永遠の親友(ライバル) (烊々)
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本編
その始まりは、何気ない一言だった。
「ネプギアとユニちゃんって、どっちが強いの?」
女神候補生の四人がルウィーの教会に集まって遊んでいる時にラムが呟いたことである。それを知りたいというわけじゃない、単純にふと思ったことをそのまま口に出しただけだった。
しかし……
「ユニちゃんじゃないかなぁ。私よりもすっごく努力してるし」
「今はネプギアだと思うわ。ネプギアにはあたしに無い強さがある。いつかは超えてやるけどね」
「えー? ユニちゃんの方が強いと思うよ?」
「いやいや、ネプギアの方が強いわよ」
「ユニちゃんの方が……」
「ネプギアの方が……」
……真面目な性格の二人はそれについて真剣に話し合ってしまい、遊ぶどころではなくなってしまった。
「どうしようロムちゃん……わたしまずいこと言ったのかも」
「でも、わたしも気になる……(わくわく)」
*
場所は変わってコロシアム。ラムの何気ない一言から始まった『ネプギアとユニはどちらが強いのか』は、その日の話し合いでは解決できそうになかったため、後日コロシアムを貸し切って試合をして決めることとなった。
「というわけで、審判及び実況解説はわたし『ネプテューヌ』と!」
「……『ノワール』でお送りするわ……じゃなくて! 何これ⁉︎ どうしてユニとネプギアが戦うことになってるのよ⁉︎」
「えぇ? ユニちゃんから聞いてないの?」
「それは聞いたけど! 私が聞いてるのはどうしてこんなコロシアムで戦ってまで決着をつけることにしたのかってことよ!」
「まぁまぁ良いじゃん。青春って感じで」
「意味わからないわよ!」
「とりあえず、急に興奮しだしたノワールはおいといて、ルールを説明するよー。といっても、普通に戦ってもらえばいいだけで大したルールはないんだけどね」
「ねぇネプテューヌ。この勝敗で決まることに疑問があるんだけど……?」
「なになに?」
「ユニが勝ったらネプギアの方が強い、ネプギアが勝ったらユニの方が強い……ってこれ逆じゃない?」
「それは……まぁ……良いんじゃない? 本人たちがそう言ってるんだからそういうことで」
「まぁ本人たちがそれで納得するならいいか」
「というわけで、選手入場ー!」
ちなみに、この試合は観客が入っているわけでも、配信されているわけでもない。実況解説というのは単純にネプテューヌのノリである。そしてノワールはそんなネプテューヌに呆れているように見えるが、実は内心ノリノリなのであった。
「愛する我が妹! プラネテューヌの女神候補生! パープルシスターことネプギアの登場だよー!」
ネプテューヌの台詞と共にコロシアムの片方の入り口から現れるパープルシスター。ネプテューヌとノワールに笑顔で手を振り、それからすぐにさっきまでのその笑顔が嘘のような真剣な表情となり、対戦相手の登場を待つ。
「私の自慢の妹! ラステイションの女神候補生! ブラックシスターことユニの登場よ!」
そして、ノワールのセリフと共にもう片方の入り口から現れるブラックシスター。少しテンションが高くなっているノワールがいつもは言いそうにない『自慢の妹』という言葉を聞いて少し頬が緩むが、すぐに真剣な表情に整え直し、その視線をネプギアの方に向ける。
「おぉ……両者とも良い緊張感だねぇ〜。試合開始が近づいてきたけど、ノワールはどんな試合展開になると思う?」
「そうねぇ……基本はネプギアが追う展開になるでしょうね。 開始位置から考えると中遠距離が強いガンナーのユニの方が有利だし」
「ネプギアにもM.P.B.Lがあるから中遠距離戦はできなくもないけど、それでもやっぱりそこはユニちゃんの方が有利だよね」
「でも、一度距離を詰められたらユニは一気に辛くなるでしょうね」
「ってことは、とにかく中遠距離を維持ながら有利に戦おうとするユニちゃんに対し、ひたすら距離を詰めるネプギアって感じになりそうだね」
「そうね。さて、そろそろ試合開始カウントダウンね……カウントダウンって私たちがやるの?」
「そうだよー! というわけで……10! 9! 8!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「……5!」
「「4! 3! 2! 1……スタート!」」
かくして、戦いの火蓋は切って落とされた。
それに合わせ、ネプギアはユニの方へ高速で突撃する。
(距離があるとユニちゃんの方が有利。だから最初はひたすら距離を詰める! ユニちゃんもそれをわかっているから距離を取りながら弾幕を形成してくるはず……!)
