ネタ短編集 (龍牙)
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ハイスクールD×D -究極銀河《アルティメット》-
ハイスクールD×D -究極銀河《アルティメット》- その1


プロローグ

 

???SIDE

 

 ……夢……。

 

 ……夢を見ている……。

 

 真紅のドラゴン達を中心とした龍や恐竜、竜人達が……白い鋼の巨人達を中心とした鋼鉄の機械兵たちが……緑の人型をした甲虫達を中心とした昆虫や植物、動物達が……紫の悪魔達を中心とした悪魔やモンスターの軍勢が……黄色の天使達を中心とした天使や愛らしい外見の動物たちが……青いロボットや巨人達を中心とした多種多様な軍勢が、何かと協力し戦っている姿。

 

 六色の軍勢と戦っているのは、同じ様に六色の軍勢……左右が逆になった12星座を旗印の様に背負った奴等を率いるのは12の星座の元に立つ星座を思わせる六色の鎧を纏った巨大な影。

 

 仲間達の戦いの中、反転した12星座の軍勢へと向かっていく三体の真紅のドラゴン達。

 

 

―ノヴァ!―

 

 

 黄色の軍勢の中に居る天使と、白の軍勢の中に居る白い巨人が真紅のドラゴン達へと向かってそう叫ぶ。恐らくはその三体のドラゴン達の中の誰かの名前なのだろう、『ノヴァ』と言うのは。

 

 

―オレたち三龍神の力と命で、ヤツラ裏12宮ブレイヴは封印する! あとは任せたぞ!―

 

 

 12星座を背負っていた影は砕け、12の星座の形をしたモンスターへと姿を変える。

 

 

―バカめ、貴様等がどれだけ力を尽くそうとも、我等は何度でも現れる、この世界を我等の物にするまでな!―

 

―そんな事はさせない! お前達はこのまま此処で封印する! オレ達の命を持って、だ!―

 

 

 裏12宮ブレイヴと呼んだ鎧達を三体の真紅のドラゴン達が打ち砕く。同時にそれは三体のドラゴン達さえも滅ぼしていく。

 

 

―ノヴァァァァァァア!!!―

 

 

 天使が消えていくドラゴンへとそう叫ぶ所で視界が光に包まれ、景色が変わる。

 

 

 

―紅也よ……―

 

 何もかもが白い世界、そこで響いてくるのは何かの声。いや、“何か”と言うのは正確では無いだろう。正しく言ってしまえば、先程の映像の中で聞いたノヴァと呼ばれていたドラゴンの声だからだ。

 

「っ!?」

 

 彼、『竜崎 紅也(りゅうざき こうや)』が其方へと視線を向けると、其処には真紅の体を持った三体のドラゴンが存在していた。

 

―こうして言葉を交わすのは初めてだな。我等三龍神の魂を持つ者よ―

 

(三龍神?)

 

―オレは三龍神『アルティメット・ジークヴルム・ノヴァ』。仲間達からはノヴァって呼ばれてた―

 

(あの天使が叫んでたのはこいつの事だったのか?)

 

―あっ……あー、あいつの事か? それについてはまた今度って事で。んな事より、お前には言っとか無きゃならないことが有る-

 

「何をだよ?」

 

 顔を横に逸らすアルティメット・ジークヴルム・ノヴァ-長いのでノヴァで良いだろう-の言葉を疑問に思いながらも、続きを促す。

 

―お前が見たのは夢じゃない。あの戦いのとき、異次元からの侵略者である裏12宮の奴等を、オレ達が命懸けで封印した。結果的に、封印には成功したけど、オレ達は魂さえも砕け散りかけた―

 

「かけた?」

 

―ああ。オレ達三龍神の魂は互いを補い合う事で、魂の中に裏12宮ブレイヴを封印する事に成功したんだ―

 

 ノヴァの言葉と共に足元が光り、そこに左右が逆になった12星座が浮かぶ。だが、その中の幾つかは光を失っていた。

 

―そして、オレ達の魂はこうしてお前として、別の世界に人間になって復活した。それがお前だ、紅也―

 

「えー……」

 

―信じてないな、その顔は?―

 

 行き成りそんな事を言われても信じられるわけが無い。

 

―まっ、目を醒ませばイヤでも信じる事になるだろうけどな。それより、封印していた裏12宮ブレイヴが解き放たれた。意図的……じゃないにしても、あの女、とんでもない事を!―

 

「封印が解けたって……お前の話を信じるにしても、何が有ったんだ?」

 

―まっ、そっちに関しても目を醒ましてから自分で調べた方がいいだろ?―

 

「そうだな」

 

―「その方が面白い」―

 

 

―……ヴァ……―

 

 

―っと、そろそろお前が目を醒ます時が近付いてきたみたいだな―

 

 ノヴァのその言葉と共に紅也の意識は遠くなっていく。

 

 



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ハイスクールD×D -究極銀河《アルティメット》- その2

なお、スピリット達の擬人化のイメージは大半は主に切り札にしている方々をモデルとしています。


一話目

 

 

 『ノヴァ』、彼の事をそう呼ぶ声に聞き覚えが有るのは、夢の中での天使の声に似ているからだろう。光を纏い異次元からの侵略者である裏12宮が率いた軍と戦った六色の軍の中の、黄色の軍の中心となった戦っていた天使。

 後方では激励するように戦場ライブが繰り広げられていたのはノーコメントとしておいた方が良いだろうか?

 

 何故、自分がノヴァと呼ばれるのかは……夢の中で本物のノヴァの言っていた通り、紅也がノヴァ達の魂を受け継いでいるからだろうか?

 

「……んっ……」

 

「ノヴァ!? 良かった……目を醒ましてくれたんだな」

 

 紅也が目を開いた時、彼の視界に飛び込んできたのは、涙目で紅也の事を覗き込んでいる美しい金色の髪を持った巨乳美人。一瞬だけ、彼女の姿が夢の中に出てきた天使と重なるのは、彼女が天使自身だからだろう。

 

 ゆっくりと腕を上げると、片腕が人のものでは無くなっていた。真紅に染まった異形の腕、全身には何故か痛みを感じる。……自分に何が起こったのかは分からない。声が出ないまま混乱していると彼女は異形の腕に優しく触れ。

 

「この腕は……ジークヴルムの。そうか……。ノヴァ、今のお前に何が起こっているのか説明する。落ち着いて聞いてくれ」

 

 彼女が言うには、異形の腕はかつてのアルティメット・ジークヴルム・ノヴァの腕。『雷皇龍ジークヴルム』と呼ばれていた頃の力が集まった物らしい。彼女の説明に従うと、異形の腕はドラゴンの頭を思わせる籠手を装着した物に変わり、人の物へと戻った。

 

 元々彼女達アルティメットはスピリットと呼ばれる存在だったそうだ。そして、紅也の身に起こった事を引き金とし彼の中に在るアルティメットの力が覚醒、その結果アルティメットの魂を持った人間から、スピリットと人間のハーフと言う状態に変化しつつあるそうだ。後々アルティメットへと変わっていくらしい。

 ジークヴルムの力がこういう形で具現化したのは、人間の体でスピリットの力を使うため、なのだそうだ。それが右手に起こったことだが、同時に左手もまた別のドラゴンのものへと変わる。『太陽龍 ジーク・アポロ・ドラゴン』。二体目の三龍神の力もこういう形で具現化したそうだ。

 

 何が有ったのか、そう聞いてみたのだが……残念ながらそれを教えてもらう事は出来なかった。ただ一つだけ教えてもらった事は、『紅い髪の悪魔に関わらない方が良い』らしい。

 

 まあ、彼女『アルティメット・ヴァリエル』こと人間形態名『エリス・ヴァリエル』との初顔合わせはそんな形で成ったのだった。

 

 

 

 さて、エリスと分かれてから(彼女が言うには一ヶ月くらいでもう一人、ノヴァだった頃の戦友がやったくるらしい)、在学している駒王学園に登校していると非常に驚いた物を見る事となった。

 

「何が有った?」

 

 変態三人組と名高い三人組の問題児の一角『兵藤 一誠』が学園の二大お姉さまと呼ばれている三年の『リアス・グレモリー』と一緒に登校している姿を目撃したのだ。

 周囲から様々な感情が向けられているが、不思議と紅也にはそんな感情は湧いてこない。寧ろ、彼女達二人よりもエリスの方が紅也にとっては魅力的に感じる。それに何より……リアスは彼女が関わるなと言っていた『紅い髪』と言うフレーズと一致をしているからだ。悪魔と言う部分は分からないが、紅い髪と言う部分に一致している以上は警戒しておいた方がいいだろう。

 

「忠告に従っとくか……」

 

 そんなエリスからの忠告も有ってあまり二人を眺めるのを止めてさっさと登校する事に決めた。だからだろうか、紅也の姿を見たリアスの顔に驚きの感情が浮かんだのを見逃してしまったのは。

 

 教室ではクラスメイトである変態三人組の二人に絡まれ、『お前ら、生乳見たこと有るか?』と言う一誠に発言に心底呆れたものだった。

 

(その変態発言どうにかすれば彼女くらい出来そうなのにな……ん?)

 

 そんな瞬間妙な感覚に襲われる。

 

(……一誠の奴、彼女が出来たって言って……その彼女の写真を自慢げに見せてたような……っ!? 前後の記憶がなんか曖昧だな……)

 

 改めて考えているとどうも自身の記憶が混乱しているのが分かる。エリスの言葉が正しいのなら……いや、間違いなく正しいのだろうが、それはアルティメットの魂が覚醒した事が影響しているのだと考えられる。

 

 

 

 放課後、帰り支度をしながら家を出るときにエリスから言われた言葉を思い出している。今のところ、紅也の中で目覚めた三龍神の力は二つまで、最後のドラゴンの力は未だに目覚めていない。

 

 まだ完全に目覚めて居ない……よく言えばまだコントロールしやすい弱い段階で、自分の中のスピリットの力のコントロール方を教えてくれるそうだ。だから今日は速く帰ってくるように言われたのだが、

 

「や、どうも」

 

 帰る前に紅也を尋ねてきたのは学園一のイケメン、『木場 祐斗』だ。

 

「……ナンの用だ?」

 

「リアス・グレモリー先輩の使いできたんだ。ぼくについてきて欲しい」

 

 未だに悪魔と言う部分は理解できないが、彼女……エリスの言葉は信頼に足ると理解している。会ったばかりの彼女にそんな風に信頼するのも疑問だが、己の中のノヴァの魂が戦友である彼女は信頼するの足ると言っているのだろう。

 

 そんな彼女の忠告に引っかかるリアス・グレモリーからの呼び出し。此処は断るべきだろう。

 

「悪いけど、今日は用が有るんだ」

 

 そう言って手を振って追い返そうとするとその手を木場につかまれる。

 

「悪いけど、そう言うわけには行かなくてね。どうしても君に来て欲しいそうなんだ」

 

「っ!? だから放……っ!?」

 

「ガッ!?」

 

 それを振り払おうとした瞬間、一瞬掴まれている腕に何か……恐らくは雷皇龍の力が流れたのを感じる。それと同時に木場の体が崩れ落ちる。その一瞬で雷皇龍の力が一種のスタンガンの様に流れたのだ。

 雷の皇。その名は伊達では無く、雷撃を操る事ができる。力が腕に籠手の形で具現化したとは言え、不安定な力は紅也の持った拒絶の意思に反応して、彼を攻撃すると言う結果を生み出してしまった。

 

 まあ、不安定であるが故に今朝のように籠手の形で具現化することも無く、傍から見れば紅也の腕を掴んだ木場が急に倒れたようにしか見えない。

 

『キャー!!!』

 

 どっちにしても、急に人が倒れるなどと言う現象が起これば周囲から悲鳴が上がるのも当然だ。特に女子に人気の高い木場、真っ先に悲鳴を上げたのは女生徒の一人だった。

 

 『何をしたのか?』と紅也に対する抗議が上がらないのは、傍から見れば片手を掴まれていた状態で、殴り飛ばすのも、蹴り飛ばすのも直ぐには無理だったからと言う状況ゆえだろう。視線が集まっている状況ならそんな事になれば直ぐに分かる。序でに紅也が木場に触れていたのは掴まれていた腕だけだ、そんな状況で一般的な常識では危害を加えるのは無理だと誰もが判断するだろう。

 そして、この場に居るのが木場以外には普通の人間……或いは若葉マーク付きの裏関係者だけと言うのも幸いだった。

 

 紅也の腕を掴んだ木場が急に倒れた。寧ろ、紅也が何かをしたかと疑うよりも、木場が病気等に感染していないかと言う心配をする所だろう。

 

 女子や一誠を含んだ近くに居た男子に意識を失った木場が保健室に運ばれていく姿を見送りながら、さっさとその場を後にする紅也だった。

 

 

 

「……ってな事があって……」

 

「完全に力の暴走だな。……リアス・グレモリー……、外見から言って間違いなくあの時の女だな」

 

 帰宅後、学園での状況を説明された頭を抱える。後半の呟きは聴き取れないほど小さい物だったが、鋭さを含んだ視線で紅也を一瞥する。

 

「ノヴァ……幸い、相手があの女の関係者……恐らく悪魔だったから良かったものの、相手が普通の人間相手だったらどうなっていた事か……。少しずつ力をコントロールしてもらう予定だったが、そんな呑気な事は言ってられない様だ。最低限、暴走させない程度にはコントロールできるようになってもらうぞ」

 

「は、はい!」

 

 有無を言わせぬ迫力のエリスに圧され、思わず直立不動で返事をする紅也。実際、彼女の判断には正しさしかなく、彼も納得できる事だ。下手に力を暴走させて周囲を傷付ける事は彼にとっても望む事ではない。

 

 ……その日、エリスから力のコントロールについて学ぶ事になったが、結構彼女は厳しかった、とだけ記しておく。

 

 

 

「それで、祐斗は大丈夫なの?」

 

「はい」

 

 深夜の駒王学園旧校舎。その中にあるオカルト研究部部室。既に生徒全員が学校に残っている事を認められていない時間帯に、オカルト研究部だけ明かりが灯っていた。

 その中にある影は四つ、一つはリアス・グレモリー。もう一つは昼間、雷皇龍の力の暴走に去らされてしまった木場祐斗だ。

 

 一誠の迎えだけでなく、リアスから紅也も一緒に連れてくる様に言われた為に、紅也を連れてこようとした際に、無防備な所に強力な電撃に曝されて意識を失ってしまったが、幸いにも命だけでなく体にも影響は無い。

 だが、残念ながらその一撃で木場は夕方頃まで意識を奪われていたので、一誠の迎えも果たせなかった。内心で『何をされたのか分からないけど、今度は油断しない』と誓いつつ、己の主であるリアスへと報告をしていた。

 

「そう」

 

 木場からの返答を聞いたリアスの表情に安堵の色が浮かぶ。

 

「ありがとう、祐斗。明日改めて接触するとして……祐斗を反応さえさせずに一瞬で倒す実力者。それが意図したものじゃなかったとしても……いいえ、寧ろそれはそっちの方が危険ね」

 

 紅茶に一度口を付けると彼女は改めて呟く。

 

「どっちにしても、私の可愛い眷属に手を出した子には、お仕置きしないとね」

 

 

 

 雷を纏いながら紅也の姿が真紅の龍人と言った趣の姿へと変わる。その翼や頭部には雷皇龍ジークヴルムと似た趣を持っている。人間の肉体を人間とスピリットのハーフと言うべき肉体へと変異させる。

 イメージ的には仮面ライダークウガやアギトの肉体強化系の仮面ライダーへの変身に近い。……ベルトは無いが。

 

「ふぅ……」

 

「短時間だけだが、全身の変異まで出来る様になった様だ」

 

「流石に疲れた……」

 

 人間の姿へと戻って呼吸を整えている紅也へとエリスは感心した様子で声をかける。

 

「まあ、技術としては応用の一つだからな……能力の制御の」

 

 エリス曰く、紅也は魂に引っ張られて肉体が急激にスピリットへと変異している分、能力の制御が不安定になっている。それは仮免のドライバーにレーシングカーを運転させるような物だ。だからこそ、一気に段階を飛ばして一気に能力の制御を出来るようにしようとした訳だ。

 

「それって上手く行かなかったら……」

 

「今日一日無駄になっただけで済む。最悪は明日から暫く能力の制御の訓練をして貰うつもりだったが……」

 

「学校はどうするんだよ?」

 

「怪我人でも量産したいのなら止めないが?」

 

「……取り合えず、過程の話は止めよう……。上手く行ったんだし」

 

「そうだな」

 

 流石に一日で能力の制御に成功した事には素直に喜んでおこう。……流石に怪我人を大量生産したくは無い。

 

「そう言えば、エリスさ「エリスで良い」エリスは何処に泊まるんだ」

 

「そうだな。お前の家に部屋を借りるつもりだが。まあ、私達アルティメットやスピリットの滞在についても許可は貰っている」

 

「許可?」

 

「ああ。『天剣の覇王』が日本神話の神族に直接交渉してくれた。お蔭である程度長期滞在も出来るようになった」

 

 そう言うエリスの脳裏に浮かぶのは、長期滞在の手続きをした時に会った日本神話の神の一柱であるツクヨミの姿(外見イメージはガイストクラッシャーの『ムーンライト・ツクヨミ』)。

 流石にアルティメットは上級スピリットクラスまで能力は制御する必要が有るが、悪魔側に文句を言われても突っ撥ねる事が出来る様に、日本と言う国の神族の許可を得た訳だ。……彼ら自体はどうも、三大勢力……特に聖書の神と関係の深い天界に害意がある様子だが。その原因は聖書の神にある。

 

(……まあ、理由は聞いたがな。何処にでも居るな……迷惑な神は)

 

 思い出すのはスピリット達の世界を『ジャジメント・ドラゴニス』と言う器を利用して滅ぼそうとした彼女達の世界の創造神。結果的にソードブレイヴを持ったソードアイズのスピリット達によって滅ぼされたが……。

 

(まあ、私は魂だけでもノヴァと再会出来た。……今はそれで十分だ)

 

 

 




まだ途中です。

擬人化イメージ、アルティメット・ヴァリエルは『明の星のエリス』をモデルとしています。


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ハイスクールD×A 鋼翼の反逆者
ハイスクールD×A 鋼翼の反逆者 その1


「っ!?」

 

 先程まで眠っていた彼『鳳 勇気』はベッドから飛び起きると、窓を開けて通っている学校である駒王学園の方を見る。

 

「“また”堕天使の気配。それも上級の……しかも、街全体に流れてる力は……」

 

 彼の中に眠る神器の力に目覚めてからと言うもの、超常の力を感知できるようになった頃から、何度かハグレ悪魔を倒してきたが此処最近では、悪魔の領域となっているこの地で堕天使の気配を二度も感じていた。

 内心、『ここを任されてる『リアス・グレモリー』やとか言う先輩と生徒会長、舐められてる?』と思わずには居られない。

 だが、一度目は兎も角今回の相手は舐めていても無理は無いほどの力……確実に勝てないであろう大きな力の差が有る相手と言う事が分かる。

 

 それも当然だろう。彼は知る良しも無いが学園では教会よりエクスカリバーを強奪した堕天使の幹部『コカビエル』とその手下を打倒すべくリアス達が戦っていた。しかも、時間制限付きで。

 

(……現魔王の妹が二人も居るんだ……。足止め程度の役割なら彼女達でも果たせるだろうけど……)

 

 そう判断するが、実際リアス自身は呼んでなかったりする。まあ、彼女の女王(クィーン)である『姫島 朱乃』が連絡済だったりするので問題は無いが。……お家騒動の後ととは言え、明らかに舞おうが出てくるレベルの相手に対して自分たちだけで戦いを挑むのはどうかしていると思う。

 

 勇気が窓の縁にその背中から透明な翼が現れる。辛うじて月の光を遮る姿からそれを翼だと判断できるが、目を凝らさなければそれを見る事は叶わないだろう。

 

 

 

 駒王学園の近くまで飛翔すると校舎の方を見下ろす。生徒会のメンバーが数箇所に分かれている。恐らく戦いの被害を学園内に留める為の結界を張っているのだろう。

 見れば王である『ソーナ・シトリー』以外の眷属達は限界が近そうだ。聞いた話では元々一般人中心のメンバー、一般人では無いメンバーの多いグレモリー眷属よりも限界が近いのは当然と言えば当然だろう。

 

「急いだ方が良いな」

 

 勇気はそう判断し、拳を握ると手の甲に目の様な模様の付いた羽を思わせる紋章が現れる。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 勇気の手の中に現れるのは透明な一振りの剣。それを前に翳して結界へと突っ込んでいくと熱したナイフをバターに刺す様な容易さで結界を貫き、その中へと飛び込む事に成功する。

 

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

「ぐはぁ!」

 

 結界に飛び込んだ瞬間、黒い翼を生やした男に剣では無くとび蹴りをかます。顔面を蹴り飛ばされた男はそのまま地面に突き刺さる様に激突して顔面でスライディングする。

 

 その光景に戦っていたリアス達グレモリー眷属は唖然としてしまう。突然上空から現れた人間が、神滅具の一つである『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の力を譲渡され魔王に迫る域にまで高めたリアスの滅びの魔力も、教会から派遣されたエクソシスト『ゼノヴィア』の持つ聖剣『デュランダル』も、騎士である『木場 祐斗』の神器の禁手で作り出した聖魔剣も通用しなかった『コカビエル』を飛び蹴りで吹飛ばした姿に。

 

「っ!? どうして、此処に人間が!?」

 

「強いて言うなら、オレ達の街を守る為に人間代表として参上! って所かな?」

 

 リアスの言葉にそう答えた後、透明な剣で彼へと向かってきた光の槍を弾く。

 

「ふざけるなよ、人間風情が!」

 

 光の槍を投げた主、顔面に靴の痕があるコカビエルが怒りに満ちた視線で勇気を睨みつけながらそう叫ぶ。

 

「雷よ!」

 

「鬱陶しいわぁ!!!」

 

 怒りと共に勇気を睨みつけていたコカビエルの隙を逃さず朱乃が雷を放つが、それも片手で払われて霧散してしまう。

 

「お前は、バラキエルの」

 

「……私を、あの者と一緒にするなッ!」

 

 コカビエルの言葉に激昂する朱乃だが、それを意に介さずにただ勇気だけを睨んでいる。

 

「……ふ、ふふふふふふ……、教会から派遣されたエクソシストも」

 

 睨み付けるのはゼノヴィア。

 

「魔王の妹も、伝説のドラゴンを宿した転生悪魔も!」

 

 続いて睨み付けるのはリアスと一誠。

 

「バラキエルの娘でも、聖魔剣でも無く……ただの人間に、こんな屈辱的な傷を負わせられただと!!!」

 

 朱乃、祐斗へと視線を移し、最後に勇気へと視線を止める。

 

「たかが人間風情がこのオレに傷を付けただとッ!? 戦争だ! 俺は戦争を始める! 我等堕天使が最強だと、サーゼクスにもミカエルにも理解させるのだ!!! それを高が人間がぁ!」

 

「……くだらない。だったら言ってやるよ、お前は弱い」

 

 誰にも見えていなかったが背中の翼と剣が消える。静かに怒気を含んだ声で勇気は右手を翳す。

 

「……なんだと?」

 

「どんな理由でこんな事をしたかと思えば……戦いに狂っただけの最低の理由だな」

 

 怒りを含んだ勇気とコカビエルの視線が交差する。

 

「教えてやる。化け物を倒す英雄(ばけもの)は、常に人の中から生まれるって事をな!」

 

 翳した腕に浮かび上がる羽の紋章、

 

「そして、一つだけ安心しておけ! オレは……ただの人間じゃないからな!」

 

 

―目覚めろ、オレの力―

 

 

「超者!」

 

 

―『反逆の天使達の羽(ライディーン・フェザーズ)』!!!―

 

 

「降臨!!!」

 

 羽の紋章から結晶状の物が勇気の包みこみ、それが砕け散った瞬間、鷲を思わせる白いアーマーに包まれ、白い鋼鉄の翼が現れる。

 

「な!? その姿は神殺しの……反逆の天使だと!?」

 

「さあな。この力がオレに教えてくれた。この力が何なのか……この力の名前を」

 

 背中の翼を広げる。勇気……否、『ライディーンイーグル』。

 

「ふ、ふはははは……! 面白い、面白いぞ! まさか神を殺して神の生み出した究極の兵器を奪ったとされる、かつての勇者と戦えるとはな!」

 

 そう、コカビエルの言葉通り勇気は知っている。彼ら十人のライディーンが神を裏切ったわけを。そして、自らの意思で己を神器(セイクリッド・ギア)の中に封印し、知識と力だけを残し、魂を生滅させたわけを。

 

 全ては彼らを宿した人間を守る為に、彼らが自分たち自身と共に封印した究極の兵器の存在を隠す為に。

 

 そして、万が一に覚醒した時に備えて記憶だけを残した理由を。

 

「行くぞ、コカビエル。オレは負けない……」

 

 拳を構え、ライディーンイーグルはコカビエルと向かう。

 

「鋼鉄の翼に賭けて!!!」

 

 

 

 




今日、古本屋でコロコロで連載されていた『超者ライディーン』の漫画を読んだ結果書いてみたネタ短編です。ライディーンの設定はハイスクールD×Dの世界観に合うように変更しました。

現在までに明らかにするDD世界のライディーンの設定は、

・自らの魂を消滅させて記憶と力のみを神器に封じている。
・究極兵器……ゴッドライディーンを生み出したのはこの世界観の神
・超魔の散在はなし。

と言う所ですね。


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ハイスクールD×A 鋼翼の反逆者 その2

「烈火拳!!!」

 

 黒い翼を巧みに操るコカビエルと鋼鉄の翼を広げ空中を飛翔するライディーンイーグルが空中戦を繰り広げる。

 

 コカビエルが投げつける光の槍を炎を纏った拳『烈火拳』で撃ち落しつつ、相手の懐に飛び込みその拳を叩き付ける。

 

「ガハッ!!!」

 

「烈火脚!」

 

 それによって出来た一瞬の隙を逃さず炎を纏った蹴り『烈火脚』を回し蹴り気味に叩き付ける。

 

「おのれ!!!」

 

 光の剣を作り出して反撃として切りかかるが、

 

「イーグルソード」

 

 ライディーンイーグルもまた己の専用武器である『イーグルソード』を出現させてコカビエルの光の剣と切り結ぶ。

 

「我が剣に……」

 

 切り結んでいた光の剣をゆっくりとイーグルソードが切り裂いていく。

 

「切れぬ物、無し!」

 

「っ!?」

 

 危険を察知したコカビエルが咄嗟に横に避けると、黒い羽と鮮血が舞い散る。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 避け切れなかった翼の一つをライディーンイーグルのイーグルソードが切り裂いていた。

 

「があぁ!!!」

 

 続いて叩き付けられるのは炎を纏ったライディーンイーグルの拳、続いて炎を纏った踵落としがコカビエルの頭に叩き付けられ、そのまま校庭へと激突する。

 

「ふはははは! 良いぞ、良いぞ! 実に良い! 流石はかつて天使の勇者と謡われただけの事はあるな、ライディーン!」

 

 狂喜と言う表情を浮べながら笑うコカビエル。

 

(……ああ、そう言えばオレの前のイーグルの事を知っている。そう言うわけか)

 

 ライディーンイーグル……勇気の中にある神器の中に封じられているのはライディーンの力と記憶のみ。魂などは入っていないのだから、既に以前のライディーンは死んでいると言うべきだろう。

 

「しかし、仕えるべき主を亡くしてまで、お前達神の信者はよく戦う。より処と成る偉大な主を失ってもな」

 

「……」

 

 コカビエルの言葉に疑問に近い反応を見せるライディーンイーグル。そんな事は既に知っている。いや、誰よりも知っていると言うべきだろう。

 

「……?」

 

「どう言うことだ?」

 

 そんなコカビエルの言葉に疑問を抱くのは木場とゼノヴィアの二人。

 

「フハハ! お前達下々ねまで真相は語られていなかったな!? ついでだ、教えてやるよ! 神は死んだ。先の三つ巴の戦争で四大魔王だけでなく、神も死んでいたのだ」

 

 その言葉に衝撃を受けるリアス達。だが、

 

「それで、それがどうかしたのか?」

 

「貴様は大してショックを受けていないようだな?」

 

「そりゃ、知ってる事を言われた所で驚くわけ無いだろう? 大体、オレは神器を通じてライディーンの力を得ただけで九割は人間……。それほど神様に頼った事もないし……。何より、神を殺したのは……先代のライディーンイーグルだ」

 

 

『!?』

 

 

 その言葉にもっと衝撃を受けるリアス達。そのショックはリアス達だけでなくコカビエルにさえ衝撃を与えるものだった。

 

「バカな!? 神に反逆する所か、殺しておいて堕天していないだと!? そんな事が有る訳が……」

 

「先代ライディーンの知識によれば……天使族の勇者ライディーンは前線で戦う為に堕天と言うシステムの唯一の例外に設定されていた。当然だろ、勇者と謡われた者達が敵になるなんて悪夢以外の何物でもない」

 

 ようするに、天使であった頃のライディーン達は特例が認められる程の戦士達だったと言う事だ。

 

「そ、それだけの特権が与えられていたお前達が何故神を……?」

 

「奴は悪魔や堕天使だけでなく、作り上げた究極の神器(セイクリッド・ギア)で人間さえも滅ぼそうとした。それに気付いたのが先代のライディーンイーグル」

 

 正しく言えば神が壊そうとしたのは世界そのものだ。その事に気付いたライディーンイーグルは追っ手として放たれた他のライディーン達と戦い、真意に気付いた者達から仲間になって言った。そして、ゼロへと戻す為に作りあげた究極の兵器……。

 

「神の元から『ゴッドライディーン』を奪う為に、何者にも使わせない為に反逆したのが先代達だ」

 

 尚もショックの抜けていないコカビエルへと向かってイーグルは飛翔する。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 炎を纏ったアッパーでコカビエルを上空へと殴り飛ばし、

 

「イーグルフレア!!!」

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 そのまま追撃として必殺の火炎放射、イーグルフレアを放つ。

 

「ゴッドバード、チェンジ!」

 

 光に包まれてイーグルは鷲を思わせる白い鳥の形へと姿を変える。

 

「ならば、神を殺した奴等の後継者のお前の……魔王の妹の首を手土産に、我等堕天使が最強だとルシファーやミカエルに見せ付けてやる!!!」

 

「それがくだらないって言ってるんだよ!!!」

 

 鷲の姿へと代わったイーグルの体を炎が包み、高らかに咆哮をあげる。その姿は正に伝説の中の聖獣としての『フェニックス』。

 

 火の鳥と化したイーグルに貫かれ、真っ二つになったコカビエルを他所に炎の鳥が校庭へと降り立つと、炎は飛び散りその中から現れるのはライディーンイーグルの姿。

 

「バカな……主のためでもなく、最強だと見せ付けるためでもなく……お前達は何のために神に反逆した……?」

 

 それがコカビエルの最後の言葉だった。炎の中に爆散するコカビエルはその問いの答えを聞く事無く最後の刻を迎えるのだった。

 

「簡単だ。先代のライディーン達は人を守る為に神を裏切った」

 

 何時の日から、ライディーン達は三大勢力の戦争に巻き込まれる無力なる人と言う種族を守る為に戦う様になった。だからこそ、ライディーンは神へと反逆したのだ……決して堕ちる事の無い鋼鉄の翼を持って、

 

 

 

 

 

 

 

 



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ハイスクールD×A 鋼翼の反逆者 その3

 ゆっくりとライディーンイーグルは最初に切り落とした際に散ったコカビエルの羽を拾い上げる。

 

(さて、どうしてこうなったかは知らないけど、これで此処の危険はなくなったな)

 

 そう言ってショックのあまり崩れ落ちているアーシアへと視線を向ける。

 

「主は……死んでいる? では私達に与えられる愛は……?」

 

(感じる気配から言って彼女は悪魔だよな? なんで悪魔が神の死を知ってあそこまでショックを受けるんだ?)

 

 当然ながらライディーンイーグルである勇気はアーシアの過去は知らない。故に神の死を知ってもショックは一過性のものだと思っていたのだが、思っていた以上にショックを受けているアーシアに逆に驚いたほどだった。

 

 なお、ゼノヴィアについては聖剣を持っている事から教会・天界側の人間であると判断、彼女がショックを受けているのは無理も無いと思っている。

 

(まあ、後の事はお仲間に任せるか。それよりも……)

 

 そう考えながら手の中で玩んでいたコカビエルの羽を睨みつけ、

 

(……堕天使の総督……アザゼルだったな? 何の心算かは知らないが態々幹部まで使ってこの街を危険に晒したんだ……。何れかならず落とし前を着けさせる。鋼鉄の翼に賭けて、な)

 

 ……実はコカビエル一人の責任なのだが、すっかり黒幕扱いされているアザゼルさんに合掌。取り合えず、初対面の時は問答無用でイーグルフレア打ち込まれない事を祈っておこう。

 

「おい、待ちやがれ!」

 

 そんな事を考えながら立ち去ろうとするイーグルを一誠が呼び止める。

 

「……何か用か、赤龍帝? 兵藤一誠……だったな?」

 

 まあ、同じ学園の悪い意味での有名人だけに彼の名前は良く知っている。

 

「ふざけんな、お前のせいでアーシアが……」

 

「いや、コカビエルのカミサマ不在の宣言だろ、どう考えても?」

 

 ぶっちゃけ、彼女についてはイーグルに責任は無い。先代のイーグルに至っては神様殺したのも、人間を守るためだ。寧ろ、結果的に一緒に守られた連中には神殺しについては感謝されても恨まれる理由など無いはずだ。

 

『止めろ、相棒!!! あいつにだけは手を出すな!!!』

 

 序でに神器から零れる必死に一誠を止める赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に宿る二天龍の一角であるドライグの声。

 此方の世界では、彼ら二天龍を神器に封じる寸前まで叩きのめしたのは、二人のライディーン……ライディーンイーグルと『ライディーンークロウ』だったりするが、本編中で語ることも少ないと思うので表記しておこう。

 二人のライディーンの勝利に終ったものの、一歩間違えれば敗れていたのは彼等の方だった。だが、二天龍にライディーンのリーダー二人が一騎打ちの末に勝利したと言う事実は悪魔と堕天使の陣営を大いに恐れさせたほどだった。……神をイーグルが討つよりも少し前の出来事だが……。

 

 

『ふふふ、面白いな』

 

 

 一誠が一方的にイーグルに怒りをぶつける中、結界の中に新たに白い光が乱入する。

 

「なんだ……あれはまるで」

 

 白い鎧に身を包んだ男、ライディーンが鳥だとするならば龍を思わせるそれは……

 

「『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』にそっくりだ……」

 

「……龍系の神器の禁手……。白で赤龍帝の鎧に似ているか。なるほど、お前が当代の白龍皇と言った所か」

 

「まあ、そう言う事だが。オレはそいつの回収に来たんだ。アザゼルに言われてな」

 

「なるほど、幹部が倒されそうになって慌てて増援を送ったって所か?」

 

 そう言ってイーグルソードを構えるイーグルに対して白龍皇は、

 

「いや、それは違う。今回の事は全部コカビエルの独断だ。アザゼルは戦争は望んでいない」

 

「……なら、今はその言葉を信じておこう」

 

 そう言って投げ渡したコカビエルの羽を白龍皇は受け取る。少なくとも、イーグルにとってコカビエルを倒したのはこの街に住む人々を守るためだ。下手に戦って被害を増やすことだけは避けたい。

 

「コカビエルを無理矢理にでも連れ帰るように言われたんだが、まさか倒されているとは思わなかったよ」

 

 そう言って白龍皇はもう一人倒れていた男を拾い上げる。

 

『無視か“白いの”』

 

『起きていたか、“赤いの”』

 

 一誠の籠手から響くドライグの言葉と、白龍皇から出る別人の……恐らく、白龍皇と謡われし二天龍の一角『アルビオン』の声なのだろう。

 

「強くなれよ、何れ戦うオレの宿敵君。そして」

 

 アルビオンとドライグ……二天龍の会話が終ると、そうまだギャーギャーと叫んでいる一誠に言って白龍皇はイーグルへと視線を向ける。

 

「何れ君達ライディーンとも戦ってみたいな」

 

「……戦闘狂(バトルマニア)か、お前は?」

 

「アザゼルからもよく言われるよ。何れいい殺し合いをしよう、ライディーン」

 

「……ライディーンイーグルだ。イーグルとでも呼んでくれ」

 

 一応、ライディーンの名は総称なので、本来の呼び名を教えておく。無駄な戦いは嫌いなのだが、取り合えず顔を知られなければ……

 

(無理か)

 

 この街で暴れられても叶わない。そう考えれば受けるしかないが……せめて時間と場所程度は予め決めてから初めて欲しい。飛び去っていく白龍皇の背中を見送りながらそう思うイーグルだった。

 

 さて、コカビエル対策の魔王が来る前にさっさと帰ろうとした時、

 

「っ!?」

 

 突然感じた殺気に反応して其方へとイーグルソードを向け、振り下ろされた一閃を受け止める。

 

「……何の心算かはその剣を見れば大体想像出来るけど、一応聞いておこう……。先代のイーグルが神を殺した事か?」

 

「ああ。絶望したさ、私の今までの人生は何だったのか、とな」

 

 聖剣デュランダルを受け止めながらイーグルはその剣の持ち主、ゼノヴィアを見据える。

 

「それも、全てお前が!!!」

 

「そうだな、神を殺したのは先代とは言えライディーンイーグルだ。無関係……なんて無責任な事を言う気は無い。だから」

 

 連続で振るわれるデュランダルの剣戟をイーグルソードで受け止めながらイーグルはゼノヴィアの言葉に答える。

 

「神と言う言葉に操られる人形じゃなくて」

 

 受け流したデュランダルが校庭に叩き込まれ、更に深く埋めるようにイーグルが踏みつける。

 

「人間として新しい人生を生きるならオレの所に来れば、出来る限りの協力はしてやる」

 

「待て!」

 

「鳳勇気。この学校の生徒で……外の生徒会長さんに聞けばオレの住所くらいは分かるだろう」

 

 背中の翼を広げて上空に逃れたイーグルに向かって叫ぶゼノヴィアにイーグルは己の名を名乗る。

 ……生徒会長……と言うよりも生徒会にはライディーンの事は教えていないが、入学当時から眠り続けている幼馴染の事で世話になっているので、住所程度は知っている。……彼女が眠り続けている理由は未だに原因不明となっているので真相は未だに分かっていない。

 

「って、勇気! お前、勇気だったのかよ!?」

 

「いや、お前に名前で呼ばれるほど親しかったとは思わなかったけどな、兵藤」

 

「うっせー! 何時も何時も、オレ達の邪魔ばっかりしやがって」

 

「……覗きが見つかった時に捕縛の手伝いしたり……校内に隠してあるエロ本の事を生徒会に報告したりとかか……?」

 

 例によって眠り続けている幼馴染の事に対するお礼から肉体労働面……主に放課後までの時間帯で生徒会の手伝いをしているのだが、何故か全体的に一誠と他二人の彼の友人達に関係する事が多い。

 

 一部身内からも呆れた様な視線を向けられているのにも気付いていない。ぶっちゃけ、校内に隠されていた品物は全部焼却済みだったりする。

 他にも、校門前での抜き打ち検査の際に持ち込んだその手の本やDVDを守る為にあの手この手で隠そうとしていた彼等の手から取り上げた事も何度もある。……よく手伝っているので。

 

 そんな事も手伝ってか、勇気は駒王学園の中では実はそれなりに女子からの人気も高いのだ。

 

「そう言う訳だ、オレはこれで失礼する」

 

「っ!? 待ちなさい!」

 

 呼び止めるリアスの言葉を無視してイーグルは結界を切り裂きながら飛び去っていった。

 

 

 




現在決まっているライディーンはイーグルを除いて五人までだったりします。残りはどうしよう……。

それはそうと、本作は漫画版をベースにアニメ版も実は五割ほど含めて、『超者』以外のライディーンのネタも組み込んでいます。具体的に言うと……某海賊ガンダムの作者のゴッドバードのネタとか。
主に……ゴッドライディーン救済計画の為に。


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ハイスクールD×A 鋼翼の反逆者 その4

「それで、貴方は一対何者なの……?」

 

 翌日の学校……時は放課後、勇気は思いっきりオカルト研究部の部室でリアスに問い詰められていた。

 まあ、内容は昨日のコカビエルとの一件だろう。神を殺した張本人だったり、自分達が手も足も出なかったコカビエルを(神殺しと堕天免除の特権の)ショックが合ったとは言え一方的に勝利した事に対する事等色々な事に対しての質問だろう。

 

「かつての天使族の勇者にして最悪の反逆者、戦闘天使ライディーンの後継者になった人間」

 

 簡潔すぎる答えで、全部既知の事だ。実際、コカビエルを倒し、白龍皇が去ってイーグルが飛び去った後……木場に対する尻叩き千回が終った後に到着した魔王にリアス達はライディーンが何者なのかは聞いている。

 ……なお、タイミングの問題で生徒会の方には今朝の内に既に説明済みだったりする。重ねて言おう……会長の方には世話になっているのだ、色々と。

 

「……貴方、人間よね?」

 

「ええ。オレの神器(セイクリッド・ギア)反逆の天使達の翼(ライディーン・フェザーズ)に封じられているライディーンの力と知識を受け継いで……」

 

 そう言って後ろから勇気を睨んでいる一誠を一瞥して彼を指差して、

 

「あいつが神器の影響で元人間の転生悪魔であると同時にドラゴンでもある様に、オレも人間であると同時に天使でもあるって所だな」

 

 超者降臨によってライディーンに変身した姿はどちらかと言えば禁手(バランス・ブレイク)に近いらしい。付け加えて言えば、勇気の持つ神器は聖書の神が生み出したモノでは無く、神を討った後にライディーン達が神器の設計図に当たる物を元に、“ある物”を自分達諸共封印する為に作り出したもので、色々と本来の神器とは多くの差異が有る。

 実は反逆の天使達の翼(ライディーン・フェザーズ)の能力はそれだけでは無いのだが、そこまで言う必要は無いだろう。

 

「本当に神を殺した神器なんて……本当の意味での神滅具(ロンギヌス)ね」

 

「んー……イーグルの知識に寄れば、イーグルがカミサマ殺したのは丁度神滅具(ロンギヌス)が出来た後だったらしいけどな」

 

 そこまで言った後再び一誠へと視線を向けて苦笑を浮べる。

 

「本来、神滅具(ロンギヌス)なんて物騒な名前を与えられているけど、本来の役割はもっとたちが悪い代物だったらしいな……」

 

「……何処まで知っているの?」

 

「先代イーグルの知っている知識だけ……。分かり易く言えば先代イーグルの『記憶』を図書館の本の様に閲覧できる感覚だな」

 

 その中には神滅具(ロンギヌス)を作り出した(本作に於ける)理由も存在していた。思い浮かべるのは、一つのイメージ。イメージだけの最悪のビジョン。ゴッドライディーンと無限と夢幻の剣と盾。宇宙を滅ぼす力を秘めた翼を持つ巨人と最強の力を秘めた剣と盾……それを操る神によって管理される世界。

 神滅具(ロンギヌス)はその世界に於いて人間に与えて自らの代行者として人を支配させる為の道具。

 そして、堕天使や悪魔はライディーンが神の代行として管理する。

 それが、イーグルの手によって討った神の考えていた“完璧な世界”のビジョンだった。

 

「教えて貰えるかしら?」

 

「NOだ。あんまり知りすぎるのも良くないと思いますよ、先輩」

 

 知った所で計画していた張本人が死んだ今、なそうとしていた一種の悪行を暴露する必要もないだろうと言う判断だ。自分も当事者である先代イーグルでは無い上に、相手の死後に言い触らす趣味は無いのだ。

 

 何より、下手をしたら自分達の存在を消してまでも封印したかった『ゴッドライディーン』の存在も教える必要が有る為に、神の死の真相は……イーグルが殺した事以外には同じライディーン以外には何者にも教えるべきではないと認識している。

 相手が何者であっても、だ。寧ろ、ゴッドライディーンの事を考えると絶対に教えないほうが良いだろう。

 

 リアスも何か言いたそうだが何も言えずに居た。はっきり言って自分達が手も足も出なかったコカビエルを倒した相手、そして教会の聖剣使いであるゼノヴィアも居らず……相手が敵対する気なら昨夜のコカビエルの時以上に絶望的だろう。

 

「で、何か言いたそうだな……赤龍帝?」

 

 そう言って先程から己を睨んでいる一誠のほうへと視線を向けてそう問いかける。

 

「昨日言ってた、堕天しないとか、特権とかってどう言う意味だよ!?」

 

「ライディーン達が強いから。敵に回したら自分達が負けるほどに……な」

 

 簡潔に言い切る。堕天した天使の行きつく先は天界の敵、戦闘に特化した天使であるが故に神のシステムからの例外とされていた。

 

「要するに、だ。神の死の手掛かりになる得るものはすべて異分子として排除する。……天界の(天使)達の考えそうな事だ」

 

「一応、自分も天使なのに随分と酷い言い様ね」

 

 吐き捨てる様に言い切る勇気にリアスはそんな疑問の声を向ける。

 

「天使って言っても、オレのは一割程度……主成分は人間だ。それに……《神様~》って言って思考停止してた連中とは、先代達も折り合いが悪かったらしいからな。所詮、自由に天空を舞う事を愛する鳥と、人に飼われる事を好んだ飼い犬じゃ、考え方が合わないのも当然だろ?」

 

 そう言って首を振る勇気の姿にリアスは思わず頭を抱えてしまう。……かつての大戦の中で『天界の勇者』と謡われたライディーン。

 そんなビックネームが後継者とは言え自分の領地……所か同じ学校で後輩に居たのにも気付かなかったのだから。唯一の救いは何度も彼が言っている『九割は人間』と言う点くらいだろう。

 

「まあ、簡潔に言うと、オレは聖書の神の死の真相を含めて、全てを『知識として』知っていると言うことくらいだな」

 

 実行犯の記憶を受け継いでるんだから当然の話だ。悪魔SIDEとしては聖書の神の死の真相は知りたい事柄だが、知っている相手は……コカビエルを倒したライディーン。力尽くで、と言う手段は考えるだけ危険だろう。

 

「それで、こっちからも聞きたいんだけど……堕天使の幹部相手に聖剣使い二人しか派遣してなかった、お目出度い頭のボス狗は何て言ってる?」

 

 どうも天使側の行動を知れば知るほど嫌悪と言う感情が浮かぶ。……一応気をつけているが、同類嫌悪に近い感情だろう……一割ほどの。

 

「天使、と言うよりも教会は今回の事で、悪魔側……つまり魔王に打診してきたそうよ。『堕天使の動きが不透明で不誠実のため遺憾ではあるが、連絡を取り合いたい』と」

 

(確かに……二度も部下が魔王の妹の治めている土地に入り込んでる時点で、次の戦争の引き金を引きたいのかって思われても当然だな。……にしても)

 

 ふと、視線がリアスの方へと向く。見とれているとかそう言う意味では無く……

 

(もしかして、この人……舐められてる?)

 

 そう言う結論に行き着いてしまう。まあ、その思考で生徒会長の方を考えないのは、直接戦闘に向いていると思ってないからだろう。寧ろ彼女の場合は頭脳労働の方が得意分野だろうし。そんな事から迎え撃つ側のリアス達が舐められているのでは、と言う考えにいたる。

 

「どうしたの?」

 

「いや、別に」

 

 彼の視線をどう言う風に考えたのかは分からないが微笑を浮べて問いかけてくるリアスに、かなり酷い事を考えていたという自覚が有るだけに慌てて視線を逸らす勇気。傍から見れば誤解を生む態度だろう。

 

 

『それと、バルパーの件についても過去に逃した事に関して自分達にも非が有ると謝罪してきました』

 

 

 そう言いながら『匙 元太郎』を伴ってオカルト研究部の部室に入ってきたのは生徒会長の『支取 蒼那』……正しくは現魔王の一人『セラフォルー・レヴィアタン』の妹の『ソーナ・シトリー』と言うべきだろうか。

 

「……あっ、生徒会長さん」

 

「ソーナ会長、匙、今朝振り」

 

 そんな彼女達の姿に気付いて挨拶するアーシアと勇気。だが、続いて入って来た相手に一誠とアーシアの表情が驚愕に染まる。

 

「やあ、赤龍帝」

 

「ゼノヴィア!? なっ……なんでお前が此処に!?」

 

「あー……無事に転校できたんだな」

 

「ああ。神が居ないと知ったんでね。破れかぶれでライディーンの仲間になることにした」

 

「そっ、オレの仲間になってくれるらしい」

 

「「ええええええええええええええええ!?」」

 

「まあ、オレの神器、ライディーン・フェザーズは適合者の居ない十人のライディーンのゴッドフェザーも内包している。……適合者でも気を失う程の苦痛に耐えられれば新たなライディーンになれる」

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!』

 

 そこで再び絶叫が上がる。……全員が絶叫した時点でゼノヴィアが勇気の仲間に成ったと言うこと以上に驚きは大きい様子だ。

 一度に全員の適合者が現れないのは封印のための処置だが、それでもライディーンの力を必要とする自体は起こりうる。これに関してはその為の処置だ。

 

「まあ、今世でライディーンの正式な後継者は……オレ以外に一人だけの様子だな」

 

 そう言った勇気の手の中に現れる輪を描くように存在する反逆の天使達の羽(ライディーン・フェザーズ)を構成する八枚の羽……ゴッド・フェザー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ハイスクールD×A 鋼翼の反逆者 その5

「なあ、何が有ったんだよ……ライディーンになったって?」

 

「ああ。反逆の天使達の羽(ライディーン・フェザーズ)は本来『ゴッドフェザー』と呼ばれる羽10枚の集合体。だけど、それは正式な所有者が誕生するまでの一時的な管理に過ぎない。……やろうと思えば、後天的にライディーンに変えることも出来るんだ」

 

 そもそも、ゴッドフェザーは神器(セイクリッド・ギア)であって神器(セイクリッド・ギア)ではない。ライディーン達が聖書の神を討った際に入手した神器(セイクリッド・ギア)の情報から作り出したイレギュラーな代物。通常の物とは異質であっても仕方ないだろう。

 

 今回勇気がゼノヴィアを新たなライディーンへと変身出来る力を与えた事もその一つだ。同時にゼノヴィアが12の『ゾディアックオーブ』の一つを管理する事となったのだが、其処までは話すことは出来ない。

 

「それじゃあ、例えばオレでもライディーンになれるのか?」

 

「無理だな」

 

 即答だった。

 

「そもそも、ライディーンへの転生は人間からしか出来ないらしいからな」

 

 転生悪魔と言っても悪魔であることには変わりなく、天使や堕天使からのライディーンへの転生は、元々天使なので無理……と言う訳だ。

 

「デュランダルの使い手が仲間に居るのは、頼もしいわね」

 

「まあ、デュランダルの使い手……と言う点はオレとしてはどうでも良いけどな」

 

 手の中に現れるのはイーグルソード。ライディーン達の武器はライディーンへと変身していなくても、元々並の聖剣や魔剣を遥かに超える代物だ。『天使族の勇者』『最強の戦闘天使』と謡われた力の一部だ。

 各々のライディーン達の力によって生み出された専用武器……特にイーグルソードは『斬れぬ物無し』と豪語できるほど……過去の戦いの折にはドライグの体を切り裂いた強力な武器でも有る。

 

 ……そんな訳で勇気が取り出したイーグルソードを見て一誠の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の中で結構本気でドライグは怖がっていたりする。龍殺しすら宿していないが……龍殺しでもない武器で切り裂かれて負けたのだからかもしれないが。

 

「そうなの。私も彼女を眷属に誘ったんだけど、残念ながら振られちゃったわね。彼女が眷属になってくれれば『騎士』の駒で祐斗と共に、剣士の二翼が誕生したんだけど」

 

「……つい最近会ったばっかりのオレが言うのもナンたけど……ゼノヴィアって騎士よりも戦車の方が向いてないか?」

 

 何気なく言った勇気の一言に……場の空気が凍りついた。……そう言われてリアスは会った時からのゼノヴィアの戦い方、及び言動を思い出してみる……。

 

「………………確かに戦車の方が向いてそうね……」

 

「理解してもらえて幸いだ」

 

「失礼だな!」

 

 内心、『パワーバカ』と言うフレーズが浮かんで来る中、そんな会話を交わす二人に若干涙目で怒るゼノヴィア。

 

「と……ところで、イリナは?」

 

「イリナ?」

 

 初めて聞く名前に思わず聞き返してしまう。そもそも、勇気が参戦したのはコカビエルとの決戦のみで、それ以前の事は知らない。

 

「ああ、『紫藤イリナ』。オレの幼馴染で、ゼノヴィアと一緒にエクスカリバーの奪還に来たんだよ」

 

「……エクスカリバー? ああ、あの有名な……教会の連中のせいで血塗られた聖剣にされた哀れな剣か。まったく、飼い主が下衆なら犬も似るな」

 

「一応、天使なんじゃないの?」

 

「あいにく、ライディーンは裏切り者なんで」

 

「確かに裏切りたくもなるな。あんな奴を信仰していたとは、本当に今までの人生を無駄にした気分だ」

 

 吐き捨てる様に言い切る勇気にリアスが苦笑しながら言うと、勇気の言葉に同じくライディーンの知識からライディーン達が戦った聖書の神の事を知ったゼノヴィアも同意する。リアス達としては、彼等の知っている聖書の神がどんな者だったのか心底気になるところだ。

 まあ、複雑な表情をしているアーシアについては気付いていない様子だが……。

 

 そして、勇気としてはエクスカリバーに対してはかなり同情的である。

 かつて、アーサー王が騎士道に反する行為をした事で折れた『カリバーン』を打ち直した物が『エクスカリバー(EXカリバーン)』と言われている。ならば、聖書の神が手にして折れたのは……意に沿わぬ者に使われた事に対する抵抗だったのではないかと考えている。

 だが、教会によって複数の聖剣として作り直されたエクスカリバーは望まぬ多くの血を吸わされた。仮にエクスカリバーに意思と言うものが有るのならば、既に気が狂うほどの絶望を味わっているのかもしれない。

 

「そうそう、イリナなら私のエクスカリバーを合わせた五本とバルパーの遺体を持って本部に帰った。破壊はしたものの、奪還の任務には成功したわけだよ。芯が有れば錬金術で再び聖剣にできるからね」

 

(哀れな聖剣の解放のために……その内天界なり教会なりに乗り込んで、エクスカリバーの核を完全破壊するか)

 

 誰も知らないところで、かつての最強の戦闘天使(ライディーン・イーグル)による天界&教会の襲撃が確定した。そんな、勇気の内心は知らず、ゼノヴィアがソファーに座ると勇気も促される。

 

 飽く迄リアス達が主となった一件なので、ある意味報告を受ける立場であるソーナも黙って彼等の会話に耳を傾けていた。

 

「エクスカリバーを返して良いのか?」

 

「一応アレは返しておかないとマズい。デュランダルと違い使い手は他に見繕えるからね」

 

(何処までも玩ばれてるか……。昔から見たら、比べ物に成らないほど落ちぶれているよな)

 

 一誠の問いに答えるゼノヴィアの言葉から、騎士王を選定する剣から使い手を見繕えると言われている今のエクスカリバーの姿に心底同情する勇気だった。

 

「今の私にはデュランダルと……ライディーンの武器があれば事足りる」

 

「まあ、そっちは剣じゃないから、特訓は必要だけどな」

 

「ああ。使い方は先代の知識が教えてくれているが、やはり使いこなすにはまだ掛かりそうだ」

 

 そう、ライディーンの中で剣を武器にして居るのはイーグルとクロウだけだ。そして、クロウのゴッドフェザーは勇気の元には無い。……それから分かる事は、既にクロウが覚醒していると言う事だ。

 

「てか、教会を裏切って良いのか?」

 

「あちらに神の不在を知った事に関して述べたら、何も言われなくなったよ。私は神の不在を知った事で異分子になったわけだ。教会は異端を酷く嫌う。たとえ、デュランダルの使い手でも見捨てる」

 

 既に聖書の神の信実を知っていたとしても、長く使えてきた教会に見捨てられたと言う事は、彼女の心に深く突き刺さっているのだろう。勇気は、沈んだ表情をしているゼノヴィアを元気付けるように撫でる。

 

「ところで、彼女のことは話さなくて良いんですか?」

 

「……そう言えば、ゼノヴィアにも話した方が良かったな。……オレが会長に世話に成っている理由……オレの幼馴染の事について」

 

 取り合えず、落ち込んでいるゼノヴィアに対して気遣う意味を込めて話を一時変えることにする。話題としては丁度良い。

 

「幼馴染?」

 

「ああ、一誠は知ってるだろ? 一年の頃から休んでいる女の子の事……オレの幼馴染、『御園 千莉』の事を」

 

「ああ、あの子……あの子がお前の幼馴染だったのか!?」

 

 勇気が話すのは彼の幼馴染『御園 千莉』(外見は大図書館の羊飼いの同名キャラ)の事。

 

「ライディーン達が神器のシステムを利用して封印した物を宿してしまったため、その力が発動する条件が揃ってしまった為に眠り続けている……オレの幼馴染だ」

 

 彼女が宿しているのは『双子座のゾディアックオーブ』。ゾディアックオーブの中で唯一神器としての機能を付加されて封印された品だ。……それが力を発動する条件は二人以上のライディーンの正当な継承者の誕生で有る為に、イーグルとクロウの誕生が彼女が眠り続ける状況を作った。

 

「既に一年も眠り続けているのに、筋力の衰えも無く眠っている異常な症状……。目を醒ませば直ぐに今まで通りに生活できる状態を維持している。その信実は、ゾディアックオーブの力でそうなっているんだよ。……当然、目覚めさせる方法も知ってる」

 

 方法も、理由も知っている。だが、それを実行することはできない。

 

「だったら、早く起してやればいいだろ、何でしないんだよ?」

 

「イッセー……お前はオレに……何も知らない、罪も無い女の子を一人、殺せって言うのか?」

 

 信実を知らないが故の一誠の問い。簡潔にその理由を言い放つと場の空気が凍りつくのだった。

 

 

 




アニメ版超者ライディーンの宮坂瑠璃の立ち居地としてのオリジナルキャラです。まあ、大図書館の羊飼いの同名の彼女をイメージしてください。まあ、終盤まで眠り続けているので出番は少なめです。

なお、双子座のゾディアックオーブは神器(セイクリッド・ギア)として、魚座のゾディアックオーブは宝石として、他のゾディアックオーブはゴッドフェザーと共にライディーン達が管理していると言う設定です。

序でに勇気君、エクスカリバーに対しては同情的です。

なお、本作での聖書の神のイメージは超者ライディーンの超魔のボスのルーシュ・デモンですので、原作の聖書の神とは一切関係はありません。ゴッドライディーンの悪用したのは、こいつなので。


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ハイスクールD×A 鋼翼の反逆者 その6

かつて、神と魔王が命を落とした戦争よりも以前、天界に一組の兄妹が居た。兄の名はライディーン、妹の名はセイラ。セイラはその優しさ故に堕天したと言われている。一人の悪魔を愛し、二つの種族の争いを終わらせる架け橋になろうとした妹を兄は快く見送った。

 

そんな、本来ならば悪魔と天使の架け橋になったはずの貴族の家系の名はバラオ家と言い、当主は多くの領民に慕われ当時の魔王達からも信頼されていた家系だった。

 

だが、その家に最悪の超越者が生まれた。その名はルーシュと言う。バラオ家の領地を本当の地獄へと変えた者は自らを悪魔を超えし者と名乗り、ルーシュ・デモンと名乗り、冥界を支配しようと動き出した。だが、その野望も当時の魔王に討たれる事で絶たれたとされている。だが、ルーシュは魔王との戦いの中で一度も超越者としての力を見せて居なかった。

 

それ以降バラオ家の名は悪魔の間から忘れ去られ、ルーシュ・デモンの名と行いは禁忌の存在として魔王達のみに伝わる警告として伝えられている。

 

悪魔を超えし存在、超魔と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院の一室、其処に勇気の姿が有った。ベッドの上で眠っているのはそろそろ一年にもなる幼馴染の少女。

 

「また来たよ、千莉」

 

 語りかけても彼女は何も話してくれない。……高校に入学してから部活にも所属せずに毎日こうして彼女のお見舞いに訪れている。……何時でも彼女が目覚めても良い様に。

 

「千莉は望まないだろう……オレが君の為に罪のない女の子を一人……殺すなんてマネは」

 

 例えそれが彼女を目覚めさせる唯一の手段であっても、勇気にそれを選ぶ事はできず、また目の前で眠り続けている彼女もそれを望みはしないだろう。分かっているからこそ、勇気は迷っている。

 

「髪……伸びてないよな。切っている訳でもないのに」

 

 ゆっくりと髪を撫でる。彼女が入院した時から伸びた様子もなく、手足も衰えている様子もない。……それは衰えや成長も見せない彼女の姿は、時の流れから取り残されたようにも見える。

 

 それこそが彼女の眠りが奇病と呼ばれる由縁だ。本来なら面会謝絶になりそうな物だが、勇気がお見舞いできるのは、彼女の症状が他者に感染する危険がない事や、ソーナ会長の力を借りている為だ。

 

 自分は彼女が眠り始めた頃よりも成長しているのに、彼女はあの時のまま眠り続けている。時の流れから取り残された彼女をこのままにはしておけない。手段は有る。だが……決断するのは早い方が良い……悩みすぎては彼女はこのまま永遠に……。

 

 勇気の腕に浮かび上がるゴッドフェザー状の痣。それが四季がライディーンである証だ。彼女がこうなった理由は知っているが、何も出来ない……。

 

「話したい事は沢山有るけど……また来るよ」

 

 学校で渡されたプリントを彼女の枕元へ遠く。そこでふと、そろそろ授業参観が有るのかと思う。

 

(オレには関係ない話だよな)

 

 両親は仕事の都合で海外に行っている為に連絡はしていない。自分にとって両親よりも長い付き合いの相手である千莉が眠り続けている事での孤独を感じずには居られない。…………筈なのだが、

 

「って、そう言えば最近は騒がしくなったな」

 

 後天的にライディーンになったゼノヴィアの存在である。千莉が目を醒ましたら良い友達になってくれるなと思うと自然と微笑が浮かぶ。

 

(……まあ、オレも少しは救われているって事か)

 

 勇気もライディーンの仲間が増えたという事で少しだけ心が軽くなった事を感じている。神を裏切り、かつての仲間が賛同者として加わってくれた時のイーグルはこんな気持ちだったのかと思う一方、イーグル達五人のライディーンと刃を交えたクロウを中心とした五人の『ハーツライディーン』と呼ばれていたチーム。そんな二組のライディーン達が刃を交えている姿が脳裏に浮かぶ。

 

 それが、一誠がアーシアとリアスに挟まれて鼻血を出したりしている頃の勇気の姿だった。

 

 

 

 

 

 

「冗談じゃないわ!」

 

 今日も千莉のお見舞いに行こうとした勇気が一誠達に捕まり、オカルト研究部に連れてこられた日、リアスが机に両手を叩きつけながらそう叫ぶ。

 

「堕天使の総督が私の縄張りに侵入し、私の眷属に接触していたなんて……!」

 

 一誠が言うには此処最近連日召喚されている人が居て、たいした事のない願いに反して大きな対価をくれる上客だったらしい……。

 先日……最も新しく呼ばれた時、ゲームの相手として呼び出された際にその正体……堕天使総督の『アザゼル』と名乗ったそうだ。

 

(単なる悪戯なんだろうな……)

 

 コカビエルを勇気が変身したイーグルが討ち、その羽を白龍皇が持ち帰った後……念の為にイーグルの知識の中に有る『アザゼル』と言う相手の事を調べてみたが……悪戯のような事はするが、コカビエルのような事はしない男だと言う事が分かった。

 イーグルも大戦を戦い抜いた戦闘天使のリーダーで有り、その記憶の中にはアザゼルと言う相手の情報もあった。

 

「大丈夫よ、私が絶対守ってあげるわ」

 

 リアスが一誠の肩に手を置いてそう言っているが、

 

「……オレに何の用なんだよ?」

 

 放っておいたら何時まで経っても話が進まないと思い、多少空気を読めない発現をしてみた。

 

「ええ、残念だけどコカビエルに勝てなかった私達ではアザゼルには絶対に勝てないわ、白龍皇にもね」

 

「それで、オレに何の関係が有るんだ?」

 

 大体分かってきたが、一応沿う聞き返しておく。

 

「アザゼルも白龍皇も一誠を狙って私達の前に現れる可能性が高いわ。だから……その時は私達に貴方とゼノヴィアの手を貸して貰えないかしら?」

 

 対アザゼル・白龍皇対策として、彼らに勝てるであろう力を持った……最低でもコカビエル以上の実力を持った勇気の力を貸してもらいたいと言う事だ。

 白龍皇は赤龍帝との間に有る因縁ゆえに……アザゼルは、

 

「アザゼルは神器(セイクリッド・ギア)に造詣が深いと聞くからね」

 

「やっぱ、オレの神器(セイクリッド・ギア)を狙っているのかな?」

 

 木場の言葉に一誠は己の手を見ながらそう呟く。リアスが危惧しているのはアザゼルが一誠の神器を狙っていると言う可能性だ。

 

「それに貴方の物もそうよ」

 

「確かに……オレのは神以外が作った始めての神器だからな」

 

 神器マニアとしては是非とも研究してみたいのだろう。恐らくだが、勇気の神器と通常の神器を比較すれば、人工的に神器を新造できる可能性も出てくるだろう。そう考えるとリアスの言葉も満更冗談には聞こえない。

 

「そう言う訳で、貴方も私達と協力した方がいいと思うわよ」

 

「そう言う事か」

 

 互いの利益の一致から同盟……協力関係を気付こうと言う事だ。確かに元々ソーナ達シトリー眷属と同盟に近い間柄を結んでいる勇気にとって悪い話ではなかった。天使等と言う事に拘りは……最初から持っていないのだし。

 

 

 

 

 

 



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ハイスクールD×A 鋼翼の反逆者 その7

「別に良いぞ」

 

「良いのか?」

 

「アザゼルだけなら二人掛かりなら戦えるだろうけど、白龍皇がセットとなるとな」

 

「確かに」

 

 勇気の判断に疑問を浮べるゼノヴィアだが、流石に今の勇気は先代のイーグル程力を使いこなしていると思っていない。それでも、ゼノヴィアと一緒に戦えば戦えはするだろう。だが、そこに白龍皇が加わるとなると話しは別だ。

 

(『白い龍《バニシング・ドラゴン》』……既に完全な禁手(バランス・ブレイク)状態だった。現時点じゃ圧倒的にオレの方が弱い。何時か戦うことになる存在、白龍皇アルビオン、次に出会うまでに少しでも差を埋めなければ……)

 

「確実に死んで終わりだろうな」

 

 一誠が己の宿敵となるべき相手の事を考えていると、そんな彼の考えを呼んでいる様に勇気がそう呟く。

 

「って、おい!」

 

「分かり易いぞ、考えてる事。ところで、アルビオンは堕天使側なのか?」

 

 一誠の言葉に答えつつ勇気はゼノヴィアに問いかける。元々天使側の所属だった彼女なら、少しはアルビオンの事を知っているかと思ったからだ。

 オリジナルの白龍皇アルビオンの事も残念ながら勇気の中にある先代イーグルの記憶の中にも詳しくは存在して居ない。そもそも、アルビオンと戦ったのはイーグルではなく『ライディーンクロウ』の方だ。

 

「そうだ。アザゼルは神器(セイクリッド・ギア)所有者を集めている。『白い龍《バニシング・ドラゴン》』はその中でもトップクラスの使い手。『神の子を見張る者(グレゴリ)』の幹部を含めた強者の中でも四番目か五番目に強いと聞く」

 

「最低でも五番目か……」

 

「だが、伝説の戦闘天使のリーダー……その中でも一騎打ちで二天龍を倒したといわれる君なら負けないだろう?」

 

「いや、流石に先代と同等、なんて言えないからな。まあ、白龍皇は確実に今の一誠じゃ負けるレベルか」

 

 内心で戦闘狂いみたいな事を言っていたから、興味は自分に移っているだろうと思っているが、一応そう忠告しておく。……神器所有者としての経験の差も有るだろうが、あの時出会った白龍皇にはまだ何か、一誠との間にある大きな差と言うべき“才能”の根底にある物が有ると思えてならない。

 

「なんか……お前がそう言うと本気で不安になるな」

 

「大丈夫だよ」

 

「えっ?」

 

 目の前でコカビエルを倒した勇気が弱気な発言をしていると本気で不安を覚える一誠。だが、そんな彼に木場が声を掛ける。

 

「僕がイッセーくんを守るからね」

 

「うわぁ……」

 

 胸を叩きながらの木場の発言に引き気味の勇気……。普通は異性に言うべき台詞だろうと思うが……何時だったか、クラスの女子の間でこの二人の同性愛疑惑が持ち上がっていたのが思い出される。

 

「いや、あの、うれしいけどさ……。なんて言うか、魔顔でそんな事を男に言われると反応に困るぞ……」

 

「笑えば良いと思うぞ」

 

「なんでだよ!」

 

 とりあえず、適当な事を言って視線をそらす勇気。誰だってそんな物に巻き込まれたくない。自分に矛先が向く前に、さっさと収まるべき所に収まってくれと思う。

 

「あはは、酷いな。イッセー君は僕を助けてくれた僕の大事な仲間だ。仲間の危機を救わないでグレモリー眷属の『騎士(ナイト)』は名乗れないさ」

 

(なるほど、そう言う事か)

 

 木場の言葉を聞きながら先ほどの考えを心の中で謝罪する。

 

「……ふふ、少し前まではこんな暑苦しい事を口にするタイプではなかったのに。君と付き合っていると心構えも変わってしまう。けれど、それがイヤじゃないのは何故だろう」

 

 

 

―ゾク―

―ピシッ―

 

 

 

 頬を赤らめてそう言う木場に背筋に寒いものが奔る一誠と、直接言葉を向けられているわ蹴れでは無いが明らかに同性愛な発言に石化する勇気。そして、思いっきり心の中の考えを撤回する。

 

「胸の辺りが熱いんだ」

 

 全力で木場から距離を取る勇気。……そんな感情を向けられているのが自分では無く一誠だが、流石に引く。

 

「……き、キモいぞ、お前……。ち、近寄るな!」

 

「そ、そんな、イッセーくん」

 

 そう言って逃げる一誠の進行方向には勇気の姿が。

 

「そ、そんなこというものじゃないぞ。仲間なんだからさー」

 

 思いっきり棒読みな言葉で一誠を木場の方へと押し返す勇気。……流石に同性愛疑惑が湧きそうな台詞を言うのは当人同士の勝手だが、なるべく近くで言わないでほしい。

 

「しかし、どうしたものかしら……あちらの動きが分からない以上、此方も動きづらいわ」

 

「だったら部長さん、偶然を装ってオレが接触しようか?」

 

「確かに貴方なら十分に対応できるかもしれないけど、相手は堕天使の総督、下手に接する事も出来ないわね」

 

 それだけではなく、流石に自分達の領土で協力関係とは言え、他勢力の者に対応させたとなってはこの地の管理を任されているものとしてどうかと思うが。

 どうも先代イーグルの記憶の中にあるアザゼルの性格を考えると、特別此方を害する事を考えていると言う訳では無さそうだが、

 

 

『アザゼルは昔からああいう男だよ、リアス』

 

 

 そんな第三者の声が響いた。その声に反応して全員の視線が其方へと向かう。その中でも、リアス、朱乃、木場、小猫と言った一誠よりも前に眷属になった者性質の表情には驚愕の感情が浮かんでいる。

 

「アザゼルはコカビエルの様な事はしないよ。今回みたいな悪戯はするだろうけどね。しかし、総督殿は予定よりも早い来日だな」

 

(予定?)

 

 其処に居たのは銀髪のメイドさんを従えた赤い髪の男性……。

 

(わっ、スゲー美人。それにしても、赤い髪か……部長さんの身内か?)

 

 流石に男の子、男性よりも美人な女性に視線が行くのは男の性だろう……。だが、直ぐに意識を声の主へと切り替える。そんな勇気に微かに不機嫌な色を見せるゼノヴィアと……病院で眠っているはずの歌姫様。

 

「お、お兄様!?」

 

「お兄様って事は……この人が四大魔王の一角、『サーゼクス・ルシファー』」

 

 リアスの眷属一同が慌てて頭を下げる。それに対して勇気とゼノヴィアには緊張が走る。ライディーンが今の展開とは関係ないとは言え、元は天使……仮にも悪魔のトップを目の前にすれば警戒せずには居られない。

 

「君があのライディーンイーグルの後継者かい?」

 

「ええ、始めまして、魔王様。一応『二代目ライディーンイーグル』となる、鳳勇気と言います」

 

 そう言って一礼する。流石に敵対しても勝てるかと疑問に思える相手を前にしては警戒するだけ馬鹿らしいと割り切ってしまう。

 

「なるほど……どこか、あの時に見た彼の面影が有る」

 

 そんな勇気の顔を見ながらサーゼクスは何処か懐かしむように呟く。

 赤龍帝ドライグとの壮絶な一騎打ちを制し、神による封印へと導いた二組の戦闘天使達のリーダーの一人。天界の勇者と謡われたほどの戦士の後継者の姿に対し、何か思うところが有るのだろう。

 

「出来れば、彼とも平和な時に話してみたかったものだ」

 

 誰にも聞こえないほど小さく、サーゼクスはそう小さく呟くのだった。

 

 

 

 

 



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ハイスクールD×A 鋼翼の反逆者 その8

「今日はプライベートだ、楽にしてくれ」

 

 跪くリアスの眷属一同に気さくにそう言いながら、ソファーに腰掛けるが勇気は内心で先ほどのサーゼクスの言葉を思い出す。

 

(『予定より早い』?)

 

 まるでアザゼルが駒王町に来る事を知っていたかのような言動……それが引っかかる。

 

「お、お兄様はどうしてここへ?」

 

 そんな兄に問いかけるリアスだが、それは勇気も思っていた疑問だ。……四人の魔王の一人が出てくると言う事態が思い浮かばないのだが、

 

「何を言っているんだ?」

 

 そんな勇気の疑問を他所にサーゼクスは胸ポケットから一枚のプリントを取り出す。

 

「授業参観が近いのだろう? 私も参加しようと思っていてね。是非とも妹が勉学に励む姿を間近で見たいものだ」

 

 100%プライベートな理由で思わずずっこける勇気とゼノヴィアだった。

 

「そ、そう言えばそろそろそんな時期だったけど……」

 

「い、良いのか、そんな理由で魔王が……」

 

「ははは、新しく現れたと言う二代目のライディーンに興味も有ったからね」

 

 朗らかに笑いながら告げられる言葉に、改めて自分が受け継いだ名が重すぎる物だと言う事を理解する。確実に正式に存在を明らかにしてしまった事で天使、堕天使、悪魔の三勢力から強い注目を集める事は、間違いないだろう。

 そんなライディーンと現在、友好的な関係を築いているのは天使側ではなく、悪魔側のソーナと言うのだから、それぞれの勢力はリアクションに困る事だろう。

 

(あー、そう言えば父さんも有給取ってまで来ると張り切っていたな。俺じゃなくてアーシアを見る目的で……)

 

 内心でそんな事を思い出す一誠。彼の家での一誠の扱いの差が良く分かる意見である。

 

「そう言えば、君はどうなんだ、勇気?」

 

「いや、流石に来れる距離じゃないしな……」

 

 海外で仕事中の放任主義な両親に対してそんな事を思う。実際、現在進行形でゼノヴィアを居候させている状況をなんと説明するべきかとも思うが、それはそれ……何時帰ってくるか分からないので、それまでに考えれば十分だろうと思う。

 

「グ、グレイフィアね? お兄様に伝えたのは」

 

「はい、学園からの報告はグレモリー眷族のスケジュールを任されている私の元へ届きます。むろん、サーゼクス様の『女王(クィーン)』でもありますので、主へ報告致しました」

 

 所々混ざっている単語は兎も角ある意味で学生と保護者らしい会話を繰り広げるリアスとグレイフィア。

 

(……へー、あの美人さんグレイフィアさんって言うのか)

 

 何処か場違いな事を思う勇気……本能的にその事を察したであろうゼノヴィアと意識がないはずの眠り姫に不機嫌な物が浮かぶ……。

 

「安心しなさい、父上もちゃんとお越しになられる」

 

「そ、そうではありません! 魔王が仕事をほっぽり出して一悪魔を特別視されてはいけませんわ!」

 

 リアスの言い分は最もだが、授業参観に来られるのを嫌がっていると言う気持ちも見え隠れする言動でもある。そんな妹に苦笑を浮べながら、サーゼクスは言葉を続ける。

 

「いやいや、これは仕事でも有るんだよ、リアス」

 

(仕事?)

 

「実は“悪魔・天使・堕天使”の“三竦みの会談”をこの学園で執り行なおうと思っていてね。会場の下見に着たんだよ」

 

『ッ!!! 駒王学園(ここ)で!?』

 

 サーゼクスのその言葉に勇気は先ほどの言葉の意味を真に理解した。……つまり。サーゼクスがアザゼルがこの町に現れる理由を知っていた。それもその筈だ……予め各勢力に連絡済だったのだろう。

 

「ここを会談の会場にするとは本当ですか、お兄様!?」

 

「まあ、妥当な線だろうな。此処を会談の会場にするのは」

 

 驚愕を浮べて叫ぶリアスに対して驚愕も落ち着いた勇気が納得しながら呟く。

 

「妥当な線と言うのは、何故だ?」

 

「ああ。元々人間はある意味じゃ三大勢力対して『中立』と言うべき立ち居地にある」

 

 エクソシストや神父、シスターに代表される天界に味方する者。

 悪魔と契約を結ぶ者達に代表される悪魔側に味方する者。

 はぐれエクソシストの様に堕天使に味方する者。

 それら以外にも、様々な考えの元で人は天界・冥界……その他の人ならざる者達に様々な感情を向ける。創意は無く真なる意味で『中立』と言えるのは人間の世界だろう。会談と言う物を行なうのは中立地帯と言うのは相場が決まっている。

 更に言うならば此処最近駒王では堕天使側による侵略……宣戦布告とも取れる行動が二度に渡って行なわれている。天使側の立会いの下で堕天使側の真意を問い詰めるには向いているだろう。

 

「ああ、彼の言う通り、この学園とは何かしらの縁があるようだ」

 

 以上の説明にサーゼクスも同意する。

 

「私の妹であるお前と、伝説の赤龍帝、聖魔剣使い、ライディーンの後継者に、ライディーンとなったデュランダル使い、魔王レヴィアタンの妹が所属し、コカビエルと白龍皇が襲来してきた」

 

 人間界は広い。日本と言う島国に限定しても決して狭くは無い。リアスとソーナ、リアスの騎士である木場に彼等の存在を知った上で転校してきたゼノヴィアは兎も角、一誠と勇気は別だ。

 

「これは偶然で片付けられない事実だ」

 

 そんな広い世界・国の中でこれほど多くの者達が所属している駒王学園は異常と言って良いだろう。特に完全な偶然で赤龍帝ドライグとライディーンイーグルが所属しているのは、だ。

 

「様々な力が入り混じり、うねりとなっているのだろう」

 

 千莉のゾディアックオーブの目覚め、勇気のライディーンの覚醒もそのうねりの中の一つ。

 

「そのうねりを加速度的に増しているのが、兵藤一誠くんと鳳勇気くん。赤龍帝とライディーンイーグルだと思うのだが」

 

 そう言って二人へと視線を向けるサーゼクス。勇気はその言葉に心の何処かで納得する。強い力……特にドラゴンは多くのものを引き寄せる。勇気と一誠の二人が同じ町で生まれてしまい、勇気は双子座のゾディアックオーブを宿した千莉と幼馴染として育った。

 その結果……ドラゴンの引き寄せる悪意ある物の犠牲にならないように、双子座のゾディアックオーブを宿した者を守るようにと、ライディーンの残留し念と言うべき物が、勇気のライディーンイーグルへの覚醒を加速させた。そう考えれば納得できる部分がある。

 

「さて、これ以上難しい話を此処でしても仕方が無い」

 

 そう言ってサーゼクスが話を切り上げる。急な来訪だった様子で既に夜中となっているために宿泊施設は開いていないだろう。そんな中で一誠が自分の家への宿泊を勧め、サーゼクスも快く快諾するに至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな話が終わった後、ゼノヴィアはジト目で勇気を見ながら呟く。

 

「……ところで君はああ言う人が好みなのか?」

 

「えっと……まあ、ああ言う大人の魅力のある美人って憧れるけどな……」

 

 飽く迄憧れであって恋人とかそう言う対象ではない。……年頃の男の子としては当然な感情だろうと思う。……決して変態三人組の一人の様にロリコンではないのだし。

 

 勇気のその発言で眠っている筈の眠り姫に#マークが浮かび上がる。……一年前から時の流れから取り残された彼女だからこそ、勇気の言葉に感じるものがあるのだろう。……無理も無いが。

 

「まあ、グレイフィアさんみたいなタイプってのは憧れるというだけで恋人とかそう言う感情じゃないな」

 

 どちらかと言えばその感情は、テレビの画面の向こうに……或いはステージの上に居るアイドルに向ける物に近く、恋人とか彼女にしたいタイプではない。

 

「そ、そうか」

 

 どこか喜色の浮かぶ声で答えるゼノヴィア……。そんな彼女の態度に疑問を浮べながらも、別れ際にサーゼクスから聞かされた言葉を思い出す。

 

 

『ミカエルも君達に是非会いたいと言っていたよ』

 

 

 元々教会……天界側の勢力に属していたゼノヴィアがその名前を聞いて驚愕を浮べたのも無理は無い。当然では有るが先代イーグルの知識の中にもその姿がはっきりと残っている。聖書の神亡き今、天界のトップ……天使達の長を詰める者の名だ。

 三竦みの戦争の最中では戦友の一人でもあった四大天使の事は記憶に強く焼きついている。

 

 神を討ったかつての勇者にして最大の反逆者……堕天の免除と言う特権を与えられながら、神の殺害と言う大罪を犯したかつての戦友の後継者に対して何の用かと思う。



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ハイスクールD×A 鋼翼の反逆者 その9

「今日は私達限定のプール開き、気合入れて磨くわよ!」

 

「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 登校する時は何処か疲れた様子だった一誠がリアスの言葉に元気良く雄叫びにも似た叫びで答える。その日はプールの日、プール掃除を条件にオカルト研が優先的に使って良い事になっている。

 

「それで、なんでお前達まで居るんだよ?」

 

「いや、ソーナ会長に頼まれてな」

 

 生徒会側の参加者の代理と言う事で勇気とゼノヴィアのライディーンチームも参加となった訳だ。……実際にはリアス達の事も手助けして欲しいと、サーゼクスから依頼されたと言う面もある。

 

「序でに、そっち(オカルト研究部)との交流も兼ねて、らしいな」

 

 まあ、試合で助っ人を頼まれればソーナ達の方を優先するが。

 

「つー訳だ、宜しく頼むぜ、赤龍帝」

 

「……いや、なんか、ドライグが脅えてるんだけど」

 

 流石に過去の敗北が少々トラウマになっていたらしい。

 

(まあいいか、勇気も手伝ってくれるなら早く終わるし……何より)

 

 『今度のプールで見せてあげるわね』と言う言葉と共に一誠の脳裏に浮かび上がる以前の光景。

 

(部長の水着! 朱乃さんの水着も楽しみだ! オレはこの日の為に生きて来たんだ!)

 

 一誠の脳裏に浮かび上がる妄想と共にプールに飛び込み、

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 煩悩全開と言った様子で咆哮しながらブラシで磨き始める。

 

「滑り易い所で走ると危ないぞ」

 

「って、勇気! お前、何自分だけ楽してんだよ!?」

 

「飛行の訓練を兼ねてるって言ってくれ」

 

 何時の間にやら一誠と同じ速度で少し浮きながら磨いている勇気。……背中の翼で低空を飛行しつつ磨いていると言う訳だが……。そんな一誠に対して、とある二人のコメント。

 

「……イッセーさん」

 

「……エッチな事を考えていますね」

 

 アーシアと小猫のコメントである。……その際の一誠に対する二人の表情については、ノーコメントとしておこう。

 

 勇気もそんな一誠に呆れながらも低空飛行での訓練も兼ねて高速で飛行しながら磨いているが、本人にしてみれば寧ろ普通に磨いた方が楽だ。速度の制御には神経を使い、空を飛ぶのは結構疲れるらしい。なお、ライディーンになりたてのゼノヴィアの飛行訓練は、割とスパルタで行なわれたとか。

 

 そもそも、先代の記憶を告いだ影響か、勇気は両足で歩く感覚で空を飛べるが、残念ながらゼノヴィアの場合最初は浮かぶ事も出来なかったとか。

 ……まあ、飛行については流石に上空から落とした事で一度で成功した辺り、彼女には才能は有ったらしい。それでも、感覚が掴めずゼノヴィアの場合は教習所の運転初日とのドライバーの運転する車と同じ様なものであったと言って置こう。飛行する感覚……スピードの調整がかなり難しいらしい。

 

「我がブラシに……落とせぬ汚れ、無し」

 

「お前、もうちょっと真面目にやれよ!!!」

 

「あははは……」

 

 まあ、流石に疲れたら飛ぶのは止めて普通に掃除し始めたが……。そうなったら一誠のテンションに着いて行けず、少し手を抜き始めた。そんな訳で主に一誠の周囲が呆れるほどの必死なプール掃除によって、予定より早く終わった結果……

 

 

 

 

(拝啓、天国のお爺様へ。初夏となりました。らんらんと輝く太陽は暖かな光景を届けてくれますオレは眼前の光景に)

 

「あっ、悪い」

 

「うぎゃぁー!!!」

 

 プールに浮いていたゴミを分別しつつ、その中の燃えるゴミをイーグルフレアで焼却していた勇気の手元が狂い、眼前の光景に感涙していた一誠に直撃して吹飛ばされてプールに沈んでいく。

 後に彼は語る。内心『もう死んでも良い』等と考えていた一誠だったが、本気でその時は死ぬ思いだったそうだ。

 

 らんらんと太陽の陽射しで肌を焼くのではなく、灼熱の業火で全身を焼かれかけたのだから無理もない。

 

「……お、おーい、生きてるか?」

 

 流石に心配になった勇気が声をかけるがプールに浮かんでいた一誠が飛び上がり、

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!! この日の為に今まで生きてきたんだ、気絶なんてしてたまるかぁ!!!」

 

「随分お前の今までの人生って安いんだな」

 

 腕を突上げながらそんな咆哮を上げる一誠に対して勇気は呆れた眼を向けている。……流石にダメージは有ったらしく、アーシアの神器に癒して貰ってはいるが。

 回復した一誠に水着の感想を聞いているアーシアと小猫の二人……小猫の場合は卑猥な目で見られないのも複雑な気分だそうだ。……乙女心は複雑なものである。

 

「で、お前はどうなんだよ?」

 

「どう、って?」

 

「部長と朱乃さんと、アーシアと小猫ちゃんの誰の水着姿が最高かって事だよ!?」

 

 力説しながら問いかけてくる一誠に軽く溜息を吐きつつ、勇気は

 

「そんな物決まってるだろう。『好きな相手の水着姿』が一番に決まっている。そうじゃなければ、所詮二番目だ」

 

 『ビシッ!』と擬音が着きそうな勢いで一誠を指差しながら宣言する勇気に、『そうだったのか』とでも言う様な様子で衝撃を受ける女性陣と、苦笑を浮べている木場……そして、反論すべきかどうかでフリーズしている一誠。

 此処で一誠としては後に彼の代名詞となる言葉で反論したいだろうが、それは出来なかった。……流石に愛情よりもそっちの方が上などとは言えない。

 

 勇気と一誠の水着論議は兎も角……勇気とグレモリー眷属との会合としてはそこそこ上手く行ったプール掃除だとは思う。

 その後、一誠が小猫とアーシアの泳ぎを見たり、リアスと朱乃が一誠を取り合ったりと、妙な争いが起こっている中、巻き込まれないうちに用具室に行った勇気だったが……。

 

 

 

「改めて言う、抱いてくれ。子作りの過程をちゃんとしてくれれば隙にしてくれて構わない」

 

「お、おい……だからお前は少しは冷静になってくれ!」

 

 半裸のゼノヴィアに現在進行形で押し倒された勇気だった。薄っすらと光を通して見えるライディーンの翼……僅かながらに身体能力の上がる半変身形態と言うべき状態で押し倒されているのだから今の勇気では振り払えない。

 

「心配ない、私は冷静だ」

 

「いや、だから……」

 

 ゆっくりと近付いてくる彼女の顔に真っ赤になって落ち着かせようとする勇気。改めて何故こんな事になったのかと半ば現実逃避気味に考えてしまう。




ライディーンチームとグレモリー眷属の交流回でした。幼馴染の事でお世話になってるシトリー眷属の方が優先度は高いですが。

あと、現在ライディーンチームの勇気側は勇気とゼノヴィア以外はライディーンは決まっていません。ハーツライディーンの方もオリキャラのクロウ以外は決まっていません。


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ハイスクールG&V×D
ハイスクールG&V×D ①


以前書いたウルトラマンギンガ(タイトル未定)の主人公とヒロインの設定を使ってのハイスクールD×Dとのクロスです。

ギンガの後半の終盤からの分岐のパラレルワールド。ダーク・ルギエルとの決戦が起こらなかった未来で、ギンガSのストーリーも混ぜたオリジナル展開です。

……序でに三大勢力等についての知識は有りません。

ラッシュハンターズの三人のスパークドールズの所持です。

『ウルトラマン無双注意』


「……哀れ変態三人組……此処に眠る、か」

 

 そう言って彼、『暁 勇輝』はボロボロにされて気絶した挙げ句十字架に逆さまに貼り付けにされた『兵藤一誠』『松田』『元浜』の三人に向けて合掌する。

 差し詰め此処は彼らにとってのゴルゴダの丘と行った所だろうか?

