追放された勇者の鶏は、姫騎士の鶏肉ではなく師匠となる (運の命さん)
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プロローグ
プロローグ 私は爪の勇者の鶏です。
勇者会議室。
そこは天界と呼ばれる場所に位置する集会場だ。
自分たちの護る国の近況について話し合うために、年に一回私達勇者は集まる事になっているのだ。
だが、私はそれが億劫になるくらい嫌だった。
「……相変わらず、君が最後に来るのう」
「別にいいではないですか。時間通りですし」
大きな扉を自慢の脚による体当たりで開け、集会場の中へと入る。
そこで真っ先に目が入ったのは、中央の玉座に佇む老人。よぼよぼな喋り方をしているが、一応神様である。
それと同時に、私の才能を見込んで、爪の勇者として引き入れてくれた恩人でもあるのだ。もし引き入れてくれなかったらば、鶏肉ルートまっしぐらだっただろう。
「久しぶりね。アンタたちも」
「ッチ」
「……」
テトテトッと用意された椅子に飛び乗り、周囲の人間に嫌々しく挨拶をする。当然ながら、向こうも冷たい感じで対応してくるが。
「相変わらず、気に食わねえな。勇者後輩のくせにため口か?」
この世界全ての剣技と剣流を修得し、敗北することのできる相手がいなくなったのを神が知り、剣の勇者へと引き入れられた男、ブレイン。
私はこいつの事が心底嫌いであった。
私は他よりも遅く勇者となった身だが、加入して以来、ブレインには悪態つけられてばかりいる。100%こういう姿なのが悪いのだろうが。
「同じ勇者の地位なんだから、ため口もクソもないでしょうに」
「んだとコラッ!」
「二人とも、落ち着きなさい。ブレインも、ミレイユの挑発なんかに乗って……」
(遠まわしで馬鹿にしてくる……)
ブレインとの醜い会話の間に入り、こちらを侮蔑しながら止めにはいったのは、万をも超える魔法を使い、この世全ての叡知を手にしたがゆえに、知の勇者へと引き入れられた女、アスリィ。
口答えしようにも、その賢さ故に反撃を喰らってしまうのが目に見えているため、非常に扱いの困る人物である。
「3人とも、喧嘩するでない。爪の勇者ミレイユも、落ち着きなさい」
「はーい」
そして鶏という種族の身でありながら、脚の武術がどの種族よりも引けを取らない程強く、爪による戦闘技術をすべて体得した事を理由に、爪の勇者へと引き入れられた私、ミレイユを含めた3人で勇者は構成されている。
「ミレイユとて勇者なのだ、同じ者同士、手を取り合い、仲良くしてくれたらいいのになあ。ふむ、仕方あるまい。それではこれより、定例集会を始める」
「は~い」
「クソが……」
「……」
私以外の二人が納得しないまま、いつもの定例集会が始まった。
〇
定例集会は約2時間程にわたった。
最近は魔物による被害も例年減ってきているのもあって他年と比べ比較的平和だった。
何故、そのような事態に陥ったのかはわかっていない、未だ調査中だ。
「やっと終わった。あとはまあいつも通り寝て食って過ごすだけかな」
定例集会が終わった後は、魔力の泉で身体を霊体化させ、自分の護る国へ専用の穴から再び降り立つのがいつもの流れだった。
霊体化というのは、神族等の神格化された者にしか行使することのできない術の一つである。
私達勇者は、守護天使の如く平和を見守る立場であるため、人目を避けて生きなければならないという習わしがある。
だが当然勇者は神でもなんでもない。故に、神の力が備わったこの天界にある魔力の泉を使う必要があるのだ。
魔力の泉のある扉の前に行き、それを念動力で開こうとした、その時であった。
「……おっと、待ちな」
キレそう。
せっかく、嫌いな奴から解放されて、また暫く過ごせると思ったのに。
「何?」
「何? じゃねえ。止められた理由ぐらいわかるだろ、鶏頭」
コンコンッ、と自分の頭をつつきながら挑発するブレイン。
なんだ、今までは定例集会に来た時の喧嘩だけで終わりだっただろう?
