背が低いだけのモンスターに憧れて (名も亡き一般市民)
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第1話

処女作です。よろしくお願いします。


バレーボール(排球)

 

コート中央のネットを挟んで2チームでボールを打ち合う

 

ボールを落としてはいけない 持ってもいけない

 

三度のボレーで 攻撃へと

 

              繋ぐ

                   球技である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これぞ正に、小さな大エース!!」

 

そう、アナウンサーが興奮しながら、叫んでいた。

 

画面の先にいる選手達はみな、180を有に越す背丈があるという事実は、当時の自分にとっては驚くべきことだった。

当然、背の低い選手は 空中 で勝つことは出来ない、というより勝つことが許されていないように感じた。

 

 

 

──が、そのコートの中を縦横無尽に動き回る160程の小さな背中があった。

 

「また決めたー!!レフトから強烈インナークロス!!小さな背中の背番号5が光ります!!」

 

 

その選手が動き回り、得点を決める度に広がる声援。

八面六臂の大活躍に観客は熱狂し、体育館はどよめきで揺れる。

 

 

 

 

その姿に強烈に憧れたことを

 

 

 

 

 

 

──よく、覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

目を覚ます。知らない天井──があるわけではなく、いつも通りの自宅の天井である。

 

ピピピ、ピピピ、ピピピ…

 

数刻遅れて無機質かつ鬱陶しい音がなる。手を伸ばし、ゆっくりとそれを止めた。家には自分しかいないため、静寂に包まれている。

 

時刻は午前5時ちょうど。早起きにはもうすっかり慣れたが、時計の音にはどうしても嫌悪感を感じてしまう。

そもそも時計のセットをしなくとも起きられるように体を慣らしているのだが、今日は大事なことがある日のため、昨夜に念を入れてセットしていたのだった。

 

「…ふわぁあ…むにゃむにゃ…」

まるでテンプレのような寝起きの声に、我ながら笑えてくる。

以前合宿の時に同じ部屋の人から、「うわ、あざと…」ということを言われたことを思いだし、また笑ってしまう。

 

しかし、久しぶりにあの夢を見た。

いつも、たまに見る夢は大概録なものではない。今回のように懐かしさを感じる夢は一年に一度あれば良いものであろう。

 

このタイミングでこの夢を見たのは、やはり今日から始まるものが少なからず影響しているのだろう。

 

 

 

全日本中学バレーボール選手権大会、通称「全中」

宮城県予選一日目

 

中学生の大会としては、全国へ行ける唯一の大会。

 

9ブロックに分けられた地域予選を勝ち上がった35校に加え、開催都道府県からの1校を入れた計36校が出場。

 

全出場校を4校1グループの計9グループに分けて予選リーグを戦い、

各グループの上位3校が決勝トーナメントへ進出、そこで勝ち残れば優勝、全国制覇となる。

 

うちの中学校は毎年予選決勝に残るほどの強豪ではあるが、実力が飛び抜けた学校があるため準優勝に甘んじることが多くなっている。

 

 

もう三年で、今年は全国へ行ける最後のチャンス。

あの夢を見たのは少し気合いを入れすぎた結果なのだろう、と自分に納得させる。

 

…気持ちを入れるのはいい、けどパフォーマンスを最高へともっていくのは試合前。今から入れることは最善とは言えない……。

 

「……ふぅ、よし。」

 

自分の中で気持ちに整理をつけ、布団から起き上がる。こういう時はいつも通りの動きをすれば良いことは既に知っている。

 

 

 

 

 

 

 

いつも通りウェアに着替え、いつものようにランニングシューズを履き、携帯と鍵を持って家を出る。

まだ5時を少し過ぎたあたりだが、十分に視界がきく。まだ気温が上がりきる前の、程よい気温のため、ランニングにはもってこいの時間である。

 

本来なら試合前に体を動かしすぎるのは良くはない。が、このままでは試合までそわそわした気持ちで過ごさなくてはならないので一度体を動かし、ある程度疲れさせることで気持ちを整えよう。

 

 

 

「フゥ~…。」

 

約30分ほどのランニングをし、家に戻る。普段のランニングと比べると少し軽めのものとなったが、試合前なのでこれぐらいでいいだろう。

 

学校集合時刻は7時半、試合会場まではバスで約1時間、うちはシードのため試合は2試合目から、予定開始時刻は10時40分。

 

汗をシャワーで流しながら今日の予定を頭の中で反芻する。

これは試合前のルーティーンのようなものだ。これをしておけば試合以外の余計な心配をする必要がなくなる。

 

ただ純粋に体育館にバレーボールをしに行くのだから、余計な心配は必要ない。そんなものでプレーに影響が出てしまったら、流石に笑えない。

小学生の頃は何も考えずただボールを追いかけていたが、中学に入ってからは試合に出ることになったため、教えに沿ってやるようになった。あまり効果があるようには思えないが、不思議と落ち着く感覚がした。

 

よし、これでいつも通りだ。

 

体を丁寧に拭き、髪を乾かし、部のジャージに着替え、洗面所を出る。

 

前日から用意しておいた朝食を食べ、忘れ物がないか荷物の確認を改めて行い、家に唯一ある畳の部屋にある仏壇の前に座る。

 

両手を合わせ目を瞑り、「…行ってきます。」と心の中で唱える。

 

先程のルーティーンで気持ちを落ち着けた後にすると、ぐっと気持ちが引き締まる感覚がする。改めていつもの自分だと再確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中学までは徒歩で約20分と言ったところではあるが、今日は余裕がある。

 

このままゆっくり行っても7時前には着くだろう。集合時刻より30分以上も前に到着すればおそらく一番乗りだと思うが…。

 

 

(まぁ…今日も俺より早いよな、あいつ(···)は。)

 

 

学校の門をくぐり、体育館前に行く。今日は休日で体育館は空いてないだろうが、外でも出来ることはある。

 

「やっぱいたか。」

 

全く音を立てない完璧なオーバーハンドパスを頭の上で行う、所謂直上トス。恐らく何度も繰り返していたであろうその動きを止め、ボールを両手でキャッチし、彼はゆっくりと此方を振り返った。

 

中学校三年生ながら170後半はある身長、バレーボールをする上で支障にならない程度に伸びた黒い髪、そしてこちらを射るような鋭い視線。

 

北川第一中学三年バレーボール部 背番号2 セッター 影山飛雄

 

彼はやはり今日も誰よりも早く集合していたのであった。

 




なんか前振りのつもりが、妙に長くなってしまいました。面倒でしたらすみません。


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第2話

クオリティが…


「おはよう飛雄。相変わらず早いな。」

 

「……おう、おはよう。」

 

そう言ったきり、彼は背中を向けて再びパスを始めてしまう。

 

はっきり言って無愛想ではあるが、彼はいつもこうである。だから今更気にならない。むしろ急に愛想良くなられても正直怖い。

 

その背中を眺める。

 

やはり、いつ見ても綺麗だと思う。ボールに触れる時間は極僅か、ほんの一瞬にも関わらず、指先から頭上への真っ直ぐパスしている。これを見るだけでも、技術の高さが伺える。

 

まぁそんな彼には大きな欠点があるのだが。

 

「なぁ、皆来るまでまだ時間あるし対パスやろうぜ」

「…」

 

彼は黙ってこちらを向き、ボールを投げ渡してくる。

そのボールをアンダーで彼の頭上に正確に返す。振りかぶって強力なボールが飛んでくるが、再びアンダーで上げる。オーバーで上げられたものを、今度は自分が打つ、を繰り返す。

 

朝一ということを考えるとまぁまぁ容赦の無いボールが打ち込まれるが、まぁそれも普段のこと、アップがてらに調度いい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15分ぐらいこなしていると、メンバーが集まってきた。

 

「オッス。」「…おはよう。」

「勇太郎、英。おはよう。」

 

三年MBの金田一勇太郎、三年WSの国見英。どちらもうちの主力メンバーである、と挨拶をする。

 

「何時から対パスしてたんだ?」

「大体15分ぐらい前からかな。飛雄は俺より早く来てたけど」

「マジか、朝早えな。」

 

という軽い談笑をしてから、飛雄のほうを振り返る。

 

「飛雄、もう集まってきたしここまででいいよな?」

「……おう」

 

彼は短く返すと、そのままボールを戻しに行ってしまう。

 

(まぁ無愛想なのはいつものこととして、相変わらず俺以外との会話がないな。朝の挨拶ぐらいあってもいいのに。はぁ、こんな状態で今日からの公式戦大丈夫かな…)

 

 

 

二年生の頃から続く解決してない問題に対し、内面で大きな溜め息をはくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉ、人がいっぱいだ…!! 体育館でけぇ…!!

そして、エアーサロンパスの匂い!!!」

 

体育館を見て、感激しながらそう言う人物。

 

雪ヶ丘中学三年主将 日向翔陽。

 

バレーボーラーとしてはどう見ても小柄な体の彼もまた、中学最後の大会に出場するために、部員を率いて来ていた。

 

「チョット翔ちゃん緊張しすぎじゃない?エアーサロンパスって何?ていうか、感動ばっかしてないでちゃんと仕切ってよ?」

「そーだよ、俺達急に引っ張ってこられてルールもよく分かんないんだから!」

 

「わ、わかってるよ!三年目にしてやっと出られたんだ、出るからには勝つぞ…!!」

 

その強気の発言に、(その強気どっからくるんだ?)と部員全員が思ったが、形はどうあれ主将からそう言われれば否が応でも気合いが入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホラ、あいつらだろ?一回戦でいきなり北川第一と当たる雪ヶ丘ってチーム」

「無名校がいきなり優勝候補と?!運悪っ。」

「あ、ほら来たぞ、北川第一だ。うわ~、デカいの多いな……威圧感半端ないな。」

 

まるで軍隊のように音を立てながら歩く大柄の集団。部員数を見るだけでも、やはり普通の中学とか違うことが分かる。

 

「あっ、おい見ろ、あいつってアレだろ。

北川第一セッター、コート上の王様 影山飛雄!」

 

そう言った瞬間、ギロリと鋭い視線を少しだけこちらへ向ける。

 

「うひぃ!? …恐えぇ、超睨まれた。んで何だ? その王様って?」

「由来は知らないけど、兎に角スゲー上手いんだってさ。抜群のセンスの優れた司令塔なんだって。」

「へー…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北川第一観客席兼荷物おき場

 

「あれ? 二年のドリンク作りのやつら、まだ戻ってきてないのか。そろそろ公式ウォーミングアップ始まるってのに。」

 

「そういやそうだな、んじゃ俺が見てくるわ。すぐそこだし。」

 

「悪いな、頼む。」

 

キャプテンとそうやり取りしてドリンク作りしているであろう水道場へと向かう。サボっている訳ではないだろうが、少し時間がかかりすぎである。

 

(あれ、そういや飛雄どこ行った?いつの間にかいなくなってたな…さっきまでいたのに。トイレか?)

 

そう考えながら水道場へ向かうと、

 

「勝ってコートに立つのはこの俺だ!!」

と大声出していた飛雄、と少し怯えている二年生を見つけた。

 

「お、ドリンク作りはもう終わった?」

「あ、はい! 今終わりました!」

「んじゃウォーミングアップの用意してくれ。これ以上飛雄に怒られんなよ。」

「は、はい。すみません、すぐ用意します!」

 

そう言って二年生の三人はそそくさと戻っていった。ありゃ相当飛雄に怒られたな……。と、それはいいとして。

 

「飛雄、何怒鳴ってたんだ?誰に向かって…」

 

と言いかけた所で、飛雄の影になって見えなかった人物を見つけた。

 

特徴的なオレンジ色の髪に、小柄な身長、1番のキャプテンマークを着けた男が立っていた。

 

(見たことないユニ…雪ヶ丘?今日の対戦チームか。)

 

「飛雄、対戦相手にいきなり何で絡んでるんだよ。試合で十分やりあえるのに。」

 

「試合前なのに体調管理すら出来てないようなコイツが悪い。だから二年にバカにされるんだ。」

 

「な、なんだとぉ…!!」

 

「あー、もう、そういう言い方止めろっての。本当すみません、今日の試合、宜しくお願いしますね。ほら、飛雄行くぞ。ウォーミングアップに間に合わなくなるから!」

 

と、飛雄を引っ張っていくことで、漸く事態は落ち着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「翔ちゃん!?何怒らせてんの?!トイレに行ってたんじゃないの?!」

 

「イヅミン!早く戻ろ!腹イタもどっかいったし!!」

「??」

 

 

(くっそ、さっきの奴! 俺がチビなことぐらい分かってるんだよ! 見てろ! 上から打ち抜いてやる!!

