もう一人のロクでなし魔術講師 remaster (宗也)
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1話

この作品は以前に私が投稿した『もう一人のロクでなし魔術講師』のリメイク版になります。

修正しようにも修正箇所が多すぎる為、リメイク版として投稿させて頂きました。

オリ主や独自展開、オリ主強めの設定が嫌な人はブラウザバック推奨です。


「あの野郎、元気にしてやがっかな?」

 

俺、ハヤトは魔術師である。突然何言ってんだこいつ?っと思った奴、挙手しなされ、燃やしてやるから。

 

まあ説明すると俺が今いる国である『アルザーノ帝国』は魔導大国として知られ、領土はさほど広くないが、進んだ文明と優れた魔道技術・工業技術を国家の主幹とし、国全体が王家を中心に一致団結して高い政治力を持った国なんだ。

 

色々と黒い噂は絶えねえけどな!

 

「あの野郎は今日で自宅警備員に就職して1年経過するな。祝いの品でも持っていってやるか。」

 

あの野郎ってのはグレン=レーダスって言う俺の友人だ。1年前に、ある理由で前の仕事を辞めているんだ。それまでは同じ職場で働いていたけどな。

 

「俺も人の事言えないけどな!半年前に仕事辞めたし。」

 

仕事を辞めた理由?色々とあったんだよ。本当に色々とな。

 

さて、俺が仕事を辞めてからグレンに会ってなかったからな。約半年ぶりに会うわけだ。家は確かこの大陸一番と言われている魔術師の家に居候していたはず。

 

「おっ!見えてきたぞ!!」

 

家から歩いて約1時間、ようやくグレンが居候している家が見えてきた。ちなみに家の主はセリカ=アルフォネアっていう凄腕の女性魔術師だぞ。

 

超絶と呼べるほどの美女で豪奢な金髪に鮮血を想起させる真紅の瞳。身に纏っているのは丈長の黒いドレス・ローブ。解放された胸元やベルトで強調されたボディラインはまさに圧巻の一言だな!

 

見た目は二十歳程度の大人のお姉さん的な感じだけど、実際は400年くらい生きてる年寄りなんだよな。やーいロリババァ!いやロリじゃねえな。

 

「ちわーす!!三○屋でーす!!」

 

ん?インターホン押しても何の反応もないぞ、留守なのか?

 

「もしもーし!最近肌の皺が気になっているセリカさーん!?」

 

おっかしいな?普通セリカの悪口を言ったら『ライトニングピアス』だったり『ブレイズ・バースト』が飛んで来るはずなんだが?

 

『ライトニングピアス』は電撃を放つ軍用のC級の攻性呪文(アサルトスペル)。 プレートメイルを貫き、人間程度なら感電死させるくらいは容易いらしい。 超実力者が繰り出せば光速で繰り出すことも可能なんだと。

 

『ブレイズ・バースト』は収束された熱エネルギー球を飛ばして着弾と共に 強烈な爆破を巻き起こすことが出来る軍用の攻性呪文(アサルトスペル)。 人間なら消し炭も残らないほどの火力があるぞ。

 

そんな魔術を俺に対してポンポン放つセリカさん、泣きたくなるね!

 

「仕方ない、また時間を改めて「ちょ!!ちょちょ!!待ってェェェェ!!」えっ!?」

 

何か詠唱が聞こえてきたんですけど!?しかもヤバそうな詠唱だぞ!?

 

「まさか、ウギャァァァァァ!!!」

 

玄関から離れて中庭に避難しようとした時に目の前の壁が溶けて炎の魔術が迫ってきたんですけどぉぉぉぉ!?しかも何で俺目掛けて撃ってくるんだよぉぉぉ!?

 

「ゲホッ、ゲホッ、あー死ぬかと思った。」

 

「次は、外さん!!」

 

いや俺に当たってるんですけどぉ!?誰に向かって言ってんだよセリカは!?

 

「セェェェェリィィィィカァァァァ!」

 

壁が溶けた部分からセリカの家に入ると高級そうな椅子に腰掛けているセリカと、全身に脂汗を掻きながら土下座をしているグレンがいた。

 

「おやぁ、貴方は誰なのかしら?私は全身真っ黒な人間の知り合いなんかいないぞ?」

 

「しらばっくれてんじゃねえぞゴラァ!俺に向けて『ブレイズ・バースト』を放っただろ!?」 

 

セリカはクスクスと笑いながら俺を見ている。くそっ、わざとか!?わざとなのか!?わざとだな!?

 

「ハヤト、プッ、イメチェンでもしたのかブホッ!」

 

「これの何処がイメチェンに見えるんだグレン!?全身が真っ黒になるイメチェンが何処にある!?」

 

グレンの奴、土下座しながらこっち見て笑ってやがる。後でハイキック喰らわせてやるからな?

 

「それより、何で俺に向けて撃ったんだセリカ!?危うく消し炭になるところだったぞ!?」

 

「貴方なら私の魔術を喰らっても死にはしないだろうし。グレンを脅すためにな。」

 

何で俺はグレンの為に真っ黒くろすけにならなきゃならんのだ。

 

「何でグレンを脅したりなんかしたんだよセリカ?」

 

「そろそろグレンを働かせようと思ってな。職場を紹介したら嫌だと駄々捏ねたからな、ちょっとばかし脅してやっただけだ。」

 

軍用魔術がちょっとばかしの脅しなんですかねぇ?普通の人間なら即死だからな、そこんとこ分かってる?分かってねぇんだろうな。

 

ちなみに軍用魔術っていうのは、軍属魔導士が使用する戦争用の魔術だ。天変地異クラスの威力を誇る戦術・戦略レベルの複数名で行う儀式による大魔術をA級で、威力規格が下がるごとにB級、C級と名称が変わるぞ。

 

「そういえば、確かハヤトも無職だったな?」

 

「NEETという仕事があります。」

 

そう言った瞬間、俺の左頬にギリギリ掠らない所に『アイシクル・コフィン』という自在に動く高速の冷凍光線がセリカから放たれた。 命中したら相手を血液まで凍らせるというB級軍用魔術を放たなくても良いじゃないですかね?

 

「今度余計な事を言ったらその口を縫い合わすぞハヤト?」

 

「ハハッ、最近のセリカはキツイや……。」

 

「ハヤトも講師になりなさい。グレンと同じクラスでね。」

 

いきなり何言い出すんだよ!俺が講師になる?ついに頭ボケたかこのバb「其は摂理と円環へと帰還せよ・五素」すいませんでしたぁ!

 

「ハヤト、お前も綺麗な土下座しやがるな。」

 

うっせぇグレン、この世界を生き延びる為には綺麗な土下座の取得は必須スキルなんだよ。

 

「グレンだけじゃどうにも不安だからな。ハヤトが居てくれれば安心する。」

 

「俺、教育免許持ってねえぞ?運転免許しかねえぞ?」

 

「教育免許?そんなもの無くたって私の権限を使えばどうとでもなる。」

 

職権濫用って言葉知ってますセリカ?

 

「それに、講師になれば可愛い女の子がたくさんいる場所に行けるぞ?しかも常時ヘソが見えているんだぞ?」

 

「なんですと!それは本当かセリカ!?」

 

20年間女の子とほぼ関わりがなかったからな!これはいいチャンスだ!

 

「でも働きたくない、けど女の子と関わり合いたい。うーーーーん!」

 

くそっ、どうすればいい?どうすれば働かないで女の子とキャッキャウフフが出来る!?

 

「沈黙は肯定と受け取るぞハヤト。早速学院に手配しておくからな。」

 

「おい、俺まだ了承してないんだけどセリカ!?勝手に決め付けんなこの400さ「『我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・其は摂理の円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に』」本当にすいませんでしたぁ!マジで勘弁してください!」

 

『イクスティンクション・レイ』はもう喰らいたくない!しかも本気の殺意をぶつけながらだぞ!

 

「ハヤト、お前凄いな。よくセリカ相手にそんな悪口言えるよな。」

 

「俺、思ったことは口に出ちゃうタイプだからな!テヘェ☆」

 

「『雷精よ』。」

 

ギャァァァァ!!しーびーれーるー!?セリカ、今なんで『ショック・ボルト』を撃ったし!?

 

『ショック・ボルト』は微弱な電気を飛ばして対象を麻痺させる殺傷力のない黒魔術だばばばばぁ!?

 

「いやなんか『ムカついた』から。『ムカついた』から。」

 

「呪文改変までして『ショック・ボルト』を放つんじゃねえよ!理不尽だぁぁぁぁ!」

 

******

 

アルザーノ帝国魔術学院

 

およそ四百年前、アルザーノ帝国が時の女王アリシア三世の提唱により、巨額の国費を投じて設立した国営の魔術師育成専門学校。

 

常に最先端の魔術を学べる最高峰の学び舎で、魔術を学ぶ者にとっては憧れの聖地とも呼ばれている名門校である。

 

ちなみに、俺もグレンもここのアルザーノの出身だ。

 

「はぁ、ついに来ちまったな。嫌だなー、早く帰りたいなー。」

 

俺は講師を受け持つクラスの教室内の教壇の上に立っている。生徒からの視線がキツイなー、特に銀髪の子と紫髪の子の視線がキツイなー。

 

「先生、来たなら授業を早く始めてください。」

 

銀髪の子が不機嫌そうな表情をしながら言ってきた。はぁ、銀髪は真面目ちゃんなのか。

 

「まあ待てよ。俺以外にもう一人講師が来るからな。そろそろだと「悪い悪い、遅れたわ。」来たか。」

 

教室の前方の扉が開き、入ってきたのは服がシワシワのヨレヨレ状態になっているグレンだった。いや何してたのお前?

 

「やっと来たわね!ちょっと貴方、一体どういうことなの!?貴方にはこの学園の講師としての自覚は……。」

 

銀髪の子が声を荒げながらグレンに対して説教しようとした瞬間、何か口をパクパクさせながら体を震わせていた。何々お知り合いなのあんたら?

 

「あ、あ、貴方はッ!?」

 

「…………違います、人違いです。俺はお前みたいな銀髪なんて知りません。『ゲイル・ブロウ』を撃ってきたなんて知りません。」

 

おもくそ知ってんじゃねえかグレン。えっと、グレンの服装と銀髪の態度から見るに、グレンが銀髪に変なことをして『ゲイル・ブロウ』を喰らって噴水か何かに落とされたんだろどうせ。

 

「人違いなわけないでしょう!?貴方みたいな男がそういてたまるものですかっ!?」

 

銀髪はズビシィ!という効果音が付く勢いでグレンに向けて指を指したな。

 

「こらこら、お嬢さん。人に指を指しちゃいけませんってご両親に習わなかったかい?」

 

「まあ待てよグレン。あの銀髪の年頃なら反抗期真っ盛りだから両親の言うことなんて聞いていないだろ。」

 

「そこの貴方もうるさいわよ!」

 

「ねぇシスティ、講師のお二人はシスティの知り合い?」

 

銀髪の隣に座っている金髪ポニーテールの子が不思議そうな表情で銀髪に話し掛けているな。

 

「知り合いじゃないわよ!?今朝会った変態よ!もう一人に関しては今初めて知り合ったわよ!」

 

よく喋るねぇ銀髪、ツッコミの天才かな?

 

「ていうか、貴方、なんでこんなに派手に遅刻してるの?あの状況からどうやったら遅刻できるの!?」

 

「そんなの、遅刻だと思って切羽詰まていた矢先、時間にはまだ余裕があることがわかってほっとして、ちょっと公園で休んでいたら本格的な居眠りになったからに決まっているだろう?」

 

なんか想像以上に、ダメな理由だなおい。俺も遅刻してくれば良かったか。

 

「ということで、今日からこのクラスの担任になることになったグレン=レーダスでーす。」

 

「同じく、担任のハヤトでーす。」

 

俺とグレンは黒板に自分の名前をチョークで書きながら話すが、返事は何にも帰ってこなかった。

 

『……。』

 

あれ?無反応?俺泣いちゃうぞ?泣きわめくぞ?

 

「んじゃ、早速授業していくかぁ。面倒くさいけど、仕事だしなぁ。」

 

そう言いグレンは教科書を開いた後、すぐに閉じた。どしたんだ?

 

「ハヤト、黒板にでっかく自習って書いてくんない?」

 

「了~解。」

 

自習っと、書き終わって生徒達を見ると皆ポカーンとしていた。打ち合わせでもしたの君達? 

 

「え?じしゅ、え?じしゅう?えっ!?」

 

「一時限目は自習にしまーす。理由?俺が眠いから、んじゃお休み……。」

 

グレンは生徒達に向けてそう言った後、教卓に突っ伏してイビキをかきながら寝始めた。

 

「ハ、ハヤト先生!そこで寝ている変態を起こしてください!」

 

「面倒なんで却下しまーす。じゃ、俺も寝るから終わったら起こしてねー。」

 

「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



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2話

あの後、一時限目は銀髪の子、確かシスティーナ=フィーベルだったか?そいつに教科書を投げ付けられたから起きて、寝て、また起こされての繰り返しで終わったぞ。

 

「んじゃ二時限目始めま~す。お休み。」

 

グレンは二時限目の開始と共にまた教卓に突っ伏して寝始めた。よく寝るなぁこいつ。

 

「ハヤト先生、そこの変態の代わりに授業をしてください。」

 

フィーベルは俺を睨み付けながらそう言ってきた。はぁ、しゃないからやるか。

 

「俺は副講師なんだけどな。ったく、じゃあ俺が代わりに授業するからな。えーと、ふわぁ、面倒くせえ。」

 

えっと、教科書を開いて……、何だこの教科書?馬鹿なのか?こりゃグレンもやる気失うのも分かるな。

 

「ここはー、こうでー、こうなりまーす。わかったか皆さーん?」

 

適当に教科書の内容を書いていけばいいだろ。字なんか汚くても別に読めるだろうし。

 

「全然生き生きしていないねハヤト先生。私あんな人始めて見たよシスティ。」

 

生徒達が何やら呆れた感じで見てるけど気にしなーい気にしなーい。あと金髪ポニーテール、確かルミア=ティンジェルだったか?生き生きしていない奴なんてたくさんいるからな。

 

「えーと、こうでー、こうなるぞー。ここはテストで多分出されるからなー?」

 

文字の大きさは適当でいいや。何となくわかればいいだろ。

 

「字が汚くて全然読めない……。」

 

「システィーナさん、とりあえず1発殴っておけばいいんじゃないかしら?」

 

何か物騒な事聞こえたぞ?俺を殴っておぶへぇ!フィーベルの野郎め。

 

「ハヤト先生、真面目に授業をしてください。」

 

痛てえな、後頭部に教科書をぶつけられたか。これでも真面目にやってるつーの。

 

「で、多分きっと、こんな感じになりまーす。わかったかー?」

 

「さっきとなんら変わりないじゃない。もう一回ぶん殴ろうかしら?」

 

何やらフィーベルが唸ってるな。何だ?トイレに行きたいのか?

 

「はぁー、おいグレン起きろよ。」

 

お前だけぐーすか寝てるなんてズルいぞ!こっちは面倒くさい授業をしてるってのによ。

 

「あのーハヤト先生、質問よろしいでしょうか?」

 

「どしたん?」

 

茶髪の眼鏡の子、リン=ティティスが手を挙げてきたな。何だ?指摘か?

 

「さっきのルーン語の事なんですけど、黒板に書いてくれた翻訳がいまいち分からなくて。」

 

「ふーん、ほーん、へぇー、俺もわかんね。グレンはどうだ?」

 

俺はグレンを叩き起こして黒板に書いたルーン語を見せる。あっ、こりゃグレンも分かってねえな。

 

「俺もわかんねーな。すまんな、自分で調べてくれ。」

 

「もしくは、ググってくれ。」

 

サムズアップしながらティティスにそう答えると泣きそうな表情で俺達を見詰めてきた。泣いたって結果は変わらねえぞ?

 

「待ってください!!」

 

フィーベルが椅子から立ち上がってさっきよりも数倍怒った表情で俺達に向けて指を指してきた。なんなんだいったい?

 

「どした銀髪?トイレか?」

 

「私にはシスティーナという名前があります!リンに対しての貴方達のその態度、講師としてどうなんですか!?」

 

「んなこと言われてもな、わからねえもんはわからねえし、なあグレン?」

 

「ハヤトの言う通りだ。本当にわからねえんだよ。」

 

こいつら、自分で調べる方法も分からねえのか?

 

「ひょっとしてお前ら?辞書の引き型も分からねえのか?だったら調べられね『キーンコーンカーンコーン。』二時限目はここまでー♪」

 

チャイムが鳴った瞬間にグレンがスキップしながら教室の扉を開けて出ていった。あいつ、逃げやがったな!

 

「じゃ、次回までに辞書の使い方を学んでおけよ、じゃあなー。」

 

これであの空間から逃げられるぜ!ヒャッハー!

 

******

 

「ったく、講師は面倒くせえなぁ!何で好きでもない事に関して教えなきゃならねえんだよ。そう思うだろハヤト?」

 

「グレンの言う通りだな。あーあ、早く辞めて自由に過ごしたいなぁ。」

 

俺とグレンは愚痴をこぼしながら廊下を歩いている。次は錬金術の授業だから移動をしているってわけだ。

 

「特にあのフィーベルという銀髪、面倒くさいなぁ。説教が好きなんだろうな。」

 

「それは言えてるなハヤト、あーあ、本当に講師って面倒くせえなぁ!!」

 

そう言いグレンは何処かのドアを蹴り開ける。ここって何の部屋だっけ?記憶が正しければ更衣室だった気が。

 

「何で錬金術っては着替える必要が……あっ。」

 

「どうしたグレン……おっ。」

 

これは、あれだな、女の子が着替えている所に出くわしたというベタなパターンだな。数年前はここは男子更衣室だったはずだけど。

 

「ちょっと!!」

 

「「あー待て待て。俺は常日頃こんなお約束展開について物申したいことがある!!」」

 

ちなみに目は瞑ってるぞ、でも、心の目で女子達を見ればいい!ウヒョ、見える!見えるぞ俺の理想郷が!

 

「何で慌てて目を背けたり、手を引っ込めようとしたりすんだろうってな。」

 

うんうん、グレンの言う通りだ!ティンジェルは予想通りスタイル抜群、それ以外の子もスタイルいい!こんなレベルの高い女の子の着替えを覗けるなんて、いい時代になったもんだな!

 

「たかが女の裸をちらっと見るのとボコられるのが等価交換だなんて、割に合わねえだろって。」

 

「だから俺は!!この光景を目に焼き付けるんだぁぁぁ!!」

 

目を開けてこの光景を脳内と心に刻み込もうとした瞬間に紫髪の子からヤクザパンチを顔面に喰らっちまった。見た目に反してやることえげつねぇな……。

 

「おいハヤト!?お前の死は無駄にはしないからな!お前が死んでる間に俺もこの光景を目に焼き付けてやダァァァス!!」

 

こ、このクラスの女の子はいいパンチを持ってやがるぜ、ガクッ。

 

「貴方達それでも講師なんですか!?」

 

「「そうだぜ、非常勤だけどな、ガクッ。」」

 

*******

 

さて、無事に?午前の授業が終わって今は昼休みの時間だ、そういえばこの学院の食堂の飯って旨かったはず、今から楽しみだぜ。

 

「えっと、パンと麻婆豆腐と若鶏の唐揚げと海鮮サラダとキルアの豆の炒め物と牛乳をお願いします。あっ、全部大盛で。」

 

よく食うなってか?俺は旨い物はたらふく食べたい主義なんだよ。

 

「おっ!きたきた。さて、空いている席は何処かなっと。」

 

あそこの窓際の席空いてそうだな。丁度一席空いたしあそこにするか。

 

『あっ。』

 

料理をテーブルに置いて席に座って顔を見上げたらフィーベルとティンジェルと紫髪の子、確かテレサ=レイディだったはず、がいた。隣はグレンか。

 

「ああ貴方もさっきの今でよく私達の前に顔を出せたわね!?」

 

「ありゃ事故だよ事故。数年前まであそこが男子更衣室だったんだぜ?なあグレン?」

 

「ハヤトの言う通りだ。細かい所は気にしない気にしない。」

 

俺とグレンがそう言うとフィーベルは納得してませんオーラ全開でスコーンを食べ始めた。ってか昼食スコーンだけかよ。

 

「だったら謝罪とかはないんですか?普通しますよね?」

 

「「あぁ、うめぇ、やっぱりいいよなぁ、ここの飯は……。」」

 

「露骨に無視してんじゃないわよ!」

 

そうカリカリしなさんなって、昼食くらい楽しく過ごそうぜフィーベル?

