ハーレム天国だと思ったらヤンデレ地獄だった 生徒会長生存ルート (キラトマト)
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共通ルート
ゲームの世界にGOGO!


7月24日 23時頃 編集


「まさかゲームの世界に来れるとはな」

 

 僕は驚くより先に感心してしまった。ゲームの世界に入れるなんてフィクションの中だけの話だと思っていたからだ。こんなことになってしまったのは、ほんの十数分前の出来事が原因だ。

 

「はぁ……。ゲームの世界、か……」

 

 僕は小説を読んでいるとふと独り言をこぼしてしまう。すると……

 

『その望み、叶えてやろうか?』

 

 脳内に声が発せられる。僕はさほど驚かなかった。どうせ、幻聴だと思っていたからだ。

 

『出来るさ。ゲームの世界に送るなんて簡単な事』

 

「じゃあ、連れてってくれよ」

 

 僕は冗談半分でその誘いに乗った。

 

『承諾した』

 

「はいはーい」

 

 僕は気だるげに返事する。そして、次の瞬間、僕はこの家にいたのだ。

 

 まさかと思い鏡を見てみてみると見覚えのある顔だった。だがまだ確定するのは早いと思い、家を出て表札を確認する。

 

如月

 

 そこで彼の言葉が本当だということに気付いたのだった。

 

「さて……どうしたものか……」

 

 ゲームの世界に来たということに気付いた僕は、まず今日の日付を確認することにした。

 

 携帯にカレンダーの表を見るとご丁寧に『役所で会議』と書かれていた。つまりだ。もしなんの変化も起きていないとしたら、今日いざえもんが現れて、そして香也子さんが殺される……。(考えている場合じゃない! 急がないと!)

 

 僕は急いで支度を始めて役所へと急いだ。そして、役所に着いたのはいいのだが、まだあの『三人』は来ていない。

 

「すみません。学生の方は全員揃ってますか?」

 

 男性スタッフが僕に問いかけてきた。

 

「あ、残りの子が今来ているみたいです。急ぎの用事ですか?」

 

「あー、最後に打ち合わせしておこうと思ったんですよ。……時間かかりそうですか?」

 

「打ち合わせですか……。一回電話で連絡してみます。反応がなかったら僕が見てくるんで香也子さんは役所の人気のあるところにいてください。絶対に一人にならないで下さいね!」

 

 僕は香也子さんに忠告して、そして電話をかける。だが……。

 

「くそっ、なんで繋がらねぇんだよ!」

 

(仕方ない、か)

 

「外に出て探してきます。絶対に一人にならないで下さいね!」

 

 僕はそれだけ言って役所を後にした。

 

「チィッ」

 

 僕は『三人』の家を当ってみるが、帰ってくる返事は、「もう行きましたけど……」の言葉だけであった。

 

「ふっざけんなよッ!」

 

 意味が無いとわかっていながら僕は電柱に拳を叩きつける。

 

(いや、今はそんなことをしている場合ではない!)

 

 僕は本来の目的を思い出し、役所へと急ぎ足で戻る。

 

「香也子さん!」

 

 僕は叫びドアを開ける。だが、室内にいたのは、あの笑顔の綺麗な香也子さんではなく、苦悶の表情を浮かべたまま、地に横たわっている香也子さんであった。

 

「……ぇ?」

 

 いざえもんがいないとかそんな細かいことは置いておいて、絶対に一人にならないでといったはず……なのにどうして……! 

 

 僕は急いで救急車と警察を呼んだ。救急車を呼んだのはほんのひと握りの希望にかけてだが……。

 

「もしもし警察ですかッ?! 早く来てください! ……え? 人が死んでるんですッ! だから早くッ!」

 

 学校か何で、救急車が来るまで約八分と聞いたことがある。だったらもう……。僕はそんな考えを首を横に振って否定する。

 

(早く来てくれよ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言うと、結局香也子さんは助けられなかった。しかも、警察の事情聴取に長時間付き合わされる始末だ。はぁ……ったく、最悪の一日だよ、ほんと。

 

 事情聴取が終わって家に帰ると、急激な眠気が襲ってきた。今日一日沢山のことがあったのだ、眠くならないわけがない。それに知っていたとしてもその惨状はただの学生には辛すぎた、その場で気を失わなかっただけマシだろう。

 

 兎も角、今日はもう寝るとしよう。




どうだったでしょうか?
第1話のワクワク感は出ていましたでしょうか?
感想や改善点などを書いて貰えたら励みになります。


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宮主佐優理編
変化の始まり


6月25日 7時25分 編集


 はぁ……憂鬱だが、学校に行くとしよう。休んでもいられないしな。断じて会長の顔みたいとかではない。断じて。

 

 刑事さんに会わないようにいつもとは違うルートで学校に行く。

 

 教室に入ると陽佳と佐優理が来る。

 

「ユウくーん」「ユウヤさん!」

 

「あぁ、おはよう」

 

「昨日は来なかったけど、何かあったのか?」

 

「うーん、ちょっと、ねっ」

 

 二人とも目を泳がせてそう言う。

 

「それにしてもだが、なんで昨日あんなことがあったのに平気でいられるんだ?」

 

 僕は問う。

 

「何を言っているの? ユウくんにつく虫がいなくなったんだよ? 祝わなきゃ!」

 

 やっぱり変わらないか……。休まないことで何かが変わると思ったんだが。一時間目が始まるが、授業のことが頭に入らない。生徒会長さんが無事かどうかが気になるが、まずは神無さんに会うことにした。一時間目が終わると三階へ急ぐ。

 

「ユウヤ!」

 

 神無さんは僕を見ると同時にこちらに駆けてくる。

 

「あの、神無さんに相談があるんだけど」

 

 ダメだとは思いつつも聞いてみた。

 

「何?」

 

「それが、陽佳と佐優理さんの様子がおかしいんです」

 

「どうおかしいの?」

 

「それが、まるで香也子さんが死んで僕に着く虫がいなくなったとかなんとか……」

 

「ふーん……。で、それのどこがおかしいの?」

 

 神無さんも変わりなしか……

 

「そ、そうだよねっ。じゃ、じゃあバイバイ、神無さん」

 

 僕は不自然ながら神無さんの意見に同調する。

 

「……私からしたらユウヤの方がおかしいよ」

 

 神無はボソッと独り言を言う

 

(じゃ、会長の所へ行くか)

 

 僕は生徒会室まで急ぐ。すると、その目的の生徒会室の前で会長が待っていてくれていた。

 

「あら、来ていたのね」

 

「まぁ、休む訳にはいかないので」

 

「あなたも変わっているわね……。で、なんでここに来たの?」

 

 少し残念そうな、でもそれ以上の喜びを感じられる声で会長はそう言った。

 

「それが……」

 

「話しにくいならここに入る? 今は誰もいないわよ」

 

 会長の親切を無下にすることはできない、僕はそれに応えることにした。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 そして生徒会室に入り、本題に入る。

 

「相談っていうのが……」

 

「あの事件のこと?」

 

「いえ、いや、まぁ、それも関係あるんですけど……郷土研のことなんです」

 

「あら、珍しいわね。あなたがあのメンバーのことで私に相談するなんて。で、どんな相談なの?」

 

「それがですね……」

 

 僕は今日一日の彼女たちの様子を話した。

 

「それは冗談にしてはやりすぎね……」

 

「はい、しかも陽佳は僕についた虫が消えたとか言ってたし……」

 

「ほんと、変わったのかなぁ、なんて」

 

 本当は変わってなんて居ないけど、でも、ほんの一欠片でも可能性があるなら、それにかけてみたいと、僕はそう思った。

 

「ごめん、少しキツいことを言うかもしれないけど、何も変わってないのかもしれないわね」

 

「そう、ですよね……。以前から、ちょっと危ういとは思っていましたが……」

 

「…………」

 

「でも今回のことはおかしいですよ。カヤ姉の死を……いや、人の死を喜ぶなんて……まるで別人みたいです」

 

「こんな状況だからこそ気づいたこともあるんじゃない?」

 

「そ、それは……!」

 

 否定できない。将来、会長を殺してしまうかもしれない人たちなのだ。

 

「事件が起きたことで気づいたことってのもあるんじゃない? 三人のことをわかっているつもりでわかっていなかったとか。これを機に、少し距離を取ってみるのもいいと思うわよ」

 

「それも……いいかもしれません」

 

 曖昧な返答しか出来ないのが辛い。

 

「あなたも疲れているんじゃない? 出来れば今日ぐらいは休んだ方が良かったんじゃない?」

 

 思っていたより僕の顔色は悪いらしい。理由は分からないけど。知っていたのに助けられなかった喪失感か、それとも。

 

「はい、わかりました」

 

「あら、聞き分けがいいじゃない」

 

 会長が意外な一言を発した。

 

「ど、どういうことですか?」

 

「いえ、いつものあなたならもっと反論すると思ったから。あなたも変わったわね。何か大人になったというか」

 

「そう、ですか……」

 

 危ない危ない。僕の正体がバレたら一大事になるからな。

 

「た・だ・し」

 

「私の事を盲信してもらったら困るから。だから、最終的にはあなた自身で判断するのよ?」

 

「優しいんですね」

 

 心からの言葉。口が勝手に動いてでてしまった言葉。

 

「な、何がよ! 私は生徒会長だから生徒の相談は聞かないとと思っているだけよ!」

 

 明らかに動揺する会長。

 

「あなたもそんなに相談とか聞いてるといつか壊れちゃいます。どこかはけ口を見つけないと。なんなら、僕が会長の悩み事とか聞いてあげましょうか?」

 

 

 

「べ、別にあなたに助けてもらう義理は……」

 

「今日相談に乗ってもらいました」

 

 僕の言葉にようやく会長は折れたようだ。

 

「ま、まぁ? ちょっとぐらいなら良いけど?」

 

「じゃあ、部室に行ってきます。みんな、いると思いますし」

 

「ええ、頑張りなさい」

 

 応援の言葉を聞き勇気が出た僕は生徒会室を後にした

 

「おっそーいっ!」

 

 部室に入ると、早速陽佳が向かってきた。部長や佐優理さんもいる。

 

「そんなに遅くなってないと思うけど……。いや、そんなことはいいんだ。突然なんだけど、話があるんだ」

 

「えーなになに?」

 

 最初に反応したのは陽佳だった

 

「まぁ、ちょっとな……」

 

「ユウヤさん?」

 

「……」

 

 そんな中、部長は無言だった。恐らく察したのであろう。

 

「────しばらくの間、郷土研を休部にしようと思います」

 

 しんと、静まり返る部室。

 

 全員が信じられないといった顔で僕を見る

 

「なんで!? なんでなんでなんで!?」

 

 陽佳が取り乱す。

 

「色々と疲れたしさ、少し考えたいこともあるんだ」

 

「せっかく戻れたのになんで休部にするんですか!?」

 

 佐優理さんがいつもとは違い語気を強めて発言する

 

「……今まで通りに戻れるのか、僕には分かりません」

 

「ユウヤ……私たちのことが嫌いになったの?」

 

「それは無いです」

 

 本当は将来、生徒会長を殺すであろう陽佳と佐優理さんは殺したいぐらい嫌いなのだが、この場でそんなことを言おうものなら僕が殺されたり生徒会長が殺されるかもしれないので、嘘をつく。

 

「それなら、休部までしなくても……私たちが邪魔になる部分があるならその部分を改めればいい」

 

「私もそう思います……ここで一緒にいたいんです」

 

「ボクだって!」

 

「みんなには悪いけど……」

 

「ユウヤさん!」

 

「すみません。やっぱり時間が必要なんです。身近な人が殺されたんですから気持ちの整理が必要なんです」

 

 カヤ姉の名前を出さなかったからか三人はそこまで悪い反応を示さなかった

 

「お願いします」

 

「で、でも、それじゃ……」

 

「別に教室で会うからいいじゃあないか」

 

「そうして私だけが蚊帳の外 学年が違うから」

 

 見るからに不機嫌になる神無さん。

 

「す、すみません」

 

「で、でも、卒業までには解消されるんじゃないかな」

 

「部長はそれでいいの!?」

 

 まだ陽佳は取り乱したままだ。

 

「いいわけない。でも、ユウヤはもう決めてる」

 

「考え直して下さい!」

 

「それに、今は気落ちしているかもしれないけどユウヤさんなら立ち直れます!」

 

 よく人の死からそんなに立ち直れるな。まぁ嫌いな人なら当然か、と心の中で毒気づく。

 

「部長も言っていましたけどもう決めたことなんです」

 

「で、電話はしていい?」

 

「いいって言ったらずっとするからダメだ」

 

「落ち着いて、二人とも」

 

「長引きそうなら、その時また考えればいい。まずは、ユウヤが落ち着ける状況が必要だと思う」

 

「…………分かった」

 

 渋々と言った感じだか陽佳も了承してくれた。

 

「そういうことだから。今日はもう帰るよ」

 

「はぁ……」

 

 ふとため息をつくもそこまで悪い気分ではない。ゲームをプレイしていてもかなりヤバいやつだったし、第一僕は他人に危害を加えるヤンデレは大っ嫌いだ。

 

 僕が部室を出て少し歩くと、角で会長さんが待っていた。

 

「話は終わったみたいね」

 

「生徒会長……聞いていたんですか?」

 

「いや、あなたを待っていただけよ。アドバイスした手前、どんな結果になったか気になったのよ」

 

 そして、会長は僕の身体を見渡したあと……。

 

「……うん。刃傷沙汰にはならなかったみたいね」

 

「さすがにそんな物騒なことにはならないですよ」

 

「あなたたちを引き離したらそんなことになるもしれない。そう思っただけよ」

 

「そこまでですか……」

 

 否定は出来ない。今まで色々な結末を見てきたからだ。

 

「それで、ちゃんと話せたのかしら?」

 

「はい。お陰様で」

 

 僕の言葉で生徒会長は安堵したように笑った。あえて言おう、可愛いと! まぁ、そんなことは置いておいて、生徒会長の話を聞く。

 

「さっきも言ったけど、また何か困ったら相談に来なさい」

 

「はい、わかりました」

 

「さてと、私は仕事に戻るわね」

 

「わざわざありがとうござ────」

 

 不意に、冷たい視線を感じた。

 

 振り返っても誰もいない。

 

「どうかしたの?」

 

「い、いえ、なんでも、ありません……。でも一応郷土研の三人には気を付けて下さい。もしかしたら気づいているかもしれませんから」

 

「……わ、分かったわ」

 

「じゃあ失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道、僕は一人で帰っていると、また視線を感じる。

 

「なんだ?」

 

 振り返っても誰もいない

 

 前へ向き歩き出す。するとまた気配のようなものを感じる。

 

 つけられているのか……まったく、モテる男は辛いぜ。なんて軽口を叩いている状況ではない。おそらく佐優理さんだろう。だが、妙な動きをすると怪しまれてしまうので、気にせずに足早に家に帰ることにした。

 

「ん?」

 

 家に着いてドアを開けると二つ折りになったメモが落ちた。拾い上げて広げる。

 

『お話を伺いに来たのですが、お留守だったのでまた来ます』

 

 文面は短く、工藤刑事の署名があった。

 

 また来たのか、今日は会っていないのに、僕を犯人だと疑って。

 

 あれから捜査も進んだはずなのに、まだ警察に疑われている。これは由々しき事態だ。

 

「まぁ、気にせず気楽にいくか」




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異変

昨日行った距離をとるというユウヤの選択。それは本当に正解だったのか。それでは第三話どうぞー


「あれ? まだこんな時間か」

 

 僕が朝起きて初めて口にしたのはそんな言葉であった。

 

 普段起きる時間よりも随分早い。生徒会長さんもいつも早く来てるって言ってたしもう学校へ行くか。

 

 いつもより早く家を出たせいか人の気配が全くと言っていいほどない。

 

 ……。……いや、何かおかしいぞ? 生徒はおろか大人すら歩いていないというのはおかしい。しかも、また後ろに人の気配がする。

 

 などと考えていると、後ろから声がかけられる。

 

「あら、早いのね」

 

 その声がかけられたことによって今まで考えていたことが全て、頭の中から抜け落ちてしまった。

 

「あ、お、おはようございますっ、会長も早いんですねっ」

 

 そう言葉を返すと生徒会長は

 

「まぁ、今日は少しやることがあってね」

 

「余った時間は生徒会室で勉強もできるし、割といいものよ」

 

 本当に熱心な人だと、僕は心の中でそう思った。

 

「勉強ですか。凄いですね」

 

「ええ。朝の学校は静かで、とってもはかどるわよ」

 

「そういえば、1日経ってみてどう?」

 

 生徒会長が話を切り替えた。郷土研のことであろう。

 

「なんか落ち着きません。でも不思議と悪い気分では無いですね」

 

「あら、意外ね。でも悪い気分じゃないって事は一回距離をとって正解だったみたいね」

 

「生徒会長さんのおかげですよ」

 

 問題は、警察に疑われているということだ。知っているとはいえ何回も聞かれると流石にストレスが溜まる。

 

 ただ、事が事だけに気軽に相談できる内容ではない。

 

 まぁ生徒会長は秘密とか約束は守りそうだし相談してみてもいいかもな……。

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

「あ……はい」

 

「いきなり黙り込んじゃうから、何事かと思ったわ」

 

「特に何も」

 

「……いや、また相談に乗って欲しいことがあるんですけど……いいですか?」

 

 僕の問いに生徒会長はニコりと笑みを浮かべる。

 

「もう、特に何も、とか言いながら心配事があるんじゃない」

 

「あなたからの相談だし、いつでも相談に乗るわ。郷土研のことでも、それ以外でも」

 

「ありがとうございます」

 

 少し、気が軽くなる。生徒会長に負担ばかりかけている。この前、愚痴とか聞いてあげるとか言ってあげたばかりなのに.

 

「あら?」

 

「どうしたんですか?」

 

「いえ、向こうに」

 

 咄嗟に振り向く。そこには何か言いたげな表情をしてこちらを向いている佐優理さんがいた。

 

「確かに、距離は取ろうとしているってわけね」

 

「佐優理さん……」

 

 こちらに向けられるうつろな視線。

 

 なぜこんな早くに登校している? 

 

 やはり生徒会長の命が危ないか……、と、考えるのはいささか過保護が過ぎるか。

 

「行きましょう、生徒会長」

 

「いいの?」

 

「お互い、我慢が必要だと思いますから」

 

「そうね……」

 

 佐優理さんの視線に背を向け、歩き始める。────結果から言うと彼女は、学校までずっとつけてきた。

 

 昇降口で生徒会長と別れ、教室へやってきた。

 

 佐優理さんも自分の教室へ行ったのだろう、視線も感じなくなっていた。

 

「誰も来ていないか」

 

 こんな時間だし仕方ない、

 

 ここは、会長にならって勉強でもするか。

 

 勉強をしていると続々とクラスメイトがやってきた

 

「ユウヤが勉強なんて珍しいな笑」

 

「今日は地震でも起こるんじゃね? 笑」

 

 皆が口々にに言う。

 

「お前らなー」

 

「あ、そういえばさ、喧嘩でもしたのか? お前ら」

 

 ……。……多分、あの三人のことだろう。

 

「喧嘩? …………ああ、まぁそんなとこ」

 

「マジか。お前らほどのやつでも、そんなことってあるんだな」

 

「まぁ、な」

 

 話している間に、別の視線を感じた。

 

 視線の方向を見ると一瞬だけ部長の姿が見えた。

 

 わざわざ二年の教室のところまで来て僕を見ていたらしい。

 

 なのに、二人とも近寄ってこない。僕の頼みを聞いてくれてるってことだな。

 

「喧嘩したのは仕方ないけどさ、なるべく早く仲直りした方がいいぜ」

 

「まぁ、そうだな……」

 

 そうこうしているうちに、一時間目の予鈴がなる。

 

「おいユウヤ、早く準備しようぜ。遅れちまう」

 

「ああ、そうだな」

 

 ────生徒会長の安否やこれからどうするか考えているうちにあっという間に午前の授業がが終わってしまった。

 

「ユウヤさん」

 

「ん?」

 

 気がつくと佐優理さんが目の前にいた。取り乱した様子もなく、いつもの穏やかな様子そのものだ。まぁ、今の状況ではそれがおかしいんだけど。

 

 現に陽佳は見渡す限りにはいない。

 

「よろしければ、お昼をご一緒しませんか?」

 

「ダメです。約束しましたよね?」

 

「大丈夫です。私は全部わかってますから」

 

 わかっている? まさかとは思うが、僕の正体のことか……? 

