捻くれデブとやべー美人達 (屑太郎)
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捻くれデブとやべー美人達
俺はデブである、名前はあるが何故教えなければならないのだろうか。
猫にも劣る自己紹介文だが、俺を表すにはなんと簡潔で的確な物であろうか。
とりあえず諸兄らに話しておきたいことは諸々あるが。まずは俺の置かれている状況を説明させて頂こう。
俺は体重100を超えるお腹肉割れしている系男子高校生だ。色々あったおかげで友達が居ない。
友達が居ない事がそんなに悪い事なのかという質問に置かれることは、常にデブで居られるというメリットで帳消しだ。つまり、授業中に隣のバカと雑談する訳でもなく。真面目に快適に授業を受けられるという訳だ。
そういうとこだぞ俺。
話が逸れたな。
とりあえず現在の状況としては。放課後、誰もいない教室内で美人系女子と向かい合っている。
相手はどちらかといえばクール系美人、俺も平均より背は高いはずだが向かいあっている女子は俺より背が少しばかり高く見える。
同じクラスなのかどうかすら分からない、何故なら友達が居ないから。なんて無駄な思考を張り巡らせていたら相手が話しかけてきた。
「大事な話があるの」
その一言で俺の中で罰ゲームか連絡事項の二択に絞られた。何故なら俺が女子に話しかけられるときはこの二択だからだ!
クソが…………だが安心してほしい。俺はデブはデブでもウィットに富んだデブだ。幼い頃からデブだデブだと言われ続けたこの人生、デブ弄りというかいじめに対する返しは最早一流企業のマニュアル級だ。
かますぜぇ~最大級のパンチライン。
「私はあなたの事が好きです、付き合ってください」
「養豚場行けば?」
決まった。ありがとう、中学1年の冬。
「あいつの周りだけ養豚場になってるんだけど消えてくれないかな」って言った誰か、内心大爆笑してた。
デブには暖房が効きすぎるこの教室も、俺のオーディエンスたちが冷やしてくれる。センキューオーディエンス、また来冬で会おう。
「あら、ありがとう。早速家に招待してくれるのね」
「我が家なんだと思ってんの?」
思うに、というか思わなくても俺はコンプレックスの塊を持つにふさわしいほどの容姿性格出生を持っている。というかデブだけで役満だ。
そんな奴にこれを本気で言っているのだとしたら、裏で俺に告白しないと両親殺すぞとか言われている可能性すらある。可哀そうに、君の両親の命はない。
「あっ、でもお義父さんお義母さんにお土産が必要ね…………」
「要らねえよ、来るな馬鹿か。精肉工場で脳髄ごとミンチにしてもらってこい」
「分かったわ、付き合っているんだもの、その位は大丈夫よ」
といって踵を返した。ああ、帰るんか。まあ罰ゲームだろうし、近くに人が居るんだろう。とりあえず俺への罵倒の言葉を聞いて、次に生かすかと思い立ち会話が聞こえるぐらいの距離を保って尾行した。すると教室から少し離れた所から、その女はスマホを取り出して一人でしゃべりだした。
「ヘイデブ。近くの精肉工場を教えて」
『検索結果は、こちらです』
「待て待て待て待て。まて」
こいつ…………ツッコミが追い付かねえ…………。
「なんで俺いない所で精肉工場の場所調べようとしているの!?」
「お土産は私の体ということではなくて?」
「お前の中では俺の家族全員カニバっちゃってるんか?」
「いえ、私の為よ。私を食べればあなたと一緒に居られるもの家族ぐるみの付き合いね」
「自分の両親生贄にして何召喚するんだよ! うちにはミノタウロスかエルフの剣士しかいません!」
怖い怖い怖い怖い。やべーんだけど。いかれてるんだけど。
「あ、もしかして精肉工場にこだわりがあったのかしら?」
「食べられるための予行演習してねえし、精肉工場にこだわりはねえよ!?」
「でも、あなた、私と結婚しようとしているのではなくて?」
「はぁ!?」
「だって、呼び方が初めからお前と私はあなたって、こう…………夫婦みたいじゃない? だからてっきり私は結婚まで」
「ねえよ! 夫婦じゃねえよ! 良くてフールだわ!」
「あなたと同じになれれば何でもいいわ」
「墓穴掘って俺まで愚かか!」
会話が通じねえ…………。てか、この高校で今まで会話してこなかった…………。
「苗字教えろ! 苗字でさん付けで呼んでやるわい!」
「美羽よ」
「多分それ名前だよ! 教えてくれは苗字!」
「もしもしお母さん、今から苗字を美羽にできるかしら?」
「力技だな!?」
「頑張るらしいわ」
「一族郎党皆そんな感じか!?」
だめだ、だめだ、もう簡潔に拒否するしかねえ。
「俺の話聞いてくれ?」
「分かったわ」
「俺はお前と付き合わない、家に来るな以上だ!」
「分かったわ、丈夫なロープはカバンに入っていたかしら」
「しーぬーな!! 以上!! じゃあな!」
もう、やってられねえ。はあ、デブは体力がないんだ、今ので五割は削れた。
「ったく、罰ゲームにしたってしつこいぞ」
俺は、完全に間違えていた。
美羽と名乗った女子への罰ゲームなのではなく、俺自身への罰ゲームだったのだと、次の日には自覚することになる。
