運がいい人が飛ぶと…… (空を飛びたいチキン野郎)
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ラッキーボーイ、最後の祝日

「あ~、旅行はここで最後か……次の就職先、どうしよう」

 

コックピットの中。俺は1人愚痴るがヘルメットの中でその声は響くのみ。あぁ~、旅行は楽しいけどマジでこれからどうしよう。

外へ目を向けるとそこにはサンドブラウンが広がった大きな惑星が……って。

 

「あ、いっけね」

 

俺が気付くのと同時にアビオニクスのモニターから危険信号が鳴り響き始めた。俺は機体のデータを大気圏突入モードへと変更。機体に装着していたフォールドブースター搭載のスーパーパックを惑星軌道上に分離。データを惑星の管制塔へと送信した。

 

「こちらS.M.S 001大気圏への降下を開始、誘導を頼む」

 

「こちら管制塔、確認した。F滑走路が開いている、そちらへの着陸を頼む」

 

操縦桿を握り管制塔からのデータを元に惑星への突入コースへと入っていく。キャノピーの外の景色は真っ赤に染まり機体が震え始めるが想定内だから問題ない。

やがて大気圏が終わり広大な……マクロスの中では見れなかった広大な空を俺は飛んでいた。

 

「あはは、大気があるとやっぱりちょっと飛び難い……すまんなアルト、俺はやっぱり宇宙で飛ぶ方が性に合ってるわ」

 

何処へと知れず女を置いて飛んで行ってしまった親友へゴメンと心の中でも謝罪しながら俺はこの最後の旅行へと胸を膨らませるのだった。

 

惑星アル・シャハル。本当ならここから30光年隣の惑星ラグナへと行きたかったんだが予算の都合からここが最後になってしまったけどここはここで観光地として開発されているらしいから最後でも問題ないだろ。そんな考えでここに来たけど……結構楽しそうな所じゃん。そんな感想が浮かぶほどに綺麗な星だった。

 

 

 

俺は転生者である。前世の記憶はこれまでの濃い人生のおかげで薄くなりつつあるけどまぁ問題なく…‥‥なく? 今は色々あって前の職場を辞めて貯金で旅行している最中だったりする。

 

 

「……ここは南国かな?」

 

そしてこれが俺、紫電 響鬼の惑星に降り立って初の発言だった。

まず熱い! 気候や光星との距離的にも考えて仕方がないとは言え、まるで南国地帯の惑星へと来たみたいな気分になる。パイロットスーツの間にも入り込む湿気にギラギラと俺を照らすおっきな太陽! 完全に俺の苦手な分類のアツイ国ですわ、まだ砂漠の方がマシだ。

 

「んっぐ、んッぐ‥‥プハァ~、水うめぇ」

 

持参した飲み物を飲み干し、パイロットスーツのボタンをいくつか外して風通しを良くする。あぁ~、安全上スーツは密封されてるからマジでキッツイわ。ホント熱すぎ。

それに加えここは空港、地面が晒されて地面からの熱で視界が歪むほど……あぁ~地面と太陽からのツーコンボで俺がダウンしそうなんじゃぁ。

猛暑の中、スーツを開けたことによって涼しい風が癒しに……なんねぇや。早く日陰に行こ行こ。

機体の中にヘルメットを置いて俺は空港のロビーへと足を向けた……ってか俺の機体大丈夫だよな? 一応システムにロックはしてきたから大丈夫だと思うけど。‥‥ってか機体色真っ黒に緑のツートーンだから戻ってきたら地獄なんだろうなぁ。

 

 

空港は案の定人で溢れていた。流石は観光地、キャリーバックを転がしている人や子供連れた観光客っぽい人。俺もその波に飲まれて何度転倒しかけたか……いやぁ~マジで人込み嫌い。

 

「ここにも弁当って文化あったのか…いや、空港だからもしかしてもたらされた物かも……?」

 

空港内のベンチに座り弁当屋で売っていた銀河デカルチャー弁当を食べる……うん、美味い。

食べながら雑誌でも読もうかと探すがどこにもない……やっぱり地球やフロンティアとは違うなぁ。

 

「あそこだったらあるのに……文化の違いって奴なのかな?」

 

仕方ないので暇つぶしに右往左往する人を観察しようと思う。あぁ~かわいい子いないかな? そう思い観察をしようとしたのだが……ポケットが震え出す……???あ、携帯か。

今では使われなくなって逆に新しい気もするぐらい古い型の端末、具体的に言えばガラパゴス携帯を取り出し通知を確認。どうやら知り合いからのメールだったみたいだった。ん? 二通来てるな。

 

 

 

電ッチへ

 

ハロハロ~ 電ッチ元気してるー? 今日で最後の旅行地らしいけどそろそろ私の元へ来る気になった? なったよね! なったのならお父さんも言った通りそろそろ私と一緒に―――

 

 

 

 

「なってないのでお構いなくっと……送信」

 

 

 

 

お兄さんへ

 

ねぇ、なんで前の連絡先消しちゃったりしたの? こうやって探すのに苦労しちゃったじゃんか……もう、君だから許すけど。あとそろそろ私との約束守る気に――――

 

 

 

 

 

「なってないです私の事はほっといてくだされ、あと俺の端末にハッキングしてメールを送らないでくれっと、送信」

 

 

 

 

 

まったく困ったものだ、いやホントに。

 

 最初に返信した人物は前の職場で俺の機体がお世話になってた整備員さんの娘さんだ。その人と俺は仲が良くってその付き合いで娘さんとも知り合ったんだけど……なんか、なつかれちゃって。それに加え整備員さんも―――

 

「あいつを得体のしれない男にやるよりもお前に嫁いでもらった方が安心だ!」

 

―――とか言いながら俺とアイツをくっ付けようとして来たり、もっと最悪な事にその娘さんは娘さんですっごく乗り気で―――まぁうん、この話は置いておこう。少なくても俺は幸せにならない。

 

 もう一人は8年の旅行中に立ち寄ったマクロス7船団で発生したトラブルの結果知り合った子だ。

あの時はフリーのプログラマーの仕事をメインとして追加の旅行代を稼いでいる時だった。当時はいきなりハッキングを受けて俺自身パニックになりながら適当に自身の端末に繋がってる配線ブッコ抜いてハッキングを防いだ、その結果何故か感謝されてしまう事に。

事情を聞くとどうやら自分で作ったプログラムが突然暴走、近くのホテルを偶々借りていた俺の端末をハッキングしてたらしく咄嗟に端末をネット回線からブッコ抜いたおかげで俺の端末の中にそのプログラムが残って結果的に隔離出来たとの事。その後、俺達は対面してまぁ交流が始まった。

 出会った当初は何と言いますか……女子力ZEROでハッキングの事しか頭にないその日を生きる事で精一杯な問題児でね。何かの縁だと思い滞在中お節介でお世話していた……いや、10歳の少女が何であんな場所で1人暮らししてんだよ……。

2年間ぐらい俺が引き取って一緒に暮らし、結果もう大丈夫と判断して俺はあの子の前から去った……のだけど度々俺の居場所をストーカーの様に突き止めて来るんだよなぁ……なんでこんなことに。

 

 

「はぁ~……気を取り直して旅行しよ、旅行」

 

 携帯を仕舞い俺は外へと繰り出した。町は何だか色々とにぎわってるみたいでサイリュームを持った人がちらほらと同じ方向へと歩いて行っている……何かあるのかな?

目を向けるとそこにはデカデカと高層ビルや看板などに《WALKURE》と……いや、なんで音楽までガンガンと鳴ってるのに気付かなかったんだ、オレ。

 

「それにしてもワルキューレか……そういえばオレ、何にもワルキューレの事知らないなぁ」

 

何分色々な場所を飛び回ってただけに今の流行とか気にした事無かったからなぁ……あ、プリン食べたい。

俺はプリンを求めふらふらと人込みの中へと紛れるのであった……そういえば空港で()()()()()()()()なんか可愛いってか綺麗な人いたなぁ……

 



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第一話
迷いと衝撃的なファーストコンタクト


「やっぺぇ……地図の見方間違えた」

 

俺は現在、絶賛迷子となってしまっている。俺は従来前世から電子の地図があまり好きではなく、今となっては珍しい紙の地図を使って旅してるんだけど……度々地図の読み方を間違うんだよね……こう、国とか惑星によって地図の書き方が違うから。

 

「ここはどこ~、俺は~何処へいく~」

 

多分再開発地域だと思うけどってプリンうめぇ! デカルチャー・プリンうまー! 

 

「うま!うま!」

 

プリンを片手に先の分からぬ道を進んでいく俺。空を見たら既に日は傾き夕日が見えなくなっていく。

 

「プリンは美味く、道は分からぬ」

 

そろそろ早くホテルに戻りたいなぁ~なんて考え始めた頃。どこからともなく声が聞こえて来た。

 

「きゃぁぁあああああ!」

 

まぁ、声は声でも悲鳴の声なんだけど。

 

パイロットスーツの上に羽織っているジャケットを翻し俺は声の元へと走った。やっぺ、やっぺ、プリンなんて食べてる暇ねぇ!

細く曲がりくねり複雑な裏路地の通路を走り抜け声のする元へと近づいて行く。そして路地を飛び出し現場へと到着するんだけど……そこには男1人、女性二人のどっかで見た事のある既視感のある光景に加えその男は女性の1人に組み付かれてると来ている。

 

「密航犯確保!!」

 

「違う!違うって!!」

 

「じゃあ婦女暴行犯って呼ばれたい!?」

 

「は、はいっ!密航犯はアタシです!」

 

 女性の1人は苛烈な声を上げ、もう一人の女性に組み付かれている男は痛みに悲鳴を上げる……ってか女の子は自分だと自白を宣言する。あぁ~なんだかフロンティアでもこんな事あったような気がするぞーすっごく既視感があるぞぉ~。

 

「少年よ」

 

「あだだだだだ、ってアレ? アンタは?」

 

組み付かれている男へとしゃがんで目線を合わせると俺はソイツの肩へと手を乗せる‥‥‥‥うん、なんだか同じような。アイツとアルトと同じ様な雰囲気が感じられるぞ、コイツからは。

 

「多分これから大変なことがあるだろうけど、頑張れよ」

 

「あ、あぁ」

 

 女の子と女性からも目線を向けられるがそんなことしてる場合じゃね。巻き込まれる前に俺は逃げるぜぇ!

それに元々は暴漢なりなんなり受けてると思って駆け付けた訳だしそんなんじゃないなら俺がいる意味なし。それに俺は早くこの地獄の迷路(ただの裏道)から抜け出さないと……夕飯にプリンが食えねぇ! それに俺の勘だとこのままいると絶対に何か面倒に巻き込まれる。疑問が確信と変わる前にその場を振り返って迷路へと戻ろうとしたが―――

 

「ま、まってくれよ! アンタ、俺を助けてくれ!」

 

そうは問屋が卸してはくれなかった。組み伏せられた男は俺へと助けを求め、お節介癖が働き思わず足を止めてしまう。あぁやっぱり巻き込まれた……あぁ、面倒だぜ。

 

「えっと軍人さん?ちょっち待ってくれないか」

 

「あなたは一体―――」

 

「俺の事はどうでも良いとして何があったかは知らないけど、今そこの女の子が自白したと思うぞ」

 

俺がオレンジ色の綺麗な髪色をした女の子を俺は指を指した。指された本人はへぁ?って感じで首を傾げている。

 

「え、そ、そうなんですか???」

 

組み伏せてる……多分ゼントランの血が入った女性は驚いて女の子へと振り向いた。

 

「はいな…ハヤテは私を助けてくれただけで」

 

「で、では何いかがわしい事はされそうになっていた訳ではないと……?」

 

「い、いかがわしい事!?」

 

指を指しながら顔を真っ赤にしながら声を張り上げて驚く女の子。初心なんですね、可愛いですなぁ。あと驚くのと同時にハート型の髪飾りが光ったような……あれか? 感情の起伏に反応して光る髪飾りでも付けてたのかな? 

 

「分かったのなら拘束を早く解いてほしいんだけど?」

 

「あっし、失礼しました!」

 

女性は慌てて離れると何と言うか教本道理の敬礼をビシッって感じでやる。うぉ~やっぱりゴリゴリの軍人さんなのかな?

 

「すみませんでした!」

 

「まあ、そう思われても仕方ない状況だったしな」

 

どんな状況だったんだろうか……地味に気になる。でも、それ以上に気になるのが―――

 

「軍人と言ったけど軍人さんにしては制服が違うし……何者?」 

 

俺がそう問うと再度綺麗なほど整った敬礼を見せる。

 

「はい、ケイオス、ラグナ第三戦闘航空団デルタ小隊所属、ミラージュ・ファリーナ・ジーナス少尉です」

 

「え、「デルタ小隊?」」」

 

女の子と偶然被ったけどそんなことはどうでも良い。それにしてもケイオスってのは前の職場でライバル会社として教えられてたから覚えてたけどデルタ小隊って何? それにラグナって事はお隣さんの惑星所属だろうし……なんでこんな場所に?

 

「苦情でしたら、広報に―――」

 

男に向かってすっごく申し訳なさそうに謝る彼女、その彼女をキラキラとした目で見る女の子……うん~、ホント既視感があるんだよな今の状況何処で体験したっけな?

 

「あのぉ、ひょっとしてデルタ小隊ってワルキューレと一緒に飛んどる?」

 

「え? えぇそうですが?」

 

「ふわぁぁ〜!ゴッリゴリやぁ〜!」

 

全身で喜びを表す女の子‥‥ゴリゴリって何だ? それに言葉使いが独特すぎないか、この子。

 

「な、何なんですか!?」

 

「……ファンなんだと。アンタたちとワルキューレの」

 

「ふぁ、ファン!?」

 

「はいな!」

 

元気よく、万遍な、眩しいぐらいの笑顔でこっちへと振り返る彼女だけどすまないが俺には分からん。フロンティアにいた頃だって隊長の妹さんがデビューするって言うんで初めてアイドルの事へ興味を持ったぐらいには俺は疎いからなぁ。あ、でもファイヤーボンバーは知ってるよ、隊長によく聞かされたからね。ってか―――

 

「―――最近のアイドルユニットって小隊を警備として同行させるのが普通なのか?」

 

俺の一言で少尉や男、ゴリゴリ娘がまるで信じられないような目でこっちを見てくる。え、俺が悪いのか?

 

「あ、あなた、ワルキューレの事しらんの?」

 

「残念ながらここ最近は旅続きでね、流行には疎いのよ」

 

「これは驚きました、彼女達の人気なら知らない人はいないだろうと思っていたのですが……」

 

「俺でも知ってるぐらいだぜ、よほどの辺境を飛んでたんだな」

 

その後ゴリゴリ娘ことフレイアちゃんから説明を受けたんだけどワルキューレってのはヴァールシンドロームって言う正体不明の病気を治す為に歌ってる人達なんだって、ホントに知らんかった。

 

「ほへ~、そんな凄い、ランカやシェリルみたいな人達がいたんだなぁ~」

 

「ワルキューレは知らんのに何で超時空シンデレラと銀河の歌姫は知っとるん!?」

 

俺の言葉に髪飾りが光るぐらいにビックリしてるフレイヤちゃん。なんでってそりゃ―――

 

「――当の本人と一緒にフロンティアで暮らしてたからなぁ」

 

「マジか!?」

 

あぁ~懐かしいな。ヴァジュラやギャラクシー船団の思惑のせいで色々とめちゃくちゃになったりはしたけど、なんやかんやで楽しかったからなぁ。ホントアイツ何処行ったんだか。

 

「フロンティアって、あなたは一体……」

 

おずおずと少尉は俺へと話しかけ矛先がこちらへと来る。そんなフロンティア出身って事に驚く事なのかな……分からんがとりあえず少尉がやったように俺も敬礼しとくか。

 

「元S.M.Sマクロス・フロンティア船団支部スカル小隊所属、紫電 響鬼だ」

 

S.M.S式の敬礼を返すと少尉もビシッと敬礼を返してくれた。あぁ~懐かしいなぁこの感覚。

 

「S.M.S……って事は傭兵なのか?」

 

「傭兵さんなんか?」

 

「傭兵って言うかすっごく強い警備員かな?」

 

いっつもS.M.Sの話をすると説明に困るんだよなぁ。S.M.Sでの業務内容は傭兵に近い警備員って感じだからいっつも誤解される。俺達は野蛮じゃないよ。

 

「じゃぁ、その元S.M.S社員が何故この惑星に?」

 

「それは観光に―――」

 

話している途中、俺の携帯が震えだす。

 

「―――ちょっと失礼」

 

断りを入れて携帯を取り出し、開いてみると――――

 

 

 

電ッチへ

 

何で嫌なの~? いいじゃんいいじゃん! 今働いてないんでしょ? だったら私が養って――― 

 

 

 

‥‥‥‥これじゃなくて。

 

 

 

お兄さんへ

 

何で守る気ないの? 私の事が嫌いな――――

 

 

嫌いではないが今は答えてる暇ないし何よりこれが見たかったわけではない。

 

強制的に開かれたメールにうんざりしながらポイっとほいやり確認すると機体を預けてある空港からの電話だった。

 

「もしもし―――」

 

空港からの電話、内容を端折って簡単に言うと俺の機体が勝手に動いてるから早く来てくれと言う物だった……マジ?

 

「どうかしたんか?」

 

多分俺の表情が変わった事から何かトラブった事に気付いたのか心配そうにこちらを覗くフレイアちゃん。

 

「ちょっと俺の機体がトラブったらしい」

 

「大丈夫かよ、それ」

 

「多分大丈夫じゃない……ちょっと行ってくるわ」

 

俺は携帯を閉じてポケットにしまうとその場を後にすることにする。

 

「そんじゃえっと―――」

 

「ハヤテ、ハヤテ・インメルマン」

 

「―――ハヤテ、それにフレイアに少尉殿、俺の勘ではまた会う事になるだろうからそん時はよろしくな」

 

「え? それはどういう―――」

 

走り出した俺に対して少尉殿が何か言ってるようだけどそれを無視。だって経験談から言った事だからな、こういう時の俺の勘は当たる!

そして俺は空港へと、俺の機体の元へと向かったのだった。 途中なんだか警報みたいな音なってたけど、あれはいったい何だったんだろ?



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空飛ぶ幸運、導かれそして地へ。

「うわぁ」

 

暴動の起こるシャハルシティ、その上空を俺は偶然にも飛行していた……巻き込まれる前に飛べて本当に運がよかったなぁ。

ハヤテ達と分かれ後空港へと辿り着き報告のあった俺の機体、Y()F()()2()9()S()を調べたんだけども特に問題はなかった。だけど管制塔のオペレーターが焦った様子で急いで発進しろって言うもんだからそれに従い発進したんだけど……これが原因だったのね。

 

「これは……酷いなぁ」

 

上空から見た景色は混沌としていて地獄絵図そのモノ。本来なら市民を守るべく駐屯していたゼントランの軍人さん達が市民へと牙を剥き暴徒と化している。どうやらこれがフレイアちゃんに言ってたヴァール化みたいだけど……まったく恐ろしい奇病だな、おい。

一応暴徒鎮圧に動いたデストロイドがいるけど暴走するゼントランの軍人さん達の力は凄まじく、彼らが操る一〇四式リガードには歯が立たずに撃破されてしまっている。うわぁシャイアンIIが荷電粒子砲で溶けてやがる……あれは助からないだろう。ってか新統合軍は何故動かないんだ?

確かにここの惑星、もっと言えばこの星団そのモノは辺境だけどもバルキリー部隊が駐屯しているはずだ。早く動かないと大変な事になるぞ……ッ!

 

「マジか、こりゃバジュラ大発生の時ほどではないにしても大惨事だ」

 

恐らく可燃物が大量にあったのだろう、町の一角が爆発と共に火が上がりリガードは次の目標を探し始める……そして見つけてしまった。

 

「不味い!」

 

同時に俺の機体に搭載してあるセンサーが1人の女性を捕らえた。

それは空港で見た紫色の髪をした綺麗な女性。その人はこんな暴動が起こって大惨事って時なのに暢気に歩いていらっしゃる。俺はその姿に何と言いうか……言い表せないほどの危険を察知すると気づけば機体を降下させていた。

スロットルを引き下げエンジン出力を上げて女性へと迫るリガードへと突撃。踏み潰そうと足を上げたリガードに対して俺はバトロイドへと高速変形そして―――ぶん殴った。

 

「オラぁ!」

 

それも思いっ切り。機体出力と運動エネルギー、そしてピンポイントバリアの三つの要素が噛み合った結果か、リガードの装甲を俺の拳は軽々と貫き敵を撃破する。感触的に中身は攻撃してないみたいだからある意味安心ではある、流石に人殺しなんてまっぴらゴメンだからな。

 

「大丈夫か、そこの紫の人」

 

「!?」

 

バトロイドからガウォークモードへと呼ばれる戦闘機に足が生えたような状態へと機体を変形させてキャノピーを上げ俺は話しかけた。本当ならそのまま話しても良かったんだけど……なんとなく、そうした方が後々良いと思ったからそうした。

キャノピーを開けて直接対面するとやっぱりあの紫色の髪をした人だと確信したは良いんだけど……やっぺ、よく考えれば俺ある意味不審者じゃん。

 

「え、えっとありがとう」

 

ほらぁ~彼女も戸惑ってるよぉ~‥‥マジどうしよう。

ある意味気まずい雰囲気の流れる中、俺は彼女の奥の瓦礫にいた見知った人物を発見した。アレってフレイアちゃんにハヤテじゃん!

 

「おーい!ハヤテ達、そっちは無事かぁ!」

 

「!? あん時の!」

 

「ヒビキさん!」

 

思ったよりも早すぎる再会に俺も喜ぼうとしたけれどそんな暇、この戦場では与えてはくれるはずも無く。

 

「ッ! 三人とも伏せろ!」

 

機体内にロックオンアラートが鳴り響いた。

ロックオンのされている位置、3時の方向、視線を向けるとそこには荷電粒子砲を構えたもう一機のリガードの姿が。キャノピーを急いで閉じバトロイド形態へと素早く変形、装備した盾を構え攻撃を運よく受け止めることが出来た。

 

「こなくそぉ!」

 

その直後すぐに展開できる武装として機体背部にあるビーム砲塔を展開、発射する。ビームはそのまま敵を貫き敵はそのまま沈黙する。

ふぅ~何とかなった。カメラで確認するに三人は無事、よかったぁ~。

 

「早く避難を! ここは既に戦場だ」

 

俺はそう言い残し次の敵を警戒……っていきたかったのだが。

 

「まだいるのかよ!」

 

再度ロックオンアラートが響き敵さんが俺へとラブコールを送ってきているのが分かった。マジで勘弁してつかぁさい。

レーダには敵影が2機表示されていてどちらもスーパー・グラージ。やっぺ、油断すると普通にオレやられちまうな。

 

「しゃらくせぇ!」

 

敵のビームが雨霰と飛んで来る中ファイターモードへと変形、何とか高度優位を取ってミサイルを発射した。ミサイルは敵の目の前まで来ると空中で爆発、強い光と共に画面がブラックアウトする。

しかし俺にはそんな些細な事関係はない。ガウォークへと変形してナイフを取り出すと滑るように敵の横腹へと潜り込んでナイフを突き刺す。火花と共に装甲が割け重要部分を切った事が俺にも分かるともう一機の機体に対しても同じように横っ腹を突き刺した。ホントはガンポットを使っても良かったんだけど威力がね……高すぎるのよ。あと俺がガンポット使うと必ずヤバイ事になるからあんまり使いたくない。

最初使った時なんてミハエルが死にかけて最終的になんやかんやあって幼馴染と結婚式を上げる事になったからなぁ……あ、そういえばアイツ最近子供ができたらしい。

 

「ふぅ、ふぅ、ふぅぅぅ~、重力内戦闘、キツ過ぎ、正直、吐きそう」

 

ってか重力影響内での地上戦ってこんなにキツイのか、宇宙で余裕で出来る事がなんでここだとこんなにキツイんだよ。ISCがあるとはいえ、俺は横Gには弱いんだ。

今すぐにでも吐きたい気分を何とか我慢して敵の警戒に移るんだけど……またアラームなったって

 

「今度は5機かよ!?」

 

※※※

 

声が聞こえる。

 

「おい、どうした!」

 

さっきバルキリーに乗って助けてくれたヒビキさんもそうだけんど私の感じた事がない風がビビビっと来るんよ。でも今は別の―――風。

 

「虹色の――」

 

それは虹色の――――声。

私のルンがごりごりでピカピカっと新しい()を感じるんよ。

 

「‥‥ふふふ、なんだかおもしろい人に出会ってしまったわ」

 

でもこの風は私は知ってる。何度だって聞いて私の憧れた―――

 

「―――声!」

 

「そして、この場もやっと温まって来たわね、それじゃあ……!」

 

掛け声と共に帽子とサングラスを脱ぎ捨て―――

 

 

「イッツ、ショータームッ!」

 

 

―――その人を中心にこの戦場の空にスポットライトが灯り。新しい風が吹き荒れた。

 

「歌は神秘!」

 

紫色の眩しぃ輝きと共に空からそれに続く様に流れ星も振ってくるん。

 

「歌は愛!」

 

「歌は希望!」

 

「歌は命!」

 

緑、ピンク、黄色と流れ星は紫色の光に集まるかのように落ちて来て姿を現した。そしてそれに対して私は興奮が抑えきれんかった。あれは! あの人達は―――!

 

「聞かせてあげる、女神の歌を!」

 

 

超時空ヴィーナス、ワルキューレ!

 

 

ホントならここは戦場、だけど今の私にとってはライブ会場と差ほど変わらん。だって目の前であのワルキューレが歌っとるんだからね!

まるで夢や幻、そんな幻想的な光景が私の前に広がっていた。

 

光る機械を巧みに、ぴかぴかっと綺麗に輝かせてゴリゴリに舞い踊りそして、歌い続ける4人の歌姫たち。その光景はまるで夢の様に私は感じたのだった。

 

「すごい! ごりごりぃぃ!!」

 

※※※

 

ワルキューレの歌が戦場で絶えず木霊し、敵味方魅了し続けるそれはまさに魔性のようだがそうではないあれは歴とした彼女達の絶え間ない努力で勝ち取った物だ。

 

「ピンポイントバリア正常に形成完了、フォールドアンプ異常無し、ワクチンライブ継続可能!」

 

そしてそれをサポートする者達も当然存在する。

 

可変戦闘機《VFー31》。最新鋭の新型にして彼女達、ワルキューレのライブ活動を補助するためのアイテムを豊富に積んだ特別仕様のそれ。彼、彼女らは主役を最大限目立たせるための無くてはならないわき役、そのような立ち位置だった。だがしかしそれは彼女らにとって必要であり必須のモノ。

 

「デルタ・リーダーより各機へ、アルファ、ガンマが上空護衛に入った。これより予定通り彼女達の直衛行動に入る」

 

通信機越しデルタ小隊のリーダーであるアラド・メルダースが響き渡りその力強さを感じさせる。

 

 

「「了解!」」

「ウーラ・サー!」

 

その指示に導かれ四機の戦闘機は大きく翻し暴動溢れる都市へと突入していく。その姿はまさに姫を護衛、または守る隊列の取れた騎士達のようだった。

 

 

 



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歌姫達の舞い、それを運良く見逃す幸運

日間ランキング入りしたらしい……感謝。


「空が早いいいいいいいいいいい、敵からのロックオン鳴り止まないいいいいいい」

 

五機の暴徒と化したクァドラン・レアに追いかけられながら俺は都市上空をほぼトップスピードで飛びまくっていた。

機体出力が限界点ギリギリまで高められ、下手したら爆発するんじゃないかと内心ビビる。だってこんなスピード飛んだの5年ぶりだよ、それに加え準備運動すら出来てないんだから怖いに決まってるだろう!

 

「ぎゃぁー!??? いま掠った?!、掠ったよね!!」

 

五機のクァドランに装備されたガトリングレーザーや対艦インパクトカノンから放たれる沢山がビームや質量弾が俺の機体を撃破せんとばら撒かれながら襲ってくるが運がいい事にそれはどれも直撃はしない。ってか回避運動キツ過ぎッ!

馴れない重力に振り回され心臓が恐怖で悲鳴を上げるけどマジキチぃ。

 

「くそぉ、ドックファイトへと持ち込めねぇ!」

 

本来ならドックファイトなんなりに持ち込むんだが今回はとにかく数が多い、攻勢に出ようにも下手に軌道変更してみろ、直撃して仏さんになっちまう。

敵を連れて右往左往、上昇下降を繰り返し撒こうに撒けない。せめてもの抵抗として回転型砲塔を展開、後ろへとぶっ放しまくるけど全然あた―――

 

「うぉ! ラッキー、ラッキーショット!」

 

追ってきている一機のバックパックに直撃、推進機関が壊れたのだろう墜落していく。よし、後四機!

さらにフットペダルを押し込み、熱核バーストエンジンが火を噴き上げ、増速。機体からはオーバースピードだと警告音が鳴りだすけどまだ行ける!行ける!頑張れ相棒!

 

「うおぉぉぉッ!! 舐めんなゴラァぁぁぁぁ!!!」

 

テンションもだんだんと上昇してやっと景色がよく見えて来た。

本来早く流れていくはずのキャノピー外の景色、しかし今の俺にはゆっくりと流れるようにハッキリ見えてきた。

敵の弾道、ビームの軌道なんて本来の俺なら見えないはずなのに何処に、どのようなタイミングで飛んで来るのかがハッキリと分かる。

 

「反撃開始じゃゴラァ!」

 

機体をビームの飛来に合わせて右へ左へと揺らしお次はエルロンロールよ呼ばれる機体を回す操作。敵機のビームを躱すと半ガウォーク形態かの様に足を出して推進機関であるエンジンへと前方へと噴射し急停止行う。急激なGが俺の体を襲うが構ってる暇はねぇ!

敵がそれに反応できなかったのか俺を追い越して前方へ出るとロックオンを告げるアラートが鳴る。よし、フルバーストッ!

 

「全部もってけぇッ!!」

 

機体に設置されてあるマイクロミサイルランチャーと重量子ビームガンポッド、ビーム砲、展開できる武装を全部ぶっ放した。

ミサイルや武装全てはロックオンの通りに当たってくれたらしく派手な爆発と共に爆発四散! ナムサン!