 

「ゆ……勇輝……助けてくれ……」

 

 夏休みの間に起こった一夏の冒険。戦いこそ完全に終っていなかったが、一時的にスパークドールズを巡る戦いは終わりを告げた。

 流石に高校生で有るという立場上戦い舞台となった街からこうして帰るしかなかったが……。

 

 まあ、闇の支配者こそ倒してないものの闇のエージェントとして再生された宇宙人や、最強の刺客として送り込まれた闇に染められたウルトラ戦士達と戦い苦戦を強いられながらも、勝利してきた。最強の合体怪獣『グランドキング』とそれを操る『ナックル星人 グレイ』を倒した事で、闇の支配者の活動は一時的に停止したので油断こそ出来ないものの、比較的平和な年月を過ごしてきた。

 

「頼む……流石に頭に……」

 

「……イッセー、お前……自業自得って言葉知ってるか?」

 

 呆れた様な視線を一誠へと向ける。女子剣道部の着替えを覗こうとした結果、それを阻止されて追い掛け回された挙げ句……彼等の覗き計画を知ったクラスメイトの“彼女”が女子剣道部の部長へと報告、その後今まで彼等の変態行為の被害を受けていた女生徒達にも連絡が行った結果……

 

「大体、あんな所で大声で堂々と犯罪計画練るなよ」

 

「……うるせー……お前も男なら分かるだろう?」

 

「お前らほどアクセル全開な人間が早々居るかよ」

 

 そう、“彼女”の立案した計画によって此処に追い詰められ、彼女によって拘束されて女子に袋叩きにされた挙げ句、こうして逆さ貼り付けの刑に処されていると言う訳である。同じ男として理解しても迷惑を掛ける事はするべきでは無いだろう。

 

(うん、凡人が天才に勝てるわけ無いよな……)

 

 まあ、その凡人が犯罪者ならば別段問題は無いだろう。己の才を間違った事に使っている訳ではないのだから。少なくとも、犯罪者となった凡人を天才が捕縛するのは問題ないだろう。

 

「……頼む……」

 

「……助けてくれたら……オレ達の秘蔵のお宝を……」

 

「帰るか」

 

 何時の間にか復活した他の二人の懇願を斬り捨て、見捨てて帰ることに決めた勇輝だった。

 

 背後で変態たちが何かを叫んでいるが全面的に無視して校門の近くまで来ると一人の少女が彼に近付いてくる。

 

「あの、すみません、兵藤一誠さんはまだ居ますか?」

 

「イッセー? ああ、アイツなら……」

 

 ふと、彼女へと視線を向ける。間違いなく『美少女』と言う分類に入るであろう外見……服装は此処『駒王学園』の制服ではない。故に……

 

「ああ、あいつなら向こうで仲間と逆さ貼り付けにされてるから、変態行為への報復なら十分にできるよ」

 

「え? 逆さ貼り付けって?」

 

「あっ、ちょっと待って……確かここに……有った。武器が有るから、良かったらこれを使ってくれれば良いよ」

 

「えええぇ!? 武器って、何でこんな物がこんな所に有るのよ!?」

 

 渡される薙刀型の竹刀。学べれば非力な女性でも簡単に男性の首を落せるが故に、その時代の女性の武装として採用された代物である。

 変態三人組の感が彼女の策を上回った場合の保険として用意されていた物だ。当然ながら隠されていたそれを、女子は片付けずに帰ったらしい。

 まあ、更にボコられれば少しは己の生き方を改めるだろうと言う、諦めの混ざった思考からだ。……少しは限度と言う物を覚えるべきだと思っている。流石にクラスメイトが犯罪者として逮捕されるのだけは回避して貰いたいと思っている。

 

「じゃ、ごゆっくり」

 

 竹刀を渡されて戸惑っている少女を放置して勇輝は帰路に着く。……翌日、一誠に彼女ができたと言う話を聞いた……。本人から。

 

 脳内彼女かと思ったが、昨日逆さ貼り付けから助けてくれた上に告白されたらしいと、他の二人が言っていたので現実らしい。

 

(……地球のミステリーの一つだな……)

 

 その光景に呆れた様に内心呟く。……少なくとも、変態なところが無ければ彼女に縁が有るとは思っていたが……主に普段を知らないが故に騙されているのだろうと思う。序でにその事実に号泣している残りの変態二人(元浜と松田)。しかも、デートコースを勇輝に相談している一誠を他所に、今夜は二人で集まって、等と叫んでいるが内容が内容だけに女子からは真っ白い目で見られている。

 

 

 

 さらに翌日、何故か一誠に彼女が出来たと言う噂が消滅していた。

 

 

 

「な、なあ! 勇輝は覚えてるよな? 夕麻ちゃんはちゃんと居たよな!?」

 

 教室に入って来た瞬間、挨拶も忘れて縋り付く様に両肩を掴んで聞いてくる。

 

「? お前、何を言ってるんだよ?」

 

「そんな……勇輝までそうなのかよ?」

 

 彼の質問の意味が分からず聞き返す勇輝に、一誠は震えだす。何処か絶望にも似た色を抱いて立ち去って行く彼を一瞥しつつ、『何だったんだ?』と言う表情を浮べる。

 

「何でも、昨日自慢していた噂の彼女の事を忘れているらしい」

 

「亞理栖?」

 

 そう言って現れるクラスメイト『入谷 亞理栖(いりや ありす)』へと視線を向ける。

 

「勇輝、君は覚えている様子だね?」

 

「そりゃ、あいつに彼女が出来たんだからな……。本気で空から怪獣でも降って来るかと思った……」

 

「ああ、昨日あれだけ噂になっていた変態の彼女の事が、今朝になったら最初から何も無かったようにまったくなくなっていた。……不思議な事もある物だな……」

 

「……闇のエージェント……闇の支配者が関係しているって事か?」

 

「いや、それは私にも分からないさ。だが、私達にはこんな不思議な事態に対する知識は其れだけしかない上に、何時次の動きが有っても不思議じゃない。警戒しすぎと言う事は無いが、『私達の知らない事』が関係している可能性もある、と言う事も考えておいたほうが良い」

 

「そうだな」

 

 自然と勇輝の表情に笑みが浮かぶ。……例えそれが危険であっても、知らない物を知るというのは矢張り楽しい。

 

「どっちにしても、冒険の再開の時って奴が来たみたいだな」

 

「ふふ、相変らずだな君は」

 

 二人がそんな会話を交わしている最中、元浜と松田の二人が一誠の机の上に見るからに卑猥な本やDVDを乗せていく。

 

「イッセー、見ろ! かなりのレア物を持ってきてやったぞ」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

『うわぁ』

 

 一誠の興奮気味な声と周りの女子の引き気味な声が聞こえてくる。……はっきり言ってそんな物を学校に持ってくるなと言いたい。勇輝がそんな彼らに頭を抱えていると無言のまま亞理栖が彼らへと近付き……

 

「「「あ」」」

 

「ふっ!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」

 

 問答無用で窓から投げ捨てた。

 

「ふう」

 

「お前、俺があれを集めるのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!?」

 

「一切興味ないな、私には」

 

「いや、本は焼却炉で燃やすべきだろ? 落ちた衝撃でDVDは割れるかもしれないけど、本は燃やすなり破るなりしないとな」

 

「確かに。失敗したな」

 

「お前らなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 絶叫している三人組を他所に一瞬で斬り捨てる亞理栖と、対処方法を補足する勇輝。

 

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉお!!! 勇輝、お前なら分かるだろう、同じ男として」

 

「悪い、理解したくない」

 

 内心ではそんな苦労をするなら彼女を作る努力をしろとも思う。

 

 絶叫している三人組を無視してさっさと次の授業の準備をする二人だった。

 

 

 

 その日の放課後……恐らく今回の事件の中心に居るであろう一誠をつけていた。

 

「は?」

 

 その最中……何故か黒い羽を生やして空を飛ぶ変質者に襲われていた。

 

「……あれも闇のエージェントか?」

 

 唖然と呟くがその呟きに答えるものは誰も居ない。

 

「まあいいか……。ふっ!」

 

 そんな事を考えながら拾い上げた石を羽男(仮名)へと向かって投げつける。

 

「ガッ! なんだ、これは?」

 

「大丈夫か、イッセー(変態)

 

「お前……勇輝!? 何で此処に?」

 

「偶然?」

 

 異常事態の中心であるお前をつけていた。などと言えないのでそう言って誤魔化しておく。

 

「おのれ! 下賎な人間風情の分際で高貴な堕天使にこのようなマネをするとは……余程命がいらんらしいな」

 

「高貴とか堕天使とか何言ってるんだ? そんなモンが現実に居るわけないだろう?」

 

「……えーと、目の前に居るんじゃないか? あのオッサン羽とか生えてるし」

 

「……そう言う宇宙人かなんかだろう。羽型の生物と共生関係にある……ほら、背中の生物が血を吸う変わりに飛行能力を与えるとか」

 

「そっちの方が居るわけがないだろうが!」

 

 勇輝の言葉に突っ込みを入れる一誠と自称堕天使。……一切信じていない勇輝……背中に羽が有る程度じゃ堕天使と言われても信じられない人生経験もちなのだ。

 

「小僧……貴様から先に殺してやる!!!」

 

「へっ、叩きのめしてお前が何者か……白状させてやるぜ!」

 

 そう言って取り出すのは、銀色の彫像の様な物『ギンガスパーク』とスパークドールズ。取り出したスパークドールズのライブサインにギンガスパークを当てる。

 

 

《ウルトライブ! バルタンバトラー・バレル!》

 

 

 光に包まれて彼の姿は『プラズマギャラクシィー』と呼ばれる宇宙に生きる怪獣達の体に存在するプラズマソウルを狩る宇宙人ハンター。その中のチームの一つ『ラッシュハンターズ』のメンバーの一人、『バルタンバトラー・バレル』へと姿を変える。

 

「さあ……自称堕天使のオッサン、狩り(ハンティング)の時間だ」

 

 

 

 

 



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ハイスクールG&V×D ②

 『何故こんな事に!?』……勇輝の認識による“自称”堕天使の男……正真正銘の堕天使であるドーナシークはそう思わずには居られない。

 偶然見つけたはぐれらしい悪魔を狩ってやろうと思っていたら、邪魔するように現れた人間に……堕天使である事を全否定された挙げ句、妙な姿に変身したと思ったら、笑い声を上げながら此方の攻撃はかわすわ、分身するわ、分身でドームを作って閉じ込めるわと……心の中で『なんだあの化け物は!?』と絶叫していた。

 

「サンクロン……ソーサー!」

 

(ひぃぃぃぃぃぃい!?)

 

 全力で作り出した光の槍も腰の鎧が変形した巨大な手裏剣に簡単に粉砕されて、手裏剣に真っ二つにされそうになる。

 ……さて、ドーナシークの実力がラッシュハンターズのハンティングの対象である怪獣の……三分の一の実力があるかと聞かれれば『無い』と即答するしかないだろう。……勇輝とバレル本人の差を考えても……勝ち目など有る訳が無い。

 ドーナシーク本人は気付いていないかもしれないが、一手一手確実に追い込まれている。……勇輝にとっての不安材料は一誠へと攻撃が向かう事。だからこそ、致命傷を与えるタイミングを計りつつ、こうして引き離しているのだ。

 

 狩人だったはずが狩の獲物となった現状に対して『何故』と言う言葉しか浮かばない事だろう。そんな戸惑いと恐怖の感情が最大限に高まった瞬間が、勇輝の望んでいた好機の時だった。

 

「白色……」

 

「どう言う状況なの?」

 

 一気に勝負を決めようとした時響いた第三者の声、その声に気が付いてドーナシークと勇輝は其方へと視線を向ける。

 

(三年の……グレモリー先輩?)

 

「……あ、紅い髪……グレモリー家のものか……」

 

 肩で息をしている姿と微かに足が震えて居る事から……寸前まで味わっていた恐怖が良く分かる……。

 

「『リアス・グレモリー』よ、堕ちた天使さん。この子に手を出すなら容赦はしないわ」

 

「これはこれは。その者はそちらの眷属か。……だが、その化け物に変身した人間は何者だ!?」

 

「私も知らないわ。でも、この子を守ってくれていた事には感謝するしかないわね」

 

 会話が終る程度は待っていると言った様子で武器を構えているバレルの姿の勇輝を見た瞬間、涙目で絶叫するドーナシークとそう言いながら彼を睨むリアス。

 

「この街は私の管轄なの。邪魔をするなら容赦はしないわ」

 

「その言葉、そっくりそのまま返そう。それと眷属の放し飼いは止める事だな」

 

「ご忠告痛み入るわ」

 

「我が名はドーナシーク。再び見えない事を願う。そして、そこの人間、何れかならずこの屈辱、貴様を消す事で晴らす!!!」

 

「ああ、怖い怖い。じゃあ、そうされる前に先に消しておくか」

 

「「え?」」

 

 声が重なるドーナシークとリアス。少なくとも好き好んで人間を襲う奴に良い奴は居ないと言う持論がある勇輝にとって……ここで飛び去ろうとするドーナシークを見逃す理由は無い。

 新たな被害者が出る前に何としても倒すと言う判断をするのは当然であり、其処に見逃す理由などありはしない。

 

「ひぃ!」

 

 慌てて逃げようとするドーナシークだが、

 

 

《ウルトライブ! ガッツガンナー・ガルム!》

 

 

 バレルの姿からラッシュハンターズの頭脳であるベテランハンター《ガッツガンナー・ガルム》へと姿を変える。

 

 そして、十字架型の銃を構えながら、

 

「ホークアイ……ショット!!!」

 

 飛び去ろうとするドーナシークの翼をそのまま打ち抜く事に成功する。だが、翼を打ち抜かれてそのまま『あぁ~』と言う悲鳴を上げて墜落していくドーナシーク。

 

「くっ、外したか」

 

「ちょっと、何て事をするのよ!」

 

「はぁ?」

 

「貴方ね、自分が何したか分かってるの!?」

 

 ガルム(の姿の勇輝)はリアスの言葉に戸惑いつつドーナシークの墜落した方向へと視線を向ける。

 

「何って、倒し損ねたけどあの自称堕天使を倒そうとしただけだけど……」

 

 少なくとも、背中から羽を生やして光の槍を打ち出してくるのが人間な訳では無いと判断。ああ言う輩は同じ事を繰り返す、そしてその時は余計な犠牲が増える。……『その時はまた叩き潰す』ではダメなのだ。

 

「貴方ね……悪魔の管理する土地で堕天使が死んだら……」

 

「……あのさ、グレモリー先輩……。悪いけど、そう言うのは付き合えないぞ……」

 

「え?」

 

 明らかに勇輝の視線が変な人を見る目になって、一歩ずつ後ろに下がっている。……演技とは思えない態度に改めて確信する。『こいつ、何も知らない』と。

 流石に悪魔も真っ青な姿に変身して堕天使を一方的に追い詰める事が出来る物が、三大勢力の事を何も知らないとは思っても居なかったのだから仕方ない。

 

「あー……そう言うのは速めに卒業した方が良いと思うぞ、先輩」

 

 

《ウルトライブ! バルタンバトラー・バレル!》

 

 

 リアスの弁明も聞かずにさっさと宇宙忍者に再変身してその場を離れていく。……と言うよりも全力で逃げた。後に残されたのは事態についていけない一誠と勇輝の中で『色んな意味で関わりたくない人』と認定されたリアスだけだった。

 

 

 

 その日の夜……

 

『ふむ、堕天使星人か』

 

「まあ、あの時は嘘だと切り捨てたけど……今になって考えると……オレが戦ってる時に現れたリアス・グレモリー先輩の事を警戒していた事や、あの先輩の妙なビョーキの様な発言から考えると案外嘘じゃないかもな」

 

『なるほど。グレモリー先輩がビョーキじゃないとしたら本当かもしれないな』

 

 電話越しに聞こえる亞理栖の返事に考え込む。

 

『……まあ、オカ研なんて言う部に所属していてるなら、面白い噂を流せるかもしれないいが……』

 

 顔を見なくても分かる。確実に哂っている。

 

「おーい、亞理栖さーん」

 

『ああ、すまない』

 

「お前って、グレモリー先輩のこと嫌いか?」

 

『嫌いでは無いが好きでもないな。私は男女問わず可愛い物が好きなんだ。……そして、可愛い物を泣かせる変態は大嫌いだな』

 

 うん、だから一誠達三人に厳しいのかと改めて理解する。……リアス・グレモリーと言う先輩は美人には分類できても『可愛く』は無い。……嫌いでは無いが特別好きと言う訳でも無いと言う事だろう。

 勇輝もリアスの事は美人だと思うが好みのタイプではなかったりする。

 

『ああ、勇輝くん、君の事は大好きに分類しているから存分に喜んでくれ』

 

「それはありがとう」

 

 いつもの事ながら何処まで本気か分からない口調で言ってくる亞理栖にそう言い返す。最初は敵対した間柄だけに仲間になった今では嫌われてないのは幸いだ。

 

 

 

 翌日……

 

「……どう言う状況なんだ?」

 

「さあ?」

 

 教室の窓から外を覗き込んでいる勇輝と亞理栖の呟きが響く。……一言で言うと登校途中の一誠が殆どの生徒達から注目を浴びている。

 まあ、元々変態三人組として悪い意味で有名な一誠ではあるが、悪いやつでは無いことはわかっている。……何時も亞理栖の粛清対象になるが、そもそも連日の変態行為が原因のために原因が本人に有るし、それが彼が悪い意味で勇名となっている由縁だ。

 その為彼の友人の松田と元浜の二人と共に『変態三人組』と呼ばれているわけだが……寧ろ、元々女子高で女子の比率の高い学校で堂々とそんな方向に全力疾走できる点は有る意味尊敬出来る。しかも、入学のための動機はハーレムを作る、らしい。……その目的のために変態行為を表に出さない様にするべきでは無いだろうかと思ったのは、一度や二度ではない。

 

「できると思うか?」

 

「無理だな」

 

 と、亞理栖に一誠から聴いた、彼の駒王学園への入学動機を話した時に一言で切り捨てられていたり居る。

 

 その対象である女子から変態として嫌われている点で寧ろ目的から全力で逆方向に疾走しているだけだ。と言うのが彼女の弁だ。

 

 後で聞いた話では先日の逆さ貼り付けも他の二人の不用意な発言が原因で……徹底的にやられたらしい。女子達にしてもかなり怒りが溜まっていた様子でも有るし……。

 

(遠いだろうな、アイツの夢が叶う日は)

 

 叶ったら叶ったで迷惑を被る人が多そうな夢を応援するべきか本気に悩む所だ。……それ以前に、

 

「何で縄を用意してるんだ?」

 

「変態に対する処罰用だ」

 

 あっさりと言い切る亞理栖に恐怖を覚えるのだが……流石に処罰に行く程のマネもそうはしないだろう。

 

「それにしても、あの二人の接点は……」

 

「あの後何か有ったんだろうな」

 

 堕天使星人(仮名)の一件と言う事だろう。本物の堕天使なのかも知れ無いと言う予想をしているが、情報も各章も無い為に判断は付け辛い。

 

(闇の支配者の事も有るのに、別の事件に巻き込まれるなんてな……。悪くは無いけど、疎かにはできないよな)

 

 奴が人の幸せを壊すような輩ならば戦うだけだが、飽く迄優先すべきは闇の支配者とその配下の闇のエージェントと戦うことと結論付ける。

 勇輝と亞理栖にとって脅威度の高さでは圧倒的にそちらの方が上なのだから。

 

 

 まあ、

 

「や、どうも。リアス・グレモリー先輩の使いで来たんだ。ぼくについてきて欲しい」

 

 厄介事は向こうからやってきてくれた様子だった。

 

 

 

 



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ハイスクールG&V×D ③

 力有る者は良くも悪くも多くの物を引き付ける。天龍や神、魔王さえも超えるであろう銀河の覇者たる光の巨人の力をもった彼が厄介ごとを引き寄せるのも当然と言えば当然の事だろう。

 

 ……世界規模の厄介ごと(ダークルギエルとの戦い)の真っ最中と言うのにだ。

 

 ……まあ、リアス・グレモリー先輩の言葉の真偽は兎も角、堕天使星人(仮名)が彼女を警戒していた事から、それ相応の力を持っていると言うことだろう。

 もし敵対してしまった際には果たして、ラッシュハンターズのスパークドールズの力で対抗できるのか……最悪、手持ちのウルトラマンのスパークドールズを使う必要が有るのか考えてしまう。

 

(怪獣のスパークドールズは『ブラックキング』だけ……。あとはウルトラマン達とラッシュハンターズの分だけか)

 

 ……流石に割りと小さいとは言ってもそれほど大量にスパークドールズを持ち歩く事はできないのが現状だ。ぶっちゃけ、少し亞理栖にも預かって貰っている。自分が居ない所で奪われても困る物を優先して持ち歩いている訳で、何気に選択肢は狭かったりする。

 

 ……取り合えず、彼女が何者かは分からないが……

 

「いや、あまり係わり合いになりたくないんだけど……。先輩のビョーキに巻き込まれたくないから……」

 

「いや、それは誤解なんだけど」

 

「? どうした、亞理栖?」

 

「いや、……随分と妙な事で騒いでるんでな……。まあ、別に勇輝以外はどう見られても構わないが」

 

 サラリと酷い事を言いつつ妙な妄想に走りつつあるクラスの女子を睨みつけて牽制する亞理栖。

 

「なあ、勇輝。オレ、随分嫌われてないか?」

 

「変態は嫌いらしいからな」

 

 どうも、勇輝だけでなく一誠も呼ばれていたらしく、木場の後ろには一誠の姿も有った。周囲の女子から何故か自分達の名前を使った掛け算が聞こえてくるが……自分の名前が挙がるたびに速やかに亞理栖が鎮圧してくれているので、広がっているのは木場×兵藤やら兵頭×木場やらと言った物だけだ。

 

「……まあ、気色の悪い想像されなくて済むのは感謝だな」

 

「そんな事より、昨日のはなんだったんだよ!? お前が変な宇宙人みたいな姿に変わるし……」

 

 一誠の言葉に反応して、彼の肩を叩く勇輝と亞理栖。

 

「鋭いな、一誠」

 

「兵藤変態だったか? エロバカだと思っていたが満更バカではなかった様だ……。塵から小石程度には評価を改めよう」

 

「って、幾らなんでも酷すぎるだろう、その扱い! どんだけオレの価値は低かったんだよ」

 

 勇輝の言葉以上に亞理栖の中での価値の低さに思わず突っ込みを入れる一誠。

 

「気にするな。勇輝以外の男の価値は私の中では大抵高くないが、お前はワースト3にランクインしていただけだ」

 

「慰めにもなってない!!!」

 

「慰めてないからな」

 

「……そう言えば、お前達に覗かれたって泣いてた一年の子がいたよな……」

 

「……可愛い物を傷つけるものは、問答無用で塵以下か同等の価値しかない」

 

 勇輝の呟きに笑いながら答える亞理栖だが、目が笑っていない。獲物を狩るハンターの目……と言うよりもターゲットを狙うヒットマンの目に近いだろう。

 

「木場……取り合えず、行ってやるから早く行こう……。一誠が殺される前に」

 

「って、オレが殺される事前提かよ!?」

 

「アハハ、幾らなんでもそれはない……よね?」

 

「……まあ、半殺しにされて屋上から逆さに吊るされる程度は覚悟していた方が……」

 

「早く行こうぜ、木場、勇輝!!! グレモリー先輩が呼んでるんだろ!?」

 

「そ、そうだね」

 

 本気で身の危険を感じた一誠が二人にそう促す。……過去の悪行でこのままでは半殺しにされかねない。……ただでさえ、変態鎮圧の最終兵器扱いされている亞理栖が、微妙に本気の目になっているのだから。

 

(あー……オレと戦った時の目に近いな)

 

 思い出すのはかつてのギンガとジャンキラーと名乗っていた頃の『ジャンナイン』を操っていた亞理栖との戦いの頃の事。……流石に一誠の日頃の悪行が原因なのだが、半殺しは行き過ぎだ……。

 

「私も其処まで鬼では無いさ。……まあ、次にやったら確実に警察に捕まる様に仕向けるがな……」

 

 取り合えず、結構日頃の変態行為が原因で掴まる寸前らしい一誠達変態三人組だった。

 

 

 

 まあ、亞理栖によって一誠の制裁計画があれ以上進行する前に教室を後にする一誠と木場と勇輝の三人。

 ……まあ、次回の覗きの報復行為として新しい計画は既に進行中だったりするが……それは亞理栖だけしか完全に知る良しも無い。

 

 木場に案内されてついた場所は不気味な旧校舎。今は使われていない木造の床がギシギシと軋む。意外にもそれほど埃も溜まっておらず、窓も割れては居ない。

 

「ここに部長が居るんだよ」

 

「うわぁ……」

 

 はっきり言って先日の一件によるリアスへの評価が悪い意味で修正されている。『オカルト研究部』等と書かれたプレートを見ながらそんな声を上げる。

 心底入りたくない。……そう思ってしまう。

 

「部長、二人を連れてきました」

 

「ええ、入って頂戴」

 

 木場の確認の声にそう返事が返ってくる。木場があけたドアから中の様子が見えたが、勇輝の評価は一つ。

 

「趣味悪ッ!?」

 

 壁に、床に、天井にも大量に魔法陣の書かれた部屋に思わず声を上げる。……部員らしき二人の視線がそれによって向かうが構う事は無い。

 

「悪い、帰って良いか。この悪趣味極まりない部屋には入りたくないんだけど……」

 

「悪趣味って……。そ、そんな事言わないでもらえるかな?」

 

「いや、この中二病のサナトリウムには入りたくないんだけど……」

 

「お前、三年のリアス・グレモリー先輩の呼び出しだぞ、それを断るなんてそれでも男か!」

 

「知るか! 大体、幾ら美人でもこの部屋を見れば一万年と二千年続いた恋も冷めるだろ!!!」

 

 思いっきり部室を指差してそう叫ぶ。

 

「大体、悪趣味な部屋に好き好んで入りたがるのは同じ趣味持ってる、変な感性の連中だけだろう!」

 

 何時の間にか一誠との言い争いになっているが……それ以前にその発言に部屋の中に居た小柄な少女と奥に居る二人の女性の頭に『#』マークが浮かんでいるが気付いていない。

 

 まあ、オカルト研究の後に部か同好会が付く集まりには比較的倦厭されるだろう。勇輝も宇宙人の存在は信じている……と言うよりもバルキー星人やらナックル星人やら、闇の支配者の配下の闇のエージェントの存在と言うよりも実際に戦っていたが……。

 

 まあ、そんなやり取り後……一応、自称堕天使の正体を知りたいと言う気持ちもあり、渋々同席する事にした。……重ねて言うが、本気で部屋に書かれている魔法陣には引き気味だ。

 

「えっと……こちらが兵頭一誠くんと暁勇輝くん」

 

 木場が一誠と勇輝の事を紹介するとソファーに座って羊羹を食べている小柄な少女もお辞儀をする。それに対して一度返礼をすると勇輝は部屋の中を観察する。

 

(……それにしても……。先輩達もただの人間じゃないとは思ったけど、あいつ等に近い力が薄っすらとするよな)

 

 一言で言えば、『闇の力』とでも言うべきだろうか? 闇のエージェントたちが持ち、それを心に闇を持った者達に渡すギンガスパークと遂に成る闇の神器『ダークスパーク』より生み出される量産品『ダミースパーク』の持っている力を感じる。

 まあ、ダミースパークの持っている闇の力程嫌悪を感じないのは、力の持つ方向性だけが似ていると言う事だろうか……。それに、変身した際に感じたことだが、『ウルトラマンティガ』もまた闇の力を持っていた。

 

 そんな事を考えているとシャワーの音が聞こえてくる。

 

(……旧校舎にシャワーって学校の施設の私物化って良いのか?)

 

 何故、シャワールームが付いている教室を態々使っていない旧校舎に? と言うどうでも良い疑問を覚える中、

 

「…………いやらしい顔」

 

 小柄な少女の声らしき物が響き其方へと視線を向けると、カーテンの奥に見える二人の女性らしき影と、デレデレとした顔の一誠……。

 

「イッセー、流石に亞理栖も加減は知ってるだろうが、本人も気がつかない内にエスカレートするって事は良くある話しだ」

 

「な、ナンだよ、突然?」

 

「悪い、今のお前の顔を見てたら……最悪は止めるやりすぎのレベルを帰るべきだと思った」

 

「そ、そうか?」

 

「今よりも酷い方に」

 

「おいぃぃぃい!!!」

 

 どう見ても『変態』と言っても良い顔をしていた一誠へ対する勇輝の評価だった。

 

 

 

 カーテンの奥から出てきたのはリアス・グレモリー。まあ、此処に呼んだ本人である以上、居る事には間違いないだろう。

 

「ごめんなさい。昨日はイッセーの家にお泊りして、シャワーを浴びてなかったから、今汗を流していたの」

 

「いえ、そう言う事なら仕方ないですね」

 

 仮にも女性なのだから仕方ないと判断する。……半日も汗を流していなかったら気になるだろうし、休み時間などの長さを考えても登校からこの時間まで浴びられなかったとしても不思議では無い。

 

(……なるほどな。少なくとも、この部屋の魔法陣の幾つかは本物って所か)

 

 彼女達から感じられる力、そして自称堕天使が彼女を警戒していた事、それらを推測すると部屋の中にある魔法陣の幾つかは本物であり、木を隠すなら森の中と言う理論の元で推測するならば……魔法陣の多くはダミー。同時にオカルト研究部と言う部活もそれらを隠す為の隠れ蓑。そう思考を走らせる。

 

「あらあら、はじめまして。私、『姫島 朱乃』と申します。どうぞ、以後お見知りおきを」

 

「どうも」

 

 そう丁寧に挨拶してくれる黒いポニーテールの女性。三年の先輩で面識は無いが有名人である以上名前くらいは知っている。

 亞理栖曰く『趣味が合いそうだ』と言っていた相手であると言うのは良く覚えている。

 

「これで全員揃ったわね。兵藤一誠くんと暁勇輝くん。いえ、イッセーとユウキ」

 

「は、はい」

 

 行き成り気安く呼ばれることには不快感を覚えるが、まあ良いかと判断する。そもそも、呼び方などそれほど気にしていない。

 まあ、その不快感でリアスの言葉を無視する形となり一誠に小突かれるが、一歩横にずれて相手の射程外に出る。

 

「私達、オカルト研究部はあなた達を歓迎するわ。悪魔としてね」

 

 微笑みながら告げられるリアスの言葉。その言葉に勇輝は……

 

「悪魔って……異次元人か、あんたら?」

 

 以前ウルトラマンタロウから聞いた敵の事を思わず連想したらしい。……あっちも『悪魔』と呼ばれていたし。

 だが、確実にその『悪魔』はリアス達基準の悪魔所か神よりも生命力は強いだろう……。



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ハイスクールG&V×D ④

「い、異次元人って、何処をどうすればそんな発想が出てくるのよ……?」

 

「いや、知り合いから聞いた異名で連想したけど」

 

 確かに知り合い(ウルトラマンタロウ)から聞いた話では有る。まあ、リアスはリアスで『でも、冥界って……異次元でも間違いない?』と呟いているが……勇輝の言っている相手の正体を知ったら泣いて否定するだろう。

 流石に“あれ”と一緒にされたくないだろうし。

 

「と、兎に角……。単刀直入に言うわ、私達は悪魔なの」

 

「なるほど、血も涙も無い、と」

 

「そう言う意味じゃないわよ!!!」

 

 全力でからかっているだけの勇輝だった。まあ、相手に会話のペースを握られても拙いと判断しても台詞だが。

 

「粗茶です」

 

「あっ、どうも」

 

「どうも」

 

「部長も少し落ち着いて」

 

「……ありがとう」

 

 そう言って朱乃がお茶を出してくれる。それを飲んでいる一誠に対して、勇輝は一度手に取った後飲まずにテーブルの上に戻す。

 どうも、部屋の雰囲気から変な物が入っていそうだし。そして、勇輝にからかわれていたリアスも朱乃から受け取ったお茶を飲んで気分を落ち着けている。

 

 ふと、視線を感じると勇輝は朱乃が自分を見ている事に気付く。

 

「……どうかしましたか?」

 

「いえ、お気に召さないのかと」

 

「……部屋の雰囲気的に……変な物とか入ってそうで。イモリの黒焼きとか、コウモリとか」

 

 勇輝の一言に飲んでいたお茶を噴出す一誠と、その場にずっこけるリアスと朱乃と木場。……我関せずと黙々と羊羹を食べている小猫は結構大物なのかもしれない。

 

「失礼な、入ってません、いたって普通のお茶ですから!!!」

 

「……まあ、それなら」

 

 それでも警戒して少量だけ口に含む。まあ、味としては変な物は感じない、普通のお茶だった。……寧ろ、

 

「美味い」

 

「ありがとうございます」

 

 正直な感想だが、『#』マークが張り付いていた朱乃の表情が多少柔らかくなったのが分かる。褒められたのが嬉しかったのだろう。

 

「ま、まあ、信じられないのも無理ないわよね。でも、貴方達は昨日、黒い翼の男を見たでしょう?」

 

「あれって、地球侵略を企む宇宙人(エイリアン)じゃないんですか?」

 

「違うわよ!!! 寧ろ、貴方が変身した姿のほうが宇宙人じゃない!?」

 

「その通りですが。それが何か?」

 

 リアスの突っ込みにそう切り返す勇輝。

 

「あれは宇宙人じゃなくて堕・天・使!!! 元々は神に仕えていた天使だったんだけど、邪な感情を持っていたために地獄に堕ちてしまった存在。私達悪魔の敵でもあるわ」

 

(……タロウから聞いたベリアルってウルトラマンみたいな奴の事か? まあ、その辺は神話とかファンタジーでよく聞く話だな)

 

 そう言うオカルト研究会の面々と一誠の背中から黒いコウモリの様な翼が広がる。

 

「翼状の寄生生物か……。何らかの方法で寄生させて……此処まで成長するのにどれだけ……地球上……。いや、宇宙から来た生物かもしれない」

 

「違うわよ! そんな物に寄生されてないわよ!!!」

 

 常にSF方面に向かって行く勇輝の思考を此方へと持ってこようとするが……。

 

「まあ、百歩譲って悪魔と認めますか」

 

「はー、はー……。ありがとう」

 

 気を取り直して説明を続ける。要約すれば、地獄の先住民と侵略者である堕天使に、虐殺者である天使を加えた三大勢力が存在し、三竦みを続けていると言う訳だ。

 

「要するに……悪魔にとって堕天使が“侵略者”で、天使が“殺人鬼”って訳ですね」

 

 この後、天使のトップに出会った瞬間『殺人鬼のまとめ役』と言って周囲を唖然と焦る事になるのは本人さえ知らないことだった。……アザゼルに至っては『侵略者のボス』と言って大いに爆笑させる事になるのだが……それも知らない事だったりする。

 

「……人聞きが悪いけど、概ねその通りよ……」

 

(……しかし、何ていうか三大勢力に人間が道具にされているって気がするな)

 

 悪魔は人と契約を結び力を蓄え、堕天使は人を操り悪魔を殺そうとする。……どうも人間よりの考え方が中心であるからか、そう思ってしまう。

 

「天野夕麻」

 

 そう呟いたリアスの言葉に一誠が反応した。

 

「貴方はあの子に殺されたのよ。危険因子と判断されて」

 

「その話はしないで下さい。オカルトうんぬんで話されると困ります」

 

 そう答える一誠に対してリアスは朱乃に一枚の写真を持ってこさせる。そこに映っていたのは一人の少女の姿。

 

「……この子は、一誠達が亞理栖に逆さ貼り付けにされた時の……」

 

 改めて『彼女が堕天使だったのか』と思う。

 

「彼女……いえ、これは堕天使。昨日の男と同質の奴よ」

 

「……悪魔のお膝元に二人も入り込むなんて……結構な実力者って所か? 少なくとも、敵地に単独で動くなんて、大胆不敵な事が出来るって事は最低でも、先輩達を返り討ちに出来る実力が有るって事ですよね、彼女の昨日の奴」

 

「そ、それほどの実力でもなかったと思ったんだけど……」

 

「あの、それって……リアス先輩。舐められてるって事じゃないんですか? いや、寧ろ戦争の切欠の為の挑発行為って所か……」

 

 話が妙な方向に行っている勇輝だった。まあ、敵地で大胆に行動していると言う事は相応の目的が有っての事だ。先程までの情報からの推測は、堕天使と悪魔の戦争の開戦に関係しているとしてか思えない。

 

(誰がボスかは知らないけど……ふざけた真似しやがって。絶対に一発ぶん殴って吹飛ばしてやる!)

 

 無言のままにウルトラマンのスパークドールズに触れる勇輝。……何気にアザゼルさん、誤解のまま生命の危機に曝されていたりする。

 

 さて、勇輝がそんな危険な事を考えている内に一誠が危険視されていた理由として、『神器(セイクリッド・ギア)』が話題に上がる。

 

「神器とは、特定の人間に宿る規格外の力。中には私達悪魔や、天使、堕天使を脅かす程の力を持った神器が有るの。イッセー、手を上に翳して頂戴」

 

 リアスに言われたとおり一誠は戸惑いながらも手を翳す。

 

「目を閉じて、貴方の中で一番強いと感じる何かを心の中で創造して頂戴」

 

「い、一番強い存在……。ド、ドラグ・ソボールの空孫 悟かな」

 

(……それって漫画のキャラじゃ……。まあ、強いだろうけど)

 

「その存在を真似るのよ。強くよ、軽くじゃダメ」

 

 一誠は両手を前へと突き出し上下にあわせる。

 

「ドラゴン波!!!」

 

「ブッ!!!」

 

「笑うなよ、勇輝!!!」

 

 必死に笑いを押し殺しているが普通に爆笑寸前の勇輝に対して一誠は抗議の声を上げるが、直ぐにその視線は自分の腕へと向かう。左腕が光り、赤い籠手のような物が装着されていた。

 

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

「おー……本当に有ったのか」

 

 妙に気の無い声で一誠の籠手を観察する勇輝。

 

(それにしても……結構強い力を感じるよな……。案外珍品だったりして)

 

 一誠の籠手から感じる力の大きさは……ギンガスパークには及ばないが強い力を感じられる。

 

「それが貴方の神器よ。あとは自分の意思で出し入れが出来るわ。それを危険視されて殺された所を私が生き返らせたのよ。悪魔としてね」

 

(ウルトラマンなら完全に生き返らせることが出来るのにな……)

 

 等と初代ウルトラマンの冒険談を聞いていた勇輝はそんな事を考えてしまう。自分の背中に生えた悪魔を意味するコウモリの翼の意、それを理解したのだ。

 

「改めて紹介するわね。祐斗」

 

 リアスの言葉に促され木場はスマイルを浮かべる。

 

「僕は木場祐斗。君達と同じ二年生だよ。えーと、悪魔です。よろしく」

 

「……一年生。……『搭城 小猫』です。……悪魔です」

 

 小さく首を下げて再び羊羹を食べ始める小猫。

 

「三年生、『姫島 朱乃』ですわ。一応、副部長も兼任しております。今後もよろしくお願いします。これでも悪魔ですわ。うふふ」

 

「そして、私が彼等の主であり、悪魔でも有るグレモリー家の『リアス・グレモリー』よ。家の爵位は公爵。よろしくね、イッセー、ユウキ」

 

 気安く呼ばれる筋合いは無い、とも思ったが敢えて口には出さない。久し振りに闇の支配者が動き出したのかとも思っていたが、違う様子だった。……悪い言い方をすれば落胆と言う所だろう。そんな事を考えるのは不謹慎かもしれないが、一刻も早く解決したい状況が長引いているのは不吉な感じしかしない。

 

 そして、全員の自己紹介が終った所でリアスは勇輝を睨む。

 

「さて、私達の事は話したわ。次は貴方の事を教えてくれるかしら? 勇輝君。貴方が堕天使と戦った時の姿は宇宙人と言っていたけど、それで堕天使と戦えるとは……」

 

 リアスの言葉に思わず笑ってしまう。あまりにも科学サイドの力を軽視した発言だからだ。何より……

 

「何が可笑しいのかしら?」

 

「いえ、自分達のような存在が居るなら宇宙人が居ても不思議じゃない、と言う所はオレよりも柔軟で尊敬できますが……自分達の力を随分と過大評価していると思ったので」

 

 ウルトラマンの存在する世界に於いて、ウルトラマンは人から神の領域へと科学の力で近付いたのだから。

 

「借り物の台詞みたいですけど、こう言うのが最適なんでしょうね、この場合。……科学舐めるな、ファンタジー」

 

 まあ、ギンガの力は寧ろファンタジーに高いかもしれないが……平成ウルトラマンの大半はファンタジーとSFのハーフと言って良いだろう。

 

 

 

 



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ハイスクールG&V×D ⑤

「じゃあ、逆に聞きますけど……怪獣映画に出てくるような怪獣を相手に、勝てますか?」

 

 勇輝からの突然の質問に思わず戸惑ってしまうリアスだが、内心『そりゃ、宇宙人が居るなら、そうのもいるのかしら』と言う考えも浮かぶ。

 一瞬、自分達が怪獣と戦う姿も想像するが…………どうしても勝てる絵は浮かばない。第一大きさが違う、例え消滅の魔力を持つ自分でも学校の校舎を一撃で破壊する事はできない。……そもそも、それを一蹴りで……攻撃するという意思すらない『歩く』と言う動作だけで破壊できる化け物等戦うだけ無駄と言う領域だろう。はっきり言って、最強戦力(四大魔王)が出てくるレベルの『災害』だ。

 当然ながら、自分の眷属……朱乃の雷も、小猫の怪力も、木場の魔剣も意味を成さない代物だ。蟻ではドラゴンに勝てない様なものだ。

 

「勝てるわけ無いわね」

 

 だからこそ、そう判断して答える。相手がどんな意図を持ってそんな質問をしたのかは知らないが、何かしら探れる事も有るだろうと考えたのだが……

 

「宇宙人の中にはそんなサイズに巨大化できるのも多いんで」

 

「そ、そうなの?」

 

 想いっきりストレートな答えが返ってきて逆に戸惑うリアスだった。ぶっちゃけ、獣ですら災害なのに、高い知性を持った巨大生物等リアス達にしてみれば、犠牲を覚悟で避難するレベルの大災害……否、超災害だろう。

 ……まあ、大災害レベルで十分だ。……実際、まだ上がある。

 

「序でに、オレがあの時変身したのって……どっちもその怪獣をハンティングするハンターチームのメンバーですから」

 

「……あの堕天使、生きてたら幸運ね」

 

「確か、ガルムの時に使ったのは怪獣にもダメージを与えるライフル……」

 

「……世の中には運の悪い人って居るものね……」

 

 勇輝の言葉に乾いた笑いを浮べるリアス。……そんな怪物を狩るための武器を向けられて、しかも撃たれたのだから……自分の領地に無断で入り込んだ事は差し引いても、心から同情したくなる。

 

「いや、怪獣って、そんな物本当に居るわけが……」

 

「いや、居るぞ、怪獣。オレも何度も戦ったよな」

 

 一誠の言葉に当然の様に言葉にかつての冒険を思い出しながら呟く。

 

「……火を吐くどころか、全身から放電したり、分身したり、合体したり……色々と豊富だったよな、種類」

 

「いや、どんな体験してんだよ、お前は!?」

 

「へっ、“冒険”に決まってるだろ、イッセー?」

 

 一匹見つけただけでも即座に魔王の出動を要請したくなる怪物相手に何度も遭遇した上にこの発言……言葉に詰る一同だった。

 

(……そう言えば、ソーナが言ってたわね……『冒険家』って進路を出した生徒が居るって)

 

 本気でそれを目指している勇輝では有るが。まあ、本気で実際に怪獣が居ると言われても、返答に困るリアスでは有るが……。

 

(……怪獣と買うちゃ羽人とか、荒唐無稽すぎるわよね……)

 

 実際にガルムとバレルを身近で見ているリアスなら宇宙人と言われてもまだ納得できるが、実際にそれを見ていない彼女の眷属達はどうしても信じられないと言う様な表情を浮べている。

 探るような視線を向けてみるが、表情からでは相手の真意は分からない。

 軽く溜息を吐き、

 

「分かったわ。もういいわ、これ以上貴方から聞く事は無いわ」

 

 宇宙人だとか、怪獣だとか言われて、一度考えを整理したい気分だった。勇輝にしてみれば、変身した所を見られた以上、知られても問題ない事を答えていただけなのだが……。

 

「それで、話は変わるんだけど」

 

「なんですか?」

 

 妖艶な美しさを持った微笑を浮べながら、魅力的な眼差しを勇輝へと向ける。

 

「勇輝、貴方……悪魔に転生してみない?」

 

「謹んでお断りします」

 

 先ほどから話を聞いていて悪魔になるメリットは精々長い人生程度しか感じられない勇輝だった。

 高校卒業、大学卒業後になるかは分からないが、将来的には自由に世界中を冒険したいと考えている勇輝にとって彼女の眷属とやらになるのは“自由”が奪われる事に等しい。悪魔と堕天使が住む世界と言うのにも興味は有るが、それでも自由に冒険が出来無いと言うのは嫌なのだ。

 そして、何より……先日の堕天使の言葉を信じるのならば、悪魔の弱点は『光』。態々光の巨人であるウルトラマンに変身するたびにダメージを受ける様には……下手すれば変身するだけで死ぬ様な体にはなりたくない。

 

「ちょっ、即答はないでしょう!? もう少し考えてくれてもいいじゃない!?」

 

 勇輝の即答に物凄く残念そうな表情を浮べるリアス。

 

「って、お前! あのリアス先輩からの直々のお誘いだぞ、それを断るのか!?」

 

「いや、普通そんな理由で受けるわけ無いだろう、人間辞めない? なんて誘いを!?」

 

「い、いや、それはちょっと人聞きが悪いんだけど……」

 

 即座に断った勇輝に噛み付く一誠と、それに対する勇輝の言葉の中に矢鱈と人聞きの悪い言葉が混ざっている事に苦笑する木場。

 

「だって、上級悪魔ってのになれば自分の眷属って奴が持てるんだろ? 可愛い女の子を眷族にして、ハーレムを……」

 

「いや、なったからってハーレム作れるとは限らないだろ?」

 

 ヒートアップして『ハーレム王にオレはなる』と叫ぶ最中に一斉に冷水の様な一言を突きつける。

 

「いや、考えてみろ……オレみたいに相手に断られたらどうする気だ? お前が眷属にって目を付けた相手に恋人が居たら? いや、それだけじゃない……お前の事を嫌っていたら? そんな嫌がる相手を無理矢理眷属にしてハーレムにでも加える気か?」

 

「あ……あぅ……」

 

「ハーレム云々言うなら普段の言動を考え直せ、せめて学校の中じゃ表に出すな」

 

「そ、そんな……エロはオレの生き甲斐なんだぞ!」

 

 夢の前に立ち塞がる最大の壁を突きつけられて項垂れている一誠を他所に、

 

「でも、眷属になれば貴方の領土が与えられるわよ。それに、悪魔になればほぼ永遠に近い寿命が与えられるのよ」

 

「領土に関しては対して魅力的に思えないんだよな。義務まで背負うのは、な」

 

 主に自由に冒険することが出来なくなると言う意味で、だ。

 

「永遠に誓い寿命も魅力的には感じないかな……」

 

 同じ様に永遠に誓い寿命を持つウルトラマンを知っているから言えることだが……

 

「後世へと受け継がれる命の繋がり。人の持つ『永遠の命』を失って生きていくのも魅力なんて感じられないな」

 

 過去の冒険の中で知った人間の持つ可能性……それを知っているからこそ、永遠等と言う寿命には興味は抱く事は無い。その一瞬でギンガやタロウ達ウルトラマンと出会えたからこそ知った、人の持つ可能性を失ってまで得たいとは思えない。

 

「そう言う事なら……っ!?」

 

 勇輝の言葉に対して答え様としたリアスの言葉が止まる。……扉の方から聞えた衝撃音と外から内へと飛ぶ様に床に倒れる扉……。

 それに対して、木場、小猫、朱乃と言った彼女の眷属達が臨戦態勢を取る。……そんな中、

 

「なるほど、心配するまでも無かったようだな、勇輝」

 

 黒いロングヘアーを翻し、廻し蹴りの体勢を直し、いつもと変わらぬ口調で告げる少女、亞理栖。手に持つ銃型の武器がなければいつもと変わらない彼女の様子なのだが……。

 

「……亞理栖。お前……随分派手な登場だな」

 

「はぁ、念の為に君に就けておいた盗聴器が聞えなくなったから心配になって急いで来たと言うのに、随分な言い草だと私は思うけどね」

 

 ……盗聴器と言う部分は間違いなく突っ込みを入れるべきだと思うのだが、

 

「ああ、これは今回だけだ。ちゃんと後で回収する心算だったし、タロウにも了承済みだ」

 

「いや、本人の許可は取るべきだろう!? それに、お前も賛成したのか、タロウ!?」

 

 思わず絶叫してしまった彼に罪は無いだろう。



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ハイスクールV×D (ハイスクールD×Dとヴァンガードのクロスオーバー)
ハイスクールV×D ライド1(ハイスクールD×Dとヴァンガードのクロスオーバー)


 此処とは違う世界、此処とは違う星……。神秘と科学の共存する世界があった。

 

 その世界に於いて二人の英雄と呼ばれた剣士が居た。

 

 そんな彼らが本来存在する世界とは別の世界……科学と神秘が別々の道を歩む世界に於いて、光と影の英雄が持つ剣が流れ着いていた。

 

 その世界に於ける三大勢力……天使、悪魔、堕天使が争いを繰り広げる中、光の兵装は天使に、影の兵装は堕天使の手に渡ることとなった。

 二つの兵装の力は圧倒的なものであり、その兵装を手に出来なかった悪魔は次第に追い詰められ、三大勢力の勢力図から悪魔は消えるかと思われた。だが、二つの兵装の力に意識を飲み込まれた所有者達はその力を暴走させ始め、自軍にさえ大きな傷跡を残す事になった。

 力に呑まれた天使と堕天使の戦いは壮絶なものを極めたが、異世界より兵装を探し現れた『守護竜』によって力に飲み込まれた天使と堕天使は討たれたが、守護竜は本来有るべき世界に戻れぬ事を知り、嘆きながら何処かへと去っていったとされる。

 再び三つ巴の戦いが続く中、天使、堕天使、悪魔の誰もが守護竜の元に在る兵装を求めた。『己ならば扱える』と。二つの兵装が真に求める物を知らずに。

 

 その守護竜は全ての神話に属するものはこう呼び続ける。『 聖域の守護竜(サンクチェアリ・ドラゴン)ソウルセイバー・ドラゴン』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廃墟となった工場、其処に有るのは異形の影と白い剣を持った無表情な白い仮面を被った少年が対峙していた。

 

「ふっ!」

 

 蜘蛛の下半身を持ったハグレ悪魔を彼はその白い剣で切り裂くも、大きく後ろに飛び跳ねる事で致命傷を回避する。

 

(浅かったか、だが!)

 

「がぁ!!! に、人間風情ガァ!!!」

 

 ハグレ悪魔が口から糸を吐き出すが、彼はそれを避けながら距離を詰める。戦場である廃工場の障害物や壁を足場にハグレ悪魔へと肉薄、

 

「終わりだ」

 

 その剣を一閃する。何が起こったのか理解しないままに何れ堕ちるハグレ悪魔。

 

「お終いだな。まっ、相変らずハグレ退治は良い金になるよな」

 

 倒した証となる部位を確保しつつ仮面を外して軽く呼吸する。血の匂いがする工場の空気は良い物ではないが、それでも仮面をつけていると息苦しいのだ。

 一応、幼馴染の恋人が原因となって両親とケンカして家出に近い形での進学……当然ながら仕送りもない為に、生活費を稼ぐためにも、その剣の力に熟れる為にもこうしたハグレ退治は欠かせない。

 

「……にしても。ここの管理している悪魔……誰かは知らないけど、意外と抜けてるよな……」

 

 そのお蔭でこうして日々の稼ぎには困らないが、同時にそれ相応の犠牲も出てしまっている。それについては複雑な心境だ。

 

「良いか。帰って風呂入って寝よう」

 

 返り血を浴びる様な下手な戦い方はしていないが、それでも血の匂いの充満した工場の中の空気は最悪だ。

 

「……それに、早く詩乃に会いたい」

 

 自分にとっての光は彼女だと思う。その為に剣を取る事を選んだのだから……。

 例え人を食らう化け物だったとしても、人の形から外れた異形だったとしても、命を奪ったと言う事実は何時になってもなれない。詩乃の声が聞きたい、彼女の顔が見たい……少しでもこの辛さが紛れる様に。

 

 彼は『五峰 四季』。この世界に於ける勇気と覚悟の剣の継承者であり……守護竜の神器を宿す者。

 

 

 

 

 

「……またの様ね」

 

 四季が立ち去ってから数分後、彼と入れ違いに廃工場に入ってきた一団の姿が在った。その中の一人である、紅い髪の女、彼らグレモリー眷属の (キング)『リアス・グレモリー』は溜息を吐きながら呟く。

 

「ええ、その様ですね。一体誰がハグレ悪魔を倒しているのでしょうか?」

 

 彼女に応えるのは黒髪をポニーテールにした女性、グレモリー眷属の 女王(クイーン)『姫島 朱乃』。

 

「部長。堕天使や天使の仕業ではなさそうです」

 

 金髪の少年、グレモリー眷属の 騎士(ナイト)『木場 祐斗』は周囲の戦闘痕を調べながらそう呟く。彼もまた剣を扱う者であり……同時にある物に強い恨みを持っているからこそ、周囲の戦闘痕から使われた武器が何か分かる。

 

「恐らく聖剣……それもかなり高位の物が使われた可能性があります」

 

「……ハグレ悪魔祓いの仕業かもしれません」

 

 木場の言葉に続くのは白い髪の小柄な少女、グレモリー眷属の 戦車(ルーク)『搭城 小猫』だ。

 

「ええ、そうでしょうね。それに、ハグレ悪魔には賞金が着いている場合が多いから、それ目当ての者の仕業の線も有るかもしれないわね。どちらにしても、私の領地で好き勝手されているんだから、調べてみる必用が有るわ」

 

 少なくとも、天使や堕天使ではなく聖剣の類を使ったであろう人間の仕業……周囲の戦闘痕からの分析から分かるのはその程度だ。

 

 リアスの婚約者であった『ライザー・フェニックス』との戦いのダメージで明日まで動けない為に此処に居ない 兵士(ポーン)である 滅神具ロンギヌスの一つに数えられる 神器(セイクリッド・ギア) 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を宿した『兵藤 一誠』と、回復系の神器を宿した元シスターの 僧侶(ビショップ)『アーシア・アルジェント』の二人を含めたメンバーが彼女の眷属全員だ。

 

「……はぁ、評価が下がる一方ね」

 

 まあ、ライザーの一件でかなりリアスの評価は下がっている。彼女自身の才能や個々の眷属の実力と才能……当代の赤龍帝でありライザーに勝った一誠の存在もあり疑う者は居ないが、メンツを潰された彼女の婚約に関わっていた上層部からの評価は下がっていた。

 同時に個々最近の領地内に入り込んだハグレ悪魔を殆ど正体不明の何者かに倒されているのだ。

 

 まあ、貴族同士……それも高位になるほどその婚約は当人同士の問題だけでなく、両家や多くの貴族の思惑も関わっている。それに関わった多くの貴族のメンツを潰してしまった結果なのだから、ある意味それも婚約破棄の代償として受容れるしかない。

 

 リアスは溜息を吐き足元に魔法陣を出現させ、彼女達の姿はそれが光ると同時に消え去って言った。

 




ヴァンガードとハイスクールD×Dのクロスオーバーです。遊戯王のモンスターを呼び出すのが有りなら、ヴァンガードこユニットになるのも有りのはず!


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ハイスクールV×D ライド2

「寝坊した」

 

 その日、四季は項垂れていた。その理由は学校に遅刻しそうだから……と言う物ではない。寝坊してしまったせいで詩乃と一緒に登校出来なかった事に有る。まあ、四季の足なら走れば十分に間に合う時間だが、四季にとって遅刻など二の次……詩乃と一緒に登校できる事に朝の時間の意味は有る。

 

 それでも、流石に遅刻は拙いと思いつつ家を飛び出していく四季だった。

 

 受け継いだ光と闇の剣を守るべき相手に預けた光と影の剣士四季の朝はこうして始まった。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

「仮面の騎士、ね」

 

 リアスは手元に有る資料を読みながらそう呟く。

 

 “此処一年の間に活動を始めた賞金稼ぎ……分かっているのはパートナーが居る事と、聖剣と思われる白い剣と魔剣と思われる黒い剣を操る事。聖剣と魔剣の二つを操る姿から、何らかの方法で 魔剣創造ソードバースと 聖剣創造ゾード・ブラックスミスの二つの 神器セイクリッド・ギアを所有しているものと思われる。”

 

 などと数少ない四季の目撃情報から、彼に対する推測が書かれた資料だが、推測は大ハズレである。

 

「他の地域だとS級のハグレ悪魔の討伐にも何度も成功している、か。でも」

 

 仮面の騎士……四季の姿を撮影した数少ない数枚の写真に目を通す中、一枚だけリアスの目に留まった写真があった。全て写真の中の服装は違うが学校の帰り道での突発的な戦闘だった時の姿を不運にも悪魔サイドに撮影されていた。

 実家へ最近何者かが自分の領地内で何体もハグレ悪魔を討伐している事について、心当たりが無いとか言う連絡をした結果送って貰った資料だが、して良かったとリアスは考えていた。

 

「ふふ……これで少なくとも貴方がこの学園の生徒だと言う事は分かったわ」

 

 それが突発的な戦闘だと推測すれば、仮面の騎士は駒王学園の生徒だと言う事が分かる。

 そう魅力的に微笑みながらリアスが取り出すのは騎士の駒。写真に映る仮面の騎士が木場と同じタイプの神器を宿しているなら、彼とあわせて騎士の両翼が出来る。少なくとも、単独でS級のハグレ悪魔を討伐できる事から、戦闘力の高さは既に証明されている。

 

 結果的に一誠の努力で婚約破棄にはなったものの非公式とは言え、初のレーディングゲームの結果は敗北に終ってしまった。レーディングゲームのタイトル制覇を夢見ている彼女にとってあまり良いスタートとは言えない。

 まだ彼女の元に未使用の駒は騎士と戦車の駒が残っている。彼女の実力不足として扱えない事になっているもう一人の僧侶は兎も角……格上相手に不利な状況で戦ったのだから、敗北と言う結果は当然だろう。一誠も右手を犠牲に一時的な禁手には至ったが、将来性は兎も角まだまだ戦力としては弱い。……そんな中で掴んだ即戦力となる仮面の騎士の情報は彼女にとって魅力的だ。

 

「逃がさないわよ。貴方は私の眷属にしてみせるわ」

 

 既に騎士の剣は 己が主君ヴァンガードに預けられているとも知らずに、リアスは写真の中の駒王学園の制服を着た仮面の騎士へとそう呟く。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

「何で剣道に?」

 

 体育の授業……剣道部の練習場を利用しての二クラス合同で行なわれている授業の男子の部である剣道。……序でに女子は体育館でバレーボールとバスケの選択らしい。急遽元々の予定からの変更らしいが、何故か嫌な予感がしている。

 

 竹刀を振りながらそんな疑問の声を呟く。日々剣術の修行は欠かした事のない四季だが、今は体に染み付ける様に何度も繰り返した技が出ない様に細心の注意を払っている。

 

 理由は別のクラスの生徒である木場の存在だ。妙に周囲の様子……と言うよりも他の生徒達の動きを注視している素振りが見える。

 

 先日のハグレ悪魔との戦闘の後から自分と同じ剣士であると言う彼の推測と、リアスの実家から届いた仮面の騎士についての資料からの推測を照らし合わせた結果の、仮面の騎士の正体を暴く為の手段だ。

 

(気付かれた? いや、同じ学校の生徒の可能性に気が付いて、取り合えず剣を振らせて見よう……って所か?)

 

 時折自分へと向く木場の視線に気付かない振りをしつつ、そう考える。別に正体が知られたところで、それで両親が人質になろうが両親との間に溝が有る現在では知った事では無い。問題は詩乃が危険に晒される事だ。

 ……彼女自身にも力はあるが、それでも彼女が危険に晒される事は極力避けたい。

 

(派手に動き過ぎたかな)

 

 そうは思っても賞金稼ぎの活動を緩める気などない。命懸けの商売だけに賞金稼ぎは利益が大きい。生活費以外にも色々と目的が有って幾ら稼いでも足りない気分だ。

 二組になって試合をする中、四季の視線は彼のクラスメイトの一誠と何かを話している木場の方へと向く。リアス・グレモリーと一緒に登校したり、木場にオカルト研へ呼び出されたりと彼から悪魔の気配がする様になってから付き合いが増えただけに、一誠とリアス等の関係は簡単に推理できる。

 

(グレモリー先輩か、会長さん辺りが自分の眷属の戦力の増強でオレ……正確にはオレが変装している仮面の姿に目をつけた……って所だろうな)

 

 まあ、彼女の眷属になる気など最初から無いが。飽く迄四季が剣を振るうのは詩乃の為だ。それ以外の誰かのために……しかも、タダ働きで剣を振る気は無い。

 そんな事を考えていると木場と一誠の視線が四季へと向けられる。

 

 

 

(やっぱり、彼の動きは剣道とかのスポーツの物じゃない。実戦形式の剣を学んだ動きが時々だけど見える)

 

 適当な相手と試合を消化する中、彼の動きを観察していた木場がそんな感想を持つ。生徒会まで巻き込んで体育の授業の中に急遽剣道を追加した訳だが、一番最初に当たりを引いた上に、それに木場が気付けたのは幸運と言えるだろう。

 

 自分が直接参加する授業以外は使い魔を通じて観察させる予定だったが、その心配も無くなったと考えて良いとも思っている。

 

 巧妙に隠しているが四季の動きからは時折剣道と言うよりも、実戦を積んだ剣士の動きが見える。明らかに他の生徒とは一線を隔した動きだ。四季自身が無意識の内での行動からの推測だが、彼が今の所のもっとも仮面の剣士の条件に近い。

 

「(この事は部長に報告するとしても)少し、彼の事を調べた方が良いね」

 

 木場はそう結論付ける。……四季の姿は一番黒に近い。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

「部長!? あいつ適で良いですよね!? 取り合えずぶちのめして良いですよね!?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいイッセー。……何が有ったの?」

 

 その日の夜、オカルト研の部室で一誠は血の涙でも流しそうな表情でリアスに向かって叫んでいた。当然ながら、理由の分からないリアスは何が有ったのかを……一誠と一緒に仮面の騎士の候補である四季の尾行をしていた木場に聞くが。

 

「そ、それは……」

 

 苦笑しながら木場はリアスの質問に答える。……一言で言えば、詩乃と一緒に下校とそのまま買い物も兼ねてのデートしていた四季だった。寧ろ、尾行している自分達に見せ付ける様に見えたが、あれは明らかに分かっていてやっていた。

 下校の途中で四季の視線を木場と一誠の方に向けた事から間違いなく、最初から尾行に気付いていたのだろう。……時折嘲笑うような笑みを彼ら……と言うよりも一誠へと向けていた事から最初から見付かっていたと言う事だろう。

 

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 まあ、一誠経由で変態三人組の仲間である友人の二人にも伝わり、後日その二人も同じ様に絶叫する事になるが、それは特に物語に関係ないので省略する。

 

「それにしても、気付かれるなんて……益々怪しいわね」

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 時間は僅かに遡る。主に一誠と木場がデートの監視をする破目になった時まで遡る。

 

「ちょっ、行き成り何するのよ!?」

 

 突然抱きしめられて顔を真っ赤にして抗議する詩乃。そんな中で四季は周囲に聞こえないように小声で話しかける。

 

「しっ。誰かにつけられてる」

 

「え?」

 

 はっきり言って態々抱きしめる必要は無いのだが、こうして彼女の温もりを感じていると改めて戦うべき理由が再確認できる。大切な人の為に勇気も覚悟も彼女に預けている。

 

「誰が」

 

「二人。自分の行動を振り返ってから夢を語るべきな変態と、もてそうなのに女気が無い同性愛疑惑の有る色男」

 

 無言だが四季の言葉に納得したと言う様子の詩乃さん。まあ、四季の妙な説明、それで誰かと言うのが分かるあたり、色んな意味での有名人二人である。

 

「よく気付いたわね、そんなに正確に」

 

「いや、二人からの悪魔の気配と神器の気配でな」

 

「うん、私には無理」

 

「……変態の神器なら簡単に分かるさ。……本人の力量とはアンバランスな強過ぎる力だからな」

 

 一誠の気配を探るならば、一誠自身よりも彼の神器の気配を探った方が分かり易いと言う事だ。

 

「オレ達の事に気付かれたか、まだ疑われているだけか……」

 

「そう……じゃあ、暫く控える」

 

「いや、寧ろ逆効果になりそうだ。寧ろ、向こうがこっちを監視している間に動いた方が疑いは晴れそうだしな」

 

 寧ろ、炙り出そうと思ってハーレムハーレム言っている一誠を刺激するために詩乃を抱きしめたわけだが……。

 

(やっぱり、詩乃の体温を感じていると再確認できるよな……戦う理由を)

 



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ハイスクールV×D ライド3

「まったく、あいつ等もしつこいな」

 

 アパートの一室で布団の中から出ながら伸びをしつつ近くに有る気配の正体を感じ取る。……恐らく、 魔剣創造ソードバースの力から気配の主は木場だろう。昨日の夜から感じていた気配なので、一晩中監視していたのか交代したかどうかは知らないがご苦労な事だと思う。

 流石にこう長時間監視されていては良い気分はしない。……付け加えるならば、悪魔と言う勢力を良心的とも思って居ない為に、万が一にでも人質にされないように詩乃には泊まって貰った訳だが……。

 

「おーい、詩乃。朝だぞー」

 

 何時の間にか四季の布団に潜り込んでいた愛しの恋人を起こす事を優先した四季である。

 

(上手く連中の目を盗んで動くか……って、向こうがはぐれの事に気付いてくれないと意味は無いな)

 

 どうも、領地へのはぐれ悪魔や堕天使の進入が続いている上に、堕天使は何らかの儀式を行なおうとしていた様子も有った。

 堕天使の時は街に……主に詩乃に何の影響も無かったので賞金が出る訳でもないので、向こうから手を出された訳でもないから“三大勢力の問題”として堕天使の事は放置していたが、流石にこの街にいる魔王の妹二人は堕天使側から完全に舐められていると確信していた。

 

(確か……生徒会長とグレモリー先輩がそうだったけど……)

 

 前者は頭脳労働タイプ……前線に出る機会は後者が多いだろう、その為に。

 

(舐められてるのはグレモリー先輩か)

 

 舐められているのはリアス・グレモリーとその眷属達だろうと思う。少なくとも、気付かないほどの無脳だとか、戦った所で敵では無いと考えられているとか。

 

 心の中でそう思いつつ窓の外に居るであろう木場に対して同情の篭った視線を向け、朝食の準備に取り掛かった。ベーコンをフライパンで焼きながら卵を落としてベーコンエッグを焼いて味噌汁を温めなおす。

 

(サラダは……付け合せのキャベツだけで良いか)

 

 手際よく朝食を用意しながら周囲の気配を探る。……夜は悪魔にとってのホームグラウンドとは言っても、流石に徹夜は辛いだろうとも思うが、四季が朝食の支度をしている間に木場の気配は消えている。

 

(……流石に帰ったか。このまま無関係って判断して欲しいけど、そうは行かないだろうな)

 

 流石に最初から断る心算だが、一度くらいは話を聞いてやるべきだと思う。……情報を隠して置いてなん だが、下手をすればこっちが尻尾を出すまで毎日着け回されそうだし。

 

「と言う訳で今日オカルト研に行ってこようと思う」

 

「良いの?」

 

「流石にこっちのアリバイ工作に利用しようと思ったけど、なんか毎日付け回されそうだからな……」

 

 流石に直ぐにターゲットとなるハグレ悪魔が見つかる訳でもなく、二度も敵の進入を見逃している連中が直ぐに気付いてくれると言う保障も無く、相手任せな点が多い以上直ぐに実行は不可能と判断して、計画を修正した訳だ。

 

 何よりその間に相手が強硬手段に出る可能性も否定できないため、寧ろこっちから乗り込む必要が有るだろう。

 

(……不死鳥を倒した赤龍帝が居ると言う話しだけど……)

 

 ふと、それなりに流れていたグレモリー眷族に対する噂を思い出す。

 

 あの剣の所有者になった時に見た光景、煉獄の炎を纏う 龍の大帝ドラゴニック・オーバーロードと戦う先代の所有者と思われる 白い剣士ブラスター・ブレード。赤龍帝とは、その大帝に匹敵する相手なのか……

 

(龍の帝王か……警戒しておいた方が良いな)

 

 どうも、主である魔王の妹は敵対勢力に舐められている様子ではあるが、警戒しておくべきだろう。ぶっちゃけ、この時点で一誠が 不死鳥ライザー・フェニックスを倒した赤龍帝とは一切考えていない四季である。

 確かにイメージの元のドラゴニック・オーバーロードが比較対象なだけに、一誠では実力や普段の様子から比較する事さえ出来ないだろう。

 

「私も行った方が良いかな?」

 

「いや、寧ろ今日は別行動で……オカルト研の部室が有るって言う旧校舎を何時でも狙えるようにしておいて欲しい」

 

 そもそも、神器を使ったとしても詩乃の担当は飛び道具による後衛。室内と言う環境では前衛が四季だけでは多数を相手に守りきるのは難しい。

 

「そこは何時もなら“絶対に離れるなよ”って言う所じゃないの?」

 

「まあ、向こうに目を付けられているのはオレだけだと思うからな。最悪の場合、援護して貰った方が逃げ易い。それに……オレにとって最悪の可能性って言うのは……君を失う事だ」

 

 シリアスな場面だが、朝食を食べながらする会話としてはどうかと思う。

 内心で別に両親が人質にされても一切無視して戦うつもりだがと考えている。根本的に四季は両親、特に母親との仲は悪いのだ。流石に相手ごと斬る様なマネはしないが、詩乃の安全と天秤にかければあっさりと斬り捨てる程度には仲が悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな会話を交わしつつ駒王学園に登校する二人だが、四季と詩乃の二人のクラスは別である。

 

 クラスメイトの一誠を除いた変態三人組の二人が一誠を射殺さんばかりの目で睨んでいるとと思えば、今度は18禁な本やDVDを取り出して鑑賞会だの、一誠は誘わないだとか叫んでいたり、それを女子が絶対零度の視線で見ていたりと、普段の光景が広がっていた。

 

 ふと、二人が睨んでいた一誠の方に視線を向けてみると、最近海外から転向してきたアーシアと話していた。

 

(……あの子もグレモリー先輩の所の眷属だよな。明らかに戦闘タイプじゃない。……そうなると誰なんだ……赤龍帝って)

 

 重ねて言おう。四季にとっての赤龍帝か見極めるための比較対象はドラゴニック・オーバーロードである。

 思いっきり警戒している赤龍帝……剣の記憶の中にある、光の超兵装の本来の主である光の剣士と戦った龍の帝国の大帝……数多の龍達から絶対的な信頼を置かれていた最強のドラゴン……ドラゴニック・オーバーロードを連想しているが……現実は目の前の変態三人組の一人である。普段の一誠の行動から考えると彼と赤龍帝を結び付けて連想する事はできないだろう。

 

 

「五峰くん、ちょっと着いて来てくれないかな? 部長、リアス・グレモリー先輩が君を呼んでるんだ」

 

 

 光と影の剣士と弾痕の少女……二人の物語はこの瞬間に赤き龍帝の物語と交わったのだった。



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ハイスクールV×D ライド4

月光校庭のエクスカリバー編です。

さて、個人的に思うのですが、グレモリー眷属って下手したらイッセーが居なかったら、この時期に亀裂が入っても不思議じゃないと言うイメージが。特に力への誘惑をこの時期の木場くんが跳ね除けられるかは、本当に疑問。
取り敢えず、木場くん、惑星クレイの初代シャドウパラディンと同じ道に進む第一歩の巻です。


「五峰君、すまないけど……ぼくと戦ってもらえないかな」

 

 オカルト研究部の部室。顔面に殴られた痕を付けられて壁にもたれ掛かって倒れている一誠と、一誠に駆け寄っているアーシア。リアスは一誠を殴り飛ばした四季を睨みながら、朱乃と小猫の二人は警戒しながらも、臨戦態勢に入っている。

 

 そんな中で黒い超兵装……ブラスター・ダークの使っていた剣を持った四季へと己の神器、 魔剣創造ソードバースで作り出した魔剣を四季へと突きつけている木場。

 

「良いだろう。受けて立ってやる……と言いたいトコだけど、こっちには受けるメリットが無いな」

 

 敵意は向けられているが木場の意識が向いているのは、四季ではなく彼の持っている剣。纏っているのは闇の力……魔剣と呼んでも良い代物では有るが、木場の目には影の英雄の使っていた漆黒の剣は魅力的に映っていた。

 

 あの魔剣以上の剣は 魔剣創造ソードバースでは作れない。あの剣が有れば憎い聖剣を超えられる。

 

 奈落龍の血肉により鍛えられた漆黒の剣は木場の中に有る闇を魅了していた。

 

(忘れていたつもりだった……。だけど、あの剣があればぼくは超えられる……エクスカリバーを破壊する事が出来る。欲しい……コロシテデモ)

 

 影の英雄の剣と魔剣を持つ二人が互いに殺気を交わしながら睨みあう。

 

「分かったわ。貴方が勝ったら私達は悪魔として貴方に関わらないわ。祐斗が勝ったら「その剣を貰う」ちょっと、祐斗!」

 

 リアスの言葉を遮って木場の言葉が響く。所有者である四季が力に呑まれずに、対峙している木場が漆黒の剣の力に魅了されているのは……かつて堕天使が持っていた頃の逸話を知ってしまったからだろうか?

 

 影の超兵装……魔法と科学の融合によって誕生したその剣は、木場の神器であっても作り出す事はできない。……神秘に属する力だけでは、科学との融合によって誕生した超兵装を生み出す事は出来なかった、と言う事だろう。

 

 

 

 時は遡る……。

 

 

 

「五峰くん、ちょっと着いて来てくれないかな? 部長、リアス・グレモリー先輩が君を呼んでるんだ」

 

(昨日の今日で呼び出しか。必要以上に挑発しすぎたかな)

 

 四季へと視線を向けている木場を探るような視線を向けているが、その意図は……大体だが推測できる。先日からこっちを探っている様子があったから、それだろう。

 ……何処が原因で気付かれたかとと改めて考えてみるが、恐らく剣道の時だろう。自然に素人……精々が剣道経験者程度の実力に見せるなどと言う器用な真似が出来るほど剣士としての力量は高くない。

 

「本当は朝田さんも呼ぶように言われたんだけど」

 

「ああ、今日は別々に帰る予定だったからな」

 

「それで、来てくれるかい」

 

「別にどうでも良いが……無理矢理にでも連れて行くって顔してるぞ」

 

 はっきり言って着いて行く義理は無いが元々想定の範囲内、予定通りだ。観念したと言う表情で着いて行くと言うように見せかける。

 

「ナンだよ、折角部長、リアス・グレモリー先輩が呼んでるって言うのに、その態度は無いだろう!?」

 

 四季の態度に噛み付いてきたのは木場との会話を聞いていた一誠だった。

 

「この学校の全員が全員先輩に憧れてるとか思うなよ。オレは例外の部類なんでな」

 

 心の中で『オレには詩乃が居るし』と呟きつつ、一誠の睨みつけてくるような視線を受け流しながら木場の先導に従って歩いていくと、一誠とアーシアの二人も後ろから着いてくる。

 

 そのまま一誠に敵意を向けられるまま、木場の先導に従って歩いた結果、辿り着いたのは四季の予想通り旧校舎……オカルト研究部の部室の前だった。詩乃には最悪の場合の逃走時の援護の為に狙撃ポイントについてもらっている。

 

「部長、連れてきました」

 

「入って良いわ」

 

(……平行世界の詩乃ってどう言う状況にあるんだ?)

