(と背中のオマケ)。サンダーが下で盾代わりになっているので、ガラルサンダーやマツリカたちは少しだけマシなものの、膨大な熱に晒されている事に変わりはない。それぞれの肌をこんがりと焼き上げ、重度の火傷を負わせていく。

 

『ギャォアアアアッ!』

 

 もちろん、黙ってフライドチキンにされるサンダーではない。落ちている間も10万ボルトを直接流し込み、ドリル嘴で少しでも体力を奪おうと必死に足掻く。

 だが、常時炎に晒されながらでは集中出来ないし、何より逃げに徹していたガラルサンダーと違って、余計な体力を使い過ぎている。空振りが続くというのは、肉体だけでなく精神にも多大な負担を強いるのだ。それが“苛立ち”から来るものであれば、尚更。

 

『……ギィッ!』

 

 だので、サンダーは遂にガラルサンダーを振り解く事が出来ないまま、地面に叩き付けられた。火傷を負った状態でそれは、とてもキツい。

 

『バリバリルァッ!』

 

 それでも、伝説のポケモンとしての矜持なのか、覚束ないながらも、サンダーは立ち上がった。

 さらに、電磁砲を撃つ為にエネルギーを溜め始める。体力的も、これが正真正銘、最後の一発だろう。全身全霊を掛けたであろうその威力は、ウルトラ級に違いない。

 

『………………』「………………」

 

 対するガラルサンダーは、黙って睨み付けるだけだった。背中のマツリカも無言でバリヤードを引っ込め、別のボールを構える。敵が撃つと同時に動く腹積もりだろう。

 

『『………………』』

 

 睨み合う両雄。張り詰める空気。刹那の静寂。決着の時は、近い。

 

「「はかいこうせん」!」『トリャーッ!』

『ギャォオオオオオオオオオオオオオオ!』

 

 サンダーの電磁砲が火を吹き、マツリカのプクリンが破壊光線を見舞った。ガラルサンダーは見切りで回避に全力を注ぐ。

 

『……ガッ!?』

 

 そして、破壊光線がサンダーの頭部に見事命中。大爆発を起こした。

 消耗した体力では見切れなかったのか、ガラルサンダーも少し掠ってしまい、麻痺を食らった物の、先に盗み食いをしていたいかり饅頭のおかげで自然に回復出来た。

 

『………………!』

 

 ゆっくりと、仰向けに倒れていくサンダー。断末魔のように10万ボルトが放たれたが、誰にも当たる事なく虚空へ消えた。

 

「かったー♪」『バリバラヌッ!』『ハッピ~♪』

 

 こうして、ガラルサンダーとマツリカたちは、空と地上を舞台とした激しい死闘の末に、レベル的にも努力値的にも格上で相性も最悪な怪物を打倒したのだった。




◆マンジョウメ・サンダー・ジューンブライド

 常に台風に見舞われる過酷なマゴ島でジムリーダーを務める若き天才。ファンからも自らも「マンジョウメ・サンダー」と呼ばれ呼ばせている(親しい者には「ジュン」と呼ばせている)。
 しかし、実際は複雑な家庭事情とジムリーダーというお勤めによる多大なストレスを抱えた、かなり可哀想な人。そのせいか非常にストイックで、攻撃的かつ過激な性格となっている。
 ただし、妙な所で詰めが甘く、たまにポカをやらかす可愛い一面もあり、そこが良いと人気がある模様。
 先祖は海外出身のとある貴族であり、数世代前にカントー地方へ亡命して来た。彼はその末裔で末弟、しかも優秀過ぎる兄が二人もいて、親も明らかに兄たちばかりを贔屓していたりと、家庭環境にかなりの問題と爆弾を抱えている。


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あやしい森とロリコン共め!

マツリカ「このウミガメ、ほんとうにウミガメ?」
ミサワ「勘のいいガキは嫌いだよ」


 ガラルサンダーとシバさんの喧嘩に出くわし、島を締めに来たジュンを何とか倒した俺たちは、傷を癒す為にポケモンセンターを目指して下山していた。

 

「………………」

 

 負け犬(ジュン)も一緒に(笑)。

 

「おい、貴様。心の中で負け犬とか言って嗤ってるだろう!」

「エスパータイプかお前は」

「本当に考えていやがったのか!」

「鎌を掛けられただと!?」

「意外と表情に出るんだよ、貴様は!」

「そうなの!?」

 

 それは知らなかった。

 ちなみに、シバさんとはニュートン山で別れている。何でもこのまま修行に励むのだとか。

 もう一つちなみに、ガラルサンダーはどうなったのかと言うと、

 

「ドードー、ごーごー!」『バリバラヌ!』

 

 無事にマツリカの乗り物になりましたとさ。ニックネームが「ドードー」なのは、俺がついつい呟いた「ドードー(ガラルのすがた)みたいだ……」という台詞のせいかもしれない。正直、スマンと思ってる。お前は誰が何と言っても、サンダーだよ。図鑑によると、でんきタイプの技を全く覚え無いみたいだけど……。

 ともかく、お互いに和解(物理)した事だし、今までの事は水に流して、まったりしようじゃないか。

 

「だが、バッチは寄こせ。マツリカちゃんへの慰謝料にする」

「カツアゲだろう、それは!」

「知らん、そんな事は俺の専門外だ」

「コイツ……!」

 

 さらに、俺はジュンからマゴジムのアームドバッチを回収し、マツリカにプレゼントした。不思議そうな顔で「ロリコン?」と聞かれたが、断じて俺はその手の変態ではないとだけ言っておこう。純粋な善意と、ちょっとした嫌がらせだ。他意はない。

 

「お待たせした。ポケモンたちは皆元気になりましたよ!」『ソーナンス!』

「いつも済まないね」「どーもねー」「………………」

 

 そんなこんなで俺たちはポケモンを回復させ、

 

「さて、ポケモンたちも回復し終えた事だし、一先ず腹ごしらえでもしようか」

「さんせー」「フン……好きにしろ……」

 

 そういう事になった。

 フーム、何処に行こうか。甘味はもう味わったし、何だかんだで日も暮れてしまったから、ここはしっかりとした物が食べたい。ならば、“あそこ”しかないな。

 

「よし、ここにしよう!」

「なにここー?」

「俺の行きつけの店さ」

 

 そして、俺たちはお洒落な食事処の前に立った。ここはオボン島の名物料理が食べられる店。ガッツリ食べたいなら、ここしかない。

 

「おい、貴様……ここは居酒屋だろうが!」

「酒は控えるから問題ない」

「子供を連れ込む事自体が問題だと言っている!」

「君も大概子供だと思うがね」

 

 癇癪起こして人に八つ当たりする程度にはガキだろう。

 それに居酒屋と言っても、どちらかと言うと小料理屋に近く、身内同士で輪が出来ているような店なので、親戚の子だと言えばいい。女将さんも子供好きだしね。

 

「ここのウミガメスープが美味いんだよ」

「……それはちゃんとウミガメを使ってるんだろうな?」

「それはそうだろう?」

 

