監視対象と約束された日々【完結】 (砂糖ノ塊)
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00.オリキャラ設定

軽いオリキャラたちの自己紹介の様なものです。

正直見ても見なくてもなんとかなります。というよりなんとかなるように書きます。気合いで。

一応ネタバレ注意です。








名前 神代 真言(かみしろ まこと)

 

バンド なし パート なし

学校 花咲川学園 学年 高校2年生 クラス B組

好きな食べ物 甘いもの全般(特に和菓子)

嫌いな食べ物 コーヒー

誕生日 6月25日  星座 蟹座

身長 170cm

趣味 音楽を聞くこと NFO

 

近年共学となった花咲川学園の2年生。

 

1年時に校内で暴力事件を起こし、退学になりそうなところを花咲川生徒会に助けられ、現在は生徒会の監視対象として高校生活を続けている。

 

白金 隣子と「二度と他人に暴力を振るわない」「燐子が高校を卒業するまで恩を返し続ける」という2つの約束を結んだ。

 

顔はカッコいい部類に入るがぶっきらぼうな口調で目つきも悪いので、いつも不機嫌そうに見える。

 

他人には心を開いていないので恋人どころかクラスにも友人は数えるくらいしかいない。

 

白金 燐子と氷川 紗夜には基本的に逆らえない。隠し事ができないタイプ。顔にも出るし考えてることは大抵他の人にバレてる。初対面の人間には基本的に警戒心マックス。

 

性格は実直で素直、先輩であり恩人でもある白金 燐子に恩を返すため、日々彼女の役に立てるよう生徒会やバンド活動の手伝いをしている。

 

教師から疎まれており、彼自身も教師の事が好きではない。

担任の春岡 桜の言うことは聞く。

 

勉強は苦手。やればできるがやらないので成績も最悪レベル。国語は得意。数学は死ぬほど苦手。

 

歌はうまい方。心のなかでは友達と一緒にカラオケに行ってみたいと思っているが一緒に行ける友達が少ない。楽器は全く引けない。

 

実はちょっぴり涙もろい。

 

[主要人物からの(への)呼び方]

from有咲→マコ

from燐子→真言くん

from紗夜→神代さん

from友希那→真言

fromリサ→マコくん

fromあこ→まっくん(※我が弟子)

from桜→神代くん

 

 

to有咲→有咲

to燐子→燐子先輩

to紗夜→紗夜先輩

to友希那→湊さん

toリサ→姐さん

toあこ→師匠

to桜→センセー

 

 

 

 

 

名前 春岡 桜(はるおか さくら)

年齢 非公開 身長 158cm

好きな食べ物 和食全般

嫌いな食べ物 脂っこいもの

趣味 なし

クラス 2年B組(担任)

 

いつもニコニコしている真言のクラスの担任。1年時の暴力事件の後から真言の担任兼監視役として真言を見守っている。

 

優しい口調といつも微笑んでいるところから生徒たちには人気。ただし、怒らせると笑顔のままブチ切れるのでホントに怖い。基本的に怒るのは真言相手。真言が唯一言うことを聞く教師。

 

生徒たちからは「さくちゃん先生」の愛称で呼ばれており、担当教科は国語。真言が国語だけできるのは彼女のおかげ。

 

✽超雑真言ファミリー

 

名前 神代 正義(かみしろ まさよし)

 

真言と年の離れた兄。既婚者。現在実家で祖父と奥さんと子供二人と共に旅館を経営中。

 

真面目で温厚、いつも笑顔で誰にでも好かれるし、誰にでも優しいという好青年を絵に描いたような、真言と正反対の性格をしている。

 

勉強、スポーツ、その他諸々、とにかく何でもできてしまうスーパー才能マン。真言の事をよく理解しており、真言も表には出さないが尊敬している。兄弟関係は比較的良好。

 

過去に志望大学に落ちたとき、励ました真言にあたってしまいそのことを本人はとても後悔している。その喧嘩は殴り合いに発展した挙げ句、最終的には二人とも母親にぶん殴られて終結した。

 

メガネをかけており、外すと目つきが悪くなるので真言にちょっと似ている。

 

 

 

 

 

名前 神代 清正(かみしろ きよまさ)

 

真言の祖父。神代家に代々伝わる対人格闘技師範。尚、後継者はいない模様。

 

田舎で孫夫婦とともに旅館を経営中。

 

若い頃はその戦闘術を活かし、各国の要人や、有名人の護衛をしていた。お得意先は「弦巻家」。こころと知り合い。

 

(年の割に)まだまだ元気なおじいちゃん。

 

 

 

 

 

名前 神代 光(かみしろ ひかる)

 

正義の息子。静とは双子の姉弟。小学生。元気はつらつ。リトル宇田川あこ。

 

 

 

名前 神代 静(かみしろ しずか)

 

正義の娘。光とは双子の姉弟。小学生の割に物知り。リトル湊 友希那。光の尻拭い担当。

 

 

 

 

 

名前 神代 由香(かみしろ ゆか)

 

正義の奥さん。真言とは義理の姉弟にあたる。

 

おっとりしているが、神代の旅館を支えている大黒柱的存在。美人。

 

正義同様真言のことを気にかけている。

 




いつかオリキャラが増えるときが来るかもしれません。


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本編
01."監視対象"神代 真言


はじめまして砂糖のカタマリというものです。

人生初の二次創作小説ということでお見苦しい点も多々あるかと思いますが、日々精進していきます。

温かい目で見守っていただけるとありがたいです。



それではどうぞ。


「ねぇ……一つ約束して……?」

 

 雨の降る中、傘もささずに俺とその人は冷たい地べたに座りこんでいる。

 

 全身ずぶ濡れで、顔なんてもう雨と涙でグシャグシャだ。

 

 俺の正面で座りこんでいる彼女も同じくらいビショビショで、睨んでみるがそれでも彼女は動じることなくこちらをジッと見つめ返してくる。

 

「もう、誰も傷つけないで……?」ポロポロ

 

 そう言う彼女は、泣いていた。

 

 ああ、やっぱりわかんねぇ。

 

 なんで?なんで泣けるんだよ?こんな俺なんかのために…

 

「………わかった」

 

 俺は彼女の目の前に小指を立てる。

 

「約束するよ。俺はもう、誰も傷つけない」

 

 俺がそう答えると、彼女は安心したように微笑み、差し出した小指と自分の小指とを絡め合わせた。

 

「それともう一つ」

「?」

 

「ありがとう。あんたから受けたこの恩は絶対に忘れない」

 

「一生、なんて不確定なことは言わねえ。だけど、せめてあんたがこの高校を卒業するまでの間……」

 

 

「俺があんたを守る。あんたに恩を返させてくれ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ピピピ ピピピ ピピピ

 

「……………あ……」

 

 夢…………

 

 懐かしい夢を見た。とても昔の事のようで、けれどそこまで昔の事ではないような……

 

 ピンポーン

 

「ん?」

 

 誰だよ?こんな朝早くに…

 

ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピ──

 

「うるせぇー!!!何時だと思ってやがんだ!!!」

 

 キレ気味、というかブチ切れで、二階の寝室からインターホンのモニターのある一階のリビングまで走る。

 

──ピッ

 

「あっ」

 

 モニターに映っているのは俺の通っている高校、花咲川学園の制服だった、しかも女子生徒。

 

 え、もしかして…

 

 ダッダッダッダッ

 

 さっきよりも速く玄関にダッシュする、全力で。

 

「燐子せんぱ…!」ガチャ

「悪かったな、燐子先輩じゃなくて」

「なんだ…有咲か…」

「なんだって失礼だな。ったく、こんな朝早くから元気すぎんじゃねぇのマコ」

「そっくりそのままお前に返すわ」

 

 何回チャイム押してんだよ!

 

 神代 真言(かみしろ まこと)高校2年生。

 

 神の代わりに真実を言うと書いて神代真言。

 

 大層な名前をしてやがるが、名前ほど立派人間じゃない。完全に名前負けしている。

 

 まあ、俺について俺が語れるのはこんくらいだ。

 

真言「とりあえず上がってけよ有咲」

有咲「おじゃましまーす」

 

 こいつは市ヶ谷 有咲(いちがや ありさ)。

 

 俺と同じ花咲川学園に通う2年生だ。家が近いこともあって、こんな感じで俺を迎えに来る。

 まあ、こいつが迎えに来る理由は家が近いだけじゃないけど。

 

真言「着替えて、顔洗ってくるからそこに座ってろ」

有咲「りょーかい」

 

 傍から見れば恋人同士の会話に見えるかもしれないがそんなことは断じてない。

 ただの…いや、非常に数少ない友人の一人だ。

 

 

 

真言「わりぃ待たせたな」

有咲「別にいいよ」

真言「朝飯はどうする?家で食ってくか?」

 

 そう言うと有咲はリビングの時計を指差す。

 

有咲「よく見ろ、おまえにそんな時間があるか?」

 

 そこには俺がいつも登校する時刻から10分も遅い時間が刻まれていた。

 

真言「え、もしかして俺……」

有咲「寝坊」

真言「朝飯を食べる時間は…?」

有咲「ない」

真言「マジ?」

有咲「大マジ」

 

 

 

 ………じーざす。

 

真言「ちょい待って!食パンだけ咥えてくから!!」

有咲「どこの少女マンガのヒロインだよ」

 

 相変わらずツッコミがキレキレですこと。

 

 

 

 そんな訳でヒロインスタイルで登校することになった俺。

 普通こういうのってカワイイ女の子がするもんじゃないの?ちょうど隣歩いてる有咲とか。

 

 ちなみに有咲は可愛い方だと思う。個人的感想。クラスではこんな砕けた口調ではなく、おしとやかでスタイルも良くて男子からの人気も高い……らしい。

 

有咲「なに見てんだよ」

真言「別に」ハァ

有咲「なんだよ!そのため息!」

 

 

 

真言「ってかいつまで迎えに来るんだよ。もう一人でも大丈夫なのによ」

有咲「しゃーねーだろ」

 

有咲「おまえは"監視対象"なんだから」

 

真言「…………」

 

 監視対象……ね。本当に、いつまで俺はそんな扱いされるんだか……

 

真言「ったくどいつもこいつも人を犯罪者みてぇに扱いやがって…」

有咲「学校に通えてるだけでもラッキーだったと思え。それに…」プイ

真言「それに?」

 

 なぜ目をそらす。よく見ると耳が赤い。

 

有咲「全員が全員おまえの敵って訳じゃないだろ?」

 

 ………………素直じゃねぇの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校の前まで着いた。ん?あれって……

 

有咲「お、校門の前にいるのっておまえの愛しの燐子先輩じゃないのか〜……っていねぇ!?」

 

真言「おはようございます!燐子先輩!」

「!?」

有咲「はや!!あいつもうあんなとこに!?」

 

燐子「お、おはよう……真言くん…」

真言「はい!おはようございます!」

 

 このお方は白金 燐子(しろかね りんこ)先輩。しろがねじゃねえぞ。しろ"か"ねだ。脳みそに刻んどきやがれ。

 俺の一つ上の先輩で、先輩はまさに才色兼備を表したようなお人で黒く美しい長髪に黒く吸い込まれそうな瞳、学校では生徒会長を務めていて生徒会の役員たちを引っ張り、また一度学校を出ればRoseliaという俺が大ファンのガールズバンドのキーボードとして日々ストイックに練習に励んでおられる。大人しい性格だけどしっかりとした芯をお持ちになっていて胸の中には熱いものを秘めていてそして──

 

有咲「いや長い長い長い!!!」

 

 なんだよ有咲。まだ序章だぞ?

 

有咲「その長さで序章かよ!てか私なんてポピパに入っていることにすら触れられてないんだけど!?」

真言「アレーソウダッタケー」

 

 ああ、ついでに有咲もPoppin'Partyっていうガールズバンドに入ってます。あと生徒会にも入ってます。はい以上。

 

有咲「雑すぎだろ!!」

真言「いやまずなんで俺の心の中読めるんだよ」

 

燐子「二人とも……今日も仲いいね……」

真言「はい!」

有咲「お前…ホント燐子先輩の言うことには全肯定だな…」

真言「人のこと言えねぇだろ。年上の前では借りてきたネコを何着も被ってるくせに」

有咲「なんだよ"借りてきたネコを被る"って!」

 

 そのままの意味だよ。自分で考えろ成績優秀者。

 

燐子「ふふっ」

 

──そして、燐子先輩は俺の恩人だ。

 

 先輩のおかげで俺は今日もこうやって学校に通えている。

 

 先輩のおかげで俺は今日も笑えている。

 

 上げだしたら切りがない。それくらい多くの大切なものを貰った。

 

 

 

 

 

 

「相変わらず騒がしいですね、まったく…」

真言「紗夜先輩、おはようございます」

有咲「お、おはようございます」

 

紗夜「私に対しては普通なんですね……おはようございます、神代さん、市ヶ谷さん、白金さん」

 

 この人は氷川 紗夜先輩。

 

 燐子先輩と同じく俺と有咲の先輩で、生徒会と風紀委員を掛け持ちしている。

 Roseliaのギター担当。"サッドネスメトロノーム"なんて呼ばれているがなんでかは知らん。

 

紗夜「本当に白金さん以外には淡泊ですね」

真言「当たり前のように俺の心の中を読まないでください」

 

 いつから俺の知り合いは超能力者になった。

 

 

 

 とまぁそんな感じで"監視対象"の俺は今日も楽しく学校生活を送るのであった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「本当に、丸くなりましたね…」

燐子「そうですね……」

紗夜「前まではあんなふうに市ヶ谷さんと話してたりもしてませんでしたから」

燐子「真言くん……とても楽しそうです…」

紗夜「それが何よりです、これも一重に白金さんのおかげですね」

燐子「そんな…わたしは別に…」

真言「なにやってんですかー?置いてっちゃいますよー?」

紗夜「ええ、今行きます」

 

燐子「……真言くんが変わったのは……真言くん自身のおかげです…」

紗夜「………そう、彼が約束を守っているから、ですね」

真言「燐子先輩ー?」

燐子「あ、うん!今いくよ…!」




感想、評価していただけると励みになります。


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02.平和と退屈は紙一重

初めて評価が付きました。しかも10。驚きました。
本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくおねがいします。

★10評価 エイタイ 様
お気に入り登録 雪の進軍 様

✳この小説はあまり時間軸を気にせず、シーズン2の比較的みんな仲いい世界だと思ってください。

では本編へどうぞ。



有咲「じゃ、私こっちだから。大人しくしてろよ?」

真言「人を何歳だと思ってんだよコンチクショウ」

 

 俺は幼稚園児か!

 

 燐子先輩たちと別れ、有咲とも別のクラスなのでここでバラバラだ。

 

 別れたあと有咲は遠くの方で友達らしき女の子数人に声をかけられていた。

 

真言「やっぱ……生き生きしてんな…」

 

 友人と楽しそうに談笑しながら離れていく有咲を見ると少しだけ、羨ましいという感情が湧いてくる。

 

真言「はぁ…」

 

 俺も自分のクラスに行くとするか……

 

 

 

 

 

 

──ガラガラ

 

 クラスの中には、今が遅刻ギリギリの時間帯ということもあり当然大勢の人がいる。

 

 が、俺に挨拶する奴なんて一人もいない。

 

 ま、いつものことだし別に傷つきゃしねえよ。

 

 自分の席に着き机に突っ伏す。

 

 あーあ、早く授業終わんねぇかな…

 

「起立ー礼ー」

 

 クソだりい……

 

 重たい体を無理やり起こしてそしてすぐに座る。ったく…朝の挨拶なんてなんの意味があんだよ。先輩と有咲とかだけにするだけでいいだろ。

 

 HRでの担任の話も右から左に聞き流した。

 

 

 

 

 

 一限も二限も寝て過ごす。授業は真面目に受けないし、休み時間も誰も俺に話しかけないしクラスに話せるやつもいない。

 

 あれもこれもいつものこと。別に気にしちゃいない。さてもう一眠りするか……

 

「あの……神代くん……?」

真言「あ"?」ギロ

「ひっ…」

 

 誰だこいつら?俺になんか用か?

 

 話しかけてきたのは女子の二人組だった。

 

 片方はおかっぱ?みたいな髪型で、もう片方はポニーテール?ってやつか?あんま髪型の種類とか詳しくないんだけど……

 

 話しかけてきたのはどうやらおかっぱヘアの方らしい。

 

 …………めちゃくちゃビビられてんな。

 

真言「何の用だ」

「あ、あ、あの次移動教室……」

 

 眠い目を擦って周りを見てみるとクラスには既に誰もいなかった。

 

 やべ、流石に寝すぎた。

 

 

 

 

 

真言「おい」

「ご、ごめんなさいー!!!」ダッ

真言「あ!おい待てよ!」

 

 逃げられた……お礼言いたかっただけなのに……

 

………………別に、傷ついてなんか……………いねぇ。

 

「あはは…なんか、ごめんね?」タッタッタッ

 

 そう言ってもう一人の方も去っていった。

 

真言「………何だったんだ、あいつら」

 

 同じクラスの奴の顔とか名前とかは全然覚えてねぇけど、あいつらどこかで見たことあるような……?

 

 特にあのおかっぱの方……なんか……

 

真言「ま、いいか」

 

 とりあえず俺も急ぐとしよう。授業サボったなんて言ったら紗夜先輩にぶっ飛ばされかねない。あの人真面目すぎんだよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「あーやっと終わった………」

 

 今日の授業終わり!寝すぎてなんか疲れたわ。

 

真言「よし!さっさと帰って……」

 

「待ちなさい」

真言「げっ……」

 

 くそ、面倒くさいのに呼び止められちまった。

 

真言「なんすかセンセー」

「"なんですか"はこちらのセリフです」

 

 この人は春岡 桜(はるおか さくら)

 

 俺の担任。担当教科は国語。

 いつもニコニコしてる所とその温厚な性格から男子だけでなく女子からの人気も高い。

 ちょっと前クラスの奴が美人教師ーとか言ってたな。ちなみに年齢不詳。

 

 てか今日はなんか怒ってらっしゃる?

 

真言「あ、センセーまだ若いのにもしかして更年k」

桜「はっ倒しますよ」

 

 怖っ。目がマジやん。

 

真言「はは、ジョークだよセンセー。そうムキになさんな」

桜「まったく……」

真言「で?なんか用っすか?俺早く帰りたいんですけど」

桜「ちょっとこっちに来なさい」

真言「へいへい」

 

 机を挟んでセンセーと対面で椅子に座る。

 

 これから何が始まるんだ?尋問?

 

桜「これを見なさい」

真言「?」

 

 これは……俺のテストか。

 

真言「これが一体どうしたと言うんですかセンセー」

桜「どうしたもこうしたもあなた……」

 

 

 

桜「何なんですかこの点数は!!」バン!!!

 

 点数って言ったって……

 

 

 

真言「国語92点 数学3点 英語16点 生物23点 地歴25点ですけど何か?」

 

 

 

桜「おかしいでしょ!?全体的に酷いですが数学3点って!というかなんで国語だけそんなに高いんですか!!??」

真言「それは、まあ…センセーの教育の賜物というか……」

 

 一応担任だからね。センセーの授業は起きてることが多い。

 

桜「他が酷すぎるんですよ!!」

真言「HAHAHA」

桜「笑い事じゃありません!!」

 

桜「あなたって人は……折角2年生に上がれたのに、これじゃあ留年ですよ?」

真言「だって、つまんないんですもん授業」

桜「はぁ……次こんな点数取ったら白金さんに言いつけますからね!」

真言「すんませんそれだけはマジでやめてください」

桜「急に素直になりましたね……」

 

 燐子先輩にはなるべく心配かけたくない。というよりなんて言われるか分からないから怖い。

 

桜「まったく……あなたが今もここに通えているのは白金さんたちのおかげなんだから、あまり迷惑をかけないように、いいですね?」

真言「わかってますよセンセー」

 

 そんなこと、あんたよりも数倍分かっている。

 

桜「それと生徒会に寄ってから帰るように、あなたは"監視対象"なんですから」

真言「チッまたそれか」ボソ

桜「ん?なにか言いましたか?」

真言「なんでもないっすよセンセー、じゃあまた明日」

桜「はい、また明日」ニコ

 

 桜スマイルいただきましたー(棒)

 

 

 

 

 

 監視対象、監視対象、監視対象、監視対象、どこに行っても着いてくるその肩書。うっとおしくて仕方がない。

 

 けどその肩書のおかげで学校に通えていることも事実だ。けどやっぱり……

 

真言「気に入らねぇ……ん?」

 

 前方に燐子先輩の気配。なんで分かるかって?俺の第六感ってやつさ。

 

 よし、走るか。(即決)

 

 

 

 〜(真言廊下ダッシュ中)〜

 

 

 

真言「燐子先輩!!」ズサ−ッ

燐子「!真言くん……!?」

紗夜「神代さん!?というよりまず廊下は走ってはいけません!」

 

 まずそこかよ。もう紗夜先輩はやっぱり真面目すぎるんだよなー

 

真言「っておかえりですか?先輩方」

燐子「うん……今から練習……」

紗夜「市ヶ谷さんも練習があると言って先に帰りましたよ」

 

 あいつもあいつで頑張ってるな……俺は嬉しいよ有咲!(おまえ何様だよ)

 

 なんか今天からツッコミが降ってきたような気が……

 

燐子「真言くんも来る……?」

真言「いいんですか!?」

燐子「わたしはいいけど……」チラ

真言「………」チラ

紗夜「……私も構いませんよ、神代さんは私たちが練習してる時は静かですし」

 

 失礼な、まるで俺がいつもはうるさいみたいじゃないか。

 

紗夜「湊さんもまぁ……大丈夫でしょう。観客がいたほうが練習に緊張感も出るでしょうし」

 

 何はともあれRoseliaの練習が聞ける!やったぜ!

 

 思わずガッツポーズが出る。

 

 Roseliaのみんなとも最近会えてなかったな、まあ元気でやってるとは思うけど。

 

紗夜「では行きますよ」

燐子「はい……」

真言「了解です!!」




感想、評価などをしていただけると作者の創作意欲が10倍ぐらい上がります。

次回はRoselia回です。


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03.青薔薇の花言葉は

ご無沙汰しております。

みなさんはもうお分かりかもしれませんが、この小説は不定期更新となっておりますので、次話は気長にお待ちいただけると幸いです。

たくさんの感想、お気に入り登録ありがとうございます。皆さんが楽しめる物語を作れるよう、精進していきます。

お気に入り登録 フタバ 様 ゴリラ100% 様 フォルトゥーナ 様 TAKACHANKUN 様

それでは本編、どうぞ。


真言「こんちゃーす!」

「あ、マコくん!今日も元気だね〜♪」

真言「姐さん!どもです!」

 

 ここはRoseliaがいつも練習しているライブハウス、CiRCLE。

 

 そしてこの人は、今井 リサ(いまい りさ)さん。俺の一つ上でRoseliaのベーシスト、メンバーのお姉さん的存在。俺が勝手に「姐さん」と呼んでいる。

 

 見た目はギャルみたいだがただの世話好きのいい人。

 

 この人の作るクッキーはマジで上手い。ホントに。

 

 

 

「久しぶりだな…漆黒の闇より現れし、混沌を司るこの魔王の右腕にして我が弟子よ!」

真言「師匠!ご無沙汰してます!」

「あ、うん!久しぶりかな?」

真言「2週間くらい前にNFOを一緒にやったのが最後ですかね」

 

 この人は宇田川 あこ(うだがわ あこ)さん。Roseliaのドラマー。俺の一つ下でバンドの中で最年少ながら他のメンバーに負けずとも劣らない高い技術を持っている。

 

 Neo Fantasy Online、通称NFOというネットゲームでの俺の師匠。ちなみにこのゲームは燐子先輩もやっている。

 

 二人ともかなりのゲーマーだ。

 

 喋り方とキャラについてはノーコメントで。

 

あこ「今日はまっくん練習聞いてくの?」

 

 まっくんというのは師匠が付けてくれたあだ名だ。

 

 某ファストフードチェーン店を彷彿とさせるあだ名だがそこには触れないでほしい。

 

真言「ええ、そのつもりでいますけど…」チラ

あこ「?」

「何よ」

 

 俺の目線の先にいるのはRoseliaのボーカルでリーダー、湊 友希那(みなと ゆきな)さん。

 

 強者揃いのRoseliaをまとめ上げ、自身もずば抜けた歌唱力を持ち、練習にはとことんストイック。燐子先輩と同じくらい芯が強く、ただただ音楽に真っ直ぐな人。姐さんとは幼馴染らしい。

 

 もちろん練習を聞くにはリーダーである湊さんにお伺いを立てなければならない。

 

 けど……正直言ってこの人、すげぇ怖いんだよな……オーラというかなんというか…いや、良い人なのはわかってるんだけど……

 

 

真言「あの……俺、練習聞いていっていいですか……?」オズオズ

友希那「そんなに畏まらなくてもいいじゃない……別に構わないわよ」

真言「ほっ……」

あこ「よかったね!まっくん!」

友希那「誰かに聞いてもらうのもいい練習になるし、それに…」

リサ「それに?」

 

 

 

友希那「真言は練習のときには静かだから」

 

 俺はRoseliaからどういう風に思われてんだ…

 

 

 

友希那「あなたたち、観客が真言だけだからといって気を抜かないように」

真言「なんかバカにしてません?」

リサ「いやー久しぶりに演奏を聞かせる気がするよー♪」

あこ「まっくんにあこのカッコイイところを見せちゃうよー!」

燐子「が、がんばります…」

紗夜「後で感想を聞かせてくださいね」

 

真言「(皆やる気だな……よし俺も一生懸命?聞くとするか)」

 

 ピリ

 

友希那「(一瞬で空気が変わった……相変わらずすごい集中力ね……)」

リサ「(椅子に座って聞いてるだけなのに……まるで別人になったみたい……!)」

 

友希那「始めるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「いやー相変わらず素晴らしい演奏でした!」

リサ「マコくんも流石だね〜」

真言「え?なんか俺しましたか?(ただ聞いてただけだよな…俺)」

紗夜「"ただ聞いていただけ"にしては凄まじい集中力でした」

真言「先輩、心読むのマジでやめてもらっていいですか?」

紗夜「あなたが分かりやす過ぎるんですよ」

あこ「なんかこっちまでビリビリ来ちゃったよー!」

 

 ビリビリ?師匠よく擬音で話すから何言ってるか分かんないときがあるんだよな……ってまた心読まれる!?

 

真言「そりゃあ全力の演奏は全力で聞かなきゃ相手に失礼でしょ」

友希那「いい心がけね」

真言「そりゃどうも」

 

 

 

 

 

燐子「………」

紗夜「どうかしましたか?白金さん」

燐子「いえ…何でもありません…」

燐子「(真言くん……やっぱりあの時みたいになってた……)」

 

 集中している真言を見て真っ先に脳裏に浮かぶのは、まだ心を開いていない時の彼の目。

 

 光は灯っておらず、その目に宿っているのは敵意とそして殺意だけ。傷つき裏切られ、誰も信用できなかった時のあの暗く冷たい目。

 

燐子「大丈夫……だよね……?」ボソ

真言「なにがですか?」

燐子「ううん、何でもないよ……?気にしないで……」

真言「?わかりましたけど……あんまり無理しないでくださいね、燐子先輩、結構自分で抱え込む癖がありますから」

 

 きっと彼は大丈夫。もう、あの時の彼じゃない。あの時のように独りじゃない。だから大丈夫。

 

友希那「燐子、練習を続けるわよ」

燐子「……!はい!」

真言「頑張ってくださいね!」

燐子「うん……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「友希那ーそろそろ出る時間じゃない?」

友希那「本当ね、もうこんな時間」

 

 練習に熱が入り過ぎていたようだ。外が暗い。

 

紗夜「良い緊張感を持って練習できましたからね、時間がすぎるのも早く感じます」

リサ「これもマコくんのおかげかな?」

 

 なわけ無いでしょうが。

 

真言「Roseliaが全力で練習に取り組んでるからですよ」

友希那「当然ね」

紗夜「練習は本番のように──」

真言「"本番は練習のように"ですよね?」

紗夜「……ええそうです」

 

 この言葉はもはや紗夜先輩の、Roseliaのモットーみたいになっている。それを有言実行できるのはこの人たちだからこそだ。

 

リサ「さーて片付け始めますか♪」

真言&あこ「「はーい!」」

紗夜「神代さん、さっきまでと雰囲気違いすぎませんか?」

友希那「やっぱり真言は練習の時だけ静かなのよ、中身はあことなんら変わりないわ」

燐子「友希那さん……」

 

 ボロクソ言うじゃねぇか……やっぱ友希那さん怖ぇ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「そういえば神代さん」

真言「なんでしょう」

 

 片付けを手伝っていると紗夜先輩が話しかけてきた。

 

紗夜「実は今日春岡先生にお会いしたのですが、心なしか先生の顔色が悪かったんです」

真言「へーソウナンデスカー」

リサ「あ、急にカタコトになった」

 

紗夜「どうやらテスト返しをしたそうなんですが、聞けば自分の持っているクラスの、とある男子生徒の点数がそれはまあ酷いとのことで、先生もとても困ってらっしゃいました」

 

真言「…………」ダラダラ

燐子「真言くん……?顔色が悪いよ……?」

紗夜「それでその酷い結果は本人から直接聞けと言われましてね」

 

 あんのババァ………

 

真言「湊さん、ちょっと急用を思い出したので帰らせていただきます」ダッ

紗夜「逃しませんよ?」ガシ

真言「グェッ」

 

 俺の全力ダッシュは紗夜先輩に首根っこを掴まれ強制的にブレーキをかけられた。

 

 消される。本当に跡形もなく消されてしまう……!!

 

 メーデー!メーデー!我身動き不能!!

 

真言「師匠……」チラ

あこ「ゴメンねまっくん、あこにはどうすることもできないよ……」

 

 この世は諸行無常なんだね。うん。よくわかったよ。

 

 

 

紗夜「そこで質問です神代さん」ニコ

真言「はははははい…なんでしょう……」ブルブル

 

 

 

 

 

紗夜「帰ってきたというそのテスト、何点でしたか?」

 

 

 

 

 

 前言を撤回しよう。

 

 湊さんよりブチ切れた紗夜先輩のほうが2000倍怖い。

 

 この後俺がどうなったか?そんなの一つしかないだろ。

 

 

 

 

 

 消されたよ。跡形もなく。




この小説の世界線の紗夜さんはとても厳しいです(真言にのみ)。
ちなみに青薔薇の花言葉は「夢はかなう」だそうです。
感想、評価をしていただけると作者のモチベーションが上がります。


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04.監視対象と書いて雑用係と読む。

ご無沙汰しております。砂糖のカタマリです。

皆たくさんのお気に入り登録、感想ありがとうございます。

UAもだんだん増えてきていて(基準がわかりませんが)これからも頑張ろうと思う今日このごろ。

皆様、どうぞお付き合いください。

お気に入り登録 天弥 様

それではどうぞ


 ここは花咲川学園生徒会。

 

 そこで今日も学校の皆(ほとんど燐子先輩)のために働く一人の男がいた……

 

 

 そう、この小説の主人公、神代 真言である。

 

 

「神代さん、この資料って……」

真言「それはそっちの棚」

「神代ー、これの替えどっかにあったっけ」

真言「そこの引き出しの中っす」

 

 いくら他人に心をひらいていない真言とはいえ、事務的な会話なら問題なくこなせる。

 

有咲「相変わらずテキパキ働きますね」

紗夜「神代さんは授業も真面目に聞かなくて勉強もできなくて口悪くて目つきも悪いですが、仕事の効率だけはいいですからね」

真言「褒め言葉に対して罵倒の割合高すぎやしませんか?」

 

 これじゃ褒められてんだから貶されてんだからわからない。俺ってそんなに目つき悪い?

 

 

 

 

 

 ここ花咲川生徒会には会長の燐子先輩を始め、紗夜先輩や有咲がいる。

 

 え?さっき話してたやつら?生徒会の役員ぽいな……名前知らないけど。

 

 俺がここにいるのは全て、燐子先輩のため。

 

 それ以外の名前も知らない奴らのことなんてこれっぽっちの興味もない。

 

 冷たいやつだと思われるだろうか。まああながち間違ってはない。

 

 生憎だが俺はもう友達でもないやつを気にかけるほどお人好しでもなければバカでもない。

 

有咲「マコが最初生徒会を手伝いたいって言ったときにはどうなることかと思いましたよ」

紗夜「まったくです。"生徒会"というより"白金さん"をでしたけど」

真言「二人は俺の保護者か何かですか?」

紗夜「気持ち的にはそうですね」

真言「(そうなんだ……)」

 

 俺が生徒会を手伝いたいと言ったのは2年生の初め頃だった。

 

 

 

 〜〜2年生の初め頃〜〜

 

 

 

隣子「会長の白金 燐子です……よろしくお願いします…」

 

 パチパチパチパチ

 

真言「(やる気のねぇ拍手だな……)」

 

 俺も色々あったが無事(?)2年生になり、今は新しく生徒会へ加入した1年生への挨拶会……のようなものをやっている。

 

 まったく……確かに面倒くさいのはわかるけどさ……

 

 俺だって面倒くさいことはゴメンだ。

 

 それでも俺は何でもいいから燐子先輩の力になりたい。

 

 今はそう思う。

 

 彼女と交わした2つの約束。

 

 [誰も傷つけないこと]そして[彼女を卒業まで守ること]。

 

 そのたった2つの約束が、今の俺が俺であることの証明。

 

 彼女を守る、その最初の一歩として生徒会の仕事を手伝うことにした。

 

 と言っても俺は生徒会の役員じゃない。

 

 まず問題を起こした"監視対象"の俺が生徒会に入れると思うか?

 

 なので俺は"生徒会に監視されている"という大義名分を振りかざして、生徒会室に入り浸っては燐子先輩のお手伝いをする算段だ。

 

 フッフッフッ……我ながらナイスでグレイトな作戦だな……

 

有咲「………………ぉぃ……おい」ボソ

真言「?」

有咲「次、お前の番だぞ」ボソ

真言「あ?ああ……」

 

 どうやら俺の自己紹介の番になったようだ。

 

 一応お手伝いと言うことで俺も自己紹介をしないわけにはいかないらしい。

 

 ちなみに紗夜先輩命令。

 

真言「ええー花咲川生徒会のかんs──」

有咲「わあー!!わあーー!!!」グイ

 

 突然有咲が大声を出して俺の自己紹介を遮る。

 

真言「何すんだよ有咲」

有咲「バカ!お前"監視対象"ってそのまま言うつもりなのか!?」ボソボソ

 

「花咲川生徒会の監視対象やってます、神代 真言です。よろしくおねがいします。」

 

 これが俺が考えた自己紹介だけど……

 

真言「何か問題でも?」ボソボソ

有咲「お前、もうちょっとオブラートに包めよ!じゃなきゃ1年生たちビビっちまうだろうが!」ボソボソ

真言「うーんわかった……」

 

 改めて1年生の方に向きなおり、自己紹介をやり直す。

 

 オブラートって言われてもな……なんか良い言葉ないかな……

 

 生徒会の役員って嘘つくのもなんかな。

 

真言「花咲川生徒会の……えー……雑用係やってます神代 真言です」

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

 

 こうして俺は"監視対象"の他に、新たに"雑用係"という称号を手に入れたのだった。

 

 …………ろくな称号持ってねぇな。俺。

 

紗夜「あの頃は、ずっと何かしでかすのではないかとヒヤヒヤしっぱなしでした」

真言「そんなに信用ないですか…俺」

有咲「あの頃のマコはまだトゲトゲしてましたからね」

 

 トゲトゲって……言い方ちょっと可愛いじゃねぇか。

 

 俺、二人からそんなふうに見られてたのか……怖がられてた……よな、多分。

 

紗夜「まあ、それでも1年生の頃に比べたら丸くなったほうです」

有咲「あの時はまだ私たちのことも名字で呼んでいましたっけ」

紗夜「そうそう、目つきも今より5倍くらい悪くて……」

真言「もう勘弁してください!」

 

 あれはまさに"黒歴史"と呼ぶにふさわしい思い出。

 

 できることならあの事件の記憶は抹消してやりたい……

 

 

 

有咲「まあまあ、そんなことつれないこと言うなって"神代くん"?」

真言「あ"?うっせぇぞ黙れ"市ヶ谷"」ギロ

 

 

 

 

 

有咲「………………」ウル

 

 

 

 

 

 ………………………………あ、やらかした。

 

真言「だぁーーーー!!!!!じょーだん!!冗談だって有咲!!!ちょこーーーっとお前が振ってきたノリにのっただけじゃ〜ん!!!"黙れ"なんてそんなことちっっっっとも思ってないから!!!!だからね?ね?お願いだからそんな涙目にならないで??謝るから!俺マジで謝るから!!」

有咲「別に…………」ウルウル

 

 まさかそんなにビビるとは思わないじゃん!

 

 これ俺が悪いの!?他に誰が悪いのかって言われると……まあふざけ過ぎた俺が悪いか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子「………………………真言くん?」

 

 アッ……………

 

燐子「一体……何をやってるのかな…?」ゴゴゴ

 

真言「いやーこれはーそのですねーあのですねー」

 

 この状況で一番来てほしくない人が降臨してしまった……

 

 普段の俺なら「燐子先輩!」と叫んでものすごいスピードで距離を詰めていくところだが、今回はちょっと……

 

 なにか弁明を……「ちょっとふざけて昔の感じで有咲に話しかけたらビビらせちゃいました」?

 

 うん。ギルティー。

 

有咲「マコは何も悪くないんです…私がふざけてただけで…私が悪いんです!マコは何も悪くありません!!」ウルウル

 

 【真言、終了のお知らせ】

 

燐子「真言くん…………」

真言「ハイ」

燐子「ちょっと……こっちに来なさい」

真言「……………ハイ」ガタガタガタガタガタ

 

 

 

 

 

有咲「…………フッ」ニヤ

 

 こ、こいつ……!!!嵌めやがやがったな!!!

 

 

 

 まあ、有咲がこんな冗談が言えるようになったのも、俺が変わったからなのかもしれないな……

 

 昔の俺にだったらそんな冗談は絶対言わなかっただろうし。

 

 そういう意味では、やっぱり俺が丸くなったというのは事実だろう。

 

 有咲の名演技に騙され結構ガチめの説教をしている燐子先輩の前で、正座で話を聞きながら、俺はそんなことを思っていた。




ちょっとだけ真言の過去が見れましたね。

感想、評価、お気に入り登録をしていただけると作者が喜び踊り狂います。


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05.邂逅"異空間"

昨日ぶりですね。投稿できるときにしといたほうがいいと思ったので連日投稿です。

たくさんのお気に入り登録、そして評価ありがとうございます。少しでも皆さんが楽しめるような作品が書けるよう頑張ります。

★9評価☆そら☆ 様
お気に入り登録 rain/虹 様 hozuhozu 様 火の車 様

まさかあの火の車 様にお気に入り登録をしていただけるとは……感激で言葉が出ません……!!いや環奈くんも個人的にすっごい好きなキャラクターで……おっと取り乱してしまいました。

もしかしたら題名と小説のタグで察している人もいるかもしれませんが、今回は新キャラ登場回です。

それでは本編どうぞ。



 今日も今日とてつまらない授業。

 

 と言ってもこの前酷い目にあった(自業自得)ばかりので当面の間は真面目に受けるつもりだ。

 

真言「あ、やべぇ」

 

 無理、眠い。自分でもびっくりするくらい意思が雑魚すぎる。

 

 さっき決意したばっかじゃなぇか俺。

 

 クソっまだ二限だってのに……まぶたが……

 

 てかそんなに授業真面目に受けさせたいならもっと面白い授業せんかいバカちんが!つまらないから眠くなるんだよ!(やけくそ)

 

 すみません先輩……俺はもうここまでのようです……

 

 

 

「おい!起きないか!」

 

 

 

 ………………………これだから嫌いなんだよ。

 

真言「あ"?」ギロ

「なんだその目は」

真言「別に何でもねぇっすよ」

 

 はぁ、嫌だ嫌だ。

 

真言「てか早く授業進めたらどうっすか?」

「チッ問題児が…」ボソ

 

 聞こえてんだよバーカ。別にお前らからなんて言われようがどうでもいいけど。

 

 "問題児"ね……別に好きでこうなった訳でもない。

 

 ああ、クソっ、イライラする。

 

 どうせアイツらに俺のことなんかわからねぇ。わかろうともしてくれねぇ。

 

 なら俺も、アイツらの事なんかわかってやるものか。

 

 そんなガキみたいな理由をつけて今日も俺はふて寝を決め込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そいつは突然俺の前に現れた。

 

「あなた、いつも寝てるのね!」

真言「………誰だお前」

 

 授業後中庭で寝ていた俺を、夢の世界から現実に引っ張り上げたのは金髪ロングヘアの女だった。いや、誰?

 

 仰向けに寝てた俺の目に、今その知らない奴の顔がドアップで映っている。いや近い近い。

 

「あたし?あたしは弦巻 こころ(つるまき こころ)よ!」

真言「つるまき……?」

 

 確かこいつ同じクラスに………てかその前にどっかで聞いたことあるな。

 

 確か大富豪の令嬢で、"花咲川の異空間"とか中二くさいあだ名持ってる、破天荒を絵に描いたような奴だとか。

 

 生徒会とかクラスとかで話には聞いてたけど……なんか思ってたのの3倍面倒くさそうだな……

 

真言「そんで?"異空間"さんよ、俺になんか用か?」

こころ「こころよ!あなたいつも寝てるから気になって声をかけてみたの!」

 

 なるほど?つまり俺は無意識のうちにこいつの好奇心を刺激しちまったって訳か。

 

 うわーめんどくせー。

 

こころ「あなた、寝るのが好きなの?」

真言「別にそういう訳じゃねぇけど、アイツらの話がつまんねぇから眠くなるんだよ」

こころ「ふーん……あ、でも桜の授業は起きて聞いてるじゃない!」

 

 桜って…こいつ仮にも先生を呼び捨てにしやがったぞ。

 

 …………俺も人のこと言えねぇか。

 

真言「まあ、何となくだ。特に理由は無い」

こころ「ふーん……?」

 

真言「んで?聞きたいことはそれだけかよ"異空間"」

こころ「こころよ!あとあなたいつも怒ってる顔してるからもっと笑ったほうがいいわよ!」

真言「余計なお世話だ」スクッ

 

 もともとこういう顔だ。それに面白くもないのに笑えるかよ。

 

こころ「どこ行くの?」

真言「生徒会室、先輩たちの手伝いに行くんだよ」

 

 これ以上こいつに付き合ってたら頭痛くなる。もう痛い気もするけど。

 

こころ「生徒会室?あなた生徒会の役員だったかしら?」

真言「いや違ぇよ?」

こころ「?ならどうしてあなたが手伝いに行くの?」

 

 うん、まあ素朴な疑問だな。

 

真言「まあお手伝いさん……みたいなものだ」

こころ「じゃあ何で真言は生徒会のお手伝いをしてるのかしら?」

 

 

 

 ……………………………はぁ。

 

 

 

真言「あ、そうだ言い忘れてたな、アドバイスどうもありがとうよ」

こころ「どういたしまして!」

真言「その礼と言っちゃなんだが俺からも一つアドバイスをあげよう」

こころ「なにかしら!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「他人のことズケズケと詮索しようとすんじゃねぇよ」ピリッ

こころ「っ!!」ビクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「んじゃあな"異空間"」

 

 出来る事なら二度と関わりませんように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「こんちわー」

 

 ガラガラと音を立てて生徒会室の扉が開く。

 

有咲「遅えぞマコ!」

 

 中にはもう有咲と燐子先輩がいた。

 

真言「わりぃわりい、ちょっとそこで面倒くさい奴に絡まれてさ」

燐子「それって……大丈夫なの……?」

 

 燐子先輩が不安そうに尋ねる。

 

真言「あ、大丈夫!大丈夫ですよ!多分そういう連中じゃなかったし、俺も何もしてませんから!」

燐子「…………」ジッ

 

 "何もしてない"はちょっと嘘かな……

 

真言「………まあ、もう二度と関わってこないと思うんで、心配はいりませんよ」

燐子「?」

 

 好奇心は猫をも殺す。

 

 ここであいつの好奇心を抑えることがお互いのためだ。

 

 あんだけ脅しをかけといたんだ。もう俺に近づこうとすらしないだろ。

 

 でもそんな俺の推測は見事に外れることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異空間は次の日の朝、俺と有咲の通学路に出現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こころ「おはよう!真言!」

真言「   」アゼン

 

 ビックリしすぎてバック落とした。

 

有咲「え、弦巻さん?」

 

 こいつマジか……

 

真言「いや、確かに脅しはしたものの、もう俺には近づくなとは言ってない、いやでも……えぇ……?」

有咲「おい、マコ大丈夫か?」

 

 ちょっと大じょばないかな。ただいま頭が混乱しております。

 

こころ「昨日はごめんなさい、勝手にいろいろ聞いてしまって……確かに失礼だったわね……」

真言「え?ああ……」

 

 意外と礼儀正しい……………………のか?

 

こころ「それであたしあの後いろいろ考えたの!」

真言「お、おお……」

有咲「マコが完全にペースを乱されてる……」

 

 

 

こころ「あたしと友達になりましょう!真言!」

 

 

 

真言「は?」

 

 ん?どゆこと?

 

      俺が"異空間"を脅す。

          ↓

      "異空間"が反省する。

          ↓

     俺と"異空間"が友達になる。

 

 

 

真言「はぁ!!!???」

 

 何じゃこの意味不明な式は!?途中式いくつぶち壊せばこうなるんだよ!!??数学が苦手な俺でもこうはならんわ!!

 

真言「ほんっとお前と話してると頭痛くなる……」

こころ「それに友達になればきっとあなたも笑顔になるわ!いえ、あたしが笑顔にしてみせる!」

真言「だから余計なお世話だつってんだろ!!」

有咲「良かったなマコ、たしか弦巻さんお前と同じクラスだったろ?クラスに友達できたじゃねぇか」ニコ

真言「嘘だろ有咲!」

 

 なんていい笑顔!助けてくれないのかよ!!

 

 そういう訳で、初めてクラスで朝俺に挨拶してくるやつができました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有咲「というか、弦巻さんを"脅した"………?」

真言「ひっ」ビクッ

有咲「お前……それは………」

真言「いや〜聞き間違いじゃないっすかね〜有咲パイセン〜」

有咲「オッケー燐子先輩に報告コースな」

真言「それだけは!それだけはホントに勘弁してください!!」

こころ「やっぱり真言は面白いわね!」

真言「誰のせいだと思ってんだよ!!」

有咲「いやお前のせいだろ」

真言「マジですか!?」




これからこころにはトラブルメーカーとして数々の災厄、もといイベントを真言に降り注いでほしいと思ってます。
評価、感想、お気に入り登録をしていただけると作者が叫びます。


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06.マニュアル対応だけじゃどうにもならない客もいる

皆さんどうもです。

たくさんのお気に入り登録、そして評価、本当に感謝しております。なんとまたもや☆10評価をいただきました!ありがとうございます!

お気に入り登録をしてくれた人にも、そうでない人にも、楽しんでいただける作品になるよう、頑張っております。

……前置きが長くなる前に切り上げます。

☆10評価 rain/虹 様
お気に入り登録 ROMを 様 ダイキ・リハヴァイン提督 様
うらりんりん 様 六連星 桜桃音 様 赤紫の彗星天宮 様
夕緋 様

今回も新キャラ登場回………………です。



「「ありやとやっしたー」」

 

 とある日のコンビニのレジ前。俺はここで今日もアルバイトに勤しんでいる。

 

 今もちょうど一人しかいなかったお客を送り出したところだ。

 

リサ「二人ともちょっと適当すぎじゃない?」

 

 適当な挨拶をしていたら姐さんから注意が飛んできた。もうおわかりかと思うが姐さんもここのコンビニで働いている。

 

 俺と隣のレジにいる少女は生意気にもリサの姐さんに反論する。

 

「そんなことないですよ〜リサさん」

真言「いいじゃないですか、客もいなくなりましたし」

リサ「いや、そういう問題じゃないでしょ…」

 

 まったく…ギャルみたいな見た目して根はすっごい真面目なんだから……

 

リサ「今なんか失礼なこと考えなかった?」

真言「イエ?ナンデモアリマセンヨ?」

「はっはーマコくんは嘘が下手だね〜」

真言「やめてくださいよセンパイ」

 

 

 

 この人も俺のバイトの先輩、青葉 モカ(あおば もか)さん。Afterglowというこれまたガールズバンドに入っているらしい。

 

 俺はセンパイと呼んでいるが、年は俺と変わらないそうだ。

 

 何で俺がそう呼んでいるのかというと……

 

 

 

 〜〜またまた2年の初め頃〜〜

 

 

 

 コンビニでのアルバイト初日。

 

真言「始めまして、神代真言といいます」

モカ「よろしくーモカちゃんは青葉モカちゃんだよー」

真言「……よろしくお願いします」

 

 ………なんか、掴みどころのない人だな。

 

 ゆらゆらしてるというかふわふわしてるというか……

 

モカ「特別にマコくんにはモカ先輩と呼ばせてあげよう〜」

 

 マコくん……

 

真言「………ウス」

 

 なんだこの人?

 

 

 

 ──とまあこんなことがあって俺はこの人をセンパイと呼んでいる。

 

 最初のうちはマジで年上だと思ってたんだけどな……

 

モカ「んー?どうかしたのかなー?マコくん?そんな熱い視線を送って、まったく〜照れちゃいますな〜」

真言「なんでもないっすよセンパイ、全部気の所為です」

 

 俺のことを"マコ"と呼ぶのはセンパイを除けば姐さんと有咲くらいだ。

 

 いい人なのは間違いない。それははっきりわかる。

 

 

 

 

 

真言「そういや、センパイは姐さんと同じ高校でしたっけ」

 

 はおか?はねおか?学園とかいうのだっけ?

 

モカ「そうだよ〜同じ羽丘だねー」

 

 あ、『はねおか』か。

 

真言「高校での姐さんってどんな感じなんです?」

モカ「聞きたい〜?」

真言「ええ、興味がないと言えば嘘になります」

リサ「ちょっとー?何アタシのいないとこでアタシの話しようとしてるのかなー?」

モカ「いいじゃないですか〜」

真言「暇なんですよ」

リサ「だからってアタシを話のダシに使わないで!というか暇ならアタシの品出し手伝ってよ!」

真言「うぃーす」

 

 レジはセンパイに任せて、姐さんの手伝いに回る。と言ってもレジからはそこまで離れてないので会話は続く。

 

真言「それに俺が知ってるのはRoseliaの姐さんだけで、羽丘の姐さんのことは全然知らないんですよ」

リサ「それを言うならアタシだって花咲川での紗夜とか燐子のこともよく知らないよ?」

 

 うーん……それは確かにそうだな……

 

真言「よし、それではお話しましょう花咲川生徒会で、燐子先輩がどれほど活躍しておられるのかを!!」

リサ「あ、これは地雷踏み抜いちゃった感じかなー?」

モカ「マコくんの面倒くさいスイッチ押しちゃいましたねーリサさん」

 

 面倒くさいとは失礼な。

 

真言「ではまず始めに普段の燐子先輩の仕事ぶりから……」

 

 テテテテテテー↑テテテテテテー↓

 

リサ「いらっしゃいませー!」

モカ「しゃーせー」

 

 ちっ、邪魔が入ったか。非常に残念だがこの話はまた今度に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………ん?こいつ、なんか変じゃね?

 

 黒い帽子にマスク、両の手にはめられた手袋、格好もさることながら何よりおかしいのはそいつの目だ。普通の客の目とは違う。

 

 こいつ、やっぱり変だ。

 

 俺の中の第六感がそう言っている。

 

 そいつは真っ直ぐセンパイのレジへ向かっていく。

 

真言「センパイ、俺代わりま──」

 

「おい」チャキ

 

モカ「え?」

 

 

 

「金を出せ」

 

 

 

 

 センパイの前に突き出される、銀色に鈍く光るナイフ。

 

 そこまで大きくはないがそれでも人を傷つけるには十分すぎる。

 

 

 

 強盗。 

 

 

 

真言「(嘘だろ、おい)」

リサ「マコくん……あれ……」

真言「姐さん、少し下がってろ」ピリ

リサ「う、うん……」

 

 

「さっさとしやがれ!!!」

モカ「ひっ……」

 

 だいぶ興奮してやがる、センパイは……ほぼパニック状態で動けないな、無理もない。

 

 

 どうする?俺はどうすれば………

 

 

 

真言「どうかされましたか?お客さん?」

リサ「ちょ、マコくん!?」

 

 止める姐さんを一瞥し、ゆっくり後ろから強盗に接近し続ける。

 

 まだだ、ここからじゃ遠すぎる。もう少し……もう少しだけ近づけば……

 

真言「お客さん?」トコトコ

「なんだてめぇは!!」

真言「それ……ナイフですよね?危ないですよ?」

「女ァ!さっさとしろ!!」

 

 無視ですか、そうですか。

 

真言「まあまあ一旦落ち着いてくださいよ、ね?」ポン

リサ・モカ「!!!」

 

 強盗の肩に手を置いた。強盗を挟んで正面にいるセンパイが驚いたように目を見開いている。

 

 後ろの姐さんも驚いているかな。

 

「触んな!てめぇ刺し殺すぞ!!」バッ

 

 強盗がこちらを振り向いて、ナイフを俺の目の前に突き出す。

 

 よし、注意が完全に俺に逸れたな。

 

 目でセンパイに少し下がってと伝える。……ギリ伝わったぽい。休憩室に逃げていった。

 

真言「刺し殺されるのは嫌ですねぇ、俺痛いの嫌いなんすよ」

「てめぇナメてんのか??」

 

 ナイフをギラつかせながら威圧してくる。

 

 おお、怖い怖い。

 

真言「いやぁナメてなんかいませんよ?」ガシ

「は?」

 

 

 

 

 

 俺は目の前に突き出されたナイフを掴んだ、もちろん素手で。

 

 掴んだ手からは血が滴ってくる。あ、思ったより痛いねこれ。

 

「は、離しやがれ!!」

真言「無理ですよーだってこれ使って暴れるかもしれないじゃないですかー」

 

 なるべく刺激しないような話し方してるつもりなのにあんま効果ないかな?

 

 ま、いいや。こいつの今の様子見る限り別の武器がある訳でもなさそうだし。

 

「この野郎…!!」

 

 必死にナイフを抜こうとしているが、抜けない。だろうね。

 

 流石にこんな奴に力勝負で負ける気はしない。これでも腕っぷしにはちょっとばかし自身があるんで。

 

「てめぇ、イカれてんのか!素手でナイフを…」

真言「イカれてなきゃ、今頃俺は'監視対象"なんて呼ばれてねぇよ」

「何言ってやがんだ!!」

 

 武器も封じた。姐さんは俺のはるか後ろ。センパイも休憩室に退避した。

 

 んじゃもうあんな喋り方じゃなくて良いよな?

 

真言「あんた、一つ忠告しといてやるよ」

「………?」

真言「俺はな……今あんたの命なんかより数万倍大切な約束をしているんだよ」

 

 "自分の命よりも"、だ。

 

真言「その約束のせいで……俺はあんたを殴ることも、蹴り飛ばすことも、ナイフ奪ってあんたをメッタ刺しにすることもできねぇ」

「……………」

 

 強盗がたじろぐ。

 

真言「だからな?このまま何もせず大人しく警察に突き出されるなら俺も何もしねぇ」

 

真言「けどもし、これ以上あんたが俺の先輩達に何かしようってんなら──」

 

 

 

 

 

真言「──約束の効力が終わり次第、俺があんたを殺す」

 

 

 

 

 

真言「どこに逃げようと、どこへ隠れようとも、見つけ出して絶対に殺す」

「ひっ……そんなハッタリ……」

 

真言「選べよ。このまま警察に突き出されるか、死ぬか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「いやー大人しく捕まってくれて良かった良かった」

 

 あの後大人しくなった犯人は無事、警察に身柄を拘束された。

 

 高校生のガキに脅されてビビるような奴で助かった……

 

リサ「"良かった良かった"じゃないでしょ!」

真言「へ?」

リサ「右手!怪我してるから!ほらこっち来なさい!!」

真言「え、ちょ待っ」

 

 姐さんに無理やり休憩室に引きずり込まれる。いや、力強っよ。

 

 

 

 

 

真言「大丈夫ですよこんくらい、ちょっと切っただけじゃないっすか」

 

 休憩室で姐さんに応急処置をされる。

 

リサ「ちょっとって……血まみれじゃない!」

真言「あはは……」

 

 笑えてくるくらい血は出てるな……

 

リサ「もう!ホントに心配したんだからね!?急に犯人に近づいて行ったと思ったら、ナイフをわしづかみにして……」

真言「いやーまあ、握力なら負けないかなーって思って………」

 

モカ「まっくん……大丈夫ー?」

真言「あ、センパイ!センパイこそ怪我はないですか?」

モカ「あ、うん。あたしは大丈夫だよ……」

真言「?どうかしましたか?」

モカ「うん、その……ゴメンね……」

 

真言「え?」

 

 謝罪?何に対して?

 

モカ「あたし、あの時怖くなって…体が動かなくなっちゃって……あたしが犯人の言うことに従っていたら……マコくんは……」

真言「この手ですか?大丈夫ですよ!ほら、この通りなんてこと無いですから!」フリフリ

リサ「ちょ、まだ消毒してる途中だから動かさないで!」

 

モカ「でも……」

真言「別にセンパイが気に病む必要は無いですよ、俺が勝手に突っ込んで勝手に怪我してきただけですから」

モカ「…………優しいね、マコくんは」

 

 優しい……か……

 

真言「俺は」

モカ「?」

真言「俺はセンパイが思ってるような、優しい人間じゃないです」

 

 あの時、強盗がセンパイを脅したあの時、俺は、俺は一瞬……

 

 助けるかどうか、迷ってしまった。

 

 あの時、俺は燐子先輩との約束を破って後ろから殴りかかることもできた。

 

 そうすればあいつを無力化できたはずだ。

 

 けど俺が真っ先に考えたのは、

 

 "どうすればあいつを傷つけずに事を納めるか"だった。

 

 とんだ人でなしだな。センパイたちの危険と燐子先輩との約束を天秤にかけて、いや、天秤にかけるまでもなく、約束を守ることを選んだんだから。

 

 そしてあの場での約束を守るための最善策は………センパイを見捨てることだった。

 

 俺は優しい奴じゃない。俺はただ……

 

『この化け物!!』

 

真言「………俺はただ約束を守っただけであああーー!!!」

モカ「!?」

真言「痛い痛い!!姐さん!今俺の決め台詞!俺の最大の見せ場なんですけど!!??」

リサ「うるさい!意味分かんないこと言ってないで少し大人しくしてなさい!男の子でしょ!」

 

 見てみると俺の手が包帯でぐるぐる巻きになっていた。

 

 いや、流石にこれはやり過ぎですって姐さん!!

 

モカ「ありがとねマコくん」フフ

真言「どういたしましてセンパイ」

 

 ……まあ、感謝はありがたく受け取っておくとしようか──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜とある日のCiRCLEにて〜〜

 

リサ「──ってことが昨日あってね〜ホントに大変だったよ〜」

友希那「それは災難だったわね、リサに怪我が無くて良かったわ」

リサ「マコくんもあの後病院行ったけど『大した傷じゃなかった』って」

あこ「まっくんカッコイイ〜!」

燐子「……………」

紗夜「……………」

友希那「どうかしたのかしら?紗夜、燐子?」

紗夜「いえ、何でもありません」

燐子「……………」ついついついつい

あこ「りんりん?」

燐子「!何でもないよあこちゃん……」

 

 

 

──その頃の真言

 

 ピロン♪

 

真言「ん?燐子先輩からメッセージ?」

 

 『明日の朝一番、生徒会室まで来なさい。』

 

真言「!?」

 

 何で!?俺なんかした!?文面めっちゃ怖いんですけど!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日……

 

紗夜「あなた自分がどんな危険なことしたかわかってるんですか!?興奮している犯人に向かって行って、しかもナイフを素手で掴むなんて、正気の沙汰ではありません!!」ガミガミ

真言「………………ゴメンナサイ」セイザ

燐子「……………真言くん」

真言「……………」

燐子「危ないことはしないで……?」

真言「はい……気をつけます……」

 

 先輩方からこっぴどく叱られましたとさ。




新キャラ登場回という名のシリアス回でした。

ちょこっとだけ真言くんの本気が見れましたね……

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07.二人のネクロマンサー(前編)

お待たせいたしました!
もう少しでUAが3000…これからも更新頑張っていきます!

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今回はNFO回です!

✱今回はスマホゲーム、バンドリの1シーズンの時のNFO回を参考にしたので、あの人のあれがあれじゃなかったり、(何言ってるかわかんない人は大丈夫です。)私のスマホの仕様上、燐子先輩の顔文字が原作には無いものになってたりします。ご了承ください。

それでは前編、どうぞ。



mako「師匠!そっち一体行きました!」

聖堕天使あこ姫「了解!あこに任せてー!!」

 

聖堕天使あこ姫「定命の円環を逸脱せし常間の使徒に我命ず、其の混濁たる眼で──」

 

真言「師匠!詠唱長いです!逃げられちゃいますよ!!」

聖堕天使あこ姫「もうちょっと待ってってば!──其の混濁たる眼で 深淵を破り、彼の者を久遠の狭間へと誘いたまえ、くらえ!デッドリィーー!!」

 

「ギィ?ギィーーー!!!」

 

 ドカーン!!!

 

 

 

 

 

mako「師匠!ナイスプレーでした!」

聖堕天使あこ姫「ふふーん、これが我が実力なのだ!!」

 

 どうも。神代 真言…あ、この世界ではmakoか。

 

 ここはオンラインゲーム、"Neo Fantasy Online"通称NFOの世界。

 

 それで俺は今、師匠とダンジョン攻略をしてる訳だが………

 

mako「にしても、その名の通り迷路ですねこの洞窟」

聖堕天使あこ姫「りんりんたちともはぐれちゃったし……どうしよう」

mako「あの牛野郎…次会ったら絶対にボッコボコにしてやる…」メラメラ

聖堕天使あこ姫「ま、まあ!とりあえずりんりん達と合流しようよ!」

mako「そうですね、先を急ぎましょう」

 

 一体、俺と師匠に何があったのかというと……

 

 

 

 

 

 〜〜遡ること30分前〜〜

 

 

 

 

 

mako「いやー久しぶりにNFOやるな〜」

 

 今日は師匠たち、正確にはRoseliaの皆とNFOのダンジョン攻略をすることになっている。

 

mako「えーっと…ここの広場に集合だから……もうすぐかな」

リサ「おまたせ~☆」

mako「あ、姐さん!」

サヨ「キッチリ時間前に来ていますね」

mako「もちろんですよ!こうやって皆でゲームできるのなんて初めてですから!」

 

 普段Roseliaは練習で忙しい。リーダーである湊さんのスパルタ指導があるのもそうだが、メンバー全員の高みへ目指すその姿勢が必然的に彼女たちの練習量を上げて……ってあれ?

 

mako「湊さんたちは?」

リサ「ああっと……」

サヨ「ええ、もうすぐ来ると思いますけど……」

mako「?」

 

 何かあったのか………?

 

ユキナ「待たせたわね」

mako「あ、湊さん!それに師匠と燐子先ぱ…」

聖堕天使あこ姫「あ、まっくん………」

RinRin「真言くん…おまたせ(;´∀`)」

 

 めっちゃ疲れてんですけど。

 

mako「なんでそんなゲッソリしてんですか」

サヨ「それが…ここに来る前に間違えて湊さんがフィールドに出てしまいまして……」

聖堕天使あこ姫「たまたま出てきたのが高レベルのモンスターで……なんとか倒せたけど……」

ユキナ「今度から気をつけるわ」

mako「は、ははっ」

 

 マジですか湊さん……

 

mako「と、とりあえず今日行くダンジョンまで行きましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サヨ「ところで神代さんの職業は何なんですか?」

mako「俺ですか?そんなの、俺は師匠の弟子なんですよ?一つしかないじゃないですかー」

聖堕天使あこ姫「まっくんはあこと同じネクロマンサーですよ!」

RinRin「そういえばわたしとあこちゃんは一緒にやっと事がありますけど、氷川さんたちは真言くんとNFOやるのは初めてですよね(•‿•)」

 

 うーん………やっぱまだ慣れないな……

 

 燐子先輩はネットゲームとかのチャットになると、顔文字も多用しつつ、ものすごい速さでタイピングをするので、嘘みたいに流暢になる。

 

 ちなみに燐子先輩も師匠もやり込んでいるのでかなり強い。他のみんなは……よくわからないけど、紗夜先輩はたまに師匠たちとNFOやってるらしいし姐さんもまあ大丈夫かな……湊さん?ノータッチでいいですか?

 

 あ、あと師匠の名前も察してください。これも何となくわかるでしょ?

 

mako「皆さんの職業は…えーっと…燐子先輩がウィザードで、師匠がネクロマンサー……」

RinRin「氷川さんがタンク、今井さんがヒーラー、友希那さんが吟遊詩人だよ(・∀・)」

mako「ほへー」

 

 前衛が少ねえな……まあ、なんとかなるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「着きましたよ、ここが今日行くダンジョン、【死者の迷路】です!」

 

 俺と師匠と燐子先輩で決めた、そこまで難易度が高すぎる訳でもない、きわめて普通のダンジョンだ。

 

サヨ「死者の迷路…ですか」

聖堕天使あこ姫「はい!ここは確か名前の通りダンジョン全体が大きな迷路になってたはずです!」

 

mako「とりあえず中に………湊さん、いますよね?」

ユキナ「ええ、いるわよ」

mako「ふぅ…なんか静かだから先に突っ走ってったのかと思いましたよ……」

ユキナ「失礼ね、まだ何もやらかしてないわよ」

mako「"まだ"って言うのやめてください、なんかやらかす気ですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョン攻略は思ったよりサクサク進んだ。皆すごいな……

 

サヨ「やっぱり一人増えるだけでもかなり攻略のスピードが速くなりますね」

mako「そうですか?」

リサ「マコくんってもしかしてこのゲームかなりやり込んでたりする?」

mako「そこまでですかね、燐子先輩に誘われてやり始めたのが一年くらい前なんで……」

 

 そこから気が向いたときにしかやってないから、そこまでやり込んでるわけでもないけどね。

 

リサ「へーでもマコくん、結構強いよねー」

mako「そうですか?」

 

 確かにレベリングもしてるけど、燐子先輩や師匠のほうが全然強い。

 

聖堕天使あこ姫「そりゃあそうですよ!なんてったってまっくんはあこの弟子ですから!」ドヤ

リサ「清々しいほどのドヤ顔だね……」

mako「……でもまあその通りと言えばその通りですけどね」

 

 俺は師匠の弟子、ネクロマンサーmakoなのだから!

 

 ………今のちょっと師匠ぽかった?

 

 

 

 

 

ユキナ「何かいるわ」

mako「っ!!」

 

 湊さんの視線の先にあったのは大きく開けた場所。

 

 そこにはただ一体、二足で立っている大きな牛のようなフォルムをしたモンスターが立っていた。

 

mako「………ミノタウロス?」

 

 なんとなくそんな感じの名前だった気がする。

 

 でけえ……斧持ってるぞあいつ。見た目だけで言ったらボスキャラサイズだ。

 

聖堕天使あこ姫「うわー……大っきいー」

サヨ「かなり手強そうですね……」

RinRin「あれはソウルミノタウロスですね、アンデットのモンスターでここのフィールドボスです(-_-;)」

 

 さすが燐子先輩、情報が早いのなんの。

 

mako「一応聞きますけど、あいつとの戦闘を避けることもできますよ……どうします?」

ユキナ「戦うわ」

 

 即答かよ、まったく……カッコイイね〜

 

サヨ「私も湊さんに賛成です。今回は戦闘に来たんですから」

リサ「えぇー……まあ、友希那が言うなら……」

 

 今日は戦う気マンマンじゃないか。

 

mako「全然心配いらないじゃないですか燐子先輩、皆さんかなりやる気ですよ」

RinRin「うん、そうだね(✿^‿^)」

聖堕天使あこ姫「よーし、あこも頑張るぞー!」

 

mako「よし、じゃあ全会一致ということで早速作戦を……って湊さん?」

リサ「あれ、友希那?」

サヨ「神代さん……あれ……」

 

 紗夜先輩が指さした先にいたのは──

 

 

 

mako「いや、なにしてんですか湊さんッ!!」

 

 

 

──ボスに向かって突っ走るRoseliaのリーダー、この世界では吟遊詩人の湊 友希那さんその人であった。

 

mako「クソっ、有言実行!やると言ったら必ずやる、やらかすと言ったら必ずやらかす、こんなところでフラグを回収するとは…これがRoseliaのリーダーの実力か!!!」

サヨ「そんなこと言ってる場合ですか!!」

リサ「友希那〜!戻ってきて〜!」

RinRin「あれ、もしかして制御できてないんじゃ……」

 

 あの牛のスキルか!?

 

ユキナ「みんな……何かに引っ張られて止まらないのだけれど……」ズルズル

聖堕天使あこ姫「ど、どうしよう〜!!」

mako「こうなったら行くっきゃないでしょ!」ダッ

 

 見た感じあいつの武器は近接攻撃タイプ。

 

 射程範囲内に入る前に湊さんを連れ戻す!

 

mako「"アレ"を使うか……」

聖堕天使あこ姫「まっくん……まさか…"アレ"を使うの?」ゴクッ

mako「こういうときに使う技でしょ?それに師匠、この技を教えたのは師匠じゃないですか」

聖堕天使あこ姫「……わかった、あこも手伝うよ!」

mako「よし、行きますよ師匠!」

 

 

 

リサ「あの二人、何かする気みたいだよ?」

サヨ「一体どんな技を……」

RinRin「(あこちゃんが真言くんに教えた技……?それってもしかして……)」

 

mako「うおーーー!!!」ダッダッダッ!!!

聖堕天使あこ姫「わーーー!!」ダッダッダッ!!!

 

 湊さんに!少しでも早く追いつく!!

 

 そして!!!

 

mako「よし!」

ユキナ「えっちょっと」

 

 追いついた!

 

mako「今です師匠!」

ユキナ「え?」

 

mako&聖堕天使あこ姫「スキル発動!!!」

 

 

 

 

 

mako「」チーン

 

聖堕天使あこ姫「」チーン

 

ユキナ「え、え?え???」

 

 ……………………

 

 これが俺と師匠の得意スキル。

 

 その名も"アンデットプレイ"。

 

 これは擬態、死体に擬態しモンスターに自分は死んだと思い込ませる技。

 

 

 

 簡単に言えば死んだふりである。

 

 

 

サヨ「二人して何やってるんですか!!??」

 

 なんと言われようとこの技が俺と師匠の得意技だ!

 

 このスキルで騙せないモンスターは……

 

RinRin「二人とも!ソウルミノタウロスにはアンデットプレイは効かないよ!!(゜o゜;」

 

mako・聖堕天使あこ姫「「…………え?」」

 

 

 

「グルルルルッッ……」

 

 

 

 あの……めっちゃこっち見てるんですけど……

 

 振り上げられるその大きな大きな斧。

 

 あ、終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「って!終わってたまるかよ!!!」バッ

「グォァーー!!!!」ブン

 

 振り下ろされた斧が地面を叩き割る。

 

 "叩き割る"?

 

mako「こいつ……地面をッ……!!」

 

 地面が壊れ、地下への空間が顕になる。

 

聖堕天使あこ姫「うわー!お、落ちるーー!!」

mako「チッ!」ガシ

ユキナ「!?」

 

 こうなりゃ湊さんだけでもッ!!

 

mako「燐子先輩ッ!!」

 

 燐子先輩へ向けて湊さんを放り投げる!!

 

RinRin「え、え!?真言くん!!(✽ ゚д゚ ✽)」

 

mako「後は任せましたッ!!」

聖堕天使あこ姫「りんりんーーー!!!」

 

RinRin「あこちゃーん!!真言くーん!!」

 

 こうして俺と師匠はダンジョンの下層へと落ちていった。

 

 〜〜後編へ続く〜〜




今回は少し長くなりそうだったので前後編です。

感想、評価、お気に入り登録、してもしなくても私は頑張り続けます。


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08.二人のネクロマンサー(後編)

どうも、砂糖のカタマリです。

お気に入り登録 ミラアルマ 様ありがとうございます。

いつも前置きが長くなるので、今回は極端に少なくしてみました。

それでは早速本編へどうぞ。



mako「もおーー!!長えよ!!このダンジョン!!!」ガンガン!!

聖堕天使あこ姫「まっくん…倒したモンスター

、オーバーキルするのはやめよっか…」

mako「ごめんなさい!!!」

聖堕天使あこ姫「(こういうとこ素直なんだよなー…)」

 

 例の牛にダンジョンの下層へと落とされ、かれこれ30分以上彷徨っている。

 

 いやどんだけ入り組んでるんだよ!【迷路】と言っても限度があるでしょうが!!

 

聖堕天使あこ姫「でも結構歩いたからそろそろりんりんたちとも合流できそうだよ!」

mako「そうだと良いんですけど……」

 

 

 

 燐子先輩たち……無事だろうか……

 

 

 

 ………………………。

 

mako「うん?」

聖堕天使あこ姫「どうしたの?」

mako「いや、今なんか聞こえたような」

 

 ………………け……。

 

mako「ほら、また聞こえた」

聖堕天使あこ姫「えー?」

 

 ………す……け……。

 

聖堕天使あこ姫「あ、ホントだ!」

mako「でしょ?」

聖堕天使あこ姫「でもこれなんの音?」

mako「誰かの声みたいですけど……」

 

 …た…す……け……。

 

mako「…………」

聖堕天使あこ姫「…………まっくん、あこ…この声がなんて言ってるか、分かっちゃったかもしれない……」

mako「奇遇ですね、俺もです」

 

 

 

 …………だれか助けてーーーー!!!!!

 

mako・聖堕天使あこ姫「「ギャーーー!!」」

 

 

 

mako「って待った師匠!この声姐さんのじゃないですか!?」

聖堕天使あこ姫「え、あ、ホントだ!リサ姉の声だ!!」

mako「あっちからです!行きましょう!」

聖堕天使あこ姫「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「もお〜!!何なのあいつ!!」ハァハァ

サヨ「まったく…どこまでも追ってきますね……」ハァハァ

ユキナ「燐子、そろそろ下ろしてくれないかしら」ダキカカエラレ

RinRin「……………」ハァハァ

ユキナ「燐子?」

 

 

 

RinRin「……よし、ここまでくれば大丈b──」ヨッコラセ

 

「グォァーーーー!!!!」ドーン!!!

 

RinRin&リサ&サヨ「「「うわーー!!!」」」

ユキナ「またなの……!?」

サヨ「白金さん!戦いましょう!このままでは埒が明きません!」カマエ

RinRin「でもっ……!(;´Д`)」

RinRin「(今は火力を出してくれるあの二人がいない……そんな中戦っても勝てる見込みは………)」

 

 

 

ユキナ「みんな、何か来るわ」

リサ「え?」

サヨ「また新手のモンスターですか?」

ユキナ「いえ、わからないのだけれど……」ユビサシ

RinRin「(・・?」

ユキナ「あっちの方から声が……」

RinRin&リサ&サヨ「「「声?」」」

 

 …………………リサネェ---!!!

 

リサ「もしかして…あこ?」

 

 …………………リサ姉ーーー!!!

 

リサ「あ、あこ!!!」

聖堕天使あこ姫「良かった……真言くんもいますε-(´∀`*)ホッ」

 

サヨ「危ない!!」バッ

リサ「!?」

「グルルォアーー!!!」

 

 ガキンッ!!

 

 振り下ろされる斧を盾で受け止める!

 

リサ「紗夜!」

サヨ「お、重い………」ギリギリ

「グルルルル………」

 

mako「こんの……クソ牛野郎がーー!!」ダッ

RinRin「真言くん!?ヽ((◎д◎))ゝ」

mako「紗夜先輩から離れやがれ!!!」

 

 その脳天に思いっきり蹴りをぶち込んで……

 

「グァッ!!」ブン

mako「げぼらッ!!」

 

RinRin「真言くん(゚д゚)!!!」

ユキナ「ものすごい吹き飛ばされたわね……」

リサ「早くヒールを!!」タッタッタッ

聖堕天使あこ姫「紗夜さん!今のうちに距離をとってください!」

サヨ「ええ!」バッ

 

 

 

mako「……………」

リサ「マコくん、大丈夫?」(ヒール中・・・)

mako「………ハッ」

リサ「?」

 

mako「ハッハッハッハッ!!!」

サヨ「神代さん…頭打ったんですか?」

mako「あんの野郎………」メラメラ

ユキナ「燃えてるわね……」

mako「燐子先輩、師匠、一ついいですか?」

RinRin「うん(?_?)」

聖堕天使あこ姫「なになに?」

mako「少しやってみたい事があります」ニヤ

 

 あの牛野郎に目にもの見せてくれよう………!

 

 詠唱…開始ッ!!

 

mako「定命の円環を逸脱せし常闇の使徒に我命ず、其の闇の力をもってして彼の古の戦士たちを深淵より蘇らせたまえ!!」

リサ「おお〜カッコイイね〜☆」

mako「…………///」

 

 姐さん、冷やかさないで…

 

mako「出でよ!デッドウォーリアーズ!!」

 

 キュイーン!!

 

サヨ「!?」

ユキナ「これは……」

聖堕天使あこ姫「黒い……ガイコツ?」

リサ「ボロボロだけど……あ、剣持ってる」

RinRin「この技……!」

聖堕天使あこ姫「りんりん何か知ってるの?」

mako「よっしゃあ!行ってこい!」

 

 タッタッタッ

 

「グォァ!!」ブン

 

 

 

 ガッシャーーーン!!!

 

 

 

サヨ「あの……一瞬で吹き飛ばされていったんですが……」

聖堕天使あこ姫「バラバラになっちゃった……」

ユキナ「この展開さっき真言で見たわよ」

リサ「あの吹っ飛んでいった子、ヒールしなくていいの?」

mako「フッフッフ、デッドウォーリアーズは既に死んだ戦士、故に!2度死ぬことは無い!」

 

 俺のMPが尽きない限り!

 

 まあ、一部の例外もあるけど。この状況ではそれもありえない。つまり!

 

mako「この場所でのデッドウォーリアーズは最強!!」

 

 カタカタカタカタ

 

 デッドウォーリアーズ、復活!!

 

リサ「あ、組み上がった」

mako「ハッハッハッ!見たか!!」

サヨ「なんか神代さんキャラ変わってませんか?」

聖堕天使あこ姫「まっくん、ゲームで苦戦するとたまにああなっちゃうんです」

リサ「それ、あこの影響じゃない?」

ユキナ「でもあんな簡単に倒されていたらいくら不死身でも……」

 

 確かにそうだ。こいつ一体じゃあいつを倒すための火力が圧倒的に足りない。

 

mako「単発火力が足りないのなら……数を増やせばいいのさ!」

聖堕天使あこ姫「え?」

 

 この技の名前はデッドウォーリアー"ズ"。

 

 つまりこいつらは一体だけじゃない。

 

 キュイイイイイイイイインッ!!!!!!

 

聖堕天使あこ姫「うわ!いっぱい出てきた!」

サヨ「なんて数なの……」

 

 フィールドを埋め尽くさんばかりのガイコツ。質より量作戦だ!

 

RinRin「デッドウォーリアーズ……確か術者のMPを動力源として戦う、黒いガイコツを召喚するスキル……でもこんなに多く……すごい(・o・)」

聖堕天使あこ姫「何か剣持ってたり、盾持ってたり、いろんな子がいるね!」

 

 よし、ある程度の数は揃えた。後は……

 

mako「盾持ち班!お前らは紗夜先輩につけ!」

サヨ「え!私ですか!?」

mako「存分に使ってやってください!」

 

 ビシッ!!

 

RinRin「敬礼してる(・o・;) 」

聖堕天使あこ姫「あのガイコツたち、AIなの?」

mako「どうやら簡単なプログラムで出来てるみたいです」

 

 詳しいことはよくわかんないけど。

 

mako「あとお前らは後衛の守り!お前らは湊さんのかい…援護を!」

ユキナ「今"介護"って言いかけなかった?」

 

 …………準備完了!

 

mako「残りのガイコツ共……あの牛を叩き潰せ!!!」

サヨ「私たちも行きましょう!」

聖堕天使あこ姫「了解!あこの力とくと見よ!」

mako「数の暴力だ!ローストビーフにしてやんよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「あんだけ大口叩いたものの……結構ギリギリだな……」

 

 流石はフィールドボスと言ったところか……

 

「グウァ!!」ブワッ!!!

 

 狙いを俺に変えやがったか……!!

 

mako「っ!」

サヨ「神代さん!!」ガキン!!!

 

 危ねぇ!!助かった……

 

mako「ありがとうございます紗夜先輩!」

サヨ「少し下がってください!危険すぎます!!」

mako「それは……できないんです」

サヨ「え?」

 

 このスキル、強力なものだがデメリットもある。

 

mako「スキル発動中は術者は発動場所から動けないんです…」

リサ「えぇ!?」

 

 つまりスキル発動中はサンドバック状態になるって訳だ。

 

サヨ「仕方ないですね……それなら、私が神代さんを守ります!」

聖堕天使あこ姫「紗夜さんカッコイイー!!」

 

 ヤバい…かっけぇ…

 

RinRin「真言くん!ボスのHPが残り少ない!なにか来るよ(´⊙ω⊙`)!」

mako「了解です!お前ら!一気に片付けるぞ!!」

 

 カタカタカタカタ!!!

 

mako「畳みかけろ!!」

 

「グゥ…………」キュイイイン

 

リサ「な、なにかヤバいんじゃないの???」

mako「チッ!お前ら!取りかこ…」

 

 め……あれ……?

 

 ガシャンガシャンガシャンガシャン

 

mako「こんなときに……MPが………」

ユキナ「ガイコツたちが消えていくわ…」

 

 まずいまずいまずい!

 

「グォラァァァアアア!!!!!」バチバチバチ

 

mako「でかい一撃が…来る!」

 

 フィールドボスの……おそらく一撃必殺級のスキル、確実に殺られてしまう!

 

サヨ「くっ…!」カマエ

リサ「紗夜!危ないよ!」

mako「早く逃げてください!」

サヨ「ですが……!」

 

 考えろ…考えるんだ…どうすればこの状況を打破できる……!

 

mako「どうすれば…………ん?」

 

 ……いるじゃねぇか…まだ諦めてない人が!!

 

mako「時間だ!あいつのスキルを受け止めて時間を稼ぎます!!」

リサ「え!?」

ユキナ「時間を稼いで、それからどうするのかしら?」

mako「……後は上手いことやってくれますよ!」

RinRin「真言くん!MP回復ポット一つだけ残ってたよ!!(つ≧▽≦)つ」

mako「あざす!」

 

mako「再び出よ!デッドウォーリアーズ!!」

 

 最初より数はだいぶ少ない、けどやるしかねぇ!

 

mako「紗夜先輩!」

サヨ「わかってます!」バッ

 

 召喚したデッドウォーリアーズと紗夜先輩を最前線に、後衛で前衛の回復…これで耐えるしか無い!!

 

「グルォアァァァァァァァ!!!!」

RinRin「ブレス、来ます!!」

 

 

 

 

 

 衝撃と共に、閃光が辺りを包み込む。

 

 

 

 

 

サヨ「ぐっ!!!」ズガガガガガ!!!!!

 

 くそ!まだか…まだ時間がいるのか!!

 

リサ「だめ!紗夜へのヒール追いつかないよ!」

mako「あと少し……あと少し……!」

ユキナ「真言、あなた一体何を待って……」

 

 来た!!!

 

mako「お前ら!!」

 

 キュイーン!!!!

 

 新たに生成したデッドウォーリアーズが四人を抱えて逃げる。

 

サヨ「え、ちょ」

リサ「なになになになに!!??」

ユキナ「!?」

RinRin「真言くん!?」

 

 作戦完了!

 

mako「派手にぶちかませ!師匠!!」

聖堕天使あこ姫「了解!あこの最大にして最強の魔法、受けてみよ!!!」

 

 

 

 

 

ユキナ「そう…時間を稼いでいたのはこのため……」

サヨ「彼の土壇場での判断力は私の折り紙付きですから」フン

リサ「え、いやいや!マコくんはどうやって逃げるのさ!!」

 

 今の位置関係は、

 

 あこ→ミノタウロス→真言

 

 といった具合である。つまり……

 

リサ「あの位置だと正面からあこの魔法受けちゃうんじゃない!?」

RinRin「あ………(・_・)」

サヨ「き、きっと彼にも何か考えが………」

 

mako「やっちまえ!師匠!!!」キラキラ

 

リサ「あれ……ホントに何か考えてる?」

ユキナ「完全に子供の目ね」

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「カースデッドバーストーーーーーッッ!!!!!」

 

 あ、そういえば俺、どうやって逃げるの……?

 

mako「ちょタンマ!!ししょ──」

聖堕天使あこ姫「喰らえーーー!!!」

「グァァァァァァ!!!」

mako「ギャァァーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「わー!ごめんねまっくん!!」

mako「……………」チーン

サヨ「これは…酷いですね…」

ユキナ「生きてるかしら?」

RinRin「いえ、おそらくは……(T_T)」

リサ「えぇ!?」

聖堕天使あこ姫「ほんとーにごめん!!」

RinRin「だ、大丈夫だよあこちゃん!アイテムを使えばすぐ生き返るから(・∀・)」

ユキナ「便利な世界ね」

 

 

 

 ポワン

 

 

 

mako「こ、ここは……?」

聖堕天使あこ姫「うわーん!!ごめんなさいーーー!!!」ダキ

mako「うお!し、師匠?」

 

 なるほど……俺死んでたのか。

 

mako「大丈夫ですよ師匠!師匠のおかげであいつ倒せましたから!」

 

 ふと見るとソウルミノタウロスは黒焦げになっていた。いい気味だぜ!

 

リサ「マコくんもあんな感じだったんだよ?」

mako「………………」

 

 想像したくない……

 

mako「なにか、ドロップしました?」

RinRin「うん、はいこれ」スッ

 

【ソウルミノタウロスの斧】

 

mako「ほへー…」

 

 あいつのあのデカい斧か……

 

リサ「受け取りなよ☆」

mako「え、くれるんですか?」

サヨ「ええ、私も神代さんが受け取るのが妥当だと思います」

聖堕天使あこ姫「あとこの武器ネクロマンサー専用装備なんだって」

ユキナ「みんながそう言うもの、受け取れないとは言わせないわよ」

 

 はは……なんか覇気が怖い。

 

mako「………じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

【makoは"ソウルミノタウロスの斧"を手に入れた!】

 

 俺……近接武器使えたっけ……?

 

RinRin「真言くんも目覚めましたし、村へ帰りましょう(・∀・)」

一同「「「「「了解!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「いやー、なんだかんだありましたけど楽しかったです!」

聖堕天使あこ姫「あこもー!」

mako「また一緒にやりたいですね!」

RinRin「うん(。•̀ᴗ-)✧」

リサ「アタシもまた皆と一緒に遊んでみたいな♪」

サヨ「その前にまずは練習です」

ユキナ「ええ」

 

 相変わらずブレないなー2人は。

 

サヨ「神代さんも、勉強頑張ってくださいね」

mako「……………」メソラシ

サヨ「ね?」ギロ

mako「は、はいぃぃ!!!」

RinRin&あこ姫「あはは……」




技の呪文とかバトルシーンの表現がとても難しかったので、すごく幼稚に見えるかもしれません……

好評でしたらバンドリシーズン2にある、あの人のあれがあれな時のストーリーも書きたいと思っています。

これにてNFO回も終わりです。皆さん次話もよろしくおねがいします。


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09.俺はコミュ障じゃない

どうも。ちょっと投稿時間遅くしてみました。

お気に入り登録 ルビィちゃん推し 様 ありがとうございます。

今回は2話でちょこっとだけ出てきたキャラが登場します。

それでは早速本編へどうぞ。



 いっつも思うんだが………

 

 数学でやったことっていつ使うん???

 

 いや、四則計算とかその辺は分かるよ?

 

 でもさぁ、グラフとか図形とかそういうのって日常で使う機会無くない???

 

 数学の公式覚えるぐらいなら、一つでも漢字覚えたりしたほうがよっぽど効率的に時間を使えるというものだ。

 

真言「──と思うんだが君はどうかね有咲くん」

有咲「うるせぇ。さっさと手動かせ」カリカリ

真言「はい」

 

 今俺がいるのは市ヶ谷邸の蔵、"邸"という言葉は本来大きくて立派な家のことを指すので、普通の家を"邸"と呼ぶのはおかしいかもしれないが、まず普通の家には蔵はない。よって俺の表現は正しい。ほら!今国語の知識使った!!

 

有咲「いい加減にしろ数学教えてやんねぇぞ」

真言「ごめん」

 

 要するに俺が今何をしているのかというと、有咲の家の蔵で勉強を、主に俺の大ッッッ嫌いな数学を教えてもらっている。

 

有咲「それにしても、珍しいな」

真言「何が?」

有咲「お前が勉強教えてほしいなんて、雪でも降るんじゃないか?」

真言「失敬な」

 

 いくらなんでも言い過ぎだろ。

 

有咲「それで?一体どういう風の吹き回しなんだ?」

真言「あ?何が」

有咲「まさか自分から勉強するようないい子ちゃんになったわけじゃないだろ?」

真言「………まぁな」

 

 俺だって別に好きでこんなことやってるわけじゃない。

 

 もし好きで勉強をやっているやつがいるならそいつは天才か変態のどっちかだ。

 

 もちろん俺はそのどちらでも無い。

 

真言「俺も燐子先輩たちのおかげであの高校に通えてるからな、それなのに留年とか、先輩たちに顔向けできねぇだろ」

有咲「マコ……お前…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有咲「本音は?」

真言「紗夜先輩が怖いです………!」

 

 いやホントに怖いんだって!あの目!完全に人殺してる目だって!!

 

真言「今度テストであんな点取ったら………」

 

紗夜『次はありませんよ?いいですね?』グシャァ

 

真言「冗談抜きで……死ぬ」ガタガタガタガタガタ

有咲「いや、怖がり過ぎだって…」

真言「有咲は怒られたことないからわからないんだよ!!」

 

 紗夜先輩キレるとマジやべぇんだから!!あなたにはわからないでしょうけどねぇ!!

 

有咲「……いい傾向だと思うけどな私は」

真言「え?」

有咲「どんな理由であれマコが花咲川に残る努力をしてくれるっていうのは…………友達として私もなんというか…う、うれしい、みたいな……」

真言「有咲………」ズイ

有咲「うぇっ!!??///(ち、近い///)」

 

真言「お前…頭打ったか?それともツッコミに疲れてもう頭が……」

有咲「どっちもちげぇよ」

真言「あ、そう」

有咲「フンッ!!」

真言「ゴホァ!!」

 

 腹パン!!普通に痛え!!!

 

真言「何すんだよ有咲!!」

有咲「うるせぇ!お前なんてまたテストで散々な点数取って紗夜先輩にグチャグチャにされちまえばいいんだ!!」

真言「おねがいだからそんな不吉なこと言わないで!?」

 

 マジであり得るからそれ!

 

 ドンドンドン

 

真言「ん?」

 

 ドンドンドン

 

 蔵の扉を叩く音が聞こえる。……だれか来た?

有咲のばあちゃん?

 

真言「おい、誰か来たみたいだぞ有咲」

 

「有咲ー?いるー?」ドンドンドン

 

 ………有咲のばあちゃんじゃない。

 

 誰だ?扉の外にいるのは?

 

 声は女…俺の……数少ない知り合いのものじゃない。

 

 じゃあ有咲の知り合い?いや、友達?

 

 

 

 こいつは………安全なやつか?

 

 

 

真言「……………」ピリ

有咲「ヤベ!」タッタッタッ

 

「有咲ー?」ガラガラ

真言「……………」

有咲「ちょちょちょっと待て!!!」バッ

「え、ど、どうしたの?」

有咲「いや、今ちょっと面倒くさいのが来てて……」

真言「面倒くさいってなんだ」

有咲「あー!そういうことじゃなくて!いや、あながち間違ってもないけど!」

 

 おいこら。

 

有咲「とにかく!良いやつなんだけど初対面の人になると過度に緊張するやつが来てるから!また後でな!!」

真言「いいよ有咲、俺もう帰るからさ」

有咲「いや、ならもうちょっと他の人と仲良くなる努力をしろよ!!」

 

 でもきっと目つき悪いから怖がられるだろうし……俺初対面には警戒心丸出しになってるらしいし………

 

「ってあれ、もしかして神代くん?」

 

 ……………………?

 

真言「なんで…俺の名前知ってんだ?」ピリ

有咲「(ヤバい!マコの警戒心が一気にマックスまで上がった!こいつ他人の事警戒しすぎだろ!!)」

 

 

 

「なんでって…有咲からいつも聞いてるし…それに同じクラスじゃん」

真言「?」

「覚えてない?」

 

 同じクラスの………?そういやこいつどっかで…………

 

 あ、

 

『あはは…なんか、ごめんね?』

 

真言「おどおどしてる黒髪ショートのやつと一緒にいたポニーテール女子!」

有咲「言い方ァ!!!」バシィ!!!

真言「痛ってぇ!!!」

「あはは……」

有咲「クラスメイトの名前くらい覚えとけよ!!」

真言「知るか!普段関わりないやつの名前なんて一々覚えてねぇよ!!」

 

 

 

 

 

有咲「はい、じゃあ沙綾はもう知ってると思うけど、こいつ神代 真言」

真言「どうも」

有咲「ほんでマコ、こっち山吹 沙綾(やまぶき さあや)さん、私と同じPoppin'Partyのメンバー」

沙綾「よろしくね!いやー、話で聞いてた通り有咲と仲いいんだね」

真言「まあ……」

 

沙綾「……もしかして私、警戒されてる?」ボソボソ

有咲「さっきも言ったけど、あいつ色々あって心開いてる人以外には基本的に警戒心強めなんだ」ボソボソ

 

真言「山吹さんは」

沙綾「ん?」

真言「山吹さんはバンドでは何を担当してるんですか?」

沙綾「私?私はドラム担当だよ」

真言「ドラムですか…カッコいいですね」

沙綾「ふふっ…ありがとう」

 

有咲「(あのマコが……自分から初対面の人との会話を続けようとしてる………!!!ヤバい、ちょっと泣きそう……)」ジ~ン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「あ"ーーーつ"か"れ"た"ーーーー」

有咲「ひっでぇ声だな」

真言「だって、あんだけ頑張って話し続けたんだぜ?そりゃあ疲れるわ」

有咲「………コミュ障」

真言「何だとコラァ!!」

有咲「にしても初めは警戒心マックスだったのに、よく会話が続いたな」

 

 あの後、有咲を交えて3人で当たり障りのない雑談を30分くらい繰り広げていた。

 

 話を聞くところによると山吹さんは有咲の忘れ物を届けに来ただけらしい。

 

真言「どうやら、俺はドラマーの人とは気が合うみたいだ」

有咲「?あぁ、あこちゃんか」

真言「そういうこと」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

沙綾「それでねー」

 

真言「(この人は師匠と同じこの人は師匠と同じこの人は師匠と同じこの人は師匠と同じこの人は師匠と同じこの人は──)」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

真言「こんな感じに思ってたら意外となんとかなった」

有咲「いや、怖っ!!」

真言「名付けて、[ドラマーにカッコイイと言えば喜ばれる作戦]!」

有咲「それ本来あこちゃん以外には通用しない作戦だと思うぞ……」

真言「それに有咲の友達なんだろ?信頼はできなくても信用くらいはできるさ」

有咲「ふーん、変わった……いや変わろうとしてるんだな、マコ」

真言「"変わろうとしてる"か……」

 

 変わったではなく、変わろうとしてる……確かにそうかもしれないな。まだまだ俺は変われていない。

 

 変わりたい……変われる……のか?俺は……俺は……

 

真言「なぁ、有咲……」

有咲「なんだ?」

 

真言「俺…ちゃんとお前の友達になれてるよな……?」

有咲「……なにバカなこと言ってんだよ。また怒られてぇのか?」

真言「……ごめん」

有咲「そうやってすぐに謝るのは変わってねぇのな」フフ

真言「……ああ、まったくだな」

 

 人間はそう簡単に変われない。

 

 焦らずゆっくり変わっていくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有咲「ほんじゃ気をつけて帰れよ……って言ってもすぐ近所か」

真言「今日は勉強教えてくれてありがとな」

有咲「じゃあまた明日」

真言「おう、また明日」

 

 

 

真言「…有咲!」

有咲「?」

真言「ありがとな!!!」

有咲「?……お、おう?」

 

 なにポカンとしてんだあいつ………ははっ!

 

『間違ってねぇんだろ!?お前は!!じゃあ!いつまでもウジウジ悩んでるんじゃねぇ!!』

 

『心配しなくても!ちゃんと私はお前の友達だ!!!!』

 

 こんな俺でもあいつの"友達"になれているというのなら…それはこの上なく

 

 幸せなことだ。




またまた新キャラですね。タグが増えます。

感想、評価、お気に入り登録をしていただけると励みになります。


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10.触らぬ薔薇に棘は無し

UAが遂に4000を超えました!皆さん本当にありがとうございます!!

そしてBanG Dream!4周年おめでとうございます!未だにフリックを普通にタップするような演奏をしていますがいつも楽しませてもらっています!

お気に入り登録 魔星アルゴール 様 Babaちゃん 様 黒白の暗殺者 様 ありがとうございます。

さて、この小説も10話目ですが今回は少し頭のネジを緩めてお楽しみください。

それでは本編どうぞ。



友希那「私、何だか真言に距離を取られてる気がするの」

紗夜「突然なんですか湊さん」

 

 ある日のCiRCLE前のカフェテリアにてRoseliaのボーカル兼リーダー、湊 友希那は悩んでいた。

 

 それを聞くのは同じくRoseliaのギター担当、サッドネスメトロノームの異名をもつ少女、氷川 紗夜。

 

 どうやら悩み事と言うのは紗夜の後輩、やけに同じRoseliaのメンバーである白金 燐子に懐いているとある少年のことらしい。

 

紗夜「それで、神代さんが湊さんを避けているんでしたっけ?」

友希那「ええ……何だかそんな気がするの」

 

 何でまた急に。と紗夜は思った。

 

紗夜「気のせいですね、彼は少なくともRoseliaのメンバーには心を開いています。今井さんにも、宇田川さんにも、私にも、湊さんにも、言うまでもありませんが白金さんにも。気さくに話しかけているのを湊さんも見ているはずです」

友希那「そこよ」

紗夜「いや、どこですか」

 

友希那「紗夜、真言がみんなを呼ぶときはなんて呼んでるかしら?」

紗夜「呼び方……ですか?」

 

 神代 真言という人間は基本的に相手の事を下の名前で呼ばない。

 

 紗夜が知っている中では3人。

 

 自分自身、白金 燐子、そして後輩である市ヶ谷 有咲の3人にしか下の名前で呼んでいるのを聞いたことがない。

 

 それ以外の人に対してはあだ名で呼んだり、上の名前に"さん"をつけて呼んでいたりしている。

 

紗夜「えーっと………」

 

紗夜「私と白金さんには下の名前に先輩、今井さんには『姐さん』、宇田川さんは……確か『師匠』と呼んでいた気がします」

 

 あだ名は完全に彼のセンスだ。『師匠』なんて初見では誰のことを言っているのかまったくわからない。

 

友希那「………じゃあ私は?」

 

紗夜「…………『湊さん』ですね」

 

 

 

友希那「………なんで………私だけ名字で呼ばれてるのかしら………」

 

 

 

 実際問題、友希那の"真言が自分を避けている"という認識はあながち間違ってはいない。

 

 仲が悪いと言う訳では決してないが、それでもやはり、他のメンバーに比べ関わりが少ないのは事実。

 

 友希那のその性格や態度から、あだ名で呼ぶなんてことは困難を極める。というか絶対に無理。

 

 さらに友希那が通っている高校は花咲川ではなく羽丘、つまり真言の直接の先輩ではない。なので必然的に(名字)+さんになってしまうのだ。

 

紗夜「ま、まあ所詮呼び方は呼び方ですし、そこまで気にしなくても──」

友希那「他にもあるの」

 

 それは燐子と紗夜の紹介で初めてRoseliaの演奏を見学に来たとき………

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

友希那「話は聞いているわ、Roseliaの湊 友希那よ」

真言「…………………」

友希那「……………ちょっと?聞いてるの?」

真言「……………………よろしくお願いします」ペコ

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

友希那「思えば最初から私には人一倍警戒心強かったわね……」

紗夜「気のせいです!それと昔のことは数に数えないでください!」

 

 当時の真言は燐子以外に心を開いておらず、紗夜の事も『氷川さん』と呼んでいたくらいだ。

 

 初対面に無言なのも無理ないだろう。

 

友希那「この前も……」

紗夜「まだ何かあるんですか……」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

真言「それでですね師匠、あの後……」ワイワイ

友希那「そろそろ練習再開するわよ」

真言「!!!」ビクッ

 

友希那「(別にそこまで驚かなくてもいいじゃない……)」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

友希那「他にも………」

紗夜「もう十分です!!」

 

 放っておくとずっと続きそうだったのでストップをかけた。

 

紗夜「そんなに気になるなら本人に直接聞いてみればいいでしょう」

友希那「嫌よそんなの」

紗夜「だいたい友希那さんがそこまで他人からの評判を気にするなんて、珍しいじゃないですか」

 

友希那「最近ね、真言を見てると思うの……///」

 

紗夜「……………何をですか(まさか湊さん……神代さんの事を……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「にゃーんちゃ……猫みたいだなって///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「……………え?」

 

 何だか思わせぶりな雰囲気の友希那の口から出てきたのは、紗夜の想像してた回答とまったく違っていた。

 

友希那「あの初対面の人には冷たい態度……けど懐いている人には存分に甘えてくる……彼にはにゃーんちゃんの素質が十分にあるわ」

 

 

 

 湊 友希那は大の猫好きである。

 

 

 

 音楽一辺倒で趣味など持ち合わせてはいない彼女だが強いて言うなら 趣味:猫 と言ってもいいくらいに猫が大好きなのだ。

 

 いつも冷静な彼女も音楽以外のことになると途端にポンコツになってしまう。「にゃーんちゃん」とは彼女が猫を呼ぶときに使う愛称だ。

 

 ちなみに真言が友希那を信用するに至った一つの原因が、猫と戯れる友希那を見たことだったりする。

 

 

 

 

 

紗夜「……湊さんは、学校での神代さんを見てないからそんなことが言えるんですよ……」プルプル

 

友希那「………どういう意味かしら」

 

 紗夜も伊達に真言の先輩をやっている訳ではない。

 

 自分の後輩のことを理解していない友希那に、思うところがあるのだろう。

 

紗夜「神代さんは……神代さんは………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「ぜっったいに犬です!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 湊 友希那が大の猫好きなら、氷川 紗夜はその対極、大の犬好きなのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「まっくん、あそこにいるのって」

真言「紗夜先輩と湊さんですね」

燐子「なんか二人とも言い争いしてる……?」

真言「止めたほうがいいですかね……おーい紗夜先輩!湊さ──」

 

 

紗夜「いいえ絶対に犬です!飼い主に従順で知らない人を警戒する、神代さんは正に犬です!白金さんの忠犬です!!」

友希那「それは違うわ、確かに真言は知らない人には警戒心が強い、けれど飼い主(燐子)には人が変わったように接する、このツンデレさ加減は正に猫よ」

紗夜「犬です!」

友希那「猫よ」

紗夜「犬です!!」

友希那「猫よ」

紗夜「犬!!!」

友希那「猫!」

 

 

 

 

 

真言「師匠………」

あこ「うん……リサ姉に任せよっか……」

真言「はい……触らぬ薔薇に棘はなしって言いますもんね」

燐子「それ…なんか色々混じっちゃってるよ……?」

 

 そうでしたっけ。

 

紗夜「埒が明きません!こうなったら本人に直接聞きましょう!」

友希那「いいわ、望むところよ」

 

 ギロッ

 

あこ「あ、こっち見た」

紗夜「神代さん!ちょっとこっちに──」

真言「逃げるが勝ちだ!!」ダッ

 

 この前強盗と合った(06.参照)ときと同じく俺の第六感が言っている。

 

 

 

 

 

「ヤバい、逃げろ」と。

 

 

 

 

 

友希那「あこ!真言を捕まえなさい!」

あこ「え、は、はい!」ガシッ

真言「ちょっ師匠!?」

あこ「ごめんまっくん!」

紗夜「よくやりました宇田川さん!」ガタッ

友希那「」ガタッ

 

 二人がものすごいスピードで近づいてくる!

 

真言「師匠ー!離してくださいーー!!」

あこ「うぅ〜!!」ギュッ

 

 こうなりゃ師匠引きずってでも逃げてやる!!

 

あこ「わわ!!まっくん力強い!!」

真言「悪いですね師匠!このまま逃げ切らせてもらいます!!」

紗夜「白金さん!神代さんを逃さないでください!!」

燐子「え!ええ…?」オドオド

 

 とにかく今は距離を離す!あれに捕まると多分ひどい目に合う!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子「ご、ごめんね……真言くん……」キュッ

 

 燐子先輩に謝られながら控えめに袖を掴まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「クソッ!!動けねぇ!!!!!」

あこ「まっくんちょっと単純すぎない!?」

 

 そんな申し訳無さそうに袖掴まれたら逃げられないでしょ!?

 

 

 

紗夜「逃げないでくださいよ、神代さん?」

友希那「さあ、ハッキリしてもらいましょうか」

 

真言「姐さーーん!!助けてーーー!!!」

 

 メシアは、メシア(姐さん)はまだか!?

 

 

 

 

 

紗夜「あなたは犬ですか!?」

 

友希那「猫よね真言」

 

真言「俺は人間です!!!」

 

 

 

 尚、この後メシアこと今井 リサが到着するまで二人の"真言、犬か猫か論争"は繰り広げられ、彼はそれに巻き込まれるのであった。

 

 結局決着はつかなかったらしい。




今回は前々からやってみたかったハーレム回(?)でした。
………………………ハーレムってこんなのでしたっけ?

まあとりあえず……良かったね真言くん!


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11.HappyBirthday M's Sayo!!!

まずはお詫びを。

10話のタイトルが無いというミスを盛大にやらかしてしまいました。申し訳ございません。

それとお気に入り登録が30を超えました!ありがとうございます!

お気に入り登録 阿用 様 等々力一心 様 タルト・タタン 様ありがとうございます。

今回は紗夜先輩の誕生日回です。

それでは本編どうぞ。



真言「ゲッ、今日俺最下位かよ」シャカシャカ

 

 休日の朝、起きて歯を磨きながらスマホで星座占いを見ていた俺は今日の運勢最悪らしい。

 

《12位蟹座

何か大切な用事をすっぽかしてしまうかも!事前準備を忘れずに!!ラッキーフードはポテト!》

 

 ポテトか……やけにジャンキーだな。

 

真言「ん?」シャカシャカ

 

 ピロン♪

 

真言「カレンダーの通知?えっと今日は確か……」

 

〈紗夜先輩の誕生日!〉

 

真言「…………………………あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「あった………………!!!!!!」ハァハァ

 

 マジ危ねえ………!!!事前に誕生日プレゼント買っといてホントに良かった……………!!!

 

 家中散々探し回って、ようやく押し入れに紗夜先輩への誕生日プレゼントを仕舞っていた事を思い出した。

 

真言「良くやった!これ買ったときの俺!!良く忘れず買っといてくれた!!!」

 

 産まれてからこれほどまでに過去の自分に感謝したことがあっただろうか、多分ない。

 

 プルルル プルルル プルルル

 

真言「あ、電話だ」ピッ

 

『もしも〜し、まっくん起きてるー?』

 

 電話の主は俺の師匠だった。

 

真言「はい、起きてますけど」

リサ『あ、マコくん起きてたー?』

 

 どうやら後ろには姐さんもいるみたいだ。

 

あこ『ここでいきなりだけどまっくんに問題です!』

真言「え?」

あこ『今日はなんの日でしょうか?』

真言「……紗夜先輩の誕生日です」

 

 

 

 

 

あこ『…………忘れてた……よね?』

真言「イエ?マサカマサカ、オレガサヨセンパイノタンジョウビヲワスレルナンテアルワケナイジャナイデスカ。プレゼントモホラ、シッカリト……」

 

あこ『りんりんがね──』

 

 

 

燐子『真言くんは事前にしっかりプレゼントも準備するんですが……多分準備するのが早すぎて当日にはどこに保管してたか忘れてしまうと思うんです……』

 

 

 

あこ『──って』

 

 その通り過ぎてぐうの音も出ねぇ……

 

真言「……でも!ちゃんと思い出せました!準備できてます!!」

あこ『それならいいけど……』

 

真言「……あ、そうだ!師匠たちは何をプレゼントするんですか?」

 

 話題を変えなければ罪悪感に殺られる!

 

あこ『フッフッフッよくぞ聞いてくれた!あこたちはねー……』

リサ『あこー?そろそろ行くよー?』

あこ『はーい今行くー』

真言「どこか行くんですか?」

あこ『紗夜さんにプレゼント渡しに!』

真言「え?こんな朝早くからですか?」

 

 あわよくば師匠たちと一緒に渡そうと思ってたんだけど……

 

 

 

 

 

あこ「まっくん……もうお昼だよ?」

 

 

 

 

 

 ──ブツッ

 

真言「………………………寝過ごした」

 

 スマホにはかけ忘れたアラームの履歴がバッチリ残っていた。

 

 脳裏に浮かぶのは今朝の星占い。そして…………紗夜先輩。

 

 あの人は何だかんだ言って優しい人だ。きっと俺が誕生日を忘れていたことなど、

 

紗夜「まったく……仕方ありませんね神代さんは」

 

 と笑って許してしまうだろう。

 

 少し悲しそうな微笑みで…………

 

 

 

 

 

 それでいいのか?

 

 

 

 

 

真言「……いい訳ねぇだろ」

 

 プルルル プルルル プルルル

 

『はい』

 

真言「紗夜先輩、今どこですか」

紗夜『神代さん?今はCiRCLEに入ったところですけど……』

真言「Roseliaのみんなは?」

紗夜『おそらくスタジオの中に……どうかしたんですか?』

真言「先輩、一個だけお願いしていいですか?」

紗夜『どうしたんですか急に……まあいいですけど』

真言「ありがとうございます」

紗夜『それで?私は何をすればいいんですか?』

 

 

 

真言「その場から動かないでください」

 

 

 

紗夜『………………………え?』

 

 俺が紗夜先輩にしたお願い。確かに意味がわからないだろう。

 

 俺の願いは一つ。

 

真言「10分……いや5分でいいです、その間だけ動かないでください」

紗夜『一体何を……』

真言「お願いします」

 

 紗夜先輩の誕生日を祝わせてください。

 

紗夜『……………………後できちんと説明してもらいますからね』

真言「!ありがとうございます!!」

紗夜『では私はここで待っているので……なるべく早く来てくださいね、みんなを待たせてますから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜その頃のRoselia〜〜

 

リサ「紗夜遅いな〜」

燐子「ですね……」

あこ「あれ、まっくんからメッセージ来てる」

友希那「あの男……紗夜の誕生日を寝過ごすなんてどうかしてるんじゃないかしら」

リサ「まあまあ…別に一緒に渡そうって言ってた訳じゃないしさ」

燐子「真言くんはなんて……?」

あこ「あ、うん!えーっとね…………"今から行きます"だって!」

リサ「今から!?もうすぐ紗夜来ちゃうよ!?」

あこ「あ、紗夜さんからも来てる」

リサ「"5分ほど遅れます"だってさ」

友希那「珍しいわね、紗夜が時間に遅れるなんて」

 

燐子「もしかして真言くん……」

あこ「いや流石に……ここからまっくんの家まで5分では着かないって……」

リサ「でもマコくんなら………」

 

 やりかねない。全員がそう思った。

 

 一番付き合いの長い燐子は真言の性格をよく知っている。

 

 彼が、自分の大切な人のためなら不可能に思えることすらねじ伏せてしまう可能性があることも。

 

 ……それが彼の良いところでもあり、危ういところでもあることも。

 

友希那「真言が来ると言うのなら、何があっても来るのがあの男だわ」

リサ「……そうだねちょこっとだけ待ってあげようか♪」

燐子「"これ"……大丈夫でしょうか?」

リサ「大丈夫大丈夫、さっき買ったばっかだからまだ温かいよ」

あこ「まっくん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「来ましたね……本当に5分で着くとは……」

真言「……ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 久しぶりに………全力で走ったから…………かなり………きつい………

 

真言「昔は……もっと……体力あったんですけど……ね……」

紗夜「それはあなたの嫌いな"過去の話"ではないですか?」

 

 流石俺の先輩……よく知ってらっしゃる……

 

真言「紗夜先輩」

紗夜「息は整いましたか?」

真言「はい、もう大丈夫です」

紗夜「それではスタジオに入りましょう、みんな待ってます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「わ、まっくんホントに間に合った!」

リサ「すご……」

真言「あはは……」

 

 ちょっと姐さん引いてない?

 

友希那「真言、今日をなんの日か忘れるなんて……あなたそれでも紗夜の後輩なの?」

真言「すんません……」

 

 うわー……結構怒ってる……

 

リサ「まあまあいいじゃん!こうやって頑張って走って来てくれたんだしさ!」

友希那「……まあいいわ、プレゼントはちゃんと持ってきてるわよね?」

真言「もちろんです!」

あこ「よーしそれじゃあみんな集まったということで!!」

リサ「紗夜、ハッピーバースデー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは紗夜先輩のぷち誕生日パーティーが開始された。

 

 師匠たちからのプレゼント?それはまあ……自分で確認してくれ。

 

燐子「真言くん……」

真言「わかってます。紗夜先輩!」

紗夜「はい、何でしょう」

 

 いつもより嬉しそうな紗夜先輩が答える。

 

真言「改めて誕生日おめでとうございます!これ俺からのプレゼントです!」

紗夜「ありがとうございます……これは……ハンカチですね」

リサ「うわーオシャレだね」

燐子「花の刺繍が入ってますね……カーネーション?」

 

 その通り。 

 

 ピンク色のカーネーションの刺繍が入った白いハンカチ。過去の優秀な俺が悩みに悩んで買ったものだ。

 

真言「花言葉とか、家に帰ってから調べてみてください!」

紗夜「神代さん…ありがとうございます」ニコ

 

 

 

 こちらこそだ。俺のこの日々は、紗夜先輩がいたから成り立っている。これはその、ささやかなお返しだ。

 

 

 

友希那「とても今朝まで誕生日忘れてた男と同一人物だとは思えないわね」

真言「ちょっと今は静かにしてもらえます?」




ピンクのカーネーションの花言葉は「感謝」「気品・上品」だそうです。

新衣装ガチャを回したらスターチケット2枚で紗夜先輩が出ました。私はまだ生きてます。

おやー?Roseliaじゃないやつが紗夜先輩の写真に何か書いてるぞー?(棒)

…………はい。





 本当にいつもありがとうございます。

 手のかかる後輩ですが、先輩の後輩で良かったと思ってます。

 これからもこの手のかかる後輩をよろしくおねがいします。

                         真言


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12.まこととRoselia

まさか前話だけでUAが1000を超えるとは……思ってもみませんでした。これがrain/虹 様の力か……

rain/虹 様の小説「人見知りの幼馴染は俺にだけデレッデレ」に噂話として真言くんがちょこっと出てます。ぜひそちらも面白いので読んでみてください!…………いつかコラボとかできたらなぁ……

お気に入り登録 ロイグ 様 リセエール 様

今回の話は頭のネジ全開にして見てください。もう3歳児くらいになって。多分ハチャメチャにキャラ崩壊してます。ご注意ください。

それでは本編どうぞ



こころ「うーん……困ったわ……」

 

 とある日の昼下り、金髪少女、花咲川の異空間こと弦巻 こころは悩んでいた。

 

 

 

 

 

こころ「人を若返らせる薬を作ったのだけれど……誰に飲ませようかしら?」

 

 ……序盤からツッコミどころが多すぎるが、もしここにこの小説のツッコミ役、神代 真言がいたら──

 

 

 

真言「いや何作ってんだよ!?というより誰かに飲ますこと前提!?思考がマッドサイエンティストのそれだわ!!」

 

 

 

 ──というような鋭いツッコミが飛んできたに違いない。

 

 しかし、今彼はここにいない。

 

 現在彼はRoseliaの練習を見学しに、CiRCLEへと向かっている真っ最中なのであった。

 

 もしも彼がここにいたなら、自らの好奇心のためだけに動くマッドサイエンティストに薬を飲ませられていたに違いない。

 

 彼の日頃の行いが良かったという事だろうか。

 

 

 

 

 

こころ「あ、真言!」

真言「ゲッ……異空間じゃねぇか」

こころ「こころよ!」

 

 前言撤回。どうやら彼の日頃の行いは悪かったようだ。

 

真言「……で?お前こんなとこで何してんだよ」

こころ「実は……」ピーン!!!

 

 弦巻こころはひらめいた。こいつに薬を飲ませようと。

 

 しかし相手は常に警戒心マックスでおなじみ、神代 真言。

 

 「若返りの薬です。はいどうぞ」と渡されて、「はいそうですか」と飲むような人間ではない。

 

 ではどうすれば彼は薬を飲むのだろうか……弦巻こころは考える。

 

 

 

 

 

こころ「実はうちで作った新商品のジュースがあって、真言!飲んでくれないかしら!」

 

 流石に無理がありすぎる。言ったこころ自身もそう感じていた。

 

真言「お前んちってそういうのも作ってんのか……」

 

 弦巻家というのは普通の家ではない。いわゆる超お金持ち、真言がこころの事を"異空間"と呼んでいるように、その家系は謎に包まれている。

 

 

 

 

 

真言「……まあいいや、くれるんならもらうわ」

 

 こころは心のなかでガッツポーズをした…………こころだけに…………はい。

 

こころ「はいどうぞ!さあ飲んで!」

 

 弦巻家の特異性と持ち前の勢いだけでゴリ押すこころ。

 

真言「……なんか焦ってねぇか?」

こころ「そんなことはないわよ!さあ!」

真言「…………」ゴクゴク

 

 ある程度心を許している人からの押しにはとことん弱くなるのが彼である。

 

真言「…………なんか……味薄いな……」

こころ「……………そうかしら?」

真言「これでいいか?」

こころ「え、ええ……」

真言「んじゃ俺行くとこあるから」

こころ「……………あ、ちょっと!」

 

 

 

こころ「行っちゃった……何も変わらなかったわよね……?失敗かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「……?」

 

 何かがおかしい。そう気づいたのはCiRCLEのすぐ手前だった。

 

真言「な……んだ……これ……?」

 

 見慣れたはずのCiRCLEがやけにデカイ。そして遠い。

 

 歩いても歩いてもなぜかたどり着けない……どうして……?目的地は目の前にあるのに……

 

真言「おれ……どうかしちまったのか……?」

 

 頭いってえ……体も思うようにうごか………

 

真言「やべぇ…………だれ……………か…………」ドサッ

 

 視界が揺れて、倒れたまま立ち上がることすらできない。

 

「どうやら上手くいったようですね」

 

真言「…………?」

 

 こえが……きこえる……だれだ……?

 

「とりあえずこちらで服は用意いたしました。これもこころお嬢様のため。どうかご容赦ください神代様」

 

 こころおじょうさま……?こいつらいったい…………

 

真言「りんこ…………せんぱ……い……………」

 

 恩人の顔を思い浮かべながら、彼の意識は暗闇へと落ちていった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「それでねーりんりん!その時まっくんが…………」

燐子「…………どうしたの?」

あこ「あれ……紗夜さん?」ユビサシ

燐子「ホントだ……今井さんも……どうしたんだろ……?」

 

 あこが指差した先には同じRoseliaの紗夜とリサがいた。CiRCLEの入口で何故か立ち止まっている。

 

紗夜「これ……どうしましょうか……」

リサ「う〜ん……」

 

あこ「紗夜さーんリサ姉ーどうかしたんですかー?」

リサ「あ、あこ!」

紗夜「白金さんも……」

燐子「何かあったんですか……?」

リサ「ねぇ紗夜、燐子ならもしかして……」

紗夜「ええ私もそう思います」

燐子・あこ「?」

リサ「いやね?アタシたちがCiRCLEに入ろうとしたら入口に……」

 

 

 

「おねえちゃんこのひとだれー?」ピョコ

 

 

 

 リサの足の後ろから小さな、幼稚園児くらいの男の子が顔を覗かせていた。

 

燐子「!?」

あこ「かっわいー!!え!誰この子、リサ姉の弟!?」

リサ「ちがうちがう!」

 

紗夜「最初は近所の子供かと思いましたが……どうやら違うようで……私も何がなんだかよく分かっていないんです……」

 

 だいぶ困惑しているのだろうか。とても疲れた顔をしている。

 

燐子「え……じゃあこの子は……?」

あこ「こんにちはー!あこは宇田川あこって言うんだー!お名前教えてくれる?」

「!!」|彡サッ

あこ「あー…リサ姉の後ろに隠れちゃった……」

 

リサ「大丈夫だよーこのおねえちゃんたちは怖くないからねー?だからほら!ちゃんと自己紹介して?」

 

「…………」チラ

 

あこ「あ、出てきた」

燐子「…………?」

 

「は、はじめまして!ぼくの名前はか、」

あこ「か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、かみしろ まことです!よ、よろしくおねがいします!」|彡サッ

 

 

 

 

 

リサ「あ、またアタシの後ろに!」

あこ「うんうんそっかーまことくんかーよろしくね!」

燐子「………!?え?え!!??」

あこ「どうしたのりんりん?」

燐子「え、いやだって……確かによく見たらちょっと似てる……?」

あこ「何言ってるの?りんりん?」

紗夜「白金さんの気持ちがよく分かります……私も最初そうなりましたから……」

あこ「?」

リサ「あこ……この子、自分の名前なんて言ってた?」

あこ「え、かみしろ まことくんでしょ?」

 

 

 

 

 

 かみしろ まこと?

 

 カミシロ マコト?

 

 

 

 …………"神代 真言"?