しかし、ネプギアの予想を裏切る展開となった。ユニの方もネプギアに向かって突撃してきたのだ。
「……っ⁉︎」
予想外の展開に反応が遅れるネプギア。接近の方を優先していたため、まだ攻撃の準備ができていない。
対してユニは、ネプギアが突撃してくることが予想済みなので、既に攻撃の準備に入っている。
ユニのライフル『エクスマルチブラスター』はそのあまりにもの大きさに取り回しが若干悪く、実弾にせよビームにせよ威力の高い射撃を放とうとすると攻撃の準備に加えて更に隙が生じる。その隙があればネプギアに攻撃の準備が整える時間を与えかねない。
だから、ユニが選んだ攻撃の択は……
(足……⁉︎)
……そう、『蹴り』である。
ユニはネプギアを思い切り蹴り飛ばし、その勢いで宙返りし、そのまま後方に距離を取る。
ネプギアはすぐに体勢を整えるも、既にユニとの距離が大きく開いてしまっていた。
*
「ファーストアタックはユニちゃんかぁ。意外な手を使ってきたね」
「そうね、あれは私にも予想できなかったわ」
「わたしかノワールなら咄嗟に反応できたかもしれないけど、ネプギアはセオリー通りに戦いを進めようとする真面目なところがあるから、少し反応が遅れちゃったね」
「かなり距離が開いたから、一気にユニが有利な展開になったわね。このまま一方的にロングレンジから狙い撃たれて終わり、なんてことになりかねないわ」
「いや、そうはならないよ」
「どうしてそう断言できるのよ?」
「だって、ネプギアだもん」
「…………そうね」
*
相手にダメージを与えるというよりは相手を押して距離を離すための蹴りであるので、ネプギアにほとんど痛みはない。
しかし、痛みが無くとも、ネプギアの表情には相手に戦闘の流れを掴まれたことの焦りが……
(すごいなユニちゃん……私、全然予想できなかった!)
……見えてはいなかった。その表情から読み取れるのは、自分の予想を超えてきた相手への賛辞。
(楽しそうにしちゃって……これじゃどっちが有利だかわかったものじゃないわね……)
ユニはそんなネプギアの表情を遠目で見て呆れつつもプレッシャーを感じていた。
(そうよね。例え不利でも、ネプギアは諦めずに立ち向かってくる。どんなに絶望的な状況でも、それを希望に変える強さがネプギアにはある。ステータスだけじゃ測れない、想いの強さ。それが、あたしにはない、ネプギアの強さ……!)
エクスマルチブラスターにエネルギーを充填し、その銃口をネプギアに向ける。
(ネプギア……あんたはね、お姉ちゃんとはまた違ったあたしの憧れなのよ。だから、こんな逆境……乗り越えてみなさいよ!)
「……乱れ撃つわ!」
その声と共にライフルから放たれる実弾、ビーム、そして魔法弾のオンパレード。まともに当たれば勝負が決するだろう。
ネプギアはその砲撃の雨から逃れるために、全速力で旋回する。しかし、避けきれなかった砲撃に少しずつ耐久値が削られていく。
(避けきるのは無理……っ! なら!)
距離が開いている今、戦局は射撃技が豊富なユニの方が圧倒的に有利。
しかし唯一、ネプギアにあってユニにはない射撃武装が存在する。
(もうちょっと後で使うつもりだったけど……この状況では出し惜しみなんてできない……!)
