対魔法抵抗力エンドレスナイン (やってられないんだぜい)
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 設定を乗っけておきます。まぁ半分自分が忘れない様にですけどね。追加されたりもするので設定忘れそうになったらここで見返して下さい。


 悠木総司 男 15歳 11月20日生まれ 血液型O 

      身長180cm 体重90kg

 

 能力:対魔法抵抗力エンドレスナイン

    ・魔法に対する抵抗力がとてつもなく高い。間接的魔法(身体強化魔法)でない限り、如何なる魔法であろうと通用しない。(魔法による2次災害は有効)

   :気(ドラゴンボールの悟空達が使っている能力)

 

 今作の主人公。第一高校在学中。家庭は一般とは程遠い。親の収入が不安定なため、いざと言う時に対処できる様、貯金をする癖が染み付いている。食事を邪魔されると怒る。中学から親の仕事を手伝ったりして、それなりに溜まっている。手伝いは日帰りで済まないものも多いため、学校は休みがち。

 

 彼の能力ゆえ、十師族当主のみ、存在を知る。もし彼の情報を他の者に喋った場合、その者含めて粛清する。その代わり、十師族が表立って動けない案件の依頼を出来る限り引き受ける。そして十師族同士の争いを無くす為、互いの戦力を削る依頼は受けない。

 

 魔法の定義がこの世で1人だけ違う。彼にとっての魔法とは願えばなんでも叶う奇跡の力。この世界の魔法と呼ばれる物は魔術であると言い張る。それは幼い頃に夢で登場してきた神の影響をモロに受けたのが大きい。そのため頑なに皆が言う魔法を魔法と口にしない。だが魔法科高校に通っておいて魔術と口にするのも気が引けるので魔術とも口にしない。基本、その手の話題になると黙っている。

 周りに変な目で見られようと自分の考え方を曲げる事はしない。しかも思った事を良く口に出してしまう為、自ら嫌われる原因を作ってしまう。ただでさえ学校を休みがちなのに可笑しな言動(周りからしたら)をしているため、中学まではずっとボッチだった。だが言っている事は結構的を得ているので高校ではそれを受け入れてくれた。

 

 基本的めんどくさがり。しかし物に釣られると多少の面倒事でも引き受けてしまう。特に金がかかると衝動的に行動してしまう。そして魔法(総司からしたら魔術)能力だけで人を判断したり、なんでも魔法で解決出来ると思っている人物を嫌う。

 

 魔法は使えないが武術の天才。先祖達が50年かけても完成しなかった武術を、たった6年で殆どマスターしてしまう。その力は怒りで単調になったとはいえ、達也を簡単にあしらえる程。

 

 

 僅か13歳で沖縄海戦に秘密裏に参加しており、誰よりも多くの敵兵を葬った。魔法を一切使わず、自分達の魔法が通じない事からこの世から逸脱している者『Deviant』と恐れられた。

 

 

 

 

 

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入学編
悠木総司



 皆さんこんにちわ。今日から新しい投稿を始めます。好奇心旺盛で色んな物に手をつけてしまう癖がありすいません。劣等生って2期アニメやりましたよね。そこで思いついたんですよ。でも始めようか迷ってたらこんなに時間が経っちゃいました。

 ではこんなの殆ど誰も読まないと思うので本編どうぞ!


 沖縄海戦。それは大亜細亜連合と日本の間で起きた戦争。激戦の末、日本は運良く勝利を収めた。しかしこの戦争には奇妙な逸話があった。敵の数が報告より少なかったり、突撃すると既に敵部隊は倒れていたなど。そのおかげで日本軍は被害者を最小限に抑える事が出来たのだ。指揮を取っていた者は密かに日本軍を勝利に導いた者を讃え、褒美をやろうとした。隊士達を1箇所に集めて名を挙げろと言ったが誰もそれに自分だと答える者はいなかった。別に照れ隠しなどではない。後日一人一人に聞いても正体は明かされなかった。そもそも1人行動している者などこの戦場ではいない。

 

 日本軍ではこれを神様が自分達に味方をしてくれたと思い込み、沖縄の神社に全員でお礼参りに伺った。

 

 

 

 

 

 

 しかしその戦争で負けた大亜細亜連合側の生き残りの人物が奇妙な話をしていた。

 

 『魔法師じゃない奴にやられた』と、

 

 この言葉を聞いて信じる者は誰一人としていなかった。この世界は魔法が全て。この戦争に駆り出されている者も例外を除いて魔法師だけだ。一般人は魔法師には勝てない。それが世界の常識だった。日本に置いても同じである。きっと怖い思いをしたため記憶の一部が混乱しているのだろうと彼の話を真面目に聞いた者は誰一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがこの話は嘘では無かったのだ。いたのだ、たった1人だけ。後方部隊ではなくバリバリの前線に立っていながら何の武器も持たず、魔法も使えない。それどころか魔法そのものを信じていないこの世の異端者が。

 

 

 

 戦争に参加したという記録すら残らない。誰とも行動を共にしていない。それどころか隊士ですらないのだから。彼はある人物に雇われた唯一のゲリラ部隊。師族のトップ以外誰も彼の顔も名前も知らないという超極秘人物。その死神の名を彼等はこう読んだ。

 

Deviant(逸脱者)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠木総司(ゆうきそうじ)15歳。この物語の主人公だ。今年受験生だが進学するかそのまま家業を手伝うか悩んでいる。家は何処にでもあるような一軒家。平均よりは貰っているが魔法師と比べたらまだまだな生活を送っている。しかも親の仕事が特殊な為、月によって給料がバラバラ。貰える月はそれなりだがそれがない日だと乗り越すだけでも苦しい様な生活である。そして彼は現在、ある者の家に向かっている。

 

 「なんだよ。また依頼か?たまには俺じゃなくて父さんや兄さんにも依頼出せってんだよ」

 

 文句を言いながらも素直に出向く。これで彼等の家族は生計を建てているからだ。もしこの依頼が無くなった瞬間この家族は終わりだ。大した技術もない。この世界で重要な魔法の才能もない。あるのは戦闘能力と家族に代々伝わる特殊な技能だけ。世間ではこれをBS魔法と言うが断じて認めない。これは誰でも持っている潜在エネルギーを利用しただけだ。自分達はこれを『気』と名付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 総司は家の前で足を止める。目的地に到着したのだ。とても豪華な家。門は自分の何倍も高さがある。自分の家がこの敷地内に何軒建つのだろうか

 

 「相変わらず大きな家に住んでんな。ならもう少し依頼料払ってくれても良いだろ。まだ子供だからって安くしやがって」

 

 文句を言ってると。門が自動的に開く。そして中にはメイド服の女性がいる。いつもの案内人。

 

 「ようこそお越しくださいました。悠木総司様。こちらへどうぞ」

 

 総司はいつもの様にメイドさんに案内されて家の主人、つまり呼び出し主の元まで案内される。長い廊下。貧困生活の自分には何度来ても合わない家だった。

 

 主人の部屋の前まで来るとメイドがノックする。

 

 「ご主人様。悠木総司様をお連れしました」

 「うむ」

 

 扉を開けるあたら広い部屋。一体何畳あるのか気になるのは貧乏人あるあるかもしれない。メイドは一礼して部屋を出る。主と2人だけになると待ちくたびれた総司はいきなり本題に入ろうとする。

 

 「じーさん。それで話はなんだ」

 

 じーさんと呼ばれた男。九島烈は苦笑いする。走らせていたペンを止めてこちらを向いた。

 

 「相変わらず威勢が良いのぉ。この国で私をじーさんなんて呼ぶ者はお前以外おらんだろうな」

 

 「そんな事どうでも良いからさ。さっさと本題に入れよ」

 「そう急かさなくてもすぐ入るわ。せっかちなんだから全く。ところでお前さんは進路どうするか決めておるのか?」

 

 本題に入ると言っておきながら本当に関係あるのか謎な質問をしてくる九島烈。だがいつも関係なさそうな話が本題だったパターンが何度もあるので一応答えておく。

 

 「それが決まってないんだよな。元々勉強が好きじゃなかったからもあるんだけど依頼で色んなところ飛んでたら勉強まで飛んじゃって段々ついていけなくてな。まぁ家業を継げば勉強なんて意味ないって思ってたからそこまで必死にならなかったし。それで、これが今回の件とどう関係するんだ?」

 「そうか。学校は決まっておらんのか。なら丁度良い。お前さんに入学して欲しい学校があるのだ」

 

 

 何と九島烈からの今回の依頼はどうやら学校の偵察の様だ。でも正直偵察はどうすれば良いかよく分からない。そう言う依頼は基本兄や、父の方で総司は暗殺や、用心棒の依頼が多いからだ。でも学校となればしょうがない。父は勿論、兄も既に1人立ちしているからな。この情報化社会では偽名を使っても直ぐにバレてしまう。

 

 ただこの件で問題なのは何処の学校かだ。反魔法組織が強く根付いている学校なら確かにうちの家系が適任だと思う。だが卒業までの3年間の自由は奪われるがな。

 

 (まっ、そもそもこの世界に魔法なんてないしな。魔法学校も反魔法組織も意味が分からん。ま、金さえくれればこちらは満足だ)

 

 そう。この男は魔法と言うものを全く信じていないのだ。この魔法が当たり前の世界でこんな事を言う奴は彼1人だろう。じゃあ見せれば良いだって?ああ勿論見せたさ。そしたら何て言ったと思う?

 

 『だからそれ魔法じゃなくて魔術でしょ。魔法って言うんならお菓子一杯出してよ』

 

 だってさ。いくら概念を説明しても『願いが何でも叶うのが魔法だよ。この世界にある魔法なんて呼ばれてる物は精々魔術程度だね』と言うのだ。一体何処から魔術と言う単語を覚えたのか。もしかしたらこの世界ではない本を読んだのかもしれない。兎に角、彼は魔法(彼曰く魔術)を一切信じない。そのせいか彼は魔法に対する抵抗力があり得ない程高い。どのくらいかと言うと彼への直接的攻撃魔法は通じない。睡眠魔法なども通用しない。理屈は分からない。兎に角一切通用しないのだ。効果があるとすれば自分に身体能力上昇の魔法をかけて物理で殴り掛かるのは有効と言う事だけだ。この様な間接的魔法は通用する。

 

 その魔法が一切通用しない彼のこの能力を十師族はこう読んだ。

 

 

 

『反魔法抵抗力エンドレスナイン』と

 

 

 そんな彼は魔法師一族からも魔法師じゃない一家からも嫌われた。それでも何故彼に依頼を出すのか。それは戦闘において圧倒的だからだ。どんな依頼だろうと魔法に頼りきっている人に彼を止める事は出来ない。だから嫌いだろうと利用するのだ。総司もそれを分かっていながら淡々と依頼をこなす。winwinな関係と言う事だ。まぁ彼の事を好いている人物は中にはいるがそれはまた今度で。

 

 話は戻して総司の学校の話だ。

 

 「それで何処の学校行けば良いんだ?」

 「国立魔法大学付属第一高等学校だ」

 「却下で」

 

 総司は即答する。何故自分が魔術を魔法と思い込んでいる頭の可笑しい学校に入学しなければならないのか。意味が分からなかった。

 

 「そもそも魔術を使えない俺が入学出来る訳ないだろ」

 「だから魔術ではなく魔法と言っているだろ全く。だがそこについては安心してくれて良い。学校には話をつけておく」

 「うわ、これだから権力を持ってる人間は嫌なんだ。何でも通ると思ってやがる。てかそんな所に入って俺がやっていけるとは思えないんだけど。そもそもウチにそんな金はありません!」

 「それも安心しろ。学費などは全額免除にしておく。そしてこれの依頼料だが」

 「いや、話を聞けって」

 

 自分にこの依頼を受ける気はないとはっきり断ろうとした時九島烈は足元からアタッシュケースを机の上にボンッ!と置き、中身を見せた。するとそこには見た事もない様な大量の金が入っていた。

 

 「中には1億円ある。これでどうだ?」

 「喜んで受けさせて頂きます!」

 

 そんな額を見せられたら即答してもしょうがないだろう。良く人は金で動かないと言うがある学校に入学すれば1億円あげると言われれば受けるに決まってる。もし受けない人がいたらお金持ちか相当の馬鹿だろう。兎に角総司は受けたのだ。第一高校への潜入。3年間で1億円の依頼を。

 

 

 

 「それで、どうしてそこまでして俺を潜入させたいんだ?」

 「最近反魔法組織の動きが激しくてな。第一高校を狙っていると報告があったのだ。そこで生徒の護衛も兼ねて調べて欲しいのだ」

 「ふーん」

 「後はだな。お前さん、彼女とか出来た事ないだろ」

 「んー、そういえばそうだな。依頼とかで学校休む事多かったしそもそも魔法師一家を名乗る奴等からは嫌われてたからな」

 「高校ぐらい青春でも送らなければ後悔するぞ」

 「……あんた馬鹿か?そもそも魔法を信じていない俺が魔術……まぁここではあえて魔法と呼んどくか。魔法を学ぶ奴等に好かれる訳ないだろ」

 「まぁ9割には嫌われるだろうな」

 「あんた、性格悪いな」

 

 9割に嫌われる場所にあえて送り込むなんてとても性格の良い大人がする事とは思えない。まぁそれでも1億円貰えるのだから多少の事は目を瞑る事にした。まぁ最悪友達が出来なくてもなんとかなるだろうと思うだった。

 

  





 ご愛読ありがとうございました。

 金で釣られる主人公。そりゃ家計に余裕がない家族が1億円なんて用意されたらホイホイ釣られそうですものね。俺だってそうするかも知れません。

 ま、恐らく入学早々ボッチ確定ですね。そりゃ少し考えたら分かると思いますが。例えばですがサッカー素人、興味なし、サッカーが嫌い、そもそも野球大好きなんて人がサッカーの二次会行っても誰も相手にされないと一緒です。

 魔法なんてものが使えない総司のテストはどうなるのでしょうか。

 次回もお楽しみに。またね

 


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試験


 皆さんお久しぶりです。元気にしていましたか?

 最近バライティーで面白い奴少ないですね。前はもっと色んなのをやってた気がするんですがね。なんか退屈ですね。

 まぁ長話しても仕方ないのでちゃったと本編スタート!


 

 チュンチュンチュン

 

 「ふわぁ〜、んー朝かぁ」

 

総司は小鳥の鳴き声で目が覚める。欠伸をして身体を伸ばし、ベットから身体を起こした。重たい瞼を擦ると着替えないで階段を降りる。一階からは美味しそうな香りが漂ってくる。匂いを嗅ぐと自然にお腹が空いてきて腹の音が鳴った。

 

 「おはよ〜ふわぁ〜……寝みぃ」

 「総司!貴方今日は大切な受験日でしょ!顔洗ってシャキッとしなさい!」

 

 総司は母親の言葉をスルーして卓に座る。そう、今日は大事な高校受験の日なのだ。だからといって全くと言っていい程緊張も不安もない。合格するのが決まっているからだ。だからこの総司、全く受験勉強をしていない。そもそも受かると分かっていて尚且つ信じてすらいないものを何故勉強しなければいけないのか。彼はそう思っている。例えばこれを読んでくれている人達の中で宇宙人や、神を信じていない、もしくは興味も無い人達よ。貴方達はいくら依頼とはいえ、必ず受かるものを真面目に取り組むかって話なのだ。もし取り組む人はきっと真面目な方なのだろう。それに周りに合わせて自分がボッチになりたくない人もいるかな?しかし!総司に限ってそんな考えは持ち合わせていない。

 

 「ちゃんと筆箱持った?ハンカチは?ティッシュは?受験票は?」

 

 それでも親としては息子の大事な大事な受験日。受かるのが分かっていたとしても心配になる。いくら今後親の仕事を手伝うと決まっていて学歴が関係ないと言っても中卒と言うのは世間一般では良い目で見られない。それにこの依頼には1億がかかっているのだ。

 

 「持った持った。まぁ待たなくても入学出来るだろうけどね」

 「それにしてもなんでわざわざあの人の依頼受けたのよ。貴方の事だから絶対に周りから浮くわよ」

 「しょうがねーだろ。1億円なんて大金目の前に出されて反射で答えちまったんだから」

 「まぁそうよね。私だってそうするわ」

 

 (まぁ別に誰かに回答結果を見られる訳じゃないし、そこのところは誤魔化しとけば別に平気だろ。専門って言っても普通の会話だってあるだろうし。まぁ後々バレるかも知れないが最初は大丈夫だろ)

 

 この言葉がフラグになるとは思いもよらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それでは試験始め!」

 

 皆が一斉になって試験用紙を表にする中、総司は欠伸をしながらゆっくり表にする。元々解けないのが分かっているのだ。やる気もクソもない。そして文章を見ても予想通りサッパリ分からなかった。

 

 (なんだよ魔法工学って。学校で習ってないものを高校受験で出すなよ)

 

 総司は名前を記入すると速攻で寝た。当然周りからは嫌な目で見られる。

 

 (こいつ何しにここに来たんだよ)

 (解く気が無いならさっさと帰れよ)

 

 周りは当然の反応をする。時間が始まると同時に頭を伏せたのだ。ハッキリ言って迷惑である。こちらは必死になって受けに来たのだ。受かるか落ちるか、天国か地獄かの瀬戸際なのだ。だがイラつく心を沈め、自分のテストに集中する。どうせこの男は受からない。今後関わる事もない劣等生なのだ。総司はこの時点で既に浮いていた。

 

 

 

 

 

 

 テストは進んで行き最終試験となった。テスト内容は全てが魔法に対しての問題だった。そんな事分かる訳ない総司は今のところ、ここに来てやった事と言えば紙に名前を書いて寝た事くらい。あ、食事は取ったな。周りは休憩時間も削って必死に勉強している中、1人だけ呑気に弁当を食っていた。流石の総司も自分がどう言う目で見られているかは察しがついた。だがそんな事に気付いたとしても問題は解けないのだから気にしない。

 

 

 最後の試験はあるテーマについての作文だった。

 

 (どうせこれも魔術の事に関する事なんだろ。さっさと終わってくれないかな)

 

 ここに来てまでも魔法という言葉を使わない総司。用紙を回されて注意事項を見るとそこにテーマが記されていた。内容は『魔法についての考えを自由に述べよ』だった。もうここまでくると呆れて物も言えない。この学校は魔法の事以外頭にないのだろうか。試験もまともな中学内容が入っていない。国語、算数、理科、社会、英語。これを疎かにしていないだろうか。一応専門の学校なので実技があるのは分かる。だが筆記に至っては学校で習うのが普通なのではないだろうか。もし魔法以外に対して全くの無知だとしてもこの学校は受け入れるのだろうか。

 

 総司はこの試験で溜まりに溜まった不満をこの作文に全てぶつけた。

 

 

 『まず魔法についてだが結論から言わせてもらう。

 ハッキリ言ってクソである。そもそも何故この世界はそんな物をこんなにも重要視しているのか謎である。火魔法?ライターがあるではないか。火炎放射器があるではないか。射撃魔法?銃で十分ではないか。……今のはダジャレではない。この様にこの世で魔法と呼ばれている物は所詮今までの数々の偉人が発明して来た技術を我が物顔に自慢しているだけである。

 

 そもそも私は魔法と言うものを信じていない。正確にはこの世の魔法と呼ばれるものを魔法と認めていないのだ。魔法学校の入学試験を受けに来て何を言っているのか、そう思う者は多いだろう。だがこれが私である。本来魔法とは奇跡の力なのだ。何でも叶う、それが魔法なのだ。だがこの世の魔法と呼ばれるものはどうだ?黄金を創り出せるか?死者を生き返らせるか?出来ないだろう。精々元々ある技術を短縮するだけだ。

 

 魔法について詳しくないが聞いた事がある。魔法とは状態の定義は改変して作用を発生させる物。確かに凄い技術だ。だがその程度だ。魔法と呼ぶには次元が低すぎる。そういうのを何と呼ぶか知っているか?魔術と呼ぶのだ。魔法には及ばないが技術で魔法の真似事をする事。式を使うとこなんかは正にそうだ。魔法にはそんなもの必要ない。願うだけでいいのだからな。だから私はこの世界の魔法を魔法と認めない。これから魔法と呼ばれる物を魔術と記述する。

 

 最初にも述べたがこの世界は何故そこまで魔術を重要視するのか。実際日常生活で魔術がどれ程役に立っている?電気、家具、食事、これらに魔術は関わっているか?電気や家具は技術職の方が、食事は農家が、動物飼育の方が、それぞれ頑張ってくれているからこの世界は成り立っているのだ。所詮この世界は魔術なんてなくても当たり前の生活が出来るのだ。それなのに魔法が使えれば優秀、使えなければ役立たずなどと意味不明な方程式が成り立ってしまっている。本当に凄い人は先程挙げた影の功労者である。自分達が他国からの抑止力になっているとか抜かしているがそもそも貴方達が生きていられるのだってそういう人がいるお陰である。そこのところをしっかり理解してもらいたい。魔術は確かに凄い技術ではあるが決して万能ではない。個性の一つである事を肝に銘じてほしい。

 

 最後になるがもう一度言わせてもらう。クソである』

 

 

 (ふぅ、出来た!)

 

 総司はやっと試験に参加した気分になった。しかし冷静になって思い返す。正直言ってかなりの爆弾発言である。車の専門学校に行って車はクソだと言っているのだ。控えめに言って自分がクソである。だがそれでも消す気にはなれない。自由に述べよと言っていたから自由に書いた。それを否定など誰にもさせない。それが嫌なら最初から自由などという言葉を使うなと言いたい。

 

 「試験終了。回答用紙を前に回して下さい」

 

 するとキリが良く試験が終了した。ここからは実技試験に移る。既に時は3時を回っている。全て終わる頃には夜になっているだろう。でも簡単だ。出来ませんと言えば良いのだ。試験官に何を言われようが思われようが知ったこっちゃない。さっさと終わらせて美味しいご飯を頂くのだ。

 

 

 

 だが試験場には先程教室にいた生徒全員がいた。ここであれ?と思う。

 

 (え?実技は一人一人個室でやるんじゃないの?だって見られたら後にやる人がやり方分かって有利になったりするんじゃないの?)

 

 結論から言うと、他の実技と一緒に魔法もその場で行うことになった。つまり、総司のダメ加減は全て筒抜けになってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「終わった」

 

 終わった。全てが終わった。全て暴露されてしまったのだ。もう見せしめ以外の何者でもない。

 

 「恥ずい!だって俺が出来ない時の試験官の顔。完全に憐れんでたよ!周りもみんな馬鹿にし出すしさ。そういうところ考えて個室にしとけよ!そもそもそんな奴は受けるなって話なんだけどさ!仕方ないじゃん!俺だって金に必死なんだよ!お前らみたいな魔術使えるだけで安泰みたいな生活送ってないんだよ!馬鹿にしてた奴覚えとけよ。もし依頼があったらなんの躊躇も無く殺してやる」

 

 総司は顔を覆いながら逆恨みを言いながら家に帰るのであった。因みにしっかり合格しました。

 

 「これ、俺が受かったの知ったらあいつらからハブられるんだろうな。サヨナラ、俺の青春………まぁもともと考えが合うとは思わないけどな」

 

 

 





 ご愛読ありがとうございました!

 試験で恥をかく主人公。まぁやる気ないのに受けた本人が悪いんですけどね。そしてそれなのに受かったら周りから絶対避難される。そして劣等生では試験結果を生徒会長が見れるシステムみたいなので七草はどう思うのでしょうか。……嫌われるかな。

まぁそんな事は直ぐに分かる事だ!それより評価してくれた2人、ゼオンさんと最果てさんありがとう!これからも頑張っていくよ!!

 では次はとうとう原作開始の入学式!お楽しみに!


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入学早々痴話喧嘩?

 皆さん元気ですか?最近ケータイの充電コードが壊れてしまいました。マジで辛いです。寝てる時充電出来ないし。ネットで安いやつ見つけたから数日後には届くと思うんですけどそれまでは家族のを起きてる時借りてます。

 さて今回から原作開始です!どうぞ!



 「それじゃ行ってきまーす」

 

 今日は大事な入学式。いくら総司でもそれは変わりない。義務教育を終えて後の学校と言うのはそれまでとは何もかもが違う。全てはここから始まるのだ。1億円がかかった依頼が!

 

 (そうだよな。もし期待通りの任務をこなせなくて1億円はなしとか言われたらこの学校に入った意味もないしな)

 

  家を出ると改めて制服を見直す。中学までの地味な制服とは打って変わってかなりお洒落だと思う。…センスがないだけかも知れないが。そして、一つだけ気になった点があった。

 

 (気になるのはこの肩のところにある黒いの。まるで本来はここに何かある様なデザイン。ミス、では無いと思うが)

 

 実際は入学説明会でしっかり明記されて説明されているのだが、この総司ときたら待ってる時間が勿体ないと思い瞑想して精神統一をしていたのだ。周りからどう思われていたかは言うまでもあるまい。

 

 

 

 学校の近くまで来るとチラホラ同じ制服を着ている者達が見えてきた。既に仲の良いグループが出来上がっている事に少し羨ましく思う。だがそんな事思っている時、疑問に気がつく。横を通る人が皆、こちらを数秒みると小馬鹿にした態度で笑ってくる。総司は咄嗟に何処かに米粒でもついているか、チャックは閉まっているかなど確認したが何処も変なところはない。服装では無いとしたら顔なのでどうでも良いと思い無視する事にする。

 

 魔法師の家系は自分達の子供で優秀な子供が産まれるために遺伝子改造を行う事が多い。その副産物としてでみんな美男美女だ。しかし総司は魔法師の家系ではないので普通の顔である。いや、世間一般では中の上くらい、もしくは上の下くらいは顔が整っているがこの学校に来る者はどいつもこいつも上の上。そんな者達に囲まれれば、たちまち不細工の仲間入りである。

 

 (遺伝子改造して作られた顔の何処が良いんだか。別にお前らがやった訳じゃないけどさ。小さい頃にそれを聞いてから人を顔で判断する事が出来なくなったんだよな)

 

 

 

 

 「納得出来ません!」

 

 後頭部で頭を組みながらのんびり歩いていると声が聞こえた。女性の声だ。なんとなく暇なので声のする方に向かうと一組の男女ペアが言い争っていた。目つきがキリッとした黒髪の中肉中背の男と胸辺りまで伸びた綺麗な髪の毛に見合う様な100人中100が美少女と言う顔を持った女がいた。総司は入学初日から嫌なものを見てしまったと後悔する。

 

 「えぇ、入学早々カップルの破局かよ。今日は一応おめでたい日だぜ、もう少し考えろよ」

 

 流石に呆れてしまう。なんて日に問題を起こしているのだと。流石に見てしまった以上そのまま立ち去るのも後味が悪いので2人の仲を取り持つ事にした。

 

 「だって──」

 「はいそこまで。喧嘩は良くないよ」

 

 総司は2人の間に割って入った。2人は急に現れた総司に困惑している。そしてお互いに目配せする。

 

 (深雪、知ってる人か?)

 (いえ、初対面ですお兄様)

 

 「あのさ、何があったか知らないけど2人とも止めようよ。今日はめでたい日なんだよ」

 「あの、どちらか知りませんけど私はだからこそ怒っているのです」

 「はぁ?なんで入学式だから怒る必要があるんだよ。少なくとも痴話喧嘩をする日とは思えないな」

 「ち、痴話///……えへへ」

 

 痴話喧嘩と言うと彼女の方は痴話喧嘩と言われて嬉しかったのか頬を染めて身体をくねらせた。どうやら彼女に別れ様とする気はない様で安心する。痴話喧嘩と聞いて喜ぶと言う事はしっかり愛しているのだと。すると男が誤解だと訂正してきた。一体今ので何の誤解があったのか。次の言葉を想像する事は出来なかった。

 

 「勘違いをさせて済まないが俺達は兄妹だ」

 「………なんだって?」

 

 聞き返してしまった自分を責める事は出来ないだろう。誰が痴話喧嘩と言われて喜ぶ妹がいると思えるだろうか。いるならば悪いがその人の頭は彼女と同レベルである。

 

 「俺達は兄妹だ」

 「それは聞いた。俺が聞き返したのはお前達が兄妹だと言う事が信じられなかっただけだ」

 「そんなに俺達が恋人に見えたのか」

 「ああ」(って言うか兄妹って発想がまずなかったわ)

 「そんな、お似合いのカップルだなんて///」

 「黙ってろ変態」

 「へ⁈」

 

 いつまでも自分の世界を作り都合の良い部分だけ都合の良い解釈をする彼女に変態の2文字を突き付ける。彼女の見た目がどうか知らないが今の彼女を表す一言はこれ以外思い浮かばなかった。兄にゾッコンな妹。いつか彼女が兄を襲わないか想像すると背筋がゾッとする。変態と言われた彼女は訂正を求めてくるが総司それを無視して男と話す。

 

 「本当に兄妹なのか」

 「そうだ」

 「ならなんで妹さんは兄とカップルに間違われてこんなにも嬉しがっているんだ?」

 「分からないが恐らく……」

 

 彼は少し考えると彼女を見つめる。それ見て彼女も見つめ返す。今度は2人だけの空間が出来上がった。それを見て総司は確信する。

 

 (あ、これ妹が変態なんじゃない。兄妹揃ってブラコンシスコンの変態なんだ)

 

 なんか痴話喧嘩で割り込んだ自分がとんでもなくアホらしく感じる。ここにいる事自体場違いと思えてきた。兄妹なのにカップルを見ているみたいで嫌になる。数秒見つめ合った2人は男が微笑む事で終止符が打たれた。

 

 「それは妹がこんな俺でも慕ってくれているからだろうな」

 「そ、そうか」

 

 3人は、ここで出会ったのもなんかの縁だと思い軽く自己紹介をする。

 

 「私は司波深雪、一年生です」

 「俺は司波達也、同じく一年だ」

 「俺は悠木総司、一年だ。そうか、お前ら同じ一年なのか。てことはお前達二卵性双生児なのか?」

 「いや、そう言う訳じゃないんだ。俺が4月に生まれて深雪が3月産まれ。良く間違われるんだよな」

 「へぇ、そうなんだ」

 

 まさかの入学早々話し相手が見つかった事に少し浮かれている総司。思い切って先程まで喧嘩していた原因を尋ねる。

 

 「なぁ、さっきまでなんで2人は争っていたんだ?」

 「そうでした!悠木さんは正当に評価されない事をどう思いますか?」

 「え、えーと」

 

 総司は痛いところを突かれた。確かに評価は正当である方が良い。しかしそれを言うと自分自身がここにいる時点で正当ではない。お前が言うなという話ではあるが現実はそんなものだ。だからこれに対して答えるのではなく、何故その様な事を考えているのかを問う事にした。

 

 「なんでそう思うんだ?」

 「兄が正当な評価を受けてないからです」

 「え?どうしてそんな事が分かるんだ?」

 「そ、それは……」

 

 どうやら彼女は不正に入試結果を入手した様だ。ここで少し安心する。1番危惧していた事は避けられたみたいだからだ。

 

 (良かった。試験結果は張り出されている訳じゃないんだな。ヒヤヒヤしたぜ。それにしても深雪は凄えな。不正に手に入れたって事へ相当の家系のお嬢様か、親族だな。可能性としてはじーさんみたいな十師族と呼ばれる家系か)

 

 しかし総司には関係ない。この兄弟がどんな家系だろうとそんなものどうでも良い。それより彼女の態度から察するに自分の成績を見ていないと断言できるから。

 

 「この学校は可笑しいです」

 (そもそもこの世界が可笑しい)

 「お兄様もお兄様です。勉学も体術もお兄様に勝てる者などいないというのに!」

 「それは違うな」

 

 深雪の言葉に反応する。彼女が間違っている事を言ったからだ。深雪は兄の事だからか少し興奮している為、強めに総司に理由を要求してくる。

 

 「なんでですか⁉︎」

 「そりゃそうだろ。勉学は見たお前が言ってるんだからそうかも知れないが体術は違うだろ。この学校の入試科目に体術は無かった。つまりお前は兄以外の新入生の体術が分かる筈が無い。だから達也が誰にも負けないと言うのは断言出来る筈が無い。いくら兄を慕っているからと言って真実が見えないのは感心しないぜ」

 

 「いえ、見なくても分かります。いつも見ている私だから分かります。誰もお兄様に勝てません」

 「………あっそ」

 

 ここで総司の深雪への評価は最低近くまで落ちた。他人を勝手に見下して本当の力を理解しない者程愚かなものはない。自信を持つ事は良い事だが、何も知らないのに知った風な口を叩く輩はさっさと痛い目にあった方が良いと思う。

 

 総司の深雪への態度が変わった事を達也は気付いていた。彼女のことばを否定されるのは良い気分では無いが今回ばかりは彼女が悪いと思う達也。

 

 (深雪への態度が急に冷めた。さっきの言葉で評価はかなり落ちたんだろうな。確かにお前の言う通りだ総司。制服の上からでも俺は分かる。鍛え上げられた肉体。内に秘める闘気。実際に戦った事ないから分からないが魔法無しだと恐らくお前の方が上だろうな)

 

 総司の事を静かに観察する達也。そしてそれは総司も同じだった。

 

 (こいつ(深雪)が言う様に相当鍛えてるな。そこら辺の一般生徒なんかは相手にならない可能性は高い。まぁ思いもよらないダークホースがいるかも知れないが。もし戦った事になってもそう簡単に勝たしてやらないぜ)

 

 

 

 

 

 




 ご愛読ありがとうございました。

 【悲報】総司から深雪への評価が最低となる。深雪さん。見てもないのに決めつけるのは良くないですよ。入学早々ボッチになる可能性が下がった総司。でもやらかしてボッチになる可能性はあるから安心しない様に。それにさ、フィクションだからあるけど現実にこんなに仲の良い兄妹や。妹兄っているのかな?姉がいるけど想像できない。

 そして次回は七草生徒会長のご登場です。因みに作者の2番目に好きなキャラです。一位?それは勿論エリカでしょ。

 では次回もお楽しみに!またね


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お前ってポケモン好き?

 皆さん元気にしてましたでしょうか?まず皆さんに感謝を述べたいと思います。皆さんのおかげでランキングに載る事が出来ました!日間の加点だったかな。一時期載る事が出来てとても嬉しかったです。そのおかげでお気に入りが一気に伸びてあと1人で100人まで来ました。3日までは37人だったのがです。とても嬉しいです。後これは評価をしてくれた皆様のおかげでもあります。本当にありがとうございました。

 そして残念なお知らせがあります。前回七草真由美さんが出ると言いましたがアレはうそになりました。すいません。

 でも次回、次回こそ出るのでよろしくお願いします。
 では本編どうぞ!



 「深雪。例えお前が答辞を辞退しても、俺が代わりに選ばれる事はない。絶対にだ。それにな、俺は楽しみにしてるんだよ。お前は俺の自慢の妹だ。可愛い妹の晴れ姿をこのダメ兄貴に見せてくれよ」

 「お兄様はダメ兄貴なんかじゃありません!ですが分かりました。我侭を言って申し訳ありませんでした」

 (お前よりよっぽど出来た兄貴だよ)

 

 既に彼女への好感度が底辺となっている総司は心の中で毒づく。

 

 「謝る事でもないし、我侭だなんて思ってないさ」

 「それでは行って参ります。……見ていてくださいね、お兄様。それから悠木さんも」

 「ん、」

 「ああ、行っておいで本番を楽しみにしているから」

 

 総司の素っ気ない反応も全て兄がカバーしてくれてる。既に深雪は兄に晴れ姿を見てもらう事しか頭になかった。そんな彼女を達也は優しい笑顔で、そして総司は既に手を振るだけの形しか応援していなかった。

 

 「さて俺達はこれからどうすれば良いだろうか」

 「え?講堂に向かえば良いんじゃないのか?」

 

 どうやって時間を潰すか達也が考えているのに対して、総司はすぐさま向かえは良いだろと言う。それを聞いた達也は少し呆れる。

 

 「まだ講堂には入らない。深雪が先に行ったのはリハーサルに参加するからだ。聞いていただろ」

 「あ、そういえばそんな事言ってたな」

 

 まるで既に彼女の発言など頭から抜け落ちているかの様だった。それには兄として少しカチンと来るものがあった。今後、深雪と関わった時大事な妹を傷付ける発言をするかも知れないと思い釘を刺す。

 

 「悠木、途中から深雪に対する接し方が雑すぎるぞ」

 「そうか?初対面なんだからこんなもんだろ」

 「深雪の兄としては少し考えてもらいたいのだが」

 「しょうがないな。もう少し暖かく接すれば良いんだろ」

 「確かにそうだが。…妹は贔屓目無しでも可愛い部類だと思う」

 「いきなり何言ってんだお前?」

 「今までの男なら深雪と仲良くなりたいとするもんだがお前は違うのか?」

 「別に。顔なんかどうでも良い。兄であるお前には申し訳ないがアイツの発言を聞いて積極的に関わろうと思えなかっただけだ」

 

 彼は普通とは違う。達也はそう思った。彼が大物なのか、はたまたただのアホなのかはわからない。でもそれでも普通とは一線を画す存在だと認識した。彼に対して警戒心を強める。 

 総司は話を元に戻す。

 

 「講堂が開くまでは何時間あるんだ?」

 「2時間だ」

 「ええ⁈そんな待つのかよ!」

 「お前、入学案内に書いてあっただろ」

 「いや、適当に流し目で見てたから正確な時間覚えてなくて」

 

 達也は思う。先程はこの男を只者ではないと思った。確かにこの男は只者では無かった。とんでもない大馬鹿者だった。彼は本当にこの学校に興味があるのかと言う疑問が残る。

 

 「それじゃ適当なベンチでも探しながら歩こうぜ」

 「…ああ」

 

 

 達也は一緒に歩きながら総司の事を観察する。この学校に興味ないと思いきやまるで夢の国に来た男の子みたいに目をキラキラさせながら校舎を見る。綺麗やデケェととても楽しそうだった。少年をそのまま大きくしたかの様だった。

 歩き回る事5分。視界を遮らない程度に配置された並木の向こう側に、ベンチの置かれた中庭を発見した。

 

 「あ、丁度いい所発見。座ろうぜ達也」

 「あ、ああ」

 

 座ろうとするとその先に人が歩いているのが見えた。リハーサルの為に早く来た深雪の付き添いである達也と馬鹿である総司以外にこの時間に来る人は中々いない。消去法から在校生だろうか。そんな事を思いながら横を通り過ぎて行ったその背中からは無邪気な悪意が溢れる。

 

 ──あの子ウィードじゃない?