 

 

 

 

 

あこ「ぇぇぇええええええええええええええええええええ!!!!!!!!???????」

「!!!」ビクッ!!!

 

友希那「みんな遅いわよ……一体こんなとこで何を……」

 

 待ちかねたのかCiRCLEからRoseliaのリーダー、友希那が出てきた。

 

友希那「?」

まこと「…………?」

 

 二人の目が合う。

 

友希那「……………この子……誰かに似てないかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえずスタジオに集合し、改めて自己紹介兼作戦会議をすることになった。

 

まこと「かみしろ まことです!えーっと…3しゃいです!」ビシッ

 

 自分に危害を与えない人間と分かったからか、自信満々に年齢まで教えてくれる。

 

 たとえ目つきの悪い高校生だろうと、無邪気な少年だろうとそういうところは変わらない。

 

紗夜「…………神代さんそれ2ですよ」

あこ「かっわいーーー!!!!」

リサ「たしかに可愛いけど……」

友希那「???????」

燐子「友希那さん……」

 

 先程から友希那の頭にはハテナマークが異常発生している。

 

紗夜「普通に考えれば同姓同名の赤の他人……という事になるのでしょうが、神代さんと連絡が取れない上、この子が居た場所にこれが……」スッ

 

 そう言って紗夜が差し出したのは……

 

あこ「あ、これまっくんのスマホだ!」

燐子「それと……服?」

紗夜「私たちが来たときにはきれいに畳まれていました」

リサ「ちゃんと今着てる子供服は着てたけどね。あとアタシたちのことは覚えてないみたい」

まこと「…………」ギュゥゥゥゥゥ

 

 リサの足にしがみついて離れないまこと3しゃい。 

 

友希那「…………やけにリサに懐いてるわね」

リサ「最初は怖がられてたんだけど、みんなへの差し入れのクッキーを上げたら、すぐ懐いちゃって……」

燐子「甘いものが好きなのも変わらないんですね……」

友希那「リサのクッキーの良さが分かるなんて、流石真言やるわね」

 

 

 

 

 

あこ「ねぇねぇまっくん!」

まこと「!!!」|彡サッ

あこ「……またリサ姉に隠れちゃった」

燐子「真言くん……?」

まこと「!!!」|彡サッ

 

 隠れた先には燐子が待ち構えていた。

 

 本人には待ち構えていた自覚はないがまことから見れば完全に待ち伏せられていたように見えるだろう。

 

 足の前にはあこ、後ろには燐子。

 

 まさに前門の虎、後門の狼状態。まことにもはや隠れる場所はない。

 

まこと「!?!?」グルグルグル

 

燐子「回ってる……」

あこ「はっはっは!あこたちの魔の手からは逃れられないのだ!」

紗夜「魔の手って……」

まこと「…………ぇ」ブワッ

あこ「ん?」

 

 逃げ場がなくなったまことがとった行動、それは…………

 

 

 

 

 

真言「びぇぇぇぇぇぇえええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」ボロボロボロ

 

 

 

 

 

 ギャン泣きである。それはもう、友希那がビビるくらいに。

 

あこ「ええええ!!!???」

燐子「ま、真言くん……!?」

 

まこと「びぇぇぇええええ!!!」ボロボロボロ

リサ「ああ!もう!大丈夫だから、ね?」

 

紗夜「……どうやら神代さんは子供のときは泣き虫だったようですね」

友希那「そ、そのようね……」

 

 それは普段の彼の様子からは考えられない行動だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「ほんっとうにゴメン!まっくん!」

リサ「ほら、おねえちゃん謝ってるよ」

まこと「…………………うん、いいよ……」グス

燐子「……かわいい」

あこ「あこはね宇田川あこって言うんだ!」

 

 

 

まこと「……?あこおねえちゃん?」キョトン

 

 

 

 首かしげおねえちゃん呼び攻撃!効果はバツグンだ!!

 

あこ「ぐはっっ!!!」バタッ

紗夜「宇田川さん!?」

リサ「ね、ねぇアタシは……?アタシはおねえちゃんって読んでくれないの?」

友希那「リサ!?」

 

 

 

まこと「んーっとね……クッキーのおねえちゃん!」ペカー

 

 満面の笑みである。

 

リサ「クッキーの……」

あこ「じゃあ友希那さん!ほらあのおねえちゃんは?」

友希那「ちょっとあこ!」

まこと「…………」ジー

友希那「な、なによ真言」

 

 

 

まこと「ゆきなちゃん!」ペカー

 

 

 

友希那「この子は私が世話をするわ」

 

 友希那はこんらんしている!!

 

リサ「ダメだって友希那!」

友希那「私が責任を持って育てるわ、今よりもっと素直で良い子にするのよ!!」

 

 まさかのおねえちゃんではなく、ちゃん付け呼び。完全にノックアウトされてしまった。

 

 

 

あこ「ほらあそこにいる二人は?」

 

 完全にまことをオモチャにして遊んでいるあこ。

 

 残る標的は紗夜と燐子だけだ。

 

あこ「あっちが紗夜おねえちゃんであっちが燐子おねえちゃんだよー!」

まこと「…………」ジー

 

紗夜「(私はおねえちゃん呼びは日菜でなれてる……大丈夫、いくら相手がピュア神代さんでも耐えきれる!)」

まこと「…………」ジー

燐子「…………?」

あこ「……あれ、どうしたの?おねえちゃんって呼んであげないの?」

 

 まことは何故か二人を見つめたまま固まって動かない。

 

まこと「…………ちがう」

あこ「え?」

燐子「…………何が?」

まこと「おねえちゃんじゃない」

友希那・リサ・燐子・あこ「「「「?」」」」

 

 この中で一人、まことが言っている意味が分かった人がいた。

 

紗夜「もしかすると……神代さん」

まこと「?」

 

紗夜「……あの人は燐子おねえちゃんではなく燐子先輩ですよ」

まこと「……りんこ……せんぱい……?」

 

 うつむきながら"先輩"というフレーズを繰り返すまこと。 

 

紗夜「(きっと彼の中には私たちの記憶が残っているはず。だから白金さんや私のことを"おねえちゃん"と呼ぶことに違和感を感じた……)」

 

まこと「せんぱい……せんぱい!!」

燐子「真言くん……!思い出したの……!?」

まこと「ううんぜんぜん!でもせんぱいはだいじなひと!それはおもいだした!」ペカー

燐子「……………」ナデナデ

 

 満面の笑みでそう言うまことに、ほとんど反射で彼の頭を撫でる燐子。

 

燐子「(かわいい)」

 

 

 

 

 

紗夜「だいぶ記憶が戻ってきたみたいですね」

友希那「ええ、でも燐子と紗夜以外はあまり思い出せてはいないようね」

リサ「どうにかして思い出させて上げたいけど……」

 

あこ「というよりまっくん……元の姿に戻るの……?」

 

Roselia「「「「「…………………………」」」」」」

まこと「?」

 

 もしかしたら彼はこのまま戻らないのかも、ずっと子供のままなのかも、根拠を持って否定できる人間はこの中に誰もいなかった。

 

友希那「大丈夫よ。もしこのままなら私が世話するわ」

燐子「それはダメです!」ナデナデ

まこと「せんぱい?」

 

紗夜「とにかく、神代さんの記憶を取り戻しましょう!そうすれば元に戻る手がかりが分かるかもしれません!!」

リサ「でもどうやってマコくんの記憶を取り戻すの?」

燐子「子供に戻っても忘れられないような記憶……それを呼び覚ませれば……」

あこ「そんなのりんりんたち以外になにかあったっけ……」

 

 

 

リサ「あ、アタシたちの演奏を聴かせるってのはどう?」

 

 

 

友希那「それよリサ」

紗夜「それです今井さん!」

 

友希那「みんな、さっそく準備よ」

あこ「了解です!」

燐子「……………」ナデナデ

まこと「せんぱい?よばれてるよ?」

紗夜「白金さん?」

燐子「………!はい!今行きます……!」

まこと「がんばってね!」

 

 

 

 

 

 〜〜Roselia演奏中〜〜

 

 

 

 

 

まこと「すごい!かっこいい!!」パチパチパチ

燐子「どう…?真言くん……何か思い出した……?」

まこと「うーん…………」

紗夜「ここに来る前のこととか、何で子供の姿になってしまったのかとか」

まこと「う〜ん…………」

燐子「真言くん……頑張って思い出して……!」

紗夜「あと少しです!頑張りなさい!」

まこと「う〜〜〜〜ん…………………」

 

 まことは考える。

 

リサ「なんか……すっごい唸ってるけど大丈夫?あれ」

あこ「さあ……」

 

まこと「きいろ……?」

燐子・紗夜「黄色?」

 

まこと「きいろのおねえちゃんが……なにかしたような……おれに……俺に……黄色の……?」

友希那「真言?」

 

まこと「そうだ……俺はここに来る前……思い出した!!!」

 

 

 

燐子「真言くん!!」

まこと「燐子先輩!!」

 

 

 

 

 

まこと「ちょっと弦巻こころしばき倒してきます!!!」ダッ

Roselia「「「「「え!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こころ「ふんふーん♪」

 

 ダッダッダッダッダッダッダッダッダッ

 

こころ「あら?何かしら?向こうの方から何かが………………あ」

 

まこと「つるまきこころぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」ダッダッダッダッダッダッ!!!!

 

 無事(?)真言は元に戻りましたとさ。

 

 一応二人とも無傷で。

 

 めでたしめでたし。




もし好評でしたらこれの逆バージョン、真言✕幼児化Roseliaというのも面白いかなーって思ってたりしてます。

ということで初アンケート!

rain/虹 様「人見知りの幼馴染は俺にだけデレッデレ」
→https://syosetu.org/novel/253378/


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13.真言とろぜりあ

皆様長らくお待たせいたしました!やっとアンケートの話ができました!

お気に入り登録 1タマ 様 黒崎夕闇 様 初代創造神 様 izu黒猫 様 オリジエール 様 岳瑠 様 ありがとうございます。

過去最大の文字数!過去最大のグタグタ感!過去最大の俺何書いてるんだろう感!!

今回はかなり長くなっていますのでご注意を。

それでは本編どうぞ。



真言「マジで酷い目にあった…………」

 

 先日、いろいろあって子供に戻った俺。(12.参照)

 

 幼児化現象の原因が、花咲川の異空間ことマッドサイエンティスト弦巻こころの盛った薬だということに気づき、なんとか元に戻ることができたが……

 

真言「一時はどうなるかと思ったけど……子供になったときの俺……なんか変なことしてないよな…………大丈夫……だよな……?」

 

 俺には幼児化したときの記憶はほとんど無い。

 

 一応みんなに何があったか聞いてみたが──

 

 

 

 

 

友希那「………………………………………………残念だわ」

真言「は?」

 

 

 

リサ「今と性格はそんなに変わってなかったよ?」

真言「それは今の俺がガキの時と大差ないってことですか……?」

 

 

 

紗夜「神代さんはいつの時代も神代さんでした」

真言「え、哲学?」

 

 

 

あこ「まっくんって昔は泣き虫だったんだね!」

真言「ぁぁぁぁあああああ!!!!!」

 

 

 

燐子「かわいかった……」

真言「……………………」

 

 

 

 

 

 ──とまあ散々な結果(?)になっていたらしい。

 

真言「はぁ……」

 

 顔合わせずれぇ…………

 

 今、俺は昨日見学するはずだったRoseliaの演奏を聞くためCiRCLEに向かっている。

 

真言「大丈夫だよな……連日異空間出現とかたまったもんじゃねぇぞ!?」

 

 一応来た道を振り返ってみる。…………誰もいない……?

 

真言「………………いや」

 

 いる。そこの曲がり角。誰かがこちらの様子を伺いながら付いて来てる。

 

 異空間じゃねえな……あいつなら尾行なんて真似……

 

真言「尾行?俺にか?」

 

 ないない…………でも

 

真言「…………………おい」ピリ

 

 ザッ………

 

真言「そこにいる奴ら、隠れてないで出てこいよ」

 

「………………」

 

真言「……誰だお前ら?」

 

 曲がり角から出てきたのは三人組の女。

 

 全員揃って黒スーツに黒サングラスという全身黒で固めた、いかにもヤバイ奴らだった。

 

真言「(何こいつら……メン・イン・○ラックか何かか?)」

「尾行していたことは謝罪します。申し訳ございませんでした」ペコ

 

 普通に謝られたんですが。

 

「自己紹介が遅れました。私どもはこころ様にお使えしているもの、こころ様さまからは"黒い服の人たち"と呼ばれております」

真言「こころ様……?」

 

 黒い服の人たちって……まんまじゃねぇか。ネーミングセンス……あいつ無さそうだなぁ。

 

真言「それで?その黒服さんたちが俺に何のようだ」

黒服A「実は──」

 

 

 

こころ「できたわ!人を若返らせる薬Mrk2よ!早速真言で試してくるわ!!」

 

 

 

黒服A「──と言って出ていったのですが……」

 

 あんの野郎……まだ懲りてねぇのか……あと即決で俺に試そうとしてんじゃねえ!

 

真言「なるほど?それであんたらは幼児化した俺に服を着せたりとかいろいろするつもりだった訳だ」

黒服B「その通りです。神代様」

真言「そこに俺の意思はないんだね」

 

 ひどい。どうやら俺に人権は認められてないようだ。

 

真言「……ってあれ?俺まだあいつに会ってすらいないんだけど?」

黒服C「私どもも神代様がご自宅を出てからずっと尾行しておりますが、こころ様を見つけることができませんでした……」

真言「何しれっと俺の家特定してんの」

 

 弦巻家ホント怖いんですけど!

 

黒服A「現在私どももこころ様を捜索しております。神代様も何か分かりましたらこの番号に電話をしていただけませんか?」スッ

真言「………………まあ、あいつがどこほっつき歩いてんのか知らないけど、この場合、俺の身にも危害が及ぶからな……」

 

 それにあいつの目的は俺だ。

 

真言「OK。あいつを見つけたら一番に連絡しよう」

黒服A「協力感謝します。神代様」

 

 

 

 

 

真言「異空間が行方不明か……」

 

 俺を見つける途中で車にはねられた……いやあいつなら車にはねられても大丈夫そうだな……噂に聞くことには校舎の三階から飛び降りても無傷だったとか。

 

 いや、どんな状況だよ。三階から飛び降りるとか。

 

 

 

 …………………俺も昔似たようなことしたっけ。

 

 

 

真言「やめだやめ。思い出したくもねぇ」

 

 そうこうしてるうちにCiRCLEに着いた。

 

 えーっと確か師匠の話によるとRoseliaは…………ここか。

 

真言「こんちゃーす」ガチャ

 

 

 

 

 

「ここ……どこ……?」

「ゆきなちゃん……だいじょうぶ?」

「……………」オドオド

「ぇ………」ナミダメ

「ま、まっくん、助け」

真言「すんません部屋間違えましたー」

 

 

 

 

 

 ……………………ふぅ。

 

真言「よし!帰るか!」

 

あこ「ちょっと待てぇぇえええ!!!」ガチャ

 

 部屋の中から師匠がめちゃくちゃ必死な形相で出てきた。

 

真言「いやだー!俺もうお家帰るー!!」

あこ「この状況であこ一人置いて逃げるなんて!薄情者!!それでもまっくんはあこの弟子なの!?」ガシッ

真言「師匠こそ!俺の師匠ならお得意の闇の力で何とかしてくださいよ師匠!!」

あこ「無茶言わないで!いくらあこが、漆黒の力を宿した闇の魔王でもできることとできないことがあるの!!」

真言「"漆黒の力を宿した闇の魔王"のとこだけドヤ顔で言うのやめてくれません!?なんか腹立つんですけど!!」

 

 これ程までに醜い師弟間の争いがあっただろうか。

 

 目の前で起こっている重大な事件に俺を巻き込みたい師匠VSすっごい嫌な予感がするから帰りたい俺。

 

 なにこのクソ展開。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「それで?あれは一体何なんですか師匠」

あこ「さあ……あこにも何が何だか……」

 

 俺たちの目線の先には怯えたように四人固まっている少女…………幼女たちがいた。

 

 完全にビビられてんな…………特に俺。

 

真言「…………まあなんとなく予想は付きますけど」

あこ「え?ホントに!?」

真言「とりあえず連絡します」

あこ「どこに?」

 

 ピッピッピッ

 

 プルルル プルルル プルルル ガチャ

 

『はい』

真言「黒服さん、ありましたよ手がかり」

黒服A『分かりましたCiRCLEですね。すぐに向かいます』

 

 話が早すぎない?まだ俺何も言ってないよ?

 

真言「……まあいいや。急いでください。かなりの緊急事態なんです」

 

あこ「誰に電話してたの?」

真言「おそらくこうなった元凶の……後始末的な役の人たちです」

あこ「?」

真言「それより師匠、師匠が来たときにはもうああなってたんですか?」

 

 ブカブカの服を着た四人の幼女。彼女らが着ている服は……

 

真言「あれ……先輩たちの服ですよね?」

あこ「うん……あこ…今日ちょっと練習に遅れちゃって、到着したときにはもう……」

真言「なるほど……」

 

 あんのバカ……俺が見つからないからっていって、燐子先輩たちに標的変えやがったな……?

 

あこ「…………どうする?」

真言「どうするって……」

 

 俺が幼児化したときは紗夜先輩や姐さんたちが何とか俺を戻す手段を考えてくれたらしいが……

 

真言「頼りの先輩方は全員もれなく幼女……残ってるのは……」チラ

あこ「この漆黒の力を宿した魔王とその弟子だけ……フッフッフッ」

真言「"フッフッフッ"じゃないでしょ。どうすんですかこれ」

 

 残されたのは、片や厨二病をこじらせた少女、片やその少女の弟子として絶賛厨二病が進行している少年。

 

真言「絶望的状況だな……」

あこ「あこたちの闇の力でなんかこう……バーン!って解決しよう!!」

 

 バーンか……全く師匠は簡単に言ってくれる。

 

黒服A「お待たせいたしました。神代様」

真言「お、来た来た。早速で悪いんだけど黒服さん」

黒服A「何でしょう」

真言「あの子たちの服……何とかしてもらえません……?」

 

 流石にブカブカの服のままだと通報されかねん……というか着替えても……

 

黒服A「了解いたしました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒服さんが皆を着せ替えている間、俺と師匠は作戦会議をすることになった。

 

あこ「よーしそれじゃあ会議の時間を始める!!」

真言「作戦って、俺が幼児化したときにはどうやって戻したんですか?俺、記憶があやふやなもんで……」

あこ「うーんとね……何かまっくんの大切な記憶を取り戻したら元に戻ったんだけど……」

真言「大切な記憶……四人の場合は……」

あこ「友希那さんなら……ほら、歌とか!」

真言「紗夜先輩なら妹さんとか?」

 

 幼女になった湊さんに歌を歌わせる?初対面の妹さん引っ張って来て幼女になった姉を見せる?

 

 どれも現実的じゃないな……

 

黒服A「ご安心ください神代様。今回我々が作った薬は、記憶を取り戻す取り戻さないに関わらず効力は一日となっております」

あこ「へー」

 

 恐るべし、弦巻家の化学力。

 

真言「………………それ、俺が盛られた薬のときはどうだったんですか」

黒服A「………………………………………………………………」

あこ「あ、黙った」

真言「……まあいい。それよりも今は……」

 

 見てみると黒服さんたちが完璧に着せ替え終わったようだ。

 

 ……まだ誰か幼児になったとか言ってないのになんで燐子先輩たち用の子供服があんの?

 

真言「細かい事を考えても無駄か……」

 

 相手は弦巻家。規格外なのはもう知っている。……俺の身をもって。

 

真言「よし師匠!まずは自己紹介が大切です!ゴー!!」

あこ「あこが行くの!?」

真言「俺完全に怖がられてんですよ」

 

 絶対にこういうのは師匠の方が向いている。

 

「あの!」

真言・あこ「「?」」

 

 

「あなたたち、ゆーかいはんのひとたちですね!?」

真言「あ"?」ギロ

「ひっ……」ナミダメ

あこ「ちょまっくん!子供睨んじゃ駄目でしょ!?」

真言「……ごめんなさい」

 

あこ「ゴメンねーこのお兄ちゃん怒ってるわけじゃないんだけど…ちょーっと顔が怖いというか……」

 

 ちょっと傷ついた。

 

あこ「でも悪い人じゃないから!それにあこたちは誘拐犯じゃないもん!」

「わたしたちをゆうかいして、みのしろきんをようきゅうするつもりなんでしょう!」

真言「難しい言葉知ってんなあ……」

 

 なんとなく面影が残ってる。多分この子……

 

真言「大丈夫ですよ。師匠の言うとおり、俺たちは誘拐犯じゃありません。紗夜先輩」

さよ「なんでわたしのなまえを……」

 

 確か子供と話すときは目線を同じ高さにすればいいんだっけ。

 

 少し屈んで目線を紗夜先輩に合わせる。

 

真言「そりゃあ知ってますよ。妹さんがいることも、にんじんが嫌いなことも」

さよ「?にんじん?」キョトン

 

 あれ確か誰かにそう聞いた気が……

 

さよ「にんじんはわかりませんが、ひなちゃんのこともしっているのはおかしいです!やっぱりあなたたちゆーかいはんですね!?」ビシッ

 

真言「そうじゃないさ。なんで俺たちが君のことを知っているのか、それはね……」

さよ「…………………それは…?」ゴク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「それは俺たちが未来から来た未来人だからさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ・さよ「「え?」」

 

 相手はいくら先輩とはいえ子供。幼女になった彼女らに、「実は先輩方、薬飲んで子供になったんですよー」と言っても信じてはもらえない。

 

 第一さっきの会話からして先輩たちに俺や師匠の記憶はない。

 

 おそらくは見た目通りの年齢の時の記憶しかないのだろう。

 

 ならば方法は一つ。

 

真言「(突拍子もない話で無理やり辻褄を合わせて誤魔化す……!!)」

 

 そこで思いついたのがこの"未来人"作戦。

 

 皆の名前を知っているのも未来人だから。

 

 皆のことをよく知っているのも未来人だから。

 

 子供の話し相手なんて師匠とか異空間に比べればチョロいもんよ。あの人たち基本ドーンとかバーンとか感覚で話すから……

 

「じゃあリサのこともしってるの?」

「……………」

真言「もちろんですよ、姐さ…リサさん、それに……ゆ…友希那さん?」

りさ「すっごーい!」

ゆきな「…………!」

 

 呼び方慣れねぇ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「未来人……」

真言「なんか文句でも?」

あこ「なんでもないよ。ほらそれよりあの子」

真言「……………」

あこ「いいの?あのままで」

 

 師匠の視線の先にいたのは…………

 

「……?」キョトン

真言「グハッ!!!!!」

あこ「!?」

黒服A「神代様!?」

 

 何だあれ……一瞬天使かと思った…………

 

あこ「だめだ…あの子はまっくんに近づけちゃいけない……」

真言「いや……大丈夫です師匠……俺は……まだやれます……」

あこ「何言ってるの!その体じゃ……」

真言「俺に任せてください……あの人は…俺が……」

 

「……わたしのことも……しってるんですか……?」

真言「……………ええ、もちろんですよ」グッ

 

 握りしめた拳からは血が滴り落ちてくる。

 

 マジでヤバイ。

 

 少しでも気を抜けば何か得体の知れないものに脳みそを吹き飛ばされるような、そんな感覚。

 

真言「………………」

あこ「まっくん……」

 

真言「あなたは……俺の大切な人ですから……燐子先輩……」ニコ

りんこ「ち、でてる……」キュッ

真言「」ヒュッ

 

 え、ふくのそで、つかま、あ──────

 

 

 

 

 

あこ「まっくん!」

真言「───ハッ!」

 

 師匠の声でなんとか意識を取り戻した……が目を覚ました時、俺は両膝から崩れ落ちていた……

 

あこ「まっくん!大丈夫!?」

真言「師匠…俺……」

あこ「分かってる。一旦ここから逃げ……」

 

 

 

 

 

りんこ「おにいちゃん…だいじょうぶ…?」コテン

 

 

 

 

 

真言「カハッ!!」バタッ

あこ「まっくん!!」

黒服A「(なんで今血反吐吐いて倒れたんだろう……)」

 

りんこ「おにいちゃん?」

真言「……………」ピクピク

あこ「りんりんもうやめて!まっくんのHPはとっくに0だよ!!」

黒服A「(なぜ……?)」

 

 侮っていた……燐子先輩はもともと清楚とピュアを絵に描いて額縁に飾って美術展に出展して最優秀賞を貰うようなお人だ。

 

 そんな人が更に純粋無垢な子どもになった?そんなのもう……

 

真言「(眩しすぎる……なんか……自分の汚い心が浄化されるような……)」

真言「ああ……向こうに川が……川が見える……」

あこ「だめだよまっくん!そっちに行ったら戻って来れなくなる!!」

黒服A「…………こんな事してていいのですか」

 

 いつまでもふざけ倒す二人に、堪らず黒服からツッコミが入った。

 

真言「…………でも皆を元に戻すには記憶を取り戻すか一日待つかだろ?」

 

 後者の方が圧倒的に確実で、そして楽だ。

 

真言「なら俺は待つよ。後始末は任せる…元はと言えばあんたらの所のお嬢様が起こした事件だ。……………………責任取れよ」ピリ

黒服A「……………!」

りんこ「……………!」

 

 殺気。彼のスイッチが入った。

 

 自分の大切な人たちを幼児化させるという行為を楽観視できるほど真言は大人ではない。

 

「もし戻らなかったら、どうなるか分かっているんだろうな?」という無言の圧力がそこにはあった。

 

黒服A「……もちろんです、神代様。私どもが責任を持って皆様が元に戻るまでサポートさせていただきます」

真言「…………ならいい」

 

黒服A「(やはり話に聞いていた通りの人だ……他人への異常なまでの警戒心、ふざけていると思えば途端にスイッチが入る、そして高校生とはとても思えないような殺気……)」

 

ゆきな「…………」クイクイ

真言「どうしましたみな……友希那さん?」

 

ゆきな「まこと」

 

真言・あこ「「え!?」」

 

 今"まこと"って言った!?俺自己紹介してないよね!?

 

真言「湊さん、あなた記憶が……」

ゆきな「?」キョトン

真言「え?」

あこ「もしかして……まっくんの名前だけ覚えてるのかな……?まっくんがりんりんの名前だけ覚えてたみたいに!」

真言「湊さん、もっと!何でもいいんで知ってる名前言ってください!」

ゆきな「…………ろぜりあ」

真言「!」

 

 これは……結構早くに記憶が戻るのでは!?

 

ゆきな「……リサちゃん」

 

りさ「なあに?」

真言「……それは多分もともとの記憶ですね」

 

ゆきな「にゃーんちゃん」

 

あこ「もう一声!」

ゆきな「………………………」

 

 

 

 

 

ゆきな「LOUDER」

真言「…………え?」

ゆきな「FIRE BIRD、Song I am.、約束、ONENESS、PASSIONATE ANTHEM、Opera of the wasteland」

真言「師匠……」

あこ「うん……全部Roseliaの歌…………」

 

 マジかこの人……

 

さよ「Determination Symphony」

真言「あんたもか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さよ「なるほど……大体のことは理解できました」

ゆきな「とりあえずお礼を言っておくわ、私たちの記憶を取り戻してくれてありがとう」

 

 二人が勝手に思い出しただけですけどね……

 

ゆきな「でもとても不思議な感じね。いつもと景色が違って見えるわ」

さよ「確かに、宇田川さんを見上げるなんてとても新鮮ですね」

 

 なんか……

 

あこ「見た目子供なのに口調は友希那さんたちだから違和感がすごいね」

真言「めちゃくちゃ同意します」

 

りさ「ゆきなちゃん…?」

ゆきな「あなた……もしかしてリサ?驚いたわこんなに小さくなって……」

真言「今の湊さんもおんなじ感じですからね?」

ゆきな「黙りなさい」

りさ「ゆきなちゃん……なんかへんだよ……どうしちゃったの?」

 

 確かにさっきまで黙っていた幼馴染が流暢に喋りだしたらそりゃあ戸惑うだろう。

 

ゆきな「そうね……真言、私を持ち上げなさい」

真言「は?」

ゆきな「そこのマイクで歌えるくらいの高さまで持ち上げなさい、早く」

真言「え、わ、分かりました……」スッ

 

 まさか湊さん……

 

ゆきな「これが真言の目線なのね、あなた結構背高いわね」

真言「そいつはどうも。てか湊さんあなた……」

ゆきな「そのまましっかり支えて。そしてリサ」

りさ「?」

ゆきな「あなたはしっかり聞いていて」

 

 そう言って湊さんは歌い出した。

 

 

 

 やば!俺が持ち上げている幼女からめちゃくちゃ上手い歌声が聞こえてくるんだけど!!

 

 若返ってるから声は今よりも幼いけどそれすら利用して歌っている……!

 

真言「やっぱりすげぇ……」ボソ

 

 ……………………………そして結構腕が辛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆきな「────どうだったかしらリサ」

りさ「…………やっぱりすごいね友希那は!」

あこ「リサ姉!記憶が!」

りさ「え、あこ?……なんか大っきくない?」

真言「えっと実はですね…………」

 

 

 

 

 

 〜〜説明中〜〜

 

 

 

 

 

りさ「なるほどね……オッケー事情はなんとなく分かったよ☆」

あこ「すっごい順調だね!まっくん!」

真言「ええ、長くならなそうでよかったです」

さよ「でもまだ一人……おそらく神代さんが手も足も出ないであろう人が……」チラ

 

 そう。残っているのは何を隠そう燐子先輩である。ここまで来たらもうとっとと全員の記憶を取り戻そう!

 

あこ「どうしよう……まっくんさっき血吐いて倒れちゃったんですよ」

りさ「大丈夫なの!?それ!?」

ゆきな「あなた…一体何をやっているの?」

真言「面目ない……」

 

 俺が不甲斐ないばっかりに……

 

あこ「でもどうやってりんりんの記憶を取り戻すの?」

ゆきな「ピアノ……は子供の頃からやっているのよね」

さよ「NFO……」

真言「流石にここでは無理そう、ですね」

りさ「う〜ん難しいね……」

 

 

 

 

 

りんこ「(言えない……実はさっき記憶が戻ったなんて…………皆がわたしのためにいろいろ考えてくれているのに……絶対に言えない……!)」

 

 尚、狂人……真言に元に戻っていることを見抜かれ、この後無事に全員元に戻れたとさ。

 

 めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜その後〜〜

 

真言「おい」

こころ「あら真言!」

真言「お前……ちょっとこっち来い」

こころ「何かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「ありがとうございました…………」フカブカ

こころ「へ?」

 

 幼児化燐子先輩に完全に心を浄化された真言なのであった。




皆様は燐子先輩がいつ記憶を取り戻したかお分かりですかね?

俺の技術がもう少しあれば幼女燐子先輩と真言のイチャイチャが書けたのに……いや真言くんの体が持たないか。

これからも不定期更新は続きます。ご容赦ください。


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14.昼食は異空間と共に?

お気に入り登録 斎藤努 様 オーシャンビューバー太郎 様 snowRoselia推し 様 ありがとうございます。

☆9評価をいただきました!斎藤努 様 ありがとうございます!

皆様からのお気に入り登録、評価が今の私の励みとなっております。本当にありがとうございました!

今回はサクッといきます。前話と比べてだいぶ短いです。

それでは本編どうぞ。



真言「さぁ〜〜ってやっと昼飯だ〜〜!!」

 

 大きく伸びをして校庭の芝生に寝っ転がる。

 

 午前授業も(数学以外は)比較的マジメに受けたし、まあ最低限寝てはいなかったよ?(数学以外は)

 

 なのでマジメに勉強した俺はとても腹が減ったのです。

 

 今じゃ学校での楽しみは燐子先輩に会うことと昼飯くらいだからな〜

 

 

 

 

 

こころ「真言!」ヒョコ

真言「ゲッ!」

 

 またお前か………

 

 まったく物好きにも程があるだろこいつ……いつもいつもクラスで話しかけて来やがって……周りの連中もビビってたじゃねぇか。

 

こころ「一緒にお昼ごはんを食べましょう!」

真言「えー……つかお前、昼飯いつも違うとこで友達と食ってなかったか?」

こころ「?それは美咲のことかしら?」

 

 ミサキ?また新しい人の名前……正直人の名前を覚えるのは苦手だ。

 

真言「で、今日はそのミサキって人と昼飯食わなくていいのか?」

こころ「ええ!何だか今日は真言の所に行ってみたかったのだけれど………あ!いいこと思いついたわ!!」

真言「嫌だ」

こころ「まだ何も言ってないわよ!」

真言「言わなくても大体分かるわ」

 

 こいつのことだ。きっと俺にもそのミサキって人と友達になれとか言い出すんだろきっと。

 

 絶対に嫌だ。というかそのミサキって人も迷惑だろ。

 

 ……いや、もしかしたら弦巻こころ弐号機みたいな人かもしれない…………?

 

 だとしたらそこは地獄だな。少なくとも昼飯を食う空間ではない。

 

こころ「言わなくてもあたしの考えてることが分かるなんて、もしかして真言は人の心が読めるのかしら!」

真言「はぁ……」

こころ「ため息をすると幸せが逃げていくわ!ほら笑顔!笑顔!」

真言「はは…」

 

 乾いた笑いしか出ねぇよ。主にお前のせいだけどな!

 

 ともかくこれ以上面倒くさくなる前に話を逸らさなくては……

 

真言「いただきます」

こころ「あら?お弁当かしら?」

真言「おお、自分で作った」

 

 自炊できないと生きてけないからな。俺の場合。

 

 昔は指切りまくってたけど……今の表現何か怖っ!大丈夫だからね!?ちゃんと指10本付いてるから!!

 

こころ「真言は料理が得意なのね!」

真言「別に得意って訳じゃないけど、ほら、俺一人暮らしだし」

こころ「え?真言一人暮らしなの?」

真言「……………」

 

 ヤベ、口滑った。

 

真言「まあ、俺にもいろいろあんだよ」

こころ「ふーん?」

 

 流石に前みたいに詮索してなこないな。学習はしてるみたいで何より。

 

真言「さぁて……さっそく食べ──」パカ

こころ「あら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こころ「お弁当、空っぽ………」

真言「」スッ

 

 いやいやまさかまさか……

 

 見間違いだって。もっかい開けばきっと……

 

真言「……………」パカ

こころ「ねぇ真言?もしかして──」

真言「……………弁当…………忘れた」

 

 ああああああああァァァァァ!!!!!!!

 

 俺の学校で2つしかない楽しみがァァァ!!

 

 バカじゃねぇのか俺!空の弁当持ってくるとか…………終わってんなァァ!?

 

 この場にこいつがいなければこの世のものとは思えない叫び声を上げながら地べたに這いずり回っていたことだろう。

 

真言「…………学校なんて滅んでしまえ」ズーン

こころ「私のお昼ごはんちょっと食べる?」

真言「いや……いい」

 

 仕方ない、購買でなんか買ってくるか……

 

沙綾「神代くん?」

真言「あ…………」

 

 えーと………………

 

真言「山吹……さん?」

沙綾「ピンポーン!」

 

 よし、ギリギリ覚えてて良かった……

 

真言「あーっと…俺になんか用………ですか?」

沙綾「無理に敬語じゃなくていいよ?同い年だし」

 

 確かに……

 

真言「…………なんか用か?」

沙綾「ううん、私たちもお昼ごはん食べようと思って通りがかっただけ、私たちいつもあっちの方で食べてるんだ」

真言「へー……あ」

 

 山吹さんが指差した先には4人の女子生徒、 その中に有咲が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有咲「何手振ってんだあいつ……」

「振り返さないでいいの?彼氏さん手振ってるけど」

有咲「彼氏じゃねぇ!!」

「え!?あの子有咲の彼氏なの!!??」

有咲「だから違ぇって言ってんだろ!!」

 

 

 

 

 

真言「むぅ…薄情なやつめ」

 

 手を振ったのに振り返してくれない。いつからそんな風になってしまったんだ有咲!

 

 ………………最初からか。

 

沙綾「あはは……あ、そうだ」

真言「ん?」

沙綾「なんか困ってそうだったからお昼ごはんでも忘れたんじゃないかーって有咲が」

 

 流石は俺の親友、よくわかってらっしゃる。

 

真言「まあな、俺の学校での二つしかないない楽しみが消えたよ」

沙綾「はい、これ」ガサッ

真言「え?コレって……」

 

 山吹さんが差し出したのは茶色の紙袋だった。山吹ベーカリーと書いてある………

 

 中を見てみると色々な種類のパンが入っていた。

 

沙綾「うちで出す新作のパン、良かったら食べてよ」

真言「いいのか!?………………いくらだ?」

沙綾「いいよいいよ、お近づきの印ってことで」

 

 女神かこの人は。笑顔の山吹さんから後光がさして見える………

 

 そしてパン屋さんだったのか山吹さん。

 

真言「いやでも………」

沙綾「これからも有咲をよろしくね、それじゃ!」タッタッタッ

真言「……………あ、ちょっと!」

 

 またお礼言いそびれた………

 

真言「山吹ベーカリー……今度お礼言いに行ってみるか」

こころ「お話は終わったかしら?」ピョコ

真言「うぉわ!!!」

 

 いきなり背後から出てくんなよ!ビビるだろうが!!

 

こころ「驚かせちゃったかしら?ごめんなさい!」

真言「まだいたのかよお前……」

こころ「今日は真言とお昼を食べるまで帰らないわ!」

真言「帰れ。そして二度と帰ってくんな」

こころ「それに帰るって言ってもあたし、真言と同じクラスじゃない!」

 

真言「はぁ………もういい、勝手にしろ」

こころ「ため息をつくと幸せが逃げてしまうわ!」

真言「やっぱお前帰れよ!」

 

 それさっき聞いたっての!あと何でそんなに幸せにこだわるんだよ!!??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沙綾「お待たせーって有咲どうしたの!?」

有咲「な"、な"ん"で"も"ね"ぇ"よ"」グス

「なんかあの子がこころんとかさーやと仲良く話してるのを見て泣けてきちゃたんだって」

有咲「泣いてねぇ!!」ウルウル

沙綾「あらら…ん?りみりんどうしたの?」

「…………………………な、何でもないよ?」

有咲「?」

 

「…………………」ブルブル

「大丈夫?りみりん寒いの?」

「今日はあったかいと思うけど」

「ううん、本当に大丈夫だから……」

有咲「おい、りみとマコって何かあったのか?」

沙綾「うーん…前に一回、二人で声かけたときはあるけど、その時はりみりんすぐに逃げちゃったから」

有咲「逃げた!?あいつ……またなんかやらかしたのか………!!」

沙綾「いや、違うと思う」

有咲「え?」

 

沙綾「多分だけど…りみりんと神代くん、前に何かしらの形で会ってるんじゃないかな?」

有咲「りみとあいつが?聞いたことないけどな……」

沙綾「…………私の勝手な想像、だけど何となくそんな感じがするだけ」

有咲「ふーん…」

「有咲ー?さーや?どうしたのー?」

沙綾「今行くー」

有咲「もしかしてりみ……いや、まさかな……」

沙綾「有咲?」

有咲「何でもねぇ、早く行こうぜ、香澄がうるせぇ」

沙綾「そうだね」フフ




なんかドンドン有咲が真言の保護者になっている気が……

そしてだんだんと明かされる真言の過去……とは言っても当分グダグダした日常は続いていきますけどね。


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15.食べ物の恩はなる早で返せ

どもども。

タイトル通り、今回はなる早で恩を返しに行きます。あと久しぶりにあの人が登場するかも?

お気に入り登録 初代創造神 様 ありがとうございます。

それでは本編どうぞ。



モカ「お?マコくんじゃないですか〜」

真言「あ、センパイ」

モカ「こんなところで奇遇ですな〜」

 

 ここは山吹ベーカリーというパン屋の前。意外と家から近かったな。

 

 何故ここに来てるかというと、この前昼飯を忘れたときに山吹さんが俺にパンを恵んでくれたのだ。

 

 そのお礼というかなんというかで山吹さんの家であり、パン屋でもある山吹ベーカリーに来ているというわけである。

 

真言「センパイはどうしてここに?」

モカ「ふっふーそんなこともわからないのかね?そんなんじゃモカちゃんの後輩失格だよ〜?」

 

 なんか面倒くさい……

 

モカ「モカちゃんはね、三度の飯よりパンが好きなのだよー」

真言「いや、パンも三度の飯に入るんじゃないですか?」

モカ「まあまあ〜細かいことは気になさらずに〜」

真言「調子のいいことを……」

 

沙綾「いらっしゃい二人とも」

 

 山吹さんがレジ前で出迎えてくれた。

 

モカ「やっほ〜さーや」

真言「こんにちは、山吹さん」

モカ「おや?マコくんはさーやと知り合いだったのか〜?あのマコくんが」

真言「あのってどのですか」

モカ「リサさんからすっごい人見知りだって聞いたよー?」

真言「姐さん…………」

 

 なんかいろいろ捻くれて伝わってるな……あながち間違いではないけど。

 

沙綾「私もモカが神代くんと知り合いだったことは知らなかったなぁ」

モカ「知り合いじゃないよー」

沙綾「え?」

 

モカ「バイトのこーはい」ユビサシ

真言「バイト先の先輩です」ユビサシ

 

沙綾「あー……なるほど」

 

 なんとも言えないような目でこちらを見てくる。

 

 "大変そう"とか思ってるのだろうか?

 

沙綾「というか神代くん、また敬語に戻ってるよ」

真言「あ」

 

 忘れてた。

 

真言「……なんとなく山吹さんには敬語を使いたいというか……」

沙綾「変わってるね神代くん」

真言「そうですか?」

モカ「モカちゃんのこともセンパイって呼んでるしねー」

真言「それはセンパイが……」

 

 自分で先輩って呼べって……

 

モカ「ねね、試しにあたしのこと"モカちゃん"って呼んでみてよ」

真言「えぇ……いきなり下の名前ですか……?」

 

 ちゃん付けは無理よ。同い年の女子に。

 

真言「せめて湊さんみたいに名字呼びで……」

沙綾「いいね。私のことも"沙綾"って呼んでみて?」

 

 人の話聞いてましたか?山吹さん?

 

真言「山吹さんまで……ちょっと悪ノリが過ぎませんか!?」

モカ「あ、怒った〜」

真言「別に怒ってないですセンパイ!」

 

沙綾「ごめんごめん。でも神代くん、有咲のことは下の名前で呼んでなかったっけ?」

真言「え?……まぁ呼んでますけど……」

 

 なんならあいつも俺のことを"マコ"って呼んでるしな…昔は違ったけど。

 

真言「でもそれがどうしたんです?」

沙綾「いや?やけに親密だけど何でかなって」

真言「…………」

沙綾「有咲も君のことをすごい気にかけてるみたいだし………………あ、ごめん」

真言「え?」

モカ「マコくん……すっごい嫌そうだよー?」

真言「……そんなにですか?」

 

 二人に頷かれた。やっぱり顔に出やすいのかな……

 

真言「……なんかすみません」

沙綾「いやこちらこそ……」

モカ「まあまあ〜ここはモカちゃんに免じて許してやってくださいよ〜」

真言「いや……別にセンパイに免じなくても…………って何ですかそれ!?」

モカ「ん?何が〜?」

 

 センパイが持っていたトレーには山吹ベーカリーで売っているさまざまな種類の、そして大量のパンが乗っていた。

 

真言「そんなにめちゃくちゃ買って……どうする気ですか!?」

モカ「どうするって……もちろん食べるんだよー?」

真言「この量を!?」

モカ「まったく不思議なことを言うなーマコくんはーあ、さーや支払いはコレで」スッ

 

 そう言って出したのは…

 

真言「……何ですかそれ」

モカ「ポイントカード」

真言「…………いや、多すぎません?」

 

 これまたすごい枚数のポイントカードだった。

 

 この量のパンをポイントカードで支払うなんて……狂ってやがる。

 

モカ「言ったでしょー?モカちゃんは三度の飯よりパンが好きだって」

真言「限度があるでしょうが!!」

モカ「マコくんも早くしないとモカちゃんが買い占めちゃうよ〜?」

真言「は、ちょっと待って下さい!」

モカ「ほらほら早く〜」

真言「せめて選ぶ時間を!!」

モカ「え〜どうしよっかな〜」

 

 

 

沙綾「…………………」ジーッ

 

 ……?何かすっごい視線を感じるんだけど……早く選べと?それならちょっとだけお待ちいただきたく……

 

沙綾「神代くん」

真言「はい?」

沙綾「一個だけ……質問していい?」

 

 質問?

 

沙綾「答えたくなかったら無理に答えないでいいから」

真言「…………まあ、それなら……」

 

沙綾「神代くん、"牛込りみ"って子、知ってる?」

 

 うしごめ……りみ……?

 

真言「いや、知らないですけど……」

沙綾「…………そっか」

真言「?」

モカ「マコくん、りみりんと知り合いなの?」

 

 りみりん?センパイとも知り合いなのかその人。

 

真言「違うと思いますけど……その人がなにか?」

沙綾「いや、私の勘違いだったみたい。ごめんね」

真言「そうですか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沙綾「はい、お買い上げありがとうございました!」

真言「センパイ、ホントに全部ポイントカードで払いましたね……」

モカ「あったり前よ〜」フフン

 

 やっぱりこの人はどこか掴めない、雲のような人だ。

 

沙綾「やっぱりAfterglowのみんなと食べるの?」

モカ「まっさか〜全部モカちゃん一人で食べますよ〜」

沙綾「この量を……?」

モカ「もちろん〜♪」

 

 二人が話している様子を見て俺は考える。

 

 思えば俺は彼女たちの事を全然知らない。

 

 所属しているバンドのこと、友人たちのこと、

 

 …………俺はいつも、自分のことばっかりだ。

 

モカ「どうしたのかなー?」

真言「……なんでもないですよ」

 

 自分のことすらままならない俺には、人に心を開けない俺には、彼女たちの事を気にかける資格なんて……

 

モカ「てい」バシ

真言「痛った!!」

 

 後ろから急に引っ叩かれた!?

 

真言「何すんですかセンパイ!!」

モカ「だってー、何か思いつめてそうだったんだも〜ん」

真言「……別にそんなことは」

モカ「はっはーやっぱりマコくんは嘘が下手だね〜」

真言「………………嘘じゃないです」

モカ「ねぇマコくん」

真言「?」

 

 いつものフワフワとした雰囲気ではない、真面目なトーンでセンパイが話しかける。

 

モカ「別に何でもかんでも一人で抱え込まないでいいんだよ?」

 

 ……この人は心が読めるのだろうか?

 

モカ「もちろん無理に相談してとは言わないけど、君は優しいからね。心配かけないように自分だけで何とかしようとして、あたしにもリサさんにも絶対に頼らないと思うんだ」

 

真言「……やっぱりセンパイは俺のこと誤解してますよ」

 

 俺はそんなできた人間じゃない。それは前にも言ったはずだ。

 

 俺が優しい?いいや違う。

 

真言「確かに俺がセンパイや姐さんたちに頼ることはないです」

 

真言「……けどそれは俺が優しいからじゃない」

モカ「じゃあなんで?」

真言「……………………………」

 

 

 

 

 

 それは俺が…………信用していないから。

 

 

 

 

 

 俺が本当に、無条件で、心の底から信じているのは世界でたった一人、燐子先輩だけだ。

 

 

 

真言「俺はもう十分すぎるくらい、助けられましたから」ニコ

モカ「…………そっか」

 

 そんな今の日常を壊すようなことは、口が裂けても言えないけれど。

 

 

 

 

 

沙綾「…………誤魔化すのが上手いね、神代くん」ボソ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モカ「さっきはなんかゴメンねー」

真言「え?何がですか?」

モカ「ちょっとお節介が過ぎたかなーって」

真言「……心配かけてしまってすいません」

モカ「違うよ〜マコくん」

真言「?」

モカ「こういうときは"すいません"じゃないよ?」

 

真言「…………心配してくれてありがとうございますセンパイ」

モカ「ふっふーわかればよろしい」




勘のいいガキ(沙綾)はそんなに嫌いじゃないよ。

ちょこっと真言くんのブラックな部分が出ましたね〜

今回は珍しく真言くんに保護者がついてません。監視対象とは一体何なのか……



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16.醒めない夢



オキロ。







真言「じゃあ、みなさんお疲れさまでしたー」

リサ「うん、おつかれ〜☆」

あこ「まっくん途中まで一緒に帰ろー!」

真言「いいっすよ師匠、燐子先輩もほら、一緒に帰りましょう!」

燐子「うん…………」

紗夜「もう夜も遅いですし、気をつけてくださいね」

友希那「燐子たちに何かあったら承知しないわよ」

真言「当たり前ですよ!誰が来ようと俺が全員蹴散らして…………」

燐子「だめだよ……?危ないことは……」

真言「しませんしません!!!!」

あこ「まっくん必死すぎ〜」アハハ

燐子「…………………」ジーッ

真言「いや…………ホントに大丈夫ですから……」

紗夜「どうでしょうね、神代さんは危ういですから。白金さん、しっかり監視しておいてくださいね」

真言「ちょっ紗夜先輩!?」

 

 

 

 

 

 ………………ああ、なんて幸せなんだろう。

 

 幸せだ。幸せだ。幸せだ。

 

 何回言っても足りないくらい。

 

 大好きな人たちに囲まれて、

 

 俺は今、とても幸せだ。

 

 こんな日が続いてくれるなら、俺はもう何も……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「あ、もう"時間"か」

真言「え?」

リサ「ホントだね"時間"だ」

紗夜「今日は早いですね"時間"が来るのが」

友希那「たまにはそういう日もあるでしょう?」

燐子「…………………そう…………ですね……」

 

真言「な、何言ってるん……ですか?」

 

 世界の輪郭が、溶けていく。

 

 溶けて、そしてだんだん、見えなく、なって、

 

真言「待ってください……待って!!!みんな!!!!!」

 

 遠ざかっていく。

 

 湊さんが、姐さんが、師匠が、紗夜先輩が、

 

 

 

 燐子先輩が、

 

 

 

 俺の手の届かないところへ。

 

真言「先輩!!!燐子先輩!!!!!!」

 

 どれだけ走っても、どれだけ名前を叫んでも、どれだけ手を伸ばしても、

 

 届かない。

 

真言「燐子先輩!!!!!燐子先輩!!!!!燐子先輩!!!!!!!!」

 

 何度も叫ぶ。けど俺の声は闇に消えていくだけ。

 

 やがて俺の意識も、闇へ──── 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「──燐子先輩!!!!!」ガバッ

 

 いつものベットで目が覚める。……また、朝だ。

 

真言「…………夢……?」

 

 そう、夢だ。夢なんだよ。

 

真言「………………また、か…………」

 

 夢。今まで俺が見てきたのは、

 

 

 

 

 

 全部、俺の夢だ。

 

 

 

 

 

 湊さんも姐さんも師匠も紗夜先輩も…………………………燐子先輩も

 

 もう、どこにもいない。

 

 いない。もういない。もうどこにもいない。って、何度胸の内で確認してもそれを受け入れられないでいる。

 

 弱い俺には、受け入れられない。

 

 涙が出てくる。

 

 辛い。苦しい。悲しい。

 

 そんな言葉じゃ言い表せないくらい、

 

 涙が溢れて、止まらない。

 

真言「…………えぐっ…………ううっ…………うっ……うっ……せんぱい………りんこ……せんぱい………」ボロボロ

 

 涙が止まる頃にはもう日が傾いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「………………………」スクッ

 

 ベットから起き上がる。

 

 腹は減っているが不思議と食欲はない。

 

 ただ、このままベットに横たわっていたら、そのまま消えてしまうような気がして、

 

 俺は起き上がった。

 

真言「………………行ってきます」

 

 誰もいない家にそう告げ、どこへ行くというわけでもないが、家を出る。

 

真言「……………………」

 

 夕暮れの街を歩く。……俺は一体どこへ向かっているのだろう。

 

 

 

 

 

真言「……………………」ピタ

 

 足が止まる。

 

真言「…………………CiRCLE」

 

 ………………つくづく俺ってバカだな。

 

 もう、Roseliaはいないのに。

 

 あれ、また涙が。

 

真言「なんで…………いなくなっちまったんだよ…………みんな………………」ボロボロ

 

 …………もう行こう。

 

 このままここにいたら、俺はきっと死んでしまうだろう。

 

 おかしくなって、死んでしまう。

 

真言「もう手遅れか………はは……」

 

 乾いた笑いが夕空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「……………………ただいま」

 

 帰ってきても、やることはない。やりたいことも、何もない。

 

真言「………………なにか、食べるもの………」

 

 もう何日も食べ物が喉を通らない。

 

 腹は減っているのに、何も食べる気になれない。

 

 姐さんのクッキー……

 

真言「美味しかったな…………」

 

 もう二度と食べられないけど。

 

真言「…………………寝よう」

 

 夢の中へ。夢の中ならまたあの日常が送れる。

 

 夢の中なら会える。

 

 俺の大好きな人たちに。

 

 燐子先輩に。

 

 

 

 

 

 覚めない夢へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「燐子先輩ッ!!!!」ガバッ

 

 もちろん、夢。

 

真言「…………………また……朝…………」

 

 何回繰り返すのだろう。

 

 俺は一体何回……この地獄を繰り返すのだろう…………

 

真言「もう…………嫌だ……………」

 

 目が覚めるのが怖い。

 

 燐子先輩がいない現実に戻されるのが、とても怖い。

 

 怖い。辛い。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。

 

 

 

 

 

 死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい

 

 

 

 

 

 死んでしまいたい。

 

 

 

 

 

真言「………………………」スクッ

 

 もう、いいや。

 

 燐子先輩のいない世界、みんながいない世界、そんな世界はもう嫌だ。

 

真言「………………逃げよう」

 

 この世界から。この現実から。

 

真言「永遠に、醒めることのない夢へ」

 

 あれが俺にとっての真実。あの世界が俺の……

 

 

 

 

 

 ピンポーン♪

 

 突然家のインターホンが鳴る。

 

真言「……………………」

 

 ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン!!!!!!!

 

真言「……………………うるせぇ…………」

 

 こんなこと前にもあったような…………?

 

 ガチャ

 

 あれ…………ドア…………閉めてなかったっけ……?

 

 まあ、もうどうでもいいけど。

 

 

 

 

 

「なんて顔してんだよ……マコ」

真言「………………………ありさ?」

有咲「ほらいつまでも寝てねぇで、とっと起きろ」グイッ

真言「ちょ………………」

 

 腕を引っ張られる。

 

真言「なんで…………」

有咲「そんなの決まってるだろ?」

 

有咲「お前が私の親友だからだよ。私のこといつもそう言ってるじゃねぇか」

真言「親友……………」

有咲「ほら、行くぞ」

 

 白い光が、全てを包み込む────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「──はっ」ガバッ

あこ「あ、まっくん起きた!」

有咲「おお、起きたか」

リサ「大丈夫……?すっごい顔色悪いけど…………」

友希那「酷い夢を見たものね。寝てるのにあなた、泣きっぱなしだったわよ」

紗夜「仕方ありませんよ。あんな怖い夢を見たんじゃ流石の神代さんも……」

 

真言「みん………な…………」

 

 あれ……?なんで…………

 

「真言くん……?」

真言「!!!」バッ

 

 そこにいたのは……

 

 

 

 

 

燐子「だ、大丈夫……?」

真言「りんこ…………せんぱい………」ボロボロ

あこ「うわー!!泣かないでまっくん!なんかこっちまで泣けてきちゃうから!!!」

燐子「大丈夫……わたしはここにちゃんといるよ……?」

 

 いる。燐子先輩が。そこにいる。ちゃんといる。

 

 それだけでいい。それだけで全てが……

 

有咲「ほら、泣きやめよ。あんなのただの夢だろ?」

真言「……?……なんで……知ってるんだよ」

 

 これは夢か……?また夢の中なのか……?

 

有咲「ああ〜……それはな……」チラ

真言「?」

 

 

 

 

 

こころ「おはよう真言!突然だけどもう少し寝ててくれないかしら!」ガサゴソ

 

 

 

 

 

真言「………………お前」

 

 弦巻こころwith何やら怪しげな装置。

 

真言「まさか…………」

紗夜「すみません私も止めたのですが……」

 

 紗夜先輩の説明によるとこういうことらしい。

 

 

 

 

 

 〜〜30分前〜〜

 

友希那「今日の練習はこれで終わりにしましょう」

あこ「はい!お疲れさまでした!!」

 

こころ「真言ー!あら?いないのかしら」

リサ「こころ?どうかしたの?」

こころ「リサ!ちょうど面白い機械ができたから、真言に試そうと思って!!」

紗夜「あなた……前回の妙な薬で神代さんに叱られて、これで懲りたと思ってたのですが……」

こころ「全然!」

紗夜「いい笑顔で言わないでください……」ハァ

有咲「こ、こんにちはー……」

燐子「市ヶ谷さん……」

有咲「あの、マコいませんか?ちょっとあいつに用事があって……」

 

友希那「二人とも真言に用事があるのね」

あこ「まっくんならあそこだよー!」

紗夜「なんでも昨日夜ふかしのしすぎで全然寝てないらしく、そこで寝ています」

真言「zzz……zzz……zzz」

友希那「私たちが練習してる中よく寝られるわね」

リサ「相当眠かったんだろうね〜☆」ツンツン

真言「zzz……zzz……zzz」

 

こころ「ちょうど良かったわ!この機械は寝てる人にしか使えないの!」ガサゴソ

有咲「弦巻さん……何する気なんだ……?」

こころ「"怖い夢を見させる装置"〜!!!早速実験させてもらうわ!!」カチャカチャ

紗夜「きっとこうなったら止まりませんね……」

燐子「真言くん……かわいそう……」

あこ「なむあみだぶつ……」

リサ「"怖い夢"ってどのくらい怖いの?」

こころ「さあ!?」

有咲「さあって……」

こころ「分からないからこその実験よ!設置完了!スイッチオン!!」

友希那「……ちょっと待って。真言が怖い夢を見てるかどうか、私たちには分からないじゃない」

こころ「大丈夫よ!こっちのスクリーンに真言の夢が映し出されるようになってるわ!!」

紗夜「用意周到すぎます……」

 

こころ「さあ、始まるわよ!!」

あこ「まっくん、どんな怖い夢を見るのかな〜?」

燐子「想像つかないね……」

あこ「怖くて泣いちゃったり?」

リサ「いや〜流石にマコくんが泣くくらい怖くないと思うけど……」

有咲「あいつお化けとか基本的に大丈夫ですよ」

友希那「案外真言にとってはそこまで怖くない夢かもしれないわね」

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

紗夜「と大体こんな感じで……」

真言「……………………」

こころ「……………………」

 

あこ「だいぶ強力だったね……あの装置」

燐子「うん…………すごい怖かった……」

リサ「なんか……人が壊れるときって多分あんな感じなんだね……」

友希那「私たちが思っていたのと全く別の怖さだったわ……」

紗夜「それだけ神代さんが私たちの事を大事に思っているということですよ、ね?」

真言「…………………」

有咲「なんか最後私が全部持ってった感じで……ちょっと申し訳ないです……」

 

真言「…………………はぁ」

こころ「!!」ビクッ

 

……………なんか、ここまで来ると怒れないもんだな。

 

真言「燐子先輩」

燐子「?」

真言「手を」

燐子「手?………………はい」

 

 差し出された手を握る。

 

燐子「…………?」

真言「…………あったかい」

燐子「………………」

 

真言「弦巻」

こころ「……なにかしら?」

真言「貸一つって事にしてやる。さっさと出て行け」

あこ「よかったねこころ……ってもういない!?」

 

紗夜「…………てっきり激怒すると思いました……」

有咲「私も……どうやって止めようかずっと考えてました……」

真言「まあ、普段だったら絶対にブチ切れてますし、今も怒ってないわけじゃないんですけど」

 

真言「ただ何となく、誰かに優しくしていたいんです」

 

紗夜「………………大人しくなりましたね、神代さん」

友希那「あんな夢を見たあとだもの。無理ないわ」

真言「燐子先輩、もう大丈夫です。ありがとうござ──」スッ

燐子「…………………」ガシッ

真言「……?」

 

 離そうとした手を再度掴まれる。

 

真言「…………先輩?」

燐子「…………ダメだよ」

真言「何がですか?」

 

燐子「勝手にいなくなろうとしちゃ…………絶対ダメだよ……?」

 

『永遠に、醒めることのない夢へ』

 

真言「あぁ……」

 

 そういうこと…………

 

真言「燐子先輩」

燐子「………………」

真言「約束、しましたよね?」

燐子「……………うん」

真言「『もう、誰も傷つけない』そして『卒業まで燐子先輩に恩を返し続ける』…………俺はまだ燐子先輩に恩を返しきれてないですよ?」

燐子「………………」

 

 約束を果たすまで、死んでたまるものか。

 

 だからどうか、そんな泣きそうな顔をしないでほしい。

 

真言「安心してください。結んだ約束は、必ず守りますから」

燐子「………………うん」コク

 

 俺は今日も生きていく。

 

 夢じゃない、この現実を。

 

 この、約束された日々を。




騙されました!?エイプリルフールでーーーーす!!!!!
……………………調子に乗りました。申し訳ございません。

実は今回の話はTwitterの診断メーカーでのセリフを一部使っていたりします。
よかったら見てみてください。Twitter→https://twitter.com/amatoo_coco?s=09


お気に入り登録50件突破!皆さん本当にありがとうございます!!

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17.古竜と花嫁と狂戦士(前編)

今回は前々から話していた、スマホゲームバンドリシーズン2のイベント「古竜と花嫁」のパロディです。

流石に会話をそのまま載せるわけにはいかないので、少々改変してはいますが物語の大筋は変わらないのでご安心を。

お気に入り登録 タツキ@秋桜 様 ゆーとん 様 リヴ 様 飛翔翼刃 様ありがとうございます。

そしてUAが8000を超えました!皆さん本当にありがとうございます!10000超えたらやりたい企画があるのでお楽しみに!

それでは本編どうぞ。



 始まりはある日の夕方に掛かってきた一件の電話だった。

 

あこ『まっくん!NFOやろう!!今週末!!!』

真言「落ち着いてください師匠」

 

 電話の主は俺の師匠、何やら興奮気味である。唐突すぎて全然話が掴めない。

 

 後ろにはRoseliaの面々がいるっぽいな……お願いなんで誰か通訳してください。

 

真言「それで?いきなり何なんですか?」

あこ『あ、ごめん…………ふぅ……えっと実はね……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「なるほど……NFOのβ版で開催された幻のクエストの復刻ですか……」

 

 師匠の話によるとその幻のクエストに参加できるのは5人以上のパーティーだけらしい。

 

 Roseliaの5人で参加することが決まったみたいだが、さっきのはそのパーティーに加わらないかというお誘いの電話だったようだ。

 

 ……よく湊さんが許可出したな。多分姐さんがなんか言ったと思うけど……

 

あこ『それで……どう?まっくん……?』

 

 どうと言われても……俺の中で答えは一つしかない。

 

真言「喜んでお供させていただきます、師匠」

あこ『やった!!それじゃあ今週末、いつものネットカフェでね!』

 

 幻のクエストか……俺も少しレベリングしてくるかな。

 

 

 

 ちょっと時間が経ってから家にあるパソコンを起動する。

 

mako「さてと、とりあえず早く"これ"を使えるようになんねぇと……ん?」

 

【サヨさんがログイン中です】

 

mako「あれ、紗夜先輩?」

 

 またログインしてる……俺がログインする時には大抵いつもいるんだよな……

 

 完全にNFO沼にはまったか。まあ俺も燐子先輩と師匠にはめられた一人だから人のこと言えないけど。

 

mako「よし、俺も適当なとこでレベリングするか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜週末〜〜

 

リサ「よし、ログイン完了っと」

mako「あ、姐さん」

リサ「マコくんと紗夜!もう来てたんだ!」

紗夜「ええ、白金さんと宇田川さんもそろそろ来ると思いますよ」

 

 姐さんの隣に湊さんもいるがさっきから一言も喋っていない………………もう少し待ってみよう。

 

聖堕天使あこ姫「みんなー!こっちこっち〜!!」

mako「燐子先輩!師匠!」

RinRin「お待たせしました⊂((・▽・))⊃」

 

リサ「迷子になってなくて良かった〜ってよく見たら二人ともレベル高っ!紗夜もかなりやり込んでるし、マコくんは……」

mako「どうかしました?」

リサ「…………三人にくらべてそこまでレベル高くないのにステータス?がおかしくない?」

mako「そうですかね?」

聖堕天使あこ姫「確かにまっくん、りんりんよりだいぶレベル低いのにMPがこの中で一番高いよ」

RinRin「わたしウィザードなのに……」

mako「まあ俺のスキルMP無いと使えませんからね」

 

 俺のスキルデッドウォーリアーズについては前に見せたことがあるから、気になる人はそっちを見てくれ。(08.参照)

 

mako「……というかさっきから湊さん全然動かないんですが……」

リサ「あれ……友希那?」

サヨ「反応が全くありませんね……」

聖堕天使あこ姫「なんか前にも似たようなことがあったような?」

リサ「大丈夫?今そっち行くね!」

 

ユキナ「あ」

mako「?」

ユキナ「てすと」

 

ユキナ「大丈夫よ、ちょっと飲み物を取りに行ってただけ」

リサ「なんだ……良かった……」

ユキナ「リサは心配性なのよ」

 

 「あなたがポンコツなだけですよ」と言うのと自分の命を天秤にかけて、俺は自分の命をとった。

 

ユキナ「賢明な判断だわ、真言」

mako「師匠!今回の目的地はどこですか!?早く行きましょう!!!」

聖堕天使あこ姫「まっくん、なんでそんなに焦ってるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燐子先輩と師匠の案内で、今回のクエストのスタート地点、ヨルベ城に来た。

 

 燐子先輩によればここは新規で作られたマップらしい。バトル演出といい何かと手が込んでるなぁ運営さん。

 

mako「あれが王様ですかね」

聖堕天使あこ姫「よーしあこが話を聞いてこよう!」

 

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「ふむふむなるほど」

mako「この国の姫が隣国の王と結婚ね……」

 

 なんかきな臭いな……

 

リサ「『よからぬ噂』って一体何のことだろうね?」

mako「とりあえず王の言うとおり聞き込みしてみるしかないんじゃないですかね」

RinRin「皆さん手分けして情報を探しましょう\(°o°)/」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「んー……とりあえず片っ端から姫について聞いてみたもののろくな情報が無いな…」

 

 どうやらRoseliaのみんなも良い情報を聞き出せていないようだ。

 

 誰に聞いても、姫が国民から愛されていること、城をよく抜け出していたこと、傷ついた動物を助けるくらい優しいこと、そのくらいしか分からなかった。

 

mako「国民の誰もが姫の結婚を喜んでいる……か」

RinRin「真言くん?どうかしたの?(・・?」

mako「一々胡散臭いというか……何かが引っかかるんです……考えすぎですかね」

RinRin「どうだろ……とりあえず新しく行けるところが見つかったからそっちに行ってみよう←(>▽<)ノ」

mako「…………分かりました」

 

聖堕天使あこ姫「二人ともー!おばあさんここに入って行ったよ!」

mako「おばあさん?」

RinRin「来る途中にバーの二階に開かない部屋を見つけたんだ。ストーリーの展開で開くようになると思ってたけど……その通りみたいだったね⁽⁽◝( •௰• )◜⁾⁾」

 

 俺の先輩、優秀すぎないか???

 

mako「とりあえず、行ってみましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「──ドラゴンがお姫様を攫おうとしてる」

聖堕天使あこ姫「さっきの占い師さんは、確かにそう言ってたよね?」

 

 あのおばあさん占い師だったんだな……

 

mako「どうやら今回の標的はトカゲみたいですね」

聖堕天使あこ姫「この前は牛だったもんね」

サヨ「普通ドラゴンのことをトカゲって言いますか?」

 

 四捨五入すれば一緒一緒。ドラゴンって爬虫類でしょ?

 

リサ「でも多分それが王様の言ってた『よからぬ噂』ってやつだよね?」

mako「そういうことでしょうね」

 

 まだ何か引っかかるけど……

 

リサ「それにしても、あんなに国民から愛されているクレア姫を攫いに来るなんて、しかも結婚式の当日!ちょっと酷すぎない!?」

サヨ「それはまあ、ゲームですから」

ユキナ「リサ……熱くなりすぎじゃないかしら……?」

 

mako「そこなんだよな……」

聖堕天使あこ姫「なにが?」

mako「ドラゴンが姫を攫う理由ですよ。今までの話の中で両者に接点らしきものはない」

 

 なのになぜ?なぜ姫を攫う必要がある?

 

サヨ「神代さんのようにストーリーを考察し、推理する、NFOの一つの楽しみ方であることには違いありませんね」

mako「俺の結構シリアスなトーンで展開した推理を一々紐解かなくていいですから」

聖堕天使あこ姫「とりあえず王様にこの事を報告しに行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再びヨルベ城。

 

 師匠が王様に結果を報告した。なんか一人でベラベラ喋ってんなぁあの王様。

 

ユキナ「あの王様、私たちは何も言ってないのにドンドン話を進めてくわね……」

mako「ホントですよね」

サヨ「それがゲームですから」

 

 そこからいろんな事を言われたが、長くなるのでここでは少し割愛しよう。

 

 要するにこういうことだ。

 

mako「『祝福のティアラ』ね……なるほど?それ着けてクレア姫の代わりに攫われろってか?あ?」

RinRin「別に身代わりになれとは言ってないと思うけど……(;・∀・)」

サヨ「NPCに突っかかるのをやめなさい」

ユキナ「なるほど……変装からの待ち伏せでドラゴン退治なのね」

 

 

 

 

 

「大変です王様!祝福のティアラが盗賊に盗まれてしまいました!!」

 

 

 

 

 

リサ「……そんな大事な物盗まれちゃって……この王国大丈夫なの?」

mako「ザル警備がよ……」

聖堕天使あこ姫「まっくんさっきから口悪いよ」

mako「ごめんなさい」

RinRin「(こういうときは素直に謝れるんだよね……)」

 

「旅の者たちよ、盗賊から『祝福のティアラ』を取り返してきてくれ!頼んだぞ!!」

 

リサ「頼んだぞ……って」

mako「人使いの荒い……」

 

 よくそんなんで王様に成れたもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「えーっと……それじゃあ先に盗賊から『祝福のティアラ』を取り返してから、その後でドラゴン退治って流れかな?」

サヨ「ええ、ですがその前に少しレベリングをするべきだと思います」

ユキナ「レベリング?」

mako「レベル上げの事です。今の姐さんと湊さんの体力じゃドラゴンどころか盗賊にもボッコボコにされてしまいますよ」

リサ「ボッコボコ……」

 

サヨ「適正なレベルでミッションを回ること、それがNFOでの最も近道です」

 

 紗夜先輩……かなりやり込んでますね……

 

RinRin「それにもともとこのイベントはオープン直後に実装される予定のものなので、求められるレベルもそこまで高くないと思います(✿^‿^)」

聖堕天使あこ姫「あこもリサ姉と友希那さんがドンドン能力が上がるようバフかけてくから安心して!」

リサ「へぇ〜、バフってそういう意味だったんだ……」

RinRin「バフは能力を向上させる特殊効果、デバフは能力を低下させる特殊効果のことです(・∀・)」

 

 俺も師匠のバフとデバフにはいつも助けられてる。

 

聖堕天使あこ姫「よ〜し、それじゃあ友希那さん、リサ姉、ビシバシ鍛えるから覚悟してね〜!」

 

 〜〜中編に続く〜〜




相変わらず燐子先輩の顔文字が見つからないですね……

今回は3部構成なのでかなりの長編です。ぜひ最後までお付き合いください。

次回はレベリング&盗賊退治です。


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18.古竜と花嫁と狂戦士(中編)

新学期ですね。どうも実は学生、砂糖のカタマリです。

なんと!評価バーに赤ランプが点灯しました!!皆さん本当にありがとうございます!!!

★9評価 ケ丸 様 ありがとうございます!

お気に入り登録 n-y-x 様 サンズへフリー 様三日月大和 様 黒ハム 様 まぐろんX 様 ありがとうございます。

今回は中編なので前編をまだご覧になっていない方はぜひそちらを先に見てください。

それでは本編どうぞ。



 どうもこんにちは。神代…じゃなかったこの世界ではネクロマンサーmakoです。

 

 今俺とRoseliaパーティーがいるのはヨルベ鉱山。ここで盗賊退治、そしてドラゴン退治のため、主に湊さんと姐さんの二人のレベリングをしている真っ最中です。

 

 二人には燐子先輩と師匠を中心にスキルの発生タイミングや、戦闘の詳しい説明、特に湊さんには操作方法なんかを教えています。

 

 師匠なんか、湊さんに教えられる!ってもうすっごい張り切っちゃって……

 

 え?俺?

 

mako「…………………」ズーン

リサ「ほら、マコくん元気だして?」

mako「いいんですよ……どうせ俺なんて……」

ユキナ「完全に拗ねてるわね」

 

 どうして俺がいじけているのかというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜数分前〜〜

 

mako「よーしそれじゃあ張り切ってレベリングしましょう!」

聖堕天使あこ姫「まっくん」ポンポン

mako「どうしました師匠?」

聖堕天使あこ姫「あのガイコツがブワーッて出てくるスキルあるじゃん?まっくんの得意なやつ」

mako「ああ、デッドウォーリアーズですか?」

 

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「あれ禁止ね」

 

 

 

 

 

mako「    」

RinRin「あのスキル使うと友希那さんたちのレベリングの邪魔になっちゃうから……ごめんね(._.)」

mako「    」

 

 〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「所詮デッドウォーリアーズの使えない俺なんて役に立たないクソ雑魚ナメクジ……はは…」

サヨ「いい機会です。神代さんもあのスキルに頼らない戦法を考えてみては?」

mako「まあ……他にも攻撃手段が無いわけじゃないんですけど……」

サヨ「?ならなぜ普段から使わないんですか?」

mako「……俺の奥の手ってやつです」

 

 紗夜先輩にもあるでしょう?と言うと何かを含んだ微笑みで返された。

 

 

 

 

 

ユキナ「これかしら」

聖堕天使あこ姫「友希那さん!それはチャットウィンドウですってば!!」

 

 

 

 

 

サヨ「だいぶ苦戦してますね宇田川さん」

mako「師匠なら大丈夫ですよ。教えるの上手ですし何より燐子先輩もいますから」

サヨ「そういえば宇田川さんはあなたのNFOの師でしたね」

mako「ええ、まあ」

 

 NFOの……だけじゃないんだけどなぁ……

 

サヨ「……神代さん昔は宇田川さんの事を"宇田川"と呼んでませんでしたか?」

mako「そうですよ?」

サヨ「いつから宇田川さんの事を"師匠"と呼んでいましたっけ?」

mako「……さあ?昔の事なんて忘れましたよ」

サヨ「…………そうでした。神代さんはそういう人でしたね」

 

 昔の事なんて、いらない。俺には今さえあればいい。

 

サヨ「さて、私は二人の手伝いに行きますが、結局あなたはどうするんですか?自称役立たずさん?」

mako「そこら辺で雑魚モンスターでも潰してきますよ」

 

 折角だから他の攻撃スキルも磨いておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「ダークフレイム」ボシュ!!!

 

 【makoのレベルが上がった!】

 

mako「…………ぼちぼちかな」

 

 だいぶ攻撃手段も増えてきた。他のスキルも普通に使える。

 

mako「あとは"これ"だけだけど……」

 

 Roseliaの皆は……見てないよな…?

 

mako「よし、ボス戦前に試しに使って──」

聖堕天使あこ姫「おーいまっくんー?」

mako「ひゃい!!!」

聖堕天使あこ姫「……どうしたの?なんかすっごいビックリしてたけど」

mako「ナンデモアリマセン!!」

 

聖堕天使あこ姫「……まあいいや今からダンジョンの奥に行くから、早くしないと置いてっちゃうよー?」

mako「分かりました!今行きます!……っていきなりダンジョンの奥なんて、大丈夫なんですか?」

 

 特に湊さん、あなたさっきまでめちゃくちゃでしたよね?

 

ユキナ「少なくとももう戦闘中にアイテムウィンドウを開くことはないと思うわ」

mako「……………………」

 

 不安しかないんだが……

 

サヨ「まあ多少のミスなら私たち……いえ、そこにいる暇してた人が何とかしてくれると思いますよ」

mako「丸投げは流石に酷いと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「タイミング……皆に合わせる……ベースと一緒……タイミング……」

mako「燐子先輩、姐さんがなんかブツブツ言ってるんですけど、大丈夫なんですかあれ?」

RinRin「うん……多分( ̄ヘ ̄;)」

 

 一体どんな修行してたんだ師匠……

 

リサ「行くよ!エアーショット!」

 

mako「お、当たった」

聖堕天使あこ姫「リサ姉ナイス!タイミングバッチリだよ!」

リサ「ふぅ〜」

 

 十分十分、後は何とかしてくれる。

 

RinRin「友希那さん…さっき教えたスキルを氷川さんに!(`・ω・´)ゞ」

ユキナ「確かこれを……こうだったかしら」

 

 シュイイン!

 

サヨ「これは…攻撃力アッブのバフ?ありがとうございます湊さん!」

mako「ホントにアイテムウィンドウ開いてない……」

ユキナ「当然よ」フフン

 

 いや、別にドヤる事ではないですけどね?

 

サヨ「これで……終わりです!ハァ!」

 

聖堕天使あこ姫「イエーイ!フィニッシュ!」スッ

mako「あ、ハイタッチですか?……俺何もしてないんですけど……」パチン

RinRin「そんなことないよ⊂(・▽・⊂)モンスターへのデバフ助かったよ?(・∀・)」

mako「……!!」パァァ

ユキナ「一瞬で機嫌が治ったわね……あら?」

リサ「友希那?どうしたの?」

ユキナ「大したことじゃないのだけれど、今ドロップしたアイテムにマークがついてきたから少し気になって……」

mako「マーク?ああ多分それ……」

 

聖堕天使あこ姫「これ、めちゃくちゃレアなアイテムですよー!めったにドロップしないのに!」

 

 えっと確か武器の錬成用のアイテムだっけか。

 

RinRin「普通のアイテムとしても使えますが、武器の錬成に使うと協力なレア装備を作れます(☆ω☆*)」

mako「あ、これって普通のアイテムとしても使えるんですね」

RinRin「ジョブによって違う効果が得られて、吟遊詩人なら一定時間無敵になれる『無敵の歌』、ウィザードなら魔法攻撃力3倍の効果だったかな(・・?」

聖堕天使あこ姫「魔法攻撃力3倍ってめちゃくちゃすごくない!?」

mako「『無敵の歌』……マ○オでいうとこのスターみたいなもんですか?」

サヨ「なぜマ○オで例えたんですか……」

 

ユキナ「……よく分からないのだけれど、つまり、これを使えばいいの?」

聖堕天使あこ姫「わ〜!!!ダメ!絶対ダメです!!!」

mako「『死者の呪い』!!」

 

 対象を一定時間行動不能にする!!

 

サヨ「湊さん!今すぐマウスから手を離してください!!」

ユキナ「わ、分かったわよ。何もそんな必死に止めなくても……真言?分かったからこのデバフを解いてくれないかしら?チャットウィンドウ以外開けないのだけれど」

mako「…………( ´ー`)フゥー...」スゥゥ

 

 顔文字ってこういうときに使うんだね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜一時間後〜〜

 

サヨ「お二人のレベルもだいぶ上がってきましたし、そろそろ本格的にクエストを進めましょうか」

RinRin「そうですね!奥に行って盗賊から『祝福のティアラ』を取り戻しましょう(*ノ・ω・)ノ」

リサ「まあ〜最初に比べれば強くなったと思うし……よし!行こう!友希那も平気だよね?」

ユキナ「ええ、教えてもらったスキルを使い続ければいいのよね?なら何となくなると思うわ」

mako「俺もそろそろ雑魚刈りには飽きてきましたし」

サヨ「では行きましょう、私も十分準備できました」

 

リサ「よ〜し、それじゃあ『祝福のティアラ』奪還作戦開始〜☆」

 

 こうして俺たちはヨルベ鉱山の深部へ足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜ヨルベ鉱山深部〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「どけ盗賊(ザコ)共がッ!!」

 

聖堕天使あこ姫「……まっくんってホントにあこと同じネクロマンサー?前衛職くらい攻めてるんですけど……」

サヨ「どちらかと言うとバーサーカーとかの方が似合ってますよね」

 

mako「吹き飛べ!!ダークフレイム!!!」

聖堕天使あこ姫「……まあ楽しそうだからいっか!」

 

サヨ「この攻撃は私が引き受けます!」ガキン!!!

リサ「サンキュー紗夜!危なかった〜……」

mako「紗夜先輩!!後ろ!!」グイッ

サヨ「!?」

 

 ブンッ!!

 

サヨ「ありがとうございます神代さん、助かりました」

mako「いつかのお返しですよ」

 

 

 

RinRin「今です友希那さん!歌スキルの『混乱の歌』をお願いします(`・ω・´)ゞ」

ユキナ「確か…………こうすればいいのよね?」

 

 

 

聖堕天使あこ姫「すごーい!友希那さん効果範囲完璧だよ!!」

mako「あの湊さんが…………」コンラン

サヨ「あなたは混乱しなくていいですから!」

ユキナ「私は言われた通りにやっただけだけれど……どうやら余計な人まで混乱させたみたいだわ」

サヨ「とにかく!白金さん、魔法の詠唱を!」

RinRin「もちろんです(^_^)/では!」

 

RinRin「……………………………」

 

サヨ「どうしたの?燐子動かなくなっちゃたけど…………!?」

mako「強力な魔法には相応の詠唱時間が必要なんです。その間邪魔が入ると魔法は発動しないんですが……」

リサ「なるほど……だから全員が動けなくなるまで待ってたわけか……」

 

 そういうこと。

 

 仮にさっきのスキルを外してたとしても燐子先輩には俺が指一本触れさせないけど!?

 

聖堕天使あこ姫「ほら、あんなふうにりんりんの上に出てる詠唱時間のメーターが0になったら……!」

 

RinRin「詠唱完了──」

 

RinRin「ストームブリザード!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「いや〜さっきの燐子めっちゃカッコよかった〜」

mako「でしょ!?俺の先輩めちゃくちゃカッコイイでしょ!!!」

RinRin「お、落ち着いて真言くん……(〃ω〃)」

 

サヨ「…………まあ、放っておきましょう。それより先程の白金さんの一撃で無事ミッションもクリアできましたし……次のミッションは……」

RinRin「『ドラゴンから姫を守れ!』となっていますね(人 •͈ᴗ•͈)」

 

 遂に最終決戦か……いいね、なんかワクワクしてきた…!

 

ユキナ「…………それでここはどこなのかしら、教会のようだけれど」

サヨ「おそらく、王様の話にあったドラゴンを待ち伏せる場所ですね。ここで『祝福のティアラ』を使うのだと思います」

聖堕天使あこ姫「それじゃありんりん使ってみてよ!」

mako「!?」

RinRin「え…わたし(゚д゚)!?」

サヨ「私もそれがいいと思います。王様の話から推測するに、祝福のティアラを使ったキャラクターがクレア姫の身代わりになり、ドラゴンから狙われるはずです」

サヨ「なのでここはパーティーで一番強い白金さんが適任かと……あと…………」

RinRin「?」

 

サヨ「白金さんが警護対象となれば、そこのバーサーカーも本気になりますしね」

mako「…………………よく分かってらっしゃる」

 

RinRin「分かりました(`・ω・´)ゞそれでは早速使ってみます……!」

 

 〜〜後編に続く〜〜




いろいろあって入力するの4回目です。マジ勘弁してください。

次回、真言昇天。


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19.古竜と花嫁と狂戦士(後編)

お気に入り登録 回カス 様 Beautiful girl hobby 様 斬馬刀 様 ありがとうございます。

細かいことは抜きです。

早速本編へどうぞ。



RinRin「これは…………」

 

 祝福のティアラを使用し、燐子は純白のドレス姿となった。

 

リサ「うわ、燐子!ドレス姿に変わってるじゃん!!」

聖堕天使あこ姫「わ〜〜!りんりん超絶似合ってる〜!!」

 

 友人達から見ればそれはとても美しく見えたのだろう。実際今の燐子にはドレス姿はとても似合っており、簡単に言えば目の保養になる。

 

 ある男を除いて。

 

mako「…………………………」

ユキナ「真言?どうかしたの?」

mako「…………………………」

サヨ「微動だにしませんね……何かあったのでしょうか……?」

mako「…………………………」

 

 ただ一点、ドレス姿の燐子を見つめて動かない。

 

RinRin「ま、真言くん……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「…………………………」ドサッ!!!!!!!

Roselia一同「「「「「!?」」」」」

 

 いきなり両膝から崩れ落ちる真言。

 

 涙が、彼の両頬を静かに伝っていった。

 

聖堕天使あこ姫「どどどどどどうしたのまっくん!!??」

mako「い…………」

リサ「い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「い''き''て''て''よ''か''っ''た''……………」ボロボロ

聖堕天使あこ姫「ガチ泣き!?」

 

 目の保養というものもいきすぎれば猛毒と化すのだ。

 

サヨ「…………いろいろ大変なことになっていますが、白金さんがクレア姫の姿に変身したということはおそらく……」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ・・・・・・

 

リサ「何この地響き……!?」

RinRin「来ました!エンシェントドラゴンです(ᗒᗩᗕ)」

 

「ヒメヲ ツレテイカセハ セヌゾ…………!」

 

mako「姫…………?」ピクッ

 

リサ「うわー……すっごい迫力……」

サヨ「感心してる場合ではありません!」

RinRin「え…………このステータス……!」

聖堕天使あこ姫「りんりん?どうしたの!?」

mako「…………………」ブツブツ

 

RinRin「ドラゴンのステータスが予想よりはるかに高いんです!初心者用のイベントだと思っていましたが、どうやらバランス調整でかなりの強敵になったようです!!」

RinRin「今の友希那さんと今井さんのステータスでは、すぐにやられてしまうかもしれません……( •̀ㅁ•́;)」

mako「…………………」ブツブツ

リサ「そんな!それじゃあどうするの?」

聖堕天使あこ姫「ドラゴンに話しかけるまで戦闘にはならないみたいだし、もう一回レベリングしてきたほうがいいかも……」

 

サヨ「いえ、その必要はありません。このまま戦いましょう」

mako「………………………」ブツブツ

聖堕天使あこ姫「紗夜さん、本気ですか!?このままじゃ100パー負けますよ!!」

サヨ「ええ、確かにこのままでは勝てません。しかし、これなら……!」パァァ!!!

 

 紗夜の姿が変化する……!!

 

聖堕天使あこ姫「これは……ジョブチェンジ!?」

RinRin「そのジョブは……ロイヤルナイト……!ずっと気にしていたのは、転職クエストの達成条件だったんですね……!」

サヨ「以前からコツコツ進めてはいたんですが、なんとか間に合いました」

mako「………………………」ブツブツ

聖堕天使あこ姫「すっごーい!!紗夜さんも遂にあこたちと同じ上級ジョブですね!!」

サヨ「これで少しはマシな戦いに…………」

mako「………………………」ブツブツ

 

サヨ「…………神代さん?さっきから何をブツブツ──」

 

mako「連れて行く……?燐子先輩を……?俺から…………?………………………上等だよ」ユラァ

 

聖堕天使あこ姫「まっくん……?」

 

mako「……………見せてやるよ……俺の新しい力……」ガチャ

 

 皆がくれた……俺の新しい戦い方……!!

 

RinRin「それは…………!」

聖堕天使あこ姫「【ソウルミノタウロスの斧】!?」

リサ「あ、この前の牛が持ってた斧!」

サヨ「なるほど……これが神代さんの"奥の手"……」

 

 

 

 

 

mako「こんのクソ✳✳✳✳✳✳野郎が!!!テメェのその✳✳✳✳✳✳みてぇな手で燐子先輩に触れてみやがれ!!地獄の果てまで追い詰めて!!5000000000回✳✳✳✳✳✳して✳✳✳✳✳✳して✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳!!!!!!!!!!」ブンブン!!!!!

聖堕天使あこ姫「まっくん!!伏せられてる!!文字伏せられてるから!!!!!」

 

 

 

 

 

サヨ「なんというか……より一層バーサーカーに近づいたというか……」

ユキナ「モンスターよりモンスターしてるわよ、あの男」

リサ「一番武器持たせちゃいけない人だったんじゃない?」

RinRin「と、とにかく二人が更に強くなりましたし、これなら勝てるかもしれません\(°o°)/」

サヨ「さあ行きましょう!」

mako「死に晒せやぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「燐子行くよ!ヒール!」

RinRin「ありがとうございます!……それにしてもすごい硬いですねこのドラゴン(;´∀`)」

聖堕天使あこ姫「HP高すぎー!!あこの攻撃力デバフも切れそうだよ〜」

サヨ「ロイヤルナイトでも、まだ厳しいなんて……こちらの体力も徐々に削られてきています……」

リサ「マコくんー!前に出過ぎ!!」

 

mako「オラァァ!!」ザシュッ!!!

聖堕天使あこ姫「すっご……一人でガンガン突っ込んでるのにやられてない……」

RinRin「途中途中で魔法を使って上手くかわしてるんだよ(・o・)」

サヨ「ですが攻撃もだんだん激しくなっています……おそらくこれが倒せる最後のチャンスかもしれません……」

 

RinRin「……わたしの最大の魔法を使います(ノ*0*)ノ皆さん!今から呪文の詠唱をはじめますね!」

聖堕天使あこ姫「それならさっきより時間がかかるよね!時間を稼がなくちゃ!!まっくん!!」

mako「聞こえてます師匠!!」ブンッ!!!

リサ「でもどうやって時間を稼ぐの!?マコくんだけじゃかなりやばいよこれ!!」

サヨ「ドラゴンのデバフ、切れます……!」

 

 グァアアアアアアアアアアアア!!!!!

mako「おとなしくしてろやあああああああああ!!!!!」

 

聖堕天使あこ姫「こんなとき現実だったら友希那さんの歌で気を引けるのに〜……」

サヨ「湊さんの歌……?………!それです宇田川さん!!」

サヨ「湊さん!先程手に入れたレアアイテムを使ってください!あのアイテムは吟遊詩人が使えば…………」

聖堕天使あこ姫「そっか!『無敵の歌』!!」

リサ「さっすが紗夜!友希那、お願い!!」

ユキナ「任せてちょうだい。アイテムウィンドウを開くのは慣れたもの──」

 

 グォアアアアア!!

 

mako「この野郎……!狙いを変えやがった……!!」

サヨ「しまった!!後衛の皆さんに突っ込んで行きます!!」

 

 しかも斜線上に詠唱中の燐子先輩!!クソッ!!!

 

聖堕天使あこ姫「友希那さん!リサ姉!避けて〜!!」

リサ「うわ!こっち来た!!!」

 

mako「定命の円環を逸脱せし常闇の使徒に我命ず、其の闇の力をもってして彼の古の戦士たちを深淵より蘇らせたまえ!出でよ!デッドウォーリアーズ!!!」

 

 シュイイイイイイン!!!

 

リサ「足元から……あの時の黒いガイコツ!?」

mako「受け止めろ!ウォーリアーズ!!」

 

 カタカタカタカタカタカタカタカタ

 

mako「湊さん!早く!!長くは持ちません!!」

ユキナ「レアアイテムは……これね。皆、行くわよ」

 

 キュイイン!!

 

サヨ「無敵状態……これなら……!」

聖堕天使あこ姫「あこも頑張らないと!喰らえ〜カースパラライズ!!」ドーン!!!

mako「カースロンド!!」ザシュ!!!

 

 前線を押し戻す!!

 

 

 

 

 

ユキナ「燐子、まだなの?この無敵時間…そろそろ終わりそうよ」

RinRin「もう少し…………よし、いけます!」

聖堕天使あこ姫「いっけーりんりん!!」

mako「ぶちかませ!燐子先輩!!」

RinRin「( ̄ー ̄)bグッ!」

 

RinRin「エレメントバースト!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「やった……やったよ!ホントにドラゴン倒しちゃった!!!」

mako「………………おわった……」

リサ「マコくん、お疲れ様。ヒールしとくね」

mako「ありがとうございます…………」

 

 なんかドッと疲れた…………

 

聖堕天使あこ姫「紗夜さんのジョブチェンジとまっくんの新しい戦い方、それに友希那さんの『無敵の歌』のおかげですね!」

サヨ「皆のおかげ、ということでいいんじゃないですか?これはパーティープレイなんですし」

RinRin「はい!皆のおかげ、ですね(≧▽≦)」

聖堕天使あこ姫「ゲームの中でもRoseliaは最強ー!ふふん!」

RinRin「ふふん( `・ω・´)」

 

サヨ「まったく……二人とも、はしゃぎすぎよ」

 

聖堕天使あこ姫「ふふん♪」

RinRin「ふふん( `・ω・´)」

 

mako「はは……すっかり浮かれてますねぇ…」

ユキナ「あなたはやっと普段の真言に戻ったわね」

 

 皆もゲームに熱中しすぎるのはやめようね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「これで無事クレア姫も助かったことですし、めでたしめでたし〜」

「ウウッ……」

RinRin「Σ(・∀・;)皆さん!ドラゴンがまた動き出しました!」

mako「全員!ドラゴンから離れてください!!」

 

 ここから第2ラウンドかよ……流石に厳しすぎるぜ……

 

「ミゴトダ タビビトタチヨ。マサカ コノ ワタシヲ タオストハ……シカシ コノママデハ ヒメノ ミニ キケンガ……」

 

リサ「え?姫の身が危険ってどういうこと?」

mako「あ?危険の元凶が何言ってやがる」

 

「ワタシハ ヒメヲ……タスケニ キタノダ」

聖堕天使あこ姫「助けに……?」

 

 

 

 

 

リサ「ええっ!?隣国の王様が、この国に攻め込むために結婚!?」

 

 なるほどな……どうりできな臭い訳だ。確かにここの警備はザルすぎる。俺と燐子先輩と師匠の三人で落とせんじゃねえか?この国。

 

サヨ「だから結婚を阻止しようとしていたということですね」

RinRin「皆さん!ドラゴンの角の先」

聖堕天使あこ姫「あれはスカーフ?あ!お城にあった紋章が描いてある!」

聖堕天使あこ姫「そういえばお姫様は動物を助たりするくらい優しい人だって……」

mako「動物…………なのか?」

 

 …………このバカでかいのが?

 

サヨ「ドラゴンのことをトカゲと呼んでいた人が何を今更」

「ワタシハ カツテアノムスメニタスケラレタ。コンドハ ワタシガ アノムスメヲ スクイタカッタ……」

サヨ「なるほど……ならば真に討つべき敵は……」

RinRin「隣国の……王(☆ω☆*)」

 

聖堕天使あこ姫「あ、見て見て!新しいミッションが開いたよ!ミッションは──」

 

一同「「「「「「隣国の王を討て!」」」」」」

 

mako「面白え…………国崩し、やってやろうじゃねぇか!!」

聖堕天使あこ姫「またまっくんの変なスイッチ入ったよ」

RinRin「では皆さん!今から隣国へ向かいましょう!」

リサ「え、今から!?」

RinRin「もちろん無理にとは言いません」

 

ユキナ「いえ、今から行くわよ」

リサ「友希那?」

ユキナ「やるべきことが分かっているなら後は実行するだけ……それはゲームも音楽も変わらないと思うわ。それに……」

 

ユキナ「…………私もこのお話の結末が知りたくなったの」

リサ「うん……そうだね。よし、行こう!皆で隣国のわる〜い王様を倒しにさ☆」

サヨ「覚悟は決まったようですね。では私もロイヤルナイトとして、本領を発揮させてもらいます」

聖堕天使あこ姫「まっくんは?どうするの?」

 

 …………師匠も人が悪い。完全に俺がどう答えるか分かって聞いている。

 

mako「前にも言いましたよね師匠」

聖堕天使あこ姫「………………」

 

mako「喜んでお供させていただきます。どこまでも」

聖堕天使あこ姫「やったあ!!」

RinRin「皆で力を合わせて、エンディングを迎えましょう(✿^‿^)」

 

「ソノタタカイ ワタシモ トモニ ユコウ……」

 

mako「まじ!?」

 

「ヒメヲ マモルタメ チカラヲカソウ……ワタシノ セナカニ ノルガイイ!!」

 

聖堕天使あこ姫「うわ〜〜!!ドラゴンの背中に乗って移動できるようになったよ〜!!!」

リサ「よ〜し、皆!隣国目指して進めーーー!!!」

聖堕天使あこ姫「おー!」

 

 こうして俺たちは隣国の王を倒すため、ドラゴンの背中に乗り、旅立っていった……

 

 この後俺たちがどうなったか?

 

 まあいろいろあったけど、流石にここじゃ語りきれない…………うーんそうだな……一つ言えることがあるなら……

 

 物語の最後は"めでたしめでたし"だったって事だけだ。

 

────────────────────────

いやー長かった!これにて古竜と花嫁編完結!

 

やっぱりバトルシーンは難しい!なんか擬音多めなんでごめんなさい!

 

ですがまあこれにて一件落着って事で!当分現実回が続くことになると思います!!

 

NFO回は機会があればやります!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピロン♪

 

【新しいスキルを獲得しました】

 

【スキル名:繝?繧ッ繝ュ繝弱き繝】




──to be continued・・・・・?


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20.UA10000突破記念!

皆さんこんにちは。砂糖のカタマリです。

この度は10000UA突破!読んでくれた皆様ありがとうございます!!ということで、とある企画を考えました!

詳しい企画の説明は現場のリサさんからお聞きください!

それではリサさん、よろしくお願いします!



リサ「はいは〜い現場のリサだよ♪これから企画の説明をしていくからしっかり聞いてね☆」

燐子「今井さん……誰に向かって話してるんですか……?」

こころ「燐子は何も気にしなくていいわ!向こうの話よ!」

燐子「???」

 

リサ「……とりあえず企画の発表からだね。そういうわけで今回やる企画は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「質問コーナー!!」ババン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「いつもこの小説を読んでくれてる読者のみんなから、マコくんやアタシ達に向けての質問コーナーだよ☆何でも質問してね!」

こころ「と言ってもあたし達はこっちの世界のあたし達だから、あたし達宛の質問には答えられる限界があるわ!」

燐子「…………?」

こころ「こっちの話よ!」

 

 

 

 

 

リサ「質問方法は簡単!」

 

リサ「一つ目はこの小説、「監視対象と約束された日々」の感想に質問する」

 

リサ「二つ目は、砂糖のカタマリくんに向けてハーメルンのメッセージ機能を使って質問する。砂糖くんのIDは 336026 だよ♪」

 

リサ「そして三つ目がTwitterのDMで質問する。TwitterのIDはこっちに載せとくね☆ https://twitter.com/amatoo_coco?s=09

 

こころ「どの方法でも匿名可!質問する時には『〇〇へ』みたいに誰宛か分かるようにしてもらえると嬉しいわ!ちなみに一人いくつでも質問オッケーよ!」

リサ「できる限り答えるつもりらしいよ!」

 

燐子「???」

リサ「何も気にしなくて大丈夫。燐子はただマコくんをここに連れてきてもらえるだけでいいから」

燐子「わ、わかりました……」

 

リサ「そして今回はスペシャルゲストを用意するよ!こころ?準備できた?」

こころ「ええ!黒い服の人達に頼んで連れてきてもらうわ!」

燐子「一体誰を……」

こころ「そのうち分かるわ!」

 

リサ「…………このくらいかな?」

こころ「そうね!多分これで言うことは全部だわ!」

リサ「それじゃあ読者のみんな〜ドンドン質問してね!」

こころ「質問が全然来なかったらこの企画ボツになるってビビってたわ!」

リサ「それじゃあ早いけど今回はこれでおしまい!」

こころ「最後にちょっとした質問の例を出しておくわ!参考にしてね!」

燐子「(真言くん……なんか大変なことになっちゃいそうだよ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q.真言へ 逆立ちしながら学校のグラウンド一周できますか?

 

真言「昔似たようなことを小学校でやってたわ」

 

Q.真言へ 数学の先生に向かって一言!

 

真言「(自主規制)!!!!!!」

 

 

 

 まあこんな感じで大丈夫です。

 

 真言くんもゆる〜く答えていきます。




この企画は皆さんの協力なしに成立しません。皆さんどうかこの小説にお力を………

もし質問全然来なかったら……マジでどうしよう。

……というかスペシャルゲスト?そんな話聞いてないんですが………………おや?誰か来たみたいですね………





あ、あなた達は──





こころ「ということでスペシャルゲストはこの小説の作者よ!これで役者は揃ったわね!メタい質問もバンバン送ってきていいわよ!!それじゃあ!!」


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21.質問を質問で返すとブチ切れられるらしい

みんな!こんにちは!弦巻 こころよ!

諸事情で作者がいないから今回だけあたしがこの前書きスペースを担当するわ!

お気に入り登録をしてくれたyukky 深山木秋 ヨッシーノブ 大雪小雪 ルカーラ トリックアート しろぷに 白崎 令 ゴーグル 鳴神風月 ありがとう!

そして質問をしてくれたオーシャンビューバー太郎 エイタイ rain/虹 ゴーグル!作者がほんっとーに感謝してたわよ!ボツにならずにすんだ〜って!

それじゃあ早速本編へ行くわよ!!



真言「あのー燐子先輩?」

燐子「どうしたの……?」

真言「俺……今どこに連れてかれてるんですか?」

 

 只今この俺、神代 真言は目隠しをされながら燐子先輩に腕を引っ張られて歩いてます。

 

燐子「…………内緒」

真言「(なにそれカワイイ)なにそれカワイイ」

燐子「え?」

 

 おっと、本音が漏れてしまったようだ。

 

燐子「……着いたよ」

 

 目隠しを取るとそこには……

 

真言「眩し──」

 

 

 

 

 

こころ・あこ・リサ「「「第一回!!質問コーナー!!!」」」

 

 

 

 

 

真言「…………は?」

 

 Roseliaの面々となぜか弦巻がいた。

 

 え……質問コーナー?どういうこと?ここ、CiRCLEのスタジオだよな?

 

リサ「ということでこれからマコくん達には質問に答えてもらうよ♪」

あこ・こころ「「イェーイ!」」

 

 向こうの方で湊さんと紗夜先輩が冷めた目でこっちを見てる。見てないで止めてくれよ頼むから。

 

真言「これ……どういう状況ですか」

燐子「さあ……わたしも"ここに真言くんを連れてきて"と言われてないから……」

真言「……で?質問コーナー?なんですかそのYouTuberとかがやってそうな企画は」

 

 てかさっき姐さん俺達って言った?俺"達"?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーーー!!んんーーーーーー!!」ガタガタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「…………なんすかあれ」

 

 そこにはロープで椅子にガチガチに固定され、顔には麻袋を被せられ、言葉すら発することのできなくなった一人の人間がいた。

 

こころ「なんでも知ってる人よ!今回はあの人にもいろいろ答えてもらうわ!」

真言「…………………………」

「んーーーーーーー!!!!!!!!!」

 

 拉致監禁…………?

 

友希那「…………流石にもう喋っていいわよ」

「プハーッ…ハァハァハァ…………あー……酷い目にあった……大体私をこっちに引きずり込むとか、なんでそんなメチャクチャなことができるかな弦巻家は……」

 

 麻袋から開放されたその少年は明らかにこころが拉致監禁したことを証言していた。

 

 何故か顔に「甘党」と書かれた紙が貼ってある。

 

真言「あんた……誰?」

「私?私はね…………うーんなんて言えばいいのかな……まあ"何でも知っている人"って事にしておいてくれよ」

 

 何でも知っている?そんな胡散臭い……

 

砂糖「私のことは砂糖くんとでも呼んでくれ。真言くん?」

真言「俺の名前…………」

砂糖「私はこの世界のことなら大抵のことは知っている。もちろん君達についてもね」

 

 何だこいつ……………………警戒できない……?

 

真言「……その何でも知ってるあんたがどうしてこんなとこにいんだよ」

 

砂糖「………………………………………拉致られた」

 

こころ「それじゃあ早速質問コーナーを始めるわよ!」

あこ「わーー!!!」

真言「俺の意志は関係なしか誘拐犯」

 

 あとさっきから師匠がテレビとかのSEみたいになってるんだけど……本人が楽しそうだからいっか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こころ「それじゃあ最初の質問!!」

あこ「ババン!」

 

リサ「『君も竜を倒したんだ。俺と同じように竜の血を浴びて無敵にならないか?………すまない。唐突ですまない…』はいマコくん!」

 

真言「俺!?」

 

 何この質問!?どゆこと!?

 

砂糖「あーこれは多分FGOって奴のキャラクターだね。違うかな?」

真言「は?え、F…?」

砂糖「まあとりあえず答えてよ」

真言「えー……」

 

 確かに俺、ドラゴン倒したけど……いや正確にはトドメさしたの燐子先輩だし……

 

真言「無敵……か。あんまり興味ないんだよな……」

あこ「まっくんそのままでも強いもんね!」

真言「今の時代に物理的に強いことなんて、なんの役にも立ちませんよ」

砂糖「でも無敵になれば、もっと燐子くんを守れるんじゃないかい?」

 

真言「…………………………………………………………いいなそれ」

燐子「真言くん……!?」

 

リサ「ということで最初の質問への回答は?」

真言「……………………………………………興味ないです」

リサ「じゃあ次の質問行ってみよ〜☆」

紗夜「だいぶ悩みましたね」

 

 もしかして今回このハイテンションがずっと続くのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「次の質問!ババン!」

真言「あ、師匠自分で言うんですね」

 

あこ「『マコくんは約束がなかったらどれぐらい強いんでしょうか?』だってさ!まっくんどうぞ!」

 

 てかこの質問どっから来てんの?

 

真言「うーん…………約束が無かったら…………」

 

 想像つかないな……燐子先輩との約束は俺の全てだし……

 

砂糖「ならここは私に任せてもらおう!」

真言「………………」

あこ「はい!じゃあ砂糖くんどうぞ!」

 

砂糖「真言くんに約束が無かったら、簡単に言えばメチャクチャに強いです」

 

砂糖「彼は実家で子供の頃から格闘技……実際には彼の家の我流の戦闘術ですが、それを習っていたので、その気になればコンビニ強盗だろうとなんだろうと、対人戦になればまず負けません。そのくらい強いです」

 

砂糖「もちろん、彼が約束を反故にして本気で戦おうとすればの話ですが。どのくらい強いかはその内書くつもりなので楽しみにしててください!」

 

真言「?????」

紗夜「やけに詳しいですね……」

砂糖「そりゃ"何でも知って"ますから」

 

あこ「はい!じゃあ砂糖くん!この質問の答えは?」

砂糖「メッチャ強いです。お気に入り登録、★10評価ありがとうございます!」

あこ「次の質問行ってみよ〜!」

真言「何言ってんのか全然わからん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こころ「次の質問よ!」

あこ「ババン!」

 

 師匠そろそろ飽きてきそうだな。

 

こころ「『燐子ルート以外とか考えてます?』これは砂糖ね!」

真言「ちょっと待て"燐子ルート"って何の──」

砂糖「お答えしましょう!」

真言「おい!!!!!」

 

 何だよその燐子ルートって!!

 

砂糖「とは言ったものの、私がイチャイチャ系SSを書くのが得意ではないので、真言くんが他に誰とイチャイチャしてるかが思い浮かばないんですよね」

こころ「確かに真言が燐子以外にデレデレしてるのが想像できないわね」

燐子「…………///」

真言「デレデレしてねぇ!!」

 

 燐子先輩だぞ!?恩人にそんなことできるわけねぇだろ!!

 

砂糖「なのでこれは本人に答えてもらいましょう。真言くん」

真言「は!?」

砂糖「君の友達の中で、彼女になってもおかしくない人っている?あ、もちろん燐子くん以外でね」

 

 俺に友達少ないの知ってて質問してる!?そうじゃなくても相当性格悪いな!!

 

 てかそんなやつそうそういないし、まず俺に友達って呼べる女子なんて……………………

 

燐子「真言くん…………?」

真言「……………………」

友希那「正直に言いなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「……………………イナイデス」

こころ「うそよ!」

あこ「うそだ!」

友希那「嘘ね」

リサ「嘘だね」

紗夜「嘘ですね」

燐子「嘘はだめだよ……」

 

 秒でバレたんですが!?

 

砂糖「君が言わないなら私が言おうか?」

真言「アンタが知るわけねえだろ!」

 

 俺の考えてる事がわかるなんて、そんな神様みたいなこと……

 

砂糖「できるよ?この世界じゃ私は"それ"に一番近い」

真言「…………………………てめぇ」

砂糖「おっと今回はメタいギャグ回の予定なんだ。シリアス展開にはさせないよ」

 

 何だよこいつ……死ぬほどやりずれぇ。

 

燐子「あ、あの……質問の答えは……」

真言「…………そうだよそこまで言うんなら教えてもらうじゃねぇか」

 

 どうせさっきのもハッタリに決まって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂糖「有咲くん。でしょう?」

真言「………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「へー!そうなんだー!!」

友希那「てっきりRoseliaの中にいるのだと思っていたわ」

紗夜「確かに私と白金さん以外で交友関係が深いのは市ヶ谷さんくらいですね」

真言「いや!違うんですよ!!あいつは俺の親友だから、何というか一番対等に話せるというか……」

燐子「……わたしは?対等じゃないの…………?」

真言「いや……それは……その……………」

 

こころ「ということでこの質問の答えは!?」

 

砂糖「IF回とかで書いてみようかな……有咲ルート。あ、もちろん本編のメインヒロインは燐子くんですよ」

 

こころ「それじゃあ次が最後の質問よ!」

リサ「今度有咲に言っておこーっと」

真言「鬼!!!!!」

燐子「真言くん……わたしの質問にも答えて……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「いよいよラスト!準備はいいかな〜?」

真言「いやだから燐子先輩は特別というか!!」

燐子「……………………」ジッ

 

リサ「あっちだいぶ修羅場ってるね……」

砂糖「とりあえずやろっか。最後のやつは二人への質問みたいだし」

燐子「……?」

真言「俺達?」

 

リサ「最後の質問は〜……これだー!」

あこ「……………………あ、ババン!!」

 

 今完全に忘れてたな。

 

 てか俺と燐子先輩への質問って……

 

 

 

 

 

リサ「『燐子と真言君に質問なのですが、燐子は真言君の事は男性として好きなのですか?

真言君は燐子の事凄く尊敬してますけど、女性としては好きなのですか?

(あまりにもとんでもない質問ですみません)』」

 

 …………………………………

 

 スタジオ内にとてつもない程の沈黙が訪れた。

 

砂糖「あはは……これは…………」チラ

あこ「りんりん顔真っ赤だよ?」

燐子「……………………/////」

 

 好き…………

 

真言「…………………俺は」

リサ「お!なになに〜?告白タイム?」

 

 

 

 

 

真言「…………俺は燐子先輩のことを本当に、心の底から尊敬してるし、感謝してます。今ここにいられるのも先輩が、皆と繋げてくれたからです」

燐子「真言くん……」

 

真言「……"女性としては"かどうかじゃ図りきれない……それでも言葉に出来ないくらい……俺は先輩が大切です。…………これじゃダメか?」

砂糖「いや?素晴らしいと思うよ。君の燐子くんに対する想いがよく伝わった」

友希那「……ここまで真言が真摯に答えたのよ。燐子、あなたも誠心誠意この質問に答えなさい」

燐子「え…………本人の前で…ですか?///」

 

こころ「なら真言が聞けないようにすればいいのよ!」

真言「は?」

こころ「黒い服の人達!お願い!」

 

 弦巻がそう言うや否や、どこかともなく現れた黒服さんが俺を拘束した。

 

真言「ちょ離せ!!!」

黒服A「こころ様の願いです。少しの間大人しくしてもらいます」スッ

真言「な──」バタッ

 

 いしきが…………まえにもこんなことあっ…………

 

 

 

あこ「え……まっくん動かなくなったんだけど……」

黒服A「催眠ガスを染み込ませたハンカチです。30分は起きないでしょう」

砂糖「(…………こっわ)」

こころ「燐子!これで答えられるわよね?」

燐子「わ、わかりました…………」

砂糖「(正直、こころくんがサイコパスにしか見えないんだけど……まあいっか)」

 

 

 

 

 

燐子「…………真言くんは…………こんなわたしのことを"恩人"って呼んで、慕ってくれて……わたしも真言くんのことが大切です……」

 

燐子「…………でも……わたしが彼を好きだと言っても、真言くんは信じないと思います……」

あこ「え?なんで?」

紗夜「彼は自己評価がとても低いんですよ。そんな彼が、自身が神格化していると言っても過言ではない白金さんから好意を向けられているなんて……」

友希那「"自分なんかが好きになってもらえるわけがない"ということね」

燐子「はい……そしてきっと彼は深く傷つくと思います……」

 

燐子「真言くんはもう十分傷ついたんです……わたしは……もうこれ以上真言くんに傷ついてほしくない…………幸せに、なってほしいんです」

紗夜「………………」

 

リサ「そういえばマコくんの昔の話はアタシ達全然知らないね」

あこ「うん……」

友希那「……あなた」

砂糖「ん?私かい?」

友希那「真言に何があったか、あなたなら知ってるんじゃないの?」

砂糖「言わないよ。それは僕がやることじゃない」

あこ「まっくん、昔のこと聞かれるの嫌いだもんね」

砂糖「そういうこと。私も彼に怒られるのは勘弁してほしい。でも安心しなよ友希那くん」

友希那「…………」

 

砂糖「近い内に、君達は必ず彼の過去を知ることになるよ。嫌でもね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「う、うぅん………」ムクッ

砂糖「お、起きたね」

あこ「早くない?まだ5分くらいしか経ってないんだけど……」

こころ「流石真言ね!」

 

 何が"流石"だよ……最近、弦巻家に手荒な真似しかされてない気がするんだが……

 

 これじゃ異空間というより疫病神だ。

 

黒服A「流石です神代様。やはりお話に聞いていた通りのお方だ」

真言「そいつはどうも…………?」

 

 話に聞いていた?

 

リサ「それじゃあ最後の質問の答えは?」

 

真言「えーっと……女性とかそういうくくりを超えて、俺は先輩が大切です」

燐子「わたしは……真言くんに幸せになってほしい……です」

 

リサ「これで質問は以上だよ!おつかれさま☆」

友希那「中々楽しませてもらったわよ」

あこ「あこもー!」

真言「あなた達には質問届いてませんでしたからね!」

紗夜「(さっきの、ほとんど告白みたいでしたが……二人は気づいてないんですかね)」

 

こころ「質問を送ってくれた皆!本当にありがとう!!」

砂糖「これからもどうぞ末永くお付き合いください」

こころ「砂糖!お疲れ様!今日はもう帰っていいわよ!」

砂糖「帰っていいって言われても、私あなたに拉致られてここに来たんですが」

黒服A「私達がお送りします」

砂糖「あ、どうも……」

 

 帰ってった……ホントに何者だったんだあいつ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜後日〜〜

 

有咲「?どうしたんだマコ、今日なんか変だぞ?」

真言「そ、そんなことないって有咲…………さん」

有咲「なんでそんなによそよそしいんだよお前」

燐子「…………」ジーッ

有咲「どうかしました?燐子先輩」

燐子「なんでもないよ……」

有咲「?」

 

真言「(き、気まずすぎる……)」

 

 翌日普通に戻りましたとさ。




ふー…やっと帰ってこれた……ホント、弦巻家には困ったものです……

改めて、質問を送ってくれたオーシャンビューバー太郎 様 エイタイ 様 rain/虹 様 ゴーグル 様、お気に入り登録をしてくれた皆様、そしてこの小説を呼んでくれたすべての方にお礼を申し上げます。

本当にありがとうございます。

そして、拙い文章ではございますが、これからもお付き合いいただけたらとても嬉しいです。

皆様、また次回のお話でお会いしましょう!それでは!


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22.神代真言と月城睦月

今回の話は私の相棒、rain/虹 くんの「人見知りの幼馴染は俺にだけデレッデレ」とのコラボ回です!

だいぶキャラ崩壊起こしてますが本人の許可はとってあるので大丈夫です。…………大丈夫……だよね?

相棒の小説も面白いのでぜひ読んでください!
→https://syosetu.org/novel/253378/

お気に入り登録 肉達磨 様 ワラビポケ 様 TK.tt.max 様ムイムイ 様 オズ 1 様  勘九郎 様 魔神夜 様 ダイキ・リハヴァイン提督 様 ありがとうございます。

それでは本編、どうぞ。



真言「ふわぁ〜あ………………眠い…………」

 

 ここは花咲川学園にある中庭。いつも俺が昼飯を食べている場所。

 

 ちょうど今は昼飯を食い終わって、午後の授業が始まるまでゴロゴロしてる最中だ。

 

真言「いい天気だ〜……」

 

 最近はどっかのマッドサイエンティストがずっとつきまとってきたからなぁ……やっぱ昼飯は一人で落ち着いて食べるに限る。

 

真言「午後の授業まで時間あるし…………ちょっと寝るか………………………………………………………?」

 

 

 

 

 

 ウトウトしかけていた俺の目の前に突然現れた、いやそれは最初からそこにあったのかもしれない。

 

真言「なんだ…………あれ」

 

 異質。異常。誰がどう見てもおかしい。

 

 空に浮かぶ……俺の目の前、手を伸ばせば届く距離の空間にそれはあった。

 

 英語、そしてドットやスラッシュなどの記号が羅列されている文。これは…………

 

真言「…………………………URL?」

 

 そう、URLだ。あの誰しも一度は見たことがあるアレ。

 

 空に浮かぶURL。全く意味がわからないと思う、でも大丈夫。俺もわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 https://syosetu.org/novel/253378/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「何のURLなんだ……?」

 

 俺…寝ぼけてんのか?目をこすってみるが、それはやっぱりある。

 

真言「………………………」スッ

 

 ほんの興味本位で、そのURLに触れようと手を伸ばす。

 

 しかしそれに触れた瞬間──

 

真言「!?ま、眩しい!!!」

 

 辺り一帯を眩しい光が包み込んだかと思うと、ものすごい力で引っ張られる!

 

真言「クソッ!!なんだこれ!!」

 

 マズい…!!引きずりこまれる!!

 

真言「誰かッ!!」

 

 誰も来ない。掴めるものも、何もない……!

 

真言「う、うわぁーーー!!!!!」

 

 そうして俺は謎のURLに引きずりこまれ、何もないはずの空間に消えていった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「………………………う、ここは……?」

 

 目が覚めると、俺は学校の中庭に倒れていた。

 

真言「…………?さっきのは一体…………まさかまた弦巻の野郎……!」

 

 ……いや、あの時中庭にあいつはいなかったし、確か別クラスのやつと昼飯だーって言って出て行ったような……

 

 じゃあ夢?俺って眠り浅いのかな……それともこの前弦巻に実験された、夢を見させる機械の後遺症か?

 

 見上げると空は快晴で、不思議な文字列なんてどこにもなかった。

 

真言「ま、いいか」

 

 そろそろ授業が始まる頃だ。とっととクラスに戻ろう。サボったら紗夜先輩にどやされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「………………え?」

 

 中庭から教室に戻ろうと下駄箱で靴を履き替えようとしたとき、俺は異変に気づいた。

 

真言「俺の上履き……何処行った?」

 

 上履きだけじゃない。俺がいつも靴を入れるところそのものが……

 

真言「ない……」

 

 なんで?新手のイジメか??

 

 それとも壊れて修理中……とかか?

 

真言「……とりあえず教室に行こう。何かわかるかもしれない」

 

 靴を脱いで、靴下のまま教室に向かう。

 

 滑らないよう気をつけねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「教室は……よし、あるな」

 

 とりあえず中に──

 

 ガラガラ

 

真言「有咲!」

有咲「?」

 

 隣クラスから俺の保護し……親友の市ヶ谷 有咲が出てきた。

 

 よかった……別クラスだけどとりあえず知ってる人はいるな。

 

 ……じゃあなんで俺の下駄箱は……やっぱりイジメ?

 

有咲「あの…………」

真言「どうした有咲?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有咲「なんで私の名前知ってるんですか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「…………は……はぁ?」

 

 おいおい……さすがに笑えないぜその冗談は……エイプリルフールネタならこの前やったばっかだろ?(16.参照)

 

真言「……何言ってんだよ有咲」

有咲「いや……まずあなた誰ですか?」

真言「俺だよ!マコ!神代 真言!!」

有咲「……?」

 

 マジ……かよ……

 

真言「覚えて……ないのか……?」

有咲「誰かと勘違いしてるんじゃ……」

 

 そんな……いや、有咲はそういう冗談を言うようなやつじゃない。仮に言ったとしても絶対にどこかでボロが出る。それがわからない俺じゃない。

 

 俺の目の前にいるこいつは……マジで俺を知らないみたいだ。

 

真言「……………………悪い。人違いだった」

有咲「…………………」

 

 ガラガラ

 

真言「…………………………」

 

 クラスに入って確認する。

 

 教室には山吹さんや弦巻がいたが、こちらに気づいても何もなかったようにクラスメートとと話を続けている。

 

 そして俺の席は………………………………なかった。

 

 これは……イジメとかじゃない。そんなちゃちな物じゃ絶対にない。もっと……こう……ヤバイことだ。

 

 まるで、はじめから俺なんか存在してないかのように、俺がいた痕跡が跡形もなく消えている。

 

 俺の席も、無いのが当然の様な雰囲気だったのがなんとなく分かった。

 

真言「どうなってんだ…………?」

 

「おい、もう授業の時間だぞー?早くクラスに戻れよ〜!」

 

 教師から声がかかる。

 

真言「(いや戻れと言われましても)」

 

 教えてくれよ先生、戻るクラスがないときはどうすりゃあいい?

 

 

 

 

 

真言「………………」ダッ!!!

「あ、おい君!」

 

 教室には入らず、そのまま外へ向かって走り出す。

 

真言「(とりあえず家だ……!家に行こう!!)」

 

 俺はこの日授業をバックレた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「…………………………」アゼン

 

 開いた口が塞がらないとはきっとこういう時に使う言葉なんだろう。

 

真言「俺んち…………無いんですけど」

 

 自宅、消失。

 

 俺の家があったところはなんと空き地になっていた。

 

真言「おいおいおい……これは流石に…………」

 

 おかしすぎる。これじゃあ本当に俺の存在が…………

 

真言「どうしよう……」

 

 ホントにどうしよう。帰る家がなくなってしまった…………

 

 やっぱりあの変なURLのせいなのか?それしか考えられないが、じゃああれは一体何なんだ?

