捻くれデブとやべー美人達 (屑太郎)
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捻くれデブとやべー美人達

 俺はデブである、名前はあるが何故教えなければならないのだろうか。

 

 猫にも劣る自己紹介文だが、俺を表すにはなんと簡潔で的確な物であろうか。

 

 とりあえず諸兄らに話しておきたいことは諸々あるが。まずは俺の置かれている状況を説明させて頂こう。

 

 俺は体重100を超えるお腹肉割れしている系男子高校生だ。色々あったおかげで友達が居ない。

 友達が居ない事がそんなに悪い事なのかという質問に置かれることは、常にデブで居られるというメリットで帳消しだ。つまり、授業中に隣のバカと雑談する訳でもなく。真面目に快適に授業を受けられるという訳だ。

 そういうとこだぞ俺。

 

 話が逸れたな。

 とりあえず現在の状況としては。放課後、誰もいない教室内で美人系女子と向かい合っている。

 相手はどちらかといえばクール系美人、俺も平均より背は高いはずだが向かいあっている女子は俺より背が少しばかり高く見える。

 同じクラスなのかどうかすら分からない、何故なら友達が居ないから。なんて無駄な思考を張り巡らせていたら相手が話しかけてきた。

 

「大事な話があるの」

 

 その一言で俺の中で罰ゲームか連絡事項の二択に絞られた。何故なら俺が女子に話しかけられるときはこの二択だからだ! 

 クソが…………だが安心してほしい。俺はデブはデブでもウィットに富んだデブだ。幼い頃からデブだデブだと言われ続けたこの人生、デブ弄りというかいじめに対する返しは最早一流企業のマニュアル級だ。

 

 かますぜぇ~最大級のパンチライン。

 

「私はあなたの事が好きです、付き合ってください」

「養豚場行けば?」

 

 決まった。ありがとう、中学1年の冬。

「あいつの周りだけ養豚場になってるんだけど消えてくれないかな」って言った誰か、内心大爆笑してた。

 デブには暖房が効きすぎるこの教室も、俺のオーディエンスたちが冷やしてくれる。センキューオーディエンス、また来冬で会おう。

 

「あら、ありがとう。早速家に招待してくれるのね」

「我が家なんだと思ってんの?」

 

 思うに、というか思わなくても俺はコンプレックスの塊を持つにふさわしいほどの容姿性格出生を持っている。というかデブだけで役満だ。

 そんな奴にこれを本気で言っているのだとしたら、裏で俺に告白しないと両親殺すぞとか言われている可能性すらある。可哀そうに、君の両親の命はない。

 

「あっ、でもお義父さんお義母さんにお土産が必要ね…………」

「要らねえよ、来るな馬鹿か。精肉工場で脳髄ごとミンチにしてもらってこい」

「分かったわ、付き合っているんだもの、その位は大丈夫よ」

 

 といって踵を返した。ああ、帰るんか。まあ罰ゲームだろうし、近くに人が居るんだろう。とりあえず俺への罵倒の言葉を聞いて、次に生かすかと思い立ち会話が聞こえるぐらいの距離を保って尾行した。すると教室から少し離れた所から、その女はスマホを取り出して一人でしゃべりだした。

 

「ヘイデブ。近くの精肉工場を教えて」

『検索結果は、こちらです』

「待て待て待て待て。まて」

 

 こいつ…………ツッコミが追い付かねえ…………。

 

「なんで俺いない所で精肉工場の場所調べようとしているの!?」

「お土産は私の体ということではなくて?」

「お前の中では俺の家族全員カニバっちゃってるんか?」

「いえ、私の為よ。私を食べればあなたと一緒に居られるもの家族ぐるみの付き合いね」

「自分の両親生贄にして何召喚するんだよ! うちにはミノタウロスかエルフの剣士しかいません!」

 

 怖い怖い怖い怖い。やべーんだけど。いかれてるんだけど。

 

「あ、もしかして精肉工場にこだわりがあったのかしら?」

「食べられるための予行演習してねえし、精肉工場にこだわりはねえよ!?」

「でも、あなた、私と結婚しようとしているのではなくて?」

「はぁ!?」

「だって、呼び方が初めからお前と私はあなたって、こう…………夫婦みたいじゃない? だからてっきり私は結婚まで」

「ねえよ! 夫婦じゃねえよ! 良くてフールだわ!」

「あなたと同じになれれば何でもいいわ」

「墓穴掘って俺まで愚かか!」

 

 会話が通じねえ…………。てか、この高校で今まで会話してこなかった…………。

 

「苗字教えろ! 苗字でさん付けで呼んでやるわい!」

「美羽よ」

「多分それ名前だよ! 教えてくれは苗字!」

「もしもしお母さん、今から苗字を美羽にできるかしら?」

「力技だな!?」

「頑張るらしいわ」

「一族郎党皆そんな感じか!?」

 

 だめだ、だめだ、もう簡潔に拒否するしかねえ。

 

「俺の話聞いてくれ?」

「分かったわ」

「俺はお前と付き合わない、家に来るな以上だ!」

「分かったわ、丈夫なロープはカバンに入っていたかしら」

「しーぬーな!! 以上!! じゃあな!」

 

 もう、やってられねえ。はあ、デブは体力がないんだ、今ので五割は削れた。

 

「ったく、罰ゲームにしたってしつこいぞ」

 

 俺は、完全に間違えていた。

 美羽と名乗った女子への罰ゲームなのではなく、俺自身への罰ゲームだったのだと、次の日には自覚することになる。

 

 そしてその次の日。

 

「ええ…………」

 

 登校し教室に入った瞬間、正面の黒板にでかでかと相合い傘とハートマークそしてその中には鍵山翔、俺の名前と、浦野美羽…………おそらく昨日の奴の名前が入っていた。

 高校にもなってこんな事するのかよ、とか思っていたが、まあ、ここ底辺高校だしな。仕方ねえ。

 昨日デブいじりに対する返しは完璧といったな? ということは自らデブをいじることも可能。見とけ、これがジャパニーズデブだ。

 まず、俺は教室の隅っこで本を読んでいるだけの、おとなしいデブだ。そういうキャラクター性から、いきなり出る大声は必須、つまりヤンキー系で行くしかない。

 俺のところを見てニヤニヤする奴らを歯牙にもかけず、俺は一直線に黒板の前に立った。

 

「誰だこんなことやった奴!!」

 

 俺は思いっきり黒板を殴った。教室が静かになる。まあ、確かに、俺も同じことやられたら黙るわ、てかこの学校で喋ってなかったわ。

 

「誰がやったかって聞いてんだよ!!」

「俺がやった、お前デブの癖に美羽さんに告られてるんじゃねえよ!」

「先生はそこに怒って居るんじゃない!」

 

 誰だお前、だが助かる。

 俺は相合い傘を隠すように浦野美羽の文字を消して、1文字書いた。

 

 豚

 

「こうやるんだよ!!」

 

 教室から笑いが出た。よし、いいぞ。絡んできた奴も笑ってる。

 

「何がおかしい!!!」

 

 もう一度笑いを止めるように黒板を叩いた。教室に静寂が訪れたとき。俺は一転して態度を軟化させる。笑いとは緊張と弛緩の間に生まれる。

 

「あ、ごめん。先生が間違えてたね、こうだよね」

 

 消さずに2文字を足す。

 メス豚

 こうして、俺の相合い傘はメス豚と。

 

「という訳で、先生は雌豚と結婚します!」

「正気かお前!?」

「挙式は精肉工場でやります!」

「そろって肉になりに行ってんじゃん」

「そのあとは生徒全員で焼肉だ!!」

「自らの肉食わせんな!?」

 

 教室の男子が笑い始めた。…………これをやると、次の日熱出てくるけど。

 はー、よし! いじめ回避成功! 良かった良かった。

 と思ったその時、教室後方の扉が開いた。一瞬先生かと思って身構えたが、くだんの女子だった。んだよ、ビビらせやがって。てか同じクラスだったのか? 

 

「なるほど、鍵山君は雌豚が好きなのね」

「いやいや、ネタでしょネタ」

 

 絡んで来た奴がそう返す。

 

「では何なりとお申し付けください。ご主人様」

 

 空気が

 

 凍った

 

 ついでに俺も凍った。

 

 声量は無いが、イヤに通る透き通る声が教室中を。

 そして恭しく、そして媚びへつらうように俺の足元に近づいてきて土下座した頭が、空気を凍らせた。

 

 端的に言おう。

 

 俺、鍵山翔は、この学校内で美女を雌豚といって侍らし、あまつさえ結婚すると言い放った男になった。

 

 凍結した教室内で脳内フル回転した俺は、いち早くその結論にたどりつき、絡んできた奴に一縷の望みをかけて話しかけた。

 

「なあ、悪いが先生に鍵山翔は欠席すると伝えておいてくれ」

「あ、ああ。分かった」

「じゃあな」

 

 俺はベランダから飛んだ。

 一抹の浮遊感と、少しばかりの現実逃避が気持ちいい。

 ここは四階。

 だが元プロパシラー(プロのパシリにされる人)にとっては呼吸をするように飛び降りれる距離だ。それでは、また明日。

 ただ、教室に見える、さっきの女子の心配そうな顔だけは視たくなかったな。

 

「勘弁してくれ、まだ同情で惚れられるほど堕ちちゃ居ないんだよ」

 

 華麗に五点着地して、俺は何もかもを振り切って逃げ出した。

 

 



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捻くれデブとヤベー幼馴染

 命からがら、というわけでもなく。俺はパシリストの実力をいかんなく発揮し、家に帰った。無断欠席は初めてだったが、あの学校の事だそこまで大ごとにはならないだろう。

 

「ただいまー」

 

 とは言ったが今家には誰もいない。だが、習慣はぬぐえないな。

 

「おかえりー」

「うおっ。ああ?」

 

 俺のよく知る奴の声がしてめっちゃビックリした。

 驚きはいろいろな感情に派生するが、今回は怒りだった。

 怒りのままに階段を駆け上り、俺の部屋を開けた。

 

「お前何してるんだよ」

「視たら分かるでしょ? マンガ読んでる」

「俺の家でっていう前提だと疑問になるんだよ!」

 

 俺のベットで布団をかぶり、その中でマンガを読み漁っている俺の幼馴染、清原悠(ゆう)が居た。まあ、漫画の貸し借りとかは今までにしていたが、今回のような事は初めてだ。

 

「まあまあ、そんなに怒んないで。あ、漫画読む?」

「俺のだ。殺すぞ」

「読み終わってからで」

 

 俺はため息と頭を抱えた。何がこいつをそうさせたんだ。

 でも、少しばかり日常が戻って来た事で少しは安心していた。こいつ相手だったら、今回の世にも奇妙な物語レベルの珍事を話すのもやぶさかではない。

 

「てか、君も何しに来たのさ。高校じゃ真面目君じゃん? どうして休んだ?」

「ああ、いいことを聞いてくれた。非常に」

「聞きたくないね」

「俺、女子に告白されたぞ」

 

 お、言っても平気な態度だ。事実がどうかを疑ってるんだな? 残念! 事実です! 残念ってなんだよ! 残念だけど! 