と、言いたげな感じに私が睨むと、ブレインはフッと苦笑した。
「平和なこの際がちょうどいいと思ってな。貴様のその姿を二度と見れねえようにしてやろうと思っただけだ」
「へー、どうやって?」
「分かんねえか、鶏頭ァ!」
ブォン、と風斬る音と共に、私の目の前から姿を消す。
奴の足の速さは本当に抜きんでていているのは私も認めている、その証拠に今まで視界にとらえられた回数は本当に少ない。右爪で数えられるぐらいだろう。
「リアルファイト? なんか珍しいね?」
「へっ――そんな余裕かましていいのか!?」
余裕も何も、見えないのだから対処のしようもない。ただ動きを予想しながら逃げるしか方法がなかったのだ。
……ん? いや、ちょっと待てよ。今のうちに扉の中へ入っちゃえばいいのではないか? 扉の中は一人しか入れない仕組みだし? やだ、私天才じゃん。
その発想に至った私は、急いで扉の方へ向き、念動力を行使しようとした。
――が
「あ、あれ? 動かない? お、おーい!」
いくら扉に力を送っても、それはうんともすんとも言わなかった。
「……ッチ、ちょっとアスリィ!?」
「残念だったなッ!」
扉の中にいるであろうアスリィからの返事を待つ暇も無く、私はガシッと首根っこ掴まれ、反撃を与える隙も無く、地上へ降り立つ穴の方へ投げ落とされる。
「……へっ」
「霊体化してないその身で、地上に落下したらどうなるか……見ものだな? 精々食材になれる程には原型とどめてるといいな!」
「鬼かお前ッ!」
私は翼を広げ、バタバタと動かす――が
「……鶏って、飛べないんだった……」
顔が絶望に染まる。久しぶりに自分が鶏である事を恨んだ気がした。
霊体化してない身は即ち、普通の人間や生物と変わりなかった。
故に、そのまま地面に落下してしまったら、鶏肉ルートどころかグロテスクな肉塊ルート待ったなしだろう。
前者よりも酷い結末だった。
「……はあ。せめてちゃんと鶏らしく死にたかったなあ……」
これから起こる自分の顛末に怯えながら、私は静かに目を閉じた。
しかし。
この不安は数分後、杞憂へと終わるのであった。
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第1章 鶏肉ではなく師匠となる
第1話 王女様、なぜここに?
バシィァァアアアー!!
天界から放り投げられた私は、地上の湖へと落下する。硬い地面じゃなかったのは不幸中の幸いだろうか?
それでも一歩間違えれば死んでた事には間違いない。この出来事は私の一生のトラウマになるかもしれない。
「……ぁいてて……」
陸地に上がり、翼を広げながら、身体をブルブルッと振るわせ、体毛についた水滴を一瞬で払う。
その際に周囲を見渡すが、そこは一面森景色だった。自分の国しか見守ってなかった故に、世界の地理事情については余り詳しくなかった。
「……はあ……これからどうするか……」
霊体化せずに地上へ降りてしまった為、今の私は何処にでもいる一般鶏の一つに過ぎない身分となっている。
天界に戻るには、霊体化している際の魔力を神様が感知しなければならない為、実質それは不可能に近いだろう。
故に――私は勇者という枠から追放されたに等しいのだ。
「ッチ……ブレインとアスリィめ」
私を追いやった奴らの顔を思い出し、苛立ちを募らせる。
どうにかして一泡吹かせてやりたいところだが、今の私にはどうしようもできないだろう。
何とかして、再び勇者として戻る方法を考えなければ……。
「うぅ~……何事……?」
「ん?」
ふと、背後の方から少女の声が聞こえた。
振り返ってみると、湖の水面がブクブクと不自然に泡立っていた。
何事かと思い、私は急いでその場に駆け付ける。
「あ、あの~?」
「……ッ、ぶはぁ!!?」
バシャッと、泡立つ水面から声の主が現れる。
それは、サラッとした綺麗な銀色をした長髪と、透き通るような紺碧色の瞳をした美しい少女だった。
水浴びをしていたのか、服は何一つ来ていない丸裸であった。最も、私は一応雌鶏なので関係ないのが。
いや、そんな事よりもこの少女、どこかで見たような気も……。
「鍛錬疲れで水浴びしてたのにぃ~……一体誰、が……」
「……あ、どうも。怪我とか大丈夫ですか?」
「……」
「……?」
少女は私の姿を見て、硬直した。
「……に」
「に?」
「鶏が喋った!?!?!?!!?!?!?!?!?」
? この子は何を言っているんだ?