 

「何言っても無駄ねルミア。」

 

一連のやりとりを見ていたレイディが呆れながら紅茶を飲んで、ティンジェルは苦笑いを浮かべていた。

 

「あはは、そういえばグレン先生もハヤト先生もたくさん食べますね。食べるのがお好きなんですか?」

 

「おお、食べることは俺の数少ない娯楽の一つだからな。なるべく食べれるだけ食べたいんだよ。」

 

「グレンの言うことも一理あるけど、俺はただ単純にこれくらい食べないと持たないからな。」

 

フィーベルみたくスコーンだけっていうのは絶対無理だな。

 

「あれ?ハヤト先生、その豆何でしょうか?」

 

「テレサも気になる?実は私も気になってたの。凄く美味しそうだよね。」

 

キルアの豆の炒め物を食べている時にレイディとティンジェルが興味深そうに今食ってる料理を見始めた。

 

「おっ、わかるか?この時期学園にキルア豆の新豆が届くんだよ。食べるなら今が旬ってわけ。」

 

「そうなんですか?それじゃあ、今度食べてみますね。」

 

「おう、マジおすすめ。なんなら、今一口食ってみるか?俺もハヤトと同じ料理を食べているからな。」

 

珍しいな、グレンが自分の食ってる料理を人に分けるなんて。いつもなら相手をおちょくってから一気に料理を口にかきこむんだが。 

 

「いいんですかグレン先生?私と関節キスになっちゃいますよ?」

 

「ふん、ガキじゃあるまいし。そんなんで一々狼狽えたりしねぇよ。ほれ。」

 

グレンがティンジェルにキルア豆の炒め物を乗せてある皿を渡す。ティンジェルはそれにスプーンを入れて嬉しそうに頬張る。

 

「んっ?レイディお前も食いたいのか?」

 

「食べてみたいですけど、またの機会にします。」

 

とレイディは口では言ってるけど、チラチラとキルア豆の炒め物の料理を見てるんだよな。

 

「子供が遠慮すんな、ほらよ。」

 

スプーンで一口サイズ程の量を掬ってレイディの前にある皿に乗せる。食い物は食いたい時に食うのが一番いいんだぞ?

 

「……ありがとうございます。」

 

若干顔を赤くしたレイディが乗せられた料理をスプーンで掬って口に入れたな。間接キス?気にしねえよ。

 

「ところでよ、そっちの銀髪はそんなんで足りるのか?食べなさすぎだろ、シスコンティ君?」

 

「システィーナです!私はあんまり食べると眠たくなるので、お昼は軽く済ませているんです。」

 

だからと言ってねぇ、そんなんだから成長するところも成長しねぇんじゃねえの?

 

「って痛!?おいレイディ、何で俺の右手を叩いた?」

 

「ハヤト先生?女性は男性の視線に敏感なんですよ?」

 

エスパーかよ。俺は別に女の子の視線は気にならないけどな。

 

「もっとも、この後先生の授業だったら、もう少し食べてもいいと思いますけど。」

 

「回りくどいな、俺に言いたいことがあるならハッキリ言えばどうだ?」

 

グレンの声が若干低くなったな。それに対してフィーベルも若干怯えたけど、すぐに表情を元に戻した。

 

「分かりました。ならハッキリと言わせて貰います。貴方は講師として「フッ、いやいい、皆まで言うな。」はい?」

 

……多分グレンの奴、フィーベルの言いたいことが分かってねえんだろうな。

 

「ほら、お前にも一口やるよ。まったく、食いたきゃ食いたいって言えよな。嫌しんぼめ!」

 

「ち・が・い・ま・す!!」

 

「その代わりに残りのスコーン貰うからな。」

 

グレンはひょいっとフィーベルの前にあったスコーンにフォークを指して口の中に放り込んだ。なんかジャムとかかけろよ。

 

「あ!ちょっと何しているんですか!?」

 

「何って?等価交換だよ。俺の料理あげたんだからお前の料理をもら「何処が等価なんですか!?」あっ、おい待て暴力反対!」

 

言い争った後、グレンとフィーベルはフォークとスコーンでチャンバラし始めた。仲がいいねぇお二人さん。



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3話

まあ、そんなこともありながら10日が過ぎていった。もうね、はっきり言うと面倒くさい。だから自習って形を取ってたんだけどね~。

 

「これは、そういう意味と捉えていいんだな?」

 

ついに堪忍袋の緒が切れたのかフィーベルがグレンに向かってズンズン歩み寄って行って左手に着けている手袋を投げ付けた。左手の手袋を投げ付ける、まあいわゆる決闘の申し込みだな。

 

「シ、システィ!だめ!早く先生に謝って、手袋を拾って!」

 

ティンジェルがオロオロしながらフィーベルに手袋を拾うよう促しているけど、多分フィーベルはティンジェルの声が聞こえてねえんだろうな。

 

ここ数日の間にクラスの生徒の事を一通り調べたが、システィーナ=フィーベルは魔術の名門であるフィーベル家の令嬢だったはず。

 

つまり、フィーベル家としてグレンの魔術に対する姿勢が気に入らないってとこか。

 

「……お前、何が望みだ?」

 

グレンがフィーベルの目を見ながら尋ねた。これは真面目モードのグレンだな。茶化すのはやめとこ。

 

「その野放図な態度を改め、真面目に授業を行ってください。」

 

「……辞表を書け、じゃないのか?」

 

俺もそう思った。

 

「もし、貴方が本当に講師を辞めたいなら、そんな要求に意味はありません。」

 

「あっそ、そりゃ残念。けどよ、お前が俺に要求する以上、俺だってお前になんでも要求していいってこと、失念してねーか?」

 

「承知の上です。」

 

……若いって怖いねぇ。ほら、グレンもしかめっ面な表情になってるぞ?

 

「……お前、馬鹿だろ。嫁入り前の生娘が何言ってんだ?ご両親が泣くぞ?」

 

「それでも、私は魔術の名門フィーベル家の次期当主として、貴方のような魔術おとしめる輩を看過することはできません!」

 

熱いねぇフィーベル、熱すぎて聞いているこっちが溶けちまいそうだよ。

 

「こんなカビの生えた古臭い儀礼を吹っかけてくる骨董品がいまだに生き残ってるなんてな、いいぜ?」

 

グレンはそう言いながら手袋を拾い上げ、それを頭上へと放り投げた。なんだ?格好付けようとしてんのか?

 

「その決闘、受けてやるよ。」

 

グレンは真面目な表情でそう言いながら落ちてくる手袋を掴み……損ねて手袋が床に落ちた。

 

「ダッさ!クソダッさ!何が『その決闘、受けてやるよ(キリッ)』だよ!」

 

腹いてぇ!写真撮っておいて正解だったな!

 

「うっせーなハヤト!格好付けたって良いじゃんかよ!」

 

グレンはぶつくさ文句を言いながら床に落ちた手袋を拾い上げた。

 

「ただし、流石にお前みたいなガキに怪我させんのは気が引けるんでね。この決闘は『ショック・ボルト』の呪文のみで決着をつけようぜ。それ以外の手段は全面禁止だ。いいな?」

 

「決闘のルールを決めるのは、受理側に優先権があります。是非もありません。」

 

えっ、それマジで言ってるのグレン?お前頭イカれたのか?

 

「で、だ。俺がお前に勝ったら……そうだな、まぁ、この年頃の女の子だしなぁ~、俺の言うこと何でも聞いてもらおうかなぁ~。」

 

グレン、流石だな。ニヤニヤとした笑みでフィーベルを舐めるように見始めた、それに気付いたフィーベルは涙目になってるな。可愛い!

 

「くっ!!私が勝ったら、真面目に授業をしてもらうんだから!」

 

おおう、それはちとまずいな。グレン~、頼むから勝ってくれよ。いや本当に頼むわ。

 

「ぷっ、なーんてな。お前みたいな乳臭いガキに興味無ぇよ。まぁ、俺には文句を2度と言うなよ。」

 

そう言いグレンは教室から出て、それに続いてフィーベル以外の生徒達もグレンの後を追っていった。さて、俺はもうひと眠りでもしてましょうかねぇ。

 

「何寝ようとしてるのですか?貴方にも決闘を申し込みます。」

 

「決闘?俺デュエ○ディスクもデュ○ルカードもないから無理だわ。諦めな。」

 

そう言った瞬間にフィーベルから手袋を投げ付けられる。やれやれ、やるしかないかぁ。

 

「仕方ねぇ受けてやんよ、まあ、条件はグレンと一緒でいいぞ。」

 

とまあ、こんな感じで俺もフィーベルに決闘を申し込まれた。最初はグレンとフィーベルが戦うらしい。

 

「ここなら広いし遮蔽物もない。先手は譲ってやるよ。いつでも撃ってきな。」

 

グレンは余裕そうな笑みを浮かべながらフィーベルに向けてクイクイっと手招きをする。グレンの奴、そういうことかよ。

 

「おいおいどうした?何も取って食う訳じゃねえんだ。胸貸してやっから気楽にかかってきな。」

 

「行きます!『雷精の紫電よ』!」

 

フィーベルが『ショック・ボルト』を1節で唱え、グレンに向けて放った。グレンは先程と変わらずに余裕そうな笑みを浮かべて、直撃した。

 

「あばばばばばばばば!?」

 

『はっ?』

 

まさか直撃するとは思ってなかったのか、観戦していた生徒達、そしてフィーベルも唖然とした表情を浮かべた。そりゃそうなるだろうよ。

 

「あわわわ!?私なんかルール間違えたっけ!?」

 

グレンがただ自滅しただけだから気にすんなフィーベル。

 

「な、なかなかやるな。俺が反応出来ない速度で撃ってくるとは。だ、だがこれは3本勝負だ!!一本はハンデとしてくれてやったんだよ!!」

 

「そういう勝負でしたっけ!?」

 

グレ~ン、強がるなよ~。膝笑ってるぞ?しかもお前『ショック・ボルト』は三節じゃないと唱えられないじゃん。

 

「行くぞ!『雷精よ・紫電の「『雷精の紫電よ』!」アギャャャァァァァ!!」

 

「ブフッ、は、腹いてぇ!俺を笑い殺す気かよグレン!」

 

やべっ!腹筋つる、腹筋つってしまう!

 

「くそっ、あと一回喰らったら負けちまう。」

 

「これで終わりよ!『雷精の「あっ、あそこにUFO!」うえっ!?」

 

グレンが咄嗟に右を向いて何もない所に向けて指を指しながら言ったのに対し、フィーベルは驚いた表情でグレンの指した方を見たな。つーかそれ引っ掛かるのかよ。

 

「引っ掛かったなおバカちゃんめ!『雷「UFOなんているわけないじゃない!『雷精の紫電よ』!」あぎゃあぁぁぁぁ!?」

 

グレン、まあいい奴だったよ。

 

「もう、駄目。変な世界見えちゃう。」

 

グレンの惨敗か、まあこの結果は分かってたけどよ。そもそもグレンは『一節詠唱』ができないしな。

 

『ショック・ボルト』の呪文は『雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ』だけど、略式詠唱のセンスに長けた奴なら、『雷精の紫電よ』の一節で使うことができる。

 

一般的に男性は略式詠唱に、女性は魔力容量に優れると言われているけど、グレンには略式詠唱の才能が致命的にないからな。

 

「さあ、次はハヤト先生の番よ!」

 

もう少しグレンの苦しんでる姿が見たかったのになぁ。

 

「へいへい、んじゃ俺も先攻はフィーベルに譲るか。全力で手加減してやるから本気でかかってきな!」

 

「私を舐めているとグレン先生みたいになるわよ!『雷精の紫電よ』!」

 

フィーベルから『ショック・ボルト』の雷撃を放たれ、それを俺はグレンと同じように当た……るわけねぇだろアホが!

 

「よっと、速度はまあまあ。威力も学生って考えると申し分無しだな。」

 

「嘘、『ショック・ボルト』を避けた?」

 

俺の顔面狙いの雷撃を首を横に傾けて回避しながら、雷撃の分析をしていると、フィーベルがあり得ないといった表情で口をパクパクさせていた。

 

「いやいや、そこまで驚くことか?たかが『ショック・ボルト』の雷撃を避けただけだろ?」

 

「今のは狙いが悪かっただけ。次は外さないわよ!」

 

続けてフィーベルは俺の心臓辺りを目掛けて雷撃を放つが、それをしゃがんで避ける。

 

「どうして、『ショック・ボルト』の雷撃を避けることが出来るのよ!?」

 

「そんな驚くような事か?魔術の速度なんて銃弾に比べれば遅えから簡単に避けれるぞ?」

 

「くうぅ!『雷精の紫電よ』!」

 

フィーベルが続けて雷撃を放つが、俺は体重移動やしゃがんだりして避ける。当たらねぇ当たらねぇ、雷撃なんて当たらなければどうということはないんだよ白猫ちゃん!

 

「いい加減に当たりなさいよ!」

 

雷撃が当たらなくて悔しいのかフィーベル?悔しいでしょうねぇ?プププ!

 

「ドMじゃないから嫌です。さて、回避するのにも飽きたし、そろそろ終わらせるか。」

 

そう言いながら身構えると、フィーベルは何故かガタガタと体を震せていた、やっぱトイレに行きたかったのか?

 

「よっと。」

 

俺はフィーベルが瞬きした瞬間にバックステップをする。

 

「えっ!?あれ!?先生は!?」

 

おーおー慌ててやらぁ。ちなみに俺はフィーベルの後ろにいるぞ。今やったのはバックステップをすると相手の背後に一瞬で回る事が出来る技だ。技の名前忘れたけどな。

 

「システィ!後ろ!」

 

ティンジェルが俺の位置を教えるがもう遅いぞ!

 

「『雷精の……』なんてな、ほれっ。」

 

俺はフィーベルの後頭部に『ショック・ボルト』を放……たないで、膝かっくんをする。しかし、うなじ綺麗だなこいつ。

 

「はい終了、俺の勝ちだから帰るわ。」

 

「ちょっと待ってください!どうしてハヤト先生は魔術を使わなかったのよ!?」

 

どうしてって、フィーベルみたいながきんちょに魔術を使うなんて阿保らしいからな。

 

「面倒だったから。んじゃな。」

 

今日は早く帰れるぞ~!グレンは、ほっとくか。あいつゴキブリ並の生命力だからな。というわけでさ~らば!



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4話

「そいつらに聞くことなんて何もないわ。」

 

オッス、オラハヤト!フィーベルとの決闘から3日、俺とグレンはダラダラと授業をしてるぞ。今はティティスがグレンに質問しようとしていた時にフィーベルが見下した感じで言ってきたぞ。

 

「えっ、でも!!」

 

「何せそいつらは、魔術の崇高さも偉大さも何一つ理解してないんだから。」

 

崇高と偉大ねぇ。本当にこのクラスの奴等は子供だな。グレン、何か反論してくんねぇかなぁ。

 

「なぁ、魔術ってどこが崇高でどこが偉大なんだ?」

 

「確かにグレンの言う通りだな。フィーベル、答えてくれよ。」

 

俺らがそう言った時、フィーベルは得意そうな顔をして俺らの方を向いた。

 

「フン!何を言うかと思えば。魔術はこの世界の真理を追究する、いわば神に近付くに等しい尊い学問よ。そんなこともわからないのかしら?」

 

「なるほどねぇ、で、魔術は何の役に立つんだ?」

 

おっ、珍しくグレンが食い下がるな。こりゃ面白くなってきたぞ!

 

「魔術は、その、あれよ。色々と役に立つのよ!そんなことも分からないのかしら!」

 

「色々って具体的には?」

 

グレンにそう突っ込まれてフィーベルはともかく教室にいる生徒達は皆口をごもごもさせる。やっぱりこいつらアホだ。

 

「魔術は普通に生きていれば見ることはない。現にここ以外の人がどれだけ魔術を知っている?魔術が本当に役に立つのか疑問に思うのは俺だけか?」

 

「ハ、ハヤト先生はどう思ってるのよ!?」

 

俺に振るなフィーベル、顔を見るからして助け船を出してほしいってか。やだね!

 

「グレンと一緒だ。例えば『ライフ・アップ』。これは体の治癒能力を上げる魔術だが、別にそんなものなくても医者とかに見せればいいだろ?ここの学院外でライフ・アップを使って驚かれたりしなかったか?」

 

「ま、魔術は、人の役に立つとか立たないとか、そんな低いレベルの話じゃ……。」

 

「ハヤト、あまり銀髪を虐めるな。悪いな、魔術はちゃーーんと役に立ってるぜ。」

 

グレンはニヤニヤしながら銀髪を見る。グレンがニヤニヤしている時って安心出来ないんだよな。

 

「人殺しのな。」

 

グレンが殺気を込めた表情でそう言った時、クラスの奴等の顔に緊張が走った。

 

「剣術で一人殺す間に魔術は何十人と殺せる。これほど人殺しに長けた術は無いぜ?しかも安全な位置から殺せる、自分がケガをしなくていい。まさに人殺しの為に造り出されたと言っても過言じゃねえだろ?」

 

「ち、違うわ!魔術はそんな、そんなものの為に造られたんじゃないわよ!」

 

「違わねえよ。」

 

銀髪の必死の反論をグレンは冷酷な目で抑える。グレン、よく言ったな。

 

「このアルザーノ帝国が他国から魔導大国と呼ばれる意味は何だ?“帝国宮廷魔道士団”なんて物騒な連中がいる理由は?」

 

「で、でも!魔術は!!」

 

「何度も言わせんなよ?お前らはどうして学習する魔術が攻撃用の物が多いか考えたことはあるのか?それはな、殺戮に特化した人殺しの術だからだ!!才能さえあれば簡単に人を殺せるんだ!!何処までも血で汚れたロクでもな。」

 

グレンがそこまで言った時、フィーベルがグレンの頬を叩いた。パァンという音が教室中に響き渡ったから相当力を込めたんだろう。

 

「いって、何しやがる?」

 

フィーベルの表情を見れば眼に涙を溜めていた。グレンの言ってる事がどうしても認めたくないってか。

 

「ハヤト先生は、グレン先生と一緒の気持ちですか?」

 

「あぁ、そうだ。魔術は人殺しの術。お前らが夢見ている術とはかけ離れてるんだよ。」

 

「アンタらなんて、大っ嫌いよ!!」

 

そう言ってフィーベルは涙を流しながら教室から出ていった。

 

「ちょっとシスティ!何処にいくの!?」

 

「……気分が乗らねぇ、ハヤト、後は任せた。」

 

「わーったよ。」

 

グレンも叩かれた頬を擦りながら教室から出ていく。ってこの最悪な雰囲気の中授業すんのかよ。

 

「折角のいい機会だ、俺やグレンの言った事を否定したい奴はいるか?いるなら挙手してくれ。」

 

「はい。」

 

すぐに手が上がったな。手を上げたのはティンジェルか、予想通りだな。

 

「言ってみろティンジェル。」

 

「魔術は何も人殺しの物だけではないと思います。現に魔術のお陰でこの国は栄えています。」

 

へぇ、魔術のお陰で栄えているねぇ。ティンジェルの発言に皆ウンウンと頷いているな。

 

「なるほど、確かにティンジェルの言う通り魔術のお陰でこの国は栄えている。けどそれは子供の考えだ。何故だか分かるか?」

 

「そ、それは……。」

 

「魔術で建物が増えていった?それは違う。建築士が頑張ったから建物は増えた。魔術で人口が増えていった?それも違う。農家や医者が頑張ったから人口は増えた。」

 

ったくグレンの奴、後処理を俺に押し付けやがって。今月の給料いくらかかっさらってやる。

 

「魔術のほとんどは、戦争で勝つためにしか役に立っていない。何故軍用魔術ってのが出来たのかそのお目出度いおつむで考えてみやがれ。」

 

「で、でも!『ライフ・アップ』とかがあります!あれは人殺しの為に作られたものではないはずです!」

 

まだ食い下がるかティンジェル。俺はもうここから抜け出したいんだよ!黙っててくれよ!

 

「そうだな、『ライフ・アップ』は人殺しの術ではないな。でもあれはより人を殺せるようにサポートする術だ。」

 

「そ、そんなことありません!!」

 

「はぁ、じゃあ答えを言ってやるよ。何故怪我だけでなく、病気も治せる魔術がない?何故土地を元気にする魔術がない?何故人を助ける魔術が少なくて、人を殺す魔術の方が多いんだ?」

 

俺がそう言うとティンジェルは黙りこんだ。

 

「お前らは魔術の良いところしか見ていない。物事には良いところと悪いところがある。魔術もそれに当てはまる。だから子供なんだよお前らは。」

 

そろそろチャイムもなるだろ。もうこの空間にいるのは耐えられねぇ、俺も出ていこう。

 

「今日の授業はもう終わりだ。残りたい奴は残っていいし、帰りたい奴は帰っていいぞ。」

 

さて、グレンの奴でも探しに行こうかねぇ。

 

*******

 

「はぁー、俺やっぱりこの仕事向いてねぇよ。」

 

あの後、学院内を歩き回ってグレンを探したけど見付かんなかった。見付けたらアイアンクローをかましてやろうと思ったのに。

 

「屋上で頭を冷やしてみたけど、流石にちと言い過ぎたか?」

 

まだあいつらは夢を見ていてもいい年頃なのに、俺やグレンの価値観を押し付けちまったなぁ。

 

「潮時だな、この仕事やーめた。セリカには申し訳ないけど、土下座すれば許してくれるっしょ。」

 

さて、帰ったら新型の土下座でも考えねえと。ん?実験室にいるのは、グレンとティンジェルか。

 

「グレンがティンジェルにアドバイスしてるな。あれは、魔力円環陣か。」

 

おっ!成功したな。ティンジェルは喜んでいて、グレンは何かを思い出してるな。

 

「まあ、あの様子ならグレンは残ってくれるだろ。俺には関係ないけどな。」

 

さて、帰るか。今日でこの景色も見納めかな。

 

「待ってください先生。」

 

「ん?なんだよ?」

 

屋上の扉が開かれてレイディがこっちに向かって歩いてくる。こいつは意外な人物が来たな。

 

「ハヤト先生って本当は魔術が大好きなんですよね?」

 

「おいおい、何処を見てそう思ったんだ?」

 

「魔術は人殺しの術だ、って言っていた時のハヤト先生の表情がとても悲しくて辛そうな表情をしていましたから。」

 

っち、俺そんな表情をしていたのかよ。顔に出さねえようにしていたんだけどなぁ。

 

「大丈夫ですよ、私とルミア以外気付いていませんから。」

 

レイディはそう言いながら更に俺の近くにまでやって来る。

 

「そーかそーか。で、それだけを言いに来た訳じゃないんだろレイディ?」

 

「はい、ハヤト先生はこの学院に来る前は何をしていたんですか?」

 

単なる興味本位か?それとも違うことか?あーもう!レイディの表情や雰囲気からじゃわかんねえ!