 なんて思いながら、俺はネクタイを緩めながらベット近くに座った。

 

「…………メス豚と?」 

「今だけは雌豚って言うな!!!」

 

 さっきの出来事がフラッシュバックしてきた。あんな記憶永年封印指定だこん畜生。

 

「メ」

「あ?」

「スシリンダー」

「穴という穴に入れてそのまま破壊してやる」

 

 なんていうとあっはっはなんて笑った。こいつは本当に人をからかうのが好きだな。

 

「はー笑った。で? ほんとはどうなのさ?」

「ああ、女子に告白されたから逃げてきたんだ」

 

 俺の後ろのほうで、漫画をめくる音が止まった。はっはっは、悪いな人をからかうのは好きじゃないが、俺の人生自体が人をからかっているような物だからな。

 突然後ろから抱き着かれた、いわゆるあすなろ抱きという状態から悠は俺にささやいた。

 

「ねえ、翔」

「こそばゆい、離れろ」

「つまらない冗談はやめた方が良い」

「ちょおま、ギブギブギブ!!」

 

 俺の首を締めた。悠の細腕がばっちりと頸動脈に食い込んでいる。

 しばらくして俺が落ちかけたタイミングで裸締めを解いた。

 

「何!? そんなつまらなかった!?」

「君が女性から告白されることは1回しかないだろうからね」

「その一回がやべー奴に消費させられたんだよ! だから逃げ帰って来たって訳!」

「返答によってはこの家から君の居場所がなくなると思っていい」

「ここ俺んち! まあ聞いてくれよ」

 

 そういって、かくかくしかじか前話参照というわけで。悠に話した。

 話が進んでいくにつれて、悠の顔がゆがんでいく。そして話し終わったときに一言。

 

「君が狂っている」

「そんな馬鹿な」

「いやいや、俺は狂ってねえ。俺が告白されるという前提が狂っているだけで俺は間違いなく狂ってねえ」

「告白されるなんてそう珍しいことでもないだろう?」

「お前にとってはな。顔は良いし」

「性格もだろう?」

「ああ、勝手に人んちでマンガ読むイイ性格しているよ」

 

 蹴られた。

 

「大体告白されて嫌だったらノーで済むじゃないか」

「罰ゲームだと思ったんだよ」

「罰ゲームだと思ったらなぜ「養豚場に行けば」なんだよ」

「罰ゲーム、断る、つまらない、いじめ、いじめの連鎖、最終的に俺いじめられる」

「君、ネガティブ詰将棋だったら優勝できるぞ」

 

 ネガティブは悪いことじゃない。俺は悪くない。

 

「てか、逆になんで笑わせたらいいんだよ」

「罰ゲーム、面白い断り方、面白い、満足する、いじめられない。おっけい」

「どうしてさ」

「いじめとかやる奴らはチンパンジーだからな。自分が満足すればそこで終わるんだよ、うちの高校皆チンパンジーみたいなものだしな」

「いじめられる原因やっぱり君にあるんじゃないかな」

「馬鹿な、俺は常に周りの人間を見上げているよ、なんたってチンパンジーは豚より上だからね」

 

 無言で悠は首を振った。

 

「ちょっと、お茶淹れてくる。あったかい緑茶と冷たい麦茶どっちがいい?」

「冷たい緑茶」

「殺すぞ、まあ、いいけど」

 

 ちょっとした仕切り直しを挟んで俺はまた自分の部屋に戻った。

 

「ていうか、罰ゲームだったとしてもなんで断ったのさ、気持ちはうれしいけどって言えないぐらいの1000年に一度の醜女だった訳でもあるまいし」

「顔はそりゃきれいなもんだったよ」

「じゃあなんで?」

「俺に告白するような奴にまともな奴がいる訳ねえだろ」

「じゃあ、僕もまともじゃないことになるけど?」

「まともじゃねえだろ、こうやって俺んちで勝手に漫画読んでいる時点で…………いやー、ほんとにビビったなあんとき、告白カウント男で消費することになるとは思わなかったぜ」

「黙れ…………まあ、そうだろうけどさ」

 

 なんか、様子がおかしい。確かに、こいつは男なのに俺に告白したという黒歴史がある、今の俺に雌豚というような物だ。思い出したくないだろう。

 

「で、名前は?」

「ああ、えっと浦野美羽だったっけ」

「…………自分の悩みが嘘みたいに吹っ飛んでいったよ」

「なんでぇ」

「君、本当に世の中のうわさとか知らないんだな」

「噂は噂、それ以上でもそれ以下でもない」

「ちなみに浦野美羽は、ここ周辺で馬鹿みたいに有名だよ」

「ギャングスター的な意味でか?」

「全国模試の上位に食い込み、清廉潔白、品行方正、美人薄命、学校側が理想とする姿といわれているんだけど…………」

「最後の四字熟語だけ少し違うだろ、へえ。俺に告白する時点でまとも度0なんだけど、そうなのか」

「そうなんだよ…………せっかくこっちが外堀から埋めていこうとしているのに」

「あ? なんだって?」

「なんでもない」

 

 どうしたんだ? なんか言っているのは聞こえたんだが、何言っているのかは聞こえなかった。

 

「じゃあさ、今の話きいて、罰ゲームじゃないって確定している時はなんて返すつもりだったのさ?」

「あ? まったく同じ言葉を言うだけだ」

「えぇ…………?」

「男女関係で言ったら、俺より良い奴が、というより俺より下が居ないな!」

「驚くほどの自己肯定感の欠如!?」

 

 俺はネガティブ一周まわってポジティブな人間だ、転ばぬ先の杖百本持つぐらいなら何も持たず転んで死ぬ! みたいな。

 

「そもそも、チンパン高校なウチで俺みたいな容姿の奴がそれと付き合ったら戦争が起こるぜ?」

「じゃあ、イケメンだったら付き合うって事?」

「それはもう俺じゃないし、俺じゃなくていいだろヘイ論破」

 

 結局の所それだろう。

 

「すごい、非モテ率100、200、まだ上がる」

「初期スカウターならぶっ壊れているな」

「はぁ、君は良い性格しているよ」

 

 結局の所、面白ければそれでいい。

 この文脈的には、非モテだという事を差し置いて、付き合えるなら付き合えばいいのに、っていう事か? 

 …………なら、俺が付き合うに値しない人間であることを証明すればいいんだな? 

 

「そうだな、俺の親父が言っていた、高校生の時の付き合ったは桜と同じ時期か20日大根収穫できるまで持てばいい方だってな」

「なにその非モテの英才教育」

「というかさ、そんな簡単なカップラーメンみたいな惚れた腫れた求めている奴に、俺みたいな家系ラーメン出してどうするの!?」

「油少な目、ニンニク多めでよろしく」

「油は俺! 俺は油! デブであることにアイデンティティの重きを置いているのに、それを取っ払ったらただの面白くないガリガリ男の出来上がりだぁ…………もうだめだぁ…………」

「キャベツ、トマト、ニンジン、かぼちゃ…………」

「緑黄色野菜の名前を喋るな! 痩せちゃうだろ!」

「便利な体だな」

 

 俺もだんだん熱が入ってきたな、少しお茶でも飲もう。

 

「痩せてアイデンティティ崩壊する奴君以外に見たことないよ。痩せたらモテると思うんだけど」

「痩せてもデブはデブ! もしくはブス!」

「君痩せたことないだろ? それに、そういうテレビじゃ結構見てくれは良くなっているじゃないか」

「デブとブスの写真並べたら誰でもブス選ぶだろ! 逆によ? お前いきなり今日から女になったら想像するのか?」

「性別は急に変わらないでしょ?」

「性別はマン、ウーマン、ファッティなんだよ! よくわからないって言う顔してんな、いいか、俺をよーく見ろ、貧乳の女よりおっぱいあんぞ!」

「殺す」

 

 すげえ殺意だ…………。

 

「貧乳教の信者だから許してくれ」

「赦そう」

「でも結局痩せてもモテないのよ。漫画小説だけの世界なんだよ、痩せてモテるのは」

「でもそんな君が告白されたんだろ?」

「きっと、両親人質に取られていると思うんだけどさ」

「発想が突飛すぎる」

 

 俺のマシンガントークに疲れてそうだから少し、真面目な話題でも出すか。

 

「正直女は俺の事を家畜ぐらいにしか見てないだろうから、縁切るのが得策だろ」

「そんなことはない。君優しいし」

「残念だったな、優しいは女子語でどうでもいいという意味だ」

「君は何処の世界から来たのさ」

「仮に俺が優しかったとしてもよ? 優しいと言われる条件は俺の行動なわけじゃん?」

「じゃんて言われても」

「休日に家でゴロゴロしている人間と、休日にボランティアに行く人間どっちが優しいかって言ったらボランティア行く人間じゃん? 俺学校じゃ何もしていないからさ。一切生徒と関わっていない」

「灰色通り越して目がつぶれているよ君は…………あー、じゃあ面白い」

「学校じゃ話していない」

「記憶にないだけかもしれない」

「ああ、自己紹介があったな、趣味は読書って言った」

「一番無難で一番孤立する奴じゃないか。じゃあ、デブ専だった」

「そんなもんデブの幻想だ、それにうちの学校相撲部あるし、何なら勧誘されたし」

「うーん…………」

 

 

 なぜ悠は俺に彼女できるという可能性を必死で探そうとしているのか? 

 逆に考えてみよう、あ、めっちゃ面白そうだわ。草葉の陰で見守りたい。

 

 

「まとめれば、学校で見せている性格と備わっている容姿も下の下である以上、学校の女子に告白されるのは不自然。という事だね?」

「自分で言っておいてなんだが簡単に纏められるとむかつくな」

 

 いや、本当にめちゃめちゃ簡単にまとめたな。今までの茶番は何だったんだ。

 

「じゃあ、これまでの人生のどこかで会っているんじゃ?」

「会っていたとしても、そんな、あの人性格良い! 好き! ってなるか?」

「道行くおばあちゃん助けたり、他人に何か影響を与える姿が憧れや恋になる事もあるだろ?」

 

 …………いや、俺人生でいいことやったっていう自覚は無いが? 。まあ、いつだってそんなものか。

 

「仮にそうだとして、告白した後、好きになった理由とかいうだろ?」

「『養豚場に行けば』って言って封殺した奴は誰かな?」

「…………」

 

 要らない報告だが、めちゃめちゃ脂汗が出ている。

 

「君、もしかして…………」

「まて、正直俺、そんなに良い奴じゃないだろう?」

「僕は君を良い奴だと思っているよ? 君は友達の意見を否定するのかい?」

「…………」

 

 あれ? 流れ変わった? 