「行って! ビット!」
『ビット』。自身のシェアエネルギーを動力とし、脳波制御により遠隔で誘導、操作する攻撃端末。ネプギアはそれを二つ同時に展開することができる。
本来ネプギアはこのビット兵器を自身の必殺技の近接援護のために使用することが多いが、今は避け切れない弾幕を迎撃するために展開したのである。
(出たわねビット。あれを展開しながら近接戦を仕掛けられたらあたしにはもうお手上げ状態になるから、ここで吐かせられたのはラッキーね。それに……)
ネプギアはユニの砲撃を避けるために高速で旋回しながら、自身に当たりそうな弾だけはビットに迎撃させている。
しかし、それを見逃すユニではない。形成する弾幕をネプギア本体を狙うものとビットを狙うものに分ける。
(……それを今展開するのは、撃ち落としてくれと言ってるようなものよ!)
……が、ネプギアの狙いはそれであった。自身を狙う砲撃の雨の勢いが少し緩くなり、反撃のチャンスとなる瞬間を作るため、ビットはそのためのデコイにしていたのである。
(この瞬間を……待っていたんだ!)
回避の動きは止めずに、M.P.B.Lを構えるネプギア。
(ビットは捨て石だったのね……! ……けど、動きながらの精密射撃なんてガンナーのあたしでも難しいのよ。この状況であんたにそれはできないわ!)
ユニの思っている通り、動きながらでは照準を上手く合わせることはできず、ダーゲットロック機能を使う暇もない。
そして、照準が合わないままM.P.B.Lのビーム砲が発射され、ユニの左方向へビーム砲が飛んでいく。
「……たぁぁぁっ!」
だが、ネプギアは旋回の動きと共にライフルの銃口を左から右に曲げ、ビーム砲を薙ぎ払う。
そう、ネプギアの狙いはユニではなく、ビーム砲を薙ぎ払うことで、ユニの砲撃をほぼ全て撃ち消すことであった。
「やるわね……っ!」
予想外の行動とはいえ、ネプギアならこの攻撃を乗り越えてくるとは思っていたようで、驚くことはせずに次の行動に移す。しかし、追撃を仕掛けようとライフルの引き金を引くも、カチリと音が鳴るだけで何も起こらない。弾切れとエネルギー切れである。
その様子を見たネプギアがユニの方に一気に距離を詰めて行く。
先程とは逆に、今度はネプギアの予想外の一手により戦局が変わることとなった。
*
「ネプギアすっごい……」
「今のはほんとにすごいわね。プラネテューヌの女神が交代する日も近いんじゃない?」
「もー! そういうこと言っちゃダメなんだからね!」
「ごめんごめん、それにしても本当に見応えのある戦いになってきたわね」
「ラムちゃんもロムちゃんも見に来ればよかったのにね」
「なんか自分の何気ない一言のせいでこうなったのが気まずいとかなんとかブランが言ってたわ。それに単純に予定が合わなかったとか」
「勿体無いなぁ。これ放送とか配信はしてないかけど録画はしてるから後で見せてあげようかな」
*
(今のをもう一回やるにはエネルギーの充填が間に合いそうにないわね……)
ひたすら逃げるユニと、それを追いかけるネプギア。お互い大技を撃ったことにより武器のエネルギーが一時的に尽きているので、攻撃技が飛び交うことはなく、側から見れば鬼ごっこをしているように見える。MOV(移動力)はネプギアの方が高いため、その距離は少しずつ縮まってきていた。
(迂闊に近づけばさっきみたいにまた蹴飛ばされて距離を離される。そこからエネルギーを貯める時間を稼がれてさっきみたいな砲撃をされたら多分もう勝てない。だから距離を詰めても仕掛けるのは……上から!)
