チート転生は、ひねくれ者とともに (ひきがやもとまち)
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序章

『ごっめんね~☆ 君のこと手違いからのミスで死なせちゃったぁ♪

 チート持たせて別世界に転生させてあげるからゆ・る・し・て・ネ★ ちゅっ♪』

「は?」

 

 

 ・・・・・・・・・と言うようなやり取りをした直後、車に引かれて死んでいたはずの俺は森の中で小さな女の子になって突っ立っていた。景色には全くぜんぜん見覚えはございません。都会育ちの現代日本人なんでね?

 

 しかも今さっき会って別れたばかりの自称転生を司る女神サマから与えられたチートだからなのか、記憶の中に学んだ覚えのない知識やら能力の使い方やらが追加されてるのが分かる。転生ってスゲェな、チートもだけど。

 

「・・・まぁ、死んで天国か地獄かいくよりかは、生きて異世界旅したほうがなんぼかマシか」

 

 そう思うことにした。

 

 こうして、俺の異世界『幼女』転生物語は幕を開ける・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー行く宛もなく、目的地もなく、そもそも今いる場所がどこでなんて名前なのかさえ分からないので、適当に歩き回るのと適当じゃなく歩き回るのとが同義な行動になってしまっている現状。

 適当な方角目指してブラついてたら、進行方向上の道端で戦闘が行われていた。

 

 騎士団か警備隊が、大きめのモンスター相手に苦戦しているようだった。

 一般的な選択肢として、この場合に選べる道は二つだけだ。

 

1、チートがバレないように加減して加勢する。

2、保身を優先して見捨てようとして、理由ができたからオーバーキル気味にぶっ殺しまくって助ける。

 

 ・・・この二つしかない以上、俺が選ぶべき行動は決まっている。『臨機応変に適当に』である。

 助けに入ってヤバそうだったら逃げ出す。チートがバレてヤバそうになっても逃げ出す。チート使わずに勝てるなら使わずに勝つ。気に入った女の子がいてピンチになってたらチートがバレてでも助ける、元男の子ですから。・・・これだろう。

 逃げ出す選択肢が多くないかと言う奴がいるかもしれないが、そもそも今の俺は密入国者。立派な犯罪者であり、治安機関から逃げるべき理由には事欠かない。

 

 それでも彼らを見捨てる選択肢がでないのは、俺が元日本人であってヴァーダイト人じゃないからだ。

 ヒロイン的ポジションのニーナが死んでるのを見つけた時に『ニーナが死んでいる』の一言ですませてアイテムだけ追い剥いでいくアレフになれる異常性なんか持ち合わせられねぇよ俺には・・・・・・。

 

 

「ーー退くな! 皆の者、ここで退けば後はないと思え! 全力で耐え凌ぎ、味方の撤退を援護するんだ!」

『お、応!!』

 

 ・・・と、そうこうしている間に助けようかと思ってた人たちがピンチになってたみたいだわ。

 いや、元からなのか? 撤退中だったから殿が残って必死に堪え忍んでいたと考えれば多少辻褄はあう・・・のかなぁ? 正直戦国とか中世の戦争ってゲームか映画でしか見たこと無いからよくわかんね。大河はなんの役にも立ちそうにないし。

 

「ま、いいや。とりあえず行こう。ーーとおっ」

 

 ぴょんっ、と。小さな体で大ジャンプして部隊の最後方の指揮官がいる辺りに着地する。チートな身体能力万歳。

 

 

「今少しだ! 今少し耐え凌げば味方は安全圏まで逃げ込める・・・っ!? 君は!?」

「通りすがりの魔術師。援軍にきた。子供に助けられるのは恥だと言うなら帰るけど、どうする?」

 

 ひどく短い自己紹介だけした直後に相手に選択を強いるやり方はフェアじゃないと、俺は思う。

 しかし、それがどうしたというのだろう?

 そもそも助けに入ってやっているのは俺で、助けが必要なのはコイツ等のほうだ。上下関係で考えるなら俺のほうが圧倒的に上な立場だというのに、どうしてわざわざ対等にまで格下げされてやらなきゃならんのか意味わからん。

 

 相手の指揮官(ぽい奴)も優先順位を間違えるほどバカではなかったらしく、僅かにためらいを見せた後に「・・・助かる! 礼は後ほどにでも!」と言い切ってみせることで部下たちの困惑を押さえつけて納得させた。

 

 上が判断して決定を下したことに、従う側の部下たちは異論を唱えられない。だからこそ逆に有効な場合がある。今みたいな時だ。『上が決めたことだから』と考えるのをやめる言い訳に使える。

 

「何して欲しい?」

「支援魔法は使えるか!?」

「ん。防御系、回避率アップ系、行動阻害系、あらかた使えるけど器用貧乏。大半の魔法はランク1までしか使えないと思っといて」

 

 一応のチート漏洩防止策。

 この世界の魔法はランク分けがされていて、オバロで言うところの位階魔法みたいな扱いになっている。全般的に修めようとすると器用貧乏になりやすいところも同じ。生まれつき得意な分野だけは一点突破してレベル以上のものが使えるようになるところが少しだけ違ってる。

 

「上出来だ! これから私が言う支援魔法を指定した場所と範囲内にかけてやってくれ。子供にそれ以上のことを頼んでしまったのでは大人として情けなさすぎるからな。

 それだけで一人も死なせることなく耐え凌がせてみせるさ! 指揮官としてなぁ!」

「ん、了解。遠慮なく注文どうぞ」

 

 言われたことだけやりゃあいいとは、随分と簡単なファーストイベントだな。・・・ああ、チュートリアル戦闘って奴なのか。それじゃあ、しゃあないしゃあない。

 

「では、行くぞ。復唱! 《ウォール・オブ・プロテクション》!」

「《ウォール・オブ・プロテクション》」

「次! 第二分隊の隊長を・・・あの赤い羽根飾りがついた兜の男だ! 彼を中心に《ウィンド・シールド》を!」

「《ウィンド・シールド》」

「次だ! 今度のは・・・・・・」

 

 レイド戦なんざネトゲをやったことないし、ログホラ見て好きだっただけの俺には有効な指揮なのか否かさっぱり分からないけど、少なくとも指揮官が自分の口から自己責任で命令していることなら従っといて問題なかろう。

 

 俺は黙々と言われたとおりの呪文を掛け続けて、ボンヤリしていたところ。

 ーー突然モンスターの行動が激変した。今まで一度もしてこなかった背中を見せてからの大回転で尻尾を振り回してきたんだ。

 

「む!? ーーいかん! 皆、衝撃に備えろ! 吹き飛ばし攻撃だ!

 クッ、油断した! まさかこの地形で使ってこようとは・・・・・・!!!」

 

 指揮官が言ってる意味が分からなかったので適当に近くに立ってた大木の幹に掴まって黙って様子見していたところ、まもなく判明した。

 

 どうやら尻尾を振り回して起こした突風により、敵キャラクターを射程距離外まで吹き飛ばす能力だったらしい。広々とした広野の戦場で一対多の戦闘を行っている巨大モンスターが使うにしては確かに意味のない攻撃手段だった。

 

 なにしろ、吹き飛ばしそのものにはダメージ判定がなく、壁や地面に打ち付けられたら地形によって異なるダメージを負わされる類の攻撃であるらしく、何人か飛ばされてった騎士だか甲冑兵士たちも立ち上がるまでと、立ち上がってからの行動に個人差が大きい。本人の能力もあるんだろうけど、同じ部隊から飛ばされてった二人が両極端な反応してるし、間違いないと思うんだけどなぁー。

 

 

「ーー!? シェラ!?」

「ダメだ! ミリエラ! 行くんじゃない!」

 

 俺の隣で指揮官さんからの指示を受けてたもう一人の魔術師さんが、吹き飛ばされてった兵士の一人が起きあがろうとして失敗するのを見て悲鳴を上げながら駆け寄ろうとするのを指揮官が止める。

 

「ですがシェラが! 私の幼馴染みが怪我して・・・動けなくなってて!!」

「吹き飛ばし攻撃は見た目が派手な割に威力自体はふつうの突撃よりも小さいんだぞ!? 教習で習わなかったのか! 部隊行動中に勝手なことをするんじゃない!」

「けど!」

「一人増えたとはいえ、君は我が隊でも数少ない希少な魔術師なんだ! 君からの支援魔法がなくなったときに前線で戦う彼らはどうなる!?」

「・・・・・・っ!!!」

 

 前に立ってた兵士たちの一部が顔だけ振り向かせて目を向けてくる。

 皆、一様に「行かないでくれ、見捨てないでくれ、俺たちはまだ死にたくない・・・」と言いたがってるのがイヤでも解る目つきだった。気持ちは分かるけどな。

 誰も他人の友人のために見捨てられて死にたくはないだろ普通なら。正常で結構なことじゃん?

