新しい、殺人鬼…? (さや)
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新しい、殺人鬼…?

HUNTED NIGHTMARE

 

 

 最初にその"不審者"を目撃したのはリージョン(フランク)だった。

 

「ハントレスとデススリンガーを足してそのままみたいな奴が居た」

 

 と転げる様に儀式から戻って来た。

 

 そんな馬鹿な。と殺人鬼(キラー)たちは誰もが思った。

 

 そんな殺意を特盛にした生存者(サバイバー)が居てたまるか。

 いや、確かに最近はサバイバーも、ツインズの片割れを踏みつぶし、キラーをぶっ殺し始めてはいるが……。

 

 エンティティに連れて来られては居るが、彼らは言ってしまえばヤンチャ(では収まらないが)な悪ガキ共だ。若干周りのキラー達と毛色の異なる、ようは"子供"だ。

 そんな彼の言葉だから、なんだそれは、と殆どの者は取り合わなかった。

 

 

 

 

 

 だが他のキラー達も、直ぐにその存在を認めた。ぞくぞくと狩の儀式での目撃情報が上がっている。

 

 確かにフランクの言った通り、ハントレスとデススリンガーを足して、割らないままおっ放した様な奴が居た。

 

 存在した時代が重なるのか、デススリンガーの様にがっちりと着込んだ重そうな黒い服は意匠が似ており、左手には片手で撃てるのか怪しい銃。右手に生命の鏖殺のみを目的にした様な斧を下げてうろついている。

 

 なぁにあれ、新しいサバイバー? いや、まさか。

 

 あまりにも血生臭く、物騒なその人型生命に皆首を傾げるしかない。

 ぱっと見なら間違いなくこっち側だが、ブラック雇用主エンティティ様からは何のお達しもない。

 新しいキラーが増えれば皆それと把握するし、せっせとご飯(BP)を集めて世話を焼いたりもするが、あの"不審者"については誰も何も知らない。

 

 ただふらふらと彷徨って居るだけだ。

 

「上位者出てこいおらぁ! 居るんだろ!? この世界を見てる奴居んだろ!? ぶっ殺す! 上位者狩り殺す!」

 

 たまに斧と銃を掲げて『ジョウイシャ』なる者に怨嗟を吐き散らしながら駆け回るが、それだけで特に害もない。

 不思議とサバイバー側には認識されていないようだ。

 

 邪魔される訳でもないので放置で良いか、とその"不審者"を放置した。

 

 

 

 一人、ハントレスは例の"不審者"と違うモノを見たと言う。

 何時もの通りに鼻歌と共にサバイバーを肉フックへ吊るした所、ふと気配を感じた。そちらを向くと、蒼いイカが居たそうだ。

 

「人形ちゃんじゃない」

 

 フックの足元でうごうごと触腕をうごめかせ、じぃっとハントレスを見上げて居たが、次の瞬間しょんぼりと(彼女が言うにはイカが落ち込んだらしい)項垂れたのだそうだ。

 

 イカが……?

 

 そして何故かフックに吊るされていたサバイバーは、イカの言葉と共に引きつけを起し発狂し、頭が破裂して泡を吹いて死んだそうだ。まだ一回しか吊っていないのに。

 

 いや、イカが喋ったのか……?

 

 意味の分からない目撃例も有ったが、イカは"不審者"とは無関係だろう。

 その一度しか目撃されていない。

 サバイバーに関しては、バグか何かだろう。きっと。そうであってくれ……。

 

 

 

 

 しかしとうとう実害が出た。

 

「……ヤーナム臭がする。もっと言うと、医療教会の上層の学者共くさいぞ……! 居るな!? 更なる高次元の叡智に固執する奴が居るな!?」

 

 そんな雄たけびを発しながら、ブライトが追い回された。

 見た目とは裏腹に、インテリ系学者は『死ぬ』思いで逃走してきてその様を伝えた。

 視認はされて居ないだろうが、件の"不審者"は突然ぴたりと立ち止まり、ガキン! と硬質な音を立てて斧の柄を長くし両腕に構えると、猛然と駆けだしてきたのだ。

 

 キラーを追い立てるサバイバーが居てたまるか。

 

 どうやら『ジョウイシャ』並びに『医療者』にも殺意を抱いているようだが、ナースに(彼女と同列に並べて良いのか首を傾げる)ドクターは被害には遭っていない。

 それどころか、ドクターに至っては、姿さえ見かけていないのだそうだ。

 

 

 

 そして後日、鐘を鳴らすと高確率で殺意に満ちた"不審者"が飛び出して来る様になったレイスは暫く儀式には出て居ない。

 

 

 

 またある時スピリットが"被害"に遭った。

 

