キャロルちゃんをママと呼ぶ話が書きたかっただけ (小指のファウストローブ)
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キャロルちゃん子供を拾う

こういう話が読みたいのに誰も書かなくて焦れてしまった結果。
プロット無しの見切り発車だゾ!


 ある日、1人の赤ん坊を拾った。

 路地にポツンと置かれた籠に毛布にくるまった状態で放置されていて、数日分のオムツと粉ミルク、ガラガラ鳴るおもちゃを添えられていた。

 

 籠には紙が貼り付けられており内容も淡泊なものだった。

 

「女の子です。拾ってください……」

 

「地味な文章ですね。一見拾われようと拾われなかろうとどちらでもいいといった感じですが」

 

 傍らで紙を覗き込んでいたレイアが言葉を零す。俺も概ね同じ印象。反吐が出るな。

 

「手紙でどれだけ取り繕うと捨てた時点でそいつの人間性などドブ以下だがな」

 

 親としての責任を負えないと言うのなら子供なんて最初から作らなければいい。まぁこの赤ん坊に限っては少し事情が異なるだろうがな。

 

「可視化出来るほど派手に濃密な魔力」

 

「持て余して当然だな」

 

 まるで小さな太陽だぞ。これは明らかに異常値だ、こんな赤ん坊がこの濃度の魔力を放っているなど普通は思わない。俺も目を疑った。

 

「マスター赤ちゃんのミルクの用意が出来ました」

 

「寄越せ」

 

 ミルクは人肌。ファラから受け取った哺乳瓶は熱かった。

 

「馬鹿か! 火傷したらどうする?」

 

「ガリィたちぃ護衛とか戦闘に特化してる人形であって、子守りはインプットされてないんですよねぇ」

 

「ガリィがさっさと持って行こうって言ってたんだゾ」

 

「バラすな!」

 

 流石に、それは引くぞガリィ。いやそもそもオレはそこまで性根が腐っているのか。そうか無害な赤ん坊相手にも……

 

「酷いですね本当に知らなかったんですってば」

 

「どうだか……」

 

 哺乳瓶の熱を逃がしながらガリィを睨めつける。人形のお前に口笛は吹けないぞおいこっち向け。

 

「ミルクの温度は40℃が凡そ適温だ。飲ませた後は背を軽く叩いてゲップをさせろ」

 

「マスター」

 

「なんだレイア?」

 

「育てるんですか?」

 

「……この魔力量だ。計画の役に立つやもしれない」

 

 何より拾った後ですぐ捨てるなどそれこそクズ共と同じになる。何よりオレはそれが許せない。

 

 気まぐれに拾ったのだ。気まぐれで育ててもいいだろう。自立できるようになってからは知ったことじゃないがな。

 

 髪を掴まれたガリィの叫び声を聞きながらこれからの方針を固めていく。取り敢えず予防接種か?

 

 

◇◆◇

 

 

 チフォージュ・シャトー建設を行いながらの育児は困難を極めた。まず腹を空かせて泣く。そしておしめ替えで泣く。更に寂しくて泣く。最後に中々寝付かない。寝ても離れるとセンサーでも付いてるのか直ぐに起きて泣く。

 

 厄介なのはこの赤ん坊、名をアリアと名付けたが。オレ以外が抱えても泣き止まない。寂しくないようにとファラやレイアを付けても泣く。遠く離れた場所までハッキリ聞こえてくる。

 

 作業の効率が下がるのを覚悟してエルフナインに相手をさせてみても結果は同じ、と言うか寧ろ悪化した。危なっかしくて見てられん。

 

「ププッ、お似合いですよマスター」

 

「アリアもニッコニコだゾ!」

 

 結果ベビーキャリアで四六時中背負う事になった。近くにベビーベッドも設置した。しんどい、変わってくれ……

 

「あららマスターったらマジで疲れてるご様子」

 

「ああ、おかげで頭痛がする」

 

 分担が出来ないのが辛い。オレと寸分狂いない似姿のエルフナインでダメならもう打つ手はない。パパはどうやって男手ひとつでオレを育てたんだ。

 

「大丈夫ですって言葉を理解出来る所まで育てて、あとは脳に直接知識をインストールすれば」

 

「拒絶反応の程度がハッキリしない以上出来れば避けたい」

 

「最低限の知識だけであれば大丈夫では?」

 

 だとしても言葉を覚えさせる必要がある、か。まだ歯も生え揃わない赤子じゃ無理だろうな。あと2ヶ月か3ヶ月で離乳食、そこからまた6ヶ月くらいからやっとこ言葉を話し出すとかなんとか。

 

「成長を加速させる事は……」

 

「派手にダメでしょう」

 

「休まれた方が良さそうですね」

 

 遅々として進まないシャトーの建設。

 先が長いアリアの成長。

 

 最近のアラームが泣き声というのも心臓に良くない。出来ればこのギャン泣き期がなるべく速く過ぎる事を祈るばかりだ。

 

「今日は寝かしつけてオレも寝る……」

 

 こちらの気も知らないでアリアは笑顔だった。今夜も寝かしつけるのは時間を要するだろうな。柔らかい頬に優しく触れながら独り言ちた。

 

 

◇◆◇

 

 

 まず歯が生えはじめた。何となく口を覗けばその度ににょきにょきと乳歯が生え揃っていく。それに合わせて離乳食に切り替えていったが、食べ方に問題ありだ。

 

 よだれかけが一食であそこまでぐちゃぐちゃになるものかと、ここまで来ると感心する。口の端はもはや閉じてないのだろうな、全て素通りだ。

 

 そろそろ頃合いだろうと思い発音の練習を試みた。キャロルと自分の名前を連呼するのは妙な気分ではあったが、やっと意味のある言葉を発しようとする姿を見れば気にならない。だがオートスコアラーたちが変な言葉を教えないかだけ不安だ。

 

 特にガリィとミカ。

 

 いや訂正、レイアも派手を連呼してた。ファラだけまともだ。

 

 最近ベビーベッドの柵を支えに起き上がって居たのは知っていた。ベッドから転落しないかヒヤヒヤしたのは過去の話。乗り越えるにはまだまだ筋力が足りないと気付いてからは遠目に観察するに留めている。

 

「いやだからといって昨日と今日で立って歩行するか!?」

 

「実は私とコソ練を少々」

 

「オレに黙ってる必要あるか? と言うかいつの間に……」

 

 ファラに手を引かれる状態でトコトコと歩くアリア。足元がおぼつかないながら一生懸命に歩いていた。おやこちらを向いたな。

 

「ママー」

 

「は?」

 

 ママ?

 

 誰が、何処に?

 

「ママー」

 

 待て、オレの方へ向かいながらという事は……

 

「オレかッ!?」

 

 と言うかオレは『ママ』なんて単語は教えてない。

 

「キャロルだキャロル! オレはお前のママじゃない!」

 

「きゃ、おう?」

 

「キャ・ロ・ル!」

 

「きゃ・ろ・る!」

 

 なんだ言えるじゃないか!

 

「ママ!」

 

「違う!」

 

 完全にオレの顔を見てママと言ってる。なんだったら指を差してる。下手人はわざわざオレの顔で覚えさせてる。エルフナインは横で童話の読み聞かせをするだけで発音練習合戦には参戦してない。となると──

 

「ガリィか!?」

 

「そういうのを一括りにしてガリィちゃんのせいにするのはよしてください。泣いちゃいますよ?」

 

「口が笑ってるぞ馬鹿者が!」

 

 そもそもお前は泣けないだろうが。扉の向こうで耳をそばだててた時点で問答無用で有罪だ。

 

「どうせ水のスクリーンでオレの姿でも投射してたんだろう……無駄に手の込んだことを」

 

「ありゃ全部バレてますね。でもでもマスターの精神構造をベースに組まれたガリィがやった事なんですから。実はマスターもママって呼ばれたいとか思ってたんじゃないですか?」

 

 よちよち歩きで向かってくるアリアを抱き上げる。頬が触りたいのか手を伸ばしてきたので顔を寄せてやった。当たるアリアの柔らかい手は熱い。

 

「思うわけないだろ。オレは母親になんてなれない」

 

 無邪気に笑うアリアが眩しい。何処まで突き詰めても他人同士、一時一緒に居たからといってその関係性に変化はない。オレの中の父親がパパだけである様にアリアにとっても母親は産みの親だけだろう。

 

「今日だけで歩くのと話すの、一気にやってしまったから疲れただろう。もう寝てしまおうな」

 

 最初に拾った時よりだいぶ重くなった。もう背負いっぱなしで作業も苦しい。さて一体あとどれだけ重くなるのやら。

 

 急造で作ってから度々改修した子供部屋に着く頃には腕の中で眠っていた。警戒もなく身を寄せられることが何度もあったがその度に過ぎるこの感情の意味は未だにハッキリしない。これもまた『世界を識る』に含まれるのか。

 

「万象を識ることこそが錬金術師としての本懐。お前を拾ってから発見が多い事は認めなければな……」

 

 これからは徐々に手がかからなくなっていくんだろう。言葉を介して、歩いて、自分の意思で行動するようになるのか。嬉しいような寂しいような、不思議な気分だな。




続き誰か書いて(切実)
だってシンフォギアキャラの理解吾浅い……書いて、誰でもいい

嫌いじゃなかったら感想、評価待ってます。


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キャロルちゃん教育を施す

もっとシンフォギアの錬金術についての情報が欲しい。調べても全然出ないから妄想で補完するしかないのじゃあ。
あとアリアちゃんが本格的に話し出します。賢いので。

あとチートの要素が少し出ます。


 アリアが熱を出した。脈も早く、額から汗がじんわりと滲んでいる。意識も何処か虚ろでいつもオレを見ては笑顔だった顔も苦痛に歪んでいた。

 

 咳や鼻水は出ていなかった。兎に角意識がぼんやりしているらしく会話のキャッチボールが上手くいっていない。どちらにしても人間が耐えうる体温を超えれば細胞が破壊され命に関わる。

 

「クソ、まさか錬金術を看病に使う時が来るなんてな」

 

 太い血管がある場所を氷で冷やし、脱水を防ぐため水分を摂らせる。焦って解熱剤を使うのはタブーだ。早急に根源を抑える必要がある。

 

 これは風邪ではないのは分かってる。問題は解決法が極めて困難という事。

 

「凄まじい魔力の波動だ」

 

 現在アリアは自分自身の魔力に蝕まれている。生命力が根源とされる魔力にその生命を侵されるとは流石に予想出来なかった。

 

 魔力の結晶体を1日に2回吐き出して調整されていたアリアの魔力。これが最近になってまた跳ね上がった。それが原因で結晶体の排出が間に合わなかったんだろう。

 

 迂闊だった。結晶体の精製は濃度の高い魔力が起こす自然現象とばかり思っていたが、実際は手に余る魔力を排出する防衛反応だったなんて。

 

「シャトーの全域の大気にまで魔力反応が……」

 

 猶予が迫ってきている。魔力を吸い出す道具もカートリッジ全て使い切った。おかげで当分は魔力に困らない生活だ。

 

 かくなる上はオレがアリアの魔力を制御するしかない。錬金術を学んでない子供が魔力を制御しきれず暴走している、ならば外部的でも御しきれば正常に戻るはずだ。

 

 だが制御できるか、この魔力。

 下手を打てば街一つが軽く吹っ飛びクレーターだけが残るぞ。

 

 下手を打てば?

 

 失敗するというのか?このオレが?

 

 巫山戯るな!

 

「オレの錬金術を舐めるなァーー!!!!」

 

 溢れる魔力の鎮静化。高まる魔力の正常化。それに伴う熱を冷却。それでも抑制出来ない余剰魔力は直接オレを介してリソースとして変換。アリアの魔力が尽きないなら実質永久機関だ、要らないわオレが過剰に酷使される永久機関なんて!

 

「ッ! ダウルダブラ!!」

 

 ファウストローブを纏い錬金術に補正を入れる。本来このような使用はしないが既にそう言える範疇を超えた。こちらもなりふり構っていられない。

 

 一際明るい光が照らした時。

 先程まで渦巻いていた魔力は消え失せた。

 

「解析。脈拍、体温、免疫共に正常。魔力は依然として凄まじいが安定を確認。成功、した……な」

 

 流石に精神をすり減らし過ぎた。意識が持たない。

 

 

 

 目を覚ました頃には何ともなかったかのように走り回っていた。仮にも発熱で寝込んでいたと言うのに、元気なのは結構だが気を張っていた分がドっと気が抜ける。

 

「ママ起きたぁ? お寝坊さん?」

 

「ああそうだな。お寝坊さんだ」

 

 悪びれろなんて言う気は無いが、もう少し自覚を持って欲しい。あわや大惨事という所をオレが助けたんだぞ。原因はお前だ。

 

 十中八九記憶が無いんだろうが……

 

「アリア、お前文字は覚えたな?」

 

「覚えたよー! レイアも褒めてくれたの。派手に頭が良いって!」

 

「そうか」

 

 となるとそろそろ本格的に錬金術について教える必要があるな。そう何度も暴走されてちゃ此方も敵わん。最低限自分の魔力を扱えて貰わないと歩く時限爆弾を住まわせてるようなものだ。

 

「前にお前の特異性について教えてやろう」

 

「ギュッとするとピカピカするこれでしょ?」

 

 拳に魔力を集中させて見せてくる。身近に魔力を感じていた分魔力の扱いもそこそこ出来る。まぁそれが油断に繋がった一因なわけだが。

 

「今日からそれの運用を本格的に学んでもらう」

 

「お勉強?」

 

「嫌か?」

 

「ううん、ママが教えてくれるんでしょう?」

 

「オレしか居ないからな」

 

「じゃあアリアやるぅ!」

 

 何が嬉しいのかニコニコと跳ね回っている。本当にさっきまで熱に魘されていたのか?

 

 この時分は全てが新鮮で全てが楽しいんだろう。いつかの為に(したた)めた教本を宝石を眺めるが如く瞳を輝かせている。

 

 いい加減止めないと教本に穴があきそうだ。

 

「まずは魔力の運用の基礎を固めていくぞ」

 

 本当は知識から学ばせたかったが、アリアの場合はこっちの方が急務だからな。冶金や薬の調合、解析、分解、再構成は追々詰めていく。術式の構成は一朝一夕じゃ身につかないからな気長にやっていこう。

 

 

◇◆◇

 

 

 思わず頭を抱えた。

 

 魔力の運用については直ぐに解決した。アリアに施した術式の所有権を本人に移し、意識的に魔力の生産量を調節すれば問題は発生しなかったから。それでも溜まる魔力は今まで通り、されど自分の意思で結晶化させる事でリスクを減衰出来る。実質暴走の可能性はゼロだ。

 

 ただ常に術式を回す分無意識下でも機能させなければならない。しかしアリアは天才肌だからな、既に何となくでできるらしい。いや錬金術たるものもっと理論的に実行して欲しいが。

 

 何処かの無邪気な太陽のせいで最近は魔力には困っていない。記憶を焼却しなくていいのは将来的にも大変ありがたい話だが、有り余るというのもいいものではなかった。

 

 溜まるからな物理的に。

 

「結晶体の保管場所を考える必要があるな」

 

 意識的に結晶体を作れるようになってからその生産量は倍々になった。今までは研究やらシャトー建設のリソースにして来たがいよいよ持って消費が間に合わなくなってきた。

 

 獅子機の改良にでも使うか?

 

 結晶体の運用について悩んでいるさなか違うフロアからけたたましい轟音が鳴り響いた。すわ侵入者かと見てみれば。

 

「誰だ四大元素(アリストテレス)なんて教えたやつはッ!!?」

 

 アリアが盛大に教えた事も無い錬金術を使っていた。オレも使う四大元素(アリストテレス)。炎、水、風、土の属性を扱う術式だ。汎用性に優れ、無闇な使用は無論危険。子供には過ぎたものだ。

 

「教えて欲しいと言われましたので……」

 

「もっと派手に錬金術を扱いたいと……」

 

「ガリィちゃんこうなるとは思わなかったんですぅ。ぴえん」

 

「アリアとたくさん遊んだんだゾッ!!」

 

 色々段階を踏み越えた術式の行使。丈夫な部屋で大事にならなかったから良かったものの、駆けつけた時には心臓が飛び出ると思った。つい最近まで術式の解読に四苦八苦してた子供が高度な術式をガンガン回してるんだからな。

 

 オートスコアラーたちが各属性の術を行使出来るとはいえ、流石に子供に教える所まで理解が深いわけじゃない。まさか展開した術式から解読を?

 

 フラッシュバルブ記憶でもしてるのか?