そしてその次の日。
「ええ…………」
登校し教室に入った瞬間、正面の黒板にでかでかと相合い傘とハートマークそしてその中には鍵山翔、俺の名前と、浦野美羽…………おそらく昨日の奴の名前が入っていた。
高校にもなってこんな事するのかよ、とか思っていたが、まあ、ここ底辺高校だしな。仕方ねえ。
昨日デブいじりに対する返しは完璧といったな? ということは自らデブをいじることも可能。見とけ、これがジャパニーズデブだ。
まず、俺は教室の隅っこで本を読んでいるだけの、おとなしいデブだ。そういうキャラクター性から、いきなり出る大声は必須、つまりヤンキー系で行くしかない。
俺のところを見てニヤニヤする奴らを歯牙にもかけず、俺は一直線に黒板の前に立った。
「誰だこんなことやった奴!!」
俺は思いっきり黒板を殴った。教室が静かになる。まあ、確かに、俺も同じことやられたら黙るわ、てかこの学校で喋ってなかったわ。
「誰がやったかって聞いてんだよ!!」
「俺がやった、お前デブの癖に美羽さんに告られてるんじゃねえよ!」
「先生はそこに怒って居るんじゃない!」
誰だお前、だが助かる。
俺は相合い傘を隠すように浦野美羽の文字を消して、1文字書いた。
豚
「こうやるんだよ!!」
教室から笑いが出た。よし、いいぞ。絡んできた奴も笑ってる。
「何がおかしい!!!」
もう一度笑いを止めるように黒板を叩いた。教室に静寂が訪れたとき。俺は一転して態度を軟化させる。笑いとは緊張と弛緩の間に生まれる。
「あ、ごめん。先生が間違えてたね、こうだよね」
消さずに2文字を足す。
メス豚
こうして、俺の相合い傘はメス豚と。
「という訳で、先生は雌豚と結婚します!」
「正気かお前!?」
「挙式は精肉工場でやります!」
「そろって肉になりに行ってんじゃん」
「そのあとは生徒全員で焼肉だ!!」
「自らの肉食わせんな!?」
教室の男子が笑い始めた。…………これをやると、次の日熱出てくるけど。
はー、よし! いじめ回避成功! 良かった良かった。
と思ったその時、教室後方の扉が開いた。一瞬先生かと思って身構えたが、くだんの女子だった。んだよ、ビビらせやがって。てか同じクラスだったのか?
「なるほど、鍵山君は雌豚が好きなのね」
「いやいや、ネタでしょネタ」
絡んで来た奴がそう返す。
「では何なりとお申し付けください。ご主人様」
空気が
凍った
ついでに俺も凍った。
声量は無いが、イヤに通る透き通る声が教室中を。
そして恭しく、そして媚びへつらうように俺の足元に近づいてきて土下座した頭が、空気を凍らせた。
端的に言おう。
俺、鍵山翔は、この学校内で美女を雌豚といって侍らし、あまつさえ結婚すると言い放った男になった。
凍結した教室内で脳内フル回転した俺は、いち早くその結論にたどりつき、絡んできた奴に一縷の望みをかけて話しかけた。
「なあ、悪いが先生に鍵山翔は欠席すると伝えておいてくれ」
「あ、ああ。分かった」
「じゃあな」
俺はベランダから飛んだ。
一抹の浮遊感と、少しばかりの現実逃避が気持ちいい。
ここは四階。
だが元プロパシラー(プロのパシリにされる人)にとっては呼吸をするように飛び降りれる距離だ。それでは、また明日。
ただ、教室に見える、さっきの女子の心配そうな顔だけは視たくなかったな。
「勘弁してくれ、まだ同情で惚れられるほど堕ちちゃ居ないんだよ」
華麗に五点着地して、俺は何もかもを振り切って逃げ出した。
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捻くれデブと幼馴染
命からがら、というわけでもなく。俺はパシリストの実力をいかんなく発揮し、家に帰った。無断欠席は初めてだったが、あの学校の事だそこまで大ごとにはならないだろう。
「ただいまー」
とは言ったが今家には誰もいない。だが、習慣はぬぐえないな。
「おかえりー」
「うおっ。ああ?」
俺のよく知る奴の声がしてめっちゃビックリした。
驚きはいろいろな感情に派生するが、今回は怒りだった。
怒りのままに階段を駆け上り、俺の部屋を開けた。
「お前何してるんだよ」
「視たら分かるでしょ? マンガ読んでる」
「俺の家でっていう前提だと疑問になるんだよ!」
俺のベットで布団をかぶり、その中でマンガを読み漁っている俺の幼馴染、清原悠(ゆう)が居た。まあ、漫画の貸し借りとかは今までにしていたが、今回のような事は初めてだ。
「まあまあ、そんなに怒んないで。あ、漫画読む?」
「俺のだ。殺すぞ」
「読み終わってからで」
俺はため息と頭を抱えた。何がこいつをそうさせたんだ。
でも、少しばかり日常が戻って来た事で少しは安心していた。こいつ相手だったら、今回の世にも奇妙な物語レベルの珍事を話すのもやぶさかではない。
「てか、君も何しに来たのさ。高校じゃ真面目君じゃん? どうして休んだ?」
「ああ、いいことを聞いてくれた。非常に」
「聞きたくないね」
「俺、女子に告白されたぞ」
お、言っても平気な態度だ。事実がどうかを疑ってるんだな? 残念! 事実です! 残念ってなんだよ! 残念だけど!