 例の"不審者"は普段、サバイバーにもキラーにも関わる事なく凶器を両手にフィールド内をぶつぶつ『ジョウイシャ』を探してうろついている。

 儀式そのものを邪魔をする事も無いからか、エンティティも彼を放置している。

 

 そう思っている時代が彼女にもありました。

 

 だがその日、ばったりと真正面からスピリットは"不審者"とかち合ってしまった。

 そしてまじまじと、(悍ましい傷などを無視すれば)際どいとしか言えない彼女を上から下まで見たかと思うと、ぱっと、一瞬にして"不審者"の衣服が消えた。

 

 一瞬で脱衣した。 

 次の瞬間にはパンツ一丁に、頭にはエクセキューショナーのご親戚の如き煌めく黄金の三角形を被っている。

 そして片腕を天へ掲げ、もう片腕は地に平行に伸ばした……かと思うと、突然叫び声を上げながらすさまじい勢いで膝をがくがくとさせ、屈伸をしだした。

 

 今でこそ恐ろしい見た目のキラーだが、それ以前に彼女は女子大生。

 存在だけでも正義である、やんごとなき女子大生。猫に成ったら飼い主に成って欲しいジョブ一位の女子大生。

 あからさまなまごうことなき変質者に悲鳴を上げ、涙目で逃げかえたって仕方ない。

 

 

 そして屈伸するのなら、あれも実はサバイバーなのでは? という話も持ち上がったが、やはりあんな悍ましいサバイバーは居て欲しくないし、エンティティは一切彼に接触しない。

 

 

 あれ? 幾ら何でも、おかしくないだろうか?

 

 

 

 

 流石にオカシイと思い始めたが、クソ上司様(エンティティ)は何の対策も講じないどころか、相変わらずに休みなしの儀式をご所望だ。

 今夜も儀式h

 

「人類を弄ぶ上位者は居ねがぁーーーー」

 

 とうとうキラーの待機場所に"不審者"が文字通り降って沸いた。

 

 

 そう言えばここ最近、誰もナイトメアが儀式に向かっていないな、という事実を唐突に思い出した。

 



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2話

まさか勢いだけで書いた悪ふざけに、感想をくださる方がいるとは思わず…ありがたいかぎりで、にやにやしたり思わず声にだして笑ったりしながら読ませていただきました。
申し訳ありませんが、返信は控えさせて頂きます。物すっごい脳味噌を蕩けさせた悪ふざけに、気の利いたコメントを着けてもらい書いている人も楽しんで居るのですが、面白い感想に面白い事が返せないのです…すいません。

それでも読ませて頂き、うっかりまたふざけてしまう位には大喜びしています!


 強力な撥水加工がされているのか、黒く重そうな外套をぬらりと赤い血が滑り落ちていく。同じ黒の帽子も、汚染物から保護する口元のマスクも。僅かに覗いた目元さえも、赤黒い血糊に塗れ、ぽたりぽたりと地面に金臭く粘度を持った雫を落とす。

 

 黒づくめ、血まみれ男の唯一覗いた人間らしい部分である相貌に光はなくどんよりと淀んでいる。その癖に、今にも目前の獲物に食らいつきそうな獰猛さがある。

 

「俺が殺人鬼? 馬鹿を言うな。俺以上に真っ当で正常な人間は、ヤーナムのどこを探したって居ないぞ」

 

 そう心底不服そうにして、右手に握りしめていた引き千切った臓物を放り投げる。

 不健康そうに変色し、黄色い脂肪と血を絡みつかせた臓器がべしゃっと湿った音を立てた。

 空いた腕を組んで、まっくろな"不審者"はふんす鼻を鳴らす。

 

「鏡みてからもういっぺん言ってみろ」

 

 古参キラーであるトラッパーはとても正しい事を言った。お前のような生存者がいるか。どう見てもこっち側だ。だがお前のような後輩など要らん。

 

 キラーの待機場所にまで降って沸いてしまった件の"不審者"、スピリットの言う所の『ナマハゲ』の掛け声と共に、ぱかりと亜空間に開いたハッチから『やぁ』とばかりに降って来た。

 

 性被害に遭ったスピリットは、ひっと小さく悲鳴を上げてツインズの姉とハグをひしっと抱きしめ後退し、ナースはそんな健気な彼女を庇う様に前に出た。

 

 そしてひょっこりやって来たクラウンを見るなり、徘徊中一度も使う所を見た事無かった馬鹿みたいな口径の銃をクラウンにぶっぱなし、有ろうことか、素手をそのままでぷりんとした彼の腹に突っ込み臓器を掴みだし、引きちぎった。

 この"不審者"のメメントモリだろうか。キラー相手に使うな。

 

 