 

「仕事をしないで毎日ダラダラと過ごしていたよ。」

 

「えっ?引きこもりですか?」

 

「学院のセリカって教授がいるだろ?あいつから半年分の生活費をもらってたからそれを使って引きこもってたのさ。要するにセリカの脛をかじってたのさ。」

 

まあ、穀潰しだけにはなりたくなかったから。格安でボロボロのアパートに住んでたんだけどな。

 

「半年、ではそれよりも前は何をしていたんですか?」

 

っち、思い出させんなよ。胸糞わりい。

 

「……終わり終わり。俺の過去を掘り返すのは終わりだ。今度はこっちから質問するぞ?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「お前らって何でそんなに魔術に必死なんだ?たかが魔術ごときに本気になりすぎだろ。」

 

どうしてあそこまで本気になるのかがわかんねーなぁ。

 

「私は、ルミアの夢みたいに、本気で魔術を人の為にしたいと思ってるんです。」

 

「ふーん、本気でねぇ。」

 

「そのために、魔術を深く知りたい。恩返ししたい人がいるんです。」

 

恩返しねぇ、なんだそりゃ?

 

「私の親は貿易商人なんです。それで3年前に、ある闇商人に拉致されて奴隷市場に売られそうになったんです。」

 

ふーん、奴隷市場に売られそうになったねぇ。

 

「その時に、正義の魔術師が現れて、私を助けてくれたんです。その人は次々と闇商人達、それに闇商人の仲間の魔術師も殺していったんです。」

 

「……そいつは人を殺す度に辛そうな表情をしていたか?」

 

「よく覚えていないんですが、多分辛そうな表情をしていました。でも、あの人に助けられて思ったんです。人が魔術の道を踏み外したりしないように導いていける人になろうって。」

 

あれ?なんか、んん?前にそんな事件を解決したような気がするぞ?

 

「だから、もっと魔術の事をよく知ろうって。そんな道を歩んでいけば。」

 

そう言いテレサは俺の隣まで来て、顔を上げた。これ俺の顔を見てるのか。

 

「いつか、あの時の人が現れて、お礼が言えるんじゃないかって思ったんです。」

 

はぁ、そうか。そういうことか。

 

「もう駄目だと思って泣いていた私を助けてくれて、そして魔術師という夢を与えてくれた、あの人に。」

 

「お前、まさかな。」

 

「どうかしましたか?」

 

レイディ、いやテレサは頬に手を当ててきょとんとした表情になったな。やべっ、可愛いじゃねえかよ。

 

「いや、なんでもねえよ。んじゃ、俺は帰るからな。」

 

「あとハヤト先生、後でシスティーナとルミアに謝っておいてくださいね。」

 

そう言いテレサは俺に微笑んで、屋上の扉の方に向かっていった。

 

「……テレサって意外と人のこと見てるよな。抜け目がないっつーかなんつーか。」

 

やれやれ、これはもう腹を括ってやるしかねえか。



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5話

「昨日はすまんかった。」

 

「昨日はどうもすみませんでした。」

 

翌日、俺とグレンは銀髪やクラスの人に向かって謝った。グレンは頭を下げた。俺?俺は土下座ですよ。

 

「確かに俺は魔術が嫌いだが、昨日は言いすぎた。ええと、その、悪かったな。」

 

「俺も言い過ぎた、すまん。」

 

俺とグレンは皆に謝った後、教壇の方に向かっていく。

 

「それでは、授業を始める。ハヤトは俺のサポートだ、分からないところはハヤトに聞いてくれ。」

 

「んじゃ、授業を始める前に俺から全員に言っておく事がある。お前ら本当にアホだよな。」

 

『はぁっ!?』

 

俺の発言によって生徒達全員の額に青筋が浮かび上がった。どした?ホットミルクでも飲んでリラックスしな。

 

「ハヤト、アホじゃないだろ。バカの方が正しいだろバカ。」

 

「バカって言うなよグレン!バカって言った方がバカなんだぞ!」

 

「今バカって言ったから認めた事になるぞハヤト。」

 

グレンめ、言わせておけば!

 

「「バーカ!!アーホ!!ドジ、マヌゲボォ!!」」

 

「早く授業を始めなさいよバカ!」

 

「システィーナの言う通り、授業を始めてくれませんか?」

 

痛ってぇ、人に向けて教科書投げんなよ。グレンにはシスティーナ、俺にはテレサの投げた教科書が頭にぶつかったか。

 

「へいへい、まあつまりだ、お前らは魔術のことをなぁーんにも分かっちゃいない。いや、わかったふりをしている。」

 

「ふざけるな!お前らには言われたくねえよ!」

 

「そうよ三流魔術師!『ショック・ボルト』程度の一節詠唱も出来ない癖に!」

 

おーおー、ブーイングの嵐だねぇ。

 

「いやぁそれを言われると耳が痛い。確かに俺はそのセンスが致命的に無くてな。学生時代は苦労したわほんと。」

 

「そこのハヤト先生もどうせ三流魔術師なんでしょう?」

 

「ごもっともだな眼鏡君。けど俺はちゃんと略式詠唱は出来るぜ?」

 

まあ、人並み程度だけどな。

 

「よし、今日はその『ショック・ボルト』について教えてやるよ。」

 

「詠唱は知ってるよな?念のためおさらいするぞ?『雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ』」

 

俺は教室の扉目掛けて電気の力線、雷撃を放つ。まあ、これは基本だな。

 

「三節詠唱からですか。」

 

「そんなもの、とっくに極めておりますわ。『ショック・ボルト』なんて。」

 

「じゃあ問題だ、今は三節詠唱だったが、四節詠唱になったらどうなるかわかるか?んじゃ、そこのいかにもガリ勉君なギイブル=ウィズダン、答えてくれ。」

 

俺はギイブルに指を指して当てる。流石にこれくらいは分かるだろう。

 

「その呪文はまともに起動しませんよ。必ず何らかの形で失敗しますね。そんなこともわからないんですか?」

 

「んなこたぁ、わかってんだよギイブル。俺はその失敗の形がどうなってるかって聞いてんの。」

 

「そんなもの、ランダムに決まってますわ!!」

 

ん?発言したのはさっき『ショック・ボルト』を極めたって言ってた茶髪ツインテールのウェンディ=ナーブレスか。

 

「ランダム?ブハハ!!お前極めたんじゃなかったのか?ププッ!!」

 

「ぐっ!」

 

俺に指摘されてウェンディは黙ったな。他は、だんまりか。

 

「なんだよ全滅かよ、じゃあグレン。答えを言ってやってくれ。」

 

「わーったよ。答えは、右に曲がるだ。」

 

そう言いグレンは黒板に向けて詠唱を始める。ん?ちょっとまて、その位置は!

 

「『雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ』。」

 

「おまっ!その位置で放ったら俺に当たるだろうが!?」

 

グレンの放ったショック・ボルトは黒板に向かったが、黒板に当たる直前に右に曲がって俺に向かってきやがった!

 

「どぉぉぉあ!!」

 

当たる寸前にその場でブリッジをして『ショック・ボルト』を避けることが出来た。あの野郎!

 

「グレン!俺に当てる気だっただろ!?」

 

「ちなみに、四節ではなくて、五節にするとだな。」

 

「聞けや人の話!!」

 

グレンは得意気な表情で俺の方に向けて『ショック・ボルト』を放つ。だから俺に向けるな!

 

「射程が落ちる。一部を抜かすと威力が下がる。まあ極めたって言うならこれくらい知っておかねえとな。」

 

「グレン、後で覚えておけよ?」

 

お前は俺を怒らせた。後でたっぷり仕返ししてやる。

 

「要するに、魔術ってのは要は高度な自己暗示なんだ。呪文を唱える時に使うルーン語ってのはその自己暗示を最も効率よく行える言語だ。人の深層意識を変革させ世界の法則に結果として介入する。魔術は世界の真理を求める物じゃねぇんだよ。魔術はな、人の心を突き詰めるもんなんだ。」

 

うんうん、グレンの言う通りだ。グレンはやる気を出せば凄い奴なんだよな。

 

「と言われても想像出来ないんですけど。」

 

「そりゃそうだよなルミア。口だけの説明で言葉ごときが世界に介入するなんて言っても想像出来ないよな。じゃあそうだな、おい、白猫。」

 

「私にはシスティーナっていう名前があります!!」

 

システィーナはグレンに猫って言われてるな。ひょっとして、あいつ(・・・)と重ね合わせているのか?

 

「そうだ、折角だからハヤトも誰かにやってみろ。俺一人じゃ信じて貰えなさそうだからな~。」

 

「はぁ?グレンだけやればい「そうですね、ハヤト先生もやってくれればグレン先生の言ったことは信じざるを得ませんね。」ギイブルてめぇ、わーったよ、やりますよシスティーナ以外の人でな。」

 

仕方ない、この人にするか。普段おっとりとしているから効かないと思うけど。

 

「あの、ハヤト先生?」

 

「「愛してる。一目見た時から、お前に惚れていた。」」

 

「「はにゃ!?」」

 

おーおー、システィーナとテレサの顔が真っ赤になったな。今黄身をシスティーナの顔に当てれば目玉焼き出来るかな?

 

「はい注目~。白猫とテレサの顔が見事真っ赤になりましたね~。言葉ごときがこいつらの意識に影響を与えたワケですよ。」

 

「う、ううっ、うううっ!」

 

騙されたなシスティーナ、可愛そうだが、これも白猫の定めなのだぁ!!

 

「はははハヤト先生!?」

 

「悪いなテレサ、反省も後悔もしてないから許してくれ。ウェンディ、テレサを起こしてやってくれ。」

 

未だに顔を真っ赤にしてフリーズしているテレサ、レアだねぇ!

 

「言葉で世界に影響を与える。これが魔術のうがっ!?教科書投げ付けんなバカ!!」

 

恥ずかしさに耐えられなかったのかシスティーナはグレンに向けて教科書をぶん投げたな。面白ぇ!

 

「馬鹿はあんたよ!!馬鹿馬鹿馬鹿ーー!!」

 

「ヒーヒヒヒ!!アーッハハハ!!腹いてぇ!!お前ら漫才でもしてるのかよぼぶぇ!?」

 

爆笑していたら顔面に教科書をぶつけられたんですけどぉ!?誰だ?テレサだな!

 

「いてて。まぁ、魔術にも文法と公式みたいなもんがあんだよ。深層意識を自分が望む形に変革させるためのな。それが分かりゃあ例えば、そうだな。」

 

「だからグレン!俺の方に「『まあ・とにかく・しびれろ』。」撃つんじゃねばばばば!?」

 

もう許さねえ、マジで許さねえからなお前!

 

「とまあ、こんな感じに改変とか出来る。」

 

「グ~レ~ン?人の注意を何度も無視するなんてなぁ。覚悟はできてんだろうな?」

 

「えっと、てへっ☆」

 

ウィンクしながら舌を出して謝ろうとしても無駄だ!そんなの男のグレンがやっても気持ち悪いだけだ!

 

「んな笑顔見せても無駄だ!『神聖なる光よ集え、この名を以ちて、我が仇なす敵を討て!ディヴァインセイバー』!!」

 

「おまっ!!それはだギャァァァァァ!!」

 

俺は魔法陣をグレンの上に展開させて周りに雷を落としながら最終的にグレンに雷が当たる術を唱える。反省しやがれ!

 

「す、すごい。」

 

「ふぅ、すっとしたぜ。おっと、横道にそれたな。簡単に言っちまえば、魔術なんて連想ゲームと一緒なんだ。『ショック・ボルト』なら相手を痺れさせる。だからそれが連想できるキーワードを言えば、それが呪文になる。」

 

「だ、だが、そのド基礎をすっ飛ばしてこのクソ教科書で『とにかく覚えろ』と言わんばかりに呪文を書き取りま翻訳だの、それがお前らがやって来た勉強だ。はっ!アホか。」

 

そう言いグレンは小鹿のように足を震わせながら教科書を放り捨てる。

 

「今のお前らは単に魔術を上手く使えるだけの『魔術使い』に過ぎん。『魔術師』を名乗りたいなら自分に足りん物は何かよく考えとけ。」

 

「あと、常に物事について疑問を持て。人に言われたからその通りにやる。書いてあったからその通りにやるじゃ、力は付かねえぞ。」

 

「じゃあ今からそのド基礎を教えてやるよ。興味のない奴は寝てな。」

 

「じゃあ俺寝てるわ。グレン、あとは任せた。」

 

さあて、おやす「お前は黒板に文字を書くんだよ!」へいへい。



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6話

その後、グレンの評価は一気に上がった。

 

やる気になったグレンの授業は、他の講師とは次元が違う。真の意味でその分野を理解し、その知識をわかりやすく解説する力があるこその実りのある授業。

 

今は教室の椅子や机の数が足りなくて、立ちっぱの状態になってでも授業を聞いてくる生徒もいる。

 

俺?俺は黒板にグレンが言った事、それを要点だけまとめて書き出している。あと、分からない生徒がいたら質問に答えてやったりとかだな。

 

「魔術には『汎用魔術』と『固有魔術』の二つがある、個々の魔術師のオンリーワンの術である『固有魔術』に対して、お前らは『汎用魔術』を誰でも使える、なーんて馬鹿にしていただろ?」

 

グレンの問いかけに教室にいる生徒は言葉を詰まらせたり俯いたりしたな。考えていた事を当てられればそうなるわな。

 

「けど、こうして分析するといかに高度に完成された術なのかは理解出来たと思うぞ。まあ、『汎用魔術』を分析するっていう考えが普通の魔術師はないんだよな。ハヤト、水飲むから続きよろしく。」

 

「あいよ。それでだ、お前らはやけに『固有魔術』を神聖視しているけど、実はただ作るだけなら大したことはねえんだ。三流魔術師の俺やグレンでも余裕で作れる程にな。」

 

生徒達はいまいち信じられないって顔してるな?いや本当に『固有魔術』は作るだけなら簡単なのよ。これマジだからな。

 

「じゃあ何が大変なんだって疑問が湧くだろ?ほとんどスキのない完成度を持つ『汎用魔術』を『固有魔術』は自分一人で術式を組み上げ、越えなくちゃならないってことだ。」

 

「頭が痛くなってきただろ?並大抵の物じゃその辺の『汎用魔術』の劣化コピーにしかならねぇぞ?」

 

『固有魔術』は作ってから大変さが身に染みるんだよな。今度生徒達に作らせてみるか。

 

「俺やハヤトも昔は色んな『固有魔術』を作ったが、ロクなもんが出来なかったから止めたわ、ハッハッハ!」

 

本当にな~、ロクナモンシカデキナカッタヨ。

 

「ハヤト先生、目が死んだけど、一体先生達は何を作ったのかな?」

 

「きっとロクでもないものよ。ルミア、聞いちゃ駄目だからね?」

 

「でも、自分の術式構築力を高めるのに『固有魔術』を作るってのは充分にありだぜ。成功失敗は置いといてな。」

 

おっ、チャイムが鳴ったか。

 

「ほんじゃ、今日はここまでだな。」

 

「分からねえ所があったら調べるか質問をしろよ。分からねえ所を分からねえままにするのが1番駄目だからな。」

 

そう言い俺とグレンは黒板を消し始める。やれやれ、今日もたくさん書いたな。

 

「先生、まだ書ききってないので残しておいてください!」

 

「や~だね!フハハハハ!」

 

グレンはシスティーナの言葉を無視して黒板の半分の面積の文字を消した。楽しそうだなグレン。

 

「残しておいてって言ったじゃないですか!私まだ版書を取っていないんですよ!」

 

「聞こえんな~?ザマーミロ~!」

 

いや本当にシスティーナをからかっている時のグレンは楽しそうだな。

 

「子供ですかグレン先生は!?」

 

「男は皆子供なんだよ~!散々エラソーにされた仕返しだもんねぇ~!」

 

「こんの~!授業は良くなっても性格は変わらないわね!」

 

こういった冗談が出来るくらいグレンは生き生きとしてきたな。良かった良かった。

 

「グレン、俺は荷物を運んでおくからな。」

 

「悪いなハヤト、黒板消し終わったら手伝ってやるから。」

 

いらんいらん、グレンはそこのシスティーナと仲良く戯れてろよ。見ていて楽しいからな。

 

「だから黒板を消さないでくださいグレン先生!」

 

「だが断る!フハハハハ、止めれるものなら止めてみやがはっ!物投げるのは卑怯だぞ白猫!?」

 

グレンとシスティーナが痴話喧嘩している内に、荷物をまとめて運び始める。はぁ、本20冊は重いな。

 

「グレンだったらな~、運ぶの手伝いましょうか?とか声をかけられるんだがなぁ。」

 

グレンの評価は上がったが、俺の評価はそこまで上がってない。何処へでもいる普通の教師まで評価は上がったらしいけど。

 

「やっぱり、黒板に文を書くだけじゃ駄目か。明日から俺も生徒達に積極的にアドバイスをしていこうかねぇ。」

 

今もしてるよアドバイス、だけどそんなに効果はない。皆グレンの話に夢中だからな。俺の話なんて聞いちゃいないんだろう。

 

「おっ、着いた。」

 

考え事してると目的地にすぐ着くな。さて、教科書を置いて、あー腰いてぇ!

 

「ハヤト、手伝うか?」

 

「いやいい、もう終わったしな。俺は屋上に行くけどグレンはどうすんだ?」

 

「俺も屋上に行く。」

 

さあて、仲良く二人で黄昏ますかぁ!!

 

******

 

「なぁ、グレン。お前変わったよな。」

 

今は生徒達が帰宅した放課後、俺とグレンは屋上の柵に体を預けて夕焼けを眺めている。

 

「そうか?まあ、なんつーか。相変わらず魔術は嫌いだけどよ。反吐が出るけどよ。こういう風に講師をやるのは、悪くないって感じて来てるんだ。」

 

「そりゃ、良かったな。」

 

俺は、どうするか。正直、俺がいなくてもグレンは一人でやっていけるだろう。

 

「それに、白猫をからかうのが面白くってな。お前もそう思うだろ?」

 

「確かになグレン。っと、誰かここにやって来るぞ?」

 

この足音と気配、セリカか?

 

「おーおー、夕日に向かって黄昏ちゃってまあ、青春してるね~君達!」

 

「セリカか。何しに来たんだよ?お前、明日からの学会の準備で忙しいんじゃなかったのか?」

 

そうか、明日から魔術学会だったな。俺とグレンには関係ないが。

 

「おいおい、可愛い息子に会いに来ちゃ駄目なのか?」

 

「俺はセリカの息子じゃねえから。」

 

「グレンがこーんなに小さい時から面倒を見ていたのは私だぞ?母親を名乗る権利くらいある。」

 

あっ、俺の存在忘れられてますね。このまま空気になっておこ。

 

「それに、他人を遠ざけようとするその病気、いい加減治しておけよ?好意を向けてくる者に対してわざと素っ気なくしたり、からかったり、言っておくが、子供の病気だからな?」

 

「うっさいわ!ほっとけ!」

 

「最近じゃ、女生徒にも人気が出てきたのにそんなんじゃなぁ……。」

 

「だからほっとけって言ってんだろセリカ!」

 

セリカの言う通り、グレンは真面目に授業し始めてから女の子達にも人気が出てきたからな。俺?変わらねぇよ畜生!

 

「だ、だいたいなぁ。セリカみてーな女をガキのころから見てたら今更女生徒なんか見ても何も思わねーよ。」

 

ほうほう、つまりグレンはセリカに対してだけ欲情してると。確かにセリカのスタイルはボン・キュッ・ボンだもんなぁ。

 

「おやぁ?つまり母親代わりに欲情していたってか?この変態め!」

 

「ち、ちがうっての!ちょ!?抱き付くな胸押し付けんなって!」

 

いいなぁいいなぁ、俺もセリカみたいな母親欲しかったな。羨ましいぜコンチクショウ!

 

「あっはっは!まあでもなんだ、元気が出たようで、良かった。」

 

「はぁ?なんだよセリカ?」

 

「ふふっ。」

 

間抜けな声を出すグレンと、それを見て嬉しそうに笑っているセリカだった。まるで本当の親子みたいだな。

 

「お前、気づいてないのか?最近のお前、結構生き生きしてるぞ?前のお前は死んで一ヶ月経った魚のような目をしていたが、今は死んで一日経った魚のような目をしている。」

 

「なんだそりゃ?」

 

セリカ、その例えだとどっちも死んでるから変わりねえぞ?強いていうなら白骨化してるからしてないかだ。

 

「……心配かけたな。悪かったよ。」

 

おや?グレンは頭をかきながら恥ずかしそうにしてますねぇ。これは珍しいもんが見れた。ビデオに保存っと。

 

「いや、いい。私のせいだからな。その証拠に、お前は魔術をまだ嫌悪している。」

 

「なるほどな。で、魔術の楽しさを思い出して欲しくて、魔術講師か?ったく、俺とお前を結びつけてるのは、魔術だけじゃねーだろ。たしかに魔術は嫌いだが、お前まで嫌いなることはありえねーよ。」

 

今グレンの言った事ってさ、変に解釈すると軽い告白みたいなもんだよな?