 

 自分の存在が消えるURL?でも俺はここにいるし記憶もちゃんとある。有咲も弦巻もいたし、また悪夢でしたなんてオチはないだろう。

 

 URLだからやっぱりどっかに飛ばされるんだよな、何かのサイトとか。

 

 …………あれは何に飛ばされるURLだったんだ?

 

真言「…………別世界……とか?」

 

 パラレルワールド的な………………いやいや、そんなファンタジーな……

 

 ………………でも。

 

真言「とにかく今は寝れるところを探そう」

 

 気づけばもう日が暮れ始めている。少し考え込みすぎたか。

 

 家のない今の俺には雨風をしのげるところが必要だ。野宿になってしまうがこの際仕方ない。また後でたくさん考えよう。

 

 …………俺の適応力すごくない?自分でも軽くビビってるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「!?」

 

 なんだ今の叫び声!?やっぱりここはヤバイ異世界なのか!?

 

真言「あっちか!!」ダッ

 

 とりあえず叫び声が聞こえたほうへ走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「おい!」

「た、助けてくださいぃぃぃ!!」ガバッ!!!

真言「!?あんた大丈夫か!何があった!!」

 

 俺に飛びついてきたのは黒髪短髪の青年。俺と同い年くらいか……?てか若干目が死んでる気がするけど気のせい?

 

 いやでもこの様子……絶対ただ事じゃない……!

 

 俺の中の第六感がエマージェンシーサインを発令している!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、今!ハイライトの消えた幼馴染に追われてるんです!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「………………は?」

 

 俺の中の第六感が言う。

 

「これ絶対面倒くさいやつだ」と…………

 

「あとさっきのエマージェンシーなしね」と…………

 

 え、なに?"ハイライトの消えた幼馴染に追われてる"?それ俺にどうしろと?

 

「あなた……どっかで会ったことありましたっけ……?」

真言「あ"?」

「ひっ……この際誰でもいいです!とにかく助けてください!!」

 

 いや助けてと言われても……

 

 俺、ここに来る前かなりの田舎に住んでてて、幼馴染なんて呼べる人はいなかったけど、幼馴染ってそんな簡単にハイライト消失する物なの?

 

真言「まあいいや、とにかくその追ってくるあんたの幼馴染を説得すればいいんだな?」

「は、はい!よろしくおねがいします!!」

 

 よろしくおねがいされちまったよ……仕方ないか……

 

真言「……まあ心配すんな。たとえあんたの幼馴染が身長2m超のゴリゴリのゴリラみたいなやつでも負ける気はしねぇ……あ、でも暴力はなしだから。そこんとこよろしく」

「?……まあ俺の幼馴染はそんなモンスターみたいな子じゃないので──」

 

「むっくん〜?」

 

 曲がり角の先から女の声が聞こえる。そいつがこの人の幼馴染か?ってかこの声………………

 

「そ、そこの曲がり角にいます……!!」

真言「…………………まさか」

 

 曲がり角から出てきたのは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「……り、燐子先輩…………!?」

 

 目のハイライトが消えた…………俺の恩人だった。

 

 なんでここに燐子先輩が……てか燐子先輩に幼馴染!?そんな話聞いたことねぇぞ!?

 

燐子「…………?むっくん……この人知り合い……?」

 

 むっくん!!!!????

 

「いや……さっきそこで会ったんだけど……燐子のこと知ってるんですか?」

 

 下の名前呼び捨て!!!!????

 

 待って待って待って!?燐子先輩に幼馴染!?むっくん!?ハイライト消えた!?追いかけられてる!?あんた誰!?

 

真言「!?!???!!!????!??!??????!??!!?!!!????!!!??!??!!?!!??!??!!?!!??!!???!!!!!????!??!」プシュー

 

燐子「あ…………!」

「ちょ、君!」ガシッ

燐子「倒れちゃった…………どうするの……?」

「どうするって……このままにしておく訳には行かないし、とりあえず家に連れていくよ」

燐子「そうだね…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「う、うーん……」ハッ

 

 こ、ここは?えっと俺は確か道で倒れて……

 

燐子「大丈夫……ですか……?」

真言「!」

 

 燐子先輩!!

 

「目が覚めたみたいだね」

真言「あんた……!」

 

 さっきの……燐子先輩の幼馴染?

 

真言「ここは?」

「俺の家」

 

 そうだ。家に帰ろうとしたら家なくて、俺はこの人に助けを求められて、そしたら燐子先輩が出てきて?

 

真言「????????」

燐子「お、落ち着いてください…………」

「(ハテナマークが大量発生してる)」

 

真言「と、とりあえずありがとう。倒れた俺をここまで運んできてくれたんだろ?」

「目の前に困っている人がいたら放っておけない性分なんでね」キラン

燐子「なに言ってるの……むっくん」

 

 …………………………何だこいつ。

 

真言「俺は神代 真言、あんたは?」

睦月「俺の名前は月城 睦月(つきしろ むつき)。よろしく」

 

 つきしろむつき……やっぱり聞いたことない。

 

睦月「そんでこっちが──」

真言「知ってる。白金 燐子」

燐子「!なんで……知ってるの……?」

 

 やっぱり有咲と一緒だ。俺のことを覚えていない……

 

 今確信した。

 

 ここは俺のいた世界じゃない。

 

 あのURLは何かのサイトに飛ぶようなものじゃない。あれは……別世界に飛ぶURLだったんだ……

 

真言「嘘だろ……」

睦月「君、燐子の友達なの?」

真言「友達っていうか……俺、後輩なんだけど……」

燐子「……後輩……?」

睦月「後輩ってことは俺らの一個下か?」

 

 あんた先輩なの!?

 

燐子「でも……わたし、この子のこと知らないよ……?」

睦月「…………君が着てる服、花咲川の制服だよな?」

真言「え、ええ……」

 

 午後の授業バックレてきたから制服のまんま……てかこれ以外の服、自宅と共に全て消滅しました。

 

睦月「うーん、一個下の事なんて全然知らないしな……」

燐子「………………」

睦月「君、本当に燐子の後輩?」

 

 ………………まあ、当然の疑問だよな。

 

 自分の幼馴染の後輩を名乗るやつが突然現れて、しかも当の幼馴染本人は全く知らないときた。もう怪しさマックス。もし俺がこの人の立場なら即刻ぶっ飛ばしてるところだ。

 

真言「……………俺は、」

 

 それでも俺は。

 

真言「燐子先輩の後輩です」

 

 それだけは、絶対に譲れない。

 

睦月「…………嘘をついてるようには……見えないよな」

燐子「……うん……そうだね…………」

睦月「でも燐子は知らないんだろ?」

燐子「うん…………人違い……じゃないんですか……?」

真言「……それなんですけど、実は──」

 

 言うかどうか少し迷ったが、俺はここに来る前の出来事、空に浮かぶ謎のURLのこと、俺は別世界から来た人間だということ、その世界では俺は燐子先輩の後輩だということを二人に伝えることにした。

 

睦月「………………………」

燐子「………………………」

真言「──って事なんですけど……」

 

 まあ、信じてもらえるわけないか……

 

燐子「…………信じられない……ね…」

睦月「ああ」

真言「…………………」

 

 やっぱり……

 

燐子「でも……嘘はついてない気がする……なんとなくだけど……」

睦月「だよな。俺もそう思う」

真言「……!」

 

 

 

 

 

睦月「ま、とりあえずは信じてみることにするか!」

燐子「……そう……だね……」

真言「ありがとう……ございます」

睦月「で、君これからどうすんの?もう夜だけど」

 

 窓から外を見てみると、完全に日が沈んでいた。

 

真言「……俺の家、この世界だと空き地になってたんですよ……だからまずは寝れるとこを探さないと」

睦月「?だったらうちに泊まってけよ」

真言「!」

燐子「!」

睦月「こうやって会えたのもなにかの縁ってことでさ」

真言「いや、でも、見ず知らずの俺なんかを……親とかは……」

睦月「おし!じゃあこっちついて来い!」グイッ

真言「え、ちょ」

 

 月城さんに腕を引っ張られ、下の階へ連れていかれる。

 

睦月「母さん、今日こいつ泊まることになったから」

真言「!?」

 

 そんな急な話許してくれるわけが……

 

「君、名前は?」

真言「か、神代 真言です」

「真言くんね。このバカの相手は疲れると思うけど、自分の家だと思ってゆっくりしていってね」

 

 ほらやっぱり……ん?

 

真言「い、いいんですか!?」

「?うん。だって君、いい子そうだから」

 

 生まれて初めて言われた。

 

睦月「おし!じゃあそういうことで!戻るぞ!」グイッ

真言「つ、月城さん!」

睦月「睦月でいいよ。俺も君のこと真言って呼ぶからさ。それより聞かせてよ、真言の世界にいる燐子のこと!」

 

 いやまあそれはいいんだけど…

 

真言「だから引っ張らないでくださぁぁあああ!!!」

 

 ズルッ

 

睦月「あ」

真言「は?」

 

 グラリと世界が反転する。

 

 ふむ……なるほど。この感じはどうやら……………………階段を踏み外したな。

 

睦月「うわああああああああああ!!!!!」

真言「ギャアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 人を引っ張りながら階段を走るのはとても危ないので絶対にやめましょう。




──to be continued.


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23.先輩と幼馴染

本当なら一話完結の予定でしたがまあまあ長くなったので二話目です。

さて無事真言くんは元の世界に帰れるのでしょうか!?そして睦月くんと仲良くやれてるのでしょうか!?燐子先輩の取り合いとかないよね!!??

なんと★10評価をまたまた頂きました!

★10 うじまっちゃ 様 ありがとうございます!

お気に入り登録 うじまっちゃ 様 狂花水月 様 栗おこわ 様ありがとうございます。

それでは本編、どうぞ。



燐子「真言くんはさ……」

真言「はい?」

燐子「別世界ってあると思う……?」

真言「別世界……ですか?」

燐子「そう、私達の住んでいるこの世界と似ている……けれど少し違う世界。パラレルワールドって言ったほうが分かりやすいかな……?」

 

 なんでまた急に…………

 

真言「あ、師匠ですね」

燐子「うん……」

 

 やっぱり。Roseliaでこういうことを言い出すのは師匠くらいだろ。

 

 師匠のことだ。きっと自分やRoseliaの皆がその別世界ではどんな感じなのか気になったのだろう。特に意味はない。

 

真言「そうですね……あるんじゃないですか?」

 

 完全に勘だが、そんな気がする。そのほうがなんか面白そうだ。

 

燐子「じゃあその別世界の真言くんはどんな風になってると思う……?」

真言「俺ですか?うーん……」

 

 "別世界の俺"か。

 

真言「なんか……今と変わらず生きている気がします」

燐子「ふふっ……そうだね……」

 

 別世界の俺は果たして燐子先輩に出会えているのだろうか。

 

 もし出会えていなかったとしたら…………

 

燐子「あこちゃんはね──」

 

あこ『まっくんはね〜やっぱりこう"魔王"!とか、"闇の帝王"!とかだと思うな〜』

 

燐子「──って」

 

 俺は……まあ正義のヒーローっぽくはないよな。かといって魔王もな……

 

 ……とりあえず魔王の座は師匠に譲るとしよう。

 

真言「じゃあ別世界の燐子先輩はどんな感じだと思いますか?」

燐子「わ、わたし?」

 

燐子「…………………わたしも、今みたいになってたい……かな……?Roseliaがあって……皆がいて……」

真言「それが一番いいですね」

燐子「あ…ちなみにあこちゃんは」

真言「俺もなんとなく分かりますよ」

 

 きっとこういうとき師匠なら……

 

あこ『りんりんはね〜ぜったい!──』

 

真言・燐子「「──ウィザード!」」

 

真言「やっぱり」

燐子「ふふっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

睦月「おっす真言、よく眠れたか?」

真言「………………ああ」

睦月「そりゃあいい。朝飯できてるからそこにある服に着替えて早く下降りてこいよ」

 

 ここは月城家二階、睦月の部屋だ。

 

 俺は昨日、なんやかんやで別世界に飛ばされ、なんやかんやでこっちの世界の燐子先輩と幼馴染の彼、月城 睦月と出会い、なんやかんやで家がなくなってた俺を泊めてくれたという……要するになんやかんやで今にいたる。

 

 なんやかんやが多いと思った人は前の話を見てくれ。

 

 どうやらこの世界には"神代 真言"という人間はおらず、俺の住んでいる家もなければ、燐子先輩も有咲も俺のことは全く覚えてないそうだ。

 

 昨日の夜、睦月といろいろ話したのだが彼が言うに、

 

睦月「別世界とはいえ真言は燐子の後輩なんだろ?なら幼馴染の俺も、真言が元の世界に帰れる協力をしなきゃな」

真言「手伝ってくれるのか…?」

睦月「おお、俺に出来ることなんてたかが知れてるけどな」

真言「あんた……いい人すぎないか!?」

 

 どこの世界でも燐子先輩の周りにいる人達はいい人ばかりのようだ。

 

 とにかく着替えて下に降りよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「おはようございます……」

「おはようーよく寝れた?」

真言「あ、はい。ありがとうございました」

 

 この人は睦月のお母さん。なんかめっちゃ俺に良くしてくれる。

 

「君は(睦月と違って)素直ないい子だね。ホントに」

睦月「今何かが省略されたような気がする」

「あんたはただ頭おかしいだけでしょ」

睦月「やっぱり省略して!!もっとオブラートに包んで!?」

 

 睦月は両親とお姉さんと四人暮らしだそうだ。賑やかな家庭…………懐かしいな……今度実家のじいちゃん達に電話でもするか…………

 

 そのためにも元の世界に帰らなければ。

 

「真言くんもこんなやつが先輩で苦労してるんじゃないの?」

「確かに。大変そうだね」

真言「いやいやそんな……」

 

 …………扱い酷えな睦月。そんな目でこっち見んな。

 

 朝飯も食べ終わり、一応今日も平日なので制服に着替え、睦月と燐子先輩と一緒に学校へ行くことにした。

 

睦月「それで?どうすんの?」

真言「うーん……とりあえず花咲川に会いたい人がいるんだけど……多分俺のことは覚えてないんだろうな…………はぁ……」

燐子「と、とりあえず会うだけあってみましょう……神代さん……」

 

 "神代さん"……ね。

 

真言「はぁ……」

燐子「?」

真言「そうですね。とりあえず行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

睦月「んじゃ、俺達授業あるから」

真言「ん、その辺ブラブラしとくわ」

睦月「先生に見つかるなよ」

 

 仮に見つかったとしても逃げ切れる自信がある。

 

真言「ああ、睦月、さっきのなんだけど……」

睦月「分かってる。授業終わったあと、集合してからな」

真言「了解。ありがとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「さて……これからどうするか……」

 

 中庭にあった謎のURLは、やっぱり跡形もなく消えていた。

 

 他にも学校内を探索してみたが、俺のいた痕跡は一つもなかった。

 

真言「とりあえずあの人に会って……多分手がかりは得られないと思うけど」

 

 それでも一度会っておきたい。

 

 というかここはホントに何なんだ?別世界とか、そんなポンポン行けるところなわけないじゃん?

 

 仮にここが別世界だとして、燐子先輩や有咲もいるのになんで俺だけいないんだ……?

 

 それにあの月城 睦月という男……考えれば考えるほど分からなくなってくる。

 

真言「やべっ!」サッ

「?今誰かそこにいたような……」

 

 くそ……教師からコソコソ逃げまわらなきゃならないなんて……

 

 この高校には"神代 真言"がいないので、今の俺は不審者と同じ扱いなのだ。なので教師に見つかるといろいろ面倒くさいことになる。

 

燐子「神代さん……?」

真言「っ!!!!!!」バッ

 

 なんだ……燐子先輩か……

 

真言「急に後ろから喋りかけないでくださいよ……」

燐子「ご、ごめんなさい…………」

睦月「悪い悪い。真言が予想以上に怪しかったからちょっと燐子にビビらせようと思ったんだよ」

 

 あんたの差し金か……

 

睦月「もう放課後だしそろそろ行くぞ」

真言「そんな時間になってたのか……」

 

 教師とのかくれんぼでいい感じに時間を潰せたようだ。

 

睦月「アポはもうとってある。いざ!生徒会室へ!」

 

 目指すは花咲川生徒会。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が生徒会室に行ってまで会いたい人なんて、燐子先輩を除けば一人だけだ。

 

真言「………………」ジッ

紗夜「………………?」

睦月「あー……紗夜?こいつは神代 真言くん。俺の後輩なんだけどいろいろあってクラス名簿を見せて欲しいらしいんだ」

 

 説明どうもありがとうございます。

 

紗夜「……よくわかりませんが、それなら私が会う必要はないのでは?」

睦月「……確かに」

 

 おい。確かにって言っちゃったよ。

 

真言「始めまして。神代 真言です」ペコ

 

 多分"始めまして"だよな。まだちょっと落ち込んでいる自分がいる。

 

紗夜「氷川 紗夜です。始めまして…?」

真言「?」

 

 

 

 

 

紗夜「…………あなた……以前どこかでお会いましたっけ?」

 

 

 

 

 

真言「!?」

睦月「それって……!」

紗夜「いえ、何となくだけれどそんな気がしたというだけで…………どうかしたんですか?」

睦月「真言……」チラ

紗夜「月城さん?」

 

 どういうことだ……?

 

 俺とどこかで会ったような気がした?当たり前だ。俺のもといた世界じゃ毎日のように会っている。燐子先輩に会いに行けば、生徒会なりRoseliaなり、ほとんどの確率で側にいる人だ。

 

 燐子先輩を除けばRoseliaの中で一番俺といた時間が長い。いや、もしかしたら燐子先輩よりも……

 

 でもここは別世界。誰も俺のことを覚えておらず、俺の家も跡形もなく消え、そして神代 真言という人間はこの世界のどこにも存在していない。

 

 

 

 

 

 ……その認識が間違っていたのか?

 

 この世界にも俺という人間はいて、そしてどこかのタイミングで紗夜先輩と会っていた…………なのに有咲や燐子先輩には会っていない?

 

 考えれば考えるほどおかしな点が浮かんでくる。

 

真言「………………」

紗夜「……クラス名簿でしたよね?何に使うかだけ教えてもらっても?」

睦月「それは……」

真言「俺の……」

紗夜「?」

 

真言「俺の名前を……探したいんです」

紗夜「…………はい?」

 

 いや待てよ……おかしな点?……………………違う。

 

 もしも……もしも俺の予想が当たってるなら…………

 

燐子「あの……これ神代さんのクラス名簿です……」

真言「……紗夜先輩」

紗夜「どうかしましたか?」

真言「そこに置いてあるハンカチ……あなたのですよね?」

紗夜「え?ええ……よくわかりましたね。けどそれがどうかしたんですか?」

 

 机の上のハンカチ。シンプルなデザインに花の刺繍が入っている。

 

 ()()()()()()()()()()()()の刺繍が入ったハンカチ。

 

真言「それ、誰からの贈り物ですか…?」

紗夜「そうですけど……」

真言「……誰からのですか?」

紗夜「それは…………………………………………………?」

 

 俺はこれを見たことがある……いや、贈ったことがある。

 

紗夜「あ……あれ……私…………」

 

 やっぱり。

 

真言「…………………」ペラ

 

 2年B組 10番 逾樔サ」逵溯ィ?

 

 2年B組 10番 神代 真言

 

紗夜「そうよ……これは…このハンカチは確か……いやでも……なぜ……?」

 

睦月「お、おい真言。これどうなって……」

真言「干渉しているんだ」

睦月「は?」

 

 おかしな点があるとかいう話ではない……

 

 

 

 

 

 俺が、そのおかしな点そのものなのだ。

 

 

 

 

 

 おそらく俺がこの世界に来たことで何らかのエラーが起きた。

 

 俺がいろんな人に干渉したことで起こったエラーはこの世界を歪め、いびつな形へと変化させてしまっている。

 

 それはまるで俺が元いた世界のように。

 

 もともといなかったはずの神代 真言という人間がこの世界にいることによって、周囲の人に悪影響を及ぼしている。

 

 このままだと……

 

真言「絶対にまずい……」

 

 変わってしまう。世界が。

 

 月城 睦月と白金 燐子の世界(ものがたり)から、俺の世界(ものがたり)に。

 

燐子「ま……真言くん…………?」

睦月「あれ、燐子なんか呼び方変わってない?」

真言「…………………」

 

 だんだんとあちらこちらで影響が出始めてきている。

 

睦月「おい真言!俺にもわかるように説明s──」

真言「ああ、今からするか……ら?」

 

 

 

 

 

真言「む…睦月?お前…………」

 

 

 

 

 

睦月「……………な、」

 

 

睦月「なんじゃこりゃぁぁぁあああああ!!!!!」

 

 睦月の身体が……

 

燐子「む、むっくん!身体が……!」

紗夜「は、半透明になってますよ!?」

真言「存在が消えかかってる……」

 

睦月・燐子・紗夜「「「え!?」」」

 

 俺のいた世界に睦月はいなかった…………

 

真言「もし……この世界が俺のいた世界に近づいているのだとしたら」

 

真言「……睦月の存在がだんだんと消えていくはずです。俺のいた世界に彼はいませんでしたから」

燐子「そ、そんな……!!」

紗夜「どういうことですか!?」

睦月「真言!!」

 

 ああクソッ!なんでこういつもいつも俺の周りで面倒事が起こるかなあ!別世界でももう少しゆっくりさせてくれよ!!!

 

真言「と、とにかく!俺が元の世界に戻れば全部解決すると思います!」

紗夜「元の世界?」

燐子「わかった……ならむっくんが消えちゃう前に急いでなんとかしなきゃ……」

紗夜「すみません、私まだ全然わかってないんですが……」

睦月「こいつを!家に!返せばいいの!!オッケー!!??」

紗夜「わ、わかりました……」

 

 どうすれば帰れる……一体どうすれば…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 解決方法は思ったより早く見つかった。

 

真言「…………これしかない……か」

睦月「何か方法があるのか!?」

真言「……わからない。けど多分…これしかない」ガタッ

紗夜「神代さん、どこへ?」

真言「俺のクラスに」

燐子「クラス…?」

 

 ある日突然別世界に飛ばされるというこれ以上ないくらい理不尽な展開。

 

 これを打開するにはこれを超える、さらに理不尽な力でねじ伏せるしかない。

 

真言「別世界でも貸した借りはキッチリ返してもらうぜ」

 

 もう時間がない。この際手段なんか選んでられるかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「──という事で俺を元の世界に戻してくれ。弦巻」

こころ「?よくわからないけど、わかったわ!」

睦月「ええ……」

 

 チート 花咲川の異空間。

 

 こいつの脈絡のない、まさに異次元とも呼べる力で、この理不尽な現象を全部むちゃくちゃにできる。

 

 なるべく使いたくはなかった手だが、俺を助けてくれた睦月が、別世界とはいえ俺の恩人の幼馴染が消えかかってるんだ。チートだろうとなんだろうと使えるもんは全部使ってやる。

 

こころ「事情はなんとなくわかったわ!任せてちょうだい!」

紗夜「……はじめから私達ではなく、弦巻さんに助けを求めればよかったのでは?」

 

 …………………それを言ったらおしまいです。

 

燐子「むっくんは……大丈夫なの……?」

真言「なるべく急いでくれ。あまり時間がないんだ」

睦月「だんだんと透明度が増しているような……」

 

 弦巻と接触するということは、それだけこの世界の人と関わり、この世界を歪めてしまうということ。

 

真言「(弦巻なら多分俺を元の世界へ帰せる……けど……)」

 

 睦月はどうだ?

 

 元の世界へ帰れるときまで、この世界は睦月達の世界のままなのか?

 

 もし間に合わなかったら……

 

真言「燐子先輩」

燐子「……?」

真言「睦月の手を……握っててください」

燐子「……わかった」ギュッ

 

 もう……俺には祈ることしかできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子「真言くんは……行きたい?別世界」

真言「そうですね…………」

 

 どんな世界であれ、そこにあなたがいてさえくれれば、俺はきっとどんなことでもできる。

 

 ……でもまあ

 

真言「行きたくないですね」

 

 あなたと出会えたのはきっと奇跡だから。

 

 俺はこの奇跡を手放したくはない。

 

燐子「そっか……」ニコ

真言「…………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、どんな世界でも燐子先輩さえいてくれれば良いと思ってた。

 

 けど違った。

 

 この世界にも白金 燐子はいる。

 

 でも俺は…………

 

 今すぐ燐子先輩(あなた)に会いたい。

 

 会って話したい。

 

 別世界の燐子先輩には仲のいい幼馴染がいた事。やっぱり先輩は今と変わらなかったこと。

 

 俺の別世界での冒険譚を。

 

 優しく微笑むあなたに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こころ「できたわ!真言の話を参考に作った別世界へ行く装置よ!」

 

 もう何でもありだ。その気になればこいつ、5分くらいで世界を支配できそうなんだけど。

 

 弦巻が作った機械からは、あのURLに触れたときに出たのと同じ光が出ていた。

 

真言「睦月……まだいるよな……?」

睦月「ああ。ちゃんといるよ」

 

 後ろから声が聞こえるが怖くて振り返れない。

 

 一体睦月は今どんな状況なのだろうか。

 

真言「なあ睦月」

睦月「どうした?」

 

真言「俺……向こうの燐子先輩と約束したんだよ。命より大事な約束だ」

睦月「………………」

 

真言「それを果たしに、帰るよ。俺の世界に」

睦月「……そっか。寂しくなるよ」

 

 結局、何で俺がここに来たのかはわからずじまいだった。

 

 別世界の燐子先輩と出会って、俺は何かわかったのかな?

 

真言「…………………………………………………そうか」

睦月「?」

 

真言「睦月」フリカエリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「燐子先輩を大切にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

睦月「…………ああ」

 

 身体が消えかかってはいるが、それでも、しっかりと先輩の手を握っている睦月。

 

 そうだ。多分俺はこれを伝えるためにこの世界に来たんだ。

 

睦月「真言も」

真言「?」

 

睦月「向こうの燐子をよろしくな」

 

真言「…………当然」

 

 何を今更。俺は燐子先輩に救われたんだぜ?

 

 そんなこと、言われるまでもない。

 

真言「じゃあな睦月」

睦月「おお。またな真言」

 

 またな?

 

真言「多分二度と来ねぇよ」ハハッ

 

 そう言って俺は白い光の中に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「──ん、んん…………」

 

 ここは…………学校の中庭か?

 

 帰ってきた……?

 

「おい」

真言「?」

 

 起き上がって声が聞こえたほうを確認する。

 

有咲「マコお前こんなとこにいたのかよ。授業もう始まんぞ」

真言「あ、有咲……なのか?」

有咲「……?それ以外の誰に見える?」

 

 俺のことを『マコ』と呼ぶ有咲……それにこの感じ……

 

真言「帰ってきたぁ……………………」バサッ

有咲「あ、おい!寝るな!」

 

 流石、花咲川の異空間。ちゃんと俺は元の世界に帰ってこれたみたいだ。

 

 しかも俺があのURLを見つける前の時間に戻ってる。

 

真言「そうだ!」ガバッ!

有咲「!?」

 

 あのURL!あれは…………

 

真言「無い……な」

 

 空を見上げてみるが、雲一つない晴天が広がっているだけだった。

 

 結局……あれは何だったんだ?

 

真言「ま、もういっか」

 

 とりあえず帰ってこれたみたいだし、結果オーライ。

 

こころ「真言!」ピョコ

真言「……!何だお前か……」

有咲「ほら、教室行くぞ」

 

真言「………………弦巻」

こころ「どうしたの?」

 

 

 

 

 

真言「……………これで貸し借りはなしってことにしてやる」

 

 

 

 

 

有咲・こころ「「?????」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜その後〜〜

 

 元の世界に戻ってきた真言。そんな彼がやることは一つ。

 

 生徒会室にいる自らの先輩に会うこと。誰でもない、自分が恩人と呼んでいる先輩に。

 

 

 

 

 

真言「………………」

燐子「……………あ、あの……真言くん……?」

真言「………………」

燐子「近くない……?」

真言「そんなことないです」

燐子「…………そう、かな……?」

 

 

 

 

 

紗夜「なんか今日はいつもより、甘えている?のでしょうか?ずっと白金さんの至近距離に張り付いているんですが」

有咲「さあ…………」

 

 その日一日、真言の燐子への距離感はバグったままだった。

 

燐子「(近い…………///)」




……なんか睦月くん消えかかってましたね。

あとオチが中々決まらなかったので最終兵器(こころ)を使わせていただきました。

……なんかいろいろごめんなさい。

最後にコラボしてくれたrain/虹くん!本当にありがとうございました!これからもよろしく!!





あ、私はコラボいつでも大歓迎なので真言くんで良ければどうぞ使ってやってください。一言声をかけていただけると嬉しくなって見に行きます。


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24.クラッシャー真言

どうも。

ついにお気に入り登録が100を超えました!!皆さん本当にありがとうございます!!!

というわけでお気に入り100記念作の案をアンケートにしました!ぜひポチッとしてやってください!

またまたたくさんの評価をいただきました!ありがとうございます!

★10 霧塚 蓮斗 様 ケ丸 様
★5 うさみみハントレス 様
★3 マメ猫 様 ありがとうございます!精進していきます。

お気に入り登録 デイヤー大佐 様 Ray4 様 エネゴリくん 様 shia-aria 様 幡山桜 様 FAKER 様 暇人ゲーマー 様SEIYUの店長 様 コウ38 様 ロミボ 様 ほーか 様 ペルセウス 様 放課後恩那組 様 ありがとうございます。

今回は短めです。それではどうぞ。



モカ「ねえマコくん」

真言「どうしましたセンパイ」

 

 ここはバイト先のコンビニ。今日も今日とてお客が少ないのでセンパイとだべっております。

 

 …………なんか俺のシフトの時間だけ人通り異常に少なくない?まあ俺は別にいいけどさ……センパイと話すくらいしかやることないんだよなぁ……

 

モカ「マコくんは楽器とかやらないの?」

真言「楽器……ですか?」

モカ「うん、楽器」

 

 唐突だな……

 

モカ「ほら、マコくんいつもRoseliaの練習に付き添ってるじゃん?あれって何かの勉強のために行ってるんじゃないの?」

真言「いや、別にそういうわけじゃないんですけど」

モカ「ん?」

真言「……昔、燐子先輩に誘われたんですよ。一回でいいから聞きに来ないかーって。それで……まあ……」

モカ「はは〜ん?Roselia沼にハマってしまったわけですな〜?」

 

 ……まあ、そんなところだ。まったく、勘がいいセンパイはそんなに嫌いではないけれども。

 

真言「なので、別に俺が楽器を弾くわけではないです」

モカ「ふ〜ん?」ジーッ

真言「…………なんですかその目は」

 

 なんか俺疑われてる?いや嘘じゃないんだけど……

 

モカ「マコくん、なんか隠してるでしょー」

真言「………………」

 

 

 

 

 

モカ「さては君、楽器弾けないね〜?」

 

 

 

 

 

真言「………………ギクッ」

モカ「今自分で"ギクッ"って言ったね」

 

 本当にこの人勘が良すぎるだろ……

 

真言「ええそうですよ、俺は楽器弾けません!それが何か!?」

モカ「おお〜逆ギレだー」

真言「俺の最終楽器歴はリコーダーです」ドヤッ

モカ「そこはドヤることじゃないよ〜?」

 

 確かにRoseliaの演奏を聞いて、俺もやってみたいとは思ったことはある。でも……

 

モカ「おや〜?その顔は何かあった顔だね〜。ほらほらーセンパイに話しちゃいなよ〜」

真言「実はですね……」

 

 あれは俺がRoseliaの皆と出会って少し経った頃の事だった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「〜♪」

真言「ベース……カッコいいですね」

リサ「マコくんも引いてみる?」

真言「え、いや、俺は……」

あこ「いいじゃん!弾かせてもらいなよ!」

リサ「弾き方はアタシが教えてあげるからさ!ね?」

真言「………………わかりました」

 

 

 

 

 

リサ「ここをこう持って……そうそう!いい感じだよ☆」

真言「こう……ですか?」

あこ「まっくん似合ってるよ!」

真言「………………」チラ

燐子「か、かっこいいよ……」

真言「………………」パァァ!

 

友希那「わかりやすいわね」

紗夜「ええ……」

 

真言「あの……これどうやって弾けば……」

リサ「あ、えーとねまずは……」

 

 燐子にかっこいいと言われ一気にやる気になった真言。だが、事件はこのあと起きた。

 

リサ「よし!あとは教えた通り、まずは音を出してみよっか♪」

真言「わかりました…………いきます」

友希那「お手並み拝見といきましょうか」

紗夜「(神代さん……一体どんな演奏を……)」

 

真言「………………」スッ…

 

 

 

 

 

 シーン……

 

 

 

 

 

あこ「……………あれ?」

燐子「音が……鳴りませんね……」

リサ「マコくん、もう少し強く弾いてもいいんだよ?」

真言「……強く…………わかりました」

友希那「紗夜、嫌な予感がするのだけれど」ボソボソ

紗夜「私もです湊さん」ボソボソ

 

真言「じゃあ……いきます!」

紗夜「神代さん、あまり力を入れすぎr──」

 

真言「っらあああああ!!!」

 

 

 

 

 

 バチンッ!!!!!!

 

 

 

 

 

真言「あ」

リサ「あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「──ってことがありましてね……」

モカ「あー……」

真言「しかも一番太いのを指でぶち切ったんで皆ドン引きでしたよ」

モカ「これは流石のモカちゃんでも引くわー…………というかどんだけ強い力で弾いたの」

真言「いやー……」

 

 弦の弁償代でバイトの給料飛んでったなぁ……懐かしい……

 

 この事件以降Roseliaの皆は俺に一切楽器を触らせてくれなくなった。

 

 師匠や燐子先輩でさえ、無言で楽器を俺からガードしてくる始末だ。よく出禁にならなかったよ。

 

真言「紗夜先輩なんて「私にはギターしかないの!」とか言ってましたねー」

モカ「よくわかんないけど、多分それはそこで使うセリフじゃないってことだけはわかるよ」

 

真言「まあそんな訳で俺は楽器を弾きませんし弾けません」

モカ「ふ〜ん…」

真言「力加減が難しいんですよ」

モカ「……憧れのRoseliaといつか同じ舞台に〜とか思ったりしないの?」

真言「…?どうしてですか?」

モカ「………………」

 

 Roseliaと同じ舞台に?ないない。というか、俺には無理だ。

 

真言「憧れっていうのは、自分には絶対に成れないものに抱くんですよ」

モカ「そっか……」

 

 …………でも楽器か……

 

真言「弾けたらカッコいいだろうなぁ…………」

モカ「ふっふーでしょ〜?」

真言「ギターとか……いいですよねぇ……」

モカ「お!よく分かってるね〜」

 

 でも多分……一瞬で弦ぶち切るよな…………

 

真言「はぁ……」

モカ「うーん……マコくんの馬鹿力でも演奏できるものか……」

真言「馬鹿力って……」

 

 

 

 

 

モカ「ドラムは?マコくんのパワーが活かせるんじゃない?」

真言「すぐスティックが折れますね」

モカ「……キーボードとか?」

真言「燐子先輩にきっと向いてないって言われました……」

モカ「…………DJ?」

真言「それ楽器なんですか?」

 

 DJ?あの……こうキュッキュッってやるやつ?

 

モカ「ハロハピのミッシェルとかがやってるやつだよー」

真言「?」

 

 ミッシェル?確かヨーロッパにそんな名前の城があったような……

 

 センパイ、外国人の友達がいるのか?…………センパイなら有り得そう。

 

モカ「ああ、ミッシェルって美咲ちんのことね」

真言「???」

 

 ミサキ?前にどっかで…………誰だっけ?

 

モカ「……マコくん、燐子さん以外に興味なさすぎー」

真言「それは………………すみません」

モカ「もっと他の人にも興味持ちなよ〜」

真言「………………努力します」

 

モカ「まあいいや。それよりDJもダメとなると、残ってるのは………………」

真言「……………ボーカル」

モカ「になるね〜」

 

 ボーカル…………か。確かに歌うのは好きだし、楽器が弾けない俺がやれるのってそれくらいだけど……

 

真言「……正直、身近にメチャクチャすごいボーカルが居るせいで、自分があの人と同じことをしているのが想像つきません」

モカ「あーだろうね〜」

 

 湊 友希那。彼女の歌唱力は他者とは一線を画している。Roseliaを結成する前、様々なところからスカウトが来たと聞くがそれも当然だろう。…………今は"Roselia"としてスカウトが来ているらしいが。

 

 語彙力を捨てて、感情で感想を言ってもいいなら「湊さんマジヤベェ」となる。

 

 そうなるくらい、あの人は圧倒的なのだ。

 

 …………俺、よくあんな人と知り合えたな。

 

真言「てか俺がボーカルをやることなんて絶対にないですよ」

モカ「ホントかな〜?」

 

 なぜか意味ありげに笑うセンパイ。

 

モカ「この世に"絶対"なんてことはないんだよ〜マコくん」

真言「なんすかそれ」

モカ「センパイからのありがた〜いお言葉だよ〜」

 

 "絶対"なんてことはない……か。

 

真言「肝に銘じておきますよセンパイ」

 

 

 

 

 

 テテテテテテー↑テテテテテテー↓

 

真言「しゃーせー」

モカ「しゃーせー」

 

 

 

 

 

リサ「二人とも…………やる気なくない?」




ということでアンケートばーん!


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25.〇〇しないと出られない部屋!!

どうも。砂糖です。

お気に入り登録 ガチャピン! 様 Oriens 様 ありがとうございます。

皆様アンケートに回答していただきありがとうございました!!

アンケートの結果は……ブッちぎりで「真言とRoseliaのイチャイチャ」に決定でーす!!

…………すみません……お気に入り100記念回……もうちょっと待ってもらえませんかね………………ゴールデンウィークの最後ぐらいに完成すると思うんで……とりあえずイチャイチャの準備運動(?)としてこちらをどうぞ。




 平和だ。

 

 今日はRoseliaの練習も燐子先輩達にも合う予定はない。が、俺はこういう風に何もせず、家でまったりとしているのも好きだ。

 

 何しろ最近は、悪夢見せられたり、謎の質問に無理やり答えさせられたり、別世界に飛ばされたりと、かな〜り忙しかった。

 

 だからたまにはこんな何もない日があってもいいだろう………………………………前にもこんなことあったよな…………なんだろうとても嫌な予感がする。

 

 ピンポーン♪

 

 やはりそんな俺の平穏な一日は、とある来客に跡形もなくぶっ壊されるのだった。

 

 

 

 

 

こころ「というわけで"〇〇しないと出られない部屋"をここにある特別な機械を使って、真言とRoseliaのみんなで仮想のシュミレーションをしてみるわよ!」

真言「は?」

 

 異空間、襲来。

 

 はい、俺の平和な一日終了でーす。

 

こころ「一体どんなお題が出るのかしら?そして真言達はちゃんとお題をこなすことができるのかしら!楽しみね!」

真言「おいお前何言って──」

こころ「それじゃあシミュレーションスタート!!!!」

真言「人の話を聞きやがれぇぇえええ!!!!!」

 

 そうして弦巻 こころが持ってきた謎の機械とスクリーンで上映され始めた謎のシミュレーション(?)。

 

 まるで意味がわからないと思うが、安心してほしい。特に意味はない。

 

 なのでどうか何も考えず、最後までお付き合いいただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある朝、目が覚めると俺は真っ白な部屋の、知らないベッドで寝ていた。

 

 生活に必要最低限の物しか置いていないが、やけに広く小綺麗な部屋。

 

 ここは一体どこなんだ……?

 

 俺は一緒に監禁された彼女とともに脱出を試みるが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【真言✕友希那ペア】〜〜

 

友希那「…………私達は誘拐されたのかしら?」

真言「多分……俺、昨日ちゃんと自分の部屋で寝ましたから」

友希那「私もよ」

 

 ならやっぱり誘拐されてしまったのか俺達……一体誰に?というか、どこに?

 

友希那「窓はない……ドアはあるけど当然のように閉まってるわね……………………真言」

真言「どうしました?」

 

友希那「壁を壊しなさい」

真言「無理です」

友希那「いいえあなたなら必ずやれるわ。私はそう信じている」

真言「その謎の信頼やめてもらっていいですか?」

 

 いくら俺でも壁をぶん殴ったら手が折れちまう。痛いのはなるべく避けたい。

 

友希那「なら仕方ないわね。別の脱出方法を考えましょうか」

真言「初めからそうしてください……」

 

 ん?ドアになんか書かれてんな……

 

 

 

 

 

 〔〇〇しないと出られない部屋!!〕

 

 

 

 

 

真言「………………」

友希那「真言……これは……」

真言「はい……多分これ弦巻の仕業です」

友希那「そう……」

 

 とりあえず犯人は、花咲川の異空間、ハイパーサイコパス、笑顔のマッドサイエンティストなどの頭おかしい奴の称号を欲しいままにしている金髪少女、弦巻 こころだということが判明した。

 

友希那「…………弦巻さんの自由奔放ぶりは今に始まったことじゃないわ」

真言「言って聞くようなら今頃俺らはこんなとこにいませんからね」

友希那「とりあえずやるべきことは分かった、ならさっさとこんなところ脱出してしまいましょう」

真言「…………そうですね」

 

 やるべきことが分かったなら、後は行動に移すだけ。湊さんがいつも言っていることだ。

 

友希那「…………とは言ったものの『〇〇しないと出られない』って具体的に私達は何をすればいいのかしら?」

真言「さぁ…………?」

 

 ウィーン

 

真言「?」

友希那「机から……何か出てきたわよ」

真言「箱?」

 

 備え付けられていた机から白い箱が出てきた。何その謎システム。もう全部にツッコんでると切りがないな……

 

真言「えーっとなになに……この箱から一枚紙を引き、書いてある指示に従えば扉が開きます……ですって」

友希那「なるほど。じゃあ早速引くわよ」

真言「あ、どうぞ」

 

 行動力の化身みたいな人だなぁ…………

 

友希那「これね」ピッ

真言「なんて書いてあります?」

 

友希那「……………………」

真言「……?湊さん?」

友希那「……………………」

 

 自分で引いた紙を見て固まってしまった湊さん。一体どうしたんだ?

 

真言「何が書いてあったんですか?湊さん」

友希那「……………………」スッ

 

 

 

 

 

 【キスしないと出られない部屋!!】

 

 

 

 

 

真言「………………はぁ?????」

 

 え?は?なにそ?れ???は????

 

友希那「…………………」

真言「…………………」

 

 おいどうすんだよ弦巻!!!今ここ地獄みたいな空気流れてんぞ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「…………………………………やるわよ」

真言「正気ですか!!????」

 

 練習のしすぎで頭おかしくなったのか!?

 

友希那「おそらく弦巻さんの性格上、本当にこれをクリアするまでこの部屋から出られないわ」

真言「まあ確かにそうですけど!!」

友希那「ならやるしかないわ」

真言「そうだ!今のはノーカンって事にしてもっかい……」

 

 見ると箱は跡形もなく消えていた。

 

真言「……………」

友希那「……覚悟を決めましょう」

真言「……分かりました」

 

 キス………………………

 

友希那「さあ、どこからでもかかってきなさい」

 

 俺の正面で目をつぶる湊さん。俗に言うキス待ち顔というやつか。

 

真言「……………………」

 

 どうする……どうすればいい……!!!

 

真言「あ」

友希那「早くしてくれないかしら」

真言「あーえっと…………」

友希那「もしかして怖気づいたの?情けないわね」フッ

真言「あのさっきからちょっと楽しそうなの何なんですか?」

友希那「もうこの部屋から出るにはキスをするか、あなたが壁を壊すかの二択しかないのよ」

真言「それまだ言ってたんですか!?」

 

 

 

 

 

真言「…………じゃあ行きますよ」

友希那「………………ええ」

 

 

 チュッ

 

 

 

 

 

 ガチャ

 

真言「やった開きましたよ!」

友希那「…………?真言、さっきのは……」

真言「もしかしたらと思って試してみましたが、やっぱりこれでもオッケーみたいです!投げキッスでも!」

友希那「…………投げキッス……」

真言「そりゃあホントにキスするわけにはいきませんし…………やっぱり恥ずかしいじゃないですか」

友希那「…………初心、いえヘタれね」

真言「湊さん、人のことをとやかく言う前にまずは自分を大切にしてください」

友希那「こういうときあなたは迷いなく私の唇を奪うと思っていたのに。私のファーストキスを」

 

友希那「いえ、違うわ。そういえばあなたには燐子しか眼中になかったわね」

真言「湊さん……お願いですから変な男に引っかからないでくださいね?ちゃんと姐さんに相談してくださいね?」

友希那「冗談よ。それと今のところ恋人を作る予定はないから安心していいわ」

真言「はぁ……」

 

 真言✕友希那ペア、脱出成功。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こころ「こんな感じでRoselia全員分のシュミレーションを行うわよ!」

真言「ちょっと待てやコラアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

 何今の!?何のためのシュミレーション!?俺何見せられてんの!!??

 

真言「これダメだって!なんか多分ダメなやつだって!!誰かからお叱り受けるって!!!」

こころ「大丈夫よ!これのお題は安心安全、"〇〇しないと出られない部屋"診断メーカーで作ってるわ!」

真言「なにそれ!!??」

こころ「ある程度厳選はしてるけどね!でないと真言、あなたシュミレーションとはいえリサの舌を噛み千切ることになってたわよ!」

真言「はぁぁぁぁあああああ!!!??」

 

 さっきからこいつ何言ってんだ!!???

 

こころ「それじゃあ次はそのリサとのシュミレーションよ!」

真言「大丈夫なんだよな!?ちゃんと俺が見ていいものになってるよな!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【真言✕リサペア】〜〜

 

真言「……………………」

リサ「……………………ねえマコくん」

真言「はい」

リサ「やっぱり……アタシがやろっか?」

真言「いや……大丈夫です」

リサ「…………何というか……普通こういうのって男の子がやってほしいことじゃないの?」

真言「そうなんですか?」

リサ「……………………」

真言「……………………」

 

 俺と姐さんが一体何をやっているのか、それは遡ること10分ほど前のことになる。

 

 

 

 

 

 〜〜10分前〜〜

 

 

 

 

 

リサ「アタシ達……閉じ込められちゃったの?」

真言「おそらく……」

 

〔〇〇しないと出られない部屋!!〕と書かれた扉の前で立ち尽くす俺と姐さん。

 

真言「こんなふざけた部屋を作るようなやつなんて俺の知り合いに一人しかいないんですけど」

リサ「こころ……だね〜……」

 

 そう、例のヤバいやつ弦巻 こころの仕業だ。

 

リサ「〇〇しないと出られない……か。何させられるんだろう?」

真言「あそこにある箱の中にお題が入ってるみたいですね……」

リサ「よし!どんなに難しいお題でもマコくんとアタシなら大丈夫!ぱぱっとクリアして脱出しよ〜♪」

真言「…………そうですね」

 

 姐さんは俺が不安にならないよう、本当は不安でいっぱいなのに、わざと元気を出して俺に心配をかけないようにしている……これ以上無理させないよう頑張らねば。

 

リサ「じゃあ……引くね」

真言「ええ……」

 

 どんなお題が来る…………

 

リサ「……………」ピッ

真言「……………」

 

リサ「……………?」

真言「ど、どんなお題でした……?」

リサ「これ……」スッ

真言「えーっと……」

 

 【膝枕しないと出られない部屋!!】

 

真言「……………え?」

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 そういうわけで、俺は今、姐さんに膝枕をしている。

 

真言「あの……どうですか?寝心地は」

リサ「え?あー…………硬いね」

真言「ですよね」

リサ「アタシ、枕はちょっと硬いほうが好きだよ」

真言「そりゃどうも」

 

真言・リサ「「(俺・アタシ、何やってるんだろう………………)」」

 

リサ「(でも何か……すごい安心できる…………)」ウトウト

真言「(膝枕って結構キツイな……足ちょっと痺れてきた)」

 

 

 

 

 

リサ「…………スー……スー……」スヤァ…

真言「姐さん?」

 

 ガチャ

 

 …?今のはドアが開いた音か?

 

真言「姐さん、ドア開いたみたいですよ」

リサ「…………スー……スー……」スヤァ…

真言「……………」

 

 姐さんは人一倍頑張り屋な人だ。レベルの高いRoseliaの中で、俺なんかには計り知れない苦労もたくさんあるはずだ。

 

 そして生粋の世話焼き。俺にはよく分からないが、やっぱり他人に気を配るというのは楽なことではないんだろう。それが無意識の内のことであれ。

 

真言「おやすみなさい、姐さん」

 

 ……今は、少しくらい休憩してもいいんじゃないか?……せめて、もう10分くらいは。

 

リサ「………………ふふっ…………」スヤァ…

 

 どうやら姐さんは、俺の硬い膝枕でも良い夢を見れているらしい。

 

 

 

 

 

 

真言「………………………………足痺れた」

 

 真言✕リサペア、(ほぼ)脱出成功。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【真言✕紗夜ペア】〜〜

 

紗夜「神代さん、そっちにはありましたか?」

真言「いや、ないですね……そっちは?」

紗夜「こちらも同じです。何もありません」

 

 今、俺と紗夜先輩はこの部屋からの脱出ルートを探索している。

 

 ドアの前に書かれた〔〇〇しないと出られない部屋!!〕という文字。それを見た俺と紗夜先輩の意見は一致した。

 

 ものすっっっっっっっっごい嫌な予感がする。

 

 そんなわけでお題をクリアするという正規ルートを外れ、別ルートでの脱出を試みているのだが……

 

真言「紗夜先輩…………多分これ抜け道ないですよ」

紗夜「流石は弦巻家、設計ミス一つないということですか……」

 

 既にあるかどうかも分からない脱出口を探して1時間が経過した。

 

真言「これ……もうやるしかないんじゃないですか?」

紗夜「ですがあの箱から出されるお題は完全にランダム……とんでもないお題が出てくる可能性もありますよ」

真言「……………そのときはそのときです」

 

 どんなものが来てもこのままここに閉じ込められるよりかはマシだろう。

 

紗夜「覚悟はできている、ということですね…………」

真言「はい」

紗夜「……わかりました。私と神代さんの力を合わせれば、どんなお題でもなんとかなります」

真言「紗夜先輩!」

 

紗夜「では……引きますよ」

真言「はい……」ゴクッ

紗夜「……………」スッ

 

 

 

 

 

 【互いに指を絡め合わないと出られない部屋!!】

 

 

 

 

 

真言「なんですかこれ」

紗夜「…………………………」

真言「紗夜先輩」

紗夜「…………………………すみません……私のくじ運がないばっかりに……!!」

真言「いや、そんな謝ることじゃ……」

紗夜「神代さんに白金さん以外の女性の手を握らせるなんて……!!」

真言「………………………」

 

 なんか最近みんなおかしくない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「…………………」

紗夜「…………………」

 

 今、俺と紗夜先輩は正面から互いの指を絡め合っている。

 

 要領は恋人繋ぎの正面バージョンだ。

 

真言「……………………」

紗夜「……………………」

 

 二人とも恥ずかしさはある。だが一度覚悟を決めた手前、ここで少しでも恥ずかしがれば、なんか負けた気がすると感じるのがこの二人だ。

 

真言「(細いし……柔らかいし……温かいな)」

紗夜「傷」

真言「え?」

紗夜「ここに傷が……」

真言「ああ…………」

 

 その傷は…………

 

紗夜「よく見るとあちこちにありますね、傷跡」

真言「…………………」

紗夜「…………やっぱり痛いですか?」

真言「いや……もう痛くないです」

 

 改めて自分の手を見てみる。

 

 ボロボロでガサガサ、消えない傷跡だらけの汚い手。…………当たり前だ。

 

 

 

 

 

 俺はこの手で、いろんな人を傷つけてきたんだから。

 

 

 

 

 

真言「……子供の頃からヤンチャしてきましたからね。その時の傷もありますよ」

紗夜「…………すみません」

真言「なんで…謝るんですか」

 

紗夜「神代さんが辛い顔をしていたので」

 

真言「………………」

 

 ガチャ

 

 

紗夜「……確かにあなたの傷は名誉の負傷のような物ではないのかもしれません」

真言「………………」

 

紗夜「けれど忘れないでください。あなたがその手で助けた人がいることを」

 

紗夜「今井さんや青葉さんをコンビニ強盗から救ったことを、あなたが"監視対象"になってまで救おうとした人のことを」

 

紗夜「あなたの手を、掴む人達がいることを」

 

 忘れないでください。と笑顔でそう言った。

 

 ………………………決して忘れはしない。

 

 俺の手を掴んでくれた、あなた達のことは。

 

 真言✕紗夜ペア、脱出成功。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【真言✕あこペア】〜〜

 

真言「あなたの力はぁぁぁあああ!!!そんなものですか師匠おおおお!!!!」

あこ「うおおおおおおお!!!!!」

真言「まだまだああああああ!!!こんなんじゃ脱出なんてできませんよおおおおおお!!!!????」

あこ「どおりゃあああああああ!!!!!!」

 

 今、俺と師匠が何しているのかわかる人がいるなら、その人は凄いを通り越して気持ち悪いと思う。

 

 なぜこんなことをしているのかというと、"〇〇しないと出られない部屋"という意味不明な部屋に閉じ込められ、俺と師匠の頭がおかしくなった……というわけでは決してない。

 

 これもすべてこの部屋から脱出するため、これが俺と師匠に課せられたお題である。

 

 

 

 

 

 【相手の首を1分30秒絞めないと出られない部屋!!】

 

 

 

 

 

真言「師匠……これどうします?」

あこ「うーん…………………」

真言「とりあえず俺が締められる側ということで、果たして1分30秒ももつかどうか」

あこ「いやそんな絞めないからね?」

真言「でも絞めるフリだと開かないかもしれませんよ?」

あこ「それはまあ……そうかもしれないけど……それじゃあまっくんが苦しくなっちゃうよ?」

 

真言・あこ「「うーん…………………」」

 

真言「あ、じゃあこんなのはどうですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「うおりゃああああああ!!!!!」

真言「ぎゃああああああああ!!!!!」

 

 横たわる俺の上にまたがり、叫び声を上げながら俺の首を絞める…………フリをしている師匠。

 

 つまりは首を絞めるフリをただただ全力でやるという至ってシンプルな作戦だ。

 

真言「ぐわああああああ!!!」

 

 正直これで本当にいいのかなと思うところはある。

 

 ガチャ

 

 …………………………………これで良かった。

 

あこ「…………なんかあこ、疲れちゃったよ」

真言「俺もです、師匠」

 

 ものすごく早く脱出できたはずなのに、なぜだかどっと疲れた二人だった。

 

 真言✕あこペア、最速脱出成功!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまたせしました。

 

 〜〜〜〜【【真言✕燐子ペア】】〜〜〜〜

 

真言「ここじゃねぇな……じゃあここか?」コンコン

燐子「…………………」

真言「こっちか…………?」コンコン

燐子「あの……真言くん……?」

真言「いや……違うな……」コンコン

燐子「…………さっきからずっと……何してるの?」

真言「すみません燐子先輩、もう少し待ってもらえませんか?」

燐子「う、うん。わかった…………」

 

 〔〇〇しないと出られない部屋!!〕に閉じ込められ、既に10分。彼はお題を引くこともなく、ただただ壁を叩き続けている。

 

真言「………………」コンコン

燐子「………………」

真言「………………」コンコン

燐子「(すごい真剣…………)」

真言「あった」

燐子「……え?」

 

 そう言うと真言は拳を振り上げ……

 

真言「──ッ!!!!!」

燐子「……!?」

 

 ドゴォ!!!!!

 

 部屋中に轟音が鳴り響き、壁に大きな穴が空いた。

 

真言「よし出れますよ!燐子先輩!!」ニコ

燐子「え、あ、うん……ありがとう……」

 

 シュミレーション失敗シュミレーション失敗シュミレーション失敗シュミレーション失敗シュミレーション失敗シュミレーション失敗シュミレーション失敗シュミレーション失敗シュミレーション失敗シュミレーション失敗シュミレーション失敗シュミレーション失敗シュミレーション失敗シュミレーショ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「………え、何、最後の」

こころ「たくさんシュミレーションしてみたけど、燐子と一緒だと絶対真言はお題を引くこともしないで壁を壊すのよ!」

真言「たくさんって……どんくらい?」

こころ「えーっと…………625回よ!」

真言「625!?」

 

 結論、神代 真言は白金 燐子のためなら壁を素手で壊せる。




本当の記念回では必ず燐子先輩にもイチャイチャしてもらいます。任せてください()


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26.招かれざるモノ【監視対象 過去編】

ごきげんよう。

お気に入り登録 清らかクッキー 様 Raven1210 様 koy75822 様 ヴァンヴァ 様 ありがとうございます。
★10 チーク 様
★8 ヴァンパ 様
★4 yutaka 様 ありがとうございます。

シリアス回なのでテンションもシリアスで行きます。

それでは本編どうぞ。



 俺は時々悪夢を見る。

 

 いや、あれは夢なんかじゃない。

 

 間違いない現実、あれは俺が犯した、罪。

 

『この化け物!!!女に手をあげるなんて最低!!!アンタなんか人間じゃない!!!!』

真言『何言ってんだお前?』

 

 地面に叩きつけたそいつを掴んで、殴る。殴る。殴り続ける。

 

真言『俺が人間じゃねぇならお前らは人間以下のゴミクズだろ、なぁおい?』

『だ、誰か!!助けて!!!』

真言『ざんね~んお前の友達はそこでのびてま〜す』

 

 周りにはボロボロになった人間がゴミのように倒れている。全部、俺がやった。

 

『ちょっと!!起きなさいよ!!』

真言『はぁ…もういいよお前、そろそろ黙ろうぜ?な?』

『グヘッ!!!』

 

 汚い声を上げてそいつは静かになった。

 

 手に付く生ぬるい血の感触、人を殴ったときの感覚、

 

 「許して」と懇願するあいつらの声、

 

 それを踏み潰して笑う、俺の笑い声、

 

 今でも全て、鮮明に覚えている。

 

真言『ははっ…ははは………』

 

真言『あはははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!』

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

真言「──っ!!」ガバッ

 

真言「夢……か……」

 

 クソっ嫌な夢見ちまった…………

 

 今日は休日。最悪の目覚めだ。

 

真言「まだ7時かよ………もっかい寝るか。今日なんかあったっけ?」

 

 ピロン♪

 

真言「メール…師匠から?」

 

 『今日、お昼からRoseliaの練習があるんだー!まっくんも見学に来る?』

 

真言「…………………」ついついつい

 

『ぜひお願いします。』

 

 二度寝は中止にするとしよう。

 

真言「飯でも食って準備しますか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「〜〜〜〜♪」フンフーン

 

 イヤホンから流れるRoseliaの歌を口ずさみながらCiRCLEに向かう。

 

 いやぁやっぱいいね〜Roseliaの曲は大抵聞いてるけどやっぱ俺はこの歌が一番……

 

 ドン!

 

真言「おわ!」

 

 曲がり角から出てきた少女にぶつかってしまう。

 

真言「悪い、大丈夫か?」

 

 

 

 

 

「ええ、大丈夫よ」

 

 

 

 

 

真言「………………」

 

 は?

 

「久しぶりね、元気だったかしら?」

 

真言「お前……」

「覚えてない?あたしはあなたの顔を忘れたことはないわよ?」

 

 顔にできた大きな痣、まるで、誰かに殴られたような大きな痣がそいつが誰かを物語っていた。

 

 こいつ……何でここに……?

 

「この顔を自分で見るたびにあなたにされたことを思い出してイライラしてたの、会えてよかったわ」

真言「は、光栄だね」

 

 俺はお前のことなんて忘れたかったよ。

 

真言「何の用だ」

「あは!あの時の復讐に来た──」

真言「上等だよ、またグチャグチャにされに来たってんなら──」

「………人の言うことは最後まで聞くことよ」

真言「あ?」

「あなたに直接戦いを挑むなんて自殺行為に等しいし、お互いにデメリットしかないわ」

真言「俺はそんな事ねぇよ?デメリットがあんのはお前だけだろ」

「あはは!!」

真言「何がおかしい!」

 

「いえ?ただ、自分で結んだ約束も忘れてしまうなんて……あなたやっぱりバカなのかしら?」フフッ

真言「……………え?」

 

 ()()()()()()()()

 

 思い出すのはあの雨の日。

 

『もう、誰も傷つけないで……?』

 

真言「何で………お前がそれを……」

「あの後色々調べたのよ?随分おかしな約束を結んだわね?」

真言「………………」

「白金燐子。可愛い子じゃない?あなた、胸の大きい女がタイプなのかしら?」

真言「燐子先輩になんかしやがったら──」

 

 

 

 

 

真言「──殺すぞ」ピリ

「あは!あたしは何もしないわよ?……"あたしは"ね?」

真言「……………」

 

 プルルルルル プルルルルル

 

 ただいま電話に出ることができま──

 

真言「お前……燐子先輩に何しやがった!!!」

「言ったでしょ?"あたしは何もしない"って」

 

 こいつの連れ……あの男どもがまだこいつとつるんでいたら………

 

「あら?顔色が悪いわよ?」

 

 こいつに構ってる暇はねぇ!!!

 

 早く!!早くCiRCLEに行かなくては!!!

 

「あはははは!!!まあ、せいぜい頑張りなさい」

真言「こんの……クソ女ァ!!!!」ダッ

 

 叫んで、そして俺はそいつと逆方向に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 プルルルルル プルルルルル

 

 おかけになった電話番号は──

 

真言「クソっ!なんで出ねぇ!!」ハァハァ

 

 CiRCLEへ走りながら何度も何度も燐子先輩に電話を掛ける。

 

 けれど全て繫がらない。

 

 燐子先輩だけじゃない。紗夜先輩も、師匠も、姐さんも、湊さんも、誰一人電話に出ない。

 

 もしかしてもう…………

 

真言「………チッ!!」ハァハァ

 

 頼む……無事でいてくれ………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「見えた…………!」ハァハァ

 

 CiRCLE……!あと少し……あと少しッ……!!!

 

真言「燐子先輩ッ!!!」

 

 ドアを開けてCiRCLEの受付へ。

 

真言「燐子先輩……Roseliaはどこにいる!!」

「君は確かいつもRoseliaの練習を聞きに来てる……確か名前は……」

真言「何でもいい!!Roseliaはどこで練習してるかって聞いてんだよ!!!」

「よ、4番スタジオだけど……何かあっ──」

 

 4番スタジオ……!走れ!走れ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「燐子先輩ッ!!!!」ガチャ

隣子「真言くん!?」

あこ「あー、まっくんおっそーい……ってどうしたのその汗!?」

「……?ああ、君が神代くんかい?」

 

 無事……いや、知らない男がいる……!!

 

 

 

 

 

真言「ぶっ殺す」

 

 

 

 

 

燐子「え!?」

紗夜「ど、どうしたんですか神代さん!?」

真言「下がってろ!!!」

 

 まずは目だ。目を潰して、それから………!!

 

燐子「真言くん待って……その人は……!」

リサ「マコくん!?」

「!?」

真言「──ッ!!!!!」

 

 殺す。

 

 殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!!!!!

 

 ぶっ殺してやる!!!!!!

 

『あたしは何もしないわよ、"あたしは"ね?』

『あはははは!!!まあ、せいぜい頑張りなさい』

 

『この化け物』

 

真言「あああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子「湊さんのお父さんだよ!!!!!」

真言「!!!」ピタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「……………湊さん」

友希那「え、ええ…確かにその人は私の父親だけれど……」

 

真言「………………」

燐子「真言くん!」

真言「……………燐子先輩」

燐子「どうしたの!?一体何が………」

真言「燐子先輩…………」ギュッ

 

 

 

 

 

燐子「………………え、ええ!!!???///」

 

 

 

 

 

紗夜「ちょ神代さん!?」

友希那「………なぜ真言は燐子を抱きしめてるのかしら?」

リサ「さぁ………アタシにも何が何だか……」

あこ「りんりん顔真っ赤ー!!」

 

燐子「あの…その…えっと…ま、真言くん?///」

真言「………た」

燐子「え?」

 

真言「本当に……無事でよかった…………」ボロボロ

 

燐子「本当にどうしちゃったの……あれ?」

真言「……………スー…………スー…………」

燐子「寝ちゃった……」

 

 

 

友希那「どうやらただならぬ事が起きているようね」

「その子が今日見学に来るって言ってた子かい?」

友希那「ええ、そうよ」

紗夜「本当に……どうしたんでしょうか……」

リサ「汗ビッショリだし……雰囲気もなんかいつもと違かったよね?」

あこ「うん……ってうわ!」

リサ「どうしたのあこ?」

あこ「これ!ものすごい数の着信履歴!全部まっくんからですよ!」スッ

リサ「あ、アタシにも来てる!」

友希那「練習中だったから気づかなかったようね、私にも来てるわ」

燐子「真言くん……重い……苦しい……」グググ

真言「スー……スー……」ギュゥッッッッ

紗夜「と、とりあえず神代さんをこのままにしておくわけにはいきませんね」

友希那「そうね、みんなで真言を移動されるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「まっくん……全然起きないね」

リサ「燐子離そうともしないし……」

真言「…………スー…………スー…………」ギュッ

友希那「これじゃあ練習は無理そうね」

燐子「………………」ナデナデ

真言「………燐子先輩………」ムニャムニャ

紗夜「……ふふっ」

友希那「なんというか……こうして見るとまるで母親に甘える子供みたいね」

リサ「なら燐子がママかな?」

燐子「い、今井さん……!」

真言「……………ん……ううん……」

あこ「あ、起きた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「あれ?ここは…………」

 

 CiRCLE?俺は……眠っていたのか……?

 

燐子「おはよう、真言くん……」

真言「り、燐子先輩!?」バッ

 

 てか近っ!!何で俺、燐子先輩に抱きついて寝てんの!!??

 

燐子「覚えてないの……?」

真言「え、ええ……?」

 

 確か……朝、師匠からメッセージが来て……それから……?

 

『この化け物』

 

真言「──っ!!!」

 

 あの女………!!!

 

真言「燐子先輩!無事ですか!?怪我は!?」

燐子「う、うん大丈夫……何ともないよ……」

真言「はぁ……よかった……」

 

 あいつの言ったことはハッタリだったのか……?

 

 それとも……

 

友希那「気分はどうかしら?」

真言「湊さん……?」

 

 みんなもいる……えっと……

 

友希那「どうやら混乱してるようね」

紗夜「無理もありません、あんな様子でしたし」

真言「え?」

あこ「まっくんなんかすっごく怒ってた?みたいだったよ!こうドッカーン!って!」

 

 怒ってた?俺が?

 

リサ「ビックリしたよ!急にスタジオに飛び込んできたと思ったら、突然友希那のお父さんに殴りかかろうとして──」

真言「ふぁい!?」

 

 え、俺、湊さんの父上、は、な???

 

 だんだん記憶が戻ってきて……

 

燐子「真言くん?顔色が悪いよ……?」

 

「目が覚めたかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「本ッ当に申し訳ございませんでしたァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」ダァン!!!

 

全員「「「「「「!!!???」」」」」」

 

 

 

 神代 真言、齢17にして人生で初めて、本気の土下座をした。

 

 

 

真言「いくら錯乱していたとは言え無関係の人、まして湊さんのお父様に対して殴りかかろうとするなど!!Roseliaのファンとしてあるまじき行為!!謝っても謝りきれません!」ダァン!!ダァン!!

「お、落ち着きなさい!」

燐子「真言くん…!頭壊れちゃうよ……!!」

紗夜「もう壊れてる気がしますけどね……」

友希那「謝罪はもう十分だわ、それより話してもらおうかしら。一体何があったのか」

 

 

 

 …………………

 

 

 

真言「……………あいつに……会いました……」ギリ

燐子・紗夜「「っ!!」」

 

 燐子先輩と紗夜先輩は誰か分かったみたいだな。

 

友希那「あいつ?」

真言「…………皆さんは俺が一年の終わりがけに暴力事件を起こしたのは知ってますか?」

友希那「ええ……あなたが何かやらかしたのは燐子と紗夜からそれとなく聞いてるわ」

あこ「あこも!」

リサ「アタシも……けど暴力事件?」

真言「はい……」

 

 

 

 

 

真言「俺が今日会ったのはその暴力事件の……表向きには被害者って奴です」

リサ・あこ「「!!」」

友希那「……表向きには?」

燐子「真言くん……もうRoseliaのみんなには話してもいいんじゃないかな……?」

真言「……………」

 

 それは……

 

友希那「信頼できないかしら?私たちがあなたの秘密を他人に言いふらすとでも?」

真言「そんなことは!……でも」

 

 もし全てを話してしたら……俺は……

 

真言「幻滅されるかもしれない……それが怖いんです」

 

 Roseliaは、燐子先輩と紗夜先輩が繋いでくれた俺の新しい居場所だ。

 

 何もなくなった俺を、ここにいて良いと言ってくれた……その人たちに突き放されるのが、とても怖い。

 

 また……一人になってしまう。

 

 

 

 

 

友希那「……あなたは私たちをバカにしてるのかしら」

リサ「ちょっ、友希那!?」

真言「!?」

 

 え!?何で!?

 

友希那「あなたは目つき悪いし口悪いし頭悪いし愛想もないし子供っぽいし泣き虫だし、確かに誰からも好かれるような人じゃないのかもしれない」

真言「…………ちょっと言いすぎじゃないですか?」

友希那「けれど」

 

 湊さんはこちらを力強く見据える。

 

友希那「けれど真言、あなたがなんの理由もなく他人を傷つけるような人だとは私は思わない」

真言「湊さん……」

リサ「アタシもマコくんには前に助けられたしね♪」

あこ「まっくんはあこの弟子だよ!?弟子を信じるのは〜……えーと……師匠なら当然のことなのだ!!」

 

 俺は……一体いくつの大切なものを手に入れたのだろう。

 

 湊さんに、姐さんに、師匠に、紗夜先輩に、

 

 燐子先輩に出会えて、俺は本当に救われた。

 

真言「わかりました……俺に何があったのか、全部お話しましょう」




ついに明かされる監視対象の過去。ゴールデンウィーク中に片を付けます。


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27?.little justice【監視対象 過去編】

「き、きんちょうする…………」

「(きょうはピアノのコンクール……かいじょうもおおきいし…………人もいっぱい………………)」

 

「おい、おまえ」

「ひ、ひっ……」

「そんなビビらなくてもいいだろ…………」

「ご、ごめんなさい……」

「だいじょうぶか?かおいろわるいぞ」

「は、はい……だいじょうぶ……です」

 

「…………あめたべるか?」スッ

「あ、ありがとう……ございます」

 

「………………」モグモグ

「………………」ジーッ

 

「(わたしとおなじくらいのおとこのこ……このこもコンクールにでるのかな…………?)」モグモグ

 

「………………」ジーッ

「(すっごいわたしのことみてくる…………)」

「おまえ」

「…!」ビクッ

「ここがどこだかしってるか?」

「…………………え?」

「このばしょはなんだ?」

「え、えっと…………ピアノのコンクールの……」

「おまえピアノひくのか!?すげぇな!」

「!!!」ビクッ

「あ、ごめん。おおきいこえだしちゃったな……」

 

「きみも…」

「ん?」

「きみも……ピアノのコンクールにでるんじゃないの……?」

「おれが?ないない」ハハハ

「……じゃあどうしてここにいるの?みにきたの?」

 

 

 

 

 

「まいごだ!!!」ドンッ!!!

 

 

 

 

 

「……………まいご?」

「うん!まいご!」

「……………………おかあさんは?」

「しらない!!なんかはしってたらここについた!!」

「(…………このこ……だいじょうぶ……かな?)」

 

「それよりおまえ!これからコンクールにでるんだろ?そとにいていいのか?」

「……………………だめ」

「?じゃあもどれよ」

「……………………こわい」

「こわい?なにが?」

「おきゃくさん…………コンクールをみにきたおきゃくさん……」

「…………よしわかった」

「………………?」

「いくぞ!」グイッ

「!?ど…どこに……!?」

「コンクールにでなくちゃいけないんだろ?ほら、こわくねぇようにおれがてつないでてやる!」

「ま、まって…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜コンクール会場【ホール内】〜〜

 

「うぉぉ……でっけぇな……」

「ひとがいっぱい……」

「ええっと……コンクールにでる人は……あっちか!!」グイッ

「ちょっとまって……!まずおかあさんとおとうさんに──」

 

 ピンポンパンポーン♪

 

 間もなく、ピアノコンクールを開始いたします。出場される方は速やかに会場控室までお越しください──

 

「じかんないな!いくぞ!!」

「なんで…………」

「?」

 

「なんで……わたしをたすけてくれるの……?」

 

「それがおれのゆめだから!」

 

「よ、よくわからないよ……?」

「あとでおしえてやる!!」

 

 

 

 

 

「……なんでこんなひとがいっぱいなんだ……これじゃ"ひかえしつ"までいけねぇじゃん……」

「…………………」

「…………しっかり手にぎってろよ」

「…………………わかった」ギュッ

「うおおお!!!どけどけー!!!!」

 

「何だ!?」

「子供!?」

 

「みちをあけろーー!!!ピアノのコンクールまでいかなきゃなんないだーー!!」

「ちょ、ちょっと…………」

 

 ピンポンパンポーン

 

 ──迷、のお知、せ、で、

 

「じゃまだ!!どけー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やっとついた…………つかれたー……」

「………………あ、あの……」

「ん?」

「わたしを……たすけてくれたりゆう……ゆめって……どういうこと……?」

「あ、うーんとな」

 

 

 

 

 

「おれのゆめは、みんなをたすける"せいぎのみかた"になることなんだ!!」

「せいぎの……みかた?」

「うん!せいぎのみかた!!」

 

「わるい人をたおして、こまっているひとをたすける、かっこいいだろ!」

「う、うん…………かっこいい……」

「だろ!?おれはいつかそんなつよい人になるのがゆめなんだー!」

 

「……いまはかあさんにもかてないけど……いつかはかつ!!」

「…………そっ……か」

 

 

 

 

 

「燐子!!」

「お、おかあさん……おとうさん……」

「どこに行ってたの!?心配したんだからね!?」

「ご、ごめんなさい……」

「君が燐子を連れてきてくれたのかい?」

「おお!」

「本当にありがとうね」

「とうぜんだ!"せいぎのみかた"、だからな!!」

「「???」」

「んじゃ!おれはもういくわ!」

 

「あ、あの……!」

「どうした?」

「あ、ありがとう…………」

「……いいってことよ!これからもこまったことがあればおれをよびな!」

「…………あの……なまえ……」

「おれか?おれのなまえは、かみしろ──」

 

 ダッダッダッダッダッダッ!!!!!

 

「……?」

 

 

 

 

 

「真言ぉぉおおおおお!!!!!」ドゴォ!!!

 

 

 

 

 

「ぶべらぁあ!!!」

「「「!?」」」

 

「いってぇ…………いきなりなにすんだよ!かあさん!!!」

「あんた何処ほっつき歩いてんの!!なんで旅行先のホテルにいたあんたがピアノのコンサートホールにいるのよ!?」

「しらねぇよ!きづいたらここに……」

「言い訳しない!!」ドゴォ!!!

「いってぇ!!!」

 

「…………………………」

 

「ほら!とっととホテルに帰るよ!!」グイッッッ!!!

「あ、おまえ!ピアノがんばれよー!!!」ズルズル

 

「…………………いっちゃった……」

「何だったんだ……?一体…………」

 

「かみしろ……まことくん……?」

「(せいぎのみかた…………ふしぎなこだったな……)」

 

「白金燐子さん、そろそろ控室に……」

りんこ「は、はい……」

「頑張ってね燐子」

りんこ「う、うん…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた、さっきの女の子と知り合いなの?」

まこと「いや?ぜんぜん」

「困らせたりしてないでしょうね」

まこと「おれは"せいぎのみかた"だぜ?こまってるひとをたすけてなにがわるい!」

「は、正義の味方ね……私に手も足も出ないあんたが何言ってんだか……」

まこと「いまだけだしー!!いつかぜってえボッコボコにしてやる!!」

「ほう…………言ったな?」ピリ

まこと「お、おうよ!かえったらしょうぶだ!!」

「向こうに帰るの明後日だけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが彼と彼女の初めての出会い。

 

 後に、彼は正義の味方とはかけ離れた存在に、彼女は青薔薇の一員となり、邂逅を果たすことになるが、それはまだ先の話。

 

真言「燐子先輩!!」

燐子「うん……真言くん……」

 

 そしてこれから始まるのは、そんな正義の味方になり損なった監視対象の、失敗談だ。



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27."少年"神代 真言【監視対象 過去編】

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 昔々、あるところに心の優しい真っ直ぐな少年がいました。

 

 "正しいものは何があっても正しい"彼はずっとそう思っていました。

 

 正しさはどんな力を持ってしても歪めることはできない。真実は何があろうと真実だ。

 

 悪では、正義に勝つことはできない。

 

 それは彼自身の信念であり、同時に彼の母親の言葉でもありました。

 

 "真実を言う"と書いて真言。その名前に恥じないよう、絶対に嘘はつかない。結んだ約束は必ず守る。

 

 それが、彼の誇りでした。

 

 

 

 彼の信じていたものが、彼の正義が、すべて崩れ落ちたあの日までは。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 きっかけは些細なことだった。少なくとも俺にとっては。

 

 ごくごく普通の高校生。それが俺、神代 真言。

 

 友達もそれなりにいるし、部活には入ってないけど、まあそれなりに楽しく高校生活を送っている。

 

 そんな俺はガキの頃からちょっとばかし正義感が強かった。

 

 親の影響か、はたまた生まれ持ってのものなのか、

 

 小学生の頃、無理やり祖父の家の道場にぶち込まれたときには、クラスで女子をからかっていた男子たちを殴って破門になった。

 

 入門期間、約2週間。

 

 そりゃあもう祖父にも母親にもボコボコにされたよ。

 

「弱い者いじめをするな。手出すなら一対一の試合形式でやれ」って言われたときには、この親ホントに大丈夫かって思ったけど。

 

 それでも俺は自分が正しいと思ったことを貫き通してきた。

 

 だからあの時も、俺は間違っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「あ?」

 

 今日の授業が終わり、家へ帰ろうと廊下を歩いていると、隣のクラスから言い争う声が聞こえてきた。

 

「返してください!」

「はぁw?何こいつ必死すぎwww」

「めっちゃウケるんですけどwww」

「ほら!取れるもんなら取ってみろよチビ女」

 

 四人のの女子生徒、どうやら三人のガラの悪そうな奴らがもう一人の方の私物を取り上げて遊んでいるようだった。

 

 クソ幼稚だな、ガキかよ。

 

「返して!そのお守りはおばあちゃんの形見なの!!」

「こんなボロいのが?」

「汚いなそれ、捨てちゃったらw?」

「………!やめて!」

 

 三人組の一人がそれを窓から投げる。

 

 

 

 

 

 気づいたら俺は、窓の外にいた。

 

 

 

 

 

真言「よーしナイスキャーッチ!」ガシ

「!?」

 

 空中でお守りをキャッチ!……でもこれ落ちるな。ここ三階だけど、大丈夫かな?俺。

 

 うん。やばいな。

 

真言「………………………………………………あれ?」

 

 落ちない。なんで?あれ俺飛べたっけ?

 

「ちょ、おまえ何やってんだよ!!」

真言「…………あんた誰?」

「いや、そんな余裕ねぇだろ!?」

 

 どうやら誰かが俺の足を掴んでくれたらしい。

 

 俺の足の方向、つまり教室の方向から声が聞こえる。声の感じは女性のものだ。けどさっきの奴らじゃない。

 

 てかうちの高校女子生徒の比率多いな……最近まで女子校だったなんて入学する前日まで知らなかったし。

 

 ちょっと焦って行く高校適当に決めすぎたか。

 

 おっとそんなこと言ってる場合じゃねぇ。このままだと俺頭から落ちちまう。

 

 流石の俺でも校舎の三階から頭から落ちたら……ただじゃ済まないだろう。

 

真言「あー……どなたか存じませんがそのまま引っ張り上げてくれませんかね?俺このままだと頭から地面に叩きつけられて、R18グロ映画みたいになっちゃうんですけど」

「だ、から、何、でそん、なに、よ、余裕なんだよ……!!」ハァハァ

 

 流石に男一人持ち上げるのに、か弱い女の子一人だけだとキツイわな……

 

「誰か!!手伝ってください!!」

 

「ねぇあれヤバいんじゃない……?」

「でもアタシら関係ないし……」

「ほら行こ行こ」

 

 

 

 

 

 

「あいつら………!!」

真言「大丈夫ですかー?」

「ちょっとキレそう!!」

 

 もうキレてますやん。無理もないけど。俺もキレてる。

 

「おいどうしたんだ!」

「先生!助けてください!」

真言「お、先生ー引っ張り上げてくださーい」

「おまえ、そこで何してるんだ!!」

真言「何って……」

 

 ……宙づりになってます?

 

 

 

 

 

 なんとか教室まで戻ってこれた。ふー……

 

「何で窓の外にいたんだ」

真言「いやーちょっと考えるより先に身体が動いちゃったと言いますか…………」チラ

 

「……その人は、私のお守りを取ってくれて……」

「お守り?」

真言「はいこれ」スッ

「何でそのお守りが窓の外に──」

「風で。飛んでいってしまったんです。ごめんなさい」

真言「…………」

「うーん……まあ今度からは気をつけるように。お前も、もう無闇に窓から飛び出すんじゃないぞ」

真言「はーい」

 

 

 

 

 

真言「おい」

「!」

真言「お前……いいのかよ。それで」

 

 せっかく教師にチクるチャンスだったのに。あれ、完全にイジメだったろ。

 

「……………いいんです」

真言「……あっそ、ならいいけどよ」

 

 チッ、スッキリしねぇ……

 

「あ、おい!待てよ!」

真言「…………」スタスタ

 

 さっさと帰るか。とんだ寄り道をしちまった。

 

 ………………クソッ!なんかすげえイライラする!!!

 

 ばあちゃんの形見……か。

 

「待てって!!」

真言「ん?俺か?」

「お前以外にいるかよ!」

 

真言「…………え、誰?」

「さっきお前の足掴んだ!!」

真言「ああ…………で誰?」

「いや私とお前、同じクラスだろ!?」

真言「そうだっけ?」

 

 人の名前覚えるの苦手なんだよな……

 

真言「まあいいや」スタスタ

「っておい!」

 

 

 

真言「…………」スタスタ

「ちょ、おま、歩くの速い!!どこ行くんだよ!?」

真言「…………」スタスタ

 

 着いたのは校舎の外にある自販機の前。

 

真言「オレンジジュースでいいか?」

「…………え?」

 

 ガコン

 

真言「ほい、助けてくれたお礼」スッ

「え、あ、ありがとう……」

真言「んじゃあな」スタスタ

「おい待てよ!神代くん!」

真言「……何で俺の名前知ってんだ?」

「だから同じクラスだって!」

真言「ふーん……」

 

 ついんてーる?の女子生徒。俺より身長は小さい……ま、俺170cmあるし。

 

真言「……お前、名前は?」

有咲「…………市ヶ谷 有咲」

真言「そっか、よろしく市ヶ谷」

有咲「お、おお……」

真言「さっきはありがとな。お前がいなかったら俺ケガしてたかもしれないし」

有咲「絶対ケガじゃ済まなかっただろ!!」

 

 どうだろうな。体の強さなら少し自信がある。

 

 あととてもいいツッコミだ。将来お笑い芸人になれるぞ君。

 

有咲「それより……いいのかよさっきの。放っておいて」

真言「?ああ、別に本人がいいって言うならいいだろ」

有咲「…………じゃあどうしてお前はあの子を助けたんだ?自分の身を危険に晒してまで…………友達って訳じゃないんだろ?」

 

 どうして……か。

 

真言「さぁな。俺にもよく分かんねぇわ」

有咲「…………変なやつだな、お前」

真言「ははっ、そうかもな」

 

 俺ってやっぱり変わってんのかなぁ……自分じゃよくわかんねぇけど。

 

真言「じゃあな市ヶ谷」

有咲「あ……おお…また明日」

 

 市ヶ谷 有咲か……多分良いやつだな。てかクラスにあんなやついたっけ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝。

 

真言「眠ぃ……」ガラガラ

「おはよー真言。眠そうだな」

真言「あぁ……」

 

 そういえばあいつ……確か市ヶ谷……

 

「市ヶ谷さんおはよう」

 

 

 

 

 

有咲「ご、ごきげんよう」

 

 

 

 

 

真言「…………え?」

 

 眠気吹き飛んだわ。

 

 え?「ごきげんよう」?

 

真言「……………っっっ!!!」バンバン!!

「おい…どうした真言」

 

 やばい、なんかツボった。

 

有咲「あ」

真言「も、もう無理……」ヒーヒー

有咲「……神代くん?ちょっとこっちに……」グイ

真言「ごめんごめん!!でも、"ごきげんよう"って………っつ…………!」

 

 そのまま教室の外にまで連れて行かれた。

 

 

 

 

 

有咲「お前!笑い過ぎだって!!」

真言「あ、戻った」

 

 …………今日の俺の笑いのツボおかしくね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが俺と市ヶ谷 有咲との出会いだった。

 

 しかしこの時、既に悪夢に片足を突っ込んでいたことを、俺は知らなかった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 自分は間違っていない。

 

 彼は何度も何度も叫びました。

 

 けれど誰一人として彼の話に耳を貸しません。

 

 どうして人を助けたのにこんな惨めな思いをしているのか、

 

 どうして正しいことをした自分が悪者扱いされるのか、

 

 どうして助けたはずのあの子は何も言わないのか

 

 少年にはわかりませんでした。

 

 しかしある時、突然現れた"何か"が彼にこう言います。

 

「君は善人じゃない。正義の味方でもなければましてや正義そのものでもない」

 

「君のようなやつを、君のような正義を気取った偽物を、世間ではこう言うんだ──」

 

 

 

 

 

「"偽善者"とね」

 

 

 

 

 

 少年の信じてきた正義は、いとも簡単に、そして跡形もなく、

 

 砕け散ってしまいました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




お気に入り登録 希望光 様 サイガ02 様 藤井 浩 様 ありがとうございます。



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28."偽善者"神代 真言【監視対象 過去編】

⚠イジメ表現があります。お気をつけください。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 少年は逃げました。

 

 どこかへ行くというわけでもなく、ただひたすらに、

 

 逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて。

 

 しかしどこまで逃げても"それ"はずっと少年の後ろを追いかけてきます。

 

 自分が正しくないという現実からはどうやっても逃げ切ることができません。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 気に食わなかった。

 

 たったそれだけ。それだけの理由で俺はあの暴力事件を起こした。

 

 傍から見ればバカげた理由だ。頭がおかしいとしか思えない。

 

 けど気に食わなかった。

 

 自分より弱い者を虐げ、それで優越感に浸るクズが。

 

 家族が遺してくれたものをゴミのように扱うあいつらが。

 

 許せなかった。

 

 自分のことのように思えた。

 

 思えてしまった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「……………………お前」

「……またあなたですか」

 

 そいつは雨も降ってないのに全身ずぶ濡れで立っていた。

 

真言「それはこっちのセリフだ……一体何があった」

「なんでもないです。あなたには関係ないことでしょう?」

 

 なんでもないわけ無いだろ。

 

 明らかに誰かの仕業。それこそバケツの水をぶっかけられたようだった。

 

真言「お前、この前お守り盗られたやつだろ」

「……その節はありがとうございました」

真言「どうして助けを求めない」

「…………助けなんか求めたって、意味がないからです」

真言「…………」

 

「前に……あなたみたいに私を助けようとしてくれた人がいました。でもその人は、突然学校を辞めてしまったんです」

 

 あいつらに潰された……か。

 

真言「俺も、その辞めてったやつと同じだと?」

「もう……いいんです。私が耐えれば済むことですから」

真言「ふざけんな!そんなもんいつまでも持つわけないだろうが!!」

「お願いですから!もう、私に関わらないでください……」

 

 もう、助けてくれるなんて希望、私に見せないでください。

 

 そいつは俺にそう言った。

 

 結局俺はそれ以上何も言えなかった。

 

 

 

 

 

真言「………………」スタスタ

 

 どうすればいい?俺はあいつに何もしてやれないのか?

 

 目の前に困ってるやつがいるはずなのに、助けてやれないのか…………?

 

 助けを求めないやつは、救えないのか?

 

真言「…………………」スタスタ

「…………!!」バサ−

真言「うわ!ごめんなさい!!」

 

 考え事をしていたせいで、曲がり角で人にぶつかってしまった。

 

 どうやら俺のぶつかった人は何かのプリントを運んでいたらしい。盛大にぶちまけてしまった。

 

「あの……大丈夫……ですか……?」

真言「え、あ、はい。大丈夫です」

 

 プリントを拾いながら彼女はそう聞いてくる。ってやべ俺も拾わなきゃ。

 

真言「………………」ヒョイヒョイ

「………………」ヒョイヒョイ

 

 き、気まずい……正面でプリントを拾う彼女は一言も話さない。何というか、人と話すのが苦手だといった感じだ。

 

「………………」ジーッ

真言「?何か……」

「あ、あの……ありがとうございました……」ペコ

真言「あ、いや、こちらこそすみませんでした」ペコ

 

 そう言って黒髪の物静かそうな少女は去っていった。

 

 いや、"物静かそう"って人を初見で判断するのはダメだな。市ヶ谷みたいに猫かぶってるやつもいるし……

 

 …………思い出し笑いが出そう。

 

真言「市ヶ谷に相談…………はやめとくか」

 

 あいつには全く関係ないことだ。無関係の人を巻き込む訳にはいかない。

 

真言「それじゃあどうすれば……ん?」

 

 足の下に違和感。落ちていたプリントを踏んでしまったようだ。

 

真言「これ……さっきの人のやつか……」

 

 拾い忘れでもあったのだろう。結構な量運んでたもんな……

 

真言「"生徒会"か…………」

 

 それは生徒会作成のプリントだった。どうやらさっきの人は生徒会の人だったみたいだな。

 

真言「これは最終手段……かな」

 

 生徒会や教師を頼ると大事になるケースが多い。それはあいつも望んでないはずだ。

 

 まあ、これ以上酷くなるようなら報告することにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間違えた。判断を、完全に間違えてしまった。

 

真言「……………」

 

 目を疑った。言葉が出なかった。

 

 この前、あの悠長な考えをしていた自分をぶん殴ってやりたくなるほど、それは衝撃的だった。

 

「……………」ポロポロ

 

 あいつが……

 

 

 

 

 

 ボロボロな姿でうずくまって泣いていた。

 

 

 

 

 

 体中に殴られた跡、蹴られた跡、踏みつけられた跡、そして──

 

 ──黒焦げになったお守りらしきものが落ちていた。

 

 ゴミのように。

 

「なんで……どうして……」ポロポロ

真言「…………………」

 

 これが……本当に人間のやることなのか?

 

 いや違う。こんなものは…………

 

真言「正しくない」

 

 ダメだ。これはもうどうしょうもなく、

 

 間違っている。

 

 間違っているものは……正さねばならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、何あんた」

「私たちに何か用なの?」

「てかあんた誰?」

 

真言「…………俺は一つ、忠告しに来ただけだ」

「はぁ?」

 

真言「イジメを今すぐにやめろ」

「何、急に」

「あたしたちがイジメをしてるっていう証拠でもあんの?」

「あ、てかあんたあの時窓から飛び出したバカくんじゃんwww」

「あwホントだwww」

 

真言「…………………」

 

 直接忠告したら少しは良くなるかと思ったが、ダメだったみたいだ。

 

真言「ゴミはどこまでいってもゴミ……か……」ハァ

「は?なに?」

真言「いや?だけどなお前ら、これ以上派手に暴れるといずれ大事になるぞ」

「もう行こ?」

「そうだね」

 

 そう言って三人は去っていった。

 

真言「俺だって、できればこんな事に関わりたくねぇよ……」

 

 もし奴らがこれ以上なにかすればいずれ大事になる……いや、俺が大事にしてやる……

 

 

 

 

 

 そこから先も三人のイジメは止まらなかった。

 

 あいつはどんどんやつれていき、終いには学校にも来なくなった。

 

 教師どもは何故あいつが学校に来ないか、皆目見当もつかないらしい。よくボロが出ないと思ったら、どうやらクラスでは優等生キャラを演じているみたいだ。

 

 まったく、誰かさんと同じ様なことをしてる癖にここまで天と地の差があるもんなのかね。

 

 どうせ言っても信じてもらえるとは限らない。

 

真言「さて……どうしてやろうか…………あ?」

 

 

 

 下駄箱に大量の土が入れられていた。

 

 

 

 後ろからクスクスと笑い声が聞こえる。

 

真言「(なるほど……あいつがいないから次の標的は俺ってわけね……)」

有咲「神代くん、そんなとこで何してんだ……って!何だそれ!?」

真言「おお!市ヶ谷、おはよう」

有咲「いや、呑気に挨拶してる場合か!?」

真言「なぁに、ゴミが標的を俺に変えただけの事だよ」

有咲「いや、お前……とりあえず先生に──」

真言「市ヶ谷」

 

 

 

 

 

真言「邪魔すんなよ。こっから楽しくなるんじゃねぇか」ニタァ

有咲「っ!」

 

 ここで教師にチクったら俺の手であいつらを裁けない。

 

 さてどう潰してやろうか……

 

真言「今から楽しみで仕方ないな……」

有咲「………………」

 

 

 

 

 

 その日から俺への徹底的なイジメが始まった。

 

 私物を隠されたり、靴がビショビショになってたり、雨の日には水をかけられたりした。

 

真言「ほんっと……別クラスなのによくやるな」

 

 今日も靴の中はドロドロだ……後で洗わなきゃな……

 

真言「まだ我慢しろ俺……あいつらが直接俺にコンタクトとって来るその時まで……」ニヤ

「あの……」

真言「?」

「大丈夫……ですか?」

 

 振り返って見ると、黒髪の女子生徒が俺のことを心配そうに見ていた。

 

 おおっと、にやけてたのがバレたのか?

 

「靴……ドロドロですよ……?」

真言「あ、そっちか」

「……?」

真言「何でもないですよ、こっちの話です」

 

 というかこの人、どっかで……

 

「どうかしたのですか?」

 

 あ、一人増えた。どうやら黒髪の人の友達らしい。

 

 黒髪の人よりちょっとだけ背が高い。何というか……こう……キリっとしてる感じがする……?

 

 …………なんじゃそりゃ。 

 

真言「思い出した。あんたこの前のプリントの……」

 

 そうだ。この人は…………生徒会。

 

「あ、あの時はすみませんでした……」

真言「いえいえ、こっちの前方不注意でしたから……」

「知り合いでしたか……というかあなたその靴……」

 

 キリっとしたほうが俺に話しかけてくる。

 

真言「ああ、これですか?」

 

真言「…………まあ俗に言う、"イジメ"というやつを絶賛体験中なんですよ、俺」

「「!?」」

「先生には言ったんですか!?」

真言「いや?言ってないですけど……」

「何故ですか!?」

真言「何故と言われましても……」

 

「……わかりました。先生たちには私たちから報告しておきます。これでも私たち生徒会の役員ですから」

「もう少し……耐えてください……」

 

 いやいやいやいや。

 

真言「は?」

 

「「え?」」

 

真言「何勝手な真似しようとしてんだ?」

「え……」

「勝手な真似って……」

真言「これは俺がやるべきことなんだよ、だから……邪魔だけはすんな」

「「…………………」」

 

真言「一年○組の────、今そいつがなんで学校休んでるか調べれば、何が起こってるか全部わかるだろうよ。じゃあな」

「ちょ……待ちなさい!」

真言「あ?」

「あなた……名前は」

 

真言「…………神代 真言。あんたらは?」

紗夜「氷川 紗夜です」

燐子「白金 燐子です……」

 

 ひかわさよ……しろかねりんこ……

 

真言「んじゃ精々頑張れよ、生徒会」

 

紗夜「何だったんでしょうか……あの人」

燐子「さあ……わたしにもよく分かりません……」

 

 これが俺と先輩たちとの出会い。

 

 今思えば何たる失態。燐子先輩に敬語を使わなかっただけでなく、あろうことか先輩たちの優しさを無下にするなど(ry

 

 

 何はともあれ、その時は刻一刻と近づいていた。

 

 

 

「ねぇ、あんた」

真言「?」

「今日の放課後、ついてきなさい」

真言「なんで?」

 

 よし来やがったな……

 

「口答えすんじゃないわよ」ボソ

真言「へいへいわかりやしたよ、行けばいいんでしょ、行けば」

 

有咲「神代くん……さっきの」

真言「遂に念願のお呼ばれだな」

有咲「…………それは……ちょっと言い方が違うんじゃない?」

 

 

 

 

 

 そして、俺は監視対象となる。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 走り疲れた少年は、遂に倒れてしまいました。

 

 そんな彼に追い打ちをかけるように大雨が降り出します。

 

 寒くて、惨めで、辛くて、悲しくて、悔しくて、

 

 彼は涙が止まりませんでした。

 

 

 

 

 

 そんな時、彼の前に一人の少女が現れました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




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29."化け物"神代 真言【監視対象 過去編】

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 目の前に突然現れた少女は、泣いてる少年の目を見据えこう言います。

 

「君は何も悪くない」

 

「君は正しいことをした、絶対に…間違ってなんかいない」

 

 その言葉で、少年は救われました。

 

 

 

 

 

 少年は他人への信頼と、自分の中の正義を失ってしまいました。

 

 ですが、少年には大切な人と大切な約束ができたのです。

 

 その日から、少年はまた戦うことを決めました。

 

 自分の正義のためではなく、たった一人の少女と結んだ、かけがえのない約束を守るために。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

真言「んで?何か用?」

「あんたさぁ、一体なんなの?」

真言「花咲川一年、神代 真言ですが」

 

 ただいま俺をイジメている三人組に呼び出されています。

 

 やっと待ち望んだ直接対決。俺よくこの日まで耐えたな……

 

「ふざけてんの?」

真言「いや、自分たちがイジメてる相手の名前すら知らねぇの?」

「………!!」イラッ

 

 イライラしてんな……カルシウム足りてないんじゃねぇの???

 

「まあまあ、それにしてもさ……」

 

 ぱっと見リーダー格のやつが話しかけてくる。

 

「あんたも不運だよね?あたしらみたいな奴に目つけられて」

真言「そう思うならとっととやめてくんない?」

「え?嫌だけど」

 

 ……この女、多分三人の中で一番めんどくさい。

 

「あんた、もうあたしらのオモチャだから」

 

 あと一番腐ってやがる。どうしょうもないくらいのクズだ。

 

真言「は?」

「あんたも悪いんだよ?あたしらがアイツで楽しく遊んでるとこ邪魔して」

真言「…………クソ女が」

 

 人間をなんだと思ってやがる……

 

「でもあんたつまんないね。アイツもそうだけど全然何も言わないし反応もしてくれない」

真言「誰が好き好んでクズの思い通りになるかよ」

 

「でもあれは傑作だったかなwあいつの大事にしてたボッロイお守り、あれをあいつの目の前で燃やしたときwwwあいつ泣いて止めようとしてたよねwww!!」

「そうそうwww」

「あれは面白かったwww」

 

真言「………………なんでそんなことをする」

「え?だって……」

 

 

 

 

 

「面白いじゃん。弱い奴が必死こいてる姿が」

 

 

 

 

 

真言「…………そうかよ」ギロ

 

 きっとこいつとは1000年かかっても分かり合えることはないだろう。

 

「なに、その目」

真言「俺、前に言ったよな?"大事になるぞ"って」

 

 

 

 

 

真言「今、手ついて謝れば許してやるよ」

 

「てめぇ!なめた口聞いてんじゃ──」グイッ

 

 取り巻きの一人が俺の胸ぐらを掴んでくる。

 

 

 

 

 

 ……………………………ドシャア!!!

 

 

 

 

 

真言「な?こうなりたくないだろ?」

「………………は?」

 

 こいつら、何が起きたのか分かってないみたいだな。

 

「あんた……今何を……」

真言「何って、殴った」

 

 結構強めに。

 

真言「ほら、そこに転がってんじゃねぇか」

「………………」

 

 ほんの一瞬、女が真言の服を掴んだ瞬間に、ただ右手で顔を殴り、そのまま思いっきり地面に叩きつけただけ。

 

 真言の幼少期、通わされていた祖父の道場で習っていた武道は対人戦闘を目的とした技を教えていたが、それを彼は我流に変えて……と言うより今のはただ力任せに殴っただけだ。

 

 彼自身、道場で教えてもらった技など一つも覚えてはいない。

 

「てめぇ!やりやがったな!!」

真言「お?お仲間か?」

 

 物陰から5人の男子生徒が出てきた。

 

真言「なるほど……俺は今日こいつらにリンチされる予定だったってわけだ」

「あんたら!ボコボコにしちまえ!!」

真言「はっ、まるで悪役のセリフだな。とてもクラスで優等生キャラを演じてるやつのセリフとは思えねぇな?」

「あんた何なのよ!元々アイツを助ける義理もなかったのに!!勝手に首突っ込んできて、正義の味方のつもり!!??」

真言「正義の味方?俺はそんなもんのつもりねぇよ」

 

 俺は……

 

 

 

 

 

真言「俺はな……正義になりたいんだよ」

 

 正義、そのものに。

 

 

 

 

 

「はぁ!?頭おかしいんじゃないの??」

真言「お前、さっき俺のこと"オモチャ"とかなんとかほざいてやがったな………………いいぜ、遊んでやるよ」

「黙らせてやれ!!」

 

 5人が一斉に殴りかかってくる──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそ……でしょ……?」

 

 5分、たったの5分で真言は男子生徒を全滅させてしまった。

 

真言「残念だけど、嘘じゃないんだよな」

 

「だ……だれかたすけ──」

 

 ドシャア!!!

 

 一人目と同じように地面に叩きつける。

 

 うるさいのは好きじゃないんだ。そこで静かにしてろ。

 

真言「ハハハハハハハハハ!!!!」

 

 いいねいいね!!こいつらみたいなのを叩き潰せるなんて!!今日はなんていい日なんだ!!我慢してきて良かった!本当に良かった!!!

 

「あんた……」

真言「あ?」

「この化け物!!!女に手をあげるなんて最低!!!アンタなんか人間じゃない!!!!」

 

 化け物……ね……人の皮を被ったクズのこいつらだけには言われたくないな。

 

真言「何言ってんだお前?」

 

 この期に及んで……よくもまあそんなことが言えるものだ。自分たちが何をしたのか覚えてないのか?

 

真言「俺が人間じゃねぇならお前らは人間以下のゴミクズだろ、なぁおい?」ガシッ

「だ、誰か!!助けて!!!」

真言「ざんね~んお前の友達はそこでのびてま〜す」

 

 こいつらもこいつらだ。なんでこんなゴミクズと一緒にいるのだろう?

 

 俺に言わせれば本当に不運なのはこいつらのほうだ。

 

 俺みたいなやつに目をつけられて。

 

「ちょっと!!起きなさいよ!!」

真言「はぁ…もういいよお前、そろそろ黙ろうぜ?な?」

「グヘッ!!!」

 

 汚い声を上げ、そして静かになった。

 

 そうだ……こいつらは悪!悪じゃ正義には勝てねぇんだよ!!

 

 

 

 

 

 ……………ザッ

 

真言「誰だ?」

 

 ……………………気の所為……か……

 

「ゆるさない……」

真言「あ?」

 

「ぜったいに……復讐してやる……」

 

 痣だらけの汚い顔で地面に転がったそいつが呻く。

 

真言「うるせぇよ」

 

 まあ蹴り飛ばしたら黙ったけど。

 

 言ったろ?うるせぇのは嫌いなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜次の日〜〜

 

「一体どういうことだ!!ちゃんと説明しろ!!」

真言「はぁ……」

 

 俺は職員室に呼び出されている。理由はもちろん昨日のことだ。

 

真言「だからぁ!何度も説明してるでしょうが!!あいつらが俺とあと別クラスのやつをイジメてたからそれを止めた!はい以上!!」

「デタラメ言うな!!」

真言「デタラメじゃないって何度も言ってるだろうが!!」

 

 こんな感じでずっと頭の固い教師と押し問答を繰り広げている。

 

 正直言ってクソ時間の無駄だ。

 

「無関係の、しかも女子生徒の顔を殴るなんてどうかしてるぞ!!」

真言「いいかげんにしろ!!あいつらはイジメの主犯格だぜ!?無関係なはずあるかよ!!」

 

 どれだけ言っても信じてくれない。どれだけ上手く立ち回ってたんだよ…………

 

「証拠はあるのか!イジメの証拠は!!本人たちは「やってない」って言ってるぞ!」

 

 いや、イジメだって言ってんだから加害者側が自白するわけ無いだろ。こいつバカなのか?

 

真言「もう一人のやつはイジメが原因で学校休んでんだ、あいつに聞けば全部……」

「その"もう一人のやつ"というのは○組の────の事か?」

真言「……ああ」

「はぁ……お前な……」

真言「?」

「嘘ならもっとマシな嘘をつけ」

真言「嘘じゃねぇ!!」バン

「お前が言ってるその子にも話を聞いたんだよ、生徒会の調査でな」

 

 生徒会?あの二人か……

 

「そしたら返ってきた返答がこれだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私はイジメられていません。全部その人の勘違いです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 は?

 

「お前のいう"イジメ"の被害者もこう言ってるんだ」

 

 ……何言ってるんだこいつ?まったく意味がわからない。

 

「いいか!お前はな…自分の勘違いで無関係な人を殴ったんだよ!!」

 

 勘違い……?あれが……あの涙が勘違い……?

 

 ありえない。絶対にありえない。だって…………

 

「それに止めに入った男子生徒も傷つけて…自分が何をやったのかわかっているのか!?」

 

 俺は…………裏切られたのか……?助けたつもりが……見捨てられたのか?

 

 ガチャ

 

 扉が開いて…入ってきたのは…………

 

「先生」

「危ないからまだ入ってくるんじゃない!」

「大丈夫ですよ」

 

 この女………………!!!!

 

「大丈夫って……怖くないのか?こいつは君を殴ったんだよ?」

「ええ……けどどうして殴られたのか、その理由がわかった今、全然怖くなくなりました。それに…………」

真言「…………………」

 

「勘違いは誰にでもありますから」ニコ

 

 ああ、そうなんだ。こいつはきっと今までこうやって、騙して、嵌めて、潰して、生きてきたんだ。そしてこれからも……

 

「それにあたし……決めたんです」

「何を?」

 

 

 

 

 

「……あたしはあなたを許します」

 

 

 

 

 

真言「は?」

 

 許す?ゴミクズの分際で何を言ってるんだこいつは?

 

「誰にでも間違いはあります。それに彼のやろうとしてたことは間違っていません。ただ……」

 

「どうなるかをもう少し考えれば、こんなことにはならなかったと思うんです」

 

「だから先生、もういいんですあたしは彼を許します」

 

「聞いたか?こんな子がイジメをするように見えるか?」

真言「………………」

 

 悪じゃ正義には勝てない。

 

 俺は…………………………正義だ。

 

「謝れ、お前まだ一言も謝ってないだろ」

真言「………………」スクッ

「おい待て!どこ行くんだ!!」

 

 俺は正しい……俺は正しい……俺は正しい……俺は正しい……俺は正しい……俺は……俺は……俺は…………………

 

「いい気味ね」ボソ

真言「…………………」

 

 すれ違ったときに聞こえた言葉で、俺は確信する。

 

 殺しておくべきだった。あの場で、殴り殺しておくべきだったんだ。

 

「まったく……高校生にもなって謝ることもできないなんて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「亡くなったお母さんもさぞ悲しんでる事だろう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『真言……お前は、正しい人間になりなさい──』

 

真言「殺す」

 

 頭の固いクソ教師も、俺を嵌めたゴミ女も、

 

 今ここで、全員殺す。

 

 これが人生で初めて、確実に殺す気でふるった拳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子「ダメ!!!!!」

真言「!?」ピタッ

 

 白金…………燐子……!!!

 

燐子「…………ダメだよ」

真言「…………………………」

燐子「もう少しだけ……時間をください……」

真言「……………クソ!!」

 

 俺は逃げるように職員室から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜次の日〜〜

 

有咲「おはよう神代くん」

真言「……………」

有咲「?どうかした──」

 

「知ってる?神代くんって無関係の人殴ったんだって!」

「しかも女子!顔痣だらけになったって!」

「なにそれ……最低……」

 

有咲「…………なんだよこれ……」

真言「…………………どいつもこいつも」ボソ

 

有咲「あ、おい!どこ行くんだよ!」

 

真言「あ"?」ギロッ

 

有咲「…………!」

真言「……………………」スタスタ

 

 その日から神代くんは学校に来なくなった。

 

 

 

 

 

「市ヶ谷さん大丈夫?」

有咲「え?あ、うん……」

「怖いよねー暴力事件だってさー」

有咲「…………そうなんだ」

「ホントよく学校に来れるね」

「どの面下げて……殴られた女の子……可愛そう……」

 

有咲「神代くん……あんな目、してたっけ……」ボソ

 

 まるで別人だった。一体何が…………

 

「市ヶ谷さーん、呼んでるよー?」

有咲「?」

 

 私を?誰が……

 

有咲「紗夜先輩…燐子先輩」

燐子「………………」

紗夜「神代 真言くんについて少々お話があります」

有咲「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は自分の知っていることを先輩達に全てを話した。

 

燐子「なるほど……そんなことが……」

有咲「はい……」

紗夜「お守りを取るために窓から身を投げる……正気の沙汰ではありませんね……」

有咲「多分あいつが殴ったっていうのは、そのイジメの主犯格たちだと思います」

紗夜「この学校でイジメとは……許せません……!」

燐子「でも何でイジメられていたその子は加害者を庇うような事を言ったんでしょうか……」

紗夜「……脅された、と考えるのが一番自然ですが……」

紗夜「なんであいつがこんな目に…………」

 

 神代くん……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、真言は…………

 

真言「……………………」

 

 何をするというわけでもなく、ただ家にいた。

 

真言「……………………」

 

 ……俺は一体、何をしていたのだろう。

 

 偽物の正義感を振りかざして、勝手に一人で舞い上がって、助けを求めてないやつを助けて、それで?それで今俺は何してる?

 

 クラスにも居場所がなくなり、家に引きこもってる…………

 

真言「…………ははっ」

 

 これも全部……あのクソ女の思うつぼってか?

 

真言「母さん……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まこと「かあさん!」

「どうした真言?」

まこと「おれね!おおきくなったらせいぎのみたになる!」

 

「ほほぅ…そうかそうか……なら!まずはこの私を倒してみろ!!」

 

まこと「……え!?」

「当たり前だ!私程度を倒せずして正義の味方など、聞いて呆れる!!」

まこと「………………」

「さあ!どこからでもかかってこい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話にならんわ!!!」

まこと「………………」チーン…

「……それとな、真言」

まこと「……………なに」

「"正義の味方"なんて小さいもんになろうとするな。男ならでっかく"正義"そのものになれ!!」

まこと「………………それがさっきぼこぼこにしたむすこにいうこと?」

「ああ!」

まこと「………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「正義そのもの……」

 

 無理だよ母さん。

 

 俺はあなたみたいに強くない、

 

 ………………ただの化け物だ。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 少年には新しい友人たちができて、毎日幸せに暮らしています。

 

 けれど時々"何か"が少年の前に現れ、こう言うのです。

 

「お前は正しくない」

 

「お前が何をしたのか、それを忘れるな」

 

 少年は"何か"を忘れ、生きていくことはできません。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




お気に入り登録 でっひーー 様 ありがとうございます。

次回、真言過去編 終結。


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30.約束【監視対象 過去編】

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 けれど少年はもう恐れません。

 

 なぜなら彼には彼女がいるから。

 

 彼女がいれば、彼は何でもできるから。

 

 だから彼は笑って、"何か"にこう言うのです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 神代くんの起こした校内暴力事件から二週間。

 

有咲「………………」

 

 彼はまだ、学校に復帰していない。

 

 最初のうちは彼に関する様々な噂がクラスを飛び交っていたが、今ではそんな話も消え、彼のことが皆の話題に上ることもほとんど無くなった。

 

 まるで彼がいないのが普通かのように、日々が過ぎ去っていった。

 

紗夜「市ヶ谷さん」

有咲「どうでしたか……?」

紗夜「ダメですね……呼びかけにも全く反応を示しません……」

有咲「そう……ですか……」

 

 紗夜先輩と私と燐子先輩は今、神代くんがイジメから救おうとした女子生徒に接触を図ろうと、彼女の家の前まで来ている。

 

 

 

 

 

 彼女もまた、学校に復帰していない。

 

 

 

 

 

有咲「どうして……あの子がイジメの証言をすれば、神代くんへの誤解も解けて、イジメの加害者もどうにかできるかもしれないのに…………」

燐子「たぶん…………わたしたちのことを……信用していないんだと思います…………」

紗夜「一体どうすれば……」

 

燐子「…………わたし……もう一度行ってきます……」

紗夜「白金さん!?」

燐子「…………わたし」

有咲「?」

燐子「あの人に…………言ったんです……もう少し待っててくださいって……」

 

燐子「必ず……助けてみせます……」

紗夜「白金さん……」

 

 普段物静かな燐子先輩が…………

 

燐子「今度は……わたしが……」ボソ

紗夜「今何か言いましたか?」

燐子「い、いえ……何でもありません……」

 

有咲「……私は神代くんの家に行ってみます。彼がどうしてるか…少し心配なので」

紗夜「わかりました。ではそちらはお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜神代宅〜〜

 

真言「俺……これからどうなっちまうんだろ……」

 

 あんだけ暴れまくったんだ……謹慎……いやもしかしたら退学……

 

真言「学校…………」

 

『知ってる?神代くんって無関係の人殴ったんだって!』

『なにそれ……最低……』

 

真言「………………」

 

 もういやだ。

 

 なんで……俺がこんな思いしなきゃいけないんだ……悪いのはあいつらなのに……俺は間違ってないのに……

 

 本当に?

 

真言「俺は間違ってない……間違ってるのはあいつらだ」

 

 いや違うね。俺が大事にしなけりゃそのまま沈静化したかもしれない。なのに、俺は首を突っ込んだ。

 

真言「だからってあのまま放って置くなんて……できなかった」

 

 正義感?やりたいからやったんだろ?お前のそれはただのエゴだ。"正義"なんて大層なもんじゃねぇ。

 

真言「違う……俺は…………正しい」

 

 間違ってない。間違ってない。間違ってない。

 

 間違ってない……はずなのに……

 

 なんでお前らは俺をそんな目で見るんだよ…なんで…どうして!!

 

 なんで誰も……信じてくれないんだよ…………

 

 誰か…………誰か…………

 

 助けてくれ……

 

 

 

 

 

 ピンポーン♪

 

 

 

 

 

真言「…………………」

 

 ……誰だ?

 

有咲「神代くん…」

真言「………………市ヶ谷…か?」

 

 ドアを開けて入って来たのは市ヶ谷 有咲だった。

 

有咲「ドア開けっ放しだったぞ?無用心だぞ」

真言「…………何しに来た」ピリッ

有咲「──っ!」

 

 学校からの連絡か?謹慎?退学?それとももっと大事になってんのか?

 

 まあ、もうどうでもいいけど。

 

有咲「私はただ、神代くんが心配で……」

真言「…………………」

有咲「…………今、生徒会の人と一緒にあの事件について調べてる」

真言「…………!」

有咲「もう少しで神代くんへの誤解も解ける。だから──」

真言「あのイジメられてたやつ、何も言わねえんだろ?」

 

『全部その人の勘違いです』

 

有咲「…………………うん」

真言「…………………なあ、市ヶ谷…一つ聞いていいか?」

有咲「……どうした?」

 

 

 

 

 

真言「"正しい"ってなんだ?」

 

 

 

 

 

有咲「………………」

真言「俺は今まで自分が正しいと思ったことをやってきた。そして俺の思う"正しい"は皆から見ても"正しい"事だと信じてきた……」

 

 けど違った。俺の正義感は傍から見ればただの自己満足だった。

 

真言「俺の"正しい"は、周りのやつらにも、俺が助けようとしたやつにさえ否定された……」

有咲「神代くん…………」

 

 もう俺には何も分からない。俺は間違って…………?

 

真言「なあ市ヶ谷、お前頭いいんだろ?教えてくれよ…………このバカな俺に教えてくれよ…!」

 

 

 

 

 

真言「俺は………………………………本当に正しかったのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、私はその質問に答えられないまま、彼の家を出た。

 

 正しくないのか?そう問う彼の目は私を見ているようで、どこか遠いところを見つめていた。

 

有咲「…………わからないよ」

 

 なんで彼がこんな目に合っているのか。

 

 彼は……本当に間違ってなかった……のか?

 

紗夜「─ヶ谷さん……市ヶ谷さん!!」

有咲「……!!紗夜先輩……」

紗夜「やりました!!やりましたよ!!!」

有咲「ど、どうしたんですか!?」

 

 なんでこんなに興奮してるの!?

 

燐子「…………………」チーン

有咲「り、燐子先輩!?」

 

 なんかすっごい疲れてる……

 

紗夜「説得できたんです!白金さんが!!」

有咲「…………え?」

 

 説得…?誰を…………

 

紗夜「あのイジメの被害者の方が全てを話してくれたんです!」

有咲「!」

紗夜「これで、あの神代くんへの疑いも晴れます!!」

有咲「ほ、ホントですか!?燐子先輩!」

燐子「……………」コクッ

 

 急すぎてまだ理解が追いついてない……けど……

 

有咲「よかった…………これで神代くんは──」

 

『俺は………………………………本当に正しかったのか?』

 

有咲「……………」

紗夜「市ヶ谷さん?どうかしましたか?」

有咲「い、いえ……」

 

 これで…………終わり?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「…………俺、なんで呼び出されたんだ」

有咲「いいから!早く来い!」

 

 市ヶ谷が家を訪ねてきた数日後、懲りずにまた来た。

 

 どうやら今度は何かあるらしい。俺の話も聞かず無理やり外に引っ張られたかと思うと、そのまま高校まで俺を引きずっていった。

 

真言「………………」

有咲「ほら!行くぞ!」

真言「………………やだ」

有咲「はぁ!?」

 

 上手く言えないけど…………ここに戻りたくない。

 

有咲「おま、子供みたいなことを………!!」グイッ!!!

真言「………………」グッ

有咲「力つっよ……動かねぇ……!」グヌヌ

真言「…………なあ」

有咲「あ!?」グヌヌ

真言「俺は……どうして連れて来られたんだ?」

有咲「…………あのイジメられてた子が全部話してくれる……そうだ」

真言「………………そっか」

有咲「…………え!?それだけ!?」

真言「………………会いたくない」

有咲「燐子先輩と紗夜先輩が頑張ってくれたんだよ……ぜってぇ連れてく……!!」

真言「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「………………」

紗夜「来ましたね」

有咲「ハァ……ハァ……ハァ……」

燐子「い、市ヶ谷さん……ありがとうございます……」

 

 連れてかれた先は職員室。あの日以来だな。

 

 中には生徒会のやつ二人と、前のやつとは違う教師。そして…………

 

 

「………………」

 

 いる。あいつが。"被害者"が。

 

真言「………………てめぇ」

「……ごめんなさい……ごめんなさい…………」ポロポロ

 

 ………………泣きてぇのはこっちだっての。

 

真言「………………」

燐子「あの……」

 

「君が神代 真言くん、だね?」

真言「………………ああ」

「彼女から全て話は聞いたよ。災難だったね」

 

 災難?災難って……どういうことだ?

 

「でもどうか彼女を恨まないでほしいんだ。彼女もあのイジメてた女子生徒に脅されてただけで」

真言「…………」

「でももう大丈夫だよ。上にも正式に報告しておいたし、彼女をイジメてた女子生徒達は全員自主退学──」

真言「もうなんでもいいよ」

「…………え?」

 

 なんか、全部どうでもよくなっちまった。

 

 あいつらへの復讐とか、この黙ってた女に対する怒りとか、

 

 心底、どうでもいい。

 

真言「………………」

「え、ええっと……君がこれからもこの学校に残る気があるなら、普段通り登校してほしい……と我々は思ってるんだけど……」

真言「…………あっそ」

有咲「あ、おい!どこ行くんだよ!!」

真言「帰る」

有咲「帰る!?」

 

 もう用事も済んだみたいだし……俺がいる必要もないだろ?

 

燐子「…………待ってください」

真言「あ?」

 

 こいつ……あの時俺を止めたやつか。

 

真言「まだ何かあんのか?」

燐子「…………わたしのこと……覚えてないですか……?」

真言「はぁ?」

燐子「……………ごめん……なさい」

 

 何言ってんだよこいつ。

 

 

 

 

 

「………………ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

真言「…………やっぱ気が変わったわ」

有咲「?」

 

 ごめんなさい?被害者?いや違う。

 

 俺が今こんな惨めな思いをしてるのは誰のせいだ?誰のせいだ?誰のせいだ!?

 

真言「なんでお前、『俺の勘違いだ』とか言った?」

「ごめんなさい…………ごめんなさい…………」

真言「質問に答えろ!!」

紗夜「お、落ち着いてください!」

「神代くん、この子もイジメの被害者で──」

 

真言「外野どもは引っ込んでろ」ギロッ

 

紗夜「──っ!」

有咲「(まただ……またこの目。冷たく……暗い……怖い目)」

 

「わたし……こわくて……なにもできなくて……ごめんなさい……ごめんなさい……」

真言「じゃあ何で今更出てきた」

「それは…………」

 

 

 

 

 

────────────────────────

燐子「あなたの為に……神代 真言くんは戦ったんです……」

「そんなこと、私が知ったことではありません……彼が勝手にやったことです」

紗夜「あなた……!!」

 

燐子「彼は今…………とても傷ついています。助けたはずのあなたに裏切られて…………すごく……ショックを受けたと思います………」

「………………」

 

燐子「…………お願いします。少しでも彼に対して罪悪感があるなら…………彼を……助けてあげてください……」

紗夜「…………白金さん」

燐子「あなたが事実を話せば……彼は救われます……だから…………お願いします…………!」

「………でも、もしまたあの人達が……」

紗夜「大丈夫です。今度は私達があなたを守ってみせます」

燐子「お願いします…………!」

────────────────────────

 

 

 

 

 

真言「………………」

「ごめんなさい…………わたし……」

 

真言「もう……何もしゃべんな」

 

「…………え?」

真言「俺が勝手にやったことなんだろ?なら、これからも勝手にやらせてもらう」

 

 もう正義だなんだ言うのはやめる。

 

 分かっちまったんだよ……そんなもん、なんの役にも立たないってことがな!