 

「ってやっべ、殺しちまったか?」

 

その場をホバーで留まりその光景に覚悟するが―――その必要もなかったらしい。

 

「ふぅ~、ラッキー」

 

どうやらミサイルやガンポットが直撃した部分は装甲の厚い部分だったらしく、中のゼントランの軍人さんが外から確認できるぐらい機体の損傷は酷いがセンサーによると無事だと言う事が分かる、マジでよかったぁ。

安心に胸をほっとさせるのもつかの間、警告音が響いた。場所は直上、12時の方向。目を向けるとそこには――――機体が、隊列を組んだ機体が見えていた。

 

「VFー31、初めて見た……」

 

最新鋭機VF-31、俺の機体YFー29の二つ後に当たる後輩で配備数も新統合軍でもまだ少なく、滅多に見られる機体じゃないはずなんだが……すげぇ、何処の小隊だよ、ありゃぁ。

特徴的な前進翼に大型カナード翼、それに加えYF-30から継承されたマルチパーパスコンテナユニット……カッコイイなぁ。

新しい物好きの俺はその機体の飛ぶ姿に見惚れていると何処からか聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 

「――歌?」

 

一瞬ランカやシェリルの声かと思ったがそれは気のせい、しかし過去に最終戦場で聞いた二人の歌にも似た何かを感じた。

それがどこか何処かと探すが凄く遠くの方で流れているらしく姿は残念ながら確認できない。だけど聞こえる4人の歌声。

その声に敵味方関係なく聞き惚れてるらしく皆揃って歌の発生源へと視線を向けている。

 

「スゲェ、マジであの二人みたいだなぁ」

 

恐らくあの歌っている歌姫達こそがフレイアちゃんの言ってたワルキューレなんだろう。

降下してきたVFー31はその歌姫達に合わせるように色とりどりのスモークを引き模様を書き、アクロバット飛行を始める。しかしその途中でも暴徒と化した軍人さん達を抑え込んだり無効化を図っている所から見ると腕は確からしい。

 

「スゲェ、機体も機体ならパイロットもパイロットで優秀ってか……って事はあの機体の中に少尉がいるのか」

 

歌を聞けば暴動が終わる。まるで過去に見たアルトの黄金の舞いかの如き奇跡を目の当たりにしてるんじゃないかと錯覚し始めたごろ更なる知らせを機体が告げる。

 

「アンノウン?」

 

宇宙からの襲来者を告げる。時代遅れなレーダーの為に数は分からなかったが小隊ぐらいの人数はいそうだ。正体を俺の機体にあるデータバンクで探すが該当は無く正体は不明。完全にアンノウンって奴だな。

俺はファイターへと機体を変形、落下予想地点へと飛んだ。

 

※※※

 

「こちらデルタ3、アンノウン、数は6! 新統合軍艦隊を突破してシャハルシティにアプローチするコースに入ってます!」

 

チャック・マスタング少尉からの報告に私は理解できなかった。

 

「新手か?」

 

「ヴァール特有のフォールド波も検出されていません……つまり」

 

「厄介なお客さんって事か……」

 

ヴァ―ルシンドロームの混乱に紛れテロ行為を行うテロリストの出現、デルタ1であるアラド・メルダース隊長の予想道理の出現。いつかいつかと考えていましたがまさかこんなにも早く出現するだなんて……何故このような愚かな真似を。

 

「テロリストッ」

 

操縦桿を握り直して接敵に備える私だったがレーダーに新たな機影が映る。

 

「こちらデルタ4、新たなるアンノウンを捉えました」

 

「な!? バカな、こっちのレーダーには何も―――」

 

何故電子戦機であるデルタ3のレーダーでは無く私の機体のレーダーで捉えたかは分からないが確実にそこにいると分かる。

 

「それは後だデルタ3、アンノウンって事は空のお仲間さんか?」

 

「分かりません、私の機体ではそこまで……」

 

「―――こっちでも捉えました、数は1、機種は―――YFー29!?」

 

「YF-29?」

 

地球でも配備数が少なく幻の試作機と呼ばれている機体が何故このような場所に。いつも冷静であるあのデルタ2、メッサー・イーレフェルト中尉ですら声にだして疑問に思うほど場違いな機体。見たところによると私達の様にヴァ―ルシンドロームに侵された人を止めているようにも見えるが……まだわからない。

 

「今近くの空港から連絡が入った。あの機体は旅行者の機体のようだが詳細は不明、しかしYFー29を使ってる事から考えるによっぽどの腕だぞ。あんなピーキーな機体、俺でも扱いきれん」

 

「隊長でもですか、よっぽどじゃじゃ馬な機体なんですね」

 

「あの時は軽く死にかけたぜ、ハッハハ」

 

「デルタ1デルタ3私語はそこまでに、そろそろ接敵します」

 

デルタ2の一言により小隊各機は私語を辞め、集中を取り戻すが私は隊長の言葉に引っ掛かりを覚えていた。

 

「旅行者?」

 

そういえば先ほどバルキリーでこの惑星へと旅行目的で訪れていると言ってた人がいたような。名前は確か―――

 

「―――ヒビキ・シデン?」

 

「ん? デルタ4、今何と」

 

通信が私の呟きを拾ったらしく隊長が私へと聞き返す。隊長の声は先ほどの様なふざけた感じでは全くなく、何処か緊張したような声を発していた。

 

「ヒビキ・シデンです、恐らくですがあのYF-29のパイロットかと」

 

私が言い直す。すると突然隊長は大笑いを始めた。えぇ!? 今の笑う要素ありましたか???

 

「ッハハハハ、すまない、すまない、いやぁ~まさかその名前をここで聞くとは思ってなくてな」

 

隊長は彼を知っているらしく先ほどとは違い親しげな感じで話していた。

 

「各機、とりあえずYFー29は無視して問題ない。むしろ気合入れろよ、お前ら! アイツの活躍次第ではこの戦場、荒れるぞ。全機オールウェポンズフリー!客を出迎えるぞ!」

 

「「了解!」」

 

「ウーラサー!」

 

そして私達の機体は空の敵を向い撃つべく空を駆ける。その途中――

 

「まさかこんな所で銀河一の()()()()()()に出会うとはな」

 

―――隊長が最後に発した呟きが私の耳に不思議と残った。



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幸運は飛んで歌姫と―――出会えたらいいなぁ

「うわぁ、単発機なんて久しぶり見たぞこの野郎」

 

 機体の正体は不明だけどあんな機体初めて見たぞ……今時珍しい機体だ。だけど軽く分析ソフトにかけてみたら単発機と侮るなかれ、機体性能はかなり高いみたいだ。

 

「すげぇ、どっちの機体も腕が良い……綺麗だ」

 

 VFー31で構成されたあの小隊、多分エンブレム的にデルタ小隊と思われる小隊はアンノウンとの戦闘を開始。俺は遠くからその光景を見るしかなかったんだけども──

 

「一機こっちへ来る!?」

 

 敵機は戦線を離脱、こちらへとロックオンの音を響かせ急速接近してきた。マジかよマジかよ、こちとらさっき5機同時に相手してヘロヘロなんだぞ! 

 

「勘弁してくれ!」

 

 直ぐに戦闘機動を取った俺は敵とコンタクト、ヘットオンの形で向き合う事となる。敵機は容赦なくガンポットで俺へとぶっ放してくるが当たらねぇ! 回避機動を挟んだ飛行をしている為に偶に掠りそうにはなるものの直撃はない。機体照準を敵機へと合わせガンポットを一撃必殺のバーストモードへと切り替る。照準をよく絞り敵を十分引き付けたのちに──発射。

 ビームは敵機を捉え進むが──

 

「な、なに!?」

 

 敵機は両端に接続されているブースターを別方向へと向かせそれを回避、俺の後ろへと飛び去った。マジか! 今の距離で発射したビームを避けるだなんて人間じゃねぇ! 

 機体を反転、すぐに追いかける。敵機は湾地区のクレーンのアーム下を器用扱い、対空防御をしているシャイアンIIのミサイルなどを退けそして撃破。そして多数のミサイルをばら撒いた。

 

「ってヤバ!?」

 

 ミサイルの向かう先には何か明るい場所が見える。恐らくあそこでワルキューレが歌ってるんだろう、そう分かった俺は機体を増速させる。

 まだ遠く当たるかもわからないとわかっているものの無意識的にガンポットと背部砲塔そして、高速機関砲でミサイルを迎撃する。多数のミサイルが俺の繰り出す攻撃に撃ち落とされて爆発するがすべてを迎撃する事は出来ず光る何かに直撃を許してしまった。

 

「クソがぁ!」

 

 最悪の可能性を想定しながらそのままのスピードでミサイル群が直撃した場所へと急ぐ途中、またも視界がゆっくりとなってそしてカメラで捉えている光景を認識する。赤い髪をしている人に銃口を向けるリガード、緑色の子を抱えビルの屋上から落ちていくピンクの子の姿を。

 

「ちょっせぇッ!」

 

 高速移動を行いつつも足を前に出して急減速、それによって急激なGが体へと押しかかり悲鳴を上げるが関係ない。ガンポットで流れるようにリガードをぶち抜き、回るように横移動。落下中の二人を開いている左手でキャッチ。衝撃が伝わらない様にしながらも俺はそのままビルへと激突した。

 

「っがは!」

 

 その衝撃はすさまじく、正直体痛すぎてヤバタン。

 

「って、痛みに構ってる暇ねぇ、二人は!」

 

 左手をすぐさま確認するとそこには無事だったみたいで二人の女の子が座り込んでいた……ってアレ? 

 

「レイナ? マキナ?」

 

 見覚えってか、思いっ切り知ってる人を助けた事に驚き頭が真っ白になっていると何処からともなくまたも歌が聞こえて来た。

 さっきと同じで何かを感じる歌だ。

 

 二人は俺に気付いてないのかすぐに左手から降りるとさっき助けた赤い人と合流して飛んで行ってしまった……マジであの二人何してんのってか知り合いだったの? 

 様々な情報が混濁して俺の思考をかき乱すが……それよりもまず。

 

「あんにゃろぉ、やりやがったなぁッ!」

 

 あの野郎にやり返すのが先だこらぁ! 

 ファイターへ変形、そして空を飛ぶ。アイツはまだ近くを飛んでいるようでレーダーではその存在を確認できた。

 

「待てゴラァあああああああ!」

 

 ガンポットと残り少ないミサイルを遠慮なくぶっ放し敵を追撃する。逃げる敵機のケツを追いかけ、そしてぶっ放しまくるけど当たらねぇ! 

追撃を続け空中戦を繰り返している途中、敵機はブースターを切り離した。そのブースターは──翼を広げた。その姿はフロンティアにいる頃、同じ部隊の人間が好んで使っていた無人戦闘機にそっくり──って。

 

「ブースターがゴーストに変形するってマジかよ!?」

 

人間が乗っていたら到底不可能な軌道で飛び、そして俺へと攻撃を始めた。

敵機はゴーストを置いて遠くへと飛び去ってしまうが俺はそっちを追いかける事は出来ない。無人機であるゴーストは手ごわく、そして俺はシュミレーターでも一回も勝てた事どころかミサイル一発当てた事もない相手。

 

「だけどッ!」

 

過去、ギャラクシー船団が放って来たシュミレーターよりもさらに厄介なゴーストを何機も撃墜したことのある俺なら何とかなる……かも?

ミサイルは品切れなのでガンポットをぶっ放し敵を誘導、対人戦等なら出来ない方法だがコンピューター相手なら!

 

「うぉぉおおお!!! できるんだなぁーーーーこれがぁぁあああああ!」

 

バトロイドモードへと変形し背部ビーム砲を展開、狙いを定め―――ぶっ放す!

ビームはミサイルとビームをまき散らす一機のゴーストの胴体を貫き爆散。もう一機のゴーストもその爆発に巻き込まれてセンサーがイカれたんだろう、動きが鈍った瞬間を狙い俺はガンポットのバーストモードでぶち抜いた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……疲れた」

 

ファイターモードになり空を飛ぶ。疲れた、正直もう無理。喉がカラカラとなって水を求めたいが今はその時ではないと欲を抑え、回りへと目をやる。暴動によって火は広がっているが目に見えて鎮圧されつつあることも分かった。

歌が聞こえる事からワルキューレはあのミサイルを凌いだんだろうマジでよかった。

空を悠々と飛びあの敵を再度増やそうと思ったが――――歌が聞こえた。

 

その方向へと目を向けるとそこには新統合軍のVFー171が飛んでいた。どうやら被弾しているらしく煙を引い空を飛ぶそれは、地上で歌っているワルキューレの様に何か感じるモノがあった。

無意識的んいそれへと近づく俺は見てしまう――――その機体へと迫るビームが。

 

「マジか!?」

 

背部に直撃したらしく羽やエンジンが捥がれ機体は落下。このままだとあの機体に乗っているパイロットの命は――ない。

エンジン出力を上げ機体を増速させ近づく。スピードはかなり早いが何とか追い付きバトロイドへと変形、受け止めることが出来た。

 

「大丈夫か!」

 

パイロットへと呼びかけ無事を確かめようとし―――って。

 

「マジか!」

 

その刹那、俺は覚悟した。視界の隅に映るのはあのゴースト。あのゴーストが明らかに俺を狙い攻撃体勢へと入っている。

今の状態だと避ける事も出来ずに撃墜されるだろう。そのことが直感的に分かった俺はせめてVFー171に乗っているパイロットだけでも助けようと受け止めた機体を空中へと再度投棄、腕をクロスするようにコックピットを守った。しかし――敵の攻撃は結果的に来なかった。

敵機は攻撃する直前にデルタ小隊の者に撃墜されて爆散した。それを認識した直後投棄した機体を探すとすぐに見つけることができた。どうやら他のデルタ小隊の機体があの機体を受け止めているようで危険は去った様子。

 

「よ、よかったぁラッキ~~」

 

俺は安堵し油断しかけたが直後、まだ戦闘中だという事を思い出しレーダーを確認する。そこには撤退していく敵機と増援される味方機体の反応が見てとれこの戦闘の終わりを告げている事が分かった。

 

「おわったぁ~」

 

今度こそ安堵で体の力を抜き、シートへと体重をかける。下を見ればあの機体を抱えてゆっくりと降りて行くデルタ小隊の機体が見え、俺も高度を下げ始めた。その途中、外部から通信が入る。

 

「こちらデルタ小隊所属アラド・メルダース少佐だ。YFー29のパイロット、聞こえてるか?」

 

ん? デルタ小隊?

聞こえる声から判断して中年ぐらいのおじさんだと思うど‥‥‥‥あれか? 俺へのお礼か何かでも伝えたいのかな? 

俺は通信回線を開き答える。

 

「こちらYFー29のパイロット、紫電 響鬼だ。そのデルタ小隊の人がなんの用ですかね?」

 

俺はいつも道理にちょっと喧嘩腰に答えると笑い声が響いて来た。な、なんで笑われたんだ?

 

「ハッハッハハ、マジでアンラッキーだった。銀河一不幸な男さんや、少し俺達とお話、しようや」

 

……この人元新統合軍のパイロットだな?

 

新統合軍でしか広まっていない俺の通り名を久しぶり聞き少し不機嫌となりながらも俺は、新たに来た機体の誘導に従い地上へと降りるのであった。

 

 




歌姫をまともに視認できた機会が安全確認ってヤバない?

あと主人公の機体はYF-29オズマ機の黄色をライトグリーンに変更しただけの機体です。


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ラッキーな出来事

「ワルキューレの防衛感謝する。改めて、デルタ小隊隊長アラド・メルダースだ」

 

「俺は紫電 響鬼、まさかあの名前で俺を呼ぶパイロットがここの辺境の星にまでいるとは思わなかった」

 

あの後デルタ小隊の機体に誘導され地上へと着陸し機体を降りた俺は先に降りて待っていたであろう人と対面、改めて自己紹介をした後に握手を交わした。

いやぁ~マジであの名前で呼ばれるとは思ってなくて普通にビックリしたよ。

 

「こっちだって銀河一と名高いアンラッキーと空を共にするだなんて思ってもみなかったぞ」

 

「あはは…それはお互いさまって事で」

 

アンラッキー、俺が数々のトラブルに巻き込まれた結果、新統合軍パイロット間で広まった通り名……らしい。自分でもなんでそんな風な名がつく結果になったのかは分からないけど結構有名なんだと。まぁ俺的には偶に新統合軍相手に冤罪から逃げるためにやった逃走劇とかやらかしたから付いたのかな?って考えてる。あと補足的に言っておくと最後にはいつもラッキーな事に冤罪を晴らす証人がいてその人が発言する事によって容疑は無くなってはいるよ――――ん?

昔のことを思い出していると何か嫌な予感が突然過った。このままではいけないと思い俺が握手の為に握った手を放そうとする―――が、それは叶わなかった。

 

「それにしてもリガード2機にグラージ2機、クァドラン5機にゴースト2機の合計11機なんてやるなぁ」

 

「た、偶々ですよ、それと手を―――」

 

「それに加え、暴徒と化していたパイロットたちは機体は大破しているが全くの無傷、怪我一つ負ってないと来た」

 

「ら、ラッキーだっただけですよ、あと手を―――」

 

隊長さんは俺を笑顔で俺の今回の戦果を褒めながら手を握る力を強め、まるで俺を逃がすまいとしているように感じる。あ、これは何かしらに巻き込まれましたな。

 

「そこでだ、少し相談があるんだが―――」

 

隊長さんが何か言おうとしたその時、俺の後ろで声が聞こえてくる。

 

「ってぇ、なんだよいきなり!」

 

「軍用機を無断で乗り回すなんて! 一歩間違えれば作戦に混乱が生じ、被害が拡大していたかも知れない、小さなミスが命取りになるんです!」

 

「待てよ! 俺の話も……あッ!」

 

振り返ってみてみると離れた位置で少尉さんとハヤテが口論していた。……少尉、その言葉は俺に効く。って、あの大破した機体にハヤテが乗ってたの!? やべぇな、危うく殺すところだったぞ。隊長さんもそれに気づいて見ているようで俺もそのままの体制で見ていると動きがあった。突然凄く怒った様子で少尉はハヤテの胸倉を掴みかかる。

 

「戦場を甘く見ないでください……!」

 

「へっ、あんたもミスってたろ?」

 

「はぁ?」

 

少尉も言い返されると思っていなかったみたいで疑問の表情。

 

「見てたぜ、フォーメーションを組んで飛び上がる時、アンタだけタイミングがズレてた」

 

「なッ!」

 

「甘く見てるのはそっちじゃないのか?」

 

ハヤテの返しにこっちから見ていても分かるぐらいに顔を真っ赤にする少尉。その様子に隊長さんも何かを思ったんだろ、力が抜けて反対側の手をあちゃーって感じで頭へと当てた。俺はその隙を見逃さず手を放すとハヤテの方へと向かった。ラッキー、ハヤテのおかげで逃げれたぜ。

 

「あ、ちょ」

 

「また今度会った時に話しましょうね~」

 

俺を呼び止める声が聞こえるが振り返らずに手をひらひらと俺はやるとそのまま歩みを続ける。

 

「はぁ…仕方ない、ミラージュ! 何してる、帰るぞ」

 

その途中隊長さんは少尉を呼びつけ、俺が初めて出会った時も残していった捨て台詞を残して綺麗な敬礼するとこちらへと振り隊長の元へと歩き出す。その途中俺の存在に気付いたらしく少し沈んでいた顔を上げる。

 

「…やっぱり貴方だったんですね」

 

「やっぱり?」

 

「いえ、こちらの話です。この度の鎮圧活動への協力、ありがとうございました!」

 

そう言って再度ビシッと敬礼した後俺とすれ違う少尉さん、何と言うか真面目な方なのかな? そう思いながらハヤテとの元へと進みだす。おう、無事だったか?

 

「あぁ、何とかな。あの時は助かったよ」

 

「いやいや、無事ならそれで何よりだよ」

 

互いの無事を確認しながらたわいもない事を話す俺達。あはは、あの時出会ったばっかだってのになんか、話しやすい奴だな。

 

「それにしても本当に飛行機乗りだったとはね、あれってアンタの機体だろ?」

 

 

そう言って指さす先には俺の機体、YFー29の姿が。まぁ、普通はバルキリーの個人所有だなんてあんまり考えられないもんね。それに俺のは試作機のうちの一機だし、尚更か。

 

「おうとも、退職金替わりに知り合いにもらったもんだ」

 

俺が返すとへ~って感じで感心したような表情で俺の機体を見つめているハヤテ。そんなに羨ましそうにしてもこればっかりはやれんぞ。

 

「退職金って、そんなに金払いの良い会社だったのかS.M.Sってのは」

 

「まぁまぁいい値段ではあったけど色々とコネがあってね」

 

 あん時はある意味凄かった。フロンティアで暮らしてた頃、鉄道模型にハマってその結果知り合ったゼントランのお爺さん。その人がかなりの権力者で、前にあげた鑑定書付きのリン・ミンメイ、直筆サインのお礼とか何とか言ってアイツを押し付けて来たからビックリしたよなぁ。それにしてもあのサイン、なんで持ってたんだろ?

 

「へ~……あ、そういえばあのアイツ、何処行ったんだろ?」

 

「フレイアちゃん? 確かに見当たらないね」

 

そういえばフレイアちゃんが見当たらない事に気付いた俺達は辺りを見回し探してみる。しかしその姿は何処にもなく、ちょっと嫌な予感がしてきたぐらいにハヤテが見つけてくれた。

よかったぁ~見つかって、瓦礫に巻き込まれたりとか事故で動けないとかヤバい状況になったかもとって考えちゃったから心配だったぜ。

 

「ハヤテ、フレイアちゃんは一体どこに?」

 

「あそこだよ、何やってんだか」

 

呆れるハヤテの視線の先を見るとそこにはフレイアちゃんがワルキューレのメンバーへと何かを叫んでいて―――って!

 

「!?」

 

俺は急いでヘルメットを被り直すとバイザーを降ろして顔を見えなくする。思わず顔隠しちゃったけどアレってマキナじゃん、レイナじゃん、ホントにアイドルになってんじゃん! 夢か幻かと思ってたのに―――

目の前の現実を受け止めきれずにちょっと放心状態になっているとフレイアちゃんが誰かと大声で話しかけている事に気付いた。

 

「アタシ来週オーディション受けます! 美雲さんの隣で、歌います!」

 

誰だろっと疑問に思いその人物へと目を向けると―――って。

 

「あの時の美人さん?」

 

そこには赤髪のリガードに襲われていた人にあの空港や踏み潰されそうになっていた綺麗な、ちょっと露出し過ぎではないか? っと自分でも謎に心配な気持ちが出るぐらいな衣装に身を包んだ美人さんがいた。

へ~、あの時助けた美人さんってワルキューレのメンバーだったんだ……まぁ、それだけの魅力はあるから当然かな?

 

「聞こえてたわよ! あなたの歌声!」

 

「はえぇ!?」

 

へ~、フレイアちゃん歌ってたんだ……まさかハヤテの乗ってた機体に乗って歌ったりとかはしてないよ……ねぇ?

俺は一概の疑問と過去アルトから聞いたランカとの出会いの話を思い出し、謎の既視感を感じながらその様子を見ているとマキナが笑顔になったのに気付く。ってかマキナ、立派に育ったねぇ~。前に合った時よりも身長とかが大きくなっててお兄さん、髪色でしか判定できなかったぞ。

 

「きゃわわーな歌声だったよ!」

 

「チクチクしてて気持ちよかった」

 

マキナはお母さん譲りの謎の表現でテンションを上げてレイナへと抱き着いた。おぉ!レイナ、お前友達作るのアレだけ下手だったのにマキナと仲がよさそうじゃないかぁ……うぅ、こっちも立派に育って、お兄さん嬉しいぞ。

 

「ど、どうしたんだ、いきなり泣き出して……」

 

「いや、ちょっと嬉しくてね」

 

ヘルメットの中を涙でいっぱいにしながらフレイアちゃんとワルキューレのメンバを見ている俺達。

 

「まってるわ!」

 

美人さんの声でメンバー達は手で各々Wの字を表現し―――

 

ラグナ星で!

 

ワルキューレのメンバーはキメポーズを決めて、輸送機へと乗り込みデルタ小隊のメンバーと共に空へと上がっていった。わぁ~まるで嵐みたいだったな。

 

「はあぁぁ~…あたし、歌ったんよね」

 

何かの余韻に浸り、その場に座り込むフレイアちゃんの隣に俺達は立ち同じ様に空を見上げる。

 

「ワルキューレと、美雲さんと……」

 

そこには夜空いっぱいの星が俺達の無事を祝ってるかのように無数に輝きを放っていた。

ってかあの美人さん、終始俺とずっと目が合ってたようなぁ~ 合ってなかったような……ただの気のせい、かな? そんな疑問を残しつつもオレのアル・シャハルでの一日が終了した。

 

 



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第二話
幸運なオーディション1


 あの出来事から一週間、俺達は共に行動してる。理由は二つあって一つ目は傷ついた機体の整備だ。

 

「うぁ〜お、こりゃボロボロだな」

 

 やっぱり準備運動なしでオーバースピードまで増速したのが悪かったらしくエンジンが修理を必要とするぐらいにボロボロとなっていた。でもその損傷も俺がマキナのお父さんから仕込こまれた知識で整備できる範囲内だった事と()()必要なパーツと互換性のあるパーツやレア物のパーツがこの星で手に入った。その結果普通ならかなり時間のかかる修理なのだが一週間に短縮できた。パーツが手に入るなんてラッキー! 

 

 二つ目はフレイアちゃんとハヤテをラグナ星へと送ると約束をしていたからだ。

 

どうやら二人にはラグナ星へと移動手段が無く、困っていたので俺が送ってやろうと提案したのが切っ掛けだったりする。まぁ、その後機体のエンジントラブルで飛べないとわかって一週間の足止めを食らったわけだけど。その最中で仲は深まったと思う。

 ハヤテはあの時VFー171を操縦した時に空を飛ぶ喜びを知ったらしく俺が飛び方を教え、俺の機体に搭載されてあるシミュレーターで遊ばせたりした。フレイアちゃんはフレイアちゃんでリンゴが好きらしいのでレイナが好きだった特製リンゴパイをご馳走させてあげたり、フレイアちゃんの苦労話を聞いて共感して二人して泣いたりと面白い一週間だった。ってかウィンダミア人だったんだね~、知らなかったよ。

 

 まぁそんなこったで修理を終え、三人乗りに軽い改造を施した俺の機体で空を飛ぶこととなった。

 

「そんじゃ出発するぞ二人共、準備はいいかんね?」

 

「おう!」

 

「ほいなぁ~って私の真似はせんでいいって!」

 

「あはは」

 

「もう!」

 

 エンジン出力を轟音と共に機体出力が上がっていくのが分かる。俺はコックピット内のコンソールを操り機体各種の最終チェックに移る。

 

「システムチェック……オールグリーン」

 

 モニターに正常起動している事を告げる表示が映ると俺は管制塔へと通信を繋げる。

 

「こちらS.M.S001離陸許可を頼む」

 

「こちら管制塔、了解した」

 

 俺は管制塔から送られてきたデータを元に機体を進める。滑走路へ入り、宇宙へと上がった。

 宇宙は相変わらず綺麗で星々が良く見える。後ろを見ると来るときも見た綺麗な惑星の姿が一目でわかる。あぁ~あの時はあんなトラブルに巻き込まれるとは思ってなかったんだけどなぁ……

 

「綺麗な惑星やんね!」

 

「確かにな……気にした事も無かったが言われてみれば綺麗だ」

 

 後ろの二人は二人で盛り上がっているらしく楽し気な声が聞こえて来る。おうおう、盛り上がってますなぁ。

 コンソールを操作、軌道上に分離して来たフォールドブースター搭載のスーパーパックの位置を特定──―ちょっと遠くに流されてますな。

 無事ドッキング、機体を増速させフォールドブースターを起動。俺達はラグナ星へと飛んだ。

 

 

 惑星ラグナ、惑星全体が青い海に覆われた海洋惑星。

 そこへと降り立ったアイランド・ジャックポットによって惑星外の文化が伝わりテラフォーミングを決行。結果、バレットシティーという町が生まれ、今では観光地として結構な人気を誇る歴史を持つ植民地惑星。その特徴は地球によく似た環境にあり綺麗な海、緑豊かな自然に島、地球の海鳥とそっくりな鳥とウミネコと呼ばれる生き物が鳴き、人々の活気のある声が聞こえる。そしてなりよりも特徴的なのが────

 

「あ、あついぃ……」

 

 ──―無茶苦茶に暑い事だ! 

 

「んっぐ、んッぐ……プハァ~、水うめぇ……ってアレ? 前にもこんなことあったようなぁ?」

 

「何してんだよ、早くいくぞヒビキ……ぶえぇっくしょん!」

 

「うぃ~」

 

 ギラギラと光る太陽の下、熱気と湿気によってしんどい中で水を飲み、既視感をまたも覚えながらパイロットスーツを開けて涼しい風を取り入れながら俺はハヤテの後をついて行く。

 

「? ヒビキさんは暑さに弱いんか?」

 

「まぁ~なぁ~‥‥、ちょっとしたら馴れると思うけど今はすっごくしんどいかな」

 

 惑星ラグナは活気ある場所みたいで俺達の降り立った近くの商店街などでは様々な声が聞こえる。クラゲ饅頭? クラゲのするめ? クラゲの刺身? 何だかクラゲ祭りな星ですな。

 そんな中を俺達はワルキューレのオーディション会場を探すついでに観光する事にしたのだ。

 

「これを付ければあなたもラグナ人! さぁさぁ買ってきなぁ!」

 

「それ一つください!」

 

「まいど!」

 

「ヒビキ……お前なんで買ったんだ?」

 

「……こういうのを見るとついつい買っちゃいたくなる性分でして──―」

 

「そういえばアル・シャハルでもたっくさん色々買ってたね」

 

 途中ラグナ人になれる? という付け耳を購入したり──―

 

「へえぇ!? なんねコレ?」

 

「安いよ! 安いよ、買ってきな!」

 

「テレフォン便利ナンバーワン!」

 

「キラッ! キラッ!」

 

「へぇ~電話‥‥って! 取れん! 振込開始ってどおいう事!?」

 

「走──―」

 

「ちょっと待てハヤテ、兄ちゃんたちあくどい商売してますね‥‥はぁ……」

 

「「「お買い上げ!」」」

 

 携帯を無理矢理購入させられたりとトラブルもあったけど楽しく市場を回る事が出来た。うめぇ~、クラゲのスルメうめぇ~

 

「都会怖い、それにヒビキさんにお金使わせたのは申し訳たたん」

 

「気にすんな気にすんな、これぐらいのトラブル馴れっこだ」

 

「どんな人生してきたんだよ」

 

 俺達は一休みの為にベンチへと腰掛ける。二人……ってかフレイアちゃんは初めての地でお疲れのご様子のようで街頭へと寄りかかり休んでいる。

 そんな様子を俺はスルメを食いながら見守るんだけど……このスルメ、マジでうまいな。

 

「ん?」

 

 そんな中、俺は効きなれた音を耳にする。

 音の発信源である空へと目を向けるとそこには一機のVFー31が……珍しいはずの機体がここでも飛んでんのか。そしてその飛んでいる先へと視線を動かすと──―

 

「うぉ!」

 

 ──―そこには堂々たる姿の巨人が佇んでいた。

 

「なんね! あの、でっかいんわ!!」

 

 フレイアちゃんもその存在に気付いたらしく余りの大きさに声を上げた。確かにあの大きさには普通に驚くよなぁ。

 

「マクロス・エリシオン。ケイオス・ラグナ支部の基地だ」

 

 ハヤテの説明を聞きながら俺は思い出す。って事はあそこでオーディションが行われる場所って事か……豪華な会場だな。

 

「あそこがオーディションの会場‥‥うぅ~ルンがルンルンしてきたぁー!」

 

 そんな風に考えているとルンと呼ばれる器官をぴかぴかと光らせたフレイアちゃんが緊張しているようであわあわしてる。確かに緊張するよなぁ……

 俺はそんな事を考えながら一旦二人の傍から離れると帽子とサングラスを求め彷徨った──―あ! おじさん、その帽子とサングラスくださいな! 

 

「まいど!」

 

 余りにも日差しが強くて我慢ならなくなったので今買った帽子とサングラスを身に着けて二人に合流、様子を観察するんだけど……何と言いますか、いいコンビですな、この二人。

 

「あ! あんまじろじろ見ちゃいけん、えっち」

 

「んなもんなんも感じないっつうの」

 

 なぁ~んか既視感があるなぁ~。

 

 

 マクロス・エリシオン、そこへ向かうには徒歩か専用のゴンドラに乗っていくしかない、なので俺達はゴンドラに乗り会場へ向かう。

 会場はやっぱり新メンバーのオーディションってだけに人が多く賑わっていた。

 

「はえぇぇぇぇ!!」

 

 そんな中を進み、俺達は会場受付に到着するんだけど──―

 

「オーディションが受けられんってどういうこったね!」

「オーディションが受けられないってどういうことだ!」

 

 ──―またもひと悶着ありそうだ。

 

「はぁ~、またトラブルかよ」

 

こらハヤテ! またとか言わないの!