 

 木場とリアスの会話の後に入って行く一同だが、ふと、彼女の神器の能力……平行世界の彼女の能力について考えてしまう。

 弓使いにスナイパーはまだ良いとして……彼女自身恥ずかしがって滅多に使わないが、弓使いのケットシーらしい猫耳姿については、そう言う世界も有るんだと無理矢理納得した。

 

(あー、でもあの姿は可愛かったな……普段の詩乃も良いけど青い髪も似合ってるな)

 

「ちょっと、聞いてるの!?」

 

「え? 何か言いました?」

 

 目の前で#マークを頭に貼り付けながら、テーブルを《バンッ!》と叩いていてたが、塔の四季は詩乃の事を考えていて何も聞いちゃいなかった。

 

「言ってたわよ! か・な・り、大事な事を!」

 

{すみません、どうでも良いんで聞き流しました}

 

「あ・な・た・ねぇ!!!」

 

 怒りに震えているリアスを、あらあらと言った表情で楽しげに長めている朱乃。

 

「もう前置きは良いわ! 単刀直入に聞くわよ、これは貴方ね!」

 

 そう言ってテーブルの上に叩き付ける様に置かれた写真に映っていたのは、愛用の白い仮面と白い剣……超兵装ブラスターブレードを持って駒王学園の制服を着た四季の姿が映っていた。

 

「そうですけど。まあ、昨日から散々付回しておいて『違います』なんて言われても納得しないでしょ?」

 

「そうね。祐斗の見た印象だけだったけど……無意識での動きが明らかに他の人は違うそうよ」

 

 深呼吸して心を落ち着かせながらリアスは言葉を返す。

 

「それで、態々呼び出して何のようなんでしょうかね?」

 

「ええ、五峰くん……貴方、私の眷属にならない?」

 

「……先輩達の性癖については特に言う事は無いですけど……学校でそんな物を研究するのは、モラルの問題が有ると思いますが」

 

 激しく『眷属』の意味を変な方向に勘違いした風に言ってみる。

 

『違う!!!』

 

 即座に一同……と言うよりもアーシア以外の全員から否定された。一人アーシアだけが何かよく分かっていない様子だった。

 

「いや、変態と同性愛者が居るからそうなんじゃないかと」

 

「変態と同性愛者って誰だよ!?」

 

 四季の言葉に怒鳴ってくる一誠と木場を指差す。

 

「お前が変態で、木場が同性愛者」

 

「違うからね!!!」

 

「そして、部長がそう言う性癖……と」

 

「だから違うわよ!」

 

「後の三人もどんな変態的な性癖なんだか? オカルトが隠れ蓑で……」

 

『だから違うって言ってるだろう(でしょう)が!!!』

 

 当然ながら分かってて言っている。



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ハイスクールV×D ライド5

「単刀直入に言うわ、私達は“悪魔”なの」

 

「へー」

 

 まあ、知っている事なので気のない返事を返しておく四季君。目の前では四季以外の全員がコウモリの様な翼を広げていた。確かに仮想とも思えないそれは、十分に悪魔だと言う事の証明になるだろう。

 

「それで、貴方は何者なの?」

 

「純度100%の人間。 神器(セイクリッド・ギア)持ちですが」

 

「そう、貴方の持っている神器は……」

 

「剣じゃ無いですよ」

 

 聖剣を作り出す 聖剣創造ソード・ブラックスミスと魔剣を作り出す 魔剣創造ソードバース。光と闇の剣を持っている姿から誤解されていると思ったので捕捉しておく。本来の神器や二つの超兵装と言う手の内を隠すという意味では黙っているのも手だが、他者を殺して神器を奪ったり、 聖剣創造ソード・ブラックスミスと 魔剣創造ソードバース等と言う弱い神器の所持者と思われたくない。

 二つの超兵装は正しくは神器に封印された守護竜の守っていた代物を借りているだけであり、本来の四季の神器はまったくの別物である。

 四季の剣士としてのプライドと拘りの為に滅多な事では使わないが。剣技は全て純粋な努力により学んだ物だ。

 

 四季にとって 聖剣創造ソード・ブラックスミスと 魔剣創造ソードバースの二つの神器は価値は龍の手以下の代物である。

 剣を作り出すその二つの神器は剣士を弱くさせる神器と考えている。己の命だけでなく守るべき物も預ける事のできる剣と共に有ってこそ 真まことの剣士と考えている故に、そんな物に頼っている内は剣士としては未熟だと、思っている。

 

「眷属にならない、って言うのは簡単に言えば私たちの仲間、悪魔にならないか? って事なのよ」

 

「なるほど、人間辞めますか、と言うお誘いと」

 

「……人聞きの悪い言い方だけど、それで間違ってないわ」

 

「お断りします」

 

 そう言って周囲に居る眷族達を見回した後、リアスへと視線を止める。

 

「そもそも、貴女達の仲間になるメリットがない」

 

「あら、メリットなら有るわよ」

 

「長く生きられるとか、ハーレムとかなら興味ないですけど。オレにとって手放したくない相手は一人だけですし、彼女の居ない人生なんて……単なるロスタイム、何の価値も無い」

 

 ならば、そのロスタイムでする事は死後に再会した時に喜んで貰えるように最大限彼女の最後の願いを叶えるだけだ、と心の中で付け加えておく。

 

 それ以前に長く生きた所でダラダラと長く生きた10年よりも、より密度の濃い1年、いや一日にこそ価値があると考えている。四季にとって価値のある生とは詩乃と共に生きる生だけだ。

 

「それに……自分の力も最大限に使わないハンパな女王」

 

 そう言って朱乃を一瞥すると、言っている意味を理解したのだろう……彼女の表情が凍りつく。

 

「自分の力から逃げている戦車」

 

 小猫の表情が強張って四季へと驚きに満ちた視線を向ける。

 

「八つ当たりしか出来ない、心も含めて全てにおいて半端な剣士として三流の騎士」

 

 木場の表情に浮かぶのは怒りの感情。

 

「優しいのだけは認めてやるが、考え無しの行動……。同じ場所に居た仲間の命を踏みにじる行為をした僧侶」

 

 驚きの感情が浮かぶアーシア。そして、四季は最後にリアスへと向き直る。

 

「そんなやつ等の仲間になりたがるとでも思ったか?」

 

「貴方……何処まで知ってるの?」

 

「さあ、姫島先輩のご両親とか、小猫ちゃんのお姉さんの事とか、そこの同性愛者の過去とか、アルジェントさんの転校前の事とか……ですかね」

 

 表情が険しくなるリアスを他所に四季は笑みを浮かべながら、

 

「あとは……貴方が扱えない、もう一人の僧侶の事とか。自分の手持ちの駒も使えない王の元に好き好んで着きたがる奴は居ないと思いますが」

 

 嘲笑を浮べて告げる四季の言葉、それに対して平静を装いながらも、リアスは内心で憤っていた。

 そんな彼女の心情を予想しているが、己の内に在る守護竜の記憶と、光の超兵装の記憶……ブラスター・ブレードが側に立つ聖騎士達の王の姿。詩乃を守る為に彼女に剣を預けた身の上だが、少なくとも……惑星クレイの騎士王と比べるとリアスは王として圧倒的に見劣っている。

 二つの意味で四季が彼女の眷属になる理由は無い。

 

「はっきり言おう、オレは既にオレの一番大切な人に剣を預けているし、貴女はオレが剣を預けるべき相手じゃない」

 

 そう言ってソファーから立ち上がり、

 

「貴女はオレが仕えるべき主じゃない」

 

「テメェ!!!」

 

(……そう言えば、結局コイツだったな……最弱の赤龍帝)

 

 四季の言葉に真っ先に激怒したのは一誠だった。先ほどの他の眷属達に対する言葉……理由こそ分からないが、その言葉に今までに無い態度を見せていた事は理解し、その上でリアスに対する暴言に対して怒りが爆発していた。

 

「就くべき主を見定めるのは必用なことだと思うぞ、変態」

 

「テメェ! 部長の何が不満なんだよ!?」

 

「……全部言って良いのか?」

 

 あの後、誰が赤龍帝なのか調べたが、一誠で有った事は頭を抱えたくなった。

 

「堕天使にはぐれ悪魔の進入を許す管理能力の低さと、舐められている能力」

 

 四季の言葉に一誠の顔に怒りが浮かぶ

 

「第二に先日の婚約破棄の件」

 

「なっ!? それの何処が悪いって言うんだ!?」

 

「少なくとも、自由に結婚相手を選べないのは貴族と言う者の……恵まれた人生に対する対価だ。加えて、その為の合宿に対しては家の力で施設や学校は公欠扱いにするとか……家が決めた事に反抗するのに、家の権力に頼ってどうする? 義務はイヤだけど家の権力は好き勝手に使う……随分と甘えた考え方だな」

 

 怒りの表情を浮べている一誠を無視しつつ、四季は更に言葉を続ける。

 

「理解しているかどうかは疑問だけど、貴族同士の結婚なんて色々は思惑が重なる物……身内以外にも色々とな。結果的にゲームに勝った上での婚約破棄なら兎も角、ゲームには負け……っと」

 

 尚も言葉を続けようとした四季の言葉を遮るように振るわれた一誠の拳をバックステップで避ける。

 

「やれやれ、随分と沸点が低いな……」

 

「テメェ、部長を馬鹿にするのもいい加減にしろよな!!!」

 

「馬鹿にしたつもりは無い。オレが王として仕えるには足る相手じゃない、その理由を言わせて貰っただけだ。大体、お前が言わせたんだろうが?」

 

 尚も殴りかかってくる一誠の拳を避けながら、そう言葉を続ける。

 

「それに、お前もお前だ。どうやったかは知らないけど、勝つ方法が有るなら最初から使え。実力差が有る事は分かりきっていた筈だ。……そんな相手に何のリスクも無く勝とうなんて考えている時点で、王としての采配にも問題が有る」

 

 四季にとって己の敗北は自分の命よりも大切な人である詩乃の身の危険に晒すと言う事に繋がる。……だからこそ、試合とは言え自分の人生の掛かった戦いでそんな采配ミスをしたリアスを王として頂く事は出来ないのだ。

 

「アンタのミスでの敗北でオレまで大切な者を失うのはゴメンだ。……だから、リアス・グレモリー先輩……アンタの為に振るう力は無い。以上だ」

 

 更に殴りかかってきた一誠を避けると同時に足払いを掛けて転ばせると、リアスに向かってそう言い切り、部室から退出しようとする。

 

「ふざけるな! 大体お前がさっきから言ってる大切な奴なんて、あの“人殺し”の事……っ!?」

 

「イッセー!?」

 

「イッセーさん!」

 

 立ち去ろうとする四季の背中に向かって罵倒の言葉を続けようとした一誠の視界一杯に広がったのは四季の拳。顔面を殴り飛ばされた一誠はそのまま壁にぶつかるまで殴り飛ばされる。そんな一誠に駆け寄るアーシアとリアス。

 

「……オレへの侮辱だったら幾らでも言えば良いさ……。だけどな……」

 

 静かに告げられる憤怒の言葉……横に伸ばした手に現れるのは、先端が二股に分かれた漆黒の剣……漆黒の超兵装。

 

「あいつの事を何も知らないで、あの時の事を持ち出して詩乃を侮辱するなら……殺すぞ、駄龍」

 

 怒りの言葉と共に奈落龍の血肉にて鍛え上げられた漆黒の剣を一誠へと突きつける。

 



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ハイスクールV×D ライド6

 四季が木場と黒い超兵装を掛けて戦う事が決まった結果、校庭のど真ん中で木場と対峙する事になった四季だが、外や校舎内からの注目が無い事からその手の結界が用意されている事が容易く理解できる。

 

 本来なら一騎打ちだった筈なのだが、

 

「部長!!! オレにもやらせてください! こいつだけは、こいつだけはぶん殴らないと気がすまないんです!!!」

 

 四季のパンチのダメージから早々に回復した一誠がそんな事を叫んでいた。それを受容れたリアスによって急遽二対一の対決になってしまった。

 ……内心では対戦相手に了承を取れとも思うが……まあ、先ほどのやり取りから分かるように、今の一誠では四季に一人で勝てないのは明白……木場との二人ならば勝ち目が有るのではとの判断だが……。

 

(不可視、人払い……どっちにしても、撤退する時に詩乃からの援護が有れば楽なんだろうけどな……)

 

 最悪は結界事態を破壊してしまえば良いのだが、超兵装の最大出力を使う為、それはなるべく獲りたくない手段だ。流石に此方の様子が向こうから把握できていないと援護も期待できないだろう。

 

「……それじゃあ、行かせて貰うよ!」

 

 その言葉と共に木場は四季へと肉薄する。騎士の駒で転生した転生悪魔である木場のスピードは眷属の中でもトップだ。そして、その突き出した手には何時の間にか西洋剣が握られている。

 自分の最大の武器であるスピードを最大限に活かしたその一撃は確実に四季を殺りに行くものになるだろう。

 

「ふっ!」

 

 その突きに合わせて漆黒の剣を一閃すると木場の持っていた剣が半ばから切り裂かれていた。それと同時に四季は地面を蹴って木場の既に突進にしかならない一撃を回避する。

 

「くっ! まだだ!」

 

 続け様に繰り出されるのは上段斬り。だが、同じ様に漆黒の剣による一撃で刃を砕かれる。四季はそのまま振り上げた剣を振り下ろす。同時に四季の動きに合わせて斬られた剣を投げ捨て木場も新たな剣を作り出して楯にする。木場が新たに生み出したのは大剣、振り回すには向かないが純粋に楯にする為に作り出した物だろう。

 

「ぐぅ!」

 

「やっぱり、三流剣士だよ……お前は」

 

 剣やソウルセイバー・ドラゴンの記憶の中の 至高の剣士ブラスター・ブレードの姿を目標に……己の全てとも言うべき少女を守る為に技を磨いた。

 主さえも支配する武器……超兵装《ブラスター・シリーズ》。いや、それは言い方を変えれば武器が戦う為に戦士を利用すると言う事が出来るだろう。だが、そんなブラスターの名を冠した武具を持った戦士達の中で唯一力に呑まれることのなかったその姿は、

 

「剣と心と体、全て揃ってこそ真の剣士だ」

 

 四季にとっての理想とも言える姿だ。

 横凪に放たれた斬撃を上に飛んで避け、そのまま木場へと踵落としを放ちながら着地する。

 

「心技体が揃うのは一流であって、剣と共にあってこその《真の剣士》だ」

 

 最後の踵落としが決まってそのまま地面に倒れた木場を見下ろしながら宣言する四季に今度は一誠が殴りかかってくる。

 

「ッテメェ!」

 

 追撃するでもなく、一誠へと視線を向けるでもなく剣を持った手を下げている四季に激昂した一誠が殴りかかってくる。だが、一誠の名誉の為に言っておくと別に四季は一誠の事を舐めている訳では無い。一誠の持つ神器 赤龍帝の籠手ブーステッド・ギアの力は長期戦になれば脅威としか良い様が無い代物だ。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!  赤龍帝の籠手ブーステッド・ギアァァァァァァア!!!」

 

 素人同然の拳で我武者羅に四季を殴ろうとしてくるが、四季はそれを紙一重で避けていく。

 

「ふっ!」

 

「ガハッ!」

 

 その中の一発に合わせて剣の柄の部分で一誠の鳩尾へとカウンターとなる一撃を入れる。熱された金属でも呑んだかのような痛みを覚える一誠だが、当の四季は追撃するでもなく背中を向けて下がって距離を取る。

 

「こ、こいつ……」

 

「ほら、回復するまで待っててやるからゆっくり休んだらどうだ?」

 

「オレは悪魔だぜ……人間なんかに……神器だって……」

 

「はぁ。何か勘違いしてる様だから教えてやる」

 

 自分が悪魔だから、 神滅具ロンギヌスの一つを持っているからと言って未だに何処か四季の事を舐めている様子の一誠を一瞥し、

 

「化け物を倒す英雄は……常に人間だぜ。好きなだけ休んでからかかって来いよ、最弱の龍帝。序でに倍加も出来て便利だろ?」

 

「このォ野郎!!!」

 

 四季の挑発に激昂した一誠が殴りかかってくるが、怒りで我を忘れた拳は大降りになり単調さも増す。避けるのも容易い。

 

(こんな挑発に簡単に乗ってくるなんてな)

 

 そもそも、倍加の能力はそれなりに警戒している。……長期戦になればなるほど、偶然の当たりでさえ決定打になりかねない。……それに、味方を持っている時ほど警戒しなければならない《譲渡》の方も有るのだ。

 あんな風に挑発すれば直ぐに攻撃を仕掛けてくるだろうと予想していたが、予想以上に狙い通りに動いてくれている。

 

「せーの!」

 

「て、うぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 その中の一発をしゃがむ形で避けて一度剣を地面に刺し、開いた両手で一誠の腕を捕獲、そのまま一本背負いの要領で投げ飛ばす。当然受け身が取れる様な投げ方はしない、一誠を投げ飛ばした直後に彼の腕を放している。

 

「ぼくもまだやれるよ!」

 

「ああ、知ってる」

 

 横から切りかかってきた木場の魔剣を素早く引き抜いた剣で受け止める。二つの剣がぶつかり合った時、力負けてして折れたのは木場の持つ魔剣の方だった。

 

「木場、譲渡すっぞ!」

 

「やるしかないね!」

 

「っ!?」

 

 一誠の声を聞いて距離を取る。警戒していた力なので、相手の動きに対応し易い位置を取った訳だが、

 

「行くぜ、 赤龍帝の贈り物ブーステッドギア・ギフト!」

 

「 魔剣創造ソードバース!」

 

 一誠の倍化された力を得た木場が四季の足元に剣の森を作り出す。足元と言う位置からの不意打ちに近い攻撃、対応できたとしても確実に隙は出来るだろうと予測していた。それを予期して木場は両手に魔剣を作り出す。だが、

 

「甘い!」

 

 四季は足元から次々に出現する剣を次々に足場にして 跳躍ジャンプしながら上空へと逃れる。

 

「嘘だろ……?」

 

「でも、空中なら逃げられない!」

 

 四季の動きに唖然としている一誠とは対照的に、木場は四季を……否、四季の持つ漆黒の超兵装の剣を見据えながら両手に作り出した魔剣を持って四季を居って跳躍する。

 

「人間の知恵と努力を舐めるな!」

 

 漫画を読んでいて出来るかと思って試した結果、上手く形になった技術だがそれによって戦闘での自由度は増した。

 

 

 ― 虚空瞬動エアダッシュ―

 

 

 足場に一時的に用意した気弾を足場にしての加速と気弾を爆発させる事によって得られる加速を使っての空中移動。自分を吹き飛ばすと言う一点のみに特化させ、破壊力を抑えているが当然ダメージは受ける。その為になるべく使いたくは無いが。

 

(その内完全再現してみるか)

 

「なっ!?」

 

 四季の行なった芸当を知らない為に重力に任せて自由落下するしかない四季が空中で軌道を変えた事に驚く木場だが、それが逆に隙を生む事になる。

 

「ガハッ!?」

 

 

「祐斗!!!」

 

 

 咄嗟に楯にした二本の魔剣を容易く粉砕し、四季の剣は木場の体を切り裂く。致命傷にはなりえない浅い一撃だが、そのまま木場は力なく校庭へと落下する。その姿にリアスは悲鳴に近い叫び声を挙げる。

 

「負けられない……その剣が……その剣があれば、聖剣を超えられるんだ!」

 

 両手持ちの巨大な大剣を作り出して持ち振るう木場。避ける事は簡単だが、

 

「自分の最大の武器や技まで見失ったか。バカな奴だ。今のお前は三流以下だぞ」

 

 避けてトドメを刺す事も出来るが、これ以上長々と戦う気は無いため、確実に終りにする為の一撃を選択する。今の四季ではリスクが有る可能性が有るが……それでも、使えない技ではない。

 

「引導を渡してやる。兵装展開」

 

 漆黒の剣の刃が展開し、そこから光の刃が伸びる。漆黒の光によって作り出されたエネルギーの大剣。

 

「一閃、バーストスラッシュ!」

 

 四季の閃光の刃が木場の魔剣とぶつかり合った瞬間、それを粉砕し、そのまま木場の体が吹飛ばされていく。

 

 

―ウシナウノガツライカ―

 

 

「っ!?」

 

 展開した刃が元の形に戻ると同時に剣から伸びる漆黒の靄が四季の腕を包む。

 

「しまっ!?」

 

 ブラスターシリーズの力への誘惑……最大出力とまで行かなくても有る程度の力を発揮するとこうして襲われる事がある。それは、まだブラスターシリーズの主として認められていないからだろう。

 

「四季!」

 

「っ!?」

 

 力に呑まれそうになる中、自分を呼ぶ声が聞こえる。此処には居ないはずの四季にとってすべてと言うべき少女の声が……。

 

「……詩……乃……?」

 

 四季は力に飲まれそうになる四季を引き止めるように抱きとめてくれた彼女の名を呼ぶ。

 



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ハイスクールV×D ライド7

(危なかった……)

 

 剣の記憶と言うよりもブラスター・ブレード……彼が剣を手にする前、アーメスと名乗っていた頃の記憶だろうが、彼の仲間だった男がブラスターシリーズの槍に飲み込まれていく様を見ていた。

 故に一度乗り越えることが出来ても、出力を上げる度に同じ様な事が起こる状況は、四季自身を剣が拒絶しているとしか思えない。

 理解している。二振りの剣は真の主と言うべき光と影の英雄が居る。ならば、自分が使っているのは剣達にとっても不本意なものだろう。

 その度にこうして詩乃の声に引き戻して貰っている。

 

「……ごめん……それとありがとう。さっきは危なかった」

 

 肉体は疲労していないが精神はかなり消耗してしまっている。それでも戦えないことは無いだろうが、流石に長期戦は無理だろう。

 

「祐斗、祐斗!」

 

「木場、しっかりしろ! アーシア早く治してやってくれ!」

 

「は、はい!」

 

 グレモリー眷属は四季の一撃に吹飛ばされた木場に駆け寄って彼の治療を行なっていた。……内心、やりすぎたとは思うが、決闘の最中と言うのを忘れては居ないだろうか。流石にこれで治療した木場の再投入は幾らなんでも反則だろう。とは言え、先ほどの四季の一撃は下手をすれば致命傷にもなりかねない一撃だった。

 

「そんな!?」

 

 僧侶の駒の転生悪魔であるアーシアの 神器セイクリッド・ギアは回復型の神器である 聖女の微笑みトワイライトヒーリング。だが、その回復型神器の力でも四季の一撃で負った木場の傷は中々癒え様としない。

 

(今の内に退くべきか?)

 

 流石に不意打ちで一誠を叩き伏せる気は無いが、それでも態々決闘の最中に木場の回復を待ってやる道理は無い。

 

「それで、どうしてこうなったの?」

 

「色々有って変態を殴ったら、今度は木場に剣寄越せって絡まれた」

 

 そう聞いてくる詩乃に対して必要最小限な部分だけで端的に説明する。特に一誠を四季が殴った理由とか。

 

「それを?」

 

 詩乃の視線が四季の持っている漆黒の剣へと向かう。超兵装ブラスターシリーズの危険性は彼女も良く知っている。……と言うよりも四季が力に飲み込まれそうになった時に引き戻した事が有る。特に超兵器ブラスターシリーズの危険性については。

 

  神聖国家ユナイテッドサンクチェアリを影より守る 影の騎士達シャドウ・パラディン。だが、その前身となったのは聖域と言う光より生まれし影、聖域の暗部。

 その前身となったシャドウ・パラディンに所属する者にブラスターの名を冠する武具を持った者が所属する事からも、その危険性が理解できるだろう。

 

 だが、ブラスターシリーズは危険であると同時に強力な武器でも有る。後にブラスター・ジャベリンと呼ばれる事となる男は、初めて手にした時その武器の桁違いの違いの力に驚愕するほどだ。

 

「帰るか?」

 

「そうね。今日は買い物に付き合って貰おうと思ったのに」

 

「んー、詩乃の買い物になら何時でも付き合うさ。オレにとって詩乃と一緒に居る時間が一番大事なんだからな」

 

 

「待ちやがれ!」

「待ちなさい!」

 

 

 二人がそんなグリモリー眷属に背中を向けて帰ろうとした時、一誠とリアスが二人を呼び止める。

 

「木場は負けたけど、まだオレは負けてねえぞ!」

 

「……それじゃ、木場はリタイアって事で良いのか?」

 

「ええ、アーシアの神器でも治療に時間が掛かるみたいだしね」

 

 険しい表情で四季を睨みつけながら木場のリタイアを認めるリアス。一歩間違えれば木場は死んでいた危険性もある。彼女としても自分の眷属を此処まで傷つけた四季をただで済ませる気は無いが、元々は此方から持ちかけた賭けと決闘。

 同時に一誠の『兵士』の駒の能力であるプロモーションも、自陣である駒王学園では使えない。一誠一人では四季に勝てないのは分かっているから、悔しく思いながらもこう決断するしかない。

 

「認めるわ。今回は私達の負けよ」

 

「部長!? なんでですか!? オレはまだやれます!」

 

「そりゃ、お前には攻撃してなかったからな」

 

「殴ったんじゃなかったの?」

 

「それは別」

 

 実際先ほどの決闘では一誠よりも殺す気で四季に向かってきた木場の相手に集中していたので、一誠の事は殆ど無視に近い状況だった。

 

(迂闊だったわ)

 

 悔しげに心の中でリアスはそう呟く。S級はぐれ悪魔を討伐したと言う情報は前もって得ていた。……だと言うのに油断していた。完全に四季の実力を甘く見ていた。……人間だと言う理由で、だ。

 リアス自身、パートナー……今四季と合流している詩乃の存在も端的な情報から聞いていたことで、S級の討伐も二人で行なった物だろう考えていた。加えて聖剣……悪魔にとって毒となる聖剣を持って当たればそれだけで勝率も上がる。勝手にS級ハグレ悪魔討伐の功績は聖剣を使って二人がかりだったから討伐できたと思い込んでいた。

 光の剣では無く影の剣を使ったこと、パートナーが不在で単独での戦闘。一誠と木場の二人ならば十分に勝てると思ってしまっていた。

 結果、一誠の譲渡を使ってさえかすり傷一つ負わせる事無く、木場が大怪我を負う事となった。

 

 リアスとしてもライザーを倒した時のように彼の神器である 赤龍帝の籠手ブーステッド・ギアが 禁手化バランスブレイクすれば勝てるとは思っているが、今の一誠ではそれは無理だ。

 

「それじゃあ、約束は守ってくれ、先輩」

 

「ええ、分かってるわ」

 

 そう言って手を振って立ち去って行く四季と詩乃の二人。

 

「部長!?」

 

「今は祐斗の治療をするのが先よ」

 

 一誠の言葉にそう応えながら一つの答えに行き着く。

 

(彼の剣が神器じゃなかったなら、彼の持っているって言う剣は、 聖域の守護竜サンクチュアリ・ドラゴンが持ち去ったって言うあの……。もしそうだとしたら、下手に彼を刺激しない方が良いわね)

 

 魔王である兄への報告もしつつ、今後の四季への対応は改めて考える必要がある。

 

(取り合えず、イッセーに失言を謝らせる所から始めないと)

 

 まだ怒っている一誠をどうやって説得するべきかと言う所に頭を悩ませるリアスだった。



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ハイスクールV×D ライド8

(そう言えば……最近、二人で遊びに行った記憶は無いな)

 

 ふと、荷物持ちをしながら四季がそんな事を考えていた。何時もの事ながら詩乃との買い物に付き合って荷物持ちをしている訳だが、

 

(……まあ、オレが詩乃と一緒に居られるだけで楽しいのは何時もの事だし)

 

 詩乃と一緒に居られれば何処でだって幸せだ、と言い切れる四季である。だが、その気持ちが一方通行になってしまっていないかと不安を覚える事も有る。

 付け加えるならば、己の中にある一種の『歪さ』も理解している。……詩乃さえ居てくれれば世界さえ要らない、等と言う一歩間違えれば危険極まりない考えが自分の中にあることに。

 

 基本二人で行動しているのはハグレ悪魔狩りやデートを兼ねた買い物と、純粋に遊びに行った記憶はなかったりする。

 

(ハグレ悪魔狩りで稼いだ分を少し使って……夏休みに旅行に)

 

 有る程度予定を立てつつ、詩乃にも相談して計画を立て様と考えを巡らせていく。……ただ、世の中予定通りに進まない事は色々と存在している。特にドラゴンが色々なものを引き寄せるのなら、守護竜を宿した四季もトラブルを引き寄せる事だろう。

 

 ……まあ、惑星クレイのドラゴンは例外だと思いたい。……ドラゴンエンパイアはどれだけトラブルを引き寄せるのか想像出来ないレベルになってしまうのだし。近隣では気絶したドラゴンが降って来るとか来ないとか……。

 

 恐るべし、惑星クレイ。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 さて、彼女グレモリー眷属の王であるリアス・グレモリーは頭を抱えていた。先日の四季との一件。あの二振りの剣を持った四季が悪魔に対して悪い感情を持ってしまったと言う可能性はこれから先心底拙い事になるだろうと考えていた。

 

 四季の持っていた漆黒の剣は外見は能力から、堕天使側が手にしたという伝説の剣の一つである可能性が高いそうだ。一誠との揉め事を除いて兄には報告したが、流石に自分の眷属が喧嘩を売ってしまいました。等と報告できるはずも無い。

 そして、もう一つ四季が光の力を宿した剣を持っていると言うが、天使側が手にした白い剣であると考えて良いだろうと言うのが悪魔側の新たな推測だった。守護竜が持ち去ったと言われている二本の剣、そのうちの一振りを持っていて片方は持って居ないと言うのは先ずありえないだろう。

 天使や堕天使以上にその剣の脅威に曝された悪魔側は身を持って二振りのブラスターシリーズの脅威を知った為にその力の強大さは三大勢力の中でよく知っている。だが、同時に危険性は何処よりも知らずに居た。

 リアスと同じ駒王学園の生徒がその剣の所有者。自分達のテリトリーの中に中立の状態で存在している。接点が出来たリアスに彼との交渉を任せることになったのだが……

 

(どうすれば良いかしらね)

 

 既に交渉は決裂しているとも、かなり四季からの評価が低いとも言えないリアスだった。少なくとも、『絶対にぶん殴る』と憤っている一誠を宥めて四季に頭を下げさせる事から始めなければならないだろう。

 四季も四季でリアス達の事を悪く言ったが、それは眷属にならない理由として上げた面も有る。それについては四季も『言って良いのか』と聞いてもいる。

 非常時でなければ相手にも仕えるべき主君を選ぶ権利だってある。寧ろ、木場と一誠を同時に相手にして無傷で勝利した四季の実力を考えれば彼が心を惹かれる条件を提示してから誘うべきだっただろうと、改めて思ってしまった。

 

 まあ、余談では有るが、四季と交渉するのならどちらかと言えば会長の方が向いているかもしれないだろう。外見だけならリアスよりも彼女の方が好みだろうし。

 

 リアスがそんな事に頭を悩ませながら一日ほど時間が経った頃、その日のオカルト研の部活は一誠の家で行う事になった。旧校舎の清掃の為に何時もの部屋が使えない為に急遽リアスとアーシアの同居している一誠の家を使う事になったのだ。

 

 まあ、リアスとしても四季の問題に対して良い考えが浮かばない現状で、良い気分転換になるだろうと考えての事だったが。

 

「小さいイッセー……幼い頃のイッセー、幼い頃のイッセー、幼い頃のイッセー、幼い頃のイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー!」

 

「私も部長さんの気持ち分かります!」

 

 当のリアスはアーシアと一緒に気分転換所か一誠の幼い頃の写真で仲良くトリップしていた。傍から見ればかなり危ない人である。

 

「ああ、木場! お前は見るなよ!」

 

「ははは、良いじゃないか、もう少しイッセー君のアルバムを楽しませてよ」

 

「何か本気でイヤなんだよ!」

 

 主に四季の木場に対する『同性愛者』発言から眷属内での黒二点の一人としてちょっと思うところが有ったのだろう。結構必死な表情で取り戻そうとしているが、木場はそれを簡単に避けていた。まあ、騎士の駒の転生悪魔の木場に素早さで一誠が勝つ術は無いだろうが。

 

 ニコニコとしてイッセーをからかう様に飛び回っている姿からは四季の漆黒の剣を見た時の様子は感じさせない。だが、突然彼の表情が険しい物へと変わる。

 

「イッセー君! これ……」

 

 そう言って木場が見せた写真は幼稚園の頃と思われる一誠と茶色の髪の子供、模造剣らしい立派な剣が写って居た。

 

「これ、見覚えは?」

 

 そう言って木場が指差したのは背後に写っていた西洋剣。

 

「うーん、ガキの頃過ぎて覚えてないな」

 

「こんな事があるんだね」

 

 一人ごちて苦笑を浮べる木場。その頭の中にあるのは四季の漆黒の剣が聖剣を砕く姿。

 

「思い掛けない場所でみかけるなんて……」

 

 その瞳に浮かぶのはゾッとするほど憎悪に満ちていた。

 

「これは、聖剣だよ」

 

 

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「球技大会か……」

 

「そうね」

 

 仲良く球技大会の練習風景を見学している四季と詩乃の姿が有った。元々帰宅部でクラスでは他生孤立気味の二人なのだ。そんな中で球技大会の様な競技はかなり退屈な時期に分類できる。

 

 四季曰く、『学校の外なら友人も居る』と言うのが二人の弁だ。実際二人は外には友人は居る。

 

「なあ、詩乃……」

 

「なに?」

 

「夏休みの頭、二人で旅行に行かないか?」

 

「え!? じゅ、準備しておくけど何で……」

 

「いや、遠出って仕事関係だけだから、恋人らしい事をしようかな、って思った」

 

 顔を彼女に見せないようにしているが、四季の表情は真っ赤になっている。

 

「そ、それにしても、オカルト研の連中も張り切ってるな」

 

 球技大会には各部活同士の部活対抗戦もある。確か生徒会が他の追随を許さない圧倒的な強さを見せているらしいが、それに向けて張り切っているのだろう。

 まあ、普通の人間と悪魔では基礎スペックが違う。スポーツと縁の無いオカルト研究部も全員身体能力のスペックは高い。四季のような例外を除けば純粋な身体能力では勝ち目は無いだろう。

 

「でも、野球の練習って意味あるのかしら?」

 

「だよな」

 

 思わず詩乃の言葉に同意してしまう。本来野球は九人で行なわれるスポーツだが、オカルト研究部は現在活動している部員は六名、一応七人目は居るらしいがそれを含めても二人足りない。まあ、二人足りなくても試合は出来るかもしれないが、当然ながら防御の麺で不利になる。同時に11人で行なうサッカーに於いては巧守共にだ。

 それに、サッカーも野球も専門の部活が有利になると言う点を考慮すると、全ての部活動になるべく有利不利が無い種目になる可能性が高い。

 

(それにしても)

 

 ふと、グレモリー眷属の練習風景の一角……木場のところで視線が止まる。ボーとしているだけならまだ良い。何故か四季の姿が視界に入ると周りの事も気にせずに殺意を向けてくることもある。隙有らば切りかかって来そうな辻斬りの様な気配を向けてくる為に、四季にしてみれば油断なら無い。

 ……お蔭で今日は詩乃と一緒に昼食を取れなかった。……しかも、今日は折角詩乃が作ってくれたと言うのに味わって食べる事ができなかった。

 

 流石に其処までされるのは迷惑だ。

 

「いっそ向かって来てくれれば楽なのに」

 

「何物騒な個と言ってるのよ」

 

 向かって来てくれれば迎え撃てば良い。だが、殺意を向けてくるだけでは流石に対応は難しかったりする。

 

 

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ハイスクールV×D ライド9

 

「何の用だ、変態?」

 

「部長がお前と朝田を呼んでんだ、部室まで来てくれ」

 

 四季と一誠の間に流れる険悪な空気に周囲の生徒達は二人から距離を取っている。此処に天使や悪魔等に無関係の生徒が居なかったら、神器を出しての戦闘に入りそうな程度には二人の間に流れる空気は不穏な物になっている。

 

「断る。それにもう関わらないって言う 約束契約だっただろ? 随分と早く 約束契約を破るんだな?」

 

 グレモリー眷属には仲間になる利は無い程度の認識だったが、一誠に関してだけは 大切な人詩乃に対する暴言で完全に敵としてみなしている。あの日から《人殺し》と何も知らないで彼女を悪く言う連中に対しては数え切れないくらい怒りを覚えている。何故何も悪くない彼女がそんな風に悪く言われて傷付かなければならないのかと。

 

「オレはお前らなんか連れてきたくないんだよ! でも、部長が……」

 

「奇遇だな、オレもお前の変態面は見るに耐えないと思っていたところだ」

 

 一誠の言葉に四季が挑発をぶつける事で更に空気が重くなる中、

 

 

『何やってるのよ?』

 

 

 突然響く呆れと言う感情の篭った第三者の声。その声に四季の纏っていた不機嫌な空気は霧散される。一誠から向けられる敵意を一切無視して後ろから聞こえてきた声の主……詩乃の姿が有った。

 

 殺気混じりで交わされていた雰囲気が霧散した事に心底安心しているクラスメイト達の姿が視界に移ると、詩乃へと感謝している、詩乃と仲の良い四季のクラスメイト『桐生 藍華』の姿が有った。

 恐らく四季を何とかできるであろう詩乃を呼んだのだろう。感謝している藍華に『気にしないで』と言う様子で手を振っている詩乃の姿に、彼女に友達が出来た事に心底喜んでいる。駒王学園で友達と言えるのは四季も詩乃も二人くらいだが。

 別に女イッセーとか言われていても、四季にとっては詩乃と仲良くしてくれているならそれで良い。

 

 重ねて言うならば四季も詩乃も学園の外には友達は居る。学校内での交友関係が狭いだけだ。

 

(うん、良かったな。友達が出来て……)

 

 ある意味本人に聞かれたら怒られそうな事を考えている。ふと、一誠の方に視線を向けるとアーシアが一誠側の仲裁に入っていた。ふと思う。……詩乃に似た過去がアーシアにもある。流石にその事について触れる気は無いが、もし四季がその事を言っていたら、一誠も四季と同じ様に怒っていただろう。

 

「それで、なんでこうなったのよ?」

 

「大した事じゃない、あいつのご主人様が早速約束を破ってくれた事と、あいつの変態面は見るに耐えないって思ってただけだ」

 

「はぁ」

 

 何故そんな風に四季が思っているのか検討が着いたのだろう、詩乃は呆れた様に溜息を吐くがどこか嬉しそうに見える。

 

 似たような空気もアーシアが纏っているのが見えるが、四季の視界の中には詩乃しか入っていない。

 

 まあ、その後の流れは特に揉める事は無く今回だけと言う条件付きで四季と詩乃の二人は一誠達と共にオカルト研に行く事になったのだ。

 

 

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「遅れてすいません、五峰の奴が中々……!!!」

 

 オカルト研究部のドアを開けた瞬間、一誠の表情に驚愕が浮かぶ。其処に居たのはオカルト研究部の他の面々だけではない。駒王学園の生徒会長、黒髪をボブカットに揃え眼鏡を掛けてスレンダーで凛とした佇まいの美女。

 

 リアスや朱乃に人気では一歩劣るものの学園内では第三位の人気を誇る生徒会長『支取 蒼那』。付け加えるならば、過去の事件で距離を取られ……四季が恋人と言う立ち居地に居る為にそれなりに詩乃も男女問わず人気がある。

 

「せ……生徒会長……?」

 

「ソーナ会長と匙?」

 

 序でに言うとこの学園に於ける四季の数少ない友人である『匙 元士郎』は生徒会の書記でもある。

 

「はい、こうして話すのは久し振りですね、四季君」

 

 ニコリと微笑みながら笑顔を向けられて不覚にもドキリとしてしまい、詩乃に背中を抓られる。

 

「まあ、匙とは結構会ってますけど、最近は喧嘩はしてないんで」

 

 小声で詩乃に謝りつつソーナの言葉に答える四季。その時にさり気無く彼女の手を握る。そもそも、匙とは詩乃に対するイジメが元で友人になった関係で有り、その時にソーナとも会っている。

 

「それで、このタイミングでソーナ会長が部長さんと一緒に居るって事は……」

 

「生徒会長も悪魔って事になるわよね」

 

 多少警戒するものの戦闘体制には入らずに居る辺り、二人のソーナに対する信頼の高さがよく分かるね。

 

「ええ。貴方との約束を守るためにもソーナにも貴方の事を教えておく必要が有ると思ったのよ」

 

 まあ、それを利用してなるべく接点を得たいと思っていたわけでは有るが。

 

「ソーナ、彼が正体不明の仮面の騎士で、彼女がそのパートナーよ」

 

「仮面の騎士って、あの!?」

 

「まさかお前が!?」

 

 リアスの紹介に驚愕を露にするソーナと匙。実力者と噂されていたどの陣営にも属していない正体不明のフリーの賞金稼ぎが、年代こそ自分達に近いと考えられていたが、まさかこんなに身近に居るとは思っていなかったのだろう。

 

「名乗った覚えは無いけどな」

 

 そう言って取り出すのは変装用の仮面。

 

「四季君、私の眷属になりませんか?」

 

「……行き成りそれですか?」

 

「ええ、悪魔になれば……朝田さんと長い間一緒に過ごせますよ?」

 

「っ!?」

 

 四季の表情に思いっきり動揺が浮かぶ。……眷属にもハーレムにも興味が無いが、長く生きられる種族に転生すれば、その分だけ詩乃と長く一緒に居られる。……そもそも、四季の中では結構評価が高いソーナである。

 

『ええっ!?』

 

 明らかに自分達とは違う態度に叫び声を挙げるグレモリー眷族の皆さん。

 

「え、えーと、流石に詩乃の意思を無視して……」

 

「わ、私も四季と一緒に居られるのは……」

 

 顔を真っ赤にしてそう答えてくれる詩乃さん。本人の意思も問題ない様子。

 

「いや、オレは詩乃以外を女王にする気は……」

 

 女王は眷属内の№2。四季にとって詩乃以外の誰かをそんな立ち居地につける気は無い。

 

「それでしたら、両親やお姉さまに相談しても良いですよ」

 

 女王の駒を既に使っているソーナでは無理だろうが、四季が悪魔に転生した場合一時的に別の誰かの女王として預かると言う事だ。四季が上級悪魔になれば未使用の女王の駒と交換すれば、問題ないと言う事だろう。

 

 リアスの時とは違い本気で前向きに考えそうになる四季である。

 

「ふふ、冗談ですよ。残念ながら、貴方は私の手持ちの駒では転生できそうにありませんし」

 

「そうですか」

 

 四季の声にちょっと残念な響きが含まれているのに気が付いてリアスの表情に焦りが浮かぶ。

 

「それから、貴方が探している人の事、私も協力させて頂いて良いですか?」

 

「……条件は?」

 

「いえ、リアスが貴方との交渉に失敗したようなので、あまり私達に敵意ばかり持ってしまわないように、と思ったので」

 

 ソーナとしても四季に敵意を持ってほしくは無いと言う意思も有る。

 

「それと……」

 

「分かりました、会長」

 

 何時の間にか話は纏まり協力者として生徒会……強いて言えばシトリー眷属に協力者となる事を約束する四季だった。まあ、四季が協力するならば詩乃も一緒に協力してくれることだろう。

 

 当のソーナは気付かない事だが、下手をすれば一大勢力なりそうな惑星クレイ由来の力を得ている彼の友人達も上手くすれば協力者に出来る所まで話を進められたのだ。

 



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ハイスクールV×D ライド10

「いい加減にして欲しい……」

 

 球技大会当日……四季は一人此処最近の木場からの視線に頭を抱えていた。上の空の割には四季にだけは殺気を向けてくる。四季としては以前一誠とのコンビを相手にした時にやりすぎた程度しか心当たりは無いし、はっきり言って木場や悪魔側の事情になど興味も無い。

 流石にこう毎日だといい加減殺意が湧いてくる。……主に詩乃さんの手作りのお弁当を全然味わえなかったりとか。

 

 内心、『あの時ブラスター・ブレードの方で叩き斬っておくべきだった』と思う中、匙と一誠が気合を入れて応援しているリアス対ソーナのテニスを観戦していた。

 実際、木場&一誠との戦いでは、少しでも致命傷になるのを避ける為に、この世界に於いては聖剣と言う分類に属するブラスター・ブレードだけはなく、魔剣と言う分類になるブラスター・ダークの漆黒の剣の方を選んだわけである。

 

 

「行くわよ、ソーナ!」

 

「良くってよ、リアス!」

 

 リアスのサーブがソーナのコートに突き刺さり、バウンドしたボールをソーナが打ち返す。……此処までは普通のテニスだ。

 

「お喰らいなさい! 支取流スピンボール!」

 

「甘いわ! グレモリー流カウンターを喰らいなさい!」

 

 高速回転を加えて打ち返されたボールはリアスのラケットに当たる事無くボールが軌道を変えて急速に落下して行った。

 

『15-30!』

 

 

 

「魔力籠めてないか、あれ?」

 

「籠めてるわね、あれ」

 

 魔力込みの派手な試合を始めた二人に呆れた視線を向ける四季と詩乃。流石に普通の人間相手に魔力を使うと言う大人気ないマネはしていないだろうから何も言う気は無いが、納得してやっているのなら、魔力を使おうが必殺技を使おうが、相手をKOしようが問題は無いだろう。

 

「やるわね、ソーナ。さすが私のライバルだわ」

 

「うふふ、負けた方が小西屋のトッピング全部乗せたうどんを奢る約束、忘れていないわよね」

 

「ええ! 絶対に私が勝たせてもらうわ! 私の魔動球は百八式まであるのよ?」

 

「受けて立つわ、支取ゾーンに入った物は全て打ち返します!」

 

 何処かのテニス漫画みたいなことを言ってやる気は十分と言った様子の、駒王学園内に居る悪魔達の二人のトップ。どうでも良いのだが、二人とも貴族な割りに掛けの対象が庶民的過ぎる気がする。

 

「昨日の事って冗談よね?」

 

「……ごめん、少しだけ本気で検討した」

 

 詩乃の問いかけにそう答える。実際、何処まで冗談だったかは疑問だが昨日のソーナからの勧誘には、本気で心が揺らいでいた。人間の寿命よりも長い年月を大切な人共に過ごせる。リアスの勧誘の時には話題に上がらなかったために一切検討しなかったが、冷静になって考えればそれも可能である。

 

「私達が今の立場のままで居る理由……忘れたわけじゃないでしょ?」

 

「すみません、忘れてません」

 

 ぶっちゃけ、どんな決意も隣に居る人が関わると全て投げ出しそうになる四季である。まあ、四季としても三大勢力の何処かに所属しない理由と言うのは、各勢力に対する問題点が挙げられる。

 

 悪魔についての問題点はやはり、純潔の悪魔が優遇される貴族社会……転生悪魔として悪魔になっても生き難いだろうと言う点。

 堕天使については四季の持つブラスター・ダークの漆黒の超兵装。過激派の連中に所在が知られるのは危険と言う判断から。

 天使はやはり……

 

「……『聖剣計画』……」

 

 其処まで考えた後、妙にパズルのピースが会う気がした言葉を呟く。『聖剣計画』、己の 神器(セイクリッド・ギア)に眠る守護竜が、その計画の事を知った時に怒りを感じていたから良く覚えている。

 

 

 

“「負けられない……その剣が……その剣があれば、聖剣を超えられるんだ!」”

 

 

 

 確かに木場は四季と戦った時にそう叫んでいた。

 

(……あいつ、まさか聖剣計画の生き残りか?)

 

 聖剣に分類される剣の所有者である以上、四季としては天使や教会に協力する気になれない……はっきり言って命が幾つ有っても足りないと思っている理由である。なにより、四季にとって命を賭すべき相手は詩乃であって、神などではない。

 現在はそれほど過激な実験や研究は行なっていないらしいが、それでも前科が有る以上信用などできるわけが無い。

 

 

 ―『部活対抗戦代表者は大会本部まで……』―

 

 

 四季がそんな事を考えている間に球技大会のリアス対ソーナの試合は、魔力を駆使した凄まじい……どこぞのテニヌを連想させる打ち合いの末に二人のラケットが壊れた事で両者優勝で方が着いた。

 そして、放送で知らされるのは部活対抗戦についての放送。

 

「現実にも有るんだな……漫画みたいな事」

 

「普通はあるわけ無いでしょ?」

 

 帰宅部な四季と詩乃については関係ないが、部活対抗戦は体育館で行なわれるドッチボールが競技らしい。オカルト研の面々……特にリアスは妙に気合が入っている。

 

 まあ、ライザーに非公式とは言えレーディングゲームで負け、四季には二対一と言う圧倒的優位な状況でも敗北しているのだ、特に勝利に飢えていると言う事だろう。

 

(……聖剣計画の生き残り……本当にあいつの主は何やってるんだか)

 

 聖剣計画の生き残りゆえに聖剣を超える力を秘めた超兵装ブラスターシリーズの一つを求めた。そう言う事だろう。

 

 力への上と渇望。力を求める理由こそ異なるが、それは何処か『ブラスター・ダーク』と名乗る前の後のブラスター・ブレード……アーメスに憧れていた一人の少年剣士を連想させる。

 

 さて、建前は生徒達が球技を通じて青春を謳歌しつつ、競い合う歓びを分かち合う大会なのだが、一誠は全男子から狙われていた。……少なくとも、アウェーで試合する国際大会の選手でさえ此処まで敵意は向けられないだろう。

 

 その原因は事前に坊主頭と眼鏡の親友二人が、変な噂をばら撒いていた効果だろう。どうも、それに前後して四季が詩乃と同棲していると言う噂が流れているが、妙にそれに関しては納得されている雰囲気がある。真相は一誠自身が自分の噂を打ち消そうと新たに流した物だが……校内でも普段から仲が良い上に、四季が恋人かと聞かれたら即座にYesと答える所からも納得されている。

 

 まあ、そうでなくても、

 

 『学園の二大お姉様』と呼ばれている駒王学園のアイドルである、リアスと朱乃に投げる? その瞬間、味方さえも敵に廻る。今後の学園生活は恐ろしい事になるだろう。

 

 小猫に投げる? 戦車の特性で簡単にキャッチできそうだが、学園のマスコットのロリっ子に投げるのは心理的に無理だろう。序でに上記の様に今後の学園生活は恐ろしいこととなる。

 

 アーシアに投げる? 癒し系の美少女に投げたら、当てた瞬間罪悪感に苛まれた上に周囲から冷たい目で見られるのは覚悟すべきだろう。学園生活は推して知るべし。

 

 木場に投げる? 当てた瞬間、女子を敵に廻す事になる。

 

 等など、上記の理由から他のオカルト研のメンバーには投げられず、逆に一誠には……リアスやアーシアとの同棲疑惑。四季にも同棲疑惑が有るがそれはそれ……二人も囲っている上に四季の方は恋人、怒りが向くのは自然と一誠の方に確定する。

 

 ……と言うよりも、周囲のギャラリーからは『イッセーを殺せぇぇぇぇぇ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』とのコールが響き渡り、ボールを投げる選手も『死ね、野獣!』と殺意全開の叫びだ。

 一誠が避けたりキャッチする度にギャラリーや選手からは残念そうな声が響く。会場全体……四季と詩乃を除いた会場全体の心が一つになっている。

 

 そんな試合の中で中々当てられない事に苛立った者がボーとしていた木場に向かってボールを投げる。それに気付いた一誠が木場を庇うもボールの当たり所が悪く、治療係のアーシアと運搬用の小猫と共に倒れた一誠が引き摺られて出て行く事になる。

 

「ん?」

 

 ふと、試合を観戦しつつ時折詩乃との談笑を楽しんでいた四季だが、メールが届いている事に気付く。しかも、そのメールが届いたのは賞金稼ぎの他に裏関係の依頼を受ける為に用意していた方の品。

 

 そして、そのメールの内容に目を通して依頼の内容を確認すると詩乃を連れて体育館の裏まで移動する。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

「どうしたの、四季?」

 

「いや、天界上層部と堕天使幹部からオレ達に依頼があった」

 

「まさか、天使と堕天使の戦争の協力じゃないわよね?」

 

「寧ろ逆だな」

 

 流石に戦争に傭兵として参加する気はない。戦争が起こった場合はどの勢力にも協力する気はない。

 

「血塗られた聖剣……エクスカリバーが盗まれた」

 

「えぇ!?」

 

 四季の言葉に思わず驚きを露にする詩乃。飽く迄四季と詩乃の二人はコンビとして認識されている。本命は四季なのだろうが、四季も詩乃に黙って危険な依頼に首を突っ込む気は無い。

 

 エクスカリバーはかつての戦争で七つに砕かれ、折れた聖剣の欠片を格に七振りの剣として複製が造られ、それはカトリック、プロテスタント、正教会の三つの教会でそれぞれ二本ずつ管理され、最後の一振りは行方不明となったとされている。

 

「それにしても、そんな物を奪うなんて一体誰が?」

 

「それについては両方とも情報が来ていない。流石にそれを知られたら依頼を断られる。そう考えるべき大物か……」

 

 持ち主の天界だけでなく堕天使からの依頼も四季の元に入っている。その情報から考えて、奪った犯人は堕天使側。確実に戦争に対する火種になりそうなマネをする様な堕天使は過激派の大物……。堕天使側の情報から推測すると犯人は一人しか浮かばない。

 

「……多分、『コカビエル』って奴だろうな」

 

「っ!? 嘘でしょ、そんな大物が!?」

 

「流石にオレの考えすぎ……で有って欲しいな」

 

 



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ハイスクールV×D ライド11

「ったく、聖剣計画の事を思い出して早々に聖剣絡みの以来なんてな」

 

「なんでそんな事を思い出すのよ」

 

 恋人と言うだけでなく、賞金稼ぎの仕事上のパートナーと言う立場でもある以上、ある程度裏の情報などは彼女にも話している。時に表裏問わず世間で情報は武器や 神器セイクリッド・ギア以上に強力な武器となる。

 

 主に四大魔王の性格とか、堕天使総督の趣味とか、比較的どうでも良い事から今回の聖剣計画の様にある種反吐がでそうになる様な気分の悪い計画についてもだ。

 

 そんな訳で聖剣計画の全貌については詩乃も強い嫌悪感を示しており、行き成りそんな話を聞かされては嫌そうな表情をするのも無理は無い。まあ、その計画で嫌悪感を感じないのは教会関係者くらいものだろう。

 

 四季曰く『ゾンビ映画の主人公の気分が味わえそう』と評した教会のエクソシスト関係……。まだ、殺人狂の方が人間らしいとも評している。

 

「ああ、前に木場と戦った時に言われた言葉を思い出してな。……“聖剣を超えられる”……。あいつは確かにそう言っていた」

 

「 魔剣創造ソード・バースって 神器セイクリッド・ギアを持ってるからじゃないの?」

 

「その可能性も有るけどな、その時のあいつの目から見えたのは……」

 

 『憎悪』と言う感情が渇望の奥に見え隠れしていた。そもそも、それが本当ならば主の命を待たずに勝手に試合の条件を決めたと言う言動にも納得が行く。

 

「情報屋からの話しだと、その計画は一人分の屍が無かったそうだ」

 

 それは運良く逃げ切れた生き残りが一人居ると言う事になる。それが木場であるのならば、確実に七分の一程度の聖剣等遥かに超える力を秘めた四季の超兵装を求めるのにはそう言う理由があったのだろう。

 ……木場に漆黒の超兵装-ブラスター・ブレードの超兵装に習ってブラスター・ダークの超兵装を『超兵装ブラスター・ダーク』と呼称するべきかは謎だが-を使いこなせるとは思えない。

 

「それで、その仕事は受けるの?」

 

「……そうだな、報酬は魅力的な上に二重取り出来るけど……」

 

 敵は聖書に記される堕天使の大物……流石にそれと合わせて考えると報酬の額も十分に釣り合いが取れているが、

 

(仕方ない、これはオレ一人で……)

 

「当然、私も一緒に行くわよ」

 

 四季がそう考えていると詩乃が四季へとそう声をかける。

 

「詩乃、推測とは言え相手は堕天使の幹部だ。幾らなんでも危険……」

 

「四季、私は何? 貴方のパートナーでしょう? 貴方に守られるだけのお姫様じゃないわよ」

 

「そうだったな。悪かった」

 

 詩乃は自信家でそれなりにプライドも高い、だからと言って驕っている訳では無い。……そして、四季は誰よりも信頼して背中を預けている相手だ。危険だからと言う理由で四季に置いて行かれるのをよしとする訳が無い。

 

「一緒に戦おう、マイ・ヴァンガード」

 

 恋人となった日から、共に戦うと決めた日から、決めていた筈だ。どんなに強い相手でも二人ならば負けない。

 詩乃が間違えたなら自分が正す、自分が間違えたなら詩乃が正してくれる。二人が間違えたのなら……間違いに気付いた方が止めてくれる。どんな道でも二人でなら歩いていける。

 

(……まあ、その前にオレが切り伏せるか)

 

 それに仮にターゲットがコカビエルだとして、次の行動を推測する。エクスカリバーの強奪が天使側との戦争の為の火種となる事だとすれば……次の行動は悪魔側との戦争の火種を作る事だろう。

 

(そうなると、一人で残しても詩乃が危険って言う可能性もあるか)「ん? 雨か」

 

 頬に当たる冷たい水滴。空を見上げると黒く染まった空から雨が降り出していた。それはまるで四季の予想……不安が的中していると告げている様だった。

 

 

 

 

 

―パァンッ!―

 

 

「どう? 少しは目が覚めたかしら」

 

 体育館の渡り廊下に雨宿りの為に入ると其処に居たリアスが木場の頬を平手で叩いていた。

 

「対抗戦、優勝は出来たけれど、チームが団結しないとならない場面で終始貴方は心此処に有らずだったわ。一体どうしたの?」

 

 拙い所に出てしまったと思う中、治療を終えたらしい一誠達もその場面に出くわしてしまう。

 

「……木場」

 

 死んだような目で項垂れている木場の姿を見て一誠が疑問に思う。

 

「大会では申し訳ありませんでした。調子が悪かったみたいです」

 

 作り笑いと分かる笑顔で木場はリアスへと謝罪を告げる。

 

「もういいですか? 球技大会も終りましたし……。少し疲れましたし、暫く部活も休ませてください」

 

「おい、木場。お前……」

 

「五峰くん」

 

 そう言ってリアスの前から立ち去ろうとする木場を呼び止めようとするが、木場はそれよりも早く四季の姿を見て四季へと声をかける。

 

「何の用だ?」

 

「うん、大した用じゃないんだ。君に一つお願いが有ってね」

 

 濁った瞳で四季を見つめる木場の視線。それに恐ろしい物を感じたのか詩乃が一歩下がるが、四季が彼女を庇うように前に出ると、彼女は四季の手を握る。

 

「お願い?」

 

「……全てが終わればどんな代償でも払うから、ぼくに譲ってくれないかな……」

 

 憎悪と復讐心で濁った目で四季を見据えながら木場はそう告げる。

 

「君の魔剣を」

 



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ハイスクールV×D ライド12

「断る」

 

 答えは即答だった。木場の言う魔剣とは四季の持つ超兵装ブラスター・ダークの事だろう。

 飽く迄超兵装ブラスター・ダークは本来の持ち主であるブラスター・ダークに変わって預かっているだけであり、

 

「どんな代償でもと言われても、お前から欲しい物なんて何も無い……神器も含めてな」

 

 はっきり言って木場に何を支払われても四季には手放す意思は無いし、木場の所持している物……宿している 神器セイクリッド・ギアや命を含めて釣り合う物を持っているとは思えない。何より、

 

「あの剣はオレの“覚悟”の証だ。何が有っても手放す気は無い」

 

 超兵装ブラスター・ブレードが勇気の証ならば、全てを賭して愛する人を守ると誓った覚悟の証。それを生きている限りそれを手放す気は無い。

 

「木場、お前マジで最近変だぞ?」

 

 四季の言葉に無言のまま立ち去ろうとする木場を一誠が肩を掴んで呼び止める。

 

「君には関係ないよ」

 

 立ち去ろうにも立ち去れない空気が漂う中、一誠と木場の会話で四季の推測が正しいと確信できる一言『聖剣エクスカリバーを墓するのが戦う意味だ』と言う言葉を木場が告げる。

 

(やっぱりな)

 

 だからと言って何かする気は無い。四季にとって木場は名前を知っている程度の他人。友人やクラスメイトですらない相手だ。……そんな相手に己の覚悟の証を貸すほどお人よしではない。

 

「詩乃、行こうぜ」

 

「ええ」

 

「ちょっと待てよ!」

 

 流石に寒くなってきたので教室に戻ろうとする二人……正確には四季を呼び止める。

 

「よく分からないけど……木場の奴に貸してやる位良いじゃないのかよ?」

 

「……はぁ」

 

 一誠の言葉に思わず溜息を吐く。……せめて木場が手にしようと思っている剣が彼の元に有れば少しは良い方向に代わるのではと考えての、仲間を思っての事はなのだろうが、仲間でもない四季にとっては、

 

「悪いけど、アイツが欲しいと思っている剣はオレの覚悟の証だ。そんな物をノート感覚で貸すほど……オレの覚悟は安くない」

 

「木場も代償も払うって言ってただろ!?」

 

「重ねて言うが、あいつの持ち物で欲しいと思うものは何も無い」

 

 四季が超兵装を天秤に掛けるとすれば、それは『より強力な詩乃を守る為の力』だろう。四季の持つ超兵装を聖剣を破壊する為に求めている木場では絶対に支払う事の出来ない対価だ。

 

「二本も有るなら一つくらい貸してやったって……」

 

「兵藤一誠、お前は……腕は二本有るからって一本貸せるのか?」

 

 確かに四季は光の超兵装を同時に所持している。だが、残念ながら二つの超兵装だけでは、今の四季では四季が望んでいる力には届いていない。故に二つの超兵装、そのどちらも手放せない。

 

「確かに大切な者を傷つけられれば、何が有ってもそいつの事は許せない。そう言う気持ちだけは分かるし、虐げられた者が復讐するって言うのも有る意味当然の権利だ。……それを理解した上でこう言わせて貰う」

 

 そこで一呼吸置くと、

 

「知ったことか」

 

「それって、どう言う意味だよ……お前に木場の何が分かるって言うんだよ!」

 

「それは部室で言ったと思ったぞ。これはお前達の問題だ、自分達の王様にでも教えてもらえ」

 

 そう言い切って四季は詩乃を伴ってまだ何か言いたそうな一誠に背中を向けて立ち去って行く。そんな四季に対して今にも殴りかかりそうな視線で睨みつけていた。

 

 

 

 

 

「随分冷たい言い方ね」

 

「いや、あの変態の事嫌いだし」

 

 グレモリー眷属の問題に必要以上に関わる気は無い。人が守れるのは自分以外にはあと一人だけ。必要以上に手を広げて一番大切な者を守れないのはゴメンだ。

 

「リアス・グレモリーは別の生き方をして欲しい……とでも思ってるんだろうけどな」

 

 だが、それでも新しい生き方を選択するには何かしらのケジメをつけなければならない……そう言う事だろう。恐らく、木場にとってそれはエクスカリバーを超える事なのだろう。

 

「だけど、それはオレには関係ないな」

 

 超兵装ブラスター・ダークを貸し与えたために、木場のケジメに手を貸したために詩乃を守れなかった……等と言うオチはごめんだ。

 

「とは言え、オレ達はどう動くかな」

 

「もう関わっているのよね」

 

 思わず二人揃って溜息を吐く。……依頼はエクスカリバーの奪還、または核だけを残しての破壊。盗んだのが堕天使の過激派だとすれば次の動きはこの街にいる二人の魔王の妹になる可能性は高い。

 エクスカリバーの強奪で天使側に、魔王の妹とその眷属の命を奪う事で悪魔側への宣戦布告代わりにする。……天使側は兎も角、悪魔側は魔王の身内を殺されては簡単に止まれないだろう。結果、最低でも堕天使と悪魔の間で戦争は確定してしまう。

 堕天使側の思惑としてはその事態の阻止、そこに有るのだろう。

 

「まあ、木場には悪いがオレ達の賞金の為にエクスカリバーは破壊させない」

 

「そうね。でも、他に目的が有るんでしょう?」

 

 四季の考えを読んだ様な詩乃の言葉に一度言葉を止め……

 

「最悪の場合の破壊は……核毎完全破壊する」

 

 エクスカリバーはカリバーンを打ち直したが故に エクスカリバー(カリバーン改)とされていると言う説も有る。カリバーンは主が卑劣な行いをした為に自ら折れる事を望んだとされる。ならば……望まぬ血を大量に吸わされている今のエクスカリバーもまた被害者。ならば……

 

「開放してやろう、エクスカリバーを」

 



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ハイスクールV×D ライド13

「兎も角、オレ達の主な目的はエクスカリバーを奪い返す事、それで良いな」

 

 四季の自宅、テーブルを囲んで向かい合っている四季と詩乃の二人。四季の言葉に詩乃は頷く事で返す。

 

「まあ、核を除いて剣自体は破壊……そっちの方がオレ達には都合が言いしな」

 

「そうね」

 

 主な目的は奪われた聖剣の奪還。そもそも、四本の剣を持ち歩くのは面倒なので核を除いて破壊してしまおうと考えている。そうしておけば敵に争奪戦に移行するとしても、敵側の戦力を増強させる事だけは避けられる。四季は四季で二本の超兵装を持っているし、詩乃は後衛型、剣を持った所で自由に使える訳ではない。故に二人にとって核さえ無事ならば問題なく依頼は達成できる。……別に再度の修復で教会がどれだけ苦労しようが知った事では無い。

 そもそも、剣としての格は七分の一の聖剣と超兵装ブラスターシリーズの一振りではブラスターシリーズの方が格上だ。破壊するのも容易いだろう。あとは核まで破壊しないように力加減の問題だけだ。

 

「それにしても……天界も堕天使側も今回の一件に戦力を出すらしいから、それと協力して当たってくれ……か」

 

「何時もの様に正体は隠す?」

 

「あの変態の所の王様か変態辺りが勝手に正体をバラしそうだからな……」

 

 要するに正体は隠してもリアスか一誠が正体をハラしてしまいそうなので意味が無いと言う事だ。流石にエクスカリバーを持った堕天使が悪魔の領地に潜伏しているんだから、前もって接触するだろう事は間違いないだろう。

 

「まあ、誰が来るにしても……勝手に動いた方が効率は良いだろう。なんか無駄に傲慢な連中が多いし」

 

 最たる例は超兵装ブラスター・ブレードを見た瞬間の『聖剣は教会が管理するべきだから此方に渡せ』とか『教会に所属しろ』だとかである。言ってる事と行動が悪魔側と大差ない。

 

「……ロイヤルパラディンとは全然違うよな……」

 

 己の中の神器を通して見た惑星クレイの聖域に於ける第一正規軍。光の騎士達の姿とは大違いだ。

 

「それにしても、問題は木場か……」

 

「問題って?」

 

「復讐対象が近くにあって何もしない、何てマネが出来るなら復讐を捨ててるはずだろ?」

 

 そう、問題は木場の存在である。無視しても良いがこの街に盗まれた聖剣が有ると知ったら、間違いなくその剣へ復讐しようと行動する事だろう。はっきり言って邪魔だ。

 

「まあ、その辺はオレの担当だからな」

 

 敵の聖剣使いとの戦闘や、戦闘中の木場の乱入への対応、コカビエルとの正面からの戦闘……四季が前衛として担当するのは最低限その三つだ。

 

「うん、私には無理」

 

 詩乃も同じ事を考えたのだろう。即座に自分には無理だと確信していた。

 

「詩乃の担当は後衛だからな。詩乃が背中を守ってくれているから、オレは存分に前だけを見て戦えるんだし」

 

「うん、四季の背中は私が守る」

 

「オレも詩乃を守るから」

 

 確実に彼女を危険に晒す事になる。それは理解しているが、黙っていても目の前に居る大切な少女は付いてきてしまうだろう。ならば最初から二人で戦った方が良い、彼女を守るためにも。

 

「今度の相手は伝説の聖剣と堕天使幹部、S級とは言っても単なるはぐれ悪魔とは訳が違う」

 

「うん、でも私達なら」

 

「「負けない」」

 

 彼女が居てくれるならばどんな相手にも勝てる。そんな意思を持って告げられた四季の言葉が彼女の声と重なった。

 

 ……時折聞こえる、『私の力をいい加減使ってください』と言う神器の中に居る 相手ソウルセイバー・ドラゴンの事は全面的に無視しているが。

 

 

 

 

 

 さて、その日の放課後四季と詩乃の二人は“また”オカルト研へと呼び出されていた。どう考えても契約違反としか言えないのだが、リアス曰く『非常事態で大事な事』らしい。……大体見当はつくが。

 

「「……」」

 

 そんな中で四季と詩乃は目の前の光景を茫然と見つめていた。まあ、一誠とアーシアをリアスが抱きしめている所を見れば当然のリアクションだが。

 内心、『何の為に呼んだんだ』と言いたい所だろう。

 

「先輩……オレ達はあんたの部下にも協力者にもなった覚えは無い、用件を言わないなら帰らせてもらうぞ」

 

「ごめんなさい、二人が無事だったんのに安心して……」

 

 『バァン』とテーブルを叩きながら立ち上がる四季にリアスは素直に謝る。一誠からは『今ならムチャなお願いも通りそうだったのに、邪魔しやがって』と言う視線で睨まれているが全面的に無視している。

 

「無事?」

 

 リアスが言うには先日、一誠の家に教会関係者が現れたらしい。

 人数は二人……青髪をショートカットにして前髪が緑のメッシュとなった少女と、栗色の神をツインテールに結った一誠の幼馴染の少女の二人組み。

 

 なお、幼馴染の少女の事を実は再会するまで一誠は男の子だと思っていたらしい。……名前は『紫藤 イリナ』。相方の青髪メッシュの方は『ゼノヴィア』。

 

 同じ教会関係者でも所属が違うらしく、ゼノヴィアがカトリック、イリナがプロテスタントに所属している。

 

 昨日は生徒会へとソーナから呼び出されてしまい帰りが遅くなり、帰ってきた時には家に漂う聖なる力に青褪めてしまったと言う。

 

 しかも、帰る前にソーナから聞かされた話は、最悪な代物で聖剣を手にした教会の者が街に潜り込んでいると言う物だった。

 

(……その二人がこっちに派遣されるらしい天界側の戦力らしいな)

 

 『協力しろ』とは依頼には有るが二人だけで行動する気満々な四季としては依頼の事はギリギリまで黙っている心算だ。どうも過去の出会いが悪かったせいか必要以上とも取れる警戒心を抱いてしまう。

 

 それにしても、悪魔で天龍を宿した一誠の幼馴染が教会関係者と言うのはどう言う皮肉だろうかと思う。

 

「それで、その教会はどうして此処に?」

 

 理由は察しているが四季とのアイコンタクトで四季の意図を理解した詩乃はそう言って続きを促す。流石に一人だけで話していると何処かでボロが出ると思って詩乃に続きを促して貰った訳だが。

 

「昼間に彼女達と接触したソーナの話では、彼女達はこの街を縄張りにしている悪魔……つまり私、リアス・グレモリーと交渉したいそうなのよ」

 

「交渉ね」

 

 リアスの言葉に思わずそう呟く。

 

「自分達で解決するから手を出すな、とか。悪魔と堕天使が手を結ぶかもしれないから生還しろ、とか。命令でもする気じゃ無いのか?」

 

「ありえるわね、それ」

 

 妙に実感の篭った四季の言葉に同感だと言う態度で頷く詩乃。

 

「ず、随分な言い草ね。命令じゃなんて依頼……だとは思うけど」

 

「いや、一応聖剣に分類される剣も持っているからな」

 

 その言葉でリアスは四季の言いたい事を理解してしまった。実感が篭っているのではなく、実感しているのだと。

 

「どう言う心算かは判らないけど、明日の放課後に彼女達はウチを訪問してくる予定よ。勿論、此方に対して一切の攻撃をしてこないと神に誓ったらしいわ」

 

「大丈夫なんですか……?」

 

「其処は信じるしかないわね、彼女達の信仰を」

 

 リアスの言葉に不安げに問いかける一誠。以前遭遇したはぐれエクソシストを例に挙げることも無く、教会関係者は悪魔を毛嫌いしている。だが、それと同時に信仰も強い。神に誓ったのなら、相手が『はぐれエクソシスト予備軍』でもない限り、その誓いを破らないだろう。

 

「聖職者が悪魔である私達を頼るなんて相当切羽詰まっているようね……。この街を訪れた神父が惨殺されているらしいし、かなりの厄介ごとである事は確実かしら」

 

「で」

 

 リアスがそう言った後、四季はリアスへと視線を向ける。

 

「オレ達に何の関係が有るんだ?」

 

 堕天使や天界が態々四季達へ依頼したことを悪魔側に教えたとは思えない。

 

「ええ、貴方達にも中立の立場としてこの交渉に立ち会って欲しいのよ」

 

 そう、飽く迄契約とは別に四季達に対しての依頼として翌日の交渉への参加を頼むと言う事だ。

 

「それに、これは私からの依頼じゃなくて、ソート・シトリーからの貴方達への依頼、と言う事になるわね」



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ハイスクールV×D ライド14

 ……交渉への立会いと言う事だが、四季と詩乃……と言うよりも正確には万が一攻撃を仕掛けてきた場合に対する備え、と言う所だろう。少なくとも、強力な武器とS級はぐれ悪魔を討伐したという実績が有る以上、こう言う場面で頼られると言う事だ。

 

 入口側に立つ朱乃を除くリアスの眷属と向き合う形で立つ四季と詩乃の二人。四季は今回は超兵装ブラスター・ブレードを持ち、詩乃も神器の力で平行世界に存在している別の己の武器である弓を持っている。……序でに髪の色は普段と変わらず猫耳も無いので猫シノンモードではなくSAOシノンモードと言った所だろう。

 ぶっちゃけ、本人が恥ずかしがって猫シノンの姿はあんまり使わないのだ。

 

 まあ、ソーナには頼みごともして有るし、一度くらいはタダで引き受けても良いだろうと言う判断だ。

 

 そんな訳でオカルト研究部に件の二人がやってくる当日……心底居心地が悪い思いをしている四季だった。

 ただでさえ一誠からは睨まれているし、木場の雰囲気も思いっきり悪い。木場にとって憎悪の対象になるであろう彼女達は兎も角、四季にまで視線を向けてくる意味は……超兵装ブラスター・ダークが有れば、とでも考えているのだろう。

 

「……いい加減、話を始めてくれないか?」

 

 流石にこれ以上空気が悪いのは勘弁して欲しいと思いながらそう話を促す。流石に木場が彼女達を憎悪に篭った視線で睨むのは納得行くが……それを可能とする武器を持っている自分まで睨まないでほしいと思う四季だった。

 

「そうね。でもその前に。ねえ、君達?」

 

「何かな……紫藤イリナだったか?」

 

 最初に口を開いたイリナが先ず四季達に声をかける。彼女の視線は四季の持つ光の超兵装ブラスター・ブレードに向いていた。

 

「君が聖剣を持っているのに、君達が悪魔側にいるのはどうして?」

 

「別にオレ達は悪魔側って訳じゃない。フリーの賞金稼ぎ……場合によっては傭兵の真似事もしている。……今はこの交渉の立会い人と言う事でソーナ・シトリー生徒会長に雇われただけだ」

 

 それを聞いて安心したとばかりにイリナは改めてリアス達……正確には王であるリアスと女王である朱乃に向き直る。

 

「先日、教会に保管、管理されていた聖剣エクスカリバー三本が奪われました」

 

 真剣な面持ちでそう話を切り出した。話は四季の予想通り十字教会の三派によって保守管理されていた聖剣エクスカリバーが盗まれたという話しだ。

 

(……相手が堕天使の幹部なら強奪も可能か……)

 

 聖剣の管理体制は気になる所だが、相手が過激派の堕天使幹部と推測し、その上で可能性としてコカビエルが実行犯と推理すれば責めるのも酷と言う物だろう。

 ……まあ、そうじゃなかったり、コカビエルが黒幕でもエクスカリバー強奪の実行犯が違ったら管理体制を位置から見直す必要が有るだろう。

 

「えっ、伝説の聖剣のエクスカリバーって、そんな何本もあるのか?」

 

 聖剣エクスカリバー。ある意味日本の地でも有名な剣、アーサー王の伝説は知らなくてもこの名前だけは知っていると言う者も多いだろう。

 

「イッセーくん、真のエクスカリバーは大昔の戦争で折れたの」

 

「折れた? チョー有名な剣なのにか?」

 

「いや、元々エクスカリバーは折れたカリバーンと言う別の聖剣を打ち直したと言う説もある。既に一度折れた以上、もう一度折れても不思議は無いだろ」

 

 一誠へと説明するイリナの言葉に続いて四季がそう補足する。暗に『勉強不足だな』と言う意思を籠めての言葉だが、当の本人もそう受け取ってくれたのだろう、ムッとした表情をしている。

 

「今はこんな姿さ」

 

 そう言ってゼノヴィアが巻きつけた布を取り除いて背負っていたエクスカリバーの姿を見せる。……それによって憎悪の対象であるエクスカリバーを直視した木場の憎悪の視線が強くなる。

 

「折れたエクスカリバーの破片を集め、錬金術によって新たに七本が作られた。……私が持っているのがその一つ、『 破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクション』。これはカトリックが管理している」

 

 そう言って再び布で聖剣を覆うと今度はイリナが細い糸の様な物を取り出す。

 

「私の方は」

 

 取り出した糸は意思を持つように動き出して形を日本刀へと変えた。

 

「『 擬態の聖剣エクスカリバー・ミミック』……の日本刀形態」

 

 そして、今度は再び糸状に変わり、ハートマークを作ってみせる。

 

「こんな風に形を自由に変えられるの。すごく便利なんだから」

 

「確かに便利そうだな」

 

「そうね、確かに便利ね」

 

「でしょでしょ」

 

 何処か自慢気に言うイリナの言葉に同意する四季と詩乃。自分の聖剣が褒められたのが嬉しいのか、当のイリナもうれしそうだ。

 まあ、四季は四季で『防具にもなりそうで便利だな』とか、詩乃は詩乃で『防具や弓矢に出来て便利かも』と思っているので、剣と言うよりも聖剣のオーラを持った武具としてみている。

 

「そうなると、盗まれたのは『 天閃ラピッドリィ』『 夢幻ナイトメア』『 透明トランスペアレンシー』の三振りか」

 

「「なっ!?」」

 

「ん?」

 

 何気なく呟いた四季の言葉に二人が驚愕の声を上げる。

 

「ああ、どうせなら戦闘に使える物を奪うだろうと推測しただけだ」

 

「どうしてエクスカリバーの名前まで知ってるかって聞きたいんじゃないの?」

 

「ああ。知り合いの情報屋から買った。フリーの立場で三大勢力の隙間で活動する以上、フリー同士の連絡や情報は命なんでな。……そう言う立場の奴も知ってるさ」

 

 そう言って笑みを浮かべると、

 

「それに情報なんて完全に隠せる物じゃない。何処からか洩れる物だろ」

 

 同じくフリーの賞金稼ぎの伝手で知り合った情報屋なのだが、かなりの精度の情報を貰う事ができるので、結構頻繁に利用していたりする。

 

「……ところでイリナ、悪魔に態々エクスカリバーの能力を話す必用は無いだろう?」

 

「いくら悪魔だからと言っても、信頼関係を築かなければ仕方ないでしょう。それに、私の剣は能力を知られたからと言って、この悪魔の皆さんに遅れをとる事は無いわ」

 

 自分の実力に自身を持っているのか、そう言いきるイリナ。確かに知られたとしても変化と言う類の能力なら、それほど問題は無いだろう。寧ろ、戦闘になった際には不意打ちは出来ないだろうが、それでも警戒心を抱かせる事ができる。

 時に情報を開示した方が有利になることも有る。

 

「それに、彼の持っている聖剣にも興味が有るのよね」

 

「これの事か?」

 

 そう言ってブラスター・ブレードを掲げてみせる。

 

「うんうん、真っ白で綺麗な剣だけど教会の資料にも無い剣だから気になってたのよね」

 

 幾ら詩乃一筋とは言え、外見は十分に美少女に分類できるイリナ……流石に剣を覗き込むために近付かれると照れもする。

 

(何デレデレしてるのよ)

 

(いや、流石に近付かれて……痛いって、勘弁してください)

 

(……)

 

 小声でそんな会話をして鏃で脇腹をグリグリとしてくる詩乃に本気で謝る四季。はっきり言って詩乃相手ならヤンデレだろうが受容れる覚悟も有る。……寧ろ、殺したいほど愛されるというのも嬉しいと思う四季だったりする。

 

「ねぇ、この剣、なんて銘なの?」

 

「……異世界に於ける英雄の手にあって、多くの戦いを駆け抜けた剣、その英雄は己の名を捨てて新たに剣の銘を己の名にした」

 

 ゆっくりとその剣の逸話を話す。『異世界の剣』と言う所で伝説に謡われた天使側の使った剣だと言う事に気付いたのだろう、驚愕に染まる。

 

「この剣の名は同時にこの剣と共に戦い抜いた英雄の名、『ブラスター・ブレード』だ」

 

 今この地に告げられる英雄の名。

 



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ハイスクールV×D ライド15

「……それで、あなた達の用件は?」

 

 どす黒いオーラを纏って『ギリギリ』と歯軋りをしている木場を背景にリアスがそう問う。

 

「七本のエクスカリバーはカトリック、プロテスタント、正教会が各二本ずつ保有し、残りの一本は三つ巴の戦争の折に行方不明になっていた」

 

(確か行方不明なのは『支配の聖剣』だったか? 寧ろ、一本だけ行方不明になって還って良かったんじゃないのか、この場合?)

 

 ゼノヴィアの話を聞きながらふとそんな事を思う。各宗派のパワーバランス的に何処かの宗派が一本多く所有すると言うのは問題だろう。そう考えると七本と言う半端な数になってしまった事を考えると行方不明になった事は返って良かったのかもしれない。深読みして仕舞えば、何処かの第三者にその一本を渡すために七本用意したとも考えられる。

 なお、例によってエクスカリバーについての情報を買った時に行方不明になっている七本目の名前と能力も知っている。

 

「そのうち各修派から一本ずつが奪われ、この地に持ち込まれたって話さ」

 

「まったく無用心ね……誰がそんな事を?」

 

「奪ったのは堕天使組織『 神の子を見張る者グレゴリ』の幹部、『コカビエル』だよ」

 

「堕天使の組織に!? それもコカビエルなんて、聖書にも記された者の名が出るとはね……」

 

(予想通りか……)

 

(そうね、勝てる?)

 

(勝てるさ、オレ達二人なら)

 

 ある意味、立会人の依頼を受けた最大の理由は此処にある。教会側から敵の情報を得られるに越した事は無い。

 予想通りとは言え、大物の名前が出て来た事には流石に内心で動揺してしまうが、それを表に出したりはしない。

 

「私達の依頼……いや、注文とは。私達とグレゴリのエクスカリバー争奪の戦いに一切悪魔が介入しない事。つまり、今回の事件に関わるな、と言いに来た」

 

「悪いけど、無理だな」

 

「な、なんだと!?」

 

 なるべく話しに入らない様にしていた四季は此処で初めて口を出す。……天界、堕天使の両サイドから奪還の依頼を受けてはいるが、この様子では揉める事は間違いないだろう。だったら、依頼の事を知らせずに行動する方が良いだろうと判断した訳だ。

 

「流石にこの街に入り込んでいる以上、何を仕出かすか判らない。……特にコカビエルはグレゴリの中でも過激派の筆頭、そっちが失敗……いや、行動が僅かに後手に廻っただけでも最低でも、この街にいる魔王の妹二人とその眷属の命、最悪は街そのものを危険に晒す事になる」

 

「四季」

 

「お前……」

 

 師機が自分達の心配をしてくれていると思って感動を覚えるリアス達だったが……

 

「別に変態を初めとするリアス・グレモリーとその眷属はどうでも良い! だけど、それなりに世話になった会長の所には友人も居る」

 

 きっぱりと『どうでも良い』と言われた事にずっこけるグレモリー眷属一同。

 

「何より、街に影響を及ぼす行動だったら、詩乃が危ない!」

 

 その言葉を聞いた瞬間一誠は思った。『やっぱり、それかよ』と。ある意味三大勢力間の戦争とか以前に、究極的に一個人の為に行動していると言う四季の行動原理に流石の聖剣コンビもフリーズしてしまった。

 まあ、根本的に四季の思考は詩乃最優先であるから、このリアクションも無理は無いだろうが。

 

「しかも、戦闘向けじゃなさそうな聖剣しか残っていないだろう、正教会は傍観か残りの一本の死守と言う異見で纏まってるんだろう。切り札は有るんだろうが、僅か二人で三本のエクスカリバーを相手に……なんてどう考えても負けるのがオチだ」

 

 そう言いきると四季は鋭さを増した視線で二人を見据える。

 

「悪いが、詩乃の安全をコカビエルの……ミジンコ以下の善意と、君達二人の能力に掛ける気は無い」

 

 エクスカリバーが三本。其処から推測すると敵の戦力はエクスカリバー使いが三人とコカビエルが一人。コカビエルの部下の堕天使が加わる可能性を考慮すれば敵の最大戦力が更に上がる。

 

「エクスカリバーに対抗できるのはエクスカリバーだけなのよ!」

 

「そうだな、対抗できるエクスカリバーが敵は三本……最大で二人で三人の聖剣使いを相手にする……そして、敵にはコカビエルも。絶対的に戦力不足だろ? ……って、どうした?」

 

 もっとも、同等かそれ以上の聖剣が有ればエクスカリバーにも対抗で出来るだろう。そんな事を考えながら先ほどから静かだったグレモリー眷属の方を向いてみると、全員が頭から突っ伏していた。

 

「……何遊んでんだよ、大事な話をしてる時に」

 

『それはこっちの台詞だ!!!』

 

 グレモリー眷属一同のツッコミが四季へと向けられるが、当の四季はと言うと。

 

「? 至って真面目だが?」

 

「他の人はそう思えないわよ。……私は嬉しいけど」

 

 最初から大真面目な四季だった。まあ、そんな四季の言葉に溜息を吐きながら突っ込みを入れる詩乃。

 

「兎も角、堕天使幹部の中でも特に凶悪且つ危険思想の持ち主で……ある意味じゃ『堕天使最強』と言う理想主義者のコカビエルの行動パターン、この駒王町と言う土地の“特別性”を推測すると、間違いなく悪魔サイドも無関係とは居られないだろう」

 

「どう言う意味だ?」

 

「単純な話しだ。大昔の戦争の続きがしたい、だから教会から聖剣を盗んだ。そして、今度は魔王の妹を殺す事で、悪魔と堕天使の戦争を引き起こす」

 

 そう言って四季は足元を指差した。

 

「既に巻き込まれているだけだ、お前達の思惑……いや、使命など関係なくな」

 

 四季の言葉に黙り込む。

 

「だが、協力は仰がない。悪魔側も神側と一時的にでも手を組んだら三竦みの関係に少なからず影響を与えるだろうからね……」

 

「そりゃそうだ。下手に動いたらどっちにしても、ある意味じゃコカビエルの思惑通り……と考えるべきだろう」

 

 そう言った後、四季はそう言って肩を竦める。

 

「用件は以上だ。イリナ、帰るぞ」

 

「そう、お茶は飲んでいかないの?」

 

「いらない」

 

 朱乃がティーポットとカップを用意しているが、ゼノヴィアはそれを断ってイリナを促して帰ろうとする。

 

「ゴメンなさいね。それでは」

 

 イリナがそう謝って立ち去ろうとするが、ゼノヴィアの視線が一人の……グレモリー眷属の中の一人に止まる。

 

「兵藤一誠の家で出合った時にもしやと思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか?」

 

 アーシアに視線を向けながらゼノヴィアはそう問うが、それは問いと言うよりも既に確信を持っての言葉に聞こえた。

 

(魔女ってどう言うこと?)

 

(彼女……アーシア・アルジェントの過去に関わりがある事、彼女がグレモリー眷属になる切欠とでも言うべきかな、この場合?)