 ──こんな早くから……補欠なのに張り切っちゃって

 ──所詮スペアなのにな

 

 そんな声が聞こえて来る。聞きたく無くても耳に入って来る蔑称。自分の力を弁えている達也だが言われて良い気分はしない。だがその言葉を聞いた総司は不思議そうな顔をした。そして達也に向かって一言、

 

 「なぁ達也、ウィードってなんだ?」

 

 流石にそれを聞いた達也は驚く。いくらなんでもそれくらい知っている者だと思った。だから彼は不快な表情を浮かべなかったのだ。頭を抱えた達也はこのお馬鹿さんにゆっくりと分かりやすく説明した。

 

 「良いか、ウィードとは2科生の蔑称だ」

 「2科生って?」

 

 まるで達也の頭にタライが落ちてきたかの様な衝撃だった。彼の凄まじいボケのラッシュに足元をふらつかせる。

 

 「良いか、この学校は成績優等生の1科生と成績劣等生の2科生に分かれるんだ。それの見分け方は肩に付いているこの八枚花弁を持っているかどうか。それがある深雪や先程すれ違った彼女達は1科生で、それを持たない俺達は2科生なんだ。もしかしてその感じだと待遇の違いも知らないんじゃないか?」

 「ああ、知らない」

 

 今度はタライどころではない。重りがのしかかったかの様な感じた。本当に彼は何故この学校に入学したのか、そもそも入学出来たのか疑問に思う。それから達也は待遇の違いや、卒業した時の資格の違い等を説明した。総司は最初はしっかり聞いていたが達也の話が長くて後半は空の雲を数えたりしていた。

 

 「分かったか?1科生と2科生はこれぐらい違うんだ」

 「へぇ、そうなんだ。長い説明ありがとう」

 「そうなんだって、お前ショックじゃないのか?」

 

 自分のこれからの待遇の悪さにショックを全く受けた様子の無い総司に達也はますますこの男がどの様な男なのか分からなくなる。それに対して総司は何事も無かったかの様に平然と言った。

 

 「別に。そんなの興味ないし」

 「そう、なのか?」

 「ああ。俺はここに入学式する事自体が目的だったし。まぁビックリしたよ。あの程度(・・・・)で全て測った気になってるなんて。この学校が1番進んでいるって(じーさんに)聞いてたけど大した事ないんだね」

 「大した事無い?」

 「だってそうでしょ。魔力量とか色々測ったけど実際に模擬戦とかしてないじゃん。いくらそう言うのが凄くたってそれを有効活用出来なければ宝の持ち腐れだし。

 それに入学してから基本入れ替わりが無いって所も訳分かんないよね。そんなの結局は本人の努力次第なのに。俺の大好きな漫画にもこんな台詞があるぜ。『落ちこぼれだって必死に努力すりゃエリートを超える事があるかもよ』って。他にも野球ってスポーツのプロだった人で『雑草魂』ってのを掲げてた人もいるし。まぁ100年も前の人や、作品だけどな。でも俺はその通りだと思う。最初はみんなより遅れててもその人がどれだけ頑張れるかで人なんて変わるって。昔の人が既にその答えに辿り着いたのに今のこの学校の考え方はいつの時代の人だよって思う。だから俺はそんな事気にしない」

 

 達也はこれを聞いて今までの考え方を改めさせられた。自分も心の何処かでしょうがないと諦めていた。アレがあるから仕方が無いんだって。でもそれは違った。努力もしないで諦めるのは早過ぎると。確かにこの男は馬鹿かも知れないがバカではない。

 

 (悠木、ありがとう。俺を慕ってくれている妹の為に頑張ってみるよ)

 

 達也が総司の言葉に心を動かされている時総司の頭は羞恥心で一杯だった。

 

 (やっべぇ!恥ずかしい!なんだよ、努力次第だって。キメ顔で言ってさ!そもそも俺この入試に向けて一切努力してないからね!名前書いただけだからね。あ、最後のは色々と思いをぶつけたわ。

 それにしても王貞治って選手の言葉言った方が良かったか?『努力は必ず報われる。もし報われない努力があるならばそれはまだ努力と呼べない』。って違う。そんな話じゃない。努力しないで裏口入学した奴がエラそうに話すなって事だよ。

 まぁ学校の仕組みについてはへぇと思ったけどね。入試時点での順位がそのまま卒業した順位になる訳無いじゃん。才能ある奴とか言ったけど何を持って才能あるって決めてんだって話だよ。ただ量とか速さだけで決まる様な単純な世界じゃねぇんだよ。作戦、頭のキレ、戦闘センス。そして何より実際で臆さない度胸。1番大事な物を分かって無いんだから)

 

 総司が腕を組みうんうんと自分の言葉に頷いていると達也が肩に手を置いて来た。

 

 「感謝する悠木、いや、総司」

 「?ああ、どういたしまして?」

 「それじゃ俺は適当に読書しながら時間潰すからお前も適当にしろよ」

 「そうするわ。良し!昨日からハマってる『ポケスペ』でも読むかな。俺には今の人より昔の人が書いた小説や漫画の方が面白く感じるんだよなそれに近々100年も前に発売された発売されたポケモンをリメイクするって話だし」

 「ん?お前もポケモン買う気なのか?」

 「ああ、もう予約したがもしかして達也もか?」

 「ああ、深雪の分と合わせて2つ予約したぞ」

 「マジか!それじゃまし発売したら一緒に対戦しようぜ!」

 「いいぞ」

 

 なんだかんだ言って達也もポケモンが好きだった様だ。もう何十年も昔に発売されたゲームだがとても需要が高く新たにリメイクを出すのだ。その話で盛り上がり書籍を読み漁る事無く時間はあっという間過ぎ去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ご愛読ありがとうございました。

 【朗報】達也、考え方を改めてる。
 それにしても魔法科高校の1科生、2科生制度自体は別に文句無いんですけど卒業まで1科生から脱落者が出ない限り変えないって制度ははぁ?って思いましたね。馬鹿かお前って。いつの時代だよって。本当に最先端行ってるのかって思うんです。

 そして達也はポケモン好きだった。番外編で戦うかも知れないですね笑笑。

 では次回もお楽しみに!またね


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生徒会長

 皆さんおはこんばんわ!元気にしていましたか?タイトルから分かる通り今回はみんな大好き七草会長でーす!人気投票調べたら3位だったんですね。流石の人気です!

 自分野球大好きなんですけど最近なんjってスレでイチローと松井どっちを取りたいかってのがあって。両方凄い選手なんだけどやっぱりイチローかなって。外野で走れて守れる人いっぱいいるって言ってましたけどイチローレベルの走攻守の三拍子が揃ってる選手なんているかって。しかも目立たないけどイチローってパワー凄いですからね。求められてないって言ってホームラン狙って無かったですけど打撃練習とかだと1番ホームラン打っているのはイチローって言われてたんですよ。

 だから俺は断然イチロー派です。でも松井も欲しい。結局両方で!

 では本編どうぞ!


 ポケモン以外にも漫画等で話が盛り上がる2人。なんとなく小説以外読まないと思っていたのだが達也も意外に漫画が好きだった。

 

 「やはりジョジョは興味深い。なんと言ってもインパクトの強い名言が多いからな」

 「だよな。あの荒木先生まだ生きてるんだぜ。もう135歳なのにな。しかも110歳まで描き続けたジョジョは計280巻の18部編成。すご過ぎるだろう」

 「あぁ、あの人は確実に赤石をはめ込んだ石仮面を被っているだろうな」

 

 

 「はぁ〜。なんか今の漫画ってつまんないんだよな。昔の方がよっぽど面白かったぜ」

 「昔って、俺達が生まれるより何十年、下手したら100年も昔の作品だぞ。……まぁその気持ちは分からない訳ではないが」

 「だよな。なんかどれもこれも二番煎じって感じでイマイチ心に来る物が無いんだよ」

 「新入生ですね?開場の時間ですよ」

 

 漫画談義で花を咲かせていると急に声をかけられた。視線を達也から声の主に移すとそこに立っていたのは女性だった。そして彼女の左腕には幅広のブレスレットが巻かれている。普及型より大幅に薄型化され、ファッション性も考慮された最新式の『CAD』──術式補助演算機(Casting Assistant Device)。そしてこの学校でCADの常時携行が認めてられるのは生徒会役員と特定の委員会のメンバーのみ。その事にいち早く気付いたのは達也だけだ。総司はCADのカタログ等一度も見た事が無い。だから彼女のCADをそもそもCADと認識しておらずファッションとしか見ていなかった。

 

 「わざわざ教えてくださりありがとうございます。すぐに行きます」

 

 彼女の左胸には当然八枚花弁がある。以前の達也なら自分の左胸を隠そうとする卑屈さは持ち合わせてなかろうと劣等感は感じていただろう。しかし今の達也にそんな物はない。総司の言葉を聞いて考え方を改めたからだ。

 

 「感心ですね、スクリーン型ですか」

 「まぁ規則ですから」

 「当校は仮想型ディスプレイ端末の持込を認めて無いんですけど使用する生徒は大勢いるのですが貴方はえらいですね」

 

 この学校の生徒の多くは違反である仮想型ディスプレイ端末を持ち込んでいる。達也は読書には不向きだからとして理由を述べるが総司は違った。

 

 「確か達也が言う通り読書(漫画)に不向きなのもありますが、ウチに仮想型ディスプレイ端末を買う資金はありません!」

 

 そう、仮想型ディスプレイ端末はかなり高い。出始めた当初と比べて一般家庭にも優しいお値段にしたと言うが冗談じゃない。月10万のデータ料金がお安い筈がない。確かに多額の給料が貰える魔法師ならば安いかも知れないが、月の収入が大きく増減する我が家ではそんな余裕はない。

 

 「見て下さいこのiPhoneXLV(45)!月の料金たったの1000円!これこそ庶民の味方!まぁ仮想型ディスプレイ端末が出たせいで売上はイマイチだけどこの使いやすさはとんでもないんですよ!」

 「そ、そう……それにしても動画ではなく読書ですか。ますます珍しいです。私も映像資料より書籍資料が好きな方だから嬉しいわね」

 (え、資料としては俺動画の方が分かりやすいけど。文字や聞くより実際に見た方がイメージ出来るから分かりやすくね。真似するにしても実際に見なきゃ俺は無理だわ)

 

 総司の演説に若干引いている彼女。どうやら彼女も読書派だったようで共感してくる。まぁ先程から総司とは噛み合ってないが。

 

 「あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。「ななくさ」と書いて書いて「さえぐさ」と読みます」

 

 彼女は最後にウインクを添えてそう言った。大した整っていない者がしたらただイタい行為なのだが彼女の場合はとても似合っていた。美少女なルックス、小柄ながら均整の取れたプロポーションと相まって高校生になったばかりの男子生徒が勘違いしても仕方がない蠱惑的な雰囲気を醸し出している。

 しかしそんな見た目に目もやらず彼女の言葉を聞いて総司は呆れてしまった。

 

 (この人が生徒会長?ウソだろ。ならなんで仮想型ディスプレイ端末が使われてるのにそんな他人事なんだよ。校則破ってるのを見つけたら規制しろよ。こんな奴がなんで生徒会長なんかやってるんだ?………あ!九島のじーさんと同じ十師族だからか!名前に数字入ってるもんな。なるほど、親の七光りって訳か?まぁそうと決まった訳じゃ無いから口に出しはしないけどさ)

 

 「俺、いえ、自分は司波達也です」

 「おr」

 「司波達也くん……そう、貴方があの司波くんね」

 

 達也が挨拶したので自分もしようとしたら七草会長に遮られた。どうやら既に彼女は達也に興味津々らしい。相手にされてない事で少し拗ねながらも達也が何故目をつけられているか気になってしまった。すると彼女は楽しそうな含み笑いをして言う。

 

 「先生方の間では貴方達の噂で持ちきりよ。なんたって入学試験7教科平均96点。特に魔法論理と魔法工学は合格者平均が70点に満たない中で両教科とも文句なしの満点。こんなの前代未聞の高得点だって」

 (は?)

 

 総司はこれを聞いてとても驚く。2人はそんな総司を置き去りにして会話を続ける。

 

 (え?……え?いや、確かに達也の成績は凄いよ。でも俺が1番驚いたのはそこじゃ無い。なんで1生徒の彼女がそんな情報を知ってるんだよ。つまり俺の成績バレてるぅぅぅぅ⁈てか個人情報守れや教師!)

 

 先程から下降一辺倒のこの学校への評価がまたも下がる。個人情報もろくに守れないクソ学校と。一体この学校のシステムは何世代前なのだろうか。個人情報を守る制度なんていつの時代なのだろうか。なんかデジャブを感じるが気の所為では無いだろう。

 

 「私は司波君みたいな点数は取れないだろうな。あ、ごめんなさい。貴方の名前聞くの忘れてたわね。お名前聞いてもよろしいかしら?」

 

 学校に悪態付いていると達也との会話が終わったのか彼女はこちらに話しかける。総司は考える。これで名前を答えるべきか。もし答えたとしたら彼女に尋問をされるに決まっている。どうやってペーパー実技両方0点の自分が受かったのかと。そして答えなければそれはそれで不審がられる。悩みに悩んだ末に出した結論は、

 

 「………ゆ、ゆ、ゆ…悠木、総司……です」

 

 俯きながらゆっくり本名を明かす事にした。どうせいつかは知られるのだ。隠し続ける様な面倒臭いマネなどした事が無い。いつでもバラされる覚悟を決めているのに一向に何も言われない。片目を開けてチラっと彼女を見ると達也に向けた表情より更に興味深くこちらを見ていた。まるで心を覗かれている様な緊張が総司を襲った。

 

 「あ、貴方が?悠木総司くん?」

 「は、はい。そうですけど……」

 「そ、そう。貴方が悠木総司くん。貴方が噂のもう1人よ」

 「え?」

 

 達也はもう1人の噂と言われて驚いてこちらを見てくる。総司は達也から視線を外す。予想通り自分の個人情報も漏洩している様だ。

 

 (ああ、俺の高校は終わった。入学式する前に俺の高校人生終わるとは、俺は所詮この人生と言う名のゲームの、敗北者じゃけぇ。金を求めて入学するも、金も青春も何も得ず。しまいにゃ入学式前に知り合い意気投合した者の前で醜態晒す。俺の人生、実に空虚じゃあらせんかぁ〜。………赤犬やってる場合じゃねぇよ)

 

 もう終わったと分かると変な想像をしてしまうのかと思う総司。チェスや将棋で言う所のチェックメイトにハマってしまったのだ!もう覚悟を決めてその噂を聞く事にした。

 

 「それで、どう言う噂ですか?」(さよなら、達也。短い間だったが楽しかったぜ)

 

 まるで死に際のセリフを心の中で思いながら。しかしこのセリフは無駄になる。

 

 「さぁ、私も知らないんです」

 「え?」

 「丁度私が職員室に用があって立ち寄った時貴方の名前が話題に上がっていたの。でもやばいだとか一体なんて言うだけで何がやばいのか全く話さなかったの。痺れを切らした私はドアを開けたわ。そしたら一気に場は静まり返った。そしてとても焦りながらこちらを観察して来た。まるで聞かれてはいけない話をしていたかの様に。気になった私は思い切って聞いてみる事にしたの。達也君の時も直ぐに話してくれたから。私、結構権力あるのよ」

 

 笑顔でサラッと怖い事を言う。本当にこの学校のセキュリティーはしっかりしているのだろうかと問いただしたくなる。しかし彼女はこっから真剣な表情に変わった。

 

 「でも教えてくれなかった。一言も話さなかったの。頑なに口を開けなかったわ。自分の発言から推測すらされない様にね。私はまるで国家機密かと思ったわ。貴方は一体何者なの?」

 (いえ、正直ほぼほぼ正解なんですけど)

 

 国家機密。その通りであった。国家の政治は原作十師族が裏から支配していると言っても良い。そしてそのトップだけが総司の力を知っている。それは最早国家機密と言っても間違いではない。だが総司からしたらこれはラッキーであった。バレていると思った自分の成績は彼女にはバレていない。生徒会長で十師族の御令嬢である彼女すら知り得ない事は他の者が知ってる筈が無いのだ。

 

 (じーさんが口止めしててくれたのか。サンキュー、危うく始まる前にゲームオーバーだったぜ)

 

 「さぁ、自分には見当もつきません。自分は2科生です。話すのも気の毒な程、悪かったのでは無いでしょうか?」

 

 会えてここで真実を話す。しかし自分を疑っている彼女が素直にこれを信じる筈がない。彼の考えはまさしく的中した。彼女はこの言葉を全く信じる事は無い。しかしこの様子だといくら聞いても話す気は無さそうなのでここは引く事にする。

 

 「そうは思えないけど今はそう言う事にしておくわ総司くん。それでは2人とも、そろそろ時間ですので講堂にお急ぎ下さいね。遅刻は厳禁ですよ。ではまたね、司波君。そして総司君」

 

 意味深な笑みを浮かべて去っていった。入学早々目をつけられてしまった2人。最初こそ達也に興味津々だったのが今では総司の謎に夢中だった。

 

 「なんか面倒臭くなりそうだな」

 「そうだな。だが俺もお前の秘密が気になるな」

 「まぁ誰しも秘密の1つや2つあるだろ。俺にも、お前にも」

 「………」

 「だろ。まぁだからって俺達の関係が無くなる訳じゃ無いけどな。お前は俺にとって初めて意気投合した奴だ。これからもよろしくな」

 「……そうだな。俺もお前との会話している時は自然と笑みが溢れた。これからもよろしく頼む」

 「ああ」

 

 2人はお互いに握手して講堂を向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ご愛読ありがとうございました。

 七草会長。好きなんだけど正直会長と言う立場ではイマイチ。ルックスと家系と能力は凄いけどね。優しいのは分かるんだけど叱る時は叱らないと無法地帯になってしまいますよ。

 そして目をつけられた2人(1:9で総司に軍配)。それからどうなっていくのでしょうか。

 次回はとうとう入学式?お楽しみに!またね


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 可愛いエリカ


 お久しぶりです。皆さん。野球見ているみんな!巨人がとうとうソフトバンクから負けなかったぞ。引き分けだけど。マジで巨人に勝てば優勝だな。去年みたいに開幕巨人じゃないから波に乗れないなんて事はないだろうけど。

 てか佐藤化け物。マジでやばい。予想260、22本くらいやりそう。

 藤浪も良いし未来明るいですわ。

 では本編どうぞ!

 注意書き

今回クラスが決まりますがAからDが1科生、EからHが2科生ってのは一緒です。でもAクラス以外は成績順じゃない様にします。だからGだからってEより成績が悪い訳では無い事にします。原作にはそこのところ書かれてなかったのでそう言う設定と思ってください。

 では!


 

 達也との会話が盛り上がった事や会長と話しこんだ所為で2人が講堂に入った時には、既に席の半分以上が埋まっていた。座席指定は無いから最前列に座ろうが最後列に座ろうが自由だ。だが指定は無くとも規則性はあった。前半分が1科生、後ろ半分が2科生となっていた、誰に強制されている訳でもないにも関わらず、自分達の意思で。

 

 (最も差別意識が強いのは差別を受けている者である、か……)

 

 「おっ!達也、あそこ空いてるから座ろうぜ」

 

 総司は空いてる席を見つけたと達也に言う。そこは丁度最後列だった。一瞬、彼にも場を空気を読む事が出来るのかと思う達也だったが直ぐにそんな考えは消しとばす。

 

 (そんな訳無いか。総司はただ近くで空いてる場所があったから言っただけでそもそもこの法則性に気付いてないだろうな)

 

 事実その通りである。もう一つ付け加えるとすれば入学式中にもし寝落ちしても後ろならバレないと思ったぐらいだ。

 

 

 

 「あの、お隣は空いてますか?」

 

 2人が残り時間を睡眠に費やそうとした直後、声が掛かった。達也側から声が掛けられたと言う事で達也が対応する。彼女の後ろには他に3人の女子生徒がいたが、特に断る理由も無かったためOKする。

 

 「どうぞ」

 

 最初に声を掛けてきたメガネの女性がまず腰をかけ、続いて次々と他の者が席に座る。反対側にいる総司からしたら関係ないので未だに手すりに肘をつき目を閉じている。彼は何も思ってなかったのだろうが第三者から見たら達也に女性を取られて拗ねている様に見えたのだろう。そんな彼を見兼ねて赤髪の女子生徒が達也達の前を通り過ぎ、わざわざ総司の隣に座ったのだ。総司は何事かと思いやっと目を開けた。

 

 「あたしは千葉エリカ。よろしくね、えっとぉ」

 「よろしく、俺の名前は悠木総司」

 

 エリカは元気良く挨拶した。しかし総司はそっけなく名前を言うと直ぐにまた目を瞑ってしまった。まるで自分に興味が無い様に見られたエリカは何かに負けたと思い総司に突っかかった。

 

 「何?もうおやすみ?昨日は緊張して全然眠れなかったとか?」

 「全く。ぐっすり眠れたよ」

 「それじゃなんで眠ろうとするのよ」

 「やる事が無いからな。端末を開いて良いならそれ弄るけど、ここに入る前に隣の男に言われたからな」

 「へぇ、そうなんだ」

 「それよりもなんでこっちに座ったんだ?友達の方に座れば良かったじゃないか」

 

 さっきまでやる気無さ気で答えていた総司が初めて自分から質問して来た事にエリカは笑みを溢す。

 

 「友達って言うか初対面だよ。さっきそこで知り合ったんだ。講堂が何処かみんな分からなくてね。私端末忘れちゃって」

 

 いくらなんでも端末忘れるとは驚きだ。端末があれば基本何でも出来るこの世の中でそれを忘れるなど馬鹿としか良い様が無い。だがそれは端末を漫画読める物としか認識していない総司が言える事ではなかった。それに初対面で良くあんなに仲良く出来るなと思うが自分も人の事を言えた義理ではないので言葉にはしない。

 

 「それにこんな美少女を全員他の子に取られて拗ねてる男の子がいたからねぇ」

 

 エリカはニヤニヤしながら総司の頬を人差し指でぐりぐり回す。いつまでもぐりぐりされてムカついた総司は反撃に出る。

 

 「はっ!どうせチャラついてるお前が単に彼女達に合わなかっただけだろ」

 「ぜーんぜん平気ですぅ。誰にも構ってもらえなくて寂しそうな貴方に情けを掛けてあげたんですぅ」

 「余計なお世話だね。それにこんな美少女?笑わせるわ。一般では美少女かも知れないがこの学校に入れば並だよ。いや、性格も相まって下ってとこかな」

 「なによぉ!」

 

 2人の言い争いを見ていた他の人達は、

 

 「あの2人もう仲良くなってるね」

 「アレは仲が良いのか?」

 「そうだよ。わざわざ嫌いな人には話しかけたりなんかしないもの」

 

 そう言うもんなのかと達也は思いながら入学式が始まるのを待つのであった。

 

 

 

 入学式は無事終了した。途中寝そうになる総司をエリカが起こしたりしてそれを夫婦みたいとからかわれて顔を真っ赤にするエリカを馬鹿にする総司がいたなどあったが式は無事成功した。深雪の答辞も見事なものだった。これには総司もしっかり聞いていた。だが他の者がその美貌、声に釘付けになっている中、総司が起きていたのは彼女の言葉に思う事があったからだ。

 

 (皆等しく?よく言うぜ。兄以外まともに見ようとしなかった癖に。それは魔術しか見ていない奴等と同レベルだぜ)

 

  そして式が終了したのでIDカードの交付がある。ここで初めて自分のクラスが分かるのだ。

 

 「達也、お前何組だ?俺はEだった」

 「俺もEだ」

 「え?司波君もEだったの?やたっ!同じクラスね!」

 

 エリカは飛び跳ねて喜ぶ。総司に背を向けて。まるで総司という存在を認識していないかの様だった。総司が若干イラついているとエリカが総司の方を振り返り笑いながら煽って来た。

 

 「あら?貴方いたのね。それでクラスは?」

 「聞いてただろ。俺もE組だ」

 「あらそう、良かったじゃない。私見たいな美少女と一緒になれて」

 「お前良く生徒会長や、深雪を見てそんな事が言えるな。顔だけならお前より上だぞ。いい加減現実を見ろ」

 

 総司はエリカが調子乗ってるので彼女より顔が整っている2人の名前を挙げた。2人の事、特に深雪に関しては考え方はまだしも顔だけは整っているから。

 

 「うっ⁈」

 

 流石にそれはエリカも自分より彼女達の方が綺麗と弁えているので言葉が詰まる。しかし総司は大きなミスをしてしまった。式前の時は言われなかったが言葉が詰まったからこそ苦し紛れの言葉が彼にクリティカルヒットしたのだ。

 

 「それを言うなら貴方、自分の顔を見てみなさいよ!全然じゃない!その顔じゃ達也君の隣にいると比較されるんじゃないの?」

 「うぐっ⁈」

 

 顔。平凡な彼からしたらこの美男美女の中にいればいつかは言われると覚悟していた。だがこんなにも早くなるとは思わなかった。しかも目の前に比較対象がいる。100対0で達也の勝ちだ。誰がどう見ても。魔法師は皆美男美女と知っていたので分かっていたがいざ面と向かって言われるとキツいものがある。

 

 片膝をついて悔しさを露わにする総司。それを見兼ねた周りが同情と彼女に対する非難を始めた。

 

 「可哀想に」

 「エリカちゃん、それはいくらなんでも酷いよ」

 「そうだよ、悠木君だって気にしてるのかも知れないじゃない」

 「で、でも!こいつが私の事を!」

 「確かに悠木君はエリカちゃんに少しは言ったかも知れないけど別に貶してはなかったよ」

 「そうそう、美少女だって講堂で言ってたじゃない。それに比較対象で七草会長や司波深雪さんを出すって事はちゃんと可愛いって認めてるって事なんだから」

 「え?……私が悪いの?」

 「「「うん、エリカちゃんが悪い」」」

 

 まさかの3人が総司側についた事に驚きを隠せないエリカ。確かに言われてみればそうかも知れないがまず言ってきたのはこの男なのにと。これは謝らなければならない雰囲気を感じ取ったエリカは渋々彼に近付いて謝る。

 

 「えっと、ごめんね。少し言い過ぎた、かも。さっきはつい勢いで言っちゃったけど私は嫌いじゃ無いわよ。貴方の顔」

 「……え?マジで?」

 「うん、マジ。だから元気出しなよ。きっといつか可愛い彼女も出来るわよ。それにこれじゃいつまでも私が悪者みたいだし」

 

 照れながら照頬を掻き目を逸らして言うその姿は確かに美少女だった。それを見た総司は膝に立ち上がる。

 

 「サンキューエリカ。お前顔はあいつらに劣るけど性格はあいつらより断然可愛いな」

 「あ、ありがとう」

 

 どうやらもう大丈夫みたいだ。エリカはモジモジしながらそう言う。面と向かって褒められるのは慣れてないのだろうか。

 そんな2人を温かい目で見守る4人。それに気付いたエリカは必死に言い訳を始める。

 

 そこは近づいてくる足音が複数。

 

 「お兄様お待たせ致しました」

 「司波くんまた会いましたね。それに総司くんも」

 

 人懐っこい笑顔と言葉遣いを多少取り繕ったセリフに、達也は無言で頭を下げ、そして総司は露骨に嫌な表情をした。

 

 「ふふ、随分嫌われたものですね」

 「自分のプライベートを詮索してくる人を好きになる人はいませんよ」

 

 2人の会話に何人かこそこそ話を始める。

 

 「え、悠木くんって会長となんかあるの?」

 「悠木くんは何をやったのよ」

 「さぁ、でも会長に目をつけられるって相当よ」

 「一体どうしてでしょうか。司波さん分かりますか?」

 「いや、実は俺もよく知らないんだ。どうやら総司の入試成績が関係している様だが」

 

 5人の視線は総司の背中に釘付けとなった。深雪も会長に目をつけられている総司の事は気になりはしたものの、それ以上に兄と親し気に内緒話をしている少女達の方が気になった。

 

 「お兄様、その方たちは?」

 

 聞かれたので達也は素直に4人を紹介する事にした。

 

 「入学式で隣だったんだ。柴田美月さんと千葉エリカさんが同じクラスで他の2人が別のクラスだ」

 「そうですか……早速、クラスメイトとデートですか」

 

 可愛らしく小首を傾げ、含むところなんてありませんよ、という表情で深雪が問いを重ねる。唇は淑女の微笑み。ただし目が笑っていない。相変わらずのブラコンっぷりにやれやれと思う達也。

 

 「そんな訳ないだろ、深雪。お前を待ってる間、話をしていただけだって。それにエリカには総司がいる」

 「え?…ええ⁈」

 

 急に達也がそんな事言うとエリカは大声を挙げる。周りもキャーキャーと騒いでいる。会長と深雪もあらまぁ、と2人に祝福の言葉を送る。

 

 「それはそれは、ごめんなさいエリカさん。そうとは知らず私」

 「いや!嘘だからね!冗談だから!私達そんなんじゃないから!」

 「だってさっき総司に可愛いなって言われてたじゃないか」

 「そうだけどそうじゃなくて!えっと、えっと、」

 

 顔を真っ赤にして慌てるエリカ。そこへ助け舟を出す者がいた。

 

 「達也、周りを誤解させる事は言うなよ」

 「総司」

 「エリカは冗談が通じないし、言い訳も下手そうなんだからあまり虐めてやるなよ。すいませんね。俺は達はさっき知り合ったばかりで全然そんなんじゃないです。エリカもそんなにテンパってたら余計誤解されるぞ」

 「え?……///」

 

 テンパっていた所為で周りが見えていなかったのが落落ち着いて周りを見渡すととても温かい目でこちらを見ていた。それにまた恥ずかしくなり顔を俯かせる。

 

 「それでは改めて。初めまして、司波深雪です。私も新入生ですのでお兄様同様、よろしくお願いしますね」

 「柴田美月です。こちらこそよろしくお願いします」

 「………」

 「おい」

 「え?あ!あ、あたしの事はエリカで良いわ。貴方の事も深雪って呼ばせてもらって良い?」

 「ええどうぞ。苗字ではお兄様と区別がつきにくいですものね」

 

 他2人とも改めて自己紹介を交わす少女達。先程の反応があった所為か今にもエリカの恋バナが始まりそうなところで達也が会話に横槍を入れる。

 

 「深雪。生徒会の方々の用は済んだのか?まだだったら時間を潰しているぞ?」

 「大丈夫ですよ」

 

 達也の質問と提案に対する応えは、異なる相手から返された。

 

 「今日はご挨拶させて頂いただけですから。深雪さんと、私も呼ばせてもらってもちいかしら?」

 「あっはい」

 「では深雪さん、詳しいお話はまた日を改めて」

 

 七草は笑顔で会釈してそのまま講堂を出て行こうとする。総司は厄介な相手が消える事に安堵する。だがすぐ後ろに控えていた男子生徒がかのしを呼び止めた。

 

 「しかし会長、それでは予定が…」

 「予めお約束していたものではありませんから。別に予定があるならそちらを優先すべきでしょう?」

 

 尚も食い下がる気配を見せる男子生徒を目で制して、七草は深雪に、達也に、そして何より総司に意味有りげな微笑みを向けた。

 

 「それでは深雪さん、今日はこれで。2人もいずれまた、ゆっくりと」

 

 再度会釈して立ち去るなか。その背後に続く男子生徒が振り返り、舌打ちが聞こえてきそうな表情で総司を睨んだ。





 ご挨拶ありがとうございます。

 今日はエリカ真っ赤になる回でした。エリカ可愛い。それと最近書くにあたってアニメ見直してるんだけどエリカ達と講堂に来た2人消されてたね。まぁセリフもなかったからかな。可哀想に。

 次回に森崎君でるかな。

ではお楽しみに!またね


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食事中はお静かに


 皆さんお久しぶりです。元気にしてますか?

 今回は少し文字数がいつもより多いです。勘弁して下さい。そしてオープン戦、佐藤の4号が炸裂しました。マジでパワーやばいです。それこそ大谷に匹敵する飛距離だと思います。あの広い甲子園で逆方向にポンポン放り込むなんて。

 さて小話はここまで!本編どうぞ!



 会長達が立ち去った後、女子達はケーキ屋さんでお茶でもする約束をする。達也も総司を誘うが用事があると言って断り、その日はそれで解散となった。

 

 

 翌日、総司は昨日の反省を生かし、今度は早過ぎず、どちらかと言うと遅めに登校した。昨日の内に顔合わせを済ませた生徒も多いようで、既に教室のそこかしらで雑談の小集団が形成されていた。その中には勿論達也達も含まれている。自分の席を確認した後、自分も彼らに混ざる。

 

 「おはよう、3人とも」

 「総司か」

 「おはようございます」

 「オハヨ〜」

 「3人とももしかして席近くなのか?」

 「違う、違う。達也君と美月が隣で私は真ん中の1番後ろ」

 「へぇ、そっか。俺は窓側の1番後ろだから達也と柴田さん以外離れてるんだな」

 「そ、だから仲間はずれ?って話してたとこ」

 「それを俺が仲間はずれにするのは難しそうだと考えていたところだ」

 「確かにエリカを仲間はずれにするのは難しいだろうな」

 

 あっさりした声と口調で達也はそう言った。わざわざ総司が来た事でそれを答える必要がなくなったと言うのにこの男はお構いなしにエリカに言い放った。しかもそれに総司も続く。それを聞いたエリカはジト目で2人を睨む。

 

 「……2人とも、それはどういう意味かな?」

 「俺は勿論、社交性に豊んでいるって意味だよ」

 「俺は仲間はずれにしたくてもお構いなしに絡んでくるって意味だよ」

 「なんだと〜!」

 

 総司に掴みかかるエリカとそれを見て笑いを溢す美月。まだ日は浅いのにこの2人の言い合いは恒例となりつつある。そんな3人を横目に達也は端末にIDカードをセットし、インフォメーションのチェックを始めた。規則から学校行事、カリキュラムまで、高速でスクロールしながら頭に叩き込み、キーボードオンリーの操作で受講登録を一気に打ち込む。その速さにエリカと美月は凄いと驚嘆の声を上げ、総司は過去の失敗を思い出していた。

 

 (キーボード入力、懐かしいな。あれはまだ中学入学した頃。一体どれくらい速く打ち込めるかに挑戦した時。強く叩き過ぎてキーボード壊して父さんに怒られたっけ。『視線ポインタや、脳波アシストに比べると安めだが、それでも決して安い訳じゃないんだぞ』って。あの頃は若かったな)

 

 そんな爺みたいな思い出に浸っている横で自分を前の席から目を丸くして手元を覗き込んでいる男子生徒と達也は目が合った。

 

 「……別に見られても困りはしないがなんか用か?」

 「あ、悪い。珍しいもんでつい見入っまった」

 「珍しいか?」

 「珍しいと思うぜ。今時キーボードオンリーで入力する奴なんて初めてみた」

 「慣れればこっちの方が速い」

 「すげースピードだったな。それで食っていけそうだぜ。おっと、自己紹介がまだだったな。西城レオンハルト。親父がハーフでお袋がクォーターなんだ。得意術式は収束系の硬化魔法だ。レオでいいぜ」

 

 達也も自己紹介してお互いに目指している職種も話した。レオが山岳警備隊みたいな身体を動かす系で達也が魔工技師。それを聞いたエリカが会話に乱入。その後エリカとレオが総司とエリカの言い合いみたいな事を繰り返し、それを達也と美月が宥める事で事態は収束する。

 

 「総司の得意魔法はなんだ?」

 

 ここで話は終わるかと思いきやまさかの総司に振られてしまった。自分にも火の粉が降りかかり彼の心拍数は急激に上昇する。ここでいざ適当な事を言ったとしても今後見せてくれてと言われたら一貫のおしまいだ。だからと言って魔法など使えないと言えば生徒達にこの学校からつまみ出されるのは確実。頭を高速に回転させてこの場を乗り切る策を練る。

 

 「お、俺か?…俺も実技は苦手でな(苦手どころか0点です)。……派遣社員を目指してる。便利屋みたいな困った人を助ける仕事にな」

 

 必死に思いついた策は自分の仕事を言い方を変えて乗り切る作戦だった。魔法科高校に進学して希望職種が便利屋と、かなりツッコミどころ満載な案。しかし総司に咄嗟に思いつくのはこれで精一杯だった。もしツッコまれたらどうしようと頭を巡らせる総司。

 

 「便利屋か……面白そうだな!それじゃもし俺が困った事あったら仕事頼みに行くぜ」

 「あ、ああ。いつでも待ってるよ」

 「その時はしっかり、まけてくれよな」スリスリ

 

 レオが疑り深い性格でなく助かった総司。もし依頼する時は値段をまけてくれと指をスリスリさせるがそこはしっかり通常料金と良いガッカリするレオがいた。笑いが生まれて危機は去ったと思っている総司だが1人だけ笑わず、総司の言葉を素直に信じられない男がいた。

 

 (この学校に入ってなりたい職種が便利屋?いくらなんでもあり得ないだろう。それではこの学校を受ける意味が薄い。総司、テスト結果と言いお前は一体、何を隠しているんだ?)

 

 その後、オンラインガイダンスの前にカウンセラーの人が挨拶に来た。この学校はそういう面でも充実しているらしい。各学年1クラス男女ペアで担当する。男性が柳沢、クラスに挨拶に来た女性が小野遥という名前だ。特にカウンセリングを利用しようと思ってない総司は小野先生の話は右から左へ聞き流す。総司に悩みが出来たとしても原因を話せるとは思えないからだ。

 

 ガイダンスが終わった後、昼まで時間があるのでどうやって時間を潰すかみんなで話していた。専門課程に馴染みの薄い新入生の戸惑いを少しでも緩和する為に、実際に行われている授業を見学する時間が今日と明日に設けられてる。その何処かを見学しないかと今話している。

 

 「工房に行ってみねぇ?」

 

 レオが達也と総司に質問する。それに対して達也はこう答えた。

 

 「闘技場じゃないのか?」

 

 そう答えるとレオはニンマリ笑う。そして達也の質問に答えようとするがそれ以上に速く反応した者がいた。

 

 「闘技場があるのか⁈」

 

 総司だった。完全に武闘派な彼は闘技場と聞いてとても興奮していた。この学校なんて所詮魔術さえあればなんでも解決できると思ってる世間知らずの坊ちゃんお嬢様の集まりだと思っていた。しかしあったのだ。自分好みの場所が。

 

 「うぉ⁈すげー食いつきだな」

 

 総司の勢いに驚くレオ。

 

 「当たり前だ。闘技場だぜ、一体どんな戦いが繰り広げられているか楽しみじゃねぇか!お前だってそうだろレオ!」

 「まぁ、分からなくもないが俺は工房を見学してぇ。俺の硬化魔法と武器を手にした時、最大限に効果を発揮するんだよ。自分で使う武器の手入れくらい、自分で出来る様になりてぇ。悪いけどな」

 「あ、そうか。それじゃしょうがねぇな」

 

 自分と同じ様に闘技場って聞いただけで興奮する同志かと思いきや、意外としっかり未来を見据えている事に感心と少しの落胆を覚える総司。その後、達也も美月もみんな工房を見に行くとの事で寂しさを感じる。仲良くなったとしても考え方、趣味、それら全てが必ずしも一緒とは限らない。それでも彼等には共通の物、魔法がある。1番大きな物、それが繋がっている。しかし総司にはそれがない。分かっていた。所詮、自分は孤独の存在。ここに相応しい人物ではないと。

 

 「ん〜、私も一緒に闘技場に行っていい?