M.P.B.Lは中遠距離戦用のエネルギーか尽きていても近接専用のソードとして運用ができる。ネプギアはユニに足技での反撃をさせないため、上からM.P.B.Lを振りかぶり近接攻撃を仕掛ける。
「『パンツァーブレイド』!」
それに対しユニは、エクスマルチブラスターを一旦消滅させ、自身のシェアエネルギーで武器を形成していく。
(ユニちゃん……取り回しの良いハンドガンを作って反撃してくる気かな? でもそれだと迎撃するには威力が足りないよ!)
何度も共に戦ってきた仲であり、お互いの戦法はお互いに熟知されている。だから、ある程度オールレンジで立ち回れるネプギアに対し、強みを発揮できる距離が限られているユニは、その弱点を付かれやすい。
だからこそ、ユニはそれを逆手に取り、自身の技の有効範囲まで誘い込む。
ユニはガンナーだが、近接戦闘の心得がないわけではない。何故なら、ユニの姉はこのゲイムギョウ界で一、二を争うほどの剣の使い手、女神ノワール、ブラックハートなのだから。
(この技を他人に見せるのは初めてね……!)
そう、ユニが形成した武器は銃ではなく……
……ブラックハートが使う物と同じ形をしたソードであった。
「『レイシーズダンス』!」
そしてそのままぶつかり合う二人の技。とはいえ練度の差はあり、近接戦だとやはりネプギアの方が有利。思わぬ技で反撃され少し驚きつつも、ユニの斬撃を冷静に対処し、自分の斬撃を通そうとする。
それはユニにも織り込み済。姉の姿を見て一生懸命練習した技ではあっても、自分のものは威力が足りないことはわかっており、ネプギアの技に反撃してダメージを安く抑えるための応急処置的な役割でしかないと割り切っている。
受けきれなかったネプギアの斬撃が数発ユニに襲いかかる。
(痛……っ! 流石ネプギアね……けど見えた、ここっ!)
ネプギアの斬撃を食らいながらも、ユニはあるタイミングを探っていた。技のぶつかり合いの中で、上から攻撃してきたネプギアの高度が下がり、自分の蹴りが届くようになるタイミングを。
「てゃぁっ!」
「……きゃっ⁉︎」
ネプギアが斬撃に更に力を込めるために体重をかけたその瞬間を狙い、ユニは再びネプギアを蹴り飛ばす。
「これで……狙い撃つわ!」
そのままユニはエクスマルチブラスターを再構築しエネルギーを充填する。
(M.P.B.Lのエネルギーは……今からじゃ間に合わない。でもこの技なら……!
この技はまだ練習中、できるかどうかすらわからない。
……ううん、ユニちゃんはノワールさんの『レイシーズダンス』をやってみせた。なら、私だって……!)
憧れの姉の技を密かに練習していたのはユニだけではない。
「『エクスマルチブラスター エンブレス』!」
「……『32式 エクスブレイド』!」
エクスマルチブラスターから放たれる高出力のビームとシェアエネルギーで作られた巨大な剣、互いの大技がぶつかり合い、土埃が舞う。
互いに体力とエネルギーが減っていき、戦い最終局面へと移って行く。
*
「へぇ〜ノワールってばユニちゃんに自分の技教えてたんだ」
「……いや、私教えてないわよ」
「え?」
「もしかしてネプテューヌもあの技……」
「うん、教えてないよ……」
「……そう」
「すごいなぁ二人とも」
「私たち、ここに座ってるだけでいいのかしら?」
「……」
*
土埃が晴れると、ネプギアとユニはその場に立ったまま、自身の残りのエネルギーを必殺技のためにチャージしていた。
ダメージと疲労により、両者とも肩で息をしている。おそらく、これが最後の攻防となるだろう。
「ありがとう、ユニちゃん」
「何よいきなり」
「ユニちゃんと戦うの、とっても楽しかった。私の方が強いとか、ユニちゃんの方が強いとかもうそんなのはどうだっていいの。ただユニちゃんと全力をぶつけ合えたのが最高に楽しかったの!」