主人公の簡単なプロフィールを紹介!


名前:紫電 響鬼
年齢:24歳
性別:男
人種:地球人
愛機:VFー25→YFー29

マクロスフロンティア出身の元S.M.S社員。
何度も命の危機に見舞われその都度起こる幸運の末生き残ってるある意味奇跡で構成されているような人間。
現在はある理由でS.M.Sを辞め、行方不明になった親友を探すかのように旅へと出ている。今年で8年間目だったりする。

機体の操縦の腕前はピカ一でオズマ・リーが教えを乞うほどであるのだが過去にVFー25を墜落させた経験がある。
その後改修されてトルネードパックがデフォルトで装着されている機体に生まれ変わったのだがそれ故か癖のある機体となりそれ以降、似たような機体にしか乗れなくなってしまった。

戦闘技術は発展途上中、腕を上げようにもラッキーショットと機体の性能に助けられている部分が大きい為にか中々発達しない。

好物はプリン。

新統合軍上層部からは数々のトラブルを起こしてきたこととある要因から要注意人物として認識されており、パイロットたちからはこれまでの彼の境遇から銀河一のアンラッキーと知られていて結構有名だったりする。


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幸運なオーディション2

「オーディションが受けられんってどういうこったね!」

「オーディションが受けられないってどういうことだ!」

 

俺とフレイアの声が受付会場で虚しく響いた。いや、マジでどうなってんの! フレイアちゃんが受けれないってどういう事だよ!

俺達二人で受付さんに詰め寄ると少し引き気味だけど答えてくれた。

 

「で、ですから今日は最終選考でして……」

 

最終選考? ……なんかイヤーな予感が……

 

「予選を通過した方でないと……」

 

「「予選?」」

 

もう一人の受付の人が横から予選というけど……え、マジで?

二人でフレイアちゃんが持つチラシの内容をよく確認してみると―――ありましたわ。今日受けれるのは最終予選に残った人のみって記載がね。

 

「あ!ああぁぁ――」

 

「ふ、フレイアちゃぁぁん!」

 

その事にフレイアちゃん自身も気付いたんだろう、放心状態に―――ふ、フレイアちゃん気をしっかり!

俺がフレイアちゃんに対してあたふたとしていると横にいるハヤテは―――

 

「マジか」

 

―――ハヤテでフレイアちゃんに対して頭を抱えている様子……ホントどうしよう。

 

「あなた達どうして―――」

 

突如声がかけられ振り返ってみるとそこには人がよさそうなラグナ人の人と歩くデルタ小隊のミラージュ少尉の姿が―――ってそうだ!

多分同じ考えに至ったんだろうフレイアちゃんと同時に少尉も元へ。

 

「ほぉ~、コイツが例のダ――「デルタ小隊のひとぉ~!「ミラージュ少尉ぃぃぃ!」

 

「ふぁ!?」

 

少尉に詰め寄ると涙目のフレイアちゃんは感情が先走ったのだろう思わず手を握り。俺はその後ろから少尉へと駆け寄る。少尉も少尉で凄く驚いたような顔をしていて状況が呑み込めてない様子。

 

「デルタ小隊のひとぉ、私にオーディション受けさせてくれんかねぇ~」

 

「!?」

 

「お願いしますよ少尉ぃ、この子にまた一年待たせるとか長すぎる、どうか、どうかこの通り」

 

「ふぁ!? ふぇ!?」

 

涙目で詰め寄るフレイアちゃんに頭を下げ続けるオレ、その場はまさにカオスと化していただろう。なんで俺も頭を下げてるかと言うと彼女の生まれとかに関係する。

 実を言うと俺の曽爺さんは偶然惑星ウィンダミアⅣを包む断層を抜けて出して運良く地球人類に接触できた初のウィンダミア人だ。だからこそ俺はウィンダミア人特有の寿命の短さも良く分かっているし彼女にとってあと一年がどんな意味を持っているのかも理解している。その境遇が分かってるからこそ俺も頭を下げているのだ。

 

「は、え、オーディション!?」

「オーディション、オーディション、オーディショ―――」

「お願いします! どうか、どうかこの通り!」

 

 

そうやって二人で詰め寄りフレイアちゃんは同じ言葉を涙目で連呼、俺はそろそろ日本に伝わる最大級の礼、DO・GE・ZAをここで披露してやろうかと考え始めた頃、タイミングよく後ろから声がかかった。

 

「はえ?」

 

「はい?」

 

二人してそちらへと振り返るとそこには三人目の受付嬢さんが立ち上がっていた……あの頭に乗ってるクラゲって言うかアメンボみたいなの何だろ?

 

「あ、あのぉ~、特別に許可が下りました」

 

その言い回しって事は!

 

「オーディションに参加していいそうです」

 

その言葉を聞いて俺とフレイアちゃんは感動のあまり両手でハイタッチ。

 

「やった、よかったよぉひびざぁ~ん」

 

「うんうん、よかったねフレイアちゃん、よかったね」

 

そしてこの感動を涙ながらに喜び合った。だってマジで嬉しいんだもの。そうやって喜び合っていたらどうやらハヤテにも用があるらしく声がかかった。―――あれ、俺も?

 

「ハヤテ…インメルマンさん?」

 

「そうだけど」

 

「ヒビキ・シデンさんですか?」

 

「あ、あぁ」

 

何だ何だ、俺達に呼び出しだなんて何かあるのか? 

 

「デルタ小隊のアラド隊長がお会いしたいと」

 

? 俺ならまだ分かるとしてなんで隊長さんがハヤテを?

 

「俺に?」

 

ハヤテ自身も何が何だかわかってない様子でキョトンとしている。まぁ、気持ちは分かる。俺も良くマクロス7にいた頃は艦長に呼び出し食らって色々としてたからなぁ。あぁ~懐かしいマックス爺さん元気にしてるかなぁ。

懐かしい気分となりながら俺達は案内の元、エリシオンへと乗艦したのだった。フレイアちゃん、ゴリゴリにがんばるんよ!

 

「うん!」

 

※※※

 

「何だろうな、呼び出しって」

 

俺、ハヤテ・インメルマンには一つずっと気になっている事がある。それは―――

 

「? なんだ?ハヤテ、俺の顔なんかじっと見つめて」

 

コイツ、ヒビキの耳に付いているヒレについてだ。確かにラグナ土産として買ってたのは俺もいたから知っていたが何故今付ける!

 

「い、いやなにも…」

 

「? 変なハヤテだな」

 

アル・シャハルからここラグナまで旅立つまでの一週間、コイツと一緒に過ごしてヒビキの性格や体質から来る無茶苦茶さには馴れていたつもりだったが何故今付けたんだ!

 

「はぁ~何が始まるんだろうか‥‥ちょっと憂鬱だ」

 

俺も憂鬱になりそうだよ! その耳を付けた事による印象でな! 俺まで変な奴指定されたら嫌だぞ。

 

「はぁ」

 

案内に従い俺は歩いて行くけど……なんで俺、此処に来たんだろ。そう考えながら気晴らしにでもと窓の外を見てみるとそこに気になるものを見つける。アル・シャハルでは見かけなかった白いα01とナンバリングされた機体、多分整備中なんだろうその機体は甲板上で止められていた。

―――面白そうだ。

 

俺はそう思い案内を外れ、機体の元へと足を向けたのだった。

そういえば途中からヒビキの姿を見なかったがどこに行ったんだ、アイツ。また迷子にでもなってるのか?

 

※※※

 

「完全に迷った……どうしよう」

 

ちょっとだけと思い案内から外れて数時間、俺は完全に迷子となっていた。

ここは何分軍用艦だ、案内の地図や標識があるわけでもなく人へと尋ねようにも運の悪い事に誰もすれ違うことがないし見かけることもない……マジでここ何処よ。

ふらぁ~、ふらぁ~っとしていると長い廊下へと出た。お、ここなら何処かへ出られるかな? そう考えその廊下を進んでいると見覚えのある人影が―――って

 

「フレイアちゃん?」

 

そこには落ち込んでいる様子のフレイアちゃんが歩いていた。どうしたんだろ?

 

「フレイアちゃん待って待って!」

 

「ひ、ヒビキ、さん」

 

俺はその目を見た途端分かった。あ、こりゃ茶化せない雰囲気だ、こりゃ。過去、レイナにも同じような時があったから分かるがこりゃ相当だな。

 

「うんうん何も言わなくていいよ。帰ろう、フレイアちゃん」

 

「…うん」

 

感情豊かな子がこんな風になってるしルンもあんまり輝いてない、きっと落ちちゃったんだろう……本当に残念な事だ。その後、俺達は()()()に人がいない道を通り帰りのゴンドラへと乗りこむ。

その途中フレイアちゃんの思い悔しい思いを吐き出させるのを忘れたりはしいていない、ため込むと爆発しちゃうからね。

 

「そいでね、私頑張ったんよ。グスン、頑張ったけど落ちちゃったんよヒビキさん」 

 

「うんうん、フレイアちゃんはよく頑張った。ウィンダミア魂輝いていたと俺は思うぞぉ」

 

「それでね、それでね……う、うわぁぁ」

 

「うんうん、泣けるときに泣いときな。俺の漢女(おとめ)な友達そう言ってたしね」

 

一緒の席に座り泣き崩れるフレイアちゃんに対して俺はそういう言葉しかかけられない。彼女にとっての時間は大事な意味を持つからね、よほど悔しいんだろうね。そうやって慰めていると突然―――

 

「はう!?」

 

「!?」

 

―――ゴンドラが、停止してしまった。他の乗客たちも驚いている様子で騒ぎ始める。俺も何だ何だと辺りを見回そうとすると突然照明がシャットアウト、非常灯へと切り替わった。

 

「な、なんなん!?」

 

「大丈夫、フレイアちゃん大丈夫だから」

 

車内アナウンスにより何が起こっているかが判明する。どうやらバレッタ市内でヴァ―ルによる暴動が起きているらしくそのせいで止まったとの事。他の乗客が携帯でバレッタ市内を移すテレビを見ているようだけど俺は別の手段を試みる。ポケットから携帯を取り出しある番号を入力した。

 

「来てくれよ」

 

それはバルキリーを呼び出す緊急信号、俺がもしもの為にと仕込んでいた自動操縦プログラムだ。一応宇宙で使う事を前提として作ったが地上でも使えるようにはしている……早く来てくれるといいんだけど。

 

「う、うぅぅぅ……ぁぁぁ」

 

そうやって心配していると別の厄介事が舞い込んできた。俺の隣、先頭側に座っていた男の客が突如苦しみ始めた。

 

「どうしました、大丈夫ですか!」

 

他の乗客が声をかけるが―――

 

「!? きゃぁ!!」

 

―――それは悲鳴へと変わる。彼女が倒れるのと同時に血が舞い上がり床を真っ赤に染めあげる。夢か幻かと言われればそうではない、その証拠に血特有の鉄くさい匂いが車内に広がってこれが現実だと嫌でも認識させているからだ。

 

「フレイアちゃん、下がって!」

 

俺は何かヤバイと感じフレイアちゃんを庇う形で前へ出る。マジか、此処でも発生するとかヤバすぎるだろ!

振り返る男。その男の全身の筋肉は服越しで一目で分かるぐらいに不自然なほど膨張しており、こちらを振り向くその顔には沢山の血管が浮き出て目は血走ってる。

 

「あはは……マジもんのピンチですな」

 

この危機的状況の中俺は後ろの乗客とフレイアちゃんを守れるかどうか、それしか考えてなかった。

ってかなんで紫美人さん―――確か美雲さんって言ったかな、一緒のゴンドラに乗って乗客達と一緒に避難してるんだろ?



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幸運なオーディション3

なぁーんか、一気にお気に入り人数が増えてる‥‥何故だ。何故こんな殴り書きのようなものが皆に読まれてるんだ‥‥‥‥分からぬ。




「ヴァールシンドローム!?」

「きゃぁぁ!!」

 

 俺の後ろから俺達と一緒に偶然乗っていた乗客達の驚いた声やパニックを起こした事による悲鳴が聞こえる。そして俺が相対すのはヴァ―ルシンドロームと呼ばれる奇病を発症した彼。一目見ただけでも分かるぐらいに不自然なまでに膨張した筋肉はその異常さを際立たせ、血管が浮き出て恐ろしい表情をした顔からは冗談でも正気とは言うことが出来ないぐらいに血走っている。

 

「ッチ」

 

 それにしても運が悪い。オーディションに落ちたフレイアちゃんを慰めながら帰っている途中にこんな騒ぎに巻き込まれるなんて──―それに俺は生身での対人格闘戦が死ぬほど苦手なんだよ。

 S.M.Sにいたころも最終的に誰にも勝てなかったぐらいにはよえぇ、だから喧嘩も俺ってば弱いんだよ! 

 

「あなた達何してるの! こっちへ来なさい!」

 

 乗客の1人……多分声色に美雲さんから声がかかるけど俺は動かない。ホントはそうしたいよ、今すぐにでもフレイアちゃんを連れて逃げたい気分だけども今までの経験と勘で分かるだ。多分ヘイトを俺から他の人へと移すと最終的には、皆死ぬってね。

 

「……フレイアちゃんは下がりな、俺が何とかするから」

 

 俺は彼へと目線を外さず何時でも動ける状態となりながら安心させる意味も込めて後ろのフレイアちゃんへと話しかけるけど。

 

「ッ、ッ」

 

「ふ、フレイアちゃん!?」

 

 何だか様子がおかしく、返答がない。アレか? 突然の騒ぎで放心状態って奴になってるのか? 

 ちらりとフレイアちゃんをいるとルンが点滅を繰り返していて呼吸も荒く、正常な状態とは言い難い。

 困ったな……これじゃ身動きが取れないぞ。フレイアちゃんの正気を今すぐにでも取り戻させたかったが、彼はそこまで優しく待ってくれるわけではないみたいで──―

 

「うぉぉおぉぉ──!」

 

「マジか!?」

 

 その大柄となり異常なほど膨張した筋肉を生かすかのようにぶん殴って来た。

 

「ッく!?」

 

 運良くタイミングを合わせれた俺は後ろにフレイアちゃんがいる為に避ける訳にもいかずそれを腕を使って防ぐが──―こりゃ!? 

 

「ッグハ!」

 

 攻撃を受ける。その威力は凄まじく予想以上だった為にその場に踏ん張る事が出来づ体は宙を舞った。体を動かして反撃などをしようにも何故か全身が麻痺し受け身をとれずそのまま吹き飛ばされ壁へと激突、鈍い音と共に背中に痛みが走った。

 

「うッ」

 

 その痛みは凄いもので体は動かず言葉すらも喋れない、正直少しでも気を緩めると気を失いそうだ。

 く、くそ、もっと鍛えておけばよかった。朦朧としてきた意識の中、俺はフレイアちゃんへと近づいて行く彼を見ている事しかできなかった。

 

※※※

 

「うぉぉおおおおおお!」

 

 今回、アル・シャハルで目を付けたフレイア・ヴィオンを見極める為、裏から手を回しヴァール化した人に襲われるというシュチュエーションを装い彼女危機迫る状況を作り出して彼女の因子を活性化させ見極めようとしているのだけど……あれは一体誰? 

 

「うぉぉぉぉ!」

 

「キャ!」

 

 予定では血のりを使用してリアルさを演出した後は脅かすだけで何もしないはずなのに、ヴァール化した役をしている人は予定にない役者のラグナ人にまで手を上げている。

 疑問に思い測定を担当する私と同じように変装したレイナとマキナへと目を向けると彼女らも目を見開いて驚いている様子。

 

「あれって……」

 

「うん……予定にないけど多分追加の演出」

 

 なるほどイレギュラーな演出って事ね。多分シナリオ担当の人が勝手に加えた人物なんだろうけど事前に連絡ぐらいしてほしかったわ。そんな考えとは裏腹にわたしの中では何か‥‥‥‥ラグナ人が吹っ飛ばされてから私の中に知らない感情が浮かび上がってくるばかり。何なの、この何とも言えない感情は……

 私自身、初めての経験に戸惑っていると状況は進んでいたようでフレイアは倒れ、ヴァ―ル化した役を演じている人に襲われそうとなっている。そしてそんな状況の中、彼女が取った行動は──―

 

「のぼせてScreaming、もう止まれないの────」

 

 歌を、歌う事だった。

 

「な!?」

 

 これに関しては私も驚きを隠せなかった。危機的状況の中、ヴァール化した人へ私達の様に歌うだなんて考えもしなかったから。

 彼女の歌は最初かすれ声の様な小さな声だったがどんどんとその声量は大きく、そしてハッキリと歌を紡いでいく。彼女のウィンダミア人特有のルンが淡く、そして優しくピンク色の輝きを放ち始めると彼女は優しげな表情を浮かべ歌い続けた。

 何を考え、何を思って歌い始めたかは私には分からない。けど、彼女には私達同様の何かがある。そう、心で感じられた。

 

「すごい数値……」

 

「ほんと、見た事ないほど活性化してる」

 

 当初の目的であるフォールドレセプターとしての見極めも良好なようで二人の驚く声も聞こえる。そろそろ終わりかしらね。

 吹き飛ばされた彼女の持ち物である機械を手に取り私は歩み寄る。フレイアは息を整えている。今の状況がよくわかっていないように見えた。

 

「これ」

 

「ん? ……あ」

 

「大切な物なんでしょ?」

 

 私が手渡すと大事そうに受け取る。そして多分私の声で若干だけど正体に気付かれたようね。ふふふ、私も有名になったものだわ

 

「ウェルカムトゥ、ワルキューレワールド」

 

そうして私は、私達は正体を隠していたベールを脱いだのだった。

 

「えっ? えぇぇぇぇ!! どういう事かねぇ!!」

 

彼女は私達の正体に驚きを隠せないようで戸惑っているのがまるわかり。

 

「これが最終オーディション!」

 

「さっきの声、チクチクしてて気持ちよかった」

 

「合格よ、フレイア・ヴィオン!」

 

変装を解いたマキナ、レイナ、そしてホログラムとして現れたカナメが結果を告げる。

 

「ご、合格!?」

 

やっと正確な状況を理解できたみたいでフレイアは、出現する舞台衣装に身を包みながら驚いてばかり……彼女、面白いわね。

 

「っは、って事は!」

 

「今日からあなたも」

 

「ワルキューレ」

 

「わ、私が…ワルキューレ…」

 

その後はネタバラシの始まり、変装して乗客を装っていた者も変装を解きお祝いの言葉を贈る。その事に驚きながらもフレイアは嬉しそうにしている。吹き飛ばされた彼も同じく起き上がってくると思ったけれど―――

 

「っは! って事はヒビキさん知って……」

 

「あのぉ…」

 

―――ヴァ―ル化した役として参加したハリーの様子がおかしい。

 

「あの人も演出の一つと思って思いっ切り殴ったたんですけど‥‥大丈夫ですかね?」

 

それを聞きレイナが端末を操作、数秒後青い顔となった。

 

「あ、あの人、追加演出じゃなくて……ただの一般人」

 

「えぇ!?」

 

フレイアはその事を聞くと急いで彼へと駆け寄る。どうやら彼は気を失っているみたい体を左右へと揺らして起こそうと頑張ってるけど一向に起きる気配はない。

 

「ヒビキさん!ヒビキさん!」

「どいて」

「怪我人を揺らしたらダメだよ」

 

それに対してレイナとマキナが割り込むと手慣れたように脈や異常がないかを確認し始める。

 

「あわわ!」

 

「落ち着いて、多分大丈夫と思うから」

 

「あ、あなたも血だらけッ!」

 

「これ血のりだから大丈夫」

 

何だか騒がしくなってきたと思いながら、私に出来る事はないと判断して見守ってるけど今度はマキナ達の様子が―――

 

「ん? この耳付け耳?」

 

「それにサングラスに帽子……診断の邪魔」

 

どうやらラグナ人と思っていた人はただの付け耳を付けた人だったらしくマキナが付け耳をレイアが帽子とサングラスを外す。そして暴かれる素顔を見た瞬間、私の中で何かが走った。

 

「これ、何……!?」

 

胸の高鳴りが止まらず彼の顔から目が離せずに顔がすっごく熱い。

 

「大丈夫、美雲?」

 

「え、えぇ大丈夫よ」

 

心配してカナメが話かけてくるけど本当は大丈夫じゃない‥‥‥‥どこか調子の悪いのかしら、私?

そんな疑問を胸にしながら様子を見ているとマキナとレイナも私と同じように彼の顔を目にした途端、驚きの表情へと変わった。

 

「う、うそ。なんでここに……まさか、ようやく私を……」

 

「……お兄さんようやく、会えた」

 

片や驚きと喜びの表情が入り混じった表情を浮かべ、片やそちらとは違い満面の笑みを浮かべている。あの二人、彼と知り合い……なのかしら?

 

「?……ッ! まさか何処か悪い所があるんかね!」

 

そんな二人の様子を変な風に捉えたのかフレイアはあわあわと驚くばかり……これは大丈夫…なのかしら?

カオスと言って良い雰囲気が車内を包み収集が中々つきそうにないなと、私は思うのだった。

……後でフレイアに彼の名前、聞けないかしら?



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幸運な事に何もなかった‥‥‥‥なかった(涙目)

書き殴るのたのしぃぃいっぃいぃいぃぃ



 俺は不思議な場所にいる。空は白く、霧も深い。視界は白であったが不思議と遠くに大きな建物が建っている事は分かる。全体的に白く、そして紫色に発光するその建物へと誰かは向かっている。

 手には槍を持ち体には鋼鉄の鎧を身に纏って腰には装飾の施された剣を下げている。まるで何かを守る騎士、もしくは門番、そんな雰囲気が醸し出すその人はその建物へと入っていく。俺はそれを見る事しかできない。だってこれは夢で俺は存在しないって事が直感で分かるからだ。場面は切り替わり祭壇の様な場所へと移る。そこには美しい女が何かへ向かって祈りを捧げている。その場へとその騎士は近づくと祭壇の前で跪いた。

 

「※※※※※!」

 

 騎士は何かを必死で言ってるが俺には聞き取れず何を言っているのかは分からない。だがその必死さから何か大事そうな事を言っている事は分かった。

 その言葉を聞き入れたのかその女は祈るのを辞めゆっくりと振り返る。俺には顔は見えなかったのだが口元は見える。彼女は笑っていた。何か、そう何かようやくかって感じが読み取れる雰囲気を出し、そして頷く。

 

「※※※! ※※※※※※!!!」

 

 騎士は突然飛び上がると嬉しそうに燥ぎ始めた。その様子を女はただ嬉しそうに見つめていたのだった。

 そしてふっと急に意識が薄れ始めると女は俺へと振り返る。

 

「※っ※でも早く※※い※※、※※」

 

 そう呼び掛けられると同時に俺は意識を手放すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が覚醒するのを感じる。それと同時に俺のいる場所の匂いを認識す──―って薬品臭さッ! 

 

「っは!」

 

 余りの薬品臭さに目を開くとそこは──―知らない天井だった。

 

「ってこれは前世で使いまわされたネタだね」

 

 いや、俺ってば誰に言い訳してんだよ。首を横へと振り辺りを見回すと‥‥‥‥って全方位カーテンが閉められててわかんない。雰囲気的にどっかの医療室、もしくは病院だと思うけど……ってなんで俺ってばここに居るんだっけ? 

 

「ん──……ッは! そうだった!」

 

 少し前の記憶を掘り起こし、そして思い出す。そうだったそうだった、確かフレイアちゃんを慰めてたら突然乗ってたゴンドラが止まってそれで……‥‥っは! 

 

「フレイアちゃん!」

 

 俺は邪魔な掛布団を吹っ飛ばし立ち上がろうと────―

 

 むにゅ

 

 ────したんだけどなぁ~。

 

「むにゅ?」

 

 何か右手で柔らかい物を掴んだ感覚がする。手元へと目線を移すとそこには緑色の髪をした顔が────

 

「……お兄さん掴むならそこは胸にしないと、ラブコメ的展開的に考えて」

 

 ──―ジト目でこちらを覗いていた。

 

「いや、肩で助かったと俺は思うよ、うん。そこで胸なんて触りようものならロリコン扱いされてもおかしくないからね」

 

 肩を掴んでいた手を外しフリーズしそうな頭を回す。

 

 えっと今の状況を整理すると。

 

 目が覚める。

 ↓

 ベットで寝てる。

 ↓

 フレイアちゃんの事を思い出して起きる。

 ↓

 柔らかい物を揉む。

 ↓

 直ぐに確認するとそれはレイナの肩だった。←今ここ! 

 

 何故コイツは俺と添い寝してんだ? 

 

「お兄さんの筋肉、前と変わらず柔らかかったね……フヒヒ」

 

 まぁ、筋肉は付きにくい方だからなぁ。

 俺は地味に悩んでいる事を思い思い出しながらレイナと一緒に住んでいる時の事を思い出し、懐かしく感じる。一緒に住んでる時もよくこうやって甘えて来たよなぁ……ってそんな事を考えてる暇じゃないんだった! 俺は改めて起き上がるとレイナを起こし両肩を掴み向かい合う。レイナはそれに対して目を瞑り何かを待っている体勢となったが……なんで? 疑問に思いながら顔を傾けると何かを諦めたのか今度は俺の胸板に顔を埋める。……コイツ、昔からやってた癖、治ってなかったのか。

 

「レイナ」

 

「クンクン、なにぃ? クンクン、お兄さん」

 

「……なんで俺の胸板を嗅いでるのかは分からないがそれはどうでもいいとして、フレイアちゃんは、フレイアちゃんはどうなったんだ!」

 

 他の人から見たらふざけてる状況だと思う、俺自身もふざけてるんじゃないかと思うけど今聞いてる事は真剣そのもの。下手したら1人の命がかかってるしあの子に不幸な事があるって考えると嫌だ。レイナは俺の質問に答える為かクンクンモードを停止させそのまま顔を上げる。でも、なんか様子がおかしいような気がした。ん? どうした? 

 

「今は私がいるのに……他の女の話?」

 

 そういってこちらを覗く目。そこには一切の光が無く闇そのモノ。……アレか、別れる時置手紙のみ残し黙って去った事を今でも怒ってる事が原因か。でも言い訳ぐらいはさせてくれ、あの時は新統合軍に冤罪かけられて逃げる必要があったからそんな事をしたんだ。時間さえあれば一言二言残していったとも。

 

「他の女の話?」

 

「いや、確かに女の子だけど言い方悪すぎ──―」

 

「他の女の話?」

 

「だから言い方が──―」

 

「他の女の話?」

 

「言い方「他の女の話? 他の女の話? 他ノ女ノ話? 他ノオンn「うるせぇぇ! レイナは銀河SNSのbotアカか!  それと黙って去った時の事は許してくれ、過去メールで送ったように事情があったんだ」……ご、ゴメンそれとその時の事はユルサナイ」

 

 ボットになりかけたレイナを正気に戻しつつ俺は再度聞く。あと許してくれよ……

 

「もう一度聞くが俺と一緒にいた女の子、フレイアはどうなった?」

 

 真剣な声色を意識しながら出し聞くと俺が真剣だと言う事を理解してくれたのかちゃんと答えてくれた……俺の匂いを嗅ぎながら。

 

「クンクン、フレイアなら、クンクン、大丈夫、クンクン、怪我は、クンクン、な、クンクン、ない」

 

「……匂い嗅ぎすぎじゃね? 俺ってばそんなに臭い?」

 

「臭くない、けど臭い」

 

 地味にショックを受けながらレイナのなすがままにされる俺。マジか……俺ってばまだ24ぞ、加齢臭には早いと思うが……食生活に原因があるのか??? 

 過去俺に恨みつらみを抱きながらこれから栄養はきちんと取ろうと誓う俺は匂う事に対してショックは受ける。しかし同時にフレイアちゃんが無事だと分かりよかったとも思った。フレイアちゃん無事でよかったぁ~、結局フレイアちゃんが歌い出したところから俺ってば気絶してたから、本当によかった~……ってか。

 

「ってか、レイナ」

 

「ん? なに」

 

「ここ何処?」

 

 そぉーだよ、フレイアちゃんの無事を確認した後は冷静になって気付いたけど俺自身の置かれた状況を何一つ理解してないじゃないか、普通にやべぇよ。見たところさっきと同じでここは医療室かどこかだと思うけどマジで何処だここ? 

 

「ここは医務室、私達ワルキューレの拠点としてるエリシオンの医務室だよ」

 

 な、なるほど、やっぱりお前さんってばアイドルなのね……それに歌って色々な人を救いまくってるってランカとシェリルかよ。

 

「わざわざ俺をここまで運んでくれたわけか……ありがとう」

 

「お礼なんか、いい。巻き込んだのと怪我は元々を言うと私達が原因」

 

「ん? それは一体どういう事……? 」

 

 気になる事もあるがとりあえず今の状態、女の子との添い寝状態は他人から見られたら極めて不味いと思うのでベッドから出るため、床へと足を伸ばすんだけど────

 

 ふにゅ

 

「ん? ふにゅ?」

 

 何か、柔らかい物を踏んだ。それは地味に生暖かく、布の感触のする程よく反発力のある物を踏んだ。俺は足元へと目を向ける、するとそこには──―

 

「きゃ! もう! いきなりSMプレイだなんて、大・胆ね♪」

 

 ──―満面の笑みを浮かべ、頬を赤くしていたマキナが寝ていたのだった……ってか何してんのよ、あんたさんは。

 




誤字や文面が変だったら遠慮なく誤字修正してもええんやで?


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運が良い事に借金は出来ましたが仕事が見つかりました

ふぅー、リアルの用事がようやく終わりやっと続きが書けるゼェ。コメント返信はちょっとお待ちを、まだ次回を書いている途中なので。


「えっと、この書類の情報を整理するにつまりは俺の呼び出したYFー29ちゃんが紆余曲折あっておたくの所有する乗り物を大破させてしまったと?」

 

「端的に言えばそうですね」

 

 赤毛のワルキューレのアイドル、カナメさんの告げる現実とそれを裏付ける書類を前に俺は頭を悩ませ、そして思考する。あぁ~なんでこうなったんだっけ? 

 

 今の状況への入りを説明するには時を数分前に戻す必要がある。俺は病室と思われるベットから這い出て立ち上がろうとする、するとそのタイミングでベットの下からはマキナがこんにちわとばかりに姿を現した。

 俺はそれに気付かず踏んでしまい、マキナの両親に見せられないような表情を晒しているところを見てしまい正直気まずくなる。

 あぁ~……ホント今度会ったらどうしよう。とりあえず引っ付き虫の様に引っ付いたままのレイナをそのままに、俺は立ち上がりそのまま一言も発さずに無言でマキナをベットの裏から引きずり出すと俺を囲むカーテンを開け放ち近くにあった椅子へと腰掛けた。

 

「きゃ! もう、強引なんだから……でもそんな電ッチの事も好き」

 

 それに対して何故か頬を赤く染め、恥ずかしくも嬉しそうな表情でこちらを見つめるマキナ……まったく、なんでこんな性格になったんだか。

 

「マキナ、確かに久しぶりの再会は俺も嬉しいよ」

 

「うんうん! 私もすっごく嬉しい!」

 

「でもね、せめて普通に再会したかったなぁ……」

 

 昔からお転婆な性格でよく俺を困らせてたからその性格は治らないだろうと思ってたけどまさか、お転婆に磨きがかかって更なるパワーアップを果たしこんな風な再会になるとは思ってなかったぞ。

 あとレイナ、張り付くならせめてオンブの体制になってくれ、今の宙ぶらりんの状態だと首を絞めてるから。正直苦しい。

 

「だって早く会いたかったんだもん……」

 

 そうそうその体制その体制……なんか昔を思い出すな。昔は一緒に住んでた頃よくせがまれてこんな事をしてたっけなぁ~懐かしい……え? マキナとはどういう関係だって? 