 

「・・・・・・いいえ! 今ここには私の他にもう一人の優秀な魔術師が加わってくれています! 私が一時的に戦列から離脱して戻ってくるまでの代役なら、問題なくこなせる実力者です!」

 

 え、俺? 俺なの? 俺を命令違反の理由に使われちゃうの? ・・・マジっすかー・・・。

 

「ですので・・・ミリエラ・スタンフォード! 命令違反をさせていただきます! 処分は後ほどご存分に!」

「ミリエラ! おい、待つんだミリエラ! ・・・ああ、クソ! これだから能力だけ高くて現実をみない甘ちゃんはぁぁっ!!!」

 

 背中を見せて戦線を離脱していく独断専行な美少女部下を見送らざるをえなくて、頭をガシガシとかきまくり嘆きまくる指揮官さん。

 いや、本当にその通りですよね。俺もそう思うし、全力で見捨てたい。

 

 でも見て、前方を。敵が二度も続けて吹き飛ばし攻撃しようとしてる姿を。背中見せてるから見えてさえいないお姉さんに当てさせちゃって本当に大丈夫なの?

 

「ーー!? いかん! 全員、もう一度伏せんだ! 

 二度も同じ攻撃を放ってしまった後には攻撃不能時間がかなり長く取れる! その隙をついて少しでも攻撃を多く当てられたら、あるいは勝利の目も出てくるかもしれん! 

 総員、最後の死力を尽くせ!」

『・・・・・・応っ!!』

 

 返事の前にあいた間が魔術師のお姉さんに対する感情を現しててそうで、少しキツいな。原因として。

 ・・・ちくそぅ・・・吹き飛ばされてった幼馴染みのほうも美人だけど好みじゃなかったから見捨てるのにためらい無かったのに、ミリエラさんの方はモロ好みな顔とか声してたから見捨て辛いじゃねぇかよ~。

 

「来るぞーーーー・・・・・・伏せろ!!」

 

 ブォン!!!

 

「・・・!? き、きゃあああああああああああああっっ!?」

 

 ああ・・・背中からでも聞こえてておかしくない指揮官からの指示を、やっぱり聞いてなかったのかお姉さん。幼馴染みのことで頭一杯だったんだろうなー。・・・正直言って、スッゲェ見捨てたい。

 

 でもダメだな。可愛いから。男として捨ておけん!ーーとかの兵藤イッセーみたいなこと言い出す気はないけども。現実問題として救おうと思えば簡単に救える奴を見殺しにしてしまったらトラウマになって残るだろ、普通なら。

 

 「人間死んだら終わりだ」なんだと舐め腐ったこと抜かしてる現代日本人の腐った性根を甘く見てんじゃねーよ。口先だけの死生観なんざ要らん。

 「死ぬときに後悔しないなんて無理。どうせ最後は慌てふためくだけ」ーーそんな糞を口から垂れ流してたゴミがいたな、そう言えば。あのバカ今頃何やってんだろ? 死んでてくれたら少しは世の中マシになりそうなのに。

 

 

「ーーあのクズと比べれば遙かに生きる価値がある人か・・・・・・救わない理由はなくなったな」

 

 俺は普通に中級難度の魔法を使って空へとテレポート。お姉さんの飛んでく先へ先回りしてナイスキャッチ。

 そしてそのまま低速降下。生きる価値がある人を救えて良かった、良かった。

 

 ーーー死ぬときにどうなるかなんて誰にも分からない。だからこそ「そうなれるように努力する」のが目標であり努力の有り様。

 その基本を履き違えて、ガキ向けのマンガに出てくる三下悪役みたいなことほざいてサボってるだけのゴミより、必死に生きてる人の方が生きる価値があるのは考えるまでもないだろ?

 

 

 

「・・・ん・・・・・・あ、れ・・・? ここは・・・・・・」

 

 どうやら吹き飛ばされたときの衝撃で気絶してらっしゃったみたいで。そう言う効果はなさそうな説明だったから、単にこの人が驚いて気を失ったか打たれ弱いだけなんだろうなー。まぁ魔術師みたいだからしょうがないっちゃしょうがにんだけども。

 チートじゃない魔術師は基本的に打たれ弱い。これRPGの常識。

 

「地上に着きますよー」

「え? は、え?」

 

 適当に返事して慌てる彼女は普通に無視して、地上に着地。これで一件落着になるなら良し。

 ならない場合には・・・・・・それもまた良しとしておくべきか。上から見下ろした連中の顔色を見る限り、これで済む展開は望み薄だろうがね。

 

 

「な、なんだかよく分かりませんけど助けていただいたみたいで有り難うございました! 私はーーーきゃっ!?」

 

 抱えてやっていたお姉さんが自己紹介し始めたところ悪いとは思ったが、手を離して地面に落とさせてもらった。ーー招かれざる客が来たことをチートで気づいたからである。

 

 ズバシュッ! ーースカッ。

 

 お姉さんを手放して後ろへ下がった俺の眼前を、剣閃が通り過ぎていく。

 チートで未然に察知できてた遅すぎる攻撃は既知のものも同様だ。ナイフ振り回して粋がってるだけの不良モドキと大して変わらん。

 チート得る前だったらともかく、殺そうと思えばいつでも殺せるザコの攻撃に恐れおののくバカなどおりゃあせん。

 

「貴様! 私の友達から・・・ミリエラから離れろ!」

 

 ・・・なんとまぁ。誰が来るかと思っていたら、お姉さんが助けようと近づこうとしてた、好みじゃない見た目をしている吹き飛ばされてた兵士さんとはね。

 

 ーーハッ。これは“都合がいい”。

 コイツなら遠慮なく言ってしまっても罪悪感を覚えなくて済みそうだーー

 

 

「怪しい魔法使いめが! 何の目的があるかは知らんが、仲間を離せ! これは命令だ!」

「ちょ、ちょっとシェラ!? あなた、いきなり小さな子供に剣を向けるだなんて無体な真似は・・・っ!」

「ミリエラは黙ってて! コイツは危険よ! 普通じゃないわ! ・・・あなたは気絶していたみたいだから見てないんでしょうけど、コイツはね。中級魔法の《テレポート》を使ってアンタの側に瞬間移動してみせたのよ! 見た目通りの年齢だなんてあり得ないわ! 絶対に化けの皮を剥いでやーーーーきゃあっ!?」

「わきゃっ!?」

 

 会話の途中で目線をお姉さんに逸らしてくれた好みじゃないけど美人のお姉さんに、好みな方の美人さんの背中を押して突き飛ばしながら返してやってった。

 

「な、何をするんだ!」

「手放せと言われたから手放してあげました。返せと言うから返してあげました。なにか問題が?」

「大ありだ!」

 

 肩を怒らせて立ち上がり、剣を構え直してこちらへと切っ先を再び向けてくる美人じゃない方のお姉さん(面倒くさいからもうシェラさんでいいか)は、目に怒りを宿して俺のことを睨みつけてくる。

 

「答えろ! 貴様は何者だ!? ただの旅人ではあるまい!」

「あなたが無様にヘマして負傷して助けに来ていた幼馴染みさんが死にそうになってるところを助けてあげた、命の恩人さんですよ。それが何か?」

「ーーー貴様っ!!!」

「それから、ただの子供は魔法使う以前に一人旅をしません。その時点で一目瞭然な事実をわざわざ口に出して詰問に使うとか、バカなんですかあなたは?

 それとも聡明そうな幼馴染みから利口そうに見られたくて、インテリの猿真似でもしてみたのですか? 慣れないことはするもんじゃないと思いますけどねー」

「貴様! 貴様貴様貴様貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 もともと短気で怒りっぽい性格らしく、あっさりと挑発に乗ってくる単純バカのシェラお姉さん。

 試しに、わざとらしく「フッ」って嘲笑ってみたら・・・おお、おお。これほど簡単に釣れてくれる人も珍しいことで。ある意味では希少価値だな。いらない類のレアだけど。

 

「シェラ! お願いだからやめて! そっちのあなたも!」

「ミリエラは黙ってて! コイツは私の誇りを・・・イーズウッド家の名誉に泥を塗りつけたわ! 子供だからって許していい行為じゃ絶対にない!」

 

 ミリエラさん・・・だったかな? 幼馴染みの言葉にさえ耳を貸さなくなったシェラさんが激高してるけど・・・よりにもよって『誇り』ときましたか・・・。ハッ! バカバカしい・・・。

 

「勘違いしないでください、お姉さん。私が侮辱したのはあなたの蛮行に対してのみだ。聞いたこともない家の名前に傷を付ける意図はありませんでしたし、そもそも知らない物には泥を塗れません。一体どこの家系なんですかね? そのイースウッドっていうのは」

「・・・っ!!! その態度と物言いが私の家名に傷を付けるものだと言っているのだ!」

「なぜです? 味方を窮地に立たせる兵士の無能ぶりは侮辱されて然るべきでしょうに。

 ましてや自分のせいで窮地に陥ることになった味方を助けてくれた恩人に対して、指をくわえて死ぬのを見ていることしかできなかった幼馴染みがピンチからの脱出後に乗り込んできて、子供に剣を突きつけながら友人思いの正義感ゴッコとは・・・しかもその上で『誇り』だの『名誉』だのを口実に使い出す狡猾さ。

 イースウッド家というのがどういう家かは存じませんが、詐欺師の家系でもない限り泥を塗っているのは今のあなた自身なんじゃないですか~?」

「き、きぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!」

 

 外人みたいに大袈裟なジェスチャーをして見せて挑発行為を繰り返す俺に、シェラお姉さんはついに激発。切りかかってくる。

 ミリエラお姉さんが「ダメ! やめて! シェラーーっ!」と叫んでいるが止まる気配はない。そう言う性格なのだろうし、そう言う性格だからこそ生傷が絶えなくて幼馴染みが回復特化の僧侶系にならざるを得なかったんだろうなーと気楽に考えながら、使う魔法を選んでいたところーーーーー

 

 

 ーーーー横合いから一陣の突風に乱入されてしまった。

 

 

 

 

「落ち着かんか! この馬鹿ガキが!!!」

 

 

 

 バギィッ!!!