「……あたしもよ。けど、勝負はまだ終わってないわ!」
「そうだね!」
まるで戦っているのではなく遊んでいるような笑顔で、両者とも必殺技の準備に入る。
「M.P.B.L、オーバードライブ!」
「エクスマルチブラスター、最大出力!」
「「はぁぁぁっ!」」」
そして、互いの必殺技がぶつかり合い、そのエネルギーの奔流による爆発が起こり、先程よりも大きな土埃が舞う。
そして、それが晴れた時、ネプギアもユニも変身が解除され、地面に倒れ込んでいた。
……この戦いの結果は『引き分け』であった。
「良い戦いだったわ。ネプギア、ユニちゃん」
パープルハートへ変身したネプテューヌが、ネプギアを抱き上げ、観客席へと移動させる。
「お姉……ちゃん……? どうして変身してるの……?」
「あなたたちの戦いを見ていたら、居ても立っても居られなくなっちゃって……ね、ノワール!」
そう言ってネプテューヌが顔を向けた先では、変身したノワールも同じようにユニを抱き上げて観客席へと移していた。
「ええ! 私たちも久し振りに試合をしようってなってね……本気で!」
ネプテューヌとノワールの両者ともコロシアムの中心へと降り、武器を構える。
この戦いの方の決着は……ご想像におまかせする。
*
「ロム、ラム、まだ起きていたの……ん?」
(……また、アレを見てるのね)
部屋に入ってきたブランに気がつかないほどロムとラムが真剣に見ていたそれは、先日のネプギアとユニの試合を録画したものである。
「ねぇ、ラムちゃん……」
「なぁに、ロムちゃん?」
「今度……わたしたちも試合……しよ?」
「いーよ。わたしも今それ言おうとしてたんだー」
「負けないよ……ラムちゃん……!」
「わたしも負けないんだから!」
(私も……今度ベールとでもやろうかしら……?)
何気ない一言から始まったネプギアとユニの激戦は、ゲイムギョウ界の女神全員の心を燃え上がらせたのだった。
こんな風に女神たちは切磋琢磨していき、ゲイムギョウ界の平和は守られていくのだろう。
三人称の戦闘描写の練習がしたかったのと、姉の技を使う妹が見たく、だったら自分で書けばいいじゃん! ってことでこの作品ができました。
あと単純に前書いた短編のウケが思っていたより良かったので味を占めました。
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おまけ
ネプギアとユニの激闘から数日後、コロシアムにて、二人の女神が向かい合いながら立っていた。
「珍しいですわね。ブランから試合の誘いとは」
「……確かにそうね」
「まぁ、理由はわかっていますわ。ネプギアちゃんとユニちゃんの戦いに触発されたのでしょう?」
「……わかっているなら話は早いわ。あんなものを見せられたら、戦いたくてしょうがなくなってしまうでしょ?」
「ふふ、ちょうど良いタイミングでしたわ。あなたが誘ってくれなかったら、私から誘おうと思っていましたし」
「そう、なら始めましょう。……あ、ネクストフォームは無しにした方が良さそうね。あれはシェアを多く消費してしまうから」
「そうですわね。流石にこんな野試合で大量のシェアを失うわけにはいきませんもの……では」
そのまま両者とも変身し、武器を構える。
「久しぶりですわね、あなたとこうして一対一で戦うのは」
「そうだな。さぁ、どこからでもかかってきやがれ!」
「それはこちらの台詞ですわ!」
急遽始まった試合により、当然実況も解説もなく、適当なタイミングでの試合開始となった。
スピードタイプの近接アタッカーであるベールと、パワータイプの近接アタッカーであるブラン。MOV(機動力)もAGI(瞬発力)もベールの方が圧倒的に上。ブランから攻撃を仕掛けても、ベールの速さで簡単に捌かれる。しかしDEF(物理防御力)とMEN(魔法防御力)はブランの方が圧倒的に上。ベールが戦闘の流れを握れても、ベールの攻撃のタイミングに合わせてブランにダメージ覚悟で突っ込んで来られると、逆にベールの方が大きなダメージをもらうことになる。