 

「ずっとメールでのやり取りだけで電話一本よこさないんだもん、私だって我慢の限界」

 

 ん~、改めて他人に話すとなると難しいなぁ……一言でいえば友達の娘って感じだし──―え? 他人じゃない? ルームメイトで親友? ……自分で友達作れたんだなぁ、俺は嬉しいゾ。

 

「それにお父さんと私との約束の答えだってまだもらってないわけだし、目覚めたら一番に話したかったから──―ってレイレイはいつからそこに?」

 

 しみじみと改めて娘同然のレイナの成長を身近に感じ、引っ付いたままの体制で頭を撫でてると何か語っていたマキナもレイナの存在に気付いたみたいで驚いた顔を浮かべている。……思い込むと周りが見えなくなる癖は変わってないんだなぁ。

 

「むふふふふ……私はただ甘える女、ルールは関係なくお兄さんだけの引っ付き虫」

 

「もうレイレイッ!」

 

 イダダダダダッ! 引っ付いたレイナを剥ぎ取ろうとマキナは動くけどレイナは一向に離れる気はないらしくその華奢な体とは裏腹に凄い強い力で俺を掴んでは馴れまいとする。いや、本当に痛いから! 服だって下手したら破れるぅぅぅぅぅ!!! 

 

「は・な・れ・てッ!」

 

「は・な・れ・な・いッ!」

 

「イダダダダダダダダダ!」

 

 一触即発の攻防、レイナを引き離そうと頑張る(攻める)マキナに絶対に離れない、引っ付き虫になるとばかりに離れない(守る)レイナ。そしてそれに挟まれ正直痛すぎて泣きそう、ってか若干泣いちゃってる俺。

 

「と言うかマキナはお兄さんとどんな関係なの!」

 

「私は許嫁! そっちこそ電ッチとどんな関係なの!」

 

「私は嫁、この人を娶る者なり」

 

「あ! ずるぅーい! 私が娶るぅ!」

 

 あぁぁーーー!! 何か大声で言ってるみたいだけど音量が大きすぎて逆に聞き取れないんじゃァ! 

 傍から見ても俺から見てもカオスとしか言い表せない状況の中、ドンドンとノックオンがドアから聞こえて来る。た、助けて! 

 

「失礼します」

 

 そしてドアが開かれる。そこには何と言うか大量の書類を抱えた赤髪のあの人がいた。

 

「お目覚めですかヒビキ・シデンさん」

 

 ぬ? 俺の名前を知っているだと??? 

 俺は疑問に思いつつもとりあえず立ち上がり赤髪の人へと目線を向けるけど……多すぎませんか、それ。彼女は大量に抱えた書類を一旦近くにあったテーブルの上へと置くと俺を視界に捉えて──ーた途端レイナとマキナの攻防に目を見開かせて驚く。まぁ、この人が来た途端二人とも無言になってステレスさんを実行してたから気付かなかったんだろうなぁ〜。力は変わらずだから痛いままだけど。

 

「ちょっと二人とも、目覚めたばかりの怪我人に対して何やってるの!」

 

 そのままプンスカプンスカなどの効果音が幻聴で聴こえてくるような怒り方をし俺から二人を引き剥がすとその場で叱り始めた。

 

「二人の気持ちは昔からよく聞かされてたからわかるけどこの人はまだ目覚めたばかりで何も分かってない状態なのよ! それに対して────」

 

「うぅ〜、カナカナごめんなさいぃ」

 

 うぁーお、あのおてんば鋭い切れる天然として俺の中で有名なマキナさんが素直に説教を受け止めてやがる。すげぇ、あの人すげぇお母さん(ぢから)だ。

 

「謝罪、反省、でも後悔はしてない」キリッ

 

 あとレイナさんやい、キリッてなんだよキリッって。後悔せずにドヤ顔してんじゃないですよ。そんな態度だと追加のお叱りをくら────

 

「ならヨシ!」

 

 ────って、それでいいんかい。

 ツッコミが止まらない一幕。俺は大人しく見る事しかしてないけど何だかこのマキナ命名カナカナ氏もこの二人と同じポンコツ臭がしてきたぞ。

 フロンティアから培ってきた経験からこの人もポンコツな人かな? と疑問に思いつつも二人を叱り終わるのを待つしかなかった。

 

「本当にすみません、身内の恥を晒してしまって」

 

「まぁ二人とは昔から付き合いがあるので大丈夫です、ハイ」

 

 大丈夫ではあるけどかなり長かったなぁ、説教。正座して叱られてた二人なんて足が痺れて水あげされたばかり魚の如くピクピクと震えてるし……やべぇ、めちゃくちゃつっついてイタズラしてぇ。

 

「いたたた……ん! 電ッチ今イタズラしたいとか考えたでしょ?」

 

「考えてません、心をナチュナルに読もうとしないでくだされ」

 

「でも絶対考えた、証拠に鼻がヒクヒクし──」

 

 ウッソだろお前!? 俺は急いで鼻を隠した────って、なんで笑ってんのさレイナ。

 

「──てないね」

 

「でもマヌケは見つかった」

 

 オーマイガー、俺っちてば完全敗北。ガッカリと頭を下げて両手を上げて降伏宣言。片方なら勝てると思うけど二人一緒だと勝てねぇや。

 

「ゴッホン!」

 

 そんな茶番劇をやっていた俺らを待っててくれた赤髪の人。ごめんなさいね、茶番ばっかりして。

 俺はイタズラしたい気持ちをグッとグググっと押さえて赤髪人へと対面した。

 

「改めまして、戦術音楽ユニット、ワルキューレリーダー、カナメ・バッカニアです」

 

 そして差し出される綺麗なよく手入れされたお手。すげぇ、ビリーに手入れされたぐらいに白く澄んでいやがる。俺もメイク技術を仕込まれたけれどここまでのは不可能だ。……今度聞き出すか。

 オカマな友達に今度手入れの仕方を聞き出そうと心に誓い、それに応じる形で俺は握手した。

 

「どうも、元SMS──って多分知ってますよね」

 

「えぇ、噂はかねがね」

 

 絶対デルタ小隊の隊長さんが話したなコリャ。

 不幸だと感じながら促されるままに椅子へと座った。すると持ってきていた大量の書類の一番上に重ねてあった書類を取り出して俺の前へと────ファ!? そして、今に至る。

 

「ど、どうしよう」

 

 ヤバイよ! ヤバイよ! ヤバイよ! まだ働き口も見つかってないのに借金抱えるとか何処のクズだよこのやろぉ! いや、本当に不味いぞ。残ってた貯金はバルキリーの修理代で吹っ飛んで残りはカスしかねぇ。マジどうしよう……

 バルキリーを最悪売るか? と考えはじめた所でカナメさんがもう一枚の書類を出した。ん? なんだろ?? と気になり読んで見るとそれは民間軍事会社ケイオスへの雇用契約書だった。

 

「そこで提案なのですが貴方の腕をかって、我が社のパイロットの一人として働いてみてはいかがでしょうか?」

「」

 

 わ、渡に船すぎる! 

 契約書によると給料も悪くないみたいだし福利厚生、死亡保険まで付いてくると来た。それに働けば借金利子をゼロにしてくれるし俺の所有するバルキリーを無料整備までしてくれるらしい……やべぇ、何気にS.M.Sより高待遇かもしれねぇ。なんでここまで高待遇なのかがちょっと気になるけど今の俺に選んでる余裕は、ない。

 

「よろしく、お願いします」

 

 そんな風に考えながら俺は頭を下げ、その提案を受け入れるしかなかった。

 

 

 

 

「……作戦」

「……成功」

 



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第三話
ケイオスでの新たなる日常


待たせたな! ちょっちウマ娘とか新章の解放されたFGOとか色々と重なって全く書けてなかったぜ!


 結論から言うと俺はカナメさんからの提案で俺はケイオスへと入社した……ってかするしか道がなかった。あの持ってきていた大量の書類は用意周到な事に俺が入社する際の契約書やら必要事項やらその他諸々だったようだ。準備いいですなぁ。いつの間にかいなくなっていたマキナとレイナを他所に俺はひたすらにその書類群と格闘、手首が痛くなるほどの量の書類を書く事となった。まぁ、契約書にちゃんと借金の利子が無くなる等の記載があったからよかったちゃよかったけど今考えると不自然なほどに手続きがトントンと進んでいったな……なんでだ? 

 

 

「契約完了です。ようこそ、ケイオスへ!」

 

「は、はいぃ…」

 

嬉しそうに話すカナメさんの横でこちらを見るマイクロン化しているはずのゼントランの艦長、体大きくて怖かったな……

 

「……」

 

 

 

 その後、事務的な手続きを終える俺だったけどその後にやった簡易的な試験の結果で俺の抱える問題が浮き彫りとなってしまった。それは……俺がワルキューレの事を、ヴァール化の事知らなすぎる事と重力下、特に大気層での空中戦闘を苦手にしている点だった。

 

 いやー、これはマジでみんなびっくりしてたなぁ。操縦適正を測る試験官にデルタ小隊の隊長さんが担当してたけど俺の結果に驚いてスルメ落っことしたぐらいには驚いてたな。

 

 ワルキューレに関する点は俺が銀河の辺境ばかり旅していたことが理由で情報を会得していなかった事に原因があるか学べば問題無いんだけど空戦に関すしてはひたすらに訓練するしかない。

その結果、扱いはデルタ小隊の臨時隊員って事になったけどハヤテの訓練に混じって候補生用訓練コースを受ける事に……ほんっと俺ってば宇宙じゃないとダメだなぁ。

 

「────で、あるからしてワルキューレとは日夜……と言っても政府からの要請があればですがヴァール化対策の対抗策として各所でライブ活動を行なっている訳です。ご理解頂けたでしょうかヒビキ中尉」

 

「なるほどね、理解する事を放棄した方が一番良いと理解した方がいい事を理解した。バジュラのインプラントを狙撃した方が簡単だったゾ」

 

「……普通そっちの方が難しいじゃないか?」

 

 馴れない手付きで一生懸命にケイオスが行なっているワクチンライブの内容を事細かく説明してくれるミラージュ少尉……って今は教官か。だけども俺はこれまで飯食って、宇宙でバルキリーかっ飛ばしそして牛乳飲んで寝る! ってな生活を8年間も繰り返し脳が退化してる為かS.M.S時代ほど内容を理解できず、ってか難しいことは理解する事を脳が放棄してしまった為に成績がくそったれ程に悪い。すまんな、ミラージュ少尉、俺が頭悪くて。

 

「っく! それにしてもインメルマン候補生は私の授業を受けるつもりがないのですね……いったい何処に行ったんだか」

 

「見た目から明らかに雑学嫌いそうでしたもんね、彼」

 

「ヒビキ中尉ももぉぉぉ少し、もぉぉぉぉぉ少しッ! 理解できるように頑張りましょう」

 

「お、おう。宇宙戦のコツ教えてあげるからごめんね」

 

 ハヤテはハヤテで飛ぶ以外の事が嫌いってか気乗りしないみたいで実習以外の項目はあらかたバックれる始末。流石に艦長が担当する柔道の授業もバックれるとは俺も予想外だったけどなぁ。マンツーマンタノシカッタヨー

 ヴァルキリーでの実習の時間もまぁ、最悪だったなぁ。

 

「おーちーるー!!」

 

【ヒビキ中尉! 機体を戻して!!】

 

【か、風に逆らって飛んでやがる】

 

 ハヤテの言う風に乗るって言う感覚が俺にはどうしても分からないので訓練用のVF-1EXに乗って訓練するけどAIサポートがないとまともに飛べないのだ。……コレで本日墜落回数通算44回目だよとほほほぉ~。

 何度も何度も機体の高度は下がりに下がり海面へとダイブしかけたの所でAIサポートが機能、機体を起こしてくれるけどもっと早くに機能してくれませんかね? 

 

「あぁ~、また墜落したぁ」

 

【中尉、無事ですか!】

 

「無事だけどやっぱり馴れない機体だとキッツイね。早く俺の愛機で宇宙を飛びたいよ、まったく」

 

【アンノウンを退けるほどの腕があるのに重力下での飛行技術は壊滅的‥‥‥‥よくあの時生き残れましたね】

 

【そういばヒビキの機体にあったシミュレーターって宇宙用のモノしかなかったよな】

 

「っこの、言う事を聞け、VF-1……ん? 二人とも何か言ったかい?」

 

【い、いいえ何も】

 

【な、何でもないぜ、続きを早くやろう】

 

「?」

 

 二人が何を話してたか運悪く聞き取れなかったけど、ホントこの機体素直すぎる。

 YFー29の時は随分昔に組んだサポート用プログラムが悪さして操縦に難ありな癖があってそれを前提に操縦していたから何とかなってたけど訓練用のVF-1は癖が無くて逆に扱いにくいほど操縦性が素直だ。癖のある機体にしか乗って来なかった俺にとっては相性最悪。だからこそ重力下での訓練は俺の愛機を使いたかったんだけども……俺の愛機は──

 

 

「ごめーん! あんまりにもボロボロだったからオーバーホールに出しちゃったテヘペロ」

 

「整備、大事、ボロボロ、危険」

 

「──……マージか」

 

 

―――現在ケイオスの総本山で整備中らしく手元にないです、はい。まぁ、何年も乗り回してあっちこっちガタが来てたのは知ってたけどまさかオーバーホールするほどだったなんて……運がよかったって事だよなぁ。そんなこったで俺の愛機は取られた状態、だから乗れる機体も必然的にVFー1EXになるわけども‥‥‥‥正直愛機と離れ離れなのはキッツイですよぉ。

 

 訓練が終わり、夜になると俺達は下宿先へと帰る。そこはフロンティアで見た事のあるような気がする店、ラグにゃんにゃん。同じ小隊の仲間であるチャックさんの家兼店兼男子寮らしく、食べに来たお客さんでいっぱいな人気の店。出される料理も美味しくてチャックさんの兄弟たちがエントランスを務め愛想も良く、サービスも良い。極端に言うと凄くいい店って事だ。大体夕ご飯時になると小隊皆やワルキューレのメンバーも揃ってこの店に集まり、食事するけど……ある意味俺にとっては試練の時間とも呼べる時間となるかもしれない。

 

「いいから、生のクラゲ、食べて」

 

「俺は生のクラゲは食べないってば!」

 

「だったらこの姿焼きを──」

 

「フェイスハガー!?」

 

 右からはレイナから生のクラゲって言う地元の人でも珍味と呼ばれる料理を押し付けられ、左からはニコニコとした顔でどっかの映画で見た事のある顔面に引っ付きそうな生き物の姿焼きを進めてくるマキナ……地獄かな? 

 

「にしし、ヒビキさんモテモテやんね」

 

 そしてそれを笑いながらアプジューを啜るフレイアちゃんって──

 

「あ、フレイアちゃんだけズルいぞ! すいませーん! 俺にもアプジューくださいッ」

 

「あいよ、アップルジュース追加!」

 

「アップルジュースな」

 

そんなこんながケイオスに入社してからの日常。まぁ、なんやかんやとトラブルにも遭いながらも元気にやってますとも。

 

 

 

「ハァ……此処は居心地がいいなぁ」

 

皆が寝静まった月夜、俺は1人海辺を歩いていた。こんな綺麗な場所久しぶりだ、最後に見たのはフロンティアでの環境艦以来だろうか。

皆とどんちゃん騒ぎの夕食を終えた後、自身の家へと俺を連れ去ろうとするレイナとマキナを無理矢理追い出し男子寮であるラグにゃんにゃんが俺の塒になった。ルームメイトのハヤテは相変わらずいい奴だしデルタ小隊兼ラグにゃんにゃん店主のチャックは陽気な面白い奴、チャックの兄弟の三人は悪ガキだけど兄に似ていいラグナ人だ。携帯の強制契約については後でチャックに鉄拳制裁を行ってもらう必要があるが。

それで最後の1人であるメッサ―さんだが……あの人、すっげぇ愛想悪いけど良い人のようだ。まだ短い時間しか一緒にいないから細かくは分からないけど一緒に飛んで分かった。どんなに無茶な飛び方をしてもさりげなくフォローできる位置で何時もスタンバっている。何かあっても一目散に駆け付けられるような飛び方だ。だから彼は素直じゃないだけで仲間思いのいい奴。でもなぁ~彼のあの飛び方、どっかの宇宙(そら)で見た事があるんだよなぁ?

 

 まぁそんな生活をしていて俺はもちろん楽しい。いつも1人で宇宙を飛び回り、運が悪い出来事に出会っては運が良い事にそれを回避し続けた生活を送って来た俺にとっては想像も出来ない生活だ。まるでフロンティアで生活していた頃に戻ったかのよう――――でも、俺にとってはちょっとキツイ生活だ。

俺は1人でいた時間が長すぎたようで集団生活がちょっぴり苦痛。

 

「――――……1人でいた時間が長すぎたかな?」

 

酒を持ち、何もない砂浜に腰を下ろす。綺麗な海をツマミに久しぶりに酒を煽った。ラグナの酒は塩っ辛いなぁ。酒を飲む機会が少なかった影響かちょっぴり口に苦みが残るけれどこの考えを取っ払うには酒の力を使う方がちょうどいい。

 

 疎外感って言うのだろうか。多くの人に囲まれ、一緒に過ごしていても何処か俺だけが仲間外れになっているのようにも感じている。レイナやマキナ、そしてハヤテやミラージュ教官と一緒に学び話していても――――言葉に表せない何かを感じるんだ。辛いって訳でもない、けど何だか寂しい気

持ちになる。これまでなかった感情だけど何でこんな事になったんだか……

 

「ハァ……何だかなぁ」

 

海風が俺の貯め息を優しく消し流し、波の揺れる音が木霊して綺麗な音色を奏で俺を癒してくれる。ほんっと今夜は夜空が綺麗なぁ。

酒を煽り、気持ちよく過ごしていると――――

 

「―――――」

 

音色が聞こえる。波の音に紛れて綺麗な音色――――と言うか歌が静寂に包まれている夜に響いて何と言うか良い雰囲気だ。どこから聞こえるんだろうか?

何となく聞き覚えのある歌に釣られ酒を片手に足を運ぶ。砂浜を歩いて行くとそこにはまるで月の光がスポットライトのように照らし出され、幻想的な雰囲気の中で歌う綺麗な女がいた。

 

「――――」

 

美雲さんは歌っている。綺麗な紫色の髪を風に靡かせ、紫色のドレスに身を包みその姿はまるで妖精のよう。だけどもその姿に俺は何処か見覚えがあり、過去に何度か会ったような――――確か名前は美雲さん……だっけかな?

 

「――――……綺麗だ」

 

正直その姿に俺は見惚れてた、そして何故か安心感も。なんでだろう、これまで女性に見惚れる事はあっても安心感なんて感じる事は無かったのに。

近くの岩場に腰を下ろした俺は酒を一口。綺麗な景色をツマミにするのもいいけれど綺麗な女性をツマミにするのも良いな。

そうやって酒を煽っているとこっちに気付いたのかこちらへ振り返る。おっと、コレは謝った方がよさげかな?

 

「すまないね、綺麗な歌声が聞こえていたもんだから勝手に酒のツマミに―――「苦手なお酒に頼るだなんて、何かあったのかしら? ヒビキ シデン」―――お、おう」

 

確かにそうだよな。忘れる為とは言え、苦手な酒を態々飲む必要は――――って。

 

「何で俺が酒嫌いって事知ってるんだ? それに名前――――」

 

俺の質問の返答は魅力的な笑顔のみ。その笑みはとても綺麗で俺の疑問もスルッと抜け落ち――――って違う! っく、美人は存在してるだけで優れているってミシェルが言ってたけど本当なんだな。すまんミシェル、その当時否定してしまって……後で詫びに過去付き合っていた女の子の詳細、俺が知っているの全部奥さんに送るから許してくれ。

 

酒を一先ず飲むのを辞め、俺は立ち上がって彼女の元へ。しっかし見れば見るほど美人だな、フレイアちゃんが言っていたミステリアスレディーってのも納得だ。

 

「あら、質問に対する答えがもらえないから怒ったのかしら?」

 

「いや、これまで誰にも話した事のない事を知っているのかなぁ~って考えてただけなんだけど」

 

「へぇー」

 

「な、なんですか」

 

突如としてドアップされる美人。まるでキスすかのようなギリギリの距離に顔を近づける美雲さんの瞳は綺麗に輝いていた。

っち、近いってか良い匂いがしてある意味ツライ。マキナとレイナで美人局の人からの顔面ドアップは馴れてるつもりだったけどコレは――――キツイ。

 

「近い、近すぎまっせ美雲さん!」

 

咄嗟に顔を離すと「初心なのね」なぁーんて言いやがるが仕方ねぇだろ、俺ってば見惚れたタイプの美人さんには弱いんだから。

 

「なんでそんなに顔が近いんですかねぇ……」

 

「てっきり眼つきが鋭い事から怒っているのだと思ってたんだけど気のせいみたいね」

 

「いや、これは生まれつきなんだけど」

 

人が悩んでいる事について軽々しく言いやがるぜ。あれかな? この人はシェリルよりもフリーダムで自由過ぎる人なのかな?

 

「ハァ……また変なのに絡まれちまったぜ」

 

「変なのとは失礼な人ね」

 

ブスっと怒っているようにこの人の雰囲気に反してアピールしてくるけど俺にギャップ萌えは聞かん! ギャップ萌えの耐性ならシェリルとアルトとの間柄を取り持った経験からとっくに馴れているからな!

 

「生憎と貴方みたいな人の扱いには馴れてるんでね」

 

「へぇ、過去に私みたいな人と――――ふん~」

 

お、怒ってるのかな? 突然の変化に俺は付いて行けず呆然とする限り。と、とりあえず今度こそ謝った方が良いのかな?

 

「ご、ごめんなさい?」

 

「……」

 

謝るけどブスっとした雰囲気は変わらず。苦笑いしか浮かべる事が出来ない俺に何か納得したどうしたのかは分からないけど吐息を一つ吐くと手を差し出した。な、何だ?

 

「許してほしかったら私と一曲踊ること、良いわね?」

 

いや、いきなり一曲と言われましてもその展開に付いて行けないですけど。

 

「えっと……」

 

「ハァ、貴方の事だから音楽がないと踊れないって言いたいんだろうけどその点私に抜かりはないわ」

 

困惑していたら彼女は後ろへ数歩下がり、カチリと音がした途端音楽が流れだす。音源へと目を向けるとそれは今の時代まず見る事はないカセット式のレコーダー。そのレコーダーからはまるで社交界で流れるようなゆったりとした音楽が流れている。聞き覚えがある曲なんだけど一体何処で聞いたかな……思い出せねぇ。

 

「これで文句はないわよね」

 

「ま、まぁ」

 

俺はその手を取り彼女の腰へと腕を回す。俺ってば()()()()()()社交ダンスぐらいの踊りぐらいならフロンティアの時、習って知ってるからな。

 

「それでは一曲」

 

「えぇ、最高な一時にしましょう」

 

ゆっくりと踏み出しながらも体を揺らし、音楽へ体を浸すかのようにリズムに体を合わせる。彼女もその動きに合わせてくれているみたいでかなり踊りやすい。ってか何で俺ってばこの人と踊ってんだろ?

 

「―――楽しいわね」

 

「えぇまぁ、それなりに」

 

月夜の照らす夜。音楽が終わり海風と波の潺が静寂を支配する中、俺達はその音さえBGMとし踊り続けていたのだった―――




マクロス40周年、おめんとぉぉぉお!


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運が良い事に空を飛べました【前編】

「卒業試験としてミラージュ教官と」「模擬戦「だとッ!?」」

 

 おい最後の誰だ。チャックか、後で三枚に下ろしてやる。ハヤテも協力──―ってアイツ逃げたな。

 チャックの悲鳴を聞きながらも俺は包丁片手に走りながら考える。アイツの肉厚な腹は三枚程度で足りるのか……っと。

 

「って、そんな事考えてる暇ねぇ! どういう事ですかアラドさん!」

 

「お、戻って来たな。続きを話すぞ」

 

 スルメを齧り、酒を煽りながら端末を操作する。こんな真昼間ってか朝っぱらから酒なんてよく注意されねぇよなぁ。

 

「率直に言うとまずお前たちには決闘をしてもらう」

 

「決闘? ハックションッ!」

 

 いつの間にか戻って来ていたハヤテが聞き返す。おいハヤテ、頭にウミネコ張り付いてんぞ。ハヤテへ引っ付くウミネコを取りながら聞いた説明の内容はこうだ。

 

 

 生徒であるハヤテと教官であるミラージュ少尉が一対一のドックファイトを行う。どちらも使うのは俺達が訓練で使用したVFー1で弾はもちろん模擬弾であるペイント弾らしい。公平を期すためにメッサ―が同行するとの事。俺の場合はメッサーが相手みたいだけど──―勝てるのかね? 

 

「なぁアラドのおっさん」

 

「何だインメルマン」

 

「その条件だとヒビキがちっとキツクねぇか? ハックションッ!」

 

「そーだ! そーだ! ってかコイツ取れねぇぇぇ」

 

 墜落回数総数289回。平均一日に9回は墜落している俺にとってはこの条件、かなり厳しい。だってドックファイト所かまだまともに飛んですらないんだぜ。機体自体に問題は無いしシュミレーターを使った訓練では俺はちゃんと飛べてる。けど実機を使った訓練となるとまた話は違って来て、俺はまだ自由に飛べてすらねぇ。そんな状態の俺を模擬戦に連れ出そうだなんてちょっと厳しすぎません? 

 

「その点は問題ない。お前にはマキナ、レイナ両名からのとっておきが用意されているからな」

 

「とっておき?」

 

「あ、何だか嫌な予感が──―っとわぁッ!?」

 

「取れたか」

 

「ヒビキ! だいじょ──―ふぅふぁッブックションッ!」

 

 妙な胸騒ぎを感じながら俺はウミネコと共にぶっ飛んだのだった。ってかメッサ―いたんだね、影薄かったから気付かなかったぜ。

 

 

※※※

 

 やはりアンラッキーの異名は伊達じゃないって事か。

 

「なぁアラドさん」

 

「何か言いたげだなチャック。大方何故一度もまともに飛べていないヒビキを模擬戦なんかに出したかを聞きたいんだろ?」

 

「うっす」

 

 確かにチャックの気持ちも分からない訳でもない。俺だって今の所新米以下の腕であるアイツを空に出し戦わせるだなんておかしいと思いが……あのデータを見ちまったからなぁ。

 

「だがチャック、思うにアイツが毎度の如く墜落する理由はなんだと思う?」

 

「うん~……色々と考えられますが単純に機体操作の腕とかそんなんじゃないっすかね?」

 

「だよなぁ、俺も最初はそう思ってたんだが────これを見て見ろ」

 

「これって────」

 

 渡したのはアイツ、ヒビキのこれまでの飛行データ。これを見る限り何らオカシイことはないのだが────同時に表示しているもう一つのデータと比較しちまうと誰だって驚くよな。

 

 アイツの飛べない理由、それは単純でソフト側ではなくハード、つまりは機体側にあった。ヒビキの入力速度そして反応速度は異常なほど速い。

 普通の人間が操縦桿を握り一つの動作をする間にアイツは5つも操作しやがる。だから常人用に調整されたOSじゃアイツの操作に付いていけず、機体のコントロールがおぼつかず毎度の如く墜落しているって訳だ。でもそれぐらいなら直ぐに発覚して機体を調整すれば済む事なんだが、タチの悪い事に今回はOS側が悪さし瞬間的に複数回操作するアイツの入力に認識が追い付いておらず、最終入力したコマンドしか履歴に残っていなかったから発覚が遅れやがった。

 マキナとレイナが見つけたからよかったものを見つからなかったらこんな提案できなかったからなぁ。

 

「でも! これに対応する時間はないんじゃぁ―――」

 

「大丈夫だ心配ない。言ったろ、マキナとレイナが何とかしてくれるってな」

 

 もうすぐハヤテ達の演習が始まる。恐らくハヤテにとって重要な戦いになると思うが俺的にはそれも楽しみだがその後にあるメッサ―VSヒビキも楽しみだな。

 

「さてさて、どうなることやら」

 

※※※

 

 

「────っで、マキナ、レイナ。これの言い訳を聞こうか」

 

「えっと……」「これは……」

 

 二人して正座する後ろに存在するは真っ黒の機体。エメラルドグリーンのラインが入ったその機体は色は一緒の物ではあるのだが、俺の知らない機体がそこにあった。え、マジで俺の機体どこ行ったの? 

 

「俺は確か機体の全面オーバーホールとしか聞いていなかったんだが……何故機体そのモノが変わってるのかな?」

 

「実は……電ッチのデュランダルちゃんは──―」「──酷使し過ぎ、ズタズタ、ボロボロ。既にお釈迦で使い物にならない」

 

「マジか」

 

 確かにアルシャハルでの戦いの後、現地パーツのでの応急修理で飛んでいた状態だったけどそんなにボロボロだったとは……流石に8年乗ってたら乗り潰す事にもなるか。でもさぁー

 

「なぁーんで一言も説明してくれなかったのかなぁ?」

 

 機体としては俺の元の機体、YFー29とそう違いはない。4発のエンジンにフォールドクウォーツの散りばめられたコックピット周り。けれど何だか一回りぐらい大きくなってんだよなぁ。延長された機首に前の機体にはなかったカナード翼。明らかに大幅に改造されてるだろコレ。

 

「その言葉を!」「待ってた」

 

なぁーんて考えてたらその言葉を待ってましたと言わんばかりに二人が勢いよく立ち上がった。ッうぉ! ビックリした。

 

「この機体の名は電ッチもご存じVF-31 ジークフリート! でもただのジクフリちゃんじゃなくて────」

 

「──―整備クルーの皆で改造してロマン装備を満載した専用機、実用性皆無、最高」

 

 待って、二人とも待って。情報が渋滞起こしてる。俺の理解力の低い脳じゃ一遍に理解できないからちょっと待って。いや、そんな満面の笑みを浮かべながら二人してピースされても俺が困るだけだから。ホラ、整備員のハリーさんまでピースし始めちゃったじゃない、だから止めなさいったら──────―ハァ。吐息を一つ吐くとレイナが渡すには端末。何だよ、コレ。

 

「お兄さんコレが仕様書」

 

「お、おう」

 

 紙じゃないんだな。S.M.Sにいた頃は機体の仕様書は紙で渡されたけれどここじゃ情報端末なんだな。──―いや、むしろこの時代で紙ってのがおかしかったのか? 