 意味☆不明★である。

 まぁ、どの亀を材料にしているのかは、俺も知らんがね。美味い物は美味い、それで良い。

 ともかく、さっきから腹の虫が煩いし、さっさとお邪魔するとしよう。なぁに、突き出しで何か作ってくれるだろうし、その間に注文を決めてしまえばいい。後は野となれ山となれだ。

 

「さて、店に入ろうか、マツリカちゃん……あれ?」

「おい、アイツが居ないぞ!?」

 

 しかし、俺がマツリカの方に振り向くと、そこに彼女の姿は無かった。ガラルサンダーも。子供の自由奔放さも善し悪しだな。こうして少し目を離しただけで迷子になる。特に今は逢魔ヶ時だしね。

 

「フーム、仕方ない。ポケモンの手も借りて、探すとしよう」「全く……」

 

 そう言いつつ、ちゃんと探すつもりじゃあないか。

 という事で、俺たちはポケモンを繰り出し、周囲に探りを入れた。流石にさっきの今で遠くには行っていないだろう。ガラルサンダーを出しっぱなしなのだとしたら、案外すぐ見つかるかも。

 

『ドリドリドリォ!』

 

 と、俺のオーレンドードリオが見付けたようだ。

 だが、近くには居ないらしい。付いて来い、という事だろう。

 

「おい、ここは……」

「「あやかしの森」じゃないか!」

 

 ……で、オーレンドードリオに案内されて辿り着いたのが、悪戯好きなフェアリータイプが群生している「あやかしの森」。一度迷い込んだら二度と戻って来れない危険地帯として有名である。

 しかし、それは一人で入った場合の話。複数人のトレーナーで、きちんと準備をしてから挑めば無事に帰って来れる。

 つまり、一人迷子になっているマツリカは、しっかりバッチリ惑わされているのだが。フェアリータイプに好かれ易い体質ならもしかしたらワンチャンあるかもしれないが、逆に付け込まれてしまっている可能性もある。何れにしても、このまま見過ごす訳にはいかない。

 幸い、今ここには二人のジムリーダーがいる。充分に踏破し、マツリカも探し出せるだろう。そうと決まれば、

 

「行くぞ、マンジョウメ!」「マンジョウメ・サンダーだ!」

 

 俺たちはあやかしの森へ踏み入った。各々のポケモン(俺=オーレンドードリオ、ジュン=オーレンケンタロス)に乗って。

 

「レアコイル、索敵しろ」『レァァアル!』

「ダグトリオ、臭いを探れ」『ダグダグダグ!』

 

 まずは周囲の様子を探りつつ、マツリカの痕跡を追う。周りはフェアリータイプのポケモンだらけ。特に危険なのは、花粉や鱗粉で幻覚を見せるオーレンラフレシアとオーレンバタフリー、何でも丸呑みにするオーレンベロリンガ辺りか。

 だが、一番危ないのは彼らではない。

 

『ロリコロリコ、ンフフフッ!』

「「うわ出た」」

 

 そう、あやかしの森で最も危険なフェアリータイプのポケモン。それはオーレンのスリープとスリーパーだ。それは図鑑を見てもらえれば分かる。

 

◆スリープ(オーレンのすがた)

 

・分類:ゆうかいポケモン

・タイプ:エスパー/フェアリー

・種族値: HP:90 A:48 B:55 C:43 D:60 S:32 合計:328

・図鑑説明

 子供の夢が大好物。気に入った子を見付けると催眠術で操り、棲み処に連れ去ってしまう。象のように長い鼻から陽気な笛の音を奏でる。

 

◆スリープ(オーレンのすがた)

 

・分類:ゆうかいポケモン

・タイプ:エスパー/フェアリー

・種族値: HP:115 A:73 B:80 C:73 D:85 S:67 合計:483

・図鑑説明

 小さな子供が大好き。特に幼い女の子が大好物で、出合頭に掻っ攫う。スリーパーが笛を吹けば、子供たちは眠ったまま踊り出し、そのまま行方不明になる。

 

 ……良い所が何一つ書かれていない上に、完全に犯罪者である。ころロリコン共め!

 ちなみに、オーレンのスリープとスリーパーは体色がピンクで、頭にベレー帽のような毛があり、音を媒介にした催眠術を得意としている。その為、スリープの鼻はリコーダーのように穴が開き、スリーパーは振り子ではなく自作の笛を吹く。

 さらに、こいつフェアリータイプの癖に、レベル技で毒々を覚えたりする。図鑑の別バージョンに「身体から未知のウィルスが見付かった」と書かれているので、こいつの場合は化学反応による毒素ではなく、潜伏している病原体をばら撒いているのだろう。

 ロリコンであり、ベクターでもある。それがオーレンスリーパー。マジで自重しろ。

 

『ドリドリォ!』『ダグダグトーリォ!』

「匂いは……やはりこいつらから出ているようだな」

 

 オーレンドードリオやアローラダグトリオの反応を見るに、やはりオーレンスリープたちがマツリカを攫ったのだろう。スリープばかりでスリーパーが見当たらない事を鑑みると、実行犯かつリーダー格もそいつか。

 

「……押し通るぞ!」「言われるまでもない!」

『ノースリープ!』

 

 俺たちはポケモンを繰り出し、オーレンスリープたちを突破した。笛吹きをするだけあって体力が高いのは厄介だが、決定力不足かつ速度が足りない連中を相手に負ける程、鈍間な奴は出していない。しっかり弱点も突けるしね。

 そして、周囲からの干渉をポケモンたちの力で跳ね除け、森の奥へ奥へと進んで行くと……いた。マツリカだ。

 

『ロリダロリダヒャヒョォヴ!』「………………」

 

 しかし、どう見てもオーレンスリーパーに操られている。

 さらに、ボールを構えて臨戦態勢だ。どうやらポケモンバトルをご所望らしい。うーん、ちょっとやり辛いなぁ……。

 

「オレが行く」

 

 すると、ジュンが一歩前に出た。どういう風の吹き回しだ?

 

「……大丈夫か?」

「何を心配しているのかは知らんが、問題ない。それに、ジム戦もしてないのにバッチを渡すのは癪だしな」

 

 なるほど、分かり易い。

 

「ツンデレだな」

「馬鹿な事を言ってないで、周囲を警戒していろ。……行くぞ、マツリカ!」

「………………!」

 

 ――――――ポケモントレーナーのマツリカが勝負を仕掛けて来たッ!

