セレナが酔っ払った!? (Mak)
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こどものビール
「はぁ~」
ここは根幹世界、S.O.N.G本部内の装者待機室。
普段は待機中の装者たちが集まり姦しく談笑するこのスペースも装者たちは全員任務に出かけ中のため静まり返っていた。
そんな閑散とした室内のソファに座り、ため息をついていたのは並行世界の装者、セレナ・カデンツァヴナ・イヴであった。
そんな待機室に入室して来た者がいた。
「……あれ? なんだあんたか。 珍しいな一人でいるなんて。 翼たちは?」
「あ……、こんにちは奏さん。 姉さんたちは今任務からの帰りだそうです。 あと1時間半ぐらいで帰ってくるみたいですよ」
入室して来たのはセレナと同じく、別の並行世界の装者である天羽奏であった。
「なるほどな。 じゃあ少し待たせて貰うとするかな。 あんたもそんな感じか?」
「はい……。 わたしも姉さんにちょっと用事があって……」
「うん? どうした、なんか悩みごとでもあるのか?」
「えッ、なんで分かったんですかッ!?」
「そう顔に書いてあるぞ。 可愛い顔が台無しじゃないか」
そう言われてセレナの顔がほのかに朱くなる。
それは褒められたことに対してか、それとも奏に自分の心を見事に見抜かれたことに対する羞恥か……。
奏の方も、そんなセレナを微笑ましく思いつつ、最年少でありながら自分と同様にそれぞれの世界で唯一の装者である共通点もあってか彼女の助けになりたいと思っていた。
「……どうだ? あたしで良ければ聞いてあげるけど?」
「えっと……でも、迷惑になりますし……」
「いいからいいからッ! 姉妹でも聞きづらいこととかあるだろ? そういう時は身内以外に相談するのも案外悪くないものさ」
「そういうものですか? じゃあ、……奏さんはお酒を飲んだことはありますか?」
今度は奏が驚かされる番であった。
こんな純粋無垢な女の子の口から酒という単語が出てきたのだから仕方がないであろう。
「酒? 一応二十歳は過ぎたし飲んだことあるけどそれがどうかしたのか?」
「そのぉ……、この前姉さんがわたしの世界に泊まりに来た時にマムと一緒にお酒を飲んでいたことがあって……」
それは数日前の事であった。
セレナの姉、マリア・カデンツァヴナ・イヴは失った姉妹の時間を取り戻そうと定期的にセレナの世界を訪れ、ときには泊まることもあった。
そしてもう一人、マリアにとってかけがえのない人物がその世界には生存していた。
それが、彼女たちがマムと呼び慕うナスターシャ教授である。
その日は珍しく、ナスターシャ教授がマリアを晩酌に誘ったのだ。
マリアも彼女の世界では終ぞ叶わなかったマムからの飲酒の誘いに快諾し、その晩は結局遅くまで二人で楽しく飲みかわしていた。
「なるほどね。 それでちょっと羨ましくなっちゃったのか」
「はい……、その日のマムと姉さんはとっても楽しそうでした。 それに姉さんも結構色んな悩みをマムに話していた気がします」
「で、あんたも酒を飲んでみたかったと……」
「はい……、流石に無理ですし姉さんやマムに言っても怒られるので中々誰にも言えなくて……。 聞いてくださってありがとうございますッ!」
「……」
セレナは少し晴れやかになった表情で奏に礼を言う。
しかし奏の方はそうではなかった。
先ほど述べたように、似た境遇でありながら自分よりも年若いこの少女に力になれることならなりたいと思っていたのだ。
とは言え今回の悩みはお酒である。 とてもではないが未成年に酒を飲ませる訳には行かない。
どうしたものかと真剣に考えていたそのとき、過去の記憶がふと蘇り、ある名案を思い付く。
「そうだ、 あれがあったッ! ……セレナ、実はイイ物があるんだ。 今から買ってくるからちょっとだけ待ってておくれよなッ!」
「えッ!? は、はいッ!」
そう奏が言い残すと彼女は急いで待機室を後にする。
30分後、大きなレジ袋を両手に抱え戻ってきた。
袋を机に置き、どんどん中身を取り出し並べていった。
チーズ、ポテチ、アーモンドナッツ、ムギチョコ、魚肉ソーセージにおかき等など大量のお菓子や駄菓子を並べていく。
そして最後に取り出したのはガラス製の小瓶であった。
そのラベルには‥‥。
「こどもビール……?」