 「え、」

 

 しかしそんな彼に声をかけたのはエリカだった。1人置いていかれている総司を後ろから眺めていたエリカは彼を元気付けたいと思ったのだ。周りと違う境遇にいる気持ちは痛い程分かるから。幸い闘技場なら自分も興味あるし、一石二鳥だ。

 

 「エリカ、」

 「ほら、早く行こうよ。時間無くなっちゃうよ。みんなも急いだ方が良いよ!」

 「ちょっ⁈エリカ!」

 

 エリカは総司の手を引っ張り強制連行した。

 

 

 「なぁエリカ、良かったのか?」

 「ん?何が?」

 「ほら、みんなと一緒じゃなくて」

 「ん〜別に1人じゃないし気にしないかな」

 「でも柴田さんと一緒の方がお前的にも良かったんじゃ」

 「もう!うじうじ煩いよ!乙女か!私がこっちが良いって言ったんだから良いの!それとも私と一緒は嫌だって言うの?」

 

 エリカはいつまでもテンション低い総司に一言ガツンと言う。言われた総司は怒られる事に嬉しさを感じた。別に彼はそう言う性癖の持ち主ではない。友達がいなかった彼を叱ってくれる人は決まって家族だけ。だからこそ、自分を叱ってくれる友がいる事の有り難みを肌で感じたのだ。

 

 「エリカ………ありがとう」

 「ん」

 「でも闘技場に興味あるってなんかやってるのか?」

 「剣術をちょっとね」

 「剣か」

 

 感謝を言われたエリカは優しく微笑む。2人の距離は一段と近付いた。闘技場では組手が行われていた。組手で繰り広げられる攻防を見て、2人は互いの意見をぶつけ合う。あそこは躱すのではなく捌いた方が次の攻撃がしやすくなる、攻撃動作の作りが遅いなど、互いに武に道を置く者だからこそ対等に意見し合う事が出来た。その時間は2人にとってただの時間潰しなどではなく、とても充実した時間だった。

 

 

 

 

 昼食は食堂で済ませる事にした。見学で別れた二組は食堂前で待ち合わせ、みんなで食事を取る事にした。

 

 「総司よぉ、お前いっぱい食うな。俺だって食べる方だと思うけどお前はそれ以上だぜ」

 

 プレートに山盛りによそられている料理を見てレオが驚愕する。

 

 「やっぱり人は食わなきゃデカくならないんだよ。そうじゃなきゃ力が出ない。デカいのに越した事はないからな」

 

 半分程食べ終わった頃(レオは既に食べ終え、みんなももう少しで食べ終える)、男子女子両方のクラスメイトに囲まれた深雪が達也を見つけて急ぎ足でこちらに寄ってきた。達也と一緒に食べようとする深雪。しかしこのテーブルに座れるのは後1人、つまり深雪以外は入れない。だが深雪の最優先すべき相手は達也である。天秤にかける気もなく深雪は達也と食べる事を選んだ。しかし深雪のクラスメイト、特に男子はそれを良しとしなかった。最初は狭いとか、邪魔しちゃ悪いかそれなりにオブラートに包んだ表現だったのが、段々口が悪くなり、2科生と相席するのは相応しくないだの、1科と2科のけじめだの挙げ句の果てに食べ終わったレオに席を空けろと言い出す者まで出る始末。言いたい放題言われてエリカとレオの怒りがそろそろ爆発しかけていた時、それよりも速く物申す者がいた。

 

 「あのさ、静かにしてくんない?食事中なんだけど」

 

 言い合いを聞いてイラついた総司はそう言った。

 

 「なんだと?」

 「聞こえなかった?静かにして欲しいんだけど。さっきからどうでもいい話を続けてんじゃねぇよ。彼女がどこで誰と食おうが彼女の勝手だろ。なんで赤の他人であるお前らに指図されなきゃなんねぇんだよ。そしてここは食堂。飯を楽しむ場所であって言い争う場所じゃないの。分かる?争い事を持ち込まないでくれ。そんな事も分からねぇ奴はここを使う資格はねぇ。分かったら今すぐ立ち去ってくれ。邪魔だ」

 

 総司の言葉を聞いてレオとエリカは内心よく言ったと喜ぶ。しかし達也は彼の行動に疑問しか残らなかった。

 

 (確かに総司の言う事は正しい。だが何故お前はこうも相手に嫌われる行為を平然とやる。黙って我慢していれば済む話じゃないか。なのにどうして)

 

 総司は黙々とおかずを口に運ぶ。1科生のみんなは自分達のスペアである2科生にここまで大きな態度を取られてプライドが刺激されたのか拳をプルプルと震わせる。今にも総司に殴りかかろうとしていた。

 

 「貴様、言わせておけば…」

 

 達也はまずいと席を立ち、1科生に自分が謝る事でこの場を引いてもらおうとしたがそれより前に総司が口を開く。しかしその内容は1科生どころか達也ですら予想する事は出来なかった。

 

 「早く立ち去ってくれないかな?深雪含め1科生の諸君」

 「え?」

 

 深雪は思わぬ総司の発言に声が漏れた。自分も言われるとは思いもしなかったのだろう。深雪を彼等から解放しよう総司が発言していたと思っていたがまさかの逆。深雪もこの場から立ち去る様に総司は言った。これには1科生のみんなも声が出なかった。

 

 「総司、何故深雪もなんだ?」

 

 思わず達也は総司に質問した。聞かずにはいられなかったのだ。兄として妹が邪魔と言われて黙っている訳にはいかない。総司は口の中に残っている物を急いで飲み込み、言った。

 

 「当たり前だろ。この原因は全て深雪じゃねぇか」

 「何?」

 「だってそうだろ。こいつは他人に嫌われたくないのかハッキリ断らないからこの事態に発展したんだろ。そもそも達也と食べる気ならなんでここに他の奴らを連れてきた?迷惑なら迷惑ってハッキリ言えや。挙句には兄であるお前になんとかしてもらおうとさっきからチラチラお前を見ている。厄介ごとをこっちに持ち込むんじゃねぇよ。八方美人なんかして、万人から好かれようととしてるからこうなったんだろうが。それを困った風にしやがって。被害者ぶってんじゃねぇよ!」

 

 総司は残りの料理を掻き込み席を立つ。

 

 「チッ!折角の飯時が最悪になったじゃねぇか」

 「悠木君!言い過ぎです!」

 「そうよ!」

 「総司!」

 

 流石にこの言い分には1科生や達也だけでなく美月やエリカ、レオ達ですらすら怒っていた。しかしそんな言葉に言い返す気もないのか総司は立ち去る。そんな総司を達也は彼の手首を握りしめた。総司は振り返るといつもと対して表情は変わらないが心の中から激しい怒りを感じる達也がいた。

 

 「総司、深雪に謝れ」

 「いいんです……お兄様」

 「だが……⁈」

 

 達也が振り返り深雪を見ると彼女は下を向いていた。よっぽど悲しかったのだろう。そんな時、どこからか雫が溢れる音がする。そしてそれが彼女からと気付くのに時間はかからなかった。それを見た達也は激怒して総司に殴りかかる。九重寺で鍛えられたスピードは生半可なものではない。その鍛えた力を全て総司に叩き込もうとする。しかもこの距離。大抵の者は反応すら出来ずになす術なし。しかし総司は達也の拳をいとも容易く最小限の動きで避け、カウンターのアイアンクローを決めて床に叩きつける。

 

 「ぐはぁ‼︎」

 「お兄様⁈」

 「達也さん⁈」

 「達也⁈」

 「達也君⁈…悠木君!!」

 「達也、怒りで攻撃が単調すぎるぞ。あんなのカウンターを打ち込んで下さいと言ってる様なもんだぞ」

 「ぐっ‼︎」

 

 達也は総司のアイアンクローから逃れようとするが出来ない。その場でジタバタするのみ。怒りで自分の奥の手を使おうとしたその時、

 

 「止めなさい!」

 

 聞き覚えのあるこの透き通る声。それはこの学校の生徒会長、七草真由美の声だった。

 

 




 ご愛読ありがとうございました。

 やっちまった総司。前半エリカと言い感じだったのをぶち壊すこのクオリティ。深雪も泣かせ、それに激怒した達也ともやりあう。全て悪循環ですね。おのれ1科生ども。しかも怒りに任せて分解まで使おうとしてしまう。七草会長がいなければどうなっていたのか。

 七草会長はこの状況をどうやって収めるのか。そして総司はみんなと、達也と仲直り出来るのか。

 次回もお楽しみに!またね

 


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この女嫌いだ!

 皆さん元気にしてますでしょうか。

 朝起きたらびっくりしました。感想が急に何通も来ていて。評価してくれた人もさらに増えて17人。しかもUA1万人超え!
 本当にありがとうございます。まさかこんなペースでここまでいくなんてとても驚いています。正直主人公の考えが考えなのであまり受け入られないかと思いましたがここまで読んでもらって本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

 これからも頑張るのでよろしくお願いします!

 では本編どうぞ!


 

 「止めなさい!」

 

 食堂に声が響き渡った。その声主はこの学校の生徒会長、七草真由美だった。

 

 「一体なんの騒ぎですかこれは。騒ぎがあると聞き、駆けつけてみれば何事ですか」

 

 生徒会長の登場により場の熱は一気に冷める。総司達からすれば2科生の分際で2日目で問題行動、それなりの処罰を下されるだろう。そしてそれは1科生の者達も例外ではない。みんな使っているからと言って校則では禁止されている差別用語の使用。真由美は差別用語の撤廃を目指しているので総司達の喧嘩には関係ないとはいえ状況は芳しく無い。しかも彼女の後ろにいる人物が更に問題である。

 

 「風紀委員長の渡辺摩利だ!事情を聞きます!」

 

 この学校の風紀を取り締まる委員会、そのトップ。しかも厳しいともっぱらの噂だ。達也もこの状況は非常に不味い。ただでさえ親の反対を押し切り、この学校に入学したのだ。それなのに入学数日で問題を起こすなんて、最悪親に強制退学させられかねない。総司の言う通り怒りに任せてしまうなんてらしくない事をした。エリカ達もいくら酷い事を言った総司だからと言って簡単に売り渡すクズではない。1科生の人も何か言ったとしても、元の原因は自分達。それをバラされれば言い訳は出来ない。

 

 「大した事じゃないですよ」

 

 誰もがどう答えれば良いか分からず口を閉ざしている中、最初に口を開いたのは総司であった。

 

 「ちょっとハマってるゲームで上手くいかくてイライラしてたんですよ。そんな時に逆ハーなんて見たら余計イラついちゃって近くにいた達也に手を出しただけです。まぁいわゆる失敗してる時にリア充を見た非リアの僻みって奴ですよ」

 

 総司はケラケラ笑い、摩利を見下す。彼女は男女問わず人気だ。そのため彼女に対する口の悪さを聞いた周りの彼女のファンからは非難の声が殺到する。しかしこの原因を全て見ていた者達からしたら何故彼がこんな事を言ったのか困惑が漂う。元の原因であり、接点も殆どない1科生の者達を救い、更に自分に殴りかかった達也の行動も全て無かった事にして自分だけが悪いと報告したのだ。そしてこの行動と合うように礼儀知らずと思わせる態度をとっている。この行動で総司は何一つをしない。1科生の人達も困惑している。何故事の原因である自分達を助けるのか、しかも自分を犠牲にしてまで。

 

 この言葉を聞いた真由美は総司の前に立つ。彼女は既に総司と接点がある。数分の間だが総司がその様な事をしない人物だとバレかねない。

 

 「貴方がそんな事をする人には見えないのだけど?そんな理由で友達である達也くんに手を挙げるかしら?」

 「何を言ってるんですか七草会長。たった数分しか話してないのに俺の何を知ってるんですか?それと一緒でこんな数日で友達になれる訳ないですよ。他の奴等の考え方は知らないですけどね。俺とあいつらは所詮、赤の他人です」

 「ふーん、………貴方がそう言うならしょうがないわね。悠木総司、貴方を生徒会室に連行します。着いて来なさい」

 「さ、反省文何枚書けば許してくれるかなっ」

 

 逆らう様子もなく、彼は頭の後ろで手を組み素直に彼女の後を歩く。彼の礼儀知らずさに色んな罵声が飛び交うが所詮彼は2科生。話すのも時間の無駄と思い続々とその場を離れていった。その場に、話さなければならない事があると言って1科生と別れた深雪と達也、レオ、エリカ、美月だけがその場に残った。

 

 「大丈夫か深雪?」

 「はい、私は大丈夫です」

 「全く……女を泣かせるなんて総司の野郎も酷い事をしやがる」

 「あら、貴方も泣かしそうだけど。いえ、泣かされるの間違いだったわね」

 「何ぃ?」

 

 レオとエリカが言い合いをするがそこに覇気は感じない。何処か心ここにあらずと言う感じだった。そこで話を切り出したのは美月であった。

 

 「悠木さん、なんであんな事言ったんでしょう」

 「それはどっちの事?深雪の?それとも言い訳の方?」

 「両方です」

 「まぁ前者に関しては完全に言い過ぎだよな」

 「本当よ、誰だって苦手な事もあるのにあんまりよ」

 「そうですよね。もし同じ場面になったとしても私はとても言えそうにありません」

 「だからそんなに気にする事無いわよ深雪」

 

 総司の言い過ぎと決めつけ、深雪を励ます3人。しかしそれが可能である事は達也や深雪が1番良く知ってる事だった。深雪もこのまま正しい事を言った総司が非難され、悪い自分が同情されるという状況は許せず否定する。

 

 「いえ、悠木さんの言う通りです。言おうと思えば私は言えました。悠木さんの言う通り周りに良い顔してハッキリ言わなかっただけです。そのせいで総司さんや皆さんに大変ご迷惑をお掛けしました。本当にすいません」

 「深雪」

 「お兄様、深雪が涙を流したせいでお兄様と悠木さんの仲を引き裂いてしまって申し訳ありません」

 「いや、良いんだ。あいつの言う通りたった2日で仲と呼べる程のものは出来ていなかったんだろう」

 「いえ!そんな事はありません!もし出来ていなかったとしたらお兄様を庇うはずがありません」

 

 彼女の言う通りだった。仲も良く無い友達にのしかかる罪を全て肩代わりするなんて簡単に出来る事ではない。それこそ自分の立場が危うい2科生でするなんて正気の沙汰とは思えない。1科生を守ったのはただのついでだろう。

 

 総司の言う通り、自分がハッキリしていれば事は起きず、彼に迷惑もかける事は無かった深雪。自分が冷静を保ち、彼に殴りかからなければここまでの事態に発展する事はなかったと思う達也。2人の心に彼に対しての罪悪感が残る。

 

 そこに1人の女性が近づいて来た。

 

 「お話少し良いですか?」

 

 

 

 

 「総司くん。いつになったら本当の事言ってくれるの?」

 「さっきから何度も言ってるじゃ無いですか。イラついて近くにいた達也を殴ったって」

 「どうせ嘘なんでしょ?いつまで繰り返すの?こんな事。それともお姉さんといつまでもおしゃべりしたいの?」

 「そっくりそのままお返しします」

 

 生徒会室ではこの様な会話が永遠にと続いていた。総司の話を信じず、どうして自分が不利益を被る事をするのか気になる真由美と、いつまでも真実を話さない総司。それなりに自信を持っている自分の顔を生かした魅了をしようと全く靡いてくれない総司。彼女は自信を無くしそうだった。

 

 「別に真実を知って誰かに罰を与えようなんて考えてる訳じゃないの。ただ本当の事を知りたいの」

 「話が通じない人だな。犯人の俺がこうだって言ってるんですからそれで良いじゃ無いですか」

 

 いつまでも話が進まない。何か突破口はないかと考える真由美。そこで思いついたのはある本でみた検察官の話だった。

 

 まだ彼女が小学生の頃。デジタル化が発展して数が減少している図書館を訪れた。端末1つで沢山の書籍が読めるのも凄いが、実際に何万もの本が置いてある光景に彼女は目を輝かせた。そこで新品が沢山ある中、一際目立つ古い本を見つけた。それは今から100年近く前に書かれた。タイトルは検察官の極意。現在は魔法があるので自白させるのは簡単だがそれが一般でなかった時代には一体どのように真実を話させるかが気になったのだ。

 

 (そうだ、あそこに書かれている事をやればいいんだわ)

 

 思いついたが吉日、真由美は即座に実行に移した。

 

 「それじゃ、総司くんの好きな人って誰?」

 「いきなり何言ってんだあんた」

 

 『息抜きとして本題から話を逸らして楽しい会話をしよう。すれば自ずと自白する。他にもカツ丼が効果的』と書いてあった。しかしだからと言っていきなり恋バナというセンスはどうなのだろうか。こんな事を急に言われればこんな反応にもなるだろう。

 

 「何って恋バナよ。総司君は好きな人いるのかしら?」

 「意味が分からないんですが?」

 「意味なんて無いわよ。単純に気になったから聞いてみたの」

 「何考えてるか分からないですがいませんよ」

 「本当かしら〜。それじゃ今日も一緒にいたエリカさんは?」

 「ないですね」

 「深雪さんは?」

 「論外です」

 

 真由美の問いかけに淡々と答える総司。これでは気分も上がらず自白する気配もない。

 

 「でも深雪さんの美貌なら少しは思ったりしない?」

 「ないです」

 

 深雪の美貌でも無理となるともしかしたら既に好きな人が居るかもしれないと考える。彼のこの学校以外の交友関係は知らない。だから学校内でだれか考える。そしたらある人物が浮き上がる。彼と話す人物、しかも現在進行形で。

 

 「もしかして、私?」

 「寝言は寝て言えバカ」

 「バッ⁈そこまで言う事無いじゃない!」

 「自分の事好きなんて良くそんな恥ずかしい事言えましたね。バカでも中々言えませんよ」

 「あ!また言った!もぉ〜私バカじゃないもん!」

 「…………ぷっ、」

 

 バカと連呼されて頰を膨らませる真由美。誰もが可愛いと言う姿だがそれを見ようと全く心にこない総司。挙げ句の果てには笑いさえ起きる始末。

 

 「なんで笑うのよ」

 「だって、高校3年生にもなった人がもお〜とか、子供かよ」

 「〜〜〜!」

 

 顔を真っ赤にさせる真由美。恥ずかしさと怒りが入り乱れる。そこに生徒会長をノックする音が聞こえた。すると彼女は慌てて平静に戻そうとして、咳払いをする。その姿を見られてまた笑われるのだが心を落ち着かせてノックした人物に部屋に入るよう言った。

 

 「会長。話は聞いて来ました」

 「ご苦労様、あーちゃん」

 「あーちゃんって呼ばないで下さい」

 

 中に入って来たのは中条あずさ、生徒会書記の2年生だ。見た目の幼さから真由美にはあーちゃんという愛称で可愛がられている。だが本人はこの愛称が好きではない。子供扱いされてると思うからだ。特に下級生の前では恥ずかしい。総司は彼女が発した話という単語が気になった。

 

 「話?」

 「はい。その場にいた人に話を聞いてきました」

 「え?……マジデスカ?」

 「はい、大マジです」

 

 バレた。折角の自分の嘘が全てバレてしまった。頭から抜け落ちていた。達也達に事情聴取をすれば全てバレてしまう事を。これでは自分が罪を被った事が全て意味を為さなくなる。

 

 (マジかよ!忘れてたよ!達也達が全部知ってるんだからあいつらが話したらバレちゃうの!折角未来ある若者(同世代)の芽を摘まないように罪を被ったって言うのに!会長に誰にも罰は与えないって言われた時少しは揺らいだよ。でも一度ついた嘘をバラすなんてカッコ悪いじゃん!)

 

 いくら魔術を魔法と曰っていようと彼等は本気で将来を見据えている。金目当てで入ってきた自分とは違う。だからこんな事で経歴に傷をつけないように自己犠牲の精神で助けたと言うのに全てパーになってしまうのだ。

 

 

 「……えっとぉ、大丈夫ですか?」

 

 その後、中条あずさが達也達から聞いた話を全て暴露。達也達は何も隠さず暴露した。1科生の事は抜きにして。この場にいない者を陥れようとは彼等も思わなかった。ただ総司に非はないと言う事を分かってもらいたかったのだ。だが総司からしたら余計なお世話。彼等がこんな事を言った所為でこんな辱めを受けているのだ。彼は机に突っ伏して耳を塞いでいた。そんな彼に中条あずさは心配の声を漏らす。だが返答は返ってこない

 

 「総司くん、頭を上げて」

 

 真由美は言った。しかし総司はぴくりともしない。それ程恥ずかしかったのだ。だが真由美がもう一度言うと総司はゆっくりおもてを上げて真由美を見るととても嬉しそうにニコニコしていた。その顔を見て余計に恥ずかしくなってくる。

 

 「何か言う事はあるかしら?」

 「最悪、死にたい。こんな辱めを受けて生きていけない」

 「やっぱり嘘だったのね。なんで素直に言わないの?自分が犠牲になってまで」

 「……なんとなく」

 「なんとなくで出来る事じゃないわ。総司くんって優しいわね」

 

 真由美はニコニコしながら言った。バレた後だからか体が熱く感じる。

 

 「別に優しくなんかないですよ。気の向くままに生きてるだけです」

 「それじゃ根っから優しいってわけね。………でも女の子を泣かせるのは感心しないわね」

 「…言い過ぎたとは思ってます。でも悪いとは思ってません。悪い事をしてると思ったから言ったまでです」

 「だけどね、相手は女の子よ。優しくしてあげなきゃ。女の子にモテないわよ」

 「そもそもモテようと思って生きてないんで」

 

 まるで母親に叱られる子供みたいになっていた。だが真由美の言葉を持ってしてもあまり反省が見られない。

 

 「それじゃもう良いですか?ここにもう用は無いんで帰りますね」

 「あ、ちょっと待って」

 

 総司は真実がバレてしまった以上、ここに留まる理由も言われもなく、立ち去ろうとするが真由美が待ったをかける。もう話す事はない総司だったが仕方なく歩みを止めた。

 

 「なんですか?」

 「はいこれ」

 

 彼女は笑顔で2枚の用紙を総司に突きつけた。何かなと思っていると一枚目には反省文と書かれ、2枚目は領収書と書かれていた。

 

 「……何これ?」

 「その名の通りよ。生徒会に虚偽の申告をした。そして友達を床に叩きつける行為は立派な反省文を書く理由になるでしょ。後、達也くんを床に叩きつけた時に床に穴が開いたからその修理代として30万円」

 「さ、30万円⁈」

 「そうなの。この学校って床とかもかなり高価な物で出来てるから結構な値段がするのよ。偶然とかなら学校側が立て替えるけど今回の場合は………ね」

 

 総司は達也に冷静でいろと言っていたが自分も人の事が言えないと思い知らされた。あの時イライラを鎮めて冷静でいれば彼の攻撃を軽くいなすだけで終わらせられたというのに。しかも30万と高額。既に任務をこなしているからと言って親は出してくれないだろう。

 

 (俺の、貯金の5分の1が。折角依頼こなして貯めたのに)

 

 「それじゃ反省文書くわよ」

 「え?放課後じゃ」

 「先生には報告しといたわ。さぁ存分に反省文を書きましょうね!」

 (やっぱこの女嫌いだ!)

 

 まるで母親に宿題を手伝ってもらうかのように書かされた反省文は放課後までかかったのだった。嘘をついたのがバレてから終始ニコニコしながら総司を見た真由美。いくら顔の良さに興味がないとはいえ彼女が美少女なのは認めている。その美少女から数時間見つめられ続けて総司の精神はゴリゴリ削られるのであった。

 

 

 

 

 

 




 ご愛読ありがとうございます。

 悲報、主人公が辱めを受ける。正直こういうのって本当に恥ずかしいと思うんですよ。ちょっとカッコつけた嘘が全てバレる瞬間。しかも目の前で朗読させられるんですよ。ある意味拷問ですよね。

 後、真由美さんが母親みたいになってしまった。言う事を聞かない子供にものを言う母親みたいに。

 そしてついに森崎さんとエリカ達の話に行きますよ!総司は反省文を書き終わったのか、終わったとしたらどうやって割り込むのか、割り込まないのか

 次回もお楽しみに!またね

 


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喧嘩再び

 お久しぶりです。47日ぶりですね。ランキングに一度日間ランキング30位くらい?に乗っていてビックリしました。そのおかげで読者が増えたんですね。しかも評価者が現在24人です。本当にありがとうございます。

 これからも皆さんに喜んでもらえるよう頑張るので応援よろしくお願いします。

 では本編どうぞ!


 

 「なんの権利があって2人の仲を引き裂こうとするんですか」

 

 放課後、食堂の時の様に深雪が達也達と帰ろうとするとまたもや1科生が文句を言って来た。因みにこの場に総司はいない。

 

 「僕達は彼女に相談する事があるんだ!」

 「そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間が取ってあるだろうが」

 「本人の意思も無視して相談も何もないわよ。高校生にもなってそんな事も知らないの?」

 

 1科生の言い分にレオは威勢良く笑いを飛ばし、エリカも皮肉成分たっぷりの笑顔と口調で言い返す。

 

 その後も1科生の言い分を全て正論で返すエリカ達。

 

 「それに彼女を泣かせる様な奴がいるグループに彼女を任せられるか!」

 「そうよそうよ!」

 

 だが彼等は総司の事を言ってきた。これを言われるとエリカ達は弱い。理由がどうであろうと深雪がどう思おうとその事実は変わらないからだ。エリカ達は何も言い返せない。だが本人なら別だ。

 

 「止めてください!」

 

 先程まで黙っていた深雪が一喝した。

 

 「悠木さんの悪口を言うのは止めてください。あれに関しては私が悪かったのです」

 「司波さん」

 「そんな事ないわ──」

 「いいえ、あります」

 

 彼女達が深雪は悪くないと言おうとするが言葉を遮られる。彼女の意思は硬い。この考えは覆せないだろう。1科生はそれでもなんとかこちら側に来てもらおうとする。

 

 「司波さん駄目だって。ブルームの僕達がウィード如きと一緒にいては」

 「同じ新入生じゃないですか!貴方達ブルームが今の時点で一体どれだけ優れていると言うんですか!」

 

 彼等の暴言に対して真正面から反応したのは美月だった。しかしこれは不味い事になった。彼に魔法を使わせる理由を作ってしまったのだ。遠回しに魔法の凄さを見たいと言われたと捉える事が出来てしまう。その言葉を待っていたと言うように1科生の男子生徒が言い放つ。

 

 「なら教えてやる。ブルームの実力を!」

 「ハッ、おもしれぇ!是非とも教えてもらおうじゃねぇか!」

 

 売り言葉に買い言葉。レオも乗ってしまったのだ。既に事態は止まらない。男子生徒は特化型CADの銃口をレオに向ける。彼のCADを抜き出す手際、照準を定めるスピード、どちらも1年の平均の遥か上を行っている。

 

「お兄様!」

 

 深雪の言葉が終わらぬ内に達也は右手を突き出す。しかしその動作は無意味に終わる。

 

 「ヒッ!」

 

 エリカが彼のCADを弾き飛ばしたからだ。彼女の笑顔に動揺や焦りは見られない。今攻撃を受けようとしているのに冷静で対処したのだ。

 

 「この間合いなら身体を動かした方が速いのよね」

 「それは同感だがテメェ今俺の手ごとぶっ叩くつもりだったろ」

 

 得意げに説くエリカに答えたのは危うく手を叩かれる所だったレオだった。そして目の前にいる敵も忘れて、ギャアギャアと漫才を繰り広げる。誰もが呆気に取られていたが、いち早く我を取り戻したのは彼等と向かい合っていた深雪のクラスメイトの女子生徒だった。

 

 「こんなはずじゃない。……私はただ司波さんと」

 

 誰もが彼女の魔法に気付くのが遅れる。起動式が構築され、あと少しで打ち出される時、1人だけ彼女に近づく者がいた。

 

 「はい、ストップ」

 

 それはこの場にいるはずのない人物。昼食時から生徒会室に連行されていたはずの総司だった。

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 「はい、書き終わりましたぁ〜」

 「ご苦労様。それではもう帰っていいわよ」

 「え?授業は?」

 「もう終わったわ。下校時間よ」

 

 総司は反省文を書き終えて疲れたのか机に突っ伏す。そして少しサボった後に授業に出ようと思ったが真由美に既に放課後と言われて端末の時間を見る。すると彼女の言った通り、最終科目の時刻を過ぎていた。どんな授業も退屈だと思っていた彼にとって授業が潰れたのは不幸中の幸いだった。

 

 「まさか反省文だけで放課後まで掛かるなんて思いもしなかったわ」

 「それはあんたが事あるごとに口を挟んできたからでしょ。挙げ句の果てには関係ない世間話するから時間が掛かったんです」

 「あら、そうだったかしら?」

 

 反省文を書いているのにここが可笑しいと注意してくる。更にこちらは慣れてない反省文(慣れてないのはそもそも任務関係で学校に行く機会が少なかったから)を書かされているのに趣味や、得意な事を聞かれた。そんな話をされたら集中力が削がれて時間がかかるのも仕方がない。やっとの思いで終わったとふらふらしながら生徒会室を出ようとすると彼女に呼び止められた。

 

 「ちょっと待って」

 「なんですか?もう1枚反省文書けとか言うんじゃないでしょうね?」

 「それは大丈夫。最後に1つだけ、聞きたい事があるの。今の1科生、2科生のシステムについて、どう思う?」

 「……なんで急にそんな事を?」

 「なんとなくよ。どう思うかしら?」

 「……このシステムを考えた人は頭が悪い、以上」

 

 そう言い残し総司は部屋を出る。もうこれ以上引き止められない様に素早く生徒会室を離れた。彼の回答を聞いて真由美は少し考える。彼はこんなシステムは理不尽やもっと平等にしてくれとは言わずただ一言、頭が悪いと言った。彼の回答を考察しようとしたが一本の電話が鳴る。

 

 「頭が悪い、ねぇ………はいもしもし、……ええ⁈また⁈」

 

 それは1年の1科生と2科生が言い争いをしているとの内容だった。昼食時に注意したのにと彼女ほ呆れ、彼の意図を深く考える暇もなく問題が起きている場所に向かった。

 

 総司は歩きながら椅子に座っていて固まった身体をほぐしていた。授業もないしさっさと家に帰ろうとするが騒がしい声が聞こえた。総司はまた誰かが喧嘩してるのかなと思うが他人事なので無視して帰ろうとする。しかしこの声は昼食まで一緒に食事していたレオ達と1科生の声だった。しかも野次馬が1年の1科生と2科生が喧嘩してると言っているので十中八九彼等だと分かった。

 

 「何?また喧嘩してるの?馬鹿だねぇ本当。……まぁそれで見に行く俺も馬鹿なんだけどさ」

 

 知り合いの喧嘩を知っていてスルーする事は出来ない。しかも自分の事を言われるかも知れないと思った総司は迷惑をかける訳にもいかず、人が集まっている方に向かった。

 

 総司が辿り着くと丁度1科生の男子生徒がレオに魔法を放とうとしている所だった。その魔法を冷静に分析する。

 

 (へぇ、魔術式を構築するのは結構速いな。16歳でこれなら上等なんじゃないか。将来有望かも知れない。だが、その距離での魔術は判断を見誤ったな)

 

 総司の予想通り、彼のCADをエリカが吹っ飛ばす。第三者視点から視野を広く持てた。そのため魔法が放たれる前にエリカが阻止出来ると分かった。

 

 (流石だな、判断能力もスピードもいい動きしてるな。……だが詰めが甘い。まだ終わってないぞ)

 

 総司は気付いていた。1科生の中にもう1人、魔法を放とうとしている少女がいる事を。だが誰もそれに気付く様子はない。この様子だとサイオン光が見えるまで気付く事はないだろう。それでは対処出来ない。総司は溜め息をつく。昼食時の事があるから彼等に会うのが気まずく、あまりでしゃばりたくなかったのだがそう言う訳にもいかない。魔法を放とうとしている少女に気配を殺して近付く。そして彼女のすぐ横まで来ると彼女の魔法を放とうとしている手に触れる。その瞬間、彼女が構築した起動式が消滅したのだ。まるで元から構築されていなかったかの様に。

 

 

 

 時は戻る。(三人称)

 

 「はい、ストップ」

 

 誰もがその光景には目を疑った。ただ彼が触れただけでサイオンが消滅し、起動式が消し飛んだのだ。そんな事はあり得ない。魔法を邪魔する術は本体に魔法の展開を阻害させるダメージを与えるか、展開中に起動式にサイオンの塊を撃ち込み、サイオンの流れを妨害する他ない。だが総司の取った行動はどちらとも言えない。そもそもサイオンを触れる事は出来ないと言われている。それをこの男は触ったのだ。しかも驚くのはまだまだこれからだった。

 

 「危ない!」

 

 声が響き渡る。声質から言って風紀委員の摩利のものだ。声がした方を見るとサイオンの塊が彼、正確には先程魔法を撃とうとした彼女に向けられていた。恐らく魔法の起動式を確認したため、阻害しようとサイオンの塊を撃ったのだろう。しかし撃った直後に総司が間に入ってしまったため、彼に直撃しようとしているのだ。元々、起動式だけを破壊して本人にはダメージを与えない様に調節したが体に直撃となればそれなりのダメージが入ってしまう。だが放たれた魔法はもう止まらない。摩利は顔面蒼白となる。止めようと放ったものが誤射で新入生に直撃して怪我を負わせる。そんな事になればタダでは済まない。重い罰が下されるだろう。風紀委員長剥奪、CADの取り上げ、停学。彼女の頭に大量に負のイメージが湧き上がる。しかし、その心配も杞憂に終わった。

 

 「ほいっ」

 

 なんと摩利が放ったサイオンの弾丸を叩き落としたのだ。まぁ彼に触れた瞬間サイオンは消滅したのだから正確には叩き落とす様にサイオンを消滅させたのだ。またもあり得ない光景を目撃した。中には自分の目が信じられず目を擦る者まで出てくる。摩利は彼がどうやって自分の弾丸を消し去ったかは皆目見当もつかなかったがとりあえず大事にならなかった事で安心したのか、その場に座り込む。摩利がこの様な状況なので真由美が彼女の代わりを務め、場を取り締まる。

 

 「生徒会長の七草真由美です!起動式の展開を確認しました。そもそも自衛目的以外の魔法による対人攻撃は校則違反である以前に犯罪行為ですよ!」

 「さ、七草会長。これは違うんです彼等2科生の奴らが僕達1科生の魔法を見たいって言うから特別にちょこっと見せようとしただけで」

 「だからって人に向かって撃っていいと言うんですか?」

 

 真由美の正論に彼は何も言い返せなかった。先程のエリカとの言い合いの時といい、彼の口は相当弱い。そこで達也がこの場を収めようとした時、また総司が割り込んで来た。

 

 「あれ?自衛目的以外は犯罪行為なんですか?ならさっきこっちに向かって撃ってきた渡辺先輩のは犯罪じゃないんですか?」

 

 そう言われた瞬間摩利は体をビクつかせる。バレていた。全て総司に筒抜けだったのだ。もし訴えられでもしたらと考えると体が動かない。そんな摩利をフォローするかの様に真由美が答える。

 

 「摩利はただその子の魔法を止めようとしただけです」

 「仮にそうだとしても結果は俺に当たってるんだから何も言えないですよね?それにもし少しでも狂えば彼女に怪我をさせてたかもしれないんですよ。それなのに人に攻撃するなんて良いんですか?たとえ許されてるとしても」

 

 総司はニヤリと笑う。それに対して真由美は唾を飲み込む。現状での立場は完全に逆転した。摩利は自分への処罰に怯えて言い返せる状況ではない。真由美としても摩利の不利益になる事は避けたい。それを察している総司は彼女らに取引を持ちかけた。

 

 「別に先輩達をどうこうする気はないですよ。彼女らは攻撃を中断して摩利先輩も怪我をさせてない。結果、誰も被害に遭わなかった。それで良いじゃないですか。どうです?」

 

 彼の言い分はつまり、そちらのミスを無かった事にするから代わりにこちらの事も無かった事にしろという取引であった。真由美は迷う。彼女1人であったならばこの取引に応じず、真実で自分もろとも処罰しようと考える。しかし今回は摩利がいる。というか彼女がやってしまったのだ。しかも今の摩利は一般生徒に魔法を撃ってしまった事と自分の処遇に動揺、怯えでそれどころで決断する力はない。苦渋の決断となるがこの取引に応じる事にした。

 

 「分かったわ。総司くんの言うとおり誰も怪我していないみたいなので今回は不問とします。……でもあまり私達が動く様な問題は起こさないでくれると助かります」

 「善処します」

 「後、あまり女の子を虐めちゃだめよ」

 「………善処します」

 

 真由美は摩利の肩を担いで去っていった。総司は2人の後ろ姿を見送ると先程助けた女子生徒に声をかける。

 

 「大丈夫か?」

 「え?」

 「え?じゃなくて怪我はないかと言ってるんだが?」

 「あ、はい。大丈夫です」

 「なら良いや。でもいくら自分の思い通りにならないからって何事も冷静でなくちゃいけないぞ。激情に駆られた行動は必ず不幸を呼ぶからな」

 

 総司は先程の自分を思い浮かべながら言う。女子生徒は連続で凄いものを見たせいでまだ脳の処理が追いついていない。すると最初に魔法を放とうとした男子生徒が総司に話しかける。

 

 「借りだなんて思ってないからな」

 「?」(借り?)

 「僕の名前は森崎駿。森崎家に連なる者だ。お前の名前は?」

 「悠木総司だけど?」

 「悠木総司。俺はお前を、お前達2科生を認めない。お前は司波さんを泣かした。彼女のご好意で許してやるが次泣かしたらただではすまさないぞ」

 「許してやる?…ふっ。あの時、兄である達也以外、誰も刃向かえなかった腰抜けがか?」

 「何⁈」

 

 総司は煽る様に笑う。折角事態が収束したかと思われたのにまた1科生と2科生での喧嘩が始まる。そう思われたが総司の頭をエリカが叩いた事により有耶無耶になる。

 

 「いってぇ!何すんだよ!」

 「何すんだよじゃないわよ!終わったそばから始めないでくれる?」

 「始めたのはお前達だろ!」

 「そうだけどわざわざ煽る必要ないじゃない!生徒会長に問題は起こさないでって言われたばかりでしょ!」

 

 2人の言い合いがまた見れて美月達は少し笑顔になる。昼食の件で仲違いしてしまったらどうしようと思っていたが案外早く仲直りが出来て良かった。森崎も今のこの2人に割り込む気はなかったのか深雪の1番近くにいる達也を指差して言う。

 

 「俺はお前達を認めない。お前達と司波さんが一緒にいる事を。彼女はブルーム。ウィードの中ではいずれ枯れてしまう。彼女は僕らといるべきなんだ」

 

 そう言って立ち去ろうとするがまたもや総司が彼を止める。

 

 「あ、そうそう。ブルームとかウィードとかって、花と雑草って事だろ?ならその表現はやめた方がいいぜ」

 「なんだと?」

 「簡単さ。花は弱いからさ。雑草に力を奪われるのもそのせいだ。水が無ければ枯れ、踏まれれば元に戻る事はない。それに比べて雑草の生命力は凄い。コンクリートすら突き破る生命力を持つ。だから自分達を花なんて言い方はやめた方が良いぞ。何かあったらすぐに雑草に力を奪われて負けちまうからな」

 

 彼の言い分には誰もが密かに納得してしまった。それは1科生も例外ではない。顔には出さないが心の内で納得してしまった。きっと彼等は今後総司達をウィードと呼ぶ事は無くなるだろう。

 そしてまたも1科生にちょっかいを出したと言う事でエリカが総司の頭を叩く。リプライの様に言い合いに発展した彼に声をかける者がいた。

 

 「あの、」

 「ん?ああ、さっきの」

 

 それは先程、魔法を放とうとして総司に止められた女子生徒だった。

 

 「さっきは助けてくれてありがとうございました」

 「さっきの事なら気にする必要ないよ。あの攻撃の角度的に君のを妨害しようとしただけだし、威力もほとんどなかった。直撃した俺がピンピンしてるんだから」

 

 総司は手のひらをプラプラさせながら話す。実際は彼に触れた瞬間消滅したので威力は分かっていないが恐らく大丈夫だろうと思い。

 

 「でもどうやったか分かりませんでしたが貴方が魔法を消してくれたから大事にならなかったと思います。

 「いや、それも──」

 

 それも君が放つ前に摩利の攻撃が当たるから平気だよと言おうととしたら後ろからちょんちょんと突かれた。振り返ると突いていたのはエリカだった。彼女は手振りで屈めと言うので言われた通りに屈むと耳元で囁く。

 

 「そこは素直に受け取っときなさい。このままじゃ永遠に続くわよ」

 

 彼女に言われてそう言うもんかと思い、素直にお礼を受け取った。

 

 「あの、私は光井ほのかです。それで、その…良ければ駅までご一緒しても良いですか?」

 

 恐る恐る尋ねるほのか。感謝の気持ちはあれど彼は先程生徒会長に向かって堂々と取引を持ちかけた男。簡単に慣れる方が無理がある。そして誰も断る理由も無かったのでそのまま同行するかと思いきやまさかの返答を総司は繰り出した。

 

 「ああ、楽しんでくれよな。それじゃ」

 

 

 

 




 ご愛読ありがとうございました。

 やばい、書いてて思ったけど達也がまだ活躍してない。総司ばかりが悪目立ちしてる。そして駅まで同行しないと言う総司。その心境はいかに。

 では次回もお楽しみに!またね


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真由美は意外とやり手

 皆さんお久しぶりです。元気にしてますか?