 

「………………」『バリバリィッ!』

「行けっ、ギャラドス!」『ガヴォオオオオオッ!』

 

 初手はバリヤードとオーレンギャラドス。対面としてはジュンの方が有利と言える。バリヤードは体力が無いからな。

 

『バッバァーン!』

「無駄だ! ギャラドス、「ハイドロポンプ」!」『ギャルォオオッ!』

『バリリ……バリアーッ!』

「む、小癪な! ギャラドス「10まんボルト」!」『ギャラァアアッ!』

 

 サラッとリフレクター&光の壁を張られたが、危なげなく突破。

 まぁ、向こうとしても壁張り要員として先発に出したのだろうから、仕事はされてしまったとも言えるが。

 

『コォオオン!』

 

 次のポケモンはアローラキュウコン。特攻はそこそこだが、高めの素早さと見た目のふつくしさで人気のポケモンである。あと、普通にこおり技が痛いし、マジカルシャインは控えめなものの範囲が辛い。全く以て嫌なポケモンだ。

 

「戻れ、ギャラドス! 行け、レアコイル!」『ビィービィーッ!』

 

 むろん、みすみすオーレンギャラドスを落とす訳にはいかないので、ジュンはオーレンレアコイルと交代した。

 

『ホォオォォ!』

「くっ!」『コカラララッ!?』

 

 だが、交代読みで怪しい光を入れられてしまった。ここが原種・変異種共通のキュウコンの嫌らしい所。技範囲が広い上に補助技まで豊富なのである。

 だからこそ、火力は控えめなのだが、

 

『コォォン、クォンクォン!』

 

 そんな問題を解決するのが、この悪巧みだ。一度でも詰まれてしまうと、キュウコンの特攻でも致命的になる。冷凍ビームが吹雪になるくらいの変わり様と言えば、そのインフレ具合が分かるだろう。吹雪に至っては、体感的に自爆を喰らったぐらいの勢いはある。

 怪しい光で時間を稼ぎ、積み技でパワーを上げる。実に利用的な戦い方である。力押し気味のジュンにも見習って貰いたい……って、そんな事を言ってる場合じゃない。

 

『コァアアアアッ!』

『ビィー……!』「クソッ、戻れレアコイル!」

 

 自傷でダメージを受けている所に悪巧み済みの吹雪を叩き込まれ、一撃で叩き落されるオーレンレアコイル。オーレン種は素早い分だけ耐久力が低いので、これは仕方ないだろう。

 問題は、特攻が二段階も上がってしまったアローラキュウコンをどうやって突破するか、である。こおりタイプは半減し辛いし、威力も高い。生半な特防では耐えられないだろう。

 ここはオーレンケンタロスを出して、早々に処理したい所だが……そうすると、控えのオーレンサイホーンが辛くなる。あの要塞っぷりは、それこそ弱点を突かないと厳しいだろう。ただでさえオーレンレアコイルを失っているからな。

 

「行けっ、エビワラー!」『ビワァラッ!』

 

 そして、ジュンが選んだのはオーレンエビワラー。原種よりも素早く、やはり耐久力は低いが、“躱して殴る”事に特化しているので、一先ず速さは足りている(アローラキュウコン:109<オーレンエビワラー:110)。割とギリギリとか言ってはいけない。

 

『クァォオオオオッ!』

「エビワラー、「みきり」!」『エビッ!』

 

 まずは見切りで躱して立ち位置を変え、

 

「今だ! 「コークスクリュー」!」『ビワーラッ!』

 

 コークスクリューで怯みを入れて、

 

「トドメだ、「かみなりパンチ」!」『ビギュラァッ!』

『コォオオオン……!』

 

 必殺の雷パンチで止めを刺した。まさにオーレンエビワラーの必勝パターンだ。こおりタイプのおかげでかくとう技が等倍ダメージを与えられるのが幸いしたな。相手はマジカルシャインをぶっ放そうとしていたので、結構危なかったのだが。

 

「………………!」『タァーッ! トモダチィーッ!』

「危なっ!?」『ドワォッ!?』

 

 次なるマツリカのポケモンはプクリン――――――なのだが、開幕から破壊光線を発射して来た。何でマジカルシャインじゃないんだ……。

 

「エビワラー、「コークスクリュー」からの「かみなりパンチ」!」『ビワーラッシュ!』

『プクゥゥ……トリャーッ!』

「何ィ!? 馬鹿な……!」

 

 むろん、何時もの必勝パターンをぶち込んだのだが、それでもプクリンは倒れない。HPが高過ぎる。

 

『トモダチハゴチソウ!』

「怖っ!?」『ビワーッ!』

 

 さらに、マジカルシャインで目晦ましを食らわせてからトライアタックで逆襲して来た。流石にこれには耐え切れず、オーレンエビワラーは倒れた。

 だが、ここまで来れば後は楽勝である。

 

「行け、ギャラドス! 「10まんボルト」!」『ギャォオオオッ!』

『トモダチ……ガクッ!』

 

 オーレンギャラドスの10万ボルトが炸裂し、トモダチは倒れた。21世紀に帰れ。

 さて、次に出て来るのは……、

 

『バヴワアアアヴッ!』

「なっ、オーレン化しているだと!?」

 

 何とオーレンの姿となったウインディ。この短期間でオーレン化するとは、余程素養があったのだろう。

 と言うか、これはマズい。オーレンウインディはステータスはほぼ同じだが、タイプにフェアリーが加わる。でんき/ドラゴンの複合であるオーレンギャラドスには厳しい相手だ。

 しかし、残りの手持ちでは有効打が無いのも事実。ここはギャラドスのみず技で無理矢理突破するしかない。

 

『バヴヴァアアアッ!』

『ギャヴォッ!?』「ぐぉおおおっ!?」

 

 だが、予想外の大ダメージ。何の強化も無しに一撃でHPがタスキラインまで持って行かれてしまった。そう言えばこの個体、他の面子より二回りくらいレベルが違うんだったな。そりゃ勝てんわ。

 

「ギャラドス、「ハイドロポンプ」!」『ギャヴォオオッ!』

『バヴゥゥン!』

 

 そして、起死回生のハイドロポンプも、とんでもなく素早い動きで躱され、じゃれつくで止めを刺された。

 ヤバい、予想以上に強過ぎる。流石にLv98は高いよ……。

 マズいな、このままだとマジで3タテされる可能性もある。ジムリーダーとしてそれはどうかと思うが、ここは番外戦術でマツリカを正気に戻すしかないだろう。

 それはつまり、

 

「おねんねだよ~♪」『ダグダグダグッ!』

『ロィイイイイイイイッ!?』「……はっ!?」

 

 不意打ちでオーレンスリーパーを倒す事である。ジュンが勝てそうなら見守ってやる所だったが、オーレンウインディは無理だわ。下手すると、俺の手持ちでも押し負けるもん。

 

「………………」

 

 それは本人が一番分かっているのか、ジュンは悔しそうな顔をするだけで、何も言う事は無かった。今何を喚いても、負け犬の遠吠えにしかならないからま。それが分からぬ程、ジュンは弱くない。

 

「……負けたよ。オマエの勝ちだ!」

「う、うん? どうもありがとう?」

 

 さらに、正気に戻ったマツリカに、電磁砲の技マシンを自ら渡すという、ある種賞賛とも言うべき行為をした。舌打ちして、頑なに目を逸らしながら。やっぱりツンデレじゃん。需要はあるのだろうか。マツリカもチンプンカンプンだし。

 

「大人しくしろ!」『ロリガロリガァ、チクショォオオオオッ!』

 

 余談だが、オーレンスリーパーは俺が捕まえておいた。生態的に仕方ないとは言え、町まで繰り出して誘拐するような輩を見過ごす訳にはいけない。これでもジムリーダーなんでね。つーか、それ以上喋るなロリコン。

 ともかく、これで一先ず一件落着……と言いたい所だったが、

 