 

「悩み事があるんじゃないですか? それなら、なんでも話してください」

 

 なんなんだよ、この人は。相談相手ならもういるので必要ありませんよ。と口から出そうになるが何とか抑える。

 

「悩みなんてありませんけど……」

 

「私はユウヤさんの味方です。何があっても、どんな状況でも、絶対にユウヤさんの側にいます。例え、ユウヤさん自身が距離を置こうなんて心にもないことを言っても」

 

 こりゃダメだ。ちっとも僕の話を聞いていない。 

 

「ごめん、ちょっと用事があるから」

 

 そう言って、僕は早々に話を切り上げ、教室を出る。

 

 教室を出る直前、僕が見たのは、朝と同じような虚ろな目をした佐優理さんの姿だった。

 

 午後の授業。集中などできるはずもなかった。なんと言ってもあの佐優理さんの目がすごく怖かったのだ。ホラー映画に出てくる怪物のような、なんとも形容し難い表情がが、佐優理さんの顔に張り付いたかのように。

 

 そして、一人で帰っている時も、どこからか視線を感じる。

 

「き、気のせいだよな。」

 

 歩みが遅くなり、やがて歩みを止める

 

 このまま帰ってもなんか気が晴れ無さそうだし、商店街にでも行ってみるか! 

 

 目的地を変え、僕は再び歩き出す。

 

 だが、商店街の活気はそれなりでしかなかった。いざえもんの姿もないし。もっともあんな怖いぬいぐるみ、二度と見たくないけど

 

「あれは……」

 

 ふと和菓子屋を見ると生徒会長がいた。せっかくなので僕もそれにお邪魔させてもらおうと近づいた。

 

「あれ? 買い食いですか?」

 

「あら、あなたも来ていたのね。良かったら、この今川焼き食べる?」

 

 生徒会長に慌てている様子はなく、逆にその菓子を差し出してくるほどだ。

 

「ど、どうも。ありがとうございます」

 

 お礼を言って受け取る。するとホッとするような温かさを感じる。

 

「疲れている時は甘いものに限るわ」

 

 そう言って今川焼きを頬張る会長は、いつもの凛々しさとは違って、可愛く見えた。

 

「それにしても帰るの早いですね?」

 

「早めに来て、仕事をしたかいがあったわ」

 

 僕が朝、勉強している間に仕事を片していたのだろう。さすがだな。生徒会長は

 

「体だけじゃなく、気持ちが疲れている時も、こうやって適当に発散した方がいいわ」

 

 生徒会長もこうやってちゃんと発散しているんだな。だったらあんなこと言わなくてよかったかも。

 

「あなたは、その辺が苦手そうだものね」

 

 おそらく間違っていないのだろう。前までの僕ならば、だが。今の僕は違う、こうして生徒会長と話しているだけで気持ちが楽になるのだから。

 

「いや、生徒会長と話しているだけでだいぶ楽になりますよ」

 

「そ、そう? まぁ感謝の気持ちとして受け取っておくわ」

 

 そして話を切り替えるように生徒会長が言う

 

「それより!」

 

「はいっ」

 

「食べたわね?」

 

「食べましたけど……」

 

「これで共犯なんだから、誰にもいいつけたりしないこと」

 

 会長はこちらに笑顔を作っみせた。

 

「す、するわけないじゃないですか! みんなやってますって このくらい」

 

「それでも、生徒会長という立場だから気にしなきゃいけないのよ」

 

(生徒会長って、そんな大変な仕事なんだな)

 

「へぇ、大変なんですね」

 

「そうよ、大変なの」

 

 そんな彼女の返答を聞いて、僕は思わず吹き出してしまった

 

「ん……よかった。少しは元気になったわね」

 

「お陰様で」

 

 生徒会長と話していると、気持ちが落ち着いてきた。

 

「さてと、あまり寄り道も良くないし、私は帰るわ」

 

「僕もそうします」

 

「じゃあ、また学校で」

 

「はい」

 

 生徒会長と別れ、歩き出した。が、その時僕は気付いてしまった。

 

 かなり離れた柱の向こう、淀んだ目でこちらを見ている佐優理さんを。やっぱりあの視線は佐優理さんだったのか。気づかれたのを悟ったのか、佐優理さんはすぐ見えなくなった。

 

 こういった時、どうすればいいのか分からない僕はその場で立ち尽くすのだった。




読んでくれてありがとうございます
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生徒会長の気持ち

 今日もまた、早めに家を出た。

 

 全然眠れてなかったし、学校で仮眠でもとるかな。

 

 そう思っていると、声がかけられた。

 

「おや、早いね」

 

 慌ててふりかえったそこには、刑事さんが立っていた。

 

「!?」

 

「偶然ここらを歩いていたんだが、君に会えるとは。学校が始まるまで暫くあるだろうし、せっかくだから少し話でもどうかな」

 

「……いいですけど」

 

「……でも話すって何をですか? 何も思い出してませんよ」

 

 まさか、思い出すまで続けるのか? そんな事、刑事として許されるものなのか? 

 

「ふむ。そんなはずないと思うだがね」

 

「何故ですか?」

 

「刑事のカンってやつかな」

 

 そんな勘で犯人にされたらたまったもんじゃない。

 

「こんな所で無駄話してないで、仕事を進めた方がいいんじゃないですか?」

 

「いや、心配はいらない。仕事はきっちりするほうでね」

 

 流石にもう我慢の限界なんだよこっちは! と言いたいところだがそんなこと言ったらもっと酷くなりそうだしやめておいた。

 

「ああ、そうだ。当日のこと、もう一回最初から聞いてもいいかな」

 

「いいですよ。あの日は────」

 

 不毛な会話が続く。

 

 結局、僕が学校に着いたのは、普段より少し遅いくらいの時間だった。

 

 廊下をとぼとぼ歩く。なんか気が滅入るなぁ

 

「あら、昨日で少し持ち直したと思ったのに、暗い顔してるわね」

 

「あっ……生徒会長。まぁいろいいろありまして」

 

「彼女達のこと?」

 

「いや、別件です」

 

 僕の言葉に、生徒会長は表情を曇らせた。

 

「キミはいろいろと抱え込みすぎるみたいね」

 

「そうかもしれません……」

 

「もしかしたら、そっちが相談するかもしれない話なのかしら」

 

 相変わらず察しがいいな。生徒会長さんは

 

「今のままだと、本当に相談することになりそうです。ただ愚痴を聞いてもらうだけになるかもしれないけど」

 

「愚痴ね……そうなったら、私の愚痴も聞いてもらうわね」

 

 クスリとイタズラっぽく笑う。 可愛いなぁ、やっぱり。

 

「ははっ、そうなったらお願いします」

 

「私も期待しているわ。生徒会も雑用を押し付けられてばかりで、愚痴には事欠かないもの」

 

「生徒会ってもっとカッコイイ仕事かと思ってましたけど、そうでも無いんですね」

 

 アニメなどで見ると、もっと風紀を乱した者を罰するとかやっていて、かっこいいなと思っていたのだが……。

 

「現実はこんなものよ」

 

 そうやって話していると、生徒会長の後ろから佐優理さんが来るのが見えた。

 

 普段通り、穏やかそのものだ。まぁ今はそれが逆に怖いんだけどな。

 

 にっこりと佐優理さんが微笑むのが見えた。そしてゆっくりと掲げられたその手にははさみが握られていた。

 

「ちょっ、マジかよっ!」

 

 僕は咄嗟に生徒会長を引き寄せる。

 

 その瞬間、佐優理さんが持っているハサミが振り下ろされる。

 

「ちょ何してるんですか?! 佐優理さんっ」

 

「キャ──ッ」

 

 周囲にいた女子生徒が悲鳴をあげ、その場から離れていった。

 

「なんだあれ、生徒会長と……」

 

 遠くから注目が集まる。当然だ。

 

「あ、あなた、何を……!」

 

「いやほんと……何してんだよ……」

 

 呆れた。人に危害を加えるなんて、見損なったよ。

 

「助けなきゃ……」

 

「は?」

 

 何を言っている、人を殺そうとしておいて助けなきゃだと? 

 

「私がユウヤさんを助けなきゃ……待っててくださいね。すぐお助けしますから……」

 

「な、何を……言っているの?」

 

「ユウヤさん、最近悩んでらっしゃいました。そんな時に助けるのは、私たち三人の誰かのはずです……。でもそうなっていません……つまり、ユウヤさんは何か弱みを握られて、仕方なく一緒にいるんです」

 

「んなの、あなたの思い違いだ! 僕は弱みなんて握られてない! ですよね? 会長?!」

 

「ユウヤさん……」

 

 哀れみを含んだ目でこちらを見つめる佐優理さん。

 

「そうよ、私は誓って弱みなんか握っていないわ」

 

「どうして……どうして相談されるのがあなたなんですか。その役目は、あなたじゃありません。ユウヤさんはいつも私たちと楽しそうに過ごしていました……私のお弁当を、あんなに美味しそうに食べていらっしゃいました」

 

「私と一緒に食べなかったのに……なのに、生徒会長に貰った物を美味しそうに食べるなんて、間違っています……!」

 

「絶対何かあるに決まってます!!」

 

「はぁ……」

 

 生徒会長は大きくため息をついた。

 

「あなたたちが仲がいいのはよく分かります。それでも、いくらなんでも彼を縛りすぎじゃないでしょうか」

 

「落ち着いて、世間の常識と自分たちの状況を見つめ直すといいわ」

 

「世間の常識……? そんなものに意味はありませんよ」

 

「……まぁいいでしょう。いくら生徒会長が認めなくても、私は私の場所にユウヤさんを取り戻すだけですから」

 

「落ち着けよ、佐優理さん!」

 

「ふふっ。私が落ち着いていないように見えますか?」

 

 にっこりと笑う。その笑顔にもっと深い意味があるような。僕はそう思わずにはいられなかった。

 

「ユウヤさん、生徒会長なんかに頼ることはないんです。全部私に任せてください。それに、今刑事さんに疑われて困っているのでしょう?」

 

「だとしても……、僕は佐優理さんを頼らない」

 

「もうちょっとで真相がわかるんですから、来てくださいね? 私たちの大切な部活動なんですから。それとお昼、そちらに伺いますから」

 

「話を聞いてくれよ……」

 

 そう言っているうちに佐優理さんはどこかへ行ってしまった

 

「想像以上ね……。流石にこれは、貴方のせいじゃないと思うわ。でもどうしたものかね……」

 

「この件に関しては僕に任せてくれませんか?」

 

「でも今は……」

 

「生徒会長は、自分の身を最優先にしてください。いつ襲ってくるか分からないんですから!」

 

「優也くん……」

 

「それにもう身近な人が殺されるのは嫌なんです」

 

「……仕方ないわね」

 

 渋々だが了承してくれた。

 

 少々キツい言い方をしてしまったが、これも彼女の命のためだ。とにかく生徒会長に佐優理さんの凶刃が向かないように気をつけないと。

 

「予想外の展開ね……」

 

「……解決できるように頑張ってみます」

 

 心配する生徒会長に、僕はそう返すしか無かった。

 

 佐優理さんが昼に伺うと言っていたこともあり、午前中はそればかり考えていた。

 

 佐優理さんを突き動かしているものはなんなんだ? 

 

 本当に僕への愛だけなのか? 

 

「お待たせしました、ユウヤさん」

 

「お弁当、ここで食べますか? ユウヤさんのために沢山用意したんですよ」

 

「いらない」

 

「第一、僕達関わらないって約束したよな?」

 

「そっそれは……ユウヤさんのためを思って……」

 

「ダメだ」

 

「じゃあ僕は購買で昼ごはん買ってくるんで。佐優理さんは一人で食べててください」

 

「そんな……これもユウヤさんを惑わす悪魔のせいなんだ 全部アイツが悪いんだ!」

 

 そう言って佐優理さんは三年の教室へ走って行った

 

「お、おい待て!」

 

 そう言って追いかけようとすると廊下から悲鳴が聞こえる

 

「う、うわっ!」

 

 廊下を見ると佐優理さんが生徒会長の首にハサミを突きつけていた。

 

「い、一旦落ち着け」

 

「わ、わかったから昼飯食べるから、だから生徒会長を離してやってくれ」

 

「分かりました。一緒に食べてくれるなら最初からそう言ってくれればよかったのに」

 

 先程の形相とは打って変わってすぐに穏やかな表情に戻る佐優理さん。最悪の展開だ……生徒会長が殺されなかっただけマシか……。

 

「はい、どうぞ♪ 沢山召し上がってくださいね」

 

 ヤバいぞこの弁当、確か睡眠薬入りだったよな? だが食べなかったらまた騒ぎを起こしそうだし……

 

 まぁいい。細かいことは食べてから考えよう。

 

「いただきます……」

 

「おいしいですか?」

 

「ああ、美味しいんだが、ちょっとトイレ行ってきていいか? 少しお腹の調子が……」

 

「いいですよ♪」

 

 よし、ここは抜け出せた。のはいいのだが……。僕は激しい眠気に襲われた。

 

(ちょっとだ……あともうちょっとなんだ……眠るな!)

 

 そうして歩いていると急に意識が無くなる。

 

「……丈夫!? しっかりして! 優也くん!」

 

 ん? この声、生徒会長か。ああ、僕、寝ちゃったんだな。

 

 それにしても生徒会長が僕のこと名前で呼ぶなんて、嬉しいな

 

 そうしているとチャイムがなる。

 

「大丈夫なんですか? 生徒会長。授業遅刻しちゃいますよ?」

 

「そんなことどうだっていいわよ! あなたが倒れたって聞いて急いできたんだから!」

 

「まぁ、もうぼくも大丈夫だし、教室に行きましょう」

 

「本当に大丈夫なの?」

 

「ほんとですって」

 

 そうして教室へ戻って授業を受けていると外が何やら騒がしい

 

「宮主さん、なにを.」

 

「不穏な気配を感じたので、対策をとっているんです」

 

「これを置いて、結界を張ります。ユウヤさんに手出しはさせません」

 

「何をしているんですか、宮主さん! そんな所に石を置いて」

 

「ただの石ではありません。土地神様の力を秘めたパワーストーンです」

 

「いいから片付けを……」

 

 そうして先生と佐優理さんが言い争いをしていると僕の名前が出たことでみんなの視線がこちらに向けられる。

 

 そんな中、青い顔をした陽佳が立ち上がる。そして教室を出ると、叫ぶ。

 

「変なことにユウくんを巻き込まないで!!」

 

「変なこと……?」

 

「そうだよ! パワーストーンとか悪魔とか意味わかんないよ!」

 

「わからないなら黙っていてください」

 

「私は守るんです。行動を始めた悪魔の手から、ユウヤさんを守らなければならないんです!」

 

「────っ!」

 

「二人とも生徒指導室へ来なさい。話があります」

 

「分かりました。でも決してパワーストーンを動かさないでくださいね」

 

「……来なさい」

 

 佐優理さんも陽佳も連れていかれた。

 

 僕はなぜ授業中にもかかわらずこんなことをしたのか疑問に思った。

 

 放課後が終わったので、僕は予定通り生徒会室へ向かった。

 

「失礼します……」

 

「あら、いらっしゃい」

 

 あんなことがあったのに生徒会長はいつも通り迎えてくれた。心が寛大なんだろうな。

 

「あの、朝のこと、怖い思いさせちゃいましたよね……どうもすみませんでした!」

 

「どうしてキミが謝るの?」

 

「だって、それは……」

 

「もしかして、指示したのは君だったとか?」

 

「そんなわけないじゃないですか!」

 

「だったら、謝る必要はないわ。第一、あなたが助けてくれなかったら今頃私はここにはいないからね」

 

 ニッコリと気丈に笑った。なるほど、この人が生徒会長である理由がよくわかる。

 

「そういえば、午後は大変だったみたいね。噂はこちらにも聞こえてきたわ」

 

「そうでうね。あれは────」

 

 事のあらましをできる限り説明する。すると生徒会長の表情はみるみる曇っていった。

 

「気を悪くしないで欲しいのだけど、もう私たちだけで解決出来る範疇を超えてきていないかしら」

 

「────多分だけど、専門の医者が必要な話だと思うわ」

 

「そうですね……」

 

「でも先生が知ったのなら、親にはその話が渡るでしょうね」

 

 でも、あんな行動をおこした人が素直に親の言うことを聞くだろうか。嫌な予感がする。

 

「まぁもしそうなったら私たちは見ていることしかできないのでしょうね」

 

「確かに……それくらいしか出来ませんね」

 

「私も気を付けておくけど、キミも彼女の様子を見て教えてくれる?」

 

「はい、分かりました」

 

「後、話は変わるけど」

 

「なんですか?」

 

「朝、彼女が言っていた、刑事さんに疑われているというのは……」

 

「本当です カヤ姉が殺されたことで疑われてて……」

 

「もちろん、身に覚えはないのね?」

 

「当たり前ですよ!!!」

 

「ん……分かったわ。信じる」

 

 あっさりと信じてくれた。

 

「信じてくれるんですか?」

 

「キミはそういうことで嘘をつける人間でもないもの」

 

「ただ、愚痴を聞いてあげる以上のことができるかは、分からないけど……」

 

「ほんとに、ありがとうございます」




どうでしたでしょうか! 生徒会長がユウヤを呼ぶ時だけ漢字になってます。おわかりいただけましたでしょうか。
感想や改善点などあればどんどん書いてください。


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凶行

 僕を取り巻く状況がどんどんおかしくなっていく。

 

 それでも、学校にはちゃんと行こうと思った。僕を心配してくれる人がいるのだから。

 

 昨日生徒会長と仲良くなったんだし、さっさと準備して早く出よう。

 

「あら、今日も早いのね」

 

「まぁ、会長が心配になったんで」

 

「あら、私の事そんなに想ってくれていたなんてね」

 

「な、なんですか!? 急に!?」

 

「冗談よ。まさか図星だった?」

 

 小悪魔のように笑みを作る会長。

 

「そっそんなことないですよ!」

 

「あら、そう」

 

「そ、それよりも! 会長の名前ってなんですか? そういえば聞いてませんでしたよね?」

 

「九条静香よ」

 

「あの、これから名前呼びにしていいですか?」

 

「いいけど、二人きりの時だけにしてよね」

 

「なんでですか?」

 

「生徒会長があの郷土研の男子と付き合ってるなんて噂されたら、文化祭の時に不正したって言われても言い訳出来ないからよ」

 

「あ、そういう事ですか。分かりました。それって僕を嫌いになったって事ではないですよね?」

 

 僕は少し意地悪な質問を投げる。

 

「そんなわけないじゃない。あなたは命の恩人だもの」

 

 そう話していると、後ろから声をかけられる

 

「おや、彼女連れかい?」

 

 刑事さん、僕をおちょくってるのか? 

 

「違いますよ!」

 

「まぁいい。今は君に聞きたいことがあってね」

 

「なんですか?」

 

 僕は敵意むき出しでそう答える

 

「おやおや、そんなに怒っているのかい?」

 

「違います! とにかく、今日は急用があるんです! 事情聴取はまた今度にしてくれませんか?」

 

「そんなに急いでいるとは仕方がない。また放課後出直すことにするよ」

 

 そう言って刑事さんは帰って行った

 

「ところであなたが言っていた刑事さんってあの人?」

 

「そうですけど……何かあるんですか?」

 

「いえ、なんでもないわ。さぁ 行きましょう」

 

「は、はい」

 

 どうしたんだろう静香さん。あの刑事さんと何かあったのかな? 