 

 

「はぐぅっ!?」

 

 

 ガントレットに包まれた拳を顔面に叩き込まれ、今日二度目の吹き飛ばされフライトを満喫させられるシェラお姉さん。こっちに飛んできたので、当然ながら俺は避ける。受け止めるなんてアホらしいことはする気も起きない。

 ・・・エロハプニングを期待できるデカさの胸なんだけどなー。なんか揉みたいと思えないし、脱がしたいとも思えない。

 脱がされて赤面させて「イヤ~ン♪」とか言ってるのを見て楽しいと思えるのは、その子このことが好きだからなんだと今知った十六歳のチート転生。正直この女で妄想できるのは『監獄戦艦』とか『対魔忍シリーズ』の展開のみですわ。

 

「た、隊長・・・? いったい、なにを・・・?」

 

 驚いたことに部下を殴り飛ばしたのは、先ほど彼女を制止していた小隊長っぽい中年男性だった。・・・いやまぁ、人事秩序上では当然の対応なんだけど実際に異世界転生先でこれやってる人って珍しかったんでね? 相手は一応美少女なんで。

 

 でも、どうやらこの隊長さんは常識的思考法の持ち主だったらしい。

 言い聞かせると言うより、はっきりと罵倒して叱責して反省と謝罪を部下に命じてくれた。

 

「『なにを』だと? それはこちらの台詞だ! 大戯けが!

 貴様、友軍の窮地を救ってくれた援軍に剣を向けるとはどういう意図があってのことだ!? 没落した名家のご令嬢は人を見下すことは知っていても、礼儀の心得はないとでも言うつもりなのか!?」

「ーーっ!!! 私は不審な魔法使いの正体を暴こうとしていただけであります! この少女の姿をした魔術師が使った魔術は脅威としか呼びようがないレベルでした! 都市市民の安全と命を守るべく結成された都市警備隊の一員として拘束する許可をいただきたく存じま(バギッ!)ーーあぶっ!?」

「バカなのか貴様は!? 味方をしてくれる強力な魔術師がいれば有り難く、敵に回ればこの上なく厄介な強敵。そんなことは子供でも知っている常識でしかない!

 貴様は「身元が怪しいから」という、ただそれだけの理由で高レベルの魔術師を敵に回すつもりだったのかバカ野郎が!」

「・・・・・・っ!! では、隊長はこの者が都市の住人に危害を加える存在だったとしても歓迎すべきだとでも言うおつもりなのですか!?」

「それを避けるためにも感謝をするんだろうが! この英雄気取りで正義感バカのド素人野郎! この後のことはこの後のこと、今起きていたことは今のこと。全部別々なんだよ! 個別に対処法を変えなきゃいけない事案なんだよ! ガキじゃないんだからそれぐらい判れ! このお荷物!」

「・・・・・・っ!!!!」

 

 唇を噛み、深く俯きながら瞳の色を暗くするお姉さん。

 隊長は俺の方に手の平をかざして、謝罪を促す。

 

「ほら、早く謝れ。騎士の家系らしく礼に則り、慎ましやかに謝意と誠意を込めながら・・・シェラ隊員!?」

 

 だっ! と、後ろを振り返ることなく走り去っていく好みじゃないけど美人なお姉さんシェラさん。

 

「ま、待ってよシェラ! 隊長! 旅の方! この場は失礼いたします! お礼と謝罪は後程に!」

 

 その後を、好みな方の美人さんミリエラさんが追っていく。

 

 

 んで。

 ーー残されるのは、野郎二人と戦いで疲弊した都市警備隊とやらの野郎どもがいっぱいと。

 

 

「確かに、この惨状で中級魔法の使い手と連戦してたら全滅しますよね。常識的に考えて」

「・・・隊を率いる責任者として恥ずかしい限りではあるがね・・・」

「ついでに聞いときますが、彼女のレベルはいくつなんです? ああ、利用する気があるわけじゃないんで細かいところはどうでもいいんです。

 ただ、中級魔法の使い手と戦って生き残れる確率がどれくらいあるかお聞かせ願えればいいな、と思いまして」

「・・・・・おそらくは・・・」

「おそらくは?」

「・・・・・・・・・旅の魔術師殿次第ではないかと・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 チートを使わないで自動翻訳。解析完了

 

 

 《殺さないであげてください。あなたの一存次第で死んでしまいますから・・・》

 

 

 ・・・・・・ダメじゃん・・・・・・。

 

 

「本来、他国からの旅人が我が国の町に入る際に発行される登録証には、同じ領内で都市間を移動するときに役人が本人には知らせることなく身元を確かめる身分証明証も兼ねているため色々と面倒な手続きが必要なのですが・・・」

「偽造してあげるから彼女を許し、街に着くまで自分たちの護衛もお願いしたい、と?」

「・・・・・・大人として恥ずかしい限りではあるのですがね・・・・・・」

 

 

 ーーーこうして異世界転生初日に手に入れた異世界住人としての身分は役人からの賄賂で手に入ってしまいましたとさ。・・・いいのかね? 本当にこれで・・・。

 

 

 

 

登場キャラ設定:

 主人公

 ユーリ(名字はなし/この世界での平民や旅人には珍しいことではない)

 異様に長い黒髪をポニーテールにしている幼女姿のチート転生者。貧乳ロリ。

 魔術師系のスキルと呪文すべてに通じた最強魔術師。

 ただし、魔術師が使える物以外は何一つ使えないし覚えることもできない。

 ステータスはカンストしているが、あくまで魔術師としての限界に達しているだけ。

 殴り合いでは最強戦士と互角にやり合えるが、技術面では一生歯が立たない。

 ひねくれ者で皮肉屋。斜に構えていて、いつも生意気そうな笑顔を絶やさない。

 相手をおちょくるのが趣味の性悪な性格。根はいい人なんて事もない。

 自分本位なのを良しとしているが、自分なりのルールは守ってる。

 他人に迷惑をかけるのを好む性格なので、理解を求めるのは筋違いだと割り切っている。

 長すぎる杖を刀みたいに肩に立てかけて歩くのがお気に入り。

 武器は初心者向け装備である《樫の杖》《布のシャツ》《布のミニスカート》。

 

 

 ヒロインの一人:

 ミリエラ・スタンフォード

 この地方を治めている領主の家系に連なる名家の娘。

 身分差別の激しい異世界では珍しく、差別を好まない善良な両親に育てられた。

 両親への愛情が強すぎるあまりワガママが言えない性格。

 逆に両親の方は娘が自分の幸せを追ってくれることを願っている。

 旧家臣の家柄で親友でもあるシェラを支えるため、僧侶系魔術を修めている。

 光の神を信仰しているが教会には属していない。そのために神官ではない。

 他の宗派と異なり、光の神だけは宗教に属してなくても信仰心次第で魔法が行使できる。

 水色髪のショートボブ。胸がデカい。垂れ目ぎみ。

 自分とよく似た、ゆるふわ系の姉がいる。

 まじめな性格だがエロ願望の持ち主という、典型的なサブヒロインタイプ。

 

 

 最初の敵キャラ:

 シェラ・イスフォード(現在は家名を剥奪されている。本人はフルネームで名乗る)

 没落した名家の娘。お家再興を悲願としている。

 元はミリエラの家に仕えていた騎士の家系で、呆けた祖父の耄碌が原因で没落した。

 意志の強そうな赤い瞳と赤髪がキツメの印象を与える美人剣士。

 努力や頑張った気持ちは誰もが認めてあげるべきだと信じている。

 善人ではあるが、自らの主張する正義論に地位と能力と才能が伴っていない。

 自分が努力して得た以上に他人が楽して結果を得たように見えると理不尽に感じる。

 ーーそれが結果として彼女を破滅させることになるとは予想もしていない・・・。

 典型的な熱血メインヒロインタイプであり、全てを守ろうとして逆に全てを危険にさらしてしまう正義の味方タイプでもある。

 

 今作では『善人の嫉妬心は悪党の野心よりも始末が悪い』という言葉の例証となる運命。



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1章

 街までの道中、指揮官さんからこの国のことを聞かされて一応の知識を得た俺は護衛依頼を黙々と果たし、街に到着したところだった。

 

「ふぅー、着きましたね。意外と長くて疲れましたよ」

「スマン、負傷兵輸送用も兼ねた物資運搬用の荷馬車は先に味方を乗せて逃がしてしまってたんだ。最悪討ち死にで全滅を覚悟しなければいけない殿部隊として平和な帰り道を想定しておく余裕などあるわけなくてな・・・・・・」

「まぁ、そうですよねー。・・・あれじゃあ流石に、ね?」

「・・・・・・すまん・・・・・・」

 

 俺が目を向けた先にいるのは殿部隊に所属していた隊員のみなさん。

 ある者は同僚に肩を貸して歩かせてやりながら、自身は開いてる右手でもってた杖を倒れないよう松葉杖代わりにジイサン歩きして、またある者はヘタリ込みそうになるのを隣にいる同僚から「しっかりしろ! 後少しで俺たちの生まれ育った故郷の街に着くんだ!」と長旅で遠征から逃げ帰ってきたばかりの敗残兵状態。

