主人公はあの人の娘!?苦難多き少女のヒーローアカデミア (ユリアンヌ)
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挨拶と主人公プロフィール(改)

はじめまして、こんにちは。作者のユリアンヌと申します。

 

今回これが初めての投稿になります。ハッキリ言って下手くそです。文才ありません。文才、歌唱力が欲しいと思うこの頃です(笑)

 

文才がないので亀更新。投稿した作品でも文章が気に入らなければちょくちょく変更します。

 

ハールメンの機能ややり方が全然わからず慣れるまで時間がかかりそうです( ノД`)…

 

温かい目で見て下さると嬉しいです。

 

小説ですがこれはあくまで()()()()()となっております。

 

 

基本原作沿いにはなっておりますが、主人公の個性、設定、シナリオ、進行、キャラ等々全てが作者の都合の良いように(何でもありに)作られてますのでよろしくお願いしますm(_ _)m

 

 

 

原作の名シーンカット、作者の勉強不足で口調が似てないのは許してね(^_^;)

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 

 

主人公プロフィール

 

 

 

オリ主名:成切友里絵(なりきりゆりえ)

 

性別:女

 

クラス:1年C組、普通科(心操人使と同じクラス)

 

容姿:くろっぽい藍色で腰まであるロングストレート。物語の序盤ではフード付きの服で髪や顔を隠している。

作中の途中からフード付きの服→バンダナ→何もなしになっていく。

 

身長:166㎝(作者と同じ)

 

体重:43㎏(作者の理想(笑))

 

誕生日:9月29日(作者と以下同文)

 

性格:自分より相手を思いやり優先してしまう程優しいが自分のことになると抱え込む習性がある。

ちょっぴり(?)天然。(性格的に)不器用。

グラントリノからはお転婆娘と呼ばれることあり。

 

 

主人公詳細:オールマイトの血の繋がらない娘であり、志村菜奈の孫でもある。設定としては菜奈にはもう一人子供(娘)がいてその娘の子供。

作中は友里絵の両親は既に故人。オールマイトの娘として育てられる。6年前のオールマイトとオール・フォー・ワンの戦いに関わっており、それをきっかけに家出。トラウマとなっている。家出した以後はグラントリノの元に身を寄せる。

自身の個性を嫌い使わないようにしている。

 

 

個性:トレース

 

 

能力:見たものを自身に写し取り再現出来る。相手の個性も再現出来る。ただし、異形型や葉隠のように生まれた時から透明等の一部の個性の反映するすることは出来ない。ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワンも再現不可。(ただの怪力という形でなら再現は可能)

 

一度見た物は覚えておけるが本人の記憶力に比例。逆に印象が強い記憶はなかなか忘れられない。

 

能力2:見た相手の思考や動きを読む。相手の顔や姿が見えてなければ読めない。

 

 

個性捕捉:トレースは友里絵の元々持つ能力ではなく、6年前の事件の時にオール・フォー・ワンによって別の個性を与えられ混ざって変化してしまったもの。

元々の個性はキャッチアイで、見た物を記憶したり意識を集中させれば人の考えまでも見通すことが出来るというものだった。能力2は触れるという条件から見るに変化している。

 

 

母親:成切杏奈(なりきりあんな)

志村菜奈の娘で弧太郎の妹。オールマイトとグラントリノと関わりがあり、娘をオールマイトに託す。作中では故人。

 

 

 

 

個性:記憶再現(突然変異型)

 

見た物をアルバムのように保存、記憶しておける。

記憶したものはイメージすることで反映、再現することが可能。

 

 

父親:成切益生(なりきりますお)

友里絵が生まれる前に事故により作中では母親同様、故人。

 

個性:同調(シンクロ)

 

見て触れた相手と同じことが出来るようになる。思考も同じになる。鏡に似た特性。似ているだけで跳ね返したりは出来ない。

 

 

 

その他、ヒロアカオールキャラについて

 

 

ヒロアカキャラ:原作通り。一部キャラ崩れあり。

 

たとえばオールマイトが親バカだったり、相澤が相澤さりくなかったり(笑)

 

 

 

物語の進行:一番に書いたように一応原作沿い。

緑谷やオールマイトとの絡み多。

様々なキャラと絡ませる予定。

同じクラスの心操人使との絡みはほとんどなし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





とまぁこんな感じです。

また付け足すかもしれません。



何故、志村菜奈の娘(主人公の母親)や主人公がヒーローと深く関わっているのかについては物語をとおして明らかにしていこうと思っています。



それでは僕のヒーローアカデミア夢小説をお楽しみ下さい。






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第1話 落とし物 ~出会い~


初投稿の第1話です。よろしくお願いしますm(_ _)m


 

 

 

5月某日。

 

ヒーローを数多く排出する名門の雄英高校ではこの日、ビックイベントである体育祭が行われていた。

 

 

 

 

「…ワン・フォー・オールの調整……。出来たのは結局騎馬戦の時とトーナメントで轟くんと闘って一撃入れた時だけ……。あとは余裕もなくボロボロになって敗退しちゃったし、オールマイトはああってくれたけど、いつまでもこんな風じゃダメだよな…」

 

 

 

その体育祭終了後 、1年A組ヒーロー科の生徒、緑谷出久は体育祭の反省をしながら一人廊下を歩いていた。

 

 

オールマイトは今年の春から雄英教師に就任した人気ナンバー1のプロヒーロー。名実共に誰もが憧れ認める"平和の象徴"であり、緑谷はそんな彼とは師弟関係にある。

 

 

 

というのも、オールマイトが持つ"個性"を引き継いだことがきっかけだ。

 

 

 

この世界には"個性"と呼ばれる何らかの超常能力が存在し、世界総人口の8割が"個性"を持っている。

 

事の始まりは中国・軽慶市にて発光する子供が生まれたというニュース。以後、世界各地で同じような現象が報告され超常は日常へと変化。

 

"個性"の出現により犯罪や事故が爆発的に増加する中でそれらに対処すべく生まれたのが、ヒーローという職業。

 

 

誰もが一度は空想し憧れたことがあるだろう。

 

 

緑谷もそんなヒーローに憧れた一人だ。

 

特にNo.1ヒーローのオールマイトの熱狂的なファンで幼いころから彼のようになりたいと将来の為に様々なヒーローをノートに書いてまとめてきた。

 

しかしそんな超人社会となった現代に何の力も持たない"無個性"として生まれてしまった緑谷。

 

ヒーローを目指すには致命的であり、周りからはバカにされ、いじめられるなど辛い日々を送る毎日。

 

それでもヒーローになりたいという夢を諦めきれずにいた。

 

そんな時、オールマイトと運命的な出会いを果たし人生が一変。

彼が持つワン・フォー・オールという"個性"を譲渡されることになり今では立派なヒーローになるため、そして彼の期待に応えるため日々頑張っているというわけだ。

 

しかし、彼との関係やワン・フォー・オールについては誰にも言ってはいけない秘密。

 

 

 

 

 

 

 

「………やっぱり教室に行く前にもう一度オールマイトに……わ!?」

 

「きゃ…っ」

 

 

 

 

オールマイトの元に行こうと思い立った緑谷の足が早足になる。

 

と、廊下の角に差し掛かったその時フードを被った人物が現れ、すれ違いにぶつかってしまい相手はバランスを崩し尻餅をつく。

 

 

 

 

 

 

「あ…っご…ごめんなさい、僕ぶつかっちゃって……!!ケガしてませんか…!?」

 

 

 

 

緑谷はあたふたしながら相手の人物に謝る。

フードを被っていて顔は見えなかったがスカートを履いてる。どうやら女子生徒のようだ。

 

 

 

 

「は…はい…大丈……

……!」

 

 

 

 

 

顔を上げた女子生徒の様子が変わる。

 

 

 

「あ…あの……?」

 

「な……何でもありません…私なら大丈夫です。私の方こそすみませんでした…。それじゃあ…っ」

 

「あ……」

 

 

 

その女子生徒は緑谷に謝るとフードを押さえながらスッと立ち上がり早々に立ち去った。

 

 

 

 

 

「………行っちゃった。何だったんだろあの人……」

 

 

フニ…ッ

 

 

 

 

 

「ん…?何か踏んで……

って、うわ!これオールマイト仕様のマスコットだ!何でこんなところに……っ?

……あ!もしかしてさっきの人が落として行ったんじゃ…っ

ていうかヤバいどうしよう、踏んじゃった!壊れてないかな…!?」

 

 

 

 

足元を見るとそこにはオールマイト風のポンチョを纏ったテディベアのマスコットがあった。

先程の女子生徒が落として行ったのだろうか?とにかく慌てて拾い上げ踏んでしまったところを手でパッパッと払いながら破損していないかを確かめた。

 

 

 

 

「よかった…壊れてはないみたいだ…。

にしてもすごいなこれ…。こんなのあったんだ……。だいぶ年期が入ってるみたいだけど昔売られてたコラボ商品とかかな…?どこで買ったんだろ……?まだあれば僕も欲しいけど今でも取り扱ってるかな…?」

 

 

 

元々年期が入っていたようで薄汚れてはいるが幸い破損はなくホッとする。

 

と、同時にオールマイト仕様ということもあってヒーローオタクである緑谷の中でついオタクスイッチが入ってしまい、興味津々でマスコットを見ながらブツブツと呟き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────って、こんなこと考えている場合じゃない!早くさっきの人に返してあげないと…!

 

 

 

ハッと我に返り顔を上げるが女子生徒の姿はもう既になかった。

 

 

 

「どうしよう………。さっきの人の名前もクラスもわからないしどうやって返そう…」

 

 

 

女子生徒のことを何一つ知らず、その場で立ち尽くしどうしたものかと困ってしまう緑谷。

 

 

 

「緑谷少年?」

 

「え…あ、オールマイト…!」

 

 

 

するとそこにガリガリに痩せた骸骨のような男性が緑谷に声をかけながらやって来た。

 

トゥルーフォーム姿のオールマイトだ。

 

 

 

実はオールマイトはある事件の後遺症によって本来の筋骨隆々とした姿が今の姿になってしまい、活動時間も短くなっている。

 

なので普段はトゥルーフォームの姿で過ごし必要な時だけ元の姿に戻って活動を行っている。これも世間に公表されていない絶対の秘密。

 

 

 

 

「体育祭お疲れ。こんなところでどうしたんだい?このあとHRだろう?」

 

「えと…教室に戻る前にオールマイトにもう一度期待に添えなかったことを謝ろうと思って会いに行こうと……」

 

「そうだったのか。全く…本当に律儀だな君は。この行動派オタクめ!」

 

「えへへ……」

 

 

 

 

笑みを浮かべるオールマイトに緑谷も照れ臭そうに笑った。

 

 

 

「しかしそれなら何故立ち止まっていたんだい?何か困っていた様にも見えたが…」

 

「あ……実はついさっきここで女の子とぶつかっちゃって…。

多分普通科の人だと思うんですけど、その人がぶつかった時にこれを落として行ったみたいで……」

 

 

 

緑谷はそう答えながらその時に拾ったマスコットを見せた。

 

 

 

 

「…!これは…!

緑谷少年!このマスコットを落として行ったのは女子だったんだな!!?

どんな子だった!?その子の顔は見たのか…!?」

 

「え……っいや…あ…あの…っ、その人フード被ってましたし、僕に謝ってすぐ行っちゃったので顔までは…っ

あ、でも髪は黒っぽい藍色でした…!」

 

 

 

 

マスコットを見た瞬間、オールマイトの態度が一変し緑谷の両肩をガシッと掴んだ。

 

急な事に緑谷は困惑しながらも、とりあえずぶつかった時に見えた女子生徒の特徴をオールマイトに伝えた。

 

 

 

 

「…まさか……!いや……しかし…」

 

「あ…あの…急にどうかしたんですかオールマイト…?このマスコットに何か…?」

 

「あ…ああ、急に取り乱して済まなかったね…。このマスコットに少し見覚えがあってね…。もしかすると私の知ってる子じゃないかと思っただけだよ…」

 

 

 

よくわからないままそっと尋ねるとオールマイトは女子生徒が知り合いの可能性があると告げた。

 

 

 

「え……じゃ…じゃあ僕がぶつかったのはオールマイトの知り合い…!?」

 

「まだそうと決まったわけじゃない……が、可能性はある。そこで済まないが緑谷少年、放課後少し付き合ってくれないか?それとそのマスコットも私に預からせてほしい」

 

「そ…それは構わないですけど、どうするんですか?」

 

「直接会って確かめたいんだ。

間もなくHRだから、もしその生徒がこのマスコットを落としたことに気付けばきっとまた放課後にここに来るハズだ。それを待ち伏せしてみようと思う」

 

 

 

まだ女子生徒が本当に知り合いであるかはわからない。

それでも確認をせずにはいられず、緑谷に頼み込む。

 

どうやら女子生徒がマスコットを探しに来るのを狙い待ち伏せるつもりらしい。

 

 

 

 

 

「わ…わかりました」

 

「よし、そうと決まったら君も急いで教室に戻りなさい。放課後またここに来てくれ」

 

「は…はい」

 

 

 

こうしてオールマイトと共に待ち伏せをすることとなった緑谷。果たして女子生徒は再び現れるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第1話はここまでにします。
スマホのメールで一通り執筆し保存してるのですが、思った以上に長いので分けて載せることにします。



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第2話 落とし物 ~再会とすれ違い~


とりあえずスマホのメールボックスに15話分くらい貯まってるので順番に載せていきます。


 

 

 

━その日の放課後━

 

 

 

HRで担任の相澤から連絡事項を聞いた後、すぐにまたマスコットを拾った場所へ向かった。

 

幸い近くにトイレがありそこに隠れて待ち伏せすることにした。

 

 

待ち続けること数十分………。

 

 

 

 

「ハァハァ……ッ」

 

「あ…!来ました、あの人です…!」

 

「あれか……。確かにあれでは顔は見えないな……」

 

 

 

 

オールマイトの狙い通り、あの時の女子生徒が息を切らせてやって来た。

 

緑谷はぶつかった相手本人であることを伝えるが、やはりフードのせいで顔は見えない。

 

 

 

「ない……っ落としたとしたらこの辺りしかないと思ったのに…っまさかさっきの人に拾われちゃったのかな…っあの人に拾われると困るのに……っ」

 

 

 

 

女子生徒は必死に床を見回してマスコットを探している。緑谷達の存在には気づいていないようだった。

 

 

 

 

な……なんだ?僕に拾われると困るってどういう意味だろ……?

 

 

 

 

「どうしますかオールマイト…?」

 

「……私が行く。君はそこで見ていてくれ。ただし、何があっても手出ししないように」

 

「え…は…はい、わかりました」

 

 

 

女子生徒の言葉に疑問を抱きながらもオールマイトにどうするのかを尋ねる。

 

するとオールマイトは緑谷にそう言ってトイレから出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トゥルーフォームのまま。

 

 

 

 

 

 

 

え…っオールマイト…!?マッスルフォームにならないのか!?まだあの人が知り合いかわからないのに!?

 

 

 

 

 

まさかのその行動にひどく焦った。

も霜あの女子生徒が知り合いではなかったらオールマイトの秘密がバレてしまうことになる。

 

しかし何があっても手出ししないよう言われた以上、黙って見てることしか出来ない。

 

 

 

 

「…どうしよう……やっぱりない……」

 

「探しているのはこれかい?」

 

「……!!」

 

 

 

緑谷の心配をよそに、オールマイトは女子の背後から声をかけマスコットを見せた。

 

驚いた女子生徒はハッと振り向きオールマイトを見た。その際フードが脱げ顔が露になった。

 

転んだ時には脱げなかったフードが振り向いただけで脱げるのは都合良すぎな気もするが、そこはご都合設定なのであしからず。

 

 

 

 

 

 

 

「…やはり君だったのか。久しぶりだな友里絵…」

 

「え…?」

 

「…っ」

 

 

 

 

 

そんな彼女にオールマイトは「友里絵」と呼んだ。女子生徒は慌ててフードを被り直し顔を背ける。

 

 

 

 

 

友里絵……?それがこの人の名前なんだろうか…?しかも呼び捨て……。

 

ってことはやっぱりこの人オールマイトの言っていた知り合い……!?

 

 

 

 

 

オールマイトは基本、生徒の名前を呼ぶ際には少年または少女をつける。

 

しかしあの女子生徒に対しては呼び捨てであることやオールマイトがトゥルーフォームのままでも普通に会話をしていることから、やはり彼女はオールマイトの知り合いなのだろうか。

 

 

 

 

「君とぶつかったっていう彼が拾ってくれたんだよ。これを見た時はまさかとは思ったが本当に君だったとはね……。

はいこれ」

 

「…………」

 

 

オールマイトは心配そうにこちらを見ている緑谷を示しながらそう言ってマスコットを女子生徒に渡した。

 

女子生徒は一瞬緑谷を見るもすぐに視線を戻し無言のままそれを受け取る。

 

 

 

 

「なんにしても、元気そうで何よりだ。今までどうしていたんだ?今はどこに…」

 

「……すみませんが何のことでしょうか?私は魔持軽結衣と言う名前です。友里絵ではありません、人違いです。なので先生とも初対面です」

 

 

 

マスコットを渡した後もオールマイトは女子生徒と話を続けるが女子生徒は自らを「魔持軽結衣」と名乗り友里絵ではないと否定した。

 

 

 

 

 

ま…魔持軽って、魔法使いみたいな名前だな……。だけど名前が違うってことはあの人はオールマイトの知り合いじゃないのか…?

 

だけどそれなら何であの人……。

 

 

 

 

 

二人の会話に入れず出来す静観していた緑谷はこの時ある違和感を感じていた。

 

 

 

 

「(……魔持軽……ね。全く…隠す気があるのかないのか……)

…そうか。だったら何故フードが脱げた時慌てて被り直したんだ?」

 

「驚いただけです…。私人見知りで相手の顔をまともに見れなくてすぐ緊張してしまうので……」

 

 

 

 

質問に対してそう答える女子生徒。一応筋は通っている。

 

 

 

 

「先生が"一体何をお聞きしたいのか"は知りませんが、そういうわけなので他にないならもう行ってもいいですか…?」

 

「(……やはり読まれているな……。しかし…)

なら最後にもうひとつ聞かせてくれ。

どうして君は私が「先生」だとわかったんだ?」

 

「何故って…学校にいるんですから当たり前じゃないですか……」

 

「だが君はさっき私とは初対面だと言っただろう。それでいきなり先生と思うのは無理があるんじゃないか?」

 

「そ…それは…」

 

 

 

それまで普通に答えていた女子生徒がついに言葉を詰まらせた。

 

 

 

 

オールマイト……気づいてたんだ……。魔持軽さんが矛盾した回答をしていたことに……。

 

 

 

 

 

そう、先程緑谷が感じた違和感も友里絵がオールマイトを"先生"と呼んだことだった。

 

一見どこもおかしな点はないように思えるが問題は"今のオールマイトを見て"先生と呼んだこと。

 

 

本来の姿のオールマイトだったら先生と呼んでもおかしくはないのだが今の彼はトゥルーフォーム。

 

目の前にいるのがオールマイト本人であることは友里絵は知らないはずなのだ。

 

 

 

そのことをオールマイトも気づいていた為、わざと気づかないふりをして質問をし、最終的には言い逃れ出来ないようにしたというわけだ。

 

 

 

「さあ、もう十分だろう。これ以上偽名を使って他人の振りをしてても意味はない。そろそろ正直に……」

 

「…ったまたまです…!たまたま先生かと思っただけです!オールマイトさんのことなんか私は知りません!」

 

 

 

 

追い詰められた女子生徒はまだ否定を続けるが、相当焦って動揺したのか「オールマイト」と言ってしまっていた。

 

 

 

「お…オールマイトさんってことやっぱり魔持軽さんは全部知って…!?」

 

 

 

 

友里絵が口を滑らせたことで、つい叫んでしまう緑谷。

 

それにより友里絵はハッとし慌てて口を押さえるが既に遅く、最早嘘をついていることは明らかだった。

 

 

 

「……まぁとにかく、また会えてよかったよ。どうだい?せっかくだし少し話をしないか?」

 

「…お断りします。私は話すことはありません。

勝手にいなくなったことは今でも申し訳ないと思っています。でも私はもう貴方と関わる気はありません…。

私急ぐので失礼します…」

 

 

 

オールマイトは久しぶりに会えた嬉しさからもう少し話をしようと誘うが女子生徒はそれをあっさり断り一礼して去ろうとした。

 

 

 

「そんな…!魔持軽さん何で…!?」

 

「あなたは黙ってて……!全部あなたのせいよ……!」

 

「!?」

 

「……っ」

 

 

状況がわからないながらも必死に引き留めようとする緑谷。

しかし女子生徒はすれ違い様に睨み付け声を荒立て走って行ってしまった。

 

 

 

「うーむ……少し急し過ぎたとは言え、どうやら私は彼女に嫌われてしまっているようだな…。緑谷少年も済まない。私が無理に詰め寄ったせいで君にまで嫌な思いをさせてしまった…。あの子は幼い頃から相手を気遣ってしまうくらい優しい性格をしていて、本来あんな態度を取るような子じゃないんだが……」

 

「い……いえ。大丈夫です。それよりも、あの人はやっぱりオールマイトの知り合いだったんですね……。彼女は一体…?」

 

 

 

オールマイトが小さく呟き、それを聞いた緑谷はいてもたってもいられず彼女について尋ねた。

 

 

 

 

「……そうだな、君には話しておこう。とりあえずここではなんだし仮眠室に行こう。詳しい話はそれからだ」

 

「あ…はい」

 

 

 

 

そうして二人は話をする為、一旦仮眠室へと向かって行った。

 

 

 

 

 





2話終了です。

次回は主人公の正体が明かされます。プロフィールやあらすじに記載があるのでまるわかりですが(^^;

誤字等ありましたらすみません。


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第3話 気になるその正体


どんどんいきます。3話目です。




 

 

 

 

仮眠室に入るとオールマイトはお茶を出してくれた。

 

 

 

「はい、お茶」

 

「あ…ありがとうございます」

 

「それでさっきの続きだが、話す前にこれだけは守ってくれ。今から話すことは誰にも言ってはいけない。一切他言無用で頼む。いいね?」

 

「は…はい…」

 

 

 

 

いつになく真剣なオールマイト。強く念念押しをされ、思わずごくりと息を飲み込んだ後ゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

い…いよいよあの人の正体が……!

 

 

 

 

 

「彼女は成切友里絵。今は魔持軽結衣と名乗っているようだが昔面倒を見ていた私の娘なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 

 

「ええぇぇぇぇ!?オ…ッオールマイトのむす……!?」

 

 

 

 

 

突然のカミングアウトに驚きのあまり声を上げた。

 

 

 

「シィーーーーッ!!声が大きいぞ緑谷少年!」

 

「あ…!す…すみませんつい…!

けどオールマイトって独身のハズじゃあ…っ?」

 

 

 

自分の口に指を当て注意するオールマイトに慌てて口を押さえ謝ると、すぐに聞き返す。

 

 

 

 

 

 「もちろん血の繋がりはないよ。彼女は昔起きた敵犯罪をきっかけに引き取った子なんだ。当時彼女はまだ幼い子供で、父親は事故で既に他界していたし、母親も事件の時に亡くなってしまって他に身寄りがいなかったからね。当然だが、ワン・フォー・オールの事も彼女は知ってるよ」

 

「でででで…でも、そんな話今まで聞いたことないしニュースでもやってなかったのに…。それが本当だとしてもちょっと信じられないというか、そもそも何でオールマイトが引き取る必要があったのかがわかわからない……。事件がきっかけ?だとしても血の繋がりがないのならオールマイトにとっては他人であって引き取る理由はないわけで…ブツブツ…」

 

 

 

 

事のいきさつを話すオールマイトだったが、何故それで彼女を引き取るに至ったのかが分からず緑谷は再びブツブツと呟き始めた。

 

 

 

 

「否定から入る所は相変わらずだな緑谷少年。だが、彼女のことは公表されない様に誤魔化して世間から隠していたから知らないのも無理はないさ」

 

「え…そ…そうだったんですか?」

 

「ああ。いくら実の娘じゃないとはいえ、このことが世間に知れたら当然騒ぎになるだろうし、彼女を狙う敵も必ず出てくる。彼女に危険が及ばないようにする為には誤魔化す必要があったからね」

 

 

 

半信半疑の緑谷にオールマイトは友里絵の身の安全の為に周りの協力を得ながら誤魔化し続け、世間から隠していた事を明かした。

 

 

 

「な…なるほど…。ですが魔持軽さん…いえ、成切さんがオールマイトと他人であることにかわりはないですよね?そうまでして読録さんを引き取った理由は何なんですか?」

 

「それはな、彼女の母親との約束だったからだ。「自分にもしものことがあった時は私に友里絵を任せたい」とね…。彼女の母親とは友人関係で付き合いも長く私にとって大切な方だったんだ。だからこそ幼くして両親も居場所も失ってしまった女を放っておけなくてね…。

これが本当に赤の他人だったらさすがに私も引き取ったりはしないよ」

 

「で…ですよね…」

 

 

 

 

そ…そりゃあそうだよな……。いくらなんでも赤の他人を訳もなく引き取るなんてオールマイトがするわけがない…。

ていうかオールマイトじゃなくてもやらないか……。

 

 

 

 

 

 

ごもっともな回答に苦笑いを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

「━━と、彼女と私の関係や経緯についてはとりあえずそんなところだ。現在は見た通り拒まれてしまっているけどね…」

 

「そ…っその拒まれる理由は何なんですか…?話を聞く限り今は一緒に暮らしていないみたいですし、彼女との間に一体何が………?」

 

「そのことなんだが、何故彼女があんな態度をとるようになったのかは私にも正直わからないんだよ。何しろ彼女は5年……いや、6年前に当然いなくなってしまっていて君から話を聞くまで彼女がここにいることを知らなかったし、今どこで暮らしているのかさえわからないんだよ」

 

「え!?」

 

 

その質問に対し、まさかの返答。一瞬耳を疑った。

 

 

 

 

「い…いなくなったってじゃあ成切さんは家出をしたってことですか!?」

 

「ああ、そういうことになるね…。

もちろんすぐに行方を追ったんだが結局見つからず、以来ヒーロー活動をしながらずっと彼女を捜し続けていたってわけさ」

 

「だとしても何で家出なんて…………。

第一、6年前って確かオールマイトが大怪我を追った事件があった時じゃあ……」

 

 

 

家出という事実に驚く緑谷。しかも友里絵が家出した時期が丁度、6年前の大事件と重なっていた。

 

 

 

 

「そう……彼女がいなくなったのは正にあの事件の直後なんだ。それで私も、もしかしたらそれが理由じゃないかと思ってはいるんだよ…。他に思い当たることって言ったらそれしかないし、もしそれが原因だとしたら彼女のあの態度や行動にも一応頷ける…」

「ど…どういうことですか…?」

 

 

 

緑谷はその言葉の意味が理解出来ず首を傾げる。

 

 

 

 

「実はあの事件の時、彼女もその場にいたんだよ…。人質としてね…」

 

「人質!?」

 

 

 

 

なんとオールマイトは事件当時、友里絵も人質として敵に捕らわれていたという更なる驚愕の事実を打ち明けた。

 

 

 

 

「そうだ。当時、敵はどうやって調べたのか友里絵が私の娘であることを知っていて、彼女を拐って人質にしたんだ……。幸い彼女は無傷で取り返す事が出来たんだが、事件後もかなりショックを受けていたからね……。今も気にしてる可能性はある…」

 

「じ…じゃあつまり成切さんは事件のことは自分のせいだと思い込んでるってことですか?」

 

 

「あくまで推測さ。事件に巻き込まれたことで私の側にいることを恐れて離れた可能性だってある。

ただ単に嫌われたってだけかもしれないしね…」

 

「そんな………」

 

 

 

そう…今のはただの推測であり確証はどこにもない。だからこそオールマイトは自信を持って言うことが出来ず苦笑した。

 

 

 

「──にしても、まさかあの子が雄英に入学していたなんてな…。

しかも偽名が魔持軽とは……。彼女らしいと言えば彼女らしいが、こんなにすぐ近くにいたのに気づかなかったなんて……。これじゃあ嫌われても仕方ない…」

 

 

 

オールマイトはすぐに気づけなかったことに後悔を感じていた。

もっと早く気づいていればもしかしたら入学時から会えていたかもしれない。

 

 

そんな思いがオールマイトの心をどんどん暗くして行く。

 

 

 

 

 

オールマイト…すごく辛そうだ……。

 

そりゃあそうだよな……。ずっと一緒にいた成切さんが急にいなくなって、ようやく会えたと思ったら今度はあんな風に拒まれて…。

 

 

 

 

だけど……………。

 

 

 

 

"あなたは黙ってて!全部あなたのせいよ……!"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんなこと言われちゃったけどあの時の成切さん…すごく寂しそうな目をしていた…。オールマイトは嫌われた可能性についても話してたけど、あの目は決してオールマイトを嫌っている感じじゃなかった…。

 

 

話の内容には成切さんがオールマイトを嫌いになるような要因なんてどこにもなかったし、なにより言葉や態度では拒絶していたけど「嫌い」とは一言も言っていない……。

 

 

もともと優しい性格だったなら尚更だ。

 

 

 

 

そう考えると成切さんが6年前に起きた事件を気にしているんじゃないかっていう推測の方が可能性は高い気がする……。

 

 

 

 

これまでの友里絵の言動を振り返るが、どうも腑に落ちない。考えれば考える程その不自然さは増していく。

 

 

 

そもそも、彼女が本当にオールマイトを嫌っているならなんで彼の出身校である雄英に入学してるんだ?

オールマイトが雄英の教師になったのはたまたまだから仕方ないにしても普通、入学自体避けるよな……?

 

 

 

あのマスコットだって………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……待てよ?そういえば何でオールマイトはマスコットを見ただけで彼女のだって分かったんだろ……?

 

 

 

 

 

ふとマスコットのことを思い出し、疑問が頭を過った。

それを確かめる為、思いきってオールマイトに聞いてみた。

 

 

 

「あ…あの、オールマイト。少しいいですか?」

 

「ん?なんだい?」

 

「どうしてオールマイトはあの時マスコットが成切さんのだって分かったんですか?なんだか確信があったみたいでしたが……」

 

「ああ…それはな、あのマスコットは私が昔彼女の誕生日にあげたものだったからだよ」

 

「え、そうなんですか!?」

 

「…と言っても私も100%確信があったわけじゃないよ。むしろ半信半疑だったからこそ直接会って確かめようと思ったんだ。まだあれを持っていてくれたのは意外だったけど、あげた時はあんなポンチョはなかったからね」

 

「……」

 

 

 

 

コラボ商品じゃなかったのかと一瞬思いたくなったが、そこはぐっとこらえ少しずつ確信へと考えが変わっていく。

 

 

 

 

 

 

やっぱりおかしい。

 

オールマイトがあのマスコットをあげた時にはポンチョはなかったのならポンチョだけ後から成切さんが自分で着せたってことになる……。

 

 

 

 

成切さんはオールマイトの事を嫌ってなんかいない…。今でもオールマイトの事が好きなんだ。

 

 

だからマスコットを今でも持っていて落とした時もわざわざ探しに戻って来たんだ…。あのマスコットは成切さんにとってとても大事なものだったから………。

 

 

 

 

 

 

「…それはきっとオールマイトからもらったものだったからじゃ……」

 

「え?」

 

「多分ですが、成切さんはオールマイトのことを嫌いになんてなっていないと思います……。でなければあんな風に探しに来たり今でも大事に持ってたりしないと思います」

 

「緑谷少年……」

 

 

 

 

僕のもただの勝手な推測だからまだわからないけど、成切さんの行動がそれらを裏付ける十分な理由になるし全ての事に納得もいく……。

 

 

何よりそうであって欲しいと僕自身が願ってる。

 

 

 

 

 

これもまた根拠は何一つない推測。

 

けれどオールマイトの悲しそうな表情は見ていられない。

 

 

可能性を願い、自分の思いを正直に伝えた。

 

 

 

 

 

「…すみません。僕のもだだの推測でしかないのに何か生意気なことを言ってしまって………。けど成切さんはせっかく見つかったオールマイトの大切なご家族なんですよね…?なのにお二人がずっとこのまま関係だなんて僕嫌で……」

 

「いや…そんなことはないよ。ありがとう緑谷少年。そう言ってくれて嬉しいよ。大丈夫、私も彼女との関係を諦めたワケじゃない。もう一度ちゃんと彼女と話してみるつもりさ。

ま、休みが明けてからになるけどね」

 

「オールマイト……」

 

 

 

偉そうなことを言ったと謝るも、その言葉が嬉しかったのか、オールマイトは気持ちが少し楽になりまた笑みを浮かべた。

 

ただ、今日が体育祭だったことで明日、明後日と学校は休みに入ってしまう為、彼女と話が出来たとしても早くて2日後になる。

 

 

 

 

 

「…さてと。とりあえず今日はこのくらいにして終わろうか。あまり居残っていると相澤くんに怒られてしまうだろうからね。それに君も体育祭で疲れているだろう。今日は帰ってゆっくり休むと良い。何かあればまた連絡するから」

 

「あ…はい、そうですね…」

 

 

 

随分話し込んでしまったようで、時計を見て話を切り上げる。

 

時間のこともそうだが相澤は怒ると鬼のようでとにかく怖い。その恐ろしさはオールマイトはもちろん、緑谷も十分に身に染みてわかっていた。

 

怒られない為にも早めに帰った方が良さそうだ。

 

 

 

素直にオールマイトの指示に従うことにし、本日の二人の密会はこうして終了した。

 

 

 




えー………細かい編集をしている時に気づきましたが、主人公の名前が「読録」になってる部分がありました。一応一通り見て訂正しましたがもしまだ「読録」になっていたらご指摘下さると有難いです。


ちなみに「読録」は"よみとり"と読み、成切になる前の一番最初に考えたら名前です。





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第4話 落とし物 Part2

タイトルがまた「落とし物」です。

パート2です。
つまりまた落とし物をする人がいるというわけです(笑)

では続きをどうぞ(笑)













.




 

 

 

 

 

連休に入るとオールマイトと緑谷はそれぞれ思い思いに過ごした。

 

その間、特に変わった変化やオールマイトからの連絡は一切なくごく普通の生活を送った。体育祭で負った怪我のせいで右手が使えず不便な点はあったがなんとか左手だけでやり過ごした。

 

 

そして休み明けの二日後。その日は朝から雨が降っていた。

 

体育祭での傷はだいぶ回復し疲れもバッチリ癒えた……………ハズだったのだが…。

 

 

 

 

「(朝から疲れたぞ)」

 

 

 

何故だか緑谷は朝からグッタリと疲れきった様子で校門を歩いていた。

 

それもそのはず。

 

学校に来る途中の電車の中であらゆる人達から声をかけられ注目されたからだ。

 

声をかけて来たのは全員体育祭を見たという人達だった。ビッグイベントであるから故に雄英体育祭はそれだけ反響を与えるというわけだ。

 

 

 

 

「(…結局あれから連絡来なかったな……。成切さんと進展はなかったのかな……)」

 

「何呑気に歩いてるんだ!!」

 

ビクッ!!

「!」

 

 

 

 

友里絵のことを考えていると突然後ろから声をかけられた。

 

 

「遅刻だぞ!おはよう緑谷くん!!」

 

「カカカ…カッパに長靴!!」

 

 

 

 

同じA組でありクラス委員の飯田天哉だった。

 

カッパに長靴という姿で雨の中をバシャバシャと走りながら挨拶をし通り過ぎる。

 

 

 

「遅刻ってまだ予鈴5分前だよ?」

 

「雄英生たるもの10分前行動が基本だろう!!」

 

 

そう言いつつも飯田の後を追う。

 

しかし飯田はとにかく真面目な性格をしている為、緑谷の言い分は認めず走り続けた。

 

 

「…………

………あ…」

 

 

 

走る飯田の姿を見て緑谷は何かを思い出したかのように小さく声を発した。

 

下駄箱までたどり着いた所で飯田が再び緑谷に話しかける。

 

 

 

「兄の件なら心配ご無用だ。要らぬ心労をかけてすまなかったな」

 

「…………」

 

 

 

飯田の言う兄の件とは、体育祭中に起きた事件のことだ。その事件で飯田の兄であるプロヒーロー、インゲニウムは怪我を負い母親から連絡を受けた飯田は本来表彰式に出るはずだったが病院に向かうこととなった。

 

緑谷もそれを後から知り、気にしていたのだが飯田はそれだけ言うと教室へと向かって行き、その彼の後ろ姿を緑谷はただ見つめていた。

 

 

 

「何をしているんだ、早く行くぞ緑谷くん!」

 

「あ…うん!」

 

 

ポロ……ッ

 

 

 

 

再び飯田の呼ぶ声に慌てて向かおうとする。

 

その際ポケットから何から落ちたことに気づくことはなかった。

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

その後も緑谷が落とし物に気づくことはなく、授業が始まった。

教室に入って来た相澤から体育祭での指名結果が発表され、それに伴い職場体験に行くことになった。

 

よりプロの活動を体験する為にヒーロー名を決めなければならないとのことで、相澤と同じ雄英教師であるミッドナイトの査定のもと、A組の生徒達はそれぞれヒーロー名を考えて行く。

 

この場で決めたヒーロー名がそのままプロ名となることも多いらしく、慎重に選ばなければならない。それでも思いの外順調に決まって行った。

 

 

緑谷も悩みに悩んだ結果、ヒーロー名を決めた。

 

 

 

 

「これが僕のヒーロー名です」

 

 

 

発表で緑谷がクラスに見せたボードには「デク」と書かれていた。

 

それを見た他のクラスメイト達は動揺を見せた。

 

デクというのは幼なじみで同じクラスの爆豪勝己が昔、無個性だった緑谷に木偶の棒という意味を込めてつけたあだ名で最初は本人も嫌がっていた。

 

しかし入学してすぐ、これまた同じクラスの麗日お茶子に「頑張れって感じのデク」と言われたことで緑谷の中で意味は大きく変わった。

 

 

 

 

いつまでも雑魚で出来損ないのデクじゃない。頑張れって感じのデクなのだと。

 

 

そんな思いからあえてデクを選んだ。その選択に後悔や迷いは一切なくミッドナイトの査定も無事通ることとなった。

 

 

 

ヒーロー名を決めた後は職場経験先を決めることになり指名がある者は個別の指名リストから。指名がなかった者はあらかじめオファーをしておいた全国の受け入れ可能な事務所40件から選ぶらしい。

 

 

相澤は今週末までに提出するように指示を出して教室から出ていった。

 

提出期限まで残りあと二日。

 

 

昼休みになるとA組の生徒達は職場体験先について伝えあっていた。

 

緑谷もお得のブツブツ思考で悩んでいた。

 

ワン・フォー・オールをまだ上手く扱えない緑谷は特に行く先を慎重に選ないといけない。

 

 

 

 

「え?「バトルヒーローガンヘッド」の事務所!?

ゴリッゴリの武闘派じゃん!!麗日さんがそこに!?」

 

「うん指名来てた!」

 

 

 

そんな時、同じクラスの麗日からバトルヒーロー「ガンヘッド」の所へ行くと聞かされた。

 

麗日のイメージとは程遠く、意外な反応を見せる緑谷。

 

 

 

「てっきり13号先生のようなヒーローを目指してるのかと…」

 

「最終的にはね!こないだの爆豪くん戦で思ったんだ。強くなればそんだけ可能性が広がる!やりたい方だけ向いてても見聞狭まる!

と!」

 

 

彼女曰く、体育祭で爆豪と戦った時の経験を生かし強くなることであらゆる可能性の幅を広げることが目的らしい。

 

それによって出来ることを増やそうとしているのだ。

 

 

「………

なるほど」

 

「ところでさっきから気になってたんだけど震えてるね?」

 

「ああ…コレ空気イス」

 

「クーキィス!!」

 

 

 

空気椅子とは要するに椅子から腰を浮かせた状態で維持した状態のこと。

 

少し前から緑谷が震えていることに気づいた麗日が尋ねた所、空気椅子をやっていたことが判明。しかも授業中もずっと空気椅子状態で受けていたという驚きの事実まで発覚した。

 

座った状態でも出来るトレーニングだそうだ。

 

 

 

「緑谷ー。何かフードを被った奴がお前に会いたいって今廊下に来てんぞ?」

 

「(フードを被った…………成切さんだ!)