 

 そうして学校に着くとまぁ誰も居ない。そうして佐優理さんが変わってしまった理由を考えていると、昼休みになった。悪い予感はするが、逃げるともっと悪い事がおきそうな予感がする。

 

 そう考えた直後だった。

 

「銀色の悪魔が襲ってくる~♪ テスラ波を撒き散らしながら~♪」

 

 歌声とともに佐優理さんがやってきた。

 

 歌いながらという時点でおかしいが、歌詞がその不気味さをさらに引き上げている。

 

 クラスメイトたちも、流石におかしいことに気づいたのか、ひそひそと言葉を交わし合う。

 

「ユウヤさん、お昼をご一緒しませんか?」

 

「あーいいや、今日は購買でパン買ってきたし」

 

 こんなこともあろうかと休み時間のうちに買っておいたパンを見せつける。

 

 佐優理さんは料理は上手いが、以前、睡眠薬を入れられたんだ。安心して食べられるわけが無い。

 

「どうして、せっかくユウヤさんのために作ってきたのに……」

 

「今日はそういう気分なんですよ。すみませんね」

 

 僕は申し訳程度に謝罪する。するとまたおかしなことを言い出した

 

「昨日までは食べてくれたのに……また悪魔の仕業なんですね……」

 

「悪魔なんてこの世にはいませんよ。何言ってるんですか、佐優理さん」

 

「いいえ、私は知っています。きっと、ユウヤさんは騙されているんです」

 

「悪魔は狡猾で、いつもつけ入る隙を探しているんですから」

 

 さっきから悪魔悪魔ってうるせえんだよ! 悪魔はお前じゃねえか! なんて言いたいところだ。

 

「もう、これからは近づかないでくださいね」

 

 そういうと佐優理さんはブツブツと呟きながら行ってしまった。

 

 やっぱり佐優理さんはまともな精神状態じゃない。

 

 なんとかしたい。なんとかして佐優理さんの凶行を止めたい。でもあの引き出しのハサミのトラップをいつしかけたかわからない以上、止めようがないんだよな……。

 

 とにかく今は佐優理さんを追いかけないとみんな殺されちゃう! 

 

 ということで僕は追いかけることにした。

 

 探していると静香さんと出くわした。そういえばみんなの前では名前呼びダメって言ってたな.

 

「あっ、生徒会長!」

 

「あら、何をしているの?」

 

 僕が口をつぐむ

 

「……何かあったの?」

 

「佐優理さんを見ませんでしたか?」

 

「私は見てないけど……」

 

「彼女がどうかしたの?」

 

「それが一度僕のクラスに来たんですけど、それからどっかに行っちゃって、様子がおかしかったから探してるんです」

 

「そうだったの……私も探した方がいいかしら」

 

「生徒会長は自分の身を守っててください 出くわしたら会長に何するか分からないんで」

 

「あなた、私の事心配してるけど、あなたは大丈夫なの?」

 

「えっなn──」

 

 僕が口に出そうとした瞬間だった。

 

 静香さんに向かってキラリと光るものが落ちてくるのが見えた。

 

「会長、危ない!!」

 

 危険に気付いた静香さんが避けると同時にそれは床に落ちた。

 

 頬に掠めたようで、うっすら血が浮かんでいる。

 

「会長!!」

 

「だ、大丈夫……ほんのちょっと掠めただけだから……」

 

 落ちてきたものはハサミだった。避けるのがあと少し送れたらと考えると……いや、想像もしたくない。

 

 そしてハサミといえば……。

 

「おいおいおいマジかよ。このハサミって……」

 

「こういうことをする人だって思いたくないけど」

 

 驚いているものの静香さんは冷静だった。キッと上の階を睨みつけ。階段を上っていく。

 

 それに続いて僕も上っていく。すると、やはりと言うべきか、佐優理さんがいた。

 

「今の行動について、説明してもらえるかしら?」

 

「すみません、手が滑ってしまいました」

 

「へえ……じゃあこんな場所で、ハサミを使うような用事があったのかしら」

 

「はい♪」

 

 佐優理さんはにっこりと頷いた。

 

 言葉の全てが白々しいのに、まるで戸惑う様子がない。

 

「じゃあ、教えて貰える? あなたはなにをしていたの?」

 

「言う必要はありません」

 

「こっちはね、貴方の落としたハサミで怪我をしているの。説明を求めるだけの理由はあるわ」

 

「しつこいですね……」

 

 佐優理さんの目がスっと冷たくなった。だがぼくはもう我慢の限界だ。

 

「おい佐優理、あんた自分が何をしたかわかってんのか!」

 

「ユウヤさん……」

 

 再び佐優理さんの表情が変わる。しかし、今度は困った様子だった。

 

「僕たちのことを気遣ってくれた生徒会長を傷つけるってのは、一番やっちゃいけないことなんだよ!」

 

「それに私になんでも出来るってわけじゃないけど、それでも生徒のみんなの助けになりたいとは思っているわ」

 

「ほら、佐優理さん」

 

「…………」

 

「……はぁ。仕方ありませんね」

 

 ふわりと雰囲気が柔らかくなった。

 

「どうもすみませんでした」

 

「……分かってくれたならいいわ。ただ、少しお話を聞きたいところだけど」

 

「人気のないところでお願いしてもいいですか?」

 

「そうね。だったら、生徒会室で」

 

 そう言って静香さんは佐優理さんに背を向ける。

 

「あっ……」

 

 僕は見た。その時、佐優理さんの口が、笑みを形作っていたのを。

 

「マジかよ!?」

 

 僕は走った。

 

「ん? 優也くん?」

 

 静香さんが後ろを振り向いた時だった

 

「……なっ!」

 

「静香さんッ!!」

 

 絶対助けてみせる! 

 

 突き飛ばされた静香さんを、何とか受け止める。

 

 命を助けるためならこんな重さなど何ともなかった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「え、ええ」

 

「何やってんだよアンタは!」

 

「あらぁ、ダメじゃないですか、ユウヤさん」

 

「えっ……」

 

「いくら優しいからって、悪魔を助けては行けません。悪魔は、敵なんですから」

 

「こんな時にも悪魔悪魔って、もし僕が受け止めていなかったら、大惨事になっていたところだぞ!」

 

「ふふふ……うふふふ」

 

「……」

 

 何も言えない僕たちを横目に佐優理さんは悠々とどこかへ行ってしまった。

 

 騒ぎがあったと聞きつけた生徒たちが集まってくる。特に静香さんのクラスの人が多いように感じた。

 

「とりあえず場所を移動しましょう。会長」

 

「そうね……」

 

 

 

「それにしても、参ったわね……」

 

「すみませんでした! こんなことになるって思わなくて……」

 

「ええ、それは私も同じよ。でもこれって、本当に私たちにはどうしようもないんじゃないかしら?」

 

「……」

 

 気丈に振る舞う静香さんだが、その身体は細かく震えていた。

 

 僕は、何も言えなかった。

 

 

 

 そういや、刑事さん放課後来るって言ってたな。忘れてたらいいのだが。

 

 そうして下校していると刑事さんが家の前で待ち構えていた。

 

「あの、なんですか?」

 

「朝言ったろう? キミに聞きたいことがあるって」

 

「なんですか、聞きたいことって」

 

「それがな、宮主佐優理のことなんだが」

 

 僕はグッと表情が強ばる

 

「どうしたんだい? 彼女と何かあったのか?」

 

「それが……」

 

 今日あったことを全て話した

 

「そんなことがあったのか……大変だったな……」

 

「はい、お気遣い感謝します」

 

「しかし困ったなぁ……今日話したかったのはその事だったのだが……」

 

「そうなんですか……じゃあもういいですよね? 刑事さん」

 

「ああ」

 

 やっと解放された……。

 

 今日はもう疲れたしもう寝ようか……。




明日は生徒会長に危機が訪れる日だ!早く学校行かなきゃ!間に合って!如月優也! 次回 ヤンデレ地獄 第四話 悲劇の序章
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悲劇の序章

「ふゎー」

 

 まだ意識がはっきりしないが、これだけは覚えている。

 

「そうだ、静香さんが!」

 

 僕は即座に家を出る。

 

「あら、どうしたの。そんなに急いで」

 

「静香さん!」

 

「ど、どうしたの!? 大きな声出して」

 

 どうする? 静香さんの机にハサミが仕掛けられていることを言うか? いや、いっても僕が疑われるだけか。そうだ! 

 

「あの、今日は静香さんの教室までついて行ってもいいですか?」

 

「誰もいなかったら良いけど、どうしたの?」

 

「いや、何か嫌な予感がして.」

 

「それって佐優理さんのこと?」

 

「はい。昨日、騒ぎがあった時、静香さんのクラスメイト沢山来てたでしょう? それでその間に何か仕掛けられてたらって思ったので」

 

「多分大丈夫だとは思うけど」

 

「一応ですよ。杞憂になればいいんですけど」

 

「まったく、あなたの私に対する心配は相当なものね笑」

 

「心配なんですよ。もし静香さんに何かあったら立ち直れない気がして……」

 

「まぁ、こんな所で立ち話もなんだし、早く学校に行きましょう」

 

「そうですね」

 

 そして僕は学校に着くと静香さんと一緒に教室に行く。この光景が佐優理さんに見られていなければいいのだが。

 

「静香さんの机ってどこですか?」

 

「ああ、ここよ」

 

 そう言って静香さんは前の机を指さす。

 

 確か机に教科書を入れていたら、ハサミが飛び出したって言っていたよな。

 

 僕は机の中を覗く。すると銀色に光る何かがあった。

 

「ありました、静香さん!」

 

「え、どうしたの?」

 

 僕は机の中に手を入れ刃物を取り出す。

 

「ちょっなにやって──ー」

 

 静香さんがそう言いかけたところで僕が取り出したものを見て言葉を失う。

 

「えっこのハサミって……」

 

「恐らく静香さんの予想通りでしょう。でもこれからどうします? 僕は先生に報告するのがいいと思いますけど」

 

「報告って、あなたはいいの? 言ったら佐優理さんが離れるかもしれないのよ?」

 

「いや、誰のハサミとかは言わなくてもいいですよ。ただ机の中にハサミが飛び出すように入っていた。そういえばいいんですよ」

 

「そういう事ね。」

 

「あら、気づかれましたか。」

 

 後ろからかけられた声を聞き、僕はすぐに静香さんを庇う。

 

「ちょっ何をっ優也くん!」

 

「何をやっているんですか。また悪魔を庇うつもりですか?」

 

「もう僕たちを、放っておいてくれ!」

 

「ユウヤさんを放っておけるわけないでしょう?」

 

 僕がこんなに語気を強めて言っているというのに彼女は何一つ動揺しないで言ってくる。

 

 すると窓から見える景色にたくさんの生徒がやってくる光景が見えた。

 

「とにかく、そろそろみんな来るんだから、教室に戻りましょう。ユウヤさん」

 

 そう言われ、女性の力とは思えない強い力で引っ張られていく。

 

「会長! これからは教室も気を付けて下さいね!」

 

 そう会長に言うと僕の腕を掴んでいる力はよりいっそう増していく。

 

「もう、ユウヤさん。なんで机に入っているハサミをとったんですか、折角悪魔を殺すチャンスだったのに……あっそれと今日は、部室に来てくださいね? 来なかったら、分かってますよね?」

 

 恐らく行かなかったら今度こそ静香さんを殺すつもりだろう。

 

 だったら行くしかないじゃないか! 

 

「わ、分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みになっても、佐優理さんが現れることは無かった。

 

 そうして一度も僕の前に姿を現さないまま放課後になった。

 

 行かなきゃな……いや、その前に陽佳に注意喚起しとかないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────ーと陽佳との会話が終わり、僕は震える足を抑えながら部室に向かう。

 

「すぅ……」

 

 深呼吸をし、呼吸を整え、部室のドアを開ける。

 

「いらっしゃい、ユウヤさん」

 

「……こんにちは、佐優理さん」

 

「私、ユウヤさんにお話があるんです。だから、こうして来てくださって嬉しいです」

 

 何が嬉しいだよ。脅して来させたくせに。

 

「言わなくても分かるんですから、やっぱり気持ちが繋がっているんですね」

 

「僕からも話があります」

 

「あら、なんでしょう」

 

「佐優理さんの方からでいいですよ」

 

 そう言ったのは別に優しくしたいといった感情では決してない

 

 佐優理さんの話を聞いて、何か元に戻すためのヒントが見つかるのではないかと期待したからだ。

 

「では、お言葉に甘えさせてもらいますね」

 

「私からのお話は、ユウヤさん自身のことです。ユウヤさんは、そろそろ自分の価値を知らなければいけません」

 

「僕の価値……?」

 

「ここに遠い昔のことが書かれた書物があります。これを見れば、きっとユウヤさんも覚醒するはずです」

 

 そうして、佐優理さんは一冊の本を見せる。いや、絵本と言った方が正しいか。

 

 そして佐優理さんは、児童向けの本の内容を誇張したような戯言を言っていた。

 

「えっと……?」

 

 本の内容は分かる。だがなぜ僕がその王子とやらになるんだろう。

 

「そして、あなたを守る騎士の生まれ変わりが、私です」

 

「騎士は王子に助けられて、生涯の忠誠を誓ったのですが、思い出しませんか?」

 

「な、なんですか? それ」

 

 こりゃあ電波ってレベルじゃねえ。もう手遅れなんじゃないか? 

 

「ユウヤさんのお話はどんなことですか?」

 

「ぼ、僕は佐優理さんに元に戻って欲しいだけで……」

 

「私は、昔からこうですよ?」

 

 昔から、か.

 

「じゃあ生徒会長を殺そうとしたのも、佐優理さん自身の意思なんですね?」

 

「はい♪」

 

 満面の笑みで頷く

 

「あの人は、ユウヤさんを誘惑していた悪魔です。だから排除しようとしたんですが、何故かあなたが邪魔をして」

 

 そこに罪の意識はない。いや、佐優理さんの中では正義なんだろうな。

 

「でも、また1人、敵になってしまった人がいるんです。仲間だったはずなのに」

 

「仲間だったはずって.」

 

 佐優理さんが仲間と思う人は限られる。恐らく郷土研のメンバーだろう。

 

「生徒会長を排除したあとは陽佳さんでしょうか……それとも、神無さん? ユウヤさんのために排除しておかないと」

 

「僕のためだって? ダメだ! そんなこと」

 

「悪魔に慈悲をかけてはいけません。全部無駄なんですから」

 

「でも、ユウヤさんは気にしなくてもいいですよ。悪魔との戦いは私がしますから」

 

「だから、早く目覚めてくださいね……?」

 

 これ以上どうすればいいんだ……? こいつに

 

 それに陽佳や部長さんも助けたい。

 

 だけど、僕が助けようとすればそれは逆効果になるだろう。

 

 目の前に佐優理さん。

 

 僕の反応を待っている。

 

 こういうタイプは話を聞かない。逃げよう

 

 タッタッタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は逃げ出した。本当にこれで良かったのかは僕にも分からない。だがこれは現実だ。ゲームと違ってやり直しはきかない。

 

 そして逃げた勢いのまま僕は家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日、僕はまた早めに家を出た。

 

「あっ静香さん」

 

「またなの?」

 

「あんな事件があったんです。ボディーガードは僕に任せてください」

 

「頼もしいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今日で3日目だ。あの日以来、佐優理さんは学校に来ていない。そしてひとつ進歩があった。そう、静香さんとメアドを交換したのだ! 最っ高だ! そして何故かいつもの刑事さんが来なかったら日があったので、代わりの刑事さんの電話番号も携帯に登録しておいた。

 

 生徒会長と別れ、家に帰る。

 

「ふわ────」

 

 身動きが取れない。どういうことだ? 

 

 そして目を開けると知らない場所が目の前に広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




突如として知らない場所に連れていかれた優也。
優也の未来は凶か吉どっちなのか!?
次回!ヤンデレ地獄 優也の行方 お楽しみに!
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優也の行方

 おいおいおい。手足が縛られてるじゃねーか。それに気づいた僕は何とかちぎれないかと力を入れてみるが拘束は解けない。「ガタガタ……」

 

 隣の部屋から物音がする。恐らく佐優理さんだろう。ということは何かあった時のために監視しているって事だ。って事は物音を立てたらまずいな……

 

 そんなことを考えていると、障子が勢いよく開く。

 

「優也くん!」

 

「えっ静香さん!?」

 

 どういうことだ、何故静香さんがこの場所を知っている? 

 

「何しに来たんですか、危ないですよ!」

 

「危険も何も、あなたを助けに来たのよ」

 

「なんで僕の場所知ってるんですか?」

 

 僕は小声で問う。

 

「そりゃいきなり学校に来なくなったのよ。佐優理さんの関与を疑うでしょ。だから佐優理さんの家に来たのよ」

 

「じゃあその紐、切るわね」

 

 そう言って静香さんは小型のナイフを取り出すと僕の手の紐を切ろうとする。

 

 すると、静香さんの背後から、いざえもんが迫ってくる。

 

「危ない!」

 

「えっ」

 

 慌てて静香さんは後ろを振り返るがもう遅い

 

 ゴンッ! 

 

 何か石のような質量のある物を静香さんの頭部に当てたようだ。そして、頭に当たった衝撃で手に持ったナイフを落としてしまったようだ。そしてナイフは折れてしまった。それを僕は見逃さなかった。

 

 そしていざえもんは静香さんをどこかへ運んでいく。その間に折れたナイフを手に取り、ズボンの中に入れる。そして帰ってきたいざえもんは、着ぐるみを脱ぐ。いざえもんの正体は佐優理さんだった。

 

 帰ってきた佐優理さんは言う。

 

「あら、いけないと言ったではないですか。悪魔と話すのは」

 

「おい、会長は無事なのか!?」

 

「彼女はユウヤさんの覚醒のために必要なので、生かしてあげています」

 

「僕が覚醒したら、会長は助けてくれるのか!?」

 

「悪魔を生かしておく必要はありません。ユウヤさんが覚醒したなら、廃棄処分になりますね」

 

「なんてことっ.」

 

 僕は静香さんをものとしか見ていない言動に絶句する。

 

「それに、悪魔に取り憑かれたあなたには浄化していただけなければなりません」

 

 浄化? 僕に何をしようって言うんだ! 