 というか驚きの連続です。いつの間にかどんどん評価者が増えるしランキング週間とかにのるしお気に入り人数が爆上げするしでびっくりの連続です。こんなに評価されてとても嬉しいです。これからも頑張るので応援よろしくお願いします。

 では本編どうぞ!


 「楽しんでくれよな。それじゃ」

 

 総司はそう言った。まるで自分は行かないみたいに。それに思わずほのかが問い返す。

 

 「え?行かないんですか?」

 「ああ」

 

 その返答はみんな驚いた。てっきり一緒に行くものだと思ったからだ。

 

 「えっと、何か予定でもあるんですか?」

 

 たまらずほのかが三度訪ねて来た。確かに予定があるのかも知れない。それなら納得だ。しかし理由はそこではなかった。

 

 「いや、別に予定はないんだが……俺がいても、あれだろ」

 

 総司はそう言うと達也と深雪をチラ見した。それは総司なりに彼等に多少の負い目を感じているからこその意見であった。あの一件で確実に司波兄弟に嫌われたと総司は思っている。そんな自分がいても面白くないと。しかし事実は違う。達也は不明だが深雪は彼を嫌ってなどいない。むしろ彼の言う通り迷惑をかけたと反省している程だ。先程、1科生に総司は悪くないと発言したのがその証拠だ。

 しかし総司はそれを知らない。彼は嫌われている奴が混ざっているお茶程、つまらないものはないと思っている。しかも彼自身、深雪の事は好きではない。お互い、好きでもないのに一緒にいても不利益を被るだけ。ここは不可侵でいこうという魂胆だ。

 

 そうやって総司が気を遣ってその場を去ろうとするがその前に深雪が一歩前に出る。

 

 「悠木さん。昼の一件、悠木さんに大変ご迷惑を掛けてしまい申し訳ありませんでした」

 

 突然謝られた事に驚きを隠せない。

 

 「私が人の評価を気にしてハッキリ言わなかったせいで悠木さん、それからエリカ、美月、レオさんに迷惑をかけて本当にすみませんでした」

 

 総司は彼女の言葉を黙って聞く。エリカ達は自分達にも改めて謝られるなんて思っていなかったの多少タイムラグがあるが慌ててフォローする。

 

 「いや、だから深雪は悪くないって」

 「いえ、悪い事は悪い。そこはハッキリしたいの、エリカ。ごめんなさい」

 「深雪……」

 「そして、入学式前の事。悠木さんに言われた言葉『真実が見えてないのは感心しないぜ』、思い知らされました。あの時の私はまだまだ井の中の蛙だったと。私はお兄様が体術で負けるなんて思いもしませんでした。それがたとえ冷静でなかったとしても。………あの時はすいません。全部を把握しないで決めつけてしまって。なんとなくですが、あの後から悠木さんから私への態度が悪くなったと感じています。もしそれが原因だとしたら謝罪します」

 

 そう言って深雪は頭を深々と下げた。その様子を兄である達也は黙って見守る。今は自分が口を挟むべきではない。これは深雪と総司で解決すべき事なのだ。もしこれで自分が口を挟もうものならばきっとこの2人の溝は一生縮まらない。深雪がそれを良しとするならば口を挟むが彼女はそう思っていない。

 

 「その言い方だと冷静ならば達也の方が上だと言っているように聞こえるな」

 「当たり前です。私は悠木さんの実力のほんの一部しか知りません。もしかしたら昼と同じ結果になるかも知りません。それでも私はお兄様を信じています」

 

 初めて出会った時の目とは明らかに違った。あの時の目は自信というより崇拝に近かった。兄ならなんでも出来る。誰にも負ける訳が無いと。しかし昼に起こった事、いつも冷静な兄であろうと常に完璧ではない。激情に駆られて冷静さを失う事もある。それを彼女は知った。だからこその今の目。どのような結果になるかは誰も分からない。それでも、少なくとも自分だけはは兄が勝つと信じる目。似ているが決して一緒ではない。この違いは大きい。

 

 (少しはマシな目になったな)

 「悪かったな。少し言い過ぎた。確かに冷静の達也とはどちらが勝つか分からない。それ程達也の能力は高いと思っている。だが俺は負ける気はない」

 「きっとお兄様もそのつもりです」

 

 深雪はそう言って達也を見た。それは2人の会話は終わった事を意味する。なら今度は自分の番だと達也は総司の方を歩み寄る。場に緊張感が走る。そして達也は総司の目の前に立つとまず一言、言い放つ。

 

 「俺はまだお前を許していない」

 「……だろうな。冷静なお前があんなに怒ったんだ。そんな簡単に収まるとは思ってない」

 「ああ、お前は深雪を泣かせた。如何なる理由があろうとその事実は変わらない」

 「……」

 「だが深雪は1科生の人を前にして言った。『私が悪い。総司は悪くない』と。俺はその深雪の気持ちを汲み取る事にした」

 

 これには少し驚いた総司。勉強とかと違い総司が指摘したのは行動。しかも分かっていてもそう簡単に直せるものではない。それこそ自分の評価などを下げてしまう可能性がある勇気を持った行動だ。彼女の行動には自分もしっかり謝罪を入れなければ割りに合わないと思った総司は深雪の方へ振り返り先程の軽い謝罪と違ってしっかり頭を下げる。

 

 「これじゃ俺も頭を下げなければ割に合わないよな。悪かった。謝罪する。お前はただその場しのぎで謝るだけでなく、反省して行動で示した。それは簡単に出来る行動じゃない。称賛に値する。そんなお前に酷い事を言って泣かせてしまった俺を許して欲しい」

 「ふふ、それではこれでおあいこですね」

 

 深雪は小さく笑った。総司もそれに釣られて笑う。これで、深雪との溝は完全に埋まった。後は達也との溝だけだ。そう思い総司は達也の方へ振り返る。

 

 「総司、今回は深雪に免じて見逃してやる。だがもし次泣かせたら容赦しないぞ」

 「ああ、分かってる。もししたとしたらどんと来い。いつでも相手をしてやる」

 「それから、あの時は急に殴りかかってすまなかった」

 「そうか………だが断る!この悠木総司の最も好きな事は許しを請いている奴にNOと断ってやる事さ」

 「⁈……フフッ」

 「お兄様が…笑った?」

 

 深雪達は総司のぶち壊しの発言にポカーンとするが、次第に何言ってるんだと怒りが募る。しかしこの発言を知っている達也だけが笑ってしまう。他の者達は何故達也が笑うのか理解出来なかった。今ではこのネタを知っている人物はほとんどいない。だがお互いに同じ作品を読んでいた達也だからこその笑い。まさかの名言に怒りが吹き飛び、笑いが溢れてしまったのだ。これだからジョジョは良い。

 

 「まぁさっきのは冗談だとして俺も悪かったな。アイアンクロー。痛かったろ」スッ

 「大丈夫だ」ガシッ

 

 互いに仲直りの握手をして2人の溝も無事修復に完了した。

 

 「良し!それじゃ仲直りも済んだ事だし、一緒に行きましょう!」

 「「「「「おおー!」」」」」

 

 いつもの面子にほのか。そして彼女と友達である北山雫が加わった8人でケーキ屋さんに立ち寄った。まぁその後はご想像の通り。魔法の会話をするのだが総司は全くついて行けずに寂しくケーキを口にするのだった。自分の考え方を話せる者はいつ現れるのだろうと思うが、この学校にいる限り無理な話であった。

 

 

 

 次の日、総司はいつものように電車を利用して学校へ向かう。第一高校生が利用する駅の名前は『第一高校前』。駅から学校まではほぼ一本道。そのため通学路で友達と一緒になる事は珍しくない。現にこうして待ち合わせをした訳でもないのに達也達いつものメンバーと合流した訳だ。ここまでなら良かったのだがある人物が自身の名前を呼んだ事で一気に憂鬱になる。

 

 「総司さん………以前から会長とお知り合いだったんですか?」

 「一昨日の入学式の日が初対面のはずだ」

 

 美月の疑問に、総司はハッキリ断言する。自分がもし魔法系列の家系だった場合、幼い頃にパーティかなにかで顔を合わせる事があったかも知らないが総司の家は一般家庭……とは言えないが少なくとも魔法とは基本関係ない。総司が魔法師から依頼を受け出したのだって中学生になってからだ。そのくらいなら記憶もハッキリして彼女とは無縁であると言い切れる。しかし周りからしたらそうは見えない。なにせわざわざこちらに走ってくる程だからだ。昨日の一件で悪印象を与えたと思っているのに何故関わろうとしてくるのだろうかと素朴な疑問が浮かぶ。

 

 「総司君、おはよっ!達也君に深雪さんもおはようございます」

 「お、おはようございます」

 

 1人だけ仲良しにする挨拶みたいだと思うが流石に気のせいではないだろ。達也や深雪が丁寧に挨拶を述べたが総司は引き気味に挨拶をする。

 

 「お1人ですか、会長?」

 「うん。朝はね、特に待ち合わせしないの」

 

 総司の問いに肯定する真由美。明らかに馴れ馴れしい。そして真由美がこちらに走って来た理由は深雪との話があるらしい。恐らく生徒会に関する事なのだろうがそれなら何故総司を呼んだのだろうかと謎が深まる。総司は自分に対する時とそれ以外の真由美の口調を比べるが明らかに違う。それを本人に問う事も出来たのだが面倒なので止める。

 

 「それで一度ゆっくり説明したいと思ってお昼はどうするご予定かしら?」

 「まだ決めてないです」

 「達也君と一緒?」

 「それは…」

 

 深雪は総司に目配せする。昨日の事もあったからなんとなく彼に許可を取らなければいけないと思ったのだろうか。総司もその真意を汲み取り答える。

 

 「別に良いよ、俺は。1科生の奴等を連れて来なくて面倒が起きなければ別に」

 「確かに昨日の様になっても困るものね。それじゃ邪魔が入らないよう生徒会室でお昼をご一緒しない?ランチボックスでよければ自販機があるし」

 「…生徒会室にダイニングサーバーが置かれているのですか?」

 

 物に動じない深雪が驚きのあまり問い返す。しかし、いくらその通りでもハッキリ邪魔とは酷いのではないかと思う一同。だが勝手に生徒会室を関係ない者が使ってはいかがなものかと考える。

 

 「関係ない俺らが使ったら副会長とかが怒るんじゃないですか?」

 「大丈夫よ。はんぞー君はいつも部室で食べてるから」

 

 若干そこにボッチ飯を漂わせる。中学の時、自分もボッチだった事を考えて少し同情する。勝手に服部をボッチと決めつける総司。別に部活入ってないのでそこで食べたりはしなかったけど。

 

 「なんだったら皆さんもご一緒して良いんですよ」

 

 真由美は勧誘を続ける。しかしそんな社交的な申し出を正反対の口調でキッパリ謝絶した者がいた。

 

 「せっかくですけど、あたしたちはご遠慮します」

 

 エリカは拒絶した。いつもなら楽しそうとでも言ってついて来そうものなのに。彼女にも色々とあるのだろうか。

 

 「じゃあ深雪さん達だけでも」

 

 真由美は達也達を見て問いかける。先程までなら断ろうとしていたがエリカが取った態度を考えるとすこし申し訳なさが募る達也。

 

 「分かりました。それでは3人(・・)でお邪魔させていただきます」

 

 達也の自然な回答に見逃しかけるが直ぐにおかしいところがあることに気付く総司。

 

 「そうですか。良かった。それでは詳しいお話はその時に。お待ちしてますね」

 

 真由美もおかしなところはないと言わんばかりに丁寧に頭を下げ、会話を切ろうとする。しかしそれに総司が突っ込む。

 

 「いや、ちょっと待て。達也、今の文章、少しおかしかったろ」

 「?別におかしくはないが?」

 「そうよ総司君。何を言ってるの?どこも変じゃないじゃない」

 

 総司の問いに逆に何おかしな事を言ってるのだろうと思う2人。

 

 「変だろ。3人って誰だよ」

 「それは俺と深雪とお前に決まってるだろ」

 

 達也はさも当然のように言った。

 

 「いや、なんで俺が行く事に決まってるんだよ!」

 「総司君は嫌?」

 

 真由美は目をうるうるさせながら言う。自分の魅力を存分に発揮して。その光景に思春期の男子であるレオは羨ましそうに見つめる。しかし総司はキッパリ答えた。

 

 「はい、俺は関係ないので」

 「いえ、実は総司君にも話があるの」

 

 何故、深雪みたいな1科生ではない2科生の最底辺である自分になんの話だろうと思う総司。しかしそれを言われても返答は変わらない。

 

 「それではその話も断る方向で」

 「そう…ですか……」

 

 一方的に断る総司。話も聞いてもらえなかった真由美はしょんぼりする。それにはレオ達も口を出す。

 

 「総司、いくらなんでもそれはねぇぜ」

 「そうですよ。お話だけでも聞きましょうよ」

 「そうです。それに総司さんは女性への対応を改めるべきです。会長が可哀想ですよ」

 「え?俺が悪いの?」

 「「「「うん」」」」

 

 どこかでデジャブを感じるこの光景。それを前回受けたエリカはそっと近づき総司の肩に手を置いた。

 

 「総司君、こうなったらどうしようもない。諦めよ」

 

 総司に同情の目線を向けるエリカ。自分も同じ被害者だからこそ分かる事がある。そして今更だがみんなの呼び方が総司になっているのはお茶を食べている時に達也が名前なのに総司は苗字なのはなんか差別してるみたいと誰かが言い出した事で決まった。

 

 話は逸れたが総司は頭を掻いて面倒臭いと思いながらもしょうがなく昼をご馳走になる事にした。

 

 「七草会長、やっぱりお昼ご一緒しても良いですか?」

 

 背中がむず痒くなるのを抑えて彼女に言った。すると先程の落ち込み具合が嘘かの様に笑顔になった。

 

 「本当⁈やったっ!」

 

 その笑顔は今までの大人の雰囲気ではなく少女の可愛らしい笑顔だった。思わずレオは顔を赤くする。そして彼女の反応を見た女性人こそこそ話をする。

 

 「……やっぱり変よね?」

 「ええ、明らかに一昨日会ったばかりの反応とは思えません」

 「それこそ恋してる反応とか」

 「でも数日で人を好きになるかしら?」

 「「「うーん、」」」

 

 3人で話しても答えが出ないのでもう一度総司に確認する。

 

 「ねぇねぇ、」

 「なんだ?」

 「本当に会長とは一昨日会ったばかりなのよね?」

 「しつこいな。そうだって言ってるだろ」

 

 総司は繰り返し言うがそれでも信じられないエリカ達。それ程今の彼女の笑顔は眩しかったのだ。それこそ同性である自分達も魅了されてしまう程に。

 

 




 ご愛読ありがとうございました。

 どうでしたか?達也達と一応仲直りを済ませる総司。だが断る!色んな作品がパロってますがやっぱり言いですね。岸辺露伴大好き。

 そして真由美会長。一体総司とどうしてここまで絡むのか。何かあるのだろうか。

 では次回もお楽しみに!またね



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みんなって体調不良を偽ってサボった事ある?


 皆さん元気にしてますか?自分はとても元気です。何故なら今日から始まった開幕戦。ヤクルトに勝ったからです。藤浪の荒れ具合には少し不安がありますがそれでもきっと立ち直ってくれると信じています。佐藤はヒットこそ出ませんでしたがそれでも犠牲フライで初打点。明日こそ打ってくれると信じています。

 では本編どうぞ!


 

 そして早くも昼休み。総司と達也は深雪と合流して生徒会室へ向かう。この時も1科生の連中で突っかかる者がいたが生徒会長へ呼ばれてるので失礼しますと深雪がハッキリ断り、彼等は引かざるを得なかった。だが後方から『なんで司波さんだけでなくあの2科生も呼ばれてるんだ?』と騒ついていた。総司と達也からしてみればこちらが聞きたいくらいである。

 

 「話って一体なんだよ」

 「行ったら分かる事だからそんなに文句ばっか言うなよ」

 

 文句を言う総司を達也が宥める。これ以上あの会長に目をつけられるのは避けたい総司。だからといって自分の生き方、考えを変える気はないのでなるべく自分の周りで問題が起きない事を願う。

 4階の廊下の突き当たりにある目的地に着いた3人。深雪がドアホンを鳴らすと直ぐに部屋のロックが外れる。達也が妹を庇う様に体を傾けながら戸を開いた。1番前にいた深雪が開ければ良いのにと思う総司。

 

 「いらっしゃい。遠慮しないで」

 

 正面の奥にいる真由美がとても楽しそうな笑顔で手招きしている。総司は部屋に入ろうとしたが深雪と達也がドアの前で足を止める。何をするのかと思って見ていると深雪がお辞儀をした。手を揃え、目を伏せ、礼儀作法のお手本のような洗礼された仕草であった。

 

 (仕草の1つ1つがやっぱり一般人とレベルが違う。やっぱり位の高い家系なのか?)

 「えーっと、ご丁寧にどうも」

 

 宮中晩餐会でも通用しそうな所作を見せられ、真由美もたじろぐ。部屋には他にも2名の役員が同席していたが、すっかり雰囲気に呑まれていた。

 

 「どうぞ掛けて。お話はお食事をしながらにしましょう」

 

 真由美に言われた通りに3人は長机に座る。深雪が上座、右隣を達也、更に隣を総司が座る。

 その後、料理を受け取り、この場にいる他の役員の紹介も済ませて本題に入った。内容は予想通り、深雪の生徒会への勧誘だった。この学校は毎年恒例で新入生総代を務めた1年生に生徒会の役員になってもらうらしい。しかもここ5年間は役員になった1年生が全員生徒会長に選ばれているのだという。つまり2年前の入学生である真由美も主席だったという訳だ。

 

 だが総司はそれよりも気になる事がある。自分の向かい側に座っている摩利の事だ。彼女は事あるごとにこちらをチラ見してくる。何か用事かと思い摩利を見て目があうと怯えて目を逸らす。それを見て自分は彼女に軽いトラウマを植え付けてしまったのかと反省する。別に誰も傷つかないようにしただけでそこまで怯えさせる気はなかったのだが。どうしたものかと思い真由美に視線を戻すと彼女もこちらを見て状況を察したのかウインクをしてくる。『あまり触れないで』と目が語っている。

 

 深雪はすぐに返答せず、達也へ振り向いて眼差しで問いかける。達也は彼女の背中を押す意思を込めて小さく頷く。深雪は再び俯き、何か決心して顔を上げた。

 

 「会長は、兄の入試成績をご存知ですか?」

 「ええ、知ってますよ。先生に見せてもらった時は自信を無くしました」

 「成績優秀者、有能な人材を生徒会に迎え入れるなら私よりも兄の方が相応しいと思います」

 「おいっ、み……」

 「デスクワークなら実技成績は関係ないと思います。むしろ知識や判断力の方が重要なはずです」

 

 彼女は達也が止めようとしても聞かず自分の主張をハッキリの述べた。彼女の言葉に総司も力強く頷く。彼女の意見は的を得ていたからだ。生徒会に必要なのは力ではない。学校をより良くする頭脳だ。会長にはそこに行動力、影響力が必要となるが他はサブ。生徒会長を支えられる力があればいいのだ。更に深雪は自分を生徒会に入れるなら達也も同伴させてもらいたいと言った。しかも枠が1つと言うならば自分ではなく達也を入れて欲しいと。これには達也は頭を抱える。

 

 「残念ながらそれは出来ません」

 

 生徒会長ではなく、隣に座っている鈴音が発言した。どうやら生徒会役員は1科生から選ばなければならないと言う規則があるという。それを改定するには全校生徒の3分の2の票数を獲得しなければいけない。当然、1科生がそれを良しとするはずもない。生徒数がほぼ同数である現状では事実上不可能だ。例えいくら真由美が規則を変えようとしてもそればっかしには首を頑なに縦に振ろうとしない。彼女は淡々と、どちらかというと済まなそうに深雪に告げる。

 

 「申し訳ありませんでした。分を弁えぬ差し出口、お許しください」

 

 差別がある現在の体制を申し訳なさそうに思っているからこそ、深雪も素直に謝罪した。これがもし、それが当然とでも言おう者なら彼女の冷気が漏れていた頃だろう。立ち上がり深々と頭を下げる彼女を咎める者はない。

 

 こうして深雪は生徒会の書記として役員に加わった。すると摩利が手を挙げた。

 

 「すまない、ちょっと良いか?実は風紀委員会の生徒会選任枠のうち、前年度卒業生の1枠がまだ埋まってないのだが」

 「…摩利……グッドタイミングよ。丁度今その話をしようとしたの。風紀委員の生徒会枠に2科生を選んでも違反にならない。そうよね」

 

 真由美は摩利にサムズアップする。まさかと思い鈴音もあずさも唖然とする。そして真由美がこちらを向いた。嫌な予感がした総司は言われる前に先に断る。

 

 「俺はやりませんからね」

 「お前などこっちから願い下げだ」

 「あ"あ"ん?」

 「ヒッ⁈」

 

 摩利の言葉に総司はドスを利かす。すると彼女は怯えて鈴音の後ろに隠れた。あずさや鈴音はこの様な摩利を見た事がなく、とても驚いている。それに冷静に真由美が発言する。

 

 「安心して摩利。総司君に風紀委員が務まるとは思ってないわ。2日目から色々やらかす人に務まる仕事じゃないもの」

 「な、なら誰を?」

 「達也君よ」

 「はぁ?」

 

 摩利の問いに真由美はそう答えた。まさかのここで自分の名前が出てくるとは思ってもいなかった達也から間の抜けた声が漏れる。

 

 「だが待て。筆記試験は真由美の反応から察して凄かったのは分かるが風紀委員会だぞ。取り締まる力がなければやっていけない」

 

 摩利は抗議する。真由美の少しでも1科と2科の確執を取り除こうとする気持ちは分かるが実力が不確かな者を入れる事など出来ない。確かに最もな発言だ。ろくに力もなく入ったとしてやっていけなかったらそれこそ本末転倒だ。達也も自分は実技が駄目だったから2科なのだと言おうとするがそれより先に水を得た魚のごとく、総司が元気よく答える。

 

 「それには及びません。達也の実技能力は知りませんが彼は体術が優れています。それも生半可なレベルではありません」

 「だがそれは君が見た限りだろ」

 「そうですがなにか?確かに少し見てないので全貌は知りませんが足の運び、瞬発力。拳のスピード。どれも高水準です。実力は保証します」

 

 とても楽しそうに語る。まるで自分の発明に目をつけられた研究者みたいに。勝手に話を盛り上げられた達也は楽しそうに話す総司の首根っこを掴んで部屋の後方に移動する。

 

 「何勝手な事を言ってるんだ」

 「うるせぇ。そもそもお前が同行するのは3人とか言わなきゃこんな事にはなってないんだよ。恨むなら今朝の自分を恨みな」

 

 総司に言われて本当に何故彼を巻き込んでしまったのかと数時間前の自分を恨む達也。この男を道連れにしたのは間違いだったと。

 

 「大丈夫よ達也君。風紀委員会は1人じゃない。力比べなら摩利がいるから」

 「確かにそうだが」

 

 自分の力に自信がない達也をフォローしたつもりなのだが達也からしたら余計なお世話である。摩利もそこで頷くなと。そこで総司はある事に気付く。

 

 「ん?なら俺はなんでここに呼ばれたんですか?」

 

 達也を風紀委員会に推薦する気が無いなら、何故自分はここに呼ばれたのか気になる。生徒会役員も1科生からしか選べないとの規定があるのでなおさら自分がここにいる意味が分からない。

 

 「それはね総司君。ボ……」

 キーンコーンカーンコーン

 

 真由美が総司の問いに応えようとしたら昼休み終了のチャイムが鳴ってしまった。あと少しで聞けたところでなるなんて運がない。聞いて面倒くさければ速攻で断って終わったのに。

 

 「あら、時間ね。それじゃ達也君、総司君。続きは放課後で良いかしら?」

 

 ここで行かなければ勝手に決められそうだったので2人は渋々了承した。

 

 「結局俺は何のために呼ばれたんだ?」

 

 

 「どうだった?生徒会室の居心地は?」

 

 5限目の授業が始まるまで残り少ない時間にレオが聞いてきた。それに達也が風紀委員になれと言われたと答えると最初はレオ達も唐突すぎて理解が追いつかなかったが、すぐに達也に受けるよう説得する。1科生にでしゃばられるより何倍もマシだと。達也はあまり乗り気では無いが周りが勝手に盛り上がっているこの状況に少し戸惑っている様子。

 

 「達也君は分かったけど、総司君は何で呼ばれたの?」

 

 エリカが聞いてくる。ハッキリ言ってこちらが問いたいくらいだ。

 

 「分からん。話す前にチャイムが鳴ったからな。聞けなかった」

 「それはお前が渡辺先輩を脅すからだろ。凄い怯えていたぞ」

 「別に脅したつもりはねぇよ。だけどあの人の言い方にムカついただけだ」

 「……へぇ、あんたやるじゃない!」

 

 エリカが笑顔で総司の背中を思いっきり叩いた。まるで摩利が怯えたという言葉にとても喜んでいる様子だった。彼女と摩利には何かしらの因縁があるのかも知れないと総司は思った。

 

 「…………良し」

 

 5限目が終わった直後総司はそう言った。何かを決意した目をして。

 

 「何が良しなんだ?」

 

 たまたま聞いていた達也が尋ねた。すると総司は驚くべき行動に出る。

 

 「悪い。俺、少し体調悪いから保健室行くわ」

 「何?」

 

 達也は思わず聞き返す。先程までそんの様子も無かった彼が急に体調が悪いと言い出すのだ。しかも顔色が悪いとも思えない。そして次は実習。これらから何故このような行動に出たかは容易に想像がついた。達也は総司に近づき、誰にも聞かれぬよう耳元で話した。

 

 「サボりか?」

 「………やっぱりバレた?」

 

 勘のいい達也なら直ぐに気付かれると予想してたが、案の定簡単にバレてしまった。達也は続けて耳元で小声で話す。

 

 「実習そんな自信ないのか?」

 「まぁな」

 「安心しろ。俺も自信ないから恥をかく事はない」

 

 総司の事を気遣っての言葉なのだろうが総司からしたら全くの無意味だった。何故なら総司は実習が苦手というレベルではない。全く動かないからだ。魔法適性、総司から言わせれば魔術適性0なのだ。きっと行ったが最後、いつまでもやらない総司に有象無象が集まって公開処刑になる事間違いなしだ。そんなのが起きるくらいならサボる方がマシである。しかしそれを達也は止める。

 

 「大丈夫だ。誰も気にしない。サボるにしてもいつかはバレるんだから」

 

 彼の言葉はもっともだ。だがそれでも総司は可能な限りサボり尽くす。そう決めたのだ。そう思っていると校内放送が流れた。

 

 「1年E組の悠木君、悠木総司君。至急職員室までお越しください」

 「は?俺?」

 

 クラスの視線が一斉にこちらを向いた。達也達もまた何かやったのかと呆れていた。しかし全く身に覚えがない。無いのだがこれはチャンスである。

 

 「わ、悪い。それじゃ俺、職員室行ってくるわ」

 「おい総司、また何かしたのか?」

 「1科生の方と何かトラブルでも?」

 「別に大した事じゃないよ。皆は先に実習場に行っててくれ。俺も終わり次第向かう」

 

 総司は皆に背を向けるととても良い笑顔で部屋を飛び出して職員室へ駆け足で向かった。

 

 

 1年A組

 

 「どうしたんでしょうか?」

 「さぁ」

 「別にあれ以降1科生と2科生の間で問題があった話は聞かないけれど、ほのかと雫は何か心当たりある?」

 

 深雪の問いに2人は首を振る。すると丁度、空いてるドアから職員室へ向かう総司に姿が見えた。だが3人は不思議そうに見つめる。何故なら彼の表情がとても嬉しそうだったからだ。

 

 「呼び出しされたのに笑顔?」

 「やっぱり変人?」

 「ちょっと雫、いくらなんでも変人は悪くない?」

 「でも呼び出しされた人があんな表情をする?」

 「確かにそこは気になるけど」

 「それにあの時聞かなかったけどほのかの魔法をどうやって止めたのか気になる」

 

 雫の言葉に2人も頷く。2日目の争い時、ほのかの展開式を触れて消し飛ばした。そんな技術はこの世に存在しない。証明されていないのだ。彼が魔法を発動した痕跡も無い。完全に謎である。

 

 「もしかしたら総司さん、私達の知らない凄い事があるのかも」

 「そ、それは少し考えすぎじゃ無いかな?」

 

 雫の発言にほのかは苦笑いして答える。深雪は雫の言葉をもしかしたらあたっているかも知れないと頭の隅に置いとく事にした。

 

 

 

 

 

 





 ご愛読ありがとうございました!

 現在、お気に入り数はなんと547で評価者38人で平均6点代。総合評価は800!後ちょっとで念願の1000です!少し前まではそんなの無理だと思っていましたがあと少しとわかってとてもモチベーションが高いです。

 これからも皆さんに評価される程、気に入られるように頑張るのでよろしくお願いします。そしてついに服部副会長の出番です。他にも総司が呼び出された理由とは一体?

 では次回もお楽しみに!またね


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 昔話


 皆さん元気にしてますか?自分は阪神が開幕三連勝したのでとても元気です。てか魔法科高校の優等生がアニメ化するらしいですね。優等生は持ってないのでかなり楽しみです。 

 てか皆さん聞いてください!総評が1000を超えました!それもこれも読んでくれた皆さんのおかげです!

 これからももっと評価してもらえる様頑張るのでよろしくお願いします!


 

 総司は嬉々として職員室の前まで来ると1つ咳払いをしてから『何かしちゃいましたか?』と申し訳無さそうな表情を作り、ノックしてドアを開ける。

 

 「すいません。放送で呼び出しされた悠木総司ですが」

 

 名前を言うと椅子に向かって作業していた先生達が勢い良く振り向く。あまりの勢いに総司は後ずさる。しかも一目見るだけでは無い。総司の姿をゆっくり見つめる。まるで総司がどのような人物かを見定めているようだった。その場にいる全員に凝視されて今にもこの場を立ち去りたい気持ちを必死に押し殺す。すると1人の教師が席を立ってこちらに近づく。

 

 「君が悠木総司君か。放送で呼んだのは他でも無い、君の依頼主からの頼みだからだよ」

 「え?あのじーさんの頼みですか?」

 「⁈……流石だな。今の魔法師にあの方をじーさん呼び出来る人物なんて存在しないだろう。君は相当な実力者なんだろうな。そうでなければ老師に推薦されるはずがない。まぁ立ち話もなんだからこっちの個室で話そう」

 

 総司は凝視される中、案内されて職員室の奥にある個室に入る。

 

 「てかゆっくりしても良いんですか?一応授業中のはずですけど」

 

 サボろうと考えていたが一応授業中である事を指摘する。すると教師はくすりと笑う。

 

 「実技だと君は困るだろ?なんせ君は魔法を使えないんだから」

 「…まっそうですね。でも驚きましたよ。良くOKしましたね。魔術を使えない自分を入学させるなんて」

 

 どうせ自分が魔法を使えない事も、魔法を魔術と読んでいる事も筒抜けなのだ。真由美の発言や、さっきの反応からきっと全教師にバレている。そう思ったら大して隠す気も起きなかった。教師は総司が魔術と言うと奇妙そうにこちらを伺う。

 

 「……魔術か。君の作文にも書いてあったが君はどこでその言葉を知ったのかな?あの作文を読んだ先生方はみんな調べたよ。ネット、書物。可能な限り考えられるありとあらゆる手を使って調べたが1つも該当するものがなかった」

 「…………別にいいですよ。言っても信じてもらえません」

 「大丈夫、私は教師だ。生徒の言った事を信じる。そう決めているんだ。例え信じられないような内容だろうと、それが教師の務めだと信じて」

 

 先生はそう言うが総司は特に期待しない。もうそんな言葉は聞き飽きた。今まで色んなクラスメイト、先生、カウンセラーに話したが誰1人として信じる者はいなかった。それどころか馬鹿馬鹿しいと、時間の無駄と、キチガイと言われ、貶された。そんな言葉をどうして信じられるだろうか。

 

 「……夢ですよ」

 

 しかし総司は馬鹿だった。共感してくれるとは思っていない。でも、もしかしたら、少しでも信じてくれるかもしれない。その考えが捨てられなかった。

 

 「…夢かい?」

 「そうです、夢です。あれはまだ幼稚生だった頃です。妙にリアル感があったんで今でも鮮明に覚えてます」

 

 

 

 「ん〜〜眩しい……どこだろここ?」

 

 総司は真っ白な空間で目を覚ました。夢だから目を覚ますは表現的に合ってないと思われるが兎に角、目を覚ましたのだ。どこまでも広がる地平線。そこまでの道のりに障害物は一切ない。雲も無く、全てが真っ白な空間で目がチカチカしたのを覚えている。

 

 「おーい!少年よ〜」

 

 上から声がした。だが空を見ても何も見えない。代わりに一際輝く光があった。

 

 「気付いたか?」

 

 やっぱり声はそこから聞こえた。

 

 「誰?ここはどこ?」

 「ここは夢だ」

 「夢?」

 「そうだ。夢だ。君が寝たため、ここに呼ぶ事が出来た。いわゆる白昼夢というやつだ」

 「それでお兄さん誰なの?」

 「お兄さんはね、神と呼ばれる者だよ。真名はゼウス。全知全能の神だよ」

 「神様⁈凄い!本当に実在したの⁈」

 「それはするさ。だが君達が知っている物語は全て真実では無い。私達は元々、信仰によって生まれ、成り立っている。力も知名度、信仰心に正比例する。だから人間が生まれるずっと前から生きているというのはデタラメだ。言うならば人間は私達の生みの親と言っても過言ではない」

 

 信仰とかゼウスの言っている事は当時はちんぷんかんぷんだったが兎に角、神が実在している事実に過呼吸を起こしてしまうかもしれない程興奮した。

 

 「じゃあさ!じゃあさ!僕に凄い魔法見せてよ!」

 「魔法か?」

 「うん!とっても凄い魔法!」

 「良し!見せてやる!これが神の魔法だ!」

 

 そう言ってゼウスは手を前に出すと最初に見えたのは火の魔法だった。これを見た時、総司はガッカリした。『なんだ、火か』と。火力がどうであろうとありとあらゆる場面で目にした事がある火。神の魔法と言うのだから一体どんなものかと思ったが所詮この程度かと思ったのだ。この感想は初めて魔法を見た時と一緒だった。魔法は凄いものと言うのは聞いていたので未知の力を想像していたのだ。きっとこの時点で周りとは少しズレていたのだろう。

 

 正直見る気も失せてしまっていた。それを感じ取ったゼウスは総司を見てニヤリと笑いこう言った。

 

 「ふ、神の魔法はまだまだこんなもんじゃないぞ!」

 「え?」

 

 ゼウスの言う通りそれで終わる事はなかった。逆の手で無色の塊を作り出しす。

 

 「何か分からない顔をしているなら。これは空気の塊だ」

 「空気?」

 「そうだ。自分の周りに存在する空気を極限まで圧縮して作り出す。更にこの2つを組み合わせると」

 

 右手にあった火と左手の空気を合わせると火が膨れ上がり巨大な炎の塊が出来た。しかもまだ終わらない。

 

 「そしてそこに雷を加える。するとどうだ?炎の周りを雷がバリバリと鳴り散らしているだろう。そしてこれを思うがままに操作出来る。剣、槍、斧。だが私が一番好きなのは、これだ!」

 

 雷炎を自由自在に操作する。そしてゼウスが最後に作ったのは槍の弓だった。とても巨大な弓に見合うようとても巨大な槍が作られた。

 

 「そして最後に雷炎の槍の周りに極限まで圧縮した水を漂わせる。その威力は」

 

 そう言って力一杯引っ張った弓を解き放ち物凄いスピードで飛んでいった。放たれて数秒後、巨大な爆発が起き、数分のタイムラグを経て巨大な爆発音が耳を壊そうとする勢いで聞こえてきた。総司はあまりの爆風に吹っ飛びそうになるがゼウスが支えてくれた。

 

 「4万キロは届いたかな?」

 「?それってどれくらいの距離なの?」

 「大体地球を一周するくらいの距離だ」

 

 そう言われて総司は次元の違うレベルの話に胸が高まった。そんなに遠くで起きた爆発がここまで見えて聞こえる程の巨大な爆発。だけど何より胸が高まったのは威力ではなく、次にゼウスが言った言葉だった。

 

 「だが魔術を魔法と呼ぶとはこの世界の住人もおこがましい事をしたもんだ」

 「え?魔術?」

 

 そう、その時初めて魔術という単語を聞いた。魔術なんて言葉を聞いた事が無かったため、ゼウスが何を言っているかよく分からなかったが、自分の期待したものが聞けるかもしれないと耳を大きくした。

 

 「魔術って?」

 「魔術って言うのは魔法と違って正しい手順、理論が成り立たないと出来ないんだよ。つまり君達の世界で魔法と呼ばれるものだな。だがそれは真の魔法に非。真の魔法って言うのはそんなものは一切必要としない。願いの強さがそのまま力になる。それこそが真の魔法なんだよ。無から1を作り出す。物体、人物も思いがままだ。そんな奇跡の力を魔法と呼ぶんだよ」

 

 そう言ってゼウスは先程まで何もなかった所から黄金のインゴットや鳥達を生み出した。総司は心の底から震え上がった。何故なら自分が心から願った奇跡の力が存在したのだと知れたからだ。それと同時に今まで魔法だと教わって来たものが今まで以上にショボく感じた。

 

 「でもなんで神様は僕の夢に出て来たの?」

 「それは君が魔術を世界でただ1人だけ脅威に思っていなかったからさ。この世界の人物は魔術を好きか嫌いかはともかく全ての人物が脅威に思っている。その思いは方向性こそ違えど信仰心を持つ。魔術を信仰している者は魔法とは相容れない。だからこそ信仰心を一切持たなかった君には干渉出来たのだ」

 「うーん、良く分からないけど僕達が言ってる魔法は魔術っていう偽物って事?」

 「簡単に言えばそう言う事だ。そして君に知っていてもらいたかったんだよ。魔法という奇跡の力を、この世界の常識に囚われない君だけが真の魔法を目覚める可能性があると言う事を」

 「本当⁉︎僕も魔法を使える様になるの‼︎」

 「可能性だけだがな。だが君が魔術に染まらない限り可能性はゼロではない」

 

 

 

 「そう言ってゼウスはその場から消え、気が付いたから目が覚めていた」

 

 総司の話を教師は静かに聞いた。確かにこんな話を簡単に信じられる筈が無い。現に自分だって信じきれてない。だがそれが真実だと言う根拠は存在する。老師の存在だ。彼が推薦した人物がただの中二病な訳がない。それを探るのはルール違反だが何かしらの能力を持っている事は間違いない。だからこそこの話は真実だと思い知らされた。

 

 「そうか。確かにそれだと信じてもらうのは難しかったろうね」

 「でしょうね。元から期待してません」

 「私も魔法師だからね。はいそうですかと言って魔術と言う事は出来ない。でもその夢の話は信じよう」

 「………まじすか?」

 「ああ」

 「はは。あはは。あはははは!」

 

 総司の笑いが個室に響く。

 

 「スッゲー嬉しいです。親でさえこの夢信じてもらえなかったんですけどね。先生が初めてです」

 「そうか!良かったよ」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 「あ、もう終了ですか?なんかとっても短く感じました」

 「それ程この時間が充実していたのかもね。あ、言い忘れていたが私の名前は木島聖(きじまひじり)。実習の時間になったらここに来て時間を潰すといい。君は実習免除だから」

 

 実習免除。なんて響きの良い言葉だろうと総司は思った。そして総司は木島先生に頭を下げて職員室を後にする。

 

 「木島先生。どうでしたか彼は」

 「別に老師の推薦だからって特別おかしな点はありませんでしたね。でもきっと彼が推薦された理由は嫌でも目の当たりにすると思います。どんな力を持っているか分かりませんが、老師が言うこれから起こる悲劇からのボディーガードとして送られたんですから」

 

 

 

 

 

 「あ、総司君、大丈夫?」

 

 教室に帰ると既に授業から戻ってきたみんなが帰り支度をしていた。たまたま最初に目があったエリカがこちらに駆け寄ってくる。

 

 「まぁな。大した話はしなかったよ。ちょっと書類出し忘れている事があっただけ」

 「もぉーしっかりしなさいよね!」

 「総司、俺と深雪は支度が済んだから教室の前で待ってるぞ」

 「ああ、分かった。すぐ済ませるよ」

 

 帰り支度を済ませようとする総司を達也は観察する。そしてすぐに済ませて3人で生徒会室に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 





 ご愛読ありがとうございます。

 総司の過去話。夢に出てきたゼウス。神と名乗っていますが本当は一体何者なんでしょうか笑笑

 そしてはんぞー君はまだでした!すいません。夢の話が思ったより長く描いちゃって文字的にこの話はここまでにさせてもらいました。でも次回は必ず出るので安心して下さい!