…でも、途中から入ってきたチームメイトみたいな人、あのガーッ!!って奴をすぐに宥めてたな…しかも、身長俺より少しだけ高いぐらいだったような?)

 

「翔ちゃん! ウォーミングアップ始まるよ!」

「あ、うん! 今行く!」

 

彼らの試合開始まで、あと僅か。

 

 

 




んんん~~~、難しい。ちょっと何書きたいか訳分からなくなっちゃいました…このへんはあんまり原作に変化をつけにくいのでそのせいもあるかと思いますが…次はもっと頑張ります。


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第3話

遅くなってすみません。ちょくちょく書いてはいたんですが、なかなか出せずにいました。


試合開始直前のWU、所謂公式練習というものは荷物の運び出しやボールの回収など、諸々含まれた上で短い時間で行われる。

 

すなわち役割分担を予めしっかり決め、十分にアップが出来るよう円滑に進めていく必要がある。

 

そして行われるアップは短時間なことも影響し、どのチームも大概アップ内容は同じものとなっている。

 

が、

 

(雪ヶ丘、アップらしいアップをほとんどしなかったな。ボールには全員触れていたようだけど、それしかやってない。)

 

通常、コート全面が使える時のアップはスパイク、サーブ、サーブレシーブ、スパイクレシーブという流れが存在する。これによって今日のコンディションを把握したりするものである。

 

しかし今日対戦する雪ヶ丘中の面々は、スパイクどころかサーブすら打とうとしなかった。普通のチームならまず有り得ないことだ。

 

(何か隠したいことでもある?なら敢えてアップをしないという選択肢も無くはないか… いや、それなら隠したままでアップすればいいだけ。)

 

恐らくうちのメンバーは皆、今の自分の思考を知ったら「考えすぎだろ。」と言うだろう。

 

二年のドリンク作りの連中ではないが、無名な中学のうえ、選手は6人のみ。それも全員小粒な身長。

 

これでは舐めずに戦えと言う方が難しいかもしれない。

 

だが、一度負ければ終わりのトーナメント戦。油断せず、相手のことを観察することは決して悪いことではない。

 

そして、どんな相手だろうと微塵も手を抜かない選手は何も自分だけではない。ある意味チームで一番本気なのはうちの司令塔だろう。

 

その司令塔へと目を向ける。彼は速攻のタイミングが合わなかったスパイカーに対し、いつもの様に怒号を浴びせている所であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タイミング遅ぇよ!クイックの時はもっと早く入ってこいって言ってんダロ!!」

 

その様子を先にアップを終えた雪々丘中の選手達も見ていた。

 

「うわぁ…あのセッター素人目にも凄く上手いって分かるけど怖ぇぇ…」

「いくら上手くても、あれじゃあ一緒のチームは嫌だわ…」

 

(くそ、ちゃんとうめぇ…!!)ムググ

 

「飛雄、いつも言ってるけど言い方。それに試合前なんだから、プレッシャー感じさせるような口調で言うなよ。」

 

「試合前なんだから緊張感あって当たり前だろうが。これぐらいのプレッシャーで潰れるようなヘタクソは、うちにはいらねぇよ。」

 

「あー、もう。だからそういう言い方が…っておい、まだ話の続き…はぁ、とりあえずアップ続けるか。」

 

(…やっぱ怖ぇぇ! さっき宥めてた人とも話こそしてるけど、あんま仲良くない感じだし…)

 

「翔ちゃん!ボール片付けて、審判にメンバー表提出だって!」

 

「あ、うん!分かった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、観客席では……

 

「おっ、そろそろ始まりますよ!大地さん、スガさん!」

 

「おう。」

 

「だな、間に合って良かったよ。」

 

「でも大地さん。何で中坊の試合なんかわざわざ見に来たんスカ?」

 

「王様を見に来たんだ。北川第一のセッター、コート上の王様影山飛雄!来年戦うことになるかもだろ?」

 

「へー、なんかいけすかないっスね!でも、その王様って何なんスカね?」

 

「名前の由来は知らないなぁ、そもそも凄いセッターがいる!って言うのも、ただの噂だしなぁ。」

 

「それにしても、王様の相手チームはどこだぁ? 小学生みたいなやつしかいねぇなぁ。」

 

「だな…ん? 大地、北川第一の4番知ってる?」

 

「4番?いや、俺が知ってるのは噂ぐらいで、中学のことは詳しくないからなぁ。」

 

「でもあの4番、雪ヶ丘と同じぐらいの身長じゃないっスか?下手したらリベロより小さいような?」

 

「整列してるってことは、スタメンなんだな。それじゃあ、王様とあの4番に注目して見てみよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねがいしあーーーース!!!」

 

一際大きな声が聞こえてくる。この元気の良さは、先程のオレンジ頭の人だろう。

 

ちらりと横を、飛雄のほうを見る。試合前というのもあるだろうが、いつもより険しい表情をしていた。緊張というよりも、さっき監督に言われたことが影響しているのかもしれない。

 

 

───速さに拘りすぎるな、大事なのはスパイカーに如何に打たせるか───

 

 

セッターの役割はスパイカーが打ちやすいようにトスをあげることだと思っているので、監督の言うことは最もなことだとは思う。

 

ただ、我の強いセッターを前に、そういう言葉は通用しない。

 

飛雄は「分かってます!」と返事こそしていたが、恐らく今日も速さに拘ったトス回しをするだろう。

 

 

…一年以上トスをあげてもらってるんだ、そろそろ応えねぇとな…

 

気持ちを新たにして、コートのスタート位置である前衛レフトに立つ。

 

 

さぁ、試合開始だ。 




えっ!試合まだなの?!って思った方、私もそう思います。

本当にすみません…試合開始は次回からとなります。まさか原作1話でこんなに時間かかるとは私も思ってませんでした。

次回は今日明日中に出すので、それで許して下さい。

…←これ使いすぎですかね?


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第4話

今日明日と言っていたのに嘘ついてすみませんでした!!
相変わらずの低クオリティですが、気楽に読んで頂けると幸いです。

念のため、雪ヶ丘の背番号と選手名載せます。
1番 日向翔陽
2番 鈴木
3番 川島
4番 森
5番 関向幸治
6番 泉行高


ピー!!

 

笛の音がする。試合開始の合図だ。

 

サーブはこちらから。

「ナイッサー!」とサーブ前お決まりの声をかける。

 

ボッと音を立て、フローターで打たれたボールはバックライト方向へ飛んでいく。

 

「コージー!」

 

コージと呼ばれた向こうの5番は倒れこみながらも、セッターへAパスをあげた。

 

「行けぇ翔ちゃん!!!」

 

そう言いながらあがったトスは、やや短い。

それに反応した一番が中に切り込んでくる。

 

「!!!」

「?!」

「(翔んだ!)」

 

前衛3人が驚くようなジャンプを一番が見せた。

いや、3人だけではない。この試合を見ていた全員が驚いた。

 

そのまま、コートに叩きつけるように腕を振り下ろしてくる。

 

「クロス側締めろっ」

「!」

「おっけ…」

 

ガガンッ!ドッ!

 

飛雄の指示通りクロスを締めるようにブロックを配置させ、スパイクを相手コートへ叩き落とした。

 

ボールが鈍い音をたてながらコートへ落ちる。

「────!?」

止められた一番は驚きの表情を浮かべた。

 

 

「勇太郎、ナイスブロック。」

「おう、けどあの一番すげぇ飛んだな。」

「だな。」

「まぁでも、ただ叩きつけるスパイクしかしないならブロックの餌食になるだけだ。お前みたいな奴が何人もいるわけねぇしな。」

「まぁまだ一点だ。まだ何か手を隠し持ってるかもしれない。油断せずいこう。」

「そうは思わねぇけどな。」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────……」

「しょ、翔ちゃんドンマイ!」

「! ご、ごめん、せっかくあがったのに!次は決める!」

 

1-0で、再び北川第一のサーブ。何とかレシーブし再びオープントス。日向のほぼ真上にトスがあがる。

 

(……今度こそ!!)

 

頭の中にある憧れのプレーをイメージし、右腕を振り下ろす。次こそブロックを抜く、とはならずパァンと軽い音を鳴らしつつ相手コートへ緩く飛ぶ。

 

「ワンチ!」

「チャンスボール!!」

 

(くっそ、また!)と悔しがる暇もなく高速のコンビが展開される…かと思ったが弾かれたボールが飛んだ場所はコートのサイドラインよりも奥。速攻を使うのはかなり難しい位置へ。

 

「レフトオープン!!」

 

(!4番!)

先程トイレの前でやり取りを交わした4番のスパイカーが、大きくトスを呼んだため慌てつつブロックへ向かう。

 

ダンッ!!!

 

(!!音…?!)

 

ズドン、という着弾音をたて、4番が着地。先程の音が飛翔の際の床を蹴る音だと気付いた時には、ボールはコートに鋭く突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「試合、一方的になっちゃったッスね。ってアイター!! また捕まったあの一番!! けどジャンプ力凄いし、ギュンギュン動くし、あれで身長があればなぁ~!!」

「あとは、雪ヶ丘にもっとちゃんとしたセッターがいれば、あの一番も活きてくるんだろうけどな。」

「北川の方は、おっ!また来るぞあの4番!」

 

 

ズダンッ!スパーン!!

 

 

「かーっ、こっちはまた決めたよ!ブロックほぼいないとはいえあの身長でよく決めるなぁ!」

「あの4番は雪ヶ丘の1番と身長そこまで変わらないだろうけど、ブロックの上から打ってるな。」

「それだけじゃないべ。毎回のように正確にコートの隅に打ち込んでる。スパイクの精度が並じゃない。」

 

「けど、影山ってやつは大したことなくないッスか?北川にはデカいやつ沢山いるのに、活かしきれてないっていうか。」

「確かに、大差で勝ってるとは言えコンビミスも少なくないし、何よりチームメイトと会話してるように見えない。まるで、独りで戦ってるみたいだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

1セット目を先取し、続く2セット目も23-7と圧倒している。

失点も抑えられているし、このままいけば問題なく勝利出来るだろう。

だが、慢心など決してしない。絶対に勝てない勝負も、絶対に勝てる勝負も存在しないのだから。

 

「もっと速く!!」

「!チッ」

 

まただ。今日何度目のコンビミスだろうか。1セット目も加えるとおそらく10回近くはしているだろう。勝っていても、こうミスが多いといまいち乗りきれない。

 

「相変わらずのムチャブリトスだな…」

「相手のブロックなんていないも同然なのに、何をマジになってんだよ…」

「!!じゃあお前らが本気でやるのはいつだよ!?決勝か!?」

「おい止めろ!試合中だ!」

「チッ……」

「分かってるよ」「ハイハイ」

 

キャプテンの制止でお互いに収めたが、二年の中盤あたりからこのように言い合いになることが多くなった。試合中にも関わらず、である。

 

フローターで打たれたサーブを雪ヶ丘の3番が後ろへ大きく逸らす。

「おしっ、またサービスエース!」

「まだだ!」

そのボールを1番が追う。どう見ても無理、仮に触ったとしても繋げないであろうボールだったが、頭から滑り込むようにボールに突っ込んだ。

しかし、やはり取れず壁に激突する。

 

「頑張るなぁ、あの1番」

「な、こんだけ点差ついてて戦意喪失してもおかしくないのに、なんであそこまで」

チームメイトはそう言うが、あの1番の考えていることが、自分には分かる。勝てっこない相手だとか、点差がどうとかは一切関係なく、ただそこにあるのは…

 

「まだ負けてないよ?」

 

そんなに大きな声じゃないのにはっきりと聞こえた。そうだ、単純なことだ。戦う理由は一つ、まだボールは落ちてない、まだ負けてないのだから。

 

こちらのサーブで乱れたボールを5番が足でフォロー、上がったボールを1番が打ち込んでくる。この劣勢で放たれるとは思えない、背筋が震えるような威圧感。 

 

ドガガッ!

「ワンタッチ!」「触った!カバーだ!!」

 

(こりゃとれないか…)

「ふっっ!!」

(!)

「英カバー頼む!!」(一歩下がっておいて正解だった!!)

 

「ナイスカバー!!繋げ!!」

飛雄から檄が飛ぶ。

英から飛雄へと繋ぎ、雪ヶ丘コートへと返す。

「チャンスボールだ、泉さん!!」

「よっしゃ!」

(また一番来る。吹っ飛ばされるかもしれない、一歩下がって───)

 

一番のスパイクを警戒し、下がっておいたその時

「あっ!?」

(!トスミス!?)

6番がトスを上げようとした時、ボールがすっぽ抜け、誰もいないライトへ行った。

(そっちには誰もいな───?!)