 

有咲「何を……」

紗夜「…!やめなさい!!」

真言「気に食わねぇ……どいつもこいつも……」ザッ

「や、やめて…………」

真言「俺を助ける?お前に俺が今、どんなに惨めな気持ちかわかるか?」

 

 ガキの頃から信じてきた"正しさ"をぶっ壊され、助けたやつに裏切られ、挙句の果てにそいつに助けられる?

 

真言「ふざけやがって…………」

 

 お前らのせいで……俺は…………

 

 何が正しいのか、わかんなくなっちまった。

 

真言「全部ぶっ壊してやる……今度は俺が……!!」

有咲「おい!止まれって!!」

真言「邪魔だ!!!」ブンッ!!!

有咲「きゃっ!」

紗夜「市ヶ谷さん!!」

 

「やめて……来ないで……ごめんなさ──」

真言「……………っ!」

 

 握りしめた拳を振り上げ、そして……

 

 鈍い音が、部屋中に鳴り響いた。

 

真言「…………………」

 

 そして訪れる静寂。

 

紗夜「………………」

有咲「………………」

真言「なんで…………」

 

 なんで…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「なんでなんだよ!!白金 燐子!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「白金さん!!!」

有咲「燐子先輩!!!」

 

 俺の拳は、割って入ってきた白金 燐子に当たった。

 

燐子「………………だめ…………だよ……?」

真言「…………!」

燐子「正義の味方は…………悪い人を倒して……困ってる人を……助けるんでしょ…………?」

真言「お前……なんで…………」

燐子「だから…………自分が助けた人を……傷つけちゃだめ…………」ポロポロ

 

 なんで……泣くんだよ……なんでお前が…………

 

真言「っ!!」ダッ!!!

有咲「あ、おい!!」

燐子「まって…………!」タッ…

紗夜「白金さん!?」

 

 全てに耐えきれなくなった俺は、全てを捨てて逃げ出した。

 

 自分で作った正義感から、無関係の人間を殴ってしまった罪悪感から、花咲川学園から、白金 燐子から。

 

 結局俺は…………"正義の味方"にも、なれなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 走って、走って、逃げて、気づけばポツポツと雨が降り出してきた。

 

真言「ハァ……ハァ……がっ!」

 

 躓き、転ぶ。

 

 そんな俺に追い打ちをかけるように、雨が強くなる。

 

 倒れたまま起き上がれない……起き上がりたくない……このまま消えてしまいたい。

 

真言「………………」

 

 冷たい雨が、打ち付ける。

 

真言「………………わかんねぇんだよ……」

 

 わからない。俺にはもう何も。いや、最初からわかってなんかいなかった。

 

真言「なんでお前は……俺を助ける……」

 

 

 

 

 

燐子「………………」

 

 

 

 

 

真言「俺に対する同情か!?ふざけんな!!!俺は正しい!!俺は間違ってない!!俺は可愛そうなんかじゃない!!!俺は!!!!!」

燐子「…………神代 真言くん」

 

 雨の降る中、傘もささずに俺とその人、白金 燐子は冷たい地べたに座りこんでいる。

 

 全身ずぶ濡れで、もうこれが雨なのか涙なのかわからない。顔も思考回路もグチャグチャだ。

 

真言「おれは…………おれは…………」

 

 

 

 

 

真言「ただ…………誰かに認めてほしかっただけなんだ…………」

 

 

 

 

 

 

燐子「……大丈夫…だよ」

真言「……………」

燐子「君は……何も悪くないよ……?」

 

 俺の目を見据え、その人は言う。

 

燐子「君は正しいことをした…………絶対に……間違ってなんかいない……」

真言「………………!」

 

 俺は……誰かに言ってほしかった。君は正しい。間違ってない。

 

 誰でもいい。一人でもいいから、そう……言ってほしかっただけ。

 

真言「………………っ!」

 

 その言葉は、俺を泣き虫な子供時代に戻すには十分すぎる言葉だった。

 

 雨は降り止まない。涙も──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子「ねえ……真言くん…………」

真言「…………………」

燐子「一つ……約束して………?」

 

 俺と同じくらいずぶ濡れな彼女は、それでも俺の目を優しく見つめる。

 

 

 

 

 

燐子「もう…………誰も傷つけないで…………?」

 

 

 

 

 

燐子「君は優しいから…………誰かを傷つければ……それ以上に君が傷ついてしまう…………」

 

燐子「もう……これ以上……君が傷つくのは……見たくないよ……………」

 

真言「………………」

 

燐子「だから……お願い………」

 

 それは優しい優しい約束。

 

 かけがえのない……約束。

 

真言「…………わかった」

 

 俺は彼女の目の前に小指を立てる。

 

真言「約束するよ。俺はもう、誰も傷つけない」

 

 約束しよう。

 

 俺がそう答えると、彼女は安心したように微笑み、差し出した小指と自分の小指とを絡め合わせた。

 

真言「それともう一つ」

燐子「?」

 

 けど……それだけじゃダメだ。ちゃんと、言わなければ。

 

真言「ありがとう。あんたから受けたこの恩は絶対に忘れない」

 

 だから、俺にも約束を。

 

真言「一生、なんて不確定なことは言わねえ。だけど、せめてあんたがこの高校を卒業するまでの間……」

 

 

 

 

 

真言「俺があんたを守る。あんたに……恩を返させてくれ……」

 

 どうか俺に、恩返しと償いを。

 

燐子「…………はい」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「今までありがとな」

 

 彼は"何か"に、今まで囚われてきた"正義の味方(神代真言)"にそうお礼を言いました。

 

 もう彼に正義は必要ありません。

 

 彼には正義よりも大切な、約束された日々があるから…………

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

真言「…………これが、俺の過去です」

 

 独りよがりの正義感を振りかざし、空回りに空回りを重ね、大切な人を傷つけ、正義(すべて)を失い、約束(すべて)を手に入れた、過去。

 

友希那「なるほど……そんなことが……」

真言「…………もう関わってこないと思ってたんですが……あのクソ女が燐子先輩を…………」ギリッ

紗夜「今日は神代さんをからかっただけ……ということでしょうか?」

真言「おそらくは……だけど、これ以降何もしてこないとは考えづらいです」

友希那「…………真言」

真言「はい」

 

友希那「燐子との約束……"燐子を守る"。しっかり果たしなさい」

真言「もちろんです」

 

 言われるまでもない。必ず……守ってみせる。

 

 

 

 

 

 ポスッ

 

 

 

 

 

真言「ん?」フリカエリ

 

 何かが背中に…?

 

あこ「そ"、そ"ん"な"こ"と"が"あ"っ"た"ん"だ"ね"……」ボロボロ

真言「し、師匠!?」

リサ「辛かったね……今度クッキーいっぱい食べさせてあげるから………」ズビ

真言「姐さんまで!?」

 

 二人揃って俺の背中にしがみついてガチ泣きしている。

 

友希那「モテモテね」

真言「み、湊さん…………」

紗夜「まったく………」

燐子「ふふ…………」

真言「はぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 あの事件から数日後。

 

 俺は燐子先輩と共にまたまた職員室に呼び出された。

 

真言「それで……俺はこれからどうなるんですか?」

紗夜「あなたがしたことは間違ってはないとはいえ、少しやりすぎでした。校内での暴力沙汰、そして……」チラッ

燐子「わ、わたしは…………傷はもう治りましたし……痕も……もう残ってない……です……だから」

真言「…………退学……ですか?」

 

 それくらいのことはしたのだ。覚悟はしている。

 

紗夜「…………いえ、当面の間、私達生徒会と一緒にいてもらいます」

真言「!」

 

 生徒会…………!

 

紗夜「これからあなたは生徒会の監視対象……というわけです」

真言「監視対象……ね」

 

 なんか大層な名前だなぁ……まあ"正義の味方"

よりは俺に合ってるか?

 

燐子「これからよろしくね……真言くん」

真言「……よろしくお願いします。燐子先輩」

 

 …………まあいい。約束は必ず守る。

 

 それは正義だろうと監視対象だろうと変わらない。

 

 それが神代 真言だから。

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お気に入り登録 霊樹 様 神界書庫 様 ヘイタひせい 様 ありがとうございます。

これにて監視対象 過去編、終結となります。

Roseliaとの出会い、そして神代家…………まだまだ謎が残されていますが、一先ず次回はお気に入り100記念のネタ回です!!テンション上げて行きましょう!!!


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31.Who is KING?

さあさあさあさあ!!!!お待たせいたしましたぁぁぁあああ!!!!お気に入り100記念!!真言✕Roseliaのイチャイチャ回です!!!!

前回までのシリアスどこいったって感じに仕上がっております。キャラ崩壊注意です。脳みそのネジゆるっゆるにしてお読みください。

それでは本編どうぞおおおおお!!!!!



 人生何が起こるか分からない。

 

 燐子先輩やRoseliaに出会ったり、友人と呼べる人達ができたり、

 

 おかしな薬を飲んで子供に戻ったり、子供に戻った先輩たちを見たり、悪夢を見せられたり、ある日突然別世界に飛ばされたり…………

 

 本当に、人生何が起こるか分からない。

 

 何が起きてもおかしくない。

 

真言「…………………」

 

 本当に、何が起きても……

 

友希那「まこと…………♡」

 

 何が…………

 

リサ「ほ〜らマコくん……♡」

 

 起き…………

 

紗夜「神代さん…♡」

 

 ても…………

 

あこ「ねぇ〜まっくん〜♡」

 

真言「…………………」

 

 

 

 

 

燐子「真言くん……………♡♡♡」

 

 

 

 

 

 勘の良い人なら誰のせいでこの異常事態が起きているのか察しがつくだろう。

 

 よし!皆であの空に向かって叫ぼう!…………ここ俺の家の中だけど。

 

 まあまあ、この際細かいことは置いときまして…………

 

 はい、せーの!

 

 

 

 

 

真言「どうしてくれんだ弦巻ィィィィイイイイ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 そんな俺の悲痛な叫びは虚しく消えていった……

 

 俺はあと何回あいつにかき乱されればいいのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡ること数時間前。

 

 俺は珍しく、めっっっっちゃ珍しく家のリビングで勉学に勤しんでいた。

 

真言「…………………………わからん」

 

 しかし普段の授業で寝ている俺のヨワヨワなおつむには、少々難易度が高すぎるようだ。

 

真言「有咲に聞くか……」

 

 ピンポーン♪

 

真言「ん?」

 

 どうやら来客らしい。一体誰だ?

 

 有咲か?それなら丁度良かった。この辺の問題を教えてもらおう。

 

真言「はーい」ガチャ

黒服A「おはよう御座います。神代様」

真言「…………………」

 

 ドアを開けた先にいたのは弦巻家直属、黒服三人衆だった。

 

 え、なんで来た?いや、弦巻じゃなかっただけましか…………?

 

真言「……なんか用ですか。黒服さん」

黒服B「いつもこころ様がお世話になっているお礼に何か差し入れをと……」

真言「なんでまた急に……まあありがたく受け取りますけど……」

 

 この缶に入ってるのは……お菓子……クッキーか?

 

黒服C「こころ様の実験に付き合っていただける、そのほんのささやかなお返しです」

黒服A「これからもこころ様をよろしくおねがいします」

真言「は、はあ……」

黒服A「私どもも、できる限り神代様のお力になります。何か困ったことがあればいつでもご連絡ください」

真言「じゃあ弦巻の暴走を止めてください」

 

 

 

 

 

黒服A「神代様に感謝しているのは私どもだけではありません」

真言「あ、さっきの無視?」

 

 ……他に誰かいるの?

 

黒服A「こころ様はより一層楽しく毎日を過ごしております」

黒服B「奥沢様も実験の標的が神代様に向いて、とても安心しておられます」

 

 誰だよオクサワ……お前も大変そうだな。お前の気持ち、多分わかってやれるぞ。

 

黒服A「神代様。改めてこれからもこころ様をよろしくおねがいします」

真言「わ、わかりました…………」

 

 この人達の圧すげえな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「さて……勉強の再開といきますか!」

 

 謎にやる気が出てきた俺。

 

 今の俺を見たら多分紗夜先輩泣くぞ。感動で。

 

 ピンポーン♪

 

真言「…………またか?」

 

 今日は来客が多いな……

 

あこ「まーっくん!」

真言「師匠?」

あこ「遊びに来たよー!!」

真言「どうかしたんで──」ガチャ

 

リサ「やっほー☆」

真言「姐さん、それにRoseliaの皆まで……どうかしたんですか?」

 

友希那「それはあこが……」

紗夜「いえ……宇田川さんが……」

 

 二人とも口を揃えて……

 

あこ「今日は練習が休みだからね!遊びに来ちゃった!」

真言「は、はぁ……」

燐子「ご、ごめんね…………迷惑……だったかな……?」

真言「そんなことないです」キッパリ

紗夜「即答ですね」

 

真言「ま、まあ外で立ってるのもなんですし、どうぞ入ってください」

あこ「おじゃましま~す!」

燐子「お、おじゃまします……」

リサ「ごめんね〜……というかマコくんご両親は?大丈夫なの?」

 

真言「……ああ、俺、一人暮らしなんですよ」

 

リサ「そ、そっか」

友希那「どうかした?」

リサ「う、ううん、何でもない」

 

 

 

 

 

あこ「ここがまっくんのお家かー!」

リサ「結構きれいにしてるね」

真言「そうですか?」

友希那「きれいというより……物が少ないわね」

紗夜「確かに………………ん?これは……」

燐子「勉強道具……ですね……しかも真言くんの苦手な数学…………」

紗夜「神代さん……!あなた……!!!」ウルッ

友希那「さ、紗夜?」

真言「あはは……」

 

 ガチで泣きそう……さっきのは冗談だったつもりなんだけど。

 

真言「飲み物は……オレンジジュースでいいですか?」

リサ「あ、アタシ手伝おっか?」

真言「大丈夫ですよ。リビングでテレビでも見ててください」

 

 そう言って俺はキッチンへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「師匠はいっつも唐突なんだよなあ……ま、暇してたし別にいいけどさ」

 

 俺んち、ホントに何もないから。ゲームもNFOくらいしかないし。皆が楽しめるようなやつか…………なんかあったっけ?

 

 姐さんは俺の両親のことを心配してたけど、皆のご両親は大丈夫なの?自分の娘が知らない一人暮らしの男の家に行くなんて……俺だったら止めてるね。

 

 …………約一名、"知らない男"じゃない方がおられますが……知ってるどころか、俺に殴りかかられたお方が……

 

真言「………………………コップ…あったっけ」

 

 あ、紙コップがあったわ。

 

あこ「ねえーまっくんー」

 

 リビングの方から師匠の声が聞こえる。

 

真言「どうかしましたかー?」

あこ「このテーブルに置いてあるクッキー、食べてもいいー?」

燐子「あ、あこちゃん……」

真言「いいっすよー!」

あこ「ありがとーー!」

紗夜「まったく……宇田川さん……」

あこ「みんなで食べましょうー!」

 

真言「いつも元気だな…師匠は」ハハッ

 

 てか、テーブルの上にクッキー?そんなもん置いてあったっけ…………

 

黒服C『こころ様の実験に付き合っていただける、そのほんのささやかなお返しです』

 

 ああ…黒服さんが持ってきてくれたやつか。

 

 黒服さんが…………黒服…………弦巻家…………

 

 

 

 

 

 ダメだ……どうしても後ろにあの金髪マッドサイエンティスト少女の影がちらついて仕方ない…………

 

真言「…………気にしすぎ……だよな」

 

 ジュースも準備できたし、とりあえずリビングに戻るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「お待たせしましたー」

 

 リビングではテーブルに置かれたクッキーをRoseliaの皆が食べていた。

 

リサ「ありがとーマコくん♡」

真言「いえい…………え?」

 

 …………何かいつもの姐さんと違う……?いつもならこう「ありがとね♪」とか「マコくん☆」とかそんな感じなのに…………今♡ついてなかった?

 

真言「………………?」

あこ「ん?どーかしたの?まーっくん♡」

真言「いや、何でもないですよ」

 

 …………今、師匠も…?

 

リサ「まあまあ、座りなよ♡」

真言「は、はあ……」

 

 なんか変だぞ……?姐さんと師匠だけじゃない。五人ともいつもと雰囲気が違う。

 

燐子「まーっくん♡」

真言「……………師匠?なんか近くないですか?」

あこ「そんなことないよー♡」

 

 俺の横にビッタリくっついてる師匠。どことなく顔が火照っているような……?

 

真言「そ、そんなことないんですか……?」

 

 

 

 

 

紗夜「そんなことあります!」

 

 

 

 

 

真言「!」

紗夜「まったく………宇田川さん、少しは恥じらいというものを……!」グイッ

あこ「ちょ、紗夜さーん!」ズルズル

 

 紗夜先輩……良かった…やっぱり俺の気のせい……

 

紗夜「ふぅ……」ポスッ

真言「…………………」

 

 ………………ゑ?

 

真言「あの……紗夜先輩?」

紗夜「何でしょう、神代さん?」

真言「師匠をどけて……そこにあなたが座ったら結局意味なくないですか?」

 

 さっきまで師匠がいたところに、今度は紗夜先輩がくっついている。

 

紗夜「そんなことありません……♡」

真言「言い訳がさっきの師匠と一緒なんですが」

あこ「あー紗夜さんずるーい!」

リサ「ちょっと紗夜〜?それはないんじゃない?」

真言「姐さん、あなたも今俺の後ろから抱きついてるでしょうが」

あこ「じゃああこはこっちー!」

 

 そう言って俺の膝の上を陣取る師匠。

 

 一体何がどうなってんだ?今日は皆との距離が近い……近すぎる……!

 

真言「い、一旦離れましょ?ね?ほら、こんなにくっつかれると暑いですし…………………………」

 

 あ、あれ?動けない……

 

紗夜「…………何処へ行くんですか……?」

リサ「逃さないよ〜♡」

あこ「まっくんはあこたちにくっつかれるのは嫌……?」ウルウル

真言「別に嫌ってわけじゃ……」

 

 ただ……これ傍から見ればだいぶやばい絵面なんだよ……!

 

 とにかく三人を剥がさなくては…………

 

真言「う、動かねぇ………!」

 

 嘘だろ!?いくら三人がかりとはいえ全く動けないなんてことあんのか!?

 

真言「み、湊さん……!」

 

 そうだ!ここは頼れるリーダー、湊さんに助けてもらうしか……!

 

友希那「……………」ボーッ

真言「み、湊さん……?」

 

 何でボーッとテレビを…………いやテレビじゃない。湊さんはその横の……CDか?CDを見てるのか?

 

 あのCDは…………まさか……

 

友希那「………………真言」ウットリ

真言「嘘だろ……湊さん…………」

 

 あれは……Roseliaの…………

 

友希那「私達の歌を……聞いてくれているのね……嬉しいわ…………♡」

真言「」アゼン

友希那「最新のシングルまで……全部買ってくれてる……」ズリッ…

 

 すり寄ってくる…………

 

真言「止まって湊さん!あなたまでこっち側来たら収拾つかないから!ホント止まって!!」

友希那「私は今…とても嬉しいのよ…真言。Roseliaを大切にしてくれて…………♡」

真言「聞けよ!人の話を!!」

 

 いつものクールキャラはどうした!?

 

友希那「真言…………♡」ガシッ

真言「ひっ……!」

 

 湊さんに手のひらを掴まれる。

 

 何されんの?俺、今から何されんの!?指か!?指詰められんのか!!??

 

友希那「大きな手…………♡」

 

 俺の身体は今、完全にRoseliaの包囲網に囲まれている。

 

 横に紗夜先輩、膝の上に師匠、背中に姐さん、両手を湊さんに弄ばれている。

 

 そして…………

 

真言「やべぇ………………………」

 

 見てる…………めっちゃ見てる…………

 

燐子「……………………」ゴゴゴ

真言「り、燐子先輩…………?」

燐子「楽しそうだね…………真言くん…………?」ゴゴゴ

 

 こ、怖ええええ…………

 

燐子「………………」モグモグ

真言「まさか……」

 

 テーブルの上のクッキーを食べながら、こちらを真っ黒な目で見てくる燐子先輩。

 

 瞬間、俺にある一つの考えがよぎる。

 

真言「弦巻…………」

 

 あのクッキー、あれはあいつの実験……クソッ!なんでもっと早く気づかなかった!!

 

 直接ではなく黒服さんを経由して俺に渡してきたのは、俺の警戒心を解くため……黒服さんからなら俺が不自然に思わないと考えての作戦……

 

 考えてみればすぐわかる!黒服さん達だって…………"弦巻家"の人間だ!!

 

真言「しくじった…………」

 

 あいつ……数話登場してないだけでこんなにも狡猾に成長するのか………!?

 

 あのクッキー、おそらくは食べた人の正気を失わせるといった感じの効果だろう……だからそれを食べたRoseliaの皆は今、こんなにデレデレに甘えてきているんだ。

 

燐子「真言くん…………♡♡♡」

 

 なんか他の人より症状が酷い!?

 

真言「…………ど、」

 

 そして物語冒頭に戻る。

 

 

 

 

 

真言「どうしてくれんだ弦巻ィィィィイイイイ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「ねぇ〜まっくん〜あそぼーよー♡」

真言「イイデスヨーナニシマスカー?」

 

 クッキーの缶を調べようにも全身を拘束されて身動き一つ取れない……!

 

 というかこんなに密着されると…………

 

真言「(心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却!!!!!!!!)」

 

 こうなったら、全身の感覚神経を一時遮断する!(気持ち的に)

 

 弦巻のクッキーだって効力は永遠じゃない……これで乗り切ってやる!

 

あこ「うーんそうだなー……あ!王様ゲ──」

真言「師匠!!お口チャック!!!」

 

 両手ふさがってるからできないけどね!!!

 

あこ「えーなんでー?」

真言「ダメなものはダメ!なんか他のやつにしましょう!ね?紗夜せ──」

紗夜「?」

真言「あの……紗夜先輩……それ、何ですか?」

紗夜「何って……クジですが」

リサ「お、準備早いね〜♪」

 

 はあ!?早すぎんだろ!!優秀かよ!!!!

 

真言「湊さん!この人達止めて!!」

友希那「いいわ、やりましょう」

あこ「やったー!」

真言「待てやこらあああ!!!」

燐子「わたしも…………」

真言「燐子先輩!!!!!」

 

 ダメだ……皆正気を失ってる……このままじゃ元に戻ったときに…………

 

真言「殺される…………」ゾッ

 

 湊さんや紗夜先輩に……

 

 殺されなかったとしても、社会的に抹殺され、皆から一生口聞いてくれなくなる…………!

 

真言「嫌だ…………それだけはマジで勘弁して!!!!!」

リサ「はーいじゃあ始めよっか♡」

真言「悪魔が!!!!!」

 

 そうして始まった王様ゲーム。負ければ(社会的な)死のデスゲームが今、幕を開ける!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲームを開始するに当たって、俺はRoselia包囲網を解除された。

 

 テーブルを囲み、俺達は座る。

 

 今のうちに逃げられると思ったが…………

 

燐子「真言くん……逃げちゃだめだよ……♡」

 

 逃げ道を塞がれてしまった。

 

真言「(このゲーム……絶対に負けられない!)」

 

 今の正気を失ったRoseliaが王様になれば、絶対王政よろしく、何を命令してくるかわかったもんじゃない。

 

友希那「………………♡」

リサ「あは♡」

紗夜「…………ふふっ♡」

燐子「真言くん…………♡」

 

 怖い!そんな目で俺の方見ないで!!

 

 あの人達、絶対俺になんかさせるよ!!社会的な死が贈られてくるよ!!

 

あこ「それじゃあ!王様ゲームスタート!」

 

 ルールは簡単。(紗夜先輩が用意した)数字とアタリのマークが書かれたクジを引き、アタリが出た人の命令を、数字が書かれたハズレを引いた人が聞くというめちゃくちゃにシンプルなゲーム。

 

真言「(大丈夫……確率は6分の1……勝てばいいんだ。勝ちさえすれば……)」

 

 最初の一回。この一回で全てが決まる。

 

 俺がここでアタリを引き当て、命令でこのゲームを強制終了してしまえばいい……!拘束を解かれた今、ゲー厶を終わらせ、そして逃げる!!!

 

あこ「はーいじゃあ皆クジ持ってー!」

真言「………………」

友希那「………………」

リサ「………………」

紗夜「………………」

燐子「………………」

あこ「皆持ったね?それじゃあいっくよー!」

 

 終わらせる…………終わらせてやる…………!!

 

「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」

 

 来い…来い…来い……!!!

 

 

 

 

 

 だが俺は思い知ることになる。

 

 

 

 

 

 現実は、そう甘くないということを。




──to be continued……


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32.I'm "Not" KING!!!

 〜〜前回のあらすじ〜〜

弦巻クッキーを食べ、正気を失ったRoseliaのメンバー。
宇田川 あこの提案により唐突に始まった王様ゲーム。
負ければ社会的死が待っている真言、そんな彼が引いたのは…………?



真言「ハズレ……………………っ!」

 

 じゃあアタリは誰が!?

 

「あは♡」

 

真言「……………」ゾッ

 

 こ、この声は…………

 

リサ「アタシが王様だね♡」

真言「…………………」

 

 終わった…………

 

リサ「んー…どうしよっかな〜……♡」

 

 こっち見て考えんな……!!!

 

リサ「んー……それじゃあ…………」

 

 だ、大丈夫……姐さんが俺の番号を当てられる確率は5分の1…………それをピンポイントで当てるなんて、流石に……ね?

 

リサ「3番と5番がハグ!って言うのはどう?」

真言「もうやだ帰る」←3番

リサ「君の家ここだよ?」

 

 何で当たるの?俺なんか悪いことした?

 

真言「…………5番さん……誰ですか」

あこ「はいはいはいはーい!」

真言「………………………」

 

 絵面的に言えば、兄妹に見えないこともない…………つまり…………セーフ?(錯乱)

 

 

 

 

 

真言「………………………どこからでもどうぞ」スッ

あこ「えい♡」ポスッ

 

 師匠が俺の広げた腕の中へ飛び込んでくる。

 

あこ「ぎゅー♡」

真言「……………(汗)」

 

 これ……ホントに大丈夫?家から出たら外に警察、とかいうオチはないだろうな?

 

 身長差約20cm。どう見ても細い師匠の身体…………うっかり強く抱きしめすぎて骨とか折ってしまわないだろうか…………てかこういうときって腕はどこに置けば…………

 

紗夜「(手がわちゃわちゃしてますね……かわいい……♡)」

リサ「…………………」パシャパシャパシャパシャパシャ

真言「……無言で写真取るのやめてくれません?」

 

 

 

 

 

真言「……………………」

あこ「ふっふー♡」

燐子「あこちゃん……もう終わり…………」

あこ「えー?もうー?」

燐子「終わり…………」ゴゴゴ

真言「師匠!離れて!!離れて!!!」

 

 今日は燐子先輩がめっちゃ怖い日だから!!

 

あこ「はーい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「……てっきり俺は姐さん、自分に対する命令をしてくると思ってました」

 

 クジを混ぜる間、俺は姐さんにそう話しかけた

 

リサ「んー……そうだねー…」

リサ「アタシがいい思いをするのは他の人に"命令"してもらってにするよ♡」

 

真言「…………果たして、姐さんに次が回ってきますかね」

リサ「……どういうこと?」

真言「次で俺が引けば、このゲームを終わらせることができます。そうすれば……姐さんの番は一生回ってきませんよ?」ニヤッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「やったーあこが王様だー!」

真言「はーい帰りまーすお疲れ様でしたー」

リサ「逃さないよ♡」ガシッ

紗夜「だからあなたの家はここです」ガシッ

真言「誰か!!!助けてくれー!!!!!」

 

 そうだ!有咲!!俺にはこういうときに頼れる親友がいるじゃないか!!一刻も早くSOSを!!!

 

真言「俺のスマh」

燐子「…………………」

 

 俺の連絡手段…………完全に燐子先輩に握られている。

 

あこ「それじゃあ命令はね…………2番が1番の好きなところをたくさん言って!」

真言「なんでよ」←2番

 

 さっきから運が悪すぎる……まあさっきの姐さんのよりかは難易度が低い命令だ。少なくとも警察に捕まることはない…………だろう。

 

紗夜「1番は私ですね……♡」

真言「紗夜先輩……………」

 

 この人もやっぱりいつもと違う。けど……やるっきゃない。

 

真言「…………練習熱心なところ」

紗夜「………………」

真言「絶対に手を抜かず、全力で物事に取り組むところ。仲間思いなところ。妹思いなところ。優しいところ」

リサ「おお〜……」

紗夜「……………///」

 

真言「…………なんだかんだ言って、手のかかる後輩の面倒を見てくれるところ」

 

紗夜「神代さん…………」

 

 燐子先輩だけじゃない。紗夜先輩にもとても感謝してるし、尊敬している。

 

 こんな状況じゃなくても先輩の良いところくらいまだまだ出てくる。

 

紗夜「…………次に行きましょうか」

真言「そうですね…………って師匠!」

あこ「?」ムシャムシャ

真言「何食ってんですか!?」

あこ「クッキー」

 

 少し目を離した隙に師匠だけじゃなく、全員追加で弦巻クッキードーピングを行っていた。

 

 このままクッキーを食べ続けたらいつまで経っても皆正気に戻らない……てかあのクッキーどんだけあんの!?

 

リサ「よ〜し、じゃあ行くよ〜♡」

真言「(やっぱり俺が自分で終わらせるしかない!!)」

 

「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」

 

真言「………………」

 

 4番…………

 

 俺って……ホントついてない…………

 

紗夜「私が王様ですね♡」

 

 ………………まさか、イカサマ?

 

紗夜「では、4番が5番の頭を撫でるというのはどうでしょう」

真言「当然のように俺なんですね」

 

 やっぱりおかしい……俺の番号をピンポイントで当てられるなんて……たまたまにしてはできすぎている。それとも俺の運が異常に悪い?………………………………………それもありえる。

 

真言「……………5番は……」

 

 

 

 

 

友希那「私ね」

 

 

 

 

 

 ……………………指。

 

 

 

 

 

真言「…………………」フルフル

友希那「…………?なぜそんなに首を振っているのかしら?」

あこ「しかも涙目……」

 

 当然だ。指は惜しい。

 

友希那「私を撫でるのは嫌かしら……?」

真言「いや指が…………」

友希那「?」

紗夜「神代さん、王の命令は絶対、ですよ♡」

 

 や、やるしかないのか…………

 

真言「お、お手柔らかにお願いします…………」スッ

友希那「……それは私が言うことじゃないの?」

 

 ポスッ

 

 正面から湊さんの頭に手を置き、撫でる。

 

真言「………………」ナデナデ

友希那「………………悪くないわ♡」ナデラレナデラレ

 

 (指はやだ指はやだ指はやだ指はやだ指はやだ)(指はやだ指はやだ指はやだ指はやだ指はやだ)(指はやだ指はやだ指はやだ指はやだ指はやだ)

 

 いつもクールな湊さんが、今じゃ猫のようにゆるゆるな顔で俺に撫でられている……これ後で知られたらぶっ殺されるんじゃないか?

 

 

リサ「………………」パシャパシャ

真言「だから写真撮るのやめてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「お、おわった……………」

友希那「…………もう終わりなの?」

 

 もう疲れた…………早く……早く正気に戻ってくれ…………

 

燐子「………………」

 

 さっきから燐子先輩の目からどんどん光が消えていくんだけど。あれホントに俺の知ってる燐子先輩?

 

あこ「よーし!じゃあ次行ってみよ〜♡」

真言「………………」

 

 一回だけ。一回だけでいい。俺に王の座が回ってきさえすれば、このゲームを終わらせ、マックススピードで向かいの有咲の家に逃げ込むことができる。

 

 俺が全力で逃げようと思えば、いくら弦巻クッキーでドーピングした先輩たちといえど、追いつくことはできないはず…………

 

真言「(頼む…………神様…………)」

 

「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」

 

 

 

 

 

真言「…………………」

 

 この世は諸行無常なのだと、どこかの誰かが言っていた。

 

 ………………今なら全力で同意できる。

 

真言「…………………」

リサ「よしよし♡」ナデナデ

真言「やめてください………………」

 

 いつまで経っても俺に王の座は回ってこない。まるで終わらない悪夢のようだ。

 

真言「ああもう!わかったよ!どうせあんたらに俺の番号筒抜けなんだろ!?やればいいんだろ!?どんな命令でもやってやるよちくしょう!!」

友希那「やけくそね」

真言「おら!王様出てこいやー!!!!」

 

 スッ

 

 アタリの印が書かれたクジが上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子「………………♡♡♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「……………………………………」

燐子「やっと……わたしの番だね……真言くん……♡♡♡」

 

 確かに俺の願い通り神は降臨した。

 

 女神(悪魔)が、俺の目の前に降臨なさった。

 

真言「お、落ち着いてくださ──」

燐子「ふ…ふふふ……ふふふふふ…………♡♡♡」

 

 あ、ダメだこれ。もう燐子先輩の目には光が一切ない。

 

燐子「真言くん…………♡♡♡」ハァハァ

真言「……………………」タジッ

 

 息荒いし、完全に不審者の顔だよ……燐子先輩…………

 

真言「……こうなりゃ緊急脱出を!」

燐子「させないよ?」ガバッ

真言「!?」

 

 燐子先輩に押し倒され、そのまま押さえつけられる。

 

 う、動けねぇ……なんて力だ……

 

燐子「ぜったいに……にがさないから……♡♡♡」ハァハァ

真言「な、何を……」

燐子「わたしの……わたしのまことくん…………♡♡♡」ハァハァ

真言「燐子先輩!正気に戻ってください!!」

燐子「ふふ……わたしの……わたしだけの…………♡♡♡」ハァハァ

 

 全然聞こえてない…………!クソッ!これ以上力を入れて抵抗すれば燐子先輩を傷つけてしまう恐れがある……どうすれば……!

 

燐子「まことくん……まことくん……♡♡♡」ハァハァ

真言「り、燐子先輩……」

 

 ゆっくり、燐子先輩の顔が近づいてくる……

 

 そして……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子「……………zzz」スヤァ…

真言「………………………………え?」

 

 眠って……しまった。

 

 俺に乗っかったまま、俺にもたれかかって、眠ってしまった。

 

真言「燐子先輩………………あれ」

 

 そういえば他の皆は…………

 

紗夜「…………………」スヤァ…

あこ「ん………んん……」

リサ「…………むにゃ…………」

友希那「すー…………すー…………」

 

真言「皆寝てる…のか?」

 

 ……どうやら弦巻クッキーの効力が切れたようだ。全員もれなく熟睡している。

 

真言「……とにかくまずは燐子先輩をどかさなくては」

 

 流石にこの体勢は…………何がとは言わないがとてもまずい。とてもだ。

 

真言「よいしょ」

 

燐子「……………んっ♡」

 

真言「!?」

 

 お、俺は今先輩を持ち上げただけだよな?どこか触っちゃいけないところをうっかり触ったとか……ないよな?大丈夫だよな???

 

 ……というか燐子先輩に触っていいところってどこだ?まずそんなもん存在するのか?俺ごときがこのお方に触れてもいいのか?

 

真言「やばい…………」

 

 なんか死にたくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「ふぅ……」

 

 とりあえず燐子先輩をソファに座らせてっと……

 

真言「あ、そうだ」

 

 あのクッキー…………

 

真言「もう空だ……………………よかったぁ…………」

 

 よし。これで後は…………

 

 プルルルルル プルルルルル

 

 ガチャ

 

真言「あ、黒服さん?要件はわかってますよね?はいそうです。俺の家です。はい。はい。俺 対 弦巻家の全面戦争起こされたくなかったらとっとと説明と事後処理を手伝いに来てください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜おまけ〜〜

 

 Roseliaの皆が目覚める前に黒服さんの力もあり、なんとかクッキーやクジなどの証拠品(?)を処分することに成功した。

 

紗夜「…………なにか…………私なにかとんでもないことをしでかしてしまった気が…………」

リサ「アタシも…………」

真言「キノセイデスヨー」

 

 結局、俺は先程起こった一連の出来事を隠蔽することにした。

 

 きっと言っても信じてもらえないと思うし、信じたら信じたで俺が半殺しにされる可能性が非常に高い。

 

 皆には"俺の家に遊びに来たのに、疲れていたのか突然寝てしまった"というようなことを伝えた。

 

友希那「……頭がぼーっとするわ……」

あこ「りんりん……大丈夫?」

燐子「…………ちょっと……大丈夫じゃない……かな…………気分が……」

真言「………………」

 

 あのクッキーの副作用か……?皆暴走してた時の記憶をなくし、身体の不調を訴えている。

 

 やっぱり一番多くクッキーを食べた燐子先輩が一番ひどい。

 

 

 

 

 

友希那「…………真言」

真言「ハイ?」

友希那「あなた、何か知ってるわね」

 

 …………え?

 

真言「ハッハッハ。ナニイッテルンデスカミナトサン」

リサ「…………アタシ…今すっごいマコくんが棒読みで話してるように聞こえるんだけど」

紗夜「神代さん、確かあなた嘘をつくのがものすごく下手でしたよね……?」

 

 勘が良すぎる。いや、嘘が下手すぎる。俺の。

 

真言「ショ、ショウコガナイデスヨ!オレガウソツイテルショウコガ!」

友希那「いつもの真言なら燐子が『気分が悪い』なんて言えば過剰に心配するわ。『大丈夫ですか!燐子先輩!!!!』といった具合にね」

 

 ……今の俺のモノマネ?

 

あこ「似てる……」

友希那「……………でも今、あなたはいたって冷静……一体なぜか」

真言「……………」

友希那「それは燐子が、いえ私たちがなぜ眠っていたか、全て知っているからよ!」

 

 な、なんつー洞察力と推理力……やっぱりいつものクールな湊さんは一味違う…!

 

真言「………………」アセ

リサ「友希那すっごーい!名推理じゃん!!」

紗夜「すごいですね……」

友希那「これくらい普通よ」サラッ

あこ「かっ、かっこいい〜〜〜!!!」

燐子「………………」

 

 え、どうしよう。言う?これ言わなきゃいけない?俺、マジでぶっ殺されるよ???

 

真言「……………………」

友希那「……別に、私たちはあなたが何か取り返しのつかないことをしてしまった、とは思ってないわ」

真言「!」

友希那「断言できる。あなたは私たちにひどいことをするような人間じゃない」

真言「み、湊さん…………」

 

 俺が取り返しのつかないことをしたわけじゃなくて、あなたたちが自分の黒歴史になりそうなことをしでかしたんですよ!!!

 

真言「(そんなこと……やっぱり言えない…………)」

リサ「ん?」

あこ「どうかしたのリサ姉?」

リサ「いや……スマホのカメラが起動してたみたいで…………あ!アタシ何か撮ってる!」

 

 姐さん……カメラ………………写真?

 

あこ「え、なになに〜!あこにも見せて〜!」

真言「………………」ダラダラ

紗夜「す、すごい汗ですよ神代さん?」

 

 やばい…………その写真は多分…………

 

リサ「え」

あこ「ん!?///」

燐子「こ、これは…………」

紗夜「宇田川さんと神代さんが抱き合っていますね…………」

友希那「………………」

リサ「こっちは友希那がマコくんに撫でられてる…………」

燐子「二人ともすごい笑顔…………」

あこ「え、え、え!?///」

友希那「………………///」

 

真言「──っ!!!」ダッ!!!

 

 もう俺には逃げるしか選択肢がなかった。

 

友希那「待ちなさい!!!」

リサ「ちょ、友希那!?」

燐子「あこちゃん……これ、どういうこと…………?」ゴゴゴ

あこ「わかんないよー!りんりん落ち着いてー!!!」

紗夜「どこに行くんですか神代さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポーン♪

 

有咲「はーいどちらさま……ってマコ!?」

真言「たすけ……たすけて…………」

有咲「おいどうしたんだよ!?マコ…………?おい、返事しろよ!!マコ!!!!!」

真言「………………」チーン

有咲「マコおおおおお!!!!!」




お気に入り登録 kazu2022様 水鼬様 輝キング 様 AIDA0117 様 TD@死王の蔵人 様 ありがとうございます。

ちなみにRoseliaが食べたクッキー、こころ曰く「真言への好感度を10倍に増加させる」効果だったそうです。


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33.にしゃたくいつ?

週一投稿を目指したかった。

なぜできなかったかは私のTwitterを見れば分かるかと……https://twitter.com/amatoo_coco?s=09

お気に入り登録 医道 様 とっかず 様 Asked 様 ご飯ですよ 様 ニコアカ 様 そこら辺のペットボトル 様 毘色 様 inubasiri 様 ありがとうございます。

今回は前回のイチャイチャ回とのバランスを取る(?)回です。

それでは本編、どうぞ。



 人には向き不向きがある。

 

 どっかの漫画のラスボスも言っていたが、「王には王の、料理人には料理人の、それぞれの役割がある」とかなんとか……

 

 適材適所と言ってもいい。とにかくそういう役割がこの世に存在しており、すべてが得意な人間などは存在しない。

 

 もしいるとしたらそいつは多分人間じゃない。きっと吸血鬼か何かだろう。

 

 もちろんこの俺、神代 真言にも苦手なことの一つや二つや三つや四つある。

 

 要は何が言いたいのかというと…………

 

真言「俺にショッピングは向いてないってことです」

リサ「ほら、いつまでウダウダやってんの、さっさと行くよ〜?」

あこ「まっくん早く〜!」

真言「……………………」

 

 どうやら俺に拒否権はないようだ。

 

 ここは近所のショッピングモール。そしてここに来るということはもちろん目的はショッピング……しかも服選び…………はぁ……

 

真言「…………俺……ホントについてかなきゃダメですか……?」

あこ・リサ「「もちろん!」」

 

 即答されてしまった。

 

 先日燐子先輩と姐さんが一緒にショッピングに行ったとかで、それを師匠が羨ましがり、一緒に行きたいと姐さんにねだって行くことになったのだが…………それになぜか俺も同行することになったという訳だ。

 

あこ「りんりんだけズルいでしょ!?ね!そう思うよね!?まっくん!」

真言「いや、最近燐子先輩なんか悩んでたみたいなんで、きっとその息抜きだと思うんですけど………」

リサ「まあいいじゃ〜ん♪ほら、マコくんの私服も一緒に選んであげるからさ☆」

真言「…………………………俺、服は……」

 

リサ「……前々から思ってたんだけどマコくん」

真言「……はい?」

 

 

 

 

 

リサ「君……いつも同じような服着てない?」

 

 

 

 

 

真言「…………………」ズーン…

あこ「ちょ、リサ姉!それ言っちゃいけないやつだったんじゃないの!?」

リサ「ご、ごめん!マコくん!!」

 

真言「…………俺……センスないんで…………燐子先輩や皆にダサいって思われたくなくて、こういう地味な服しか着ないんですよ…………はは…」

あこ「………………」

真言「あ、もちろん他の服もありますよ?…………全部黒とかですけど」

リサ「………………」

真言「…………できれば燐子先輩には制服で会いたいんですよね……」

 

 ガシッ!

 

 二人に両腕をガッチリ掴まれ、そのまま引っ張られる。

 

真言「え?」

あこ「よし!行こう!!リサ姉!!!」

真言「ちょ、ちょっと」

リサ「アタシたちに任せて!!燐子にカッコいいって言ってもらえるように頑張ってコーディネートするから!!!」

 

 断れるわけなどあるはずなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「あの…………」

リサ「んー…………ねぇこっちのはどう?」

あこ「いいじゃん!まっくん着てみなよ!!」

真言「…………………」

 

 ……もう30分はこんなやり取りを繰り返している気がする。

 

 つかれた…………いつまで俺は試着室を往復しなきゃいけないんだ……

 

真言「…………………どうすか」

あこ「似合うよー!カッコいい!!」

 

 師匠は優しいから何着てもこうやって褒めてくれる。……姐さんのセンスが良いからか。

 

リサ「いや……さっき着たこっちも捨てがたい…………」

真言「姐さん……完全に火がつきましたね……」

あこ「うーん……ああなっちゃったらちょっと時間かかるかも……」

リサ「でもな……これも似合ってたし…………」ウーン

 

 すごい悩んでる……俺、正直今着てるやつでいいんだけどなぁ……普通にかっこいいと思う。さすが姐さんの選んだ服。

 

真言「(でもこんな適当な感じで言ったらブチギレられそう……)」

 

リサ「マコくん!」

真言「は、はい!!!」ビシッ!!!

リサ「こっちとこっち、マコくんはどっちがいいと思う?」

 

 姐さんが持っているのは………………これ、なんて言えばいいの?えーっと……オシャレな…………黒色ともう一つは茶色っぽい……けどいつも俺が着ているようなやつとは雰囲気が全然違うというか…………?

 

真言「??????????」クビカシゲ

 

 やべぇ…………どっちもオシャレすぎて全くわかんねぇ…………

 

真言「し、師匠……」

あこ「えぇ!?…………ど、どっちも似合うと思うよ!」

真言「そんなぁ……」

 

 どっちでもいいというのは一番困るってのは本当だったんだな…………

 

リサ「マコくん」

真言「え、じゃ、じゃあ…………こっちで……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「……姐さん、ありがとうございました」

リサ「いいよいいよ気にしないで!アタシもマコくんの服選ぶの楽しかったし♪」

 

 結局、姐さんがコーディネートしてくれた服を買うことにした。

 

 ちなみに俺はバイト代をほとんど使うことなく貯金しているので、それなりに自由に使えるお金はある。

 

真言「姐さんは何か買うんですか?」

リサ「うーん……アタシはこの前買ったばっかだしな〜……」

 

あこ「リサ姉ーちょっと来てー」

 

真言「姐さん、呼ばれてますよ」

リサ「あ、ホントだ。じゃあ行こっか」

真言「…………………え?」

 

 呼ばれたの姐さんだけじゃね?

 

リサ「いいからいいから」

真言「何がですか」

 

 

 

 

 

 

あこ「リサ姉ーまっくんーこっちとこっち、どっちがいいと思う?」

 

 …………また二者択一か……今日はやけに選ぶのが多いな……………ぁ?

 

真言「師匠?それ…………」

あこ「かっこいいでしょ!」

 

 いや……かっこいいっていうか………

 

真言「どっから見つけてきたんですかそんなの」

 

 今、師匠が両手に持っている服はどちらも派手な装飾品、というか羽?みたいなものがついていたりする、一言で言えばやべぇやつが着る服だった。

 

真言「いや……流石にこれは…………」

あこ「え?」

リサ「よく見つけてきたね……というかあるんだねそんな服…………」

真言「師匠。ここは姐さんに任せましょう。

真言「かっこいいのが好きなのはわかりますが、姐さんならなるべくその意見を尊重しながら師匠に似合う服を見つけてくれるはずです」

 

 俺の師匠にこんな派手の領域を超えたやばい服を着させるわけにはいかない。

 

あこ「…………そこまで言うなら……」

 

 よし。ミッションコンプリート。

 

 言うまでもないが、そこからは姐さんが大活躍だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 師匠の服も買い終わり、とりあえず今日の目的はすべて達成になった。

 

リサ「ねぇ、ちょっとお茶してかない?」

あこ「いいね!行こー!」

真言「………………姐さん」

リサ「ん?」

 

真言「少し……聞きたいことがあります」

 

リサ・あこ「「???」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「……それで?その聞きたいことって何?」

 

 ショッピングモール近くのファミレスで俺の相談を聞いてもらうことにした。

 

真言「実は……」

あこ「りんりんの事でしょ?」

真言「…………なんでわかるんですか」

 

 俺ってそんなにわかりやすい?

 

リサ「まあ、それはアタシも何となくわかってたけどね」

真言「……………………もう知ってると思いますが、ちょっと前、燐子先輩……何か悩んでたみたいなんです…………生徒会でも元気がなかったというか……」

あこ「うんうん」

 

真言「それで………………一体燐子先輩は何を悩んでいたのか聞きたいんです」

 

あこ「うんうん……………………………………うん?」

真言「?」

リサ「え?」

 

 え、何その「何でお前知らないの?」っていう顔。

 

真言「あの……俺の質問何かおかしかったですか?」

あこ「いや…………え……まっくん知らないの?」

リサ「てっきり燐子もマコくんには相談してたと思ってたんだけど…………」

真言「………………………?」

リサ「あ、ごめんね。えっと燐子が悩んでたのは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「──ってことなんだけど……」

真言「なるほど……」

 

 二者択一か……確かに先輩、そういうの苦手そうだからな……

 

リサ「燐子は優しいからね。選ばれなかった方のことを考えちゃうんだってさ」

真言「選ばれなかった方……」

あこ「というかまっくん、ホントに知らなかったの?」

真言「はい。知りませんでした」

リサ「燐子から相談とかは?」

真言「何かあるってことには俺にもわかりましたよ。だから先輩に聞いたんです。『俺に何かできることはないですか?』ってそしたら…………」

あこ「そしたら?」

 

 

 

 

 

燐子『大丈夫だよ……心配しないで…………?』

 

 

 

 

 

真言「結局、何も教えてくれませんでした……」

 

リサ「……………」

あこ「……………」

 

 これはきっと遠回しな拒絶だ。"お前にできることは何もない"という、先輩からの拒絶。

 

真言「…………俺にできることなんてほとんど無いのかもしれません…………でも俺は、先輩の役に立ちたいんです」

 

 なんでもいい。話を聞くとか、そういう誰にでもできることでいい。

 

 誰にでもできることしか、俺にはきっとできないから。

 

 それでもあの人の力になれるのなら、俺は何でもするのに…………

 

真言「俺って……やっぱり頼りないんですかね……」

あこ「そんなことないよ!きっとりんりんはまっくんに心配かけたくないだけ!」ガタッ!

リサ「それもあると思うんだけどね………………マコくん」

真言「…………はい?」

 

リサ「君はきっと押しに弱いんだよ」

 

 押し…………?

 

真言「押しって……どういう意味ですか?」

リサ「そのままの意味だよ。自分でも思い当たる節があるんじゃない?」

あこ「うーん…………確かにそうかも」

 

 思い当たる節は…………

 

真言「……なんかありましたっけ」

リサ「あるよ。例えばさっき言った『心配しないで』って言われてそのまま素直に引き下がっちゃうところ」

真言「あ」

あこ「それに、今日も最初あれだけ行きたがってなかったのに結局買い物に付き合ってくれたじゃん」

真言「た、確かに……」

リサ「こころのよくわかんない実験にも押し切られて協力しちゃってるし」

あこ「紗夜さんとか友希那さんとかに強く言われたら黙って従っちゃうでしょ?」

リサ「アタシ、バイト中もモカに仕事押し付けられてるの見たことあるよ」

 

真言「…………………」

 

 なんてこった……これじゃまるで俺が意思の弱い、されるがままのダメ人間みたいじゃないか……!

 

リサ「別に悪いことじゃないと思うんだけど……マコくん、優しすぎて他人に押しきられちゃうし押しきれないんだよ」

真言「それを世間一般では意思が弱いというのでは……?」

あこ「あこはね、もっとりんりんにガツガツアタックしていいと思う!」

真言「えぇ…………」

 

 それは……嫌われないだろうか……

 

リサ「マコくんも燐子と同じで優しすぎるのかもね」

真言「…………優しい……か」

 

 そう言われると、なぜか監視対象となる前の俺のことを思い出してしまう。

 

 燐子先輩と出会う前の、地獄のような日々。

 

 もし、今の俺が"優しい"のならあのときの俺はきっと……………

 

あこ「はい!その話はこれでおしまい!」

真言「!」

あこ「それより見て見て!今なんか新しいフェアがやってるらしいよ!」

真言「…………新メニュー&復刻メニュー…?」

 

 メニュー表には大きく二つの美味しそうなスイーツが描かれていた。

 

あこ「どっちにしようかな……迷う〜!」

真言「………………そうですね」フッ

リサ「(やっと笑顔になったよ……ナイスあこ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「よし!決めた!」

リサ「お、決まった?マコくんは?」

真言「俺も決まりました」

リサ「じゃ注文しよっか♪すみませーん」

 

 

 

 

 

あこ「あこはね……こっちにする!」

真言「俺はこれで」

リサ「………………マコくん?」

真言「どうしました?」

リサ「それ、今のフェアのメニューじゃないけど……」

真言「?はい、知ってますよ」

リサ「……ホントに抹茶アイス?」

真言「はい」

リサ「…………………」

 

 二つある選択肢、その中から空気に流されず、言い換えればマイペースに、自身の答えを導くのがこの男なのだと、リサはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜後日談〜〜

 

 花咲川生徒会室にて、俺は紗夜先輩に姐さんと師匠と出かけたことを話した。

 

紗夜「神代さん、これは単なる雑談、あまり考え込まず答えてほしいのですが……」

真言「……はい?」

 

 なんか……雑談のテンションじゃなくない?

 

紗夜「もし、私と白金さんが川で溺れていたら、どちらを助けますか?」

真言「どっちも助けます」

紗夜「……………………」

 

 ………………沈黙怖いんですけど。

 

紗夜「……では質問を変えます。私と白金さん、()()()()()()()()助けられないなら、どちらを助けますか?」

真言「燐子先輩です」

 

 今度も間髪を入れずそう答えた。

 

 きっと俺がこう答えることを紗夜先輩もわかっていたはずだ。一体何でこんな質問をするのだろう?

 

紗夜「………………本当に?

真言「え?」

紗夜「いえ、何でもありません」

 

 何か言ったような気がしたけど……気のせいか?

 

真言「……というより質問の意地が悪いですよ紗夜先輩。普段はそんなこと言わないじゃないですか」

紗夜「そうですね……少し悪趣味な質問でした。すみません」

真言「…………?」

 

燐子「真言くん……ちょっといいかな……?」

真言「はい!すぐ行きます!」

 

 

 

 

 

有咲「……紗夜先輩、さっきの…………」

紗夜「市ヶ谷さん……聞かれてしまいましたか……」

有咲「す、すいません……」

紗夜「別に謝ることではありません。単なる雑談のつもりでしたし」

有咲「……………あの、紗夜先輩。あいつ口ではああ行ってますけど──」

紗夜「わかってますよ。おそらく彼ならどちらかしか助けられない状況でも、どちらも助けようとするでしょう」

有咲「…………………」

紗夜「たとえ溺れていたのが私と市ヶ谷さんでも、Roselia全員でも、彼なら迷わず全員を助けれる選択肢を取ります」

有咲「…………でしょうね。あいつ、多分それが当たり前だと思ってますから」

 

紗夜「以前、コンビニ強盗から白金さんとの約束を守りながら今井さんと青葉さんを守ったように、守れるものは全部守って、救えるものは全て救おうとする……………………自分の身は一切顧みずに」

有咲「溺れてる人を全員助けようとして、自分が逆に溺れるってやつですか?」

紗夜「……それが彼の危ういところでもあり、良いところでもあるんですけどね」

 

 

 

 

 

有咲「…………あいつが溺れないためには、まず私たちが溺れないようにしなきゃですね」

紗夜「そうですね…………ふふっ」

 

 もし彼が溺れる時が来るなら、それはきっと誰かのせいだろう。




今回は前イベのストーリーのパロディ的ななにかでした!

…………自分の大切な人をどちらか一人選ばなければならないとき、皆さんは選ぶことができますか?

彼にもきっと、選ぶときが来るのかもしれませんね……


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34.一杯のコーヒーから始まるクソどうでもいい心理戦

タイトルのとおり意味わからん回です。

お気に入り登録 Lotus0727 様 ねこまんじゅう 様 聖木しろ 様 第4式細菌 様 兵器「モノクス」 様 たまごメガネ 様 sayaちゃん 様 810ポッポ 様 ありがとうございます。

エヌラス様というお方が「監視対象と約束された日々」のPVを制作してくれました!!!本当に素晴らしいのでぜひ見てください!!!→https://twitter.com/amatoo_coco/status/1395711526649012231?s=19

後書きにちょっとしたお知らせがあります。

それでは本編どうぞ。



 とある日のCiRCLEのカフェテリア。

 

 ここのカフェテリアはCiRCLEに訪れる人の憩いの場であり、普段なら明るい談笑や、ゆったりとした雰囲気で満ちている。

 

 しかし、今この場所でなぜか異様に目がガチの人間が約2名。

 

 Roseliaのリーダー、湊 友希那。

 

 花咲川の監視対象、神代 真言。

 

 二人はテーブルを挟んで睨み合っている。

 

 熱々のブラックコーヒーが置かれたテーブルを挟んで…………

 

真言「……湊さん、飲まないんですか?」

友希那「……真言、なにも私に遠慮することはないのよ」

真言「いやいや、ここは湊さんが」

友希那「あなたのその謙虚な姿勢、素晴らしいと思うわ」

真言「当たり前のことですよ。湊さんは年上の方ですから」

友希那「だからといって私とあなたは遠慮なんてものがある仲だったかしら?」

真言「ゴリゴリにある仲だったでしょうが」

友希那「あら、そうだったかしら?あなたはもっと軽いノリで私に接してきていたと思っていたのだけれど……」キョトン

真言「勝手に俺の性格捏造しないでください。あとマジのキョトン顔でこっち見んのやめてもらっていいですか?」

友希那「冗談よ」

真言「湊さんの冗談はわかりづらいんですよ」

 

 一見するととても仲の良い先輩後輩の会話に聞こえるかもしれない。

 

 だが先述した通り、この二人の目はガチである。

 

真言「というよりまずこのコーヒーを頼んだのは湊さんですよね?」

友希那「ええ、そうよ」

真言「ならこのコーヒーは湊さんが飲むべきだと思います」

 

 だがしかし、湊 友希那にはこのコーヒーを飲めない理由がある。

 

 彼女は苦いものが苦手なのだ。

 

 ならばなぜ頼んだのかと思う人もいるかもしれないが、普段の彼女なら角砂糖をこれでもかと入れ、甘々なコーヒーにしてから飲む。

 

 しかし、砂糖を入れる前に偶然話しかけてきた男がこいつ、神代 真言だった。

 

 年下の後輩の手前、自分が苦いものが苦手だと知られてしまえば──

 

 

 

 

 

真言『え、湊さんってコーヒーブラックで飲めないんですか?』

 

真言『………………………子供舌ですね』フッ

 

 

 

 

 

 ──と言われてしまうかもしれないからだ。

 

 もちろん彼はそんなことを言う人間ではないが、今の友希那にそんなことはさほど関係ない。

 

 彼女にとって今一番重要なのは、"どうやって自分がブラックコーヒーを飲めないことを隠し通すか"、そのただ一点だけだった。

 

友希那「…………確かにあなたの言うことは一理あるわ」

真言「いや……もう一理じゃなくて真理だと思うんですが」

 

友希那「でも真言、もしこのコーヒーをあなたのために頼んだものだったとしたら…………どうかしら?」

真言「は?」

友希那「あなたがここに来ることを見越し、注文しておいたわたしの労いの気持ちが入ったコーヒーということよ」

真言「すみませんもっかい言いますね」

 

真言「は?」

 

 友希那の作戦はこうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真言に飲ませる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以上。

 

 シンプルだがこの作戦は、自分がブラックコーヒーを飲めないことを隠しつつ、"私は後輩にコーヒー奢っただけですけど?"と多少強引ではあるがまあまあ上手くカモフラージュができる。

 

友希那「飲みなさい。私の奢りよ」

真言「え、嫌ですけど」

 

 拒絶。そして作戦崩壊。

 

友希那「…………私のコーヒーが飲めないということかしら」

真言「湊さんが頼んだんだから自分で飲めばいいでしょうが…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「(まずい………………)」

 

 こいつもこいつで平静を装いながら脳みそをフル回転させ、この状況を打開する策を講じていた。

 

 00.のオリキャラ設定まで読んでくれた心優しき読者の方々はもうお気づきだろう。

 

 彼はコーヒーが大の苦手なのである。

 

 そりゃもう砂糖とミルクをどれだけ入れようとも絶対に飲めないくらいなのだ。

 

 そしてそのことを友希那にはもちろん、Roseliaのメンバーの誰にも言っていない。つまり…………

 

真言「(もし湊さんに俺がコーヒー飲めない事がバレたら………)」

 

 

 

 

 

友希那『え…真言ってコーヒー飲めなかったの?』

 

友希那『………………………子供舌なのね』フッ

 

 

 

 

 

 

 揃いも揃って短絡的な思考しかできない二人。

 

 こういうのを世間一般では草が生えるというのだろうか。

 

友希那「私が嘘をついてるとでも言いたいのかしら」

真言「……仮にホントだとしても俺なんかに気を使う必要はないですよ」

友希那「あなた、自己肯定感が低いのね。()()()()なんて言葉はあまり使わないほうがいいわ。もっと自分に自信を持ちなさい」

真言「湊さん…………」

友希那「ということで……」スッ

真言「いやいや」

 

 ここでようやく互いの異変に気づく。

 

友希那「(これだけ押しても断られるなんて……)」

真言「(なんかやけに俺に飲まそうとしてくるな……)」

 

友希那「(まさか……)」

真言「(もしかして……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言・友希那「「(俺・私がコーヒー飲めないことがバレてる……!?)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうはならんやろ。

 

友希那「(そうよ……普段ならこの辺りで折れているはずの真言がこんなに強情になっているのは、もう私がブラックコーヒーが飲めないことに気づいているから……!)」

真言「(何でもっと早く気づかなかったんだ…………そう、湊さんは全部知ってて俺に飲むように仕掛けてきているんだ……!)」

 

友希那「…………顔が怖いわよ真言」ゴゴゴ

真言「…………人のこと言えませんよ湊さん」ゴゴゴ

 

 そうして二人のムードがさらに険悪になっていく……

 

 

 

 

 

「あれー?友希那さんにまっくん?」

 

真言・友希那「「!?」」

 

真言「(し、師匠…………それに……)」

 

 

 

 

 

燐子「二人が一緒にいるの…………珍しいですね……?」

友希那「そうかしら」

真言「(終わったああああああああああああ!!!!!!!!)」

 

 これでもう一歩も引けなくなった真言。

 

真言「(どうする…!湊さんならまだしも燐子先輩だけには絶っっっっ対にバレたくない!!!)」

 

 そして内心ガッツポーズをしている友希那。

 

友希那「(勝った……これでもう真言が私にコーヒーを飲ませようとはしないはず……!)」

 

あこ「二人とも顔が怖いけど、何かあったんですか?」

友希那「いえ、大したことではないわ」

真言「………………」

燐子「真言くん…………?」

真言「いや、実はコーヒーが……」

燐子「?」

友希那「飲んでいいと言っているのに真言がなかなか聞かないの。燐子、何とか言ってくれないかしら」

燐子「?」

真言「(や、やりやがった…………)」

 

 友希那はチート:燐子 を使用した!

 

 これにより真言は燐子先輩から飲むように言われたら何が何でも飲まなければならなくなってしまった!

 

真言「(打つ手なし……か…………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「ん?よくわかんないんですけど、それって二つ頼めばいいんじゃないんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言・友希那「「…………………………」」

 

あこ「店員さーんすみませーん」

友希那「待ちなさいあこ」

真言「師匠ストップ!」

 

 この後二人は全力で止めた。

 

 

 

 

 

燐子「(友希那さん……確か苦いのダメだったよね…………?真言くんも甘い物が大好きって言ってたし……二人は何してたんだろ…………)」

 

 二人の好みを知っているが故に、状況を全く理解できなかった燐子であった。




アンケートターイム!

はい!アンケートやります!今回はこれを貼るためためだけの回です!

一番多く票が入った人の回は多分大トリに持ってくるでしょう。

それでは皆さんよろしくおねがいします!


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35.いざ行かん!羽丘生徒会!

できたてホヤホヤです。

これからの「監視対象と約束された日々」について、ぜひお読みください→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=261509&uid=336026

お気に入り登録 岬サナ 様 YouPON 様 5NSi 様 土岐やん 様 春採慎吾 様 シュステー マ・ソーラーレ 様 安貴 様 ありがとうございます。

それでは本編、どうぞ。



紗夜「神代さん、少しおつかいを頼まれてはくれませんか?」

 

 ある日の花咲川生徒会、今日は早めに帰ろうとした俺を、紗夜先輩はそう呼び止めた。

 

真言「おつかい……ですか?」

 

 ひとっ走りして何か買ってこいってことか?そんなパシリみたいなこと……

 

 まあ、特に帰ってすることもないしな……

 

真言「別にいいですけど…………俺は一体何を買ってこればいいんですか?」

紗夜「ああ、"おつかい"と言っても何かを買ってきて欲しいわけではないんです。……この場合"おつかい"というより"配達"と言ったほうがいいかもしれません」

真言「?」

 

 配達?

 

 そう言うと紗夜先輩は大きめの茶封筒を取り出した。

 

紗夜「この書類を届けてほしいんです」

真言「…………どこに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「羽丘学園生徒会に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「ここが羽丘か…………」

 

 羽丘学園。花咲川と同じくらいの時期に女子校から共学に切り替わった高校。

 

 えっと…確かここには姐さんとセンパイが通ってるんだっけ…?

 

真言「けっこー広いな……」

有咲「おい、そんなとこでぼーっとしてねぇでさっさと行くぞ」

真言「ういーす」

 

 俺一人では色々(主に初対面の人関係で)心配だということで有咲さんが付き添いで来てくれました。ありがとうございます。

 

 ……初対面の人に警戒心丸出しの俺と、初対面の人の前では借りてきた猫をかぶる有咲…………紗夜先輩、これ人選ミスなのでは?

 

真言「ま、考えても仕方な──」

 

 

 

 

 

 『きゃーーーーーーーーーー!!!!!!』

 

 

 

 

 

真言「!?」

 

 え!?なに!?何が起きた!?悲鳴!?

 

真言「え!?俺!?俺なんかした!!??」

有咲「落ち着け」バシッ

真言「いてっ」

有咲「ほら、あれだよあれ」ユビサシ

真言「……………………は?」

 

 …………なんだあれ?

 

真言「……有咲、あの人だかりは何だ?」

 

 そこには何故か多くの女子生徒が群がっていた。

 

 まるでエサを見つけたアリのように。こう、ブワーッと。

 

有咲「あの人だかりの中心にいる人、あの人にみんな集まってるんだよ」

真言「中心……」

 

 その人だかりはある一人の人物を中心にできていた。

 

 そこにいたのは、長髪の男性で、身長は……俺と同じくらい、170cmくらいあるだろうか?この距離から見てもイケメンオーラがえぐい。

 

真言「あの人……アイドルか何かか?」

有咲「いや、ファンがいるただの一般人」

真言「は?」

有咲「そんで私らと同じ、ガールズバンドに入ってるギタリストの瀬田 薫(せた かおる)さん」

真言「はぁ?」

有咲「あ、ちなみに弦巻さんと同じバンドな」

真言「はぁぁぁあああ!!??」

 

 なにそれ!?なんかもう色々ありすぎて処理が追いつかんわ!!

 

真言「やべぇやつの周りにはやべぇやつが集まるんだな…………恐るべし、異空間パワー……」

有咲「変なこと言ってないで生徒会室行くぞ」

 

 校庭で大量の女子生徒に囲まれていたイケメン男子(勘違い)を横目に、すごいとこに来てしまったのかもしれないと思う真言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「そういえば有咲」

有咲「どうした?」

真言「これから会う羽丘の生徒会長ってどんな人なんだ?」

有咲「…………お前、ホントに燐子先輩以外に興味ねぇんだな」

真言「え?」

有咲「マコだし仕方ねぇか…………」

真言「な、なんだよ……」

 

 否定はできないけど……

 

有咲「まあいいや」

 

有咲「これから私たちが会う人の名前は氷川 日菜(ひかわ ひな)さん。ちなみにこの人は本物のアイドルだ」

 

 アイドル?本物の?てかそんなことより…………

 

真言「…………氷川?」

有咲「そう。紗夜先輩の双子の妹」

真言「マジで?」

有咲「大マジ」

真言「大マジか〜…………」

 

 まさか話に聞いていた紗夜先輩妹とこんなとこで会うことになるとは…………

 

真言「はぁ…………」

有咲「……なんか元気無いな」

真言「いや、ちょっと…………前に妹さんのことは紗夜先輩から話だけ聞いていたんだけどな」

 

 羽丘で生徒会長やって、しかもアイドル?もやってたなんて……どうやら紗夜先輩の言うとおり随分な才能マン、才能ウーマンらしい。

 

真言「………………なあ、その紗夜先輩の妹……どんな感じだ?」

有咲「どんな感じって…………」

 

 少し考えてから有咲が言う。

 

有咲「ま、紗夜先輩と真逆の性格って言えばいいかな」

 

真言「(真逆…………じゃねぇよな)

 

有咲「え?」

真言「いや、なんでもない。早く行こうぜ!」

有咲「お、おう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【羽丘学園 生徒会室前】

 

 

 

 

 

「あ、有咲ちゃん!」

 

 なんだかとてもいい子そうな人に話しかけられる有咲。なんだかんだ言ってこいつの交友関係も広いよな……

 

「と、そちらの方は……」

有咲「羽沢さん、こいつは……えー………………雑用係?」

真言「今日の俺は配達係です」

「な、なるほど……?」

真言・有咲「「(絶対困らせちゃったな……)」」

「と、とりあえず会長を呼んできますね…!」

 

 バタバタとその人は去っていった。

 

真言「…………」

有咲「なんだよマコ、緊張してんのか?」

真言「…………少し」

有咲「珍しいな。お前が緊張するなんて」

真言「悪いかよ」

有咲「いや?別に」

 

真言「………………」

有咲「………………」

 

 思えば最近、有咲と二人きりで話す機会なんて無かったよな……

 

有咲「…………なあ」

真言「あ?」

有咲「お前、前に日菜さんと…いや、紗夜先輩となんかあったのか?」

真言「………………………………いや、別に?」

有咲「嘘つけ」

真言「………………嘘じゃねぇ」

有咲「いいや、お前の嘘はわかりやすいんだ。私に隠し事できると思うなよ」

真言「………………お前は俺の姉かよ」

有咲「……親友、だろ?」

 

真言「……………お前、いつからそんなこっ恥ずかしいこと言うようになったんだ……?」

有咲「は、はぁ!?///」

真言「いやー有咲さんの口からそんな言葉が聞ける時が来るとは……感慨深いね〜」シミジミ

有咲「ちょ、おま、お前が先に言い出したんだろ!?///」

真言「俺は嬉しいよ有咲……」

有咲「〜〜〜〜!!///」ポカポカ

 

 顔を真っ赤にして殴ってくる有咲。

 

 はは、怒ってる怒ってる。やっぱこいつをからかうのは楽しいな!

 

 

 

 

 

真言「……あの、有咲さん?」

有咲「〜〜〜〜!!///」ポカポカ

真言「そろそろ離れてもらっても……」

有咲「うるせぇ!!///」

真言「いやでも…………」

 

「あ、有咲ちゃん……?」

 

有咲「!?」

「そろそろ…………」

有咲「もうやだ…………///」

真言「…………ふっ」

 

 からかいすぎたかな……ま、あいつにはこれくらいがちょうどいいか。

 

有咲「マコ……あとで覚えてろよ……」

 

 ……どうやら帰りは全力疾走になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有咲「失礼します。花咲川生徒会の者ですが……」

真言「……………」

 

 おお…優等生スイッチ入ったな

 

 こういうのは有咲に任せるに限る。やっぱり紗夜先輩の人選は間違ってなかった。……とりあえず端っこの方で大人しくしてよ。

 

「いらっしゃーい!有咲ちゃんと……」

 

 こいつが紗夜先輩の妹…………確かに顔は瓜二つだけど…………纏ってるオーラ(?)が先輩とは真逆だ……なんだろうこの感じ…………

 

「あ!もしかして君がおねーちゃんの言ってた"神代 真言"くん!?」

真言「……はい。そうですけど……」

「わー!本当に目つき悪ーい!」

真言「…………」

「日菜先輩!」

 

 なんだこの人…………

 

「ごめんごめん!あまりにも君がおねーちゃんから聞いてたイメージとそっくりだったから!」

真言「……紗夜先輩、俺のことなんて言ってたんですか?」

「んーとね……『手のかかる後輩』だってさ!」

真言「………………」

 

 『手のかかる後輩』……なんて俺を端的に表している言葉だろう。ホントに頭が上がりません。

 

 あと有咲、お前笑ってんじゃねぇぞ。バレてんだよ。

 

日菜「改めてまして!あたしはここの生徒会長の日菜だよー!よろしく!手のかかる後輩くん♪」

真言「神代 真言です。よろしくおねがいします」

日菜「んー………………」ジーッ

真言「…………あの、なにか」

日菜「るんっ♪て来た!」

真言「は?」

 

 「るんっ♪」?「るんっ♪」てなに???

 

真言「…………弦巻だ」

有咲「は?」

 

 今わかった。この人、弦巻とおんなじ匂いがする……!つまり……!

 

真言「…………………早く帰りたい」

有咲「なんか急にマコからやる気が無くなったような…………」

日菜「うん?」

 

 とりあえず紗夜先輩から渡されたやつを受け取ってもらって帰ろう……

 

真言「あの…………」スッ

日菜「ああ!これかー!」

真言「氷川さん」

日菜「日菜でいーよ?」

 

 渡した封筒をの中身を見ながら答える。

 

真言「………………氷川さん、この書類……なんの書類なんですか?」

日菜「これ?これはね…………」

 

 そう言って氷川さんは、俺の目の書類を突きつける。

 

 そこにはこう書かれていた。

 

真言「『花咲川、羽丘、合同文化祭』?」

日菜「そ!あたしが前々からおねーちゃんたちに頼んでたんだよね」

真言「…………何で?」

日菜「そっちのほうがるんっ♪てするじゃん?」

 

 そうだった。この人は弦巻と同じ、己の感性だけで動いてる人だった。

 

真言「…………………」

日菜「はい!配達ご苦労さま!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「………………疲れた」

有咲「だろうな。お前、日菜さんみたいな人苦手だろ」

真言「まあな…………」

 

 目的も無事達成したことだし、羽丘に別れを告げ、俺たちはそのまま家に帰ることにした。

 

 先輩からは明日の朝報告するよう言われている。

 

真言「…………それにしても、すげぇ人だったな氷川さん」

有咲「否定はしない」

真言「…………………」

 

『俺に氷川さんの気持ちはわかりません。………………けど、氷川さんの妹さんの気持ちなら……少し、わかる気がします』

 

真言「(…………全然わかんねぇよ)」

有咲「どうした?」

真言「いや、ちょっと昔を思い出してただけ」

有咲「?…………………ああ、だからお前今日一日変だったのか」

 

 理解すんの早すぎやしねぇか?

 

真言「…………お前、やっぱり俺の生き別れた姉とかなんじゃね?」

有咲「だから私は…………って言わねえからな!?」

真言「ちっ」

有咲「舌打ちすんな!!」

 

真言「……それにしても合同文化祭か」

 

 姐さんとか湊さんたちと文化祭…………

 

真言「は!もしかして文化祭でRoseliaのライブが観れるのでは!?」

有咲「急にテンション上がったな」

真言「こうしちゃいられねえ!今すぐ紗夜先輩にお願いを……!!」

有咲「帰んぞ」




なんかいろいろ勘違いが起きたり、一大イベントが動き出そうとしていますね……

ぜひアンケートにご参加を!!


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36.神代 真言の賑やかな誕生日

完全に話出す順番ミスった……
どうも。長らく失踪しておりました砂糖のカタマリです。
突然ですが今日は何の日でしょうか?
そう……今日は…………………

期末テスト二日目ですね。はい。

それでは本編どうぞ。



 今日は6月25日金曜日。休日まであと一歩という、学生たちの希望の日。

 

真言「………………」

 

 先に断っておこう。俺は別にソワソワなんかしていない。

 

 だが、昼休みの教室の喧騒のなか、俺がいつも以上に静かなのは事実。

 

有咲「……なにソワソワしてんだマコ」

真言「ソワソワしてない!!!」ガタッ!!!

有咲「!?」

真言「俺は!ソワソワしてなんか!!いない!!!」ズイッ!!!

有咲「わ、わかったわかった!私が悪かったから落ち着けよ、な?」

真言「…………………」スチャッ

 

 

 

 

 

 本日6月25日はこの俺、神代 真言の誕生日である。

 

 

 

 

 

真言「はあ…………」

有咲「そんな心配すんなって。燐子先輩たちならちゃんと祝ってくれる…………多分」

真言「…………………」

 

 多分って……

 

 ちなみに有咲からは今朝プレゼントを貰った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ピンポーン♪

 

真言「はーい……」

有咲「おう、おはよう」

真言「おはよ…………」

有咲「眠そうだな……はいこれ」

真言「…………?」

有咲「誕生日プレゼント」

真言「……チョ○ボール?」

有咲「チョコボー○」

真言「…………ありがと」

有咲「ん」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

有咲「もし祝ってもらえなかったら、また私が祝ってやるから」

真言「…………何かくれんの?」

有咲「……○ョコボール」

真言「またかよ!もういいよチョコボ○ルは!」

有咲「今度はいちご味にしてやる」

真言「ピーナッツ味でいいです…………」

 

 6月25日。誕生日。俺がこの世に生まれた、ただそれだけの日。

 

 前までは、「誰かに祝ってもらいたい」とかそういう感情は無かった。誕生日を祝ってくれるような仲の人も少なかったし。

 

 けれど今は…………

 

真言「誕生日……燐子先輩に祝ってもらいたい…………」

有咲「珍しいな。お前が自分の願望を素直に口に出すなんて」

 

 なぜだかわからない。わからないが……ただ祝って欲しい。一言でいいから「おめでとう」と言ってほしい。俺が生まれてきたことに。

 

真言「…………強欲だよな」

有咲「いいんじゃないか?普通のことだと思うけどな」

 

 ……俺にしてみれば気持ち悪いにも程がある。

 

 あるいはおこがましい。俺ごときが、何事も成してないこの俺ごときが、身の程をわきまえろと自分自身に言いたくなる。

 

真言「うう…………」

 

 それでも祝ってほしい。そんな二つの背反する感情に、俺は今朝からずっとうなされている。

 

こころ「真言!なんだか元気がないわね?」ヒョコ

真言「…………弦巻か」

こころ「聞いたわ!真言、今日誕生日なんですって?おめでとう!」

真言「ああ……ありがとう」

 

 こいつが祝ってくれるとは……

 

こころ「はい!誕生日プレゼント!」

真言「あ………………あ?」

こころ「チョコ○ールよ!」

真言「お前もかよ!!!」

 

 なんでお前らは俺に△ョコボールばっか送りつけてくんだよ!!何かの嫌がらせですか!!??

 

こころ「普通のじゃないわ!大玉よ!」

真言「どっちもチョ□ボールだろうが!!」バリバリ

有咲「(なんだかんだ言って食ってやがる…………)」

 

真言「はあ…………」

こころ「ため息ばかりついていると燐子に誕生日祝ってもらえないわよ?」

真言「うるせぇ……放っときやがれ…………」

 

 チョコボ━ル食ったらなんか頭痛くなってきた……(●ョコボールにそんな効果はありません。きっと異空間のせいです。)

 

有咲「てかマコ、お前今日燐子先輩たちと会ってないのか?」

真言「怖くて教室から出てない……」

有咲「はぁ?」

こころ「こういうのをチキンって言うのね!」

真言「全身の毛穴にチョコボー◇詰められてえのかてめえ」

 

有咲「燐子先輩たちから連絡とか来てんじゃねえのか?」

真言「大丈夫!スマホの電源は切ってあるから!」

有咲「……どおりで朝からLINEの既読がつかないわけだ」

 

 俺は今、一切の連絡手段を断っている。これで燐子先輩から連絡が来ても、まず連絡が来たことすらわからな…………

 

 

 

 

 

真言「はぁ!?俺何やってんの!!!???」

有咲「今頃気づいたか。お前、それじゃあ燐子先輩からおいわ──」

真言「燐子先輩からなにか頼み事をされても俺に届かない……仕事が滞って、燐子先輩の手を煩わせてしまう……俺のせいで…………ああああああああ!!!!!」

有咲「お、落ち着けって!」

こころ「ふぉうよ!あふぇふぇもひははふぁいふぁ!(そうよ!焦っても仕方ないわ!)」モグモク

有咲「弦巻さん!?何食べてんの!?」

こころ「…………ん!チョコボ☆ルよ!」

真言「それは俺宛のプレゼントだわ!!!出せ!!てめえ今すぐ出しやがれ!!!!」

有咲「お前は少し落ち着け!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子「あ、あの……真言くん……いますか……?」

有咲「あ、燐子先ぱ──」

 

 ドサドサドサーーーッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、神代が窓から飛び降りたぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子「」

有咲「」

こころ「」

 

 同じく校舎の三階から飛び降りた経験のある弦巻 こころも、あまりのことで固まってしまっている。

 

有咲「ま」

 

 3人の静寂を破ったのはやはりこの人。

 

有咲「待ちやがれマコオオオオオオ!!!!!!!」

 

 親友(保護者)の市ヶ谷 有咲だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「ハァ…………ハァ…………ハァ…………」

 

 さすがに……ここまでこれば……

 

真言「……ってなんで逃げてんだ俺はー!!!」

 

 これじゃあまるで俺が燐子先輩を避けてるみたいじゃねぇかあああ!!!

 

真言「ハァ…………ハァ……………………はぁ……」

 

 なんでこういうとき、いっつも空回っちまうのかな……俺……

 

真言「…………よし!」

 

 腹を括ろう!俺だって男だ。堂々としてればいい……そう、いつもどおり堂々と…………

 

真言「そうだ!いっそのこと今日が俺の誕生日だということを、俺の記憶から抹消してしまえば…………」

 

 

 

 

 

紗夜「神代さん?なにかこちらからものすごい音がしましたが……あなた、また何かやらかしt」

 

 

 

 

 

真言「だああああああああ!!!!!」ダッ!!!

紗夜「え!?ど、どこに行くんですか!!??ちょっと!!??」

 

 さっきの覚悟が嘘のような全力逃走を見せた俺。

 

 そのまま教室に帰って大人しく午後の授業を受けましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「…………はぁ」

 

 今日の授業……終わっちまった…………。

 

有咲「生徒会室行けばいいじゃねえか」

真言「今日は仕事無いの知ってんだろ」

有咲「だからって会いに行かなきゃ何も始まんねえだろ。いつまでそうやってウジウジしてるつもりだお前は」

真言「でもよぉ……」

有咲「まったく……ちょっとでも燐子先輩が絡むと途端に弱気になるよな……」

 

真言「…………もう、いいのかもな」

 

有咲「は?おい、どこ行くんだよ」

 

 もう、なんかいろいろ疲れた………………俺、誰かの誕生日の度に走ってないか?

 

真言「帰る」

有咲「帰る!?」

真言「こんなウジウジしてるやつが祝ってもらえるわけ無いからな。お前から祝ってもらえただけでもありがたいと思うことにする」

有咲「……それでいいのかよ」

真言「ああ…………ありがとな有咲。俺、友達から誕生日祝ってもらうなんて久しぶりだったから…………すげえ嬉しかったよ」

有咲「………………私の誕生日には5倍返しな」

真言「オッケー、✕ョコボール5箱でいいんだな?」

有咲「おい!」

真言「ハッハッハ、ジョーダンデスヨアリササン」

 

 

 

 

 

有咲「………………」

真言「じゃ、またな」

有咲「…………………………マコ」

真言「あ?」

有咲「スマホ、起動してみろよ」

真言「ん?ああ…………」ポチッ

 

 朝から電源切ったままだったからな……きっと広告とかがいっぱい来て──

 

真言「………………………」

有咲「お前はちょっと考えすぎなんだよ。もうちょい楽に考えてもいいんじゃねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子『CiRCLEで待ってます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「まっくん誕生日おめでとうーー!!!」

真言「…………………」

リサ「おめでとうマコくん☆」

真言「…………………」

友希那「真言、誕生日おめでとう…………どうかしたの?」

真言「…………………」

紗夜「神代さん、今日ずっと様子がおかしいですよ?」

真言「…………………」

燐子「真言くん……?」

 

真言「あ、あ、」

あこ「あ?」

 

真言「ありがとう…………ございます………………」

 

あこ「え!まっくん泣いてるの!?」

燐子「真言くん……大丈夫……?」

リサ「なになに〜?アタシたちがマコくんの誕生日忘れてるって思ったの〜?」ツンツン

真言「そんなことないです……………」

紗夜「私の誕生日は忘れていた神代さんが……」

真言「ごめんなさい……………」

あこ「紗夜さん!今はしょんぼりまっくんだからそんなこと言っちゃだめですよ!!」

燐子「しょんぼり真言くん…………」

友希那「……よくわからないわ」

 

 ああ……なんだろうこの感じ…………俺、今ものすごく……

 

真言「幸せだ…………」

 

 

 

 

 

 プルルルルル プルルルルル プルルルルル

 

 

 

 

 

あこ「ん?まっくん電話鳴ってるよ?」

真言「え?……ほんとだ」

 

 ピッ

 

真言「はい、もしもし」

 

『まことにいーーーーーーー!!!!!!』

 

真言「っ!!!!」キーン

あこ「!?」

燐子「!?」

 

『ひかる、オジさんの耳、壊れちゃう』

『そっか!ごめんねまことにぃ!』

真言「あ、あいかわらずだなお前ら……」

 

 耳がキーンってする……

 

あこ「まことにぃ……?」

リサ「オジさん……?」

 

『まことにぃ!ビデオ通話?にしよ!』

真言「え、ちょっと今は……」チラッ

友希那「構わないわ」

紗夜「ええ、ご家族に顔だけでも見せておいたほうがいいですよ」

あこ「あこ、まっくんの家族見てみたーい!」

燐子「あ、あこちゃん……!」

リサ「まあまあ、正直アタシも興味あるし♪」

燐子「今井さんまで…………」

リサ「燐子も気になるでしょ?」

燐子「…………………」

 

真言「……じゃあ、許可取れたしビデオ通話にするぞ」

 

 ピッ

 

『まことにぃー!お誕生日おめ……って!まことにぃたくさんの女の子と一緒にいる!』

真言「誤解を招く言い方を今すぐやめろ。あとこっちからじゃ光の顔だけしか映ってねぇぞ」

『ひかる、離れて』

『あ、ごめんなさーい』

 

あこ「ねえまっくん、この小学生くらいの男の子はだれなの?」

真言「俺の甥っ子の光(ひかる)です」

友希那「甥がいたのね」

真言「元気すぎるやつなんですよ」

 

 光が画面から離れ、一人の少女が画面に映る。

 

『オジさん』

真言「おお、静(しずか)か。元気にしてたか?」

『ん。オジさんも元気そう』

真言「まあな、比較的元気にやってるよ」

『それなら、いい』

 

リサ「この子は……」

真言「姪っ子の静(しずか)です。光の双子の姉であいつとは性格が真反対のやつなんですよ」

紗夜「確かに先程の子より落ち着いていますね」

真言「こいつはこいつで、小学生の割に大人びているというかなんというか……」

 

光『まことにぃ!その人たちは誰!?かのじょ!?かのじょなの!?』

燐子「彼女……」

真言「ちげえよ」

静『ひかる、オジさんにそんな残酷なことを聞いちゃだめ』

真言「おいこら」

光『ちぇーつまんねぇのー』

 

 こいつら……好き勝手言いやがって……

 

真言「とっとと兄貴たちに変われやマセガキども」

 

『ごめんなさいね〜うちの子たちが〜』

リサ「うわ!すっごい美人……」

『ふふ♪ありがとね♪』

真言「義姉さん、お久しぶりです」

友希那「さっきの子たちの母親……かしら」

真言「俺の兄貴の奥さんの由香(ゆか)さんです」

 

 ロングヘアーのニコニコしたお姉さん、神代 由香。光と静の母親、本当に、兄貴にはもったいない人だ。

 

由香『よろしくね〜♪ねえ、それより真言くん』

真言「なんです?」

 

由香『……その子たちの中の誰が彼女なのかしら?』

 

 ちなみに大の恋バナ好き。

 

真言「あんたもか!!」

由香『ねえねえ教えてくれてもいいじゃない?は!まさか真言くん……その子たち全員と──』

真言「兄貴!今すぐ変われ!!」

『からかうのもその辺にしてあげて、由香』

由香『はいは〜い……あーあ怒られちゃった♪あ、誕生日おめでとう真言くん!』

真言「まったく……」

燐子「………………///」

あこ「りんりん?」

燐子「……!な、なんでもないよ……!」

 

『やあ、真言。久しぶりだね』

 

 義姉さんに代わって画面に映ったこのナヨナヨした…………失礼。落ち着いた雰囲気の男は、俺の兄、神代 正義(かみしろ まさよし)だ。

 

真言「元気そうだな、兄貴」

正義『まあね。旅館の経営も上々ってところさ』

 

リサ「旅館?」

真言「うちの家、地元で旅館やってるんですよ」

あこ「へー!」

 

正義『そこにいるのは真言の友達かな?はじめまして。マコの兄の正義だよ』

友希那「はじめまして」

燐子「は、はじめまして……」

紗夜「(……………この人が……あの……)

 

あこ「まっくんとあんまり似てないね」

正義『そうかい?』

紗夜「確かに、メガネもかけていますし、真言さんより落ち着いた雰囲気の方ですね」

真言「俺が落ち着いてないってことですか紗夜さん」

正義『じゃあこれならどうだい?』スッ

真言「兄貴、メガネ外すと……」

 

正義『あ?』ギロッ

 

燐子「……!!」

紗夜「真言さんにそっくりに……」

正義『なんてね!驚かせてしまったかな?ごめんよ』フフッ

リサ「た、確かに目つきがマコくんのそれと一緒だったね……」

友希那「ええ……」

 

 兄貴は目が悪いからメガネを外すと目つきが悪くなる……………てか俺、皆にこんなふうに見えてんのか……

 

正義『マコが元気にやってるみたいで安心したよ。誕生日おめでとう。おじいちゃんに変わるね』

真言「おお」

 

 

 

 

 

『マコか……?』

真言「ああ、久しぶりだなじいちゃん」

あこ「な、なんか怖そうなおじいちゃんだね……」ボソッ

燐子「う、うん……」ボソッ

 

『…………マコ』ゴゴゴ

 

燐子「!」

あこ「!」

 

『お前……』

真言「な、なんだよじいちゃん」

 

 

 

 

 

『彼女が5人もできたのか……?』

 

 

 

 

 

真言「はいさよーならー」

『ちょ!冗談じゃよ冗談!だから通話を切ろうとせんでくれ!!』

真言「何回その冗談言うつもりなんだようちの家系は!もう十分だわ!!」

『悪かった悪かった!おじいちゃん謝るから!』

 

リサ「な、なんか思ってたのと違うような……」

あこ「そうだね……」

 

真言「……俺のじいちゃんの清正(きよまさ)じいちゃんです」

清正『まったく……冗談が通じない孫よのぉ……』

真言「みんな相変わらずで何よりだよ」

 

 相変わらずすぎて呆れてくるわ。

 

清正『まあよいわ、まずは誕生日おめでとうマコ』

真言「ありがとよじいちゃん」

清正『積もる話はお前が帰ってきてからにしよう。夏には帰ってくるじゃろ?』

真言「お盆には帰るつもりではいるよ」

 

 その後も適当な雑談と近況報告を続けていると、突然じいちゃんが切り出してきた。

 

清正『…………のお、マコ』

真言「ん?」

 

清正『……そっちは辛くはないか?』

 

真言「………………」

燐子「真言くん……」

清正『見知らぬ都会の地に一人……仕方ないとはいえ、悪いことをしたと思っておる』

 

 

 

 

 

真言「…………じいちゃんが謝る必要はねぇよ。誕生日を祝ってくれる友達もいるし、尊敬できる先輩たちもいる……俺はここでも幸せにやってけてるよ」

清正『そうか……それはよかった』

真言「ありがとな。じいちゃん」

 

清正『では、ワシらはここでいつでも待っておるぞ』

光『まことにぃー!またねーーー!!!』

静『バイバイ、オジさん』

由香『頑張ってね〜♪』

 

 

 

 

 

正義『マコ、お前はまだ……』

真言「心配いらねぇよ兄貴」

 

 相変わらず……どいつもこいつも心配性だな俺の家族は。

 

 グイッ!

 

燐子「ぴゃっ………!?///」

 

真言「この人が、今の俺の全て(せいぎ)だ」

 

正義『…………そっか』

 

正義『それじゃ元気で』

真言「そっちもな」

 

 

 

 

 ──通話を終了しました──

 

 

 

 

 

真言「ふー…………なんか疲れ……ん?どうしました皆さん?」

リサ「いや、どうしたもこうしたも……マコくんがそうやって燐子の肩を……」

友希那「今回は積極的に出たわね真言」

あこ「りんりん目回しちゃってるよ……」

真言「…………………」

燐子「………///」グルグル

 

紗夜「(これは神代さんがなにか意味のわからないことを叫んで、白金さんに謝り倒して終わる、いつものパターンですね)」

 

 しかし、本日の真言は一味違った。

 

真言「………………」

燐子「ま、真言くん……?ちかいよ………///」

真言「………………」グイッ!

燐子「……!?」

 

 赤面する燐子の肩をさらに抱き寄せる真言。

 

あこ「な!?」

友希那「……なかなか強気に出たわね」フッ

 

 

 

 

 

紗夜「そんなばかな………………いえ、今日一日中、神代さんは白金さんを避けていた……つまり普段の生活で摂取しているであろう白金さんエネルギーを十分な量が摂れていない可能性が………………はっ!今の彼は白金さん不足なんだわ!」

 

 

 

 

 

リサ「紗夜?」

紗夜「なんでもないわ」

 

 紗夜の推測は合っていた。

 

 普段より多いボケに対する度重なるツッコミ、敬愛する先輩からの逃走、己の誕生日への不安、そこからの開放、チョコの過剰摂取、etc……

 

 これらが原因となり、真言の精神は今!これ以上なく甘えモードに入っているのだ!!(意味わからないと思うんでスルーしてください)

 

真言「燐子先輩?どうしたんですか?こっち見てくださいよ……」

燐子「…………(も、もうだめ……///)」

リサ「はいストーップ!これ以上はいろいろ怒られちゃうからダーメ!」

真言「あ…………」

 

あこ「いやー…まさかまっくんがここまでガツガツいくなんて……」

友希那「少し驚きだわ」

あこ「………あこのアドバイス通りですかね!」

友希那「それは…………どうかしら」

真言「燐子せんぱーい」

燐子「…………///」

 

 先輩から逃げたり、チョコボ○ル食い散らかしたり、教室から飛び降りたり、実家から電話がかかってきたり……その日はそれはそれは賑やかな誕生日になったそうだ。




真言くんへ
大人の都合で誕生日無理やり変更させられた真言くん。今調べたけど、プロ○カの神代さんの誕生日、君の一日前だったね。全然知らなかったから死ぬほど焦りました。今回はテスト勉強ばっかで全然執筆してなかったから無茶苦茶な文章になったよ。いろいろごめんね。誕生日おめでとう。

お気に入り登録 テルミ 様 にゃるさー 様 頭の中将 様 フジロッカー 様 咲野 皐月 様 ジーク 様 アマルーダ 様 てぃあまんま 様 錐と香也 様 星メガネ 様 如月華聖 様 ありがとうございます。

Twitterの方でちょっとした真言くん誕生日おめでとう企画をやっております。
もし、絵に自信があるよーとか真言くん描いてみたーいという方がいらっしゃればご参加いただけると嬉しいです!

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37.信じるもの【監視対象と青薔薇編】

ついに始まった真言とRoseliaの過去編!アンケート、ものすごいデットヒートでしたね!

さあトップバッターは師匠とのお話です!

それでは本編どうぞ。



 宇田川 あこは俺の師匠だ。

 

 それはもちろん、俺が燐子先輩に誘われて始めたゲーム、NFOでの師匠と俺のジョブが同じだから。

 

 …………だけではない。

 

 俺は彼女のことを、闇の力に憧れる彼女のことを、心から尊敬しているのだ。

 

 俺にはない考え方を、彼女は持っている。

 

 だからこそ、今日も俺は宇田川 あこの事を『師匠』と呼ぶ。

 

 明日も、明後日も、その次の日も、……まあ大学生くらいになったらやめてるかもしれないけど。

 

 少なくとも師匠が「闇の力を〜」とか言っている間は、俺もこの呼び方をやめるつもりはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

真言「ゲーム…………ですか」

燐子「うん……わたしの友達と……どうかな……?」

 

 突然の燐子先輩からのお誘い。どうやら先輩がハマっているネットゲームに俺も参加しないかというものらしい。

 

 正直、ゲームにはこれっぽっちも興味はない。

 

 しかも、燐子先輩の友達同伴、俺が知らない人間の同伴なんて、前向きに検討できるはずがない。

 

 けれど…………

 

真言「……わかりました」

燐子「本当…!?」

 

 燐子先輩のやりたいことは何となくわかる。

 

 多分この人は俺に、以前の"神代 真言"に戻って欲しいのだ。

 

 例の事件が起こり、俺は生徒会の監視対象となった。そんな俺に今まで通り接してくるやつは一人もいない。

 

 たとえ事件の誤解が解けていたとしても、他のやつらの認識は女子を含む生徒数名を病院送りにし、その上学校まで辞めさせた男だ。どいつもこいつも化け物を見る目で俺を見てくる。

 

 

 

 

 

 詰まるところ、今の俺には友達が一人もいない。

 

 

 

 

 

 かと言って何をされるかわかったもんじゃないからイジメられているわけでもなく、皆ただただ俺から離れていく。

 

 かつて友人だと思っていたやつも、そうじゃないやつも、全員。

 

 そんな俺を見かねた燐子先輩は、きっと自分の友達と接点をもたせようとしてくれているのだろう。

 

 以前の、それとなく皆と仲良くやれていた頃の"神代 真言"に戻って欲しいのだ。

 

真言「(余計なお世話だ)」

 

 ああそうだ、余計なお世話。これ以上無いくらいの。

 

 友達なんか別に欲しくない。俺の信じてきた正義を認めてくれないあいつらなんて、心底どうでもいい。

 

 俺には燐子先輩さえいれば、それでいい。

 

 あの約束を結んだ雨の日から、俺の中の正義は燐子先輩だ。

 

真言「……先輩がそう言うなら、俺はそれに従います」

 

 そう言うと、燐子先輩は少し複雑そうな顔で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、俺は燐子先輩に呼び出されネットカフェに来ていた。

 

真言「………………早すぎたな」

 

 現在の時刻は、待ちあわせより1時間くらい早かった。

 

真言「はぁ…………」

 

 手持ち無沙汰にスマホをいじりながら、深くため息をつく。

 

 不安だ…………

 

 いくら先輩の友達だからと言って、必ずしも俺が仲良くできるとは限らない。

 

 それでも、先輩が俺なんかのためにあれこれしてくれているのなら、その好意を受け取ることも恩返しに繋がるだろう。

 

燐子「真言くん……?」

真言「!」

燐子「早いね……まだ待ち合わせ時間より1時間くらい前だよ……?」

真言「…………すみません」

燐子「あ……ううん……!別に責めてるわけじゃ…………」

 

真言・燐子「「…………………………」」

 

 か、会話が続かない…………なんとか話題を──

 

「お兄さんがりんりんの言ってた人?」

 

真言「…………ん?」

 

 なんか今足元から声が……

 

燐子「あ、あこちゃん……!」

「こんにちはー!」

真言「………………小学生?」

 

 目線を下ろすと、こちらを見上げていた、背の低いツインテールの少女と目があった。

 

「な!失礼な!あこは中学生だよ!!!」

真言「………………?」

燐子「真言くん……紹介するね……」

 

燐子「この子は宇田川 あこちゃん……中学三年生だよ……わたしの一番の友達なんだ……」

 

 宇田川……あこ……

 

あこ「よろしくね!」

真言「どうも……神代 真言です」

 

 なんでそんなに元気なんだろうってくらい明るい雰囲気の女の子だ。

 

真言「あの……さっきはすいませんでした。小学生とか言って……」

あこ「ん?ああ!いいよ別に!分かれば良し!」フフン

 

 あ、いいんだ……ネチネチ言われなくてよかった。

 

『知ってる?神代くんって無関係の人殴ったんだって!』

『しかも女子!顔痣だらけになったって!』

『なにそれ……最低……』

 

真言「っ!!」

燐子「真言くん……?」

真言「…………なんでもないです」

 

 ……ここ最近、人と会うとたまにあのときの事がフラッシュバックしてしまう。

 

 クソっ……なんで今思い出しちまうんだ…………折角燐子先輩が…………

 

あこ「それじゃあ早速レッツゴー!」グイッ

真言「!?」

 

 は!?

 

あこ「あ、あこちゃん……!!」

真言「ちょ、宇田川さ──」

 

 初対面なのにグイグイ引っ張るなこの人!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【ネットカフェ店内】〜〜

 

真言「………………」

燐子「あの……なんかごめんね……」

真言「………………大丈夫です」

 

 宇田川さんに連れられ、ネットカフェに人生初入店した俺。

 

あこ「ねぇねぇ。えーっと……まことくん?」

真言「……はい?」

あこ「まことくんはゲーム好き?」

真言「ゲーム……やったことないです」

あこ「ええ!?」

 

 そ、そんな驚くことか?

 

真言「俺がいたとこはテレビゲームとかは無かったんで……あ、よく山で鬼ごっことかしてましたよ?」

燐子「山…………」

あこ「す、すごいね……りんりんの後輩さん……」

真言「………………だ、だから」

あこ「ん?」

 

真言「その……いろいろ教えてくれると助かります」

燐子「……!」

あこ「ふふーん、あこにまっかせてよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人はここによく来ているらしく、あまりの手際の良さで、気づいたら個室で二人からゲームの説明を受けていた。

 

真言「NFO……?」

 

 それが今からやるゲームの名前らしい。

 

あこ「そう!まずはゲームを起動して、それからこれを……」カチカチ

真言「おお……」

 

 なんかよくわかんねぇけどめっちゃ進んでる……

 

燐子「まずここにアバター名を…………」

真言「アバター?」

燐子「えっと……真言くんがこれから操作する、NFO内の真言くんの分身……みたいな感じ……かな?」

真言「なるほど……」

 

 俺の分身…………

 

真言「…………」カチカチ

 

 "mako"っと……

 

あこ「……マコ?」

真言「子供の頃、兄貴から呼ばれてたあだ名です」

 

 いや、多分()()だわ。

 

あこ「へー!じゃあ後はこれを入力して…………」カチカチ

 

 

 

 

 

あこ「よし!これで大体のキャラメイクは終わったかな?」

燐子「うん……多分……」

真言「ありがとうございました」

 

 キャラの容姿は後で変えられるらしいけど…………このmako、俺に似すぎじゃね?どんだけ細かく作れんだよNFO。

 

あこ「じゃああこたちは隣の部屋行くから、またゲーム内でね!」

燐子「何かあったら……メッセージ飛ばしてね……?」

真言「あ、ホント何から何まで……」

 

 そう言って二人は出ていった。

 

真言「………………はぁ」

 

 なんか……特に何もやってないのに疲れたなぁ…………

 

 あれだけまともに先輩たち以外と話したのってどのくらい前だろう。クラスの連中は誰も俺に話しかけては来ないし……まあそりゃそうだって話だよな。

 

真言「…………宇田川 あこ……」

 

 いい人だ。きっと。おそらく。

 

 決して社交的とは言えない性格の燐子先輩、それを補うような性格の宇田川さん。

 

 親友と呼ぶにふさわしい関係だと、出会って数分の俺でもわかる。

 

真言「でも…………」

 

 あれだけグイグイ来られるのも……疲れてしまう。

 

真言「やべっ!」

 

 ゲームにログイン(さっき教わったワード)しろって言われたんだった。

 

真言「えっとこれを……こうして……こうか?」カチカチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【NFO内 はじまりの街】〜〜

 

mako「………………ログイン、できたみたいだな」

 

 燐子先輩と宇田川さんは…………

 

聖堕天使あこ姫「あ!いたいた〜」

mako「…………」

RinRin「特に問題なくログインできたみたいだね(人*´∀`)。*゚+」

mako「…………ええ」

 

 すげえ……二人とも現実の容姿にそっくり…………いや、そんなことより…………

 

mako「(名前…………)」

 

 宇田川さんの名前……"聖堕天使"?なに"聖堕天使"って?しかも姫って……いろいろ詰め込みすぎじゃないですか?

 

 あと燐子先輩も……いつもよりなんか明るいというか……絵文字とか使う人でしたっけ……?

 

聖堕天使あこ姫「どうかした?」

mako「ナンデモナイデス」

聖堕天使あこ姫「……なんか片言?」

mako「気のせいですよ」

RinRin「とりあえず操作確認をしてみよっか(^∇^)ノ♪」

mako「わ、分かりました」

 

 そこからNFOガチ勢の二人による初心者講座が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「…………覚えること多いんですね。ゲームって」

聖堕天使あこ姫「でもでも!基本操作はまことくんすっごい早く覚えたんじゃない!?」

RinRin「そうだね(・∀・)」

mako「まだたまにキーボードの押し間違いがありますけどね」

聖堕天使あこ姫「どうする?モンスター倒しに行く?」

mako「……敵がいるんですか?」

聖堕天使あこ姫「そりゃあ、そういうゲームだからね」

 

 それもそうだ……

 

mako「でも……俺、初期装備ですよ?」

RinRin「強いモンスターが出るところには行かないし、わたしたちもサポートするよ\(・◡・)/」

 

 それは……心強いな。二人ともかなりやり込んでるらしいし、めちゃくちゃ強そうだ。

 

mako「……わかりました。お願いします」

 

 

 

 

 

mako「……………………」

聖堕天使あこ姫「えっともっかい説明するとね、まことくんのジョブだと………………」ウンタラカンタラ

RinRin「それをそうすればこのスキルが…………」アレヤコレヤ

mako「……………………てい」

 

 【makoはスライムを倒した!】

 

聖堕天使あこ姫「あ!ちょっと聞いてる!?」

mako「もうなんとなく操作はわかりましたから…………」

 

 なんかいろいろ複雑だわこのゲーム……

 

mako「首いった…………」

RinRin「大丈夫?」

mako「ええ、まあ」

 

聖堕天使あこ姫「まことくんは何でジョブをタンクにしたの?」

mako「適当に選んだだけです。なんか後で変えられるんでしたっけ?」

RinRin「うん……ジョブは違うのに変更できるし、クエストをクリアすれば上級ジョブに進化できるよ⊂((・▽・))⊃」

mako「二人のジョブはその"上級ジョブ"ってやつなんですか?」

聖堕天使あこ姫「うん!そうだよ!あこがネクロマンサーでりんりんがウィザード!」

 

 死霊術師に魔法使いか……

 

mako「ネクロマンサー……なんかカッコイイですね」

聖堕天使あこ姫「でしょー!!!」

mako「!?」

聖堕天使あこ姫「あこはねー……こう、闇の力で敵を…………バーンってするの!!!」

mako「ば、バーン…?」

聖堕天使あこ姫「そう!」

 

 宇田川さん……語彙力が残念な人だ……

 

 でもさっきの戦闘でもかなりかっこよかったのは事実だ。なんか強そうなやつが現れたら二人が瞬殺してたし……

 

mako「俺も目指そうかな……ネクロマンサー」

聖堕天使あこ姫「そうなったらあこがいろいろ教えてあげる!」

 

 頼もしい限りだ。

 

 だんだんとこの人のことがわかってきた気がする。……なんとなくだけど。

 

RinRin「あ、ちょっとわたし飲み物取ってくるね(・∀・)」

聖堕天使あこ姫「いってらっしゃ~い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「……………宇田川さん」

聖堕天使あこ姫「ん?どーしたの?」

mako「……今日は、ありがとうございます」

聖堕天使あこ姫「…………なにが?」

 

 なにがって…………

 

mako「見ず知らずの俺なんかのために、時間を取ってもらって、本当にありがとうございます」

聖堕天使あこ姫「いいよいいよ!気にしないで!あこもまことくんに会ってみたかったし!」

mako「………………俺のこと、知ってたんですか?」

聖堕天使あこ姫「りんりんからねー」

 

 それじゃあもしかして………………あの事件も…………?

 

聖堕天使あこ姫「まことくん?」

mako「…………………」

聖堕天使あこ姫「おーい、聞こえてるー?」

mako「…………………俺のこと、燐子先輩は何て言ってました?」

聖堕天使あこ姫「?……後輩じゃないの?」

mako「それだけ?」

聖堕天使あこ姫「うん…………他になにかあるの?」

mako「いや……それならいいんですけど…………」

聖堕天使あこ姫「……?」

 

 大丈夫……燐子先輩は人の過去をペラペラ喋る人じゃない。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。

 

聖堕天使あこ姫「あ!でも今日あってみてわかったことがあるよ!」

mako「…………わかったこと?」

聖堕天使あこ姫「それはね…………まことくんにはこう……あこと同じ闇の力が宿ってるってことが…………」

mako「闇の……力?」

聖堕天使あこ姫「そう!」

 

 闇……悪…………正義。

 

mako「宇田川さんは……どうしてそこまで闇の力にこだわるんですか?」

聖堕天使あこ姫「カッコイイから!」

mako「…………嫌じゃないんですか?」

聖堕天使あこ姫「え?」

mako「だって闇の力って悪役が持ってる力ですよね?」

 

 ダメだな俺。まだ正義だとか悪だとかに囚われてやがる。

 

mako「…………すみません。忘れてください」

聖堕天使あこ姫「別に」

 

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「闇の力だって、良いことに使えば悪じゃないんじゃない?」

 

 

 

 

 

mako「………………」

聖堕天使あこ姫「あこはねーカッコよくなれば、困ってる人がいても……こう、カッコよく助けられるんじゃないかなって思うんだ!」

mako「カッコよく……」

聖堕天使あこ姫「あこはあこの信じる"カッコイイ"を目指してるから、まことくんの言ってる正義とか悪とかはよくわかんないや」

 

 俺は、あのとき自分の正義を疑った。

 

 俺の信じてきたものは正義ではなく偽善だったのだと、そう思った。

 

 でも……もしかしたら……

 

真言「俺の正義(ぎぜん)だって、信じてさえいれば、何か変わっていたのか?」

 

 信じてきたものが偽善だったんじゃない。

 

 俺は、俺の正義を信じてなかっただけなんだ。

 

 ただ自分の信じる正義を、偽善にしてしまっていただけ。

 

 ただ……それだけ。

 

真言「は……はは」

mako「…………ありがとうございます。宇田川さん」

聖堕天使あこ姫「な、なにが?」

mako「宇田川さんのおかげで、何か吹っ切れた気がします」

聖堕天使あこ姫「そ、そう……?それならよかったけど……?」

mako「俺から見ても、宇田川さんは十分カッコイイですよ」

聖堕天使あこ姫「ホント!?」

mako「はい」

 

 俺もこの人みたいに、自分の信じるカッコイイを、胸を張って信じていると言いたい。

 

RinRin「ただいまー└( ^ω^)」」

mako「おかえりなさい」

聖堕天使あこ姫「ねぇねぇ聞いてりんりん!まことくんがねーあこのことカッコいいって!」

RinRin「よかったねあこちゃん(•‿•)」

聖堕天使あこ姫「よーし!まことくんをカッコイイネクロマンサーにするぞー!!」

RinRin「まだ始めたばかりなのにジョブチェンジは……(・o・)」

mako「あと、俺今タンクなんでそれも変えないと……MPってやつを増やさなきゃいけないんでしたっけ」

聖堕天使あこ姫「大丈夫!あこにまかせて!!」

 

 な、なんかスイッチ入れちまったか?

 

RinRin「ふふ……あこちゃん張り切ってるね(≧▽≦)」

聖堕天使あこ姫「そりゃあ、まことくんはあこの弟子みたいなものだからね!」

mako「…………ははっ」

 

 弟子か……………………悪くない。

 

mako「それじゃあこれからよろしくおねがいしますね。()()

聖堕天使あこ姫「!!!」パァァ!!!

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 そうして俺は宇田川 あこの、自分のカッコイイをひたむきに信じる姿に憧れ、彼女を師匠と呼ぶようになった。

 

 その後、バイトで貯めていた貯金を使ってちょっとしたパソコンを買い、NFO沼に完全にハマる頃には、名実ともに俺は聖堕天使あこ姫の弟子、ネクロマンサーmakoになっていたのは…………まあ、言うまでもないことだろう。




お気に入り登録 なかムー 様 Coffee者氏 様 deportare 様 キズナ武豊 様 ありがとうございます!

あと4話。真言くんがどうやってRoseliaの面々と知り合ったのか、ぜひ最後までお付き合いください!


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37.監視対象と青薔薇の歌姫と猫と猫と猫とn──【監視対象と青薔薇編】

今回の監視対象と青薔薇編は猫……じゃなくて友希那さんとの過去です。

まだテスト期間のブランクが残ってる文章かもしれません……(言い訳)

それでは本編、どうぞ。



 正直に言おう。俺は湊 友希那のことが苦手だった。

 

 彼女の出す絶対的なオーラ、自分にも他人にもストイックなその姿勢、決して妥協することのない性格、物怖じすることなく発せられる本音、そのすべてが。

 

 嫌いというわけではない、ただ苦手なのだ。"怖い"と言い換えてもいい。

 

 彼女を見ていると、どうしてもガキの頃のキツイ修行のことがフラッシュバックしてしまって…………

 

 

 

 

 

 ……と言ってもそれは昔の話。彼女と接する時間が増え、"湊 友希那"という人間をよく知りさえすれば、なんてことない、ただの不器用で真っ直ぐな………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猫好きの少女だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

真言「………………燐子先輩、ほんとにいいんですか?」

 

 先輩が俺に渡してきたのは一枚のチケットだった。

 

燐子「うん…………一回だけでいいから……お願い」

真言「でも俺、音楽なんか全然わからないですよ?」

燐子「それでもいいの…………お願い」

真言「…………わかりました。とりあえずありがたく受け取っておきます」

 

 「今度やるライブのチケット」と先輩は言っていた。どうやら先輩はガールズバンドとやらのメンバーらしい…………

 

 燐子先輩だけじゃない、氷川さんやこの前一緒に遊んだ宇田川さん……師匠も、同じバンドのメンバーだそうだ。

 

真言「ガールズバンド…………」

 

 先輩はなぜ、俺にこれを渡してきたのだろう……?

 

真言「…………行けばわかる……だろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【CiRCLE前】〜〜

 

真言「ここ……だよな」

 

 燐子先輩のバンドがやるライブの会場……CiRCLEというライブハウスでやると言っていた。

 

真言「………………」

 

 大丈夫だろうか……いや、何を不安がってるんだ俺は。チケットもある、服装も……まあ地味だが変ではないはずだ。入場拒否とかはされない…………多分。

 

 意を決しライブハウス内に入って、辺りを見回してみる。

 

真言「おお…………」

 

 普段来ることがないところだ。音楽雑誌やら、おそらく楽器関係であろうなにか、そしてどこのバンドかもわからないようなポスター…………物珍しそうに辺りをキョロキョロしている俺は場違いだろうか?

 

真言「…………ん?」

 

 目に止まったあるバンドのポスター。そこには紫のバラを彷彿とさせる衣装を身にまとった、5人の少女たちが写っていた。

 

真言「……燐子先輩?」

 

 そう、燐子先輩、燐子先輩がいる。

 

 それに氷川さんらしき人や師匠らしき人まで……なるほど、だんだんと先輩の交友関係が見えてきたぞ。

 

 あともう2人、センターに立つ銀髪ロングの小柄な少女と……あれ?このギャルみたいな人、どっかで見たことあるような……?

 

 …………俺は今日、この人たちのライブを見に来たってことか……

 

真言「えっと……ろ、ろぜりあ?」

 

 英語表記でRoselia。多分読み方はこれで合ってると思う。

 

 意味は…………わからん。英語は得意なわけではない。というか勉強全般、教師全般大っ嫌いだ。

 

真言「そろそろライブが始まる時間だな。会場は…………あっちか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【ライブ会場】〜〜

 

真言「な、なんじゃこりゃ…………」

 

 決して広いとは言えないライブ会場、そこを覆い尽くすものすごい数の人、人、人。

 

真言「これ全部、あのRoseliaのライブを見に来た人なのか……?」

 

 ……もしかしたら俺はとんでもないとこに来てしまったのかもしれない。

 

真言「俺……ホントにここに来てよかったのか?」

 

 ここに入る前に感じた不安は、俺の中で確かなものに変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達はRoselia、今日は私達のライブに来てくれてありがとう」

 

 ワァァァァァアアアアアア!!!!!

 

 会場を大歓声が包み込む中、俺は一人、変な汗をめっちゃかいていた。

 

真言「(なんで俺こんな前にいるの……!?)」

 

 俺が座っているのは、今喋っている、さっきのポスターにセンターで写ってた人の真ん前。

 

 つまり、ファンの人なら喉から手が出るくらい欲しいであろう中央一番前のめちゃくちゃいいポジションということだ。

 

あこ「!!!」ブンブンブン

真言「(師匠めっちゃ手振ってんな……まあこんな前にいたら嫌でも気づくか…………)」フリフリ

 

 くっそ……燐子先輩、なんでこんないい席のチケットを俺に渡してきたんだ……?

 

 は!まさか俺にこのライブをいい席で観てもらおうとし──いや、燐子先輩が一番驚いてるわ。

 

「まずはこの曲から──」

真言「(あ、始まる)」

 

 Roselia……結局事前情報ゼロで来たからどんなバンドなんだか全然知らないんだよな。

 

 でもなんだろう……

 

真言「(俺今……すげえワクワクしてる……)」

 

 そして始まるRoseliaのライブ。

 

 これが俺がRoseliaにハマったきっかけにもなったライブだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「かっけぇ…………………」

 

 ステージで輝く彼女たちを見て、俺は無意識にそうこぼした。

 

 彼女たちを言葉で言い表すには、俺の足りない音楽知識と語彙力を総動員させても、それが精一杯だった。

 

 カッコいい。

 

 この前師匠が言っていた、『自分にとっての"カッコいい"』……これが、先輩たちにとっての"カッコいい"なのか……

 

 息が詰まる。鳥肌が立つ。心が揺さぶられる。

 

 彼女たちを表現するにはどれも言葉足らずだ。

 

 

 

 

 

 くん…………ことくん…………

 

 

 

 

 

燐子「真言くん……!」

真言「……!燐子先輩……?」

 

 え、なんで俺の目の前に……?ライブは?

 

燐子「どうしたの……?ライブもう終わったよ……?」

真言「…………………終わった?」

 

 先輩の言うとおり、気づけば会場にいたものすごい数のファンは俺を除いて一人残らずいなくなっており、俺は放心状態でただ立ち尽くしていた。

 

 先輩の服もライブの時の衣装じゃなく、普通の私服だ。

 

真言「……すいません、ちょっと……感動で……」

燐子「そっか………………ふふっ」

真言「どうかしました?」

燐子「真言くん……顔がちょっと明るくなったね……?」

真言「え、そ、そうですか?」

燐子「うん…………楽しんでくれたみたいでよかった…………」

 

あこ「まっくーーーーーん!!!!!」ダッダッダッ!!!

 

真言「……………………?」

 

 師匠……?

 

あこ「まっくん!今日すっごい近くにいたね!!どうだった!?あこたちのライブ!!!」

真言「あ、『まっくん』って俺のことですか」

あこ「そう!まことくんだから『まっくん』!」

 

 なるほど……『ん』とったらそれマッ──いや、やめておこう。

 

あこ「それでそれで?どうだったあこたちのライブ!!」

真言「なんというか……上手く言葉にできないんですけど………」

 

真言「すげえカッコよかったです…………ごめんなさい、幼稚ですよね……?」

 

 無理に言葉にしようとすると、俺が感じた感動が途端に安っぽいものに見えてしまう……単に語彙力がないだけか。

 

あこ「ううん、そんなことないよ!まっくんの言いたいことはちゃーんと伝わったよ!」

真言「そう……ですか」

 

「あこ?何をしているの?」

 

 一人の少女がこちらに向かってくる。

 

真言「(さっきステージの上で歌っていた人だ……)」

「あら?あなたは…………」

あこ「友希那さん!この人がりんりんの言ってた……」

 

 "ユキナ"と呼ばれたその少女は、どこか品のある…………棘のある薔薇のような雰囲気を放っていた。

 

友希那「ああ、あなたが燐子の言っていた『神代 真言』くんね。Roseliaの湊 友希那よ」

真言「…………神代 真言です」

燐子「……?どうかしたの……?」

 

 なんか、この人見てると母さんとじいちゃんにしごかれてたガキの頃を…………あと従姉妹の静に似てる……?

 

あこ「まっくんはりんりんの後輩で、あこの弟子なんですよー!」

友希那「でし……?」

真言「…………あの、湊さん」

友希那「?なにかしら」

 

真言「さっきのライブ……素晴らしかったです。俺、音楽のことなんてほとんど知りませんけど……でも、今日は来てよかったって心から思いました」

 

燐子「真言くん……」

友希那「…………そう、それはよかったわ」

あこ「まっくんまっくん!またあこたちのライブ見に来てね!!」

 

 そうして俺は音楽知識がほぼゼロなのにも関わらず、Roseliaの演奏だけは欠かさずチェックするようになった。

 

 俺だって男だ。カッコいいものには目がない。Roseliaファンになるのにもそう時間はかからなかった。

 

 俺が湊 友希那と再び出会ったのはとある日の公園でだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【公園】〜〜

 

 昼下り、俺は公園のベンチに寝転んでいた。

 

真言「いい天気だ…………………………」

 

 快晴の青空、程よく吹く風、暑くもなく寒くもないちょうどよい気温、昼寝に最適な環境がこの公園には整っている……

 

 幸いこの公園には今誰もいない。これはもう神が俺に昼寝をしろと言っているようなものだ……というかもう言っている。俺には神の声が聞こえる(✽彼はもう半分寝てます)

 

真言「……………………すぅ」スヤスヤ

 

 

 

 

 

 だがすぐに俺のすやすやタイムは終わりを告げる。

 

 とある動物の鳴き声で。

 

 にゃー

 

真言「……………………………」

 

 にゃー にゃー

 

真言「………………………ねこ?」

 

 せっかく気持ちよく寝てたのに……

 

 にゃー にゃー 「に、にゃー……///」

 

真言「……………?」

 

 ……なんか一匹、ちょっと鳴き声が違う猫がいる……?