 では次回もお楽しみに!またね


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CADって武器じゃないの?


 皆さんお久しぶりです。元気にしてますか?

 てかあの評価のボーダーって何人でゲージMAXになるんですかね?今48人なんですけど後1人なんですよね。

 それにしても阪神2連敗。森下でバッティング崩されたのかな?それに近本も調子が上がってこないし。イマイチ乗らないんだよな。

 では本編どうぞ!


 

 「失礼します」

 

 達也が生徒会室のドアを開けて中に入り、深雪と総司が彼に続く。既に日は落ち始めて生徒会室は夕焼けに照らされていた。すると明確な敵意をはらんだ鋭い視線が総司と達也に向けられる、主に総司に。発生源は昼にぼっち飯を食っていたと思われる服部副会長のものだった。だが2人ともこの手の視線や雰囲気には慣れている。達也はポーカーフェイスを保って軽く黙礼するが総司はそんな視線を向けてくる奴に挨拶する必要はないと思い突っ立ったまま。それに余計に彼の敵意が増した。

 

 「総司、一応挨拶しろ」

 「……へいへい」

 

 達也は総司だけに聞こえる声で言う。そう言われて総司は渋々頭を下げた。しょうがなくやった感に彼の敵意が更に増すがすぐに霧散した。だがそれは彼への敵意が解消されたわけではなく、関心が深雪に移っただけだ。

 

 「副会長の服部刑部です。司波深雪さん生徒会長へようこそ」

 

 服部は達也を無視して深雪に挨拶する。兄を無視されたことにムッとする深雪だったがなんとか自制した。その事に達也は密かに胸を撫で下ろす。しかし総司はこの服部の行動に笑わずにはいられなかった。

 

 「達也、見たか?あいつ絶対お前の妹を狙ってるぞ」

 「はぁ?」

 

 達也は急に変な事を言い出した総司に思わず声を上げた。

 

 「だってそうだろ。彼等のことは無視して深雪に挨拶するなんて気がある証拠だろ。それかよっぽどの女好きだな。だって男の俺らを無視するんだから」

 「何を言い出すんだ貴様は!」

 

 好き勝手言われた事に腹を立てる服部。その顔は羞恥心と怒りで真っ赤になっている。

 

 「だってそうだろ。男2人、女1人の状況で女だけに挨拶するなんかそれ以外あるかよ」

 「それは貴様らがウィードだからだ」

 

 差別用語を使用する服部に摩利が注意しようとするが、総司がそれより早く反応する。

 

 「あーあ、ここでもまたウィード。嫌だねぇ、人を差別をしちゃ駄目って習わなかったの?人の上に立つ人がそんな事言ったらいかんでしょ。常識です。ま、ウィードって言葉は俺にとっては褒め言葉も同然なんで快く受け取りますよ。服部先輩」

 「貴様ッ」

 

 総司の人を小馬鹿にする態度に怒りを露わにする服部。今にも怒りが爆発しそうになるが、それを止めたのはやはり真由美であった。

 

 「まぁまぁ、そこらへんで終わりにしましょ。はんぞー君、私の前で差別用語を言わないでね、お願いだから。総司君もすぐに人にちょっかいを出すんじゃないわよ。良いわね!」

 「いやーもうここまでいくとね、もう良いかなって。既に目立ちまくりなんで。思った事に素直に生きようかなって。これ以上目立つかもしれないですけど隠すのはやっぱり性に合わないんです。太く短く生きるみたいな」

 「……また反省文書きたい?」

 「すいませんでした。それは勘弁して下さい」

 「うん、よろしい!」

 

 仲のいい幼馴染のようなやりとりに歯軋りを立てる服部。そんな光景を見ていた達也は密かに面白そうと思っていた。

 

 「それではあーちゃん、お願いね」

 「はい」

 「ではは私達も移動しようか」

 「どちらへ?」

 「風紀委員会本部だよ。中で繋がっているんだ」

 

 あずさが深雪を、摩利が達也を連れて行こうとする。その結果、総司は取り残されてしまった。

 

 「俺は?」

 「あ、総司君は」

 「待ってください!」

 

 真由美が総司に話しかけようとすると服部が呼び止めた。真由美は話しかけるのを邪魔された事に、総司は要件を遮られた事で偶然にも2人の思いは一致した。

 

 ((今度は何?))

 

 「何だ、服部刑部少丞範蔵副会長」

 「フルネームで呼ばないでください」

 

 彼の本名を知らなかった達也と総司は思わず真由美の顔を見る(深雪は入学式リハーサルでの挨拶の時に既に知っている)。真由美は2人の視線に『んっ?』という感じで首を傾げる。その後、彼の名前で遊ぶ摩利とそれを恥ずかしがる範蔵でコントを繰り広げるが、それを真由美が止めに入る。「はんぞーくん」と呼んでいるお前が言うなという視線が彼女に集まる。しかしその事を服部は咎めない。彼女を苦手にしている様子はない。むしろその逆。それに気付いた総司は今後、良い感じのネタになりそうなので覚えておく事にする。

 

 「話というのは風紀委員の補充の件です」

 

 話は戻るり、落ち着きを取り戻した服部は冷静に話す。

 

 「その一年生を風紀委員に任命するのは反対です」

 「司馬達也君を生徒会選任枠で指名したのは七草会長だ。例え口頭であっても指名の効力には変わりない」

 「本人は受諾していないと聞いています。本人が受け容れるまでは正式な指名にはなりません」

 「それでも決定権は君にはないよ」

 「過去、ウィ……2科生を風紀委員に任命した例はありません」

 

 一瞬ウィードと言いかけたが摩利の後ろにいる真由美の顔がチラつき止める。

 

 「実力の劣る2科生に風紀委員は務まらない」

 

 摩利はそう言われて黙り込む。確かに自分も考えた意見だからだ。確かに真由美の言う通り力なら自分がいるとしてもだ。ただ入試の筆記が良いからと言って2科生を入れてもいいものかと。

 

 「兄には起動式を読み取る力があります!」

 

 溜まった鬱憤が爆発したのか深雪が声を上げた。達也からしたらあまり話さないでもらいたかったのだがそれでも兄が不当な評価をされている事に我慢出来なかったのだろう。それに1科生と揉めた時、総司がいなかったら誤魔化そうとしていた。その時にほのかの魔法は閃光魔法だと発言する気だったので、バレるのが多少遅くなっただけの話である。

 

 「司波さん。いくらなんでも嘘をつくのは感心しない」

 

 しかし深雪の言葉を信じない服部。

 

 「お言葉ですが、私は嘘をついてなどいません。嘘かどうかは試してみれば分かります。それに兄の実技テストの評価は芳しくありませんが、それは兄の力に適合していないだけのことなのです。実践ならば、兄は誰にも負けません!」

 「司波さん………今度身内贔屓ですか。それ以上は口を閉じた方がいい。自分のイメージを悪化させるだけだ。魔法師は常に冷静を心掛けなさい。この事は心の内に秘めておくが今後は注意するように」

 「お兄様の本当の力を以ってすれば──」

 「深雪」

 

 深雪の言葉を一向に信じない。2科生にそんな力ないと思っているからだ。自分の話を全く信じてもらえない事に、完全に冷静を無くした深雪。危うく言ってはならない事を言いそうになったところで達也が深雪の前に手を翳す。そこでようやく我に戻り、ハッとした顔になり、羞恥に後悔を混ぜて口を閉ざし俯く。

 

 深雪は言い過ぎたた。言ってはならない事も言いそうになった。しかし彼女をそこまでを追い込んだのは服部だ。それに自慢の妹を嘘つき呼ばわりされているのを黙って見ることは達也には出来ない。

 

 「服部副会長、俺と模擬戦しませんか?」

 「なに?」

 

 意外な申し出に誰もが言葉を失う。予想外の大胆な反撃に、真由美と摩利は呆気に取られた顔で2人を見つめる。だがこの状況を総司は1人だけ楽しんでいた。

 

 (面白い展開になってきたな。服部先輩、少しは上級生らしい抵抗を見せてくださいよ)

 

 「そうすれば妹が嘘も身内贔屓もしていない事が分かります」

 「思い上がるなよ、補欠の分際で!」

 

 達也は罵倒されたにも関わらず、困ったような顔に薄らと苦笑を浮かべる。それに服部は腹を立てるが達也に先程、自分が言った『魔法師は冷静でなければならない』、この台詞を返されて口惜しげに息を詰まらせる。 

 達也は独り言のように言った。『妹の名誉の為ならばやむを得ません』と。この時ばかりは舌が回った。だが服部からしたらこの発言は自分があなたに負ける筈がないと挑発されたと受け取った。

 

 「いいだろう。身の程を弁える必要性をたっぷり教えてやる」

 

 服部は達也を睨む。必ずその言葉を後悔させてやると心に誓い。それを聞いた真由美が模擬戦を会長権限で正式な試合と宣言する。30分後にその場にいる者を立ち会い人とし、非公式な試合が行われる事がここに決定する。ルールは以下の通りだった。

 

 ・相手を死に至らしめる術式、ならびに回復不能な障害を与える術式の禁止

 ・直接攻撃は相手に捻挫以上の負傷を与えない範囲である事

 ・武器の使用の禁止、素手による攻撃は許可

 ・勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断した場合に決する

 

 そして正式な試合な為、あずさが端末を叩き記録する。

 

 「では一時解散」

 

 「では会長。許可証に印を」

 「え?何の許可証?」

 

 達也の発言に総司が問う。総司からしたら真面目な質問だったのだが誰もが『こいつ何言ってんだ?』と思った。

 

 「いや、CAD使用の許可を貰うんだが」

 

 そう。学校といえどCADを無闇に使う事は許されていない。模擬戦の時は必ず双方生徒会長印が押された許可証を見せなければならないのだ。その事はここにいる誰もが理解している筈だった。ただ1人の除いて。

 

 「は?武器の使用は禁止って言われたのにCADなんて使えないだろ」

 

 そう、この男には魔法師の常識など知らない。CADなしの魔法がどれだけ構築に時間がかかるかを知らないのだ。

 

 「あのね、総司君。CADはOKなのよ」

 

 

 一般人からしたら天然とも取れる総司の発言を真由美が拾う。総司はそれならそうとルールに記載しろ思った。それならエリカのようにリーチの長い剣のCADで斬りかかればいいんじゃね?と思ったがそれだと致命傷になるからダメだと口には出さなかった。そしてまたある事にきづく。

 

 「あれ?結局俺が呼ばれた理由は?」

 

 デジャブを感じるこの発言にオチを感じさせるがそれを聞いていた真由美が答える。

 

 「あ、そうよ。丁度模擬戦まで時間あるから話とかないとね。総司君、こっち来て」

 

 総司は真由美に案内され、生徒会室の奥に設置されている個室に案内された。そんな背中を達也達は興味深く、服部は恨めしそうに見つめるのだった。

 

 「ここはね、防音対策もしっかりしてるのよ」

 「世間話はまた今度にして本題に入りましょうよ」

 「あら、今度してくれるの?」

 「機会があれば。それで、何で呼ばれたんですか」

 「それはね。私のボディーガードをしてもらいたいの」

 

 開いた口が塞がらない総司であった。

 

 

 





 ご愛読ありがとうございます。

 本当読んでて思ったんですよね。CADって武器じゃないの?って。まぁ常識の範囲内なんでしょうね。あの模擬戦ってかなり不平等ですよね。レオみたいな硬化魔法を得意としていたから殴るだけでかなりの傷ですよね。顔殴ったら鼻骨簡単に折れそう。

 それに真由美の総司を読んだ理由は自分のボディーガードをしてからだった。一体何故彼女はこう思ったのか。彼女の真意は如何に。

 では次回もお楽しみに!またね


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通りすがりの正義のヒーロー

 
 皆さん元気にしてますか?自分はまぁ普通です。一昨日の藤浪でも勝てたら良かったんですけどね。あのピッチングを無駄にされて本当に腹が立ちました。青柳も良いピッチングだったのに勝ちつかないって可哀想です。

 そうそう、評価人数MAXになりめしたね。皆さん本当にありがとうございます!これからも評価してもらえるよう頑張りますのでよろしくお願いします。

 あ、そうだ。今回の話R15展開あるのでそれが嫌な人はフィードバックよろしくお願いします。

では本編どうぞ!


 

 総司の頭の中は今、混乱の嵐に飲み込まれていた。

 

 (は?ボディガード?何言ってんだこの人?俺は2科生だぞ。明らかに自分より弱いと思われる人物にボディガードを頼むなんて意味が分からん)

 「馬鹿なんですか?」

 「至って大真面目よ」

 

 やっぱり馬鹿だった。この目は本気で言ってる目だ。一体なんの用かと思えばボディガード?呆れて声も出せない。しかし、彼女が十師族である事に気付く。もしかしたら七草家当主が話したのかと疑う。十師族の当主達は総司の存在を知っている。仲が良い訳ではなく、お互いに利用しあってるだけだ。そしてその中にもルールは存在する。その一つに自分の存在を当主以外の誰にも教えてはならないと言うものだ。流石にルールは守っていると思うが一応確認しなければならない。でないと自分は確実に狙われる。魔法師側からもそれ以外からも。だが真由美に直接聞くのは駄目だ。もしルールを犯していなかった場合、彼女に自分が十師族と繋がりがある事がバレてしまう。それは良くない。とりあえず、その事は後で当主本人に電話するとして、今は彼女が何故、自分をボディガードにしたいのか尋ねる。

 

 「てかなんで俺なんかをボディガードに?他にももっと良い人材がいると思いますよ。そもそも七草会長の実力なら要らないんじゃないですか?」

 「私だってか弱い女の子なのよ」

 

 十師族の娘にして魔法科高校の生徒会長が何言ってるんだと思うが、口に出す事はしない。今は余計なチャチを入れる時ではない。だが自分をボディガードにするには絶対に裏がある。なのでとりあえず総司の返答は決まった。

 

 「お断りします」

 「……それはどうして?」

 「2科生に頼む内容じゃない。それに面倒い」

 「………ふふ、やっぱり変わってない」

 「……え?変わってない?」

 

 真由美は総司を懐かしむように微笑む。対して総司は頭が混乱していた。そんな混乱している総司を見て真由美は楽しむ。

 

 「うん、変わってない」

 「俺らって初対面じゃないんですか?」

 「違うわよ。まぁ総司君が覚えてなくても無理ないわ。私も貴方の名前を聞くまで気付かなかったもの。まさか同じ学校に入学してくるなんて思いもしなかったわ。まさに運命の再会ってやつね」

 

 まさかエリカ達が言った事が本当になってしまうなんて思いもしなかった。しかし彼女の言う通り全く記憶にない。当主達に依頼される時はこちらが出向いて基本1対1での会談か、電話で行う事になっている。その時も他の人に絶対聞かせない事を条件にしている。もし破った時はそれ相応の対応をとると。出向く時も必ず一家に知られてはならない。知るのは総司を案内する従者1人のみ。そしてその従者も誰にも教えてはならないと徹底している。更に彼女みたいな名家が集うパーティーなども行った事はない。中学校も違うはず。そもそも総司の中学校は魔法科高校に受かる様な人物はそもそも在学していないのだから。だから会う可能性は全くと言っていい程無い。

 

 「どこで?」

 「言わない」

 「はい?」

 「自分で思い出してくれるまで絶対言わない!」

 

 総司の問いに真由美は顔を頰を膨らましてプイッとした。明らかにに今までの彼女とは態度が違う。昔会った事を話して吹っ切れたのか、まるで別人の様だった。意味が分からない。一体彼女が何を考えているのかも。

 

 「でも貴方に力が無いってのは信じないわよ」

 「…何だと?」

 

 真由美は片目でこちらをチラリと見て言った。その目はブラフでは無い。確信を持っている目だった。いよいよ本気で当主を疑わなければならなくなった。

 

 「……とにかく直ぐには判断しかねます。返答は後日という事でよろしいでしょうか?」

 「うん、待ってる」

 

 断る前に当主に真相を聞こうとしただけなのだが真由美はとても上機嫌だ。その笑顔にどんな裏があるのかと疑ってしまうのはしょうがないだろう。しかもその上機嫌は変わる事なく、個室を出る時には腕を組んで来た。突然の事に驚きながらも直ぐに離れる様言うが真由美は全く言う事を聞かない。明らかにただ会っただけにはとても見えない。本当に過去に何があったのか尋ねたかった。当然、その様子を見た摩利達はあまりの驚く。あまりの衝撃的な光景に一言も声を発せなかった。

 

 (確かに最初気付かなかったと言ったわ。言ったけど貴方の名前を忘れた事は1日もない)

 

 

 

 

 あれはまだ真由美が中学生だった頃。学校から家に帰る途中に何者かに拉致られてしまった。後から分かった事なのだがその人達は反魔法組織の人で、十師族の娘である真由美を前から狙っていたらしい。計画犯罪ってやつだ。拉致する際には対抗出来ない様に眠らされてCADも奪うという徹底ぶり。

 

 目を覚ましても真っ暗で何も見えない。目隠しをされていた。口はガムテープで塞がれ、両手は後ろで縄に縛られて、両足も拘束されている。誘拐犯の声が聞こえるだけだ。いくら名家の生まれだからって、こんな事件に遭うのは初めてだ。いくら彼女は大人びているとはいえ、まだ義務教育も終えてない少女。怖さで涙が溢れてしまう。

 

 「兄貴、身代金の要求は済みましたか?」

 「あぁ、今10億要求した。魔法なんてクソったれなもので無駄に稼いでるんだ。だったら少しくらいこっちに分けても文句ねぇだろ」

 「でも楽勝だったな、誘拐」

 「本当本当、少しは危機感持てっての」

 

 犯人は分かるだけでも4人。そして要求は金だ。両手両足を拘束されて、目隠しもされているこの状況で頼れるのは耳のみ。そんな状態で何か出来る事はなく、真由美が出来るのは、こちらに敵意を向けさせない事だけだった。だが彼女にも希望は残っている。自分が身代金目的の人質だという事だ。幸い、身代金が目的ならばこちらの命は保証してくれる確率が高い。人質は生きてこそ利用価値があるからだ。それに一度金を要求に乗ったフリして金を渡せば離してくれるかもしれない。そうすればこちらの勝ちだ。

 

 「てか、本当にお金持って来るんですか?もし持ってきたとしても人質解放すれば殺されますよ」

 「馬鹿か。誰が人質解放するなんて言ったよ」

 「え?」

 (え?)

 

 共犯者と真由美の思った事が一致する。希望が塗り潰されていくのを感じた。

 

 「じゃあどうするんですか?」

 「決まってんだろ。死ぬまで利用してやるさ。幸いこいつの見た目は良い。だから遊んでやるのさ。たっっっっっっぷりとな。まぁ綺麗でいられるうちはだがな。飽きたら捨てれば良い」

 

 そう言って主犯格の男は真由美を見る。釣られて共犯者達が真由美を、主に彼女の身体をじっくり舐める様に眺めた。目は見えずとも見られている事を肌で感じた真由美の身体は震え出す。先程までの恐怖が可愛く見えるくらいに恐怖する。自分はもしかしたら生きて帰れないと、それどころか死にたいと思う目に遭わせられるかもしれないと。既にそれなりの知識も持っている彼女は何をされるかは容易に想像出来た。

 

 「そ、それじゃ早速いただいて良いですか?」

 

 1人がヨダレを垂らしながら真由美に近づく。その言葉を聞いた真由美の身体はビクッとする。一瞬で彼女の脳内を負のイメージが覆う。

 

 「良いぜ。まぁみんな一気にするのも良いが最初は1対1にしようや」

 

 そう言って1人を残して席を外す。真由美は理解した。自分はこれから酷い目に遭うのだと。自分だって思春期の少女。彼女の家が家なだけに、みんな恐れ慄きそう言う関係になった事はないが、恋だってしたいお年頃。手を繋いだり、キスもしてみたい。それこそ、その先も。

 

 「それじゃ最初は服を脱がすか」

 

 男は真由美の服のボタンを一つ一つ外す。真由美は涙を流しながら後悔した。何故あの時、もっと周りに警戒を怠らなかったのか。そして想像してしまう。思い描いていた恋愛を。好きな人とたわいも無いお喋りをして、色んな所でデートしてりたり、2人で一緒に門限を破って、そして良い雰囲気になったら……。そんな今では叶うはずもない事を思い描いてしまう。だがボタンを外される音が、その恐怖が辛い現実へと押し戻す。

 

 (初めては好きな人にあげたかった……。でも叶うなら、誰か助けて)

 「な、何だお前は!」

 (え?)

 

 彼女の願いを叶えるかの様に外から物音がする。先程出て行った仲間達と交戦している音だ。もしかして誰かが助けに来てくれたのか。暗闇に一筋の希望が走る。しかし彼等が金を要求してからまだ1分程しか経ってない。そもそもここがどこだか探知するのも早すぎる。明らかに警察や七草家の者では無い。交戦している音が止み、今度は扉が叩かれる音がする。

 

 ドガン!

 

 数発の音を繰り返し、扉は破られた。

 

 「何者だ⁉︎」

 「通りすがりの正義のヒーローってか?」

 

 聞こえてきた声は少年の声だった。自分と同年代か、それより若い。

 

 「へっ、誰かと思えばガキじゃねぇか。だが外の奴らはどうした?」

 「あのおっさん達なら寝ているよ」

 

 犯人の会話からやはり子供の様だ。だけどこの世界にはいくら子供でも大人に対抗する術はある。魔法だ。少年がこの状況を打破する魔法があるならば自分は助かる。そう思った。だが当然その事は犯人も分かっている。

 

 「ま、まさかお前、魔法師か?」

 「魔法師?馬鹿言ってんじゃねぇよ。魔法なんか使える訳ねぇーじゃん」

 「は、はは。ビビらせやがって。あのな!ここはお前の様なガキが来る所じゃねぇんだよ!今すぐ回れ右してこっから立ち去れ!じゃねぇと、こいつがどうなってもしらねぇぞ」

 

 犯人が喋ってる間も少年に逃げてと叫ぶ。当然、ガムテープで口を塞がれているので何を言ってるか聞き取れないだろうがそれでも叫ぶ。本音では今すぐ助けてと良いたかったが、自分の問題に無力の少年を巻き込む事は出来なかった。しかも次の音で余計その思いが強まる。カチャ、となったのだ。以前に聞いた事のある音。忘れる筈がないこの音。

 

 拳銃の音だ。恐らく自分は拳銃を突きつけられている。そう認識する。怖くて仕方がない。それでも必死に叫ぶ。自分には十師族としての誇りがあるから。

 

 「お、こいつがなんか必死になってやがるな。丁度いい。聞いてやろうぜ。魂の叫びってやつをよ」

 「────ぶぁ。逃げて!私の事は置いて逃げて!魔法師じゃない君が拳銃を所持している人に勝てる訳がない!大丈夫!お姉さん強いから」

 

 怖い思いを必死に耐えて形だけでも笑顔を見せる。もう自分の事はいい。それより自分を助けに来てくれた少年を死なせたくはなかった。しかし彼女の叫びを聞いた男は高笑いをしだす。

 

 「はははは、何、寝言言ってんだよ!逃がす訳ねぇだろ馬鹿が!」

 

 銃声が鳴った。そして自分に痛みはない。つまり少年に向けられたものということだ。魔法も使えない人が銃を防げる筈がない。真由美は涙を噛み締めて犯人に叫ぶ。自分のせいで死人が出てしまったのだ。

 

 「よくも!よくも無関係な人を撃ったわね!ただじゃおかないわ!」

 「な………な……」

 

 だが犯人の様子が可笑しかった。こちらが叫んでいるのに反応しない。何かに驚いているのか?そう思った。だけどこの後に彼が言った言葉は想像出来なかった。

 

 「テメェ!どうやって銃弾をキャッチしやがった⁈」

 

 

 

 

 





 ご愛読ありがとうございました!

 今回は真由美の過去話ですね。まぁ七草家の者なら誘拐される可能性は十分にあるでしょう。魔法師の家庭といっても娘の命は大事ですからね。

 さぁヒーローの正体は誰なのか?笑笑

 次回もお楽しみに!またね


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潮風に吹かれるってなんかいいよね


 皆さんこんばんは。元気にしてますか?

 阪神と巨人の伝統の一戦がとうとう始まりました。結果は阪神が勝ちました!イェーイ!まぁ中途半端な終わり方して正直物足りなかったですがそれでもオッケーです。

 そしてアンケートですが今週末に終わりとします。それまでに投票よろしくお願いします!

 では本編どうぞ!
 


 

 「あーかったりぃな」

 

 総司は首をコキッと鳴らしながら街を歩いていた。先日、沖縄海戦が終わったばっかりでとても疲れている。正直に言えば戦争なんて行きたくなかった。当然だ。つい先日まで小学生だった少年に戦争に参加する依頼が来たのだ。今までにこなした依頼は暗殺を数件だけだったのに一気にスケールアップし過ぎである。嫌気も差す。それでもそれなりの報酬を持ったため、働かない訳にも行かない。総司は必死に戦った。たった1人で戦場を駆け回ったのだ。生き残るために。結果、非公式ながらも誰よりも多くの戦果を挙げたのだ。

 

 今日は学校もサボって海辺を歩いて気分転換していたのだ。潮風に当たるのは気持ちいい。どんな事も忘れられる。嫌な事、疲れた事などがある時は決まって海辺を歩くのだ。幸い周りは既に使われていない工場ばっかりで静か。誰もここに立ち寄ろうとさえしない。

 

 「気持ちいい」

 

 潮風に吹かれながら総司はその場に寝そべって昼寝をする。青い空、暖かい太陽、カモメの鳴き声、波の音。眠るには最適の場所だった。下手なホテルよりよっぽど気持ちいい。

 

 

 

 数時間後、車が止まる音で目を覚ます。ここに人が来るなんて珍しいと思う。もしかしたら自分と同じ様に、最近の疲れを癒したいのかも知らないと親近感が湧く。しかしそんな事はあり得ないと直ぐに分かる。ここに来たっていうのに潮風に吹かれない。それどころか潮風には目も暮れず建物に入っていった。しかも人数は5人。一応ここの建物は取り壊しされていないものの、立ち入り禁止だ。たまに秘密基地にしてる小学生がいたりするが彼等は車を運転している事から大人だと思われる。一体なんの用事なのか。

 

 『総司、気になったら行動しろ。後からああしとけば良かったとか嘆く事になるぞ』

 

 祖父の言葉を思い出した総司は面倒とは思いながらも立ち上がり様子を見に行く。

 

 因みに何故人数が分かるのかだが、それは総司が気をマスターしているからだ。どんな人にも生命エネルギーは存在する。総司はそれを感知したのだ。これを聞いた者の中でドラゴンボールを想像した者は多いだろう。正解だ。

 

 総司の先祖、正確には5世代前の先祖がドラゴンボールの漫画に憧れて自分達にも存在するのではないかと思った事が始まりだ。中二病と思うかも知れないが当時既に30である。だがそれでも修行したのだ。最初にただがむしゃらに修行した。10年をかけて気を感じ取る事が出来た。次の10年で気を練り上げる修行を、次の10年で気を具象化する修行を、次の10年で気をコントロールする修行を、そして10年後、やっとの思いで技を身につけたのだ。だが技と言ってもまだまだ完成度の低い荒削り。それでも50年かけてやっとそこまで自分1人で作り上げたのだ。しかし既に齢80。これ以上、気を完成させるには歳が立ち過ぎていた。だから彼は託したのだ。自分の息子達に。しかしその息子達も父が確立した修行方法がありながらも、父と同じく時間が足りず、完成には至らなかった。そもそも人の寿命で完成させるには無理があったのだ。恐らく技を身につけた頃には既に肉体のピークはとうに過ぎて意味がない。

 

 しかしそれを天才が成し遂げた。5歳から修行を始め、僅か6年で初代がたどり着いた場所まで到達したのだ。それが総司だったのだ。

 

 

 気が感じる建物の近くまで行くと男3人が扉の前でタバコを吸っていた。周りをキョロキョロしている。見るからに怪しい。それで確信する。これは確実に事件だと。

 

 (あ、これ事件じゃん。こんな人気のない場所で見張りの様にしてるって事は強盗?それとも誘拐?まぁどっちでもいいや)

 

 兎に角見た以上は首を突っ込む。そう決めた総司は堂々と彼等の前に現れる。

 

 「なんだお前は!」

 「ただ前を通っただけなのにその慌てようって事は、やっぱり何か悪さしてるんだね、おじさん達」

 「だったらどうだってんだ?」

 

 リーダー格と思わしき男は笑みを浮かべると懐にしまっていた折り畳み式ナイフを取り出してチラつかせる。しかしそれを見ても総司は歩みを止めない。それどころか笑顔で返した。

 

 (こういう時の笑顔って結構有効なんだよな。自分は確実にお前に勝算があるって思わせられる。そうする事で相手に不安が襲い、冷静な判断が出来なくなる。そうすればこちらの勝機はグッと増す。……まぁこんなのチンピラにしか効かないんだけどね)

 

 実際、戦場では全くと言っていい程効果を成さない。そもそもこれは覚悟が薄い奴にしか通用しないからだ。そんな奴は戦場にはいない。どいつもこいつも勝つ事、生き残る事に必死。ある人は家族の為、ある人は恋人の為。理由は人それぞれだが強固な決意を持っている。そうでないと生き残れない。

 

 「く、くそ!うわぁぁあ!」

 

 大の男が恐怖している。自分より遥かに小さい少年にだ。男は総司の胸目掛けてナイフを突く。しかし総司は簡単に避ける。

 

 「悪いけど少し痛いよ」

 

 そしてナイフを持っていた手を強く殴る。するとクッキーを砕くように簡単に折れてしまった。男は手首を抑えて蹲る。

 

 「ぐわぁあ!」

 「今縛る物持ってないからさ、悪いんだけど足折らせてもらうよ。ちょっと痛いけど我慢してね」

 

 そう言った総司の顔は涼しげだった。人の骨を折る事になんの躊躇もない。男の膝を思いっきり蹴ると足が逆方向に曲がった。当然、男は痛みで悲鳴をあげるが直ぐに手刀で気絶させる。

 

 気絶させるだけでは駄目だったのか、そう思う人も多いだろう。簡単に言えば駄目である。拘束する道具がないなら相手の移動手段を絶たなければならない。それは鉄則だ。

 

 総司が1人を片付け、もう2人に目を移すと既に2人は戦意喪失してその場で立ちすくんでいた。まぁ、それでも逃がしはしないが。

 

 グワァァア

 

 表の3人を片付けると総司は扉を破壊する。中を見るとやはり誘拐だった。男が少女に跨っている。しかもご丁寧にボタンを一つずつ外して。服を破かないなんて紳士なのかと思うが、そもそも抵抗出来ない制服少女に襲いかかっている時点で紳士ではないと心の中で自問自答をする。

 

 「何者だ!」

 

 第三者視点から見て自分は誘拐された少女を助けるヒーロー。なら言う事は1つだった。

 

 「通りすがりのヒーローってか?」

 

 総司が表の人間を倒した事を言うと男は魔法師か?と聞いてきた。総司は当然否定する。まぁ彼の言う魔法は魔術の事なのだが。総司が魔術を使えないと分かると男は急に強気になった。それに総司は呆れる。

 

 (この人馬鹿なのかな?魔術が使えなかろうが俺が外の人を3人を倒した事忘れたのか?)

 

 「オラ!聞かせてやれ!魂の叫びってやつをな!」

 

 男は人質である少女のガムテープを剥がした。すると少女は何を思ったのか自分に逃げろと言ったのだ。誘拐されてさっきまで襲われそうになっていながら。男のガキという言葉と自分が魔法師ではないという言葉から総司が力を持たぬ少年だと思ったのだろう。彼女の目隠しの間から見える涙、そして無理矢理作った笑い。きっと本当は今すぐにでも助けてもらいたいだろうに。総司は彼女をとても勇気がある人と思った。『自分は強いから』という言葉はある意味真実だろう。こんな状況でも他人の身を心配する事が出来る人。それは強い人でなければ出来ない。総司には彼女がとても強く、美しく見えた。

 

 「逃す訳ねぇだろ馬鹿が!」

 

 それと同時にこの男への怒りが湧いてくる。彼女をここまで怖がらせた男に殺意さえ芽生えてくる。総司は撃たれた弾を瞬き1つしないでキャッチしたのだ。

 

 「よくも無関係の人を!ただじゃおかないわ!」

 

 少女は拳銃で撃たれて総司が死んだと勘違いしているのだろう。自分を助けてくれる人が亡くなった、そう思うのではなく自分のせいで関係無い人が死んでしまったと口にした。

 

 (とても心優しい人なんだな。ここに来る前は誘拐された不幸な人をなんとなく助けるつもりで来た。でも考え直す。俺は貴方を助けに来た)

 

 「テメェ、どうやって銃弾をキャッチしやがった⁈」

 「捕ったら駄目だってのかよ。このクズが。……お姉さん。自分は大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。今助けますから」

 

 総司は掴んだ銃弾を握りつぶして地面に落とす。銃弾は小さな球と化していた。銃弾を捕る動体視力。そして握りつぶしてしまう握力。男は総司に恐怖した。人質の事も忘れて連射する。しかし総司はそれを全て掴み握りつぶした。男は恐怖で後ずさる。少女より後ろまで後ずさった事で視界に彼女が入り、人質を取っていた事を思い出す。

 

 「ま、まだだ!弾は残ってる!こいつにぶち込まれたくなかったら──」

 

 男は拳銃を女子に向けて脅すがそれよりも速く総司は男に近づく。そして表の男にしたように拳銃を持ってる手首をへし折る。同様に足を折ってから気絶させた。男が気絶したのを確認すると総司は少女に近づき、縄を解いて目隠しを取った。彼女は涙で顔がぐしゃぐしゃになっていたが紛う事なき美少女だった。こんな時、自分の顔を呪う。こんなに酷い目に遭ったのだ。今すぐにでも彼女を安心させられる顔が欲しい。しかしそれは無いもの強請り。だから彼なりの精一杯の笑顔で安心だと言う事を伝えた。

 

 「遅くなってすみませんでした。でももう大丈夫です。誘拐犯はやっつけました。お怪我はありませんか?」

 「う、う……うわぁぁぁぁぁん!」

 

 彼女は自分が助かった事に安堵して思わず自身を助けてくれた総司に抱きついた。総司は泣きじゃくる彼女の背中を優しくさすってあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ご愛読ありがとうございました。

 誰も感想とかで触れられなかった『気』が初登場でした。まぁ言葉だけですけどね。一応誘拐編は次回で最終回になります。自分の窮地を救ってくれたヒーロー。こんなのって現実に起こり得る事なんでしょうかね?実際に体験した人がいたら教えて下さいね笑笑

 では次回もお楽しみに!またね


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 初恋

 皆さんこんばんは!

 祝、連続投稿です!なんかさっさと過去話終わらせたかったので勝手に指が動きました。

 今回は少し短めですが本編どうぞ!