 

その瞬間、1番がボールにスパイク体勢で飛び付くのが見えた。

(レフト位置からライトへのブロード!はっや──)

意識をスパイクへ向けるが、もう追い付けない。

1番はベンチに突っ込みながらも、コートライン際にスパイクを放った。

 

(目で追うだけで精一杯とか、どんな身体能力してんだ…)

 

ピピーーッ!!

 

(!え、今のスパイク、アウト…?)

 

試合終了──勝者北川第一中学校

 

 

 

「…」

「しょ、翔ちゃん、整列…」

 

ネットの向こう側で立ち尽くす1番の前に飛雄が立つ。

 

「飛雄?」

「──(体格の不利を補って余りあるバネ、スタミナ、スピード、そして何より勝利への執念…うちのエースに匹敵するものを持ちながら…)お前は3年間!何やってたんだ!!」

 

「!!」

「なんだと!?」「お、おい!ちょっと、止めろって!」

 

向こうの5番が声を荒げて飛雄に問うが、飛雄は何事もなかったかのように整列しに行ってしまう。

 

「……」ギリッ

1番が歯を噛み締める。

 

ここで審判からの注意が入り、どちらも整列しに戻った。

1番の後ろ姿や握った拳から、悔しさが滲み出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、なんていうか面白い試合だったッスね。大地さん。」

「そうだな、コート上の王様が目当てだったけど、伏兵がいたな。」

「あの1番凄かったよなぁ、勿論まだ下手だったけどチームを鼓舞したり、最後のスパイクとか。」

「それで言うなら北川の4番のほうが凄くなかったッスか?あの1番と変わらず小柄だったのに、結局次の試合でも点取りまくってたじゃないッスか!」

 

「まぁ、なんにせよ、新年度が楽しみだ。俺達も負けてられないな。明日朝からだから、遅刻しないようにな。」

「ハイッス!」「分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(サポーターサポーターっと。おっ、あったあった。忘れ物するとこだった。)

雪ヶ丘との試合後、続く3回戦も勝利し明日へと駒を進めた。

チームの雰囲気はお世辞にも良いとは言えないが、勝ち進むにつれて良くなっていくと信じたい。

(つか、忘れ物したせいでもう皆バスに戻ってるか…早く戻らなきゃ)

 

「今日はありがとォッ!」「やめろ!照れる!」「翔ちゃんまたそれ!?」

 

(あれ、雪ヶ丘の人達?一応挨拶しておいたほうがいいかな。)

「あの、すみません、雪ヶ丘の皆さん。今日はありがとうございました。」

1番の人が、グリンッ!!とこちらを向く。

「!!さっきの4番!!さっきお前のとこの王様には言ったけど!」

「はい?(王様?飛雄のことか)」

 

「お前のことも!いつか必ず倒す!そんで、俺が一番長くコートに立ってやる!!」

 

「──そうか、なら次は高校の舞台でやりましょう。あなたとやるの、楽しみにしてますから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、北川第一中学は予選決勝まで進むものの、光仙学園に惜敗。コート上の王様影山飛雄には、大きな痼を残して大会を終えることになる。




ちょっと、ていうかかなりぐちゃっとなってしまいました。
まだまだ下手ですが、日向のようにここから成長したいです。
原作との変化があまりないことに関しても、申し訳ございません。
書きたいものはここから広がっていく予定なので、長い目で見て頂けると幸いです。


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第5話

「夏の全中バレー全国大会、ベスト4のかかった試合、栄蘭中学マッチポイント!光仙学園このピンチを凌げるか!」

「ここを凌げば次はビッグサーバーの滝川君ですからね、栄蘭中学もここで決めたいと思っているはずですよ!」

 

ピーッ!!

 

「さぁ栄蘭のサーブですが… ! おっとこれは笛と同時にサーブしてきた!光仙学園乱されここは返すだけになる!」

 

チャンスボール!

 

「さぁ多彩な攻撃をしてくる栄蘭中学ですが…やはりここはエースに上げてきた!光仙学園もきっちりブロックを揃えるが───」

 

 

ゴッ!!!

 

ピピーッ!!

 

「最後もブロックを吹き飛ばす強烈なスパイク!!セットカウント2-1!栄蘭中学ベスト4進出!光仙学園最後まで粘りをみせましたが、ベスト8で敗退ということになりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッ。と、音は鳴らないがテレビの電源を消す。

 

(光仙ベスト8止まりか、うちのチーム事情もあったとはいえ白鳥沢中とウチを高さとパワーで粉砕したのにな。やっぱ全国すげぇのいんなぁ。)

 

宮城県予選決勝で敗れてから数ヶ月。改めて全中の全試合の見直しをしていた。どのチームも全国に行くだけあって、やはりレベルは高い。そして高さとパワーをかね揃えた選手を軸にして攻めるチームがほとんどだった。徹底的にブロックとレシーブを意識した守備寄りのチームも僅かながら存在したが。

 

ノートを開き、気付いたことを書き込んでいく。

(やっぱ中学は力で押してくるチームが多いよな、そんで多分これは高校でもある程度通用するはず。となるとレシーブの強化と、高いブロックから一人で点を取るための技を身に付けること、シャットアウト出来なくてもワンチ取り出来るブロック…ってとこか。高校はこれまで以上にレベル高くなるだろうし、全体的な向上が必要に───)

 

「ほら、やっぱここにいた。」「お、マジだ。」

 

扉が空いた音がしたのでそちらを見ると、チームメイトの金田一勇太郎と国見英がいた。

「勇太郎、英。お疲れ、なんかあった?」

「や、まぁちょっと聞きたいことあってな。にしても、またこの教室借りて試合視てたのかよ。許可取ったのか?」

「理科の先生に言ったよ、一応担任にも言っといたし。まぁ理科の先生には、あぁまたか。みたいな顔されたけど。」

「今日は何の試合?」

「今日は栄蘭と光仙のベスト4をかけた試合。どっちのエースもパワー系で見ごたえあった。」

「相変わらず引くぐらい熱心。それ何冊目?見る度に違うノート持ってるけど。」

「さぁ、小学生から書いてるから正確な数は分かんないな。で、何か用事あったんだよね?」

「あぁ。お前進学先どこにするか決めたのか?大概のやつは一般入試で、あとは推薦って感じだけど。」

「あ~、その話か。二人は確か青城だっけか。」

「おう、俺ら二人は推薦で青城にした。元北一の先輩も沢山いるしな。」

 

青葉城西高校、通称青城。毎年宮城県のベスト4に入る強豪校で、その実力は全国に行っても通用すると言われている。また、ここ北川第一バレー部の多くが進学する高校でもある。

 

しかし、ある高校の影響により全国出場は長年遠退いている。

 

「お前も推薦来たんだろ?」

「まぁいくつか、青城と白鳥沢はコーチ的な人が直接来た。」

「お前白鳥沢からも来たのか。流石だな。」

「でも青城は兎も角、白鳥沢から推薦ってなーんか違和感あったから詳しく聞いてみたら、リベロとして欲しいとか言われた。」

「あ~、リベロか。お前レシーブも良いしなぁ。けどその様子だと白鳥沢には行かないんだな。」

「うん、行かない。そりゃリベロという制約付きとは言え県内最強の白鳥沢にスカウトされるのは嬉しいけどな。」

 

宮城県内最強と呼び声高い白鳥沢高校。毎年のように宮城県代表として全国に行けば、ベスト8は固い。青城が全国に行けないのは、この高校が同じ県にいることが少なからず影響している。

 

「となると、俺らと同じ青城に行くのか?お前のことだから当然高校でも全国目指すんだろ?」

「ん~…全国目指すのは当たり前として、俺もっと色んな人とバレーしてみたいんだよな。青城は知り合いの先輩方とか沢山いるから過ごしやすそうではあるけど。」

「全国目指すんだったら、強豪に入るのが普通だろうけど?」

「いや、学校はそんなに関係ないよ。弱小校に入るつもりもないけど、同じ高校生で勝てない理由はないし。それに誰よりもバレーに対して努力してきたことには自信あるから。だからまぁ、中堅以上に入れればそれでいいかな。」

「……」

「そうか…んじゃ早めに決めろよ。監督困る前に。」

「分かった。…そういや、飛雄の進路聞いてる?あいつも推薦いくつかきてるはずだよな?」

「…さぁ、王様の進路なんか知らねぇよ。」

「その王様って誰が言い出したのか知らないけど、悪い意味で言うなよ。飛雄がああなったのは俺らにも責任あるんだから。」

「まだそんなこと言ってる奴、お前ぐらいだろ。ムチャブリトスの癖に、打てないと罵声が飛んでくるからな。俺だって何回言われたか。お前も言われてただろ?そんな奴嫌われて当然だって、皆思ってる。」

「そりゃ俺も言われはしたけど。」

「兎に角知らない、知りたいなら直接聞けよ。んじゃもう帰るわ、早く進路決めろよ。」

「おう、またな。」

 

ガラガラと扉を閉め、二人は帰っていった。

 

(結局引退してもこんな調子だもんな、飛雄とは引退して以来全然話してないし。クラス違うとはいえもう少し話すと思ってたんだけどな。…まぁ飛雄も気になるけどまずは自分か。推薦貰ってたとこの確認と県内の高校のパンフレット進路支援室で貰ってくるか。)

 

ノートをまとめ、テレビを片付けて視聴覚室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「…まだ影山のこと気にしてんのかよ。」

「!別に何も言ってねぇだろ…」

「顔に出てるから。お前は精一杯やっただろ。」

「けどよ、結局あいつが引っ込んだからって、試合で勝てたわけじゃなかっただろ。」

「あの身長でエースやってたうちの怪物でも、結局最後までまともにあのトスを打てなかった。…あの時の俺らに、何が出来たよ。」

「……」

 

痼を残していたのは、影山飛雄だけではなかった。それがいつ消えるかは、誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一応推薦貰ってたとこと、バレー部の強さとか場所とか考慮した高校のパンフレット一通り見たけど、いまいち決め手がないなぁ。県外からも2、3校スカウト来てたって監督言ってたっけ。寮生活も楽しそうではあるけど、家から出たくないし…いや、でもなぁ…)

 

ご覧の通り、行く高校決めは難航していた。

バレー部と立地しか見ていないが、実際のところ推薦以外のところならば学力も考慮しなければならないのだが。

 

(さて、どうしたもんか。ん?まだもう一枚あったか。)

パンフの束の一番下になっていたものを取る。

 

(烏野…か)

その高校は彼にとって最も見覚えのある高校であった。が、無意識的に候補から外していたところでもあった。

(バレー部の最近の戦績は、良くて県ベスト8か。強くもなく、弱くもないって感じか。)

 

烏野高校。数年前まで白鳥沢と張り合う程の強豪で、直近で出た春高バレーでは「小さな巨人」と呼ばれる選手の活躍により、全国に名を残した。

しかし、近年は成績が振るわず、「落ちた強豪 飛べない烏」という不名誉な異名で呼ばれている。

 

(ここは今まで無意識に避けてきた。……けど、もしかしたらいい機会かもしれない。自分の気持ちに踏ん切りをつけるのに。)

数分熟考し、一つだけパンフレットを持ち、他は全て元の場所に戻して職員室へ向かう。この時間なら監督も練習も終わってもう戻っているだろう。担任にも伝えなければならない。

 

すっかり日が短くなり、月をより輝かせるかのように、空は既に黒く染まっていた。




最後の文、ポエミーだった!?引いた!?…まぁちょっとカッコつけてみたかっただけです。はい。
主人公の烏野との因縁?ですが、次回には分かる予定です。
ここまで彼の名前をひたすら伏せてきたのもそれが理由です。
今回は彼の名前を出すところまで行きたかったのですが、ここからの繋ぎ方が分からなかったので一度切ることにしました。次回から烏野編となる予定です!!


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第6話

時間がかなり空いてしまいました、すみません!

誤字の報告ありがとうございます、誤字0を目指していたのですがそう上手くいかないですね。

Twitterでハイキューがトレンドに挙がっていたので、また何かイベントでもあるのかと思ったら完結から一年というものでした。
完結して一年たっても尚トレンドに挙がる程の人気、流石はハイキュー!!