 

「さっき惚れる理由に優しいを否定したよね?」

「あ、ああ」

「君の思惑がどうあれ、聞いた限りじゃ君の評価は優しいになるんじゃないか?」

「はい?」

「罰ゲーム、面白い断り方、面白い、満足する、いじめられないって言ってたけど、実際は相合い傘だ。それを、消して雌豚にしていた。それは間違いないね?」

「ああ、そうだが」

「…………君が黒板の文字をしっかり消して居なかったとしたら。彼女の目からは彼女を守ろうとしたように見えるんじゃないか、と思うんだけれども?」

「…………」

「仮に罰ゲームでやったとしても、評価は上がるんじゃ」

 

 確かに、しっかりと消しては居なかった。

 いやいや、さすがに土下座してご主人様呼びは無いでしょ。

 

「まて、待つんだ。今言い訳考えるから」

「言い訳って白状してるじゃないか」

「いや待て、俺は悪くねえ。俺は悪くない理由を必死で探しているから今」

「君は自分に好意を向けた相手にこっぴどく振ったサイテー屑男という訳になるんだけど?」

「やめろー!?」

 

 いや、無理。振られるのは良い、けど振るのはダメだ、プライドが許さない。

 

「正直なんで君がそこまで必死に付き合いたくないんだかわからないんだけども」

「モテない生活が長かったからな、正直そこまで要らねえっていうのが一つ。それに、今までの人生でろくでもない女しか居なかったから別にな。あと俺と付き合ってそのことが原因でイジメられるのが目に見えている」

「…………やっぱり君、優しいじゃないか」

「無関心や嘲笑っていうのはクルものがあるからな、イヤだろ、自分が仲いい奴の事笑われるの」

「僕はいつもそう思っているよ」

 

 急にしんみりとした雰囲気になってしまった。

 まあ、しょうがないか。

 

「とりあえず鉄道ゲームやろうぜ、買ってCPUとしかやってねえんだ」

「僕は悲しいよ…………」

 

 そういわれて俺はゲーム機を起動した。50年はやりすぎだった。

 

 

 

 

 

 時を戻そう。それは、鍵山翔が自分の部屋に戻る前の話だ。

 

「お邪魔しまーす」

 

 と、自身の合い鍵を持って侵入したのは一人の女性。清原悠(はるか)だった。

 

「うへへへ、久々だね」

 

 彼女は自らの学校で欠席をしてまで、この家に侵入した。

 我が物顔でとある部屋に行き、そこの布団にダイブした。

 

「翔ぅ…………好き…………」

 

 彼女は、正しく女性である。

 だが、お隣さんであるにも関わらず、幼稚園、小学校、中学校と奇跡的にかみ合わ無かった結果、鍵山翔は悠を男だと勘違いしている。背が低く胸があまり無いのも一因ではあるが。

 それは、悠も知ってはいるが、男幼馴染というアドバンテージを最大限に生かそうとするのは想像に難くない。

 

「んっ…………あっ…………」

 

 いつもは親に黙って来ているため、女性用の制服であるが、今回は部屋の掃除をしようと動きやすい格好にしてきたのが幸いした。

 

「ただいまー」

 

 その一言で達した。いや何とは言わないが。

 汗が滲む全身を悟られないように、布団をかぶり適当にあった漫画を取り寄せた。

 そして、重い体重からくる振動が、彼女の芯を揺さぶる。

 

 男のような振る舞いになるため、努めて脳内を変換させていく。

 

「おかえりー」

 

 そして、長い年月を経て少しばかり歪んだ恋心がしゃべりだした。



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捻くれデブとヤベー美人2

 正直、気分は最悪だ。

 

 デブでボッチな俺は、人に注目されない現状では、学校というものが嫌いではなかった。何故なら、人との交流が少ない分、何も変化が起こらないからだ。

 噂も七十五日とはいうが、昨日やった桃鉄の時間がそのまま過ぎればどれだけよかっただろうか。今からプラス50年だと、65歳。そんなにもなっていたら、あんなことは忘れている事だろう。

 

 だが、現実は非情である。一日だと冷めやらぬ阿呆な出来事は、砂糖に群がるアリのように俺に群がってくる事だろう。

 そのことを予感しつつ、俺はドアを開けた。

 

 何処だここは!? 。

 オイ、今まで教室はヤンキー漫画のヤンキー高校一歩手前ぐらいの荒れ果てた荒野だったじゃん! 

 めっちゃピカピカになってんだけどこの教室。てか中にいる奴姿勢正すぎだろ! 良すぎて測らなくても分かるぐらい90度になってんじゃん!! 

 というか、お前らあの色とりどりの髪色はどうしたんだ、知性が吸収されて金髪になったんじゃなかったのか!? 

 

「「「「鍵山さんおはよう!!!!」」」」

 

 何が起きた!!! 

 中に居た全員が俺の方を向いて、挨拶してきた! もう逆にホラーだよ!! 

 よく見たら髪色が黒に戻ってて分からなかったけど、昨日絡んできた奴いるじゃんちょっと聞くか…………。

 

「な、なあ、何があったんだ?」

「ああ、鍵山さん。僕たち、心を入れ替えたんです」

「信じれるよ? 今なら俺信じれるよ!? 本当に入れ替わってるよ!? 何処から持ってきたの!? 返してきなさい!」

 

 なんだ? 隣町の進学校から心すり替えてきたのか? 進学校が世紀末になる前に返して、イヤほんとに。

 

 

「鍵山さんとはあまり喋った事がなかったから肥え太った肉の塊だと思っていたけど、結構ユーモラスなんだね」

「頭まで取り換えられたのか…………?」

 

 絶対にユーモラスなんて言葉知っているわけがないんだうちの高校で! 

 てか悪口まで知的になっているじゃねえか! 

 すると後ろからドアが開く音がした、がそれどころじゃなかった。話を続けようとした時、いきなり目の前の男があいさつし始めた。

 

「おはよう、美羽さん」

「おはよう、万城目君にご主人様」

 

 後ろにいるのは、昨日の告白してきた女子だった。

 爆弾んんんん!!! 

 てめえボンバーマンか!? 

 落ち着け、分かった。とりあえず謝ろう。

 

「そういえば、面と向かって朝の挨拶をするのは初めてねご主人様」

「申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁ!」

 

 昨日の俺の結論は、俺が何か知らず知らずのうちに目の前の女を怒らせてしまった。という結論に落ち着いた。自分の身を犠牲にしてまでも俺に社会的、精神的に苦痛を与えたかったという俺のIQ30000の知能が算出した。そうじゃなきゃ俺に告白しねえって。

 というかこれ以上爆弾増やされちゃかなわねえ、場所を移動したい…………。いざ! 

 

「ちょっと図書館に来てもらっていいですか浦野さん」

「いいわ、初デートね」

「ちょっと何言ってるか分かんないです」

 

 華麗とは言い難いスルースキルを使って、俺は無言で教室から遠い図書館へと向かった。ウチの高校は馬鹿高ゆえに図書館が隅っこの方に追いやられている。

 ちなみに図書委員である。

 

「あ、あのマジで何か失礼な事いたしましたかね? 俺馬鹿なんで分からないで、こう…………何したら許してくれますかね?」

「ご主人様が少し何言っているか分からないわ」

「ひとまずご主人様って止めてくれませんか?」

 

 ゲキおこでいらっしゃる。俺の話を聞く耳を持たねえと言っているわけですね。

 仕方ないこれで、手を打とう。

 俺は、土下座の体制を取ってお金を差し出した。虎の子全財産3万円だ…………。

 

「これで勘弁してください」

「結納金ね、うれしいわ」

「手切れ金っす、悲しい事に」

 

 どうにも会話が成り立たない…………と、とりあえず、聞こうこいつが俺の所を好きだという事を仮定して聞いてみよう。出来るか? いや、できるさ俺はオープンなデブだ。

 

「俺ホントに身に覚えがないんですけど、もし本当に浦野さんが俺の事を好きだと言うならきっかけはどこで…………」

「少しショックよ…………好きになったのは小学校の時よ」

 

 マジで身に覚えがねえ…………小学生の時はやせ我慢の対義語だったぞ俺。すなわちデブ大暴れ。

 小学校の頃の俺はブタ〇リラとジ〇イアンと野生生物を掛け合わせたような生物だぞ…………惚れる要素どこにあるんだ? 

 

「あれは、私は食べるのが遅くて、放課後まで居残っていた時…………そこに颯爽と貴方が現れたの」

 

 怖いよ? 

 俺、お前が怖いよ

 ただのデブに颯爽っていう形容詞をつけるお前が。

 

「開口一番あなたは『食っていい?』って聞いてきて私の答えも聞かず物の数秒で食べつくして去って行ったわ」

 

 怖えーよ!!! 

 俺、そいつ怖えーよ!! 

 答えも聞かずに他人の飯食って去って行く奴ってそれ完全に残飯を漁るホームレスのおっさんじゃねえか!!! 

 

「だけど、私は勝手に食べられた最後に残していた揚げパンの恨みを晴らす為に貴方を殺そうと思ったの」

 

 分からんでもない。

 分からんでもないがちょっと待て。

 …………やっぱ怖いよ。

 

「社会的にも殺そうと考えた時、貴方を調べ上げたの…………その最中、憎しみが愛に代わっていたのよ」

 

 怖えーよ!!! 

 変わんないよ! ってか変わらないでよ! 憎しみは憎しみのままで胸に取っておいてよ!! 

 

「すると、あの時来た不快な肉の塊も白馬の王子様に思えてきたの」

 

 バカかよ!! 

 思えるなよ! 

 そいつ白馬の王子様じゃなくて白馬の将軍様だよ!! 

 

「これが私の恋の顛末よ、思い出してくれたかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 それ俺だ…………。

 最も、馬鹿で怖いの俺だよ…………。

 何やってんだよ小学生の俺…………。

 

 覚えがある、実に覚えがある。小学生の頃、クラスに1人は居る残飯処理機、そして俺は学年をフォローしていたんだ…………。

 

「小学校の時の話ですよね?」

「愛に時間は関係ないわ」

「愛になってんじゃねえか…………」

 

 もう滅茶苦茶敬語だ、一切お近づきにならないで頂きたい。

 

「それで私も言いたい事があるのだけど、いいかしら?」

「あっはい」

「結婚しましょう」

「早えよ何もかもが」

 

 フットワーク軽すぎて異次元行ってません? 

 てか早えよじゃねえな、そもそも始まってすらいねえ…………だんだん毒されてきた。

 

「でもデートの次はプロポーズじゃなくて?」

「どうやら浦野さんは認識がバグってらっしゃるようで」

 

 だんだんと目の前の人間が宇宙生物に見えて来た。異次元すぎてサッカーで校舎破壊しそうだ。

 

「そんなわけなんじゃない、後それに今の私は美羽美羽よ」

「嘘だろ!?」

「私、貴方と結婚しないと美羽美羽のままよ?」

「なんだよそのアクロバティックな脅迫!?」

 

 俺はこいつをどうしろってんだ。

 

「うるせー!」

「あっ、すみません」

 

 いい加減に司書さんに怒られた。

 

「イチャイチャしやがって! 殺すぞ!」

「変わろうか!? 俺先生と変わろうか!?」

「あと、喋るのは良いけど程々にしろ!」

「大人としては逆の方がよかったねぇ!?」

 

 おっと、ここは教員までチンパンジーか? 

 

「変わるにしても貧乳派だからなぁ」

「それには実に同意する」

 

 こういう所が俺はこの司書さんが好き。男だけど。

 

「あんまり叫ぶなよ、そろそろ授業の時間だし」

「はい、すみませんでした」

 

 はあ、ここらへんでお開きか。

 と、思いながら浦野の方に向き直ると。カッターナイフで自分の乳房を切り落とそうとしていた。

 

「待ってぇ!? なんでぺぇ切り落とそうとしてんの!?」

「待ってて今すぐ貧乳にするわ」

「猟奇的! お前本当に頭良いんか!?」

「恋は盲目よ」

「ご自愛なさって!!」

「うるせー!!」

 

 カオスの真っただ中、授業開始のチャイムが鳴り響いていた。

 



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捻くれデブとヤベー後輩

 今日は生きた心地がしなかった。

 先生まで倫理観が上昇していたのにビビり、一日で授業のレベルが上がっていた。微分って何ですか…………? 

 

 これは底辺高あるあるだが、朱に交われば赤くなると言った通り先生のレベルまで低くなる傾向にある。

 だが、先生まで倫理観と学力が上昇していたのにビビり、一日で授業のレベルが上がっていた。微分って何ですか…………? 