 

「ごめんなさい。ママが喜ぶと思って……」

 

「オレが?」

 

「錬金術を教えてくれる時のママが楽しそうだったから。アリアがもっと上手くなったらもっと喜んでくれると思って」

 

「──」

 

 嗚呼、ダメだ。これは強く叱れない。

 頬を1発くらいひっぱたいてやるつもりだった。だがこれは、そんな気も萎む。喉元まで出てた詰問を溜息に変えて吐き出す。振り上げていた手は所在なさげに彷徨う。

 

 彷徨った手は最終的に銀糸の髪を梳く。

 

「見事な錬金術だった。……よくやった」

 

「ママッ」

 

「ただ! 次からオレに確認を取れ。オレの前以外での錬金術の使用も控えろ。いいな?」

 

「うん分かった! アリアちゃんがんばりまっす!」

 

「ガリィの真似はやめろ。性根が腐るぞ?」

 

「ひっど!?」

 

 撫でていた手をアリアの頬へ誘導される。まるで猫みたいだな。オレの手に頬擦りしてくる。

 

「あとお前たちもアリアを甘やかすな」

 

「甘やかすのは派手にマスターでは?」

 

「そんなわけがないだろ!」

 

 食事、おやつ、睡眠以外は基本勉強だぞ。本人が望んでやっているとはいえ子供はもっと外で遊び回るものだろう。シャトーから外になんて滅多に出せていないし。

 

 やはりもっとメリハリというか、アメとムチというか。何か出来たり達成した時に褒美をとらせるべきか。今回もある意味その手の齟齬の結果だったのかもしれないしな。

 

「重症ですわ」

 

「こういうのは泳がしてた方が面白いんですって。言わないでおきましょう」

 

「性根が腐ってる……」 




裏でオートスコアラーたちがアリアちゃんに構い倒していたよって話でした。
まだ2話だけどやっぱりキャラがなぁムズいよなぁ。ファラとレイアがアリアに対してキャロルと同じ口調なのかが特にわからん。

あとアリアちゃんの見た目銀髪赤目の幼女です。ある意味キャロルとは真逆の見た目なんかなぁ……

感想、評価は随時募集中でっす☆


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キャロルちゃん外出してみる

ちょっと悩む所が出てきたんでアンケートでも取ろうかと思ってます。

あとやっぱり独白させるとそのキャラっぽさが抜ける気がしますね。でも無理にキャラ寄せするとくさくなっちゃうのよね。


「アリア外に出てみたい」

 

 突然そう言い出しオレの服の端を逃がさないと言わんばかりに掴んでくる。捲れ上がる前に手で押し留めるもアリアは引かなかった。とりあえず話くらい聞こうと先を促してみる。

 

「ガリィがね外には人がたくさんいるって言ってた」

 

「余計な事またアイツは……」

 

 何かとあることないことを吹き込んでいるらしい性根の腐った自動人形はあとで殴ってやると心に留める。

 

「綺麗なもの、美味しいもの、初めて見るものが溢れてるって教えてくれたよ。気になるの!」

 

 アリアの好奇心を刺激して嗾けて来たか、厄介だな。真っ向から駄目だと否定するのは簡単だがそれをすればアリアは目に見えて落ち込む。だのに本人は明るく振舞おうとする。

 

 それは困る。想像しただけで心がザワつく。なんてはた迷惑な奴だ。

 

「どのようなものでも代償が必要だ。外には危険も多い。必要なものは用意するから外出は諦めろ」

 

「たっくさん頑張ったよ」

 

 指を折りながら頑張った事を数えていく。そして最後にハッと思い出したようにオレに抱きついてくる。

 

「ママと居れば危険じゃないでしょ! だってママはスゴい錬金術師なんだから!」

 

「オレを勝手に引き合いに出すな!」

 

「あぅ」

 

 小突かれた額を擦りながらそれでも何とかして貰いたいらしい。全くしょうがない。

 

「だがオレが一流の錬金術師なのは事実だ。決してオレから離れるなよ?」

 

「いいの!」

 

 ありがとうと勢い余って飛び込んで来るアリアを受け止めながら覗き見てるガリィを鉄塊で狙撃する。笑っている中隠れるも何もないぞバカめ。

 

「だが出掛ける前に服を拵える必要があるな」

 

 最近針仕事のスキルが衰えるどころか上がってる気がするのは気のせいか?

 

 

◇◆◇

 

 

 服を作る度に採寸しなければならないのが悩みどころだな。だが子供服を買いに行った時の視線が不愉快でならなかったのに比べればどうということはないが。

 

 いや子供連れが多かった所に1人で行ってのが悪かったのか?

 

「それで、なんでお前たちまで一緒に来てる?」

 

 オートスコアラー4機全員がアリアの周囲を固めていた。いや敵陣地か此処は。護衛だとしたら明らかに過剰だぞ。

 

「腕を換装して貰ったゾ!」

 

「手が握れるねミカ!」

 

「抱っこもできるゾー」

 

 わーきゃーはしゃぎ回ってる1人と1機はこの際放っておくとしてだ。

 

「なんでこうなったのか一から全部説明してもらおうか?」

 

「アリアちゃんが一緒に行きたいと……」

 

「派手に押し切られました」

 

 同じかぁ。

 

「じゃあちゃっちゃと行きましょうよマスター」

 

「なんだそれは?」

 

「嫌ですよマスター、観光マップくらい用意しなきゃ。まぁわたしも適当に取ってきたんですけど」

 

 こ、この人形より狡猾になってる。明らかに今回アリアを唆したのはガリィのはずだ。だがオートスコアラーたちを引っ張って来たのはガリィの仕業じゃない。アリア自身の選択だ。

 

「はぁ、それでアリアはどこに行きたいんだ?」

 

「うーん、ん? あれ何?」

 

 指さす方向には観覧車があった。ガリィの持つマップをぶんどればそこには遊園地とある。

 

「遊園地?」

 

「行ってみるか?」

 

 鼻息荒く頷くアリアの手を引き遊園地を目指す。観覧車に向かって進めばやがてエントランスが見えてくる。受付も入口のすぐ脇に設置されている。

 

 大人、小人で料金が違っていてその他にも年寄りや学生でも割引が効くらしい。

 

「大人3人、小人3人ですね。学生の方は居られますか?」

 

 ん?

 

「大人は4人だが?」

 

「えっと……」

 

 大人はオレ、ファラ、レイア、ガリィの4人のはず。

 

「子供扱いされてますよマスター」

 

 は?

 

「ッ!? 大人4人ですねハイ!」

 

 慌ただしくチケットを発行する受付に金を渡して入場する。知りもしないが恐らく流行り曲をBGMとして流しているようで入場早々騒がしい。

 

「そんなちんまい姿で大人は無理があるでしょうに」

 

「それでも小人料金を払うのは違うだろうが」

 

「変な所で律儀ですねマスター」

 

 気を取り直して園内マップを広げる。

 

「ジェットコースターは派手でいいな」

 

「アリアちゃんの身長が引っかかる気がしますわ」

 

「ティーカップってなんダ?」

 

「くるくる回ってるぅ。アレ乗ろ!」

 

「こら勝手走って行くんじゃない!」

 

 全員で乗るには流石に小さいティーカップを考慮してオレ、アリア、ミカとファラ、レイア、ガリィの2組で乗った。中心の円盤を回すのか。

 

「たくさん回すゾッ!」

 

「ちょ、ま! うわぁ!!」

 

 次の瞬間視界がぶれる。

 

 ミカはオートスコアラーの中でも戦闘に特化した人形。ただでさえ膂力が人外の域にあるオートスコアラーたちの更に戦闘特化型。如何に腕をアリアと触れ合いの為にグレードダウンしたとしてもその全開出力から繰り出される力は強力無比。

 

「ぐぅ」

 

 全く腕が動かない。掛かる遠心力が強すぎる。終了のアナウンスが流れるまでこの地獄は続いた。

 

「酷い目にあった。アリアは」

 

「楽しかったねミカ!」

 

「なん、だと?」

 

 ノーダメージ!?

 

「大丈夫ですかマスター?」

 

「大丈夫なものかよ。1番目のアトラクションからグロッキーだ。先が思いやられる」

 

 最近こんな目に合うことが多くなった気が……気のせいか? 気のせいであってくれ。

 

 未だ目の回っているオレを差し置いてアリアたちは次に乗るアトラクションを探している。いやなんでアリアはアレを受けて無事なんだ。オレが特別ひ弱なのか?

 

「次はメリーゴーランド!」

 

「オレはその間休む。行ってこい」

 

 口先を尖らせて一緒にとせがまれたがファラが行きましょうと先を促せば渋々といった様子で向かって行った。

 

 軽快な音楽と共にメリーゴーランドは回り出す。

 白馬に跨るアリアは傍にあったベンチに座るオレを視認すると手を振ってきた。いやガリィたちまで手を振るのは止めろ。変な目立ち方するだろ。

 

 そう思いつつもオレも手を振り返した。思い做しかアリアの振る手も力強くなった気がする。

 

 休憩という事になっているが思いのほかメリーゴーランドの稼働時間が短くて全快には至ってない。言い換えればそれ程までにミカとのティーカップはハードだった。

 

 少し待ったがアリアたちは戻って来ていない。出口付近でスタッフと話してる、と言うか質問してるようだ。やがて満足したように帰ってくる。

 特にレイアが。

 

「次はジェットコースターだよママ!」

 

「身長の制限があったのではないか?」

 

「地味に基準をクリアしてるそうです」

 

 悲鳴をあがる方向を見てゾッとする。安全なんだろうなと。自分で飛んだ方が良いだろ、と。

 そんなオレにガリィは楽しそうにこう語り掛けてくる。

 

「怖いんですかぁマスター?」

 

「あ゛、そんなわけないだろ。見くびるな!」

 

 気付けばジェットコースターに乗っていた。目の前の安全バーを下げてから一瞬後悔したがすでに遅い。ロケット型の機体は徐々に高所へ迫り上がり、遂に頂まで届いた。

 

「ところでなんで隣がよりにもよってお前なんだガリィ!」

 

「そんなの決まってるじゃないですか。隣の方がよく見えるからです」

 

「この、覚えてろよォ──」

 

 肝心な所は他の客の声で掻き消された。

 

 急上昇、急降下、急旋回。目まぐるしく景色は変化し、内蔵が浮いたり落ちたりする感覚がする。無意識に安全バーを強く握り、ふと前に座るアリアを覗き見たが。

 

「たっのしぃーーー!」

 

 両腕を上げて顔は見えないが恐らく満面の笑みだろう。無敵か?

 

 この後他のジェットコースターやバイキングと呼ばれる船型の巨大ブランコに乗った。フリーフォールは記憶に無い。もっと身長制限の基準を引き上げろ。

 

 トリを飾ったのは一番最初に目に付いた観覧車だった。

 空もすっかり日が落ち闇色にポカンと月が乗っていた。窓から下を覗き込むと少しずつ出口に向かう人の波が形成されている。そろそろ閉園時間か。

 

「満足したか?」

 

「うん」

 

 元気よく頷く様子に笑みがこぼれる。割と散々な目にはあったがそれでもアリアが楽しかったのならばその甲斐もあったというもの。

 

「ママは?」

 

「オレか?」

 

 言葉に困った。

 自分でもよく分からなかったからだ。素直に楽しかったのかそうでないのか、いまいちピンとは来ない。しかし嫌ではなかった。

 だからこう返そう。

 

「楽しかったさ。たまには悪くない、こういうのも」

 

「えへへ、良かったぁ」

 

 こんな事は2人きりでしか言えなかったろうな。

 ジェットコースターとは違いゆっくり変わっていく景色を横目に密かに観覧車に感謝した。

 

 手頃な距離だったからかアリアの頬に手を伸ばす。相変わらずこの娘の肌は温かった。




遊園地に行ってみたってお話でした。
結果的にエネルギー問題が問題ではなくなってミカも普段から動き回ってるというね。思い出は魔力へと変換して使うのだし問題ないよねたぶん。

感想評価随時募集してます。


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キャロルちゃん学校準備

なんか凄いアンケートが競り合ってる。
もっと5票差とか着くと思ってた。

繰り返し申し訳ないけれど決選投票と折衷案をアンケートします。これでちゃんと決めます。


 最近アリアが何か煮え切らない雰囲気を醸している。いやこれもやはり適切な言葉ではないか。正直どう言語化すればいいのかオレにも分からないが。

 

 とにかくアリアの様子がおかしい。

 

 与えた課題は滞りなく提出する。対面での講義も真剣に受ける。一緒に食事する時も嬉しそうに談笑する。寝る際もオレの許まで枕と気に入っているぬいぐるみ片手にやって来る。ミカと遊んでいる際も別段変わったところは無い。

 

 だがふとした瞬間に虚空を眺めて思案しては逡巡する様子が見受けられた。最初こそ過干渉だろうと、日常生活にも支障をきたしてはいないから自分で解決できるのを待っていたが。

 

「気になるものは気になるだろうがぁ」

 

 十中八九何かしらの悩みがあるんだろう。何か欲しいものがあるのか、ガリィに何か吹き込まれたのか、日々の生活に不満があるのか、いやもうオレに対して何か思うことがあるのかもしれない。

 仮にそうだとしたらオレに出来ることや後押しする事が出来るかもしれない。

 

「何故相談に来ない!」

 

「地味にマスターに相談がし難い内容なのでは?」

 

「アリアちゃんが賢いゆえの弊害ですね」

 

 やっぱりオレか、オレが要因なのか?

 

「いやもう直接聞いちゃった方がいいんじゃないですか?」

 

「それが出来るならとっくにやっている!」

 

「うわ面倒くさ」

 

 一度だけそれとなく聞いたが笑顔でなんでもないと流された。当時はまだ問題視していなかったのもあってそれ以上は問い詰めていない。

 

「じゃあアリアに聴いてくるゾ」

 

「は?」

 

 静止の声なぞ聞かずアリアの部屋に行ってしまった。

 

「いやホント待て!」

 

「案外ミカちゃんの方が最適解だと思うんですが」

 

 凡そ2分後ミカが帰ってきた。その両手にアリアを掲げながら。巨大な爪が背もたれ代わりになっている。いや何がどうなったらそうなる。

 

「連れてきたゾ!」

 

 連れてこいとは言ってない。

 

「なになに? なんでアリア運ばれて来たの?」

 

「事情も話して来なかったのか!?」

 

 首を傾げて誤魔化すなミカ。数分前のお前は聴いてくると言ったんだぞ。連れて来るだなんて言ってない!

 

「ささっマスター、アリアちゃんに聴きたいことがあるんですよね?」

 

「えっ」

 

「そうなのママ?」

 

「いや待っ」

 

 今更聞けるわけないだろどんな腐った神経してるんだ。いや待て寧ろ此処でなんでもないと言ってしまう方が可笑しいか。

 

「……悩みがあるらしいな?」

 

「マスター、地味に硬い物言いになってます」

 

「表情も硬いですわマスター」

 

「寡黙なお父さんみたいですねマスター」

 

 最近此奴らは誰が主人なのか忘れてるんじゃないか。容赦がなさすぎる。終いには泣くぞ。いや1機喜ぶか。

 

「悩み? ちょっとアリア分かんない!」

 

「今夜から1人で寝るか?」

 

「ガビーン」

 

 おかしな擬音を吐いたあとミカの腹に顔を当ててしばらく唸るアリア。やがて観念したのか顔を上げる。その顔はムスッとしていた。

 

「アリアね、学校に行ってみたいの?」

 

「学校?」

 

 錬金術師の育成する機関が無いわけじゃない。だが研究機関と言う側面が大きい為教育機関と言う点ではお粗末。そもそもオレがいるから必要ない。と言うかアリアをそんな場所に放り込めば最悪実験動物だ。

 

 では普通の学校、初等教育を行う場所に行きたいという事か。いやもうアリアは必要ない所まで教育が進んでいるんだが。片手間で中等教育相当を修めている。ハイスクールにでも行きたいのか?