 

「ユウヤさん、今は分からないかもしれません。ですが、覚醒してしまえば、きっと分かります」

 

「意味が分からない! そもそも覚醒ってなんなんですか!」

 

「ふぅ……私の知らない間に、こんなに悪魔の影響を受けていたんですね」

 

「陽佳さんや神無さんもそう……私と同じ騎士でこそありませんが、ユウヤさんの味方だと思っていました」

 

「それなのに、まさか、悪魔の一員となってユウヤさんを私から引き離そうとしていたなんて……」

 

「あなたは勘違いしてるんだよ。それに僕は、皆と距離を取ろうとしたけど、それは別に陽佳たちのせいじゃない!」

 

「ああ、最初はあの生徒会長でしたね。そちらでうまくいかなかったから、陽佳さんたちを使うことにしたんでしょう?」

 

「いかにも悪魔が好みそうな手段です」

 

 くっそー何を言っても通じない。佐優理さんの中では、確固たる悪魔の姿があるのだろう。

 

 何もかも頭の中で完結してしまって、僕が何を言っても意味が無いようだ。

 

 どうしたら、事態が好転するのだろう。それに、紐が切れたとしても、静香さんを見つけて、助け出さないといけないし。

 

 そう考えていると、お腹がなる。

 

「あ、すみません。ご飯を持ってくるのを忘れていました」

 

「少し待っててくださいね」

 

 まだだ。まだ逃げ出す時じゃない。少なくともこの生活のルーティーンが分からないと。

 

「お待たせしました♪」

 

 佐優理さんは持っていたおにぎりを、僕の口元へ運んでくる。

 

「うっ……」

 

 これにも、何か薬物が入っている可能性がある。

 

「……食べないんですか?」

 

 不思議そうに首を傾げる

 

「あ、いえ……いただきます」

 

 これで眠気が襲ってきたらこれからは食べないようにしよう。

 

「はい、どうぞ」

 

「むぐ、むぐ……ん……」

 

「ふふっ。おいしいですか?」

 

「え、ええまあ……」

 

 正直美味しいが、今の状況でそんなこと言えない。

 

「慌てなくても大丈夫ですよ。次はお茶をどうぞ」

 

 今度はコップを口元へ運んでくるが、これはさすがに無理があった。

 

「む、ぐぐ……げほっ!」

 

「次はストローを用意しますね。なにぶん不慣れなものですみません」

 

 そういう問題じゃねえんだよ。

 

 脱出するまでこんな食事が続くと思うと、それだけで気が滅入ってしまう。

 

「さて、食事は終わりましたしどうしましょうか。時間はありますが、逆に迷ってしまいますね」

 

「だったらもう僕は寝ますね」

 

 そう言って僕は目を閉じる。だが意識を無くさないように佐優理さんが部屋から出ていくまで、目を閉じておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────五時間後────

 

 

 

「もう寝たみたいですし、私も寝ましょうか」

 

 遅いんだよ! まあいい、障子が閉まる音もしたし本当に出ていったんだろう。目を開ける。

 

 本当にいないことを確認した僕は、ズボンからナイフの破片を取り出す。

 

「こんなんで切れるのか?」

 

 僕は疑問に思ったが、物は試しだ。やってみるしかない

 

 ザクザクザク スパッ

 

 なんだ、思っていたより簡単に外れたぞ。

 

 そして足の紐を切った僕は、正面の障子ではなく、別の障子から出た。

 

「静香さんを探すか。」

 

「誰を探すって言いました?」

 

 背後から聞こえたその声に驚いて即座に振り向く。

 

「静香さん!? 生きてたんですか!」

 

 僕は歓喜の声を上げる。だが、静香さんの手を見ると、そんな気持ちは消え失せる

 

「どうしたんですか!? その手は!」

 

「その話は後にしてちょうだい! とにかく逃げるわよ!」

 

「あ、そうですね」

 

 僕は出口が分からないので、静香さんに着いて行く。

 

 すると、正面の入口についた。だが鍵がかかっているので抜け出せそうにない。

 

「どうします?」

 

「上から抜け出せそうと思ったんだけど」

 

「あっそれいいかも 僕はここに残るんで、静香さんは外に出て、助けを呼んでください」

 

「でも、それじゃ優也くんが!」

 

「大丈夫ですよ。佐優理さんは、僕には多分手を出さないんで」

 

「それに、静香さんが残ったら何されるか分からないでしょう?」

 

「そ、それは、そうね」

 

「でも、本当に大丈夫なのね? 何かあったら容赦しないわよ?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 そう話していると、後ろから佐優理さんが走ってくる。

 

「さあ、早く、静香さん!」

 

 そう言って静香さんを扉の上へと登らせる。

 

「何をやってるんですか!? ユウヤさん! 悪魔を逃がすなんて」

 

「逃がすも何も、僕は助けただけです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タッタッタッ

 

「本当に大丈夫なのかしら 優也くん」

 

「とにかく、助けを呼ばないと!」

 

 ガラガラー

 

「あの! すみません! 行方不明の如月優也さんですが!」

 

「ああ、その子がどうかしたのかね?」

 

 少々若めの刑事さんがやってくる。

 

「いました!」

 

「どこにいたんだね?」

 

「それが、宮主家の中で手を縛られて……それに、私も!」

 

 そう言って手を見せる

 

「こ、これは……」

 

 刑事さんは無線で連絡を取る。

 

「大変だ。宮主家に行方不明の如月優也が囚われているという情報が入った。至急、応援を求む」

 

「応援が来るまで、待つんですか?」

 

「当たり前だ。一人で入って襲われたら大変だからな」

 

「そうですか……分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、どういうつもりだ! ここから出せ!」

 

 僕は地下の個室に閉じ込められていた。

 

 これじゃあ警察が来ても見つからないんじゃないのか? 

 

 まぁいい。佐優理さんが近くにいないというだけで、

 

 こんなに安心感があるなんてな。

 

「ちょっ何するんですか! 離してください!」

 

 遠くで佐優理さんの声が聞こえる。

 

 警察が来たのか!? そう思い、僕は大声で助けを求める。

 

「助けてくださーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? なにか声がしたぞ?」

 

「人質かもしれん。行くぞ!」

 

「了解」

 

 タッタッタッ

 

「おいおいどうなってんだよ、この家。」

 

「手分けして探すぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい! ここでーす!」

 

 僕は大声で叫び続ける。

 

「おーい、大丈夫か!?」

 

 この人は……誰だ? まぁいい

 

「早くここから出してください!」

 

「まぁ待て、少年」

 

 そう言って刑事さんは無線で連絡する。

 

「こちらハヤト巡査。人質を発見した。扉には鍵がかかっており、一人では開きそうにない、応援を求む!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明神のやつ、やるなー!」

 

「確か、あいつこっちから行ったよな……」

 

「あっいた!」

 

「この扉か?」

 

「そうだ」

 

「簡単に開きそうだが?」

 

「試してみたらどうだ?」

 

「グゥウウウッ」

 

「本当だ。これじゃあお前が開けられないのも納得だな」

 

「よし、ハヤト、開けるぞ! せーの!」

 

 バタンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます!」

 

「いやいや、これが仕事だから」

 

 かっこいいなぁ警察って

 

「よし、脱出するぞ、少年!」

 

「は、はい!」

 

 タッタッタッ

 

「静香さん!」

 

「優也くん! も──死んだんじゃないかって思ったんだからー うわぁ──ん」

 

「まぁま、そんな泣かなくても」

 

「泣くわよ! 好きな人が死んじゃうかもしれないのに!」

 

 え、す、好きな人──ー!? ど、どういうことだ? 脳が追いつかない。

 

「え、し、静香さん? 僕のこと好きなんですか?」

 

「当たり前じゃない! 二度も言わせないでよ!」

 

「あ、あの 僕も好きなんですけど……」

 

 そういうと静香さんは顔を真っ赤にしてこう答えた

 

「そ、そうなのね べ、別にう、嬉しくなんか、ないんだからぁー」

 

「ん、んん」

 

「あ、すみません。刑事さん」

 

「話は彼女から聞かせてもらった。大変だったな。少年」

 

「それより! 佐優理さんはどうなるんですか!?」

 

「それは裁判をしてみないと分からないが 重罪になることはないだろうな」

 

「そうですか」

 

 良かった.別に佐優理さんも悪い人って訳じゃないからな。

 

「それと! 今日は家に帰ってもいいですか?」

 

「いや、まだ事情聴取が.」

 

「せめて今日ぐらいはゆっくりさせてあげた方がいいんじゃない? 巡査」

 

「それもそうだな」

 

「よし、少年。帰ってもいいぞ!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわー。本当、今日は大変な一日だったな」

 

 そう言って僕は布団に入る。




佐優理ルートでのifEND終わりました。
次は尊海神無ルートでの生徒会長生存を予定しております。
読んでくれてありがとうございます。
感想や意見、誤字脱字などがあればどんどん書いてください!


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尊海神無編
新たな始まり


 僕は朝起き日付を確認する。すると、香也子さんが殺された次の日だった。

 

「ど、どうなってんだ!?」

 

 僕は落ち着いて頭を整理する。

 

「確かさっき、佐優理さんの家から助け出されて、家に帰って寝たところだよな?」

 

 僕は想定する中で最悪の結論にたどり着く。

 

「まさか!」

 

 このゲームは話を理解しようとすると順番的に佐優理さんの次に神無さんを攻略しないといけないようになっている。

 

「と、とりあえず学校行ってみるか。この時間帯だと、静香さんもいるだろうし」

 

 そう言って僕は、家を出る。

 

「あら、あなた、もう学校に来て大丈夫なの?」

 

「あっ、し、会長! ま、休んでもいられないですから」

 

 危ねっ! もうちょっとで名前で呼ぶとこだったー

 

「ちょっと、いいかな?」

 

 そんなことを話していると、刑事さんから声がかけられた

 

「あ、刑事さん」

 

 刑事さんがいた事に少し動揺するが、とりあえず今から刑事さんが話すことは聞かれたらまずい。会長は、先に行かせよう。

 

「会長、先行ってください」

 

「ああ、警察の方ね、わかったわ」

 

「で、なんですか、話って」

 

「思い出させて悪いが、先日の殺人事件の事だ」

 

「ああ、その事ですか」

 

「その事なんだが、キミたちが所属している、その……なんだ」

 

「郷土研のことですか?」

 

「ああ、それだ。そのメンバーの事件当日のアリバイなんだが、尊海神無さんのアリバイがないんだ。聞いたら、覚えていないみたいなんだ」

 

「まぁ部長忘れっぽいですから、いつもの事ですよ」

 

「あの、部長を疑ってるんですか?」

 

 僕は単刀直入に聞く

 

「いや、そういう訳ではないんだがね」

 

 恐らくこの刑事は郷土研のメンバーを疑っている。これ以上話していると、揚げ足を取られそうなので、話を切り上げる。

 

「あの、すみません。もうすぐ始まるんで、行ってもいいですか?」

 

「あ、ああ、すまんな 少年」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラスの雰囲気が重い。この街から殺人鬼が現れたというのだから当然だ。

 

 しかも教師達は学校の名を傷つけないよう念を押している。

 

 学校の落ち着かない空気は、当分の間続きそうだ。

 

「ユウくん、おはよう……」

 

 陽佳が少し距離を話したところから話しかけてくる。

 

 いつもの元気がない。僕のことを気遣ってくれているのかもしれない。まぁ僕はそんなことよりも静香さんを守ることに必死なんだが。

 

「おはよう」

 

「あれ? ユウくん、顔色悪いよ?」

 

「あぁ、そのことなら大丈夫だ。ちょっと考え事してるだけだから」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「あ、それと、部室の方はどうなった?」

 

 なぜか携帯に活動日誌の写真が入っていたのだが、それについて何かわかるかもしれない。

 

「部室にあるものは、警察に持っていかれちゃった……

 酷いよね、活動日誌まで持っていかれちゃった……」

 

 やはり活動日誌も持っていかれているのか……

 

 まさか、本当に警察は郷土研を疑っているのか……? 

 

「悪い陽佳。そろそろ行かなきゃ、次の授業に遅刻しちゃう」

 

「でもまだ休み時間だよ。ユウくん?」

 

 陽佳の言葉を無視して、僕は教室へ戻る

 

 今はまだ穏やかに話をする気分ではない。

 

 もし陽佳が人殺しなのだとしたら、僕は許せるだろうか? 

 

 そういや、佐優理さんを見てないな。確か、生徒会に虚偽の報告をして、僕と陽佳を追い詰めるはずなんだが……

 

 まぁいい。もしかしたら休まなかったことで、未来が変わるかもしれない。

 

「そろそろ帰るか……」

 

「ユウくん、もう帰るの?」

 

「今日はあんまり寝てなくてさ、家に帰って寝るよ」

 

 そう言って僕は足早に学校を出る。

 

「そうだ、ゲーセン行ってみるか」

 

 ゲーセンは初めてなんだが、興味がある。

 

「あら、もう帰るの? 学園祭が終わったからって、気が抜けているんじゃない?」

 

「会長……」

 

「なによ? あなた、目が疲れているわよ? 何か考え事でもしてるんじゃない?」

 

 静香さんなんで僕の考えがわかるのかな? テレパシーでも使っているのか? 

 

「まぁ、ちょっと」

 

「悩みがあるなら私に言いなさい。助けになってあげるから」

 

「ありがとうございます 会長」

 

 優しいなぁ 静香さんは

 

「優しいですね こりゃあ生徒会長に抜擢されるだけありますね」

 

「何よそれ、バカにしてるの?」

 

「いやいや、そんなことありませんよ 思った事を言っただけです」

 

「完っ全にバカにしてるわね。心配しただけ無駄だったわ」

 

 静香さんはわかりやすく顔を膨らませた。

 

「……可愛い」

 

「ん? 今なん──ー」

 

「なんでもありません!」

 

 口に出してしまったー やっべっ 聞かれてないといいのだが

 

「じゃ、じゃあ今日はこれで失礼します!」

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

「なんですか?」

 

「もし事件のことを調べようとしているのなら、やめておいた方がいいわよ。事件の捜査は警察の仕事よ。学生は学生らしくしているべきだわ」

 

「あ、はい、分かりました」

 

「じゃあ、これで、失礼します」

 

 僕は話を切り上げ、帰ろうとする

 

「ん?」

 

 誰かに見られているような、気になる視線を感じた。

 

 前にもこういうことあったよな……気のせいだったらいいのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「可愛いね…… 嬉しくはないけど///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後の授業をサボってしまった……どうしよう とりあえずゲーセンで時間潰すか……

 

「ここがこの町のゲーセンか…… なんか、思ってたより、殺風景だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてゲーセンで遊んでいると、いつの間にか、空が茜色に染っていた。

 

「あら、如月くんじゃない」

 

「あ、会長 今お帰りですか?」

 

「あ、会長 じゃないわよ! あなた、午後の授業はどうしたの!?」

 

「先生たち、心配して探してたわよ?」

 

 そんな大騒ぎになっていたのか。やっぱ無断でサボるのはまずかったか……

 

「今日は、大人しく授業を受ける気分じゃなかったんで、先生たちには、明日謝っておきます」

 

「ホントにもう…… 郷土研のみんなも心配してるかもしれないわよ?」

 

「そうだ、郷土研のみんなとは話しましたか?」

 

「え、ええ陽佳さんとはちょっと」

 

「佐優理さんは?」

 

「い、いえ、何か難しい顔をしていたけど……」

 

「そうですか」

 

「あっ今のうちに見せておきますね」

 

 そう言って僕は携帯に保存されていた活動日誌を見せる。

 

「なに? これは」

 

「僕と陽佳が部費を私的利用してないってことと、僕が部員に何もしてないって証拠です」

 

「そ、そう…… 何かあったの?」

 

「いや、一応です」

 

「あっそうだ、今川焼き一緒に食べません?」

 

「いいけど、なに? 突然」

 

「会長と一緒に食べたいなーって」

 

 そういうと静香さんは頬を赤らめる。

 

「買い食いなんていけないけど、いいわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー美味しかったですね! 会長」

 

「ま、まぁね」

 

「それと、会長と話したら、心の中がすっと軽くなったような気がします」

 

「そう? こんなので気分転換になるのなら、この先いくらでも付き合ってあげるわよ?」

 

「やっぱり会長はすごいですよ。来期も会長に投票します」

 

「私は三年よ? 来期なんてないわよ」

 

「なんだあー 持ち上げて損したー」

 

「なんですって?」

 

 このあとも僕はずっと静香さんと話をしていた。

 

 助けられてばかりだな。僕って

 

 静香さんと別れて、家に帰る。明日から、また少し頑張れそうな気分だった。

 

 一人で人気のない道を歩く。

 

 僕を尾行するように背後から、もうひとつの足音が聞こえてくる。

 

 僕は気にしていないふりをして歩き続ける。

 

「はぁー」

 

 僕は家に着くと同時にため息をこぼした。

 

 そして急いで窓を見る。

 

「あれは……」

 

「……」

 

 僕のことを監視していたのは、

 

 神無さんだった。

 

「いやー良かった。生きてたんだな!」

 

 僕は安心して眠ることが出来た。彼女がナイフを持っている理由を知っていたからだ。

 

 

 

 




活動日誌を見せたことによって、会長の信用を得た如月優也。
未来を変えたことによって物語はどう変化するのか!
次回 ヤンデレ地獄 変わる未来


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変わる未来

「いやー よく眠れたー」

 

「って 今八時じゃねーか!」

 

 僕は急いで支度をする。

 

「ハァッ ハァッ ハァッ 何とか間に合ったか……」

 

「おーユウヤ、ギリギリだな」

 

「いやー 起きるの遅くなっちゃって」

 

「全く、いつものユウヤって感じだな」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

「おっ一時間目のチャイムだ」

 

「お前らー席につけー」

 

 そうこうしてるうちに一時間目が終わった。教室の中は、少しづつだが以前の空気に戻りつつある。

 

 何もかも、とはいかないけど学校の周辺のマスコミは減っていた。

 

 だけど、まだ殺人犯は捕まっていない。

 

 連日、犯人を捕まえられない警察を批判するニュースが相次いでいる。

 

 犯人がまだこの町にいるかすら分からないのだ。町の人はまだまだ不安でいっぱいだろう。

 

「え? 今日、陽佳休みですか?」

 

 今朝早く、担任のところへ電話があったらしい。

 

 なんでも熱が出て寝込んでいるのだとか。

 

 可哀想なもんだな。

 

 そして、神無さんも学校に来ていなかった。彼女と同じクラスの人によると、事件後ほとんど学校に姿を見せていないのだとか。

 

「……」

 

「あっ佐優理さん」

 

 佐優理さんは僕が声をかけると、足早に立ち去ってしまった。

 

 まぁいいか。

 

「如月くん!」

 

「あー会長 なんですか?」

 

「彼女のことは放っておいてあげなさい」

 

「何があったんですか? 教えてください」

 

「それがね。今日佐優理さんから相談があって、あなたと陽佳さんが部費を横領してたって事と、部室を私的利用してたって相談されてね」

 

「その話を聞いた時、昨日の出来事を思い出してね。それで、そんなことは活動日誌を見た限り、事実無根という事を伝えたらね、彼女、どこか行ってしまって……」

 

「そうだったんですね……」

 

「でも、あなた何で、昨日活動日誌なんか見せたの? これが起きることを知っていたとしか思えないわ?」

 

「たまたまですよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

「もう終わりかー」

 

「帰るか……」

 

 

 

 

 

 スッ

 

「ん 今の?」

 

 僕が公園のベンチに座っている時だった。 視界の隅にかすかに動く物体が見えたのだ。

 

「ま、まさか……」

 

 か、神無さん……なのか? 

 

 ナイフを持っている姿を想像して振り向けない。

 

 僕は、また気付かないふりをすることにした。

 

 どこまでも追ってくる……

 

 どうする? 家に着いたが、このまま家に入ったところで、昨日のように見張られるだけだ。それに、僕はまだ、神無さんに話しかけていない。

 

「ただいまー……」

 

「……」

 

「見つけましたよ、 部長!」

 

「あっ」

 

 機転を利かせて僕は、神無さんとの初対面を果たす。

 

「いやー、久しぶりですね。部長 ストーカーなんて、趣味が悪いですよ? 何でこんなことしてるんですか?」

 

「……ダメ。今は話せない」

 

 神無さんは、僕の目の前から逃げようとする。

 

「ちょっと待ってください。何で僕をつけていたのか。それだけでも教えてください」

 

「それは…… 彼女がそう言っていたから……」

 

「彼女?」

 

「部長はその彼女に言われて、姿を隠しているんですか?」

 

「そう。みんなとも会ってはいけないといっている」

 

「じゃ、じゃあその人は僕の知っている人なんですか?」

 

「知っているも何も、今そこにいるじゃない」

 

 そう言って、神無さんは僕の後ろを指さす。

 

 ゆ、幽霊、なのか? 

 

「大丈夫、ユウヤは何も心配しなくていい。この子が力を貸してくれるって言ったから」

 

「な、何を言っているのか、よく分かりません。ここには僕と部長、二人しかいないじゃないですか」

 

「……そう、ユウヤにはまだ見えないの」

 

 神無さんは僕にではなく、後ろの存在に話しかけていた。

 

「それに、彼女は私たちの歪みを教えてくれた。そして今、その歪みが表へ出始めている」

 

「ちょっそれってどういう────」

 

 ブンッ

 

 神無さんは僕の手を無理やり振り払った。

 

 そして、背中を向けて逃げていく。

 

「一体、どうなってるんだ……?」

 

 彼女とは一体誰なのか、そして、神無さんの身に一体何が起こったのか。

 

 いくつかに疑問を残したまま、今日の一日は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、僕は生徒会室にいる。おそらく佐優理さんのことだろう。

 

「会長、なんですか? 佐優理さんのことなら、昨日説明したじゃないですか」

 

「横領の件について、一応、証拠を見せてちょうだい」

 

 あっそうか、それの証拠なら

 

「これです」

 

 そう言って僕は、学園祭の準備や、いざえもんの着ぐるみの制作のために買った材料のレシートを見せる。

 

「わかったわ。これで、あなたがやっていないことを証明出来たわ」

 

「ですが、佐優理さんが嘘の告発をしたということになります」

 

「勘違いならまだしも、悪意あっての行動なら、それ相応の処罰を受けなければなりません」

 

「あんまり責めないでやってください。色々不安だったんでしょう」

 

「如月くん…… あなたって、本当にお人好しね」

 

「そうですか? まぁ同じ郷土研の仲間ですし、庇ってやりたいじゃないですか」

 

「その言葉を佐優理さんにお伝えします。あなたたちに何があったのか知らないけど、早く元の関係に戻れるといいわね」

 

「ありがとうございます……」

 

 ガラガラッ

 

「失礼します」

 

「あっ……ユウくん」

 

「なんだ? 陽佳も生徒会に呼ばれたのか?」

 

「うん。取り調べだって。いざえもんのパフォーマンスで不正に報酬を貰ってたとかで」

 

「報酬ね……」

 

 忘れてた! でもこれって、やってない証拠ってどこにあんだよ! 