「……ハッ! シンおにいちゃんがわるいひとにゆうわくされて、なんかおそわれてる!」

「「まるで意味が分からんぞ!?」」

 

 突如としてマツリカに天啓が齎され、

 

「……いや、これは冗談ではないかもしれないぞ!?」「何ッ!?」

 

 そして、俺のポケギアにも凶報が。流れ星が異常に多く見られ、どうもそれがポケモンらしいと、カツラさんから連絡があったのだ。

 こうして、俺たちは休む間も無く、発信源であるウイ島へ向かうのだった……。




◆あやかしの森

 ニュートン山近くにある、フェアリータイプの群生地。悪戯好きなポケモンが多く、中にはオーレンスリープ&スリーパーなどの悪質な者もおり、一人で入ると二度と帰って来れない危険地帯として有名。地面や木の根元を掘り返すと無数の人骨が見つかるという。


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最果ての楽園と時の旅人

アオイ:「そろそろ、この旅も終わりが見えて来たかしらね~?」
シン:「オレはもっとお前と旅行したいけどなー」
マツリカ&カリン:「「ヒューヒュー♪」」


 べつのひ~♪

 

「いよいよだね!」「もうすぐよ!」

「そう、だな……」

 

 私たちは優雅な船旅に身を任せていた。

 ティアーザスターミーたちの企みを、オーレンスターミーたちやジムリーダーの皆さん、ゲストの方々と協力して何とか退けた後、せっかく合流したので、そのまま旅仲間でオーレン巡りをしよう、という事になったのである。

 ちなみに、ミサワ氏とは全員が戦いました。流石に手の内が分かっている相手にはそこまで苦労はせず、無事にバッチゲット。アンズちゃんに続き、ハヤテとヒナゲシちゃんもオーレン化したのも大きい。オボン島(と近くのオレン島)で激戦を繰り広げた影響だとか。それは嬉しいが、ハヤテは何故ゴースト/ひこうになったのか……。

 さらに、他の連中ともその場でバトル。ジュンも結構強かったが、ユウギには一番苦戦した。スピードバトルというどっかで聞いた事のある形式は体験出来なかったが、スタンディングでも祖父譲りの馬火力で押されに押されまくった。火傷で物理殺してくるの止めーや。

 そんなこんなで、結果的にバッチを四つ揃え、「つららばり」「れんごく」「でんじほう」「だいちのちから」の技マシンを手に入れた。二つ程ロマン技なの草w。でも氷柱針と大地の力は普通に良い技なのでありがとう。

 ……で、今の面子はこんな感じ。

 

《私のメンバー》

 

◆相棒ピッピ(アカネ)Lv91:「ゆびをふる」「ウルトラクッキング」「コズミックパンチ」「ムーンフォース」

◆オーレンオニドリル(ハヤテ)Lv89:「ネコにこばん」「ステルスバード」「ドリルライナー」「とんぼがえり」

◆オーレンラフレシア(ヒナゲシ)Lv86:「ヘドロばくだん」「メガドレイン」「ムーンフォース」「どくどく」

◆スピアー(アキト)《メガシンカ》Lv89:「どくづき」「とんぼがえり」「げきりん」「ドリルライナー」

◆オーレンニドクイン(アンズ)Lv86:「どくづき」「れいとうビーム」「りゅうのはどう」「だいちのちから」

◆相棒イーブイ(ユウキ)Lv88:「めらめらバーン」「いきいきバブル」「びりびりエレキ」「どばどばオーラ」

 

《シンくんのメンバー》

 

◆相棒プリン Lv92:「ふわふわドリームリサイタル」「ころころスピンアタック」「プリプリほうふくビンタ」「スヤスヤおやすみタイム」

◆相棒ピカチュウ Lv89:「ばちばちアクセル」「10まんボルト」「ふわふわフォール」「ざぶざぶサーフ」

◆ピジョット 《メガシンカ》Lv91:「ねっぷう」「エアスラッシュ」「すなかけ」「はねやすめ」

◆フシギバナ Lv88:「メガドレイン」「やどりぎのタネ」「どくどく」「まもる」

◆アローラガラガラ Lv92:「シャドーボーン」「フレアドライブ」「ホネブーメラン」「おにび」

 

《マツリカちゃんのメンバー》

 

◆バリヤード(バリバリ)Lv82:「サイコキネシス」「ひかりのかべ」「リフレクター」「マジカルシャイン」

◆プクリン(おやかたさま)Lv84:「マジカルシャイン」「トライアタック」「10まんボルト」「はかいこうせん」

◆アローラキュウコン(キュウ)Lv84:「ふぶき」「マジカルシャイン」「あやしいひかり」「わるだくみ」

◆オーレンウインディ(バウワウ)Lv98:「じゃれつく」「おにび」「げきりん」「フレアドライブ」

◆オーレンサイホーン(ドンベェ)Lv78:「じゃれつく」「メガドレイン」「ねむる」「じこさいせい」

◆ガラルサンダー(ドードー)Lv77:「みきり」「らいめいげり」「ドリルくちばし」「とんぼがえり」

 

 マツリカちゃん、何気に伝説のポケモン(ただしかくとうタイプ)ゲットしてる……。

 全体的にレベルも上がったし、もはやカントー地方に敵はいないと言っても過言じゃない気もする。原典のレッドよりレベル上なんだよなぁ。

 しかし、レベルだけが全てではないのがポケモン勝負。それにこの世界の四天王は自重する気が一切ないから、伝説のポケモンも平然と使ってくるだろう。本当に安心出来ないわー。

 ともかく、準備は整った。一日観光しつつ休息を取って、万全を期す。ウミガメスープ、意外と美味しかったです。

 そして、私たちはオーレン諸島のチャンピオンが居るという、最果ての孤島――――――「ナナ島」へ船出していた。

 地図の何処にも載っていない、四つのジムバッチを集めた者だけが辿り着ける島。ミサワたち曰く、“そんなに広くは無いが、とても美しく緑の溢れる楽園”だとか。詩的で素敵ですね。くさタイプやむしタイプがいっぱいいるんだろうなぁ~。

 さて、そんな緑の楽園へ私たちは向かっている訳だが、一つ問題が。

 

「……で、何でまだいるのかしらぁ~?」「何でかしらねぇ~?」

 

 何故かカリンとかいうアバズレが付いてきたのだ。惚けやがって。将来の四天王だからって調子に乗るなよ。

 

「ハァ……」

 

 ほら、シンくんも疲れてるじゃん!

 

「アオイおねえちゃんたちのせいだとおもうよ~?」

 

 黙らっしゃい!

 貴様に何が分かるぅ、マツリカァーッ!

 

「……それにしても、何時になったら着くのかしらねぇ?」

 

 カリンが船縁の柵を背に大海原を見渡しながら呟く。

 癪だが、確かにそうね。かれこれ二時間くらい波間を走ってるけど、島どころか岩礁一つ見えないし。これ、軽く遭難してない?

 

「あ、アオイ! あれ!」「おお……!」

 

 とか何とか言っていたら、オーシャンブルーの平原に、ポツンと浮かぶ島が。間違いない。地図に表示されない、緑の楽園。ナナ島だ。という事で、上陸!