なんて思いながら、俺はネクタイを緩めながらベット近くに座った。
「…………メス豚と?」
「今だけは雌豚って言うな!!!」
さっきの出来事がフラッシュバックしてきた。あんな記憶永年封印指定だこん畜生。
「メ」
「あ?」
「スシリンダー」
「穴という穴に入れてそのまま破壊してやる」
なんていうとあっはっはなんて笑った。こいつは本当に人をからかうのが好きだな。
「はー笑った。で? ほんとはどうなのさ?」
「ああ、女子に告白されたから逃げてきたんだ」
俺の後ろのほうで、漫画をめくる音が止まった。はっはっは、悪いな人をからかうのは好きじゃないが、俺の人生自体が人をからかっているような物だからな。
突然後ろから抱き着かれた、いわゆるあすなろ抱きという状態から悠は俺にささやいた。
「ねえ、翔」
「こそばゆい、離れろ」
「つまらない冗談はやめた方が良い」
「ちょおま、ギブギブギブ!!」
俺の首を締めた。悠の細腕がばっちりと頸動脈に食い込んでいる。
しばらくして俺が落ちかけたタイミングで裸締めを解いた。
「何!? そんなつまらなかった!?」
「君が女性から告白されることは1回しかないだろうからね」
「その一回がやべー奴に消費させられたんだよ! だから逃げ帰って来たって訳!」
「返答によってはこの家から君の居場所がなくなると思っていい」
「ここ俺んち! まあ聞いてくれよ」
そういって、かくかくしかじか前話参照というわけで。悠に話した。
話が進んでいくにつれて、悠の顔がゆがんでいく。そして話し終わったときに一言。
「君が狂っている」
「そんな馬鹿な」
「いやいや、俺は狂ってねえ。俺が告白されるという前提が狂っているだけで俺は間違いなく狂ってねえ」
「告白されるなんてそう珍しいことでもないだろう?」
「お前にとってはな。顔は良いし」
「性格もだろう?」
「ああ、勝手に人んちでマンガ読むイイ性格しているよ」
蹴られた。
「大体告白されて嫌だったらノーで済むじゃないか」
「罰ゲームだと思ったんだよ」
「罰ゲームだと思ったらなぜ「養豚場に行けば」なんだよ」
「罰ゲーム、断る、つまらない、いじめ、いじめの連鎖、最終的に俺いじめられる」
「君、ネガティブ詰将棋だったら優勝できるぞ」
ネガティブは悪いことじゃない。俺は悪くない。
「てか、逆になんで笑わせたらいいんだよ」
「罰ゲーム、面白い断り方、面白い、満足する、いじめられない。おっけい」
「どうしてさ」
「いじめとかやる奴らはチンパンジーだからな。自分が満足すればそこで終わるんだよ、うちの高校皆チンパンジーみたいなものだしな」
「いじめられる原因やっぱり君にあるんじゃないかな」
「馬鹿な、俺は常に周りの人間を見上げているよ、なんたってチンパンジーは豚より上だからね」
無言で悠は首を振った。
「ちょっと、お茶淹れてくる。あったかい緑茶と冷たい麦茶どっちがいい?」
「冷たい緑茶」
「殺すぞ、まあ、いいけど」
ちょっとした仕切り直しを挟んで俺はまた自分の部屋に戻った。
「ていうか、罰ゲームだったとしてもなんで断ったのさ、気持ちはうれしいけどって言えないぐらいの1000年に一度の醜女だった訳でもあるまいし」
「顔はそりゃきれいなもんだったよ」
「じゃあなんで?」
「俺に告白するような奴にまともな奴がいる訳ねえだろ」
「じゃあ、僕もまともじゃないことになるけど?」
「まともじゃねえだろ、こうやって俺んちで勝手に漫画読んでいる時点で…………いやー、ほんとにビビったなあんとき、告白カウント男で消費することになるとは思わなかったぜ」
「黙れ…………まあ、そうだろうけどさ」
なんか、様子がおかしい。確かに、こいつは男なのに俺に告白したという黒歴史がある、今の俺に雌豚というような物だ。思い出したくないだろう。
「で、名前は?」
「ああ、えっと浦野美羽だったっけ」
「…………自分の悩みが嘘みたいに吹っ飛んでいったよ」
「なんでぇ」
「君、本当に世の中のうわさとか知らないんだな」
「噂は噂、それ以上でもそれ以下でもない」
「ちなみに浦野美羽は、ここ周辺で馬鹿みたいに有名だよ」
「ギャングスター的な意味でか?」
「全国模試の上位に食い込み、清廉潔白、品行方正、美人薄命、学校側が理想とする姿といわれているんだけど…………」
「最後の四字熟語だけ少し違うだろ、へえ。俺に告白する時点でまとも度0なんだけど、そうなのか」
「そうなんだよ…………せっかくこっちが外堀から埋めていこうとしているのに」
「あ? なんだって?」
「なんでもない」
どうしたんだ? なんか言っているのは聞こえたんだが、何言っているのかは聞こえなかった。
「じゃあさ、今の話きいて、罰ゲームじゃないって確定している時はなんて返すつもりだったのさ?」
「あ? まったく同じ言葉を言うだけだ」
「えぇ…………?」
「男女関係で言ったら、俺より良い奴が、というより俺より下が居ないな!」
「驚くほどの自己肯定感の欠如!?」
俺はネガティブ一周まわってポジティブな人間だ、転ばぬ先の杖百本持つぐらいなら何も持たず転んで死ぬ! みたいな。
「そもそも、チンパン高校なウチで俺みたいな容姿の奴がそれと付き合ったら戦争が起こるぜ?」
「じゃあ、イケメンだったら付き合うって事?」
「それはもう俺じゃないし、俺じゃなくていいだろヘイ論破」
結局の所それだろう。
「すごい、非モテ率100、200、まだ上がる」
「初期スカウターならぶっ壊れているな」
「はぁ、君は良い性格しているよ」
結局の所、面白ければそれでいい。
この文脈的には、非モテだという事を差し置いて、付き合えるなら付き合えばいいのに、っていう事か?