 

「同年代の友人が欲しいのでは?」

 

 ファラがそう耳打ちしてくる。

 なるほど確かにミカでさえ姉妹と言った方が適当な関係、友人は外でしか見いだせないか。

 

「いやだが何故それならそうと言わなかった? 遠慮する要素はないと思うが」

 

「だって、ママたちとの時間が減っちゃうから…」

 

 

 学校選びするか。

 

 

◇◆◇

 

 

「派手にこの金のランドセルが」

 

「いえ女の子らしくピンクの方が」

 

 こちらの都合とアリアの選択で呆気なく日本の学校に決まった。そこまでは良かったが、そこから学用品を入れる背負いカバンで詰まった。

 

 目録を広げてひと目でわかる多彩な色。メーカー毎に違うフォルムに機能性。何処に琴線が触れたのか盛り上がる自動人形(オートスコアラー)たち。無難に1番高いものじゃダメなのか。

 

「ダメですわ」

 

 ダメらしい。

 

「別にどれでも変わらないだろう。多少利便性を加味しつつ選べば問題無いと思うんだが」

 

「軽く捉えすぎですマスター。アリアちゃんはお友達を作りに行くんです。会話の糸口の一つとしてランドセルは役に立ちます」

 

「だからこそ派手さが求められる」

 

「それではアリアちゃんが悪目立ちします。ここは女の子の人気色であるピンクが妥当です」

 

「それでは目立たない」

 

「ピンクと言っても種類が存在するのです!」

 

 こうしてずっと派手好きなレイアと無難に人気色を勧めるファラの言い争いが続いている。当の本人たるアリアはミカと首を捻っている。ガリィは珍しくアリアの傍に居ない。どこ行ったんだ。

 

「ならピンクゴールドでどうだ?」

 

「折衷案ということですか。では次はどのメーカーにするのかですね」

 

「機能性についてはマスターが改造すれば済むことだ。形重視で良いだろう」

 

 どうやら近々オレはランドセルを改造するらしい。

 

「この真珠がついた物はどうだ?」

 

「成程、ですが──」

 

 終わらないのか。

 

「はぁいガリィちゃんに注目!」

 

「どこに行っていたガリィ」

 

 ラッピングされた箱を片手にいつものポーズをとりながらガリィは器用に移動してきた。

 

「レイアちゃんたちがみっともなく言い争いをおっぱじめちゃうものですからガリィちゃんが買ってきてあげたんですよぅ。ガリィちゃんったら偉〜い」

 

 そう言って箱を掲げる。大きさはそれこそランドセルと同じぐらいの物が入りそうな、いやまさか。

 

「はいアリアちゃん、ご所望のランドセルですよ」

 

「わぁ、ありがとうガリィ!」

 

「何色なのか気になるゾ」

 

 中から出てきたランドセルは淡い青だった。

 

「ガリィの色だね。綺麗」

 

「お揃いです。気に入りました?」

 

「うん」

 

 笑顔で頷くアリアを見届けたガリィはそのまま顔をファラたちに向けて、ニタァと挑発的な笑みを浮かべた。

 

 うわぁ、なんというか……うわぁ。

 

「派手にしてやられたな」

 

「そうですわね」

 

 ファラはソードブレイカー、レイアはトンファーを構える。

 

「程々にな。ミカ、アリア行くぞ」

 

 オレ、アリア、ミカと連なって部屋から出る。言い争う時点である程度予想出来ていたが頑丈な部屋にしておいて良かった。ついでと言わんばかりにスキップで一緒に出ようとするガリィを弾き飛ばして扉を閉める。

 

「今回ばかりは地味に看過できない。覚悟しろガリィ」

 

「時間を掛けて考えた案をお蔵入りさせたんですから、身をもって清算して頂きますわ」

 

「ちょ、ちょっとした冗談じゃないですか。そんなカッカしなくても」

 

 風切り音と鈍い音、金属音と鈍い音。そして鈍い音と鈍い音。扉の向こうの音はそこで遮断する。

 

 

「ママ、名前書くとこある」

 

 紛失対策で2箇所内側に名前住所電話番号を書く場所がある。名前は戸籍を作る際に適当に苗字を作るとして、あとは住所と電話番号。

 

「家も買うかこの際」

 

「新しいお家?」

 

「学校の近くに家があった方が都合が良いだろう。集団で登下校するらしいからな、テレポートジェムでひとっ飛びは出来ないだろうよ」

 

「おぉ!」

 

「と言っても住むわけじゃないぞ」

 

 仮拠点としてミカ以外の誰かを常駐させるが、家に帰ってきたらテレポートジェムでシャトーに帰還させるからな。

 

「お家買うのに?」

 

「シャトーの方が安全だ」

 

「ムゥ」

 

 膨れる頬の空気を指で押し出す。赤ん坊の頃と変わらず柔らかい。

 

「内装も整える。好きな時に行けばいい」

 

「ママも一緒?」

 

「都合が合えばな」

 

 

 ガリィを引き摺って来たレイアとファラ曰く、ランドセルは1年毎に買い換える事で解決したらしい。嵩張るだろどう考えても。




本当はランドセル挟まず小学校の予定だったんですけど。アンケの期限設けず、票差もつかなかった為にこうなりました。でもガリィちゃんがガリィちゃんしてくれたのでいいよね。

感想待ってまっす☆

アンケートは25日までで!


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アリアちゃん転校生になる

今回はキャロルちゃんの視点はなし。というか当分はアリアちゃんの視点で背景を固めるかも。
地の文が私なのは仕様です。セリフも本来なら時々一人称がアリアではなく私になったりするけど今の所ない。

あと今回もアンケートの時間だァ!


 青いランドセルに必要な教材を詰め込み、学校指定の帽子を被って名札を取り付ける。あと忘れちゃいけない防犯ブザー。うっかり引き抜いた時は音で肩がビクンと跳ねたっけ。

 

 今日から私も小学生。

 友達たくさんできるかな。

 

「アリアちゃんこっちを向いてください」

 

「どうしたのファラ?」

 

「写真撮りませんか?」

 

 ファラの手には立派なカメラがある。

 

「撮る撮る!」

 

 ランドセルも一緒に写す為に角度をつけてポージング。笑顔も勿論忘れない。気分はモデルさんかも。空かさず鳴るシャッター音と満足気な様子のファラを見ればベストショットは一目瞭然。あとでママに頼んで現像してもらおう。

 

「良い感じ?」

 

「良い感じですわ」

 

 ニコニコと笑い合っていれば時間もそろそろ頃合い。初日に遅刻はテレポ案件なのでファラの手をとって家の外へ。

 

 つい最近になって生えた(・・・)我が家に別れを告げる。改めて見ても立派な佇まい。シャトーと比べたらちっちゃいらしいけどお城と比べる時点で変だと思うの。凝り性なママらしいと言えばらしいけど。

 

「では行きましょうか」

 

「うん」

 

 転校生の私はまだ登下校の班に属していないので1人での登校になってしまう。だから今日はファラが付き添いとして同行する事になってる。

 

 小学校までの距離はさほど遠くない。子供の脚で徒歩25分くらいかな。ママがわざわざ学校近くの土地を買い取って建てた家だから当然と言えばそうなんだけど。周辺の物件を全て見てから気に入らないって自分で施工しだすのはどうなんだろう。

 

 うちって業者さんなのかな。お城も建てた経歴があるからそうかも。あと雨樋を流しそうめん機に改造しようとしたエルフナインは見たくなかったな。教えた私が悪かったのかな。

 

 

「思ったより新しい校舎だね」

 

「なんでも新しく出来た私立小学校らしいですよ。大学附属高校の敷地を更に拡大して建てた新校舎だとか」

 

「小中高大のエスカレーター式にしたいのかな?」

 

「確か別の場所に同時期に建てられた幼稚園があるらしいですわ」

 

 思った以上のブルジョアな学校だった。レイアポイント高そう。自分のセンスと勢いで決めたのは速まったかも?

 

「折角ですし此処でも1枚撮りましょうか?」

 

「そうしよっか、ママも喜ぶ」

 

 キリッとキメてシャッター音を待つ。カメラを覗き込むファラは撮る合図を送ったすぐ後、あっけらかんとこんな事を言い放つ。

 

「言い忘れていましたわ。その制服、とても似合っていますよ」

 

 キメ顔が崩れた。どうやらファラは思った以上にカメラマンとしての才能があったみたい。おかげで緊張も解れちゃった。

 

 

 校内のマップを頼りに職員室に向かう。広いからもっと迷うと思っていたけど早々に見つけたのは僥倖だったなぁ。

 

 担任の顔合わせをしてから教室まで案内されて扉の前で待って、先生から自己紹介の内容を考えるように言われた。ママがくれた苗字を暗唱しておく。

 

 ママと同じ苗字じゃダメなのかって聞いたけど危険だと言い捨てられた。名乗るだけで危険な苗字でなんだろう。

 

「入って来ていいよ」

 

 向こう側からそう聞こえたので教室へと踏み入る。

 

 姦しい喧騒と好奇の視線が突き刺さる。特に髪の毛付近。やっぱりここまで白いのは珍しいのかもしれない。パッと見ても似通った容姿の持ち主は居ない。

 

 先生から白いチョークを受け取り名前を黒板に刻む。足場が有難い。

 

「はじめまして、本日から一緒の教室で勉強させていただきます。『宝条 アリア』と言います。よろしくお願いします」

 

 少し堅かったかも。でも予行演習だと大丈夫って言われた、いや今思えば小学校に行ったことのある人居なかった。というか半数が人でさえなかった。アリアちゃんもしかしてやっちゃった?

 

「好きな事とか物とかも先生聞きたいかな」

 

「えっと……」

 

 流石に錬金術ですとは言えないよね。ママにも怒られちゃうし。

 

「読書、かも?」

 

「何故に疑問形?」

 

 好きな事は勉強ですとはちょっと言い難い。だって此処勉強する所だし何か違うって言うか。じゃあ他に何かと言われた場合読書としか言えない。ミカとの遊びは小学生にそぐわない事くらい私でも分かるし。

 

 結果無難な回答になってしまった。

 

「宝条さんの席はあそこね」

 

 指された席は左奥の席。すぐ後ろには廊下に続く扉がある。隙間風とかあったら地味に寒そう。あとあの席だけ隣が居ないと言うのもマイナス。

 

 前の席の子によろしくねと挨拶をしておいたけど赤い顔で顔を逸らされた。何故だろう。

 

 『あさのかい』という名のホームルームを終え、必要な教材をランドセルから取り出しているとぞろぞろとクラスメイトが私の席目掛けてやって来る。誰も彼も興味津々といった様子。

 

 名札に書かれた名前をとりあえず全員覚えて顔と紐付けて改めて記憶しておく。

 

『何処から来たのか』 『ハーフなのか』 『親は何をしているのか』

 

 断続的な質問に答えていく。どれも予め用意しておいたバックボーンなので全部嘘なのが申し訳ないけど、ママに迷惑掛かっちゃいけないし。

 

 

 授業は正直退屈だった。目新しい事は特になく、黒板に書かれた内容をノートに写していくだけだから。でも道徳とか生活とかはなんだろうね、前者は若干国語っぽいし後者は理科と社会に近い気がするけど何か大きな違いがあるのかな。

 

 体育は楽しかった。

 さすがのシャトーにも跳び箱はないからね。たぶん強請ったら次の日にはご立派なのが出来るけど。そんな事にはならないでしょう。

 

「次は何回捻りを入れられるかな」

 

「入れないでよろしい!」

 

 ハンドスプリングから始まり色々試していたら体育の先生に全力で止められた。なんでだろうね。

 

 怪我とかした試しがないから大丈夫と言ってもわかって貰えなかった。真っ青になった先生が可哀想だから止めておいてあげよう。

 

 

 休み時間はどうにか前の席の子に名前を呼んでもらえた。粘り強い説得が効いたんだよ。でもやっぱり顔が赤いから保健室行こ。

 

「大丈夫です!」

 

「そんなに手を突き出さないでもいいじゃん。アリア傷付いちゃうなぁ」

 

「うぇ、ごめんそんなつもりじゃ!?」

 

 打てば響くとはこのこと、百裂張り手のようにシュバシュバ手を突き出す様も見てて飽きない。ママとは違う方向で接していて楽しいかも。でもそろそろ可哀想かな。

 

「えへへ、別に気にしてないよ!」

 

 目に見えてホッとしてる。でも相変わらず顔は赤い、体質なのかな。りんご病とかじゃないといいけど。

 

 

 ソフト麺って食感が何とも言えない。茹ですぎてるような、そうでも無いような曖昧な感じ。あとミートソースが少し甘すぎじゃないかな? 牛乳もなんか薄いというかなんと言うべきか食レポに困る。成分的には違いがない気がするけども味覚受容体に秘密があるのかな。

 

「なんでスパゲティを睨みつけてるのアリアちゃん……」

 

「未知の味だからだよ」

 

「やっぱり変わってるねアリアちゃんは」

 

「ちょっと失敬だね」

 

 あと小さいブロッコリーって大きいのに比べて美味しく感じる気がするのは好みの問題なのかな。唯一見慣れたサラダをまじまじ見てたらやっぱり変だと笑われた。私も失敬だと改めて言い返しておく。

 

 

 程よく充実した時間も『かえりのかい』を持って終了。と言っても明日も学校には来るんだけどね。取り敢えず初日は問題も無く終わった。友達らしい友達も出来てきたからスタートは好調でしょう。明日も頑張ろーという所で下校時間なんだけども。

 

 私の方面に帰る人がまさかの1人、集団登校ってなんだっけ。不幸中の幸いはクラスメイトだってことだね。これはお友達にするしかないよ。

 

「お友達になって下さい!」

 

 ベッタベタのストレートコミュニケーションだ喰らえ!

 

「嫌よ」

 

「然しものアリアも断られるとは思わない!?」

 

 長い黒髪に神経質そうな細い眉を持った同級生は琥珀色の瞳をキツく歪ませている。明らかな拒絶、身に覚えのない敵意。私の学生生活に早くも影が差し始めているかも!?




とりあえず小学校の一日分を縮めてみた。
アリアちゃんの変人ぶりというか変態ぶりをパパっと描写するとこうなる。実は通常教科もちょこちょこやらかしてた。

感想評価待ってやす。

アンケートは4/1まででいいかな。埋まるの速かったし。


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アリアちゃん気炎万丈

琥珀の子を攻略する回。

アリアちゃんは切り替えが速い子。


ㅤ帰宅後。

ㅤ玄関の扉を締め切ったと同時に私は膝から崩れ落ちた。思った以上にあの琥珀の娘の拒絶は重かったらしい。真っ直ぐの気持ちを伝えたそれを真っ向から打ち返されたのだからさもありなん。

 

ㅤ家の奥から慌てたように出てくるファラに慰めてもらうまで立てなかった。アリア、初めての敗北。

 

ㅤ思えばあの子は私が他のクラスメイトに囲まれている時も窓際の席で本を眺めていた気がする。恐らく彼女は根本的に私に興味がないのかもしれないのかも。

 

ㅤいやでもあの対応はあんまりだと思う。理由もなく、二の句も告げずパッと切り捨てるだなんて。

 

ㅤ予想外の切り返しに思わず口を噤んでしまった己が恨めしい。

 

ㅤしかしここで泣き寝入りしてしまう程私は大人しくない。寧ろ絶対に友達にしてくれよう。一度ダメだからなんだというんだ、あちら側が折れるまでアタックをやめないゾ。

 

ㅤ"琥珀の同級生"『藤咲(ふじさき) 侑咲(アリサ)』との戦いは今をもって始まりとする。

 

ㅤ取り敢えずママにいち早く相談してみた。

 

「敵対しないなら放っておく」

 

ㅤ戦いって形容したのは私だけどそのアドバイスは可笑しいことは分かる。私はその子と友達になりたいんだよママ。仮にだけど敵対したらどうするつもりなのママ!?

 

ㅤ何故か眉間に力が入ってしまったママから退散。とぼとぼ自室に帰る中途、ガリィが何処から話を聞きつけたのか助言をしに来てくれた。

 

「もう友達として接してやればいいんですよ。そいつが認めなくても周りが友人関係を立証してくれます。先生側にもアピール出来たらどんなに相手が否定した所でもう手遅れです」

 

ㅤ既成事実を作り、外堀を埋めて確実に友人にする。というかならざるを得ない状態にする。確かに完璧な計画かもしれない。友達という定義の甘さから十分に実現可能。

 

ㅤ冴えたガリィに感謝の抱擁をして明日の準備に取り掛かる。せっかくの同じ通学路、生かさないテはない。

 

ㅤ覚悟しろ未来の友達!

 

 

ㅤパンケーキにカリカリベーコン欠かしちゃいけないグレービーソースとマッシュポテト。ボリューミーに盛って盛って、1日の活力源は朝の内にガッツリ補給しておきます。

 

「……アリア、過剰なエネルギー摂取は」

 

「ムム、違うもん。全然過剰じゃないよ! 今日は勝負の日だからガス欠にならない様に用心してるだけ!」

 

ㅤやれやれと溜め息を零すママにムッとすると、次はママはふっと笑って自分の口端を指さす。同じ場所に触れてみるとソースが付着していた。急いで拭った後マグカップで口周りを隠す。カフェオレ美味しい。

 

「がっつくからだ」

 

「ぐぅのねも出ないかも」

 

ㅤマナーも最低限教えて貰っていたけど、自分で思った以上に浮かれているのかもしれない。恥ずかしい。

 

ㅤ完食。

 

ㅤハンガーに掛かった制服に袖を通しランドセルを背負い込む。姿見で身嗜みをを確認したら準備は終わり。

 

「行ってきます」

 

ㅤぶっきらぼうに返されるママの返答に満足したらファラと手を繋いでテレポートジェムで固定された座標に跳ぶ。無論新築の拠点である。丁度チャイムが鳴る。タイミング完璧に未来の友達であるアリサちゃんが来たらしい。

 

ㅤ2回目の外出の挨拶をファラに投げ掛け玄関の鍵と扉を開けるとインターフォンがある辺りにターゲットの姿を見つけた。

 

ㅤ私に敗北を刻んだ彼女は昨日の事実が無いかのようなすまし顔だ。そうしていられるのも今のうちだと心の奥で先んじてほくそ笑む。

 

ㅤ作戦開始だ。

 

「おはようアリサちゃん」

 

ㅤ作戦①、いきなりの名前呼び。

ㅤ不意をつきペースを引き込む。

 

「……おはよう宝条さん」

 

ㅤ怪訝な表情をしながらも返してきた。悪くない。

 

「じゃあ行こうか!」

 

ㅤ作戦②、手を握る。

ㅤ名前で精神的距離、手で物理的距離を縮める。

 

ㅤ手を握った瞬間振り払われそうになるも予測で初動から抑え込む。顔は困惑で彩られそこはかとなく顔を赤くさせている。

 

「何を──」

 

「何って?」

 

「なんで私は手を繋がれているの?」

 

「えぇ、だってもうアリアたちお友達でしょ?」

 

ㅤ作戦③、もう友達。

ㅤ努めて笑顔で嫌味なく言うと完璧。

 

「ならこのまま登校しても何にもおかしくないよね」

 

「なにを言ってるの!?」

 

「いやもうお姫様抱っこで登校する?」

 

「本気でなにを言っているの!?」

 

ㅤ悲鳴を無視して歩を進める。思考が纏まっていないだろうアリサちゃんは抵抗も許されず一緒に歩くことになる。休む間を与えぬように今日の授業や宿題の話題を振っていく。返答は無いので一方的なコミュニケーションになる。

 

ㅤやんややんや!