 

「奇麗な島ね……」

 

 カリンが波風に揺れる髪を遊びながら、ポツリと漏らす。くそぅ、画になるなぁ!

 しかし、本当に美しい島である。深緑の樹々が生い茂り、清らかな小川がせせらいでいる。海岸線はリアス式と砂浜が混在していて、暮らしているポケモンも大分違う。実に自然豊かで、静かな島だ。

 その代わり、人工物は一切見当たらず、文明や文化の影も形もない。漂流物すら無いので、おそらくはポケモンが食べてしまったのだろう。はがねタイプとか、普通に金属を食べるしね。

 むろん、整備された道などある筈もなく、簡素な獣道が幾つかあるのみ。まさに秘境中の秘境だ。こんな所に居るのか、オーレンリーグのチャンピオン。

 

「……どうしようか?」「とりあえず、虫よけスプレーでも掛けて、進んでみるしかないんじゃない?」

 

 幸い、島の面積はそこまでではない……というか、南鳥島ぐらいしかない。多少の起伏はあれど山と呼べるようなものは無く、何処までも平坦な大地が広がっている。それでも川が流れているのは、島の中心に聳える結晶塔から湧き出る清水のおかげだろう。それにより淡水の確保が容易になっている。

 ただ、オーレン諸島でも群を抜いて南にあるので、ともかく暑い。動植物が繁栄するには持って来いだが、幼気な子供が過ごすには厳しい環境である。

 

「バッチが行く先を示してくれるわ」

 

 ここでカリンの出しゃばり。言われんでも気付いとるわい。

 そう、バッチを四つ組み合わせると羅針盤となり、島の何処かに潜むチャンピオンの下へ導いてくれるのだ。おかげで、島まで真っ直ぐ来れたし、迷子になる心配もない。歩き易いかどうかは別だけど。

 

『フリフリ~♪』「あ、バタフリー」

『ブゥ~ン!』「こっちはスピアーがいるぞ」

『クアァヴォオオン!』「ストライク~」

『キシャアアッ!』「カイロスが喧嘩してるわね」

 

 予想通り、むしポケモンが群生しているようである。

 孤島というのは生物相が限られ易い。狭過ぎるので、種類が多いと途端にニッチの食い合いが始まってしまうのだ。大抵は空を飛べる鳥や虫を中心とした食物連鎖が成り立つ事が多い。

 ポケモンの場合は、むしタイプも鳥並に馬鹿デカい上にくさタイプも普通に動けるので、とり・むし・くさによる三つ巴の状態なのだろう。

 事実、道中でもオーレンウツボットやオーレンフシギバナが、とりポケモンやむしポケモンに襲い掛かっていた。

 ちなみに、オーレンのフシギバナの図鑑説明は以下の通り。

 

◆フシギバナ(オーレンのすがた)

 

・分類:フラワーポケモン

・タイプ:くさ/ドラゴン

・レベル:68

・性別:♂

・種族値: HP:100 A:80 B:103 C:110 D:102 S:80 合計:575

・図鑑説明

 蕾が花開き、ドラゴンの力に目覚めた。毒気は失ったが、代わりに高い体力と凄まじいパワーを得ている。背中の花から撃ち出される種は、周囲の物を纏めて薙ぎ倒す強力な爆弾である。

 

 まさかのアローラナッシーと同じタイプである。こんな暑い場所で暮らしていれば、寒さに弱くもなるわな。

 

「……川にはコイキングしか居ないな」

 

 逆に小川の生物相はお世辞にも広いとは言えず、コイキングばかり。通常種(みず)とオーレン種(みず/でんき)が混在している辺り、オーレン種が通常種を捕食する関係のみが成り立っているのだろう。やたらと限定的だが、島の生態系ではあるあるだ。

 ……で、肥え太ったオーレンコイキングを、とりポケモンや飛べるむしポケモンたちが掻っ攫っていくと。なるほど、良く出来ている。オーレンコイキング、通常種と違って凄く美味しそうだもんなぁ……。

 

「――――――っていうか、ぜんぜんおそわれないねー」

「そう言えばそうね。何でかしら?」

 

 次々と顔を出す野生のポケモンを観察していたマツリカちゃんが首を傾げ、カリンのアバズレもそれに追従する。

 確かに、野生とは思えないくらいに人慣れしてるわね。木の実とか投げたら、普通にパクついてくれたし。

 人気のない島に、人慣れしたポケモンが群生している。中々にミステリーだな。チャンピオンが餌付けしてるのかな?

 

「……アオイ!」「あっ……!」

 

 そんなこんなで、道なき道を進む事、一時間。不自然に開けた場所に出た。その中心にはこの島唯一と思われる、古びた石造りの祠が一つ。何処となく、ジョウト地方の「ウバメの森」にある祠にちょっと雰囲気が似ている気がする。気のせいかもしれないけど。

 

『ミュウ~?』

 

 さらに、そこにはとても珍しい、色違いのミュウがフワフワと遊んでいた。水色の毛並みが木漏れ日の中で煌めき、とても美しい。

 色違いのミュウがここにいるという事は、やはりここはゲームで言う「さいはてのことう」なのか、それとも……?

 と、出くわした摩訶不思議に頭を捻っていた、その時。

 

『………………』

 

 突如、祠の真上に時空の扉が開き、穴の中から一人の少年が、まるでミュウを庇うように舞い降りた。

 ショートボブの茶髪に太い眉毛。健康的な肌色に、少女と見紛う程に可愛らしい顔立ち。白い半袖のYシャツに濃緑色のズボンという芋臭い格好、それに似合わぬガチな画材道具の数々。かなり地味だが、親しみ易い雰囲気である。

 

『ビィ~♪』

 

 そして、彼の周囲を飛び交う、球根のような(もしくはラッキョウのような)頭に妖精を思わせる小さな胴体が付いた、不思議なポケモン。円らな瞳でこちらを見ながら、背中の二枚翅で宙を舞う姿は、大変に可愛らしい。体色がピンクともなれば、尚の事。

 ――――――間違いない。時渡りポケモンのセレビィだ。色違いとは珍しいな。

 という事は、あの少年はもしかして……、

 

『………………』『ミュミュ~♪』『ビッビィ~♪』

 

 いや、笑ってないで何か言えよ。少年も幻組も。

 と、ともかく、彼がオーレンリーグのチャンピオンなのだろう。サトシみたいな力強い瞳で、GSボール構えてるし。ボールの中身が誰なのかは言うまでもあるまい。

 余談だが、腰のベルトには他にもプレシャスボールと思しき物が幾つかくっ付いている。GSボールと合わせれば、合計で六個。フル装備とは恐れ入るね。

 

「え、えっと、それじゃあ私から――――――」

「ハイ、そこまで」

 

 だが、名無しの少年チャンピオンに挑もうとした、その瞬間に待ったが掛かった。

 

「「「ブ、ブルー!?」」」

「ハーイ、久し振りねぇ」

 

 声の主は、まさかのブルー。

 

「……ようせいポケモンの?」

「いや、どう見ても違うだろ」

 

 言うと思ったけどさぁ!