 

「そうか、それならいいんだ。」

 

セリカが安心したように呟くと、屋上の出入口扉が開かれて、システィーナとルミアが現れる。

 

「あれ?アルフォネア教授。ひょっとして、私達お邪魔でしたか?」

 

「いいや。気にしなくていい。どうした?グレンに用事か?」

 

「はい。」

 

にこやかに笑うルミアはそう言ってグレンに近付く。あれ?俺ルミアやシスティーナにも気付かれてない?おーい!!ちょっとーー!?

 

「私達、図書館で今日の復習をしてたんですけど、どうしても先生に聞きたいことがあるって、システィが言ってました。」

 

「ちょ、それは言わない約束でしょルミア!?」

 

「ほぅ、このグレン大先生様に聞きたいことがあると?」

 

グレン、本当に嬉しそうな表情をしてるな。まあ、システィーナはグレンの為にも弄られキャラになってくれ。

 

「こうなるからこいつにだけは聞きたくなかったのよ!すぐこの調子なんだから!」

 

「すみません、このあとお時間ありますかグレン先生?」

 

「ああ、悪いな、ルミア。今日の説明は俺も言葉足らずだったから、多分そこだろう。図書館で教えてやるよ。」

 

そう言いグレンとルミアとシスティーナは屋上の出入口から出ていった。あの二人最後まで俺に気付かなかったな。

 

「さて、これで話せるな。ハヤト、お前はこれからどうするんだ?」

 

ルミアとシスティーナが出ていったのを見計らって、セリカがそう言ってきた。あえて気付いてないふりをしてたのか。

 

「俺は、もう少ししたらこの学院から去りますよ。俺はもう必要とされてませんからね。」

 

「ほう、何故そう考える?」

 

「俺がいてもいなくても現状そんなに変わらないですから。グレンの負担がちょっと増えるだけ。」

 

最近はグレンが話終わった時に、俺が捕捉をしようとすると、お前は話すんじゃねえよオーラが生徒から漂ってきているからな。

 

「この学院を去って、何をするんだ?」

 

「それは俺の自由だろ?またニートに逆戻りするのもありかなぁ。」

 

グレンは講師に向いていた。俺は講師に向いていなかった。そんだけの話さ。

 

「じゃあ辞めるのは何時にするんだ?」

 

「競技祭が終わってからだな。最後にあいつらの笑顔を見て去りたいからな。」

 

「ほう、てっきり明日明後日くらいに辞めるのかと思ってたぞ?」

 

まあ、そうしたいのは山々なんだけどな。まだ満足してない事があんだよ!

 

「それに、まだ女子生徒のお腹やへそ、太股や胸や顔が見足りないんだ!全員のを記憶に焼き付けてから辞めるね!」

 

俺がそう言うと、セリカは大きなタメ息を付いた。そんなくだらない事言ったか俺?

 

「ハヤト、その為だけにまだ続けるのか?」

 

「ああそうだ!20年間まともに女子と会話や二人きりになるという事がほとんどなかったんだぞ!?少しくらいいいじゃねえかよぉぉぉぉぉ!!」

 

この学院去ったらもう女子と関わる事がほぼないんだぞ!?俺女子の友達なんて数人もいないんだからな!

 

「ハヤト、泣くな。みっともない。」

 

「グレンは女子生徒とワイワイしやがってよぉぉぉぉぉ!しかもルミアもシスティーナもレベル高いじゃねえか!リア充くたばりやがれ!」

 

「大丈夫だハヤト、お前もいつかグレンみたいに女子とワイワイ出来るさ。」

 

「余計に傷付くからヤメロォォォ!!その優しさはかえって人を傷付けるんだぞぉぉぉぉぉ!!」

 

もういい、俺帰る。帰ってやけ酒してやるぅぅぅぅ!グレンのバーーーーカ!!



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7話

「やべぇ、昨日は飲み過ぎたぁぁぁぁぁ!遅刻じゃねぇかぁぁぁぁぁ!」

 

セリカの口撃を喰らった俺はあの後やけ酒した。そのせいで寝坊して今は家から学院まで全力疾走しているぞ!酒を飲まなきゃやってられなかったんだ!

 

本当なら今日から5日間は講師達が帝都の魔術学会に行くから休みのはずなのによ!前任が突然失踪したから授業が遅れているらしく、休日返上で授業だよ。

 

「前任のヒューイという奴、もし会ったら1発ぶん殴ってやらねえとな!」

 

くそっ、学院長に時間外労働の請求書出してやる。

 

「ぜぇ、ぜぇ、もう走っても間に合わねえなこれ。まっ、間に合わないならのんびり歩……いてられねえな。」

 

なんだ?人が急にいなくなったな。珍しいなこの時間帯に人がいないなんて。

 

「いやこれは人払いの結界だな。この時間帯に人が一人もいない(・・・・・・)なんておかしいからな。」

 

となると、この人払いの結界を張った奴も近くにいるはずなんだが……。

 

「ん?あそこにいるのは、グレンと謎の男。」

 

あの謎の男が人払いの結界を張ったんだろう。グレンはこんなこと出来ないし。

 

「あの~?どちら様で?俺急いでいるんですけど?」

 

「ハハッ、急ぐ必要はありませんよ?何せ貴方が行くのは学院ではなくあの世に変更されたのですから!」

 

謎の男が叫びながら左腕に描かれてある紋章をグレンに見せた。ってあの紋章は!

 

「『穢れよ、爛れよ、朽ち果「お尻目掛けて『瞬迅剣』!」アッーーーーー!!」

 

「…………はっ?」

 

謎の男が魔術を放とうとしたから、そこら辺に転がっていた木の棒を謎の男の尻に突き刺したぞ。おー、ビクンビクンしてますなぁ。

 

「またつまらぬものを突いてしまった。大丈夫かグレン?」

 

「いや、平気だけどよ。ハヤトお前なにしてんの?」

 

「グレンが危なそうだったからな。強制的に謎の男の魔術解除をしたまでだよ。」

 

明らかにヤバそうな詠唱してたし。あれだろ?硫酸みたいなものをグレンにぶっかけて溶かそうとしたんだろこいつ。

 

「貴様、舐めた真似を「はーい、俺達急いでるから黙っててねー。」がぶへべ!?」

 

謎の男が立ち上がろうとしたときにグレンの右ストレートが顔面に放たれたな。

 

「おしハヤト、この見るからに怪しい男を縛ってくれ。」

 

「任せな!」

 

ただ縛るだけじゃ面白くないし、身ぐるみ剥がして甲冑縛りにしてやろっと。

 

「これでよし。ってうわぁ、この謎の男のあれ小さいな!見てみろよグレン。」

 

「本当だ、ならこれしてやらねぇとな。」

 

グレンは何処からか拾った紙袋を謎の男の股間が隠れるように被せて、その紙袋にIt's a smallと書いた。流石えげつないぜグレン!

 

「ついでに花も添えてと、おし完成だ!」

 

「急ぐぞグレン、それとこの謎の男の服からこんな割符が出てきたぞ。」

 

何か二枚あったからな、一つグレンに渡してと。ちなみに学院に向かって走りながら割符を渡しているぞ。

 

「ハヤト、学院で何が起きているのか見てくれないか?」

 

「了解。『彼方は此方へ・怜悧なる我が眼は・万里は見晴るかす』!」

 

俺が今使った魔術は『アキュレイト・スコープ』、いわゆる遠くを見ることが出来る黒魔術。 指定座標の観測地点が発する光を曲げて術者に視覚を届けるらしい。

 

あくまでも座標を指定してから見るから、ターゲットなどがいる場合は一旦見失うと再捕捉が難しいけどな。あと遮蔽物があるとたくさんの光を曲げないといけないから、より魔力の消耗が激しくなるけど。

 

「ふおぉぉぉぉ!見える!見えるぞぉぉ!」

 

「わかったから、何が見えたのか報告してくれハヤト。」

 

「教室に謎の男二人組が入ってきた。服装的にさっきの奴の仲間と見ていいだろうな。」

 

おっ、学院に着いた。って中に入れねぇんだけど!?学院は不審者が入れないように結界が張ってあるけども!

 

「チィ、学院に張ってある結界の設定が書き換えられてやがる。」

 

「グレン、さっき渡した割符を使えば入れるんじゃねえか?」

 

「そうだけどよ、敵は二人だけとは限らねぇぞ。」

 

確かに、俺が見たのは二人だけどもう一人くらい居てもおかしくはないもんな。

 

「……警備員が倒れてる。心臓を容赦なく一発で貫かれていやがる、傷痕から見てもこれは『ライトニング・ピアス』だ。」

 

それって、少なくともあの二人組は『軍用魔術』が使える。そんな奴等が学院内に入ったってことは……。

 

「グレン!生徒達が危ねぇぞ!」

 

「……ッ!ハッ、無理無理。俺らの手に負える相手じゃねーって。応援を呼びにもど『ドッ!!』ッ!」

 

グレンが学院に背を向けた瞬間に生徒達がいる教室から轟音が鳴り響いた。この音、そしてこんだけ轟音がして物が崩れる音がしない、『ライトニング・ピアス』を放ったか!?

 

「おいまさか!」

 

もう一回『アキュレイト・スコープ』で教室を見ると生徒達に怪我はなさそうだった。

 

「いや生徒達は無事だ!けどルミアが顔面に傷がある男に、システィーナがチャラ男に連れ去られたぞ!」

 

「くそがっ!どっちから助ける!?」

 

「連れ去られた様子を見たけど、ルミアは自分から着いていって、システィーナは強引に連れ去られたからまずはシスティーナから助けるぞ!」

 

とにかく、手遅れになる前に急がねぇと!

 

*******

 

あの後、割符を使って学院に入ってシスティーナがいる場所を探したけど一向に見付からない。

 

「くそっ!何処に連れ去られたんだ白猫!?」

 

「仕方ねぇ、マナ温存とか言ってられる状況じゃないか。」

 

俺は自身の五感を研ぎ澄ます『センス・アップ』を使ってシスティーナがいる場所を探す。

 

「…………実験室か。確かにあそこなら何もないし広いから連れ去るなら絶好の場所か。」

 

「よし、そこに行くぞハヤト。」

 

システィーナの場所を確認した俺とグレンは実験室に向かって行く。システィーナとチャラ男の会話の内容はグレンには話さない方がいいな。

 

「クククッ、折角の上玉を見付けたんだ。暇な時間に喰っておかねぇと勿体ねーよな。」

 

「ふ、ふざけないで!私はフィーベル家の娘よ!私に手を出したらお父様が黙っていないんだから!」

 

「はぁ?フィーベル家?何それ?偉いの?美味しいの?」

 

いや美味しくはねぇだろ。まあ、あえてチャラ男はそんな舐めた態度を取っているんだろうな。

 

「ルミアちゃんみたいなタイプを縛っても面白くねーのよ。ありゃ見た目はか弱そうだが、辱めや苦痛には屈しない心を持っているんだよねぇ。」

 

あのチャラ男、見る目はあるな。確かにルミアは心の芯が強そうだからな。

 

「その点、一見お前は強がっちゃいるが、自分の弱さに仮面を着けて隠しているだけのお子様さ。そーいうチョロい女を壊すのが一番楽しいんだよ、ケケケッ!」

 

くっ、本当に見る目はあるなチャラ男!テロリストじゃなければ一回語り合いたいくらいだ!

 

「私を慰み者にしたければ好きにすればいいわ。けどフィーベル家の名に掛けて貴方だけは、いずれ地の果てまで追い掛けて殺してやるわ!!」

 

このバカ猫!チャラ男みたいな奴にそんなこと言ったら!

 

「覚悟しなさい!必ずこの屈辱を「あっそ。」えっ……。」

 

ボタンが外れる音、チャラ男がシスティーナの制服の上着を脱がしたか!?

 

「何か偉そうな事言ってるけどさぁ?現実は今からお前は理不尽にその身を汚されるってことなんだよ。」

 

「……やめて、やめて、ください。お願い……。」

 

「ぎゃはははははッ!マジかよお前落ちんの早すぎだろ!?」

 

その点に関してだけは癪だけどチャラ男同意するわ。癪だけどな!

 

「いい顔してやがんなぁ!最高だわ!たまんねぇ!」

 

おっ、実験室の前に着いたか。『センス・アップ』を解除してっと。

 

「どうする?普通に入るかグレン?」

 

「普通に入るか。」

 

「「ちーっす。誰かいるのか?」」

 

グレンが前、俺が後ろの立ち位置で実験室の扉を開けた。そこで見たのは。

 

「あぁ?なんだテメェ?」

 

チャラ男が服装が乱れているシスティーナを押し倒し、顔をペロペロと舐めていた。かぁ!気持ち悪りぃ!!やだおめぇ!?

 

「「す、すまん。邪魔したわ。」」

 

「助けなさいよ!?」

 

見て見ぬふりをしようとして実験室から出ていこうとしたら止められた。お楽しみの最中に邪魔するのは気が引けるなぁ。

 

「おい、そこのペロリスト。お前やってること犯罪だぞそれ?」

 

「ペロリストじゃねえ!テロリストだ!」

 

いやもう、システィーナの顔をペロペロしてたからペロリストでいいじゃんチャラ男。

 

「つーかガキだからって、そこまでするのかお前。余程溜まっていたんだな可愛そうに。」

 

「まあもしかしたら合意の上かもしれねーけどさ。」

 

「どこを見たらそう見えるのよこれが!?先生達の目は節穴なの!?」

 

ですよねー、やっぱ無理矢理ですよね。

 

「テ、テメェら一体どこから湧いて入ってきた!?結界は俺らの仲間が細工して入ってこれねぇようにしといた筈だ!!」

 

「さぁねー、どっか設定を間違えたんじゃないのー?まあ気にするなよペロリスト、ミスは誰にでもあることなんだからさ。」

 

「だからペロリストじゃねえって言ってんだろうが!ッチ、まあいい。誰だろうが関係ねぇ。」

 

チャラ男は立ち上がって手をゴキゴキと鳴らし始めた。おっ、肉弾戦を挑むつもりか?

 

「っ!駄目、先生達逃げて!先生達じゃそいつに勝てない!」

 

「助けろって言ったり、逃げろって言ったり、どっちなんだよ白猫?」

 

グレンの言う通りだ。ん?チャラ男がグレンと俺に人差し指を向けてるな。

 

「そんなふざけたこと言っている場合じゃないの!早く逃げて!」

 

「もう遅ぇよ!『ズドン』!」

 

チャラ男がそう言うと人差し指から魔法陣が現れて、破裂した。

 

「「はっ?」」

 

「もう魔術は起動しねえよ。俺は特製の魔導器から術式を読み取ることである魔術を(・・・・・)起動出来る。」

 

グレンは説明しながらズボンのポケットから魔導器であるカードを取り出した。

 

「タロットカード?『愚者』のアルカナ?」

 

「俺を中心とした一定効果範囲内における魔術の起動を完全に封鎖させる。それが俺の固有魔術である『愚者の世界』だ。」

 

「固有魔術!?テメェ、もうその領域に入っていやがるのか!」

 

『愚者の世界』を使ったか、それを見るのは一年振りだなぁ。

 

「魔術の起動を封鎖って無敵じゃないですかグレン先生!!」

 

「まあ、俺も魔術を起動出来ないんだけどな。てへっ☆」

 

そう、グレンも効果範囲内にいるから魔術を使用出来ない。当たり前だな。

 

「「はっ?」」

 

「いやだって、俺も効果範囲内にいるんだから、起動出来ないのは当たり前だろ?」

 

あっ、グレンがそう言った時、システィーナが泣き始めた。

 

「ブハハハハァ!魔術師が自分の魔術を封じてどうやって戦うんだよ!?バッカじゃねえの!?」

 

「いやほら、魔術なんか無くてもこいつ(・・・)があるだろ?」

 

グレンは微笑みながら両拳を構えた。そうそう、魔術が使えなくてもそいつを使えばいいんだよな。

 

「……ハァ?拳?」

 

「そう、拳。魔術が使えない?なら話は簡単だ。物理で殴ればいい。」

 

グレンは間合いを一瞬で詰めてチャラ男の顔面に左拳を叩き込んだ。おー、痛そー。

 

「て、テメェ!?」

 

チャラ男はそう言ってグレンに殴りかかったな。グレンはギリギリで避けてチャラ男の顔面を殴り付け、怯んだ隙に、重心が乗ってる方を蹴って、服を掴んで壁に叩き付けた。

 

「こ、これは帝国式軍隊格闘術!?テメェ、何者だ!?」

 

「グレン=レーダス。非常勤講師だ。」

 

「す、すごい。」

 

素人から見れば凄いんだろうけど、腕落ちたなグレン。あの頃よりキレがない。

 

「くそ、じゃあテメェだ!」

 

「ハヤト先生危ない!」

 

おっ?グレンじゃ勝ち目ないから俺に向かって来たか。俺だと勝てると思ったのか?

 

「喰らえ!」

 

チャラ男がさっきと同じように殴りかかってきたから、殴ってきた方の腕を引っ張り、重心が乗ってる足を払って宙に浮かせ、回し蹴りを腹に喰らわせてチャラ男を壁に激突させる。

 

「テメェも帝国式軍隊格闘術を!?」

 

「俺は我流だ。さて、グレン、あれをやるぞ?」

 

「おーけー。最後は伝説の超魔術、魔法の鉄拳『マジカル☆パンチ』で止めをさしてやる。行くぜハヤト!」

 

「くうぅ!」

 

むっ?チャラ男が身構えたか、でも無駄なんだよなぁ。

 

「「マージーカールー!!」」

 

俺とグレンはジャンプしながら拳を大きく振りかぶり。

 

「「パーンチ!!」」

 

グレンは首もと、俺はチャラ男がガードしている頭の側頭部を狙ってキックをする。

 

「「決まった!!」」

 

説明しよう、マジカルパンチとは何かよう分からん魔法的な力で体が活性化され、キックに匹敵する威力が出る魔法のパンチだ!

 

「キ、キックじゃねえか!?」

 

「お前、分かってないなぁ。」

 

「そこら辺がなんとなく、マジカル。さーて、チャラ男、システィーナ以外にさらって行った人はいるか?」

 

俺はチャラ男をパンツ一丁にして甲冑縛りで体を縛り上げながら聞く。残り一人くらい居そうだもんな。

 

「誰がテメェなんか「言わなければ、もう1回マジカル☆パンチを喰らわせようかな~?」言います!言いますからそれだけは止めてください!」

 

そんなにマジカル☆パンチが嫌いか。

 

「ルミアちゃん、それに紫色の髪の子を連れ去った。」

 

紫色の髪、まさか!?

 

「ッ!!グレン、俺はもう一人を助けに行く。ルミアは頼んだ!」

 

「紫色の髪ってまさかテレサ!?」

 

「当たりだよくそったれがっ!グレン、後で合流しよう!」

 

俺はそう言い残して実験室を出る。『センス・アップ』で位置は大体把握しているから目的地まではすぐに着ける!

 

「オラァ!!」

 

俺はもう1つある実験室の扉を蹴り開ける。そこにいたのは、両腕を縛られて、首を締め上げられているテレサと荒い息を吐きながらテレサの首を締めているゲス男がいた。

 

「っち、もう少し楽しみたかったのによぉ。で、お前誰?」

 

「おい、今すぐ離れろ。」

 

「あー?聞こえねぇなぁ?」

 

「今すぐ俺の教え子から離れろって言ってんのが聞こえねぇのか!?」

 

俺はゲス男に殺意をぶつけながら怒鳴る。

 

「先……生。逃げ……て。」

 

よく見ると、テレサの顔は殴られた痕が付いていて制服が焦げていた。しかも、体や足には斬られたような傷痕、そしてそこら辺に飛び散ってる血、もう我慢ならねぇ!

 

「俺っちを倒すのか?いいねぇ!いいねぇ!お前はヒーローみたいだなぁ!だけどさぁ、俺っち負ける気がしないんだわ。」

 

「どういうことだ?」

 

「俺っちのコートにはなぁ、魔術を無効化する特別製のコートなんだよ!」

 

そんなコートがあんのかよ。

 

「それがどうした?」

 

「これを聞いてもまだ諦めねえのかよぉ、まあいい。お前を殺して、このテレサちゃんもそっちに行かせてやるよ!その前にたっぷりと楽しませてもらうけどなぁ!」

 

ゲス男、こいつは人を苦しませたり、その顔をみることで欲求を満たす奴か。こいつのせいでテレサは!