 

「腹、減った・・・・・・誰か、俺に、食い物・・・を・・・・・・」

 

 ーーって、こいつは何でここまでズタボロ状態になってるんだ? しかも何故に空腹? いくら討伐だからって街道だろ?戦ってたところ・・・。時間的に無理があるような気が・・・。

 

「すまない・・・。今回の討伐遠征は急に決まったせいで、昨日の晩に有り金はたいて自棄酒飲んでた彼は豆スープを一皿だけしか飲んでいなくて・・・離婚させられたばかりらしいんだよ・・・」

「本当によく死人を出しませんでしたねぇー・・・」

「・・・すまない・・・本当にすまない・・・。それ故の部隊長身分でありながら通行許可証の偽造を可能にしてみせるという無茶を通す謝礼なんだと割り切ってくれたらありがたい・・・」

 

 ああ、なるほどね。疑問に思ってた『地位と役職的に許可証の偽造なんて可能なん?』の謎がようやく溶けたわ。よかった~。

 

 ーーーが、しかし。

 

 

「その許可証の偽造って、私が街入らないでも出来ますかね? 出来れば外で待ってて、もらったらその足で次の街へ向かいたいんですけども」

「ん? 発行は役所で行ってもらうからさすがに本人不在というのは無理があると思うが・・・。どうしたね? 何か街に入りたくない理由でも?」

 

 やや訝しげと言うか怪しい人物を見つけたときのような目をする隊長さん。

 とはいえ別段態度が豹変したとかではないので、おそらくは役職的な習性かなにかなんだろう。街の治安維持も担っていると聞かされたから、不振人物にはこういう目を向けなきゃいけないって言うのはよく分かるし。

 

 とは言え、今回の疑う理由は彼本人を追いつめることにしかならないと思うんだけどな~。

 

「いやその・・・・・・シェラさんが、ね?」

「あーーー・・・・・・」

 

 指揮官さんが『その発想はなかったわぁー』てな感じの表情になってしばらく黙り込む。少し空を見上げてから、比較的元気のいい隊員に話しかけてシェラさんたちが帰ってきたか門番たちに聞いてくるように命じ、聞かれた隊員さんは直ぐさま行って戻ってきた。

 

「我々よりも数刻ほど前には帰還していたとのことです。その時にはスタンフォード隊員も一緒だったと、聞かされました」

「・・・アイツ一人だったら途中で疲れて合流してくると思っていたから忘れていたが・・・そうだった。ミリエラ嬢はあのバカのお守り役だったな。敗軍の将として考えなきゃいけないことが多くて失念してたぞ・・・」

「中隊長殿、どう致しましょうか? 正直に申し上げて私は彼の少女魔術師殿に突っかからないでいられるシェラ隊員などという生き物を想像できません。進化系に反しておりますからね。

 また、彼の少女と警備隊員が戦ったからと言う理由で街側が彼女を敵と認定して捕縛を命じられたりしたときにはすっ飛んで逃げます。一度は助かった命ですので、超惜しいので」

「・・・おまえ、正直なのは美徳だけど少しは状況も考えてからしゃべれよ。わかるだろ、それいま言ったらヤバい言葉だってことぐらい・・・」

「はい、承知しております。ですから今申し上げた次第です。適正に問題ありと判断していただけたなら逃げることなく警備隊員を辞められるな、と」

「・・・・・・ある意味スゴい勇気の持ち主だったんだな、おまえって・・・。今ちょっとだけだけど後光が差して見えるぞ。おまえの背中から紫色の後光がな」

「それは悪魔か魔王の発する光じゃないかと思いますけどね・・・」

 

 崇めちゃいかん光だろそれ、確実に。

 

 ・・・でもなんだか隊員たちが俺を見る瞳に怯えが混ざっているのは何故なんだろうか? 私はみんなを守ってあげようとして襲ってくる魔物と戦ってあげてただけなのに・・・。な~んてお約束めいた思考はしない。常識的に考えて怯えるに決まっているのだから当然の反応だ。

 

 

 実は護衛対象である殿部隊は、街へと戻ってくる帰路の途中で何度かモンスターに襲われかけている。当たり前なんだけどな?

 敗残兵の列を見つけた野犬が襲いかかってくるのは戦国日本では常識でしかなかった。野犬よりも強いモンスターがいる異世界なら尚更だ。

 

 しかし、そこは関ヶ原から逃げ出すときの7000を500以下にまで数を減らして薩摩に逃げ帰り付いた妖怪首おいてけ無しの島津軍と違って、ここにはチート持ちの転生者がいる。

 

 威嚇のために襲ってくる奴らのリーダーっぽいデカい奴めがけて派手に肉体が爆散して飛び散る系の爆裂魔法を放り込んでやると面白いほどシッポを巻いて逃げる逃げる。

 

「犬は大きな音を聞くと逃げると言うけどホントなんだな~。

 じゃあ今度はこっちの魔法でコーロソ♪」

 

 こんな言葉を嬉々として楽しみながら実行していく子供に怯えない奴がいたら、逆に俺が怖いと思う。もしくは気持ち悪いと思う。近寄りたくないし、お近づきになりたくないこと山の如しだ。

 

 だから隊員さんたちに怯えられるのは別にいいのだ、気にしない。怯えさせるために使った魔法なんだから怯えてくれない方がむしろ問題(敵を怯えさせたかっただけだけどな。味方は怯えなくてもいいけど、敵を騙すには味方も騙せる演技力は必要だ)

 

 

「う~む・・・しかしなぁ・・・街に入るには許可証がないと怪しまれるし、万一取り調べなんかされたりしたら彼女の場合、爆発寸前の火球魔法を屋内にしまい込むようなもんだし、かといって町中に隠れ潜んでてもらうのは見つかったときにシェラ隊員を喜ばせる事態を招くだけだしな~」

「つまり、彼女と取り巻きのジイ様方以外の全員が涙に塗れて悲しむ事態を招くことになると?」

「然り。まさしくそれだ、平隊員。見事な見識を持つ君に今回の件を一任するとしよう。がんばってくれたまーーーーーー」

「イヤですよ!絶対に! 一難去って超一難が降りかかってきたからって、俺にヤバそうな案件押しつけようとするの止めてください!

 ヘタりそうな足腰に褐入れてくれてるのは分かりますけど、度が過ぎて腰が抜けそうになってますからね!俺は!」

「はっはっはっは」

 

 適当な笑い声でごまかす指揮官。戦闘中以外は取っつきやすくて気さくな感じの人だったらしい。人間の二面性を見た思いだぜ。

 

 その二重人格ならぬ二面性の激しい指揮官さんが俺の方に意味ありげな視線を送ってきたので、俺としても肩をすくめて応えるしかない。

 

 要するに、やることはさっきと何ら変わらんと言うことだな。

 

 

「つまり、町中で書類作って許可取って、許可証を発行してもらえるまでは大人しくしておいて、もらえたら速攻で街を去る。途中でシェラさんと鉢合わせしたら適当に逃げる。戦闘になりそうになっても逃げる。町中で追いつめられて魔法戦闘しなきゃいけなくなったときには街そのものからテレポートして逃げ出して別の街で自力で取れと」

「だな。そうするしか他ありそうにもない。手続きは何があっても進めさせておくから、ギリギリまでは町中に留まれるよう頑張ってくれ。

 仮に街から逃げ出した場合でも、上には適当な人相を報告しておくから君が指名手配される事だけはないと請け負わせていただくよ。

 犯罪履歴さえなければ許可証を発行してもらえる可能性は常にある。さっきも言ったが、もう一度言う。頑張ってくれ」

「・・・・・・ここまで力を込めた後ろ向きな『頑張って』発言も初めて聞いた気がしますな、オイ・・・・・・」

 

 セイラさんレベルは無理だとしても(男だから)メイ・リンとかシャルロッテ・ヘーブナーぐらいの「がんばってください」ボイスは聞きたかったと思う異世界転生生活半日目終了の段~。

 

 

 

 

 

 

 

 んで、その頃。

 街の一角にある『都市警備隊本部施設』にて。

 

 

「どうしてですか!? 何故ダメなのですか!? 街に危険が迫っているのですよ!? 適用されてしかるべき事案でしょう!?」

 

 ダンッ! と、音を立てて机に手を叩きつけることで不満さをアピールする平隊員のシェラ。それを諫めているのは警備隊を束ねている総隊長の地位にある痩せこけた老人。言うまでもなく調整役で、隊内での役割分担としては軍で言うところの軍政を担当している人である。

 

 都市警備隊は、危急の際には軍隊として王国正規軍に組み込まれると言う隊規が存在する部隊だが、正直なところ実体としては自警団に下級騎士階級の子息とかが幹部候補として入ってくるだけの窓際部署である。

 シェラに付き添う形で入隊したミリエラの方が異端なだけで、本来ならお貴族様が所属するような場所ではない。

 まれに王都のエリート様が実地研修として現場を学ばせるための場所に選ばれたりもするのだが、研修と見習い期間をあわせても半年未満という超短い時間しか一緒にいない上に、王都にかえって正式に簡易を授かった直後から警備隊総隊長よりも偉くなる人を相手に本気でなにかを教えようなんて勇者には未だかつてあったことがない。

 

 その為ではないだろうが、辺境部で行政の末端に連なっている木っ端役人たちの間では昔から勇者という単語は『バカ』を意味する隠語として使われていた。

 そして、それこそが今現在シェラ平隊員が総隊長室まで持ち込んできた案件であり、彼女のことを「他に言い方が思いつかないほどのバカだ」と総隊長が心中で決めつけた理由でもあった。

 

 帰ってきた彼女が大急ぎで書き始め、かつて街の英雄だった祖父のコネを利用して無理矢理に総隊長までねじ込んできた意見具申。

 その内容は『都市内部の治安維持を担う警備隊と違い、攻勢防御として問題の大本を自分たちの方から叩きにいく攻撃的な部隊《自由騎士団》の創設』だった。

 

 総隊長としては過激としか思えない提案だったが、一応シェラの言うことにも一理なくはないのだ。

 

「なにも戦争をするための軍隊を創設しようと言っているのではありません。最近巷で多発しているモンスター被害に対処するには、平時における治安維持部隊の警備隊だけでは用を成さなくなってきている、と言う現実があることを総隊長殿にもご理解いただきたいのです」

「しかしねぇ、君。この《自由騎士団》という名前は流石にマズくはないか? これだと王国政府に反意ありと疑われかねんぞ?」

「??? どうしてでしょう? 自由騎士と言えば、彼の大英雄イスファーン卿!