「そ! 子どもが飲んでも怒られないビールさ!」
「そんなものがあるんですかッ!?」
「実はあるのさッ! ささ、コップを出して! 一献どうぞ!」
瓶を開け、セレナのコップに注いでいく。 まるで本物のビールのようにきめ細かな泡が立ち、シュワシュワと音を立てて注がれていく。
「わぁ~ッ! すごいッ! 本当に飲んでも良いんですかッ!?」
「当たり前だろう? はいッ! 今度はあんたがあたしのコップに注いでくれ。 だれかと飲むときは自分のコップには注がず相手に注いでやるのがマナーなんだ」
「わ、分かりましたッ! ……わぁ~凄いッ! 大人になったみたいッ!」
「よし注げたな。 じゃあコップを持って乾杯しようッ! カンパ~イッ!」
「か、カンパ~イッ!」
チンっとコップがぶつかり合う音が響く。
セレナは恐る恐るコップに口づけ、奏も心配そうにそれを眺める。
「おいしい……ッ! おいしいです奏さんッ! わたし、お酒って苦いものだと思ってましたけど甘くて飲みやすいですッ!」
「そうかッ! それは良かった。 さぁジャンジャン飲もうッ! 響たちにも飲ませようと思って買ってきたからまだまだたくさんあるぞッ!」
「はいッ! いただきますッ!」
楽しそうに飲むセレナ。 それを満足そうに見守る奏。
本物ではないとはいえ雰囲気だけでも楽しめないだろうかと言う目論見は見事成功した。
いつか大人になったら本物を飲みに行こうなと考えながらつまみなども勧め、セレナは勧められるがままどんどん飲み干していく。
30分後……
「えへへへッ! かなでさ~ん。 もういっぱいくだちゃ~い!」
顔を真っ赤にし、呂律廻らず目がトロンとしたセレナが、正に出来上がっていた。
「な、なぁセレナ? そろそろその辺にした方が……」
あれ?っと焦る奏。 先ほどから瓶やつまみの成分表示をしきりに何度も確認しているがどれにもアルコールは含まれてはおらず、ただただ困惑していた。
「い~や~で~す~ッ! まだまだのみたりませ~んッ!」
だがセレナの様子は正しく酔っ払った姿であった。 自分も何度か経験し、それ以上に酔っ払って豹変した櫻井了子を何度も目撃しているため見間違うことは無かった。
それゆえに、ノンアルコールでなぜここまで酔えるのか不思議でならなかった。
「ほらぁ~、かなでさんコップがあいてますよ~~? 注いであげますからコップをこっちにくだ~さい!」
「い、いや、今日は大分飲んだからそろそろ遠慮しておくよ」
既に何杯も一緒に飲んだので問題ないことは理解してはいるがどうにも怖くなった奏はセレナの要求を断ろうとした。
「ムぅ~! かなでさんは私のびぃるが飲めないんですか!?」
これである。 この他にもいくつかパターンがあり、怒り、泣き、笑い等など様々なパターンでこちらにビールを勧めてくるのである。
そして、極めつけは……
「だいたいみなさんわたしをいくらなんでもこどもあつかいしすぎですッ! わたしだってあんなじけんがなければみなさんよりとしうえなのにッ! マムもマリアねえさんもですッ! しんぱいしてくれるのはうれしいですけどわたしだってそうしゃなんですから」
これで何回目だろうか・・・。
先ほどから同じ愚痴を聞かされ続けていた。
ある意味で奏の目論見は達していた。
子ども用とは言えビールを飲ませ大人の雰囲気を味わせる願いを叶えるだけでなく、優しい彼女が密かに溜めているであろうストレスや文句を吐き出させようという奏なりの思いやりであったからだ。
あまりにも効き過ぎたことは誤算であったが……
(この子が大人になっても……、絶対に一緒に飲み行かない)
更に30分後、本部に無事帰投したマリアたちへ説明するハメになった奏はそう心に誓ったのであった。
お読みいただきありがとうございました。
甘酒で酔ってしまうというネタが好きなんです。サ〇ラ大戦のす〇れとかw。
まあ、甘酒は少しはアルコールが含まれていますが、こどもビールなどはあくまで炭酸飲料ですので酔うことは絶対にありません。
未成年への飲酒を勧めることも犯罪になりますのでご注意ください。
完結と、銘打ちますが一応もう一話、絡み相手を男性モブに変え、ちょっとエッチな展開の話を投稿するかもしれません。
その時はよろしくお願いいたします。
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