 

 小声でそう問いかける詩乃の言葉に同じ様に小声でそう答える。……グレモリー眷属の過去については一通り調べて有るが、それでも必要以上に他言する心算は無い。流石に詩乃が危険に晒される可能性を考慮して熱くなって交渉に割って入ってしまったが、これ以上は拙いだろうと判断する。



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ハイスクールV×D ライド16

 

 ゼノヴィアのアーシアへの魔女発言の後、それに怒った一誠がゼノヴィアへと戦う事となり……そこに既に我慢の限界となった木場が参加したわけだが……

 

 二人と戦う前に一誠は四季の手によって地面に突っ伏す事となりました。

 

「おいこら、変態……随分と自分勝手な言い分だな」

 

 既に顔面を床に叩きつけられて……床に叩きつけられた衝撃で空いた頭を入れるのに丁度言いサイズの穴に頭を生めて気絶している一誠を見下ろしながら、#マークを貼り付けた四季は、

 

「人様に似た様な事を言っておきながら、自分の仲間が言われたら怒るか? 随分と都合の良い脳味噌してるんだな、お前は」

 

 ……一誠君以前詩乃さんに対して、本人を前にしているわけではないが『人殺し』と言っています。

 問答無用で地面ならぬ床に沈められた一誠の姿に沈黙する一同……。

 

「お、お前は?」

 

 どこぞの奈落龍を連想させるどす黒いオーラを纏っている四季から意図的に意識を外しつつ、木場へと問いかけるゼノヴィア。……誰だってとばっちりは受けたくない。

 

「君達の先輩だよ。失敗作だったそうだけどね」

 

 彼の憎悪と言う意思に応えるかのように無数の魔剣の刃を出現させながら、木場はそう告げだ。

 

「邪魔!」

 

「ひでぶっ!」

 

 まあ、その魔剣の群も一誠にキレた四季のその一言と共に振るわれた超兵装ブラスター・ブレードによって一瞬で砕かれ薙ぎ払われた挙げ句、その破片の一つが頭に直撃する木場君でした。

 

 流石にそれを見て顔を蒼くしながら四季から離れる聖剣コンビ。……誰だって木場と一誠のようにはなりたくない。

 『聖剣計画』の失敗作、それが意味する所は二人も知っているが……色んな意味で今の木場の姿は哀れみさえ感じさせてくれる。

 二人としても生き残りは居る可能性は考えていたが、それが悪魔として転生して生きていると言うのは予想外だった様子だ。だが、寧ろ教会に殺されかけた身の上としては悪魔に転生する事に迷いなど無いだろう。……裏切ったのは教会……更に言ってしまえば彼らが信じていた神が先に裏切ったのだから。

 

 流石に本人に対して一誠の言葉を報告する気は無かった四季が、何故怒っているのかを大体察した詩乃に止められて一誠は解放される事となったのだった。四季から一誠が解放されると慌ててアーシアが一誠と木場を回復させる。

 

 この先の木場とエクスカリバー使いの決闘は依頼されていた交渉の範囲外。『これ以上つき合う気は無い』と言う事で詩乃と共に部室から立ち去ろうとするが、

 

「待て」

 

 ゼノヴィアから呼び止められる。

 

「お前があれだけ此方の事情を知っているのは、その情報屋からなのだな?」

 

「自力で調べた部分も有るけど、大体そうだな」

 

 流石にある程度の情報は自力で調べる事にしているが、こうして各勢力の内部の情報ともなると、専門で情報を扱っている者に聞いた方が効率的だ。三大勢力の隙間で活動する賞金稼ぎ間の連絡網はその一つである。

 

「そうか。なら、その情報屋の居場所を教えろ」

 

「……どうするつもりだ?」

 

「簡単な事だ。此方の聞きたい事を教えさせる」

 

「……断る。オレ達みたいな三大勢力間の隙間で生きるフリーにとって、同類との信頼関係は何より重要なんでな」

 

 内心で『素直に金を払って買うなら仲介くらいするのに』と思いながら、ゼノヴィアを一瞥。

 

「なら、喋りたくさせてやろうか?」

 

「出来ると思うか?」

 

 詩乃に下がっているように促し、ブラスター・ブレードを手の中で持ちながら睨み付ける四季の視線とゼノヴィアの視線が重なる。

 

 そんなやり取りの果てに何故か四季VSイリナ、木場VSゼノヴィアと言う図が完成してしまった。

 

「……今更ながら、なんでオレと君なんだ?」

 

「まあ、向こうは二人とも頭に血が上ってるみたいだし」

 

 半ば挑発に近いやり取りで苛立っている様子のゼノヴィアと、憎悪に染まった視線を向けている木場の姿を見て苦笑を浮べるイリナ。

 はっきり言って利の無い戦い。此処最近全然自分にとって利益が無い戦いが多いことに頭を抱えたくなる四季だった。ふと、視線を向けた先に居るのは詩乃。どうも、苛立つ時に彼女の姿を見ただけで心が落ち着く。

 

「さて、マイ・ヴァンガード、ご命令を」

 

「それじゃあ……四季、勝って」

 

「イエス、マイ・ヴァンガード!」

 

 詩乃の言葉に何処か騎士を思わせる言葉で答える。最初は乗り気ではなかったが、これで戦う理由は出来た。それを理解していたから、彼女も敢えてその言葉を選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ……

 

「はっ! 四季さんの所に新しい女の気配が!?」

 

 ……そう言って声を上げるのは『桐ヶ谷 直葉』。四季の友人である惑星クレイのクランの一つ『なるかみ』の力を宿した神器を宿した『桐ヶ谷 和人』の妹であり、四季とは幼馴染と言う間柄である。

 

 ぶっちゃけ、直葉さんの方が詩乃よりも先に知り合った訳で、彼女もまた四季に好意を持っている訳では有るが……四季の兄弟に邪魔された為に結局の所詩乃に取られたと言うわけである。

 

 なお、四季の兄弟については俗に言う『転生者』なのだが、和人や直葉が近くに居た事から、この世界がどう言う世界なのか“勘違い”した為に、既に物語の本筋から離れた所まで行っている。……発売される筈の無いゲームの存在を求めて……。まあ、本編では一位触れる事が無いと思うので多くは語らないが。

 

『……近くなのだから様子を見に行けばいいのでは無いか?』

 

「っ!? そうよね、これ以上ライバルを増えさせてなるものか!!!」

 

『はぁ』

 

 彼女へと語りかけるのは彼女の中の神器に宿る存在……『ドラゴニック・オーバーロード』。数多の戦いを経て寿命を終えたはずが何故か神器として彼女の中に宿っていたと言うわけである。

 

 同じくフリーの賞金稼ぎとしての日々を歩む事になった宿主に振り回される毎日を送りながらも、内心ではこの世界に居るという龍の皇帝と帝王と本来の姿で渡り合う事を望んでいる龍の大帝。

 

 四季達の住む駒王の地から電車に一駅の所に四季の実家のある場所はあったりする。

 

 

 



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ハイスクールV×D ライド17

 光の超兵装ブラスター・ブレード、それを無造作に構えながら四季がイリナと対峙している時、木場とゼノヴィア側は……

 

「……笑っているのか?」

 

 ある種の『狂喜』と言える表情を浮べている木場。

 

「壊したくて仕方なかった物が目の前に現れたんだ。嬉しくてさ」

 

 既に試合で終るのか疑問な表情を浮べて笑っている木場に内心で不安を覚える一誠。ギャラリー側で木場の様子を気にしていないのは詩乃だけだろう。

 

「……バカな奴」

 

 そんな木場の言葉が聞こえたのかそんな言葉を呟く四季。……どんな名刀や聖剣……神剣と呼べる類物であっても所詮は道具。罪があるとすれば武器では無く使い手側にあるだろう。……どうせ憎むならばエクスカリバーと言う道具では無く、教会全体を憎めと言いたくなる。

 

「ええ、復讐になんて捕われるなんて愚かな事よ。それに、あの事件は私達の間でも最大級に嫌悪されたもの。処分を決定した当時の責任者は信仰に問題ありとされて異端の烙印を押されたわ。今では堕天使側の住人よ」

 

「……二つ、勘違いしてないか?」

 

「勘違い?」

 

「オレは復讐を否定しない」

 

 イリナの言葉に四季がそう言葉を返す。四季は復讐は否定していない……寧ろ、過去と決別するために必要な過程の一つと考えている。

 

「寧ろ、中途半端な憎しみは返ってすっきりしない物だ。徹底的に憎みぬいた方が良い。その点でもあいつは『半端』だ」

 

 全てに於いて中途半端……それが木場に対する四季からの評価だ。道具に憎しみをぶつける事しか出来ない……半端な復讐者。己の全てを預ける愛剣も持たず『魔剣創造』と言う神器に頼り、感情に捕われただけで技を見失うほど技を使い続けていない技の面でも半端な剣士。

 それは剣自体の格の差もあるだろうが何本創造した所で四季に一薙ぎで纏めて砕かれた事からも明らかだろう。

 

「それに『皆殺しの大司教』とか呼ばれた『バイパー・ガリレイ』とか言ったか? そいつを破門した? 異端扱いした? 笑わせてくれる……“その程度”の処分で犠牲者達の恨みが消える訳も無い。せめて処刑くらいしておけ」

 

 現に波紋程度で済ませたからこそ今回の一件がある。

 

「何でその名前まで……」

 

「例によって情報屋ルート。何処でどうやって調べてるのかは知らないけど、優秀なんだ」

 

 『聖剣計画』について調べた時に知った情報の一つ……序でに僅かにでも関わった教会関係者や天使についても知っている。付け加えると天使の方は本当に何も知らなかったらしい。……そして、皆殺しにした『本当の意味』も。

 

「大体、異端扱いしたからって教会に責任が無くなる訳じゃない。そいつが神の名の下に聖剣計画を行なった事実は覆らない。……お前達教会……いや、聖書の神はエクスカリバーと言う聖剣の名を汚した“邪悪”だ」

 

 そう言いきると四季は肩をすくめながら、

 

「判り易く言えば警察官が不祥事を起したら同じ組織に所属している者全てが犯罪者として見られる。と言うのが俺の考えで、二つ目の勘違いだ。大体、そうして多くの罪の無い血を吸わされたエクスカリバーを使っていると言う事は奴の研究を利用していると言う訳だろ……益ばっかり得て罪を否定するのは良くないぞ」

 

 そう言って四季は超兵装ブラスター・ブレードをイリナへと突きつける。

 

「……さて、“邪悪”な聖書の神の使徒さん……始めようか?」

 

「くっ!」

 

 擬態の聖剣を構えて切りかかって来るイリナの剣を超兵装ブラスター・ブレードで受け止める。スピードこそ木場に劣っているが十分に二人でコカビエルと三本の聖剣に挑むだけの実力はあると言えるだけの早さだが、

 

(まだまだだな)

 

 何度も目にして目標としてきた光の剣士と影の剣士には遠く及ばない。……まあ、比べられている対象の事を知ったら泣いて良いと思う。幾らなんでも並みのドラゴンならば一瞬で切り伏せるレベルの剣士達と比べるのは酷と言う物だろう。

 

「折角計上変化の武器を持っているんだ。受け止められたら一部を変化させて追撃する程度の想像力は必要じゃないのか?」

 

「そ、そんな事言われなくてもっ!」

 

 そうアドバイスすると同時に相手の剣を弾きながらバックステップで距離を取る。

 

「形状変化を利用するなら斬撃と同時に行なう……ってのも手だな。反撃を狙って紙一重で回避する相手には有効だぞ」

 

「判ってるわよ!!!」

 

 回避するにしてもそれらの可能性を考慮して大きく……突然の形状変化にも対応できる距離を取って回避する四季。

 

「他にも鎧にするのも一つのアイディアだろうな」

 

「剣じゃないじゃないの!?」

 

「……人間、娯楽って必要だな。これだから、お堅い所しか知らない奴は柔軟性にかける。刀を集める物語には日本刀の技術で作った全身鎧を《刀》って言い切っていたぞ」

 

 適正があっても 擬態の聖剣エクスカリバー・ミミックを使うにはイマジネーションが足りない。……列車戦隊並みのイマジネーションが有ればその能力を有効に活用できた事だろう。

 

「それと、力量差を読み間違えるのは致命的な敗因だ」

 

「っ!?」

 

 そう呟いて大きく後ろに跳ぶとイリナから距離を取り、超兵装ブラスター・ブレードを突きの体制で構え、

 

「ピンポイントバースト!!!」

 

「っ!? カハッ!!!」

 

 突きと同時に超兵装ブラスター・ブレードの刀身が展開され、そこから放たれる光の砲撃。それをエクスカリバー・ミミックで受け止めようとするイリナだが、耐える事も出来ず剣を弾かれ光の砲弾によって吹飛ばされ、そのまま校庭をバウンドしながら転がっていく。

 

 弾かれたエクスカリバー・ミミックがそのまま校庭に突き刺さる様はまるで彼女の墓標のようにも見えるが、十分立ち上がれる程度に手加減しておいた。ピンポイントバーストを受け止めた際に僅かに罅が入っているのには誰も気付いていなかったが。

 

「この勝利を貴女に。マイ・ヴァンガード」

 

 誰もが疑う事のできない勝利の構図……己の勝利の宣言を告げた。

 



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ハイスクールV×D ライド18

 強い、リアスはイリナと四季の戦いを見て四季の事をそう評した。魔剣を持っている木場には影の超兵装ブラスター・ダークで、聖剣を持っていたイリナには光の超兵装ブラスター・ブレードを持って勝利を収めた姿に改めて思う。

 

(……彼の説得には完全に失敗しちゃったし、もう少し彼の事を調べてから接触するべきだったわね)

 

 そう言いつつ、グレモリー眷属から離れた位置に居る詩乃へと視線を向ける。

 

(でも、下手に彼だけを眷属に加えるのは危険ね。彼女が他の誰かの眷属になった時には、間違いなく敵になる)

 

 レーディングゲームに於いて強力な駒にはなるだろうが、同時に詩乃が敵側になれば間違いなく裏切る。……王よりも優先すべき相手が居ると言うのは味方にするには危険極まりない。

 

(彼を従えるには最低でも彼の分の駒と彼女の分の駒が必要になるわね)

 

 残りの駒の数を考えながら四季を眷属にする事が可能か考えてしまうが、残りの駒は騎士と戦車。内心、無理だと言う考えを飲み込みつつ、先ずは協力者から、と改めて思い直すことにした。

 

 

 

 

 

 流石にそのまま放置するのも目覚めが悪いと、倒れているイリナを背負いながら地面に刺さっているエクスカリバー・ミミックを引き抜くと、

 

(ゲッ)

 

 ピンポイントバーストを防いだ位置に罅が入っている事に気が付いて思わず心の中でそう思う。

 

(……だ、黙ってればバレないよな)

 

 幸い誰も気付いていない様子なので見なかった事にして足早に移動する途中、木場の姿が目に入った。

 

 

「その聖剣の破壊力と僕の魔剣の破壊力、どちらが上か勝負だ!」

 

 

 そう言って作り出したのは四季と戦った時以上の巨大な両手剣状の魔剣。

 

「バカな奴。過去の敗北にすら何も学んでないな、あの半端剣士」

 

 気絶しているイリナをグレモリー眷属の近くに寝かせるとエクスカリバー・ミミックを彼女の側に置きながらそんな事を呟く。

 

「なっ!? どう言う意味だよ、それは!?」

 

 その呟きが聞こえたのか木場を見守っていたグレモリー眷族の視線が四季のほうへと向き、そんなグレモリー眷属を代表するかのように一誠が四季に詰問する。

 

「いや、あいつは……」

 

「残念だ……」

 

 グレモリー眷族に向けての四季の言葉と木場へと向けられるゼノヴィアの言葉が重なる。

 

「「選択を間違えた(な)」」

 

 木場は既に一度四季を相手に犯してしまった失敗を再び犯してしまっている。

 

「選択を間違えたってどう言うことなの?」

 

 そう言って四季へと問いかけるのは何時の間にか四季の近くに来ていた詩乃。

 

「ああ、あいつの最大の武器はスピード。それと同時に巨大な剣を扱うには筋力不足。オレの超兵装の様にエネルギーを刃にした質量ゼロの刃なら兎も角」

 

 目の前でゼノヴィアのエクスカリバー・デストラクションに魔剣を砕かれる様を指差す。

 

「攻撃が大振りになる上に自慢のスピードを自ら封じる事を意味する」

 

 トドメとばかりにエクスカリバー・デストラクションの柄の部分を鳩尾に叩き込まれる木場の姿を見据えながら、

 

「隙が大きくなればそれだけ相手からの反撃を受けやすくなる上に、半端剣士の能力上破壊力は無用。一撃でダメなら十、十でダメなら百、相手の反撃を許さず切り裂けば良いだけだ」

 

 崩れ落ちる木場の姿を見ながら四季は詩乃へのアドバイスを加える。明らかに木場を『悪い例』にして詩乃へのアドバイスに利用している。

 

「強力な武器でも自分の筋力で扱えない武器は逆に弱くなるだけだから、詩乃も気をつけた方が良い」

 

「うん、気をつける」

 

 周りはちゃんと自分の特性に有った武器を持っているので、悪い例が無かったので詩乃への注意点を与える例が無かったので丁度言いとばかりに説明に使っている。

 

「そう言う訳だ。序でにもう一つ。『聖剣を破壊する』、そんな考えに支配されて無用な破壊力なんて物を追い求める。……自分の技を見失う……半端と言ったが半端なんて言葉もあれじゃ褒め言葉だったな。評価を改めよう……剣士として落第点、失格だな」

 

 そう言って手を振って立ち去って行く四季と詩乃。

 

「……アイツは剣士じゃなくて武器作り……其方へと進むべきだったな」

 

 聖剣への憎悪が有る以上その選択肢も無理だろうが、魔剣を作ると言う点のみに特化していればよかったと思う。……実際、四季の知り合い……と言うよりも友人経由で知り合った相手、『 聖剣創造ソード・ブラックスミス』の亜種神器を持った少女も前線に立つより仲間に武器を提供する立場に立つ事が多い。

 

「四季、言いたい事ってアレだけじゃなかったでしょ?」

 

 グレモリー眷属から十分に離れた時に詩乃がそう問いかける。

 

「ああ。精神面……こっちは主の責任だな」

 

 下手に刺激しすぎない方が良いだろうと思って黙っていたが、そう思わずには居られない。

 



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ハイスクールV×D ライド19

 

 さて、調味料が切れていた事に気付いたので珍しく一人で買い物に出ていた四季は妙な物を目撃した。

 

(何やってんだ、あの二人?)

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「どうか天に代わって哀れな私達にお恵みをぉぉぉ!!!」

 

 何処かで診たことの有るような二人組み……と言うよりもついさっき出会った聖剣使いの二人組みだった。

 何と言うか、空っぽの箱を手に救いを求める姿はイリナの言う通り……本当に哀れだった。

 

 哀れみを感じるが助けてやる気はそれほど起こらないのは、はっきり言って天界……と言うよりも教会側が他の精力に比べて金払い悪い上に鬱陶しい事この上ないからだろうか……。

 

「何てことだ。これが経済大国日本の現実か。これだから信仰の匂いもしない国はイヤなんだ」

 

「毒づかないでゼノヴィア」

 

 本人達も言っているが路銀も尽きた様子だった。……コカビエル対策に聖剣もたせた二人だけで路銀も禄に渡さないとは……『どうぞ、エクスカリバーを奪ってください』と言っているとしか思えない。内心、教会の対応に本気で呆れている所だが、

 

「ふん、元はと言えばお前が詐欺紛いの変な絵画を買うからだ」

 

「何を言うの! この絵には聖なるお方が描かれているのよ! お店の人もそんな感じの事を言っていたわ!」

 

 二人の次のやり取りに思いっきりずっこけてしまう。

 

(悪かった! 教会の上層部悪かった! 金払いが悪くて鬱陶しいけど、最後のところだけは俺が悪かった!)

 

 二人の会話の先に有るのは辛うじてそれっぽいと言うだけの立派な額に入った絵だった。……どう見ても二束三文の絵、つまりイリナが詐欺にあって路銀を失ってしまったというわけである。

 

 異教徒脅して金を奪うとか、寺を襲撃して賽銭箱を襲うとか言っているが、二人が原因で教会への報復を日本神話の勢力から依頼されたくは無い。

 

「仕方ない」

 

 スマートフォンを取り出して詩乃の番号を表示、事情を話して夕飯の予定を変更。偶にはファミレスも良いだろうと思う。

 流石にテロリスト紛いの行動は思いとどまって大道芸をしようと言っているが、その小道具に使われる聖剣を見たら木場はなんと思うだろうか。……それ以前に、エクスカリバー・ミミックならば十分に見世物になるだろう。

 少なくとも、邪魔な落書きを切ると言う点では大いに賛成だ。

 

「おい、そこのバカ二人」

 

「「ん?」」

 

「これから夕飯に行くけど……一緒にどうだ?」

 

 まあ、それ以前に……

 

「とりあえず、邪魔だからその落書きは切り刻もう」

 

「悪くないな」

 

「ダメ! これは止めてよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で結局四季とゼノヴィアのコンビネーションでイリナから絵を取り上げて切り刻む事に成功。……はっきり言って持っていても邪魔だし、明らかに値札のシールが貼られたそれは偽者だろう。

 

 まあ、丁度二人が切り刻んだ所で詩乃が合流。四人で近くのファミレスで夕飯となった。

 

「うまい! 日本の食事は美味いぞ!」

 

「うんうん! これよ! これが故郷の味なのよ!」

 

「……何が有ったの?」

 

「……詐欺にあったらしい」

 

 かなりの量の食事を取っているが、朝から何も食べてなかったらしい。……哀れである。流石に詐欺にあって路銀を全部失ったと言う所に詩乃も同情したらしく、路銀を少しだけ寄付する事にした。

 

「……ゼノヴィアだったか?」

 

「なんだ?」

 

「……少し恵んでやるから、悪い事は言わないからお前が路銀は管理しろ」

 

「言われるまでも無い。神に誓ってイリナには財布は渡さない」

 

「賢明だ」

 

 そう言って三人の視線が更にメニューを見て『デザートからが本番よ』と言っているイリナへと集まる。どう考えてもゼノヴィアに渡しておいた方が安心だろう。

 

「詩乃、デザートは」

 

「いらないわよ」

 

 ……普通に詩乃さんからの使い注文のリクエストを聞いている四季も四季だが。

 

「で、私達に接触した理由は?」

 

「……単刀直入に言う、コカビエルを手早く排除したいから……オレ達も聖剣奪還に協力させてくれ」

 

 そこまで言った後。一呼吸於いて

 

「主に詩乃の安全の為に!」

 

やっぱり、四季の行動原理は一つだった。



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ハイスクールV×D ライド20

「お、おい、お前ら……」

 

 何処まで行っても詩乃中心の四季の言葉に『恥ずかしいから止めて』とでも言おうとした詩乃だが、彼女の言葉を遮る様に第三者の言葉が響く。

 

「……何しに来たんだ、君達は」

 

「……まあ、大体見当は付くがな」

 

 四季は視線を一誠へと向ける。其処に居るのは一誠と小猫……そして、何故か居る匙の三人だった。

 

「……ってか、ソーナ会長に許可は取ったのか、匙?」

 

「兵藤に無理矢理連れてこられたんだよ……」

 

 取ってないのだろう、許可。

 

「先に言っておこうか。匙は兎も角、お前も木場も必要ない……邪魔だ」

 

「なっ!? 邪魔ってどう言うことだよ!? 大体お前に用はねえよ」

 

「残念ながら先に彼女達に協力を申し出たのはこっちだ。……邪魔にしかならない半端剣士と、九割役立たずのお前よりも、匙の神器の方が応用性に長けている分即席の連携も取り易い」

 

 そもそも、二人掛かりで四季に負けている以上『邪魔』と斬り捨てられても無理は無いだろう。

 

「……あの、五峰先輩」

 

「ん?」

 

「……注文して良いですか?」

 

「オレが出すから好きな物を頼んでくれ。あと……匙、お前も災難だったな好きな物頼んで良いから元気出せ」

 

「……サンキュー」

 

 小猫の問いかけにそう答えると、項垂れている匙にもそう声を掛ける。

 

「四季、お金は大丈夫なの?」

 

「まあ、此処でご馳走する程度にはな」

 

 流石に目の前で見ている方が胸焼けするレベルで食べていた2人に更に人数が増えたことに心配する詩乃にそう答える。

 

「ああ、すいません、こいつの注文だけ支払いは別で」

 

 その後店員を呼んで一誠の注文だけ支払いを別にする四季だった。

 

「って、お前! どれだけオレの事嫌いなんだよ」

 

「……半年前の覗き……」

 

 四季の殺気を籠めた絶対零度の一言に真っ青になりながらも、半年前の事を思い出す。……元浜と松田と一緒に珍しく十分に覗きが堪能できたので良く覚えている。

 

「……変態先輩」

 

「小猫ちゃん!」

 

「なるほど、性欲の塊か。欲望の強い悪魔らしいと私は思うよ」

 

「悪い」

 

「なんでお前が謝るんだよ、匙!?」

 

 周囲に打ちのめされながらも必死でその時の事を思い出す。

 

「あの時は……はっ!?」

 

 思い出したのは徹底的に四季にボコられた悪友2人の姿。……そして、その時覗いたクラスは。其処まで気づいた後で詩乃に視線が止まる。

 

「……思い出したようだな、オレは今でもお前の眼球を抉り取って記憶が無くなるまで殴ってやりたいと思っている所だ」

 

「あ、あわわわわわわわわ……」

 

 そう、既に四季の逆鱗に触れてしまっていたと言う事に改めて気付いた一誠だった。

 

「まあ、一度死んだ事だから目を瞑ってやる心算だったが……記憶くらいは無くなる用に殴った方が良いか? ……それとも、ブラスター・ブレードで叩ききった方が良いか?」

 

 その心算で元浜と松田の2人は潰したのだから。

 

「すいませんでしたぁ!!!」

 

 迂闊に覗きをしたら次は殺される。そう確信した一誠だった。

 

「それで、君達の用件はなんだったんだ?」

 

「あ、ああ。単刀直入に言うと…… 聖剣エクスカリバーの破壊に協力したい」

 

 ゼノヴィアとイリナが目を見開く。考えられる理由は一つ、木場の事情だろう。

 悪魔の方から聖剣の破壊に協力すると言って来るとは思って居なかったのだろう。逆に四季と詩乃の2人はそれに納得していた。少なくとも、利害の一致は出来ているのだから。

 

「君達はどう思う?」

 

 そう言って四季に話を振る。

 

「……なんでオレなんだ?」

 

「私は一本くらい任せても良いだろうと思っている。破壊できるのであればね」

 

 ゼノヴィアの言葉にイリナが『え!?』と言う表情を浮べるが、

 

「ただし、既に協力を申し出てくれた君達の判断もあるだろう」

 

「判った。詩乃はどうする?」

 

「私は四季に任せるわ」

 

 詩乃の意見を聞くが彼女も四季に判断を任せると言うものらしい。そして、一誠は四季に睨むような視線を向け、

 

「断る」

 

「なんでだよ!?」

 

「言っただろう。半端剣士と変態ドラゴンの力は必要ない、寧ろ邪魔だ」

 

 二人掛かりで四季に敗れたというだけではない。

 

「悪いが……木場を仲間に入れる事はこっちの勝率低下に繋がる上に、感情に任せて暴走する奴はいるだけ邪魔。前衛はそこの2人とオレで十分。なにより、そいつの邪魔のせいで詩乃が危なくなったらどうする。それに……変態、お前に至っては問題外だ」

 

 



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ハイスクールV×D ライド21

「付け加えるなら……木場の過去を知った上でこう言わせて貰おうか。『オレが知るか』」

 

「んだとテメェ!」

 

 四季の言葉に激昂した一誠が掴みかかるが、その手を振り払う。

 

「はっきり言って、オレはあの半端剣士に何の思い入れも無い。寧ろ、ちょっと前に殺されかけたんだ……嫌悪しか感じないぞ」

 

「殺されかけたって、あれって試合だっただろう……」

 

「……明らかにあの半端剣士、オレを殺しに来てただろうが……」

 

「う……」

 

 師愛と言っていたわりには、明らかに急所を狙って魔剣を振って来たり、どう考えても殺す気にしか見えなかった。流石に改めて考えると確かに木場は四季を殺す気でやっていたと一誠にも思えてくる。

 

「で、共犯者の変態、半端剣士について弁護はあるか」

 

「あ、あいつにだって事情が……」

 

「どんな事情があるかも大体知っている。その上で言わせて貰う……あいつ自身もあいつの過去も、オレにとっては無価値だ」

 

 そこにどんな事情があろうとも、四季にとって木場と言う存在の価値は詩乃よりも圧倒的に低い。四季にとっての今の自分の持つ力は全て詩乃を守るための物。……それらを貸し与えるだけの価値は木場には“無い”。

 ぶっちゃけ、仲間に頼まれれば一瞬の躊躇で貸しているのだから、どれだけ四季の中で木場の価値が低いのかよく分かる。

 

「だからオレは木場に力を貸す気もなければ、お前達の協力は要らない……。理解したか?」

 

「だったら……」

 

「決闘で決めるって言うのは無しだぞ。オレはお前と木場の二人よりも強いのは証明している筈だ。するだけ時間の無駄だ」

 

 返す言葉も無いと言う様子で黙る一誠に対して、四季は笑みを浮かべながら……

 

「それじゃあ、話も纏まった所でオレ達はもう行かせて貰う」

 

 ひらひらと手を振りながら立去る四季と詩乃の二人だが、

 

「チッ、半端剣士」

 

 外に出ようとした時、ばったりと木場に会った。ふと、一誠の方に視線を向けると既に携帯電話で木場を呼んでいた様子だった。

 

「……話は判ったよ。正直言うと聖剣使いに許しを請うのは遺憾だけどね」

 

「それじゃあ半端剣士、このままご主人様の所から逃げてはぐれにでもなるか? お仕事の一環で遠慮なく斬り捨ててやるよ」

 

 四季の挑発と言える言葉に睨み付ける事で返す木場。

 

「半端って、木場は一流の剣士だって……」

 

「自分の技を見失って安易な破壊力に二度も頼った奴の何処が“一流”なんだ?  魔剣創造ソード・バースなんて神器に頼るなら、せめて禁手に至ってからにしろ……己の全てを剣に預けていない剣士なんてその時点で二流だ」

 

 そこまで言った後一息ついて、

 

「はっきり言ってやろう……半端剣士、今のままじゃお前は永遠に目的を果たせない。永遠に 聖剣エクスカレバーは……超えられない」

 

「君に何が分かるって言うんだ!?」

 

 四季の言葉に激昂して立ち上がる木場に対して、四季は目の前に置かれたコーヒーを一口飲みながら、

 

「……お前の過去程度なら情報程度なら。こう言い換えるべきか? 仲間の犠牲の上に成り立った生と、リアス・グレモリーにら与えられた命」

 

 遠回しな言い方だが、一言で言いきってしまえば『お前の事情は全部知っている』と言う事になる。

 改めて立ち上がると、四季はゼノヴィア達の方へと視線を向け、

 

「オレ達はオレ達の手段で調べてみる。やつ等の尻尾を掴んだら連絡させてもう」

 

「分かった」

 

 そう言って改めて手を振りながらファミレスを後にする四季と詩乃の二人。

 

 実際、四季には敵の目的は幾つか推測できている。敵の正体がつかめた以上、相手のこの街での最終目的はリアス・グレモリーと支取蒼那の命。二人の首を持って悪魔側へと宣戦布告をする事だろう。

 

「(今はその過程か……。分からない事は何故エクスカリバーを選んだ? まてよ、だとしたら)詩乃」

 

「どうしたの?」

 

「推測は出来た。恐らくだけどコカビエル側に『皆殺しの大司教』はいる」

 

 推理の為の材料はエクスカリバーを狙ったという点のみ。……どうせ奪うならば完全な形で残っている同等の聖剣を狙えば良い。何故態々不完全な聖剣を狙ったのかは……そう考えれば成り立つ答えだ。

 

「戦争狂に聖剣マニアの取り合わせか……もう一人位“狂った”奴が居ても不思議じゃないな、これは」

 

「その狂った連中の相手をするのは私達なんだから、嫌な想像させないで」

 

 自然とそんな言葉が零れてしまう。

 

「まあ、あの変態と半端剣士も大人しく引っ込んでくれるとは思えないけど……」

 

 何より、グレモリー眷属である以上……悪魔との戦争を望むコカビエルにとってはリアス・グレモリーを引っ張り出すための良い獲物だろう。

 



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ハイスクールV×D ライド22

 

「今日も収穫無しか……」

 

「神父のふりをしていればその内アイツと出会うと踏んでいたんだけどな……」

 

 路地裏に一誠達三人のグレモリー眷属と匙の姿が在った。彼等の服装は駒王学園の制服では無く、男三人が神父の服で小猫だけがシスターの服。

 

 協力こそ出来なかったものの、情報交換とエクスカリバーの破壊の許可だけは取り付けることが出来た。……『出来るのなら破壊しても良い』と言う言葉だったが、一誠達にはそれで十分だった。

 

 木場が神父の襲撃現場に遭遇……その際に交戦したエクスカリバーの一振りを持った襲撃者が、以前一誠が遭遇したはぐれエクソシストである事が判明。……そんな訳で、ここ数日こうして神父のふりをして襲撃者をおびき寄せようとしているのだが、未だに収穫は無かった。

 

 

 

 

 

 その日の放課後……まだ巻き込まれている様子の匙を含めた グレモリー眷属囮の三人……一誠、木場、小猫の姿を四季と詩乃の二人は遠距離から監視していた。

 

「それにしても……」

 

「神父とシスターの服って……」

 

 近くに有るビルの屋上から水色の髪でその姿での武器となる《ヘカート》のスコープを覗いている詩乃と、双眼鏡で確認していた四季の二人が彼らの姿を見てそう呟く。

 

(随分と匙の奴も協力的だな……何か有ったのか?)

 

 ファミレスで分かれたときに比べて匙も率先して協力している様子が有る為にそんな事を思う。

 

 協力はしなくとも情報交換程度はしたのだろう。……匙には悪い事をしたが態々一誠達グレモリー眷属には決闘の一件の恨みも籠めて囮になって貰う為に、『関わるな』と言う条件を提示しなかった。

 ここ最近、この街を訪れた神父が次々と惨殺されている事から、誰かが迎撃の為に動いているのは明白……恐らくはそれはコカビエル達一味の仕業だろう。

 

「『関わるな』なんて言わなかったのはこの為なんだ。精々動いてもらうぜ」

 

「……時々思うけど、四季って……」

 

「敵だけだ、冷たいのは」

 

 情報を持っていても自分達が敵をおびき寄せるための囮にならなかったのは、詩乃を危険に晒さないため。リスクを誰かに押し付けることが出来るのなら……それが対して温かくない関係の一誠達に押し付けられるなら、そう思って関わらせたのだ。

 

「こっちが関わってくれと言った訳じゃない。向こうが関わってくれているだけだ」

 

 悪人みたいな笑みを浮かべる四季に対して『悪い事を考えてるな』等と思いながら溜息を吐く詩乃。そんなやり取りをしている間もグレモリー眷属の監視は怠っていない。

 

「四季」

 

「どうした?」

 

「作戦は成功したみたいよ」

 

「っ!?」

 

 詩乃の言葉に反応し双眼鏡を覗きこむと、グレモリー眷属+匙と対峙している白髪の剣を持った男の姿が在った。

 

「撃つ?」

 

「いや、オレが向こうに行く、監視は任せた。……隙を見て襲撃者のエクスカリバーを持った腕を狙ってくれ」

 

「分かった」

 

 そう言って四季は一誠達グレモリー眷属+匙のところへと向かう。……別に飛び降りても無事に着地する術が無いわけでは無いが、こんな所で余計な力は使いたくない。そんな訳で素直にこのビルの屋上に入り込むのに使った非常階段を使って下に降りて行く。

 



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ハイスクールV×D ライド23

「神父ご一行様、天国へご案内ってね!」

 

 時は四季が監視場所から移動する数分前、一誠達一行が襲撃を受けたときまで遡る。

 

「……おや?」

 

「フリード!」

 

 襲撃者の顔を確認した一誠がそう叫ぶ。

 

「おやおやおや? イッセーくんかい? これまた珍妙な再会劇でござんすね!」

 

 フリードと呼ばれた襲撃者の手にあるのは聖のオーラを纏った剣……恐らくはそれが盗まれたエクスカリバーの一振りだろう。

 

「どうだい? ドラゴンパゥワーは増大してるのかい? そろそろ殺して良い?」

 

 『狂気』と呼べる笑みを浮かべながら、エクスカリバーを持ってそう問いかける。イッセーが己の神器 赤龍帝の籠手ブーステッド・ギアを出現させたのを合図に、一同はフリードとの遭遇戦へと突入する。

 

 匙が最初に腕に現れたカメレオンの様な神器からラインを伸ばすも、それはフリードに切り払われる。だが、切り裂かれる事なく、ラインは足に巻きつかせた。

 

「そいつは五峰の剣でも簡単には切れないぜ! 木場やっちまえ!」

 

「ありがたい!」

 

 動きを封じた上で高速戦闘タイプの木場が仕掛ける。即席の連携としては良い物と言えるだろう。

 

 だが、切り結ぶも簡単に木場の魔剣は切り裂かれる。四季の言葉を脳裏に浮べながらも、新たな魔剣を作り出すがそれもフリードのエクスカリバーで簡単に破壊される。

 そんな中小猫が一誠を木場へと投げつけ木場へと晩夏させた力を譲渡する。それと同時に足元に大量の魔剣を作り出すが、フリードは後ろに飛びながら魔剣を切り裂いていく。

 そんな中、壁へと飛びつき魔剣を突き刺して其処に着地、そのまま新たに作り出した魔剣をフリードへと投げつける。

 

「俺様の『 天閃の聖剣エクスカリバー・ラピッドリィ』に速さで勝てるかよ!」

 

 木場の投げつけた大量の魔剣を一瞬で叩き落す。それがフリードの持つエクスカリバーの力、

 

 

『そうか、たいした速さだな』

 

 

 突然、その場に第三者の声が響く。

 

「ピンポイントバースト!」

 

 不意打ち気味にフリードへと日ピンポイントバーストを打ち込む四季。

 

「何なんなんですかい、行き成りぃ!?」

 

「街中で凶器を振り回している変質者退治だよ!」

 

 それと同時にぶつかり合う四季の超兵装ブラスター・ブレードとフリードのエクスカリバー・ラピッドリィ。

 

「はぁ!」

 

 微かに力を籠めると四季の剣がそのままエクスカリバー・ラピッドリィを切り裂いていく。

 

「マジかよ!? 伝説のエクスカリバーちゃんが!?」

 

「所詮は折れた剣だろ」

 

 驚愕するフリードに対して平然と応える四季。そんな光景を見ながら木場は、

 

(エクスカリバーが……あんなに簡単に? やっぱり、彼の剣なら……)

 

「っ!? 匙! 吸い取れ!」

 

「ああ! 『 黒い龍脈アブソーション・ライン』!」

 

 フリードの真っ二つ……とは行かなくとも、刀身を切り裂かれてもなお剣としての機能を残しているエクスカリバーと切り結んでいた四季がフリードの足元……匙のラインに気付くとそう指示をだす。

 

「……これは!? 俺っちの力を吸収するのかよ!?」

 

「どうだ! これがオレの神器だ! お前がぶっ倒れるまで力を吸い取ってやるぜ!」

 

「力を吸い取る神器!?」

 

「さて、これで形勢逆転……お前には聞きたいことがある、この場で捉えさせてもらう」

 

 四季はブラスター・ブレードを構えながらフリードへと注意を向ける。フリードを己が抑えながら匙の神器で力を全て吸収する。そして倒れた後で捕縛する。確実に聖剣も敵の捕虜も得られる作では有るが、不安材料は他の敵の存在。

 

「ドラゴン系神器か!? 忌々しい!」

 

 何度も斬ろうとしているが簡単には切れない。

 

「グァ!」

 

 そんな中でフリードの手から鮮血が舞う。遠距離からの狙撃……四季の指示通り詩乃がやってくれたのだろう。だが、それでもエクスカリバーを手放す事はなかったが、

 

「これで……」

 

 反撃を封じたと判断し、ブラスター・ブレードを構え出力を上げたピンポイントバーストを打ち込む体制をとる。

 

「邪魔だぁ!」

 

「っ!? やっぱり、邪魔だったな、半端剣士!?」

 

 憎悪に染まった顔で木場が新たに二本の魔剣を作り出して四季へと投げつける。それに反応して後ろに飛んで避けると、木場は動揺に作り出した魔剣を両手に構えてフリードへと向かう。

 

 



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ハイスクールV×D ライド24

 表面上は冷静さを保ちながら四季は内心で苛立ちを覚える。詩乃の援護と匙の神器の能力によって得た好機を木場に潰されてしまったのだから。

 

(これで奪われた聖剣はあと二本、すべて破壊させてもらう)

 

「チッ!」

 

 苛立ちを覚えながら超兵装ブラスター・ブレードに既にチャージ済みのピンポイントバーストのエネルギーを霧散させる為に散弾銃のような形で木場の方へと放つ。

 

「っ!? 何をするんだ!?」

 

「それはこっちの台詞だ。奴には聞きたいことがある、お前の都合は関係ない、邪魔をするな、半端剣士」

 

 先ほどのお返しとばかりに足元を狙って放った光の散弾に木場は足を止める。別に聖剣の破壊はされても良かったが、残念ながら四季は木場に聖剣に対抗できると思っていないのだ。

 

 

『ほう、 魔剣創造ソード・バースに未知の聖剣か』

 

 

 そんな中に新たな登場人物の声が響く。

 

「……バルパーの爺さんか?」

 

 その答えが敵……フリードの言葉によって明らかになる。

 

「……バルパー、ガリレイッ!」

 

「皆殺しの大司教、聖剣計画の首謀者の聖剣マニアか」

 

「いかにも。フリード、聖剣を斬られた上に何をしている?」

 

「じいさん! このトカゲくんのベロが邪魔でよォ!」

 

「聖剣の使い方が未熟なのだ。だから、そうも簡単に切られる。お前に授けた“聖なる因子”を刀身に籠めろ!」

 

「へいへい」

 

「させるか!」

 

 バルパーが何をやらせようとしているのか理解した四季はフリードを逃がすまいとするが、

 

「小僧、向こうのビルに居るのはお前の仲間か?」

 

「っ!?」

 

 思わずその言葉に動きを止めてしまう。そうしている間にフリードは匙の神器を切って高速から逃れる。

 

「いい腕のスナイパーだな」

 

「チッ! ああ、オレのパートナーは最高の 狙撃姫スナイパーだよ」

 

 初めからフリードが匙の神器の拘束から逃れるための時間稼ぎの言葉だった様だ。改めて冷静になって考えてみれば、有る程度バルパーの位置ならば狙撃場所も見当が付くだろう。

 その結果、仲間の存在を指摘されてしまった四季は思わず足を止めてしまい、まんまと敵の思惑に乗せられてしまったと言う訳だ。相手の皮肉にそんな言葉を返す。

 

 やはり、詩乃の事になると何処か冷静さを欠いてしまう。

 

 逃げ出していくフリードとバルパーの姿を今の四季の位置では見送る事しかできない。……合流したゼノヴィアとイリナ、そして木場の三人がフリード達を追撃する。

 

「……逃がしたか」

 

 四季の手の中から消えるブラスター・ブレード。流石にこの状況での追撃は、最低でもフリードに加えてコカビエルまで同時に相手にしなければならない。……だが、四季が得たかった敵側の聖剣使いの数についての情報は……。

 

(あの 天閃ラビッドリィ使いだけの様だな)

 

 あと二人敵には聖剣使いが居ると推測していたが、この場にバルパーが現れたことでそれは無いと確信が出来た。……明らかに戦闘職ではない相手がこんな所まで現れる可能性は一つ、敵側がボスのコカビエルを含めて三人しか居ない可能性だ。

 

「流石に相手も大きく動くだろうな」

 

 推測では早ければ今夜、最長でも二、三日中には向こうから仕掛けてくるだろう。……この街にいるのは魔王の妹が二人……聖書に名を連ねるビッグネームの堕天使が相手になる以上、魔王に報告するだろう。……予め会談している以上、既に連絡が行っているだろうが、向こうも魔王との戦闘は早いと考えている可能性から推測すればそう判断しても可笑しくない。

 なにより……

 

(流石にブラスター・ダークほどじゃ無いにしても、ブラスター・ブレードの力も使えば使うほど飲み込まれる)

 

 辛うじて精神力で抑えることはできるが、それでも精神を確実に削っていく。

 

(疲れた……体じゃなくて、精神の方が……)

 

 件に認められない以上改善のしようは無い。それでもブラスター・シリーズの力を使うのは戦う為に必要な事、

 

「おい、五峰!」

 

「なんの用だ、変態ドラゴン」

 

 そう考えていたときに一誠に肩を捕まれる。

 

「お前、よくも邪魔しやがって! オレ達は木場の役に立ちたくて行動してたんだ! それなのに、なんで邪魔をしたんだよ!?」

 

「何でって……この場で捕縛して奴から敵の情報を聞きだそうとしただけだ」

 

「だったら、木場でも……」

 

「あの状況でも、ナマクラじゃ折れたとは言え聖剣は超えられない。木場じゃ捕縛は無理だと判断したから、邪魔されたくなかった。それだけだ」

 

「木場の事を何もしらないくせに……」

 

「知っているが興味も無い。オレが大切なのは詩乃だけだ」

 

 根本的に四季が優先するのは詩乃の安全と望み。一緒に戦うことを望むなら、ともに戦いながら全力で守る。

 

「それより、変態と匙……今回の事は主に報告無しで動いたんだろ」

 

「なんなんだよ?」

 

 四季の言葉に訳が分からないと言う様子で?マークを浮べる一誠と匙の二人、

 

「そうね、なんなのかしら」

 

「後ろに居るぞ、お姫様方」

 

 リアス・グレモリーの言葉が響くと同時に四季の指摘の声が響く。それと同時に一瞬だけ意識が遠のいていく感覚を覚える。

 

「四季!」

 

 そんな四季の体を支えてくれるのは詩乃。

 

(詩乃が居る……)

 

 彼女が側に居てくれる。それだけでブラスター・ブレードの制御の為の披露が一気に消えていく様に感じられた。

 

 

 



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ハイスクールV×D ライド25

「エクスカリバー破壊って、あなた達ね……」

 

「本当に困った子達ですね」

 

 溜息を吐くリアスと呆れた様子で呟くソーナ、正座して現状についての説明をしていた一誠達三人……序でにベンチに座っている精神的な消耗から回復した四季と彼と合流した詩乃の姿が有った。

 

「それで、貴方達は」

 

「流石にコカビエルの目的を推測すると、放置は出来ないって判断してこっちから協力を申し出た」

 

 まあ、依頼を受けていたからと言うのが真実だが、四季はそれらを隠してそう告げる。立場上、何処にも雇われていない際の四季達の立場は中立に当たる。それを利用して今回は何も知らせずに聖剣使い二人に協力する事を選んだわけだ。

 ……はっきり言って、教会の人間は金払いが悪い癖に鬱陶しい傾向にある。下手に雇われているとしたら色々と煩い可能性が有るので、なるべく中立と思わせて依頼を果たしたい所だ。

 

「それで、祐斗はそのバルパーを居っていったのね?」

 

「はい、教会の二人も一緒です」

 

「あそこで深追いするのは危険だから止めたかったけどな……」

 

 一誠の言葉にそう補足する。四季としてはあそこでバルパーとフリードを深追いするのは危険だと判断したので、まだ止まってくれそうな聖剣使い二人を止めたかったのだが、残念ながら止めるのが遅れてしまった。

 まあ、三人居ればコカビエルとフリードを同時に相手にしたとしても何とか逃げられるだろうが……問題は復讐の権化になっている木場に退くと言う判断が出来るかどうかだが……木場とは友人ですらないので放置しておく。

 

「何か有ったら連絡を寄越すと思いますが……」

 

「変態ドラゴン、お前バカだろう?」

 

「復讐の権化となった祐斗が悠長に連絡よこすかしら?」

 

「ご、ごもっともです……。って、五峰、バカって何だよ!?」

 

「連絡する冷静さが有ったら、あそこで深追いはしなかっただろうが」

 

 既に四季の中での一誠の価値はかなり低かったりする。……そもそも、四季にとって詩乃を侮辱した人間は常に『敵』でしかないのだから。……武器を向けてこないから必要以上に何もしないだけ、それが四季と一誠の敵対関係の現状である。

 四季は敵に対して優しくする必要性は感じていない。特に、一誠の場合は四季に対する最大のタブーを犯してしまったのだ、親切になどしてやる必要は無いだろう。

 

「どっちにしても、今のままじゃあの半端剣士が志半ばで倒れるのは目に見えてる」

 

「……前から気になってたけど、祐斗は一流の剣士よ」

 

「技と速さだけはな。それ以外は三流……だから半端なんだ」

 

 特に怒りに任せてその一流の技を見失うほどの未熟な……三流以下のメンタルと 魔剣創造ソード・バースと言う神器に頼っている点が余計にその未熟さを増長させ、技を見失う原因となる。それが四季が木場を『半端剣士』と呼ぶ理由だ。

 所詮は技も剣もそれだけでは何も傷つけない、扱う者の心が三流以下である以上、永遠に『半端剣士』と言う評価は覆らないだろう。

 

「小猫もどうしてこんな事を?」

 

「……祐斗先輩が居なくなるのは嫌です」

 

 俯きながらリアスの問いに答える小猫。……純粋に眷族の仲間……木場が居なくなるのを不安に思っての行動だったのだろう。

 

 ふと、横へと視線を向けると……

 

「貴方には反省が必要です」

 

「うわぁぁぁぁぁん! ゴメンなさい、ゴメンなさい! 許してください、会長ぉ!」

 

 眼鏡を怪しく光らせながらゴゴゴゴゴと擬音でも付きそうな怒りの空気を纏っているソーナと泣いて謝っている匙の姿。

 

「ダメです、お尻を千叩きです」

 

「た、頼む、五峰ぇ、助けてくれぇ!」

 

「悪い、恨むなら変態ドラゴンと変態ドラゴンに協力した自分を恨んでくれ」

 

「五峰ぇ! お前、実はちょっと怒ってるだろ!?」

 

「変態と半端に対しては怒っているけど、別にお前には怒ってないぞ?」

 

 助けを求められて流石に友達である以上助けても良いが今回ばかりは許可無く一誠に協力した匙が悪いと、パシィン、パシィンと響く音をBGMに冥福を祈っておく事にした四季だった。

 下僕の躾は主の務め……グレモリーとシトリーの両眷族の部外者である四季と詩乃の二人は無関係である以上口出しは出来ない。

 

「で、オレ達帰って良いですか?」

 

「そうですね……あなた達にも聞きたいことがあるんですが」

 

「ああ、コカビエルは……オレの推測が正しければ、早ければ今夜にでも行動に移るはずですよ?」

 

「何故そう思うんですか?」

 

「そりゃ、流石に七分の一の剣が何本あっても聖剣使い一人と幹部とは言え堕天使一人じゃ、魔王相手に喧嘩売るには戦力不足だろうし」

 

 流石に戦闘要員二人で魔王二人を相手に戦いを挑むほどコカビエルもバカでは無いだろう。……そもそも、奴の目的は戦争であって戦闘では無い。最悪の場合を考慮する程度の理性はあるだろう。……今回は相手に理性がある方が返って危険と言う所が特に性質が悪い。

 

「魔王が動く前に会長と部長さんの首を獲って悪魔側へ宣戦布告し、堕天使側と悪魔側の戦争を引き起こす、そうすれば天使も戦争に介入する可能性が高い」

 

 要するに身の回りには気をつけてくれと言う訳だ。そんな会話をしている間も匙の尻を叩く手は止まっていなかったりする。

 

 そんな訳でソーナに断りを入れて二つ重なる尻を叩く音と匙に続いて一誠の物も増えた悲鳴をBGMに公園を後にする四季と詩乃の二人だった。

 

 

 

 

 

「四季、大丈夫なの?」

 

「悪い……結構キツイ」

 

 家に帰りついた瞬間に再び崩れ落ちそうになる所を詩乃に支えられる。隙あらば暴力の支配する影へと飲み込もうとしているブラスター・シリーズの力……。その誘惑を受けている以上、精神を消耗する。

 ……ブラスター・ブレードとブラスター・ダーク、後に使い手の名となった二振りの超兵装だが、その二人の超兵装の求めている物は持っている筈だ。耐えられるレベルなのはその証拠だろう。……少なくとも、後の騎士王となる王子の側で戦っていた者の精神を飲み込むレベルに耐えられると言う程四季は自惚れてはいない。

 

 元の主に劣っているのは嫌と言うほど理解している。だが、それを差し引いても決定的な何かが足りていない、そんな気がする。

 

(……『命を捨てでも詩乃を守る“勇気”と“覚悟”』……。何が足りないんだろうな、オレには)

 

 その疑問に答えるものは誰も居ない。流石に普通に戦う分には問題ないが、下手に力を引き出すと誘惑は不意打ち気味に襲ってくる。

 イリナと戦った時にピンポイントバーストを使っても問題なかったので平気かと思っていたが、今回は許容範囲外と言う事だろう。どっちにしても、許容範囲では戦えないと言う事になる。

 

「悪い、少し休む」

 

「うん、おやすみ」

 

 大切な人の声を聞きながらゆっくりと意識を手放す四季。……その後、コカビエルからの宣戦布告を受けたと言う連絡がソーナから入った。

 非常事態解決の為の戦力として自分達では不足と判断しての協力の依頼だった。まあ、これで結果的にコカビエル対策の為に三大勢力から依頼を受ける事になったのだが、その辺は……

 

「よし、夏休みの旅行の旅費ゲット!」

 

「それって良いの? 元々他の所から依頼を受けてたのに?」

 

「大丈夫だろう? コカビエルと戦うって所だけ共通しているだけだし」

 



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ハイスクールV×D ライド26

 ソーナからの連絡を詳しく言うとコカビエル達が四季の予想通り動きを見せたらしい。

 態々リアス……と言うか一誠の家まで乗り込んで宣戦布告したそうだ。その際、聖剣使いの一人、紫藤イリナが戦闘不能の状態で運ばれてきた様子だ。

 なお、幸いにも木場とゼノヴィアの二人は無事に逃げられたらしい。その辺は四季の予想よりも健闘できたと言ったところだろう。だが、イリナの持っていた 擬態の聖剣エクスカリバー・ミミックはフリードと言うはぐれエクソシストに奪われたそうだ。なお、フリードが言うには奴は一人で四本の 聖剣エクスカリバーを持っているらしい。

 

 これで、四季のブラスター・ブレードで切り裂かれて剣としての機能は低下しているとは言え、 天閃の聖剣エクスカリバー・ラビッドリィ、 夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメア、 透明の聖剣エクスカリバー・トランスペアレンジーの四本の聖剣を相手にする必要が出来た。

 

「まあ、人間が四本も剣持っても意味無いだろうに」

 

「そうよね」

 

 二刀流は兎も角、漫画じゃ無いのだから三刀流は無理だろうと思うし―遭遇した時のフリードのいかれ具合からやりそうだとは思う―、人間の肉体の構造上四本も持っていても意味無いだろう。

 

 だが、エクスカリバーを集めている エクスカリバーマニアバルパーの真の目的はエクスカリバーを一つにしてオリジナルに限りなく近づける事にあるのだろう。いや、四つのエクスカリバーの能力を持ったそれは、かつて折れたカリバーンを カリバーン改エクスカリバーとして生まれ変わらせた事の再現と言えるのでは無いかと思う。……もっとも、七つに分けられてしまった 聖剣エクスカリバーの内の四本しかないが。

 

 だが、分からない事が有るとすれば、何故コカビエルが聖剣を集めているのかだ。……間接的と言うよりもリアス達からソーナに伝えられた情報から分析する限りでは、コカビエルのイメージは『戦争屋』に尽きる。とても、エクスカリバーを集める理由が浮かんでこない。

 

「詩乃……」

 

「当然、私も行くわよ」

 

「……。頼りにしてる」

 

 出来る事ならば彼女には此処から離れて貰いたかったが、それは彼女にとって受容れがたいだろう。ならば……

 

「カイザード」

 

『呼んだか、四季?』

 

 通信機を取り出してもう一人の相棒へと繋げる。

 

 

 

 

 

 四季と詩乃の二人が駒王学園の前に着いた時、そこには木場を除いたグレモリー眷属全員とソーナ、匙の二人に生徒会副会長でシトリー眷属の『真羅 椿姫』の三人の姿が在った。

 

「来ましたね、五峰くん、朝田さん」

 

 四季達二人の姿を確認したソーナがそう声を掛けると、妙に敵意に満ちた視線が一誠から向けられるが、その辺は全面的に無視しておく。

 

「ひとまず私達生徒会が結界を張り学園外への被害を抑えています。ですが正直言ってコカビエルが本気を出せば学園のみならずこの街その物が崩壊するでしょう」

 

 ソーナの言葉に四季は内心で同意する。生徒会の張った結界もコカビエルの力ならば突破するのも容易いだろう。それをしないのは、単純にリアス達に行なった宣戦布告の為に待っているのだろう。

 

「ですが正直言って、コカビエルが本気を出せば学園のみならず、この街そのものが崩壊するでしょう。更に言うならコカビエルは既にその準備に入っている様です」

 

「戦争の為に街を破壊するって訳か……支取会長、魔王サマへの連絡は?」

 

 四季の問いに無言で返すソーナとリアスの二人。

 

「ソーナだってお姉さまを呼ばなかったじゃない」

 

「会長は仕方ないにしても、あんたもか……リアス・グレモリー」

 

「サーゼクス様には既に打診しましたわ」

 

 呆れたように呟く四季の言葉を訂正するように朱乃がそう告げる。

 

「ちょっと朱乃、勝手な事を!」

 

 その後の二人の会話を聞く限りではどうもお家騒動がこの非常事態での兄への連絡を躊躇させていたらしい。

 

「バカか」

 

「バカとは何よ!」

 

「当たり前だ。此処で二人揃って連絡していませんって話だったら、オレ達は迷わず逃げさせてもらってた」

 

 はっきり言って四季はコカビエルと正面から戦って勝てる等と思っているほど自惚れてはいない。四季にとっての敗北は詩乃を失う事だ。だからこそ、例え依頼とは言え勝ち目のない戦いに飛び込むほどバカではない。

 

「なんだよ、ひびったなら帰れよ」

 

「ああ、怖いね。オレにとって“敗北”ってのは死ぬよりも恐ろしいんでな」

 

 四季にとって敗北とは死ぬ事では無く、大切な者を失うという事。

 

「お前達がフェニックスの連中と戦った時とは全て違う。敗北は死、負けたら結界の外でリタイア、なんて事は無い」

 

 そう言って手の中に超兵装ブラスター・ダークを出現させる。聖剣に光の超兵装をぶつけるよりも影の超兵装であるブラスター・ダークの方が良いだろうと判断した結果である。

 

「それで支取会長、まさかコカビエルがオレ達を……と言うよりもグレモリーの連中を待つ間、ゆっくりとお茶してる……って訳じゃないですよね?」

 

「ええ、この街そのものを崩壊させる、その準備に入っているようです。校庭で力を解放しつつあるコカビエルの姿を私の使い魔が捉えました」

 

「最悪の予想が当たったわね」

 

「ああ、あの戦争狂ならやりそうだとは思ってたけどな」

 

 ソーナの返答に詩乃が四季の予想が当たっていた事に思わず感嘆の声を上げる。

 

「なっ……そんな規模の話なのか……。戦争がしたいからオレ達の学園を、街を破壊する? ふざけんなっ! 好きにさせてたまるかよ!」

 

(ブラスター・シリーズ。今回ばかりはオレの全てを飲み込んででも、力を貸してもらう)

 

 この場に詩乃が居なければ逃げる方法も考えていたところだが、詩乃がこの場に、この街にいる以上、勝つ方法を模索する以外の選択肢などあるはずが無い。たとえ、ブラスター・シリーズの力に 精神ココロを、魂を食い尽くされようとも……。

 

「私達は外への被害を抑えるため、所定の位置について結界を張り続けます。学園が傷付くのは耐え難いですが、相手は堕天使の幹部。相応の覚悟をしなければならないでしょうね……」

 

「ありがとう、ソーナ。後は私達が何とかするわ」

 

 悲痛な覚悟を決めているソーナを他所に四季は内心で学園が壊れる事は覚悟する必要が有るだろうと思っている。流石にソーナには悪いが学園の被害を抑えるという点は優先順位は低い。

 

 最優先は街の防衛、これはグレモリー眷属の女王である朱乃が連絡したリアスの兄である《サーゼクス・ルシファー》が来るまで時間さえ稼げれば良い。

 次いでエクスカリバーの破壊とコカビエルの討伐。元々の依頼でも有ったし、何よりコカビエルを倒せれば全て終る。街の防衛こそ可能だが、コカビエルの撃破はほぼ不可能に近いであろうことは理解できる。四季だけの力では。

 

(“惑星クレイの英雄達”の力を借りられれば勝ち目は有るけどな)

 

 カイザード達には別に頼んでいる事があるし、元々の彼等の目的も有る。その為に下手にそちらの戦力は削る事はできない。残る手段は守護竜の宿した神器の力だが……

 

(オレは、オレの力だけで戦いたい)

 

 そんな考えが力を使うことを躊躇させてしまうのだ。

 

「サーゼクス様の加勢が到着するのは一時間後だそうですわ」

 

 朱乃の言葉が響く。一時間……短いようで長い時間、コカビエルと言う強敵を相手に最低でも一時間の間戦わなければならないのだ。

 

「一時間……分かりました。その間、私達生徒会はシトリー眷属の名に賭けて、結界を張り続けて見せます」

 

 タイムリミットを聞かされたソーナは四季と詩乃の二人へと向き直る。

 

「二人もリアス達に協力してください。本来なら、無関係のあなた達を巻き込むのは申し訳ないのですが……」

 

「いや、流石に街が崩壊するって状況だからな……仲間も呼びたい所だけど、それには時間が無い」

 

 近いとは言えこの時間に呼びつけるのは時間的に無理だろう。

 

「諍いが有ると言うのは匙から聞いていますが、それでも今だけはそれを忘れてどうか協力してください」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

 その言葉に同意しながらも四季としては内心で『向こう次第だ』と付け加えておく。流石に攻撃されたらしっかりと反撃はする。

 

 

 

 



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ハイスクールV×D ライド27

「さて、私達は彼らと一緒にオフェンスよ。結界内の学園に飛び込んでコカビエルの注意を引くわ」

 

 一瞬だけ四季達に二人に視線を向けた後、己の眷属達に向き直り真剣な表情でそう告げる。

 

「これはフェニックスの一戦とは違い、死線よ」

 

 そう、彼らグレモリー眷属にとって、初めての格上相手との『死闘』だ。ライザー・フェニックスとのレーディングゲームでは敗北したが、それでもそれが実戦では有ってもゲームで有るが故に命を落とした者はいなかった。

 だが、今回は違う。間違いなく、敗北したとすれば間違いなく誰かが、最悪は全員が命を落とす、そう言う戦いだ。

 

「それでも、死ぬ事は許さない! 生きて帰ってあの学園に通うわよ!」

 

「「「「はい!!!」」」」

 

 強敵との死闘を前にしてリアスの激に返す全員の声が重なる。

 

 

 

「……詩乃」

 

「言っておくけど、今更私だけ逃げろって言っても聞かないわよ」

 

 本音を言えばなるべく彼女には駒王町から離れていて欲しいと思っていたのだが、当の本人はそれを聞き入れてくれそうに無い。

 念の為に相棒である『次元ロボ カイザード』と彼の仲間の次元ロボ達には本来頼んでいる役割の他に、今回は彼女がコカビエルとの戦いが終るまで此処から離れてくれる事を了承したのならば、彼女を連れて離れてくれる事を頼んだのだが、それは無駄に終ったようだ。

 

「分かってる」

 

「私にだけ離れろって言うくせに、四季は逃げる気無いのよね」

 

「当然だろ。此処には詩乃との思い出が有って、友達がいる」

 

「それは私も同じよ」

 

 そう言って微笑み会う二人、

 

「「頼りにしてる(わよ)」」

 

 そんな会話を交わすとどちらとも無くハイタッチを交わす。危険には晒したくないが、四季にとっては背中を預ける後衛としては誰よりも頼りにしているパートナーだ。

 

『四季、この戦いは今までとは違います。それでも、使わない心算ですか……“彼ら”の力を』

 

 四季の中に響く声……己の持つ神器に宿るモノの声が四季の耳に響く。

 

(使う心算は無いさ……オレはそんな物には頼らない……)

 

 あの神器の力を使えば二つの超兵装の力とあわせて、コカビエルを討伐する事も簡単だろう。

 ……完全では無いにせよ、コカビエルが奈落龍にも、龍の帝国の大帝にも、虚無の軍勢を操る虚無の龍達、そして 根絶者デリーターに及ばない以上……惑星クレイの英雄達の力を借りれば勝てるだろう。

 だが、四季にそれを使う意思は無い。……詩乃を守るためにも己の力で強くならなければ……己の力だけで戦い抜かなければ、他者の力を借りても何も意味は無いのだと考えている以上。

 

『貴方の意思が代わったのなら何時でも呼んで下さい。私は待っています、貴方が彼等の力を受け入れる事を』

 

 そう告げて消える声に意思を向ける事無く超兵装ブラスター・ダークを握りなおす。

 

(必要なんて無い、オレは……オレの力で詩乃を守る)

 

 心の中でそう決意を定める。

 

「兵藤、五峰、頼んだぜ!」

 

「わーってるよ、お前は尻のダメージでも気にしてろ」

 

「任せろ、オレ達二人なら……絶対に負けない。あと、尻のダメージは災難だったな」

 

「言うな! 言われると痛みがぶり返す」

 

「悪い」

 

 涙目で尻を押さえている匙にそう言う。流石に少し哀れみを感じさせるが……飽く迄一誠達に協力したのは当人の判断なので、尻の痛みも己の責任として受け取って貰おうと思う四季だった。

 

「ところで木場は?」

 

「興味ない」

 

 ふと、話題に上がった木場の事には素っ気無く答えると詩乃の所へと向かい、主にコカビエル戦での役割についての打ち合わせをする。

 

「ったく、木場の事を何も知らないくせに。でも、あいつなら無事だと信じてる」

 

 木場の事が心底どうでも良いと言う様子の四季に苛立ちを覚える一誠は四季の背中を睨みつけながらそう答える。

 四季の言葉を借りるのなら、木場は四季にとって仲間でもなければ友達でもないのだ、安否に対して一切興味が無いのも無理は無いだろう。

 

『あいてはコカビエル、不足は無い。見せてやろうや、相棒』

 

 一誠へと語りかける声……彼の神器に宿る赤龍帝ドライグの声、

 

「ああ、ドライグ、五峰の野郎にも見せ付けてやろうぜ」

 

「『ドラゴンの力を』」

 

 ……その四季を相手に戦って木場と組んで一誠は一度負けているのだが。

 



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ハイスクールV×D ライド28

(何と言うか……オフェンスが頼りに成らない……)

 

 ぶっちゃけ、それが四季のグレモリー眷属に対する評価だった。赤龍帝の能力は実際に戦っているので完全に把握している上で『弱い』し、女王と戦車は己の持てる力を嫌悪から十全に発揮できず、僧侶の片割れはまともに王が扱えずもう一人は回復役……流石にこの状況で敵を癒すと言う事は無いとは思うが攻撃面では期待できない。此処に居ない騎士に至っては四季の評価では三流以下。

 

(念の為にカイザードに連絡していたけど……不安は残るか)

 

 どちらかと言えばそれは最悪の場合に使う最後の手札……。切り札を切る際に用意しておくための最後の切り札……。己の 神器(セイクリッド・ギア)は使いたくないが、最後まで隠すべき手札では無い。……逆に『カイザード』は神器と違ってなるべく見せたくない手札なのだ。

 だが、最悪の場合、詩乃をこの場から避難させる為には切るしかないカードでもある。

 

(予想通り、あの時の狂人神父に聖剣マニアに戦争狂か)

 

 フリード、ハルパー、コカビエルと、内心で見事に狂人が三人揃ったと思ってしまう。『類は友を呼ぶ』と言うが真実だったのかと改めて思うほどだ。

 

(……『ディメンジョンポリス』の力を借りれば、コカビエルに勝つ事はできる……。けど)

 

 流石にそれは出来ない。彼らに頼んでいる役割は、自分達の正体が知られてしまった現状ではどうしても必要となることなのだから。

 

 ……魔法と科学……二つの力が融合した惑星クレイの英雄に数えられる彼等の力さえあれば、勝つことは難しくないだろう。だが、彼等の存在は今は知られる訳には行かない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四本の聖剣……」

 

「これはいったい?」

 

 結界の中へと飛び込んだ彼等の目に写ったのは空中に浮かぶ豪華な装飾の施された椅子に座している男……今回の計画の首謀者である堕天使の幹部『コカビエル』と、魔法陣の中で神々しい光と共に浮いているのは四季が超兵装によって切り裂いた物を含んだ四本の聖剣。

 

(イリナって奴の持っていた聖剣は奪われたか。ゼノヴィアって奴は巧く逃げられた様だな)

 

 それでも、悪魔では無い人間である四季にとって、その一撃の攻撃力だけは警戒しなければならない破壊の聖剣が敵の手にないのは幸いだった。

 

「ふん、四本の聖剣を一つにするのだよ」

 

 疑問の声に愉しそうに答えるのは魔法陣の中心に立つバルパー。校庭全体にも広がっている怪しい魔法陣。それが聖剣統合の為の魔法陣なのだろうが……

 

(なんだ……あの魔法陣から感じられる嫌な予感は?)

 

 ふと、聖剣の浮かぶ魔法陣とコカビエルの目的、そして……堕天使の行動パターンが四季の中で一致する。

 

(あの魔法陣はまさか……聖剣統合をスイッチに街を破壊する為じゃ……)

 

 まさかとは思うが、街ごと破壊する事でリアスとソーナの命を奪い悪魔への宣戦布告へとする事、同時に廃教会を隠れ家に選ぶと言う神への皮肉を好む……堕天使達の性質とも言える行動パターンも、教会の象徴である聖剣、それも聖剣の代名詞と言えるエクスカリバーを完全体に近づける事をトリガーとすると言うのは……最大級の“皮肉”だろう。

 

「バルパーよ、あとどれくらいだ?」

 

「五分も掛からんよ」

 

「そうか……では頼むぞ。さて、サーゼクスは来るのか? それともセラフォルーか?」

 

 バルパーとのやり取りでほぼ確信した。……コカビエルは武器……聖剣を武器として使うことを選ぶタイプではない、間違いなくエクスカリバー統合は別の事へのスイッチだ。四季がそう考えているとコカビエルはリアスに顔を向けて尋ねた。

 

「お兄様とレヴィアタン様の変わりに私達が……!」

 

 『お前を倒す』とでも続くであろうリアスの言葉を遮って風切り音が響いたかと思うと、爆発音が響き体育館が消し飛んでいた。

 

「流石は聖書に刻まれた堕天使……クレイの英雄の足元程度には力が有るか」

 

「そうね。今の私達じゃ勝てる相手じゃないわよ……完全に」

 

「でも、カイザードが居てくれれば勝てる相手だよな」

 

「だけど、頼ってばかりじゃ駄目でしょ」

 

「同感」

 

 その光景に驚愕するグレモリー眷属と違い、何処か余裕の有る会話を交わす四季と詩乃。少なくとも惑星クレイの英雄の一人であるカイザードの事を知っているが故に、同じ程度の事は出来るであろう実力者を比較対象にした為に驚愕は少ない。……コカビエルもまだ全力では無いだろうが、カイザードにはまだまだ上がある。

 

「つまらん。……まあ良い、余興にはなるか」

 

 落胆と言う様子を見せているコカビエルだが、四季達やリアス達との戦いは余興と気を取り直した様子だ。

 

「余興か……」

 

「言ってくれるわね……」

 

 そんなコカビエルを前にしても四季と詩乃の二人の闘志は失われていない。目指すべき目標を前にしてもコカビエルの力は通過点、何より隣に立つ大切な人のためにも負けられないのだから。

 

「う、嘘だろ……」

 

 なお、一番ビビッて居るのは一誠だったりする。まあ、この間まで一般人だったのだから当然と言えば当然だろう。……レイナーレ、ライザーと一応格上を相手にしてきたが、幸運な事に彼の腕に宿る神を殺せる力が有れば、手が届く相手だったのだが……今回のコカビエルは、圧倒的な格上……一斉に取っては未知の領域に居る相手だろう。

 

『アイツは聖書に記される 古いにしえからの強者。先代魔王や神達を相手に戦った生き残りだ』

 

 そんな一誠にドライグの励ましが響くが、ギギギッと乾いた動作で一誠の視線が……体育館だった場所へと向く。其処には巨大な光の槍が突き刺さっていた。

 

「あ、あんな奴に勝てるのかよ?」

 

『いざとなったらお前の体の大半をドラゴンにしてでも打ち倒してやるさ。倒せないでも、一時間くらい動けないぐらいには出来るだろう』

 

「……そう言うレベルって事か?」

 

 そう言うレベルである。

 

 一誠が何処までドラゴンになる事でコカビエルを一時間くらい動けなく出来るかは疑問だが。なお、余談だが何気に惑星クレイの神聖国家(ユナイテッドサンクチェアリ)では人からドラゴンへの転生は守護竜が齎した奇跡に近い……簡単にドラゴンに生まれ変わられては立場が無いと思う。

 

 まあ、未だに 禁手(バランス・ブレイカー)に至ってない一誠だが、自分の肉体の一部を代償に一時的に至る事が出来るそうだ。ライザーとの戦いでは片腕を代償に一時的に禁手へと至ったそうだ。

 

「さあ、地獄から連れてきた俺のペットと遊んで貰おうかな?」

 

 コカビエルが指を鳴らすと闇世の中から地響きを慣らしながら、巨大な何かが近付いてくる。

 血の如き真紅の双眸、ギラつく牙、そして、凶悪な形相の三つの首を持った犬……それも二体。

 

「ケルベロス!? 本来は地獄……冥界へ続く門に棲む地獄の番犬……。こんなものを人間界に持ち込むなんて!?」

 

「や、やばそうっすね……」

 

 驚愕の表情を浮べるリアスと本格的にヒビっている一誠。

 

「やるしかないわ! 消し飛ばすわよ、皆!」

 

「「「「はい!」」」」

 

「一体はオレ達で仕留める。後衛は任せた!」

 

「任せて、絶対に外さないから」

 

 全員が対峙する地獄の番犬の相手に意識を向ける。凶暴な相手だが、まだまだ控えているコカビエルはそれをペットと言いきれる相手だ。

 

 

 

 



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ハイスクールV×D ライド29

(大人しくしていてくれよ……ブラスター・ダーク)

 

 四季は己の手の中にある超兵装ブラスター・ダークを握りなおす。対する相手は地獄の番犬ケルベロスと、堕天使の幹部コカビエル。……恐らくだが教会から奪取された四本の聖剣が統合されれば、それを持ったフリードと言うはぐれ神父も参加するだろう。

 地獄の番犬ケルベロスと聖剣エクスカリバー(不完全)を前座にして、聖書に記された堕天使の幹部コカビエルが控えている。

 

 それを思うと自然と手に汗が滲んでくる。カイザードと言う頼りになる相手は現在別行動中……負けたら終り、全てを失う。

 

 一瞬、後ろに立つ詩乃へと視線を向け、互いに頷きあいケルベロスへと向き直る。負けられない理由は背中に背負っている。四季にとって目指す高みはコカビエルよりも高く『惑星クレイの英雄達』の領域だ、高がペット程度には負けられない。

 

「届かせてもらうぜ……オレと詩乃の二人で」

 

 ブラスター・ダークを構え、四季はケルベロスを見据える。……先ずはケルベロスと言う山を越えるのみ。

 

 

 

「よーしワン公、躾がなってないようだからオレが調教してやる!」

 

 気合を入れて叫ぶ一誠の手に現れる 赤龍帝の籠手ブーステッド・ギア。

 

「行くぜ、ブースッドギアァァァァァァァァァッ!」

 

 

『Boost!』

 

 

 機械音と共に一回目の強化が終ると共にケルベロスと向かおうとする一誠をリアスが止める。

 

「イッセー、あなたは今回サポートに徹して貰うわ」

 

「えっ?」

 

「高めた力を私達に譲渡して頂戴。あなたが高めた力をチームで使えば大きな戦力アップが期待できるわ」

 

 四季との戦いで見せた一誠の力を譲渡された際の木場の力……四季の超兵装ブラスター・シリーズの前にこそ通用しなかったが、それでも強力である事は間違いない。

 

「そうか。素のオレよりも遥かに強い部長達に力を譲渡すればその力は絶大……! それならコカビエルにも通用するか……?」

 

 内心、四季に通用しなかったので不安も残るが、それでもリアスや朱乃に力を譲渡すればコカビエルにも通用するだろうと思う。

 

 

 

 

 

(さあ、存分に……その力を使わせてもらう)

 

 一誠と戦った時とは違う。超兵装ブラスター・ダークの力を完全ではないにしろ、開放させていく。制服であったはずの袖は肩までが漆黒の甲冑へと形を変え、四季の片目が白目の部分が黒く染まり、黒目の部分が真紅に染まる。

 

 これで力による侵食は強まるが剣の発揮できる力は段違いに大きくなる。四季と対峙していたケルベロスは四季……と言うよりも剣から放たれる圧力に思わず後ずさる。

 四季は本来の持ち主である 影の英雄ブラスター・ダークではない。引き出せる力もそれほど多くは無いだろう。だが……その僅かな力でさえ、地獄の番犬を怯ませる領域にあるのだ。

 

 ブラスター・ダークを握りなおし、地面を蹴ると同時にケルベロスへと肉薄する。それと同時に、

 

「キャン!!!」

 

 ケルベロスの三つの首のうちの一つ、その一つの両の眼球に一本ずつ矢が突き刺さった。四季の動きに合わせて彼にとっての最愛の相棒による援護が為されていた。

 その隙を逃さずに四季は両目を打ち抜かれた頭へと向かい、

 

「はぁ!」

 

 ブラスター・ダークの一閃によってケルベロスの中央に有る首の一つを切り落とす。

 

(先ずは上手く行った)

 

 相手の反撃が来る前に相手の体の真横へと移動する。本来なら左右どちらかの首を狙いたい所だったが、炎でも吐き出そうとしていた中央を優先的に狙ったので、左右もそれほど安全では無いだろう。体ごと四季へと向き直り前足で叩き潰そうとするケルベロスだが、それよりも早く詩乃の放った矢がケルベロスの片目に突き刺さる。

 

「どんなに強靭な皮膚でも、内臓だけは例外、ってな」

 

 ケルベロスの皮膚は強靭だ。少なくとも、並みの武器では切り裂く事は難しいだろう。……七分の一に分割されているとは言えエクスカリバー級の武器でもなければ、簡単に圧倒することは出来ないだろう。

 

 だが、四季の手にあるのは聖剣を超える超兵装であり、聖剣よりもランクの低い詩乃の弓でも、彼女の技量ならば動き回るケルベロス相手にでも、正確に外部に出ている内臓器官……この場合、眼球を狙い撃てる。

 同時に四季が彼女から注意を引き離すと同時に、彼女から見える位置にケルベロスの弱いであろう部分を一瞬でも向けさせている。その一瞬でも有れば打ち抜いてくれると信じているからの行動である。そして、それによってできた隙に……ケルベロスを容易く切り裂ける四季の一撃を与えている。

 

 四季と詩乃にとっての仲間達……二人と同じ様にフリーとして活動している者達が居れば戦い方も変わるが、後衛の詩乃と前衛の四季……それが二人の役割分担だ。

 一瞥する事無く四季はケルベロスを翻弄し、詩乃が作ってくれた隙を逃さずに剣を振るう。一瞥する事も無い、彼女は絶対に矢を外さないと言う信頼、何処にどのタイミングで動くかも手に取る様に分かる。

 

 

―今ダ―

 

 

(言われるまでも無い!)

 

 四季の心に響く超兵装ブラスター・ダークの声。それに対して心の中でそう返す。

 

「刀身開放! バーストスラッシュ!」

 

 巨大な光の刃を展開させ、ケルベロスを×の字を描くように切り裂く。声にならない悲鳴を上げて倒れるケルベロスを一瞥しながら、魔法陣の中に浮かぶエクスカリバーへと視線を向ける。

 

「一つになってる」

 

「っ!? 遅かったか?」

 

 四季と詩乃、二人の視線の先に有るのは一本に統合された 聖剣エクスカリバー。そんな時、四季達へとコカビエルの方から“滅びの魔力”が向かって来る。一誠から譲渡された力によって強大な物になったリアスの放った魔力だが、それはコカビエルには通用せず、片手で弾かれてしまった。

 

「っ!? 詩乃!?」

 

 慌てて四季は彼女の前に立ってブラスター・ダークの光の刀身を作り出す。

 

「くっ……しまっ!」

 

 滅びの魔力を受け流しながら弾き返す事に成功するが、その代償にブラスター・ダーク器を弾かれてしまった。

 

 慌ててもう一つの超兵装、ブラスター・ブレードを展開、剣を弾かれたのは初めての経験だが、それに動じる四季では無い。

 

 ゆっくりと落下しながら戦場となっている校庭に突き刺さったブラスター・ダーク。其処に映し出されていたのは……

 

 憎悪の目でバルパーを睨んでいる木場と、心から愉しいと言う様な嘲笑を浮べているバルパーだった。

 

 木場の憎悪とそれを向けられるバルパーを刃に写しながら、怪しげな輝きを浮べるブラスター・ダーク。

 それはまるで、力と言う名の魔道へと手招きしている様に見えた。

 

 

 

 



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ハイスクールV×D ライド30

 木場の瞳は憎悪の対象……憎しみの象徴であるバルパーを写しながらも、超兵装ブラスター・ダークが写されていた。

 

「バルパー・ガリレイ、僕は『聖剣計画』の生き残りだ。いや、正確にはあなたに殺された身だ。悪魔に転生したことで生き延びている。あなたに問いたい……何故あんな事をした」

 

 憎悪を宿しながら超兵装ブラスター・ダークへと、その先に居るバルパーへと近付きながらそう問いかける。

 

「ほう、あの計画の生き残りか?」

 

「私はな、夢に見るほどに「お前の身の上話なんてどうでも良い。こっちには時間が無いんだ、長々とお前の身の上なんてどうでも良い話をしているなら、オレが聖剣計画の全てを話してやろうか!?」なに?」

 

 バルパーの言葉を遮り四季の声が響く。

 

「あの計画は失敗なんかじゃなかった。逆だ、成功していたんだよ」

 

「なっ!?」

 

 それは木場にとって衝撃的な事実。己や仲間達は何のために殺されたのか……。

 

「聖剣計画……昔、オレのブラスター・ブレードを狙って教会の連中が鬱陶しい事も有って調べたけど……まさか、あんな事を考えて実行にまで移していたなんて思わなかったぜ、その時はな」

 

 はっきり言って、超兵装ブラスター・ブレードは聖剣に分類できる。恐らくだが、完全な形で残っている大半の聖剣以上の力を持ち、匹敵する剣はそうそう存在して居ないだろう。だからなのか、教会の関係者に聖剣使いと見られた際に何度も渡せだの、聖剣使いなのだから教会に所属しろだのと鬱陶しかった。……黙らせるために情報面から責めることにした結果、聖剣計画の全貌を調べる事にした。

 

 其処で一呼吸おき、四季は超兵装ブラスター・ブレードをバルパーへと突きつける。

 

「そいつは完成させたんだ……聖剣を使える者とそうでない者を分ける理由を調べ上げ、聖剣計画の被験者達の聖剣を扱うに満たない“聖剣使いの因子”を抜き取り、その因子を集めた。一つ一つは満たない物であっても、多く集める事で聖剣を扱えるレベルに高める為にな」

 

 四季の中に居る守護竜が教えてくれた。……彼の龍が守護していた聖域の王国の騎士達は誰もが持っていた“聖なる因子”と聖剣の関係を。

 ……そうなると、四季も扱えるのではとも思うが、ブラスター・シリーズが二つあるのだから、態々聖剣を求める理由は無い。

 

「驚いたな、まさか其処まで調べ上げるとは……」

 

「情報屋の伝手と聖なる力に詳しいドラゴンの推測からの推測……。聖剣使いの祝福に使われる物の事も聞いていたからな」

 

 驚いたと言っているが、狂ったような笑みを浮べているバルパーの顔には一種の『狂喜』が浮かんでいる。

 

「なるほど読めたぞ、聖剣使いが祝福を受ける時、体に入れられるのは」

 

「その因子の結晶。……とことん教会って連中には反吐が出る」

 

 四季の言葉を聞いたゼノヴィアの顔に浮かぶのは嫌悪の表情。

 

「そうだ。聖なる因子を抜き取り結晶を作ったのだ」

 

 そう言って嬉々とした表情でバルパーは懐から一つの結晶を取り出して四季達に見せる。

 

「こんな風に」

 

 己の存在を主張するように輝く結晶に木場の表情が変わる。憎悪と怒りが頂点に達したと言うべき表情を浮べながら、バルパーを睨み付ける。

 

「これにより、聖剣使いの研究は飛躍的に向上した。だが、教会の者共は研究資料を残し、私だけを異端として排除したのだ」

 

(……なるほど、追放だけで済ませたのは……研究を向上させた功績に対する対価って所か)

 

 落胆の表情を浮べて言葉を語るバルパーに四季は嫌悪を浮べながらそんな事を考えてしまう。

 

「貴殿を見るに私の研究は誰かに引き継がれているようだな……。ミカエルめ、私を断罪しておいて」

 

「同志達を殺して因子を抜いたのか?」

 

 ゼノヴィアの方を見ながらそう呟くバルパーに近付きながら、木場は超兵装ブラスター・ダークを抜き、憎悪の表情を浮べながらそう問う。

 

 

―憎メ―

 

 

「そうだ・三つほどフリード達に使ったがね。。これは最後の一つだ」

 

 

―奴ヲ許スナ―

 

 

「ヒャハハ! 俺以外の奴等は因子に適応出来ずに信じ待ったがな!」

 

 

―ソノ怒リノママ―

 

 

「自分の欲望の為に、どれだけ命を弄んだんだ! バルパァァァァァァァァァァア!!!」

 

 

―ワレヲ使イ、奴ヲコロセ―

 

 

 超兵装ブラスター・ダークの闇が木場の服を漆黒の鎧に作り変えていく。腕から体全体へ、頭を除き漆黒の鎧に包まれた彼の姿はかつての暴力の支配する聖域の影に生きた騎士達に似ていた。

 

 

『シャドウパラディン』

 

 

 力への誘惑が木場の心を蝕み、感情のままに超兵装の誘惑を彼は受容れてしまった。

 

 

「四季……あれって」

 

「あいつ……力に飲み込まれた」

 

 詩乃の言葉に四季が答える。四季が辛うじて戻れていた一線を遥かに超えた木場は黒く染まり、赤く輝く瞳でバルパーとエクスカリバーを持つフリードを睨み付ける。

 

「私を断罪した愚かな天使どもと信徒どもに、私の研究を見せ付けてやるのだよ」

 

 そんな木場の変化を……四季の例もある為か、気付いていないバルパーは狂気に染まった笑いを挙げている。

 

「それがコカビエルに加担する理由……そんな事で」

 

 そんなバルパーの言葉に怒りを露にするリアス。そんな彼女達を一瞥しながら、バルパーは結晶を投げ捨て、

 

「どうせ余り物だ、これはくれてやろう。貴様の同士とやらの成れの果てだ」

 

 はき捨てる様に、嘲笑うように告げられる言葉……それがバルパーの最大のミス。

 

「みんな……バルパァァァァァァァァァァァァァァア! お前だけはぁ!!!」

 

 

―存分ニ使エ、我ガ力ヲ。奈落竜ノ腸ニヨリ鍛エラレタ、ブラスター・シリーズヲ―

 

 

 木場の鎧が寄り禍々しいものへ、背中にはドラゴンの翼のような意匠が現れる。ゆっくりと立ち上がる黒い影が彼を包み込む。

 

 

『彼の憎悪が呼び出してしまったのですか……あの龍の力を』

 

 

 四季の中に眠っていた守護竜が呟く。光と影を束ねた英雄の手によって討たれた奈落竜の悪意より生まれた、悪意の集合体……。木場の憎悪が、超兵装ブラスター・ダークの中に潜んでいた微かな悪意の一部が、不完全ながら……その龍の形を象ってしまった。

 

 

『……『ガスト・ブラスター・ドラゴン』』

 

 

 静かに守護竜はその名を呟く。

 



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ハイスクールV×D ライド31

「なっ、何が起きたの!?」

 

「なんだかよくわからねぇけど、スゲェぜ木場!」

 

 

『……なんだ……あれは?』

 

 

 木場が禍々しい姿に変わる中、驚愕するグレモリー眷族の中で……唯一同じドラゴンであるドライグだけがガスト・ブラスター・ドラゴンの放つ禍々しい力を正しく理解してしまった。

 

 まだ辛うじて木場の意識はある。だが、それは『憎悪』と『復讐心』の二つのみだ。仲間への意識……リアス・グレモリーへの恩義など、ガスト・ブラスター・ドラゴンの悪意の力で全て吹飛ばされてしまっている。

 

「っ!? さっさと……それを離せ、三流剣士!」

 

 そして、それの危険性を最も知っている四季が木場へと切りかかる。同じ力を持つ超兵装ブラスター・ブレードならば木場から超兵装ブラスター・ダークの侵食から開放する事ができると考えての行動だ。

 一刻も早く剣を遠ざけなければ……辛うじて残している木場の意識は完全に飲み込まれる。ガスト・ブラスターと言う巨大な渦の中で、木場の意識は小船……いや、木の葉よりも小さく軽い。一刻も早く離さなければもう二度と戻れなくなる。

 

「っ!? 邪魔するんじゃねぇ、五峰!」

 

「っ!? 一誠、お前は!?」

 

 そんな四季の行動を阻むのは一誠だ。

 

「そんなに自分より木場があの剣を使いこなしてるのが悔しいのかよ!?」

 

「何を勘違いしてる、あれは使いこなしてるんじゃない……三流剣士が飲み込まれてる真っ最中だ!」

 

「そんな事、信じられるか!?」

 

「四季!」

 

 一度距離を取る四季へと更に切り込む一誠の足元に詩乃の放った矢が突き刺さる。それによって動きを止められた一誠、それによって四季は体制を立て直す事に成功する。

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

―ただ、生きたかった―

 

 

『生きれば良い、否定するものを全て切り伏せろ』

 

 

―聖剣を超えたかった……―

 

 

『ならば、全ての聖剣を破壊すれば良い、全ての聖剣を使う者を切り伏せろ、聖剣を崇める者を全て斬り捨てろ、そうすれば聖剣を超えられる』

 

 木場の心に響く何かの声……ガスト・ブラスターと言う強大な力がゆっくりと彼の意識を飲み込んでいく。

 

 意識の中で木場の手にあるのは超兵装ブラスター・ダーク。それを見て小さく笑みを浮かべる。思い浮かべるのはあの時の…… 破壊の聖剣エクスカリバー・デストラクションを振り下ろそうとするゼノヴィアの姿。

 

 超兵装ブラスター・ダークを一閃、粉々に砕け散る聖剣と血を吐いて消えていくゼノヴィアの姿。

 

「は、ははははは……この剣が有れば、ぼくは聖剣を超えられる」

 

 続いて切り裂くのはイリナと彼女の聖剣。

 初めて四季の持つ剣を見た時に思った感覚が間違っていなかったと確信した。この剣さえ有れば……力が有れば……この剣の前には聖剣などただの鉄くずだと。

 意識の中とは言え 憎むべき聖剣エクスカリバーを砕くたび、それを扱う聖剣使いを切り捨てるたびに木場の体が力に浸食されていく。

 

「僕は……ぼくは……我は……」

 

  聖剣エクスカリバーを砕き、それ以外にも己の知る聖剣を、今まで扱ってきた魔剣を砕き、“教会”に属する者達を、天使達を血の海に沈めていく。

 

「はははははははははははははははははははははははははは!!!」

 

 師かばねの山の上に立ちながら狂笑を浮べる木場、この剣があれば、この力が有れば、この光景が現実のものになる。

 

 弱い事は罪なのだ……だからかつての己は仲間達を失った。だが、今は聖剣を越えるだけの力を手に入れた。

 弱さは罪……ならば砕かれた弱い聖剣は罪であり悪である。それに縋る教会も天使も神も……等しく罪人であり悪である。

 

「弱さは罪……強者こそ正義……力ある者こそが正義だ」

 

 己の内に有る世界の中から一歩ずつ現実へと戻っていく。声が聞こえるが、それは木場の心には届かない。かつての同胞達の声も、今の仲間達の声も木場の心には届かない。聞こえるのはただ心地よい力への誘いを囁く奈落竜の声のみ。

 

「あれ、そう言えば……。ぼくはなんのために聖剣をこえようとしていたんだろう……? ぼくはどうやっていきのびたんだろう?」

 

 暴力のみが支配する影の力を得て……騎士は邪悪なる影の騎士へと変貌していく。主の事も、失った同胞の事も、仲間達の事も……彼の心には無い。

 奈落龍の力に魅入られた騎士は……新たな影の騎士の盟主へと生まれ変わろうとしていた……。

 それは、かつて英雄に敗れた奈落龍の取り戻した高潔なる魂が戦場で散った騎士と一つになって新たな龍へと生まれ変わった様に、

 悪意の塵もまた……心の闇の中に、心の罅に入り込み、新たな……かつての暴力に支配された影の騎士を再誕させるかのように、

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 半透明の彼の同士達が口々に言う。自分達は復讐など望んでいない、聖剣を恨んで等いない、自分達の分も生きていてほしかったと。

 

 だが、ガスト・ブラスターに侵食された木場の心にはかつての仲間の声も、今の仲間の声も、己の主君の声さえも届かない。

 

 ただ、赤黒く染まった瞳に憎悪だけを宿して復讐の対象であるバルパーとエクスカリバーだけを睨んで歩を進めていた。

 

「……完全に手遅れだよな……あれは?」

 

「どう言う事だよ……手遅れって?」

 

 四季の呟きに一誠が反応する。四季が一誠の問いに答える前に、

 

 

「ふぅむ……。当然だが、選ばれなかったようだな」

 

 

 第三者の声がその場に響き渡る。結界に閉ざされたこの場に響く第三者の声に木場以外の全員の視線が集まる。

 

「な、何者なの、あなたは!?」

 

 この場にいる全員に気付かれる事なく、何の前触れも無く現れたモノが只者であるはずが無い。そう思いながら、リアスが問いかける。その手には何時でも仕掛けられるように滅びの魔力を集めている。

 

「おお、これは失礼したお嬢さん。私はブラスティッド。あの超兵装を拵えた者だよ」

 

『!?』

 