 弱きを助け、強きを挫き、戦火に苦しむ民草たち一人一人の心に『我もまた一人の自由騎士たらん!』と圧制に対して立ち上がる勇気を与え、横暴な君主デボネアを打倒して、この国に正義を取り戻した逸話は子供でも知っている英雄譚ではありませんか!」

 

 だーかーらー、マズいんだってばよ。このスットコドッコイ。総隊長は心の中でそう思った。口に出してはこう言った。

 

「で、この《自由騎士団》っていうのは具体的にどんな活動をする組織なの?」

「正義の志を持った者たちが国の垣根を越えて団結し、民衆を苦しめる強大な悪を打倒するために戦う組織です」

 

 テロリストだ! 完全無欠に誰がどう見てもテロリストだ! 総隊長は心の中でそう思った。口に出してはこう言った。

 

「敵と戦うだけで守らないの? 騎士の名前が泣かないかね、それって・・・」

「何をおっしゃっているのですか総隊長殿! 騎士にとって守るべきは無力な民であり、苦しむ人々を救う志であり、決して折れない正義を愛する熱い心であるべきなのは自明の理でしょう!?」

 

 総隊長は全身を空にしてしまうほど大きく大きく息を吸って吐き、ため息に色々な感情をぶち込むことでなんか色々と割り切らざるを得ない状況に嫌気がさしてきながら、それでも職務の都合上いっておくべきことは言ってやらなくてはならないだろうと腹をくくり、目の前の正義バカな若造にたいして懇々と説教を聞かせてやった。

 

 ・・・どうせ聞き入れやしないんだろうなーと、本心では確信しながら・・・・・・。

 

 

「あのねぇー・・・騎士に限らず国に所属する治安維持部隊や衛士みたいな警察組織が守るべき義務を負っているのは国家の領土と平穏と、国民の財産と安全であって、《正義》なんていう正体不明で解釈の幅が広すぎるいかがわしい概念は、騎士が守るべき対象に含まれてないんだよ? 国に属している以上は全体よりも自国の利益を優先しなくちゃダメだってばさ」

「そんな・・・・・・それでは魔物の大軍が隣国に押し寄せてきたときには、どう対処なさると言われるのですか!? 見捨てて滅ぼされるに任せ、我が国にまで奴らの餌になるのを座して待てと言われるおつもりなのですか!?」

 

 知らんわ、んなもん。政治のことは政治家に聞け。一介の都市警備隊総隊長ごとき下っ端に聞くような内容じゃねぇ。総隊長は心の中でそう思った。口に出してはこう言った。

 

「そもそもワシら統治者側は、正義って言葉あまり使った覚えがないんじゃけども・・・」

 

 数十年生きてきた彼の記憶を掘り返してみても、祖父が現役で武官だった頃に隣国からの侵略を受けて、狼狽える群衆の前にでて剣を抜きながら叫んでいた言葉。

 

「諸君! 愛する家族を悪辣なる侵略者どもの手から守りきるため、いざ戦わん正義のために! これは戦争ではない! 愛する者たちを守る正義の戦い・・・聖戦である!」

 

 ・・・と、叫んでいたのが「正義」と言う言葉を支配者側に属する者が言ってるのを聞いた、覚えてる限りでは最後だったような気がする。

 

 ちなみに、その時の戦争は異常気象により隣国で発生していた日照りが原因で勃発したものであり、押し寄せてきた侵略軍は飢えを満たしたい群衆団のごとき輩だったので、活きあがり守りに徹した街の住人たちの敵ではなかった。

 街から出て戦ったこともあったけど、それは飢えた民衆が押し寄せてきて領地内の食料が食い散らかされるのを瀬戸際で防ぐためであって、正義とかは特になかったと記憶している。

 

 なにしろ隣国と国境を接している街である。日照りの影響は致命的ではないにせよ、軽いものでは決してなかったのだ。飢えた民衆を抱えてよろばい歩き共倒れするのだけはゴメンだったから殺したのである。

 

 結果的にだが、戦争が一方的に負け戦で終わったために人口が激減し、食料負担が大幅に減り、その一年だけは耐え凌ぐことが出来た隣国は翌年には国家体制を維持するのが不可能な数しか残っておらず、自分たちの国の属国となることで生き延びた人たちはなんとか生き続けることが出来た過去を持っていたりする。

 

 異常気象が一年だけで終わり、翌年は逆に豊作だったからこそ可能だった奇跡ではあったが、総隊長は教会の言うとおり「神の思し召し」などとは欠片も思っていない。単に「運が良かっただけ」である。そういう考え方の持ち主だった。

 

 

「別に君個人が正義を貫くのはよい。誰も咎めん、好きにすればいい。

 じゃが、国家の看板背負いながら国の方針に従わず、上が決めたルールも守れないと言うなら警備隊員を辞めてもらえんかね?

 治安維持任務のため逮捕権を有し、取り調べなども許されている警察組織の一員であることを示す腕章をつけられたままそれをやられるのは困るんだよねぇ~」

 

 総隊長の言葉は最後まで言い終える必要性はなかった。

 話してる途中でブチ切れたらしいシェラが腕章を机の上に投げ捨てて、足音高く部屋を出て行ってしまっていたからだ。

 礼儀というか、形式として最後まで言葉を言い終えた総隊長はポリポリと頭部を指先でかき、いたって普通の口調で独りごちる。

 

「辞職か・・・まぁ、自分から辞めていったのだから老人たちも納得してくれよう。同じ年寄りではあっても、かつては頑張っていた安楽椅子の老人たちのほうが英雄扱いされてワシは『タヌキ』っておかしくない? これぐらいの楽を手に入れるぐらい見逃して欲しいんだけどねー」

 

 

 

 

 

 

「・・・あ、シェラ。どうだった? 総隊長様はちゃんとシェラのお話を・・・」

「魔術師だ!」

「え?」

「あの子供の魔術師は間違いなくナニカを知っている! 魔術師なんて得体の知れない職業に就きたがる者がまともであるはずがないのだから!」

「ええっ!? でも、私だって一応は魔法使えるし・・・回復魔法しか使えない僧侶系だけど・・・」

「子供であっても訓練を積んだ私たち以上の力を発揮する闇の力の使い手たち・・・奴らの危険性を証明さえできれば総隊長も本当の驚異というものが解るはずなんだ・・・!!」

 

 

「おい、シェラの嬢ちゃん。その話、もうちっとばかし詳しく話してみてくれや。少し気になる」

「あ、ボリスさん。こんにちは、今日は非番じゃなかったんですか?」

「なに、虫の知らせって奴でな。なにかある気がしてきてみたんだが・・・ビンゴだ。そいつに間違いない」

「間違いないって・・・まさか! アイツが例の事件の犯人だって言うのか!?」

「まさか。ガキが出来る犯行じゃねぇさ。だが、ナニカを知っている・・・それは確実だ。魔術師なんて禄でもない阿漕な商売に手を染めてるのが何よりの証拠さ。クズはどんだけ正してやってもクズなままなんだよ。

 本当の修羅場ってもんを体験したことがない、粋がってるだけの若造なんざすぐにゲロって俺たちの知りたがってることを教えてくれるに違いない。

 警備隊員として三十年以上つとめてきた“俺の勘がそう告げている”・・・・・・」

 

 

 

 

 

その頃

 

「おいおい、魔術師風の格好している嬢ちゃん。この俺の前を素通りとは連れねぇなぁ。この渡世、余所者には余所者の守るべき仁義と礼節ってもんがあるんだぜぶぇっい!?」

「あ、ごめんなさい。振り返った時に杖が当たっちゃったみたいで・・・・・・私、魔術師クラスなので気配察知とか間合いを見極めるとかはちょっと。

 指揮官さん、これって犯罪になりますかね?」

「う~ん・・・。都市内治安維持部門が手を焼いていた街一番のヤクザ者が相手だからなぁ・・・。治療という名目で治療院にブチ込んどいて家捜しでもすれば採算取れて治安も良くなりそうだし、とりあえずはノーカンで」