 

ㅤ通学路、正門、校舎、教室へと手を繋いだ状態で悠々闊歩していく。もう半ば勝利と言っても過言じゃない。バッチリきっちり大衆に姿を目撃されているのだから。

 

ㅤアリサちゃんを席まで送り届け、私も自分の席に戻る。前の席のセッちゃんに何事かと心配されたが友達になったと答えておく。余計に心配された。私じゃなくてアリサちゃんが。

 

ㅤやっぱり時々セッちゃんは失敬だ。

 

ㅤ先生が来るまで思考を取り戻そうとしているアリサちゃんに追撃を仕掛ける。アリサちゃんの長い黒髪を弄びながら。

ㅤママとガリィによく髪を結ってもらっていたけど案外楽しいかも。今度ミカの髪で遊ぼ。

 

ㅤ三つ編みにしたり、お団子にしたり、シニヨンにしたり驚愕の精密動作と速さの織り成す情報の濁流。予鈴のチャイムが鳴ろうとする時、私は何事も無かったようにアリサちゃんの髪を下ろして櫛で梳かす。静電気の防止も忘れない。

 

「藤咲さんになにか恨みでもあるの?」

 

「親愛かな」

 

「それはそれで怖いよアリアちゃん」

 

ㅤ大概セッちゃんも私に対して遠慮がない。

 

「私もアリアちゃんの髪、触ってもいいかな?」

 

「どぞ!」

 

 

ㅤ次の授業の合間に挟まる小休憩中、セッちゃんに身を任せながらアリサちゃんの様子を伺う。うんうん頻りに手を見たり、髪に触れたりしてる。

 

ㅤ未だ彼女は混乱の最中。兵は拙速を尊ぶ、次のフェーズ移行もこのままのペースで押し切る。

 

「セッちゃん、次は体育だよね?」

 

「だね」

 

ㅤ手早く体育着に着替えてセッちゃんと共にアリサちゃんの所に行く。丁度髪をヘアゴムで束ねていて、こちらに気付くと後退りした。逃げ場はないんだよね、行くとこ同じだから。

 

「じゃあ行こうか!」

 

「は?」

 

ㅤアリサちゃんを挟む形でいざ校庭に急ぐ。

 

「ごめんね藤咲さん」

 

「そう言うなら宝条さんを止めて」

 

「ごめんね藤咲さん」

 

「なんで2度も謝るの!?」

 

ㅤもう2人も仲良くなってるみたい。

 

ㅤ準備体操は2人1組。私はアリサちゃんを逃がさないように引っ張り出してペアを作る。背中合わせの担ぎ合いで変な声出てたけど大丈夫?

 

「勢いをつけすぎなのよ! 一瞬地面見えたから!」

 

「たはー」

 

ㅤ夢中になるとつい加減を忘れちゃうのは私の悪い癖ですねぇ。でもママの癖でもあるから解消する気はないんだよね。たぶんママと私に血縁無いだろうし。せめて内面くらいは、ね。

 

ㅤ50m走で8秒台をマーク。強化無しでこれなら十分にスーパー小学生アリアちゃん爆誕って感じかも。

ㅤペアで走ったアリサちゃんも中々に早かったけど、日々ミカと遊んでる私の敵じゃないね。フィジカルには自信があるアリアちゃんなのです。

 

ㅤと、得意気に話していたらアリサちゃんに睨まれた。もう一回? よしきた!

 

ㅤ更にタイムを縮めてゴール。

ㅤもう一回は無理だよアリサちゃん、走っていいのは二回だけ。今度は違う事で競おう!

 

 

ㅤ負けず嫌いな気質を大いに刺激されたらしいアリサちゃんが勝負をしかけて来た。テストやらゲームやらスポーツで色々やってみたものの。

 

「運が絡む事でしか勝てないだなんて……」

 

「ブイブイ!」

 

「情け容赦がないよね」

 

「セッちゃんもやる?」

 

「心折れちゃうから嫌だよ」

 

ㅤテストで同点(満点)で引き分け続けて、ゲームは順当に勝っていったものの運要素が大きいゲームで取り返され、スポーツで尽く勝利した。やったよミカ!

 

「認めない!」

 

「ふぇ?」

 

「絶対に認めないから!」

 

ㅤそう言って走り去ってしまった。でも下校班一緒だからまたすぐ会うんだけど。

ㅤいやまず何を認めないって?

 

「友達じゃないって意味かな?」

 

「なるほど親友って事か」

 

「そういうとこだよアリアちゃん」

 

ㅤ集合場所で再開したアリサちゃんは真っ赤っかだった。怒ってるのか恥ずかしがってるのかはわかんない。

 

「今日で私たち親友だね! あれどうしたのアリサちゃん、頭痛いの?」

 

ㅤ帰ったらママに親友ができた話をしよう。あとガリィに改めてお礼を言わなきゃ。




もうほぼ攻略は終わり。
次はもう場面を飛ばしたりイベント挟んだりしながら原作までお餅をつきます。

アリアちゃん:
フィジカルを武器にゴリ押しコミュニケーションを敢行した流星の如く現れるスーパー小学生錬金術師。尚元凶はどこぞの人形。背中押すと猪武者。

セッちゃん:
被害者その1。初対面でアリアちゃんの神秘性に気後れしたものの内面の傍若無人っぷりを知った途端そんなことは無かったと仲良くなった。無茶をやる時にストッパーになろうとしてるが大概意味は無い。

アリサちゃん:
被害者その2。つれない態度であしらった転校生が次の日に異常な積極性を発揮してきて最早恐怖した可哀想な琥珀の子。初期の翼くらい刺々しい設定だったけど一瞬でヤスリがけされた。友達拒否した理由は騒がしい人が好きじゃなかったから。なお今は──


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キャロルちゃん授業参観に行く

多忙を極めていた私の私生活。
マスターしたり、トレーナーしたりしてたらもっと忙しくなった。
何故この時期にウマ娘なんて始めちまったんだ私!

結果、うまびょいしてました!


 授業参観のご案内。

 アリアの通う学校からのプリント。内容も授業参観という児童たちの普段の授業風景を保護者に見せるイベントの知らせで、日時や場所も記載されている。

 

 こう言ったイベントがあるのは知っていた。だからオレの手元にプリントが来ることは理解できる。

 

 ただ──

 

「何故ミカがオレに渡してくる?」

 

  ──問題はアリアが渡してこなかった訳だ。

 

「勉強机の引き出しに入ってたゾッ」

 

「せめてクリアファイルに入れっぱなしの方がマシだったな」

 

 つまり意図的にプリントを隠したことになる。後で渡す予定だったと言われても置いていた場所が引き出しでは説得力がない。せめてもっと目につく場所に置くはずだろう。

 

 それにアリアはその都度の提出を怠らない、そう教えてきた。

 

「どうせまたぞろ回さなくてもいい気を回しているんだろう」

 

 何時もの要らぬ気遣いに頭を悩ませながらもデスクに置いてあるペンを抜き、児童氏名と出席番号に保護者氏名を記入し参加するを丸で囲む。切り取り線に沿ってプリントを割く。

 

 これであとはアリアを通して担当教諭に提出するだけだ。提出期限もまだ大丈夫、か。

 

「さて」

 

 別に隠されていた事を気にしてるわけじゃない、しかし此処で指摘せず放っておくのは保護者としてよろしくないのだ。それに理由を聞いてみないことには叱るも何も無い。オレはアリアに対して無意味に理不尽を強いる気はない。

 

 部屋で課題を消化しているアリアに用紙を押し付け視線で理由を問い質す。当初困惑するも渡されたものを確認して唖然として、急いで机の引き出しを確認する。本当に引き出しだったのか……

 

 軈て観念したアリアは訥々と話すのだが、オレとしても驚愕だった。いや納得が出来る内容ではあったが。

 

 ママの見た目はママらしくない、ときた。

 

 自分の身体を見てみる。凡そ一児の、と言うか最早大人の女性としての外見はしてない。どんなに穿った見方をしても親子関係だとは思うまい。

 

「アリアはオレのこの外見は好きじゃないか?」

 

「好きだけど、ママが奇異な視線に晒されるのは好きじゃないかな」

 

「……なるほど」

 

 好き、か。

 

 

 この後肉体を成長させる錬金術がある事を教え、無駄な気を回したアリアの額を指でピンと跳ねておいた。子供が気を使う必要はないと何度教えれば学習するのか。

 

 いやまず気を使うことを誰から学習したのかが謎だ。オートスコアラーたちでは絶対無い、それだけは分かるが。もしかしてオレか?

 

 

◇◆◇

 

 

 いつもの身体とは違うという違和感を払拭出来ないまま、オレは悪目立ちしない程度の化粧と服装に着替えた。こちらから授業参観に行くと言った手前アリアの懸念を打ち消してやる必要がある。

 

 容姿は大人らしい姿に、服装は硬すぎず楽すぎないものを、無論仮に保護者間の会話があっても問題ないように一人称を私に変える。バックボーンも無理のある内容がないか洗い直した。

 

 何も問題ないはずだ。

 

 先に家を出たアリアも学校でね、と笑顔で登校して行った。大丈夫だオレの計画に穴はない。

 

 さして遠くない道のりをゆっくり進んでいく。

 

 何気にアリアの学校生活には興味があった。毎日楽しそうに友人が面白い子だとか、勉強は退屈だとか聞かされては居たものの、オレ自身が学校に通っていない為に想像しづらい。今回はイメージを固める良い機会でもあるということだ。

 

 ゆっくり歩んでいた気がしたが想定した時間より速く着いたらしく、時計台に示された時間は受付より少々早い。腕時計も確認したが結果は変わらない。

 

「少し早かったか?」

 

 遅れるよりずっといいと思い直し受付に向かう。

 受付にはオレと同じ様に早く着いた保護者が何人かいた。と言っても名簿にチェックを入れる程度の簡素な受付だった為か、既に済ませた者も居るらしい。

 

 昇降口を潜り、各々自分の児童の下駄箱空きスペースに靴を詰め、持参したスリッパに履き替える。一緒に入っていた紙は念入りにバラバラにしてゴミ箱に捨てるのを忘れず行う。

 

 上級生か、なるほど。

 

 

 授業は作文の発表、黒板には『私の尊敬する人』とテーマが書かれていた。アリアがそんなものを書いていた様には見えなかったが、手元にある原稿用紙からオレの居ぬ間に認めたことが分かる。

 

 生意気な顔でVサインをしてるから間違いない。

 

 友人、家族、有名人。

 テーマの答えは大体がこんな所、身近にある人物だと必然的にこの辺りに固まるのだろう。さてアリアの場合は誰だろうな。ガリィじゃなければこの際誰でもいいが。

 

「あの」

 

 アリアに番が回ってくるまで他の児童の発表を聞き流していたらすぐ横から小さい声が掛かった。当たり前だが同じ女性保護者だった。

 

「どうしました?」

 

 むず痒い思いをしながら返答すると女性がニコリと笑いアリアに視線をやった。

 

「あの銀髪の子のママさんですか?」

 

 頷いて肯定すると目の前の女性は嬉しそうにやっぱりと手を叩く仕草をとる。

 

「そうだと思いました。海外の方は貴女だけのようでしたから」

 

「えっと」

 

「あ、いきなりすみません。私は娘さんの前の席に座る子の母親で、娘からアリアちゃんのことを聞かされていたので、つい」

 

 確かアリアから出てくる登場人物によく前の席に座るセッちゃんなる人物が居たはずだ。何かと気に掛けてくれる友人と言っていた。

 

「私もアリアから話を聞いています。最初にできた友人だとか」

 

「あら、だからあの子ったら喜んでいたのね。最近はアリアちゃんアリアちゃんってそればかりなんです」

 

 アリア以外から学校での話を聞くとどこか安心した。あの子は上手くやっていけてるようだ。少なくとも最初の友人とはきちんとした関係を築けている。

 

 ただ女性から又聞きした範囲で組み立てられるアリアの人物像がやや変人気質なのは何故だろうな。おかげでオレの顔はやや熱い。コツコツ消しゴム彫刻を作成したり、習字の授業で余った時間を水墨画教室に変えたりと話題性に事欠かないのが原因なんだろうがな。

 

 頬に貯まる熱を手で扇いで散らしているとアリアに番が回ってきた。

 

「『私の尊敬する人』」

 

 凛とした玲瓏な声で題名が読まれ、思わずオレも背筋が伸びる。

 

「私の尊敬する人はママです」

 

 まず安堵した。そして緊張した背筋も弛緩する。

 

「ママはなんでもできます。料理も美味しい、裁縫も上手、お勉強を教えるのだって先生顔負けです」

 

 教壇からの視線が痛い。

 隣からの視線も生温い。

 

 居心地が悪いな此処は!

 

 内心こんな事は思いつつも表面には出さない。

 

 

 その後も褒めに褒めちぎられた、恥ずかしいやら嬉しいやら何とも心乱された文章を臆面も無く語られた。此奴本当に授業参観の紙を隠してた奴と同一人物か?

 

「私は私の知らない事をたくさん教えてくれるそんなママを尊敬しています」

 

 どっと疲れた身体を壁に寄り掛かりながら持ち堪える。内容は正直お粗末なものだった。最初から最後までオレがヨイショされてるだけだからな。

 

 しかしながら少なくともオレは、オレだけはA評価を送っといてやろう。

 

「アリアちゃんママは愛されてますね!」

 

 アリアちゃんママ!?

 

「あ、いえ、どうも?」

 

 どう反応するべきか戸惑いながら返事をする。いやなんだこの距離の詰め方は、だが嫌味の無い笑顔を前に何も言えん。

 

 オレが気圧されてる、だと!?

 

「なのにうちの子ったら尊敬する人にアリアちゃんって。妬いちゃいますよ全く」

 

 プンスカプンと擬音が見える怒り方に、もうオレは苦笑いしか返してやれない。きっとそういう人種なんだと納得しておく。初対面だよな……

 

 

 授業は滞り無く終わり、殆どの児童は保護者と帰ることになるようだ。それはうちも例外ではない。

 

「帰るぞアリア」

 

「うん! あ、でもアリサちゃんも一緒に帰っていい?」

 

「その子の保護者がいいならな」

 

 そうやって連れてきた子供はよく話に出てくる一人だろう琥珀色の少女だった。

 

「どうも藤咲です」

 

 簡素な挨拶に応えるように返し、周りを見回す。彼女の保護者らしい人間は見当たらなかった。

 

 それに気付いたのか藤咲はやや俯きがちに今日は来てないと小さく零した。なるほどアリアに絡まれるわけだ。

 

「今日も一緒に帰ろうアリサちゃん。ほらママも手、繋ご!」

 

 未だ生暖かい視線を寄越す保護者に挨拶してから帰路につく。最後までアリアちゃんママと言われ、むず痒さはここに来た時の比じゃなかった。

 

「宝条さ、アリアちゃんのお母さん。あんまりアリアちゃんと似てないわね」

 

「……そうかな?」

 

「落ち着きがある」

 

「心外かも!」

 

「こら手を繋いだ状態で暴れるな!」

 

 友人に対しても、学校での振る舞いも、どれもこれもオレの知るアリアで人知れず息を吐いた。たぶん安心したのだと思う。この子は何処に居ても自然体だ。きっとオレの居ない場所でも。




私の小学生時代の記憶を引っ張り出しながら書いてた。
スリッパ持ち込んでたなとか、授業内容が保護者向けみたいなものになってたりとか。割と保護者間の交流も少しあったかなみたいな。

以下、グッピーが死ぬ警報。

キャロルちゃん:
隠された授業参観のプリントを手に入れた他称ママ。今回で更に他称が極まった。行事ごとには可能な限り出てあげようとしてる。ただ見た目で転ける事になるとは思わなかった模様。
最近は無理を押し隠そうとするアリアちゃんが悩みの種。でもそういうのを無視して行動する所は貴女似だと気付けママ。

セッちゃんママ:
ゆるふわほんわか天然ママ。ママみが強い、抱擁力で全てを包み込み心の距離感をゼロにする埒外ママ。3割の確率でドジを起こし、周りを巻き込む台風でもある。セッちゃんの適応力はこのママ有りき。
最近の悩みは娘のセッちゃんからの扱いが雑な所。旦那さんに相談するも『そのままの君が好き』となんやかんやあってイチャつきだす。なおセッちゃんはこの際お口がセンブリ茶。

アリアちゃん:
机の奥に授業参観のプリントを隠すも、ガリィの策略にミカが乗せられ白日の元に晒される。見つかってしまった後は直ぐに切り替えて作文をキャロルちゃんが来る想定で書き直した。その数3枚半。
下校中にアリサちゃんに言われた一言で、一瞬目の奥が黒く澱んだ気がしたが気のせいだった。

アリサちゃん:
彼女の両親は授業参観には来なかった。プリントに目を通した筈だが両親は提出日までに彼女に参加届を渡さなかった。彼女は何も言わない。最初から察していたから。
お手伝いさんが代わりに参加しようとしていたが、彼女は業務の対象では無いからと断った。
けれど彼女は孤独では無い。新しい友人が出来たから、だから作文は友人に宛てようと思っていたけれど、途中まで書いて恥ずかしくなったのでボツになった。
彼女は期待してる。新しい友人が自分の片翼であればいいのにと。


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キャロルちゃん実行へのカウントダウン

何気ない日常って尊いよね!