 それにしても何時の間に、どうしてこんな所に?

 

「――――――何しに来たのかって顔ねぇ? それはもちろん、幻のポケモン(そいつら)を頂く為よ!」

 

 すると、聞いてもいないのに、ブルーが己の目的を明かした。うん、予想通り過ぎて笑える。お前はそういう奴だよ。

 

「付けて来たのか。厭らしいわね」

 

 ならば、今まで行動を起こさなかったのは、私たちがバッチを手に入れるのを待っていたからか。ナナ島は地図に無い幻の場所だからな。羅針盤を完成させなければ近付く事さえ出来ないとなれば、機が熟すのを待つのも一興だろう。

 

「……別に自分で集めても良かったんだけどね。今回はあくまで観光、物のついでよ。ただまぁ――――――」

 

 と、そこまで言った所で、ブルーは一度目を瞑ると、鋭い目付きで名無しの少年を睨み付け、

 

「万全の状態で叩き潰してから奪うのって、最高だと思わない?」

 

 なるほど、嗜虐心を優先したか。趣味が良いな。

 

「そんな事、許すと「思っているのかしら、クソガキ?」」

 

 シンくんの台詞に被せるように、カリンが挑発する。ヤロー、お前にだけ良いカッコはさせないッピ!

 

「……やっぱり一番槍はシンくんに譲るわ。この脳足りんは私に任せておいて」

「アオイ……だけど……」

 

 あ、もしかして心配してくれてる(嬉)?

 でも、大丈夫。こいつとは一度戦ってるし、遣り口も分かっている。例え前回のような事が起きても、マツリカちゃんや、不本意だがカリン(アバズレ)の手を借りれば、ギリギリ戦えるだろう。

 ……あと、何だかんだで鉄砲玉になりがちな現状から脱却したいっス。いっつも私から挑んで負けて、シンくんが勝ってから、私がリベンジするみたいな流れになってるもんね。鉄砲玉以外の何物でもない。

 

「随分好き放題言ってくれるじゃない。ワタシに勝てるとでも?」

「煩いんだよ、ストーカー」「そっちこそ不意打ち仕掛けるくらいだから、実は自信無いんじゃないの~?」

「……上等だコラァッ! ガキと若作りが調子に乗ってんじゃないわよぉ!」

 

 さらに、私とカリン(アバズレ)による初めての煽り文句(きょうどうさぎょう)。ブルーは挑発に乗ってしまったッ!

 

 ――――――ポケモントレーナーのブルーが勝負を仕掛けて来たッ!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「ヤッチマイナー!」『プァラァッ!』『ギャハハァッ!』『ギィガァォヴッ!』『ガァルヴォッ!』『クォンコォンコォン!』『グゥヴァメラァッ!』

「出番よ、ユウキ!」『ブイッ!』

「行きなさい、ブラッキー!」『ブラァック!』

「ごーごー、ドードー!」『バリバラヌ!』

 

 オレの背後で、ブルーとシズナたちの戦いが始まった。

 シズナはユウキ、カリンはブラッキー、マツリカはガラルサンダーを繰り出し、ブルーは前回同様に全ての手持ちを召喚した。

 ブルーのメンバーは前と変わりないようだが、ピクシー(Lv85)、ゲンガー(Lv87)、ウツボット(Lv88)、ガルーラ(Lv86)、キュウコン(Lv89)、カメックス(Lv98)と、大幅にレベルが上がっている。それに纏うオーラの強さから言って、ポケモンのアメも舐めさせているに違いない。

 例の力でシズナたちは一匹ずつしか出せないし……気を付けろよ、シズナ!

 

『………………』

「……待たせたな。オレが挑戦者だ」

 

 ――――――さて、ブルーはシズナたちに任せておいて、オレは自分の戦いをしよう。せっかく譲られたのだから、今度はオレが先陣を切るんだ!

 

『………………』『ビィッ!』

「行けっ、ピジョット! メガシンカだ!」『ピジョォヴァゥッ!』

 

 チャンピオンの先鋒はさっきから飛び回っていたポケモン。色違いのミュウは見学だけらしい。

 対するオレはメガピジョット。タイプは判別し辛いが、こんな森の奥にいるからにはくさタイプは入っているだろう。頭も何となく葉野菜っぽいし。

 とりあえず、今回はガンガン攻めてみるか。まずは熱風攻撃だ。

 

『………………!』『ビィ~イ~♪』

 

 すると、チャンピオンの指示で、不思議なポケモンが時空の穴に飛び込んで姿を消す。しばらくすると、メガピジョットの背後に突如姿を現し、虹の木の葉を旋風に乗せて攻撃して来た。効果が今一つなのを見るに、たぶん、くさタイプの技だな。

 しかし、時空の狭間に逃げ込むとか、そんなの有りか。地面に潜ったり、空を飛んだりは知ってるけど、時の流れに乗る奴は初めて見たぞ。シズナ曰く、影や闇の世界に姿を消す技があるらしいがね。

 どちらにせよ、消えている間は攻撃のしようが無い。となれば、出た瞬間に技を当てるしかないだろう。

 

『ビィビィ~♪』

 

 再び不思議なポケモンが姿を消す。にこやかに手を振りながら。またしてもメガピジョットだけが取り残され、辺りが静寂に包まれる。

 

「………………」

 

 焦るな、集中しろ。

 葉っぱを念動力で飛ばして来た以上、奴のタイプはくさ/エスパーの複合である可能性が高い。弱点が多い組み合わせであり、一つに至っては四倍ものダメージを受ける。雰囲気から言って、ミュウと似たような種族値だと思われるが、流石に華奢な身体を補い切れる程の耐久力はあるまい。

 ならば、やる事は一つ。

 

『ビィッ!』

「今だ、「すなかけ」!」『ピジョォッ!』

 

 そして、不思議なポケモンが時空の狭間から姿を現した瞬間を狙って、砂を掛けた。何時ものオレのスタイルである。出合頭に目潰しを喰らった不思議なポケモンは見事に攻撃を外し、背中を見せる。

 もちろん、そんな馬鹿デカい隙を見逃してやるようなオレではない。

 

「「エアスラッシュ」からの「ねっぷう」!」『ギャォオオオッ!』

『ビアァァッ……!』『………………!』

 

 エアスラッシュで怯ませ、動きが完全に止まった所に熱風を叩き込み、名前も知らない幻のポケモンを撃墜した。

 さぁ、お次は何だ?