 その言葉に全員が驚愕に染まる。あれほど強力な武器を作りあげた物が目の前に存在している事に驚愕する者も、聖剣を超えた武器を産み出した事を忌々しく思う者もいる。だが、超兵装ブラスター・シリーズの真実を……惑星クレイと言う異世界の事を知っている四季と詩乃の驚愕だけは意味が違う。

 

「……何の冗談だ……?」

 

「冗談では無いさ。私は今、君の目の前にこうして存在している。これは現実であり、揺らぐ事のない事実さ」

 

 一度だけブラスター・シリーズの創造主の顔は記憶の中で見た事がある。だが……目の前に居る男性は記憶の中の彼よりも遥かに若い姿をしている。

 

「一度は命を落した身だからね、外見も大した意味は持たないものさ」

 

 そう静かに告げられる。

 

 




木場くん闇堕ちルートでした。イメージ的にはガストブラスター版モルドレッド。


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ハイスクールV×D ライド32

「貴方があの剣を作った者ですって!?」

 

 ブラスティッドと名乗った男の言葉にリアスが驚愕の声を上げる。……三大勢力の戦争に於いて強大な力を持って悪魔に打撃を与えた剣を作りあげた者が目の前に居る。だが、それ以上に目の前の相手ならば、

 

「お前……木場が選ばれなかったってどう言うことだよ!? 剣が意思を持っているとか言うのかよ!?」

 

「当たり前だ」

 

 その場には似合わない朗らかな笑みを浮かべ、ブラスティッドは一誠の言葉に答える。

 

「私の拵えた超兵器は特別だからね。それに、剣が意思を持っていると言うのは、エクスカリバーこそいい例だと思うがね」

 

「エクスカリバーが、だと?」

 

 ブラスティッドの言葉にバルパーが反応する。聖剣を愛するバルパーにとって聖剣を超えた剣を作りあげた者が目の前にいる。それは怒りや憎悪の感情を向けるべき相手に等しい。

 

「その通り。エクスカリバーはかつて騎士道に反する行いをした主を戒めるために自ら折れたカリバーンと言う聖剣を打ち直したと言う説があるそうだ。力を持った聖剣は相応の“意思”と言える物を持っている。そう考えるべきではないのかな?」

 

 そう言った後ブラスティッドは愉快そうに笑みを浮かべ、

 

「それならば聖書の神への抗議の為、自ら再び砕けたのかな?」

 

「貴様……」

 

 明らかに聖書の神を馬鹿にする口調で告げるブラスティッドの言葉に怒りを覚えるゼノヴィアだが、それを意に解する事無く一誠へと言葉を告げる。

 

「不完全ながら使いこなしていると言えるのは彼だけだよ、四季君」

 

「使い……こなしている、オレが?」

 

「ああ。彼と同じ様に光の守護竜の加護を受けている君ならば……“本当の勇気”に気付けば必ずね」

 

「本当の……勇気?」

 

「本来ならば彼の意思を告ぐべき君と私は敵同士になる定めだが……私の拵えた超兵装の為の最初で最後の忠告だよ」

 

 微笑みながら告げられる言葉。

 

「君は受容れるべきだ。君自身の力を、全てね。己の力と正しい勇気、それが君自身の力の鍵となる」

 

「オレ自身の力と……正しい勇気?」

 

 ブラスティッドの言葉を反芻する様に呟く。ブラスティッドの言っている言葉の意味は分からない。だが、四季の中の何かがそれは正しいと次げているのが分かる。

 

「っ!? 貴方があの武器を作ったと言うなら、貴方なら祐斗を元に戻せるはずよ! あの子を元に戻しなさい!」

 

 そんな彼等の会話が終った頃を見計らった様にリアスがそんな叫び声を挙げる。

 

「残念ながら、それは無理だね。元に戻れるとすれば……アーメスとユーノス、彼等のように自力で元に戻るしかないね」

 

「っ!? ……なら、貴方を拘束させてもらうわ! あんな物を作りあげた者……放っておくわけにはいかないわ!」

 

「……君は状況が分かっているのかな?」

 

 

『まったくだ』

 

 

 呆れた様なブラスティッドの言葉が響くと同時にコカビエルの声が響く。

 

「それに」

 

 ゆっくりとブラスティッドの姿が漆黒の鎧を纏った姿へと代わり、消えていく。

 

「今回は顔を見に来た。それだけと言う事だよ」

 

「待ちなさい!」

 

 そんなブラスティッドへと滅びの魔力を放つリアスだが、彼女のはなった滅びの魔力はブラスティッドを素通りして消えて行った。

 

「忘れるな、光の守護竜の加護を受けし少年と、その側に経つ“刻の加護を受けし少女”よ。奈落竜の胎より生まれ 出いでし我の名……。そは『ザ・ダーク・ディクテイター』」

 

 最後にそういい残して彼の姿は完全にその場から消え去ったのだった。

 

『なんなんだ、あれは?』

 

「ドライグ?」

 

『あの剣は異常だ。……しかも、神の手では無く人の手で作り出されたと言うのか』

 

「どう言うことだよ?」

 

 ブラスティッドの言葉に呆然と呟くドライグに一誠が聞き返す。

 

『 神器セイクリッド・ギアは所有者の思いを糧に進化をしながら強くなっていく。だがそれとは別の領域がある。想いや願いがこの世界に漂う『流れ』に逆らうほどの劇的な転じ方をした時、 神器セイクリッド・ギアは至る。それこそが…… 禁手バランスブレイカーだ』

 

「あれがそうなんじゃないのか? オレの時みたいに鎧になってるし」

 

『違う。あれは思いを糧に進化する所か、思いを媒介に想いさえも捻じ曲げて武器が戦うために所有者を利用している』

 

 捻じ曲がった重いと武器の意思が一つとなった時、いかに高潔な騎士であっても、暴力に支配された影の神殿に潜む暴力の集団へと変わる。

 

「ハハハ! 何息荒くしてんの!? 訳分からない茶番見せられてウザいったらありゃしない! もう限界! てめえを切り刻んで気分落ち着かせて貰いますよ! この四本統合させた無敵の聖剣ちゃんで!」

 

「ソコニ有ルンダナ……聖剣ガ」

 

 赤黒く染まった瞳でフリードを……エクスカリバーを見据え、木場は切りかかる。

 

「チッ!」

 

―奴ハ形状変化ノ能力ヲ使ウゾ―

 

「伸びろォォォォォォォォォォォォオ!!!」

 

 超兵装ブラスター・ダークからのアドバイスとなる一言を受けて木場が飛ぶと同時にフリードが刃を伸ばす。 擬態の聖剣エクスカリバー・ミミックの能力だ。

 

「こいつも有るぜぇ!!!」

 

 フリードの振るう剣の速度が増す。 天閃の聖剣エクスカリバー・ラビィッドリィの能力だろう。だが、

 

―確カニ早イナ。ダガ……読ミヤスイ―

 

 超兵装ブラスター・ダークがフリードの動きを先読みする事で、木場は正確にそれを回避していく。

 

「なんでさ! なんであたらねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!! 無敵の聖剣様なんだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

―無敵? 一度我等二敗レタ鈍ラ如キガ―

 

 超兵装ブラスター・ダークの嘲笑うような声が響く。木場は残された意識の中で考えていた。『やはり、この剣があれば聖剣は超えられる』と。

 

「ならこいつも追加でいってみようかねぇ!!!」

 

 刀身が消える。 透明の聖剣エクスカリバー・トランスペアレンシーの能力だ。

 

―刀身ヲ消ス以前ニ殺気ヲ消セ―

 

 超兵装ブラスター・ダークの声に従いフリードの剣戟を全て回避していく木場。

 

「だったら全乗せだぜぇ!!!」

 

 最後の聖剣である 夢幻の聖剣エクスカリバー・ナイトメアの能力で無数の幻覚……フリードを作り出す。同時に 天閃ラピッドリィの力によって人間には対応できない速度で、透過した刀身が 擬態ミミックの力で変化しながら不規則に襲い掛かる。

 

―無駄ダ―

 

 その攻撃の全てを避け、ある物は撃ち落す木場。どれだけ幻覚の中に隠れても、透過した刀身を変化させたとしても……

 

「何であたらねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

―貴様ノ攻撃ハ分カリ易イ―

 

「所詮ハ折レタがらくた、コノ超兵装ブラスター・ダークノ敵デハ無イ」

 

 最後の一太刀によってフリードの持っていたエクスカリバーの刀身が完全に砕け散る。

 

「マジかよ! 伝説のエクスカリバーちゃんが! 酷い! これは酷すぎる! かぁーっ! 折れたものを再利用しようなんて思うのがいけなかったんでしょうか!?」

 

-「弱さは罪……弱者は悪……」-

 

 エクスカリバーが砕けた事に絶叫しているフリードに対して木場は凶悪な笑みを浮かべて近付いていく。

 

―「兵装展開。……強き者には栄光を……弱き者には、絶望を!」―

 

 超兵装ブラスター・ダークから現れるのは巨大なレイピア状のエネルギーの刃。騎士の速度を最大限に活かした突きがフリードを切り裂く。

 

 

 

「木場……?」

 

 望んでいた復讐を遂げた筈なのに彼の浮べている表情は『物足りない』と言う物。そんな彼の姿に……彼の行なった惨状に呆然とするグレモリー眷属とゼノヴィア。……アーシアだけはあまりの光景にへたり込んでいる。

 

 そんな木場はゆっくりと四季へと視線を向ける。

 

「……三流剣士……其処まで堕ちたかよ。詩乃……下がってろ、三流剣士の相手はオレがする」

 

「無茶はやめて! ああなった相手は……」

 

 詩乃は其処まで言った後言葉を飲み込む。……最悪の場合……戻れないと思った場合は今の木場の様になる前に、守るべきものを傷付ける前に、と頼んでいた事。

 

「……ああ、それはオレが一番、分かってる」

 



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ハイスクールV×D ライド33

「……ふふふ……あーははははは!」

 

 狂った様に笑い始める木場。望んでいた復讐の一部の達成……だが、

 

「バ、バカな……エクスカリバーが……こんな……聖剣が一方的に……」

 

 残る復讐対象であるバルパーは目の前でエクスカリバーが砕かれたという現実が受容れず呆然とした声を上げる。フラフラとした足取りで砕けた聖剣へと一歩ずつ近付いていく。

 

「イゾルデ……モルドレッド」

 

「それは円卓の騎士の名か?」

 

 その光景を見ながら四季がそう呟くとゼノヴィアがそれを聞き返す。確かにそれはエクスカリバーに関係の深い円卓の騎士の名。だが、それは四季にとってはもう一つの意味がある。

 

「それだけじゃない。惑星クレイ……超兵装と光の守護竜が元々存在していた世界……そこに有る国家の1つ『ユナイテッド・サンクチェアリ』の騎士の名前だ」

 

 他にも円卓の騎士と同じ……または似た名前の騎士は存在している。

 

「その符合なら……超兵装はエクスカリバーなんだろうな」

 

「そうだと思うわ」

 

 四季の言葉に詩乃が同意する。騎士王の剣では無く、その側にて立つ親友の持つ剣ではあるが、エクスカリバーへの憎悪を別の世界のエクスカリバーの影と言うべき剣の力に飲み込まれた木場の姿は……

 

「シャドウパラディン……」

 

「ああ、堕ちる所まで堕ちた物だな」

 

 詩乃の呟きに四季が同意する。そんな呟きに反応した訳ではないのだろうが、振り上げた剣を振り下ろす。その先に居たのは呆然としているバルパーの姿。高速で振るわれた剣の一閃でバルパーの体から鮮血が舞う。

 真っ二つに切り裂かれたバルパーの体が地面に倒れる。……呆気ない物だが、これで木場の復讐は終ったはずだ。だが、

 

「っ!?」

 

「木場、テメェ!」

 

 木場が一直線にゼノヴィアへと超兵装ブラスター・ダークを振り下ろそうとするが、それを一誠が 赤龍帝の籠手ブーステッド・ギアで受け止める。

 

「邪魔をするな……」

 

「何やってんだよ、お前の復讐は終っただろ!?」

 

「……終った? まだ其処に残っているだろう、聖剣と聖剣使いが。……そいつを殺して聖剣を壊す、もう一人の聖剣使いを始末して、次は境界にある聖剣と行方知れずの最後の聖剣……それを壊したら、教会の関係者、天使……」

 

 狂気に満ちた笑みを浮かべながら次々と新たな復讐の対象を告げていく木場の姿に背筋が寒くなる思いのする一誠だが、

 

「バカヤロウ!? そんな事して、はぐれ悪魔になって部長に迷惑をかける気かよ!?」

 

「……部長? 何だそれは?」

 

「木場、テメェ……」

 

 聖剣を壊せれば木場は自分達のところに戻ってきてくれると思っていた。聖剣を破壊すれば元に戻ると思っていた。だが、木場は最後の最後で禁断の果実に手を伸ばしてしまった。二度と戻れなくなる禁断の果実。

 

「忘れたのかよ!? お前を……オレ達を助けてくれた人の事を!?」

 

「……知らんな、そんな事。邪魔だ、消えろ駄竜」

 

 超兵装ブラスター・ダークの石突を一誠の顔面へと叩きつけ、彼の力が緩むとそのまま腹に蹴りを打ち込む。

 

「ガァッ!」

 

 腹を抱えて蹲った瞬間後頭部へと石突を叩き付ける。『切る価値も無い』とでも言う様な姿は、まだ巨大な渦の中に飲まれている木場の意識が仲間だった者を殺さない様にしているようにも見える。

 

 だが、聖剣使いであるゼノヴィアに対しては加減する理由など無い。そのままゼノヴィアを切ろうとする木場へと向かい無数の矢が放たれる。

 

「っ!?」

 

 己へと放たれた矢に歩みを止めて切り払いながらも、対応しきれないと判断した結果後ろに飛ぶことで回避する。

 

「今よ、四季!」

 

「はぁ!」

 

 矢を放った本人……詩乃の言葉に答える様に四季が木場が飛んだ位置へと切りかかる。ぶつかり合う光と影の二つの超兵装、兜の奥の赤黒く染まった瞳で四季を睨む木場と四季の視線が交差する。

 

「いい加減、その超兵装を返してもらうぞ……三流剣士」

 

「ふん、この剣が欲しいのか? だったら、土下座でもして譲ってくださいと頼んできたら譲ってやってもいいぞ」

 

「譲る……元々オレのだろうが、それは!?」

 

 互いの剣をぶつけ合う四季と木場。何時かの再現のような光景だが、今は四季の方が押されている。力に飲み込まれている分だけ、超兵装の力を抑えている四季よりも木場の方に余裕があると言う事だろうか。

 そんな木場に対して放たれる矢が彼の隙を作り、四季が反撃する好機を与えている。剣の力で力を増している木場に対して四季は詩乃との二対一で戦っていると言う訳だ。

 

 

 

「詰らんな……」

 

 仲間割れを見ながらコカビエルが呟く。バルパーもフリードもコカビエルにとっては価値の無い捨て駒、死んだところで何の感情も湧かない。そもそも、元々一人でやれると考えていたのだから。

 

 力に飲まれて暴走した木場の事で早くコカビエルを何とかしないと町が危ない事を忘れている……と言うことは無いだろうが、この状況で三つ巴は危険と考えて木場を止めることを優先しているわけだ。

 

 だが、半ば無視されて居る様なコカビエルは退屈を感じていた。だが、木場を見て笑みを浮かべる。……伝説の剣の一振りを持ったあの男は少しは楽しめそうだと。その為に木場と戦っている四季へと視線を向ける。

 均衡を崩せば決着は着くだろう。そして、三大勢力の大戦に於ける二つの剣を知るが故に、二つの剣を持てば木場は更に力を増すだろうと考える。

 

 天使と堕天使……二つの剣を持った2人だけで悪魔に致命的なダメージを与える寸前まで行ったのだから、その二本を一人が手にすればどうなるか……堕天使が最強だと証明するには二つの伝説の剣を持った剣士を倒す。そう考えるだけでコカビエルは笑みを浮かべずにはいられなくなる。

 魔王の妹2人の首を悪魔側へ送りつけ、砕けたエクスカリバーを天使側に送りつければ十分に宣戦布告になる。そして、二本の伝説の剣を持って自らの手で天使と悪魔を滅ぼし堕天使の最強を証明する。

 

 手の中に光の槍を作り出すと四季へと視線を向ける。敗北して貰えば面白くなるであろう彼に視線を向け、彼の後ろに立つ詩乃へと狙いを定める。

 

 

 

 一瞬、コカビエルの姿が視界の中に入った瞬間、奴の手の中に光の槍が現れるのを見た。

 

(……まさか!?)

 

 イメージするのは奴の位置とその射線軸……自分も含まれているだろうが、寧ろ奴の狙いは……

 

「詩乃!!!」

 

 自分の後ろに居る詩乃だ。抑えている超兵装ブラスター・ブレードの力を解放、振り下ろされそうになった木場の超兵装ブラスター・ダークを弾き、腹へと蹴りを打ち込み突き飛ばす。

 

「間に合え!」

 

「……四、季……」

 

 四季が 瞬動ダッシュでコカビエルから放たれた光の槍に狙われた彼女を突き飛ばす。彼女はコカビエルの槍から逃れられた。だが、

 

「がはっ!」

 

 深々とコカビエルの放った光の槍は四季の心臓を貫き、光の槍が消えた瞬間、彼の胸から鮮血が舞う。かつてレイナーレと言う堕天使に刺された一誠の時と同じく、誰がどう見てもそれは致命傷となる傷だ。

 

「嘘でしょ……なんで、四季……」

 

「詩乃が、無事でよかった……」

 

「嘘よ、死なないでよ……四季……ッ!」

 

 崩れ落ちる四季の体を支えながら詩乃はそう叫ぶ。全身の力が抜ける。既に悼みは無いが……彼女のぬくもりさえも感じることが出来ない。

 

(……ごめん、泣いてる君を慰める事もできなくて……)

 

「いつも私との約束……守ってくれたじゃない……! 夏休みに一緒に旅行に行こうって、戦うのを忘れて二人で楽しい思い出を作ろうって言ってくれたじゃない!?」

 

(……ごめん、はじめて約束を破る事になって)

 

 抱きしめる事も、初めて恋人になったとき以来恥ずかしがってしていなかったキスをする事も出来ない、死を前にしてそんな事を後悔しながらも思い浮かべるのは彼女との思い出だけ。

 

(……詩乃に出会えて良かった……)

 

 全身から力が抜ける。……声を出す力も無い。だけど、最後にこれを伝えたい。

 

「詩……乃……」

 

「四季!?」

 

 最後の力を振り絞って声を出す。彼女へと残す最後の言葉、

 

「……良かった……君に……会えて……」

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

―それで良いのですか?―

 

 その声と共に意識を取り戻す四季の視界に飛び込んできたのは一体の神々しい輝きを持ったドラゴン。そのドラゴンの名はソウルセイバー・ドラゴン。何処か女性を思わせる姿と声で四季を見下ろしていた。

 詩乃だけでなくそこには四季とソウルセイバー・ドラゴン以外には誰の姿も無い。

 

「アンタは?」

 

「私はソウルセイバー・ドラゴン。貴方の神器に眠るものです」

 

「ソウルセイバー……」

 

「貴方はそれで良いのですか?」

 

 それで良いのか? そんな物は、四季の答えは決まっている。

 

「良い訳無いだろう! オレはあいつを守りたい! 詩乃を残して死ねるわけが無い!」

 

「ええ、その答えを出すと思っていました。受容れなさい、彼等の力を」

 

 ソウルセイバー・ドラゴンの後ろに現れるのは無数の戦士達の幻影。ソウルセイバー・ドラゴンの記憶する聖域の戦士達の記憶と言う名の幻影でも有り魂でもある存在。

 惑星クレイと言う星に於いて、名を刻んだ者達。影の……黄金の……光の騎士達、四季の強さを求める意思により使うことを否定していた神器の力そのもの。

 

「ああ。受容れる。詩乃を守るためなら、もう一度あいつを笑顔にするためなら」

 

 ゆっくりと四季が手を伸ばす先にいるのは王の側に立ち続ける盟友たる光の剣士。

 

 

―目覚めろ、オレの神器…… 先導者の記憶クレイ・エレメンツ!―

 

 

「立ち上がれ、至高の剣士よ! オレと共に異界の地にその名を刻め!」

 

 初めに選ぶ力は手の中に在る剣の本来の主。

 

 

―ライド・ザ・ヴァンガード―

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 光に包まれリアスが彼を蘇生する為に使おうとした騎士の駒を投げ返し、四季は立ち上がる。その身に纏うは光の剣士の鎧と、光の超兵装ブラスター・ブレード。

 

「四季」

 

 呆然として彼へと伸ばされた詩乃の手を掴む。やっと感じられた大切な人のぬくもりが彼に生を実感させる。

 

「ごめん、君を泣かせて」

 

 泣き顔だけは見たくなかった。怒った顔も、困った表情も、普段の表情も大好きだが泣き顔だけは嫌いだった。それが自分のせいで泣いていた等、嬉しい反面何より自分が許せない。

 

「約束する。もう二度と君を泣かせない。絶対に」

 

 その身に纏う力は至高の剣士のもの。惑星クレイに於いて名を捨て剣の名を貰い王の盟友として側に戦い抜いた騎士の名。

 

 詩乃にとっての 先導者ヴァンガードが四季なら、四季にとっての 先導者ヴァンガードは詩乃だ。ならば自分は常に彼女の側に立ち守り続ける。彼女を傷つける全てから。

 

 純白の鎧と超兵装ブラスター・ブレードを持って四季は立ち上がる。クレイの英雄、ブラスター・ブレードの力を纏って。



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その他
IS×ヴァンガードネタ BADEND


「ちく……しょう」

 

 ブレードを杖代わりにして辛うじて立っている彼は上空に浮かぶ、黒輪を背負った白いボディに赤の線が流れる全身装甲のIS『“Я”ダイカイザー』を見上げながら悔しげに呟く。

 

 上空に浮かぶ巨大な黒輪からは目の前にいる“Я”ダイカイザーに似た意匠をした人型、獣型……果てはドラゴンまで存在している群全が次々と飛び出して行きそのまま世界中に飛び去っていく。

 “Я”ダイカイザーの操縦者が手先となり呼び寄せた異世界からの侵略者『リンクジョーカー』の軍勢は一部だけでもIS学園を壊滅させた。

 

 来賓を守ろうとして来賓ごと殺された教員部隊、逃げる途中で無慈悲にもリンクジョーカーの軍勢の犠牲となった生徒達。専用機を持った各学年の代表候補生達も“Я”ダイカイザーによって全員なす術なく命を散らしていった。

 

「……遂に終る、この世界が……」

 

「……なんでだよ、何で皆を殺したんだ! 答えやがれ、ユウヤ!!!」

 

「煩いな、いい気分なんだからもう少し浸らせろ」

 

 学園の最後の生き残りである『織斑 一夏』の絶叫を“Я”ダイカイザーの操縦者『羽崎 ユウヤ』はそう言って斬り捨てる。

 

「もう直ぐオレのこの感情も消える……最後の感情を堪能している所なんだからな」

 

「うるせぇ! なんで皆を裏切ったんだよ!」

 

 一夏の幼馴染である『篠ノ之 箒』はリンクジョーカーによる襲撃による最初の攻撃で出た犠牲の一人になった。彼女の持っていた最新鋭の第四世代のISも展開できなければ意味はなさなかった。

 学園祭と言う時期に起こった襲撃は、学園の関係者だけ出なく各国の政府や企業の関係者に、生徒達が招待した外部の人間も多く犠牲となった。三年間の学園生活に彩を添えるはずの時間は其処で生きた者達の地獄の瞬間になってしまったのだ。

 

 上空に浮かぶ黒い黒輪から押し寄せるリンクジョーカーの軍勢、突然の襲撃で学園祭と言う事で直ぐにISも出せずに多くの犠牲者が出た。多種多様の姿をしているのに機械のように無感情に命を奪っていく敵に多くの犠牲者を作り出してしまった。

 

 最初の襲撃を生き残った専用機持ち達がリンクジョーカーの軍勢を出現させている黒輪を閉じようと向かって行ったのだが、その前に現れたのが学園祭前から姿を消していたユウヤだった。“Я”ダイカイザーと呼んだ大型の全身装甲のISを纏い、彼らが抱いていた希望を一つ一つ消していくように、一人また一人と逃げる事も許さずに殺されていった。

 

 勝ち目がないと悟って命懸けで飛び込んで行った『鳳 鈴音』の命と引き換えの特攻でさえ当たる事はなく、仲間達の為に『ラウラ・ボーデヴィッヒ』はAICで“Я”ダイカイザーを止め様としたが突如ラウラの取り付き始めたリンクジョーカーの軍勢達により動けない彼女な嬲り殺しにされた。

 

 寧ろ、少しでも何かが出来た分だけ一夏の知る他の専用機持ち達に比べれば幸せだったかもしれない、“Я”ダイカイザーの力の前に恐慌状態に陥って逃げようとする者諸共消し飛ばされた『シャルロット・デュノア』。展開直後の大火力の攻撃により死んで行った者達の中に『セシリア・オルコット』の姿も有った。

 

 多くの命と引き換えに得たのは何も出来ない一夏の命一つ。

 

「ああ、皆殺しにしたのは流石にゲートを開くのにエネルギーが足りなかったから、コストに使ったわけだ」

 

 そう言って“Я”ダイカイザーは上空の黒輪を指差す。『生物の持つ感情が有無マイナスエネルギー……特に絶望の感情が効率いいらしい』と笑い話をする様に話すユウヤに怒りを覚える一夏。

 

「学園祭の時期を選んだのは丁度良かったからかな? ほら、外部からの来賓や招待客も居るだろ? 多けりゃ多い方が言いと思ったから、人が集まる時期に開くようにしたんだよ」

 

 『苦労したんだぜ~』と楽しげに話すユウヤの姿に対に一夏の怒りは爆発する。

 

「てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 

「ああ、あと。折角なら世界最強って奴に挑戦したかったってのも有るな。人間としての最後の思い出に」

 

 一夏の想いに応える様に最低限の飛行能力と刀の様な形状にエネルギーを収束した雪片を展開させた彼の専用機『白式』。

 

「ヴォイドソード」

 

 “Я”ダイカイザーは漆黒の刃を展開させた剣を取り出して一夏の突撃を受け止める。反応できなかったわけではない。だが、

 

「なんで裏切ったかって聞いてるんだよ!? 無人機の襲撃の時だって一緒に頑張っただろう!?」

 

「ああ、お前のバカ姉のお蔭で無理矢理参加させられた代表戦でな」

 

 『男子操縦者』にIS運用の機会を与えるためと言う理由で参加させられた代表戦。その時に起こった無人機の襲撃……ユウヤも一夏達と共に止めるのには尽力した。

 それ以前にあったセシリア、一夏を含むクラス代表決定戦も半ば千冬に無理矢理に参加させられたが、訓練機で二人のSEの半分は削れたものの……負けた。専用機相手に訓練機じゃ仕方ないと割り切ったものの、思えばその日から何処か引っかかっていたのかもしれない。

 

「何が言いたいんだ、お前?」

 

「オレ達は友達だっただろう、なんで!?」

 

「……誤解しているな。オレはお前の事を最初から友達だ何て思った事は一度もないぜ」

 

 その言葉に一瞬動揺した一夏を殴り飛ばす。とっさに雪片で受け止めたが、砕け散って行った。

 

「最初に会った時の言葉が『嬉しいぜ』だったな。バカかお前は? ……他に言うべき言葉が有っただろうが」

 

 何が悪かったのか分からないと言う表情を浮べる一夏。女子だらけの学園で唯一の男同士仲良くしたかった。それだけだった。

 

「お前のせいで自由意志も認められずに無理矢理入学させられた相手に対して最初に言う言葉が『嬉しい』、か?」

 

「何が間違ってるって言うんだよ!?」

 

「どれだけ頑張ってもみんなお前の方ばかり注目して行くのは別に良かった……。それでも、お前が知り合いと同居、一人部屋になったりしていも……オレはあのかび臭い物置の中のままだった……」

 

 学園側の思惑は貴重な男性操縦者を同じ部屋に纏めて一度に誘拐される危険を避けたかっただけだが、結果的にユウヤを差別する事に繋がっていた。

 ……二人は知らない事だが、学園長も二年に進学する頃にはちゃんとした部屋を出来る所だったらしい。

 

「簪やのほほんさんまで……」

 

「ああ、二人には救われてた……なんて思っていたけど、勘違いだったな。まあ、こうして力を得るまで生きてこれたって点じゃ感謝してやっても良いけどな」

 

 『どこに有るかな?』等と言い切るユウヤに尚も一夏は言葉を向ける。

 

「簪はお前のこと、本当に……」

 

「ああ、感謝するだろうな。お前のせいで未完成なISを完成させる手伝いをしてやったんだし」

 

 『お前のせいで』と言う所を強調して言葉を告げられて一夏は一瞬言葉を失う。

 

「それで、専用機が完成したら掌を返したようにお前に擦り寄っていった恩知らずが感謝していた……で?」

 

「違う! 簪はお前の事を……ガハァ!」

 

「いい加減うぜぇよ」

 

 これ以上付き合いきれないとヴォイドソードで一夏をISコアごと真っ二つに切り捨てる。

 一夏の言う『更識 簪』は本当はユウヤのことが好きだった。訓練機でも専用機相手に立ち向かう姿も、必死の努力で僅かでも食いついていける姿も……一緒に彼女の専用機を作った事も、彼女にとっては格好良く見えた。

 一夏に近付いたわけでは無く、ただ専用機のことで勝手に恨んでいた事を謝った事と、丁度一夏と同室になっていた姉と仲直りしたいという相談だった。

 ユウヤの姿から勇気を貰って姉と仲直りし、学園祭は彼と廻りたいと思っていた彼女は……そんな彼に、彼女の好きな『ヒーロー』の様なISで殺された。

 

「これで終る……このくだらない世界も……」

 

 世界中に出現する黒輪から出現するリンクジョーカーの軍勢達とその司令官たる『カオスブレイカードラゴン』を初めとする上級者達。

 それを止めるべく動くはずだった『次元ロボ カイザード』はすでにリンクジョーカー側についていた、共に戦うはずだったユウヤの手によってリンクジョーカーの手に落ちた。その成れの果ての姿が今の“Я”ダイカイザーだ。

 

 ほんの少しの誤解が生んだ世界の滅び。そんな中、『織斑 一夏』と『カイザード』の二人は思う。

 

 

 ―もっと早く出会えて居れば―

 ―もう少し考えていれば―

 

 

 と。リンクジョーカーの尖兵となった中で残る僅かな意思で、絶命するまでの僅かな瞬間で、彼らは渇望する。

 

 

 ―あの時に戻れたら、今度こそ失敗しないのに―

 

 

 と。

 

 狂った様に笑う声を最後にその場にある残された二つの意識は消えていった。

 

 

 

 

 

BAD END




ダイカイザーのリバース化したオリジナルのユニットを作って見ました。色々とお気に入りのユニットなので。

そして、内容はオリジナル主人公の悪堕ち世界滅亡のBADENDです。恋愛ゲーム風に言うなら選択肢が悉く間違えを選んだ感じです。悪い方へ、悪い方へ行くルートばかり。


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IS×ヴァンガードネタ ENDその1

インフィニット・ストラトス×ヴァンガードネタ(通常ルート、クラス代表戦)

 

 

 

 

 

 

 ユウヤ選択

  1.クラス代表戦を見に行く

  2.クラス代表戦を見に行かない

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニア2.クラス代表戦を見に行かない

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁあ」

 

 校舎や周囲の影で日が当たらない場所に有るベンチ。生徒の多くは知らない……特に一年生に知る者は皆無な場所にある其処で横になりながら欠伸をする。

 今頃アリーナでは一年生によるクラス代表戦が始まるだろうが、ユウヤは興味が無いので……簡潔に言えばさぼっていた。彼の所属するクラスの担任教師の織斑千冬は怒るだろうが、そもそも根本的に千冬の事を嫌っているユウヤにとっては『嫌がらせになりそうだから丁度いい』程度にしか捕えていない。

 

 横になりながら缶ジュースを飲むという器用な真似をしながらユウヤは空を見上げる。優勝商品のデザートフリーパスにはちょっと興味は有るが、それでもクラス代表の一夏は『頑張れよー』とやる気のない応援だけを送っていた。

 

 向こうは仲良くしようと近付いてきたが、そもそも一夏のせいで自由意志を無視されて政府から無理矢理入学させられたのだ……友達になどなりたくも無い。

 謝るなりなんなりすればまだ対応も変わったかもしれないが、それどころか悪いとさえ思って居ない様子なのだから、印象は最悪と言っていいだろう。姉弟揃って禄でもない連中、と言うのが織斑姉弟に対するユウヤからの評価だ。

 

『やれやれ、授業をサボるのは感心しないな』

 

 ユウヤの肩に半透明な人型のロボットの様なもの……ユウヤの専用機『ダイカイザー』に宿る次元ロボ『カイザード』が現れる。

 

「あの横暴暴力教師への嫌がらせ。宿題のレポートももあ書いたぞ」

 

『……あれがが?』

 

 本日は授業がない代わりに試合についてのレポートの提出が宿題となっているのだが、ユウヤの書いた内容と言うと、

『織斑一夏の自爆振りが笑えました。あの白い欠陥機、本当にガラクタ。開発中の機体放り出してあんなガラクタしか作れない倉持本当に無能』

 と見事に一夏、専用機、開発元の企業、果ては専用機を用意した千冬にまで喧嘩売っているとしか思えない内容なのだから、流石にカイザードも頭を抱えたくなるだろう。

 

「いや、あの暴力教師の事は嫌いだって公言しているし、オレの所属はDP社……一応倉持のライバル企業だし、別に良いんじゃないのか?」

 

『……どの辺が良いんだ? 兎も角、真面目にレポートくらいは……』

 

「やだ」

 

 基本的に授業は真面目に受けているユウヤだが、初日以降千冬が監督する授業に限ってこの調子だ。……クラス代表決定戦の一件をまだ怒っているらしい。

 

『……まあ、譲りたくは無いが百歩譲ってそれで良いとしよう。だが、自爆するとは限らないだろう?』

 

「いや、あの欠陥機のワンオフって外したら即座に自爆だろ?」

 

『それもそうだったな』

 

 その辺は納得するカイザードだった。流石にイギリスの代表候補生『セシリア・オルコット』との試合の一夏の負け方、あれはないと思っている。

 

『だが、此処は兵器の扱いを学ぶための学校だ。そして、彼女の授業は兵器の運用の実技だぞ』

 

「チッ! それもそうだったな」

 

 流石にカイザードのその言葉にはユウヤも折れるしかない。己の腕にあるブレスレッド……ダイカイザーの待機状態に視線を向けると納得せずには居られない。

 

「……出場しない試合の観戦とレポートだけにしておく」

 

『それならば良い。オレもこれ以上は何も言わない』

 

 千冬から何を言われても無視するだろうし、実力行使なら反撃に移るであろう相棒の妥協点に納得する事にしたカイザードだった。最低限には出ると言っているのだから、納得しておこう。……窘める役は自分では効果は薄いだろうと言う考えもある。

 

 ユウヤが試合が終るまで一眠りしようか、等と考えていると丁度試合が行なわれているであろうアリーナのある方向から爆発音が聞える。

 

「派手にやってるな」

 

 安全性が高いとは言えISが兵器である以上爆発音の一つも聞こえるだろうとは思っているので大して気には止めていない。現にミサイル程度なら装備されているIS幾らでもある。だが、

 

「……まてよ。試合しているISって此処まで派手な爆発を起す武器を装備していたか?」

 

『二機ともミサイル等は装備していなかったはずだ』

 

 そう、中国の代表候補生の鈴の専用機の『甲龍』も、一夏の専用機の欠陥品にもミサイルなどの派手な爆発が起こりそうな武器は装備されていなかったはずだ。

 その事実に『異常事態』の四文字が二人の脳裏に過ぎる。

 

「チッ! 流石に、教師に全部押し付けておくってのは無しだな!」

 

『ああ、急ぐぞ!』

 

 そんな言葉を交わしながら走ったユウヤはアリーナへと向かう。

 

「っ!?」

 

 アリーナの近くへと着いた時真上を漆黒の光とでも証するべき何かが飛び去っていく。

 

「あれは……?」

 

 

『羽崎、お前今まで何処に居た!?』

 

 

 突然繋がった通信から千冬の声が届いてくる。

 

「アンタへの当てつけに外でさぼってましたが、織斑先生」

 

 正直に悪意交じりの言葉を告げるユウヤ。普段から嫌いだとか公言している上に、先のクラス代表決定戦でも弟をボコボコにしたのだから、覚えは悪いだろう。今更ご機嫌を取る気もないので告げるが、帰ってきたのは予想外の台詞だった……。

 

『……外で、だと? しかも理由が私への当てつけ……。そうか……私のせいなのか……』

 

 珍しく沈んだ声に疑問を覚える。自分に嫌われた所で落ち込んだりはしないだろうとと思っていることなのでは有るが……。

 

『……先ほどの砲撃、お前の居る位置から見えたか?』

 

「……オレの真上を飛んで行った……まさか!」

 

『先ほどの砲撃で篠ノ之が死んだ。しかも、あいつが殴り倒した他の生徒を巻き込んで、だ』

 

「『なっ!?』」

 

 思わずそんな声を上げるユウヤとカイザード。

 聞けば一夏を応援するためにアリーナの放送室に入り、避難しようとした解説と実況役の生徒を殴り倒したそうだ。其処に先ほどの砲撃が直撃し、他の生徒も巻き込んで箒は死亡したらしい。

 

『最初の襲撃者に続いて新しい襲撃者が現れた。三つ巴の戦いになり、教師部隊の出撃も間に合わず、仕方なくアリーナに居ると考えていたお前とオルコットを一夏達の援軍として送ろうとしたんだが……』

 

 ユウヤが意図的に千冬からの通信を届かないようにしていたために連絡が出来ず、その際の混乱で箒を見失ってしまったことが惨劇に繋がった。

 現在、二機の無人機に対応している一夏と鈴の二人もかなり拙い状態らしい。唯一の幸運は新たに現れた無人機は最初に現れた物の味方では無い様子で、三つ巴になっている事だ。

 

『……教員部隊が出撃する時間稼ぎをお前達に任せたい。行けるか?』

 

「オレ、一応アリーナの外に居るんですけど」

 

『無人機が空けた穴がある、其処から飛び込めば良い』

 

「了解」

 

 通信を斬るとユウヤは腕輪のある腕を掲げ、

 

「来い! カイザード!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 その後、アリーナ内に飛び込んだ際に出会ったリンクジョーカーによって洗脳されたカイザードの仲間である『“Я”ダイユーシャ』を撃退する事に成功、同時に一夏達も最初に飛び込んできた無人機の撃墜に成功した。

 

 三名の死者を出してしまったクラス対抗戦は中止となり、死人が出た事に恐怖した生徒の数人がそのままIS学園を辞めて行った。

 

 『何故アリーナに居なかったのか?』とユウヤを責める一夏だったが、箒が他の生徒を巻き込んで死んでしまったのは彼女自身の行動の為、それだけは理解していたのだろう、周りにとめられて直ぐに収まっていった。

 だが、ほぼ単独で“Я”ダイユーシャをユウヤのダイカイザーが単独で抑えていた事から、ユウヤがいれば箒達も犠牲になっていなかった可能性がある。そう思うと、一夏も納得できないのだろう。

 

 結果、ユウヤと彼の周りに集まる代表候補生達との間に溝が出来てしまったが、ユウヤにとっては気にするほどの事でも無かった。

 

 

 

 そして、彼が三年になった頃……一夏達が行方不明となり、リンクジョーカーの尖兵としてユウヤと戦うことになるのだが、一夏を取り込んだ最終兵器『ダーク・ゾディアック』をユウヤが撃墜した事で無事世界は救われた。だが、その代償は大きかった。

 ダーク・ゾディアックの力でIS学園は壊滅し、生存者も十名に満たなかった。その犠牲者の中には世界最強と歌われた千冬の名も刻まれていた。皮肉にも、一夏は姉を差の手にかけてしまったのだ。

 

 

 

 かつての戦いさえも懐かしい思い出と変わり、その戦いの中で想いを通じ合った二人と交際する事になった日々を過ごしながら思う。もっと他の道が有ったのでなかったかと?

 

 あの時、アリーナに居ればもっと別の選択肢が。

 

 無意味な考えと思いながら、ユウヤはその考えを切り止める。更識楯無と更識簪……二人の恋人達と過ごす休日なのだから。

 

 

 

 

 

END①『更識姉妹END 微BAD風味』




あとがき


前回の作品の別ルートです。ルートとしては早い段階でカイザードと接触。ディメポリの面々が日本に新たな企業DP社を設立してユウヤを所属のパイロットに。というルートです。

各地のテロ組織、主に亡国を襲撃すりISより強い巨大ロボの集団の図。

今回はユウヤの選択で箒が犠牲になりそれが原因で最終的には他の一期ヒロインと一夏が敵になりました。
また、箒死亡ルートではダイユーシャは元に戻ったあとも罪の意識から機能を停止し、ユウヤの専用機もグランギャロップに変更されています。
なお、シャルとラウラについては一夏がフラグを立てたと思ってください。

最終的には更識姉妹との交際ルートで、学園は壊滅、BAD風味のエンディングです。


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IS×ヴァンガードネタ タッグトーナメント編 ルート1

「カイザァー……ナックル!!!」

 

「ガハァッ」

 

 通常のISよりも一回り大きい真紅のIS『ダイカイザー』を纏ったユウヤの拳が、小柄な銀髪の少女『ラウラ・ボーデヴィッヒ』の駆る黒い装甲のIS『シュバルツェア・レーゲン』を殴り飛ばす。

 アリーナの地面をバウンドしながら壁に叩きつけられたレーゲンは片側のレールガンだけでなく、周囲の装甲も内部が露出している無残な姿だ。

 

 『カイザーナックル』、ダイカイザーの武装の一つで白式の零落白夜と同質のSE突破の拳だ。当然ながら、全身装甲(フルスキン)で通常のISよりも一回り大柄なダイカイザーはその巨体に見合ったパワーを持ち、その拳で殴られるという事は鋼鉄を叩きつけると言う事に近い。

 

「くっ……くそっ……」

 

 ISは絶対防御に守られているが、それを無力化した上でダイカイザーのパワーで殴り続けられた結果、中破と言う域は当の昔に超えているレーゲン。装甲が砕けて内部が露出している部分も多く、まともな形で残っている装甲を探す方が難しいだろう。

 核となる全身装甲のIS『カイザード』の上から武装を纏ったダイカイザーでは有るが、内蔵武器を使わずに両手の拳だけで此処まで追い込まれたのだから、ラウラにしてみれば屈辱だ。

 

 ユウヤに勝負を挑んだのは、ラウラにしてみれば尊敬する千冬に対して生意気な態度を取るユウヤを叩きのめすだけの心算だった。無様に自分の前に跪かせて今までの千冬に対する態度を後悔させてやる心算だった。だが、結果として叩きのめされているのは己のほうだった。

 

(認めない、認められるものか!!!)

 

 認められないと思っていても、機体は既に絶対防御程度しか生きていない。辛うじてその部分だけは生きているが、既にレーゲンの武装は悉く死んでいる。どんなに否定した所でISでまともに使えるのはスラスターだけだ。

 

「おいおい、後悔させてくれるんじゃなかったのか、軍人さん?」

 

 本体から砕け落ちた武装の一部を踏み砕きながら、相手を馬鹿にする様に挑発気味な言葉がユウヤから放たれる。どう見ても悪役な行動である。

 『ふざけるな、今すぐ後悔させてやる』とでも叫びたかったが、そんな事を叫んだ所で何の意味も無いだろう、這い蹲っていないにしても、後悔させられているのは己なのだから。

 

「きさま……」

 

 ラウラは立ち上がりながら、目の前に立つユウヤを睨み付ける。

 

『……その辺にしておけ、確かに一度叩きのめせとは言ったが、此処までしろとはいっていないぞ!』

 

(まあ、こっちのSEも多く消費したからな)

 

 カイザーナックルの応用で全身に効果は薄いが、零落白夜に相当するエネルギーフィールドを纏う事もできるが、その効果に反してSEの消費が大きい防御型の零落白夜である。ハイリスク・ローリターンと言う言葉が相応しく実弾や実体剣には効果が薄い。ユウヤは好んで使用していないが、レーゲンの持つAICに対しては天敵とも言える能力を発揮してくれた。

 まあ、ラウラを弁護するのならば無敵と思っていたAICが無力化された事で動揺した隙を突かれたと言えるだろうが。

 

(くそぉぉぉぉぉぉ!!! 此処で負けたら、私の存在意義が!? 織斑教官を侮辱するこんな奴に負けたら……また私は、落ち零れの烙印を押されてしまう)

 

 そんなラウラの心情を知らずユウヤはカイザードとの会話へと意識を向ける。

 

(ああ、殆ど八つ当たりで戦った様な感じだからな……)

 

『それは分かるが』

 

 そもそも、ラウラとの試合はカイザードが受けるように言ったのが始まりだ。まあ、結果的に八つ当たりの的になった訳だが……。

 

『気が済んだのならその辺にしておけ、八つ当たりにしてもこれ以上はやりすぎだ』

 

「ああ、コレじゃあ、単なる弱いものいじめだからな」

 

(弱い!? 弱いだと、私が!?)

 

 思わず口に出てしまったカイザードとの会話がラウラに聞え、ラウラの表情に憎悪の感情が浮かび上がる。叩きのめしてやると思っていた相手に『弱い』と言い切られてしまった事に、憎悪の意思が沸きあがる。

 

(なんでもいい、アイツを叩きのめすための、力を! 私に!!!)

 

 

―Valkyrie Trace System……boot,―

 

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

「な、なんだ!?」

 

 ラウラの絶叫に驚いてカイザードとの会話から意識を其方へと向ける。彼女のISに稲妻が走り、ISが変形を始めていく。いや、それは変形と言うよりも……

 

『彼女のISが変貌する、だと? まさか!?』

 

「何か分かったのか?」

 

『VTシステム……可能性としては、それが強い』

 

「VTシステム? あれって、禁止されているシステム……っ!?」

 

 カイザードの言葉に答えながらラウラのほうへと視線を向けると、今までとは違う黒いISへと変貌している。

 しかも、それはカイザードの推測を肯定するような姿……『暮桜』、かつての織斑千冬の機体へと変貌している。……しかも、黒い影のような形で有るが、纏っているのも織斑千冬へと変わり果てていた。

 

「チッ! カイザード!?」

 

『ああ! 油断するな、過去のデータとは言え……かつての世界最強だぞ』

 

「だったら、此処でその称号……返上させてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日……トーナメント当日。

 

「それで、なんで呼び出されたか分かるわよね?」

 

「は、はい」

 

 いつもの笑顔こそ浮べているが、『#マーク』が張り付いているIS学園生徒会長の更識楯無さんと、正座させられているユウヤくんの図が生徒会室に有りました。

 

 心当たりと言えば、

 

「え、えーと、ボーデヴィッヒさんのISを壊しちゃった事でしょうか?」

 

「それはそれで問題だけど、あの子のISには禁止されているVTシステムが搭載されていた事もあって、それほど大きな問題にはされてないわよ」

 

 そこで一度言葉を切ると、『寧ろ』と前置きして……

 

「問題が有るのはこの二人についてね」

 

 映像に映し出されているのはラウラの巻き添えに破壊された一夏の白式とシャルルのラファールと……目を廻してアリーナの床に倒れている二人。

 

「いや、あの七光りが妙な事叫んで乱入してきたから……」

 

「幸い、白式は倉持が不眠不休で、ラファールの方は元々デュノア社制の量産機のカスタム機、両方とも何とかトーナメントまでに修理が完了したそうよ」

 

「それは良かった」

 

 ユウキが属しているのはダイカイザーの開発元であるDP社であり、そのDP社は現在倉持研を抜いて日本国内でのISの開発についてはトップとなっている。第二世代に限定すれば、多種多様な量産機と初の第三世代量産機である『メッチャバトラー』の生産が開始した為だ。

 

 要するに後発ながら既に大きく倉持研に差をつけていると言う訳だ。当然ながらそれが面白くないのは倉持研の皆さん。そんな時に世界で始めて確認された男性IS操縦者の一夏とユウキ、二人の専用機を用意する事で大きな話題性を得ようとしたわけだ。

 

 だが、当然ながら新型の開発など時間が掛かる事この上ない。急ぎながらも相応の性能を持つ一夏の専用機『白式』の開発の為に、既に開発が進んでいた楯無さんの妹であり日本代表候補生の専用機のパーツの大部分を流用した結果、無事短時間で白式の完成に漕ぎ着けた訳である。

 

 若干シスコンの気が有るのか楯無さん、その一軒が原因で一夏に対して良い感情を抱いて居ないと言うのがユウキの印象だ。

 

 そんな中、急遽決まってしまったクラス代表決定戦。話題性の為にブリュンヒルデの弟である一夏の専用機を最優先で用意し、何とか数ヶ月の遅れでユウキの専用機の完成の目処が出来た(しかも、この時点で日本代表候補生の専用機は既に凍結している)矢先に起こった急なクラス代表決定戦と言うイベントでユウキがDP社と契約して正式に企業代表としてダイカイザーを受け取ってしまった訳だ。

 

 慌ててDP社との契約を考え直してもらうようにユウキとの交渉に移った倉持研だが、ダイカイザーの事情を知ったユウキは、クラス代表決定戦に間に合わないという事を理由に倉持研との契約を拒み、おまけに専用機の件が原因で代表候補生も倉持研から離れてDP社に新たに専用機を依頼してしまったわけだ。

 ……結果、一夏は二度もユウキに白式をボコボコにされて無様を曝したわけである。特に本体は兎も角、唯一無二の武装である雪片がボロボロに破壊された結果、このタッグトーナメントには切り札無しでの参加となってしまったわけだ。

 

「にしても、あの七光り……武器に合わせて戦い方を帰るって事覚えた方がいいんじゃないんですか?」

 

「そうよね」

 

 近接用ブレードを手に突っ込んで行った結果、攻撃は当てられるものの手痛い反撃を受けている一夏に苦笑を浮かべる二人。どうも所々に一撃必殺の破壊力を持った雪片に頼っていた姿が見え隠れする。それが白式のスペックだと言ってしまえばそれまでだが、控えめに言っても素人である一夏向けの機体ではない。

 常々『倉持の技術者は無能ばかり』と言っているユウキが総称する理由が白式に収束している。既に依頼されていた代表候補生の専用機の開発を放り出した上に、織斑千冬の弟だからと言う理由で接近戦しか出来ない欠陥品を渡したのだ。いや……

 

「そもそも元からその程度の連中の集まりだったんだろうな」

 

 どんな理由かは知らないが、偶々千冬が専用機を求めたのが倉持だった。千冬だったから欠陥機でも優勝できた……その結果、ブリュンヒルデの専用機を作りあげた企業としてメッキが貼られた訳だ。そして、DP社の存在でそのメッキも段々とはがれて行ったのだろう。

 ……それがユウキの持っている倉持への(偏見が有るが)評価だ。

 

「っ!? それは本当なの!?」

 

 ユウキがモニターで愛の様子を見ていると、楯無が驚愕の声を上げる。

 

「織斑先生が瀕死の重傷を負ったなんて……」

 

「はぁ?」

 

 楯無の言葉に思わず呆けた声を上げてしまう。

 

「えっと……素手で熊の群とでも戦ったんですか?」

 

「残念ながら、打鉄を身に付けて学園の敷地内で重症を追って発見されたわ」

 

「……仮にも、“世界最強”だろ?」

 

 クラス対抗戦での“Я”ダイユーシャの襲撃と同じ事を警戒してか、ユウキを連れて現場へと向かった結果……コアさえも粉々に破壊され、完全に破壊された打鉄を纏った千冬が片腕を切断された状態で発見された。

 彼女が負った大きな傷は肩と肘の二箇所で切断された利き腕と、心臓に到達する寸前で止められた斬撃。同様にラファールを纏った教師部隊にも被害が出ていた。千冬でさえ僅かに遅れていれば命を落としていたであろう状況……その大半は死亡しており、運よく生き残った教師から『巨大な鎌を持った龍のような白い全身装甲』だったとの事だ。

 

『……カオスブレイカー……奴か』

 

 カイザードからの呟き……それによってユウキはこの襲撃の犯人がカイザード達の敵であるリンクジョーカーだと理解した。

 

 

 

 

 

 急遽、生徒会と後から駆けつけた他の教師達によって負傷者達は病院へと運ばれたが……多くの犠牲者が出てしまった。この襲撃によってタッグトーナメントは一回戦のみで中止となった。

 

「千冬姉ぇ!!!」

 

 そんな中、楯無とユウキが護衛のために(ユウキは心底嫌そうだったが、現行で襲撃者に対抗できるのがDP社のISのみと言う事もあり)着いている病室の中に一夏が飛び込んでくる。

 

 手術は終わり、眠っている千冬だが、切断された腕はその後の手術で無事に縫合されているものの、もうマトモに動くことは無いだろうと、更に眼に撒かれた包帯が取れても片目の視力はもう二度と戻らないと宣告されている。

 …………専用機は無く、仮に戻ったとしてもまともに動かない利き腕では以前のように剣を振る事は出来ず、片目の視力を失った今、既にかつての“世界最強”のブリュンヒルデは完全に死んだだろう。

 

「ユウキ! お前が居ながらなんでだよ!?」

 

「オレに当たるな、バカ」

 

 行き場の無い怒りを一夏から向けられるユウキだが、それよりも生き残った教師からの報告……『同じ部隊の教師が互いに殺し合いを始めた』と言う一点が報告を受けた者の中で引っかかっていた。




千冬世界最強剥奪編でした。手術の結果と言うよりも大部分は某絆を嘲笑う道化師のせいで彼が倒されるまで千冬さん利き手はまともに動きません。片目の視力も失い戦闘者としては死んだも同然です。



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魔法少女リリカルなのは異聞 ~魔法侍シズマ~

序章(プロローグ)だけ書いた侍戦隊シンケンジャーとリリカルなのはのクロスオーバーです。


 世界は優しくない……世界とは常に残酷だ。

 

 希望と絶望、幸福と不幸、それらが常に背中合わせにあるように…残酷な運命は逃れられない場所に用意されている。

 

 だから、世界とは常に残酷だ。

 

 

 

「……また、あの夢か……」

 

 心地よい朝の日差しを浴びながら、布団から体を起した少年、『闇崎 静馬(やみさき しずま)』は開口一番にそう呟いた。

 

 懐かしい様に感じる夢……赤、青、緑、桃、黄、金の六色の侍達と共に、自分と似た青年が『侍戦隊シンケンジャー』として、この世の物でない外道……アヤカシ、『外道衆』と戦う夢。

 

 酷くリアルな夢であり、それはまるで自分ではない別人の記憶……前世の記憶とでも言うべきだろうか、そう感じてしまっているのだ。

 

 そして、それは夢である事は間違いない。静馬の知る現実の中にも確かに“アヤカシ”も侍達の操る“モジカラ”も存在している。だが、彼の知る現実の記憶の中ではモジカラを操る事の出来る者は静馬だけであり、志葉家も含めた侍達の家系は今はもう存在していないし、外道衆の総大将“血祭りドウコク”を始めとするアヤカシ達も既に何代も前に倒されている。

 

 故に夢の中の記憶の様に既に血筋が絶えた自分を含めた侍達が集う事は未来永劫無いだろうし、電子モジカラを使う金色の寿司侍も誕生する事も無いし、アヤカシも極稀に最下級のナナシが出現する程度なのだから、有る意味平和その物である。

 

 そして、彼の見る夢は何時も自分に似た青年を含めた侍達が見事血祭りドウコクを倒し、それぞれの道に分かれていった所で終わっているのだ。

 

「……相変わらず変な夢だな……」

 

 そう呟きながら静馬は服を着替え始める。

 

 夢の影響か、その夢を見る度にモジカラを操る力量は上がってくるのだから、それは幸いなのだろうし、夢の中とは違い時折出て来るナナシを倒す程度の活動とは言え、自分の家系の持つこの世を守る使命には誇りを持っているし、この世を守る為に戦っている両親も尊敬している。

 

 静馬も子供らしくも無く、自分も何れは闇崎家を継ぎ、今は無き主君や他の侍達の家系の分までこの世を守る為に戦うのだろうと漠然と思っていた。

 

「父さん、母さん、おはよう。」

 

 こうして彼、聖祥大付属小学校三年、『闇崎 静馬』の一日は始まって行く。

 

 

 

 だが、彼は未だ知らない、彼の見る夢が彼の持つ“前世”の記憶である事を。そして、そう遠く無い未来……今この世界に“侍戦隊シンケンジャー”が再び集う時が近いという事を……。

 

 

 

魔法少女リリカルなのは異聞~魔法侍シズマ~

 

ここに開幕

 

 

 

「……将来何になりたいか、か……」

 

 その日の社会の授業の最後に先生から言われた言葉に思わず溜息を付いてしまう。

 

 選択の余地も、考える事も無く、彼の将来は『闇崎家』の後継者。才能にも血筋にも恵まれ、周囲からも夢の影響か剣の腕もモジカラの扱いにも“天才”等と言われて静馬が将来的にその地位に付く事は望まれているのだ。(しかも、まだ動いていないとは言え、最近見た夢の中の記憶に有ったシンケンゴールドである源太の言葉の記憶を元に夢の中の“海老折神”の様に“新たな折神”を生み出してしまったのだから、余計にである。)

 

(……“天才”か…。本当に称えられるべきなのは、源太さんなのにな……)

 

 夢の中の“シズマ”とは比較的仲が良かった寿司侍の事を思いだし、思わず溜息を付いてしまう。天才と言われているのは全て夢の中の侍達や夢の中の“シズマ”のお蔭なのだから、自分の才能でも努力でもない。

 

 夢の中の“シズマ”は主君である志葉家の頭首や他の侍達と共に尊敬する父以上の戦いを潜り抜けてきたのだから、僅かなりその記憶の影響は静馬に経験を与える。故に静馬の剣の腕やモジカラの扱い方は夢を見る度に、夢の中の動きを再現するたびに、夢の中の“シズマ”へと近づいていく。

 

 怖いのだ……自分が自分で無くなってしまうようなそんな感覚が。

 

 虚しいのだ……そんな形で“才能”や“努力”を称えられているのが。

 

 考えれば考えるほど意識は沈んでしまう。

 

(……気分を変えて偶には別の場所で食べようか……)

 

 こんな沈んだ気分で食べては折角作ってくれた人に申し訳ない、そう考えて静馬は弁当を持って教室を後にして行く。

 

(屋上か……)

 

 気分が良くなる場所で食べれる様にと足を進めている間に何時の間にか屋上まで付いていた。青空と白い雲、心地よい光景に満足して、適当なベンチに座って弁当を開く。

 

 彼の家柄と言う訳ではないだろうが、焼き魚にお握り、卵焼きと言った和風の弁当が有った。

 

(……今夜は洋食かな?)

 

何気に食生活まで和食オンリーと言う訳ではなく洋風の物も良く食べているが、どちらかと言えば闇崎家の食事は和食が多い。日本の(スピリッツ)は大切なのだ。

 

「いただきまーす」

 

 手を合わせて、作ってくれた人と食材を育てた人への感謝を込めてそう言い、お握りを手に取って口に近付けお握りを加えた時、人の気配を感じて手を止める。

 

「あのー……」

 

 後を振り向くとそこには、特徴的なツインテールの女の子が居た。

 

「ほへ、はかまひはん?(あれ、高町さん?)」

 

 行儀悪く静馬は食べ掛けのお握りを加えたまま少女の名前を呼んだ。

 

「あのね、もし良かったら、わたしたちも一緒にお弁当を食べても良いかなって?」

 

 彼女……静馬のクラスメイトの『高町 なのは』にそう言われ静馬が周囲を見てみると、既に大抵の場所は他の生徒が取っていた。それとは別に少し離れた場所で静馬を見ている少女が二人。

 屋上で弁当を食べようとして来て見たが場所が無く、偶然そこで一人でベンチに座っているクラスメイトを見つけたから、自分たちも一緒に食べようと思ったのだろう。

 

「んー……。どうぞ、オレと一緒で良ければ」

 

「うん!」

 

 特に親しい相手と言うわけでもないが、静馬は僅かとは言え困っているクラスメイトを見て邪険に出来る人間ではない。快くなのはのお願いを聞き入れた。

 

 この後、『アリサ・バニングス』と『月村 すずか』の二人も含めた三人と一緒に食事をとる事になったのだが。

 

(……月村……高町……ああ……)

 

 時々父から話に聞く闇崎の家とそれなりに関係の有る(らしい)二つの家。詳しい事は知らないのだが、

 

(……『来るべき時には力を借りるかもしれない相手』とか言ってたな。)

 

 父の言う『来るべき時』とはナナシよりも強力な力を持ったアヤカシ、外道衆が再びこの世に現われた時である。

 

 昼食を楽しみながら取れた事に喜びながら、将来何になるかと言う話になった時は、流石に一族の使命とは言えず適当に話を誤魔化す事になってしまったのにだけは心苦しい静馬だった。

 

 

 

 

 

 時間は進み放課後、私服に着替えた静馬の姿が街に有った。

 

「……遅くなったな……タカマル」

 

 モジカラの修行の帰り道、静馬がそう声をかけると静かにサイドバックの中から顔を出したそれは『ピーッ』と鳴きながら彼の言葉に答えた。

 

 『鷹折神』……静馬が夢の中の海老折神に付いての記憶を元に作り上げた折神である。最低限受け応えは出きるがまだ動く事は出来ない未完製品である。闇崎家に伝わるモジカラは防御に特化した『闇』のモジカラで、有る程度人影の無い所に行かないと目立つ力でも有るのだ。

 

 そもそも、折神の力を借りる事もないのだから、のんびり完成させると気長に考えている静馬では有ったが、モジカラの修行の合間に少しずつ完成へと近付けて行っている訳である。

 

『……………………』

 

「ん?」

 

 微かに何かが聞こえる。

 

(気のせいか?)

 

 助けを求めるような声にも聞こえたが、周囲の人間だけでなく鷹折神にも聞こえた様子はない。それを見てそう結論付けると静馬は自宅へと向けて足を進めて行く。

 

 同じ頃、一人の少女が一匹のフェレットと出会ったのだった。

 

 

 

 



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ウルトラマンギンガ(タイトル未定)

「このっ!」

 

 

 頭部、両腕、両肩、両足に光り輝く青い結晶体を身に付けた赤と銀の巨人、『ウルトラマンギンガ』は黒と赤の巨人『ウルトラマンゼロダーク』に拳を叩きつける。

 

 本来ではギンガと同じく光の巨人(ウルトラマン)であった『ウルトラマンゼロ』が闇の力で操られた漆黒の巨人、その漆黒の巨人となっている者もギンガ……『暁 勇輝(あかつき ゆうき)』も良く知っている相手だ。

 

 

 ゼロダークはギンガの拳を軽く受け流し無駄の無い動きで的確に反撃を加える。

 

 

「ふん、奴を選んだ事に間違いは無かったようだな」

 

 

 ギンガとゼロダーク、光と闇の巨人の戦う姿を眺めながら、その戦いをプロデュースした闇のエージェント、『テンペラー星人』は満足げにゼロダークを一瞥し、自らもあの戦いの中に加わりたいと言う武人としての本能を抑える。

 

 テンペラー星人にとって気に入らない事だが、『闇の支配者』より与えられた使命は戦うことでは無く、心に闇を持つ者にスパークドールとダークスパークを与える事だ。屈辱としか言えないが、逆らう事もできず仕方なく従っているに過ぎない。

 

 

 ウルトラマンゼロのスパークドールとダークスパークは早い段階、“彼”等が勇輝がギンガに変身した姿を目撃した日に渡していたが、この瞬間まで使うでもなく勇輝に渡すでもなくある種の中途半端な状態が続いていた。

 

 

 揺れ動いていたのだろう、テンペラー星人が目を付けた心の中の闇と光の間で。だが、この瞬間光を失った時、拮抗を失った光と闇のバランスは一気に闇へと傾いた。

 

 

 

《ダークライブ! ウルトラマンベリアル!》

 

 

 

 ゼロダークの姿から闇のウルトラマン、『ウルトラマンベリアル』へと変身し尚も執拗にギンガへと攻撃を加えるベリアル。技に特化したゼロダークの姿とは違い圧倒的なパワーで攻める姿は連戦で消耗したギンガを追い詰めていく。

 

 

「哀れな姿だ。ワシも含めてな」

 

 

 自嘲するテンペラー星人の足元に血塗れとなって倒れている少女と男、少女の年齢は高校生くらいであろう……。そして、男の側にはゼロダーク以前にギンガが戦っていた『ウルトラマンヒカリ』のスパークドールが落ちている。

 

 

「無駄な事は止めておけ、小娘。お前ではワシには勝てんぞ」

 

 

「くっ」

 

 

 側に無残な姿で倒れる鋼鉄の武人、上半身と下半身が分かれて倒れる『ジャンボット』と胸部に大穴が空いて倒れる『ジャンナイン』を背景にガンパットを構えた血の中で倒れている少女と同年代の黒髪の少女『入谷 亞理栖(いりや ありす)』は悔しげに呟く。

 

 テンペラー星人相手に戦い事は並の怪獣や宇宙人でも難しいと言う事はよく知っている。何よりも、自分では勝ち目が無い事はほかならぬ彼女がよく分かっている事だ。

 

 

 

「いい加減目を醒ませ!」

 

 

「まだ、これからだった筈なのに……」

 

 

「お前っ!」

 

 

「……一人で勝手に死ぬなって……あれほど言ったじゃねーか……」

 

 

 頭を掴まれたまま苦し紛れに放ったギンガの拳がベリアルの体に叩き付けられ、捉えていた手を離しそのまま後退する。

 

 

「自棄になって暴れて……それであいつが喜ぶと思っているのか!?」

 

 

 ギンガの拳が叩き付けられるままベリアルは後悔の言葉を呟きながら、ただそれが守れなかった償いとでも言うかの様にギンガの攻撃を受けている。

 

 

「うるさい、お前に……何が分かる!」

 

 

 

《ダークライブ! ウルトラマンゼロダーク! ウルトラマンベリアル!》

 

 

 

 ベリアルの前を廻る漆黒の光がベリアルと重なった瞬間、新たなる闇の戦士を誕生させる。

 

 

 

《合体! ゼロダークネス!》

 

 

 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」」

 

 

 ベリアルがゼロダークネスへと変わった瞬間、なおも激しさを増す光と闇の巨人のぶつかり合い。

 

 

 ギンガクロスシュートとダークゼロツインシュートの二つの光線がぶつかり合いが起した光が、テンペラー星人と亞理栖の二人の視界を奪う。

 

 

 

―俺は結局また、誰も守れなかった―

 

 

―守って見せる、友達として……仲間として、お前だけは―

 

 

―時間が巻き戻せるなら、上手に上手く生きて見せるのに―

 

 

―時間は戻せない……。だから、どんな悲劇だって受容れて生きていくしかないんだ―

 

 

―また一人、死を背負ってしまった。俺は……独りだ―

 

 

―大切な相手を失ったからって、殺した奴を殺して……今度はもっと大勢の死を背負う気か!?―

 

 

 

 勇輝は闇に飲まれて暴走した友達の心を救う為に……本人のために、何よりも彼のために命を落とした少女の為に、彼にそんな真似をさせてはいけない。

 

 

 

 

それは、その世界の一つの週末の形……。

 

 

時は遡る。闇に落ちた少年と、光に選ばれた少年が出会うよりも前……物語の始まりとなった時まで……。

 

 

 

 

 彼、暁勇輝は両親とはあまり仲が良くない。……正しくは父親の再婚相手の義理の母と妹との間の距離感を勇輝がつかめずに居るだけだが。

 

 

 まあ、そんな訳でこの夏休みの時期に医師をしている両親の仕事の関係で海外に出かける事となった家族から離れ、一人日本に残る事を決めたある日、祖父の家に遊びに来たわけだが……

 

 

「やあ、少年」

 

 

「少年って、同じ歳だろう?」

 

 

 変な女……後に相棒として共に戦う仲間となる、入谷亞理栖とのファーストコンタクトとなった訳だ。初対面の彼女に持った印象は『変な女』……それに尽きるだろう。

 

 

「ところでこの先に何か用なのかな?」

 

 

「用って? 祖父ちゃんの家に遊びに来ただけだけど……」

 

 

「ああ、君の祖父の家があの神社だったのか? だが、残念だな……其処の神社は一週間ほど前に焼け落ちたぞ」

 

 

「は?」

 

 

 唖然とした声を上げる勇輝に対して、そんな彼の反応を面白そうに眺めながら亞理栖は石造りの机の上に置かれた缶コーヒー(無糖)を飲み干し、それを近くにあったゴミ箱へと投げ捨てる。

 

 

「何でも一週間前に其処に隕石が落ちて燃えたそうだ」

 

 

「いや、隕石が原因の火災ってどう言う状況だよ!?」

 

 

「確率としては天文学的な運の悪さだな。幸いにも人的被害も無く、仮設神社も建てられて再建の計画も持ち上がっているが、大事な御神体が今も焼け跡に残されているそうだ。誰かに聞けば分かる事だが、仮設神社の場所は焼け跡の近くの看板に書いてある。興味が有るなら言ってみると良いだろう。運が良ければ落ちた隕石なり、御神体なりが見つかるかもしれないぞ」

 

 

 そう言って黒い髪を翻して立ち去っていく亞理栖の背中を眺めながら、勇輝は……

 

 

「お前……さっきの空き缶、ゴミ箱に入ってないぞ」

 

 

「…………」

 

 

 顔を真っ赤にして無言のまま空き缶を拾い直すとそのままゴミ箱の中に投げ捨てた。心底恥ずかしかったのだろう。そして、改めて立ち去っていく亞理栖。互いに名前も知らないままの最初の出会いはそんな形で幕となったのだ。

 

 

 

 

「あれで良かったのか?」

 

 

「グゥーッド!」

 

 

 勇輝が立ち去って行く姿を見て、亞理栖がそう問いかけると背後から金色の宇宙人……『バルキー星人』が現れる。

 

 

「オレ達じゃあれはゲット、手に入れる事は出来ないからな。あいつが変わりに見つけてくれれば……」

 

 

 

 

「本当に燃えたんだな」

 

 

 神社の焼け跡を見ながら呆然と呟く。そして、周囲に人が居ない事を確認して、立ち入り禁止のテープを潜って中に入っていく。

 

 

「なんだ、このマーク」

 

 

 黒く焦げた周囲の木材の中でそのマークが書かれた板だけがキレイに残っていた。それを不思議に思って触れると、まるで役目を終えたかの様に板が砕けると、その下から銀色の物が表れた。

 

 

「…………もしかして、これが御神体か?」

 

 

 明らかに隕石では無いだろうと思いつつ、それに触れた瞬間、御神体が輝き、勇輝にある光景を見せる。

 

 

「シュアッ」

 

「ゼットォォン」

 

「ダァー!」

 

「ギャギャン」

 

「チュエエッ!」

 

「タァー」

 

 

 大地を埋め尽くすほどの怪獣、宇宙人、そして巨人達。光線が飛び交い、あちらこちらで幾つも爆発が発生している。そんな光景の中で赤い瞳をした巨大な影が片手を振るい黒い雲を発生させる。その雲に飲み込まれた瞬間、怪獣も、宇宙人も、巨人達も例外なく苦しみ、その姿を小さな人形の様な物へと変えて行った。

 

 そして、その闇の者へと立ち向かう光と何かがぶつかる。

 

 

「何だ、今の光景は……?」

 

 

 勇輝はたった今己に起こった事が一瞬理解できなかった。いや、理解出来無かったと言うよりも、理解を超えていると言うべきだろうか。ふと、自分の体を見てみると右手に神社の焼け跡に有った物と同じマークが有った。

 

 

「なんだ、これ?」

 

 

「それは、選ばれし者の紋章」

 

 

「っ!? 誰だ!?」

 

 

 何処からか聞こえてきた声に驚きながら周りを見回すが誰も居ない。

 

 

「やはり光の国の言い伝えは本当だったか」

 

 

 勇輝が声のした方を振り向くと其処には紅い人形があった。勇輝はそれに近付き、

 

 

「……人形?」

 

 

「私は『ウルトラマンタロウ』」

 

 

「え?」

 

 

「ふむ、喋る人形とは珍しいな」

 

 

 その場に第三者の声が響いた時、思わず勇輝とタロウも其方へと視線を向ける。

 

 

「私も御神体や隕石が見つかったら面白いだろうなと主ってな。まあ、こうしてもっと面白いものを見れたが」

 

 

 楽しげに笑いながら勇輝達の視線を受けているのは亞理栖だった。

 

 

「知り合いか?」

 

 

「いや、二度会っただけの関係だ。第一、オレはこいつの名前も知らない」

 

 

「おっと、私とした事が失礼したな。私は入谷亞理栖。高校一年だ」

 

 

「オレと変わらないのか……。オレは暁勇輝だ」

 

 

「お互い名前も知った事で目出度く知り合いにランクアップした所で、その喋る人形の正体を調べてみたいんだが」

 

 

「っ!? そうだった」

 

 

「落ち着け。先ずは私の話を聞いてくれ」

 

 

「ああ。なんか、オレが選ばれし者の紋章を持っているとか……」

 

 

「選ばれし者? 紋章? なんだ、伝説の勇者の家系なのか?」

 

 

「居るわけ無いだろ」

 

 

 思わず亞理栖の言葉にツッコミを入れる勇輝。

 

 

「いや、彼女の言葉も間違いでは無い。光の国にはこんな言い伝えがある。一つは、命有るものの時間を止める『ダークスパーク』。私はダークスパークと対をなすもう一つの存在をこの近くで見つけた」

 

 

「……それって、まさか」

 

 

 先程のタロウの言葉と選ばれし者と言う言葉を繋ぎ合わせると、一つの答えが導き出される。手の中にある御神体。

 

 

「『ギンガスパーク』。闇の呪いを解く唯一の希望。その、大いなる力を引き出せる者は選ばれし者だけだ」

 

 

「それって、オレの事か?」

 

 

「なるほど、勇者の家系じゃなくて、初代と言うわけだったんだな」

 

 

「そうだ」

 

 

「いやいやいや、二人ともちょっと待てって! そんなわけ無いだろう」

 

 

「では、君の右手の甲に出た紋章は何かな?」

 

 

「そ、それは……」

 

 

「分かったら少し頼みがあるんだ。なるべくこの山の平地に移動して欲しい。そして、私の左足に有るライブサインをスキャンして元の大きさに戻してくれ」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

「ふむ、タロウと言ったか。あれは何か分かるか」

 

 

「え?」

 

 

「なに?」

 

 

 亞理栖の言葉に従って其方へと視線を向けると、其処には先程出現したばかりと言った感じの茶色い怪獣の姿が有った。

 

 

「あれは、『サンダーダランビア』! まさか、ダークスパークの力で!? こうしては居られない! 勇輝、私を持ってくれ!」

 

 

「わ、分かった」

 

 

 放電をしながら此方へと向かって来るサンダーダランビアの姿に圧倒されながらも、勇輝はタロウを持ち上げる。

 

 

「私の足の裏にライブサインがあるだろう」

 

 

「ああ……これか?」

 

 

 確かに足の裏に六角形のマークが有った。それがライブサインなのだろう。

 

 

「そこにギンガスパークを付けてくれ。そうすれば私は元に戻れるはずだ」

 

 

「あ、ああ」

 

 

 タロウの言葉に従ってライブサインにギンガスパークを当ててみる。が、

 

 

「しかし、何も起こらなかった」

 

 

 まさに亞理栖の呟き通りだ。何の変化も起こらなかった。

 

 

「……おい」

 

 

「何も起きないな」

 

 

「そ、そんなバカな!」

 

 

 三人がそんなやり取りをしている間も、サンダーダランビアは勇輝達の元へと近づいて来る。

 

 

「だったら、此処に来る途中で私が拾った人形があるんだが、こちらでも試してみるか」

 

 

 そう言って亞理栖が差し出したのは黒い怪獣の人形だった。

 

 

「それは『ブラックキング』!」

 

 

「と、兎に角……試してみる!」

 

 

 勇輝は亞理栖からブラックキングのスパークドールズを受け取ると、ライブサインにギンガスパークを当てる。

 

 

 

〈ウルトライブ! ブラックキング!〉

 

 

 

「え? ええ!?」

 

 

 勇輝は光に包まれ『ブラックキング』に変身……否、ウルトライブする。

 

 

「グォォォォォォォォォォオン!!!」

 

『な? なんだよ、コレは!?』

 

 

「ふむ、全然信用してなかったが、本当に変身できたんだな」

 

 

「なぜだ! 何故私にはライブ出来ないんだ!?」

 

 

 それぞれの理由で一瞬意識が離れていたとは言え、かなり致命的な隙が生まれてしまう。サンダーダランビアへの注意が離れてしまっていた。その隙を逃さずブラックキングにサンダーダランビアからの電撃が降りかかった。

 

 

『うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!』

 

 

 電撃を浴びて勇輝が変身しているブラックキングは倒れる。

 

 

「しまった、あいつの事をすっかり忘れていた」

 

 

 電撃が放たれた方向にはサンダーダランビアの姿があった。

 

 

『皆黒焦げにしてやるぜ! らあああああああああああああああああああああ!!!』

 

 

 サンダーダランビアは背中から周囲に電撃を放電する。当然ながら近くに居るために電撃の一部はブラックキングへと当たる。

 

 

「グォォォォォン!!!」

 

 

 付け加えると電撃が地面に有った事で発生した爆風によって、

 

 

「早く大きくなりたぁ~い!」

 

 

 魂の叫びと共にタロウの吹飛ばされてしまう。

 

 

 サンダーダランビアはブラックキングの腹にキックを打ち込み、ブラックキングの背中を容赦なく攻撃する。

 

 

〈やれやれ、流石にこれは少し鬱陶しいな。面白い相手になりそうだと言われたが、あの程度ではな……。さっさと潰してしまうか〉

 

 

 そんなブラックキングの姿を冷めた様子で観察する亞理栖。

 

 

『この、これでも食らえ!』

 

 

 攻撃の反動で立ち上がり、ブラックキングはサンダーダランビアにパンチのラッシュを打ち込む。サンダーダランビアをよく見ていると二人組みの大人の姿があった。

 

 

『人!? あっちも人が変身してるのか!?』

 

 

 ブラックキングはサンダーダランビアに体当たりして片手を両手で掴む。

 

 

『おい、お前! 早くそこから逃げろ!』

 

 

「そうだな。怪獣大決闘に巻き込まれたくないので早急に逃げさせてもらう」

 

 

 亞理栖は躊躇無く勇輝を捨てて逃げる事に決めて早足でその場から立去ろうとする。既に興味は失っており、次の行動へと映る予定だったのだが、サンダーダランビアはブラックキングへと向けて放電する。

 

 放電の直撃を至近距離で受けたブラックキングは倒れ、サンダーダランビアは周囲を無差別に放電する。

 

 

「っ!?」

 

 

 サンダーダランビアの放電が亞理栖の方に来ようとした時、思わず亞理栖は目を閉じてしまう。すると、電撃が何かに当たる音が聞こえて亞理栖がゆっくりと目を開けると、其処には自分を庇っている勇輝のライブしたブラックキングの姿があった。

 

 

「お前は……無茶な事を。何で私を助けた……」

 

 

「キュィィィィィグオオオオ!」

 

 

 サンダーダランビアは腕を伸ばしてブラックキングの首に巻きつけ、更に電流を流す。

 

 

『っ!? うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!』

 

 

 電流に曝される体を動かして首に巻きついた腕を引き剥がそうとするが、上手く動かない。

 

 

『くそっ……』

 

 

 ゆっくりと近付いてくるサンダーダランビアの姿を見ながら、苦しみの中で勇輝は強く思い願い、その思った事を口にする。

 

 

『こんな所で……神でたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

 その瞬間、勇輝の持つギンガスパークの『ギンガブレード』が展開し、一体のウルトラマンのスパークドールが出現する。

 

 

 その瞬間、勇輝は闇の者へと立ち向かうスパークドールと同じ巨人を見た。勇輝はそのスパークドールを手に取り、ギンガスパークへとライブサインを読み込ませる。

 

 

 

〈ウルトラーイブ! ウルトラマンギンガ!〉

 

 

 同時にギンガスパークに顔のような造詣が現れ勇輝の体を銀河が包み込むと、銀河の中から光の巨人が現れ、大地へと降り立つ。

 

 

 闇の者と対を成す存在、その名は《銀河の覇者》『ウルトラマンギンガ』!

 

 

「なんた、あのウルトラマンは!?」

 

 

 タロウはギンガの姿に驚く。

 

 

「ギュィグオオオオオオオン!!!」

 

 

 サンダーダランビアはギンガへと向けて放電する。だが、ギンガは左手を突き出すだけで放電を受け止めると、ゆっくり反時計回りに手を回し攻撃を受け止め、左手を振って電撃を無効化する。

 

 

『凄い! 凄いぜ、このウルトラマン! 全身に半端無いほど力を感じる!』

 

 

 変身した事で感じ取った力に感動を覚えているとサンダーダランビアが突進してくる。それに対してギンガは体当たりをぶつけてサンダーダランビアを押し返す。

 

 

「タァ!」

 

 

 体格的に勝っているはずのサンダーダランビアを押し返す事から、パワーではギンガの方が上回っている事を証明している。

 

 

「シュウ……ラ!」

 

 

 ギンガはサンダーダランビアを逆の方向へと向けて背負い投げの要領で投げ飛ばす。

 

 サンダーダランビアは悲鳴を上げて立ち上がり、ギンガの方を向くとギンガに接近しようとするが、ギンガは軽くジャンプして飛び蹴りをサンダーダランビアの頭へと放ち、動きが止まった隙に顎へアッパー、腹部にパンチ、首筋へとチョップの連続攻撃を決める。

 

 

「キュイオオオオオオ!」

 

 

 更に裏拳、回し蹴りをサンダーダランビアに食らわせる。サンダーダランビアへ更にトドメとばかりに持ち上げて投げ飛ばす。サンダーダランビアは地面をスライディングする様に滑っていく。

 

 

『これでトドメだ!』

 

 

 ギンガが両腕をクロスさせると頭部が黄色に光り始める。そして、両腕を横に伸ばすと両腕の水晶も黄色に光り始め、最後に天へと伸ばすと左腕の水晶から電撃が天へと放電され、空に大きな穴が開き、そこに黄色い銀河が広がる。

 

 

『ギンガサンダーボルト!』

 

 

「シュウラ!」

 

 

 ギンガサンダーボルトがサンダーダランビアに直撃し、サンダーダランビアは空中へと打ち上げられ、悲鳴を上げながら爆発する。爆発の中から黒い光が地面に落ちると、黒焦げの二人組みとサイダーダランビアのスパークドールが亞理栖の足元へと落ちる。

 

 

「なるほど……確かに。興味深い相手だ。ウルトラマンも、あいつ自身も」

 

 

 両手の掌を曲げて変身を解くギンガの姿を見ながら、サンダーダランビアのスパークドールを拾い上げ、ギンガや勇輝へと向けていた感情を修正する。

 

 好奇心・興味……そうであろうと予想していた亞理栖の中に芽生えた感情は何かは本人にも分からない物だ。だが、

 

 

(決めた。お前は私が……)

 

 

 心の中でそう強く宣言した。

 

 

 

 これが、物語のプロローグとなる。

 

 



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オリ主(真)とオリ主(エセ)の対立で逆行ユーノが苦労するお話 その1

新作の話です。なのはメインの能力のみとある作品四つのクロスオーバーです。

なお、その内書こうと思っているLBBの別史3のネタを先行で使っています。


『だ……カ、た……ケテ』

 

 

(鬱陶しい……)

 

 彼、『龍陣 コウヤ』は体を起こしながら頭の中に響いてくる声に不快感を覚えていた。両親共に海外で仕事中のため国内に居らず、学校を自主休業した(サボった)訳だが頭に響いてくる声に心底鬱陶しさを覚える。

 

 コウヤは俗に言う転生者と言う人種に当たる。彼を転生させた愚神は『踏み台転生者』と言う役割で転生させたわけだが……彼を転生させた後に……ウルトラマンノアやら黄金進スペリオルカイザーに袋叩きにされてガンドラワールドから持ち込まれた封魔の聖剣によって厳重に封印された。……具体的に言うとその上から更に改めて封印を施された……二重に。

 まあ、本気でスペリオルカイザーがバロックガンにこの世界の管理を頼んでいたが断られたと言うのは一応追記しておく。

 

 愚神に掛けられた踏み台の呪いは消されているが既に影響下にある相手には意味は無く、改めて封印した愚神の力を無理矢理使って与えられた物をリコール、改めて貰った能力は……適当にカレンダーと時計を見て言った結果……ある意味トンでもない能力となった。

 まあ、それが原因で愚神が封印された状態で瀕死になっているが、誰も気にしちゃ居なかった。

 

 

『僕……声……聞……エ』

 

 

「煩い」

 

 そう言って手を翳すと宝石の様な赤い輝きを持った狼が彼の手の中に座すと、紅い狼は掌サイズの宝石に変わる。

 

 

『……カ…………』

 

 

 赤い鉱石を持っていると頭に響く声にノイズが掛かり、最後には何も聞こえなくなった。

 

「……G波による通信妨害、念話にも効くんだな」

 

 彼の貰った力は四つの物語の世界に関する力。とは言っても、うち二つの力はある意味ではハンパな物になってしまって入るが……。

 

 自分に向かって響いてくる念話が消えるのを確認すると時計を一瞥……すっかり昼食も食べずに放課後の時間までサボっていた事を自覚して……

 

「コンビニにでも行って何か買うか」

 

 そう考えて家を出る事にする。

 

 

 

 コンビニで適当にパンやサンドイッチを購入するとそれを食べながら帰路についていた時、視界の隅に四人組の男女の姿を確認する。

 

(あいつらか)

 

 心の中で吐き捨てる様に呟くとそのまま道を変えて彼女達を遣り過ごす。

 彼女達はこの世界の本来の中心人物である『高町なのは』とその友人である『アリサ・バニングス』と『月村すずか』の二人と……正史には居なかった筈のなのはの幼馴染の少年『狩主(苗字のみで名前は知らないし興味もない)』である。

 

 少女三人が慌てている様子で近くにあった動物病院へと駆け込んでいく。

 

 

 

???SIDE

 

(う……ん……。ここは?)