ピピピ、ピピピ、ピピピ…と時計の音が鳴る。

時刻は朝の5時。時計を止めて素早く起きる。普段ならばもう少しゆっくりしている所だが、今日はあまりのんびりしていられない。

ウェアに着替え、シューズを履き、携帯と鍵を持って家から出る。

玄関のドアを開けると外からの風が家に吹き込んでくる。

「っ、やっぱまだ寒いな。」と思わず声に出る。

宮城県は東北の中では寒さは一番ましな方ではあるかもしれないが、それでも寒いものは寒い。真冬の早朝となると水道管が凍結したりすることもあるため、ランニングどころではない。日課である朝のランニングを再開出来たのも、つい最近のことである。

 

4月。季節は春。朝こそまだ寒いが、これから段々と気温も上がってくるだろう。春一番と言える強い風を感じながら、合格した高校のことを考える。

結局あの後、烏野高校を一般入試で受けることにした。監督からは「県外の強豪からも誘いがあるのに、本当に烏野でいいのか?」と何度も聞かれたものの、烏野の全盛期を支えた烏養監督が戻ってくるという話を聞いたのでそれを理由にした。滑り止めとして、私立である青城も受けることに決めた。まぁ公立と言っても白鳥沢ほどの難関でもないので落ちる気は更々なかったのだが。

 

ギリギリまで決め損ねていたこともあり、3月に受験することになった。そのためつい最近までは体が鈍らないようにトレーニングをしつつも、勉強中心の日々が続いていた。青城にも合格はしていたが、いざ烏野に無事合格した時はホッとした。残りの中学校生活はそんな日々を過ごし、卒業式を迎え、そして今日から高校生活の始まりである。

 

家に戻り、シャワーを浴びて制服に着替える。下ろし立ての黒の学ランはピカピカで、少しブカブカする。これから背伸びるだろうということで大きめにしたが、それでも少し大きい気がする。

(中学から少しは身長伸びたみたいだけど、それでも平均よりはまだまだ小さいよな。この制服がピッタリになるぐらいには、伸びればいいんだけど。)

などということを考えながら、支度をする。家には相変わらず誰もいないが、いってきます。と言って家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漸く入学式が終わった。中学でも思ったが、校長先生というものはどこの人でも話が長いらしい。さらに教頭先生の話も長く、正直かなり退屈な時間となった。一部では教頭の髪が絶対ズラだという話で盛り上がっていたようだが。

 

その後、一年間生活する教室に入る。1年5組で席は前から3番目。

比較的前のほうとなった。最初は名前順なので仕方ないと言えるが、自分の名前を恨みたくなる。

HRで先生の紹介と軽い自己紹介を行い、今日は解散となる。

 

「今日から部活の見学に行くやつは行ってもいいぞー、見学は今週の金曜日までだからな~!」

 

という先生の声が教室に響く。

 

(さて、バレーの用意も出来てるし、いくか!)

と思い教室から出ようとしたところで……

 

(うおっと!?)ドッ「っひょ、ひょえええっ!!?」

教室に入ろうとする人とぶつかってしまう。その人が後ろに倒れそうだったので、咄嗟にその人の腕を掴む。

 

「すみません、大丈夫ですか?」

「…はっ、はひっ!ごめんなさいでしたでしゅ!!お、お怪我はございませんでしょうか?!けっけがをさせてしまったら一生かかってでも償いますっっ!!!」

「いや怪我なんてしてないですから、むしろそちらは平気……」

とそこまで言いかけたところで、相手の姿をはっきりと見る。

金色というより明るい黄色の髪を短くまとめ、その髪が目立つ白い肌、今掴んでいる細い腕。そして言語から分かる慌て具合。どれも非常に見覚えのあるものだった。

 

「…もしかして、仁花?」

「は、はいっ!谷地仁花です!!」

「えっと、俺のこと覚えてる?」

「え、ええっと…?!!?」

「うん、取り敢えず深呼吸でもして落ち着いて?クラスの人めっちゃ見てるし。」

 

 

 

 

 

 

 

       ~谷地仁花クールダウン中~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ落ち着いた?もう少し時間おく?」

「いっいえ!落ち着きました!!」

「そう?それじゃあ本題、俺のこと分かる?」

「えっと、んぬぅぅ~~…ひっヒント!ヒント下さい!」

「ヒント?それじゃあ、レシーブのコツは腕じゃなく足、強いボール相手には体全体を使うことも必要!って言えば思い出すかな?」

「レシーブ?って、バレーボールのレシーブのこと?」

「うん、それのこと。」

「てことは、もしかして……蒼馬?!」

「うん、正解。久しぶり、仁花。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラスの人達は皆帰ったり見学に行ったりで教室にはいなくなり、先生も用があるからと職員室へ戻った。今教室には二人だけである。

幼なじみとの久しぶりの対面であるが、どこかぎこちない空気が流れていた。

 

「い、いや~、ほ、ほんとに久しぶりだねぇ~。ていうか、髪伸びてるし、身長も高くなった?」

「うん、少しね。髪はなんとなく、かな?」

「え、えっと、ごめんね?気付かなくて。昔と結構変わってたから…」

「まぁ小学生以来だし、中学の時は連絡取り合ってた訳じゃないしね。携帯も持ってなかったし。」

「あ、あのさ、質問してもいいかな?」

「? いいよ?」

「まだ、バレーやってるの?ほら、小学生の時は色々あったからさ…」

 

(ああ、なんかぎこちないのはそういうことか。)

「大丈夫、まだ続けてるよ。俺みたいなバレーバカ辞められるわけないよ。高校でもする。」

 

そういうと、いかにもホッとした様子で

「そっか…良かったぁ…」と笑顔で言った。

 

その様子を見てなんだか急に申し訳なくなり、

「…」スッ

「? 蒼馬?」

「…」ナデナデ

「へっ?」

 

頭を軽く撫でる。思ったよりもサラサラした感触が手に伝わる。

 

「ごめんな、心配かけて。バレーは好きだし、辞める予定はないからさ。」

 

 

「……」

「仁花?」

「はひぃ!?な、なんでしょうか?!」

「いや、急に俯いたからどうしたのかと思って。」

「い、いや、その…」

「あ、そっか。ごめん、急に女の子の髪触るとか失礼だったね、ごめん。」

「いや、そのなんというか…嫌じゃなくないというかむしろ好きというかなんというか…

「え?なんて?」

「な、なんでもないですっ!!」

「お、おう、そっか。まぁ兎に角、これから3年間またよろしくな。」

「は、はい!こちらこそお願いしますっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだかんだと話しているうちに、すっかり暗くなってしまった。仁花とはバス停のところで別れた。

話の流れで、今日からバレー部に行く予定だったと言うと「私めごときに貴重なお時間をっ?!お詫びに走ってきます!!」と言って走りだそうとしたため、それを止めることにも時間がかかった。

 

(まぁ、たまにはこういうのも楽しいよな。バレー部には明日から行けばいいや。)

と考えながら、帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、バレー部では新入生が早速部活から干されるという珍事があったのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

 

 

「よっし、HRはここまで!お前ら全員気をつけて帰れよ~!見学するやつは先輩の迷惑にならないようにな~!」

 

授業が終わり、今日からバレー部に入部する。

名前順で後ろのほうの席になった仁花は、今日は中学の時からの友達と帰るらしい。今日はぶつからないように教室を出る。

 

(さて、入部届けって一先ずバレー部のキャプテンの人に渡せばいいんだっけ?担任にはもう出したから多分それでいいよな。)

 

と、そんなことを考えているうちに第二体育館前につく。

明らかに下手な絵が描かれていた入部募集の紙に、第二体育館で活動しています!と書かれてあった。

 

(靴置いてあるし、もう何人か来てる。…ふぅ、ドキドキとワクワクが混じったような気持ちだ。)

やはり最初というものは、緊張してしまうものらしい。が、ここでまた色々な人達とバレーが出来ると思うと、ワクワクの感情が勝つ。

靴を脱ぎ、体育館へ一歩踏み出して中にいる人達に声をかける。

 

「すみません!バレー部入部希望です!」

 

そういうと、黒いジャージを着た人達が此方へ来る。

 

「おおっ!二日目早速の部員かぁ!」

「良かったな大地、これで取り敢えず三人だな!」

「スガさん、今度こそ三年の威厳を見せてやって下さい!こう、ガッと!」

 

三人の先輩らしき人達が来る。三人とも、特別大きいわけではないが、少なくとも俺よりは大きい。

 

「俺はバレー部キャプテンの澤村大地。入部届けは持ってきた?」

「はい、持ってきました!」と、言いながら渡す。

「…北川第一出身!?」

「北川?てことは…」

「あっ!?ていうかお前、北川の4番!!」

「え?あ、はい、4番でプレーしてました!」

「あ~あの4番!去年の試合見てたんだよ、その身長で精度のいいスパイク打ってたもんなぁ。」

「ブロックフォローとかも上手かったよなお前!」

「ありがとうございます!」

「よし、それじゃあ全体に自己紹介してもらおうかな、集合ー!!!」

 

キャプテンの声で全員が集まる。

「今日から入部する一年生だ、まず自己紹介から!」

 

「北川第一中学出身、宇内蒼馬です!ポジションはWSです、よろしくお願いします!」

 

高校バレー、灼熱の3年間の始まりだ。




ラブコメっぽい谷っちゃんを名前で呼べる若干鈍感かもしれない幼なじみオリ主のハイキュー的紹介

名前 宇内蒼馬

烏野高校1年5組

誕生日 12月19日

身長 165.8cm 

体重 52.2kg (高校1年4月)

ポジション ウイングスパイカー

兄弟構成 兄

好物 わたあめ

最近の悩み 身長と童顔のせいで「本当に高校生?」
      もしくは「本当に男の子?」って何回も聞かれる…


能力

パワー 2
バネ  3
スタミナ 4
頭脳  4
テクニック 3
スピード 3




谷っちゃん登場!!
いつか谷っちゃん目線で書くのも楽しそうですね~。

宇内ってどこかで聞いた名字ですね?(すっとぼけ)
そしてどなたかオリ主の異名考えて頂けないでしょうか……
小さな怪物!……ぐらいしか思い付かなくて、いっそ小さな巨人にしてもいいかなと思い始めました、はい。

日向影山とは次回から絡ませます。


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第7話

待っていてくれた人、お待たせしてすみません。(影山風)
特に待っていなかった人、待って頂けるよう頑張ります。できるまでやれば、できる。(田中先輩風)

リアルが忙しい+文章力がなくなかなかまとめられないということが重なり、2カ月以上空く形になりました。
次からは確実にペースアップしていきますので、なが~い目で見ていただきたいです。そして読む前に申し上げておきますと、内容自体はそこまで進んでいません。ご了承ください。


空がだんだん明るくなってきている。

流石にこの時間では朝日が出るとまではいかないが、もう少しで明け方から朝へと変わるであろう。

 

現在朝の5時40分。

昨日から入部したバレー部の朝練に向かう。

朝練は7時からと言われていたが、久しぶりの朝練となるとどこか落ち着かず、早く行くことに決めた。

 

烏野までは徒歩30分といったところなので、このまま行けば6時ぐらいには到着できるはず。

鍵の管理はどうやら田中さんがしているようだが、流石に朝練1時間前には来ていないと思う。まぁ外で直上でもしていればいい。

 

 

(しかし、昨日はちょっとびっくりしたな。まさか飛雄が烏野にきてるとは。)

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野高校バレー部での最初の練習が終わった。

現在烏野にはコーチがおらず、練習メニューはキャプテンである澤村さんが作っているようだったが、不足ということもなく充実した練習をすることができた。

 

自己紹介後、先輩方一人ひとりの紹介がされた。

3年生2人、2年生4人の全6人に1年生が自分の他に数名入るらしい。

 

(そういえば…)

「田中さん、他の1年ってもう顔出ししたんですか?」

「あ~、まぁ一応顔出しはしてるぞ。二人は。」

「そうなんですか、そいつら今日は用事かなんかでいないんですか?」

「あー宇内、ちょっとこい。」

 

田中さんに言われ、全体から少し離れたところへ移る。

「大地さんがいるところだと、言いにくいことなんだが…」

「はい?」

 

聞くと、どうやらその1年二人は初日からチームに迷惑をかけたらしい。キャプテンのことを無視して勝手に勝負を始めた挙げ句、ボールで教頭のズラを吹っ飛ばしたそう。

というか、あれは本当にヅラだったのか。

 

「傍迷惑な奴らがいたんですね、それで入部が見送られてるんですか?」

「おう、そういうことだ。ていうかお前、その迷惑な奴らの内の一人はお前の中学のチームメイトだぞ。」

「え?俺以外に北川からきた人いるんですか?」

「その様子じゃ聞いてないんだな、お前のとこのセッターだよセッター。」

「え、てことは飛雄、ですか?」

「そうそう、影山飛雄。どこの高校に行ったか知らねぇってことは、あんま仲良くねぇの?」

「まぁ、はい。特別良くはないですね…飛雄が烏野、ちょっとビックリしました。」

「そうか。あ、あと教頭のヅラの話はなかったことになってるから、他の奴にしゃべったりすんなよ!あと大地さんの近くでも話すなよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヅラの話は兎も角、正直驚いた。