 てか、一日で浦野とやらの影響力強すぎだろ。

 

 このように台風のような一日が過ぎ去り、放課後ホッと一息ついた。

 某奇妙な冒険のように植物のような生活を送りたいと思っているのは俺だけじゃないだろう。

 

 ある意味ビビりちゃんな俺だが、それでも委員会の仕事をしなければならない位にはビビりだ。というか朝にあんな図書館に大立ち回りしておいて? 今日委員会あって? サボりますは通用しないでしょうよ。と。それに後輩から仕事溜まってるから早く来いとの連絡がやって来た。いやほんとゴメンって。

 

 ここまで考えて、なんかビビりだなと思いながら図書館に足を踏みいれた。

 

「パイセンおせーし、なにしてん?」

「うるせーよ」

 

 目の前のクソギャルは俺の後輩、山城 美佳(ヤマシロ ミカ)。俺にとってうざい羽虫みたいなもんだ。

 かなり気崩した、冬服にも関わらずワイシャツに見せブラ、寒くねえんかお前。

 違うな、あとはイヤリング二つに良く分からん手首に付けるアクセサリー、派手な赤髪、つまり歩く校則違反がこいつだ。

 

 そして無駄なボンキュッボン。見たくはねえが視線を吸引されるお胸の方はやはり男の性なのだろうか。

 めちゃめちゃ突っかかって来る、そしてお腹触ってくる、ウェーイ系のノリで。

 デブのお腹触ってくるのはウェーイ系の性なのだろうか。俺の腹を気安く触る奴は呪う事に決めている。

 

「は、マジウケる」

「鼻で笑ってんじゃねえか。後遅れてすまん」

「律儀すぎっしょw」

 

 口調は粗暴でもこういう挨拶はしっかりしておかなきゃいけない。

 親の教育って偉大だなぁ。

 

「で、なにがあったん? 昨日アンタ来なかったから今日になってるんですケド?」

「…………すまない、ありがとう」

「別にいいし、それにお互い様っしょ?」

 

 何なんだこいつ。

 まあ、言葉に甘えとくか。

 それで、今日の作業は確か新入荷本のバーコードとカバー付けだったか。

 

「じゃ、はじめるから」

「あ、昨日でもう終わってっし。なにもしなくていいよ?」

「おい」

 

 昨日の時点で終わってるんなら来なくていいじゃないですか…………。

 

「じゃ、帰るわ」

「え、マジありえないんだけど。よくやったとかない訳?」

「よくやった。これで早く帰れる」

「のど乾いた~最近近場にイイカンジのカフェg「ダッシュで行ってきます!!」ちょっ!」

 

 窓から飛び出て、落下中に自販機の場所を検索、着地時点で最適ルートを算出。行ける。

 1分も掛からずコーヒー、コーラ、オレンジジュースの三点を取りそろえて図書館に帰って来た。

 

「どうぞ! じゃ!」

「ちょ待てし!」

 

 クッ! あそこのコンビニで買ってこいってタイプだったか! 

 

「お礼にカフェ連れてってって、言いたいんだけど!」

 

 たかるタイプだったか…………プロパシラーの管轄外なんだがな。

 仕方ない、今日は虎の子三万を持ってきているから可能ではあるが…………。

 

「そうか、コレ」

「現ナマ貰っても困るし!」

 

 何だと…………。諭吉あれば足りると思ったんだが…………。

 何がしたいんだ? 

 

「もう! 早くついてくるし! 告白されたからってデレデレしてマジむかつく!」

「えぇ~」

 

 めっちゃめんどくさい。あ、てかこいつスマホ忘れてるんだけど。

 首根っこ掴まれながらスマホを回収した。

 

 あ? 

 

 いきなりだったから手帳型のスマートフォンが開かれたまま回収したのだが、その中に俺の写真が…………? 

 ま、まあ見間違いだろ。ただ舐めてるだけだろきっと。

 

「おい、忘れてる」

「あ、あんがと」

 

 この反応だったら俺の写真って事は無いだろう。

 …………自意識過剰だな。

 

 流石に校内だとみられそうなので首根っこ掴まれたのを振り払い、おとなしく付いていく事にした。

 道中では、全くの無言。こりゃ本格的にたかられるなと覚悟を決めながら、山城の目的地に着いたようだ。

 

「てか、ここ悠の奴と来た事あるな」

「あ?」

 

 そう言った瞬間、いきなり山城が不機嫌になった。

 

「女の子の前で他の女のデート自慢するとかマジで無いんだけど?」

「男同士でデートとか言うな気持ち悪い」

「これは盗聴器増やすしかないっしょ」

「なんて?」

 

 そう言ってから、口数が少なくなってきた。

 しかし、ここのカレー結構旨かったんだよな、あとおしゃれな店に限って量が少ないと思ったがオシャ指数が高いにも関わらずそれなりの量を出してくれる。

 

「何にする?」

「この二つで悩んでるんだけどさ、パイセンどっちがいいと思う?」

「ふーん」

 

 指さしたのはストロベリーのパフェとチーズタルト、飲み物は決まっているようだ。

 

「どっちも頼めば?」

「太るじゃん!」

「両方ハンバーガー一個分くらいのカロリーだぞ?」

「何でカロリー計算出来てそんなに太るの? ウケるw」

 

 小学生の頃、カロリーはおいしさの度合いだと思っていた。

 旨そうな物があってもカロリーを見て決めていた、純粋なあの時代。すき焼きで肉しか食わない野人のような生活を終え、最後のくたくたになったえのきが一番うまいと思う様になるぐらいには成長したのさ。

 

「まあ、食いきれなくなったら俺がいるし」

「…………いいこと言うじゃん」

「毎回悠と飯行くとそんな感じになるんだよな」

「チッ」

「何で?」

 

 良く分からなかったが、とりあえず注文する事にした。

 

「ブレンドとカツカレー、あとシフォンケーキ」

「あーしもブレンドと、ストロベリーパフェとチーズタルト」

 

 なんかどっちも食うなぁと思いながら、俺は飯が来るまでスマホを取り出して時間を潰そうとしたが脛を蹴られた。

 

「いって」

「女の子と居る時位スマホ弄んなっての」

「はいはい」

「で、パイセンに聞きたい事あんだけど」

「?」

「コクられたってマジなの?」

 

 もう下級生にまで話広がってんのかよ。怖っ。

 

「そうだよ」

「じゃあ別にオンナいんの?」

「ねえよ。聞かなくても分かんだろ」

「じゃあ、あの三年生は?」

「…………ん?」

 

 こいつに文芸部の事話したか? 

 まあ、たまたま見かけたとかそういう感じだろう。

 

「猫屋先輩ならそういんじゃないぞ? 部の存続の為に名前貸す代わりに入り浸らせ貰っているって所だ」

「じゃあ、あーしが入部したって問題ないっしょ? 決まりね?」

「え、嫌だけど」

「やましい事あるって事じゃん!!!」

「何で怒ってんの?」

 

 やっぱり女は良く分からん。

 飯食うだけでめんどくさいな。

 

「まあ、仕方ないか」

 

 急に静まった。一体なんなんだ? 

 あ、コーヒー来た。頂きます。

 すると、山城は一口飲んだと思ったら。

 

「苦い、飲めし」

「馬鹿なの?」

 

 まあ、飲むけれども。

 うめえな、バカ舌だけど分かる。

 

「トイレ」

「うぃ」

 

 早いなあ、まあ色々あるんだろう。

 やっぱめんどくさい。

 

「あ、おい」

 

 トイレに行く為に立ち上がった時、何かが落ちた。手帳? 

 どうやら、月ごとのメモ帳みたいな奴なのだろう。

 戻そうとした時偶然にも一ページが見えてしまった。

 

『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は何も見なかった。

 女、恐ろしや。しかしここまでの好意を向けられる奴は大変だろうなぁ。

 

「あっ、見た?」

「見てない」

 

 視線が痛い…………。

 

「あれ? てか、俺もトイレ行きたくなってきたな~? ちょっと行ってくる!」

 

 こんな時でも出る物は出るもんだな…………。暫くして、トイレも終わって席に戻った。

 先に居た山城が俺と立ち代わりになろうと立ち上がった。

 

「え? 逃げんの?」

「逃げんし! あとデリカシー足りなさすぎ!」

 

 また脛かよ…………。

 口より足が出るんかこいつは…………。

 

「逃げるワケないし…………てか、逃げてんのパイセンじゃん」

「え? ああ、奢るよ」

 

 なんだよ、もうここまで来たら奢る事に問題はねえよ。

 何? そのポーズ? 違う、そうじゃないみたいなポーズしているけど? 

 

「もういいし…………」

「行ってら」

 

 今なら心の投げやり大会だったら優勝できる気がする。

 待っている間に、カレーが来た。

 それじゃ、戻るまで待ってるか。

 てか爆速で戻って来たな。

 

「お帰り、パフェ来てるぞ。頂きます」

 

 うめえ、スプーンが進みますよこれは。

 カレーという食事の中腹に差し掛かった時に、パフェの一部が乗ったスプーンを差し出された。

 

「ほら、少し食べろし」

「ん」

 

 差し出されたスプーンに食いついてから、ちょっとまずったと思った。悠の時みたいにナチュラルに食べてた。

 

「えへへ、マジで食うとは思わなかったんだケド?」

「気持ち悪いならスプーン変えて貰おうか?」

 

 まあ、後は黙々と食べ続けて、店を出た。

 

「じゃ」

 

 飯が旨かった。

 今日はそれだけを刻み付けて置こうと思った一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、山城美佳の部屋にて。

 その部屋は女の子然とした部屋ではあったが、壁じゅうに鍵山翔の写真が飾られている。

 イケメンであろうと精神的に圧力を受けるよくあるサイコな部屋が、所狭しと隠し撮りされた肥満体系の男にすり替わる所であるのならば発狂してしまいそうだ。

 

「やっぱり、あーしがいないと…………」

 

 と呟いて、ベットに寝そべってスマホを取り出した。そしておもむろに別の機器に付けたイヤホンを耳に付けた。そこからは、生活音が聞こえて来る。

 

『オイ、翔。今日何が良い?』

『飯…………中華系、チンジャオロースが良いな』

『分かった』

 

 まだ食うのかこの豚は。

 と、一般の人間ならそう思うだろう。

 だがしかし、山城美佳は恋する女の子。

 

「あーしと結婚してもあーしの手料理全部食べてくれる!!!」

 

 こうなってしまう。

 スマホの中身は…………。ここは伏せて置こう。

 

 



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捻くれデブとヤベー先輩

 

 俺は昼休みになった瞬間にダッシュでとある所に向かった。理由としては、浦野がデカい重箱を持っていたからなのだが。

 行先は所属している文芸部の部室だ。部長から鍵を貰っており、一時的なシェルターとして使わせてもらうことにした。

 いつもであれば、歩いていくのだが事情が事情だ。ヤベー女と一緒の部屋に居たくないのである。

 という訳で入るや否や急いで扉を開けて鍵をかけた。

 

「ふう…………」

 

 一息ついて、だんだんとなんで俺がこんな目に、と思ってきた。

 まあ、怒って居てもしょうがないから飯でも食うかと振り向こうとした時。

 

「やあ、珍しいね」

「うわぉ!?」

 

 変な声が出た。中に居たのは部長である猫屋 玲(ねこや れい)先輩。

 色素が薄い黒いくせっ毛を肩のあたりまで伸ばし、ダボついたカーディガンを常に着ている、ふちが真鍮色の丸に近い眼鏡を掛けた、ちょっとアレだがこの学校で俺と会話が出来るたった一人の異性だったりする。たまに混線するけど。文芸部の活動のすべてがこの人の手による物だが、この先輩は百合小説しか書かない、なのにクオリティでぶん殴ってくるものだから性質が悪い。

 小説の為に俺に妙な事をしてくる事以外はかなり常識的な女の人だ、まあ、中身は5割ぐらいマイルドにした小説版岸辺露伴みたいな人だ。

 …………いや、妙な事している時点で常識的ではないんだけど、アレのせいでかなりハードルが下がりきっているような気がするんだが。

 

「…………息を切らしているみたいだが、誰かから逃げてきたのかい?」

「大体似たような物っす」

「そうか、ならゆっくりしていくと良い」

「ありがとうございます」

 

 いや、本当に申し訳ねえ。なんかいろいろありそうだったが、先輩が座っている向かい側に俺は弁当箱を広げた。

 猫屋先輩は小説を片手に、ジュースを飲んでいた。

 牛乳パックから伸びるストローからズズズッといった音が鳴ると、ワイルドに握りつぶしてゴミ箱に放り投げた。

 弁当を食べていたが、その音に気を取られて猫屋先輩の方を向いた。すると、ちょうどよく目が合って口を開いた。

 

 

「少し聞いても良いかい?」

「どうぞ」

「…………あまり口は回らない方でね、単刀直入に聞こう。告白されたって聞いたんだが、本当か?」

 

 聞きにくそうに、そう言った先輩は苦笑しながら、俺の様子を伺っていた。

 悪事千里を走るとは言うがコイバナは地球2週ぐらいするんじゃないだろうか? 