 

 真由美が泣き止むまで20分程の時間を要した。その間、2人はずっと抱き合い続けた。真由美がそんなに長い間抱き合っていたのは背中を優しくポンポンと叩いてくれる彼の安らぎをずっと感じていたかったからだ。しかし泣き止んで冷静になると羞恥心が勝り、2人は離れた。

 

 「ご、ごめんなさい」

 「いや、全然大丈夫です。それより、その」

 

 真由美は顔を赤くしながら頭を下げる。それに対し、総司は彼女から目を逸らして彼女の身体を指さす。一体どうしたんだろうと真由美は自分の身体を見る。そこで気がついた。犯人に服を脱がされたままだった事を。彼に背を向け、慌てて服を整える。自分の下着姿を見られて彼の顔をまともに見れない。

 

 「すいません、見苦しい姿をお見せして」

 「い、いえ」

 

 見苦しいと彼女は言ったが総司は一切そんな事思っていない。むしろ逆、彼女の姿から目を避らすのに必死だった。一度見ようとしてしまうと目が離せないと感じたのだ。お互い数秒無言になるとある事を思い出し総司はポケットからケータイを取り出す。番号は110番、警察だ。

 

 「はい、誘拐された少女を保護しました。場所は────です。犯人は拳銃とナイフを所持。両足は破壊しておきました。それではお願いします。…では警察にも連絡しましたし自分は犯人を……」

 

 散らばっている犯人を1箇所に固めて見張ろうとする彼の腕を掴んだ。そこで気がついた。彼女の身体がまだ震えている事に。

 

 「ごめんなさい、まだ怖くて。もう少しだけ、こうさせてもらえませんか?」

 

 そう言って彼女は腕に抱きつく。涙目で上目遣いをする彼女にノーと断る事は出来なかった。

 

 「……分かりました。では何か気を紛らわす話でもしましょうか」

 

 2人は普段の生活を語り合った。たわいもない世間話。それでも気を紛らわすには最適だった。

 

 「それでさ、最近から親の仕事の手伝い紛いな事してるんだけど、それが滅茶苦茶大変でさ。確かに金は貰ってるけど割りにあってないのよ、ほんと」

 「ふふ、そうなの」

 

 話してくうちに2人はタメ口になった。お互い歳が近いのもあったし、敬語で話していると何処か心の距離が空いてる感じがすると真由美が提案したのだ。

 

 2人は仲良く話しているがお互いの自己紹介はしない。2人ともあまり名前を知られたくないのだ。真由美は自分の苗字を知られてクラスメイトの様に遠慮されるのが恐ろしくて。総司は詮索されない様に。

 

 「でもどうしてここが分かったの?」

 「たまたまだよ。学校サボってすぐ近くで昼寝してたんだよ。ここは潮風は気持ちいいし、騒音もない。何かあった時に心を癒す場所には最適なんだ。それなのにこんな廃工場と海しかない場所に車が止まる音が聞こえたから気になって近くまで来たらみたら見るからに怪しい人がこの建物の外で彷徨いてて。それで事件かなって」

 「へぇ、そうなの。ごめんなさい、私のせいで邪魔して」

 「別にあんたのせいじゃないさ。悪いのはそこで寝転がってるあいつらさ」

 「ふふ、でも本当にありがとうね。私、怖くて怖くて。貴方がいなかったらなんで怖くて想像もしたくない。……だから貴方は私のヒーローなの」

 

 真由美は白馬の王子様を見るかの様な目で総司を見つめた。それにドキッとする総司だったが直ぐに彼女の言葉を否定する。

 

 「……別に俺はヒーローなんてガラじゃねぇよ。助けに入ったのだって祖父の教えに従っただけさ。元々そういう面倒な事は好きじゃない。正義感なんて持ち合わせてないただの普通の人だ」

 

 自分に対して良いイメージを持ってくれているのはとても喜ばしい事だが彼女に嘘はつきたくなかった。

 

 「お爺さんの言葉?」

 「ああ、何かあったら迷わず行動しろ。それが口癖なんだ。迷ってる間にも事は進む。それで何かあっても取り返しがつかない。だったらまず行動を起こせって。もし俺が助けに行かなくて死なれでもしたら寝覚が悪い。だから助けただけだ」

 「そう、でも関係ないわ」

 「え?」

 「貴方は私を助けてくれた。それで私は救われた。貴方がどう思っていようとその事実は変わらない。目隠しを取られて貴方の顔を見た時、私はとても安心したの。それに貴方の言葉はとても暖かかった。とても面倒だと思って助けた人の言葉ではなかったけれど?」

 「それは…」

 

 お前に惚れたからとは言えなかった。自分が暖かい言葉をかけられたのだって彼女の心に惚れたからだ。彼女を安心させたいと心から思ったからだ。もしどうでもいい相手なら軽い言葉だけで済ませてしまう。自分はそういう人間だ。

 

 「私はあの瞬間、貴方を好きになった」

 

 彼女は急に告白して来た。ハッキリ言ってとても嬉しい。でもそれに応える事はしなかった。

 

 「……それは助けられたから好きだと勘違いしるだけだ」

 「私がそんな簡単に流される女だって言ってるの?」

 「いや、そういう訳じゃ」

 「じゃあこうしましょ。次に会った時、まだ私が好きだったら付き合ってくれる?でも次の日にあっても信じてくれないから1年。1年以上この思いが続いたら付き合って」

 「……考えとく」

 「やった!」

 

 左手でガッツポーズする彼女の姿はとても可愛く見えた。しかしきっと彼女と自分が結ばれる日は来ないだろう総司は思う。自分がこの考えを変えない限り。そしてそれは一生来ない。きっとこんな考えを持ってる人だと知れば彼女の思いは冷めるだろう。自分の初恋の為にこの考えを曲げる事は総司には出来ない。

 

 ウーーー

 

 警察のサイレンの音が聞こえた。

 

 「警察も来た事だし俺はここで」

 「え⁈一緒にいてくれないの?」

 

 真由美は寂しそうに言う。総司だって彼女と離れ離れになりたい訳ではない。それでも自分の存在が特殊故、あまり目立ちたくないのだ。

 

 「…悪い、あまり警察とかの厄介になる事はしたくないんだ」

 「そう、なの。今日は助けてくれてありがとうね。また会えるのを楽しみにしてる」

 

 楽しみにしてると言う割りに表情はとても暗かった。罪悪感に駆られた総司はしょうがなく自分の情報を教える事にした。

 

 「悠木、悠木総司」

 「え?」

 「俺の名前。次会った時に名前が分からなかったら意味がないだろ。でも警察には教えないでくれ。もし聞かれても気絶させられていたので見てませんと言ってくれればいい」

 「え、うん!」

 「じゃあな。もうこんな目に遭うなよ」

 「遭ったらまた助けに来てくれる?」

 「馬鹿……サヨナラ」

 「またね」

 

 そう言って総司は裏口から逃げる。去り際に聞こえない声で初恋の人と言って。

 

 「悠木総司か。……あ、私の名前教えれば良かった!…でもまた会えるよね」

 

 その後、警察が真由美を保護した。電話をかけてきた少年は何処にいるか聞かれた際、彼に言われた通りにした。

 

 本当にもう一度出会えるかは分からない。でもなんとなくだが真由美はまた会えると思った。そしたら自分の思いをまた彼にぶつけるんだと誓って。

 

 

 

 

 

 (あれから3年。貴方の事を忘れた事は一度もなかったわ。年も経てば顔なんて全然変わるものね。あの頃より身長も伸びてかっこよくなっちゃって。お陰で名前を聞くまで貴方が総司だなんて全然分からなかったわ。でも約束は守ったわ。私は今でも貴方が好き。この想いは変わらない。だから、覚悟しておいてね♡)

 

 真由美はあの頃の様に彼の腕に抱き付き、温もりを感じていた。まぁ摩利の一件は少し可哀想と思いはしたが彼への想いは1ミリも下がらない。彼だって友達を守ろうとしたからだ。それどころかまた好感度がアップした程だ。

 

 

 達也と服部の模擬戦が行われる第三演習室に行けば当然彼等の視線は2人に釘付けだった。達也は面白がり、深雪はおめでとうございますと祝福していた。一方服部はまるで親の仇を見るかの様な目で総司を見ていた。こんなる事は予想出来た。だから早く離れて欲しいとお願いしたのに彼女は一向に離そうとせず、結局ここまで辿り着いてしまった。

 

 「どうしてくれるんです七草会長。お陰で注目の嵐じゃないですか」

 「あら?お気に召さない?」

 「はい」

 「残念…」

 

 総司がハッキリ言うと彼女はやっと腕から離れてくれた。でもとても名残惜しそうに腕をチラ見してくる。無視するが。

 

 そして2人の模擬戦の火蓋が切られ、勝負は一瞬で決着がついた。

 

 「勝者…司波達也」

 

 摩利達は信じられないものを見た反応する。総司は彼の潜在能力の高さにワクワクするものの、簡単に決着がついてしまって少し物足りなさを感じたのであった。

 

 




 ご愛読ありがとうございました。総司と真由美は当時両想いだった事が判明しましたね。まぁそれが実る事は今後あるのでしょうか。そしてここから真由美の総司へのアピールはどんどん激しくなるので覚悟しておいて下さい。

 では次回もお楽しみに!


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人の恋路は邪魔しちゃ駄目だよ


 皆さんお久しぶりです!

 少し期間が空いてしまいましたね。そしてアンケートを締め切らせて貰います。ご協力ありがとうございました。全部で228件。とても感謝しております。結果を述べると好きが87ポイント、嫌いが82ポイントになりました。とても僅差でしたね。これからいい所で区切る終わり方もあると思いますがそれが嫌いと言う方も沢山いたので半々の割合にしようと思います。改めてありがとうございました!


 では本編どうぞ!




 

 当然予想もしなかった出来事に生徒会メンバーは達也に駆け寄る。達也は既にCADを片付けようとしていた。その表情に笑顔は無く、淡々としていた。まるで勝つ事が当たり前かの様に。

 

 「待て、今の動きは………自己加速術式を予め展開していたのか?」

 「そんな訳がないのは先輩が1番良くお分かりだと思いますが」

 

 確かに達也の言う通りだった。審判をしていた摩利はフライングしていないかを注意深く観察していた。だが魔法による補助無しでは考えられないスピードだった。

 

 「正真正銘、身体的な技術ですよ」

 「わたしも証言します。あれは兄の体術です。兄は忍術使い・九重八雲先生の指導を受けているのです」

 「深雪、それは誰?」

 

 彼女が言った名前を知らない総司は尋ねた。摩利は対人戦闘に長けている為九重八雲の名をよく知っていたが、あまり知らない真由美や鈴音はこの質問に助かる。

 

 深雪が先生について説明すると総司は顔がニヤける。

 

 「どうしたのですか?」

 

 深雪が首を傾げる。総司は慌ててダラけた顔を整えた。

 

 「いや別に、なんでもない」

 

 嘘である。この男、この話を聞いていつか道場破りする気満々である。

 

 そして服部を倒した魔法は何かと言う話になったが正直それについて興味なかったので忍者がどんな攻撃を繰り出してくるのか想像していた。

 

 (忍者か、やっぱり速いんだろうな。だからもし対決したら速さに翻弄されない様にしないと)

 

 総司は全く聞いていなかったが達也の今回使用した技術は学校の試験で評価されない項目という話をしていると服部が目を覚ました。

 

 「はんぞーくん、大丈夫ですか?」

 

 心配してる割に総司の近くを離れない。服部は真由美に心配されたことに喜びを感じ、大きな返事をしたが未だに総司が彼女の近くにいる事に内心苛立つ。

 

 「そうですね。ずっと気がついていたようですし」

 「いえ、最初は本当に意識がなかったんです。意識を取り戻した後も朦朧していて、体を動かせる様になったのは今なんですよ!」

 「でも私達の話をしっかり理解しているようですけど?」

 「そ、それはですね……こう、朦朧としながらも耳に入って来たと言いますか」

 

 服部は彼女にもっと心配して欲しいのだろうか?そんな事を総司は考えてしまう。しかも本人である真由美は彼が自分に向けている感情を理解している様だった。なんとも酷い女だと思う。

 

 達也がCADを片付けている背中で服部が深雪に謝っていた。しっかり自分の間違いを素直に認められるのは彼の良い所だろう。彼の気持ちが真剣だったのを感じた深雪は自分も謝る。上級生に向ける発言ではなかったと。

 

 これで一件落着と思いきやまだ問題が残っていた。

 

 「会長、その男はなんなんですか?」

 

 総司の事だった。達也は実力を示したが総司はなんも示していない。それどころか真由美以外、彼を生徒会室に招き入れた理由すら分からないのだ。

 

 「なんなんですかって?」

 「その男をどうするつもりかと聞いているんです。既に枠は空いていませんよ。まさかその男の為に誰かを外すなんて事を言う訳じゃないありませんよね?」

 「まさか、そんな事はしないわ」

 「ならその男がこの場にいる理由を教えて下さい」

 

 それについては摩利達ですら同感だ。既に問題児のレッテルを貼られかけているこの男が何故呼ばれたのか。それは彼女達ですら聞いてない。真実は総司と真由美の中だけだ。

 

 「ごめんなさい、プライベートなの」

 「⁈プライ…ベート……」

 

 一同は驚く。中でも1番驚いた服部はショックでその場に崩れ落ちる。彼はこの言葉をどう受け取ったのか。

 

 「プライベートって、他に言い方なかったんですか?副会長絶対何か勘違いしてますよ」

 「勘違いって?」

 「はぁ、」

 

 分かっている癖に総司に言って欲しいと思う真由美。確信犯である。

 

 「総司、お前は只者ではないと思っていたがまさか会長とそう言う仲だったとはな」

 「婚約者か何かですか?」

 「そう見えるかしら?」

 

 達也が近づいてきて改めて祝福して来た。深雪に至っては彼等の事を婚約者だと言う始末。真由美も全然否定しない。それどころか嬉しそうだった。

 

 「そう言う事だったのか。道理で今まで告られても誰とも付き合わなかった訳だ」

 「既に想い人がいた訳ですね」

 「あわわわ、会長、おめでとうございます?」

 

 摩利達も勘違いしている。あずさはテンパってどう言えばいいか分からず語尾に?が付いている。いつまでも笑顔で一向に否定しない真由美に文句を言う。

 

 「七草会長、いつまで茶番続ける気ですか?」

 「茶番?」

 「俺らそう言う関係じゃないでしょ」

 

 その言葉を耳にするとさっきまで落ち込んでいた服部が猛スピードで近づいて来た。今にも顔と顔がぶつかりそうな距離まで来る。

 

 「そ、そ、そ、そうなんですか⁈会長!」

 「ふふ、ええ、まぁね確かに私達は恋人ではないわ」

 

 その言葉に服部は歓喜してその場で舞い出した。摩利達は折角からかえると楽しみにしていたのに違うと分かって残念がる。

 

 「だから俺達はそんなんじゃないって事だ。達也、勘違いするなよ」

 「残念だな」

 「何処がだ。もしそうだとしたら絶対面倒になる」

 

 もし会長と恋人が2科生なんかだと知られれば絶対にいちゃもんをつけられる。その瞬間自分の高校生活は地獄と化すだろう。毎日毎日呼び出される。勝てる勝てないではなくそうなる事自体が面倒なのだ。だと言うのに、

 

 「まだね」

 

 この言葉で服部は気絶する。天然ならまだしょうがないで済ませるがこれをワザとやっている。お陰で真由美は摩利達に質問攻めに遭い、こちらも深雪から質問の嵐だ。

 

 「総司さんって会長と前々から知り合いだったんですか⁈どう言う出会い方だったんですか!」

 

 彼女も普段はクールぶっているが恋バナが好きな女子高生だった様だ。総司はひたすら知らないの一点張り。この状況を作り出した彼女に目を向けると丁度目が合い、ウインクをしてくる。それでまた面倒臭い事態に陥る。

 

 (あんの女!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 総司は質問攻めに遭いながらもなんとか家にたどり着く。

 

 「あーつっかれたぁ。余計な事してくれやがって。ボディーガードなんか死んでもお断りです!……その前にする事しなきゃな」

 

 ポケットからケータイを取り出して七草家当主に電話する。

 

 

 

 

 プルルルル

 

 「誰だ?」

 

 七草家当主である七草弘一は自室専用の固定電話にかかって来た事からそれなりの人物からかかって来た事を察する。

 

 「もしもし、自分です。悠木総司です」

 「…君か。こちらは特に依頼を出していない筈だが?」

 「単刀直入に聞きたいんですけど。おたく、娘に俺のこと話したか?」

 

 弘一は突然の事に驚いた。何故なら全くと言っていい程、身に覚えが無いからだ。そもそもそんなヘマはしない。自分の命に関わるからだ。

 

 「?なんの事だかさっぱり」

 「惚けるんじゃねぇ。あいつは俺の力の事を知ってやがった。昔に何処かで会った事があると言っていたが、そもそもこの学校に来るまで人前で魔法師と対峙する事すら無かった。つまり知る術が無いんだ。十師族当主であるあんたに教えてもらわない限りな」

 「まさか第一高校に入学したのか⁈魔法を信じてない君が一体どうして」

 「そんな事はどうでもいい。とにかく真実を話せ」

 「真実も何も本当に何も知らない。私は誰にも君の事を話したりなどしていない。そもそも君は娘から何も聞いていないのか?」

 「さっぱり」

 

 どうやら娘は彼に話していない様だ。そこにどんな理由があろうと彼女が話さないと決めたのだ。それなら自分は話さない。弘一は娘にあった出来事を今でも鮮明に覚えている。その日、とても怖い目に遭った筈なのに笑顔だったから特にだ。当然、娘の話から助けてくれた人物が彼だと言う事はすぐに分かった。娘が彼に好意を抱いている事も。恐らく娘は彼が自分のヒーローだと言う事に気がついているだろう。勘の鋭い子だ。気がつかない筈がない。その娘が話さなかったのだ。なら自分がバラすのは筋違いというものどろう。

 

 「そうか。なら私からは話す事はない。だが勘違いしないでくれ。私は娘に君の事を話していない。そして君は娘と遭っている。忘れているか気がついてないかだ。それでは私はやる事があるので失礼する」

 

 そう言って弘一は受話器を戻す。そして暫し考え事をする。何故彼が魔法科高校に入学出来たのか。それは確実に誰かの後ろ盾があるだろう。彼から入学したいとは絶対に言わない。なら何かしらあの学校で何か起きると思った他の十師族の誰かが送り込んだとしか思えない。

 

 「それにしても面倒な事になった」

 

 弘一は別に真由美と総司の仲を認めてない訳ではない。お礼は言ってないが彼にはとても感謝している。真由美も恋を誰としようと文句はない。だが、

 

 「結ばれる事は決して無い」

 

 





 ご愛読ありがとうございました。

 真由美がどんなに総司を想っていてもこの恋が叶う事はない。切ないですね。しかもそれを真由美だけが把握してないんですよね。一体どうなるのか。

 では次回もお楽しみに。またね


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痴漢、駄目、絶対

 

 色々と特殊な学校である魔法科高校だが、基本的な制度は普通の学校と変わらない。この第一高校にもクラブ活動は存在する。

 ただ、魔法と密接な関わりを持つ魔法科高校ならではのクラブ活動も存在する。

 

 なんといっても他の学校と違う所は九校戦だろう。魔法科高校は第一から第九まである。その九校で対抗戦を行うのだ。毎年、九校戦での成績が、各学校の評価にも反映される。学校側の力の入れようは、スポーツ名門校が伝統的な全国競技に注力する度合いを上回るかもしれない。優秀な成績を収めたクラブには、クラブの予算からそこに所属する生徒個人の評価に至るまで、様々な便宜が与えられる。そのため、新入部員獲得合戦は熾烈を極める。

 

 当然、この騒ぎを取り締まる必要があるため、風紀委員は借り出される訳だ。

 

 「大変だな、風紀委員って。まぁ妹を庇うためとはいえ、お前が勝負を挑んだんだ。自業自得」

 「分かってる」

 

 ため息をついてる達也の肩を叩く総司。自分はそんな面倒な事にならなくて気楽である。

 

 「あ、忘れてたが昼に会長が言っていたんだが放課後に生徒会室に来てくれと言ってたぞ」

 「そういうのは早く言ってくれ」

 

 要件は大体想像つく。先延ばしにするのも申し訳ないので達也に文句を言いながらも素直に向かおうとする。そんな総司達をキーの高い声が呼び止めた。

 

 「エリカか、1人か?」

 「珍しいかな?あんまり待ち合わせとかして動くタイプじゃないんだけどね」

 「待ち合わせは知らんが、少なくとも俺の知ってるエリカは誰かしらと行動してるぞ」

 「そう?まぁ、そんな事より2人ともクラブはどうするの?美月は美術部だって。誘われたんだけど、あたしは美術部って柄じゃないし、面白そうなトコないか、ブラブラ回ってみるつもり」

 「俺は特に決めてないな」

 「俺も、入るのはともかく見るのは面白そうだけど」

 「まぁ俺は風紀委員でこき使われるからゆっくり回る時間はないだろうな」

 

 そう言うと、エリカは顔を染めて髪の毛を弄りながら言った。

 

 「それじゃさ、総司君。良ければ私と回らない?」

 「良いんだけど少し用があってな。それからでも良いか?」

 「用?」

 「あぁ、これから生徒会室に用があってな」

 「なんでなの?また何かやらかした?」

 「人を問題児みたいに言うな」

 「実際そうだろ?」

 「達也は分かってるだろ。たくっ……七草会長に用があってな」

 

 また会長の名前が出た事にエリカは若干表情を曇らす。

 

 「そ、そうなんだ。じゃあ良いよ。邪魔すると悪いし。楽しみな、あんな美少女は滅多にお目にかかれないよ。注目されてるうちにアタックしちゃいな」

 「アホかっ‼︎それじゃまたな」

 「バイバーイ」

 

 エリカは元気良く手を振った。誰にも気付かれていなかったがそのエリカの表情は手とは裏腹に悲しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何故お前がここにいる!」

 

 達也が風紀委員会本部につくと第一声でこの声が響き渡る。

 

 「やかましいぞ、新入り」

 

 しかし摩利に一喝されて、森崎駿は口をつむぐ。

 

 「申し訳ありません」

 

 形上の謝罪を述べる摩利。他の人はどうか知らんが、森崎に摩利への恐怖はない。あの日、総司に、2科生に脅される程度の先輩に尊敬なんかあったもんじゃない。

 

 「まあいい、座れ」

 

 摩利もそんな事は直ぐに分かった。森崎が分かりやすいのもあるが、そう思われても仕方が無い醜態を晒したと自覚している。この場で実力の差を見せつけるのも良いがそれだと独裁者と変わらない。畏怖は与えられるが尊敬などされないからだ。恐らく彼以外にも摩利への尊敬の念が薄れた人物もいる。なら自分のすべき事はもう一度信頼を取り戻す事だ。

 

 まず新入りである森崎と達也をみんなに紹介する。そこでやはり起きてしまった。1年だからと言うのもあるが特に達也の左胸を見ての発言。

 

 「役に立つんですか?」

 「安心しろ。司波の腕前はこの目で見ているし、森崎のデバイス操作もなかなかのものだった。一昨日は相手が悪かっただけだ。それでも不安なら、お前が森崎についてやれ」

 「やめておきます」

 

 男は鼻白んだ表情を浮かべたが嫌味な口調で断った。

 

 あまり穏やかではない。達也と森崎は喧嘩腰の口調に驚くが、それ以外の者に変化はない。どうやら日常的にこの様な事が頻繁に起きているのだろう。同じ委員会で対立など馬鹿馬鹿しいと思うが口には出さない。

 

 

 

 一方その頃、総司は生徒会室で真由美と一対一でお茶を飲んでいた。

 

 「いや、なんで?」

 

 あまりに可笑しい状況に総司はツッコむ。真由美はどこか可笑しいかしら?と自分の服装を見直す。

 

 「いや、服じゃねぇよ。今ここでお茶を飲んでいる状況が可笑しいって言ってるんですよ」

 

 真由美は当たり前じゃないと言う顔をしていた。

 

 「きてくれたのだからお茶くらい出すわよ」

 「そうじゃなくて!何でもない日に来てお茶を出してくれるなら嬉しいですけど、そうじゃないでしょ。今はクラブ勧誘の時間じゃないんですか?会長だって所属クラブがあるでしょ!」

 「副クラブ長に用事で遅れるって言ったわ」

 「そんな無茶苦茶な」

 

 総司は真由美に対する我が儘に呆れ、こうして振り回されているであろう副部長に同情する。この場を去るには手短に要件を済ませるしかない。

 

 「はぁ………大分余計がありましたけど、例の件。断らせていただきますね」

 「やっぱりダメ?」

 「当然です。七草会長が言った様な力、会長を守る力(魔術)など、自分は持っていません。七草会長と会ったのもきっと別人です」

 「一緒だけどなぁ」

 「違います」

 「しょうがないわ。ボディガードの件は諦める。でもたまにはここで一緒に食べましょうね。その時は手料理を振る舞うから」

 

 総司は手料理という言葉に反応する。男は女子からの手料理を食べたいものだ。例え、その人が好きでないにしろ、女子から弁当を貰ったという事実が人生を潤す。それが学生時代ともなれば尚更だ。一生自慢できる。

 

 しかし迷う。ここで承諾してしまえば、必ず厄介な事になる。相手は皆の憧れ、七草真由美なのだ。その彼女とよく昼を共にしているなど知られてみろ。翌日から机が不幸の手紙でいっぱいになる。後果たし状も。そんな面倒な事になりたくない。

 

 プライベートで個人的に戦うなら分かる。それは自分のレベルアップにも繋がる。しかし魔法に取り憑かれ、服部の様に魔法以外の事を意識しない連中に万が一にも負けると思えない。自分の能力は魔法師にとって初見殺しだからだ。まぁ使いすぎでバレるのだけは避けたいが。

 

 兎に角、総司の意見は決まった。

 

 「たまになら」

 

 総司は承諾した。欲望には勝てなかったのだ。美少女からの手作り。その魅惑に提案に勝てるはずもなかった。自分の事を弱い男と思いながら立ち去ろうとすると真由美が呼び止めた。

 

 「なら、LINNを交換しない?」

 

 LINN、通称ライン。世界中に広く知られているコミュニケーションアプリだ。

 

 「予定を合わせるのに必要でしょ」

 

 そのまま彼女に任せてLINNを交換する。しかも彼女の名前を『運命の人』と勝手に変えられていたので即座に普通に戻した。彼女は『もぉ〜いけず〜』と頰を膨らませていたが無視する。

 

 「それじゃクラブ頑張って下さいね」

 「見に来てねっ!」

 「機会があれば」

 

 そう言って2人は別れた。

 

 

 

 

 「うーわっ」ヒキッ

 

 これは無法地帯もいいとこだった。侵入部員を獲得したいがためにそこは戦場と化す。そう言われて嘘だろと思ったが今、この現状を見るとあながち間違いではない。そこら中人だらけ。部員を獲得するためならなんでもやりそうな勢いである。

 

 (やばい。滅茶苦茶言いたい。『人がゴミのようだ!』って)

 

 だが自分がその場にいても見向きもされなかった。理由は2科生だからだろう。

 

 (2科生って良くね?授業は自習が多いし、こう言う所で相手にされないし)

 「チョッ、どこ触ってるの?やっ、やめ…!」

 

 そんな事を思っていると聞き覚えのある声がした。総司は人の間を縫うように声の主の場所へ進む。そして彼女へセクハラした手を掴み取ると大声で宣言する。

 

 「はーい!女子生徒にセクハラした人を捕まえました!風紀委員直ちに来て下さい!」

 「何⁈」

 

 その人物は2年の男子生徒だった。彼は人が蔓延り誰もが混乱している状況を利用してセクハラをしていたのだ。そんな時に見つけたのがエリカである。新入生総代である深雪や、生徒会長である真由美に劣るとはいえ、彼女だって美少女である。彼女を見つけると男は人を掻き分けて彼女の背後を取る。色んな人(主に女子。他の男子は女子であるエリカに疑われるのを恐れて遠慮している)が我が部にと引っ張る中、彼女の意識が他を向いた隙をつき、尻に触れたのだ。彼女は悲鳴を出すが人が渋滞している今、特定するのは困難である。欲をかいた男はもう一度触る。その瞬間に総司に捕まえられたのだ。

 

 「何を言い出すんだ!」

 「いやー、悪いんだけど、俺見ちゃったんだよね。あんたが女子生徒の尻を触ったの」

 「何処にそんな証拠があるんだ!」

 「これ何か分かるでしょ」

 

 そう言って総司は端末を見せびらかす。最近の端末は撮影のボタンを押すと赤く光る様になっている。盗撮を防ぐ為に出来た。その光が総司の端末から発せられていた。つまり撮影していると言っているのだ。

 

 「ぐっ……」

 

 男は歯を軋ませる。撮影されていては言い訳は意味を為さない。痴漢は今でも立派な犯罪だ。それ相応の処罰を受けるだろう。停学、もしくは退学もあるかも知らない。それだけでない。もし退学を免れたとしても、これから変態のレッテルを貼られるだろう。自分の人生の汚点である。

 

 「くそがぁ‼︎」

 

 男は総司に襲いかかる。自分がドン底に堕ちる原因を作ったからだ。逆恨みも甚だしいが今の彼にはそんなの関係ない。ここで魔法を撃とうとしなかったのは彼の良心がほんの僅か残っていたのだろう。

 

 総司は拳を引いて避けるのでは無く、敢えて踏み込む。そして彼の腹を力強く殴る。

 

 「ぐはぁ‼︎」

 

 男はたまらず胃液を吐き出す。だがまだ終わらない。総司は痛みで倒れようとする男の顎をアッパーで突き上げだ。男は空中に舞い、その場に勢いよく落下する。

 

 「女の身体に触れてんじゃねぇ、ゲスがっ!」

 

 

 

 




 ご愛読ありがとうございました。

 セクハラは絶対駄目ですよ。マジでゲスな行動ですから。女性が男性に対する痴漢が殆ど無いのにね。そんな事だから男は変態って言われるんですよ。

 では次回もお楽しみに!またね

 


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真剣勝負


 皆さん元気にしてますか?

 自分思ったんですよね。なんか話の進み具合遅くね?って。これだと総司が戦うまで何話かかるんだろうと。ならあらすじに前もって言っとこうかなって。そうした方が新規の人が見て合わないって人が少なくなるんじゃないかって。なので追加で書いときました。これからも原作の進み具合がゆっくりかもしれませんがご了承下さい。

 では本編どうぞ!



 


 

 「チッ、後は風紀委員に任せてさっさとここから離れようぜ」(嫌なもん思い出させやがって)

 「う、うん//」

 

 総司はエリカの手を取ってその場を走り去る。男がこの後、どの様な処罰をされたか2人は知る由も無い。エリカは自分が困っていた所に颯爽と駆けつけてくれて、自分の代わりに犯人を倒してくれた事に、静かに頬を染める。

 

 

 人混みを手品の様にすり抜け、2人は校舎の影まで逃げ遂せた。繋いだままだったエリカの手を離し、背後へ振り返る。

 

 「ここまで来れば大丈夫か。怪我ないか?」

 「………」

 

 だが総司が声をかけても返事がない。顔の前で手を振ったり、何度か呼び直してもエリカは呆けたままだ。

 

 パンッ!

 

 「え⁈」

 

 なので顔の前で猫騙しの様に手を叩くとやっと反応した。

 

 「本当に大丈夫か?さっきから返事が無かったけど」

 「う、ううん、大丈夫!それよりありがとうね、助けてくれて……助かった」

 「どういたしまして。災難だったな」

 「まぁ、驚いたし けど……それ以上に総司君が助けてくれた事の衝撃が強すぎて」

 「それならいいけど。……女性の身体に無理矢理触れるなんて最低だからな」

 

 そう言って総司は少し怖い顔をする。エリカにとってはなんとなくだが、それがとても印象的だった。彼の怒った顔は1科生との騒動の時に見た事はあるが、その時とは印象がまるで違う。あの時は邪魔されて怒った感じだったのに対し、今回は過去に何かあったみたいに深くイラついている。

 

 総司は思い出していた。恋というものを知ったあの事件を。犯罪のニュースを見ても『馬鹿な事するな』くらいにしか思っていなかったのが、あれ以降、誘拐、痴漢などの女性への性的行為の事件を見聞きすると感情が昂ってしまう。

 

 (あー、気分悪りぃな。あれから3年経ってる筈なのに。あれ以来あれに関係するニュース見るだけでイラついてストレス溜まるから、見るの辞めたんだけどな。……治ったと思ったのに……)

 

 入学2日目の食堂での総司の怒りと比べ物にならない程イラついていた。感情に任せて物に当たりたい気持ちを必死に抑える。それを見ていたエリカは、最初自分の為にここまで怒ってくれてるのだと思い、嬉しくなるが直ぐに勘違いだと気付く。いや、怒ってはいるが彼が見ているのは何処か違う場所だと分かった。その証拠に彼はそこまで自分を心配していない。彼の過去に一体何があったのか気になってしょうがなかった。

 

 「俺は用事も済んだし、良かったら一緒に回らないか?」

 「あ、うん」

 「闘技場でいっか?何やってるか気になるし」

 「いいよ。あたしも行こうと思ってたし」

 「なら決まりだな」

 

 結局、タイミングを見失い、彼に聞く事は出来なかった。でもそれでも良いと開き直る。関わっていくうちにきっと分かるだろうから。それに折角一緒になれたのだから今を楽しむ事にした。

 

 

 

 第二小体育館、通称「闘技場」では現在剣道部の演武が行われていた。

 

 「ふーん。魔法科高校なのに剣道部があるんだ」

 「普通じゃないのか?」

 

 エリカの何気ない呟きに総司が尋ねる。それにエリカは驚いた表情をしていた。

 

 「……どうした?」

 「いや、ビックリしちゃって」

 「何が?」

 「だって総司君、武道やってるでしょ」

 「正確には武術だけどな」

 「それも同じよ。武の心得があるなら大抵知ってる筈なのに」

 「まぁうちの武術は外の情報に疎いからな」

 

 武術と言っても大会について調べたり、どの学校がどの武道に秀でているなど調べた事がないので詳しくはない。嫌いなのではなく、その道に進む気は無かったので興味が無いだけだ。戦うのは好きだが部に入ろうとは思わない。実際この学校に闘技場がある事すら、入学して達也の言葉で初めて知った程だ。

 

 「へぇ、そうなんだ……剣道ってね、魔法師やそれを目指す者が高校レベルでやる事はないんだ。魔法師が使うのは『剣道』じゃなくて術式を併用した『剣術』。小学生なら剣道やる子も多いけど、将来魔法師になろうって子は中学め剣術に流れちゃうの」

 「そうなるのか。まぁ実践を目指すなら剣道より剣術だろうからな」

 「そう言う事」

 

 

 レギュラーによる模範試合は中々の迫力であった。特に目に止まったのは女子部2年生の演武である。力ではなく技で打撃を受け流している。筋肉にモノを言わせた派手な剣より、よっぽど綺麗である。だが、それを隣のエリカがそれをつまらなそうに見ていた。

 

 「…不満か?」

 「え?…ええ」

 

 自分の考えている事がお見通しだった事に驚いて返事をするのに遅れてしまった。

 

 「だって……つまらないじゃない。こんな殺陣(たて)

 

 殺陣(たて)とは演劇、映画、テレビドラマで格闘シーンの時の演技の事である。主に時代劇に使われる。

 

 「まぁ、そう言うなよ。入部させる為に見栄え重視なのは当然だろ」

 「まぁそうだけど」

 

 不機嫌な顔でそっぽを向くエリカ。だが、ああは言ったが実際に彼女が言いたい事も分かる。試合をすると言っていたので、どんなのかと思えばでもただの魅せプ。自分だって拍子抜けだ。だが文句を言っても仕方がない。彼等は対戦相手に勝つ為に試合をしているのではなく、部員を獲得する為にしているのだ。部外者が口を出すのはお門違いというものだ。

 

 (エリカの動きなら剣道部でも入れば良いのに。なんとなくそんなタイプでは無さそうだけど………ん?」

 

 横目でエリカを見つつ、心の中でボヤいていると観衆がざわめき出した。中央を見ると男女の剣士が対峙していた。女の方は先程までエリカが文句を言っていた女子生徒。胴はつけてるが、面は取っており書かれていた顔が見えた。セミロングの黒髪が印象的な、中々の美少女。しかも髪を結んでポニーテールと中々のキャラの立ちようだ。

 

 「さっきから目が釘付けだけど、ああいうのが好み?」

 「安心しろ。人は顔じゃない」

 「……その言い方だとあたしの方が可愛くないって聞こえるんですけど」

 「別にそうとは言ってないさ。人によって好みが違うからな。身長、スタイル、髪型、髪色、肌色。見た目の項目だけでこんなにあるんだ。更に性格が加われば無限の組み合わせがある。だからエリカの事が好きな奴だって出てくる。だから安心しろ」

 

 エリカの肩を優しく叩く。しかしエリカは騙されない。

 

 「いや、長々と語ってるけど話逸れてるよ。……まぁいいや。それじゃ総司君の好みってどんなタイプなの?」

 「言ったろ、顔じゃないって。顔で惚れても長続きなんかしないよ。人は相手の心を好きになる事が本当の愛なんだよ」

 「……妙に説得力あるけど、それって総司君の体験談?」

 「そうだけど」

 「……意外。総司君って恋愛とかしないタイプかと思った」

 「…俺もそう思うぜ。実際恋愛なんて呼べるものはその1度だけだからな」

 「へぇ、そうなんだ……それでどうなったの?」

 「………さぁ。今頃何してるんだろうなぁ…」

 

 総司の横顔はどこか懐かしみ、そして寂しげであった。エリカは何故この質問をしてしまったのだと後悔した。エリカは気付いてしまったのだ。彼とその彼女がどのような関係だったかは知らない。それでも結末は察しが付く。そして総司は彼女への気持ちを忘れられていない事も。

 

 「剣術部の順番まで、まだ1時間あるわよ桐原君!どうしてそれまで待てないのっ?」

 「心外だな壬生。お前の実力を新入生に披露してやろうとしてるんだぜ。言わば協力だよ、協力」

 

 どうやら剣術部(桐原)剣道部(壬生)で揉めている様だ。まだ時間に余裕がある筈なのに剣術部が邪魔して来た様だ。似たクラブだと何かしらの因縁でもあるのか?だがさっきの茶番よりこっちの方がよっぽど面白そうだった。

 

 「面白くなってきたね」

 

 実際にここに同じ感想を抱いている人がいる。争いを見て楽しくなるなんて自分達は戦闘狂なのかも知れないと思う。

 

 「魔法に頼り切りの剣術部の桐原君が、剣技のみに磨きをかける剣道部のあたしに」

 「なら見せてやるよ。身体能力の限界を超えた次元で競い合う、剣術の剣技をな!」

 

 それが開始の合図となった。桐原が開始早々、頭部目掛けて竹刀を振り下ろす。しかし壬生はそれを難なくいなす。2人の戦いはかなりのレベルであった。先程までの殺陣の様な魅せる為の試合ではなく、本気の試合。だからこそ鋭さが違う。素人では打ち合いの音から剣撃の激しさを想像するので精一杯だろう。──少数の例外を除いて。

 

 「中々レベル高いな。一撃一撃の威力は男に軍配が上がるが上手さは女子の方が上だ。まともに防御したら押し切られる所を上手く躱している」

 「凄い…あたし、あの壬生紗耶香って方中学で見た事あるけどまるで別人」

 「有名なのか?」

 「一昨年の中等部剣道大会女子部の全国2位よ。当時は美少女剣士とか剣道小町って随分騒がれてた」

 「2位が?ならチャンピオンは?」

 「えっと、その……ルックスが、ね」

 「…安心しろ。人は顔じゃない」

 「あたしじゃないから!」

 