…………なら、俺が付き合うに値しない人間であることを証明すればいいんだな?
「そうだな、俺の親父が言っていた、高校生の時の付き合ったは桜と同じ時期か20日大根収穫できるまで持てばいい方だってな」
「なにその非モテの英才教育」
「というかさ、そんな簡単なカップラーメンみたいな惚れた腫れた求めている奴に、俺みたいな家系ラーメン出してどうするの!?」
「油少な目、ニンニク多めでよろしく」
「油は俺! 俺は油! デブであることにアイデンティティの重きを置いているのに、それを取っ払ったらただの面白くないガリガリ男の出来上がりだぁ…………もうだめだぁ…………」
「キャベツ、トマト、ニンジン、かぼちゃ…………」
「緑黄色野菜の名前を喋るな! 痩せちゃうだろ!」
「便利な体だな」
俺もだんだん熱が入ってきたな、少しお茶でも飲もう。
「痩せてアイデンティティ崩壊する奴君以外に見たことないよ。痩せたらモテると思うんだけど」
「痩せてもデブはデブ! もしくはブス!」
「君痩せたことないだろ? それに、そういうテレビじゃ結構見てくれは良くなっているじゃないか」
「デブとブスの写真並べたら誰でもブス選ぶだろ! 逆によ? お前いきなり今日から女になったら想像するのか?」
「性別は急に変わらないでしょ?」
「性別はマン、ウーマン、ファッティなんだよ! よくわからないって言う顔してんな、いいか、俺をよーく見ろ、貧乳の女よりおっぱいあんぞ!」
「殺す」
すげえ殺意だ…………。
「貧乳教の信者だから許してくれ」
「赦そう」
「でも結局痩せてもモテないのよ。漫画小説だけの世界なんだよ、痩せてモテるのは」
「でもそんな君が告白されたんだろ?」
「きっと、両親人質に取られていると思うんだけどさ」
「発想が突飛すぎる」
俺のマシンガントークに疲れてそうだから少し、真面目な話題でも出すか。
「正直女は俺の事を家畜ぐらいにしか見てないだろうから、縁切るのが得策だろ」
「そんなことはない。君優しいし」
「残念だったな、優しいは女子語でどうでもいいという意味だ」
「君は何処の世界から来たのさ」
「仮に俺が優しかったとしてもよ? 優しいと言われる条件は俺の行動なわけじゃん?」
「じゃんて言われても」
「休日に家でゴロゴロしている人間と、休日にボランティアに行く人間どっちが優しいかって言ったらボランティア行く人間じゃん? 俺学校じゃ何もしていないからさ。一切生徒と関わっていない」
「灰色通り越して目がつぶれているよ君は…………あー、じゃあ面白い」
「学校じゃ話していない」
「記憶にないだけかもしれない」
「ああ、自己紹介があったな、名前と趣味は読書って言った」
「一番無難で一番孤立する奴じゃないか。じゃあ、デブ専だった」
「そんなもんデブの幻想だ、それにうちの学校相撲部あるし、何なら勧誘されたし」
「うーん…………」
なぜ悠は俺に彼女できるという可能性を必死で探そうとしているのか?
逆に考えてみよう、あ、めっちゃ面白そうだわ。草葉の陰で見守りたい。
「まとめれば、学校で見せている性格と備わっている容姿も下の下である以上、学校の女子に告白されるのは不自然。という事だね?」
「自分で言っておいてなんだが簡単に纏められるとむかつくな」
いや、本当にめちゃめちゃ簡単にまとめたな。今までの茶番は何だったんだ。
「じゃあ、これまでの人生のどこかで会っているんじゃ?」
「会っていたとしても、そんな、あの人性格良い! 好き! ってなるか?」
「道行くおばあちゃん助けたり、他人に何か影響を与える姿が憧れや恋になる事もあるだろ?」
…………いや、俺人生でいいことやったっていう自覚は無いが? 。まあ、いつだってそんなものか。
「仮にそうだとして、告白した後、好きになった理由とかいうだろ?」
「『養豚場に行けば』って言って封殺した奴は誰かな?」
「…………」
要らない報告だが、めちゃめちゃ脂汗が出ている。
「君、もしかして…………」
「まて、正直俺、そんなに良い奴じゃないだろう?」
「僕は君を良い奴だと思っているよ? 君は友達の意見を否定するのかい?」
「…………」
あれ? 流れ変わった?