 

「ハヤト先生……私に、構わないで、ハヤト先生だけでも……。」

 

「こいつは泣けるねぇ!痺れるねぇ!まさに感動の場面ってやつだねぇ!でもざ~んね~ん。テレサちゃんの先生は俺っちが殺「『友には癒しを、仇なす者には戒めを!シャインフィールド』!」ナニィ!?」

 

俺はテレサの足元に光の魔法陣を出現させ、ゲス男を衝撃波で吹き飛ばし、それと同時にテレサの傷や火傷を回復させる。

 

「お前!?これはなんだ!?魔術じゃねえのか!?」

 

「悪いな、今のは魔術じゃねえんだよ。」

 

俺がそう言うとゲス男は懐からロープを取り出し俺を縛ろうとする。はっ、馬鹿が。

 

「縛っちまえばこっちのもんだ!このロープは標的を自動的に縛り上げるロープなんだよぉ!」

 

「そんな物に縛られると思うか?『蒼破刃』!」

 

俺は魔術で刀を召喚し、衝撃波をゲス男に放って壁に激突させる。

 

「またダメージが!?お前、一体それは何だ!?」

 

「俺の『固有魔術』である『魔技開放』だ。これはてめえらが知らねえ魔法や技を使うことが出来んだよ。さっきの『シャインフィールド』は魔法だ。」

 

デメリットは、『固有魔術』を使ってる間は、魔術の出力がかなり低下することだな。

 

「こんな奴がいるなんて聞いてねぇぞ!だがここで自爆すれば俺の欲求は満たせるんだ「させるか!『目覚めよ、無慈悲で名も無き茨の女王よ、アイヴィーラッシュ』!」なにぃ!?」

 

ゲス男が自爆する前に足元から茨を出現させて縛り付ける。これで身動きは取れないな。

 

「だがこの程度なんと「こっちが本命なんだよ。『天上天下万里一空、デモンズランス!』」ギャアァァァァァ!」

 

俺は手元に魔力で出来た紫色の槍をクズ男目掛けて投げ飛ばし、当たった瞬間に爆発させる。

 

「す、すごい……。」

 

殺すのだけは勘弁してやるよゲス男、色々聞きたいことがあるしな。



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8話

「大丈夫かテレサ?『癒しの光、今ここに集え、ヒール!』」

 

「は、はい。」

 

俺はゲス男を甲冑縛りで縛った後、テレサの傷の治療をしていた。シャインフィールドは応急処置みたいもんだし、綺麗な肌が傷付いてるのは見たくねえからな。

 

「すまなかった、もっと早く来ていれば!!」

 

「大丈夫ですよハヤト先生、ハヤト先生は助けに来てくれたじゃないですか。」

 

そう言ってテレサは頬笑む。いや、微笑んでるがそれは強がりだな。体は震えているし、目は涙目になってる。

 

「そんなに強がるなよ、怖かった筈だ。今は俺しかいないから泣いてもいいんだぞ?」

 

「こ、子供じゃないんですから。な、泣きま……うぅ。ぐすっ。」

 

「俺からして見ればテレサは子供だ。辛かったな、感情を思う存分ぶつけていいぞ。」

 

俺がそう言うとテレサは静かに泣き始める。やっぱり、3年前に俺が助けたあの時の子だな。

 

「よく頑張ったな、偉いぞ。」

 

俺は泣いているテレサの頭を撫でる。まるで兄になった気分だ。

 

「おーいハヤト、終わった……か?」

 

「ちょっと!!立ち止まらないでくれ……る?」

 

ん?グレンとシスティーナが俺の方を向いた時、固まったな。なんでだ?

 

「あんた!テレサを泣かしたのね!?しかも乱暴までして!ろくでもない奴だと思っていたけど、本当にろくでもない奴ね!」

 

「違うぞシスティーナ!これは俺がやった訳ではなくてだな!」

 

テレサの服装を乱したのはそこに縛られているゲス男なんだぞ!俺はこんなことしねぇよ!

 

「うるさい!『大いなる風よ』!」

 

「ちょ、人の話を聞け!ギャアァァァ!」

 

システィーナが放った突風で俺は壁に叩き付けられた。酷くね?俺テレサを助けたのに、なんでこんな仕打ち受けてんの?

 

「システィーナ、ハヤト先生は私を助けてくれたのよ。」

 

「そうなの?なら早く言いなさいよハヤト先生!」

 

「システィーナが聞く耳持たなかったからだろ!」

 

こんの、生意気猫娘め!

 

「どうどう、落ち着けお前ら。「私は馬か!?」言い争っても時間の無駄だ。」

 

「グレンの言う通りだな、とりあえずテレサ、これを着とけ。」

 

俺はテレサにスーツの上着を渡す。まあ、今のテレサの格好がちょっと乱れすぎてるからな。にしてもテレサはスタイルいいな!ご馳走です!

 

「どうしてですかハヤト先生?」

 

「あれだ、服装が乱れてるからだな。」

 

俺がそう指摘するとテレサは顔を真っ赤にしながら、俺の上着を来た。まあ、これで大丈夫だろう。

 

「グレン、セリカに連絡は取ったか?」

 

「取ったけどよ、応援は来ないぜ。」

 

んなことだろうよ、やっぱ俺とグレンの二人で解決するしかねぇか。

 

「グレン先生、やっぱり助けは来ないんですね。私のせいでルミアが……、私悔しくて……。」

 

システィーナが俯いてポロポロと泣き始めた。まあ、多分皆を庇ってルミアはテロリストに着いていったんだろうな。

 

「先生達の言う通りだ、魔術なんてロクでもないものだった!こんなものがあるからルミアは!」

 

「泣くなバカ。」

 

しくしく泣くシスティーナの頭をグレンは撫で始めたな。

 

「ルミアはな、そうして魔術で人が悲しむ人がいなくなるような導く人になりたいって言ってたぜ?」

 

ルミアらしい夢だな。大層な夢だけど、そういうの俺は嫌いじゃないぜ。

 

「あの子がそんなことを?」

 

「大層な夢だよなアホだろ?けど立派だ。そんな奴を死なせるわけにはいかねーよな。」

 

「グレンの言う通りだ、だから安心しろテレサ、システィーナ。俺達が動くからよ。」

 

「そして残りの二人の敵も速やかに殺す。」

 

グレンがそう言った瞬間、システィーナとテレサがビクッとして体を震わせた。

 

「ケッケッケッ!そんな台詞があっさり出るなんてな、お前らもこっち側の人間かよ。」

 

……縛っておいたゲス男が起きたか。

 

「なあシスティーナちゃん、テレサちゃん、気を付けた方がいいぜぇ?二人の先生は絶対ロクな奴じゃねぇ。もう何人も殺ってきた俺らと同じ外道さ。」

 

「貴方いつから起きて!?一緒にしないでください、ハヤト先生とグレン先生は貴方達みたいな人殺しとは違います!」

 

テレサが俺とグレンを庇うようにゲス男に言ってるけど、間違いじゃないんだよな。

 

「違わねぇよ。最近会ったばかりのそいつらの何をテレサちゃんは知っているんだ?ただの三流魔術師が俺をこうしてふんじばれると本気で思ってるのか?思ってるならお目出度い頭してやがるぜ、ケケケッ!」

 

「……さてグレン、1つ聞きたいんだがいいか?」

 

「奇遇だな、俺もハヤトに1つ聞きたい事があった。」

 

「「骸骨召喚したのお前か?」」

 

何か俺の目の前に骸骨がうじゃうじゃいるんだよね。何でかな?

 

「ケッケッケッ!お出ましだァ!ナイスだぜレイクの兄ちゃんよぉ!」

 

「ッチ、いらんことすんなよ!」

 

召喚魔術『コール・ファミリア』で作り出したボーン・ゴーレムかよ。『コール・ファミリア』は小動物などのちょっとした使い魔を召喚する魔術で使い手によっては自己作成したゴーレムなども遠隔召喚したりも可能だけど、ざっと数十体いやがるな。

 

「にしても何て数だ!人間業じゃねえぞこれ!」

 

「下がってろテレサ、システィーナ。」

 

俺は向かってきた骸骨に右ストレートを放つが、骸骨の頭は砕けなかった。こいつ硬すぎ!

 

「ハヤト、お前まだまだだな。ニート生活で腕落ちたんじゃねぇの?」

 

「そういう問題じゃねえって。グレン、多分お前でも「痛って!」やっぱり。」

 

この固さ、竜の牙を素材にして作られてやがるな!そんな大盤振る舞いなんかすんなよ!

 

「この骸骨ミルク飲み過ぎだろ!」

 

「いや、煮干しの食べ過ぎだな。手がジンジンしてやらぁ。」

 

魔技や魔術を使えば倒せなくもないけど、マナを温存しておきたいんだよな、どうすっかな。

 

「「『その剣に光あれ』!」」

 

むっ、テレサとシスティーナが黒魔術『ウェポン・エンチャント』を俺達に掛けてくれたのか、助かるぜ!

 

『ウェポン・エンチャント』は魔力によって対象部位を強化することが出来る黒魔術だ。これなら骸骨も……ってあら?

 

「すまん白猫!テレサ!」

 

「えっ!?俺にはないの!?」

 

グレンがもう1回骸骨の顔面に右ストレートを放つ。すると骸骨の骨は砕けて粉々になった。けど俺には掛けてくれなかったのか骸骨は無傷だ、なんて日だ!

 

「よし、今の内に逃げるぞお前ら!」

 

「あらほいさっさ!」

 

俺はテレサとシスティーナを両脇に抱えて実験室から出る。グレン?置いてきた!

 

「ちょっとハヤト先生!?グレン先生を置いていくんですか!?」

 

「大丈夫、ちゃんとあいつなら追い付くから。」

 

「ハヤト!待ちやがれ!」

 

しばらく走っていたが、グレンの息が切れ始めたから止まる。体力ないなぁグレン。

 

「はぁ、はぁ、これで骸骨は撒けたか?」

 

グレンよそれはフラグだ、っとシスティーナとテレサを降ろさないとな。

 

「残念グレン、お前の後ろにうじゃうじゃいるぞ。」

 

しかもさっきより数増えてね?どっから出て来たんだよお前らーーー!

 

「こいつらを相手にするのはキリがねぇぞ!」

 

「グレン先生の『固有魔術』で無力化出来ないんですか!?」

 

出来たらこんな逃げ回ったりしねぇよ!

 

「無理だ!俺の『愚者の世界』はあくまで魔術の起動(・・)を妨害する術!すでに起動している魔術には意味がないんだ!」

 

「こいつらに有効なのは魔力相殺の魔術、つまり「『ディスペル・フォース』ですか!?でしたら私使えますよ!」マジかよ!?」

 

「テレサも使えるわよね!?」

 

「システィーナ程の練度はないですけど、私も一応は使えます!」

 

おいおい、『ディスペル・フォース』は高等呪文だぞ。その若さで使えるなんて、俺やグレンより優秀じゃねえか。

 

「……いや、やめとけ!この数相手じゃお前らの魔力が持たない!」

 

「ですが、この先の廊下は突き当たりで行き止まりですよ!」

 

行き止まりの廊下なんて作んなよ!

 

「おい白猫、俺とハヤトが骸骨を食い止めてる間に、お前は先に廊下の突き当たりまで行って得意の『ゲイル・ブロウ』を改変しろ。」

 

「そ、そんなの無理です!」

 

「大丈夫だ、お前は生意気だが才能はある。きっと出来るさ、生意気だからな。な・ま・い・きだからな!」

 

「生意気強調しないでください!」

 

おいおい、いきなり実戦で改変かよ。無茶な提案をするなぁグレン。

 

「テレサ、お前はシスティーナのサポートだ。」

 

「で、でもハヤト先生!私はシスティーナみたいに才能はないですし、サポート出来るんでしょうか?」

 

「大丈夫だって、もっと自分に自信を持てよテレサ。テレサは優秀な生徒なんだからさ。まあ、生意気の差でシスティーナに負けるけどな。」

 

「だから!私は生意気ではないです!」

 

「「どの口が言うんだが。」」

 

さて、俺もなんか魔法を考えておくか。範囲魔法はあるんだけど、直線上に放つ魔法はあんまねえんだよな。

 

「つーか文句言うな二人とも、もし出来なかったら単位落とすからな!」

 

「「り、理不尽だ!」」

 

世の中は理不尽だらけなんだよ。まあ、こんだけ煽ればなんとかなんだろ!

 

「分かりました、やります!テレサ、行くわよ!」

 

「ハヤト先生、グレン先生、無茶はしないでくださいね!」

 

そう言い残してシスティーナとテレサは走っていったな。これで目の前の骸骨共に集中出来る。

 

「よし、行くぞハヤト!」

 

そう言いグレンは骸骨の群れに突撃する。俺も突撃しないとな。

 

「ウラーーーーー!」

 

「どけどけーーー!骨っこ供!慰謝料は降りねぇからなぁ!」

 

いや、こいつら死んでるからなグレン!

 

「だぁぁぁぁぁ!無理、もう無理だ!死ぬぅぅぅぅ!」

 

早っ!さっきまでの勢いはどうしたんだよ!?

 

「グレン!まだ数行しか持ちこたえてねえぞ!」

 

「きついもん!こっちは素手なのに相手は武器持ってんだぞ!」

 

「持ちこたえねえと白猫にまたブーブー文句を偉そうに言われるぞ!」

 

「おっしゃぁぁぁぁ!かかってこいやカルシウム共ォォォォ!」

 

よし、グレンがピンチになった時はシスティーナの話をしよう。

 

「グレン先生!ハヤト先生!出来ました!」

 

ナイスタイミングだシスティーナ、あと数十秒しか持ちこたえれなかったからな。

 

「白猫!何節だ!?」

 

「三節です!今から唱えます!テレサ、行くわよ!」

 

「えぇ!分かったわシスティーナ!」

 

システィーナとテレサが魔術を唱えると同時に俺とグレンはシスティーナとテレサの隣に移動する。

 

「「『拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを』!」」

 

「成功したか!しかもこれは!」

 

あいつがよく使っていた『ストーム・ウォール』!?まさかまた見られるとはな!

 

「でも、完全には足止め出来ない。ごめんなさい先生!」

 

「いいや、充分だ白猫、テレサ。」

 

「でも!このままじゃ!」

 

「大丈夫だテレサ、グレンを信じろ。」

 

グレンはポケットから赤色の宝石、魔術触媒を取り出して構えた。

 

「今から使う魔術はこのカルシウム共の相手をしながらじゃ唱えられないんでね!『我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・其は摂理の円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離すべし・いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに』」

 

おいおいマジかよ!これってセリカが使っていたあの黒魔術じゃねえか!

 

「ええい!ぶっ飛べ有象無象!黒魔改『イクスティンクション・レイ』!」

 

グレンの前方に出現した魔法陣から虚数エネルギーを放つ、前方の空間を消滅させた。

 

『イクスティンクション・レイ』は炎、冷気、電撃の三属性を強引に重ね合わせることで、 虚数エネルギーによって元素まで分解する魔術。

 

かつてセリカ・アルフォネアが編み出した神殺しの魔術だけど、術者がマナ欠乏症になる程の多大な魔力を消耗してしまうデメリットもあるけどな。

 

「「す、すごい。」」

 

『イクスティンクション・レイ』が通った場所である壁や天井がものの見事に消滅していた。ヒュー、派手にやるねぇ!

 

「でも、これを使ったあとはマナ欠乏症になるんだけどな。」

 

「「グレン先生!!」」

 

グレンは倒れこんで血を吐いた。それを見たシスティーナとテレサはグレンに駆け寄る。グレンの奴、無茶しやがって。

 

「大丈夫だ、これで骸骨も全滅……何だと!?」

 

奥の方からまたわらわらと骸骨共が現れてこっちに向かってきた。新たに召喚したのか、用意周到なこって。

 

「骸骨はまだ全滅してないな。さっきの倍の数になってるぞ。」

 

「そ、そんな。」

 

グレンはマナ欠乏症、システィーナとテレサじゃ骸骨は倒せない。仕方ねえな。

 

「グレン、骸骨はこいつらで最後か?」

 

「恐らくはそうだ。だがハヤト、カルシウム共はさっきの倍の数いる。『イクスティンクション・レイ』みたいな魔術とかあるのか?」

 

「あるから聞いてるんだよ。テレサ、システィーナ、グレンを少しでも回復させとけ。」

 

さて、実戦で使うのはこれが初めてだな。上手く発動してくれよ!

 

「『大地の咆吼、其は恐れる地龍の爪牙、その身を贄にして、敵を砕かん、グランドダッシャー』!さらに『凍牙、其は非常の槍と化し、殲滅の宴を開け、凍槍、アイシクルペイン』!」

 

俺は骸骨がいる床に魔法陣を展開させ、床に展開した魔方陣から岩の槍を出現させ骸骨共を串刺にし、上空から巨大な氷柱を出現させて骸骨共に向けて落としてぺしゃんこにした。

 

「ふぅ、殲滅完了っと。」

 

上手く発動して良かった良かった。

 

「ハヤト先生!!大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫大丈夫、まだ余力は残してあるからな。グレン、立てるか?」

 

「なんとかな。それに、立ってないと敵を倒せないしな。」

 

そう言いグレンは血を拭って立ち上がる。顔色悪いな。

 

「ほう、あの骸骨を殲滅したか。たかが三流魔術師と聞いていたが、侮っていたようだ。」

 

何だ?なんか顔面に傷が付いている黒ローブの男が来たぞ?しかも剣を浮遊させてるし。

 

「「あっ、恐れ入ります。」」



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9話

「あー、もう、浮いてる剣ってだけで嫌な予感するよなぁ。あれって絶対、術者の意思で自由に動かせるとか、手練の剣士の技を記憶していて自動で動くとか、そういうやつじゃん。」

 

「しかも魔術は起動済みか。本当に厄介だな。」

 

「「先生……。」」

 

俺とグレンがブーブー文句を言ってると、システィーナとテレサがこっちを不安そうに見てくる。

 

「グレン=レーダス。前調査では第三階梯にしか過ぎない三流魔術師と聞いていたが、誤算だな。それとハヤト、調査ではグレン=レーダスと同じ第三階梯と聞いていたんだがな。」

 

「俺の事まで調べたのか。ご苦労なこって。レイクさんよ。」

 

「ほう、私の名前を知っていたか。私が予想していた以上に優秀だなハヤト。しかし三人も殺されるとは、誤算だった。」

 

いや、あのゲス男が言ってのを覚えてただけだ。

 

「二人を完全に殺したのはお前だろうが。人のせいにすんな。」

 

「命令違反だ。任務を放棄し、勝手なことをした報いだ。聞き分けのない犬に慈悲を掛けてやるほど、私は聖人じゃない。」

 

ごもっともなこって。

 

「ああ、そうかい。そりゃ厳しいことで。で、なんだ?その露骨な剣の魔導器は俺対策か?それともハヤト対策か?」

 

「知れたこと。貴様は魔術の起動を封殺できる。そんな術があるのだろう?だが起動している魔術には意味が無い。それともう片方は今魔術の出力が下がっているのだろう?『ディスペル・フォース』は使えまい。」

 

こいつ、俺の『固有魔術』のデメリットも知ってやがるのか。

 

「おい白猫、残りの魔力はどれくらいある?『ディスペル・フォース』で奴の剣を無効化出来そうか?」

 

「……あの剣、相当な魔力が宿っている。私の全魔力を使っても少し足りない。」

 

「テレサ、お前は?」

 

「は、はい。残っています。ですけど、それを相手が許してくれるのでしょうか?」

 

んー、雰囲気的に奴は油断とかしないタイプっぽいから許してくれないだろうな。仕方ない。

 

「そうか、おいグレン。」

 

「あぁ、わかった。」

 

「「先生?」」

 

「「んじゃま、とりあえず落とすわ。」」

 

グレンはシスティーナを、俺はテレサの体を押して建物から突き落とした。

 

「「ええええええぇぇぇぇぇぇ!?」」

 

「…………。」

 

レイクって奴、お前ら何してんの?って顔になってるな。仕方ねぇだろ、こうでもしないとあいつらを逃がすことは出来そうになかったからな。

 

「さてと、やりますか。」

 

「貴様らは逃げないのか?」

 

おろ?これはひっとして見逃してくれる?

 

「えっ?見逃してくれ「そんなわけないだろう。」ですよねー。」

 

「おいハヤト!来るぞ!」

 

レイクは浮遊している剣を俺達に向けて放ってくる。あの剣全てが全自動もしくは手動だったらなんとかなるか。

 

「くっ!ちぃ!」

 

「あーうぜー!ちょこまかちょこまか鬱陶しい!」

 

俺は二本、グレンは三本の剣の攻撃を弾いたり、回避する。ってこの剣、まさか!

 

「あぐっ!」

 

「グレン!」

 

グレンはちとヤバイな。マナ欠乏症に加えて素手と剣、相性は最悪だ。

 

「どうした?その程度か?」

 

「テメェ、まさかその剣。全自動と手動の両方か!?」

 

「ご名答だ魔術講師。」

 

ッチ、最悪のパターンじゃねえか!

 

「手練れの剣士の技を模した所で自動化された剣技は死んでいる。さりとて五本全てを私が動かしても、所詮私は魔術師。どちらも真の達人には通用せん。」

 

「だから三本の自動剣、二本の手動剣ってことかよ。」

 

言うは易し行うは難しだよくそったれ!異なる二つの術をここまでのレベルで使いこなすなんて並大抵の事じゃねえぞ!しかも手動剣の方も魔術師とは思えない程の剣捌きじゃねえか!