 

「じゃあ、行くね」

 

「お、おい待て! 僕が証言してやる、そんなん貰ってないって」

 

「いいよ、自分の潔白は自分で証明するよ」

 

 そう言って陽佳は足早に生徒会室に入る。

 

 僕は何が起こってもいいように、ドアの前で待機することにした。

 

「もういい!」

 

 いきなり、室内から大声が聞こえて慌てて、ドアを開ける。

 

「どうした! 何かあったのか!?」

 

「ユウくん……」

 

「陽佳、まずは落ち着け」

 

「会長、一体何があったんですか?」

 

 まぁ大体察しはついているが……

 

「私たちが、不正に報酬を貰っていたことについて、追求していたら。急に……」

 

「あれも嘘なんですよ、会長!」

 

「えっどういうこと?」

 

「これを見てください」

 

 僕は活動日誌を見せる。

 

「これは……」

 

「やっぱり、佐優理さんの告発は嘘だったのね……」

 

「だから、そう言ってるじゃないですか」

 

「それは、あなたに対してで、陽佳さんへの告発は……」

 

「これで、全部嘘だってハッキリしましたよね? 話し合いでもします?」

 

「それがね、ダメなの。告発者を守らなきゃいけないから……」

 

「そうなんですね……分かりました……行こう、陽佳」

 

「ちょっと待って!」

 

「何ですか?」

 

「それなら、生徒会と佐優理さんが話し合いをするわ。それで、その話し合いの結果をあなたに話す。これでいいでしょ?」

 

「ありがとうございます」

 

「なんで感謝されなくちゃいけないのよ」

 

「いや、僕らのこと、心配してるんだなって思って」

 

「べ、別にあなたのためじゃないからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんであなたと一緒に帰らなきゃ行けないのよ……」

 

「いいじゃないですか」

 

「それに、忠告しとかないといけないなって思って」

 

「何よ? 忠告って」

 

「くれぐれも話し合いの時には気をつけてくださいね」

 

「どういうことよ?」

 

「もし、今日みたいなことが起こったら、逃げてください。佐優理さん、怒ったら何するか分かりませんから」

 

 現に今、佐優理さんが後ろをつけてきている。

 

「付き添いますよ、家まで」

 

「別にいいわよ!」

 

「まぁまぁ、いいじゃないですか。心配してるんですよ」

 

「そういうことなら、いいけど……」

 

「じゃ、お言葉に甘えて」

 

「へぇーこんなに豪華なんですね。会長の家。あっそれと、会長のメアド教えて貰えません?」

 

「いいけど、何に使うつもり?」

 

「何かあった時のための連絡手段ですよ。もちろん、会長のね」

 

「分かったわ」

 

「じゃ、さよならー また明日」

 

 

 

 

 

 

 

「今日はいい日だったなぁ」




優也と一緒に帰った生徒会長。佐優理さんとの話し合いにどう関係してくるのか!そして追求された陽佳はどうなるのか!
次回ヤンデレ地獄 約束


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約束

「ん、 何だ?」

 

 寝ようと思った矢先、突然電話がかかってきた。電話に表示された名前は、尊海神無。

 

「なんだよ、こんな時間に」

 

 そう思いながら、電話をとる。

 

「はい、ユウヤですけど。なんですか、こんな時間に」

 

「……」

 

「部長ですよね? 今どこで何してるんですか?」

 

「……言えない」

 

「言えないってなんですか。みんな心配してますよ。警察も探してますし」

 

「そんなわけないよ」

 

「何を言ってるんですか。現にあちこちで警察官見かけますよ?」

 

「そこじゃない。……私は心配なんてされてない」

 

「え────」

 

「陽佳も佐優理も、私の両親と同じだった。そうとわかっていれば、最初から仲良くしなかったのに……」

 

「あの汚らしい泥棒猫が……私のユウヤに近づくために愛想良くしていたなんて……」

 

 神無さんは何を言っているんだ? 佐優理さんは僕と陽佳を追い詰めようとしたんだぞ? 何が愛想良くだよ。

 

「部長、今どこにいるんですか? それだけでもいいので教えてください」

 

「ユウヤも気をつけて。……あの二人は信用出来ない」

 

「部長? ……部長っ! まだ話は終わっていな──ー」

 

僕が話している途中で、その電話は切られてしまった。

 

 

(クソっ今度は神無さんがおかしくなっちゃったのかよ!)

 

 まぁあの二人を信用出来ないってのは同意だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、会長」

 

「あら、また早いのね」

 

「会長に会いたくて」

 

「えっ///」

 

「冗談ですよ」

 

「なっ何よ! 別に本気になんかしてないわよ!」

 

「あははっ、誤魔化し方下手ですね」

 

「誤魔化してなんかないわよ」

 

「あっそうだ、昨日はありがとうね」

 

「えっ何がですか?」

 

「あなたが陽佳さんを止めていなかったら、多分あの子、飛び降りようとしてたと思うから」

 

 さすが会長、予測に外れがない。

 

「それと、陽佳は来るんですかね?」

 

「そんなの分からないわよ、昨日のことで傷ついてないといいのだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勉強でもしとくか」

 

「おーユウヤ、おはよう、勉強か?」

 

「まぁね」

 

「あのさ、聞きたいんだけど。昨日陽佳を怒らせたって本当か?」

 

「い、いや、ちげーし。あれは、陽佳が生徒会室でなんかあったらしいから、僕が落ち着かせただけだって」

 

「なーんだ、つまんねーの」

 

「つまんねってお前っ」

 

「冗談だってのw」

 

ダチと話しているとチャイムが鳴る。

 

「あっ授業だ。遅れんなよー」

 

「大丈夫だって、ユウヤ」

 

 

そして、授業が終わって十五分休憩になったので僕は教室の外へ出て上級生たちの会話に聞き耳を立てる。

「聞いたか? あの話」

 

「何だよそれ」

 

「はぁ? お前、知らねーのかよ。最近、巨大なぬいぐるみを着た霊が、深夜の校舎の中を徘徊する話」

 

「この学校で自殺した女子生徒の呪いってやつかよ。あれってどうせ、都市伝説みたいなもんで、ただのデマだろ?」

 

「それが、単純にデマって言いきれないから厄介なんだよ」

 

「どういうことだよ」

 

「それが、そのぬいぐるみが、いざえもんらしいんだよ」

 

「あっそれって、あの商店街でパフォーマンスしてたっていう……」

 

「でもそれと自殺した女子生徒になんの関係があるんだよ?」

 

「いや、それは分からないが、そんなに詳細な情報があるんだ。本当かもしれないだろ?」

 

 全部話してくれたな。ありがたい。正直先輩に話しかけるのは、少々気が引けるからな。

 

「あっ会長。もう話し合いはしましたか?」

 

「それなら、もう終わったわ」

 

「そうなんですか なにもトラブルがなくて良かったです」

 

「何よ、トラブルって」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 良かった、だが、昨日一緒に帰った時に後ろにいた佐優理さんはなんだったのだろう。ただの気の所為だったのか? 

 

「今日も一緒に帰りません?」

 

「シッ・・・」

 

「ん、なんですか?」

 

「みんなの前でそんなこと言ったら、付き合ってるのか、って思われるじゃないの!」

 

「あ、そっか…… すみません」

 

「まぁ一緒に帰るのはいいけど……」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下駄箱を出て辺りを見渡してみるが会長が見当たらない。

 

「あれ、いない」

 

「優也くんっ」

 

 急に目が塞がれた

 

「だーれだ?」

 

「んー、会長ですか?」

 

「正解! よくわかったわね」

 

「いやー会長がこんなことするとは思ってなかったんですけど、声が会長だったんで、意外とお茶目なんですね」

 

「貴方にだけ──あっ///」

 

「何、言っちゃったって顔してるんですか。行きますよ 会長」

 

「そ、そうね、それと! 今日やったことは二人だけの秘密ね」

 

「あ、別にいいですけど……」

 

 

 

「どうせなら、和菓子屋行かない?」

 

「いいですよ、前来た時も美味しかったですし」

 

「んっ やっぱり美味しいですね!」

 

「そうね」

 

 僕たちは食べ終わったので、金を払う。

 

「前は会長がくれたんで、今日は僕がはらいますね」

 

「あ、ありがとうね」

 

 そして帰り道、僕は会長に感謝の言葉をかける。

 

「今日は、一緒に帰ってくれてありがとうございます」

 

「何よ、急に」

 

「僕は、会長と一緒にいられることが嬉しいんですよ」

 

「一緒にいられるって……そんな私がいなくなるみたいな言い方」

 

「いや、そんなつもりじゃないんですけど。まぁ会長がいるだけで幸せってことです。じゃ、さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっあれって……」

 

 昨日自殺した生徒の話を聞いたばかりだ。なんとタイムリーなのだろう。そう、中庭には、例の自殺した女子生徒の写真と花が置いてあったのだ。

 

「だれ? あんなところに花と……写真を置いたのは?」

 

 ざわめきは、校舎の中に瞬く間に広まった。

 

「今朝、あんなとこに花なんて置いてなかったよな? 一体誰が置いたんだよ……」

 

「あれってもしかして……」

 

「噂にあった、この学校で自殺した人なの?」

 

 誰なんだよ、悪趣味すぎだろ……

 

「こらぁ! みんな教室に戻りなさい! 授業が始まるわよ!」

 

 静香さんが生徒達を叱りつける。

 

「こんなことをしたのは誰!? 名乗りでなければ、生徒会が調査するわよ!」

 

 珍しく生徒たちに向かって厳しい表情を向けていた。

 

 しかし、誰も名乗り出るものはいなかった。

 

 静香さんの一喝で生徒は一斉に教室に戻っていった。

 

 生徒会のメンバーたちが、すぐさま中庭に下りて、花と遺影を片付けた。

 

 そして授業開始のチャイムが鳴った。

 

 午後になると、紫藤芽依子の存在は、ほぼ全校生徒に知れ渡った。

 

「でね、その紫藤さんが成仏できなくて、霊になってこの校舎を徘徊してるらしいのよ」

 

「違う違う。彼女が復讐する時に着た着ぐるみに霊が乗り移って深夜の校舎を徘徊してるんだって」

 

 バカバカしい。そう思い僕は教室を出る

 

「そんなタチの悪い冗談はやめなさい!」

 

 生徒会室の近くを通りかかった時、珍しく静香さんの荒らげた声が聞こえた。

 

「でも本当なんです……信じてください」

 

 佐優理さんか…… また嘘を吹き込んでいるんだろう。せっかくだから聞いてみることにするか……

 

「昨日も言ったけど、あなたの告発した件全て証拠が見つからないの、デタラメの可能性が高いわ」

 

 昨日、そんなこと言ったのか……本当、いい人だな。

 

「そんな……もっとよく調べてください それに、これは私が自分の目で確かめた話なんです」

 

「深夜の校舎にいざえもんが徘徊していたですって? そんなバカげた話、私が信じると思ったの?」

 

「間違いありません。私、この目で見たんです……きっとあの着ぐるみが香也子さんを殺したんです」

 

「そんなわけないでしょ? 目を覚ましなさい! 着ぐるみが勝手に動くと思う?」

 

「それに、あなたたちの作ったいざえもんは警察に証拠品として押収されたでしょう?」

 

「でも……本当にいたんです。血のついた刃物を持って、校舎を歩いているのを…… きっと中に人が入っていたんです」

 

「それじゃ一体誰が入っていたというのよ?」

 

「それは……」

 

 佐優理さんは、返事をためらった。

 

「中に入っていたのは、きっと……神無さんだと思います」

 

「いい加減になさい! またいい加減なことを言って、仲間を貶めるつもり?」

 

「違います。本当なんです。着ぐるみの中に入っていたのは、神無さんなんです」

 

「だったら、証拠を持ってきなさい。他人を人殺し扱いするなら、それなりの根拠がないといけないわ」

 

「しょ、証拠は……」

 

 佐優理さんは答えられなかった

 

「ねえ、佐優理さん。あなた事件が起きてから、何か変になってるわよ? あんなに仲が良かったのに貶めるようなことばかり言って……」

 

「私も最初はあなたを信じてしまったけど……優也くんや陽佳さんの話を聞くうちに、間違っているのは、あなたの方かと思ってきたの」

 

「そんな……私は間違っていません。ちゃんと調べてください」

 

「もちろん調査はするわよ?」

 

「ですが、調査の結果、無実だったら、あなたはどう詫びるつもりかしら?」

 

「そ、それは……」

 

「答えられないのかしら? いいわ。真実が判明するまで時間をあげるから、それまでに考えておきなさい?」

 

「分かりました……それで、神無さんの着ぐるみの件も調査してくれるんでしょうか?」

 

「いい加減にしなさい! あなたまだ言ってるの? 神無さんが人殺しだって……本気で思ってるの?」

 

「確証はありませんが、確かに見たんです」

 

「……」

 

「もういいです。生徒会にはもう頼りません。私が自分で真相を突き止めます!」

 

「あっ待ちなさい! 佐優理さん!」

 

 勢いよくドアが開かれた。

 

「うわっ」

 

 生徒会室から飛び出してきた佐優理さんとぶつかってしまった。

 

「いたた……ごめんなさい。あっ!?」

 

 佐優理さんはぶつかったのが僕だと気付いた瞬間、露骨に顔色を変えた。

 

「あ、佐優理さん……」

 

 佐優理さんは、僕の言葉を聞こうともせず、走って逃げた。

 

「優也くん……いつからそこにいたの?」

 

「すみません。声が聞こえたので、つい……」

 

「立ち聞きなんていけない人……と、言いたいところだけど、聞かれたならしょうがないわね」

 

 静香さんはため息をついた。

 

 疲れてるんだろうことが顔色から伺える。

 

「深夜の校舎を徘徊するいざえもんね……ここまで来るとまるで喜劇ね」

 

「でもなんでそんな嘘つくんでしょうか?」

 

「それは私が聞きたいぐらいよ。佐優理さんにもなにか事情があるんじゃないかしら」

 

「また、その辺は本人に聞いてみます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

「あっそうだ、会長 今日の夜、学校に行くんでしょ? 僕も連れてって下さいよ」

 

「な、なんでそれを!?」

 

「ま、そこはいいとしてついて行ってもいいんですか?」

 

「別に、どうせ何も無いだろうから、いいけど……」

 

「ありがとうございます!」

 

「じゃ、また今夜お会いしましょう」

 

「そうね、バイバイ」

 

 




なんとか一緒に夜に学校へ行く許可をもらったユウヤ。
だが、そこに待ち受けていたのは・・・!
次回ヤンデレ地獄 深夜の学校


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深夜の校舎

「おや、少年。帰りか?」

 

「あ、あの時の刑事さん」

 

「あぁ、そうか、まだ名前を言っていなかったな。俺はハヤト。明神ハヤトだ」

 

「わざわざ自己紹介ありがとうございます」

 

「それで、早速本題なんだが、君に聞かせて欲しい話があってね」

 

「なんでしょうか?」

 

「協力的で助かるな。まず一つ目なんだが……」

 

 刑事さんは、手帳を取り出し、中を開き質問を確認した。

 

「今まで何度も聞かれたとは思うが、君たちが制作したいざえもんの着ぐるみは、本当に一着しか存在していないのか?」

 

「無いですね……」

 

「あの、まさか何かあったんですか?」

 

「これはまだ捜査中のことなんで、一般人には話せないんだがね」

 

「はい」

 

「実はね、夜中に、あのいざえもんにそっくりな着ぐるみが動き回っているのを見たという証言があってな」

 

「そうなんですか……」

 

「何か知っているのかい? 少年」

 

「それが、僕の学校で見たっていう人が多勢いるんです」

 

「そうなのか…… 俺たちのところにも町の人や、君たちの通う学校の生徒から、たくさんの証言を得ているんだ。他に知っていることはないか? 少年」

 

「僕が聞いた話では、その着ぐるみが刃物のような凶器を持っていたって聞きました」

 

 話を聞く刑事さんの顔つきが変わった

 

「なんだって、それは本当かい!? 少年」

 

「本当って言うか、聞いた話なんで確証はありません」

 

「そうか……」

 

「では、もうひとつの話をしよう」

 

 そういって刑事さんは一枚の写真を取り出した。

 

「こ、これは……!」

 

 写真には電柱に隠れて、じっと様子を伺っている神無さんの姿が写っていた。

 

「家出して行方不明になっていた尊海神無さんが、君のあとをつけていたのを知っていたかい?」

 

「あぁ、少し前に問いただして、辞めるように言ったんですけど」

 

 まさか、あの日以降もずっと尾行していたというのか? 

 

「ふむ……」

 

「なにか気になることでも?」

 

「普通、こんな話を聞いたら引くと思うんだが、随分と肝が据わってるのだな。少年」

 

「ま、別にまだ危害は加えられていませんし」

 

「ハッハッハ。これはまた面白い少年だ。だが被害にあってからでは遅いのだぞ? 少年」

 

「あっそうだ、これなんだが」

 

 そう言って刑事さんは数枚の写真を取り出す。

 

「尊海神無さんの家を調べさせてもらってね、彼女の部屋を写させてもらったんだよ」

 

「本当はパソコンをの中身が見たかったんだが、残念ながら家には見当たらなかったよ」

 

「で、この写真なんだが、ここを見てくれ」

 

 そう言って、壁を指さす

 

「勘弁してくれよ……」

 

 神無さん部屋に貼っていた写真の全てに僕が写っていたのだ。

 

 神無さんと一緒にいる時、これだけならまだいい。僕が着替えている時や、自分の部屋でくつろいでいる時の写真まであるのだ。

 

「……」

 

「随分と愛されているようだね。だが、愛情は行き過ぎると憎しみに変わる。あえて言っておくぞ、もう尊海神無には近づくじゃない」

 

「はい、できるだけそうします……」

 

「それと、今度深夜の校舎に一緒に捜索に行こうと思うんだが、一緒についてきてくれないか?」

 

「別に、いいですけど……」

 

 多分、今日で犯人は捕まると思うけど。

 

「あぁ、もし何かあったら、この連絡先に電話してくれ」

 

「あ、はい、分かりました。登録しておきますね」

 

「じゃ、さようなら。刑事さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰って僕はすぐに、準備を始めた。

 

「持っていくのは…… まず懐中電灯と電話、それと、カメラだ。これで逃げたとしても、映像の証拠が残る」

 

「じゃ、行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんわー」

 

「あら、もう来たのね」

 

「生徒会には説明しました? 僕が来るって」

 

「もちろんしたわよ」

 

「で、OKは貰えましたか?」

 

「会長の頼みならって」

 

「良かったです」

 

「あ、みんな来ましたよ」

 

「それでは、入るわよ。準備はいい?」

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

「なに? 如月くん」

 

「一つ忠告があります。単独行動だけは、控えてください」

 

「何言ってんのよ、当たり前じゃない。そんなこと」

 

「良かったです。あの、僕調べたいことがあるんで、ちょっとだけ、別行動いいですか?」

 

「さっきあなたが単独行動だけはダメって言ったところじゃない」

 

「調べたいことがあるんで、絶対に危険なことはしないんで、お願いします!」

 

「そんなに言うなら、いいけど。絶対に危ない目には合わないでよ?」

 

「もちろんですよ」

 

「じゃ、入るわよ?」

 

「「「はーい」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー暗いな。深夜の学校って」

 

 ガタッ

 

「ヒッ」

 

「何だ、倒れただけか ビビらせんなよ」

 

 ピタッピタッ

 

「この足音……!」

 

 間違いない。奴だ。そう思い、足音のする方へカメラを向ける。

 

「来やがったぜ……」

 

 いざえもんの着ぐるみは僕の姿を見た瞬間、こちらへ向かって走ってくる。血の着いたナイフを持って

 

「確か、こっちのはずだ」

 

 会長たちのいる所へ走って行く

 

「会長! いました! いざえもんが!」

 

「しかも、ナイフを持っていたんですよ! 映像にも収めたんで、

 

 早く帰りましょう!」

 

「わ、分かったわ。とにかく落ち着いて?」

 

「詳しいことは脱出してから話します。だから、早く!」

 

 話していると、もういざえもんがこちらに来た

 

「あ、あれなのね!?」

 

「はい、みなさんも! 早く!」

 

「分かった!」

 

「了解!」

 

 タッタッタッ

 

「なんでだよ……?」

 

「そんなこと……」

 

「せ、正門が閉じているだと?」

 

「じゃ、じゃあ僕が囮になるんで、みなさんは裏口から出てください!」

 

「で、でもそれじゃあなたが……」

 

「大丈夫です。安心してください」

 

「早く逃げましょう! 会長!」

 

「でも、如月くんが……」

 

「大丈夫ですって言ってたじゃないですか!」

 

「よし、みんな逃げたか」

 

「……」

 

「なにか言えよ、殺人犯」

 

「……」

 

 問いかけをしてみるが無反応だ。しかも、またこちらへナイフを持って走ってくる。

 

「あっぶねっ」

 

「こんな速度のナイフ。くらったら一溜りもないぜ」

 

 僕は軽口を叩きながら奴の攻撃をかわしていく。

 

 もう脱出したのか? それが分からないことには────

 

「大丈夫か!? 少年! クッなんで閉まってるんだよ!」

 

 この声、あの刑事さんか? って事は、脱出して、助けを呼んだってことだ! よし、逃げるぞ! 