あ、ありがとう切島くん!」

 

 

 

そこへ切島鋭児郎が緑谷の元へとやって来て友里絵が教室前に来ていると教えてくれた。

 

緑谷はすぐに教室の外へと向かうと相変わらずフードを深く被った友里絵の姿があった。

 

 

 

「ど…どうしたの成切さん?僕に会いに来たって聞いたけど……」

 

「…ここじゃ目立つから話は屋上で…」

 

「あ…う…うん……」

 

 

 

友里絵は場所を変えたいと言って屋上を指定した。

 

それに従い二人で屋上に移動を始める。

 

 

 

 

……念の為オールマイトに連絡しておこう……。

 

 

その際に友里絵に気づかれないようこっそりとメールを打ちオールマイトに送った。

 

 

 




はい、今回の落とし物の主は緑谷くんでした。

ここは当然のことながら私の勝手な設定でございます。

緑谷くんは一体何を落としたんでしょうね?

読んで頂きありがとうございます。



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第5話 本心…そして涙

5話を載せようとしたらかなり長くなってしまった…。


区切ります(^^;


 

緑谷が送ったメールはすぐにオールマイトの目に入った。

 

 

 

「(緑谷少年からメール?)」

 

 

メールには友里絵が自分を尋ねてきたことと場所を変える為に今屋上に向かっていることあり、更に最後の文には話をしてみると書かれていた。

 

それは遠回しに屋上へ来て欲しいというメッセージだった。

 

 

 

 

「(マジかよ…。全く無茶だけはするなよ緑谷少年…!)」

 

 

 

メッセージを受け取ったオールマイトは急いで屋上へと向かった。

 

 

 

 


 

 

 

 

そして、先に屋上へとやって来た緑谷と友里絵。周りには二人以外に人はおらず、まだ雨が降っていて出られないので屋根の下で話をするつもりのようだ。

 

 

 

「…それで何で成切さんは僕の所に…?」

 

「…これ…渡そうと思って…」

 

 

友里絵が差し出して来たのは小さなメモ帳だった。

 

 

 

「あ!これ僕の…っ確かポケットに入れてたのに…!何で成切さんが!?」

 

「朝貴方が下駄箱の所に落としたのよ…。気づいてなかったの…?」

 

 

 

そう、緑谷が朝下駄箱の前に落としたのはメモ帳だった。それは普段プロヒーローに関する記録や授業の際に使っており緑谷にとってはなくてはならない大切な必需品なのだ。それを友里絵はあの時に拾っていたのだった。

 

 

 

「そ…そうだったの!?全然気づかなかった…!」

 

「本当に気づいてなかったのね…。あなたも相当うっかりというか、何であなたまで落とし物して気づかないのよ…」

 

 

素で気づいていなかった様子の緑谷に友里絵は小さくため息をついた。

 

 

 

「はは…確かに…。今度は僕が拾って貰う立場になってるね…。

でも成切さん…人目をすごく気にしてたのに何でわざわざ…?職員室に届けるとか、さっき君が伝言をお願いしてた切島くんに預けるとかすれば簡単だったのに…」

 

「だって…落とし主がわかってるならちゃんと直接返ないといけないと思って…。貴方には一応マスコットを拾ってもらった恩もあるし……」

 

 

 

緑谷の問いかけに対し友里絵は気まずそうな声で答えた。

 

 

 

 

そっか……。それで直接返しに来てくれたのか。最初はちょっと怖い感じだったけど根は好い人なのかも…。

 

 

 

「あ、ありがとう成切さん。本当助かったよ」

 

「……」

 

「実はこのメモ帳、ヒーローのこととか授業で参考になったことをメモしたもので僕にとっては大事な物なんだ。だからなくしたら大変だった……って成切さん?」

 

 

 

緑谷は嬉しそうに安堵しながらお礼を言うが、友里絵の様子がおかしいことに気づき彼女に呼び掛けた。

 

 

 

 

「成切さんどうかしたの?」

 

「…いや、普通はそうだよなー…って思って…」

 

「え?」

 

「普通落とし物を拾ってもらったらお礼を言うのが当たり前なのに私は言わなかったから…」

 

「あ…」

 

 

 

その言葉に緑谷は三日前のマスコットを拾った時のことを思い出した。

 

 

 

そういえばあの時僕、成切さんに睨まれたんだった…。成切さん気にしてくれてたんだ……。

 

やっぱり彼女は本当はただの優しい普通の女の子なんだ……。

 

 

 

「しかもあの時睨み付けちゃって…その…ごめんなさい…マスコット拾ってくれてありがとう…」

 

「ううん、気にしないで。僕もあの時はちょっと気配りが足りてなかったし…」

 

 

 

 

申し訳なさそうに謝る友里絵に緑谷は気にしていないことを伝え、自分にも非はあったと答えた。

 

 

 

 

「じ…じゃあ私はもう戻るから…。それだけ伝えたかっただけだし…」

 

「あ、待って…!何で成切さんはオールマイトのことをあんなに拒むの…!?」

 

 

 

 

話は終わったと言わんばかりに立ち去ろとする友里絵を緑谷は慌てて引き止める。

 

 

 

 

「…それは貴方には関係ないし話す必要もない…」

 

「関係なくなんかないよ!だって僕はオールマイトの弟子だから……!」

 

「…!それ…私に言っちゃっていいわけ…?「

 

 

 その言葉に友里絵は足を止め振り向いた。

 

 

 

「だって君はもうそのことを知ってるよね…?最初に僕とぶつかった時も一瞬怯んでたし、僕がオールマイトと深く関わりのある人間だってわかってたから慌てて立ち去ったんじゃないの…?」

 

「………」

 

 

 

緑谷の問いかけにだんだん無言になっていく友里絵。

 

 

 

「成切さんが持ってたあのマスコットだって昔、誕生日にオールマイトからもらった物なんだよね…?でもその時はポンチョはなかったって……。それってポンチョは成切さんが自分で買って着せたって事だよね…?オールマイトのことは避けてるのにどうして彼からもらった物はアレンジまでして今でも持ってるの……?」

 

「…………」

 

 

 

問いかけを続ける緑谷に対し、友里絵は黙ったままだった。

 

 

 

「マスコットを落とした時も慌ててわざわざ探しに戻って来たのも、あのマスコットが成切さんにとって大切だったからじゃないの……?僕がこのメモ帳を大切なのと同じで……。

成切さん……本当はオールマイトのこと………」

 

「……もういいよ緑谷出久くん。それ以上言わなくても……」

 

 

 

 

するとずっと無言だった友里絵の口が開いた。

 

 

 

 

「本当貴方って人のこと詮索してくるよね…。それに凄くお節介…」

 

「うん……自分でも余計なお節介をしてるって思うよ。だけどどうしても放っておけなくて…。それに余計なお節介はヒーローの本質だってオールマイトが言ってたから……」

 

「ほんとあの人らしいね…。全然変わってない………」

 

 

 

 

 

 

先程までの険しかった友里絵の表情が和らぎ小さな笑みがこぼれた。

 

 

 

 

 

そして少し間を空けてから静かに語り始めた。

 

 

 

『正直に言うよ…。あなたの言う通り、私はあの人のことを嫌ってなんかいない…。むしろ感謝してるよ。身寄りのない私を引き取って育ててくれたんだから……』

 

「それじゃあどうしてオールマイトのことを…」

 

 

 

緑谷も友里絵に聞き返す。

 

 

 

 

「……6年前の事件のことはもうあの人から聞いた……?」

 

 

「え…あ…うん……。オールマイトが(ヴィラン)と戦って大怪我を負った事件のことだよね…。初めて会った時に聞いたよ…。どんな事件だったのかまでは詳しく聞いてないけど、その事件がきっかけでオールマイトは衰弱して今の姿になったって……」

 

 

 

友里絵から突然の質問の連続に困惑しながらも答えていく緑谷。

 

 

「ならその事件に私が関わっていたことは…?」

 

「それも連休前に聞いたよ…。成切さんが(ヴィラン)に捕まって人質にされてたって……。それで家出をしたんじゃないかって……」

 

 

次に6年前の事件について知っているかを聞かれ首を縦に振る。

 

その後の自分が6年前の事件に関わっていたことについても知っているかという質問に対しては頷いてから、家出はそれがきっかけではないかとオールマイトが考えていることを友里絵に伝えた。

 

 

 

 

 

「…何だ、気付いてたんだあの人……」

 

「…ってことはやっぱり成切さんは6年前の事件は自分のせいだと思い込んで家出を!?」

 

 

その言葉で確信を持った緑谷が叫んだ。

やはりオールマイトの推測は正しかったのだ。

 

 

 

「まさか……。確かに責任を感じてる部分はあるけど、家出をしたのはもっと別の理由…』

 

「別の…?それって一体…?」

 

 

 

しかしそれは本当の理由ではないらしく否定し別の理由があると告げた。

 

 

 

 「私があの人の元から離れようと思ったきっかけが6年前の事件であることは間違いないよ…。でも最大の理由はふたつある…。ひとつはあの人があの事件で大怪我をしたから。ふたつは私の存在があの人の足枷になると思ったから…」

 

「あ………足枷って…どういうこと読録さん!?」

 

 

 

 

緑谷は友里絵が足枷と言ったことに衝撃を受け再度聞き返す。

 

 

 

 

「あの人は私を引き取ってからずっとあらゆる危険から守ってくれてたの…。普段は事件だって聞くとすぐに飛んで行っちゃうけど、もしに私に何かあった時は必ず駆けつけて救けちゃうくらい大切にしてくれてて………」

 

「そ…それはそうだよ。だって成切さんはオールマイトがわざわざ引き取ってまで育てた娘なんだから大切にするのは当然じゃないかな」

 

「だからだよ。あの人にとって私はそれだけの存在ってことでしょ。だからきっと私が側にいたら今でも私の事を守ろうとするに決まってる。けどあなたももう知っての通り、あの事件であの人は衰弱してしまい昔みたいに活動することは出来ない…」

 

「あ…」

 

 

 

それを聞いてハッとした。

彼女の言葉が何を意味するのかすぐにわかったからだ。

 

 

 

 

「なのにあの人は今でも多くの人を救おうとヒーロー活動を続けてる…。しかも今は雄英の教師の仕事だってあるのに私なんかに構ってたら只でさえ短い活動時間が余計に短くなって活動全体にも支障が出ちゃう…。だったら私なんていない方がより多くの人を救けられるし、活動に専念出来るでしょ?」

 

「だ…だからって何も成切さんが出て行かなくても……!オールマイトだってその辺はちゃんと考えてるだろうし…」

 

「…じゃああの人といてもし私の存在が(ヴィラン)に知られたら?あの人を邪魔と思ってる奴らはいくらでもいるんだよ…?私のことを放っておくハズがない。下手をすればあの人の秘密まで敵や世間に知られる恐れがある…。6年前みたいな事件がまた起きないとも限らないし、そんなことになればあの人も危なくなって今度こそ命に関わるかもしれない……。私はもうただの足手まといでしかないの……」

 

「成切さん…」

 

 

 

悲痛な思いで全てを打ち明けた友里絵。

緑谷はそれをただ聞いていることしか出来なかった。

 

 

 

「だからあの人の元を去ったの…。それからは外に出る時は必ずフードを被るようにしたし、なるべく目立たず過ごすようにもした…。ヒーロー科じゃなく普通科を選んだのもその為…。ただ雄英を選んだのは学校くらいは好きな所に行きたかったから…。雄英はあの人の出身校だけど別に通うだけなら問題はないんじゃないかと思って…」

 

「そうか……だから雄英に入学を…」

 

「ええ…。けどそれがまさか雄英の教師になるなんて全くの想定外だった…。

かといって学校を辞めるわけにもいかないし、とにかくあの人と接触はしないように気をつけてたし体育祭ではわざと上位から外れた…。その後の競技も体調不良を理由にして出てない…」

 

「そ…そんなことまで…!?」

 

 

 

 

いくらオールマイトから身を隠すため為とはいえ、さすがにそこまでやっていたとは思わず声を上げた。

 

 

 

 「そりゃそうでしょ。雄英体育祭はTVで生中継されるビッグイベント…。私の姿が映るのは極力避けなきゃいけないし、あの人にも見つかっちゃうでしょ…?まぁ…例えあの人が雄英の教師になってなくてもそうしてたけどね…。元々目立たない様にするつもりだったし…』」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 そういうことだったのか……。

 

まさか成切さんがそこまでしてたのは予想外だったけどこれで彼女がオールマイトを避ける理由がハッキリした……。

 

成切さんは成切さんなりにオールマイトを守ろうとしてたんだ……。

 

 

自分が犠牲になることでオールマイトとの関係を周りに悟られない様にする為に……。

 

 

 

 

 

 

だけど…………。

 

 

 

 

 

「で……でもそれじゃあ成切さんは何も出来ないじゃないか…。好きなこともやりたいことも全部我慢しなきゃいけないなんて……」

 

「そんなのは覚悟の上だし、それであの人を守ること出来るなら私一人が我慢することぐらい構わない…。平和の象徴の損失に比べたら私一人の人生なんてどうでもいいし……」

 

「どうでもいいって……っ

そもそも、いつまでも隠し通せる事じゃないし、例え今バレてなかったとしてもいずれはバレてたと思うよ…!」

 

 

 

一人で何もかもを背負い込もうとする友里絵を阻止しようと緑谷は必死に訴えかける。

 

 

 

「もちろんそれだってちゃんとわかってるし、私だっていつまでも隠し通せるなんて思ってなかったよ…。ただ、こんなに早くバレるつもりもなかった……。いけないことだってわかっててもやっぱりあの人にまた会えたことが嬉しくて側に行きたい気持ちを抑えきれず、これまで何回も仮眠室に行った……。そして今回あなたと鉢合わせてしまいあの人にも知られてしまった…。完全に私のミス…」

 

「…っそんなことないよ!!」

 

「…!」

 

 

 

彼女の自分を責め、まるで後悔するかのようなその言葉を遮るかのように叫んだ。

 

 

 

 

「成切さんは間違ってなんかいない!オールマイトに会いたいって思うのは悪いことなんかじゃないよ!」

 

「悪いよ……。言ったでしょ…?私がいたらあの人の負担が増えるし(ヴィラン)にバレる危険があるって…」

 

「それは成切さんが側にいてもいなくても変わらないよ……。それにいくら離れててもオールマイトが聞き付けてやって来たら意味なんてなくなるでしょ……?」

 

「それは………」

 

 

 

正論を言われ言葉を詰まらせる。

 

いくらオールマイトの元を去り、バレない努力をしてるからといってバレない保証はどこにもない。

 

つまり、どこにいようと見つかれば結局は同じことなのだ。

 

 

 

 

「成切さんの気持ちはわかるよ…。でもじゃあオールマイトの気持ちはどうなるの…?オールマイトはずっと成切さんを捜し続けてたんだよ…?それでやっと君を見つけたのに、理由も分からず拒まれてすごく悲しそうだった…。今からでも遅くないよ。すぐオールマイトの元に戻って…」

 

「……そんなの無理に決まってるじゃない…。いくらあの人の為とはいえ、勝手にいなくなってひどいこともいっぱい言った……。今更どの面下げて戻れって言うの…?私はもう元の関係に戻るつもりもあの人の所に帰るつもりもない…」

 

「成切さん…っ!?」

 

 

 

友里絵はオールマイトの元へ戻る意思がないことを告げその場から立ち去ろうとした。

 

 

 

「理由は教えたんだからもういい行って良いでしょ…?貴方と関わるのもこれが最後…二度と会わない…。それに貴方が何と言おうと私の意志は変わらないし、それで本当にあの人に愛想尽かされたとしても私は構わない……」

 

「悪いがそれはないよ」

 

「…!オールマイト!

(良かった…来てくれた…!)」

 

「!?」

 

 

ところがそこへオールマイトがトゥルーフォーム姿で現れた。

 

彼の突然の登場に友里絵は驚きのあまり言葉を失い、緑谷はオールマイトが来てくれたことにホッと胸を撫で下ろしていた。

 

 

 

「話は全て聞かせてもらったよ……。やはりそういう事だったんだな友里絵……」

 

「な…何でここに…」

 

「僕が伝えたんだ……。ここに来る前にオールマイトにメールを送っておいた…。もしかしたら元の関係に戻れるきっかけになるかと思って……」

 

 

 

 

 

動揺する友里絵に緑谷は自分が事前に知らせておいたことを素直に話した。

 

オールマイトと友里絵。二人のことを本気で心配しての行動だった。

 

 

 

 

「本当に済まなかった友里絵……。思えば君には昔から我慢ばかりさせてしまっていたな……。そのせいで辛い思いをさせた…許してくれ…」

 

「そんな…私は別に……」

 

「君がそこまで私を気遣ってくれていたなんてすごく嬉しいよ。でもね、私が君を守っていたのもヒーロー活動を続けているのも全て私の意志でやっていることなんだ。平和の象徴としてより多くの人達を救け、君のことも父親として守り続けたい。だから緑谷少年が言ったようにそのことで君が悩んだり背負い込む必要なんてないんだよ」

 

「で…でもそれであなたに危険が及んだら………。また前みたいに私が捕まったりでもしたら……」

 

 

優しい声で話すオールマイト。

それでも彼が危険に晒されることを気にし、素直に受け入れることができずに迷っている彼女の様子を緑谷はただ黙って横から見守る。

 

 

 

 

「確かにその可能性は否めない…。実は以前、塚内くんって言う警察の友人からも似たようなことを言われていたんだ。「私的な理由で出動するべきじゃない。優先的に救ける人物がいれば逆に犯罪の陽動や人質などに利用されてしまう」…とね。まぁ…君がいなくなった後の話だが…」

 

「だったら…っ」

 

「そうはいかないよ。塚内くんの言うことは最もだが、これが自分の娘となれば話は別だ。大丈夫、私は簡単にやられたりしないよ。むしろ君がいないことや安否を把握出来ないでいることの方が私に辛い…」

 

「…………」

 

「私の所に戻るのが難しいと言うならそれでも構わない。だがせめて昔のように接してはもらえないだろうか……」

 

 

 

友里絵の頭を撫でながら大丈夫だと答えた後、自分の所に戻って来るとまではいかなくても普通に接してほしいと切に頼んだ。

 

 

 

 

「…怒ってないんですか…?私のこと…」

 

「ん?何で私が怒るんだい?」

 

「だって…勝手にいなくなった上にあなたにひどいことを沢山言ったから…」

 

「けどそれは私のことを思っての行動だろう?私の為にしてくれたことなのに怒るなんて出来ないよ。

それは君が一番よく知ってるんじゃないかい?」

 

「…………」

 

 

 

友里絵の問いかけに対しオールマイトは怒る意思がないこと示すと優しく微笑みかけた。

 

 

 

「友里絵自身はどうしたいんだ?私のことは関係なしに素直な気持ちを言ってごらん?」

 

「…私も本当は一緒にいたい……。本当は離れたくなんてなかった……。でも…それは許されないことだって思って……っ私は側にいちゃダメなんだって…っ私のせいで…あなたが危ないくなるのは嫌だったから……っ」

 

「成切さん…………」

 

 

 

オールマイトの言葉が引き金となり、今まで抑えていた感情が一気に溢れ出し友里絵は大粒の涙をポロポロと流した。

 

 

 

「大丈夫…大丈夫だ。今日までの長い間よく耐えたな…。辛かっただろう、ありがとう友里絵…」

 

「ふ…っうぅ…っ」

 

 

 

そんな友里絵をオールマイトはそっと自分の側へと寄せるとそのまま抱きしめ背中を撫でた。

 

 

 

 

 

 

……成切さん…よっぽど辛かったんだ……。

 

 

当然か………。これまでずっとオールマイトの為だけに自分の気持ちを偽って来たんだから……。

 

今ならわかる……。

成切さんがこれまでどんな思いで今日まで過ごしてきたのか…。普通なら到底耐えられることじゃない……。

 

 

だけどこれでもう、成切さんがそんなことをしなくて済む……。長い苦しみからやっと解放されるんだ…。

 

 

 

 

二人の様子を静かに見守っていた緑谷も自分のことのように喜び笑みを浮かべた。

 

 





んー……やっぱりまだ文が長いですなぁ…(-_-;)

けど良い区切り場所がないんですよねぇ…(TT)

とりあえず緑谷くんが落としたのはメモ帳でした~。


これは完全に私の勝手な設定でございます。


もし持ってても朝からポケットに突っ込まんでしょう。

閲覧ありがとうございました。


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第6話 和解

前回に比べてだいぶ短いです。


あ、ちなみに今さらですが小説タイトル変えました(^_^;)

なかなか良いアイデアが浮かばない。

アイデアの神様よ来たれーー!!(ノ゜ο゜)ノ






 

 

 

「…落ち着いたかい?」

 

「……」

 

 

しばらくして少し落ち着いた様子の友里絵。オールマイトの言葉にコクリと小さく頷いた。

 

 

 

 

 

「良かった…。それでどうだい?戻って来てくれるか返事を聞かせてくれないかい?」

 

「……ごめんなさい…。やっぱり流石に今すぐに戻ることは出来ない…です……」

 

「え…っ!?」

 

 

 

先程の返事を聞こうとするオールマイト。しかし友里絵は今すぐは戻れないと答え、それに対し緑谷は声を上げた。

 

 

 

「で…でも…許されるならオールマイト…さんとはまた話をしたり会ったりはして行きたい…です…」

 

「もちろんさ。それだけでも十分嬉しいよ。ただオールマイトさんは止してくれないか友里絵?敬語にもしなくていい。昔みたいに普通にしてくれ」

 

「は…はい…じゃなかった。うん…わかった…」

 

 

 

友里絵は戻ることは出来ないが今後はまたオールマイトと話をしたり会ったりしたいと答えた。

 

が、長く離れていたこともあり、つい他人行儀のような喋り方になってしまい、オールマイトから普通で良いと言われる。

 

 

 

 

 

「…じゃあメー…むぐっ……」

 

「…何でそこでその呼び方を選ぶんだ君は。第一、その呼び方は止めなさいと言っただろう友里絵」

 

「…?メー…?」

 

 

 

友里絵が「メー」と言いかけた所でオールマイトは何故か慌てた様子で口を押さえ制止した。言葉が途中だった為、緑谷は友里絵が何を言おうとしたのか分からず首を傾げていた。

 

 

 

「あ…そうだった…トシおじさん…」

 

「全く…」

 

「(き…気になる………。メーってなんなんだ……?)」

 

 

 

 

自分だけが理解出来ず気になって仕方がない緑谷。

というわけでここで少しだけ説明しよう。

 

 

まず友里絵が言おうとした言葉は「メーおじさん」。

 

オールマイトに対する呼び名だ。

 

ではなぜ「メーおじさん」なのか。

 

 

 

それはオールマイトの名前から来ていた。彼の名前は「八木俊典」で苗字が「八木」であることから「ヤギ」となり、そこからヤギはメーメーと鳴くということで友里絵は幼い頃にオールマイトを「メーおじさん」と呼んでいたのだ。

 

しかしオールマイトによってその呼び方は即禁止されたのだった。

 

 

緑谷がそれを知る日は果たしてやって来るのだろうか(笑)

 

 

 

 

 

「ところで仲直りも出来たことだし、そろそろ君が今どこで生活をしてるのか教えてくれないかい?」

 

「…それは……秘密…。

と言うより今はまだ知らない方が良いと思う…」

 

「え?それはどういう…」

 

「知らない方が良いと思う…」

 

「「(二度言った!!!)」」

 

 

 

 

再度友里絵に現在どこで暮らしているのかを尋ねてみるも、余程の理由があるのか、友里絵は頑なに喋ろうとせずただ同じことを二度繰り返して言った。しかも強調して。

 

 

 

 

 

「話せる時が来たらちゃんと言う……。とにかく今は言えない…。でも心配しないで…。ちゃんと安全な場所で安全な人の所にいるから……」

 

「…まぁ、君がそう言うなら仕方ないか…。とりあえず君の本音は聞けたし、また普通に話せるようになって良かったよ」

 

 

 

結局この時は友里絵の所在地を聞くことは出来なかったが、オールマイトは友里絵の言葉を承諾し今は関係が修復出来たことを素直に喜んだ。

 

 

 

「……」

 

「…?何、成切さん?」

 

「…一応トシおじさんのことお礼を言っておく…。ありがとう……」

 

「成切さん……」

 

 

ふと視線を感じ、目を向けると友里絵がこちらをジッと見つめてくる。どうしたのかと思い尋ねると友里絵は小さな声でオールマイトとの関係修復に対するお礼を言った。

 

 

「私からもお礼を言わせてくれ。ありがとう緑谷少年」

 

「い…いえ、僕はただお二人のことが放って置けなかっただけなので…」

 

 

 

オールマイトからもお礼を言われ照れ臭くなる。

 

 

 

「けど、ちょっと深入りし過ぎじゃない…?お節介も度が過ぎるとただの迷惑行為になるよ…?」

 

「え…」

 

「それは私も言おうと思っていた。今回はたまたま上手く行ったからよかったものの…」

 

「す…すみません…………」

 

 

 

だがその後で二人に首を突っ込みすぎていると言われて緑谷は落胆することとなった。

 

 

 

 

「あ…あの…お節介ついでに言わせてほしいんだけど、そのフード止めた方が良いんじゃないかな…?」

 

「え…?」

 

「だってそれじゃあいかにも「顔を隠してます」って言ってるみたいなものだし逆に目立って怪しまれるよ…。それにあのマスコットだって持っている所を見られたら、いくら外でオールマイトに感心がないように振る舞ってても意味がないと言うか…」

 

「確かに…堂々としていた方がかえって良いかもしれないな」

 

「………」

 

 

 

ふと控えめな口調で緑谷が切り出した提案にオールマイトも頷いた。

一方の友里絵は急にそんなことを言われてもすぐに切り替えることなど出来るはずもなく、不安そうな表情を浮かべていた。

 

 

 

「む…難しいかな?」

 

「まぁ…今まで習慣だったのを急に変えろと言われても難しいだろう。少しずつ慣らして行けばいいじゃないかな?まずはフードをバンダナに変えてみるとかさ。要はポジティブに考えるようにするんだよ」

 

「…わかった、やってみる……」

 

 

 

しばらく悩んだ友里絵だったが小さく頷き実行してみることにした。

 

 

 

「…えっと……それじゃあ私もう教室戻るから…」

 

「ああ、今日は本当にありがとう。久々に話せて楽しかったよ」

 

「私も……。

あ…そうだ。最後にひとつだけ……」

 

「ん?何だい?」

 

 

 

話も終え、立ち去ろうとした友里絵が何かを思い出したかのようにオールマイトと緑谷の方を見て呟いた。

 

 

 

 

「二人が言ってたことでひとつだけ間違ってたことがあるんだけど…」

 

「間違ってたこと?」

 

「うん…。あのマスコットのポンチョ…。二人は買った物って言ってたけどあれ私が作った物だから…」

 

「「え!?」」

 

 

 

何のことかと思っていた緑谷とオールマイトだったが、例のマスコットのポンチョが買った物ではなく、友里絵が作った物だと聞いた途端、揃って驚きの声を上げた。

 

友里絵はそんな二人をよそにふふっと笑って立ち去った。

 

 

 

 

「手作り…か…。そういえば彼女は裁縫が得意だったのを忘れていたよ…」

 

「あんなのを自分で作っちゃうなんてすごいですね…。

完成度高め……」

 

 

 

 

 

 

 

《ヴヴヴ………》

 

 

 

呆然と立ち尽くしたまま二人が話しているとオールマイトのケータイのバイブ音が鳴った。

 

 

 

「…?知らないアドレス?」

 

 

オールマイトは見覚えのないアドレスに首を傾げながらメールを開いた。

 

 

 

"トシおじさんへ。

 

ごめんなさい。連絡先を教えるのを忘れてた。私の連絡先です↓

 

×××-××××-××××。

 

by友里絵"

 

 

それは友里絵からの連絡先を伝えるメールだった。

 

 

 

「友里絵……」

 

「メール成切さんからですか?」

 

「ああ。連絡先を送ってくれたよ」

 

 

 

メールを見たオールマイトは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

「ということはこれからはいつでも連絡が出来ますね」

 

「そうだな。一応念のために君にも彼女の連絡先を教えておくよ。

スマホあるかい?」

 

 

オールマイトはそう言って緑谷に友里絵の連絡先を教えようとした。

 

 

 

 

「え…良いんですか?僕まで勝手にそんなことしちゃって……」

 

「私が教える分には多分大丈夫だろう。何かあった時に役立つかも知れないし彼女には私から伝えておくよ」

 

「そ…そうですね…」

 

 

 

 

ま…まさか成切さんの連絡先を知ることになるなんて……。ついでとはいえ女子の連絡先を入れるのはやっぱりいつになっても緊張するな……。

 

 

 

 

戸惑いながらも友里絵の連絡先を教えてもらう緑谷。彼にとって女子の連絡先を自分のスマホに入れることはテンションが上がってしまうくらい嬉しいことと同時に、ものすごく緊張してしまうのだ。

 

 

 

「さてと…なら私も戻らせてもらうよ。いろいろと済まなかったね」

 

「そんなこと…。僕も成切さんとオールマイトが無事和解出来て良かったです。大切にしてあげて下さい」

 

「もちろんだとも。

じゃあな、緑谷少年。また会おう」

 

 

 

オールマイトはサッと右手を上げながらボムッとマッスルフォームに姿を変えて戻って行った。

 

 

 

「よし…僕も……」

 

 

 

 

 

……あ、しまった。成切さんの"個性"が何なのか聞きそびれちゃった……。

 

 

でもいいか…。聞く機会はいくらでもあるしまた後で……。

 

 

 

 

オールマイトを見送り自分も戻ろうとした際、友里絵の"個性"について聞き忘れていたことに気付き緑谷は「あ!」と思い出すが、とりあえず今は教室に戻ることにした。

 

 

 

 

ちなみに………

 

 

 

「しまった!緑谷少年に指名が来ていることを伝えるのを忘れていた!」

 

 

 

 

と、オールマイトも緑谷に伝えることがあったのを忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 



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第7話 いざ、職場経験へ


さぁ(緑谷くんの)職場経験編に突入です。







え?緑谷視点になる?友里絵が出てこないんじゃなかって?安心して下さい。バッチリ出ます(笑)

ただこの7話では出ません(^_^;)








 

 

 

 

 

友里絵と和解したその日の放課後───。

 

 

 

 

「わわ私が独特の姿勢で来た!!」

 

「ひゃ!」

 

 

教師の扉を開け出ようとした瞬間、マッスルフォーム姿のオールマイトが90度の姿勢で現れた。

 

 

 

「ど…どうしたんですか?そんなに慌てて…」

 

「ちょっとおいで」

 

「え…は…はい…」

 

 

オールマイトに手招きをされ、とりあえずついて行く。

 

するとやって来た場所は()()()トイレの前だった。

 

そして何故かオールマイトは少し焦りの表情をしながら要件を話し始めた。

 

 

 

「昼休みに伝え忘れてしまったことがあってね…。単刀直入に言うと君にヒーローから指名が来ている!」

 

「!

え!?え!?本当ですか!?」

 

 

 

 

自分に指名が来ていると聞かされ驚きながら聞き返す。

 

 

 

「ああ。その方の名はグラントリノ。かつて雄英で一年間だけ教師をしていた…私の担任だった方だ。ワン・フォー・オールの件もご存知だ。むしろその事で君に声をかけたのだろう」

 

「そんな凄い方が…!!

…え…っていうか"個性"の件知っている人がまだいたんですね」

 

「グラントリノは先代の盟友…。とうの昔に隠居なさっていたのでカウントし忘れていたよ……………」

 

 

 

次第に表情が青くなって行くオールマイト。

 

 

 

「手紙を送った時に君の事を書いたからか、それとも私の指導不足を見かねての指名か…あえてかつての名を出して指名をしてきたということは…怖ぇ怖ぇよ…っ震えるなこの足め!」

 

 

 

(オールマイトがガチ震いしてる!!)

 

 

 

 

ガタガタと震え出し、終いには足をバンバンと叩き始める始末。

 

 

 

「ととにかく…君を育てるのは本来私の責務なのだが……折角のご指名だ…存分にしごかれてくるくくるといィいィィ…」

 

 

どれだけ恐ろしい人なんだ━━━━!?

 

 

 

 

 

怯えなからメモらしき紙を渡すオールマイトだったが、そのあまりの尋常じゃない怯え方に緑谷もつい恐怖してしまう。

 

 

 

果たしてオールマイトがガチ震いするほど怯えるグラントリノとは一体どんな人物なのであろうか。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

職業体験当日。

 

 

A組生徒達はコスチュームの入ったカバンを持って相澤と共に駅に集まっていた。ここからそれぞれの体験先へと向かうのだ。

 

 

誰もが胸を高鳴らせる中、緑谷と麗日は一つだけ心配なことがあった。

 

飯田のことだ。

 

 

「………」

 

「飯田くん」

 

 

緑谷は一人ホームへと向かう飯田に声をかける。

 

 

 

 

体育祭後ニュースで聞いた飯田くん兄(インゲニウム)の事件。

 

逃走中のその犯人…。

 

神出鬼没。

過去17名ものヒーローを殺害し23名ものヒーローを再起不能に陥れたヒーロー殺し。

 

敵名"ステイン"。

 

 

 

飯田くんは何も言ってはくれなかった。

 

 

 

「……本当にどうしようもなくなったら言ってね。

友だちだろ」

 

 

緑谷の言葉にとなりにいた麗日もコクコクと頷く。

 

 

 

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

飯田は軽い笑みを浮かべていた。

 

 

しかし………。

 

 

 

 

 

 

 

この時もっと強く言葉を掛けるべきだった。

 

 

 

 

 

僕はこの日の事をやがて後悔する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 





ちょくちょく誤字がありますなぁ………。

気を付けねば……(-_-;)


次回、友里絵出ます(笑)


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第8話 職場経験先にいたのはまさかの

宣言通り、友里絵を出すとこまで載せたらまた文が長くなってしまいました(^_^;)






その後、麗日とも別れ緑谷も自分の職業体験先へと向かった。

 

 

新幹線で45分の場所にある街中をオールマイトからもらったメモを頼りに歩く。

 

 

 

「オールマイトすら恐れるヒーロー…「グラントリノ」。聞いたことない名前だけどすごい人に違いない!」

 

ヒーローオタクである緑谷でさえ知らないグラントリノというヒーロー。オールマイトから話を聞いた後、自分でもいろいろ調べてみたが結局有力な情報は得られず謎のまま職業体験に来ることになってしまった。

 

 

それでもオールマイトの担任だった人なのだからすごい人であることは間違いだろうと思っていた。

 

 

 

「すごい人に違い…

ない…」

 

 

 

………のだが、辿り着いた場所は明らかにオンボロの廃屋のような建物。

 

とてもじゃないが、すごい人がいるとは思えなかった。

 

 

 

 

 

「(頂いた住所は合ってるぞ…)

雄英高校から来ましたー…緑谷出久です…。よろしくお願いしま…」

 

 

 

扉を開け挨拶をしながら中に入ろうとした緑谷があるものが目に映りピタリと止まる。

 

彼の目に飛び込んできたもの。それは大量の真っ赤な液体の上に倒れた老人の姿だった。

 

 

 

 

 

「あぁああああ死んでる!!

 

「生きとる!!」

 

 

「あぁああああ生きてる!!

ホッ」

 

 

 

 

叫び声を上げてすぐに顔を上げる老人。ここで緑谷は安心の意味も含め二度目の叫び声を上げた。

 

 

 

「いやぁあ切ってないソーセージにケチャップぶっかけたやつを運んでたらコケたァ~~~!」

 

「(紛らわしすぎる…)」

 

 

 

起き上がり普通に喋り出す老人。彼がグラントリノ本人のようだが、どうやら赤い液体は血ではなくえただのケチャップで転んだ際にぶちまけたらしい。

 

本当に紛らわし過ぎる話だ。

 

 

 

 

「誰だ君は!?」

 

「雄英から来た緑谷出久です!」

 

「何て!?」

 

「緑谷出久です!!」

 

「誰だ君は!!」

 

「(や…やべェ!!)」

 

 

 

 

 

ヨボヨボとした状態で、まるでボケているかのように同じことを繰り返し尋ねるグラントリノ。

 

実は彼のこの問いかけにはちゃんと意味があっての事なのだが、緑谷がその意図を知るのはもう少し先になる。

 

今はまだボケたおじさんとしか思っていなかった。

 

 

オールマイトの先生だ…相当なお歳とはわかっていたけどコレは…。

 

 

 

「飯が食いたい」

 

「飯が!!」

 

「俊典!!」

 

「違います!!」

 

 

コントとも言えるようなやりとりを続けた後、流石に対応に困ってしまいスマホを取り出した。

 

 

 

「す…すみません、ちょっと電話してきますね

(とりあえず彼の仕上がりっぷりをオールマイトに報告……)」

 

「撃ってきなさいよ!ワン・フォー・オール!

どの程度扱えるのか知っときたい!」

 

 

 

雰囲気も喋り方も先程とはうって代わり緑谷のコスチュームが入った鞄を(勝手に)開けながらワン・フォー・オールを撃ってくるように言うグラントリノ。

 

緑谷は意表を突かれたかのような表情でグラントリノの方を向いた。

 

 

 

 

な……何だこの人…急に…。

 

 

 

 

 

「良いコスじゃん。ホレ着て撃て!」

 

「あ…あの……」

 

 

そんな緑谷をよそにグラントリノは彼のコスチュームを引っ張り出す。

 

あまりの様子の違いに戸惑いつつも緑谷はグラントリノに声を掛けようとした。

 

 

 

 

 

「誰だ君は!?」

 

「(だ…っダメだぁぁぁぁ!!)」

 

 

 

が、しかしまた直ぐに元に戻ってしまい緑谷は再び絶叫した。

 

 

 

「っ~~~~~……。

僕…早く…早く力を扱えるようにならなきゃいけないんです……!オールマイトには…もう時間が残されてないから……。

だからこん……おじいさんに付き合ってられる時間はないんです!失礼します!」

 

 

 

 

焦る気持ちから緑谷はさすがに苛立ちを感じ始め、とうとう我慢の限界に達してしまいグラントリノに対してキツイ言葉を発してしまう。

 

そして緑谷は頭を下げるとUターンをし、建物から出ていこうとした。

 

 

 

「だったら………」

 

「え…」

 

 

 

するとグラントリノは一息吸った後、まるでバネのように目にも止まらぬ速さで建物内を飛び回り、緑谷の前に回り込んで扉の上の壁に張り付いた。

 

 

「だったら尚更撃ってこいや受精卵小僧」

 

 

 

 


 

 

 

 

「雄英の体育祭をTVで観た。あの力の使い方、てんでなっちゃねぇ!正義の象徴No.1ヒーローと言われちゃいるがあの正義バカオールマイトは「教育」に関しちゃ素人以下だぁな」

 

 

 

壁に張り付いたまま話すグラントリノの迫力に圧され、緑谷は固まりながらもオールマイトが言っていた言葉を思い出す。

 

 

 

 

「"さあ!!始めようか有精卵共!!"」

 

 

 

同じ言い回し…トボケ方も…。

 

 

この人やっぱりオールマイトの先生!!

 

 

 

 

「力の使い方が見てらんねぇから俺が見てやろうってんだ。さァ着ろやコスチューム」

 

「…よろしく…お願いします!」

 

 

 

グラントリノの実力を間近で見て間違いなくオールマイトの先生であることを認識した緑谷はニッと笑い、自分の力を見て貰うようお願いした。

 

 

準備の為、早速コスチュームに着替えようとする緑谷はまず取説(※取扱説明書)の紙に目を通した。

 

 

そこにはコスチュームの修繕にあたり、材質やデザインを弊社の独断で多少の変更させてもらったと書かれていた。

 

変更理由についてはその方が絶対にカッコいいから…らしい。

 

 

「えー…」

 

 

 

勝手に材質やデザインを変えて来るなんてサポート界は発目さんみたいな人ばかりなのかな…。

 

 

なにはともあれ…母製スーツβ初陣だ!