 

「よぉーっく読んでメサメサに勝ってね♪」

 

 そう言ってマキナはウィンク残して行ってしまった。いや、そう言われても明らかにコレ初見の機体だよね? こんな機体に乗って戦えって……コイツはキツわぁ。

 

「大丈夫お兄さん、私がちゃんと説明するから」

 

「た、頼むわ」

 

 レイナ、お前だけが頼りだ。ほんとに頼むぞぉ。

 

「任せて。気分は泥船乗船、安心安全」

 

 ……それって最後沈むよね? 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁーってやってやりますか」

 

 メインモニターに映るシステムを手順道理に操作し、アビオニクスを起動。すると自動的に機体のシステムチェックが行われ、エンジンに火が入った。徐々に回転数が上がりそれと共に画面が黄色へと切り替わる。

 

 出発手順には前のデュランダルとそう変わりないな。

 

 エンジンの回転数が上がり轟音をあげ出すと機体は待機状態からモニターと共にモードが切り替わる。それと同時にカタパルトへと続いた運搬装置が機動し機体を所定の場所へと移動を開始した。操縦桿を握り、フットペダルとでスラスターの可動域とフラップなどのチェックを行う。システムチェックも終了しモニターには機体がオールグリーンで表示され、異常なしと表示されたのだった。するとメインモニターに頭にクラゲを乗っけてるミズキさんが表示された。

 

「こちらデルタ6システムチェック完了。こっちは処女飛行だ、お手柔らかに頼む」

 

「アイテール了解。分かりました激しくいきますね」

 

「ど、ドS──……」

 

 アイテールからの返しは衝撃的だったがそんな事は構わずに俺の乗る機体────VFー31VV(ダブル・ブイ)ブリュンヒルドは格納庫からアイテールの甲板へと機体が引っ張り出され、カタパルトへと接続。発進準備は完了した。

 

「全システム同調完了。発進タイミングをデルタ6へ譲渡します」

 

「了解」

 

 機体出力を上昇させて行く、エンジンの回転数が極端に上がり同時に唸りをあげ始めた。

 そろそろかな? もう一度簡易的ではあるが各部のチャックを終えると俺は操縦桿を握り直す。

 

「デルタ6、発進します!」

 

 俺の声と共にカタパルトが始動。急激なGが全身を襲い操縦席へと押し付けられるが結構キツイ。これで軽減されてるのかよ……ISCさまさまだな。

 機体が甲板から離れるのと同時にエンジンの出力を上げる。四つあるエンジンからものすごい推進力が吐き出され、機体はまるでロケットのように飛び出し空を、飛んだのだった。

 

 あ、相変わらず重力と風があると飛びにくいなぁ……

 

 前の機体と同じ操作を行い細かな操作を省略する為、AIの補正を受けてそのまま高度を上げ空へ空へと上がる。その後、モニターの誘導に従って所定のポイントへと進路を取る。

 さてさて、仕様書は流し読みして分かった事だかコイツはユニーク過ぎるぜまったく。好き勝手に弄り過ぎてコイツにどんな戦いが出来てどこまでやれるか気になるじゃねぇか。そんな思いを胸に俺はこれからの戦いに胸を躍らせていたのだった。

 

 



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運が良い事に空を飛べました【後編】

映画見たくてモチベを復活させました! 映画をDVDで見るまで保つぞぉー おぉ↑


 青く広がったこの大空を高速で飛行する二機の機体。方やメッサ―操る黒いVFー31Fとライトグリーンのカラーが入ったたヒビキ操るVFー31VV。両者の機体は高度と速度を更に上げていき、雲を引いて天高く舞う。二機の機体はピッタリとまるでくっ付いているかのように全く同じ動きを繰り出してい両者ともまるで相手を振り払うかのような軌道を見せた。シャンデルと言う斜めに上方宙返りし速度を高度に変える軌道と取り続け上へ上へと高度を上げ、弾かれたかのように両者は別々の方向へと飛んで行く。そのまま機首を回頭させヘッドオンの形になると速度を更に上げ、真っすぐに進みそして────機体を直前でロールさせ、互いにすれ違った。まさに神業、一瞬でもロールするタイミングをズレれば衝突する事は不可避だっただろう軌道。両者はそんな()()のような事が起こった事も知ってか知らずか再度まるで引っ付いたかのように同じように二機揃って横に並び飛び、同じ動きを続けるのであった。

 

 

※※※

 

 メッサーvs俺の戦いが始まると思った? 残念、それは幻覚だ。

 

【デルタ6! 何故俺に付いて来る、慣らし運転なら他所でやれと先ほど言ったばかりだろう!】

 

「うっせぞデルタ2、こっちはまだ仕様書読み終わってねぇんだ。そんな事知るか!」

 

 こっちはつい数分前にこの機体の仕様書渡されたある意味初心者ぞ、説明書をボロボロになるまで読みつくして飛ぶタイプの俺がそんなストーカー紛いのドックファイトするかッ! 

 

「それに俺はまだ操縦桿握ってねぇ。ホンット言いがかりも良い所だぜ。なぁだよなリンゴちゃん」

 

【ソノトオリ、ソノトオリ】

 

 正面メインモニターに映り、電子ボイスと共にキュートに踊るプリチーなデフォルメされたリンゴのキャラクター。彼女の名はリンゴちゃん。この仕様書によるとレイナが組んでくれた操縦アシスト用AI────らしい。詳しくはまだ分からないけど流石レイナだぜ、俺の苦手な重力下での操縦に対して完璧なサポートしてくれる機能を用意してくれるなんて、そこに痺れるあこが──―

 

【オイ、一体誰と──―【惚れた?】】

 

「いや、惚れてないから突然通信に割り込んで来ないでくれ」

 

 レイナは心が読めるのかな? まぁいいや、そんな事よりハヤテ達の戦いが終わる前にこの説明書紛いの物を読み込んでおかないと。

 えっとまずこの機体はロマンを追求する為、BDIの発展型が搭載されている為に火器管制から機体の操縦に到るまで脳波での完全コントロールが可能です。

 

 Ps.電ッチ用の調整がされてるから火器管制だけにしといたよ、よかったね! 

 

 byマキナ

 

 

「……ふむ、目が悪くなったようだ」

 

 思わずバイザーを上げて目をごしごし。ふむ、マキナの落書きは目がオカシクなったわけではなかったのか。何でわざわざ発展型を搭載してるのにデチューンしてるんですかね? コレガワカラナイ。

 

【デルタ6! だから何故俺と同じ軌道を────】

 

 メッサーからの通信をBGMに説明書を読んでたけど流石にうるさくなって来たので電源off。静粛って素晴らしいよね。

 

 とりあえずBDIに関しては大量の武装を考えるだけで選択できる機能とポジティブに考えるしかないな。無駄に沢山オプション装備とかあるっぽいし。

 そのままペラペラと基本的な操作手段は知ってるので飛ばしこの機体特有の装備関する説明のページへと辿り着く────けど何だこりゃ? 

 

 文章の中は何処もかしこも黒線で消され、数値に関してはほぼ全て消されてる。唯一完璧に読み取れるのはマキナと思わしき筆跡で書かれた手書きの説明ばっかり、オイオイコレじゃ説明書の意味がねぇじゃねぇか。それもその文字はご丁寧にピンクに光るペンか何かで書かれてるみたいで若干見にい。

 見辛い文字を解読しながらページをめくっていくと文字の色が変わった。りんごちゃんに関する場所は緑か……つまりレイナか? 

 

 戦闘支援用AI通称、リンゴちゃん。

 重力下での飛行の苦手なパイロット用に開発された支援用AI。シャロンアップルのプログラムを基礎としたバイオニューロチップを盗用、されている為に高度な操縦支援が可能。

 どんな低レベルなパイロットであってもエース級の腕を持たせることが出来る。なお、戦闘軌道に関してはパイロットの負担を考えないモノとする。

 

 

 ……ファ!? 

 

 え、何。あのシャロンアップルがこの機体の支援用AIとして積まれてんの!? やべぇじゃん。明らかに非合法じゃん。確か国際条約か何かでシャロンアップルのプログラムは封印指定されてたはずでバイオニューロチップなんて今の時代、あんな大ごとになった影響でブラックマーケットでよく部品探しをしていたこの俺でも2、3度しかお目にかかれてない非合法中の非合法な物だぞ。なんでそんなものが──―

 

 

 

 ────なお、今AIはレイナ・プラウラー及びヒビキ・シデンの合同作品である。

 

「────」

 

 無言で電源を落とし機体のスピードを極限まで下げ、窓の外へとジャスウトウェーイッ! 端末は海の塵になったのであった。ナムサンッ! 

 俺は何も見ていないし何も心辺りも無い、良いね? 決して過去に起こった不運の結果、厳重に保管されているはずのシャロンアップルのプログラムデータの完璧なコピー品を手に入れた事があった事を思い出してもないゾ。

 

 

【ゲンジツトウヒ! ゲンジツトウヒ!】

 

「うっせやい!」

 

 操縦桿を握って機体の操縦兼を曰く付きリンゴから俺へと移す。アイハブコントロール! 

 

【ユア・コントロール。操縦桿をパイロットへ譲渡します】

 

 自動操縦の機能かメッサーの真横を飛んでいた機体をロールさせぐるりと旋回行動。軌道に入ったはいいけど──ーなんかうるさくね? 

 

【デルタ6! 何故通信を切ったッ!!】

 

 うぉ!? ビックリした。突然のメインモニターに映るはメッサーのドアップ顔。奴め、強制的に通信を繋げて来やがったぜ。

 

「機械トラブルでーす」

 

【嘘をつくな!】

 

「ウソジャナイヨー」

 

 実際説明書を投げ捨てて残りの機能が解らないから間違ってスイッチ切っちゃったんだろうな。うん、そうに違いない。意図的に電源を切った記憶は忘却の彼方なのでオレハシラナイヨー。

 

【通信を切った事に関してはこの際どうでもいい、さっさとそのうるさい音を止めろ!】

 

 音楽だぁ? 

 耳を澄ませど聞こえるのはエンジン音と風切り音のみ。あとは外から聞こえる何か煩い音のみ。まさかコレか? 

 ファイターモードからガウォークモードへと機体を変形させてその場で停止。確認のためにキャノピーを上げてみると驚きビックリ、何と外部スピーカーから爆音が鳴りまくってるではありませぬか。 てか、ウルセェ! 

 

「ヘイ・りんごちゃん。何で爆音ボイスが流れてやがるんだ?」

 

【現在恋! ハレイションTHE WAR~album version~を再生中、再生中】

 

 あ、なるほど。アルシャハルで聞いた曲と同じ曲なのね、俺勉強したからワルキューレの曲は大体覚えたんだぁ。アレハジゴクダッタヨ。

 まぁそれはともかく道理で聞き覚えのある爆音ソングだと────……ってそんな事は聞いちゃいねぇんだよこっちは! 

 

「今すぐ再生停止しろ。何で音楽が垂れ流しになったんだかまったく」

 

 絶対整備不良とか何かだ。帰ったら二人をとっちめて治さないと。そんな事を考えてたら今度は緊急事態を告げる警告音が流れ始めやがった。今度は何だ! 

 

【警告、システムダウンの可能性アリ。直ちに現在行っている操作を中止してください】

 

 ……ファ!? 

 何で音楽止めようとするとシステムダウンが起こるんですか! 

 素早くメンテナンス用プログラムを立ち上げ、キーボード片手に手動でシステムチェックを開始するけど────何じゃこりゃ。

 

【デルタ6早く音を止めろ! 通信にも音が割り込んで来て煩いッ】

 

「デルタ2いや、それがですね。止めれねぇーですわ」

 

【どう言う事だ?】

 

 うん、メッサーがそう聞くのも仕方ないと思うよ。でもね、これは仕方ない事だと思うんだ。だって────

 

()()()()事に機体の中核であるメインプログラムの一部が機体制御のプログラムと後付けであるライブ用のプログラムとが()()()に被っている状態で本来なら正しく動くはず無いのに何故か動いているんですわ」

 

【つまり?】

 

「音楽止めるとこの機体墜落しますね」

 

【────】

 

 通信越しでも分かるメッサーの唖然としている顔。そりゃ誰だってそうなるわな。俺だって知った途端にマヌケ頭晒したたと思うから。

 てか誰だよこんな無茶苦茶なプログラム書いた奴。俺でもこんなグチャグチャには組まないぞ……いや、ちょっと待てよ。この記号の配置方法、遠回しでありながら意味のないタスクを挟んで動くプログラムどこかで見覚えが────あ。

 

「レイナにマキナ聞きたい事があるんだが今いいか?」

 

【もちろんだよ電ッチ、何でも聞いて!】

 

【ちょうど今休憩中でハヤテがダンス踊ってるのを皆んなで見てるんだけどどうかしたの?】

 

 通信越しに呼び出すは今回の事象について詳しく知ってそうなお二人さん。あとハヤテがダンスしてるって……どう飛んでたらドッグファイト中にそんな事になるんだよ。

 

「ハヤテのダンスに関してはめちゃくちゃに気になるがそれは置いておいて二人に質問です」

 

【何々? 私のスリーサイズ? それはね────【マキナそれは違うと思う、きっとお兄さんは生クラゲの美味しさを直接きき────】

 

「この機体のOS、何使った?」

 

 俺の一言によって突如として静粛が訪れる。

 

「知っての通り俺はマキナの親父さんのお陰である程度はプログラムを読み取れて組むことが出来る」

 

【────ゴクリ】【────ジュルリ】

 

 息を飲む音と涎を垂らす音が通信機からは響く────レイナはお腹空いてるんだろけどもうちょいの間真面目になってくれ。

 

「だから今回の不具合に関して知るために機体のメンテナンスモードを起動してどう言うプログラムが動いているのか確認してるだが────何で昔二人に渡した古いOSが混ざったキメラより酷いシロモノが搭載されてんだ?」

 

 突然だが俺は知っての通り二人とは彼女達が幼い頃からの仲だ。

 二人はレイナは生きる為に、マキナは親の影響で幼い頃からと理由こそ違うものの機械イジリやプログラムをイジルのが得意で好きだった。それを知っていた俺は我ながらに年頃の女の子にそれは無いと思うが二人に良かれと思い、よく旅先などで偶然手に入れた珍しい機械やレアな部品なんかを喜ぶと思い二人へとプレゼントしていた。そして今回問題となっているプログラムもその内の一つだ。

 

 物自体は試験中に大破して最終的にはデータを削除されて廃棄され、ブラックマーケットに流れて来たYF-19のブラックボックスに入っていた消去済みだったプログラムだ。手に入れた当初、俺はYF-19のプログラムとは知らずに消去されていたプログラムを復元して二人へと渡したんだが────それがキッカケにあんな事件に巻き込まれるとは思っても見なかったよ。オオキイガゾクガフエタヨヤッター。

 話は戻してその問題のプログラムはただそのまま渡しただけでは無く、彼女達の成長と目標を持って欲しかったのもあって課題を付けた。

 

 レイナにはプログラミングが得意だったから故意にプログラムの重要な部分を抜き取り、不完全な状態で渡した。コレを動く状態に復元する課題を一緒に。

 マキナには俺の師匠的な存在であるマキナのお父さんが一緒にいるので難易度をさらに上げ、プログラムを無茶苦茶であるがギリギリ飛べない無い事もないほどの極端な調整を施した状態の物を渡しこの状態で飛べる機体を作る事を課題としていた。

 結果を言うと結局二人ともその課題は達成する事ができず、俺も今の今まで忘れたたんだけど何でこの機体にそれが搭載されてるんだ? 

 

 そう思いながら画面に映る沈んだ二人の顔を見ていると。

 

【フフフ、サプライズ】【大・成・功‼︎】

 

 パシンッ! と通信機越しに音が響きこれが二人が用意した事だと悟った。マジかよ。

 

【数年越しだけどお兄さんの課題道理にあのプログラムを修復したよ、ただ――】【私に渡された物をレイレイが組み合わせて一つにしてそれに合う機体を用意したから完璧には達成できてないけどね♪】

 

 だからってこの機体でやる必要なくない? 確かに当時の二人の年齢を考えるに難しい事は分かってたしその課題を達成できたことは俺も嬉しい事だけど今やるか今。それに確かに課題としては及第点だけどオート操縦からマニュアルに戻した途端、爆音ソングがたれ垂れ流しになるのは駄目だと思うぞ。

 

「……帰ったら久しぶりに二人共説教するから楽しみにしてろ」

 

抗議の声が聞こえるが知るもんか、人をテストもしてない物を積んだ機体に乗せるだなんて説教で済んでありがたいと思いな。

二人への通信を切ってメッサーへと通信を繋げる。えぇーテステス。

 

【……まだ音は続いてるようだが?】

 

「とりあえずは今回はこのままで」

 

【機嫌が悪そうだが何かあったのか?】

 

「昔用意した課題がシッぺ返しとして戻って来ただけだから問題ない。それに開始までの時間も近いしそろそろ指定ポイントへ向かおうか」

 

【…これが終わったら一杯奢ろう】

 

「すまねぇ」

 

スロットルを傾けエンジン出力を上げ機体のスピードを上げる。俺の爆音ソングを垂れ流し戦闘機は幸運な事に不具合を抱えながら正常に空を飛ぶのであった。

 



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ようやく戦闘、始まりました

 奴の飛び方は──―とにかく出鱈目で先が読めない飛び方だった。

 

「ッチ、何故命中しない!」

 

【当たる当たる当たる当たるFOOOOOOOOOOOOOOO!!!】

 

「デルタ6煩いぞ! 口を閉じて操縦が出来ないのか!」

 

【そんなこと言われてもFOOOOOO! いま掠った、掠ったよね!】

 

 奴──―ヒビキ シデン中尉との模擬戦闘が始まって既に三分半が経過。最初一回の戦闘軌道で倒せると考えていた相手に既に5000発以上消費し、ただの一発たりとも弾を当てられていない。

 

【ぎゃぁぁぁぁぁ、酔う酔う酔う────ウップ】

 

「──ー」

 

 何ともふざけた奴だ。

 機体が変わる前はケイオス内で断トツの墜落回数を保持し、学科の成績も最低。正直言って落ちこぼれと言って過言ではないパイロット。

 アラド隊長が直々にスカウトし、奴の過去の経歴から絶賛してどんな悪い結果を出してもその評価を変えないことから今までは強く言えなかったがインメルマンと同様、戦場に出る前から震い落とすべき兵になる事が出来ないと言う奴への評価は変わっていない。この試験を理由に辞めさせるつもりだったが──―アラド隊長の感は当たっていたと言う事なのか? 

 

「何故、当たらないんだ!」

 

 加速Gに体がやられながらも俺は自身の操る機体を更に加速し必死に逃げる奴の機体を俺は食らいつき続ける。この三分半、常に奴の後ろを取り続け何度も捻り込みやハイ・ヨー・ヨーなどの軌道を取り何度も何度もガンポットの射程に収め引き金を引くが何故か当たらない。必ず当たると確信したタイミングでさえも運が奴へ味方しているのかその度に無茶苦茶な軌道をしているのを突然辞め、狙ったかのように適切な回避をやってのける。

 神業と言うしか表現できないその飛行技術は、奴の才能なんだろうか──―

 

【当たる────―ってぎゃあああああああああああ! 今キャノピーの真上を真っ赤なペイント弾がぁ────ー!!】

 

 ──―いや、それは考え過ぎか。だが、ただの偶然とするには何度も連続して、あまりにも幸運に恵まれすぎている。────これが隊長の言っていた銀河一のアンラッキーと呼ばれていた由縁なんだろうか? 

 

※※※

 

 

 拝啓、マキナさんレイナさんそれとりんご大好きフレイヤちゃん。元気にダンスレッスンに励んでおられますでしょうか? 私は絶賛回避機動による強いGで人間シェイカーに入れられた気分です。

 

「ぁぁぁ」

 

 あと説教するって言ってごめんあそばせ。この制御プログラム、音楽が鳴る欠陥こそあるものの最高ですわ。

 

 思考がお嬢様に侵食されつつも視界映るキャノピー外の景色は雲が高速で後ろへ流れ流れ流れ続け、俺の乗る機体は高速で飛び続ける。後ろから迫って来る死神が撃ち出すペイント弾()から逃れる為に。

 

 既に逃げ続け、精神は常に極限様態でキープされていた為にそろそろ限界。叫び続けた結果喉も枯れ叫ぶ元気も失せ、必死に操縦桿を右往左往と傾けて機体を操り続けるけど正直もぉぉぉぉう、しんどいッ! 

 

【何故当たらないんだ!】

 

 それはこっちが聞きたいよ! 

 運が良いのか悪いのか俺の無茶苦茶な回避機動はメッサーの射撃タイミングにピッタシ合ってるみたいで何度も何度も避ける事に成功してるけど──―何度も言ってるけどキツ過ぎる! 。

 メッサー、俺ってば重力下飛行が苦手なの忘れてない? あと模擬戦なのにムキになるのは止めてほしいぜ。

 

「クルチイ、クルチイ」

 

 加速Gでシートに体が押し付けれ、同時に肺も圧迫されるから呼吸がツラタン。これでも試作品とは言え最新型のISCを搭載してるだぜ。なのに内臓を吐きそうなほど負担ががががが。

 

「頭が……ぼぉーっと────」

 

【血圧の急激な低下を確認、ISCフル稼働します】

 

 って起動してなかったんかい! 

 次第に呼吸が楽になり暗くなっていっていた視界がクリアになるけど状況は改善してねぇ、どうしよう。

 

「勝たないと、何とか勝たないと──―……」

 

 頭の中で考え続けながらも後ろから迫るメッサ―からの攻撃を避け続け、逃げるけれどこのまま行くと俺は後数分しか持たないかもなぁ……過去の経験から察するに。ヤバいなぁ、コレに勝たないと辞めさせられるって俺の勘が囁いているんだよなぁ。こう言う時の勘は良く当たるから無碍には出来ねぇ。

 機体でシザース軌道を取りながらランダムにエルロンロールを挟んで常に回避機動を取り続ける。後方わずか60mほどに迫るメッサーの軌道を予測しながらグルリぐるりぐるりと回り続ける、同時に視界もグルグルグルグル……ッハ! 目を回してた。

 

【敵機の戦闘軌道を計算──完了。エラー勝率が低すぎます。再計算を実行────】

 

「な、なんだ?」

 

 突然画面に映るりんごちゃんが何か計算し始めやがった! 

 何でだ? りんごちゃんはあくまでも操縦アシスト機能のはハズだろ、なのになんで勝手に戦略練ってやがるだ? コレはアレか? 自己進化か俺が投げ捨てた説明書にそんな機能が書いていたのか? 

 

【計算──計算──完了。勝率40%上昇を確認、戦略を掲示します】

 

 チラチラっと後方を確認するために設置されてる小型の反射鏡を確認しながらメインモニターに掲示されているデータを軽く確認するが……マジか確かにそんな軌道、無重力状態ではしょっちゅうやる操作だけど重力下でも同じことできんのか? それに勝率は50%程度としか書いたないし────だけどこのまま飛んでても毅然として状況は動かず、動いているのはメッサーの殺意のこもったイヤらしい位置に飛んで来る意地汚いペイント弾のみだからなぁ。

 ────コレはアレだな、いくら考えても一緒の奴だ。

 

「ま、物は試し。やってみるしかねぇッ!」

 

 覚悟を決め、操縦桿を握りしめてグイッと手前に引き機体を垂直に上へと向かせ、太陽へ向かい飛ぶかのように高度を急激に上昇させた。

 ただ上がるだけなら意味がない行動だけどこっちはエンジン4発、相手は2発。つまり俺の方が上昇力は上! 提示された軌道は重力下では明らかに行えない、パイロットの負担をガン無視したモノだ。でもそれをやんなきゃ勝てそうにもないから仕方ないのも事実。だったら出来るよう状況を整えるしかないじゃない! だから俺は一気に成層圏へ向かうぜ! 

 

「宇宙……やはり素晴らしい!」

 

 俺の読み道理にメッサ―との距離は離れ無重力に近い空間へとステージを移せた。今回のルールでは成層圏はギリギリ違反とならない場所。そして俺は無重力下は──―

 

「──―大の得意なんだよぉッ!」

 

 

 右のフットペダルを強く踏んで片足のみガウォークで水平方向へ推力を変更。それと同時に両端に付いている2発のエンジンを傾け重力や航空力学何か全てを無視した急角度のバレルロール! 

 

【──―ッ!】

 

 機体は横滑りするかのような軌道で回転し、頭上を取る。それと同時に片腕のみ展開し前腕部レールマシンガンの照準を向けるがコレぐらいの動きに対応出来ないメッサーじゃない。

 

 メッサーは俺の動きに合わせるかのように素早く変形、足のみ展開した半ガウォーク形態へなると急減速し機首をそのまま俺へと向け、半クラビットのような軌道を取ると両翼内に装備されたレールマシンガンの照準を向ける。

 

 まさに刹那の出来事。

 

 ほぼ同時に発射されたペイント弾はどんな偶然か全て両者の弾を撃ち落としてた。

 

「こなくそぉぉぉ!」

 

 あり得ない事だが運が悪い事に数発撃って全てが同じ現象が起こってしまったのが見えた俺は直感で機体を動かす。引き金は引いたままにそのままにガウォークからバトロイドへ素早く変形。両腕をメッサーへと向け、搭載されているペイント弾が装填された全ての武装を向け撃つ────のだが。

 

「あ、当たられねぇ!?」

 

 メッサーはそれを読んでいたかのようにヒラヒラと木の葉が舞うかの如く機体を動かし上昇、全て回避してしまった。

 マジかよ、アレが回避できるってメッサーの腕はオズマ以上かよ! 

 そしてこの時、一瞬呆気に取られたのが原因だったのか────

 

「ぬぉぉぉ」

 

 ────突如として俺の視界は真っ赤に染まったのだった。

 



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戦闘、終わっちゃいました。

「ぬぉぉぉぉハヤテぇぇ! 俺負けちまったぁぁぁあ!」

 

「まぁメッサー相手だからな、仕方ないんじゃないか?」

 

「でもよぉ」

 

「あ、でも俺の方は勝ったぜ。 ミラージュ相手に初白星だ!」

 

「コイツ慰めるフリして自身の勝ち星を自慢しやがった……」

 

 戦闘が終わった後、視界が全く確保できない為に自動操縦を使いアイテールへと着艦した俺はハヤテが乗っていた真っ赤に染まるVF-1の前で合流していた。クソがぁ、ついこの間までは宇宙()すら飛んだことがないヒヨコ超えてピヨ子だったのに俺より先に勝利の美酒にありつきやがって……ぐぬぬ、悔しいぞこのやろぉ。

 悔しさ爆発。思わずさほど長くないが中々の癖毛であるハヤテの髪を三つ編みにし始めるが当の本人は何か考えているようで反応してくれず少し面白くない。オイオイ、このままだとハヤテじゃなくてハヤコになっちまうぞ? 

 

「でも、うん。そうだな、負けたとはいえやっぱりヒビキは凄いと思うぜ」

 

「何でだ?」

 

「だって今回が初飛行だったんだろ?」

 

 ……はつ……ひこう……お?  ハッ! そーだよ。そういえばあの機体、VF-31は俺にとって初めての機体、なんなら今回が処女飛行だったじゃないか! プログラムは無茶苦茶で飛んでるのが正直不思議な状態、あんなので勝てると思う方が頭オカシイってもんだった。

 

「──」

 

「……その表情を察するに忘れてただろ?」

 

 ハイ、その通りです。ぐうの音も出ないほどにドンピシャだよ。

 

「まぁ、な。模擬戦前にゴチャゴチャとトラブルが重なってすっかり頭から抜け落ちてたわ」

 

 そう考えるとむしろ俺は運が良いのか。一応は3分半の間凄腕相手に逃げ続ける事も出来たし、なんなら俺が得意なフィールドで戦えたりと凄腕相手に好き勝手に出来ていたんだから。

 

「てか、ミラージュ少尉はどこ行ったよ」

 

 ミラージュ少尉の乗っていた機体の前にいるのに当の本人は何処にもいないし一体何処に……

 

「ミラージュならまだ機体に乗ってるぞ」

 

「どうしてだ? 戦闘の疲れでも出たのか?」

 

「いや、俺も声をかけたんだが何故か出て来てくれなくってな」

 

 ? 一体どう言う事だろ? 

 俺は不思議に思い、キャノピーへ近付いてコックピットを覗こうと思ったがペイント弾が俺以上にベッタリと張り付いているみたいで中は見ることが出来ない。こりゃ困ったな、もし緊急事態だったりしたら大変な事なんだが────

 

「──ッ────」

 

 ────声が聞こえた。

 

「で、ミラージュは一体何を──「おぉーっと、どうやらフレイアちゃんが迎えに来たみたいだぞハヤテッ! 先に相手してクレェ!」お、おおう、わかった。おぉーい! フレイア〜」

 

 ふぅ、ハヤテが我が親愛なる友である女装クソ野郎同様鈍くて助かったぜ。

 汗拭き用に渡されたタオルでペイントを拭いた。ペイントは案外軽く拭くだけでも綺麗に落ちるみたいでキャノピーは元の透明度を取り戻しコックピットが見えるようになった。

 

「……少尉」

 

 そしてコックピットには肩を震わせ、シートの上で体操座りしているミラージュ少尉の姿があった。ハァー、何で泣いてんだか。

 

「少尉ぃー、泣いてないで早く出て来てくださいよ。ハヤテのお祝いもコレからある──ー「ほっといてくださいッ!!」──ーぅぃ」

 

 ……コレは重症ですね。アレかな? 今までピヨ子だったハヤテに負けたのが泣くほど悔しかったのかなぁ……ハァ、どうしたもんか。

 普通に考えて慰めれば良いんだろうけど生憎、これまで生きてきた人生で女性を何どか泣かした事は多々あっても慰めたことがない俺にはかける言葉が思いつかない。

 そういえば今思い出したけどミラージュ少尉ってファミリーネームがジーナスだったような……あぁ、なんとなく読めてきたぞ。きっとミラージュ少尉はこれまでエリートとしてチヤホヤされてきて、初心者であるハヤテにポコポコにされてへこんでいるんたんだな?? だったら────

 

「……これは俺のいも……友達の話なんですけどね────」

 

 ────俺がその高く立って居たプライドを修復したらぁ! 

 

 

※※※

 

 私は……昔からダメなパイロットでした。

 第一次星間対戦の英雄である祖父、マクシミリアン・ジーナスと祖母、ミリア・ファリーナ・ジーナスを持ち、優秀な血と称され祖父のような活躍を期待されていた私ですが……結果はご覧の有り様。

 ついこの間までは飛ぶ事の何たるかを知らなかった素人にすら負けてしまう始末。我ながらに情けない。

 新統合軍からアラド隊長にスカウトされ心機一転、これまで以上にの努力を続け、祖父のようなパイロットになろうと誓ったはずなのに……今回の演出をするまで天才相手にだって努力で打ち勝てると信じていた筈なのに……たった一度の敗北でここまで打ちのめされてしまうだなんて本当に情けない。天才の子孫じゃいくら努力しても本当の天才には勝てない────

 

 ヘルメット越しの頬に落ちる何か。

 

「ははっ、涙なんていつぶりかな……」

 

 泣かないって……決めたはずだったのにな……

 

「少尉ぃー」

 

 陽気な声で私を呼ぶ声が聞こえる。何かが嬉しいのか、その声で呼びかける誰かの笑顔が頭をよぎって何だか面白くない。

 

「泣いてないで早く出て来てくださいよ。ハヤテのお祝いもコレからある──ー「(私は落ち込んでるんです)ほっといてくださいッ!!」──ーぅぃ」

 

 何がお祝いですか! そんなに私が負けたが事嬉しいんですか! 何か皮肉の一つでも言ってやろうと顔を上げるとそこには予想外の人物がいました。

 

「……ヒビキ中尉」

 

 ヒビキ・シデン中尉。

 アルシャハルでの暴動に民間人ながらも尽力し、ワルキューレを助けた色々と出鱈目な人で事前にアラド隊長から聞いていた全ての評価は訓練では一切当てにならず、正直初期ハヤテ以下の操縦センスの言ってしまえば落ちこぼれ。性格は凄く良い人っぽいがかなり抜けていて運が悪く、何故かワルキューレメンバーからの評価が高いお人好し────だけど、私の苦手な人。

 本人曰くフロンティアで起こったバジュラ戦役で活躍したとの事でしたかあの腕では到底信じられず、彼らしくもない腹話かと疑ったほど。けれど彼の言っている事は全て正しく、エルシオン艦内のデータバンクに残されている彼に関しての記録やアルファ、ガンマ小隊に所属しているアラド隊長に近い年齢層の元新統合軍パイロットの証言からそれが全て事実だと証明していた。

 それでも信じられないのが彼曰く旅行中だった時の記録。

 記録ではS.N.S除隊後に複数のコロニーや植民惑星に渡り、その都度何かしらのトラブルに巻き込まれているようだった。その中には冤罪であるが重罪の容疑にかけられ、指名手配されてしまったものまであり、何度も何度も追手である新統合軍相手に逃げ切っていたらしい。その中には艦隊規模のものまで残されており、当時、たった一機のバルキリーで複数の相手を翻弄、手玉に取ったと言う信じられない記録まで残っていた。

 だけどそんな大それた経歴を持つ彼は私から見ても、才能の才の字もない。扱い易い練習機に乗せて飛ばすと数秒後にはあっさりと墜落。飛び方も出鱈目で無茶苦茶、航空力学などの理論などクソ喰らえと言わんばかりの下手な飛び方ばかり披露し、そして墜落判定を増やしていった。

 記録だけを見れば天才なパイロットに見えるけど実は不運が続く落ちこぼれ。努力こそしているみたいだけど一向に改善する気配すら無い私よりも駄目なパイロット。

 

 ……だから苦手なんだろうか? 