 

「うちじゃ流石に飼えないわ、犬に食べられちゃうかもしれないし」

 

「私も難しいから、アリサちゃんじゃないけど猫が居るから」

 

「私も飲食店だから」

 

「ぼくもちょっと無理かな。家族が動物があんまり好きじゃ無いし」

 

 目を醒ましたフェレットがあたりを見回していると四人が深刻な表情で頭を悩ましていた。当然ながら狩主、なのは、アリサ、すずかの三人である。

 犬猫が大量に要る家にはフェレットの命の危機であり、なのはの実家は飲食店で有る為に無理……と言うよりもご法度である。最後の希望とばかりに向けられた狩主の家は他に動物もおらず、飲食店の経営もしていないが家族が動物が好きでは無い為に説得が難しい……。

 

 まあ、前世の記憶からこのフェレットの正体を知っている狩主は自分が引き取るわけには行かないと、そう言って断っているわけだが……なのは達はそんな事は知る由もない。

 

(そうか、また戻ってきたんだ(・・・・・・・・・)……)

 

 そのフェレット……正確にはフェレットに変身している少年『ユーノ・スクライア』は疲れ切った表情で伏せる。最も傍から見ていればまだ弱っているフェレットが倒れた様子にしか見えない。

 

(……これで何度目だろう……)

 

 何時の頃からか数えるのを止めた内容を思い出す。

 彼、ユーノ・スクライアは逆行者である。彼の辿った未来ではどれも漸次元世界が地球以外破滅を迎えている。

 原因は三つの敵勢力による次元世界への侵略……。必死に抵抗する時空管理局だったが、その三勢力の前には手も足も出ずに敗れていった。だが、そんな彼らが希望を見たのが第97管理外世界『地球』である。

 三勢力からの侵略を撥ね退ける力を何時の間にか入手していた事から、反撃に移れると考えていたのだ。

 そう考えた管理局は時空管理局に復帰した『ギル・グレアム』、僅か一年の活躍で伝説の部隊と謡われるようになった『機動六課』の部隊長である狩主、上記の二人と同じく地球出身でエース・オブ・エースと呼ばれるようになったなのはの三人が交渉に当たったが……結果は交渉すら出来ず、逆に彼ら三人は地球からの追放、及び許可の無い次元世界人の地球への立ち入りの一切を禁じられた。

 

 だが、追い込まれていた彼らにとってそれに従う事は死を意味する。正式なルートでは無く、盗み出してでもその力を手に入れようとしたが、幾度も失敗に終った。

 

 防衛組織として立ち上げられた組織の隊長となったコウヤと、その組織の副隊長『八神はやて』と次元世界から地球へと帰化した分隊長『フェイト・テスタロッサ』の三人を中心とした組織により、奪おうとした者達は次々に捕えられた。

 

(……今、思えばアレはまだ良かったかもしれない)

 

 少なくともその未来がユーノの経験した未来では一番最良だったと理解したのは、彼が時間逆行する為のロストロギアを手に入れた後だった。

 白い甲冑の騎士と蒼い鎧の騎士と黒い少女の三人にそれを渡される夢を見た時言われた『選択を間違えるな』と言う言葉の意味を思い知った。今になって思えば、それは本当に夢だったのかと何度も疑問に思う。目を醒ましたら手に入れていたのだし。

 

 少なくとも、特殊な方法だが安全な場所に居られる分だけ幸せだったかもしれない。地球にしても、防衛力を持った地球を攻撃対象から外していた節のある三勢力との戦火を広げる危険のある技術提供はデメリットしかないし……最初の逆行を迎える前に知った事だが、管理局側の言い分は要約すれば『なんか凄い技術持ってるから、こっちに寄越せ。お前らよりも有効に使ってやるよ』だ。今になって考えれば交渉は無理が有ったとユーノは思っている。

 

(……問題はその次からなんだよね……)

 

 コウヤの仲間だった二人を管理局側に取り込む事に成功……正史に近いメンバーが機動六課に揃う中、最初の世界と同じく三勢力に追い詰められる地球を除く全次元世界。そんな中で地球のとった行動は、『次元世界人の地球よりの追放及び、次元世界人への協力者の地球よりの追放』だった。

 同じ組織のトップとなったコウヤを中心に進められた結果、管理局や次元世界の人間に協力した人間は家族に至るまで地球から追放された。

 同時に捕えられた次元世界人の引渡しを条件に地球は三勢力との条約を締結。地球の安全の為に次元世界の人間を売り渡したのだ。

 

(……どうしても良くならなかった)

 

 力の出所を調べるうちにその力の出所がコウヤと知り、コウヤが自分達の味方になるように行動したが……全て結果は二度目と大差ない結果に終った。……寧ろ、酷くなったことさえある。

 

(……あいつを巻き込んで逆行できたし時は少しは良くなるとも思ったんだけどな……)

 

 友人である『クロノ・ハラオウン』と共に逆行できた時は……寧ろ酷くなった。……五回の逆行でやっとその原因に辿り着く事が出来た。『狩主』だ。彼と多く関わった人間は一部の例外を除いて何故かコウヤと敵意を向け合うようになる。そう言う意味では、既に彼と関わってしまった為に、クロノを巻き込んでの逆行はそれだけで危険と理化した時には、クロノを逆行に巻き込むのを止めた。

 

 だが、僅かながら希望が見えた瞬間でもあった。

 

(……今度こそ、あいつらから侵略を受ける未来だけは回避しないと……。なのはが平和に生きていける未来を、作るんだ)

 

 ユーノは改めて強く決意する。それは彼女を魔法と言う物に巻き込んだ者としての責任ゆえなのかは、本人さえ知る由もないが……ただ、既になのはが手遅れだとは知らない方が幸せかもしれなかった。

 

 

 SIDE OUT

 

 

 

 



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リリカル・正統派オリ主(エセ)アンチ・ウルトラマンクロスの微闇堕ち

ちょっと趣向を変えて設定のみです。これもある意味ネタです。

ウルトラマンクロスの微闇堕ちですね(哂)


主人公

 前世の記憶のない転生者。悲観主義、自傷癖有り、死にたがり、序でに微不登校。

 後述のエセ正等派オリ主の踏み台役として転生させられた被害者(なお、その神はウルトラマンノアと黄金神スペリオルカイザーによって袋叩きにされ、フォーミュランダー持参の封魔の聖剣によって封印済み)。その転生が原因でウルトラマンの世界の宇宙人・怪獣が流れ込んでしまう。

 神の呪いを掛けられて原作メンバーには嫌われる様になり、その後の日々に疲れ自殺した際にウルトラマンノアやSDガンダム世界の神様達に導かれてやってきたウルトラマンゼロと融合し新しい命を得るが、彼にとっては『余計な事』らしい。

 自分の命にさえも無頓着で積極的に戦わず、状況に流されるままに変身して戦う事になるが、彼の意識が主体になっている時は周りの被害さえも気にしない(己の命にも無頓着ゆえに、他人の命も軽く考えてしまっているため)。攻撃を受ければ誰であってもしっかりと反撃する。場合によっては見捨てる。時々変身する事を拒絶して変身アイテムを投げ捨てる。

 また、ウルトラマンベリアルからの勧誘に『一生付いて行きます、ベリアル閣下』と一切の迷い無く即答しているあたり、本質は光だがそれ以外はすっかり闇に染まっている。全部エセオリ主が悪いのだ。(言われたベリアルが一番驚いている)

 ただ、ゼロと融合する以前から呪いは解けているためにそれ以後に出会ったすずかやフェイトには嫌われておらず好意をもたれても居る。

 

月村すずか

 原作メンバー。アホ神&オリ主の一番の被害者。

 主人公に好意を持っているが、エセオリ主や友人二人に流されるままに何も出来ないのが、彼女の罪。

 とは言え、その罪よりも大き過ぎる罰をまわりに巻き込まれるままに受けているので、間違いなく不幸の一番星。誘拐した犯人に宇宙人が協力していたり、暴れまわる怪獣に襲われたりと。

 

フェイト・テスタロッサ

 本作のメインヒロイン。本作では間違いなくなのはとは友達になれない。

 ジュエルシードを狙うウルトラ世界の敵に襲われた際に主人公の変身したゼロに助けられる。それを切欠に死んだ姉のアリシアを自分の命を捨ててでも助けようとしてくれたり(本人はゼロとの融合を解除して死にたかった)と色々と有って好意を持つようになる。闇に染まった彼の中の数少ない光である。

 

高町なのは

 原作主人公。エセオリ主に落とされている、依存気味。神様の呪いによって主人公を嫌っている。

 彼と共にジュエルシードを集めるが、悉く敵対する宇宙人に奪われている。……主人公は助けてくれない。また、主人公からも嫌悪されている為に彼女との関係が改善されることは無い。

 

エセオリ主(狩主)

 エセオリ主。神様転生によるオリ主。外面は良く内面は外道。

 なのはと共にジュエルシードを集めるが転生で得た特典も宇宙人や怪獣達には通用せず悉く奪われている為に、二人合わせて所有数は最後まで0。

 

クロノ・ハラオウン

 母親やアースラスタッフの皆さんとあわせてエセオリ主の被害者。苦労人。

 ジュエルシード回収やその後の事件でも宇宙人や怪獣と戦うことになるが……次元世界ではピンチの時には必ず助けに現れるウルトラマンゼロが彼らが居る所には現れないために疫病神扱いをされているが、原因はエセオリ主と係わり合いになりたくない主人公が嫌がってるため。

 なのはとエセオリ主に母親が協力を頼んでしまったのが彼の運の尽き。だけど、正式に入局した後はそう言う事も無くなったために疫病神扱いは無くなった。

 

 

 

 

 



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ウルトラマンオーブ×ハイスクールD×D -Ⅰー

内容はフェニックス編の後から聖剣編直前くらいからスタート。ヒロインはイリナとゼノヴィアと後は他作品から二、三人くらい?


「ウルトラマン! ウルトラマンティガ! 光の力、貸してくれ!」

 

 彼、『暁 大和』の左右に銀と赤の二色の巨人と赤、青、銀の三色の巨人が並ぶ。

 遙か銀河の彼方からやってきた光の巨人『ウルトラマン』。超古代の地球の守護者『ウルトラマンティガ』の二人の巨人が並び立ち、

 

『ウルトラマン』

『ウルトラマンティガ』

『フュージョンアップ』

 

 高々とリングを持つ手を振り上げると同時に左右の巨人も腕を振り上げ、二人の巨人の姿が大和へと重なる。

 

『ウルトラマンオーブ、スペシウムゼペリオン』

 

 駒王学園と呼ばれる場所の校庭……そこに居る三つ首の獣『ケルベロス』と戦う者達が、空中に浮かぶ黒い羽を生やした男が、その場に居る全員が驚愕の表情を大和だったものへと向ける。

 

「き、貴様、何者だ!?」

 

「オレの名はオーブ、ウルトラマンオーブ! 闇を照らし、悪を討つ!」

 

 己の打つべき悪、黒い翼の男の問いに大和は……ウルトラマンオーブはそう宣言する。

 

 

 

 これは『ハイスクールD×D』と呼ばれる世界で、一人の転生者が早々に死んだ事が原因でそれの持っていた光の巨人の力だけを受け継いでしまった少年の物語である。

 

 

 

 

全ての始まりを語る為に時は僅かに遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「またあの夢か」

 

 彼、『暁 大和』が何度も繰り返し見ている、光の剣を持った光の巨人が巨大な怪物と戦う夢。

 

 

 『光の魔王獣 マガゼットン』

 

 

 何故か脳裏に浮かぶ名があの怪物の事だとは理解できる。だが、それ以上の事は分からない……高校二年になった時……もっと言えば本格的に、毎日の様に変態行為で女子から制裁を受けている幼馴染の友人と別のクラスになった事をきっかけに縁を切った時から見始めた夢……。

 

「しかも」

 

 枕元に有った一振りの剣を取り上げると、それはゆっくりと消えていく。夢を見る頻度が多くなった時から夢を見る度に現れる剣は輪郭だけだが、光の巨人の持っていた物とよく似ていた。

 いや、似ていると言うよりも、

 

「間違いなくそれなんだよね……」

 

 ぶっちゃけ、どう言うわけかその巨人が自分だと言う自覚も有るが、自分が人間だという自覚もある、だが何よりも……

 

 

『謎の巨人が世界各地に出現した円盤を撃退してから……』

 

 

 テレビのニュース映像に映し出されているのはビルよりも巨大な巨人と、空に浮かぶ巨大な円盤。約三ヶ月前、世界各地に出現した円盤……異星人の宇宙船と捉えるべきそれを迎え撃ったのが、テレビに映る巨人であり、その巨人の正体は……

 

「オレなんだよな……」

 

 『愚かな地球人よ、直ちに降伏せよ』と行き成り宣言したのだから、侵略者と捉えても問題なく、四脚の戦車と思われる物体を地上に送り込んで破壊活動したのが、友好的な相手であるはずが無い。正にいんでぃぺんでんすなデイだったが、それは一日に終った。

 光の巨人へと変身した大和によって地上に送り込まれた兵器も、空に浮かぶ円盤も全て叩き落された。やった本人が一番気にしているレベルのオーバーキルで、だ。

 

「忘れよう……」

 

 そう斬り捨てる。地球侵略の危機の回避したのだから、正体がばれなきゃ問題なしと完全に斬り捨てたのだった。主に、

 

『この巨人ウルトラマンオーブは……』

 

「あぁ……」

 

 宇宙に逃げる巨大円盤を追いかけて撃墜した事よりも、変身した直後の自分の名乗りのほうにダメージを負ってしまっていた。『オレの名はオーブ、ウルトラマンオーブ!』等と名乗りを上げたのはしっかりと周囲にも響き渡ってしまったようだった。

 

「それにしても……なんなんだろうな、この感覚は?」

 

 此処最近は最大級の変化は自分なのだが、周囲にも大きな違和感を感じてしまっている。縁を切った一誠の周辺や生徒会などに。

 

「……あれ?」

 

 其処で有る事に気付く。今までは待っていたピースが組み立てていくうちに急に当てはまらなくなる、そんな感覚を……。

 

「オレは、何時一誠の家の隣から引っ越したんだ……?」

 

 真新しい壁に触れながらそんな疑問が自然と零れてしまった。ウルトラマンに変身出来るようになった前後からの記憶が不鮮明な部分が多い、

 

「っ!? なんだ……この違和感は」

 

 彼の手の中に現れる一枚のカード、黒い戦士の絵が描かれたそのカードを握り締めながら脳裏に浮かび上がる記憶を呼び起そうとするがどうしても浮かび上がってこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か強い違和感を感じているのに、その違和感がなんなのか分からない感覚……。それでも、最近は元幼馴染の『兵藤 一誠』の周辺が変わっている事の方に注意が行ってしまうのは、大き過ぎるインパクトだからだろう。

 

 学園の人気者の生徒が集まるオカルト研究部に彼が入部した事を皮切りに、転校生の女子が一誠の家にホームステイしていたり、オカルト研究部が十日間ほど休んだり、オカルト研究部部の部長の『リアス・グレモリー』も一誠の家に住み始めたと言う噂が流れ始めたり、だ。

 

 それでも、所詮は元幼馴染、弱みを握って無理矢理同居していると言うへんな噂も流れているが、普段の行動を鑑みると間違いなく流れても仕方ない噂な為に一瞬本気で信じてしまったが。

 

「っ!?」

「イッセーさん!」

 

 ふと、久し振りにすれ違った一誠が何故か尻餅をついて、転校生の『アーシア・アルジェント』が彼に駆け寄っていた。

 

(どうしたんだ、あいつ?)

 

 そんな彼の様子に疑問は覚えるがそれ以上は特に気にも留めない。その程度の関係の間柄なのだ、態々気にする必要も無いだろう。

 

 

 

 

 

(な、なんなんだよ、今の? 大和の奴とすれ違っただけで……)

 

『おい、相棒! あいつは一体何者だ!?』

 

 尻餅をついて倒れていた一誠に彼が宿す神器(セイクリッド・ギア)の中に宿る赤龍帝『ドライグ』の声が響く。彼の問いに答える間も無く、ドライグは言葉を続けていく。

 

『いいか相棒、アイツには迂闊に近づくな! あの人間の小僧から、あの巨人の気配を感じる……。いや、奴の武器だけかもしれんが、今の相棒では敵対したら一瞬で殺されるぞ!』

 

 まくし立てる様に言葉を続けるドライグ。何よりも彼自身が近付きたくないのだ。……二天龍の誇りも今だけはどうでも良い。敵対したら確実に滅ぼされかねない。

 まだドライグが神器に封じられる前に現れた怪物……二天龍を、魔王を、聖書の神さえも意にも介さなかった怪物を葬った光の巨人の気配……。敵対したいなどとは思わない、いや……考えたくも無い。

 

(……良く分からないけど、部長に相談してみよう)




夢の中のウルトラマンオーブ=転生者。大戦時に転生して何かやらかそうとしていたが、力を制御出来ずにマガゼットンと相打ちに終わりました。
二度と出番のない人なので、ウルトラマンオーブがいる理由づけ程度の扱いです。


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なのは×SDガンダム?

「なんだよ、これ!?」

 

 少年が絶叫を続けている。彼は転生者であり、高い魔力を持って高ランクの屈託魔導師としてこの場に居る。

 彼が参加した任務は、とある管理外世界の反管理局組織の撲滅だった筈だ。デバイスは愚か、航空戦力も無い小さな組織……直ぐに終わる程度の簡単な任務のはずだった。だが、蓋をあけてみればどうだろうか?

 

 最初のうちは順調だった。相手は数こそ多いが十人程度の魔導師でも容易に制圧可能と考えられていた程度の相手でしかない。其処に高ランクの魔導師の自分が居るのだから、精々自分の輝かしい功績の一ページになってもらおうと考えていた。だが、

 

「動けよ! 動けよ、このクソデバイス!!!」

 

 突然全員の持っていたデバイスが機能を停止した。同時にバリアジャケットも解除され、強制的にリミッターが掛けられ……一切の魔法が使えなくなった。

 そうなれば結果はどうなるだろうか?

 簡単な話しだ。

 先ほどまで恐怖の対象でしかなかった敵が突然武器を失った。敵にしてみれば、罠と疑うが、それでも自棄になって反撃に打って出た……出てきてしまったのだ。

 

 先ほど更に一人の管理局員が敵に捕まり、その場で殴り殺された。

 

 周囲で次々と仲間が殺されていく様を見て恐慌状態に陥る局員達……特に転生者の少年は酷い。

 

「シネェェェェェェェェェエ悪魔ぁ!!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 反管理局組織の構成員が木の棒を持って殴りかかってくる。戦闘員ではないため、武器と言えばその程度の代物だが、相手は所詮子供……簡単に殴り飛ばされて地面に転がる。

 

「ひぃ!?」

 

「殺せぇ!!!」

「逃がすな!!!」

 

 相手は先ほどまで上空から強力な魔法で砲撃してきた悪魔。姿は子供でも構成員達にとっては悪魔でしかない。……そんな相手に遠慮など出来るだろうか? できるはずも無い。壮絶な袋叩きは少年が絶命してからも続けられ、袋叩きに参加していた構成員が正気に戻った頃には全身の骨が砕かれ、貌など親ですら見分ける事ができないほどに潰れていたそうだ。

 

 局員の全滅……無理を言って借りてきた他所の派閥から高ランクの魔導師……地球出身のそれも、PT事件、闇の書の終焉に関わった優秀な魔導師を失った指揮官は間違いなく無能の謗りを受けるだろう。

 その事実に焦った指揮官はアルカンシェルの使用を命令するも……その瞬間、次元航行艦は光に包まれる。

 

 

 

 管理外世界の悪夢。

 

 

 

 そう呼ばれる『GX事件』と呼ばれる長きに渡って続く事件の幕は静かに上がったのだった。

 

 それから数日後、訓練生間の模擬戦で訓練生が皆殺しになる事件が起こる。最後の一人の訓練生は救助に来た教官たちの姿を見た瞬間に恐慌状態に陥り、殺傷設定で魔法を乱射し始めた。やむを得ず反撃に移った教官は……非殺傷設定が解除されていた魔法を放ち、訓練生を殺害してしまう。

 後に調査の結果、訓練生達の使っていたデバイスから全て殺傷設定にされていた事が分かった。残された記録から、互いに殺傷設定だと知らずに模擬戦を続行した結果の事故であるとされている。

 

 その後も、非殺傷設定が勝手に解除され、その結果訓練生や教官、流れ弾による市民、序でに犯罪者にも多くの犠牲者を出す事となる。

 

 

 

 管理局の狂乱

 

 

 

 管理局は訓練生に殺し合いをさせる事で魔導師の質を高めようと考えた。狂った魔法至上主義者達が管理局の上層部を多く締め彼らは魔法を使えない者を皆殺しにしようとしている。等等、その何度も続く事故を管理局に対する反管理局を掲げるマスコミからは大いに叩かれ、管理局員になろうとする者が激減し、局員や訓練生も管理局から逃げるように去って行った。居もしない狂人達に恐怖してだ。

 

 また、これもまた、後の『GX事件』の一部に過ぎない。

 

 

 

 

 

 

 

「マジどうしよう」

 

 その男はそう呟く。……人の輪廻転生を司る神であり、大体くじ引きによって決定する『異世界転性コース』と言う辺りクジを引いた者が送られる……『一時の夢』と言うべき異世界への転生に一つの最悪のエラーが発生した。

 

 『魔法少女リリカルなのは』と言う作品を基に作られた世界に、別の世界の邪悪が落ちてしまったのだ。

 

 はっきり言おう。近くにあった仮面ライダーやらウルトラマンの世界へ落ちただけなら、向こうのヒーローが何とかしてくれるだろう……。ぶっちゃけ、勝ちが確定しているし、上下にあるコンパチヒーローシリーズは絶望するレベルに敵じゃ無いし、SD戦国伝やらの作品だったら、絶望しているだろう……邪悪が。

 その邪悪に取って人生ルナティックの難易度が有る世界から逃げ切った挙げ句に、逆に人生イージーモードの世界に落ちた幸運は不謹慎ながら賞賛したくなる。

 

「戦う武器も無いんじゃもんな、あの世界」

 

 幸いその武器の一つは送ることが出来るし、制作方法や設計図があれば再現は可能だ。だが肝心の者が存在して居ない。

 

「戦える者が居ない世界に逃げるとは……」

 

 そう、その邪悪の名は『将軍X』! 闇大帝、魔殺駆と言った姿を自在に利用した邪悪なる生命体。その正体は『闇帝王』!

 幾度と無くガンダムを愛する少年達を苦しめ、最後には真の姿を表しながら三人の魂を宿し、復活した新世大将軍に倒された邪悪なる敵である。

 

 そもそも、神が人間と接触できるのは転生者だけであり、その転生者の一人は既に無残にも殺されている。

 ……序でに言うと、将軍Xがやったのは送り込んだコンピューターウィルスでデバイスの機能を停止させただけで、それ以外は何もしていない。管理局のコンピューター全体の広がった意思を持ったウィルス達は将軍Xの命令で戦艦の自爆、デバイスの機能の停止及び非殺傷設定の解除、所有者への強制的な魔力の制限などを行なっていたりする。

 デバイスの機能を停止された転生者は膨大な魔力を制限され、普通の子供程度の力しか出せずになり、成すすべなく言質の人間に袋叩きにされて撲殺されてしまった。遺体も回収されることも無く討ち捨てられ……家族の元に帰る事は無いだろう。

 

「まあ、幸か不幸か彼はそれが得意のようだから……何とかなる。…………なったら良いな、本気で」

 

 そう言って取り出した戦う為の武器となる道具を用意する。もう一つの武器は現地張達が可能であり、寧ろ現地で作りあげる方が良い代物だ。

 

 

 

 

 数日後……

 

 

 

 

「どうしてそうなる?」

 

 全てサッサと死んだ転生者のせいだというのは分かっている。……もう一人の転生者である彼を死んだ転生者が無実の罪を着せた為に、あの世界の中心人物であるなのは達に敵意を抱いているのは分かっていたが……。

 

 元々あの世界の担当だった神が与えるはずだった転生特典……それを渡す事で頼み込み、何とか最初の一度だけ要請を受けてもらう事を約束して貰った。……別途要請達成後の報酬も約束したし、それが欲しければ今後も受けてくれるだろう。

 

 彼とあの世界の中心人物達にあった溝、それはかなり深いものだった。神の要請に従い、一度は将軍Xの配下から一度は助け、『リンディ・ハラオウン』から管理局への協力の要請を受けた。

 

 

 其処までは神の予想通りだった。……そう、“其処までは”、だ。

 

 

 其処から神の創造の斜め上を全力疾走する結果となった。彼とあわせて二人が。一人は『クロノ・ハラオウン』。不幸にも死んだ転生者の表向きの顔を信じきっていたクロノは彼へと模擬戦を挑む。

 

 半ば無理矢理に近い形での模擬戦に……本気でキレた。

 

 彼の変身した改造SD戦士の槍に串刺しにされたクロノ。急所は外れているが、その前にも勝手に模擬戦をさせられたことに始まり、今までの苛立ちをぶつけながら散々ボコボコにされていた。

 

「ホント、どうしよう?」

 

 ……『結界コントローラー』と言うアイテム。それこそがその力の名であり、将軍Xと戦う為の武器でもある。……あるのだが、ガンプラに変身する関係上、ガンプラが必要であり、ガンプラを作る技術が管理局には無い……地球出身のなのは達も興味が無かったので、技術は無い。

 

 結果、転生者である彼に渡して戦ってもらうしかないのだが、先に死んだ奴のせいで管理局には敵意むき出しである。

 

「……何か魅力的な報酬でも考えとくかな……」

 

 現実から目を外しつつ、彼『天地 大和』への報酬を考える始めるのだった。




と言うわけで、わかる人には分かるガンダム野郎という漫画とのクロスオーバーです。

SDガンダムに変身すると言うなら便利な変身アイテムもありますので! 当然、通常のガンダムにも変身可能です!


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仮面ライダー555 〜DESTINY of BLACK〜 前編

人間、何時かは必ず死ぬもんだ。結局の所、“死”って奴は誰にだって平等な物さ。だから、人間…今を楽しく生きてかないと損ってやつだぜ♪

 

 

 

“オリジナル”のオルフェノクなんてのは僅かに人生の延長戦を貰っただけ、化け物(オルフェノク)の力はその特典って奴かな? まっ、人もオルフェノクも人間で有る事には違いないって、解かってない奴がホントに多いよな。

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

『Φ』の文字をイメージさせる仮面と、その全身を流れる赤いフォトンブラッドのボディーを持った超金属のハイテク戦士『仮面ライダーファイズ』と対峙するのは、灰色の体を持つ動物を象った甲冑を纏った人間…否、人と動物を混ぜた様な怪物とでも言うべきだろうか…そんな姿の異形の怪物…オルフェノク。

 

 

 

『Exceed Charge』

 

 

 

「ま、待て…助けて…。」

 

 

「じゃあな~。」

 

 

助けを求めるオルフェノクの言葉にファイズは軽い口調でそう告げる。気軽く、同時に慈悲の無き断罪の言葉…。

 

 

電子音と共にフォトンブラッドがファイズの右足へと収束して行き、標的であるオルフェノクへと向けて右足を突き出すと、彼の右足に装着された『ファイズポインター』が赤い光線を放ち、命中すると同時にそれは円錐状に広がる。

 

 

「はっ!」

 

 

そこへ向けて空中へと跳び一回転し、赤い円錐へとキックの体制をとったファイズが突入すると、次の瞬間にはオルフェノクの背後へと着地する。

 

 

「ア・・アァァァァァァァァァア!!!」

 

 

「クリムゾンスマッシュ。ってな♪」

 

 

どこぞの“時を守る戦士”の“斧の姿”の様に己の必殺技の名を告げると彼の背後でオルフェノクが『Φ』の紋章を浮かべその全身を青白い炎に包まれ灰へと代わっていく。

 

 

「さて、帰るかな。」

 

 

今までオルフェノクだった灰を一瞥もせずにファイズはベルトを外し変身を解くとその場を立ち去って行く。

 

 

(人殺しは良くないぜ…結局、アンタも“人間”なんだからな♪)

 

 

彼、仮面ライダーファイズ…『風間(かざま) 浩平(こうへい)』は心の中で自身が葬ったオルフェノクへとそう告げながら、

 

 

(ま、来世じゃ長生きしてくれよな♪)

 

 

そう告げて振り返る彼の姿には狼の印象を持ったオルフェノク(ウルフオルフェノク)の姿が重なっていた。

 

 

 

 

 

人知れず行われているファイズ、カイザ、デルタ…三人の仮面ライダーとオルフェノクの戦い。その戦いを知る者達はこう考えるだろう…それは人とオルフェノク…その二つの種の“生存戦争”だと。

 

 

だが、それを仮面ライダーファイズ…浩平は否定する。“オルフェノクもまた人間だと”。人間と言う種を殺す為に発生した癌細胞…それが“オルフェノク”と考えながら。

 

 

短命であり、正常な細胞(人間)を癌細胞(オルフェノク)に変えて数を増やす人の死の先に有る存在。呪われた幸福な生…だが…人を殺した瞬間、罪を感じる心が消えた瞬間に…人は“化け物”へと代わる。力と異形の姿を得、禁忌が消えた瞬間…。自分が殺すべき“オルフェノク”はそんな“化け物(オルフェノク)”だけだと自身に定めながら…。

 

 

 

 

 

翌日…

 

 

「今日も急がないと遅刻だな。」

 

 

「あー、どうして何時もこうなるの~! って、なんでそんなに余裕なのよ、浩平!!!」

 

 

朝から全力疾走中の浩平とその幼馴染の『速水(はやみ) 瑞花(みずか)』の二人の姿が有った。

 

 

「それは熟練度の差って奴だ。遅刻がいやなら、オートバジンかジェットスライガーでも呼ぶか。」

 

 

自慢気にそう言いつつ、ファイズフォンを取り出して瑞花に見せながらそう言うが、

 

 

「それはダメ!!! いい訳ないでしょう!!!」

 

 

朝から無人で疾走するバイクははっきり言ってかなり目立つ事だろう。

 

 

「そうか? だったら、ファイズに…。」

 

 

「なに、一番ダメな方法を取ろうとしているのよ!!!」

 

 

高校への通学の為に変身する仮面ライダー…そんな事をしたら何れ『仮面ライダーに変身しての通学禁止』等と言う特定の人物にしか縁の無いピンポイントな校則が出来そうなくらいだ。

 

 

…実際、一人仮面ライダーに変身して通学した“鏡の騎士”が別の作品にはいる事だし。

 

 

「って、こんな事言ってる場合じゃないのに!!!」

 

 

「大丈夫だ、一分前には着ける。」

 

 

「全然大丈夫じゃな~い!!! 浩平は今度から部屋の時計5分くらい早めておいてよ!!!」

 

 

そんな会話を交わしながら二人が学校の校門を潜ろうとした時、

 

 

「やあ、瑞花さんおはよ……ヴ!」

 

 

出てきた青年…二人のクラスメイトにして、もう一人の仮面ライダー『仮面ライダーカイザ』である風紀委員の『草加 雅人』の顔面に飛び蹴りを放ち浩平は校舎へと走って行く。

 

 

「って、浩平!!! く、草加くん、大丈夫!!!」

 

 

「ウ…ウグゥ。だ、大丈夫だよ、瑞花さん。って、止まれ風間!!! 大人しく遅刻者のペナルティを受けろ!!!」

 

 

「なんだよ、草加、まだ時間は有るだろう。」

 

 

「少なくとも、授業開始の5分前に校門を潜るのが常識だろう!!! まったく、困るなぁ、優等生の瑞花さんまで君に巻き込んで…って、無視して行くな!!!」

 

 

嫌味を無視しつつ、校舎へと向かって行く浩平に向かって草加が怒鳴るが…。

 

 

「草加君の言う通りだよ、ちゃんと私達も罰則は受けないと…。」

 

 

「ああ、瑞花さんはいいよ。彼に巻き込まれただけだろうしね。」

 

 

「おお、サンキュー、結構いい奴だったんだな。」

 

 

「って、お前は受けろ!!! 大体、今朝から他の生徒が俺を見て笑ってるのはお前が原因だろう!!!」

 

 

「ああ、何時かのお前の告白をこっそり録音しておいた奴を校内放送で流したからな。」

 

 

サムズアップと共にそんな事を言ってくれる浩平。彼が言う草加の告白とは…『瑞花は…俺の母親になってくれるかも知れない女性なんだ!』と言う告白を録音したテープを放送室に紛れ込ませておいたのだ。

 

 

しかも、幸か不幸か丁度草加はその日は病欠…瑞花も事情があって早退した為聞かれる事は無かったのだが…。

 

 

「三原にまで変な目で見られるんだぞ!!!」

 

 

元『仮面ライダーデルタ』こと、彼の舎弟(笑)の『三原 修二』にはしっかりと聞かれた様だ。

 

 

どうでも良いが“元”と付いているのは、ちょっとした一件で草加のカイザギアと共にデルタギアを浩平に強奪された後、デルタギアは彼の手である人物に渡された。

 

 

「いいじゃないか、カイザ・クサカブル。」

 

 

「変なあだ名で呼ぶな!!! 広める気か!? 広める気だな!!!」

 

 

「ちょ、ちょっと、草加君落ち着いて。浩平もからかわないで!!!」

 

 

終いにはカイザギアを取り出して変身しそうな勢いの草加を宥めつつ、浩平を窘める瑞花だった。

 

 

 

 

 

放課後…

 

 

「もう…浩平も草加君も仲が良いのか悪いのか、わからないわね。」

 

 

「ん~、仲が悪いんじゃないのか? まっ、背中預ける程度には信頼してるけどな。」

 

 

正しく言えば浩平と草加の関係は『水と油』と言った所だろう。簡単には交じり合う事のない相性…外的要因を持って一時的に混ざり合う事は有るだろうが時が経てば直に分離してしまう。

 

 

それでも、戦力としては信用されているのか、オルフェノクと戦う時のチームワークだけは良いのだ。

 

 

何時もの事ながら風紀委員と言う立場の草加が、直に帰宅できる訳もなく部活に所属していない浩平と瑞花の二人が一緒に帰っていると言うわけである。………それ以前に草加と瑞花は帰る方向も違うし。

 

 

「それでね、今日のコンサート、私も行きたかったけどチケットは一人分だけしか…。」

 

 

「そりゃ、残念だったな。」

 

 

二人の会話の中に有るのは浩平ともそれなりに知っているクラスメートの少女の話し。好きな歌手のコンサートのチケットが手に入ったという話らしい。

 

 

「…でも、本当に浩平のお父さん達何処に居るんだろうね。」

 

 

「さあな、今更出てこられても帰って困るしな。まあ、生きてるのか死んでるのか…って、悪い。」

 

 

「あっ、いいよ、私こそ変な事言っちゃってごめん。」

 

 

浩平も瑞花も両親は居ない。ただ、浩平の両親が行方不明と言うのに対して、瑞花の両親は事故でなくなっているのだ。…しかも、その時の事故には瑞花も巻き込まれ、『流星塾』と言う施設に引き取られたらしく、草加とはそこで知り合ったらしい。

 

 

浩平とは転校生と言う形でファイズギアやオルフェノクとの戦いとセットで再会したのだ。

 

 

(…面白い話だけど、ファンタジー過ぎるな。)

 

 

以前から瑞花から語られた彼女の巻き込まれた事故の前後の記憶…その中で彼女は彼女の母と“同じ姿”をしたもう一人の母親を見たらしいのだが。

 

 

「あ、じゃあ、また明日ね、浩平。伯母さん達が居ないからってちゃんと食べないとダメだよ。」

 

 

「ああ。まっ、適当に健康にも気を付けるさ。」

 

 

「もう、適当って、ちゃんとしないとダメ!」

 

 

「何を言う瑞花。適当と言うのは、正しくはいい加減と言う意味じゃないんだぞ。」

 

 

「はいはい、解かったから、それじゃあ。」

 

 

「ん、またな。」

 

 

そう言って会話を切り止めると手を振って家に入っていく瑞花に軽く答える浩平。家の傍らに止められたオートバジンに『ただいま』と挨拶しながら家の中に入っていく。

 

 

 

 

 

某所…某企業

 

 

スマートブレインと呼ばれる会社の社長室。その中でスマートブレインの社長『村上 峡児』は三人の男女を招いていた。

 

 

「本日、皆さんに集まって頂いたのは、彼等の事です。」

 

 

そう言って差し出された写真はカメラ目線でブイサインを見せている浩平と三人の仮面ライダーの計四枚が存在していた。

 

 

「か、彼は!?」

 

 

写真を見た瞬間、思わず立ち上がって後ろに下がるスーツ姿の男…最強のオルフェノク集団『ラッキークローバー』の一人、『琢磨 逸郎』はイヤな物でも見たという様な態度で後ろに下がる。

 

 

「あら、この子は、確かファイズの…。」

 

 

浩平の写真を手に持ちながらそう言ったのは、20代後半の女性。ラッキークローバーの紅一点『影山 冴子』。

 

 

「ええ、本題はファイズ…風間浩平の事です。彼を是非我々の仲間に加えたい。」

 

 

「「っ!?」」

 

 

村上の言葉に驚愕を浮かべる琢磨と冴子の二人。当然だろう…何人もの仲間を葬ってきた天敵とも呼ぶべき存在を仲間にすると言うのだから。

 

 

「うん、いいね、賛成! 彼って面白いから。」

 

 

唯一村上の言葉に賛同するのは『北崎』。ラッキークローバーの中で自他共に最強と見とめるオルフェノク。彼の持った写真は直に灰へと変わってしまう…それが彼の持つ特殊能力。普通の人間は触れただけで灰になり、オルフェノクであってもただ一つの例外を除いて徐々に灰になってしまうのだ。

 

 

…………有る意味、もっとも浩平の事を気に入っている者である。

 

 

「ええ、やっと分かった事ですが、彼は本来我々の側に立つべき存在…。上の上…いえ、“特上”とも言える存在です。」

 

 

村上のその言葉に驚愕の表情を浮かべるしかない三人。続いて出された3枚の資料を見せる。

 

 

「…彼の両親…風間夫妻は前社長の代の研究員でした。…そして、両親共に“オルフェノク”…。」

 

 

「まさか…彼は…。」

 

 

冴子は村上の言葉にそう言う。

 

 

「ええ。彼は…オリジナル以上のオリジナル…生まれながらにしての“オルフェノク”です。」

 

 

生まれながらのオルフェノク…“オルフェノクは短命”…その言葉さえも否定しかねない、オルフェノクの希望とも言える存在が自分達の天敵の一人、ファイズとして人類の側に立っているのだから驚愕は隠せないだろう。

 

 

「既に彼の転校の為の書類と新しい住居は用意してあります。ですから、カイザとデルタのベルトを回収し、彼を仲間に引き入れる為の切り札を用意しました。」

 

 

村上の言葉が響くと同時に部屋のドアをノックする音が響き、トランクを持った二人の少女が入ってくる。

 

 

二人の服装はスマートブレインの直営の高校『スマートブレインハイスクール』の女子用の制服で、金色の髪を編んだ髪型の少女と、活発な印象を与える黒いロングヘアーの少女。

 

 

「彼女達が切り札ですか? それに…それはまさか!?」

 

 

「ええ、我々が所持する北崎さんの『オーガ』、私の『サイガ』とは別の調律のベルトの適合者…。」

 

 

金色の髪の少女が前に出て一礼する。

 

 

「彼女が『アルフォス』のベルトの適合者。」

 

 

「『佐原(さはら) 茜(あかね)』です。」

 

 

自分の名を名乗り、そのまま後ろに下がる。茜と入れ代わる様にロングヘアーの少女が前に出る。

 

 

「彼女が『ガルオン』のベルトの適合者。」

 

 

「『時川 みさき』です。」

 

 

自分の名を名乗り彼女…みさきもまた一礼して茜と並ぶ様に立つ。

 

 

「待ってください、彼の説得なら私達でも…。」

 

 

「ヤダなぁ~。ぼくも彼と遊びたいのに。」

 

 

「すみません、彼女達に動いて頂くのには理由がありましてね。実は皆さんには別にお願いしたい事が有るんです。」

 

 

「お願いしたい事?」

 

 

「ええ…。人間とオルフェノク以外にも存在している様なのですよ…第三の存在が。」

 

 

 

 

 

絡み合う物語…思惑…新たな戦士たる二人の少女…そして、赤き閃光の騎士『仮面ライダーファイズ』…浩平は出会う…新たな物語を紡ぐ少女達と…。

 



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仮面ライダー555〜DESTINY of BLACK〜後編

『Standing by』

 

 

ベルト型の『ファイズドライバー』を腰に巻き、携帯電話型変身ツール『ファイズフォン』を取り出しファイズフォンにスタートアップコード『555』を入力し、Enterキーを押し、浩平はファイズフォンを高く掲げる。

 

 

「変身!!!」

『…Complete』

 

 

力を与える言霊を叫ぶと共にファイズフォンをファイズドライバーに挿入すると電子音が響き、浩平の全身に赤いフォトンブラッドが流れ、彼は超金属のハイテク戦士『仮面ライダーファイズ』へと変身する。

 

 

「さーて、行きますか。」

 

 

『Ready』

 

 

ファイズフォンからミッションメモリを外し、オートバジンの左ハンドルへと差し込み、ファイズエッジとなったそれを構える。

 

 

深夜の街に光るファイズの金色の瞳と全身に流れる真紅のフォトンブラッドとファイズエッジの刃を輝かせ、ファイズは眼前のオルフェノクへと向かって行く。

 

 

 

 

「あー、やれやれ、明日も学校だってのにこんな遅くに出てくるなよな、あのオルフェノクも。」

 

 

オルフェノクとの戦いを終えて、ファイズの専用マシン『オートバジン』の座席に腰掛けながら、浩平は伸びをする。

 

 

「まあいいか、何時もの店にでも行って夜食でも食って帰るか♪」

 

 

そもそも、相手もこちらの都合に合わせて出て来てくれる訳ではないのだから、『どうせ、何時もの事だしな』と心の中で呟きく。

 

 

ここ数日、この辺で騒がれていた『灰色の怪物』の一件も原因となっているオルフェノクも退治した事で、これで解決しただろうと考えながら、オートバジンを走らせる。

 

 

自分が勝手に持ち出して別の人間に渡したデルタギアは兎も角、草加の所に有る筈のカイザギアも話によれば何者かに奪われたらしいのだから、今現在、自由に動けると同時にライダーギアを持っているのは自分だけだ。

 

 

そんな自覚があるのか無いのかは非常に疑問だが、仮面ライダーファイズ『風間 浩平』はオートバジンを走らせる。

 

 

 

 

目的のラーメンの屋台を見つけると浩平はそこの暖簾を潜る。

 

 

「こんばんはー♪」

 

 

「おう、いらっしゃい! 丁度こいつで最後になる所だったんだよ。」

 

 

「ん~繁盛してますね~。」

 

 

心の中で『給料出ないけど、オレ(ファイズ)と同じで』などと考えていたりする。

 

 

「いや、普段の3分の2しか仕入れてねえのよ。」

 

 

「どーかしたんですか?」

 

 

目の前に置かれたラーメンに視線を向けつつ箸を割りながらそんな会話を交わす。

 

 

「ほら、この近くに工事現場が有るだろ? そこに毎晩、不良共がそこに集まって何かと騒ぎを起しやがってさ、この間も通行人が巻き込まれてケガしたらしいんだよ。」

 

 

「へぇ~。」

 

 

その一件の被害者は死亡していて死亡事故なのだが、オリジナルのオルフェノクとして覚醒した事で生き返ったらしい。そして、不良達はオリジナルのオルフェノクによって殺されたが、運良く一人だけオルフェノクとして覚醒、本日浩平が退治したオルフェノクがそれに当たる。

 

 

「まったく、警察なんかあてにならねえ世の中だよ、浩平君も気を付けた方がいいよ。」

 

 

「へ~い。」

 

 

警察があてにならないと言う点ではこれ以上無いほどに同感だ。『オルフェノク関連の事件で警察があてになるなら、ライダーズギアは要らない』と言うのは浩平の弁である。

 

 

「いただきま~すっと。」

 

 

手を合わせて割り箸を割ると目の前のラーメンに箸を着けようとした時、

 

 

 

『あの…。』

 

 

 

後からそんな声が掛かってきた。そちらの方へと視線を向けると、

 

 

「ラーメン下さい。」

 

 

そこには粗末な大き目の服を着た腰…いや、膝まで伸ばした黒い髪、胸元からは一匹の黒い子犬が顔を覗かしている少女が居た。

 

 

「………。」

 

 

粗末な服を着ているが彼女の外見は十分美少女と呼べるほどの容姿をしていた。

 

 

だが、浩平が彼女が気になった理由は服や容姿ではなく、もっと別のモノ…。

 

 

(…人間とは違う…? …オルフェノクとも違うようだし、こいつ…何者だ?)

 

 

浩平のウルフオルフェノクとしての本能的な部分で感じ取れるそんな感覚。その感覚に従い僅かに警戒を露にするが、別の部分ではまったく危険を感じていないので、即座にそれを斬り止めた。

 

 

「なんだよ、金はちゃんとあるのかい?」

 

 

「ありますよ、これ…。」

 

 

そう言って彼女は小銭を差し出す。

 

 

「ん? 620円…チャーシュー麺が食えるな。」

 

 

「それ下さい!!!」

 

 

それを覗き込んだ浩平の言葉に嬉しそうに目を輝かせながら、少女はそう言うが…。ここで金銭以外に問題があった。

 

 

「ああ…悪いけど、もう品切れだったわ。」

 

 

すまなさそうにそう言う店主。…そう、浩平の分で最後だったのだ。

 

 

「品切れって……ラーメンを食べられないって事ですか!?」

 

 

「ああ、このお客さんので最後だったんだよ。」

 

 

「そ…そんなぁ!!!」

 

 

そんな少女と店主の会話を気にせずにラーメンを食べようとした時、浩平は再び手を止める。

 

 

「…………。」

 

 

モノ欲しそうな表情で『じーっ』とでも言うような擬音が付きそうなほどに少女が彼の食べようとしていたラーメンを見ていた。

 

 

「…………………………。あー…良かったら、食べるか…これ?」

 

 

「ほ…本当ですか?」

 

 

「浩平くん、そこまでしなくても…。」

 

 

「ん~…まあ…。」

 

 

浩平が言葉を続けようとした時、余程空腹だったのだろう…彼の差し出したラーメンを勢い良く食べる少女の姿があった。

 

 

「…なんなんだ…こいつ?」

 

 

己の本能の部分で人ともオルフェノクとも異質と告げているが、それとは正反対にまったく危険を告げていないという相手…。思わずそんな言葉が零れてしまう。

 

 

「最近この辺りでよく見かけるんだが、ホームレスにしては幼すぎるだろ。何やら訳有りらしいんだが。」

 

 

(…訳有ねぇ…。)

 

 

店主の言葉にそう思う。彼女から感じられる感覚から訳有りと言うのには納得行くが…。

 

 

「なんか、子供の頃を思い出すな。」

 

 

無邪気にラーメンを食べる姿から既に毒気が抜かれてしまっている。

 

 

「あんな風によく瑞華の所でオバサンの料理を食べてたっけかな。」

 

 

「あれ、君のところのお母さんは?」

 

 

「ん~…何時も親父と一緒に忙しくしてたからな~…手料理なんて食べた記憶は無かったっけかな。…今じゃ二人して行方不明だし…何処で何してんだか?」

 

 

「なんか…申し訳ない事を聞いちゃたか…。良かったら、瑞華ちゃんって子のお母さんも一緒に来なよ。お詫びに一杯奢るからさ。」

 

 

店主の言葉に浩平は苦笑を浮かべ…

 

 

「ああ、それも無理ですね~。オレの所と違って、あいつの母さんってもう居ないからな…。」

 

 

「何?」

 

 

以前瑞華から聞かされた話…それを何故かこの時話したくなってしまったのだ。後に浩平はこの時の事をこう語る。『あれを話したのは必然だったのかもしれない。』と。

 

 

「オヤジさん…ドッペルゲンガーって知ってる?」

 

 

「え?」

 

 

「よく有る怪談話ですよ。『ドッペルゲンガー』…世の中には自分と同じ顔をした人間が居て、それに有っちゃうと死ぬって話ですよ。…瑞華(あいつ)は出会ったそうなんですよ…あいつの両親が死ぬ前日に…まったく同じ顔をした…あいつの母親に…。」

 

 

そこまで話した後、『あはは』と笑いを浮かべ、

 

 

「まあ、結局オレ以外誰も信じなかったですけどね。」

 

 

…運命に『if』はない…。

 

 

「それ違いますよ。」

 

 

口を開くのは少女…。…彼女に対してその話を聞かせる事が運命が示した一つの必然…。

 

 

「それは、『ドッペルライナー』。二人じゃなくて、三人ですし…。」

 

 

「ッ!? お前…今なんて…。」

 

 

オルフェノクと退治した時のように表情を変え浩平は少女に向かってそう問いかける。

 

 

「ドッペルライナーって言うのは、共存均衡によって三人の存在が…。」

 

 

思わず少女の言葉に聞き入ってしまう。だからこそなのだろうか…。その場に現れる新しい登場人物に気付かなかったのは…。

 

 

「っ!?」

 

 

それに気が付いた時、少女の体が木材の破片で殴られた事で弾け飛び、血飛沫が飛び浩平の顔へとかかる。

 

 

(…な、なんだ?)

 

 

そこに立って地面に倒れ付す少女を見下ろすのは木材で彼女を殴り飛ばしたフードの男。

 

 

「アンタ、なにやってんだよ! こんな幼い女の子を殺す気か!? あたま可笑しいんじゃないのか!?」

 

 

店主が抗議の声を上げるが、フードの男はそれに構わず腕を振り上げ、店主に向かってそれを叩きつけようとした時、

 

 

「…おいおい…あんた…幾らなんでも遣りすぎじゃないのか?」

 

 

振り下ろされる腕を浩平がしっかりと受け止めていた。そして、そのまま受け止めた腕を始点に回転し、顔面へと回し蹴りを叩きつける。

 

 

「グゥ!」

 

 

それによって、距離が取れた事で男と倒れている少女の間に立ち店主へと向き直る。

 

 

「オヤジさん、早く警察に…。」

 

 

「あ…ああ!」

 

 

そう言ってその場を離れていく店主を見送りながら、フードの男へと向き直る。

 

 

「おいおい…子供相手にそんな物持ち出して大人気ないな…あんた…。」

 

 

「邪魔をするな。」

 

 

フードの男は普通の人間ならば動けなくなるほどの威圧感を放ちそう言い放つ。だが、

 

 

「はぁ?」

 

 

「たかが、人間(・・)の分際で…。」

 

 

「へぇ~…それで、あんたはどう言う化け物なんだ?」

 

 

浩平はその威圧感もまるで涼風の様に受け流している。

 

 

「元神霊(もとつみたま)の中で最強の獅子神一族を怒らせておいて、無事に済むと思っているのか?」

 

 

「…あー…。とりあえず、化け物さん…そいつはこっちの台詞だぜ…。」

 

 

浩平の姿と重なるのはウルフオルフェノクの姿…。

 

 

「子供相手に大人気ない事は止めて…化け物同士で殺し合いと行こうじゃないの…。化け物さん?」

 

 

「ッ!?」

 

 

浩平から放たれる威圧感に対して一歩後ずさるフードの男…。

 

 

「ッ!? バ、バカな…恐怖を感じているだと…下賎な人間ごときに…。」

 

 

「ほら、どうした…来ないのか? 負け猫一族の化け物さん? サイキョーなんだろ?」

 

 

挑発する浩平と重なる異形の影はいつの間にか姿を変えていた…。ウルフオルフェノクとは違う姿…より攻撃的で高い凶暴性を感じさせる姿へと…。

 

 

「…ラーメン。」

 

 

聞こえてきたのは、殴り飛ばされた少女の声…。少女は血の流れる額を押さえながら立ち上がる。

 

 

「私のラーメン。最後の一杯だったのに…。許せない。」

 

 

僅かながらの関わりだが今までの少女から感じさせてくれる気配とは正反対の感覚…。そして…

 

 

(頭殴られて、あれだけ派手に血を流して起き上がるか? …なるほど…あいつも普通じゃないみたいだな…。)

 

 

「この…許さないだと、生意気を言うんじゃ…。」

 

 

少女は言葉を言い切る前に男の懐に飛び込み、

 

 

「ない…!?」

 

 

男の顔面へと左のストレートを叩き込む。

 

 

「ボクシングか…あれは。」

 

 

「この小娘が、舐める…なぁ!?」

 

 

「えぇ!?」

 

 

浩平の裏拳が男の踏み込みと合わせた破壊力で鼻を潰すほどの衝撃となって叩きつけられ、同時に少女の腕を掴んでいた。

 

 

「はい、ストーップ…。はい、こっちに来て。」

 

 

そう言って腕を掴んだまま…子犬を拾い上げ男から僅かに距離を取る。

 

 

「あ、あのちょっと…待ってください。」

 

 

「き、貴様…さっきから人間の分際で人を…。」

 

 

「おお、いい男になったんじゃないの…ところで…そこ…危ないぞ。」

 

 

いい笑顔を浮かべながら忌々しげに睨み付ける男に対してそう言い放つ浩平。

 

 

「報いを…。」

 

 

男の振り上げた木材が乾いた音と共に半分に折れた。

 

 

「「…………。」」

 

 

乾いた動作で『それ』が飛んできた方向を見ると…そこには…。

 

 

「「な、なんだあれはー(なんですか、あれぇー)!?」」

 

 

奇しくも男と少女の声が重なった。

 

 

「おー、ナイスだ、相棒。」

 

 

サムズアップと共に空中を飛び車輪の中央から伸びた銃口を向けている人型ロボット『オートバジン』にそう言う浩平。

 

 

「き、貴様の仕業か!? なんだ、あれは!?」

 

 

「ゴー♪」

 

 

サムズアップしていた手をそのまま真下に向けると、

 

 

「アァァァァァァァァァァァァァァァァアアー!!!!」

 

 

男は、上空のオートバジンの前輪『バスターホイール』に内蔵された16門のガトリングマズルから12mm弾を一秒間に96発も連射され、涙目になりながら踊らされる。

 

 

「ま、街中で何てもん使ってんだお前は!?」

 

 

「ん? 銃弾よりミサイルの方が良かったか?」

 

 

「…スイマセンデシタァー!? 銃弾の方がマシですぅ!!!」

 

 

「ひ…ひぃ…。」

 

 

平然と余慶に物騒な手段を挙げる浩平に対して銃弾の雨で涙目になりながら踊らされているフードの男は土下座する程の勢いで謝り、少女は…『危険人物』を見る目で見ていた。

 

 

やがてカラカラと乾いた音が鳴ると銃弾の雨は止み、オートバジンが浩平達の下へと降りると浩平はその姿をウルフオルフェノクへと姿を変え、安心したように立ち尽くすフードの男と己との距離を一瞬の内に詰めると顎にアッパーを打ち込み、体が浮かび上がった所に廻し蹴りで無理矢理大地へと縫い付けんばかりの勢いで叩きつける。

 

 

「はい、お終い。」

 

 

「……………………。」

 

 

暫しの沈黙…。オートバジンは何故か子供をあやす様に少女の頭を撫でている。

 

 

「あ、あ…あの、ゴメンなさい!!! 本っ当にスイマセン!」

 

 

再起動と同時に少女は浩平に向かって謝り始めた。

 

 

「関係ない人を巻き込んでしまって…おケガは無いですか!?」

 

 

焦ってそう問いかけてくる少女だが、当の浩平はケガ一つしていなかったりする。

 

 

「あー、怪我はないぞ。でも、残念だったな、まだ残ってたのに…。」

 

 

「アアア! ラーメンがァ! まだスープがいっぱい残っていたのに!!!」

 

 

地面に落ちているラーメンを前にして『orz』な状態になっている少女を眺めながら浩平は思う。

 

 

(…こいつ…何者なんだ…? あまり、暖かくない、関係みたいだけどな…自称化け物さんと…。)

 

 

「どうしよう……ラーメンが…。」

 

 

「はいはい…落ちた物を食べない、食べない。」

 

 

「うぅ…。」

 

 

未練がましく食べ様としている少女をラーメンから引き離す。

 

 

 

『元神霊同士の戦いの最中に、こう簡単に“刹那”を許すとはな…。馬鹿が…。』

 

 

 

意識を取り戻した男が折れた木片を拾い上げ、男はそれを振り上げ。

 

 

「死ねぇ!!! このクソガキ!!! こいつを食らえぇ!!!」

 

 

―光斬―

 

 

「ッ!? 退け!!!」

 

 

男の行動に反応した浩平が少女を引き離し、それを回避しようとするが…。

 

 

「グァァ!!!」

 

 

避け切れなかった右腕がそれの直撃を受け、引きちぎれる。激痛と共に血が灰となって行く感覚…それを伴い、浩平は意識を手放すのだった。

 

 

 

 

「やってくれましたね…。」

 

 

『Exceed Charge』

 

 

響くのは静かな少女の声と聞きなれた電子音…。

 

 

「貴方の行い…万死に値します。」

 

 

黄色のフォントブラッドのラインを持った『α』を思わせるデザインの仮面を持った女性的なデザインのスーツの仮面ライダーが剣をフードの男の真上に投げ、両腕から伸びるフォトンブラッドのワイヤーで凪ぐと、上空で破片へと変わり破片が無数のフォトンブラッドの刃となる。

 

 

「あ、あ、アァァァァァァァァア!!」

 

 

絶叫と共に全身を串刺しにされる男…そして、浮かび上がるαの文字と共に青白い炎と共に灰へと変わる。

 

 

「あ、あなたは…。」

 

 

「…話は後です…。お互い事情は知りませんが、彼の敵でないのなら今は休戦と行きましょう…。」

 

 

ライダーはベルトを外し金色の髪の少女『茜』へと変わると、浩平へと駆け寄り少女に向かってそう告げる。

 

 

 

 

これが…後に『ロード・オリジナル・オルフェノク』と呼ばれる唯一の存在となる者『仮面ライダーファイズ』=『風間 浩平』と、『仮面ライダーアルフォス』こと『佐原 茜』…そして、元神霊の少女『クロ』の三人の出会いだった。



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仮面ライダー555〜DESTINY of BLACK〜エピローグ

―夢だ。夢を見ている…。―

 

 

 

どこかのドーム。そこは今、大勢の観客でにぎわっている。

 

アリーナの中央では拘束されている瑞華がスポットライトを浴び、彼女の前には彼女を威嚇する様に咆哮するポールが檻の様に動きを阻んでいる巨大な灰色の異形、エラスモテリウスオルフェノク激情態の姿。何らかのカウントダウンを始める観客達。

 

 

 

―なんだ、この夢?―

 

 

 

カウントが0になった時、ゆっくりとポールが下がっていく。そして、完全にポールが降りる前に反対側から打ち出された光弾によってエラスモテリウスオルフェノクが後退させられる。

 

 

『待たせたな!』

 

 

浩平にとってこれ以上無いほど聞き覚えのある声…と言うよりも自分の声が響く。

 

 

『ファイズ、参上!!!』

 

 

叫びと共にファイズに変身し浩平がアリーナの中央に降り立ち、観客達からのブーイングを浴びながら時の運行を守る戦士の剣の姿の様な大見得を切ると、四面楚歌の状況を意に介する事無く、逆に挑発する様に観客達に見える様にサムズアップして見せ、それをそのまま下に向ける。

 

 

 

―変な夢だな。―

 

 

 

そんな時、ファイズに向けていた物とは別の歓声が上がり、ジェット音と共に現れる上空から降りてきた白い仮面ライダー、白き天の帝王『仮面ライダーサイガ』。

 

 

アリーナに降り立ち、勢い良くファイズに向かって駆け出して容赦なく攻撃を仕掛ける。ファイズがよろけた所でその体を抱え、その場から引き離す様に高く空中へと間上がって行く。

 

 

己の体を抱え上空に飛び上がったサイガに対してファイズはファイズフォンをフォンブラスターに変形させ、至近距離から弾丸を放つ事で引き離す。

 

 

落下しながらもフォンブラスターを背中に背負うジェット『フライングアタッカー』を狙って連射する。そして、そのまま体制を立て直してファイズが地面に着地すると同時に、サイガの体が地面に叩きつけられる。

 

 

 

―ナーイス♪ 流石、オレ!―

 

 

 

ファイズの至近距離からの射撃により、その白いアーマーの一部を黒く焦がしながら地面に叩きつけられるサイガ。フライングアタッカーにもダメージは有っただろうが、それでも致命的な物ではないだろう。サイガは余裕を見せつけながらも苛立っている様に立ち上がる。

 

 

『COMPLETE!』

 

 

アクセルメモリーをファイズフォンに装着し、胸部アーマーが展開、眼が赤く、フォトンブラッドの色も赤から銀に変わり、電子音と共に高速形態『アクセルフォーム』へと変身し、リストウォッチ型ツール『ファイズアクセル』のスタータースイッチを押す。

 

 

『START UP!』

 

 

電子音が響き、ファイズの動きが高速の世界へと移行する。通常ならば何者にも触れられないスピードの世界、だが、サイガはそれと同等のスピードで飛翔する。

 

 

 

―ずるいぞ! ってか、オレもあれ欲しいな~。―

 

 

 

どこかに誘う様に宙を舞うサイガを追って大地を疾走するファイズ。制限時間が3秒を切った時、ファイズがサイガを捉えるべく壁を蹴った。

 

 

 

―行け!―

 

 

 

遂にその一撃がサイガの背中を捉え、フライングアタッカーを破壊しながら顔面から地面に叩きつけられた。おまけに着地する序にダメ押しとばかりにサイガの背中とフライングアタッカーの片方を踏み砕く様に踏みつける。

 

 

ファイズが離れた瞬間、サイガは怒りのオーラを纏いながら操縦桿を引き抜き、トンファーエッジをファイズを睨みつける。

 

 

 

―はっはっはっ! 何処からでもかかって来い!―

 

 

 

サイガを挑発する様にファイズが指を振ると、サイガはトンファーエッジを構え、ファイズへと殴りかかる。ファイズとサイガの拳がぶつかり合おうとした瞬間、そこで浩平の意識は遠のいて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁぁ~。変な夢見たな…。」

 

 

ベッドから体を起こしながら腕に触れてみたら何故か外れたので付け直して、何か胃に入れ様と台所へ降りると、

 

 

「おはようございます、浩平、よく眠れましたか? ああ、キャベツをそのまま食べちゃいけませんよ。」

 

 

「あ! もう起きれたんですね!」

 

 

制服にエプロンを着けた金色の髪の少女『茜』が子犬と一緒にキャベツを齧っている昨日の夜に出会った少女『クロ』の首根っこを捕まえながら、挨拶してくれた。

 

 

「ん~、おはようさん。」

 

 

「簡単な物ですけど、直に朝食の用意をしますから、座っていてください。」

 

 

「ん。ああ。」

 

 

茜が運んできたトーストとベーコンエッグとキャベツの千切りを添えた物が三人の前に置かれて、子犬には牛乳が出されると、

 

 

「「「いただきます。」」」

 

 

行儀よく挨拶して食べ始める。

 

 

そして、食事を終えて一息つくと、浩平は二人と一匹へと視線を向け…

 

 

「ところで…お前達…誰だ? そっちのは昨日の女の子だってのは分かるけど。」

 

 

「…今になって聞きますか?」

 

 

初めてその疑問を提示するのだった。

 

 

「自己紹介しますね。私は『クロ』。元神霊です。この子は『プニプニ』と言います。どうぞよろしく。」

 

 

「私は『佐原 茜』と言います。制服で分かると思いますが、スマートブレインハイスクールの生徒です。」

 

 

「ああ、ご丁寧にどうも。オレは風間浩平、夢を守るセイギノミカタ兼高校生だ。」

 

 

そう言って呑気にお茶を啜る三人…。

 

 

「って、驚かないんですか!? 危ない所だったんですよ、浩平さんは!?」

 

 

「ええ、そうでしたね。危うく命を落としかける所でした。ご安心ください、敵は私がトドメを刺して置きましたから。」

 

 

「ん、サンキューな、茜にクロだっけ? それで、オレに何が有ったか教えてもらえるか? これと合わせてな。」

 

 

「あわわ!!! 気を付けて下さい、まだ融合が完全じゃないんですから!!!」

 

 

「傷口から灰が零れると後の掃除が大変ですよ。それと、そんなバカな事で命を削らないで下さい。」

 

 

片腕を外しながら問い掛ける浩平に慌てるクロと平坦な様子で妙なツッコミを入れてくれる茜。

 

 

「…説明させて頂くと、その腕は貴方の物ではなく、彼女の物です。」

 

 

「切断された部分が無事とは言え…人間の再生能力では神経まで繋がる保障は……。」

 

 

「あの状況ではオルフェノクでも無理でしょう。傷口の灰化が進行しそうでしたし。どう言う方法かは知りませんでしたが、私には治療する術はありませんでしたので、彼女の手段に頼るしかありませんでした。」

 

 

「上位元神霊にも人間を治癒する能力は有りません。勝手に腕を交換した事は謝ります。完全に回復するにはまだ時間がかかりますからもう少しだけ我慢して、無闇に外さないで下さい。」

 

 

浩平は外した腕をくっつけると二、三回ほど手を動かす。オルフェノク化してみると、その腕もウルフオルフェノクの物へと変わる事は出来たが、タイムラグがある。

 

 

「なるほどな。この腕は元々お前の物って訳か? 調子も悪く無さそうだな。」

 

 

「ええ! 傷口を塞いで出血を止めて……。切り落とされた貴方の腕は私が代わりに着けました。」

 

 

そう言って包帯の巻かれた腕を見せるクロを一瞥しお茶を啜ると、妙に納得してしまう。確かにあの時は腕をやられたと言う自覚は有った。どんな方法かは分からないが、後遺症も無く腕が有るのだから感謝する以外には無い。

 

 

「はい。危なかったですけど、もう大丈夫! 私達の契約は無事結ばれました。私の腕との適合率は高いようですね。但し、当分の間は私の側を離れないで下さいね。本体の私が居ないと、腕が完全に融合する前に壊死しちゃいますから。」

 

 

「なるほどな~、外れるのはまだ融合が不完全って事か。」

 

 

「それにお互いの同期(シンクロ)も調整しないと私の能力も制限されますし……。」

 

 

「ですが、彼女の腕でも無事、オルフェノク化も出来る様なので安心しました。ファイズギアが有るとは言え、貴方の場合はノーマルファイズよりもオルフェノク化した方が高い戦闘力を得られる様ですしね。」

 

 

「んー…確かに片腕だけ生身ってのも格好悪いしな~。あと、どちらかって言うと総合的にはファイズの方が上だろ? オルフェノクの時って、スピード特化で結局は力不足だしな。」

 

 

そこまで言った後、再びお茶を啜ると……

 

 

「で、お前は何者なんだ? トドメを刺したって事は、お前もタダの人間じゃないんだろ?」

 

 

「そうですね。私はある人に言われ、貴方にこれを届けに来ました。」

 

 

そう言って茜は浩平の前に書類の入った封筒とアタッシュケースを差し出す。封筒に書かれているスマートブレインのマークを見た瞬間、浩平は表情を歪める。

 

 

「スマートブレインのね…。社長さんに言われてオレに会いに来たって訳か?」

 

 

「そうなります。」

 

 

茜の返事を聞きながら浩平は封筒の中身を空けると…

 

 

「スマートブレインハイスクールのパンフレット? それにこっちのは…。」

 

 

「転入手続きと奨学金の案内、その為に必要な書類と通学の為に会社の方で用意した住居の詳しい内容です。サインを頂いて社長の下に届ければ手続きは完了します。それと、そちらはカイザギアです。」

 

 

「へー。それにカイザギアか…。」

 

 

「はい、貴方が忘れて行ったらしい物を回収していた様です。」

 

 

「あー…そう言えば気分転換に草加から借りて、一緒に返そうかと思ってサイドバッシャーの中に乗せたままになってたよな。」

 

 

書類に眼を通しながら茜の言葉にそんな返事を返す。

 

 

一応、浩平達と全人類をオルフェノク化しようとしているスマートブレインの現社長一派とは敵対関係にある訳だが、同じオルフェノクとは言え何故態々相手からすれば裏切り者であるだろう自分にこんな好条件を提示するのかは疑問でしかない。

 

 

「まあ、向こうの狙いは分からないけど、随分と妙な事に巻き込まれた訳だな…オレも。」

 

 

「だ、だから無闇に外さないで下さい! 本当に壊死しゃいますから!!!」

 

 

「本当に…何バカな事をしているんですか、貴方は?」

 

 

外した腕を玩びながらそう呟く浩平と慌ててそれを止めているクロ、そして呑気なツッコミを入れている茜。

 

 

「いや、折角腕が外れるんだから、一度やってみようと思ってな、これを。」

 

 

「折角って、どう言う意味ですか!? それに何をする気なんですか!?」

 

 

外した腕を大きく振りかぶり軽く投げる。

 

 

「ロケットパーンチ♪ なーんてな。」

 

 

「浩平起きてる?」

 

 

「まったく、困るなあ、君は。休みの日にまで瑞華さんに心配をかけて。」

 

 

丁度浩平が腕を投げた所でリビングのドアが開き、草加が飛んできた腕をキャッチした。

 

 

「まったく、こんな物を投げて、瑞華さんに当ったら…。」

 

 

「く、く、く、く、草加君…。そ、そ、そ、そ、そ、それ…こ、こ、こ、こ、こ、こ、浩平の?」

 

 

顔を青くして草加の手の中の物を指差している瑞華の顔を見た後、草加は腕の中の物へと視線を落とし、次に浩平へと視線を向ける。

 

 

草加が見たのは、お茶を飲んでいる始めて見る少女A(茜)と、浩平を止め様としていた様に見える始めて見る少女B(クロ)。……それは良い、大き過ぎる問題は別に存在している…。

 

 

問題は…何かを投げた後の様な体制を取っている片腕の無い浩平。

 

 

そして、草加の手の中に有るのは…浩平の腕らしき物体。………と言うよりも腕。

 

 

そこから導き出される答えは…。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

 

「ああ! 投げないで下さい、乱暴にしちゃダメですよ!!! どうしよう! のんびりしてないで早くくっ付けてください!!! もう、やだ~!!! 昨日やっと付けたのに!!!」

 

 

「なーんだ、外れた腕は遠隔じゃ動かないのか。」

 

 

「何を当たり前な事を。如何考えても腕が勝手に動いたら不気味ですよ。」

 

 

悲鳴を上げる瑞華と草加。慌てて外した腕を回収しているクロと、呑気にお茶を飲んでる浩平と茜。浩平の行動によって思いっきりカオスな空間が発生してしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

数分後…

 

 

「「契約?」」

 

 

また面白半分で外さない様にとクロと瑞華の二人によって浩平の腕を厳重に包帯で巻き付けられた後、クロによる事情説明が瑞華と草加に二人にされました。

 

 

「はい、本来は選ばれた人間と契約を結ぶ物ですが……。この人を死なさない為に契約してしまったんですよ。」

 

 

浩平を指差しながら告げるクロに対して草加は

 

 

「そのまま見捨ててくれれば良かったのに…。」

 

 

「おー、おー、その言い方は酷いね~、クサカブル君。オレとお前の仲じゃん?」

 

 

「どう言う仲だ!? お前のせいで胃薬の世話になっているオレの身にもなれ! 大体、この間持ってったオレのサイドバッシャーを早く返せ! お前のオートバジンとお互いの苦労を慰めあったんだぞ!!!」

 

 

草加の言葉に明後日の咆哮へと視線を向けると、浩平は、

 

 

「あー…あれね。オートバジンより便利だから時々(勝手に)使おうって思ってたのに…。あれだったら、車庫にオートバジンと一緒に停めて有るから勝手に持ってってくれ♪」

 

 

「そうするよ! 勝手に持って帰らせてもらうよ!!! 大体、元々オレのだ!」

 

 

「んじゃ、また(無許可で)借りるからな~♪」

 

 

「誰が貸すかぁー!!! せめて一言言っとけ!!! 訴えるぞ!!!」

 

 

「サイドバッシャーの武器でテロリスト扱いされても知らないぞ、オレは♪ オートバジンなら勝手に逃げてくれるだろうしさ~♪ ミサイル積んでたら、絶対に捕まるだろ~国家権力にさ~?」

 

 

「お前も似た様な物だろうが!!!」

 

 

ファイズ系ライダーのバイク…そのどれもこれも警察に銃刀法違反通り過ぎてテロリストとして捕まりそうな重火器をしっかりと装備しています。

 

 

…ロボットモードを除けばある意味オートバジンが一番軽装と言えるかもしれない。………ガトリング砲が。

 

 

「まー、そんなに怒るなって、これやるから。」

 

 

「何を…って……カイザギア……。持ち出したのはまたお前だったか!? 風間浩平ィィィィィィィィィィィィィ!!!」

 

 

「なんだよ、オレだって偶には気分転換したいんだぜ~。」

 

 

「気分転換でライダーギア盗むな!!!」

 

 

さて、そんな草加と浩平を涙目で…危険人物を見る眼で見ているクロは瑞華に慰められている。哀れ、草加…クロからは浩平レベルの危険人物と思われている様子だ。哀れにも。

 

 

「えーと、話を整理すると…クロちゃんは浩平の命の恩人なんだよね?」

 

 

「あ……と、まあ、そうですかね? 簡単に言うと浩平さんの腕は私の腕なんです。」

 

 

クロの言葉に全員の視線が浩平の腕へと集まる。

 

 

「体の部位の共有交換によって契約が成立するんです。」

 

 

「「「へー。」」」

 

「そうなんですか。」

 

 

落ち着いた様にお茶を啜りながら納得した様に頷く浩平達四人。

 

 

「あの~、私が言うのもなんですけど、驚かないんですか? 絶対驚く所だと思うんですけど。」

 

 

「えっと…そう言われても、私達も…ね。」

 

 

「腕を交換する程度で驚いている程、平凡な人生は歩いていませんから。」

 

 

「まっ、死んだ人間が化け物になれるって言う得点付きで生き返るってのが、起こってるしな~。」

 

 

「え、えーと…私って、もしかして…とんでもない事に巻き込まれちゃいました?」

 

 

呆然と呟くクロの言葉は正しかった。

 

 

「そーなるな。まっ、命の恩人に飯と宿くらいは提供してやるからさ~♪」

 

 

 

 

 

 

こうして、二つの道は交わる。

 

 

仮面ライダーファイズ、風間浩平の物語の本当の始まり…これにて一時幕となる。

 

 

 

 

僅かに先の物語を書くとすれば…。

 

 

 

 

 

 

「お前達さぁ、猫神だか、化け猫だかしらないけどさ、覚悟は出来てるって解釈していいんだよね?」

 

 

「な、なんだ、それは!?」

 

 

草加の変身した『仮面ライダーカイザ』から向けられる殺気に追い詰められる男。

 

 

「元神霊だか何だか知らないけどさぁ、お前達やオルフェノクみたいな人間の皮を被った化け物なんて…必要ないだろう? この世界にはさぁ!!!」

 

 

第二のライダー『仮面ライダーカイザ』の変身、

 

 

 

 

 

 

「なるほど、オルフェノクでも人間でも無い存在。第三の存在、それが『元神霊』ですか。」

 

 

「そして、ファイズのボウヤ達が関係しているのね。」

 

 

「ええ、我々スマートブレインとしては、彼の行動をバックアップする事を決定しました。」

 

 

スマートブレインの動き。

 

 

 

 

 

 

「さて、遊ばせて貰うか…10秒で仕留めさせて貰うからさ?」

 

 

アクセルフォームに変身するファイズ。

 

 

 

 

 

そして、物語は何れ語られるべき本編へと、つづく…

 

 



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仮面ライダーオーズ~満たされぬ者~ 前編

『トリプル・スキャニングチャージ!』

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

 

 

『オーメダル』の封印が解かれ、800年の眠りから目覚めた怪人たち『グリード』が街中へと逃亡。

 

 

 

胸部に赤い鷹、黄色の虎、緑のバッタの三種類の生物の顔が描かれた巨大な円形のプレート『オーラングサークル』を持ち、その絵が教えている様に赤い鷹をイメージさせる頭部、折りたたまれた爪を両腕に持つ黄色い虎をイメージさせる体、緑色の下半身を持った仮面の戦士『仮面ライダーオーズ』が大型剣『メダジャリバー』を振るう。

 

 

強化された剣戟『オーズバッシュ』が空間もろとも、巨大な昆虫の様な怪物『トコブシヤミー』を一閃の元に切り裂く。ビルや他の建造物も切り裂かれたが、標的となったトコブシヤミー以外は時間が逆行した様に修復される。

 

 

そして、トコブシヤミーは爆発し、周囲に細胞の様に怪物の体を構成していたメダル『セルメダル』を撒き散らせていく。

 

 

「おしまい。っと、次の時の為に少し持っておかないとな。」

 

 

周囲で飛び散ったセルメダルを回収している右前腕部だけの怪物『アンク』と機械の鷹『タカカンロイド』の姿を一瞥もせずに次の戦闘に必要になりそうな分だけ集めている。

 

 

「おーい、時間前に集めろよ~。」

 

 

「だったら、お前も手伝え!!!#」

 

 

「ヤダ。オレが必要な分は集めたから。」

 

 

面倒そうに手を振りながらバックルを外し、全身を包んでいたスーツが消えた青年は赤、黄色、緑のメダル『コアメダル』を抜き、近くで倒れていた男性の右前腕部に宿り尚もセルメダルを集めているアンクとタカカンロイド達を近くにあるベンチに座りながら眺めている。

 

 

 

何の因果か本来グリードが存在していたグリード達は異世界である『ミッドチルダ』で復活してしまった。特に彼にオーズの力を託した鳥型のグリード『アンク』は現在、自身のコアメダルの大半を持たない為に右前腕部のみの姿になってしまっているらしい。

 

 

 

「ふぁ~…眠い。」

 

 

「おい、ソウマ!!!」

 

 

「お、メダルは集まったか、アンク?」

 

 

彼、『神凪(かみなぎ) 総麻(そうま)』はからかう様に笑いながら、#マークを頭に貼り付けているアンクに手を振っている。

 

 

 

偶然、その現場に居合わせた元管理局員、現フリーの魔導士『神凪 総麻』はグリードの一人『アンク』と出会い、契約の元、共にヤミーと戦う事になった。

 

右前腕部だけの状態の彼は人間社会で行動し易くする為に、ヤミーに襲われ重傷を負った管理局員の体を利用している。

 

長時間彼が離れると命が危ない彼はアンクにとって総麻に対する人質になるはずだったが、例外を除き管理局の人間を嫌っている総麻にとっては名も知らぬ一般局員は『救う意味の無い命』とされて、今ではすっかりアンクにとっての行動の為の器になり、総麻のペースに乗せられている状況である。

 

 

 

「アンク、契約は『オレがヤミーを倒す。お前はその為の力をオレに与えてくれる。ただし、お前との契約に反しない範囲ならオレはオーズの力を自由に使って良い。』だろ? メダル集めはお前の役目だ。」

 

 

「貴様…。」

 

 

「そう怒るなって、今度アイス奢ってやるからさ。まあ、メダル集めの手伝いも契約内容として追加しても良いけど、その時は、こっちの条件も飲んで貰うぞ。」

 

 

「ふん、考えておいてやる。」

 

 

「まあ、オレはオレでその時の追加条件も考えておくさ。ギブ・アンド・テイク、契約って奴だ。」

 

 

「オレはテイクは好きだが、テイクは嫌いだ。」

 

 

「じゃあこう言い換えようか…お互いに利用し合えるだけの交換条件って。じゃ、早く帰って来いよ。」

 

 

面白く無さそうに言い捨てるアンクと分かれながら総麻はバイク『ライドベンダー』に乗り、自宅へと向かってその場を走り去っていく。

 

 

 

『神凪 総麻』は『高町 なのは』、『八神 はやて』と同じ、第97管理外世界『地球』の出身。『PT事件』の際に巻き込まれる形で魔法に関わり、この事件を解決。後に起こった『闇の書事件』の解決後、デバイスを返して管理局と関わらずに生活していたが、ほぼ中学卒業後、某人物によって強制的に管理局に入局する羽目になった。

 

 

だが、その不満から気に入らない命令への命令違反や命令無視、気に入らない上司への暴行(男性限定)等が多く、問題児扱いされ出世とは縁がなかったが、当の本人はその事は一切気にもせず、寧ろ、毎日の様に上司への嫌がらせかと思えるほどに辞表を贈り続けていた。

 

 

そして、目出度く管理局を辞める事が出来たのは丁度半年前、アンクのコアメダルの一つを拾った事で、グリードの存在を知り、オーズの力をアンクより渡され、『仮面ライダーオーズ』となり、時にオーズの力を利用して傭兵紛いの仕事をしているフリーの魔導士として日々を送っている。

 

 

時々、オーズのメダルをロストロギアと判断(ある意味、間違いなく一種のロストロギアだが)し、ヤミーとの戦いの後に現れる管理局員にタイミング良く現れるグリード(昆虫系グリードのウヴァ)を嗾ける為に一枚消費し、総麻達に武器やバイク等の装備を提供する巨大企業『鴻上ファウンデーション』との取引で手に入れたメダルの60%を提供する事になり、メダルの集まりが悪く思いっきりアンクの機嫌が悪いが、総麻にしてみれば、コアシステム等の装備の提供とは別に住居と最低限の生活費を提供してもらう契約も結んであるので、損は少ない。

 

ある程度、鴻上ファウンデーションは時空管理局にも影響を与える事が出来るらしく、最近はメダルを狙う局員も、犯罪者扱いもされずに済んでいる。

 

 

なお、付け加えておくとウヴァの標的にされた哀れな局員(主に地上ではなく本局の方の局員らしい)達は総麻達が逃げている間、ウヴァを相手に戦う羽目になっている。…幸いにも死人は出ていないようだが、再起不能だけは続出している様子だ。………総麻にしてみれば、『死んでないなら、知ったこっちゃ無い』そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲッ。」

 

 

自宅の近くでライドベンダーを止めて、自宅へと視線を向けると…見知った顔が居た。管理局を頑張って辞めてアンクと出会い、オーズとなってからは疎遠にしている知人…古代ベルカ式の使い手『最後の夜天の王』と呼ばれている『八神 はやて』。

 

 

(またか…。)

 

 

そう思って思わず目の前の光景に頭を抱えてしまう。

 

オーズとしてのヤミーやグリード達との戦いを始め、傭兵紛いのフリーの魔導士を始めてから、鴻上ファウンデーションの用意した彼の自宅には管理局に戻るようにと一部を除く知人達がよく説得に来る。

 

彼女、はやてはその中でも特に熱心に説得に来る相手の一人でもある。総麻としては、『仕事はいいのか?』と一度聞いてみた程である。

 

 

(今度、会長さんに頼んで引っ越すかな…。いや、あまり頼りすぎるとセルメダルを取られて、アンクが機嫌を悪くするか。)

 

 

タダでさえ契約の元に60%もヤミーを倒して手に入れたセルメダルを持っていかれている。総麻だけの都合でのオーメダルの出費は、アンクの機嫌を余計に悪くしてくれるだろう事は間違いない。交換条件でコアメダルまで取られた日には………はっきり言って契約解消かもしれない。

 

 

「(少し、その辺を廻って来るか。…帰って来たアンクの奴と鉢合わせする事は………無いだろうな、多分。まあ、カンロイドで連絡しとけば大丈夫だろう。)……少し時間を潰してくるか……。」

 

 

暫く如何するべきかと迷いながら、そう考えて結論付け、ライドベンダーを反転させ、その場から走り去ろうとした時、

 

 

「あっ、帰って来たんやな、総麻くん。」

 

 

「チッ。」

 

 

そう声をかけられて思わず舌打ちをしてしまう。迷っていたのが拙かったのか、帰ってきた事を彼女達に気付かれてしまっていた。

 

 

仕方ないと覚悟を決めてライドベンダーから降りるとそのまま彼女達を一瞥もせずに自宅の前へと立つ。

 

 

「実は…「管理局には戻らないぞ。」ちょ、ちょっと、総麻くん」

 

 

有無を言わせず『話は終わりだ』とばかりに手を振りながら、さっさと鍵を開けて入ろうとした時、再び呼び止められる。

 

 

「それも理由の一つやけど、もう一つお願いが有るんや。」

 

 

「お願い?」

 

 

「そっちは、フリーの魔道士としての総麻くんへの仕事の依頼なんやけど。」

 

 

その言葉に僅かに考え込むと、

 

 

「分かった。話を聞こうか?」

 

 

「実は、あと二週間後に私が隊長を務める部隊の『機動六課』が始動するんや。六課は少数精鋭主義なんやけど…。」

 

 

「少数精鋭ね? 他のメンバーは大半が身内と友人…ただ、ランクから考えて前線の戦闘要員の何人かは能力は有っても新人で集めて鍛えて強くするって考えか? それでも、身内にはリミッターを付けられるって事にはなるだろうけどな。」

 

 

「そうなんや、それで…今は管理局に所属してない総麻くんに協力をお願いしたいんやけど。」

 

 

「それで、オレはどれだけの期間雇われていれば良い? 依頼金額は?」

 

 

「契約は機動六課の稼動期間の一年の間、依頼金額はこれくらいでどうや?」

 

 

「っ!? 一年間の長期契約は兎も角、依頼金額は結構魅力的だな。」

 

 

描かれている額はフリーの仕事の報酬よりも遥かに高額で、金銭的な面では確かに受けた方が良いだろう。だが、

 

 

(…でも、下手に一年も動きを縛られるとヤミーやグリードと戦うのに支障が出るよな。第一、そんな事になったらアンクの奴が煩そうだし。)

 

 

「それほど、総麻くんを買っとるちゅう事や。」

 

 

「悪いが、少し考えさせてもらう。」

 

 

「え!? で、でも、これはうちでの総麻くんにとってもええ話なんや! 働きによっては管理局に戻るのにも「何度も言わせるな。オレは戻る気はない。」………。」

 

 

はやてからの依頼に暫く考え込むと、溜息を吐き。

 

 

「兎も角、その依頼を受けるか受けないかについての返事は来週にさせて貰う。」

 

 

「分かった。それじゃあ、また来週此処に来ればええ?」

 

 

「…連絡をくれれば、此方から出向いても良い。」

 

 

総麻の言葉に明らかに気落ちした様子で立ち去っていくはやてを尻目に総麻は家の中に入り、そのままソファーへと座り込む。

 

 

だが、一週間考えるとは言ったが、答えは最初から『NO』で決まっている。既にアンクや鴻上ファウンデーションとの長期契約を結んでいるような物なのだし、ヤミーへの対処にも遅れが出てしまうと考えられる。

 

寧ろ、オーズの正体やオーメダルの事を知られると言う危険を考えると受けない方が正解だろう。そもそも、『考える』と言ったのも、六割ほどが粘られても迷惑なので彼女を追い返す為の方便でしかない。

 

 

如何考えても、機動六課とか言う管理局の一部隊への協力はオーズとしての総麻にとって行動を制限されると言う点においてマイナス点が大きく、最悪はオーズの力を取り上げられる危険も有る。考えられる限りメリットがなく、デメリットばかりの依頼だ。

 

 

「考えるまでもないか。…まあ、アンクや会長さんにも相談しておこう…一応、オレの雇い主の様な者だしな。」

 

 

そう考えを纏めながらドアに触れた瞬間、総麻の肩に緑色の機械仕掛けのバッタ『バッタカンロイド』が飛び乗る。

 

 

「…アンクか?」

 

 

『おい、何処で遊んでる!?』

 

 

「いや、家の前だけど。大体、こっちも『遊んでる』って言われるほど楽しい思いはしてねえよ!」

 

 

通信機としての機能を持つバッタカンロイドを通じて聞こえてくる苛立ちも感じられるアンクの声に対して思わず荒立てながら返事を返す。

 

 

『総麻、ヤミーだ!』

 

 

「了解。…って、今日は二度目じゃないのか?」

 

 

『そんな事は知るか。』

 

 

「はいはい、直に行くよ。」

 

 

通信機越しに聞こえるアンクに対してそう答えると、トコブシヤミーと戦った時に回収しておいたセルメダルの一枚を取り出し、自動販売機形態『マシンベンダーモード』のライドベンダーの投入口にセルメダルを入れ、バイクモードの『マシンバイクモード』に変形させ、

 

 

「さあ、怪物退治と行きますか。」

 

 

ライドベンダーに乗り込み、笑みを浮かべながらバッタカンロイドに先導されながら走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、アンク! ヤミーは?」

 

 

バッタカンロイドに先導されライドベンダーを走らせて、アンクと合流する。

 

 

「あそこに居る。」

 

 

「あいつが?」

 

 

そう言って異形の腕の本体で指差す先には妙な姿の暴れまわる一体のヤミーがいた。だが、その姿はこれまで戦って来たどのヤミーとも共通点がない。体からは獅子の印象を与えられるが、頭部の部分からは鷲、体の部分にはライオン、そして、手足の部分には蛇の印象がある。

 

 

「…グリードの間違いじゃない?」

 

 

「ふざけるな! あんな、頭の良い悪い通り越して、獣そのもののグリードが居るか!?」

 

 

総麻の疑問も無理は無いだろう。グリードには本来、鳥類系、昆虫系、猫系、重量系、水棲系の五つの系統が確認されていて、その姿はその系統に属する三種類の生物の印象を持つ。

 

例を上げるならば、昆虫系グリードのウヴァはクワガタの顎上の角、カマキリの鎌と複眼、外骨格に覆われた体を持ち、バッタの様な俊敏性、跳躍力を持つ。また、それぞれのグリードが生み出すヤミーはそれぞれの系統に属した物を誕生させる。

 

 

だが、目の前に居るのは鳥類に属する鷲、猫系に属するライオンと言った別系統の生物の合成獣(キメラ)の様な姿からはグリードともヤミーとも呼べない怪物だった。だが、アンクが言うにはヤミーであることは間違いないらしい。

 

 

「考えるのは後だな。」

 

 

総麻はベルトをつけ、バックルの両端に鷹の描かれた赤いメダルと、バッタの描かれた緑のメダルを装填。そして、最後に中央の部分に虎の書かれた黄色のメダルを入れ、バックルを斜めにして傾ける。

 

 

「変身!!!」

 

 

そして、腰についた『オースキャナー』でメダルをスキャンしながら腕を交差させ、力を与える言霊を叫ぶ。

 

 

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ!♪ タトバ!♪ タッ・トッ・バッ!♪』

 

 

 

ベルトから軽快な音楽が鳴り響き、総麻の姿がオーズの基本フォーム『タトバコンボ』へと変身し、メダキャリバーを構える。『仮面ライダーオーズ・タトバコンボ』へと変身するとその場からジャンプし、ヤミーの前へと降り立つ。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

斬り付けられたヤミーらしい怪物は悲鳴を上げて交代する。更に追撃を加えようと距離を詰めるオーズに対して背中から翼を出現させ、そのまま上空へと飛翔し、オーズの剣戟から逃れる。

 

 

「なに!? うわぁ!?」

 

 

そのまま上空からヤミーが腕を振るうとヤミーの腕がオーズへと向かって伸び、無防備に叩きつけられる。

 

 

「ぐっ!」

 

 

そして、そのまま距離を詰めるとヤミーはライオンの様な俊敏性でオーズとの距離を詰め、彼の体を腕から伸びた爪により切り裂く。

 

 

 

「なにやってんだ、総麻!? だが、あのヤミー、なんだ?」

 

 

アンクは二枚のコアメダルをオーズへと投げ渡す。

 

 

 

「サンキュー! さて、一気に決めるぜ。(それにても、このヤミー…まるでグリフォンの様な奴だな…。)」

 

 

アンクに礼を言いながらベルトのトラのメダルをカマキリの描かれた緑のメダルに、バッタのメダルを黄色いチーターのメダルに変える。

 

 

 

『タカ! カマキリ! チーター!』

 

 

 

体が緑色の前腕部にブレード上の武器『カマキリソード』が付随した『カマキリアーム』に、下半身が黄色い『チーターレッグ』へと変わる。

 

これがオーズのフォームチェンジシステム『コンボチェンジ』。それは亜種形態の一つ『タカキリター』。

 

 

「さあ、行くぜ!!!」

 

 

カマキリソードを持ちチーターレッグの生み出す加速力で一気に距離を詰め、『グリフォンヤミー』と呼ぶ事にしたヤミーにソードによる連続攻撃とチーターレッグによる連続キックを打ち込んでいく。

 

攻撃を受けた部分はセルメダルとなって崩れ落ちていく。

 

 

「オォォォォォォォォォォォオ!!!」

 

 

顎を蹴り上げ、

 

 

「ハァ!!!」

 

 

浮き上がった瞬間にソードによる斬撃を打ち込み、

 

 

「おまけ!!!」

 

 

そして、最後のトドメとばかりに、今まで攻撃していた箇所に向かって回し蹴りを打ち込む。

 

 

「ギィャャャャャャャャャ!!!」

 

 

オーズ・タカキリターの連続攻撃を受けて悲鳴を上げて吹き飛ばされるグリフォンヤミーに対して、オーズがトドメを刺そうと更に攻撃を叩き込もうとした時、オーズの攻撃を受けた部分から、人の腕が伸びる。

 

 

「な!?」

 

 

思わず驚愕して攻撃を止めようとして足を止めるが、勢い余ってグリフォンヤミーの居る場所から離れた所に止まる。

 

グリフォンヤミーの体から地上本部の制服を着た男が完全に外に出てくると、グリフォンヤミーはそのままメダルとなって崩れ去って行った。

 

 

「アイツ、寄生型だったのか? 悪い、アンク、逃げられた。」

 

 

グリフォンヤミーが落としていったセルメダルを拾い上げながらアンクへと謝罪の言葉を告げる。

 

 

「やれやれ。だが、あのヤミー…今まで見た事の無い奴だったな。」

 

 

「確かに。あの姿はまるで『グリフォン』だ。」

 

 

「グリフォン?」

 

 

近づきながら言葉を交わしていたアンクはオーズの言葉に疑問の声を上げる。

 

 

「ああ、伝説上の怪物の名前だ。」

 

 

あえて言うならば先ほどのグリフォンヤミーは『幻獣系』と言えるヤミーだろう。

 

 

謎のヤミーの存在に暫く考え込む二人だが、オーズはアンクへと顔を向けて。

 

 

「って、拙い、こんな所でのんびり考えてる暇はなかった。」

 

 

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ!♪ タトバ!♪ タッ・トッ・バッ!♪』

 

 

 

慌ててコアメダルの組み合わせを変えタトバコンボの姿へとフォームチェンジすると、カマキリメダルをアンクへと投げ渡す。

 

 

「アンク、急いでここを離れるぞ!」

 

 

「ああ。あの連中か? 油断してメダルを取られるなよ。」

 

 

「お前こそ、油断して、標本にされるなよ。」

 

 

停めてあったライドベンダーに乗り込みその場を走り去るアンク、そして、オーズも別のライドベンダーを見つたが、

 

 

 

「時空管理局です。大人しくしてください。」

 

 

ライドベンダーを変形させようとした時、後からそんな声が響く。

 

悪い事に周りには破壊の痕、足元には倒れた地上本部の局員らしき男がいて、武器を持った正体不明の仮面の男。…………悪者扱いされるのは誰かと問われれば、状況からオーズだろう。

 

 

「(…おいおい、高町や八神じゃなくてフェイトかよ…。)ったく、ここは他所の縄張りじゃないのかよ…ここは? え、執務官さん?」

 

 

オーズは振り返った先に居る金色の髪と黒いBJの女性『フェイト・T・ハラオウン』へとそう問い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…オーズか…。」

 

 

フェイトと対峙しているオーズの姿を眺めながら一体の異形の怪物がそう呟く。

 

 

「…物事には障害があった方が面白い…。そして、それが困難であれば有るほど面白い。」

 

 

言葉を話す、その様子から与えられる印象はヤミーではなくグリード。竜の印象を持った頭と両腕、背中からは炎の翼を持った『幻獣のグリード』はその表情に愉悦に歪めながら呟いた。



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仮面ライダーオーズ~満たされぬ者~ 中編

(さて、どうする?)