 

「不本意ながら」

「まあ、大体の告白は不本意な物だよ、それで断ったのか?」

「あ、はい」

「なるほど…………」

 

 そういったきり、黙り始めた。よく食っている飯を出さなかったものだと自分自身に感心している。

 

「なあ、君は私の事をどう思っているんだ?」

「先輩ですけど?」

「つまり、私を女として見ずに先輩という生物として見ているのか?」

「え? いや、女の先輩ですけど…………?」

「統合も可能なのか? だがそれでは矛盾に説明が付かない、底抜けに優しい奴なんかいる訳が無いんだ」

 

 いきなり何を言っているんだ、と思っていたが大体の人間がそうだろう。

 と言ったきり本に視線を落とした。まあ食べるか、と俺は箸を進めた五分後食べ終わって弁当を畳んだ。

 

「やはり君は面白いな、そうだ、いつもみたいに練習台になってくれないか?」

「いいですよ」

 

 これが、妙な事をしてくる最たるもの。小説の描写が煮詰まった時に、同じシチュエーションを再現するというのだ。簡単な設定を伝えて、その都度感想を聞いてくる…………まあ、百合小説書いているぐらいだし、こういうことをしなければならないだろう。

 俺でやらなくてもいいじゃんとは思うが、まあ友達が居ないのだろう。先輩も俺に言われたくないと思うのだが。

 

「ではまず君の手を拘束するが良いか?」

「どうぞ」

 

 といって両腕を差し出した。

 

「縄は無いからカーディガンでいいか? 血も止まるしな」

「多分大丈夫ですけど、探すのも面倒ですし」

 

 そうして先輩は机をどかして、カーディガンを脱いで俺の両腕を拘束した。

 てか、この光景を見られたら、カーディガンじゃなくて鉄のお縄になりそうなんだが。

 

「それじゃあ、壁にもたれかかるように座ってくれ。シチュとしては、突き飛ばされたという感じだから足は延ばしてもらえると助かる」

「はい、こんなんでどうですか?」

 

 言われたとおりに座った、顔を見ると冷たい表情を見せたが、すぐに愛おしいものを見る目に変わった。

 

「君は本当に鈍感だな」

「はい?」

 

 そういうと俺の足の上に跨っていわゆる壁ドンの体制を取った。

 

「色々したな、隣に座る事から始まりデートもした、まあ、ラーメン屋だったが」

「いや、あ、はい」

 

 ラーメン屋はデートのうちに入るのだろうか? 家系しか勝たん。

 

「私が腕に噛みついたり、ああ、鎖骨もそうだったな、刺激的過ぎて記憶から消えかけていたよ」

「ありましたねえ、めっちゃ痛かったですけどあの、何が言いたいんです?」

「…………これでも、私はかなり焦っていてね、簡単に言えば」

 

 

 

「好きでもない人に対してそんな事する訳ないだろう?」

 

「何やってんだよ過去の俺…………」

 

 言い訳をさせてくれ? 本当に出てきたんだ、そういう百合小説が。そしたら、面白いものの為の出汁になるんだったら協力するだろ? 最初は豚骨スープしか出ねえとか言ってたけど。

 

 

「君は、本当に受け身…………いや、被食者といった方が良いのか? 君が答えを出す前に食べてしまった方がよさそうだ」

「痛!?」

 

 俺の首筋に頭がやって来た。

 強く吸って噛みついて、犬歯で少しばかり皮膚を千切られ、血をすすられた。抵抗しようものならそのまま喉笛を食い破られそうだった。

 しばらくして、先輩の顔が俺の首から離れた。唾液と血が混ざりあった液体が艶めかしく口の端から伝っていた。

 

「君を食べてしまいたい」

「一応俺は人間ですよ?」

 

 このままだと本格的にチャーシューになる!! 

 額から脂汗が出てくるまで無言の時が続いた。しかし、おもむろに猫屋先輩は左手で拘束したまま、ワイシャツのボタンをはずした。

 社会的にチャーシューになる!! 

 縛り上げるのはタコ糸じゃなくて法と鉄の輪だし、ムショが本当に豚箱になる!! 

 急いでカーディガンを振りほどいて、ボタンをはずす手を止めた。早くにこうしてればよかった、女の力で俺を縛れる訳ないし。

 

「何脱いでるんですか!?」

「クスクスクス。冗談さ、といっても、性的に食べたいのは本当だが…………ここまでした私を、君は受け入れられないかい?」

「俺はアンタの事、結構まともな人だと思ってたんですけどね!?」

「…………私の事嫌いか?」

 

 いや、一番回答に困る奴。

 嫌いじゃないけれども、大体自由に使える部屋を学校内に作ってくれた、ってところは感謝してるけれども? でもそれは先輩後輩という線引きがあってこその奴だからね? 

 

「嫌いじゃないって君は言うんだろうが、それも先輩という役割に対してだろう?」

 

 何この人!? 怖いんだけど!? 

 大体合ってるんだけど!? 

 

「……私は君が好きだ。私が卒業するまでに、絶対に惚れさせて見せる」

「一時の気の迷いで人生に汚点作る必要ないですって!」

「やっと本音か? それとも……考察が深まるな」

 

 人で考察するな、俺で考察すれば飼料しか出てこない。

 そう心で思っていた時、いきなり先輩が爆弾をぶっこんで来た。

 

「……からかうのはここまでにしようか」

「はぃ?」

 

 そう言うと、先輩は第二ボタンを付けて、元の場所に戻ってメモを取り始めた。

 

「今のはそういうシチュだ、実に参考になったよ」

「そうなの?」

 

 今までのとは違ったけど、まあ、そういう物なのだろう。

 

「ああ、それに、私は性別を規定する2人称は使わなかったはずだ」

「あっ。お恥ずかしい…………」

 

 確かに、好きでもない人や、君としか言ってなかった。

 ファッキン偽告白の記憶。 

 

「さすがに肝が冷えましたよ、俺はまだ良いとして、他の奴にやらないでくださいよ? 俺ですら勘違いしたんですから」

「クスクス、こんな事、君以外に出来る訳ないだろう?」

「友達少なそうですもんね」

「何を言う、私は本が友達で年間読書量は100を優に超える。ドキドキな一年生でもびっくりな友達の多さだ」

「それいいですね、友達食ってたらこんな体になったとか言ってきます」

 

 そうだな友達いないとか言われたら「俺は食べ物が友達、アメリカ産牛ロース、国産鶏もも肉、ブラジル産豚バラ肉、これまで歩んできた人生の中で食べてきた食べ物が俺の友達です」とか言っておこう。

 そんなハイパー屁理屈を言い合っていた先輩は、楽しそうに微笑んでいた。

 

「私はそろそろ行くよ、移動教室だからね。君に鍵預けておくから放課後に開けておくか、5、6時間目の昼休みにでも返しにきてくれ」

「わかりました」

 

 そう言うと鍵を手渡して、先輩は部室を後にした。

 よし、このまま授業サボってここで寝ちゃおう。

 次の作品を楽しみだ、なんて考えながら机に突っ伏して眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実に、実に、狂ってしまいそうだ。

 私は彼に恋をした、だけど、私にはわかる。彼はきっと私なんかに好意を持っていないと。

 私はさっき、非難するように先輩という役割に対してだろう? と言ったが、私がそんな事を言えるはずがない。

 私が、彼に話しかけれているのは、後輩という役職があってこそだから。

 

 そんな、恋と後ろめたさが私を邪魔して道化のように躍らせる。

 

 だけど、私は小説を書けるという特技があった。

 作品は作家の子供だ。

 彼が私の作品に協力してくれる限り、彼との子供を産み続ける。

 そんな事を妄想しながら、彼と私の、性別を変えただけのナマモノを今でも書き続けている。

 

 実に、実に、狂っていた。

 これ以上時がたてば、さらに狂う事を確信しながら、恐怖しながらまた時が流れるまで震えていよう。



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捻くれデブとヤベー幼馴染2

猫屋先輩と話した日、俺は素直に学校から帰る事が出来た。

最近一日における心労の値が馬鹿みたいに跳ね上がっているように感じる。

 

肉体的に疲れている訳じゃないが、少なくともここ一週間位は飯のメニュー以外の事について考える時間が多いのは確かだ。

例えば、帰って俺のベットで当たり前のように漫画を読んでいる悠をどうやってどかしてやろうかとか。

 

「お前、今日も居るんか」

「何?いちゃ悪い?彼女でも出来れば退散するけど?」

「それはお前が未来永劫ここにいる事になるんだが?」

 

俺に彼女とかビジョンが見えねえ。

まだ俺の通常移動が前方宙返り3回ひねりになっている位のビジョンなら見える。

 

「君はまだそういうんだね」

「もう、その煽りもきついんよ」

 

そこで会話を切りげて「ちょいシャワー浴びてくるわ」と言い残して爆速で入って来た。

 

「僕来ている所で入る?普通」

「ま、家族みたいなもんだろ」

 

細かい事を指摘した悠を差し置いて俺は部屋の漫画を取り出した。

やっぱり悠と一緒に居ると自然体って感じがするな。

 

「そう言ってくれるのはうれしいんだけどね」

「だからさ、家族同然のお前に言いたい事があるんだ」

 

そう、自然体。

俺の自然体というか、今の考えすぎたる異常体を反転する為に。

 

「俺、ボケたい」

「…………」

「え?無視?」

 

最近ツッコミしまくっているから反対にボケたい。

無言の後、苦し紛れに悠はこういった。

 

「僕は君の事、生来のボケ野郎だと思ってたんだけど?まだ足りないか?」

「ひどくない?」

「生来からのボケだからボケとしても認知していないっていうのか?」

「やっぱひどくない?」

「もう行き過ぎてゲボ野郎になりつつあるよ?」

 

もうノックアウトしそうなんだけど。

 

「まあとにかくボケたいんだよ」

「…………好きにすれば?」

 

なんかゴリ押した気もするけどヨシ!もう許しが出た。

 

「しゃい!じゃあ、漢プリクラ対決しようぜ!」

「…………漢?え?なに?」

「説明しよう!漢プリクラ対決とは!取ったプリクラがどれだけ漢か競う勝負だ!」

「パス!プリクラは普通に取りたい」

「じゃあ今度行くか、それがダメならエアホッケーチキンレースはどうだ!」

「どうだって言われても」

「説明しよう!エアホッケーチキンレースとは!エアホッケーのパックを交互に盗んでいつバレるかどうかを競う勝負だ!」

「普通に犯罪だ!?」

「クッソ、じゃあ今度は占い機ナルシズム対決だ!」

「もう普通に遊べ!それアレだろ!?相性占いとかを自分一人でやってどれだけいい結果が出るかとかだろ!?」

「ついにお前も理解った(わかった)か。来いよ俺の次元(ステージ)まで」

「うぜー」

 

君は逢瀬て(ついて)来れるだろうか、俺の魔性(ボケ)迅さ(スピード)に。

まあだけど大体満足したな。

 

「まあ、これは冗談だとして。どっかで普通に遊びに行くか」

「最初からそれが目的?」

「最近遊べてなかったし、ま、多少はね?」

 

実はノリで言ったのは内緒だ。

 

「もういいよ、早く正気に戻って」

「え~まだボケ足りないんだけど~」

「十分だよ、というかボケというか狂ってるだけだよ」

 

狂ったといえば、本当に最近になって運命の歯車が狂いだしているような気がするな。

 

「俺は狂ってねえ、周りが狂っているだけだ」

「いいや?…………よしんば、周りが狂っていたとしても、もう狂気が治りかけているんだと僕は思うよ」

「なんだ?いきなり」

「実は、僕にも君に話してない秘密の1つや2つや3つや4つ…………いっぱいあるんだけど」

 

それはもう俺を何も信用してないのでは?