 

 

 

「準備…整いました」

 

 

 

着替えを終え準備が出来たことをグラントリノに告げる。

 

 

 

「ならやれ」

 

「ほ…本当に良いんですか…?正直まだ完全に使いこなせてないしもっと開けた屋外じゃないと…。もしうっかり100%で撃っちゃったりしたら…グラントリノさんのお身体が…」

 

 

 

ワン・フォー・オールを使うことを躊躇う緑谷。万が一の事態を考えグラントリノに向かって撃つ事に迷っているのだ。

 

 

 

「やれやれ…ウダウダとまァ────」

 

「え?」

 

「じれったいな」

 

「ぎゃ!?

実践形式!?」

 

 

 

 

そんな彼を無視し構わず再び飛び回るグラントリノ。背後から緑谷の背中を蹴りを入れ電子レンジの上に着地。

 

当然のことながら電子レンジはガシャン!!と大きな音を立てて壊れた。

 

 

 

 

「さっきので俺の実力が見えなかったか」

 

「!?」

 

「ワン・フォー・オールの9人目の継承者がこんな湿った男とは…オールマイトはとことんド素人だァな」

 

「……っ!!

ぶっ!!?」

 

 

 

なんとか体勢を整えようとするがグラントリノのあまりの速さについていくことが出来ずニ発目の蹴りを食らってしまう。

 

 

 

速すぎる!どんな"個性"だ!?

 

 

「った…!」

 

 

そしてまた一発攻撃を受ける。

 

 

 

 

いや…違う!隠れる隙もないこの状況なら悠長に正体を探るよりもとりあえず動きを止めたいぞ!

 

 

 

「(電子レンジの中で卵が割れない…イメージ!!)」

 

 

 

右手に力を集中させ構える。

 

 

 

 

 

2回背後をとられた!

 

なら……!

 

 

 

「!

分析と予測か」

 

 

 

また背後を狙ってくると予測した緑谷は体をひねり後ろを向いて戦闘体勢に入り向かって来たグラントリノスにマッシュを撃った。

 

 

 

「だが固いな…そして意識がチグハグだ。だからこうなる」

 

 

しかしその攻撃は簡単に避けられグラントリノによって床に押さえつけられてしまった。

 

 

「絶対捕まえたと思ったのに…!」

 

 

顔を押さえつけられたままの緑谷が悔しそうに呟く。

 

 

「それだよ。騎馬戦や本戦でのワン・フォー・オールの利用方法…。自分でも理解は出来てるハズなのに…オールマイトへの憧れや責任感が足枷になっとる」

 

「足…枷?」

 

「「早く力をつけなきゃ」それは確かだが時間も敵もおまえが力をつけるまで待ってくれはしない。ワン・フォー・オールを特別に考えすぎだな」

 

「つまりどうすれば…!」

 

「答えは自分で考えろ。俺ァ飯を買ってくる。掃除よろしく」

 

「ええ…!?」

 

 

 

グラントリノの言葉の意味がよくわからず答えを求めるがグラントリノは答えは自分で考えるべきだと判断し教えてくれず、彼は飯を買ってくると言って外に出た。その際ちゃっかり部屋の掃除も緑谷に押し付けていた。

 

 

 

 

オールマイトへの憧れが足枷に……。

 

それってどういう………。

 

 

 

「それと、一つ言い忘れとったが」

 

「わぁ…!?まだ行かれてなかったんですか!?」

 

 

 

買い物に行ったと思われたグラントリノがひょこっと扉から顔を覗かせ、緑谷は驚きビクつく。

 

 

 

「もし俺がいない間に上にいる奴が起きて来たら買い物に行ってるが直ぐに戻るって伝えとけ」

 

「え…グラントリノさんの他に誰か一緒に住んでいる人がいるんですか?」

 

 

 

グラントリノが言い忘れていたと言って告げたのは同居人が一人いるということだった。

 

 

 

「娘俺が預かって面倒を見てる娘が一人な。まぁ孫みたいなもんだ。昨夜辺りから体調を崩してたんで念のため今日は学校を休ませてる」

 

「そ…そうなんですか…。

………ってだったら尚更さっきの実践外でやるべきだったんじゃ…!?」

 

 

 

その同居人が病人だと知った緑谷はハッとしながら屋内での先程行った実践形式の戦闘はまずかったのではないかと思いグラントリノに指摘した。

 

 

 

「まぁ細かいことは気にするな。それよりもあいつはオールマイトに関わることを極端に嫌がるからな。接触する際は十分に気をつけた方が良いぞ」

 

「え…?」

 

 

 

 

 

 

それを聞いた瞬間、その人物が誰なのか直ぐに察しがついた。

 

 

 

 

自分が知る限り、そんな人物は一人しかいない。

 

 

 

 

オールマイトと関わることを極端に嫌がるって………。

 

 

しかも女子学生……。

 

 

 

 

いや………まさかな……。

 

 

けど………。

 

 

 

「あ…あの…もしかしてですけどその人って成切さんって言う名前の人じゃ……?」

 

 

「ん?何だ、知っとったか小僧」

 

 

 

思いきって確かめてみると、思ったとおり、友里絵のことだった。

 

 

「(やっぱり……!)

本当にここに成切さんが!?」

 

「…その様子だと既にもうあいつと接触もしとる様だな…。

まぁ良い……詳しい話は後だ。とにかくそういうわけだから任せたぞ」

 

「ちょ…っ待……っ!」

 

 

 

そう言ってグラントリノは緑谷が止める間もなく今度こそ本当に出て行った。

 

 

 

 

 

行っちゃった………。

 

 

けどグラントリノさん…成切さんとオールマイトが和解したこと知らないみたいだった……。

 

もしかして読録さんグラントリノさんに言ってないのかな……?

 

 

ていうか、成切さん身体大丈夫かな……?

 

 

 

緑谷がそう思っていたその時───。

 

 

 

 

 

 

「トリノおじさん…?何か凄く大きな音がしたけどどうかした……?」

 

 

 

二階から友里絵がゆっくりと降りてきた。

 

 

 

「…!成切さん!!」

 

「み…緑谷出久くん…!?え…っ何でここにいるの…!?」

 

 

 

 

当選この場にいるハズのない緑谷の存在に友里絵は驚く。

 

 

「今日から一週間職場体験で僕はグラントリノさんに指名を受けて来たんだよ。今は買い物に行っちゃってていないけど…」

 

「あー………なるほどそうだったんだ。そういえば昨日の夜トリノおじさんがそんなようなことを言ってたけど、あなたのことだったんだ…。なんでこうもあなたと縁があるのかな……不思議」

 

「そ…それより成切さん体調不良って聞いたけど大丈夫なの…?顔も赤いし寝てないと…」

 

 

 

緑谷が事情を説明すると納得した様子の友里絵。グラントリノから前日話を聞いていたらしいがそれが緑谷だとは思いもしなかったようだ。

 

一方の緑谷は驚いてはいたものの友里絵の身体を心配し気遣っていた。

 

 

 

「大丈夫…。ちょっと熱はあるけど意識はハッキリしてるし普通に元気もあるよ。それにこんな散状の部屋見たら寝てる場合じゃないし……。

何よあの殺人現場みたいな床と壊れた電子レンジ……

 

 

大丈夫と答えながら友里絵は悲惨な状態の部屋を見て呟いた。

 

 

「あ…あの床はケチャップをかけたソーセージを運んでて転んだらしくて、電子レンジはさっき実践形式の戦闘をした時にグラントリノさんが踏んづけて壊しちゃって……」

 

「さっきの大きな音はそれか……。全く…屋内で飛び回るとか何考えてるんだろあの人……」

 

 

 

それを聞いた友里絵は呆れながらため息をついた。

 

 

 

「僕も一応グラントリノさんに屋外でやった方が良いって言ったんだけど問答無用で始めちゃって…」

 

 

 

それについては緑谷も同意見で肩を落としながら呟いていた。

 

 

 

 

「あの人も大概無茶苦茶だからね…。とりあえず掃除しなきゃ……」

 

「え…っちょ……っその身体でやるつもりなの!?」

 

「だってあなたにやらせる訳にはいかないでしょ?」

 

「いやいやいや…!!成切さんこそ休んでてよ!掃除は僕がやるから!グラントリノさんからも掃除するよう言われてるし!」

 

 

 

 

弱った身体で掃除をしようとする友里絵を緑谷は慌て止めに入る。

 

 

 

 

「(…雑用まで押し付けたのかあの人……)

大丈夫だって。ほら、よくインフルにかかっても元気な人いるでしょ?あれと同じだよ。今日だって本当は学校休むつもりはなかったんだけどトリノおじさんに学校行くって言ったらダメって…。

皆勤賞狙ってたのに…………」

 

「(学校に行こうとしてたのか…!)

そ…そりゃあ熱があれば普通に止められるに決まってるよ……!とにかく掃除は僕がやるから……!』

 

「掃除をする為にここに来たんじゃないでしょ。良いから私がやる…」

 

 

熱があるにも関わらず学校に行くつもりだったと話す友里絵。掃除も自分ですると言って一歩も引こうとせず、緑谷は仕方なく妥協案を伝える。

 

 

 

「じ…じゃあ成切さんはチリチリ係で…。あと箒やバケツとかの準備をお願い…」

 

「…さりげなく超簡単なのにしたね…。まぁいいんだけど…」

 

 

 

少し不満そうにしながらも友里絵は渋々了承し掃除に必要な道具の準備を始めた。

 

 

 

 






…………………。

やっぱりグラントリノの「受精卵小僧」の所で切るべきだったか………。

閲覧ありがとうございました。



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第9話 "個性"の話


書くことが思い付かないのでこのまま小説の続きをどうぞ(笑)


 

 

 

 

 

 

「……にしても、成切さんがオールマイトに自分の居場所を教えようとしなかったのはグラントリノさんの所にいたからだったんだね」

 

「あー…うん、まぁそういうこと。あの人トリノおじさんのこと苦手だから怖がって近付きたがらないし…」

 

 

 

 

何故友里絵が自分の居場所を頑なに言おうとしなかったのかずっと気になっていたがこれでやっとその理由がわかり納得も行った。

 

居場所を知られた以上、本人ももう隠すつもりはないらしくバケツ等を置きながら普通に答えた。

 

 

 

「じゃあオールマイトにはいつ話すつもりだったの?」

 

「それが問題なんだよね…。トリノおじさんにも協力してもらって、私の居場所はトリノおじさんも知らないってことにしてあるから、トシおじさんに言い出しにくくて……。あなたが言いたいなら別に言っても良いよ。というかこの際あなたから言ってくれない?」

 

「え!?ぼ…僕が!?」

 

 

 

 

いつ事実を伝えるのかを尋ねたところ、返って来たのはまさかの返答。

 

オールマイトに言って欲しいと頼まれてしまった。

 

 

 

「うん…その方が気が楽だなって……」

 

「ま…まぁ…成切さんがそれで良いならいいけど……」

 

 

 

 

少し迷った後そのお願いを聞くことにした。本人が良いと言っているのだから大丈夫だろう。

 

 

 

「じゃあよろしくね緑谷出久くん…」

 

「………。

あ…あの…僕の事は「デク」でいいよ。フルネームだと何か変な感じがして…」

 

「デク…?そんな呼び方で良いの?」

 

「まぁ…フルネームよりかはそっちの方がいいかな…」

 

「わかった…ならそう呼ぶね」

 

 

 

今更だが友里絵にフルネームで呼ばれ複雑な思いを感じる緑谷。

 

 

「デク」で良いと伝えると友里絵は不思議そうに首を傾げるがすぐに頷いた。

 

 

 

 

 

「……あ、じゃあ後でスマホに入れたデクくんのデータもそれに変えとかないとだね。フルネームで登録しちゃってるから…」

 

「え…登録したって…」

 

「この前トシおじさんから私の連絡先をあなたにも教えといたからっていう内容のメールが来たんだけど、なんかあなたの連絡先も一緒に添付されてたから一応登録しといたの」

 

 

 

 

 

あの時か────!!

 

 

 

 

 

 

 

 

緑谷は屋上でオールマイトから友里絵の連絡先を教えてもらった時の事を思い出しハッとした。

 

あの時オールマイトは連絡先を教えたことを友里絵に伝えておくと確かに言っていた。その際彼は緑谷の連絡先も一緒に送っていたのだ。

 

 

 

「──とは言っても私から連絡することはほとんどないかもだけど……」

 

「う…っううん、全然大丈夫!登録してくれててるだけでも有難いし…!」

 

 

 

嬉しさからつい本音が出てしまう。

彼にとっては、やり取りをするより自分の連絡先を登録して貰うことの方が重要なのだ。

何よりオールマイトが自分の連絡先を送ってくれていたとは思わなかったし、それを友里絵が普通に登録してくれていたのだから嬉しくないはずがない。

 

 

 

 

「だけどそっか…。オールマイトとメールのやり取りしてるんだね。あれから上手くやってるみたいだし安心した…」

 

「うん、毎日ね」

 

「へ!?毎日!?」

 

 

 

掃除の手を動かしながらオールマイトと友里絵の現状を聞いてホッとする緑谷だったが、実はそのやり取りが毎日だとのことでそんなに頻繁にやり取りをしているのかと驚いた。

 

 

 

 

「そ…。連絡先教えてから毎日あの人からメールが送られて来る…」

 

「そ…そうなんだ。でもそれはきっと成切さんと離れてた期間が長かったからオールマイトはその時間を少しでも埋めようとしてるんじゃないかな?もしかしたら読録さんが体調崩したのも今までバレないように気を張ってたからその緊張の糸が切れたからかも…」

 

「かなぁ…。まぁ…わからなくもないけどさ………」

 

 

 

緑谷の言葉に友里絵はいまいち納得が出来ず複雑そうな表情を浮かべた。

 

 

 

 

「そ…それはそうと今日成切さんが休んでることオールマイトは知ってるの?」

 

「…………」

 

 

 

何気なく尋ねたつもりだったがその質問をされた友里絵は顔を背け何故か無言になった。

 

 

 

「な…成切さん…?どうかしたの?」

 

 

 

その様子に気付き、恐る恐る声をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それがさぁ…私も連絡だけはしておいた方が良いと思ってあの人に連絡をしたんだけど、そしたらめちゃくちゃ連絡来て今日だけでもう10件は来てる……」

 

「じゅ…10件…!?」

 

 

 

 

 

ため息混じりで半ば脱力気味で話す友里絵。良かれと思いしたことが逆に仇となりオールマイトから何通ものメールが届くようになってしまったらしい。

 

 

 

 

「最初の2・3通は私も返信出してたんだけど、途中から面倒くさくなっちゃって、今は電源切って放置してる…。

音うるさいし…」

 

「え…そ…そんなことしたら余計心配されてメール送ってくるんじゃ………」

 

 

 

《ヴーヴー……》

 

 

 

緑谷がそう言いかけた時、突如バイブ音が聞こえてきた。

 

 

 

「…バイブの音?」

 

「あ…多分僕のスマホかな」

 

 

 

緑谷は自分の鞄の所に行きスマホを取り出し操作する。

 

 

 

「あ…オールマイトからだ…」

 

「トシおじさんから…?

何か嫌な予感…」

 

「うん…。えっと……緑谷少年へ…」

 

 

 

 

 

"職場体験中に済まない。しかし大変なんだ。友里絵が熱を出して休んでいるそうだが友里絵からの連絡が来なくなり電話も繋がらなくなってしまった!"

 

 

 

オールマイトからのメールが届いたと聞き友里絵は嫌な予感がしていたが、緑谷はとりあえずメールを読み上げた。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 

友里絵の予想は的中。メールの内容に固まる二人。

 

 

 

 

 

オールマイト……成切さんに繋がらないから僕の所に送って来た………!!!(汗)

 

 

 

 

 

 

「…ね?言ったでしょ?こういう人なの……。過保護でしょ…」

 

「ど…どうしよう。何て送れば……」

 

『安眠妨害だとでも送っとけば…?

心配してくれるのはいいんだけどこうも過保護だと安心して休めない……』

 

「そ…それは流石にちょっと……。

とりあえず簡単な返事だけ送っておくよ…」

 

 

 

以前一緒にいた時からこうだったらしく、あまりの過保護さに呆れた様子でため息をつく友里絵。というより最早ため息しか出ない。

 

返信に困った緑谷に辛辣とも言える言葉を返信する様に伝えるが、流石にそれを送るわけにもいかず、緑谷は悩んだ末オールマイトが心配しない様に安心させる内容のメールを送った。

 

 

 

 

「…そういえばさ、ずっと気になってたんだけど何でデクくんはワン・フォー・オールを受け継ぐことになったの?」

 

「え…あ…それが実は僕はもともと何の力も持たない無個性でワン・フォー・オールを受け継ぐことになったのも本当に偶然だったんだ…」

 

「え…そうなの?でもそれじゃあどうやって後継者に…?」

 

 

 

そして話は"個性"の話に変わり唐突にワン・フォー・オール継承について尋ねられた緑谷は自分が元は無個性だったことを明かし後継についても偶然だと告げた。

 

 

 

「僕…小さい頃からオールマイトみたいな立派なヒーローになりたいって思ってて、周りからどれだけ馬鹿にされてもその夢を諦めきれなかった……。そんな中学3年の時オールマイトと出会ったんだ…。もちろんオールマイトにも最初は難しいって諭されたけど、その直後に幼馴染みが敵に襲われる事件が起きて、その時僕は思わず飛び出して救けようとした……。それがきっかけとなって彼にヒーローとしての資質を認められて"個性"を受け継ぐことになったんだ」

 

「そっか…。それで夢を諦めなくて済んだんだ。きっと諦めずに頑張って来た努力が報われたんだよ。良かったね」

 

 

 

緑谷の話を聞いて友里絵は優しく微笑んだ。

 

 

 

「うん…。ただ、受け継ぐことになったのは良かったんだけどまずはワン・フォー・オールに耐えられる体づくりからしなくちゃいけなくて、何とかギリギリ収まったものの全然扱えないし、今だって5%の力しか使うことが出来なくて……。

さっきグラントリノさんに言われたことの意味もわからないままだし……」

 

「くす…大丈夫だよ。デクくんなら絶対出来るようになるよ。だから焦らないで頑張って」

 

「成切さん…。ありがとう!そうだね、頑張るよ」

 

 

 

今でも思い出す。海岸でオールマイトに鍛えてもらった時の事を。

 

とはいえまだワン・フォー・オールを上手く扱えない。

 

焦燥感から不安ばかりが募ってしまう。だが友里絵に励まされたことで気持ちを切り替えることができ再び意気込みを入れた。

 

 

 

 

「その意気だよ。でもまずは掃除を終わらせないとね(笑)」

 

「あ…そうだった…」

 

 

 

その一言により一気に現実に戻される。苦笑いを浮かべ、また掃除の手を動かす。

 

友里絵もゴミを片付つける等の自分に出来ることをしながらクスクスと笑っていた。

 

 

 

 

「ところで僕も聞こうと思ってたんだけど成切さんはどんな"個性"なの?」

 

「…!私の…"個性"……?」

 

 

 

 

"個性"の話ということで、緑谷も友里絵の"個性"について尋ねてみた。

 

だがその質問をされた途端、友里絵から笑顔が消えた。

 

 

 

 

「(あれ……?何だろ今の反応……?)

う……うん、何て言うかその……ずっと聞きそびれちゃってたから…」

 

「……私の"個性"なんて聞いたってつまらないよ…。普通じゃないし、そもそも私に"個性"なんてあってないようなものだし必要もない…』」

 

 

異変に気付き、まるで聞いてはいけないことを聞いてしまったかのような感覚に陥り言葉を詰まらせていく緑谷に友里絵は暗い表情のまま小さく呟いた。

 

 

 

 

 

「そ……それってどういう……」

 

「ごめんデクくん。私少し気分が悪くなって来ちゃった……。悪いけどあとお願いしてもいいかな…?」

 

「え…あ…う……うんわかった…」

 

 

 

 

 

意味深なその言葉が引っ掛かり聞き返そうとしたが友里絵は言葉を遮るかのように具合悪くなったと言って後の掃除を任せ、二階に上がって行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

何だろう……?今あからさまに話を剃らされたような……?

 

ただ"個性"を聞いただけだよな……?

 

 

怒ってる感じではなかったけど……。

 

 

ひょっとして成切さんにはまだ何か秘密が……?

 

 

 

 

……いや、今は止めておこう。

 

成切さんのことはもちろん気になるけど、とりあえず今は早く掃除を済ませて職場体験に集中しよう……。

 

 

 

 

 

友里絵の態度が気になるもここは一旦考えるのを止め残りの掃除に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




はい8話は以上になります。

修正入ってます。

閲覧ありがとうございました。


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第10話 深まる友里絵の謎

ここで少しクイズです((唐突に


この10話で緑谷がグラントリノに友里絵のことで聞きたいことがあると質問をしますが、グラントリノはどうするでしょう??


1.普通に受け答えする

2.答えない(スルーする)

3,怒る

4.:ボケる



答えは作中にて♪




 

あれから何とか一人で掃除を終わらせた緑谷は壊れた電子レンジの前でブツブツと呟きグラントリノに言われたことについて考えていた。

 

 

 

 

「オールマイトへの憧れが足カセ。

使い方は理解してるのに意識が違う……。ワン・フォー・オールを特別に考えすぎ…………」

 

 

 

それが固さに起因している…?

 

そもそも固いって何だ?逆に柔軟な動きってのは……。

 

 

柔軟な━━━━……

 

 

 

「………!そうか…!」

 

 

 

今までのことを振り返っていると何かわかったのかノートを取り出し広げた。

 

 

 

「ワン・フォー・オールを…スマッシュを超必殺技のように考えてた。あんな近くで見てきたのに何で気付かなかったんだ!

そうだよ…"個性"は体の一部…!もっと…もっとフラットにワン・フォー・オールを考える!」

 

 

 気付いたことをノートにまとめて行く緑谷。表情も晴れやかになり頭の中でイメージを始める。

 

 

 

「そうだ!そうか!うんうん。となると反復練習が…」

 

「(思考は柔軟。体育祭での動きでそこはわかっていた。

なかなか良い奴見つけたんじゃないか?俊典……オールマイトよ)」

 

 

 

と、いつの間にか戻って来ていたグラントリノが扉の影から様子を伺っていた。

 

 

 

 

「……よし、イメージはこんな感じかな。

それにしても成切さん結局あれから降りて来なかったな……。

身体も心配だし一度様子見に行った方が良いかな……」

 

 

 

ワン・フォー・オールに対する大体のイメージが固まったところで緑谷は友里絵が心配になり気にし始めた。

 

 

 

 

「(あの小僧…やはり友里絵と面識があるのか……。俊典と関わろうとしなかった友里絵とどうやって面識を持ったか知らんが問題は俊典の奴がこの事を知っとるかどうかだ…。よし…少し確かめてみるか…)」

 

 

 

そう考えたグラントリノはそっと緑谷に近づく。

 

 

 

「おい小僧」

 

「うわ!?びっくりした!!グラントリノさん戻ってたんですか!?ていうかいつの間に後ろに!?」

 

 

 

いきなり声をかけられた緑谷は驚いて声を上げた。

 

 

 

「いちいち大袈裟な反応してんじゃあねぇ。

それよりもお前、友里絵(アイツ)とは面識あるみたいだったが親しいのか?」

 

「あ…えっと…親しい…わけじゃないですけど普通に会ったり会話はしてます……」

 

「そうか…やはり友里絵はお前とは普通に関わっているのか……。本来ならオールマイトと深く関わっている人間、ましてや弟子のお前にあいつが近づくハズがないんだが……」

 

 

 

友里絵との関係を尋ねた所、親しい仲とまではいかないが普通に会話などはしているという返事が返って来て怪訝そうな顔をするグラントリノ。

 

それを聞いていた緑谷はグラントリノにそっと話しかけた。

 

 

 

「(グラントリノさん……やっぱり二人が和解したこと知らないんだ……)

あ…あの…その事なんですが実は成切さんとオールマイトは数日前に和解して今では連絡を取り合ってるみたいです…」

 

「何?つーことはもうオールマイトには存在がバレてるのか?」

 

「は…はい。体育祭が終わった後たまたま僕が成切さんとぶつかってその時彼女が落としたマスコットをきっかけに……。彼女のこともオールマイトから聞きました。和解したのは体育祭終了後の連休が明けた後になります」

 

 

 

 

友里絵とオールマイトの関係が修復された事実を知らないでいたグラントリノに緑谷は事細かく説明した。

 

 

 

「そういうことか…。ちなみに友里絵は偽名は使ってたか?」

 

「あ…はい。最初成切さんは"魔持軽結衣"と名乗ってました…」

 

「はぁ…あのバカそんな偽名使ってたのか…。誤魔化す意味がねぇじゃねーか」

 

「え…どういうことですか?」

 

 

 

友里絵が使っていた偽名を聞くとグラントリノはため息をついて呆れていた。

 

一方の緑谷はグラントリノの言葉が引っ掛かり聞き返す。

 

 

 

「あいつの使っていた偽名はな、昔オールマイトに言われたことから来とる。「友里絵はまるで魔法使いみたいだ」っつー言葉からな」

 

「な…なるほど、だから"魔持軽"なんですね……」

 

 

 

そういえばオールマイトも成切さんが偽名を使った時、「友里絵らしい」って言ってたけど、あれはそういう意味だったのか…。

 

 

 

 

以前オールマイトが言っていたことを思い出しながら友里絵の偽名に納得する。

 

 

 

「あのマスコットにしてもそうだ。あんなモン持ってりゃバレるに決まっとる。大体あいつは本当はオールマイトに会いたくて仕方なかったくせにいつまでも意地を張るからそうなるんだ。

だからいい加減素直になれっつったのに……」

 

「(成切さんが実は度々オールマイトの近くにこっそり行ってたことは黙っておこう……)

あ…あの…実は僕も成切さんのことでグラントリノさんに聞きたいことがあるんですけど…」

 

 

 

話をややこしくしない様、余計な事は言わず緑谷はグラントリノに質問を投げ掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ?友里絵の好みのタイプでも知りたいのか?」

 

「違います!」

 

「ならスリーサイズか?」

 

「それも違います!!

ていうか何でグラントリノさんが成切さんのスリーサイズ知ってるんですか!!セクハラじゃないですか!

そうじゃなくて僕が聞きたいのは成切さんの"個性"のことです!」

 

 

 

 

何を思ったのかグラントリノは緑谷の聞きたいこととは全く違う内内容を言ってきた為、緑谷は全力で否定する。

 

 

 

「友里絵の"個性"…だと?まさかあいつに聞いたのか?」

 

「は…はい。グラントリノさんが出て行った後、成切さんが降りて来て掃除を手伝ってくれたんですが"個性"のことを聞いたら何かその……急に避けるように上に上がって行ってしまって……」

 

 

 

緑谷のその質問にグラントリノも友里絵と同様に反応を見せ空気が重くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

な…なんだ?なんかまた空気が重くなったぞ……?成切さんの"個性"を知ろうとするのがそんなに悪いことなのか…?

 

 

 

それによって緑谷はまるでタブーを犯してしまったかのような感覚にかられた。

 

 

 

「……すまんがそのことについてはあまり触れないでやってくれないか…?」

 

「ど…どうしてですか…?"個性"が何かを聞いただけ…ですよね?」

 

「事情があるんだ…。俺からは話すことは出来ん…。どうしても知りたけりゃオールマイトに聞け。あいつなら話してくれるだろう…。多分だがな…」

 

「わ…わかりました…」

 

 

 

グラントリノもその理由は教えてくれず、むしろその件については触れない様に言われてしまった。

 

ただ、決して友里絵の"個性"を知ろうとするなというわけではないようで、オールマイトに聞く分には良いらしい。

 

 

 

 

何で成切さんに聞くのはダメなのにオールマイトならいいんだ……?

 

他言出来ないような"個性"なのか…?

 

 

それとも"個性"が原因で辛い目ににあってたとか…?

 

どっちにしてもグラントリノさんがここまで言うくらいだから余程の理由なんだろう。

 

だったらこれ以上は踏み込まない方が良いのかな……。

 

 

 

けどやっぱり"個性"は知りたいし……。

 

 

 

 

知りたいという思いと深入りすべきではないという思いで揺れ動く緑谷。

 

 

悩んだ末出した結果は─────………。

 

 

 

 

と…とりあえず、オールマイトになら聞いて良いって言われたし後で聞くだけ聞いてみよう…!

あ、でもその前に成切さんに断ってからの方が良いかな……?

 

 

 

と、結局知りたい気持ちの方が勝り緑谷はオールマイトに聞いてみることを選んだ。

 

 

「話が済んだんなら辛気くさい顔は止めてお前は職場体験に集中してろ。俺は寝る!あとこれ冷凍庫入れとけ!」

 

「ええ!?」

 

 

 

グラントリノは買ってきた物を袋ごと緑谷に渡すとそのまま寝室に向かってしまった。

 

職場体験に集中しろと言っておいて自分は寝に行ってしまうなんて言ってることとやってることが無茶苦茶で困惑するもどうしようもなく、残念ながら職場体験1日目はこうして終了した。

 

 

 

 

|




お疲れ様でしたー。


クイズの答えは4のボケるでした(笑)

しかも友里絵のタイプとスリーサイズ。

緑谷くんの言うようにセクハラですねハイ(笑)

ですがグラントリノは友里絵のタイプやスリーサイズは知りません(’-’*)♪

閲覧ありがとうございました。


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第11話 思い出したくないこと

メールボックスに書き留めてた分がだいぶ減ってきました。

亀更新になるのも残りの投稿次第ですね…(^_^;)

あと以前書き留めててるのが15話分くらいと言いましたが15話分以上はありそうです。





 

グラントリノが寝に行ってしまい緑谷がどうしたものかと悩んでいる頃、部屋にこもっていた友里絵もまた緑谷に変な態度を取ったことに悩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……さっきの態度はやっぱりないよね…。デクくんも戸惑ってたし悪いことしちゃったな……。

 

 

 

でも…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

"何でこんな…っこんな"個性"いらない…!欲しくなんかない…!!"

 

 

 

 

 

 

 

あのことだけはどうしても言えない…。

 

 

 

 

 

 

嫌だ………。

 

 

 

 

考えたくもないのに……。

 

 

 

 

思い出したくないのに……。

 

 

 

 

私はいつまで………。

 

 

 

 

 

「ずいぶん暗い顔してるじゃねぇか友里絵」

 

「…!トリノ…おじさん……」

 

 

 

その声にハッと顔を上げると目の前には職場体験を中断して寝に行ったはずのグラントリノの姿があった。

 

 

 

「あの小僧に"個性"について聞かれたそうだな?」

 

 「……」

 

 

 

グラントリノの問いかけに友里絵は黙ったまま答えない。

 

 

 

「だんまりか…。少しくらい何か言ったらどうなんだ」

 

「……おじさん今ノックしずに入って来たでしょ…」

 

「…お前な、何か言えつったがそういうことじゃねぇよ。相変わらずこの話になると弱いな…」

 

 

 

 

ようやく口を開いたと思いきや出てきた言葉はノックをせずに部屋に入って来たことへの指摘だった。

 

これを聞いたグラントリノは呆れて小さくため息をついた。

 

 

 

 

「…デクくんから聞いたの……?」

 

「ああ、ついさっきな。買い物から戻ってすぐに小僧から話を聞いた。

あとお前が既に俊典と和解したことも聞いてる。何で黙ってたのかについてはこの際聞かないでおいてやるが、あの小僧は事情を知ねぇし悪気はなかったんだ。許してやれ友里絵」

 

「……許すも何も私デクくんに怒ってなんかないし、怒るつもりもないんだけど…』

 

 

 

 

自分自身は怒っているつもりはなく身に覚えもないので小さくボソリと呟き否定した。

逆に何故怒っていることになっているのかと疑問に思う。

 

 

 

 

「そうなのか?

まぁあの小僧には後で謝ってやれば良い。それより"個性"のこと俊典は何て言ってるんだ?アイツがお前のこと気にかけねぇわけがねぇ。和解したならいろいろ相談に乗ってくれるだろ?」

 

 「…何も……。ていうか和解はしたけどトシおじさんには"個性"の話は一切してないし相談もしてない…。和解した時も話したのは私が避けてた理由とかトシおじさんの負担にならないようにしてたことだけだし…」

 

「何?じゃあ俊典の奴はお前に何も言って来ないのか?」

 

「うん…。トシおじさんが何を考えているかはわからないけど、あの人から聞いてくる様子もないしだったら私もこのまま黙ってれば良いかなって…。何より私自身あまり口に出して言いたくないし……」

 

 

 

 

友里絵はオールマイトと和解はしても"個性"のことは一切口にしていないこと、相談をしていないことをグラントリノに伝えた。それは"個性"の話をすることを出来るだけ避けたいという切なる願いからだった。オールマイトからも特に"個性"について聞かれないので、だったらこのまま黙っていれば友里絵にとっては救いであり嫌な話もしないで済む。そう考えたのだ。

 

 

 

 

「(友里絵はともかく俊典からも何も言って来ないってことはあえて触れないようにしてるのか…)

そうか……。言っちまった方が溜め込むよりは良い気がするがお前がそうしたいなら強制はしねぇ。ただ俊典はいつだってお前の味方だ。それだけは忘れないでやってくれ」

 

「……うん。ありがとうトリノおじさん」

 

 

グラントリノは友里絵の気持ちを尊重し強制はしなかった。それが本当に正しいことのか迷いはあったが辛そうにする友里絵を無視することは出来なかった。

オールマイトのことを伝えたのは彼のせめてもの精一杯の気遣い。友里絵もそれがわかっている為、軽く微笑みお礼を言った。

 

 

 

「とりあえず言いたいことはそれだけだ。

っつーわけで俺は寝る」

 

 「え…寝るってデクくんの職場体験はどうするの?デクくん来てから時間もそんなに経ってないしまだ大してやってなくない?しかもまだ明るい……」

 

 

 

 

職場体験中にも関わらず緑谷をそっちのけで陽もまだ高い内から寝ようとするグラントリノに友里絵はそれはどうかと思い指摘した。

 

 

 

「まだ初日だし職場体験は一週間ある。問題はねぇよ。それに職場体験も大事だがこっちの方も大事だったからな」

 

「え、寝るのが……?」

 

 

 

キョトンとしながらグラントリノの「こっち」と言う言葉に友里絵からまさかの天然回答が返ってきた。

 

 

 

 

「バカお前違ぇよ!誰が寝る方だって言った。お前だお前!」

 

「あ…私か」

 

「当然だろ。

だがそんな発言が出来るくらい元気があるならもう心配はなさそうだな」

 

 

 

 

どこまでも天然な友里絵にグラントリノはため息をつくも、思っていたより元気そうで安心していた。

 

 

 

「うん、もう大丈夫…」

 

「んじゃ、俺はもう部屋に行くがお前も元気はあっても体調不良なのは変わらねぇんだからちゃんと休んどけよ」

 

「う……うん」

 

 

 

 

あ、マジで寝るんだ……。

 

 

職場体験なのにデクくん可哀想……。

 

 

 

仕方ない……。変な態度を取ったことも含めて謝っとこう……。

 

 

 

 

 

 

 




天然っぽさを書くのって難しい……。

友里絵は天然だという設定ですが果たしてこの11話のグラントリノとのやり取りが天然発言と言えるのか心配です(-_-;)

閲覧ありがとうございました。


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第12話 夜にこっそり秘密の会話

タイトルもだんだんアイデアが浮かばなくなってきた……。

第12話です。





 

 

 

 

職場体験1日目の夜。

 

 

 

 

 

 

「ムニャムニャ!!Z!!Z!!」

 

「(寝てんだよな?)」

 

 

 

ベッドで眠るグラントリノが妙な寝言を発する中、緑谷はまだ起きていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初日は結局見ていただいただけでヒーロー活動は一切してない…。ご飯買って帰って来たら寝ちゃったし……。

 

 

 

 

グラントリノ……。検索してもヒットしなかった。

 

 

一年間だけの雄英教師…。いろいろ謎の方だ…。

 

 

 

 

一人そっと部屋を抜け出し外に出ようと扉を開け周りをキョロキョロと見回す。

 

 

 

 

「何してるの…?」

 

「…!!?」

 

 

と、そこへ急に声をかけられ緑谷は面白い程ビクッ!と体を跳ね上がらせた。振り向くと友里絵が立っていた。

 

 

 

「あ…な…成切さんか……びっくりした」

 

「ご…ごめん……驚かせるつもりはなかったんだけど…」

 

「う…ううん大丈夫気にしないで…!だけど成切さんこそ、こんな時間に起きて来てどうしたの?」

 

 

 

申し訳なさそうに謝る友里絵に大丈夫だと答え、何故いるのかを尋ねた。

 

 

 

「喉が渇いたから水飲みに降りて来たのよ…。そしたらデクくんがなんか怪しい人みたいにコソコソしてたから…………」

 

「そ…そうなんだ。ちょっと自主練をしようと思ったんだけど確かに端から見たら不審者みたいに見えるよね…」

 

 

 

怪しい人みたいと言う言葉に否定は出来ず苦笑し頬を掻く。

どこかぎこちない様子だ。

 

 

 

 

 

 

 

ど…どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

成切さんは普通に僕と接してくれてるけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ものすごく気まずい!!

 

 

 

 

 

 

 

そう、緑谷は友里絵に"個性"を聞いてしまったことをまだ気にしていた。そのせいで上手く喋ることが出来ない。

 

 

 

 

 

「今から自主練って…もしかしてトリノおじさんが寝ちゃったせいで職場体験があまり出来なかったから?』

「そ……そういうわけじゃないけど何でそれを?」

 

「デクくんに"個性"を聞かれたことを知ったトリノおじさんが心配して私のところに来てくれて……」

 

 

 

 

何故職場体験が中断されたことを知っているのかと問に思った緑谷は友里絵に聞き返した。

 

何しろ友里絵とは昼間に別れてから現在まで会っていない。

 

ましてやグラントリノが眠る前に友里絵と会っていたことは知るはずもなかった。

 

そこで友里絵はそのことを緑谷に説明し緑谷は納得した様子で喋り出す。

 

 

 

 

「あ…そ…そういうことか。グラントリノさん寝ちゃう前に成切さんのところに行ってたんだ…。オールマイトだけじゃなくグラントリノさんにも大切にされてるんだね」

 

「トリノおじさんの場合けっこう毒舌だけどね……」

 

「はは……」

 

 

 

 

 

 

ヤバい…………!本当に気まずすぎる…!早くこの気まずさを何とかしないと…。

 

 

 

 

しかし友里絵とは気まずいままで緑谷はずっと苦笑を浮かべていた。

 

この状況を何とかしようと解決策を巡らせる。

 

 

 

 

 

 

と…とりあえずやっぱりここは一度謝っておくべきだよな…?