中学のことがあるから青城はないにせよ、白鳥沢あたりに行くものだと思っていた。

 

(推薦来なかったってことかな。一般受験だと流石に厳しいだろうし。)

 

飛雄の性格なら、県内トップの学校へ行きたがるだろう。特別仲が良い訳ではないが、それだけは分かっていた。

 

(しかし、なんで烏野なんだろ。そのうち会うだろうし、その時にでも聞くか。)

 

そんなことを考えていると、烏野が見えてきた。部室の横の道を通って体育館へ向かう。

 

体育館付近に到着した時、キュッキュッというシューズの音が体育館から聞こえてきた。

 

(田中さんかな?1時間前なのに気合い入ってるなぁ、俺もだけど。)

そう思いつつ体育館の扉を開ける。

「おはようございまーす。」

「うおおっっ!?」「ほわぁぁ!?今度こそ来たあぁぁ?!」

挨拶した瞬間に、2人の絶叫にかき消される。

「あの、何かあったんですか?」

「「?! 宇内!!あ~びっくりした!!」」

 

リアクションがハモった2人、菅原さんと田中さんは安堵したように胸を撫で下ろす。

「おはようございます、菅原さん、田中さん。まだ1時間前なのに ーーー」

と、そこまで言いかけたところで、先輩方以外にも人がいることに気付く。

 

「お、飛雄。おはよう。」

「宇内…お前、なんでここに…。」

「なんでって、烏野に入ったから。そっちこそなんで ーーー」

「ああーーー!!あの時の4番!!!」

本日2回目、再び絶叫にかき消される。

その声の主を見ると、小柄でオレンジ頭の見覚えのある人だった。

 

「うるせぇぞ日向ボケェ!!俺がまだ話してるだろうが!!!」

「あだだだ!!頭掴むのやめろっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(滅茶苦茶言い争ってる…ていうかもう練習始めていいかな?)

そう思い始めた頃、飛雄と言い争っていたオレンジ頭の人がこちらに来る。

「おい!お前、北川の4番だろ!?」

「あ、そうです。あなたは…雪ヶ丘の1番の人ですよね?」

「!お前も覚えてるのか!!」

「まぁ、はい。色々と驚いたし、いつか倒すとも言われたので。名前は知らないですけど。」

「俺は日向翔陽!お前は!?」

「宇内蒼馬です。これからチームメイトですね。宜しくお願いします。」

「んー堅い!!敬語じゃなくて、タメ語で!そんなに畏まらなくていい!!」

「そうですか?じゃあ、よろしく翔陽。」

「!! 俺も名前で呼んでいい!?」

「勿論いいよ。」

「それじゃ、蒼馬!これからよろしく!!」

「うん、よろしく。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔陽と自己紹介した後、時間が無いということで朝練が始まる。と言っても既に始まっていたようだ。

飛雄とも話したかったが、一先ず後ということになった。

 

朝練は、翔陽と菅原さんのペアで対人パス。飛雄と田中さんでスパイク練。俺はサーブの練習をしたかったが、スパイク練でコートを使っているためアップがてら壁打ちをする。

壁打ちは地味ではあるものの、自分の打つポイントを知ることに適している。前衛でノーブロックならただ打ち下ろすだけでいいが、ブロックを避けたり、バックアタックとなると、コートに着弾させるためには打つポイントを変えなければならない。

三枚ブロック相手にただ打ち下ろせば捕まるため避ける技術が必要であり、バックアタックでは長いボールを打つ技術が要求される。

実際にスパイクを打ってみてポイントを確認するのもいいが、壁打ちでやったほうが場所も取らないし、時間もかからない。

また様々なポイントで打ったボールは、壁や床に跳ね返ると不規則な動きになる。実際にスパイクを打つ時はいつでも打ちやすいトスが来るわけではないので、対応力も養える一石二鳥な練習というわけだ。

 

 

ある程度壁打ちをしたところで、田中さんから声をかけられる。

「宇内!お前も打つか?そろそろアップも済んだだろ?」

「!えっと、是非打ちたいところなんですけど、いいんですか?ツッコまなかったですけど、翔陽と飛雄って今の時間しか練習出来ないんですよね?田中さんと合わせる時間に使ったほうが良いんじゃ?というか、今更ながらこの二人参加していいんですか?」

「ぐっっっ!!?」「ふぐっっっ!!?」

翔陽と飛雄の二人が似たような声を出す。

 

「あー、まぁ本当はダメなんだけどさ、3対3に向けて練習しとかなきゃってことで、秘密の練習にしてるんだ。普段からこんなに早く朝練してる訳じゃないよ。」と菅原さんが言う。

「3対3?試合するんですか?」

「あぁ、そっか。大地からまだ聞いてないか。今日の部活の時には言われると思うけど…」

 

菅原さんの話によると、毎年新一年生の雰囲気を見るためのゲームがあるらしい。それに勝つことが、翔陽飛雄が練習に参加+飛雄がセッターをやれる条件なんだとか。最もこの二人から勝負を吹っ掛けたようだが。

 

「なるほど。それじゃあポジション的に翔陽飛雄の方には田中さんが入って、後は一年生で組んで試合をするんですね?」

「うん、そういうことになった。土曜の午前中にやる予定。」

「分かりました。」

そう菅原さんに返事をして、飛雄を見る。

「飛雄、余計なお世話かもだけど、翔陽とも合わせたほうがいいんじゃないか?リベロなら別だけど翔陽はWSだろ?」

「…こいつはスパイク以前にやることが山程ある。勝ちに必要ない今のこいつにトスをあげる気はねぇ。」

それを聞いた翔陽は悔しそうな表情をしている。

「…それじゃスパイカーは田中さんだけか?」

「極力田中さんにあげる。あとは俺がいる。そんで勝つ。」

「俺が、ね…。」

「なんだよ。」

「いや、何でもない。」

 

 

それきり会話がなくなり、少しシン、としたところで

「あっ、日向影山そろそろ時間だぞ!大地が来る!」と菅原さん。

時計を見ると7時10分前となっている。確かにそろそろ切り上げたほうがよさそうだ。

二人はそれぞれ練習に付き合ってくれた先輩に、「アザっした!」と声をかけて体育館を出ていった。

 

「やっぱお前と影山、あんま仲良くないんだな。」

「中3の時のことを考えたら、俺とはまだ話す方なんですが、それでも多くはないですね。」

「ゲッ、今のより少ないのかよ。」「3対3影山があんな感じで大丈夫か…?」

 

と言ったところでガラガラと扉が開き、キャプテンと他の二年生が入ってくる。

「おはよう!おっ、宇内。朝練今日からなのに早いな。」

「おはようございます。朝練久しぶりで少しテンションあがって早く来ちゃいました。」

「そうか!スガも田中もおはよう。」

「おう、おはよう!」「大地さん、オハザス!!」

「よし、ネットもたってるし、それじゃアップ!」

「「「オエーーーーーーーーーーイ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通常の朝練と授業を4つ乗り越えた後の昼休み。

 

多くの人が食堂や坂の下にある商店に向かう中、外にある自販機に向かう。外にある自販機にはぐんぐんグルトの他に牛乳が売っていて、練習後に飲むために購入する。身長を伸ばしたいのもあるが、一番はプロテインと混ぜて飲むためである。

 

自販機の近くまで行くと、ボールが弾む音がすることに気付く。

音のする方へ向かうと菅原さんと翔陽が対パスをしていた。

「菅原さん、お疲れ様です。」

「おっ宇内、お疲れ~!」

「あっ、蒼馬!」

「翔陽もお疲れ。3対3に向けてのレシーブ練習ですか?」

「そう。影山は田中にトス集めるって言ってたけど、いくら田中でもずっとマークされたら。って考えたら厳しいだろうし、日向がレシーブ出来るようになったら影山も考え直すかもしれないべ?」

「そうですね。土曜勝つには翔陽のレベルアップが必須だと思います。田中さんだけしかスパイカーがいないなら、いずれ攻略出来ちゃいますし。」

「んじゃ宇内、時間あるなら俺と変わって日向とやってみない?日向もきっと同じ学年の人とやった方が気が楽だろうし。」

「そんなこともなさそうですけど、それじゃちょっとだけ。翔陽、次は俺とやろう。」

「菅原さん!アッザした!!よっしゃ蒼馬!来いや~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

制服姿で対人パスをしている2人の1年生を眺める。

自分は3年で、この2人より2年多く刷り込んできたレシーブにはそれなりに自信があった。勿論主将や今はいない守護神には敵わないが。

だが、それを踏まえてみても ───

 

(乱れないな、一切。日向が相手だから安定しない中なのに。)

日向より少しだけ大きい1年生の姿を見る。オーバーもアンダーも乱れず、正確に日向の頭上へ返す。綺麗と言える程のものだった。

 

(昨日1日しか見てないからだけど、やっぱあの身長で北川第一のスタメンにいただけあって、相当上手い。確かに田中だけじゃ土曜日厳しそうだな……。)

 

「なー、蒼馬。バレーいつからやってんだ?」

「クラブに入ったとか、そういう意味なら小1からかな。」

「小1!!早い!!!」

「そうでもないよ。けど昔からずっとボールは触ってきた。翔陽ももっとボールに触るといいよ。部活の時に限らず、家でも。そうすればもっと上手くなる。」

「おう!やってみる!!……けど、そんなこと教えていいのかよ?土曜日は敵同士だろ?」

「いずれチームメイトになる奴にケチケチしないよ。まぁ俺から教えられることなんて少ないけどね。」

「そんなことない!蒼馬はテレビで見た小さな巨人みたいで凄い!!」

「……小さな巨人?」

「そう!俺がバレー始める切っ掛けになった人!烏野が全国にいった時にエースとして出てた!!それで俺小さな巨人みたいになりたくて烏野に来た!!」

「…小さな巨人、か。けど翔陽と小さな巨人は全然違うよ。」

「!?小さな巨人知ってるの!?」

「あーいや、そうじゃなくてさ。翔陽は翔陽なんだから、自分のやりたいバレー模索してもいいんじゃない?ってこと。」

「も、もさく……ってなんだ?」

「えっ?」

「手探りで物を探すこと。転じて見当のつかない物事をあれこれと考えながら探っていくこと。」

と思わずフォローを入れてしまう。

 

「ホォー!」

「……まぁそういうこと。プレーに全力だけじゃなくて、たまには自分のバレーってのを考えるのも悪くないと思うよ。」

「うーん、俺のバレーかぁ。」

「ま、今は飛雄にトスあげさせることが先か。」

「はぐっ!!そ、そうだ!まずはそっちだ!!このやろー見てろ!絶対にあげさせてやるからな~!!」

「俺にいっても仕方ないでしょ。それには練習練習。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も練習練習。朝は早く体育館に来てレシーブ。昼は菅原か宇内に付き合ってもらってレシーブ。放課後は外で影山と一緒にレシーブ。家ではボールに触りまくった。

 

その成果が出ることとなる。

 

 

 

 

 

 

金曜日午前5時30分。

翔陽飛雄と一緒に練習を始められるように、早めに来たが二人は既に練習を始めていたようだった。

3対3前日でも、翔陽はひたすらレシーブ練習。だが、最初は拙かったレシーブも、徐々に上達していた。

 

飛雄からの強烈なボールを、飛雄の頭上へ綺麗に返す。

正面かつ全力のボールでは無さそうだが、あの強さのボールを綺麗にあげたのは飛雄も驚いたようだった。

 

「おい!手加減すんな!!」

「! 上等だァ!!!」ドコッ!!!

 

翔陽に煽られ、飛雄のボールもさらに強烈になったようだが、あげ続ける。どんな方向のボールでも、兎に角触り落とさない。

たかが対人パス。と言えるかもしれないが、翔陽にとっては3対3前に飛雄に認めさせる最後のチャンス。邪魔をする訳にはいかないと思い、傍観を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤベー寝坊した~ 遅刻遅刻~  角を曲がったら食パン咥えた美少女とドーーン☆ つって♪」

「あ、田中さん。おはようございます。」

「おう宇内。今日もはえぇな…って、こいつらこの対パスいつからやってんの?日向汗だくだけど?」

「30分ぐらいですかね。」

「は?!さんじゅっぷん……って30分だよな?!」

「俺がきてから15分はやってるから、もう30分になるな。分かってたけど日向すげースタミナ。」

「はい。とんでもないですね、飛雄も少し戸惑ったような表情してますし。」

 

 

 

 

「おい!そろそろ限界だろ!!もうこのくらいで ───」

「まだっ!ボール、落としてない!!!」

「!この……!!」

飛雄は少し迫力におされ、無茶なボールを打った。

(しまった……つい無茶なボールを……!)