 当の"不審者"はデブと鐘女は見つけ次第殺さねばならぬ、といっそう目を淀ませ唱える様に繰り返してる。

 

 エンティティに目を着けられたキラー全てが今の状況を望んだ訳ではない。追い詰められた末に辿り着いた人物も居る。それでもまあ、大概お察しな感じの人物だ(どんな経緯でお察しな人格になったとしても、現実がそこにある)。

 せっせとご飯を集めては、後輩の世話を焼くが、お察しな連中ばかり集まればそりゃあ揉め事も起きる。

 

 直近ではデモゴルゴンが誰彼構わず噛みついた。ハントレスに『めっ!』とお口チャック(お口を使用不能な感じに叩き潰す)をされて少し大人しくはなった。

 成る程。こいつもその類かも知れない。綺麗にヒトガタをしている上に、喋る分質が悪いが……。誰かハントレスを呼んできてくれ。

 

 

 

 

 結論から言おう。"不審者"改め自称"狩人"は消失した。

 狩る側と名乗るのなら、やはり新しいキラーなのではと思うが、断固血まみれ臓物濡れの人物は認めない。

 

 女性キラーが遠巻きにし、ピッグなどは完全にゴミを見る目をしている(被り物の豚越しにさえ冷たい視線が漏れている)。

 真っ当に会話できる連中で(ゴーストフェイスは逃げやがった。恐らくサイコパスは他のサイコパスが苦手とかの、ソレだ)何故ここに来た? と尋ねてみてもさっぱり要領を得ない。

 

 悪夢の辺境で苗床糞野郎に神秘汁とナメクジをぶっ掛けられたり、モツを抜いたり抜かれたりして居たら、いつの間にかこの霧の世界に居たのだそうだ。だがそう言う事はままあるし、記憶も結構無くなるし、『ジョウイシャ』の気配がするのなら狩らねば成らぬ。

 穢れた獣も、気色悪いナメクジも、頭のイカれた医療者共も殺し尽くすもんだ。そうだろう? と力説する。

 

 一つ分かった事は、この狩人はエンティティに一切の接触をしていない。

 キラーもサバイバーも漏れなくあの邪悪な存在に囚われているのに。

 

 尚更深まった異物感に、顔を見合わせた所、雄たけびと共に走り込んで来た鬼が棍棒のフルスウィングで問題の狩人の頭部を吹っ飛ばした。

 彼の怒りももっともだ。それなりに遠縁だとは言え、かつて彼の誇るべき物だった血統の子孫の娘が辱められたら、そりゃキレる。仕方ない。狩人は有罪だ。変態行為に走る者を世界は許しはしない。

 

 人間の首がゴキリとイイ音をさせ折れ、半分潰れ歪に成った頭部が放物線を描き飛んでいく。重い頭がごととと転がるのに、一拍遅れてから取り残した体がどさりと倒れた。

 

 なんとも見事な一瞬だった。何故か背景に白い花園と大きな満月を幻視する程に、美しい光景だった。

 

 変態は誅された! キラー達に平穏が訪れた! 完! とは成らない。

 ごろりと転がった狩人の体は月光に溶けるようにふわりと霧消した。エンティティに回収される事もなく。

 

 そして件のクソ上司からの通達が舞い込んだ。

 

エンティティだよ!

あの外来種ばぶちゃん新参者は嫌いだよ!

でも使えるから早急に懐柔するかどうにかして、儀式に参加させてね!

殺せるなら殺してもいいよ! 頑張って!

でもエンティティあの傲慢ちき嫌いだからノータッチを貫くよ!

皆でどうにかしてね!

エンティティでした!

 

 やはりクソ上司だった。

 臓物と多大な脂肪をぶちまけて転がって居たクラウンも、狩人が消えてからやっと修復して貰ったが、折角集めたBPが全て無くなっていた。解せない。

 

 

 

 

 

 

 それから数度儀式が繰り返されたが、幸いな事にあの後誰も狩人の姿を見ては居ない。

 そして見失っていた(元々いまいち居るのか居ないのか分かり辛い)ナイトメアがひっそりと戻っていた。なんだか、格子状の傘立て……? のようなものを被ってゴキゲンに笑いながら駆け抜けるオッサンに追い回される悪夢を見ていたそうだ。

 

 夢の世界を支配する殺人鬼が? 悪夢?