 

不本意とはいえ僕が成切さんを傷つけちゃったことは事実なんだし…。

 

 

 

 

「……でも丁度良かった。デクくんに謝らなきゃって思ってた……。本当はもっと早く謝りたかったんだけど気付いたら寝ちゃってて……」

 

「え……あ…謝るって何を?まさか職場体験のこと?それは成切さんが謝ることじゃ…」

 

「それもあるけど昼間のこと…。デクくんは私に謝ろうと思ってたみたいだけど、元々は私が変な態度を取って空気悪くしたのがいけないんだしデクくんは悪くない…。だからごめんね…反省してる…」

 

 

 

 

ところが謝ろうとした矢先に友里絵から謝って来た。それもまるで考えを読まれていたかのような口振りとタイミングで。

 

 

 

 

 

「え…そんな……成切さんは悪くないよ!僕が成切さんに"個性"を聞いたりしたから……」

 

「何で?"個性"を知りたがるのは別に悪いことじゃないでしょ?私だって誰がどんな"個人"を持ってるか普通に興味あるし…」

 

「で…でも成切さんにとっては触れて欲しくない程の事情があるんだよね…?グラントリノさんがそう言ってた……」

 

 

 

"個性"を尋ねることが悪いことではないのはわかっている。

 

しかし友里絵にとっては"個性"を聞かれることは苦でしかないと知った以上、そうも言っていられなかった。

 

 

 

 

 

 

「確かに私には"個性"を聞かれたくない事情があるけど、それはただ単に私個人の勝手な都合でしょ?そんな理由で何も知らないデクくんを責めるなんて出来ないよ。第一、"個性"のことなら雄英に入学した時にクラスメイト達から散々聞かれてるし……」

 

「え…あ…そうか…。入学時に周りから聞かれるのは避けられないよね……。その時はどうしてたの…?」

 

「流石にその時は答えないわけにはなかったからね……。言える範囲内で誤魔化したよ」

 

 

 

個人的な都合なのかどうかはともかく、友里絵の言う通り、入学時に周りから"個性"を聞かれることは十中八九あることで避けては通れない。

 

それに関しては納得は出来た。

 

友里絵もその時は答えざるを得なかった為に仕方なく自分の言える範囲内で答えたらしいがやはり誤魔化した部分もあるそうだ。

 

 

 

 

「でもそれって言い換えたらクラスメイトに聞かれた時もそうやって避けたってことだよね…。だったら……」

 

「大丈夫だってば。みんなだって普通に聞いて来るのにデクくんだけ責めるのはおかしいでしょ?だからデクくんは悪くない…」

 

「ぼ…僕だって成切さんが悪いなんて思えないよ……」

 

「悪いよ…。だってくだらない事情のせいでみんなを振り回してるんだから…」

 

「くだらなくなんかないよ……!とにかく僕も絶対に譲れないから……!」

 

 

 

 

互いに庇い合い、どちらも引く気配はない。このままだと平行線を辿る一方だ。

 

 

 

 

 

「…なら9:1の割合で悪いってことにする?私が9でデクくんが1……」

 

「それじゃあ結局成切さんの方が悪いってことになっちゃうよ…!せめて5:5にしようよ!」

 

「むー…じゃあそれでいいよ…」

 

 

 

 

妥協案として9:1という、明らかに自分が悪くなる割合数値の意見を出すが聞き入れてもらえず、友里絵は不満そうにしていたが、とりあえず5:5の割合でお互いに悪かったということで話はついた。

 

 

 

 

「…まぁでも私が答えなくてもデクくんは最悪トシおじさんに聞くって手もあるんだから私の"個性"を知ることは出来るでしょ?」

 

「え…」

 

「え?」

 

 

 

 

その言葉に驚いた反応を見せる緑谷。すると友里絵もつられて不思議そうな反応を見せた。

 

 

 

「オールマイトに聞いても良いの…?」

 

「って、最初からそのつもりだったんじゃないの?」

 

「い…いや…その…確かに最初は僕もグラントリノさんから同じこと言われてそのつもりだったんだけど……。まさか成切さんがそれを言うなんてなんて思わなくて……。

てっきり嫌がるかと……」

 

 

 

 

キョトンとする友里絵に緑谷は全否定……はしなかったがグラントリノからそう言われていたことを説明した。

 

 

 

「デクくんのことだから間違いなくそうするだろうなって簡単に予測はついてたし、こっちはもうその前提で話をしてたならね。

だけどトリノおじさんから言われてたのなら聞いちゃえば良かったのに……。何ですぐ聞かなかったの?」

 

「そ…それは…えっと……よくよく考えたらやっぱり断りもなく勝手なことをするのはマズイかと思って……。また成切さんを傷つけるかもしれないし……」

 

「誠実だね…」

 

 

 

 友里絵の問いかけに対し緑谷は考えを改めてちゃんと断ってから聞くべきだと思ったらしい。

 

正に彼の誠実さによるものだ。

 

 

 

「…とりあえず、トシおじさんに聞くかの有無についてだけど有りだよ。私が答えたくないだけで他の人から聞く分には全然構わないし…。

それにデクくんになら知られても良いって思ってる…。

それでその後どうするかの判断は任せるよ…」

 

「そ…そっか…。じゃあ…そうさせてもらうね……」

 

 

 

 

少なからず否定はされると思っていたが特に嫌がる素振りも見せず案外あっさりと許可が出た。

ちょっと意外だったが、とりあえずその言葉に甘えることにした。

 

 

 

 

 

「じ…じゃあ僕そろそろ自主練行くね…」

 

「あ……うん。引き止めちゃってごめんね。だけどこんな時間にやって本当に大丈夫なの?明日に響いたりしない?」

 

「もちろん響かない程度にやるつもりだよ。それに少しでも早くワン・フォー・オールを扱えるようにならないといけないから」

 

「そっか。無理だけはしないでね」

 

「ありがとう。成切さんも身体のことがあるし、部屋でゆっくり休んでね…」

 

「ん…わかった…」

 

 

 

 

話も終わり自主練に向かおうとする緑谷。時間が時間なので明日の職場体験に支障が出るんじゃないかと心配そうにする友里絵に大丈夫だと答え、その際友里絵の身体への気遣いもしっかり忘れず外へ向かった。

 

 

 

 




ここで少し友里絵の"個性"に触れていますがまだまだほんの一部です。

続きを楽しみにしていただけると嬉しいです。


閲覧ありがとうございました。


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第13話 夜中の特訓。アドバイスはシンプルに

お気に入り登録が10人を越えました。

こんな自己満足の駄作でも気に入って下さる方がいて本当に感謝感激です。

第13話です。


 

ワン・フォー・オールをフラットに考える…。かっちゃんや皆は息をするように自然に出来る事が僕にはまだ「使う」って意識がある…。

 

5%の力を呼吸するように扱えればあんな動きも不可能じゃない!

 

 

相澤先生や切島くんも言ってた。使いこなせれば出来ることは多い!

 

 

とりあえず瞬発と断続!

 

 

 

 

 

 

 

深く考え込みながらやって来たのは人気のない路地。ここで練習をするようだ。

 

 

 

ただやたらゴミが捨てられているのが気になる所だが………。

 

 

 

 

「っし!要は慣れだ。5%でもこの幅なら…トントントンとできたら相当かっこいいぞ…」

 

 

建物伝いに上にのぼる算段らしい、意気込みを入れワン・フォー・オールを発動させようとしゃがみ脚に力を込める。

 

 

 

 

 

レンジで卵が割れないイメージ ──!!

 

 

 

 

 

 

その状態で思い切りジャンプする。

 

 

 

 

 

 

 

ベコ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────が、上手くそう簡単には行かず壁に激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

まァこうなるよな。

 

 

 

 

 

 

そしてそのまま下に落下。幸いにもあの大量のゴミがクッションになり地面に叩きつけられることはなかった。

 

 

大量のゴミでも役に立つんだな。

 

 

 

 

「踏ん張りと…腕でのクッションも必要だ…」

 

 

 

頭の中で考えを整理する。

 

 

 

 

 

 

となると二回目からは腕 脚に力を込めないと………。でも咄嗟にやらないとまた骨折する恐れがある…。

 

 

 

「いつもみたいにイメージ喚起してたら間に合わないか…。よーしもういっかい!」

 

 

 

そう言って再度挑戦を試みた。

 

 

 

 

 

「腕を強化して…!」

 

 

 

二度目は壁に接触する瞬間腕に力を込めようとするが間に合わず激突。

 

 

 

「切り替えをもっと早く…!」

 

 

 

 

三度目は素早い切り替えを意識するがまたも壁に激突。

 

 

 

 

「早く…もっと早く…!」

 

「何!?何!?」

 

「行こう!関わらない方が良い!」

 

 

 

四度目にはたまたま通りがかったカップルに気味悪がられる始末。

 

 

何度やっても壁に激突するばかりだった。

 

 

 

ベコ!!!

 

 

 

「…っくそ…!まだまだ…!」

 

「わー……なんかまるで潰れたカエルみたい……」

 

「…え!?成切さん!?何で!?部屋に戻ったんじゃ…!?

ていうか、潰れたカエルみたいってひどいよ…!」

 

 

 

諦めず続けようとすると部屋に戻ったはずの友里絵が何故か自分の練習する様子を見ていた。

 

 

 

 

「やっぱりちょっとだけデクくんの練習する様子を見てみようと思ってさ。来ちゃった」

 

「いやいや、身体は!?休んでなきゃダメだよ……!」

 

「大丈夫大丈夫。ちょっと見たらすぐに戻るし、だいぶ楽になったからさ。明日には学校にも行けると思う」

 

「だ…だとしても動き回るのは良くないんじゃ…」

 

 

 

 

良くなったとはいえ、まだ万全でないにも関わらず様子を見に来たと答える友里絵に唖然。

本人は大丈夫だと言っているが緑谷は心配でならなかった。

 

 

 

「大丈夫だってば。

それより、デクくん。一生懸命なのは良いけど周りに気をつけないとさっきここを通りがかったカップルが気味悪がって慌てて走り去って行ったよ」

 

「え…そ…そうなの…!?

なんか申し訳ないことしちゃったな…」

 

 

 

練習にばかり集中していて気付かなかったが、友里絵言われて通行人がいたことを知り少し反省する。

 

 

 

「それで何をやろうとしてたの?」

 

「あ…えっと…壁から壁に飛び移って上る練習を…」

 

『スーパーマリオの壁ジャンプ的なやつ?』

 

「い…いや、僕のイメージとしてはロックマンX的なやつ…。

マリオでもいいけど……」

 

 

 

イメージうんぬんはともかく、何をやろうとしているのかを説明した。

 

 

 

「イメージはわかるけど口で言うのと実際にやるのとじゃ中々難しいんじゃない?まだコントロール上手く出来ないんでしょ?」

 

「う…うん…。だから壁に激突してばかりで…。脚に力を込めてジャンプするまでは良いんだけどその後腕に切り替えるのが難しくて……」

 

「なら切り替えなきゃいいじゃん」

 

「え?」

 

 

 

バッサリと切るかのようにさらっと答える友里絵に緑谷は一瞬固まった。

 

 

 

 

「だから切り替えずに腕と脚を同時に使えばいいって言ってるの」

 

「で…でもコントロールが出来ないのに同時に力を込めるなんて器用なこと出来るはずないしどうすれば……」

 

「そこはやっぱりデクくんが自分で答えを見つけなきゃ。けどそうだなぁ…。ワン・フォー・オールを水道の蛇口だと思って考えてみたらいいんじゃない?」

 

「え…水道の蛇口……?」

 

 

 

いきなり蛇口だと思えと言い出す友里絵。彼女なりにアドバイスをしてくれているようだがそれ以上は答えてはくれない。グラントリノの時と全く同じだった。

 

 

 

 

「あ、何か甘い物でも用意しとこうか?甘い物を食べると疲れた体に染み渡るって言うし」

 

「え…い…いや……気持ちは有難いけどこんな時間に食べるのもあれだし遠慮しておくよ…」

 

「そっかわかった…。それじゃあ私寝るね、お休みデクくん」

 

「あ…うん…おやすみ…」

 

 

 

 

しかも唐突に甘い物まで勧められ、困惑しながらも断ると友里絵は小さく呟いた後、戻って行った。

 

 

 

 

 

な…何だったんだ…?

 

 

成切さんは一体何が言いたかったんだろ…?

 

 

ワン・フォー・オールを水道の蛇口と思って考えてっていうのもよくわからないし…。

 

 

 

 

「蛇口……。ひねって水を出すみたいに頭をひねろってことかな…?それとも調節のことを言ってるんだろうか…?いや…でもそれじゃ今と変わらないし成切さんのことだからそんな安易な答えなわけないよな…。急に甘い物を勧めて来たことも気になるし………」

 

 

 

一応友里絵の言った言葉の意味を考えてみるがよくわからない。

そもそも何で水道の蛇口なのかと不思議でしかなかった。

 

 

 

 

「……ダメだ。全然わからない……。せっかくだけどこれ以上考えることに時間はかけられない……。成切さんのアドバイスについてはまた後で考えよう……」

 

 

 

 

 ───結局、この時僕は成切さんのアドバイスの意味を理解出来ないまま後回しにしてしまい自主練を続けた。

 

 

 

だけど僕は後になって知ることになる。

成切さんがワン・フォー・フォーを上手く扱う為のとても良いヒントをくれていたことに……。

 

 

 

 




今回は3000文字以下といつもより文字数が少なくなりました。

いつもこのくらいの方がいいのかな?


閲覧ありがとうございました。


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第14話 特訓の行方

最近、傍点やルビ、特殊機能が使えることの有り難みを噛み締めております(笑)

とっても便利!!


第14話のはじまりです♪


 

翌日 ───…。

 

 

 

AM5:30。

 

 

 

「さてと…そろそろ起きなきゃ…」

 

 

 

起床した友里絵はゆっくりと体を起こした。

 

 

少し身体の怠さはあったが動くには支障はなかったので学校に行く支度をし制服に着替えると部屋を出る。

 

下に降りると緑谷の姿があった。

 

 

 

 

「あれ、デクくんもう起きてたんだ。おはよう」

 

「あ…おはよう成切さん…」

 

 

お互いに挨拶を交わす友里絵と緑谷。

どこにでもあるごく普通の光景だ。

 

 

だがひとつだけその普通の光景とはかけ離れたことがあった。

 

 

 

 

「……またずいぶん頑張ったみたいだけど、まさか徹夜……?」

 

「う…ううん、徹夜はしてないよ……ちょっとやり過ぎちゃったけど…」

 

 

 

 

そう、緑谷は自主トレのし過ぎで全身ボロボロ状態になっていた。さすがに徹夜はしていないようだが、かなりやつれた様子だった。

 

 

 

 

「もう……無理はしないでって言ったのに…。何か進展はあったの?」

 

「そ…それがまだ…。成切さんが言ってた"水道の蛇口"の意味も理解出来なかったから結局練習することに集中しちゃって……」

 

「そりゃあ簡単にわからない様に言ったんだし、水道の蛇口ですぐに解ける方が逆にすごいよ。まぁ焦らずに落ち着いて考えてみて。きっとワン・フォー・オールをコントロールするヒントになると思うからさ」

 

 

トレーニングの成果を聞かれるが、特に好転せず進展もなかった。ただ顔に傷を作るだけだった。

しかも考える時間が惜しいと友里絵のアドバイスを後回しにしてしまい考えれていない。その申し訳なさもあって緑谷の表情は雲っていた。

 

友里絵はそんな緑谷に対し、あえて難しいヒントにしているのだからと怒ることはせずただただ声援を送っていた。

 

 

 

「う…うん…わかった…そうするよ。

ところで成切さん今日は学校行くんだよね?」

 

「そうだよ?だからこうして制服着てるでしょ?」

 

「けど成切さん何かまた顔色が良くないよ…?もしかして体調がぶり返したんじゃ…」

 

「微熱程度と多少気だるさが残ってるけど大丈夫、問題ないよ」

 

 

 

友里絵の顔色に気付き心配そうに声をかけるが友里絵はまたしても大丈夫だと答えるだけだった。

 

 

 

「だ…ダメだよそんなの!万が一学校行く途中で倒れたりでもしたら…!」

 

「心配し過ぎだって。私そんな柔じゃないし自分の身体だもん、大丈夫かそうじゃないかの分別はちゃんと出来るよ。学校もヒーロー科じゃなく普通科だからデクくんみたいに訓練することもないし、いざとなったらリカバリーガール先生のとこに行くからさ」

 

「だけど絶対大丈夫って保証はないし、やっぱりちゃんと休むべきだよ!」

 

 

 

 

昨日と同じ様にまた両者どちらも引かない意見の言い合いが始まった。

 

 

 

 

「そうかもしれないけど昨日だって休んでるのに今日まで休むわけにはいかないよ。動けない程じゃないんだし、何より2日も休んで昨日みたいにトシおじさんからまた何十件もメールとかされたらたまんない…。

今朝スマホの電源つけてみたらびっくりしたよ……」

 

「そ…そのまま行っても同じだと思うけど…。

(何十件も来てたんだ……。ていうか成切さんが学校休みたくない本当の理由ってまさかそれなんじゃ…?)」

 

「どうせ休んでも休まなくても心配されるんだったら私は学校に行く方を選ぶ。こんなことで休みたくない」

 

 

そんなやり取りが続く中、友里絵が急に真剣な表情でハッキリそう言い切った。

 

 

 

「…わかった。成切さんがそこまで言うなら信じるよ…。けど絶対に無理はしないようにね…」

 

「ふふ、何か昨日とは逆になっちゃったね。わかった、約束する」

 

 

 

その熱意が伝わったのか、緑谷もそう聞かされた以上、折れるしかなく無理をしないことを条件に承諾することにした。

 

友里絵もその条件を呑み、こうして二人の二度目の言い合いは案外あっさりと幕を閉じるのだった。

 

 

 

 

──ちょっと心配だけど成切さんの言うように学校にはリカバリーガールがいるし他の先生達やオールマイトまでいるんだ…。きっと大丈夫だろう。成切さんも無理はしないって約束したし…。

 

それに体調不良でもちゃんと学校に行こうとするなんて成切さんは立派だな…。そういう頑張ろうっていう気があることはすごいと思う…。

 

 

つい応援したくなる気持ちにさせられる。

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、急いで準備を…」

 

「え…ちょ…待って待って。成切さん何やってるの?」

 

 

 

──なんて考えていたのも束の間、今度は朝食の準備をすると言い出し制服の上からエプロンをかけ始めた。

 

 

 

 

「何って朝食の準備だけど」

 

「そうじゃなくて!何で朝食の準備し始めてるの!?」

 

「?だって朝食食べるでしょ?」

 

「食べるけど!朝食の準備は僕がするから成切さんは体調不良なんだから学校に行くまで休んでて……!」

 

 

 

 

緑谷の問いかけに首を傾げながら普段に答える友里絵。いくら元気そうに見えても病人は病人。黙って見過ごすわけにもいかず、当然のごとく全力で阻止しようとする。

 

 

 

 

 「あ…じゃあお言葉に甘えてお願いしていいかな?

と言ってもそろそろ出ないといけないからゆっくりしてる時間はないけど…」

 

「え、もう行くの?ていうか成切さんこそ朝食は?」

 

「私はコンビニでおにぎりでも買って食べるよ。トリノおじさんが起きて来たら私は学校行ったって言っておいて。それと朝食にたい焼きは絶対出さないでね」

 

「う…うん…?(あ…成切さんバンダナに変わってる)

たい焼き……?」

 

 

 

 

時計を見ると時刻は6時15分。友里絵はせっせと頭にバンダナを巻くと鞄を持ち緑谷に後のことを頼むと同時にたい焼きは出すなと伝言を伝えた。

 

その際、フードからバンダナに変わっていたことに気づくが、たい焼きという謎のワードに何故たい焼きなんだ?と疑問に思い曖昧な返事をしていた。

 

 

 

「お願いね。行ってきます」

 

「あ…い…行ってらっしゃい…」

 

 

 

そんなことは気にも止めずに出て行く友里絵を緑谷はただ見送った。

 

 

 

 

よ……よくわからないけど何とか成切さんが朝食を作るのだけは阻止できた……。

 

頑張ろうとするのはいいんだけどちょっと無茶し過ぎなんだよな…。昨日も掃除したり僕の自主トレを見に来たり……。

 

 

オールマイトといた時もあんな風だったのかな……。

 

そう考えるとなんかオールマイトが成切さんを心配する気持ちがわかった気がする……。

 

 

 

 

「…あれ、ちょっと待てよ?

だとしたら無理をしないっていう成切さんの言葉も何か怪しいぞ……。ど…どうしよう、やっぱり学校に行かせたのまずかったかも……」

 

 

 

 

緑オールマイトが友里絵の心配する気持ちが何となくわかったような気がしたのと同時に学校へ行かせてしまったことを今になって後悔し始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それから2時間後、起きて来たグラントリノからもボロボロになっていることについて聞かれることになる。

 

 

 

 

「おはよう。そして!どうした!?」

 

「昨日ちょっと自主トレしてたら夢中になってしまい…。成切さんからもらったアドバイスはまだよくわからなかったのでグラントリノさんに言われたこと咀嚼(そしゃく)して実践してみたんですけど…先はめちゃくちゃ長いです…」

 

「友里絵から?何て言われたんだ?」

 

「ワン・フォー・オールを水道の蛇口だと思って考えろと……」

 

 

 

 

自主トレ中に友里絵から言われたことをそのままグラントリノに伝えた。

 

 

 

「全くアイツめ…。病人のくせに何やってんだ…。だがヒントが水道の蛇口とはまたベタなアドバイスをしたもんだな」

 

「え…?」

 

「それはまぁ良いとして、初めてのチャレンジならそりゃそうだ。仕方あるまいて。ああいった発想はオールマイトからは出にくい。奴は初期から普通に扱えていた為、指導方針が違ったからな。奴は体だけは出来上がっていた」

 

「オールマイトの学生時代…!!どんな感じだったんですか!?」

 

「ん?ああ…ひたすら実践訓練よ。

ゲロ吐かせてやったわ」

 

「(それであんなに恐れてたのか!!)」

 

 

 

 

 

貴重なオールマイトの学生時代の話に俄然興味がありその様子をグラントリノに詳しく聞いてみるが、その内容は期待していたのとは全く異なりなものだった。

 

 

グラントリノとの実践訓練でオールマイトはボコボコに殴られゲロを吐かされたらしい。

 

そりゃあ彼が恐れるわけだ。

 

 

                                               

 

「生半可な扱いは出来なかった。()()盟友に託された男だったからな」

 

「え…オールマイトの先代…お亡くなりになっていたんですか?」

 

「んあ……?」

 

 

 

オールマイトの先代が亡くなっていたことを初めて知り驚く緑谷。

 

しかし聞き返そうとした時玄関のインターホンが鳴った。

 

 

ピンポーン

「宅配でーす」

 

「あ…僕受け取って来ます!」

 

 

 

七代目のこと言ってないのか俊典………。

 

 

 

グラントリノもオールマイトから既に聞いていたと思っていたらしく意外な反応をしていた。

 

 

 

「お疲れ様でした。

グラントリノさん、荷物受け取って来ました。ここに置いていいですか?」

 

「ああ…。

おい小僧。ちょっと聞くが友里絵の母親のことはオールマイトから何か聞いてるのか?」

 

「え…成切さんのですか?いえ…オールマイトにとってとても大切な方だったとは聞いてますがそれ以外は…」

 

 

 

不意に友里絵の母親について聞かれたが以前オールマイトからはその様に聞かされただけで詳しくは知らないと答えた。

 

 

 

 

──やはり七代目のことはまだ言ってないらしいな……。友里絵の母親についても…。

 

 

 

「そうか………。

で、友里絵は学校に行ったのか?」

 

「あ、はい。まだ体調は良くないみたいでしたが昨日休んだから今日は休みたくないと言って……」

 

「何?まだ良くなってないのに行ったのか。あのおてんば娘め…」

 

「はは……」

 

 

 

体調不良のまま学校に行ったと聞きグラントリノは呆れながら呟き緑谷も苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

「まぁ…何かあればすぐ雄英の教師が何とかするだろ。つーことで小僧、今届いた荷物の箱開けろ」

 

「は…はい!」

 

 

 

グラントリノに言われて急いで荷物を開封した。

 

 

 

「電子レンジ…!?」

 

 

「昨日()()()壊れちゃったからな!お急ぎ便よ!」

 

「(ガチなのかオトボケなのか…!)」

 

 

中身は電子レンジだったが、グラントリノは昨日実践形式の戦闘で自分で踏んづけて壊したことを覚えていないのか、それともあれで壊れないとでも思っていたのか、電子レンジが何故か壊れたと言っていた。

 

これには緑谷もガチなのか、わざとなのかわからず困惑した。

 

 

 

 

「よし小僧、昨日買った冷凍たい焼き食うぞ。用意だ!!」

 

「朝食たい焼きですか!?

あ…そういえば成切さんがたい焼きは絶対出すなって…」

 

「俺は甘いのが好きなんだ!アイツが何て言おうが黙ってりゃ関係ねぇ。良いからさっさと準備しろ」

 

「わ…わかりました…!

(ごめん成切さん………)」

 

 

 

友里絵がああ言っていた理由がわかるも、結局たい焼きを準備することになり心の中で謝った。

 

 

 

 

 

たい焼きを大きなお皿に移し電子レンジに入れて温めている間、レンジの前で緑谷はまたワン・フォー・オールについて考えていた。

 

そのすぐそばのテーブルにはグラントリノが手をパタパタさせ、たい焼きが温まるのをワクワクと待っている。

 

 

 

 

呼吸をするようにワン・フォー・オールを扱う……。冷静に考えれば皆が15年間つちかってきた感覚に追いつかなきゃいけないってことだ。

 

時間は待ってくれない。これじゃあ5%の力を引き出す為に身体を作る年月と変わらない。

 

 

 

「うひょーこれよこれ!時代はアツアツよ!!」

 

「時間は限られてる…。どうすれば…」

 

 

 

たい焼きが温まりテンションが上がるグラントリノ。

 

一方の緑谷はブツブツと悩み続けながらも手は動かし取り皿とフォークを準備する。

 

 

 

 「浮かない顔をしてるな。今はとりあえずアツアツたいを食って…

冷たい!!!

 

「え!?」

 

 

 

そう言ってたい焼きにかぶりつくグラントリノだったが、たい焼きはまだ解凍出来ていなかったのかガキッと鈍い音がし大きく叫んだ。

 

 

 

「ウソ!?ちゃんと解凍モードでチンしたんですけど…!」

 

「バッカおまえ!!これ……でかい皿でそのまま突っ込んだな!?無理に入れると中で回転しねぇから一部しか熱くならんのだ!!!チンしたことないのか!!」

 

 

 

どうやら温め方に問題があったらしく、グラントリノはすごい剣幕で緑谷に怒鳴った。

たい焼きのことになると必死だ。

 

 

 

「あっ…ウチの回転しないタイプだったんで…ごめんなさ………

………!」

 

 

 

ここで緑谷があることに気づく。

 

 

 

「あああ、わかった!!グっグラントリノさん!!これが…このたい焼きが僕っ…です!!」

 

「違うぞ。大丈夫か!?」

 

「あ、いや違くて…っ!その…っわかったんです!」

 

 

 

たい焼きを手にしそう言い出す緑谷。

グラントリノに「こいつは何を言ってるんだ」という表情でガチにツッコミを入れられるも話を続ける。

 

 

 

「僕は今までワン・フォー・オールを「使う」ってことに固執してた。必要な時に…必要な箇所に!スイッチを切り替えて…。でもそれだと二手目三手目で反応に遅れが出てくる…!!

なら初めからスイッチを全てつけておけばよかったんだ!!一部にしか伝わってなかった熱が……万遍なく伝わるイメージ…!!」

 

 

 

 

そして成切さんが言っていたワン・フォー・オールを水道の蛇口に思えっていう言葉の意味……。あれも電子レンジのたい焼きと同じだ!

 

水道は必要な時に蛇口を捻って水を出すけど、出しっぱなしにしていつでも使えるようにするって意味だったんだ…!

 

去り際に甘い物を勧めて来たのも、最初は僕を気遣っての行動だと思っていたけどそうじゃない!重要なのはその後の「疲れた身体に染み渡る」っていう言葉だったんだ……!

 

"ワン・フォー・オールを全身に浸透させる!"

 

成切さんはあの時既にそのことを教えてくれていたんだ!

 

もっと早く気づいていれば………!

 

 

 

 

力を込め、ワン・フォー・オールを脚から徐々に全身へと行き渡らせていく。その際に友里絵の言葉の意味も理解したようで申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

 

 

 

 

──辿り着くまでにずいぶん早かったな。

 

 

 

 

 

「全身……常時身体許容上限(5 %)━━━!!」

 

「イメージが電子レンジのたい焼きて、えらい地味だがいいのかソレ」

 

「そこはオールマイトの…っお墨付きですっ…!」

 

 

 

全身に力が行き渡ると緑谷の身体はバリバリと稲妻のような緑色の閃光を纏った状態になった。

 

これがワン・フォー・オール5%の力をコントロールした姿だ。

 

 

 

「その状態で動けるか?」

 

「わかっ…りません!」

 

「試してみるか?」

 

「はい…!お願いします!」

 

 

 

持っていた杖を放り投げグラントリノは戦闘体勢に入る。

 

今の状態を維持しつつ動けるかを聞かれるが緑谷にもわからない。それはもう実際に試して確かめるしかないのだ。

 

その為緑谷も手合わせ望み身構える。

 

 

さぁ第二戦目の始まりだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




友里絵の水道に例えろ発言はBLEACHネタから引っ張って来てます。一護と石田が初めてメノスと遭遇した場面のです。

他にいいアドバイスが思い付かなかったというのもありますが(^_^;)

閲覧ありがとうございました。

次回は友里絵視点になります。



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第15話 無茶の代償と打ち砕かれる希望…

早くも15話目です。

お気に入り登録者様も少しずつ増えていて有難い限りです。





 

緑谷がグラントリノと第二回戦を始めている頃、友里絵は無事学校に辿り着き校内を歩いていた。

 

 

 

 

「デクくん今頃トリノおじさんと訓練してるかな…?徹夜はしてないとは言ってたけど疲れた顔してたし大丈夫かな…。

あとまた物壊してなきゃいいけど…(トリノおじさんが)」

 

 

体調は相変わらずだが、考えるのはそっちよりも緑谷のこととグラントリノがまた色々壊さないかということだった。

 

 

 

「まぁ…別に壊したらその分トリノおじさんのお金が飛んでくだけだけど、その片付けをまたデクくんに押し付けないか心配だな…」

 

「そこの女子。何してる?予鈴10分前だぞ」

 

「え…?」

 

 

 

 

 

 

なんて呟きながら階段を上がっていると不意に後ろから誰かに声をかけられ振り向いた。

 

階段の下にいたのは相澤だった。

 

 

 

 

あ……この人確かA組担任の……。

 

名前はえっと……相澤先生だっけ。

もうすぐ予鈴って私そんなにのんびりしちゃってたのか……。

 

 

 

「普通科の生徒か。早く自分の教室に行けよ」

 

「は……っはい、すみません…!すぐ行きます…!」

 

 

 

相澤の言葉を聞いて慌てて教室に向かおうとする友里絵。

 

 

 

 

 

 

 

……ん?あれ、ちょっと待って。そういえばこの先生の"個性"って確か……!

 

 

 

 

だがふとある考えが浮かび足を止め振り返った。

 

 

 

「あ…あの…!1年A組の担任の相澤先生ですよね…?」

 

「あ…?そうだがそれがどうした?」

 

『わ…私先生に聞きたいことが………っきゃ…!?』

 

「!?」

 

 

 

 

相澤に聞きたいことがあると言いかけたその瞬間、足を踏み外してしまい支えを失った体はバランスを崩し宙に投げ出されてしまった。

 

 

 

 

ヤバ……!落ちる……!

それにこのままじゃ先生に……!

 

 

「せ…っ先生避けて下さい…!」

 

「んなことしたらお前が怪我するだろーが!」

 

『!!』

 

 

相澤は冷静な態度で見事友里絵を受け止めた。

 

 

 

「(…!こいつ……)」

 

『あ…ありがとうございます……』

 

「階段から落ちた奴が下にいる奴の心配をするな。自分の心配しろ」

 

「す…すみません…。

(お…怒られちゃった……)」

 

 

 

 

自分より相手を優先したことで相澤から注意をされてしまう結果になった。当然と言えば当然である。

 

 

 

「……まぁ良い。怪我はしてないか?」

 

「あ…は……はい大丈夫で……痛…っ!?」

 

 

 

それでもちゃんと心配はしてくれるようでゆっくりと床に降ろしながら怪我の有無を確かめる相澤に大丈夫と答えようとした。ところが床に足をつけたその時、右足に激しい痛みが走った。どうやら足を痛めてしまったらしい。

 

 

 

 

 

「す…すみません、ちょっと足を痛めたみたいです……」

 

「踏み外した時に挫いたか………。だが丁度良い、保健室に行くぞ」

 

「え…丁度良いって…わ…っ!?」

 

「お前熱があるだろ。足と一緒にバアさんに診てもらえ」

 

 

 

 

友里絵を受け止めた際、身体が熱いことに気づいた相澤は熱があるとわかっていた。

 

再度友里絵を抱え上げ保健室へと向かって歩き出す。

 

 

 

 

 

先生気づいてたんだ…。私に熱があるって……。

 

 

 

 

 

だけど…………。

 

 

 

 

 

「あ……あの……先生、これで行くんですか…?」

 

「何だ文句でもあるのか?」

 

「い…いえ、文句ではなく出来れば背負う方に変えていただければと……。人目につきますし、このままだとちょっと恥ずかしいと言うか…」

 

 

 

 

友里絵は相澤にお姫様抱っこをされた状態で、このまま保健室に向かうことに少し恥ずかしさを感じていた。人目にもつくので背負って運ばれる方がまだマシだと考えたのだ。

 

 

「人目っつっても周りには誰もいねぇしそんな無駄なことに時間を使うよりこのまま運んだ方が早い」

 

「は……はい……」

 

 

 

わざわざおんぶに変えるのは時間の無駄だということで友里絵の願いは聞き入れては貰えなかったわけだが、この後たまたま通りかかった同じ雄英教師で同期のプレゼント・マイクに見つかり茶化されることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ヘィ!イレイザーじゃねーか!!」

 

 

「…面倒なヤツが来たな…」

 

「……?」

 

「ん?オイオイオイ!お前にしちゃ随分珍しいことしてんじゃねえか!!どーしたァ!?」

 

「うるさい…。

怪我人+病人を運んでるだけだ。どけ邪魔だ」

 

「ヒューー!!やるじゃねーかイレイザー!!お姫様抱っことか洒落てるぜ!!アレだな!傷ついたお姫様を助ける王z………」

 

 

 

───プレゼントマイクを捕縛中(しばらくお待ち下さい)────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ……マイクの奴しつこくからかいやがって……」

 

 

 

 

 

プレゼント・マイクにからかわれてからというもの、相澤は超不機嫌状態で友里絵を運んでいた。そのからかってきた張本人はもちろん相澤によって締め上げられたが、その後運び方も変えられ現在はお姫様抱っこから背負われる形になってた。

 

 

 

「あ…あの…すみません、私のせいで…」

 

「別にお前のせいじゃない。アイツは昔からああいう奴なんだ…」

 

「そ……そうなんですか…」

 

「んなことはどうでも良い。それより俺に聞きたいことって何だ?」

 

「え……」

 

 

 

友里絵が申し訳なさげにしながら謝るも相澤にとっては既にどうでも良いことらしく軽く流すと先程友里絵が言った言葉について追及した。

 

 

 

「さっき言ってただろ。聞きたいことがあるって。後で聞くより今聞いておいた方が合理的だからな。だから早く言え」

 

「あ…えっと……相澤先生の"個性"は見た人の"個性"を消すことが出来るんですよね…?それで私の"個性"を消すことって出来ますか…?」

 

「何……?」

 

 

 

 

友里絵のその言葉に相澤は足を止めた。

 

 

 

 

「…お前自分の"個性"を消したいのか?」

 

「はい……。理由は言えませんが…」

 

 

 

そう答える友里絵の表情はとても暗く思い詰めている様子で相澤から見ても一目瞭然だった。

 

 

 

「…悪いが、俺が消せるのは見ている間だけだ。"個性"そのものを消せるわけじゃない」

 

「そ……そうですか…」

 

 

 

 

 

そう……だよね………。そんな簡単にいくわけないよね……。

 

私はなんて浅はかなんだろう………。期待なんかしてバカみたい……。

 

 

 

少なからず期待していたこともあり相澤でもこの悩みは解決出来ないのだとわかると友里絵は気を落としてしまう。

 

 

 

 

「仮に出来たとしても、理由も無しに「はい、そうですか」と簡単に消すことは出来ない。そもそもこれは俺の一存で決められるものじゃない」

 

「…………」

 

 

 

そこに更なるおいうち………いや、正論だ。誰でも同じことを言うだろう。何一つ反論することが出来ない。

 

 

 

 

「第一、"個性"を消せばお前はこの先ヒーローを目指すことが出来なくなるんだぞ?」

 

「……良いんです。どうせ私の"個性"じゃヒーローになんかなれませんから……」

 

 

 

小さな声で何とかその言葉だけは捻り出した。

だが、相澤がそう言うのも無理はない。

超人社会が当たり前となったこのご時世。ヒーローを目指す為には"個性"は絶対条件。緑谷でさえ一度はオールマイトに指摘されたぐらいだ。

 

 

 

 

「…ガッカリさせたようだが、とにかくそういうわけだ。俺じゃあお前の力にはなってやれないよ」

 

「いえ、いいんです……。私こそ変なこと言ってすみませんでした…」

 

 

 

 

無理なものにいつまでもすがっていても仕方がなく、素直に受け入れる。とはいえ、頭ではそうわかっていても心まではついて行かない。希望が失われた友里絵はそのまま黙り込んでしまった。

 

 

相澤もそれ以上は何も聞くことはせず再び歩き出す。

 

互いに一言も喋らないまま保健室に着いた。

 

中に入ると相澤はすぐさま事の事情をリカバリーガールに説明し友里絵のことを診てもらうよう頼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「──というわけなんでよろしくお願いします」

 

「はいよ。あとはあたしに任せな」

 

「んじゃ、とりあえずお前は1限目休んどけ。担任には俺から伝えといてやる」

 

「あ…はい…ありがとうございます…。それに運んでもいただいて……本当に申し訳ないです…」

 

 

 

様子見で1限目は休むことになり、担任への連絡も相澤がしてくれるそうだ。

何から何までお世話になったことに対するお礼を相澤に伝えた。

 

 

 

 

「礼は良いからクラスと名前を早く言え。伝えれないだろーが」

 

「あ…す…すみません…。1年C組の成切友里絵です…。

(ま…また怒られちゃった………)」

 

「(C組……心操のクラスか…)

わかった。成切だな」

 

 

 

確認が取れた所で相澤はまた直ぐに保健室から出ていった。

 

 

 

 

 

「それにしてもあの男がここまで他人の世話を焼くのも珍しいがアンタもアンタさね。熱があるってわかってて何で来たんだい」

 

「えっと…昨日休んで今日も休むのはちょっとアレかと……。体調も昨日より全然楽でしたし、それにトシおじさんからも物凄い数の心配のメールが届いたので休んだらまたメールが来る可能性もあったので………」

 

「全く…捜していた娘が見つかったからって過保護にしすぎだ。本当に親バカだねアンタの父親、オールマイトは」

 

「はは………」

 

 

 

相澤から怒られ、リカバリーガールからも怒られることとなってしまった友里絵は何も反論出来ず謝るしかなかった。

 

 

ちなみにリカバリーガールは友里絵とオールマイトとの関係を知っている。

 

というのも、友里絵の存在はオールマイトからきいていたが友里絵自身もリカバリーガールには事情を話していた。友里絵が保健室にいる時に緑谷とオールマイトが来てしまい匿ってもらったこともあった。

 

その事実はオールマイトはまだ知らないわけなのだが。

 

 

 

「何にしても、まずは痛めた足を手当てするよ。足を見せてみな」

 

「は…はい…」

 

 

 

言われた通りに痛めた方の足をリカバリーガールに見せる。その足首は赤く腫れていた。

 

 

 

「完全に捻挫だね。一応固定だけはしておくがしばらくは大人しくしてることだね」

 

『わかりました』

 

 

《ヴーヴー……》

 

 

 

 

と、その時ポケットに入れていたスマホのバイブ音が鳴った。

 

 

 

「(ん?メール?)」

 

 

ポケットからスマホを取り出し操作してメールを開いた。

 

 

 

"成切さんへ

 

ワン・フォー・オールのコツが掴めたよ!電子レンジでたい焼きを温めてた時に気づいたんだけど、熱が満遍なく伝わるのと同じでワン・フォー・オールも身体に行き渡らせれば良かったんだってわかったんだ。成切さんがくれたアドバイスもそれを伝えようとしてくれてたんだよね。せっかく良いこと言ってくれてたのに気づくのが後になってごめん。さっきグラントリノさんと手合わせしてみてまだまだ維持が難しいけど頑張るよ。成切さんもくれぐれも無理しないでね。"

 

 

 

 

 

メールの差出人は緑谷で内容はワン・フォー・オールのコツを掴んだことと、そのコツを掴むきっかけが友里絵のアドバイスではなく電子レンジのたい焼だったことに対する謝罪、そして友里絵を気遣うものだった。

 

 

 

そっか、デクくんコツを掴めたんだ。

 

私のアドバイスの意味も気付けたみたいだし良かった。

 

 

ただきっかけがレンジのたい焼きかぁ。デクくんのイメージではそういう感じなんだ。それじゃあ水道の蛇口はちょっと難しいか…。しかもそれをわざわざ謝るなんて律儀だなぁ……。別に謝らなくても良いのに…。

 

私への気遣いも忘れてないしさすがヒーローを目指してるだけあるなぁ…。

 