 永き時を賭したチフォージュ・シャトーの建設は完了した。

 目的地に移動するまでの浮遊ユニット、侵入者を撃退する防衛機構、莫大なエネルギーを捻出するリアクターと燃料源たる魔力水晶。

 

 あとは世界を解剖(破壊)する呪われた旋律で編曲した歌の完成と、レイラインの開放、そしてシャトーを制御する聖遺物の確保。それだけで計画の大部分は終了する。それらが手に入ればもう止まることはない。手遅れだ。オレの意志では止めようもない。

 

 世界は解剖(破壊)され、記録され、万象黙示録は紡がれ、帰結するだろう。

 

 その時が我が憎悪の根源、『奇跡』の命日だ。

 

 頬が吊り上がっていくのが分かる。吐き出す息さえ凍えてもいないのに震えきっている。

 

「もう直ぐだよパパ。もう直ぐオレはパパの命題に答えを出す」

 

 世界を識る。

 世界を消費し、世界を識る。

 世界を解剖(破壊)し、奇跡を殺す。

 

 パパを殺した世界を、奇跡を、正しさを全て、漏れなく遍く全てを賭してオレは立証するんだ。

 

「答えを出した時、パパはオレを褒める事はないだろうな……」

 

 あぁどうだろう。死人は言葉を介さないものな、褒めてくれるかどうかなんてオレの中の記憶との折り合い次第で変わる。

 

 だからだろう。

 

「こんな記憶、さっさと焼却しておけば良かった」

 

 パパは望まない。喜ぶはずもない。あの人は誰かを救う好意を尊いと思える純朴な男だった。きっと奪い壊す事でしか世界を識る手段を選べなくったオレを嫌悪するだろう。

 

 だがもう止まれない、歩み続けていないとオレは消える。オレにはもうそれ以外に生きる意味を見い出せない。一方通行の袋小路、そして終着点。

 

「だから、全てを破壊するしか──」

 

 

 ──その時、あの娘は笑っているだろうか?

 

 

「っ!」

 

 何を過ぎらせた?

 この恩讐の果てに身を投じると決めたはずだ。パパと同じ業火で身を焦がしながらも進むと誓ったはずだ。少なくともそれがオレの願いだったはずだ。

 

 だのに、一体何を逆上せ上がったことを!

 

 アリアの成熟が早かったのは嬉しい誤算だった筈、拾った雛鳥を成鳥として野に放つだけだろうに、と。何を惜しんでいる。

 

 もとより家族ではなく一時的な同行者、良くて拾った子猫が家に居着いたくらいのもの。何を躊躇う。最初から決めていた事、あの娘が成長しきった時には何処に行こうと関知しない。

 

 たとえ敵になろうともそれがアリア自身が決めた選択だと受け入れる。そういうスタンスだったろう。

 

 巣立ったあとにどうなろうと知った事ではない。以前そう零した。無論着いてくるなら黙って利用する、それだけだ。

 

 

 ──きっとあの娘は泣きながら、それでも上手く笑って見せる。

 

 

 ……だからなんだ。

 寧ろ都合がいいだろ。

 

 

 ──お前との別れはきっと……

 

 

 止めろ。

 

 

 ──どんな知識よりもオレの奥底に刻まれる。

 

 

 違う。

 

 

  ──許されないだろうが、願うだけなら、想うだけならば。

 

 

 目を逸らさねば。

 

 

  ──せめてずっと、心だけは一緒に。

 

 

「オレの心に入ってくるな!」

 

 呼吸を忘れていたのか息はたえだえになっていた。身体を包み込むように両腕で抱き込み、その場に萎むように腰が落ちる。吊り上がっていたはずの頬もずり落ち、汗が伝う。今では全身が先程とは違う意味で凍えたように震える。

 

「ハッ、無様だな」

 

 誰に言われたでもない、オレがオレに向けた言葉。父親の命題を意に沿わぬ形でそれでも叶えようと歩みながら、その結果途中で臆した。オレ自分への嘲笑だ。

 

 そしてそれでも進まねばと生き足掻く、馬鹿な自分への憐憫。

 

 複雑怪奇。

 随分と賑やかな内面を獲得したものだ。いやもとより持っていたのか、オートスコアラーは間違いなくオレの深層心理に根付いた思考ルーチンだった、というわけだ。

 

「予定通り、予定通りだ。シンフォギア装者が一定の練度に達した時が計画の幕開け」

 

 どのような結果に終わろうと答えは出すよパパ。

 

 許せとはもう言わない。

 

 

◇◆◇

 

 

 ドアがパーンと甲高い音と一緒に開かれる。

 

「たっだいまー! アリア帰還!」

 

「壊れることは無いがそう扉を乱雑に開けるな。動作は小さく無駄を省け」

 

「実は音だけ合成音声なのだった。実際は普通に開けてるよ」

 

「無駄だらけだな!?」

 

 家とはいえ気軽に無駄な術をぽんぽんと。

 

「反響の操作が肝かも」

 

 そう声帯を震わせずに話し出す阿呆にデコピンを一発放つ。お前は腹話術師にでもなるつもりか。

 

「アタタ、でも今日はママなんだね。最近忙しそうだったからまたファラかレイアだと思ってた」

 

 仮拠点として建てられた家に待機する当番が回ってきていた。大概の場合シャトーを理由に行けては居なかったが。

 

「ノルマが達成されてな、しばらくはフリーだ」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

「やったー」

 

 そう言って荷物を放り投げ、いやきっちり定位置に着弾して身軽になったアリアはソファに座るオレ目掛けて飛んできた。首に手が回された際に頬を擽る、やや白に寄った銀糸の髪が距離の近さを実感させる。

 

「お前の髪はやたら左右に跳ねるからな。油断が出来ない」

 

「ムムッ、でもママたちが梳かしてくれるし大丈夫だよ」

 

「いや自分の髪くらい自分で梳かせ。なんで時々億劫になる?」

 

 そう言って櫛で梳かしてやるから余計にしなくなるんだろうな。分かってはいるんだ。ただ一言くらい小言を言っておかないといざと言う時に本当にやらなそうで不安でな。

 

 梳いたあとの髪を優しく撫であげる。こうしていると本当に猫のようだ。目が細く閉じられるから余計に。

 

「今日のママは寂しん坊かな? アリアがギュッとしたげる!」

 

「さてな」

 

 声に出しながらギューッと苦し過ぎない程度に抱きしめられて、オレは素直に安らぎを得た。そして改めて認識を強要される。

 

「はぁ」

 

「あーママったら酷い。アリアの抱擁にため息なんて!」

 

 ポカポカと擬音を合成しながらさして痛くもない拳が飛んでくる。便利だなそれ。脅しに使えそうだ。

 

「悪かった、お詫びに冷蔵庫にカスタードプディングがある」

 

「わーい」

 

「ゲンキンなヤツだ」

 

 ふくれっ面が笑顔に早変わり、切り替えの速さと行動力はピカイチだな。冷蔵庫に行く前にプリントを提出して行く辺り抜かりないというか。

 

 月の初めに出される大まかな予定表、先月いっぱいの活動をまとめた写真多めのプリント。いわゆる保護者便り。結構マメに書かれていて、クラス毎のプリントだから担任が刷ってるんだろうが、大変だなとしか言えん。

 

「目立つからか写真によく写ってるな、お前は」

 

「ついカメラがこっちに向いちゃうらしいよ」

 

「……そのカメラマンは大丈夫か?」

 

「大丈夫って?」

 

「いや、やっぱりいい」

 

 おやつにパクつくアリアを横目にプリントに目を通していく。目を凝らさなくてもアリアの姿が写っている。もう自分から写りに行かないと成立しない頻度だ。後でカメラマンを調べる必要がある。

 

 今月中には遠足が控えているらしいことや、地域ボランティアの参加など書かれてはいるものの、行事自体はさして多くはない月のようだ。

 

「遠足ね」

 

「動物園らしいよ」

 

「その場合昼食は弁当になるのか?」

 

「おやつは500円以内!」

 

 レジャーシート、水筒、弁当。他なにかいるか?

 

「キッシュ入れてね」

 

「卵料理ならなんでも食うだろうが」

 

「それはそうかも!」

 

 まぁアリアの好きな物を入れて置けば無難だろう。バランスはこっちの工夫次第だ。キッシュなら野菜も入れやすいし色味も明るい。

 

「あ、そうだママに相談があったんだよ!」

 

「なんだ藪から棒に」

 

 最後のひと口を嚥下したあと、アリアは畏まったように背を正してこちらを向いた。

 

「アリサちゃんがね、良かったらライブに行かないかって」

 

「人の波に攫われそうだな」

 

 脳裏にあれよあれよと人垣に埋没するアリアの姿が見える。怪我はしなくとも迷子にはなるだろう。そもそも曲の1つでも知っているのか?

 

「聞いた事くらいはあるもん。ツヴァイウィングって言うんだけど」

 

 ツヴァイウィング。

 特異災害対策機動部2課所属のシンフォギア装者2名で組まれた音楽ユニット。アメノハバキリとガングニールのシンフォギアだったはずだ。

 

 今シンフォギア装者と接点を持つ可能性は排除したいが、問題はそれよりも厄介な代物だ。2課は完全聖遺物を2つ保持している。それも休眠状態の。

 

 完全聖遺物を目覚めさせるには大量のフォニックゲインが必要になる。しかしながら2課所属のシンフォギア装者は片方時限式、もう片方の装者一人で完全聖遺物の覚醒するとなると時間がかかり過ぎる上に身体を壊しかねない。

 

 だが大衆を巻き込んでのライブならそんなフォニックゲインも効率的に回収できるだろう。

 

「ライブには行くな。きな臭い」

 

「えぇ!? アリサちゃん悲しむかも!」

 

「ダメなものはダメだ」

 

「うぅ……分かった」

 

 目に見えて落ち込む姿が見るに耐えなかった為、オレはそっとまた跳ねだした髪を押さえるように撫でる。

 

「悪いな」




人の温もりを覚えると弱くなるよね。
忘れかけていた温もりは尚更手放し難いと感じてしまうものだよね。

キャロルちゃん:
ある日を境に記憶の焼却を全く行わなくなった為に色々ハッキリしてる。感情はぐちゃぐちゃ、でも奇跡は大嫌いな何処にでもいる普通の錬金術師。天国のイザークパパが血反吐を吐きながら罠だ戻れと言っている気がして来た。『奇跡? 取り消せよ、その言葉!』

アリアちゃん:
卵料理系が好き、甘いものも好き。卵焼きは甘くする派。ライブとか初めてでウキウキウォッチングだったけどママからストップが入ってチベットスナギツネ。最近髪に変なクセがついた。

アリサちゃん:
偶然、本当に偶然ツヴァイウィングのチケットが2枚生えた。アリアちゃんにお断りの電話を入れられたあとで泣いた。行けない理由が教えられないと言われた時に嫌われたんじゃないかと本気で焦った。


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アリアちゃん日常の音と非日常の音で耳がキーンってなる

前触れはあった。
だけど気付かないふりをした。
いずれ起こる悲劇だと思いたくない。夢や泡沫の類であればどんなに幸せだろうか。
そしていつも後悔する。

それが私のモーニングルーティーン。


 ママにあんな手やこんな手で懐柔を試みたけけど、結果は虚しいものとなった。糠に釘とかそういう次元じゃない。もう何も無い中空に釘を打ってる気分だった。取り付く島もないって感じかも。

 

 悲しむアリサちゃんにどうにか元気になって欲しくて粘ったけど、もう当日までYESを引き出せなかったからタイムアップだね。糠喜びさせないように何も言わなかったの結果的に功を奏しちゃった。

 

「ガリィにも色々手伝って貰ったのになぁ」

 

「ガリィ的にはぁ、免罪符有りでマスターをおちょくれたので満足ですよ」

 

「免罪符になってた?」

 

「なんだかんだでマスターも負い目があったりするんですよ」

 

 そんな素振りなかったと思うけど。

 まぁ私よりママとの付き合いが長いガリィが言うんならそうなのかも。いや本当にそんな感じはしなかったけど。

 

 ツヴァイウィングのライブ、行ってみたかったな。人気はうなぎ登りでチケットも手に入りにくいとかアリサちゃんも言っていたし。歌もダンスも演出も素晴らしいの一言に尽きるって絶賛されてたし。

 

 結局具体的なライブ禁止の経緯さえも教えてはくれなかった。ママにしては珍しい力技。何時もなら理由も含めて、納得させる為に説き伏せてくるし、代案やら妥協点を提示してくれるし促す。

 

 けれどそう言う流れもなくすっぱり。ツヴァイウィングだからって理由にもならないかも。

 

 考えられる否定理由はライブがテロリストに襲撃されるとか、凄惨な実験の会場だとか。でも騒ぎにならないはず無いし、荒唐無稽ってものだよね。

 

 あとはツヴァイウィングの2人が実は重要人物でママがしようとしていること、若しくは私に良くない影響を与えるって言うのが来る。でも後半はどんな悪影響を被るのか予想出来ない。前半はママがしようとしている事の仔細が不明だから何も分からない。

 

 結果、材料が足りないので解が出ない。

 

「ずっと近くに居たのに、アリア全然ママのこと知らないや」

 

「ガリィはそうは思いませんよ」

 

「そうかな? ママが今まで何を思ってアリアを育ててくれたのか知らない。ママの過去も今の目的も全部知らないよ?」

 

「何から何まで知ろうなんて、アリアちゃんは根っこから錬金術師ですね。あぁ嫌だ嫌だ」

 

 首を左右に振り、両肩を竦ませる。うーん計算されたウザさ。さすがガリィ。

 

「自分の親の事を全部知ってる人間なんて、それこそ人っ子一人居ませんって。そこに貴賎や性別、年齢は問いません。ほら親の心子知らずなんて言葉もあるじゃないですか?」

 

 と人形が人間を語っている。

 

「あ、今人形がなんか言ってるとか思いましたね? 思ったでしょう! そんな事を思ってしまった悪い子には冷水を喰らわせてやります」

 

「うひゃー!」

 

 水鉄砲くらいの水がおでこに直撃。冷た気持ちいい。でも服とか髪が濡れるからやめて欲しい所存。

 

「話を戻しますよ」

 

「脱線させたのガリィじゃん」

 

「黙らっしゃい!」

 

 理不尽なんだぁ。

 

「まぁ結果何が言いたいのかと言うと、マスターの事をあんまり知らないのは普通で、世間的にはアリアちゃんはマスターの事を十分理解しているってことです」

 

「そんなものかなぁ?」

 

「そんなものです」

 

「そっか……って結果何にも解決してないじゃん!?」

 

 ガビーンと音を合成。

 ケタケタと笑うガリィは解決するとか言ってませーんと舌を出している。

 

 まぁ何を言おうと時間切れな訳で、今頃はアリサちゃんもライブでウキウキなことでしょう。私が行けないことがあとを引かないように努力したから純粋に楽しめるんじゃないかな。あんなに楽しそうに待ち侘びている姿を見たら、行かないでなんて言えなかったな。

 

 でもやっぱりママの真意が分からない以上不安な訳で、一応は対策を打てるように手配はしたけれど。まさか本当にテロリストとかシャレになんないことが起きなきゃいいな。

 

 ソファにぐでぇっと凭れ、手短にテレビのリモコンがあったので何としに持ってみる。うんどこにでもある普通のリモコンだ。

 

「この時間ってバラエティ無いですし、正直見ててつまんないんですよねぇ」

 

「ガリィってテレビ見るんだ?」

 

「暇な時くらいですけどね。昼はドラマとかもあって退屈しないんですが」

 

「ドラマ見るんだ……」

 

 尚更意外というかなんというか、この分だと他の人形たちも見てるのかな?

 

 ママは見なそう。いやもしかしたらくだらないと言いながらも最後まで見たりして、そして最後にやっぱりくだらなかったなとか言いながら次の週も見てる可能性があるかも。

 

 ママそういうとこあるよねぇ。いや想像だけど!