 

「だったら!『紅蓮の獅子よ・憤怒のままに・吠え「『霧散せよ』」!!」

 

『トライ・バニッシュ』を使われたか!空間内の炎熱、冷気、電撃などの3属性のエネルギーを打ち消すことが出来る魔術だから使わない筈がないか。

 

「爆炎の魔術である『ブレイズ・バースト』か。確かに逃げ場のない空間なら有効な術だが、遅いぞグレン=レーダス。」

 

「させるかよ!『裂空刃』!」

 

俺は背中に隠してある刀を取り出し、グレンに向かってくる剣を風の刃で全て打ち落とす。

 

「中々の剣技だなハヤト。今ので殺すつもりだったが、まあいい。『ブレイズ・バースト』の一説詠唱も出来んとはな、手本を見せてやろう。『炎獅子「グレン今だ!」何?」

 

「『猛き雷帝よ・極光の閃槍以て・刺し穿て』!」

 

「ちぃ!」

 

グレンはレイクに向けて『ライトニング・ピアス』を放つが、レイクは俺が弾いた二本の剣を自分の前に持ってきて『ライトニング・ピアス』を防いだ。

 

更に俺が攻撃出来ないように残りの三本で牽制しやがった。グレンがポケットから取り出そうとした『愚者』のタロットカードも見逃さなかったし、場馴れし過ぎだろこいつ!

 

「っち、最悪一本は取れると思ったんだけどな。熱・冷気・電気の耐性を付与する『トライ・レジスト』、そんなものまで付与済みかよその剣。」

 

「貴様、今のはやはり!」

 

グレンがやろうとしていたことを説明すると、『マナ・バイオリズム』を狂わせること。まあ魔術を使用するために必要なマナの状態は三つある。

 

通常の状態をニュートラル、制御している状態をロウ、マナが乱れた状態をカオスって言うんだ。

 

魔術を使うには精神集中や呼吸法によってニュートラル状態の『マナ・バイオリズム』をロウ状態にしないといけないんだ。

 

魔術を使った後、『マナ・バイオリズム』は一気にカオス状態にまで落ちる。まあ、落ち方は魔術の規模によって異なるけど。

 

そしてカオス状態の時はいかなる魔術師でも魔術を扱う事は出来ない。これらが魔術の絶対法則なんだ。

 

「あのまま『ブレイズ・バースト』を使用したら貴様の封印魔術によって起動が封じられ、その上私のマナはカオス状態になって一時的に剣が動かせなくなって、貴様は近接戦で私を倒そうとしただろう。」

 

分析力も高いなこいつ。

 

「だが剣で迎え撃とうとすれば、そのまま『ライトニング・ピアス』に撃たれていた。保険として『トライ・レジスト』を付与していたから防げた。更にハヤト、貴様はもし先程の二つの作戦が失敗したら私に攻撃しようとしただろう。」

 

自動化の三本の剣によって防がれたけどな。

 

「僅かな時間で私に突き付けた三つの選択肢。貴様ら、一体何者だ?」

 

「「ただの講師だよ。非常勤だけどな。」」

 

あの様子からして二度目は引っ掛かってくれなさそうだな。しかもシスティーナがグレンに掛けてくれた『ウェポン・エンチャント』の効果も切れそうだし。こりゃ覚悟を決めるしかねぇか。

 

「そうか、なら貴様らに敬意を表そう。私を相手にここまで戦えたのは貴様らが初めてだ。死ね!!」

 

そう言いレイクは浮遊している剣5本をグレンに突き刺した。これはいけるか!?

 

「俺を忘れ「忘れてはいない。」な、に。」

 

俺にも五本の剣が刺さってる?あいつ!?

 

「五本しかないと思ったか?保険としてもうワンセット隠していたまでだ。」

 

「だろうな!グレン今だ!」

 

「『原初の力よ・正負均衡保ちて・零に帰せ』!」

 

グレンは『ディスペル・フォース』を唱えたけど、今の魔力量だと剣の魔力を少々削れただけか。だがそれでいい。

 

「悪足掻きか、だがそれもし「「『力よ無に帰せ』!!」」先程の小娘共!?」

 

ようやく来たか、テレサとシスティーナのありったけの魔力を使って五本の剣を無力化したな。って全部グレンの剣かよ。

 

「だが残りの五本で仕留めれば!!」

 

「させっかよ!『陵、其は崩壊の序曲を刻みし者、 重圧、エアプレッシャー』!」

 

俺は自分の周りの重圧を上げて、刺さっている剣を抜けなくする。くそっ、思った以上にキツいぞこれ!

 

「「ハヤト先生!?」」

 

「自分ごとだと!?『目覚めよやい「おっせぇ!」がはっ!」

 

グレンは刺さっていた剣の一つを掴み、『愚者の世界』で魔術起動を封印した後に剣をレイクの急所を刺した。ふぅ、エアプレッシャー解除と。

 

「そうか、思い出したぞ。つい最近まで帝国宮廷魔導師団に一人、凄腕の魔術師殺しがいたそうだ。いかなる術理を用いたのか預かり知らぬが、魔術を封殺する魔術を持って、反社会的な外道魔術師達を一方的に殺して廻った帝国子飼いの暗殺者。」

 

「それも、知っていやがったのか。」

 

「活動期間はおよそ三年。その間に始末した達人級の外道魔術師の数は明らかになっているだけでも二十四人。その誰もが敗れる姿など想像もつかなかった凄腕ばかり。裏の魔術師達の誰もが恐れた魔術師殺し、コードネームは。『愚者』」

 

そこまで解説した後、レイクは口から血を吐いた。さて、剣を抜くか。うわっ!痛てぇなこりゃ!

 

「それと、半年前まで帝国宮廷魔導師団に所属し、『愚者』と同じように反社会的な外道魔術師達を、魔術ではなく魔法と剣技で殺していった化物がいたと。」

 

「……。」

 

「『愚者』がいなくなっても、その代わりとして活動していた。始末した魔術師は少なくても30人以上、しかも全員達人以上の実力者。さらにセリカ・アルフォネアと互角の戦いをしたという伝説を残した。コードネームは『未知』、だがハヤト。貴様が使っている『未知』の魔法と剣技は貴様ではなく彼女(・・)の筈だ。な、ぜ、貴様が……。」

 

レイクは何故と言いたけば表情のまま動かなくなった。ってか、何でこのタイミングで解説すんの?要らなくね?

 

「「胸糞悪い事させやがって。」」

 

「「先生!!大丈夫ですか!?」」

 

「なんとかな、よく俺の意図が分かったな白猫?」

 

グレンがそう言った時、システィーナは涙目になっていた。

 

「グレン先生は、何の意味もなく行動するとは思えませんでしたから。」

 

「多分、7割くらい駄目だと思ってた。」

 

それな、本当にそれな!

 

「ハヤト先生。」

 

「ん?どしたテレサ?」

 

何故驚いた表情をしているんだ?何か俺に付いているのか?

 

「その出血量、大丈夫ですか!?」

 

足元を見たら、血だまりが出来ていた。まあ、15分以内に治せば大丈夫でしょ。

 

「……俺よりもグレンを診てやってくれ。」

 

グレンは、倒れたな。まあ、マナ欠乏症に大量出血、そりゃ倒れるわ。

 

「「『慈愛の天使よ・彼の者に安らぎを・救いの御手を』」」

 

システィーナとテレサはグレンに『ライフ・アップ』を掛けたな。

 

「やっぱ、駄目だったか。」

 

「「えっ?」」

 

「正義の魔術使いになりたかった。」

 

そう言ってグレンは意識を失った。思い出さないようにしていた過去を思い出したのか。

 

「さて、俺は座って休むか。その前にシスティーナ、テレサ。」

 

俺はシスティーナとテレサがこっち向いた瞬間に水色のグミを口に向かって放り投げる。

 

「「あむっ、なんですかこれ?」」

 

「マナと体力の回復を早めるグミだ。」

 

俺も水色のグミを食べてと。うん、ミラクルな味だな。

 

「テレサ、システィーナ、俺は少し寝る。」

 

「ハヤト先生!」

 

「そんな顔すんなよ。少し寝るだけだ。」

 

おやすみー、いい夢を見よう。

 

******

 

「ん?ふあぁ。よく寝たな。」

 

何時間寝たかわかんねえな。システィーナとテレサは寝ているのか。

 

「起きたのかハヤト。」

 

「グレン、目が覚めたんだな。ん?セリカと連絡していたのか?」

 

グレンは立ってストレッチをしていたが、傷が傷むのかしかめっ面になる。

 

「ああ、お陰で黒幕がいる場所が分かった。俺はルミアを助けに行く。ハヤトは白猫とテレサを見ていてくれ。」

 

「わかった、これを持っていってくれ。」

 

俺はグレンに腕時計を渡す。まあ、ただの腕時計じゃねえけどな。

 

「それは俺と通信出来る腕時計だ。何かあったら呼べよ?」

 

「分かった、にしてもハヤト。テレサはあいつに似てるよな。あいつと重ねているのか?」

 

「ッ!早く行けグレン!お前だってシスティーナをあいつと重ねているだろ!」

 

重ねちゃいけないのは分かってる。けど!

 

「……悪い、じゃあ行ってくる。」

 

そう言ってグレンはルミアが捕らえられている所に向かって走っていった。

 

「時刻は夕方、寝ていたのは数時間程度か。」

 

「あら、寝ていないのですね。」

 

「誰だ!?」

 

後ろから声が聞こえたから振り替えったら、黒髪のショートカットで緑色のメイド服を来た女性がいた。

 

「そう身構えなくてもよろしいのではなくて?私はただのメイドですわ。」

 

「んじゃあ、その殺気をしまえよ。二人が起きちまうだろうが、天の智慧研究会の者。」

 

天の智慧研究会、これが今回のテロリスト達がいた組織だ。簡単に言うと魔術の真理を追い求めるに当たって外道な手段も躊躇なく使うイカれた組織だ。

 

「隠していたつもりなんですが、気付くとは流石コードネーム『未知』ですわね。」

 

そう言いながらメイドは笑う。何の用なんだ?胡散臭いオーラが匂うぜ全く。

 

「『未知』は俺じゃねえんだけど?そこんとこ分かってるお前?」

 

「存じておりますわ。さて、王女はあの愚者が助けると思いますので、そこの二人を人質に捕ろうと思っていたのですが、貴方がいたのでは無理ですね。」

 

「無理ならここに来ないだろ、何かしたな?エレノア=シャーレット。」

 

メイドの名前を当てると、エレノアは口角を最大まで吊り上げて微笑んだ。こえーなおい。

 

「まあ、私の名前を知っているなんて光栄ですわハヤト様。ええ、私の可愛い子供達を呼びましたのよ?」

 

エレノアがそう言うと後ろの廊下から大量のゾンビが出現した。一、十、百、って多すぎだろ!

 

「テメェ、何体召喚しやがった!?」

 

「それは秘密でごさいます。さて、どうします?そこの二人を私にくれるのならハヤト様は見逃してあげますわよ?」

 

「ほざけネクロマンサー、教え子を危ない奴に渡すかよ。」

 

「そうですか、なら私の子達と優雅な一時をお過ごしくださいませ。」

 

「逃がすか!!」

 

俺はエレノアに刀を投げ付けるが、その前にエレノアはスカートを捲し上げて礼をし、消えていった。

 

「逃がしたか、それよりもゾンビをなんとかしねえとな!!」

 

マナは、全快じゃねえけどそれなりにある。ったくバイオ○ザードじゃねえんだからよぉ。

 

「さてゾンビ供、お前らの姿は女の子には見せられねぇ。だから駆逐してやんよぉ!!」

 

1対100?200?上等、1匹残らず倒してやらぁ!!



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10話

やぁ、ハヤトーです。まずゾンビ供、お前らから血祭りにあげてやる!

 

「っと、その前にシスティーナとテレサを保護しないとな。『魔技解放』」

 

なんか結界みたいな魔法あったっけな?うーん。

 

「そうだ、あれがあったな。『堅固たる護り手の調べ、フォースフィールド』!」

 

寝ているシスティーナとテレサの周りを囲うように透明な結界を張ってと。

 

「さて、ゾンビ狩りの時間じゃぁぁぁぁぁ!」

 

俺はゾンビの群れに突っ込んでいって、まず1体目を蹴り飛ばす。その次に2体目の体を真っ二つにする。

 

「まだまだぁ!」

 

三体目の首を斬り、四体目も同様に斬る。その後、払い斬りでゾンビ供を吹き飛ばす。

 

「『雷雲よ、我が刃となりて敵を貫け、サンダーブレード』!」

 

吹き飛ばし切れなかったゾンビ供に向けて雷を纏った巨大な剣を上からぶっ刺す。これで何体目だ?

 

「クスクス、隙だらけですわよ?『吠えよ炎獅子』」

 

「何っ!?あっつ!」

 

ぐっ!『ブレイズ・バースト』を背中にもろ喰らった。体が焼けちまう!

 

「逃げたと思いましたか?残念、気が変わったのですよ。」

 

「そのまま帰れよ!戻ってくんな!」

 

「あら、冷たいお方。こんなにも美人な人に冷たくするなんて、もったいないですわよ?」

 

確かにエレノアは見た目は美人だ、けどこいつから危ない匂いがプンプンすんだよ!

 

「ほらほら、私に気を取られてていいんですか?私の子供達も遊んでほしいと言っておりますわよ?」

 

「あぐっ!遊ぶなら、ラグー○シティにでも行ってろや!」

 

俺の背中を爪で切ってきたゾンビをエルボーで頭を吹き飛ばす。続けて横にいたゾンビにアッパーカットをして怯ませ、腹を切り裂く。

 

「面倒くせえ!一網打尽にしてやる。『渦巻くは、紺青の誘い、メイルシュトローム』!」

 

俺の足元に次第に大きくなる渦潮を展開し、ゾンビ供を捩ってぐちゃぐちゃにする。これで大分減ったか?

 

「あぁ!私の知らない魔術ばかり、もっとお見せくださいませハヤト様!」

 

「うるせぇ!黙りやがッ!」

 

くそっ、バラバラになった筈のゾンビの腕が俺の足に刺さっていやがった。『メイルシュトローム』じゃ駄目か!

 

「あのくらいの魔術では、私の子供達を倒すことは出来ませんよ。」

 

「だったらお前を狙えばいい!『抜砕竜斬』!」

 

俺はエレノアの背後を駆け抜けるのと同時に居合い斬りを放ち、エレノアの両手を斬り落とす。

 

「剣術も見事な腕前、段々貴方が欲しくなってきましたわ!」

 

「丁重にお断りす……っち、再生しやがったか。」

 

一瞬で再生しやがった。何なのお前?魔人○ウか何かですか?

 

「さて、今日はこのくらいで引き下がると致しましょう。あとは私の子供達とお過ごしください。」

 

「待ちやが「あと、後ろにご注意くださいませ。」がはっ!!」

 

振り向いたらゾンビがナイフを俺に投げ付けた。ゾンビも武器持つのかよ!

 

「はぁ、はぁ、くそったれが!」

 

ゾンビ女には逃げられるし、さっきの投げ付けられたナイフは肩と腹に刺さったし。うげっ、頭にも刺さったのか。

 

「おいハヤト!聞こえるか!?」

 

「んだよグレン!?こっちは忙しいんだ!通話なら後にしろ!」

 

「じゃあ勝手に話すからな!転送塔にルミアが捕らわれているんだが、その転送塔の入り口をゴーレムが数十体で守っているんだ!」

 

そっちは足止めを喰らってるのかよ。用意周到な黒幕だな本当!

 

「『ブレイズ・バースト』を使えば倒せるが、一体だけなんだ!」

 

「分かった、なら俺がそっちに行ってなんとかしてやるからそこから動くなよ!」

 

俺はグレンが『イクスティンクション・レイ』で消滅させた壁から外に飛び出す。ゾンビ共もこっちに向かってくるな。

 

「さて、楽しい鬼ごっこといこうか。あっ、頭に刺さってるナイフは抜いとかねぇとな。」

 

******

 

「来たかハヤト……って後ろにいるゾンビの大軍は何なんだよ!?」

 

グレンのいる転送塔の前までゾンビと鬼ごっこしながら向かっていると、グレンが俺を見て一瞬安堵したけどゾンビを見てギョッとした表情になった。

 

「傍迷惑なメイドが置いていったんだよ。いやぁ、モテる男は辛いねぇ~。」

 

「ゾンビなんかにモテても嬉しくねぇな。さてお前も見たから分かると思うが、転送塔の入り口を守るようにゴーレムが徘徊している。どう突破する?」

 

突破?なんだそんな簡単な話かよ。

 

「よしグレン、転送塔の方を向いてろ。」

 

「あ?あぁ。」

 

グレンは俺の言葉通りに転送塔の方に体を向けた。さてと、グレンから少し距離を取ってと。

 

「ハヤト?こっから何すればいいんだ?」

 

「喋らない方がいいぞグレン?舌噛むかもしれないからな。」

 

「おい、本当に何す「ぶっ飛びやがれ!『獅子戦吼』!」ハヤトてめぇぇぇぇぇぇ!!」

 

助走を付けてグレンの背中に獅子の形をした闘気を叩き付け、転送塔の入り口目掛けて吹き飛ばす。ゴーレムなんか無視するに限るからな。

 

「おし、グレンは無事に転送塔の中に入ったな!」

 

「無事じゃねえわ!傷口がバックリと開いたぞ!どうしてくれんだハヤト!」

 

文句言うなよグレン。これしか方法が思い浮かばなかったんだよ。

 

「ほら、さっさと登ってルミアを助けに行け。俺は後ろから迫ってくるゾンビとゴーレムを倒してから行くからな。」

 

「……すまねぇ、そっちは任せたぞ!」

 

グレンは転送塔の階段を登っていったな。さて、そろそろゾンビが俺に追い付いてくるし、ゴーレムは俺に気付いてこっちに向かってきたな。

 

「グレンがルミアを助けた後にこいつらが居たらヤバいからな。しかも半端な魔法じゃ駄目だろうし、これは完全に消滅させねえとな。いいぜ、やってやるよ。」

 

切り札の一つを使っちまうけど、仕方ないか。こいつら野放しにしたら教え子達が危ない。

 

「『天光満つる処に・我はあり・開け黄泉の門・この名を持ちて出でよ・神の雷・インディグネイション』!」

 

ゾンビとゴーレムを囲うように紫の巨大魔法陣を展開させ、上空の遥か彼方から巨大な雷を撃ち落とす。威力?『イクスティンクション・レイ』と同等と考えてくれればいい。

 

「ゲホッ!ゴホッ!流石秘奥義、威力がえげつねぇし、持っていかれるマナもえげつねぇ。」

 

ゾンビとゴーレムがいた所の建物は消滅し、見るも無惨な姿になっていた。システィーナとテレサ?大丈夫、結界で守ったから無事だ。多分。

 

「あっ、さっきの『インディグネイション』で学院の建物が崩壊寸前じゃねえか。」

 

後でセリカに怒られるな絶対。いや、これはテロリストのせいにすればいいんだ!俺は悪くねぇ!

 

「って呑気にそんなこと考えてる場合じゃねぇ!早く俺も転送塔を登らねぇと!」

 

******

 

「先生!私に構わず逃げてください!」

 

「うるせぇ!少し黙ってろ!」

 

ルミアが捕らえられている所の階段を登っていたらグレンとルミアの声が聞こえてきた。ルミアを拘束している魔術が凄いのか。

 

「これ以上魔術を使い続けたら先生が死んじゃいます!」

 

「あぁ、そりゃ白猫が大喜びだな!」

 

くそ、今すぐにでも助けに向かいてえけど、体が言うこと聞かねぇ!魔技を使い過ぎたか、まるで鉛を背負ってるみたいだ!

 

「そんな!どうしてそこまでするんですか!?自分の命を賭けてまで!?」

 

「俺は、正義の魔術使いに憧れていた。だが魔術の世界には薄汚ない血みどろの現実しかなかった。ほんと、人生の無駄遣いだったよ。」

 

確かにな、グレンの言う通りだ。本当に、あの3年間は何をしていたんだかわからねえよ。

 

「それでも、やっぱり諦め切れないんだよ!」

 

グレン、大切な人であったセラを思い出しているのか。そうだよな、諦め切れねえよな!

 

「ここで逃げたら、俺の人生は一体何だったんだ?正義の魔法使いに賭けた人生、無意味だったのは分かっている。だが、無価値にだけはしたくねえんだ!」

 

あぁ、その通りだ。俺も逃げたら、あいつに、シェリーに合わす顔がねぇ!

 

「文句あるかこんちくしょぉぉぉぉぉ!」

 

「残り一層、先生!」

 

俺が着く前に終わりそうだな。でも、嫌な予感がする!

 

「がはっ!こ、こんなところで!」

 

「先生!!」

 

グレン、もう少しだぞ。踏ん張れよ、踏ん張りやがれよ!

 

「くそっ、冗談じゃねえ。こっちのマナが先に切れるなんて!」

 

「先生!しっかりしてください!」

 

「だが、これを解けば!!」

 

「そう上手くは行きませんよ。」

 

何だ?犯人の声か?一体どうなった!?

 

「な、何で……。グレン先生が解除した筈の魔方陣が再び現れるなんて。」

 

「残り一層になった時、予備の魔力でもう一度転送魔法陣を作るようにしておいたんですよ。もしもの時の為にね、念を入れておいて正解でした。」

 

この声、前任のヒューイか!ふざけやがって!