 

 

 

でもたい焼きを温めててってことはデクくんたい焼き出しちゃったのか……。

朝食には出さないでって言ったのに……。

 

 

そもそもたい焼きが朝食っていうトリノおじさんの考えがおかしい……。帰ったらまたガツンと言っておかないと……。

 

 

 

 

「ほら、終わったよ。スマホなんか弄ってないでベッドに入りんさい!その間スマホは一切禁止!わかったね!?」

 

「は…はぁい……」

 

 

 

いつの間にか足な手当ては終わっており、またもや注意をされてしまった。

 

 

本日三度目だ。

 

 

 

直ぐにスマホをしまい大人しくベッドに横になった。

 

 

 

まぁ…返事は後からでも良いよね…。

 

 

 

そう思って目を閉じると急に眠気に襲われそのまま眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いだだだだた!!ちょ…っマジでそれ以上はカンベンだって!!捕縛しないでぇぇ!!」

 

「お前がしつこいからだろ(怒)」

 

「………。

(すごいなぁ……相澤。私をお姫様抱っこしたままプレゼント・マイク先生を縛っちゃった)」

 

 

 

 

 

 

 

 




……はい、ということで今回は相澤先生と絡ませました。主人公は自分の個性を嫌い消して貰おうとして叶いませんでした。

次はどんなことが起こるのでしょうか。

続きをお楽しみ下さい♪


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第16話 八つ当たり

今回もオールマイトの親バカっぷりが発揮されます(笑)





 

それからどれだけ経ったのか、目を覚ますと何やら話し声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「全く、何考えてんだいアンタは!」

 

「し……っしかしあの子の親としてはやはり心配するのは当然のことかと…っ」

 

「限度ってもんがあるだろう!そんなんじゃあの子だって気が休まらないよ!」

 

「(あれ…この声…?)」

 

 

 

聞き覚えのある声がし、ベッドから降りるとリカバリーガールが閉めてくれたであろうカーテンを少し開けた。

 

 

 

「…!友里絵!」

 

「おや、目が覚めたかい。身体の具合はどうだい?」

 

「あ…は…はい。一眠りしたらすごく楽になりました…」

 

「本当に大丈夫なのか!?無理はしてないか!?」

 

「ほ…本当だよ。熱も下がったし本当にもう大丈夫だから……」

 

 

 

そこにはリカバリーガールとオールマイトの姿があり彼の存在に困惑しながらもリカバリーガールの質問に答える。

 

するとオールマイトが物凄い勢いで心配され友里絵は大丈夫であることを必死に伝えた。

 

 

 

「だからそうやってすぐ大袈裟に騒ぐんじゃないよ!」

 

「うっ……」

 

「…………」

 

 

 

似た者同士とでも言おうか。オールマイトまでもがリカバリーガールに叱られ、友里絵は呆然と見ていた。

 

 

 

 

「と……ところで何でトシおじさんがここに?」

 

「君が階段から落ちて保健室に運ばれたって聞いたからね。心配で様子を見に来たんだ。リカバリーガールから大体のことは聞いたが今日休まなかったのは私の昨日メールのせいで心配をかけまいと思ったからそうだね。気を使わせてしまい本当に済まなかった友里絵」

 

「い…いや、そりゃあ全く違うわけじゃないけど今日休まなかったのは、昨日より熱は下がってて普通に動けて行けると思ったし私自身あまり休みたくないって気持ちもあったから……。この足の怪我だって私の前方不注意が原因だし…」

 

 

 

一喝されたことで落ち着きを取り戻したオールマイトが事の成り行きを知りやって来たことを伝え、ついでに自分の行いに対する謝罪をした。

 

だが、こちらからしたらオールマイトの言うことに一理あるとしても大半が自己責任だと思っているので謝られて逆に困ってしまう。

 

何より相澤に"個性"を消してもらおうとして階段から落ちたとは言えなかった。

 

 

 

 

「君のそういう所は変わらないな。まぁ大事にならなかっただけ良かったよ。今後は気をつけような」

 

「う…うん」

 

 

本当に安心した様子でポンポンと頭を撫でて来るオールマイトに友里絵はまだ申し訳ない気持ちはあったもののとりあえず頷いて見せた。

 

 

 

 

 

「それで友里絵はこの後はどうするんだ?やっぱり授業に戻るのかい?」

 

「あ…そうだ授業……!リカバリーガール先生、私どのくらい寝ちゃってましたか?」

 

「今は2限目。終わるまであと15分ってところだね」

 

「え………っ私そんなに寝ちゃったんですか!?」

 

 

 

授業と聞いてハッとすると、もう時間の心配をし始めた。

 

リカバリーガールに尋ねると既に2限目の授業は始まっており、終わるまでの時間もほとんどないらしい。

 

どうやら完全に寝過ごしてしまったようだ。

 

 

 

「つまりアンタが思っていた以上に体調が悪かったってことさね。過ぎちまったもんは仕方ないよ。このまま終わるまでここで休んで行きな」

 

「そうだな。授業は3限目から出れば良い。緑谷少年なんて実践訓練の怪我のせいで残りの午後の授業丸々すっぽかしたことがあるくらいだ。そのくらい大丈夫さ」

 

「は…はぁ……。

(本当に大丈夫なのかな……。

ていうかトシおじさんそれ言っちゃって良いの…?プライバシーだよ?)」

 

 

 

 

複雑な思いと一抹の不安は残るもリカバリーガールの言うように過ぎてしまったものはどうしようもなく2限目が終わるまでは保健室で休ませてもらうことにした。

 

 

 

 

 

……とは言ってもやっぱり2限目まで休んじゃったのはキツいな…。

 

そこまで休むつもりなかったのに……。

 

そりゃあデクくんみたいに午後の授業丸々出られなかったのより良いかも知れないけど寝過ごしたせいで結局デクくんにメール返してないし……。

 

 

 

 

 

「あの………、リカバリーガール先生。少しだけメール打たせてもらっても良いですか?すぐ終わるので…」

 

「仕方ないね…。少しだけだよ」

 

「は…はい。ありがとうございます」

 

 

 

リカバリーガールの許可を得て友里絵はスマホを取り出しメールを打ち始めた。

 

宛先はもちろん緑谷だ。

 

 

 

「誰にメールを打ってるんだい?」

 

「デクくん。ここに来て寝ちゃう前にワン・フォー・オールのコツを掴んだってメールが来たんだけど返してなかったから」

 

「え、本当かい?私のところには来てなかったが……。

というか君いつからその呼び方に?」

 

…昨日。デクくんがそう呼んで良いって言うから。メールは多分デクくんにちょっとしたアドバイスしたからかな。でも結局自分でコツ掴んだみたいだから謝罪文も兼ねて送ってくれたみたい」

 

 

オールマイトの問いかけにメールを打ちながら答える。

 

一方、オールマイトにはメールは来ていなかったようで、ワン・フォー・オールのコツを掴んだらしいと聞いてオールマイトは少し驚いていたが緑谷の呼び方が変わっていたことも意外そうにしていた。

 

 

 

 

 

 

「そうか。それは戻って来た時が楽しみだな。ちなみにどんなアドバイスを?」

 

『ワン・フォー・オールを水道の蛇口と思えって』

 

「ブフッ……!」

 

 

 

 

興味本位で聞いたオールマイト。水道の蛇口と言う回答に吹き出してしまう。

 

 

 

「ちょ…っ何で笑うの!?」

 

「い…いや…君も案外ユニークな発想をするなと……っ

(しかも発想が緑谷少年と同じ!!)」

 

「……??」

 

 

オールマイトも友里絵の言葉の意味をすぐに理解したようだが、どうやら水道の蛇口というたとえにツボったらしい。なんとか笑いを堪えようとする。逆に友里絵は何がなんだかよくわからず首を傾げていた。

 

 

 

「…よし、これでオッケーっと……」

 

「メールは送れたかい?」

 

「うん。

ていうかトシおじさん戻らなくて平気?」

 

 

 

メールを打ち終えたところで未だ戻ろうとしないオールマイトに友里絵はいつ戻るのかをそれとなく尋ねた。

 

 

 

「ああ、友里絵が戻るまではそばについていようと思ってね」

 

「別に良いのに…」

 

「オイオイつれないな。こういう時ぐらいは私も最後まで付き合うよ。それにちょっと聞きたいこともあるしね」

 

「私に?」

 

 

 

 

キョトンとする友里絵にオールマイトは静かに口を開いた。

 

 

 

「君……相澤くんに何を言ったんだい?」

 

「え…っ」

 

 

 

まさかオールマイトからそんな質問がくるとは思っていなかった友里絵は動揺してスマホを落とした。

 

 

 

な……何でトシおじさんがそれを…!?

まさか相澤先生がバラした!?

 

 

 

 

「な……なんで……」

 

「少し前に職員室で相澤くんとミッドナイトが話しているのを偶然聞いてしまってね……。君が保健室に運ばれたのを知ったのもその時だよ」

 

 

 

落ちたスマホを拾い上げ友里絵に手渡しながら説明をするオールマイト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実は友里絵が保健室に運ばれて眠りについた後───………

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

成切友里絵…。今年の春に普通科を受験し入学…。

 

資料を見る限り、ヒーロー科を受けることも出来たはすだが、それをしなかったのはやっぱり"個性 "を嫌っているのが理由か……。

 

あれだけ自分の"個性"を嫌って消そうとまで考えてりゃ当然と言えば当然なんだが、"個性"に特に妙な点もなければ消したがる要素もない…。むしろ敵に対して有利と言って良い能力だ……。

 

 

それを何であいつは自分の"個性"をヒーローにはなれないなんて言ったんだ…?

 

そうまでして嫌う理由は一体…?

 

 

 

 

 

 

職員室に戻った相澤はやはり友里絵の言っていたことが気になり資料を取り寄せ調べていたのだ。

 

と、そんな相澤の元にミッドナイトがやって来て声をかけた。

 

 

 

 

「あら相澤くん。ずいぶん難しい顔してるけど何を見てるの?」

 

「ミッドナイトさん…」

 

「成切友里絵って……それ普通科の生徒の資料じゃない。珍しいわね、相澤くんが他の科の資料を見てるなんて。その子がどうかしたの?」

 

「……!」

 

 

 

この時、オールマイトもその場にいた。初めは何かを調べている相澤に気に止めていなかったが彼の持つ資料をミッドナイトが覗き込みながらそう尋ねたのを聞いてすぐさま反応した。

 

 

 

 

友里絵の資料!!?何で相澤くんがそんなものを…!?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええまぁ…。先程その生徒を保健室に運んだんですがその際にちょっと気になる相談を受けまして……」

 

「保健室に運んだって…具合でも悪かったの?」

 

「階段から落ちたんですよ。幸い怪我は足を捻った程度で済んだんですが体調も崩していたようだったので一応連れてったんです」

 

「………っ!?」

 

 

 

 

 

友里絵が階段から!?

 

 

 

 

 

そして友里絵が階段から落ちたという相澤の言葉で動揺し机の上に置いてあった本や書類なんかを落としてしまう。

 

 

 

「……何をしてるんですかオールマイトさん」

 

「あ…ああ。済まない…」

 

 

 

苦笑いを浮かべ、気持ちを落ち着かせながら急いで落ちた書類等を広い集める。

 

 

 

落ち着け……!相澤くんは足を捻った程度だと言っていた。体調を崩していたのは昨日の熱が続いていたんだろう。

 

まだ回復していないのに学校に来るなんて、なんという無茶を……!

 

 

 

 

しかし気になる相談事いうのは一体…?

 

 

 

相澤くんが資料まで取り寄せて調べるほどのこと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………いや、今は友里絵の様子を確認するのが先決だ……!

 

急いで保健室に行かなければ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──というやりとりがあり、オールマイトは何かを察しながらも保健室に向かい駆けつけたと言うわけだ。

 

 

 

 

「まぁ相澤くんも君のことを考えてかそれ以上は詳しく言わなかったけどね……」

 

「………っ」

 

 

 

 

 

迂闊だった……!

 

 

"個性"を消したいだなんて相談…!

 

そんなの不審がられて調べられるに決まってる…!

 

だから相澤先生も私が消したがってる"個性"がどんなものか確かめようとしたんだ……!たとえ相澤先生が他言しずにいてくれてもトシおじさんに知られたら意味がない!

 

 

他の先生と違ってトシおじさんは私の義父なんだから……!

 

 

 

絶対に知られたくなかったのに……!

 

 

 

 

 

 

「──で、彼に何を相談したんだい?」

 

「………別に大したことじゃないよ…」

 

「大したことじゃないなら私にも言えるだろう?そもそも何で担任でもない相澤くんわざわざ相談する必要があったんだい?」

 

「そ……それは…………」

 

 

 

 

絶えず質問をしてくるオールマイトに対し答えられずにいると2限目終了のチャイムが鳴った。

 

 

 

 

「あ…授業終わったみたい……。私もう戻るね…!」

 

「待ちなさい。まだ話は終わってないよ。ちゃんと答えなさい友里絵」

 

 

 

逃げるように出て行こうとする友里絵の手を掴み引き止めるオールマイト。

 

だがそれが良くなかったのか友里絵はオールマイトの手を振り払い震えた声で叫び出す。

 

 

 

「…っいい加減にしてよ!どうせ聞かなくても全部わかってるくせに…!知ってるでしょ…!私に誤魔化しや嘘は通用しないって!」

 

「友里絵……」

 

「ここに来たのも本当は事実確認に来ただけなんでしょ…っ。何が「心配して来た」よ嘘つき……!わかってて私に言わせようとしないで!いくらトシおじさんでも話せないことはあるし、仮に相談したとしてもトシおじさんに話したところで解決なんか出来やしない…!触れて欲しくもないのにズカズカと踏み込んで来ないでよ!トシおじさんのバカ…っ!!」

 

 

 

そう吐き捨てて友里絵は足の怪我も気にせずカバンを持って保健室から飛び出して行った。

 

 

 

「……オールマイト。アンタバカなのかい?」

 

「…面目ない…」

 

 

 

それまで黙って聞いていたリカバリーガールが呆れるように呟き、オールマイト自身後悔の念に捕らわれた。

 

 

 

                                               

友里絵……。やはり君はまだ()()()()を引きずっているんだな……。

 

 

 

 

 

「…確かに彼女の言うとおり、相澤くんに相談したという時点で私には大体の予想がついていました……。恐らく"個性"を消してもらおうとしたんでしょう……。あの子はあの日も"個性"のことで特にひどく悩んでいた……。6年も経っているし普段のあの子を見てもう克服したとばかり…」

 

「そりゃあ簡単にはいかないだろう。あの子にとっては思い出したくもない出来事だったんだ。一度負った心の傷ってのは一生消えることはないんだよ。そうでなくてもあの子の"個性"じゃ克服することさえ難しいんだろう。極力触れてやらないのが賢明さね……。なのに一番気にかけてやらなきゃいけないアンタが追い詰めてどうすんだい」

 

「そう………ですね。すみません」

 

 

 

リカバリーガールに諭され後悔したままオールマイトは小さな声で謝った。

 

 

 

 

「私に謝ってどうすんだい。後であの子にちゃんと謝ることだね」

 

「はい……」

 

 

 

 

友里絵に謝ることを約束しオールマイトも保健室を出て行った。

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
オールマイトと喧嘩をしてしまった主人公。

オールマイトは和解出来るのか。

閲覧ありがとうございました。


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第17話 晴れない心

15話でまた主人公の名前が「読録」になっている所がありました。申し訳ありませんでしたm(_ _)m





 

それからオールマイトが友里絵に謝り二人は無事仲直り……………なんてことはなく、保健室で揉めて以降、二人は顔も合わせることなく1日が終了。

 

というのも、オールマイトが接触を試みるも友里絵の方がそれを避けて会おうとせず、彼からの連絡や呼び出しを恐れてかスマホも電源を切ってカバンにいれっぱなしにしていた。

 

学校を出て帰路についてからも気分は晴れないままだ。

 

 

 

 

 

 

……トシおじさんのバカ……。ちょっとは私の気持ちも考えてよ……。

 

 

 

 

 

 

 

だけど……。

 

 

 

 

 

本当にバカなのは………。

 

 

 

 

 

私自身だ………。

 

 

 

 

これは私の軽率な行動が招いたこと…。

 

 

 

 

 

全部私が悪いのに……。

 

 

あの人は嘘なんかつかない……。

 

事実確認もそうなんだろうけどトシおじさんは本当に私を心配して来てくれただけなのにひどいこと言っちゃった…。

 

 

 

 

 

 

だけどトシおじさんに話してどうこうなるわけじゃないのは事実だし何か変わるわけでもない……。

 

一生忘れることはない…。

 

私はこの苦しみからは一生逃れることは出来ないんだ…。

 

 

 

 

 

自分の抱える闇を解決する糸口がないことへの絶望感や行き場のない苛立ち、それをオールマイトへ向けてしまったことへの後悔。

 

 

様々な思いに押し潰されそうになり気持ちはどんどん暗くなる一方。

 

そんなに自分に嫌気さえさしていた。

 

 

 

 

「……きっともう呆れられたよね…。せっかくトシおじさんとまた話せるようになったのにこれでまた振り出しか……。明日からどうしよう……」

 

 

こんなこと…デクくんにも言えない…。

 

和解したのにまた喧嘩したなんて言えるわけがない…。

 

 

 

 

 

 

ため息をつきあのオンボロアパートに入って行く。

 

 

 

 

 

「あ、成切さん!お帰り!」

 

「よお、帰って来たか」

 

 

 

 

 

中に入ると相変わらず屋内で戦闘を行っていた二人が友里絵に気付いて手を止めた。

 

緑谷に至ってはボロボロになっている。

 

 

 

 

 

…また屋内でやってたのか……。

 

机とかひっくり返ってるし……。

 

 

 

 

 

屋内でやるなって言いたいけど今は怒る気にもなれない……。

 

 

だけど落ち込んでること、トリノおじさん達には悟られないようにしなきゃ……。

 

 

 

 

「た…ただいま」

 

「あれ、成切さん足どうかしたの?歩き方が変だけど…。何かちょっと膨らんでるし……」

 

 

 

 足を庇って歩いていたのと少し膨らんでいたのに気づいて緑谷が尋ねる。

 

 

 

 

 「どうせ目眩でも起こした何かで転んだんだろ?熱があるくせに学校なんかに行くからだ」

 

「いや、これただドジって階段から落ちただけだし…」

 

「か……っ階段から落ちたって転ぶより悪くない!?しかもなんでそんなサラッと…っ!?」

 

 

 

階段から落ちたという事実とあまりにもサラッと答える友里絵に緑谷は驚きの声をあげた。

 

 

 

 

 

「だから熱で朦朧としてたからドジったんだろ」

 

「いいえ、考えて事をしてて踏み外しただけですぅ」

 

「威張って言うんじゃねぇよバカ」

 

「ちょ…っ二人とも落ち着いて…」

 

 

 

 

 

平然を装ったまま友里絵はグラントリノと言い合いを始め、緑谷は慌て二人をなだめた。

 

 

 

 

「………で、身体の方はもう大丈夫なのか?」

 

「あ、うん。もう下がったし平気だよ」

 

「なら良いがオールマイトの奴はこのことを知ってるのか?」

 

「……!ま…まぁ一応…」

 

 

 

 

 

 

……あれ?気のせいかな…。今一瞬成切さんの様子がおかしかったような……?

 

 

 

 

 

気付かれまいと気丈に振る舞っていた友里絵だったが、グラントリノの口からオールマイトの話が出たことで一瞬動揺してしまい、緑谷はそれを見逃さなかった。

 

 

 

 

「また大袈裟に騒いだんじゃねぇか?アイツはお前に関しちゃ甘々だが無茶ばかりしてるとその内本当に怒られるぞ?」

 

「…っっ!!」

 

 

 

何とか必死に耐えていた友里絵だったが「怒られる」というワードにとうとう我慢の限界に達したのか、突然と目から涙が溢れだし止まらなくなってしまった。

 

 

「!?」

 

「え……っな…っ成切さん!?ど…っどうしたの!?」

 

「…っ」

 

 

これには二人ともギョッとし、緑谷が慌てて声をかけるも友里絵は答えずひたすら声を押し殺して泣き続けていた。

 

 

 

「……もしかしてオールマイトと何かあったのか?」

 

こくん…

「……」

 

「え…」

 

 

 

泣き続ける友里絵を見て何かを察したグラントリノが問いかける。

泣いたまま小さく頷く友里絵を見て緑谷は動揺を隠せずにいた。

 

 

 

 

「…すまんが、少し席を外してくれるか小僧。友里絵と二人で話がしたい」

 

「あ…は…はい……」

 

 

 

わけがわからずにいると、グラントリノからしばらく二人きりにしてほしいと頼まれた。少し迷ったものの、今自分に出来ることは何もなく大人しく外へと出ていった。

 

 

 

「…それで何があったか話せるか?言いたくないことは無理に言わなくて良い。話せる範囲で教えてくれ」

 

 

 

 

緑谷を外に出させた後グラントリノは友里絵を椅子に座らせなるべく刺激しないようそっと尋ねた。

 

答えない可能性もあったのだが友里絵は小さく頷いて学校であったことや自分がしてしまったことを素直に話し始めた。

 

 

 

 

「私……"個性"を消してもらおうとしたの……。デクくんの担任の相澤先生に…。

でも………っ見てる間だけしか消せないって私知らなくて……消してもらえなかった……っ」

 

「………」

 

 

 

また泣けてきてしまい上手く話すことが出来なかったが、それでもグラントリノはただ黙って聞いていた。

 

 

 

「そしたら相澤先生……職員室で私のこと調べたって……。資料見て他の先生と話してて、私が話した内容までは言わずにいてくれてたみたいだけど……トシおじさんそれ聞いてて……。それで保健室来て凄く聞かれて………っ」

 

「なるほどな…。あの小僧の担任に"個性"を消してもらおうとしたのを俊典に知られて責められたっつーわけか…」

 

「どうしよう…私トシおじさんにひどいこと言った……」

 

 

 

約10分程かけてようやく全ての説明が終わり友里絵は泣きながら自分のしたことへの後悔とオールマイトに対する不安を口にする。

 

 

 

「その程度のことでアイツが気にするわけねぇだろ。

にしても俊典もバカだがお前もお前だ。何でそんなバカなマネをした?」

 

「だ…だって……」

 

「お前がこの6年ずっと"個性"のことで悩んでいたことも、どうにかしたいと思っていたことも知ってる。だがもうどうにもならねぇってことぐらいお前だってわかってるだろ」

 

「……」

 

 

 

グラントリノに言われて自分でもバカなことをしたとわかっている。

それでも直接言われてしまうとやはり落ち込んでしまい、また黙り込んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

最も、"個性"を消すなんてそんな方法があるとすりゃあ一つしかねぇがそれは友里絵が最も避けたいことだからな…。黙っておくか……。

 

 

こいつに言うのはあまりにも酷っつーもんだ。

 

 

 

心当たりはあるものの、グラントリノはそれが友里絵にとって決して良くない方法ではないと分かっていた。だから口には出さず黙っておくことにした。

 

代わりにある一つの提案を持ちかける。

 

 

 

 

 

「そこで俺から提案だが俊典にもういっそのこと全部話しちまったらどうだ?」

 

「え…っ」

 

「話した所でどうにもならないのはわかってる。だが話すことで気持ちだけでも楽になるだろ。黙ってるから余計に苦しいんだ。愚痴でも良い。辛けりゃ毎日のように俊典に辛いって言っちまえ。愚痴なんて聞かされるのは普通嫌がられるモンだがアイツならちゃんと聞いてくれるハズだ」

 

「………」

 

「この提案に乗るかどうかはお前が決めろ。俺は小僧を呼んでくるからお前は部屋に戻ってろ。まずはゆっくり気を落ち着かせてどうするかはそれから考えれば良い」

 

「……わかった」

 

 

 

友里絵は自室に向かいグラントリノは緑谷を呼びに向かった。

 

 

 

 

 

 

 




偶然か文章が3000文字ピッタリで終わった(笑)


閲覧ありがとうございました。


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第18話 悲しみの裏側で

前書きはなしで第18話へ(’-’*)♪


 

 

 

 

 

 

 

 

…もう15分は経つけどグラントリノさん、まだ話してるのかな…。オールマイトと何かあったって言ってたけどやっぱり気になるな……。

 

成切さんがあんなに泣くほどのことって何なんだろ…?

 

 

 

 

 

体調不良で学校に行ったことを怒られた…とか…?

 

 

 

 

 

 

 

いや……流石にそれで泣いたりはしないか……。仮に成切さんが体調不良なのを隠しててバレたとしてもオールマイトがそこまで怒るとも思えないし……。

 

 

 

 

 

だとしたら他に何が……。

 

 

 

 

 

 

グラントリノに外に出されてから15分間、ずっと入り口前の階段に座り考えていた。自分の思い当たる範囲であらゆる可能性を考えたがどれもいまいちピンと来ない。

 

 

 

 

「小僧もう良いぞ」

 

「あ、話終わったんですね。

それで成切さんは……?」

 

 

 

そこへグラントリノが緑谷を呼びに来た。

 

 

 

 

「とりあえず部屋で休ませてる。どうやら友里絵の奴、オールマイトと喧嘩したらしい」

 

「オールマイトと喧嘩!?何でそんなことに!?」

 

 

 

 

緑谷が心配そうにする中、グラントリノは友里絵がオールマイトと喧嘩をしたことを明かす。二人が喧嘩したという事実に緑谷は驚き、どいうことなのか確かめようとする。

 

グラントリノは少し迷い──……。

 

 

 

 

 

 

……さてどうしたものか…。

 

 

 

 

この小僧にはあのことはまだ話してないからな…。

 

オールマイトからも話は聞いとらんようだし友里絵が"個性"を消そうとしたことは言わない方が良いだろう…。

 

 

 

 

「友里絵が"個性"のことで悩んでいたのを黙っていたことがオールマイトにバレたらしく問い詰められたことで口論になったそうだ」

 

「え…黙っていたってどういうことですか…!?つまりオールマイトは成切さんが"個性"のことで悩んでいるのを知らなかったってことですか…!?」

 

 

 

考えた末、友里絵がしようとしたことは上手く伏せて話すグラントリノ。

それでも緑谷は友里絵がオールマイトに隠し事をしていたということが信じられなかった。

 

 

 

 

「いや……友里絵が"個性"のことで悩んでること自体はアイツも当然知っとるんだが、何故か友里絵にそう言った話をして来ないらしく、友里絵の方も"個性"のことに関してはオールマイトにすら触れられるのを嫌がってて言わずに済むのならと一切相談しなかったんだ」

 

「え…でもグラントリノさんには普通に相談してるじゃないですか…」

 

 

 

オールマイトとグラントリノ。どちらも友里絵の事情を知る人物であり理解者。

 

 

そして友里絵の保護者でもある。

 

 

オールマイトの方は友里絵と6年間離れていたハンデはあるものの、それを入れたとしても条件はほぼ同じ。

 

なのに何故オールマイトには相談出来ずグラントリノには相談出来るのか、不思議で仕方なかった。

 

 

 

 

「いや、普通と思うかもしれんが俺だって普段から相談に乗ってるわけじゃねぇし拒まれる時だってある。相談だってアイツからしてくるわけじゃねぇから結局はこっちから聞くか気付いてやるしかねし話が出来るかどうかは友里絵次第だ。だからアイツが話したくない時は無理に聞かないようにしてる」

 

「そうなんですか……」

 

「ああ。アイツの扱いは難しく特に気を使わなきゃならねぇんだ。だがオールマイトの奴が無理に聞き出そうとしたことで友里絵も我慢出来なかったんだろう。ついムキになって心にもないことを言っちまったらしい。それで落ち込んで泣いちまったってわけだ」

 

「…わかりました。教えていただいてありがとうございます…」

 

 

 

 

 

 

そうか……。だから成切さんはあんなに泣いてたのか……。

 

 

 

触れられたくないことをオールマイトに何度も聞かれたショックと、そのオールマイトにひどいことを言ってしまった自分への嫌悪で……。

 

成切さんがそこまで"個性"のことで悩んでいたなんて……。

 

オールマイトと和解して長い間苦しんでいたのがやっと解放されたと思ったのにまだ完成に解放されたわけじゃなかったんだ……。

 

 

彼女の"個性"事情はまだわからないけどその悩みが解消されない限り苦しみはまだまだ続くんだ……。

 

 

その悩みが早く解消されることを願うけどあとどれくらいかかるんだろう…?

 

 

あとどれくらい苦しめば成切さんは本当に解放されるんだろう……?

 

 

友里絵の本当の気持ちに気付いてやれないばかりか何もしてあげられない自分に緑谷は悔しさともどかしさを感じ拳をギュッと握りしめた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

夜───。

 

 

 

 

 

……今日もあまり職場経験が出来なかったな……。成切さんのことがあったから仕方ないけど………。

 

 

 

初日同様、今日も職場体験は途中で終了になってしまった緑谷。

 

またしても部屋に籠って出て来ない友里絵の心配をしつつ、どうしようかと迷っていた。考えた末、また自主練をしようと一階に降りてきた。

 

 

 

 

「あ…デクくん……」

 

「な…っ成切さん…!?え…っ何してるの!?」

 

「私がまた変なとこ見せちゃったせいで職場体験が中断になっちゃったから謝ろうと思って待ってたの。デクくんのことだからきっと今日も自主練するかと思って……」

 

 

 

するとそこには何故か椅子に座る友里絵の姿がありった。どうやらまた職場経験が中断になったことを謝ろうと思い、緑谷が今日も自主練をすると見越して待っていたのだ。

 

 

 

「え…じゃあまさかずっとここで!?もし僕が来なかったらどうするつもりだったの……!?」

 

「その時は様子見て戻るつもりだったから大丈夫だよ…」

 

「そ…そっか…。だけど職場経験のことは成切さんのせいじゃないから気にしないで…。グラントリノから聞いたけどオールマイトと喧嘩したんじゃ落ち込むのも無理ないと思う…」

 

 

 

いつから待っていたのか気になるところだがはここは敢えて聞かず、ひとまずはずっと待ち続ける可能性はなかったことに安心し、友里絵に気にしないように伝えた。

 

しかし友里絵は首を振った。

 

 

 

「けど聞いて呆れるでしょ…?せっかく和解したのにまた喧嘩しただなんて……。しかも何も悪くないトシおじさんにひどいこと言っちゃって…。メールとかも無視しちゃったしきっとトシおじさんも呆れて私のことなんてもうどうでもよくなってる……。こんなことになるなら最初から和解なんてしないままの方が良かった…」

 

「そんな…!違うよ……!僕は呆れてなんかないしオールマイトだってそんなこと思ったりしない!するハズがないじゃないか…!それに喧嘩するのは悪いことじゃないよ…!あ、いや…悪いんだけど和解したから普通に喧嘩出来るようになったんだし、僕も成切さんと仲良くなれた!和解してなかったら絶対に出来なかったことだよ!」

 

 

 

 

和解しない方が良かったという言葉が耐えられず、つい感情的になり必死に訴えた。

 

 

 

「…クスッ、それ結局喧嘩が良いのか悪いのかわからないじゃない」

 

「…っそ…それはそうだけど…!ごめん…うまく言えなくて……」

 

「ううん、そんなことない。デクくんの気持ち伝わったよ。ありがとう…」

 

 

 

 

緑谷の必死さが伝わり友里絵の表情に少しの笑顔とツッコミを入れる余裕が戻った。

 

 

 

「と…とにかくもう一度オールマイトと話してみなよ。きっと大丈夫だよ。

そうだ、いっそこの際思いっきり愚痴っちゃえばどうかな?溜め込むよりかずっと良いしオールマイトなら愚痴でも受け止めてくれるよ」

 

「それ…トリノおじさんにも言われた。トシおじさんに黙ってるから余計に苦しいんだって。話せば気持ちだけでも少しは楽になれるからって…。だからどうするかずっと考えてた…。

そして決めた…。私トシおじさんに言う……。明日になったら会って謝って辛いこと全部話して悩みを聞いてもらう」

 

「そっか……。僕もそれが良いと思う。頑張って」

 

「ありがとうデクくん」

 

 

 

 

オールマイトに打ち明けることを決めた友里絵。これにより彼女の悩みがひとつ解消されたことになる。

 

緑谷もそんな友里絵に励ましとエールを送った。

 

願わくは少しでも彼女の救いになることを祈る。

 

 

 

「…じゃあ問題が解決したところでデクくんにずっと言いたかったことがあるんだけど」

 

「え、僕に?」

 

「今日の朝たい焼き出したでしょ?」

 

「な…何で急にたい焼きの話に!?

ていうか何でそれを!?」

 

 

 

シリアスな雰囲気から一転、いきなり話はたい焼きへと切り替わった。

その上、何故か朝たい焼きを出したことが友里絵にバレていた。

 

 

 

「何でってデクくんがメールくれたんじゃない。たい焼き温めてたらワン・フォー・オールのコツに気づいたって」

 

「…あ…っ!」

 

 

 

その言葉に緑谷はハッとした。

 

 

 

 

 

そ…そういえばそんなことをメールで送ったっけ……!

 

あの時はただ単に協力してくれた成切さんにワン・フォー・オールのコツが掴めたことを伝えたくて打ったメールだったけどよく考えたら、たい焼きなんて文送ったら自分から成切さんにたい焼きを出したって教えてるようなものじゃないか……!

グラントリノさんから黙ってろって言われたのに何やってんだ僕!!

 

 

 

 

そう、緑谷にとっては何気なく書いたものだったが、たい焼きという文を入れていた時点で友里絵に自分から教えてしまっている。

 

 

 

「気づいてなかったんだ。本当うっかりだね……」

 

「う…うん、一応出せないってことは伝えたんだけどグラントリノさんに黙ってればわからないからって押しきられちゃって…」

 

「そんなことだろうと思った。どうせデクくんの朝食もたい焼きだったんでしょ?ごめんね、やっぱりあの時私がちゃんと朝食準備しとくべきだった」

 

「え…!い…いや、そんな…っ僕なら大丈夫だよ。たい焼き嫌いじゃないし…。

第一、成切さん今日学校で階段から落ちたんだよね…っ?保健室運ばれたとも言ってたし……!」

 

「好き嫌いとか、そういう問題じゃないでしょ。朝食がたい焼きって普通あり得ないから。それに階段から落ちたのだって熱のせいじゃなくて階段を上がってた時に先生に声をかけられて振り返ったら踏み外しちゃっただけだってば」

 

「どっちにしろ朝食の準備やらなくて正解だよ…っ!もしかしたらもっと大変なことになってたかもしれないし成切さんはもう少し自分を大事にしなきゃダメだよ……!」

 

 

 

 

最初はたい焼きを出してしまったことで萎縮していた緑谷だったが友里絵が朝食を作るべきだったと言い出した為、猛反発し、二人はまたしても意見が食い違い言い合いを始めた。

 

 

 

「もう…わかったわよ。

何でデクくんとはこうも意見が合わないんだろ…?ひょっとして私達って相性が良くないのかな…?」

 

「成切さんがむぼ……頑張り過ぎなんだよ…!いつもそれで言い合いになってるし…」

 

「今無謀って言おうとしたでしょ…?」

 

「そ…っそこは聞き流してよ!絶対わざとだよね…!?」

 

 

 

 

 

 

今回も友里絵が譲歩し話は収まった。

 

しかし緑谷が言い直しをしたことを聞き逃さなかった友里絵は敢えて指摘。緑谷が顔を赤くさせあたふたする。

 

 

 

 

成切さんってけっこう意地悪なところがあるな………。

 

 

まぁ…笑顔が戻っただけ良かったけど…。

 

 

 

 

 

『ごめんごめん。でも私がこうして素でいられるのはトシおじさんやトリノおじさん以外でデクくんだけだよ。学校じゃ私はいつも気を張ってるしクラスの人と会話はしてもデクくんみたいに気の許せる人っていないからさ』

 

「あ…」

 

 

 

緑谷は気づいた。友里絵が自分らしくいられるのはオールマイトの娘だと知る人物の前だけだということを。

 

 

 

そうか……。僕がオールマイトと成切さんが家族関係にあることを知ってる人物だから本当の自分を出すことが出来るんだ…。

 

学校には僕以外に秘密を知る人がいないから、周りに気を許すことができないんだ……。

 

 

僕もオールマイトとの関係やワン・フォー・オールのことを知られないようにしなきゃいけないのは一緒だけど、成切さん程気を張り続けてるわけじゃないし僕には普通に友達もいる……。

 

 

同じような境遇なのに僕と成切さんは全然違う……。

 

 

もしかしたら彼女は学校にいてもずっと寂しい思いをしてるんじゃ…………。

 

 

 

 

内容は違えど緑谷と友里絵は同じオールマイトに関する秘密を抱える者同士。隠さなければならないのは仕方のないとしても友里絵が肩身のせまい生活を強いられてしまうことを考えるとあまりにも辛く胸が苦しくなった。

 

 

 

「そんな顔しないで。私にとっては気軽に話せる人が一人いてくれるだけでも十分嬉しいし、クラスの人も私はただ口下手なだけなんだって思ってて孤立してるわけじゃないから大丈夫」

 

「成切さん…」

 

 

 

友里絵は大丈夫だと笑って話すが緑谷は複雑な気持ちだった。それでもかける言葉が見つからず何も言えなかった。

 

 

 

「あ、デクくん自主トレ行くんだったよね。また長々と話しちゃってごめんね。私もう休むから」

 

「あ…う…うん」

 

「あとちなみに、学校にいる人で校長先生とリカバリーガール先生も私のこと知ってるから」

 

「え…っ」

 

「お休み~」

 

 

 

そう言い残し手をヒラヒラさせて友里絵は部屋に戻って行った。

 

 

 

 

 

な…成切さんの秘密を知ってる人他にもいたんだ……。

 

 

だけど何で成切さんは僕がその事を考えいたのがわかったんだ?

 

口に出して言わなかったのに……。

 

 

 

 

あれ……?でも前にも同じようなことがあったような…。

 

 

 

まるで僕の考えを読んだかのように…。

 

 

 

 

 

──もしかして成切さんの"個性"って…。

 

 

 

 

……いや、まだわからない。

 

仮にそうだとしてもあそこまで嫌うのはおかしい……。

 

 

 

今は余計なことは考えないでおこう……。

 

 

 

 

 

友里絵の"個性"について何か気づいた様子だったが確証がなかった為、それ以上は考えずそのまま自主トレへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




執筆しているとどうも眠くなっちゃいますねぇ…(^_^;)

これから少しずつ友里絵の"個性"について触れていきたいと思います。

閲覧ありがとうございました。

ご意見などよろしければお聞かせください。


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第19話 仲直りの前に

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日の朝────。

 

 

 

 

 

 

「あ、デクくんおはよう」

 

「お…おはよう………って、何してるの成切さん!?」

 

「何って朝食の準備だよ。もう終わったからトリノおじさんと食べてね」

 

 

 

緑谷が起きて来ると友里絵が朝食の準備を済ませていた。

 

 

 

 

 

「それはわかるけど朝食の準備は僕がやるから良いって言ったのに…」

 

「それは私が体調不良だったからでしょ?もう元気になったし、また朝食がたい焼きなんてことになったらいけないでしょ?下手したら職場体験中ずっとたい焼きって可能性だってあるし」

 

「そ…それは確かにちょっと嫌かな…。

けどさすがにそんなことはないんじゃないかな…?