 

「うわっ、影山性格悪っ!あんなんただでさえ無理なボールなのに、疲れきってる日向じゃ余計無理だろ!」

 

田中さんの言う通りだと思った。追い付くのもまず無理だし、追い付いたとしても返せないだろうと。

だが、思い出すのは中学で対戦した時のこと。あの時もどんなに劣勢でも諦めず、集中力を落とさず、必死にボールに食らいついていた。この場面で、あの姿が脳裏に焼き付いて離れない。

 

「いや、大丈夫です。」

「え?」

体育館の壁際まで飛んだボールを追いかける翔陽を見て確信した。

 

「翔陽なら、できる。」

頭から滑り込むように、右腕を伸ばして、ボールを拾った。

それも飛雄の頭上に返る、綺麗なレシーブだった。

 

「うおっ、拾った?!スゲーぞ日向ぁ!!」

 

完璧ともいえるレシーブしたボールが、影山の頭上へいく。

中学で見せたポテンシャル、勝利に対する執念。そして今見せた苦しい状況でも落とさないメンタル、勝ちへの飢え。

誰もが引き付けられるような今のプレーは、影山の中の勝ちに必要ないという考えを一変させた。

日向の正面を向いていた体を半分回し、前衛レフト位置を向く。

そのまま、優しいタッチで高くボールをトス。ボールを上げた相手はもちろん ───

 

「トス?!影山がトスを上げた?」

「でも今の日向に、トスを打つ気力なんて……」

「いや、見てください。翔陽の顔。」

下を向いて苦しい顔をしていたはずが、トスを見た途端満面の笑みに変わった。

「「えがお!?」」

そのままボールに向かってジャンプし、スパイクをコートへ叩きつけた。

 

「いや相変わらずよく跳ぶなぁ!しかもあんな状態から!」

「トスが上がるっていう、俺たちにとって当たり前のことが、日向には凄く特別なことなんだろうな。」

「そうですね……確かに、トスが上がらないのは、凄く辛いことです。」

「宇内も、そういう経験あるのか?」

「……翔陽に比べたらマシですよ。まだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うげっほげっほ……!!」

「おい。」

「?」

「明日の試合、勝つぞ。」

「!あ、当たり前どぼぉぉっ!!!」

「ちょっ、おい、田中!水!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、このゲロ騒動によって残りの朝練の時間は殆ど無くなったということは言うまでもない。




とにかくペースアップ!で頑張ります。


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第8話

結局また2ヶ月以上空きました!ごめんなさい!!亀更新タグ付けときます!!!新年迎える前に出したかったです!!!!明けましておめでとうございます!!!!!ではどうぞ!!!!!!


翔陽のゲロ騒動の日の放課後。

 

片付けるのはいささか大変ではあったが、なんとか澤村さんが来る前に終わらせることが出来た。

まぁ勿論今日の朝練はかなり物足りないものとなったが。

 

体育館に行く前に翔陽飛雄を見送り、今は部活の準備中である。

 

北川第一と違い、烏野は上下関係がそこまで厳しくないのもあって先輩たちも準備を手伝ってくれるが、後輩としては先輩の手を煩わせたくない。かといって一人で全部やろうとすると練習開始時刻ギリギリとなってしまいがちなのだ。

 

そもそも準備の時だけに限らず、一年生が少ないと感じていた。

翔陽飛雄を入れたとしても三人。公式戦のことを考えるとやはり心許ない。常に同じ人が出れるとは限らないのだから。

 

そのようなことを考えつつ、準備を終えたところで…

「宇内、疲れとかはないか?」

と澤村さんから声がかかる。

 

「疲れですか?いや特には、」

と言ったところで、なぜか挙動不審な菅原さんと田中さんが目に入る。

「朝練久しぶりにするって言ってただろ?それでいつも俺より早く来てるし、練習の準備もほとんどお前に任せてるからさ。」

 

…なるほど、二人が挙動不審なのは澤村さんに朝練のこと聞かれたからかな?と推測する。

今日は体育館の清掃(なお原因はゲロ)に時間を取られたせいで、朝練前に汗をかくということが出来なかった。普段とは違う、汗をかいていない様子に少し不信感を抱いたのだろう。恐らく多分。

 

怒られることは兎も角、主将の指示に従わず例の二人と練習していたことがバレると、今後の試合に影響が出るかもしれないのでバレたくない。まぁ勿論怒られたくもないが。

 

「御気遣いありがとうございます。朝練の時間はもう慣れたので大丈夫です、どちらかというと準備に時間かかってしまうのがネックですかね。一年今は(・・)俺しかいないので。」

と平静に話す。

 

「そうか。けど準備に関しては問題ないかもな。今日からの新入部員がいる。」

「あ、そうなんですね。何人ですか?」

「さっき会ったからもうそろそろ来るはずだけど…お、丁度来たな。全員練習前に集合ー!!」

 

 

「今日からの新入部員を紹介する。じゃあ二人とも、自己紹介。」

「一年、月島蛍でーす。宜しくお願いしま~す!」

「一年、山口忠です。よ、よろしくお願いします。」

「二人ともMBで、小学校からバレーをやってる経験者だ!これからよろしくな!」

 

澤村さんから紹介された二人はどちらもタッパがかなりあった。

一人は180ぐらいで平均といえばそうだが、もう一人は190近い。

 

「宇内、折角だし同じ一年として自己紹介しておくか?」

「そうですね。それじゃあ、宇内蒼馬です、ポジションはWSです。これからよろしく。」と簡単な自己紹介をする。

 

その時、ずっと笑顔だった月島君の顔が一瞬ひきつった、気がした。

 

「宇内……ふーん、ねぇ君って北川第一の『小さな怪物』でしょ?そんなエリートなんでもっと強豪校に行ってないの?」 

「小さな怪物?って何ですか?」

「知らないんだ?君の異名だよ。160ぐらいの身長で、ブロックをものともせず得点を重ねる。あの決勝でのプレー見た奴らが付けたみたいだよ。」

「はぁ、異名ですか。決勝はまぁ、やることやっただけなので。」

「へぇ、意外と謙虚なんだね。あの王様と同じチームだったとは思えないね。」

 

謙虚というより、異名が気にくわないだけ。とは言わなかった。

 

「もう一人は山口君ですよね。これからよろしくお願いしますね。」

「あっ、うん。よろしく。」

 

「よし、それじゃ練習開始だ!準備や片付けは宇内、後で二人に説明してあげてくれ。」

「はい、分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習後

 

「……けっ!なァ~んか気に入らねぇなさっきの新一年!」と練習後に田中さんが言う。

「お前初対面のやつ大体気に入らないじゃん。あれだろ、そういう習性だろ?」

「いやスガさん、習性って…。宇内、お前はどう思ったよ?」

「言葉の節々に刺を感じましたけど、それ以外はまぁ普通ですかね。あと張り付いた笑顔というか、それが印象的です。」

「あーそれ思った。エリートとか意外と謙虚とか。なんかいきなり敵対されてなかった?」

「みたいですね。けどまぁ、同じチームだからって無理に仲良くする必要はないですし。それに今日まだ会ったばかりなので、これから色々知っていけたらと思います。」

「…田中見習えよ。宇内のほうが大人だぞ。」

「ちょっ!スガさん!!」

「まぁそれは兎も角、田中入るとはいえ日向影山大丈夫か?あの二人経験者なだけあって、結構出来てたよな~。それにあの身長だし。」

「そうですね、翔陽もですけど、飛雄の出来次第ですかね。」

「影山なぁ…。なーんか、中学の時よりおとなしい気がすんだよね。中学のプレー見た感じだと、絶対的自信!とか破天荒!とかが似合う感じだったのに。中学の影山を知ってる宇内はどう思う?」

「…はい。菅原さんの言う通り、中学の飛雄とは全然違いますね。それでその原因は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃の日向影山は、明日の試合の最終調整として、外でパスの練習をしていた。

暗くなり下校時間が近いこともあり、影山からの指示する声も自然と大きくなる。

 

「おらっ!次後ろだ!」「よっしゃ!」と日向が声をあげたところで…

 

ぬっ。と空中で、尚且つ背後から片手でボールが捕まれる。

「!?」

「へー!ホントに外でやってる!怪物君の言った通りじゃん!」

「むっ!?」と日向が声をあげつつ後ろを向く。

 

「君らが入部初日から問題起こしたっていう一年?」「うわっTシャツ?!寒っ!!」

 

そこには日向よりも確実に20cm近くは大きい、二人がいた。

 

「(で、でかっ!!)か、返せよボール!」

「小学生は帰宅の時間じゃないの?」

「!!って誰なんだお前!!」

 

日向が声をあげる中、「入部予定の他の一年か?(…タッパあるな。)」と影山が冷静に返す。

 

「へー、キャプテンと怪物君から話は聞いてたけど、ホントにいるじゃん。『コート上の王様』なんでエリートがこんなとこにいるのさ?」

「!おい!その呼び方ーー」

「おおっ!ホントだ!噂の通りこれで呼ばれるとキレるんだ!いいじゃん王様!かっこいいと思うよ王様!!」

 

影山にとって禁句である王様を連呼するデカイ男に若干ビビりつつ日向は影山の後ろに入る。

 

「お前、なんなんだよ。」

「…県予選の決勝、見たよ。あーんな自己中なプレーよく他の連中我慢してたよね!僕なら無理。」

「…!!」

「ああ!我慢出来なかったからああなったんだ?」

 

その言葉を聞いた瞬間、決勝のあのシーンが思い浮かぶ。

トスを上げた。その先には、誰もーーー

 

「…おい、もう上がるぞ。」

「はっ?!おい!言い返せよ!いつもみたいに!!」

「へー逃げるんだ?王様も大したことないね~、こっち側には怪物君もいるし、明日のゲームも王様相手に勝てちゃったりして~。」

 

その時月島の背後から小さな影が空中でボールを奪う。

余裕な表情を崩さなかった月島も、これには驚きに変わる。

「王様王様うるせぇ!俺もいる!明日の試合でその頭の上打ち抜いてやる!!」

「……は?」

「うっ、な、なんだこらぁ…やんのかこんにゃろぉぉ…」

……すぐに怯んでしまうところが日向らしいと言えるが。

 

「そんなに気張らないでさ、楽しく程々にやろうよ。たかが部活なんだから。それじゃまた明日ね。」

「たかがってなんだ!ていうか結局お前、どこのどいつだ!?」

「……一年四組月島蛍。今日から君らのチームメイトだよ。まぁ、明日は敵だけど。王様のトス楽しみにしてるよ。」

そう言って、二人は去っていった。

 

「なんだよあいつ、感じわりー!おい明日は絶対勝つぞ!!」

「…言われるまでもねぇよ!!」

「!やっぱお前も感じわりーー!!」

「うるせぇよ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、待ってツッキー!どうしたの!?」

「…イライラすんだよ、無駄に熱い……」

 

とそこまで言いかけたところで、行く手に人の姿が見えた。

黒髪ショートに小さい身長、その癖目付きは鋭い。イライラしている今会いたくない、彼がいた。

 

「……怪物君じゃん。もう帰ったと思ってたよ。こんなところで何してるの?」

「翔陽飛雄と話してるのが聞こえたからたまたま、盗み聞きするつもりはなかった。というかその怪物君っていうの止めてくれません?」

「いいじゃん、折角付いた異名なんだからさ。それより、話終わったのに帰ってないってことは、僕に何か用でもあったの?王様の中学のチームメイトだから、王様のフォローでもするつもり?」

「いや、言ってることに間違いはないからフォローするつもりはない。ただ、」

「ただ?」

「あの件は、飛雄だけの責任じゃないってこと。それを刻み込むために黙って話を聞いてた。ただそれだけ。」

「……ふーん、君ってホントに謙虚なんだね。あの決勝のトス回しみただけで、相当苦労してたのが垣間見えたけど?」

「まぁ勿論苦労はしてましたけど。…それじゃ、もう帰ります。呼び止めてごめん。明日のゲームについて、何か言っておくこととかあります?」

「まともに攻撃できそうなのがあの田中さんだけなら、問題ないデショ。怪物君もいるしね。」

「…うん、分かった。それじゃあ、また明日。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言って去っていった彼の姿を見ると、どうしても心がざわついてしまう。

彼のプレーを見たのはあの決勝だけだが、それでも過去の記憶を呼び覚ますのには充分だった。

 

黒髪で、小さな体。その体でコートを縦横無尽に動き回り、得点へと結びつける。

 

その姿はまるで ーーー

 

 

とそこまで考えたところで思考を遮断する。これ以上考えると、確実に愉快とは逆の感情へ向かってしまうだろう。

 

自分には関係ないことであると、自分自身に言い聞かせる。

 

 

それでもざわついた心が安らぐことは、ついになかった。




ツッキーとオリ主の関係拗れそうやなぁ……まぁこの話を思い付いた時から分かっておりましたが。
オリ主のプレーといい、見た目といい、あの方に似てしまっているので、仕方ないですね。

そんなにギスギスさせないつもりではいます。
では次の更新も気長に待って頂けると幸いです。
最後まで作る気はあるので!