つまり、この二人の戦いは攻撃を仕掛ける側が不利。所謂『待ちゲー』に徹した方が有利となる……
「「はぁぁぁっ!」」
……のだが、二人ともそんな戦い方はするつもりは微塵もなく相手の方に接近していく。その理由は単純、『そんな勝負は面白くないから』
「『ツェアシュテールング』……!」
「『レイニーラトナビュラー』!」
ブランの大振りの一撃の前に、ベールは持ち前の速さを活かした槍の連撃を刺しこみ、ブランの技が出る前に潰そうとする。
「……らぁっ!」
しかしブランは敵の攻撃が当たろうがお構いなしに技を出し、ベールに斧を叩き付けようとする。ベールは咄嗟に身体を大きく捻らせ回避するが、それにより大きく態勢を崩したところに、ブランはそのまま追撃と言わんばかりに斧を振り下ろす。
(くっ……攻撃を当てているのに怯まない……まるでスーパーアーマーですわね……っ! ブラン本体に攻撃を当てて技を潰すのは不可能……ならば!)
斧が振り下ろされる瞬間、迅速かつ的確に斧の側面に槍を突き出し、最小限の力で斧の軌道を逸らす。
(ちっ、私じゃなくて武器の方を狙ってくるか……けどな!)
ブランは攻撃の仕方を変える様子はなく、振り下ろされる斧は何度も軌道を逸らされて宙を切る。しかしそれでもなおブランは攻撃の仕方を変える様子はない。
そう、ブランの狙いは単純。半端な力を込めて狙いを逸らされるなら、逸らされないぐらいの更に強い力を込めればいい。
(力ってのは、正義なんだよ!)
段々と増していくその力を前に、ベールは斧の軌道を逸らせなくなっていくのを察する。
(なんというパワー……正面からやり合うのは流石に分が悪い……少し距離を取りましょうか)
ベールは叩きつけられる斧の衝撃を利用して後方に飛んだ。一先ず逃げの一手を打ったとはいえ、距離を取ってすぐに攻めに転じる。
「『シレットスピアー』!」
技名と共にシェアエネルギーにより創造された巨大な槍がブランに向かって射出される。
迫り来る巨大な槍をブランは避けようとはしない。それどころか両手を動かす素振りすら見せない。
「……たぁっ!」
ブランの迎撃方法はまさかのヘッドバット。気合の入った掛け声と共に巨大な槍に思い切り頭をぶつけてそれを粉砕する。
「……嘘でしょう?」
自分の技が容易く破られたことよりも、その迎撃方法に驚きを隠せないベール。
「頭は使いようってな」
(そういう意味じゃないでしょうに……流石の耐久力ですわね。なら、戦い方を変えましょうか)
ベールの次の戦法は、ブランの周りを高速で旋回しヒットアンドアウェイを繰り返す機動戦。ブランが迎撃のために斧を構えた時には既に背後に回って攻撃をする。刺突だけでなく時には風魔法の攻撃を織り交ぜ、ブランの耐久力を少しずつだが確実に削っていく。
(くっ、流石に速え……斧振り回して迎撃すんのは難しいな。ならまずは、動きを止める! これ使うの久しぶりだな……)
ブランは、ベールが攻撃のために再び接近してくるタイミングを狙い……
「そこだっ! 『エターナルフォースブリザード』!」
氷魔法による範囲攻撃で迎撃する。
「しま……っ!」
予想外の一手により反応が遅れたベールは接近を止めきれず、そのまま氷塊に閉じ込められる。
「粉々にしてやるよ……『テンツェリントロンペ』!」
無防備になったベールに対し、繰り出されるブランの大技。
(……そういえばルウィーは魔法の国ですものね。その女神であるブランに魔法が使えないはずはありません。けど、こんなもので私の動きを止めた気になってもらっては困りますわ!)