 

「はぁ、はぁ、ごめんなルミア。」

 

「先生!グレン先生!起きてくださいよ!?」

 

「ゲームオーバーですグレン先生。さて残り3分、そろそろですね。」

 

「何がゲームオーバーだくそ野郎。」

 

俺は半開きになっていた扉を蹴り飛ばして中に入る。中央には魔方陣に捕らわれているルミア、その斜め前にはヒューイ。そして、魔法陣の前で倒れているグレンがいた。

 

なるほど、転送魔方陣を書き換えてルミアを何処かに飛ばそうとしているのか。しかも飛ばした後にヒューイの魂を使って大爆発を起こすようになっていると。

 

「おや、貴方がもう一人の先生ですか。でももう何もかもお仕舞いですよ。」

 

「ハヤト先生逃げてください!グレン先生と一緒に逃げてください!」

 

逃げる?そんな選択肢はねえんだよ。

 

「逃げねえよ、俺もグレンも。魔法陣を解除してルミアを助けるからな!」

 

「残り3分で何が出来るんですか?貴方の『魔技解放』は解除魔術はないはずです。『愚者の世界』はもう切れてますけどね。」

 

んなこたぁわかってんだよ!そもそも『魔技解放』はここでは使わねぇ。

 

「ルミア、今助けるからな。」

 

「どうして、どうしてそこまでするんですか!?私には守られる価値なんてないのに。そんな傷まで負って。」

 

所々に血の痕、なるほどな。

 

「グレン、お前はやっぱりすげえよ。」

 

俺は両手首を噛み、懐から巻物を取り出して開き、それに端から端まで一直線に血の線を引き、それを振り回して術式を唱える。

 

「ルミア、文句は後で聞いてやる。『原初の力よ・我が血潮に通いて道を為せ』!」

 

『ブラッド・キャタライズ』の詠唱が終わると俺の左腕が青白く光始める。出来れば使いたくない手段だけど、そうも言ってられないからな。

 

『ブラッド・キャタライズ』は自身の血を魔力処理&触媒化させる魔術。これによって解呪による魔術式の文字を描いたりすることが出来る。

 

「スゥー、フゥー。オラァ!」

 

「ハ、ハヤト先生!?何しているんですか!?」

 

「まさか、そこまでするとは。本当に貴方達には恐れ入ります。」

 

ルミアとヒューイは驚いているな。無理もない、俺は背中に隠してある刀を右手に持って、左肩から先を切り落としたからな。

 

「グレン!俺が四層解除するから残り一層はテメェが解除しやがれ!『終えよ天鎖・静寂の基底・理の頚木は此処に解放すべし』!」

 

切り落とした左腕を魔方陣の上に投げ捨て、左腕を魔術触媒にして黒魔犠『イレイズ』の詠唱をし終わると、転送魔法陣の五層の内四層が解除された。

 

『イレイズ』は解呪をおこなうことが出来る魔術だ。左腕を犠牲にしたからあわよくば全て解除出来ると思ったんだが、そう甘くねえか。

 

「くっ!出血が止まらねぇ!『魔技解放』から『光よ集え、全治の輝きを持ちて、彼の者を救え、キュア』!」

 

回復魔法を使って左腕を再生したけど、傷口から出血が止まらねぇ。マナがもう残ってねぇのか!

 

「もういいです!どうして、どうしてそこまでするんですか!?グレン先生もハヤト先生も!?」

 

「どうしてだって?教え子を守るのが講師の役目だ。それに、救える筈だった人を救えなかった。そんな事はもうしたくねえんだ!!」

 

体が、動かねぇ。あと数十歩歩くだけでいいんだよ!動けやくそったれぇぇぇぇぇ!

 

「グレン先生やハヤト先生がボロボロになるまで頑張ってくれている。私だって、私だって!」

 

そう言ってルミアは閉じ込められている所を無理やり穴を空けてグレンの体に触れた。

 

「やった、諦めなかったから届いた!先生、受け取ってください。」

 

ルミアがそう言うと、グレンの体が黄色い光に包まれた。この力!なるほど、だからルミアは狙われたのか。

 

「ッ!魔力がみなぎってくる。」

 

噂程度には聞いていたが、触れたものの魔力を爆発的に高める異能を持つ存在である『感応増幅者』!グレンの魔力をほぼ回復させやがった、これほどとはな!

 

「『終えよ天鎖・静寂の基底・理の頚木は此処に解放すべし』!!」

 

グレンは血を媒体にして『イレイズ』を唱え、転送魔法陣を解除した。って力込めすぎだろグレン!衝撃が半端ない!

 

「僕の、負けですか。組織の言いなりになって死ぬか、組織に逆らって死ぬか、僕はどうすれば良かったんでしょうかね。」

 

「知らねえよ、同情はするが自分で道を選ばなかったお前が悪いんだろ。てめえの不始末は、てめえで片付けろ!」

 

グレンの言う通りだな。おっ、体が動く。よっこらせっと。

 

「それじゃ、歯ぁ食いしばれ!」

 

グレンはヒューイの顔面を思いっきり殴り、気絶させる。すげぇ、上○みたいにワンパンで気絶させやがった!

 

「……。」

 

「グレン先生!」

 

グレンはヒューイを殴った後、壁に体を預けて気絶した。やれやれやっと終わったか。

 

「ルミア、膝枕してやれ。枕があった方が寝やすいからな。」

 

「ハヤト先生は!?今にも倒れそうじゃないですか!?」

 

えっ?俺にもしてくれるパターンか!?是非ともしてもらいたいねぇ!けど、今回はグレンに譲ってやるか。

 

「後始末だよ。どっかの誰かが血を大量に流したからその掃除。」

 

血が付いてる部屋で寝たくないからな。『アクアエッジ』っと。

 

「水の魔術、初めて見ました。」

 

「これで大丈夫だな、あとは「「先生!無事ですか!?」」来たか。」

 

システィーナとテレサが来た。二人ともグレンに駆け寄って行ったな。

 

「しー、二人ともそんなに大声出したらグレン先生が起きちゃうよ。」

 

ルミアはそう言い寝ているグレンの頭を撫でる。羨ましいぜグレン!俺も頑張ったからそういうのあってもいいよね!?

 

「というわけだ。システィーナ、テレサ。テロは解決したから教室に行って皆に伝えてくれ。」

 

さて、俺も教室に戻りますか……な。あれ?

 

「「ハヤト先生!?」」

 

「あれ?おっかしいな?視界が傾いてるぞ?俺立っていたよな?テレサ、説明プリーズ。」

 

「ハヤト先生が地面に倒れてるからですよ!」

 

そうなのかー、通りで体が動かない訳だ。あはははー、頭が働かないぞー。

 

「すまん、体が動かないから先に教室行ってて。」

 

「その状態の先生を放っておけません!」

 

ん?頬に柔らかい感触が。あー、なんか眠たくなってきた。

 

「システィーナ、私はここでハヤト先生を見てるから教室に行って皆に報告をお願いね。」

 

「わかったわ。」

 

「ハヤト先生、ルミアを助けてくれてありがとうございます。」

 

「私からもお礼を言いますね。ハヤト先生、ありがとうございます。」

 

ありがとうか、久しぶりに聞いたな。涙が出そうだぜ全く。

 

******

 

「ルミアがまさか3年前に死んだ筈の王女だったとはなぁ。」

 

テロから1月後、俺とグレンは学院の屋上でセリカからルミアの正体を聞いた。

 

「事情を知った俺とハヤト、白猫とテレサには秘密を守るように国から協力要請があったよ。ったく、面倒事を押し付けられたもんだ。」

 

「異能者に対する恨みは根強い。それが王族なら国がひっくり返る。」

 

「学院内でも知っているのは、セリカと学院長くらいってところか?」

 

「その通りだハヤト。」

 

まあ、それ以外の人に広めたら色々まずいからな。

 

「まあ、どうでもいいけど。」

 

「それにしても、どうして講師を続ける気になったんだグレン?」

 

セリカがグレンにそう訊ねると、下からシスティーナとルミアの声が聞こえてきた。

 

「グレン先生ーー!」

 

「さっきの授業、言いたい事があるんですけど!」

 

グレンはルミアとシスティーナを見て、微笑んだ。

 

「まっ、自分の人生の失敗を魔術のせいにするのは止めたのさ。もう少しだけ前向きに生きてもいいかなってね。それに、見てみたくなったんだよ。あいつらがこれから何をやってくれるか、暇潰しには丁度いいだろ?」

 

グレンはそう言ってシスティーナとルミアがいる所に向かっていった。

 

「素直じゃねえなあいつ。」

 

「確かにな、ところでハヤト。何でハヤトは呼ばれなかったんだ?」

 

「さっきの授業、俺は黒板に文章を書いてただけだからな。解説ならグレンの方がいいと考えたんだろ。」

 

グレンは講師を続ける事になったけど、俺はまだ非常勤だからな。

 

「なあセリカ、俺はここに居てもいいのか?」

 

「それは自分で決めろ。まあ、少なくても私は居てもいいと考えてるがな。」

 

「ハヤト先生!」

 

呼ばれたから下を見ると、テレサとルミアが俺に向けて手を振っていた。システィーナは、腰に手を当てているな。

 

「グレン先生だけじゃ不安だからハヤト先生も来てください!」

 

「「あはははは。」」

 

システィーナがいった言葉に対してテレサとルミアが笑っているな。やれやれ、行くしかないな。

 

「もう少し考えてみるさ。セリカ、ありがとな。」

 

「気にするな、お前はグレンの親友だからな。面倒を見るくらいはしてもいいだろ。」

 

俺は屋上から飛び降りて、グレンの隣に着地する。さて、また頑張りますか!



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11話

この話はリメイク前の作品の第6話の話です。内容はほぼ変更がないので、飛ばしてもらっても構いません。


「さて、グレン。早速だけど稽古を付けてやる。」

 

学院襲撃テロから日数が経ち、平和な日々を過ごしていた。だが俺とグレンには関係ない!

 

「なんだよハヤト、折角の休日だからカジノでも行こうと思ってたのによぉ。」

 

「お前、それだから貯金出来ねえんだよ。俺に勝ったら行っていいぞ。」

 

今は学院の中庭にいるぞ。グレンの奴、今日は休みなのに出勤したからな。ウーケールー。まあ、敢えて嘘を教えたんですけどね。

 

「ったく、面倒くせえことしやがって。」

 

何故突然稽古だって?テロの時にグレンの実力がかな~り下がってたからな、少しでも全盛期に戻したい。

 

「魔術、格闘、なんでもありだけど『愚者の世界』は使うなよ?」

 

「そっちこそ、『魔技解放』は使うんじゃねえぞ?」

 

「え?駄目なの?」

 

「駄目に決まってんだろ!!何で俺の固有魔術が駄目でハヤトの固有魔術がいいって事になんだよ!?」

 

ちえっ、グレンをボッコボコに出来るチャンスだったのに、まあいいや。

 

「勝敗は負けを認めるまで。じゃあ行くぞグレン!」

 

「おっしゃぁぁぁ!来いやぁぁぁぁぁ!俺が勝ったらお前もカジノに付き合ってもらうぞ!」

 

げっ!それは勘弁だな。俺賭け事なんて苦手だし。

 

「まずは小手調べだ、『貫け雷槍』!」

 

「いきなり『ライトニング・ピアス』かよ!?うわっ、あぶな!?」

 

グレンの足目掛けて放ったけど、ジャンプで避けられたか。勘は鈍ってないみたいだな。

 

「おいハヤト!俺は三節詠唱しか出来ねぇんだぞ!少しは手加減しやがれ!」

 

「手加減ってなんだぁ?グレン?」

 

「だーもうムカつくぜ!」

 

グレンはそう言い、俺に格闘での近接戦を仕掛けてきた。俺格闘はあんまり得意じゃないんだよな。

 

「くっ、この!当たれよ!」

 

「やーだね。誰が当たるもんか、グレンのパンチ痛いからやだ!」

 

俺はグレンの攻撃をいなし、たまに反撃しながら様子を伺う。ふむ、近接じゃ分が悪いな。

 

「そろそろ当たれ!カジノが俺を呼んでいる!」

 

「いいよ、グレンのパンチ喰らってやるよ。」

 

俺がそう言うと、グレンは動きを止めて警戒する。なんだ?来ないのか?

 

「あれー?もしかしてびびったかー?ほらほらグレンちゃん、かかっておいでー!」

 

「お前、泣かしてやる!」

 

おしおし、突っ込んで来たな。計画通りだぜ!

 

「かかったなアホが!『大いなる風よ』!」

 

俺は突っ込んで来たグレンを吹き飛ばそうと『ゲイル・ブロウ』を放つが、グレンは横っ跳びで避けた。ありゃ、外れた。

 

「ハッハハハ!俺がそんな見え見えの挑発に乗るわけないだろ!残念だったな!」

 

「いや、想定内だし。『拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを』!」

 

「ちょ!?お前、それ白猫が使ってた『ストーム・ウォール』じゃねえか!?堂々とパクりやがった!」

 

教え子が使ってるんだから、俺も使っていい筈だ!異論は認めない。

 

「こりゃ想像以上の威力だな。けど、動けないわけじゃねえ。『紅蓮の獅子よ・憤怒のままに「『集え暴風・戦鎚となりて・撃ち据えよ』!」お前早口過ぎだろ!待て待てって!」

 

「あーん?聞こえないなぁ。もっと腹から声出せ!」

 

俺は『ストーム・ウォール』を解除した後、すぐ『ブラスト・ブロウ』でグレンを攻撃する。大人げない?知らんな。

 

「うぎゃぁぁぁぁ!」

 

「ホームラン!さて、グレンを回収しないとな。」

 

逃げられたら困るし、回収回収。

 

*******

 

「お願いしますハヤトさん、カジノに行かせてくださいこのとーり!」

 

勝負は俺の勝ち。でもグレンは余程カジノに行きたいのか、めっちゃ綺麗な土下座をしてくる。無駄に洗礼された無駄のない無駄なスキルだな。

 

「駄目だ、そもそも賭け事に弱いグレンがカジノに行ってもぼろ負けするのが落ちだろ。」

 

「今日は、今日はなんだかいけそうな気がするんだ!だからお願いしますカジノに行かせてください何でもしますんで!」

 

「ん?今何でもするって言った「金と労働以外の事でオナシャス!」こいつ~!」

 

グレンがそこまで言うんだったら、俺は最終兵器を出すしかないな!

 

「ということで、カジノに行ってきま~す!」

 

「グレン、セリカを呼ぶぞ?」

 

「本当に申し訳ございませんでしたハヤト様!だからそれだけは勘弁してください!」

 

うわぁ、また綺麗な土下座。グレンはどんだけ土下座の練習したんだよ……、もっと違うものに力を使えよ。

 

「あれ?グレン先生にハヤト先生、ここで何をしているんですか?」

 

「おうルミア、ちょっとグレンを懲らしめていた所だ。」

 

「懲らしめてって、グレン先生が土下座してるじゃない。ハヤト先生何したんですか?」

 

ルミアとシスティーナか、しかも制服じゃなくて私服だと!?ヘソやお腹が見れないじゃないか!

 

「聞いてくれよ白猫!俺は単にカジノに行きたいだけなのに、ハヤトが止めてくるんだ!しかも武力公使までしてだぞ、酷くないか!?」

 

「知りませんよそんなこと。」

 

「あはは、暴力は流石にやり過ぎだと思うなぁ。」

 

「有り金を全部ギャンブルに使う奴に慈悲はない。ギャンブル中毒者死すべし。」

 

俺がそう言うと、システィーナはグレンをジト目で見下ろし、ルミアは苦笑いをする。

 

「と言うわけでグレン、要するに暇なんだろ?だったら「カジノに行っていいって事だな!」話を最後まで聞けアホ。」

 

「ノーノー!アイアンクローは駄目だって、痛い痛い痛い痛い!助けてパパー!」

 

「誰がパパだアホグレン!」

 

俺はグレンにアイアンクローをした後、地面に叩き付ける。母なる大地とキスでもしてろ。

 

「ハヤト先生、いくらなんでもやり過ぎですよ。」

 

「大丈夫だ、問題ない。話がそれたな、グレン、システィーナとルミアとどっか出掛けたらどうだ?」

 

「はぁ!?どどどどうしてグレン先生と出掛けなきゃならないんですか!?」

 

システィーナ、動揺し過ぎだろ、別にデートってわけじゃねえだろ。でも、この反応、面白くなりそうだ!

 

「私はいいですけど、システィはどう?」

 

「し、仕方ないわね。グレン先生、またルミアに変なことしたら吹き飛ばしますからね!」

 

よし、二人の了承は得られたな。あとはグレンだけだが、うっわ、行きたくねぇオーラ全開だ。

 

「ルミアはいいとして、何で白猫と出掛けなきゃなんねえんだよ。面倒くせえからい「ほれ、費用を渡してやるからさ。」よし二人とも、俺に付いてこい!」

 

変り身はえー、二人とも困ってんぞ。

 

「ハヤト先生は来ないんですか?」

 

「超行きたい!けど、やることがあるから行けねえんだよ。まっ、楽しんできな。」

 

「ありがとうございます。グレン先生、システィ、行こ♪」

 

「はいはい、ほら白猫。置いてくぞー。」

 

「外でその呼び方は止めてください!私にはシスティーナっていう名前があります!いい加減覚えてください!」

 

「わかったよ白猫。」

 

「全然わかってないじゃないですか!?」

 

3人はワイワイ騒ぎながら歩いていった。フフフ、計算通りだぜ!

 

「さて、バレないようにこっそり付いていきますか!」

 

俺の楽しみはな、こっそりと付いていって、陰からクスクスと微笑んだり、ニヤニヤすることなんだよ。ん?変態だと思ったか?正解だ!

 

「さあて、ニヤニヤする場面や、面白い場面があったらカメラやビデオに納めよっと。」

 

後で弄るネタにしよう。ちなみにカメラやビデオは俺特製だ。

 

******

 

「じゃあ何処に行こっか?」

 

「そうだなー、ちょうど昼時だし、飯でも食いに行くか。」

 

「まだ11時なんですけど?早くないですか?」

 

こちらハヤト、今スニーキングミッションの最中だ。3人は取り敢えずレストランに行くらしい。

 

「んなこと言ってもよぉ、俺朝飯食ってねえんだから。それに、白猫はもっと食べた方がいいぞ?」

 

「女子は少食なんです!昼御飯はまだ早いです!」

 

システィーナがそう言った瞬間、お腹の音が鳴った。システィーナから。

 

「~~~~~~~~ッ!!」

 

「ほら言わんこっちゃない。にしても、体は正直なんだな。心も正直になりゃい「馬鹿!!馬鹿馬鹿馬鹿!!」痛てぇ!?俺を殴るな!」

 

「システィ、誰でもお腹は鳴るんだから落ち着こう。ねっ?」

 

システィーナは顔を真っ赤にして、からかってきたグレンに対してポコポコ殴ってるな。カメラに撮ってと、あとビデオで録画してと。

 

「よし、この店に入るか。今日はグレン大先生の奢りだ。こんなことは滅多にないぞぉ?たらふく食えよ二人とも。」

 

「お金はハヤト先生のでしょ!何でグレン先生が偉そうにしてんのよ!?」

 

「まあまあシスティ、取り敢えず中に入ろ?」

 

うんうん、青春してるな~!特にグレン、お前すげー楽しそうだな、俺感動したよ!

 

「さて、変装して俺も中に入りますか。」

 

どれどれ店の中は、ほほう中々洒落た所じゃないか。

 

「グレン達は、もう料理が来てるのか。早いな。」

 

ルミアはパンケーキ、システィーナはスコーン3つ、グレンは、おいてめぇ、何で五品も頼んでんだよ?

 

「先生って、本当によく食べますよね。」

 

「そうか、これくらい普通だと思うんだがな。逆に白猫、お前スコーン3つとか少食過ぎんだろ。」

 

「いいんです!私はこれくらいでいいんです!」

 

「そうかよ、おい白猫、これなんだ?」

 

グレンはそう言い『あ』と書かれた紙をシスティーナに見せた。

 

「あ」

 

「隙あり!」

 

システィーナの口が開いた瞬間に、グレンは一口くらいの大きさにした自分の料理をシスティーナの口の中に突っ込んだ。

 

「ったく、白猫はもっと食えよ。成長する所も成長しねえぞそんなんじゃ。」

 

「余計なお世話です!!」

 

「グレン先生、私にも一口ください。」

 

「いいぞ、ほれ。」

 

グレンは皿に一口くらいの大きさにした料理を乗せ、ルミアに渡す。

 

「あっ!美味しいですねこれ!」

 

「だろ~?何せこのグレン先生が選んだ料理だ!不味い訳がない!」

 

「どちらかと言うとグレン先生が選んだ料理って、不味そうなイメージがあったんで「なんならもう一口食え、ほら。」んぐっ!!」

 

グレンは喋っているシスティーナの口に料理を突っ込む。システィーナは不貞腐れながら食べているな。

 

「つーか、イチャイチャし過ぎだろあいつら。」

 

見ていて腹が立ってきた、なんなのあれ?もはやカップルじゃん。

 

「あれ?目からミネラルウォーターが出てきたぞ?おっかしいな~?」

 

だが弄るネタは大量に取れたからよしとするか。

 

******

 

「いや~旨かったな!!」

 

「そうですね!とても美味しかったです。」

 

「う~、食べ過ぎちゃったじゃないのよ。」

 

店から出てきたな。次は何処に行くんだ?