 

「刑事さん! 離れててくださいよ!」

 

 タッタッタッ バッ

 

「ふう、何とか成功できたな」

 

「何やっているんだ! 少年! 連絡しろとあれほど……」

 

「ま、まぁそこら辺の話はまた後で……」

 

「ちょ、ちょっといざえもんは!?」

 

 校舎の方を見てみると、いざえもんは会長を引きずって校舎の中へ入っていった。

 

「おい! 待てよ! 会長を放せぇええ!」

 

 僕は鍵のしまった正門から見ていることしか出来なかった。

 

「おい、お前らどうしてこんなことになった。話せ」

 

 僕は静かに生徒会に聞く。

 

「それが、会長が君が心配って言って引き返して……」

 

「なんで止めなかったんだよ!」

 

「言っても聞かなかったし……」

 

「そんなんだったら、無理やりにでも連れていけばいいだろ!」

 

「だってそうしてたら、あの着ぐるみが来て……」

 

 ……は? どういうことだ、いざえもんなら、さっきまで僕が相手してたはずだ。

 

「その着ぐるみが連れ去って行ったのか!?」

 

「は、はい。そうです……」

 

「なんで取り戻さなかったんだ!」

 

「で、出来るわけないですよ! そんなこと……」

 

 でも、なんでわざわざ僕に会長を見せつけたんだ? 取り戻せってことか? クソっ今は考えている場合じゃない! 

 

「だったら、早く鍵を持ってきてくださいよ!」

 

「そんな無茶な!」

 

「少年! この件は俺たちが捜査する。何も心配するな」

 刑事さんが怒号をあげる

 

「そ、そんなこと言ったって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソっ どうして家に帰らされるんだよ! こっちは会長を助けに行きたいって言うのに!」

 

 




連れ去られた会長。それに対してユウヤがとった行動とは!?
次回ヤンデレ地獄 会長奪還作戦


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会長奪還作戦

「もういい、僕は寝る!」

 

 一人でそう宣言して僕はベットに入る。

 

「会長。見つかってるといいだがな」

 

 僕は早足で学校に行く。

 

 案の定、校門前にはパトカーが数台停車していた。

 

 ふとこの前の刑事さんを見かけたので、会長の安否を確認する。

 

「あの、刑事さん。会長は見つかりましたか?」

 

「それがな、君を家に帰らせたあとすぐに裏門から入ったんだが、九条さんどころか、引きずったあとすらなかったんだ。すまない。この通りだ」

 

 そう言って頭を下げる刑事さん。

 

「いいですよ、別にそんなの」

 

「あれ、学校はどうしちゃったの?」

 

 ちょうど陽佳が登校してきたところだった。あの冤罪騒動から日が経ち、立ち直ったようで、表情も明るかった。

 

「おー、陽佳、おはよう。もう大丈夫なのか?」

 

「しばらく、お休みしてたから、大丈夫」

 

「でもこれってどういうこと? ……何かあったのかな?」

 

「あー、まぁ色々とな……」

 

「でもさ、学校休みになるんだよね! じゃあどこか遊びに行こうよ!」

 

「いや、今はそんな気分じゃないんだ……」

 

「そうなんだ…… じゃあ帰るね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校は当分休みとなった。当然だな。

 

 あっそうだ、刑事さんに電話しなきゃ。

 

 プルルルル

 

「あの、刑事さん?」

 

「ユウヤくんか。何だ? なにかわかったのか?」

 

「いえ、前学校に犯人探しに行くって言ってたじゃないですか。今日行こうと思うんです。会長がいるかもしれないし」

 

「あぁ、その事か。了解した。だが、もし着ぐるみに出くわしたら、逃げるように」

 

「分かってますよ」

 

「じゃ、また夜に」

 

 プツッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前零時

 

「よし、行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ刑事さん」

 

「今朝ぶりだな、少年」

 

「どうします?」

 

「どうするって?」

 

「いや、前入った時、正門が閉じちゃったじゃないですか」

 

「君もそう言うと思って、同僚を二人連れてきた。お前たちはここで見張ってもらう 覚悟はいいか?」

 

「もちろんですよ」

 

「大丈夫です」

 

「そして、相手が刃物を持っていることが分かったので、拳銃も持ってきた」

 

「心強いですね」

 

「ま、打ちたくはないんだがね」

 

「じゃ、行きますか」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学校内で調べなかった場所ってありますか?」

 

「ああ、体育館ぐらいだな あの時は鍵がかかっていたんだが……」

 

 と、刑事さんが指を指す。

 

「開いてるじゃないですか! 行きましょう!」

 

「ま、まて、少年!」

 

 タッタッタッ

 

「会長! いるんですか! 会長!」

 

 館内を懐中電灯で照らしてみる。すると、椅子に縛られている会長を発見した。だが、その前には、バットを持った陽佳が今にも振りかざそうとしている。

 

「お、おい! やめろ!」

 

「ユウくん!?」

 

 一瞬、陽佳がこちらに気を取られる。今だ! 

 

 ガンッ

 

 僕は懐中電灯を投げた。すると、見事に頭にクリーンヒットする。そして僕は、当たったことを確認すると、会長の元へ走る。

 

 そして、陽佳の手から、バットをとり、刑事さんの元へ投げる。

 

「受け取ってください!」

 

「了解した!」

 

 ヒュンヒュン……バシッ

 

「会長、大丈夫ですか!? 会長!」

 

「ンーッ ンーッ」

 

 口に猿ぐつわが巻かれている

 

「今取り外しますから、落ち着いてください!」

 

「優也くん!? 助けに来てくれたの?」

 

「当たり前ですよ。そんなこと」

 

「優也くん///」

 

「ンッ 」

 

 刑事さんはわざとらしく咳をして、話す

 

「では、人質も救出したし、この校舎から脱出するぞ!」

 

「おい、陽佳! 起きろ!」

 

「ん、ユウくん?」

 

「早く脱出するぞ!」

 

「でも、私会長を……」

 

「その話は後で!」

 

 タッタッタッ

 

「どういう……ことなの……?」

 

「正門が……ない……?」

 

「とにかく、行ってみましょう!」

 

 走り出したところで妙な人影を発見する。

 

「あれって、まさか……」

 

「いざえもん!?」

 

「は、走って来ましたよ! 刑事さん、何とかして下さいよ!」

 

「わ、分かっている。こちら、稲上町刑事、明神ハヤト。その刃物を手放さないと、この拳銃を撃つっ!」

 

 刑事さんがこれだけ言ってもいざえもんはこちらへ向かってくる足を止めようとはしない。

 

「言ってもダメなら……」

 

 バンッ

 

 刑事さんが足を撃った。だが、少しスピードが遅くなった気がするだけで、全く止まる気配がない。

 

「もう逃げようよ! 裏門から出ようよ!?」

 

「だが、あの二人の安否が気になるんだ」

 

「だったら、僕があのいざえもんを引き付けます。刑事さんと会長は二人の安否を確認してきてください。それと、警棒くらいは僕に貸してください」

 

「わ、分かったわ」

 

「感謝するぞ。少年 それと、警棒だ」

 

「陽佳は下がってて!」

 

「わ、分かったよ」

 

「アンタは誰なんだ? 動きから察するに男だろう?」

 

「……」

 

「反応無しかよ。無愛想だな」

 

 そう言いながら僕はいざえもんに向かって走り出す。

 

「あっぶねえな!」

 

 ブンッ

 

「当たった!」

 

「…… ッフ 君は面白いな」

 

「!?」

 

 喋ったぞ? しかも男の声だ。香也子さんじゃないのか? 

 

「一体、誰なんだよ!」

 

「う、うぉおおお」

 

 男は急に奇声を発しながら、自分の首を締め始めた。この現象は……

 

「お、おい、どうした!?」

 

 バタン

 

 いざえもんが倒れて、その素顔が明らかになる。

 

「こ、この人って……」

 

 前世見ていたアニメのキャラクターにそっくりだった。

 

「少年! 大丈夫か!?」

 

「大丈夫です。でも……いざえもんが急に奇声を発しながら自分の首を絞め始めて、こうなりました……」

 

「なんてことだ…… とにかく、この男の身元は、調べてもらないと分からないな」

 

「そうですか……」

 

「それと、あの二人の刑事さんはどうでしたか!?」

 

「あ、あぁ、それなんだが、どこにも見当たらなくてな」

 

「えっ、どこにもいないって……」

 

「とにかく、その事はここから出てから考えよう。少年」

 

「そうですね!」

 

「会長、陽佳、ここから出るよ!」

 

「う、うん、分かった!」

 

「分かったわ!」

 

 タッタッタッ

 

「ハアッハアッ とにかく、詳しいことは明日聞くから、今日はみんな、帰って休みなさい」

 

「分かった」

 

 そう言って、陽佳は素早く、走って帰ってしまった。

 

「じゃ、帰りましょうか。会長」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、優也くん。なんで私を刑事さんの方へついて行かせたの?」

 

「そりゃもちろん、会長の身の安全を考えてですよ」

 

「どういうこと?」

 

「陽佳、会長を殺そうとしてたでしょ? だから、二人きりでいさせちゃダメだと思って」

 

「あ、ありがとう」

 

「それと! 私からも話があるんだけど、いい?」

 

「いいですけど、なんですか?」

 

「私、優也くんの事が、好きなの!」

 

「え、え、ほ、本当ですか!?」

 

「二度も言わせないでよね!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「それは、OKと捉えてもいいのかしら?」

 

「はい、いいですよ」

 

「それと、今日は助けに来てくれて、ありがと///」

 

「こちらこそ、想いを伝えてくれて、ありがとうございます」

 

「ッフ、優也くんらしいわ」

 

「どんなところですか?」

 

「自分も感謝するところ」

 

「じゃ、また明日」

 

「って明日は学校ないんだった!」

 

「じゃあ、明日はデートするってのはどう?」

 

「えっいいんですか!?」

 

「恋人同士なんだから、それぐらい普通でしょう? それとも私じゃ嫌?」

 

「そ、そんな訳ないです!」

 

「じゃ、明日十二時、私の家に来てね。遅れたら、許さないんだからね」

 

「遅れるわけないじゃないですか。会長」

 

「私も名前呼びしていいのよ?」

 

「いいんですか? じゃあ遠慮なく呼ばせてもらいますね。静香さん」

 

「じゃ、また明日ね」

 

「はーい」

 

 

 

 




無事に会長を助け出した優也。遂にデートに行くことに!?
だが明日は取調べが・・・ 果たして思い出すことは出来るのか!?次回ヤンデレ地獄 取調べ


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取調べ

今日はちょっと短めです


 寝ようとしていると、突然電話がかかってきた。

 

「なんだ? こんな夜中に」

 

「もしもし」

 

「はい、如月ですけど」

 

「少年。明日の取り調べだが、朝一に警察署に来てくれないか?」

 

 あっ取り調べあるんだった! 明日の静香さんとの約束どうしよう。

 

「あの、静香さんも来るんですか?」

 

「もちろん来てもらうが……」

 

 ふぅ、良かった…… これで遅れることは無いだろう

 

「じゃ、何時に行けばいいですか?」

 

「あぁ、7時に来てくれ」

 

「分かりました」

 

 プツッ

 

「静香さんに連絡しとかなきゃ」

 

 プルルルルルル

 

「九条ですが、何でしょうか?」

 

「あっお母さんでしょうか。娘さんに変わって貰えませんか?」

 

「あっはい、分かりました」

 

 

 

 

 

「変わりました。静香です。何か用事でもあるの?」

 

「あっ静香さん。明日取調べがあるんだって。デートどうします?」

 

「あぁ、それなら、さっきうちにも来たわ」

 

「僕は七時に呼ばれたんですけど、静香さんは?」

 

「私も七時よ。多分だけど、関係者を全員集めるつもりじゃないかしら」

 

「分かりました。じゃあ迎えに行きますね」

 

「別にいいわよ」

 

「じゃあ1人で────」

 

「で、でも! 優也くんなら、いいかも///」

 

「えっいいんですか!? じゃあ、六時半集合でお願いします!」

 

「声を抑えて、優也くん。もう夜よ」

 

「あっ、つい」

 

「じゃ、また明日ね」

 

「はい、静香さん」

 

 プツッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビビビビ! 

 

「いやー、目覚ましかけておいて良かったなぁ」

 

「じゃ、早めに行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、早いですね。静香さん」

 

「そういうあなたこそ」

 

「全く、考えてる事は同じってことね」

 

「じゃあ、行くことにしますか」

 

「そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警察署に着くと、既に昨日のメンバーと、神無さんがいた。

 

「おはようございます」

 

「おはよう……ユウくん」

 

 なぜか陽佳は不機嫌のようだ。

 

「じゃ、早速、取調べを始めるとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガチャッ

 

「ここが、取調べ室だ。初めてか? 少年」

 

「はい。当たり前じゃないですか」

 

「では、早速始めるぞ」

 

「はい」

 

「まず、昨日の状況を教えて貰えるかな? 

 

「はい。まず、体育館に入ったら、静香さんの声がして、懐中電灯を向けたら、椅子に縛られている静香さんとそれに対してバットを振り上げる瞬間の陽佳がいました」

 

「そうか、それで、君はそれに対してどう対処したんだ?」

 

「何か投げるものはないかと考えたんですか、懐中電灯しかなくて、それを投げました」

 

「それはまた凄い助け方をしたもんだね、それで有末さんの手からバットを取って、俺に投げたと」

 

「そうです」

 

「ハッハッハ、全く、君はレディに対する扱いというものがまるでなってはいないな」

 

「まぁ、あの時は助けることに必死でしたから」

 

「そして、館内から出たって訳です」

 

「では、いざえもんと交戦していたときの状況を教えて貰えるかな? 

 

「はい、まず僕が、警棒を当てたんですが、すると、いざえもんが声を上げたんです」

 

「なんだって!? 相手はなんと言っていたんだ!?」

 

「いや、面白いなとか何とか…… そして喋った途端、急に奇声をあげて、自分の首を絞め始めたんですよ」

 

「それは何とも奇妙な話だな。本当か?」

 

「はい、嘘をつく意味もありませんから」

 

「で、正体は一体誰だったんですか? 

 

「それがな……」

 

 刑事さんは首を傾げながら言いにくそうに答える。

 

「……戸籍がなかったんだ。それに、指紋もこの国の誰とも一致しなかった」

 

「じゃあ、日本以外の人なんじゃないんですか?」

 

「いや、確かに日本人なんだ。だが、それしか分からない」

 

「でも、被疑者死亡でこの事件は解決なんですよね?」

 

「あぁ、世間にはそう公表される。だが、俺はこれだけでは終わらないと思っている」

 

「終わらない とは?」

 

「考えてもみろ? 少年 君の話が本当なら、犯人は自殺したんだろう? それに、一昨日の夜に君は生徒会と深夜の校舎に行っていたが、君がいざえもんと交戦している時に九条さんが連れ去られた。どうも釈然としないんだよ…… この事件」

 

「……そうですね」

 

 確かに一昨日の晩のことは気になる。だが、静香さんを助け出せたのなら、いいじゃないか! 

 

「話は済みましたか?」

 

「あぁ」

 

「だったら、僕は外で静香さんを待ちますね」

 

「分かった。くれぐれも、尊海神無には気をつけろよ」

 

「分かってますよ」

 

 ガチャッ

 

 僕は取調べ室の外にあるベンチに腰掛けた。

 

「はぁ…… 疲れたー」

 

 だんだんとまぶたが重たくなっていく。

 

「ふわぁー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──也くん、優也くん」

 

「ん? なんですか? 静香さん」

 

「やっと起きた。私が取調べ終わって出てきたら、寝てるんだもの、びっくりしたわよ。もう五時よ?」

 

「えっそんなに寝てたんですか?」

 

「いや、私が1番終わるのが遅かったみたいで、四時くらいに終わったわ」

 

「一時間も待たせてしまったんですね…… すみません」

 

「別に謝ることはないわ 一緒にいるだけで、十分幸せだったもの」

 

「アハハ、静香さんらしくないセリフですね」

 

「私らしいって何よ!」

 

「まぁまぁ、落ち着いて。でも、どうします? デート」

 

「また明日でいいんじゃないかしら」

 

「そうですね。じゃあ静香さんの家に十二時集合で」

 

「分かったわ 遅刻は厳禁ね」

 

「分かってますって じゃあ、また明日」

 

「優也くん、また明日ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は、何か大変な一日だったな……」

 

 




遂にデートに行くことになった優也と静香。だが静香の背後に謎の影が・・・ 次回ヤンデレ地獄 迫りくる影


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迫り来る影

四日ぶりですね。待たせてしまってすみませんでした。部活等で、忙しかったもので・・・ それでは、第六話どうぞ!


「ふぅ、ちょっと早く来すぎたか」

 

 そう。まだ約束の十分前なのだ。まぁ静香さんの事だから早く来てくれると思ったのだが……

 

 ──十分後──

 

 約束の時間になったのだが、まだ来ない。静香さんの事だから遅刻することはないと思うのだが……

 

 ──三十分後──

 

 絶対何かあった。そう思った僕はメールを送った。

 

『あの、もう約束の時間、だいぶ過ぎてるんですが、まだですか?』

 

 しかし、いつまで経っても、返事どころか、既読すらつかない。

 

「あれ、これまた何かあったんじゃ────」

 

 ドンッ! 

 

「何だ!?」

 

 外からでも聞こえる大きさの音が響いたて、ただ事じゃない。そう思った僕は、家の中に入ることにした。

 

 ガチャ

 

 鍵が空いていた。マメな静香さんのことだ。鍵をかけ忘れるなんてことはしないだろう。

 

「静香さーん! 静香さーん!」

 

 ダンッ! 