 

「そんな秘密をぶっちゃけたくなっちゃう事だってあるんだよ、嘘つきは狂気の始まりだからね」

「え?不安」

「………君は僕に対して嘘つかないから、僕はフェアじゃないって思っている。これが秘密その1」

「そのくらい思ってくれてないとたまったもんじゃない」

 

いやマジで。こいつ彼女出来た事ないし、俺の狂った恋愛事情を聴いて何か思う事あるんだろう。

 

「よし、なんか湿っぽい話になったし今日起こった狂った出来事を話してやろう」

「…………聞こうか」

 

悠の奴、すごい聞きたくないような顔をしていたな。

 

「浦野の話じゃなくて今回は例の百合小説書いている先輩の話なんだが」

 

突然ほっとしたような顔になった。七変化だな。

 

「今日、カーディガンで腕拘束されて首筋噛みつかれた」

「ホモォ!?」

「なんで?」

 

いきなり鳴き声のように悠が先輩にあらぬレッテルを張り付けた。

 

「いや、同性でそんな事したがる人なんてホモ以外の何物でもないでしょ!?」

「…………猫屋先輩は女だぞ?」

「はぁ!?じゃあ、君がホモなのか!?…………って、本当にキスマークついてるし!?」

「え?痕ついているのか、やだなぁ」

「やだなぁじゃないよ!やっぱホモだろ君!」

 

こう、ホモホモ言われてるとむかついてきたな。

 

「じゃあ、ホモじゃない証明に俺のエロ本を出してやろう」

「持ってたの!?」

「ああ、小学生の頃から使っている由緒正しきエロ本だ」

「エロ本に由緒正しきとか使うな!!」

 

なにおう?これは、小学生の頃拾ったのがバレて揶揄われた時に、クラス全員ぶちのめして黙らせたことがある血と涙と男汁が混じった結晶なんだぞ?

…………あ、今考えればヤベぇ事してる。

 

「ええ?ごめんちょっとその先輩の情報を整理させてくれ、確か君から聞いた話は………隣に座ったり、ラーメン屋一緒に行ったり、そうだ、そもそもそこから間違ってたんだ、確かに先輩と言っているだけで性別は…………クソが!」

「何が?」

「自分自身にだよ!」

 

こわぁ、もう表情の変化が七変化っていうより怪人二十面相だ。

 

「君はホモなんだろ?だから女にそこまでされて恋とかになってないんだ君は!」

「違うわ、お前も文芸部の会誌見たろ?そういう小説が本当に出てきたんだよ」

「あ、あれか…………え?君との体験談があの会誌に混じっているって事だよね!?」

「そうなるな、まあ、俺書いてないから先輩が別名義で100ページ位書いたけど」

「きぃー!!純度百パーセント先輩の妄想録が記されているじゃないか!」

 

なんで発狂しながら地団駄踏んでいるんだ?

 

「こうなったら今日の事洗いざらい吐いてもらう!」

「ええ~?俺にだって秘密の1つや2つ…………」

「夕ご飯抜きにしてもらうからね!!」

「ここ俺んち」

 

まあ、別に話してもいいか。という訳でかくかくしかじか前話参照。

 

「先輩、君の事好きだぞ」

「な訳」

「それはもう好きじゃん!」

「百歩譲って嫌いな奴と一緒に部活したくないだろうけど」

「ライクじゃなくてラブの方!恋の好きの方!ウォーアイニーの方!」

 

ゴリ押しが半端ない。

 

「だって冗談って言ったから好きじゃないんだと思うぞ」

 

そう言うと、悠は大きく息を吐いて大きく息を吸った。

 

 

「君は嘘が存在しない世界から来たのか!?そんなわけないだろ!?さあ、言い訳してみろ、君の世界の女子語じゃ翻訳できないだろうね!何せその先輩とやらも狂っているからな!」

 

 

耳が痛い。

 

「ほら、お茶」

「はぁ、はぁ…………やっぱり君は生来のゲボ野郎だよ」

「せめてボケ野郎にしてくんない?」

 

肩で息をしながら頭を抱えている悠。

 

「ゲボ野郎じゃないっていうんだったらそれなりの行動をしておくれよ?」

「めっちゃ自然体」

「君はベトベターか」

「違う、カビゴンだろ」

「コナン君もびっくりの見た目はカビゴン頭はベトベターなんだけど」

 

なんだその生物?俺か、俺だな。

いったん落ち着いたようで、お茶を啜って俺に向き直った。

 

「僕が言う事でもないけど、ちゃんと向き合ってやりなよ」

「ええ?ガチ告白だとしてもお断りするんだが」

「君のような奴と付き合えるのは僕位だと思うが…………その上でなんて答えるんだ?」

「俺よりいい人がいますって言うわ」

「君じゃなきゃダメとか言ってきたら?」

 

その言葉を聞いて、俺は声のトーンを上げて人差し指を振りながらこういった。

 

「幻覚~」

「君の頭を勝ち割っても良いか?僕はIKKOに構わないんだが?」

「俺は良くねえ…………ん、そろそろ飯の準備してくわ」

 

時計を見ると6時半を過ぎた頃。

そして、飯を食べた後解散し、今日が終わった。

 

 



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捻くれデブとヤベー後輩2

注意
残り1割の夢と脂肪が出ています。脂肪が嫌いな人は◆の後を飛ばしてみてください。


 思う事がある、学校の図書館はかなり校風が出るような気がする。

 頭が良い所だと自習する奴や、普通に本を借りに来る人間も居るが、逆に頭悪い所だとドン引きする位すっからかんだ。

 俺が入っている学校は後者だが、それでも貸出や返却処理の為に一時間ほど拘束される。

 しかも誰も居ないときた。静寂の中で孤独に本を読み続けるにはもってこいだ。と1年前までは思っていた。俺の当番の時には必ず馬鹿ギャルが来るからだ…………いや知能で馬鹿にすると俺も劣っちゃう。

 

 しかし、俺が居る時に限って来るなんてこいつも運が悪いな。

 

「山城、また居るのかお前」

「なに? あーしの勝手だし」

「それはそうなんだが」

 

 とは言っても、本を読むわけでもなしにスマホ弄っているだけならさっさと家帰った方が良いんじゃないだろうか? 

 こんなことを考えなければいけないとは、後輩というのは苦手だ。上の言葉をそのまま言えば眼光で殺される。逆に年上とかだったら適当に敬うだけでいいから気が楽だし結構年上に可愛がって貰った。

 肉屋のおばちゃんなんかコロッケおまけしてくれたぜ? 

 

 というか、そもそも人付き合いが厚い脂肪で阻まれて経験値が足りないのにギャルとか言う魔王を討伐しろっていうのが無理な話だ。きっとコロッケは山城からもらう事はないだろう。

 

「パイセン暇、かまえし」

「帰ればぁ!?」

 

 コロッケじゃなく、驚きを貰った。

 だが、バットコミュニケーションだったらしい。

 バカな、現状考え得る限り完璧に合理的な返答だったと思う。うん。

 

「パイセンふざけてんの?」

「どこが?」

 

 めちゃめちゃ不機嫌になっている。

 確かに、俺の言い方が悪かったかもしれない。帰れって言えばその場に居たくなるし、居ろって言われると帰りたくなる。俺が天邪鬼なだけか。いや、宿題やれって言われたらその瞬間やる気無くすあれと似ている。

 

「じゃあ、しょうがねえななんかお前でも読めそうな感動系の本を紹介しよう」

「ふーん、なに?」

「『〇りと〇ら』だ」

「馬鹿にしてんの?」

「馬鹿にしてねえよ、もういいよ、俺が読む」

「あっそ、好きにすれば?」

 

 しょうがねえな、まあ、久しぶりに読んでやるか。

 黙読して、二匹の野ネズミに思いを馳せた。

 

「…………ぐすっ」

「嘘でしょ!?」

「自分の食べ物を分け与えるなんて、なんて良い奴なんだ………………ぐすっ」

「そこ!?」

 

 ふぅ、久しぶりに泣いた。

 ちょっとすっきりして、山城にも優しく接する事が出来そうだ。

 

「…………あー、さっきは言い方が悪かった。人の子よ、住処に帰りなさい。ここは紙とインクで出来た叡智の城です、貴方の望む物はないでしょう…………帰る気になったか?」

「何様のつもり?」

「見てわかんねえか? かあいいかあいい子ブタちゃんだろうが」

「いや、かわいいケド、パイセン子ブタじゃないっしょ?」

「じゃあ、ゆるキャラ」

「絶対違う」

「いや、デブは皆ゆるキャラみたいな所あるから。全体的なフォルムが丸い所とか、キャラが濃い所とか」

 

 一部を除いて寿命が短い所とか。デカく生きて早く死ぬ様はまるでデブのよう。

 

「うっさい、つーかなんか面白い話とか無い訳?」

「ファストフードみてーな無茶ぶりだな、特に面白い話はねーな、他をあたりな」

「そう? 例えば…………文芸部の3年に噛まれたとか」

「なんで知ってるんだよ、それは奇妙ではあるが面白い話じゃないだろ?」

「…………言えてる」

 

 納得はしていない顔をしながら山城は俺の顔を見つめた。

 

「そんなモテ男パイセンに相談したい事があるんだけど? いいっしょ?」

「まあ、それぐらいなら」

 

 そう言うと椅子を俺の正面まで持って来て背もたれを抱えるように座った。

 

「好きな人が居るんだけど」

「ほう?」

「パイセンならデートはどこ行きたい?」

「じたk、いやなんでもない。デートねぇ」

 

 危ない、自宅とか言いそうになった。

 この間、浦野に自宅とか言った時には押しかけられそうになったからな。

 後普通にこの相談には自宅という回答は間違っている。

 

「今、あーしと話しているのに別の女の事考えったっしょ?」

「え? ああ、うん」

「ウザいからあーしの前で別の女の事考えんな。あと否定くらいしろし」

 

 女って鋭いんだな。

 

「そもそも聞いてみりゃいい。お前、男ウケしそうだし、そりゃもう赤べこよ」

「だから聞いてるんじゃん、馬鹿なの?」

「お前の好きな人、俺とはかけ離れてるぞ」

 

 サンプル1としては外れ値が過ぎる。

 なんかこういう頭の悪そうな奴が好きになるのって金髪に染めた同じくウェーイ系の奴らだろ? それと比べたら俺には体型、性格、食事、優雅さ、そして何よりスピードが足りない。

 

「じゃあ、休日は何してたん?」

「ゲーム、読書、今まで動くことないしな」

 

 中学で部活やってた時ぐらいしか休日にやる事なかったし。もう動きたくないでデブ。

 

「でも、プール好きだな」

「え? イメージ無い」

「ああ、プールっていうよりウォータースライダーが」

「めっちゃ以外なんだけど」

「俺位の体重になるとウォータースライダーでとんでもないスピード出るんだよ、そして角度付けて着水時に水飛ばしてどれだけ監視員に掛けれるかっていう遊びを…………」

「笑ったらいいんだか軽蔑したらいいんだか分からないエピ出すのやめてくんない?」

 