ベールは即座に内部から氷塊を破壊して拘束を脱し、ブランの斧を回避する。
(一瞬かよ……やっぱ私の魔力じゃあんなもんか)
「……妹たちの魔法を使ってくるなんて、妹がいない私への当て付けですの?」
「そういうわけじゃねえよ。それに元々これは私があいつらに教えた魔法だ。あいつらが使う方が強いから、私は使うのをやめたんだけどな」
「……妹が優秀なのも考えようですわね」
「まぁな……なぁベール」
「何ですか?」
「さっきお互いネクストフォームは無しって言ったけどよ。やっぱそれやめねえか?」
「……はい?」
「本気じゃねえお前に勝っても何も面白くねえ。お前だって本気じゃねえ私に勝ったところで何も面白くねえだろ?」
「それは……」
「正直お前にはノリで挑んだけど、実際やり合ってみてわかった。お前と戦うのは楽しいよ。だから悔いは残したくねえ、本気のお前と本気でぶつかり合いてえんだ」
「全く、変身で消費したシェアを取り戻すのも楽じゃないんですのよ?」
「そうか……」
「……けど、私もそう言おうと思っていたところですわ! 本気で戦いましょう、ブラン!」
両者ともハイパーシェアクリスタルを顕現させ、それを使用しネクストフォームへと変身する。
「ノリが良くて助かるぜ! さぁ、第二ラウンドを始めるか、ベール!」
ネクストフォームに変身すると、ブランは機動力が大幅に上昇し、ベールは攻撃力と防御力が大幅に上昇する。つまり、先ほどあった二人のステータスの差がある程度均されるということである。そして、ステータスがほぼ同じなら、勝敗を分けるのは戦闘技量の差。
しかし、二人ともこのゲイムギョウ界の戦闘力の頂点を極める守護女神であり、その差はほぼないに等しい。
コロシアム内を縦横無尽に飛び回りながらぶつかり合う二人。そのあまりにもスピードから発生する残像が、まるでオーロラのような輝きを放つ。
「『ゲフィーアリヒシュテルン』!」
ブランは細かい氷塊を斧で弾いて撃ち出す。
「甘い!」
ベールは両手で槍を高速で回転させ、その全てを弾き飛ばす。
「お返しですわ! 『インビトウィーンスピア』!」
今度はベールが小型の槍を大量に召喚し、ブランに向けて射出する。
「……!」
ブランは斧を盾のように構え、怯むことなく槍の雨の中を突き進む。
(やはり飛び道具などでは削れもしませんわね。直接技を叩き込むしかありませんか)
槍の雨の抜けたブランはそのまま斧を叩きつける。対するベールは槍を思い切り突き出す。
ガツン、とお互いの武器がぶつかり合う鈍い音が鳴る。
「「……っ⁉︎」」
そのあまりにもの衝撃にお互いの武器が腕から離れ上空に吹き飛んでいってしまった。それを拾いに行くことはせず、拳を突き出すブラン。
「おらぁ!」
「くっ……⁉︎」
対してベールは、一瞬だけ飛んでいった槍を拾うことに意識が向いたため、反応が遅れてしまっていた。
(反応が遅れた! 今は受けに回るしかありませんか……!)
ベールはその突き出された拳を、上手く掌を使いいなしていく。
(ちっ……やるな! だが!)
ブランはベールがいなす以上に鋭く何度も拳を突き出す。
(知り合いに徒手空拳で戦うやつがいるからな! 多少の心得は私にもあるぜ!)
そして、ついにいなしきれなくなったブランの拳がベールに炸裂する。
(……痛っ! 全く、乙女の顔を……! けど、隙ができましたわ!)