 

 皆不思議に首を傾げたが、人間のキラーにはそんな摩訶不思議な空間の事など分かりはしない。

 それでもオッサンがオッサンを笑顔で追い回すなんて光景は確かに悪夢だろう。

 

 

 

 

 

 

 すっかり不審者ショックも収まった頃、また妙なものを見つけた。

 焚火の傍らに、うっそりと佇む今夜の贄の中に見慣れない姿の者が居た。

 

 丈の短い、背を覆う程度のマントに黒フード。茶色のくたびれたベストに、捲り上げたシャツの袖。腕にはどう見ても衛生的ではない包帯で、未だ点滴の管の一端を止めている。

 俯いて居て、残り三人のように顔の判別は出来ない。

 

 まあ、あの黒い変態不審者狩人のように気にすることはない。他のサバイバー同様、凶器らしい凶器もなく、両腕を脇にだらりと下げている。

 きっと新しいサバイバーか何かだ。

 

 さあ今晩も狩りの儀式が始まる。

 

 

 

 




獣(広義)狩の夜が始まった。


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3話

頂いた感想はにっこにこで読んでおります。


 何が起こったのかはさっぱり分からなかった。

 脳が理解した順番に言えば、盛大にどつかれた様な背後から前へ突き抜ける勢いの衝撃。一拍置いてから、その衝撃に見合った強烈な痛みが脊椎を軋ませた。

 目前、というか足元には今しがた設置したばかりのトラバミがある。うっかり自分で掛かる様なアホな事態にはならないために、必死に踏みとどまる。

 

 これだけの鈍痛を与えるには何か得物が握っている筈だ、激痛を飲み下しつつも振り返るトラッパーの目に、例の新顔らしきサバイバー。

 例の黒フードに、包帯を巻いた男がガッツリ腰を落とし追撃の手刀をぶち込む構えをしている。

 

「……狩人かお前!?」

 

 向かい合って、フードの下に隠れた、グレーの淀み切った目に見覚えがあった。

 そもそもさっきの衝撃は手刀だったのかと面食らう。

 面食らうが、こちとらキラーだ。最近殺意が上がってきているサバイバーにも、メゲない、ショゲない、生かしてはおかないと今日も頑張っている。

 こんなに近くに居るのだから当然切り付けるが、どう考えても物理法則を無視した動きでするりと避ける。

 

 避けて、当然のようにまた右手の手刀を構えてる。

 

「まてまてまて」

 

「何だ」

 

 にこっりした不気味な仮面の下で、盛大に顔歪めながら狩人を制止する。

 意外な事に、素直に狩人はぶん殴る為に落としていた腰を上げる。普通に手刀をぶち込んだ右手が痛いのか、左手で押さえている。

 

「キラーに向かってくんな! サバイバーなら逃げろ!」

 

「何故」

 

 さも不思議そうに首を傾げる。

 そりゃもうたくさんの後輩にBP集めて来た古参キラーは頭を抱える。こっち側に居られてもイヤだが、エンティティを通さない、ルールにも従わない、凶器を持った殺人鬼に素手で殴り掛かるようなサバイバーもごめんだ。

 

 というか、こいつ、絶対見かけたからでなく、わざわざ探して殴り掛かって来やがったな。

 

 

 

 

 

 

 

 最近キラーの待機場所はお通夜の様な状態が続いている。

 

 理由は明白。再び儀式に現れる様になった、狩人のせいだ。

 前までは4人のサバイバーと、ぼんやりとうろつく異物の狩人という図式だったが、最近件の狩人はちゃっかり生存者の枠に入り込み、キラーを襲ってくるようになった。

 

 そう、襲って来るのだ。

 凶器を持ってなければいいだろ、とばかりに手刀でぶん殴って来るのだ。しかもその手刀が凶悪なのだ。肉の繊維を容赦なく叩き潰し、破壊し、骨を砕いて血管を断裂させる。最早素手とはなんだという勢い。

 

 最初にぶん殴られたトラッパーが、「サバイバーは殴るな」「発電機回せ」「向かって来るな」「こっちくんな!」「おい、くそっ殴るな!」「脱出を目指せ!」「ゲート開いただろ!? お前も早く出てけ!」「血の遺志が美味しかった……? 血……BPかっさらってたのお前か!?」「アッーーーー!」と散々な目に遭った。

 

 何故か酷く狩人を忌避しているエンティティは、本当に一切の介入を拒み、その癖全逃げされて勝手に不機嫌になっている。クソである。

 それでも逃れる術はないので、ご要望通りに何とかキチガイ染みた狩人にも儀式を遂行させようとするが、ちっとも言う事ききやしない。

 

 ただ幸いな事は、毎回居る訳でなく、運が悪いと生存者に紛れているという程度な出現率だろうか。そして倒された板や窓枠を越えられず、発電機を直せないという事だろう。

 当人が言うには「ニッポンのニンジャと違う、一般人だぞ。ふざけるな殺すぞ」

 

 ……諦めて殺人鬼側だと認めた方が良いのではないのだろうか。

 