 そんなふざけたやり取りをしているうちに試合はクライマックスに差し掛かっていた。桐原が雄叫びを上げて突進する。両者、真っ向からの打ち下ろし。

 

 「相打ち…じゃない」

 

 桐原の竹刀は壬生の左腕を捉え、壬生の竹刀は桐原の右肩に食い込んでいる。

 

 「途中で狙いを変えたな」

 「結局、非情になれなかったか」

 

 いつの間にギャラリーの最前列に来ていた剣術部の部員達は、桐原が剣道部に遅れを取った方に苦虫を噛み潰している。

 

 「真剣なら致命傷よ。私の方は骨に届いていない。素直に負けを認めなさい」

 

 その言葉に桐原は顔を歪める。彼女の言葉を否定しようとしても、剣士としての意識が認めてしまっているのだ。

 

 「は、ははは……」

 

 突如、桐原は虚ろな笑い声を漏らした。総司は知っていた、この特徴的な笑い方を。これは逆上した人が見せる笑い。桐原の決定的な何かがキレたのだ。

 

 「真剣なら?俺の身体は、斬れてないぜ?壬生、真剣勝負が望みか?だったら………お望み通り、真剣で相手をしてやるよ!」

 

 桐原が竹刀から離れた右手首を押さえると、ガラスを引っ掻いたような不快な騒音が聞こえる。一足跳びで間合いを詰め、左手一本で竹刀を振り下ろす桐原。片手の打ち込み、そこに先程までの力強さは無かった。だが壬生は、後方へ大きく跳んで回避した。攻撃は胴を掠めるだけで済む。しかし細い線が走っている。先程の攻撃で切れた痕だ。

 

 振動系・近接戦闘用魔法『高周波ブレード』。それが彼の竹刀に切れ味を与えているのだ。

 

 「どうだ壬生、これが真剣だ」

 

 観衆達は慌てていた。顔を背ける者まで出てくる。このままでは闘技場に血が飛んでしまうと。それはエリカも同様だった。

 

 「やばいよ!桐原先輩逆上して見境なしだよ!」

 

 エリカは今にも飛び出しそうになるが総司は全く動じない。それどころか何処か興味が冷めた様な目をしていた。

 

 再び壬生に振り下ろされる。最早、竹刀ではなく剣。だが彼女に届く前にその間に割り込む人物がいた。

 

 「達也君⁈」

 

 そう、たまたま見回りがてら、見学に来ていたのだ。しかもただ割り込むだけでなく、サイオン波動を放った。その為、見学人の中に口を押さえる者が続発した。乗り物酔いに似た症状が急激に連鎖する。

 

 目の前でそれを受けた桐原はそれをモロに食らい、半強制的に魔法を解除。その隙に達也が桐原を投げ落として俯せにひっくり返し、左手首を掴んで肩口を膝で抑え込んだ。その状態で達也は携帯端末の音声ユニットを取り出す。

 

 「こちら第二小体育館。逮捕者1名、負傷していますので念の為担架をお願いします」





 ご愛読ありがとうございました。

 皆さんは経験した事ないですか。自分の好きな人に「好きな人いるの」って聞いて後悔した事。かなりショックですよね。

 まじでヒロイン誰にしようか。あ、今後に他作品から1人いれる子いるので言っときますねww

 次回もお楽しみに!またね


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逆恨み


 皆さんお久しぶりです。元気にしていました?きのうの設定集は話数には入らないので6日振りの投稿ですね。 

 それにしても本格的にやばいですね。入学編終わるのに後何話かかる事やら。それでも付いてきてくれる皆様には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

 それでは本編どうぞ


 

 「──以上が剣道部の新歓演武に剣術部が乱入した事件の顛末です」

 

 あの後、桐原以外の剣術部員は逆上して達也に襲い掛かるが、達也はそれを全ていなし続けた。相手は徒手格闘は門外漢な上に逆上していて、以前に総司が達也に言った様に雑で分かりやすい動作だった。そんな攻撃を避けるのは容易だった。まるで子供扱いされている様に感じた剣術部員の中に、魔法を使って応戦しようとする輩がいたが、達也は桐原と壬生に割って入った時に使った魔法を再び使用し、魔法を発動する事も叶わず、取り押さえられた。

 

 そんな達也は現在生徒会室で事件を報告していた。

 

 「それにしても10人以上を相手にして良く無事だったわね」

 「流石は九重先生のお弟子さんというところかな」

 

 達也の前に座っている2人、真由美と摩利から素直に褒められた。2人は集団相手に防御のみであしらった事に感心していたが、八雲の寺の門人達を相手にしている達也にとって、それがどの程度の価値を持つのか判らなかった。そんな事よりも達也の意識は2人の隣に座っている男に向いている。

 

 部活連会頭、十文字克人。185前後の身長に分厚い胸板と広い肩幅。十師族、十文字家の次期当主だ。そんな彼の放つ存在感は人並み外れている。

 

 「当初の経緯は見ていないのだな?」

 「はい」

 

 達也が見たのは壬生と桐原が言い争っている所からだ。一応、闘技場にいたが、達也が見ていた時は特に問題は起きていなかったので闘技場を去ろうと出口に向かった時に事件は発生したのだ。なので達也の言っている事は嘘では無い。

 

 「最初に手を出さなかったのもそのせいかしら?」

 「打ち身程度で済むのであれば当人同士の問題かと」

 

 真由美の質問に達也は答える。もし壬生が決闘に応じず、それでも剣術部が手を出す様だったら止めに入ったが、彼女も決闘に応じた為、傍観に徹したのだ。実際、桐原が魔法を使用しなかったら達也はたまに入る気はなかった。摩利も達也の行動に文句は無い。いがみ合いが発生する度に止めに入る程の人員は風紀委員会にはない。

 

 「それで、取り押さえた桐原はどうした?」

 「桐原先輩は鎖骨が折れていたので保健委員に引き渡しました。魔法で直ぐに治癒可能な程度の怪我です。本人は非を認めておられたのでそれ以上の措置は必要ないと判断しました」

 「ふむ…いいだろう。訴追は摘発した者の判断に委ねられているのだからな」

 

 達也の言葉に摩利はあっさり頷く。

 

 「聞いての通りだ十文字。風紀委員会としては今回の事件を懲罰委員会に持ち込むつもりはない」

 「寛大な決定に感謝する」

 

 こうして達也の話(・・・・)は以上となった。

 

 「それと、痴漢の現場を押さえてくれてありがとうね、総司君」

 「わざわざ呼び出す程の事ですか?」

 「普通に良い事だと思うけど?風紀委員以外が取り締まってくれた前例は過去に無いから」

 

 別に褒められたくて捕まえた訳では無い。だが達也の後だとショボく聞こえてしまう。事件に大きいも小さいもないのに。それと自分は役員では無いので犯人をどうするか部外者に話す訳にはいかないらしい。要も済んだので、2人は生徒会室を立ち去ろうとする。

 

 「それでは失礼します」

 「します」

 「ありがとうね……明日は見に来て欲しいな」

 「真由美も頑張るな。悠木も大変だろうが頑張れよ」

 「?何がですか?」

 

 総司がそう言うと摩利は頭を抱えて小声で『ラノベ主人公か貴様』と言う。勿論総司はそんなに鈍感では無い。そもそも返事をしろと言われたが、一応告白されては無い。彼女が言わない限り、自分から振る事はない。…因みに総司に対する恐怖は大分緩和された。食堂での一件や今回の件での総司の行動に優しさが垣間見れたのと、真由美の功績がデカイ。

 

 「七草は悠木の事が好きなのか?」

 

 この瞬間、この場にいる人物の中で十文字は馬鹿の烙印を押された。そしてこいつの前で恋バナは絶対避けた方が良いと。

 

 「本人の目の前で堂々口にする奴がいるか馬鹿!」

 

 摩利が怒った。この場に少しは物事をオブラートに包めと。真由美はそう言われて照れてはいるものの、否定はしない。つまり肯定を意味している。そんな空気に耐えかねた総司はそそくさと達也を連れて一緒に部屋を出る。

 

 部屋を出ると総司は大きな溜め息をつく。

 

 「大変そうだな」

 「当たり前だろ。十文字先輩の爆弾発言には驚かされたよ」

 「……それなら断ったりしないのか?」

 「んー、そんな簡単なもんじゃないだろ。彼女は…まぁほぼ公言してる様なものだけど告白して来る訳ではないし。もしかしたらこのままいたいのかも知らないしな。関係を壊してまで振らないよ」

 「そういうもんか?」

 「さあ?俺だって偉そうに言える程、恋愛に詳しくないし」

 「…振るって事は嫌いなのか?」

 「別に嫌いって訳でもねぇよ。まぁ好きでも無いけど」

 

 恋愛経験の無い者同士で語っても良く分からないのであった。それに話は変わるがさっきの会話で総司も達也に言いたい事があった。それは剣道部と剣術部の事だ。総司もその場にいたので当然、剣術部が魔法を使おうとしていた事を知っている。それでも達也は攻撃せずにその場を乗り切った。その技術は凄いのだが何処か甘さを感じたのだ。

 

 (防御面は凄いんだがそんな戦い方だといつか足元救われるぞ。そうならない能力があるなら別だけど)

 

 

 

 

 

 

 新入部員勧誘週間3日目、達也は既にこの仕事に嫌気が差していた。2日目から自分は狙われているのだ。それも逆恨みにもなっていない理不尽な怒りで。

 剣術部の次期エース、2年生ではトップクラスの実力者である桐原を新入生のウィード如きが倒した。このニュースは直ぐに学校内全体に広まった。桐原本人は自分の非を認め、反省してるにも関わらず、中途半端な魔法選民主義に染まったこの事件と無関係の人達の怒りを買ってしまったのだ。ただ規則に則って行動しただけなのに酷い有り様である。

 

 だが、あからさまな私闘は粛清対象。更に彼の後ろには真由美、摩利、十文字の三巨頭が控えている。ならばどうするか?答えは簡単、事故に見せ掛けるのだ。巡回中の達也が近付くのを待って、ワザと騒ぎを起こす。風紀委員である彼が仲裁に入ったところで、誤爆に見せ掛けた魔法攻撃を浴びせる。なんとも卑劣極まりない戦法だ。きっと彼等は卑劣様を尊敬しているに違いない。しかもさすがは名門・第一高校で学ぶ生徒、手口は極めて巧妙である。

 

 「大変そうだな」

 

 休み時間、これから来る放課後を憂鬱そうにしている達也を、総司は楽しそうに眺めていた。そんな総司に達也は怒りが込み上げて来る。

 

 「……その楽しそうな顔を俺の方に向けないでくれ。殴りたくなる」

 「まぁ、そう言うなって。お前に良い話を持ってきたんだよ」

 「何?」

 「こう言うのはどうだ?ゴニョゴニョゴニョゴニョ」

 「……下手すればお前も粛清対象だぞ?」

 「何言ってんだよ。不正使用を暴いて取り締まられる言われはない。それにそうならない様工夫もちゃんとある」

 「なら良いが…」

 「しかも、今ならお値段なんと…………冗談だよ。そんな顔すんなって」

 

 ポケットから端末を取り出して、商売人の様に電卓を叩く総司を達也は本気で引いていた。総司も流石に友達からこれ見よがしに金を取ろうとは思っていない。達也を助けるついでに、気に入らない奴等をぶん殴りたいだけなのである。

 

 

 

 放課後、達也が巡回していると男達がいがみ合っていた。しかもCADに手を伸ばして今にも魔法を放とうとしている。男達はこちらをチラチラ見て来る。それが罠だと分かっていても風紀委員の役目の為、しょうがなく仲介に入る。もし止めに入らなかったらそれはそれで騒がれてしまう。男達は達也が近付いて来るのを見るとニヤリと笑う。

 

 (バレバレだ。もう少し隠せよ)

 「言っても話が分からねぇ様だな!」

 「そっちこそ!」

 

 ベタベタな上に下手くそな演技。思わず笑いそうになるのを我慢する。2人の間に入ると左腕に付けている風紀委員会の腕章を見せる。

 

 「風紀委員会です。両者、CADから手を離して」

 「なんだテメェ!」

 「部外者が口を挟むんじゃねぇよ!」

 

 

 男達の役目は兎に角注意を集める事だった。目的の達也の目は勿論、周りの目もだ。ここにいるのが1科生で達也を快く思ってない人物だけなら良い。だかもし2科生が混じっていては駄目だ。2科生の連中はこの男に味方する可能性が高い。この男は2科生の希望の星だからだ。彼が活躍すれば2科生だって出来ると言う証明になる。そんな奴らにこの作戦の要となる彼に魔法を放つ人物がバレたら自分達は連帯責任で粛清される。だからこそ自分達が目立つ行動をして注意を集める必要があるのだ。もし失敗してもあいつが離れる時間を作り、達也を自分達から離れられない状況を作り出せば最悪の状況にはならない。

 

 

 

 作戦の要となる男は少し離れたところから喧嘩の様子を伺っている。既に起動式の展開を完了している。収束系・中距離戦闘用魔法『レーザー光線』。太陽光の光を集め、その光を相手に一点集中で当て、火傷の効果を与える魔法。名前の割りに殺傷性はない殺傷性ランクCだ。これを目に向かって放てば失明するが流石に今回は目を避けて皮膚を狙う。

 

 いつでも撃てる様にしてると肩をぽんぽんと後ろから誰かが叩いてきた。

 

 「あの生意気な風紀委員を狙うんですか?」

 「そうだ。ウィードの分際で調子乗りやがって。どうせ風紀委員長にワイロでも送って風紀委員会にしてもらったに違いねぇ。後悔させてやる。ジワジワと、自分から逃げ出したくなる様にな」

 「でも1人だとこの作戦厳しいですよね?」

 「そのためのあいつらさ。今喧嘩してるのは全部演技。全ては奴の気を引いて俺が奴にバレないためさ………てかお前誰だ?」

 

 そこで初めて疑問に思った。最初にあの男を生意気な風紀委員と言ったのでなんとなくこちら側の人間だと納得していた、が自分に話しかけてきた人物は一体誰なのだ?と。振り返ると、とっても良い笑顔でこちらを見下ろしている男がいた。180程の身長で中々鍛え上げられている。そんな男の笑顔がだんだん怖い顔に変わっていく。

 

 「あんたさぁ、文句があるならこんなコソコソしてねぇで直接本人にぶつかれよ!」

 

 総司はそう怒鳴り男の顎先を捉え、脳を頭骨内壁に激突させ、あたかもピンボールゲームの如く、頭骨内での振動激突を繰り返して生じさせ、典型的な脳震盪の症状を作り出した。男はそれに耐えられず、その場に倒れる。

 

 「本当はまだ続くんだけど、弱いなお前」

 

 

 「これは俺達の問題なんだよ!なぁ」

 「そ、そうだぞ!」

 

 特に達也は魔法を阻害していないのに、裏からの射撃がないのに2人は不安が募る。もしかして向こうに何かあったのではないかと。そうなったらこの作戦は意味をなさない。

 

 2人の不安は的中してしまった。

 

 「風紀委員さん。CAD構えて攻撃しようとしてる人がいたので捕まえたので引き取ってください。後そいつら共犯です」

 

 2人の前に総司が現れる。しかも彼が連れてきたのはこの作戦の要で魔法を準備していた筈の男であった。2人は勿論粛清されたくないので男を裏切り言い逃れしようとする。

 

 「は?なんの事だ?俺らここで口論してただけだぜ」

 「俺達が共犯だって証拠あるのかよ」

 「あんたらベタだね。証拠ならここに」

 

 そして総司は録画していた動画の音をみんなに聞かせる。それを聞かせると1人は顔を青くして、もう片方は喋った男を見て馬鹿と罵る。

 

 「これでもまだ無実を主張するか?」

 「あーあ、折角の作戦だったのにそこの馬鹿の所為で全て台無しだよ。……まぁ1番は、テメェの存在だがな!」

 

 怒り狂った男はCADを操作して魔法を発動しようとする。それを見た達也は魔法を阻害する『キャストジャミング』を発動しようとするが、総司が男の後ろ首をトンッと手刀して意識を奪う事により、発動せずに終わった。顔を青くしていた男はもう言い逃れ出来ないと悟り、素直に自首するのであった。

 





 ご愛読ありがとうございました。

 年上の癖に闇堕ちする男達。情けないったらありゃしないですな。単純に彼らの情けなさにイラつく総司でした。

 みんなもこんなコソコソした事はしない様にね。

 次回もお楽しみに、またね


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魔法師の無駄遣い


 お久しぶりです。本当にお久しぶりです。何日ぶりか覚えていないほどです。

 いや、忘れた訳では無かったんですよ。でも何故か書こうとしても直ぐに止めてしまうんです。何故でしょうね?まぁ多分たまたまでしょう。今回の分だって今日1日で書いたんですから。頭の中にはあったんですけど中々手が進まなくて、本当にすみません。

 また頑張って投稿するので応援よろしくお願いします。

 では本編どうぞ。


 

 1週間が過ぎ、達也にとって嵐のような新入部員勧誘週間は終わりを告げた。風紀委員の中で最も忙しかったのは彼だろう。それも、本来の活動とは少し違った方向性で。しかし日を追う毎に達也にちょっかいを出してくる者は減り、最終日は問題が起こる事が無かった。それもそのはず、もし悪さすれば自分達も捕まると思い知らされたからだ。実際に総司が考えた案を実行に移した3日目に2組捕まえて、4日目にも1組捕まえて、計9人捕まったり最終日に至っては達也が現れると互いに謝って関わらない様にする者まで現れた。だが起きてしまった事はなくならない。事件を知った三巨頭は頭を抱えていた。

 

 『うちの学校にそんなアホな事をする人がいたとはな』

 『闇討ちって普通に犯罪よ』

 『魔法選民主義に中途半端に染まった者の末路だな』

 

 当然その者達は警察にお世話になった。停学は決定。教育委員会での決定が後日、学校を通じて当人達に通達されるだろう。

 

 「達也、今日も委員会か?」

 

 帰り支度中の達也に、鞄を手にしたレオがそう訊ねた。

 

 「今日は非番。ようやくゆっくりできそうだ」

 「大活躍だったもんな」

 「嬉しくないな」

 「今や有名人だぞ。魔法を使わず、並み居る魔法競技者を連破した謎の1年生……とその相棒ってな」

 

 そう言ってレオは帰り支度をしている総司を見る。それに総司が気付いた。

 

 「ん?どうした?」

 「謎の1年生の相棒さんって噂されてるぞ」

 「…俺が?」

 「そりゃそうだろ。達也を狙ってる輩を捕まえて引き渡す。探偵か何かかよ。しかもお前も魔法を一切使わないときた」

 「一説によると、2人は魔法否定派に送り込まれた刺客らしいよ」

 

 ひょっこり覗き込むように顔を見せたのは、同じく帰り支度を済ませたエリカだった。当然、彼女は冗談で言ってるのだろうが心臓に悪い。ある意味正解なのだから。否定派でもあるし刺客とも言える。魔法否定派でありながら、魔法界トップに送り込まれた刺客。それが総司なのだから。

 

 

 

 総司は家に帰ると九島烈へ電話を掛けた。理由は任務の定期連絡とそれに対する愚痴である。

 

 「魔法師を目指してる奴等がどんなのかと思えばさ、あいつら頭逝っちゃってるんじゃないの?簡単に人に向けて魔術放つとか、包丁を振り回すと同じじゃん。あんなの犯罪者予備軍だろ」

 「まさかそんな生徒がいたとは驚きだが、それは魔法科高校に通ってる者の台詞ではないな」

 「1つの才能を身につける前に常識を学べって話だよ」

 「………愚痴はその辺にしてそろそろ本題に入ろう。何か思う事があったから電話してきたのだろう?」

 「…第一高校に反魔法国際政治団体『ブランシュ』が関与している可能性がある」

 「何?」

 「さっきの話で捕まえた中に、青と赤のラインで縁取られた白い帯のリストバンドを巻いていた奴がいた。確かあれはブランシュの下部組織、『エガリテ』のシンボルマークだったはずだ」

 

 総司は以前、反魔法組織に関する依頼を受けた事がある。しかしそれについての情報が無ければ総司に判断しかねない。総司だって何でもかんでも依頼を受けている訳ではない。善悪の判断はある。依頼主の私欲に利用される事は嫌う。しかし、ブランシュについての情報は一般的には規制されているので良く知る事は出来ない。なので、依頼を受ける前に彼等についての情報はしっかりともらっている。その時に知った彼等の活動理念もだ。

 

 彼等を知った時、総司は率直に幼稚すぎると思った。彼等は魔法による社会的差別の撤廃を掲げているのだがそれについては文句ない。事実、存在するから。だが彼等は魔法師とそうでないサラリーマンの所得水準の差を提示している。魔法師が優遇されているとして。総司は、何故ここに注目したかを本人達に直接問いかけたい程だ。一般人と魔法師の所得の差?あって当たり前だ。彼等は一般人と違い彼等は命をかけているのだ。今ではサラリーマンと所得の差がほとんど無くなるまで下がった警察(魔法師の台頭により、警察の価値が下がった)だって数十年前まではサラリーマンより貰っている。消防士だって同様だ。それに文句を言っていた者がいただろうか?否だ。命をかけている仕事が、サラリーマンと所得が同額な訳が無い。

 

 もし文句を言うなら何故、この世界の風潮について文句を言わなかったのか。日本だけに留まらず、世界の常識として、魔法師は凄く、それ以外は凄くないという風潮。クソくらえだ。魔法師とそれ以外に社会人に優劣なんてない。どんな仕事だろうと、働いて、稼いで、家族を養う。立派な事だ。魔法師はただ魔法の才能があっただけ。スポーツ選手だってそのスポーツに長けているだけ。それだけでまるで全てに優れているかの様な態度を取るこの世の中に文句を言えば言いのだ。

 

 そして総司は知らないが、魔法師達だって反魔法組織に文句を言いたい事は山程あった。まず給料についてだ。確かに魔法師は平均所得は高い。しかし、それは一部の人達が平均を引き上げているだけに過ぎない。勇者な魔法師でありながら、魔法とは無関係の職しか得られず、サラリーマンより低賃金に甘んじている大勢の予備役的な魔法師が存在する。彼等はその程度の所得では家族を養う事は出来ない。そのため副業としてバイトや内職をしなければいけないのだ。

 

 総司がもし、この事実を知っていたら魔法社会に文句を言うだろう。『お前らは馬鹿なのか?』と。その様な事態にあるのなら、何故そのような優秀な人材を教員が不足している学校に派遣しないのか。魔法と無関係の職なら魔法師にやらせる必要がどこにある。それより学校に派遣すれば所得の少ない魔法師は、生活に十分な給料を得られ、教員が足らず、満足に授業を受けられない2科生も1科生のように教員に指導を受けられるだろう。そうすれば試験で評価出来ず、埋もれるはずの良い人材を発掘し、育てる事が出来る。そうすれば魔法師の人数は右肩上がりになるだろう。そんな事もせずに、魔法師が不足していると宣うのか理解に苦しむ。

 

 「魔法科高校の生徒で反魔法組織の人物。セキュリティーガバガバじゃねぇか。どうすんだよじーさん。きっと近いうちに何か仕掛けてくるぞ」

 「学校のセキュリティーが甘いのは分かったが実際に反魔法組織に魔法を使える者は存在する」

 「そうなのか?」

 「魔法の才能があっても自分より才能豊かな者に嫉妬する心は誰でも存在する。奴等はそんな生徒に目をつける事がある。力を持ちながら精神が弱い者は利用される」

 「馬鹿だな。もし平等になっても次は人より上に立ちたい。人より恵まれたいと思うのが人間なのに。何かを手に入れた人物はそれに見合う対価を支払ってるものなんだよ。この世は才能だけじゃ1番にはなれない」

 

 結局、もし何かあったら総司が対処する様になった。その為に入学した様なものなので依頼を受けた以上しっかり働こうと思う総司だった。

 

 

 翌日の昼食を生徒会室で食べる総司と達也達、そして生徒会メンバーの真由美と摩利、あずさ。2週間前まではダイニングサーバーを利用していたのだが現在は誰も利用していない。摩利は最初から手作りだが、それに倣って深雪も達也の分の2人分。そして真由美も総司の分を作った。総司にお弁当をみんなの前で渡すと女性陣が盛り上がる。その度に早く付き合えと言われるのだが既に総司は諦めた。お弁当を作ってもらう約束をした時点で。面倒な事になるので周りに広めないでくれと釘を刺して。

 

 「達也君」

 「なんですか委員長」

 

 摩利が達也の名前を呼んだ。彼女は然りげ無く切り出したつもりなのだろうが、野次馬丸出しの笑みが隠しきれていない。

 

 「昨日、2年の壬生をカフェで言葉責めにしたというのは本当かい?」

 

 とても食事中とは思えない発言が彼女の口から飛び出した。

 

 「先輩も年頃の淑女なんですから『言葉責め』などというはしたない言葉は使わない方がいいと思いますが」

 「ハハハ、ありがとう。私を淑女扱いしてくれるのは、達也君くらいのものだよ」

 「そうなんですか?自分の恋人をレディとして扱わないなんて、先輩の彼氏はあまり紳士的な方ではないようですね」

 「そんな事ない!シュウは……」

 

 そこまで言いかけて摩利は口を紡ぐ。達也にまんまと誘導されてしまったのだ。これには真由美も背中を向けて肩を震わせる。総司に至っては机に突っ伏して必死に笑いを堪えていた。摩利はそんな2人に心の中で『お似合いカップルが』と悪態つき、達也へと視線を戻す。

 

 「それで剣道部の壬生を言葉責めにしたというのは本当かい?」

 

 どうやら先程のを無かったことにしたいらしい。彼女は普段クールぶっているが、かなりのポンコツかも知れないと達也は思った。総司ならいざ知らず、達也はこれ以上彼女を虐めるのは止めにした。

 

「ですから言葉責めなどという表現は止めた方がよろしいかと……深雪の教育にも良くありませんし」

 「お兄様?もしや私の年齢を勘違いされていませんか?」

 「悪い……委員長、そんな事実はありませんよ」

 「おや、そうかい?壬生が顔を真っ赤にして恥じらっているところを、目撃した者がいるんだが」

 

 不意に隣の席から冷気が漂って来たのを達也は感じた。

 

 「お兄様……一体何をされていらっしゃったのかしら?」

 

 気の所為では無かった。物理的に、かつ局所的に室温が低下している。

 

 「ま、魔法……?」

 

 あずさの呟きには怯えが混じっていた。彼女の言う通りこれは魔法であった。本来、超能力者以外の者が意図せず魔法を発動することは無い。確かに魔法式は無意識領域で処理するものだが、それは意識して無意識領域を使うことであって、無意識に魔法式が構築され処理される事は絶対に無い。超能力者や、それに近い魔法師ならば、思考のみで明確に意図する事無しに魔法を発動する事もあり得るが深雪は違う。

 

 「事象干渉力がよっぽど強いのね……」

 

 真由美の呟きに、達也は苦笑いを浮かべた。本来切り捨てられた筈の『超能力』の残り香でも『現実』を変え得る程の事象に付属する情報体(エイドス)に対する干渉力、それを深雪は持っていた。魔法の暴走は未熟である証であると共に、卓越した才能の証でもあった。

 

 「落ち着け、深雪。ちゃんと説明するから。まず魔法を抑えろ」

 「申し訳ありません」

 

 達也の言葉に、深雪は恥ずかしげに目を伏せ、ゆっくりと息を整えた。それと同時に室温の低下が止まる。この時、深雪のブラコン具合に意識が向いて、誰も気付く事が出来なかった。普段彼女の暴走を見ている達也でさえも。室温が急激に下がる深雪の冷気。普段なら周りの机の表面が凍ってしまう。その証拠に今回もコップに入れてあるお茶が凍った。しかし、机は全く凍らなかった(・・・・・・・・・・)。彼女の手が机の上に置いてあり、1番干渉を受ける筈の机がだ。この事に気付いてさえいれば、あの様な出来事は起こらなかったかも知れないのに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             

 

 

 

 

           ……て言ってみたり笑笑

 

 

 





 ご愛読ありがとうございました。

 なんで一巻で人材不足と言っておきながら魔法師に魔法以外の仕事させているんですかね?

 てか話変わるんですけど今作のUA見てたんですけど、なんで19話より20話の方が多いんですか?後21話が一向に伸びないんですけど20話つまらなかったですか?急に下がると不安になるんですよね。何か不満な点があればコメントでどんどん言ってください。それが自分のモチベーションになります。

 では次回も楽しみに。またね


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なんで口悪くなるんだろう


 皆さん元気にしてますでしょうか?

 今回主人公がまた罵声を浴びせます。あまり好きでは無い方は覚悟しておいて下さい。ではどうぞ!


 

 「夏場は冷房要らずね」

 「真夏に霜焼けというのも間抜けですが」

 

 深雪が意図せず魔法を発動して落ち着きを取り戻した後の真由美のジョークを達也はさらりと流す。その上でこの場の全員に、壬生との会話を正確に再現した。

 

 簡単に言えば、彼女は風紀委員が嫌いらしい。その理由は彼等の行動が点数稼ぎで強引に摘発していると言っている。

 そして自分達は差別を受けていると主張した。魔法に関しては納得している。だがそれ以外での差別には我慢出来ない。魔法競技系のクラブに比べて、自分達が所属している非魔法競技系のクラブの待遇が悪いと。その為に、2科生でありながら風紀委員で頑張っている達也をスカウトした。勿論、彼の行動を確認した上で。

 

 「どうも、風紀委員会の行動は生徒に反感を買っている面がある様ですね」

 

 最後にそう締め括ると、摩利と真由美が顔を曇らせた。達也は彼女の言う様に強引な摘発など存在するのか疑問だった。それに深雪がモニターから見ている限りではむしろ寛容な方だと。摩利もそれに納得だった。彼女の思い込みだと。実際に彼女の言う点数稼ぎだが、そんなものは存在しない。正確には生徒会役員のように卒業後への影響は全く無いのである。校内ではあるのだが、それも多少だ。

 

 「だけど、校内で高い権力を持っているのも事実。特に学校の現体制に不満を持っている生徒から見れば、風紀委員会は権力を笠に着た走狗に見られる事もあるの。正確には、そういう風に印象を操作している何者かがいるんだけどね……」

 

 真由美の回答には、これまで黙って聞いていた総司も反応する。

 

 「正体は分かってるんですか?」

 「え?ううん、噂の出所なんて……そう簡単に特定出来るものじゃないから……」

 「張本人を突き止められば、止めさせる事も出来るんだがな」

 

 明らかに総司に質問されて、真由美は自分が口を滑らせた事に気付いた。明らかに彼女は動揺している。それは摩利も同様。そう思った達也が切り出した。

 

 「例えば、『ブランシュ』のような組織ですか?」

 

 彼女達の動揺が驚愕に変わった。

 

 「何故、その名前を……」

 「別に極秘情報という訳でも無いでしょう。それに先週捕獲した中に青と赤のラインで縁取られた白いリストバンドをつけていた生徒がいた筈です。自分の記憶が正しければ、あれはブランシュの下部組織『エガリテ』のシンボルマークです」

 

 ブランシュの名前だけでなく、エガリテの名前を知っていた達也に真由美たちは驚きを通り越して呆れている。

 

 「エガリテまで、本当に君は良く知っているな」

 「こういうことは中途半端に隠しても悪い結果にしか繋がりません。いえ、会長を非難しているのでは無く、政府のやり方が拙劣だと言っているだけですが」

 

 達也が言い訳の形で慰めを掛けても、真由美の表情は晴れなかった。彼女は自分を責める。自分だってこの政策には不満を抱いているのに。それを達也が優しくフォローする。

 

 「学校は国立の組織です。自分達はまだ公務員ではありませんが、学校運営に関わる生徒会役員が国の方針に縛られるのは仕方のない事です。……会長の立場では、秘密にしておくのもやむを得ない事ですよ」

 

 言ってる途中で恥ずかしくなり、目を逸らす達也。それに摩利がにんまりと唇を歪める。

 

 「ほほぅ、達也君も中々優しいところがあるな」

 「自分をなんだと思ってるんですか?」

 「でも、会長を追い詰めたのも司波君なんですよね」

 

 静かに聞いていたあずさかぼそっと呟く。摩利はすかさず追撃する。

 

 「自分で追い込んで自分でフォローする。ジゴロの手口だな。真由美の気持ちも達也君に傾いてるだろう」

 「ちょ、ちょっと摩利!変な事言わないで!」

 「それで、本命の悠木はどう思っているのだ?」

 

 急に総司に振る摩利。一同が総司を見ると既にこの会話に飽きたのか、話全体を聞いて呆れて何も言えないような表情をしていた。そして頭の後ろで手を組んでいる。自分が、呼ばれた事に一度確認する程、彼等の会話に参加する気が失せていた。

 

 「俺?知らねぇよ。興味ないし。勝手にやってれば」

 

 壬生の話、政府の話を聞いて両方とも頭が悪いとしか思わなかった総司は、この話を聞くだけ無駄だと判断したのだ。壬生の意見には頭を抱えてしまうし、政策については生徒如きが政府に意見できる訳が無いのに話し合いをする意味がないと。そのため、摩利の振りに反応するのも面倒くさいと思ったのだ。しかし彼の態度に摩利は怒りを募らせ、真由美は自分に全く興味が無いのではないかとやや落ち込む。

 

 「興味無いって何だ。お前も関係してる話だろ」

 「興味無いものは無いの。さっきから聞いてれば、意味わかんねーところで落ち込みやがって、馬鹿じゃねぇの?」

 

 総司に言われてますます落ち込む真由美。深雪の時もそうだったが、総司の女への扱いの悪さには頭を抱える達也。

 

 「それにさ、入学式の時から思ってたけどさ。あんた、良く反省してるけど、その言葉に全くと言っていい程、重みが感じられねぇんだよ。口だけ、その場凌ぎ、反省してる風なんだよ。反省の気持ちが全く伝わってこねぇ」

 「総司君……」

 「それに何で反省してんだよ。政府の政策に従ってるだけで何も悪い事してないだろ。もう自分が政府にでもなったつもりか?」

 「お前、言い過ぎだぞ」

 「良くそんなんで生徒会長になれたな。しかも全校生徒があんたを慕ってる、笑っちまうわ」

 「貴様ッ!」

 

 総司の暴言にとうとう摩利がキレて総司に飛びかかる。しかし総司はそれをいとも容易く避ける。そして彼女を無視して真由美へ話続ける。

 

 「七草会長よ、こんなに慕ってくれる友がいるんだからさ、上っ面な言葉じゃ無くて、本気の発言をしろよ。あんたが出世すれば、不満がある今の政策だって変えられるんじゃ無いのか?今はまだ唯の学生だが、それを出来るだけの能力があるから生徒会長をやってるんだろ。それにあんたには十師族の名もある。本気で努力すれば自分が正しいと思う政策に変えられるんじゃ無いのか?それとも結局、口だけのお嬢様か?」

 

 真由美はそこまで言われてやっと気付く。彼は自分を罵倒しているのでは無く(半分はしてるだろうけど)、自分が情けないと叱ってくれているのだと。思う事があるならそれを変えて見せろと。変える為に行動を起こせと。

 真由美は諦めていた。こういうルールなのだからと。しかしそれを変えていけないと誰が決めた?現に自分の思う様に恋愛をしているのだ。本来はいけない2科生という魔法の才に秀でていない人に恋をしている。それは十師族としてはあり得ない。なら行くところまで行ってやる。自分の思った事は全て成し遂げる。ルールだろうがなんだろうが変えてみせる、そう決めた。

 

 「貴様!それ以上私の友を馬鹿にするな!」

 「待って!」

 

 あと少しで摩利の拳が総司の頰を捉えるところで真由美が静止をかける。その声で摩利の拳は既の所で止まる。

 

 「摩利、ありがとう」

 「真由美!良いのか⁈こいつはお前を──」

 「ううん、私が悪かったからいいの。彼は口は悪いけど無意味に人を傷つける事を言う人じゃ無いわ」

 「しかし…」

 

 そう言って真由美は総司の前まで歩き頭を下げる。酷い事を言った総司では無く、言われた真由美が頭を下げるというアベコベな状況に場は呆気に取られる。

 

 「ごめんな──」

 「止めて下さい」

 

 しかしそれを総司が止める。先程までのタメ口では無く敬語に戻っていた。

 

 「そう簡単に謝らないで下さい。悪いのはどう考えても俺なんで。それより七草会長がやらなきゃならないのは壬生先輩の事ですよ」

 「壬生さんの?」

 「話を聞く限り彼女は相当頭が逝ってるでしょう。それが誰かに作られたにせよ、自作にせよ、彼女はなんらかの行動をとる筈です。それをしっかり納めて下さい。行動で示すというのはそういう事です」

 「そうね、達也君はどう思う?」

 「……確かにその可能性はありますね」

 「なら総司君、もしそうなったら必ず納めてみせるわ。それが私の反省の証よ」

 「期待してます。その時はなんでも言う事を聞きますよ」

 「約束よ」

 

 真由美にそう言われて笑顔で返す。その状況に一同はコソコソと話す。

 

 「完全にDVカップルのそれなんだが?」

 「あれは大丈夫なんでしょうかね?」

 「くそっ、真由美はあいつの何処を気に入ったんだ」

 「いざとなったら私達で止めましょうね」

 

 

 

 





 ご愛読ありがとうございました。

 なんか主人公の印象がどんどん悪くなっていくよ。口悪すぎ。てか周りが聖人すぎる笑笑。

 完全にDVですよね。キレた後に優しくするなんて。この世界(魔法社会)で慣れない環境でストレス溜まってるんだろうな

 では次回もお楽しみに、またね。、


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褒め上手


 お久しぶりです。元気にしてますか?

 藤浪が2軍で大炎上してしまってとても悲しいです。自分が1番好きな選手なので余計にです。ネットでは藤浪はもう無理とか言われてますが自分は必ず復活出来るって信じてます!藤浪頑張れ!

 では本編どうぞ!