 

 電源を起ち上げてやるとワイドショーが流れる。最近は目立ったニュースもない為平坦な内容だ。そもそも小学生はそれほどこの手の番組は見ないでしょう。今も芸能人の電撃婚について特集が組まれているが私的には興味もない。

 

「本当にこの時間帯って何もないねぇ」

 

「そうでしょうとも」

 

 番組表を開けど特に琴線に触れる内容の物もない。あと2時間もすれば見てもいいかなと思える番組もやるのだけど、それまでの繋ぎをどうしようかな。

 

 宿題もママからの課題も終わってる。錬金術に没頭するのを防止する為にこっちの仮拠点に来てるから錬金術の研究は選択肢に入ってすらない。本は……まず錬金術の本しか持ってないかも。エルフナインが普通の本持ってたりするかな。

 

「よし思い立ったが吉日! エルフナインのところにでも──」

 

 預けていた身体を起こして背中を伸ばしている時、テレビが急に切り替わった。

 

 番組が終わったかと思ったがそういう雰囲気でもない。アナウンサーの背後に並んだモニターや騒がしく動く人。厳かに喋り出される言の葉。

 

 キュッと胸が苦しくなった。『悪いな』と言った時のママの表情が目の裏を掠めた気がした。タイミングが悪い。

 

 揺さぶられた私が聞き取れた内容はシンプルな事実。

 

『ツヴァイウィングのライブ会場にノイズが出現』

 

 特異災害『ノイズ』

 ママ曰く太古から存在したヒトがヒトを殺す為に作られた生物兵器。物理攻撃の効果が薄く化学兵器による殲滅が困難な事から災害として認定された存在。

 

 出現条件は定かじゃないらしいけれど、これには作為的なものを感じてしまう。冗談なんだよ、冗談だったのに、冗談よりタチが悪い。テロリストの方が良かった。ノイズは人を殺すこと以外に目的がない。そして一般人に抵抗する術はない。

 

 つまりアリサちゃんがノイズと対面した時、確実な死が待っている。

 

 喉が渇いていく。

 ガリィに浴びせられた水なんて目じゃないくらい急激に冷たくなる心と体。今一分一秒でアリサちゃんが炭になってしまうかもしれない。紛れもなく私は恐怖している。

 

 冷たい籠の中以来の恐怖。

 

 その恐怖の中、私は外に出ようとした。無意識だった。

 

「何処に行くんですかアリアちゃん」

 

 手首をガリィが掴んだ。ヒトの温かみを感じさせない素体が私の意識を引き戻す。

 

「いや、アリサちゃんが……」

 

 言葉が上手く紡げない、上擦って吃る声が私の冷静さを奪う。ガリィはそんな私を抱き留め背中を撫でつけて安心させようとする。その意図は十分に私に伝わっているのに、暴れる思考は大人しくはならない。

 

「助け、に……」

 

「駄目です」

 

「え?」

 

 どうにか紡いだ私の意思は一声で打ち消された。

 どうして、ガリィの顔を覗き込んだ。いつも三日月に嗤うその口は一文字を刻んでいる。

 

「危険ですからね」

 

 事実である。あの場所は間違いなく危険だ。けれどだからこそ友達があの場にいる事が不安でならない。私には助ける術がある。だから──

 

「オレの許可なく錬金術を使うことを禁じる。前にそう言ったなアリア」

 

「ママ?」

 

 何処からかモニターしていたのか、ガリィが念話で知らせたのかは不明だけどママが事態を理解して目の前に現れた。本当に私を行かせない気だ。

 

「でもママ! あそこにはアリアの友達がいるの!」

 

「それで?」

 

「アリアなら助けられる」

 

「それで?」

 

「だから行かせて!」

 

 ママは暫し瞑目し、溜め息を吐いた。

 

「駄目に決まってるだろう」

 

「ピギュ!?」

 

 ママが怒った。過去一でブチ切れてる。なんかもう目が光ってる。

 

「戦闘経験もない。友人が現在生きているのかも分からない。他の錬金術師に悟られるリスクがある。これの何処にお前を送り出す根拠がある?」

 

「それ、は……」

 

 全く、これっぽっちも、爪の先程もない。

 

「じゃあアリサちゃんは」

 

「勘違いするな。オレはお前の友人なんて自発的に助けよう等とは思わない」

 

「どうしてそんなに酷いことを言うの?」

 

 分からないことだらけで頭痛がしてくる。残された手段はなんなのか、もう強行以外に浮かんで来ない。でもそんな事したらママは私を──

 

「全く、世話が焼ける」

 

 意識が遠のく。たぶんママが強制的に私の意識を奪っているんだろう。完全に意識が途切れるその瞬間、私は琴の音色を聞いた気がした。




翡翠の子可哀想(笑)

アリアちゃん:
楽観視してたら非日常がレバー目掛けて拳を穿ってきて無事内臓を傷めた。アリサちゃんに錬金術でマーキングして場所は把握出来る。でも死体でも反応するから生死は不明。ただ炭にはなってない事はわかる。

ガリィちゃん:
昼ドラとかでニッコニコするヤベェ奴。あと意外に笑いに厳しく、つまらないバラエティを見てる間はずっと顰めっ面になる。アリアちゃんの手首を掴んだ際にあまりの力強さにめっちゃ脚に力を入れた。

キャロルちゃん:
例え友達の為とはいえ危険な場所に手塩に育てたアリアちゃんを行かせるわけないだろ、いい加減にしろ!
心境は無月を教える直前の天鎖斬月。

アリサちゃん:
炭にはなってない。炭には……

生かしても殺してもアリアちゃんの糧に成れるから生存は正直悩んでた。
次回はアリサちゃんがどうなったのか、アリアちゃんは何をするのかって所から始めたいですね。

あと最後に問いたい。
シンフォギア世界で普通の子育てって無理筋だった?


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アリアちゃんの錬金術

実はこの話までがプロローグ的ななにかだった。

今回少しばかり長くなったのと、昨今の流行りに乗った曇らせの様な表現がございます。
でもアリアちゃんとキャロルちゃんの成長には必要なんだ!

あとこの話はライブの惨劇から数日間が空いてたりする。


 起きた時には全てが終わっていた。

 流れるニュースも既にライブの惨劇と終わった物のように扱い、死亡者や行方不明者の人数も集計されている。

 

 アリサちゃんに施した座標特定の錬金術を起動し居場所を調べると大きな病院から反応が帰ってきた。少なくともアリサちゃんの身体は病院まで運ばれている。

 

「あとは無事を直接確かめよう」

 

 目標を声に出して、復唱して、前を向いて、そうして正常を保つ。

 

 大きく息を吐いて自室の扉を開ける。すぐ傍らにはレイアが立っている。いきなり飛び出さないように監視する目的だろうと思う。

 

「どうしたアリア?」

 

 数秒固まっているとレイアから話しかけて来た。別に私を傷付けようなんて思っていないだろうし、そもそも責めてもいない。けれど私は居心地が悪かった。

 

「う、ううん……別に? ところでママから外出許可ってまだ降りないの? アリア退屈しちゃったかも」

 

「退屈しのぎなら付き合おう。ミカも呼ぶか?」

 

 ファラもレイアもガリィも、ミカでさえこれだ。外出なんて単語は無いと言わんばかりに躱す。

 

「うん、みんなで人生ゲームでもしよっか!」

 

 そして私も強く言及出来ない。アリサちゃんは心配だし直ぐに確認に行きたいけど、それと同じくらいママたちに迷惑をかけたくない。

 

 

 ──そう思っていた。

 

 

 けどいくらなんでも長い!

 何時までこうしていればいいのかハッキリして欲しい。もう十分に冷静さを取り戻してる。あの時だって落ち着く時間さえ作れてれば先走ることもなかったし、もっとマシな対応も出来ていたかも。それなのにママったらいきなり問答無用と言わんばかりに意識を奪ってきて!

 

 つまり私は少しばかりご立腹なのである。

 

 けれどママたちに迷惑をかけたくないというのも本心ではある。あんな説得とも取れない酷い言葉を向けられたけれど、たぶんきっと絶対ママ的には私を思っての言葉のはずだ。ちょっと自信ないけど!

 

 だから強行突破はしない。正々堂々外出許可をママ本人からもぎ取るのだ。大丈夫よアリア、私はやれば出来すぎるから加減しろ馬鹿者と言われた女。やって出来ないことは程々にしかない。

 

 勇んで歩をママのもとへ向ける。私を掲げるミカが!

 

「いつものアリアに戻って嬉しいゾ!」

 

「人生ゲームは飽きちゃいました」

 

 

 そしてママの所まで来たわけだが、やっぱりと言うか冷たい視線が刺さる。あの時ほどじゃないにしても怒ってる。

 

「降ろしていいよミカ」

 

 ゆっくり地に降ろされた私は向かい合う形でママと対面する。とりあえず頭を下げて迷惑を掛けたことは謝る。明らかにパニック状態だったし、きっとあのまま行ってもロクなことにならないのは確かだったと思う。

 

 非があるのは否定しないし、ママが怒るのも理解出来てる。納得はちょっぴりしていないのはご愛嬌かも。

 

「だからごめんなさい」

 

「……分かってるならそれでいい。お前自身の立場を実感するのは恐らくもう暫く後だ、今回の件は教訓にしろ」

 

 立場。

 

 超高密度、超大容量のヒトを超越した魔力。私が錬金術師に見つかると血走った目で拉致してくるらしい。実感する時って攫われる時なんじゃないかなぁ。

 

「それでね外出許可についてなんだけど!」

 

「それとこれとは話が違う」

 

 だよね。

 

「だけど何時までも引き篭ってるのは嫌なの! だから妥協案を提示します!」

 

 お互いに通したい意地がある。私はアリサちゃんについて、ママは私の安全について。ならどっちも解決する。

 

「まずアリアは絶対に外出をしたいの。けどママは今のアリアに外出させるのは危険と判断してる。ここまでいい?」

 

 頬杖をついてるって事は聞く気があるって事だ。監禁ではなく軟禁に留めてる辺りで何となく察するものがあったけど、ママ自身もこれ以上私を留めておくことに懐疑的になってる。

 

「つまり外出する際にアリアに危険が無ければ」

 

「まぁそうだな。だが解決策はあるか? お前の言う危険を無くすなんて言うだけなら簡単だぞ」

 

 言うは易し、行うは難し。確かに言うほど簡単じゃないかもしれない。だがしかし私にはそんな状況をひっくり返すジョーカーがある。

 

「それはママだよ!」

 

「は?」

 

「世界で一番安全な場所はママの隣だもん。だからママと一緒にお外に出れば解決だよね」

 

「あ、いや」

 

「それにママ言ってたよね。しばらくはフリーだって!」

 

 私は記憶力に定評があるのです。

 

 腰に手をあてて胸を張ってママ便りなプランを提示する。ママもこれには度肝が抜かれることでしょう。事実額を押さえて前髪を掻き上げている。

 

 正に穴がない解決案かも。

 

「お前、オレが断るとか考えなかったのか?」

 

「ふぇ?」

 

 断る要素が何処に?

 まさか私が見落とした穴が!?

 

「断っちゃうの!?」

 

「ん゛、いや……及第点だな、うん」

 

「じゃあ!」

 

「但し、本当に様子を見に行って帰るだけだ。余計な事はするな」

 

 コクコクと首肯する。

 

 ミカと喜びのハイタッチ、ちょっと指先が怖いな!

 大っきい手の時は控えようかハイタッチ。いや待ってそんな悲しそうな顔しなくていいよミカ。今度換装の機構を付けよう。

 

「アリア」

 

「なぁにママ?」

 

 指をチャキチャキさせるミカを宥めていたら、先程の怒気が嘘のように消え去っているママが落ち着いた語調で話しかけて来る。何処か言いにくそうに視線を下げながら。

 

「オレとしては今でも行くことは勧めない」

 

 二の句を言わせない迫力がそこにはあった。

 

「外敵からは守ってやれる。だが内からくる敵に抗えるのは何時だって自分だけだ」

 

 何処か断定的で、この先起こることをハッキリ見据えた言葉。良い事であれば言いけれど、ママの物言いからはそうは受け取れない内容、それに対して私は神妙に頷くことしか出来なかった。

 

 

◇◆◇

 

 

 意外だろうが私は病院に縁がない。クリニックから大病院まで行ったこともない。それこそ産まれた時から。全部ママがどうにか出来るし、行く必要が無かったんだよね。

 

 だからいきなりこんな大きい病院に来て正直困惑している。受付で迷子になりそう。人が多い。何より受付台と私の身長差がえげつない。

 

 この病院にかかる事は無いだろうけれど、診察室まで辿り着ける気がしないよ。科が多いのも考えものだよね。

 

「病室が分かった。特に検査の予定も無く面会も出来るそうだ」

 

 大っきい状態のママがアリサちゃんの病室をナースステーションで聞き出してくれた。持つべきものは身長。いや別に普段のママがダメなわけじゃないよ?

 

 特に迷うことなく病室までたどり着いてしまった。ネームプレートにもアリサちゃんのフルネームが書いてあるから間違いない。どうやら個室を貰っているらしい。

 

 ノックに返事はなかった。病室に居ることは確かなので寝ているのかもしれない。

 

「オレは此処で待っている」

 

「分かった」

 

 意を決して扉を開く。清潔な印象を与える病室は、窓が空いていて清涼な空気を中に取り入れているのかクリーム色のカーテンが揺らめいている。

 

 最近活けられた花は花瓶で瑞々しく咲いている。

 

 アリサちゃんはそんな病室でやっぱりベッドで眠っていた。ちゃんと脈拍も呼吸もある。血色はやや悪い気もするし、疲れやストレスを感じさせるけれどちゃんと生きている。

 

 まず来たのは安堵感だった。

 何となく生きている事を察していたものの、やっぱりきちんと目視していない状態だと不安感が拭えなかった。もしかしたら過ぎってしまう。ちゃんと生きていてよかった、心からそう思う。

 

 何となく簡単なバイタルチェックを済ませようと思ってベッドの側まで寄る。呼吸回数に異常は感じない。あとは体温と脈拍だけ少し観よう。

 

「体温は大丈夫。あとは脈拍……」

 

 左手首内側で測ってみても問題はないと思う。一応左右差を測ろうと思って反対側、アリサちゃんの右側に回る。

 あとはアリサちゃんの右手首内側から脈を──

 

「ない」

 

 なかった。

 

 脈がない、と言うか測ることができなかった。

 

 測るための腕自体が綺麗に無くなっていたから。

 

 まるで最初から無かったかのように消失していた。

 

 呼吸を忘れた。ドカりと横付けされた椅子に座り込む。更に転げ落ちようとする身体をどうにか起こす。そんなグラグラな状態でも無くなっている右腕から目が離せなかった。いや離してはいけないのだと何処かで私は叫んでいる。

 

 そうかママはこの事を知っていたから私を止めたのか。そうだよね、たくさんの死者が出てる災害の只中から戻ってきて、はい五体満足なんて虫のいいこと中々ないよね。

 

「ん」

 

 瞼が開いて琥珀色を覗かせる。初めて見た時と変わらない綺麗な色。けれど私はその色を見るのが怖くなっていた。

 

「来ていたのね。いつ来るのかと思っていたのに、随分待ったわ」

 

 何もないですよとばかりに通常運転なアリサちゃん。だけど身体を起こし難そうだし、疲れた相貌が邪魔をして日常とは掛け離れてしまっている。私には寧ろ痛々しく見えてしまう。

 

「アハハ、ごめんねアリサちゃん。ママがしばらく外出禁止だって聞く耳持ってくれなくって」

 

「そう、よね。ごめんなさい、そういう所まで意識が回ってなかったわ」

 

「いいよいいよ! アリサちゃんは自分の事だけ考えていればいいの!」

 

 そう言った辺りでチラリと向いてしまった視線にアリサちゃんは目敏く気付いた。

 

「これ? 少しばかり軽くなってしまったわね」

 

「軽くってそんな簡単に……」

 

「何時までも引きづって居る訳にもいかないもの。お父様もこの程度瑣末だと仰っていたし」

 

 だとしてもそんな直ぐに飲み込める内容でもないはずで、時間を消費してやっと飲み込める事柄なはずなのに、どうしてそんなに気丈に振る舞うの。

 

 楽をして欲しい。私に少し当たれば、責める対象にしたら楽になるのに。いやアリサちゃんは私が錬金術師だなんて知らないから責める理由も出来ないか、じゃあこれは私の願望かな。私が楽をしてどうなるんだってぇの。

 

「何より私だけで良かった。友人も巻き込んでしまったかもしれないと考えるとゾッとするから」

 

 違う。私はどうにか出来た。自衛する手段も、友だち1人くらい守りきるのに必要な手札もあった。なのにアリサちゃんは腕を失っている。

 

「また生きて会えて良かったわ」

 

 奪ってしまったのは私だ。

 

「全くぅ! それアリアのセリフだよアリサちゃん!」

 

「苦しいわ宝条さん」

 

「アリアだよ」

 

「え?」

 

「何時までも苗字なんて他人行儀。呼び捨ててよ! 親友らしくさ!」

 

 補完してあげなきゃだよね。

 

「いきなりは照れるのだけれど、でも確かに他人行儀が過ぎたかしら。……じゃあ改めてよろしくアリア」

 

「うん、アリサ!」

 

 錬金術の基本は等価交換。アリサの右腕の分、私は対価を差し出すべきだ。

 

 そのあとは腕の話を避けて日常を取り戻すようにたわいの無い話をした。別れる時もまた来ると言って。

 

「あ、今日来る事に意識が行き過ぎて、見舞い品持ってきてなかったや」

 

「気にしなくてもいいのに」

 

「うーん、じゃあ次はとびっきりの物を持ってくるよ!」

 

「フフ、じゃあ期待しておくわ」

 

 そうして病室を出た。

 

 笑顔を保てていたかな。平静を保てていたかな。アリサに気付かれなかったかな。

 

「終わったよママ」

 

「……ああ」

 

 手を繋いで元来た道を戻っていく。帰り道に独特なファッションを貫く人が居たくらいで特に変化のない道のりだった。なんて言うかネクタイはあれで良かったのかな。

 

 

◇◆◇

 

 

 疲労感が凄まじい事になった。スタミナには自信ありだったのにな。けれどやる事が出来たからうだうだしてられない。

 

「アリア」

 

「ん〜?」

 

「お前何を持ち帰ってきた?」

 

 流石にママにはバレちゃうか。私はこっそりアリサからあるものを拝借してきたのです。さぁ何でしょう!

 

「これ!」

 

「髪の毛? 藤咲有咲のか?」

 

 枕付近に落ちていた物を何となく追求を避けるために、バレないように持ってきたのでした。正解者に拍手。私は当たったので自分に拍手!