 

『………………』『ヴギャアアアッ!』

 

 続いて繰り出されたのは、黒い体毛の猿型ポケモン。目は赤く、鋭い牙に爪、立っていても地面に着いてしまう程に長い腕を持つ。こいつもくさタイプなのか、身体の至る所に蔓が巻き付いていた。

 こいつも見た事がない、幻のポケモン。見た目からして、あくとくさの複合タイプだろう。

 

『ギャッギャッギャッ!』

「避けろ、ピジョット!」『ピジョルァッ!』

 

 危ない、いきなりラリアットをかましてきた。

 さらに、巻き付いた蔦を解いてぶん回し、鞭のように打ち付けて来る。さっきの不思議なポケモンは特殊型だったが、こっちは完全な物理系だな。気性荒過ぎだろ。

 

「ピジョット、上から「ねっぷう」!」『ピジョォァヴヴッ!』

 

 ならば、上空から熱風に晒してやろう。射程外からの一方的な攻撃は、戦いにおける基本である。

 

『ヴギィィィッ!』

 

 そして、こいつもくさタイプなのか、熱を浴びて苦しみ出す。あの様子だと、火傷も負ったな。こいつは良い。

 

『……ギャォオオオン!』

「何ィッ!?」

 

 だが、猿のポケモンは周囲の樹々に蔦を巻き付け、生命力のような物を吸収し、自らの傷を癒してしまった。加えて火傷まで治癒しており、パワー全開という感じ。

 くそっ、回復量は自己再生よりも弱そうだが、状態異常まで直すのは卑怯だろ。

 

『ウギャギャギャギャッ!』

「くっ……!」

 

 さらに、上から先手を取られるの嫌ったのか、トレーナーの手元へ蜻蛉返り。くさタイプっぽいトナカイのようなポケモンと交代した。速度差を嫌って繰り出されたからには、かなり素早いのだろう。

 

『ミィッ!』

『ピジョォッ!?』「速い……!」

 

 想像以上に速かった。プテラ並みだぞ!?

 

『ミィデシュー!』

『カッ……!』「くっ、一旦戻れ、ピジョット!」

 

 その上、更なる高みからエアスラッシュを放って来た。飛んでるし、エアスラッシュがメインウェポンって事は、こいつくさ/ひこうの複合だな!

 ともかく、このまま怯みゲーをされても叶わないので、一旦メガピジョットを引っ込める。

 

「行け、ピカチュウ!」『ピッカァッ!』

 

 代わりに出したのは、ピカチュウだ。素早さは相変わらず負けているが、タイプ相性的にこっちの方がマシだろう。

 

「ピカチュウ、「10まんボルト」!」『ピカチュウゥゥゥッ!』

 

 まずは10万ボルト。敵はプテラ並みに速いので当たらないが、あくまでこれは囮である。

 

「……今だ! 「でんこうせっか」からの「ばちばちアクセル」!」『ピカピカピカ、ピッカァッ!』

『ミミミィ……!』

 

 本命は、攻撃を掻い潜った事により、思惑通りに誘導された相手を、電光石火でスタンしてからのばちばちアクセルを食らわせる事だ。

 

『デュシュシュシュッ!』

「ぬぉっ!?」『ピカッ!』

 

 しかし、そこそこの耐久力はあるのか落とし切れず、緑色の光弾で反撃して来た。何だその技は。

 

「「ざぶざぶサーフ」!」『ピカチューッ!』

『ミィィ……!』

 

 効果が今一つではあるが、素早さを削ぐ為にざぶざぶサーフを食らわせる。上手く麻痺も引いてくれた。後は――――――、

 

「ピカチュウ、「10まん――――――」

『ミァアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 だが、畳み掛けようと10万ボルトを放とうとした瞬間、トナカイ的なポケモンの身体が光り輝き、大爆発した。自爆技ではないようで、使用後も倒れる事は無かったが、直前で発動した10万ボルトがヒットし、結局ピカチュウと共倒れになる。

 ……チクショウ、相討ちにされた!

 しかし、これでお互いに残り五体ずつ。動揺している暇は無い。オレは、勝つんだよ!

 

『………………』『ジィオオオン!』

「頼むぞ、プリン!」『プリャッ!』

 

 そして、次なるポケモンが召喚される。こちらはプリン。向こうは美しい雌のカモシカを思わせるポケモン。今までの傾向から考えて、くさタイプなのは間違いないだろうが、単一かは分からない。

 とにかく、観ろ、察しろ。戦いは読み勝った方が制する。それは指示を出すトレーナーの役目だ。

 さぁ、掛かって来いやぁ!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「シンくん……!」

 

 大分苦戦してるなぁ。

 あのポケモンのオーソリティーの若かりし頃っぽい少年は、どうやらくさタイプ統一パーティーのようだが、まぁ、面子が酷い。伝説・幻のポケモンが入り乱れである。

 セレビィ、ザルード、シェイミ、ビリジオンと来て……OH、カミツルギまで繰り出して来やがったよ。ウルトラビーストなんぞ、どうやって手に入れた。

 ……嗚呼、相棒プリンがやられた。流石にはがねタイプ持ち相手は無理か。カミツルギの攻撃力でスマートホーンなんかされたら、そりゃ落ちるわ。

 だが、手助けは出来ないし、するつもりもない。彼なら絶対に勝ってくれる。そう信じている。だから、

 

「ユウキ、「どばどばオーラ」!」『ブッブゥ~イ!』

『ゲハハハハハッ!』『クアァアアアッ!』

 

 このお邪魔虫を始末しないとな!

 やっぱり例の能力で手持ち数を制限された私が繰り出したのは、相棒イーブイたるユウキだ。パワーだけならアカネちゃんの方が圧倒的に上だが、彼女は大技ばかりで集団戦に向いていないので、今回は見送った。

 で、私が担当する相手はゲンガーとウツボット。高速特殊アタッカーと不意打ち持ちの両刀使いを敵に回すのは正直キツいが、こちらも弱点を突いていけるので、戦い様によっては優位に立てる。

 まずはどばどばオーラでゲンガーの弱点を突きつつ、光の壁を形成。ウツボットの不意打ちを喰らってしまったが、そっちはめらめらバーンで火傷を食らわせてやった。これで被弾ダメージをかなり軽減出来る。

 さらに、びりびりエレキでゲンガーの素早さを奪い、もう一度どばどばオーラを当てる。多対一の場合、集中砲火で片割れを倒すのが定石である。絶対にゲンガーの方が厄介なので、先にこっちを瀕死にさせる。私、ゲンガー好きだから、その面倒臭さも知ってるよ!

 

『ゲァォォォ……!』

 

 よし、落ちた。ゲンガーは素早い分、耐久力が無いからな。

 

『キャァアアアアアッ!』

「危なっ!」『ブィィ!』

 

 拳を握ってる場合じゃなかった。火傷有りとは言え、不意打ちとパワーウィップを喰らっているので、こちらも後が無い。早く決着を付けなければ。

 

「ウツボット、「ヘドロばくだん」!」『キャォオオオオッ!』

「そのワードはもう聞きたくないんだよ! 「めらめらバーン」!」『ンン……ブィィッ!』

 

 そして、ウツボットのヘドロ爆弾とユウキのめらめらバーンが同時に発動する。反吐の塊と燃えるモフモフが交錯し――――――、

 

『ブイッ!』『ギャアアアアアアッ!』

 

 ユウキが競り勝った。火傷で力が出ないから特殊に変えたは良いが、一歩遅かったな。鉄砲玉のアオイちゃんを舐めるなよ!