 

 僕が名前を呼んだ瞬間、何かが慌てるように、素早く裏口から出ていく人影が見えた。

 

 その逃げ出した奴を追いかけるよりも、今は静香さんの無事を確認しなければ。僕は逃げ出した人がいた方向へ向かう。

 

 そこには両足を重点的に刺された静香さんがいた。だが傷の多さの割には、血の量は多くない。恐らく、命に別状はないだろう。僕はまず、先に警察に電話をした。

 

 プルルルル

 

「こちら明神、応答せよ」

 

「刑事さん! 早く来てください!」

 

「少年! とにかく落ち着け、まず場所はどこだ?」

 

「えーと、住所は分からないんですが、九条家です。九条静香さんが、血塗れで倒れてるんです!」

 

「何だって!? すぐ向かう。くれぐれも、静香さんから離れないように」

 

「分かりました!」

 

 ファンファンファンファン

 

「おーい、少年。どこだー」

 

「こっちです! 早く来てください!」

 

 僕は返事をし、場所を伝える。

 

「お、おい! 大丈夫か!」

 

 刑事さんが脈を確認する。

 

「命に問題は無いようだが……」

 

「そうですか! 良かったです!」

 

 静香さんは、すぐさま、病院へと運ばれていった。

 

「では、何があったのか説明してもらおうかな?」

 

「はい。僕達は今日デートをする約束をしてたんです」

 

「僕達。というのは君と静香さんのことかな?」

 

「はい、そうです。それで待ち合わせ場所がこの家の前だったんで、僕は十分前に着きました」

 

「ほぅ……」

 

「で、約束の三十分後になっても来ないから、メールを送ったんです。それで、しばらく経っても返事どころか既読も来なかったんです」

 

「すると、外からでも聞こえる大きな音がしたんで、これは何かあったと思い、扉に手をかけたら、鍵がかかっていなかったんです」

 

「それで、中に入ったと?」

 

「はい、そうです。静香さんが鍵をかけ忘れるなんてことは考えられなかったので。で、僕が静香さんの名前を呼ぶと、誰かが裏口から出ていったんです」

 

「で、その逃げ出した誰かがいた場所に向かうと、静香さんがいたってわけです」

 

「恐らく、その逃げ出した誰かが犯人だろう。逃げ出した奴の特徴とか、あったりしたか?」

 

「うーんと、確か……」

 

 僕は思い出そうとする。

 

「えっと、なんか走りなれていないという感じはしました」

 

「そうか、そして被害者の刺傷の浅さからするに、恐らく犯人はあまり運動をしていない」

 

「そして、刺傷の多さから推測するに、被害者に恨みがあった可能性が高い。何か心当たりは?」

 

 そう言われて、ふとあの三人の顔が思い浮かぶ。そして、運動が不慣れなのは、おそらく一人だけだ。

 

「あの、多分違うと思うんですけど、尊海神無さんだと思います」

 

「その根拠は?」

 

「まず、静香さんを殺そうとする程憎んでいる人というのが、あの三人しか思いつきませんでした」

 

「三人とは、郷土研のことかな?」

 

「そうです。そして、陽佳は運動神経がいいから除外するとして、佐優理さんも親の方針でバレエやダンスを習っていました。そして、残ったのが、神無さんです。彼女は、自分でも言うほど運動が出来ませんでした。それが理由です」

 

「ほう、筋は通っているな。だが、君は友達を疑うのかい?」

 

「いや、そんなつもりは……」

 

「まぁいい。それと、一応第一発見者ということで、今から君の自宅も捜査させてもらう」

 

「別にいいですけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、君は家の前で待っていてくれ」

 

「はい。分かりました」

 

 ──ー十分後──ー

 

「もういいぞ。少年」

 

 ガチャ

 

「これは、どういうことかな?」

 

 そう言って刑事さんは何か機会のようなものを差し出す。

 

「あの、これなんですか?」

 

「やはり知らなかったのか…… これは盗聴器だ」

 

 そうだ! 忘れてた。これで、明日の予定がバレたってことか!? 

 

「えっだっだれが!?」

 

「それはこっちが聞きたいくらいだよ」

 

「でも、どこに?」

 

「家中至る所にだ」

 

「じゃあ、今までのこと、全部聞かれてたってのか?」

 

「そういうことになるな。聞かれたらまずいことでも?」

 

「いえ、そういうんじゃなくて、今日の予定が聞かれてたって可能性もありますよね?」

 

「そうだ。だが、君は尊海神無さんが怪しいと言っていたよな?」

 

「だからですよ! 前に写真見せてくれたじゃないですか。神無さんの家の中。だから、こんなことをやっててもおかしくないかなって」

 

「そうか、ではこの盗聴器を鑑識にまわして、誰の指紋がついているか確認する必要があるな」

 

「ありがとうございます!」

 

「ちょっと待ってくれ。あれはなんだ?」

 

「あれ、ですか?」

 

 僕は家の遠くに見える人影を携帯で撮ってズームする。

 

「こ、これは……!」

 

「失礼」

 

 刑事さんはそう言って、僕の見ていた携帯を手に取る。

 

「あ、ちょっと」

 

「失礼だと言った」

 

「まさか、これって、尊海神無さんではないか?」

 

「はい、多分、そうです」

 

「しかも、ナイフをもって」

 

「これは怖いな。十分気をつけるんだ。少年」

 

「他人事ですか?」

 

「いや、違う 君を心配しての言葉だったんだが……」

 

「僕なら大丈夫です。むしろ、刑事さんの方が危ないんじゃないですか?」

 

「バカにしてもらっては困る。警察というもの、自分の身くらいは自分で守れる」

 

「そうですか。じゃあまた、鑑識結果が分かったら、教えてください」

 

「必ず教える。約束しよう」

 

「あっそれと、静香さんが入院してる病院教えて貰えませんか?」

 

「いいが、くれぐれも彼女を刺激しないようにな」

 

「分かってますよ」

 

「では、外も暗くなってきた頃だし、そろそろ帰るとしよう」

 

「はい、ではまた今度」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日はお見舞いだし、早く寝るか」




見舞いに行くことになった優也。果たして、優也は神無を止めることが出来るのか!? 次回ヤンデレ地獄 交錯する想い


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交錯する想い

 

「はーい」

 

 僕は病室を開ける。

 

「あの、静香さん。お見舞いに来ました」

 

「別にいいのに……」

 

「僕がデートに誘ったからこんな事に……」

 

「気に病むことはないわ」

 

 静香さんは気丈に振舞ってはいるが、その目は少し涙ぐんでいた。

 

「あの、これ!」

 

 僕は用意してきたマフラーを静香さんに渡す。

 

「何よ、これ」

 

「デートの時渡そうと思ってたんですけど、行けなかったんで……」

 

「……ありがとう」

 

 静香さんは泣きだしてしまった。

 

「どうしました!? マフラー気に入りませんでしたか?」

 

「別に……そんな訳じゃ……ないけど……」

 

 僕は静香さんの頭を撫でる。

 

「泣き止んでください。静香さん」

 

「わっ……分かったわ」

 

「聞きたいことがあるんです、良いですか?」

 

「別にいいけど…… まさか、昨日のこと?」

 

「はい、そうです。思い出すのも辛いと思いますが、嫌ならいいですけど……」

 

「いいわよ。話すわ」

 

「昨日、家の前で待っていたのよ」

 

「それ、何時頃だったか覚えてます?」

 

「確か、約束の二十分くらい前だったかしら」

 

「で、待っていたら突然後ろから誰かが襲ってきて、家の中に入れられたのよ」

 

「それで、何とか逃げだたんだけど、結局捕まっちゃって、それで何故か、足だけ執拗に刺されて」

 

「あの、顔って見ました?」

 

「いえ、突然襲われて見てる暇もなかったわ。でも、髪が長かったのは覚えているわ」

 

 髪が長くて運動に慣れていなくて静香さんに恨みがあるって、もう神無さんしかいないじゃないか! 

 

「ん? どうかした?」

 

「いえ、なんでも それと、足ってこれからどうなるんですか?」

 

「医者の人が言うには、傷が浅かったから、歩けないことはないって。でも、走ったり、運動したりしたらダメだって……」

 

「退院は何時になるって言ってましたか?」

 

「早くて数週間 遅くても一二ヶ月ぐらいで済むって言っていたわ」

 

「それは良かった。では、お大事に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局殺せなかったんだね」

 

「仕方ないじゃない。優也が来たんだから」

 

「でも、刑事さん、私のところへも来たってことは、もうバレてるんじゃ……」

 

「大丈夫大丈夫。次は僕がやるから。今日決行ね」

 

 一方その頃部室では、三人が怪しげな会談をしていたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー良かった。プレゼント渡せて」

 

「どうしたんだ、少年 プレゼントがどうとか言っていたが……」

 

「あっ刑事さん。聞かれてました?」

 

「ああ、ちょっとな」

 

「で、どうしたんですか? 今日は」

 

「いや、一つ警告をしに来た」

 

「何ですか、警告って。まさか、三人のこと……」

 

「おそらくな。今日、閉まっているはずの学校の窓から、三人の人影が見えたという報告があった」

 

「って事は、まさか、あの三人が何か僕たちに聞かれたくない話をしていたって事ですか?」

 

「ああ、恐らくな」

 

「でも、何を話していたんだろう?」

 

「それは俺にも分からない。が、もし昨日の事件の犯人が尊海神無さんだったとしたら、静香さんのことだろうな」

 

「そんな…… もしそうだったら、静香さんが危ない!」

 

「まぁ待て。落ち着け少年。既に病院には警察を配備してある」

 

「配備って、そんな権力、貴方にはあるように見えないんですけど……」

 

「バカを言うな。俺が指示した訳では無い」

 

「では誰が?」

 

「我が盟友のコネさ」

 

 そう言って、刑事さんは悪い顔をする。

 

「じゃあ、静香さんの身は安全って訳ですね! やった!」

 

「はしゃぐな。少年」

 

「アハハ、すみません」

 

 すると突然刑事さんの携帯が鳴り響く。




命に別状はなかった静香。だが、裏では三人が怪しげな会話を・・・ 次回ヤンデレ地獄 想いの果てに


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想いの果てに

 

「何だ?」

 

 刑事さんが通話相手に話しかける。

 

「何だって!? それは本当か?」

 

 刑事さんが取り乱している。まさか、静香さんの身に何かあったのだろうか? 僕はいてもたってもいられず、さっき行った病院へもう一度向かう。

 

「ちょっ待て 少年!」

 

「すまん。また後でかけ直す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来てみたのはいいものの、静香さんの部屋には刑事さんが集まっていて、中の様子が見れない。

 

「ハァッ……ハァッ…… 全く、勝手に行動するな。少年」

 

「すみません。刑事さんの様子を見て、ただ事ではないなと思ったので、つい」

 

「それで、電話の内容は何だったんですか?」

 

「それがな……静香さんが誘拐された」

 

「えっ……」

 

「ちょっと待って下さい。刑事さんが張り込んでいたんでしょう? それなのになんで……?」

 

「そこまで詳しいことは分からない。すまない」

 

「だったら、何か手掛かりはないんですか!?」

 

「犯人は相当な手練のようで、指紋ひとつも残さなかった」

 

 どういうことだ? いくら神無さんでもそんなこと出来るはずがない! 

 

「とにかく、君はもう家に帰れ。くれぐれも、一人で探すなんてことはするなよ?」

 

「クッ…… 分かりました」

 

 僕は渋々了承する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 何だ、これ」

 

 家の扉に一枚の紙が挟まっていた。紙をめくり中身を確認する。

 

 そこには、「──ー九条静香は預かった。返して欲しくば今夜、写真の場所に来い。さもなくば、九条静香の命はない──ー」

 

 手紙は、ドラマでよく見る新聞の字を貼り付けた文章になっており、筆跡で犯人を特定するのは不可能のようだ。

 

「チッ……なんだよこれ!」

 

 今夜、来いだって!? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手紙はユウヤの手に渡ったみたい」

 

「やったー 良かった! でもユウくん本当に来てくれるのかな?」

 

「来ますよ、きっと」

 

 ある一室で、三人は怪しげな会話をしていたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、行くか」

 

 準備はバッチリだ。まずは懐中電灯。そして携帯。あとは……まぁ使うことは無いことを願うが、これも一応持っていくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にいるのかな?」

 

 確か、この前は体育館に隠されていたはず。だが、今回は同じとは限らない。まずは校舎内から探そう。

 

 生徒会室を探そう。

 

「いない……か」

 

 ズルッ……ズルッ……

 

 静かな校舎に足を引きずる音が聞こえる。

 

 まさか、いざえもん……! 

 

 生徒会室の中から、顔を覗かせる。

 

 いざえもん……じゃない! 

 

 あれは……静香さんか!? 不用意に大声を出すわけにはいかない。こちらに近づいてくるのを待とう。

 

 ズルッズルッ

 

 段々と音が近づいてくる。

 

 やっぱり、静香さんだ! ガラッ

 

 勢いよく扉を開け、静香さんに近付く。

 

 僕に気付いた静香さんはこちらに走って来た。だが、刃物を持ってだ。

 

「やっぱり、騙されたね! ユウくん!」

 

「その呼び方、まさか、陽佳か!?」

 

「だったら、どうする?!」

 

 陽佳は勢いよく僕の体にナイフを振りかぶってくる

 

「殺すつもりかよ!」

 

「そうだよ! ユウくんはもうユウくんじゃないんだもん!」

 

 まさか、僕が如月優也でないことがバレたのか!? 

 

 僕は予め用意しておいたスタンガンを出す。これなら一発で気絶させられるだろう。

 

「なに? それ。まさか、僕を傷つける気? やっぱり、ユウくんじゃない! ユウくんはそんなことしない!」

 

「お前の想ってるユウくんの理想を今の僕に押し付けんじゃねえ!」

 

 バチッ

 

「ユウ……くん……」

 

 陽佳はその場でばたりと倒れ込む

 

「あと数時間は眠っておけ」

 

「さてと、もし襲ってくるなら、あと二人ってところか」

 

 あと居そうなところっていえば…… 三年の教室だな

 

 僕は三年棟に行き、一つ一つ調べていく。

 

「ここにも、いないか……」

 

 じゃあやっぱり、体育館か……

 

 僕は急いで校舎を出て、体育館に向かう。

 

 ガラガラガラ

 

 僕は懐中電灯で館内を照らす。すると、宙に浮いている人影が見えた。まさか、あれは…… 早く助けないと! 

 

 僕は急いで舞台の上へ登り、静香さんの元へ駆け寄る。

 

 クソっ何か紐を着るものは…… これだけか! 

 

 僕はスタンガンを使い、紐を焼き切る。

 

「静香さん! 静香さん! 大丈夫ですか!?」

 

「……」

 

「クソっ、申し訳ないがこれしか……」

 

 僕は人工呼吸を試す。

 

「スーッ スーッ」

 

「コレでもか! だったらっ!」

 

 心臓マッサージをするしかない! 

 

 ドクンッ ドクンッ

 

「ゴホッゴホッ」

 

「静香さん!」

 

「えっ私……生きてるの……?」

 

「生きてますよ!」

 

「優也くんが助けてくれたの?」

 

「はい。当たり前じゃないですか」

 

「優也くん…… 優也くん!」

 

 静香さんが僕に抱きつく。

 

「うわっちょっ」

 

 突然のことに驚いたが、僕も抱きしめ返すことにした。

 

「好きです。静香さん」

 

「私もよ」

 

 パチパチパチ

 

 何処からか、拍手が聞こえる。




無事静香を取り戻すことが出来た優也。だが、背後から新たな刺客が・・・! 次回ヤンデレ地獄 想うより早く


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最終回 かがやく未来へ

 パチパチパチ

 

 背後から手を叩く音が聞こえる。

 

「素晴らしいね。ユウヤ」

 

「アンタは……まさか!」

 

「そのまさかよ。なんで助けたの?」

 

「死にかけてる人を助けるのは当然だろ!」

 

「わかった。もう容赦はしない。君はもうユウヤじゃない」

 

「チッ……お前もかよ……」

 

「どういうこと? 優也くん」

 

「説明は後だ! さっさと逃げるぞ!」

 

「分かったわ」

 

 そう言って外に出ようとする。しかし、ドアの外には気絶していたはずの陽佳と佐優理さんがいたのだった……

 

「もう逃げられませんよ。ユウヤさん」

 

「……退いてください。佐優理さん」

 

「ダメですよ。そこにいる悪魔を殺してからじゃないと」

 

「悪魔って…… 何を言ってるんですか!?」

 

「佐優理。もうそれはユウヤじゃないの。諦めて」

 

「神無さん。はい、分かりました。じゃあ二人まとめて殺しますね」

 

 さっきから言ってることの意味が分からない。何がどうなっているんだ!? 

 

「優也くん……」

 

「大丈夫ですよ。僕が守ります」

 

 そういうと、三人が懐に隠していたであろうナイフを取り出し、一斉に襲いかかってきた。

 

 何とかスタンガンで応戦しようとするが、全て躱されてしまう。

 

「クソっ もう僕達を、放っておいてくれぇえええ!」

 

 僕がそう叫ぶと、三人の動きが急に止まる。

 

「なんで? ユウくんは僕たちの物なんだよ?」

 

「そう。ユウヤの傍には私たちがいなくちゃいけない」

 

「そうですよ。ユウヤさんに着く悪い虫は潰さないと」

 

「僕は君たちの所有物じゃない!」

 

「迷惑なんだよ! しかも、盗聴器まで仕込んでさ!」

 

 そういうと、神無さん以外の二人の注目が僕から逸れ、神無さんへと集まる。

 

「えっうそ……」

 

「本当なんですか?」

 

「今です! 逃げましょう!」

 

「分かった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ なんで鍵が閉まってんだよ!」

 

「だったら、もう裏口から出るしかないんじゃない?」

 

「いや、それじゃあ時間がかかりすぎる。それに、あの三人が校内に罠を仕掛けていないはずがない」

 

「だったらどうやって!」

 

「このぐらいの高さなら、肩車で行けますよね?」

 

「行けるけど、貴方はどうするのよ?」

 

「僕は一人でも飛び越えられるんで、心配しないでください」

 

「分かったわ」

 

「はい。じゃあ乗ってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とか行けましたね」

 

「じゃあ後は僕か」

 

 一気に正門へ走り、高く跳ぶ。だが、跳び越えるには少し足りなかったようだ。

 

「優也くん!」

 

 瞬間。静香さんが僕の手を掴む。そのおかげで、何とか正門を越えて学校の外へ出られる。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「礼はいらないわ。あなたには色々助けられてるもの」

 

「そんなの関係ありません。助けて貰ったら礼を言う。常識です」

 

「そ、それよりも! 警察に通報しないと!」

 

「あっ忘れてました。今かけますね」

 

「もしもし!」

 

「こちら明神。ってその声は!」

 

「一大事なんです! 早く学校に来てください!」

 

「何があった!?」

 

「詳しいことはあって直接話します。とにかく来てください!」

 

「分かった。すぐに向かう」

 

 刑事さんは数分もしないうちに、駆けつけてきてくれた。

 

「一体何があったんだ!」

 

「家に帰ったらこんな紙が落ちていて……」

 

「フムフム それで、君は一人で学校に行ったと」

 

「はいそうです」

 

「そうですじゃない! もし何かあったらどうするんだ!」

 

「とにかく、あの三人はまだ校舎の中にいると思います」

 

「では、早速夜が明けたら、捜索するとしよう。君達はもう帰れ。ここ数日、大変だったろう?」

 

「そうですけど……」

 

「帰るわよ。優也くん」

 

「あっちょ」

 

 僕は静香さんに手を引かれ、そのまま刑事さんが見えなくなった辺りで僕に質問をした。

 

「なんで私を助けたの?」

 

「何でって、助けるのに理由がいりますか?」

 

「っふ あなたらしいわ。全く」

 

「じゃあ本題に入るわね」

 

「えっさっきの質問はなんだったんですか?」

 

「さっきのは……ちょっとした確認よ」

 

「で、早速話すけどあの子たちは私の命を助ける気なんてなかったみたいよ」

 

「どういう事ですか?」

 

「あなたの前で死んだ私を発見させるつもりだった。それで、自分達の事を好きになってもらおうとしてたみたい」

 

「はぁ? 何ですか、その計画。第一、何で静香さんが死んだら、あの三人が好きになるんですか?」

 

「あなたまだ分からないの? 私が死んだらあなた悲しむでしょ? そこで優しくして、依存させようとしてたみたい」

 

「まぁギリギリ間に合って、私は何とか助けられたけどね」

 

「でも、僕はあなたが死んでも静香さんの事を想い続けますよ」

 

「優也くん///」

 

「じゃ、僕はこの辺で帰りますね」

 

「ちょっと待って!」

 

「ん? 何ですか?」

 

「あの、あなたの家に泊めてもらってもいいかしら?」

 

「えぇ!? い、家に、ですか?」

 

「でも、年頃の男女が一緒の家なんて……」

 

「また襲われるかも……」

 

 静香さんは怯えた様子でこちらを見つめる

 

「じゃ、じゃあいいですけど……」

 

「やった! ありがとう! 優也くん!」

 

「さっきまでの怯えた様子は何処へ行ったんですか」

 

「細かいことはいいの。ほら、早くあなたの家に行くわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます……って、えぇ?!」

 

 朝起きると、隣で静香さんが寝ていた。

 

「あら、もう起きるの?」

 

「そ、そうじゃなくて!!」

 

「優也の心配していることなら大丈夫だから、安心して」

 

 いやいや、安心してって言われても……。

 

「と、とにかく!!」

 

「ん?」

 

「今日はデートの日なんだから、早く準備しないとっ」

 

「もう、お家デートでよくない?」

 

 静香さんは気だるげにそう言う。

 

「もうっ、静香さんは、僕の前ではとことん甘えるんですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして十年後────

 

「静香さん!? それは本当なのか?!」

 

「うん。おめでたみたい」

 

「やったーっ!!」

 

「うんっ」

 

 僕らは結果として、結婚することになった。とても嬉しい限りだ。だが、僕たちの物語は始まったばかりだ。そう、静香さんのお腹にいる赤ちゃんのように。



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NEXT STAGE 死にヒロイン(物理)を助けたい。
第1話 ココから始まる物語


最終回だと言ったな、あれは嘘だ。


 この俺、如月優也はある人物に恋をしている。いや、恋とは言っても3次元ではない。2次元の、しかもゲームのキャラ、それの中でもかなりマイナーなギャルゲーのマイナーなキャラ。

 

『ハーレム天国だと思ったらヤンデレ地獄だった』に出てくる生徒会長キャラである九条静香。彼女はほぼ全てのルートで死んでしまう。

 

 しかし、この物語では1番の常識人であり、しかも俺の好きなツンデレって部類に入るキャラだ。

 

 そして俺は、ついに発売されたハーレム天国……通称、はんもっくのBluRayBOXを買いにアニメショップへと訪れていた。

 

「楽しみ……」

 

 そう呟きながら信号を渡ろうとする俺。だが……

 

「あ、危ないぞ少年!!」

 

 背後から声が聞こえる。横を見るとそこにはトラックが……。

 

(もう、ダメじゃね?)