 

「そんな物で何をするつもりだ?」

 

「腕を錬成する」

 

 失くしたものは補えばいい。それに私に差し出せるのは錬金術くらいだから。

 

「駄目だ絶対に!」

 

 鋭い視線は殺意と変わりないくらいに鋭利でトゲトゲしている。まぁ想定はしていたけれど、いざ止められると困った。

 

「後でアリサには説明するよ」

 

「どう説明する。錬金術だとでも伝えるか? 誰が信じる、誰が納得する! よしんば友人にはそれで通るとして周りはどうする!」

 

 捲し立てるママは苛烈だった。けれど震えていた。怒りからなのかは分からない。

 

「腕が勝手に生えましたは通らないんだぞ! 理解し難い内容をいくら凡夫に突きつけようと返ってくるのは戯言だけだ」

 

 今のママは何処に目があるのか定かじゃない。少なくとも現在を見ているようには見えない。過去を呪うような怨念めいたものがある気がする。

 

「いいかアリア聞け。そういう奴らはいつも決まってこう言う、『奇跡』だとな! そして『奇跡』はお前を殺す」

 

 たぶん今の今まで吐き出された言葉がママの根源なんだろうと思う。過去に何があったのかはわかんない。ただ少し方針を変えてやるだけでママの懸念は解消出来るかも。

 

「ママの言い分は分かったよ。だったら腕の錬成は取り止める。代わりに義手を作る。最新テクノロジーとか適当に理由を付ければ何も言われないよ」

 

 実はこっちが本命。

 

「勝手にしろ」

 

 どうやらママも気付いたみたい。拗ねちゃったかもしれない。

 

「ママ!」

 

「いきなり抱き着くな! 今の何処にそんな流れがあった!」

 

 頭上からガミガミ言ってるけれど、どうか許して欲しい。私も限界はあるんです。底抜けの明るさなんてあるわきゃ無いのです。全てはエネルギー保存の法則から逃れられない。

 

「ハァ、もういい。悪かった、すまないアリア」

 

 ギャン泣きなんて何年振りなんだろうね。前と変わりなく何だかんだとあやしてくれるママが大好きだよ。




アリアちゃんが話を重ねる毎に幼さそのままのナニカに成長()している気がする。

アリアちゃん:
曇ったけど自力で晴らしに掛かる豪の者。シンフォギア装者の属性を少しずついい感じに踏襲出来てる感じがする。あくまで作者がそう感じてるだけだが……
こっそり親友の髪の毛を拝借する何処ぞの名探偵じみたやばさを感じさせる小学生に成長してしまった。罪悪感と使命感がごっちゃになった結果だからしょうがないね! そして親友のために義手を作ることにしたけど何かいい資料あったかな?

アリサちゃん:
一時曇り、一時晴れ、一時曇った。関係を響と未来のようにしよう、とした結果、亜種的な化学反応を起こした。大体アリアちゃんが悪い。
生き残った場合絶対に何処かの部位は欠損して貰うつもりだった。今回は右腕。ただ断面は綺麗だったらしい。らしい。
あと呼び捨てするのとされるのにポカポカした。書いてた作者もポカポカした。

キャロルちゃん:
雷雨。
アリサちゃんの腕については把握してた。先延ばしにしてもアリアちゃんを行かせたくなかったけど折れた。でも面会の後でアリアちゃんが覚悟完了みたいな目をしてて思わず顔が引き攣った。
過去のトラウマを想起させられてヒスったがアリアちゃんのギャン泣きでママを全力で執行する事になったので頭が急速冷凍される。
義手? こちとら動く人形作ってるんだぞ、余裕余裕!

シンフォギア世界はやっぱり過酷すぎたな。子育てには向かないよ!

次回はもう時間を飛ばしてしまってもいいんですけど、マスゴミとかアリサちゃんのお家とか描写出来ていないのよね……
どないしょ……


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アリサちゃんの入院生活

閑話と言って差し支えないが、載せきれなかった設定を盛り込んだり描写するにはアリサちゃんの視点が一番だと思った。

なんで私の書く小学生ってこんな悟ってんの?
それは悟らなきゃ生きてけないからだよ!


 目が覚めたら瓦礫に埋まっていた。小学生の小さな体躯が幸いして全身を押しつぶされる事は無かったけれど、この瓦礫を動かす事は出来そうもない。例え動かせそうでも変に瓦礫を動かした結果、改めて押しつぶされる事になるかもしれないのでじっとしている方が良いだろう。

 

 ただ問題は今現在感覚がない部位。

 

 どうにか回せる首で右腕を薄目で見る。

 

 完全に潰れている。血もじわりと染み出しているところからしてきっと酷いのだろう。不思議と痛みは無く、視覚の情報からだけ痛々しさが身体を凍えさせる。痛みはきっと脳内麻薬でマヒしているんだろう。

 

 記憶を整理する。

 私はツヴァイウィングのライブに来ていた。グッズも買って準備は万全であとは待つのみだった。始まったライブで観客と一体となって、翼さんたちとも一つになれた気がして心地よくて楽しかった。

 

 そこから、

 

 そう、突然ノイズが現れたんだ。

 

 逃げ惑う観客に押しのけられて、このままだとノイズの前に観客達に殺されると思って壁際まで逃げおうせて、そして歌を聴いた。ツヴァイウィングの歌声でそれぞれが違う歌を、私が知らない歌がこんな惨状の中でもハッキリ聞こえてきた。

 

 そしてそれに気を取られているうちに頭上から降り注ぐ瓦礫に気づくのが遅れて今に至る。

 

 最後だけ間抜けだな。まさかあの場で危機感を失うなんて。

 

 でも今も聞こえるその歌は不思議と安心感が芽生える。今も私が喚かないのはきっとこの歌のお陰なんだろう。

 

 けれど何だろう、徐々に奏さんの歌が弱まっている様な感覚がする。

 

 フッと歌が片方消え去って、悲しくも美しく切なくも力強い歌が場を支配した。静かな歌のはずなのに自分の全身全霊を賭して歌っている様な、命を削り次に託す様な歌。心が締め付けられる。何でかは分からないけれど、歌ってはいけない歌だと朧気な輪郭で伝わってくる。

 

 歌い切られるその前に止めなくてはと焦燥した。そう強く念じた事が功を奏したのかは不明だけれどその歌は停止した。代わりに重苦しい重低音が蹂躙する。

 

 私の周りの瓦礫が私を避けて豆腐かのように細切れとなり、視界が一気に拓ける。すると目の前には紙を引き裂いたような高音と地面を揺るがす低音をしきりに放つ黒い球体が浮いていた。

 

 その球体はその下に整列するノイズを一匹一匹確かめるように押し潰している。確かな確証はないけれどそう感じた。さながらモグラ叩きだ。ただし叩かれたモグラは炭化してボロボロになるけれども。

 

 目に見えたノイズが全て炭化した辺りで球体は萎むように小さくなり、やがて消えた。

 

 唖然としていたらプツンと意識が落ちた。

 この時私は一声もしなかった。それほどあっという間で激烈な出来事。

 

 

◇◆◇

 

 

 目が覚めたら病院のベッドの上だった。身体を起こそうとしたけれど上手くバランスをとれなくて何度もベッドに沈んだ。それもそのはずだ、私の身体を支える腕が一本足りていなかったから。

 

 私は右腕を失ったのだった。肩付近で丸くなった腕、指先まであったはずの腕。私は以前との身体のギャップが実感できずに、何度も左手で右腕付近を掴もうとしていた。無論何も掴むことは無い。

 

 自然と荒くなった息を必死で収めようと試みるもどうにも上手くいってはくれない。何も上手くいかない。

 

 何度もそうしている内に病衣が破けてしまった。その辺でハッとなってナースコールを押した。直ぐに看護婦がやって来て、担当医を呼んできた。

 

「此処が何処か分かりますか?」

 

「病院です」

 

「自分の名前は言えますか?」

 

「藤咲有咲です」

 

「どうやら意識の混濁もパニックも無いようですね。良かった」

 

 いくつかの簡単な質問と、ここに来た経緯をお医者様から教えて貰った。私は交通事故で怪我を負って、救急車で運ばれてきたらしい(・・・)。全く覚えは無いけれどそう説明された。

 

「車両に挟まれた形で救助に難航したと伺っています。いやはやそんな状況下で生き残っただけでも十分に幸運でしたね」

 

「あの、腕は?」

 

 逡巡するように口を閉じたあと、唇を舐めてからお医者様は話す。

 

「半ばちぎれかけていた状態、尚且つ損傷が激しい状態だったため繋ぎ直す事は困難でしょう。あの場でどうやったのかは分かりませんが、断面の処置が的確でしたね」

 

 詳しい事まで理解は及んでいないけれど、私の腕は元に戻らない事は理解出来た。

 

「挫滅症候群の症状は確認できませんが経過を見ましょう。何かあれば直ぐにナースコールをしてください」

 

「はい」

 

 お医者様は看護婦に何かを言い含めたあとゆっくりと病室から出ていった。看護婦もそれに倣うように退室する。

 

 一人になって深く溜息を吐き出したあと、間も無く再び病室が開かれた。無地で紺色のスーツに身を包み、短く切り揃えられた黒髪、鋭い眼光を放つ瞳。私のお父様その人。

 

 何時もは仕事で家で会うことも多くないはずなのに、今日に限って時間が出来てしまうだなんて。

 

「起きたのか」

 

「はい、ご心配をおかけして申し訳ありません」

 

「お前は件の事件とは別件で扱う。学校の方にもそれで通す」

 

 なるほどそれでお医者様は交通事故なんて言っていたと。

 

「承りました。お父様の仰る通りに致します」

 

 どのような意図があれ、お父様が判断した事に対して叛意はない。きっとそれが一番いい選択なのだろうと思う。お父様が失敗した姿は見たことが無いから。

 

「有咲、お前はどこへ行こうと藤咲家の娘だ。腕の事は瑣末と思え、お前はただ藤咲の娘として在ればいい」

 

「理解しています」

 

「そうか」

 

 そう一言零すと立ち上がり腕時計を確認した後、時間だと手早く発つ準備を始める。本当に短い時間を縫ってきてくれたんだと不思議と安心した。

 

「また来る」

 

「は、はい!」

 

 珍しい事は続く物だと思った。また会う約束とはいつぶりになるのだろう。思わず声に戸惑いが混じってしまった。そして翻るお父様からいつもは嗅ぐことはない煙草の匂いがした。.

 

 

◇◆◇

 

 

 片腕での生活にはまだまだ慣れそうもない。体勢を起こすのも、食事を摂るのも、歩行でさえ両腕があって成立していたと言うこと。やって出来ないことは無いとは思うのだけれど、中々上手くはいかない。

 

 ただ寝ているだけで寝返りがうちにくいという我慢ポイントもある。根本的に片腕の状態に慣れない限りはストレスのない生活は望めないでしょう。

 

「先は遠いわ」

 

 果たしてコレを瑣末と言い捨てられる時は来るのか。こればかりはお父様に難題を投げられたと思う。

 

 それにしても今日も宝条さんは来なかった。あの騒がしさが服を着て歩いているあの子がここに突撃してくるのも時間の問題だと思っていたのに、完全に予想が外れてしまった。

 

 きっと心配してる、と思う。私はそういった機敏に疎いけれど宝条さんなら心配故に視界に捉えた瞬間飛びついて来そう。

 

「その前に止めないと、此処は病院で私は病人なのですし」

 

 けれどそう、例えばただ騒がず抱き締める程度なら注意する必要はきっとないはず。余りにも力強いのは困るけれど。

 

 いつか来る友人との再開が楽しみになって来た。

 

 ノックが数回。

 

 誰だろうと思いながらも返事を返す。

 

「どうぞ」

 

 入ってきた人物は知っている顔だった。

 宝条さんではない、お父様でも、お医者様でも、看護婦の方でもなかった。けれど私は入室者の顔を知っていた。

 

 それに彼の背格好はそうそう忘れるものでもない。赤いシャツに胸ポケットに仕舞われたネクタイ、筋骨隆々の体躯。

 

 お屋敷で会った時のままの存在感をもってそこに立っていた。




ヨシ(現場猫)
詰め込めるだけ描写できたと思う。これで憂いなく本編に入れるかも!

いつもの人物説明はないゾ!
理由は色々読み手に想像して欲しいからダ!
だからこそ仄かに描写を暈しているんですね。

感想乞食と呼ばれようと私は感想が欲しい。
もっと読者と対話させろオラァン!!


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アリアちゃん惑う

イメージは第1話って感じ。
視点は飽くまでアリアちゃんだけど、出来ればアリサちゃん視点を想像して欲しい。


 アリサが事件に巻き込まれて数年経った。ライブの惨劇と今でも掘り返されてはお茶の間を賑わせる程度に話題は治まり、各々の日常の風景を取り戻し始めている。

 

 勿論、私たちも。

 

「腕の調子はどう?」

 

「問題ないわ。無さすぎて寧ろ違和感があるくらい、どうやって触覚まで再現してるのかしら……」

 

「電気信号とかじゃないかなぁ」

 

 嘘は言っていない。

 

 製作者は私だし。誤魔化し方もお手の物である。

 

 正しくはママとの共同製作で完成したけれど、プログラムを組んだのは殆ど私になる。ママは外装で活躍してもらった。流石に人工皮膚なんて物は私には扱えない。

 

「よくこんな義手を用意出来たものね。それを無償で私に渡すのもそうだけど、正直胡散臭かったわよ?」

 

「だからママがそういう所に顔が利くの! 使用感とか、データとかを送ればそれでタダねって交渉してくれたんだよ」

 

「それが胡散臭いのだけれど……」

 

 そういう事にしてある。データの収集と言う名目でメンテナンスをして、使用感の聞き取りも今後の義手作りの参考にするのが目的。成長する度に作るのだし、どうせなら改善出来るところは改善すべき。

 

「けれど助かってるのも事実。アリアとアリアのお母様には感謝してもし足りないわ」

 

 こういう時は毎回困っちゃうなぁ。やっぱり互いの認識に齟齬があるんだろうけど、それは違うとも言えないのが辛い。

 

「えへへ、当然でしょ。親友なんだから!」

 

 アリサの風当たりは実の所良くない。いや元々近付き難い存在だったらしいので差と言える差はないのかもしれないけど。それでもライブの惨劇の生存者と勘繰られ始めると余計に孤立した。

 

 そもそもの原因は生存者へのヘイト操作によるもの。マスコミを使っての露骨な誘導に民衆は即座に食い付いた。遺族だけならまだいい、問題は野次馬に正義という後ろ盾を用意してしまった事。結果やってる事は明らかに法を犯す内容で有りながら、黙認されてしまう社会が確立してしまった。

 

 アリサの家族はそのヘイト操作を事前に察知して、交通事故として処理しようと目論んだみたい。もしかしたら操作している側かも。けれどアリサちゃんパパがお茶菓子をもって、交通事故という事にして欲しいと頭を下げに来たからたぶん独断なんだろうね。

 

 急拵えながらアリサは迫害を目前で避けた。グレーにはなったものの黒くないので手が出せない。もしかしたら程度じゃ余っ程の脳足りんでも無いと直接手を出してくることも無い。

 

 こればかりはアリサちゃんパパの英断だったね。私が手が出せない所だし助かった。

 

「あぁもう家に着いちゃった!」

 

「また明日学校で会えるでしょ」

 

「むぅ、それはそうだけど! そうだちょっと家にお邪魔していく?」

 

「下校の時は真っ直ぐ家に帰宅する事が義務付けられているでしょ? それに今日は予定があるの。ごめんなさいね」

 

 振られてしまった。

 アリサは子供心がわかってないなぁ。帰りに友達の家で遊んで帰るのは定番って本でみたのに。

 

「まぁ良いけどね。うん本当に良いけどね!」

 

「また今度お邪魔するわ」

 

 なら、いいかぁ。

 

「じゃあまた明日ね!」

 

「えぇ、また明日」

 

 手を振って見送る。もう自然に義手を扱えている様で右腕で振り返してくれている。慣れない時は義手の使用を避けていたので、これもリハビリの成果と言える。

 

「それにしても予定か。最近多いような気がする」

 

「ついて行こうなどとは、まさか考えていませんよね」

 

「ただいまファラ」

 

「おかえりなさいアリアちゃん」

 

 今日はファラの日。

 玄関口でフラメンコし出すのはいつも通り、今日のお迎えもキマってる。

 

「それにしても心外かも。アリアはきちんとやっちゃダメなことの線引きは出来てるよ!」

 

「そう言って最近何を分解しました?」

 

「……アリアの指先を少々」

 

「自分の指を調味料か何かと勘違いしてらっしゃる?」

 

「いやぁだって」

 

「アウトですわ」

 

 よくよく考えると私自身の身体が珍しい検体。錬金術師たち垂涎ものの肉体。ママも私の身体は未知数な部分が多いと言っていた。そしてつい魔が差した。

 

 理論上、分解後直ぐに再構成すれば何も問題ない。万が一でも代替物で補える。リスクは無かった、と思う。ママに見つからなければ!