 

 目を開けて辺りの状況を確認してみると、そこにはいつの間にか俺の周りに集まってきた、愛くるしい猫たちと…………

 

友希那「に、にゃー……ふふっ」

 

 猫と戯れる湊 友希那さん(見てはいけないもの)がいた。

 

真言「………………湊さん?」

友希那「!!!!!」ビクッッッッ!!!!!

 

 めっちゃビビられた。てかこの距離なら普通気づかないか?

 

友希那「あ、あなたは…………!」

真言「……………どうも」ムクッ

 

 いつまでも寝っ転がったままじゃ失礼だからな。ちゃんと座り直そう。

 

 にゃー にゃー にゃー にゃー にゃんにゃん

 

真言「(猫、猫、猫…………猫ばっかじゃねぇか)」

 

 いつの間にこんな集まってきたんだ……?

 

 そしてその猫たちに囲まれている俺と湊さん……え、どういう状況?

 

真言「湊さん……これは……?」

友希那「別に……これは……あなたがベンチで寝ているのが見えて……それで…………」

真言「それで?」

友希那「それでその……あなたの周りにたくさんのにゃー……じゃなくて猫が集まっているのが見えたから、そう……そうよ私は猫たちをあなたから退けようとしてただけ、ただそれだけよ」

 

 めっちゃ喋るじゃん……

 

真言「…………………猫、好きなんですか?」

友希那「普通よ。猫なんて…………」

 

 にゃー

 

 どうやらここにいる野良猫たちは人馴れしているようだ。湊さんににゃーにゃー鳴いてすり寄っている。

 

友希那「ねこ……なんて…………」

 

 ……心なしか湊さんの目がギラギラしているような気がする?

 

友希那「……………」

 

 にゃーにゃー♪

 

友希那「……………」プルプル

 

 にゃんにゃん♪

 

友希那「…………………」ガバッ!!

真言「!?」

友希那「……すー…………はー…………♡」

 

 猫を……吸ってる。

 

真言「………………」

友希那「………………神代さん」

真言「は、はい!」

友希那「このことは誰にも言ってはダメよ。いいわね」ギロッ

真言「わ、わかりました…………」

友希那「すーはーすーはーすーはー……♡♡♡」

 

 ……………………家に帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜後日談〜〜

 

燐子「真言くん」

真言「はい?」

燐子「あの……今日Roseliaの練習があるんだけど…………真言くん、見学に来ない……?」

真言「………………え!?」

 

 Roseliaの練習、見学!!??

 

真言「い、いいんですか!?」

燐子「う、うん……友希那さんが観客がいたほうが練習に緊張感が出るからって…………」

真言「………………」

燐子「真言くん……?」

 

 思い出すのは先日の出来事。

 

 猫と戯れるRoseliaのリーダー、そして……

 

友希那『このことは誰にも言ってはダメよ。いいわね』ギロッ

 

 練習に緊張感出す前に俺が緊張でどうにかなっちまいそうだ。

 

 そして俺の最初の練習見学、知ってる人や知らない人……はあまりいなかったがとりあえず自己紹介を済ませ、最後のリーダーの番となった。

 

友希那「話は聞いているわ、Roseliaの湊 友希那よ」ゴゴゴ

真言「…………………」

友希那「……………ちょっと?」ゴゴゴ

 

 こわい……こわいよこの人…………

 

「あのときのこと喋ったらぶっ飛ばすわよ」っていう声が聞こえるよ…………(✽幻聴です)

 

 

 

 

 

真言「……………………よろしくお願いします」ペコ

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 以上が俺とRoselia、そして湊さんとの出会いだ。

 

 ……あのときの俺にはもう初対面のフリをして頭を下げるしかできなかった。 




お気に入り登録 冬基 様 ジェンツ 様 あこまやぬやゆののゆよや 様 ありがとうございます。

こっから先はひたすら謝罪文のような何かが綴られてるだけなので、終わってもらって結構です。閲覧ありがとうございました。





拝啓、宇田川 あこ様、誕生日おめでとうございます。そして真言様、決戦エボリューションガチャで30000ダイヤ全ブッパした挙げ句結局燐子先輩出せなかった卑しい私をどうかお許しください。

師匠の誕生日会だと思いました?大丈夫、ちゃんと誕生日回は計画通り進行しております……現にほら、あそこに必死でレベリングしているネクロマンサーの姿が…………

なのでまずは【監視対象と青薔薇編】を終わらせます。


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39.約束を守るということ【監視対象と青薔薇編】

結構間が空いてしまいました。ごめんなさい。

師匠の誕生日回を終わらせるためにちゃちゃっと回想を終わらせちゃいましょう!……7月中に終わるかな……

今回は姐さんの回です。

それでは本編、どうぞ。


 姐さん。俺は今井 リサのことをそう呼ぶが、当然、彼女は俺の姉ではない。

 

 姉でもなければ妹でもない、ていうか血縁関係すらない。当たり前だ。

 

 彼女は"姉"ではなく、"姐"なのだ。

 

 どう違うって?…………自分で調べてくれ。

 

 とにかく、今日はそんな彼女との出会いの話をしよう。

 

 実を言うと俺は、彼女とはRoseliaのメンバーとしてではなく、最初にバイトの先輩として出会っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 アルバイト。

 

 それは俺の通う花咲川学園でも認められている、学生が自分で小遣いを稼げる唯一の手段だ。

 

 田舎から上京し、現在一人暮らしをしている俺も、じいちゃんたちからある程度の仕送りはしてもらっているとは言え、自由に使えるお金はほとんど無い。

 

 まあ、特に欲しいものもなかったので、はじめは「生活費のちょっとした足しになれば」的なノリで始めてみた。

 

 しかし今ではRoseliaというバンドにドハマリしてしまった俺。アルバムやら何やらももちろんタダではない。

 

 というわけで、(Roseliaに)自由に使えるお金を手に入れるべく、今まで以上にバイトに時間を費やすことにした。

 

 部活にも入っておらず、特にやることもない俺は…………要するに毎日暇なのだ。

 

 バイト先は近所のコンビニ、普段は結構人が来ているらしいが俺のシフトのときはガラガラだ。

 

リサ「君が無愛想だからお客さん来ないんじゃないの〜?」

真言「…………すみません」

リサ「いや冗談だから!そんな真面目に受けとらないで!?」

 

 この俺と一緒にレジに入っているギャルみたいな人はバイトの先輩の今井 リサさん。

 

 ギャルみたいな、というより見た目は完全にギャルそのものの人だ。…………あれ、ギャルってどんな人種だっけ?

 

真言「ふわぁ…………」

 

 ま、別にどうでもいいか…………

 

リサ「眠そうだね真言くん」

真言「ええ、まあ」

リサ「……昨日は寝るの遅かったの?」

真言「ええ、まあ」

リサ「………………夜ふかしは体に悪いからほどほどにしなよー?」

真言「わかりました」

 

リサ「(アタシ……もしかしなくても嫌われてる……?)」

真言「(眠いし客少ないから暇だな……)」

 

 真言はリサのことが嫌いというわけではない。

 

 しかし"嫌いではない"というだけで、特別好意があるわけでもない。ただこのときの彼は『燐子先輩以外の人』には基本的に無関心なのである。

 

 他人に無関心であるがゆえ、彼女が自分が初めてハマった、Roseliaというガールズバンドのメンバーだということも真言は気づいてない。

 

 そういう男だったのだ、神代 真言は。

 

リサ「(確かこの子、燐子には懐いてるんだっけ……)」ジーッ

真言「…………………なにか?」

リサ「あ、ううん!なんでもないよ?」

真言「……そうですか」

リサ「…………………」ジーッ

真言「(めっちゃ見られてんな…………)」

 

 とまあそんな感じで俺のバイトは特に問題もなく(?)比較的順調(???)に進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜【今井 リサ】〜〜

 

 あれはバイト終わりの帰り道のこと。

 

 アタシは最近できた無愛想なバイトの後輩のことを考えながら帰り道を歩いていた。

 

リサ「はあ…………」

 

 あの子、神代 真言くん、根はいい子なんだろうけど、なーんか心を開いてくれてないって言うか………

 

リサ「燐子が心配するほどの人見知り……いや、あれは人見知りとはちょっとちが──」

 

「ねえねえそこの君〜」

 

リサ「…………」

 

 帰り道を歩いていたアタシの目の前に現れたのは、いかにもチャラそうな数人組の男たちだった。

 

「君カワイイねーこんなとこで何してんの〜?」

リサ「(最悪……ナンパ……?)」

 

 はぁ……たまにこういうのが寄ってくるんだよね……

 

 こういうのは無視無視。

 

リサ「……………」スタスタ

「ちょっと無視〜?」

 

 何でついてくるの……もう…!!

 

「ねえねえ待ってよー」ガシッ

リサ「!?」

 

 ちょ、腕掴まれ──

 

リサ「い、いや!離して!!」

「あ、やっと口聞いてくれたね」

 

 ニヤニヤと笑う男たちの嫌な笑顔。

 

リサ「(怖い……誰か……たすけて……………!)」

 

「おい」ガシッ

 

 アタシの腕を掴んだ男の腕を、さらに別の腕が掴む。

 

真言「……………」

 

リサ「真言くん!」

「あ!?何だてめえ!」

 

真言「『何だてめえ』?その言葉、そっくりそのままてめぇらに返すよ」

 

真言「俺の先輩に、何してやがんだてめぇら」ビリッ

 

リサ「……!!」

「……な、」バッ

 

 真言くんの気迫に驚いた男は、アタシの腕を離した。

 

リサ「(ものすごい存在感……この子、一体何者…?)」

 

「まあまあ、君、この子の彼氏?」

 

 アタシの腕を掴んだのとは別の人が真言くんに話しかける。

 

真言「……バイト先の後輩」

リサ「(しょ、正直だなぁ…………)」

 

「ふぅーんそっかそっか…………」

 

 ドゴッ!!

 

真言「がはっ…………!」

リサ「真言くん!!!」

 

 殴られた。真言くんが。お腹を思いっきり。

 

 お腹を抑えてうずくまる彼。

 

リサ「真言くん大丈夫!?」

 

「後輩だがなんだか知らないけど、()()()()()()()ぶってイキってんじゃねえぞクソガキ」

真言「!」

 

「おいお前ら。そいつ適当にボコしとけ」

リサ「やめて!!」バッ

 

 気づいたらアタシは、うずくまった真言くんの前に立ちはだかっていた。

 

真言「()()()()()()()……?」

リサ「……真言くん?どうかし──」

真言「…………は、はは、」

 

真言「はははははははははははははは!!!」

 

リサ「!?」

真言「そうかそうか!!お前らには俺が"正義のヒーロー"に見えるのか!!あははははははははははははははははははははははは!!!!!」

「な、何がおかしい!!」

 

 突然タガが外れたように笑い出す彼。

 

 アタシも含めそこにいた全員が、一体彼が何故こんなに笑っているのか、全くわかっていなかった。

 

真言「あーあ、笑い疲れたよ」

リサ「………………」

 

 何なの……この子……何で笑ってるのに……笑ってるはずなのに……

 

リサ「(すごく……怖い…………!)」

真言「残念だけどてめぇら、俺は正義のヒーローにも、ましてや正義そのものを気取る気もねえよ」

 

真言「俺が気取れるのは──」

 

 一瞬悲しい顔をしたあとに、彼は言う。

 

 

 

 

 

真言「──化け物だけだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜【神代 真言】〜〜

 

真言「あーひでえ目にあった……」

リサ「…………」

真言「にしてもあいつら、正義のヒーローか……くくっ」

 

 あいつらのあのマヌケな顔を思い出すだけで笑いが止まんねぇぜ。

 

リサ「…………ねえ、真言くん」

真言「はい?」

 

 

 

 

 

リサ「どうして、わざと殴られ続けてたの?」

 

 

 

 

 

真言「別に、わざと殴られてたわけじゃないですよ」

リサ「え、でも……」

 

 この人の言いたいことはわかる。

 

 確かに俺があいつらに()()()()()()()、かつ()()()()()()()()()()()()、ただただ殴られてたのは異常と言う他ないだろう。

 

 結果的に殴られ続けても全く怯まなかった俺にビビってあいつらは逃げてったんだが……

 

真言「……約束、なんですよ」

リサ「え?」

 

真言「燐子先輩と交わした、命より大事な約束なんです」

 

 あの日、俺が化け物から監視対象になった日、この世で一番大切な人と結んだ、この世で一番大切な約束。

 

真言「俺はもう……誰も傷つけない」

 

 誰であろうと、何があろうと、絶対に約束を守ってみせる。今度こそ。

 

リサ「…………そっか」

真言「わかってくれとは言いませんよ。自分でも頭がおかしいんじゃないかって思いますから」

リサ「……とりあえずケガの手当をしなきゃ。血、出てるよ?」

真言「大丈夫ですよこんくらい。唾つけときゃ治ります」

リサ「だめだよ!もうすぐウチだから手当てさせて!」

真言「いや、だから大丈夫ですって……」

リサ「いいからほら!行くよ!」グイッ 

真言「……なんか今井さんってお姉さんみたいですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「へーそれで今日のまっくんはそんな包帯ぐるぐるなんだ!」

真言「まあ、おかげでめっちゃ燐子先輩に心配されましたけどね」

燐子「だって……すごいケガしてたから……何かあったんじゃないかって……」

真言「大げさに手当されてますから」

 

 俺はCiRCLEの前にあるカフェテリアで燐子先輩と師匠に今日あったことを話していた。

 

 …………この包帯やっぱりちょっと動きづらいな。

 

真言「でも安心してください!誰も殴ったりしてませんから!」

燐子「う、うん…………」

真言「でも驚きましたよ。まさかバイト先の先輩がRoseliaのメンバーだったなんて……」

燐子「……知らなかったの?」

あこ「あ、リサ姉戻ってきたよ!」

 

 リサ姉……師匠ってよく人にあだ名つけてるよな

 

 やっぱりあだ名っていうものは親密度を高めるためには有効な手段なんだろうか……俺もなにか……うーん…………

 

リサ「ん?どうしたの真言くん。そんなに悩んじゃって」

真言「いや、俺も今井さんをあだ名で呼べばもう少し仲良くできるのではないかと思いまして」

リサ「へー面白そうじゃん♪なんか思いついた?」

真言「…………!一つ思いつきました」

リサ「お!いいね〜聞かせてよ☆」

 

 師匠の呼び方とちょっと似てるかもしれないけど、この人はこう呼ぶのが何か合ってる気がする。

 

真言「今井の姐さん」

燐子「………………………」

リサ「えっと……………」

あこ「なんかリサ姉、ヤンキーみた──」

燐子「あこちゃん」

真言「ダメですか?んーっとじゃあ…………」

 

真言「姐さんで」

 

リサ「うん。さっきとほぼ変わってないよ?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ……そんなに俺のあだ名のセンスはないのだろうか。

 

 ともかくだ。これで俺とRoseliaとの出会いの物語は半分を切ったわけだが、案外大したことないだろ?

 

 案外大したことのない、けれど俺にとっては大切な思い出たち。

 

 もう少しだけ、お付き合いいただこう。




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ついに次回は超超デットヒートを繰り広げた先輩の回です!


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40.雨の日の独白【監視対象と青薔薇編】

どうも砂糖のカタマリです。

さあさあ監視対象と青薔薇編もこれを含め残すところあと2話!

まずはアンケートでデットヒートを繰り広げた紗夜先輩の回です!

それでは、本編どうぞ。



 氷川 紗夜は、俺の、もう一人の先輩だ。

 

 俺を化け物から監視対象まで引っ張り上げた、もう一人の先輩。

 

 この場合引っ張り上げた……なのか?まあ、あの時よりは全然マシ、最近ではいろいろ幸せすぎて怖いくらいだ。

 

紗夜「何か大きな不幸がやってくる前触れなのかもしれませんね」

真言「怖いこと言わないでください」

 

 ある日の夕方、商店街に買い物に来ていた俺は、帰る途中で雨に降られてしまい、仕方なく屋根があるところで雨宿りをしようとしたのだが…………

 

 そこになぜか紗夜先輩がいた。

 

紗夜「私も神代さんと同じく、雨に足止めをされているんですよ。見てわかりませんか?」

 

 だそうだ。

 

真言「……雨、止みませんね」

紗夜「ええ」

真言「これどうします?」

紗夜「私は日菜が迎えに来てくれるらしいので」

真言「なるほど……」

 

 氷川 日菜。紗夜先輩の双子の妹で、この前羽丘に行ったときに会った、あの「るんっ♪」の生徒会長だ。

 

紗夜「…………どうでした?」

真言「何がですか?」

紗夜「実際に日菜に会ってみて、何かわかったことがありましたか?」

 

 ああ、そのことか。

 

真言「んーそうですね……」

紗夜「もしかしてあの子また何かやらかして……」

真言「いや、別にそんなことないですよ。ただ…………」

紗夜「ただ?」

 

 

 

 

 

『俺に氷川先輩の気持ちはわかりません。………………けど、先輩の妹さんの気持ちなら……少し、わかる気がします』

 

 

 

 

 

真言「…………俺って、紗夜先輩に随分適当なことを言ったものだなと…………」

 

 一瞬キョトンとした紗夜先輩だが、すぐに俺の言っていることがわかったらしく、少し微笑んでこう返した。

 

紗夜「あなたが適当なのはいつものことでは?」

真言「先輩最近なんか酷くないですか?」

紗夜「…………でもまあ、確かにあなたと日菜は似ても似つきませんね」

 

 きっと彼女はただ純粋に姉の背中を追ってきた……追い続けている人なのだろう。()()()()()

 

真言「俺が実際に会ってみて分かったのはそのくらいです」

紗夜「なるほど……それにしてもよく覚えていましたね」

真言「え?」

紗夜「私が神代さんに日菜について話したことなんて、かなり昔のことですよ?」

真言「ん、まあ確かに」

 

 自分でもよくわからないが、それでもあの日のことは結構ハッキリ覚えていたりする。

 

真言「きっと、あの日も今日みたいに雨が降ってたから、じゃないですかね?」

 

 そう、俺が先輩を"氷川さん"ではなく、"紗夜先輩"と呼び始めたあの日も、こんなふうに雨が降っていた。

 

紗夜「なんですか、それ」フフッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 今日はついてない日だ。

 

 目の前で突然降り出した雨を見ながら、俺はそう思った。

 

真言「はぁ…………」

 

 商店街での買い物の帰り道、運悪く通り雨に巻き込まれてしまった俺。

 

 これじゃ家に帰れない、もちろん突然の雨なので傘なんて代物は持ち合わせてるわけもない、まさに八方塞がり。

 

真言「しばらくここで雨宿りするしか──」

 

 ふと視線をそらすと一人の少女と目が合う。

 

真言「あ」

紗夜「あ」

 

 俺の先輩でした。

 

紗夜「……どうも」

真言「………………」ペコッ

 

 氷川さん……なんでここに?

 

真言「…………氷川さん」

紗夜「何ですか」

真言「なにか、あったんですか?」

紗夜「……!」

 

 一瞬驚いた顔をした氷川さん、けどすぐに普段通りの顔に戻った。

 

紗夜「……なんでもないですよ。あなたには関係のないことです」

真言「………………」

 

 そう……だよな。所詮俺はただの学校の後輩、特別氷川さんと仲がいいわけでもない。だからまた余計なことに首を突っ込まないように…………

 

真言「……嘘、ついてますよね。わかりますよ」

 

 ……俺のバカ野郎。

 

 …………はぁ、もういい。ここまで言っちまったんだから好きなだけ言っちまえ俺。

 

真言「今の氷川さん、なんか変ですよ。いつもと雰囲気が…………」

 

 でも何故だろう。今日のこの人からはとても悲しい雰囲気が漂ってくる。

 

紗夜「………………あなたって人は──」

真言「…………」

 

紗夜「──本当にお人好しですね」

 

 そう言うと彼女は優しく微笑んだ。

 

紗夜「さっきは少し冷たかったですかね。でも本当になんでもないんですよ」

真言「…………え?」

 

 え、なんでもないの?ガチで?俺の勘違い?

 

紗夜「ただ、以前のことを思い出してしまって……」

真言「以前のこと?」

紗夜「あの日もこんなふうに雨が降っていたな、と」

 

紗夜「神代さんは知っていますか?私には双子の妹がいるんです」

 

 双子の、妹?

 

紗夜「ええ、実を言うと私、ずっとあの子と距離を取っていたんです」

真言「距離を……仲が悪かったんですか?」

紗夜「私が一方的に、と言ったほうがいいですね。どんなに私が冷たく接してもあの子はずっと私を追いかけてくれて……」

 

 姉の背中を、追いかける……

 

『にいちゃん!』

 

真言「…………どうして、氷川さんは妹さんのことを嫌ってたんですか?」

紗夜「………………」

 

 答えなくても俺にはなんとなくわかっていた。

 

 

 

 

 

真言「……怖かったんですね。妹さんが」

 

 

 

 

 

紗夜「……っ!」

 

 多分、この人は同じなんだ。

 

 俺の兄貴と。

 

真言「俺に氷川さんの気持ちはわかりません。………………けど、先輩の妹さんの気持ちなら……少し、わかる気がします」

紗夜「日菜の……?」

真言「俺には年の離れた兄がいるんです」

 

 そうして俺は話し始めた。今まで誰にも話したことがない、燐子先輩にすら話したことのない、俺の兄のことを。

 

真言「兄貴は俺と違ってよくできた人間だったと思います」

 

真言「強くて、優しくて、頭も良くて……誰からも好かれる人でした。小さい俺には兄にできないことはない、完璧超人に見えてたんですね」

 

真言「俺もそんな兄のことが好きでしたし、俺の憧れでもありました」

 

真言「いつかは追いつくため、俺はずっと兄の背中を追いかけて、追いかけて、追いかけて、」

 

真言「…………そんな俺の憧れが、兄を追い詰めていたなんて知らずに」

 

紗夜「…………………」

 

 氷川さんはただただ黙って俺の話に耳を傾けてくれている。

 

 俺は続ける。

 

真言「ある時、兄がいわゆる"挫折"というものを身を以て知ったんです」

紗夜「挫折……?」

真言「はい。それが何だったのかもう覚えてませんが、まあ普通の人ならよくあることだったんじゃないですかね」

 

真言「けれど、兄にとってそれは人生で初めての大きな挫折だったんです。文武両道、勉強も運動もできて皆から好かれる完璧な兄」

 

真言「その完璧を求める姿勢が、みんなの期待が、俺の憧れが、兄の挫折の原因になった。それだけは確かだった」

 

真言「別に、挫折すること自体が問題じゃなかった。問題はその後なんです」

紗夜「……と言うと?」

 

真言「俺は兄貴を…………励ましたんです」

 

紗夜「…………?」

 

 んー……まあ普通そういう顔をするわな。「当たり前のことだろ?」みたいな……

 

真言「普通なら挫折した兄を弟が励ますなんて、そんなのハートウォーミングな話にくらいしかなりませんよね」

 

真言「けど、俺と兄貴は違った。俺は、兄の背中を追い続けた俺だけは、きっとその言葉を言ってはいけなかった」

 

真言「俺がなんて言ったかはもう覚えてないですけど、兄貴がなんて言ったかは今でもハッキリ覚えてます」

紗夜「……お兄さんはなんと?」

真言「………………」

 

 

 

 

 

『俺に持ってないものを全部持ってるお前が!!!何も知らないくせに!!!俺に同情するな!!!!!』

 

 

 

 

 

紗夜「………………」

真言「兄貴は俺が怖かったんです。自分を追いかけてくる俺が。自分より才能のある弟が自分に迫ってくる感覚が」

 

 俺にはそんな自覚、全く無かったんだけどな。……だからああなったのか。

 

紗夜「結局、その後はどうなったんですか?」

真言「そりゃもちろん──」

 

『こんの……クソ兄貴があああああ!!!!!』

 

真言「──殴り合いの喧嘩ですよ」

紗夜「は?」

真言「互いに叫びちらしながら殴って殴られて……母親にぶん殴られて止まるまで続けてましたねぇ」シミジミ

紗夜「え、えっと……」

 

 

 

 

 

真言「知ったような口をきくなと思われるかもしれませんが、その人も俺と同じでただ純粋に氷川さんを追いかけてるだけなんだと思います」

 

 俺はもう……追いかけるのをやめてしまった。

 

紗夜「……………………」

真言「あ、ごめんなさい。また俺は……」

紗夜「日菜は……妹は……」

真言「?」

 

紗夜「妹は神代さんのようにバイオレンスではありません」

 

真言「…………ふっ」

 

 そりゃそうだ。俺みたいなやつが妹だったら氷川さんの体がいくつあっても足りねぇか。

 

真言「お、晴れましたね」

紗夜「……今日はありがとうございました」

真言「何がですか?」

紗夜「私の話を聞いてくれたことと、神代さんのことを話してくれたことです」

真言「いいんですよ。また俺の厄介な性格が出ただけなんですから…………それに俺についてのはただの雑談みたいなもんでしたし」

 

紗夜「でも神代さん、辛そうな顔をしてました」

 

真言「…………気の所為ですよ」

 

 あのときは辛かったかもしれない、けれど今はそんなことも忘れてしまった。

 

 俺は……もう兄の背中を追いかけるのはやめたから。

 

紗夜「ではまた明日、学校で」

 

 ……それに辛そうな顔をしてたのはあなたの方ですよ。

 

真言「…………また明日です、()()()()

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

真言「………………ぜんっぜん止みませんね、雨。」

紗夜「ほんとですね」

 

 こんだけ色々思い出したのに一向に止まない雨。

 

 どうやらあの時と違ってただの通り雨ではないらしい。

 

紗夜「…………やっぱり」

真言「え?」

紗夜「やっぱり似てませんね。あなたと日菜は」

 

 あ、まだ考えてたんだその事。

 

真言「あの人は俺なんかより、100倍純粋に姉の背中を追ってますよ」

紗夜「そういうことではないんですけどね。神代さんはどちらかというと──」

 

「おねーちゃーん!!」

 

 おっと、噂をすればなんとやら。どうやら紗夜先輩のお迎えが来たみたいだ。

 

日菜「あれ!?真言くんもいるじゃん!」

真言「どうも」

 

 水色の傘をさしながら、もう一方の手で別の傘を持って小走りで近づいてくる氷川さん。

 

 ここからは家族水入らずのほうがいいだろう。お邪魔虫はとっとと退場するとしますか。

 

真言「じゃあ俺はこの辺で失礼します」

日菜「真言くんも傘ないんでしょ?ずぶ濡れになっちゃうよ?」

真言「大丈夫です。雨くらい避けて帰れますから」

日菜「へ?」

紗夜「(神代さんなら…………ありえるかもしれませんね…………)」

日菜「何言ってるかわかんないけど……と、とりあえずこれ使って!」

真言「え、でも……」

日菜「いーの!あたしとおねーちゃんは同じ傘に入ってくからさ♪」

紗夜「先輩からの好意は素直に受け取っておくものですよ」

 

真言「……わかりました。ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 こうして少年と少女はそれぞれの帰路につく。

 

 完璧な兄を追いかけていた弟、天才の妹に今も追いかけ続けられている姉。

 

 立場は真逆でも二人には共通するものがあった。

 

 それは、どれだけ逃げても追いかけてきてくれる大切な人がいたこと。

 

 降りしきる雨の中、約束を結んでくれる人が、傘を差し出してくれる人がいたこと。

 

 全然違うようでどこか似ている、雨の日に救われた二人は、

 

 これからも迷い、悩み、自己を嫌悪し、自分を見失い、傷つき、傷つけられ、悪意にまみれ、何一つ問題が解決しなくても、問題を後回しにしても、

 

 たとえ雨にうたれても、

 

 それでも前に進んでいく。

 

 傘をさして。




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皆様のおかけでついに三段目に赤ランプが点灯いたしました!!本当にありがとうございます!!!

そして次回で監視対象と青薔薇編……の番外編ですねこの人は。でもとりあえず次回がこの章の最終回です!


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41.言えなかったこと【監視対象と青薔薇編】

さあ!監視対象と青薔薇編もいよいよ最終話です!

まあ、この子の場合"青薔薇"ではないんですが……真言くんにとって大切な人たちの一人なんで!!

それでは親友、有咲との過去編行きましょう!!



 市ヶ谷 有咲は、俺の親友だ。

 

 親友、それは親しい友のこと。

 

 以上、説明終わり。

 

有咲「おいこら!」

 

 …………俺とお前にはそれだけで十分だろ?

 

 なんだよもっと"親友"って言葉の説明でもすればいいのか?自分で広辞苑でも引けよ。

 

有咲「いや!なんかもっとこう……あるだろ!?私とお前がどうやってそうなったとかさ!?」

 

 んー…………忘れた。

 

有咲「はぁ!?」

 

 ウソウソ。そんな怒んなって。

 

有咲「ったく……」

 

 市ヶ谷 有咲は俺の親友。

 

 だが少し違えば、恩人になっていたかもしれない少女。

 

 そんな彼女が"恩人"ではなく、"親友"となった、あの野外学習の話でもしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 神代 真言、ほとんど奇跡的に高校2年生になりました。

 

 あんだけ問題起こしてよく進級できたよホント。自分でもびっくりしてる。

 

真言「………………」ズーン…

 

 なぜ俺がこんなに元気ないかって?まず俺がRoseliaの皆に会うとき以外に元気なことあるか?

 

 まあ、あえて理由を上げるとすれば、そうだな……

 

・クラスメイトからクラス替えで離れた代わりに、周りに誰も知り合いがいなくなったから。

 

・俺が起こした事件のことはなぜか学校中に知れ渡っていたので、新しいクラスでも友達が一人もできなかったから。

 

・それなのに今、俺は野外学習の会場行きのバスに乗っているから。

 

 まあざっとこんなところだろう。

 

 別にクラスでボッチなのは構わない。しかし…………

 

真言「(野外学習じゃ放課後燐子先輩に会いに行けねぇじゃねえか……!!!)」

 

 これが今日の不調一番の理由である。

 

真言「野外学習か…………」

 

 バスから野外学習の現地に降り立っても俺のテンションが上がることはなかった。

 

 というかバス酔いして更にテンション下がっている。

 

真言「…………帰りたい」

 

 周りの連中は友達どうしでワイワイしてるが、もちろん俺にはそんなもんはいない。

 

 危険視されてる俺に近づいてくる物好きなやつなんて……頭のネジが2、3本吹き飛んでるとしか思えないな。

 

 幸い俺のクラスメートたちはまともなやつが多いみたいだ。

 

「…………………」ジーッ

真言「(……なんか見られてる?)」

 

 金髪ロングヘアの少女がキラキラした目でこちらを見ている!

 

 なにかとてつもなく嫌な予感がする。

 

真言「(……………………逃げるか)」ダッ

「あ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「ふぅ……まあこの辺までくれば大丈夫だろ」

 

 ……つーか、ここどこだよ。遠くに逃げすぎたか?

 

「おい」

真言「!」

 

有咲「何してんだよ、神代くん」

真言「何だ市ヶ谷か……」

 

 こいつは市ヶ谷 有咲。一年のときのクラスメートで、今では別のクラスだが、俺の起こした事件を知っている。

 

 ……ただそれだけだ。

 

有咲「こんなとこで何してんだよ」

真言「ちょっと逃げてきてな…………てかお前こそ何してんだよ」

有咲「何って、ここ私たちのクラスの集まりだぞ」

 

 …………どうやら俺は別クラスの集合場所まで逃げてきてしまったらしい。

 

真言「やっぱりちょっと逃げすぎたか……」

有咲「"逃げてきた"って、お前何から逃げてきたんだよ」

真言「…………」

 

 何から?俺は一体何から逃げてきた……逃げているんだ?

 

 人間?友達?それとも…………

 

真言「…………悪い、俺もクラスに戻るわ」

有咲「あ」

真言「どうかしたか?」

有咲「………………」

真言「……用が無いんならもう行くぞ」

有咲「……………………気をつけてな」

 

 何か言いたげだが、まあ本人が言わないのなら俺が詮索する必要はないだろう。

 

 俺に市ヶ谷を詮索する権利なんてない。

 

 俺はこいつの、友達でもなんでもないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も特に変わったことなく、野外学習は事前の日程どおり進んでいった。

 

 この野外学習にメインとして設定されたイベント、『ハンゴウスイサン』というめっちゃ難しい漢字のアレも、目立たずそつなくこなすことができた。

 

真言「…………」

 

 近くの山林を歩き回るフィールドワークも、実家の近所にある山に比べれば大したことなかった。山は俺の子供の頃からの得意フィールドだ。

 

 イベントとかフィールドとか、ちょっと師匠に感化され始めてるな……まあいい。

 

 ここまで余裕で野外学習という特殊クエストを攻略中の俺だが、ここでトラブル発生。

 

真言「…………迷った」

 

 そう、迷った。フィールドワークは基本構成された数人の班で行動するのだが、俺はその班員たち全員とはぐれてしまったのだ。

 

真言「ちょっと山が得意だからってガンガン行き過ぎたか……」

 

 でも結構深い山だな……これじゃ絶対俺以外にも迷うやついるだろ。

 

真言「おそらく皆もうバス前に集合してんだろ。えーっと確かこっちの方向が…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱり俺の野生の勘(?)は鈍っていなかったらしい。数分歩き続けると無事にバスの集合場所に着いた。

 

「神代くん!今までどこ行ってたの!?」

 

 名前も知らない、多分俺の班のメンバーと思われるやつが話しかけてくる。

 

真言「ああ、ちょっと迷ってた。それが?」

「そ、そう…………」

 

 …………ん?なんだ?なんか向こうが騒がしいな……

 

真言「なんかあったのか……?」

「ねえあなた!」

真言「あ?」

 

 こいつ……今朝見た金髪ロングヘアの……

 

真言「……お前、あそこで何があったか知ってるか?」

「え?」

真言「ほら、あっちの方で集まってるクラスの奴らだよ。なんか騒がしいだろ?」

「んー……よくわからないから行ってみましょう!」グイッ

真言「は!?おい引っ張んなよお前!!」

 

 な、なんだこいつ!!やっぱ変なやつだ!!

 

「香澄!何かあったの?」

真言「(猫耳……?)」

「こ"、こ"こ"ろ"ん"〜〜!!!」

真言「!?」

「ど、どうしたの香澄!?」

 

 カスミと呼ばれた猫耳(?)の生えた少女は、何故かボロボロ涙をこぼしながら金髪ロングヘアのこいつに泣きついている。

 

 

 

 

 

「有咲があー!有咲がいなくなっちゃったー!!!」

 

 

 

 

 

「え!?」

真言「アリサ……?」

 

 アリサ……有咲……?有咲って確か……

 

真言「市ヶ谷…………有咲……?」

 

「やま!やまのなかではぐれて!!それで!!!いま!!」

「落ち着いて香澄!きっと大丈夫だから!」

 

 市ヶ谷が………………

 

真言「…………………」

 

 ……さっきも言ったが、別にあいつは俺の友達でもなんでもない。俺の起こした事件を知っている。たったそれだけの人間。

 

 でもあいつは…………あの事件の"真実"を知っている。

 

 ああ……くそっ。なんでこんなにモヤモヤすんだよ…………あいつは何でもない人間のはずなのに……他の連中と同じ…………

 

 本当に?

 

 本当にあいつは他の連中と同じなのか?

 

 少なくともあいつは、あの事件を調べようとしてくれた。

 

 あいつは、引きこもっていた俺を心配して、わざわざ家にまで来てくれた。

 

 諦めていた俺を、あいつは諦めずに学校まで引きずっていってくれた。

 

 あいつがいなかったら、俺は本当の本当に一人ぼっちだったかもしれない。

 

真言「…………もうごちゃごちゃ考えるのはやめよう」

 

「あ、あれ?さっきまでいたあの男の子は……?」

「そういえばどこに……」

 

真言「さっさとあいつを連れ戻して、このモヤモヤを消す」

 

 うん。我ながらわかりやすくて良いクエストだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【市ヶ谷 有咲】〜〜

 

 私が神代くんのことを目で追いかけるようになったのは、一体いつからだっただろう。

 

 高校一年生、同じクラスになった私の彼への第一印象は……

 

有咲「(あの人……目つき悪いなぁ……)」

 

 だった。

 

 裏を返せばそれ以外に特筆すべき点が見当たらなかったということになる。

 

 勉強も普通。運動も普通……今思えば運動は手を抜いていたのかもしれないけど。

 

 騒がず、慌てず、いつも冷静。顔もかっこいい方だと思うけど無愛想だから、皆から大人気!というような人ではなかった。

 

 前に彼に話しかけた女の子が、彼の目つきの悪さに半泣きしていたところを見た……きっと本人は無自覚だろう。

 

 でも決して悪い人じゃない。それは自信を持って言える。

 

真言「…………おい」

有咲「は、はい!」

真言「それ……半分持つ」

有咲「え、いや、いいよ!これは私が先生に頼まれたプリントだから……」

真言「いいから寄越せ」ガサッ

有咲「……!」

真言「……………おい。これどこ持っていけばいいんだ」

有咲「あ、ありがと……」

真言「…………ん」

 

 無愛想。だけどほんのり優しい。温かい心を持つ人。

 

 だからそんな彼が感情を露わにしたあの時のことは、今でも鮮明に覚えている。

 

 それはある日の授業後のことだった。

 

有咲「…………あれ」

 

 私は廊下に立ち尽くしている神代くんを見た。

 

有咲「(あんなところで一体何を……)」

 

 彼はただ立って、隣の教室の中を見ていた。

 

有咲「──っ!?」

 

 これ以上なく、憎悪に満ち溢れた表情で。

 

有咲「(何を見て…………)」

 

「返してください!」

「はぁw?何こいつ必死すぎwww」

「めっちゃウケるんですけどwww」

「ほら!取れるもんなら取ってみろよチビ女」

 

有咲「なに……あれ……」

 

 イジメ……?もしかして神代くん、あれを止めようと……

 

「返して!そのお守りはおばあちゃんの形見なの!!」

 

有咲「ひでぇ…………」

 

「こんなボロいのが?」

「汚いなそれ、捨てちゃったらw?」

「………!やめて!」

 

 3人のイジメている女子生徒の1人が、イジメられている少女のお守りを窓に投げる。

 

 その瞬間、

 

 

 

 

 

 神代くんはもう教室の窓枠に足をかけていた。

 

 そしてなんの迷いもなく、窓の外に投げられたお守りに向かって飛び出した。

 

 

 

 

 

 ………………彼に反応できたのは、きっと私も無意識に飛び出していたからだ。

 

 それでも窓から外へ飛び出した彼の足を、何とか掴むことができたのはきっと奇跡だったのだろう。

 

有咲「ちょ、おまえ何やってんだよ!!」

 

 私が宙吊りの彼に向かってそう叫ぶと、こんな脳天気答えが返ってきた。

 

真言「…………あんた誰?」

 

 そこから、私と彼はその事件に関わることになる。

 

 その事件で、彼はイジメ主犯格たちを撃退した代償に心に深い傷を負ってしまった。

 

『俺は………………………………本当に正しかったのか?』

 

 そして私は、その質問に答えることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有咲「…………ここどこだ?」

 

 だめだ、完全に迷子になってしまった。

 

 しかもかなりの山奥まで来てしまったらしく、どっちに行けば皆がいるのか、皆目見当もつかない。

 

有咲「どうしよう…………」

 

 辺りには誰もいない、スマホも圏外、もう私にはフラフラと当てもなく彷徨うことしかできなかった。

 

 同じ班の香澄や奥沢さんは大丈夫だろうか……きっと心配をかけてしまっ──

 

有咲「──っ!」

 

 ガサッと嫌な音を立てて、地面が崩れ落ちる。全身が浮く感覚に襲われながら、それでも私はまだこの状況を処理できていなかった。

 

 え、何で、落ちる……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有咲「………………あ、れ?」

 

 私……落ちてない……?

 

真言「お前…………こんなとこで何してやがんだ…………!」

 

 

 見上げると、神代くんがいた。

 

 神代くんが、このまま落ちていくはずだった私の手を掴んでいた。

 

有咲「なんで…………?」

真言「いいからとっとと上がってきやがれ……!」

有咲「うわ!」

 

 身体を一気に引っ張り上げられる!

 

有咲「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 助かった……?

 

真言「お前な……なんでこんなとこに」

有咲「いやそっちこそ!」

真言「……俺はお前を探しに来たんだ!!」

有咲「……私を?」

真言「お前が勝手にいなくなるからだろうが!お前のダチがパニック起こして仕方なく探してやってたんだよ!!」

 

 でもなんで神代くんが……

 

真言「……………お前には借りがあるからな」

有咲「え?」

真言「これであんとき助けてもらった借りは返したぞ」

 

 あのときって……もしかして…………?

 

有咲「私が窓から飛び出した神代くんの足を掴んだこと?」

真言「…………ああ」

 

真言・有咲「「……………………」」

 

有咲「……あ、ありがとう」

真言「……だから、あんとき助けてくれた礼だ。気にすんな」

 

 俺もいろいろ助かった。ありがとな。と彼はちょっとバツが悪そうに言った。

 

真言「ほら、いつまでへたり込んでんだ。待ってる奴らがいるんだろ?行くぞ」

有咲「…………………」

 

 もし……神代くんが来てくれなかったら私、今頃崖下に…………

 

真言「……?どうしたんだよ市ヶ谷」

有咲「い、今になって……震えが…………」

真言「ったく……」

 

 こちらに背を向けてかがむ彼。

 

真言「ほらよ。おぶってやるからとっとと行くぞ」

有咲「う、うん…………」

 

 私を背負いながら迷うことなく森を突き進んでいく。

 

有咲「重くない?」

真言「重い」

有咲「…………はぁ!?」

真言「こっちは人一人背負ってんだぞ。重いに決まってんだろ」

有咲「いや……!まあそうだけど!女子に向かってノータイムで重いって言うか普通!?」

真言「……そこまで元気なら安心だな」

有咲「……………」

 

 そうだ……この人こういうこと平気で言うんだった…………

 

真言「一年のとき……まあ短い間だったけどな。その時はこんな感じで話してぞ。ここのとこのお前は…………なんか俺に距離をとってる感じだった」

有咲「そんなことは…………!」

真言「仕方ねぇよ……もう俺は"普通"の高校生じゃない」

 

真言「今の俺は"監視対象"だからな」

 

 そう彼は笑って言う。でも私は知っている。彼が望んでそうなったわけじゃないということを。

 

 その言葉は、本当は言いたくないことを。

 

有咲「…………違う」

真言「違くねぇよ。今じゃ友達も一人もいないし、ま、当たり前だよな。あんだけ派手に暴れまわって、誰も俺と仲良くなろうとなんてするはず……」

有咲「違う!!」

 

 なんで……どうして…………

 

有咲「どうしてお前が……自分のことをそんな風に言うんだよ…………お前がやったことは正しかったんじゃなかったのか……?」

真言「………………さあな」

有咲「!」

真言「俺にはもう、自分が正しかったかどうかなんてわからねぇよ」

 

有咲「……………降ろして」

真言「え?」

有咲「もう大丈夫だから……降ろして」

真言「あ、ああ」

 

 神代くんの背中から降りて、彼の目を見て、今度はちゃんと言う。

 

有咲「私は…………ずっと神代くんに謝りたかった」

真言「…………は?」

 

 呆気に取られた彼に、私は続ける。

 

有咲「あのとき…………」

 

『俺は………………………………本当に正しかったのか?』

 

有咲「神代くんが私にそう聞いてきたとき…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有咲「『お前は正しい』って、言ってやれなくて…………ごめん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「…………………市ヶ谷」

 

有咲「……だから今言うぞ!言えなかったこと全部!!」

真言「!?」

 

有咲「お前は何も間違ったことをしてない!!イジメられていたあの子を!お前は自分を犠牲にしてまで助けたんだ!!お前は正しい!!!」

 

有咲「だからそんな風に自分が悪いみたいなこと言うなよ!!」

 

有咲「間違ってないんだよ!!自分でもホントはそう思ってるだろ!!間違ってねぇんだろ!?お前は!!じゃあ!いつまでもウジウジ悩んでるんじゃねぇ!!」

 

有咲「"友達が一人もいない"!?ふざけんな!!!」

 

有咲「心配しなくても!ちゃんと私はお前の友達だ!!!!」

 

 言った。言いたいこと全部。心臓の音がうるさくて、息が切れて、自分でもなんて言ったかよくわかってないけれど、

 

 それでも全部、言えた。

 

真言「市ヶ谷」

有咲「"有咲"でいい!」

真言「……有咲」

 

 ゆっくり、丁寧に、次の言葉を紡ぎ出す。

 

真言「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【神代 真言】〜〜

 

 "監視対象"となった俺に初めてできた対等な友人、市ヶ谷有咲。

 

 ちょっと口調が荒くなったり、急にめっちゃ丁寧になったりする、

 

 初めての"友達"…………

 

有咲「あ、でも私以外にもちゃんと友達作れよ。特に今のクラスメートとかは」

真言「友達というより母親だな。お前」

 

 有咲はこう言ってるけど、まあ当分対等な友達はいらないかな。というよりできないと思うし。

 

真言「燐子先輩や師匠やRoseliaの皆とかとももっと仲良くなりたいし……」

有咲「お前……同じ学校には友達いないのに、他校には結構いるのな……」

真言「友達…………今の俺と対等に話せるのはお前くらいだよ」

有咲「……………///」

真言「なんだよ急に黙って」

有咲「な、なんでもねぇよ!!」

 

真言「でもまあ、お前の言うとおり同じ学校に友達が一人だけっていうのは…………燐子先輩に「友達いるの?」って聞かれたとき心配されちまうかもな…………」

有咲「お、おう……(こいつの世界、燐子先輩中心に回ってんじゃねぇのか……?)」

 

真言「あ、そうかただの"友達"じゃなくて"親友"なら一人でも何ら不思議はないな!それに親友が一人入れば他に友達いなくても何とかなりそうだ!」

 

有咲「いや、なんだよその謎理論」

真言「いいだろ?な?"親友"?」

有咲「………………はぁ」

 

 そっちこそ、なんだよその深いため息は。

 

有咲「ま……いいけどよ。"親友"って言ってもなんかそれっぽいことでもすんのかよ」

真言「うーん……親友っぽいこと……あだ名で呼び合うとか?」

有咲「あだ名…………じゃ、じゃあ……」

 

 

 

 

 

有咲「マコ」

 

 

 

 

 

真言「どうした有咲、顔が赤いぞ?」

有咲「(うるせぇ…………)

 

『マコ』か……そのあだ名で呼ばれるのも久々だな……

 

有咲「…………って!お前はあだ名で呼ばねぇのかよ!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 もし……もし仮に、俺が有咲に聞いた『自分は本当に正しかったのか』の答えがあの時すぐに返ってきていたら………

 

 俺にとって有咲は、今の燐子先輩と同じような存在になっていたのかもしれない。

 

 …………ま、今のあいつは俺にとって"親友"以外の何者でもないけどな。




お気に入り登録 stkt 様 藤木真沙 様 magicknight 様 砂糖白 様 ありがとうございます。

これにて監視対象と青薔薇編完結です!ありがとうございました!

そして次回はだーーーーーいぶ遅れたあの御方の誕生日&久しぶりのバトル回になります!お楽しみに!


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42.ネクロマンサーズパーティ!

もう一ヶ月経ちましたね………………………

それでは本編どうぞっっっ!!!!!!



 その日は来たるべくして来たのかもしれない。

 

 俺が今の道を進めば、師匠がこのままの道を進み続ければ、何れどこかで交わるかもしれない。

 

 俺は薄々そう気づいていた。

 

 気づいていて、俺は進むのをやめなかった。

 

 きっと師匠も……

 

 俺たちは似た者同士……いや、俺が師匠に似てきているだけか。なんて言ったって彼女は俺の『師匠』だからな。

 

 後ろ向きで下向きだった俺を、別世界に連れ出してくれた師匠。

 

 いつも俺の先にいた師匠。

 

 …………そして、ついにその日が来た。

 

 来たるべくして来た、俺と師匠の道が交差する日。

 

 俺たちが待ち望んでいた、直接対決。

 

 前置きはこの辺にしてそろそろ始めようか。

 

真言「改めまして師匠」

あこ「なーに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「誕生日おめでとうございます!!!」

聖堕天使あこ姫「ありがとう!!!」

 

 それが俺たちの戦闘開始の合図だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡ること7月3日。俺は師匠の誕生日をRoseliaの皆と一緒に祝っていた。

 

真言「師匠、誕生日おめでとうございます」

あこ「ありがとうまっくん!!!」

真言「これ、俺からのプレゼントで──」

あこ「あ、ちょっと待って!」

真言「え?」

あこ「そのプレゼントはまだ貰えないかな」

真言「……どういう意味ですか?」

 

 もしかして気に入らなかった……?

 

あこ「まっくんにちょっとしたお願いがあるんだ。……聞いてくれる?」

真言「俺で良かったら」

あこ「よかった!じゃあ言うね!」

 

 一つ咳払いを挟んで、師匠は高らかに宣言する。

 

 

 

 

 

あこ「我、聖堕天使あこ姫!我が一番弟子ネクロマンサーmakoに決闘を申し込む!!」ドンッ!!!

 

 

 

 

 

真言「け、決闘!?」

あこ「まっくんもNFOを初めて、だいぶ強くなったじゃん?それであこ思っちゃったんだよね…………」

 

あこ「あことまっくん、本気で戦ったらどっちが強いのか」

 

 不敵に微笑む師匠。つられてこちらも口角が上がってしまう。

 

真言「わかりました。やりましょう師弟対決」

あこ「その後にそのプレゼントは貰うことにするよ!…………あこの戦利品として、ね?」

 

 …………言ってくれるな。師匠。

 

真言「いや、師匠には敗北と一緒にこれをプレゼントしますよ」

 

あこ「ふぅん……」バッチバチ 真言「ふっ……」

 

 俺も師匠も負けず嫌いだ。誕生日の主役だろうがなんだろうが関係ない。やるからには全力で──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【NFO内・はじまりの平原】〜〜

 

mako「──全力でぶっ潰す!!!!!」

聖堕天使あこ姫「それはこっちのセリフだよまっくん!!!!!」

 

 先手必勝!!!

 

mako・聖堕天使あこ姫「「定命の円環を逸脱せし常闇の使徒に我命ず、 其の混濁たる眼で 深淵を破り、 彼の者を久遠の狭間へと誘いたまえ!!!!!」」

 

 

 

 

 

リサ「……紗夜、アレは何してるの?」

サヨ「どうやら第一ラウンドは魔法対決のようですね。流石、二人とも一言一句違わぬ詠唱です」

ユキナ「…………多分私はよくわからなくなると思うから、燐子、紗夜、解説をお願い」

RinRin「了解しました(`・ω・´)ゞ」

サヨ「任せてください」

 

 

 

mako「吹き飛べ!!」

聖堕天使あこ姫「喰らえ!!」

 

mako・聖堕天使あこ姫「「デッドリィーー!!!」」

 

 

 

サヨ「な、なんて衝撃……!念の為二人から距離をとっているのにここまで爆風が……!」

リサ「すご…………」

ユキナ「もう少し離れたほうがいいんじゃないかしら」

 

 

 

mako・聖堕天使あこ姫「「ダークフレイム!!カースシュート!!シャドウボム!!ブラッククロー!!カースパラライズ!!」」

 

 

 

サヨ「二人とも全く同じスキルを……」

ユキナ「わざとかしら?」

RinRin「いえ……真言くんはあこちゃんにネクロマンサーとしての戦い方を教わってきました」

 

 俺に戦い方を教えてくれたのは師匠に他ならならない。向こうに俺の戦略や戦法は全部お見通しってわけだ。

 

 それは裏を返せば、師匠の戦い方も俺にはわかっていることにもなる。

 

RinRin「二人が取る戦法は全く一緒。手の内を見せあっているプレイヤー同士が戦うなら……」

 

 

 

mako「(詠唱を止めるな……!少しでもタイミングを逃せばその隙に叩き込まれるぞ!!)」

聖堕天使あこ姫「(魔法を撃ち続けなきゃ……!弾幕を少しでも緩めたら確実にやられる!!)」

 

 

 

RinRin「おそらくは小細工抜きでの正面戦闘になります\(°o°)/」

リサ「…………要は何も考えず、ただただゴリ押しで行くってこと?」

ユキナ「二人らしいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネクロマンサー同士のほとんど互角の闇魔法合戦は、突如終わりを告げる。

 

mako「ここ!!」ダッ!!!

聖堕天使あこ姫「──っ!?」

 

リサ「あ!マコくんが一気に距離を!!」

サヨ「そう……彼にはこれがあるんですよね……」

 

 

 

 

 

mako「【ソウルミノタウロスの斧】!!!」

 

 

 

 

 

RinRin「近距離戦闘用大型武器……魔法を使いつつ、斧で距離を詰めて攻撃ができるなんて……(;;;・_・)」

サヨ「あの人は本当にネクロマンサーなんですか?」

リサ「ああいうのはバーサーカー?っていうんだっけ」

ユキナ「斧を使っている方が真言は楽しそうだわ」

 

 

 

mako「オラァア!!!」

聖堕天使あこ姫「よっ……とぉ!!」

mako「チッ!!」

 

 

 

サヨ「崩れた体制から躱した!?」

RinRin「魔法を地面に撃ってその反動で避けたんです!!(゜o゜;」

 

 

 

 くっそ……なんて強引な躱し方だよ……!

 

聖堕天使あこ姫「どうしたのまっくん?急に斧なんか使いだしちゃってさ?」

mako「こういうふうににMPを回復しておくのも戦術の一つだ、って師匠に教わりましたから」

聖堕天使あこ姫「ふーん…………」

mako「嬉しそうですね、師匠」

聖堕天使あこ姫「我が弟子がこんなにも成長してくれるなんて、師匠として…………えーっと……鼻が高い!ってやつだよ」

 

 

 

リサ「MPって魔法使わなきゃ勝手に回復するんだっけ?」

RinRin「はい……少しずつですが回復していきます(≧▽≦)」

サヨ「神代さん、前より格段に強くなっています……」

ユキナ「今日に向けてかなり特訓してたみたいだから、よほど派手にあこの誕生日を祝いたかったのね」

サヨ「……もうだいぶ誕生日過ぎてますけどね」

RinRin「あと真言くんは普通にあこちゃんに負けたくないんだと思います……(ー_ー゛)」

ユキナ「………………」

 

 

 

mako「ここからは師匠に教わってない、俺が自分で身につけた戦い方です」

聖堕天使あこ姫「ふーん……じゃあ見せてみてよ、まっくんの戦い方を!」

 

RinRin「二人の空気が変わった……(-_-;)・・・」

紗夜「ここから第2ラウンドということでしょうか……」

 

 

 

 

 

 

 最高速で!斬り伏せる!

 

聖堕天使あこ姫「あぶな!!」

mako「どらぁあ!!」

聖堕天使あこ姫「ほいっ!」

 

 けれど避けられる、避けられる、ことごとく躱される!!

 

mako「逃げてばっかじゃいつまで経っても俺は倒せませんよ!!」

聖堕天使あこ姫「余計なお世話だよ!!」

 

 もっとだ……もっと疾く……もっと強く……!!

 

 師匠を超えられるくらいに!!!

 

mako「ふっ!」

 

 俺の振り下ろした一撃は、師匠に()()()()

 

 ガキンッ!!という金属と金属がぶつかった音とともに。

 

mako「…………は?」

聖堕天使あこ姫「今度はこっちのターンだね」

 

 そんな師匠のセリフが聞こえた瞬間、

 

mako「がっ!?」

 

 無数の斬撃が俺の身体を切り裂きHPを削っていった。

 

mako「(斬られた……!今の一瞬で!?)」

 

 師匠が持っていたのは…………

 

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「【リンダのサイス】」

 

 

 

 

 

mako「ネクロマンサー専用の……大鎌……!」

聖堕天使あこ姫「あこだってまっくんに勝つためにいろいろやってたんだよ!」

 

聖堕天使あこ姫「デスサイス!!」

 

 黒い斬撃が飛んでくる……!

 

mako「避けきれない……」

 

 なら!撃ち落とすまで!!

 

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「…………あれを防ぐなんて……やっぱりまっくんはすごいよ………」

mako「ハァ……ハァ……ハァ……」

聖堕天使あこ姫「でも、全部は無理だったみたいだね」

 

 くそ……だいぶHPを持ってかれたか……

 

 

 

リサ「なんかマコくんピンチじゃない!?」

ユキナ「あの鎌……確か私とリサと紗夜が初めてこのゲームをやったときの……」

サヨ「ええ、でもまさか一方的にバーサーカーモードの神代さんにダメージを与えるとは…………驚きです」

RinRin「いいよあこちゃん⊂(・▽・⊂)修行の成果が出てるよ╰(*´︶`*)╯」

ユキナ「修行?」

サヨ「白金さん、宇田川さんと一緒に修行してたんですか?」

RinRin「はい……真言くんの攻略のために、今日までいろんな作戦を考えて、あこちゃんと特訓してきました……!」

リサ「攻略…………」

サヨ「もはやゲームのボスキャラですね」

 

 

 

mako「一筋縄じゃいかないと思ってたけど……ここまでとは……」

聖堕天使あこ姫「今日まで、あこはまっくんに勝つためにいろんな対策を練ってきたんだよ、りんりんと一緒にね」

 

聖堕天使あこ姫「あこだってね、まだ弟子(まっくん)に負けるわけにはいかないんだよ!」

 

 これが師匠の……"師匠"としてのプライド……!

 

 ……ん?()()()()()()()()

 

mako「ず……」

聖堕天使あこ姫「ず?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「ずるいぞ師匠!!!!!!自分だけ燐子先輩に頼るなんて反則でしょ!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四人「「「「え、えぇ……?」」」」

 

 

 

聖堕天使あこ姫「…………いいでしょ別に!!ズルじゃないよ!!!」

mako「いいやズルです!!燐子先輩と一緒に修行なんて…………くっそ羨ましい!!!!!」

聖堕天使あこ姫「それが本音だなー!!まっくんだってこの前紗夜さんと二人でNFOやってたじゃん!!!この浮気者!!!!」

mako「は、はぁ!?」

聖堕天使あこ姫「最低最低!!りんりんが泣いても知らないからね!!!!!」

mako「それとこれとは関係ないでしょうが!!!つか浮気じゃねぇよ!!!俺は燐子先輩一筋だ!!!!!!」

 

 

 

紗夜「あれは…………」

リサ「こんなときに二人ともなに喧嘩してんの……」

RinRin「…………///」

ユキナ「紗夜も真言と特訓していたのね」

サヨ「まあ、そうなんですが…………"アレ"は特訓というよりは、探索というか……推理というか…………」

ユキナ「え?」

サヨ「あ、いえ、何でもありません」

リサ「お、言い合いは終わったみたいだよ」

 

 

 

mako「ぶっ飛ばしてやる…………」ギラギラ

聖堕天使あこ姫「闇の力でこう…………ギッタンギッタンにしちゃうからね…………」ギラギラ

 

 

 

リサ「………………」

ユキナ「………………燐子、紗夜、危なくなったら二人を止めてちょうだい」

RinRin「わかりました…………」

サヨ「骨が折れそうですね……」

 

 

 

mako「カース…………」ユラァ…

聖堕天使あこ姫「ダークネス…………」ユラァ…

 

 不気味に間合いを詰めるネクロマンサーたち。

 

 もちろん互いに殺る気満々である。

 

mako「ロンドォォォオオオ!!!!!」

聖堕天使あこ姫「リッパァァァアアア!!!!!」

 

 目にも留まらぬ斬撃の応酬、しかし一発でもまともに当たれば致命的なダメージになることだけは目に見えていた。

 

mako「くそがッ…………!」

聖堕天使あこ姫「ふふん」

 

mako「(俺の方が近接戦闘に慣れているはずなのに……!)」

 

 なんで…………なんで俺の攻撃が当たんねぇんだ!!

 

 

 

リサ「マコくんの攻撃、全然当たってなくない!?」

ユキナ「完全にあこのペースね」

サヨ「神代さんの攻撃はことごとくいなされ、宇田川さんの攻撃が徐々に当たり始めてきています。白金さんこれは…………」

RinRin「私とあこちゃんの研究の末、真言くん攻略には3つのポイントがあるという結論に達しました(✯ᴗ✯)」

リサ「3つのポイント……?」

RinRin「はい、まず1つ目は『真言くんの魔法攻撃を攻略すること』です(๑•̀ㅁ•́๑)✧」

サヨ「魔法を……ですか」

リサ「あの最初の魔法合戦のこと?」

RinRin「そうです、でも魔法の実力についてはあこちゃんと真言くんではほとんど互角。問題は2つ目からで……」

 

 

 

mako「(振っても振っても当たらない俺の攻撃、まるで動きが読まれて……!)」

 

mako「なるほど、そういうことかよ…………」

 

 やっぱズリぃわ、燐子先輩。

 

聖堕天使あこ姫「他所見しないで!!」

mako「くっ……!」

 

 

 

RinRin「真言くん攻略のための2つ目のポイント、それは『近接攻撃を攻略すること』」

 

 【ソウルミノタウロスの斧】を手にしたmakoは近接攻撃を軸にして戦う。魔法を主にして戦うネクロマンサーではどうしても不利。

 

RinRin「でも【リンダのサイス】と真言くんの細かい戦闘パターンの分析があれば…………」

 

 

 

聖堕天使あこ姫「(この攻撃も知ってる……これも……これも……!)」

mako「(やっぱ読まれてるか……プレイヤーの戦闘パターンの分析とか、もはや人間業じゃねぇだろ……!?)」

 

 

 

RinRin「いともたやすく、攻略できます」

リサ・ユキナ「「(………………怖っ)」」

サヨ「力技で押す彼の攻撃パターンはある程度は読みやすい…………ですかね」

RinRin「そして追い詰められた真言くんがとる次の行動は…………」

 

 

 

mako「…………」ザッ

 

 

 

リサ「あこから離れた……?」

ユキナ「でもあこもすぐに詰めてくるわ」

RinRin「……!ダメ!あこちゃん!\(◎o◎)/」

 

聖堕天使あこ姫「たああああ!!!」

 

mako「定命の円環を逸脱せし常闇の使徒に我命ず、其の闇の力をもってして彼の古の戦士たちを深淵より蘇らせたまえ」

 

聖堕天使あこ姫「しまっ……!」

mako「デットウォーリアーズ」

 

 

 発現した魔法陣から、ウォーリアーズがまるで巨大なビームのように一斉に師匠にむけて放出される!

 

 

 

サヨ「なんて強引な……あくまで物量で押し切る気ですよ!」

リサ「マコくんって正面からぶつかっていくほうが向いてるから……それに相手が相手だし」

ユキナ「自分の師匠には全力で……それが彼なりの敬意なのかもしれないわね」

RinRin「そしてこれが真言くん攻略の最後のポイントです……」

 

 『デッドウォーリアーズの攻略』

 

RinRin「(倒しても倒しても真言くんのMPが尽きるまで何度でも蘇る不死の兵団…………本体の真言くんを倒すのが一番の攻略法になる。でも………)」

 

 確かにデッドウォーリアーズは強力だが、術者本人はスキル発動中はまったく動けず、そこを叩けばあっさり攻略できてしまう。

 

 しかしそれが一対一の状況になれば話は別になる。

 

 倒しても、倒しても、術者本人までその刃が届くことはない。

 

 そうしてもがいている内にジワジワと黒いガイコツの兵士にHPを削られていく。

 

リサ「ああ!あこが!!」

 

 見ると彼女はすでに無数の黒いガイコツ達に取り囲まれていた。

 

ユキナ「燐子、あなたはあこに3つ目の攻略法も教えたんじゃないの?」

RinRin「それが…………」

 

聖堕天使あこ姫『3つ目は大丈夫!なんてったってあこには"秘密兵器"があるから!!』

 

サヨ「秘密兵器?」

RinRin「私にも教えてくれませんでしたが……きっとなにかすごい技なんだと思いますᕙ( • ‿ • )ᕗ」

 

 

 

mako「…………終わった……いや」

 

 ここで終わる師匠じゃない……まだ何かが来る!

 

聖堕天使あこ姫「まっくん」

mako「!」

 

 ウォーリアーズの集団に取り込まれて姿も見えなくなった師匠が、その真っ黒な塊の中から俺に呼びかける。

 

聖堕天使あこ姫「あこだってね、強くなったんだよ」

mako「……知ってますよ、師匠が強いことなんて」

聖堕天使あこ姫「ううん、違うよまっくん」

mako「…………?」

聖堕天使あこ姫「強く()()()んだよ」

 

 ウォーリアーズの塊に、内側から光の亀裂が入った。

 

mako「え…………?」

 

 光……光…………?

 

聖堕天使あこ姫「まっくんがデッドウォーリアーズを習得したように、あこだってどんどん強くなってるんだよ」

 

 ウォーリアーズがどんどん光に包まれていく…………

 

聖堕天使あこ姫「全ステータス上昇、光・闇属性の魔法攻撃力アップ、魔法詠唱時間・消費MP短縮」

 

 とてつもない光の衝撃波が、ウォーリアーズを吹き飛ばす!!!

 

mako「なっ………!」

 

 ウォーリアーズの中から現れた師匠の姿はいつもと大きく異なっていた。

 

 赤かった両目は左目だけ白い光を放ち、

 

 全身に光と闇のオーラを纏い、

 

 そして白く光る左翼と、黒く輝く右翼を生やした、その姿はまるで…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「〚聖堕天使〛」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「さ、まっくん。続けよっか!」

mako「…………師匠」

聖堕天使あこ姫「ん?」

 

 

 

 

 

mako「俺の前に居続けてくれて…………俺の師匠でいてくれて、本当にありがとうございます」

 

 

 

 

 

 ピロン♪

 

【スキル発動条件を一部満たしました】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「な……なにあれ…………」

ユキナ「あこに羽が生えたわね」

RinRin「これがあこちゃんの"秘密兵器"(゜o゜;」

ユキナ「…………?なにか変だわ」

リサ「どうしたの友希那?」

ユキナ「真言のガイコツ、どこに行ったのかしら」

リサ「あ、そういえば……あの光で吹き飛んだ後、一人も復活してきてないね……?」

RinRin「……!光属性の魔法もデッドウォーリアーズの弱点だった……!(ノ゚0゚)ノ~」

サヨ「なるほど。だから全員黒い灰になって宙に浮いて……」

 

RinRin・サヨ「「黒い…………灰…………?」」

 

 

 

mako「師匠、師匠はさっき『私だって強くなっている』って言いましたよね」

聖堕天使あこ姫「……うん」

mako「なら俺も見せますよ。今、この戦いの中で強くなった俺を」

 

 

 

サヨ「神代さん、まさか"アレ"が……!」

リサ「紗夜、さっきから言ってたその"アレ"ってなに?」

サヨ「神代さんがいつの間にか習得していたスキルのことです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako『なんじゃこれ』

サヨ『どうかしましたか?』

mako『見てくださいよ紗夜先輩、ほらこれ』

サヨ『……………………なんですかこのスキル、名前が文字化けしてるじゃないですか』

 

【スキル名:繝?繧ッ繝ュ繝弱き繝】

 

mako『んー……バグですかね』

サヨ『でしょうね運営に報告しましょう』

mako『あ、ここだけ文字化けしてない。えーっとなになに…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「そこにはなんて?」

サヨ「確か……」

 

 

 

 

 

mako「黒き兵ども 黒き灰となりて 再びその命散らすとき 闇より暗い黒き神 深淵より顕現する」

 

mako「〚ムクロノカミ〛」

 

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「っ!?」

 

 

 

RinRin「宙を舞っていた灰が真言くんの方に集まっていきます……(´⊙ω⊙`)!」

ユキナ「何かを形どって……!」

サヨ「…………頭蓋骨」

 

 それはとても大きく……そして禍々しい人の頭蓋骨の形をしていた。

 

 

 

mako「まだ完全には使えないみたいだな……師匠!」

聖堕天使あこ姫「どうしたのー!?」

 

mako「次が俺の最後の攻撃になります!!だから師匠も全力でかかってきてください!!!」

 

聖堕天使あこ姫「了解!!強くなったあこの全力、とくと見よ!!!」

 

 

 

サヨ「……どうやらそろそろ終わるようですね」

リサ「ものすごくヤバい感じがビリビリ来てるよ…………」

ユキナ「ここも危ないんじゃないかしら」

RinRin「皆さん、巻き込まれないようにもう少し二人から距離を取りましょう(☞ ಠ_ಠ)☞」

 

 

 

聖堕天使あこ姫「常闇と閃光の使徒に我命ず、其の闇と光の力を解き放ち、戦場にある全てのものを無に還せ!!!!!」

 

mako「神より告げられるは残酷にして絶対の真理、深淵すら飲み込む其の"絶対"で、彼の者をかき消せ!!!!!」

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「ラグナロク・ゼロ!!!!!」

 

 

 

mako「ムクロノカミ〘シンジツ〙!!!!!」

 

 

 

 

 

 俺と師匠の放った最後の一撃は、互いにぶつかり合い、周りのものをかき消し、そしてついに………………!

 

 

 

 

 

 プツン──

 

 

 

 

 

真言「は?」

あこ「え?」

 

 PCが処理落ちした。

 

真言「はああああああああああ!!!!!?????」

あこ「えええええええええええ!!!!!?????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【ネットカフェ・帰り道】〜〜

 

真言・あこ「「はぁぁぁぁぁ」」ドヨーン…

リサ「まあまあそんな落ち込まないで!ね?二人ともメッチャカッコよかったよ♪」

あこ「でもまさか処理落ちなんて……」

真言「不完全燃焼ですよ……」

燐子「でも二人とも本当にすごかったよ……!〚聖堕天使〛に〚ムクロノカミ〛、あんな強力なスキルを持ってたなんて…………!」

紗夜「まあ私と湊さんは巻き込まれましたけどね」

友希那「画面に大きく【GAME OVER】って出たわ」

真言・あこ「「ごめんなさい…………」」

 

 

 

 

 

真言「あ、そうだ師匠。これ」

あこ「プレゼント……開けていい?」

真言「ええ」

あこ「わぁ……!」

紗夜「これは……ぬいぐるみですね」

あこ「キラりんのぬいぐるみだー!!まっくんありがとーー!!!」

燐子「よかったねあこちゃん……」

あこ「うん!」

 

真言「またやりましょうね師匠」

あこ「次もぜーったい負けないからね!」

 

 こうして俺と師匠の師弟対決は幕を閉じた。




1ヶ月の大遅刻をかましてしまい申し訳ありません。只今全力で来たるべき最近姿を見せないあの人の誕生日回を書いております……

お気に入り登録 ハマモー 様 高坂榛名 様 真姫ヨハネ彼方推し 様 ハセヤ 様 ありがとうございます。

そしてそろそろコラボ回も始動する頃合いでしょうね……乞うご期待!


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43.黒服K

なんとかまにあった…………

あ、本編行ってください……私今から塾の宿題やるんで……




 背景、親愛なる祖父へ、

 

 お元気でしょうか。こちらでは夏休みに突入し、特に部活にも入っていない俺は課題に追われたり、この前紹介したRoseliaのライブを見に行ったり、バイトに行ったり、普段と別段変わらない日々を送っております。

 

 〜〜【弦巻家】〜〜

 

真言「…………いつもこんな格好してるんですね……黒服さん」

黒服A「これも全てこころ様のため、バイト代もしっかりお支払いしますので」

真言「さっきも言いましたけど別に俺じゃなくて良くないですか……?ほら、弦巻にはもう十分なくらい頼もしい黒服さんたちがいますし……」

黒服A「そういうわけにも行きません。『ぜひ経験を積ませてやってくれ』とのことですから」

真言「はぁ……じゃあ断れませんね……」

黒服A「ご理解いただきありがとうございます」

 

黒服A「さて神代様、今日一日あなたは"黒服K"として我々と行動を共にしてもらうことになりますが……」

 

黒服A「今から勤務時間終了まで"神代様"ではなく"K"と呼ばせていただきます」

真言「いや別にいいんですけど、俺今まで黒服A,B,Cさんくらいにしか会ったことなくて……いきなり俺がKですか?」

黒服A「……"M"でもいいんですよ?」

真言「Kでお願いします」

 

 親愛なる祖父へ、

 

 マジで余計なことしやがりましたね。

 

 そのニヤつく嫌味な顔面に一発ブチ込んでやりたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【いつもの回想・神代宅】〜〜

 

有咲「だから!これがこうなってこの式になるからここがこう解けて答えが出るんだよ!」

真言「あ"ーーーーー」

有咲「おい聞いてんのか!もう同じとこ教えんの5回目だぞ!?」

真言「ん"ーーーーー」

有咲「…………ダメだこいつ。この暑さと嫌いな数学で完全に脳みそがダウンしてやがる」

 

 ピンポーン♪

 

有咲「あ、おい誰か来たぞ」

真言「み"ーーーーー」

有咲「奇声を発しながら出るのやめろ。ヤバいやつだと思われるぞ」

 

 ガチャ

 

黒服A「おはよう御座います、神代様」

真言「あ、黒服さん。今日はお一人なんですね」

有咲「(戻った……)」

真言「まあ、とりあえず上がってください」

 

 

 

 

真言「それで?今日は一体何の用で?」

黒服A「単刀直入に言います。今日は神代様にアルバイトの依頼をしに来たのです」

真言「アルバイト?」

黒服A「はい、この夏休みの間にぜひ神代様にご協力していただきたいと……」

真言「バイトって……一体何のバイトなんですか?」

 

黒服A「こころ様、及びハロー、ハッピーワールド!のサポートです」

 

有咲「それって…………」

真言「……俺に黒服になれってことですか」

黒服A「そういうことになります」

真言「……一つ質問が」

黒服A「なんでしょう」

真言「なんで俺なんですか?黒服さん達に俺みたいな一般人が交じるなんて、足手まといになること間違いなしですよ」

 

 黒服さん達は""あの""弦巻こころを裏で支えている人達だ。ハッキリ言って普通の人間に務まるものではない。

 

黒服A「実はある方からの推薦でして」

 

 推薦?俺をか?

 

真言「一体誰から……」

黒服A「そのお方はこころ様が生まれる前からボディーガードとして臨時で弦巻家に雇われていたり、若い頃は用心棒として世界各地を飛び回っていたとか」

有咲「な、なんかすごい人ですね……」

黒服A「なんでも武器を使わない格闘技でテロリスト集団を一晩で壊滅させた、という伝説まであるそうです」

 

 怖っ!なんだそいつバケモンじゃねぇか!

 

 てかボディーガードが仕事じゃねぇのかよ。なんでテロリストと…………

 

黒服A「現役を引退してからは田舎の実家に帰り、現在では孫夫婦と旅館を経営しています」

真言「ん?」

黒服A「二人の孫のうちの一人は上京し、花咲川学園に通っている高校二年生」

真言「ちょ、ちょっと待ってくださいその人……」

 

黒服A「神代様を推薦されたその方の名前は神代 清正、」

 

有咲「神代…………ってまさか!」

真言「ああ、そのまさかだよ…………」

 

 なんでそんな人と繋がってんのかなぁ弦巻家……

 

黒服A「神代様のお祖父様です」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「まさかじいちゃんが弦巻家と繋がりがあったとは……」

黒服A「仕事中ですよK、集中してください」

真言「……すみません」

 

 今、俺と黒服さん達は弦巻家の大広間の飾り付けをしている。

 

 うわぁ……黒服さん達仕事早すぎだろ……一人で俺三人分くらいの仕事してるわ…………

 

真言「(というかまず、これ何の飾り付けなんだ?)」

 

 まるで誰かの誕生日みたいな……?

 

黒服A「飾り付けは終わりましたか?」

真言「あ、はい終わりました」

黒服A「(意外と言っては失礼ですが仕事が早いですね。それでいて丁寧……)」

真言「黒服さん?俺は次に何をすれば……」

黒服A「ではこちらへ」

 

 黒服さんに連れられ、大広間から出たところで今後の説明を受けた。

 

黒服A「今からここにハロー、ハッピーワールド!の皆様がいらっしゃいます。我々はこころ様のご希望に沿うため、ここで中の様子をうかがいながら待機になります」

真言「わかりました」

 

 ここに来る前に「ハロー、ハッピーワールド!」とやらの軽い説明をされたが、どうやらRoseliaと同じ五人組のガールズバンドのようだ。

 

真言「その五人が集まるって……バンド内のミーティングとかですか?」

黒服A「…………………」

真言「黒服さん?」

 

 サングラスをかけているから表情がよくわからないが、いま一瞬驚いたのか?

 

 

 

 

 

黒服A「……ミーティングなどではなく、今日はこころ様のお誕生日です」

 

 

 

 

 

真言「へー…………え?」

 

 は?あいつ今日誕生日なの?

 

黒服A「知らなかったんですねK……いえ、神代様……」

真言「…………………」

 

 …………後でなんか適当に買ってこよう。大丈夫、あいつの俺の誕生日プレゼント、チョ○ボールだったし。

 

黒服A「こころ様達がいらっしゃいました」

真言「………………」

 

 俺も黒服さん達に習って並んで横に立つ。

 

 そこに現れる金髪ロングヘアマッドサイエンティストこと弦巻こころ、とその御一行。

 

 水色のやつ、オレンジのやつ、帽子のやつ、紫のやつ……こいつどっかで見たことあるな……何処だっけ?

 

こころ「あら?あなた見ない顔ね!新しい黒い服の人かしら?」

真言「え、あ、はい」

 

 俺だって気づいてないのか?…………黒服黒グラサンだから無理もないわな。

 

こころ「ん?あなた真言に似てるわね!」

 

 

 反応しないほうが…………いいよな。

 

こころ「まあいいわ!またね!新しい黒い服の人!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒服A「自分の正体を明かしませんでしたね」

真言「……今は"神代 真言"じゃなくて"K"ですから」

黒服A「律儀ですね」

真言「仮にも仕事なんで」

黒服A「……あなた本当に高校2年生なんですか?」

 

 

 

 

 

こころ「今からライブをしましょう!」

 

 

 

 

 

 大広間の中から弦巻の(いつも以上?に)元気な声が聞こえてくる。

 

真言「またなんかめちゃくちゃなこと言ってるよあいつ………………………ん!?」

黒服A「全黒服に連絡!直ちにライブ会場の設置、及び機材と衣装の用意を!」

真言「や、やるんですか今から!?」

黒服A「当然です。こころ様の要望に答えるのが我々の、今日はあなたの仕事でもあります」

 

 さっき「仕事ですから(ドヤッ)」とか言っちまったからな…………仕方ないか…………

 

真言「………………A、俺にも指示を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「ライブ会場、ほんとに出来上がっちまったよ……」

 

 恐るべし、黒服。

 

こころ「あら!あなたはさっき会った黒い服の人!」

真言「どうも、(えっと…………)こ、こころ様……?」

こころ「あなたも会場を作るのを手伝ってくれたのね!ありがとう!!!」

 

 なんかこいつのこんなに明るい笑顔を向けられると、自分が消えそうになるんだよなぁ。

 

 こう……太陽に近づきすぎてる感じ?

 

「おーいこころー何やってんのー?」

 

真言「お呼びですよ、こころ様」

 

 ほら、あのステージの上でピンク色のクマが…………

 

真言「クマァ!?」

こころ「!?」

真言「何でもありません。とっととステージに上がりやがれください」

こころ「あ……うん!行ってくるわ!」

 

 そうして始まったハロー、ハッピーワールドの即興ライブ。

 

 Roseliaとは大分違った、というよりほとんど真逆の演奏だったが、明るく、元気な、弦巻 こころらしいライブだった。

 

 弦巻が唐突に企画した路上ゲリラライブだが、その明るい雰囲気につられてか、観客はみるみるうちに増えていった。

 

「ああ!実に儚い!!」

「ふぇぇ……」

「こころん!バク宙いくよ!」

こころ「ほら!ミッシェルも一緒に!!」

「いや!無理だから!!!」

 

真言「なんか騒がしい奴らだな……」

 

 これもまた弦巻の、人を集める力なのだろうか。

 

 ……あのクマ、キグルミなのにバク宙強要されてんの見てる分にはウケるな。俺だったら死んでもやりたくないけど。

 

黒服A「お疲れさまでしたK」

真言「黒服さん、お疲れさまでした」

黒服A「あなたのおかげで作業がかなり楽になりました」

真言「あんまり力になれたとは言いづらいですけどね。ほとんど黒服さん達の真似して指示に従ってただけですし」

黒服A「それでもあなたのおかげで迅速にライブの準備ができたことには変わりありません。ありがとうございました」

 

 結局、俺は今日一日黒服Kになって、何かわかったのだろうか……

 

真言「……黒服さん」

黒服A「はい」

真言「じいちゃんは……俺にこのバイトで何を学んで欲しかったんですかね」

黒服A「…………私にはわかりかねます」

 

 ワアアアアアアア!!!!!

 

黒服A「どうやらライブも終盤のようですね。最後の片付けまで、どうぞよろしくおねがいします」

真言「……黒服さん、ほんの少しだけ席を外しても?」

黒服A「?構いませんが……」

真言「ありがとうございます。すぐに戻りますんで」

 

 

 

 

 

こころ「みんなありがとう!!!!!」

 

 

 

 

 

 ワアアアアアアア!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブが終わり、片付けも一段落したところで、俺の一日黒服アルバイトは終わった。

 

黒服A「お祖父様によろしくお伝えください」

真言「今日一日お世話になりました」

 

こころ「真言?あなたいつこっちに来てたの!?」

真言「あ…………」

 

 よかった。会いにいく手間が省けた。

 

こころ「もう少し早かったら私達のライブを見られたのに……」

真言「安心しろよ。いいライブだったぜ」

こころ「え?」

真言「そ、そうだ!ほい、これ」

こころ「これは…………?」

 

 それは俺がさっき急いで買ってきた、黄色のニコちゃんマークが全面に押し出された大きめの缶バッジだった。

 

真言「安い缶バッジだよ。誕生日プレゼント」

こころ「私に……?」

真言「チョ○ボールのお返しだ。取っとけ」

こころ「…………!!!!!」パァァ!!!

真言「……なんだよ、気に入らなかっ──」

こころ「ありがとう!!!!!大切にするわ!!!!!」

真言「声デカっ!耳キーンってなるわ!!」

 

 まったくこいつは…………こんな安いもんでそんなに喜んじまったら、あげたこっちが罪悪感に苛まれるっての…………

 

 弦巻、お前は多分いいやつなんだろうな。

 

 素直で、明るくて、友達思いで、自分の理想をとことん突き詰めて、やりたいことを行動に移せる、

 

 俺はそんなお前が…………

 

真言「ほんっと……羨ましい……」ボソッ

こころ「なにがかしら!?」

真言「いや、これは聞こえてんのかよ!!」

 

 やっぱお前嫌いだわ!!!




誕生日おめでとうこころ!これからも真言くんを実験台にめちゃくちゃやってください!!

お気に入り登録 はまはーま 様 片倉 様 ありがとうございます。

次回、コラボ回、の予定?(願望)


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44.剣聖、襲来。

今回はかなり初期の方から関わりのある、ユイトアクエリア 様の作品「ロゼリアートオンライン」とのコラボ回です!

ユイトアクエリア 様 ロゼリアートオンライン→https://syosetu.org/novel/262278/
ぜひ一度ご覧になってください!

✳コラボ先がクロスオーバー作品の為、少々クロスオーバー要素を含みます。ご了承ください。

それでは本編、どうぞ。



 〜〜【CiRCLE・カフェテリア】〜〜

 

 夏休みも少し経った頃、俺はいつもと変わらずCiRCLEでRoseliaの皆と駄弁っていた。

 

あこ「まっくん!あこ達と一緒に決闘しよ!!」

 

 …………ほんっといっつも唐突なんだから師匠は……

 

真言「また決闘ですか……?再戦にしてはいくら何でも早すぎますよ師匠……」

あこ「違うよ!あこ達と!一緒に!!決闘しよ!って言ってるの!」

真言「…………燐子先輩」

燐子「あ、うん……説明するとね…………」

 

あこ「ユイトくんっていうあこ達と同じでNFOやってる子がいてね!その子がめっちゃくちゃ強いの!!」

 

 ユイト…………

 

燐子「花咲川の一年生で……私と真言くんの後輩だね……」

真言「で、そのめっちゃ強いユイトくんがどうかしたんですか?」

あこ「でね!この前あことまっくんが戦ったのをユイトくんに話したんだ〜そしたら……」

燐子「自分も真言くんと戦ってみたいって……」

真言「俺と?」

あこ「それでそれで!あことりんりんも混ざっていいー?って聞いたらオッケーしてくれたの!」

真言「それって…………」

燐子「私とあこちゃんと真言くんの三人と、ユイトくんの決闘ってことになるね…………」

真言「へぇ…………」

 

 3対1……随分と余裕あるじゃねぇか……

 

燐子「ユイトさん……あこちゃんの言うとおり、レベルが高くてかなりやり込んでるみたいだから、私達三人でやっと互角くらいかな…………」

 

 俺はともかくガチガチにやり込んでる師匠と燐子先輩合わせて……!?

 

あこ「だからね?おねがい!あこ達と一緒に戦って!!」

 

真言「…………わかりました」

あこ「!!!」パァァ!!!

 

真言「どんなやつか知らねぇけど俺達三人を敵に回すからには挽肉にされる覚悟あるんでしょうね!(なんか面白そうなので参加させてもらいます!)」

 

燐子・あこ「「………………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【NFO内・闘技場】〜〜

 

 ワアアアアアアア!!!!!

 

 歓声が聞こえる。どうやら思ったより多くの観客がこの闘技場に集まってしまったようだ。

 

「………………」

 

 大剣を背負ったソイツは、悠然と闘技場の中央に佇んでいる。

 

mako「アイツがあの…………」

RinRin「うん……たぶん、これまでに戦ってきたどんなモンスターより手強いよ……(ー_ー゛)」

聖堕天使あこ姫「まっくん、気を引き締めていこうね!」

mako「はい……」

 

 さあ始めようか、剣聖討伐。

 

 これはゲームであって、単なる遊びだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Yuito「やあ、はじめまして」

 

 意外と言ってはなんだが、そいつはフレンドリーに俺に話しかけてきた。

 

mako「……ども」

Yuito「君のことはアコさんから聞いてるよ。makoさん」

mako「………………」

Yuito「?」

 

 なんだこいつのこの感じ……まるで…………

 

mako「いや、アイツとは関係ない……よな」ボソッ

Yuito「え?」

mako「あ、いや、なんでもないですよ」

 

mako「というよりこんなに人集まっちゃって、全部そちらのギャラリーかなにか?」

Yuito「んーどうだろうね。どこから情報が漏れたのか……気づけばこんなに」

 

 穏やかに微笑むそいつは、俺の目には不気味に映って見えた。

 

mako「……対戦相手、ホントに俺もいて良かったんですか?ギャラリーを湧かせるような戦いは期待しないで欲しいんですけど」

Yuito「RinRinさんとアコさんからmakoさんの実力は聞いてるから、全然大丈夫。それとも……」

 

 

 

 

 

Yuito「そこの二人だけじゃ不安か?」

 

 

 

 

 

RinRin・聖堕天使あこ姫「「──っ!!」」

 

 

 

 

 

 

mako「…………は、はは」

聖堕天使あこ姫「ま、まっくん…………?」

RinRin「(怒った……真言くん絶対怒ったよ……)」

 

 

 

 

 

mako「あははははははははは!!!!」

 

 

 

 

 

 〜〜【闘技場・観客席】〜〜

 

ユキナ「……笑ってるわね」

リサ「うん……」

サヨ「ユイトさんも本気で言っているわけではないのに……煽り耐性0なんだから……」

 

 makoの突然の爆笑によって静まり返った観客席。

 

 今日もこちらの三人は観客席での解説役になります。

 

サヨ「また解説ですか……構いませんがあまり期待しないでくださいよ?」

リサ「紗夜?誰と話してるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「ああ笑った笑った!」

 

 ひとしきり笑ったあと、彼の目はすでにmakoのものではなくなっていた。

 

mako「なあお前、えっと……ユイト……とか言ったっけ?お前さ…………」

 

 その目は完全に──

 

mako「…………あんま調子にのんなよ」

 

 ──ブチギレたときの"神代 真言"の目そのものだった。

 

Yuito「聞いていたよりもだいぶいい……俺も本気で楽しめそうだ」ニヤッ

 

 戦闘、開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「まっくん!」

RinRin「作戦通りに!」

mako「わかってますよ!!!」

 

 まずは距離を取って……!

 

Yuito「ん?」

 

RinRin「(ユイトさんのジョブはセイバー。背中の大剣をメインウェポンに立ち回る相手には……)」

聖堕天使あこ姫「定命の円環を逸脱せし常闇の使徒に我命ず、 其の混濁たる眼で 深淵を破り、 彼の者を久遠の狭間へと誘いたまえ……」

 

聖堕天使あこ姫「デッドリィーーー!!!」

 

Yuito「なるほど……遠距離からの攻撃を主軸にして、接近戦をさける作戦か……」

mako「よし!当たる!」

 

 師匠のデッドリィー、それをユイトは避けることなく正面から

 

Yuito「ふっ──!」

 

 

 

 斬った。

 

 

 

聖堕天使あこ姫「えぇ!?」

 

 

 

 ぶった斬った。

 

 

 

RinRin「え…………」

 

 

 

 背負っていた大剣で。魔法を。

 

 

 

mako「まじかよ……」

Yuito「驚いてる場合か?」

mako「な……!」

 

 こいつ……一気に距離を……!

 

mako「がはっ……!!!」

聖堕天使あこ姫「まっくん!」

 

 大剣で思いっきり吹き飛ばされる!

 

Yuito「(……手応えがない?)」

 

mako「あっぶねぇ……」

RinRin「大丈夫……!?ヒールは……(゜o゜;」

mako「いや、行けます。MPは温存しておきましょう」

Yuito「(RinRinさんのバフか……厄介だな)」

 

 

 

Yuito「先に潰すか」

 

 

 

mako「……!先輩!」

Yuito「遅い」

 

 なんでこんなでかい剣持ってて速く動けんだよ!もうあいつの間合いだ!

 

RinRin「──詠唱完了」

 

RinRin「バリア!!」

Yuito「くっ………!」

 

 ドーム状のバリアが展開され、ユイトは弾き出される。

 

Yuito「ふぅ……流石に一筋縄じゃ行かないよな……」

聖堕天使あこ姫「カース…………」

Yuito「(いつの間に背後に……!)」

 

聖堕天使あこ姫「パラライズ!!!」

 

Yuito「くっ……!」

 

 剣を盾にして攻撃を防ぐYuito。

 

mako「あいつ……」

RinRin「真言くん……?大丈夫?」

mako「(なんだ……あいつから感じるこの感覚…………まるで)」

 

 まるでこことは違う別世界にいた"アイツ"のようだ。そう俺は直感した。

 

mako「(でもそれだけじゃ……)」

RinRin「真言くん!」

mako「やっべ!!」

Yuito「──っ」

 

 こっちに向かって突っ込んでくるユイト。

 

 クッソ!考える暇もくれねぇのか!!

 

mako「師匠!」

聖堕天使あこ姫「あれだね!わかった!!」

Yuito「?」

 

mako「カースフレイム!!」

 

 地面にカースフレイムを放ち、フィールド上に砂塵が巻き起こった。

 

Yuito「目くらましか……こんなの時間稼ぎにもならないぜ!」

mako「そいつはどうかな?」

Yuito「!?」

 

 巻き上がった砂塵の中からの斬撃。流石の剣聖も死角からの攻撃は捌ききれなかったようだ。

 

Yuito「なっ……!」

 

 Yuitoを囲むように飛び交う無数の斬撃。

 

Yuito「チッ!!」

 

 とっさに大剣で周りを吹き飛ばす。

 

 すると、ガシャッ!という何かに当たった音がした。

 

Yuito「当たった……?でもこの感触は……」

mako「……案外早くバレちまったな」

 

 視界が晴れる。Yuitoの目に映っていたのは……

 

Yuito「ガイコツ…………例のデッドウォーリアーズってやつか」

mako「御名答」

 

mako「砂塵を起こし視界を狭めつつウォーリアーズで削る……案外上手く行ったな」

Yuito「──!!」

 

 間髪入れずmakoに飛び込んでいくYuito。

 

 彼は知っていた。デッドウォーリアーズの弱点……スキル発動中、発動者はその場を動けないということを。

 

Yuito「もらった!」

mako「やらねぇよ」

 

 剣を振りかぶって突っ込んでくるYuito。

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

Yuito「っ………!?」

 

 クリーンヒットし吹き飛んでいく。

 

mako「『なんでウォーリアーズを発動中のお前が動けるんだ』って言いたい顔だな?教えてやるよ」

 

 ゆっくりと身体を横に向ける。そうして見えるのは……

 

mako「こいつらは俺のウォーリアーズじゃない」

 

 

 

 

 

聖堕天使あこ姫「あこのウォーリアーズ達だよ!」ドヤッ

 

 

 

 

mako「やっとまともに一発入ったな。剣聖」

Yuito「やっぱ面白え……神代 真言…………!」

 

 武力では圧倒的に三人の上を行くYuito、そんな彼に武力での真っ向勝負では勝ち目は全く無い。

 

 作戦を立て、協力し、自分より強い敵に勝てる戦い方を。

 

 

 

 

 

サヨ「まあ全部白金さんの作戦ですけどね」

ユキナ「燐子の作戦は完璧でしょうから、あとは真言がそれに従うかどうか……ということかしら」

リサ「マコくんが燐子の言うこと聞かないってことは無さそうだから、熱くなって暴走しないかどうか……じゃないかな?」

 

 

 

 

 

mako「……なんか今ものすごいバカにされた気がする」

聖堕天使あこ姫「え?」

 

Yuito「流石だよmakoさん。まったく恐れ入った。まさかこんな頭脳プレイを仕掛けてくるとはな」

 

 何故か嬉しそうなYuitoにはまだまだ余裕があるみたいだ。こっちはギリギリで戦ってるってのに…………

 

Yuito「いや、流石なのは"三人"かな?」

mako「(俺と師匠と燐子先輩と燐子先輩の作戦を総動員させて、やっと互角……いや、こっちが少し劣ってるくらいか…………)」

 

mako「まったく……お前もなかなかのバケモンじゃねぇか」

 

 不敵に笑いあうネクロマンサーとセイバー。

 

 これは単なるゲームだが……それでも負けたくないと思うのは不思議なことではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Yuito「じゃあそんなmakoさんには良いものを見せてあげよう」

mako「…………?」

 

 そう言うとYuitoはアイテムボックスから剣を取り換えた。

 

 先程自身が背負っていた大剣より一回りほど小さい、片手用直剣。

 

mako「………………」

 

 何かが来る。そう感じたときには

 

mako「え──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  おれはすでにきられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Yuito「ソードスキル《ホリゾンタル》」

 

聖堕天使あこ姫「ま……!」

 

RinRin「真言くん!!!!!」

 

mako「がっ…………」

 

 はんの……う、しきれなか……った…………

 

 はやい…………今までと……比にならないくらいに…………

 

Yuito「それでも仕留めきれなかった……か。ははっ!ホントに凄いなmakoさん!!」

聖堕天使あこ姫「りんりんヒールを!」

RinRin「うん……!!」

mako「さっきの……は…………」

 

Yuito「『何が起きたのかわからない』って言いたい顔だな?教えてやるよ」

mako「てめぇ…………」

Yuito「こいつは【ソードスキル】って言って……まぁ()()()()には無い技だな」

 

 この世界……?こいつやっぱり…………

 

Yuito「それでさっき撃ったのは単発水平切りの《ホリゾンタル》っていうソードスキルで……」

mako「おい…………ユイト…………」

Yuito「ん?」

 

 

 

 

 

mako「お前……どっから来やがった…………!!」

 

 

 

 

 

Yuito「…………さぁ?」

 

mako「燐子先輩……もう大丈夫です。ありがとうございました」

RinRin「う、うん…………真言くん、さっきの話って……?」

mako「それより燐子先輩、あいつにはもう魔法は当たんないと思います。なので先輩はサポートに徹してください」

RinRin「……………………わかった(˘・_・˘)」

 

mako「後は俺達がやります」

 

Yuito「あれは……!?」

 

 

 

 

 

mako「【ソウルミノタウロスの斧】」

 

聖堕天使あこ姫「〚聖堕天使〛」

 

 

 

 

 

mako「さあやろうか剣聖」

聖堕天使あこ姫「ここからは第2ラウンドだよ!」




──to be continued……

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45.剣ノ神VS骸ノ神

前回までのあらすじ……

コラボ大乱闘勃発。

それでは、本編どうぞ。



mako「さあやろうか剣聖」

聖堕天使あこ姫「ここからは第2ラウンドだよ!」

 

 

 

サヨ「ここまで互いに一歩も譲りませんでしたね……」

ユキナ「正直何が起こってるか全然わからなかったわ」

リサ「ア、アタシも……なんかスゴイなーしかわからなかったよ……」

サヨ「ここから更に激しくなるみたいですよ」

ユキナ「…………もう考えるのをやめようかしら」

 

 

 

mako「師匠……聖堕天使(ソレ)どんくらいもちますか……?」

聖堕天使あこ姫「今のあこだと……もって数分かな……」

mako「ならその数分で終わらせます!!」

聖堕天使あこ姫「了解!!」

 

Yuito「……来い!!」

 

mako「カースロンド!!」

Yuito「ソードスキル《バーチカル》!!」

 

 剣と斧が互いにぶつかり、金属音を立てる。

 

mako「師匠!!」

聖堕天使あこ姫「詠唱短縮──セイントリィーーー!!!!!」

 

 師匠の放った白い光線は、横からYuitoだけを貫いていった。

 

 …………はずだった。

 

Yuito「ソードスキル《シャープネイル》!!」

 

 身を翻し、アイテムボックスから出した2本目の剣でまた魔法を斬った。

 

 今度は3連撃。セイントリィーに獣の爪のような斬撃が入る。

 

聖堕天使あこ姫「聖堕天使状態のセイントリィーを……!」

mako「てかまず戦闘中にアイテムボックスから剣出すかよ普通!!」

 

Yuito「ソードスキル」

 

 剣を担ぎ、今度は師匠の方に構えるYuito。

 

Yuito「《ソニック・リープ》!」

mako「させっかよ!!」

 

 すぐさま回り込み、斧でガードする。

 

mako「く……っそ……がぁ!!!」

Yuito「(弾かれた……!?)」

 

聖堕天使あこ姫「まっくん大丈夫!?」

mako「あいつの攻撃は俺が引き受けます!師匠は構わず打ち続けてください!!!」

聖堕天使あこ姫「わかった!」

mako「燐子先輩!」

RinRin「うん……!もう一回バフをかけるね(ノ`Д´)ノ」

 

Yuito「こうなったら……借りるぞ。お前の技……」

 

 そう言ってニ本の剣を構える。

 

mako「二刀流……」

Yuito「ソードスキル《ダブル・サーキュラー》」

 

 突っ込んできた……!今までよりさらに速い!?でも…………

 

mako「(何としてでも反応してやる!!)」

 

 左の剣の突きを防ぎ……

 

mako「きれねぇ……!!」

 

 なんつーパワーだ……体勢を崩される……!

 

Yuito「ふっ──」

mako「!」

 

 俺の隙をこいつが見逃すはずがなく、続けて右の剣が俺の首めがけて飛んできた。

 

mako「やば──」

 

RinRin「真言くんに防御バフを付与\(◎o◎)/!!」

聖堕天使あこ姫「詠唱短縮──デッドリィーーー!!!!!」

Yuito「ぐっ……!」

 

mako「……っぶねぇ」

 

 なんとか先輩たちのお陰で斬られずに済んだな…………

 

 にしてもこいつ……やっぱりどこか変だ。

 

 仮にこいつも別世界から来たとして、一体どうやって来た?また弦巻の仕業か?

 

 それにこいつの剣技……明らかにNFOのものじゃない。こっちに向ける斬撃に何か覇気のようなものを感じる。

 

 命がこもった……命がかかった剣。

 

 そんな技扱えるやつは……じいちゃんみたいな本職の武闘家しか…………

 

mako「本職の……剣士?」

 

 そうだ……こいつのこの感じ、昔じいちゃんや母さんと手合わせをしたときと同じ…………!

 

Yuito「考え事か?」

mako「──チッ!!」

 

 今はそんなこと考えてる場合じゃねぇ!!

 

 何が何だかよくわかんねぇけど相手がじいちゃんと同じ"本物"なら、考え事して勝てる相手じゃないことだけは確かだ!!!

 

mako「(全神経を注げ……反応しろ……!)」

 

 目にも留まらぬ斬撃の数々。かろうじて致命傷だけは避けているが、それでもジリ貧には違いない。

 

Yuito「ソードスキル」

mako「きや……がれぇぇええ!!!!」

 

 そうしてYuitoが放ったソードスキル。

 

 

 

 

 

 それはまるで、星の瞬きのようだった。

 

 

 

 

 

Yuito「《スターバーストストリーム》」

 

 

 

 

 

mako「(1…2…3…4…5…6…!)」

 

 行ける……!斧を盾にすれば耐えきれる……!そして反撃も……!!!

 

 

 

 

 

 バキィィィッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

mako「え…………」

 

 数えて15連撃目。

 

 Yuitoの放ったソードスキルによって、ソウルミノタウロスの斧は完全に破壊された。

 

Yuito「終わりだ」

mako「(16……)」

 

 そして繰り出された16撃目。

 

 俺を目掛けてまっすぐ飛んでくる突き。

 

 

 

 

 

RinRin「く………くっ…………!」

 

 

 

 

 

mako「り、燐子先輩!!」

Yuito「嘘……だろ……防がれた……!?」

 

 その突きは飛び込んできた燐子先輩によってガードされた。

 

RinRin「は、はやく…………!」

聖堕天使あこ姫「まっくん!下がって!!」

 

mako「……!」

 

 師匠の言葉が聞こえてすぐ、燐子先輩を後ろから抱えて全力で飛び退く。

 

聖堕天使あこ姫「常闇と閃光の使徒に我命ず──」

 

 この詠唱……師匠、終わらせるつもりだ!

 

Yuito「逃がすか!」

mako「っ!!」

 

 なんとかして足止めを!!

 

RinRin「アイスバーン!!」

Yuito「チッ!」

 

mako「定命の円環を逸脱せし常闇の使徒に我命ず、其の闇の力をもってして彼の古の戦士たちを深淵より蘇らせたまえ!」

 

mako「ウォーリアーズ!!足止めを!!」

Yuito「この……!」

 

 よし!!取り囲んだ!!!

 

mako「師匠!!!!!」

 

聖堕天使あこ姫「──其の闇と光の力を解き放ち、戦場にある全てのものを無に還せ!!!!!」

 

聖堕天使あこ姫「ラグナロク・ゼロ!!!!!」

 

 

 

 

 

Yuito「はぁ……これはあいつの技じゃないんだけどなぁ……」

mako「なんだあいつ、剣を………」

 

 両手に持っていた剣をアイテムボックスにしまい、その空いた両手で…………構えた。

 

 両手を上に、まるでそこに大きな剣があるように。

 

Yuito「全MPを消費して、ぶった斬る!!!」

 

 黄金色の光が巨大な剣を象っていく。

 

mako「あれは…………!」

RinRin「バリア展開!!」

mako「先輩!?」

 

 俺と燐子先輩を覆うようにドーム状のバリアが展開される。

 

mako「……ウォーリアーズ!!Yuitoを止めろ!!!」

 

 しかしYuitoの周辺にいるウォーリアーズ達は皆黒い灰になっていく。

 

mako「光属性のスキルか……!!」

 

聖堕天使あこ姫「いっけぇぇぇぇぇえええええ!!!!!」

Yuito「〘エクスカリバー〙」

 

聖堕天使あこ姫「!!!」

mako「師匠!!」

RinRin「──詠唱完了」

 

 眩い閃光が視界を染める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Yuito「…………………………」

 

 地面は大きくえぐれ、ほとんど原型を留めていない闘技場に、立っている者はたった一人。

 

Yuito「…………………………いや」

 

 

 

 

mako「……………………」

 

 もう一人。

 

 両手を広げ、まるで後ろに倒れている自身の大切な人を守るように立っている男が一人。

 

Yuito「流石にこれは…………正面からまともに受けて耐えきれる技じゃないぜ……?」

 

RinRin「ぜん……」

 

RinRin「全……HP…………と……MPを…………………に……譲渡…………………」

mako「………………………」

 

Yuito「なるほど……一人で耐えきったわけじゃなさそうだな。でもこれで…………」

 

RinRin「あ……とは…………おね…………が……い」

 

mako「…………………」

Yuito「いくらRinRinさんからHPとMPをもらったからっていって、makoさんも無傷じゃないだろ?もう立っているのもやっと…………」

 

mako「黒き兵ども 黒き灰となりて 再びその命散らすとき 闇より暗い黒き神 顕現する」

 

Yuito「…………まだやる気かよ」

 

 再び二本の剣を取り出し構える。

 

 エクスカリバーによって消えたウォーリアーズ達の灰がmakoに集まっていく……

 

mako「黒き無念 黒き執念 黒き憎悪 抑えることなかれ 全てを開放し 彼の者に」

 

 

 

 

 

mako「ワレワレノゼツボウヲ

 

 

 

 

 

Yuito「……!!」

 

 自分の命よりも大切な恩人をゲームとはいえ守りきれなかったからか……

 

 それとも祖父のように、"本気"の敵と戦っているからか……

 

 理由はなんであれこれは単なるゲーム。ただしこの瞬間だけ、

 

 

 

 神代 真言は本気になった。

 

 

 

 現実では約束に縛られ本気を出せない真言が、唯一本気になれる場所。

 

 それがNFO。

 

 こうなった彼にもはや躊躇はない。

 

Yuito「(この命がかかっているような感覚…………マズイ……何かマズイことが起きる!!)」

 

 

 

 

 

mako「ムクロノカミ〘ケンゲン〙」

 

 

 

 

 

 makoに集まっていく黒い灰が頭を象り、胴体を象り、巨大なガイコツの上半身を造っていった。

 

 

 

サヨ「こ、これは…………!」

ユキナ「リサ、大丈夫?」

リサ「……………」フルフル

ユキナ「…………ダメみたいね」

サヨ「今井さんは幽霊とか苦手ですから…………あれは流石に私も、こ、怖いと感じます………」

ユキナ「上半身だけの黒い大きなガイコツ……あの心臓のあたりに真言は取り込まれたように見えたわ」

サヨ「神代さん……大丈夫でしょうか…………」

 

 

 

Yuito「あれがムクロノカミ……デッドウォーリアーズが一定数消滅すると発動可能なのか?にしても…………」

 

 目の前にそびえる巨大なガイコツを見上げて呆れたようにつぶやく。

 

Yuito「ばかでっけぇな…………骸骨たちの神……〘骸の神〙ってことか」

 

mako「ムクロノカミ…………」

Yuito「!」

 

mako「〘セイサイ〙」

 

 そして繰り出されるのはただ右手を振り下ろしただけの攻撃。

 

 だがそれが巨大サイズのガイコツが振り下ろしたとなると威力は言うまでもない。

 

Yuito「ぐっ……!」

 

 なんとかして躱す。「一発でもまともにもらったら負ける」彼の剣士としての本能がそう叫んでいた。

 

Yuito「速ぇ……それにこの威力…………!」

 

mako「〘セイサイ〙」

Yuito「は!?」

 

 続けて第2撃目がYuito目掛けて振り下ろされる。

 

mako「〘セイサイ〙〘セイサイ〙〘セイサイ〙〘セイサイ〙〘セイサイ〙〘セイサイ〙〘セイサイ〙〘セイサイ〙〘セイサイ〙〘セイサイ〙〘セイサイ〙〘セイサイ〙〘セイサイ〙〘セイサイ〙!!!!!」

 

 しかし躱す、躱す、躱す。

 

 間一髪のところで、致命傷を避けて、それ以外は食らって、ギリギリのところで躱しきる。

 

Yuito「(これだけの威力の技をそう何度も打ち続けれるはずがない……MPだってRinRinさんからもらった分はもう殆どないはずなのに……!)」

 

Yuito「まさか…………」

 

mako「がっ……!」

 

 

 

ユキナ「……真言がダメージを受けてる……?」

サヨ「ムクロノカミ……もしかしてあのスキル、発動者のMPだけじゃなくて…………」

 

 

 

Yuito「HPも削って動いてる訳か………………超絶厄介だな」

mako「ムクロノカミ」

Yuito「けどそれなら…………」

 

mako「〘セイサイ〙!!!」

 

 振り下ろされた左手を躱す。

 

Yuito「今だ!!!」

 

 そしてその腕を伝って駆け上がっていく。

 

mako「…………!」

Yuito「(おそらくmakoさんが取り込まれたその胸の部分にあるコアみたいなやつを壊せばいいんだろ!?分かりやす過ぎるわ!!)」

 

Yuito「ソードスキル……」

mako「ムクロノカミ〘シデ〙」

Yuito「な、なんだ…………!?」

 

 足を掴まれた感覚がして振り返ると、ムクロノカミの腕から生えた無数の小さな腕が足を掴んでいた。

 

Yuito「こいつら……!!」

mako「〘セイサイ〙」

Yuito「くそ……!」

 

 腕ごと叩き落とす。腕は砕けたがすぐに再生した。

 

 Yuitoも咄嗟に防御したが、到底防ぎきれるものではない。

 

Yuito「あ…………が………………」

 

 完全に、入った。

 

mako「………………」

 

 ゆっくりと、Yuitoの身体をムクロノカミの頭蓋骨の正面へと持ち上げていく。

 

Yuito「(剣は…………折れてない…………HPも…………0じゃない……!)」

Yuito「まだ……だ…………まだ負けてない…………!!!」

 

mako「ムクロノカミ〘シンジ──」

 

 

 

 

 

 

 ドサッ

 

 

 

 

 

 

mako「…………?」

 

 腕が落ちた。

 

 自ら〘セイサイ〙で落とした左腕…………なぜ?再生は出来たはずなのに。

 

 左腕だけじゃない、右腕も、他の部分も、徐々に崩壊を始めていた。

 

mako「まさ…………か」

 

 燃料(HP)切れ。

 

Yuito「俺の…………勝ちだ!!!!!」

mako「くそ……動け…………動けよ…………!!」

 

 あと一発……!〘シンジツ〙が撃てれば確実に仕留めれるのに……!

 

 燐子先輩が作り出してくれたチャンスなのに!!!!!

 

mako「あ…………あ……ああああああああああ!!!!!!!!」

 

Yuito「ソードスキル《ジ・イクリプス》!!

!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「…………ああ」

 

 終わった。コアを俺ごと斬られ、全身崩壊していくムクロノカミ。

 

 地面に落ちていく僅かな間、穏やかな表情をしているYuitoと目があった。

 

 わかってるよ……わかってる。

 

 俺のHPは0で、お前のHPはまだ少しだけ残ってる。

 

mako「勝てると…………思ったんだけどなぁ…………」

 

 お前の剣技、どれもスゴかったよ…………一撃一撃に命が籠もってた、なんて言ったら馬鹿にされるだろうか?

 

 …………まあいい、終わったんだ。もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「俺のターンはな」

Yuito「!?」

 

 ムクロノカミが崩壊して、地面に落下していく少しの間、俺は確かに目があった。

 

 「してやった」と笑うmakoさんと

 

 ムクロノカミの影で……虎視眈々とこの機会を待っていたアコさんに。

 

Yuito「な……なに!?」

 

聖堕天使あこ姫「詠唱…………完了」

 

Yuito「(あの時……RinRinさんがHPとMPを譲渡したあの時……!RinRinさんはmakoさんだけじゃなく、アコさんにも譲渡していたのか!!!)」

 

聖堕天使あこ姫「これがあこ達……三人の力だ!!!」

 

聖堕天使あこ姫「喰らえ!!デッドリィィィイイイイーーーーーー!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Yuito「………………」

 

 もう、俺のHPも0か。

 

Yuito「俺の負けだ」

 

 でも……楽しかった…………な……

 

mako「…………お前、本当は何者なんだ?」

 

Yuito「俺はYuitoだよ。お前だってこの世界じゃmakoなんだろ?それでいいじゃねぇか」

 

mako「そう…………だな……」

 

 互いに立ち上がることなく、地面に倒れたまま話を続ける。

 

mako「あぁ……くっそ疲れた……二度とお前と戦いたくねぇ…………」

Yuito「はは……俺も当分いいかな……」

mako「なぁ他にもいろいろ聞きたいことがあるんだけど…………!?」

 

 Yuitoの身体が青く発光し、全身にヒビのようなものが入っていく。

 

mako「お前……それ……!?」

Yuito「あ…………もう、か」

 

Yuito「ありがとなmakoさん……お陰で……久しぶりに、安全マージンやHPに縛られることなく…………本気で楽しめたよ…………」

 

mako「…………………」

 

Yuito「じゃあな…………」

 

 そう言い残して、Yuitoはポリゴンの結晶となり空に散っていった。

 

mako「Yuito……お前は…………」

 

 一体アイツはどこから来て、そしてどこへ帰っていったのだろう?

 

 俺には分からないことだらけだ。

 

 だけど一つだけわかることがある。

 

 アイツは、俺が戦った最初にして最後の()()()剣士だったということだ。

 

 きっと俺はその剣士の名前を、忘れることはないだろう。




というわけで!今回でユイトアクエリア 様の作品「ロゼリアートオンライン」とのコラボ回は完結になります!ありがとうございました!!ぜひそちらも読んでください!!

次回も、もしかしたら別の方とのコラボ回になるかもしれません!どうなるかは未定です!

ユイトアクエリア 様「ロゼリアートオンライン」→

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46.夏の終わりはトコナツにて(前編)

どうも、暑すぎて溶けそうな砂糖のカタマリです。

こんな時代なのでせめて真言くんにはいい思いをさせてあげたい!

そんな気持ちで書きました。

それでは本編、どうぞ。



リサ「マコくん、少しお話があります」

真言「え…………何ですか急に」

紗夜「いいからそこに座りなさい」

 

 ある夏の日の昼下がり、俺は今、CiRCLEのカフェテリアで何故かRoseliaの4人(燐子先輩抜き)にものすごい剣幕で囲まれています。

 

 …………怖いんで誰か助けてください。

 

真言「俺……なんか悪い事しました?」

あこ「まっくん、心当たりはない?」

 

 頭を時速200kmで回転させてみるが、俺のポンコツ脳細胞は何一つ答えを提示しなかった。

 

友希那「いくら言っても気づかないわよ、この男は」

紗夜「そうですね…………はぁ……」

リサ「マコくん、一応聞いておくね?」

真言「…………はい」

 

リサ「マコくん、この夏の予定は?」

 

真言「…………え?」

 

 夏の予定……?何でそんなこと……

 

紗夜「いいから答えなさい。早くしないと白金さんが来てしまいます」

真言「てかなんで燐子先輩だけ来てないんですか」

リサ「燐子だけちょっと遅い集合時間を伝えてるんだよ」

友希那「さっさと答えなさい」

 

 こっわ………………

 

真言「夏の予定……夏の予定…………」ブツブツ

 

 数分間の沈黙の後、俺は答える。

 

 

 

 

 

真言「…………バイト?」

 

 

 

 

 

リサ・あこ「「…………は?」」

紗夜「それ以外には…………」

真言「一切ないですね」スッパリ

友希那「言い切ったわね」

リサ「え、でもさ!マコくんコンビニのシフトそこまで入れてなかったような…………」

真言「ああ、今ちょっと弦巻のとこでもバイトしてるんです。本当は一日だけだったらしいんですけど色々事情があって続けてます…………で、それが一体何の」

 

紗夜「つまり今、神代さんは暇、ということになりますね」

 

 紗夜先輩が食い気味で来る。

 

真言「……まぁ、はい。そうなりますね」

紗夜「ではここから本題です」

 

 あ、まだ本題じゃなかったんですね。

 

紗夜「神代さん、あなた…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「何故白金さんからのプールのお誘いを断ったのですかッッ!!!!!」ツクエバ−−ーン!!!

 

真言「………………………はぁぃい?」

 

 すげぇ声出たな俺。

 

紗夜「あなた!白金さんがどれほど頑張って誘ったのか!わかっているんですか!!!!!」

リサ「ちょ紗夜!落ち着いてー!!」

 

真言「あの……えっと……師匠?一体どういうことで…………」

あこ「あこ知らない!!」

真言「ええ……何でそんな怒ってんの…………?」

リサ「あ、えっと説明するとね──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「──っとまあそんな訳でたまたま燐子が、トコナッツパークっていうテーマパークの割引券を当てたってわけ」

真言「はぁ……」

リサ「それが団体割引の券だったからどうせなら大人数で行こうって話になってさ?そしたら燐子が…………」

 

燐子『あ、あの…………!ま、真言くんも……誘ってみても…………いい……ですか………?』

 

 ……………ゑ?おれしぬの?ああ、おれしぬんだ。あはは。あはははは。まあもうしんでもいいかなー。あはは。

 

真言「…………っは!!」

 

 やっべぇ……いま一瞬お花畑に片足突っ込んだぞ…………

 

リサ「燐子が珍しく自分のワガママを言ってくれたし、それにまあマコくんならいいかなーって感じで、今日メッセージで誘うって言ってたんだけど…………」

真言「そんなの来てない気が……」

あこ「りんりんからダメだったーってメッセージが来たんだよ!!一体どういうことなのまっくん!!」

真言「分かんないですよ!俺にも何が何だが!!」

友希那「じゃあ燐子とのメッセージの履歴を見せてもらうかしら」

真言「いいですよ!…………はい、どうぞ」

 

 皆一斉に俺のスマホの画面を覗き込む。

 

 

 

 

    

燐子『今度Roseliaでプールに行くんだ<( ̄︶ ̄)>』

真言『良かったですね!5人で楽しんできてください!お土産話楽しみにしてますね!!』

燐子『あ……うん』

 

 

 

 

 

真言「ほらね?そんな話どこにも……」

 

リサ「有罪(ギルティー)

 

真言「ナンデ!!??」

リサ「それはこっちのセリフだよ!!なんでマコくんは即返答しちゃうの!?明らかにこの後に、マコくんも来ませんか?って来るじゃん普通!!」

真言「いや知らねぇよ!!」

紗夜「白金さんへの忠誠が裏目に出ましたか……」

友希那「これは…………」

あこ「う〜ん…………」

 

 なんであんたらは揃いも揃ってそんなシリアスな顔ができんだよ……

 

真言「ってか皆さんはいいんですか?折角ならRoseliaの皆だけで楽しんできたほうが…………」

 

友希那「私は別に構わないわよ」

あこ「あこもー!」

 

真言「…………それにほら、俺、男じゃないですか。女性5人組の中に1人だけ男が混じってて、しかもプールだなんて……嫌じゃないんですか?」

 

リサ「うーん……でもマコくん、どうせ燐子以外の女の人なんて全員ジャガイモにしか見えてないでしょ?」

真言「姐さんの俺に対する偏見がすごい」

 

紗夜「神代さんが白金さん以外の女性に目移りしているところなんて想像できませんね…………ジャガイモどころか白金さん以外の女性は見えてすらいないんじゃないんですか?」

真言「現在進行形で先輩方と面と向かって話してますが???」

 

 え、なに?俺がおかしいの?確かに燐子先輩以外やRoselia、あとは有咲とかその辺以外の奴らは全員道端に生えてる雑草と同義だけどさ…………

 

紗夜「その定義もどうかと思いますが」

 

真言「……てか皆さん、俺のことどう思ってるんですか?」

 

友希那「(にゃーんちゃん)

リサ「弟……みたいな存在かな♪」

紗夜「手のかかる後輩」

あこ「弟子!!!」

 

 んー………とりあえず湊さんはスルーの方向でいいかな?

 

燐子「すみません……遅れました……!」

真言「燐子先輩!」

 

 こちらを見つけた燐子先輩が慌て気味で駆け寄ってくる。

 

友希那「大丈夫よ。時間通りだわ」

燐子「え?でも…………」

リサ「いいからいいから♪そこ座ってー☆」

燐子「え……あ……はい」

あこ「りんりん!何かまっくんに言いたいことがあるんじゃない?」

燐子「あ、あこちゃん……!?」

リサ「マコくんもいるし、この場で言っちゃいなよ☆」

真言「あの……実は俺さっきその話聞いて──」

紗夜「ふんっ!!!」ドゴォッ!!!

真言「ごほぁ!!!」

 

 な、なんて鋭い腹パン…………!この威力、有咲の3ば……い…………

 

真言「……………」

紗夜「次余計なこと喋ったら落とします」ボソッ

 

燐子「あ、あの…………真言くん?」

真言「ハ……ハイ…………ナンデショウリンコセンパイ…………」

 

燐子「あ、あの……皆でプールにい、行きませんか…………?」

 

真言「………………」

燐子「ど…………どう……かな…………?」

真言「燐子先輩は…………ホントに俺が一緒でもいいんですか?」

燐子「うん…………」

真言「……でも俺には…………正直言って自信がないです」

燐子「…………自信?」

あこ「何の?」

 

真言「その……プールってことは、水着、じゃないですか」

燐子「そう…………だね」

 

真言「燐子先輩の水着姿を見て…………生きていられる自信がありません」

 

燐子「えぇ…………///」

Roselia「「「「ああ…………」」」」

 

紗夜「確かに……それは考えていませんでした…………」

リサ「マコくんには燐子の水着姿はちょっと刺激が強すぎるかもね〜…………」

燐子「い、今井さん…………///」

真言「なのでやっぱり俺は大丈夫ですよ、5人で楽しんできてください」

 

あこ「友希那さんどうしましょう……?」ボソッ

友希那「そうね…………ここは私に任せてちょうだい」ボソッ

 

友希那「真言、あなた本当に一緒に行かなくていいの?」

真言「いや、まあ行きたいですけど……」

友希那「私が聞いているのは"行きたい"か"行きたくない"かではないわ。"行く"か"行かない"かよ」

真言「…………?」

 

 多少言い方はちょっと違うけど、意味としてはそんなに違いは……

 

友希那「真言、燐子をよく見なさい」

真言「はい、わかりました」ジッ

燐子「………………?」

 

 これに一体何の意味が…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「見てわかる通り、燐子は脱いだらすごいわ」

真言「ん"ん"!!??」

燐子「友希那さん!!!!????/////」

 

 こんのやろう!!!なんつー爆弾発言ブチかましてんだ!!!!!