 

 今までの思い出がフラッシュバックする。走馬灯というやつだろう、静香さんの死んでいる姿、静香さんの声、リアタイで見ていた時の高揚感、それら全てが俺を包み込む。

 

 特典の全キャラのドラマCDとか、聞きたかったなぁ……。俺はもうダメだと思いながら目を瞑る。

 

 だが、いつまで経っても衝撃は伝わってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────おかしい。夢だろうか? 俺が目を開けると、そこは学校、しかもテレビのスクリーンで見ていたあの想い人がいる、津守高校であった。しかも放課後の、3年の教室の前に俺は立っていた。扉が開けられる。

 

「あら、如月くんじゃない。どうしたのこんなところで」

 

 目の前に立っていたのは九条静香その人であった。あぁ、神様、感謝しますっ! こんな体験、死の間際にさせてくれるなんて! 俺はもう、どうせすぐ死ぬから、と告白……というか愛の言葉を静香さんに放つことにした。

 

「静香さんっ、俺、あなたのことが好きです! 真っ直ぐなところとか、でも帰りに今川焼き買って食べてるところとか、困っている子がいたら相談に乗ってあげるところとか、あげたらキリがないくらい、好きです!」

 

 ありったけの言葉、まだ足りないくらいだが。

 

「……? ?!」

 

 目の前の静香さんは止まったまま動かない。もっと言って欲しいのだろうか? 

 

「生徒会長だから早く学校に来て仕事終わらせたり、そんな真面目なところも好きで、でも偶に疲れてふにゃってなってるとこも、全部全部大好きです! だから、付き合ってください! 絶対に幸せにします!」

 

「え? あ、ちょ」

 

 夢だろうから今すぐに返事を貰わないと、俺はそう思って静香さんに返答を迫る。

 

「返事、お願いします!」

 

 別に振られてもいい……いや、かなり、死ぬほど傷つくが、でも静香さんと話せたってだけで天寿をまっとうできたと思っている。

 

「少し……考えさせてもらってもいいかしら」

 

 あぁ~、これ最悪の返答かも。もしこれが現実ならいくらでも、10年でも20年でも待てるのだが、ここは多分夢だろうから、今答えて欲しい。でも彼女に、夢の中とはいえ嫌な思いはして欲しくないし……うーん。

 

「……」

 

 俺が考え込んでいると静香さんが口を開く。

 

「……じゃあ、後でUnite送るから……それで返すから、それまで、待ってて?」

 

 そんな言葉を上目遣いで言われて、否定できる男はいないだろう。ちなみにUniteというのはこっちで言うLINEみたいなものだ。

 

「う、うん。じゃあ!」

 

 俺は逃げるように帰った。

 

 ────その時の優也は気づいていなかった。ある3人の少女たちがこの光景を見ていたことを……。

 

(優也さん、あの悪魔に騙されて……)

 

(ユウくんったら、あんな奴にかまけちゃって……)

 

(優也は、私が守る……)

 

 ────本当は、早く家に帰って返事を聞きたかっただけなのだが。なので俺は、家に帰ってスマホのある引き出しをすぐに開ける。だが、まだ送られていなかった。まぁ流石に早すぎるか……。

 

「ふわぁ~」

 

 やべ。眠くなってきた。まだ起きて連絡待たないといけないのに、だ。しかも運悪く眠気覚まし等は持っていないのでどうにもならない、自分の気合でしか。

 

「っと、あぶないあぶない……」

 

 寝かけたところで寸前で目を覚ますが、また目が勝手に閉じてしまう。そして俺は、夢の世界へと入ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、最悪な夢を見た。ゲームでは文章とCGでしか、アニメでは音声でしか表現されてこなかった陽佳による生徒会メンバー虐殺の一部始終を見てしまったのだ。

 

 聴覚に視覚……更には嗅覚まで攻めてきた。そして、陽佳がバットで俺を殴り殺そうとする瞬間、夢は覚めた。

 

「ハッ……。……夢か」

 

「って、あれ?」

 

 辺りを見渡してみると、景色が変わっていないことに気がつく。自分はトラックに轢かれて死ぬはず、なのになぜ……。

 

「ま、いっか」

 

 俺は考えを放棄する。そんなこと考えても無駄だし、今は静香さんと一緒にいられる時間が増えるということを喜ばないと。

 

「さて、連絡は来てるかな……」

 

 スマホを確認するが、返事はまだ来ていなかった。ただ、«もう少し待ってもらえるかしら»とは来ていたので、その時が楽しみだ。第一、ここが夢の世界でないのならいくらでも待てるしね。

 

 ってことで、俺は静香さんと登校時間を被らせるために早めに家を出た。ストーカーではない……と、思う。

 

「静香さんっ、おはようございますっ!」

 

 この天気と同じように元気一杯挨拶をする。

 

「あ……」

 

 だが静香さんは俺の姿を見ると顔を赤くしてそそくさと学校へと行ってしまった。一体、何が恥ずかしいというのか。

 

「はぁ……」

 

 俺がため息をついていると、後ろから声がかけられる。

 

「ため息をついているところ悪いが、話、いいかな? 少年」

 

 振り返ると、スーツ姿の男性が立っていた。

 

(あれ……? 違くね?)

 

 少なくともアニメ版やゲーム版の工藤刑事とは全然違っていた。

 

「あの、まずお名前を伺ってもいいでしょうか?」

 

「お、礼儀がいいな、少年。俺は明神隼人、気軽に隼人とでも呼んでくれ」

 

(明神、隼人……?)

 

 俺の記憶違いでもなければ、こんな人登場しなかったはず。まぁ、刑事だしいくらいても不思議じゃないけど。

 

「少年?」

 

「ん? あぁ、すみません。で、何の話でしょうか?」

 

「そうそう。今日はあの事件について聞きたいことがあったんだ」

 

 例の事件……あぁ、アレか。事件とはこの物語の芯になる部分物語が動くキーとなる、ある殺人事件だ。

 

 この事件には静香さんは関わっていないので詳しいことは忘れたけど。とりあえず知っていることを全て話した。

 

「そうか。助かった、少年」

 

 ……すごくどうでもいいんだけど、なんで少年、って言うんだろ……。それを質問する暇もなく隼人さんは向こうに行ってしまった。

 

 学校に行くので追いかける訳にもいかず、俺はそのまま学校へと足を運んだ。




ちなみにあの明神刑事以外は前の章との繋がりはありません。完全に別作品と割り切ってください。


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第2話 幸せの為の願い

 学校に着くと早々、陽佳が話しかけてくる。

 

陽佳ってのはボクっ娘で……まぁ、そこだけ見れば可愛いんだが作中屈指のキルレを誇っている超残虐なヒロインだ。

 

もしあの告白が見られでもしたらその日はもう……地獄だろう。

 

「おっはよー! ユウくん!」

 

「あ、あぁ、おはよう」

 

 夢のことを思い出してあまり上手く言葉が出ない。

 

「ん? どうしたの? ユウくん、いつもより元気ないね?」

 

「い、いや、そんなことはないんだけど……」

 

 そんなことを話しているうちにも俺はスマホの通知音が鳴らないかとずっと気にしていた。

 

「うーん、やっぱユウくん心ここに在らずって感じだよっ。何かあったの? ……例えば、あの会長さんにこ────」

 

 その瞬間、スマホの着信音が鳴る。その相手は、九条静香。もちろん、気づかれたらいけないので教室の外へ出て会話をする。

 

そして、期待に胸を膨らませながら応答ボタンを押す。

 

「もしもしっ」

 

「あの……如月くん……よね? 今朝は逃げてしまってごめんなさい」

 

「あ、別にいいですよ。こうやって話しているだけで、そんな些細なこと忘れちゃいますし。というか、なんで態々電話で連絡を?」

 

「少し……ね」

 

 言いたくなさそうに声が小さくなっていく静香さん。

 

「あ、いいですよ。……ってかっ、返事は、決まりましたか?」

 

「それは……」

 

 静香さんが言いかけたところで、電話はブツっと切られた。……何か、嫌な予感がする。

 

俺の知っている静香さんがそんなことするはずない。俺は静香さんがいるであろう3年の教室や生徒会室を見て回る。なのに……。

 

「なんでいねぇんだよ……」

 

 帰っているということは無いはずだし、でも教室にはいなかったし……他学年の教室を見て回るにはあまりにも時間が足りなすぎる。……と、考えていると……。

 

「あら、優也さん、何をしていらっしゃるのですか?」

 

 などと話しかけてきたのは宮主佐優理。監禁とか拷問とかしたりする、典型的なDV女って感じだが、それとは少し違うところがある。それは……。

 

「あぁ、それは……」

 

「まさか、あの悪魔を探しているのではないですよね?」

 

 そう、王子様とか悪魔とかを本気で信じているのだ。いや、まだ信じているだけならいい。

 

それを周りに人達に押し付けてくるのだ。例えばだが、俺……っていうか如月優也を王子様と認定して監禁したりなどだ。

 

「悪魔……いや、違いますよ~。少し探し物がありまして~」

 

「では一緒に探しましょうか? というか、ぜひ探させてくださいっ」

 

 ……あ、やっべ。選択ミスった。どうやって断ろう……。死にたくないし、出来れば穏便に引き取って貰いたい。

 

「あーっと……あった! すみません佐優理さん。よくよく考えてみればロッカーの中にしまってあったんでした」

 

 これですんなり受け入れてくれればいいのだが、上手くいかないのが現実ってものなんだよな……。だが、佐優理さんはスマホを取り出して画面を見るとすんなりと受け入れてくれる。

 

「あっ、そうなんですね。良かったです♪」

 

 でも、逆に嫌な予感がするのは俺だけだろうか……。佐優理さんが去った後、俺はひと握りの希望にかけて屋上へと向かう。

 

「……え?」

 

 ……そこには誰もいなかった。……だが、屋上から地面を見下ろすと、その下に、静香さんがいた。俺は全速力で屋上から校舎の入口へと急ぎ、屋上の下へと行く。

 

すると案の定、静香さんが倒れており、……いや、まだ早計だろう。俺は静香さんの体を揺らす。

 

「静香さんっ、静香さんっ!」

 

 だが、返事はない。その手には、1枚のメモ紙が握られており、それを取って内容を見る。内容は、返事の言葉が何通りも書かれており、それの全てが承諾の文となっていた。

 

「なんでこんなことになったんだよ……」

 

 俺はこれまでの行動を振り返る。あのヤンデレ三銃士には気づかれてない……はず。なのに何故……!

 

脳内に、語りかけてくる声がひとつ。

 

『お前の願い、ひとつ叶えてやろう』

 

「願い……?」

 

『ああそうだ。なんでもいい』

 

 彼女が死んだ世界に意味はない。俺はある望みを、その脳内の声に向かって語りかける。

 

「リセットを、させてくれ。何度でも、静香さんを助けられるまで、何度でもリセットをさせてくれっ!」

 

『如月優也、お前のその願い、聞き入れた』

 

 その瞬間、俺の意識がプツリと途絶えた。



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第3話 事実の確認

「んーじゃ、どうしよっかー」

 

 俺がこの世界に来た日の放課後へと、またやって来た。とりあえず、だ。告ったときに『Uniteで送る』とか言ってたから連絡先を交換していることは確実。

 

なので俺は、その場から離れて校舎の外へ出る。そして俺は『例の』神社へと向かい、俺の白骨死体がある木の根元を掘る。

 

「やっぱ、あるよな……」

 

 ほんの少し掘り進めただけで見つかった。あーあ、嫌だ嫌だ。ホント、死ねばいいのに。……っと、危ない危ない。そろそろいいだろうと、俺は静香さんをUniteでこの神社へと呼び出す。

 

『少し準備するから待っててくれない?』

 

 ……ほんとありがとう。俺はそれに土を被せて静香さんが来るのを待つ。

 

「はっ……!」

 

 背後に気配を感じたので咄嗟に振り返る。

 

「あら、優也さんったらこんなところで何をしているのですか?」

 

 振り返るとそこには、佐優理さんが立っていた。

 

「おま……! いえ、佐優理さんこそ、どうしたんですか。こんなとこで」

 

「私が先に聞いてるんです。答えてください」

 

 やばい、ここで時間をかけてしまったら静香さんが来てしまう……! 

 

「あ、あぁ、少し人を……いや、あなたを待ってたんですよ! いや~、丁度来てくれて良かったですよ~」

 

 普通なら怪しむが、こいつを含む3人は俺の事となると考えを放棄してしまうのでな。

 

「そうなんですか!」

 

「で、来てくれて嬉しいんですが、もうこんな時間なんですよね……。もう帰りますか?」

 

「はい、そうですね♪」

 

 俺は佐優理さんを家まで送り届ける。……やっぱ、デケェな。外観はあまり描写されていなかったのでいざ目の当たりにするとその大きさにそう思っていると……。

 

「あ、あの、きょ、今日、寄っていきませんか?」

 

 悪手だったか……。ま、まぁいいこんなところで諦めてたら、静香さんを救うなんて、到底不可能だからな。俺はその提案に乗った。幸い、今の俺はスマホを持ってるし、嫌な予感がした時点で警察に通報すればいい話だ。それに、こんな序盤からハードな展開になるはずがないしな。ゲームなら、の話だが。

 

「はい、お願いします」

 

 俺は部屋へと入り、宮主家で夕ご飯をいただく。

 

「おぉ、美味いな……」

 

 この世界に来て初めての食事だからか、俺はつい感想が口に出てしまった。

 

「あらっ、喜んでくれて嬉しいです♪」

 

 いやぁ、ホント、ずっとこんな感じだったら素敵なんだけどなぁ……。などと考えていると、着信音が鳴る。

 

相手は当然、静香さんだ。知られる訳にはいかないので俺は電話を切って、『あとではなす』と素早く打ち込み、送信する。

 

「あら、誰からでしたんですか?」

 

 ……うーん、どうしよっか。俺は画面にロックを掛けて、彼女に答える。

 

「ごめんごめん、刑事さんからだった」

 

「あら、切ってもよかったのですか?」

 

 確か、工藤刑事さんとは繋がってるんだったよなこの人……。

 

「あー大丈夫、いい人そうだったし」

 

「……そう、なのですね」

 

「てか、そろそろ帰ってもいいかな?」

 

「あら、もう帰るんですか? 今日はもう遅いですし、ここに泊まっていけばいいのに……」

 

 はぁ……。

 

「……。……あぁーったよ。泊まるよ」

 

「はい♪ では、お布団の準備をしてきますねっ」

 

 そう言って佐優理さんは部屋を出ていく。俺はスマホで事の経緯を静香さんに送る。

 

そして数分後、大きな布団を持って襖を開けた佐優理さんは布団を敷く。だが、持ってきた布団はひとつだけ。

 

「あ、もう1つは俺が持ってこようか?」

 

 そう俺が提案すると、佐優理さんは何言ってるんですか? とでも言いたげな顔でこう言い放った。

 

「あら、これ1つだけですよ?」

 

「……っ?!」

 

 いくら佐優理さんに興味が無いとはいえ女の子だ。それと一緒に寝るだって?! いやいや……。はち切れそうな理性で本能をこらえる。

 

「あ、あぁ……」

 

 何も言えねぇ……。とりあえず俺は佐優理さんの指示に従って『同じ』布団に入り、彼女が先に寝る。

 

まともに顔が見れない。……こうやって寝てると普通の女の子なんだけどなぁ……。どこで道を踏み外してしまったのだろうか? 

 

「……おやすみ」

 

 誰にも聞こえないぐらいの声で就寝の挨拶をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────次の日、俺はこの家に来たことを後悔することになる。



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第4話 読み聞かせ

 目が覚めると俺は、手足が縛られていました。……いや、俺にそんな趣味はない。

 

「おはようございます。優也さん♪」

 

 いやいやいや、怖いよぉ……。とまぁ、冗談は置いといてだな……、こんな早く監禁されるとは思わなかったよ……しかも、静香さんにまだ告白すらしてないのに、だ。

 

「……なんのつもりですか。佐優理さん」

 

「なんのつもり、って怖いですよ? 優也さん?」

 

 俺から見れば君の方が怖いです、はい。……てか、昨夜のことを思い返してみても、突然眠たくなったりしなかったし、睡眠薬は入ってなかったのか? 

 

「それと、スマホはこちらで預かっておりますので♪」

 

 詰んだ。……とでも思っていたのか? こんなこともあろうかと俺は、昨日のうちに静香さんに『明後日になっても俺が学校に来なかったら通報してくれ、場所は宮主家で頼む』と送っておいたのだ!! まぁ、それが勘づかれたらパアなんだが。

 

「で、俺は何をすればいいんですか?」

 

 明後日まで生き残るために俺は佐優理さんに話を合わせることにした。

 

「それはですね……」

 

 そう言って、引き出しからゴソゴソと取りだしたのは1冊の児童書。

 

「これを読んで、覚醒してもらいます♪」

 

 ヒェッ……。これ、2日持つだろうか……。

 

「読めば、いいんですよね?」

 

「はい♪」

 

 そう言って微笑む佐優理さんは、何とも言えない目をしていた。

 

「わかり、ました……」

 

 俺はその本を読み聞かせてもらう。

 

「むかしむかし、ある国に、1人の勇者と、姫がおりました……」

 

 その日から、地獄が始まった。目を閉じようとすれば頬をぶたれ、少しでも別のことを考えようとすればそれを見抜かれてまたもやぶたれるという……。

 

だが今日、ようやっと2日目の夜が迫ってきた。流石に佐優理さんも人間なので、10時くらいになるとベッドに潜りこむ。

 

もちろんその間も俺は手足を縛られたままだが。だがもうそんな日も今日で終わりだと思うと、不思議と気分が楽になっていった。

 

まぁ、もし工藤刑事が来たらまだ続いてしまうが。近くでパトランプの音が聞こえる。

 

「……」

 

 俺が目を閉じて眠るふりをしていると何処からか複数の走ってくる足音が聞こえてきた。

 

幸い、佐優理さんは起きる気配はない。俺は大声を上げて自分の場所を示す。

 

「ここです!!」

 

 すると、足音がこちらに向かってくる音が聞こえた。

 

(よっしゃッ!!)

 

 心の中で歓喜の声をあげたところで、その走る足音とは別になにかをするような音が聞こえてくることに気が付く。

 

「君はまさか、……あの時の少年か!?」

 

 よし、来たのは隼人さん。丁度その瞬間、佐優理さんが目を覚ます。

 

「あら、なんでしょうか? この音……」

 

 そして、それと同時にもう片方の扉も開けられる。そしてそこに居たのは……!



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