『賛成! 俺たち隊員一同もヤクザ者の敵討ちなんかで怪我したくないから大賛成です!』

「・・・だからお前ら、素直なのはいいから場所と状況を・・・はぁ。もういいや」

 

 

つづく

 

登場人物

 ボリス・バーナード

 都市警備隊の古参隊員。主に都市内部で起きる事件を担当する都市内治安維持課に所属している。所謂『丸ボウ』の男。

 若い頃に妻と娘を魔術師が起こした殺人事件で殺されて以来、魔術師嫌いの急先鋒となってしまっている。

 当時この国では《自由騎士》に憧れた若者たちにより政府要人が《天誅》と称して暗殺される事件が多発していた。

 その中で検挙率がバカ高かった若き敏腕刑事がボリスで逆恨みされており、家族を殺したのも彼らによる警告でもあったのだが、怒りに駆られた彼がその場で犯人を殺してしまったために真相は永遠に闇の中へと自分の手で葬ってしまっている。

 

 尚、その時の犯人は革命の正義に酔いしれており、象徴的な意味合いを好んだために自分と異なる正義を貫くボリスの妻子を殺す際に背徳的な魔術儀式を模しただけで魔術は一切使えない素人以下の見習い戦士だった。

 

 ・・・・・・ちなみにだが、この世界では治安維持に携わる人間が殺人犯をその場で殺すのは必ずしも犯罪ではない。

 意図的なら話は別だが、大抵の凶悪犯は捕まえても死刑に処されるからである。

 

 

シェラの長所と短所

 長所:努力で勝つのが大好き、才能で勝つのは大嫌い。日々鍛錬、一生懸命。

 短所:剣での勝負を正々堂々と捉えているため、魔術が大嫌いで偏見に満ちている。

    啓蒙教育で聞かされた悪の魔法使いの存在を本気で信じてしまっている。



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2章

 異世界生活最初にこなしたクエスト『護衛任務』も無事終わり、街までついた私たちは一息ついておりました。

 隊員の皆様方も「あ~、良かった。生きて帰れた~・・・」と心の底から安堵しておられるようで戦争否定国日本の元住人として誇らしい限りですね♪

 

 隊長さんの方も意気揚々と都市の門番さんに帰還した旨を伝えに行き、今でこそ分厚い門の外で地べたに腰を下ろしている兵士さんと私たちもほどなくして暖かく柔らかいベッドの上でくつろげるようになるとの事。ありがたい話ですね~(o^^o)

 

 ーー余談ですが、モンスターが町の外を徘徊しているこの異世界で分厚い壁に守られてない町とか村はかなり例外的な存在らしいです。

 何かしら襲われにくい理由があるか、もしくは金がないから作れない、襲われたら殺されないよう逃げ出して僅かでも生き延びられたらそれでいいみたいに覚悟して過ごさなければならない事情持ちの人たちだけが、そう言った特殊環境下でも地球の日本みたいな防犯レベルで生きてるらしいです。ただ生きるだけでも難しい。基本です。

 

 

 そんなことをツラツラと回想してたら隊長さんが、辛気くさい顔して戻ってこられました。どう見たって吉報は携えてなさそうだな~と、分かってはいるけど期待はしたい、過酷な現実と向き合わされてる外見年齢10才幼女・冒険者な私です。

 

 

「・・・・・・すまない、魔術師殿。またしても厄介事みたいだ・・・・・・」

「・・・・・・またですか・・・・・・」

「すまない・・・・・・本当に申し訳なく思っている・・・思ってはいるのだが、しかし・・・」

 

 チラリと周囲を見渡す彼がなにを見るよう促してるのかなど知るまでもありませんし、知りたくもないんですが、それでも私は見ます。

 だって相手が礼儀正しいんだもん。日本人なら礼には礼で返さないと自分の方が罪悪感とかで気にしすぎちゃんだもん。仕方ないじゃん。

 

「・・・・・・(ちらり)」

『・・・・・・(ジ~~~~~~~~っ)』

「・・・・・・(うわ~・・・めっちゃ見られてますよ、私~・・・)」

 

 負傷してヘトヘトになった隊員たちの皆様から暖かいというか、生暑っ苦しい縋るような眼で見つめられてる外見年齢10才幼女・冒険者な私です。・・・セクハラ罪は適用可能ですか? え? お前この国の人間じゃないし不法入国してきた犯罪者だろ犯罪者に人権なんて最小限度でいいんだ? 嫌なら罪犯すなよ?

 

 ・・・ご尤もです。反論の余地すら存在しておりません・・・。

 

 

「一応、引き受けること前提で聞くんですけど・・・どのような厄介事なので?」

「今度の遠征任務で我々が出征したのと時を同じくして隣の町でも似たような討伐遠征を行ったらしい。ーーまぁ、総督同士が官僚出身で向こうの方が学生時代に成績下だったから意識しまくっていたのが原因だとか門番たちが騒いでいたのだが、お上の裏事情までは分からんし噂話として流しておこうーーそちらの遠征にはどうやら貴殿にような助っ人は現れなかったようなのでな。普通に失敗してゴブリンキングを怒らせて大侵攻を招いてしまったそうだ」

「うわ・・・」

「一応、逃げ戻ってきた部隊を再編成して町の防備を固めて徹底抗戦する構えを見せたのは立派だと思うし、外壁の防御力をうまく利用して守りきったことも評価できる。防衛部隊はやるべき事を全てやったんだ。それは認める。

 ーーただ、問題なのは総督でなぁ~・・・」

「・・・まさかとは思いますけど、その事をこちらの町に伝えていなかったからゴブリンたちの襲撃に対応する準備が出来てないとか?」

「それこそ『まさか』だね。そんな打算が出来る人ならこちらの苦労も少しは減る。

 あの人はただ、守るべき都市の人たちにこれ以上の犠牲を強いらないために、都市から一歩も出ることがないよう厳命を下しただけさ。それこそ最下級の伝令兵に至るまで一人残らず全員に、ね」

「・・・・・・・・・」

「そう言う人なんだ。一人も切り捨てないために全てを拾おうとして、結局はより多くの被害を生じさせる。

 それでいて誠実で私利私欲では動かない、常に民の側にたって行政相手に立ち向かい続けているから市民からの評判はすこぶるいい。左遷させようとすれば市民たちが自決覚悟で反対する。ーーそんなだからさっきみたいな悪評を流されるんだけどね?

 絵に描いたような『弱き民たちを横暴な支配者から守る正義の殺戮者』様なんだよ。自覚も悪意もないところが一番性質が悪いタイプだ。ハッキリ言って前線にたつ公務員としては汚職官吏の方がまだマシだと感じられる人なんだよ」

 

 ・・・もはや哀れすぎて声もない・・・。なんだってそんな人が責任ある人の上に立つ役職に・・・・・・。

 

 ーーー頭を抱えていたら、兵士さんたちのささやき声が聞こえてきましたーーー

 

 

「あの人って確か、強かったよな? 若い頃は」

「いや? 今でも若くて強いぞ? 何でも昔、少年時代に凶悪な魔物を討伐した見返りとして王様から産まれ故郷である隣町の統治権と爵位を要求したとかで。

 以前の世襲貴族様は市民に重税を課してたから、解放者として町の人間には人気があるって吟遊詩人が歌ってたのを聞いたことあるわ」

「あー、だからあの人だけ呼び方が領主じゃなくて総督なのか~。世襲制貴族の前領主を追い出して後釜に座ったから」

「前の領主が酷すぎただけで、税制も普通に戻しただけなんだけどな? それでも民たちから見りゃ間違いなく圧制から解放してくれた英雄なんだから、新たな支配者として歓迎するのも分かるよな。気分的にはだけども」

「その結果として迷惑かけられてんのは俺たちなんだけどなー。俺たちの命に関しては、あの人なんて言ってんの?」

「・・・そもそも平民出身で帝王学も統治のノウハウも知らない、顔と剣の腕と人望だけが取り柄のあの人に政治的なことはなんも分からんよ。全部側近に任命された昔からの仲間たちを信頼して任せっきりさ。・・・いや、勉強はしているらしいんだけど・・・」

「・・・ぜんぜん足りていない、と?」

「ーーー知識層出身じゃないからなー・・・。統治なんて専門技能はちょっと・・・」

「ダメじゃん」

 

 

 こ、この異世界はーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!(*`Д´*)

 

 

「ーーーで、どうなのかな? 引き受けてもらえると解釈して構わないのかな? 私はウズウズしながら君の答えを待っているぞ?」

 

 人、それを現実逃避という。

 

「・・・断るかどうかは別として、私の返答がナインだった時のためにも準備ぐらいはして置かれた方がよろしいのでは? 了承されること前提で話を進められたのでは、その総督さんと同類になってしまいますよ?」

「心配ない。・・・どのみち君に断られた時点で私たちはもう終わりなんだから、素直に諦めるだけなら大した時間はかからんよ」

「・・・・・・・・・」

 

 私は自分を見つめてくる複数の視線を感じて、再び周囲を見渡してみるとーーー

 

 

『・・・・・・・・・・・・ジ~~~~~~~~~~~~ッ』

「声まで出しますか・・・・・・」

 

 どうする? アイフル?