 

「止めよブラッキー、「あくのはどう」!」『ブラァアアアッ!』

「ドードー、「らいめいげり」!」『ギャォオオオオオオォス!』

 

 さらに、他の面子も何とか勝利を修める。ブラッキーは瀕死寸前だし、ガラルサンダーも割とボコボコにされているが、勝利は勝利だ。

 むしろ、伝説のポケモンまで引っ張り出して来てるのに、何で余裕勝ち出来ないの?

 相変わらず意味不明に強いなぁ、こいつ……。

 

「クソッタレが! これで終わりじゃないわよ! 次は絶対に……絶対に、勝つんだからぁ! バイバイキーン!」

 

 そして、手持ちを失ったブルーは、何時もの捨て台詞を残して、何処かへと逃げ去って行った。まさか、泳いで帰るの?

 

「……そうだ、シンくんは!?」

 

 邪魔者が居なくなった所で、シンくんの様子を窺うと、

 

「はぁ……はぁ……!」『ガラァ……!』

『………………』『ブルルルルル……!』

 

 ヤバい、もう追い詰められてる!

 つーか、アローラガラガラが相手だからって、カプ・ブルル出すなよ。こんにちは(アローラ)じゃねぇんだよ。あの傷の受け具合から察するに、自然の怒りでHPを半減されてから、岩雪崩(もしくは10万馬力)を喰らったな。そりゃ膝も着くよ。攻撃種族値が130もあるもんね。

 しかし、ユキ何とかさんも、残りはカプ・ブルルだけの模様。シンくんもガラガラだけしか生き残っていないとは言え、よくあのLEGENDラッシュを捌き切ったな。最早怖いんですけど。

 だが、流石にこれは厳しいか。アローラガラガラが瀕死寸前なのに対して、カプ・ブルルはほぼ無傷。ザルード辺りを倒すのに手間取った所に繰り出されたのだろう。

 こうなると、タイプ相性の有利不利は関係ない。普通に弱った方が負ける。

 嘘でしょ……あのシンくんが……そんな……!

 

「「頑張って!」」

 

 アバズレと声が揃ってしまった。

 しかし、今はそんな事はどうでも良い。勝って、シンくん!

 

『ブルヴォオオオオッ!』

 

 だが、カプ・ブルルは無情にもウッドハンマーを放って来た。オーバーKILL過ぎるだろ。やめたげてよぉっ!

 と、その時。

 

『ミュウッ!』『ブルヴォッ!?』

 

 これまで見ているだけだった青いミュウが、まるで庇うように飛び込んで来た。

 さらに、タイプ一致のサイコキネシスでカプ・ブルルを吹っ飛ばす。

 

「お前……」

『ミュウミュウ!』

「……分かった。なら、行くぞ!」

『ミュウ~!』

 

 どうやら、シンくんの為に戦ってくれるらしい。そんなの有りか。

 いや、でも手持ちの数ではシンくんの方が少なかったし、これで6VS6になったから、別に良いか。ともかく、シンくんが勝てば良いんだよ、勝てば!

 行けぇ、ミュウ!

 

『ブルヴァァオオオオッ!』

 

 カプ・ブルルがウッドハンマーや10万馬力と、当たったら即死レベルの猛攻を仕掛けて来るが、当たらない。戦闘経験が豊富なのか、天武の才なのかは知らないが、青いミュウの動きはニャースのミュウを遥かに超えていた。

 

『ミュアアアアアアアン!』

『ブヴォァアアア……ッ!』

 

 そして、悪巧みをしてからのサイコキネシス一発で沈めてしまった。つ、強い……!

 

『ミュッ!』

「え、お前……分かったよ」

 

 さらに、念動力でシンくんの荷物からプレミアボールを取り出し、自ら収まった。戦いを通して彼に付いて行きたい、と思ったのだろう。

 

『……フフ♪』

 

 そんな一人と一体の様子を見守っていた、将来博士号を取るであろう少年は、柔らかな笑みを浮かべた後、まるで幽霊のようにスーッと消えていった。

 彼は結局、何者だったのだろうか。オーレンリーグを制覇した証であるリボンを(シンくんだけでなく私たちの分まで)残していったので幻じゃないのは確かだが、あんな消え方されると本当に生きているのか怪しんでしまう。金銀時代のレッドばりに。

 そもそも、彼が私の思う通りの人物だとしたら、同じ時代に年齢の違う同一人物が二人いる事になる。年食った方、知らぬ間に昇天してたりしないだろうな、タイムパラドックスとかで。流石にそれは寝覚めが悪いぞ。

 ……段々心配になって来たな。ご挨拶も兼ねて、ちょっと久々に連絡を入れてみよう。

 

 ――――――プルルル! カプルルルッ!

 

 すると、何時変えたのか分からないが、不思議な着信音と共に、私のポケギアが揺れた。

 しかし、相手はオーキド博士ではなく、アポロさん。サカキならまだしも、彼がこんな急に連絡を入れるだなんて、一体何が?

 

「はい、もしもし、アオイです」

《アオイさんですか。……周囲の状況は?》

「問題ありません」

《分かりました。では、落ち着いて聞いて下さい》

 

 マジで何かヤバそうだな。あのアポロさんが電話口で「落ち着いて下さい」なんて、彼自身が焦っているのが丸分かりである。

 

《――――――ロケット団の地下秘密基地が、「スマイル団」を名乗る輩に襲撃を受けました》

 

 ……、…………、……はぁ?

 おいおいおいおい、そいつは一体どういう事かね?

 

「だ、大丈夫なんですか!?」

《マトリさんと幹部候補生の手を借りたので問題ありませんよ。しかし、こっちは囮だったようで、別動隊がシルフカンパニー本社を乗っ取り、出向いていたサカキ様を社員諸共人質にして立て籠っています》

「ええぇ……」

 

 これは予想外過ぎる。シルフカンパニー本社の乗っ取りイベントを引き起こすのがロケット団じゃないばかりか、全然知らない悪の組織が出しゃばって来るとは。どうなってんのよ一体。

 

《もちろん、黙って見過ごす気はありません。今度はこっちが粛清してやりますよ。売られた喧嘩は数万倍で返すのがロケット団なのでね。ですから、そちらも色々と立て込んでいるかもしれませんが、貴女たちにはカントー本土に戻ってきて欲しいのですよ》

 

 つまり、お礼参りするから馳せ参じろ、という事か。バッチOKです!

 

「シンくん、マツリカちゃん、緊急事態だから、今すぐ帰るわよ!」

「「「え~!?」」」

 

 こうして、私たちはオーレン旅行を一時中断し、カントー本土へ舞い戻る事になった。

 ……お前は反応しなくて良いんだよ、アバズレぇ!




◆オーレンリーグのチャンピオン

 最果ての孤島「ナナ島」に居るという、くさタイプの使い手。見た事もないポケモンたちを持っており、初代カントーリーグチャンピオンにして伝説の最強トレーナー「レッド」とも肩を並べる実力と言われている。趣味は絵を描く事のようで、いつもスケッチブックを持ち歩いている(絵の実力は定かではないが)。
 常に島にいる訳ではなく、森の奥に鎮座する祠の前に突如現れる事から、幽霊だとか精霊だとか、色々な噂が立っている。オーキド博士は彼を「時の旅人」と称しているらしい。


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