 狩人が出現すると、著しく狩りを妨害される。おかしな話だ。狩る側を名乗る奴のせいで、キラーは大迷惑を被っている。

 では生存者は楽して居るか、と言えばそうでもない。

 

 狩人は脱出に不可欠な発電機の修理は出来ず、サバイバーは最初から一人欠けた状態で始まる。ただ心音を探り、全力でキラーからBP奪おうと餓えた獣の如く殴り掛かって来るのだ。

 

 お前の様な生存者が居るか。

 

 そして不思議な事に、一人欠けた状態で逃げ惑うサバイバーは狩人の存在に違和感を抱かない。というか、存在を認識できていない。3人しか居らず、キラーが狩人と取っ組み合い血肉ぶちまけ、一切関与して来ない事も不信に思わない。

 

 いよいよ気味が悪い。

 

 これはどう考えても人間のキラーではない。

 いや、形は人間だが……何というか、ナイトメアに近い存在な気がする。

 何故かブライトに関しては殺意が増しているし、彼と同じように(運よく謎の摂理の働くステップで動き回る狩人に傷を負わせられれば)儀式中に自身の大腿部に豪快に注射器ぶっ刺している。

 実は同郷なのだろうか?

 

 なんとかあの厄介な存在の処遇を、キラー達だけで決めなければならいのだ。取り敢えず、解決の糸口を掴むためにナイトメアに話を聞いてみよう。

 

HUNTED NIGHTMARE

 

返事がない。ただの儚い夢のようだ。

 

 

 

 

 

 

 狩人の存在のせいで、思う様にサバイバーを吊っていけず、キラー達が苛立ちを募らせる今日この頃。

 いつだったかの様に、亜空間に不自然にハッチが出現した。そして再び『やぁ』とばかりに、サバイバー仕様の心算なのか、黒フードにシャツの袖を捲り汚っねぇ包帯を巻いた狩人がひょっこり生えて来た。

 

「へい! 介錯一丁!」

 

 前回内臓を盛大に豪快にぶちまけられたクラウンが、思わぬ俊敏さでハッチの扉を叩きつけた。あれ? お前解毒剤使った? という位には素早かった。

 

 

 

 

 皆遠巻きに、各々凶器を構えつつ(敵意はないと示す為なのかは謎だが)片腕を空へ、もう片腕を地へ平行にした以前にも見た奇妙なポーズでを取る狩人を囲んだ(ゴーストフェイスとブライトは逃げた)。

 対話を求めているのか何なのか分からないが、時々左右をスイッチするのを止めろ。何だか気色悪い。

 

 おかしな話だ。これだけの無慈悲な殺人鬼に囲まれ対話を求めるなんて。

 

「何の用かね?」

 

 実はこれが初めて狩人を見たドクターが、興味深そうに尋ねる。

 

「アッ、俺こう見えて赤ちゃんなんで雷光刺さるんでちょっと距離取って貰っていいですか今は死にたいんじゃなくて介錯で目覚めたい感じなんでちょっと人形ちゃん不足で発狂しそうなんで一回死んでここ戻ってくるの地味に遠いんであのあの」

 

 キラー達に僥倖! どうやらこの傍迷惑キチガイ狩人はドクターが苦手で避けていたらしい! やった打開策だ!

 

 

 

 

 

 残念なお知らせです。

 狩人特攻が有るかに見えたドクターだったが、本当に『こうかはばつぐんだ!』というだけで、消滅はさせられない事が判明した。

 どうやら死んでも五体満足で戻ってくる点は、サバイバーのようだ……。

 しかしサバイバーにしては攻撃的で、暴力的で、血生臭い。身体が闘争を求めているのかこいつ。

 

 エンティティに丸投げされた以上、対話をするしか無いようだ。一部から死ぬまで殺し続けろとの意見も出たが。

 

 

 

 

 因みに以前も一時行方不明になっていたナイトメアの所在を聞いた。

 

「ナイトメアをハンテッドするのはライフワーク的な物だから仕方ない」

 

 と、意味の分からない事を言われた。彼に何の恨みがあるのだろうか?

 殺人鬼なので、恨みはしこたま背負っていそうだが。

 



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4話

ナイトメアさんは、狩人と出会う度にランサーばりに狩られます。
狩人が一回介錯されて周回を始めれば戻って来るヨ!今は漁村の井戸の中に居ます。


 キラーの待機場所の隅っこの方で、なにやら変な空気が漂っている。

 

「なぁにこれ。遠距離からモツ抜きするの? 発想が馬鹿(天才)じゃん? これ考えた奴マジで馬鹿じゃん。んふふふふふ」

 

 最初に目撃された上から下まで陰気臭く古臭い、真っ黒な出で立ちでデススリンガーの武器をがちょががちょとあちこち弄りながら、変に噛み殺した笑声を立てている。

 