 

 

僅かにそう考えたものの、メダキャリバーを地面に突き刺し、降参と言う態度で上に上げる。

 

 

「時空管理局執務官のフェイト・T・ハラオウンです。ここで何をしていたんですか?」

 

 

「いや、何をって何もして無いって訳じゃないけど…戦っていたとしか…。」

 

 

確かに嘘は無い。だが、『完全武装』で『周囲が破壊』されて『人が倒れている』と言う状況でそんな事を言ってしまえば、その言葉は『自供した』としか言わないだろう。どう考えても『』の中の単語が問題だらけだ。

 

 

「ッ!? あなたを殺人未遂と大規模破壊活動の容疑で逮捕します。」

 

 

当然の事ながらオーズに向けているフェイトの視線が鋭さを増す。犯人と認定されてしまったようだ。

 

 

「って、ちょっと待て、オレは真犯人と戦っていただけだ! 大体、執務官、お前の管轄は此処(地上)じゃないだろう!?」

 

 

「え、ええと…それは…。そ、それにそんな格好で言われても説得力は有りません!」

 

 

「まあ、オレが完全武装なのは認めるけどな。」

 

 

心の中で溜息を吐きながらオーズは視線を自動販売機形態のライドベンダーに向ける。彼女の隙を見てカンロイドを購入、そして、それを使って逃げる手段を考える。オーズやグリード、ヤミーの事を下手に知られる訳には行かないのだ。

 

 

「取り合えず、そこで倒れている人は良いのか? オレは逃げも隠れもしないから、先にそっちの無事を確認した方が良いんじゃないのか?」

 

 

「っ!? 貴方に言われなくても。」

 

 

フェイトの視線が倒れている男へと向いた瞬間、セルメダルを取り出しライドベンダーに近づこうとした時、

 

 

「ッ!? 危ない!!!」

 

 

「え?」

 

 

フェイトへと向かって巨大な黒い火球が向かっていくのを視認する。

 

 

既に彼女のスピードでも逃げられないだろう、オーズはタカメダルのボディー『タカヘッド』の優れた視力でそれを確認すると、バッタメダルのレッグ『バッタレッグ』の跳躍力を最大限に活かし、フェイトの前へと出て盾になる。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

フェイトを庇って無防備なままに火球の直撃を受けるとオーズはその場に崩れ落ちる。

 

 

「大丈夫です…ソウ…マ?」

 

 

「が…。」

 

 

音を立ててオーズドライバーが地に落ちて変身が解除されると、呆然とフェイトは彼の名を呼ぶ。

 

 

完全に倒れる前に腕をつき、体を支えると前方…火球を放ったで有ろう物へと視線を向ける。

 

 

「ほう、オーズも随分と甘い事をすると思ったが、あの時の少年だったか? そして、もう一人はあの時の少女か…。」

 

 

「あなたは!?」

 

 

「あの時の…化け物…そうか…お前は…『グリード』だったのか。」

 

 

目の前に降り立った龍の意匠を持った全身に背中には不死鳥をイメージさせる翼を持った怪物…グリードに向かって二人は驚愕を露にする。

 

 

「なるほど、まだまだ甘いが研ぎ澄まされた刃の様な良い目をする様になったな、しかもオーズになるとは、君は私の期待以上だな、少年。」

 

 

その表情に嘲笑を浮かべながら総麻とフェイトへと視線を向けてそう宣言すると、自らの体の中に片腕を突き刺し、直にそれを抜き取る。

 

 

「な、なにをしてるんですか?」

 

 

「少年、問いに答えよう。私の名は『ヴァルト』。この世界のグリードだ。」

 

 

フェイトの言葉を…存在さえも無視する様に総麻にだけ視線を向け、自らの体の中から抜き出したそれを総麻へと投げ付ける。

 

 

「っ!? これは…コアメダル!?」

 

 

投げ付けられたそれを受け止めて、それに視線を向ける。それは始めて見る龍の絵が描かれた黒いコアメダル。

 

 

「地球のグリードを此方へと呼び寄せ、オーズドライバーをこの世界に持ち込んだ甲斐が有ったな。」

 

 

「…お前…なんで態々コアメダルをオレに渡した?」

 

 

「個人的な美学と言う奴だ。己のコアメダルを渡し、その上で叩き潰し相手のメダル毎取り戻す。決闘の約束とでも思っていれば良い。」

 

 

「「っ!?」」

 

 

ヴァルトがそう告げると衝撃音が響き翼を広げたヴァルトの姿が消えると、総麻とフェイトの背後で再び衝撃音が聞こえる。

 

 

「この男は貰っていくぞ。残念ながら、私のヤミーは『特別』でな、この男にはまだ使い道がある。」

 

 

後から聞こえた声に振り向くと、そこには気絶している男を拾い上げているヴァルトの姿があった。

 

 

「その人を放して下さい!」

 

 

「オーズの少年、名を聞いておこうか?」

 

 

バルディッシュを突きつけながら叫ぶフェイトの声を無視してヴァルトは総麻へとそう問い掛ける。

 

 

「神凪総麻だ。」

 

 

「そうか。では、覚えておこう、ソウマ。次に会う時は今の様な『余計な物』が無くなっている事を願うぞ。」

 

 

「ま、待って!!! きゃあ!」

 

 

背中の翼を広げ飛翔したヴァルトをフェイトが追おうとした時、ヴァルトが巻き起こした風が彼女の視界を奪い、眼を開けた時は既にヴァルトの姿は無くなって行った。

 

 

「逃げられた…か。痛ゥ!?」

 

 

ヴァルトと名乗った幻獣の姿のグリードが姿を消した瞬間、火球が直撃した所を押さえながら崩れ落ちてその場に倒れる。

 

 

「っ!? ソウマ、大丈夫!?」

 

 

「ああ。大丈夫…って言いたい所だけど、結構効いた。……それにしても、あの野郎、余計な物ってどう言う意味だ?」

 

 

駆け寄ったフェイトに支えられて立ち上がると、総麻はフェイトへと視線を向け、

 

 

「所で、こんな所に来てオレに何か用か?」

 

 

「うん。総麻に相談が有って来たんだけど…。」

 

 

「…その途中でヤミーの起こしていた破壊活動に気がついて、現在に至るって訳か…。」

 

 

「……うん……。」

 

 

申し訳無さそうに頷くフェイトに対して心の中で溜息を吐きながら、自動販売機形態のライドベンダーを指差してそこに連れて行く様に言う。

 

 

セルメダルを投入し、ライドベンダーをバイクモードに変形させると、目の前での自動販売機からバイクへの変形に驚いているフェイトを一瞥しながら、その座席に座ると、

 

 

「それで、何が聞きたいんだ?」

 

 

「うん。総麻は…母さんの事、まだ恨んでる?」

 

 

「それが、『リンディ・ハラオウン』と言う人間を指しているなら、間違いなく恨んでるな。…あの女は勝手にオレから両親との思い出の場所を勝手に奪った。憎むなって言う方が不思議だろう?」

 

 

突き刺すような冷たい視線でフェイトを一瞥しながら、総麻は一切の迷いなく答える。

 

 

『理想で何も救えない』と言う…トラウマ、呪い、どんな形の言い方になったとしても、総麻の心の中に理想を否定する絶対的な『現実主義』を与える切欠となったのが、中学に入った頃の両親の死。

 

 

「…『助けられる命は助ける』…か。」

 

 

思わずそう呟いてしまう。

 

 

紛争地域でのボランティアを行っていた医師であった父と看護婦であった母の口癖の様な言葉。だから、以前の総麻も…何時も家には居ない両親の事を尊敬していた。だが、中学に入学した時にその両親は命を落とした。

 

 

死んだ両親の事を悪く言う周りの人間達、勿論、そんな人間ばかりではない事は理解しているが、それが総麻に『命の価値』と言う考え方を植えつけた。『己にとって価値のある命を守り、それを守る為に価値のない命を捨てる』。『何故両親が死んで殺した人間が生きているのか?』と言う常にぶつけ続けた疑問が出してしまった答えだ。両親の死が総麻の心に植えつけた『闇』と『生き方』。

 

…だが、結局の所、なのは達には冷たく振舞ってはいるのも、ロストロギアに分類されるであろう、オーズドライバーとメダルを持つオーズである自分と敵対した時に、彼女達が何が有っても苦しまないで済む様にと思っての事だ。最悪の場合、自分が死んだとしても、悲しまずに済むように。

 

 

「…そう…なんだ…。…ごめん…母さんが勝手な事をして…。」

 

 

「気にするなよ。あの雌狐はあの雌狐、フェイトはフェイトだ。フェイトが謝る必要はない。」

 

 

「…うん…。」

 

 

フェイトの言葉に総麻は手を振りながら答える。自宅の場所を知られてからと言うものの、時々フェイトの相談に乗っている。こうして会う度に義理の母親の行動を謝られ続けていると流石に逆に総麻の方が申し訳なくなる。だが、リンディの事は許す気は無いので、受け入れる訳には行かない。

 

 

まあ、中学の頃に現在の『問題児』としての己の形成は出来てしまっていたが、リンディに勝手に家を処分されて管理局に入れてから、彼女達が正しいと言う元々持っていた管理局の有り方への疑問が倍増していた。そんな中でフェイトに協力して違法研究所の一つに突入した時、その時は存在を知らなかったが、初めて幻獣型グリードのヴァルトと出会った。

 

 

研究所の中でヴァルトに見せられたデータ。最初は二人も信じていなかったが、調べれば調べるほどそれが真実である事を告げていた。結果的に管理局に力を貸す事が無意味と感じた総麻は辞める道を選んだ訳である。

 

特にオーズになりフリーとなってから調べた結果では、管理局が違法研究を支援していると言う事実を完全に確信してしまった。

 

 

「それで、相談ってなんだ?」

 

 

罪悪感が湧いてくる現状を払拭する様に総麻は話を本題に移す。

 

 

「うん、実ははやてが設立したって言う新説部隊の事なんだけど。」

 

 

「…また機動六課とか言う部隊の事か…? オレも今日、はやての奴に協力を頼まれた。」

 

 

明後日の方向に視線を向けながら思わず頭を抱えてしまう。タダでさえ『オーズ』や『コアメダル』と言う危険な爆弾を抱えている状態で管理局の中の派閥争いの中間点に成りかねない場所に飛び込みたくない。

 

 

「正直言って、私は機動六課の設立に反対なんだ。陸の治安が悪いのは陸の怠慢だってはやては言うけど…。」

 

 

「悪い言い方したら、本局所属の部隊を陸に作るなんて、陸を見下したやり方だ。喧嘩を売っているとしか思えない。」

 

 

「それは言いすぎだと思うけど…でも、私もそれは傲慢だと思う。はやてに新部隊に協力するって約束しちゃってたから、協力する他になかったけど。」

 

 

「まあ、オレが言うのは何だけどな…理想を捨てて仕事と割り切ってしまえば楽になるだろ?」

 

 

言った本人も思うが乱暴な理論だ。そんな総麻の言葉にフェイトは黙り込む。

 

 

「……私も、あの時から何が正しいのか分からなくなっちゃって、管理局やめようかなと思ってるんだ。」

 

 

「っ!? そうか。」

 

 

その言葉に驚いた物の肯定も否定も出来ない。最初からそれほど管理局を良い目で見ていなかった総麻以上に管理局を信じていたフェイトの中の失望は大きかったのだろう。再度の沈黙が流れる。

 

 

「…ねえ、総麻、グリードって何? 総麻が変身していた、あの姿は何?」

 

 

そんな中でフェイトが疑問に思っていた事を口に出す。

 

 

「…グリードはオレも詳しい事はわからない。ただ分かるのは体がメダルで構成された生物で、ヤミーと言う怪物を人間の欲望から生み出す事くらいだな。」

 

 

多少嘘は混ざっている。アンクと言うグリードの一員が身近に存在しているのだから、知りたいと思えば知る切欠は幾らでも有る。もっとも、アンクが素直に答えてくれるとは思っていないが。

 

 

「そして、オレが変身していた姿は…オーズだ。」

 

 

そこまで言った後一度口篭ってしまう。実際、説明できるほど総麻はオーズについて詳しくはない。

 

精々が、オーメダルの中のコアメダルといわれている物を三枚使って様々な姿に変身でき、グリードの種類だけコンボと呼ばれる強力な力が使用できる事と、アンクとグリードの一人、猫種グリードの『カザリ』経由の情報では、グリードを封印する為の力と言う事らしい。

 

 

「オーズ?」

 

 

総麻が黙っているとフェイトが聞き返してくる。

 

 

「あいつらと戦う力らしい。」

 

 

他にも聞きたい事が有る様子のフェイトだが、総麻の足元にバッタカンロイドが現れる。

 

 

『おい、さっきのヤミーがまた現れたぞ。』

 

 

それを手に取るとバッタカンロイドを通じてアンクからの通信が聞こえてくる。

 

 

「早いな。分かった、直に行く。フェイト、そう言う訳だ聞きたい事は後で教えてやるから、家の方にでも行っていてくれ。」

 

 

「私も「ここは管轄外だろ? 余計な手出しはしない方が良い。」で、でも…。」

 

 

「オレの怪我の事なら心配するなよ。大体、あいつ等の事はオレ達が専門なんだ。それに…何の罪のない人達の命が失われるのだけは…許せないんだよ。」

 

 

ヒラヒラと手を振りながら不安そうに言うフェイトを安心させるように告げながら、総麻はライドベンダーを走らせる。

 

 

実際にフェイトに心配させない様に火球を受けた痕は気にしない様にしていたが、実際、それはかなり辛い。だが、それでも…総麻の中の欠片ほどの理想は『罪のない命は救うべき命』と告げている。だから、そんな心の告げている言葉に従って総麻は戦い続ける事を選ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん!!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

突然目の前に現れたヴァトルの振りぬいた腕を総麻はライドベンダーを横に走らせて回避する。

 

 

「邪魔を…するな!!!」

 

 

「忠告しよう、何も知らずに私のヤミーを倒せば後悔するぞ。」

 

 

「後悔?」

 

 

ヴァトルはその表情に笑みを浮かべながら、

 

 

「私のヤミーは特別でな、人間に寄生しているのではない。…私のヤミーは人間を『核』として存在している訳だ。」

 

 

「なんだと…まさか…。」

 

 

ヴァトルのその言葉の意味を理解し、驚愕を露にしてしまう。

 

 

「私のヤミーは人間を核として存在している。私のヤミーから人間を抜け出したらその瞬間、ヤミーの実態は消え時間を置いて再び復活する。今のお前の力で完全に倒すとすれば、人間諸共殺すしかない。」

 

 

「っ!?」

 

 

呆然とした表情で思わず足を止めてしまう。グリフォンヤミーを完全に倒すには核となった人を殺すしか無いのだ。

 

 

「行け、覚悟した上で人間を殺してみろ。多くを救う為に一を切り捨てろ、人間を殺せ。その経験は戦士としての成長を与えるのではないのか?」

 

 

総麻はヴァトルの言葉に答える様にライドベンダーから降り、オーズドライバーを装着する。

 

 

「なんのつもりだ?」

 

 

「…お前なら知っているんだろう? あのグリードを犠牲者を出さずに倒す方法を!?」

 

 

両端にタカメダルとバッタメダルを装填し、トラメダルを取り出しヴァトルを睨みつける。

 

 

「…知っていると言ったら…?」

 

 

「教えてもらう…その方法を!? 変身!!!」

 

 

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ!♪ タトバ!♪ タッ・トッ・バッ!♪』

 

 

 

オーズドライバーの鳴らす軽快な音楽と共に、仮面ライダーオーズ・タトバコンボへと変身するとメダキャリバーを持ってヴァトルへと切り掛かる。

 

 

「ふっ、確かに知っているぞ。確かにお前はまだ望むほどの力は無いだろうが…。だが。」

 

 

オーズの振るうメダキャリバーを大きく後に跳んで避けたヴァトルは、目を閉じて一呼吸すると、

 

 

「ククク…アーッハッハッハァァァァァァァァァァ!!! 良い言葉だ!!! 良い考えだ!!! 良いだろう、私に勝てたなら教えてやろう。さあ、決闘だ!!! 闘争だ!!! あの時以来満たされなかった私の欲望を…奴に代わって満たしてもらうぞォ…オォォォォォォォォォズ!!!」

 

 

それが本来の姿である様に、押さえつけていた物を解放する様に、オーズの言葉に背中の翼を広げ、両腕から爪を伸ばし、牙を剥き、歓喜の…狂喜の笑みを浮かべ、今まで見せていた冷静さを一切感じさせずヴァトルはオーズへと向かっていく。

 

 

「グッ!? こいつ…これが本性かよ!?」

 

 

メダキャリバーを盾にしてヴァトルの拳を防ぎ、後ろに跳ぶ事で衝撃を殺し、体勢を立て直すと、メダキャリバーに三枚のセルメダルを装填する。

 

 

「どうした? 知りたいのではないのか? 戦うのだろう!!! オレをォ!!! この本能を満たせぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!! 欲望を満たせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! オォォォォォォォォォォオオズゥ!!!」

 

 

「この狂戦士が!!!」

 

 

叫びと共に向かうヴァトルと、メダキャリバーを構えて地面を蹴り迎え撃つオーズ。再びぶつかり合うオーズとヴァトル。

 

 

 

 

ぶつかり合うは強欲なる狂戦士と空虚なる英雄候補。

 






ヴァトル

闇を司る幻獣系グリード。名前の由来は「バトル(戦い)」。

龍の頭と肩には爪の意匠を持ち全身は鱗に覆われ、不死鳥の翼を持つ。漆黒の炎を放ち、高い腕力と飛行能力と跳躍力を武器にしている。

ヴァトルのヤミーはセルメダルを人間に投与し、人間を取り込む形で誕生する。戦闘行為に関した欲望を持つ人間を選びヤミーに変えている為に純粋に暴れる事で成長する。

冷静で科学技術にも精通し、情報収集も怠らないという知的で冷静な普段の姿と、心から戦いを楽しみ狂気に支配された様に戦う戦闘時の姿を持つ。

『強者と戦うこと』に心から喜びを覚えるが、過去の戦いで心から楽しめて戦えたオーズとは別のライダーと戦ったが、ヴァトルと決着を付ける前に命を落とした為に未だに満たされていない。その為に、オーズである総麻をかつての敵以上に強く冷酷な戦士に成長させる為に行動を起こしている。その為には他の人間だけでなく他のグリード、己のメダルさえも利用する。
標的とした相手には『相手を倒し、相手のメダル諸共奪い返す』と言う意味で己のコアメダルを渡している。

過去の総麻と出会った事から活動時期は他のグリード達よりも早かった様子。


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仮面ライダーオーズ ~満たされぬ者~ 後編

「オォォォォォォォォォオオ!!!」

 

 

「っ!?」

 

 

振り下ろされる爪を避け、時にメダキャリバーで受け止めながらヴァルトから距離を取るオーズ。手持ちのメダルは変身に使用している三枚を除けばアンクに返し忘れた『カマキリ』と『チーター』の二枚とヴァトルから渡されたヴァトル自身の『ドラゴン』のメダルの三枚。

 

 

使う心算はないが、『ライオン』と『クワガタ』のメダルが無い以上、手持ちのメダルの組み合わせでは強力な一手となる二つの『コンボ』は使えない。

 

 

「どォうゥしたァ、その程度かァ!?」

 

 

「まだまだ、この後ヤミーを倒さなきゃならないんだ、あまりお前と遊んでられないんだよ、こっちは!!!」

 

 

オーズはドライバーからトラメダルを外しカマキリメダルへと取り替え、オースキャナーでスキャンする。

 

 

 

『タカ! カマキリ! バッタ!』

 

 

 

そんな声と共にオーズの上半身が緑色のカマキリアームに変わり、『タカキリバフォーム』へとチェンジする。

 

 

「本番はここからだ!!!」

 

 

「ふふふッ、そうだぁ! そうでなければ、面白くないぃ!!!」

 

 

逆手に構えたカマキリソードを振るい連続でヴァトルへと切り掛かるが、ヴァトルはオーズの斬撃を受けながらも防御を放棄し、カウンターの形でオーズの体にパンチを叩きつける。

 

 

「ガァ!!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

それぞれ、パンチと斬撃を受け、そのまま後へと吹き飛ばされるオーズと数歩ほど後退するヴァトル。

 

 

「こいつ…。」

 

 

「どうした、その程度か? では、此方から行くぞ!!!」

 

 

そう宣言し、ヴァトルが翼と両腕を大きく広げると、三つの黒い火球が出現し、それらが一斉にオーズへと向かっていく。

 

 

「くっ!? (今のスピードじゃ対抗できないか。だったら…。)」

 

 

慌てて横に飛びながら避けて、ヴァトルへの対抗策を考え、ベルトからカマキリとバッタのメダルを外し、トラとチーターのメダルを再装填する。

 

 

 

『タカ! トラ! チーター!』

 

 

 

カマキリアームからトラアームへと戻り、足は緑のバッタレッグから黄色いチーターレッグへと変わり『タカトラーターフォーム』とへ姿を変える。

 

 

再度火球を出現させるヴァトルに対してオーズは前腕部にトラクローを展開させ、前方に体重をかけ、

 

 

「フッ!」

 

 

オーズへと向けて一斉に火球を放つ。それを合図にスチームを噴出しながら最高速でオーズはヴァトルの放つ火球をジグザグに走りながら避け、ヴァトルとの距離を詰める。

 

 

「なるほど! グッ!」

 

 

ヴァトルとのすれ違い様にトラクローを一閃し、後方で一度動きを止めると地面を蹴り、再度ヴァトルへと向かっていく。

 

 

「同じ手が二度も通用すると思うな!」

 

 

「思わねぇよ!」

 

 

ヴァトルの一閃する爪を直前に横に避けて真横からキックを放つ。そして、背後を取ると翼を掴み背中にチーターレッグのスピードを利用した連続キックを叩き込む。

 

 

「これでどうだ!!!」

 

 

「ガァッ!!! 調子に…乗るなァ!!!」

 

 

「なに!?」

 

 

反撃できないであろう背中からの連続キックに対してヴァトルは至近距離で火球を爆発させる事で反撃する。

 

 

「クッ!!!」

 

 

「ガァ!!!」

 

 

当然ながら、自身の能力とは言え至近距離での爆発がダメージにならない訳が無い。共に火球の爆発の衝撃によって吹き飛ばされるオーズとヴァトル。

 

 

「こいつ…躊躇なく自分まで巻き込むか?」

 

 

立ち上がりながら思わずそう言ってしまうオーズだった。

 

 

「ハハハハァ!!! 痛みが無い戦いがある訳が無い、傷つく事を恐れて楽しめる戦いが無いだろう? この痛みこそが戦う事の醍醐味だろう!? もっと楽しませろ、オォォォォォォォォォォォォォオオオオオズゥ!!!」

 

 

狂喜の笑いを浮かべながら再度オーズへと接近戦を挑むヴァトルに対して、ヴァトルのラッシュに吹き飛ばされながら、メダキャリバーを回収、三枚のセルメダルを装填し、

 

 

「悪いけどな……オレをお前の様な狂戦士(バーサーカー)と一緒にするな!!!」

 

 

ヴァトルの言葉にどうしてもそう言いたかったオーズだった。

 

 

メダキャリバーを構え、トラクローを展開したままチーターレッグの生み出すスピードを武器に切り掛かる。それに対してヴァトルは攻撃を受けながらも時には自身の拳で、時には火球で正確にオーズへと反撃を与えていく。

 

 

「これでどうだ!?」

 

 

 

『トリプル・スキャニングチャージ!』

 

 

 

並みの攻撃では通用しないと考え、オーズの狙いであった強化された必殺の剣戟、全フォーム共通のメダキャリバーを使う必殺技『オーズバッシュ』を放つ。

 

 

「グゥ!!!」

 

 

強化された剣戟が空間毎ヴァトルを切り裂き、空間の修復と共に対象となったヴァトルだけが切り裂かれる。はずだった。

 

 

「なにッ!?」

 

 

「グ…グォォォォォォォォォォォオオ!!!」

 

 

咆哮と共にヴァトルの空間が修復され、周囲の空間が切り裂かれる。

 

 

「今のでも駄目か、こいつ!? …本格的に化け物だな…。」

 

 

「今のは危なかったなぁ~。」

 

 

必殺技の直撃にも耐え、狂気の笑みを深めながらヴァトルは尚もオーズへと向かう。

 

 

「ッ!? こいつ!!!」

 

 

オーズはチーターレッグのスピードを活かし、ヴァトルの攻撃を避けながらメダキャリバーによる反撃を加えていく。だが、

 

 

「はぁ…はぁ…。」

 

 

「アハッハハハハッ!!! なるほど、奴ほどじゃないが、中々楽しいなぁ! オォォォーズゥ!!!」

 

 

(…こいつ…完全に遊んでる。)

 

 

意気の上がっているオーズに対して狂喜の笑みを浮かべながら叫ぶヴァトル。明らかに目の前のグリードのその態度と様子から考えて『遊んでいる』と言う考えが浮かぶ。

 

その考えも間違ってはいないだろう。グリードはヤミーとは実力は愚か、存在自体が違う。それから考えるとヴァトルはオーズが戦えるレベルまで手加減した上で戦って遊んでいるのだ。

 

狂戦士(バーサーカー)と呼べる狂気を纏っていながら、相手の力量に合わせて手加減する程の冷静さも維持していると考えられるだけに本気を出されれば…否、自分との戦いに飽きられればその時点で敗北が確定すると考えられる。

 

 

(…賭けて見るか…一か八かの策に。)

 

 

そう考えて取り出すのはヴァトルから渡された『ドラゴン』のコアメダル。『毒を持って毒を制す』と言う訳ではないが、ドラゴンのメダルの力は完全に未知の物であり、ヴァトル自身の力を使って本人に対抗出来るかどうかは完全に賭けだ。だが、有効な手が無い以上、今はこれに賭けるしかない。

 

 

「さあ、今度はどんな手を使う? コンボは使わないのか?」

 

 

「悪いが、アンクの奴が必要なメダルを持っててな。だから、これを使わせてもらう!」

 

 

 

『タカ! ドラゴン! チーター!』

 

 

 

トラメダルを抜き取り、ドラゴンメダルを装填し、三枚のメダルをオースキャナーでスキャン。そして、オーズの上半身が黒く染まる。

 

 

「オォォォォォォォォォォォォォオオオ!!!」

 

 

オーラングサークルの中央が黒い龍の絵に変わり、両肩が爪を模した様な金色の鎧に包まれ、両腕には龍の頭を象った様なガントレット『ブレスナックル』を装着した上半身『ドラゴンアーム』へと変わる。それが、闇の力を司るヴァトルのメダルの力を使い得た力『仮面ライダーオーズ・タカドラターフォーム』。

 

 

「クックックッ…アーハッハッハッハッ!!! そうか…使ったか…オレの力をォ!!!」

 

 

(っ!? なんだ、これは!? 単独でしか使って無いって言うのに、気を抜いたら、メダルの力に飲み込まれる!?)

 

 

「さあ、どこまで使えるか見せて貰おうか!?」

 

 

「チッ!!!」

 

 

ドラゴンメダルが与える力に飲み込まれそうになる中、舌打ちし、オーズの都合などお構い無しに自身へと向かって来るヴァトルを迎え撃とうと拳を向け、地面を蹴りヴァトルを迎え撃つ。

 

 

ヴァトルの振るう爪を避けチーターレッグのスピードで一気に懐に飛び込むと、ブレスナックルを着けた腕でのパンチを放とうとした瞬間、ブレスナックルの後方から黒い炎が噴出しパンチを加速させる。

 

 

「ガァ!!!」

 

 

「なるほど…これがお前のメダルの力か!!!」

 

 

ドラゴンアーム…両腕に装備されたブレスナックルの後方から噴出される炎によってパンチ力の強化を行う。接近戦での戦闘力に特化している。そして、本来の力はコンボによって最大限に発揮される。

 

 

「どんどん行くぜ!」

 

 

「ガァ!!!」

 

 

左腕のブレスナックルからも炎が噴出しヴァトルへとパンチが叩き込まれる。パンチによる連続攻撃が続く中、前方からも炎が噴出した事によりオーズのラッシュの速度が増していく。

 

 

「オォォォォォォォォ!!!」

 

 

「調子に乗るなぁ!!!」

 

 

噴出す炎の出力が増し、最大限に加速されたオーズの右ストレートとヴァトルのパンチが交差し、クロスカウンターの形で互いの体へと突き刺さる。

 

 

その衝撃によって弾き飛ばされるオーズとヴァトル。そして、地面を転がりながらオーズの変身が解除される。

 

 

「クックッ…終わりの様だな、オーズ。ガァッ!?」

 

 

立ち上がりながら嘲笑の笑みを浮かべた瞬間、ヴァトルは苦しみ始める。

 

 

「ああ、終わりだ。これでな。」

 

 

それに答えるように立ち上がりながら、総麻が握っていた手を開くと、そこにはドラゴンのメダルを含む三枚のコアメダルが存在していた。

 

 

「クックッ…最後の一撃でオレのメダルを手に入れたか。」

 

 

そう告げるヴァトルの体の表面が崩れ落ち、簡素な姿へと変わる。

 

 

「教えてやろう…犠牲者を出さすに、私のヤミーを倒す方法を。」

 

 

「……………。」

 

 

ヴァトルの言葉に総麻は睨みつける事で答える。

 

 

「そんな顔をするな。嘘は言わない。…その方法は二つ存在する。一つは『あいつ』のメダルの力を使うか、一つはオレのメダルを使ったコンボを使うかの二つだ。」

 

 

「お前のメダルのコンボだって!? よし。」

 

 

ヴァトルの言葉に思わず手元のメダルへと視線を向ける。メダルは三枚…そのメダルは全て違う絵柄が描かれたメダル。コンボに必要なメダルは全て揃っている。

 

 

「その様子ではコンボに必要なメダルは揃っている様だな。見せて貰おうか…お前がかつての封印の戦士が命を落とした力を使えるのか? それとも、己の命を拾って他者の命を奪う選択を選ぶか。」

 

 

そう告げたヴァトルは総麻へと背中を向け、跳び去っていく。

 

 

「…なるほど…危険な賭けか。」

 

 

ヴァトルの姿が見えなくなると、三枚のメダルへと視線を落としながら、ヴァトルの言葉で得た答えを呟く。賭けるのは己の命。

 

 

「やるしかないか。」

 

 

握り締めるのはドラゴンを含めた三枚のコアメダル。まだダメージの残る体を引きずりながらライドベンダーへと乗り込み、アンクから連絡が有った場所まで走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ、何処で遊んでる?」

 

 

苛立ちを覚えながらアンクが暴れまわるグリフォンヤミーの姿を見ていると、後からライドベンダーのエンジン音が響いてくる。

 

 

「やっと来たか、何をやっていた!?」

 

 

「そう怒るなって、これをやるから機嫌直せ。新しいグリードに襲われてたんだ。」

 

 

「なに? これは?」

 

 

そう言って先ほど手に入れたドラゴンのコアメダルを一枚アンクへと投げ渡す。

 

 

「…あと…終わったら、今日は一日何もしたくない気分だ。帰って、フェイトへの説明が終わったら、もう寝る。」

 

 

連戦が続き完全に総麻の体に残っている疲労は大きい。今の状態でしたくない賭けではあるが、しない訳には行かない。………賭けに負けて永遠に休む事になるのだけは勘弁して貰いたいが。

 

 

「変身!」

 

 

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ!♪ タトバ!♪ タッ・トッ・バッ!♪』

 

 

 

「はぁッ!!!」

 

 

オーズへと変身し、グリフォンヤミーの背中に飛び蹴りを放ち、自分へと攻撃の対象を向けさせる。

 

 

「さあ…この力、使わせてもらう!!!」

 

 

三枚のメダルをそれぞれ別のメダルに入れ替え、オースキャナーでスキャンする。

 

 

 

『フェニックス!』

 

 

 

タカメダルを不死鳥の絵が描かれた『フェニックス』のメダルに、

 

 

 

『ドラゴン!』

 

 

 

トラメダルをドラゴンメダルに、

 

 

 

『ペガサス!』

 

 

 

そして、バッタメダルを羽と馬を象った天馬を表す絵が描かれた『ペガサス』のメダルへと入れ替える。

 

 

 

『フェ!♪ ドラ!!♪ サス!!!♪ フェドラ♪ フェドラサス!!!♪』

 

 

 

「オォォォォォォォォォォォォォオオ!!!」

 

 

オーズのオーラングが黒く染まり、頭が黒と赤でフェニックスを模した頭『フェニックスヘッド』に代わり、体がドラゴンアーム、下半身が白い翼の様なパーツを着けた黒と白の色彩を持った『ペガサスレッグ』へと変わる。それが、ヴァトルの闇の力を得たコンボ『フェドラサスコンボ』、『仮面ライダーオーズ・フェドラサスコンボ』。

 

 

自身に近づいてくるグリフォンヤミーの体にブレスナックルの強化されたパンチを打ち込み、吹き飛ばし、右腕を真上へと上げる。

 

 

すると何処からか小型の短剣が二枚現れ、背中に装着され翼となる。

 

 

フェニックスヘッドの能力はフェドラサスコンボ時の翼となる武器『ストライクフェザー』のコントロール。ストライクフェザーはフェニックスヘッドで自在に操る事が可能で有り大きさを自在に変化させ、トンファー等の武器に変形させる事も出来る。

 

 

ジャンプと同時にペガサスレッグの翼上のパーツが広がり、より高くジャンプする。高い跳躍力とコンボ時にはストライクフェザーの飛行による短時間の飛行を可能とする能力を与える。

 

 

上空でグリフォンヤミーへと向けたブレスナックルを装備した腕から噴出す黒い炎がブレスナックル全体を多い、黒い炎を纏った拳がグリフォンヤミーに叩きつけられる。

 

 

「っ!?」

 

 

グリフォンヤミーの体が吹き飛ばされた時、一瞬、核となった男と体が別れる。

 

 

これこそがフェドラサスコンボの能力の一つ、人が取り込まれた時にもヤミーにのみダメージを与えられる特殊な力。己の命を賭ける事により、傷付ける事無く、犠牲者を救う事の出来る力。

 

 

 

『スキャニングチャージ!!!』

 

 

 

「これで…決める!!!」

 

 

背中のストライクフェザーから黒い炎が伸び、両肩の爪状のパーツが前方を向き、足の翼状のパーツが広がり、そのまま大きくジャンプする。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」

 

 

三つの黒い輪がオーズとグリフォンヤミーの間に現れ、輪を潜る度にオーズの全身を包む黒い炎が大きくなり、形をフェニックス、ペガサス、ドラゴンと形を変えていく。

 

 

そして、オーズが打ち抜いた瞬間、グリフォンヤミーから核になっていた男が切り離され、グリフォンヤミーが上空に浮かび上がり、そのまま爆散し、セルメダルを撒き散らす。それが、フェドラサスコンボの必殺技『フェドラシスキック』。

 

 

「なに!?」

 

 

飛び散るセルメダルをアンクが集めようとした瞬間、それらのセルメダルは一斉に別の場所へと向かって飛んでいく。

 

 

「お前ぇ!!!」

 

 

「悪いが、セルメダルは回収させてもらった。」

 

 

アンクが向けた視線の先には、メダルへと手を翳し、回収しているグリフォンヤミーを生み出した本人であるヴァトルの姿があった。

 

 

「ヴァトル!! ガハァ!!!」

 

 

「無理をするな。上手くコンボは使ったようだが、その程度ではまだ100%とは行かないが。まあ、それでも最低限の事は出来たようだな。」

 

 

ベルトが外れ強制的に変身が解除され、その場に膝を着く総麻を満足気な笑みを浮かべ眺めながら、ヴァトルは背中を向ける。

 

 

「及第点はくれてやろう。私のコアメダルは預けておく…私に倒されるまでは奪われるなよ。オーズ…いや、ソウマ。」

 

 

そう言い残し立ち去っていくヴァトルの姿を眺めながら、総麻は意識を手放していく。

 

 

「なんだったんだ、奴は?」

 

 

「さあ……な…。」

 

 

「総麻!」

 

 

アンクの言葉にそう答え、限界を迎えて意識を手放す寸前、彼を心配するフェイトの声と姿が視界の中に映る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別の場所…

 

 

「オーズ…中々楽しめる相手だったな。」

 

 

「あら、ヴァトル。貴方がそこまで評価するなんてね。」

 

 

ヴァトルの背後から穏やかな女性的な声が響く。

 

 

「『セイヴ』、お前か?」

 

 

「ええ。この姿だから分からなかったかしら?」

 

 

青い髪の女性の姿を借りたグリード『セイヴ』はニコリと笑顔を浮かべながら、ヴァトルの言葉に答える。

 

 

「人間の中で目立たない様にするのに、随分前から借りているんだけど、中々気に入っているのよ? 少し借りるのが遅かったら、危ない所だったけどね。」

 

 

「相変わらず変わり者だな。」

 

 

「あら、私は純粋で綺麗な欲望や、そんな気持ちを持っている人が好きなだけよ。グリードらしくていいでしょ?」

 

 

「…人間もお前も何故欲望を区別したがるのか…理解できないな。」

 

 

呆れたような表情をセイヴへと向けてヴァトルは歩き出す。

 

 

「どこに行くの?」

 

 

「この世界に呼んだグリード達にだ。『奴』が蘇る前に挨拶に行こうと思ってな。手土産も作れた事だ。」

 

 

そう言って姿を消すヴァトルの背中を眺めながら、セイヴは空を見上げる。

 

 

「そう。彼はまだ蘇ってないのね。危険な『混沌』のグリード…『ゼウォス』は。オーズ、貴方なら彼を倒す事は出来る…私の力を託す事は出来る?」

 

 

何処か悲しげにセイヴはそう呟いた。





セイヴ

光を司る聖獣系グリード。名前の由来は「セイブ(救い)」。

天使をイメージさせる本来の姿を持ち、高いスピードと剣を使った戦闘力を持ち、人間やヤミー、グリード等を回復させる能力を持つ、本人は戦闘は好まない性格の為に発揮される事は無い。

セイヴのヤミーは人間にメダルを投与し、最初から完全体の姿で生まれる。善意に関する欲望を持っている人間を好んでヤミーを生み出している為に、オーズにしてみれば、倒すに倒せない相手。(例を上げるとレスキュー隊員等からヤミーを生み出すと、人命救助を始める等)

グリードの中では純粋で綺麗な欲望を好み、人を好いている心優しい性格。但し、悪人や醜い欲望を持った人間対しては冷酷になる。

普段は偶然に命を落とす直前のクイント・ナカジマの体を借りて活動している。(表向きには死亡したようになる様に工作していた為、記録上は死亡した事になっている。)

活動時期は他のグリード達よりも早かった様子で、『ゼヴォス』と呼ぶ混沌のグリードの存在を恐れている。


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仮面ライダーオーズ~満たされぬ者~ エピローグ

廃墟らしき建物の中、その中に有るのは四つの異形の影達。

 

 

クワガタムシの顎状の角、カマキリの鎌と複眼、外骨格や節足的な突起に覆われたボディを持つ昆虫系グリードの『ウヴァ』。

 

 

ライオンのような鬣と鋭い牙、細身で攻撃的なフォルムを持ち、素早い身のこなしと伸縮自在な鉤爪を持った猫系グリード『カザリ』。

 

 

ゾウの牙と鼻、サイの角を備えた頭部と、ゴリラの如き屈強なボディを持つ重量系グリード『ガメル』。

 

 

シャチを模した頭部、イカの足状の触手を備えたマント、タコの吸盤状の意匠がある脚部に加え、全体的に流線的なフォルムが目立つ水棲系グリード『メズール』。

 

 

かつてのオーズが封印し、ミッドチルダで復活したアンクと同じグリード達の姿がそこに有った。

 

 

彼等の居る廃墟の中に新たな足音が響く、何事かとグリード達の視線がそちらへと向く。その足音の主はヴァトルだ。

 

 

「だれ?」

 

 

「なんだ、お前は?」

 

 

ガメルが疑問の声を上げ、ウヴァがヴァトルへと近づくがそれを無視する様にその横を通り過ぎてグリード達の中央で立ち止まり、一礼する。

 

 

「先ずは初めましてと言って置こう地球の同胞達よ。私の名はヴァトル、この世界に在る君達の同胞の一人だ。」

 

 

「君もグリードなの?」

 

 

「そうなるな。生まれた世界こそ違えども目覚めた同胞に挨拶に来た訳だ。よろしく頼む。」

 

 

「世界が違う、だと?」

 

 

「やっぱりここは私達が元々いた世界じゃなかったのね。」

 

 

ヴァトルの言葉に反応して問い掛けるウヴァとメズール。

 

 

「その通りだ。私が此方の世界へと君達を招待した。」

 

 

「ふーん、君がね。それで、君は何が目的なの?」

 

 

「目的? 変な事を聞くな、オレもグリードで有る以上、己の欲望を満たす為に行動している、タダそれだけだ。そんな事よりも…。」

 

 

カザリの言葉にそう答えながらヴァトルが右腕をゆっくりと上げると、グリフォンヤミーの体を構成していたセルメダルがヴァトルの体から飛び出していく。

 

 

「わー、メダルだー。」

 

 

「これは、セルメダル!?」

 

 

「こんなに大量に!?」

 

 

ヴァトルの体から飛び出していくメダルが止まると、ヴァトルは腕を下ろしウヴァ達へと向き直る。

 

 

「今まで挨拶が遅れた詫びも兼ねた手土産だ。気に入ってもらえたか?」

 

 

「ええ、とっても。でも、良いの、こんなにメダルを貰っても?」

 

 

「いや、私もメダルの独占等は考えては居ないからな。それに、私のヤミーはメダルが増え易い、この程度の量のメダルは直に手に入る。今回はお前達への手土産だ、遠慮なく受け取ってくれればいい。」

 

 

「わー、すごいすごい。」

 

 

「そう、それじゃあ、遠慮なく貰うわね。」

 

 

「それでは、同胞達よ、同じグリードとしてこれからも仲良くやって行こう。(私の目的の為に、オーズを強くする為にな。)」

 

 

メズールに指示されてセルメダルを分けるグリード達を一瞥し、オーズドライバーに似た何かの残骸を握り締め、心の中で笑みを浮かべながらヴァトルは心の中でそう呟くのだった。

 

 

(…オーズ…。貴様も奴の域に辿り着き、越えろ。下らない事で命を落とさない完全な戦士としてな。)

 

 

ヴァトルが思い出すのは己を満たした戦いを与えたもう一人の封印の戦士。

 

唯一彼とセイヴが恐れる混沌のグリードを封印し、最後のグリードとなったヴァトルと戦う前にヴァトルのヤミーに取り込まれた人間を助けようとフェドラサスコンボの完全な力の解放を行い、その命と引き換えに取り込まれた人間を助けた封印の戦士。

 

それ以上己を満たす戦いが得られないと分かり、失意の中でヴァトルは自らを封印した。

 

 

故にヴァトルが、まだ未熟とは言えオーズに望むのは彼の望む完全な戦士になる事。己の為に戦い、冷酷な戦闘マシーンの様な戦士になる事を、その“素質”を見出した総麻に望んでいる。そして、彼の望みどおり、総麻は新たなるオーズとなった。

 

 

ヴァトルとグリード達、交わる事の無かったはずの二つの世界の欲望を糧とする王達と闇の王はここに出会ってしまった。そして、光の王はまだ動かず、混沌の王は未だ眠り続けている。

 

 

こうして、物語は真の始まりへと一歩ずつ近づいていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つぅ…。」

 

 

意識を取り戻した総麻の視界の中に映ったのは、見慣れた自宅の天井だった。次に窓の外へと視線を向けるとすっかり日が暮れて外は闇が包んでいた。

 

 

「(…生きては…いるみたいだな…。)ぐ。」

 

 

調子を確かめる為にゆっくりと右腕を伸ばそうとすると腕に痛みが走る。それたけではなく全身に同質の傷みを感じる、体を酷使した事が原因なのだろう。一日の中での連戦とヴァトルのメダルのコンボで肉体を酷使し過ぎた。

 

だが、あれからどれだけの間眠っていたのかは分からないが、緊張が切れたからか、寧ろ疲労は意識を手放す前よりも大きい。そう、例えるならば、

 

 

(…あのコンボ…力の代償に命を削るって言うんじゃないだろうな?)

 

 

『命を削られた感覚』とでも言うのだろうか、そんな感覚を覚えてしまう。

 

 

「だとしても、望む所だ。」

 

 

結局の所、使って相手を確実に倒せるならば命を削られた所で何も惜しくは無い。負けてその場で死ぬぐらいなら、力の代償に己の命を削られる程度のリスクは支払う覚悟は有る。だが、

 

 

(どれだけ使えるか分からない以上…当分はこのコンボは禁じ手だな。)

 

 

それだけは結論付ける。各メダル単独での派生フォームとしての使用は兎も角、ヴァトルのメダルのコンボは本当に必要な時以外には絶対に使えない。代償を支払うのを躊躇する気は無いが、無駄遣いは出来ない。それが命を削る切り札ならば、それを覚悟した上で切り札として使えば良い。だから、使い所は間違える訳に行かない。

 

 

「(結構痛むけど、動けないほどじゃないな。)それにしても、どれだけ寝てたんだ? それに、誰がオレを家(ここ)に?」

 

 

そんな事を言いながら寝かされていたソファーから体を起こすと、

 

 

 

「気が付いたのか?」

 

 

 

聞き覚えのある声が聞こえてそちらの方へと視線を向けると、そこには見知った顔が有った。

 

 

「後藤さん? 後藤さんがここまで運んでくれたんですか?」

 

 

鴻上ファウンデーションからツールやコアメダルやケーキ等を届けてくれる人、『後藤 慎太郎』の姿を見つけ、そう問い掛けるが、本人からの返事の変わりに何か(恐らくはケーキ)が入っている箱を置き、モニターをセットする。

 

 

『やあ、神凪総麻くん、元気そうで何よりだ。』

 

 

モニターが一人の男性の姿を映し出す。その男性の名は『鴻上 光生』、総麻の雇い主とも言える鴻上ファウンデーションの会長である。

 

 

「どうも、鴻上さん。一応元気ですけど、まだ、体が痛いし、疲れは残ってます。」

 

 

『人と人の出会いと繋がりには必ず意味がある。素晴らしい事だ! 私はそれを祝福するケーキを送ろう。』

 

 

「はぁ?」

 

 

『実は今日は君に追加の仕事を頼みたくてね。』

 

 

「仕事…ですか? アンクに言わないって事はヤミーには関係していないって事ですか?」

 

 

モニターに映る鴻上を一瞥しながら総麻はそう問い掛ける。

 

 

『その通り、これはフリーの魔導士としての君への依頼だよ。君も地上で本局の部隊が新設される事は知っているだろう。確か名前は古代遺物管理部機動六課と言ったかな?』

 

 

「ええ、オレの知り合いが大勢関わっている部隊ですし、そこの部隊長になる予定のエリートさんが直々にオレを勧誘に来ましたから。」

 

 

『またか』と言う表情を浮かべながら軽く溜息を吐き、表情を直すと鴻上の言葉にそう答える。

 

鴻上の言葉を聞いて後藤もその表情に嫌そうな物を貼り付けるが、モニターを見ていた総麻はそんな彼の表情を見る事は無かった。

 

 

『その通り。実はね、我が社もその部隊に設立の為の資金を出しているんだよ。だが、スポンサーである此方としてはそれなりの結果を出して貰わなければ困ると言う訳だ。そこで、地上のゲイズ中将と話し合った結果、中立の立場の我が社の『ライドベンダー隊』から一人、常駐査察官を送る事になった。』

 

 

「なるほど。」

 

 

そう呟き、総麻は後藤へと視線を向け、

 

 

「じゃあ、隊長の立場である後藤さんが行く事に『君だよ、神凪総麻君。』オレ!?」

 

 

鴻上に告げられた言葉に思わず驚きを露にしてしまう。

 

 

「………鴻上さん、その言葉が本当だとしたら、さっきの言葉は全部『建前』でしょう? 大体、オレは『ライドベンダー隊』じゃないですし。」

 

 

『その通りだ。本来の目的は今までヤミーが引き起こした事件に対する対策として、我が社から一人、対ヤミー用のメダルシステムで武装したライドベンダー隊から『優秀な隊員』を管理局に出向させる事になった。』

 

 

そこで一度言葉を切ると、

 

 

『既にグリード達を捕獲しようとした局員はその所属に関係なくその大半が命を落としている。そして、我々の開発したメダルシステムを有するライドベンダー隊の一員として話を通している君の存在が時空管理局では歯が立たないグリードやヤミーと戦い、その被害を最小限に抑えていると言う訳だ。』

 

 

『君のお蔭で我が社も時空管理局に対して大きな発言力を得る事が出来た。』と付け加える鴻上の言葉に負わず頭を抱えたくなる。

 

…それもそうだろう…。鴻上の言うメダルシステムで武装した隊員とはオーズの事で、向こうに何の目的が有るかは分からないが、鴻上は総麻にライドベンダー隊の一員と言う立場で機動六課に協力しろと言っているのだ。

 

 

まあ、鴻上には総麻が管理局を気にせず自由に動ける様に手配して貰っている上に寝泊りする家を用意して貰い、金まで払って貰っているのだから、その程度の事で今更文句を言う気は無い。寧ろ、鴻上が管理局に対して影響を及ぼせるようになれば味方である内は総麻にとっても有利に働いているのだし。

 

 

「ヤミーやグリードへの対策の為の協力なら地上の他の部隊ならまだ分かるんですけど、何故態々機動六課と言う部隊なんですか? 効率的にヤミーと戦える様にする為ならどの部隊でも問題は無いはずだ。」

 

 

『その通り。確かに機動六課を選んだのには、理由(わけ)はある。それは…。』

 

 

「それは?」

 

 

『秘密だ。』

 

 

「なるほど、秘密なら仕方ないですね。それで、オレには査察官として所属する事になる訳ですけど立場は?」

 

 

『ああ。君は機動六課では普段は嘱託として所属してもらう。ヤミーやグリード以外の戦闘にも参加して貰う事になるが、優先させるのは飽く迄ヤミーとグリード。魔導士では太刀打ちでない敵との戦いだ。』

 

 

「…………。」

 

 

『また、ヤミー及びグリード以外の出動で消費したメダルについてはちゃんと報告して貰えれば、此方から支給しよう。』

 

 

鴻上の言葉に黙り込んで暫く考え込む。鴻上の目的は分からないが、管理局を利用して効率良くメダルを集めろと言う事だろう。上手く行けば、ロストロギアとして管理局で回収されたセルメダルやコアメダルを入手する目も出てくる。何より、総麻には受けた所で損は無い。

 

 

そして、オーズを鴻上ファウンデーションで開発されたメダルシステムとして扱う事も、最悪の場合はロストロギアにされてしまいそうなオーズドライバーへの注意を逸らす意味も有るのだろう。

 

 

「ええ、分かりました。その依頼、受けましょう。」

 

 

『ああ、契約成立だ。』

 

 

画面の奥でそう告げてクラッカーを鳴らす鴻上に合わせて後藤が箱を開くとブルーベリーやイチゴ等でデコレーションされ、中央にチョコレートで『契約成立』と描かれたケーキが出てきた。

 

 

『向こうにも君の装備の整備や点検は我々で行う事になっていると伝えてあるので、くれぐれも管理局に我が社の最新技術を盗まれないように注意して貰えるかな。』

 

 

「分かりました。オーズの装備一式は絶対に調べさせないようにします。」

 

 

言葉を変えれば鴻上からは時空管理局…機動六課の者に『オーズ』の“真実”を知られない様に注意しろと言われている。それも納得できる事だ。オーズの事は飽く迄メダルシステムの一つとして話を進めていくしかない。例外としては既に色々と説明する事になっているフェイトだけだろう。その事に付いては

 

 

(…ヴァトルには感謝しないとな…砂一粒ほどは。)

 

 

その程度だがヴァトルに対して感謝しておく事にした総麻だった。ヴァトルのお蔭で友人に隠し事をする罪悪感が僅かながら軽減できたのだから。

 

 

だが、残る二人の友人達、高町なのはと八神はやての二人には絶対に話すべきではないと考える。タダでさえ質量兵器に分類されるであろうオーズの力を使って戦う以上、問題は幾らでも発生する。それなりに付き合いは長い以上、妙な方向では有るが信頼しているのだ。

 

 

(…表向き質量兵器、真実はロストロギア…。…あー…絶対に知られない方が良いな。)

 

 

映像が消えたモニターを片付けている後藤へと視線を向けながら、総麻は、

 

 

「あの…オレってどの位眠っていたんですか?」

 

 

「ホンの二、三時間位だ。」

 

 

「…そうですか…。」

 

 

そう言って帰っていく後藤の背中を見送りながら、空腹を覚えて送られたケーキへと視線を向ける。

 

 

「腹減った時に食べ物を送って貰えたのは嬉しいな。」

 

 

そう言って台所からケーキを切る為にナイフを取りに行こうとした時、ケーキのクリームに一箇所だけ違和感を覚え、その部分を抉ると一枚のメダルらしき物が出てきた。

 

 

「白い…ユニコーンのコアメダル…。」

 

 

クリームを落としながらメダルの絵柄を確認すると、それは始めてみる白いユニコーンの絵が書かれたコアメダルである事が確認できた。

 

 

「なるほど、戦力の強化してくれたって訳か。」

 

 

そのコアメダルを握り締めながら、そのメダルが入っていたケーキへと視線を向けると、

 

 

「…ケーキにコインを入れるって、『ガレット・デ・ロワ』かよ? それ以前に衛生面は大丈夫か?」

 

 

そんな感想を持ってしまう総麻だった。それでも、空腹には勝てないと思いながら台所からナイフを取って来ようと立ち上がった時、ドアが開く。

 

 

「あっ、総麻。」

 

 

「フェイトか?」

 

 

料理が盛られた皿の乗ったトレイを持ったフェイトが居た。

 

 

「良かった、目が覚めたんだ。」

 

 

「あー…なんか、心配かけたみたいで悪かったな。」

 

 

「うん、心配したよ、急に倒れてから今まで目を覚まさなかったんだから。ご飯作ってきたんだけど…食べる?」

 

 

「貰う。」

 

 

テーブルに着き置かれた料理を口に運びながら、フェイトへと視線を向ける。

 

 

「あー…そうそう、オレも機動六課に協力する事になった。」

 

 

「え!? で、でも、それだと、ヤミーとかグリードには…。」

 

 

「いや、オレの雇い主が言うにはそれの対策の為らしい。それで…なのはに、はやてとはやての所のヴォルケンリッター以外に誰が参加するんだ?」

 

 

「それが…私が知らない内にはやてが『エリオ』と『キャロ』も誘っちゃって…。」

 

 

フェイトの言葉に思わずスプーンを落としてしまい、頭を抱えてしまう。

 

 

「…子供を何危険な所に…本当に何考えてるんだ…あいつは…。」

 

 

フェイトからの相談事の大部分を占めていた彼女の保護している子供達の名前が出てきた事に思わず頭を抱えてしまう。……自分に相談されても、的確なアドバイスは出来ないだろうと常々思って居たのだが……。

 

 

本人の意思も有るのだろうが、まだ相手はまだ子供と言える年齢…そんな子供を前線に出す時点で呆れと怒りを覚えてしまう。

 

自分達も経験した事とは言え…当然の様に子供を戦力として考える等と悪い意味で管理局に染まっている友人達に対して頭を抱えてしまうしかない総麻だった。『本気であの二人との友人としての縁を切ろうか?』と悩んでしまう彼の罪は少ないだろう。

 

 

「…まあ、フェイトなら本人達の意思は尊重するだろうし…それを見越した上での事後承諾か?」

 

 

総麻の言葉にしゅんとなるフェイトを眺めて悪い事を言ったと思って直に謝る。

 

 

「まあ、そう言う訳で…まあ、一年間よろしくな。」

 

 

「うん。」

 

 

総麻の言葉に嬉しそうに答える彼女を一瞥し、思わず微笑が零れる。だが、

 

 

「ちょっと待て、何勝手に引き受けてる!? メダル集めはどうなる!?」

 

 

アンクが乱入してきたのでした。

 

 

「あー、煩いぞ、アンク。ちゃんと、ヤミーとグリードを倒すのを優先して良いって言われているから安心しろ。明日アイスでも買ってやるから、あっち行ってろ。」

 

 

そんなアンクを横目で眺めながら追い払うように腕を振る。

 

 

「…オレとその女じゃ、随分と態度が違うな…。」

 

 

「…お前とフェイトをオレが同列に扱うと思うか?」

 

 

「………。~~~~!!!」

 

 

総麻の言葉に顔を真っ赤にするフェイトと納得しながらも納得できない部分で激しく怒りを覚えるアンク。

 

 

そんな二人を気にもせず食べ終わった食器を片付け、ケーキを切り分けてフェイトとアンクの二人の前に出してお茶を沸かしている総麻。…取り合えず、目的は分からないが、鴻上には多少の警戒と契約とは言え多大な協力に対する感謝を持っている。何より、こうして好意から送られてくる手作りケーキは素晴らしく美味しいのだし、自分から敵対する意思は無い。

 

 

そんな鴻上からの依頼ならば機動六課に協力するのも悪くは無いと思う。少なくとも…友人達は総麻にとって守るべき価値のある人間なのだから。

 

 

その一方で、最近グリードのお蔭で交流が有るウヴァ、カザリ、メズールの三体のグリード達に一回ずつヤミーを生み出す媒介にされた挙句、カザリの時は本気で(総麻のせいで)死に掛けた上に本気で三回とも命の危険を感じた上に研究成果はゼロにされたり(食われる、壊される等して)、グリード達に『メダルを増やすのに丁度良い』と目を付けられて、関係者全員がすっかり『メダル恐怖症』になった某マッドの所にでも一度足を運ぶべきかとも考える。

 

 

 

 

オーズチームの一日はそんな形で過ぎていくのでした。

 

 

 

そして、物語は本編へとつづく…

 

 





ユニコーンアーム

セイヴのメダルの一つ『ユニコーンメダル』で変身するオーズの上半身。

肩にユニコーンの角を思わせるパーツが付随し、それを外す事で専用武器ユニコーンランスに変形する(計二つ)。

また、セイヴのメダルは共通してヤミーにのみダメージを与える力を持つ。但し、状況によっては単独では効果が薄れる事も有り、注意が必要となる(過去の封印の戦士はセイヴのコンボは使えず、派生フォームでは救えないと考えた結果、危険なヴァトルのコンボを使い命を落とした)。








ゼヴォス
混沌を司る神獣系グリード。名前の由来は「ゼロ」と「カオス(混沌)」。構成するコアメダルは『フェンリル』、『ケルベロス』、『ヒドラ』の三枚。

本来の姿は灰色の狼をイメージさせる獣人と言った姿だが、戦闘力を強化させる様に両肩に狼の首が生え、腕や足に蛇が巻きついた様な姿に変わる。グリードの中でも珍しい、完全体としての姿とセルメン以外の姿を持ったグリードである。

紫のメダルの目覚めに呼応する様に復活したグリードで、実は全てのグリードの中でも性質としては最も安全と言えるが、セイヴが危険視しているのはゼヴォスの司る欲望である。

求める欲望は『調和』。物からでも人からでもヤミーを生み出し、彼の生み出したヤミーは共通して争いの根源になる『力』や『才能』、『意思』を奪う能力を持つ。彼のヤミーの場合、そのヤミーが作り出したセルメダルを破壊しなければ、奪われた物は戻る事は無い。

かつてはゼヴォルによって、競う事を忘れた人々は無気力の中で衰弱していった為に世界は表面的な平和の上でゆっくりと滅びそうになった。平和の中でゆっくりとした滅び…それを危険視している為に危険視されている。

人間態は彼のコアメダルが保管されていた研究所に居た人造魔導士の少年の体を借りている。(また、その研究所の関係者は全員が彼のヤミーによって生きる気力を奪われ、現在では生きるだけの状態になった。)性質も人間態の姿と同じく争いを嫌う純粋な子供と言った性格、小動物が好きでガメルとは仲良しになった。


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仮面ライダー響鬼〜神鬼の指針〜 序章

仮面ライダー響鬼と転生学園 月光録のクロスオーバーです。


日本には、古来二種類の『鬼』と呼ばれる者たちがいた。

 

 

一つは人間でありながら超人的な能力を持ち、『魔化魍(まかもう)』と呼ばれる妖怪の類から人々を守っていた。そして戦国時代に端を発すると言われている『鬼』をサポートする人々の体系は何時しか組織へ発展し、『猛士(たけし)』と呼ばれるようになった。

 

 

そして、『魔化魍(まかもう)』と呼ばれる妖怪と戦う『守護者たる鬼』とは対極に立つもう一つの鬼、邪悪なる鬼『鬼王』の存在。

 

 

 

 

 

日本には古来より存在する『天照郷(てんしょうごう)』と呼ばれる土地が有る。そこは『天に仇なす闇のモノ達』、世に様々な災厄をもたらす天魔と呼ばれる存在に対抗しうる験力と呼ばれる才能に恵まれた者を見出し、育て、組織する為の場所という顔を持つ。

 

 

 

人知れず、憑かれたモノを祓い、乱れるモノを鎮め、怒れるモノを屠る『鎮守人(しずもり)』。

 

 

 

 

 

 

 

これは、若くして鎮守人としての宿命を受け入れ、天魔との戦いに身を投じた者たちの物語から数えて五年の後…そして、善なる鬼達が伝説に謳われる最悪の魔化魍(まかもう)と同じ名を持つ大災害『オロチ現象』を鎮めた時から数えて二年後の物語。

 

 

東京を舞台に、日本と言う国に住む人々を守る二つの存在『鬼』と『鎮守人』、その間に立つ事となり、戦う宿命を与えられた一人の少年とその仲間となる少年少女の物語である。

 

 

 

 

 

 

深夜

 

 

本来、眠るという事を知らないような街の灯りが落ちる。『日本』と言う狭い島国の中で、もっとも活発に活動しているはずの都市の一角がだ。

 

 

その日が終わるまで残された時間はまだ一時間も残している。それはまだ十分に『活動時間』のはずなのに。

 

 

騒がしくサイレンが鳴る中、道路を封鎖している職員に春らしい薄紫のスーツを着た女が近寄っていく。

 

 

「状況を。」

 

 

その女性の冷静でいて簡潔な声が空気を引き締める。年齢はまだ20代前半の様に見えるが、目の前に立つ黒いスーツの男よりも年上に見える程に達観して、落ち着いていた。

 

 

「道路封鎖はあと15分程で終了します。近隣のビル街にはガス漏れ事故として、避難誘導を行っています」

 

 

女性の言葉に男も努めて冷静に答えるが、それは事務的過ぎる言葉と文字通りの『状況報告』しかできていない。

 

 

「15分はかかりすぎだ。5分でやらせろ。報道の方は?」

 

 

男に厳しい目を向け、そう言い切る。女性の指示した言葉は最初に男の言った時間の三分の一。だが、かなりの人数が出ているのだ、『かかると言ったら、かかる』と言った所で『五分でも、かかり過ぎだ』と言う言葉が返ってくることは目に見えている。

 

 

「大きな事故ではないので、ヘリを出す所もないでしょうが飛行規制はかけています。今日は他に事件もありませんし、時間が掛かりすぎると多少、厄介です。」

 

 

そこまで言った後、『失礼しました』と男は頭を下げる。自分の言葉で自覚したのだろう、自分たちの対応している事態は一刻を争うと言う事に。

 

 

それから五分とかからずに『道路封鎖完了』の報告が入る。

 

 

「あとは、『彼等』の到着を待つだけだな。」

 

 

『彼等』……その女性の言葉の中には何処か懐かしい思い出を思い出すような、そんな響きが合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年が荷物の整理を行っている。彼は明日から自分の通う学校『天照館高等学校』の姉妹校『月読学園』に交歓学生として行く事に成っている。

 

 

天照(アマテラス)の姉妹に月読(ツクヨミ)と、もう一つ『スサノオ』とでも言う名前の学校での有るんじゃないのかと思わず考えてしまう様な名前である。実際、何度か考えてしまっているが、そんな訳は無いし、そんな学園は散在していない。

 

 

「手荷物に入れとく必要が有るのは、後は…。」

 

 

一年という短い期間ではあるが、幼い頃から慣れ親しんだ部屋に対して名残を惜しみつつも、荷物を纏めながら、少年は荷物の中に一緒に入れてあった物の一つを取り出す。

 

 

「これは手荷物…いや、着けていくか。」

 

 

それは鎖の付いた鬼の顔を模した独特のカバーを持つリストバンドだった。大事な品物であるが、残念ながらこの土地の土地柄から異質な品物なので普段からは着けてはいないが。

 

 

「…ぼくの知る鬼は『邪悪』じゃないのに…。」

 

 

そもそも、彼自身、彼が暮らす『天照郷』においては少し複雑な立場にある。

 

 

元々彼は『猛士』と呼ばれる組織に所属する鬼とそのサポーターだった両親を持っていたが、現在では共に魔化魍との戦いが元で死亡している。本来なら彼は代々『猛士』の中核である名家の『和泉家』に預けられるはずだった。

 

 

彼の名は『草凪 八雲』…彼の『草凪家』は『和泉家』に順ずる程の名家で有ったのだ。故に彼の両親が亡くなった時には和泉家の養子になるはずだった。

 

 

だが、彼は天魔と呼ばれる存在から日本を守る鎮守人を育成する場所である『天照郷』に表向きには新たな血脈を入れるための制度、苗子として引き取られることとなった。

 

 

その真実としては、以前から進んでいた一つの計画、共に日本に住む人々を異形の存在から守る組織として連携して行こうと言う話し合いの元、その協力関係を示す一つの形として、天照郷へと引き取られる形になった。もちろん、天照郷からも一人、同じ様な境遇の子供が猛士側に引取られたのでした。

 

 

真実を話すとすると、その存在を知らなかった為に『鎮守人』の幾人かが魔化魍に遭遇し、戦闘に入り犠牲になる事が数年前から増えていたのである(特に二年前にはその被害が最大になっていたが)。

 

 

その過程での話し合いの結果、互いの組織の交流も兼ねて、互いが引取った子供には『鬼』と『鎮守人』の二つの訓練を受けさせる方向となり、現在に至る。

 

 

まあ、今まで関係の無かった二つの組織が交流する事における一種の理由付け、切欠として彼等が選ばれたのだ。

 

 

余談では有るが、猛士の方に引取られた子供は鬼としても鎮守人としても共に才能が無かった様であり、現在では立派にサポーターの一人としてかんばっている。

 

 

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

 

 

「…明日からか…少し楽しみなんだよなぁ。イブキ兄さんや、トドロキさん、ヒビキさんにも久しぶりに会えそうだし。」

 

 

天井を見上げながらそう呟く。東京葛飾区にある関東支部には時々、以前から組織間の交流として時々会っていたが、これからはある程度自由に会えることができるのだ。

 

 

そもそも、それが原因と言う事もあり、現在の彼はまだ鬼としては半人前、いや、やっと変身できるようになったと言うレベルである。

 

 

「やれやれ…。どちらかを選ぶとしたら、迷わず『鬼』を選ぶのに。」

 

 

外からやって来る『鬼』の師との交流もあり、この『天照郷』と言う土地の中にあって、この土地の外を知っている。その為に頭の硬い人間には疎まれていたが、最近は特にその傾向が強くなっている。

 

 

彼はこの土地は好きであり、周りにいる人達も好きと言えるのは間違い無い。だが…彼自身、その土地の制度や風習だけは馴染めなかった。

 

 

『鎮守人』と言う存在になるには『験力』と言う一種の才能を要求される。そして、それの多くは天照郷で先祖代々由緒正しい家系として根付いている『名門一族』に多く排出され、八雲のような偶発的な験力発現者は寧ろ少数派と言える。

 

 

多くの場合、験力の素養を持つ者は鎮守人の近親者から輩出されるものなのだ。故に、この土地の異常とも言える閉鎖的な所、血統に拘る所にはそう言った理由がある。

 

 

もっとも、現在の様子を風聞で聞く限りは『血統に拘る所』は現在進行形で悪い方に向かっていっていると言えるだろう。

 

 

更にその極稀な少数派の中でも、特に八雲の場合は更に極少数派…どころか、たった一人の『例外』と言うべきだろう。

 

 

「…荷物はこんな所でいいか…さっ、早く寝よ。」

 



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仮面ライダー響鬼〜神鬼の指針〜 第一話-1-

その日、月詠学園の前に到着する。

 

 

その影は二つ、一つはモスグリーンのコートに身を包んだ引率者らしい男。引率者の立場に有る事から考えると、年齢は二十歳を超えているだろうが、外見だけなら、まだ十代といわれても通るほど若い印象を与えている。

 

 

「着いたよ。ここが『月詠学院』。きみが一年間、お世話になる学校だよ。」

 

 

若い印象を与える外見とは裏腹に、引率の教師は落ち着いた声で後に続いていた少年…『草薙 八雲』へと告げる。

 

 

丁度、そこの月詠学園側から女性教師らしい人物が近づいていく。茶色の髪と派手なファスナーの付いた上着と、とても教師らしい格好には見えない。八雲が引率の教師へと視線を向けてみる。彼の見せている反応から考えて知り合いなのだろう。恐らくだが、教師に間違いは無い。

 

 

「ようこそ、月詠学院へ。学院長の『姫宮 伊織』です。」

 

 

その女性は二人の前に近づくと、軽く頭を下げてそう名乗る。八雲の推測は半分正解、半分間違いと言った所だろう。

 

 

流石に『学院長』と言うのは予想外だったのだろう。驚いて呆然としていると、引率の教師が八雲の脇を突いた。反応からして引率者は当然ながら知り合い出会ったのだろう。

 

 

「天照館高等学校執行部顧問、『若林 誠』です。」

 

 

引率の教師『若林 誠』は落ち着いて頭を下げる。

 

 

「何よ改まって、知ってるわよ。立ち話もなんですから、中へどうぞ。」

 

 

随分と砕けた様子で『行きましょう』と告げられて学院内へ入る。学園の中に入ると、八雲は思わず溜息をつく。

 

 

(…なんだか、すごい所だな…。)

 

 

外の事を知っているとは言え、飽く迄それは外部から着た師を通しての事なので、想像でしかない。それに外部の人間の知り合いで自分と年が変わらないのは一人しかいないのだ。

 

 

街の様子が違うのにも圧倒されたが、学校の様子にも圧倒されていた。正面玄関を潜った先に有る完全に舗装された道と、中央に噴水が置かれた中庭。その西側に有るテニスコート。それ以外にも様々な施設が一通り揃っているその環境は、東京都内でも特に整った環境と言えるだろう。さらに、設備の全てに手入れが行き届いている。

 

 

 

 

 

校舎を移動して学院長室に入ると再び圧倒される。白を主体として、置かれているのは『事務用品』ではなく、一目見ただけで高価だと言うことが解るオーダーメイド製の『家具』の数々、カーテンや部屋に飾られた調度品まで含めたら果たしていくらになる事か?

