知り合いに聞いた話 (弛緩マン)
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知り合いに聞いた話
これは、知り合いから聞いた話なんですけど
その人は釣りをやる人で、結構熱心に海へ通われてるんです。ご自宅は海から遠いんですが、仕事のない土日は朝も4時起きでそれこそ毎週のようにね。
釣りには生きた餌を使う場合とルアーを使う場合があるんですが、生きた餌だと消耗品ですから毎回買わなきゃならないんですよ。これもまあ安くても1日で500円とかは掛かってきてしまうんです。ですから生きた餌なんてものを実際の野生のそれを捕獲して使うなんてこともしてたんですよ、元気な人は。その方も元気な方ですから取れる餌は自分で獲ってしまうんです。
その日は土曜だったそうです。翌日には船に乗って沖合いで大きな魚を狙うつもりだったらしくて、餌はカニのつもりだったとか。カニなんて言ってもお料理で出てくるような大きなものじゃなくて、そうですね、足の親指くらいのカニです。そういうカニは砂地の岩場とかに隠れてるんで友人と居そうなところを探してたんだそうです。
まあいけないことなんですけど、そういう人たちって結構立入禁止のところとかも入っていくじゃないですか。怒られないようにこっそりしてるらしいんですけど。そこも立入禁止の先の方だったみたいです。
車で2人で探してて、結構よく行くところだったらしいんですけどそこに海から突き出した堤防があってその周りにちょっと砂地になってるところがあって、丁度波消しブロックが岩場みたいになってるんでカニとか他のエサになる生き物もとれたんだそうです。
その時は堤防の根っこ……砂が溜まってて広めの砂場で2人でカニ取りしてたらしいです。そしたら急に
「おじさんたちなにしてるの?」
って声をかけられてんだそうです。子供に。見てみたらどうにも古くさい格好なんだとか。もういかにもな昭和の少年って感じだったそうです。坊主頭で白シャツと短パンの小僧って感じです。小学生中学年くらいの。もうその時点でちょっとおかしいなとは思ったらしいんです。だって、工業地帯で民家なんか近くにはないですし、車で少し入ったところですから歩いてそこまで入ってくるには大変なのに自転車もない。でもまだ(そんなこともあるか)と思って
「釣りのエサとってるんだよ!」
て返したそうです。その少年、そこから付いてきたんだそうです。堤防のとこから離れて埋め立てられた海岸線の砂地を歩きながらカニを探すのを続けてたんだそうなんですが、少年はずっと見える位置に居たんだとか。
それで、ずっと付いてくるんで不気味に思ってたみたいなんですが、エサ取りをやり続けてだんだん暗くなってきて。少年が不気味っていったって少年は少年ですから、暗いしこんな人の居ない所に1人置いてくわけにもいかないなってことで声をかけたんだそうです。
「おじさんたちもう帰るけど1人で帰れるか?」
そしたら少年は
「うん、わかった」
そういって歩いて行ったらしいです。
その知り合いたちも道具を片付けて帰路に着いたんですが途中で気付いて怖くなったらしいです。
その少年が歩いて行った方向には海しかないんですよね。
特にオチもないんですが、まあこういう不思議なこともあるんだなって話です。
海には怖い話が付き物ですから、釣り人っていう人種は人知れずこういった不思議な出来事に出会っているかもしれませんね。ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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