「おいおいおい、なんだよこの後隙も前隙もがばがばな武器は! 何食ってたらこんな変態武器実用化すんだよ。んふふふふふ」

 

 因みに当のデススリンガーは狩人の持ち込んだパイルハンマーをがしょんがしょんと変形させて遊んでいた。

 その少し離れた横でデモゴンちゃんにお座りとお手を躾けていたハントレスは、男の子の好きな玩具はやっぱり違うんだなーと呑気に考えていた。

 そしてどんな生き物で斧で頭カチ割れば死ぬのにとも思った。

 

 うふふふふ……とおっさんと年齢不詳の黒い奴が気色笑いと共に、工房道具を動かしてる。

 ここ最近狩人の存在に諦観を示し始めた一部のキラーが、妙に仲良くなっておりその他のキラーへ胃痛が分乗してきて更なる負荷を生み出していた。

 

「ねえ、見て」

 

 そんな周囲へストレスを振り分ける事により、己の苦痛を振り払ったデススリンガーと、諸悪の根源狩人のもとへヒルビリーは元気に駈け込んで来た。

 

 その手にはいつものハンマーとチェーンソー……ではない。

 チェーンソーには違い無いのだが、何故かそれが並列に六基並べられており凄まじい騒音と共に火花を散らしまくっているというアホな物体だ。何処をどうとってもアホでしかない。

 そんなアホの極致の様な物体を、何とか両手で支えた彼を見て、武器を弄って居た二人は一瞬静止する。

 

「「なんだそのクソ程に(最高)頭オカシイ(浪漫)武器は!」」

 

 おっさんと不審者は大爆笑でご機嫌だったし、これでもかと言う称賛の声を浴びたヒルビリーは若干危なっかしい足取りで、そのまま儀式に行こうとした。

 

 が、結局ナースに止められ残念そうにしながらいつも通りに儀式に出て行ったし、おっさんとロクでもない発想を吹き込んだ不審者はしばかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、狩人が再び『介錯』とやらを求めてキラーの待機場所へ狩人が不法侵入を果たしてから暫く経ち分かった事がある。

 

 まず狩人は死なない。死ぬけど死なない。死ぬと何処か一定の場所まで送り返されるようで、そこからまたテクテクと歩いて戻って来やがる。

 そしてキラーでもサバイバーでも無いらしい。

 キラーばりの殺戮と血の臭いと殺意を纏っている癖に、サバイバーばりに生きる事を諦めない。ついでに自身を殺人鬼だとは絶対に認めない。

 

「俺が狩るのは獣と上位者と蟲の湧いた糞共と獣と変わらない血に飲まれた連中と、頭オカシイ医療者共と敵対した狩人だけだ」

 

 狩る対象多すぎないか?

 

「あと何か血の遺志とか穢とか素材とかちあきら持ってる奴も殺す」

 

 最早生きとし生けるもの狩るのではないか? そうは思っても周囲皆殺人者なので何も言わなかった。

 つまるところ、己の我欲で殺すキラーは『獣』で敵対して来ないサバイバーは上記のどれにも当てはまらないので、狩る対象ではないのだそうだ。

 

 おう、シャルロットお姉ちゃんの前でヴィクトルの目を見てもっぺん言ってみろや。あいつら結構凶暴だぞ。

 

 などと言う事を言っても、要は狩人の気分だ。

 話を聞くにこいつ、何となくで友人を殺すし、協力者であれば以前自分を殺した相手とでも共闘するのだそうだ。

 よし、殺そう。という気分の時に殺しあうのだそうだ。これは頭オカシイ。というか、話しぶりではこいつみたいな狩人がわんさかと存在するのだが……。

 寒気を覚える。

 

 ちょっと想像してみた。

 ある夜儀式に参加すると、サバイバー四人が全て"狩人"に成っている……。

 

 ……悍ましい光景に皆ちょっと具合が悪くなった。

 

 そしてどうか、そんな事が起きません様にと祈った。

 身勝手な殺人者が祈るだなんて馬鹿らしい、とも思ったので取り敢えずエンティティ(クソ上司)に念でも送っておこう。

 

 

 

 

 

 

 シェリル・メイソンは一つ、気になって気になって仕方ない事があった。

 それは今ひっそり潜んだ物陰の前方、かなり離れた位置だが自分達を追い回していた筈の殺人鬼が何かと掴み合っている姿だ。

 それが気になって気になって、仕方がない。

 

 なにせ、その掴み合ってる、もっと正確に言えば絡みついて居るのが蒼くぬらぬらと滑る触手なのだ。正直どういう状況かさっぱり分からない。

 何がどうしてキラーが触手と戯れる事態になっているのだ? そういう趣味?