 

友希那「まあ落ち着いて話を聞きなさい」

真言「無理に決まってんでしょうが!!!」

燐子「…………///」

友希那「プールというのは私達だけじゃなく、他の人達もたくさんいるわ」

 

友希那「考えてもみなさい。そんな人混みの中に燐子がいたのなら…………」

 

真言「………………………」

 

 そうか……そういうことか…………

 

真言「燐子先輩の魅力に当てられた身の程知らずのゴミ虫共が先輩に群がってくる……?」

友希那「そうよ」

紗夜・あこ・リサ「「「そうなの……?」」」

 

友希那「真言、あなたは燐子を守るんじゃなかったのかしら」

真言「俺が……守る…………」

友希那「そうよ、あなたが守るの。あなたしか守れないの」

真言「俺しか……俺だけしか……」

友希那「燐子の水着姿を見て死ぬか、約束を破って燐子を守ることを放棄するか、どちらでも好きな方を選びなさい」

 

 

 

真言「俺は…………燐子先輩を守る!!!!!」

 

 

 

友希那「ふっ…………それでこそ真言よ」

真言「ありがとうございます湊さん。お陰で目が覚めました!」

友希那「お礼を言う必要はないわ」

 

 こうして見事に言い包められた真言。

 

紗夜「あれってもはや洗脳なのでは……?」

リサ「でもまあ一応説得は出来たことだし?」

あこ「これでいい……のかな?」

 

 

 

 

 

 〜〜【数日後、トコナッツパーク前】〜〜

 

真言・あこ「「あっつい…………」」

 

 今日はまた一段と蝉がうるさい。プールに入るにはもってこいの日だろうか。

 

紗夜「早く着替えて行きましょう……熱中症になってしまいます」

リサ「じゃあ更衣室出てここで集合ね☆」

 

 トコナッツパーク内の地図を指さしながら姐さんが言う。

 

あこ「はーい!」

真言「うす…………」

燐子「真言くん……大丈夫……?」

真言「はい……まあ……」

紗夜「暑さでだいぶ参ってますね……」

友希那「………………」フラフラ…

紗夜「まあそれはこちらもですが……」

 

真言「…………よし!」

 

あこ「どうしたの?」

真言「気合を入れました」

あこ「もっと気楽に行こうよ……」

 

 そういうわけにもいかない。なんてったって今日の俺には「燐子先輩の護衛」という命より大切な使命がある。

 

真言「燐子先輩の半径1mに近づいた奴らは片っ端から粉々に踏みつぶしてやる……へへっ……」

 

リサ「友希那……ちょっとやりすぎたんじゃないの〜……」

友希那「仕方ないわ……」

燐子「真言くん……しっかりして……!」

真言「ははっ……ははは……」

 

 いざ、トコナッツパークへ!




後編に続く……


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47.夏の終わりはトコナツにて(後編)

前回までのあらすじ……

神代 真言、Roseliaとプールに行く。

果たして真言は無事に帰ってこられるのか!?

それでは後編、どうぞ。



〜〜【トコナッツパーク】〜〜

 

真言「思ってたより広いとこだなー……」

 

 先に水着に着替え終わった俺は待ち合わせ場所のプールサイドに待機している。

 

 人は……まあまあいる…………

 

真言「(燐子先輩は……俺が守る!)」ゴゴゴ

 

「あの人結構かっこよくない?」

「でもなんか……すごい機嫌悪そうだよ……」

「ホントだ……怖っ……」

 

あこ「まっくーん!!!」

紗夜「宇田川さん!プールサイドは走らないでください!!」

真言「危ないですよ師匠」

 

 やれやれ……入る前と違って元気いっぱいだな師匠。

 

紗夜「………………」ジーッ

真言「……どうかしました?」

紗夜「いえ……なんでも……」

真言「?」

あこ「まっくん細く見えるのに結構筋肉あるんだねー!」

真言「ん、まあ昔から鍛えて……鍛えさせられてきましたから…………あと俺の腕ペチペチしないでください」

あこ「えー?いーじゃーん」

 

 はぁ……師匠には女性としての危機感が足りないのかもしれないな…………よっこらせ。

 

真言「いいですか師匠。あまり女性が男の身体を触るもんじゃないんです。この世には燃えないゴミより下衆な男どもが蔓延ってるんですから」

紗夜「燃えないゴミにあまり下衆のイメージないですけどね」

あこ「まっくん、わざわざ屈んで目線合わせて会話しなくていいよ。なんかものすっごいバカにされてる気がするから」

 

真言「……それより燐子先輩達は?」

 

紗夜「少し着替えに手間取っていましたが……もうすぐ来るはずです」

あこ「りんりんの水着姿見て倒れないでよ〜?」

真言「無理です」

あこ「即答!?もうちょっと頑張ろうよ!!」

 

 いや普通に無理に決まってるでしょ。大丈夫、いつでも眼球を潰す準備はできてますから。

 

リサ「おまたせー♪」

燐子「あの……やっぱり恥ずかしい……です……///」

友希那「今更何を言っているの。大丈夫よ、真言なら見ないでって言ったら自分の眼球潰すくらいは喜んでやるわ」

 

 こちらに向かってくる三人の美少女。

 

 

 

 その中でも一際輝いている女神がいた。

 

 

 

真言「    」

あこ「あ、フリーズした」

紗夜「いつもの事です」

 

 前にも言ったが目の保養も度が過ぎれば猛毒となってしまう。

 

 上下黒の水着、上から羽織られた白のラッシュガード。

 

 燐子の水着姿には、真言の眼球と思考回路を潰すには十分な破壊力を持っていた。

 

燐子「あ、あの……真言くん…………///」

真言「     」

燐子「に、似合ってる……かな……///」

真言「     」

燐子「似合って……ない……?」

 

紗夜「ふんっ!!!」ドゴォッ!!!

あこ「紗夜さん!?」

真言「……っは!!」

あこ「起きた!!!腹パンで!!!」

 

 今……何が起こっていたんだ……?

 

燐子「真言くん……大丈夫……?」

真言「あ──」

 

 女神──

 

紗夜「またすぐに意識を無くさないでください!!!」ドゴォッ!!!

真言「ヴォエッ!!!」

友希那「手伝うわ」バギィッ!!!

 

 先輩二人に腹パン&キックを延々と繰り出され続ける男の姿が、そこにはあった。

 

真言「ウゴォッ!!あ、あのもう起きて──」

紗夜「神代さん!!起きてください!!!」ドゴォッ!!!

友希那「えい」バギィッッッ!!!!!

真言「お"ぇ"!!!!起きてる!!もう起きてるから!!!湊さん脛は!!脛はやめて!!!!!」

 

 湊さんの蹴りが一番痛い!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「なんで俺はこんな目に…………」

 

 プールに来てまでいつも以上に先輩たちにボコボコにされてる…………そんなことがあっていいのか……?

 

燐子「大丈夫…………?」

真言「……………はい」

 

紗夜「これで何とか白金さんを見ても失神することは無くなりましたね」

真言「代わりにあんたらのせいで失神しかけたけどな!!!」

 

 荒療治すぎんだよ!!もうちょっと何かあったでしょうが!!

 

友希那「そんな細かいことは置いておいて、早く行きましょう」

真言「少しは加減ってものを知れ!!!」

友希那「…………」スッ

真言「すんませんでした!謝るから蹴りを構えないで!!!」

紗夜「それじゃあ行きますよ」

真言「それってアトラクションのこと!?それとも追撃!?」

 

燐子「…………」ボーッ

あこ「りんりんどうかした?急に立ち止まっちゃって…………みんな先行っちゃうよ?」

燐子「…………」ボーッ

リサ「ん?…………あぁ」ニヤッ

 

リサ「さては燐子、マコくんの身体に見惚れてたね〜?」

 

燐子「…………!!///」ボッ

あこ「なるほど!確かにまっくん鍛えてたって言ってたし!」

燐子「ちちちち違います……!!!」

真言「燐子先輩?どうかしたんですかー?」

燐子「な、なんでもないよ……!今行くから……!!」タッタッタ

 

あこ「りんりん最近なんかまっくんに積極的になったよね!」

リサ「いや〜青春だねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「じゃあさじゃあさ!みんなでウォータースライダー行きましょうよ!」

リサ「えー……あれチョー怖いじゃん」

紗夜「いいですね。神代さんに怖い目を見てもらいましょう」

燐子「氷川さん……」

 

真言・友希那「「……………」」

 

リサ「……どうしたの二人とも、まさかまだ喧嘩してんの?」

友希那「してないわ」

真言「いや、別にそういうわけじゃ……」

 

 互いに目で合図を交わす真言と友希那。

 

あこ「はいまっくん行くよー!!」

真言「あ!だから不用意に引っ張らないでください!!!」

 

紗夜「私達も行きましょうか」

リサ「そうだね☆」

友希那「………………」

燐子「友希那さん……?」

友希那「なんでもないわ。燐子、今日はずっと真言の側にいなさい」

燐子「…………?」

 

 

 

 

 〜〜【ウォータースライダー】〜〜

 

真言「うぉ……結構高いな……」

あこ「まっくん高いの怖いのー?」

 

 俺の前に並んでいる師匠が首だけをこちらに向けて聞いてくる。

 

 並び方は先頭から、師匠→俺→燐子先輩→紗夜先輩→姐さん→湊さん といった具合だ。

 

真言「まさか、俺は校舎の3階から飛び降りる男ですよ?」

 

紗夜「3階から……?」ゴゴゴ

燐子「飛び降りた……?」ゴゴゴ

 

 やべっ、完全に口を滑らせてしまった。

 

真言「師匠、早く前行ってくださいお願いします」

 

 

 

 

 

係員「はいお次の方どうぞー」

 

あこ「はーい!」

 

 元気よく返事をして師匠が乗り込む。

 

真言「…………げっ」

燐子「真言くん……?乗らないの……?」

真言「いやー……先輩達どうぞ」

 

 ここのウォータースライダーは5〜6人乗りのボートで滑るタイプのようだ。そんなボートに俺・Roselia5人っていうのは世間体がちょっと……

 

リサ「大丈夫だよ☆マコくんが燐子以外にこれっっっっっっぽっちも興味ないこと知ってるからさ!」

 

 言い切られた……まあ合ってるけど。

 

真言「いやそれでも……」

友希那「真言、燐子がウォータースライダーを怖がってるわよ」

真言「燐子先輩、お手を」

燐子「あ……うん、ありがとう……///」スッ

 

リサ「(おお〜マコくんも今日は結構積極的だね〜♪)」

紗夜「(自分から白金さんの手を握るなんて……自殺行為ですね)」

 

真言「うっ……眩しい……」

燐子「真言くん……!?」

あこ「あー!しっかりしてー!」

 

リサ「あちゃー……」

紗夜「はぁ……もう助けませんからね」

 

友希那「(………………鬱陶しいわ)」ボソッ

 

リサ「ん?友希那?」

友希那「何かしら?」

リサ「いや……アタシの聞き間違いだったみたい」

紗夜「二人とも、早くしないと神代さんがもうもちませんよ!」

友希那「わかったわ。ほらリサ早く」グイッ

リサ「え、あ、うん」

 

 

 

 

 

リサ「(…………友希那の後ろにいる男の人達……さっきもいたような……?)」

 

 

 

 

 

燐子「…………」ギュッ

真言「」チーン…

 

リサ「なーんであの二人は付き合ってないんだろうな……」

紗夜「神代さんが白金さんと手を繋いだだけで失神するようなヘタレだからですよ」

友希那「真言、起きなさい。気絶したままだと燐子を守れないわよ」

真言「……っは!」

あこ「まっくんは今日何回気絶するの……」

紗夜「これ以上気絶すると何かしらの障害が出そうですね……」

 

 右隣に師匠……左手に燐子先輩の手……ここはウォータースライダーのボートの上か……

 

真言「頭いってぇ……」

燐子「だいじょ……」クチフサギ

あこ「りんりん?」

燐子「私が何か言うとまた真言くんが気絶しちゃうかもしれないから……」

 

係員「それじゃあいってらっしゃ~い!」

 

 係員の合図に合わせてボートが動き出す。

 

 

 

 

 

真言「おお…………おお?」

 

 なんか……意外とゆっくり?

 

紗夜「と思うでしょうね」

真言「え?」

あこ「こんなもんじゃないよ〜!ここのスライダーの目玉はうねうねしたカーブなんだ!」

 

 うねうねしたカーブ………………あれ?なんか左手の震えが…………

 

燐子「………………」ガタガタガタ

真言「り、燐子先輩?」

燐子「………………」ガタガタガタ

 

 おいこれ……だいぶヤバいやつなんじゃないのか……?てか怖いなら乗らせないようにしなきゃいけなかっただろ!!くっそ!俺としたことが──

 

燐子「きゃああああああああ!!!!!」

リサ「や、やっぱりすごいカーブだね……!」

真言「燐子先輩!しっかりボードを掴んで!あと舌かみますよ!!」

 

 すっげえ遠心力……しかもこのカーブ連続で来んのかよ!!

 

あこ「わー!たのし〜!!」

紗夜「ふぅ……カーブゾーンを抜けたわね……」

リサ「ということは……」

真言「ま、まだ何かあるんですか?」

 

あこ「ここのもう一つの目玉!最後に急な角度で滑り落ちるんだ!!」

 

紗夜「神代さんを怖い目に合わせようとした私が間違いでした……!乗るんじゃなかった!」

真言「そんなに!?」

 

燐子「…………」ガタガタガタガタガタガタ

 

 燐子先輩の震えがさっきより強くなってる……

 

真言「…………燐子先輩」ギュッ

 

 さっきよりも強く、燐子先輩の手を握りしめる。

 

燐子「真言くん…………」ナミダメ

 

 うわ涙目の燐子先輩かわい……じゃなくて

 

真言「大丈夫です、こっちの手は俺がしっかり握ってますから。先輩もちゃんと(()()()())掴んでてくださいね」ニコッ

燐子「う、うん……」ギュッ

真言「離しませんよ。絶対に」

 

あこ・リサ「「おお……」」

 

真言「……なんですかそのどよめきは」

リサ「いや、マコくん良い顔で笑うなーって」

あこ「なんか一瞬まっくんが王子様みたいに見えたよ!」

紗夜「いつもそんな顔なら、もう少し周りと仲良くなれそうですね」

真言「余計なお世話です」

 

友希那「そろそろ来るわよ」

リサ「みんな!振り落とされないようにしっかりボートに掴まって!!」

紗夜「来ますよ……」

あこ「わくわく……!」

真言「燐子先輩!」

燐子「うん……!」ギュゥゥゥッ!!!

 

 そうそう、そうやって強く俺の腕に…………?

 

 燐子先輩の…………柔らかい感触が……俺の……俺の腕に……

 

真言「dtわか3@%きぬま!!!???」ボンッ!!!

 

あこ「ま、まっくんがまた壊れたー!!!」

紗夜「白金さん!神代さんに密着するのをやめてください!!」

燐子「うう………しんじゃう……!!」

リサ「だ、ダメみたい……完全にホールドしてるよ!!」

あこ「死んじゃうのはまっくんの方だよりんりん!!」

友希那「寄りにも寄ってこのタイミングで……!」

 

真言「あ……ああ…………」プシュ~

 

あこ「まっくんから力が抜けてきます!このままじゃ絶対振り落とされちゃいますよ!!」

紗夜「かと言ってどうすることも──」

 

リサ・燐子「「きゃあああああ〜〜〜〜!!!!」」

 

真言「……………」フワッ

 

あこ「振り落とされる……!」

燐子「行っちゃダメ!!!!!」グイッッッ!!

真言「うげぇ!!り、燐子先輩……首……首しまってる……!」

友希那「紗夜!燐子を掴んで!!」

紗夜「は、はい!!」ガシッ

友希那「私は真言の足を……!」ガシッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6人「「「「「「疲れた…………」」」」」」

 

真言「なんか……ごめんなさい」

あこ「一時はどうなるかと思ったよ……」

紗夜「まったく……」

燐子「本当にごめんなさい……」

リサ「燐子は悪くないよ、ちょーっとマコくんに耐性がなさすぎるというか……」

真言「あれは無理だと思います」

燐子「…………///」

友希那「今思ったのだけれど……真言」

真言「はい?」

 

 ピトッ

 

 唐突に湊さんが俺の腕に抱きついてきた。

 

リサ「!?」

紗夜「み、湊さん!?」

あこ「え、あ、え?」

燐子「…………!!」

 

真言「……あの?湊さん?」

友希那「どうかしら」

真言「何がですか」

友希那「……どうやら"女性すべてに耐性がない"というわけではなさそうね」

真言「ん、まあそうですね。でも離れてもらっていいですか?これ俺が通報されますから」

紗夜「湊さん!離れてください!破廉恥です!!」

 

 ……でもさっき同じようなこと燐子先輩にされたよな……緊急事態だったけど。

 

あこ「あれはりんりんだからいいの!」

真言「そ、そういうものですか……」

燐子「…………」グイッ

真言「おっ……と」

 

 燐子先輩に手を引っ張られる。

 

燐子「………………」ムスッ

真言「……燐子先輩?」

 

 しかし何故か燐子先輩は不機嫌そうだ。

 

リサ「あ、燐子が嫉妬してる」

友希那「計画通りだわ」

紗夜「本当ですか湊さん……!?」

あこ「あれ……というかまっくん」

真言「はい?」

 

あこ「りんりんと手を繋いでても平気になったんだね!」

 

真言「…………?」ミオロシ

燐子「…………?」ミオロシ

 

真言「!!!!!」ボッ!!!

燐子「………………///」セキメン

 

真言「あ!俺何か飲み物買ってきますね!!」バッ

燐子「あ…………」

 

 手を離してダッシュで離れる。

 

紗夜「プールサイドは走らないでください!」

リサ「あーあ逃げちゃった」

友希那「あこ……」

燐子「あこちゃん……」

あこ「え、ご、ごめんなさーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「ふぅ……」

 

 だいぶ落ち着いたな……飲み物も買ったし、みんなのとこに戻るか。

 

真言「今日の燐子先輩、なんというか、いつもと違うよな……もしかして何かあったのか?」

 

 戻ったら一応聞いてみよう。

 

「あのーお兄さーん」

真言「…………あ?」

 

 いやに甘ったるい声が聞こえる。声の主は3人組の水着姿チャラそうな女、年は俺と同じか少し上くらい。

 

真言「なんだお前ら」

 

「いや〜お兄さんかっこいいなーって思ってて〜」

「ちょっと私達と遊ばない〜?」

「ねぇいいでしょー?」ピトッ

 

 女の一人が俺の腕に密着してくる。

 

真言「…………はっ」

 

 はは……姐さんの言ったとおりだ。

 

真言「悪いな、俺にはジャガイモと遊ぶ趣味はねぇんだよ…………さっさと離せ」ギロッ

 

「ひっ…………」

 

 気に入らねぇ奴らだな……まず3人組ってのが気に入ら──

 

あこ「まっくーーーん!!!」

真言「師匠!?」

 

 息を切らしながら師匠が走ってきた。

 

あこ「ハァ……ハァ……ハァ……」

真言「師匠!何かあったんですか!?」

あこ「り、りんりんたちが……」

 

あこ「向こうで男の人達にナンパされてる!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶっ殺す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇいいじゃん〜あんな男と一緒じゃ楽しくないでしょ?」

 

 Roseliaに近づく、いかにもな男たち5名。

 

リサ「マコくんはあんた達みたいにイヤらしい目でアタシ達を見たりしない!」

燐子「……………」

「お!君!そんなとこに隠れてないで出てきなよ!」

友希那「燐子、下がって」

「ちょ、何すんの」

 

友希那「悪いけどお引取り願おうかしら。あなた達、私達がウォータースライダーに登る前から付き纏っていたわね」

 

「そうだよ、カワイイ子たちがいるな〜って思ってさ……」ニタァッ

紗夜「気持ち悪い……」

「ひどいな〜そんなこと言わないで俺達と遊ぼうよ〜」ガシッ

紗夜「!?離して!!」

リサ「紗夜!」

燐子「(あこちゃん……早く、早く戻ってきて…………!)」

「ほら君も……」ヌッ

燐子「ひっ……!」

 

友希那「あなた達、その辺にしておくことね」

「……なに?」

「大丈夫、君も仲間外れには──」

 

友希那「今土下座して謝れば許してもらえると思うわ。彼も鬼じゃないもの」

 

「は?」

「彼って……あの男のこと?ないない!」

「来ても5体1だぜ?ボコボコにできるっての!」

「こんなに遅いってことはきっとあいつもその辺の女に逆ナンされてホイホイついていってるんじゃね?」

「違いねぇ!!」

 

 ゲラゲラと笑う下衆な笑い声。

 

リサ「最っ低…………」

友希那「はぁ………………」

 

 なるべく感情を表に出さず、冷淡に、冷酷に、残酷に、淡々と、湊 友希那はこう告げる。

 

友希那「…………ご愁傷さま」

 

真言「おい

 

「!?」

 

真言「てめぇら死ぬ覚悟はできてんだろうな

 

 突如として彼らの目の前に現れた、化け物。

 

「て、てめぇいつからそこに」

 

真言「そこのお前

 

 ユラユラと不気味に揺れながら紗夜の腕を掴んでいる男の方を向く。

 

真言「今、自分がなに掴んでんのかわかってんのか?

「ひっ……」バッ

「バカお前!何ビビってんだよこんな野郎に……」

 

真言「てめぇらみたいな奴らが触れていい人達じゃねぇんだよ。とっとと失せろ

 

「クソ生意気なガキが……舐めてんじゃ──」

真言「……………」スッ

「は!?」

 

紗夜「(一瞬で懐に入った……まずい!)」

 

 誰がどう見ても今の真言は正気ではない。

 

 このままでは本当に殴り殺してしまう。そう感じてはいるが、誰も暴走中の真言を止められるはずなどなかった。

 

 

 

 

 

燐子「真言くん!!!!!」

真言「!」ビタッ

 

 この人以外は。

 

 燐子の声に反応し、繰り出した拳を男の目の前で止める真言。

 

真言「ぐ……が…………!」

 

 目を血走らせ、歯を食いしばり、小刻みに震えている。まるで目の前にいる奴らを殺したくて殺したくてたまらない……

 

真言「消えろ……今すぐに!!!

 

 化け物のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後騒ぎを聞きつけた係員に男達は連れて行かれた。

 

 もれなく全員真言の圧に押されて半泣きだったが……

 

真言「紗夜先輩、腕は……」

紗夜「問題ありません……それより助かりました神代さん」

友希那「ええ、おかげで全員無事だわ」

リサ「あこもありがとね〜マコくんを連れてきてくれて!」

あこ「ふっふっふ……あことまっくんの闇の連携プレーでりんりん達を守れたね!」

真言「………………」

あこ「まっくん?」

 

真言「もっと……もっと俺が注意していれば……」

 

 みんなが怖い目に合わずに済んだ筈なのに……

 

 俺のせいで……俺のせいで…………!

 

真言「俺は……()()守れなかった…………!」

 

 俺のせいで……また大切な人が…………

 

燐子「そんなことないよ……」ギュッ

 

 燐子先輩の温かい両手が、俺の冷たい両手を包み込む。

 

燐子「真言くんは……ちゃんとわたし達を守ってくれた…………それに……わたしとの約束も……」

 

紗夜「湊さんも言っていましたが、私達は全員無事です、あなたのおかげでね」

リサ「あんなのはあんまり気にせずさっさと忘れちゃうほうがいいよ♪ね?」

真言「…………はい」

あこ「それじゃあ遊び再開といこう!!」ドンッ

 

 師匠に背中を押される。

 

 文字通り、プールに向かって。

 

真言「ちょ……!」

 

 大きな水しぶきが立ち、そのままプールの其処に突っ込んでしまう。

 

真言「ごほ……師匠………!」

あこ「いっくよー!」

真言「はぁ!?」

紗夜「宇田川さん!プールに飛び込んでは──」

あこ「ダーイブ!」

リサ「よーしアタシも行っくよ〜☆」

真言「待っ……!」

 

 ……どうやら暗い事を考えながら付き合える程、先輩達と遊ぶのは甘くないらしい。

 

 遊び疲れる頃にはもう日が傾いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「あー楽しかったー!」

真言「ですねー…………」

燐子「真言くん……眠そうだね……」

 

 プールから上がった後って眠くなるよね…………

 

リサ「ふわぁ〜……ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったね……」

紗夜「私も……だいぶ疲れました……」

友希那「……!ねてないわ!」

リサ「友希那?」

真言「いや、絶対寝てたでしょ……」

 

 もう全員体力の限界みたいだ……師匠だけは元気だけど。

 

あこ「また行きたいね!」

真言「そうですね…………あ、」

紗夜「……もしかして忘れ物ですか?」

真言「いや、そうじゃないんですけど…………」

 

あこ「またみんなで行きたいね!りんりん!」

燐子「そうだね……あこちゃん」

 

真言「……………」

紗夜「神代さん?」

真言「やっぱなんでもないです」

リサ「ほら友希那ちゃんと歩いて!」

友希那「………………ん」

 

 燐子先輩になんで俺をここに誘ってくれたのか聞きたかったんだけど……

 

燐子「ふふっ……」

 

 先輩の笑った顔を見たら、なんかどうでも良くなってしまった。

 

真言「さ、帰りましょうか」

紗夜「……そうですね」




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もう夏も終わりですね……俺もプール行きたかったなぁ……

次回は未定です。もしかしたらコラボ回かも?


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48.「なに今の叫び声!?」

リサ姉お誕生日おめでとうございます!今回はちょっと短めです!最近長い話多かったからね!仕方ないね!

それでは本編どうぞ!



紗夜「神代さん、次は何をすれば……」

真言「紗夜先輩はそのまま肉も切っちゃってください!」

燐子「真言くん……こっちの酢の物……もうすぐ出来そうだよ……!」

真言「流石です燐子先輩!」

あこ「まっくーんあこは〜?」

真言「師匠は人数分の取り皿を燐子先輩に!」

友希那「真言、私は…………」

真言「絶対にピーラー以外の物を触らないでくださいRoseliaジャガイモ担当!!!」

友希那「…………わかったわ」

真言「よし、これで出汁は完成っと……ふぅ」

 

 なぜ俺がRoseliaメンバーと俺の家でクッキングをしているのか。

 

 その問いに対するベストアンサーは『今日が姐さんの誕生日だから』だ。

 

 事の始まりは寝起きの悪い俺が無理矢理昼寝から起こされるところまで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 プルルル プルルル プルルル

 

 プルルル プルルル プルルル

 

真言「…………っるせぇ」ムクッ

 

 電話………………か?

 

真言「はい…………誰ですか…………」

あこ『もしもーし!まっくん緊急事態だよ!!』

真言「師匠…………?」

 

 今はもうちょっと寝てたいんだけど……

 

真言「なんすか…………俺昼寝してたいんですけど……」

紗夜『起きてください!神代さんの力が必要なんです!』

 

 あれ……?俺師匠と電話してなかったっけ……

 

友希那『必要ないわ、これは私達だけで……』

燐子『真言くん……助けて……!』

 

真言「今どこですかすぐ行きます」

あこ『あ、起きた』

 

 当たり前だ。よくわからないが燐子先輩がピンチなら昼寝なんかしてる場合じゃない。

 

あこ『友希那さんもう止まって〜!!』

友希那「止めないであこ、私はまだやれるわ」

 

 ガッシャーーーン!!!

 

 ………電話の後ろの方で大騒ぎが聞こえる。Roseliaは一体何やってるんだ?というかこういう時のまとめ役の姐さんの声が聞こえない……?

 

紗夜『私達がそちらに伺います!神代さんは【筑前煮 作り方】で調べて準備をしておいてください!』

真言「御意」

 

 

 …………………え?

 

真言「筑前煮……ですか?何で──」

 

 ブチッ

 

真言「…………切られた」

 

 余程焦っているのか……紗夜先輩らしくもない。そういえば今日は何かあったような?

 

真言「あ」

 

 思い出した、今日はたしか姐さんの誕生日。

 

真言「…………でも何で筑前煮?」

 

 俺のその疑問へのベストアンサーは俺の家に無理矢理(?)連行されてきた湊さんが提示してくれた。

 

友希那「……リサは筑前煮と酢の物が好きなの」

真言「へー……でなんで俺の家なんですか」

紗夜「実は最初は湊さんのお宅で作ろうと思っていたのですが…………」

燐子「……………」

あこ「……………」

 

 全員無言で湊さんを見つめる。その視線はどこか冷ややかだった。

 

友希那「…………何も聞かないで」

真言「(何があったんだ……!?)」

 

 この人音楽以外のことになるとポンコツだよな……

 

紗夜「……それで神代さんの力を借りようと思ったわけです」

燐子「真言くん一人暮らしって言ってたし……市ヶ谷さんから真言くんが料理が得意って聞いて…………」

真言「任せてください!」

 

 よくぞやってくださいました我が親友。おかげで今俺は燐子先輩から頼られております。今度なんか奢る。

 

真言「じゃあ早速作業に取り掛かりましょうか」

あこ「リサ姉が来る前に作っちゃわないとね!」

真言「………………え、もしかして姐さんの誕生日会ウチでやろうとしてます?」

紗夜「では行きましょうか」

燐子「頑張りましょう……!」

真言「……まあいいや、材料はこっちで準備しておいたんで、役割を分担しましょう」

紗夜「効率的ですね」

 

真言「俺と紗夜先輩が筑前煮担当、燐子先輩と師匠が酢の物担当、短時間で2品作るならこの分担が最善かと」

あこ「りょーかい!」

燐子「うん……」

紗夜「神代さんにしてはなかなかに的確ですね」

 

友希那「…………私は?」

 

紗夜・燐子・あこ「「「湊(友希那)さんはじっとしててください!!!」」」

 

 マジで何したんだこの人……

 

友希那「真言…………」

 

 頼むからそんな捨てられた子猫みたいな目でこっちを見ないでくれ…………

 

真言「……湊さん、あなたに仕事を与えます」

友希那「…………!」

あこ「え!?」

紗夜「正気ですか神代さん!?」

燐子「本当にやめておいたほうがいいよ…………真言くん…………」

友希那「何でも言ってちょうだい」

 

 

 

 

 

真言「…………あなたは今からRoseliaジャガイモ担当です」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「………………」

 

 ……………許せ湊さん。これしか思いつかなかったんだ。

 

真言「…………これでよし」

あこ「おお〜!かんせーい!!」

 

 筑前煮&きゅうりの酢の物……あとご飯と味噌汁とその他諸々。

 

 筑前煮とか作ったことなかったけどよくできたわ……流石ク○クパッド。一生ついていきます。

 

 時間帯も考えると完全な夕飯。でもなんとか姐さんが来る前に間に合ったな……

 

燐子「すごいね真言くん……おいしそう……」

真言「いや〜それほどでも〜」

紗夜「白金さんの言うとおりですが……とりあえずその締まらない顔をどうにかしてください」

友希那「……私、役に立っていたかしら」

真言「も、もちろんです!」

 

 ピンポーン♪

 

あこ「あ!リサ姉来たみたいだよ!」

真言「いつの間に呼んだんですか……」

友希那「私が呼んだのよ」ドヤッ

真言「………………」

友希那「…………なに」

真言「いや、なんでも」

 

あこ「はいは〜い!リサ姉!今出るよー!」パタパタ

 

真言「(ここは俺の家なんだけど……)」

 

 リビングから玄関に向かう師匠を見ながらそんなことを思う。

 

 まあ今日は姐さんの誕生日だ。こんなことを言うのは野暮だし、師匠の好きにさせておこう。

 

燐子「今日はありがとね……」

真言「気にしないでください。俺もなんだかんだ言って楽しかったですし」

 

燐子「…………真言くん」

真言「はい?」

燐子「なんだか…………明るくなった……?」

真言「そう……ですか?」

紗夜「確かに最近の神代さんにはだらしない笑顔がよく見られるようになりましたね」

真言「だらしないって……」

燐子「でも真言くんが私達と一緒にいて……楽しいって思ってくれてるなら…………嬉しい」

真言「それは………………」

燐子「?」

紗夜「神代さん?」

 

 俺が今、この日々を心から楽しいって思えるのは、

 

 全部全部、あなたのおかげだ。

 

 あなたがいるから、こんな日々も悪くないと思えるんだ。

 

 あなたがいるから、あんなに暗かった世界が輝いて見えるんだ。

 

 あなたがいたから、俺は今この人達と笑えているんだ。

 

 あなたがいたから…………いや違う、俺が言いたいことはこんなことじゃない。

 

 

 

 

 俺はあなたのことが………………?

 

 

 

燐子「真言くん……?顔が赤いよ……?」

真言「え?」

紗夜「熱でもあるんですか?」

真言「いや…………」

 

 あれ……なんでだ?

 

燐子『でも真言くんが私達と一緒にいて……楽しいって思ってくれてるなら…………嬉しい』

 

 あの燐子先輩の笑顔を見てから、

 

 胸が苦しくて…………言葉がうまく出てこない。

 

あこ「リサ姉誕生日おめでとう〜!!」

 

紗夜「宇田川さん……先に言ってどうするんですか……」

 

 燐子先輩の笑顔から

 

燐子「ふふっ……」

 

 目が離せない。

 

真言「……………………湊さん」

友希那「何かしら」

真言「俺を蹴ってください」

友希那「わかったわ」

 

 バギィィィィィッッッッッ!!!!!

 

 湊さんが脛へと繰り出したローキックがクリーンヒットし、俺の断末魔を聞きつけた姐さんがリビングに飛んでくるまであと0秒…………




次回はコラボ回と言ったな……あれは嘘だ(申し訳ありません)
最後とタイトルが繋がっているという1回やりたかったやつです。
まさかの誕生日回にご本人が全く登場しないという……これ大丈夫か?
……まあ真言くんの心境的にはだいぶ変化がありましたから、それで勘弁してください。

お気に入り登録 しーご 様 ka-主 様 黒野舞亜 様 ngsk 様 秋兎01 様 albero 様 ありがとうございます。


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49.偽善者達よ

今回は神界書庫 様の「共感覚持ちの偽善者とちびっこ革命家」とのコラボ回です!

偽善者達の疲れる日常をご覧ください!

それでは本編どうぞ。



 そいつの色は真っ黒だった。

 

 ……いや、"黒"というのは少々語弊があるな。そいつのそれは黒ではなく"闇"と言ったほうが正しい。

 

 異常なほどの闇。少なくとも普通に生きてる奴が出せる色じゃない。

 

 さらにそいつが異質だったのは、その闇がさまざまな色で構成されていたからだ。

 

 まるで子供がクレヨンでグチャグチャに描いたような、赤、青、黄、緑、紫、橙、白……全ての色を混ぜて、交ぜて、描き殴って、そしてその上から黒の油性インクをぶちまけたような……

 

 そんなメチャクチャな色。

 

 最初に見たときはなぜこんな色のやつが正気を保っているのか理解できなかった。

 

 普通こんなにも感情を混ぜ合わせていたら……さらに上から自分の感情を押し殺していたのなら……すぐにでも正気を失い、狂って死ぬ。

 

真言「確かに、俺は狂って死んでてもおかしくなかったよ──」

 

 笑いながらそう言うこいつを見て、俺はすぐに理解する。

 

 "その人"の話をするときだけ、そいつの色が、暗黒が、嘘のように晴れたからだ。

 

真言「──燐子先輩がいなかったらの話だけどな」

 

 …………おかしな奴。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「暇だなぁ……」

 

 俺はバイト中に一体何度この言葉を口にしたのだろう。おそらく10や20ではない。よくクビにされないものだ。……まあ見てる人が誰もいないからだけど。

 

真言「でも今日は本当に暇だ……」

 

 いつもはこんなボヤきをきれいに捌くか、便乗して一緒にぐで〜となるバイト仲間がいるはずなのだが、今日は残念ながらシフトが被っていない。

 

真言「ま、いいや。この後姐さん達とはCiRCLEで会う約束してるし」

 

 早くこんな誰もいないバイトから上がって……

 

「ねぇーいーじゃんー」

 

 上がりたかったなぁ…………

 

 ふとレジから外を除いてみると、どうやらコンビニの外で何やら揉めているらしい。

 

真言「コンビニ強盗といい、なんで俺のシフトのときだけ面倒くさい奴ばっかなんだよ…………」

 

 何も買わないなら○ねばいいのに──じゃなくて大人しく帰ればいいのに。トラブルじゃなくて金を落としてくれ。

 

 再度大きな溜息を付きながらレジを出て外へ向かう。あそこにいつまでも居られたら溜まったもんじゃない、さっさとお帰り願おう。

 

真言「………………………センパイ?」

 

 思わず自動ドアの前で立ち止まってしまう。

 

 センパイだ。今おかしな不良達に囲まれている人、俺のバイト仲間のセンパイだ。

 

真言「…………………」

 

 黒とも赤とも言えない感情が自分の内側から湧いてくるのを感じながら、俺はドアの外に出る。

 

「あ?何だテメェ!」

モカ「マコくん……!」

真言「………………」

 

 面倒だ…………あぁ、本当に面倒だ。

 

 俺は燐子先輩との約束を守りたいのに……もう誰も傷つけたくないはずなのに……

 

 殺さなきゃいけないバカが、俺には多すぎる。

 

「おい!何見てんだよ!あぁん!?」

 

 不良の1人が俺の肩を突き飛ばし、大声で怒鳴り散らす。うるさい。うるさい。うるさい。

 

 

 

 

 

 ………………いっそ本当に殺してしまおうか。

 

 

 

 

 

 全部忘れて、全部投げ捨てて、やりたいようにやってみようか。

 

 そうすれば…………そうすれば…………?

 

 

 

 

 

 きっと行き着く先は、あの時よりも酷い地獄だ。

 

 

 

 

 

真言「…………それは嫌だなぁ」

 

 そうなってしまったら、きっと今までのように燐子先輩達と笑い合えないだろう。

 

 大丈夫、今日も俺は冷静。

 

真言「センパイ、今のうちに行ってください。当分戻ってこないように」

モカ「わかった……!」

 

「テメェ!シカトしてんじゃねぇぞ!!」

 

 じゃ冷静ついでにこいつらをご帰宅させますか。

 

「この俺が羽根付きのワニって知っててやってんのか!?」

真言「………………はい?」

 

 「羽根付きのワニ」……?何それ……異名?

 

真言「もしかしてあなた…………」

 

 

 

 

 

真言「イジメられてます?」

「……んだとコラァ!?」

真言「あぁ……俺にもよくわかりますよ。イジメってこう……心にグサっと来るものがありますからね」

「俺はイジメられてねぇ!!」

真言「大丈夫ですよ……学校だけが全てじゃないですから。あ、もし辛くて耐えられなくなったらいつでもここにお電話を」

「人の話を聞きやがれこのクソ店員!!あとなんでお前学校でもらうイジメ相談センターの紙持ってんだよ!!!」

 

 ダメだな……この羽根付きのワニ、略して羽ワニ、俺のコンビニ店員モードでも全然帰ってくれないや。

 

真言「はぁ……いいからさっさとお仲間引き連れて帰ってくださいよ。あんたがイジメられてるなんて思ってませんから」

「ガキが……舐めやがって…………!」

 

 まったく…………こいつは臨時ボーナスもんだな。

 

真言「…………さっさと帰れって言ってんだよクソワニ」ビリッ

「!?」

真言「俺がこうやって敬語使って下手に出てやってんだ。今のうちに消えろ、財布にすんぞ」

「て、テメェ…………!!!!!」

 

 これは殴りかかってくる、そう思ったとき……

 

「あれー?こんなとこで何してんのかな?羽ワニくん?」

 

 そいつは現れた。

 

「あ"あ"!?何だテメェ…………は…………」

 

 振り向いたワニは話しかけてきた青年を見るなりそのまま固まってしまった。

 

 黒いマスクを付けた、背も年も俺と同じくらいの青年。

 

真言「(……てかなんでこいつ固まってんだ?)」

 

「俺、前に言ったよなぁ?『二度と俺の目の前で不快なことはすんな。次はねぇぞ』って」

「ひっ……!」

「さてと、どうやって死にたい?圧死?失血死?オススメは、首吊りかな?」

「い、嫌だ、死にたくない……!」

「でもさー約束破っちゃったんだから、当然じゃね?」

「あ…………あ…………」

 

 汚いうめき声を上げて、羽ワニは白目を剥きながら気絶した。

 

 何だこの男……

 

真言「(…………不気味なやつだ)」

 

「………………っ!」

真言「………………?」

 

 今俺を見て驚いた?

 

「………あの」

真言「………………!」

 

 不良達は羽ワニを連れて逃げ帰り、今度は怖いくらいの静寂が訪れたその場で、話を切り出したのは向こうの方だった。

 

 

 

 

 

「………………アイス買いたいんですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「おかしなやつだったなぁ……」

 

 結局あの後あいつはアイスを買って帰っていった。俺もとりあえずセンパイに無事を伝えてバイトを引き継いでもらったけど……

 

真言「にしても何だったんだ……?あいつの得体のしれない感覚は……」

あこ「おーいまっくーん!」

真言「……あ、師匠」

 

 ぼんやりしながら歩いていたらしく、気づけばRoseliaの皆がいるCiRCLEの前だった。

 

紗夜「何やらぼーっとしていたみたいですが……大丈夫ですか?」

真言「あぁ……別に何ともないですよ」

リサ「ホントかな〜?マコくんはすぐ誤魔化すから」

友希那「しっかりしなさい。でないと燐子が心配してしまうわ」

燐子「……………」

真言「そ、そんな目で見ないでください燐子先輩……本当に何もないですから!」

 

 心配性なんだから………………ちょっと危なかったことは絶対に言わないでおこう。

 

「なぁクロ〜俺にも一本くれよーパ○コなんだから別にいいだろ〜?」

「自分で買ってこい」

「ケチ」

 

 再会というのは、必ずしも劇的ではない。

 

真言「あ」

「あ」

 

燐子「真言くん……?」

「ん?どうしたんだクロ、知り合いか?」

「お前……………」

 

 俺はそれを身をもって知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなーそれでクロと会ったわけか!えーっと……」

真言「神代です。神代 真言」

「そうそう……真言だからマコだな!」

真言「(何この人……無駄に明るいんですけど……)」

「黒…………いややっぱり違う……でもこれは…………」ボソッ

真言「?」

 

色「じゃあ紹介するよ!俺の名前は赤羽 色(アカバネ シキ)、こいつは黒鐘 真倉(クロガネ マグ)、よろしくな!」

真言「よ、よろしく……」

あこ「まっくん!あこ達は先に行ってるね!」

真言「は!?ちょ、待って……!」

リサ「ごゆっくり〜☆」

 

 ま、マジで行きやがった……

 

色「……とりあえずそこのカフェテリアで話そうぜマコ!」

真言「え、あ、いいんですか?」

色「まぁいいんじゃない?な!クロ」

真倉「…………ああ」

 

 やっぱり迷惑なんじゃ……

 

 そう思いながらも赤羽さんに連れられカフェテリアのテーブルに座る。

 

真倉「なぁお前」

真言「……なんでしょう」

真倉「お前…………何者だ?」

 

 何者だと言われましても……さっき自己紹介は済んだはずだろ?

 

真倉「お前みたいな奴はそうそういるもんじゃねぇ。どう生きてきたら"そう"なるんだ?」

真言「………………」

色「ちょいクロ!ごめんなマコ、こいつちょっと言葉が足りないとこがあってさ……」

真言「……悪いな赤羽、そんで黒鐘。俺は馬鹿なんだよ、だからな…………」

 

 どう生きてたら?はっ、そんなもん……

 

真言「どういう意味なのか、ちゃんと説明してくれんだろうな?」

 

 俺が聞きてぇよ。

 

色「っ!?」

真倉「………………俺にはお前の色が見える」

色「おいクロ……お前」

真言「俺の色……?」

 

真倉「神代、"共感覚"って言葉を聞いたことはあるか?」

真言「共感覚?」

 

 じいちゃんから昔聞いたことがある気が……

 

真倉「人の怒り、悲しみ、興味、尊敬……感情と呼ばれるものが、俺には色で見える。」

真言「人の……感情」

色「クロ……お前それ人にホイホイ言っていいのかよ……」

真倉「誰彼かまわずじゃねぇよ、ただ……」

 

 人の感情が色で見える、確かにすごい力だ。少なくとも俺にはできない。

 

真倉「神代、お前の色は異常だ」

真言「…………具体的には?俺は何色なんだ?」

 

 

 

 

 

真倉「俺が見たことのないくらいの…………闇」

 

 

 

 

 

真言「闇って……色じゃねぇじゃん」

色「まぁ……そうだな。クロ、本当にそんなのが見えんのか?」

真倉「だからこうやって俺の能力バラしてでも話をしてんだよ!」

 

真倉「お前…………何したらそんなんになる?どうしてそんな色で……お前はまともに生きていけている?」

 

真言「……………さぁな」

真倉「は?」

 

真言「今なんで自分が生きているのかなんてわかんねぇし、一歩間違えていたら完全に狂っていたってことも認める」

 

 今でも俺は正常じゃない。あの頃に囚われているという事実も、全てを投げ捨ててやりたくなる感情も、俺には確かに存在している。

 

 それが真倉の言う"闇"だろう。

 

真言「でもな、それでも俺は過去を全部背負って今を生きてる。いろんな人に支えられて、比較的幸せに、な」

 

 少しの沈黙の後に黒鐘が切り出す。

 

真倉「…………これ以上の追求はやめておく」

真言「助かるよ、黒鐘」

 

真言「まぁ1つ言えるのは……ほら、あそこにいるRoseliaの燐子先輩、あの人のおかげで今の俺がいる…………?」

色「へー!そいつはまた…………ってどうしたマコ?」

真倉「おい、あれ……なんか変なやつに絡まれてないか?」

色「クロ、お前何かとトラブルを引き寄せるな……神社にお払い行ってきたほうがいいんじゃねぇか?」

真倉「俺のせいかよ……ったく、面倒くせぇ…………っ!?」

 

 

 

 

 

真言「…………何、してんだ?

 

 

 

 

 

真倉「(闇が……一段と深く……!)」

色「ってクロ!早く追いかけんぞ!」

真倉「は!?あいつ一瞬であんなとこに!?」

色「化け物かよ……おいマコ!!」

 

 

 

 

 

「君達Roseliaだよね!ファンなんだ!ちょっとそこでお茶でもしない?」

燐子「あの……待ち人がいるので……」

紗夜「やめておいたほうがいいですよ。特にその人に声をかけるのは」

あこ「ねぇリサ姉……あそこからものすごいスピードでこっち来てるのって……」

リサ「あぁ……もう……大丈夫なの?」

友希那「…………死んだわね」

「ねぇ何話してんのか…………な?」

 

真言「おいこらテメェ

 

「あ?誰だお前?」

真言「どうでもいいだろ、そんなこと

 

 俺が誰か、お前が誰か、そんなことにはなんの価値もない。

 

 俺にとって価値のあるものなんて……

 

真言「その人以外、全部どうでもいい

 

 燐子先輩だけだ。

 

「は、はぁ?お前何言って……」

真言「死ね

紗夜「止まりなさい神代さん!約束を忘れたんですか!!」

燐子「真言くん!!」

 

真倉「よっと」

 

 黒鐘に後ろから腕を掴まれ、そのまま地面に組み伏せられる。

 

真倉「ちょっとは落ち着けよ」

真言「くっ……そが!!」

 

色「まりなさん連れてきたぞー」

真倉「月島さん、そこにいるチャラ男がRoseliaにちょっかい出してましたー」

 

 そう言うと、CiRCLEから出てきたいつもカウンターにいる人や、周りにいた通行人がざわめき出した。

 

 大事になることを恐れたのか、Roseliaに声をかけた男は足早に去っていく。

 

真倉「こういう風に頭を使うんだよ。もっと周りを見やがれバカ」

 

 なんだよ……何なんだよこいつは!!

 

真言「(全く動けねぇ……!!)」

真倉「(完璧に固めてんのに押し返されそうとか……なんつー馬鹿力だよ……)」

 

 

 

 

 

真言「……………はぁ、悪かった。頭冷えたからそろそろ離してくれ」

真倉「ならよし」パッ

 

紗夜「神代さんを力で押さえつけるなんて……」

真倉「確かにだいぶ化け物でしたよ、氷川さん」

 

 感情が色が見える男、黒鐘 真倉……

 

真言「俺にしてみりゃお前のがよっぽど化け物だよ」

 

真言「燐子先輩、ケガはありませんか」

燐子「うん……私は大丈夫……真言くんは?」

真言「俺のことは気にしないでください。平気ですから」

色「へーふーんなーるほどねー」

真言「…………なんだよ赤羽、その顔は」

真倉「(闇が晴れた?………………なるほどそういうことか)」

 

色「んじゃ、俺らはもう行くわ」

真言「お、おお。じゃあな」

色「なかなか楽しかったぜマコ、また会おうな!」

真言「……あ、黒鐘!」

真倉「どうした?」

 

真言「さっきは助かった。ありがとな」

 

真倉「…………あれはお前一人で助かっただけだ。俺がやったのはただの()()だよ」

真言「!」

 

真倉「…………?どうした神代」

色「ばっかお前!またそういう冷たいこと言うから!!美竹さんの件でわかったはずだろ!?」

 

真言「偽善……偽善かぁ……」

 

『俺は間違ってない……間違ってるのはあいつらだ』

 

『違う……俺は…………正しい』

 

 随分……懐かしい言葉に感じる。

 

 今でも俺は自分のやっていることを正義だとは思っていない。

 

 俺の正義はあの時から燐子先輩だからだ。

 

真倉「(緑……?なんで……)」

 

 

 

 

 

真言「でもまぁ、礼は言っとく。ありがとよ偽善者」

 

真倉「…………じゃあな、化け物」

 

 

 

 

 

 そう言い捨てて、共感覚持ちの偽善者は去っていった。

 

真言「にしても今日はまた一段と……疲れる日だったなぁ……」

 

 遠くなっていく二人の背中を見ながら、俺はそんなことを考えていた。




神界書庫 様「共感覚持ちの偽善者とちびっこ革命家」→https://syosetu.org/novel/223488/

今回は偽善者コラボということでとても楽しいものになりました!改めまして神界書庫 様コラボありがとうございます!

お気に入り登録 だだの小説好きな人 様 堕落のサキ 様 アスティオン 様 ありがとうございます。


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50.未来を歌う

遂に「監視対象と約束された日々」も50話を突破しました!これも全て読んでくれる皆様のおかげです!

本当にありがとうございます!そしてこれからもよろしくおねがいします!

それでは本編、どうぞ。



 〜〜【花咲川学園・生徒会室】〜〜

 

紗夜「神代さん、バンドを組んでみませんか?」

 

 いつもの生徒会での雑用中、紗夜先輩は俺にそう切り出した。

 

真言「唐突すぎませんか?そういうのは師匠の特権ですよ」

 

 というかなんでバンド?頼むから説明を省略しないでください。

 

紗夜「そこまで言うなら説明しましょう」

真言「最初からそうしてください」

 

 だんだん先輩のキャラが崩壊していってるような気がする……

 

紗夜「神代さんは『花咲川・羽丘合同文化祭』を覚えていますか?」

真言「…………………!確か前に俺が羽丘に行ったときに……」

 

 思い出すまで少し時間がかかったが、そうだ……あの「るんっ♪」の妹さんに届けた時に……

 

日菜『これ?これはね…………』

 

真言「あの時見せられた……」

紗夜「そう、日菜……羽丘の生徒会長に神代さんが配達した、あれがその文化祭の資料です」

 

 でもそれが何の……

 

紗夜「その文化祭の有志発表でRoseliaがライブをやります」

有咲「失礼しま──」ガラガラ

真言「っしゃあ!!」

有咲「!?」

紗夜「急に大声を出さないでください……」

 

 いやだって文化祭でRoseliaの演奏が聞けるんだぜ!?死ぬ気で席取りに行かねぇと!!

 

真言「"合同"文化祭だから羽丘にいる湊さんと姐さんも文化祭に出演できるって訳ですね!」

紗夜「まあ、そうなんですが……こういう時だけ頭の回転が速いんですから…………」

有咲「あ、合同文化祭の話ですか。それでこいつはこんな元気に……」

真言「ん?でもそれと俺がバンドを組むことに何の関係が?」

紗夜「これを見てください」スッ

 

 紗夜先輩が差し出した紙には、文化祭ライブに出演すると思われるグループ名が書かれていた。

 

真言「えーっと………………あ、Roseliaあった」

有咲「お前……やっぱそれしか見えてねぇのな。ポピパもいるぞ」

真言「……あとは分かんないです、これ全部先輩達と同じガールズバンドなんですか?」

紗夜「ええ、現時点で文化祭ライブに出演することが決まっているグループは、Poppin'Party、Afterglow、Pastel*Palette、ハロー、ハッピーワールド、そしてRoseliaの5グループです」

真言「………………有咲」

有咲「はぁ……何回も説明させんなよ?」

 

有咲「まずこのPoppin'Partyは私とあと沙綾がいるとこで、Afterglowってのはモカちゃんがいるとこ、Pastel*Paletteは前あった日菜さんがいて、あとハロー、ハッピーワールドは…………言わなくてもわかるよな。弦巻さんのとこだ」

真言「サンキュ」

 

 流石は俺の親友、俺がRoselia以外知らないことを知ってくれている。

 

真言「こうしてみると大分……というか全部のバンドに俺の知り合いがいますね」

 

 ん?「ハロー、ハッピーワールド」って書いてある下……

 

真言「【有志発表枠】…………?」

紗夜「気づきましたね……今の頭の冴えている神代さんなら次に私が言おうとしていることもわかるのでは?」

真言「ボクワカンナーイ」

 

紗夜「ここの有志発表枠、ここにある5グループが出演するからか全く希望者がいないんですよねぇ……こちらでいろいろと考えてはみましたがこのままではどうしても1グループ分の発表時間が余ってしまうんです」

真言「ナニモワカンナーイ」

有咲「思考停止するな」

 

紗夜「なので神代さん、ここに出なさい」

真言「強制!?」

 

 「出てください」ではなく「出なさい」ですか紗夜先輩!!

 

真言「いや無理ですって!俺が楽器引けないこと知ってるでしょ!?」

紗夜「楽器が弾けなくとも、バンドは組めます」

真言「は?」

燐子「市ヶ谷さん……これは何の……」

有咲「あ、燐子先輩えっとですね……」

 

紗夜「助っ人に連絡が取れました」

 

 自分のスマホを見ながらそう言う紗夜先輩。

 

真言「助っ人?」

紗夜「生徒会の仕事も終わりました。さ、行きますよ神代さん、白金さん」

燐子「え……わたしも……!?」

真言「ちょ、どこに行くんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「楽器に触れれば途端にスクラップにしてしまう……そんな神代さんがバンドでライブをする方法はたった1つ」

真言「いや、別にスクラップにはしませんけどね?」

 

紗夜「歌ってください。神代さん」

真言「人の話ちょっとくらいは聞きましょ?」

燐子「……………」

 

 だからカラオケに来たわけだ……

 

真言「でも俺、歌が大得意って訳じゃ……」

紗夜「安心してください。助っ人を呼んできました」

 

 そう言うと俺達3人がいるカラオケの個室に見覚えのある人が入ってきた。

 

友希那「なんで私が……」

真言「こっちのセリフですよ」

 

 どうしてこんなすげえ人を……

 

紗夜「神代さん、今日はあなたの歌唱力を試させてもらいます」

真言「嘘でしょ湊さんに聞かれんの?」

 

 こいつはとんだダメ出し地獄になりそうだ。

 

紗夜「ではまず何か好きな曲を1曲歌ってください」

燐子「真言くんは……どんな歌を歌うの……?」

真言「好きな歌はあるんですが、いかんせん俺の声じゃ出ないですよ」

 

 俺基本的にRoselia以外の曲聞かないから……

 

真言「流石に湊さんみたいには……」

燐子「あ……なるほどね……」

真言「でもCMとかの歌ならいけます」

 

 早速曲を入れて……これでよし。

 

真言「じゃあ……行きます」

 

 〜〜〜♪

 

友希那「この歌…………」

燐子「…………?」

紗夜「いや、確かにこれはCMの歌ですが……」

 

真言「青雲〜それは〜君が見た光〜♪ぼくが〜見た〜希望〜♪」

 

友希那・紗夜「「なぜこの曲に……」」

燐子「かっこいい…………」

友希那・紗夜「「え」」

 

真言「ふぅ……で、どうでした俺の歌」

友希那「え…………まあ、好きにしたらいいと思うわ」

真言「それでいいのか助っ人」

 

 その後も何曲か知っている歌を歌ったのだが、湊さんからの評価は、

 

友希那「…………まあまあ」

 

 だった。

 

真言「(どうなってやがる……!普段あんだけ音楽にストイックな湊さんが、ぶっ壊れたラジオみたいに同じことしか言ってねぇぞ……!?)」

 

 そんなに酷いのか俺の歌声は……!

 

燐子「そんなことなかったよ……?」

 

 まあいいや(単純)

 

真言「折角なら皆も歌いましょう。ほら燐子先輩も」

燐子「わ、わたしも……!?」

友希那「今日はあなたの歌唱力を見に来たのだけれど」

真言「マシなアドバイス1つしてねぇくせに……まぁいいや、湊さんも歌ってください。点数勝負しましょうよ」

友希那「なんで私まで……」

 

真言「…………負けるのが怖いんですか?」

 

友希那「上等よボコボコにしてやるわ」

真言「(チョロ)」

紗夜「神代さんも普段あんな感じですからね?」

 

 このあとめちゃくちゃ歌った。時間いっぱいまで。

 

 やはり、というか皆さん歌がお上手でしたねはい。Roseliaの他のメンバーってバックコーラス的な事もやってるから……え?点数勝負の結果?聞かなくてもわかるでしょ?

 

真言「……………」

友希那「ふっ」

 

 普通に考えてバンバン90点台後半出す人に勝てるわけなくない?誰だよこの人煽ったやつ!

 

真言「……でも普通に悔しい」

友希那「筋は悪くないわ。声もよく通ってるし、肺活量も人並み以上にある。後もう少し姿勢をこう……」

真言「こうですか?」

 

 カラオケからの帰り道を歩きながら歌うポーズを取ってみる。

 

燐子「なんというか……歌ってる真言くん、楽しそうでした……」

紗夜「ええ、そうですね(完全に見惚れてましたね白金さん……)」

 

真言「……………」ピタッ

友希那「真言?」

真言「今日ずっと考えてたんですけど」

 

真言「紗夜先輩は何で、俺に歌わせようとしてるんでしょうか」

 

 先輩は文化祭のライブに出させたいみたいだけど、そんなの俺ひとりじゃどうにもできやしない。

 

友希那「期待してるのよ」

真言「……期待?」

 

友希那「これまで手塩にかけた後輩が、自分達がいなくなってもちゃんとやっていけるという所を紗夜は見たいのよ。きっと」

 

真言「そう……………か」

 

 いつかは……いや、確実に来年、

 

 

 

 先輩達は卒業してしまう。

 

 

 

 当たり前……それは当たり前のこと。

 

 ふと前を行く燐子先輩と紗夜先輩に目をやる。

 

 穏やかに会話をしながら歩く2人の笑顔。

 

真言「この光景が見られるのも……あと少しなのか……」

友希那「……真言、私もずっと考えていたことがあるのだけれど」

真言「何ですか?」

 

友希那「あなた、本当にこのままでいいのかしら」

 

真言「それはどういう……」

友希那「もちろん、燐子のことよ」

 

友希那「あともう少しで私達3年生は卒業してしまうのよ。燐子と結んだ約束、忘れた訳じゃないでしょう?」

 

『一生、なんて不確定なことは言わねえ。だけど、せめてあんたがこの高校を卒業するまでの間……』

 

『俺があんたを守る。あんたに……恩を返させてくれ……』

 

友希那「私の記憶が正しければ、あなたが燐子と結んだ約束の期限は……」

真言「わかってますよ」

 

 燐子先輩との約束は、燐子先輩が卒業した時点で……

 

友希那「あなた、"卒業したら自分にはもう燐子に会う資格がない"とか考えてるんじゃないでしょうね」

真言「……約束は、俺と先輩とを繋ぐ物なんです」

 

 だからそれが無くなってしまえば……俺は……

 

友希那「それだけじゃないでしょう?あなたがこれまで燐子と、私達とを繋いできたものは」

 

友希那「それに今、あなたは迷っている」

真言「……!」

友希那「恋愛というものに疎い私でも見てればわかるわ。特に最近のあなた達を見てると」

 

友希那「真言、あなたは……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「……燐子の事が好きなんでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「………………」

友希那「………………」

 

 好き……

 

真言「俺は」

 

真言「俺は燐子先輩やRoseliaの皆が大好きです。それはずっと、変わってません」

 

真言「でも、燐子先輩だけは別なんです…………そんな気がします」

友希那「別?」

 

真言「実を言うと、最初に燐子先輩と出会ったときは、俺はあの人のことが嫌いでした」

 

真言「なんで俺なんかに構うのか、なんで俺なんかを助けようとするのか、なんで俺の邪魔をするのか」

 

 なんで自分を傷つけてまで、俺に「傷ついて欲しくない」なんて言えるのか、

 

真言「先輩はきっと、誰よりも優しい。だからこんな俺も救ってくれた」

 

 俺なんかより余程強い、正義の味方なんだ。

 

真言「いつしか俺の中で、先輩は恩人になり、尊敬の対象に……それで今では…………」

 

 今では……今では…………?

 

友希那「…………?」

 

真言「今では…………自分がよくわかりません」

 

 昔はハッキリしていた。先輩は俺の恩人で、あの人との約束を守れるのなら俺はなんだってやる。

 

 ただそれだけだった。

 

真言「前、プールに行ったとき、先輩が変な男達に絡まれてるのを見て…………自分でも驚くぐらい、ドス黒い感情が吹き出してきました」

 

 あの感情が殺意なのか憎悪なのか……

 

友希那「……そうなるのはあなたにとって燐子が特別な存在だからよ」

真言「当たり前です」

友希那「いえ、そういうことじゃなくて……何でこう鈍感なのかしら……」

 

友希那「……真言、()()()()()()()()()()、あなたはどちらが大切なのかしら」

 

 先輩と約束…………

 

真言「俺は…………」

 

『……では質問を変えます。私と白金さん、()()()()()()()()助けられないなら、どちらを助けますか?』

 

 何で今これを思い出した……?

 

 約束は俺の全てだ。

 

 じゃあ燐子先輩は?

 

 

 

 俺にとって燐子先輩はなんだ?

 

 

 

友希那「…………まぁいいわ、そこから進むのもそこに留まるのもあなたの自由だから」

友希那「けれど、これだけは言っておくわ」

 

友希那「中途半端な答えで燐子を傷つけたら、私、許さないから」

 

真言「……肝に銘じておきます」

 

燐子「真言くん……?」

紗夜「どうかしたんですか?」

友希那「なんでもないわ」

真言「…………」

 

 答えを出さなくてはいけない。

 

 もう、先輩達には時間がないのだから。

 

 【メッセージを受信しました】

 

真言「ん?」ピッ

 

 メッセージ?誰から……………

 

真言「は?」

紗夜「いつまでそこに立ってるんですか、ほら、早く行きますよ」

真言「え、あ、はい!今行きます!」

 

 

 

 

 

【from兄貴】

 

【じいちゃんからの伝言、「さっさと母さん達に挨拶しに帰って来い。この前電話した時にいたお友達も連れて」だってさ。なるべく早く帰ってきなよ?】




次回より【監視対象 帰省編】開幕。

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51.帰省 想い出 監視対象【監視対象 帰省編】

真言ファミリーのキャラ設定(めっちゃ薄い)を00.に載せておきました。良ければどうぞ。

それでは、早速本編行きましょう!



 〜〜【カラオケからの帰り道】〜〜

 

真言「な……!」

 

 送られてきたメールの文面を見た俺はそのまま固まる。

 

【じいちゃんからの伝言、「さっさと母さん達に挨拶しに帰って来い。この前電話した時にいたお友達も連れて」だってさ。なるべく早く帰ってきなよ?】

 

 は?何言ってんだ兄貴……じゃなくてじいちゃん!

 

 "Roseliaの皆誘って実家に帰ってこい"???

 

真言「バッカじゃねぇのか!?」

 

 そんなのできる訳ねぇだろうが!ハードル高すぎんだろ!!

 

紗夜「なに大声出してるんですか」

真言「いやこれ……!」

燐子「………………え」

友希那「これは…………」

真言「ったく何考えてんだかうちのじいちゃんは……」

 

友希那「行くわよ」

真言「は?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「わぁ〜!見えてきたよ〜!!」

燐子「お、大っきい……」

リサ「あそこがマコくんの実家かー……」

紗夜「確か神代さんの家は旅館を経営していると言っていましたが……まさかあれ程とは」

友希那「皆、早く行くわよ」

真言「…………?」

 

 今の時刻は昼過ぎ。

 

 この場所は俺の故郷。

 

 学校もないような小さな村。

 

 あるのは老人達の家と少し大きめの銭湯と、バカでかい俺の家の旅館くらい。

 

 …………おかしい。

 

真言「あれ?」

紗夜「どうかしましたか?神代さん」

「おーいマコー」

あこ「あ!あの人!」

燐子「真言くんのお兄さん……だったよね……?」

リサ「んーっと確か名前は……」

紗夜「"神代 正義(かみしろ まさよし)"さん……でしたよね?」

真言「えぇ……」

 

 おかしい……!

 

正義「やぁRoseliaの皆さん、遠いところからよく来てくれたね」

友希那「お世話になります」

あこ「なりまーす!」

紗夜「今回はお誘いいただきありがとうございます」

正義「あんまりかしこまらなくていいよ。今日は旅館も休みだし、自分の家だと思ってゆっくりしていきな」

あこ「はーい!」

真言「おかしい!!」

燐子「真言くん……!?」

 

 なんで俺はRoseliaの皆と実家に帰ってきてるんだ?

 

 そしてなんで兄貴は皆と打ち解けるのがこんなに早いんだ???

 

正義「ささっ、こっちこっち」

リサ「見れば見るほどマコくんに似てないね……」

友希那「確かにそうね」

正義「いつもマコがごめんね。あいつ無愛想だから」

 

 ……それが神代 正義という人間だったわ。長い間会ってなかったから忘れてた。

 

あこ「うわぁ……近くに来てみるとホントに大っきいお屋敷……」

真言「ですね」

リサ「いや君の家でしょ」

 

 いや、それでもこの自宅兼旅館の無駄に広い玄関をくぐるのもいつぶり………

 

「まことにぃーーー!!!」

「光、待って」

「二人ともあんまり走っちゃダメよ〜」

 

 奥の方から見慣れたような、随分久しぶりのような3人がこちらに向かってくる。

 

真言「ご無沙汰してます由香(ゆか)義姉さん、そんでもって(ひかる)(しずか)

光「ひさしぶりーーー!!!」

静「ちょっと落ち着いて」

由香「二人ともマコくんが帰ってきてはしゃいでるわね〜♪」

 

 光は昔から元気すぎるからな……静はあんまはしゃいでる感じしないけど。

 

友希那「光くん…………まるであこを見てるみたいだわ」

あこ「えぇ〜!?あこもう高校生ですよー!」

真言「静の方は湊さんに似てますけどね」

リサ「確かに」

友希那「リサ?」

 

光「……………」ジーッ

静「……………」ジーッ

 

あこ「あ、あこ達すっごい見られてますよ……」

友希那「そうね……この見られる感じは真言そっくりだわ」

真言「こいつらの叔父ですから」

 

 懐かしいなこの感じ……なんか安心するっていうか……やっぱりいいな。

 

燐子「ふふっ……」

真言「どうしました?燐子先輩」

紗夜「楽しそうですね、真言さん」

 

 バレてた。

 

真言「…………まぁ、久しぶりの家ですし」

正義「それじゃあマコ、帰ってきたお前に俺達から1つ言うことがある」

真言「なんだよ、急に改まって」

 

 光の「せーの」という掛け声とともに、4人が一斉に告げる。

 

 

 

 

 

「「「「おかえりなさい!!」」」」

 

 

 

 

 

真言「……………ただいま」

 

 ……先輩、そんな温かい目で見ないでください。

 

正義「あ、それともう1つ」

真言「まだ何かあんのかよ」

 

正義「奥の部屋でじいちゃんが待ってる」

 

真言「………………」

正義「向こうでの話、いろいろ話を聞きたいんだってさ」

燐子「真言くん……」

真言「……大丈夫ですよ、燐子先輩達は先に行っててください。義姉さん」

由香「はいは〜い♪じゃあRoseliaの皆さんはお部屋に案内するわね♪」

 

紗夜「……神代さん、大丈夫でしょうか。きっとあの時のことを聞かれますよ」

燐子「わかりません……でも真言くんの家族なら…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【神代邸・祖父 清正の部屋】〜〜

 

真言「……………」

清正「……………」

 

 短く切りそろえられた白髪に俺に似た鋭い目つき、小柄に見えて実は結構な筋肉をその和服の下に隠して、この和室の中央でただあぐらをかいて座っているのに謎に威圧感のある老人。

 

 言わずもがな、この人が俺の祖父、神代 清正(かみしろ きよまさ)だ。

 

 な、なんだよこの空気……バカクソ気まずいんだが!?この場合孫である俺から話しかければいいのか?

 

真言「(…………何を!?)」

 

 何を話せばいいんだよ!てか呼んだのはじいちゃんだろ!!

 

清正「…………マコ」

真言「!」

 

 じいちゃんって普段優しいのに謎に覇気があるっていうか……久しぶりに会うと緊張するな……

 

真言「な、なに……?」

清正「まぁいろんな事を聞きたいが…………」

 

清正「まずはよく無事に帰ってきてくれた。マコ」

 

真言「あ、うん……ただいま」

 

 久しぶりに訪れた祖父と孫との団らんの空気。

 

 ……そこからじいちゃんのマシンガン質問タイムが始まった。

 

清正「ちゃんとご飯は食っておるか?」

清正「向こうで友達はできたか?」

清正「友達に迷惑をかけておらんか?」

清正「あの娘達とはどんな関係なんじゃ?」

清正「というか誰が本め──」

真言「ストーーーップじいちゃん!そんな一気に質問されても答えられるわけ無いでしょうが!!」

 

 ハッとした表情で止まるじいちゃん。

 

清正「いやすまんすまん……ついうっかり」

真言「まったく……1つずつ答えるからな!」

清正「それでいい。ゆっくり答えてくれ」

 

 

 

 

 

真言「飯は……まあ食ってるよ。なるべく自分で作るようにしてるし」

 

 ここを出るときに義姉さんに教えてもらっといて良かったな。

 

清正「向こうでも友達はできたか?」

真言「あぁ、1人……親友ができた」

 

 あんたらみたいに俺を「マコ」って呼んでくれる奴が。

 

清正「ほぅ……それは是非とも会ってみたいな…………」

真言「良いやつだよ。優しいし、面白いし、いろいろ世話かけたり、かけさせられたり……」

清正「良い人と巡り会えたな」

真言「うん……」

 

清正「あの子達"ろぜりあ"だったか……?あの子達とはどんな……」

真言「じいちゃんが期待してるような関係じゃねぇよ」

清正「……折角のハーレムじゃのに全くつまんない孫じゃのぉ……ヘタレか?ワシの孫はヘタレなのか……?」

真言「んだとコラァ!?」

 

 こんな腹立つジジイだったか俺の祖父は……つかじいちゃんに「ハーレム」とか「ヘタレ」とか教えたの誰だよ!?

 

清正「冗談じゃよ。相変わらず冗談が通じないのぉ……」

 

清正「しかしじゃマコ、ワシの見る限りあの子達とお前との関係はそこまで浅くないように思える。少なくともお前の実家に一緒についていくくらいには」

真言「…………」

清正「特にあの娘…………」

 

清正「長い黒髪の子、お前にとってあの子だけ特別なんじゃろ?」

 

 そうだ……この人はこういう人だった。

 

 怖そうに見えて、実はおちゃらけた老人……けれど恐ろしいくらいに頭が切れる。

 

 俺の知っている限り最強の祖父。

 

真言「(俺なんかよりよっぽど化け物じゃねぇか……)」

清正「言わんでも目を見ればわかる。お前に何かがあって、結果的に彼女達といる……そうじゃろ?」

真言「まぁ、ちょっといろいろな……」

 

清正「話しては…………もらえんか?」

 

真言「…………………」

 

 俺はまだ、じいちゃんにも、兄貴にも、義姉さんにも、"監視対象"について何も伝えていない。

 

 家族と連絡を取ったのも、あの時の俺の誕生日が初めてだ。

 

清正「もちろん無理にとは言わん。お前が話したくなったら……」

真言「いや、話すよ」

 

 じゃなきゃ俺がここに帰ってきた意味がない。

 

真言「じいちゃん、俺な……向こうで"監視対象"になっちまったんだよ」

 

 俺は全てを話した。

 

 学校であったイジメのこと、イジメを助けようとしたら俺が逆に燐子先輩と紗夜先輩に助けられたこと、燐子先輩が恩人になったこと。

 

 燐子先輩と約束を結んだこと。

 

『真言……お前は、正しい人間になりなさい──』

 

 

 

 

 

 …………()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 じいちゃんは相槌も打たず、ただただ黙って俺の言葉に耳を傾けてくれていた。

 

 そして全てを話し終えたあと、じいちゃんはただ──

 

清正「すまなかったな……」

 

 ──と謝った。

 

真言「なんで……じいちゃんが謝んだよ……」

清正「お前が辛いときに側にいてやれないで…………本当にすまなかったな……」

 

真言「謝んなよ、じいちゃん。もう終わったことだし……それにほら」

真言「今の俺には燐子先輩達がいる……それでいいじゃねぇか」

 

 少なくとも俺は、それだけでいい。

 

清正「…………後であの子達にお礼を言わなくてはな」

 

 

 

 

 

清正「長話になってしまったな……もうすぐ日が沈む。今日はお客さんがおるから楽しい食事になりそうじゃ」

真言「……なぁじいちゃん」

清正「なんじゃ?マコ」

 

 さぁ、本題を始めよう。

 

真言「頼みがあるんだ」

 

 俺はこの為に、この家に……じいちゃんに会いに来たんだ。

 

真言「俺に護身術を教えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、燐子たちは……

 

由香「本当にごめんね〜夕飯の準備も手伝ってもらっちゃって」

リサ「いえいえ気にしないでください!」

紗夜「泊めてもらえるせめてものお礼です」

友希那「リサ……私も何か……」

リサ「友希那は静ちゃんと遊んでて!!!」

 

あこ「フッフッフ……よくぞ来たな我が宿敵!勇者ヒカルよ!」

光「ここであったが100年め!いまこそおまえをたおしてやる!!」

あこ「あこのこの右手に宿りし闇の力を……今こそ開放する!!」

光「やみのちから!?なにそれかっけぇ!!」

あこ「ハッハッハ!!」

 

 小学生相手に闇の力を容赦なく披露する高校1年生、宇田川あこ。絶賛中二病である。

 

友希那「あこ……ノリノリね」

静「…………」クイクイ

友希那「?」

静「湊さん…………?」

友希那「友希那でいいわよ」

静「友希那さんは……お歌を歌うんですか?」

友希那「えぇ、まぁ。一応Roseliaではボーカルをやってるわ」

静「聞きたい……です」

友希那「いいわよ、何の歌が聞きたいのかしら?」

 

由香「あらあら……二人の面倒まで見てもらって申し訳ないわ〜」

紗夜「湊さんの場合はこっちを手伝うよりよっぽど安全です」

 

静「じゃあ『レッドツェ○ペリン』!」

紗夜・リサ「「ハードロック!?」」

 

 小学生が聞く音楽としてはなかなかに異質だったが、神代の血を引くものは大概全員どこか趣味がズレている。

 

友希那「あなた……なかなかやるわね」

 

燐子「真言くん……遅いな…………っ///」

 

 心の声が溢れてしまったと気づいた時には、ニヤニヤとした顔でリサに見られていた燐子。

 

リサ「なに〜?そんなにマコくんが心配〜?」

由香「あらあら♪青春ね〜」

燐子「今井さん……!///」

 

正義「心配なら見に行ってみるかい?」

由香「確かにすこーし長話だわ……もうちょっとでお夕飯もできるし、皆に呼んできてもらいましょうか♪」

あこ「はいはーい!あこも行くー!!」

光「じゃあおれも!」

正義「うちは無駄に広いからね、俺が案内するよ」

 

静「私はお母さんを手伝う」

由香「ありがとね〜静♪」

 

リサ「友希那ーほら行くよー」

友希那「………………」

リサ「……どうしたの?燐子をじっと見たりして……」

燐子「?」

友希那「何でもないわ」

 

正義「じゃ行こっか。おじいちゃんの部屋に」

光「しゅっぱーつ!」

あこ「おー!」

紗夜「……宇田川さんのテンションが光くんと同じでも違和感がないですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正義「おじいちゃん?入るよー」

 

 そう言って部屋の襖を開けるが、中には誰もいなかった。

 

正義「あれ……おかしいな」

紗夜「誰もいませんね……」

 

光「きっとこういうときはどーじょーだぜ!」

あこ「道場?」

光「うん!まことにぃとじーちゃんはいっつもどーじょーでしゅぎょーしてるんだ!」

紗夜「ここって道場まであるんですか……!?」

正義「まぁね。今ではあんまり使ってないけど管理はちゃんとされてあるよ。こっち」

 

 

 

 

 

 〜〜【神代家・道場】〜〜

 

リサ「でっか!」

あこ「体育館くらいありそう……」

正義「ははっ!そんなには大きく無いよ」

 

光「よーし!たのもー!」

 

 元気よく道場の扉を開ける光。そこにいたのは…………

 

清正「お、光に"ろぜりあ"の皆さんまで……どうかしましたか?」

正義「もうすぐ夕飯だから呼びに来たんだけど……」

清正「おお!もうそんな時間じゃったか!いやすまんすまん。思ったより手こずってしまってな」

紗夜「……()()()()()?」

 

燐子「あの……真言くんのおじいさん……」

清正「なにかな?燐子さん」

 

燐子「真言くんはどこですか……?」

 

 そう、道場の中にいたのは祖父の清正だけで真言の姿がどこにもなかったのだ。

 

清正「ああ、真言なら……ほれ。上を見てみなさい」

燐子「上……?」

 

 清正の言葉につられ全員が上を、道場の天井を見上げる。

 

 そして見上げた瞬間……

 

 ──ドサッ

 

燐子「………………………え?」

友希那「……………」

リサ「うそ…………」

紗夜「な……!」

あこ「ま…………」

 

 

 

 

 

あこ「まっくん!?」

 

 あまりにも唐突のことで反応が遅れた5人。だがそれも無理はない。

 

 

 

 

 

 落ちてきた。

 

 

 

 

 

 

 天井に突き刺さっていた真言が木のくずと共に落ちてきた。

 

 うつ伏せのまま彼はピクリとも動かない。

 

紗夜「あなた……一体何を……!!」

燐子「っ!」

友希那「リサ、あこ、下がって」

正義「そう怖い顔で睨みなさんなお嬢さん方……ただ気絶しとるだけじゃ。後でちゃんと説明を………………!?」

 

真言「………………は」ピクッ

 

リサ「すごい怪我……血も出てるし早くお医者さんに……!」

燐子「真言くん!だいじょ──」

 

清正「そいつに近づくな!!」

 

Roselia「「「「「!?」」」」」

清正「今のそいつはお前達が知っている真言ではない!!!」

 

 恐ろしい形相で叫ぶ清正。尋常じゃない殺気とも呼べる空気が道場内を染めていく。

 

紗夜「それはどういう……」

清正「正義!今すぐその子達を連れてここから出ていけ!!」

正義「まさか……!」

 

真言「は…………はは…………」

 

 先程まで倒れたまま微動だにしていなかった真言がゆらりと立ち上がる。

 

燐子「真言……くん…………?」

 

 

 

 

 

真言「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

あこ「え……え……?」

紗夜「笑って……る?」

正義「皆!早くこっちに!!」

リサ「マコくんのあの笑い方……!」

 

清正「まったく……世話の焼ける孫じゃのぉ……」スッ

 

 構えをとる自分の祖父に向かって、狂ったように笑いながら突っ込んでいく真言。

 

 その見開かれた目には純粋な殺意のような物が宿っていた。

 

燐子「ダメ!!!」

紗夜「白金さん!?」

 

 明らかに様子がおかしい真言を止めようととっさに後ろから抱きつく。

 

真言「っ!」

 

 真言の力ならばたとえ後ろから掴まれたとしても一瞬で振りほどける。

 

 しかもたかが女子高生の力。振りほどくどころか今の真言なら見境なく吹き飛ばしかねない。

 

 けれどそうはならなかった。

 

紗夜「………………止まった」

清正「ほぅ…………」

 

燐子「落ち着いて……ここに真言くんの敵はいないよ……」

真言「が……ぁ……!」

 

 苦しそうに呻く真言の顔にもう笑顔はなかった。

 

燐子「大丈夫……わたしも皆もここにいる……だから大丈夫……大丈夫だから……!」

真言「………………ぁ」

燐子「お願い……止まって……!」

真言「…………………」

 

あこ「ま……まっくん動かなくなっちゃったよ……?」

紗夜「気絶……したんでしょうか」

清正「まったく……驚いて心臓止まるかと思ったわい」

燐子「真言くんのおじいさん……これはどういうことなんですか……!」

清正「安心せい。ちゃんと説明する……だがまずは……」

 

 真言を一瞥して、神妙な顔で言う。

 

清正「ここではなんじゃ、皆でワシの部屋に来なさい。正義、真言を頼んだぞ」

正義「……わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【神代邸・清正の部屋】〜〜

 

 部屋には清正とRoselia5名とが向かい合って座っていた。

 

 隣の部屋には負傷した真言を家族4人が治療していた。

 

清正「まずは礼を言わねばな。燐子さん」

燐子「はい……?」

清正「さっきも、そして学校でも、マコを助けてくれてありがとう」

紗夜「(神代さん……話せたんですね)」

 

清正「そして安心してほしい。ワシはマコが結んだ約束を破らせるような真似はしていない」

燐子「あの……それはどういう……」

清正「アイツは誰も傷つけていないということじゃ。攻撃を受けずに暴走したマコを止めるのはちと至難の業じゃったがな」

 

 肩をすくめてみせる清正。こころなしか来たときより疲れた顔をしている。

 

紗夜「……先程の"アレ"は何だったんですか」

清正「ん…………まぁそれから説明するとしようか」

あこ「おじいちゃんはあこ達の知ってるまっくんじゃないって……」

清正「……皆さんはマコが本気で怒っているところを見たことがあるか?」

リサ「怒った……」

友希那「……少なくとも一度、私の父親に殴りかかるくらい怒りで何も見えなくなったときを見たことがあるわ」

あこ「確かに!あの時のまっくんは怒ってました!こう……ガーッって感じで!」

清正「恐らくじゃが……その時のマコにはまだ理性があった。直前で止まったのではないか?」

友希那「…………えぇ」

 

清正「マコが本気で怒りをあらわにするとき……アイツは笑うんじゃよ」

リサ「(もしかしてアタシが変な奴らに絡まれた時のあれも……)」

 

『そうかそうか!!お前らには俺が"正義のヒーロー"に見えるのか!!あははははははははははははははははははははははは!!!!!』

 

紗夜「今井さん?大丈夫ですか?」

リサ「う、うん……」

 

清正「ああなったマコは目の前の"敵"を殺すことしか考えておらん、まるで化け物のように」

燐子「………………」

紗夜「………………」

 

 2人の脳裏には監視対象になる前の、あの自暴自棄と呼ぶに等しいときの真言の顔が浮かんでいた。

 

清正「暴走した以上言葉による説得は不可能。実力行使で気絶させるしかない……と思っていたんじゃがな」

燐子「?」

清正「(白金燐子……なぜだかわからんがこの娘の声だけは真言に届くわけか……)」

 

紗夜「ちょっと待って下さい」

清正「ん?」

紗夜「もしかして……前にも神代さんは"暴走"したことがあるんでしょうか。先程からそのような口ぶりだったので……」

 

清正「………………ああ。確かにあった」

紗夜「やっぱり……」

清正「あの子がこの家を出て、花咲川学園に入学するという話が出たときにな」

 

 右腕を押さえ、自嘲気味に笑って言う。

 

清正「あの子はワシの右腕をへし折っていったよ…………あの笑顔でな」

燐子「え……」

 

清正「……1から説明しようか、あの子のことを」

 

紗夜「お願いします」

友希那「紗夜……」

燐子「わ、わたしも……少しでも真言くんの事が知りたい……から……!」

 

清正「後悔……しないな」

 

友希那「私達も覚悟を決めましょう。でなきゃ真言の抱えてるものはいつまでも分からないままだわ」

リサ「…………そうだね……わかった」

あこ「あこも……!覚悟はできたよ!」

 

清正「(いい友人を持ったな……マコ)」

 

清正「では話そう。マコが……今の真言のようになってしまった原因について」

 

清正「…………あの子がああなってしまうのは、恐らく両親が原因じゃ」

紗夜「両親?」

清正「あの子の両親はな……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

清正「2人とも死んでおる……それも、真言の目の前でな」




──to be continued……

お気に入り登録 カール・クラフト 様 sousei 様 七鹽 様 坂田銀時 様 天神綾風 様 しだしだ 様 ありがとうございます。

ps.皆さんのおかげで40000AU行きました!本当にありがとうございます!ここから本編はシリアスに入りますが、どうかこれからも真言くん達の日々を見守ってあげてください!


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52.正義 才能 化け物【監視対象 帰省編】

清正「2人とも死んでおる……それも、真言の目の前でな」

 

清正「父親は小学生の時、そして母親は高校に入学する数週間前に」

 

 その事実を知ったRoseliaの反応は、「絶句」の一言に尽きる。

 

リサ『ごめんね〜……というかマコくんご両親は?大丈夫なの?』

 

真言『……ああ、俺、一人暮らしなんですよ』

 

リサ「(あの時感じた違和感も…………そういうことだったんだね……)」

紗夜「(私今、とても………………怖い。神代さんが、だんだん普通の人に見えなくなっていくような気がして……)」

友希那「……どうやら真言は」

清正「!」

 

 口を開いたのは5人のリーダーである友希那だった。

 

友希那「私達が思っていたよりも"底"が見えない男のようだわ」

清正「底が見えない……か。確かにそうかもしれんのぉ……」

 

清正「人の知られたくない過去を知るというのはな、言うなれば地獄の釜の底を覗こうとすることと同義なんじゃよ」

 

清正「それでも聞くか?燐子さん」

 

燐子「……………」

あこ「りんりん……」

燐子「おねがいします…………」

 

 その目には決して揺るがない意思があった。

 

清正「……君は強い人じゃな。まるで…………いや、なんでもない」

 

 

 

 

 

清正「あの子にはな、絶対的な才能があったんじゃ」

紗夜「絶対的な…………才能」

友希那「一体なんの話……」

清正「これも大切な話なんじゃよ、聞いておくれ。幸い時間もあるしな」

 

清正「これはワシの持論なんじゃが、人にはそれぞれ才能がある」

 

清正「勉学の才能、運動の才能、音楽の才能…………この世に天才はいても才能のない人間などおらん」

 

清正「無論、マコにも才能があった。ただしあの子の場合……それは開花してはいけなかったんじゃ」

あこ「まっくんの……才能?」

紗夜「開花してはいけない才能……一体どんな……」

 

 

 

 

 

清正「人を…………殺す才能」

 

 

 

 

 

紗夜「っ!」

 

燐子「そんなわけない!!!」

 

あこ「りんりん!?落ち着いて!」

燐子「真言くんは誰より優しい!本当は誰も傷つけたくなんかないの!!」

友希那「燐子」

燐子「っ…………!」

 

清正「…………知っておるよ」

 

清正「才能というのは時に残酷な物じゃ。本人が望んでいないのに天から勝手に授かってしまう」

 

清正「…………たがらこれは、あの子の才能を開花させてしまったワシらのせいなんじゃ」

 

清正「今でも忘れはせん。真言が変わってしまったあの日を」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ワシらの家系はな、由緒正しき……とはいかんまでもそこそこ古くからある格闘術を代々継いできたんじゃ。

 

 ワシも、正義も、真言も、そして真言の母親も、この道場で体術を学んでおった。

 

 ワシは仕事のため、真言達は基礎的な体力と、自分の力の使い方を覚えるため。

 

まこと「すきあり!」

「遅いわ!」

まこと「うげッ!」

清正「……本気で殴るやつがおるか」

「私の息子に手加減など必要ない!さぁ次は正義だ!来い!」

まさよし「やだ」

「あはは……大丈夫かい?真言」

まこと「いってぇ……」

 

 本当に人と戦う訓練をしておったわけではない。言ってしまえば趣味のようなものなのじゃよ。

 

「今の時代、暴力では何も解決しない」

 

 真言の父親がワシらの目の前で言った言葉じゃ。

 

 面白い男じゃろ?神代家に代々受け継がれてきたものをそいつは簡単に一蹴しよった。ただニコニコしておるだけではなくしっかりとした芯がある。

 

 まぁ、そういうところにワシの娘は惚れ込んだのかもしれんが……それでもワシら家族にはちゃんと理解を示しておった…………いい父親じゃったよ。

 

まこと「じーちゃん!いってくるね!」

「行ってきます、お義父さん」

清正「二人とも気をつけてな」

 

 今でも夢に見る。

 

 もしあの時、ワシもふたりについて行っていたら……

 

 あのいい父親は死ななかったはずなんじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まこと「とーさん!はやくいこー!」

「そんなに急がなくてもお母さんは逃げたりしないよ。お仕事だからね」

まこと「かえったらまたバトルだからね!こんどはぜったいかつ!」

「真言は負けず嫌いだなー……」

まこと「ヒーローみたいにカッコよくなりたいから!ずっとまけてたらカッコわるいじゃん!」

「なるほどね…………ん?」

 

 真言の目の前に現れたのはひとりの男じゃった……それも手にナイフを持った、明らかに普通じゃない。

 

まこと「え…………」

「真言!!!!!」

 

 一瞬の出来事だったそうじゃ。

 

 真言に振り下ろされるナイフを、身を挺してかばった。

 

 男は何度も何度もナイフを父親の背中めがけて振り下ろした。

 

 そして父親は真言を最後まで守り抜いた、失血死で死んでしまう……最後のときまで。

 

まこと「おれの…………おれのせいだ…………」

清正「マコ…………それは違う、お前のせいではない」

 

 病院にいた真言は全身返り血にまみれて、ボロボロ泣いておったよ。

 

 男は逮捕され、死刑判決が言い渡された。

 

 真言達を襲った動機は…………「誰でも良かった」。

 

 それを聞いた真言はワシにこう言った。

 

まこと「じいちゃん」

清正「…………なんじゃ?」

 

まこと「せいぎのヒーローってね……ぜったいにまけないんだよ」

 

まこと「どんなにわるくてつよいやつにも、ぜったいにまけないんだ」

 

まこと「だからおれ……せいぎのヒーローになりたい」

 

まこと「もっと……つよくなって……せいぎのヒーローになって……まもりたい…………」

 

 

 

 

 

まこと「だ、だいすきなみんなを…………ま"も"り"た"い"ぃ……!」

 

 それは涙と嗚咽にまみれた……決意じゃった。

 

清正「もうわかった……お前の決意は痛いほどわかったよ……!」

まこと「ひぐっ…………ぁ」

 

 しかしその決意は、子供が背負うにはあまりにも大きすぎたんじゃ。

 

 本格的にワシの道場に入り、真言は狂ったように鍛錬に打ち込んだ。

 

 来る日も来る日も人を倒す技術を身に着け、とてつもない速さで強くなっていった。ワシや真言の母親に追いつきそうな勢いでな。

 

 そして真言の父親が殺された事件から少し経ったある日、真言が通っている小学校から連絡が入った。

 

 話を聞くとどうやら、真言が同級生を殴ったとのこと。

 

 学校に行き、先生から直接話を聞くと、クラスでからかわれていた少女を真言が庇い、そこから喧嘩に発展したらしい。

 

 生徒だけではなく、止めに入った先生にも暴力を振るったことでかなり問題になったのじゃが、真言は全く反省しておらんかった。

 

まこと「おれはわるくない。ただしいことをした」

 

 そう言う真言の両手は…………グチャグチャに潰れておった。

 

 普通人を殴ったことのない人間が、人を殴ると手が折れてしまう。

 

 しかし真言のそれは明らかに異常だった。

 

 なぜ両手がこんなになっておるのに、真言は涙1つ流しておらんのか。

 

 どうすれば、こんなになるまで人を殴り続けられるのか。

 

 そうしてワシは気づいた。

 

 この子には人を殺す才能があると。

 

 敵に情けをかけることなく、自分の身すら顧みない、

 

 

 

 圧倒的な暴力の才能。

 

 

 

 今はまだ未完成だがこのままこの才能を開花させれば、この子は間違いなく普通の生活が送れなくなってしまう。

 

 そう思ったワシらは真言を破門にした。

 

 真言は大切な人を守れるくらい強くなりたいと願っておったが、ワシとしては普通の人間として生きてほしかったんじゃ。

 

 強くなくていい。誰も守らなくていい。正義のヒーローになんてならなくていい。ただ普通に生きて、普通の幸せを手にして欲しかった。

 

 けれど真言は強くなることを止めなかった。

 

 ワシらに隠れて自分を鍛えておった。

 

 そうして訪れた、真言が中学3年生の……真言にとって2度目の転機となる日。

 

 

 

 

 

 母親が倒れた。

 

 

 

 

 

 かなりの重病で一刻も早く都会の病院で入院しなければならなかったんじゃ。それで誰かが一緒についていくことになったのじゃが……

 

真言「俺が行く」

正義「馬鹿を言うなマコ!お前には受験があるだろ!」

真言「向こうの高校に行く。それでいいだろ」

正義「お前……!」

清正「真言」

真言「頼むよじいちゃん、行かせてくれ」

清正「……お前の気持ちはわかる」

 

 真言は父親の死と今の母親の病気を重ね合わせていた。

 

清正「じゃがお前に何ができる?今までワシらに隠れて鍛錬を積んできたようじゃが、相手は病じゃ。どうすることもできん」

真言「…………………」

清正「……納得しておらんという目じゃな。わかった」

真言「!」

 

清正「昔のように、手合わせで決めよう」

 

 真言は昔から母親と何度も手合わせしてきた。真言に一番思い出深い方法で決めればあの子も納得する……そう思っておった。

 

清正「勝ったらお前の好きにすればいい。ただし負けたら……」

真言「わかった。やろう」

 

 ワシは完全に見誤っていた。

 

 あの子の内に秘める才能を。

 

真言「…………………これでいいだろ」

清正「な…………」

真言「……腕、早く医者に見てもらえよ」

 

 完敗じゃった。

 

 あの子の拳に耐えきれず、ワシの右腕はへし折れて終わり。ほんの1,2分の出来事じゃった。

 

 しかしワシは真言との攻防の最中、確かに見た。

 

 まるで闘いを楽しんでいるかのような、真言の不気味な笑顔を。

 

真言「俺は俺の正しさの為にもっともっと強くなる。もう誰も、死んでほしくないから」

 

真言「でもじいちゃんの言った通り、今の俺には母さんを助けることはできない。でも……せめて側にいたいんだ」

 

 そう言う真言の目は、昔の明るくて元気だった少年のそれとはかけ離れていた。

 

 自分の思い描く正義の為なら、他者も、自分も、全てを壊し尽くす……そんな化け物の目に成り下がっていた。

 

「真言……お前は、正しい人間になりなさい──」

真言「うん、約束する」

 

 病床でそう呟く弱々しい母親の姿を見て……ああ、と思ったよ。

 

 きっと真言を化け物にしてしまったのはワシら家族なんじゃと。

 

 なぜワシは、父親のように「暴力では何も解決できん」と言ってやれなかったのか。

 

 なぜワシは、よりにもよって"暴力"で真言を止めようとしてしまったのか。

 

 なぜワシらは…………あの子に"正義"を背負わせてしまったのか。

 

 真言も、あの子の母親も、ただ怖かっただけなんじゃろう。

 

 失うのが怖いから、自分の力は弱いから、"正義"を頼った。

 

『せいぎのヒーローってね……ぜったいにまけないんだよ』

 

 そう言った真言の顔が今でも忘れられん。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

清正「……ワシの話はこれで終わりじゃ」

 

燐子「………………」

紗夜「………………」

リサ「マコくん……」

友希那「……………」

あこ「りんりん、大丈夫……?」

燐子「……………」コクリ

 

清正「今更もうどうすることもできん。そう思っていた」

 

清正「じゃがな、帰ってきたあの子はワシに身を護る術を教えてくれと言ってきた」

 

清正「今まで自分の身を顧みんかったあの子が……燐子さん、あなたとの約束のため、相手を傷つけずに大切な人を守りたいと言った」

 

清正「ワシはそれが…………心の底から嬉しかった」

 

燐子「真言くん……」

 

 姿勢を正し5人を見つめ、清正は言う。

 

清正「燐子さん、そしてロゼリアの皆さん」

 

清正「今、あの子は自分の正義を捨て、燐子さんとの約束を胸に生きている」

 

清正「あの子がまた何か大切な物を失えば、治りかけていたあの子の心が今度こそ砕け散ってしまう……」

 

清正「身勝手な願いなのは重々承知、しかし見ての通りワシももう長くはない。だからどうか…………!」

 

清正「真言の側に……いてやってください」

 

燐子・紗夜「「…………はい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「ん…………ここは…………」

燐子「気がついた……?」

真言「っ!燐子先輩!?」

燐子「あ、あんまり急に動くと傷が……!」

真言「傷……?」

 

 俺は確かじいちゃんと一緒に道場で手合わせを……?

 

燐子「覚えてない……の?」

真言「えっと…………」

清正「ワシから説明するよ」

真言「じいちゃん?」

 

 じいちゃんの説明はあまりピンと来なかったが、俺がじいちゃんとの修行中に戦闘スイッチが入ってしまい、暴走したとのことだった。

 

真言「そんなことが……」

清正「マコ、お前が人を傷つけずに身を護る術を手に入れたいのなら、その暴走癖を直さなければならん。話はそれからじゃ」

真言「…………うん」

 

清正「よし、では夕飯にしようか」

燐子「みんな待ってるよ……」

 

 あれ?暴走してたにしては傷が浅い……?

 

清正「今の鈍っとるお前を止めるなぞお手玉しながらでもできるわ。もちろん一発ももらわずにな」

真言「えぇ……」

燐子「(さっきはだいぶ手こずったって言ってたのに……)」

 

 

 

 

 

あこ「あ〜!まっくんおそーい!」

光「もうおなかペコペコだよー!!」

真言「すみません」

 

 リビングにはRoseliaの皆と兄貴達が全員揃っていた。

 

 俺なんか放っといて先に食べてればよかったのに……

 

由香「ご飯は家族みんなで食べるからおいしいのよ♪」

リサ「ほらほらマコくん座って!」

真言「え、ちょ」

 

 姐さんに腕を引かれ席につく。

 

友希那「傷の方は大丈夫なの?」

真言「えぇまあ。手加減されてボコボコにされたらしいんで」

紗夜「周りが見えなくなるあなたが悪いんです。もっと物事を冷静にですね……」

真言「やーやっぱ義姉さんの料理はどれも美味しそうだなー!」

紗夜「まだ話は……!」

燐子「ふふっ……」

 

清正「(全員が何もなかったように、いつもどおり接してくれておる。本当に……いい人達と巡り会ったな、マコ)」

 

静「おなかすいた」

清正「ん、そうじゃな。ではさっそく……」

 

「いただきます!!」

 

あこ「まっくんまっくん!食べ終わったら花火やろうよ!」

光「あ!おれもやりたい!」

真言「いいですね、皆でやりましょう」

紗夜「宇田川さん、食事中は静かに……」

リサ「まあまあ……」

友希那「美味しい……」

由香「それはよかったわ〜♪」

 

 

 

 その日の夜は久しぶりに賑やかな夕飯になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正義「ふぅ……やっと一息つけたなぁ……」

 

正義「(またマコが暴走したときは焦ったけど、流石はじいちゃん。燐子さん達も理解ある人達で良かった良かった)」

 

「あの」

 

正義「あれ、どうしたんだい?マコ達と花火をやってるんじゃ……」

「いえ、正確には今から始まるんですが、その前に少々お伺いしたいことが……」

 

 

 

 

 

正義「構わないけど……何かな?紗夜さん」




──to be continued……

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53.兄弟 決意 神代真言【監視対象 帰省編】

正義「構わないけど……何かな?紗夜さん」

 

 どうやらこの目の前にいる少女は、何やら俺に聞きたいことがあるらしい。

 

 マコから聞くところによるとこの人、「紗夜先輩」という人は……

 

『怖い、厳しい、腹パンが痛い』

 

 ……らしい。十中八九あいつが悪い。

 

紗夜「正義さん?」

正義「あ、ああ。なんでもないよ」

 

 でもそんな人が俺に聞きたいこと……?マコの事だろうか。

 

紗夜「実は伺いたいことというのは…………その、真言さんの事で……」

 

 お、ビンゴ。

 

紗夜「あ、でも決して変な意味ではないというか……その……」

正義「大丈夫大丈夫、君達を見てればだいたいわかるよ」

 

 多分だけどあの子達は真言に恋をしているとかそういうのではないと思う。

 

正義「何となくマコを見てる視線がね、みんな親の視線っていうか、危なっかしい子供を見てる目っていうか……」

紗夜「あの……なんかすみません」

正義「謝る必要はないよ。俺も人のこと言えないからね」

 

 笑いながら答える。

 

正義「それで?君はマコの何が聞きたいのかな?"紗夜先輩"?」

紗夜「……………………」

 

 あ、あれ……ちょっとふざけ過ぎた?顔が暗いよ……?

 

紗夜「以前真言さんからあなたについての話を聞いてから、一度会ってお話を聞きたいと思っていました」

正義「マコが……俺を?どんな話で?」

紗夜「その……お気を悪くしてしまうかもしれませんが…………」

 

紗夜「真言さんとの……昔にあった喧嘩の話を」

 

正義「………………」

 

 あぁ……その話か。

 

正義「驚いたな……マコがあの事を誰かに話すなんて」

紗夜「真言さんは白金さんにも言っていないようでしたし、もちろん私も誰にも言ってません」

正義「ははっ、ちゃんとわかってるよ」

 

 あの子はあまり昔の事を話したがらない。けれどそんなマコが自分の、しかも俺との昔話を話すか……

 

正義「……君はマコにとても信頼されてるんだね」

 

 マコがどんなことを思って、何を言ったのかわからないけど、この子がマコにとって信頼に足る人物だということは確かだ。

 

正義「じゃあ君が聞きたいのはそれに関係する何かって訳か」

 

 小さく頷いて、彼女は話し出す。

 

紗夜「……私にも双子の妹がいるんです」

紗夜「才能があって……とにかく何でもできる子なんです」

 

紗夜「私は比べられるのが嫌で……なのにあの子はギターまで……」

 

紗夜「……だから少し前まであの子と距離を取っていました。真言さんに言わせれば"怖かっただけ"なんですけどね」

 

紗夜「今はいろんな人のおかげで少しずつですがあの子に向き合えている……ような気がします」

 

 この子は…………

 

紗夜「…………正義さん、あなたは……真言さんとどう向き合えたんですか?」

正義「……………」

 

 この子はきっと、それを聞くためだけにここに来たのだろう。

 

正義「向き合えてなんか……いないよ」

紗夜「え……」

 

 俺はずっと……マコと正面から向き合うことから逃げ続けている。

 

正義「昔からマコとはよく衝突していてね、よく2人とも母に殴られたよ」

紗夜「そ、想像できません……」

正義「かもね。今じゃ俺も、それにマコも、だいぶ落ち着いてきたから」

紗夜「(落ち着いて…………神代さんが?)」

 

正義「あの子はもう気にしてないと思うんだけど、俺は今でもあの喧嘩はハッキリ覚えてる」

 

 忘れたくても、忘れられない。

 

正義「自分で言うのもなんだけど俺は頭だけは良くてね。それで調子に乗ってたのかな……」

 

正義「こんな田舎から出て都会の名門高校に行くんだ、って家族に宣言して、そこから必死に勉強した」

 

正義「でもね、所詮は井の中の蛙だったんだ」

 

正義「結果は不合格。かろうじてここの近くの高校には受かったけど、それでも俺には初めての挫折だったよ」

 

正義「昔からいろんな人の期待を受けてたからかな……勝手に追い込まれて……そして勝手に自滅していった」

 

正義「期待は自信になり、いつからか重圧になった」

紗夜「重圧……」

 

正義「俺に期待の眼差しを向けてくる奴らの目が……途端に恐ろしいものに見えた」

 

正義「もしこの期待を裏切ってしまったら……俺の周りには誰もいなくなるのだろうか。誰も俺を見てくれなくなるのか。……受験中もそんなことばかり考えていたよ」

 

正義「そんなんだから失敗するだけどね」

紗夜「……………」

 

正義「……高校に落ちたことが分かると、真言は俺にこう言ったんだ」

 

正義「『大丈夫だよ兄ちゃんなら』ってさ」

 

正義「あいつなりに頑張って俺を励まそうとしてたんだろうね。ちゃんと見えてた……けど俺にはもうひとつ、別のものも見えていたんだ」

紗夜「別のもの?」

 

正義「真言はね……実はよっぽど俺よりできるやつだったのさ」

 

正義「あいつには他の奴らにはない"才能"があった」

 

正義「先に始めたはずの道場での稽古も、すぐに俺は抜かされた」

 

正義「それに俺より頭もいい。なのにあいつはそれを人に見せない」

 

正義「俺にはあの時……俺を置いて遠くに行ってしまう真言の姿が見えた」

 

正義「今まで俺に期待し、後ろをついてきたはずの弟が、俺に見向きもせずに進んでいく姿を」

 

正義「当たり前のことなのに、俺にはそれがとても怖かった」

 

『俺に持ってないものを全部持ってるお前が!!!何も知らないくせに!!!俺に同情するな!!!!!』

 

正義「当時の真言はまだ小学生だったんだぜ?…………最低の兄貴だよ、俺は」

紗夜「そんなことは……」

 

正義「紗夜さん、君は俺に聞くまでもなく妹さんとの向き合い方を、既に見つけているんじゃないかな?」

紗夜「!」

 

正義「少なくとも君は妹さんから逃げていない」

 

正義「逃げずに妹さんと同じ道を進むことに決めた、その時点で君は俺よりいいお姉さんだよ」

 

正義「……俺の話はこれで終わり。どう?聞きたいことは聞けたかな?」

紗夜「…………ありがとうございます。それに、ごめんなさい」

正義「謝る必要はないさ。俺も誰かに話せてスッキリしたよ…………ありがとう」

 

真言「あ!こんなとこにいたんですか紗夜先輩!」

紗夜「神代さん……!?」

真言「花火の準備できましたし、先輩が来てくれないと始まらないんですよ!」

紗夜「わ、わかりました」

真言「ほら早く行って行って!」

紗夜「え、ちょ、あの」

正義「………………?」

真言「よし……行ったな」

 

 紗夜さんを無理矢理押し出し、俺と真言のふたりきりになった。

 

真言「兄貴…………その、ちょっと聞きたいことが」

正義「(今日はいろんな人から質問されるなー……)」

真言「兄貴?」

正義「いや、何でもないよ」

 

正義「で聞きたいことってなんだい?言っておくけど紗夜さんと何話してたかは言わないからね」

 

 あれは兄と姉だけの秘密だからな。

 

真言「あー……その……」

 

 言いよどむ真言。なんだ?様子が……

 

真言「兄貴……"好き"って何だ?」

 

 ………………は?

 

正義「好きって……loveのこと?」

真言「…………」コクッ

 

 恥ずかしそうに頷く我が弟。久しぶりに帰ってきたと思ったら……

 

正義「随分ませちゃって……」

真言「あ"!?」

正義「あーごめんごめん、つい口に出た」

真言「ったく……」

正義「それで?何でそんなこと聞くの」

 

真言「…………好き、かもしれない人ができた」

 

 100%燐子さんだな。

 

正義「"かもしれない"?」

真言「俺さ……今まで好きな人とか出来たこと無かったから…………」

正義「なるほど?要は自分の感情が"好き"かどうかがわからないって訳だ」

 

 こうモジモジされると調子狂う……マコってこんなんだっけ?

 

真言「兄貴はその……どういう感情で……いや違うな……どういう経緯で?」

正義「まあ落ち着けよ」

 

 一旦深呼吸をし、落ち着きを取り戻すマコ。あのマコがここまでテンパるなんて……なかなかに罪なお方だ。

 

真言「兄貴は何を根拠に、由香義姉さんを好きだと思ったんだ?」

正義「んー…………」

 

 深く考えるなって言っても無駄だろうしな……

 

正義「自分の将来とか、そういうのを考えたときに、隣にこの人がいたら幸せだろうなって思ったからかな」

真言「将来……」

 

正義「真言、これはお前の問題だ。人に聞いても意味がない」

真言「ああ……分かってるよ」

 

 きっと真言は俺にこんなことを質問するくらいたくさん悩んだのだろう。

 

正義「……俺はもう少し自分に正直になってもいいと思うけどね。マコがどうしたいか、結局のところそれが一番大事なんだから」

真言「でも、俺のエゴであの人が傷つくかもしれない……それは、絶対に嫌だ」

正義「真言も燐子さんも同じ人間さ。もし傷つけたなら謝ればいい」

真言「そんな無責任な……!」

正義「好きってことはそういうことだよ。対等で平等。真言は自分と同じ一人の人間として、燐子さんを好きになったんだろう?」

真言「対等で……平等」

正義「お前の選択が間違っていたならまたやり直せばいい。お前はまだ高校生だ。いくらでも時間はある」

 

正義「……でもな真言、いつまでもそこで止まってると置いてかれるぞ?」

 

 先輩からのアドバイスだ。

 

真言「…………うん、ありがとう」

 

正義「花火、俺達も行こうか。光と静……特に光が心配だ」

真言「あ、あともう一個だけ」

正義「……まぁこの際だから全部聞くよ、何?」

 

 

 

 

 

真言「兄貴は最低なんかじゃない。俺の自慢の兄貴だ」

 

 

 

 

 

正義「………………」

真言「そんだけ。先行ってるぞ」

 

 足早に去っていくマコ。その背中が昔より大きく見えたのは気のせいだろうか。

 

正義「…………ははっ、聞かれてたのか」

 

正義「にしても……うちの家族は盗み聞きをするのが得意だなぁ!なぁじいちゃん?」

清正「ギクッ」

正義「でもまあ……本当に成長したね、マコ」

清正「そうじゃなぁ……2人にも見せてやりたかったわい」

正義「…………だね」

清正「正義、お前にもたくさん苦労をかけたな……本当にすまない」

正義「いいって。俺もマコもいつまでも子供じゃないんだからさ」

清正「そう……じゃなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光「あー!とーさんもじーちゃんもおそいよー!」

正義「ごめんごめん」

清正「すまんのぉ光」

光「花火なくなっちゃうよー」

由香「大丈夫よ、真言くんが帰ってくるって聞いてたっくさん買ってきたから♪」

 

あこ「わーい!たのしーい!」

紗夜「宇田川さん!両手に花火を持って振り回すと危ないですよ!」

真言「お、おい静……お前の手に持ってるそれ……なんだ……?」

静「ねずみ花火」ジュッ

真言「火つけて持ってくんなあああああ!!!!!」

燐子「ふふっ……」

友希那「楽しんでるわね」

リサ「いや普通に危なくない!?」

 

清正「正義」

正義「ん?」

清正「お前もマコも大人になっていく、じゃがな……」

 

清正「お前もマコも、それに由香さんも光も静も、みんな家族でワシの子じゃ。いつまでもな」

 

正義「………………うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜翌朝〜〜

 

正義「もう行ってしまうのかい?」

由香「もう少しゆっくりしていけばいいのに……」

紗夜「ありがとうございます。でも学校もありますので」

友希那「お世話になりました」

リサ「楽しかっ──」

 

光「やーーーーー!!!!!」

 

リサ「ありゃりゃ」

由香「あらあら……」

 

 号泣しながらあこにしがみつく光。

 

あこ「光くんごめんね……あこ達もう行かなきゃ」

光「いやーーー!!!もっとあこねぇちゃんたちとあそぶーーー!!!」

正義「はぁ……光」

友希那「随分懐かれたわね、あこ」

リサ「あれ?そういえば燐子とマコくんは?」

紗夜「二人は清正さんと一緒に道場にいますよ」

正義「マコのバカ……ギリギリまでじいちゃんから技を教えてもらうつもりなんだよ……」

リサ「あ、あはは……」

静「………………」

リサ「うわ!?静ちゃんいつから友希那の後ろに!?」

静「ばれた……」

由香「友希那ちゃん達についていくつもりだったのかしらね〜?」

正義「血は争えない……か」

光「あーーーーー!!!!!」

あこ「ああもう泣き止んでよー!ほらまた遊びに来るからさ!」

 

清正「なにやら賑やかじゃの」

正義「お、じいちゃん。それにマ…………」

 

 そこにはいつもの様に穏やかに微笑む清正と、なぜかボロボロで燐子に肩を貸されている真言がいた。

 

紗夜「なんでまたそんなにボロボロなんですか……」

真言「聞かんでください」

正義「『ワシの攻撃をいなしてみよ』と軽くこづいたらこのザマじゃ。まったく情けない」

リサ「燐子、どんな感じだったの?」

燐子「すごすぎて……何をやってるのか全然わからなかったです……」

 

清正「ん?光、お前何故泣いておるんじゃ」

由香「あこちゃん達とお別れしたくないって聞かなくて」

清正「ほぅ……ならマコ、皆を連れてあそこに行ってきなさい。光、それで皆とはお別れじゃ。わかったな?」

光「……ぐす…………うん」

清正「すまんがロゼリアの皆さん、マコについてやってください」

真言「………………」

燐子「真言くん?」

清正「マコ、頼んだぞ」

真言「……わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「よし、ここです」

 

 ま、まだ体中が痛ぇ……じいちゃんめ、何が"軽く"だよ。結局全部クリーンヒットしてやがったじゃねぇか。

 

燐子「ここは……」

紗夜「山……いえ、丘ですか?」

真言「今は朝だから明るいですけど、木々が生い茂ってるから道に迷わないよう、ちゃんとついてきてくださいね」

 

 光は…………機嫌はちょっと直ったかな。

 

あこ「光くん、この丘って何があるの?」

光「んーっとね……ひみつ!」

静「頂上に行けばわかる」

友希那「じゃあ早く行きましょう」

 

 ……なんで静は湊さんの手を握ってるの?

 

真言「ちょっと見ない間に随分と懐かれましたね」

友希那「うるさい」

 

 

 

 

 

 歩き続けて数分、頂上に到着した。

 

あこ「わー!きれー!」

光「でしょ!?ここはけしきがいいんだ!」

リサ「これを見せたかったのかな?」

あこ「ありがとね!光くん!」

光「えへへ……」

 

 はしゃぐ光達を横目に、俺はある物の前に屈んで、そして両手を合わせる。

 

真言「ただいま」

燐子「真言くん……?だいじょ…………!」

紗夜「これは……!」

 

 そこにはまるで子供がその辺から持ってきたような木の棒が二本地面に刺さっており、その棒の前には花が供えられていた。

 

真言「お墓です、母さんと父さんの。……まあ本当にここに眠ってる訳じゃないんですけどね」

 

 子供の俺がどうしてもここから見える景色を見せたくて勝手に建てた墓だ。

 

真言「それでも、最後にここで、二人に挨拶しなきゃ帰っちゃダメな気がして……バカですよね俺…………!」

 

 隣を見ると燐子先輩が俺と同じように、屈んで両手を合わせ目をつぶっていた。

 

 釣られるように皆が次々に二人の墓を拝んでいく。

 

真言「ははっ……」

 

 母さん、父さん、見てよ。俺、こんないい人達と巡り会えたんだぜ?

 

 俺は本当に……幸せ者だよ。

 

『よかった……本当によかった』

真言「え?」

燐子「どうかしたの……?」

真言「いや、今なんか聞こえたような……」

紗夜「……?私達には何も……」

真言「気のせい…………か」

 

真言「……そろそろ帰りましょうか、燐子先輩」

燐子「うん……そうだね」

 

 じゃあな。また来るよ。

 

『行ってらっしゃい』

 

────────────────────────

【監視対象 帰省編】無事完結です!ここまで読んでいただきありがとうございました!

 

今回は神代ファミリーという新しいオリキャラを出してみましたが……やっぱり難しいですね。

 

恐らくですが皆さん誰が誰なのかわからないんじゃないでしょうか。(記憶力舐めんじゃねぇよバーカという方はすみません。そしてありがとうございます)

 

お気に入り登録 らったた 様 メンミグ 様 秦こころ 様 流星のビヴロスト 様 える@さよりサをすこれ 様 ツナジン 様 ありがとうございます。

 

皆様、これからも監視対象と約束された日々をよろしくおねがいします!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「湊さん、俺決めました」

 

 兄貴やじいちゃん達と会って、何かが吹っ切れた。

 

 俺はもう、迷わない。

 

友希那「…………なら、あなたの答えを聞かせてくれないかしら」

 

 前に進む。ここから。

 

真言「俺は…………」

 

 ここで立ち止まって後悔するくらいなら、ぶつかっていって玉砕してやる。

 

 そのくらいの覚悟は、できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「俺は燐子先輩が好きだ」




次話より「監視対象と約束された日々」最終章開始。


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54.Dear……

親愛なる……


 10月17日 日曜日 本日は晴天なり。

 

 そしてここは都内某所、CiRCLE内。

 

真言「…………………」

 

 神代 真言。花咲川高校2年生。

 

 神の代わりに真実を言うと書いて神代 真言。

 

 生徒会の監視対象。

 

 ……まぁ俺が俺について語れるのはこのくらいだろう。

 

 そして今日は俺の恩人である白金 燐子先輩の記念すべき誕生日……いや生誕祭。

 

リサ「生誕祭って……」

 

 この日のために俺は全てをかけて準備してきたと言っても過言ではない。

 

紗夜「人の誕生日はうろ覚えのくせに」ボソッ

あこ「りんりんの誕生日()()はちゃんと一ヶ月くらい前から準備してましたもんね」ボソボソ

友希那「燐子の誕生日を忘れてなかっただけ良しとしましょう」ボソボソ

真言「ばっちり聞こえてんですよ」

紗夜「聞こえるように話してるんですよ」

 

 まったく……久しぶりに俺の名前の由来とかを自由に語れる俺の語りTIMEだと思ってたのに……はぁ……

 

あこ「何言ってんのまっくん……」

真言「とにかく!今日は燐子先輩の誕生日なんです!」

友希那「知ってるわよ」

真言「俺がこの日をどれだけ待ったことか……!」

リサ「君、この数日ずっと様子が変だったからね」

紗夜「白金さんが最近神代さんが挙動不審だと心配していましたよ」

友希那「いつものことよ」

あこ「あこもそう思います!」

真言「なんか今日当たり強くないですか!?」

 

 気持ち3倍くらい俺に辛辣だぞこの人達!

 

友希那「当たり前よ。私達が今日までどれだけあなたに協力してきたと思っているの」

真言「それは……その……ありがとうございました」

紗夜「プレッシャーをかけてるんですよ」

あこ「ぷれっしゃああああ…………」

真言「何の呪いですか師匠」

リサ「まあここまで来たなら後は当たって砕けるだけだよ♪」

真言「…………はい」

 

 そう、今日は俺にとっても大切な日なのだ。

 

 

 

 

 

 俺は今日、燐子先輩に告白する。

 

 

 

 

 

真言「ふぅ…………」

 

 今日のためにRoseliaの皆にはいろいろと協力してもらった。

 

 情けない限りだが、服装のセンスも流行りの「は」の字も知らない俺じゃ悲惨な結果になることは目に見えている。

 

 持つべきものは頼りになる先輩方だ。

 

紗夜「そろそろ時間ですね……それでは作戦の最終確認をします」

 

 姐さんと師匠と選んだ服に袖を通し、

 

紗夜「まず神代さんが白金さんを家まで迎えに行く、そして家についたタイミングで宇田川さんが白金さんにメッセージを飛ばし、少し遅れてくるよう伝える」

リサ「それで例の告白スポットに燐子を誘導して…………」

あこ「あとは…………!」

 

真言「……あの、やっぱり言うタイミング皆で誕生日祝ったあとの方がいいんじゃ……」

紗夜「なぜですか?」

真言「なぜって…………断られたらその後の事とかが……」

あこ「まっくんなら大丈夫だよ!」

紗夜「まぁ、もし断られたらプレゼントだけ渡して帰ってください」

真言「きっっつ!!」

 

 紗夜先輩と計画した作戦で、

 

友希那「真言。私の言ったこと、覚えてるわよね?」

真言「『中途半端な答えで燐子先輩を傷つけたら絶対に許さない』ですよね」

 

真言「大丈夫です。俺はもう覚悟を決めました」

 

リサ「おお〜……」

あこ「まっくんカッコいい!」

友希那「……なら心配いらないわね」

 

友希那「真正面から想いを伝えてきなさい」

真言「はい!」

 

 湊さんに背中を押され、

 

 俺は今日、燐子先輩に告白する。

 

真言「行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「行っちゃったね……」

あこ「まっくん、大丈夫かな……」

紗夜「大丈夫ですよ、流石にこんな大事な場面で逃げるような人ではありませんから」

友希那「でも驚いたわ。まさか私達に助けを求めるなんて……てっきり全部一人でやろうとするものだと思ってたから」

紗夜「彼なりに思うところがあったんでしょうね」

リサ「気合い入れてコーデしたから今日のマコくんはだいぶキマってたでしょ☆」

あこ「うん!さすがリサ姉!」

紗夜「それにしても…………」

友希那「…………疲れたわね」

あこ「まっくんとりんりんだから、告白の結果的には大丈夫だと思うけど…………」

友希那「恋人もいないのに子供ができた気分だわ……」

紗夜「全く同感です」

あこ「…………やっぱりあこ、どうなるか気になります!見に行きましょうよー」

友希那「ダメよ」

あこ「えぇーなんでですか〜?」

友希那「二人の邪魔になるもの」

リサ「上手く行きますよーに……」

紗夜「まあ気長に待ちましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「…………………………」

 

 やばい。

 

 やばいやばいやばいやばいやばい。

 

真言「くっそ……動け……動けよ……!!」

 

 なんでだ……身体が全く言うことを聞かない……!