そう、ベールはあえて拳を受けることを選んでいた。そして、その瞬間に発生した僅かな隙を狙い、ブランの横腹に蹴りを叩き込む。
「がはっ……!」
打撃と蹴りの衝撃でお互い吹っ飛ばされ、その先にちょうどよく落ちていた武器を手に取り、仕切り直す。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……」
二人とも少しずつ息が上がってきていた。ネクストフォームは通常の変身以上の絶大な力を得ることができる代わりに消耗が早い。手を抜けない同格の存在が相手なら尚更。
しかし、二人ともそれを表情に出すことはない。それどころかうっすらと笑みを浮かべている。今二人が感じているのは、疲労や苦痛よりも、目の前の相手と全力でぶつかり合うことができることの愉悦。
とはいえ、消耗を気にしなくてもいいわけではない。当然、望まずとも限界は来る。
(あと……一、二ターンってところか……)
そして限界が近いからこそ、両者とも100%……否、120%の実力を発揮するに至っている。
(最高の気分ですわ。この瞬間が永遠に続けばいいのに、とすら思ってしまいますわね。でもお互い限界は近い。だからこそ……!)
「最高の幕引きを飾ってあげましょう!」
「上等だ! アゲてこうぜベール! 私とお前! 最後のぶつかり合いだ!」
ブランは自身のシェアエネルギーを最大まで高め、新たな武器を創造する。
「『ブラスターコントローラー』!!」
ネクストホワイトの究極必殺技、巨大なビーム砲で敵を焼き尽くす『ブラスターコントローラー』。いくらネクストフォームとなったベールでも直撃すればひとたまりもない。
(決めにきましたか……っ! しかし、そんなもの私には当たりませんわ!)
「おらぁああっ!」
ブラスターコントローラーから大出力のビーム砲が放たれるも、当然にようにベールには回避される。
(まぁ当たんねえよな……なら、絶対に当たるようにしてやるよ!)
「うおおおおおおおおおあっ‼︎」
ブランはブラスターコントローラーを持ち上げて振り回す。それにより、当たったらひとたまりもないビーム砲が全方位に飛ぶことになる。正に、必殺を必中へと昇華させる術であった。
「嘘……っ⁉︎」
もはや逃げ場などどこにもなく、ベールはビームの光に呑みこまれる。
……かのように見えた。
「はぁぁぁぁぁぁああっ‼︎」
なんと、ベールはビームを突っ切ってきたのだ。
「なん……だと……⁉︎」
ビームを回避することは諦め、姿勢を低くし、必要最低限の範囲だけ前面にシェアエネルギーのバリアを貼り、真正面から突撃するという策。
しかし、いくらバリアを張っていたとしても、大きなダメージであることには変わりはない。プロセッサユニットは所々破損し、身体中は傷だらけになっている。
それでもまだ敗北はしていない。そして敗北さえしてなければ、どれだけのダメージを喰らおうと止まることはない。
「『スパイラルブレイク』ーー‼︎」
必殺技の反動で無防備に隙を晒したブランに正面から炸裂するベールの必殺技。
(くそっ……私の負け……だな……)
そして今度こそ、決着となった。
*
戦いが終わり、静寂が支配するコロシアム。二人とも体力も気力も使い果たし、倒れ込んだまま動かない。
横になりながら、先にベールが口を開く。
「今回は私の勝ちですわね」
「……そうね」
「けど、こんな一回の試合で私の方が強いなんて言うつもりはありませんわ。またやりましょう」
「当たり前よ、今度は負けないわ」
「こちらこそ、次も勝って差し上げます」
それ以上何も喋ることなく、そのままゆっくり立ち上がりコロシアムを去る二人。今回の戦いは両者にとって、言葉を交わすよりも濃厚なコミュニケーションとなっていた。
そして、その翌日から数日間、両者とも筋肉痛でまともに動くことができなかったという。
他人様の作品と対戦カードが被ったのでお蔵入りにするつもりでしたが、ヤクz……フォロワーに詰められたので書き上げました。
槍キャラと斧キャラの戦闘描写が思った以上に難しくかなり雑な内容になってしまい反省しています。
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