 

 私より駄目なパイロットのはずなのに結果だけは凄い人だから? 私のように努力しているけれど彼の本質は天才肌なパイロットだから? 私と同族(ダメなパイロット)かと思いきや違くて、ホントは凄いパイロットだからだろうか? 

 

 ……わからない。彼の事をかんごえると考えが纏まらない。彼は一体……何者なんだろうか? 

 

「……これは俺のいも……友達の話なんですけどね────」

 

 自問自答に陥り頭を抱えそうな私を他所に、突然彼は背を向けて語り出した。

 

「──彼女はある商人一族でそれはそれは才能溢れる親をもつ一人娘でした────」

 

 そして彼の語る友達の話は私の事を客観的に話しているかのように類似点が多く、私よりも壮大で大変な話だった。

 

「彼女は最初、自身にも才能があると周りの言葉を信じ込んでおり。親の忠告にも耳を貸さず、やりたい放題の商売を展開して我儘放題の人生を送っていたよなぁ」

 

 まぁ、違う部分も多いけど。例えば彼の語る一人娘は親の才能を色濃く受け継いでいる点とか、私と違って努力をしていない点とか。

 でもそう言う人に限って────

 

「けれどそんな生活を送り商売をしている最中、大変な事してしまいます」

 

 ────大きな失敗をしてしまうもの。

 

「彼女の拙い知識に基づいた勘で仕入れた商品が銀河条約で禁止されている大変危険な物だったのです」

 

 銀河条約、銀河条約……ッ!? よ、予想外の展開になって来ましたね。

 

「それが新統合軍にバレてさぁー大変、彼女は条約違反で捕まる──ーハズでした」

 

 はず? ……この展開的に考えられるのは────

 

「なんと彼女の親がその罪を被ってしまいました」

 

 やっぱり。

 

「その結果彼女の親が運営していた商会は不評が広がり壊滅的な打撃をライバル会社から叩き込まれ倒産。母親はそんな会社を何とか支えようと働き続けた結果過労死し、その事を知った牢に繋がれた親は元気を無くして数日後衰弱死してしまったそうです。負債などを払い終え、後始末を終えた彼女の元に残ったのは数ヶ月分の生活費だけだったそうです」

 

 ……彼からの話を考えるに考え無しに行った行動の結果でしょうが、中々にハード。不幸も重なり、彼女が可哀想にも思えて来ますよ。

 

「それから彼女は自身の行った事に悔いて、罪の清算にかかりました」

 

 罪の清算……言ったどんな事を────

 

「まず手始めに新統合軍パイロットとして志願しました」

 

 ……ん? 

 

「新兵訓練は大変だったらしく、身体の弱さと反射の鈍さは持ち前の駆け引きの強さでカバーしながら努力したらしい」

 

 

 ……んん?? 

 

「一昨年卒業して一般兵として働いてらしいから今頃はどっかの辺境で飛んでるんじゃ無いかな……」

 

「いや、おかしいでしょ!」

 

 何でその流れでパイロットに志願するんだ! 思わずキャノピーを開いて彼へ叫んでしまいしまったと思った時にはもう遅く、彼か私はと向ける表情はどこかニヤついていた。

 

「やぁーっと出て来てくれましたね少尉」

 

 だ、騙された。先程までの話は全て作り話────私を表へと出す為の作戦か! ケラケラと笑う彼は向かって睨みつけるけど彼は笑うばかり。くっ、ヒビキ中尉は何処か鈍感なとこがあるからきっと素で気付いてないッ。

 

「さ、涙なんてコレで拭いて。「泣いてません!」っそ、だったらそのブサイクに膨れた顔を元に戻して、さっさとみんなの元へ向かいますよ。これからハヤテと俺の歓迎パーティー的な事があるってチャックが言ってたんでね!」

 

 何処からか取り出した緑色のハンカチを私へ投げ渡すと何事もなかったかのように格納庫へ歩いて行ってしまった。

 ブサイクって……少しは女心がわかってないんですかね彼は。さっきまで考えていたネガティブな事がどうでもよくなってしまうじゃないですか。

 

 ヘルメットを脱ぎ捨て、渡されたハンカチでこれまでの悔しみや怒りなどの色々と一緒に涙を拭き取り、私は一歩を、大事で大切な一歩を進み始めた。

 

 

「そういえばヒビキ中尉、何で私の事を階級で呼ぶんですか?」

 

「……だって同僚の女性を呼ぶのって恥ずかいじゃん……」

 

「────」

 

 ヘタレってこう言うのを言うんですかね? 

 

 その後────

 

 

「そんじゃ、その泣いた痕跡を消すためにお化粧しますか、少尉?」

 

「え?」

 

「大丈夫、我が大親友ボビー仕込みの化粧術だから安心安全ネ」

 

「え、え?」

 

「フロンティアの大道芸 カマーの実力とかとご覧あれネ」

 

 

 ────彼は私より女心を理解してて少し泣いた。

 

※※※

 

「──どうだったメッサー、奴の実力は」

 

 マクロスエルシオン艦橋内にて艦長であるアーネスト・ジョンソンとデルタ小隊隊長アラド・メルダースが今回ヒビキの相手をしたメッサー・イーレフェルトの報告を聞いていた。

 

「訓練の様子からは想像もできないほど出鱈目で無茶苦茶ではあるものの隊長の仰った通りの凄腕ではありました……けれど、あの飛び方には納得いきません」

 

「ん? メッサーが感情的になるだなんて珍しい……一体どんな感じだったんだ?」

 

「奴は……ヒビキ中尉は空を空として見ていない」

 

「空を空として見ていない? それは一体どう言う────」

 

「うむぅ」

 

 艦長の頷きと共に耳が痛いほどの沈黙とアラドが食べるスルメの咀嚼音のみが広がる。そのままメッサーは自分の報告する事はこれ以上無いと言わんばかりに何も言わず、敬礼一つ残し艦橋を去って行った。無言の空間中、先に口を開いたのは艦長であった。

 

「──レディMからの指示とは言え、半ば強引に仲間に引き入れた事はどうにも腑に落ちんな」

 

 艦長は考える。今回の指示はレディMらしく無いものだったと。いつもの様子ならば念入りに根回しを済ませて彼を勧誘したハズなのに今回は偶然起こった事故を利用してありもしない借金を偽ってでの無理矢理な勧誘。なんともらしく無いパワープレイだ。

 

「確かになんともらしく無い。でも、それだけの事をしてでも奴を引き入れたい何かがあるって事なんだろう」

 

「あぁ」

 

「だが、それが一体何なのか……情報が少な過ぎて何とも分からないもんだ」

 

 スルメを噛み切り新しいスルメへと手を出そうとするが、ふと思った。ヒビキとの初遭遇はいつだったのかと。

 

「なぁアーネスト、どうせアンタの事だからヒビキとは戦場で過去出会ってるんだろ? 俺は3年前起こった惑星ラズナックの反乱が最初だ」

 

「あぁ、ラズナックの……確かあの反乱では反乱軍が正規軍相手に反応弾まで使用しようと画策していた大反乱だったらしいな」

 

「あぁ、あの時はまさに地獄だったぜ」

 

 爆発する建物に人の焼けた嫌な臭い。そんなのが充満し、空では敵味方入り乱れ地獄絵図のようだった。っとアラドの脳内で嫌な記憶が蘇るが同時にそんな混沌とした空に走る一つの黒い流星を思い出した。

 

「今思えばあの事件が切っ掛けで銀河一のアンラッキーなんて不名誉な二つ名が新統合軍内で広がったんだよなぁ……」

 

 黒い流星は絡みつく反乱軍や正規軍の機体を振り切りって真っすぐに何処かへ向かって行った。だけどまさかその先が反応弾の在りかなんて誰が予想付くよ。酒が飲みたくなってきたアラドであったが、今は勤務中の為に飲むことが出来ず新しいスルメに手を出す。同じ味で随分長く食べているようだが彼のその手は止まる事がない。

 

「──―まさか自身が注文していた食料が入った特殊コンテナと反応弾が入ったコンテナを取り違えるなんて運が無さ過ぎるだろ」

 

「だな。ハァ、でもその事が切っ掛けに俺が出会った最初の乱が始まったと思うと本当に止めて欲しかったものだ……」

 

 艦長は何処からともなく瓶を取り出すといっぱい煽る。はなにツンとした匂いが残りアルコール独特の苦みが味覚を支配する。

 

「あぁ! お前だけ酒を飲むだなんてズルイぞアーネスト」

 

「うるせぇ、あの事を思い出すのに……俺が唯一経験した勝ち戦を思い出すのに酒が必要なんだよ」

 

「お前の勝ちを経験した戦いとというと……あぁ、惑星ザワの乱か」

 

「あぁ」

 

 艦長が酒をもう一杯煽りながらも当時の事を思い描く。

 

「俺とアイツの最初の出会いは幸運な事に味方同士だった。俺は弱小商人の雇われ艦長でアイツは雇い主の相棒って感じだったな」

 

「そいつは運が良い。俺の時は敵同士だぜ? 今思うと全盛期って時だったのに一発もあたりゃしねぇ化け物だったよホント」

 

「だな、俺の時も似たような状況だった」

 

 目を瞑るとそこに映るは敵味方乱れる戦場。あれほど血が高ぶる戦場は余り経験がない、それほどの戦場だったと彼は語る。

 

「何十隻戦艦に何百と飛ぶヴァルキリー達の集団。敵味方が乱れるカオスな空間で雇い主……社長操るVFー25とドラケンⅡを操るヒビキ。その二機が完璧と言えるほどの連携を見せ、その戦場を文字通りかき乱していた。お前にも見せたかった、あの芸術とも言える綺麗な連携飛行を」

 

「……もう酔いが回ったのか?」

 

 酒を辞めさせようとコップへ手を伸ばすが艦長は更に酒を注ぐ。

 

「考えてみろ、たった二機の可変戦闘機がだぞ。何十と集まった旧式とはいえ戦艦や何百のヴァルキリー達を文字道理蹂躪してたんだ、絶景としか言えないだろ」

 

「確かにな……本当なら正気を疑うような非現実的な話だが、実際新統合軍の艦隊規模相手に同じことを1人でやってのけた化け物よりタチの悪い奴だからなぁ……今の様子を見ていると想像もつかないだろうがな」

 

 アラドは酒を辞めさせる事を諦めたのか逆にスルメを差し出す始末。それでいいのか小隊隊長。

 

「そんでもってその時俺を何してたと思う?」

 

「……何をしていたんだ?」

 

「何も、出来なかったんだ!」

 

 余程感情が籠っているのかグラスに罅が入り声にも力が入る。それは悔しさだろうか、それとも何もできなかった自身への怒りだろうか。

 

「あの状況だと俺が出しゃばった途端に負け筋が出来ちまう、二人が大立ち回りしてこそあの時の作戦は完遂出来たんだ! 俺は、こそこそと見つからない事を祈りつつ二人の帰りを────ッ!」

 

 此処で正気に戻ったのだろう、ズレてしまった帽子を被り直し咳払いを一つ。顔は緑色のはずなのに少々赤みがかっていてどんな感情を抱いているのか想像に難くない。

 

「……すまない、恥ずかしい所を見せた」

 

「まぁ良い。酒が入ってんだ、少々感情的になっても仕方ない事だ」

 

 そのまま二人の話は続く。夜が更け酒が入り歓迎会の事をすっかり忘れて飲み明かし、カナメが迎えに来るその時まで────




ちょい紹介


・フロンティアの大道芸 カマー

フロンティア船団に滞在していると言われている伝説的なメイクアップアーティスト。その腕は凄腕でカリスマメイクアップアーティスト、ボビー・マルゴすら息を呑むほどの天才で芸術的だと言う。
噂では彼?にメイクを施されるとどんな人間でも素敵な出会いに恵まれる……らしい。


・ラズナックの反乱

ラズナックに滞在していた一部将校達が起こした反乱。
きっかけは惑星内にて暗躍していた巨大な闇組織を全て摘発し、規律が緩み始めていた事に始まる。
元々左遷先としての意味合いが強かった場所なだけに自身の待遇に不満を持っていた将校を始め兵士達が反旗を起こし反乱に至った。その際、摘発し闇組織から押収した反応弾を使用しようとするがその際偶然旅行先としてラズナックを訪れ、運悪く反乱に巻き込まれたヒビキが自身の買った爆弾型コンテナと勘違いして反応弾を回収してしまった為に反乱は収束した。


・ザワの乱。

惑星ザワにて展開するブラックマーケット。
その大手商会が条約違反である反応弾を違法に輸入し、それが新統合軍にバレて商会が潰れた事によりその商会が縄張りにしていた場所を武力によって確保しようと複数の商会が動いた事によって始まった乱。
武力衝突は長い間続いたが、GGG(スリージー)商会と言う新参で参入した一番小さく弱かった商会が雇った戦闘機乗りと社長自ら戦場へ赴き圧倒的な活躍をした為にすべての商会を打倒し収束した。
現在ではGGG商会がブラックマーケットのすべてを仕切っている。社長は社長業を副職として新統合軍のパイロットへ転職を果したそうだが……事実は定かではない。

なお、反応弾を売り出したのは不運な事にヒビキであるが幸運な事に商会が潰れる事に際し書類関係は一切合切処分されたことによって記録は一切残っておらず更に幸運な事にヒビキ自身も反応弾を売りに出していただなんて気づいてはいない。その代わりブラックマーケットで偶然手に入れた物の中にシャロンアップルのプログラムが入っているメモリー混入している事にも気付けなかった。その為、更なる不運に見舞われることとなる。


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第四話
歓☆迎☆会【前編】


 俺が模擬戦に負けてハヤテがミラージュ少尉に勝ったあの日から時が経ち既に一か月。ついにフレイアちゃんの正式デビューの日が決定した。

 そしてつまりその日は俺とハヤテのデビュー日と言う事もあって────まぁ、つまりは何だ。

 

「フレフレとハヤハヤ、それに電ッチのデビューをお祝いして〜」

 

『『乾杯!!』』

 

『『『ようこそケイオスへ〜!!!』』』

 

 俺達の祝いの席って事だ。

 

 現在地はチャックの運営する飲食店裸喰娘娘。現在、俺達を祝う為にケイオス中のワルキューレに関わり合いがある人達が広いとはお世辞でしか言えない広さの店内でひしめき合っていた。

 

「いえぇーい! フレイアちゃんイエェーイ!」

 

「いぇーい!」

 

 もちろん俺はアプジュー片手にいつも以上にハッちゃけてたぜ。キランッ☆

 

「わざわざ付き合う事無いんだぞフレイア。ヒビキは調子に乗ると何時も以上に頭がオカシイ言動を取るんだから付き合うだけ無駄だぞ」

 

「ハァ!? なにをいうんかねハヤテ! 俺の何処が頭おかしいいんけッ!」

 

「ほら、こういうとこ」

 

「あぁ! 私の真似、いい加減に止めんかねぇ!」

 

 失礼な。俺だってこんな祝いの席ぐらい頭をシャキッとしてるわ! そしてフレイアちゃん、俺にそのぽかぽか攻撃はむしろご褒美だから効果ないゾ。フハハハハと内心魔王城へやって来た勇者を出迎える魔王ばりに笑いまくってご褒美を楽しんでいると後ろから引っ張られるような感覚が……‥ちょっと、誰よ、俺の服引っ張ってるの? 

 

「──ヒビキ中尉?」

 

「は、ハヒッ!」

 

 振り向くとそこには美しい女性がいた。だがこちらを見つめるその瞳は──笑ってはいなかった。俺を見つめるその瞳には俺意外の何かを映しているかのように黒く、そして濁っておりこれはまるで、まるで……

 

「まるでゴミを見るかのような冷酷な瞳であった」

 

「誰が眼つきの悪い性悪女ですか!」

 

「ヘブシッ!」

 

 躊躇いも無く、割と威力があるチョップを俺へと放って床の虫へと変えた正体はミラージュ少尉。あの日から何故か俺へ遠慮が無くなり、絡みやすくなった人だ。

 

「ミラージュさん綺麗ぇ……」

 

「お、ミラージュ今日も化粧してえぇっと……そう! ヒビキが言う所別嬪って奴だな」

 

 倒れながらもミラージュ少尉の顔を覗く。うっすらと化粧が施されており、素材を生かした最低限であるが最大限の芸術がそこにはあった……まぁ俺が彼女に化粧のやり方を叩き込んだんですけどね! でもやはり素材が良いと化粧してもいいなぁ……これまでの仕事で最高と言っても過言じゃないくらいに綺麗になったよなぁ。でもツッコミにチョップはないんじゃないかな、正直痛いよ。

 

「いっててて。少尉チョップするならもう少し優しめで頼みますよ。俺ってば機体から降りると貧弱人間になるんですから」

 

「納得いかない……ISC無しでも高負荷なGに耐えれる規格外な体しているのに貧弱だなんて納得いかない!」

 

「おっと、こりゃ既に出来上がってるな? 誰だぁー! 酒癖の悪く酒に弱いミラージュ少尉に飲ませたバカ者わぁー!」

 

 歓迎会始まってまだ数分だぞ。何でこの人飲まされてんだ…… 

 そんな事を頭で考えながらも呼びかけ、会場を見ると1人手を上げている人物が……ってチャックかよ。それになんだよ、その【俺はいい仕事した、後の事は任せた】と言わんばかりのサムズアップと完璧なウィンクわ。そんな要らない気遣いするから女の子にモテないんだよ全く……あ、ハヤテその鈍器貸して、奴に投げつけるから。

 

「え、犯罪の片棒を俺に担げと?」

 

「大丈夫、峰打ちだから」

 

「鈍器に峰も刃も無いと思うんだがなぁ…………」

 

 そんな事言いながら投げやす形で程よい硬……を持った鈍器を渡してくれるハヤテは好きだぜ。

 

「外道はぁ────そぉっと!」

 

 ピッチャー俺、溢れんばかりのリンゴパワーにて鈍器を投げました! 途中艦長の薄くなった頭の毛を掠って少々削りながらも目標へと真っすぐ飛んで────ストライク! 外道は滅んだ。

 

「ナムサン、チャック=サン、また来世でグッバイ」

 

「いや、死んでないんだから来世もグッパイも無いだろ」

 

 それもそっか。

 とりあえず艦長の抜けた髪の毛に黙祷を捧げつつ、酔ったミラージュ少尉に肩を占領されながら俺は元の席へと座り直す。さぁーって歓迎会はこれから、何を食おう──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょ」

 

 

 

 レイナIN! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 く、食おう────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も!」

 

 

 

 マキナIN! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食いたかったなぁ……

 

 

 

 俺の膝を突如占領した二人は手慣れた手つきで素早く身動きできないように拘束してくる。その動きは洗練されたものでありあっけにとられていたら二人して箸を取った。コレはアレだ? 満腹になっても食わされ続けるって言う食い倒れ系の拷問する気だな? 

 あとフレイアちゃんにハヤテやい、危機感知が発達した事は俺も嬉しいがその反応は酷いんじゃないかな? 二人の姿が見えた途端、すぐさま巻き込まれないように他の席へ移るのは酷いと思うよ。さっさとこっちに戻って来て生贄に──

 

「さて、電ッチ問題です私達は今すっごく怒ってます。何で怒っているでしょうか?」

 

「激怒、プンプン、オコッタ」

 

 っとふざけている暇ないな。コレはピンチだ。それにしても怒ってる……か。うん~、心当たりがあり過ぎて分からないけどとりあえずアレかな? シャロンアップルベースとか言う厄物であるりんごちゃんをコンピューターウィルス扱いして消したことか? でもあれは許してくれただろ。リンゴちゃん事態がしぶとく消去されず、むしろ再インストール用のプログラムを勝手に組んでて消したくても消せないお荷物に──

 

「ぶっぶぅー」

「バツゲーム、お兄さんの嫌いな生クラゲあーん」

「っぐぼぉ!」

 

 突如として口の中を占領するのは生クラゲ特有の魚臭さと滑っとした分泌液の感触。かなり柔らかいゴムの塊を食っているような感覚に襲われ思わず吐き気が────ぅゑ。

 

「の、飲み込んでやったぞ……」

 

 きちぃ。メッサーと模擬戦するよりきちぃ。

 

「正解は私達にあまり構ってくれない。でした!」

 

「寂しい、悲しい、しょぼん」

 

 ……君達は毎日5時間以上も一緒にいるのにまだ構えと物申すか。 この一か月ハヤテやフレイアちゃん、そして何故かミラージュ少尉と一緒に過ごす時間が増えたがそれよりも多く一緒にいただろうが。具体的に言えばおはようからおやすみまで、勝手に俺の部屋に潜り込んで来てなッ! 

 

「そうは言うが俺はちゃんと毎日構ってるだろ?」

 

 そう答えると二人は頬を膨らませてご立腹のご様子……ナニコレ可愛EE。

 

「だって一緒にお風呂──」

「入りません、歳を考えなさい年を」

 

 君貞操概念ってしってるぅ? 男はいつでも狼みたいなものだからそんな簡単にお風呂を一緒にしたいとか言わないの! まぁ俺はこの子達に関してはどっちかというとチワワだから関係ないけど。

 

「一緒に添い寝──」

「できません。君達世間体を考えなさい、嫁入り前の乙女でありワルキューレメンバーなんですよ? そんなスキャンダル誰が許すか──」

 

 ですよね艦長。そんなことをしたらヴァール化抑制の為に開くワクチンライブに支障が……って艦長、髪を散らした事は謝るんでスキャンダルが起こってもマクロスエルシオンの総力を挙げて情報をもみ消してやるってモールス信号で送って来ないでください。あと卑猥な言葉も一緒に送られても反応に困るんですが。

 

「艦長は許してくれたよ?」

「レイナ……マキナばっかり喋ってて変に思ってたけど君は艦長と信号でやり取りしてたからなのね……」

 

 さぁーって厄介な事になったゾ。周りは敵だらけの四面楚歌。艦長まで敵になった今、頼れるのは俺の上司兼借金取りであるカナメさんだけで──

 

「……ップイ」

 

 あ、あの人俺からの視線を感じて自分は関係ないですよぉーッとでも言いたげに顔ごと他所へ逸らしやがった! ほら見て見ろ、さっきまでニコニコと話してたアラドさんのお目目が点になって驚いてるじゃないか、いきなり顔を逸らすなんて非常識極まりないぞ! あとアラドさんはいい加減隣で酔いつぶれてるメッサーの介抱してあげて──

 

「っは! 私は一体何を──」

 

 っておっと、やべぇ。酔っ払いまで再起動しやがった、コレは本格的にピンチだな。俺は命の危険を察知しつつ、膝の上で屯う歌姫を置いて目覚めた酔っ払いの怒りを鎮める為に必死になるのであった。何でミラージュ少尉って酔うと俺にばっかり構うんだろう? ホント不思議だ────ヘブシッ! 

 

 




ヒビキから見て仲間の印象。

ハヤテ:弟的存在。
フレイア:甘やかしたくなる妹分。
ミラージュ:プライド高そうな同僚→new 酔っぱらうと手の付けられないやべぇ人。
アラド:頼れるけど頼れない上司。
艦長:……近くのクリニックで増毛フェアーやってましたよ?
メッサ―:空戦のライバル。
チャック:余計な気遣いにより女子ウケが悪すぎる肉食獣。
カナメ:逆らえない上司。
マキナ:手がかかり過ぎる妹分。
レイナ:手がかかり過ぎる娘的存在。
美雲:何か、繋がりを感じる不思議な女性。

ガッツシ紹介。

VFー31VV ブリュンヒルド

開発:スーリヤ・エアロスペース→ケイオス・ワルキューレ・ワークス
全高:4.04m(ファイター)15.98m(バトロイド、頭部レーザー機銃含まず)
全長:21.12m(ファイター)
全幅:14.13m(ファイター)
・エンジン
(主機)新星/P&W/RRステージIIC熱核タービンエンジン FF3001A×2
    新星/P&W/RRステージII熱核反応タービン FF-3001/FC1×2

(副機)P&W高機動バーニアスラスター HMM-10A スラスト・リバーサー、3D機動ノズル

・攻撃兵装
マウラーROV-127E 12.7mm対空ビーム機銃×3
ラミントンLM-27s 27mmレールマシンガン(ミニガンポッド)×4
ガーバー・オーテックAK/VF-M11 アサルトナイフ×2
ハワードLU-18A ビームガンポッド×1
ハワードGU-17VV 58mmガンポッド×2
エンジン上面ランチャー×2
ビフォーズCIMM-3B マイクロミサイル×15
ガーバー・オーティックAK/YFーM081 マスターキー→ハート・ブレイカー

・防御兵装
防弾シールド×2
センチネルSWGA-F20B エネルギー転換装甲システム
オーテックVPB-S24 ピンポイントバリアシステム
ビフォーズECS-09A アクティブステルスシステム
LAI CCFD-11 対光学兵器用チャフ・フレアー・スモークディスチャージャー

・特殊兵器
フォールドウェーブシステム
MDP-001W シグナス×16
YMDP-099V ビーナス×8

乗員人数:1人+2人(座席展開時)


 響鬼専用にカスタマイズされた結果別機体へと判別されるほどカスタムが加えられた為に名前までも変更された機体。
VFー31カイロスの予備機をベースに大規模な改装と共に各部パーツをオーバーホールして調整、ヒビキの異質過ぎる操縦特性やYF29Sから得られた過去のデータなどを参考にレイナが過去にもらったプログラムをベースとして特殊過ぎる制御プログラムを製作し機体は改装の際にYFー29に搭載されていたフォールドクウォーツ関係の部品や追加する為のエンジンを移植、アルビオン艦内の整備クルー総出で実用性無視のロマンを追い求めた調整と改造が加えられた。
しかし無茶なプログラムと無理矢理な改装が祟ってか制御用のプログラムにはバグが多く、機体自体も整備性が最悪なものとなっている為結果、ヒビキ専用の彼しか使えないほど癖の極まった機体となりYF29よりもじゃじゃ馬な性能となってる。
一応は他デルタ小隊との連携を前提に改造は施されているがどちらかと言うと試験用武装の実地実験機的な要素が強く、アルファ、ガンマ小隊との連携を重きとしている。

機体名の二つのVはワルキューレのWであるが読み方はブイツーである。



パイロット:ヒビキ・シデン


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歓☆迎☆会【後編】

「ひ、酷い目にあった……」

 

 ミラージュ少尉の長時間の絡みをなんとか捌きり、女性の酔っ払いだからとレイナとマキナに押し付けた俺はテラスへと避難して来た。しっかしあれから時間が経ってもう夜更けってのにみんなテンション高いなぁ……あ、艦長がアームレスリングで相手の腕ボキボキにしてる……いたそぉ。

 

 何も食べれてない為にお腹を鳴らしつつ何処か座る席がないかと右往左往していると見覚えのある二人がいた。

 

「おっす、お二人さん。未成年組は酔っ払い達から避難かい?」

 

 ハヤテとフレイアちゃんだ。ハヤテはどうやら串焼きを食べている途中のようで声ではなく手を上げて反応してくれるが、机に伏せているフレイアちゃんは苦しそうに唸るばかり……大丈夫か? 

 

「お、お腹が……ゴリゴリぃ〜」

 

「なるほど、ただの食べ過ぎが原因か」

 

「そりゃあれだけ食えば苦しくもなるもんだ」

 

 フレイアちゃん意外と大食いだもんね。いつも以上にお腹が膨れてたのか、納得納得。ハヤテの持った最後の一本を横取りして口へと運ぶ。濃厚なソースの味が串に刺さった肉に絡まりもぉーう。

 

「デリシャス!」

 

「それお前の苦手なクラゲ肉の串焼きだぞ」

 

「」

 

 それを先に言わんか先に。ハヤテの謀略にハマりシクシクと涙を流しながらチャック特性ニャンニャンチャーハンを口にしているといつの間にかハヤテが店の中からアプジューを持って来てくれた。サンキュー! 

 

「アプジュー、飲まずにはいられないッ!」

 

「アプジュー!」

 

「アップルジュースな」

 

 プハァ! これだよコレ、やっぱり酒よりもアプジューだよな。程よい酸味とリンゴ特有の甘味を味わいながら二人との会話を楽しむ。酒癖が悪い大人どもの席じゃ出来ない事だよなぁコレ……あぁ、目の前の光景が俺をしみじみさせるぅー。だって────

 

「それでハヤテその時ヒビキさんがスパバッて、まるで魔法のように魚を捌いて────」

 

「へぇ、そりゃすげぇ。今度俺も魚を調理してみる────」

 

 ────二人の雰囲気がその……いい感じだからですね。流石は10代の若者、意識せずとも二人だけの空間を構築とかやりますなぁ。うん〜目の前の光景でご飯が進む進む。

 でもこんな光景、見てると懐かしくなるなぁ。俺も学生の頃は色々と……ダメだ、いくら記憶を探ってもそんな甘酸っぱい思い出なんて一つも無く、あるのはミシェルの女関係で毎度起こすトラブルのフォロー活動とランカちゃん、シェリルさんの恋の応援、その他はルカとの機械弄りぐらいの記憶しか出てこない……かなちぃ、

 

「で、今度はヒビキさんがこう言い返したんよ。【俺の道は俺が切り開く、だからお前達は他の道へと進む事だな】って」

 

「なるほど、なるほど……ん? ちょっと待てフレイア、何で海猫探しの話でそんな決め台詞が出てくるんだ?」

 

「さぁ?」

 

 てか、俺ってばこの空間で明らかに異物じゃね? カップルの間に入り込んでしまっている不届き者は早速さと退散しなくては────

 ゆっくりそろりと二人だけの空間から脱出し、店の中へ戻ろうと動く。ッヘ、俺の第五の特技が気配消しだったなんて、俺も知らなかったぜ俺だ……

 

「何処に行こうと」「しているのお兄さん」

 

「な、いつの間にッ!?」

 

 だが、ピンクと緑の肉食獣には効果がなく捕まってしまった。クソ! 離せ二人とも。俺にはあの二人が放つ十代の輝きは眩しすぎるんだ! 