そもそも体調不良だったからじゃないし……」

 

「あるから言ってるの。あの人、基本たい焼きばっかり食べてるから」

 

「えぇ~…………」

 

 

 

いくらグラントリノがたい焼き好きだと言ってもさすがに一週間も続けてはないだろうと思ったがキッパリと否定されてしまった。

 

 

そうなると、本当に一週間たい焼き地獄となるかもしれなかった。

 

 

 

『そういうわけだからもしトリノおじさんがたい焼きが食べたいって言ったら絶対食前には出さないこと。出すなら食べた後のデザートかおやつの時ね』

 

「わ…わかった」

 

「本当に絶対だよ。今度こそ約束だからね」

 

「う…うん……」

 

 

 

しっかりと緑谷に念を押す。

 

前回はグラントリノに押しきられ、たい焼きを出してしまっているので今度こそは約束を守らなければと心にかたく誓う緑谷だった。

 

 

 

「そ…それであの…」

 

「……大丈夫だよ。ちょっと怖いしちゃんと話せるか不安だけど、ちゃんとトシおじさんと話するから」

 

「そっか…。オールマイトならきっとわかってくれるよ。頑張って」

 

「…ありがとう。行ってきます」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

オールマイトのことを考えると少し不安になるが緑谷に励まされ友里絵はまた笑みを浮かべ出て行くと緑谷も優しい眼差しで見送った。

 

 

 

 

大丈夫……。成切さんならきっと……。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──大丈夫だと言ったものの……やっぱり会うの怖いな……」

 

 

 

意を決して雄英に来たはいいが、いざ実行しようと思うと勇気が出ず友里絵は弱気になっていた。

 

 

気が重いと感じながらゆっくりと足を進めていく。

 

 

 

 

「……でも私も頑張るってデクくんと約束しちゃったし、有言実行しなきゃね…」

 

 

 

そう言って立ち止まるとスマホを取り出しメールを打ち始めた。

 

相手はもちろんオールマイトだ。

 

 

 

そのオールマイトも浮かない顔でデスクの前にいた。

 

 

 

 

………結局昨日は友里絵と話せなかったな…。電話も繋がらないしメールも返信がない……。

 

やはり嫌われてしまったか………。

 

 

 

 

《メールが来たー!メールが来たー!》

 

 

 

「ん…?メールか…」

 

 

 

そう思ったその時、独特な着信音が鳴りオールマイトはスマホを取り出す。

 

 

「…!

(友里絵から!?)」

 

 

 

"トシおじさんへ

 

ちゃんと話をしたいからお昼に仮眠室で待ってる"

 

 

 

 

友里絵が送って来たメールにはそう書かれていた。これにはオールマイトも安堵の表情を浮かべた。

 

 

 

会ってくれるんだな友里絵………。良かった……。

 

 

 

 

「……っと、早く返信しないとな」

 

 

 

 

 

心からそう思いつつ、直ぐに返信した。

 

 

 

 

 

ピロリン♪

 

 

 

「あ…トシおじさんから返信来た…」

 

 

 

オールマイトからの返信を受け取る頃、友里絵は昨日足を踏み外した階段まで来ていた。

 

怪我のこともあり足を庇いながらゆっくりと階段を上る友里絵。途中で立ち止まりメールを見た。

 

 

 

 

 

"メールありがとう。私もずっと話したいと思っていたよ。君が来るのを私も待ってるよ"

 

 

 

 

「…よし、あとはお昼になるのを待つだけだ……。それまではいつも通りにするとして、とりあえず今はこの階段を無事に上り切って教室に……

っ痛!?」

 

 

 

スマホをしまい再び階段を上ろうと一歩踏み出したその時、突然怪我を負った足に痛みが走り、友里絵はまたバランスを崩してしまった。

 

 

 

 

 

 

──嘘でしょ、また!?

 

 

 

 

 

 

 

二日続けて落ちるとか私バカじゃないの!?

 

 

 

 

 

 

 

けど幸い今日は誰もいないし私だってそう素直に落ちたりしないんだから!

 

 

 

 

 

「………っよっと!」

 

 

 

友里絵はまるで跳び箱で倒立回転するかのように階段に両手をつき、一回転すると怪我をしていない足から見事に着地した。

 

 

 

「…よし!今回はセーフ!」

 

「どこがだ…?」

 

「へ…?」

 

 

 

ガッツポーズをした瞬間、聞き覚えのある声がし、振り向くとまたしても相澤の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

今一番会いたくない人物No.1だ。

 

 

 

 

げっ相澤先生……」

 

「成切……お前怪我した足で一回転着地とかふざけてんのか?

しかも「げ」とはなんだ……。強調までしやがって…」

 

「す…すみません…。

(み……見られてたのか……)」

 

「大体、何でまた階段から落ちてんだ。二日続けてってバカなのか?学習能力のないバカなのかお前は?」

 

「ご…ごめんなさい……急に足に痛みが走って……。

(相澤先生…怖い……)」

 

 

一部始終を見ていた様子の相澤。鬼のような形相で説教を始めた。

 

 

 

 

うぅ~……まさかまた相澤先生がいるなんて…。

 

しかもお説教まで………。

 

 

 

いや、悪いのは私だからお説教されるいいんだけど…………。

 

 

 

 

とにかく早くここから離れたい…!

 

 

 

昨日のこともあり"個性"について聞かれる前にこの場から立ち去りたかった。

 

何か良い方法はないか考える。

 

 

「ったく……。だったら今すぐ保健室に行って来い。今日はまだ時間があるから余裕で行って来れるだろ」

 

「え…」

 

 

が、相澤の意外な言葉に友里絵は驚いた様子で見上げた。

 

 

 

「何だ?」

 

「あ…あの…問い詰めないんですか、私のこと…?」

 

「あ…?問い詰められたかったのか?だったら聞きたいことは山ほどあるからお望みなら叶えてやるぞ?」

 

「い…いえ!聞かれたくないです!聞かないで下さい…!」

 

 

てっきり聞かれると思っていたので、拍子抜けしていると逆に聞いて欲しかったのかと返されて慌てて拒んだ。

 

 

 

「全力拒否か…。いかにも秘密抱えてますって反応だな」

 

「あ…っえっと………っ」

 

 

 

しまったと言わんばかりにハッとする。

 

何かに怯えるかのようにカタカタと震えだした友里絵を見た相澤は小さくため息をついた。

 

 

 

「そんな顔しなくても無理に聞いたりしないから安心しろ」

 

「は…はい……」

 

「わかったんならもう行け。今度はドジるなよ」

 

「も…っもうドジりません……!

…じゃなくて、それじゃあえっと…失礼します…」

 

 

 

オドオドしつつも相澤に一礼し友里絵は保健室に向かって歩き出した。

 

 

 

 

……ちょっと揺さぶりをかけただけであの反応か。やはり何かしらの事情がありそうだな…。

 

 

しかもさっきのあの動き……。

やり方はともかく、あの身体能力は並みじゃない……。体育祭では見なかったが、あんな動きが出来たのか……。

 

ってことは、昨日もやろうと思えば出来たってわけか。やらなかったのは俺がいたからなのか……。

 

どうも周りには隠しているって感じだったしな……。

 

 

 

 

 

……どちらにしろ、あいつが何かしらの事情を抱えていることはこれでハッキリした………。

 

今のところ危険性は感じないが万が一ってこともある。本来ならあいつの言うように問い詰めるべきなんだが、今そうするのは得策じゃない……。あの様子じゃこれ以上聞いたところであいつは喋らないだろうしな……。

 

ただの時間の無駄だ……。

 

 

 

 

「とりあえず様子を見ながら探って行くか……」

 

 

 

 

相澤は去っていく友里絵の後ろ姿を見つめながら密かに探ることを決めた。

 

 

 

 

 

 




中々良い絡ませ方が思い付かず、だんだん無理矢理感が出てきました…(^^;



閲覧ありがとうございました。


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第20話 仲直りには一緒にお茶を


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ありがとうございます(TT)

これからも楽しんでもらえるよう頑張ります!





 

保健室で再度手当てをしてもらったあとは普通に授業を受けた。

 

普通科はヒーロー科のように訓練等はない。本当にただごく普通に机で授業を受けるだけだ。

 

それでも刻は進み約束の昼休みに入った。

 

 

 

……よし、入るぞ…。

 

 

 

コンコン

「と…トシおじさん…?」

 

 

 

仮眠室にやって来た友里絵は扉の前で深呼吸するとノックをした。

 

 

ガチャ…

「…?トシおじさん?」

 

 

 

しかし中から返事はなく扉を開けて中を覗いてみるがオールマイトの姿は見当たらなかった。

 

 

 

 

「まだ来てないんだ…。残念なようなホッとしたような……。

とりあえず座って待ってよ……」

 

 

オールマイトがいないことに微妙な気持ちになるも扉の前に座り待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……りえ、友里絵!」

 

「…ん…っ?」

 

 

 

 

自分を呼ぶ声がし、気づくとトゥルーフォーム姿のオールマイトが心配そうな表情で覗き込んでいた。

 

 

 

「目が覚めたかい」

 

「え…?トシおじさん…?あれ…私…?」

 

「扉の前でうずくまって寝てたんだよ。具合を悪くしてるんじゃないかと思ってびっくりしたよ」

 

「え…っやだ…!私寝ちゃってた…!?」

 

 

 

 

 

それを聞いて慌てて立ち上がろうとした。

 

 

 

「落ち着きなさい。大丈夫、私も今来たばかりだから時間はそんなに経ってないよ」

 

「ほ…本当に?」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

不安そうに見上げる友里絵にオールマイトは安心させるように頷いて見せた。

 

 

 

 

そ…そっか…。一瞬だけ寝ちゃってた感じなんだ……。

 

 

 

 

 

ってそれだけでも十分恥ずかしいんだけど!

 

 

 

 

 

 

「とりあえず一旦中に入ろう。立てるかい?」

 

「う…うん…」

 

 

 

 

 

数分とはいえ眠ってしまったことを恥ずかしく思いつつ手を差し伸べられた手を取りゆっくりと立ち上がるとオールマイトと共に仮眠室に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

仮眠室に入ってすぐにオールマイトは緑谷の時のようにお茶の準備を始めた。

 

 

 

 

「──にしても、あんな所で寝るなんて君、睡眠が足りてないんじゃないか?

そういえば昨日も寝過ごしていたな?」

 

「い…いや…そんなことないよ。大丈夫だから…」

 

 

 

 

………言えない……

 

 

確かに昨日デクくんを待って遅くまで起きてたけど、実はあのあともトシおじさんのことが気になってあまり寝付けなかったなんて絶対に言えるわけない!(汗)

 

 

 

 

 

急須にお湯を注ぎながら寝不足ではないかと指摘するオールマイトに苦笑いを浮かべる友里絵。

 

口では大丈夫と答えているが、バレないかと内心ヒヤヒヤする。

 

 

 

 

 

 

 

「そうかい…?ならいいんだが……。

はいお茶」

 

「うん…。

あ…ありがとう…」

 

 

 

 

 

 

お礼を言って友里絵は出されたお茶をひとまず口にする。

 

 

 

 

 

 

ど…どうしよう………。本当はこんな呑気にお茶なんか飲んでいる場合じゃないのに………。寝ちゃったせいでトシおじさんに謝るタイミングも逃しちゃったし……。

 

 

 

 

会ったらすぐに謝るつもりが寝てしまったことで計画は失敗。しかもそのせいで寝不足じゃないかという話になってしまい完全に脱線していた。

 

 

 

 

 

 

や……やっぱりここは私から切り出すべきだよね…。これ以上は間が持たないしちゃんと謝る為にここに来たんだから。

 

 

 

 

「あ…あの…………」

 

 

 

 

あまりの気まずさと沈黙に耐えきれず自ら切り出そうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

「……昨日は済まなかったな……。君に無理強いをしてしまって…」

 

「え……」

 

 

 

なんと先に話を切り出したのはオールマイト。しかも自分が謝る前に彼の方から謝ってきた為、言葉を失った。

 

 

 

 

「ま…待って。何でトシおじさんが謝るの?悪いのは私なのに…」

 

「いや…悪いのは私の方だ。君が"個性"で悩んでいたことも、その性質も知っていたのに君の様子を見て勝手にもう大丈夫だと思い込んでいた……。それに、あの日の事は君にとっては辛い思い出だから思い出させない方が良いと思って今まで話をしようとしなかった……。だから相澤くんの話を聞いて、いてもたってもいられなくなりつい君の気持ちを無視するようなことを…。本当に済まない…。私がもっと気を配っていればこんなことにはならなかったのに………」

 

「そ…そんなこと…!私がずっと黙ってたのは、言えばまたトシおじさんが気にすると思ったからだし、なによりもう6年も経ってるのに今もまだ悩んでいるなんて知られたくなかったからなの…!もし聞かれてても絶対答えてなかった…!なのに何で怒らないの…?ちゃんと私のこと叱ってよ…」

 

「叱れるわけないだろう。私が昨日、保健室に行ったのは君に事実確認をする為でもあったのは本当のことだし、元はと言えばあの時守ってやれなかった私の責任でもあるんだ。忘れられずにいるのも君の"個性"が関係してるわけだしね…」

 

 

 

もっと自分を責めるよう必死に訴えかけるが、オールマイトが友里絵を叱ることはなく、ただただ優しい言葉をかけ続けた。

 

 

 

 

 

「止めてよ…。そんなこと言われたら私、何の為にここに来たのか……。意味がなくなっちゃうよ…」

 

「意味ならあっただろう?」

 

「え……?」

 

「君とこうして話が出来て仲直りも出来た。

一緒にお茶も飲めた」

 

「…もう、おじさんったら」

 

 

 

 

オールマイトのその言葉に納得したのか、友里絵は涙を浮かべながらそっと微笑んだ。

 

 

 


 

 

 

 

おまけ

 

 

 

 

 

 

 

「あ…でも、やっぱりちゃんと一度謝っておきたい…。ひどいこと言ってごめんなさい」

 

「気にしなくていいって言ったのに。本当に律儀だな」

 

「電話とかも無視してごめんなさい」

 

「あー…それは確かにちょっと(こた)えたかな。本気で嫌われたかと思ってヒヤヒヤした。危うく寝込むとこだったよ」

 

「え……。

(冗談だよね………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、というこで仲直りの回でした。

無事オールマイトと仲直りが出来た主人公。


次回をお楽しみに。


閲覧ありがとうございました。


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第21話 思いをぶちまけて

前話を中途半端なところで区切ってしまい、今回出だしが少し変になってまいましたがどうか温かい目で見てやって下さい(^^;


21話のはじまりです。




 

 

 

 

 

 

「と……ところでトシおじさん……。ここに来た理由は実はもうひとつあるの……」

 

「もうひとつ?なんだい?」

 

「昨日のことちゃんとトシおじさんに話そうと思って…。相談も今後していくつもり…」

 

「え…いや…私も出来れば相談してほしいとは思っていたから、そう言ってもらえるのは嬉しいが別に無理に話そうとしなくていいんだぞ…?」

 

 

 

 

 

友里絵が"今後はオールマイトにも相談すると決めたことを伝える"という、もうひとつの目的を話すとオールマイトは少し戸惑いを見せた。

 

 

 

「ううん……私がそうしたいの……。昨日トリノおじさんやデクくんに言われたんだけど、溜め込むから余計辛くなるんだって……。トシおじさんなら必ず聞いてくれるから愚痴でもなんでもいいから話すべきだって……。だから私もそうするべきだなって思って……」

 

「ちょ………っちょっと待ってくれ。今トリノおじさんと言ったか!?」

 

「あ」

 

 

 

トリノおじさんという言葉に反応したオールマイト。まだ緑谷から聞いていなかったらしい。

 

友里絵もしまったと言わんばかりに口に手を当てた。

 

 

 

 

「そう言えば以前居場所を聞いた時、知らない方がいいと君は言っていたな……。急に緑谷少年の呼び方が変わっていたり彼にアドバイスをしたとも話していたが、じゃ…じゃあまさか君は今先生のところで暮らしているのかい!?」

 

「えっと…まぁ…そういうこと…。

(…デクくんまだ言ってなかったんだ……。職場体験中だから仕方ないか…)」

 

 

 

 

緑谷に言ってもらうつもりが自ら暴露してしまう結果になり、もう苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

「一体いつから!?その様子だとごく最近というわけでもなさそうだが、まさか私の元を去ってから今までずっと!?」

 

「う……うん。私が黙って出て行こうとした時、私がそうするってトリノおじさん感づいてたみたいで、私を一人にさせておくわけにはいかない、トシおじさんに言わないでいてやるから自分の家に来いって(提案)されたの。じゃないとトシおじさんにバラすって言われて…それでトリノおじさんのところでお世話になることに……」

 

「…ハァ……通りで先生に友里絵がいなくなったと伝えた時、やけに落ち着いていらっしゃるとは思ったが……そういうことだったのか……。

提案って字が違ってるぞ友里絵……」

 

 

 

グラントリノが実は全て知りながら敢えて知らない振りをしていた事実をここに来てようやく知ったオールマイト。彼自身思い当たる節はあったようで軽く脱力し溜め息をついた。

 

 

 

「…しかし、それなら何でもっと早くそれを言ってくれなかったんだ友里絵。私に謝りに来たことはともかくとして、決意の報告をする前にまずそっちを先に話すべきだろう」

「や……だってトシおじさんトリノおじさんのこと怖がって話したがらないじゃん。ずっと避けてるの知ってたし絶対嫌がると思って言いづらくて…。

デクくんからもう聞いてるとも思ってたし……」

 

「そういう問題じゃないだろう。ちゃんと言わなきゃダメじゃないか。度が過ぎるとどうも君は気の遣い方を間違えるな。

あと緑谷少年を頼るんじゃない」

 

「……」

 

 

 

 

 

今回のことはさすがに見過ごすことが出来ないと、初めて友里絵に対し叱責したオールマイト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると───……。

 

 

 

 

 

 

「……何で笑っているんだい?」

 

「あ…ごめん。やっと私のこと怒ってくれたなって。トシおじさんなかなか私に怒ってくれないから嬉しくて(笑)」

 

「コラ君、反省してないだろ?」

 

「してるしてる♪』」

 

 

 

怒られているのにも関わらず何故か笑っていた友里絵。どうも叱ってもらえたことが嬉しかったらしい。その回答にオールマイトはまた溜め息をつく。

 

 

 

 

「全く……怒られて喜ぶって相当奇天烈だぞ。

大体私だって怒る時は怒る」

 

「ん、安心した♪」

 

「だから嬉しそうにするんじゃない」

 

「はーい♪」

 

「……………」

 

 

 

 

 

オールマイトの気苦労はもうしばらく続きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「───で、話は反れちゃったけどおかげで少し気が楽になったから落ち着いて昨日のこと話せるよ。おじさんの考えてる通り、私は相澤先生に"個性"を消してもらおうとしたの…。私はこんな"個性"いらないし、使うつもりもないもん……。今までも、これからもね……。だから相澤先生にもヒーローになるつもりはないって言った……。だけど私は相澤先生の"個性"が見ている間だけだってことを知らなかったからすごくショックを受けたの…。"個性"のことはもう諦めるしかないんだろうけど気持ちだけは全然晴れなくて…」

 

「そうか……。

しかし、まぁ…そうだな……。君の"個性"については今後どうするかゆっくり考えて行こう。私ももちろん出来る限り力になるよ」

 

 

 

 

 

 

友里絵は宣言した通り、オールマイトに昨日のことや今抱えていることを全て正直に話した。

 

オールマイトはその話を真剣に聞き、力になると約束した。

 

 

 

 

 

 

「うん、ありがとう。

ただ……………」

 

「ただ……?」

 

「その相澤先生、私のこと調べてたってトシおじさん言ってたじゃない…?今朝も相澤先生にバッタリ会っちゃって……。その時は深く聞いては来なかったけど、不審に思われてはいるだろうし、もしかしたらこの先も探りを入れられるかも……」

 

「うーん……確かにそれはあるかもしれないな……」

 

 

 

 

 

自らした行動のせいで新たな不安要素を作り出してしまう結果に。

 

友里絵は深く後悔し俯いた。

 

 

 

 

「ごめんなさい……私が安易に相談なんかしたから……」

 

「いや…仕方ないさ。いつかは話さなければならない時は来るだろうし……。

とりあえず、その時が来るまでは隠したままにしておこう。もし何か聞かれても君は誤魔化すんだ。私も一応彼のことは注意しておくよ」

 

「うん………」

 

 

 

俯いたまま申し訳なさそうに謝るが、その行動についてはやはり強く責めることは出来ず、優しい言葉でシラをきり通すように伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

……すまない友里絵…。本当はもう一つ君に言わなければならないことがあるんだが、今それを話せばまた君を苦しめてしまうことになる…………。

 

だからその話はまた機会を見てするとしよう……。

 

 

 

と、実はオールマイトには別件で胸に秘めていることがあったのだが友里絵のことを考え今伝えることはせず、ひとまず話を切り上げることにした。

 

 

 

 

「さてと……これで一通り話は出来たかな」

 

「ん、私の方は話しておきたいことは全部言えたよ。トシおじさんは他に何か聞きたいこととかある?」

 

「聞きたいことか……。

…あ、そういえば職場体験の期間中、君はどうすることになってるんだい?職場体験なら外回りはやるだろうし1日、2日帰って来ないことだってあり得る…」

 

「あー……どうなんだろ?それに関してトリノおじさんから連絡や指示は受けてないし、多分一人でお留守番になるんじゃないかな?」

 

 

 

もし職場体験によって自分一人だけになってしまう場合については友里絵も特にグラントリノから何も言われておらず、少し考えて留守番ではないかと呟いた。

 

 

 

 

「………!そ…っそれはダメだ!」

 

「え……っど…どうしたの急に…?」

 

 

 

その途端、突然声を荒げたオールマイト。

 

友里絵もこれには流石にビクッとして驚いて彼を見る。

 

 

 

「あ……いや…その……アレだ。 年頃の女の子が一人で留守番なんていろんな意味で危ないだろう?先生も君を一人にしない為に側に置いているのに一人で留守番なんてしたら意味がなくなるじゃないか。何なら職場体験期間だけでも私のところに来ないか?」

 

「んー……でも大丈夫じゃない?私も次の日には学校に行くから実際一人になるのは夕方から翌日の朝だけなんだし。夜もちゃんと戸締まりとかするしさ」

 

「しかしだな……」

 

 

 

 

 

どうする……?やはり今あのことを話すべきなのか…。

 

 

 

 

 

 

そう……。オールマイトがここまで心配するのには先程伝えられなかったことが関係している。

それによって引き起こされる、オールマイト自身も考えたくない"ある可能性"を危惧しているのだ。

 

その為には友里絵を一人にさせておくわけにはいかない。

 

 

 

 

「…そんなに心配なら一応トリノおじさんに聞いてみるけど………」

 

「あ……ああ、そうしてくれ。先生と連絡を取れたら教えてくれ」

 

「わ…わかった」

 

 

 

 

 

一度グラントリノに確認をとることで話はまとまった。

 

 

 

オールマイトが友里絵に伝えれないこととは一体何だったのだろうか?

 

 

 





閲覧ありがとうございました。

悩みを全て打ち明けた主人公ととにかく主人公を心配するオールマイト。

原作だと既に保須事件手前辺りになるので、オールマイトが何を心配しているのか想像がつく方もいらっしゃるかと思います。

次回をお楽しみに!





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第22話 よみがえる悪夢

前回オールマイトが何を恐れていたのかが分かるお話です。






 

その日の夕方。

 

 

つまり職場体験三日目。

 

 

時間はPM5:00。

 

 

グラントリノの元で相変わらず屋内で実践訓練を受けていた緑谷は5%の状態を維持を意識しつつ応対していたが最終的にはボコボコにされ壁に逆さまになって倒れていた。

 

 

「ん━━…これくらいにしとくか。これ以上やると同じ戦法の奴(おれ)と戦うと変なクセがつくかもな…」

 

「クセとか以前にまだまだ慣れが足りないです。もっとお願いします!」

 

「いや……十分だ。コスチュームに着替えろフェーズ2へ行く」

 

「へ……?」

 

 

慣れが足りないからともっと指導を希望するもいきなりコスチュームに着替えるよう指示を出され、緑谷は一瞬キョトンとするも言われるままに着替え始めた。

 

 

 

 

「つーわけで、いざ敵退治だ!」

 

「ええ~~~~いきなりですか!!?」

 

 

 

 

 

と、まるで買い物にでも行くようなノリで言われた。

 

 

 

 

「俺とばかり戦ってると全く違うタイプへの対応でつまずく!次は様々なタイプと状況の経験を積むフェーズだ!そもそも職場体験だ。敵退治をするのは当たり前だろ」

 

「仰ることはごもっともですけど…。こう突然だと心の準備が…」

 

「敵との戦闘は既に経験してるんだろ?それにそんなでかい事件(ヤマ)には近づかんさ。ちょっと遠出する」

 

「え…でもそれじゃあ成切さんはどうするんですか?もうすぐ帰って来る頃だし…」

 

 

 

手を上げタクシーを止めているグラントリノに、この後帰って来るだろう友里絵のことを尋ねた。

 

 

 

「ああ、それならあいつにはオールマイトのどこに行っててもらう。あいつをここに一人残すわけにはいかんからな。それに一緒にいさせれば少しは話し合いも出来るしな。小僧、あいつにそう連絡入れとけ」

 

「わ……わかりました……」

 

 

 

 

 

グラントリノ…本当急に言い出すな……。

 

 

ていうか何で自分で伝えないんだろ…?

 

 

 

 

 

そんなことを思いながらも友里絵に連絡しようとスマホを取り出す。

 

 

 

 

……あれ、成切さんからメール来てた。

 

 

 

 

 

 

 

"デクくんへ

 

職場体験中にごめん。邪魔になるといけないからメールにしたんだけどトリノおじさんに職場経験の期間中、私はどうしたらいいか聞いてくれないかな?トシおじさんも心配してて確認して欲しいって言うから……。

 

あ、トシおじさんにはバレたからもう言わなくていいよ"

 

 

 

 

 

 

メールの内容には今正に連絡しようとしていたことが書かれていた。

 

ついでにグラントリノのところにいることがバレたことも書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

あ、オールマイトにバレたんだ………。

 

 

でもまぁ…それは、それで良かったかな……。

 

 

 

 

 

 

………って、このメール二時間も前に来てる!!早く伝えてあげなきゃ!!

 

 

 

 

 

そのメールが送られて来たが二時間も前だと気付き慌てて返信を送った。

 

 

 

 

 

 

《~♪》

 

 

 

 

 

「あ、デクくんかな?」

 

 

緑谷が送ったメールはすぐに友里絵の目に止まった。スマホを手に持っていたところ、ずっと彼からの返信を待っていたようだ。

 

 

 

「えっとなになに…?

"返信遅れてごめん!これから敵退治に行くところで、グラントリノはオールマイトのところに行っててもらうって……"

えぇぇぇ~っ!!?

 

 

 

 

 

 

メールの内容を見て絶句した。

 

 

 

 

えっちょ………っ何それ、嘘でしょ!?

 

そんないきなり!?

 

しかも今からって言うの遅すぎじゃない!?着替えとか何もないのに普通もっと早く言うべきでしょ!

 

 

 

 

 

着替えとかどうすんの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう!何考えてんのトリノおじさん!」

 

 

 

 

 

呆れ対象は遅れてメールを送った緑谷ではなく、いきなりそんなことを決めたグラントリノである。

 

職場経験中なのだから緑谷がすぐにメールを確認できないことぐらい友里絵も分かっていたからだ。

 

 

 

 

 

 

「……仕方ない。トシおじさんに相談に行こう…」

 

 

 

ハァッと大きくため息をつき、オールマイトの元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

……とはいったものの、トシおじさん急にお願いして大丈夫かな……?

 

 

まぁ…最初自分のところに来るように言ってたぐらいだし、多分ダメとは言わないだろうけど、一度断った手前……頼みづらいな。

 

でもトリノおじさん(実際はデクくんだけど)に連絡ついたら教えるよう言われてるしな……。

 

憂鬱だ…………。

 

 

 

 

 

気が進まないが連絡がつき次第教えると約束をしてしまっている以上、破るわけには行かず仮眠室に向かって一歩一歩歩いて行く。

 

 

 

 

……ん?あれ……使用中の札がかけてある……?

 

 

 

仮眠室の前まで来たところで扉に使用中という札がかけてあることに気づいた。

 

 

 

 

 

 

ここ滅多に使われない場所なのに珍しいな……。

 

それもこんな時間から………。

 

 

 

あ…でもデクくんとここで話をする時も札をかけてたから、もしかしたらトシおじさん誰かと会ってるのかも…。

 

それなら終わるまで待つしか……。

 

 

 

まだオールマイトと和解する前、何度か仮眠室の前に来ていた時に札がかけてあることがあったのを思い出し、そう考えた友里絵が扉から離れようとしたその時だった。

 

 

 

「………だからその時は友里絵を保護して欲しい……」

 

『………………え?』

 

 

 

 

中からオールマイトのそんな会話が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

え…………何?

 

 

私を保護……?

 

 

 

 

 

 

会話の内容に戸惑いつつ、いけないと思いながらも扉に耳を当てた。

 

中からはオールマイトと若い男性の声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

「それは構わないがオールマイト……。君はそれでいいのか?彼女の気持ちも考えてやるべきなんじゃないか?」

 

「わかっている……。しかし、もし君の言った通りなら、このまま行けばまず闘いは避けられないだろうし、私もいつまでもあの子の側にはいられない…。そのことを友里絵に話すべきではないかとさえ思っているんだ…。彼女は6年前に負った心の傷が癒えずにいる……。なのにあの男が生きて再び動き出したなんて知れば友里絵はまた……」

 

『……っ!!』

 

 

 

 

 

 

聞こえて来た内容に友里絵は驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おじさん今何て言ったの………?

 

 

 

 

 

 

 

あの男が生きていた……?

 

 

 

 

 

 

 

再び動き出したって何………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6年前…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が負った心の傷……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか………………っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

何で…っだってアイツはトシおじさんが倒したハズじゃ………っ

 

 

 

 

 

「あ…っ」

 

カタンッ

 

 

ひどく動揺し後退りしようとして足がもつれて倒れ込んだ。当然それは中にいるオールマイト達にも聞こえ………。

 

 

「……!誰かいるのか!?」

 

 

 

若い男性が勢いよく扉を開けた。

 

 

 

「ゆ…っ友里絵!?」

 

 

 

青ざめた表情で座り込んでいた友里絵の姿を見たオールマイトが驚いて近づく。

 

 

 

「友里絵って…君が話していた娘さんか!?」

 

「な……何で君がここに……っまさか、今の話を聞いて………っ」

 

「と…トリノおじさんに連絡がついて……トシおじさんのところに行くように言われて………それで報告しにここに来たら話が聞こえて………」

 

 

 

 

青ざめたままここに来た経緯を話す友里絵。その声は震え、次第に体まで震え出す。

 

 

 

「い…っ嫌…………嫌………っ!嫌ぁ………っ!」

 

「……っ」

 

 

 

頭を押さえてひどく怯え出す友里絵をオールマイトはギュッと抱き締める。

 

 

 

 

 

 

まさか友里絵が来ていたなんて……っなんてタイミングだよ全く……!

 

 

 

 

 

友里絵がこの場に居合わせていたことはオールマイトにとっても想定外だった。

ずっと話せずにいたことが望まぬ形で伝わってしまい友里絵を抱きしめたまま歯を強く噛みしめた。

 

 

 

 

 

 

「すまないが塚内くん…。今日はこの辺にしてもらえないか……?」

 

「その方が良さそうだな…。彼女もひどく動揺しているようだし、君がしっかり責任を持ってケアしてあげることだ」

 

「ああ…………」

 

 

 

塚内と呼ばれた若い男性。以前オールマイトが話していた親友の警察官だ。

 

友里絵の怯え切った姿に彼もこれ以上の話し合いは無理だと判断し、塚内は一足先にこの場を立ち去った。

 

 

 

 

 

「……私達も中に移動しようか…。

放課後とはいえ、ここにいては目立ってしまう………。立てるかい…?」

 

「…………」

 

 

 

 

友里絵は怯え切っていて問いかけに答えない。

 

 

 

 

「ちょっと失礼するよ…」

 

 

 

 

周りに誰もいないことを確認しマッスルフォームになると震える友里絵を抱き上げ一旦仮眠室へと連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 




今更ですがこの作品は原作を見ながら制作しております。

なので原作に沿ってる部分のセリフやモノローグなんかは原作と同じようになっております。…や!の数とかも。


オールマイトが恐れていたのはオール・フォー・ワンのことでした。

ただし、原作ではまだ「オール・フォー・ワン」というセリフは出てこないので、それに原作で「オール・フォー・ワン」というセリフが出るまでは名前は出さず「あの男」や「奴」などで表記させていただいております。

原作でオール・フォー・ワンの名前が出るのはまだ先ですからねぇ……。



閲覧ありがとうございました。


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第23話 見えない恐怖とホームステイ

タイトルにあるように主人公がオールの家に行きます。

(タイトルセンスねぇなぁ……)


※作中では向かうまでの話になっております。




が、オールマイトの家が何処にあり、どんな家に住んでいるのかわかりません。


なので今回の作品は全て作者の想像や勝手な設定となります。

ご了承ください(^_^;)





 

友里絵を連れて中に入ると普段自分が座っているソファーに下ろし座らせた。その間も友里絵は震えているだけで一切喋らない。

 

 

 

 

 

 

 

「……奴のこと…黙っていて悪かった…。本当は昨日にでも伝えれば良かったんだが、まだ確証があるわけでもないし悩みを打ち明けたばかりの君に追い打ちをかけてしまうと思って言えなかった……。もう少し落ち着いた頃に伝えるつもりだったんだ……」

 

 

 

 

マッスルフォームからトゥルーフォームに戻ったオールマイトは友里絵の隣に座り頭を撫でながら黙っていたことを謝った。

 

 

するとずっと黙っていた友里絵が小さく口を開いた。

 

 

 

 

 

「何で……?アイツはトシおじさんが6年前に倒したんじゃなかったの……?」

 

「……確かに私は6年前に奴を倒した……。しかし奴は生き延びていたらしいんだ……。そのことを知ったのも最近でね……。さっきもう一人ここにいただろう…?彼が前に話した私の友人の塚内くんだ…。奴の生存の可能性について聞いたのも彼からなんだ……」

 

「そう…なんだ……」

 

 

 

 

オールマイトが事実を知ったのは今から2日前。

 

その情報をくれたのが先程いた塚内だった。

塚内は2日前にも尋ねて来て、わざわざ伝えてくれたのだ。

 

 

 

 

 

 

「……わかった。

けど別に気にすることないよね…。アイツが生き延びてたんなら今まで以上に気をつければいいってだけじゃない……。トシおじさんももう撫でてくれなくて良いよありがとう…。取り乱してごめんね…。私はもう大丈夫だから……………」

 

「友里絵…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

撫でる手を止めるように言う友里絵。

笑って見せてはいるが手はまだ震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

………大丈夫なんて言って……。

まだ震えているじゃないか……。強がって笑っているのがバレバレだよ全く…………。

 

 

 

 

 

「だけどトシおじさん……。お願いだから自分が死ぬみたいなこと言わないで…。いなくなったりしないでそばにいて……。もうあんな思いするのも、トシおじさんがいなくなるのも嫌なの……」

 

「…………」

 

 

 

 

弱々しく必死な訴えを聞きオールマイトは黙り込んでしまった。

 

 

 

 

 

友里絵にここまで辛くて悲しい思いをさせるなんて……。

 

 

これ以上悲しい思いをさせたくないとか言っておきながらこの様とは……。父親として失格だな……。

 

だがいつまでいられるかわからないのも事実……。だったらせめて少しでも友里絵を安心させる言葉を……。

 

 

 

 

 

「……十分気をつけるよ」

 

 

 

 

 

 

考えた末、その一言がオールマイトが今言える精一杯の返答だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もし死んだりしたら絶対許さないから………」

 

「それは……大変だな……」

 

 

 

更なる追い込みと厳しい念押しにオールマイトは苦笑を浮かべた。

 

相当努力が必要になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

「えっと……それじゃあ私はタクシーを拾ってくるよ。君はここで待っててくれるかい?」

 

「…?タクシー…?」

 

「先生に言われて私のところに来るんだろう?今からじゃ車も借りれないし」

 

「え……おじさんって運転出来るの…?

ていうかタクシーとか使うことあるんだ……?」

 

 

 

 

タクシーを拾うと言っただけで何故か非常に意外そうな表情をされた。

 

 

 

 

 

「君……私を何だと思っているんだい?

私だって車の運転やタクシーに乗るくらいするよ…?」

 

「え…だってトシおじさんって自分でどこへでも一瞬で飛んで行けちゃうじゃん……。海渡って外国に行けちゃうそうなくらいの勢いで…」

 

 

 

真顔で答える友里絵。

ここである漫画のキャラクターが背景に浮かび上がる。

 

 

 

 

「あのね…私はどこかのマッハ20の超生物じゃないぞ……?さすがに海は渡れないし……」

 

「スピードだけならトシおじさんもトリノおじさんも似たようなものでしょ……。

あと、海は渡れないって言うけど北海道は普通に飛んで行くじゃん…。私知ってるんだからね…?」

 

「いや……北海道と海外じゃ距離が違いすぎるし、それ以前にまず君を連れて飛べるわけないだろう」

 

「…あ、そっか………」

 

「……(汗)」

 

 

 

わざとやってるんじゃないかと思うくらいのやりとり。

 

最後はオールマイトの指摘で「言われてみれば」みたいな表情になった。

 

 

 

 

 

……これ、素でやってるんだよな……?奴のことを知って気持ちは沈んだままのハズなのに……。

 

 

 

先生と長く一緒にいるからか、感じが似て来ているような気もするし……。

 

 

 

まぁ………ずっと沈んだままよりかは良いか………。

 

 

 

 

 

友里絵の言動に呆気に取られる一方で少しの安心感。

 

 

何とも言えない気持ちになった。

 

 

 

 

 

「…けど考えてみたら急に決まったから着替えとか何の準備もしてない……」

 

「あ…確かに……。なら一度先生の自宅に向かうかい?もちろん私も付き合うよ」

 

 

 

 

急に決まったホームステイ。準備なんてしているわけがない。

かと言って手ぶらでは行けずどうしたものかと悩んでいると、オールマイトからまさかの提案をされた。

 

 

「え…一緒に来るの…?大丈夫…?」

 

「まぁ今なら先生もいないからね」

 

「いや……そっちじゃなくて一度トリノおじさんの家に向かうってことはつまりトシおじさんはただ行って戻って来るだけってことだよね……?それだとお金が無駄になるから行くなら私一人で行って来るよ…?」

 

「…何の心配をしてるんだ君は……。

というか子供がそんな心配しなくていいの(汗)」

 

 

 

 

 

が、お金が勿体ないという理由で遠慮された。

 

 

当然そんな理由でオールマイトが頷くハズもなく……。

 

 

 

 

「大体、あの男の生存の可能性を知ってしまった今、一人で行って来れるのかい?」

 

「……………」

 

 

 

 

 

その問いかけに友里絵は再び黙ってしまう。酷な言い方ではあるが、友里絵のことを思えばそれも仕方のないことだ。

 

 

 

 

 

「まぁ…それはちょっと気にし過ぎかもしれないが、どの道そんな顔をしている君を一人にはさせされないよ」

 

「…じゃあトリノおじさんの家には行かなくて良いから服とか必要なものだけどっかで買いたい…」

 

「わかった…そうしよう」

 

 

 

 

未だに青ざめたままのそんな状態では放っておくことは出来ない。その思いを伝えると友里絵も聞き入れるしかなく頷いき、買い物だけはしたいとお願いした。

 

 

 

 

 

「あ…お金は自分で出すからね?父親なんだから買ってあげたいとか思わなくていいから……」

 

「…本当、そういうとこは最後までブレないな……」

 

 

 

 

 

 

 

 




オールマイトがタクシーを使うとしたらトゥルーフォームの時ですかね?