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第9話

エタりまくりました。申し訳ございませんでした!!!

いや本当に試合描写って難しいなぁって思いつつちょくちょく書いていたんですけど、まさか一年以上空いてしまうとは思いませんでした。

待っていた方いましたら本当にお待たせしました。特に待ってなかった人は前書き気にせず普通に読んで下さい。


土曜日。

 

新1年生にとっては、高校に入って初めての休日。ゆっくり休む人もいれば、早速入部した部活動へと精を出す人もいる。

 

そんな中、烏野高校の体育館ではバレー部の3対3の試合が始まろうとしていた。本来であれば、試合を通して新入生の空気を知ること、または1年生同士の交流の意味もある試合である。

 

しかし、今回の試合は入部を認められていない2人にとって、そんな軽いものではない。今後の進退を賭けた、といっても過言でない試合となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すでに部員全員集まっており、3対3の試合が始まるまで間もなくである。

 

「とりあえず作戦とかは後にして、ポジション的にトスあげる人がいないけど臨機応変にってことでいいですか?」

「いんじゃない、出来る人がするって感じで。」「うん、分かった!」

「それじゃあその方向で。」

 

話が纏まったところで、いつも通り翔陽飛雄田中さんのチームを観察する。

 

田中さんは3年生のマネージャーの人に今日も綺麗ということを添えた挨拶をし、翔陽はその綺麗さに興奮しつつ「なぁあの美女マネージャーかな!?」と飛雄に話しかけている。

しかし、飛雄はそれを完全無視。試合前で集中してるから。とも言えなくもないが。

 

(飛雄、やっぱり昨日言われたことを気にしてるのか。)

 

中学のチームメイトとしては、飛雄のらしくない姿をみて何も思わない訳ではない。が、それと試合は関係のないことである。

 

(俺には試合中にプレー以外のことを考える余裕なんてない。全力でいく。)

 

「じゃあそろそろ始めるぞ。25点マッチで、3セット制。…まぁ色々あったが、今日は全力でプレーしてくれ。」と澤村さんから指示が出る。

 

試合に挑む6人が各々コートに散ったところで……

「あ~~オフンっ。小さいのと田中さんどっちを先に潰…抑えようかな~?あ、あと王様を狙うのもいいよねぇ?」と月島君。

「ちょっ、ツッキー聞こえるよ?!」

「聞こえるように言ってるんだろうが。集中を乱してくれると嬉しいなぁ。」

 

たしかに集中力を乱すために相手を煽るのはよくある手といえばそうであるが、ここまであからさまなのは流石に見たことがない。しかも先輩相手に潰すとまで…。

 

しかし、

「ねぇねぇ、聞こえた?月島君てばあんなこと言っちゃって、もうほーんと……擂り潰す!!!」とドスの効いた声で田中さん。とそれに便乗して舌を出す翔陽。

 

それを見た飛雄の顔が少し緩んだのを見て、改めて本気でやれると思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの坊主のセンパイを丁度いい感じに煽り、それに乗ってくれたので内心ほくそえんでいると、

 

「月島君煽りなれてますね。しかも先輩相手に。」と宇代が少し苦笑いのまま言う。

「光栄デス。まぁあのチビは兎も角、王様が中学の時みたいに崩れるところは見てみたいだろ?」と返す。

 

「責任感じてる身としてはそれは見たくないかな。けどまぁ、」

 

とそこまで言ったところで、宇内の表情が変わる。

この程度(・・・・)の煽りでプレーが乱れるなら高校じゃ通用しないだろうし、丁度いい機会ですかね。」

 

昨日の帰りで見せた鋭い目付きとはまた別、冷酷といってもいい目でそう言った。

 

さらりと煽られたことに若干ムカッとしたが、

「…なんだかんだいい性格してるよね、君。」と言葉を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合が始まった。

 

サーブは1年生チームの山口から。

フローターで打ち出す。それを処理するのは田中、ゆるいサーブのため難なくセッターの頭上へ返した。

 

そしてオープンで上がってくるボールに、先程生意気な後輩に煽られた怒りを乗せ…

「そォォォ!!らァァァ!!!」という掛け声とともにスパイクを放つ。

 

高さが上の月島が1枚とはいえブロックについていたが、高さで勝てなくともパワーで圧倒。手を吹き飛ばし、そのままコートに着弾させた。

 

「ジャアアアシャーッ!!!シャラァァァ!!!!」

「うるせーぞ田中ァ!!」「まだ1点だろ!」「おい脱ぐな!はえぇよ!!」

…得点に対して3倍のヤジが飛んできているが。

 

 

続いて田中のサーブ。

安定感はあるが威力のないフローターだが、田中のパワーで打つとそれなりの威力になる。

 

「山口。」「山口君!」「ッ!」

 

山口のレシーブは完璧なセッター位置とはいかず、コートの中央あたりに上がる。

 

「ごめん、カバー!」

その声と共に、位置的に近い月島が、若干面倒くさそうな表情をしつつボールの下へ入る。

 

「月島君!レフト!高く!」とレフト位置から宇内。

 

その指示を踏まえ、月島はアンダーでレフト位置へと大きく上げた。セッターのようにオーバーで完璧に、とはいかないがネットからやや手前。スパイクを打つには良い位置へと上がった。

 

「止めるぞ!」「おうっ!」と影山日向。間を抜かれないように閉め、抜かれてもストレート側にいる田中が拾える範囲に行くようにブロックを配置する。

 

しかし、

 

ダンッ!!

 

という音と共に跳躍。2人のブロックの上から正確にクロスのコート奥に叩き込んだ。

 

「うぉぉ…!」「練習で見て分かってたけど、あの背で凄いジャンプ…!!」

という驚きの声があがる。

 

「ツッキーナイストス!宇内、ナイスキー!!」

「…ナイスキー。」

「月島君ナイストスでした。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、くそっ。」と影山は歯ぎしりする。

アイツの凄さは分かってるつもりだった。が、一度敵に回ると厄介そのものだ。

 

「すっげーな、蒼馬。」

「ッ!?」

いつになく冷静な日向の声で我に返る。

 

「本当に小さな巨人みたいだ。俺とそんなに身長変わらないのに、俺よりずっと凄い。」

「…当たり前だろうが、ボケ。」

「けど、俺だって負けない!影山、次俺に上げてくれ!」

 

 

得点は1ー1。宇内のサーブを田中が処理。

「日向!」

「おおっ!!」

 

高く上がったボールに向かって跳躍する。イメージするのは先程の宇内のスパイク。

 

(高校の試合1発目!決めてやる!!)

その思いを乗せスパイクを放つ。

 

ドチッ!!

 

 

が、その思いも空しく、放ったスパイクは月島のブロックに阻まれてしまった。

 

(…ここにも、また、高い高い壁。)

「昨日も思ったけど君本当よく飛ぶねぇ、それであとほ~~んの30cm程背があればスーパースターだったかもね。」

「(どんなにデカくったって相手は1人、次は決める!)も、もう1本!!」

 

 

 

 

 

 

試合が進む。

田中、宇内の両スパイカーは田中が決めれば宇内も決めるという、一種の均衡状態になっていた。

 

「ここまで田中と宇内スパイク決定率どっちが上だろ?」

「どっちも同じくらいじゃない?シーソーゲームだなぁ。」

「けどだんだん点差開いてるよな。」

「あぁ、それは…あ!また日向止められたか…。」

「これで何本目だ?田中は結構決まってるけどなぁ。」

 

田中が決めているおかげで大きく離されてはいないが、田中へのトス一辺倒になれば捕まるリスクも高くなる。

 

影山は徐々に焦っていた。宇内のスパイクだけでなく、月島のブロックも厄介。まだまだ技術の足りていない日向が決めきれないのは、ある程度仕方ないことではあるが…

 

 

 

山口がサーブをミスり、サーブ権がこのタイミングで影山に回ってきた。

 

(これ以上離されるわけにはいかない!ここはサーブでまとめて点を稼いでやる…!!)

 

狙いはコートの真ん中の月島やレフトにいる宇内ではなく、ライトにいる山口。頭にある先輩のサーブトスをイメージしつつ、ボールをヒットする。

 

「っ!!」

 

ボールは狙い通り山口へ向かい、ボールを後方へと吹き飛ばした。

「うしっ!」

「影山ナイス!」「いよっ!流石殺人サーブ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(今のはナイスサーブだったな、スピードもコースも良かった。)

 

県予選の時よりもパワーアップしているサーブを見て、少し力が籠る。

 

「月島君。レシーブ位置変わってもらえますか?」

「…真ん中で王様のサーブを受けるってこと?」

「うん。あとは二人とも、もっとサイドラインによったポジショニングしてほしいです。正面付近のサーブの時は任せるけど、間にきたのは俺が拾います。」

 

月島君は少々驚いたように、「コートの半数を君が守るってこと?王様のサーブ結構強烈なようだけど?」と言う。

 

「飛雄のサーブは威力はあるけど、コントロールが今一つだから俺の取れる範囲にくると思います。上手くいくとは限りませんが、二人ともお願いします。」

「…分かったよ。」「宇内!ごめん、よろしく!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(せめてあと3~4点は取る…!)

影山の2本目のサーブ。相手の守備陣形が変わったが、先程と同じように山口狙いで放つ。が、今度は正面とは行かず僅かに反れ、山口宇内の間に飛んだ。

 

「オッケー!」と宇内が声をあげつつ、素早いステップでボールの正面に低い体勢で入り、地面スレスレの所で体全体を使ってレシーブ。

緩い音をたてながら、ボールは綺麗にセッター位置へ上がる。

 

そのまま月島→山口の速攻で得点を奪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(影山のジャンプサーブを2球目できっちりあげ、当然のように攻撃に参加。あっさりやってるが淀みのない動き、一年生とは思えない完成度だな…)

 

澤村は影山に視線を向ける。

(どうする影山。日向を使えない今のままじゃ、勝ち目はほぼ無いぞ。)

 

澤村が危惧しているのは、負けることよりも追い詰められたことによる影山の自己中なプレーだった。

ここで中学の悪癖が出れば、試合には勝てず公式戦で影山がセッターとして出ることはない。少なくとも自分がキャプテンのうちは。

自分で言ったこととはいえ、あの才能を燻らせたままなのは惜しいと思う。

 

その視線に気付かない影山は下を向いたまま悔しそうにしていた。

 

(俺は何をしてんだ!あいつの守備範囲が広いのは分かってたことだろ!多少威力を抑えても他の二人を狙ったり、緩いサーブで前に落とすことも出来たのに!)