鶏って、皆喋る種族なのではないのだろうか?
地上にいる他の鶏も、街の人に向かって「ごはん有難う」やら「こんにちは」等の会釈を交わしていたのだが。
「え? そんな驚く事?」
「おっどろくに決まってるじゃないですか!? 鶏が喋るなんて、普通じゃないですよ!」
「他の鶏、普通にしゃべってるけど?」
「え、そ、そうなんですか!?」
「逆にしゃべらないんだ……」
鶏として生を受けて、初めてしった事実である。
確かに、ブラインとアスリィに初めて出会った時も、多少戸惑いを見せていた。当初は、私が鶏だからというのもあったのだろうが、今思えばそれには、喋ったという事も含まれていたのだろう。
まあ喋ることよりも、私が鶏だからという事の方が、目立っていたのだろうが。
「って、ていうか! そんな事よりも、何故上から降ってきたんですか!?」
「あー……えーっと……」
説明することは簡単だ。だが、ここで果たして『私は勇者です』って言ってもいいのだろうか?
勇者は前提として人目を避けなければいけない存在だ。いくら実質追放された身だからといって、簡単に素性を明かしてもいいのだろうか?
明かした結果規則に反したとして、本当の意味で追放されてしまっては、本末転倒だろう。
「ま、魔物に掴まれて……その……空中で無理やり脱出して……落下してきました、はい」
「にしては、結構大きな衝撃音と水しぶきでしたよ?」
「ドラゴンに掴まれてたんです」
「ドラゴン!? ドラゴンがいたんですか!? 下見てたからわからなかった……」
ちょろい。
「まあ私みたいな鶏は珍しいみたいですし……? ドラゴンも、私がおいしそうだと思ったんでしょうね、多分」
「な、なるほど。大変だったんですね、可哀そうに」
「なんとか抜け出して、無事だったけどね」
「良かったです……。あ、紹介が遅れましたね。私、ミリアム=ランデボルトと言います。宜しくです」
「鶏に出会ってすぐに自己紹介する人間はいないと思うから安心していいよ。ミリアム=ランデボルトさんね、よろし……く?」
ん? ランデボルト家? ……まさか。
「……ランデボルト王国の……王女様!?」
「あ、ご存知でしたか?」
「そ、そりゃっ、勇者だ、こほんっ、えっと、色んな所を巡ってるからね! 知ってて当然というか?」
「ゆ? ……ま、まあ、そうですよね、ははは……」
不味い不味い。驚きすぎて秘密をばらすところだった。
そうだ、ランデボルト王国。
私が守護している王国の一つであり、魔術と剣術が均衡よく繁栄した、世界で最も大きいと言われている王国だ。
勇者とは色んな王国を見守るため、一々王妃の顔とか覚えていなかったのだが、彼女に関しては他の王女より比較的可愛らしかったので、記憶に小さく残っていたのである。
「まさかこんな所で王女様に出会えるなんて。あ、でも、そんな人がどうしてここに?」
「あ、えっと……それはですね……」
頬をポリポリと掻き、冷や汗をかきながら目をそらす。
「? なにか、不味い事が?」
「いや、そういうわけじゃなくてですね。実は……」
「姫騎士に……なりたくてですね」
「え? 姫騎士!?」
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