車の運転については原作でも一応あったので運転免許はあるでしょうね(笑)

そして主人公、恐怖に怯えていても天然発言。100%ネタです。

閲覧ありがとうございました。


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第24話 親として出来ることを

朝起きましたら誤字報告を下さった方が見えました。ありがとうございましたm(_ _)m

今回はオールマイト宅にやって来た主人公の様子と保須事件が起こる手前のお話になります。


そんなこんなで、いろいろありながらもオールマイトと共に無事に帰宅。必要な物も来る途中で全て買い揃えることが出来た。

 

 

 

 

「思ったより遅くなってしまったな…」

 

「ごめん……私が買い物行きたいって言ったから……」

 

 

何気なく呟いた言葉だったが、友里絵は本気で捉えてしまったのか小さな声で謝って来た。

 

 

 

 

「そういう意味で言ったんじゃないよ。気にしなくていい。それより急いで夕食にしよう。何か食べたい物あるかい?出前でも……」

 

「ううん、いい…。いろいろあって疲れちゃったし今日はもう休む……」

 

「友里絵………」

 

 

 

 

夕食はいらないと友里絵は首を振った。親としてはちゃんと食べさせたいところなのだが、あまり無理強いもさせられず心配そうに見つめるしかなかった。

 

 

 

 

「あ…でもトシおじさんのは私が何か作るよ…。トシおじさんって今は普通のご飯で大丈夫だっけ……?柔らかい物じゃないとダメとかある…?」

 

「あ…ああ…量とか多少なりに制限はあるが柔らかい物じゃないとダメとかはないよ。ただ、別に友里絵がそこまですることはないぞ?怪我だってしているんだし私のことは良いからゆっくり休みなさい。ヘッドはあっちにあるし、他にも家にある物なら自由に使ってくれて構わないから」

 

 

 

それでもオールマイトの夕食だけは作ろうとしたので、気にせず休むように言った。寝室の場所も教え自由に使って良いとのことらしい。

 

 

 

「え…私がヘッド使っちゃったらトシおじさんが寝られないんじゃ……。毛布だけくれればソファーか床で寝るよ…?」

 

「また君は……。年頃の女の子がソファーや床でなんてダメに決まってるだろう。たまには素直に聞き入れなさい」

 

 

 

 

平然とソファーか床で寝ると言う友里絵に、オールマイトもさすがにそれは首を縦には振らず断固拒否した。

 

 

 

「…むぅ…わかった……。とりあえずシャワーだけ浴びたいんだけど浴室ってどこ……?」

 

「何でそんなに不満そうなんだ君は……。

浴室はそこを入ったところにあるよ。タオルも置いてあるから」

 

「ん………」

 

 

 

 

少し不満気にしていたが、渋々聞き入れ、浴室の場所を聞くとすぐに向かって行った。

 

 

 

「全く…気を遣うのは悪いことじゃないんだが、まさか平気でソファーや床で良いなんて言うとは…。やっぱり友里絵には一度自分のことも考えさせるようにしないと…。

本当……子供を躾るというのは難しい」

 

 

 

 

 

オールマイトはやれやれという感じで一息つくとスマホを取り出しどこかに電話をかけた。

 

 

 

「…もしもし、私だ。さっきは済まなかったな塚内くん…。忙しい中来てくれたのに…」

 

「いや、気にしていないさ。あの場合はやむを得なかっただろうし」

 

 

 

かけた相手は塚内だ。話の途中で帰ってもらったことに対する謝罪をする為だった。

 

 

 

「それで彼女の様子は…?」

 

「…気丈に振る舞ってはいるが、かなり無理をしている感じだな…。タクシーの乗った辺りからはずっと黙り込んでいたし、今も疲れたからと食事も摂らずにシャワーを浴びに行ってしまったよ……」

 

 

 

 

塚内も友里絵のことを気にかけていたようで様子を尋ねた。オールマイトは先程のやりとりも含め今の状態を話す。

 

 

 

 

 

「そりゃあ彼女にとってトラウマとも言えるあの男の生存の可能性を知ってしまったんだ。無理もないだろう。その上、君の口から彼女とは別れることになるかも知れないという遺言のような言葉を言われたら尚更だろうな」

 

「そ…それについては何も反論出来ないよ…」

 

「君の言いたいことはわかる。けど、君がいなくなれば彼女は今以上に傷つき悲しむことになるんじゃないのか?彼女の為にもやっぱり君はいなくなるべきじゃない。そのことをもう一度よく考えた方が良い」

 

「ああ……わかっているよ……」

 

 

 

いくら友里絵のことを思っての事とはいえ、自分の言動がどのような事態を招くことになるのかをオールマイトに諭すように話す塚内。

オールマイト自身もそれはわかっていたのだが難しい顔をしていた。

 

 

 

 

「ところで、その彼女のことで聞きたいことかあるんだが、彼女の"個性"は予言のようなことが出来る能力だったか?」

 

「いや……そんなことはないがどうしてだい?」

 

「実は随分前に匿名で女性からあるコンビニで強盗だという通報があったんだが、我々警察が駆けつけたと同時に強盗がやって来たんだ。つまり犯人を未遂で逮捕出来たというわけだ。それ以降も度々同じような通報があり、その全てが未然に終わってる」

 

 

 

ふと友里絵の"個性"について尋ねられ理由を尋ねたところ、塚内は実際にあった通報のことを話した。それによると、通報は匿名の女性からで、まるで犯行を予言するような内容だったらしい。起きてからの通報ではなく、起きる前の通報。警察も半信半疑だったが、その後も何度か同じような通報があり、その全てが未然に防げていた。

 

 

だが、通報して来たのが女性というだけで友里絵との関連性は見当たらない。

 

 

 

 

「そんなことが………。

しかしそれと友里絵とどう関係が?」

 

「今日雄英で彼女と対面した時に気づいたんだが通報してきた女性と声が似ていたんだ。それと、これはコンビニの店員に聞いた話なんだが、来店した女性からいきなり警察を呼ぶように言われたらしい。その女性と言うのが"雄英の制服を着た藍色髪のフード女性"だったそうだ」

 

「…………」

 

 

 

 

フードに雄英の制服。加えて藍色の髪。

 

これはもうほぼ間違いないだろう。

 

 

 

 

「最も、その時店員は本気にしなかったそうだから自ら通報したってところだろうな。ただ、その女性の活躍はそれだけに止まらず電車で女性に絡んでいたチンピラの男を素手で締め上げたらしい」

 

「…チンピラのことについては私もわからないが、通報した女性はまず友里絵で間違いなさそうだな……。

コンビニ強盗に関しては恐らく予言ではなく何かの拍子に偶然相手の思考を読み取ってしまったんだと思う……。彼女は見た相手の思考を読むことも出来るからね…」

 

「なるほど……。丁度悪事を考えていた犯人とすれ違うでもしたか………。

まぁ何にしても確認だけはしないといけないし、本当に彼女かどうか君の方からも聞いておいてくれないか?もし事実なら一度……」

 

「警部!ちょっと来て下さい!」

 

 

 

 

塚内がそう言いかけた時、彼を呼ぶ声がした。

 

 

 

 

 

「わかったすぐ行く。

どうやら何かあったみたいだ。今度はこっちが話の途中になって済まないが詳しい話はまた後日聞くことにするよ」

 

「大丈夫かい?何なら私も一緒に……」

 

「おいおい、彼女を一人残して来るつもりか?」

 

「あ…」

 

 

 

何かあったと聞き、つい友里絵のことも忘れて向かおうとするオールマイトに塚内が指摘した。

 

 

 

 

「だったらこちらのことは良いから彼女のそばにいてやれ。大切な娘さんなんだろう?」

 

「あ…ああ」

 

「それじゃあまた」

 

 

 

 

ここで塚内との電話が切れた。

 

 

 

 

 

「……何事もなければいいんだが………」

 

 

 

向かいたい気持ちはあったが塚内の言う通り、情緒不安定な友里絵を放っていくわけにもいかず、嫌な予感だけが頭を過る。

 

実はこの時、東京都保須市では大変な事件が起こっていたのだが、まだそのことを知る由もなく今は友里絵の側にいながら何事もないことを祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「……それにしても塚内くんから友里絵の情報を聞いた時は驚いたな…。まさか私と再会する前から何件もの事件を解決していたとは…」

 

「私が何……?」

 

「!!」

 

 

シャワーを浴びに行っていたはずの友里絵がいつの間にか背後に立っていてオールマイトはビクッとし喀血した。

 

 

 

 

 

「ちょ…っ大丈夫おじさん…!?」

 

「だ……大丈夫大丈夫、何ともないよ」

 

『本当に……?』

 

「本当だよ。そんなに心配しなくて良いから。

けど随分早かったね。もう浴びて来たのかい?」

 

「う……うん…。シャワーなんだからそんな時間掛かるものでもないし早めに出てきたの。

で……私がどうかしたの…?」

 

 

泣きそうな顔で見つめる友里絵にオールマイトはごしごしと口を拭いながら宥めるようにもう片方の手で友里絵の頭を撫でた。

 

まだ不安げではあったものの、一応落ち着きを取り戻し受け答えをしたあと先程のことについて尋ねた。

 

 

「あ…いや……、さっき塚内くんとの電話で、君がこれまで何件か通報で事件を未然に防いでいたって聞いたんだが本当なのかい?」

 

「あー………それね…。うん本当だよ…。まぁ…全部たまたまなんだけど読み取っちゃった以上は無視するわけにはいかないでしょ…?犯罪を見逃すことになるし…。

だけどこれから強盗が来るなんて警察に言っても信じてもらえないと思って強盗がいる体(てい)で通報したの…」

 

「なるほど……素晴らしい機転だな。大したものだよ。しかし電車でチンピラを素手で締め上げたとも聞いたんだがそれは?」

 

「それも私……。私トシおじさんの元を去るにあたって、護身の為に武術身につけてたから」

 

「えぇ!?そうなのかい!?それは知らなかったよ」

 

 

 

話を聞いていく中で、オールマイト自身も知らなかった武術を身につけていたという事実。驚いて声をあげていた。

 

 

 

 

「目立つようなことは避けたかったんたけどやっぱり見過ごせなくて…」

 

「そうだな……。君は正しいことをしたんだ、私も嬉しいよ。

ただ……、私の知らない所であまり危ない真似はしないでくれ…。武術を身につけたと言っても君は女の子なんだし一般人でもあるんだから…」

 

「……女の子ってところが何か引っかかるけど…わかった、今後は気をつける……」

 

 

 

 

なにやらトゲのある言い方に感じるも、オールマイトに心配はかけたくないので素直に応じた。

 

 

 

「じゃあ私休むけどその前に湿布と包帯ってある…?」

 

「あ…ああ、足に使うのか。少し待ってなさい」

 

「ん…」

 

 

 

足の怪我に使おうと友里絵が湿布と包帯を求めるとオールマイトはすぐに取りに行ってくれた。

 

ものの数秒で救急箱を持って戻って来る。

 

 

 

「手当てするよ。そこに座って」

 

「ううん…渡してくれればあとは部屋で自分でやるから…』

 

「そうか…わかった。なら、はい湿布と包帯」

 

「ありがとうトシおじさん…。おやすみなさい…」

 

「おやすみ友里絵…」

 

 

 

 

オールマイトから湿布と包帯を受け取り、就寝の挨拶を告げると友里絵は一人寝室へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました。

一応、この話の直後に保須事件が起こる………という設定です。原作でオールマイトは保須事件に関わっていないのでその空白を利用させていただいています。

また、これはあくまで主人公の物語なので保須事件は丸々カットになってしまいますがよろしくお願いします。

ちなみにオールマイトの食事についてですがこれもあくまでこちらの想像です。オールマイトは胃袋を全摘していますがGoogleでいろいろ調べてみたりして一応食事は出来るとありましたし、肉まんを食べたりするシーンもあったので。




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第25話 眠れない夜に寄り添って


保須事件をすっ飛ばして第25話です。







友里絵が休むと言って部屋に行ってからしばらく経ったがオールマイトはまだ休まずに起きていた。

 

 

「……友里絵は大丈夫だろうか…。ちゃんと眠れていれば良いが……」

 

慣れないパソコンと向き合って仕事をしていたオールマイト。しかし友里絵のことが心配なあまり、全く手につかない。

 

 

「……一度様子を見て来るか……」

 

「きゃ…っ」

 

「…!

(友里絵の声!?)」

 

 

立ち上がり、寝室に向かおうと思った矢先、友里絵の小さな叫び声が聞こえ慌てて彼女の所へと駆けつける。

 

 

「友里絵!?」

 

「いたたた……。

あ…トシおじさん…?」

 

 

目に飛び込んできたのは床に倒れ込んでいる友里絵の姿だった。

すぐに駆け寄り体を支える。

 

 

「どうしたんだ友里絵……っ!?大丈夫かい!?」

 

「だ……大丈夫何でもないよ…。ちょっとベッドから落ちちゃっただけ……」

 

「ベッドから落ちただけって……足をぶつけたり負荷がかかったりはしなかったのかい?」

 

「それも大丈夫……。頭からのダイブだったし足には一切負担はかかってないよ」

 

 

ただベッドから落ちただけと答える友里絵。

落下の際頭をぶつけたらしくさすっていたが、幸いその怪我をした足は大丈夫のようだ。

 

「……それはそれで問題あると思うが、何事もなかったのなら良かった。しかし何でまたベッドから落ちたんだい?」

 

「あ、水を飲もうと思って降りようとしたら手を滑らせちゃって……」

 

「水か……それなら水は私が持って来るから君は座って待っていなさい」

 

「え…あ…う…うん…」

 

 

怪我がないことにひとまずホッとするオールマイト。ベッドから落ちた理由を聞いた後、自分が持って来ると言って寝室から出て行った。

 

 

……またおじさんに手間かけさせちゃった……。たかが水を飲みに行くことさえトシおじさんの手を借りなきゃダメなんて私は本当にダメだな………。

 

 

一方の友里絵は水を取りに行ってくれたオールマイトを、逆に負担をかけていると感じているようでまた落ち込んでしまう。

 

 

 

「──はい水…」

 

「あ…ありがとう…」

 

オールマイトから氷水の入ったコップを受け取りお礼をいいながらゆっくりと飲んでいく。

 

「あ…あの、ごめんね…?この程度のこともおじさんにやらせて……」

 

 

喉が潤った所でコップを口から離し申し訳なさそうに小さな声で謝った。

 

 

「やらせただなんて、そんな風に言わないでくれ。私は君にずっと何もしてあげられなかったから出来ることは何でもしてあげたいんだ」

 

「うわ……何か恋人に言うようなベタな台詞…」

 

「はいそこ。水を差す発言しない。

しかもうわって……」

 

 

せっかくちょっと良いことを言っているのに台無しされ、これにはオールマイトも即座にツッコんだ。

 

 

「…それはそうと友里絵。ひょっとしてあれから眠れていないんじゃないか?」

 

「う…うん……。もう寝るって言っておきながらベッド占領してるだけなんて……。ごめんなさい……」

 

「また君は……。何でそうすぐに謝るんだ。その程度のことで私が怒ると思うのかい?君が休むと言った時からなんとなく予想はしていたし、そもそも君がベッドを使用すること自体気にしなくて良いと言ってあっただろう」

 

「だって……」

 

 

わずかに肩をビクッとさせ再度申し訳なさそうに謝罪する友里絵にオールマイトはため息混じりに呟いた。

 

 

「君は少し……いや、いつも悪い方向に考えすぎなんだ。いつも謝らなくて良い時にばかり謝っているし、もっと我が儘になったっていいくらいだ。何も気に病むことなんてないんだよ。だからもうすぐに謝ろうとしないようにするんだ。いいね?」

 

「う…うん…」

 

 

 

頭を撫でながら頭を撫で続けるオールマイトに友里絵は戸惑いつつも頷いた。

 

 

 

「…とはいえ、眠れないのをそのままにはしておけないな……。何とか君が安心して眠れる方法を考えないと……」

 

「あ…あの……」

 

「ん?どうしたんだい友里絵?」

 

「……ううん、やっぱり何でもない…」

 

 

うーん…とオールマイトが考え込んでいると友里絵は何か言いたげな顔をしながら声を発した。しかしオールマイトが反応をすると急に首を振り言うのを止めてしまった。

 

 

「何だ、気になるじゃないか。言いたい事があるなら構わず言ってごらん?」

 

「えっと…その…良い方法かはわからないけど私が眠るまでおじさんに側についててもらいたいなって…。それなら安心出来るから……」

 

 

一度は口を閉ざしたものの、少し迷ってから友里絵は再び開き話し始めた。わがままを言おうか迷っていたらしい。

するとそれを聞いたオールマイトがキョトンとする。

 

 

 

「え、そんなことかい?」

 

「や…やっぱりダメだよね。おじさんだっていろいろ大変だし、まずそれで眠れるかもわからないのにそんな我が儘……」

 

「いや…側にいるのは全然構わないんだが、それは"我が儘"と言うより"甘える"じゃないか?

と言うか、そんな我が儘だったら世の中のお父さんは泣いて喜びそうだな」

 

「そうかな…?でもありがとう……」

 

「ああ。さぁ、布団に入りなさい」

 

 

思ってもみなかったことにオールマイトは一瞬意表をつかれていたものの、あっさり了承してくれた。

断られると思っていた友里絵は少し安心した様子で頷き空になったコップを置き再びベッドに橫になった。

 

 

「大丈夫。ちゃんと側にいるよ」

 

「うん……」

 

 

 

優しく頭を撫でられ友里絵は目を瞑った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

次に目を開けた時には朝を迎えていた。

 

 

「…朝だ……。急いであの二人のご飯作らなきゃ………ん…?」

 

 

そう呟いて体を起こそうとすると腕に何か違和感を感じた。視線を向けるとその先には手を握りベッドにうつ伏せて眠るオールマイトの姿があった。

 

 

「え……っあれ、トシおじさん…っ?」

 

 

大声を出しそうになるのを何とか抑えるも、状況がわからず困惑する。

 

 

「……あ、そうだった…。昨日からトリノおじさんもデクくんもいないからトシおじさんの家に来てたんだった……。

完全にトリノおじさんの家にいるかのような感じになってた……」

 

 

どうやらグラントリノの家と勘違いしていたようで、職場体験の関係でしばらくオールマイトの自宅で過ごすことになったことを思い出す。

 

 

 

ていうか、二人の朝食を作る気満々だったとか…。

 

慣れって怖…。ハズい………。

 

 

普段グラントリノの家で毎朝早起きし朝食を作っていたこともあって、いつも通りの行動をしようとした友里絵。日常だったとはいえ、今この場で勘違いした自分に少し恥ずかしくなった。

 

 

「だけど何でトシおじさんがここで寝てるの……?まさか私が眠ってからもずっとこうして手を握ってくれてたの…?」

 

 

そして一番気になるのは、やはりオールマイト。

 

側にいて欲しいとお願いしたのはこちらだが、眠るまでの間だけで眠った後までは頼んでいない。それが今も手を握り眠っているということは、ずっと側いてくれたとしか考えられなかった。

 

 

「……友里絵?」

 

「あ……」

 

 

ここでオールマイトが目を覚ました。

 

 

「おはよう友里絵。どうやらちゃんと眠れたみたいだな」

 

「う…うん……。あの…どうしておじさんがここに…?もしかしてあれからずっと側にいてくれたの…?」

 

「ああ。途中でまた目を覚ましてしまうかもしれないからずっとついていたんだ。けどその心配いらなかったみたいだね、良かった」

 

 

「………」

 

 

相変わらず優しい笑顔で答えるオールマイト。彼の口からは思った通りの返事が返ってくる。

 

 

 

「私…トシおじさんの邪魔しかしてないよね……。ごめ……」

 

「はい、ストップ」

 

「……?」

 

 

俯き謝ろうとしたその瞬間、オールマイトがそれを遮った。

 

 

「忘れたのかい友里絵?そうやってすぐに謝ろうとするのは止めにしようって昨日言ったばかりじゃないか」

 

「あ……」

 

「君は私を朝まで付き合わせたとか思っているんだろうけど、全て私の勝手であり邪魔をされたとも思っていない。親が子供のことを優先するのは当然のことなんだから何も心配しなくて大丈夫だ」

 

「う……うん……ごめんなさ……

あ…!

 

「やれやれ…かなり重症だな」

 

 

再度言い聞かせられ返事はするも、癖は簡単には治らない。また謝ってしまい慌てて口を押さえた。そんな友里絵にオールマイトは苦笑しながらも頭をポンポンと撫でた。

 

 

 

 

……でも確かに私の中にはトシおじさんに対して申し訳ないって気持ちが強く残ってていつも遠慮がちになったりついマイナス思考で考えてしまう……。

 

それは私の心が弱いからだ……。

 

あの男のことで悩んで中々寝られなかったのも、それらを気にしてマイナス思考になってしまうのも全て私の心の弱さが起因している……。トシおじさんはそんなことはないってまた言うだろうけど、やっぱり負担と心配だけはかけたくない……。

 

 

その為にはいつまでもウジウジなんてしていられない。

 

 

 

強くならなきゃ………!

 

 

 

 

パンッ!

「…っよし!頑張ろう!」

 

「!?ゆ…友里絵?どうしたんだい?」

 

 

 

突然挟むように自分の両頬を叩く友里絵にオールマイトはビクッと驚き声をかけた。

 

 

 

「気持ちの切り替えだよ。喝を入れたり気合いを入れる時によくやるでしょ?いつまでも気にして暗い顔してたらトシおじさんもずっと心配させたままにさせちゃうからさ」

 

「そうは言ってもな……。無理してるんじゃないか…?」

 

「大丈夫、無理な時はまた頼るから」

 

「ならいいが……本当に無理だけはするんじゃないぞ…?」

 

「うん」

 

 

 

気持ちを切り替えたと友里絵は言うが、昨日の今日で気持ちの切り替えがそう簡単に出来るとは思えず大丈夫そうにも見えない。

とはいえ、友里絵が必死に乗り越えようとしているのに、横槍を入れるわけにもいかず絶対に無理をしないというのを条件に聞き入れた。

 

 

「さてと……この後どうしよう…。ちょっと早いけど朝ご飯の準備する?」

 

「ご飯の準備って…それも昨日しなくて良いと言っておいたハズだが……」

 

「ただお世話になるだけなんて嫌なの。トリノおじさんのとこではいつもやってたし」

 

「え、先生の所では毎朝そうしてたのかい?」

 

「毎朝だけじゃないよ?大体の家事は全部私がやってる。トリノおじさんに任せてたらたい焼きばっかりになるもん。職場体験が始まってからはデクくんの分も作ってた」

 

「えぇ!?」

 

 

オールマイトが知りたかったことの一つである、グラントリノの元での友里絵の私生活。その暮らしぶりに普通に驚いた。

 

 

「そんなに驚くこと?一人暮らししてる人とやってることは同じでしょ?」

 

「それはそうなんだが……。

前から言おうと思っていたんだが先生の所から毎日雄英に通うのは大変じゃないのかい?ここからならまだ近いし友里絵さえ良ければこっちで過ごしてくれて良いんだよ?」

 

「んー…けどもう慣れたから平気だよ」

 

 

 

通学の不便さや友里絵の負担を考え改めて自分の所へ来ないかと促してみるも、まだ当面の間はその気はないようで今回も断られてしまう。

 

 

「…そうか。しかし普段君が大変なことに変わりない。せめてここにいる間だけでもゆっくりしててくれ。朝食も私が準備するよ」

 

「ん……わかった。

けど私の分はいいや。お腹空いてないし」

 

「いらないって…昨日の夜も食べてないじゃないか。ダメだ、さすがに今日もは聞けないよ。というか、まさか先生の所でもそんな風だったなんてことはないだろうね…?」

 

「そ…っそれは大丈夫っ。コンビニで済ますことは多いけどちゃんと食べてはいるから…っ」

 

 

友里絵の口からまさかのご飯いらない宣言。昨日はやむを得ず許したが今回は到底聞き入れられない。しかも普段から友里絵が食べずに済ましている疑惑まで浮上し、オールマイトは鋭い目で友里絵を見た。怖い顔で睨まれたからか友里絵も少し焦った様子で全否定した。

 

 

「コンビニで済ますのもちょっとどうかと思うぞ…?まぁいい。とにかく朝食の準備をしてくるから出来たらちゃんと食べること。それまでは大人しくしてること。わかったかい?」

 

「は…はい…」

 

「それから……」

 

『(まだあるの!?(汗))』

 

「後で話がある」

 

「……?う…うんわかった……」

 

 

厳しく言い聞かせていると思ったら急に雰囲気が変わり、只事ではないと感じ取った友里絵。今じゃダメなのかとも思ったが、この際だから存分に言葉に甘えさせてもらうことにした。

 

 

 

───とはいえ、やることがなくなり友里絵はただボーッとして時間を持て余していた。

 

 

 

……よく考えたらこんな風に朝のんびりすることなんかほとんどなかったかも…。いつもならこの時間はご飯作ってすぐに学校行く準備して行ってたからなぁ…。

距離的に……。

 

こうやってたまにはゆっくりするのも良いんだろうけど私の場合、何にもしないと何か逆に落ち着かない……。

 

家事やりたいとかまるでもう主婦じゃん……。

 

 

「手伝いに行ったところで絶対追い返されそうだしなぁ……。これだけ何もしないでいると二度寝しちゃいそう……」

 

とか考えていたら本当に二度寝してしまったことは言うまでもない。

 

 




はい、25話はここまでになります。

前書きの補足をすると保須事件は友里絵が眠れずにいる間に解決し既に終わった後の状態ということになります。

次はまた緑谷と絡ませていくつもりです。
ご意見等ありましたらぜひお願いします。閲覧ありがとうございました。


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第26話 保須事件のその後の話



第26話です。



 

 

 

「……友里絵…起きなさい友里絵」

 

「ふぁ……?」

 

 

 

 

 

 

オールマイトに起こされ本日二回目の起床を迎える。

 

 

 

「朝食が出来て呼びに来たらまさか二度寝してたとはね……。前のこともあるし、やっぱり相当疲れが溜まってるんじゃないのかい?」

 

「や…っだ……っ大丈夫だよ!顔洗って来るね!」

 

 

そう言って恥ずかしそうに顔を赤くさせ慌ただしく出て行った。

その後、身なり(+恥ずかしさによる呼吸の乱れ)を整えた友里絵が戻って来た。テーブルには食パンとサラダ、少し焦げた目玉焼きが置かれていた。

 

 

「おじさん料理出来るんだ…。

焦げてるけど……」

 

「ま…まぁ少しはな。普段は買って済ましたりしてるが今は友里絵もいるから簡単なものを作ったんだ。

ちょっと失敗しちゃったけどね…」

 

「……さっきおじさん私にコンビニで済ますのは良くないみたいなこと言ってなかった…?」

 

 

人に言っておいて自分も同じようなことをしてるオールマイトに友里絵は不満気にボソッと呟いた。

 

 

「え、何か言ったかい?」

 

「何も。いただきます」

 

 

 

どうやら本人には聞こえなかった模様。不思議そうな表情を浮かべていた。話せばまたややこしいことになると考え面倒事を避ける為、スルーして手を合わせ朝食を食べ始めた。

 

 

 

 

 

「ところでさっき私に話があるって言ってたけど何なの?」

 

「……ああ、そうだったな。

このことは私が話さなくてもすぐにわかることなんだが、君には事前に伝えておこうと思ってね……。友里絵もヒーロー殺しのことは知ってるな?」

 

「え…あ…うん。ヒーローを標的に何人も手にかけてる凶悪犯だよね?そのヒーロー殺しがどうかしたの?

ついに捕まったとか?」

 

「察しがいいな、その通りだ。昨日保須市にヒーロー殺しが現れその日の内に捕まったらしい」

 

「そうなんだ。

でもさ、それと私に何の関係が?」

 

 

 

世間を騒がしている犯罪者、ヒーロー殺しが昨日捕まったことを聞かされた友里絵。

 

捕まったことは喜ばしいことなのだが、それを自分に話す意図がわからず首を傾げた。

 

 

「確かにヒーロー殺しが捕まったことと君との直接的な関係性はない。

けどヒーロー殺しが捕まった時、緑谷少年がその場にいたみたいなんだ……」

 

「え……!?」

 

 

 

朝食を食べ進める手がピタッと止まる。

オールマイトの言葉が何を意味しているのか瞬時に理解した友里絵の顔が少しずつ青ざめていく。

 

 

 

「正確には緑谷少年と彼のクラスメイト二人がなんだけどね。活動中にヒーロー殺しと遭遇してしまい戦闘を行ったそうだ。ヒーロー殺しが捕まったのも実は彼らの功績なんだ」

 

「そ…っそれでデクくんは……!?巻き込まれた三人はどうなったの…!?」

 

「大丈夫、三人とも怪我は負ってはいるが命に別状はなく皆無事だよ。今は保須市の総合病院にいるらしい。

ただ、いくら相手が凶悪犯だったとはいえ彼らは資格未取得者が保護管理者の指示なく"個性"を使って危害ををしてはならないという規則違反をしてしまっているからね……。警察から何かしらのお咎めはあるだろう」

 

「そ…そんな!じゃあデクくんや他の二人は処罰されるってこと!?」

 

 

 

そう、"個性"の発現により使用には厳しい制限がかけられ資格も必要とされている。

場合によっては不問になることもあるが、資格を持たない者による公の場での"個性"使用は基本的に禁止。警察でさえ資格がなければ違反になるケースが多い。

当然、傷つけるなど論外で傷害罪に加えて"個性"の違法使用の罪も問われる。たとえそれが凶悪な犯罪者相手であってもだ。

そして数多く存在するプロヒーロー達は全員がこの資格を持っているからこそ"個性"を使用したヒーロー活動が認められているのだ。

 

 

この規則はいわば世の中の人達が平穏に暮らしていくために作られたもの。

故に破った者は敵として認識され処罰は免れない。

問題の緑谷達もヒーローを目指しているとはいえ、まだ何の資格もない子供。ヒーロー殺しとの戦闘も自己判断によるもの。

だからこそ、友里絵は緑谷達が罰せられてしまうと思い心配しているのだ。

 

 

「落ち着きなさい。何もそうと決まったわけじゃない。彼らがそうしたのはヒーロー殺しにやられたプロヒーローや仲間を守る為だったそうだから、厳重注意はされるだろうけど悪いようにはしないハズだよ」

 

「な……なんだ、びっくりした。だったら、始めからそう言ってよ…。規則違反とかお咎めがとか言うからてっきりデクくんや他の二人が処罰されるかと思ったよ…」

 

 

 

説明が不十分だったのと余計な言葉のせいで、大きな勘違いをしてしまった友里絵。小さくため息をつくも何とか三人が罰せられずに済みそうで今度こそ本当に良かったと心から安心していた。

 

 

「す…っすまない……。驚かせるつもりはなかったんだ……。まぁ…まだ心が不安定な君にこんな話をすること自体間違いなんだろうけど、ヒーロー殺しが捕まったことはまず報道されるだろうし、さっき言ったように私が話さなかったとしても結局は君に知られてしまうことになるからね……。だったら事前に伝えてしまった方が後から知るより動揺が少なくて済むんじゃないかと思ったんだ……」

 

「……うんわかってる……。

私ももし自分がこのまま何も知らずにいて後から急に知ったらきっと今みたいに……ううん、今以上に動揺してたって思う……。街中とかですれ違い様に噂話とか聞こえたりなんかしたら尚更パニックになってたかも……」

 

「だろう?心配するのは決して悪いことじゃない。私だって彼のことは心配だよ。けど今はそれ以上に君のことが心配なんだ…。ただでさえ不安を抱えているのに緑谷少年のことまで気にして抱え込んでいたら君の身が持たないよ……。彼なら大丈夫。だから今だけ緑谷少年のことは考えないで自分のことを第一に考えてほしい…。決して軽率な行動はしないように」

 

「…わかった……」

 

 

 

 

オールマイトが全て自分のことを考えて言ってくれているのは理解している。自分でも動揺するだろうという自覚もある。

 

けれど、緑谷のことを考えないようにというオールマイトの言葉に対しては素直に返事は出来なかった。

 

 

 

 

 

トシさんの言いたいことはわかるよ……。

 

 

 

 

 

 

 

わかるけどさ………。

 

 

 

 

 

 

 

頭ではわかっていても怪我をした相手を心配しないなど到底無理な話。むしろ心配する思いは強くなる一方だ。

 

 

とはいえ、反論することも出来ないのでモヤモヤしたまましばらく朝食を食べ進めた。

 

 

 

と、その途中でふと思い出したかのように友里絵が突然こんなことを言い出した。

 

 

 

 

 

 

「そ……そういえば、今日の朝って私はどうしたら良いの…?もしトシおじさんが良いって言えば私一人で行くけど…」

 

 

「え…一人でかい?」

 

「う…うん。昨日の帰りの時はともかく、朝も一緒だと目立つと言うか人目につきやすいからさすがにヤバイんじゃないかなって……。それ以前にまずトシおじさんは一応教師だから学生の私より早く行かなくちゃいけないんじゃない?

学校に行く前にちょっと寄りたいとこもあるし……」

 

「それは一理あるが昨日の今日でいきなり一人で行かせるのは……。

そもそも寄りたい所って…。例のこともあるし、あまり一人で出歩かないようにしてほしいんだが…。あと出来れば不要不急な行動も極力控えてほしい…」

 

 

 

 

友里絵のことをを心配するオールマイトからしたら当然、すぐには賛成出来ず言葉を濁していた。

 

 

「ちょっと寄るだけだよ。大丈夫だって。帰りの時と違って明るいんだし、それこそ人通りもあるんだからさ」

 

「そうかい……?うーん……そこまで言うならじゃあそうするかい?

実は言うと私も今日は朝から会議があって早く行かなければならなくてね……」

 

「……会議あるのに私に合わせて遅刻する気だったの……?アカンでしょそれは」

 

「だな……」

 

 

 

それに対し、友里絵も一歩も引こうとせず朝まで一緒に行くことのリスクをひたすら訴えていた。

 

 

友里絵がそうまでするのには実は理由がある。

 

その理由についてはまた後程わかるのでこの場では説明を省くとして、とにかくこんな感じで最初は渋っていたオールマイトもだんだん友里絵のペースに乗せられて行き最終的には完全に押しきられてしまうのであった。

 

 

 

 

「ごちそうさま。

私洗うから空いた食器もらうね」

 

「いや、洗うのは私がやるから君はゆっくりしながら学校に行く準備をしておいで」

 

 

 

食器を重ね流しに持って行こうとしたらまたしてもやらなくていいと言われた。

 

ここまで来ると最早気遣いというレベルではなくただの甘やかし。

 

 

 

そこでついにビシッと言ってやった。

 

 

 

 

「もう!トシおじさん、いくらなんでも甘過ぎ!気遣ってくれるのは嬉しいけどおじさんはちょっと……かなり度が過ぎなんだよ!怪我してたって洗い物くらい余裕で出来るし!甘やかしてばっかだと為にならないよ!

学校だってもういつでも行ける支度出来てるから!」

 

「わ……わかった。ならお願いするよ」

 

 

 

友里絵の気迫に負け任せることにしたオールマイト。

 

こうして友里絵はどんどんしっかり者になって行くのだった。

 

 

 

 

 

 




それではここで今回の話の設定について少しご説明を。

まず保須事件について。オールマイトは電話で塚内から 話を聞いていたってことにしてあります。

普通なら有り得ませんよね(笑)
聞いた詳細も詳し過ぎる。

それから朝の会議。これも次回に繋げる為、友里絵を一人で行動させる為だけに作った設定です。

一人にさせるのは心配と言いながら、会議があるからとあっさり一人で行動させることを承諾するオールマイト。完全に矛盾してますね(^^;



矛盾はまだまだありますがこの辺で。

閲覧ありがとうございました。



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第27話 お見舞とその裏側で

お気に入り登録者様30人越えました!ありがとうございます!




朝食を済ませた二人はその後、話し合った通り、別々に移動を開始する。

 

 

 

「じゃあ気をつけて来るんだぞ?知らない人には絶対ついていかないように

 

「……小さい子供じゃあるまいし強調しなくてもついてくわけないでしょ。おじさんこそ寄り道(人救け)ばっかりして遅刻しないようにね

 

 

 

 

互いに強調し合う二人。

 

 

 

 

 

なんとも虚しい争いなこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは、気をつけるよ。

また学校で会おう!」

 

 

 

マッスルフォームに変身したオールマイトは一足先に雄英へ。

一人残され友里絵も手を振り最後まで見送った後……。

 

 

 

 

 

 

 

「…よし………」

 

 

 

と、小さく呟きゆっくりと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「…来ちゃった……」

 

 

 

が、友里絵が向かった先は雄英ではなく保須市の総合病院だった。

 

 

例のヒーロー殺しと戦いで怪我を負った緑谷がいる病院である。

 

 

目的はもちろん緑谷のお見舞い。

 

 

一人で行きたいと言ったのも全てこの為である。オールマイトと一緒ではまず来ることは出来ず、許してすら貰えないだろう。

行動を控えるように言われた手前、行きたいとも言い出せず、そこで別々に行動するという手段に出た。オールマイトを先に行かせることで自由に動けるようにしたというわけだ。

 

 

…トシおじさんからは心配するなって言われたけどやっぱり心配なものは心配もんね……。

 

 

 

 

 

 

ていうか、まず人として心配しないとか普通に

 

無理

 

 

あり得ない不可能

 

 

 

 

たとえ自分が傷心状態であっても。

 

 

 

 

そもそも、「見舞いに行くな」とは言われなかったし。(※ただの屁理屈です)

 

と、誰が聞いても自分に都合の良い解釈にしか聞こえないが緑谷のお見舞いに行けるなら言い訳だろうと何だろうと構わなかった。

 

 

学校をそっちのけにしたこと、遅刻してしまうことにもちろん負い目は感じている。けれどあのまま普通に行っていても集中出来なかっただろう。

心配を取り除くには直接緑谷に会って無事を確かめるしかないのだ。

 

 

 

 

 

「一応学校には連絡してちゃんと遅刻の許可はもらってるし、おじさんに怒られる覚悟は出来てるもん。とにかく中へ……」

 

 

 

 

このままずっと立ち往生していても仕方がないので病院に入る。

 

 

まずは受付で緑谷の病室を確認。

オールマイトのおかげで病院はわかってもどこの病室までかはわからないので、こればかりは受付で聞かなければどうしようもなかった。

 

 

 

 

「──わかりました。ありがとうございます」

 

 

確認出来たらあとは向かうだけ。受付の人に頭を下げ足を進めた。

 

 

 

 

「…今のは…友里絵……?」

 

 

 

その姿をある人物に見られていたとも知らずに………。

 

 

 

 


 

 

 

 

友里絵が病室に向かっている間、その姿を目撃していた人物が病院の公衆電話から電話をかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

《♪でーんーわーがーきたー!でーんーわーがーきたー!

ピッ》

 

 

「はい、もしもし」

 

 

「(相変わらず嫌な着信だな……)」

 

 

 

 

電話の相手は雄英にいるオールマイトだった。

またも悪趣味…もとい、独特な着信音が鳴り響き、オールマイトは普通に電話に出ていたがすぐ向かいのデスクにいた相澤とプレゼント・マイクもドン引きしていた。

 

 

 

 

「せっ先生!!」

 

 

 

電話の主の声にオールマイトは立ち上がる。

 

 

 

 

「緑谷出久!まったく!

おかげで減給と半年間の教育権剥奪だ。まァけっこうな情状酌量あってのこの結果だがな。とりあえず体が動いちまうようなとこはお前そっくりだよ俊典!」

 

申し訳ございません私の教育が至らぬばかりで……

先生には多大なるご迷惑をおかけしましていやはや……なんとも…

 

 

主の正体はグラントリノ。

オールマイトはダラダラと滝のように汗を流し目を泳がせながら喋る。やはりかつての自分の先生だった相手には頭が上がらないらしい。

 

電話でもペコペコし、そのまま場所を移すように職員室から出て行く。

 

 

 

「まァ教育権なんざ今更どうでもいい。"先代"…志村との約束…。お前を育てる為だけに取った資格だからな…」

 

「その節は本当にお世話になりました。あなたの教えがあって今の私があるというものです」

 

「その割にはちっとも顔見せんな。

忘れとったろ」

 

「いっいえいえ!新しい教師生活が忙しく!