 そのエピソードを話したあと山城はまたスマホに目線を向けて黙ってしまった。

 ウォータースライダー発射時の初速の付け方や摩擦係数を低くするための姿勢の開発、着水時のより水を飛ばす姿勢の発見など俺の中でデットヒートした遊びだったんだが、お気に召さなかったようで。

 実は黙ってくれた方が都合は良いんだが、デートどこ行きたいとか言っても考えられねえよ。助かった。

 

「あっ!」

「ん?」

 

 いきなり大きな声を出したかと思ったら山城のスマホから一枚の写真が落ちて俺の足元まで滑り込んで来た。

 なんの気なしに拾ってやろうと手を伸ばした。

 この前の俺の写真だった。じっくりとよく見れば文化祭の時に撮られた写真で、角度的に隠し撮りだ。

 この写真を見た瞬間俺は気が付いてしまった。

 

「あ…………あんまりじろじろみんなし」

「そうだったのか…………」

「うん、実はパイセンのこと、すk「お前悠の事が好きだったんだな?」」

「へ?」

 

 隠し撮りされたであろう写真の端っこに悠の姿が見える。

 これは文化祭を悠と回った時の写真だろう。

 それを後生大事に取っておくなんて一目ぼれでもしたか? まあ、見た目は優男だしモテない理由もないか。

 

「なるほどな、だけどあんまり隠し撮りは褒められるものじゃないぞ?」

「…………」

「気持ちは分からない訳じゃないが、お前が悠を好きなのは勝手だがこういう手段を取られると嫌だしな。お前の気持ちの整理が付いたら俺に言えば紹介してやる」

「…………」

「後は当人同士の問題だからな、デカいお邪魔蟲は退散するよ」

 

 うんうん、なんで山城が俺の周りをウロチョロしているのかが分かった。喉に刺さった小骨が取れた気分だ。

 正直女のこういうリサーチしてとか言うのは大っ嫌いなんだ、さっさと会って人となりを知れとしか思わない。

 

「ぱ、パイセンは…………」

「うん?」

「この悠って人と付き合ってるの!?」

「いきなり何を言い出すんだお前!?」

 

 あれか? BLってやつか? お世辞にもそう言うのに出るとしてもシャブ漬けモブおじぐらいしか出れねえよ!? 

 

「悠は男だぞ!?」

「こんなに可愛いのに男な訳ないじゃん!」

「かわっ!? 百歩譲ってもそういう奴も偶には居るだろ!?」

 

 一体何を言い出すんだろうか? 

 混乱で思考がまとまらないでいると、司書室の扉が開いた。

 

「うるせー! 俺も混ぜろ!」

「なんだったら変わっても良いぞ!?」

 

 司書が乱入してきた。

 

「もう帰る!」

「おう! 気を付けてな!」

 

 そういうと山城は急いで自分の荷物を持って図書館を去って行った。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 嵐のように去って行った山城の背中を見送った後、俺は司書に話しかけた。

 

「騒がしくしてすみません」

「良いんだよ別に、お前が来るとき以外は閑古鳥だし。ちと騒がしい位が丁度いい」

 

 そう言ってくれるならありがたい。

 文芸部に逃げて部室を騒がしくするのも先輩に忍びないし。

 

「それにしてもお前、山城もそうだが女の気持ちに答えてやらねえんだ?」

「はぁ、山城に関してはカツアゲされる理由もないんで」

「はぁ? 山城お前の事好きじゃん?」

「じゃん? って言われても。好きな訳ないでしょ? 良くて面白いデブ居るな位な感じだと思いますよ」

 

 ぽかんとした顔をしている司書さん。何が不思議なのだろうか? 

 

「お前女心分からなさすぎだろ」

「何をおっしゃいますか」

 

 俺以上に女心を理解しているブタは居ない。そして女心以上に俺にとって大切な事実を俺は知っている。

 

「女である前に人なんです」

「お前、捻くれすぎだ」

 

 

「だから俺に他人は愛せない」

 

 

 さて、司書さんには俺が何に見えているだろうか。

 何に見えていても、血と呪いで出来た白痴の小屋()、それに住む可哀い可哀い子ブタちゃん。

 そうである事に変わりないのだから。

 

「そんな事考えるのも無駄なんですけどね」

「…………まあいい、そろそろ時間だ。さっさと帰れ」

 

 そう言われて俺は荷物をまとめて図書館を去った。

 



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捻くれデブとヤベー先輩2

 

 あたし男だったらよかったわ。と往年の名曲が力強く、悔しさを持って歌っていた。

 初めてそれを聞いたのは、幼い頃まだテレビの番組で紹介されていた時の事だった。

 私は女であるが、歌詞にピンと来ない、だけど、その曲が持っている力強さに少しだけ心動かされたのは覚えている。

 

 そして、二度目に聞いた今、受験勉強中に流しているラジオからこの曲を聴いている。

 私は戦えたのだろうか? と、自問自答をしてみても、帰って来る答えは1つだけだ。

 何時だって私の敵は戦えない私だった。

 さて、1年と少し過去に思いを馳せてしまった。

 不闘卑屈(ふとうひくつ)な一年間を闘ったと言い訳をするように。

 

 それは私が2年生の時、部活歓迎会にまで遡る。

 その時の私は文芸部に所属していて、暗い性格で引っ込み思案。人前に出るなんてもってのほかな文芸少女、しかし学校唯一と言っていい程の自分の居場所である文芸部は廃部の危機に瀕していた。

 部活の先輩が卒業し、後一人入れなければ部活として部室があてがわれなくなる。だけど、私は諦観を決め込んでいた。確かにこれで誰も入部しなければ諦めるしかないと思っている、だが、元々文芸に興味がない人間が集まっている高校だ、興味ない人間を引っ張って来れる集客能力がこんな私にある訳もない。

 こうなったら自棄だと好きな本の冒頭を持ち時間いっぱいに喋り続け「これは図書館にはない本である、続きが読みたければ文芸部に入れ」と今になって考えてみれば、他の部活は台本を用意しているのに対し、一人で一冊の文庫本を小脇に抱えている様は気が狂っているようにしか見えなかったであろう。

 

 そうして体育館で、慣れないながら2分ばかりの朗読をした後、チラシを配る為に場所を移動した。

 他の部活は立ってチラシを押し付けるように配っていたのに対して、もしかしたら下校時に新入生が通るかもしれないと思うような所に一人机と椅子とチラシを置き本を読んで待っていた。あの時は、そうだ「久しぶりに読むと面白い」なんて引っ越しの時にジャンプを見つけたかのようなある種現実逃避をしていた。

 そうして新入生もまばらになった時、私は彼女と目が合った。

 

 その目は私と同じ眼をしていて、どこか諦めたような、解放されたような眼をしていた。

 きっと私も同じだろう、目の前にいる彼女はスポーツをやっていますというような快活さを持っていて、動きやすいようにポニーテールを結った、おおよそ雰囲気が文芸に興味を持つ人間のそれではなかったからだ。

 彼女は目が合うなり、素早く奪うようにチラシを持っていき、私にはひと声も掛けずにその場から去って行った。

 何だったのか、と独り言を言った。

 

 彼女と再び出会ったのは仮入部の日、いつも通りにいつも通りの席に座って本を開いたその時、部室の扉が開けられた。

 

「失礼します、文芸部の部室はこちらでよろしいでしょうか?」

「あ、ああ、好きな所にかけてくれ」

 

 私はまさか来るとは思っていなかった。

 

「私が部長の長嶋だ、部活の説明をしよう」

「ありがとうございます」

 

 私は、周りの人間からしてみたら『堅い』物言いをする。

 祖父の影響が多大に出てしまってこのような喋り口調になっているのだが、初対面の人間は私のこの口調に動揺するのだが、目の前の彼女はそんなことは無かった。

 

「とはいえ、やらなければならないことは簡単だ。文化祭に向けて文芸部の会誌を出す事がこの部活唯一の目標となる」

「なるほど」

「具体的には6月上旬には草案を出し、10月には清書という形になる。ほかに質問は?」

「…………ありません、それよりあの本はどこにありますか?」

 

 また私は驚いた、まさか本当にあの行動で人が来るとは思ってはいなかった。

 突飛な行動を自責しながら私は本棚を指さした。

 

「君から見て、一番手前の本棚の上から二段目、一番左の本だ。ここにある本は文芸部の物だ好きに読むと良い」

「ありがとうございます」

 

 そう言うと彼女はその本に手を伸ばした。

 思えば、私が朗読したのは部員を集めるのには適していない今どきの本ではない古い小説だ。慣れていない者が読めば頭を抱える。少ない友人で実証済みだ。

 そんな杞憂を他所に彼女は慣れた手つきで本を開き読み始めた。私が好きな本を誰かが読んでくれる、それだけで至上の喜びを感じていた。

 

 元々無言が苦手な人間ではないが、ページを捲る音だけの空間は嫌いじゃなかった。

 祖父の家で二人して縁側で日向にあたりながら本を読んだ時の事を思い出す。

 自分以外の紙と自然のノイズは、私の原風景だった。

 

 

 そんな時間を過ごしていると自然と日が落ち、心地いい時間はすぐに終わってしまう。

 

「そろそろ部活が終わる」

「あ、もうそんな時間ですか」

 

 と言って、彼女は当たり前のように読んでいた本をカバンにしまった。

 部活の多くない時間で3分の1を読み切っているように思えた私は、不意に言葉が出てしまった。

 

「それは、文芸部の本だ。すまないがここに置いてくれないか?」

「そうなんですか、すみません失礼しました」

 

 素直に元にあった場所に本を戻して、彼女はここを去った。

 そのまま貸し付けて返してしまえば、これ以外の本に興味を持たなかった場合。きっと彼女との縁はここで途切れてしまうのではないかと、今まで感じた事のない独占欲が存在しないルールを語らせた。

 彼女の背中を見ながら、私は咄嗟に嘘をついてしまった自己嫌悪と縁がつながったという一掴みの安心、この秘密がバレてしまっては嫌われてしまうかもなという不安を手にしていた。

 しかし、それは杞憂だった。

 彼女はその本を読み終わってもまだこの部屋に来てくれ、入部届まで出していた。

 

「元々、文芸部に入る予定でしたから」

 

 彼女の言葉が世辞か本当かは分からなかったが、それからしばらく得も言われぬ幸福感を味わいながら一か月が経った。時は五月下旬私は会誌の為の文章を作るためにノートを持って来ていた。

 

「もうそろそろ、書くような時期だ」

「私、小説書いたことないんですけど、大丈夫でしょうか?」

 

 そういえば、小学生ぐらいの時から書いていた私は、物語を作れないという感覚が分からない。

 ならばと祖父の受け売りを嘯いた。

 

「読書感想文でもいい、君が読んだ本の話を君が語れば、それは君の作品だ」

「確かに、それなら書けそうです」

 

 実際私が興味を持ったというのもある。

 彼女が何をもって題材の本を選び、何を感じたのか。彼女の内面が知りたいという好奇心が祖父の言葉を借りさせた。

 

「この会誌は自由だ、何も読書感想文の規定通りに書きなさいという事も無い。それに小説が書きたければ

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 そこで小説は止まっている。

 今は会誌に乗せる先輩の小説を読んでいる所だ。

 いや、なんか俺には「完成度たっけーなオイ」という感想しか出ない。それと他にいう事と言えば。

 

「完全に最初のモノローグでバットエンドの香りがするんですけどこれ?」

「いやいや、バットエンドになるかどうかは君がここから幸せになれる展開を思いついたら回避できるだろう」

「アクロバティックな脅迫二回目ですよ…………」

 

 この人はこういう小説を書く。

 仄かなバットエンドを匂わしながら日常系とでもいうべき一番心臓に悪いタイプ。

 