 

 真由美の態度を考えると『さっさとくっつけ』と言いたいところだが、総司の性格、言動を踏まえると、このまま2人がくっついたとして果たしてそれが彼女の為になるのかと不安になる一同。彼女が総司と過去に会ったことがあるのは既に周知の事実なのだが、総司は覚えてなさそうだ。恐らく彼女の言動から過去に好きになる要因があるのだろうが、今のところ全く想像出来ない。彼女曰く、優しい一面があるというが信じられない。4人はもし2人(主に総司)が問題を起こしたら真っ先に止めようと誓い合う。

 

 昼休みもそろそろ終わりを迎えるので解散しようとすると、達也が総司にある事を言ってきた。

 

 「あっ、言い忘れていたが総司。壬生先輩が少し話せないか?って言っていたぞ」

 「俺?一体何の為に?」

 「詳しくは知らんがなんでも総司の真意を知りたいらしい。連絡はこっちでするがどうする?」

 

 真意と言われて見当もつかない総司。壬生が達也を必要としたのは彼が2科生でありながら風紀委員会に選ばれる程の技量を持っている事。そして摘発しなかった彼の優しさ故だ。それに比べて総司は技量はまだしも一般生徒、スカウトして得を得る立場など存在しない。しかも、彼の行いを知ってる人には、不良生徒と思われているだろう。そんな自分をスカウトしても得どころプラスどころかマイナスの方がデカいだろう。自分を入れる事で素行の悪さを指摘される。こんな奴を入れるなんて所詮2科生と揶揄されるだろう。それくらいは分かるだろうが……

 

 「どんな表情だったの?」

 

 壬生が何故自分と話そうとしているのか気になって考えていると、真由美が話に割り込んできた。口は笑っているが目は笑っていなかった。彼女の表情から察するにありもしない事を考えているのだろう。まるで『ポッと出の女がちょっかい出すんじゃないわよ』と言いた気だった。

 

 「そうですね、例えるなら事情聴取をしている警察の表情に近いかと」

 「そう、ますます分からないわね」

 

 そう言って一安心する彼女。そんな事あり得ないのにと心の中で溜め息をつく総司。自分の行動を客観的に見ればモテる訳無いと分かっている。好きになってくれたのは嬉しいが、過去にどんな運命的な出会い方をしたのか知らないがこんな自分を好いている彼女は物好きだろう。そう思い彼女を見ると何やら考え事をしている。そして考えがまとまったのか、こちらを見る。

 

 「総司君、彼女の誘いに乗ってくれないかしら?私は彼女の背後にいる存在を突き止めたい。そして彼女を利用する輩から彼女を守りたい。その為に彼女の考えを正したいの。きっと私から言っても聞いてくれないと思う。だから同じ2科生でおる総司君に頼みたい。勿論達也君もよ。今回は総司君に頼むけど達也君にも協力してもらいたい。お願い出来るかしら?」

 「彼女も彼等の被害者の1人ですからね。自分の出来る範囲であれば」

 

 真由美の要望に達也は応じる。同じ才能を欠けた者同士、少なからずおもうことがあるのだろう。そして2人の視線は総司に戻った。

 

 「俺は役員でもなんでもないのに仕事させられるんですか?それもこんな面倒臭い事を」

 「お願い、ダメかな?」

 

 真由美はそう言って上目遣いで総司を見る。断ろうと一瞬思ったが、周りの視線と彼女をそう思うよう仕向けたのは自分だと自覚しているので嫌々受け入れる事にした。

 

 「まぁ暇ですし、良いですけど、泣かせても文句言わないで下さいよ」

 「ありがとう。出来れば泣かさない様に心掛けてくれると助かるんだけどな」

 「善処はしますが約束はできないですね。それじゃ達也、いつでも良いって連絡してくれ」

 「いつでも良いなら今日でも良いか?彼女も出来れば今日がお望みらしい」

 「急だな。まあ良いけど」

 

 

 

 達也が連絡すると直ぐに返信が返ってきた。そもそもLINNを密かに交換してたなんてやるなと内心驚く総司。達也はそれが深雪にバレて一悶着起こるのは少し先の話だった。

 

 達也に言われた通りのカフェに行くと壬生が入り口の脇で待っていた。これは予想通り、達也が教えてくれた。

 

 ここで総司は以前に祖父より教えてもらった潜入の心得を発揮する時がきたのだ。

 『心得その1』 常に口調は丁寧に。少しでも相手の機嫌を損ねる事をしない。潜入はたった一つのミスが命取りなのだ。

 

 「こんにちは。壬生先輩ですよね。自分は悠木総司と言います。今日はよろしくお願いします」

 

 総司は笑顔で挨拶した。その笑顔はこの学校に来て1番の笑顔だっただろう。

 『心得その2』常に笑顔で。その1同様、機嫌を損ねる事はしない。つまらなそうな顔は以ての外、事が来るまで常に相手を煽てるのだ。例えそれが知っていた事だったり、当たり前の事だとしても。

 

 「わざわざ外で待っていてくれたんですか?座っていた方が楽だったでしょう」

 「あれ?司波君に外で待ってる様伝えてって送ったのに」

 「そうだったんですか?多分、自分が浮かれてて聞き逃したんでしょうね」

 「浮かれてた?何か良い事でもあったの?」

 「何を言ってるんですか。今がそうじゃないですか」

 「え?」

 

 総司がそう言っても壬生は理解出来ていなかった。それに総司は『純粋って可愛いな』という雰囲気を醸し出しながら言った。

 

 「まだ入学したばかりの自分が上級生にお茶に誘われたんですよ。それも誰かと思えばあの『剣道小町』、『美少女剣士』と名高い壬生紗耶香先輩ですよ。誰だってテンション爆上げですよ!」

 「ちょっ//こんな所で止めてよ」

 

 『心得その3』ひたすら相手を煽てよ。相手によって度合いを変えるのがコツだ。今回のような、普段周りに劣等感を感じ、あまり褒められてない人物は多少やり過ぎでも気分を良くする。

 

 総司が目を光らせて胸の前でガッツポーズしながら言うと、壬生は顔を真っ赤にして周りの目を気にする。幸い今は周りに人がいない。美少女剣士と言われて壬生も悪い気はしないのか口元がニヤけていた。それを見て心の中でニヤける総司。

 

 (この人チョッロww)

 「ほら、折角店に来たんだし中入っちゃお」

 「はい、あっ!後でサインくれます?」

 「さ、サイン⁈分かったわ、書いた事ないけど」

 「ヤッタァ!」

 

 顔を真っ赤にして入店する壬生と、とても嬉しそうに入店する総司。彼女がこんなに彼の言葉を間に受けているのは総司の演技力あってこそだ。そもそも良くこんなにスラスラ言葉が出てくるなと思うが、普段客観的に物事を見る総司は、自分では思ってない事でも、みんなは思ってる事を理解しているのでそれを相手が気持ち良い様に言ってるだけなのである。つまり嘘八百だ。もしこれがワザとらしかったら警戒されてしまうのだろうが、家業故に総司もその手の教育を受けている。きっと本職の人でも見極めるのは容易では無いだろう。一般人の壬生が総司のこの発言が本心かどうかなんて、動揺しながら見極めるなんて至難の業だ。

 

 「……何あれ?」

 「……さ、さぁ」

 「総司さんって、あんな表情するんですね」

 「俺も初めて見た。……何というか、普段見慣れてない所為か」

 「「「気味が悪い(な)(ですね)」

 

 そしてそれは普段行動している者にとっても例外では無い。総司が色々と自分を作っている事に夢中で、事情を知っている4人に見られている事に気付けなかった。

 

 彼女達は自分達の業務をサボって総司を見張っている。総司がこんな役を熟せるのか不安だからというのが建前で、自分で言っといて『これってデートじゃね?』と思った真由美がいても立ってもいられなかったのだった。

 

 普段、何かに怒っている姿や、相手を考えを否定する際に見せる悪い表情の印象が強すぎる所為で、脳が総司の表情を素直に受け付ける事を拒否してしまっていた。普段からその表情をしてればもっと印象が良くなるのにと言いたくなる表情。しかしよくよく考えたら普段の行動をあの表情でされたらサイコ染みていて恐怖が増しそうだった。

 

 「………」

 

 そんな表情を真由美は複雑そうに見ていた。彼の本当の笑顔を知ってる数少ない人物の彼女はあれが作ったものだと言うのは声が聞こえなくても直ぐに分かった。それでも、作り笑いだろうが何年も見ていない彼の笑顔を見れて嬉しい気持ちと、それを向けているのが自分では無いという悔しさに彼女の表情は中途半端になっていた。

 

 「真由美……」

 「会長?大丈夫ですか?」

 「達也君、大丈夫よ。それじゃバレないように私達も店に入りましょう」

 

 

 

 





 ご愛読ありがとうございました。

 褒め上手な総司。次回もまどまだ褒めて行きますよ。

 では次回もお楽しみに、またね


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最大級のやらかし

 カランコロン

 

 総司と壬生は入店して、店員に案内された席に座ると、そのままドリンクバーを頼んだ。放課後直ぐだったのでお腹は空いておらず、店員が水を持ってくるとそのまま注文した。

 

 「それじゃ自分が持ってくるんで、何にします?」

 

 ここでも総司は下手に出る。壬生は申し訳無いと言うが、『外で待っててくれたでしょう。そのお礼です。だから気にしないで下さい』と笑顔で総司が言うと、彼女は照れながらリンゴジュースと言った。どうやら彼女は自分が慕われていると本気で思い込み始めていた。

 

 総司は自分の分の飲み物と彼女のリンゴジュースを汲みながら現在の状況を整理する。

 

 (壬生紗耶香。彼女の反応から褒められる事に慣れてないと推測出来る。そして簡単に信じてしまう。武術についても実力が無ければ直ぐにお世辞と気付き、警戒するのだろうが、なまじ実力を要し、更にそれを他人から認められない彼女の環境が警戒する事を拒んでしまっている。この性格は利用しやすい。乗せれば簡単に図に乗るからな。現に彼女は俺に慕われていると思っていい気になっているだろう。とんでもない嘘も、今なら信じそうな勢いだ)

 

 壬生の性格からして、現在利用されていなくとも今後利用されるのは確実だった。

 

 カランコロン

 

 そんな事考えていると入店を知らせるベルが鳴った。その時、総司に電流が走る。入店したメンバーは知っている者だったからだ。咄嗟に振り向くと、入り口に、自分が壬生と会っているのを知っている4人がいた。しかもこちらが見ているのに気付いたというのに、誤魔化す素振りも見せず、手を振って来た。総司は一気にやり辛くなった。壬生を褒めていい気にさせるのをあのメンバーに見られながらやらなきゃいけないからだ。気を張り巡らせていればこんな事態にならなかった。自分はまだまだと自覚する要因にもなったが気分は最悪だ。

 

 (何見に来てんだあの馬鹿共!猫被りを見られるじゃねーか!)

 

 直ぐにでもあいつらに文句を言いたいが、戻るのに遅れては壬生に不審がられるので、しょうがなく重い足取りで自分の席に戻る。そしてしっかり笑顔を作り直すのは忘れずに。

 

 「壬生先輩、リンゴジュース持ってきました」

 「ありがとう悠木君。でも水で良かったの?」

 

 壬生はドリンクバーを頼んでおきながら水を持って来た総司を不思議がる。。(水はドリンク必要無し)

 

 「良いんですよ。あんまり喉乾いて無かっただけですし」

 「それならドリンクバー要らなかったんじゃ」

 「俺だけ頼まない事したら壬生先輩が頼みづらいでしょ。自分が飲まないからって壬生先輩まで巻き込む訳にはいかないです。自分実家の手伝いして小遣いそれなりに貰ってたんで、ドリンクバーの値段くらい安いもんですよ。だから気にしないで下さい」

 

 総司の口からサラッとクサイ台詞が出た。彼を知っている人物が見たら精神魔法でも食らったか心配になるだろう。しかし壬生からしたらとても優しくて相手を労れる好青年にしか見えなかった。

 

 (悠木君ってこんな人だったんだ。入学2日から問題起こしたって聞いてたから結構やんちゃなイメージだったんだけど結構意外。もしかして何か事情があってやった事が悪い風に捉えられちゃったのかな?もしそうだとしたら可哀想だな)

 

 壬生はリンゴジュースをストローで吸い込みながら、同じくストローで水を飲む総司を見る。彼の出来事を勝手推測して、勝手に同情する。その間に3分の2程飲み干してしまった。総司が壬生の方にふと目を向けて、既にジュースがコップの半分を切ったのに気付くと自然に笑ってしまった。これが出会ってから彼女に初めて見せた、本心での笑いとなった。壬生は彼の視線が自分のコップに向いている事に気付くと顔がみるみる赤く染まる。

 

 「ふふっ、リンゴジュースお好きなんですか?」

 「うっ……良いじゃない、達也君にも言われたけど私は甘い物が好きなの!どうせ子供っぽいですよ!」

 「いえいえ、年頃の少女っぽくて可愛らしいですよ。自分だってジュース好きですし」

 「かわっ⁈……」

 「先輩?」

 「え?ううん、なんでもない」

 

 総司が可愛らしいと素直に言うと今までに無い程、顔を赤くして俯く壬生。総司が呼びかけると壬生は何でもないと大袈裟に腕の前で手を振る。しかし誰が見ても明らかに照れて動揺している。見た目を褒められる事に関しては慣れてそうなのにと総司は心の中で思った。しかし先程からの総司からの褒めの言葉。そして止めと言わんばかりの可愛らしいとの言葉。壬生の中では考えがごちゃごちゃになってしまった。

 

 (うぅ、なんなのよさっきから。何かあるごとに褒めて来て。しかも可愛らしいって、もしかして悠木君って私の事好きなのかな?もしそうだとしたらどうしよう。恋愛素人どから分からないよぉ。確かに悠木君優しいし気遣い出来るけど、まだよく知らないし。でもああやって直球で言われるのは凄く嬉しかったし、笑った時の顔は幼さが残ってて可愛かったし。でもーでもぉー!)

 

 

 

 「総司君が、総司君が可愛いって」

 

 それを見ていた真由美は今にも呪いの魔法を放つ雰囲気であった。可愛いという言葉以外にも、自分の知ってる彼の本当の笑顔が彼女に向けられた事への嫉妬も込められている。普段の彼女からは想像も出来ない。

 

 「会長、大丈夫ですって」

 「そうですよ、きっと彼女と親しくなる事で情報を聞き出そうとしてるんですよ」

 

 真由美だってそんな事は分かっている。それでもまたあの笑顔を自分に向けて欲しいのだ。しかし周りからしたらそのまま彼等がくっついた方が幸せそうだなと思ってしまった。現に今の総司は一瞬とはいえ目的を忘れる程だった。

 

 

 

 「えっと、気を取り直して、今回話したい内容なんだけど………新入部員勧誘週間で風紀委員会の真似事をした理由について聞かせてもらえないかな?」

 「あれについてですか?」

 

 風紀委員会の真似事というのは、達也を狙った者を捕らえた事のことだろう。しかし、理由と聞かれてもただ彼等の襲い方にイラついたとしか言えず、そう答えたら今まで彼女に抱かせた自分のイメージ壊しかねず、返答に困る質問となった。

 

 「そう、司波君と協力して事に当たったらしいけど、貴方は入学2日目で達也君と喧嘩したわよね」

 「あ………よくご存知で」

 「仲直りしたと言ったらそこまでなんだけど、わざわざ危険を冒してまで手伝う程でもないでしょう。それに生徒会長と仲が良いわよね?」

 「さぁ、それがどうかしましたか?」

 「貴方の行動の一貫性が無いの。最初は問題児だったのに、会長と仲良くなって風紀委員会の真似事。そこで思ったの。もしかして会長に取り入ろうとしてないかしら?」

 

 総司はこの言葉を言われてもあまり態度を変えなかった。今この場で言われるのはは驚いたが、自分がそう思われてそうだなと思っていたからだ。入学2日目で2つの問題事を起こし、教師に放送で呼び出される。そんな側から見たら不良生徒が生徒会長なんかと仲良くなる。明らかに不自然だ。しかもそんな生徒が風紀委員会の真似事をしている、これはポイント稼ぎと捕らえられなくもない。

 

 「そういう気は無かったんですがね、そう見えますか?」

 「まぁね、もしそうだとしたら先輩として忠告してあげるわ。辞めなさい」

 

 壬生はハッキリとした目で総司に命令口調で言った。コップに向かっていた総司の手が止まった。

 

 「そんな事する必要はないわ。まるで生徒会長のペットになるような真似なんて、自らの価値を下げる行為よ。そんな行為は2科生の差別を助長する事に繋がるの」

 「差別?」

 「そうよ、まだ日の浅い貴方だって感じた事があるはずよ。この学校の1科生と2科生の待遇の差を。何かある事に私達2科生を後回しする。教育の場でよ。私はそんなこの学校が許せない」

 

 数分前までの、少しの事で顔色を変える壬生とは別人の様だった。彼女の目には強い意志が感じる。

 

 「それで、結局のところ自分は何の為にに呼ばれたんですか?」

 「貴方、私達と一緒に差別撤廃を目指さない?」

 

 彼女が総司を読んだ目的、それはスカウトだった。それも達也とは違いストレートに。本当は総司の噂を知ってる壬生は、実際に話して総司を引き込んでも良い人材かを確かめようとしたのだが、彼の態度や気遣いを見て平気だと認識したのだ。しかしある違和感を総司は感じた。もしやと思った総司はある行動に出る。

 

 「先輩、ちょっと良いですか?」

 

 総司は一言彼女に言ってから、彼女の頭を触れた。すると彼女は急に意識を失い、その場に倒れそうになるのを総司が慌ててキャッチする。

 

 「どうしたの総司君!」

 

 それを見ていた真由美達が慌てて駆け寄って来た。

 

 「彼女の会話に違和感を感じていたんです。強い意志なんですが、そこに何か混じっている感じがしたんです。試してみたらビンゴでした。彼女、催眠魔術を受けてました」

 「え、魔術?」

 「あ、………」

 

 総司はやらかしてしまった。

 

 




 ご愛読ありがとうございました。

 では次回もお楽しみに、またね

 


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人と秘密は切れない間柄


 皆さん元気にしてますでしょうか?

 前回の話がご都合主義と言われたのですがそれにはしっかりとした理由があります。まだ書いてないだけでちゃんとした理由が。

 だから灰茨悠里さん、もしまだ興味を示してくれると嬉しいです。

 では次回もどうぞ!


 

 場に沈黙が走る。真由美達は聞いた事の無い単語にフリーズし、総司は今まで意識して言わなかった魔術という自分しか知らない単語を口に出して慌てていた。当然彼女は魔術について聞いてくる。

 

 「総司君、魔術って何?」

 「い、言い間違いですよ‼︎噛んじゃっただけです、ははは」

 

 しかし苦しすぎる言い訳に誰も信じてくれない。もし他のミスなら適当に誤魔化していただろうが、重大過ぎる事で明らかに動揺している。ここまで動揺していると怪しくて仕方がない。真由美達も総司のこの慌てように唯の言い間違いでは無いと直ぐに分かった。総司はなんとかしてこの場を乗り切る嘘を考え様とするが、こんなに動揺していては思い浮かぶものも浮かばない。

 時間は巻き戻らない。そして言い訳しようとも案が出ない。総司はこれまでかと堪忍する。どうせいつかはバレると思っていた。必ずボロを出す。総司は言い訳するのをやめた

 

 「はぁー、俺の事は後で良いですか?今は壬生先輩の安全が第一ですので」

 

 そう言って総司は壬生をお姫様抱っこすると真由美に119番に電話する様頼む。

 

 数分で来た救急車に壬生を乗せるとスタッフが『誰か1人付き添いお願いします』と言った。生徒会長である自分が立候補すると真由美が立候補するが摩利が乗ると言い出した。

 

 「真由美、お前は悠木からしっかり話を聞いた方が良い。壬生は私に任せろ。お前は悠木を頼む」

 

 そう言って救急車と共に病院へ向かった。残された面子はゆっくりと総司を見る。総司も逃げられない事は分かっているので覚悟を決める。

 

 「話しますよ、話せば良いんでしょ。でもこの場で話す内容じゃないです。七草会長、生徒会室で良いですか?」

 「え、ええ」

 

 総司が最初に歩き出して、真由美達が後を追う様に歩き出した。しかし生徒会室に着くまで会話は一切無かった。もし、状況が違っていたら。ふざけた場所での発言なら彼の言う事も信じたかも知れないが、あの様な緊迫した状況で彼は真顔で言った。魔法と似ている自分達の知らない単語を。しかもあの後の彼の慌てっぷり。確実にやらかした証拠だ。3人の頭には今、『魔術とは何か』それと『それを知っている悠木総司とは何者なのか?』それが脳を埋め尽くしていた。

 

 

 

 生徒会室に着くと既に仕事を終えたのか、服部達は帰宅していた。そして普段、真由美が座ってる所に総司が座る。これは彼が主役だからと真由美が決めた。そして総司は深呼吸して気を落ち着かせる。彼からプレッシャーがひしひしと伝わって来る。それ程真剣なのだ。そして遂に硬く閉ざされていた口を開いた。

 

 「みんなが聞きたいのは魔術について、そしてどうして俺が壬生先輩に掛けられていたのを解いたか、だと思う。だが、それを話す前に一言だけ約束して貰いたい。これから話すことは極秘だ。誰にも話すな。もしこの場の誰かがバラしたりしたら、連帯責任で全員殺す」

 「「「⁉︎」」」

 

 殺すと言って総司は殺気を放つ。達也は殺気を受けて咄嗟に深雪を守る。戦場に出た事がある達也だからこそ、瞬時に理解した。この男は本気だ。明らかにチンピラ等が口にする殺すとは重みが違う。一般人が出せる殺気では無い。確実に殺しを経験していると。だからこそ分かった。これは脅しでは無い。この男は友達である自分達であろうが容赦無く殺すのだと。

 

 「もし約束を守る自信が無いなら今すぐこの場を立ち去ってくれ。もしここで立ち去っても、俺はそいつを約束も守れない奴と軽蔑したりしない。今まで通りに接する。そして俺について知ると言う事は危険が伴うと言う事も頭に入れて決断してくれ。ここで話を聞かずに立ち去るか、それとも真実を知るか」

 

 総司からしたら、ここで帰って欲しかった。自分という存在を隠すのも限界がある。何処かで足がつく。その時、真っ先に狙われるのはまず自分の家族、次点で彼女達だ。自分を知ると言うことは即ち、危険に巻き込むと言う事だ。勿論さっきの言葉は嘘だ。いくらなんでも殺しはしない。無関係の者なら……そもそも話しもしないしな。彼女達が誰かにバラす様な人では無い事は何度も食を囲んで分かる。それなのに殺すと言って殺気を放ったのは彼女達を巻き込みたく無いからだ。自分の能力はいずれ世界にバレる。そしたら自分を嗅ぎまわる組織は絶対に現れる。しかも能力の強力さは計り知れない。この力を手に入れる為には手段を選ばないだろう。自分と深く関わると言う事はそいつらに狙われる可能性があるのだ。

 

 しかし自由に生きる事を心情としている自分が、彼女達の自分について知りたいという自由を奪う事はしない。それは彼女達の勝手だ。それを邪魔する気は無い。だが安易に足を踏み入れてほしくはない。だからこその殺気。踏み入れるたら危険が付き纏うとの警告。

 

 3人は各々考える。数分それぞれで考えて各々の決断を下す。

 

 「わたしは、私は聞きません。そこまで言うのは自分の事をあまり私達に知って欲しく無いでしょう理由がお有りなのでしょう」

 

 最初に口を開いたのは深雪だった。

 

 「貴方が真剣に殺すと口にしたのは、それなりの事情があるのでしょう?なら私は無闇に踏み込みません。それに申し訳ありませんが、まだ知り合って間もない私に命を賭けてまで聞かなければいけない理由は私にはありません。ですので私は断らせていただきます」

 

 深雪はハッキリ言い切った。対して親しくも無い自分が聞く義理は無いと。少し口が悪いと思われるが、これは総司が深雪に言った事だ。断る時はハッキリ言えと。総司も彼女の口に文句を言う気は無い。逆に場の雰囲気で流されて安易に聞こうとしない彼女に感謝したいくらいだ。

 

 「深雪、勇気あるトップバッターでの回答、感謝する。これからも仲良くしてくれ」

 「はい。それでは私は先に出ていますね。お兄様、お先に失礼します」

 「待て、俺も断らせてもらう」

 

 深雪が部屋かれ出る前に、達也に一言掛けると、達也も深雪に続いて総司の話を断った。

 

 「俺と深雪は兄妹だ。俺だけ知る事は出来ない」

 「総司さん、大丈夫です。お兄様は約束を破る方ではありませんし、私も聞いたりなどしません」

 

 自分が断ったから達也も断ったのだと深雪は思った。表情から分かりにくいが達也は総司の事をかなり良く思っている。家で良く総司の名前を出すのがその良い証拠だ。だからこそ、深雪は聞くのかと思った。だからこそ達也を置いて出て行こうとしたのだ。

 

 その深雪の考えは大体当たっていた。達也だって気にならない訳では無い。だが、それでも彼の最優先事項は深雪なのだ。

 

 「確かに興味はあった。ほのかの展開式を消滅させたお前の秘密。だが、この件で何かあったら俺だけでなく深雪まで抹殺対処になるだろう。それは出来ない。深雪を危険に晒してまで聞く事はな」

 「お兄様……」

 「1つ言いたい事がある。お前、俺達はもう友でいられないと思ってないか?」

 「……どうしてだ?」

 「秘密を抱える。しかも知るなら命を賭けろ、そんなの普通じゃない。今まで通りと言ったがもう戻れないと」

 「当たり前だ。俺はいつも通り接しても必ず壁を感じる関係になる。いつも通りでいられる筈がないだろう」

 「それは違うな」

 

 総司の言葉を達也は一蹴する。

 

 「人は大なり小なり秘密を抱えているものだ。俺だってそうだ。だからって友達で無くなるなんて事はない。それにお前は隠そうとしていたのだろ。それを無理に聞く気なんてない。それにな、例え俺達の間に秘密があろうが友である事には変わりない。お前は俺の初めての友達なんだ。だからもしその秘密で困った事になったら相談くらいには乗るぞ」

 

 達也はそう言い残し、深雪と共に部屋を出た。流石の総司も惚れそうになる。深雪がさす兄と言うのも分かった気がした。イケメンで強い、性格良し。惚れない要素が見当たらない。もし自分が女だとしたらこういう男に惚れるだろうと思上手く程だ。そして2人が去り、最後に残ったのは真由美であった。

 

 「七草会長はどうするんです?本当に知らなくて良い事ですよ」

 

 特に貴方には、という言葉は伏せた。そう言われたら気になってしまうからだ。もし聞いたのが彼女だけなら、もしかしたら真実を知りたがっただろう。しかし達也や深雪が断った今なら彼女も断ってくれるかも知れない。真実を知ると言うことは、彼女にとって失恋すると同義だからだ。

 

 「私は……」

 

 彼女も迷う。仮に真実を聞いてもそれを誰かに自分からバラさない自信はある。しかしそこに自分の意志が無かったら?自白させる魔法を使用されたら逃れる術は無い。そしたら彼の情報が漏れ、結果的に自分は彼に、最愛の人に殺される。自分はそれに耐えられるのか?このまま何も知らない方が幸せではないのか?彼女は悩みに悩んだ末に出した答えは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壬生紗耶香は目を覚ますと、そこには知らない天井があった。自分がベットに横になってるのは直ぐ気付いた。そして顔を右に向けると、ナースコールのボタンがある。どうやら自分は病院のベットで寝ていた事が分かった。しかし何故自分が病院にいるのか理解しかねる。

 

 「私は、なんでここに?確か、カフェで悠木君と話があって、それで」

 

 記憶にあるのはサインを強請られたぐらいまで。カフェの中に入った後の記憶があやふやだった。いくら思い出そうとしても思い出せない。

 

 「お、起きたか。大丈夫か?壬生」

「……渡辺先輩」

 

 するとドアを開けて摩利が病室へ入ってきた。彼女の登場に壬生は表情を濁す。尚更状況が理解出来ない。何故、彼女が自分と一緒にいるのか。自分と彼女に接点こそあるが、自分に時間を割く程の間柄では無い。

 

 「壬生、意識はハッキリしているか?」

 「はい……」

 「記憶は?」

 「記憶、ですか?それが悠木君、1年の悠木総司君とカフェに入ったんですがそこからの記憶が」

 「ふむ、記憶が混濁しているか。魔法の影響か?」

 「……あの、何で渡辺先輩がここに?そして私は何で病院で寝てたんですか?それと魔法って?」

 

 壬生からしたら当然の質問だ。記憶が途絶えて気が付いたら病室のベットで寝ていたのだ。しかも彼女が魔法と口にした。自分の身に何があったのか気になるのは当然だろう。

 

 「壬生、お前は魔法を受けていたんだ」

 「ええ⁈」

 

 これには衝撃が走る。知らず知らずのうちに魔法を掛けられていたなんて誰が想像出来ようか。

 

 「詳しくは分からないが、恐らく催眠効果を持つ魔法だろう。お前は利用されていた可能性が高い」

 「利用って、誰にですか?」

 「そこはまだ分かっていない。すまない」

 「い、いえ。ありがとうございます」

 

 壬生としてもまだ信じられない。催眠系の魔法を受けて利用されていたなんて。自分の行動がどこまでが自分の意思で、どこからが操られていたのか。体が震える。しかしある事に気付く。

 

 「どうして渡辺先輩が気付けたんですか?。私に魔法が掛けられていたなんて。催眠系の魔法ってしっかり調べたりしないと分からないものなんじゃないんですか?」

 「ん?ああ、違う。気付いたのは私じゃない。悠木だ」

 「え?悠木君が?」

 「そうだ。詳しくは聞いてないが分からないがな。実はお前達の事を尾行していたんだ」

 「何の為にですか?」

 「それはだな、真由美が、そのぉ、悠木に対してだな」

 

 摩利としては隠しておきたいのだが、それだと尾行している理由を説明出来ない。非常に困ったことになった。

 

 「悠木君と会長が何かあったんですか?」

 「ああ!もう、焦ったい!いいか、真由美は悠木の事が好きなんだ。それでお前達がデートしていたのを気になって着いてった訳だ」

 

 上手く嘘が思い浮かばず、ぶっちゃけた摩利。いきなりの会長の恋事情に壬生はまだ追いついていない。

 

 「そして何を思ったのか、悠木がお前の頭に手を置くと急にお前が気絶したのだ。奴が言うには魔法が掛けられていて、それを解いたという。どうやってかは知らんがな。私は病院まで同行しただけだ。だから礼を言うなら私じゃなくて奴に言え」

 

 後は看護師に任せると言って摩利は去っていった。壬生は既に彼女の事よりも総司が自分に何をしたのかで頭がいっぱいだった。

 





 ご愛読ありがとうございます。

 達也と深雪は聞きませんでした。まぁ達也も秘密あるんでね。真由美は真実を知るのか?しないのか。

 そして壬生と渡辺。この2人の誤解が解けるのはもう少し先になります。そして入学編ラストまで原作と大きくかけ離れます。それでも言い方はご贔屓お願いします。

 では次回もお楽しみに。またね


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失恋

 翌日、いつもの面子はいつもの様に生徒会室で食事を共にしていた。

 

 「そうでしたか、壬生先輩は無事でしたか」

 「あぁ、後遺症も無かった。そもそも本当に魔法を受けていた事すら怪しい程にな。一応安静の為に入院しているが今日、明日には退院出来るだろう。まぁ強いて挙げるならカフェでの出来事を覚えていない。だから折角の口説きも無駄に終わってしまったな」

 「口説いてないですよ!」

 

 話題の中心は昨日に倒れてしまった壬生の事だった。一同は同行していた摩利から彼女の無事が確認して一安心していた。今となっては憶測でしか判人を語れない。そもそもどんな魔法を掛けられていたかすら不明なのだ。壬生を助ける事は出来たが事態が進展した訳ではなく、彼女達の顔色は晴れない。その時、あの場にいなかった摩利だけが総司の顔を伺う。

 

 「本当に掛かっていた魔法を解いただけなんだな?」

 「そうですよ」

 

 摩利の質問に即答する総司。摩利はいまいち信用出来ずにいたのだ。彼がエガリテの組織のメンバーで証拠隠滅の為に壬生の魔法を解いた。自分の身の潔白を証明する為に敢えて自分達が尾行した人に解いたと。摩利は昨日、話を聞く様に言った真由美に問う。

 

 「真由美、悠木から話は聞いたのか?」

 「………」

 「……真由美?」

 「え?あ、なんの話だっけ。ちょっとぼぉーっとしてて聞いてなくて」

 「大丈夫か?朝からその感じだが」

 

 しかし肝心の真由美は明らかに様子がおかしかった。会話に反応はしていても本当に聞いているのか微妙で、しかも授業でも普段ならしない様なミスの連発。いつもの真由美では無い事は明らかだった。一度保健室に行ったが熱は無い。風邪の症状も無く、摩利には原因が分からない。

 

 「悠木の事だ。話は聞いたのか?」

 「あ、うん。聞いたわ。助けられたのは実家の代々続く魔法を解除する魔法みたい。魔術に関しても言い間違いしただけだったわ。最初は平然としてたのに指摘されて動揺したのは、あの場面で間違えて恥ずかしくて気付かれない様に冷静を装ってたけど、簡単にバレて動揺してただけみたい。そうよね、総司君」

 「その話はもう勘弁してくださいよ。恥ずかしいんですから」

 

 真由美は昨日のうちに作っておいた嘘を話す。総司にふって、総司が照れ臭そうにするのもこの嘘に真実味を帯びさせる為だ。

 

 「そうだったのか。それじゃ2日目のあの日、1年の展開式を解除したのもその魔術って訳か?」

 「まぁそうですね。うちの家系が潰れず、ギリギリ生き残ったのもこれのお陰なんです。そしてうちではこれを魔法を解除する術、魔術と呼んでいるんです。まぁ時間が掛かるし、能力の限界があるんで殆ど使えないんですけどね。ほのか相手のだって術に込めたサイオン量が彼女を上回った結果です。だから相手がナメて掛かって来なきゃ意味が無いんです。本当は隠したかったんですが、ボロ出してしまいまして。だからこれは絶対内緒にして下さい!」

 

 そう言って頭を下げる総司。嘘に多少の真実を含ませる事でより真実味を持たす事が出来る。摩利は総司に必死さに一瞬驚く。だが彼の言い分も納得出来たため約束し彼の言う事が真実ならそれを破ったら彼の家系を滅ぼす事と同義。そんなことする気は毛頭ない。彼が悪と決まった訳ではないから。

 

 だが、深雪と達也は真実ではないと直ぐに分かった。

 

 (100%嘘だろうな。委員長を納得させる為に口裏を合わせでもしたのだろう。だが魔法を無効化する能力事態は真実かも知れないな。だがこの能力に裏がある事は間違いない。……まぁ詮索して無意味の争いはごめん被るからしないがな)

 

 もしこれだけの話なら命を賭けろなんて殺気交えて言ったりはしない。その証拠に今回は摩利に素直に話した。勿論これには深雪だって気付いている。だが、それ以上に2人が気になったのは真由美の態度だ。様子が可笑しいのは明らかだし、総司と話す時も以前より何処か遠慮を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真由美は昨日の事を引きずっていた。

 

 「私は……聞くわ」

 

 真由美は総司の話を聞く事にしたのだ。当然、総司は理由を尋ねる。それに対して真由美は迷わず答える

 

 「貴方の事が知りたいから、少しでも貴方の力になりたいの。それじゃ駄目かな?」

 

 総司は呆れてしまう。恋一つで女というものは命を顧みずに行動してしまうのかと。昔にどうやって出会ったか知らないが行動が馬鹿過ぎる。流石にもう少し利口だと思っていたのだが、予想が悪い意味で裏切られて少しショックを受ける。

 

 だが総司はそれでも話す。彼女がそうしてくれと言ったからだ。もし彼女が酷い目に遭っても自業自得(助けはするが)。これで酷い目に遭えば今後の考えを改めるだろうと小さじ一杯くらいの期待を胸に話す。この時点で真由美は、達也や深雪より愚か者であった。

 

 「分かりました。まず初めに魔術について説明しましょう」

 

 そうして魔術について説明していく。夢で起きたというにわかには信じがたい内容も隠さず全てを話した。真由美はいくら総司が言った事だろうと信じられずにいた。それはそうだ。あの名前も知らない先生が聖人過ぎるだけだ。

 

 「その話は本当なの?」

 「ま、そうでしょうね。分かってましたよ、信じられる方が異常だって。でも本当の事です。俺は貴方達の魔法を魔法とは認めていない。魔術という技術だって。だからそれでなんでも出来ると思い込んでる魔法師なんかクソくらえと思ってます」

 「ムッ、なんでもとは言わないけど魔法(魔術)で出来ない事の方が少ないわよ」

 「魔術は確かに便利ですよ。そこは否定しません。でもそれって0から1を作ったのではなく、1を100に広げたですよね。半世紀以上も立ってるのに魔術でしかなし得ない事が殆ど無いのにどうしてドヤ顔なんかできるかって話ですよ。大勢の人が使用できる様にした過去の偉人達の方が凄いと思いますがね」

 

 真由美は総司の言い分に口を閉ざす。確かに魔法(魔術)は便利である。彼もそれは認めている。そして彼の言う通り、魔術でしかなし得ない事が限りなく0に近い。そして魔術には適正がある。それを満たしていなければいくら便利だろうと使えない。確かにその通りだ。今まで考えなかった事を改めて考えさせられる。

 

 だがここまでの話を聞くと疑問が深まる。

 

 「貴方、そんなに魔法嫌っているけど良く第一高校に入学できたわね」

 「それ裏口入学。俺魔術なんて使えないし」

 

 もうどうせ話すなら全て話すとぶっちゃけている総司。ぶっちゃけすぎて、敬語を使うことすら忘れている。過去にここまで堂々と不正しているのを暴露した人がいただろうか?否、断じて否である。

 

 「ならどうしてこの学校へ?」

 「ある人から依頼されてね。これ以上は企業秘密なんで」

 「……」

 「そうそう、七草会長って俺の事好きでしょ」

 「ええ⁈そういう事こんな堂々と言う⁈普通はもっとオブラートに包むでしょ!」

 

 好意を寄せている相手にこんな事言われて慌ててしまう真由美。

 

 「だって明らかに普通じゃ無かったし、明言してるようなものじゃん」

 「そうだけど!少しは女心察しなさいよ!」

 

 色々とツッコミを入れて興奮して息が上がってしまった。顔も少し赤みを帯びている。しかし、彼女の表情は総司の一言で一変する。

 

 「悪いんだけどさ、俺…あんたと付き合えないから。次からああいうのは辞めてくれないかな?」

 「え?」

 「いつまでもハッキリしないのは悪いと思ってさ、丁度魔術の事とかでタイミング良かったし」

 

 真由美は言葉を失った。そんな真由美を置き去りにして総司の口から付き合えない理由がどんどんと飛び出して来る。

 

 「まぁ魔術使ってる奴と付き合える訳無いしな。話が合わないのに付き合える訳無いじゃんって感じ。付き合っても破局するの目に見えてるし。その時点で恋愛対象としては論外。第一あんたの他人の迷惑を考えないで自分だけの事しか考えない感じが全然俺のタイプじゃないし。あんただって魔法も使えない俺と付き合える立場じゃ無いでしょ、七草家の御令嬢なんだから」

 

 真由美から言葉が出ない。その代わりに涙がポロポロとこぼれ落ちる。それを見ても総司は謝る事をしない。これで慰めて変に気を持たせるくらいなら、いち早く自分への想いを忘れて欲しかった。それが彼女の為にもなるのだから。

 

 「別にあんたの事を誰かにバラしたりしないから安心しな。所詮、俺とあんたでは住む世界が違う。あんたはさっさと俺の事なんて忘れて、新しい恋を見つけな」

 

 じゃあなと言って総司は生徒会室を後にする。真由美は誰もいなくなった部屋で静かに崩れ落ちるのであった。

 

 

 





 ご愛読ありがとうございました。

 真由美、初めての失恋です。総司は敢えて突き放す。何故なら絶対に叶わない恋なのだから。

 では次回もお楽しみに。またね


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