「さっき惚れる理由に優しいを否定したよね?」
「あ、ああ」
「君の思惑がどうあれ、聞いた限りじゃ君の評価は優しいになるんじゃないか?」
「はい?」
「罰ゲーム、面白い断り方、面白い、満足する、いじめられないって言ってたけど、実際は相合い傘だ。それを、消して雌豚にしていた。それは間違いないね?」
「ああ、そうだが」
「…………君が黒板の文字をしっかり消して居なかったとしたら。彼女の目からは彼女を守ろうとしたように見えるんじゃないか、と思うんだけれども?」
「…………」
「仮に罰ゲームでやったとしても、評価は上がるんじゃ」
確かに、しっかりと消しては居なかった。
いやいや、さすがに土下座してご主人様呼びは無いでしょ。
「まて、待つんだ。今言い訳考えるから」
「言い訳って白状してるじゃないか」
「いや待て、俺は悪くねえ。俺は悪くない理由を必死で探しているから今」
「君は自分に好意を向けた相手にこっぴどく振ったサイテー屑男という訳になるんだけど?」
「やめろー!?」
いや、無理。振られるのは良い、けど振るのはダメだ、プライドが許さない。
「正直なんで君がそこまで必死に付き合いたくないんだかわからないんだけども」
「モテない生活が長かったからな、正直そこまで要らねえっていうのが一つ。それに、今までの人生でろくでもない女しか居なかったから別にな。あと俺と付き合ってそのことが原因でイジメられるのが目に見えている」
「…………やっぱり君、優しいじゃないか」
「無関心や嘲笑っていうのはクルものがあるからな、イヤだろ、自分が仲いい奴の事笑われるの」
「僕はいつもそう思っているよ」
急にしんみりとした雰囲気になってしまった。
まあ、しょうがないか。
「とりあえず鉄道ゲームやろうぜ、買ってCPUとしかやってねえんだ」
「僕は悲しいよ…………」
そういわれて俺はゲーム機を起動した。50年はやりすぎだった。
時を戻そう。それは、鍵山翔が自分の部屋に戻る前の話だ。
「お邪魔しまーす」
と、自身の合い鍵を持って侵入したのは一人の女性。清原悠(はるか)だった。
「うへへへ、久々だね」
彼女は自らの学校で欠席をしてまで、この家に侵入した。
我が物顔でとある部屋に行き、そこの布団にダイブした。
「正ぃ…………好き…………」
彼女は、正しく女性である。
だが、お隣さんであるにも関わらず、幼稚園、小学校、中学校と奇跡的にかみ合わ無かった結果、鍵山翔は悠を男だと勘違いしている。背が低く胸があまり無いのも一因ではあるが。
それは、悠も知ってはいるが、男幼馴染というアドバンテージを最大限に生かそうとするのは想像に難くない。
「んっ…………あっ…………」
いつもは親に黙って来ているため、女性用の制服であるが、今回は部屋の掃除をしようと動きやすい格好にしてきたのが幸いした。
「ただいまー」
その一言で達した。いや何とは言わないが。
汗が滲む全身を悟られないように、布団をかぶり適当にあった漫画を取り寄せた。
そして、重い体重からくる振動が、彼女の芯を揺さぶる。
男のような振る舞いになるため、努めて脳内を変換させていく。
「おかえりー」
そして、長い年月を経て少しばかり歪んだ恋心がしゃべりだした。
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捻くれデブとヤベー美人2
正直、気分は最悪だ。
デブでボッチな俺は、人に注目されない現状では、学校というものが嫌いではなかった。何故なら、人との交流が少ない分、何も変化が起こらないからだ。
噂も七十五日とはいうが、昨日やった桃鉄の時間がそのまま過ぎればどれだけよかっただろうか。今からプラス50年だと、65歳。そんなにもなっていたら、あんなことは忘れている事だろう。
だが、現実は非情である。一日だと冷めやらぬ阿呆な出来事は、砂糖に群がるアリのように俺に群がってくる事だろう。
そのことを予感しつつ、俺はドアを開けた。
何処だここは!?。
オイ、今まで教室はヤンキー漫画のヤンキー高校一歩手前ぐらいの荒れ果てた荒野だったじゃん!
めっちゃピカピカになってんだけどこの教室。てか中にいる奴姿勢正すぎだろ!良すぎて測らなくても分かるぐらい90度になってんじゃん!!
というか、お前らあの色とりどりの髪色はどうしたんだ、知性が吸収されて金髪になったんじゃなかったのか!?
「「「「鍵山さんおはよう!!!!」」」」
何が起きた!!!
中に居た全員が俺の方を向いて、挨拶してきた!もう逆にホラーだよ!!
よく見たら髪色が黒に戻ってて分からなかったけど、昨日絡んできた奴いるじゃんちょっと聞くか………。
「な、なあ、何があったんだ?」
「ああ、鍵山さん。僕たち、心を入れ替えたんです」
「信じれるよ?今なら俺信じれるよ!?本当に入れ替わってるよ!?何処から持ってきたの!?返してきなさい!」
なんだ?隣町の進学校から心すり替えてきたのか?進学校が世紀末になる前に返して、イヤほんとに。
「鍵山さんとはあまり喋った事がなかったから肥え太った肉の塊だと思っていたけど、結構ユーモラスなんだね」
「頭まで取り換えられたのか………?」
絶対にユーモラスなんて言葉知っているわけがないんだうちの高校で!
てか悪口まで知的になっているじゃねえか!
すると後ろからドアが開く音がした、がそれどころじゃなかった。話を続けようとした時、いきなり目の前の男があいさつし始めた。
「おはよう、美羽さん」
「おはよう、万城目君にご主人様」
後ろにいるのは、昨日の告白してきた女子だった。
爆弾んんんん!!!
てめえボンバーマンか!?