「だけど、よくこういうのかけますね?」

「実体験を虚飾するのがコツさ」

「でも、なんかどっかで聞いた事あるような…………?」

 

 よく思い出そうとするが思い出せない。

 喉元まで来ているんだけどなぁ…………。

 

「…………ニブチン」

「そりゃそうですよ。並大抵の衝撃なんかおなかでポヨンです」

「まだ足りないのか?」

 

 俺を倒すには打撃無効だから斬撃しかない。

 心の切り傷は残るんだよなぁ…………。

 

「もうおなかいっぱいです。あと、やっぱり雰囲気は出てますよね、まあ書ききってないんでまだ何とも言えないですけど」

「確かに、今は起承転結の起部分だ。恥ずかしい話だが私は起はうまく作れると自負しているが一番苦手なのは承だ。これを見てくれ」

 

 先輩がそう言うと一冊のノートを手渡された。

 新しいページを開くと簡単なプロットがあるが、確かに承のエピソードが少ないように見える。

 

「序破急でもいいような気がするんだが、それでは私の手垢がべったりだ」

「素人目からしたらいいもんですけどね」

「やはり深みという物を出したいのだよ、そのためには時間経過を感じさせるような、何でもない話が必要だと思う」

 

 確かに何でもない話をすれば体感の時間経過を感じる事が出来るだろう。

 地の文で1か月後とか言ってもその間に何があったのかとか気になってしまうかもしれない。

 

「私自身、雑談という物が苦手でね。こういう話を書きにくいのだよ」

「俺も得意という訳じゃありませんが…………」

 

 全く参った、俺ではこれ以上の力にはなれないだろう。そう思った時、それを見計らってか先輩が話しかける。

 

「…………確か、君には親友が居るといったな?」

「ええ」

「その人との話をしてくれないか?」

 

 確かに、俺と悠の話は取り留めの無い話だけど、だからあんまり内容は覚えていない。

 

「良いですけど、面白い話は無いですよ? って、それが目的ですもんね」

「ああ、さあ、話してくれたまえ」

 

 ポツリポツリと話し始めた。

 俺と悠のエピソードを聞けば聞くほど考え込むように真剣な顔になっているので、参考になっているのだと思いたかった。

 

 ほどなくして俺たちは解散した「参考になったよ」と先輩は微笑みながら言った。

 もしかしたらこういうのも他愛のない話なのだろうかと思った。それならば俺にもできる事があったと満足しながら帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妬けるな」

 

 私は彼の友人の事を思い出していた。

 彼が友人を連れて来たのは文化祭の日。部活の店番の交代の時、ふと遊びに来る人間を見てしまった。

 それは、やはり女だった。しかし、男のふりをした女だった。

 

 彼がその友人と話している時、理解してしまった。

 

 彼は、私を女として見ていないと。

 

 男の振りをしただけで、自然体に話す彼を見て失望してしまった。

 

 私、男に生まれたら良かった。

 

 そう羨んでいる自分に、失望していた。

 

 

 



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ヤベー美人の恋の始まり

キャラの名前クッソ適当に考えたのでキャラの名前かぶり無いかなーとか思ってググってみたんですけど、姓名判断が出てきまして。浦野美羽を姓名判断したら人格と総格が大凶だったので大爆笑しました


 

 時は放課後、小学校の教室には生徒は少なく、思い思いに下校時のおしゃべりを楽しんでいる中、少女が泣きながら給食を食べていた。今では考えられない光景だが、それでも、そんな理不尽に耐えながら少女は少しづづ食べていた。

 居残りで食事受ける者にとっては、そんな少女を支えていたのは揚げパンの存在だ。

 これを食べれば、揚げパンにまでありつける。まさに馬の前にニンジンをぶら下げるかのような有様だったが、少女の中にはそんなことを考える訳もなかった。

 

 一人しかいない教室の扉が開かれた。そこに居たのはクラスに一人は居るデブだったが、少女のクラスの生徒ではなかった。いきなり来た知らん生徒に少しビビりつつ、デブはその少女にずんずん近づいて行った。

 

「全部食べてやろうか?」

 

 このデブは何を言っているのだろうか? 少女の頭の中は疑問でいっぱいだった。

 ただしかし、そこは子供の脳内。都合よく揚げパンを除いた残りの給食全部だと認識してしまい、少女はおびえながら首を縦に振った。

 

「よっしゃ」

 

 そう言うと、皿にあるサラダ、おかずをすべてかき込んで、少女の食の細さでは10分は掛かるかと思う量を物の数十秒で食べつくした。

 目の前のデブにこういう使い方もあるのかと、驚きながらメインディッシュである揚げパンを手に取ろうとしたその時。揚げパンが消えた。

 

「ありがと」

 

 目の前のデブが揚げパンを頬張っている。

 その事実に少女は声を上げて泣いた。

 

「げっ!? なんで!?」

 

 デブはそういうが、何でも何もあった物じゃないのである。

 一応デブは、揚げパンは食べたかった事に気が付き口を付けた部分を千切り取って残りを差し出したのだが。今となってはそれすら煽りに見える。

 泣き止まない少女を見かねてデブは教室から逃げ出した。

 

「ちょっとなにしてるの!?」

「叩いて無いです!」

 

 しかし回り込まれた。

 教室の扉から見かねてか教師が入って来るなり説教をしていた。

 

「残ってた給食食ったら泣いちゃいました!」

「何やってんの!?」

「次はバレないようにやります!」

「何言ってんの!?」

 

 そう言われ頭にげんこつを落とされたデブ。説教の受け答えはもはやコントである。

 

「なんでこんな事したの!?」

「校庭で走ってたら腹減って」

「燃費悪すぎだよ!?」

 

 もはや少女にはその光景を呆然として見ているしかなかった。

 しかしそんな中、予想外の確度で少女に話が飛んできた。

 

「そういえばこいつイジメられてるの?」

「現在進行形でイジメてるの君だよね!?」

 

 その言葉を聞いて、少女は俯いた。

 少女は確かにイジメられていて、それを少女は隠しておきたかったのである。

 それもそのはず、少女、いや幼い頃の浦野美羽も容姿端麗文武両道であり、しかして不思議ちゃんであるが故にイジメを受けていた。

 

「…………なんでそう思ったの?」

「こいつの食器に盛られている量が多いから」

「こいつって言っちゃいけません…………どうしてわかったの?」

「返却された皿の食べ物の痕跡がこのクラスの平均より多いから」

「え?」

「その日の内なら食器の状態を全部記憶しているからですよ、簡単でしょう?」

「なんでそれを勉強に活かせないのよ…………」

「カロリー計算なら少すこし」

「もう、栄養士になりなさい」

「緑黄色野菜は敵だって父さんに教えられたんで」

「はぁ…………」

 

 少女は目の前の会話に少しクスリと笑った。

 

「浦野ちゃん、ごめんなさいで許してくれる?」

「ごめんなさい」「いいよ」

 

 教師に謝罪を促されるままに頭を下げたデブは腹を詰まらせながら頭を下げた。

 その日の学校は何事も起こらず少女は帰路についた。

 

 少女にとって、学校はつまらない所だった。

 勉強も遅れ、周りの同性には冷ややかな目で見られ、異性には好機の目で見られ、先生たちには大人びた委員長(ではないが)のような目で見られている。

 一般的な人間がそのような状態の所に放り込まれても、楽しいと感じるはずもなく、退屈した日々を送っていた。

 

 そんな日常に一切少女に興味を示さず、少女の食事にしか興味を示さなかったデブが現れた。普通なら嫌悪を抱く存在と行動である。だが、それが逆に少女の琴線に触れた。

 

 即ち「おもしれー男」である。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

「という訳なのよ」

「…………何やってんだよ昔の俺」

 

 現在学校は昼休み、思い思いに弁当を広げる者、購買に走る者が居る中、俺と浦野は中庭で弁当を広げていた。

 どういう事なのだろうか。いや、普通に他人と食べるの久しぶりだったので、色々聞いてしまったのだが。

 

「なんか俺封殺しちゃったけど、結局なんで俺の事好きなん?」

「それは…………」

 

 という流れで上の思い出話を展開されたのだが。

 いや、分かるような気がするけど分からん。恋長いなー位の感想しかないんだけど。

 

「まあ、ヤベーデブだったかもしれないけど、今はもう違うぞ?」

「どの口が言っているのかしら? 今も昔も貴方は変わってないわ」

 

 え、なに。遠回しに喧嘩売られてる? 

 小学校時分から何も成長していないと思われてる? 

 

「普通、飛び降りて逃げるまで嫌いな相手とご飯を食べようなんて思わないわ」

「…………だって早弁しちゃったんだもん」

「1時間目にね」

 

 あれ? 俺何も変わってない? 

 飯で簡単に吊り上げられる小学生から何も変わってない? 

 

「ぐっ…………あと、お前の事そこまで嫌いっていう訳じゃないからだ」

「単純に興味がないだけでしょう?」

「ぐう」

「見事にぐうの音が出たわね」

 

 あれ? 俺何も変わって無くない? 揚げパン喰って怒られただけの人間から何も変わって無くない? 

 

「貴方からしてみれば、無からま〇こ生えて来た感じなのね。驚くのも無理はないわ」

「何言っちゃってんの君?」

「私だって無からち〇こ生えてきたら嫌だわ? 私と同じね」

「その表現だと共感を求めるのに当たり判定がでけえよ」

 

 めちゃめちゃ真顔で下ネタいう物だから頭を抱えながら飯を食っている。

 初めてだよこんなの。なんかこれ以上喋らせたら何が出てくるかわからんからさっさと話題を変えてしまおう。

 

「それにしても、うまいなこの飯」

「腕によりをかけて作ったわ」

「お前が作ったんか、すげえな」

「ここの所貴方が食べなかったせいで、両親の晩ごはんはこれになっていたわ」

 

 逃げ続けて来たからね。

 ごめんね浦野の両親。恨むなら俺じゃなくって自分の娘の教育を恨んでください。

 

「そ、そうか。そういえば、お前結構頭良いんだろ?」

「そうね」

「なんでこんな底辺高校に来たんだ?」

「貴方を追いかけて、当然でしょう?」

「重くない?」

 

 精神的に。

 

「物理でつり合いが取れているわ。だから私たちお似合いのカップルだと思うのだけれど?」

「色恋沙汰に対してIQが低すぎる」

「そうかしら? 貴方はとても優しい人で、恋人にするなら貴方以外に考えられないわ」

 

 相撲部屋に行けば俺みたいな奴大量に居るぞ? 

 

「はっ、優しいは女子語でどうでもいいという意味だって言ってたぞ」

「誰が?」

「俺」

「じゃあ、私語で優しいは大好きって意味よ。美羽語辞書に追加しておきなさい」

「…………臆面もなくそんな事言うな、照れちゃうだろうが」

 

 何故か、なぜか知らないけど、本当にこいつは俺の事が好きなんだろう。

 さっきの会話でなぜかそう思ってしまった。

 この人は俺を好きなこと以外完璧な人間だ、マジで俺以外を好きになって幸せにでもなっていてほしい物だ。

 

「少しは意識してくれたかしら?」

「ちょっとな…………お前は良い奴だから俺以外と付き合った方が良い」

 

 俺はそう自嘲気味にそう言った。

 浦野が何か言いかけたのを俺は勢いよく手を合わせてその言葉を止めた。

 

「ごちそうさまでした、ありがと。めっちゃ美味かった」

「…………どういたしまして、私も食べてもらってもいいのよ?」

「絵面が種〇けおじさんみたいになるからパス」

 

 ありとあらゆることから逃げたくて、地面に居た俺は飛べない豚だった。

 

 

 



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