 

「お兄さんまだピチピチ、まだまだ若いのに何ってるの?」

 

「それに今回は三人のお祝いだよ、もっと楽しまなくっちゃ!」

 

 せっかく離れた位置まで移動できたのに抵抗空くズルズルと二人に引きずられ、元の席へピットイン。肝心のフレイアちゃんとハヤテはいつもの事かと呆れ顔で笑ってるばかり。仕方ねぇでしょ、お兄さん前世とかある影響で感性が古くなっちまってるんだから。まぁ、前世云々は誰にも話した事ないけどね。

 

 いつの間にか俺達と同じくアプジューを片手に俺の両サイドに座った彼女らは何だか嬉しそうにアプジューを飲んでいる……俺が逃げないように腕を拘束したままに。ハァ、これじゃアルコールが無いだけで中と変わらないジャマイカ。てかレイナ、どさくさに紛れて俺のまで飲まないでくれ。

 

「そういえばフレフレにハレハレ、もうラグナでの生活には慣れた?」

 

「ほいな!」

 

「まぁ大方は、な」

 

 ……おい、そのジト目でこっち見るなよ。まるで俺が何か問題の原因の如く見るなよ。

 シッシッと手を振りたかったがマキナとレイナが拘束してる中俺は動けるはずも無く、虚しく終わった。……てか、腕を組まれた状況になって改めて思うけどマキナあれから偉く育ったなぁ、主に背丈。

 

「へぇ〜、じゃあ電ッチわ?」

 

「俺か? 俺はなぁ────」

 

 そういえばもう1ヶ月もの間この惑星で暮らしてるんだよなぁ……時間の経つのが早いこと早い事。まぁ、俺の場合は熱帯気候が苦手で最初こそキツかったが今ではなんともないから慣れたって言えるのかな? でもなぁ毎日の如く不幸な事にトラブルに巻き込まれてるし主に両隣の二人の影響で寮でもろくに落ち着かず波乱すぎて慣れる云々関係ないほど忙しいんだよなぁ。でも正直に答えようものなら何が待ってるか想像に固くないし……ハァ。

 

「ま、まぁそれなりには慣れたかなぁ」

 

「じー」「とー」

 

「……その両サイドで見てくるの止めてくれない?」

 

 居心地の悪さを久々と感じ、ちょっと本気でこの場から消え去ってやろうかと思い始めた頃一つの笑い声が響いた。

 

「ニシシシ、ハヤテやヒビキさん、ワルキューレのみんなと一緒に過ごす毎日は村にいた頃と同じぐらい楽しいやんね」

 

「村? 村って言うとウィンダミアの?」

 

「ほいな!」

 

 ウィンダミアか……そういえばハヤテから聞いた話では2人の出会いはウィンダミアから密入国だったらしいなぁ。すげぇや、俺でも非合法なブラックマーケットでのバルキリーの窃盗はやったことあっても密入国はないぜ。

 

「それにここって、ラグナって何となく故郷と似る気がするんよ」

 

「へぇ、フレイアの故郷ってどんな場所なんだ?」

 

「まず風が気持ち良くて空も地面も真っ白、年中雪が積もっとるけど見渡すばかりのリンゴ畑が広がって────」

 

 そうかそうか、風が気持ち良く雪が積もり空も地面も真っ白────って。

 

「それって何処も似てなくないか?」

「全然似てない」

「むしろラグナの環境と間反対なような……」

 

 コラマキナ。あんまり言ってやるな、それは俺も思った事だから。

 ハヤテとレイナ、そしてマキナが俺の気持ちを代弁するかのようにツッコミを入れると本人も気付いたみたいで恥ずかしそうに頭をかいている。それでも幸せそうに笑顔満点なフレイアちゃん。そんな素敵な故郷と同じぐらい楽しいって言われて俺は嬉しくてたまらんぞ! うぉぉぉぉぉ!!! 

 

「ニシシシ、それもそうやね」

 

 よし、俺フレイアちゃんがワルキューレデビューしたら真っ先にファンクラブ作るわ。てか今作ったわ。決め手ですか? 彼女の笑顔です。

 

「それにしてもほんっとお前の笑い方って変だよなぁ」

 

「もぉハヤテ! 変って言うな!」

 

「そーだぞハヤテ。世の中にはグハハハとかグヒヒとかゴバババって笑う海賊のボスすらいるんだ、だからそれぐらいの事個性として受け入れとかないと」

 

 あとはイヒャヒャヒャとかアヒャヒャヒャとかだな。でも個人的に1番酷かったのではオッホホホなリアルお嬢様笑いだったぞ。俺の義理の妹なんて……いや、この話は止めとこう。俺の場合噂をしたら何とやらって事態になりかねない。

 

「……? それってフォローになっとらんよね?」

 

「大丈夫だよフレフレ、その笑い方もキャワワァだから」

 

「みんな個性的、大丈夫、安心」

 

「そーだよ、フレイアちゃんは大丈夫。俺みたいな常識人が保証するんだから」

 

「っハ、個性の塊が何言ってんだか」

 

 よし、ハヤテ。今度の演習はお前を後ろに乗せて脳味噌シェイカーコースで飛んでやる。よかったな! 

 

 こうして飲んで歌って笑い合う楽しい夜は続いていく。それはコレから始まるライブに向け最高を祈ってか、それとも失敗への不安を忘れるためか……それは誰にも分からない。けれど彼、彼女らはそんな事気にする事はなく笑い合って今を楽しむのであった……

 

 

※※※

 

 美雲は1人、夜空の下過ごす。彼女のは月明かりで照らされ幻想的なその場所で彼女は一糸纏わぬ姿で何か考えるように視界に広がる景色を見つめていた。

そこは綺麗な海と満天の星空がよく見える特別な場所。誰にも邪魔される事も覗かれる事もないその場所は彼女のお気に入りだった。

 

※※※

 

 

「ヒビキ・シデン……」

 

 私の目線を独り占めにして心を惑わす謎の人。これまで歌やワルキューレの事でしか興味の湧かなかった私が何故か興味を惹かれる存在。だからこの1ヶ月の間、何度か彼に話し掛けようと動いてみたものの運の悪い事にその機会が無くて例え会ったとしても事務的なことばかりで話は弾ずむ事も無くて気付いたらマキナかレイナに人攫いの如く流れるように攫われていってしまうおかしな人……ある意味彼が気にかけているフレイアが羨ましいわ。

 

「本当に、彼は一体何者?」

 

 でも、本当に知りたいのはそんな興味云々じゃない。本当に知りたいのは彼を見た旦に常に感じるようになった何か特別と思える繋がりそして、彼を一目視界に入れる度に感じる胸の高鳴りと何故か彼が女性と話したり関わっている時に限って感じる何とも言えない不快感。

 どれもこれも記憶のない私が初めて感じるものばかりで彼と出会ってから私が私じゃ無くなったみたいに分からない事だらけになってしまったわ。

 

「……明日のライブでその答えは見つかるといいのだけど」

 

月明かりは私を照らし続け、夜は続く。

 

いっその事、この事について誰かに相談してみるのもアリなのかしら?

そんな考えが浮かんで思わずクスリと笑ってしまった。




美雲ってあんまり喋るイメージが無い影響で口調が難しい……誰か教えてクレメンス!


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ファースト・ライブ【1】

 あの騒がしくも楽しかった宴会から夜を跨いで次の日、俺は────全力で走っていた。

 

 キャー遅刻よ! 大事な日の朝に遅刻ヨ、遅刻ヨ、大遅刻ヨぅぅぅ! 

 

 朝起きて、時間確認、目覚まし壊れてて大誤算。気付かずに、二度寝かましてハイ大変。そんな感じの事があり俺は今走っていた。

 

「はぁはぁはぁ、絶対に昨日暴れたミラージュが原因だろこれぇぇぇぇ!」

 

 いくら酔っ払っていたとは言え何で夜中に俺の部屋に突撃してくんだよあの人! 俺にフェイスハガーそっくりな姿焼き食わせるんダァーとか言いながら来やがって……その影響で姿焼きを作ったチャックと俺の部屋は無茶苦茶だよ。

 朝から冷や汗を出しながら走る俺の姿をまるで嘲笑うかの如く朝日は燦々と輝いて見えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、間に合った……なんとか時間内に間に合ったぁ」

 

 朝早く集合時間ギリギリで集合場所へ滑り込んだ俺はそこで待っていた事情を知っているアラドさんから同情の言葉を、先に突着していて尚且つ今回の最大の被害者である放心状態のチャックから同情の視線をもらいつつ席に付いた。ふぅ、ちゅかれたぁ。

 

「遅かったじゃないかヒビキ、何かあったのか?」

 

 隣の席に座ってるハヤテからそんな言葉を受けるがいや、オカシイ。ハヤテは俺と同じ寮だっただろ? 何であの騒ぎを知らない、そして何で俺を起こしに来ないんだ! 思わずその長い前髪をパッツンカットしてやろうかとも思ったが今の俺は朝からの全力疾走で疲れている、その無駄にキューティクルの整った綺麗な髪をクルクルパーマに巻くだけ許してやろう。

 

「ちょっと昨晩トラブってな……」

 

「あぁなるほど、だからチャックがあんなに朝から死んでるのか……ヒビキがトラブるって言う時は決まって必ず女絡みの事件だから……」

 

 っく、言い返したいがぐうの音も出ないほどに当たってて何も言えねぇ。

 

「で、今回の相手は誰だ? マキナか? レイナか? ……もしかしてフレ「ミラージュ少尉だ。ついで言うと今回は酔って部屋に押しかけて来たのが発端だから俺は悪くねぇ」あぁ納得、だからアイツ珍しく遅刻しかかってるのか……じゃあメッサ―は何処に──―」

 

 ニヤニヤとニヤついた表情のハヤテのパーマ巻が完了して道具を片付け始めたタイミングに凄い音をたてながらミラージュ少尉が登場した。

 髪はボサボサ、お肌荒れ荒れの完全寝起きの酷い状態から見て相当急いで来たのが分かる。よかった、顔はかなり青ざめてるけど二日酔いとかはなってないみたいだ。

 

「す、すいません遅れました」

 

「チャックから事情は聴いてる。酒は飲んでも飲まれるな、だぞ」

 

「は、はい!」

 

 ビッシっとお馴染みの綺麗な敬礼をしてる少尉……何でこうなったんだか。教官をしていてハヤテにプライドをズタボロにされる頃はただの真面目ちゃんな子だったのに……

 

「……何で変わっちまったんだろうな、ミラージュ少尉」

 

「こ、コイツッ自分が変えた事を認知してないのか!?」

 

 え? 何て? 丁度チャックがトラウマスイッチ刺激されてパニックった声で聞き取れなかった。ってかマジでミラージュ少尉、チャックに何やったんだよ。

 ミラージュ少尉も到着して殆ど準備万端。メッサ―以外揃ったタイミングでアラドさんの説明が始まる────―

 

「す、すいません隊長、遅れました……」

 

 ────前にメッサーが来た。ってか、お前が二日酔い食らってるのかよ。

 

 あ、そうそう。今回小隊メンバーが集まった理由なんだがまぁ端的に言えば作戦の確認の為……かな? 

 

 元々デルタ小隊ってのはライブ中のワルキューレの護衛を兼任したアクロバット飛行を行う部隊だ。そんでもって彼女らを守る為に専用の作戦もいる訳でパイロットである俺達はその作戦の最終打ち合わせをするために彼女達より先に集まる必要があるのだ。

 

「今回は当初の予定通りアクロバット飛行を行う。各員、飛行計画を頭に叩き込んできたか?」

 

「当然だぜ」

 

「はい」

 

「もちろんです」

 

「で、でかるちゃぁ」

 

「……?」

 

 俺ってばそんなの教えられてないんだけど……あ、何だか嫌な予感して来た。そんな俺の予感も他所にアラドさんの説明は続き具体的な飛行プランへと移るが……俺のコールサインは何処にも書いてない。コレはアレか? デビューと称しての裏方メインの回かな? 

 

「俺を含めたデルタ1から5の軌道はそんなとこだ……それでデルタ6、ヒビキの役割なんだが──―」

 

 お、やっと俺の名前が出た! 一体どんな事をさせられて────

 

「──―今回はワルキューレと共にステージに立ってもらう事になった……最初に謝っておく、すまなかった」

 

 ……ん? 一体それはどういう事? 思わず固まってしまったのが悪かったのだろう。

 

「それは」 「私達が!」

 

 何だか聞き覚えのある二人の声が聞えた途端、天井が開き誰かが降ってくる。その姿は極めて見覚えのある緑とピンクでまたかと正直呆れて抵抗する気も起こらずあっさりと簡単に両端を拘束されてしまった。

 

「「説明するよ!」」

 

 まぁ要するに二人の突然の奇襲に対応できなかったって事ですね。ってか天井から降って来るってどういう事だよッ! 

 

「……ハヤテ、二人が降って来た途端素早く移動していたけどこの事について知ってたな?」

 

「……俺は知らなかったぞ」

 

 なら何故全力で顔を逸らす。ってか二人して何で何時も普通に登場出来ないのさ! 

 

「フフフ、それはお兄さんに新鮮なドッキリを仕掛けて飽きさせない為」

 

 うん~、何でこの子はごく当然に俺の心読んでるのかな??? 

 その後レイナとマキナと比べ普通に美雲さんにカナメさん、そして我らが笑顔の女神フレイアちゃんがこの会議室へ入室し、カナメさんがアラドさんの引継ぎをすると説明が続いた。

 

「シデンさんには今回ステージ、演出の一つとして一緒にステージに立ってほしいの」

 

「???」

 

 俺ってば今回パイロットとして呼ばれたんだよね? 何でバルキリーに乗ってステージに立つ必要性が??? 

 そんな疑問を抱きつつもカナメさんからの詳しい説明を受けてた。それでわかったのは最近趣味で機体に最近乗せた結果、バグの影響で降ろせなくなった装備の一つが関係しているのだとわかる。なるほどな、あれを使うなら展開しても個々の通信範囲が狭すぎて中継器である俺の機体が近くに居なければならないのは必須。だとしたらステージにヴァルキリーごと上がるしかないか……でも何でだ? 何であんな試作品、使う必要が出てきたんだろ。それに────

 

「確かアレってジグナスの試作品の一つですよね? ならちょちょいと弄って既存のシステムで対応しないんですか?」

 

「もしもって事があるでしょ? きっと今回ライブでもその最中にこの前来たようなアンノウン達はやって来ると思うの。それに見た事もないバルキリーを使ってる事から相手の戦力は未知数で多分だけど今度はジグナスに対応して無効化してくるかもしれない。だからそんな有事の際に備えるのが良いと思ってその試作品をそのまま使おうと思った訳。それにこれは美雲の案なのよ?」

 

「ちょ!」

 

 へぇー、それは意外だ。彼女がそんな事言うだなんて意外だなぁ……それどころか俺を認識していたのか。てっきり彼女からは避けられてるものだと思ってたよだって証拠にほら、今だってこっちをジーっと見つめって言うより睨みつけて来て……うぅ、怖い。

 

「それにお兄さん大気圏飛行無理」

 

「ッぐホッ!」

 

 レイナ、いきなりそんな酷い事言わなくても……この一か月、専用機での訓練で多少マシに──―

 

「ド下手」

 

「ヒでぶぅッ!」

 

 ま、マシに────

 

「駄目駄目のダメ」

 

「ゴッハ」

 

 マシになってないデス。

 

「アハハごめんね」

 

 思わず膝を付いて倒れる俺に対してカナメさんは一言。

 

「っていう事なの。なんか……ごめんね?」

 

 こちらこそこのような駄目駄目なパイロットでごめんなさいね。

 そんなこったで説明が続き、作戦のすり合わせが終わると俺達はアイテールへと乗り込む。さぁって初めての遠征だ、気張って行こう。

 



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ファースト・ライブ【2】

ゲージ、真っ赤にならないかなぁ……チラチラ


「アイテール分離開始、重力制御異常ありません」

 

「フォールドエネルギー、コンデンサーより順次解放します」

 

「恒星間航行モード始動。アイテール、トランスフォーメーション開始」

 

「艦内重力制御モードCへ移行完了、ヒートパイルクラスタ接続開始、各部異オールグリーン」

 

 艦内アナウンスが響き、ぼぉーと待機場所で座っていた俺達の体に多少であるが振動が伝わって今発進したんだなぁーっとなんとなくわかる。隣に座るハヤテは初めての発進でテンションが高いのか落ち着かない様子。そして、そのハヤテとは逆に落ち着き過ぎてウトウト頭を揺らしているミラージュ少尉がいた。早くベルト外せないかなぁ、いつもの感覚で調整してたら運悪く失敗していたみたいで息苦しくていけねぇ。

 

「ラグナ発ランドール行きアイテール便ただいま発進します。足元の揺れにご注意ください」

 

 ……ん? 

 

「なぁハヤテにミラージュ少尉」

 

「ん? どうした?」

 

「ぐぅ〜zZ、ぐぅ〜zZ、ぐぅなぁー…………ッは!! ど、どうかしましたか?」

 

「……さっきの艦内アナウンス最後おかしく無かったか?」

 

 ミラージュ少尉の可愛い瞬間を脳内スクショ、コレは売れる! 

ってそれよりも今のって完全に惑星間シャトルで言ってるアナウンスだよな? あまりにも自然に混じるもんだから違和感がなかった。

 

「そういえば艦長が言ってたぞ、パイロットの数を全体的に増やすつもりで今までの人数じゃ対応出来なくなるからオペレーターを新しく雇ったって」

 

「へぇー」

 

「なんでも民間からの移動人員らしいですね。先程のは恐らくその時の癖が抜けきれていないんでしょう」

 

「民間からの……」

 

 そんなハヤテみたいな人が────ッ! 

 突如として走る悪寒。なんでだろ、すっごい嫌な予感がして来た。俺ってばその人と会わない方がいいかも……

 

「どうしたよ、いきなり体震わせて……もしかしてビビってるのか?」

 

「び、ビビってねぇーし! 」

 

「大丈夫です中尉、私も初めての時は痛くて泣いちゃいましたから」

 

 おっと、ミラージュ少尉。君は突然どうしたよ。君はそんな事言うキャラじゃないだろ。てか貴方以外と遊び人だったのね……

 

「み、ミラージュ少尉はいきなりナンの話をしてるんですかねぇ」

 

「ナニって、それはアクロバット飛行の事ですけど?」

 

「────」

 

 あ……あぁ! なるほどなる、アクロバット飛行の事な! そりゃーISC聞いてても慣れてない状態であれだけ無茶苦茶な軌道で飛び回ればどっか体を打つだろうさ! 

 

「だ、だよなぁ! アハハハハ「……心の汚れた間抜けは見つかったな」……は、はは」

 

「?」

 

 ……あんまりその残念な奴を見るような目でこちらを見ないでくれ。俺ってばここに座るまではチャックと2人でそんな話をしながらアイツのメンタルケアしてたから脳が汚染されてたんだよ。許してクレェ。

 何とも居心地が悪い空間となってしまった待機室、俺はシートベルト着装のサインが消えると無言のままそそくさとその場を去った……だって気不味いし。

 

 

 格納庫へ足を運んだ俺は今までのカラーとは違う黒色へと塗装され、ライトグリーンの装飾が施された機体の前に立つ。

 

 俺の専用機、VF-31VV(ブイツー) ブリュンヒルド。

 ワルキューレ達と同じく地球の伝説の一つ、北欧神話に伝わるヴァルキュリアの1人にてジークフリートと伝説を同じくする竜殺しの英雄、シグルトを屠ったとされる戦乙女。その名を冠したこの機体は苦悩の連続の上に改造され続ける未完品だった。

 この機体は最初から欠陥をいくつも抱えており、初飛行の日から毎日のように不具合の修正や個人的な装備の追加、それに加えて基本性能向上の為の強化改修を重ねた結果、名前まで手が加えられ変更されてしまった機体だ。でもその分愛着もあるし何より、前の機体同様自由に弄れるのがいい。

 

「……でも出来れば追加装備は事前に教えて欲しかったなぁ」

 

 俺の機体の下腹部に取り付けられている異様にピンクの物体。何だコレ、こんな物事前にマキナから渡された改造書にあったか? 

 疑問に思いながらもとりあえずコックピットへと乗り込んで機体を待機モードで立ち上げる。

 

【オカエリ、オカエリ】

 

「ッチ、自己消滅型プログラム混入させてたのに効果なかったのかよ。このAIしぶと過ぎんだろ」

 

【無駄、無駄】

 

 そんな機体に搭載されてるのがこのAI、通称りんごちゃん。新統合軍総出で隠蔽されたって言う大事件を引き起こしたAIと同じ、進化を続けるプログラムだ。今では下手なコンピュータウィルスより厄介な代物へと至ってしまい簡単には消去出来ない物になってしまった。クソガァ、厄ネタだから2人に内緒で消去しようと試みてるのに何でこいつは毎度の如く生き残ってるんですかね? 

 

「はぁ……ま、今は良い。とりあえずりんごちゃん、武装プログラムをメンテナンスモードで起動」

 

【ウェポンプログラムオンライン】

 

 メインモニターが切り替わり、現在装備されている武装が一覧として表示される。えっとこの中で見覚えの無いやつはどれだー……ってかなりあるな。

 

「りんごちゃん、腹に抱えてるピンク色の武装ってわかるか?」

 

【検索中……検索中……ヒット、情報を提示します】

 

 メインモニターに映し出される情報。えっと何々複合型対エネルギー転換装甲用破砕武装、武装名ハート・ブレイカー……えらく物騒な肩書きと名前してんなぁ。てか、ガンポットか何かの射撃武器だと思ったけどまさかの斧型のガッツし接近戦用の武器かよ。ドッグファイトが主流の可変機戦闘で文字通りの格闘戦をやれと申しますか……コレを載せた人は。

 

【マキナ、レイナ技術者からのメッセージを確認、再生を開始します】

 

【電ッチ見ってるぅー?】

 

「うぉ!?」

 

 りんごちゃんからの知らせと共に武装の詳細が映し出されてた画面から切り替わり、突然マキナのその無駄に成長した胸がドアップで表示された。

 いや、確かに魅力的で大きいとは思うけど妹分の胸を見させられても何も感じないんですけど。

 

【コレを見てるって事はハート・ブレイカーの説明を見てるって事だね!】

 

【流石はお兄さん、私が隠した秘密兵器をあっさりと見つけるなんてやる】

 

 いや、あれで隠してたとか本当か? それに最近気付いたっていうか思ったけど、何というか会わないうちにアホな子になったのか? 

 

【違う、私はアホの子じゃない】

 

 ……ついにムービー越しに心の声を読んで来やがった。

 

【それじゃあハート・ブレイカーの説明に入りたいと思いまーす!】

 

【どんどん、ぱふぱふ】

 

 何事も無かったかのように画面は切り替わり、デフォルメされたマキナとレイナが映し出される。ほんと自由な2人だなぁ。

 

【この装備は元々かったぁーい艦船用のフレームなんかを切断する解体用の試作品だったの、でも────】

 

【私が廃棄されそうな所を回収した。一目見てわかった、これはロマンを感じる物だと】

 

【でもそのままだとただの大きいだけの斧で何より可愛く無かったんだ。だから私とレイレイがキャワワな改造を施して扱えるようにした物がこの】

 

【ハート・ブレイカー、コレでお兄さんのハートもブレイク】

 

 ……いや、俺の心を壊しちゃダメでしょ。それからは細かい説明が続くばかりで専門用語も多くて俺の頭じゃあんまり理解できなかった。けど、唯一出来た部分と言えば斧にレドームくっ付けて高速で振れるようにブースターをポン付けしたロマン武器にしてみましたって部分ぐらいだろうか。てか、何で派手に振り回す事を推奨している武装に精密機器の塊であるレドームとブースターくっ付けたし。でもビームの斬撃を飛ばせるのはナイスだ。

 

【コレで説明は終わり、後で感想待ってる】

 

【じゃあーねー】

 

【……再生終了】

 

「なんつうぅーか、一言で纏めるなら濃かったな」

 

 機体を待機モードに戻し、顔見知りの整備員が来たので機体を降りる。なんつぅーか、疲れたな。

 俺はそのままフラフラと気晴らしにでもと思いハヤテ達の元へと歩くのだった。

 

※※※

 

 ヒビキが逃げるように待機室から早々と退出した後、俺たちは今の所やることも無いので俺の機体をミラージュと確認しに来たが……良い具合に仕上がっていて最高だった。

 レイナとマキナのヘンテコ娘達が俺専用にチューナップしてくれて苦手なヘルメットも被る必要がなくて直で風を感じて飛ぶ事が出来るようになっていた。今からでも飛ぶのが楽しみになって来るぜ。

 その後一通り機能の確認を終えた後、次はヒビキの機体でも拝みに行こうかとミラージュと話しているとライブの準備をしているはずのフレイアと出会った。

 アイツは柄にもなく緊張している様子で何処かぎこちない。そんな不安な気持ちの影響か確か────ルンっていう触覚みたいな部分がいつもと違い暗くなっているみたいだった。

 

「へぇー、いつも大事そうに待ってたから気になってたけどそいつにはそんな思い出があったんだな」

 

 だから気を紛らわす為、いつも大事そうに持ってる古い音楽プレイヤーの事を聞いたんだけど────予想以上に大事な物だった事がわかった。多分コレとの出会いがコイツの人生を大きく変えたんだろうな。

 

「うん、これのお陰で外の音楽を知ることが出来た。私もこんな風になりたいと思えた大事な物なんよ」

 

「それにしても古い音楽プレイヤーですね……型を見るに10年ほど前の物でしょうか?」

 

「うんー、貰いもんやからなぁ……詳しい事は分からんし」

 

 10年か……何もしてない状態だと中のパーツの一部が丁度寿命を迎える頃だな。まぁ、もし壊れたとしてもマキナあたりに見せると解決しそうではあるが……

 

「一応マキナ辺りにでも見てもらったらどうだ「古い物と聞いて」うぉッ!? どっから湧いた!」

 

「ヒビキ中尉……突然人の後ろに立つのはどうかと思いますよ」

 

「いやぁー、暇だったからどれだけ相手に気付かれずに髪を弄れるかとチャレンジしてたら耳よりな情報を聞いたもので声をかけたのさ」

 

「ぽ、ポニテになってやがる……」

 

「ニシシシ、ハヤテは鈍感やね」

 

 お前にだけは言われたくねぇ。突然真後ろに現れたヒビキはフレイアの持ってる音楽プレイヤーを受け取ると手慣れた手つきで点検し始める。その目はいつものふざけた様子と似ても似つかず真剣であり、なんと言うかその……別人を見ているようだ。

 

「内部基盤は動いてるとこを見る限り無事っぽいな……音も立体スクリーンも問題無し。すると交換が必要なのはバッテリーと……おっと通信機が死にかけてるな、ここも交換しないと……よし」

 

 一通り終わったのかフレイアに返す。その時には元のふざけた顔に戻っていた。

 

「んー、ちょっとバッテリーが寿命でドッカンしそうなだけで特に問題はなかったよぉ〜」

 

「ドッカン!?」

 

「うん、ドッカン。あぁ大丈夫大丈夫、そんな涙目にならなくても部品自体はありふれた物だから知り合いに頼んで部品を手に入れて俺が修理してやるから安心しな」

 

「よ、よかったぁ」

 

 すげぇな。少し見ただけでそこまで解るって一種の才能じゃないのか? 

 

「でも、フレイアちゃん結構珍しい端末持ってるんだね」

 

「珍しい?」

 

「うん、だってそれ記憶が確かならメガロード-04に所属していた軍事向けの限定のモデルだからね。その筋のマニアが見たら涎物だよ」

 

「へぇー」

 

 へぇ、メガロード-04の……軍事向けってのも軍人にもらったのを考えれば納得のいく話しだよな。てか、マニアの涎物って表現は汚いがつまり高値が付くレア物って事だよな? ……どうせ本人に言っても理解しないだろうから俺がしっかりしないとな。

 

「そんじゃ、俺はコレからカナメさんの無茶振りに対応する為、君たちワルキューレ全員を乗せても危険が無いよう機体全体にワイヤーフックを付けて来るからそんゆことでー」

 

 そう言ってヒビキはそう言い残すと口笛を吹きながら去っていった……て言うか────

 

「会議で言ってたアレって無茶振りじゃなくてただの比喩表現だったような……」

 

「ハヤテもそう思いますよね。ヒビキ中尉、まさか本気で全員乗せるつもりでしょうか?」

 

「は、ハヤテ。私、カナメさんが冗談で言ってた通り飛ぶんかな? な、何だか怖くなって来たんよ」

 

 は、はは。いくら鈍感なヒビキと言ってもアレを本気────しないよ、な? 