 

「さて、お前らは何処に行きたい?」

 

「グレン先生?」

 

「生憎と俺はあんまりこういうところに来ないからな。お前らが行きたい所に俺は付いてくよ。」

 

グレンはショッピングとかするタイプじゃねえからな。出掛けるって言ってもカジノとか、飯屋とかそこら辺しか行かねえからな。

 

「あっ!じゃあ服屋に行きましょう。ルミアもそれでいい?」

 

「うん。でもどうして服屋なのシスティ?」

 

「なな、何となくよ!!」

 

おいおいシスティーナ、何となくの癖にどうして顔が赤いんだ?気になるなぁ(ニヤニヤ)

 

「まっ、いいけどよ。」

 

「ほら、早く行くわよ!!」

 

そう言いシスティーナはずんずん進んでいく。やれやれ、初ですなぁ。

 

「あれ?今誰かに見られたような?」

 

「どうしたルミア?白猫に置いてかれるぞ?」

 

「あっ、待ってよシスティ!」

 

あっぶねぇ!ルミアにバレる所だった。ちょっと油断してたか。反省反省っと。

 

「さて、ここからは慎重にかつ大胆に行こう。」

 

3人は服屋に入ったな。どれ、幻の六人目みたいに空気とシンクロしますか。

 

「ねえねえシスティ、これ可愛いんじゃないかな!?」

 

「そうね、でも私はこっちの方がいいわね。」

 

システィーナとルミアは仲良く服を選んでるな。それをグレンはぼーっと眺めてんな。

 

「グレン先生、ちょっとこっちに来てください。」

 

「わかったわかった。」

 

ルミアの声は試着室から聞こえたな。試着した姿を見せるのか。俺も付いていこう。

 

「どうですかグレン先生?似合ってます?」

 

試着室からルミアが出てきた。……大天使ルミアはここにいたのか。めっちゃ似合ってんな!!服装?皆さんの想像に任せる!!

 

「似合ってるよ、センスがいいじゃねえか。」

 

「ありがとうございます!システィー、着替え終わった?」

 

「いい今出るわ!!」

 

隣の試着室からシスティーナが出てくる。ほほう、中々に可愛いじゃないか。

 

「ど、どうですか?」

 

「…………。」

 

あれ?グレンは固まってるな。なんで……あぁ、真正面から見ればグレンの大切な人にそっくりだ。

 

「グレン先生?ぼーっとしてないでシスティの服の感想を言わないと。」

 

「あ、あぁ。悪いな。まっ、白猫にしちゃ似合ってるんじゃねえの。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

システィーナはグレンに褒められて恥ずかしいのか、顔が真っ赤になってるな。カメラカメラっと。

 

「ハヤト先生、こんなところで何をしているんですか?」

 

おっと、ビデオにも納めないとな。ムフフ、顔がにやけちまいそうだ。

 

「ハヤト先生、聞こえてますか?」

 

ルミアとシスティーナは試着室に戻っていったな。グレンは、頭を掻いて上を見上げてるな。

 

「ハヤト先生?(ニコリ)」

 

「痛い痛い痛い痛い!!耳を引っ張るな!!誰だか知らねえけど、俺の邪魔をす……るな。」

 

耳を引っ張られたから振りほどこうと、手を横に降るったら、柔らかい物に触れました。えっと、これは。

 

「先生?何してるんですか?(ニッコリ)」

 

テレサかよぉぉぉぉぉ!!何でこんなところで会うんだよぉぉぉぉぉ!!しかも額に青筋を浮かべながらニコニコしてるし、これあれだよな。

 

「まあ待て、こういうお約束展開にも俺は言いたい事がある。何で間違えて女の子の胸に触った瞬間に、手を引っ込めるのだろうって。」

 

「何が言いたいんですか?(ニッコリ)」

 

「手を引っ込めるのはひよっこがすることだ。せっかく触るチャンスが貰えたんだから、俺はこの感触を忘れない為に一生懸命モミモミしまくァァァァァイ!?」

 

美しい右ストレートだテレサ、威力もスピードも申し分ない。いいセンスだ、ガクッ。



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12話

二巻スタートです。


「『この・クソバカ・野郎共が』!!」

 

「「ギャアァァァァァァ!!」」

 

グレンから学院長室に着いてきてほしいって言われ、学院長室の扉を開けて中に入ったらいきなり中にいたセリカから『ブレイズ・バースト』を喰らったぞ!?

 

「おいお前ら、私が何を言いたいか分かるよな?」

 

「「マジすいませんでした!!」」

 

額に青筋を浮かべたセリカの脅しを聞いた俺とグレンは『ムーンサルト・ジャンピング土下座』をする。かなり本気で怒ってるよセリカ。

 

「グレンは有り金を全てギャンブルに費やして金欠、ハヤトはストーカー紛いの事をして二人の生徒にボコボコにされたと。」

 

グレンてめぇ、結局カジノに行ってきたのかよふぁっきゅー!

 

「その通りでごぜーます。だから餓死してしまうお肉食べたいお小遣いプリーズミー!」

 

「『くたばれ』」

 

「『落ちろ』」

 

セリカはブレイズ・バーストでグレンを燃やし、俺はグレンの上空に魔法陣を展開させ、そこから雷を落とす。技名?リリジャスだよ。

 

「お前ら!!俺を殺す気か!?」

 

「「何か文句あんのか?」」

 

「いやないです。」

 

これでも手加減してんだぞ?本当なら『インディグネイション』を使いたいんだが。

 

「グレン、お前は次の給料日までシロッテの枝で飯を我慢しろ。私の食糧庫に手を出したら、殺すからな?」

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!助けてぇぇぇぇぇぇ!ママぁぁぁぁぁぁ!!」

 

情けねぇ、グレンは背を向けたセリカに抱き付いて駄々をこねているが、セリカにアイアンクローされて黙った。

 

「まあまあセリカ君落ち着きなさい。グレン君、もしかしたら特別賞与なら出せる可能性があるぞ?」

 

一連のやり取りを見ていた学院長が苦笑いを浮かべながら言った。特別賞与?そんなの聞いたことないが?

 

「我らが魔術学院の生徒達による様々な魔術競技での技の競い合いである『魔術競技祭』が来週開催される。そこで最も優秀な成績を収めたクラスの担任には特別賞与が与えられるんじゃが、どうかね?」

 

「そ、そんな素晴らしいイベントがあったとは!このグレン『魔術競技祭』優勝に向けて頑張らせて頂きます!」

 

そんなイベントもあったなぁ。すっかり忘れてた。

 

「よし、今日から頑張るためにセリカ、お小遣いください!」

 

「ほーう、余程私の魔術を喰らいたいようだなぁ?グレン?」

 

グレンはセリカに向けててもみしながら歩み寄っていくけど、またセリカからアイアンクローを喰らっていた。学習しろよグレン……。

 

「いだだだだ!もう勘弁してください!何でもします「ん?今何でもしますって?」やっぱ無理!だから、ハヤト後は任せた!」

 

「おいグレン!ちょっと待てやぁ!」

 

グレンはセリカのアイアンクローから脱出した後、もの凄い速さで学院長室から逃げ出した。

 

「さて、ハヤト。お前は何故生徒を尾行していたんだ?返答次第では容赦せんぞ?」

 

「その生徒に悪い虫が付かないように見張ってい「『其は摂理と円環へと帰還せよ・五素より成りし物」弄るネタに出来ないかと思って尾行しました!」

 

セリカ、本気の殺意を向けてイクステンション・レイを唱えないでくれません?マジ怖いっす。

 

「次はないと思えよ?」

 

「イエッサー!」

 

「で、お前の顔面や頭にある傷はフィーベルとティンジェルに付けられたのか?」

 

セリカは殺意を抑え、鏡を見せながら聞いてくる。うわひでぇ、顔面が真っ赤に腫れてやらぁ。それとタンコブがすげー出来てる、これもはや芸術だな。

 

「システィーナにはやられたけど、ルミアにはやられてない。もう一人はテレサにやられた。」

 

もうね、動けなくなる程ボコボコにしなくてもいいと思うんだ。システィーナは顔を真っ赤にして殴ってくるし、テレサもシスティーナと同様に顔を真っ赤にして殴ってくるし、ルミア?ルミアは遠くから見てましたよ。

 

「レイディか、あの子がそんなことするなんて珍しいな。」

 

まあ、あのおっとりとした雰囲気からは想像出来ないよな、あいつと性格は全く違うけど。

 

「ハヤト、今あいつの事を考えてたな?確かにあいつとレイディは似てはいるが。」

 

「……わかってはいるんだよ。わかってはいるんだが、どうしても重ねちまう。グレンだってそうだろ。」

 

「そうだな、悪い、嫌な事を思い出させてしまった。話を変えよう、それでボコボコにされた後は何をしていたんだ?」

 

セリカが俺の雰囲気を察知して話題を変えた。すんませんね、どうしてもあいつの話をされるとねぇ。

 

「あのあと?あのあとは罰としてテレサの買い物に付き合ったよ。」

 

荷物持ちとしてな、でも何故かテレサが嬉しそうな表情をしていたな。なんでだ?

 

「そうか、ハヤト。もう一度言う、この学院に残ってくれないか?」

 

「悪いけど、もう決めたんだ。『魔術競技祭』が終わったらここから出ていくってな。」

 

俺はそう言い学院長室から出る。出来ればセリカの頼みは聞いてあげたいが、こればっかりは無理だ。

 

「俺が居ると生徒達が騒乱に巻き込まれる。只でさえグレンがいるのに、俺までいたら生徒を守りきれなくなるしな。さて、『魔術競技祭』か。」

 

おっと説明してなかったな。魔術競技祭とはアルザーノ帝国魔術学院で年に三度に分けて開催される、生徒同士による魔術の技量の競い合いである。

 

「つまり、運動会と言うわけだな。まだ続いていたなんてな。」

 

各クラスから選出された選手達が様々な魔術競技で腕を比べ合うお祭り、であるのだが。何時からか出場するのは成績優秀者ばかり、挙句同じ選手の使い回しが当然のように行われるようになり、お祭りという楽しい印象からは掛け離れた代物へと成り下がっていた。

 

「俺の時代からそうなったからなぁ。昔は楽しいものだったらしいが。」

 

おっと、考え事をしながら歩いていたら教室の前に来てたか。よっと。

 

「あっ!ハヤトせん……ってその顔「諸事情です。」いやでも。」

 

俺がクラスに入った瞬間に、なんかざわめきだしたな。

 

「諸事情です。決してシスティーナにボコボコにされた訳ではありませんよ?決してグレンに服を褒められて有頂天になった姿をビデオに納めたからボコボコにされた訳ではありませ「『雷精の紫電よ』!」あばーー!?」

 

システィーナに『ショック・ボルト』撃たれた。だかな、これくらいの事で俺はへこまんぞ、へっへへ!

 

「もう!ハヤト先生の馬鹿ーーーー!」

 

「システィ、やり過ぎだよ。」

 

「ごめん。」

 

まあ、この傷はシスティーナ8割、テレサ2割だからな。テレサは勘弁しておいてやるか。

 

「で、今何してんのルミア?」

 

「魔術競技祭に出場するメンバーを選出していたんですけど、出たい人が中々いなくて。」

 

ルミアとシスティーナが前に出て指揮を取ってるけど、他の人は知らんぷりしてるな。まあ、面倒くさいってか?いや、もう1つ理由があるな。

 

「なるほど、今年は女王陛下が来るから醜態をさらしたくないから出たくない。そういうことだな?」

 

俺がそう言うとシーンとなった。図星かいなお前ら、でも安心するがいいぞ。

 

「そうなんです。困ったなぁ。」

 

「グレンへの弁当作りかシスティーナ?大丈夫だ、あいつは何でも食うから量を多く「違いますから!」おぶっ、黒板消し投げ付けんな!」

 

顔面真っ白になっちまったじゃねえか。真っ黒くろすけの次は真っ白しろすけってか?

 

「ったく、こういうのはグレンが決めるべきなんだが、俺が決めてやるよ。」

 

「でもハヤト先生、時間もあまりな「大丈夫だルミア、もう決めたから。」早くないですか!?」

 

「じゃねえと講師なんてやってられんわ。取り敢「ハヤト先生が決める?冗談はその辺にしておいてくださいよ。」なんだむっつり眼鏡?」

 

なんかギイブルが俺を見下して来たから、お返しにむっつり眼鏡って呼んだらめっちゃ怒った顔になってた。

 

「何もしていない貴方が決めれるんですか?それで女王陛下に醜態をさらしたら、貴方はどう責任を取るつもりですか?」

 

「まあ、なんとかするさむっつりスケベ眼鏡。」

 

「何ですかそれは!」

 

いやだって、ギイブルくらいの歳の男で眼鏡を掛けている奴は大体むっつりスケベだからな!俺?俺はオープンスケベだ!

 

「ちょぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁ!」

 

何か大声を上げながらグレンが教室の扉を開けたな。しかもシロッテの枝咥えてるし、お前もう一文無しかよ。

 

「喧嘩はやめるんだ、お前達。争いは何も生まない、そして何よりも。」

 

グレンはきらきらと輝くような、爽やかな笑みを満面に浮かべて続ける。

 

「俺達は、優勝という一つの目標を目指して共に戦う仲間じゃないか!?なあハヤト!」

 

「キモいから近付くなグレン。」

 

「ややこしいのが来た……。」

 

グレンの考えている事分かってっから余計にキモく見えるんだよ。あとシスティーナ、それにはめちゃくちゃ同意する。

 

「そう邪険にすんなよ~、察するにお前らは競技決めに苦戦してるみたいだな。」

 

「そうだよ、むっつりスケベ眼鏡陰険野郎が屁理屈並べてるから中々進まないんだよ。」

 

「それって僕の事ですか!?」

 

寧ろギイブル以外に誰がいるんだ?

 

「ったく、何やってんだ、やる気あんのかお前ら?他のクラスの連中はとっくに種目決めて、来週の競技祭に向けて特訓してんだぞ?やれやれ、意識の差が知れるぜ。」

 

「いやお前、やる気なかっただろ?」

 

「そうですよ!!だいたいグレン先生、私が魔術競技祭はどうするのか尋ねたら、『お前達の好きにしろ』って言ったじゃないですか!なんで今更になってそんなこと言うんですか!?」

 

「そそそそれはな、あああれだよ、大人にはふか~いふか~い事情があるのさ。まっ、白猫にはわからんだろうがな。」

 

おいグレン、声が震えてるぞ?そんなドや顔しても無駄だぞ?

 

「どうせ記憶になかったんだろグレン?」

 

「それもあるがな!ハハハハ!」

 

「やっぱり面倒くさくて人の話聞いてないんですね!」

 

おいおいシスティーナ、そんなにワナワナしなくていいだろ。グレンが人の話を聞かないのは日常茶飯事だからな。

 

「まあ、そんなことはどうでもいいとして。ハヤト、お前は誰が競技に出た方がいいか決めたのか?」

 

「あぁ、決めてる。俺が発表してもいいか?」

 

「どうぞご自由に~。俺が考えている編成は大体ハヤトと一緒だろうからな。」

 

「サンキュー、さて、俺が総監督するからには、全力で勝ちに行くぞ。全力でな。俺がお前らを優勝させてやる。だからそう言う編成をさせてもらう。遊びはナシだ。覚悟しろよ?」

 

俺がそう言うと、皆唖然とした表情で俺を見ていた。なんだ?そんなにシリアスな俺が不思議か?

 

「高配点の決闘戦、これはシスティーナ、ギイブル、あと一人はカッシュだな。」

 

「ええっ!?」

 

「おお俺ですかハヤト先生!?」

 

そうだお前だ黒髪短髪のカッシュ=ウィンガー、そんなに驚くような事か?

 

「暗号早解きはウェンディ一択だな。飛行競争はロッドとカイ。魔術狙撃はセシル。」

 

「ちょっと待ってください!」

 

ん?何だウェンディ?不満か?

 

「どうして私が決闘戦の選抜から漏れているんですの!?納得いたしませんわ!」

 

「んー?お前は呪文の数も知識も凄いけどな、不器用な癖にどんくさいとこあるからな。たまに呪文噛むし。」

 

ツインテールだからか?某魔術師みたいにうっかりやらかす事が多いからなウェンディ。

 

「それ俺も思ってたわ、だから運動能力と状況判断のいいカッシュというわけなんだよなハヤト?」

 

グレン俺の台詞取るなよ、まあその通りだけどな。

 

「だがウェンディならリードランゲージは文句なしのピカ一だ。だから暗号早解きで点数を稼いでくれ。」

 

暗号早解きなら答えを言う瞬間に一呼吸置くことも出来るからな。暗号早解きも何気に点数配分高いし。

 

「そ、そういうことでしたら、納得いたしますわ。」

 

あっ、ウェンディ照れてる。もしかしてウェンディはチョロインの可能性が!?いやチョロインはシスティーナだったな。

 

「上手く丸め込んだなハヤト。」

 

「俺は事実を言ったまでだグレン。次に遠隔重量上げはテレサ以外にありえないな。」

 

「ちょっと待ってくださいハヤト先生、私で大丈夫なんでしょうか?」

 

テレサが自信無さそうに訊ねてきたな。やれやれ、もっと自信持てよ。

 

「テレサは自分で気付いてないかもしれないが、念動系の白魔術、特に遠隔操作系の魔術の腕がピカ一だし相性が良い。俺のこの無数のタンコブを作った時の状況を思い出してみろ。」

 

俺に付いてるタンコブは俺がテレサにセクハ、ボディタ、スキンシップを取ろうとした時に出来たものだからな。顔を真っ赤にしながらそこら辺にある物を『サイ・テレキネシス』を使って俺の頭にぶつけてきたからな。

 

ちなみに『サイ・テレキネシス』は離れた場所の物体を遠隔で操作することが出来る白魔術だぞ。

 

「!!!」

 

「思い出したかテレサ?」

 

おおう、見事にテレサの顔が真っ赤ですな。脳内保存脳内保存。

 

「テレサ?どういたしましたの?」

 

「ななな、何でもないわ!」

 

「続けるぞ、精神防御はルミア以外にありえない。で、変身はリンに頼む。これで決まりだな!」

 

「ハヤト先生って、ちゃんと私達の事見ていてくれてたんですね。」

 

どういう意味だよシスティーナ、そりゃ生徒の事は見るだろ。

 

「グレン、これで文句はないな?」

 

「俺も同じ編成で行こうと考えてたところだ。文句なんかねえよ。」

 

「ハヤト先生、全員参加させてくれるんですね!」

 

ルミアが満面の笑みで訊ねてくる。まあ、勝ちには行くけど、楽しまないとな。

 

「まあそうだな。あと文句あるやついるか?」

 

「ハヤト先生、いい加減にしてくれませんか?先ほどから勝手に決め付けて、見るに耐えません。」

 

「どうしたむっつりスケベ陰険ぼっち眼鏡君?これ以上良い編成があるのか?」

 

「だから何ですかその呼び方は!?」

 

「見た目から判断して付けたんだがギイブル?」

 

「アヒャヒャヒャ!ヒーッヒヒヒ!ハヤト、俺を笑い殺す気か!?腹捻れるわ!」

 

ギイブルは眼鏡をくいくい上げながら怒ってるな。そしてグレン、笑いすぎだ。

 

「そんなもの、決まってます。成績上位者で全種目を固めるんです。それが恒例で全クラスやっていることじゃないですか!」

 

「えっ?そうなのハヤト?」

 

グレン、お前知らなかったのかよ。俺らの時もそうだったじゃねえか。お陰で俺とグレンは『魔術競技祭』に一回も出場してねぇんだぞ。

 

「ちょっとギイブル!」

 

「落ち着けシスティーナ。ギイブル、んなことは知ってんだよ。」

 

「だったら、何故成績上位者で固めないんですか?システィーナと僕とウェンディの三名で固めないんですか!?」

 

ギイブルがそう言うと、テレサやカッシュ達が下を向いて俯いた。はぁ、これだから眼鏡野郎は頭が固い。

 

「固める訳ねぇだろ。馬鹿なのかお前?あっ、すまんすまん。おつむがカチカチのむっつりスケベ眼鏡君にはちと理解の難しい話だったな。いやはや失敬!」

 

「ハヤト先生のその物言いは一体何なんですか!?」

 

顔を真っ赤にして怒るなよギイブル、そんなんじゃ俺の言ったことに対して図星ですって言ってるようなもんだぞ?

 

「アヒャヒャヒャ!ヒーフフフ!やベェ、腹痛いよママーーーー!」

 

「少ない成績上位者で固めたとして全種目に全力を注げるのか?体力とマナと精神力が絶対持たないだろ?精神力の大事さは分かってるよなギイブル?」

 

「そ、それはそうですが……。」

 

「それぞれの種目毎に相性がいい人を出場させて、それに全力を注いで貰う。そうすれば体力温存、なんて作戦とか取らなくて良くなる。ただでさえ時間がねぇんだ、他のクラスと同じことやっても勝てないと思うのは俺だけか?」

 

俺がそう言うと、ギイブルは拳を震わしていた。正論言ってるから反論出来ねぇんだろうな。

 

「それに、せっかくの祭だぜ?全員で楽しもうや。」

 

「「先生!!」」

 

「ん?どうし……ってなんでシスティーナとルミアは目を輝かせてるんだよ?」

 

しかも良い笑顔で、俺二人になんかしたか?

 

「こんなにも私達の事を考えてくれていたんですね!!」

 

「さあ皆!優勝するわよ!」

 

おおう、なんか士気が上がったな。まあ、こういうのも悪くはないな。



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