 

真言「(落ち着け……じいちゃんもこの前言ってた。こういう時こそ冷静に物事を対処できる者が戦いを制する……!)」

 

 大丈夫だ……ただこの右手の人差し指を立ててこの四角いインターホンのボタンを押す……ただそれだけのこと!!

 

真言「だあああああ!!!」

 

 ダメだ!!緊張で照準が定まんねぇぇぇえええ!!!

 

真言「落ち着くんだ神代 真言……そう、こういう時は素数を数えて……」

燐子「真言くん……?」

真言「んぎゃあああ!!!」

燐子「!?」ビクッ!

真言「りりり燐子先輩おはよう御座います本日はお日柄もよく…………」

燐子「お、落ち着いて……!」

 

 なぜ燐子先輩が……!

 

燐子「だってここわたしの家だし……それに外から叫び声が聞こえたから……」

真言「すみませんでした…………」

燐子「今ね……あこちゃんから連絡が来て……CiRCLEには少し遅れて来てだって……」

真言「ヘ、ヘェーソウナンデスネー」

 

 よ、よし……ここまではおおむね作戦通りだ……

 

燐子「真言くん……?」

真言「………………」

燐子「ねぇ……真言くん、最近なんか様子が変だよ……?大丈夫……?」

真言「………………燐子先輩」

燐子「……?」

 

真言「少しだけ…………一緒に出かけませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「……………」

燐子「……………」

 

 最近わたしの後輩……神代 真言くんの様子がおかしい。

 

 Roseliaの皆は「いつもの事だ」って言うけど……最近は特に彼らしくない事が多くなった……気がする。

 

 しっかりしていることが多かったけど……最近は生徒会でも……Roseliaの皆の前でも……ぼーっとしていることが多くなった……と思う。

 

 また何かあったのだろうか……心配……だな。

 

 それに………………前みたいに「燐子先輩!」って明るく言ってくれることも少なくなった……

 

 ちょっと……寂しい。

 

燐子「………………」ジーッ

真言「…………燐子先輩?俺の顔に何かついてます?」

燐子「!な、なんでもないよ……!大丈夫……」

 

 でも今日の彼は……一段と変だ。

 

 テレビに出てくる俳優さんみたいな服を着てて……いつもより真言くんが輝いて見える……

 

 もしかして……変なのはわたし……?

 

燐子「ねぇ……真言くん」

真言「なんですか?」

燐子「今……わたし達はどこに向かってるの……?」

 

 普段の彼なら「出かけよう」なんて言わないし……わたしと同じで彼も人の多いところは苦手なはず……

 

真言「……………燐子先輩」

 

 横を歩いていた彼の足が止まる。

 

真言「着きましたよ」

燐子「着いた……?」

真言「燐子先輩、何か考え事をしてたみたいでしたから……大丈夫ですか?坂道疲れませんでした?」

燐子「……?」

 

 坂道……?そういえばここは……どこ……?

 

真言「ほら、あっちを見てみてください」

燐子「………………!!」

 

 彼が指さした先にあったのは……

 

燐子「いい眺め……」

真言「ここからだと街が一望できるんです。人通りも少ないですし……」

燐子「こんな所……いつ見つけたの……?」

真言「前に建物を飛び移っ…………さ、散策してたら偶然見つけたんです!」

燐子「…………」

 

 今、"飛び移る"って言いかけなかった……?

 

燐子「でもここからの景色……まるで……」

真言「燐子先輩もそう思いますか…………はい、俺の故郷にある母さん達のお墓からの景色に似てるんです」

燐子「うん…………」

 

 以前真言くんの里帰りについていったときに見せてもらった……彼が作った……彼のお母さんとお父さんのお墓。

 

 そこからの景色も……こんなふうに周りを見渡すことができた。

 

真言「燐子先輩、大切なお話があります」

 

 いつにも増して真剣な顔をする真言くん……

 

 大切な話って……一体なんだろう……?

 

燐子「なに……?」

 

真言「あの…………俺…………!」

 

 

 

 プルルルルル プルルルルル

 

 

 

真言「…………………」

燐子「電話……鳴ってるよ……?」

真言「………………はい」

 

 苦虫を噛み潰したような顔になる真言くん……"大切な話"の邪魔をされたくなかったんだね……

 

真言「……黒服さん?はい、神代です」

 

真言「どうしたんですか?そんなに息を切らして……ちょ、一旦落ち着いてください」

燐子「……?」

 

 どうやら電話の相手は弦巻さんのお家の黒服さんらしい。

 

 そういえば真言くん……黒服さんのバイトをしてるって言ってたな……その電話かな……?

 

 でもなんか様子がおかしい……黒服さんが焦ってる……?

 

真言「…………………………………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「弦巻が…………誘拐された…………?」




──to be continued……


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55.Dear monster

親愛なる化け物へ


真言「弦巻が…………誘拐された…………?」

 

 は……?誘拐……?なんで…………

 

黒服A『我々が通行人に気を取られていた隙を狙われてしまいました!現在こころ様は行方不明です!』

真言「行方不明……GPSとか持たせてないんですか!?」

黒服A『誘拐された場所に内蔵されていた携帯ごと壊されていました……!』

 

 何だよ……まるで事前に練られたみたいな手口じゃねぇか……!

 

黒服A『今は一人でも多くの人手が必要です!どうかご協力を!!』

 

 こんなに焦ってる黒服さん、俺が知ってる限り初めてだぞ……

 

真言「……わ、わかりました。すぐ行きます」

黒服A『誘拐された現場の位置情報をそちらにお送りします!何かあればすぐにご連絡を!』

真言「………………」

燐子「真言くん……弦巻さん、大丈夫なの……?」

真言「大丈夫です。それより燐子先輩」

燐子「うん……あこちゃん達にはわたしから直接言っておくね……!」

真言「お願いします」

 

 仕方無い……緊急事態だ。燐子先輩への告白は帰ってきてからにしよう。人命救助が最優先だ。

 

真言「(あの野郎…………ちょっと見ねぇ間に妙な事件巻き起こしてんじゃねぇよ……!)」

 

真言「じゃあ行ってきます!」

燐子「気をつけてね……」

 

 こっからなら屋根を伝って行ったほうが早い!

 

真言「っ!」

燐子「…………すごい」

 

燐子「(でも…………"大切な話"って……何だったんだろう……?)」

 

燐子「あ……そろそろ時間かな……?CiRCLEに行かなきゃ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「くそっ……!あいつどこに連れ去られたんだ……!」

 

 人様の家の屋根を渡り歩きながら俺は悪態をつく。

 

 黒服さんから送られてきた情報によると、弦巻をさらった奴らは二人組の男、黒いワゴン車で逃げているらしい。

 

真言「こんな昼間に黒いワゴン車ならすぐに見つけられるはずなのに……」

 

 何だこの仕組まれたような感覚は……?俺やあの黒服さん達がこれだけ必死で探して見つからないなんて、はっきり言って異常だ。よほど綿密に練られた計画じゃないとそんなことは…………

 

真言「もし誰かが予め計画した誘拐なら……なぜ弦巻を狙う?」

 

 大金持ちの家のお嬢様だから?

 

 いや、だとしてもリスクが高すぎる。黒服さん達のガードをくぐり抜けることですら容易ではないのに。

 

 拐ったのが弦巻家の人間だったということを知らない?

 

 それはない。犯人は確実に何かしらの作戦を立てている。じゃないとまず黒服さん達の目を盗み、弦巻を誘拐すること自体不可能だ。

 

真言「あぁもう!考えれば考えるほどわかんねぇ!!」

 

 あと考えられることと言えば………

 

 プルルルルル プルルルルル

 

真言「はい、神代です」

黒服A『神代様、例のワゴン車を発見しました』

 

 流石黒服さん……俺いらねぇんじゃねぇの?

 

黒服A『奴らは通りを直進していきます!今の神代さんの位置ならば回り込めるはずです!』

真言「え、なんで俺の現在地知ってるんですか」

黒服A『何とかして足止めをお願いします!総員!こころ様を、弦巻家を敵に回した輩を絶対許すな!!!』

『了解!!!』

 

 ブチッ!

 

真言「……切れた」

 

 2つの意味で。

 

真言「と、とにかく俺が一番奴らに近いみたいだな」

 

 でもこの方向だとCiRCLEとは真逆だぜ。はぁ……もうちょっとだったのにな……

 

真言「えっと、黒のワゴン車……黒のワゴン車……」

 

清正『マコ、お前はもっと視野を広く持て。戦場ではどんな方向から攻撃が飛んでくるかわからんぞ』

 

 集中しろ…………辺りの異変を見逃すな…………!

 

清正『"視野を広く"と言ってもな視覚だけに頼ってはいかん。聴覚、触覚、そしてお前の持つ驚異的な第六感とも呼ぶべき危機察知能力……全てを使いこなすんじゃ』

 

 音を、風を、悪意を、感じ取る。

 

真言「………………いた」

 

 黒のワゴン車!アレだ!

 

真言「絶対逃がさねぇ!!」

 

 俺の告白を延期させた罪、しっかり償ってもらうぜ!

 

 

 

「よし……もうあの黒い奴らは追ってきてねぇな……」

「……ん?なんだあれ…………」

「ひ、人だ!人が家の屋根を伝ってこっち向かってきてるぞ!しかも速え!」

こころ「ん、んん……」

「とにかくさっさとこいつを例の場所に置いて逃げんぞ!」

 

 

 

真言「あいつらどこに向かって走ってんだ……?」

 

 俺には気づいてるみたいだけど、撒こうとしているってわけじゃ無さそうだ。

 

 どこかに目的地があるのか?

 

真言「(普通に走ってたんじゃあの車には絶対に追いつけない。先回りして止めてやる!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら……あの屋根走ってたやついなくなったぜ……」

「よ、よし……なんだかよくわかんなかったがもうすぐ目的地だ」

「くそが……こんな仕事引き受けるんじゃなかったぜ……」

「あぁ、全くだ……まさかこのガキが弦巻家とかいうヤバい一族の娘だったとはな……」

「……!?おい!前!前!!」

「は?前……?」

 

 走行するワゴン車の目の前に突如として現れたのは、先程まで後ろから追いかけていたはずの男、神代 真言その人だった。

 

真言「どうやら間に合ったみたいだな」

「ば、バカが!!死にてぇのかこいつ!!」

「ぶつかる……!」

真言「(ここは狭い路地。轢き殺しに来るか?いや…………)」

 

 

 

清正『護身に必要なのはどれだけ最低限の動きで相手の動きをいなせるかということじゃ』

 

清正『相手が次にどう攻めてくるか、どんな技を繰り出してくるか、それらを予測し最低限の所作のみで躱す』

真言『…………力も体重も俺の方が上なのに、じいちゃんが俺をぶん投げれるのはその"予測"のおかげってことか』

清正『まぁ、それだけではないがな』

真言『え?』

 

 

 

「くっそ……がぁ!!!」

真言「よっ……と」

 

 車体がぶつかる直前、車のハンドルが切られ、同時に身体を翻し衝突を避けた。

 

真言「知ってたさ、あんたらが俺を轢く気が無いってことくらい。俺が出てきたときからちょっとスピード落としたろ?」

 

 車は壁にぶつかりながら少し進んだところで完全に停止した。

 

「ってめぇ……!」

「いってぇ……」

 

 車から二人組の男が出てくる。どうやら衝撃で身体を打ったらしい。

 

真言「さて、へっぽこ誘拐犯諸君、あんたらが拐った金髪マッドサイエンティストガールを返してもらうか」

「へっぽこ!?」

「ガキが……舐めやがって……!」

 

 男の一人が激情して殴りかかってくる。

 

真言「(予測通り……!)」

「死ねやあ!!!」

 

 

 

清正『ワシがマコを軽く投げられる理由はな……半分はマコ、お前のおかげじゃ』

真言『???』

 

清正『確かにワシはお前より力も劣っておる。正面から戦ったのでは絶対にワシの負けじゃ。……もう年じゃからな』

 

清正『でもな……マコちょっとワシに殴りかかってきなさい』

真言『えぇ……』

清正『安心せい、絶対に食らわん』

真言『…………こう?』

清正『ほいっ』

真言『うおっ!?』

 

 拳がじいちゃんに当たる寸前、腕を掴まれ俺の体は宙を舞った。

 

清正『マコ、お前がワシに殴りかかってきたときの力を利用したんじゃよ』

真言『お、おれの……ちから……?』

清正『自分以外の力を利用する、それもまた護身じゃ』

 

 

 

「な……!」

 

 今まで俺は攻撃を避けずにひたすら受け続けてきた。

 

「くそ……くそくそくそ!なんでだ!!」

 

 燐子先輩との約束を守るため、反撃しないようにするのが精一杯だった。

 

「なんで一発も当たんねぇんだ!!」

 

 けど、今は違う。俺は決めたんだ……前に進むって……!

 

真言「(捌く、躱す、護る!)」

 

 

 

真言『でもじいちゃん……俺まだじいちゃんの攻撃一発も捌き切れてねぇんだけど……』

清正『当たり前じゃ、ワシはまだまだ現役じゃわい』

清正『安心せい、ワシのような戦闘のプロなんてもんはそうそうおらん。今のお前ならそのへんのチンピラの拳など──』

 

 

 

 止まって見える。

 

 

 

「ハァ……ハァ……くっそ……!」

真言「どうした、息が上がってるぜ?」

「……っらあ!!」

真言「(ここだ!)」

 

 相手の攻撃に合わせて身体を流し、そのまま相手の腕を掴んで……!

 

 

 

清正『自分の身を護り、そして相手も護る。それこそが護身!』

 

 

 

真言「(相手の力を利用し、なるべく傷つけずに……倒す!!)」

「んな!?」

 

 足元をすくわれ、地面に仰向けに倒される誘拐犯。

 

真言「終わりだ」

「や、やめ……!」

 

 そして正拳突きが脳天に…………

 

真言「……なんてな」

 

 拳が当たるギリギリの所で止まった。

 

「あ…………あ…………」

真言「……おい、そこのお前」

「は、はい!!」

真言「……お前もやるか?」

「い、いえ……やめておきます……」

真言「賢明な判断だな」

 

真言「そろそろ黒服さん達が到着する。そのまま大人しく寝てるんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒服A「ご協力感謝いたします。神代様」

真言「いいんですよ。それより弦巻は?」

黒服A「車の荷台で眠らされておりました。怪我はありませんが念の為病院に」

真言「そうですか……」

 

 駆けつけた黒服集団によって誘拐犯達は拘束され、俺の仕事もこれで一段落と言ったところだ。

 

真言「そういえば黒服さん」

黒服A「なんでしょう」

真言「弦巻家の方に身代金の要求とかはあったんですか?」

黒服A「いえ、それがそういった類のものは一件も来ていないとのことでして……」

真言「…………じゃあなんで弦巻は拐われたんでしょうか」

 

 今回の弦巻誘拐事件には不可解なことが多すぎる。誘拐した動機もそうだが、あの誘拐犯達もだ。

 

 俺と戦った一人目の男は、ずっと素手で俺に攻撃をしてきた。結局あいつらからナイフの一本も出てこなかったみたいだし……そして二人目の男に至っては俺と戦おうとすらしてない。

 

黒服A「細かいことは本人達に直接聞きましょう」ギロッ

「「ひっ……!」」

 

 あーあ、一番怒らせちゃいけない人達怒らせちゃった……

 

黒服A「どんな手を使っても構わん、情報を聞き出せ」

黒服集団「はっ!」

真言「おいお前ら、言っとくけどこの人達、多分俺の10倍強いし100倍怖ぇぞ」

 

黒服A「神代様、この度は本当にありがとうございました。このお礼は必ず……」

真言「とにかく弦巻が無事で良かったです。よろしく伝えといてください」

黒服A「もしかしてお急ぎの用が……」

真言「あぁ……まぁ……今日は燐子先輩の誕生日なんです。ただでさえここからCiRCLEは遠いんで早く行かなきゃ」

黒服A「では我々がお送りします」

真言「大丈夫ですよ、黒服さんはそいつらをよろしくおねがいします。真相がわかったらまた教えてください」

 

黒服B「おい貴様ら、なぜこころ様を拐った」

「………………」

黒服B「答えないのならこの電極を……」

「た、頼まれたんだよ!おかしな奴に!!」

黒服C「頼まれた?」

黒服B「誰にだ?名前は?そいつとお前達にはどんな関係がある」

「名前は…………知らねぇ」

黒服B「やれ」

黒服C「了解」

「本当だ!!嘘じゃねぇって!!」

 

真言「…………うっかり殺さないようにしてくださいね」

黒服A「ご安心を。万が一が起こっても弦巻家の医療チームは優秀です。情報を吐かせるまで死なせはしません」

真言「全く安心できないんですが……」

 

 その辺のヤクザが可愛く見える……

 

「本当に何も知らねぇんだよ!」

黒服B「ではなぜそんな名前も知らない人間の言うことを聞いた?」

「どうやらそいつ、相当な金持ちみたいでよ……あのガキを拐って指定の場所に運べば大金を貰えるって言われて……」

黒服B「その指定の場所はどこだ?一体何がある?」

「あんたらの後ろにある空き地だよ。見ての通りなんにもねぇ……って待て待て!その電極を下ろせ!!」

 

 どうやら真相究明はかなり難航するようだ。

 

真言「じゃ俺はもう行きますね」

黒服A「お気をつけて」

 

黒服B「では貴様らにこころ様誘拐を依頼した奴はどんなだ?さっさと答えろ」

「ったく…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「顔にでけぇ痣のある気味の悪い女だよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「顔に……………………痣?」ピタッ

 

 顔に痣のある、気味の悪い女……………

 

真言「……………………」

黒服A「神代様……?どうかされたので──」

 

 俺の脳裏を嫌な記憶が黒い閃光のように駆け巡る。

 

真言「おいテメェ!!!」

「!?」

真言「本当にそいつには顔に痣があったんだな!?」

「お、おお……」

 

()()()()()()()()()()()()()でけぇ痣だったけど……それが何だよ!」

 

真言「う……そだ…………」

 

 そんなこと……絶対に有り得ない……有り得るはずがない……!!

 

『久しぶりね、元気だったかしら?』

 

『あら?顔色が悪いわよ?』

 

『この化け物』

 

真言「あああああああ!!!!!」

黒服A「神代様!?」

黒服B「貴様ら!神代様に何をした!!」

「し、知らねぇよ!そいつが勝手に……」

真言「っ!!!」

 

 殺気立った様子で再度掴みかかる。

 

真言「なんでだ!!なんで奴が弦巻を拐わせたんだ!!答えろ!!!」

「し、知らねぇよ!目的までは聞かされてねぇ!!」

黒服A「神代様!落ち着いてください!」

「っ……まぁ、とにかく頭のおかしい奴だったぜ。ずっとよくわかんねぇ独り言呟いてたしよ」

真言「…………どんな……独り言を」

 

「『化け物……』とか『これでやっと……』とか。はっ、厨二病もあそこまでいくと恐ろしいね」

 

 間違いない……その女は…………

 

真言「あいつだ……」

黒服A「え?」

「なんだ、あんたの知り合いなのか」

 

 知り合いなんて生温い関係じゃない。俺とあいつは……

 

黒服A「神代様、その"あいつ"とは……」

真言「俺が監視対象になった直接の原因、それにそいつの言う『化け物』は……俺です」

黒服A「なっ……!」

 

 つまりあいつは、俺を陥れたあの女は、再び……いや三度、俺への嫌がらせをしてきたことになる。

 

真言「以前、あいつと道で出会ったときに、あいつは俺に知らないはずの俺と燐子先輩との約束のことを知ってました」

黒服A「では今回も神代様と交流のあるこころ様を調べ上げ、嫌がらせのために誘拐させたと……?」

真言「考えたくないですけど…………」

 

 こいつの話に出てきたあの女が言っていた独り言というのは間違いなく俺に向けてだ。

 

 あの女は俺に並々ならぬ憎悪を抱いている。誘拐くらい平気でやるだろう。

 

真言「化け物は俺のことだ……じゃあ『これでやっと……』って……何のことだ?」

 

 『これでやっと……』なんだ?あいつは何をしようとしている?それが弦巻を誘拐することと何か関係があるのか?

 

「あ、あの……」

 

 もう一人の誘拐犯が話しかけてくる。

 

「これ……関係あるのかわかりませんけど……」

真言「いいから答えろ……!!」

 

「え、えっと…………『時間稼ぎが……』みたいなことを言ってました」

 

黒服A「時間稼ぎ?」

「それを言ってるときのその人……すごく不気味で……気持ち悪かったのを覚えてます」

真言「…………………」

 

 時間稼ぎ……誰の、いや何のための?

 

 あいつは何のために…………弦巻を拐って、俺の時間を稼ごうとした?

 

真言「………………ぁ」

 

 

 

 

 

『と、とにかく俺が一番奴らに近いみたいだな』

 

 この方向だとC()i()R()C()L()E()()()()()だぜ。クソ……

 

 

 

 

 

真言「だめだ…………」

 

 最悪の未来が……視えてしまう。

 

 

 

 

 

『ここからだと街が一望できるんです。人通りも少ないですし……』

 

 

 

 

 

真言「あいつの……本当の狙いは…………」

 

 

 

 

 

『うん……あこちゃん達にはわたしから直接言っておくね……!』

 

 

 

 

 

黒服A「神代様!?どこへ──」

 

 持てる力の全てで、俺はCiRCLEへの道を駆けていく。

 

 俺の、この最悪の推測が当たっているのなら、あいつの本当の目的は………………

 

真言「燐子先輩ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あこ「りんりんとまっくん……遅いなー……」

リサ「もしかしてアタシたちの事忘れてるんじゃ……」

友希那「…………………」

リサ「友希那?」

友希那「何か……嫌な予感がするわ」

あこ「嫌な予感?」

紗夜「確かに……いくら何でも遅すぎます」

リサ「ま、まさか途中で事故とかにあったんじゃ……」

あこ「だ、大丈夫だよ!だってまっくんがいるんだよ?この前おじいちゃんと修行して更に強くなったみたいだし!」

友希那「………………」

紗夜「私、少し様子を見てきます」

 

 ガチャ

 

あこ「あ!来た来た!まっく…………ん?」

真言「ハァ……ハァ……ゴホ…………」

リサ「ちょ、ちょっとどうしたの!?」

友希那「尋常じゃないくらいの汗だわ……あなた、走ってきたの?一体何が…………」

真言「り……」

あこ「あれ……そういえばりんりんは?なんで一緒じゃないの?」

紗夜「神代さん、何があったんですか!」

 

真言「燐子先輩は……どこに……!!!」

 

あこ「え…………」

リサ「どこにって……」

真言「間に……合わなかった…………」

紗夜「神代さん!どういうことか説明してください!!」

真言「あ……ああ…………」

 

 ピロン♪

 

真言「……!?燐子先輩から……!!」

友希那「どうやら動画のようね……」

 

 送られてきた動画を再生する。そこに映っていたのは、忘れもしない……顔面の一部が俺のつけた大痣で覆われた女と──

 

リサ「なに……これ」

あこ「うそ……」

友希那「…………」

紗夜「この人……あの時の……」

 

『ごきげんよう、化け物。久しぶりね』

 

真言「き…………き…………

 

真言「貴様ああああああ!!!!!

 

 ──気を失い、椅子に縛り付けられている燐子先輩の姿だった。




悪意を込めて。


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56.Dear nightmare

親愛なる悪夢へ


真言「貴様ああああああ!!!!!

 

()()、見えるかしら。あなたの愛しの先輩よ?』

 

 画面に映る燐子先輩はぐったりとしたまま動かない。

 

真言「殺してやる…………

紗夜「神代さん!スマホを置きなさい!壊してしまいます!!」

 

『それにしてもまぁ面白いくらいに引っかかってくれたわね。今ここに私とこの人がいるということは……流石の化け物でも弦巻 こころを助けてからじゃ遅すぎたということかしら』

 

紗夜「弦巻さん……?」

真言「………………」

リサ「マコくん……大丈──」

真言「黙れ

リサ「!」

 

 燐子先輩は椅子に縛り付けられたまま動かない。

 

 動かない。動かない。動かない。

 

『この顔、覚えているでしょう?あなたにつけられた傷……医者からは完全に消えることはないだろうって言われたわ……』

 

『酷いと思わない?だからあたし……決めたの』

 

『今度はあたしがあんたの大切な物を傷つけてやるって!!』

 

真言「黙れ…………!!!

 

『あんたの目の前で!あんたの命より大切なものに!一生消えない傷をつけてやる!!アハハハハハハハハハハ!!!!!』

 

真言「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!!

 

『ここにはね、あたしだけじゃなくてあたしの"友達"もいるの』

 

 動かない…………死んだように。

 

『あたしらがいる場所の位置情報を送っておいたわ』

 

『取り返したかったら化け物、あんた一人で助けに来なさい。警察に連絡したら……わかるわよね?』

 

『早く助けに来ないと……あんたの愛しの燐子先輩』

 

()()になっちゃうわよ?』

 

 動画はそこで終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「弦巻さんに助けを求めましょう」

 

友希那「警察に頼らず、燐子の居場所を突き止めて、さらにそこから迅速に救出できるのなんて弦巻家くらいだわ」

真言「……………………」

リサ「そ……そうだね…………」

紗夜「神代さん、すぐに黒服さんに連絡を」

 

真言「………………る

 

あこ「まっくん……?どこに……」

紗夜「神代さん!聞こえているんですか!?」

 

 今度こそ…………確実に…………

 

真言「………………てやる

友希那「真言……あなた……」

 

真言「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる

 

友希那「っ!止まりなさい!!」

リサ「聞こえてない……燐子助けに行く気だよ!!」

あこ「まっくんお願い!!いつものまっくんに戻ってよ!!!」

 

真言「殺してや…………

 

 化け物の目の前に立ちふさがる、一人の少女。

 

紗夜「行かせません」

真言「どけよ…………氷川 紗夜!!」

紗夜「どきませんよ。白金さんがいない今、あなたを止められるのは私だけですから」

 

 どれだけ大声を上げようが、彼女は怯まない。

 

真言「これは俺の問題だ!だから俺が終わらせる!!」

紗夜「白金さんが拐われた以上、これはもうあなただけの問題ではないんです!!」

真言「だからってこのまま見てろって言うのかよ!?そんなことできるわけねぇだろうが!!」

紗夜「冷静になってください!あなたが今取るべき最善の手段は、無策で白金さんを助けに行くことではありません!!」

 

紗夜「神代さんの気持ちはわかります……ここにいる全員が同じ気持ちです」

 

紗夜「でも相手は神代さんをおびき出すために平気で人を拐うような頭のおかしな人間……!」

 

紗夜「これは確実に罠です。今、あなたが怒りのままに乗り込めば、白金さんだけじゃない……あなたまでどうなるか…………」

 

紗夜「最悪、殺されてしまうかもしれないんですよ!?」

 

真言「……それが何だよ」

 

 今更命なんて……

 

真言「もううんざりなんだよ……俺の人生には、狂った奴らが多すぎる……」

 

 あいつらはいつでもそうだ。俺の目の前にふらりと現れては、大事なものを奪っていく。

 

 だから俺は……

 

真言「一人残らず消してやる……たとえ殺されることになってでも」

紗夜「白金さんとの約束を破ることになっても、ですか……?」

 

真言「…………もう、破っちまったんだよ」

 

 俺はもう、「燐子先輩を守る」という約束を破ってしまった。

 

真言「どけよ……全部、終わらせてくるから」

紗夜「………………」

真言「どけって言ってんだよ!!

紗夜「………………嫌です」

真言「…………っ!」

 

 紗夜先輩の首に、俺は手をかけた。

 

 また、約束を破った。

 

紗夜「あ……がっ…………!」

リサ「紗夜!」

真言「お前に……お前に何がわかる!!氷川 紗夜!!

紗夜「も……もう…………あなたはひとりで……背負わなくてもいいんです…………!」

真言「……!」

紗夜「ただしくなくても……いい……!もうあなたのおとうさんも……おかあさんも…………もうそんなことのぞんでない……!!」

 

 耐えきれなくなって、手を離す。

 

リサ「紗夜!大丈夫!?」

真言「………………」

紗夜「ごほっ……ま……まっ……て…………」

友希那「真言……あなたは…………!!!」

あこ「もう……やめて…………まっくん!!!」

 

真言「は……はは……

 

 もう、戻れないところまで来てしまった。

 

 あいつらも。……そして俺も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜倉庫跡〜〜

 

真言「………………」

「約束通り一人で来たわね。えらいえらい」

燐子「………………」

「改めて、久しぶりね」

 

 燐子先輩……今、そっちに……

 

「おっと、止まりなよ」

真言「…………っ!」

 

 物陰に隠れていた男達に取り押さえられる。

 

真言「………………」

「あは♪ほんっとあんたってバカね」

 

 そう広くはない倉庫内にざっと10から20人くらい。

 

 全員が悪意に満ちた顔で笑っている。

 

「こいつらはあたしがお金で雇った人達……あ、知らなかった?あたしの家結構お金持ちなのよ?まぁ、弦巻家には負けるけど」

真言「おい

「は?」

真言「今すぐ燐子先輩を解放しろ

 

「……………ぷっ」

 

アハハハハハハハハハ!!!!

 

「随分と余裕があるのね化け物!あんた自分達がどういう状況にいるのかわかってないの?」

 

真言「さっさと離せ。そうすれば半殺しですましてやる。…………あの女以外は

「な、何言ってんだこいつ……」

 

「いい!?あんたは今からこの女に一生消えない傷をつけられるところを、目の前で見届けるのよ!!!」

 

燐子「ん…………ここは…………」

真言「燐子先輩……!!」

燐子「真言くん……!?ここは……なんでわたし縛られて……」

「あらあらあら、おはよう御座います。燐子先輩?」

燐子「……!?あなたは……!」

「覚えてくれてましたか」

燐子「ここはどこ……!あなた……ここで一体何を……!」

 

「誕生日プレゼントですよ。あたしからの」

 

燐子「プレゼント…………?」

「良かったわね化け物。これで愛しの先輩が泣き叫ぶところを存分に見れるわよ?」

真言「っ……!てめぇ……………!

「そう!そうよ!その顔よ!あたしはずっとその顔が見たかったの!!あんたにこの痣をつけられて、地面に踏みつけられたあの日からずっと!!!」

「今じゃあんたが地に伏してる!あたしはあんたの上にいる!!」

真言「イカレ女が…………!

 

「あんたら、その女、好きにヤっていいわよ」

 

「へへっ、やっとだぜ……」

「いい女じゃねぇか……」

燐子「や……やめて……!来ないで……!!」

「暴れても無駄だぜ?大人しくしろよ」

 

 殺してやる……絶対殺してやる…………!

 

「そこでよーーーく見てろ化け物!!あたしの恨みがどれだけ深いかを!あんたの大事なものが目の前でグチャグチャにされる所を!!!!!」

 

「あんたが正義のヒーローぶったあの日から!!こうなる事は約束されてたんだよ!!!!!アハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」

 

 殺す……ころす…………あは……あはははは…………

 

燐子「真言くん………………」

 

 

 

 

 

燐子「たすけて…………………………」

 

 

 

 

 

 俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言『燐子先輩!』

 

 何百回でもそう呼ぶから、

 

燐子『真言くん……』

 

 何千回だってそう呼んでほしかった。

 

 他の奴らからはどうでもいい。けれどあなたには……あなただけには、そう呼んでほしかった。

 

 そう思うのはなぜだろう。

 

 そう思い始めたのはいつからだろう。

 

た、たすけて……たすけてくれぇ……!

 

 きっと、燐子先輩と約束を結んだあの時からだ。

 

 『もう誰も傷つけないで』

 

 そう言う先輩の目を、俺は今でも鮮明に覚えている。

 

 他の奴らとは違う、綺麗で、優しくて、暖かくて、

 

本物の……化け物…………!

 

 強い目だった。まるで母さんみたいな。

 

 だから俺は先輩と約束を……いや、それは違うな。

 

 あの時からすでに、俺は燐子先輩のことが好きだったんだろう。

 

 こんなことを考えるのは……なんというか……ムズムズする。これが"恥ずかしい"ということなのだろうか?

 

 何しろ恋愛というのを全く体験してきてないからわからないんだ。

 

来るなあああああ!!!

 

 …………まぁ、多分違うのだろうけれど。

 

 最近、燐子先輩に出会う前の俺のことを思い出せなくなってきている。

 

 あの人に出会うまで、俺は何をして生きていたんだっけ?

 

 じいちゃんや、兄貴や、母さん達と……俺は何をして……

 

お願いします……ゆるしてくださいぃ……

 

 …………よく覚えていない。

 

 まぁいい。どうせろくな過去じゃない。

 

 傷つけて、傷ついて、奪われて、裏切られて…………

 

あはははははははははははははは!!!!

 

 俺の人生なんて、燐子先輩がいなければゴミも同然だ。

 

 もはやこの気持ちは恋じゃない。

 

 これはただの依存だ。俺には燐子先輩しかいない。

 

悪夢……悪夢よ……これは…………

 

『真言くん……』

 

 "愛"なんて純粋なものじゃない。そんな言葉、口にするのもおこがましい。

 

 このイカれた女のおかげでようやくわかったよ。

 

 俺は………………燐子先輩の側にいてはいけない。

 

 俺には、大切な人と共にいる資格がない。

 

 でも……もし許されるのならば一言だけ。一言だけでいいから…………あの人に言いたいこと……が…………

 

『真言くん……』

 

 あぁ……燐子先輩……

 

燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩燐子先輩りんこせんぱいりんこせんぱいりんこせんぱいりんこせんぱいりんこせんぱいりんこせんぱいりんこせんぱいりんこせんぱいりんこせんぱいりんこせんぱい繧翫s縺薙○繧薙?縺繧翫s縺薙○繧薙?縺繧翫s縺薙○繧薙?縺繧翫s縺薙○繧薙?縺繧翫s縺薙○繧薙?縺繧翫s縺薙○繧薙?縺繧翫s縺薙○繧薙?縺繧翫s縺薙○繧薙?縺繧翫s縺薙○繧薙?縺繧翫s縺薙繧翫s縺■○繧薙■縺繧翫s縺■○繧薙?縺■翫s縺■○繧薙?■繧翫s縺薙○繧薙?縺■翫s縺薙○繧薙?■繧■s縺薙○繧薙?■繧翫s縺■○繧薙?縺■翫s縺■○繧薙?縺■翫s縺薙○繧薙?■繧翫s縺■○繧■?縺

 

 

 

 

 

真言「だいすきでしたよ……」

 

 人間になるくらいに。

 

 化け物に戻ってしまうくらいに。

 

 両手を静かに横たわる最愛の人にへと伸ばしながら、

 

 化け物は倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてことだ……本当にこれを神代様一人で……!?」

「とにかく全員運べ!こころ様の恩人を殺人犯にしてはならない!!」

「いたぞ!神代様はあそこだ!」

「酷い怪我だ……これは生きてる……のか……?」

 

真言「ぁ"………

 

「……!まだ意識があるぞ!」

「こころ様の恩人だ!決して死なせるな!」

「了解!」

 

真言「りんこ……せんぱい…………




殺意を込めて。


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57.Dear friend

親愛なる友へ


真言「(………………眩しい……夕日?)」

 

 目が覚めると、そこには見知らぬ天井が広がっていた。

 

真言「(ここは…………病院か……)」

 

 身動きが一切取れない。よく見ると俺の身体は包帯やらギプスやらで全身固定されていた。

 

 俺は確か燐子先輩を助けに行って、それから…………

 

真言「(あぁ……またか……)」

 

 どうやら俺は"暴走"して、そしてしぶとくも生き残ってしまったらしい。

 

清正「目が覚めたか?」

 

 声のした方に目をやると、そこには田舎にいるはずの俺の祖父、清正じいちゃんがいた。

 

真言「じいちゃん……なんで……」

清正「孫が入院したというのに、田舎に引きこもってなんぞおられるか」

 

 そっか……俺、じいちゃんにまで心配かけて……

 

真言「じいちゃん……ごめん……」

清正「気にすることはない。なに、いつものヤンチャじゃろ?」

清正「じゃがまぁ…………随分と派手にやられたもんじゃのぉ……事情はその子から全部聞いたよ」

真言「その子……?」

 

 一体誰のことを……

 

清正「その子もまた、お前をここまで運んで治療してくれた"黒服"とやらから聞いたそうじゃがな。ほれ、今お前に寄りかかって寝ておる娘じゃよ」

 

「すぅ…………すぅ…………」

 

真言「(寝息…………ん!?)」

 

 視線を横にもっていくと、そこにはこちらに寄りかかって眠っているツインテールがあった。

 

真言「あ……りさ…………」

有咲「ん………………んん!!」

 

 目醒めるや否や、今にも泣き出しそうな目でこちらを見る有咲。

 

有咲「マコ!!お前……心配させやがって……!!」

真言「………………悪い」

清正「まあまあ、また泣くとせっかくの美人さんが台無しじゃよ」

真言「…………本当に、悪いと思ってる」

 

 俺は……本当に…………

 

黒服A「おはよう御座います。神代様」

真言「黒服さん…………」

黒服A「ご安心を。こちらからきちんとご説明させていただきます」

 

 黒服さんの話をまとめるとこうだ。

 

黒服A「神代様の後を追い、我々がCiRCLEに着いたときには既に神代様はいませんでした」

 

黒服A「Roseliaの皆様から事情を伺い、倉庫後に駆けつけ、ボロボロの神代様を発見しました……そして今に至るという訳です」

真言「燐子先輩は……」

 

黒服A「白金様はご無事です。……というより全くの無傷でした」

 

清正「ほぅ……」

有咲「無傷?」

黒服A「えぇ。神代様の容態が命に関わるレベルだったのに対し、白金様は気絶していたもののお身体の方には傷一つありませんでした。」

 

 そっか……良かった…………

 

有咲「マコの容態が命に関わるレベルって……」

黒服A「……両腕ともに骨折。全身打撲……特に頭を鉄パイプか何かで殴打された跡。その他全身数カ所に骨折やヒビが」

黒服A「医者からは『生きているのが奇跡だ』と」

真言「……黒服さん。俺はどのくらい眠ってましたか?」

 

黒服「…………2週間ほど、神代様は生死の境を彷徨っておりました」

 

真言「2週間……」

黒服A「今回の事件について、幸い……と言いますかあの場に死人は一人もいませんでした。犯人グループは凶器を所持していたのに対し、神代様は素手でしたので、恐らく正当防衛が適用されるかと」

 

 誰一人……俺は、あの女も殺せなかったのか。

 

黒服A「倒れていた神代様の近くで同じように横たわっていた主犯格の女はかなりの傷を負っていました。当分病院からは出られないでしょう。……神代様?」

 

 弦巻を誘拐させ、燐子先輩を危険な目に合わせたのは……俺だ。

 

 俺のせいで皆…………

 

真言「俺……………なんでまだ生きてんだろ」

 

 俺なんか……あのまま死んでしまえば良かったのに。

 

 

 

 

 

有咲「……………おい」

 

 思わず口をついてしまったそんな言葉を、俺の親友が聞き逃すはずがなかった。

 

有咲「なんで……そんなこと言うんだよ…………」

真言「……有咲、俺はな約束を破っちまったんだよ」

有咲「それが何だよ!!たかが約束をひとつふたつ破ったくらいで何ふざけた事言ってんだお前!!」

 

 有咲…………ごめんな…………

 

有咲「燐子先輩との約束が無かったらお前には何もねぇのか!?」

 

 本当にごめん…………でももう遅いんだ。

 

有咲「違うだろ!!お前には紗夜先輩もRoseliaの人達も……私も!少なくともここに私がいる!!」

真言「……………」

 

 もう……俺に何を言っても無駄だ。

 

有咲「"親友"じゃ……なかったのかよ……」

 

真言「……………」

有咲「なぁマコ……」

 

真言「……帰ってくれ、有咲」

 

 俺がそう言うと、有咲は足早に去っていった。その目が今にも泣きそうだったのはきっと気のせいではないのだろう。

 

清正「……本当に、あれで良いのか?」

真言「…………もう、いいんだ」

 

 俺がいるから、周りの人間に迷惑がかかる。あの女のような奴らがまたいつ襲ってくるかもわからない。

 

清正「だから自分から大切な人を遠ざける……か」

真言「…………」

清正「マコ、ワシは当分この街に滞在する予定じゃ。すまんがあの家を使わせてもらうぞ」

真言「………………うん」

清正「……先程、医者が言っておったがお前はしばらくの間は絶対安静じゃ」

 

清正「そこでよく考えるが良い。自分が今後どうすべきかを」

 

清正「……何れにせよ、ワシはお前の味方じゃ」

 

 そう言い残して、じいちゃんも出ていった。

 

 俺がどうすべきか……?そんなの決まってんだろ。

 

 先輩たちが作ってくれた居場所に、俺がいる資格はない。

 

真言「"監視対象"は……もう終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【市ヶ谷 有咲】〜〜

 

 マコが目を覚ましてから数日後、あいつは何事も無かったように学校へ来た。

 

 全身包帯まみれの痛々しい姿で。

 

有咲「……………」

 

 マコが、完全にマコでなくなってしまった。

 

「神代……くん……?怪我は大丈夫?」

真言「あぁ……うん」

「聞いたぜ?お前、弦巻さんを誘拐犯から助けたらしいな!お手柄じゃねぇか!」

真言「うん……まぁ……」

 

 歪な笑顔を浮かべ、今まで喋ったことのないクラスメートたちと話しているあいつは誰だ?

 

「聞いた?弦巻さんを誘拐した犯人、元花咲川の生徒らしいよ」

「えぇ!?それ本当!?」

「しかも神代くんが1年のときに起こした暴力事件の被害者!」

「えー?それはなんか出来すぎてない?急に神代くんが出てくるわけないじゃん」

「あくまで噂だからね。でもあんなにボロボロになって弦巻さんを助けたなんて……それこそ漫画の中のヒーローみたいじゃん」

 

 違う……

 

「……なんか私達、神代くんのこと誤解してたのかな……」

「今まで怖そうな人だと思ってたけど……実はそんなことないのかな」

「かもね。ほら、今も笑ってるし」

「神代くんってあんなふうに笑うんだね……」

 

 違う……!あいつは…………

 

こころ「違うわ」

有咲「!」

こころ「あんなの……真言じゃない」

「ちょ、弦巻さん?」

 

 マコに近づいていく弦巻さん。そこにはいつものような明るい笑顔は無かった。

 

こころ「真言」

真言「……どうした?弦巻」

こころ「聞いたわ。1年生の時、あなたの身に起こったこと、……それに今回のことも」

真言「……そうか」

こころ「真言、燐子とはちゃんと話せたの?」

真言「………………」

こころ「ねぇ真言!!」

 

真言「……お前も、怪我が無いみたいでよかった」

こころ「!」

 

 力なく笑うマコを見て、弦巻さんはそれ以上何も言えなくなってしまった。

 

有咲「弦巻さん……」

こころ「あんなの……あんなの真言の笑顔じゃないわ……」

 

真言「じゃあ、俺職員室行かなきゃいけないから……」

「お、おお。気をつけてな」

 

 教室から出ようとするマコの足が止まった。

 

 その目線の先にいたのは……

 

有咲「燐子先輩……」

真言「……………」

燐子「…………ま、真言く──」

 

真言「…………………」

 

 それは決定的だった。

 

 あいつにはもう、誰の声も届いていない。

 

 燐子先輩の声さえも振り切って、あいつはどこか遠くへ行ってしまう。

 

 あいつの"親友"……一人の友人として、私があいつにできることは…………何もないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【弦巻 こころ】〜〜

 

 「神代 真言」という男の子がいるということを、あたしは以前から知っていた。

 

 小さい時からたまに家に来るおじいさんがよく話していた、あたしと同い年の男の子。

 

『ワシにも君と同じくらいの孫がおるんじゃよ』

 

『君のように昔はよく笑う子だったんじゃが……今では自分の笑顔を見失っておる』

 

 それを聞いたあたしは、顔も知らないその子のことを笑顔にしてみたいと思った。

 

 その子が笑顔になればこの優しいおじいさんも心の底から笑顔になれると思ったから。

 

『そうかそうか……!では君がいつかあの子に会ったときには、あの子の友達になってくれるかい?』

 

 あたしはそのおじいさんと約束をした。

 

 「あたしがその子を笑顔にする」

 

 そしてあたしは彼と出会った。

 

 いつもやる気がなくて、無愛想で、ぶっきらぼうで、子供っぽくて、

 

 でもそれと同じくらい優しくて、

 

 燐子を見ると幸せそうに笑う。

 

 そんな彼と。

 

 でも…………

 

こころ「違うわ」

 

 違う。それは今の彼が大怪我を負っているからじゃない。

 

こころ「あんなの……あんなの真言の笑顔じゃないわ……」

 

 真言はあんな風に笑う人じゃなかった。今の真言はまるで別人みたい。

 

真言「……お前も、怪我が無いみたいでよかった」

 

 真言の目には何も写っていなかった。

 

 あたしのことも、親友と呼んでいた有咲のことも。

 

 きっと燐子も、今の真言には何もできない。

 

 

 

 

 

 それでいいの?

 

 

 

 

 

こころ「…………いいわけない」

 

 約束したんだから。真言が燐子と結んだように、あたしだって……あたしだって……!

 

こころ「あたしだって、真言の友達なんだから……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【Roselia】〜〜

 

 その頃、Roseliaは電話で連絡を取っていた。

 

リサ『燐子を無視、ねー……』

紗夜「これは相当危険な状況です。恐らく1年生の時よりも」

燐子「わ、わたしが……拐われたから…………」

あこ『りんりんは悪くないよ!』

紗夜「とにかくこのままだと神代さんは何をしでかすか分かりません。一刻も早く何とかしないと……」

 

友希那『…………燐子』

燐子「はい……」

友希那『正直に言えば、私は今回の事件で真言がやったことなんてどうでもいい』

リサ『ちょ、友希那!?』

 

友希那『ただ一つ、紗夜にした仕打ちを謝ってもらえれば私は十分だわ。後は真言の自由にすればいい』

 

友希那『だから燐子、あなた達がどうしたいのか、二人できちんと話し合って…………それから私達の前に引きずり出しなさい』

 

燐子「…………わかりました」

 

燐子「(でも……もう真言くんには…………ううん、届いていなら、何度だって……!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【神代 真言】〜〜

 

「君はもう生徒会の監視対象じゃなくて良いね。特別問題も起こしてないし、なんてったってあの弦巻家のお嬢さんを救ったのは君らしいじゃないか!大手柄だな神代くん!」

真言「…………先生、これを」

「ん…………?」

 

 これでいい。

 

 あいつらの友達として、これが俺の今できることだ。

 

 ……そう、俺は自分に言い聞かせる。

 

 弦巻も、有咲も、そして燐子先輩も、俺がいないほうが幸せにやっていける。

 

 だからこれでいい。

 

「これは……」

真言「お願いします」

「何故なんだ?何か問題でも……」

真言「問題があるのは俺です。だから……」

 

 

 

真言「俺はこの学校をやめます」

 

 

 

 それは一枚の退学届。

 

 何かを言われる前に押し付けて退散する……予定だったが。

 

黒服A「少々お待ちを」

「あなた達は……」

 

 職員室に入ってきたのは黒服さんだった。

 

 おおかた俺が病院からこっそり抜け出したことに気づいて急いで連れ戻しに来たってとこか。

 

黒服A「お構いなく、神代様を連れて行くだけですから」

真言「…………」

黒服A「まだ怪我が完治しておりません。さぁ、病院へお戻りを」

真言「…………わかった」

黒服A「"これ"は神代様が退院するまで我々が預かっておきます」

真言「…………ああ」

 

 退学届を奪われ、俺は病院へ連れ戻された。

 

真言「はぁ……」

 

 まぁいいさ、時間は十分にある。

 

真言「………………………何しに来た」

 

 決まってるだろ。と突如俺の病室に入ってきたそいつは俺に言う。

 

有咲「親友として、お前を止めに来た」




感謝を込めて。


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58.Dear friends

親愛なる友人達へ


 〜〜【白金 燐子】〜〜

 

 ピンポーン

 

燐子「やっぱり……家にはいない……よね……」

 

 真言くんはわたしと……"すれ違った"後、黒服さんに連れられて帰ってしまったらしい……

 

燐子「やっぱり病院に……」

 

 でも行って何を話せば…………前みたいに……いや、前よりも心を閉じてしまった真言くんに……わたしはなんて言えばいいの……?

 

「はーい」

燐子「え……」

 

 誰か出てくる……?

 

清正「おお、やはり燐子さんじゃったか」

燐子「真言くんの……おじいさん」

清正「久しぶり……と言ってもつい最近あったばかりか」

 

 何でここに……

 

燐子「真言くんのお見舞いですか……?」

清正「まあ、そうじゃな」

 

 あ、謝らなきゃ……わたしのせいで真言くんは…………

 

燐子「…………」

清正「折角来てくれたんだ。上がっていきなさい」

燐子「え…………」

清正「いいからいいから」

 

 良いのかな…………でも、既に何回かお邪魔してるよね……

 

燐子「お、お邪魔します……」

 

 玄関で靴を脱ぎ、そのままリビングに通される。

 

 生活に必要な最低限の物しか置いていない簡素なリビング。とても高校生が一人で住んでいるとは思えないほど、綺麗な…………何もない部屋。

 

清正「本当になんにも無いのぉ……燐子さんもそう思うじゃろ」

燐子「え、えっと…………」

清正「はっはっは!」

 

 口ごもるわたしを見て笑う清正さん、でもすぐに真剣な表情になった。

 

清正「あの子に趣味と呼べるものは無い。それがこの家に現れておる」

 

清正「小さい頃から無趣味だったからのぉ、まぁ無理もない…………」

燐子「?」

 

 あるものを見て止まる。その目線の先にあったのは……テレビの横の棚に丁寧に並べられたCD。

 

清正「……君達と出会って、少しは変わったと思っていたんじゃがな」

 

 そう、悲しそうに笑う。

 

 並べられたRoseliaのCDを手に。

 

燐子「あの……」

清正「ん?」

燐子「前から気になっていたんですけど……真言くんはずっと一人暮らしなんですか……?」

清正「あぁ、そうじゃ。あの子の母親の話は前にもしたな?」

燐子「はい……」

 

清正「この家にはマコが母親と二人で住んでおったんじゃ。……ほんの少しの間だけじゃがな」

 

清正「母親の容態がよくなれば二人で住み、悪化したらマコは一人。子供には酷な話じゃ」

 

清正「…………やはり、ワシの選択は間違っておった。今でも後悔しておる」

 

 わたしを見据える清正さんの真剣な瞳は、どこか真言くんに似ている気がした。

 

清正「君はどうかな?白金 燐子さん」

燐子「わ、わたし……ですか……?」

 

清正「あの子と出会い、あの子を救い、そしてあの子の大切な人になったせいで…………君はとても恐ろしい経験をしてしまった」

 

清正「もし君が真言と関わらなければ……今回のようなことは確実に起こり得なかったんじゃ」

 

 少しためらった後、清正さんはハッキリとした声でわたしに聞いた。

 

 

 

 

 

清正「君は……真言と出会ったことを後悔しているか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【神代 真言】〜〜

 

真言「止めに来た?俺を?」

有咲「そう。止めに来た」

 

 そう言う有咲の目は、今までに見たことがないくらい真剣なものだった。

 

真言「何を止めに来た……いや、何で止めに来た?」

有咲「お前が間違ってるから」

 

 要領を得ない回答だ。いつもの市ヶ谷 有咲では考えられない。

 

 ベッドの横の椅子に腰を掛け、話し出す。

 

有咲「お前は燐子先輩を助けた。なのにお前は勝手に一人で有りもしない責任を負って、挙句の果てに高校を辞めようとしてる。そんなの…………絶対におかしい」

真言「……俺が自主退学しようとしてたこと、バレてたのか」

 

 有咲が怒ったような口調に聞こえるのは、やはり怒っているからなのだろう。

 

 今、彼女は俺のために怒ってくれている。本当に優しいやつだ。

 

真言「別に、おかしくはねぇよ。死人が出なかったとはいえ、昔より酷い事件を起こして、約束破って…………」

 

 大切な人達を、危険な目に合わせた。

 

真言「何よりな、有咲。俺は俺が怖い」

 

真言「黒服さん達から話を聞いて、俺が一番最初に思ったことはな──」

 

 

 

『今回の事件について、幸い……と言いますかあの場に死人は一人もいませんでした』

 

 

 

真言「──誰も殺せなかったってことなんだよ」

 

 あれだけ憎くて、殺してやるって息巻いていたくせに、結局俺は誰一人息の根を止めることができなかった。

 

 そしてそれを俺は……

 

真言「悔しいって思っちまったんだよ」

 

 俺は俺が怖い。

 

真言「殴ったときの拳の感触も、血の匂いも、そして自分が自分でなくなる感覚も、全部覚えてる」

 

 俺はもう神代 真言を人間だとは思えない。

 

 人の命を奪うという行為を軽んじている今の俺を、もう人間だとは思えない。

 

 あいつらが俺の人生の前に現れ、俺に不幸を撒き散らす狂った悪魔なのだとしたら………俺も、周りの人に不幸を撒き散らす狂った化け物だ。

 

真言「…………なぁ、有咲。教えてくれよ」

 

真言「お前に俺はどう見える?」

 

 無言で椅子から立ち上がる有咲。

 

有咲「……お前が窓から飛び出して、それを私が掴んだあの時から…………」

 

有咲「私には神代 真言は人間にしか見えていない」

 

 ハッキリと、有咲は俺にそう言った。

 

有咲「お前は人間だ。口では全て諦めたような事を言っても実は全然諦めきれてなくて、他人に迷惑をかけるのが怖い……でも一人じゃ何にもできないってことさえ忘れるくらいバカな」

 

 

 

 

 

有咲「ただの人間なんだよ」

 

 

 

 

 

 私達と同じ。と有咲は続ける。

 

有咲「……だからさ、もう諦めたフリをするのはやめろよ。もっと周りに、私達に助けを求めろよ」

真言「そんなの…………」

 

 許されていいはずがない。俺が……俺なんかが…………

 

有咲「化け物でも監視対象でもない、一人の人間としての"神代 真言"が何をしたいのか……答えが出たら聞かせてくれ」

 

有咲「じゃあ、また学校で」

 

 答えが出ない質問を投げかけて、静かに病室を出ていった。

 

真言「俺は…………」

 

 俺はどうしたい?

 

 やらなければならないこと、やってはいけないこと、今までにたくさんあった。

 

 じゃあ、やりたいことは?

 

 俺の本当にやりたいことは………………

 

こころ「燐子に会うこと、でしょ?」

真言「あ…………ああ!?」

 

 金髪の少女がいつもの笑顔で病室にいた。

 

真言「おま!いつからそこに……!」

こころ「ついさっきよ!」

真言「はぁ…………」

 

 こいつは全然変わんねぇな……

 

真言「…………なあ、弦巻、聞きたいことがあ──」

こころ「あたしにも真言は真言に見えてるわ!」

真言「………………」

 

 この野郎………聞いてやがった…………

 

こころ「どうかしたの?」

真言「……聞きたいことはそれじゃねぇよ」

こころ「あら!じゃあ何かしら!何でも聞いてちょうだい!」

 

真言「お前、今したいことはあるか?」

 

こころ「したいこと?」

真言「夢って言ってもいい。今……というか、人生?生きている内にしたいこととか……まぁ何でもいい。何かあったら聞かせてくれ」

こころ「それはもちろん世界を笑顔にすることよ!」

 

 世界を……笑顔に?

 

真言「……即答かよ」

こころ「えぇ!」

真言「…………お前らしいな」

 

 「弦巻らしい」なんて、関わりの薄い俺が言えたことではないとは思う。

 

こころ「それに今は…………」

 

こころ「目の前の友達に、笑顔になって欲しい」

真言「……!」

こころ「その子はあたしにはいつも怖い顔をするんだけど、偶にすごくいい笑顔を見せてくれるの」

こころ「だからあたしは、これからもっともっとその子に笑顔になって欲しい」

 

 あぁ…………

 

真言「(眩しい)」

 

 いつもそうだ。こいつを見ていると目が眩む。

 

 いかに俺が暗くてダメなやつかを見せつけてくるみたいで。

 

 その太陽のような笑顔は……俺には眩しすぎるんだよ、弦巻。

 

こころ「ねぇ真言、真言は自分のことが嫌い?」

真言「…………嫌いだよ」

 

 嫌いだ。嫌いだ。大嫌いだ。

 

真言「自分勝手で、自己中心的で、周りを見れなくて、約束一つ守れなくて、友達を……お前を危険な目に合わせて、燐子先輩を守れなかった」

 

真言「そんな俺が、俺は──」

 

 ポスっ

 

真言「……………」

 

 手だ。俺の頭に弦巻の小さな手が置かれている。

 

 そしてそのまま弦巻は俺の頭を優しく撫でた。

 

こころ「真言が真言のことを嫌いになっても、真言を大切に思ってくれる人は必ずいる。心当たりがあるでしょ?」

真言「………………」

こころ「少なくともここに一人、あなたの友達がいるわ!」

こころ「有咲も紗夜も燐子も、みんなあなたを大切に思ってる。そんなみんなの気持ちも真言は否定するの?」

 

 何も、言えなかった。

 

 頭を撫でながら弦巻は続ける。

 

こころ「大丈夫。あなたは自分で思っているよりももーっと素晴らしい人よ!」

真言「俺はそんなんじゃ……」

こころ「あたしが保証するわ!だって真言はあたしを助けてくれたじゃない!」

真言「それだって俺の……」

こころ「真言が自分のことが嫌いなら、あたしが真言の良いところをたくさん言ってあげる!真言が自分のことを好きになるまで!!」

こころ「だから……ね?」

 

こころ「勝手にいなくなろうとしないで……」

 

 笑顔が消え、一瞬で泣きそうな顔になった彼女は弱々しくそう絞り出した。

 

真言「…………悪い」

こころ「何度でも言うわ、あなたは素晴らしい人よ!」

 

 再び眩しい笑顔で彼女は俺にそう言う。

 

こころ「強くて、カッコよくて、困ってる人がいると放っておけない、あたしも助けてくれた!」

 

 

 

 

 

こころ「神代 真言はあたしのヒーローよ!」

 

 

 

 

 

真言「……本当、お前は眩しいよ」

 

 眩しくて、温かい。

 

 まるで、太陽みたいだ。

 

真言「ありがとな、弦巻」

こころ「……!今笑ったわ!」

真言「……気のせいだろ」

こころ「ならどうして顔をそらすの?」

真言「あーもう!いいから帰れよ!俺は疲れてるから寝る!!」

こころ「もっと素直になってもいいのに……」

真言「ほっとけ」

 

 こいつと話して、少しだけ気持ちが軽くなった。

 

こころ「じゃあまた学校で!」

 

 どいつもこいつも、「また学校で」か……

 

真言「ああ、またな()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【白金 燐子】〜〜

 

燐子「後悔なんてしてません」

 

 口下手な私でも……ハッキリと口に出して言えた。

 

燐子「だって真言くんは……」

 

 私はちゃんと知ってる。

 

 何の関係もない女の子をイジメから救おうとしたことも、

 

 今井さんと青葉さんを強盗から守ったことも、

 

 プールで私達を守ってくれたことも、

 

 攫われた私を助けてくれたことも、

 

 ……あの日、一人で心細かった私の手を引いてくれたことも。

 

 全部全部全部、知っている。

 

 真言くんは自分で思っているより、ずっとずっと素敵な人だってことも。

 

 彼のカッコいいところを、可愛いところを、優しいところを、怖いところを、強いところを、弱いところを、見てきた。

 

 いろんなところを見てきた。

 

 だから私は……

 

燐子「だって真言くんは、私の……ヒーローですから」

 

 だから私は、彼を好きになった。




感謝を込めて。


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59.Dear you

親愛なるあなたへ


真言「ここは…………」

 

 目が覚めると、そこはおかしな……いつもの見慣れた光景が広がっていた。

 

 俺が監視対象となってから何十回と通った場所……

 

真言「生徒会室だ」

 

 なんでこんな所に……俺は確か…………

 

「ちょっと君」

真言「あ"?」

 

 誰かいるのか?今どっかから声が聞こえたような……

 

「こっちだこっち」

真言「…………?」

 

 そこにいたのは俺と歳が同じくらいの、目つきが鋭い少女と、温厚そうな微笑みをたたえた少年だった。

 

 二人とも見たことない奴だ。というかまず二人が着ている制服が花咲川の物じゃない。

 

 学ランとセーラー服を着たそいつらは、何故か生徒会の会議用に並べられている椅子に座っていた。

 

「いつまでそんなとこに突っ立ってんだ」

「まあまあ、とりあえず座りなよ」

 

 乱暴な話し方をする少女と、そんな彼女と対象的に穏やかな少年。なんかどっかで見たことある気が……

 

真言「あんたら一体誰だ?それにここは……」

 

 隣同士で座っている二人の正面の椅子に座りながら、俺は聞く。

 

真言「俺は確かさっきまで……」

「『病室にいたはずなのに』だろ?そんなわかりきったことを一々思い出してんじゃねぇよ」

 

 そうか……じゃあやっぱり……

 

真言「ここは夢の中で、あんたらは俺が創り出したイメージってことか?」

「ん……まぁそんなとこだ。ったくちょっと考えれば正しい答えが出んじゃねぇか」

 

 正しい……答え。

 

真言「なぁ、聞きたいことがあるんだけど」

「んだよ」

真言「俺…………やっぱり間違えたのかな」

 

 Roseliaの皆の……紗夜先輩の静止を振り切って、一人で燐子先輩を助けに行った俺の判断は正しかったのだろうか?

 

「そんなもん、お前がこれからどうするか次第だろうが」

 

 ニヒルに笑う少女。

 

真言「俺………まだ生きてんだよな」

「辛いか?」

真言「……!」

「あの時、黒服のやつらが助けに来なければお前は確実に死んでいた……それがお前の望んでいたことだったのか?」

 

 見透かされている。それは彼女が俺の創り出した脳内人格だからなのか、それとも…………

 

「もう死んで、楽になりたいか?」

真言「………………」

「逃げるのか?大切な人達から」

「おい、もうその辺に……」

真言「もう……大切な人達が傷つくのは見たくない」

「だからってそれは自分を見てくれる人から目を逸らしていい理由にはなんねぇんだよ」

真言「初めから……俺にはあの人の側に居る資格なんて無かったんだ」

 

 それこそ考えればすぐにわかりそうなことだ。薄汚い化け物の俺には……あの人達は眩しすぎて、そして温かすぎた。

 

 消えてしまうくらいに。

 

真言「今回の事件だって俺がいなければ燐子先輩は拐われることは無かった……!それにこころだって……」

「マコ、愛する人の側に居ることに資格なんか必要ねぇんだ」

 

「確かにお前の人生には狂った連中が多いのかもしれない、それでもお前は大切な人達を守ろうと必死に戦ってきたじゃねぇか。そうだろ?」

 

「資格うんぬんの話がしてぇなら……安心しろ。お前にはその資格がある!」

 

 力強くそう告げるには少女には、どこか懐かしい、不思議な安心感のような物があった。

 

真言「でも俺は約束を……」

「それは燐子とのか?それとも家族とのか?」

 

 そのどちらも、だ。

 

 燐子先輩を守れず、暴力をふるい、そしてそんな俺の選択は正しくなかった。

 

 やっぱり、父さんが正しかったんだ。

 

「『暴力じゃ何も解決しない』……私に言わせればそれは少し違うな」

 

 

 

「正確に言えば『暴力じゃ解決しないこともある』だ。大抵のことは拳で何とかなっちまうもんなんだよ!」

 

 

 

真言「えぇ……」

 

 なんつー暴力的な女だ……

 

「暴力的?いいじゃねぇか!力だって善良な市民が使えば正義足りうる!要は力を使う奴が問題なだけであって始めっからそこに善悪の区別は──ってぇ!!」

真言「!?」

 

 独特な持論を展開する少女の頭を少年が引っ叩いた。

 

「いい加減にしなさい。いくら夢の中だからって言って持論を押し付けるのはどうかと思うよ」

「ちっ……別にいいじゃねぇか!なぁ?」

真言「俺に同意を求められても……」

「ほら、真言も困ってるじゃないか」

真言「…………」

「あ?なんだよマコ。急に黙っちまって……」

真言「……なぁ、俺、これからどうすればいい?」

 

 こんなこと、こいつらに……夢の中の俺が作り出した思念体に聞いても仕方がない。

 

真言「でももう分かんねぇんだよ」

「どうすればいい、か…………」

「そんなもん、自分の好きなようにやれよ」

真言「でもそれは……」

「できない。それは燐子先輩に想いを告げることだから、かい?」

真言「…………」

 

 無言で頷くほか無かった。

 

「はっ、くだらねぇ」

 

 そしてそんな俺を嘲笑い、彼女は一蹴する。

 

「くだらねぇよマコ、そんな小せえことでいつまでもウジウジ悩んでるお前が」

真言「んだと……?」

「お前の友達の二人、あいつらも言ってたけどよ、お前は今までよくやったよ。いろんな奴らを助けてきた」

 

「だからこそ、お前はお前を助けるべきだ」

真言「俺を……」

 

 助ける?俺が?

 

「わかったらとっとと行け!」

真言「は、ちょ、押すなって!!」

 

 目で男に助けを求めるが意味ありげな微笑みを返されるだけだった。

 

「帰った帰った!いつまでもこんなとこにいんじゃねぇよ!!」

「彼女に会いに行ってきな。真言」

真言「…………」

「どうか、拒絶しないで」

 

 それが俺が夢で聞いた最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ……大丈夫だよな?」

「うん。あの子は君に似て強いからね。目つきも喋り方も昔の君にそっくりだった」

「ナヨナヨしてるとこは父親似だけどな」

「ははっ!手厳しいね」

「…………あいつが苦しんでるときに何もできないってのは、なんとも歯がゆいな」

「大丈夫、だってあの子は僕達の子供だからね」

「……そうだな。しっかりやれよ、マコ」

「僕達は君を見守ってるよ。ずっとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「ん…………」

 

 視界には見慣れた病室の天井、のはずだ。

 

 今まで何か別のものを……夢を見ていたような……

 

真言「気のせい……か」

 

 病室のベッドで考える。足りない頭で精一杯考える。

 

 有咲に言われたこと、こころに言われたこと、

 

 俺が何をしたいか。俺は…………

 

真言「………………行かなきゃ」

 

 会わなければいけない。会って今俺が思っていることを話さなければ、何も終われない。何も始まらない。

 

 そんな気がしてならないのだ。

 

黒服A「神代様、何か大きな音がしましたが……」

こころ「ダメよ」

黒服A「こころ様?」

こころ「お願い。入らないであげて」

 

こころ「(真言……頑張って……!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「………………」

 

 窓から病院を抜け出したのは良いものの、行く宛もないのでひたすらに街を歩く。

 

 いつかの日に似た、空を雨雲が覆う曇天の空のもとを。

 

 ただ……俺の気の赴くままに。

 

 そうして歩くうちに出会う……出会ってしまう。

 

 心の準備だってまだ満足にできていないのに。

 

燐子「真言……くん……!?」

 

 燐子先輩は病院で寝ているはずの俺が……見るからに痛々しい姿をした俺が、外を出歩いていることにたいそう驚いた様子で駆け寄ってくる。

 

真言「来るなッ!!」

燐子「!」

 

 それを俺は拒絶する。

 

真言「来ないでくれ……!」

 

 燐子先輩を目の前にして、怖くなった。

 

 きっと燐子先輩は俺を恨んでいる。

 

 俺に関わらなければ、俺を助けなければ、きっとあの女に目をつけられることも無かった。

 

 誘拐されることも……こんな見にくい化け物を目にすることも無かった。

 

 他の人間にどう思われようと構わない。けれどこの人には、この人だけには…………

 

真言「(いやだ…………)」

 

 拒絶されたくない。

 

 否定されたくない。

 

 見捨てないでほしい。

 

 見放さないでほしい。

 

 ……でもそれは決して叶わない、過ぎた願いだ。

 

真言「そこで聞いてくれ」

 

 だからせめて一言だけ……あなたに謝りたい。

 

真言「ごめんなさい」

 

 世話をかけて、迷惑をかけて、怖い目に合わせて、守れなくて、約束を破って、

 

真言「本当にごめんなさい……」

 

 あなたの気づかいを、思いやりを、無駄にしてごめんなさい。

 

 折角助けてもらったのに、救えないやつでごめんなさい。

 

 あなたに助けられて、ごめんなさい。

 

 こんな俺が、あなたを好きになってしまって……

 

 

 

 ごめんなさい。

 

 

 

真言「もう二度とあなた達に近づかない。だから……」

 

 だから……?だから何だ?俺はこの後に及んで許しを乞いているのか?

 

 全く、図々しい。

 

燐子「どうして……そんなこと言うの……?」

真言「俺がいるとまたあなたに迷惑がかかるかもしれない。いや、絶対にかかる」

 

 きっとこれから先、何度も何度も俺の目の前に悪魔は現れる。

 

 そうしてまた、俺から全てを奪っていく。

 

燐子「わたし……迷惑だなんて思ってない……!」

 

 そうだ……そうだよ。この人は優しい人なんだ。

 

 だからこそ、俺はこの人に釣り合わない。

 

 やっぱり化け物の俺にはこの人のそばにいる資格なんて……

 

真言「もう、いいんだよ……白金 燐子。そんな優しい嘘をつかなくたって、俺は消える」

燐子「真言くん……」

真言「俺なんか初めから消えるべきだったんだよ……あなたに助けられるよりも前に、さっさと消えるべきだった」

燐子「お願い……聞いて…………!」

真言「俺のせいで……俺のせいで……」

燐子「真言くん………!!」

真言「俺なんかいないほうがあなたにとって幸せ──」

 

 パァン!

 

真言「…………」

 

 頬に鈍い痛みが走る。

 

 いつの間にか目の前まで近づいてきた燐子先輩に頬を思い切り叩かれたようだった。

 

燐子「わ、わたしの…………わたしの…………!

 

 

 

 

 

燐子「わたしの幸せを!!あなたが勝手に決めないでよ!!!

 

 

 

 

 

 そう叫ぶ燐子先輩は、泣いていた。

 

燐子「いつもいつも……あなたは勝手に背負い込んで!!勝手に一人になって!!みんなあなたの力になりたいのに!!!どうして!?どうして誰も信じてくれないの!?」

 

 今まで溜め込んでいたものをすべて吐き出すような、普段の燐子先輩からは考えられないような悲痛な叫び。

 

 あの日のように、雨が俺と燐子先輩の頭上にポツポツと降り出した。

 

燐子「一人にならないでよ!!拒絶しないでよ!!今までいろんな人を助けてきたのに、どうして自分のことは助けてあげないの!!!」

 

 俺は何も言えず、ただ黙ってそれを聞いていた。

 

燐子「ねぇ……真言くん……」

 

燐子「わたしは真言くんのことが好き」

真言「……!」

 

燐子「ぶっきらぼうな態度の裏にある、誰よりも優しいところも」

 

燐子「わたしが困ってるとすぐに駆けつけてくれる、ヒーローみたいなところも」

 

燐子「たまにでる子供っぽくて可愛いところも」

 

燐子「その全部が好き」

 

燐子「わたしは……真言くんが大好きです……!」

 

 やっと言いたいことが言えたと涙でくしゃくしゃになった笑顔で燐子先輩は言った。

 

燐子「わたしは言いたいことを言った……だから次は……真言くんの番だよ……?」

 

燐子「真言くんの言いたいこと……全部聞かせて……?」

 

 

 

 

 

真言「俺は……

 

 

 

 

 

 言え。

 

真言「俺は!!」

 

 きっと本当の意味で、俺を助けられるのは俺しかいないから。

 

 だから……助けてやれ。俺を。

 

真言「本当は約束なんてどうでも良かったんだ!

 

 ありったけの力で叫ぶ。

 

 あの日のように強くなってきた雨にかき消されないよう、目の前にいる大切な人へ。

 

真言「"一生"なんて不確定だって笑われてもいい!」

 

 今まで言えなかった欲を…………

 

真言「あなたが高校を卒業してからも、来年も、再来年も、その先もずっと!」

 

 吐き出せ。吐き出せ。吐き出せ!!

 

真言「恩を返せなくても!約束一つ守れない人間でも!人を傷つけることしかできない化け物でも!それでも俺は!!!」

 

 

 

 

 

真言「それでも俺は……あなたの隣にいたいです……」

 

 

 

 

 

 全部、吐き出した。

 

 醜い欲望、傲慢な願望、身勝手な懇願、その全てを、愛する人に吐き出した。

 

 力尽きた俺は土砂降りの中、アスファルトに座り込む。

 

 そんな俺に目線を合わせるように、燐子先輩も膝をつく。

 

真言「好きです。燐子先輩」

燐子「うん……」

真言「好きです……」

燐子「うん………!」

真言「だいすきなんです………」

燐子「わたしも……大好きだよ…………」

真言「りんこせんぱい…………」

燐子「うん……」

真言「あ……ああ…………」

 

真言「ああああああああああああああ!!!

 

 その叫びはまるで化け物のように悲しい、人間の叫びだった。

 

燐子「真言くん……こっち見て……」

真言「…………?」

 

 俺が泣き止み、空も泣き止んだ頃、燐子先輩はそう切り出した。

 

 言われる通り視線を前に向ける。すぐ目の前に燐子先輩の顔がある。

 

 雨で濡れた長い黒髪、少し赤くなった頬、涙で潤んだ瞳。

 

 それは間違いなく、俺が今まで見てきた中で一番美しかった。

 

真言「りんこせんぱ──」

燐子「──んっ」

真言「ん……!?」

 

 唇に温かい感触、思考が止まった。

 

 俺は今、燐子先輩と唇を重ねている。

 

燐子「ん……んん……」

 

 初めてのキスは涙と雨を混ぜ合わせたような、優しくて温かい幸せの味がした。

 

真言「ん……ぷはっ……!」

 

 唇を離すと少しの名残惜しさと共に新鮮な空気と正常な思考が脳に届いた。

 

真言「燐子先輩……何を……」

燐子「今度はわたしが……真言くんに約束する……」

真言「約束……?」

 

燐子「もう……絶対に真言くんを一人にしない」

 

 あの日、俺が誓ったように、燐子先輩は強い瞳でそう言った。

 

燐子「辛いことも……楽しいことも……これからは二人で……二人で分け合おう……?」

真言「俺も……」

 

真言「俺も、もう二度とあなたを拐わせたりなんかしない」

 

 何度も約束を破ってきた俺だけど……もう一回だけ、あなたに誓おう。

 

真言「守る。守ってみせる。俺の大切な人たちは誰にも傷つけさせない」

 

 守りたいものを守る。

 

 愛したい人を愛する。

 

 それが俺のやりたかったことなんだ。

 

真言「燐子先輩」

燐子「なに……?」

 

真言「愛してます」

燐子「わたしも……愛してます…………」

 

 子供のように泣き叫んで、愛する人に縋り付いて、全てを吐き出した化け物は、

 

 再び人間へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有咲「…………で?ずぶ濡れになったお前だけ風邪を引いて?退院してもその風邪をこじらせて?今の今までずっと寝込んでたってわけだ」

真言「…………そういうことになるな」

 

有咲「ばあああああああか!!!

 

 病室……ではなく俺の家に有咲の絶叫が響き渡る。

 

真言「うるせぇ!近所迷惑だろうが!!」

有咲「迷惑なのはお前のほうだ!!連絡も全く無いし、病院に行ってもとっくの昔に退院したって言われるしでどんだけ心配かけたら気が済むんだお前は!!!」

 

 くそ……ぐうの音も出ねぇ……

 

真言「それは……まぁ……悪かったよ」

有咲「ったく……そんなケガしてるくせに無茶しやがって!」

真言「悪い」

有咲「でもまあ……」

 

有咲「よかったな。マコ」

 

 先程の怒りの形相から一転、穏やかな顔でそう言う有咲は、どこか安心したようだった。

 

真言「…………おう」

有咲「じゃあ早速で悪いんだけどここからが本題な」

真言「え、何かあんの?」

有咲「まあな。この後時間あるか?」

真言「あ、いや……この後ちょっと……」

有咲「燐子先ぱ……彼女か?」

真言「言い直すな。……まあ合ってるけどさ」

 

真言「これからRoseliaのみんなのとこに」

 

 あれで全て終わりじゃない。

 

 やり残したことはまだある。

 

有咲「ふーん……じゃあいいや」

真言「え?」

有咲「もともと紗夜先輩からの伝言だからな。詳しい話は本人から聞いてくれ」

真言「…………」

 

 紗夜先輩……

 

お前に……お前に何がわかる!!氷川 紗夜!!

 

真言「はぁ…………」

 

 でよ一体どんな顔して会えばいいんだよ……

 

 

 

 

 

燐子「普通に謝ればいいんじゃないかな……」

 

 

 

 

 

 〜〜【CiRCLE】〜〜

 

真言「すみませんでしたッ!」

 

 先輩からのアドバイス、即実践。

 

 確かに下手に策を弄するよりも誠心誠意謝ったほうが良い。

 

 それで許してもらえなかったら……まぁ……うん……仕方ない。

 

 許してもらうまで謝ってやる。

 

真言「…………」

紗夜「…………はぁ」

真言「!」

紗夜「顔を見たら一発入れてやろうと思っていましたが……」

 

紗夜「今のボロボロの神代さんを見たらそんな気も消えてしまいました」

 

 あれ……

 

真言「…………?」

紗夜「何ですかその顔……「もう二度と顔を見せるな!」とか言われると思ってましたか?」

真言「いや…………」

紗夜「どうやら神代さんの不安も消えたようですし……それに、私の分は白金さんが代わりにやってくれたみたいですからね」

燐子「ひ、氷川さん……!」

 

 そっ……か……

 

真言「ありがとうございます。燐子先輩」

燐子「あ……うん……でもね…………」

 

 まだそれだけじゃない。分かっている。

 

友希那「…………」

真言「…………すみませんでした。湊さんとの約束、破ってしまいました」

友希那「何のことかしら」

真言「『燐子先輩を傷つけない』……俺は燐子先輩を危険な目に合わせました」

友希那「私が言ったのは『中途半端な答えで』よ」

友希那「その様子だと…………答えは出たようね」

 

 ホント……この人には敵わないな。

 

真言「はい」

友希那「ならいいわ。こうやって紗夜にも謝った、真言の答えも出た、もう私から言うことは何もないわ」

 

あこ「はぁ………」

リサ「よかった〜……」

 

真言「なんで俺より二人が疲れてるんですか」

リサ「だってこのままマコくんと疎遠になっちゃうかもしれなかったじゃん!」

あこ「ホントに心配したんだからね!!」

真言「ご心配おかけしました」

 

 意外とあっさり、俺の日々は元に戻りそうだった。

 

真言「あ、そうだ紗夜先輩」

紗夜「はい?」

真言「有咲が言ってたんですけど、俺への伝言って何ですか?」

紗夜「ああ!そうでした!神代さんにこれを……」

 

 そう言って紗夜先輩が鞄から取り出したのは一枚のプリントだった。

 

紗夜「不測の事態のため本番までの時間が大幅に少なくなってしまいましたが、それでもこれは私との"約束"ですから……もちろん守りますよね?」

 

 そこには【文化祭有志発表メンバー表】という文字がデカデカと書かれていた。

 

真言「………………ぁ」

紗夜「守りますよね?




愛を込めて。


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60『Dear』

You are my "Dear"est.


 あの事件から数週間、燐子先輩に思いをぶつけ、Roseliaとも和解し、ケガも出歩けるくらいには回復した。

 

黒服「医者が言うには尋常じゃない回復力だそうで……まるで化け物だと」

 

 …………とまあ、お医者様からのお墨付きももらった俺は、徐々にだが元の日常に戻りつつあった。

 

紗夜『文化祭合同ライブ有志発表』

 

 元の日常に……

 

紗夜『バンドのメンバーを集めてきてください』

 

 戻りつつ……

 

紗夜『ちなみに本番まで明日であと一週間です』

 

真言「無理だああああああああ!!!

 

 翌日、花咲川学園に復帰した俺は机に突っ伏してそう叫んだ。

 

真言「バンド!?メンバー!?あと一週間!?どうすりゃいいんだよ!!!」

 

 あの事件のせいですっかり忘れていたが、俺な眠っていた間にも文化祭が刻一刻と近づいていたらしい。

 

 うちのクラスも準備をしていたらしいのだが……ケガをしているからと言う理由で俺は不参加だ。

 

真言「紗夜先輩は俺がケガしてたってお構いなしだよなー……てかバンドメンバーって言ったって……」

有咲「文句言っても仕方ねぇだろ」

真言「でもよ、俺に楽器が弾ける男友達がいると思うか?」

有咲「んー……いねぇな」

真言「あああああああああああ!!!!!」

 

 終わったあああああ!!!!

 

有咲「てか文化祭の間だけRoseliaに交ぜてもらえばいいじゃねぇか。もともとお前に参加してもらいたかっただけみたいだし」

真言「いや……それは嫌だ」

有咲「なんで?」

真言「俺もこれに参加する意味を自分なりに考えてみたんだよ」

 

真言「俺はこの文化祭で、証明する」

 

有咲「…………何を?」

真言「前の俺とは違うってところを」

 

 初めての試み……このライブを成功させて燐子先輩に、紗夜先輩に、今まで世話になったRoseliaに、俺はもう大丈夫だって改めて証明してやる。

 

真言「だからRoseliaに交ぜてもらうことはしない。それにあの人達には特等席で俺の姿を見てもらいたいんだよ」

有咲「ふーん……」

真言「……ならまずメンバー集めろよって話だよなぁ…………」

 

 ん?ちょっと待てよ……

 

真言「なあ有咲、仮に俺がRoseliaのメンバーと一緒に、元々あるRoseliaの枠じゃない、俺の有志発表の枠で出ることになったとして、それは生徒会にはオッケーなのか?」

有咲「ん…………多分駄目ではない」

真言「男のボーカル一人、他全員違うガールズバンドのメンバーってのは?」

有咲「特に規制はないけど他の男子からの反感を買うだろうな」

真言「有咲、お前のバンドでの担当楽器は?」

有咲「……キーボードだけど」

 

 よし、まずは一人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「んーっと……有咲の他に手伝ってくれそうな楽器が弾けるやつは……」

紗夜「早くも一人協力者を見つけたようですね」

真言「持つべきものはキーボードが弾ける親友ってことです」

 

 ここは久しぶりの生徒会室。いやーここに来るのも久し…………

 

真言「…………?」

紗夜「神代さん?」

真言「あ、いや何でもないです」

 

 なんか久しぶりって感じがしないんだよな……つい最近来たような……

 

 まぁ、いっか。

 

紗夜「市ヶ谷さんを巻き込んだということは、残るはギター、ベース、ドラム……まあそのくらいでしょう」

真言「そう簡単に見つかりますかね……もう授業後ですよ」

紗夜「何にせよ最低でも今日中に見つけなければいけませんね。メンバーとの合わせもありますし」

真言「ギターにベースにドラム…………」

紗夜「大丈夫ですよ。神代さんの周りには楽器を弾ける人しかいませんから」

真言「今更ですが俺の交友関係の幅ピンポイントすぎません?」

 

 とその時、生徒会室の扉が勢い良く開いた。

 

こころ「待たせたわね!」

真言「待ってねぇし呼んでもねぇよ」

 

 登場したのは誰あろう、"花咲川の異空間"こと弦巻 こころその人である。

 

真言「で?何の用だよ異空間」

こころ「あら?前は()()()って呼んでくれたのに……もう呼んでくれないの?」

紗夜「あら……遂に弦巻さんも私達の仲間入りを果たしたんですね」

真言「何の仲間ですか」

紗夜「神代さんに下の名前を呼ばれる仲間です」

 

 ホントに何の仲間だよそれ……

 

紗夜「相手への親愛度が高くなると神代さんはその相手を下の名前で呼ぶんです。今の所、私と白金さんと市ヶ谷さんと弦巻さんの四人ですね」

真言「俺はゲームのヒロインですか」

 

 っとやばいやばい。話が脱線しすぎた。

 

真言「で?何でここに来たんだよこころ」

 

こころ「あたしを真言のバンドに入れて欲しいの!」

 

紗夜「良かったですね神代さん、二人目ですよ」

真言「お前……その話どっから……」

こころ「話は全部有咲から聞いたわ!」

真言「あー……」

こころ「すごい嫌そうな顔をした有咲から、真言に面倒事を無理やり押し付けられたって聞いたわ!」

 

 すまんな有咲。許せ。

 

真言「まあそれは置いておいて」

紗夜「置いておくんですか……」

真言「先輩も言ってたじゃないですか。時間がないんですよ。今は猫の手もマッドサイエンティストの手も借りたいんです」

こころ「じゃあ……!」

真言「お前の力を貸してくれ、こころ…………でもお前、バンドじゃ確かボーカルじゃなかったか?」

こころ「ええそうよ!よく知ってるわね!」

真言「ああ、前にライブを……」

 

 って、俺が黒服さんの手伝いやってたことって言わないほうがいいんじゃないか……?

 

こころ「え?」

真言「なんでもない、それよりバンドの担当だ」

 

真言「ボーカルは俺が……ってか俺は楽器が弾けねぇからボーカルしかできないんだよ」

こころ「あら?そうなの?」

 

 俺の隣で紗夜先輩がものすごい顔で頷いている。

 

 そこまでなのか俺の破壊力は……

 

真言「で、ボーカルは俺でキーボードは有咲、後はギターとベースとドラムなんだが……どれかやったことあるか?」

こころ「どれもやったこと無いわ!けどどれも楽しそうね!」

 

 こいつなら大抵のことは何とかなりそうなんだよな……

 

真言「じゃあベースとかできるか?」

こころ「はぐみのやっている楽器ね!」

紗夜「神代さん、何故ベースなのかを聞いても?」

真言「ギターとドラムにはちょっとあてがありまして……」

こころ「わかったわ!早速はぐみに教えてもらってくるわね!」

真言「あ、おい!」

 

 嵐のようにやって来て、そしてあっという間に去っていく……「思い立ったが吉日」を擬人化したらきっとこいつになるんだろうな……

 

真言「まったくあいつは……」

紗夜「…………」

真言「どうかしました?」

紗夜「変わりましたね。神代さん」

真言「え、そうですか?」

紗夜「今まで神代さんは自分一人で何とかしようとすることが多かったのに、今では何の迷いもなく友人を頼っている……」

紗夜「それは私が神代さんにライブに出ることを強制したからですか?それとも……」

真言「別に、そこに大した理由はありませんよ」

 

真言「ただ……もう少し人を頼って……俺のために生きてみようって思っただけです」

 

 強欲、我儘、自分勝手、少しだけでいいから……これからはそんなふうに生きてみてもいいんじゃないか、そんなふうに生きてみたい。

 

 人間らしく、生きてみたい。

 

 そう思っただけだ。

 

紗夜「本当に……変わりましたね」

真言「……あ!すみません紗夜先輩、俺そろそろ行かなきゃ!」

紗夜「か、神代さん?どこに行くんですか!?そろそろ白金さんが図書委員の仕事が終わって戻ってくる頃ですよ!」

 

 ガラガラ

 

燐子「すみません……遅れまし……!?」

真言「燐子先輩!!俺今日の生徒会欠席で!お願いします!」

燐子「え……!あ……どこに…………」

 

真言「ちょっと羽丘まで!!」

 

 ギタリストを捕まえに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【羽丘学園前】〜〜

 

リサ「あれ?あそこにいるのって……」

友希那「真言……?」

真言「あ、姐さんに湊さん、どうも」

友希那「こんなところで何をしてるのかしら」

真言「ちょっと人を待ってて……二人は今から練習ですか?」

リサ「うん♪そろそろ合同文化祭じゃん?文化祭の準備にライブの練習、やることはいっぱいだよ〜」

友希那「確かあなたもライブに参加するのよね」

真言「まあ……ほとんど強制ですけど」

リサ「期待してるよ〜☆」

真言「あ、そのことで湊さんに一つお願いが……」

友希那「私に?何かしら」

真言「ボーカルの練習を見てもらいたいんですけど……いいですかね」

リサ「いいの?友希那は厳しいよ?」

真言「分かってます。でも俺は湊さんよりすごいボーカルを見たことない」

真言「付け焼き刃なのも百も承知です。でもあと一週間。一週間でライブを成功させるには付け焼き刃だろうと何だろうとこの身体に刻み込むしかない」

真言「あなたしかいないんです。お願いします」

友希那「…………いいわ。見てあげる」

真言「……!」

友希那「ただし、今度は本気よ。それに私が見る以上、ライブは必ず成功させなさい」

真言「はい!よろしくお願いします!」

 

真言「あ、来た」ボソッ

 

リサ「ん?」

真言「また後で連絡するので!それじゃ!」

友希那「あ……」

リサ「行っちゃったね……」

友希那「えぇ、そうね」

リサ「友希那、なんか嬉しそうだね?」

友希那「そうかしら」

リサ「絶対そうだよ♪」

友希那「そういうリサも随分と楽しそうね」

リサ「何かマコくんを見てるとね〜……あーなんか成長したなーって」

友希那「やっと前に進んだ気がするわ」

リサ「それもこれも……」

友希那「燐子のおかげね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「…………」

 

 知り合いで力になってくれそうなギタリスト……そんな人そうそう周りにはいないだろう。

 

 でも俺にはいる。奇跡的に。

 

モカ「あれ〜?マコくん?なんで羽丘にいるのー?」

 

 前に楽器の話をしたときに聞いた。センパイはバンドでギターを弾いている。

 

 多分今センパイの周りにいる四人の女子生徒は同じバンドのメンバーだろう。

 

「モカ、誰この人」

モカ「バイトの後輩ー」

「あ、花咲川の生徒会の……!」

モカ「そういえば聞いたよ、酷い目にあったんだってねー……ケガは大丈夫?」

真言「もうだいぶ治りました」

モカ「そっかーよかったー」

「ケガ……?もしかしてこの人あこの言ってた……」

 

 この背の高い人……今師匠の名前言わなかったか?

 

モカ「どうして羽丘に来たの?もしかしてモカちゃんに会いに来たとか?」

真言「はい、そうです」

モカ「え!?」

 

 普段ゆったりしている口調のセンパイが珍しく大きな声を上げた。

 

真言「何ですか」

モカ「え?いや、だって……え?」

真言「俺は今日センパイに会いに来たんです」

モカ「お、おお……」

真言「……何でちょっと引いてんですか」

モカ「いやー……マコくんが珍しいことを言ってくるからー……モカちゃん今日傘持ってきて無いんだけど」

 

 くっそ失礼だなこの人。

 

真言「まぁいいや。今日はセンパイにお願いが会ってきたんです」

モカ「お願い?マコくんが?」

真言「…………」

モカ「あーいや……ごめんごめん。ホントに珍しかったからついー……謝るからそんな目で見ないでー」

真言「…………はぁ」

モカ「でー?その"お願い"ってなにー?」

 

真言「俺と一緒にバンドを組んでください」

 

モカ「え!?」

「ちょっと待って」

 

 俺とセンパイとの間に割り込んできたのは黒髪に何故か赤い髪が紛れた少女だった。

 

「あんたがどこの誰だか知らないけど、そう簡単にモカを引き抜いたりさせないから」

モカ「蘭……」

真言「…………あ!いや違うんです!」

 

 俺は文化祭合同ライブの有志発表の件、センパイにあくまで"一時的に"協力して欲しいだけと五人に伝えた。

 

真言「……というわけで別に俺はセンパイを引き抜こうとしてる訳じゃないんです」

モカ「なーんだそれならいーよー」

「ちょモカ!」

モカ「大丈夫だよ蘭ーちゃんとアフグロでのライブの練習もやるからさー」

「……ならいいけどさ……」

真言「……!ありがとうございます!」

 

 よし!俺のことをすごい目で見てくる人が一人いるけどとりあえずこれでギタリストは確保だ。

 

 後はドラムだ。確か有咲のとこの山吹さんがドラムをやっていたはず。

 

 同じバンドから二人に協力を求めるのは心苦しいけど……一応頼むだけ頼んでみるか。

 

「あれ!真言くんじゃん!」

真言「あ?あ…………」

 

 聞いたことのある、バカに明るい声で誰かが話しかけてきた。

 

 そうだ……羽丘にはこの人がいたんだった……

 

 羽丘学園生徒会長にして、こっち高校の異空間(と俺が勝手に呼んでる)、

 

真言「氷川さん……」

日菜「久しぶりー!」

 

 氷川 日菜。紗夜先輩の双子の妹……

 

真言「……お久しぶりです」

日菜「なんかよく知らないけど大変だったみたいだねー」

真言「えぇ……まぁ……」

真言「紗夜先輩も詳しいことは言ってないみたいだな……

日菜「なにか言った?」

真言「いや、何でもないです」

 

 『なんかよく知らないけど』か……この人は何があったかは知らないみたいだな。まぁ、知らないほうがいいけど。

 

日菜「それでそれで?モカちゃん達と何話してたの?」

真言「あー……」

 

 俺はさっきセンパイ達に話した内容をそっくりそのまま氷川さんに伝えた。

 

日菜「へー面白そう!何だかるんっ♪てきた!」

真言「はぁ……(何だよ「るんっ♪」って……)」

日菜「あたしも参加する!」

真言「はぁ………………はあ!?」

 

 あ!確かこの人……

 

 

 

有咲『まずこのPoppin'Partyは私とあと沙綾がいるとこで、Afterglowってのはモカちゃんがいるとこ、Pastel*Paletteは前会った日菜さんがいて、あとハロー、ハッピーワールドは…………言わなくてもわかるよな。弦巻さんのとこだ』

 

 

 

真言「ぱすてる……ぱれっと……」

 

 楽器経験者……!

 

日菜「ね!いいでしょ?あたしもマコくん達とバンド組む!」

真言「あーもう!わかりましたよ!わかったからそんなグイグイ来ないでください!」

 

 このこころ弐号機が!!

 

真言「てか今探してるのドラムできる人なんですけど……氷川さんドラムの経験は?」

日菜「無い!けどまぁいつも麻耶ちゃん見てるから多分大丈夫!」

 

 ……やっぱりこの人、話に聞いてた通りの天才気質だな。

 

 見てるから大丈夫って……

 

真言「……でもよし、これで一応紗夜先輩が言ってた最低限の人数は揃った……?」

 

 俺と有咲にセンパイ、それにこころに氷川さん…………

 

真言「やべぇ……俺の人選カオス過ぎないか……?」

モカ「顔色悪いよ〜?」

日菜「あははっ!やっぱり真言くんってるんっ♪てするね!」

 

 ガシッ

 

真言「……ん?」

 

 センパイと氷川さんの二人が俺の両腕を掴んだ。

 

真言「あの……何を……」

日菜「ほら!文化祭までもう時間がないでしょ?なるべく早く音合わせとかしなきゃ!」

モカ「善は急げってねー」

 

こころ「さあ真言!行くわよ!」

 

真言「なんでお前ここにいんだよ!!!」

 

 突如として出現した異空間が俺の背中にまわる。

 

真言「ちょ!ま──」

 

 やっぱり頼む人を間違えたのかもしれない。

 

 CiRCLEに引きずられていく間、そんなことを思った。

 

「……なんだったんだ今の」

「さ、さぁ……?」

「モカにあんな後輩がいたなんて全然知らなかった……」

「目つきが悪くて、背もあたしと同じくらいの"真言"……やっぱりあいつあこの言ってたやつか!」

「なに、巴、さっきのやつと知り合いなの?」

「知り合いというか……多分妹の弟子?」

「はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【CiRCLE・スタジオ内】〜〜

 

真言「…………」チーン

有咲「何というか……お疲れ」

真言「なんで有咲もここに……」

こころ「あたしが呼んだのよ!」

真言「あ……そう……」

 

 何かどっと疲れた………

 

こころ「〜〜♪」

真言「なんでお前はそんなに上機嫌なんだよ……」

こころ「前に言ったでしょ?『みんな真言を大切に思ってる』って!」

 

 満面の笑みで両手を広げるこころ。

 

こころ「み〜〜〜んな真言の力になりたくてここにいるのよ!」

 

真言「…………あぁ、ありがとう」

 

 俺は集まってくれた四人に向き直る。

 

真言「俺はこのライブで、燐子先輩や紗夜先輩に、俺はもう大丈夫だって証明したい」

 

真言「改めて頼む。皆、俺に力を貸してくれ」

 

モカ「可愛い後輩の頼みを断るわけにはいきませんなー」

こころ「〜〜!とっても面白そうね!!」

日菜「いつもと全然違うメンバーでライブ……すっごいるんっ♪って来た!!」

有咲「仕方ねぇから付き合ってやるよ……こうなったら最後まで、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【翌日、花咲川学園生徒会室】〜〜

 

真言「これでよし……っと」

紗夜「どうやら参加するための書類は書き終えたようですね。どれど……れ…………!?」

燐子「これは……すごいメンバーですね……」

 

・Vo.神代 真言

・Gt.青葉 モカ

・Ba.弦巻 こころ

・Key.市ヶ谷 有咲

・Dr.氷川 日菜

 

紗夜「なぜ日菜が……」

真言「俺のせいじゃないです」

燐子「バンド名は決めたの……?」

真言「はい!昨日徹夜して考えました!」

 

 これは俺からRoseliaの皆へ贈るライブだ。

 

 親愛なるあなた達へ、俺の全てを込めて。

 

 『Dear』




次回、「監視対象と約束された日々」最終回。


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Final."    "神代 真言(前編)

遂にここまで来ました!最終回!
めっちゃ長くなってしまったので前後編に分けました!

それでは皆様、最後までお付き合いください……



 〜〜【花咲川学園・空き教室(出演者控室)】〜〜

 

真言「はぁ…………」

有咲「何だよマコ、緊張してんのか?」

こころ「ため息ばかりついてちゃ燐子達を笑顔にできないわ!」

真言「あー……うん、そうだな……」

こころ「…………」

有咲「弦巻さんにツッコミを入れないのはだいぶ重症だな」

 

 そんな元気あるわけがない。

 

 きっと俺は今、生まれてから一番緊張している。さっきからずっと手が冷たい。

 

真言「不安だ……」

有咲「それさっきも言ってたぞ」

こころ「大丈夫よ!ここまで頑張って練習してきたんだから!それに友希那からもオッケーもらったじゃない!」

真言「いや、まあそうなんだけどさ……」

 

 この一週間、俺達即席バンドは死ぬほど練習に励んできた。

 

 元々バンドに所属しているわけでもない俺でこうなってるんだから、他のメンバーは俺よりも更にキツかったはずだ。

 

有咲「いや……まぁ楽じゃなかったけど、お前も相当だったと思う」

こころ「ずっと友希那が付きっきりだったものね!」

真言「正直言ってじいちゃんより厳しかった」

 

 「青薔薇の歌姫」、そう呼ばれている彼女に、初心者が歌を教えてもらうなんて贅沢にもほどがある。

 

 その点には感謝しているが……

 

真言「やっぱ……キツかったなぁ……」

 

 でもおかげで、最低限人に聞かせても恥ずかしくない歌が歌えるようになった。バンドでの演奏も、決して悪い出来じゃないと思う。

 

真言「はぁ…………」

 

 それでも不安は消えないもので。

 

真言「あれ……ってかセンパイと氷川さんは?」

有咲「二人ともまだ文化祭を楽しんでるよ」

真言「大丈夫かよ……」

 

 でも演奏を聞いた限りじゃ、氷川さんも、それにこころも、それが初めてやる楽器とはとても思えなかった。

 

 やっぱり似た者同士……天才ってやつか。

 

こころ「真言は文化祭を回らなくていいの?」

真言「とてもじゃないがそんな気にはなれない」

有咲「でもお前……ライブ始まるまでまだ2時間くらいあんぞ……」

真言「仕方ねぇだろ……なにせ俺らは──」

 

紗夜『くじ引きの結果、神代さん達のバンドは一番最初に演奏することになりました』

 

 そう、俺達はトップバッターなのだ。ちなみにRoseliaはラスト。

 

真言「悪意あるよな……この順番」

有咲「なんで?」

真言「結局俺達以外に有志で出るバンドは無かっただろ?他は全部、名の知れたガールズバンドだ」

真言「そんな奴らで盛り上がった会場に突然知らないバンドが出てきたら、一気に会場が冷めるなんてことになりかねない」

 

 まあ俺以外、その「名の知れたバンド」のメンバーなんだけども。俺を除けば4バンド合同のドリームチームなんだけども。

 

真言「だから一番最初に持ってて、ズッコケてもいいようにしたんだよ」

こころ「あら?紗夜はくじ引きって……」

真言「おおかた気を回してくれたんだろ……はぁ……」

こころ「…………どうしよう有咲、真言が有りもしない被害妄想に陥ってるわ……」

有咲「ほんっと仕方ない奴だなお前……とりあえず外に出て空気吸ってこい!」

真言「おー……」

有咲「30分前くらいまで帰ってくんなよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「──とは言われたものの……なぁ……」

 

 クラスの準備もろくにしてない俺が文化祭を回るのもなんだか気が引けるし、かと言ってもう監視対象でも、雑用係でもなくなってしまった俺が生徒会の手伝いをするというのもおかしな話だ。

 

 というわけで、今俺はいつもの昼寝ポジである中庭にいる。

 

 合同文化祭ということで、学校中どこもかしこも人だらけの花咲川学園だが、ここは比較的静かだ……

 

真言「……………………だめだ」

 

 やっぱりリラックスできない。

 

真言「燐子先輩に会いに行こうかな……」

 

 会いに行って……いいよな……?

 

 あれ……?ってか今の俺と燐子先輩の関係って…………"恋人"でいいのか?

 

 俺、ちゃんと好きですって言ったよな……でその後…………

 

『──んっ』

 

真言「!!!!!/////」ボッ!!!

 

 キス…………したよな…………

 

真言「あああああ…………///」

 

 やべぇ……今思い出しても恥ずかしくて死ねる。

 

真言「…………………柔らかかったな」

「あの……」

真言「ギャアアアアアア!!!!!

「きゃあ!」

 

 後ろから話しかけてきた少女が、俺の大声に驚いて尻餅をついてしまった。

 

真言「あ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

真言「悪いな、大声出しちまって」

「ううん、私も急に声をかけてごめん……」

真言「…………お前、どっかで会ったか?」

「あの……えっと……一応同じクラスなんだけど……」

真言「あーっと………………」

 

 必死で脳内の記憶細胞から情報を叩き出そうとするが何一つ出てこなかった。ごめんなおかっぱヘアの少女よ。

 

真言「ん?」

 

 おかっぱ……?

 

真言「あ!山吹さんと一緒にいた!」

 

 俺の顔見て逃げたやつ!

 

「うん、思い出した……?」

真言「ああ!なんとなく!」

「(なんとなくか……)」

 

りみ「私、牛込(うしごめ)りみって言います。よろしくね神代くん」

 

 ウシゴメ……なんかまたまた聞いたことがあるような…………

 

真言「あー……なんだっけかな……思い出せねぇ」

りみ「……沙綾ちゃんと有咲ちゃんから聞いてたとか?」

真言「何で有咲と山吹さん?」

りみ「私、有咲ちゃんたちと同じバンドのメンバーなの」

真言「なるほど…………」

 

沙綾『神代くん、"牛込りみ"って子、知ってる?』

 

 ……俺、前に山吹さんにこいつのこと聞かれた気が…………

 

真言「…………」

りみ「……あの、ね、神代くん」

真言「あ?」

りみ「私……神代くんに謝らなきゃいけないことがあるの」

真言「何?」

 

 言わなきゃいけないこと?ほとんど初対面の俺にか?

 

りみ「今から一年くらい前かな……」

真言「一年前…………ってまさか……」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

…………で…………用

 

りみ「…………?今こっちの方から声が……」

 

……んた…………なの……

 

りみ「…………!」

 

「ふざけてんの?」

真言「いや、自分たちがイジメてる相手の名前すら知らねぇの?」

 

 そこにいたのは同い年っぽい一人の男子生徒と三人の女子生徒だった。

 

りみ「(け、喧嘩?でも今イジメって……)」

 

 どうしよう……先生に言ったほうがいいかな……と、とりあえず隠れて様子を……

 

真言「今、手ついて謝れば許してやるよ」

 

「てめぇ!なめた口聞いてんじゃ──」グイッ

 

りみ「あぶな──!」

 

 一瞬、女子生徒のほうが男子生徒に掴みかかった瞬間、女子生徒は顔から地面に倒れこんだ。

 

りみ「…………!」

 

「あんた……今何を……」

真言「何って、殴った」

真言「ほら、そこに転がってんじゃねぇか」

「………………」 

 

「てめぇ!やりやがったな!!」

真言「お?お仲間か?」

 

 殴られた方の女子生徒の仲間……のような男子生徒が現れたところから先は、あまり良く覚えていない。

 

 ただ人が壊れていく光景を、震えて見ていた。それだけを覚えている。

 

りみ「(に……にげなきゃ……)」

 

 様子なんて見るべきじゃなかった。一刻も早く先生を呼びに行かなくては。

 

 頭ではそう思っていても、足は言うことを聞かなかった。

 

 ……………ザッ

 

りみ「(音……たて……)」

真言「誰だ?」

 

 転がる人の中で唯一立っている彼は、ゆっくりとこちらを振り返った。

 

りみ「(きづかないで…………!)」

 

真言「……………」

 

 きづかれて……ない……?

 

「ぜったいに……復讐してやる……」

真言「うるせぇよ」

りみ「……っ!」ダッ!

 

 彼の注意が倒れている女子生徒に向いた隙を狙って、私は駆け出した。

 

りみ「先生っ!」

「牛込!?そんなに焦ってどうした?」

りみ「人が……人が…………!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

りみ「その後、神代くんは学校に来なくなって……クラスでも色々な噂を聞いたりして……」

真言「…………」

りみ「でも有咲ちゃんがね──」

 

有咲『あいつはバカだけどな、それでも理由もなく人を傷つけるようなやつじゃねぇんだよ。』

 

りみ「──って」

真言「…………」

りみ「あ……あの……私」

真言「おかしいな」

りみ「え?」

 

真言「お前、俺に謝るようなことしたか?」

 

りみ「え……だって……」

 

真言「お前は正しいことをしただけだろ?」

 

真言「自分で言うのもなんだけど、あんな光景を見た上で先生を呼びに行くなんて勇気ある行動だと思う」

 

 少なくとも俺にはできない……というかあの時の俺なら絶対乱入してる。

 

真言「だからお前は何も謝る必要はない!」

りみ「…………」

 

 ポカーンといった擬音がピッタリ当てはまるような顔でこちらを見る牛込さん。

 

真言「謝るのは俺の方だ。悪かったな、怖いもん見せて」

りみ「ううん、今までずっと言おう言おうと思ってたけど……怖くて言えなかったんだ」

 

 ああ……だからあんなに俺に怯えて……

 

真言「じゃあ何で今言おうと思ったんだ?」

りみ「神代くん、だいぶ雰囲気が優しくなったから」

真言「……そうか?」

 

 そう言われると、悪い気はしないな。

 

りみ「……神代くん、また学校を休んでたみたいだけど、大丈夫なの?有咲ちゃんに聞いても何も教えてくれなかったし……」

真言「ん、大丈夫大丈夫」

 

 やっぱあいつにも相当心配かけちまったよな……

 

真言「ちょっとあの女と決着つけてきただけだ。完全に叩き折ったし、当分は警察病院で寝たきりだろうぜ」

りみ「……?」

 

真言「……あ、そろそろ時間か」

りみ「ライブ、頑張ってね。私達は神代くん達の次だから」

真言「そっか。まぁ、俺もお前らから有咲を借りた手前、半端な演奏を聞かせるわけにはいかないからな」

 

 よし、だいぶ気持ちも落ち着いた。

 

真言「んじゃ、話聞いてくれてありがとな」

りみ「う、うん。私こそありがとう」

 

 さて、それじゃあ…………

 

真言「行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有咲「まだ早ぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「それで私達のところに来たんですか……」

真言「あいつ酷いと思いません!?こんな大舞台じゃ基本一時間前集合でしょ!?」

紗夜「この人意識が高いんですよね……無駄に」

リサ「有咲もきっとマコくんにリラックスして欲しいんじゃない?」

真言「もう十分してますって!ほら!」

リサ「いや、ぱっと見じゃ分かんないよ。むしろ今のマコくん興奮してるからリラックスしてないよ」

真言「だって仕方ないじゃないですか!」

あこ「あ、開き直った」

 

 大勢の人の前で歌うのなんてこれが人生で初めてだからな!緊張して何が悪い!

 

あこ「もーかっこ悪いなー。それでもあこの弟子?」

真言「師匠もなかなか酷いこと言いますね。いいんですか?俺、傷つきますよ?」

あこ「どんな脅し!?」

真言「…………まぁでも、自信ないのも事実ですし、そういうとこを見抜かれてんのかなぁ……」

 

 あいつ、細かいことよく気づくし。

 

友希那「私のレッスンじゃ足りなかったかしら?」

真言「別にそんなことは言ってませんって」

 

 湊さんには十分すぎるくらい鍛えられた。だからこれは俺自身の問題であって……

 

リサ「そういえば友希那、マコくんのボーカルはどんな感じなの?」

友希那「そうね……音楽の知識や技術が圧倒的に足りなかったから身体で覚えさせたわ。頭で覚えるより得意だったみたい」

真言「……………」

リサ「大丈夫?震えてるよ?」

 

 思い出したくもない練習の日々。本当に二度とゴメンだ。

 

友希那「それに元から素質もあったみたい。肺活量は私以上よ」

あこ「へー!」

紗夜「神代さん、戦闘種族みたいなとこありますからね」

友希那「やれるだけのことはやった今の真言達なら、大失敗ということはまずありえないわ。私が保証する」

真言「湊さん……」

 

 そうだよ……もっと自信を持て俺!大丈夫、なんてったってあの湊 友希那に鍛えられ──

 

紗夜「ですが、「オクターブ」という単語すら知らなかった神代さんですよ?」

友希那「………………きっと大丈夫よ」

真言「おい」

 

 なんなんだその間は。

 

紗夜「冗談です」

友希那「冗談よ」

真言「二人の冗談は冗談に聞こえないんですって」

燐子「でも真言くん、楽譜も読めなかったよね……」

真言「燐子先輩!?」

 

 だめだ!燐子先輩に言われたら反論できない!

 

リサ「なんで燐子限定なの」

友希那「その辺りも心配ないわ。細かいところは他のメンバーに言ってあるから」

真言「え、そうなんですか?」

友希那「あなたはただ私の教えた通りに歌えばいいの。歌詞はもちろん覚えてるわよね?」

真言「はい。元の曲も入院中に聞いてましたから」

リサ「でも最初聞いた時はびっくりしたな〜、マコくんがRoselia以外の曲を聞いてたなんて」

真言「入院中の俺はRoselia断ちしてましたから」

あこ「なにそれ」

 

 なんて、こうやってこの人達と他愛もない会話を楽しむことができるのも、全部全部燐子先輩の……

 

真言「…………」

燐子「ふふっ……」

 

 燐子先輩、いつも通り……だよな?

 

 特に"あの時のこと"を意識している訳でもなさそうだし……

 

真言「(もしかして……意識してるのは俺だけなのか……?)」

 

 それはそれで……なんか虚しい。

 

真言「……はぁ」

あこ「大丈夫?」

真言「まぁ……」

あこ「さっきはあこもああやって言ったけど、まっくんならきっと大丈夫だよ!それに、ライブは一人でやるものじゃないからさ!」

紗夜「宇田川さんの言うとおりです。今の神代さんは一人じゃありません」

 

 ちょっと違うんだけど……まあいいや。

 

真言「ありがとうございます」

 

 お、そろそろ本当に時間だな。この時間なら有咲も文句言うまい。

 

真言「それじゃあ、行ってきます」

あこ「がんばれー!」

リサ「しっかりね♪」

紗夜「楽しみにしてます」

友希那「あなた達の力、見せてもらおうかしら」

燐子「行ってらっしゃい……」

 

 そうして準備の為にバンドメンバーの元へ向かおうとする直前に、俺は気づく。

 

真言「燐子先輩」ズイッ

燐子「ど、どうしたの……?」

 

 こんなのもっと早くに気づいたはずだ。それでも俺が気づかなかったのは、やはり今の俺が燐子先輩をよく見れていなかったからだろう。

 

 そしてそれは、燐子先輩も同じだったようだ。

 

真言「どうしてさっきから目を合わせてくれないんですか」

燐子「な……なんのこと……かな……?」

 

 ここに来てから一度として、燐子先輩は俺と目を合わせてはいない。

 

真言「こっちを見てください」ジーッ

燐子「…………///」

真言「燐子先輩……」

燐子「ち、ちかいよ……///」

真言「…………ぷっ」

燐子「……?」

 

真言「あははははは!」

 

紗夜「?」

友希那「?」

リサ「ま、マコくん?」

あこ「え、なに?急にどうしたの?」

真言「いや……意識してたのは俺だけじゃなかったんだって思って……ちょっと嬉しかっただけです」

燐子「………………?」

 

 少しキョトンとした顔をした燐子先輩は、

 

燐子「っ!!///」ボッ!!

 

 すぐに耳まで真っ赤になった。

 

リサ「え、なになに、何があったの?」

真言「……燐子先輩、皆に話してないんですか?」

燐子「…………///」コクッ

紗夜「神代さん……あなたまさか!」

あこ「何の話!?ねぇりんりん!まっくん!!」

真言「…………もう時間ないので行きますね」

友希那「あ、ちょっと!」

 

 そうして俺は逃げ出した。

 

真言「……っと、燐子先輩」

燐子「……?」

 

 いけないいけない。俺としたことがすっかり忘れていた。

 

真言「行ってきます」

 

燐子「うん、行ってらっしゃい…………!」

 

友希那「そういえば私達、燐子から「問題は解決した」としか聞いてないわ……」

紗夜「白金さん!詳しい話を聞かせてください!」

リサ「燐子!マコくんを説得しに行ったあと何があったの!?」

あこ「教えてよりんりん!!ねぇ〜!!」

 

燐子「ま、真言くん……!やっぱりもどってきて…………!」

 

 そうして俺は、助けを求める燐子先輩の声を背に、

 

 今度こそ、完全に、なんの迷いもなく、全力で、

 

 逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【『Dear』控室】〜〜

 

日菜「たっだいまー……ってあれ?真言くんは?」

こころ「日菜!真言ならそろそろ来ると思うわ!」

モカ「マコくん以外はみんな来てるのにねー。うちのリーダーはどこで文化祭を楽しんでるのやら」

有咲「(私が追い返したからだな……)」

こころ「(有咲が追い返したからいない……って言うのはやめておこうかしら)」

 

 ガチャ

 

有咲「お、噂をすれば…………?」

真言「ハァ……ハァ……」

有咲「……なんでそんなに息切らしてんだ?」

真言「ちょっとな……てかそれより有咲、その服……」

有咲「これか?弦巻さん達からだよ」

 

 ここを出ていくときの有咲の格好はいつもの制服だった。

 

 けれど今の有咲は、紫のシャツの上から黒服さん達のようなスーツを着ている。

 

 胸のポケットには大きな紫色の星のブローチが。

 

真言「…………なんで?」

有咲「ライブ衣装だよ!Dearの!」

真言「ああ!」

有咲「ったく……」

日菜「あたしもさっき着替え終わったとこだよー」

 

 見ると他のメンバーも着替え終わっている。

 

 全員有咲と同じ、それぞれのイメージカラーのシャツに黒いスーツで揃えている。

 

真言「ほぇー……」

有咲「?なんだよじっと見て」

真言「いや、似合ってるなって」

有咲「そ、そうかよ……」

モカ「あー有咲照れてるー」

有咲「照れてねぇ!」

こころ「真言!あたしはどう?」

真言「ん、ああ。似合ってる似合ってる」

有咲「軽いな……」

こころ「ありがとう!」

 

 こころも黒いスーツの下に黄色のシャツが見える衣装で、その胸ポケットには…………

 

真言「お前それ…………」

こころ「ええそうよ!真言からもらった缶バッジ!」

真言「……まだ持ってたのか。てっきりもう捨てたかと……」

こころ「そんなわけないでしょ!?」

モカ「ほらほら、もうそのくらいにしてー。リーダーも早く着替えてきてよー」

 

 そう言ってセンパイは俺の分の衣装を押し付けてくる。どうやら俺のイメージカラーは青色のようだ。

 

真言「あれ、俺どこで着替えれば……」

モカ「トイレとかー?」

真言「…………わかりましたよ」

 

 しぶしぶ控室から退散し、トイレで着替える。

 

真言「…………よし。サイズもピッタリだな」

 

 なんで俺のイメージカラーは青なんだ?という疑問が残るものの、別にこれもカッコいいので文句は無い。

 

 着替えも終わり、戻ろうとした控室の前で俺を待っていたのは黒服さん達だった。

 

黒服A「大変良くお似合いです。神代様」

真言「そりゃどうも」

 

 思えばこの人達にも散々迷惑をかけた。

 

 あの事件の後処理から俺の治療まで……あの時この人達が助けに来てくれなかったら、俺は今頃この世にいない。

 

真言「…………黒服さん」

黒服A「はい」

真言「本当に、何から何までありがとうございます」

黒服A「我々は我々の仕事をしただけの事、お礼を言う必要はありません」

真言「いや、そんなことは……」

黒服A「あなたはこころ様の恩人ですから。これ程の事は恩返しにもなりません」

真言「…………」

 

 なんか昔の、燐子先輩に恩返し恩返し言ってたときの俺を見てるみたいだ。

 

 でも一つ違うのは、この人達は盲信的でも狂信的でも、まして誰かに依存しているわけでもなく、ただ律儀なだけという事。

 

 この人達は俺よりずっと大人で、プロなのだ。

 

黒服A「神代様、これを」

真言「……これは?」

 

黒服A「この衣装はメンバーそれぞれのイメージカラーのシャツに我々と同じ黒いスーツ、そして胸のポケットにはそれぞれワンポイントアクセサリーを施しております」

 

黒服A「こころ様は以前、神代様がお贈りになった黄色の缶バッジ。市ヶ谷様は紫色の星型のブローチ。氷川様は水色の音符型のアクセサリー。青葉様は黄緑色の…………パンのアクセサリーを」

真言「センパイのだけ変じゃないですか?」

黒服A「ご本人の熱烈な希望ということで……」

 

 黄緑色のパンか……なんかカビてそう。

 

黒服A「そして神代様には"これ"ということです」

真言「なるほど、だから俺の色が青色だったわけですか」

 

 これの色に合わせたってことか。全く………粋なことをしてくれる。

 

黒服A「はい、その通りです」

 

こころ「あら?真言そこにいたのね!」

 

 控室の扉が開いてこころが顔を出す。

 

有咲「お、戻ってきたか」

日菜「ん〜!始まる前からるんっ♪てしてる!」

モカ「おー、リーダーも似合ってますな〜」

真言「センパイ、なんでさっきから俺のことをリーダーって呼んでるんですか」

モカ「だってホントのことじゃーん」

こころ「それじゃあ行きましょうかリーダー!」

有咲「ほらさっさとしろリーダー」

真言「お前らも悪ノリすんじゃねぇ!!

黒服A「(どうやら何も心配いらないようですね)」

 

黒服A「神代様、本番は我々もDearの演奏を拝見させていただきます」

 

黒服A「それでは、ご武運を」

 

 そう言って黒服さんは静かに立ち去っていった。

 

こころ「真言、あなた黒い服の人達と仲良しなのね!」

真言「仲良しとはまたちょっと違う気がするけど……」

有咲「おいマコ、最後に一言無いのかよ」

真言「一言って?」

有咲「本番前にメンバーに向かって何か言うことは無いのかってこと」

真言「ああ、そういうこと…………じゃあ皆」

 

 俺は皆の正面に立ち、一人一人をしっかり見据える。

 

真言「ここまで俺の我儘に付き合ってくれてありがとう。でもあと少しだけ、もう少しだけ、俺に付き合ってくれ」

 

 …………あれ?皆の反応薄い?

 

モカ「真面目だねーマコくんは。ひーちゃんなら"いつもの"で盛大にスベるのに」

真言「"いつもの"?」

モカ「なんでもな〜い。気合を入れる掛け声みたいなやつだよー」

真言「掛け声か…………」

有咲「あーうん、私もそういうのを期待してたんだけどな……」

真言「は?そうなの!?」

日菜「なんかシンミリしちゃったねー」

こころ「もっと明るくいきましょう!」

真言「なるほど…………了解した」

 

 明るくか……やってみるか。折角の文化祭、一世一代の祭りだ。バカになる以外の選択肢なんてないだろう。

 

真言「それじゃあお前ら…………」

 

 

 

 

 

真言「暴れんぞ!!!!!

「「「「おー!!!」」」」 

 

 行こうか。Roseliaと同じ舞台へ。

 

 青色の薔薇を胸に。




後編に続く……


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Final."    "神代 真言(後編)

後編はライブ本番編!

「監視対象と約束された日々」の最終回!最後まで楽しんでください!!

それではどうぞ!!