 

 先ほどまではパニックホラーだったのに、いつの間にかコズミック的なナニカかゲテモノAVにでもなったのだろうか。

 

 ぽよよ。

 

 宇宙を背景に驚愕の表情の猫に類似する顔をしていたシェリルの腕に何か、ひやりとして妙な弾力を持ったものが触れる。

 

 一瞬びくりと肩を跳ねさせながらも、そろりと振り返ると、青っぽいナニカが居た。ぽよぽよとしながら、人型に近い。ただ頭部は大きく、手足は長い。左右で指の本数も違う。

 ぽよよ、とたゆたゆような鳴き声? を発する。

 

「えっと……、父さんの友達? とはなんか違うわよね」

 

 自分でも驚いた事に、シェリルはソレを見ても動揺はなく、普通に話しかけていた。

 そして自身のその言葉が耳に届いて、一つの疑問が浮かぶ。

 

 何故私はこんな所に居るのだ? 今から帰ると連絡してからどれくらいたっだろう。早く帰らなくては。きっと父も心配しているし、家族が揃わなければ夕食も始まらない。鬱気味バツイチ居候ジェイムスさんは、もう犬の散歩を済ませただろうか。

 そんな事を考えて居たら、より帰らなければという思いが強くなった。

 

 少し悩んでから、父さんの友達にどことなく似ている青ぽよの手を引いて歩き出す。何だか遠くの空に強烈な明りが明滅している気がした。

 

 




ヘザービーム乱射させよか迷った


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5話

 狩人は激怒した。必ず、かの邪知暴虐の上位者を除かなければならぬと決意した。狩人には奴らの道理がわからぬ。狩人は、どこまで行っても獣狩りである。仕掛け武器を振るい、臓物ぶちまけて来た。けれども高次からの傲慢に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 つまるところ、この霧の世界においても己の都合を人間に押し付ける上位者は大嫌いだし、なんか本能的にぶん殴りたくなるのだ。

 ここの上位者は一体何の為に"悪夢"に人を集めるのかは知ったこっちゃないが、居るのならぶっ殺す。というのが狩人の性だから仕方ない。

 まあ、もし、彼の女王の様に甘く芳しい血を持つ女神なら、赤子をこさえてみるのも吝かではない。基本的に上位者も獣も虫もキチガイ共も全て等しく腸ぶちまける、真の男女平等主義な狩人様も、上位者の端くれでもあるのだから仕方がない。

 

 そんな訳で今日の儀式の場にも、狩人は上位者の気配を探してうろうろしている。

 

 その姿を横目でちらりと見た殺人鬼は、アレを思い出す。ほら、アレ。猫が何もない空間をじぃっと見詰めているアレだ。

 特に地下が気になるのか、頻繁に遭遇する。迷惑極まりない。地下でフックの周りをぐるぐる回り、壁や床をガンガン殴り、珍妙なポーズをする狩人は控え目に言っても、大変心臓に悪い。地下の肉フックを実質潰されれば、それは迷惑だ。

 

 そして最近の狩人には新たなる奇行が追加された。

 

 こいつ、呪いのトーテムを見つけると、即刻握りつぶすのだ。

 一瞬で。ちょっと小首を傾げた後に、明りの灯った頭蓋骨を見つけると、すっと片手で持ち上げ僅かに掲げたまま、一息にぐしゃりと握りつぶしやがる。

 そしてそんな事をしても、何か不服そうに再び小首を傾げて去っていく。

 

「ア゛ーーーーッッッ!?」

 

 その現場を見た殺人鬼共は、随分ときったねぇ悲鳴を上げった。そりゃそうだ。

 

 だがそれでも、最近は狩人も随分丸くなった。いや、丸く……? デススリンガーや、ヒルビリー辺りの手先の器用な連中と武器をがっちょんがっちょんやってる間に、問答無用で殴り掛かって来る事は無くなっていた。

 それでも、基本的に狂人で、隙あらば臓物を引っこ抜いて、BP奪って来ようとするので、そっと端に置いて触れない様にして居る。

 

 この儀式を新たな狩場として歓び、楽しんでいる奴も居るが、その辺の奴らは空気を読んで口を噤み、詰まるところ、殺人鬼も生存者も何者かにこの場に閉じ込められているに過ぎない。そう狩人が理解したのも大きいのかもしれい。

 だがそれはそれとして、事情を知って居てもぶっ殺そうとして来るので狂人には違いないのだ。殺人鬼共に人間性を疑われる今日この頃。

 つまり狩人は爆発物的な扱いだ。

 

 戦略兵器を突っついて、辺り一帯無に帰す位なら、ちょっと(盛大に)儀式を邪魔される位、爆弾の保管費だと思って諦めた。

 

 多少の"おいた"なら、ハントレスに告げ口すれば、例のデモゴルゴンにやる『めっ!』で止められる事が発覚した。

 一体二人に何が有ったのかは定かではないが、"狩人"どうしで通じ合うものでもあったのだろうか?