落ち着け、分かった。とりあえず謝ろう。
「そういえば、面と向かって朝の挨拶をするのは初めてねご主人様」
「申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁ!」
昨日の俺の結論は、俺が何か知らず知らずのうちに目の前の女を怒らせてしまった。という結論に落ち着いた。自分の身を犠牲にしてまでも俺に社会的、精神的に苦痛を与えたかったという俺のIQ30000の知能が算出した。そうじゃなきゃ俺に告白しねえって。
というかこれ以上爆弾増やされちゃかなわねえ、場所を移動したい…………。いざ!
「ちょっと図書館に来てもらっていいですか浦野さん」
「いいわ、初デートね」
「ちょっと何言ってるか分かんないです」
華麗とは言い難いスルースキルを使って、俺は無言で教室から遠い図書館へと向かった。ウチの高校は馬鹿高ゆえに図書館が隅っこの方に追いやられている。
ちなみに図書委員である。
「あ、あのマジで何か失礼な事いたしましたかね?俺馬鹿なんで分からないで、こう………何したら許してくれますかね?」
「ご主人様が少し何言っているか分からないわ」
「ひとまずご主人様って止めてくれませんか?」
ゲキおこでいらっしゃる。俺の話を聞く耳を持たねえと言っているわけですね。
仕方ないこれで、手を打とう。
俺は、土下座の体制を取ってお金を差し出した。虎の子全財産3万円だ………。
「これで勘弁してください」
「結納金ね、うれしいわ」
「手切れ金っす、悲しい事に」
どうにも会話が成り立たない…………と、とりあえず、聞こうこいつが俺の所を好きだという事を仮定して聞いてみよう。出来るか?いや、できるさ俺はオープンなデブだ。
「俺ホントに身に覚えがないんですけど、もし本当に浦野さんが俺の事を好きだと言うならきっかけはどこで………」
「少しショックよ………好きになったのは小学校の時よ」
マジで身に覚えがねえ………小学生の時はやせ我慢の対義語だったぞ俺。すなわちデブ大暴れ。
小学校の頃の俺はブタ〇リラとジ〇イアンと野生生物を掛け合わせたような生物だぞ………惚れる要素どこにあるんだ?
「あれは、私は食べるのが遅くて、放課後まで居残っていた時………そこに颯爽と貴方が現れたの」
怖いよ?
俺、お前が怖いよ
ただのデブに颯爽っていう形容詞をつけるお前が。
「開口一番あなたは『食っていい?』って聞いてきて私の答えも聞かず物の数秒で食べつくして去って行ったわ」
怖えーよ!!!
俺、そいつ怖えーよ!!
答えも聞かずに他人の飯食って去って行く奴ってそれ完全に残飯を漁るホームレスのおっさんじゃねえか!!!
「だけど、私は勝手に食べられた最後に残していた揚げパンの恨みを晴らす為に貴方を殺そうと思ったの」
分からんでもない。
分からんでもないがちょっと待て。
………やっぱ怖いよ。
「社会的にも殺そうと考えた時、貴方を調べ上げたの………その最中、憎しみが愛に代わっていたのよ」
怖えーよ!!!
変わんないよ!ってか変わらないでよ!憎しみは憎しみのままで胸に取っておいてよ!!
「すると、あの時来た不快な肉の塊も白馬の王子様に思えてきたの」
バカかよ!!
思えるなよ!
そいつ白馬の王子様じゃなくて白馬の将軍様だよ!!
「これが私の恋の顛末よ、思い出してくれたかしら?」
それ俺だ…………。
最も、馬鹿で怖いの俺だよ…………。
何やってんだよ小学生の俺…………。
覚えがある、実に覚えがある。小学生の頃、クラスに1人は居る残飯処理機、そして俺は学年をフォローしていたんだ………。
「小学校の時の話ですよね?」
「愛に時間は関係ないわ」
「愛になってんじゃねえか………」
もう滅茶苦茶敬語だ、一切お近づきにならないで頂きたい。
「それで私も言いたい事があるのだけど、いいかしら?」
「あっはい」
「結婚しましょう」
「早えよ何もかもが」
フットワーク軽すぎて異次元行ってません?
てか早えよじゃねえな、そもそも始まってすらいねえ…………だんだん毒されてきた。
「でもデートの次はプロポーズじゃなくて?」
「どうやら浦野さんは認識がバグってらっしゃるようで」
だんだんと目の前の人間が宇宙生物に見えて来た。異次元すぎてサッカーで校舎破壊しそうだ。
「そんなわけなんじゃない、後それに今の私は美羽美羽よ」
「嘘だろ!?」
「私、貴方と結婚しないと美羽美羽のままよ?」
「なんだよそのアクロバティックな脅迫!?」
俺はこいつをどうしろってんだ。
「うるせー!」
「あっ、すみません」
いい加減に司書さんに怒られた。
「イチャイチャしやがって!殺すぞ!」
「変わろうか!?俺先生と変わろうか!?」
「あと、喋るのは良いけど程々にしろ!」
「大人としては逆の方がよかったねぇ!?」
おっと、ここは教員までチンパンジーか?
「変わるにしても貧乳派だからなぁ」
「それには実に同意する」
こういう所が俺はこの司書さんが好き。男だけど。
「あんまり叫ぶなよ、そろそろ授業の時間だし」
「はい、すみませんでした」
はあ、ここらへんでお開きか。
と、思いながら浦野の方に向き直ると。カッターナイフで自分の乳房を切り落とそうとしていた。
「待ってぇ!?なんでぺぇ切り落とそうとしてんの!?」
「待ってて今すぐ貧乳にするわ」
「猟奇的!お前本当に頭良いんか!?」
「恋は盲目よ」
「ご自愛なさって!!」
「うるせー!!」
カオスの真っただ中、授業開始のチャイムが鳴り響いていた。
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捻くれデブとヤベー後輩
2021年3月1日投稿時点で、ロリが群を抜いていたのに後輩が怒涛の追い上げを見せてくれました。
お気に入り登録、感想評価ありがとうございます。感想があるとやる気が…………出ます!!!!
