星振る夜に月は輝く (四志・零御・フォーファウンド)
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1話 ヤカンとサムライと少女たち

 男は追われていた。

 

「はっ、はっ、はっ――」

 

「追えー!まだ近くにいるはずだ!」

 

 逃げ込んだ森の中で大勢の侍たちが散り散りに男を探している。

 

「くそっ、しつこい連中だな!」

 

 悪態を吐いてから全速力で逃げる。逃げ足には自信があった。というより、逃げることに馴れたというのが正しいのだろうか。

 

「見当たらない!」

 

「こっちもだ!」

 

「ここで引き返したかもしれん。一度引き返すぞ!」

 

 侍たちが引き返したのを確認してから、地面に座り込んだ。

 

「ふぅ。ひとまずは乗り切ったな」

 

 問題はここからだった。周辺にはまだ敵がうろついているはずだ。この包囲網を突破するのは簡単なものではない。

 

 そんな時だった。辺りから不思議な音が聞こえだしたのは。

 

「なんだこれは……」

 

 木々が騒めき鳥が羽ばたく。遠くからは警戒心を露わにした猿の鳴き声が聞こえる。

 

 

――ポオー……

 

「!」

 

 甲高い音に思わず頭を上げる。上空から聞いたこともない不気味な音が鳴り響いたのだ。

 

「なんだあれは!」

 

 生い茂る木々の隙間から、金属の物体が垣間見える。

 

「やかん、なのか……?」

 

 金属の球体に鶴の首のような長い口。あれはまさにやかんが空を飛んでいるような光景だった。

 

 男が呆気に取られていると、空飛ぶヤカンがゆっくりと地上に降りてくる。

 

――ポオー……ポオー……

 

 ヤカンが近づくほど音が大きくなる。あのヤカンから発せられている音のようだ。

 

「あっ……」

 

 気が付くと、ヤカンは木々を薙ぎ倒して地面に着地していた。

 

――シューーーー!

 

 煙が辺りに立ち込める。朝霧のような視界の悪さ。何が起きているのか、男には理解不能だった。

 

 

     *

 

 星を眺めていると、どこまでも広がる壮大な世界に私が唯一の存在に思えて、宇宙という存在に少しだけ触れた気になれる。

 

 私は望遠鏡から離れ、現実へと帰還する。星の世界から夢の世界へと向かう時間だ。吸い込まれるようにベッドへと飛び込む。

 

「寝て起きたら夏休みかぁ……」

 

 寝返りを打つとベッドの軋みが部屋に響く。

 

 夏休みと言っても、何がしたいとか計画を立てているわけでもない。とりあえず、メリーを誘って、秘封俱楽部の二人で遊ぶだけ。普段の休日と何ら変わりもない。ただ、いつもとちょっと違うだけでいい。ほんのちょっとだけだ。非日常が起きて欲しい願望があった。

 

「面白いこと、起きないかな」

 

 そんなことを思っていると、いつの間にか睡眠の誘惑に負けてしまい、瞳を閉じて

夢の世界へ導かれた。

 

     *

 

 ここは、夢の世界。だけど、現実世界にいるような出来事だった。

 

 わたしは月面にいて、月に住む住人と親しくおしゃべりをしている。太陽が見えなくなる頃、彼らとさよならする。

 

 一人でも十分楽しいけど、彼女もここに来て欲しい。二人で一緒に月の彼方此方を見て回りたい。

 

 どうすれば此処に彼女を連れて来れるのか、月の姫に問う。

 

『もう少しです。もう少しすれば、此処に来れます。その時、あの人も一緒に――』

 

 月の姫は「あの人」を想って、数千年を生きている。

 

 確信があったわけじゃない。だけど、わたしは月の姫と約束した。

 

「わたし、お姫様の言う『あの人』を必ず連れてきます!」

 

――わたしの夢はいつもそこで終わる。

 

 





二次創作は初です。対戦よろしくお願いします。


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2話 清水寺へ

「あっついなぁ」

 

 外に出ると、焼けるように輝く太陽が夏の京都市内を襲っていた。予想最高気温は三十度。私は過酷な状況下で目的地の京都駅北口に向かっている。猛暑の中、「彼女」は生真面目に外で待っているだろう。十分の遅刻だってきっと笑顔で許してくれるはずだ。

 

「遅いです!」

 

「うげ」

 

 そんなことはなかった。

 

「許して!」

 

「許しません!」

 

 頬を紅潮させた金髪の少女メリーは腰に手を当て私を叱りつける。

 

「いーーーっつも遅刻ばかりじゃないですか!ワザとですよね!絶対にワザとですよね!そんなにわたしを苛めて楽しいんですか!」

 

 正直、楽しい。私はメリーの笑顔が大好きだが、怒った顔の方が百倍も大好きだ。

 

「ごめんって。明日は絶対に遅刻しないからさ、許して?」

 

「そんなこと言って三日連続で遅刻してますよね。どういうことですか?」

 

「……ごめんさない。――抹茶パフェで許してくれないか」

 

 メリーは甘い物に眼が無い。今回も甘い物で許しを請う作戦だ。

 

「許しません」

 

 頑なに首を横に振る。今日の彼女はどうやら手堅いようだ。

 

――ならば!

 

「特盛、でいかがでしょう」

 

「……」

 

 表情が変わった。眉間に皺を寄せて唇を歪ませている。

 

「いいでしょう」

 

「わーい」

 

 ちょろーい。

 

「ただし、メガ盛りですからね」

 

「はい」

 

 そんなこんなで、じゃれ合いながら京都駅のバス停に向かった。

 

「それで、今日は何処へ行く予定なんですか?」

 

「清水寺」

 

「どうしてまた、そんなところへ?」

 

「京都と言えば清水寺でしょ」

 

「それはそうですけど……」

 

「ほら、バスが来たよ。乗った乗った!」

 

「ううぅ……」

 

 私は困り顔のメリーをバスに押し込んで一番後ろの席に座った。

 

 今日は観光客が少ないようで、清水寺の行きのこのバスに乗り込んだのは、私たちを含めても数人程度だった。

 

「メリーは清水寺に何回行った?」

 

「一回しか行ったことはありません。1回行けば十分です」

 

「何を言っているのだねメリー君。清水寺は何十回、何百回も行くべき場所だぞ。さてはキミ、映画は一度しか観ない人だね」

 

「その通りです!」

 

「そいつはイケない。今度の週末は映画観賞会と行こうじゃないか。まずはXファイルシーズン1を2周するとところから始めよう」

 

「そんなのぜーーーったい、嫌ですからね!」

 

 メリーは顔をムスッとさせてそっぽを向いてしまった。

 

 そんなこんなで目的地である清水寺近くのバス停に到着した。やはり、この周囲も観光客が少ない。これなら今日はゆったりと観光できるだろう。

 

 五条坂を2人で上っていく。やがて、三年坂と合流する地点で何やら人だかりが出来ているのに気づいた。

 

「ん、何の騒ぎだよ。メリー、見えないから肩車して」

 

「出来るわけがないでしょう!」

 

 

 

 

 




こうしん、おそくてごめんね。

ゆるしてね。

おこっちゃいやだよ。


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