 ・・・どうするも何も、人として選択肢ってあるんかいな・・・・・・。

 

「・・・あー、もう! わかりましたよ! 引き受けますよ! 引き受ければいいんでしょう!?」

「・・・ありがとう。本当に、心の底からありがとう・・・。この御恩は一生かかっても忘れない。死ぬまで返すし、死んでも返せる方法があるなら言ってくれ。本当に家族以外なら何でも差し出す覚悟は出来てるから・・・・・・」

「い、いや、流石にそこまでしてもらいましても・・・・・・」

 

 なんか調子狂うなぁ、この人は・・・。いやまぁ、受けた恩の量と同等の感謝という点では正しい対応のような気もするんですが、周りとのギャップが酷すぎてなんか凄くやりづらい・・・・・・。

 

 

「この程度の労で代わりになるとは微塵も思ってはいないのだが、せめて上に掛け合って『子供の魔術師が助っ人に参加してくれる場合には』比較的安全な位置に陣取って、ゴブリンどもを町に容れないよう努力してくれればそれでいいと言質は取ってきてある。

 我々が疲弊しきった敗残の身であることは向こうも承知しているからね。それでもかき集めなければならないのが交易中継都市である、この町の正直な実状なんだよ。職人街を主産業にしている工業都市の隣町と違ってね」

 

 もう、本当にそのバカ総督は解任しちゃってください。心の底からマジなお願いですから・・・。

 

「分かりました。ーーただし今から見せる魔法については可能な限りでいいので他言無用に願いますよ?

 こっちとしても本音を言えば弱っちい魔法でチマチマ戦って自分の強さを隠したいんですからね・・・ブツブツ」

『おお・・・ついに嬢ちゃんも口に出してブツブツと言い出すようになった・・・これはキてるぜぇ・・・!!』

 

 うるせぇぇぇぇぇよ!!! 余計なお世話だコンチクショオオオオオオオッ!!!!

 

 

「空間座標把握、各目標の乱数回避軌道算出、チャンバーへの魔力充填正常。発射準備よし・・・だーれーにしーよーうーかーな! お空の上の邪神様の言ーうーとーおーり!

 決定! 全員死刑!! 《デスビーム×いっぱい》!!

 シャー! シャシャシャシャシャー!!!」

 

 

 フリーザ様よろしく、指先から紫色した細いビームを出しまくり撃ちまくり、逃げなきゃ当たって死ぬ、逃げても追いかけてって死ぬ、後ろから背中を貫かれて死ぬ、腕を奪われた後に頭を撃ち抜かれて死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、みんな死ぬ!!!

 

 敵より多数で都市に押し寄せてきてるんですから、誘導ビームぐらいで卑怯だなんだと喚く権利は認めてあげませんからね?

 

 

「抹殺! 必殺! 滅殺! 瞬さぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッつ!!!!

 ーーーはぁぁ~、スッキリしましたぁ・・・・・・(さわやかな笑顔で)」

 

 

 叫びながら止めを刺して格好良く決める! ヒーロー物の定番ですよね! 勝利ポーズ決めて勝利セリフも言う! これぞまさにバトル物の最強主人公の勝ち方というものですよ!!

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 ・・・なのに何故こんな眼で見られなければならないのか・・・。世の中の見た目が悪い必殺技を持つチートキャラ達はかわいそうです。

 裏切り者の顔してるからと孔明に嫌われてた魏延さんに同情するなら、心で人見るフリして結局は見た目の風潮やめろーーーーーーーーーっ!!!!!

 

 

 

 

 

 ・・・・・・この時、私が使ったデスビームは敵部隊のボスキャラである『ゴブリンキング』さんをも貫き殺していたらしく(7レベルと15レベルの違いなんてチートキャラには区別つきません)敵さん全員がさっさと撤退していってくれました。

 

 その結果、勲功第一位は私と言うことになったのですが行政にも体面というものがありますので、表向きは『都市警備隊と都市住人全員の団結と協力によって』守り抜いたと言うことにするとのことでした。

 

 余所者で通りすがりの私には心底どうでもいいお話ですけどね。代わりに助っ人料金としては破格すぎる額の報奨金をもらえましたし、身分証明を兼ねた許可証も領主様じきじきに執筆してくれるとのことですし大儲けだったぐらいですよ♪

 

 

 

 

 尚、今回の件では都市警備隊の方々の中からも何人かが表彰を受けたそうでして。

 私は名簿を見てないですけど、その中には指揮官さん率いる部隊よりも先に帰還していたからミリエラさんと一緒に遊撃任務に就いてたシェラさんも入っていたんだそうです。

 

 

 剣士として参戦した彼女に与えられた称号は『敗走する味方を援護して人助けに貢献した《救命者》』だったとの事です――――

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!」

 

 バシンッ!!!

 

 表彰式を終えて自宅に帰ったシェラは授与された勲章を引き千切ると、床に向かって投げ捨てたーーーーー。

 

 

 

 

*登場させる予定ないから書かなかった裏設定:

総督

 隣町の統治者で『ロード』と読む。伝説に登場する英雄の『聖騎士王』がそう呼ばれていたことから採用された。主君の地位を騎士として武勲をたてて手に入れた者を現す敬称。

 ・・・ただし、歴史の長い封建制国家のため貴族の大半はもともと騎士であり、未だに実戦の可能性がある辺境部などでは手柄を立てた傭兵や兵士たちが武勲を称され武官貴族として領主に任命されるのが常であるため、取り立てて彼が特別だったわけではない。国民に人気がありすぎたため政治的にアピールする必要があっただけの名称である。

 唯一、戦の折に従軍するか否かを任意で決められる特権が与えられてはいるのだが、正直お上よりも人気のある英雄なんかが参陣してこられても火種にしかならないので態のいい名誉職と言ってしまえばそれまでの存在。後継者には引き継がれない一代限りの称号でもある。

 

 総督本人は見目麗しく爽やかな好青年。雄弁家であり、静かに闘志を燃やすタイプの情熱家でもあるなど若い世代から熱狂的に支持されやすい特質を持つ。――ようするに精神上の麻薬発生装置みたいな存在。

 行政府の中枢メンバーも昔から彼に好意的な友人たちで占められており、全員が彼の理想と志に共鳴した信奉者という、悪意も自覚もない一党独裁体制の街。市民からの人気は異常に高い。

 

 側近であり副官でもある貴族の家を出奔した旅の仲間の一人が補佐として控えており、不慣れな統治者でもあるかつてのリーダーを手助けしている。

 彼女は理論家だが、『現実的な考え方=非道な手段』という極端な物の見方をしており、現実を自分たちが正すべき対象としてしか見ておらず偏見に塗れているなど、独善的な人間が行政の中核を担っている問題の多い街。

 

 今回の事件においても総督を信奉するあまり信者化している一部下級指揮官たちが独断で報告をしなかったのが原因で起こっており、組織よりも個人への忠義が優先されるのが常な面倒くさい街。そのくせ犯人たちは「すべての責任を取る」と自決してしまうのがお決まりのパターンだから性質が悪い。

 

 市民からの圧倒的な人気と、総督自身の政治的野心の無さ。彼ら個人個人の武勇とで現在の地位を保てている事に全く自覚のない問題児集団。

 その隣にあるユーリが来た町は毎回堪ったものではありません。

 

ちなみにシェラさんも総督のファンの一人です。




*改めて再確認したら、今話から主人公の心の声まで敬語に変わってしまってましたね。もし続きを書く場合には一緒に直そうと思います。


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3章

「『領主府発行:証明証書。氏名ユーリ。職業:魔術師。年齢10歳。レベルは12』・・・なるほどなるほど、レベル以外は全部証言通りに書いて、子供にしては強すぎるレベル設定にすることにより却って真実から遠ざける工夫ですかぁ~。いい仕事してますねー♪」

 

 きっと、歴史が長い分だけ不法入国や亡命者なんかの時に儲ける業者さんとかがいるから手慣れてるんでしょうねー、この街のこういう特徴は。

 

「ま、余計な争い事に巻き起こさないですむ工夫ならいくらでも来いです。世の中平和が一番です♪」

 

 私は掲げ持って太陽に透かし見てた許可証をポケットにしまい、同じく服の中に入れてある財布の中身とぶつかって「チャリン」といい音をたてさせました。

 

 

 ・・・現在、私は無事にもらった許可証と報奨金を片手に町中をブラブラ散歩しているところです。所持金は金貨五枚に銀貨が二十枚ほど。「この街で一日過ごすのにこれ以上いることはまず無い」と役所の人から言われましたのでね。銅貨は銀貨で払ってお釣りでもらえばいいだけなので持ち歩かない主義の私です。

 

 あと、「これ以上高額の商品を買う場合には、即金で支払えとは絶対に言わないのでルール違反者見つけたら教えてほしい」とも言われてたりします。さっすが、チート。至れり尽くせりですね。

 

 ーーーまぁ、あの一方的な殺戮劇を伝え聞いただけだと過剰反応もしてみたくなりますよねー、やっぱり。

 本来は入市税を払うことによって一定期間の滞在を許され、それを過ぎたら延滞料金が発生。払えなかったら奴隷身分落ちという罰則によって余所者に街のルールを壊されるのを防ぐと言うのが、この異世界での秩序維持と安全管理方法。

 

 にも関わらず私には特にこれと言った縛りはもなし。一応は前回の戦闘における功績に対して恩賞として与えられたことになってますけど・・・建前ですよねぇ絶対に。

 

「つまりは、『特権与えるんで町に被害を与えないでください』と言うわけですね。わざわざ私の見ている前で有力者達に引き抜きを禁じて見せた演出も含めて、この街の市長さん(?)は結構なやり手のようで。

 ここまで至れり尽くせりだと、ドS趣味のない私としては何かあっても暴れる方が後ろめたさを感じて行動をためらってしまいそうです」

 

 私は市長さんの言ってたセリフを思い出して、知らずニヤケてしまうのを抑えられそうにありません。

 

 

『彼女を勧誘するなとまでは言わん。しかし、しかし、一国の戦力にも匹敵する彼女に手を出した時点で行政に携わる一員としては「反意あり」と見なさざるをえん。

 勧誘することそれ自体が発言者による独立宣言を意味し、この街の市民権を放棄する意思表示であると私は解釈してそう処置する旨を、ここに表明しておくものである』

 

 

 ・・・あれって要約すると『お前達が何かした時点で街は縁を切る! 市民じゃないから煮るなり焼くなり好きにされても関係ねぇ!』って意味を兼ねちゃってますからねー。そっちの方が本命なんだろうなとは分かっていますけれども。

 

「本当におもしろい方々が多い町です。来て良かったですよ そう思いませんか?