 

「魔力に対して少し丈夫くらいの身体っておかしいでしょ。普通もっと変質するものだと思うの」

 

「マスターも焦っていました。せめて分解以外の手段を取ればお叱りを受けることはなかったのに」

 

 痛いところを付かれて、つい出されたお茶入りカップで口元を隠す。思い付きで起こす無計画な行動ってよくあるよくある。自由研究とかでよくやらかす。

 

 シュークリームにぱくつきながら話題を逸らすべくテレビをつける。

 

「なんかノイズの出現が頻繁になって来てるよね。少し遠いけど一定の範囲の中で」

 

「その様ですね」

 

「絶対故意的だよ! きっと統率を執ってる奴がいる」

 

 聖遺物による操作と予想できるけれど、果たして目的はなんだろう。まさかここまで来て愉快犯なんてオチはないでしょ。たぶんあの地域に何かある。人か物かはわかんないけど、そんな気がする。

 

 もし、仮に、万が一にもね。あのライブの惨劇が同一犯の故意的犯行、いやどんな理由があろうと元凶だとすれば、

 

「怒っちゃうかも」

 

「アリアちゃん?」

 

「ねぇファラ」

 

 久々に足を伸ばすのも一興ってね。

 

「お出かけしよ!」

 

 

◇◆◇

 

 

「この辺りだよね」

 

 ノイズが出現するエリアまで移動してきた。

 

 ファラの抱っこで。

 

 車より速くて道のない所もスイスイ進めておまけに透明と言う機能付き、移動にはもってこいだ。乗り心地はミカの次にいい。

 

「よくマスターから許可を取れましたね」

 

「アリアもあの時から成長したってことだよ」

 

 あの時の失敗。

 それは冷静さ欠如と手札が少なかったこと、それによって自分の安全を担保出来なかった事にある。

 

 私はあの時と同じ状況に陥った時に同じ過ちを繰り返したいとは思わない。だから自分なりに努力はしてきたつもり。たぶんママにも気持ちが伝わったんだよね。

 

「でもファラ有りきだったから胸は張れないかも」

 

「マスターもそれだけ心配なのです。あれを契機に戦闘訓練を組み込んだのもその現れですから」

 

 人形たちと行ってきた戦闘訓練。

 基本回避とか障壁でダメージを受けないことを重視したものだったけど。うん当たったら即死が当たり前だもんね。

 

「いえアリアちゃんが攻撃してきた場合こっちが消し飛ぶので、結果的にそういうカリキュラムに」

 

「練習したかったな」

 

「シャトーを消し飛ばすおつもりで?」

 

 家が無くなっちゃうのはさすがに嫌だよ。ママも怒るじゃ済まない。

 

 調査に来たはいいものの、やっぱり都合よくノイズが湧いて来るわけもないので暇を潰しながら待った。たい焼き食べたり、クレープ食べたり、ケバブ食べたり、トルコアイス食べたり。私食べてばっかだな。

 

 手元にあるホットクで最後にしとこ。

 

「来ますね」

 

 ファラがそう呟くとサイレンが鳴り響いた。ノイズの発生を知らせる警報。通常ここでシェルターへと避難をする必要がある。

 

 ただ私たちは例外とする。

 

「ステルスをお願い」

 

 人の視線が触れないような場所まで身を潜め、風で姿を覆い隠す。風のベールで覆われた場所は透過し人の目を欺き、気配も遮断してくれる。ここまでの移動中もこれでカモフラージュして来た。

 

 ノイズを倒さず、ノイズに人を殺させない方針で探索していく。もし操る輩がいた場合は容赦無く意識を奪おう。大丈夫だよ大丈夫、ちょっと岩で小突くだけ。

 

 これもママから聞いた話だけど、ノイズを退治する人たちが居るらしい。ついでに見ておきたいから犯人が見つからなくても待機しておこう。話を聞くにファウストローブの様な装備で戦うらしい。確かシンフォギアだったかな。

 

「うーんとは言え目標が居ないなぁ」

 

「何か意味を持って攻撃をしている様には見えません」

 

「じゃあ空振り?」

 

 益々分からなくなってくる、なんで無闇にノイズを使ってるんだろ。何かの実験なのか、誰かを釣っているのか。後者だったら私は見事に釣られちゃってるんだけど。

 

 襲われそうな人も居なさそうだし、今回は何も無いってことで帰ろうかな。この頻度だとまた立ち会う機会もあると思うし。

 

「わざわざ駆り出してごめんねファラ」

 

「いえ、ですがまだ終わりそうもありませんね」

 

 ファラの睨む先には数体のノイズがトコトコ走っていた。見た目の愛らしさとは裏腹な凶悪で全然可愛くない。

 

「あれ?」

 

 更に視線をそのノイズの先へと走らせると、身に覚えのあるシルエットが、身に覚えのある義手をしてる女の子が。

 

 はい、誤魔化し切れません間違いなくアリサです。

 

「の、呪われてるのアリサ!?」

 

 ノイズなんて普通に暮らしてばそう頻繁に会うことも無い。だけど我が親友は例外だったらしい。最早庇いきれないほどノイズと縁があるみたい。

 

「あぁもう! なんで嫌な方向にばっかりィ! そして現実は非常とばかりに有効打が見事な射程圏外!?」

 

 保険を掛けておいたのは間違いじゃなかった。これは完全に遠隔からでも発動出来る。だけど使う気なんてこれっぽっちもなかったのに!

 

「ごめんねアリサ! ちょっと義手の制御を借りるから!」

 

 錬金術師が作る義手がただの義手で済むわけないよね。私もそう思う。使う機会なんて一生来なくて良かったのに!

 

「制御術式、焼却術式、冷却装置、プログラム起動」

 

 方位角固定、アンカーを射出、魔力注入。掌を対象へと広げると白熱した炉心を覗かせる。放たれるのはただ魔力を帯びた火炎にあらず、この炎は概念を保有する。

 

 炎とは始まりにして終わりの象徴。

 時に人類に繁栄を齎し、時に終焉の呼び水となるもの。今回用いるのは後者の破壊特化の炎。ノイズ程度なら掃討するのもわけない。

 

「問題はただ一つ!」

 

 致命的と言うか、初回限定版デメリットと言うかね。

 

「アリサになんて説明すればいいのか、全く分かんないよォ!!」

 

 私の泣き声は風のベールで遮音されるし、放たれたイミテーション・レーヴァテインは綺麗にノイズを炭に還した。位相差障壁も燃やして侵食すれば問題ないってママが言ってた。

 

「シラを切ろう!!」

 

「無理では?」

 

「無慈悲だぁ」

 

 自分で撒いた種ではあるけど。本当に使う気ゼロの機能だったのよ。見た目がちょっと派手でも殺傷性はノイズ以外だと格段に下がる仕様だし。普段の生活では無用の長物と化す予定だった。

 

「ノイズ被害の多い地域にノイズ被災者がノコノコ行くって、訳わかんないィ!!」




Q.前半で絶対になんて事の無い日常をおくらせる意味あるんですか?
A.なんとなくで入れてる。要らないなら避ける。

Q.あの腕は何?
A.アイアンマンとかジェノスとか色々混ざった。だけどこれ日常生活用なのよね(困惑)

Q.イミテーション・レーヴァテインって何?
A.イミテーション・レーヴァテインって何だろうね?

アリアちゃん:
最近いっぱい食べるようになり健啖家ロリへと進化した。時を経て更に魔力が高まってしまい、キャロルママはパラガスになったと言う。義手のプログラムを担当した。使う機会はなくても一応自衛機能を付けた。

ファラさん:
一歩後ろからアリアちゃんを見守るお姉さんになった。手伝って欲しいと言えば内容次第で応じてくれる。個人的に性格が一番掴めない。

アリサちゃん:
最近不可解な行動が多く、アリアちゃんも訝しんでいる。義手が急にガシャンガシャンピカ〜ジュワーみたいになってビビった。絶対にアリアちゃんの仕業だと思った。ついでにアイディアロールに成功したので義手の製作者がオカルト的な技能を習得してることが理解出来ていいでしょう。勿論SANチェックです。


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アリアちゃん身バレする

アリサちゃんのポジションが響だと言った理由が詰まってる。
でもアリアを矢面に出す為には必須な存在だから。主人公はアリアちゃんとキャロルママだからね。


 至って私は平静。

 ママにため息を吐かれようと、親友に懐疑的な視線を向けられようと私は平静なのだ。それにしてもアリサの視線が痛い。時折義手をグーパーと動かしている所からして義手に何かあるのはバッチリ見ちゃってたんだろうね。

 

 まぁアレやって気にせずの方が心配になるけどね。明らかに変形してたから。

 

 だから直ぐにでも問い詰められると思っていたんだけど。

 

「何故か距離を取られてるような」

 

「ケンカでもしたのアリアちゃん」

 

「ケンカ、じゃないと思う」

 

「何か煮え切らない感じだね。どうせアリアちゃんがなんかしたんでしょ?」

 

 いやそうだけど、そりゃ無いよセッちゃん。いやそうなんだけど!

 

 さっさと謝っちゃえと背中を押すセッちゃんに困窮する。本当にケンカではないんだよ。ただ裏世界に親友を巻き込まんとしただけなんだよぉ。

 

「あ、藤咲さん来た。私はおじゃまだろうからはけるね!」

 

「ちょ、待ってってば!」

 

 こんなところでそんな気遣いは要らないよ。

 抵抗虚しくセッちゃんは借りていただろう本を持って教室から出ていってしまった。学校図書館に行っちゃったみたい。

 

「アリア話があるのだけれど」

 

「ぁ、うんどうしたの?」

 

 私は切り替えが早い女と自己暗示を掛けながら笑顔で応対する。冷静さを取り戻せアリア。大丈夫だよママに折檻されるより圧倒的に緩い緊張感だって。

 

「義手の事で話があるのよ」

 

「故障かな? メンテナンスが必要なら直ぐにでも良いよ! レクリエーションルーム行こっか?」

 

「いえ故障ではなくて、いえ故障なのかもしれないのだけれど。実は義手が火を吹いたの」

 

「あ、あはは、それは大変だね。排熱に不備があるのかも……」

 

 ド直球!?

 何でそんなに冷静なのアリサ。特別な訓練でも受けてるの。怖いほど真顔で聞いてくるじゃん!

 

「そんな感じでも無くて、なんて言うかこの義手に備わった機能という感じで」

 

「それは、危ないね。ちょっとママに頼んでそんな危険な機能を省いたモデルに替えよう」

 

「いえ、私はこれでいいわ」

 

 なんか流れがおかしな方向に向かってる気がする。なんで義手で手刀の素振りしてるのアリサ。

 

「でもとても小学生が持っていいものじゃ」

 

「学校からは許可を下ろさせるわ。それに大義名分なんて幾らでも後からから付け加える事が可能よ」

 

 怖っ、何処にそんな物騒な思考を持つ小学生が居るのさ。あと許可を下ろさせるって言った? どしてそんな強気なの。

 

「そんなことより」

 

 お願いだからそんなことで済まさないで!

 

「この義手の製作者に会わせて欲しいの」

 

 目の前に片割れがいるんだよね。

 

「どうして会いたいのかな? クレームなら私に預けて貰えば」

 

「この義手の使用法を知りたいから」

 

 これは日常で使う動作のこと、じゃないんだよね恐らく。これは予想外だ。いや本当にどうしてそんな事を?

 

 腑に落ちないと顔に出ていたのかアリサは私に耳打ちする。手でカバーを作って音を漏らさないように工夫して。

 

「義手の火でノイズを倒せたの」

 

 ピクリと耳が跳ねてしまった。

 

「その様子だと知っているようね。ノイズに対して現存する兵器では有効打にならないのを。おかしな話よねじゃあなんで義手の火は有効だったのか」

 

 位相差障壁は現世に存在する比率を調節することでインパクト時に比率を下げてダメージを軽減する。けれど決して当たっていない訳ではない。確かにノイズは現世に存在していて、星の法則に縛られている。

 

 イミテーション・レーヴァテインは当たっている少ないダメージを最大化するための毒だ。触れた傍から侵蝕し、燃やし尽くすまで消えない。要は当たれば勝ちみたいなコンセプト。

 

 でもアリサにそんな説明は出来ないししちゃいけない。

 

「作成法までは聞くつもりはないの。ただ使用法を教えてくれればそれでいいから」

 

「もう使う機会なんてないかも。と言うか避けてよ」

 

「使うわ、絶対」

 

 燻る瞳が私を射貫く。

 

「ノイズに対抗出来る手段なの」

 

「アリサ……」

 

 真っ直ぐな琥珀色をした瞳に私の顔が反射して見えるくらい顔が近くある。お願いと小さく呟かれてこしょばゆい。

 

「ここ教室だよ? 皆に見られちゃうし、聞かれちゃうよ。何時までも内緒話じゃ不審だし」

 

 事実何人かのクラスメイトからの視線が熱い。

 

 アリサも周りを見て放課後改めて話をすると言ってから予鈴がなった。

 

「どうだった?」

 

「スゴかった……」

 

「何があったの!?」

 

 何はともあれ放課後まで時間を稼げた。後はどうやって穏便にアリサを説得するか考えるだけだね。

 

 

◇◆◇

 

 

 なんにも思い浮かばなかったよ。

 

 あの目を見た限り危険だから止めようって説得しても聞かなそう。試みるつもりはあるけど。

 

「ねぇアリサは、ノイズと戦うつもりなの?」

 

「そうね」

 

「危険だよ、次は片腕じゃ済まないかも。死んじゃうかも!」

 

「でもこの義手なら戦える。この義手だから戦えるの」

 

 あげちゃダメな人間に義手あげちゃった感じだね。覚悟キマってる目してるよアリサ。これがSAMURAI?

 

「お願い! 頼めるのは貴女だけなの」

 

「うっ」

 

 さっきから近いよ。アリサの方が背が高いんだから圧迫感がある。後退りしても電柱があるから下がれないし。

 

 手は握ってくるし、壁には追いやられるし、近いし、圧がすごいし、いつものアリサじゃないみたい。オマケにサイレンまで聞こえてくるし!

 

「ってサイレン!?」

 

「ノイズ!」

 

「アリサ!? どこ行くの?」

 

 サイレンが鳴った途端走り出しちゃった。どこに行く気なのか何となく分かるけど、大分向こう見ずが過ぎるんだけど。

 

「待って待って! それはダメだよ!」

 

 義手はアリサの意思で起動する訳じゃない、私にしかプログラムのアクセス権は用意されてないんだよ。だから今一人で突っ込んでも無駄死になの。

 

 脚は私の方が速い。だからジリジリ距離は詰める。もう嫌な汗が止まんないよぉ。

 

「マジでノイズ居るじゃん!」

 

 偶然か必然か分からないけどノイズの群れがゾロゾロいる。ノイズ災害が多発してるのはここより遠いのにどうしてこんな忙しい時にやってくるのさ。

 

「ノイズは時間経過で自壊するはずだよ。逃げようよアリサ!」

 

「私が引きつけるから。アリアは近隣の未避難者がいないか探して」

 

 マジかアリサ。やる気なの? 本当に?

 もしかしてこの前の時も囮役をやってたとか、いやでもイミテーション・レーヴァテインの事はそれ以前に知られていない筈。わけわからないよぉ!

 

「取り敢えず逃げるよ!」

 

 急いでアリサの手を掴んで後ろ向け後ろ。引き摺ってでも帰るからね。拒否は認めない。

 

「どうやらそうも行かないみたいね」

 

「囲まれちゃったじゃん」

 

 後ろ向いてもノイズがいる。前向いてもノイズがいる。逃げ場無し。終わり。今ココ。

 

「絶対こんなの可笑しいよ!」

 

 おのれノイズの司令塔。と言うかもしかしてアリサが狙い撃ちされてるのかな?

 

「やっぱり義手を使うしかないわ。アリア教えて、貴女でしょこの機能を付けたのは」

 

「うぇ!?」

 

 何故バレたし……私の隠蔽は完璧、とは言えないかもしれないけど素人に分かるはずないのに。

 

「今悩んでる暇は無いし、拒否権もないか」

 

「今更と言われるかもしれないけれど、ごめんなさい。どうしてもこの力が、貴女の力が必要なの」

 

「許さないよ。危険な事ばっかり率先してしようとするんだから」

 

「ごめんなさい」

 

「ダメですぅ。絶対に許さないんだからね!」

 

 術式を隆起させてプログラムを起動する。アンカーが射出されて、火が点る。

 

「私からの操作は必要ないの?」

 

「私の操作しか受け付けないように設定してるから」

 

 義手に手を這わせ、アリサの手を握り込む。前回で魔力を使っちゃってるからね補充が必要なんだ。アリサの魔力を使っちゃうと体調を崩しかねない。

 

「貴女が何者なのか聞くつもりはないの。きっと聞かない方がいいんでしょう?」

 

 何から何まで今更だよアリサ。ここまで見られたら言っても言わなくても答えが出ているものなのに。本当に意地悪なんだぁ。

 

「もういいよ教えてあげる。でも内緒だよ?」

 

 対象をノイズに絞って私たちに当たらないように演算する。火が吹き出し始めると掌の砲塔が開放され白熱する。

 

「アリアは錬金術師なんだ」

 

 放出された火炎は私たちを避けて拡散し、辺りのノイズを次々焼き切る。掠っただけで消え去るノイズが攻撃する体勢にも入れずに塵へと還った。

 

 残ったのは炭だけになった。




実は一部風景を全てママに観測されてたという事実。アリサちゃんが錬金術師を喧伝するようなら容赦はされないだろう。

アリアちゃん:
自業自得だけど強引な手で錬金術師だと暴かれた。アリサちゃんが危険な事を進んで行う事には憤りを感じているもののアリサちゃんの意志の硬さが滲み出ていた故に無理やり止められない。切っ掛けはあの事件だと察している上で自分の責任だと思っているから余計に。

アリサちゃん:
何か身体スキャンを義手ごとしたらと唆された。誰にとは言わない。

キャロルちゃん:
キレてる。誰にとは言わないけど!

近々赤いやつが出てくるかも、その時赤くないけど。


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