今日は生きた心地がしなかった。
先生まで倫理観が上昇していたのにビビり、一日で授業のレベルが上がっていた。微分って何ですか…………?
これは底辺高あるあるだが、朱に交われば赤くなると言った通り先生のレベルまで低くなる傾向にある。
だが、先生まで倫理観と学力が上昇していたのにビビり、一日で授業のレベルが上がっていた。微分って何ですか…………?
てか、一日で浦野とやらの影響力強すぎだろ。
このように台風のような一日が過ぎ去り、放課後ホッと一息ついた。
某奇妙な冒険のように植物のような生活を送りたいと思っているのは俺だけじゃないだろう。
ある意味ビビりちゃんな俺だが、それでも委員会の仕事をしなければならない位にはビビりだ。というか朝にあんな図書館に大立ち回りしておいて? 今日委員会あって? サボりますは通用しないでしょうよ。と。それに後輩から仕事溜まってるから早く来いとの連絡がやって来た。いやほんとゴメンって。
ここまで考えて、なんかビビりだなと思いながら図書館に足を踏みいれた。
「パイセンおせーし、なにしてん?」
「うるせーよ」
目の前のクソギャルは俺の後輩、山城 美佳(ヤマシロ ミカ)。俺にとってうざい羽虫みたいなもんだ。
かなり気崩した、冬服にも関わらずワイシャツに見せブラ、寒くねえんかお前。
違うな、あとはイヤリング二つに良く分からん手首に付けるアクセサリー、派手な赤髪、つまり歩く校則違反がこいつだ。
そして無駄なボンキュッボン。見たくはねえが視線を吸引されるお胸の方はやはり男の性なのだろうか。
めちゃめちゃ突っかかって来る、そしてお腹触ってくる、ウェーイ系のノリで。
デブのお腹触ってくるのはウェーイ系の性なのだろうか。俺の腹を気安く触る奴は呪う事に決めている。
「は、マジウケる」
「鼻で笑ってんじゃねえか。後遅れてすまん」
「律儀すぎっしょw」
口調は粗暴でもこういう挨拶はしっかりしておかなきゃいけない。
親の教育って偉大だなぁ。
「で、なにがあったん? 昨日アンタ来なかったから今日になってるんですケド?」
「…………すまない、ありがとう」
「別にいいし、それにお互い様っしょ?」
何なんだこいつ。
まあ、言葉に甘えとくか。
それで、今日の作業は確か新入荷本のバーコードとカバー付けだったか。
「じゃ、はじめるから」
「あ、昨日でもう終わってっし。なにもしなくていいよ?」
「おい」
昨日の時点で終わってるんなら来なくていいじゃないですか…………。
「じゃ、帰るわ」
「え、マジありえないんだけど。よくやったとかない訳?」
「よくやった。これで早く帰れる」
「のど乾いた~最近近場にイイカンジのカフェg「ダッシュで行ってきます!!」ちょっ!」
窓から飛び出て、落下中の自販機の場所を検索、着地時点で最適ルートを算出。行ける。
1分も掛からずコーヒー、コーラ、オレンジジュースの三点を取りそろえて図書館に帰って来た。
「どうぞ! じゃ!」
「ちょ待てし!」
クッ! あそこのコンビニで買ってこいってタイプだったか!
「お礼にカフェ連れてってって、言いたいんだけど!」
たかるタイプだったか…………プロパシラーの管轄外なんだがな。
仕方ない、今日は虎の子三万を持ってきているから可能ではあるが…………。
「そうか、コレ」
「現ナマ貰っても困るし!」
何だと…………。諭吉あれば足りると思ったんだが…………。
何がしたいんだ?
「もう! 早くついてくるし! 告白されたからってデレデレしてマジむかつく!」
「えぇ~」
めっちゃめんどくさい。あ、てかこいつスマホ忘れてるんだけど。
首根っこ掴まれながらスマホを回収した。
あ?
いきなりだったから手帳型のスマートフォンが開かれたまま回収したのだが、その中に俺の写真が…………?