 ・・・えっと、確か・・・ビッチ・シースルーさん? それともバッチィ・ショーツさん? でしたっけか?」

 

 

「「「ダッチ・シュヴァルツ様だ! いい加減覚えろ糞チビジャリがぁぁっ!!」」」

 

「ああ、なんかそんな感じのお名前です、確か」

 

「「「こ、この糞生意気なガキぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・」」」

 

 

 くつくつと、拳を作って口元に当てて笑ってみせる私の前でニューヨークギャングみたいな格好した黒服ハゲの小男で、なんか大物ぶって後方から偉そうに笑っていた人・・・この街の裏街を締めるならず者達のボスの一角『ドン=ダッチ・シュヴァルツ』さんが薄ら笑いを深め、嬉しそうに笑いながらこちらに近づいてきますけど構やしません。

 

 ーーーどうせ生け贄は必要だと思ってたんです。

 燃やさなくてはならない藁人形に選ぶなら、善良で誠実な善人よりも、殺してしまっても心が痛まないゴミどもの方が倫理的で良識的な選択というものでしょうから・・・・・・

 

 

「言ってくれるねぇ嬢ちゃん。流石はこの俺が見込んだだけのことはある女だぜ・・・」

「ボス! 構うことはねぇ! こんな生意気な餓鬼はさっさとぶち殺しちまいましょうぜ! 昨日の戦闘で活躍した話は表と違って裏の奴らには既に知れ渡っていますから殺して晒すだけでも威嚇としちゃあ十分すぎる効果があります!」

「・・・黙ってろ、頭数ども。俺が『未来のパートナー』を勧誘しているときに邪魔しにくるんじゃねぇよ。ーー殺すぞ?」

『・・・・・・ッ!?(ゾッ!)』

「そう、それでいいんだ・・・。駒でしかないお前らと違って、コイツは桁が違う・・・同等に扱っていい玉じゃあねぇんだよ・・・」

 

「さて、嬢ちゃん。若い奴らが失礼したな。詫びってわけじゃねぇが、どっかで茶でもしばきながら俺の話を聞いてほしいんだが・・・どうだ?」

「遠慮しておきます」

『テメェッ! 俺たち幹部でも滅多に許されないボスからのお誘いを無碍にするとは何様のつもりーーーぐはぁっ!?』

「黙ってろって言ったじゃねぇか。一度もよぉ。俺が一回言った言葉を一度でも忘れた頭スカスカ野郎は、本当に頭の中身を抜かれちゃっても知らないよ~?」

『・・・ひぃっ!?』

「・・・二度もすまねぇな、嬢ちゃん。一応聞いておきてぇんだが・・・何で俺の誘いを断りやがったんだ?」

「知らない大人の人に着いていかないよう、お父さん達から言われていますので」

「・・・っ!! ぷはっ! ぶははははははははっ!!! 確かにその通りだな! こりゃ一本取られたぜ! あー、腹痛てぇっ!! ひー、はははは!!」

「・・・・・・・・・」

「はぁはぁ・・・つ、つまりよぉ。この場で俺の話を聞いてもらえるって意味でいいんだよなぁ? 嬢ちゃん」

「ええ、まぁ。この場でよければお話だけでも伺いましょう。ーーむろん、本当に誠意を示す気があるのなら、そこの死角に潜ませている弓兵さんたちを下がらせてもらいたいところですけど・・・どうせ性能テストに過ぎないのでしょう? だったらお好きにどーぞ」

『・・・・・・っ!!!(ざわっ)』

「・・・へっ。さすがだ・・・対《センス・マジック》処置をほどこした装備に身を固めさせてたんだがな・・・。ますますお前さんが欲しくなっちまったぜ、どんな危険を冒してでもなぁぁぁぁっ!!」

「・・・それが今回の無謀な挙に出た動機ですか?」

「そうさ! 俺はまだまだ上に征く! 臆病な老頭どもと違い、この街の裏街のトップに立つだけじゃ気が済まねぇ! 満足するはずがねぇのさ! 

 俺はやがて、この国を裏から牛耳る真のトップになる! この国の全てを俺のモノにしてやる! その為に役立つ奴にはなんだって暮れてやる! どんな物でも用意してやる!

 金! 女! 男! 子供! 人だろうと動物だろうと宝石だろうと剣だろうと、果ては貴族のお嬢様だろうと何でもだ! だから嬢ちゃん! 俺に付け! 絶対に損はさせねぇ!」

「・・・覚悟がおありなので? この国の全てを敵に回して戦争するお覚悟が?」

「王座を手に入れたい奴がリスクや危険を恐れてどうする? だからこそ、今お前の前に俺は立っている」

「ーーー死ぬ覚悟は・・・・・・殺されるお覚悟はおありですか?」

「所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。俺が途中で誰かに殺されるとしたら、その程度の男だったとハッキリ自覚して気持ちよく死ねるだろうよ」

「・・・・・・なるほど、よく分かりました。納得です」

 

 

 私は笑顔を浮かべてうなずいて、ゆっくりと杖を空に向かって掲げていきながら。

 

 

 

 

「では、その信念の強さに敬意を表して殉じさせてあげましょう。

 正義の味方に否定されて死ぬよりかは遙かに満足できる殺され方でしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・弱肉強食は動物達による自然界の掟。人の世には人の掟があります。人の住む町で人に害をなす動物の掟を貫こうとすれば害獣として駆除されるのが当然の末路。

 せめて、貴男たちの信じ貫いてきた信念を貫いたまま死ねる殺し方を選んであげましたから感謝してください」

 

 よいしょっと、立て札を書き終えてから私は立ち上がり埃をはたき落とします。

 

「飼い主の手から自らの意志で脱走した野良犬風情が人間様に迷惑をかける生き方しかできない道を選ぶのであれば死になさい。

 せめて最期くらいは人の迷惑にならないように、街の裏側でヒッソリと・・・ね」

 

 私は彼ら“だった物の山”に背を向けて歩き去ろうとして思い留まりました。

 他の人たちにとってはともかくとして、私にとっては死んでからが“役に立ってくれる本番”になった方々に一言お礼ぐらいは言っておくのが人の道かなーと思ったからです。

 

 

「・・・生きてる間は害にしかなれずとも、死んでからは少なくとも私の役には立ってくれそうですし、仏様だか神様だかがこの世界にいたら生前の罪を裁くときに罰を軽減してもらえるかもしれません。ご冥福をお祈りさせていただきます。さようなら。ナーメンダブツ」

 

 適当なお経モドキ(虚覚えのを唱えるなんて本場の方に失礼ですからね)を唱えてから、ようやく去っていく私。

 

 彼らの死体の上にはこう書いておきました。

 

 

 

『私はお前たちに何もしない。

 だからお前たちも私に何もしようとしてくるな』

 

 

 

 ・・・・・・関係ないですけど、『HUNTER×HUNTER』で一番かっこいいのは幻影旅団のマチさんだと私は信じてます。

 

つづく

 

 

次回予告「ボリスさん真登場回」

「おっと、待ちな嬢ちゃん警備隊だ。その物騒なブツをこっちに渡してもらおうか。大人しくしてくれりゃあ、こっちも何もしねぇで引き下がるぜ? 職務果たしに来ただけなんだからな」

「・・・念のために言っておきますけど今殺したのは正当防衛で、私は市長さんから特権を・・・」

「知ってるよ」

「?」

「上が政治的な理由で何を決めようとも、現場には現場の守らなきゃいけねぇルールってもんがある。俺たちの住む街で余所者のルールは通させねぇ。ここは俺たちのルールが支配する街なんだ。郷に入っては郷に従いな」

「・・・なるほど。では、まず貴方から郷にいては郷に従って『頂きましょう』・・・」

「!?」

「あなたは武器を向けて脅迫してきた。『従わなければ撃つ』と言ってね。最後通牒はあなた自身の口から放たれた・・・降伏するか、交戦するかの二者択一の選択肢をね。

 お分かりですか? ここはもう・・・戦争のルールが支配する戦場に変貌させられてしまったのですよ? あなた自身がそう決めたんですから戦争責任を取りなさい」



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