 取り敢えず、ハントレスが謎の鉄塊を握り、狩人を撲殺した際に「はっ、が、ガラシャ先ぱ……!?」そう言って死んだという事実が有る程度だ。

 

 

 

 

 

 

 

 プレイグはそれを見つけて、一瞬びくりと肩をすくめて、進行方向を変えるべくそっと後退した。

 基本的にスピリットの被害例から、男性キラーとは別ベクトルに女性キラーは狩人を毛嫌いしていた。ピッグやリージョン(ジュリー)などは、性犯罪者は煮殺せ! とでも言いそうな目で見ている。

 

 それと同時に、彼自身もあまりプレイグの事が好きではないらしい。

 ブライドの様に、真っ向から殺そうと背後を狙ったり、上位者(彼女はなんとなくエンティティの事だと思って居る)憎しと狂気に染まる目でもない。

 ただ何となく、苦手そうに距離を取られている。

 

 そしてこれ幸いと、彼女も狩人から距離を取っている。

 

 しかしそんな狩人だが、プレイグ限定で起こす迷惑な行動があった。それが現在目の前で行われている。紛れもない奇行だ。

 

 献身の淀みに向かって、ぼそぼそと独り言を繰り返している。

 いや、何か会話をして居るかの様に妙に間が空く。使いたいのですけど、退いてくれますか? 正直おっかないので、そんな事も言えずにおずおずと後退するしかない。完全にではないが、能力を潰されている。

 

 今日の狩人は生存者として紛れ込んでいる訳ではなく、幽鬼の様に存在しているパターンなので、生贄は四人だ。その状態で能力の強化を邪魔されてしまうのは、少し堪えるが仕方がない。

 そう思い直したと事で、彼女ははたと違和感に気づく。

 

 四人?

 そう。確かに今日は、生存者が四人居た。

 こう何度も儀式を繰り返す事を強制されれば、殺人鬼側だって、生存者達の顔を覚える。だが今日この狩の儀式に参加させられた彼らの顔を、順に思い返してみると、人影は三つしか思い出せない。

 何度記憶を巡っても、追想される人影が三つで止まる。

 

 おかしい。

 

 顔が思い出せない処でなく、確かに『今日は四人か』と確認した意識をおも否定する様に、最後の誰かは人の形としてさえ思考に上らない。

 

 最近のこういうおかしな現象は、大抵狩人のせいだ。

 でもその当の狩人は、相変わらず淀んだ水の湛えられたオブジェに向かい何事か話して居る。

 

 ぴしゃり、ぴちゃり。

 湿った水音が背後からする。今まで狩人ばかり注視していて気づかなかった、訳ではない。そいつが音も無く佇んで居ただけだ。

 

 蒼白く、ほんのりと発光している悪夢の苗床カリフラワーが。

 

 人間の腕の代わりに、だらりと触手を下げ襤褸切れを(正直プレイグやスピリットよりは布面積が多いが)纏った、人か疑わしい物体。

 

「やぁ! 私、神秘苗床まん! 神秘はいいぞ……!!!」

 

 そんな実にフレンドリーな声と共に、一体どこから噴き出しているのか分からない、謎の白銀に煌めく神秘汁と、小さなナメクジを、奇怪に身を捩りながらぶっ掛けて来た。

 

 酷く膿み腐り爛れてしまっては居るが、円くはっきりとした凹凸を持つ美しい女体に、正体不明の謎の液体と、軟体動物は張り付きその形をなぞる様に蠢いて居る。

 

 現代よりも色濃く神秘が残る時代を生きていた筈のプレイグも、神秘汁と神秘ナメクジに「ひっ」と潰れた悲鳴を上げて、意識を手放した。

 

 本来その場には無い筈の、白々とした満月が見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 最近儀式の場には、常に満月が浮いて居る。

 白々と、丸く、何処に居ても全てを見下ろす様に、空が見える場所なら常にそこに鎮座している。

 だが殺人鬼も、生存者も、まるで最初からそうで在ったかのように気にも留めない。

 

 何夜儀式が繰り返されようと、そこは月が居る。




(もし続きが有れば)
次回!恐怖の苗床カリフラワー 99の神秘を添えて


ヘザーがUFOエンドでハリーも生きてる時空に帰り、静岡を宇宙の科学ぱぅわぁで焦土にして、霧の世界に来る事が無く成ったので代わりのサバイバー入れて起きました。
狩人が迷い込む前に殺しあってた苗床と恐らく同一人物。


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