ま、まあ見間違いだろ。ただ舐めてるだけだろきっと。
「おい、忘れてる」
「あ、あんがと」
この反応だったら俺の写真って事は無いだろう。
…………自意識過剰だな。
流石に校内だとみられそうなので首根っこ掴まれたのを振り払い、おとなしく付いていく事にした。
道中では、全くの無言。こりゃ本格的にたかられるなと覚悟を決めながら、山城の目的地に着いたようだ。
「てか、ここ悠の奴と来た事あるな」
「あ?」
そう言った瞬間、いきなり山城が不機嫌になった。
「女の子の前で他の女のデート自慢するとかマジで無いんだけど?」
「男同士でデートとか言うな気持ち悪い」
「これは盗聴器増やすしかないっしょ」
「なんて?」
そう言ってから、口数が少なくなってきた。
しかし、ここのカレー結構旨かったんだよな、あとおしゃれな店に限って量が少ないと思ったがオシャ指数が高いにも関わらずそれなりの量を出してくれる。
「何にする?」
「この二つで悩んでるんだけどさ、パイセンどっちがいいと思う?」
「ふーん」
指さしたのはストロベリーのパフェとチーズタルト、飲み物は決まっているようだ。
「どっちも頼めば?」
「太るじゃん!」
「両方ハンバーガー一個分くらいのカロリーだぞ?」
「何でカロリー計算出来てそんなに太るの? ウケるw」
小学生の頃、カロリーはおいしさの度合いだと思っていた。
旨そうな物があってもカロリーを見て決めていた、純粋なあの時代。すき焼きで肉しか食わない野人のような生活を終え、最後のくたくたになったえのきが一番うまいと思う様になるぐらいには成長したのさ。
「まあ、食いきれなくなったら俺がいるし」
「…………いいこと言うじゃん」
「毎回悠と飯行くとそんな感じになるんだよな」
「チッ」
「何で?」
良く分からなかったが、とりあえず注文する事にした。
「ブレンドとカツカレー、あとシフォンケーキ」
「あーしもブレンドと、ストロベリーパフェとチーズタルト」
なんかどっちも食うなぁと思いながら、俺は飯が来るまでスマホを取り出して時間を潰そうとしたが脛を蹴られた。
「いって」
「女の子と居る時位スマホ弄んなっての」
「はいはい」
「で、パイセンに聞きたい事あんだけど」
「?」
「コクられたってマジなの?」
もう下級生にまで話広がってんのかよ。怖っ。
「そうだよ」
「じゃあ別にオンナいんの?」
「ねえよ。聞かなくても分かんだろ」
「じゃあ、あの三年生は?」
「…………ん?」
こいつに文芸部の事話したか?
まあ、たまたま見かけたとかそういう感じだろう。
「丹波先輩ならそういんじゃないぞ? 部の存続の為に名前貸す代わりに入り浸らせ貰っているって所だ」
「じゃあ、あーしが入部したって問題ないっしょ? 決まりね?」
「え、嫌だけど」
「やましい事あるって事じゃん!!!」
「何で怒ってんの?」
やっぱり女は良く分からん。
飯食うだけでめんどくさいな。
「まあ、仕方ないか」
急に静まった。一体なんなんだ?
あ、コーヒー来た。頂きます。
すると、山城は一口飲んだと思ったら。
「苦い、飲めし」
「馬鹿なの?」
まあ、飲むけれども。
うめえな、バカ舌だけど分かる。
「トイレ」
「うぃ」
早いなあ、まあ色々あるんだろう。
やっぱめんどくさい。
「あ、おい」
トイレに行く為に立ち上がった時、何かが落ちた。手帳?
どうやら、月ごとのメモ帳みたいな奴なのだろう。
戻そうとした時偶然にも一ページが見えてしまった。
『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』
俺は何も見なかった。
女、恐ろしや。しかしここまでの好意を向けられる奴は大変だろうなぁ。
「あっ、見た?」
「見てない」
視線が痛い…………。
「あれ? てか、俺もトイレ行きたくなってきたな~? ちょっと行ってくる!」
こんな時でも出る物は出るもんだな…………。暫くして、トイレも終わって席に戻った。
先に居た山城が俺と立ち代わりになろうと立ち上がった。
「え? 逃げんの?」
「逃げんし! あとデリカシー足りなさすぎ!」
また脛かよ…………。
口より足が出るんかこいつは…………。
「逃げるワケないし…………てか、逃げてんのパイセンじゃん」
「え? ああ、奢るよ」
なんだよ、もうここまで来たら奢る事に問題はねえよ。
何? そのポーズ? 違う、そうじゃないみたいなポーズしているけど?
「もういいし…………」
「行ってら」
今なら心の投げやり大会だったら優勝できる気がする。
待っている間に、カレーが来た。
それじゃ、戻るまで待ってるか。
てか爆速で戻って来たな。
「お帰り、パフェ来てるぞ。頂きます」
うめえ、スプーンが進みますよこれは。
カレーという食事の中腹に差し掛かった時に、パフェの一部が乗ったスプーンを差し出された。
「ほら、少し食べろし」
「ん」
差し出されたスプーンに食いついてから、ちょっとまずったと思った。悠の時みたいにナチュラルに食べてた。
「えへへ、マジで食うとは思わなかったんだケド?」
「気持ち悪いならスプーン変えて貰おうか?」
まあ、後は黙々と食べ続けて、店を出た。
「じゃ」
飯が旨かった。
今日はそれだけを刻み付けて置こうと思った一日だった。
その後、山城美佳の部屋にて。
その部屋は女の子然とした部屋ではあったが、壁じゅうに鍵山翔の写真が飾られている。
イケメンであろうと精神的に圧力を受けるよくあるサイコな部屋が、所狭しと隠し撮りされた肥満体系の男にすり替わる所であるのならば発狂してしまいそうだ。
「やっぱり、あーしがいないと…………」
と呟いて、ベットに寝そべってスマホを取り出した。そしておもむろに別の機器に付けたイヤホンを耳に付けた。そこからは、生活音が聞こえて来る。
『オイ、翔。今日何が良い?』
『飯…………中華系、チンジャオロースが良いな』
『分かった』
まだ食うのかこの豚は。
と、一般の人間ならそう思うだろう。
だがしかし、山城美佳は恋する女の子。
「あーしと結婚してもあーしの手料理全部食べてくれる!!!」
こうなってしまう。
スマホの中身は…………。ここは伏せて置こう。
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