 一つの疑問を残し嫌な予感をさせながら俺達を乗せたアイテールは惑星ランドールへとデフォールドする。コレから俺らを待ち受けるのは当初の予定通りに進むライブかそれとも違う物なのか……恐らくもうすぐ分かるだろう。だけどどっちに転んでもコレだけは言える。例え確率が二分の一の物で当たりの確率がいくら高くても、運勢は味方にはなってくれないと。

 




【ワルキューレ小話】

 拝啓、おじちゃん今日も変わらず元気ですか? 私は今日も同僚二人に振り回されてストレスが溜まり、お酒を飲む量が増えましたがなんとか元気です。そう言えばこの前言っていたおじちゃんが欲しがっていたワルキューレのサインですが私ではいくら頼んでも誤解され、手に入りそうにありません。ですので考えまして同僚の一人に頼んでみました。

「ヒビキ中尉、この前言っていたワルキューレのサイン何ですが……」

「あ、ごめんすっかり忘れてたわ……コレあげるから許して?」

「さ、サイン付き初回生産版リン・ミンメイのCD!?」

「大丈夫、偽物じゃないから。はいコレ鑑定書ね」

「────」

……何でその同僚はこんな高価な物ポン、っと軽く渡せるのか……私には理解出来そうにありません。


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ファースト・ライブ【3】

ヤミキューレの曲買ったんですが……いい曲ですねぇ。


 暗い暗い光すら飲み込む宇宙空間。そこに一隻ポツンと浮かぶ方舟の中では一機の可変戦闘機が発進はまだかまだかとエンジンを回し、その初出撃を待ち侘びていた。

 

※※※

 

「お客さん方、乗り心地は悪いだろうけど少しの辛抱だ、ライブステージまでは我慢してくれよ」

 

 機体を立ち上げ待機モードから発進モードへと切り替え俺の機体、ブリュンヒルドを目覚めさせていく。りんごちゃんが厄物で腐っていても優秀なので発進手順をオートで進めてくれる。バグはもう勘弁だぞ。

 

【問題は無い、ただちょっとマキナが引っ付いてきて狭いだけ】

 

【本当に皆ゴメンね〜。ホントは人数分見付けたかったんだけど倉庫に置いてあったのがこれだけしかなくて……フレフレ以外は二人一組だけど大丈夫?】

 

【うん~、正直キツイかな】

 

【あら、それは私が太ってるって言いたいの?】

 

【そうじゃなくてね、フレイアからの視線が……】

 

【い、嫌な予感が当たってヤックデカルチャ……ヒビキさん、私だけでも乗せれんの?】

 

「出来ればそうしてやりたいがすまん、今回は無理。既に後部座席には追加の機材を積んでて人が乗るスペースがねぇのよ。大人しく諦めて今回のワルキューレ速達便を受け入れてくれ」

 

 今回の俺の役割、それはワルキューレたちをランドールの会場へのエスコートだ。だけども本来の予定ではこんな事する必要もなかったんだよなぁ。

 

 当初の予定では専用の輸送機を使いワルキューレを移送、大気圏突入後ある程度の高度になったらフリーフォールを実行し、俺がそれぞれイメージカラーのスモークを引きながら空中でキャッチしてステージ入りする予定だった。

 だが、直前になってその輸送機が運悪くエンジントラブル、飛行する事が出来なくなってしまう。一度続いた不運は続くもので本来用意されているはずだった予備機は運悪くアイテール艦内に無く、何故かラグナに置いて来たエリシオン艦内にてオーバーホールの最中。デルタ小隊の面々に乗せて運ぶ手も既にランドールの大気圏内を突入してる真っ最中で戻って来る事が出来ず不可能。既に時間も差し迫っていたのもあって何か時間内に降下する方法が無いかと考えた結果、運悪くりんごちゃんが機体のプログラムと連動出来ずにバグを起こして発進出来てなかった俺に白羽の矢が立った。

 

 だが俺の機体はシートを展開しても俺を含めずに考えて最大2人が上限、無理してすし詰め状態で乗せたとしても4人が限界だ。それでは1人余ってしまう。そこで急遽考え出されたのがこの正気を疑う方法、翼上に生身の人が乗ったままの大気圏突入って訳だ。俺の機体は今回行うはずだった空中キャッチを行う関係上、ワルキューレの面々が不安定な空中で安全に着地出来てそのまま機体の上に乗っていられるように俺の機体には複数の命綱が設置されていた。だから今回はそれを使いワルキューレ面々を機体の上に乗せて固定、マキナとレイナ共同所有の倉庫の奥底に眠っていた特殊な耐熱コーティングと冷却システムが組み込まれた特殊装備を身に着けて一緒に大気圏突入ってのが今回の作戦なのさ。

 

【問題は無い。それに数が揃わなかったのも無理ない、コレは随分昔に作られた試作品、だから仕方ない】

 

【え、今随分昔に作ったって……う、嘘よね?】

 

【もぉーレイレイったらクモクモに嘘ついて不安にさせて、そう言うのダメだぞぉプンプン】

 

【そ、そうよね。いくら何でも昔ってのは冗談──【これは随分昔じゃなくて新統合軍設立前のかなり昔の物でしょ?】──嘘でしょ】

 

【大丈夫、ちゃんと使用できるのは証明済み。その証明で丸焼きが何匹か出来たけどメンテナンスしてるから問題は、ない】

 

【本当にごめんなさい美雲、私もまさか思いつきで言った事を本気にするだなんて思ってなかったから……今度からシデンさん──ヒビキ君の前では軽はずみな事は言わないようにするわ】

 

【だから大丈夫じゃないんよぉおぉぉぉぉ!!!】

 

「フレイアちゃんそんなに怖がらなくても大丈夫大丈夫、それを使ってでの生身での大気圏突入記録はちゃんと残ってるからそれによると例外なくちゃぁーんと突入後までは皆生還してるよ」

 

【ほ、ホント?】

 

「……ただ、揃いも揃って着地手段である装置に不具合が発生して地面に高速で叩きつけられる結果になり、ご想像道理のミンチ肉になってたけど今回は俺が一緒だから問題ない!」

 

【き、聞かなきゃよかった】

 

 安心させるはずが逆にレイナとマキナ以外の面々に不安を植え付け、やっちまったと思ったが時既に遅し。何とか元気づけたかったが予定時刻まで余り時間が無く、差し迫っていたのでこれを無視するしかなかった。すまねぇ三人とも、帰ったらチャックの店でなんか奢るから許してくれ。

 メインモニターに映るりんごちゃんがチェックしてくれた項目に軽く目を通しながら俺は通信を繋げた。

 

「こちらデルタ6からブリッジ、速達ワルキューレ便準備完了。いつでも動かしてくれ」

 

【了解! ブリュンヒルドをカタパルトへと移動させるデスー!】

 

 機体はゆっくりと動かされ、エレベーターを上り甲板へ。そこから見える景色は絶景で今回の目的地であるラグドールもよく見える。

 そのまま機体は移動して行きカタパルトへと機体が接続された。

 

【全システム同調完了。発進タイミングをデルタ6へ譲渡しますデスー】

 

「了解、そんじゃ発進前の最後の安全チェックだ。全員耐熱マントに包まってるか? 命綱はちゃんと機体に固定したか? 人類初である生身での大気圏突入をする覚悟は既に完了か?」

 

【全てオールグリーン、むしろワクワクしてきた】

【私も問題ないよー】

 

 当然お気楽デンジャラス娘たちは既に準備完了っと。それで問題は残りの面々だけど……

 

【……フレイア、貴方はどんな想いで歌うの?】

【すいません美雲さん今は恐怖で余計な事考えてる暇ないです】

【大丈夫よフレイア落ち着いて……その気持ちは私も同じだから】

【カナメさん……】

【そうよ、私も正直恐怖を紛らわしくて質問しただけだから気にしなくてもいい……だけどこれだけは憶えておいて】

【ほい?】

 

 あ、大丈夫そうだな。エンジン出力を上げて機体を唸らせる。さぁ、そろそろだ。

 

【歌には一節一節思いが詰まっている。だからその思いを読みとってどう表現するかはあなた次第、頑張りなさい──―「デルタ6発進する。皆舌噛むなよ!」】

 

 すまんなマジで時間が無いんだわ。

 カタパルトに機体が引っ張られそのまま宇宙空間へ投げ出される。急激にGが体を襲いISCを機動してないだけに正直全身が痛いが我慢我慢。本当ならりんごちゃんに頼んで一番負担の少ないスピードにコントロールしてもらって飛行したかったんだが現在リンゴちゃんは発進直前に発生したバグで機能不全を起こしてるので無理。だから俺自身の体を使って調整するしかない。あ、そうだ。気絶とかしてないか生存確認も含めて話しかけ続けなきゃいけないんだった。

 

「ヴィーナスの皆さんたち、調子はどうだい?」

 

【レイナ問題無し。むしろ最高、もっとスピード出して】

【マキナ問題ないよぉ! 電ッチ体に負担を掛けないように調整するだなんてキャワワ!】

【美雲問題ないわ、ちょっと揺れが酷いぐらいかしら?】

「すいませんねファーストクラスじゃなくて、これでも気を付けて飛んでるんですよ」

【ちょっと美雲……あ、カナメ異常ありません】

【フレイア大丈夫でぇーす、ゴリゴリぃに怖いぃ】

 

 よし皆、問題無さそうだな……これならもうちょいスピードを上げれるか? 

 ゆっくりスロットルを傾け機体を増速させる、身体で感じられるギリギリ身体に負担にならない程度に気を使いながら。

 これから皆には大気圏突入って言う試練が待ってんだ、移動だけで体力減らしてちゃ意味ないぜ。そのままゆっくりと進んでいると突如コックピット内でアラームが鳴り出しメインモニターに惑星の重力圏内に入ったと警告が走った。

 

「さてさて出番だぜワルキューレ。大気圏突入後、成層圏を突破したら即フリーフォールだ、皆気張って行け!」

 

 俺の声に合わせて5人はそれぞれWを作った手を目の前に見える巨大な星へと向けた。

 

 その姿はまるで過去バジュラ戦役で見た────戦場へ向かって行く彼女達二人を見ているようだった。

 

「銀河のために」

 

 マキナが始め。

 

「誰かのために」

 

 レイナが紡ぎ。

 

「今、私たち」

 

 フレイアちゃんが後に続きながら。

 

「瞬間完全燃焼」

 

 美雲が奏でて。

 

「命がけで、楽しんじゃえ!」

 

 カナメが告げる。

 

GO! ワルキューレ! 

 

 

 銀河のヴィーナス、ワルキューレの到来を。

 

 

 機体は星へと向かい降下していき真っ赤に燃える……奇跡の時間まであと少し──

 

 

 

 

「……ある意味今、瞬間で命を燃焼しそうだよな」

 




【ワルキューレ小話】

先日通信端末を買い替える際に気付いたのですが、連絡先に登録しているのが仕事先の相手や同僚達しかいませんでした。……これは不味い事なのでしょうか? この事を偶然同じく通信端末の買い替えに来ていた同僚に話したところ―――

「そういえばヒビキ中尉は何人の連絡先を登録しているのですか?」

「俺? 俺か? 俺はなぁ―――なんと(買い換えたばかりだから)ゼロ人だ」


……彼って友達がいないんでしょうか?


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ファースト・ライブ【4】

 ────1つの流星が落ちて来る。

 

 惑星ランドールにワルキューレライブを見に来ていた観客達はそう見えていた。真っ赤に発光してこちらへと真っ直ぐに落ちて来るそれは、やがては纏っている光を失い正体を表す。

 

 黒色のバルキリー。

 

 それが視界に入ると異常事態かとパニック起こしそうだった観客達は興奮し、流れ出した音楽が心を震わせる。既に観客達のボルテージは上って行き、彼女達を今か今かと待ち侘びていた。

 

 ある程度の高さまで機体が落ちて来ると3つの黒い影が分離、その直後別の物を射出し機体をくるりロールさせながら、さながら変身かの如く機体の色を紫色へと変えると射出した物と一緒に5色のスモークを引いた。

 

 それはそれは見事な飛行だったようで幸運な事に観客達はそれに目が奪われ、最初に分離した3つの黒い影の事など忘れていたが────やがては思い出される事となる。影が輝きを放ち、そのベーレを脱いだからだ。

 

「歌は愛!」

「歌は希望!」

 

「歌は命!」

「歌は神秘!」

 

 四つの掛け声が会場に響き渡り、彼女達の降臨を告げる。だが、観客達の期待に応えるには一つ足りない。

 

「ハヤテが死んだ目で言っとった……飛べば飛べるって。飛べば飛べる、飛べば飛べる、飛べば飛べる、飛べば飛べる飛べば飛べる飛べば飛べる飛べば飛べるっていうんかもう飛んどる!  ゴリゴリぃ!!!」

 

 だが、それも僅かな合間。

 

「歌は元気!」

 

 最後の一人、期待の新人フレイア・ビオンは自身を包んでいたベールを脱ぎ捨て、その溢れんばかりの笑顔を向けた。

 その笑顔にある一人のパイロットがヤラレ危うく墜落しそうになったのは全く関係ない事である。

 

「5人目だ!」

 

「新メンバーだ!」

 

「可愛いよフレイアちゃああああああん!!」

 

 だが、最後の一人の登場に会場のボルテージはさらに沸き立ち始まる前から最高潮を記録。中には泣き出す観客もいるぐらい出会った。全くの余談だがあるパイロットもヘルメット内を涙目で濡らして彼女の登場を喜んだらしい。

 

 登場したフレイアは他のメンバーが女神のように着地したのに対し、操作にまだ慣れていないのかオドオドとバランスを崩し、着地に失敗。すっ転んでしまったが観客達にはそれが受けたのか微笑ましいモノを見ているかのような暖かい視線と楽しそうな笑い声が広がった。

 

 そんな会場の中で転んだフレイアを放置し、美雲は一歩歩みを進め、そして宣言する。

 

「聴かせてあげる! 女神の歌を!」

 

 美雲の掛け声が合図となり、それぞれ思い思いのWを作り会場へと向けた。

 

 

「「「「超時空ヴィーナス! ワルキューレ!!」」」」

 

「わっ、ワルキューレ!」

 

 一人出遅れてしまったがコレから始まるは奇跡で夢のような最高過ぎる一時。会場から割れんばかりの歓声と拍手が響き渡りそれを物語っていたのだった。

 

※※※

 

「即興で最高の演出をしてやったぞオラァ!」

 

【ナイス判断だデルタ6、後は任せろ! 全機緊急プランオペレーション、スルト! 荒々しく舞うぞ!】

 

【【【了解!】】】【ウーラ・サー!】

 

 操縦桿を傾けて機体を移動させ、俺は観客達から見えない場所でガウォークへと変形させて滑空、待機する。

 

 いやぁー、マジで焦りましたわ。俺の降下時間が予想以上に短く、ハヤテ達の合流が数秒ズレて予定していたアクロバット飛行が最初から破綻してるって報告聞いた途端、何とかその数秒を稼ごうと即興で本来の演出で使うはずだったスモーク付きミサイルぶっ放した直後、即興劇を披露したけど成功してよかったぁ。

 拡大機能を使い上空からワルキューレの舞を見てるけど……すげぇなありゃ。イントロが流れて来たと思いや、それぞれの衣装が音楽に合った物に変身するかのように変わりやがった。まるで魔法のようだ。

 

【レイナ技術士からメッセージを受信。音声再生、開始【コレは化学、魔法とか言う陳腐な妄想の産物とは全くの別物】────終了】

 

「何でライブ中で尚且つ、めちゃくちゃに物理的に離れているはずの俺の考えが読めるんですかね? その事の方がよっぽど魔法だろうに」

 

 俺のそんな考えなどお構いなしにライブは続く。彼女達ワルキューレが生み出す幻想的な踊りに歌は観客達を沸かせ、サビに入る頃になると観客達は一体となって全力のその一瞬を楽しんでいた。てか、いいなぁ。

 

「俺も今度あの観客先に混じってライブ見れないかなぁ……まぁ、ムリだろうけど」

 

 だって彼女達がライブをするって事は俺も護衛としてアクロバット飛行するって意味だもの。ほら、今だって同じ小隊のハヤテが飛んでるし今回は別としてゆっくりと見る暇なんか────ってオイオイ、ハヤテの奴勝手に踊ってやがるな、ミラージュ少尉がすぐさまフォローに入ってスゲェ事になってやがる。ホントよくやるよ、俺と同じ即興の演出だったとしても踊る方がよっぽど難しいのに……アイツって天才か何かなのかな? 

 

「さてさてサボるはここまでにして俺は俺の仕事をしましょうかね……りんごちゃん、修復状態は如何程?」 

 

【現在全システムの39%を緊急用モードで起動中。全機能の回復には後15時間の見通しです】

 

「オートはダメって事ね了解。そんじゃマニュアルでやりますか……ハートブレイカー、マスターキーで起動」

 

【ハートブレイカー、全周波介入モードで起動します】

 

 腹部に装備された武装が展開され、メインモニターが様々な周波の乱れを表示した画面へと切り替わる。俺はその中から通信や音声に関する物を呼び出して発信先全てへと目を向けた。

 

 

 

 今回、本来のステージ上で行うはずだった俺の仕事、それはワルキューレを視聴しているネットワークの監視だ。

 

 理由は言わずもながらあのアンノウンへの警戒及び、危険分子の早期発見が主な内容となる。

 そしてその監視で役立つのがこの武器。武装名、ハート・ブレイカー。コイツの本当の姿は何とビックリ、斧型のハッキング装置だったのだ。マジで予想外過ぎて理解した時はその時飲んでたアプジュー吹いたからね。

 

 でも1番おかしいと思うのがコイツは一度起動すると効果範囲であれば有りとあらゆる全ての通信へと介入、それ以降通信はコイツを迂回してからとなる点だ。膨大な情報処理を円滑に処理しつつラグ無しで送り出す事もおかしい点が正直言って頭おかしい。それに加えてもっと、もぉぉぉっと頭おかしい点はコイツを一度迂回して通信するその回線の解除キーが自動的に生成されて実質的なマスターキーになってしまう事だな。もう辞めて、お腹いっぱいだから。

 あの時のマキナとレイナの説明では色々とわかんなかったけどこれだけは分かる。多分レイナが見つけたコレは本来この機能を隠蔽する為に廃棄処分される筈だった物じゃないかな? 

 だけど偶然廃棄される直前にレイナのロマンセンサーに引っかかり回収。マキナと一緒に分析した結果この機能が分かり、隠すのでは無くて生かす方針で改修を受けて今に至るって経緯だと思う。細かい事は本人達に聞くしかないけど俺的には何でそんなヤベェ物を斧に改装しやがって狂ってやがるぜ。(褒め言葉)

 でもさ、これって明らかに表に出したらヤバイりんごちゃん同様の厄物だよね? 

 

 それに何だコイツ、フルスペックを発揮しようと思ったら全体の6割以上エネルギー持ってかれる大食いなコンピューター付きの斧って絶対戦闘機用の装備じゃないだろ。4発積んでる俺の機体だからまともに運用できてるからいいものを、コレ普通の機体だったら起動すら出来ないよな……ハァ。

 

「また厄物が増えて不幸だなぁ……あ、これウィンダミアからだ」

 

 複数の通信。その中には色々と怪しい回線が存在したが、個人的に気になったのがフレイアちゃんの生まれ故郷から接続されているのだった。物自体は音声と映像を送るごく普通の通信なだけど必要以上に中継挟んで接続されてるみたいで凄くまどろっこしいやり方してんだよなぁ……接続元も不明としか出てないし。……うん〜、考え過ぎかなぁ? 

 

「ま、なるようになるか」

 

 曲の終盤に入り盛り上がるライブにいっそう難易度を上げて飛ぶデルタ小隊の面々。俺の疑念などどうでも良くなるぐらいに美しく舞うワルキューレの歌はこの星に響いているのであった────

 

【アイテールよりデルタ小隊各機に緊急連絡! 惑星軌道上に正体不明のデフォールド反応確認、アンノウンです!】

 

 ────この時までは。

 




【ワルキューレ小話】

 拝啓、最近歳の影響かバルキリーに乗ると持病の腰痛が酷くなるおじいちゃんへ。今日も元気におばあちゃんのお尻に惹かれてるでしょうか?
私の方はもらったあのCDをどう保管するかで頭がいっぱいですが、なんとか元気です。
 さて、またあの時の同僚の話になるのですが……彼は一体何がしたいのでしょうか?

「ひ、ヒビキ中尉、何をしているのですか?」

「何って目玉焼きに塩かけてるだけだけど……」

「め、目玉焼きには普通醤油でわ?」

「あぁ、俺は気分で変えてるんだわ。この前なんかはケチャップかけて食べたぜ」

「は、はぁ」

おじいちゃんやおばあちゃん、お母さんにお父さんも醤油でしたし……普通醤油ですよね? 


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ファースト・ライブ【5】

お、ま、た、せ。

ゲート見てたら遅くなったぜ


 突如宇宙へと現れた8つの黒色流星。それは惑星の空へと降下してくるとさらにいくつか分離する。そのまま分裂したゴーストは自由自在に空を飛び回り更なる混乱を生んだ。

 

「これは──妨害電波!? 全ジグナスオフライン!」

 

「っく、やっぱりこっちの事は研究済みか」

 

 マキナの報告にらしくない余裕のない表情を浮かべる美雲。それもそうだろう、ジグナスと呼ばれる装置の役目はフォールド波の増幅、およびそれの含まれた歌の拡散にある。これが無効化されてはワクチンライブの意味を成さない。

 

「このままだと、危険」

 

 それにジグナスはワルキューレにとってのシールドとしても機能していた。これが無くては危険を防ぐことなど出来ない。

 

「カナメ! 予備のプランはまだ!?」

 

「まだ肝心の彼が遠いから無理! もぉ、ヒビキ君はなにやってるのよ!」

 

「はわわわわ」

 

 こうのような状況に至った場合に備え、準備していた奥の手もその本人が不幸な事に遠くの空を飛んでいた為に到着まで時間がかかる為に現状では不可能。そして不幸な事とは連鎖するもので────

 

「ッ! ミサイル!」

 

 アンノウンの一機がミサイルを放出、彼女らへと降り注がんとこちらへ向かってきていた。防ぐ手段も無く、避けようにも範囲が広過ぎてそれも無理。もう駄目かと思われたその時、救いの手は現れた。

 

【全機、ワルキューレと市民を守れッ!】

 

 4機のバルキリーが、デルタ小隊の面々が駆け付けつけてくれたのだ。

 

 駆け付けた各機はガウォーク形態へ変形すると背部に取り付けられたビームガンポットとレールマシンガンを展開、ミサイルを次々と撃ち落す。

 5機のヴァルキリーが撃ち出す集中砲火の火力は圧倒的なもので、ミサイルからの防衛は成功した。だが、彼女達の求める物を乗せた機体が足りない。

 

「アラド隊長、ヒビキ君は何処に!」

【アイツは厄介なのに絡まれてるから今は無理だ。メッサー、ミラージュが援護に行ったが荷が重そうだ、行ってやれ!】

【了解】

 

 カナメの問いに応えるアラドの声からは焦りの感情が読み取れる。1番空戦の腕が立つメッサーを援護に行かせるあたりらそれほどの強い相手────そうカナメは考えそしてすぐさまに合流出来なかった事に納得する。

 アラドの指示によってメッサー操るVF-31Fがその場から飛び立ち数秒後、彼が現れる。

 

【どうもぉー、遅れてすいませーんご注文品をお届けに来ました】

 

 こんな非常時だと言うのにいつも通りのふざけた態度、だがその声からはいつも感じさせていた余裕を一切感じない。機体には所々に何かが掠ったような大きな傷もあり、武装に至っては両腕のレールマシンガンや二丁装備していたはずのガンポットが姿が消失し、それぞれ装着されていた部位には爆発痕が残っている事からやはりそれほど苦戦する相手なんだろうと読み取れた。

 

「ひ、ヒビキ君大丈夫?」

 

 思わず心配の声をかけるカナメであったがヒビキはなんともないと言わんばかりに手を振るばかりで明確な答えは出さない。弱音を素直に吐来出すなんとも彼らしくない行動だ。

 

「そ、そう。無理はしないでね?」

 

【了解しましたカナメさん。そんじゃレイナにマキナ、コントロール任せた。りんごちゃんビーナス展開!】

 

 機体の上方の装甲がスライド、中からミサイル状の何かが飛び出した。それは空中で変形、プロペラを展開するとその場をホバリングし始める。

 

「任せて。ビーナス、プログラムオンライン」

 

 次々と地面へ伏していた装置達がまるで息を吹き返すかのようにゆっくりと空中へ浮かび、光を灯していく。

 

「ジャマーの無効化、ネットワークの再構築完了、いける」

 

「ジグナス再始動! さぁーキャワワな子達、また頑張ってぇ!」

 

 マキナの操作に息を吹き返したジグナス達はまるでワルキューレを守る守護騎士のように彼女らの周りを旋回し始め、動き出す。

 

【安定起動確認、よし! そんじゃ追加のジグナスは置いてくから後はよろしく。メッサー交代の時間だ、デルタ6戦線復帰する!】

 

 彼の機体はクルリとファイターへと変形してメッサー達が戦っている空域へと飛んで行く。

 

「なんだか今のヒビキさん、怖かったぁ」

 

 後に残ったのはそんなフレイアの嘆きに近い呟きだけだった。

 

※※※

 

 始まりは突如だった。

 

「接近警報? レーダーではまだ遠い筈だしそこに写ってないとしたら……まさか────ッ!」

 

 上!? 

 

『────』

 

 幻聴にも似た声が頭の中で響き、唐突に背筋を急激に冷やす冷たい感覚が走る。それに対して物凄い嫌な予感がした俺は反射的に操縦桿を思いっきり傾ける。機体はその操作に応じ、大きくロールした直後────

 

「うぉ!?」

 

 ────眩しく輝く閃光がキャノピーギリギリを走った。周りを見ても機影を確認する事はできず、レーダーにも反応はない。正体不明の攻撃を覚悟して飛ぶしかなかった。

 

 

 

 あ、危ねぇ……まさに間一髪だぜ。コンマ一瞬でも遅れていればアレが直撃していたと確信できるほど恐ろしく正確な照準、掠ったキャノピーの溶け方から考えるに攻撃の状態はビームだろう。だったら威力と大気による減少を考えるに敵機は近くにいる訳で────って、ステルスかよ!? 

 

「視認不可の相手とか先生聞いてませんよ!」

 

 落ち着いている暇もなく、ロックオンの警告がなり始めると合わせてガウォークからファイターへと変形し、ビームをばら撒きながらもエンジン出力を限界一杯まで上げて空を飛んだ。敵機が視認できない以上レーダーが頼りだがそれも無効化されてる現状打つ手無し……どうしたものか。

 

「不完全なステルスなら相手にした事あるけど完全なのは無理ポッ!」

 

 ロックオンの警告が再度鳴り響き、ビームの雨が後方から襲ってきた。

 右往左往に飛び方など気にせずランダムに回避するが、全てを避け切る事が出来ない……ってか、さっきから掠ってる。奴さんめ、こっちの動きを読んで誘導してやがるな? 

 

「面白れぇ、ならその優位性を剥がしてから相手してやる。りんごちゃん!」

 

【熱源と斜線のパターンから敵機のCGデータを作成……完了。投影、開始します】

 

 気を利かせたりんごちゃんによりキャノピーに映し出されるのは三機の機影。恐らくこのうちの二機がゴーストブースターだろうな。

 

「まぁ、問題ない。いや、ゴーストまで完全ステルスなのは問題大ありだけど敵機が見えるだけまだマシ、やってやろうじゃねぇか!」

 

 限界一杯に振り絞った出力をそのままにピッチアップによるループを開始。このままだと世に言うクールビットで終わる起動だがここは可変戦闘機、それだけで終わるはずがない。丁度機首が真上を向いたタイミングで足を展開、逆噴射。

 

「うぉぉぉぉ!」

 

 体に負担がかかってクソッタレに痛いが関係ねぇ、これが必殺高速度超小範囲ギャラリーじゃボケェ! 

 そのまま敵機の後方を取った俺はそのまま食らいつく。

 

 

【────】

 

 

 そして、同時に頭の中に声が響いた。

 

 

※※※

 

 ミラージュがそれを目撃したのは偶然だった。

 

【もらったぁぁぁぁ!!!】

 

 通信機越しに響くヒビキの声。いつもの騒がしいだけの声をかと思いきや、その声色に彼らしくない焦りが感じ取れた。

 

「ヒビキ中尉?」

 

 レーダーの反応で彼の飛んでいる場所は意外と近いと思い、彼の飛んでいる方向へと目を向けると丁度そこには衝撃的な光景があった。

 

「な!?」

 

 確かに見えた4つ閃光。彼の機体に降り注いだそれは機体に搭載されている武装に吸い込まれるように直撃、複数の爆発を起こす。

 

「ッ!」

 

「どうしたミラージュ、何か「デルタ4、デルタ6の援護に入ります!」

 

 しかし、それは彼の飛び方から考えるにありえない事だ。

 信じられないとハヤテの声も振り払い、私は気付けば操縦桿を傾けて彼の飛んでいる空域へと機体を向けていた。

 これまで彼とは何度も何度も模擬戦を経験したが彼が被弾するのは滅多になかった。例えハヤテにチャック中尉を加えた3対1の状況で集中砲火を受けたとしても、無茶苦茶な回避起動で避けてみせる勘の良さと常に運を味方に付けていた。だが、なんですか先程のアレは! 

 

【こな、くそッ!】

 

 苦しそうな声と共に唯一無事だった頭部のビーム砲が放たれら何もない空を撃ち続けそして────当たった。

 

【ラッキーッ】

 

 ラッキーショットを繰り出した彼は誘爆寸前だった武装を放棄、ファイターで仕切り直しを測るようで私の方へと飛んできた。そしてそのラッキーショットを受けた機体は虚無の空間から煙が吹き出しながらその正体を表す。

 

「光学迷彩!?」

 

 虚無の空間から姿を表したのはアル・シャハルで遭遇したアンノウンと同一機体。しかし異なる点がありその機体色は黒ではなく真っ白、汚れを知らない純白と言う感想を抱かせた。

 

【ミラージュ少尉注意しろ、奴さん自分の機体だけじゃなくてゴーストまで不可視にしてやがる。今解析データを送った、参考にしてくれ】

 

 送られたデータを有効してみる。するとキャノピー全体に敵機の姿が映り込み、ロックオンのアラートが鳴り響いた。

 

【デルタ4、4時方向!】

「ッ!」

 

 虚栄かと一瞬でも疑ったのがダメだった。機体を大きく傾けるが遅く、右翼へと直撃し機体を大きく揺らす。その衝撃で機体は大きくバランスを崩したようで墜落警報のアラートが鳴り響き、キャノピーから見える景色は回っていた。

 

【デルタ4大丈夫か!】

 

 彼の声が響き、心配する気持ちが伝わるが幸運な事に怪我一つ追っていない。どうやらメインモニターに映る表示を見るにエネルギー転換装甲が働いたようだ。

 

「だ、大丈夫です。機体にも問題はありません!」

 

 推力を上げてガウォークへ一旦変形、バランスを取り戻すと再度ファイターへ変形して回避起動をとる。彼は私のカバーに入っていたようでミサイルをチャフのようにばら撒いて敵機を近づけまいとしていたようだ。

 

「すいません、油断しました」

 

【仕方ねぇ、あのデータを見たら誰でも一瞬は固まるさ────ッ

 !? デルタ4ブレイク、ブレイク!】

 

 休む暇も与えない不可視の攻撃。純白の機体は悠々と空高く私たちを見下してるかのように飛び、それでも不可視のゴーストと思われる機影が私達へ襲いかかる。

 

【全機! ワルキューレを守れ!】

 

 そんな中アラド隊長から命令が下るが今の状況、自身の身を守るだけで手一杯で駆け付けられる余裕もない。

 時々入るヒビキ中尉の指示を参考にしながら回避起動を取りながら私は通信を繋げる。

 

「こちらデルタ4、現在デルタ6と共に正体不明の光学迷彩を施したステルス機体と戦闘中、援護を求む!」

 

【不可視のステルスだぁ?!】

 

 アラド隊長は私の報告に一瞬戸惑ったようだけど、ヒビキ中尉のデータを一緒に送ったお陰で状況を理解してくれたようだ。

 

【わかった、今からメッサーを送る。デルタ6の予備が必要になったから戻らせるが何とかなりそうか?】

 

 ヒビキ中尉の予備、恐らくカナメさんがミーティングで言っていた試作品として開発されたジグナス用サポートメカであるビーナスの事だろうか? 

 

「はい! 何とかしてみせます」

 

 だったら早く送り出さないとワルキューレが危ない。そう判断した私はアラド隊長は不安そうな表情を一瞬浮かべるも、私の考えは伝わったようで真剣な表情へと戻る。

 

【よし、聞いてたなデルタ6。オンステージだ!】

 

【マジですか、カナメさんの予想ドンピシャかよ……本当に大じょじょじょじょ────って危ねぇ! 直撃するとこだった】

 

「私は大丈夫ですから、早く皆さんの元へと向かってください」

 

 これでもヒビキ中尉のお陰で教科書道理の飛行を行わない、常識外の相手をするのは慣れてますし不可視の有効性が無くなった今、ただのステルス相手に苦戦する訳にもいきません! 

 ヒビキさんは一二言、早く戻ってくると言い残すと、ワルキューレの元へと飛んで行った。

 さぁ、私ここからが正念場ですよ。気合を入れて

 

「あ、無理そう」

 

 ────全方向からのロックオン警告。こ、こんなのを一人で避け続けていたんですかあの人は……メッサー中尉、早く来てください! 

 そう思いながら私はマニューバを続けるのであった。




【それ行け! 空中騎士団ッ!!! (オマージュ)】

これは惑星ウィンダミアのいつもの場所で起こるいつもの物語。

「ボーグ様!」「ボーグ様!!」

「何だテオにザオ、初登場から騒々しい」

「とうとう私達空中騎士団の登場ですね!」「胸がムネムネ、興奮が抑えきれません!」

「テオ、ルンが光って眩しいぞもう少し感情を抑えろ。あとザオ、何だムネムネがムネムネって、表現が独特過ぎるぞ。それと二人とも、何だそのルンの動きは、触手のようにウネウネと動かすんじゃない。」

「しかしポット出の奴に出番が奪われたのは我慢なりません!」「本来ならボーグのミサイル攻撃が光るシーンだったのにッ」

「いや、無視かよ……結局あれはあまり効果が見込めなかったものだから別にどうでもいい事なんだが、何故そんなに悔しがってるんだ?」

「どうでもいいだなんて!!」「そんな事ありません!!」

「うぉ、ビックリした」

「そもそもボーグ様の魅力は本編のような噛ませキャラのようは立場では────」「創業180年以上、ユッシラ商会の総力を上げて制作会社へ向けてこれに抗議を────」

後のボーグは語る。ガチ勢に権力を持たせるとろくな事にならない…っと。


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