 

プレーが終わった後に色々思い付くということは、プレー中は余裕がないということ。影山は自分が必要以上に焦っていることに漸く気付いた。

 

 

そんな影山を見て、

 

「僕ら庶民相手に随分焦ってるねぇ王様?そろそろ本気出したほういいんじゃな~い?」とここぞとばかりに煽る月島。

 

「あの決勝の時みたいに、王様のトスすればいいじゃん!スパイカーが打てるかは知らないけどね。」

「!!!」

「おい!なんだよお前!昨日から突っかかってきて!王様のトスってなんだ!」

「あれ?君なんで影山(コイツ)が王様って呼ばれてるか知らないの?怪物君から聞いてると思ったけどなぁ。」

 

そう言って月島は後ろを向く。

「君は知ってるよね、怪物君。君もあの決勝出てたよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

負けた試合、というよりこれまでに負けた事柄は全部鮮明に覚えていると思う。

いつからというのではない。恐らく生まれた時から負けることが嫌いなのだ。親の影響を受けているのかもしれない。

 

全中予選決勝。初戦から変わらず飛雄と他のメンバーとの仲はぎくしゃくしていた。

それでもこれまではチームの自力で勝ってこれたが、決勝の相手は光仙学園。

持ち味である強力なブロックで、白鳥沢中を準決勝で破った。

セッターであり、ネット際での仕事が多い飛雄は、そのプレッシャーを誰よりも感じていたのだろう。

 

 

 

「もっと早く!!」

 

これまで何度も聞いた言葉であるが、その試合ではこれまでにないほどその言葉を聞いた。

 

「ふざけんな!!無茶すぎんだよお前のトス!!打てなきゃ意味ねぇだろうが!!」

 

いつもは面と向かって文句を言わない勇太郎も、声を荒げる。

他のメンバーの飛雄に対する視線も鋭くなる。

 

「もっと速く動け!!もっと高く跳べ!!俺のトスに合わせろ!!勝ちたいなら!!」

 

俺は何も言えなかった。いや、言わなかったが正しいかもしれない。試合中は自分のプレーばかり考えてしまう。結局俺は自分のことを優先して何も言わなかったのだ。

 

次に飛雄が上げたトスには、誰も跳ばなかった。飛雄への拒絶を示した一球だった。

自分がいた位置とは逆の方向に上がったが、そんなことは言い訳にもならない。あの場面であげてもらえない自分が悪いのだ。フォローに行っても間に合わず、1セット目を取られることになった。

 

そして、飛雄は交代。2セット目に出ることはなく、そのまま試合に破れた。他の人は認めないだろうが、良くも悪くも飛雄中心のチーム。司令塔なしで勝てるほど甘くなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うん、知ってる。飛雄のプレーが根底にある渾名であることは間違いない。」

「だよねぇ?それで、今日速い攻撃使わないのも、あの決勝の出来事にビビってるとか?」飛雄に視線を戻し、月島君が言う。

 

「あぁ、そうだ。トスを上げた先に誰もいないっつーのは、心底怖えぇよ。」

 

「…。」あの時と同じ。俺は何も言えてない。それでも口を開こうとした時、

 

 

「えっ、でもそれ中学のハナシでしょ?」と、飛雄の後ろから声があがる。

 

「おれにはちゃんとトス上がるから、別に関係ない。どうやってお前をぶち抜くかだけが問題だ!」 

翔陽がビシッ!と月島君を指差す。

 

「月島に勝って部活に入って、お前は堂々とセッターをやる!そんで俺にトスをあげる!それ以外なんかあんのか!?」

 

飛雄の顔は微妙な顔をしていたが、やはり先ほどよりも緩んだ。ほっとする反面、やはり何も言えないと自己嫌悪する。

 

「そういう如何にも純粋で真っ直ぐみたいなの、イラっとする。気持ちで身長差は埋まらない。努力で全部なんとかなると思ったら大間違いなんだよ。」

「あの、月島君?それしっかり俺にも刺さってるんだけど…」

「君はまた別でしょ。あのチビとは。」

「なんだとぉ!」

 

 

試合再開してスコアが動く。飛雄は翔陽の言葉を受けて、速い攻撃を試すことにしたようだ。

だがやはりというか、上手くいっていない。俺も飛雄に頼んで速い攻撃の練習をしたことはあるが、どうにも上手く行かなかった。

 

しかし、何となく嫌な予感はした。翔陽の勝ってずっとコートに立ちたいという言葉に、飛雄が同調した。少なくとも中学では見られないことだった。

 

あの2人は実力はかけはなれていても、姿勢は似ている。その2人が噛み合わさった時、何かが起きそうであると。

 

「技術があってヤル気もありすぎるくらいあって、何より周りを見る優れた目を持ってるお前に、仲間のことが見えないはずがない!!」

 

菅原さんのその一言で、飛雄の空気が変わった。

 

「お前の一番のスピード、一番のジャンプで、飛べ。ボールは俺が持っていく!(・・・・・・)

 

 

意味は理解出来なかった。が、何かが起こるのは分かった。

「月島君、山口君。翔陽のマーク強めてもらっていいですか?」

「はぁ?あのチビにあげたってまたミスるだけじゃん?」

「うん、多分そうだと思う。けど何となく。田中さんへのトスは見てからで間に合うと思うから、ちょっとだけ意識してみて下さい。」と言って守備につく。

月島君は不満そうな顔をしていたが、多少意識してもらうだけで構わない。最も、意識したぐらいでは止められるものではないかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪物君にあのチビを意識しろと言われてから、すぐ後のことだった。チビは性懲りもなく突っ込んできたので、軽く視線を向けたところ、目を瞑って飛び込んで来ているのが見えた。

 

(このチビ何してる?)と思った瞬間、ボールはコートへ叩きつけられた。

何が起こったのか分からなかったが、日向の「手に当たったぁ!!」という声で我に返る。

大袈裟、まぐれ。そう思って守備に戻る。案の定チビの顔面にボールが当たりこちらの得点となった。

結局まぐれ。そう思ったが、日向がブロックを避わし、移動攻撃で再び点を取った時から流れが変わった。

 

追いつけない。怪物君の言った通りマークしてても。想像を遥かに超えるスピード。柄にもなく熱くなって必死に日向の正面へ飛んだが、トスはレフトの田中さんへあがり「ごっつぁん!!」という声と共に自コートへ叩きつけられた。

田中さん+チビに煽られ返されるが、歯を噛み締めてベンチへ戻る。そして怪物君へ目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1セット目は取られた。まだまだこれから、ではあるが勢いは向こう。手を打つべきだ。1セット目の速攻が決まりだしてからのプレーを頭の中で振り替える。

まず、翔陽の動きについていくのは恐らく難しい。翔陽と同じ身体能力でもない限りは。2人3人でマークすれば出来ないこともないかもしれないが、田中さんをフリーにする訳にもいかない。

 

「宇内、少し休んだら?ほら、ドリンク。」と山口君から渡される。

「ありがとうございます。」

「あのさ、宇内。今言うことじゃないかもだけど、敬語じゃなくてもいいんじゃない?同い年だし。」

「そうですか?2人がいいならタメで話しますが。」

「俺はいいよ!ツッキーは?」「…何でもいい。」

「それじゃ、普通に。そんで、2人とも翔陽とマッチアップしてなんか気付いたことある?」

「気付いたことかぁ、兎に角速い!ってことぐらいしか感じてないかなぁ。ツッキーは?」

「あのチビ、目瞑ってる。」

「目を?スパイクの時に?」

「君に言われてチビを良くみてたから気付いたよ。飛んでからスパイク打つまで目ぇ瞑ってる。」

 

つまり飛雄が翔陽のスイングに完璧に合わせてるということになる。有り得ない、とは言わない。何せセッター影山飛雄だ。それでも驚くべきことであるが、勝つためには驚いてばかりでいられない。

 

 

考えろ。冷静に。スペックで劣る俺はその分頭を使え。他の選手のように力押しで勝てるほど優秀じゃない。とうの昔に知っている(・・・・・・・・・・)

目を瞑り、1セット目を頭の中で振り替える。何度も。どういう形での失点が多かった?相手にとって一番嫌なことはなんだ?相手の攻撃の軸はなんだ?

「…」

目を開き、二人の方を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2セット目。スコアは14-9。日向影山田中のチームが5点リード。

日向の超速攻とも言える攻撃で、よく点を取っている。にも関わらずあまり点差が開かない、と影山は思っていた。

(やっぱり守備のフォーメーションが変わった。1セット目はブロッカーもレシーバーもローテする形だったのに。)

 

影山の言う通り、月島山口宇内のチームは守備重視のフォーメーションとなっていた。

まず、月島山口の2人は田中へコミットブロック。田中がどの位置で打っても必ず2人ブロックが付く。

そして宇内はブロックに参加せず、レシーブに専念。3対3としてはレシーバー一枚という偏った形となっている。

 

(常にノーブロックの日向に点を取らせる絶好の形だと思ったが、思ったよりも上手くいかない。やっぱり宇内(アイツ)、対応が早い!田中さんの徹底マークと同時に日向の弱点を早くもついてきた訳か!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「田中さんに二人でコミット?」「そう。」

宇内の発言を聞き「いやチビを何とかするって話じゃなかったっけ?」と月島が反論する。

「どちらかと言うと、1セット目の最後の形にされるのがまずい。田中さんはフリーだとレシーブするのが難しいと思う。けど翔陽のだとまだ楽なはず。」

「なんで?どっちもフリーにしたらキツいのは変わらないんじゃ?日向はあれだけ速いし。」と山口。

「翔陽が目を瞑って打っているなら、コースの打ち分けは出来ない。その点田中さんはフリーにしたら抜かれる。」

「なるほど、確かにそうかも。」と再び山口。

「レシーブは君一人になるけど?大丈夫なの?」

「まぁ正直、慣れるまでキツいとは思う。でも翔陽の動きに釣られそうになっても田中さんを徹底マーク。これをお願いしたい。」

 

 

 

 

ライトから翔陽が突っ込んでくる。田中さんはワンテンポ遅らせてレフトに。飛雄のフォームからは読みきれないので、スパイカーの動きで判断する。

(田中さんのレフト平行は見てからで間に合う。)

田中さんを視界を端で見つつ思考する。

(翔陽の体の向きは中へ切り込む形。あれじゃストレートは打てない。)

思考しつつも体は動く。スパイスコースに当たりをつけてポジショニング。

 

影山からの高速セットアップ。放たれた瞬間に日向の手に収まり、振り抜いた。

 

(コース、スピード、威力、回転。漸く…ドンピシャだ!)

ボールの正面に入った宇代の、勢いを殺した完璧なレシーブ。乾いた音が体育館に響いた。

そのボールを山口がセット。月島が高さを生かしてブロックの後ろへ落とした。

 

スコア14-10。一歩詰め寄った。

「宇内がとうとう上げたぞ、日向のスパイク!」

「フォーメーション見た時は無茶なことすると思ってたけど、よく上げたなぁ!」

 

 

「うぬぐ~っ!次はぶち抜くぞ蒼馬ぁ!!」

「いやいや、漸く1本。やり返したうちに入らないって。」

「オイ日向!次も上げんぞ!ビビんなよ!!」

「ビ、ビビんねーよ!もう1本持ってこい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピーと笛が鳴らされる。

2セット目終了。得点は29-27で日向影山田中チームがセット獲得。

セットカウント2-0で日向影山田中チームの勝利。

 

どちらのチームの選手も満身創痍で、皆肩で息をし、日向に至っては床に突っ伏している。

 

「二人とも、ごめん。」と宇内は声をかけた。

「…は?何が?」と息を整えながら月島。

「いや、俺の策で試合進めたのに勝てなかったからさ。」

「…そういう全部自分のせい、みたいな言い方、ムカつく。デュースまで行けたんだからいいでしょ。」

「そうだよ宇内。作戦はハマってたんだし、あと一歩だったよ。」と山口。

「それはそうなんだけど…」

 

 

「月島。宇内。今日の試合どうだった?」と澤村から声がかかる。

「…別に。何でも。エリート校の王様相手ですし、勝てなくても不思議じゃないです。こっちにもエリート校の人がいたんで多少接戦にはなりましたが。」

「…ふーん。宇内はどうだった?」

「はい。フォーメーションの方は機能したと思いますが、やっぱり俺が慣れるのが遅かったですね。もう少し点差離されなければ勝てたかなと思います。」

「そうか。月島はああ言ったけど、ちゃんと本気でやってて良かったよ。宇内は、あまり自分ばかり責めるなよ。これからチームになっていくんだからな?」

「…はい。」

 

 

 

 

 

その後、勝利した日向影山は無事入部を認められ、正式に部員となった。烏野高校バレーボール部のジャージも配られ、漸く一年生全員が揃うこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ。」

1人、体育館のトイレにて嘆息をついた。

練習は終わり、まもなく帰る時間である。が、どうにも家に帰る気にならなかった。

 

ぼんやりと鏡の中の自分を見つめる。そこには今にも泣き出しそうな子供の顔があった。

たたでさえ童顔なのに、余計幼く見える。小学生の時を思い出すので、俺は自分の顔が嫌いだ。

 

手に握りしめられているノートは、すっかりシワが寄りクシャクシャになっている。ノート代えたばかりなのに、今日の試合について読み返せるかな、などと何処か他人事のように思った。

 

「宇内~!そろそろ体育館締めんぞ~!!」と田中さんの声が聞こえた。どうやら自分以外皆外に出たらしい。

「はい!今出ます!」と聞こえるように返事をした。返事をしない訳にもいかないだろう。チーム内のギスギスは中学でたくさんだ。

 

もう一度鏡を見て、深くため息をついた。

 

「…負けたなぁ。」と小声で言いながらトイレを出た。




沢山書いたつもりでも字としては一万字行ってないのか、と驚きました。もっと短いスパンで沢山書いてる人尊敬です。

さて、オリ主君の方にも何やら問題がありそうなラストとしました。日向のように純粋100%でやれる人ってそうそういませんしね。

あくまでハイキュー!なのでギスギスもドロドロもしません。が、作品を通して成長する主人公君を見て頂けたらなと。

それにはまず上手く書けなきゃ意味ないですけどね。ということで、次回も気長にお待ち頂ければと思います。


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