 〜〜【花咲川学園・ステージ袖】〜〜

 

 やはり文化祭の目玉行事ということで、体育館には大勢の観客が集まっていた。

 

 きっとほとんどが俺達……いや、俺以外のガールズバンドを見に来たのだろう。

 

有咲「緊張は?」

真言「…………ちょっと」

有咲「はぁ……まぁしゃあねぇか。初めて人前で、しかもトップバッターだしな」

日菜「え?真言くん緊張してるの?」

真言「まぁ……」

日菜「なんで?」

真言「いや、なんでって……こんな大勢の前で歌うのなんて初めてだから……ですかね」

日菜「……?真言くんって燐子ちゃん達の為に歌うんだよね?」

真言「そうですけど?」

 

日菜「じゃあさ、他の人なんて関係なくない?」

 

日菜「燐子ちゃんの為に歌うんだから、他のお客さんなんていないようなもんじゃない?」

真言「……………」

有咲「それはちょっと極論すぎる気が……」

真言「氷川さん、あんたやっぱり天才だわ」

有咲「嘘!?」

日菜「でしょ〜?」

真言「お陰でなんかスッキリしました!」

有咲「マジかよ……まぁそれでいいならいいけどさ……」

 

「有咲、神代くん」

 

真言「ん?」

有咲「お、沙綾」

沙綾「やっほー、神代くんは久しぶりだね」

 

 俺と有咲に声を掛けてきたのは、有咲と同じバンドメンバーの山吹さんだった。後ろに他のメンバー達も見える。

 

真言「お久しぶりです。山吹さん」

沙綾「…………」

真言「……何か?」

沙綾「神代くん、なんか雰囲気変わった?」

真言「スーツだからじゃないですかね」

沙綾「そうかな……でも似合ってるよ。その衣装」

真言「山吹さんも似合ってますよ。順番、俺達の次でしたっけ?」

沙綾「そうだよ」

 

 山吹さん達は水色とピンクの可愛らしいデザインの衣装に身を包んでいた。

 

真言「…………」

有咲「なんだよ?」

真言「お前、次あれ着るんだろ?」

有咲「似合わないって言いたいのか!?」

真言「違ぇよ…………」

 

 俺はそこまで失礼じゃねぇよ……どんだけ信用してねぇんだ。

 

真言「世話かけるなって思っただけだ。着替えるの大変だろ」

有咲「何を今更……言っとくけどなマコ、とも──」

ありさあああああ!!!

有咲「ぐはっ!?」

真言「!?」

 

 突如として山吹さんと同じ格好をした猫耳少女が有咲目掛けて突っ込んできた。

 

「この衣装すごいキラキラしててカッコいいよ有咲ー!最初緊張するかも知れないけどがんばって!!!」

有咲「暑苦しい!離れろ香澄ぃ!!」

 

 この猫耳のカスミとかいうやつ、どっかで見たことある気が……しなくもない気がする。

 

真言「仲いいんですね」

沙綾「うん、まあね」

「夫婦漫才ってやつだよ」

真言「(誰だこいつ……)」

有咲「ちげぇよ!!」

りみ「有咲ちゃん声大きいよ……」

 

 『ポッピンパーティー』だっけか。こころのとことはまた違った、掴めねぇ奴らだな……

 

沙綾「それにしても……そっちすごいメンバーだね」

真言「そうですか?」

沙綾「ポピパにアフグロ、ハロハピ、パスパレのメンバーがそれぞれ一人ずつじゃん」

有咲「あとRoseliaのボーカルの教え子な」

 

 俺の限られた交友関係を頼って結成したドリームチームですから。

 

沙綾「神代くん……君、一体何者なの?」

真言「そうですね…………」

 

 監視対象じゃない、神代 真言……

 

 

 

 

 

真言「"化け物じみた人間"ってとこでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 そう言って、笑ってみせる。

 

 まるで化け物のように。まるで人間のように。

 

沙綾「…………?」

りみ「…………?」

有咲「……はっ。そりゃいいな」

真言「だろ?」

 

「Dearの皆さん、よろしくおねがいします」

 

真言「んじゃ、行ってきます」

有咲「ったく……そこで大人しく見てろよ!」

 

 

 

 

 

有咲「……マコ、さっき香澄のせいで言いそびれたやつだけどな」

 

有咲「友達からの頼みを、迷惑だって思うやつはここにはいねぇよ」

 

有咲「だから「迷惑かける」とか、もう言うなよ」

真言「…………ああ」

 

真言「行くぞ、有咲」

有咲「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【花咲川学園・ステージ】〜〜

 

 観客の声が聞こえる。

 

「あれパスパレの日菜ちゃんじゃない?なんでドラムのとこにいるの?」

 

「アフグロのギターとポピパのキーボードもいるぞ」

 

「じゃあ、あのボーカルのやつ……誰だ?」

 

「Dearってバンド、俺初耳だよ」

 

 小さなつぶやきはやがて大きなざわめきとなり、会場を飲み込んでいく。

 

 メンバーへの声、これから起こることに期待する声、はたまた俺に向けられる疑念の声。

 

「おい、なんで始めねぇんだよ」

 

真言「うるせぇ……

 

 お前らなんかお呼びじゃない。

 

 俺が今から歌うのは…………

 

真言「いた」

 

 親愛なるRoselia(あなた達)のためだ。

 

モカ「よっと」

 

 その時、雷のような衝撃が体育館中に疾走った。

 

 センパイがギターを鳴らし、()()に一瞬にして静寂をもたらした。

 

モカ「準備かんりょ〜」

真言「退け」

 

 喰われたくなかったら大人しく道を開けろ。あの人への道を。

 

 そこは今から化け物が通るぜ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──怪物/YOASOBI──

 

真言「素晴らしき世界に今日も乾杯。街に飛び交う笑い声も、見て見ぬフリしてるだけの作りもんさ。気が触れそうだ──

 

 退け、退け。退け!

 

真言「──この世界で何ができるのか。僕には何ができるのか。ただその真っ黒な目から涙溢れ落ちないように

 

 こっから先は(化け物)の独壇場だ!

 

真言「願う未来に何度でもずっと、喰らいつく。この間違いだらけの世界の中、君には笑っていてほしいから

 

 誰にも邪魔させない!そこで黙って見てろ!!

 

「すごい…………カッコいい」

 

真言「もう誰も傷つけない!強く強くなりたいんだよ!僕が僕でいられるように

 

 頬を汗が伝う。自分の体温が上がっていくのがわかる。

 

真言「素晴らしき世界は今日も安泰。街に渦巻く悪い話も、知らない知らないフリして目を逸した……正気の沙汰じゃないな──

 

 それでも先走っていない。演奏は至って冷静。なら…………

 

真言「清く正しく生きること。誰も悲しませずに生きること。はみ出さず真っ直ぐに生きること。それが間違わないで生きること?

 

 燃え尽きるまで、歌い続けろ!

 

真言「ありのまま生きることが正義か?騙し騙し生きるのは正義か?僕のあるべき姿とはなんだ?本当の僕は何者なんだ?教えてくれよ!

 

 演奏の音が次第に静かになる。

 

 もう観客の雑音は聞こえてこない。もう観客は誰も見えていない。

 

 燐子先輩以外、今の俺には見えていない。

 

真言「今日も答えのない世界の中で、願ってるんだよ。不器用だけれど、いつまでも君とただ……

 

 見てますか燐子先輩。今、俺はあなたのためにここで仲間と一緒に歌っています。

 

 あなたに出会えたこの世界で、これからもずっとあなたと……

 

真言「笑っていたいから」

 

 俺の世界に、音が戻ってくる。

 

真言「跳ねる心臓が体揺らし叫ぶんだよ!今こそ動き出せ……!

 

 ここから始めよう……もう一度!

 

真言「弱い自分を何度でもずっと!喰らいつくす!この間違いだらけの世界の中、君には笑ってほしいから!

 

真言「もう誰も泣かないよう、強く強くなりたいんだよ!僕が僕でいられるように

 

 あの日、約束によって生かされた俺の命は終わりを告げた。

 

 それでも俺は……これからもあなたと、あなた達と生きていきたい!!

 

真言「ただ君を守るそのために!走る走る走るんだよ!僕の中の僕を超える!!

 

 演奏が、終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「ハァ…………ハァ…………」

 

 出し切った。

 

 今持てる技術、体力、教えてもらったこと全てを。

 

真言「……………」

 

 振り向いて皆の顔を見るその前に、

 

ワ ア ア ア ア ア ア

 ア ア ア ア ア ア ア!!!

 

 割れんばかりの歓声が俺達を包み込んだ。

 

真言「みんな…………」

こころ「真言……!」

モカ「まだだよマコくん」

有咲「ほら、挨拶だよ挨拶」

 

 そうか、一応の体裁だけは整えなくては。

 

真言「ご清聴ありがとうございました!『Dear』でした!」

 

 初めてだ。

 

 人からの拍手がこれほどうるさく、嬉しく思ったのは。

 

有咲「ほら、すぐに端に避けろ!次もあるんだぞ!」

真言「あ、あぁ……」

 

 歌うのってこんな疲れることだっけか……?

 

日菜「はぁ〜楽しかった!」

こころ「えぇ!すっごく楽しく演奏できたわ!」

モカ「なかなかだったんじゃないですかリーダー?」

真言「そう……ですね…………」

モカ「だいぶお疲れのようだね〜」

日菜「歌ってる時の真言くん、すっっっごいるんっ♪って感じだったよ!」

こころ「今日の真言はとても輝いてたわ!」

真言「ははっ……なら良かった」

 

 確かに疲れたけど……それ以上に楽しかったのも事実だ。

 

 だから行かなくては。今すぐに。

 

こころ「真言?どこに行くの?」

 

 行って、伝えなくては。今のこの気持ちを。

 

燐子「真言くん……!」

真言「燐子先輩……」

 

 それにRoseliaの皆も…………丁度いい。手間が省けた。

 

真言「見て……くれました?」

紗夜「えぇ、この目でしっかりと」

あこ「カッコよかったよ!流石あこの弟子だね!」

真言「ありがとう……ございます……」

友希那「もうフラフラね」

真言「湊さん……」

友希那「あなた達の演奏、素晴らしかったわ。あなたの想いもしっかり伝わってきた」

リサ「友希那がここまで褒めるなんて……やっぱマコくんはスゴイね☆」

 

 やばい……なんかまた泣きそう……

 

燐子「…………」

真言「燐子先輩……」

燐子「真言くんはもう……大丈夫なんだね……」

真言「はい」

燐子「うん……よかった……本当によかった…………」

 

真言「燐子先輩、今までありがとうございました」

 

真言「そしてこれからも、どうか末永くよろしくおねがいします」

燐子「はい…………!」

 

 

 

 

 

あこ「なんか今の結婚の挨拶みたいだったね」

燐子「!?!??!!!///」

リサ「確かに。でももう二人は付き合ってるんだしね」

真言「あれ……なんで知ってるんですか」

友希那「あの後燐子から全て聞き出したわ」

真言「全て……?」

紗夜「その……神代さんと白金さんが…………その……」

 

友希那「あなたと燐子がキスをしたことも聞いたわ!」ドンッ!

 

燐子「こ、声が大きいですよ……友希那さん……///」

紗夜「神代さん、どうか高校生として節度のあるお付き合いの程を……」

真言「何言ってるんですか紗夜先輩……」

リサ「まあその辺にしておいて……マコくんももう疲れたでしょ?」

あこ「あとはあこ達にドーンと任せて!」

紗夜「今度は私達が神代さんに見せる番です」

真言「大人しく見させていただきますよ……もう、そんくらいの力しか残ってませんし」

 

 やったぜ。Roseliaの生演奏が聞けるね。

 

真言「じゃ、俺はこれで……」

友希那「真言、これを」

真言「……なんすかこの紙」

友希那「読めばわかるわ。というより読みなさい。今」

真言「…………………」ペラッ

 

 

 

 

 

真言「はぁ!?

 

 

 

 

 

友希那「あなたには必要の無いものかもしれないけれど、一応渡しておくわ」

真言「は、ちょ、まっ」

友希那「私達もそろそろ準備があるから早く出ていってくれないかしら。ここ、そんなに広くないのよ」

こころ「あたしもハロハピに行かなきゃ!」

モカ「モカちゃんもアフグロで準備があるのでこれで〜」

日菜「またね!真言くん!」

 

 全てを出し切った俺が、この人達に抗える力など持ち合わせているはずなど無く……

 

 大人しく追い出されるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【花咲川学園・観客席】〜〜

 

有咲「いやー終わった終わった……」

沙綾「お客さん大盛り上がりだね」

有咲「マコがトップバッターでかましてくれたからな。そこからずっと会場のテンションは最高潮なんだよ」

 

 私達が終わったあとも滞りなくライブは進んでいった。

 

有咲「次でラスト…………ってあれ?マコは?」

沙綾「神代くん?見てないけど……」

 

 いない……おかしいな。あいつがRoseliaのライブを見逃すなんてこと無いのに……

 

こころ「有咲ー!」

有咲「弦巻さん」

こころ「真言見てないかしら?」

有咲「いや、ここにはいないけど」

こころ「おかしいわ……真言、そろそろRoseliaの番なのにどこにもいないの!」

沙綾「最前列にいるんじゃ……」

有咲「それかステージ袖か」

 

 あいつならもっと近くで見てる可能性だって……

 

こころ「ううん、全部探してみたけどどこにもいないの!」

有咲「まさかあいつ……また何かあったんじゃ……!」

こころ「……!あたしもう少し探してくる!」

 

黒服A「その必要はありません」

 

沙綾「きゃ!」

有咲「うお!ビックリした!」

 

 急に背後から出てこないでくれよ!心臓に悪いから!

 

黒服A「神代様なら先程からあちらに」

 

 黒服さんが指を指した先には、会場の隅で、ステージ上に出てきたRoseliaに目もくれず、一心不乱に何かを読んでいる真言がいた。

 

有咲「あいつ……何やってんだ?」

こころ「あ、ステージ袖に入っていったわ!」

黒服A「恐らくRoseliaの演奏をご覧になった後には、お分かりになるかと」

有咲・こころ「「???」」

 

 黒服さんの行った通り、Roseliaの演奏が終わった後にマコが何をしていたか分かった。

 

友希那「どうもありがとう」

 

 ワアアアアアアア!!!!!

 

友希那「それじゃあもう一曲。あなた達、ついてこられるかしら」

 

 ワアアアアアアア!!!!!

 

あこ「ほら早く!」

 

有咲「…………!?」

こころ「ま…………!」

 

有咲「マコ!?」

こころ「真言!?」

 

「おいあいつ!一番最初に出てきたバンドのボーカルじゃねぇか!?」

「うおおおお!すげぇ!Roseliaと歌うのかよ!!」

「いいぞー!やれやれー!!」

 

有咲「な、なんかさらに盛り上がってる……」

黒服A「神代様は最初の演奏でこの場を支配するのに成功した様ですね」

沙綾「支配って……」

こころ「……とりあえず見守りましょうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  〜〜【神代 真言】〜〜

 

 今、俺の目の前にRoseliaが立っている……しかもライブ衣装で。

 

真言「どうしてこんなことになった……」

 

 あの時、湊さんに渡された紙に書いてあった文面はこうだ。

 

友希那『Roseliaのライブが終わったらステージに上がってきなさい。私と真言のツインボーカルで一曲歌うことにしたから。パート分けを載せておくわ。歌詞は……いらないかもしれないけれど念の為に。歌う曲は──』

 

 ……無茶ぶりにも程があるというものだ。

 

紗夜「ほら、何をボサッとしてるんですか」

リサ「早くマイク持って!」

 

 今ここで文句をつらつらと連ねるとライブが終わってしまう気がするのでやめておこう。

 

真言「ああもう!やりゃあいいんでしょうが!!」

 

 今日は祭りだ。バカをやるなら最後までやらなければ。

 

 しかもあのRoseliaと一緒に歌えるなんて、よく考えればもう二度と無いことじゃないのか?

 

 ………………よくよく考えてみたら、ファンに刺されそうだな……

 

真言「湊さん!俺はいつでもやれますよ!!」

 

 こうなりゃヤケクソだ!っていうかまず刺されたくらいで俺が死ぬかよ!!文句あるやつは掛かってきやがれ!!!

 

友希那「それじゃあ…………行くわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──約束/Roselia──

 

友希那「誰にも譲れない居場所があるんだと

真言「逃げる言い訳を燃やすたび、強くなれた

 

 ……さっきは俺もああ言ったものの、これは湊さんなりの優しさなのだろう。

 

 それにしても選曲を「約束」にするとか……中々どうして、俺の周りには粋なことをする人達が多くて困る。

 

 もちろんだがRoseliaの歌の歌詞は全て頭に入っている。当然、この歌も。

 

友希那「陽だまりの中で満ちる

真言「シロツメクサはやがて、生まれ変わり

 

真言・友希那「「確かなものへ」」

 

真言・友希那「「進む道は幸せよりも、辛いことが多いかもね」」

 

 Roseliaが俺に合わせてくれているのが分かる。

 

 ああ……くそっ、なんて俺は…………

 

友希那「それでも

真言「いいんだよ

 

真言・友希那「「あなたの隣にいる」」

 

 なんて俺は……幸せ者なんだ。

 

真言・友希那「「約束の景色を胸に、強く息づかせて」」

 

真言「未来へ

友希那「続く

 

真言・友希那「「道を歩こう」」

 

真言「麗しい

友希那「玉座に輝く

真言「偉大な

友希那「その日まで……

 

真言・友希那「「終わらせない──」」

 

 自分で言うのもなんだが、ほとんど即興とは思えないほどの完成度だったのだが……

 

 歌の終盤、それは起きた。

 

 本来なら湊さんと姐さんが交互に歌うパート。それを俺と湊さんで交互に歌う…………はずだった。

 

真言「──甘い思い出、きらびやかに今、零れ落ちる幸せと

 

 あの光景を、俺は未来永劫、忘れることはないだろう。

 

真言「(湊さんが……マイクを下げた……!?)」

 

 どうなってるんだ!?湊さんが歌うのやめるなんて……それじゃあ次のパートは一体誰が…………

 

 

 

 

 

燐子「愛しい貴方……笑顔溢れる優しい風景

 

 

 

 

 

 

 そこでマイクを落とさなかったことを、俺は一生誇りに思う。

 

真言「目覚めていく

燐子「私をずっと……

真言「信じていて

燐子「最後まで…………

 

 

 

 

 

 『……約束だよ』

 

 

 

 

 

真言・燐子「「進む道は幸せよりも、辛いことが多いかもね」」

 

真言・燐子「「それでもいい、何度だって」」

 

真言・燐子「「運命を共にするよ」」

 

真言・燐子「「約束の景色を胸に、強く息づかせて」」

 

真言「未来へ

燐子「続く

 

真言・燐子「「道を歩く」」

 

友希那「麗しい

燐子「玉座で花開く

友希那「偉大な

真言「その日まで

 

真言・燐子・友希那「「終わらせない!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【ライブ終了後】〜〜

 

真言「おわったぁぁぁ…………」

燐子「真言くん……お疲れ様……」

 

 まさか一日に二回も歌うことになるとは思っても見なかったから…………もう流石に無理。

 

紗夜「実はこの後さらにアンコールが……」

友希那「さぁ行きましょうか」

真言「勘弁してください!!」

紗夜「ふふっ冗談です」

友希那「冗談よ」

 

 出たよRoseliaクール担当の伝統芸……流石に次は引っかからねぇからな!?

 

真言「ったく……湊さんも人が悪いですよね。燐子先輩と急にデュエットさせるなんて、事前に教えてくれれば良かったのに……」

友希那「ごめんなさい、少し真言を驚かせようと思って」

真言「"少し"じゃねぇんですよ。歌うの止めなかったの褒めてもらいたいくらいです」

燐子「ごめんね……」

真言「燐子先輩は謝らなくていいです!」

あこ「えぇ……」

リサ「やっぱり変わんないなーマコくんは」

真言「そうですよ?俺は変わんないです」

 

真言「変わったとしても、俺は俺のまま……神代 真言のままなんです」

 

真言「だからこそ、俺は何にだってなれる。監視対象だろうと、化け物だろうと」

 

真言「俺はそれを……貴方達から教えてもらいました」

 

 貴方達のお陰で、俺は本当の意味で救われた。

 

紗夜「それで?神代さん、次は何になるつもりなんですか?」

燐子「真言くん……確かもう監視対象じゃないんだっけ」

あこ「へー……じゃあ本格的に生徒会の役員になるとか?」

リサ「燐子達が卒業した後に生徒会長になるとかはどう?」

友希那「………………真言が?」

真言「なんですかその顔」

 

 でも、それだってありえない話ではない。

 

 いつの日か俺が花咲川学園の生徒会長になれる時が来るのかもしれない。

 

モカ『この世に"絶対"なんてことはないんだよ〜マコくん』

 

 いつかの意味ありげに笑うセンパイの顔が脳裏に浮かぶ。

 

 全くもって、あの人の言う通りだ。

 

 監視対象になって、化け物になって、バンドのボーカルになって、Roseliaと一緒にライブをして……

 

 大切な人を、愛することができた。

 

 次は何ができるようになるだろう?何になれるだろう?

 

「何にだってなれるさ」

 

真言「ん?」

燐子「どうかしたの……?」

真言「あ、いや、今声が……」

 

 気のせいか…………でも、

 

真言「……今の俺なら何にだってなれる気がします」

紗夜「いつも謙虚な神代さんにしては、随分と大きく出ましたね」

真言「本当にそんな気がするんですよ」

 

真言「だって俺には……こんなにも頼りになる人達がいるんですから」

 

 もう、一人で抱え込まない。

 

 辛いことも、楽しいことも、これからは分け合っていくって決めたから。

 

 「まだまだ騒がしい日常は続くのであった」というような具合に、この日々は終わることなく、続いていく。

 

 真っ白なキャンパスの様に、あるいは何も書かれていない楽譜のように、

 

 何にでもなれるまっさらな俺は、今日も明日も生きていく。

 

 この約束された日々を。

 

 親愛なるあなた達と共に。




本当に長かった……遂に遂に最終回まで……!
ここまで来られたのも読んでくれた皆様のおかげです……!

本当にありがとうございました!!!!!

この感謝の気持ちはまた活動報告で連ねるとして……改めて、「監視対象と約束された日々」これにて完結です!

お気に入り登録をしてくださった皆様、評価をつけてくださった皆様、全ての方にもう一度感謝を!

高評価や感想をいただけると作者のモチベーションが上がるので……是非お願いします!(好評だったら後日談を投稿するかも……?)

作者のTwitterも良ければフォローしてください!真言くん達のちょっとした小噺を載せたり、次回作を書くときに何らかのツイートをしますので!

まだまだ話し足りませんが、ここらで切り上げるとしましょうか。

それでは皆様、またいつか。どこかの物語の中でお会いしましょう!

砂糖のカタマリでした!

Twitter→https://twitter.com/amatoo_coco?s=09


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After Story."23歳"神代 真言

皆さんお久しぶりです。砂糖のカタマリです。
さて、今回はやっと後日談ですよ!でもまあタイトル通りの世界なんですが……
後日すぎだろ!って思った方、俺もそう思います。
今回は成長したキャラクター達が登場します。苦手な方はブラウザバック推奨です。

それでは後日談、どうぞ。



「12月25日、夜のニュースをお伝えします」

 

「世界に多大な影響を与えている大企業、弦巻グループのCEOである弦巻 こころ氏が今日、アメリカ訪問からの帰国の際、空港で何者かに襲撃された模様です」

 

「弦巻氏に怪我はなく、襲撃者はボディーガードに取り押さえられた後、現在警察が捜査を進めているそうです」

 

「襲撃の一部始終を空港の防犯カメラが捉えていました。その映像がこちらです、どうぞ」

 

「弦巻氏を一目見るために空港へ集まった人だかりに、弦巻氏が笑顔で手を振ったその直後……」

 

伏せろッ!!

 

「この後銃声が二発鳴り、弦巻グループのボディーガードが襲撃者を取り押さえ、事なきを得たそうです」

 

「それでは次のニュースです」

 

「若者を中心に現在人気が爆増している、話題の女性5人組バンド『Roselia』がクリスマスの今日、今年最後のライブツアーを無事に終えました」

 

「東京公演から始まったこのツアーは、全国7箇所を巡り──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンッ、パンッ、

 

 乾いた銃声が二発。方向はさっきの不審な男の方向。やっぱりあいつ、何かしてくると思ったら銃撃ってきやがった……!

 

「ボスは!?」

黒服A「こころ様はご無事だ!こちらの損害はゼロ!我々A班はこころ様を安全な所まで連れて行く!」

黒服A「B班は襲撃者を追跡せよ!決して逃がすな!!」

「「「了解!」」」

黒服A「K!別方向から先回りして奴を捕えろ!!」

 

 やれやれ、日本に帰ってきて早々これだよ……でもまあこれが今の俺の()()だしな。

 

 それにやっぱり護衛ってのはただ立ってるだけでつまんねぇからな。

 

 久しぶりに暴れてやりますか!

 

真言「了解!」

 

 神代 真言23歳。

 

 職業、黒服(ボディーガード)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て!」

「くっ……早い……!」

 

 襲撃犯は人混みをすり抜け、悠々と逃げていく。

 

真言「随分と身軽だな……」

 

 黒服の二人が懸命に追いかけてはいるがぐんぐん突き放されていく。このままじゃもう少しで奴を見失ってしまう。

 

 別方向から先回りしろと言われたものの、この人だかりじゃそれもキツそうだ。

 

 そう思った俺はとりあえず無線を起動させ連絡を取る。

 

真言「あーこちらK。ターゲットは一人、仲間はいない模様。逃げる動きを見るにその辺のチンピラってわけじゃなさそうだ。アメリカ(向こう)じゃなくて日本(こっち)に帰ってきた直後を狙ってくるあたり…………十中八九()()()()だろうな」

黒服A『なるほど……』

真言「FとGはそのまま真っすぐ追ってってくれ。この人混みの中、できるだけ奴が直線的に逃げていくように」

黒服G『りょ、了解……ですがK、あなた今どこに……』

黒服F『私達のことが見えているんですか?』

真言「まぁ…………天井」

黒服F・G『『天井?』』

 

真言「今、天井にぶら下がって状況把握をしてる。だから二人は俺の指示通り追跡を続けてくれ」

 

黒服F『……………了解』

黒服G『一体いつそんなところに……』

黒服A『Kが無茶苦茶なのは今に始まったことではないでしょう。追跡の続行を』

 

 ……相変わらず失礼な同僚だ。

 

真言「んー……あと少しってとこか」

黒服A『K、あなた何を狙っ…………て!?あなた今逆さまで宙づりになってませんか!?』

真言「流石、そんな遠くからよく見えましたね」

黒服A『まさかK……!』

真言「F、G、そこで止まれ」

黒服F・G『『了解』』

 

 ここから襲撃犯までの距離なら、()()が二つもあれば十分だ。

 

真言「今からそっちに飛ぶ。足場になって俺を奴まで届かせてくれ」

 

黒服F・G『『りょうか…………』』

 

黒服F・G『『ハァ!?』』

 

 

真言「先ずは俺に近いFからだ。行くぞ」

黒服F『ちょ……私はKが豆粒ほどの大きさにしか見えないくらいの距離にいますけど!?』

真言「つべこべ言うな。行くぞ3…2…1…!」

 

 天井を思いっきり蹴り飛ばし、仲間の黒服に向かって飛んでいく。ロケットのように……この場合斜め下方向に飛んでいってるから魚雷か?

 

 グングンFの驚いた顔が近づいてくる。向こうからすれば恐怖でしかないだろうな。

 

真言「(でもまぁ……)」

黒服F「重ッ………!」

真言「(できるって分かってるから飛べるんだけどな)」

黒服F 「ッ……!!」

 

 Fの組んだ掌に着地した俺はそのまま襲撃犯が逃げた方向に向かって投げ飛ばされる。

 

黒服F「行ったぞ!」

黒服G「了解!」

 

 再び空高く舞い上がった俺の身体は、一直線にもう一人の仲間の元へ飛んでいく。

 

 そして先程と同じように……

 

真言「よろしく」

黒服G「ぐっ…………!」

 

 投げ飛ばされる。奴の背中に届くまで。

 

 寸分の狂いもない。俺の射程距離だ。

 

 そして着地直前、驚いた顔でこちらを見る奴と目が合う。

 

「!?」

真言「Freeze(動くな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【弦巻グループ・本社】〜〜

 

真言「はー……疲れた」

 

 襲撃騒動の後始末も終わり、休憩室のベンチに腰を落ち着ける。

 

 後始末……と言ってもほとんど俺は何もしてないけど。

 

 ちなみに俺のロケット作戦についてはAからキッチリとお叱りを受けた。解せぬ。

 

真言「それにしても……今日はクリスマスだったんだな」

 

 二ヶ月もあっちで仕事してたから日にち感覚がおかしくなってるのも仕方ないか。

 

 折角のクリスマスも、もうすぐ終わってしまうのか……

 

 まあ明日から数日休みを貰ったんだ。うちのボスにも「ゆっくり休め」と言われたことだし、久しぶりの故郷を満喫することとしようか。

 

真言「………………お?」

 

 突如目の前にブラックの缶コーヒーが差し出される。

 

「お疲れ様」

真言「なんだ秘書様か」

「やめてよ、その秘書"様"って……私達同い年でしょ」

真言「一応あんたは上司だからな」

「ならそれなりの言葉遣いを心がけたらどうですか?黒服さん?」

真言「生憎だけど俺はもう仕事を上がった。だから今は黒服じゃねぇ」

 

 隣に座ってきたこの人は俺の……俺達黒服の上司と言うのだろうか。うちのボス、弦巻 こころの専属秘書だ。

 

 本当ならこんな風に俺が対等に話せる相手ではないのだが……実はこの人、俺と同い年である。しかもここに入社したのは俺のほうが先だったりもする。

 

真言「仕事の方はどうだ?そろそろ慣れた頃だろ」

「んー……まぁそれなりに。毎日大変だよ」

真言「うちのボスは一筋縄じゃいかねぇからな。付いていけるのもあんただけだ」

 

 俺は一介の黒服なのに、後から入ったこいつがこころの専属秘書という職業に就いている理由はそこにある。

 

 新しく就任したボス、そして黒服の推薦。その二つがあってこいつは今の地位にいる。

 

「入社試験ほんっと難しかったけどね」

真言「そこらの国立大学より難しいって話だぜ」

 

 こころはセンスで物事を捉えるから、あいつが考えていることを俺達一般人でも分かるように通訳するのがこの秘書様の仕事というわけだ。

 

「でもスゴいよね。あたしは大学出てるけど、神代くんは花咲川を卒業してそのままここに就職したんでしょ?」

真言「…………まあ」

 

 俺の場合、ほとんど騙されて黒服になったようなものだけれど。

 

 俺がここで黒服をしている経緯は、燐子先輩達が卒業し、俺が花咲川学園の最高学年になったときにまで遡る。

 

 当時の俺は燐子先輩ロスと進路の板挟みにあっていた。

 

「あ、やっぱり当時から燐子先輩教に入信してたんだ」

真言「当たり前だろ」

「何故そこで胸を張る」

 

 大学に進むべきか。それとも就職か。やりたいことが見つからなかった俺は、進路の事を黒服のバイト先でポロッとこぼしてしまった。

 

 それを聞いた黒服さんが……

 

 

 

 

 

黒服A『神代様、これを』

真言『……【推薦状】?』

黒服A『清正様からお預かりしているものです』

真言『ああ、確か俺がバイトをするキッカケになった……で、これが?』

黒服A『それをお読みください』

真言『[私、弦巻家身辺警護特別監督、神代 清正は神代 真言を身辺警護人として推薦する]じいちゃん達筆すぎるな…………でも至って普通の推薦状じゃないんですか?』

黒服A『そこにアルバイトの文字はありますか?』

真言「いや、無いですけど…………え?」

黒服A『はい、そうです』

 

黒服A『その推薦状は本来、神代様が高校卒業後、弦巻家に黒服として就職をするという物です』

 

 

 

 

 

真言「俺になんの連絡もなしに就職先を勝手に決めるとか、本当……めちゃくちゃな爺さんだよ」

「あはは……」

真言「でもあいつの"世界を笑顔にする"って夢を手伝うのも悪くないって思ったのも事実だからな……その辺については後悔してない」

「………………」

真言「どうしたんだよ、そんな暗い顔して」

「………大丈夫なのかな……今日もこころ、危ない目にあったんでしょ?」

 

 こころは今や世界に影響を与えている。強すぎるその力を抑えようとする輩も一定数いるわけだ。

 

 表側にも。裏側にも。

 

 だから秘書様の心配はもっともだ……それでも、

 

真言「心配ねぇよ。俺が必ず守るから」

 

 大切な人を傷つけさせない。あの日俺はそう誓った。

 

 いくら時間が経っても、変わらない約束。

 

真言「こころが世界を笑顔にするのなら、その世界の中に俺の大切な人達が入ってるのなら、俺は命をかけて守り通す」

 

真言「きっとその世界の中にはあんたも入ってる。だからそんな顔すんなよ。あいつが悲しむ」

「…………そっか。そうだよね」

 

 そう言って、穏やかな笑顔に変わる。

 

 花咲川にいたときから変わったこともある。

 

 けど俺も、こころも、大切なものは何一つ変わっちゃいない。

 

真言「ん、そろそろ行くわ」

「……もう行くの?」

真言「どうやら雪が降り始めてきたらしいからな。電車が止まったら帰りは歩きになっちまう。ここから更に疲れるのはごめんだ」

「神代くんだったら徒歩の方が速い気がするけど」

真言「あ、それと……」

 

真言「今度からブラックは勘弁してくれ。俺はコーヒーが飲めねぇんだ」

 

「………………子供舌」

真言「ほっとけ」

 

 

 

真言「じゃあまたな奥沢」

 

 

 

 今の上司であり、花咲川学園の同級生でもある奥沢 美咲(おくさわ みさき)秘書に手を振り、俺は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「雪……結構降ってるな」

 

 何とか家の最寄駅まで到着した俺を出迎えたのは真っ白な雪だった。

 

真言「さて……二ヶ月ぶりの我が家に帰りますか!」

 

 俺の家は高校の時住んでいたところと変わらない。

 

真言「変わらない…………か」

 

 奥沢にはああ言ったものの、俺の心の中には疑念が渦巻いている。

 

 何も変わっていないように見えて、その実何もかも変わっているのかもしれない。そのことに俺は目を背けているんじゃないか。

 

 …………こういうことを考えるのは高校生の時から変わってねぇな。

 

 でも"変わっていない"というのも決して悪いことではないのかなとも思う。

 

 俺と燐子先輩はあの日から恋人として日々を過ごしている。

 

 けれど燐子先輩が高校を卒業してから…………Roseliaとして本格的に活動を始めたときから、確実に一緒にいる時間は短くなった。

 

 俺が就職してからも、仕事でお互い遠くに行くことが多くなった。

 

 遠距離恋愛……とは少し違うか。

 

 もちろん俺の気持ちは変わっていないし…………まぁそれに関しても昔一悶着あったけど。

 

真言「はぁ…………」

 

 吐息は白く、空に消えていく。

 

 昔より好きな人と一緒にいる時間が減り、他のRoseliaのメンバーとも会う機会が少なくなった。

 

 当然と言えば当然のことだ。

 

 今やRoseliaは若者を中心に大ブレイクしている超超超人気ガールズバンド、同僚に彼女らの友人だと言っても信じてもらえないくらいだ。

 

 もう、昔のようにはなれないのかもな。

 

真言「こうやって家に帰るのも久しぶり…………」ガチャ…

 

 家が荒らされていないことを祈りながら、二ヶ月ぶりに帰る我が家の扉を開ける。

 

あこ「おかえりまっくん!」

友希那「お風呂にするかしら?ご飯かしら?」

リサ「それとも………………ほら燐子!」

 

燐子「わ…………わ…………///」

 

 パタン……

 

真言「………………」

 

 ゆっくりと扉を閉めた。

 

あこ「なんで閉めた!?」ガチャ!

真言「あ、すみません。ちょっとビックリして……」

 

 家の扉が勢いよく開き、中から師匠が出てくる。

 

あこ「もう……折角驚かせようと思ったのに……」

真言「久しぶりですね。師匠」

あこ「まっくんもね!あれ、ちょっと背伸びた?」

 

 昔の師匠なら何とも思わなかったセリフだが、今の師匠から、それもニヤニヤしながら言われると皮肉に感じる……というか皮肉ってるのだろう。

 

 俺は()()()()()()()

 

真言「ふんっ!」

あこ「いった!?」

 

 そして額にデコピンをかました。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

あこ「え、急に何!?」

真言「ちょっとイラッときたんで。ごめんなさい」

あこ「理不尽!?でも即謝罪!?」

 

 変わらない話し方。変わらないこの雰囲気。でも師匠は確かに変わった。

 

 特に身長。

 

 高校時代からグングン伸びていき、Roselia1の高身長に、そして遂には俺よりデカくなりやがった。

 

 まさか師匠に背の高さで負けるとは思わなかったから、当時の俺はかなりショックを受けた。いや、今も結構…………

 

真言「はぁ……」

あこ「どうしたの?ため息なんかついて」

真言「いや、師匠が大きくなったなーって」

あこ「ふふん♪でしょ!?」

真言「ちょっと前までは『闇の魔法がー』とか言ってたのに……」

あこ「やめて。怒るよ」

 

 今の師匠に昔の師匠の話題も禁句になってしまった……

 

リサ「もー二人とも何やってんのー?うわさっむ!外雪降ってんじゃん!」

真言「姐さん、お久しぶりです」

リサ「うんうん久しぶり〜♪って寒いから早く入って入って!」

あこ「いらっしゃーい!」

真言「俺の家なんですけどね……」

 

 てかなんであんたらここにいんの……家の電気ついてるからおかしいなとはまさかとは思ったけどさ……

 

友希那「燐子から今日真言が帰国すると聞いてたから、Roseliaのライブツアーの打ち上げも兼ねてここで準備していたのよ」

 

 そう俺に告げるのはRoseliaのリーダー、湊さん。お元気そうで何より。

 

真言「俺の家でする必要あります?それ」

リサ「まぁ……ここなら安全っていうか……ファンの人達に話しかけられることもないし」

あこ「いざって時はプロのボディーガードもいるしね!」

友希那「事務所にも許可を取ったわ」

真言「なんで許可出すかな……」

友希那「弦巻家の名前を出したら一発よ」

真言「職権を乱用するのやめてくれませんか!?」

あこ「まっくんの職権だけどね」

 

 久しぶりに会う皆と小気味いい会話を繰り広げながら玄関を上がり、扉を開けてリビングに入る。

 

燐子「お……おかえりなさい……」

 

 エプロン姿の女神が出迎えてくれた。

 

真言「ただいま帰りました!」

あこ「うわすっごい笑顔」

真言「燐子先輩✕エプロンは人を殺せる」

リサ「アタシたちも同じ格好してるのに何も言わないんだね」

真言「え?あぁ、言われてみればそうですね」

リサ「扱いが雑!」

真言「てかそれどっから持ってきたんですか……うちにはエプロンは燐子先輩の分しかありませんよ」

リサ「これは自分達で……ってなんで燐子のだけはあるの」

あこ「そりゃあ…………ねぇ」

リサ「あ、そっか」

 

リサ「二人は同棲中だったね♪」

 

燐子「…………///」

真言「同棲ってのもちょっと違いますけどね」

 

 正確に言えば俺の家を好きにしていい権利(合鍵)を燐子先輩に譲渡しただけ。俺も燐子先輩も仕事で出かけることが多くなった今、少しでも二人でいる時間を長くしようと考えた結果だ。

 

 だから……半同棲状態と言うのが正しいのか?

 

 まあ燐子先輩が愛しいから何でもいいや。

 

燐子「真言くん……?急に黙っちゃって………どうしたの……?」

 

 あれだけ何にも無かった家が、今じゃ見違えるほどに思い出で満ち足りている。

 

 二人で撮った写真、互いに送りあったプレゼント、どれも幸せの結晶だ。

 

燐子「…………?」

紗夜「いつまで白金さんに見惚れているつもりですか」

真言「……っは!」

紗夜「まったく……変わらないですねあなたは」

真言「お久しぶりです、紗夜先輩」

紗夜「ええ、お久しぶりです」

 

 紗夜先輩もお変わり無いようで何より…………

 

真言「……料理してるんですか?」

紗夜「はい、キッチンを使わせてもらっています」

真言「別にそれはいいんですけど…………」

紗夜「湊さんには一切触らせていません」

真言「なら良かった」

友希那「ちょっと」

 

 兎にも角にもこれで二ヶ月ぶりの全員集合か……なんか感慨深いものがあるな。

 

真言「手伝いますよ紗夜先輩」

紗夜「いいから座っていてください。神代さんも仕事で疲れているでしょう」

真言「それを言うなら紗夜先輩達だってライブ終わったばっかじゃないですか」

燐子「料理はわたし達がやるから……」

リサ「マコくんも今日いろいろ大変だったんでしょ?」

あこ「ここはあこ達に任せて!」

真言「む……………」

 

 頑なに俺をキッチンへ入れさせてくれない。調理器具や調味料の場所は燐子先輩が知っているからいいけど……

 

友希那「仕方ないわ。向こうは紗夜達に任せて、私達はやれることをやりましょう」

真言「達観してますね」

 

 仕方なく湊さんとテーブルに食器を並べる。新しく買い替えたので六人分の食事も余裕で置ける大きさのテーブルだ。

 

真言「(まさか寸法間違えて買っただけのテーブルが、今になってこんなにも役に立ってくれるとは……)」

友希那「食器はこんな感じかしら」

真言「いいんじゃないですか…………湊さん、それ……」

友希那「これ?来る途中で食材と一緒に買ってきたのよ」

 

 湊さんが持っているのはシャンパン、お酒だ。

 

友希那「他にもワインとか──」

真言「……………」

友希那「……露骨に嫌な顔するわね」

 

 当たり前だ。俺が酒をあまり好まないというのもあるが、Roselia……特に湊さんは知り合いの中で一番一緒に酒を飲みたくない人だ。前に飲み比べをして酷い目にあった。

 

友希那「酷い言いようね。あれはあなたの自業自得でしょ?」

真言「ちなみに二番目は紗夜先輩です」

紗夜「私がどうかしましたか?」

真言「ナンデモナイデス」

リサ「料理できたよ〜☆」

 

 テーブルに並べられる豪華な料理の数々。流石姐さん、どれもめちゃくちゃ美味そう。

 

リサ「みんなグラスの準備はいい〜?」

あこ「はーい!」

真言「飯…………」ジュル…

燐子「真言くん……目が怖いよ……」

紗夜「早くしないと、神代さんがそろそろ限界ですよ」

友希那「そうね。それじゃあ皆、ライブツアーお疲れ様。そして…………」

 

 

 

 

 

Merry Xmas!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜30分後〜〜

 

 ここから先は(真言にとって)地獄である。

 

 ヒロインが酔っぱらい、主人公に抱きつきながら言葉にならない言葉を発する……そんな展開は存在しない。

 

「ふへへ……へへ…………」

 

 何故なら彼女らはRoselia……酒豪軍団である。

 

 そんな彼女たちの宴の中に、酒に絶望的に耐性がない男が一人。

 

 そう、誰であろう神代 真言その人である。

 

真言「りんこしぇんぱぁーい……だいしゅきでゆよぉ…………♡」

 

 この男、シャンパンを三()飲んだだけでこの様子である。先程からずっと恋人をホールドしながら呂律が回らない口で愛の言葉を吐き出し続けている。

 

燐子「ふふっ……真言くん……かわいい……」

真言「へぁ?」

あこ「まーたやってるよ……」

リサ「ふたりともwwwくっつきすぎwwwwww」

紗夜「今井さん……大丈夫ですか?」

リサ「ぜんぜんだいじょうぶwww」

友希那「…………」●REC

紗夜「……何してるんですか湊さん」

友希那「今の真言を撮っておこうと思って」

紗夜「鬼ですかあなたは!」

友希那「ほら、真言こっち向いて」

真言「……?いぇーい!ぶいぶい!」

リサ「さいっこうwwwいいよマコくんwww」

紗夜「それ、本人が見たら発狂しますよ……」

燐子「後で送ってください…………」

紗夜「あ、私にもお願いします」

友希那「任せて」

リサ「wwwwwwwww」バンッバンッ

あこ「リサ姉机壊れちゃうよ……」

 

あこ「(まっくんお酒全然飲めないのに絶対に断れないんだから……それにしても)」

 

燐子「真言くん……寝顔かわいい……赤ちゃんみたい……♡♡♡」

真言「zzz…………りんこせんぱい…………」

 

あこ「(…………いつかりんりんに襲われても知らないからね)」




【成長後ステータス】(作者個人の妄想です)

酒豪レベル・・・100を基準とする。



・神代 真言(23歳)

元・花咲川学園の監視対象。現在は弦巻グループの黒服(主に殲滅担当)。白金 燐子と恋人関係。

酒豪レベル:2

一口飲めばテンションがおかしくなり、二口飲めば燐子にデレデレに甘えだし、三口飲めば人語を発せなくなり、一杯飲みきれば気を失う。起きたときには記憶が全く無い。(度数は比較的高くないものを使用しております)

初めてお酒を飲んだ職場の飲み会で救急車を呼ばれた。



・宇田川 あこ(23歳)

Roseliaのドラム担当。驚異の成長力で遂に身長が真言を抜いた。厨二病卒業済み。

酒豪レベル:100

Roseliaの泣き上戸。よく高校時代の厨二病黒歴史をイジられて泣く。すぐ寝る。

Roseliaの中で一番お酒に弱い。



・今井 リサ(23歳)

Roseliaのベース担当。高校時代から変わらず世話好きのお姉さん。でも真言にはそろそろ姐さん呼びをやめてほしいと思っている。

酒豪レベル:120

Roseliaの笑い上戸。ずーーーーーーっと笑っている。箸が転んでもおかしいらしい。とても楽しそう。途中で笑い声が急に止んだら危険。すぐにお手洗いに連れて行こう。

頭痛が後日に残るタイプ。酔ってたときの記憶はあまりない。



・白金 燐子(23歳)

Roseliaのキーボード担当。高校時代から真言と付き合っている。半同棲、半遠距離恋愛状態。ちなみにラブラブ。

酒豪レベル:1000

飲むと少しだけ口数が増えて上機嫌になる。ほとんどそれだけ。酔うまで飲まない。なので記憶もしっかり残る。自分にベロベロで甘えてくる真言の写真や動画を撮るのが好き。でも可愛そうだから本人には秘密。



・氷川 紗夜(23歳)

Roseliaのギター担当。なんだかんだ言って今も真言のことを心配している。卒業してからも自分のことを「先輩」呼びをする後輩が可愛いということを認めたくない。

酒豪レベル:530000

真言曰く、一緒に飲みたくない人ナンバー2。恐ろしく強い。度数強い酒も顔色一つ変えずにバカバカ飲む。

基本的に酔って倒れた人の介抱担当。よく真言とあこがお世話になっている。



・湊 友希那(23歳)

Roseliaのボーカル担当。バンドの頼れるリーダー。真言への心配は高校時代に解消されたので特に気にしていない。真言の良き友人兼燐子の保護者的役割を担っている。

酒豪レベル:測定不能

もはや人ではない。





これにて「監視対象と約束された日々」本編完結です!皆様改めてご愛読ありがとうございました!最後に評価や感想をいただけると嬉しいです!

これからは今までより不定期更新で真言くん達の小噺を書いていきたいと思っております。
現在私の相棒であるrain/虹 くんの小説「人見知りの幼なじみは俺にだけデレデレ」で真言くんが暴れています!ぜひ一度ご覧ください!

rain/虹「人見知りの幼なじみは俺にだけデレデレ」→https://syosetu.org/novel/253378/




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おまけ編
Ex.崩れ行く城とネクロマンサー


ここから先はただのコラボ回の後日談のような物だぜ?

この前コラボさせていただいたユイトアクエリア様の「ロゼリアートオンライン」の後日談というかもはや蛇足の話です。

⚠今回はクロスオーバー要素を多いに含んでおります。苦手な方はブラウザバック推奨です。

それではどうぞ。


 思えば俺の今回の異世界に関するゴタゴタは、最初から最後まで俺の一人芝居のような、誰かの一人芝居につきあわされていたような、そんな話だった。

 

Yuito「誰かの一人芝居にお前が入ったらそれは一人芝居じゃねぇだろ」

 

 そう俺に毒づく男も、俺の目の前にいるようで、実際にはそこに存在していない。

 

 全く……頭の悪い俺には難しすぎるぜ。

 

 これはゲームであってただの遊びである物語の……やっぱり蛇足感が否めない後日談だ。

 

 始まりは俺の世界から。

 

 〜〜【NFO内・はじまりの街】〜〜

 

mako「あれもダメ……こっちも今ひとつ……うーん……」

RinRin「どう?良いのは見つかった(・∀・)?」

mako「いや、全然駄目です」

RinRin「そっか……(─.─||)」

mako「やっぱりそう簡単には見つからないみたいですね……」

 

 今俺と燐子先輩が何をしているのかというと、はじまりの街の武器屋を転々とハシゴしている。

 

 お目当てはただ一つ。

 

 俺の武器を見つけること。

 

mako「結構良い武器だったんですね。あの斧」

RinRin「フィールドボスのドロップアイテムだからね⊂(・▽・⊂)同じ性能の武器となるとやっぱり……」

mako「そこらの武器屋には売ってないですよね」

RinRin「うん……(─.─||)」

mako「はぁ……結構気に入ってたんだけどなぁ……」

 

 俺の愛武器、【ソウルミノタウルスの斧】はとある戦いで粉々に砕け散ってしまった。

 

 あの……謎の剣士との戦い。

 

 ただのゲームのはずなのに、まるで命が懸かっているような戦いだった。

 

 俺は今でも、忘れられずにいる。

 

 あの戦い以来、俺は代わりになる武器を見つけられず、素手で戦う俺を見かねて燐子先輩がこうして武器探しに付き合ってくれているのだ。ありがたい。

 

mako「そういえばあいつ、Yuitoは元気にしてるんですか?」

RinRin「…………」

mako「燐子先輩?どうかしました?」

RinRin「あのね……真言くん……」

mako「はい?」

RinRin「真言くんはあの戦いを……どのくらいはっきり覚えてる……?」

mako「どのくらいって……どういう意味ですか?」

RinRin「…………よく、覚えてないの」

 

RinRin「真言くんとあこちゃんと一緒に戦ったことは覚えてる……けどなんでそうなったのかとか……わたし達が戦った人のことも……」

 

mako「な…………」

 

 覚えてない……?Yuitoの事を?

 

mako「(いや、覚えてないというより"忘れかけている"と言ったほうがしっくりくる感じだな)」

 

 あの戦いの後、正確に言えばあいつのHPが0になった直後にYuitoは青色のポリゴンとなり、空に消えていった。

 

 他にも気になる点はいくつもある。戦いの最中、あいつが使っていた技はNFO内じゃ見たことないものばかりだった。戦う前のあいつの雰囲気も、普通の人のそれとは大きく異なっていた。

 

mako「(……別世界)」

 

 俺の推測では、あいつはこことは違う……どこか別の世界から来た人間。

 

 信じられないかもしれないが、俺は一度別世界に行っている。その時に知り合ったやつとYuitoの雰囲気はよく似ていた。

 

 別世界については俺もよく知らない。あの弦巻家ですら完全に解明できていない現象だ。

 

 でも一つだけ分かってることがある。

 

 別世界から来た人間が、その世界に必ずなんらかの不具合をもたらすということ。

 

 俺が睦月の世界に行ったときには"向こうの世界"の燐子先輩と紗夜先輩は"こっちの世界"の二人の記憶に引っ張られていた。

 

 進行形で、引っ張られていった。

 

 そして月城 睦月という人間の消失。

 

 もしYuitoが俺の推測通り別世界から来た人間なのだとしたら、今回あいつが起こした不具合は「自分に関する記憶の消失」。

 

mako「………………やめよ」

RinRin「(・・?」

 

 ゴチャゴチャ考えても俺がどうこうできる話じゃないしな!

 

mako「まあYuitoの事は置いときましょう。今はとりあえず俺の武器の代わりを」

RinRin「そうだよね…………わたしに一つ案があるんだけど……」

mako「聞かせてください!」

RinRin「またあの洞窟に取りに行くのはどうかな?フィールドボスを倒してもう一回ドロップを狙うのは……」

mako「うーん……またあいつとやるんですか……」

 

 あの斧は名前の通り、ソウルミノタウロスというフィールドボスを倒したときにドロップした武器だ。

 

mako「フィールドボスなだけあってそこそこ苦戦しましたからね……俺死にましたし」

RinRin「うん……でも今のわたし達なら何とかなると思うよ\(◎o◎)/」

mako「今の所それ以外に方法ないみたいですし、攻略するならまたみんなで時間あるときにやりましょう!」

RinRin「( ´∀`)bグッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【神代家】〜〜

 

真言「ふー……代わりの武器か…………」

 

 NFOをやっていたパソコンから目を離し、大きく伸びをする。

 

 NFOには武器ももちろんあるが、魔法関連の道具もそれなりにある。

 

 魔法関係の道具をほとんど使っていない俺からすればちょっとややこしく感じてしまう。

 

真言「はーあ、いっそ剣とかの武器ばっかある世界だったらなぁ…………」

 

 

 

 〘繧ォ繝翫お繝ォ〙

 

 

 

真言「ん?」

 

 今、俺の後ろから声が聞こえて……

 

真言「…………………は?」

 

 振り返るとそこには俺の背丈を大きく越す、見覚えのある頭と目があった。

 

 見覚えのある、大きな真っ黒い()()()

 

真言「ムクロノカ──

 

 俺が臨戦態勢に入るより早く、突如として現れたムクロノカミの頭部は、

 

 俺を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「ん…………ここは……?」

 

 目覚めると俺は見渡す限りの平原に倒れていた。

 

mako「え、平原?」

 

 なんだ?何が起こってんだ???

 

mako「ここは現実……なのか?」

 

 手に触れる草の感覚、眩しい日差し、飛んでいるドラゴン、全てが現実と同じように……!?

 

mako「ドラ……!?え!?」

 

 それだけでなく、よく見ると俺の周りにはイノシシのような奴らもいた。

 

mako「…………ゲームの中?」

 

 視界の端に映るのは緑色のHPバーのような物と【mako】というユーザーネーム。

 

mako「NFO……?でもこの体は……間違いなく俺の体だ」

 

 一体何がどうなってんだ……?俺は確か自分の家でNFOをやってて……それから…………

 

mako「なんで家にムクロノカミがいたんだよ……」

 

 俺は食われた。

 

mako「とりあえず誰かに助けを……ってあれ?スマホがない!」

 

 ってかこの格好、NFOの俺の装備じゃねぇか!

 

mako「まさに今の俺は"mako"って訳か……」

 

 これじゃ弦巻 こころ(なんでもあり)に頼ることもできない……どうしよう?

 

mako「周りのイノシシ達も敵じゃないみたいだし……この草原気持ちいいなぁ…………」

 

 まるで花咲川の中庭みたいだ……

 

mako「もうちょっとここで考えるか…………」

 

 ゴロンと再び横になり、目が覚めたら全部ただの夢でしたなんて事を思い描きながら、俺は目を閉じる。

 

「………………」

mako「…………人の寝顔をジロジロ見てんじゃねぇよ」

「驚いたな、目を閉じていてもわかるのか」

mako「普通だろ。でお前誰だ?」

「それはこちらのセリフなのだがな」

 

 寝ている俺の顔を覗きこんでいたのは、白衣を着たおっさんだった。

 

mako「(イノシシ、ドラゴンの次はおっさんかよ……なんか調子狂うな……)」

「人に名を聞くときはまず自分から名乗ったらどうだね」

mako「…………makoだ。小文字でm,a,k,o」

「mako……?」

 

 白衣のおっさんは左手を宙に向かって降ると、何もなかった空間に白いウィンドウが出現した。

 

mako「!?あんた今何を」

「…………やはりいない、か」

mako「は?」

「mako君、もともと君はこの世界にいた人間ではないだろう?」

mako「!」

 

 こいつ……俺が別世界から来たことを知ってんのか……?

 

「君は一体どこから来たんだ?」

mako「……いろいろあって気づいたらここにいたんだ。あんた何かわかるか?」

「ふむ…………いや、皆目検討もつかない」

 

 両手を白衣のポケットに突っ込んだまま、おっさんは続ける。

 

「ただ、どうやら君はこの世界にとってイレギュラーな存在のようだ」

「見る限りここが何処なのかもわかっていないし、リストにも名前がない。このタイミングでここにいることが何よりの証拠だ」

mako「このタイミング?」

「後ろを見ればわかる」

mako「後ろ…………な!?」

 

 さっきまで草原が広がっていた場所は、跡形もなく綺麗に崩れ去っていた。

 

 残されていたのは永遠に広がる夕焼けの空。

 

mako「ここ……空に浮いてんのか……?」

「そんな所にいると落ちてしまうぞ」

mako「あんた一体何者なんだ?それにここ……ゲームみたいな世界なのに現実と同じ感覚がするのは……」

「歩きながら話そうか。いずれ第一層(ここ)も完全に崩れる」

mako「あ、おい待てよ!」

 

 歩き出したおっさんに急いでついていく。背後から何かが崩れていく音が聞こえたような気がしたが、怖いので後ろは振り返らないようにした。

 

 どこかに向かって歩きながら、おっさんはこの世界について話してくれた。

 

「ここは空中城《アインクラッド》。100層からなる、文字通り空に浮いた城だ」

mako「それは……現実世界ってことか?この世界ではここが現実世界なのか?」

「フッ、奇妙な質問だな。だがその問への答えはNOということになる」

mako「え、じゃあここは……」

「バーチャル空間。正確に言うならソードアート・オンラインというVRゲームの世界だ」

mako「VRゲーム!?こんなにリアルなのにか!?」

「ああ。このゲームのプレイヤーは現実世界でナーブギアという特殊な機械を用い、こちらの世界にダイブする」

mako「はへぇ……」

 

 どうやら俺は元いた世界よりも、だいぶ近未来に来てしまったようだ。

 

mako「で、なんでそのアインクラッドってやつはこんなに壊れてんだ?」

「それはこのゲームがクリアされたからだ」

mako「クリアされたら全部消えちまうのか?」

「そうプログラムしてある」

mako「なんか……もったいないな。こんなに綺麗なのに」

「綺麗……か。彼らからすれば忌まわしい景色だろうがな」

mako「彼ら?」

「このゲームのプレイヤー達だよ」

mako「……そういえばそのプレイヤー達はどこ行っちまったんだよ。かれこれ何層か登ってきたのにどの街にも誰一人いないぜ?」

「彼らはログアウトしたよ。やっとな」

mako「ふーん…………?」

 

 このおっさんはどうしてこんなにこの世界に詳しいのだろう?プレイヤーって感じでもないし……制作関係者ってとこか?

 

「……mako君」

mako「あ?」

「君は『Kirito』という名前を聞いたことはあるかね?」

mako「きりと?いや聞いたことねぇな」

「そうか」

mako「あ、でもYuitoなら知ってるぞ」

「!」

mako「…………まさか」

「ああ、そのYuitoというプレイヤーは確かに存在していた」

mako「()()()()()()?」

「…………そんな恐ろしい目で見ないでくれ。彼もまた、無事にログアウトしたよ」

mako「含みをもたせるような言い方しないでくれよ」

「君も、今にも襲いかかってきそうな目だったぞ」

 

 だって……Yuitoが死んだみたいな言い方するから……

 

mako「まあいいや。それより聞かせてくれよ、Yuitoのこと」

「………………悪いがその話は後でになりそうだ」

 

 様々な大広間を抜け、その奥に続く階段を登ること75回。

 

 歩き続けていたおっさんの足が突然止まった。

 

mako「……?おい、どうし…………」

 

 大門の先の大広間。円形のフィールドの上に、"そいつ"はいた。

 

「mako君、あれは君の知り合いか?」

mako「おいおい…………冗談キツイぜ」

 

 上半身だけの真っ黒な骨格標本。しかもフィールドから直に生えてる。

 

 本日2回目のご登場だ。

 

mako「ムクロノカミ。こっちのゲームで使ってる俺の……使い魔みたいなやつだ」

「それでその使い魔がここにいる理由は?」

mako「俺が知るかよ……俺はこいつに食われて気づいたらあの草原に寝てたんだ」

「なるほど……あれは君と同じ、崩れ行くこの世界に紛れ込んだ一種のバグということか」

mako「そういうことになる……のか?」

 

 ったく……ムクロノカミ出現の条件は達成してねぇのに……なんで勝手に出てくるかな!?

 

「このまま放っておいてもいいが……どうやらこの先に行くには倒すしかないようだな」

mako「倒す?おっさんが?」

「生憎私は既に死んでいる。自分で処理してくれ。あれは君のだろう?」

mako「はぁ!?」

「別に私は構わないが……このままだと君はアインクラッドの崩壊に巻き込まれ、その後どうなるか分からない」

mako「確かにそれはそうだけど……てかあんたさっき死んでるって言わなかった?」

「この先に行くことができなかったら、君は元の世界に帰ってこられる保証はないんだぞ?それが嫌なら自分でどかすんだな」

mako「この先って、そういえば俺達はどこに向かってたんだよ?」

「アインクラッドの頂上、第100層《紅玉宮》だ」

mako「…………わかったよ。倒しゃいいんだろ」

 

 幸いあいつはこっちに敵対して無いみたいだし……こっから遠距離魔法でチクチク攻めればなんとか……

 

mako「螳壼多縺ョ蜀?腸繧んなぁ!?」

「今のは……」

mako「嘘だろ!?ここ魔法使えないのかよ!!」

()()()アート・オンラインだからな。魔法なんてシステムは存在していない」

 

 なら直接叩くしか…………俺素手だけど!?

 

mako「素手でもやれないことは……ん?」

 

mako「フィールドの上に何か………………剣?」

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!!!!」

 

mako「うるせぇええええ!!!」

 

 断末魔をあげるムクロノカミ。こちらを攻撃する意図はないのか、それともこちらまで攻撃が届かないのか、どちらにしろ無策で飛び込むのは危険だ。

 

mako「おいおっさん、あいつの周りに散らばってる武器は使っていいんだよな」

「好きにしたまえ」

mako「よし来た」

「あまり時間は無いぞ」

 

 おっさんの忠告を背に、俺はムクロノカミに向かって駆け出す。

 

 まるでボス戦のようなフィールドを。一直線に。

 

「アアアアアアア!!!!」

mako「ッ!!」

 

 そして散乱している武器を掴むとほぼ同時に、ムクロノカミの射程範囲内に入ったようだった。

 

 振り下ろされる黒い手を、武器を拾いながら間一髪で避ける!

 

mako「っぶねぇ……〘セイサイ〙か」

「ア……アア…………」

 

 でも武器はゲットできた。俺の得意な斧じゃないけどこの際文句を言ってる暇はない。

 

mako「片手用直剣か……あんまり使ったこと無いんだけどな」

 

 俺が咄嗟に掴んだのは黒い片手用直剣。フォルムといい重量といい悪くない。

 

mako「でもこれじゃ…………っ!?」

「アアアアア!!!」

mako「こいつ……!!」

 

 フィールドから生えている上半身を乗り出してこちらに〘セイサイ〙を繰り出し続けるムクロノカミ。

 

mako「クソ!!リーチが足りねぇ!!」

 

 しかも正面から受けれないからいなすだけで精一杯だ……!

 

mako「……!これでもくらいやがれ骨野郎!!」

 

 咄嗟に地面に落ちていたレイピアをムクロノカミに向かって蹴り飛ばす!

 

「ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!」

「ほう、運良く頭部に刺さったな」

mako「おっさん!あんた見てるだけかよ!!」

 

アアア

mako「がッ……!!」

 

 振り下ろされた攻撃がガードの上から突き刺さる!

 

mako「重すぎだろッ……!?」

 

 堪らずその場から距離を取る。でも逃げてばかりじゃそこを通れねぇぞ……?

 

mako「どうする…………」

「ア"ア"…………ア"ア"ア"………!!」

mako「……?何が起きてる………………んだ?」

 

 突如呻き始めたムクロノカミ。まだろくにダメージを入れられていないのに苦しそうってどういうこと?

 

mako「え、いや、は?」

 

 メキメキと音を立てて、体を地面から引き抜く……

 

mako「引き抜……え!?」

 

 地面から出てきたのは、まるでムカデの足ような巨大な肋骨の連なりだった。

 

mako「な、なんだよこれ!!!気持ちわる!!!!!」

「mako君」

mako「あ!?」

「どうやらそいつは君の知っている"ムクロノカミ"というものとは少し違うらしい」

mako「どういう事か説明し──」

「シュー……シュー…………」

mako「……両手が鎌になったんですけど。てかムカデ足が生えたってことは…………」

 

アアアアアア

 

mako「やっぱこっち来たあああああ!!!!!」

 

 何こいつ!速いんですけど!!

 

「そいつのその姿は今我々がいる75層のフロアボスの姿と酷似している。推測するにここに残っていたフロアボスのプログラムが君が……君とムクロノカミが来たことによって、ムクロノカミのデータと融合しバグを発生させたという訳だ」

 

mako「今その説明いるか!?まずこの状況を何とかしてくれよ!!」

「と言われても今の私にできる事は……ここにあるアイテムプログラムに干渉して武器を作ることくらいだが」

mako「やってくれ!!斧!!でかい斧を頼む!!」

「了解した」

アアアアアア

 

 重すぎる連撃を躱し──

 

mako「──きれねぇ!!」

 

 実際さっきからガンガンHPゲージが削れていっている。これ、HPが0になったらどうなるんだ……?

 

mako「このイカす剣一本じゃどうにもならねぇ!!おっさん早く!!」

「……………その『おっさん』というのはやめてくれないか」

mako「おっさんはおっさんだろうが!!」

「できたぞ。受け取れ」

mako「ありがとよ!!!」

 

 おっさんから飛んでくる斧を空中でキャッチする!

 

mako「これ…………」

「ここにあった私の武器を改良して作った斧だ。存分に使うがいい」

 

 血のように真っ赤な赤い柄に、真っ白な盾が横にくっついた様な刃。その刃には柄と同じくらい真っ赤な十字架があしらわれているバトルアックス……

 

mako「いいな……これ」

アアア

mako「よし……じゃあ早速」

 

mako「てめぇはいい加減大人しくしてやがれ!!!

アアアアアアア

「驚いたな……あの大きさの斧を軽々と……」

 

mako「俺と一緒にNFOに帰れやああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「ハァ……ハァ……」

 

 おっさんから貰った斧を振り下ろし続けてどれくらい経っただろう。

 

 遂にムクロノカミ(?)は倒れて動かなくなった。

 

mako「おい、もう通れるみたいだぞ」

「流石は"騎士王"の友人だな」

mako「は?」

「いや、何でもない。それより急ごう。アインクラッドの崩壊がそこまで迫っている」

 

 その後は特に何もなく目的地の第100層までたどり着くことができた。

 

mako「ふー……で、ここに俺を元の世界に帰す方法はあるのかよ」

 

 紅玉宮、その名の通り赤い空が広がるアインクラッドの頂上はとても幻想的で、ここも崩れてしまうと思うとやっぱりもったいない気がした。

 

「ああ、おそらくは」

mako「…………大丈夫かよ」

「君があのムクロノカミ……いや《The Skullreaper》の残留思念とでも言おうか、ともかくソレを入り口としてこの世界にやってきた。入り口があるならば出口もある」

mako「そういうもん?」

「そういうものだ」

 

 じゃあその出口ってやつがこの紅玉宮ってことになる……のか?

 

「やはりな」

mako「え?」

 

 おっさんが紅玉宮の扉に触れると、不自然なほどバカでかいその扉が音を立てて開き始めた。

 

 中からは眩しい光がこちらを照らしている。

 

「ここを通ればおそらく元の世界に戻れるだろう」

mako「ちょっと心配だけど…………おっさん、ここまで連れてきてくれてありがとな。それとこの斧も」

「構わないさ。私も中々楽しめた」

 

 そう言って微笑むおっさんは、どこか哀愁めいた雰囲気を纏っていた。

 

mako「……おっさんはこれからどうするんだ?やっぱりこの世界からログアウトするのか?」

「そうだな……私にはまだ会わなければならない人がいるんでな」

 

「会って、最後に一言……『おめでとう』をまだ伝えていない」

 

mako「……?」

「フッ、君が気にする必要はない」

mako「……ならいいや。それじゃあな。おっさん」

 

 あれ……俺おっさんに何か聞きたいことがあったような……

 

mako「……あ!Yuitoのこと聞くの忘れた!!」

「君は忙しいやつだな……それについても問題はない。そこを通れば分かるさ」

mako「……よく分かんねぇけど、分かった」

mako「そういえばおっさん、名前は?」

「名前?」

mako「あるだろ名前くらい。俺はmako。向こうの世界じゃネクロマンサーやってる」

「……ならば私の名はHeathcliff。血盟騎士団の団長をやっていた」

mako「ヒースクリフ……」

 

 今、俺の目の前に立っている白衣のおっさんも、もっと違う姿……それこそファンタジーの世界の住人の様な姿で、この世界に生きていたのだろうか。

 

mako「じゃあ。またなヒースクリフ」

「…………あぁ」

 

 ヒースクリフのおっさんに別れを告げ、光り輝く扉の向こうへ歩き出した。

 

 

 

 

 

「『()()()』か……最後まで不思議な男だったな」

 

「さてそろそろ私も行くか……」

 

「……また、どこかで会おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

mako「………………」

 

 紅玉宮の扉をくぐった俺は、呆然とその場で立ち尽くしてしていた。

 

mako「…………ここどこだよ」

 

 扉の向こうに広がっていたのは真っ白な何もない空間だった。

 

mako「はぁ……どうするかなぁ……」

Yuito「よっ」

mako「なんだ、誰かと思ったらお前かよ………………」

 

mako「Yuito(お前)かよ!!

 

 は!?なんでお前こんなとこいんだよ!!

 

Yuito「なんでって言われてもな……てかここにいる俺、本物のYuitoじゃねぇし」

mako「…………?」

Yuito「この世界に残っていたYuitoってプレイヤーのデータの残りカス……いわば残留思念みたいなもんだ」

 

 そうYuitoは俺に告げる。

 

mako「せっかく出てきて説明してくれたのに悪いが今日の俺はもうキャパオーバーだ。これ以上は頭が回んねぇ」

Yuito「はっ、ヒースクリフとの散歩がだいぶこたえたらしいな」

mako「まぁな……」

 

 思わず真っ白な部屋の中央(?)で寝っ転がる。

 

mako「つかれたー……燐子先輩がたりねぇ……」

Yuito「意味分かんねぇこと言ってんじゃねぇよ」

mako「てか俺ちゃんと帰れるんだろうな?」

Yuito「さぁ……って言ったら?」

mako「ここぶっ壊してでも出てく」

Yuito「相変わらずバイオレンスな思考してんなぁ……」

 

 こんな何もない空間にいつまでも居られるかよ……今すぐにぶち壊しまわってやろうか。

 

Yuito「安心しろ。お前が通ってきた扉を抜ければ元の世界に帰れるさ」

mako「なら良い…………なら早速行くわ」

Yuito「もう、か?」

mako「……お前、気づいてないかもしれねぇけどよ」

 

mako「もう、ほとんど実体ないぜ?」

 

 この短い会話の最中、Yuitoの体はどんどん消えていっている。

 

 やはり俺が他の世界に干渉しすぎるのは危険なようだ。

 

Yuito「別にお前のせいじゃねぇよ。言ったろ?今ここにいる俺は残留思念だって」

mako「だとしてもここは俺の世界じゃねぇんだ。何が起こるか……」

Yuito「それもそうだな……現にお前もなんか色薄くなってんぞ?」

mako「なんだよ、さっきの仕返しか?」

Yuito「いや、マジで」

mako「……………」

 

 言うまでもなく大急ぎで出て行った。

 

Yuito「じゃあな。またどこかで」

mako「……おお。またどこかで」

 

 そうして終わりはあいつの世界で。

 

 ただの後日談というか、あの世界から俺に向けての報酬のような物語。

 

 Congratulations…




やたら長いし、全然コラボ相手の主人公出てこなかったですねぇ……ホントに申し訳ございませんでした。

おまけ編はこんな感じで書きたいもの書いていきます。

ユイトアクエリア様「ロゼリアートオンライン」→https://syosetu.org/novel/262278/


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Ex.酒、呑まれずにはいられなかった。

思いついたことをただ書きなぐったようなふざけたお話です。
ホント勘弁してください。
⚠今回はAfterstoryの年齢のキャラクターが登場します。真言くん含めRoseliaの全員が成人済みです。

それでは、どうぞ。



 某日某所、俺と湊さんは人混みの中二人佇んでいた。

 

真言「…………みんな遅いですね」

友希那「そうね」

 

 仕事で色々と忙しい俺達が久しぶりに集まることになったものの、時間になっても一向に集まらない。

 

友希那「真言、あなた燐子と一緒じゃないの?」

真言「ちょっと前までRoseliaのライブだったじゃないですか。そういう大事な時には燐子先輩はいつもRoseliaの皆と一緒ってルールを決めたんですよ」

友希那「面倒くさいわね」

真言「おい」

 

 もう少しオブラートに包んでください。

 

真言「それより……大丈夫なんですか?」

友希那「何がかしら」

 

 今の湊さん、というよりRoseliaは超有名バンドだ。この人はその自覚があるのだろうか……?

 

真言「こんな街中でもしファンの人とかに囲まれたら……」

友希那「大丈夫よ。優秀なボディーガードがいるから」

真言「そりゃあいざとなったら任せてもらってもいいんですけど……こんな野郎と一緒にいるところ見られると、その、ライター的な人に……」

友希那「その辺りも大丈夫よ。あなたの後ろには()()弦巻グループがいるじゃない」

真言「あとで俺が上司に怒られるんですよ!」

友希那「ならこうすればいいわ」

 

 そう言うと湊さんは持っていたバッグからサングラスと帽子を取り出した。

 

友希那「変装、完了」

真言「おぉ…………?あんまり変わんなくないですか?」

友希那「案外バレないものよ」

真言「さいですか」

友希那「でも確かに真言の言うことも一理あるわね。先にお店に行ってましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 湊さん達が予約したというお店のドアをくぐると店員の無駄に大きい声が聞こえてくる。

 

 店員もまさか自分があのRoseliaの湊 友希那を接客しているとは思っていないのだろう。すんなりと団体用の個室に通された。

 

真言「湊さん」

友希那「何かしら」

真言「なんで焼肉屋なんですか」

友希那「あこのリクエストよ」

 

 師匠のか……あの人は確かに希望しそうだ……

 

友希那「たまにはこういう所も悪くないと思ったのだけれど、真言は嫌いだったかしら?」

真言「まさか、肉は大好物ですよ。……でも」

友希那「私達の希望よ。あなたはいつも気を使いすぎだわ」

 

 俺の思ってることが読まれてる……

 

真言「…………湊さんには敵いませんね。高校の時からずっと」

 

 湊さんとは一つしか歳が違わないのに、なんか俺よりもずっと"大人"って感じだ。

 

真言「俺ももう"大人"なのになぁ……」

友希那「二十歳を超えたからと言ってすぐに大人になれる訳ではないでしょう?私だってまだまだ子供よ」

真言「うそだあー」

友希那「本当よ」

 

 そう言う湊さんの仕草や話し方はやっぱりどこか大人びている。高校生の時もこんな感じだったけどさ……

 

真言「湊さんが子供だったら俺は赤ん坊ですよ」

友希那「燐子との赤ちゃんプレイがご所望かしら。本人に伝えておくわ」

真言「聴力はお婆ちゃんですか!?」

 

 そんな事されたら俺の信用がッ!!!

 

友希那「冗談よ」

真言「もし本気ならこっちも本気で止めてますよ……」

友希那「さっきもかなり本気だったように思えたけれど」

 

 そんな風に湊さんと軽口を叩いていると俺のスマホに連絡があった。

 

真言「あ、燐子先輩からだ」

 

『電車が遅れてるみたいだからわたしとあこちゃんと今井さんが遅れます。ごめんねm(_ _)m』か……

 

友希那「紗夜も遅れるそうよ」

真言「……そういえば何で湊さん一人なんですか?」

友希那「さぁ?」

真言「さぁって……」

友希那「現地集合なのよ。たまたま電車に乗れたのが私だけだったようね」

真言「そりゃまた幸運な事で……」

 

 ふと視線を下ろすと机の上のメニュー表が目に止まった。

 

 手持ち無沙汰だった俺はそれをペラペラとめくってみる。

 

真言「…………」

 

 そしてとあるページで俺の手は止まった。

 

真言「湊さん。全然話が変わるんですけど」

友希那「?」

真言「湊さんってお酒飲めますか?」

友希那「お酒……たまに飲むけれど…………別に好きってわけじゃないわ」

真言「そうですか」

友希那「真言はどうなのよ。お酒」

真言「前に一回、仕事の飲み会で飲んだことがある……そうなんですけど」

友希那「……?言い方に含みがあるわ」

真言「えぇまあ。俺、その時の記憶がないんですよ」

友希那「それは…………お酒の飲み過ぎで倒れた、ということかしら?」

真言「んー……そういうことなんですかね」

友希那「はっきりしないわね」

真言「目が覚めた時には飲み会が始まって30分位しか経ってなかったんで、その時はこころがまた何かしやがったのかって思ってたんですけど」

 

 流石に今のあいつは高校生の時より落ち着いている。俺にちょっかいかけてくることも少なくなった。

 

真言「うちの上司が『度々別世界へ行った事への副作用』みたいなことを言ってたのを聞いたことがあって……まぁ気のせいだと思うんですけどね。ハハッ」

友希那「笑ってスルーしていい話じゃないと思うのだけれど……」

 

友希那「(酔った真言…………これは面白いものが見れそうね)」

 

真言「湊さん?」

友希那「何でもないわ」

真言「……?」

 

 何か今湊さんから悪意のようなものが……?

 

友希那「真言、皆が来る前に少しだけ始めないかしら」

真言「へ?」

友希那「皆遅くなるようだし、いつまで私達がここで我慢していればいいのかもわからない」

真言「湊さん、そんなに腹ペコなんですか?」

友希那「早速注文するわ」

真言「……なんか勢いで誤魔化そうとしてません?」

 

 俺の質問をガン無視でバンバン注文していく湊さん。

 

 なんだ……?何をしようとしてるんだこの人は?

 

真言「うーん…………」

友希那「どうしたの?」

真言「いや……何でもないです」

 

 ま、これも気のせいか。仕事で人に気を使いすぎてるのかもな。

 

 湊さんが適当に注文した肉と、あと何故か赤ワインが一緒に来た。

 

真言「よし!じゃあドンドン焼いていきますから、湊さんもドンドン食べてくださいね!」

友希那「その前に真言」

真言「はい」

友希那「乾杯をしましょう」

真言「あ、わかりました」

 

 ワインか……飲んだことないけど多分ブドウジュースみたいなもんだろ。

 

真言「それじゃあ、かんぱーい!」

友希那「乾杯」

 

 チンッと二人のグラスが鳴る音がする。

 

真言「いただきます」

友希那「………………」

 

 そして真っ赤なワインを口に運び……

 

 

 

 

 

 俺にはそこから先の記憶がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「いやーまさか電車が止まってるなんてね〜」

燐子「災難でしたね……」

あこ「でもまあ紗夜さんとも合流できたし、結果オーライ!」

紗夜「そうですね……何故か嫌な予感がしますが

リサ「お、ここが予約したお店だね〜?」

燐子「はい……もう友希那さんと真言くんがいるはずです……」

あこ「二人とも待ちくたびれてるかな?」

紗夜「早く行きましょう」

リサ「どうしたの紗夜?なんか焦ってる?」

あこ「それじゃあとつげきー!」

 

 

 

 

 

 〜〜【焼肉屋・店内】〜〜

 

あこ「まっくん友希那さんおまt…………」

リサ「……あこ?」

燐子「あこちゃん?どうかし…………」

紗夜「…………」

 

真言「へ……ふへへ…………ヒック」

友希那「………………」アタマカカエ

 

リサ「ちょ、これ、どういうこと!?なんでマコくんベロベロに酔っ払ってるの!?」

紗夜「湊さん…………」

友希那「……説明すれば長くなるわ」

あこ「ま、まっくん……なの?」

 

真言「んー?そうですよぉ〜?あはははは!」

 

リサ「ゆるゆるだ……今までシリアス顔ばっかだったあのマコくんの顔が!」

あこ「まっくんお酒飲んじゃったの!?」

真言「あれ〜……りんこせんぱいだぁ…………!」

燐子「ま、ま、真言くん……なの……?」

真言「りんこせんぱい……ぎゅーってしてくださいよぉ〜♡」

燐子「!?!?!?///」

リサ「『ぎゅー』!?」

あこ「わ、わああああ!!!」

友希那「…………」アタマカカエ

紗夜「…………」アタマカカエ

真言「りんこせんぱい〜……ぎゅー……♡」

燐子「ま、待って……真言くん!!」

真言「りんこせんぱい……だぁいすきですよぉ〜♡♡♡」




お陰様で評価バーの4段目に赤ランプが点灯しました!これでいつでも失踪(オリジナル作品の執筆)ができますね!ありがとうございます()

おまけ編は適当に更新していきます。


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Ex.カップルを尾行せよ!

せっかく台本形式のタグ付けたんで話の8割を会話で埋めてやりましたよ!……というわけでちょっと見づらいかもです。でもまあおまけ編なので許してください。

それでは本編、どうぞ。



リサ『こちらA斑、燐子は予定通り現在待ち合わせ場所で真言くんを待ってるよどーぞー』

あこ「こちらあ……B班。そのまま見張りを続けて。どうぞー」

友希那『一体私達は何をしているのかしら……』

紗夜「宇田川さんの考えることはよくわかりません……」

あこ「いいじゃないですか!紗夜さん達は気にならないんですか!?まっくんとりんりんの初デートですよ!?」

紗夜「だからといって二人の後をつけるというのは人としてどうかと思います」

あこ「うぐっ……」

リサ『でも心配なのは心配だよね』

友希那『今まで真言が出掛けるとなったら必ずと言っていいほど何か悪いことが起きていたから……確かに心配ね』

あこ「そうですよ!だからあこ達がこうやって二人を影からサポートしようとしてるんじゃないですか!」

紗夜「はぁ……『物は言いよう』ですね」

あこ「今日のまっくんとりんりんのデートコースは水族館です!しっかり尾行しますよ〜!」

友希那『なぜあこが二人のデートコースを知っているのかしら?』

リサ『マコくんがアタシにデートについてのアドバイスを聞いてきたからね、その時に色々♪』

紗夜「そのくらいは自分で考えてほしいものです……」

あこ「よ〜し!リサ姉と友希那さんはそのまま離れた位置から備考を続けて!紗夜さん!あこ達は現地に先回りしますよ!」

リサ『りょ〜かい☆』

紗夜「なぜ今日の宇田川さんはこんなにハイテンションなんでしょうか……」

友希那『さぁ……』

あこ「それじゃあしゅっぱーーつ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【尾行組A班・友希那&リサ】〜〜

 

友希那「来たわね」

リサ「うん……

友希那「リサ?どうしてそんなに声が小さいのかしら?」

リサ「二人からだいぶ離れてはいるけど……マコくんならアタシ達に気づきかねないから……

友希那「それもそうね

 

 

 

 

真言「すみません!お待たせしました!」

燐子「ううん……大丈夫、わたしも今来たところだから……」

 

 こんなベッタベタな会話を繰り広げている二人だが……

 

 白金 燐子。この女集合時間一時間前にすでに到着していた。

 

 神代 真言。この男一度二時間前に待ち合わせ場所に来ている。そわそわしすぎてその辺を走り回っていたのだ。燐子本人に見られたら一体どうしようというのか。

 

真言「それじゃあ行きましょうか」

燐子「うん……」

 

 

 

 

リサ「ああもう!なんかもどかしいなああ!!手くらい繋いでよ!!

友希那「リサ、大声を出すと気づかれるわ」

リサ「あ……ゴメン」

友希那「動き出したわね…………もしもしあこ、二人が移動を開始したわ」

あこ『りょーかいです!』

友希那「私達もバレないよう追跡するわよ」

リサ「(何だかんだ言って友希那も結構楽しんでるじゃん……)」

友希那「リサ?」

リサ「あ、うん!今行く!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【尾行組B班・あこ&紗夜】〜〜

 

あこ「遂にやってきたねまっくん&りんりん!」

紗夜「宇田川さん、私達が現地で待つ必要ありました?」

あこ「もちろんですよ!」

紗夜「(ただただ水族館を満喫していただけでは……?)」

 

 

 

 

 

燐子「………………」

真言「………………」

 

 

 

 

 

紗夜「……黙って水槽見てますけど、あっちはあっちで楽しんでるのかしら……?」

あこ「りんりんはこういう静かな所のほうが好きなんです!それに二人ともこころなしか目がキラキラしてます!」

 

 

 

 

 

燐子「きれいだね……」

真言「はい……」

 

 もうお分かりかもしれないが神代 真言は展示物など眼中にない。薄暗い中水槽を眺めている恋人の横顔。それだけを目に焼き付けている。

 

 そもそも彼がこの水族館にデートに行くことに決めた理由は『ここなら静かに燐子をじっくり見れるよ♪』と言われたからだ。

 

真言「……ほんと、綺麗です」

 

 

 

 

 

紗夜「よく見たらずっと白金さんのことを見てませんか?」

あこ「んー……やっぱり水族館自体には興味はないみたいですね!」

紗夜「神代さんらしいというか、何というか……」

 

 プルルル プルルル プルルル

 

あこ「はい、こちらB班。リサ姉どうしたの?」

リサ『あこ……ちょっとやばい事になりそうだよ』

あこ「え?」

リサ『最悪の場合、二人のデートは中止になるかも……』

紗夜「中止……!?」

あこ「ちょ、リサ姉どういうこと!?」

リサ『…………来たの』

あこ「"来た"?」

紗夜「一体誰が来たんですか?」

 

リサ『…………………こころ』

 

あこ「あ…………」

紗夜「………………」

友希那『ちょうど今入り口を通過していったわ。早く手を打たないと真言達に接触するかも』

リサ『見つかったら絡まれるのは目に見えてるね……』

あこ「まっくんは…………絶対嫌がるだろうなー……」

紗夜「……仕方ありませんね」

あこ「紗夜さん?どこに行くんですか?」

紗夜「私達でどうにかして弦巻さんを止めます」

リサ『どうにかって……具体的にはどうするの?』

紗夜「それは…………」

友希那『ノープランなんて、あなたらしくないわね紗夜』

紗夜「そうかもしれません…………でも」

友希那『言いたいことはわかってるつもりよ』

友希那『やっと二人はここまで辿り着けたものね。いくら弦巻さんでもそれを邪魔させたくない。私達も同じ気持ちよ』

紗夜「湊さん……」

リサ『かわいいかわいい後輩だもんね☆』

紗夜「やめてください」

あこ「即答……」

紗夜「私自身、最近ただのお節介な先輩になっていると自覚してるんですから……」

 

友希那『とにかく、当面の目的は二人を弦巻さんと接触させないようにするということでいいかしら?』

紗夜「ええ。それでお願いします」

リサ『じゃあアタシと友希那はこころの後を追ってみる!』

あこ「あこと紗夜さんはまっくんとりんりんを尾行するね!」

友希那『そっちは頼んだわよ。それじゃあ切るわね』

 

 プツッ……

 

あこ「……それで、これからどうするんですか?」

紗夜「今井さん達と連絡を取りながら二人と弦巻さんのルートが重ならないよう誘導します」

あこ「誘導って……そんなのどうやってやれば……」

紗夜「何か……何か良い方法は……」

 

 ピロン♪

 

 【メッセージを受信しました】

 

あこ「あれ、リサ姉からだ」

紗夜「今井さんから?」

 

『黒服の人に捕まった。ゴメン』

 

紗夜「…………」

あこ「…………」

 

あこ「何やってんのリサ姉えええ!!

 

紗夜「失念していました……相手は弦巻家、やはり一筋縄ではいきませんか……」

あこ「紗夜さん!冷静に分析してる場合じゃないですよ!!」

紗夜「……こうなったら、弦巻さん本人を食い止めるよりもあのカップルをどうにかします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──まもなくイルカショーが始まります──

 

真言「燐子先輩こっちですよ」

燐子「うん……!」

 

 

 

こころ「イルカショー?面白そうね!」

 

 

 

あこ「紗夜さん本当にやるんですか……?」

紗夜「ええ、もうこれしかありません……」

 

紗夜「神代さんを気ぜt」

 

こころ「あら?真言じゃない!」

真言「あ?」

 

あこ「あ」

紗夜「あ」

 

こころ「それに燐子も!二人とも偶然ね!」

 

あこ「ああああああ!!!」

紗夜「終わった…………」

 

 

 

 

 

真言「おお、そうだな」

こころ「二人はどうしてここにいるの?」

真言「デートだよデート」

こころ「そうなのね!それじゃあお邪魔だったわ!」

真言「ああ。邪魔」

燐子「真言くん……」

こころ「いいのよ!それじゃあまた学校でね!」

 

 

 

 

 

紗夜「…………」

あこ「あの……いま何が起きたんですか……?」

紗夜「…………」

あこ「もしかして……あこ達の取り越し苦労だったってことですか……?」

紗夜「…………」

あこ「紗夜さん?」

紗夜「…………」

あこ「おーい!紗夜さーん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【水族館・屋外テラス】〜〜

 

紗夜「まったく……本当に……あぁ…………」

友希那「あこ、どうして紗夜は落ち込んでいるのかしら?」

あこ「あの、その、えっと……」

リサ「紗夜、大丈夫?」

紗夜「今日はもう疲れました……なんか今日の私達ずっと喋っていませんか?」

友希那「そういえばそうね」

あこ「確かにあこも疲れましたー……」

リサ「もう日もだいぶ暮れてきたしね、そろそろ帰ろっか♪」

紗夜「いいえ!」

あこ「うわっ!生き返った!」

紗夜「ここまで来たら最後まで見届けさせてもらいます!!」

 

 ピロン♪

 

【メッセージを受信しました】

 

紗夜「?」

リサ「メッセージ?誰から?」

あこ「んーっと…………え!?」

友希那「…………薄々、そんな気はしていたわ」

 

『今日はありがとうございました。もう俺達だけで大丈夫です』

 

あこ「あ、まっくんこっち見てる」

リサ「あちゃー……後で怒られるかなぁ」

友希那「真言にバレたことだし帰るわよ」

紗夜「仕方ありませんね……」

 

 

 

 

 

燐子「真言くん?どうかしたの?」

真言「あ、いえ、もう大丈夫です」

 

 こういうの言い出すのはたいてい師匠だよな。まったく……四人揃って人のデート、しかも初デートを尾行するとか趣味が悪いぜ。

 

燐子「だいぶ日が沈んできたね……」

真言「そうですね……」

 

 夕焼けに照らされた燐子先輩の横顔から目を離せない。

 

真言「燐子先輩」

燐子「?」

 

 言わなくては……あの時のアレなんかじゃ、全然駄目なんだよ。

 

 あんな自分の衝動に任せたような告白じゃ、何より俺自身が納得できない。

 

 だからもう一度。

 

真言「今度こそ、大切なお話があります」




おそらくは当分オリジナル作品の制作に力を入れていくことになると思います。


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Ex.喧嘩するほど仲がいい

皆様、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
新年は珍しい喧嘩からはじめましょうか!
今回は三人称視点で進みます。

それでは早速、本編へどうぞ。



 〜〜【花咲川学園】〜〜

 

真言「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

有咲「いや長ぇよ!どんだけ長い溜め息ついてんだお前は!!」

 

 とある日の花咲川学園、2年生の教室内で神代 真言は尋常じゃない位凹んでいた。まるで世界の終わりとでも言わんばかりに。

 

真言「ありさぁ……俺はもうダメかもしれないぃ……」

有咲「……一応何があったのかは聞いてやる」

 

 彼がここまで落ち込んでいるのにはもちろんそれなりの理由がある。

 

真言「…………した

有咲「……?おい、もっとハッキリ喋れよ」

 

 

 

真言「…………燐子先輩と喧嘩した」

 

 

 

有咲「お前が悪い。終了」

 

 早々に席を立とうとする市ヶ谷 有咲(親友)

 

 それを必死の形相で食い止める神代 真言(情けない主人公)

 

真言「詳細を聞けよ!!詳細を!!!」

有咲「えー……」

真言「頼むよありさぁ…………」

有咲「弱気なマコ気持ち悪いな……ったく、わかったから勝手にしろ!」

 

 どんなに面倒くさくても弱ってる親友を放っておけないところが彼女の長所である。

 

真言「あれはそう、昨日の放課後だった……」

有咲「(やっぱ聞くんじゃなかったかな……)」

 

 それでも少し後悔する有咲であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子「………………」

 

 同刻、問題の白金 燐子も教室で落ち込んでいた。

 

紗夜「白金さん?」

 

 そんな元気のない彼女を見かねて声をかけてきたのはクラスメートで真言の先輩でもある氷川 紗夜だった。

 

燐子「氷川さん……」

紗夜「元気がないみたいですが……何かあったんですか?」

燐子「……はい」

紗夜「それは……"あの男"のことですね」

燐子「…………はい」

 

 ちなみに雑な言い方だがここで出てきた"あの男"というのはもちろん神代 真言のことである。

 

紗夜「何があったのか、教えてくれませんか?」

燐子「そんなに大事ではないんですが…………」

 

燐子「真言くんと……喧嘩を……」

 

紗夜「…………………珍しいですね。二人が喧嘩するなんて」

 

 「それは神代さんが100%悪いですね」という喉元まで出てきた言葉を飲み込んだ。

 

 事情も知らずに自身の感想を言うのは不味いと直感的に判断できるのがこの氷川 紗夜という人間なのである。

 

燐子「真言くん頑固ですから……それにわたしも……少し意地っ張りになってしまって…………」

紗夜「(それでも白金さんに非があるとは思いませんけどね)」

燐子「多分、もう真言くんはあまり気にしてないと思うんですけど……」

紗夜「それは……どうでしょう。私の記憶が正しければお二人は付き合ってから……というより出会ってから初めて喧嘩したんじゃないですか?」

燐子「……そう、ですかね。何度も言い争ったような気がします…………」

 

 様々な障害に阻まれ、一波乱も二波乱もあった二人だが、それをここで語るには少々時間が足りない。

 

 それでも恋人的な、言ってしまえば今までよりはシリアスではない理由で喧嘩をできるようになったことは確実に成長した証と言えるだろう。特に真言にとっては。

 

紗夜「今までの神代さんは白金さん全肯定マンでしたから、意見をぶつけ合うことも無かったように思います」

燐子「そうでも……ないですよ……?真言くんはしっかり自分の意見を持っていますし…………」

紗夜「いやでも──」

燐子「……………」

 

紗夜「(し、白金さんが神代さん(彼氏)の事を悪く言われて怒っている……!)」

 

紗夜「……それにしても、白金さんの事を第一に考えていたあの神代さんが喧嘩ですか…………」

紗夜「(早く解決してもらわないと日常生活に支障が出そうですね……特に神代さんに)」

 

 実は紗夜が思っているより燐子も凹んでいたりする。

 

真言「ありさああああ…………」

有咲「メソメソすんな!気持ち悪い!」

 

 それでも真言の方が凹んでいるのは確かだ。

 

紗夜「一体何が原因で喧嘩なんかしたんですか?」

燐子「…………実は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【花咲川学園・生徒会室】〜〜

 

 放課後、生徒会の役員もまだ来ていないような時間に一人、すでに生徒会室の机に突っ伏している男がいた。

 

真言「あああああぁぁぁぁぁ……」

 

 親友に事情を説明しても気分が晴れることはなかった真言。普段なら心臓に毛が生えているような彼だが恋人の事となるとそういうわけにはいかない。

 

 燐子先輩が自分の事を嫌いになっていたらどうしよう。

 

 このままずっとすれ違ったままだったらどうしよう。

 

 そんな不安が頭の中を駆け巡ってもう授業どころではなかったらしい。

 

 とどのつまり燐子の事が好きで好きで好きで好きで大大大好きでたまらないだけなのだ。

 

真言「いやだぁぁぁぁぁぁ………」

 

 と男が一人腐っていた時、生徒会室の扉が開いた。

 

 ほとんど反射的(生きる屍のよう)に入ってきた人間に飛びかかる。

 

真言「すてないでぇぇぇぇ!!」

有咲「ギャアアアアア!!!」

真言「ってなんだ有咲か…………」

 

 あからさまに落胆する真言。そんな彼を呆れたように見ているのは本日二度目の登場、市ヶ谷 有咲だった。

 

有咲「おま……まさか生徒会室(ここ)に入ってきた人全員にそんなことしてんじゃねぇだろうな……」

真言「りんこせんぱいぃぃぃ…………」

紗夜「……これは思っていたよりも重症ですね」

 

 そして有咲とほぼ同時に入ってきたのはこちらも本日二度目の登場、氷川 紗夜である。

 

有咲「あ、紗夜先輩」

紗夜「ほら、神代さん愛しの恋人さんが来ましたよ」

真言「あ…………」

燐子「…………」

有咲「背筋伸びた」

紗夜「ですね」

 

 今まで生きる屍だった真言に命が宿った。

 

真言「あの……燐子先輩」

燐子「…………ごめん、なさい」

真言「俺も!俺も、その……変な意地張ってすみませんでした。悪いのは全部俺……」

燐子「ううん、違う。真言くんはわたしを心配してくれただけ……」

真言「それでも、俺はあの時一人で抱え込まないって約束したのに……」

燐子「いいの……」

真言「燐子先輩……」

燐子「真言くん……」

 

 そんなこんなで仲直り(?)した二人を虚無の目線で見守る人間が二名。

 

有咲「一体私達は何を見せられているんでしょうか……」

紗夜「さぁ……」

有咲「紗夜先輩、二人が喧嘩した理由聞きましたか?」

紗夜「……はい」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 〜〜【一日前・花咲川生徒会室】〜〜

 

 二人の喧嘩の詳細をご覧いただこう。

 

真言「燐子先輩、まだ帰らないんですか?もう紗夜先輩行っちゃいましたよ?」

燐子「うん……ちょっとこの仕事を終わらせなきゃいけないから……氷川さんにもちゃんと伝えてあるから大丈夫……」

真言「じゃあ俺も手伝いますよ!」

燐子「え……でも真言くん、今日黒服さんのバイトじゃ……」

真言「あー……ちょっとだけなら大丈夫ですよ!」

燐子「だめだよ……!弦巻さんに怒られちゃうよ……!」

真言「大丈夫ですから俺にも早く仕事を…………」

燐子「だめ…………」

真言「燐子先輩?その資料を掴んでいる手を離してくれませんか?」

燐子「だめ……!」

真言「燐子先輩……」グググッ……

燐子「早く……バイトに行きなさい……」グググッ……

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

有咲「その……どう思いました?喧嘩の内容聞いて」

紗夜「……正直に言っても?」

有咲「はい。私も正直に言うんで大丈夫です」

紗夜「じゃあ『せーのっ』でいきますか」

 

 せーのっ!

 

有咲・紗夜「「くっっっっっだらない!!!!!」」

 

有咲「ですね」

紗夜「ええ……まったくです」

 

 そんな二人の渾身の叫びも、目の前でイチャイチャしてるカップルには届いていないようで。

 

真言「……?何か言いました?」

紗夜「何でもありません」

有咲「何でもねぇよ」

真言・燐子「「…………?」」

 

 二人は首を傾げるだけだった。




はい!ということでアンケートで募集した回は終わりましたね!!終わりました!!!!!

少し知りたいことがあるので新アンケートやりまーす。ご協力よろしくおねがいします。はい。


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Ex.Meta tryangle

え?R18?ちょっと知らない子ですね……
タイトル通り今回はいつもよりちょっとだけメタい世界です!

ちなみに今回もまた新しい試みをしています。もう監視対象を実験台として使っているという……

あとがきにお知らせがあるのでそれも読んでいただけると幸いです。

それでは本編、どうぞ。



真言「ったく、こころのやつ……せっかくの休日に一体何の用だってんだ……」

 

 某月某日、神代 真言は友人の弦巻 こころ(マッドサイエンティスト)に呼び出され、彼女の住む自宅を訪れていた。

 

真言「どうせまたろくな要件じゃないんだろうけど……」

 

 こころから送られてきた写真を確認する真言。

 

 そこには笑顔で自撮りをする弦巻 こころ本人と後ろにRoselia一向が勢ぞろいしていた。

 

 どうやらお茶会らしきものを開催しているということが写真から察することができる。

 

真言「皆で楽しそうに菓子食ってるってことは事件性は無いみたいだけど……この写真だけ送られてきても何が何だかわかんねぇよ」

 

 とまあ少し心配になって弦巻邸にやってきたのであった。

 

 Roseliaが、というより愛しの燐子先輩がヤバい友人との家にいると知って会いに行かない男ではないのである。

 

真言「てか燐子先輩の前に"愛しの"ってつける風潮マジで何なんだよ。最近流行ってんの?」

 

 三人称視点の語りに向かって質問するとは何ともナンセンスな男である。さっさと弦巻邸に乗り込んで物語を進めてほしいものだ。

 

真言「へいへい。悪かったよ」

 

 そうして勇者真言は愛しの燐子先輩を救い出すため、一人孤独に敵城に乗り込むのであった……

 

真言「変なナレーションつけんな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【弦巻家】〜〜

 

真言「…………おかしい」

 

 真言が最初に異変に気づいたのは弦巻家の敷地に足を踏み入れた瞬間だった。

 

 普段なら事情を把握している黒服の人間が出迎えてくれるはず、もしそうでなくてもアポも取らずにやってきたこの男を呼び止めるだろう。

 

 しかし、真言の見える範囲に人は一人もいなかった。

 

真言「…………」

 

 不審に思いながらも入り口までやってきた真言。

 

 見ると扉が少し開いている。

 

真言「おいおい、不用心すぎだろ……」

 

 扉から内を覗き込んでみるがやはり人っ子一人いない。

 

 普通の高校生の家の約100倍(当社比)の広さの弦巻家が不気味なほどに静かなのだから、普通より更に不気味な光景であることは間違いないだろう。

 

真言「黒服さーん?こころー?誰もいないのかー?」

 

 呼びかけてみるがやはり返答はない。

 

真言「(もしも……いやまぁ絶対に無いだろうけど、弦巻家が何者かに襲われて、今もぬけの殻になっているのだとしたら……)」

 

真言「行くしかねぇよな」

 

 例え「もしも」の話でも、自分の大切な人達が危険な目に合っている可能性があるのならば、神代 真言は危険に踏み込むことを躊躇しない。

 

真言「てか普通にこれも何かの実験の一部だろ……」

 

 実際、弦巻家を敵に回すということは即ち死と同義である。

 

 以前こころを拐わせたバカな女がいたが、黒服達と……というよりほとんど真言の活躍により現在では警察病院で寝たきりとなっている。

 

真言「おじゃましますよー……」

 

 ある程度警戒しながら家の中を進んでいく。

 

 そうして一般家庭で言うところのリビングに通じる扉の前までやってきた真言。

 

真言「ん……?なんだこれ?指紋認証?」

 

 扉には指紋認証用と思われる台が設置されていた。どうやらここに手をかざさなければ扉は開かないようになっているらしい。

 

真言「…………てい」

 

 ピッという機械音とともに扉が自動的に開いた。

 

「俺のでいいのかよ…………え?」

 

 扉が開き、そこに広がっていたのはいつもの弦巻家のリビングではなかった。

 

 真っ白な空間。その中央に設置された同じく真っ白な三角形のテーブルと三脚の椅子。そして……

 

「燐子先輩!?それにRoseliaの皆も!」

燐子「あ……真言くん……?」

紗夜「やはり来ましたね」

 

 中央のテーブルとは離れた場所に設置された真っ白なソファの上にRoseliaの5人が鎮座していた。

 

友希那「えぇ……でもその様子だと何も知らないようね」

「え?」

リサ「アタシたちこころに誘われてこの家に遊びに来たんだけど……」

あこ「いきなりこの部屋に通されたままずーーっと待ってたんだ!ねぇ、今から何が始まるの?」

「俺もこころから急にメールが送られてきて、何がなんだか……」

紗夜「おそらく私達は神代さんをおびき寄せるための餌だったようですね」

「餌って……」

紗夜「その証拠にほら」

 

 紗夜が指を指した方向は先程真言が入ってきたこの部屋の入口……があったはずの壁だった。

 

「入り口が……消えてる」

燐子「真言くんが来る前はちゃんとあったよ……」

友希那「ということはやはり弦巻さんの目的は真言ということね」

「何する気なんだよマジで……」

あこ「とりあえず座ったら?ほら、あそこに椅子があるよ?」

「あそこにって……あのめっちゃ怪しい机のとこにですか?」

あこ「うん」

「…………」

リサ「うわーすっごく嫌そう」

「あんないかにもなとこに座りたいやつなんていないですよ……」

燐子「…………真言くん」

「はい?どうかしました?」

燐子「真言くん…………だよね……?」

「?はい、真言ですけど……」

燐子「ううん……!なんでもない……気にしないで……!」

 

 こころの目的と燐子の言葉を疑問に思いながら言われた通り椅子に座ろうと机に向かったとき──

 

「チッ……せっかくの休日だってのにこんなとこに呼び出しやがって……いつになったらうちのボスは俺を開放し………………てぇ!?」

 

 唐突に現れた別の入口から入ってきた男と視線がかち合う。

 

紗夜「あの人は……」

友希那「黒いスーツ……サングラスはしていないけれど、弦巻家の黒服の人かしら?」

燐子「(心なしか誰かに似ているような……?)」

「おいおい……まさかあそこにいるのって……」

あこ「なんかあの人こっち見てるよ?」

「おいあんた、何見てんだよ」

リサ「ちょ、マコくん!」

紗夜「なぜあなたはそういつも喧嘩腰なんですか!?」

「てことはあの目つき悪いのは…………嘘だろおい!」

 

 真言達の方を指差し驚いた顔を見せる謎の男。そして当然のように警戒心マックスの真言。機嫌最悪である。

 

「あ?」

「はーっ、まじかよ……やりやがったなあんの野郎……」

「おい、何ブツブツ行ってやがる」

あこ「まっくんいつもよりキツくない?」

「何かあいつ気に食わないんですよ。顔?というか雰囲気?みたいなのが無性に」

「だよなぁ……俺もそうだし」

「……喧嘩売ってんのかてめぇ」

燐子「真言くん落ち着いて……!」

「おいおい、あんまその人困らせんなよ?」

 

 呆れたように大きくため息をついて、男は中央の椅子に腰掛けた。

 

「ほら座れよ。多分だけど俺達が座らないと始まんねぇぞ」

「……なんであんたにそんな事がわかんだよ」

「んー……経験。お前より6年ちょっと長くあいつに振り回されてるからな」

「は?」

燐子「ま、真言くん……!あれ……!」

「……!」

「やっぱいつの時代でもオーバーテクノロジー駆使してんなぁ……」

 

 先程まで何もなかった壁に扉が出現していた。

 

 ……もうここまで来ると驚きも何もあったもんじゃない。

 

「ここは…………」

あこ「また新しい人出て来たぁ!」

燐子「(この人も……誰に似ているんだろう……?)」

「ん?君達は…………っ!?」

友希那「あの人もこっちを見て驚いてるみたいね」

紗夜「二人とも同じ黒いスーツを着ていますが……こちらの方のほうが大人っぽいというか……年齢を重ねているようですね」

「何見てんだおっさん」

「…………マジ?いやでもこの法則性で言うと……」

「また面倒なことになってるみたいだね……はぁ……」

 

 そうして集められた三人の男達。真言以外の二人は事情を把握している様子で、呆れたような、困ったような顔で互いに顔を見合わせている。

 

リサ「なんか……すっごいややこしいことになりそう?」

紗夜「おそらく……」

こころ「どうやら実験は成功したようね!」

リサ「うわ!いつの間に!?」

 

 神出鬼没の異空間、やっとのご登場である。

 

「おいこころ!これどうなってんのか説明してくれるんだろうな!?」

友希那「弦巻さん、彼らは一体誰なのかしら?何だか私達の知り合いのような気がするのだけれど」

燐子「わ、わたしも誰かに似ている気がして……」

こころ「今そこにいる二人はここにいる皆がよく知っている人よ!」

紗夜「私達が……?」

あこ「あこ、あの人達見たことないよ?」

リサ「アタシも……」

こころ「じゃあ自己紹介してもらうかしら!二人ともお願いね!」

 

「嘘だろそこで振るのかよ……」

「いつの時代も変わらないなぁ……」

 

 彼らは共にこころの実験により連れてこられた存在。

 

 本来ならばここにいるはずのない、交わることのない存在。

 

 そう、彼らは……

 

「「神代 真言」」

 

「…………は?」

燐子「え…………」

 

「それが俺の、いや──」

「ここにいる三人の名前さ」

 

「はぁぁぁぁぁあああああ!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こころ「真言って言っても今の真言じゃなくて未来の真言よ!」

燐子「未来の……!」

紗夜「確かに言われてみれば少し面影があるような……」

リサ「ホントにマコくんなの……!?」

「はい」

「ま、そういうことです」

「正確に言うなら俺は23歳の神代 真言ですね。そんでこっちは………」

「33歳の神代 真言だよ」

「俺の10年後かー」

「ちょっと何言ってるかわかんない」

あこ「オ、オリジナルのまっくんが悟ってる顔を……」

 

 突如現れた23歳の真言と33歳の真言。二人とも何故か高校生真言よりも適応能力が高い。

 

「俺らも"オリジナル"の神代 真言ですよ師匠…………師匠!?」

あこ「え!?なになに!?」

「うおおお!すげぇ!!師匠が小せぇ!!!」

あこ「ケンカ売ってんの!!??」

「すげぇすげぇ!!!」

あこ「持ちあげるなぁぁぁあああ!!!」

 

紗夜「あれは何をやってるんでしょうか……」

リサ「えーっと……23歳?のマコくんがあこを振り回してる……」

友希那「…………何やってるの」

 

「なぁ!あーっと……未来の俺!お前ならわかるだろ!?この感動が!!」

 

 彼がなぜここまで興奮しているのかはAfter Storyを見ていただけるとわかる。23歳の真言はあこに"身長"という事に対してコンプレックスを抱いているのだ。

 

「うん?あぁそうだね……」

「なんだよそれで終わりか?元気ないなお前、じゃなくて俺」

「んーまぁ、過去の……若い頃の自分ってこんな感じだったんだなぁって思ってさ」

「おいこら未来の俺。さっさと師匠降ろしてやれ。目回してんぞ」

「おっと。師匠ごめんなさい」

あこ「な、なんなの〜……?このまっくん変だよ〜……」

燐子「あこちゃん大丈夫……?」

 

 成人男性に振り回されたのだ。大丈夫ではないだろう。

 

友希那「でもあこの言うとおり、とてもこの人達が真言と同一人物だとは思えないのだけれど」

こころ「ちゃんと同一人物よ!」

「なら神代 真言しか知らないことを俺達が知っていれば証明になるんじゃねぇか?」

こころ「そうね!」

「って言っても何かあるかな?」

「やっぱアレだろ。高校の時の俺は他人にアレのこと話したがらなかったし」

燐子「アレ……?」

「ああ、"痣の女"のことか」

紗夜「!」

 

 痣の女。真言を監視対象となった直接の原因であり、ついこの前それにまつわるゴタゴタが一段落したところなのだ。

 

「なんで、そんなこと知ってんだ」

「同一人物だから」

「…………」

 

 本物だ。

 

 自分の最低最悪の黒歴史、それも"痣"という言葉を使うということは確実に核心を知っている。

 

 そう真言は直感した。

 

「これで信じてくれたみたいだな」

「てかお前らはどうなんだよ」

「どうって?」

「お前らは何で俺が高校生の神代 真言だってわかんだよ。お前らもこころに拉致られてきたんだろ?」

「そりゃお前……」

 

 未来(23歳)真言は燐子の方を一瞥し、そして自信満々に言う。

 

神代 真言()が燐子先輩を見間違えるわけがない!」

 

「確かに!」

あこ「それで納得するんだ……」

 

「……懐かしいな」

リサ「え?」

紗夜「そういえばこちらの神代さん、とても落ち着いているみたいですが……」

「俺が落ち着いてないと言いたいんですか」

「まあ、ただ年を取ってきただけじゃないからね」

リサ「マ、マコくんなのになんか大人っぽい……」

あこ「二人とも少しは見習いなよ?」

「…………で?なにが懐かしいんだ?」

「聞かせてくれよ」

 

 あこの自分達を見る目に耐えられなくなり、無理矢理にでも会話を変えようとする哀れな男達の姿がそこにはあった。

 

「『燐子先輩』……とても、懐かしく感じる響きだ」

「…………?」

「おい……それどういうことだ?」

「…………落ち着いて聞けるかい?」

 

「君達の言う"白金 燐子"は、こっちの世界じゃもう存在していない」

 

「は……?」

燐子「…………!」

「……どういう、ことだよ…………おい!!」

 

 深刻な雰囲気を出す未来の自分に食って掛かる真言。

 

 それも当然だろう。白金 燐子が存在しない世界など、真言にとって到底受け入れられるものじゃない。

 

リサ「ちょ!やめなよ!マコくん!!」

あこ「落ち着いて!!」

友希那「…………未来から来た真言が落ち着いている理由がわかったかもしれないわ」

紗夜「でも……まさか白金さんに何か」

「紗夜先輩」

紗夜「……!すみません」

「おい未来の俺、説明してくれんだろうな……?」

「俺がいる世界じゃ燐子先輩もRoseliaの皆も存在している。一体そっちで何が起きたんだ?」

 

「それは…………」

 

 ゆっくりと言葉を紡ぎ始める。

 

 さも深刻そうな顔をして、左手の薬指を見せびらかしながら、

 

「白金 燐子はもう存在しない。なぜなら…………」

 

 

 

 

()() 燐子になったからねえ!!」

 

シネ

ブッコロス

 

「アハハッ!若者は元気でいい!」

「てめぇ!!逃げんなやあ!!!」

「待てやコラァ!!」

「アハハハハハハ!!」

 

あこ「追いかけっこが始まっちゃったけど……」

紗夜「結局いつの時代も神代さんは子供っぽいということですか……」

リサ「…………というかさ」

友希那「…………」

 

 二人が見つめる先にいたのは……

 

燐子「…………///」

 

 耳まで真っ赤に染まった白金 燐子その人である。

 

友希那「燐子」

燐子「ひゃ!ひゃい!///」

友希那「おめでとう」

燐子「ゆ……友希那さん……!?///」

リサ「おめでと〜♪」

あこ「おめでとうりんりん!」

紗夜「おめでとうございます」

燐子「み、皆さん……///」

あこ「でもりんりんとまっくんが結婚かー」

紗夜「まぁ、当然のことと言えば当然のことでしょうけどね」

リサ「確かに☆」

燐子「あの……その……わたしまだ結婚してませんから……!///」

リサ「ふぅ〜ん?」

あこ「へ〜?」

燐子「な……なんですか……?」

リサ「『()()結婚してない』ね〜?」

 

 リサの指摘によりさらに赤くなっていく。

 

燐子「ぁ……ぁぅ……///」

 

「「可愛すぎかよ!」」

「息ぴったりだね。流石同一人物」

「てめぇもだろうがおっさん」

「耐性があるからね。まだ正気を保っていられる」

「でも俺と燐子先輩が結婚か…………なんか事あるごとに死にそう」

「手すらろくに繋げてない君達じゃ確かに無理だね」

「なんだてめぇまたやろうってのか?」

「ボコボコにすんぞ」

「こうして見るとなんかその辺の雑魚キャラ臭がすごいなぁ……」

 

あこ「ねぇねぇまっくん!あ、結婚してるほうの!」

「はい?」

あこ「未来の結婚した後の写真とかないの?」

「ありますよ」

リサ「あ、あるんだ」

「えぇ、でも未来の出来事をあまり過去の人間に教えるのは…………」

こころ「問題ないわ!」

「ならいいですね。はい、どうぞ」

 

 そう言って真言(既婚者)はスーツの内ポケットから数枚の写真を取り出した。

 

「仕事柄いつも持ち歩いているようにしてるんです」

紗夜「こ、これは……!」

友希那「……驚いたわね」

燐子「これが……未来のわたし……」

「とその子どもたちだね」

「「子ども!?」」

「ちょ、俺にも見せて──」

「君達はいづれ自分の目で確かめようね」

「「貴様ァァァアアア!!」」

「アハハハハハハ!!」

リサ「なんか大人になったマコくん……ちょっと子供っぽすぎない?」

友希那「過去の自分をからかって遊んでるわ」

燐子「……………」ジーッ…

 

 燐子が見つめる写真の中には、幸せそうに笑う女性とその周りではしゃぐ二人の子どもたちがいた。

 

あこ「かわいいね!りんりん!」

紗夜「子どもたちもどことなく白金さんの面影があります」

燐子「そう……ですね……///」

「上の女の子はわんぱくで元気いっぱいですっっっごい可愛いんだよ。燐子は俺によく似てるって言ってたけどそうなのかな?」

「避けんな殴らせろ!!」

 

 過去の自分の攻撃を軽くいなしながら話し続ける。

 

「おっと……逆に弟の方は燐子に似て物静かだけど嫌なことは嫌ってハッキリ言える、カッコイイ男の子なんだよ」

あこ「へー!」

リサ「なんか……幸せそうだね」

「はい!とっても!」

友希那「!」

紗夜「(……いい顔で笑うようになりましたね)」

 

こころ「盛り上がっている所申し訳ないけれど、そろそろ時間だわ!」

「もうそんな時間か……」

「ハァ……ハァ……ハァ……」

「結局一発も当たんなかった…………俺も一応訓練してんだぞ……?」

「まぁ、年季の違いってやつだよ」

こころ「最後に何か一言あるかしら?」

「…………ないよ」

こころ「え?」

「どうせ無駄になるからね」

「……は?」

こころ「じゃあ23歳の真言は?高校生の自分になにか言いたいことはあるかしら?」

「あーっと……じゃあ一つだけ」

 

「これからも大変なこといろいろあるけど頑張れよ」

 

「軽っ!!」

「ま、あの事件乗り越えた俺ならほとんどのことは何とかなるし。それに……」

 

「もう、一人じゃねぇだろ?」

 

 ニヤリと意味ありげに笑う彼の笑顔は、確かに真言のそれとそっくりだった。

 

「……あぁ、俺は一人じゃない」

「それが分かってるならよし!」

「あ、てかこころ」

こころ「何かしら?」

「こいつら未来の俺なんだろ?そういう自分の未来に干渉するのって何かマズイことは起こらないのか?」

紗夜「確かに……今こうやって神代さんと白金さんが結婚した未来を知ったことで、未来が変わってしまうということは……」

燐子「え……」

「心配しなくても多分大丈夫だよ、燐子。あとその写真そろそろ返してくれないか?」

燐子「あ……すみません……」

「本物は自分の目で見てくれよな」

燐子「…………はい///」

こころ「安心して!未来が変わることはあり得ないわ!」

「なんでそんな事が言えるんだよ」

こころ「だって……」

 

 

 

 

 

こころ「今日のことは全部忘れるもの」

 

 

 

 

 

 そして部屋中を白いガスが包み込んだ。

 

あこ「わわ!なにこれ!!」

「おいこころ!てめぇ!!」

こころ「このガスは直近数時間の記憶を完全に消すことができるの!大丈夫!人体に影響はないはずよ!」

「記憶飛ぶ時点で影響出てんだよ!!」

「昔のボスのほうがやべぇ……」

「あぁ……やっぱりこうなるんだね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「ん……んん……ここは……」

 

 目覚めるとそこは自宅のソファの上だった。どうやら少しだけ横になるつもりが思いっきり寝てしまったらしい。

 

真言「(なんかおかしな夢を見てた気がするけど……まぁ、いっか)」

燐子「おはよう真言くん」

真言「おお、おはよう」

 

 目の前には穏やかな笑みを浮かべ、ホットミルクを飲む燐子がいた。

 

「ん……パパ……?」

真言「あ、悪い。起こしちまったか」

 

 なんか身体が重いと思ったら俺の腹の上で小さな天使がお眠り遊ばせていたようだ。

 

 俺の上から降りて眠そうに目をこすりながら燐子の方に新たな寝床を求めに行ってしまった。

 

「父さん、起きた?」

真言「あぁ起きたよ」

 

 もう一人の小さな天使は母親と一緒におやつタイムの途中らしい。

 

燐子「うなされてたみたいだけど、大丈夫?」

「姉ちゃんはグッスリだったけど」

「まだねむい〜……」

真言「確かになんか怖い夢を見てた気がするけど……忘れちまった」

 

真言「燐斗(りんと)心真(ここま)、燐子、おいで」

心真「んー……?」

燐斗「なに?」

燐子「?どうし……!」

 

 三人の家族を思いっきり抱き寄せる。 

 

燐斗「そんなに怖い夢だったの?」

燐子「…………大丈夫?」

心真「zzz…………」

真言「ただなんとなく、抱きしめたくなっただけだよ」

燐斗「……変な父さん」

燐子「ふふっ……わたしは好きだなぁ……お父さんがわたし達のこと大好きって気持ちが伝わってくるから……」

心真「ふへへ……」

燐斗「姉ちゃん寝てるし……」

真言「ははっ!」

 

 この幸せを、いつまでも噛み締めていたい。

 

 なぜだか無性にそんな気持ちになった。

 

燐子「あ、そうだ」

真言「?」

燐子「これ、弦巻さんから送られてきたお菓子、食べる?」

真言「………………」

 

真言「遠慮しとく」




突然ではありますが今回をもちまして「監視対象と約束された日々」は更新をストップさせていただきます。

その理由といたしましては、まず脳内で作っていた書きたい話を全て書き終えたこと、バンドリ作品への熱意が無くなってきたこと(これ以上書くといくら二次創作だからといってボロが出そうな気がして怖い)、そしてオリジナル作品の制作に力を入れていきたいという3点が主な理由です。

一応本編は既に完結済みですし、なんならタイトルに【完結】ってついて、しかもタグに完結作品って書いてあるのであまり気にならない人も多いかもしれません。軽く終わった終わった詐欺でしたから。

本編の最終回でも書いたかもしれませんが、ここまで多くの人に作品を、しかも人生初小説を読んでいただけるとは夢にも思っていませんでした。本当にありがとうございます!

次お会いするときはオリジナル小説の中だと嬉しいです。とか言いつつまたひょっこり監視対象に帰ってきたら「こいつオリジナルサボってんな……」という目で見てやってください。

それでは皆様、またどこかで。


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