決してそのようなことは!!むしろ記憶を封印していたといいますか……」

 

「オイ」

 

 

グラントリノが怖くて避けていたことは口が裂けても言えないが、焦っていたせいか少し本音を漏らしてしまっていた。

 

 

 

「まァ今回電話したのは他でもない、ヒーロー殺しの件だ。実際に相見えた時間は数分もないがそれでも戦慄させられた」

 

「グラントリノともあろう者を戦慄させるとは…。しかしもうお縄になったのに何が…」

 

 

グラントリノはヒーロー殺しとは直接の戦闘は行わなかったものの対峙はしており、その件について電話をしてきたらしい。オールマイトは通話はしたまま、いつもの仮眠室にやって来て周りに誰もいないことを確認してから中へと入った。

 

 

 

 

「俺が気圧されたのは恐らく強い思想…あるいは強迫観念から来る威圧感だ。誉めそやす訳じゃねぇが俊典、お前が持つ"平和の象徴観念"と同質のソレだよ」

 

「同質…」

 

「早い話「カリスマ」っつー奴だ。今後取調べが進めば思想、主張がネットニュース・テレビ・雑誌…あらゆるメディアで垂れ流される。今の時代、善くも悪くも抑圧された時代だ。必ず感化される人間は現れる」

 

「確かに感化される輩は出てくるんでしょうがそれは散発的なもの…。

個々が現れたところで今回のようにヒーローが……」

 

「そこで"敵連合(ヴィランれんごう)"だ」

 

 

 

構わず話を続けるグラントリノ。

 

 

 

ちなみに彼の言う敵連合とはその名の通り敵による団体組織。

個性を使って罪を犯した者、独自の思想を持つ者、現在の社会に反感や恨みを持つ者など、いわゆるアウトローと呼ばれる存在によって形成されている。

以前オールマイトを殺すという目的で雄英に攻めて来たことがあり一度戦っていた。

 

 

 

 

 

「保須事件でステインと連合のつながりが示唆された…。この時点の連合は「雄英を襲って返り討ちにあったチーマーの集まり」から"そういう()()()()()()"だったと認知される。つまり受け皿は整えられていた!」

 

「!」

 

 

ここでオールマイトもハッとし何かに気づいた。

 

 

 

 

 

「個々の悪意は小さくとも…一つの意志の下集まることで何倍にも何十倍にも膨れ上がる。ハナからこの流れを想定してたとしたら…敵の大将はよくやるぜ。着実に外堀を埋めて己の思惑通りに状況を動かそうというやり方」

 

「…塚内くんから脳無に複数の"個性"が与えられていると聞き、やな予感はしていましたが…」

 

「ああ。俺の盟友でありお前の師…。

更に友里絵の祖母"先代ワン・フォー・オール所有者志村"を殺しお前の腹に穴をあけ、そして友里絵の心に深い傷を負わせた男……"オール・フォー・ワン"が再び動き始めたとみていい」

 

「あの怪我でよもや生きていたとは…信じたくない事実です…」

 

 

 

オール・フォー・ワンと聞き険しい顔をで拳を握りしめるオールマイト。

 

 

友里絵と昨日話していたのはオール・フォー・ワンのことだった。オール・フォー・ワンは一言で言えば悪の塊。オールマイトの先代のワン・フォー・オール継承者であり師だったという志村という人物も死に追いやっていた。しかも友里絵はその志村の孫だという。

 

 

 

 

先代の死…。

 

オールマイトが重傷を負うこととなる6年前の事件……。

 

 

友里絵のトラウマのきっかけ……。

 

 

これら全てがオール・フォー・ワンによるもの。

 

 

 

倒したはずの最悪の敵。昨日の段階ではまだ確信が持てなかったが、今回の件ではっきりとわかった。

 

 

 

「お前のことを健気に憧れているあの子にも折りを見てしっかり話しといた方がいいぞ。お前とワン・フォー・オールにまつわる全てを」

 

「はい…」

 

「それと友里絵のこともだ。お前まだ友里絵についてほとんど話してないそうだな。あの子も友里絵のことを気にしとったし"個性"については特に知りたがっとった…。俺からは何も言わなかったが、お前に聞くように言っといたから恐らく職場経験が終わればお前に言って来るだろう。いい加減教えてやれ」

 

「そうでしたか……。

ではそれも折りを見て彼に話すことにします…」

 

 

 

グラントリノに言われ、オールマイトは少し迷った後そう返事を返した。

 

 

 

「ああ、あとわかっとるとは思うが友里絵のことをちゃんと気遣ってやれ。

()()()()()()()()()なんてことがないようにな」

 

「ご…ご存じでしたか……。

そういえば先生は友里絵の面倒をずっと見てくれていたとか……。お礼がまだでしたので今言わせてもらいます…。本当にありがとうございます…」

 

 

 

以前、友里絵と口論したことがグラントリノにバレておりギクッとはなったものの、自分の代わりにこれまで友里絵の側で面倒を見ていてくれたことへの感謝の気持ちを伝えた。

 

 

 

 

「礼なんざいい。

とにかく今はこんな時だ。友里絵に気を配れ。特にオール・フォー・ワンのことは絶対に知られないようにしろ。あいつが知ったらパニックを起こし兼ねないぞ」

 

「そ…っそれがですね……。昨日塚内くんとそのことで相談をしていた時にその…友里絵が来てしまいまして……」

 

「何!?まさか聞かれたのか!?」

 

「は…はい…」

 

「ったく、何やっとるんだお前は!!」

 

「も…申し訳ありません!!!!」

 

 

 

 

既に友里絵が知ってしまったことを恐る恐る伝えると、案の定ものすごい勢いで叱られた。

 

 

 

 

「──で、それからどうした…?」

 

「は…はい。先生がおっしゃる通りパニックを起こし、しばらくの間元気をなくしていました。食事もせず、夜も中々寝付けない状態だったのですが側についていてあげたら安心して眠ってくれました。気持ちも今は少し落ち着いている状態です…。まだ無理をしている部分はあるようですが、本人は気持ちを切り替えて頑張ろうとしています…」

 

「そうか……。

まぁあいつはすぐにやせ我慢するからな。側にいる間はお前がしっかりケアしてやれ」

 

「はい……」

 

 

 

 

オールマイトは昨日から今朝までの様子をグラントリノに話した。

ショックを受け今も引きずってはいないかと心配だったが前向きになろうとしていると聞き少しは安心したようで、グラントリノはケアだけは怠らないように伝えた。

 

 

 

 

「……ところでその友里絵なんだが今日は学校を休んでるのか?」

 

「え?いえ…そんなことはありませんが何故ですか?」

 

「いや…さっき病院内であいつを見かけてな……」

 

「え!!?」

 

 

 

友里絵を保須の病院で見かけたというグラントリノにオールマイトは衝撃を受けた。

 

それはそうだ。少し前まで一緒に行動していたのだから。

 

 

 

 

「ま…っ待って下さい!友里絵がそちらにいると…!?まさかそんなはずは……!

今朝も一緒にいましたし普通に学校に行く準備もしてました…!

ただ、友里絵が教師の私とは行く時間が違うからと自宅を出る時は別々に……………あ!!

 

 

 

そう言いかけたところでオールマイトがハッと気づいた。

 

 

 

 

「ハァ…どうやら友里絵の口車にまんまと乗せられたな……。

まァ、もし本当にあいつがここに来てるんだとしたら目的はあの小僧だろうな」

 

「は…はい。恐らくは…。

朝友里絵に事件のことと緑谷少年が怪我をした事を話したのですがかなり心配している様子だったので…。黙っていてもいずれわかることですし、友里絵には無駄だと思い前もって話した次第で……。しかし逆効果だったようです…。一応軽率な行動はしないよう言い聞かせてはおいたのですが……」

 

「言い聞かせれてねぇじゃねぇか。

大体あいつは自分より相手を優先する奴だぞ。ちょっと言い聞かせたくらいで素直に聞くと思うか。今あいつを一人で出歩かせるのは危険だっつーのにお前が目を光らせていないでどうする」

 

「お…おっしゃる通りです……。本当…私の不徳の致すところで……」

 

 

 

友里絵の監督が甘いと散々責められるがオールマイトは言い訳も元凶となった友里絵に怒ることもせずにただひたすらペコペコしながら謝っていた。

 

 

 

 

「だがまァ…あいつの事だから学校に無断では来ないだろうしサボるようなことはしねぇだろ。見舞いが済めば学校に向かうはずだ。だから学校で会ったら今度こそちゃんと言い聞かせて監督しとけ。ただし追い詰めない程度にな」

 

「もちろんです……。何から何までありがとうございます…」

 

 

 

グラントリノの言葉を胸にしっかりと刻み込み最後まで感謝を述べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




文字フォント選びが難しいですね…(^_^;)



あと今回書いていて気づきました。

敵連合…オール・フォー・ワン以外全く触れていない!!!Σ( ̄□ ̄;)


27話も話を進めてるのに出たのは今回の敵連合という文字と説明文のみ!

はっきり言って遅すぎですよねぇ(^^;
これまでいくらでも出すチャンスはあったのに散々カットしてしまってましたからね、自業自得です(-_-;)

敵連合の存在が疎かになってしまいすみませんm(_ _)m


以前、後書きに書きましたが今回の話で原作のオール・フォー・ワンの名が出る場面まで届きましたので、今後は名前で表記します。

閲覧ありがとうございました。


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第28話 友達

ここまで読んで下さってる方に申し訳ないのですが27話で友里絵と志村奈菜の関係は孫と祖母となっていますがもしかしたら、ストーリーの都合上で姪と伯母にするかもしれません。

今のところは変更はしないまま今の状態で進めて行こうと思います。

万が一、姪と伯母に変更する際はまた前書きにてお知らせいたしますm(_ _)m


では引き続きストーリーをお楽しみ下さいm(_ _)m




オールマイトがグラントリノと電話で話している一方、その話題の張本人である友里絵はというと───……。

 

 

 

「…どうしよう…入りづらい……」

 

 

病室にたどり着いたはいいが何故か病室の前に立ったまま中に入れずにいた。

 

その理由は病室の番号の下に書かれた患者の名前にある。そこには緑谷出久の名前とその他に轟焦凍、飯田天哉の名前。保須で緑谷と一緒にヒーロー殺しと戦った二人の名前だ。同じクラス、同じ理由で病院に運ばれたのだから三人が同室であっても何ら不思議はないのだが問題はこの二人とは一切面識がないということ。

 

二人のことは体育祭で見たので知っている。けれど逆に向こうはこちらのことを知らない。体育祭では予選は通過しないよう上位42名以下、他の競技も体調不良を装って出ていないので彼らが自分のことを知っている可能性はほぼゼロ。

 

緑谷と顔見知りだということも知らないはずだ。

 

しかも自分は普通科の人間で何の接点もない。そんな自分が緑谷と顔見知りな上に、いきなりお見舞いに現れたら変に思われるかもしれないという不安にかられた。

 

そもそも、よく考えてみると緑谷とはよく話はするが友達という関係ではない。

 

そう考えていた所に中から彼らの笑い声が聞こえて来た。

ハンドクラッシャーという、不思議な言葉が出てきていたが、楽しそうな雰囲気に完全に中に入ることが出来なくなってしまったのだ。

 

中に入れないまま既に5分は経過している。

 

 

「困ったな……このまま帰ることも出来ないし…」

 

 

何か良い方法がないかと考えているとこの状況を変えてくれる事態が起こる。

 

 

 

「…ん?おい、扉の前に誰かいるぞ」

 

 

きっかけになったのは轟の言葉。

 

ふと扉に目をやった時にドア硝子に人影があることに気づいたのだ。

 

 

「……!!」

 

 

や……やば!!

 

 

 

 

 

気づかれたことに友里絵は焦る。

 

 

 

「え、本当だ。人影が……」

 

「しかし入って来る気配がないな」

 

「看護師じゃなさそうだな……」

 

「…僕ちょっと見てくるよ」

 

 

松葉杖をつきながら緑谷がゆっくりと扉に近づく。

 

 

 

ど……っどうしよう、来る!

 

 

 

周りを見ても隠れられそうな所はない。

 

 

というか今更隠れても手遅れである。

 

 

 

ガラッと勢いよく開けられる扉。テンパった結果、友里絵は背を向けてその場でしゃがみ込み頭を抱えるという全くもって無意味な行動をしていた。

 

 

 

 

「え…っあれ!?成切さん!?」

 

「で…デクくん……」

 

 

 

友里絵の姿を見て緑谷が叫ぶ。

 

 

 

「何だ?緑谷くんの知り合いか?」

 

「そうみてぇだな」

 

「な……何で成切さんがここに……っ?学校は……っ?オールマイトはこのことを知ってるの…!?」

 

 

 

 

死角に入って飯田と轟からは友里絵の姿は見えないが、状況と緑谷の反応から何となく察し呟やく二人。

 

しかし友里絵が何故ここにいるのかわからない緑谷は一人困惑していた。

 

が、飯田と轟に聞こえないようにすることだけは忘れないでいた。

 

 

「…トシおじさんからデクくんのことを聞いたから心配で……。学校はにちゃんと連絡して遅刻の許可を貰ってここに来たんだけどトシおじさんには黙って来ちゃった……」

 

「え…っ何で………?ひょっとしてまた喧嘩……?」

 

「ううん……そうじゃないけどちょっと事情があって…………」

 

 

オールマイトには言わずに来たと答える友里絵に緑谷はまた二人の間に何かあったのではないかと心配になった。友里絵は違うと言うだけでそれ以上は言わなかった。

 

 

 

 

喧嘩じゃないのか……。

 

けど成切さん…何かいつも以上に暗い顔をしているような………。

 

 

 

「そ…それより……」

 

「…なぁ緑谷。知り合いなら中に入ってもらった方が良いんじゃねぇか?」

 

「そうだぞ緑谷くん。そんな所で立ち話していても仕方ないだろう」

 

「あ…そうだね。とりあえず病室に入って成切さん」

 

「う…うん……」

 

 

 

小声で話をし続けている二人に少し不思議そうに思いながらも轟が声をかけ、友里絵を中へ入れるよう促し飯田も轟の後に続く。

 

 

友里絵は戸惑いつつもゆっくりと中に入った。

 

 

 

 

「その制服……雄英(ウチ)のだな。普通科の奴か?」

 

「あ、うん。名前は成切友里絵さん。事件のことを知って心配して来てくれたみたい」

 

「は……はじめまして。雄英高校一年、C組普通科の成切です……」

 

 

 

 

制服を見た轟が友里絵が雄英生であることに気づく。

 

緑谷は頷きながら友里絵を二人に紹介し友里絵も挨拶はしっかり行う。

 

 

 

 

 

「はじめまして、俺はA組クラスの委員長をしている飯田天哉だ。よろしく頼む成切くん」

 

「よ…よろしくお願いします…」

 

「俺は轟焦凍だ。緑谷に普通科の知り合いがいたんだな…」

 

「あ……はい…まぁ…。

でく…()()()()とは体育祭の日に知り合いました……。一応お二人のことも体育祭で見て知ってはいましたが……」

 

 

 

あれ……?成切さん今緑谷くんって()()()()()……?

 

それに僕の時は普通に話すのに二人には敬語を使ってる……。喋り方もぎこちない感じだし緊張してるのかな……?

 

 

 

お互いに紹介をする中、緑谷は友里絵が「デク」から「緑谷」に言い直したこと、自分の時と違って二人に敬語を使っていることに疑問を抱く。

 

 

 

 

けど、成切さんのあの様子……。

緊張してるというより二人と話すのを躊躇(ためら)ってるみたいな……。

………そういえば、さっき病室に入るよう言った時も一瞬躊躇(ためら)っていた………。

 

 

 

……!

そうか。飯田くんと轟くんは成切さん秘密を知らない人間だし、直接会うのは初めてだから素で話せないんだ……。

それに普通科の成切さんがヒーロー科の僕と親しくしてるのを変に思われるかもしれないから余計対応に困ってるのかも…。

 

しまった…余計なことしちゃったかな……。

 

 

 

ほんのわずかな間で事情を察した緑谷。

同時に安易に友里絵を紹介したことを後悔する。

 

 

 

「なるほど。

しかし成切くんは今日は学校じゃないのか?

というか何故そんな堅苦しいんだ?」

 

「あ…成切さんは初対面の人だと極度に緊張しちゃうんだ……。

学校はわざわざ遅刻の連絡をしてこっちに来たみたい……」

 

「そ…そうなんです…。

ありがとう…デクくん

 

「ううん、僕も気づくのが遅れてゴメンね…!でも二人ともすごく良い人だから普通に喋っても大丈夫だと思う…」

 

「それはわかってるけどいきなりは無理だよ……」

 

 

 

申し訳ない気持ちから出来る限りのフォローをする緑谷。そんな彼の思いを瞬時に理解した友里絵は話に合わせまたコソッとお礼を言った。

 

対する緑谷も二人に見えないようにゴメンの仕草をして謝る。

 

 

 

「人見知りというわけだな。まぁ…それは仕方ないとしても遅刻は良くないな。いくら心配だったのだとしても遅刻はいけないことだ」

 

「いや…無断じゃねぇならセーフなんじゃねぇか?連絡したって言ってんだから」

 

「もちろん悪いことなのはわかっています……。私のおと……おじさんはまず怒るでしょうし覚悟はしてます…。

ですが、普通に学校へ行っていてもきっと授業に集中出来なかったと思います……。電話やメールだと誤魔化されるかもしれなかったので直接来た方が確実だと思いましたし……。それにどうしても確かめたいことがあったので…」

 

 

 

飯田にも遅刻のことは指摘されたものの、緑谷がフォローに入ったことで少し慣れて来たのか、だいぶ話せるようになってきた。

 

 

「確かめたいこと?緑谷くんにか?」

 

「はい…」

 

「え、僕に?」

 

 

 

緑谷は不思議に思い首を傾げる。

 

 

 

 

成切さんが僕に確かめたいことって何だろう…?

 

 

わざわざ病院に来てまで確かめたいこと……。

 

 

成切さんが僕に話があるとしたらオールマイトに関係のあることなんじゃ……?

 

 

 

「……あ、でもお二人にも一応関係していることなのでお二人でもいいと言えばいいんですけど…」

 

「俺達にも?

是非聞かせてくれるか?」

 

「わかりました……」

 

 

 

……本当は良くないかもしれないけど下手に隠すと怪しまれるかもしれないし、怪しまれない程度に話そう……。

 

友里絵はまた少し迷ったあと小さく頷いた。

 

 

 

「…今回の事件……私はヒーロー殺しを捕まえたのは本当はあなた達であることを知っています……」

 

「「!?」」

 

「え…っ!?」

 

 

 

成切さん、それは話しちゃマズイんじゃ……!?

流石に怪しまれちゃうよ!?

 

 

 

警察と一部の人間しか知らないことを友里絵が知っていることに轟と飯田は驚いた表情になり、事情を知っている緑谷もそのことを二人に話す友里絵に驚いた。

 

 

「あ…心配しないで下さい…。他言するつもりは一切ありません…。私のおじさんも実はヒーローやってて今回の事件にもちょっとだけ関わっているんです。

警察の人な中に知り合いもいて、その人からも詳しく聞いたみたいで、私にも話してくれたんです…。それで事件のことや三人のことを知って……」

 

 

 

 

あ…上手い……。オールマイトのことだとバレないギリギリの範囲で誤魔化してる。

 

 

けどなんかオールマイトとグラントリノとごっちゃにしなってるような…?

実際に事件に関わっていたのはグラントリノで警察に知り合いがいるのはオールマイトだし…。

 

 

あ…でもオールマイトは現場にはいなかったけど雄英の教師で事件に巻き込まれたのは雄英の生徒(ぼくたち)だから全く無関係ってわけでもないか……。

 

あながち間違ってないところがすごい…。成切さんって表情に出やすいし感づかれた時は焦ったりするけど、実は誤魔化すのは得意なんじゃ……?

 

 

 

 

と、意外と心配はいらなさそうな感じでフォローはいらなかったんじゃないかと思うくらいだった。

 

 

 

「成切くんのおじさんもヒーローだったのか……。それで確かめたいこととは?」

 

「え…えっと、皆さんは"個性"を使ってヒーロー殺しと戦ったんですよね…?でも資格未取得者なので規則違反をしているから…その……」

 

「…なるほどな。つまりアンタはおじさんから話を聞いて違反をした俺達がどうなったのか知りたかったわけか……」

 

「成切さん…」

 

 

 

友里絵の目的が規則違反をしたことによる安否確認であると理解した轟が納得したように呟いた。

 

 

 

そういうことだったんだ…。それで成切さんは規則違反を犯した僕達を心配して……。

 

 

 

「だ…大丈夫だよ成切さん。丁度朝、警察の所長が来てその話をしたんだけど、今回のことはエンデヴァーの功績ってことで取り計らってくれるみたい。ただ…そのエンデヴァーとグラントリノ、飯田くんの監督をしてたマニュアルさんが代わりに監督不行き届きということで処分されるみたい……」

 

「そ…そっか、とりあえず生徒側にはお咎めはないんだね…良かった。

代わりに処分を受けるプロヒーローの人達はちょっと気の毒だけど……」

 

「アイツの手柄ってのは気に入らねぇけどな……。つーか…本当に悪いと思うのも緑谷と飯田んとこのプロヒーローだけだ」

 

「轟くん……(汗)」

 

 

 

 

轟は自分の父親のエンデヴァーを嫌っているのでグラントリノやマニュアルはともかく、エンデヴァーが処分を受けようが気にしないようだ。

 

何はともあれ、緑谷達三人の処分云々については特に何もないことに安心はすることは出来た。

 

 

 

「ところで俺からも質問なんだが、成切くんと緑谷くんとはどういうきっかけで仲良くなったんだ?体育祭の日に知り合ったと言っていたが……」

 

「あ、それは成切さんが落とし物をして僕が拾ったのがきっかけだよ」

 

「でもそしたら今度はデクくんも落とし物をして、私が拾って届けました。

それからは度々話すようになって…」

 

「ん…?()()()()…?」

 

「あ……」

 

 

緑谷と仲良くなったきっかけを聞かれ二人で説明をする中、気が緩んだのか友里絵はうっかり「デク」と呼んでしまいハッとして口を押さえた。

 

 

 

 

「成切…緑谷のことをデクって呼んでんのか…。

麗日と一緒だな」

 

「う…うん。デクで良いって僕から成切さんに言ったんだよ。けど初対面の二人の前でいきなり呼ぶのはどうかと思って躊躇ってたんだよ。クラスも違うし…」

 

「隠しててすみません……」

 

 

 

友里絵は「デク」呼びしている事実を二人に隠していたことを謝った。

 

 

「いや…別に仲良くなるのにクラスは関係ないんじゃねぇか?特に気にする必要もねぇと思う」

 

「轟くんの言う通りだ。

そういえば先程成切くんは病室にすぐに入って来なかったがもしかして同じ理由だったからなのか?」

 

「そ……それも一理あるんですけど、その…私はデクくんと仲が良いだけですし、楽しそうに話しているのが聞こえたので友達でもない私が入って邪魔をしたらいけないと思って………」

 

「え、僕達友達じゃないの!?」

 

 

理由(それ)を聞いて一番反応を示したのは緑谷だった。

 

 

「え……だって私みたいなのがデクくんの友達になんて……」

 

「そんなことないよ!僕はもう友達だと思ってたし!」

 

「確かに仲良いのに友達じゃねぇってのは変な話だな」

 

「ああ!緑谷くんの友達なら俺達とももう友達だ!」

 

「友達……」

 

 

 

そう呟いた途端、友里絵の目から涙が零れた。

 

 

「え…っちょ……っ!?成切さんどうしたの!?僕何か変なこと言った!?」

 

「飯田がいきなり俺達もとか言うからじゃねぇか…?」

 

「む!?た…確かに会ったばかりでいきなり過ぎたな……。済まない成切くん!」

 

「ううん…違うよ。みんなに友達って言ってもらえて嬉しくて……。私……友達っていなかったから三人も友達が出来て嬉しい……」

 

 

 

あたふたする三人に友里絵は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

「………。

(少し叱るつもりでいたがまァ今回は勘弁しといてやるか……)」

 

 

そして病室の外では友里絵の行動を叱る為にグラントリノが病室の前まで来ていたが、会話を聞きその気はすっかり消え失せたのだった。

 

 




以上第28話終了です。

閲覧してくださりありがとうございました。次回はオールマイトと友里絵、それぞれの視点でのお話になります。

ご意見等ありましたらぜひお願いします。



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第29話 相澤からの忠告

29話の作成につまづき、しばらくログインしない間にまた登録者様が増えてました!

ありがとうございます。


あとがきに読者様へ訂正とお詫びについて載せてあります。

よろしければ目を通して下さい。




 

 

「──それじゃあ私はそろそろ学校に行きます。轟さん、飯田さん今日はありがとうございました。

デクくんも。元気そうで安心したよ」

 

「お礼を言われるようなことはしてねぇけどな」

 

「こちらこそ緑谷くんだけじゃなく俺達のことも気遣ってくれて感謝している。ただ次からは俺達にも敬語はなしにしてくれるとありがたい」

 

「はは、努力しますね」

 

「僕もありがとう成切さん。気をつけて帰ってね」

 

 

三人の様子を確かめられ本当に安心した雄英に戻る為、別れの挨拶をしていた。

 

三人も優しく見送ってくれる。

 

 

 

「みんなお大事に」

 

 

軽く手を振り、病室の扉を閉め出ていく。

 

 

 

怪我は酷かったけどトシおじさんの言う通り、みんな元気そうだった。おじさんの言うことを信じてないわけじゃないけど、やっぱり来て良かった。

 

おかげで怪我の度合を知れたし、何よりも友達が出来た……。

 

 

 

まだ友達だと言ってもらえた嬉しさが残っており、胸の辺りがまだほっこりしていて手を当てると温かかった。

 

 

 

「よう、小僧の見舞いは済んだみてぇだな、このおてんば娘」

 

「…!トリノおじさん!?何でここに……っ?

ていうか、何で知って……っ!?」

 

「病院内ででけぇ声出すんじゃねぇよ。 お前が学校ほっぽりだして朝っぱらからこの病院に来る目的っつったら、あの小僧の見舞以外考えられるか。

そもそも今は職場経験中だ。あの小僧がここに運ばれてんだから俺がいてもおかしくねぇだろ」

 

「あ…そっか……」

 

 

少し進んだ先でグラントリノに呼び止められ友里絵はギョッとするも、彼の言葉であっさり納得していた。

 

 

 

「んなことはどうでもいい。小僧の無事は確認出来たんだろ。終わったんならさっさと学校に行け。今なら昼前には着ける」

 

「え……怒らないの……?」

 

 

 

いつもならこういう時グラントリノからぐちぐち言われたりするはずなのに、それが全くないことに友里絵は意外そうな表情を浮かべる。

 

 

 

「まァ…ぐちぐち言いたいとこなんだが俺の代わりに俊典が言うだろうからな」

 

「え……トシおじさんに言ったの……?」

 

「当たり前だろ。逆に何で言わないと思ったんだ?」

 

「ですよね~………」

 

 

 

グラントリノが黙っていてくれるはずもなく、友里絵は苦笑する。

 

 

「安心しろ。アイツにはお前を追い詰めない程度にしろと言ってある」

 

「わ~……嬉しくなーい……。せめて程々にって言って欲しかった。

ま……トシおじさんはトリノおじさんとはまた違った感じのねちっこさだから、どのみち当てにはならないだろうけど…」

 

「オイ」

 

 

 

以前の調子を取り戻しつつある友里絵はわざとらしく呟。

 

 

「とにかく学校に向かうぞ。グズグズしてたら昼前に間に合わなくなる」

 

「わーい、付き添ってくれるんだ、優しー」

 

「調子に乗るんじゃねぇこのバカ」

 

「えへへ♪」

 

 

 

グラントリノが学校まで同行してくれるらしい。友里絵はまたからかいながらも嬉しそうに後ろをついて行き雄英に向かった。

 

 

 

 

 

一方、雄英では───………。

 

 

 

……ハァ……まさか友里絵が学校に行くふりをして病院に行ってしまっていたとは……。

 

先生から話を聞いた時は本当に驚いたよ全く……。

 

 

朝の時点で気付くべきだった……。

 

あの子のことだ。

私があまり出歩かないように言ってしまったから言い出せなくなってしまったんだろう……。

 

ちゃんと連絡を怠らないところは友里絵らしいと言えば友里絵らしいが、決して褒められる行動ではない……。

先生のおっしゃったように友里絵が学校に来たらしっかりと言い聞かせなければ……。

 

 

 

友里絵の行動に理解出来るものの、やはり見過ごすわけにはいかないので頭を悩ませつつ、小さくため息をついた。

 

 

 

「(………それにしてももうすぐ昼になるというのに友里絵はまだ病院にいるのだろうか……)」

 

「…随分と落ち着かない様子ですねオールマイトさん」

 

「…!あ…相澤くん」

 

 

 

なかなか来ない友里絵を心配し時計をチラチラと気にしていると、ふいに相澤から声をかけられた。

 

 

 

 

「何か気になることでも?たとえば成切のこととか……」

 

「な……何でそこで成切少女の名前が出てくるんだい?」

 

 

 

相澤の問いかけにドキリとする。

 

 

 

「とぼけないで下さい。昨日、顔色の悪そうな彼女といましたよね。一緒に歩いているのを見かけました。その成切から今朝、雄英(うち)に「気分が優れないので病院に行く」と遅刻の連絡が入ったそうでまだ来ていません。

そのことをあなたもどこかで知ったでしょう。時計を気にしているところを見れば普通に想像がつきます。彼女は緑谷と同様、またあなたのお気に入りの生徒ってことですか?」

 

「(み…見られていたのか…!移動中は念のためにマッスルフォームになっておいて良かった!

あと何気に言い訳が上手いな友里絵!)

べ…別にそんなんじゃないよ。昨日はたまたま顔色を悪くしていた彼女を見つけてただ付き添ってあげただけで…」

 

「彼女の担任かリカバリーガールを呼べば良いことでしょう。何故わざわざあなたが付き添う必要が?」

 

「ま…まぁそうかもしれないが、彼女を見つけてしまった以上は私も放ってはおけなかったし、彼女もあまり周りに知られて大事にしたくなさそうだったから急遽私が付き添ってあげたんだ。

彼女の心配するのも教師として当然のことであってお気に入りとかは関係ないよ」

 

 

相澤は友里絵に対して既に不信感を抱いている。その上オールマイトとの関係性まで疑い出した。

 

下手な言い訳や誤魔化しはかえって彼の不信感を増幅させるだけだ。そこでオールマイトも重要な部分だけを上手く隠し話せる範囲で相澤に説明した。

 

 

 

「…教師として……ね。

まぁ特定の生徒を気にかけるのもほどほどにしといて下さいよ」

 

「あ…ああ、気をつけるよ。

ただ…その…余計なことかもしれないが君も彼女のことを気にしすぎじゃないか?彼女は何か心の傷を抱えているようだから、あまり詮索したりして刺激しない方が良いんじゃないかな…?」

 

「ええ…本当に余計なことですね。あなたに言われなくてもわかってますよ」

 

「あ…うん…ごめん…」

 

 

 

さりげなく相澤に友里絵を探るのを止めさせようとしたオールマイトだったが冷たく返されてしまい、つい謝罪の言葉を述べた。

 

 

「……とはいえ、成切のことについては全く無視は出来ません。

今の所、彼女自身に企みや危険性等はなさそうですが秘密を抱えているのは間違いないですし、その内容によっては万が一という可能性もあります。何か起こってしまってからでは遅いので、早めに探る必要はあります」

 

「そ……そうか………」

 

 

 

 

…やはりそう来るか………。

 

友里絵から相談を受けて以降、彼はずっと怪しんでいるようだし……。

昨日のこともまさか相澤くんに見られていたとは思わなかった……。一緒に歩く姿をと言っていたからその前のやりとりまでは見られてはいないとは思うが、これ以上余計なことは言えないし聞くわけにもいかない…。

 

友里絵は怪しくないと私が断言してしまえばそれはそれで怪しまれて友里絵との関係もバレてしまう。

 

 

これからは更に細心の注意が必要だな……。

 

 

 

本格的に探りを入れていくつもりの相澤。友里絵のことを敵の可能性としても考えている彼の言葉を本当なら違うと否定したい。だが、それをしてしまえば、今度は断言出来る理由などを追及されてしまうだろう。

 

今はより一層気をつけるようにする以外するしかなく何も言えないまま会話は終了となった。

 

 

 

 

《♪でーんーわーがーきた!でーんーわーがーきた!》

 

 

「済まない、電話だ」

 

 

「……。

(その着信音変えろよ…。それかせめてマナーモードにしろ……)」

 

 

 

そこで電話が鳴りオールマイトはまた職員室を出る。

 

 

《ピッ》

「はい」

 

「俺だ」

 

「先生!?」

 

 

 

相手はまたグラントリノだった。相変わらずの反応だ。

 

 

「ど……っどうされたんですか?また何か……?」

 

「今友里絵とタクシーに乗ってそっちに向かってるとこだ。あと数十分くらいで着く」

 

「ゆ…っ友里絵とですか。それは…わざわざありがとうございます…っ先生にお手数をおかけしてしまい申し訳ない限りです…」

 

 

少し前に電話で話したばかりなのに、また電話がかかってきたので今後はどうしたのかと思ったが、内容は現在タクシーで友里絵を送り届けている途中だという報告だった。

 

 

「要件はそれだけだ。送り届けたら俺は帰るからな」

 

「は…はい!

(むしろその方が有難いです!!)」

 

 

 

こうして通話は終了。

 

そこにはグラントリノと顔を合わせずに済みそうだと本気でホッとするオールマイトの姿があった。

 

 

 

 

 

 

「……──つーわけだから雄英あっちについたらアイツにちゃんと謝るんだぞ」

 

「わ…わかってるよぅ……」

 

 

 

そしてこちらはタクシーで移動中の二人の様子。

 

通話を終えたグラントリノに友里絵はしっかりと念を押されていた。

 

 

 

《♪ピロリン》

 

 

「あ…メールだ」

 

 

 

と、今度は友里絵のスマホが鳴る。

ただし電話ではなくメールだ。

 

 

 

"昼休みに仮眠室に来なさい"

 

 

 

 

 

「うっわ………早速連絡来たよ………」

 

 

 

 

覚悟はしていたとはいえ、呼び出しメールに、つい正直な反応をしてしまう友里絵だった。

 

 

 


 

 

 

 

数十分後、雄英に到着。

 

 

「じゃあな。アイツにきっちり絞られて来るんだぞ」

 

「……病院で言ってたことと違うんだけど……」

 

 

 

病院では安心しろみたいなことを言っていたくせに今はしっかり叱られて来いと言う。

 

 

 

「細かいことは気にすんな。ホラ早よ行って来い」

 

「細かくないってば……」

 

 

グラントリノはそれだけ言うとタクシーで帰って行った。

 

 

「……はぁ…憂鬱だ……

(まぁ…自業自得なんだけど………)」

 

 

 

ため息を吐きつつもゆっくりと校内に向かって歩き出す。

 

 

 

「えっと…まず職員室で遅刻届けもらわなきゃだよね…。トシおじさんいたらどうしよ……わっ?」

 

 

 

遅刻届けを貰いに職員室前まで来た友里絵が扉を開けようとした瞬間ガラッと扉が開き、どういうわけかまたしてもタイミング悪く相澤が中から出てバッタリ出会ってしまった。

 

 

 

「っと、成切か……。今来たのか」

 

「あ…相澤先生……」

 

 

 

 

ちょ…っ何でまた相澤先生が!?

 

 

タイミング悪すぎ!

 

 

 

何度も相澤と遭遇してしまうのでつい心の中で叫んだ。

 

 

 

 

エト……オ……オハヨウ…ゴザイマス…

 

 

 

動揺から思わず不自然な喋り方になる。

 

 

 

「ロボットかお前は。そうやってあからさまな態度を取るのは止めろ。

会う度に反応しやがって…」

 

「す…すみません…つい……」

 

 

 

 

 

そして普通にツッコまれた。

 

 

 

 

 

 

 

や……普通に警戒はするでしょ……。

 

 

 

 

相澤はああ言っているが、資料まで見て調べていた相手にどう安心しろというのだろうか。

たとえ本当に何も聞いて来ないのだとしても、相手を見て身構えてしまうのは当然だ。

 

出来ることならバカをやらかす前に戻りたい。

 

 

 

「その様子じゃ、やはりオールマイトにも何も話していないようだな」

 

「え…お…オールマイトにもって…?」

 

 

 

いきなりオールマイトの話をされた友里絵は驚いて一瞬「おじさん」と言いかけそうになるも、ぐっとこらえて相澤を見る。

 

 

 

え……な……何でいきなりトシおじさんの話を…?

 

ていうか、この人今やはりって言った…?

 

 

 

 

ってことはトシおじさんに探りを入れたな……!?

 

 

 

 

「お前昨日オールマイトといただろ。青ざめてたところを付き添ってもらったんだってな。随分とお前のことを気にしていたぞ。さっきも職員室で時計を見てそわそわしていたし余程気に入られてるんだなお前」

 

 

 

オールマイトに言ったのと同じことを友里絵にも話す相澤。それによって友里絵の反応を見ようとしているようだ。

 

 

 

 

 

あー……これは完全に真っ黒だわ……。

 

 

 

もう探る気満々じゃん…。

しかも私から喋らせるように仕向けてる…。確かに質問としては聞いて来てないけど、これは明らかに誘導尋問だ…。トシおじさんにまで探りを入れてるしなんてせこ………巧妙すぎる………。

 

けど、昨日のことを知ってるっぽいしまさか見られていた…?それで私とトシおじさんとの関係性まで疑うように…?

 

もし、本当に相澤先生が昨日のことを見ていたんだとしたら会ってないとか知らない振りをしても逆効果になる……。ここは一緒にいたことは認めつつ、それ以上の関係性はないことを示さないと。

 

 

 

「そ…そうですね。確かに昨日はちょっと具合が悪くなっていた所をオールマイトが通りかかったので救けてもらいましたけど、それってただ普通に教師として心配してくれてるだけだと思いますけど……。今日だって私が来てないと知ったから心配だったんじゃないですかね?」

 

 

 

状況を何となく理解し友里絵は脱力するが、昨日のことを相澤が知っている可能性もあるとなると否定するようなことは言えず友里絵は少し考えた後、ひとまずオールマイトといたことは否定せずにまた上手く誤魔化す。

 

 

 

「(…オールマイトといたことは否定しないか……。筋も一応通ってはいる……。二人の意見にも相違はない…。

こいつの場合、本当がどうか怪しいもんだがな…。どちらにせよ、こいつはやはり簡単には答えないか…)

…わかった。もう良い。

が、一つだけ忠告しといてやる。お前が話したくないのは勝手だが、この先もそのままってわけにはいかないぞ。いつまでも一人で抱え込んでないで面倒なことになる前に早めになんとかしろ」

 

「は……はい……。

(あれは絶対信じてないよね…。

まず、なんとかしようにもそれが出来ないから苦労してるんだけど…………)」

 

「なら早く遅刻届けをもらって戻れ。それと一応オールマイトにもお礼言っとけよ」

 

「わ……わかりました」

 

 

 

助言とも言える忠告をされた友里絵。実行するにはなかなか困難を極めそうだ。

 

 

 

まぁ…何はともあれ、会話を始めてからそんなに長くは経っていないが、やっと相澤から解放されたのだった。

 

 

 

 





この作品を読んで下さっている方々へ。


えー……この作品を読んで下さっている読者様から評価とコメントを頂き、いくつか指摘をして下さいました。

なのでこの場でお詫びと訂正をさせていただきました。

まずオリ主のプロフィールについて。
詳細がほとんどなく、必要ないのでは?とのご意見。
改めて考えてみたら確かにその通りでした。元々自己満足で書いていた物であり、読者様に想像を膨らませながら楽しく読んでもらいたいという思いから書いていました。読む側のことを考えていませんでした。申し訳ありません。キャラプロフィールは訂正をし開示しましたので多少のネタバレ部分はありますが気になる方はご覧下さい。

二つ目、主人公だけが『』になっていること。
これは昔別サイトで書いていた小説で使用していた方法でただ主人公のセリフだと判別しやすくする為でした。
その時は『』の方が分かりやすいと意見をもらいましたので。とりあえず主人公のセリフも「」に変更します。既に『』で投稿してしまっている数話は順次直します。

そして物語のスタートと志村菜奈の孫設定。
スタートが体育祭終了後からなのは単なる作成である私に文才がない為です。緑谷がグラントリノの元に行く前に和解をさせたく、他に良い方法が見つかりませんでした。

原作で志村菜奈が自分の子にヒーロー社会から遠ざけているのにも関わらず、雄英にいたりヒーローに関わりまくっていることについては一応こちらでもシナリオを考えて書いています。オリ主プロフィールにも書きましたが、ヒーローと関わっている理由やオリ主の親のことなどをこの先書いて行くつもりです。もちろん都合のいい設定ですが真意は作品を読んで頂き確かめて頂ければ幸いです。

長くなりましたがご指摘を下さった方、本当にありがとうございました。まだまだ未熟であるからこそ指摘して下さることはとても有難いことです。悪い所がわかり、より一層良い作品に出来るよう精進していきたいと思います。

指摘は私を成長させてくれます。
他の方も何かあればぜひご指摘願います。

ありがとうございました!






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