 

 

「月詠学院に来るのも久しぶりですが、ずいぶんと様子が変わりましたね。校舎も建て替えられたようですし。」

 

 

「大変だったわよ。」

 

 

誠の言葉に姫宮は頭を抱えながらそう答える。

 

 

「森のおっさんが、メチャクチャにしてくれたからね。登記やら、引継ぎやら、お金の問題やら……。」

 

 

二人の会話の中に出てくる男『森』は姫宮の前任者の名前で、その頃、月詠学院と天照館高校は互いに反目し合い、様々な問題が起きたのだ。

 

 

八雲は彼女の言葉を聞きながら、内心『お金が問題なら、何でこんな部屋を?』等と考えてしまっているが。

 

 

「ああ、ごめんなさい。愚痴になっちゃうわね。」

 

 

そう言って謝罪すると、仕事に戻る為に書類を取り出す。

 

 

「さてと、まずは書類の確認を。君の名前は……。」

 

 

手渡された書類に八雲は自分の名前を書き込む。

 

 

 

『草凪 八雲』

 

 

 

あまり聞かない名前に、姫宮はウンと頷く。

 

 

「『草凪八雲』くんね。うん、良い名前じゃない。じゃあ、次は誕生日と血液型ね。」

 

 

指示された項目を確認しつつ、記入漏れが無い事を確認して書類を姫宮へと返す。

 

 

「よしっと、これで以上ね。情報の入力も完了。」

 

 

用済みとなった書類をシュレッダーへとかけて処分すると姫宮は改めて八雲へと顔を向けた。

 

 

「さてと、八雲くん。あらためて、月詠学院へようこそ。天照館高校からの交歓学生として歓迎するわ。聞いてはいると思うけど、交歓学生という制度は表向きは、この月詠学院と君の母校、天照館高校の間の友好と、互いの教育課程の内容向上のためということになってるの。」

 

 

そう本来の目的はそこではなく別の所に有るのだ。

 

 

「でも、その真の目的は、『天魔』討伐の鎮守人養成機関同士の情報交換ね。」

 

 

ある種これも裏の中での『表』とも言えるのだろうが、そこにはあえて触れないでおく。

 

 

『天魔』『鎮守人』…『魔化魍』『鬼』『猛士』と呼ばれる自分の亡き両親に関係する言葉とは違い、はっきり言って縁の薄い言葉だ。そう、過去形ではなく、現在進行形でである。こうして現在に至った今でも縁は薄いのだ…。

 

 

「その辺りの詳しい話、したほうがいいかしら?」

 

 

「はい、お願いします。」

 

 

「そうですね。」

 

 

八雲が姫宮の言葉にそう答えると誠が続いてその理由を補足説明する。

 

 

「彼が能力、『験力』に目覚めたのは、ごく最近のことです。」

 

 

そう、鎮守人になる為に不可欠な才能である『験力』に目覚めたのはごく最近なのだ。時々、交流の一環として天照郷にやってくる『鬼』の師によって鍛えられてはいたが、鎮守人の方の才能は無いとあきらめていた矢先での覚醒である。

 

 

「天照館高校執行部も、僅かな時間しか在籍していませんので。詳しい説明をしてもらえると助かります。」

 

 

「わかったわ。」

 

 

『元々説明するつもりだったし』と言葉を続けながら、説明に入る。

 

 

「この月詠学院のSGコース、退魔班も、あなたの在籍していた天照館高校執行部というのも、『天魔』と呼ばれる存在との戦いが目的で作られた組織です、本来は『鎮守人』と呼ばれる退魔のプロを育てる育成機関でしたが、6年前にあった大きな戦いと、それにまつわるゴタゴタと、二年前の大災害で『鎮守人』の数自体が少なくなり、われわれが実戦に出ることも少なくありません。」

 

 

『大災害』…『オロチ現象』と呼ばれている自然的な魔化魍の大量発生の事を指しているのだろう。実際、大量発生した魔化魍に対して死者一名で済み、見事にオロチ現象を鎮めた猛士とは違い、鎮守人には多くの犠牲者が出たのだ。

 

 

その理由として挙げられるのが、魔化魍が音撃と呼ばれる清めの音でしか倒せない事と、『天魔』とは違い魔化魍には験力が無力だと言うことが上げられる。

 

 

そして、犠牲が多かった理由としては、不幸な事に…犠牲になった多くの鎮守人は魔化魍と天魔を誤認して無謀にも戦いを挑んでしまった事と、天魔に対しても清めの音は極めて有功である事が上げられるだろう。

 

 

六年前……その当時、八雲は小学生だった。何か大人達が騒いでいるとは感じたが、それ以上の感想はなかった。そして、二年前は尊敬していた鬼の一人であるザンキがオロチ現象で発生した魔化魍との戦いで亡くなった事も聞いているのだ。そちらの方が彼にしてみれば印象は強い。

 

 

だが、当事者にとっては、その感想はまったくの別物なのだろう。

 

 

「たしかに、大きな戦いでした。天照も月詠も大きな代償を支払った。」

 

 

誠の言葉からは過去に起こった事の重さを感じさせる響きがあった。その言葉に込められている意思はオロチ現象の起きた当時の事を師の一人から聞いた時と同じ響きがあった。

 

 

犠牲は出たのだろう…彼等にも、彼等に近しい人から。

 

 

「そうね。うちは、組織が根本からぶっ壊れた状態だったわ。結局、どうしようもなくて、姫宮家が学院を丸ごと買い取るってことで力ずくで解決したんだけどね。」

 

 

「え゛。」

 

 

『学園を丸ごと買い取る』…思わずその言葉を聞いて呆れてしまう。学園一つを丸々買い取って解決など、どれほどの財力があれば可能なのか、到底考え付くことは出来ない。

 

 

「あなたが学院長になると聞いたときには、すこしびっくりしました」

 

 

誠の笑みには、やはりイメージではないと言う言葉が隠れている。それは等の姫宮本人も理解している所に、更に若林から言われたのだから、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

 

「まぁ、とにかく今は『天魔』に対抗できる力を再編中ということなの。あなたの派遣も、天照館高校から月詠学院への援助ということになるわ。そ・れ・に…最近になって確認された魔化魍と戦っている『猛士』の関係者という点でも、期待してるわよ。」

 

 

顔はクスクスと笑っているのだが、その言葉に本気が含まれているのは確かだ。『猛士』との連携…場合によっては猛士側の戦士である『鬼』の人達と戦闘時に協力関係になる事もあるのだから、顔見知りである自分が間に立つ事の意味は大きいのだろう。

 

 

「それじゃ、他に質問があるかしら?」

 

 

ならば、そう言ってくれるのだから疑問に思っていることを全て聞いておくべきと判断し、一つ目の質問をあげる。

 

 

「じゃあ、先ずは天魔について、教えていただけますか。」

 

 

「そうね……ちょっとむずかしい問題ね。古来からモノノケ、荒神、悪霊、そういう超自然的な存在が語られてきたけど、それらの総称に近いわ。その多くが人間への敵意を持ち害を成そうとしている。っていうのが、我が月詠学院の考え方なんだけど、その辺りはあなたの天照館とは意見を異にするところね。

 

 

そう語ると姫宮は誠の方へと向く。

 

 

「そうですね。天照では、天魔を一方的に敵視はせず、討つのではなく鎮めるという考えです。ただ、どちらにしても普通の人たちが敵う相手ではありません。天魔に対抗できるのは、ごく限られた力を授かった者のみ…とされてきたんですが。」

 

 

苦笑を浮かべながら誠は八雲へと視線を向ける。その辺りのことは自分も知っている。『猛士』の『鬼』の存在の事だろう。

 

 

「そして、その力、『験力』を持つ者はあまりに少ない、八雲くん、あなたはまだ力に目覚めてから時間がたっていないようだから、実感はないだろうけど、その力は貴重なものなのよ。」

 

 

「じゃあ、験力って言うのは何ですか?」

 

 

実感こそ沸いていないが、実際の話、八雲の持つ験力は弱くないと評価されている。それに加えて元々目指していた事も有って、鬼として鍛えられた身体能力。

 

 

「天魔に唯一対抗できる力のことだったんだけどね。それは超能力のような術であったり、時には武道の達人の技であったりと、人によって種類は異なるわ。そして、験力の源と言われているのが『魂神』だけど……。」

 

 

そこまでいうと、言葉を濁して黙った。魂神についても聞きたい所だが、簡単に答えるべき事ではないと判断して、それ以上追及するのを止める。

 

 

「では、最後にその鎮守人というのは?」

 

 

「鎮守人は天魔と戦うための特別な力を備えた者たちよ。あなたの先輩と言ってもいいわ。その多くは全国各地に散らばり、人知れず天魔との戦いや、御封地と呼ばれる聖地を守る任についているわ。」

 

 

「うん。ものわかりが良いみたいでうれしいわ。それじゃ、一年間よろしくね。」

 

 

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

 

天魔との戦いを差し引いても、まったく見ず知らずの土地でありながら、知人もいるこの地での生活が実に楽しくなりそうな予感に八雲は笑顔を浮かべながらそう答える。

 

 

「あら、ずいぶんとカワイイ顔をするのね。そういう素直な子、お姉さん好きよ。」

 

 

「お姉さん?」

 

 

「お姉さんよ!」

 

 

誠の方を睨みつけながらそう言い返し、黙らせる。

 

 

「お姉さんです。」

 

 

それ以上逆らっては危険と本能的な部分で判断したのか、誠もすぐにそう返事を出す。

 

 

「それじゃ、説明を続けるわよ。あなたはここでは、2年B組に編入されるけど、その他に、SGコースの生徒でもあるということになるわ。」

 

 

「さっき言われた…退魔班のことですね?」

 

 

「そう。SGコースは、能力開発カリキュラムの実験クラスってことになってるの。実際には天魔討伐のための組織だけどね。」

 

 

「天魔の存在や、それと対抗する鎮守人の存在は鎮守人の存在は秘密にされています。草凪くんが、所属していた天照館高校執行部もその実体は学生退魔組織ですから、それと同じだと思っていいですよ。」

 

 

誠は姫宮の言葉を補足説明する。考えてみれば、一種の養成所みたいな物だろう。実際に『猛士』では鬼の後継者問題に悩んでいるようだが、こう言う施設などを作ればある程度は改善されるのではと考えるが、それは直に間違いだと思い直す。

 

 

鬼の武器は戦う魔化魍に合わせるように多種多様、空を飛ぶ相手には『管』の鬼や、固い甲羅の鎧や皮膚に守られている相手には自分も分類される事になるであろう『弦』の鬼が専門的に戦う事となる。下手をすれば、一つの分野から偏った人数が出るかもしれないのだ。それを考えるならば、今の体制はベストではないが、ベターといえるだろう。

 

 

(でも、確かに魔化魍とか、天魔とか験力とか、普通の生活をしてたら縁のない話だよな。)

 

 

そう、鬼に対しても言える事だが、秘密にしておかないと、無駄に混乱が広がるだけだ。

 

 

「ですので、SGコースの実際の仕事については一般生徒には秘密ということになるわ。装備や、あとの詳しいことは、教官から聞いてもらうとして。まずは、身体能力のテストをさせてもらうわね。」

 

 

『ついてきて』と促され、八雲と誠の二人は姫宮に案内されて別の部屋に案内される。

 

 

 

 

 

 

二人が案内されたのは、三面を大型ディスプレイに囲まれた部屋だった。

 

 

「ここは?」

 

 

誠もその部屋に案内されたのは初めてなのだろう、姫宮へと問い掛ける。

 

 

「SGコースの特別教室。いろいろと入り込んでいるけど、一番の目玉は、VRトレーニングね。」

 

 

「VRトレーニング?」

 

 

八雲は背伸びして、『入り込んでいる』と表された機材へと視線を向ける。恐らくだが、その機材を使ったトレーニングだろう。

 

 

「いろいろな状況を想定した訓練が可能。その間に、各種数値の測定もできるわ。とりあえず、これで身体能力のテストをさせてもらうわ。」

 

 

姫宮はそう言うと、八雲を半分地下になっている空間へと案内する。合図があり、鬼を象ったカバーの付いたリストバンドに触れて、天照郷から持ってきた武器である木刀を構える。

 

 

『弦の鬼』の武器は剣に似た武器を操って戦うのだ。故にそれについて鍛えられた八雲が一番使いやすい武器は剣なのだ。

 

 

八雲が準備を整えると目の前に現れた半透明な『鬼』が現れる。それを見て彼は一瞬だけ不快感を表すが、それを直に頭の中から消す。

 

 

そして、今から行うテストの事を理解する。ようするにコンピューターによる模擬戦闘なのだろう。

 

 

相手の動きは無く『好きにしろ』とでも言っているような半透明の鬼に一太刀を入れる。実体のない立体映像のはずなのに、その手に感じたそれは確かに『物を切った手応え』だった。

 

 

(なるほど…。)

 

 

 

『要領はわかった? このまま、次のテストに入るわよ。』

 

 

 

その放送と同じに新たに先ほどと同じ鬼が二体、少しだけ離れた場所に現れる。だが、その二体の鬼は先ほどの物とは違い、攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「ッ!?」

 

 

八雲は後に大きく跳び、二体の鬼から一気に距離をとる。突然の事に反応が遅れてしまったが、幸いな事に攻撃を受ける事だけは避けられた。安全性は確保されているのだろうが、流石に簡単に受けたくはない。

 

 

再び近づいてきた鬼の攻撃を木刀で受け流し、斜めに切り裂く。そのまま後方にいるもう一体へと近づき、一太刀にて切り捨てる。

 

 

「はぁ。」

 

 

二体の鬼を切り捨てた後溜息を吐く。息も乱れておらず余裕そのものなのだが…世間一般に言われている『悪い鬼』のイメージで作られた立体映像とは言え、『鬼』を切るのにはやはり抵抗が有る。

 

 

 

 

 

 

「フフッ。」

 

 

モニターを通してVTルーム内の八雲を見ている姫宮は楽しげに笑う。剣術だけしか見せていないが、攻撃を受けることなく葬っていく、それは全力でもないのだろう。当然ながら、レベル設定は裁定にしてあったのだが、彼の実力にはそんな気遣いは無用だろう。

 

 

彼の全力…それに興味があるとその表情には表れていた。そう、報告にだけ聞いて実際に見た事の無い『猛士』の『鬼』の力を見てみたいと言う感情を押さえながら、姫宮が端末を操作した。

 

 

「次で最後だから、全力でやってみてね。」

 

 

『はい。』

 

 

 

 

 

 

『次で最後だから、全力でやってみてね。』

 

 

「はい。」

 

 

聞こえてきた放送にそう答える。相手はまだ純粋に剣術だけで勝てるレベル。実力を見せるレベルのテストならそれくらいなのだろう。新しく離れた場所に二体が表れる。

 

 

距離を詰め様と向かってくる二体の鬼。その姿は隙だらけと言えるだろう。

 

 

(遅いよ。)

 

 

相手の動きに合わせて、床を蹴る。『椿姫』と名づけられた『技』…筋力を活かした飛び込み上段斬り。鬼の額を叩き割りその勢いのまま、木刀は床へと叩き付けられる。その一瞬の隙に二体目の鬼の拳が迫る。だが、

 

 

木刀を始点に両腕の筋力と床を蹴る脚力を利用し全身を持ち上げ、その勢いを利用し木刀を中心に回転し、蹴りを鬼の頭へとたたき込む。

 

 

それにより後退した時を逃さず木刀を抜き取り、全身の力を利用した渾身の突きを放ち、鬼の体へと木刀を突き刺す。そのまま木刀を楽器に模して弦楽器を弾くような体制へと移るが、直に木刀から伝わってくる手応えが消える。

 

 

 

 

 

 

 

「おつかれさま。」

 

 

端末の電源を落としながら姫宮は八雲へとそう告げる。一撃も受ける事無くテストを消化する彼に対する評価としては、最後の行動こそ理解不能だったがその結果は高評価を与えてもいいくらいだろう。しかも、それら全ては純粋に剣だけで出した結果である。

 

 

「それじゃあ、僕はこれで帰ります。」

 

 

誠はそう言うと、機器室の方へと戻ってきた八雲の肩に手を置く。

 

 

「新しい生活になれるのは大変だろうけど、がんばるんだよ、草凪くん。」

 

 

「はい。」

 

 

「大事な天照郷の鎮守人候補ですからね、責任もって預からせてもらうわ。」

 

 

姫宮は『クスクス』と笑いながら彼の肩に手を置く。

 

 

「それじゃあ、誰かに校内を案内させて……。」

 

 

と、そう言った時、VTルームに新しい入室者が現れる。

 

 

「はいはい、オレがやりまーす。」

 

 

「亮?」

 

 

聞き覚えが有る声に驚き、振り向いてみるとその声の主は八雲の記憶通りの相手だった。

 

 

 

 

 



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仮面ライダー響鬼〜神鬼の指針〜 第一話-2-

「亮?」

 

 

八雲の振り向いた先に居たのは元気に飛び込んできた、バンダナを巻いた生徒。記憶は直に思い出される。そのバンダナの生徒『結崎(ゆうざき) 亮(りょう)』を見た瞬間、彼の名前を呼んだ。

 

 

彼が名前を呼んだ瞬間、先に姫宮が声を荒げる。

 

 

「あー? あんたねぇ、授業はどうしたのよ! 授業は!」

 

 

当然ながら、現在は授業中。姫宮も教師らしくない格好はしていても、教師なのだ。だが、当の結崎の方は悪びれた様子はない。

 

 

「都会に出てきて、不安でいっぱいの友人を出迎えるために、この『結崎 亮』、授業はブッチしました。時に、友情は授業よりも…。」

 

 

『重い』とでも言おうとした所で、姫宮の左ストレートが炸裂した。それを見てやや引き気味になっている八雲だが、姫宮は当然だという顔をした後、頭を抱えた。

 

 

「何言ってんのよ! ん?」

 

 

『常習犯が』とでも言おうとした時、『友人』と口にした亮が八雲の方を向いて居る事に気がついて、彼の方へと視線を向け、再び亮へと視線を戻した。

 

 

「友人って、八雲くんと知り合い? あぁ、そういえばあんた、天照郷の出身だったわね。」

 

 

直に今までの会話の内容からその結論へと到達する。

 

 

「こっちに引っ越したのは、小6の時なんスけどね。それまで、こいつとは家が近所で。っていうか、久しぶりだな、八雲。」

 

 

「うん、久しぶり、会えて嬉しいよ、亮。」

 

 

古い友人との再会に八雲は心から喜びを浮かべる。記憶の中に居る亮と、目の前に居る亮は確かに変わっている。五年という期間は小学生という子供の頃から考えると短くない。12歳から17歳への変化は想像以上に大きいのだ。

 

 

「はっはっはっ。分かってるって、おれも嬉しいぜ。まぁ、こっちでもさ、一心同体で仲良くやっていこうぜ。」

 

 

亮はそんな開いた時間を感じさせない雰囲気で笑った。

 

 

「そうだね。また、仲良くやろう。」

 

 

その笑顔は子供の頃から何ら変わっていない笑顔を浮かべ会う旧友二人…。

 

 

「合コンの仕切りは任せとけよ。その代わり、宿題はまた……。」

 

 

「オッケー。ただ、暫くは間違っていても恨まないでよ、学校によって授業の進み方は違うらしいんだから。」

 

 

「おいおい、それは勘弁してくれよ。」

 

 

亮の言葉に苦笑を浮かべながら頷き、そう言葉を返す八雲に、当の亮も苦笑を浮かべながら少しだけ焦り気味に言葉を返す。

 

 

「結崎!」

 

 

『いい加減にしろ』と言う様に姫宮は叫ぶ。

 

 

「冗談、冗談。さ、八雲。中を案内するぜ。」

 

 

「うん。」

 

 

そう言って部屋から出ていく八雲と亮の二人。亮は八雲の背中をポンポンと背を叩きながら、『色々とスポットがあるんだよ。』と耳打ちする。

 

 

八雲も八雲で、『ありがとう。さっきの話しはここじゃ拙いから、他の部屋で。』『ああ。あと、何時かみたいにテストの時も助けてくれよ。』『勘弁してよ、ばれた時はかなり怒られたんだから。』『何言ってんだよ、あれだけやって一度しか失敗してないくせに。』等と会話をしているが、当然、姫宮にも聞こえている。

 

 

『悪友同士』と言う言葉が似合いそうな二人を眺めながら、

 

 

「まずは、水守先生のところに連れていくのよ! ああ、草凪くんも『あそこ』に行った後はちゃんと、こっちにも連絡入れるのよ!」

 

 

と声を掛ける。

 

 

「分かってます。」

「わかってるって、学長。」

 

 

そうを言い残して、亮と八雲は部屋を出ていく。

 

 

「まったく、もう……。」

 

 

「苦労なさってるんですね。」

 

 

「苦労なさってるわよ。」

 

 

頭が痛いとばかりに頭を抱える姫宮と、微笑ましい物を見る様な、懐かしい物を見る様な笑みを浮かべて言う若林、そして、最後に姫宮はそう言って大きく溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、まずは……」

 

 

部屋を出た結崎が、どこから回るか視線を巡らせた。そして、その顔をぐいっと自分の方に向かせる、メガネをかけた生徒が一人。しかし、何処かツッコミ属性を持っている様にも見える。

 

 

「まずはじゃない。結局、怒られてるじゃないか。」

 

 

溜息を吐くメガネをかけた生徒に対して、結崎はまた笑いながら肩を叩いた。

 

 

「そう言うなって。最初にお前に紹介してやろうと思ってさ。」

 

 

そう言うと、亮は八雲の方に振り向く。

 

 

「八雲、こっちはおれのツレで親友の館脇。」

 

 

そして、次に『館脇』と呼んだ生徒の方を振り向いて、

 

 

「道文。こっちが、おれの幼なじみで親友の八雲だ。」

 

 

「『草凪 八雲』です。よろしく。」

 

 

八雲が頭を下げると、館脇は失念していたと言う風な表情を見せる。

 

 

「え、あぁ。『館脇(たてわき) 道文(みちふみ)』だ。天照館高校からの交歓学生の話は、前から聞いていたよ。同じSGコースのメンバーになる。よろしく。」

 

 

自分の名前を名乗る。そして、照れ隠しだろうか、メガネを鼻先から目元に押し上げながら、言葉を続ける。

 

 

「それから、亮とは別に、ツレじゃないから。」

 

 

「つれないねぇ。さぁーてと、まずは校内一周ツアーと参りましょう。レッツ・ゴー!」

 

 

「おお、レッツ・ゴー!」

 

 

亮も道文の言葉が冗談や照れ隠しの類だと解ってるのだろう、変わらぬ軽口で言葉を返し、八雲もノリノリで言葉で答える。そんな二人を道文は苦笑を浮かべて眺めていた。

 

 

どうでもいいが、二人共先ほど姫宮に言われた事を完璧に忘れてしまっている。はっきり言って似たもの同士な友人同士である。

 

 

実際、今までは少し緊張していた為、先ほども余り実力を見せられなかったのも残念と思っていたのだ。そもそも八雲はその特殊な立場から天照郷の中では有る意味、外の人間との交流は多いのだ。特に同年代人間の中では最も多いだろう。

 

 

「ん?」

 

 

ふと、八雲の腕のリストバントが道文の視線の中に入った。

 

 

「ところで…そのリストバンドって、随分変わったデザインだけど。」

 

 

「ああ、これは…市販品じゃないんだ。大切な物なんだけど、向こうじゃ『鬼』って嫌われてるから、堂々と着けられないんだよね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな学園案内ツアーズのメンバーが最初に向かったのは売店だった。

 

 

「やっほー、木ノ下ちゃん♪」

 

 

カウンターの向こうに居る定員に話し掛ける。亮の方へと顔を向けるとその店員はにこやかな笑みを浮かべている顔を僅かに傾け、

 

 

「いらっしゃいませ。授業中ではないのですか?」

 

 

ある種当然の疑問が返ってきた。

 

 

「あぁ、いいのいいの。いまはこいつの案内するのを優先。」

 

 

そう言って亮は八雲を彼女の前へと押し出す。そんな八雲を見て店員は『ああ』と短く言った。

 

 

「その制服……天照館からの交歓学生の方ですね? はじめまして。この店を任されている『木ノ下(きのした) 陽子(ようこ)』と申します。」

 

 

「初めまして。草凪八雲って言います。亮………じゃなくて、結崎くんとは幼馴染です。」

 

 

優雅に一礼しつつ挨拶をする。相手の丁寧な口調に対してからなのか、丁寧な口調に変わっているが。

 

 

「草凪さん、ですね。以後よろしくお願いいたします。物品など不足した際は、お立ち寄りくださいませ。」

 

 

「はい、お願いします。」

 

 

「木ノ下ちゃん、堅苦しいねぇ。おれ、もうちょいフランクに接してくれるの希望なんだけど。」

 

 

「勤務中ですから。」

 

 

亮の言葉に木ノ下はそう切り返す。では、プライベートでは変わるのかと思ってしまうが、それはまだ想像できない。

 

 

「さびしー。」

 

 

そう言って亮は八雲の方へと同意を求める様に顔を向ける。だが、

 

 

「いや、勤務中なら仕方ないって。」

 

 

八雲にもあっさりとそう言って切り捨てられるのだった。

 

 

(…売店って聞いたけど、一般生徒も利用するから、流石に武器とかは…。)

 

 

「お調子者は放っておくとして、草凪くんに説明した方が良さそうだね。」

 

 

八雲がそんな事を考えていると、道文が横から話しかけてくる。

 

 

「説明? 売店くらいは知ってるけど…。」

 

 

苦笑いしながら、そう答える八雲に対して、やや声を潜めながら…

 

 

「この売店、一階では普通の高校と同じく文房具や食品を扱ってる。だが、地下にSGコース専用の売り場がある。そこで扱っているものは……言わなくてもわかるか?」

 

 

「あー…。」

 

 

思いっきり納得した様にそう声を出す。当然ながら、似た様な土地柄を持つ天照郷にも似た様な施設はある。そことの共通点が出来たのだから。

 

 

「このことは一般の学生には秘密にしてある。だから、売店に用がある時は、SGコースの学生だけで行くのが望ましいね。」

 

 

「めんどーだよな、そう言うとこ」

 

 

道文の言葉に亮が面倒臭そうな浮かべるが、

 

 

「いや、木刀とかならともかく…刃物とか扱ってるなら、普通の生徒と一緒にって訳にはいかないでしょ?」

 

 

八雲にはそれを理解できる。同様に道文も頷く。

 

 

「不便に思うかもしれないが、天魔の出現はいつも突然だから。いつでも対応出来るよう、僕らの生活空間内に必需品の補充施設を置く必要がある。って訳。」

 

 

「験力に目覚めている生徒さんは、私の方で見抜きます。今は皆さんSGコースの方々だけですから、そのまま地下に入ってください。」

 

 

『どうぞ』と言って木ノ下が地下へと案内する。地下と言う場所と、扱っている物が一般の生徒相手には売れない物と言う条件が重なって、暗くジメジメとしたイメージが有るのだが、いざ入って見ると、そんな事は無かった。

 

 

「こちらがSGコース専用の売り場になります。どうぞ、ご遠慮なく、活用なさってください。」

 

 

明るく響く木ノ下の言葉、生前と整頓された周囲は暗いイメージ等無く、売られている物が雑貨から武器と薬品等に変わったが、それでも、木ノ下のキャラクターも有るのだろうが、一階と印象は変わらなかった。

 

 

商品を眺めながら何気なくその中の一つを手にとって見る。

 

 

「…『黒檀の木刀』…しかも、安い。」

 

 

決して安物ではないはずの代物に付けられている値札を見て驚いた。赤樫等はともかくとして、黒檀は高級素材、なのに…その値段はあり得ないと言うのが、八雲の考えである。

 

 

(…でもな…。)

 

 

立場上、『猛士』にとっての自分は鎮守人候補では無く、猛士から派遣されている仮免許皆伝中の『鬼』なのだ。故にこちらに出てくる事を連絡した時、完成された自分用の音撃武器を渡してくれると言う話しを聞いているのだ。

 

 

(…退魔用にも対応できる新型のテストタイプって言う話しだし、それを受け取ってからでもいいか…。)

 

 

「なんだ、買うのか?」

 

 

そう言って、亮が八雲の手元を覗き込むが、

 

 

「うーん…今日は止めておく。」

 

 

そう答えて八雲は商品を元の場所へと戻す。新しい武器の使い心地を確かめてからでもいいと判断したのだ。

 

 

「ありがとうございました。」

 

 

結局、冷かししか出来なかったのだが、それでも木ノ下はそう言って笑顔で送り出してくれる。それを聞いて少しだけ申し訳無くなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、この月光舘学園の規模は、決して短時間で一周できる広さではない。取り壊される予定の有る旧校舎でさえ、その規模は大規模の学校の校舎にも匹敵する広さが有るのだ。そして、現在の校舎の規模は旧校舎等比べるまでも無いほどの規模を持っている。

 

 

流石に、某子供先生の活躍する漫画の舞台の学園都市や、某幻想殺しの不幸な少年の小説の舞台となる学園都市に比べれば遥かに劣っているが、校舎とそれに付属する施設まで加えると…『小都市』程度の規模は有るだろう。

 

 

旧校舎、時計塔、中庭、図書館と廻った所で、そろそろ教室に向かわないと拙いと言う道文の極めて常識的な意見で校舎の中に戻ると、間の抜けた声が聞こえた。

 

 

「あぁーこんな所に、やっといましたぁ……。」

 

 

間延びした…息切れした女性の声。

 

 

「あ、ヤバイ。忘れてた。」

 

 

その声を聞いて亮が頭を掻く、その言葉に八雲も大事な事を忘れていた事に気が付いた。そして、振り向くと小柄な女性が此方に向かって走ってきていた。

 

 

「迷子になったのかと思って、あっちこっち、探し回っちゃいましたよー。わたしの方が迷子になっちゃいそうでした。」

 

 

「僕まで、結局のせられてしまって忘れていた。……不覚。」

 

 

「ああ、そう言えば、すっかり忘れてた。」

 

 

そう言葉を続けて目の前の女性のことを聞く。大体の想像は出来るのだが…

 

 

「この人は?」

 

 

「あなたが、草凪くんですね。わたしがあなたのクラスの担任の、水守香奈です。これから、よろしくね。」

 

 

「はい、今日から一年間、よろしくお願いします。」

 

 

間延びした…良く言えばおっとりしている女性が教師とは思えなかったが、校内を私服で歩いているのは教師と公務員位しか居ない。八雲を探していた事と姫宮の言葉…その二つから判断して、教師である事は間違い無いと判断する。

 

 

「あら。ありがとうー、うれしいですー。仲良くしてね。」

 

 

そんな考えなど一切出さずに笑顔を浮かべながら挨拶する八雲に対して、快くそう答えてくれたのだった。

 

 

なお、この後、八雲は昼頃になってやっと紹介される事となるのだった。ただ、唯一の幸運としては、午後の最初の授業は水守の授業だったので、問題無く紹介される事となるのだった。

 

 

 



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The Knight Of DRAGON外伝『騎士-ナイト-』 序章

(…オレは死んだのか…。)

 

決して譲る事の出来ない願いを掛けた親友との殺し合い…その果てに自分は敗北した、友達を殺そうとした事は後悔していない…それは相手も同じなのだから…殺された事は恨んではいない…相手が自分を殺したという事実をどう感じているのか、それが分からないほど浅い付き合いではないのだから…

 

(ダークウイング…今までありがとうな…。)

 

消え行こうとする意識の中で彼、『仮面ライダー騎士-ナイト-』こと、『北川 カズヤ』は今まで共に戦ってきた自身の戦友、相棒であった契約モンスター『ダークウイング』への感謝の言葉を告げる、契約の上での協力とは言え、今まで力を貸してくれていた相手への言葉を告げる

 

(…アキラ…オーディンは…神崎は絶対にお前が倒せ…オレは…オレは必ずお前が勝つ、そう信じてる…。)

 

届かないであろう、最後の勝者を決めるべき戦いへと残った親友への激励の言葉を最後に最後にカズヤの意識は闇へと落ちていく…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれぇ、君は誰?」

 

…はずだった…

 

「なんだ!?」

 

突然の声に目を開けて飛び起きるとカズヤの視界の中に森と空中に浮かんでいるぬいぐるみが入ってきた

 

「…な・・なんだ…? こ、ここは何処だ? ……それにお前、新種のモンスターか?」

 

「あっ、モンスターは酷いな~。これでもオイラは耶麻台国の神器、天魔鏡の精なんだぞ!」

 

「…邪馬台国~…オレは日本史より、世界史のほうが得意なんだけどな…。」

 

『キョウちゃんとでも呼んでおくれよ。』等と言いながら胸を反らす謎の物体X(カズヤ命名)を無視しながら、『日本史は輝の専門なんだよな~。』等と考えているカズヤであった

 

「まあ、お前が何であろうと関係ないか。」

 

「ガ~ン、関係ないって。」

 

「…ここは何処だ…オレはあの時…。」

 

その後に続く『ミラーワールドで殺し合いをしていて、死んだはず』と言う言葉を飲み込むと心臓の辺りに触れる

 

(あいつに付けられた致命傷どころか、かすり傷や古傷一つない…オレは…なんで生きてる? オレは死んだはずじゃなかったのか…?)

 

「初めの質問だけど、ここは三世紀の九洲。で、君が何でここにいるかと言うとオイラがよんだからだよ!」

 

「そうか。」

 

カズヤはキョウの言葉に興味無さそうにそう答える、事実、カズヤにはここが何処であろうと関係ない

 

オーディンとの戦いは輝へと託した今となっては元の場所に戻りたい理由もない、友との殺し合いにも後悔はない…あるとすれば最終決戦のあの現場から消え、ライダーとしての未来を奪われた事への絶望…唯一つであった

 

「『そうか』って、それだけ? もっとこうさ、さっきみたいに『え~!?』とか『何~!?』とかないの?」

 

「イヤ、別にここが何処でもどうでもいいし。それにしても、三世紀か…何とかして中国のほうに渡ってみるかな、中国史の英雄を見れるいいチャンスだな♪ 誰もオレの事を知らない世界で生きるのも…今のオレには悪くないな。」

 

キョウはカズヤの反応がかなり不満らしく、ブツブツと文句を呟いているが、それに対してカズヤも今後の事を呟きながら考えていた

 

ふと、カズヤの手がポケットの中の『それ』に触れる…そう、自分が北川カズヤと言う存在であった事の証『仮面ライダーナイト』の『カードデッキ』の存在が今の彼にはありがたかった

 

(…ダークウイング…お前も一緒だな…。)

 

心の中でそう呟き小さく嬉しそうな微笑を浮かべると、何処からか、ダークウイングの声が聞こえた気がした

 

「まぁいいけどね。それで君………………え~と。」

 

「オレはカズヤ、『北川 カズヤ』だ。」

 

「あ、うん、よろしくカズヤ。それでカズヤを…間違ってだけど…よんだのは耶麻台国を復興して欲しいからなんだ。」

 

「へー…滅んだのか。」

 

「うん。十五年前に狗根国に滅ぼされたんだ。」

 

「何、無茶な事を遣らせる為に人様をこんな変な場所によんでんだ、このアホ。」

 

カズヤはそう言い切り、チョップをキョウの頭に叩きつけて沈黙させる

 

頭を抑えながら、キョウがカズヤを涙目で睨んで来る

 

「う~…酷いな、今なら復興できるかもしれないんだよ。」

 

「…じゃあ訂正してやろう…『かもしれない』で人をよびつけるな。…それで、何で復興できる…『かもしれない』んだ。」

 

「そもそも耶麻台国が滅んだのは百五十年くらい前から直系に火魅子の資質を持った女の子が生まれなくて、仕方なく傍系で素質を持った娘を女王にしてきたんだけど五十年くらい前から傍系にすら資質を持った娘が生まれなくなっちゃったんだ。そんな時に、女王不在の時に狗根国に攻め込まれて…。」

 

キョウの表情が曇る

 

「でも、耶麻台国が滅びるよりちょっと前に火魅子の資質を持った娘が五人、傍系だけど生まれていたんだ。」

 

「ほ~。」

 

完璧にやる気の感じさせないカズヤの合いの手に気を悪くした様子も見せず話を続ける

 

「今までにも何度か狗根国に対する反乱は起こったんだけど、圧倒的に数でも練度でも負けている反乱軍は当然敗北。」

 

「そりゃそうだ。」

 

「このままじゃ徐々に狗根国に対して不満を持つ者はいても反乱を起こそうとする人はほとんどいなくなっちゃう。でも、『火魅子候補』と『神器の精』そして『神の遣い』の三点セットが、ってあれ?」

 

いつの間にかカズヤはキョウに背中を向けて歩き出している

 

「ね、ねぇ? ちょっと、どこに行くのさ!?」

 

キョウは慌ててカズヤを追い抜くと、彼の前に回り込み、怒った様に腰と思われる部位に手を当てながら言った

 

「君、オイラの話聞いてた? 君には耶麻台国を再興してもらうためによんだんだって。」

 

「ああ」

 

「じゃあ、どこに行くつもりなのさ?」

 

『何でお前に言わなきゃならない』と視線で訴えかけるが、

 

「…………大陸にでも渡って、この時代の中国でも見物する。そもそも、オレは日本史より世界史が好きなんで。それにダークウイングと共に天下をとってもいいな。」

 

律儀にキョウの問いに答えた、彼の頭の中には…中国を統一して、皇帝となっている『仮面ライダーナイト』の姿を思い浮かべている、幸いにもキョウにはその後半部は一切聞こえていなかったが…

 

「え?」

 

カズヤの返答にキョウは困った様な表情をしたが、すぐにパッと明るい物を浮かべる

 

「そうだ、君が元の世界に還るには耶麻台国を復興させて女王火魅子に時の御柱を動かしてもらうしかないんだ。だから………。」

 

「オレは『元の世界に帰りたい』って言ってないぞ?」

 

「…………へっ?」

 

(こいつ、オレの言葉の意味を『折角だから、観光していこう』程度に受け取ったな…。この絶望の元凶が…。)

 

沈黙の後、間抜けな声を上げたキョウから自分の言葉の意味をそう理解していたのだろうと推測してそんな事を考えていた

 

「え? でも。」

 

「縁があったらまた会おう、さらばだ。」

 

呆けているキョウに手を振りながらカズヤは立ち去っていく

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

カズヤは切羽詰ったようなキョウの声に再び足を止め振り返った、そこには声のとおり焦ったようなキョウがいた

 

「どしたんだ?」

 

「『どしたんだ?』じゃないよ! 君がいなくなったらオイラはどうするのさ? 耶麻台国の復興は!?」

 

「そんな事はオレには関係ない。どんなに栄えていても結局は滅びる物だろうが…。それにオレは…まあいいか。」

 

「そ、そんな。で、でも、元の世界に戻るには…。」

 

「あのさ、オレはもう前の世界には何の未練もない。…イヤ、お前と輝が完全に消してくれたしな…。」

 

カズヤにハッキリと断られたキョウはそれでも何かいい考えはないかと視線とともに思案を巡らせていた

 

「そ、そうだ! この世界の事、何にもわからないでしょう? オイラに協力してくれれば少なくとも生活に困ることは…。」

 

「いいな、それはそれで楽しそうだ。オレには強い味方がいるしな。」

 

ポケットの中からカードデッキを取り出し、カードデッキに刻まれた『蝙蝠』を象った紋章、そして…契約のカードを眺める

 

(そうだろう…ダークウイング。)

 

「う~、で、でも! 神の遣いになれば地位や富や女の子だって好きな様に出来るよ。」

 

「興味ない………訳はないが…誰かに恵んでもらうのは気に入らない。地位なんて煩わしい物は持ちたくも無いしな。」

 

三度断られたキョウは目に見えて意気消沈していたが、急に俯かせていた顔を上げた

 

(…いやな予感が…。)

 

そのキョウの様子にカズヤの直感が『危険』と告げている…やっかいな事に巻き込まれると本能が警告していた

 

「じ、じゃせめてオイラを伊雅の所に連れてってよ。」

 

「伊雅ぁ? ……誰だよ?」

 

「耶麻台国の元副王だった男さ。」

 

何を考えているのか探る様な視線をキョウに向けるが、その真意は今のカズヤでは完全には測りきれない

 

「別にいいけど、その伊雅っとか言う奴が何処に居るのか…それは分かってるのか?」

 

「うん。伊雅も神器を持ってるからね、って………は?」

 

突然、何かを疑問に思ったらしくキョウはそんな声を上げた

 

「いや、さっき言ってた、火魅子候補と違って居場所は分かってるのか? …そう聞いてるんだけど…。」

 

カズヤがそう言うとキョウは傍目にもわかるほど確実に驚愕を表す

 

「な、何でわかったの!?」

 

「はぁ? さっき自分で言ってただろうが。『火魅子候補と神器そして神の遣いの三点セット』、『伊雅も神器を持っている』ってな。」

 

「う、うん。」

 

「神の遣いと言うのは偶然よばれたオレの為のポジションだ。結局のところ、在ろうが無かろうがどっちでもいい…そんな形で権力者に利用されるのは御免だ。神器と言うのはつまり、王家の証。だが、元副王の伊雅って奴が神器の一つを持っているのに『今までにも何度か反乱は起こったのに《当然》敗北』。それは何故か? 簡単だ…それは最後の一つ、絶対に不可欠な『火魅子候補』がいなかったから。違うか?」

 

カズヤの推測を聞いていたキョウは放心したようにゆっくりと頷く事しかしなかった

 

「で、伊雅の場所はわかるんだな?」

 

カズヤがそう問うとゆっくりと首を縦に振った

 

近くに落ちていた鏡…キョウの話だと、本体である神器だろうそれを拾い上げ、カズヤはキョウに話しかけようとした瞬間…

 

何かの《声》が風に乗ってカズヤの耳に届いた…僅かな物だったが…その音の正体は『悲鳴』

 

(今のは…。場所は…向こうか、助けない訳にはいかないよな…《輝》…お前の親友として…。)

 

敵が何であろうと《仮面ライダー》にさえ変身すれば負けはしない…そんな確信を持って、カズヤは森の中を駆け出した

 

「あっ、待ってよ~…そっちじゃ…。」

 

「ダークウイング!」

 

「え、なにを…『キィィィィィィィー!!!』うわぁー!!!」

 

カズヤが自らの戦友の名を叫ぶと、その意味が分からず聞いてくるキョウだったが、突然、天魔境の中から出現した蝙蝠型のモンスター…カズヤの契約モンスター『ダークウイング』に驚き、気絶したキョウをダークウイングが咥え、カズヤはダークウイングに捕まり目的地へと急ぐ

 

 

 

異世界、九洲の地にて、ライダーバトル最後の戦いに望む戦士を決める決戦において、紅き騎士に敗れた、漆黒の翼と鎧を纏う鏡の世界の騎士が神器たる鏡から降臨した…漆黒の翼、闇の翼『ダークウイング』と契約せし騎士…彼の者の名は『北川 カズヤ』…もう一つの名は…『仮面ライダー騎士―ナイト―』

 

 

その名こそはライダーバトルにおいて、かつて『秋山 蓮』と名乗っていた青年の役割を演じる事となった者の名



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The Knight Of DRAGON外伝『騎士-ナイト-』 壱章

契約モンスター『ダークウイング』に掴まり、悲鳴の聞こえた場所に急ぎながらカズヤは回収しておいた天魔鏡に視線を向ける。

 

 

「どういう事だ?」

 

精霊とか言うキョウの言葉とダークウイングが現れた事から考えて、間違いなく『それ』は鏡であるはず…だが、その鏡はカズヤの姿を映していなかった…。正確には鏡であるはずなのに何も映していないその鏡に対して疑問を持ちながらも優先すべき事はその疑問に対する答えを出すことではないので頭から疑問を消し、手持ちの荷物の中で鏡の代用品に成る物はないかと探してみる。

 

 

「……腕時計とか有ればな……。っと、これが有ったか…。」

 

ポケットの中に手を入れてみる…そこからカズヤが取り出したのは一本のペーパーナイフ…しっかりとその金属部分が彼とダークウイングの姿を映し出している。

 

 

(…これなら、鏡の代わりになるか…。)

 

 

視界の中に目的地を収め、素早くカードデッキをペーパーナイフの刀身に向ける。

 

 

「変身!」

 

 

二つの像がカズヤへと重なり、ダークブルーのスーツとプロテクターに包まれ、騎士の甲冑を思わせるフルフェイスの仮面に顔を包まれた騎士へと姿を変える。

 

 

その名は『騎士ナイト』…13ライダーズの一人『仮面ライダー騎士-ナイト-』

 

 

「ダークウイング。」

 

変身したナイトはダークウイングへと指示を出す、それに従いダークウイングはナイトの背中に装着し、翼へと変わる。

 

腰に有るレイピア型のカードリーダー『ダークバイザー』を抜き、ベルトのカードデッキから一枚のカードを抜き出しそれを差し込む。

 

『ソードベント』

 

機会音が響き、ナイトの手の中にダークウイングの尾を象った槍、ウイングランサーが現れる。

 

「悪いが…その子は助けさせてもらうぜ…化け物!!!」

 

仮面ライダーの強化された視力が正確にターゲットを捉える。人数は三人、一人は少年(彼が一番年下に見える。byカズヤ)、残り二人は女の子(二人とも中々可愛い。byカズヤ)、そして、そのうちの一人、蒼に近い髪の少女を捕らえている醜悪な人型の化け物の姿。

 

ナイトの武器は主に槍とレイピアと、斬る事よりも突き刺す事の方が向いているのだ。ならば自分がするべき行動は、すぐに判断できる。

 

手の中に出現した愛槍を視界の中に捕らえた敵を狙う。力任せにウイングランサーを獲物である少女を喰らおうとしている人型の化け物に向けて投擲する。

 

 

 

 

 

「ぐがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

突然、腕に突き刺さったウイングランサー、その痛みに思わず問え得ていた少女を放してしまう。

 

「え?」

 

呆然としている少女達を後目に化け物はウイングランサーを投擲した方向を向く。

 

「だれだお、おれさまにこ、こんなもの「黙れよ、化け物。」。」

 

化け物の言葉を遮り、その化け物から放たれる威圧を受け流しながら、森の中からナイトがその姿を現す。

 

「しかし…ミラーモンスターの出来損ないと言うのもおこがましい醜悪な顔だな。まあ、いいさ…オレは女の子を襲う奴には容赦しない事にしてるんでな…。」

 

(…しかし、外見はともかく、人の言葉を解するだけ有って…それなりに知能は有るのか…? 何処からどう見てもそうは見えないけどな。)

 

軽口で挑発しながらも、ライダーバトルの中で磨かれた分析能力が先ほどの様子から相手を分析する。

 

元々、ナイトのデッキは龍騎の様な強力な攻撃力で戦うパワータイプのデッキではなく、様々な特殊なカードを使い戦うテクニカルタイプのデッキなのだ。

 

的確にカードを使い確実に戦いを進めて行かなければ敗北は必至、『サバイブ―疾風―』のカードと言う切り札を手に入れたとは言え、それでありながら、最後の戦いまで勝ち残った彼の能力は経験と共に磨かれているのだ。

 

「な、なにを。」

 

「貴様に発言を許可した覚えは無い。」

 

周囲に他の敵は居ない、相手が僅かに自分に対して警戒心を持って動かずに居るのならば、先手を打つまでと判断し、カードデッキの中から一枚のカードを引き抜き、それを展開させたダークバイザーの柄の中に差し込む。

 

 

『トリックベント』

 

 

機械音が響くと同時に幾つものナイトの分身を作り出す。分身といっても実体が無い存在ではなく、ナイトと同じ姿をした実像を持った分身達なのだ。

 

後方に立つナイトが本体と言う事を表す様にダークブルーのマントを纏い、分身達に指示を出す。

 

「は、はや…ぐは!」

 

ナイトの分身トリックナイト達のダークバイザーの刃が縫い止める様に次々と化け物の全身に突き刺さる。

 

「ああ、そうそう…オレの槍ウイングランサーは返してもらうぞ。」

 

激痛に化け物が悲鳴を上げるがそれを無視し、化け物の腕に突き刺さっていたウイングランサーを引き抜く、それと同時に彼の知る生物の物とは違う、緑色の血液が化け物から噴出す。

 

「そんなも、ものがおれさ、さまにきくとでもお、おもってるのか~!?」

 

「思ってるよ。」

 

『ファイナルベント』

 

敵が一体しか居ない以上、早く戦いを終わらせようとして、カードデッキから引き抜いたカードをカードリーダーの中に差し込むと同時に電子音が響く。

 

「はっ!」

 

背中のマントが翼へと変わり、闇ダークの翼ウイングを纏い、ナイトは天高く舞い上がる。それが彼の持つ必殺技ファイナルベントなのだ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

ウイングランサーを相手に向け一直線に落下する途中で翼がマントへと変わり、彼の全身を包み、一つのドリルの様に変わる。それがナイトの持つ必殺技ファイナルベント…

 

「飛翔斬!!!」

 

ナイトの一撃が化け物の体を貫き、その余波で上半身を粉々にした。ダークウイングの翼に付く、化け物の肉片を不快に思いながら、思ったよりも呆気なく勝利してしまった事に呆然としながら、ベルトからカードデッキを外す。

 

それと同時に鏡の砕け散る音共にナイトはカズヤの姿へと戻り、この化け物に襲われていた二人の少女とおまけの少年に視線を向け。

 

「それで、君達…大丈夫だった?」

 

そう問いかけた。

 

「あ、ありがとうございました。」

 

「ああ、気にしなくてもいいよ、女の子を助けるのは、騎士ナイトの役目なんでね。」

 

綺麗な長い黒髪の少女からの我に返りながらの感謝の言葉に、そんな軽口で返す。思わず、どれくらいの間言っていなかったであろうか分からない、その言葉を懐かしく思ってしまう。

 

 

 

 

「あの、あなたは?」

 

黒髪の少女、伊万里は軽口で答えた自分と(外見上)そう歳が変わらないであろう見た事も無い服の少年カズヤに対して警戒を浮かべながら、そう問いかけた。

 

初めはその姿を見た時、上級の魔人とも思っていた。低級とは言え魔人を倒し、自分と乳姉妹の上乃と弟分の仁清を助けたとは言え、敵で有るならば状況はもっと悪くなっただけなのだから。

 

もっとも、そう思われているとも知らず、カズヤにしてみればミラーモンスターよりも弱かったと言う考え方しかしていなかったが…。

 

カズヤはそんな伊万里の心境を知ってか知らずか、何処か能天気な笑顔を浮かべて答える。

 

「オレは、カズヤ。ただの通りすがりの正義の騎士ナイトだよ。」

 

(…二人とも結構美人だよな~…助けたお礼に…って、よく考えたら厄介事を一つ持っているんだったよな…。)

 

伊万里の彼を警戒する心情など知らず、彼の言葉の中にあったこの国には無い言葉『騎士ナイト』の意味に少し混乱している彼女達を後目にそんな事を考えていた。

 

何処かそんな彼を見ていると、警戒しているのがバカバカしくなる伊万里だった。実際、カズヤにしてみれば必要が無い限り、女の子(それも美人)とは敵対する気も無く、ダークウイングも付いているのだ、必要以上に警戒する必要もない。

 

「カズヤさん…。」

 

(さん付けも悪くないな。っと、そんな事考えてないで、届け物をさっさと片付けさせてもらうとするか…。)

 

『そうしないと自由に動けない』と気絶しているキョウの入ったポケットの中の天魔鏡を軽く握りながら、後ろを降り向く。

 

「他に奴の仲間は居ないようだけど、気をつけくれ。似た様な者が他に居るかもしれないからな。」

 

「え? ど、どこか行くんですか?!」

 

伊万里が慌てて問いかけると、カズヤはそれを聞き後ろを振り返る。

 

「どうした?」

 

「いえ、でもどちらへ? その、もし決まっていないのでしたら私達の里へ来ませんか?」

 

遠慮うがちに誘ってくる彼女に対してカズヤは

 

「ああ、ちょっと、用事が有ってね。まあ、縁があったらまた合おう…君たちの名前はその時教えてもらうよ。」

 

微笑を浮かべながら、その視線を伊万里から上乃へと移しながら、そう答える。初めから、完全に仁清はカズヤの言う『君達』の中には入っていないのだろう。

 

そんなカズヤに対して顔を紅くしながら呆けている伊万里と上乃とは対照的に、彼の言葉に意味を理解したのだろう…仁清が不機嫌そうに彼に視線を向けている。

 

「じゃあ。」

 

そう告げて、暫く歩いた所で後ろから伊万里が声を掛ける。

 

「また、会えますよね?!」

 

「ああ…。縁があったら…いや、必ずな。」

 

彼には予感があったのだ…必ず再会の時は訪れるという…そんな予感を胸に、軽く手を振りながら、彼は歩いていった。

 

 

 

 

 

 

なお、余談だが目を覚ましたキョウがカズヤの『お前のお蔭で二人の美人とお近づきになれるチャンスを逃した』と言う言葉と指示により、『腹減ったら食っていいぞ』と言うコメント共にダークウイングに咥えられながら連れて歩かれたそうだ。

 



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The Knight Of DRAGON外伝『騎士-ナイト-』 弐章

 

伊万里達と別れた後、一時間後…(ダークウイングによって)目を覚ましたキョウを連れて、カズヤが山道を歩いていた。

 

 

その足取りはトボトボとした物で、心なしか上半身が俯いている。

 

 

「まだなのか? キョウ?」

 

 

伊万里達と別れてから一時間歩き続けた結果、疲れ切ったカズヤの言葉だった。

 

 

「もう休憩するの? 二十世紀人はひ弱だねぇ。そんなんじゃ日が暮れるまでに会えないよ。」

 

 

「…選べ…ここで本体捨てられるか、ナイトに変身してダークウイングで空を飛んで会いに行くか、休憩するか?」

 

 

そもそも、伊雅と言う人物の元へと届けて欲しいと頼んだ(本人としては様々な思惑があるが)のはキョウであり、カズヤは見捨てても別に構わないのだ。そして、ナイトに変身して、空から向かうことも『そんな事したら、魔人と間違われるよ』と却下したのもキョウである。

 

 

「しょ、しょうがないなぁ。じゃあ、十分休もう。」

 

 

「……いや、一刻も早くお前という厄介事を片付けたい……。遠慮するな、最高速で連れて行ってやる。」

 

 

疲れ切った表情に邪笑を浮かべ、カードデッキをペーパーナイフへと向ける。見ればペーパーナイフに映るダークウイングもその表情に愉快と言いたげな笑みを浮かべている。

 

 

「す、すみませんでした!!! どうか、好きなだけ休憩してください!!!」

 

 

ペーパーナイフをポケットの中に戻し、近くに椅子代わりに丁度いい石を見つけて座り込むと、無言のままキョウへと視線を向ける。

 

 

「…二つほど確認したい事があるけどいいか?」

 

 

「なんだい、カズヤ?」

 

 

『何でも聞いてよ』と言いたげな様子で胸を張っているキョウを黙殺しつつ、今の自分の持っている最大の疑問をぶつける事にした。

 

 

「向こうとの距離の差はどれ位有るんだ?」

 

 

「えーと、君達の距離で言うと百キロぐらいかな。」

 

 

とんでもない事を軽く言ってくれるキョウに対して疲れが倍増する思いのカズヤだった。

 

 

「…やっぱり、変身していいか?」

 

 

「どーしてえ!?」

 

 

「百キロと言えば、東京→熱海間の距離だろう! オレは変身しなけりゃ普通の人間だぞ。」

 

 

「訳の分からない事を…。」

 

 

カズヤを説得しようとし始めそうなキョウを手で制しつつ、二つ目の疑問を問いかける。

 

 

「二つ目の質問…向こうはこっちの事が分かってるのか? こっちと逆方向に移動されてちゃ、生身で幾ら急いだ所で意味は無いんじゃないのか?」

 

 

「それは大丈夫だよ、カズヤ。向こうも近づいてきてるから、どんどん反応が強くなってるんだ。カズヤが魔人みたいな姿に変身しなければ、向こうの歩く速度の方が速いから、実際にカズヤが歩く距離は三分の一で済むよ。」

 

 

「…そうか…。」

 

 

呼吸を整えながら、空を見上げる。

 

 

「そうだよ、だから、がんばって…。」

 

 

「今日中に会うのは諦めて…向こうに頑張ってもらおう…。」

 

 

真剣な顔でキッパリと言い切るカズヤの言葉にずっこけるキョウだった。

 

 

「なんでぇ?」

 

 

「…疲れすぎてたら、お前が余計なことを言う前に逃げられないからだろうが。」

 

 

「ギクゥ! い、いやだな…余計な事なんて言う訳無い…。」

 

 

明らかに動揺して目を逸らしているキョウの様子にカズヤは『やっぱり』と言う意思を浮かべる。

 

 

「それにそんな事言ってたら、今日は二人で野宿になっちゃうよ。いいの?」

 

 

「…この陽気なら死にはしないだろうし、獣が襲ってきてもダークウイングが守ってくれるだろう。」

 

 

完全に休憩モードに入ったカズヤを尻目にキョウはぶつぶつ言いながら、何かを考え始めた。

 

 

「仕方が無い、あそこに行こう。」

 

 

「あそこ?」

 

 

休憩して空を眺めていたカズヤがキョウへと視線を向ける。今回はいやな予感もしないので、大して気にもしていないが…。

 

 

「この近くに耶麻台国の神を奉った神社があるんだ。今はどうなってるかは分からない…多分、狗根国によって廃棄されてると思うんだけど、夜露ぐらいはしのげる筈だから。獣に襲われる心配もないし。」

 

 

キョウの言葉に暫く考え始める。確かにダークウイングと言うガードが居るにしても獣に襲われる心配があり、慣れない野宿では却って疲れが溜まる心配があるのだ。キョウのその申し出はありがたい。

 

 

「分かった。それでその神社の場所は?」

 

 

「そんなに遠くないよ。うーん、そうだな、十キロぐらいだよ。」

 

 

『オレ達の感覚じゃあ、十分すぎるほど遠い』と思いながらも、野宿よりもいいと考え、キョウの申し出に応じることにする。

 

 

「雲も出てきた事だし急ぐぞ。濡れて風邪引いたら、薬も医者も家も無いオレには死活問題だ。」

 

 

「はいはい、じゃあ急ぐよ、カズヤ。」

 

 

妙に張り切っているキョウの態度に僅かな不審を感じつつ、夕立に遭う前にと考え急ぎ足で歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

間に数分ずつの休憩を挟みながら、歩く事三時間…ようやく目的地の神社へと向かう階段まで辿り着く事が出来た。

 

 

「…オレは常々思っているけど、日本と言う国の神社仏閣はどうして階段の上に建てるんだ?」

 

 

実際、西洋の教会に比べて、日本の神社仏閣はどうしても階段の上に建てる傾向がある。しかも、由緒正しい場所ほど高い所に…(勿論、例外もあるだろうが)。

 

 

「まあまあ、これを登り切れば今日の仕事は終わりだからさ。ほら、最後の一踏ん張り。」

 

 

「まあ、ここまで来たんだ…ゆっくり、のんびり行こうぜ。急いだ所で、可愛い女の子とか、綺麗な女の子とかが待ってくれている訳じゃないんだし。」

 

 

「あ、いいの、そんな事言って。ガールフレンドに言いつけちゃうよ。」

 

 

場を和ませる為の冗談なのだろう…愉快そうに笑いながら言うキョウだったが、彼とは対照的にカズヤは辛そうな表情を浮かべる。

 

 

「…言わなかったか…? オレを待っていてくれる大事な人はもう居ない…。」

 

 

心から凍り付きそうなほどの冷たい声と、触れたら切れてしまいそうな刃を連想させる視線。キョウは改めて理解する彼が単純に強力な力を持っただけの人間ではなく、戦士である事を…。

 

 

それと同時に彼から感じた悲しさ…大切な者を奪われた人間であると言う事を理解した。ならば、狗根国によって支配される現状をみれば必ず力を貸してくれると考える。

 

 

「どうした?」

 

 

さっきから黙っているキョウを不審に思いじと目で銅鏡の精霊を見る。

 

 

「あ、あはははは…。さすがにおいらもちょっと疲れちゃったから。」

 

 

「…精霊でも疲れるのか?」

 

 

「まあね。こうやって実体化しているのも、結構能力使うんだ。キョウは出っ放しだったたろ、だから、早く鏡の中に戻って一休みしたいんだよ。」

 

 

「ふーん…。ミラーモンスターとは違うんだな。」

 

銅鏡を取り出し視線を向けてそんな事を呟く。当然ながら、ミラーモンスターは鏡ミラーワールドの中の存在ではあるが、しっかりとした実体を持っている。

 

 

「当たり前だよ! おいらをあんなのと一緒にしないで欲しいな!」

 

 

『心外だ』とでも言いたげな態度で腰に手を当てて叫ぶキョウだが…。

 

 

「…『ダークウイング』からの伝言だぞ。『次、言ってみろ…餌にするぞ。』だそうだ。」

 

 

カズヤの言葉に恐怖に怯えながら、真っ白になるキョウだった。

 

 

「さっさと神社に行くぞ。地面の上じゃなくて、建物の中でゆっくり休みたい。」

 

 

「あ、ああ、そうだね。」

 

 

キョウは正気に戻ると慌てて彼の後をフワフワと浮きながら付いて行く。

 

 

階段の両側は見事な広葉樹の森で、木の幹は太く、高さは二十メートル以上有る為、日差しが遮られ、まだ昼間だと言うのにあたりは暗く、心地よい樹の薫りが鼻腔をくすぐった。

 

 

「この階段は何段くらいあるんだ?」

 

 

「二百段くらいかな?」

 

 

「そうか。」

 

 

ライダーバトルである程度身体能力は鍛えられているのだ。並の人間よりは鍛えられている。二百段程度の階段では音を上げる程ではない。

 

 

 

 

 

 

それから数十分後

 

 

「ここが、その神社か?」

 

 

それほど広くない境内は、鬱蒼とした原生林の中にあり、二十世紀では珍しい樹齢数百年と思われる木々に囲まれた物音一つしないその場所は、神社と言う神聖な場所に相応しい神秘的な雰囲気に満ちていた。

 

 

「カズヤ、カズヤ。」

 

 

神秘的な景色に見惚れていたカズヤに小声で呼びかける。

 

 

「なんだ?」

 

 

カズヤがキョウの方へと視線を向ける。

 

 

「ちょっと、その辺の樹の陰に隠れてて。」

 

 

「なんでだよ? 誰かいたとしても、オレが変身すれば…人間や獣相手なら…。」

 

 

「いるのが、敵じゃなくて味方だったらどうするのさ!? ぼくなら精霊だから、普通の人間に気配を悟られる心配は無いから、建物の中を調べてくるよ。」

 

 

「そうか。なら、頼んだぞ。」

 

 

素直にキョウに従って樹の陰に隠れる。それを確認して空中を飛んで神社へと近づいていく。近くで見るとここが使われなくてから年単位で時が過ぎている事を表す様に汚れが目立っている。キョウは建物の直ぐ前で急降下すると床下へ消えて行った。

 

 

「………………。」

 

 

無言のままキョウの様子を見守っていると、暫くしてから慌てた様子で戻ってきた。

 

 

「どうした、人でも居たのか?」

 

 

「そ、そうだよ! あそこ、誰か使っている!!!」

 

 

キョウの言葉にカズヤの視線が鋭さを増す。

 

 

「どういう意味だ? 詳しく話せ。」

 

 

「あのね、床下にいろんな物が転がってる。工具だとか、何かの部品だとか。それもかなり新しいから、最近、誰かがここにいたのは間違いないよ!」

 

 

「なるほど…だったら、ここで待っている事は得になりそうだな。」

 

 

キョウからの報告を聴き、笑みを浮かべつつ答えるカズヤの言葉に一瞬だけ、キョウに驚愕が浮かぶ。

 

 

「ど、どうして!!! 狗根国かも知れないのに…そうじゃなくても、もう戻ってこないかもしれないのに!」

 

 

「第一に…狗根国の人間ならこんな不便な所で隠れながら使っている訳が無い。第二に…部品はともかく工具まで置いていったという事が戻ってくるという考えの理由だ。」

 

 

(やっぱり、カズヤって…。)

 

 

自分の連れてきた人間の想像以上の優秀さにキョウは思わず呆然としてしまう。もっとも、本人は協力する気は無いが…。

 

 

「キョウ、中に誰も居ないようなら、そろそろ入った方がいいんじゃないか?」

 

 

「あ、うん。でも、気をつけてよ、何時戻ってくるか分からないから。」

 

 

「分かってる。」

 

 

キョウの言葉にそう答え、社殿に上がる階段を駆け上がり、扉を僅かに開けてから一度扉から離れる。反応が無い事を確認しつつ、扉を開き中に入る。

 

 

室内は暗かったが、所々破れた壁や屋根から光が差し込み、何も見えないと言う事もない。予め目を暗さに慣らしておかなかった事を僅かに悔やみつつも、目が暗闇に慣れてくると部屋の様子がはっきりと分かる。

 

 

「誰かが使ってるのは間違いないな…。荷物まで置きっぱなしと言う事は、戻って来る意思も有ると言う事か。」

 

 

「ふうん、床のここが開いて床下に通じているんだ。なるほど、なるほど。手を加えていると言うことは、たまたま昨日、今日、ここに立ち寄ったと言う訳じゃなさそうだ。」

 

 

などと床下を調べながら独り言を呟いている。

 

 

壁際には葛篭や寝袋に寝具がいくつも置いてある。周囲に散乱しているのは恐らくは衣服だろう。

 

 

「みんな、女物だ。……って事はここを使ってる人間は全員女性なのか。しかも、ここに脱ぎ捨ててある服を見ると巫女が居るな。」

 

 

カズヤが他の場所を調べようと視線を逸らした隙に近づいたのだろう、キョウが衣服を調べながらそう言っている。

 

 

「どうする? 出かけてる奴らもそのうち戻ってくるだろうし、ここで待つか。」

 

 

「うーん、どうだろう。最悪の事態を考えると相手の正体が分からない以上鉢合わせしたくないな。」

 

 

「ま、どこかに隠れて待っているか。こんな所を使ってる人間なんて、大抵、元耶麻台国の関係者だろう。そいつ等にお前を引き渡せば、オレはお役御免だ。」

 

 

そう言いながら最初にキョウが調べていた木の床を蹴り、その付近にある出っ張りに手を触れ、持ち上げる。

 

 

「隠れるとしたら、やっぱりここだな。」

 

 

カズヤが床下へ潜り込むとそれに続いてキョウも床下へと潜り込む。床下も十分暗かったが、それでも外と通じているらしく光が差し込んでくるので、目が暗闇に慣れているカズヤには問題なかった。

 

 

「ここにしよう。カズヤはおいらが穏伏おんぶくの術で気配を消すから。」

 

「そんな事もできるのか、お前。」

 

 

初めて感心した様子でカズヤはキョウを見るとキョウは胸を張って答える。

 

 

「まあね、神器の精だからね、カズヤ一人ぐらいなら。」

 

 

「じゃあ、速くやってくれ。」

 

 

「ちょっと待っててね。」

 

 

キョウはカズヤの周囲を一回りして、地面の上に円を描く。次に円の周囲の何箇所かに何か不思議な文字を描いていく。

 

 

「はい、できたっと。この円から出ちゃ駄目だよ。出たら効力が消えちゃうからね。」

 

 

「ああ。」

 

 

カズヤがキョウの言葉に同意を示して腰を下ろすとキョウもその隣に腰を下ろした。

 

 

「ふう。少し疲れちゃったな。ねえ、カズヤここを使ってる人間が戻ってくるまで、ちょっと休んでおきたいから、銅鏡出してよ。」

 

 

「ほら。」

 

 

ポケットの中に入れておいた銅鏡を取り出す。

 

 

「多分ね、伊雅が持ってる神器がおいらの位置を教えてくれるはずだから、きっと明日になれば伊雅もこのあたりまで来ると思うんだ。」

 

 

「神器同士で引き寄せ合うと言う訳か。ただ、向こうはお前に比べて探知能力は劣っているんだろう?」

 

 

「そうそう。伊雅の持ってる神器はおいらに比べて探知能力が劣っているから、こっから近付いてやらないと反応しないんだ。」

 

 

「でも、向こうの探知能力の範囲内に入ったんだろう?」

 

 

「うん、このくらいの距離まで近付けば、向こうの神器がおいらの位置を見失うことはないはずだから。」

 

 

思えば龍騎とのライダーバトルの最終決戦を終えてから、歩き通しで訳の分からない化け物との戦闘までこなしたのだ。何故か龍騎との戦いの疲労は無いとは言え、疲労は溜まっている。

 

 

「なら、今日はゆっくり休ませてもらうか。」

 

 

「そうだね。あ、誰かがここに近付くのを感知したら出てくるから。じゃあね。」

 

 

それだけ言い残して、キョウは鏡の中に吸い込まれていった。

 

 

「…やれやれ。輝に負けて死んだと思ったら、訳の分からない世界で目を覚まして、運び屋の真似事か…。さーて、こいつを届けたらどうするかな? なあ、相棒ダークウイング。」

 

そう、今はミラーワールドの中にいる契約モンスター『ダークウイング』へと問いかける。

 

 

「そう言えば…輝は元気にやってるかな? まあ、オーディンはちゃんと倒しただろうしな。」

 

 

そう言って楽しそうな笑みを浮かべる。勝利を…願いを託した友への信頼は決して揺るがない。信じているのだ…輝の力を…。そうして、カズヤはキョウの張った結界の中で神社を使っている人間が来るまで待ちつづけた。

 

 



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The Knight Of DRAGON外伝『騎士-ナイト-』 参章

地面に置かれていた銅鏡の中からキョウが顔を出した。小さな顔に緊張の表情を貼り付けたまま空中に浮かんで目を閉じ、ひたすら何かを探るように神経を集中させている。

 

「やっぱり。」

 

目を開いたキョウが直ぐ横で眠っているカズヤの体を揺さぶった。

 

「ねえ、カズヤ、起きてよ。カズヤったら!」

 

「ん…? ああ……。」

 

薄目を開けたカズヤがキョウの顔を見ると意識を完全に覚醒させる。ライダーバトルでの不意打ちに対する警戒の経験ゆえか、最近は寝起きはいいのだ。

 

「寝てたのか…色々有って疲れてたからな…。座りながら寝たから、体が痛いな。」

 

首を回し、肩を上下に動かしながら、体をほぐすとカズヤはキョウの方へと視線を向ける。刃のような鋭さを持った視線が彼が戦士である事を確認させる。

 

「それで、何かあったのか?」

 

「ここに誰かが近付いてくる。」

 

キョウの言葉を聞き、幾つかの答えを考えた結果、三つの答えを出すとそれらの中の答えの何れが正解か確認するためにキョウへと質問をつなげる。

 

「人数は?」

 

「総勢数十人といった感じかな? 近付いてくる人間の気配から見ると。」

 

「チッ、最悪の答えが大正解か?」

 

キョウの返事に舌打ちと共にそう言葉を返す。こんな朽ち果てた神社にそんな大人数でやってくるとしたら…答えは一つしかない。狗根国の一団であると言う事である。

 

「最悪の答えって?」

 

「荷物から見ても分かるとおり、ここを使っているのは精々四、五人と言った所だろ。それから考えて数十人の人間が一度に向かってくるのは不自然だ。不自然を自然にする一番無理のない可能性…それが向こうが狗根国の連中という可能性だ。それで、その連中はこっちに向かって真っ直ぐ近付いてきてるのか?」

 

キョウの疑問を自分の推測から導き出した答えを答えつつ再び質問を重ねる。最悪の答えだったとしても、偶然この近くを通りかかったとも考えられる。

 

「う、うん。まっすぐこっちに近付いてきてる。たまたま近くを通りかかったって感じじゃないんだ。」

 

「キョウ、一応、偵察に行って来てくれ。普通の人間には見つからないんだろ?」

 

「うん、様子を見てくるよ。何か胸騒ぎがする。」

 

そう言った瞬間、キョウは床下の狭い空間を物凄い勢いで飛んでいった。途中、外に出る直前で振り返ると、

 

「言っておくけど、穏伏おんぶくの陣から出ないようにね。下手に外に出ると気配を気取られちゃうかもしれないから。」

 

「ああ、分かった。」

 

手を振りながら、外に出て行ったキョウを見送るとキョウの描いた陣に視線を向ける。そういう系列ファンタジーの漫画や小説で見た様に一度外に出ると効果が消えてしまうのだろうと考える。

 

「……………最悪の場合、迎え撃つ方法を考えた方がいいかな?」

 

最悪はダークウイングとライダーに変身した自分で追い返すなり、ミラーワールドへ逃げ込めばいいと考えるとここで隠れているよりもそっちの方が安全ではないか等と考えてしまう。

 

上から剣を突き刺すなり武器を振り回される等されたら気配を消した所で意味は無い。そういう場合の対策も有るのだろうが…詳しく陣の効果は知らないのだ…信頼の置ける手段の方が安全性が高いと考える。

 

意を決して床下から這い出るとカズヤは壁に添って部屋を移動する。鏡か何かが見つかれば、ライダーへの変身やミラーワールドへの侵入も容易に出来る。

 

先ずは荷物を確認させてもらおうと、持ち主達へ対して心の中で謝罪すると籠かごや葛籠つづらの蓋ふたを開ける。

 

最初の籠に入っていたのは見た所、女物の衣服だけだったので直ぐに蓋を閉める。他の葛籠や籠にはお札や竹簡ちくかん等が詰まっていた。竹簡ちくかんや布製の札を手にとって見るが、時代が違うのだろう、カズヤが読める字ではなかったので、元に戻す。

 

「布や竹簡ちくかんなんて使っている所を見ると、紙は発明されてないのか?」

 

キョウから説明された自分のいる世界の情報を思い出す。

 

「魔法みたいな技術はあっても、紙は作られないのか…。いや、待て…。」

 

思い起こすのは授業で聞いた紙の発明された時期…

 

「紙が発明されたのが後漢の蔡倫だったな。一世紀いや、二世紀といったところか…? 今が三世紀の日本に近いところと考えるとまだ伝わってないか、一般には広まらず一部の権力者の近辺のみに普及していると考えた方がいいか。けどな…。」

 

カズヤは床に散らばっている衣服の一つを拾い上げそれを見つめる。

 

「随分と三世紀には似つかわしくないデザインだな。まあ、そんな物は趣味のレベルだから、深く考える必要は無いか。」

 

そう言って即座に切り捨て拾った服を綺麗に畳み直して最初に開いた籠の上へと乗せて、再び壁に沿って歩き始める。

 

「他には特になしか…。うん?」

 

入り口から一番離れた位置にある壁に小さな扉を見つける。

 

「…隠し扉か。RPGとかだと中には強力な武器とか入ってるのがパターンだけど…。」

 

床から一メートル程の高さにある朽ち果てかけた扉を手前に引くとそれは鈍い音を立てて開く。

 

そして、部屋の中を覗き込むとそこには不思議な形状をした長さ1.8メートル位の細長い物が転がっていた。

 

「へー…なんかアイテム発見かな、これは?」

 

一辺六十センチほどの狭い空間に上半身を押し込み、扉の枠へと乗せた腰を始点にして振り子の様に頭を下に振ると、軽く回転して、扉の中の空間へと降り立つ。思ったよりも部屋は広く何とか立つことは出来る。そして、カズヤは目の前に落ちているそれを拾い上げた。青銅製なのだろう、青緑色をしてかなりの重さがあった。

 

よく見てみると片側の端に丸い円盤状の皿の様な物が付いていて、その中央には芯の様な物が飛び出でいるのが見えた。その反対側はその部分で全体を支える為なのだろう、大きく広がっている。

 

「なんだ…燭台か何かって事か…?」

 

何でそんな物を態々隠し扉の中に隠してある部屋の中に置いてあるのか疑問だが、ここが狗根国によって廃棄されてると言うキョウの言葉から推測すると重要な物は持ち去られ、これは取り残された物とも考えられる。だが、それだと隠し扉を元に戻したと言う点での疑問が浮かび上がる。

 

「…分からないな…? 何でこんな物だけがここに…?」

 

後でキョウにでも聞いてみるかと考えて、床の置こうとした時、突然『ぼん』と言う音が響く。

 

「な、なんだ!?」

 

音が響いたのはカズヤの持っていた燭台だった。蝋燭ろうそくも油も無いのに燭台の先端が燃えている。

 

「どうなってるんだ…これは?」

 

ライダーバトルという名の非常識を体験していても流石に燃料も無いのに燭台が燃えているという非常識に一瞬だけ固まってしまう。

 

 

『そこにいるのは誰だ!?』

 

 

その時、低く鋭い声が社やしろの中に響いた。

 

その声に我に返るとカズヤはポケットの中のペーパーナイフとカードデッキを取り出す。

 

(拙いな…誰か来たのか? どうする…?)

 

「そこに隠れている奴、出て来い。」

 

考えが纏まる前に足音が近付いてくるのが分かる。気配は二つ。恐らく物騒な雰囲気から考えて武器も持っている事だろう。

 

「出てこないのなら、死んでもらうぞ。」

 

(…どうする…? 一応、投降した後、耶麻台国の関係者だったら、即座にキョウの本体を引き渡して逃げるけど…。狗根国とか言う連中の偵察だったら…。)

 

「出てこないのなら、やむを得んな。清瑞きよみず、引っ張り出すのだ。抵抗したら、切手も構わん。」

 

カズヤが考えを纏め上げると同時にもう一人の相手が声を上げる。

 

先程まで聞こえた声の高さと聞こえてくる口調から近付いてきているのは女で恐らく後から聞こえたそれなりの年齢の男性の部下と推測される。

 

「待った、待った。今から出るから、ちょっと待ってくれ。」

 

軽い口調で言葉を返す。それと同時に社の中にいる人間の動きが止まった事が分かった。

 

「ならば、早く出て来い。」

 

今度は男の声で清瑞きよみずと呼ばれていた女の声が聞こえる。

 

「ただし、ゆっくりとだ。妙な動きをしたら、切り殺す。」

 

(…ダークウイング、向こうが武器を持ってオレに向かってきたら、奴の武器から飛び出して牽制してくれ。オレはその隙に変身する。)

 

『キィ。』

 

冷徹に続けられた清瑞きよみずと呼ばれた女の声に身震いする。『殺す』と言う言葉には何の力みもない。それと同時にライダーバトルを続けていた頃の自分にも、そんな人を殺す事をなんとも思っていない人間特有の落ち着きがあれば、どれほど楽だっただろうと考えて、苦笑してしまう。

 

最低限、相手の様子を確認しようと開いている扉から顔を覗かせると、正面には黒ずくめの衣装を着た女が立っている。顔はマスクのような物で半分ほど覆われてよく見えなかったが、除いている目元を見る限り、かなりの美人に思われた。その手にあるのは『幸い』にも、冷たい光沢を持った本物の刀と言うことだろう…。

 

もう一人いるはずの男の姿はなく、恐らくどこかに身を隠しているのだろう。

 

(…恐らくもう一人の男も武装しているはず…目の前の相手をダークウイングで牽制して、その隙に変身するにしても、もう一人の位置を確認してからの方がいいだろうな…。)

 

元の部屋に戻ろうと両腕を伸ばした時、すっかり忘れていた燭台の炎が彼の顔を焦がした。

 

「あち!!!」

 

思わず持っていた燭台を放り投げる。向こうの部屋に転がり落ちた燭台が乾いた音を立てる。すると同時に男と女の大きな声が響いた。

 

「こっ、これは!!!」

 

「ばかなっ!?」

 

転がり落ちても、なお、燭台の炎が皿の上で燃え続けていた。正面に立った女が油断のない足取りで近付き、そっと燭台を拾い上げ、手にした物を掲げ、燃え続ける炎をまじまじと見つめる。

 

(なんだ? 様子が変わった。)

 

カズヤは奥の部屋の中から女の様子を伺う。しばらく女は炎を見つめていたが、そっと後ろを振り返った。

 

「伊雅様、これは!?」

 

(伊雅!?)

 

カズヤの視界の中に男の姿が現れる。男が呼ばれている名『伊雅』とは確かキョウが自分を届けてくれと頼んだ相手……。

 

「信じられん……。天あめの炎かぎろいが燃えている。」

 

『伊雅』と呼ばれた男は恭うやうやしい態度で『清瑞きよみず』と呼ばれた女から燭台を受け取ると、炎に手をかざした。

 

「まさか、これが燃えるとは……これは何かの瑞兆なのか?」

 

『伊雅』と呼ばれた男はそれをそっと床の上に置くと、手を合わせ目を閉じ頭こうべを垂れた。それを見て『清瑞きよみず』と呼ばれた女も跪き、男に倣って燃える炎に向かって合掌した。

 

 

『天あめの鳥船、天あめ降し、天あめの八重雲やえくもかき分けて、天あめの御柱みはしら、国の御柱みはしら、人の御柱みはしら、平けく知ろしめせ…。』

 

 

二人は訳の分からない…恐らくは祈りの言葉なのだろう言葉をぶつぶつと口にして燃える炎に厳かな祈りを捧げた後に立ち上がり、部屋から出てきたカズヤを見つめた。

 

「それってそんなに大事な物だったのか…?」

 

自分へと向けられる鋭い視線に堪えた様子もなく、軽い口調でそんな事を聞いてみる。当然、祈ってた隙にポケットの中に入っていたカードデッキとペーパーナイフを取り出し、何時でも変身できる準備は怠っていない。

 

「貴様……何者だ?」

 

女が腰の刀に手をかけながら、一歩前に踏み出した。

 

「…質問に質問で返すもんじゃないだろうが…。まあいいか、別にオレは怪しい者じゃない、タダの旅の途中で届け物を頼まれた旅人…。」

 

「こんな廃棄された神社に潜んでいる奴のどこが怪しくないと言うのだ!? しかも、態度も格好も怪しげだろう!」

 

思わず女の言葉に『ごもっとも』と同意してしまう。間違いなく、この時代の人間からしてみれば、自分の服装は怪しい事このうえないだろう。

 

女は剣の柄に手をかけたままカズヤに向かって近付いてくる。

 

「仕方ない……か。」

 

すばやく掌に隠しながら、カードデッキをペーパーナイフの金属面へと向ける。その様子は正に一触即発。

 

「何者だと尋きいている……。」

 

「悪いが、これは正当防衛だぜ…。」

 

女が放つ殺気が膨れ上がった時、それに応じる様にカズヤも殺気を放つ。

 

「変…。」

 

「待て、清瑞きよみず。」

 

カズヤが変身しようとした時、そんな声がかかった。

 

「「はい?」」

 

女の放った殺気が不意に萎んだと同時にカズヤの放っていた殺気も霧散した。

 

「わたしが話そう。」

 

「ですが……。」

 

「よい。お前は退きなさい。」

 

「はい……。」

 

不満そうな顔で女が脇に退くと代わって男が進み出てきた。男はカズヤの前で跪くと軽く頭を下げた。

 

「見れば、この国のお方ではない様子。貴方は何者なのです?」

 

「オレは…ただの…「彼は神の遣いだよ。」って、おい!」

 

突然響いた第三者のとんでもない発言に思わず突っ込みを入れるカズヤ。男は驚愕に目を見開きながら、声の聞こえた方向…後ろを振り返った。そこ…社の入り口にはキョウがふわふわと浮かんでいた。

 

(キョウ、余計な事を!!!)

 

「なんだ、貴様は!?」

 

「ま、ま、まさか……あなたは……。」

 

「まあ、一応…あんた等の国の神器の精らしいぞ…威厳ないけど。」

 

半ば諦めの極致でカズヤは自分の正面にいる女に向かってそんな事を呟く。こうなったら、神の使いでも何でもいいから、絶対に逃げると心に誓って。

 

「おいらは天魔鏡てんまきょうのキョウさ。」

 

「ははあ――――っ!!!」

 

男は先程以上に床に頭を擦り付け深々と床に這いつくばった。

 

「い、伊雅様?」

 

「…本当に偉かったんだな、あのぬいぐるみモドキ。」

 

戸惑い交じりの女の言葉と呆れ半分のカズヤの言葉が響く。

 

「これ、頭が高いぞ、清瑞きよみず。おぬしは知らんかも知れんが、天魔鏡てんまきょうは耶麻台国の七神器の内の一つなのだ。この蒼竜玉と同様のな。」

 

男は懐に手を突っ込むと、手の平サイズの真紅の玉を取り出した。

 

「し、しかし。」

 

「あ、疑ってるね。じゃあ、カズヤ、見せてあげてよ。鏡はどこ?」

 

「ほら。」

 

ポケットの中に入っていた鏡を女に向かって投げ渡す。カズヤから投げ渡されたそれを受け止めると男の元に向かう。

 

そして、女から銅鏡を引ったくる様に受け取った男は、何度も何度もひっくり返したり逆さにしたり表にしたり裏にしたりして鑑定していたが、とうとう歓喜の声を上げた。

 

「まちがいない! これぞ、天魔鏡てんまきょう! 耶麻台王家の神器だ!」

 

「まさか、ほんとうに……。では、この男は本当に…。」

 

「そうだよ、彼は…。」

 

とりあえず、話のペースを取り戻そうと、カズヤは『タダの旅人』から『神の使いだけど、復興には手を貸さない』と言う方向へ話を進めようとキョウの言葉を遮って口を開く。

 

「…オレは戦神オーディンに仕える神の使いたる十二騎士の一人。まあ、そっちでは聞き覚えのない名前だろうが…お前達には…『天あめの火矛ひほこ』と言った方が分かりやすいかな? そう呼ばれているの加護を受けた炎の騎士の友である風の騎士だ。」

 

適当にライダーバトルの設定をアレンジして言葉を続ける。一応、オーディンというのは北欧の神話の神様の名前だったと言うことは記憶していた。

 

「なんですと!? はああっっ!!!」

 

カズヤへと向き直り、再び額をこすり付ける様にひれ伏した。

 

「遅かったな、それで相手はどんな様子だ?」

 

「うん、大変なんだ。」

 

「…話してくれ…。」

 

こほんと小さな咳払いをして、キョウはカズヤの隣まで移動すると跪いている二人に向き直り呼びかける。

 

「えーと、伊雅と、そっちは…。」

 

伊雅は改めて一礼すると傍らの女を指差して応えた。

 

「こちらに控えておりますのは、清瑞きよみず。わたしの護衛役である乱破らつぱでございます。」

 

(乱破らつぱ…忍者の先祖みたいなものか? まったく、あの殺気や態度にも頷けるな。)

 

「えーと、清瑞ね。じゃあ、二人とも、良く聞いて。今は時間がないから、詳しい説明は後でするから。とにかく、ぼくと、神の使いであるカズヤは耶麻台国を復興させる為にこの地へやってきたんだ。」

 

「なにを言っているんだ、言葉が足りないぞ、キョウ。オーディン様が仰っていたじゃないか、人の問題は人の問題として人の手で解決させて、オレは復興できる立場にある人間にお前を届けろとしか言われてないぞ。」

 

「はは――――っっ!」

 

キョウとカズヤの言葉を聞くや否や、伊雅はまた頭を床に擦り付けた。

 

「まあいいだろう、キョウ。こうして、元副王である伊雅殿の元にお前を届けたんだ。オレの役目はこれで終わった。後はこの地にいる火魅子の資質を持つ者を探し出して見事復興させるのだ。」

 

「ちょっと、カズヤ!」

 

いきなり、後ろを振り向いてカードデッキを取り出してすばやくペーパーナイフへとむける。

 

「変身!」

 

カズヤの体に二つの像が重なり、仮面ライダー騎士ナイトの姿へと変わる。それを見て伊雅と清瑞の顔が驚愕に包まれる。

 

そして、すばやくカードデッキからカードを抜き出し、それをダークバイザーへと差し込む。

 

『ADVENT』

 

呼び出したダークウイングが翼となり、屋根を突き破って神社を飛び出していく。

 

神社を飛び出した時何かキョウが騒いでいるが、全面的に無視しつつ、ナイトはそのまま飛び去っていく。

 

「あの御方は行ってしまわれたか。」

 

「大丈夫だよ、カズヤは絶対に戻ってきてくれるから…。」

 

カズヤは気付かなかった…カズヤが寝ている隙にキョウがカードデッキから一枚のカードを抜き去っていた事に…そう…風を連想させる青い下地に翼がかかれたそのカードの存在に…。

 

 

 

 



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IS 多重クロスオーバー

インフィニット・ストラトス、通称ISがこの世に生まれ約十年余り、女性しか扱えない、世界各国で500に満たない数しか存在しないと言う致命的な欠陥を抱えながらも現存の兵器を超える性能故に最強の兵器として君臨している中、つい最近初の男性操縦者が発見された。

 

世界初の男性操縦者『織斑一夏』、IS世界大会モンドグロッソ初代優勝者《ブリュンヒルデ》にしてISの開発者『篠ノ之束』の親友である『織斑千冬』の弟。話題に事欠かない立ち位置の人間である。

 

彼に続けとばかりに世界中で行われた検査の末に発見された彼、『天地 大和』はIS学園では無く、新設校のIS操縦学科に入学したと言うわけだ。

 

一部の国々の思惑と、とある大企業の思惑が絡み合った結果生まれた第二のIS学園。男女共学の整備学科と操縦学科に別れた学園であり、開発した新型のデータを多くの国に渡したくないと言う思惑のある国からの代表候補生も受け入れている。現状では二年にブラジルとギリシャ、一年にタイとオランダとカナダの代表候補生が入学している。

 

大和の場合は最大のスポンサーである大企業の日本支社の企業代表として入学した身の上である。そこに保護された事で実験台にされる事なく日々を過ごしている訳である。

 

「ふぁ……」

 

まあ、現在は図書室の机に突っ伏しながら欠伸をしているのであるが。

 

「モンドグロッソ優勝者についてのレポートね」

 

操縦学科の一学期末までの提出課題であるが、どうもどの操縦者を見ても一つの結論にしか辿り着かない大和である。

即ち、『会長やら副会長の方が強い』と。身内贔屓ではなくシュミレーションとはいえ歴代優勝者に対して全勝。織斑千冬に至ってはバトルスタイルの相性が良いのか、既に勝利までの時間のタイムトライアルまでしている始末だ。

 

「取り敢えず、面白みのない初代以外にしておくか」

 

そもそも、開発者の親友と言うのならば世界最初のISである白騎士の操縦者である可能性が最も高い。ってか、僅かな戦闘映像と数多く出回っている千冬の試合記録のいくつかに合致する点も見られる。第二の可能性としては篠ノ之束本人が操縦者と言う可能性だが、其方も高くは無いがあり得る可能性と考えている。

両者とも篠ノ之流と言う剣道が共通点にあり、流派特有の微かな癖が無意識の中で出てしまったと言う可能性である。

 

「白騎士の正体を推測したレポートじゃ無いからな」

 

初代ブリュンヒルデはテーマとしては、レポートの過程で内容が本題から全力で変な方向に離れそうなので最初から選ばないことに決める。

 

 

 

『一年一組の天地大和くん、生徒会長がお呼びです。至急生徒会室にお越しください』

 

 

 

「? 何の用だ、シフォン会長」

 

生徒会長『シフォン・フェアチャイルド』、此処一、二年の経歴しかない謎の人物にして、この学園の生徒会長にして大和と同じ企業の本社の企業代表選手を務めている。

大和の操縦者の師匠にして学園内では織斑千冬を超える最強のブリュンヒルデ候補と名高い。当人はなる気は無いらしいが。

 

繰り返します、と続けられる放送を聞きながらレポートの為のノートを閉じるとさっさと生徒会室に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃーい」

 

笑顔で大和を出迎えてくれる生徒会室の主人であるシフォン。そして、大和の分のお茶を用意してくれる緑色の髪の女生徒は、副会長の『キャシー・ロックハート』。

 

シフォンと同じく経歴不明なのが彼女である。シフォンとは知り合いらしいのだが、あまり話したがらないために詳しい事は分からない。大和とシフォンと同じ企業のアメリカ支社の企業代表である。

 

「急に呼び出したりしてごめんなさいね」

 

「いえ、何となく見当がついてますから」

 

「そう言ってもらえると助かるわ」

 

お茶に口をつけながらシフォンの言葉にそう返す。

 

「IS学園、若しくはIS委員会絡み、ですね?」

 

「ええ、またそうなのよ」

 

夏休み前のこの時期までかなりの頻度でIS委員会絡みの要請があったので、生徒会の手伝いをしている大和もよく分かっている。

 

世界初の男性操縦者である『織斑一夏』のこの時期までの活躍によるところも大きい。

クラス代表として出場したクラス対抗戦では試合中に乱入してきた正体不明のISを試合相手である中国の代表候補生と協力して撃退。

その後のタッグトーナメントではフランスの代表候補生とともにドイツの代表候補生の専用機に組み込まれていたVT(ヴァルキリートレース)システムが暴走した際にこれを鎮圧しドイツの代表候補生を救出。

更にその後に行われた臨海学校では学園側の指揮のもとで暴走した軍用機の暴走を他の代表候補生や篠ノ之束博士製造の世界初の第四世代機を使った篠ノ之束博士の妹と共に迎撃し、その際に世界最短で二次移行(セカンド・シフト)に至った。

と色々と出来すぎている気がするが、イベント毎のトラブルで活躍は事欠かない。

 

それに対して派手な活躍のない大和を人材の乏しい新設校で飼い殺しにするのではなく優秀な教員の揃った名門校IS学園で学ばせるべきという声が強くなっているのだ。

 

「織斑一夏くんの活躍について大和くんはどう思うの?」

 

「御都合主義のヒーローショー」

 

シフォンからの問いを大和はそう率直に返す。

 

「そもそも、アメリカとイスラエルの共同開発の軍用機の一件が怪しい」

 

明らかにアメリカ軍、最低でも自衛隊や日本の国家代表でも引っ張って来て対応させるべき案件だ。

一学生の専用機持ちが対応するのは目を瞑ろう。少なくとも織斑一夏、篠ノ之束の妹は日本国籍なのだから。司令部の教員もまだ良い。

問題は他に対応した代表候補生達、イギリス、ドイツ、中国、フランスの四か国に日本は態々アメリカの軍用機のデータと実戦データをプレゼントしたことになる。

どう考えてもアメリカからの恨みを買っていることだろう。

 

だが、それが篠ノ之束の仕組んだことなら話は変わる。第四世代機である妹へのプレゼントを使った妹が親友の弟共に華々しく初陣を飾る。

本の向こう側、文字として、絵として、側からみればヒーローとヒロインの大活躍とでも言うべきワンシーンだろう。

 

「第二に、クラス代表戦の正体不明機の一件」

 

次に指差すのはIS学園での最初の事件だ。

 

「どの国でも作られていない無人機を使ったと言うこの事件、テロ組織とかも考えられるけど怪しいのは篠ノ之束だろうな」

 

三番目の事件と同様に世界初の男性操縦者が凶悪な武装をした無法なテロリスト……分かりやすい悪者を退治する。正にヒーローの絵姿と言うべき絵だろう。

 

そんな推測が出来るほど一学期の間に起こった織斑一夏の活躍のうち二つに篠ノ之束の影があるのだ。

 

「それで、なんでそんな話を?」

 

「実は、学園間の交流試合が決まっちゃったんです」

 

「は?」

 

シフォンが言うには初の公式的なIS操縦者育成の為の施設同士での交流試合を行い互いの学園の操縦者の実力を見ようと言う建前らしい。

 

ルールは一対一の試合を三回行い勝ち星の多い方の勝利。但し、代表は代表候補生を除く一年生の中から三人選び、一枠は男性操縦者同士の試合とすること。

 

明らかにピンポイントで大和を狙っている。試合に負けたら大和引き抜きに勢い付く、試合に勝っても大和が一夏に負けたらIS学園の指導の方が良いと言ってくるだろう。

要するに今後の平和な学園生活の為には一夏に勝った上でIS学園の代表に勝つ必要があるのだ。

 

「大和くんが企業代表と言う事もあって、企業代表の出場は問題ないんですけど」

 

「シルヴィや美九はコメット姉妹と一緒に海外ツアーの真っ最中、試合の日程より一週間遅れる、か」

 

「ええ、それでこの事を知らせたら、珍しくヤマダちゃんとユキちゃんがやる気になっちゃいました」

 

『てへ』とでと言うような態度で告げるシフォンは年上でありながら可愛らしく感じるのだが、言葉の内容が大和にとっては不安極まりない。

 

世間一般では代表候補生や国家代表はアイドルのような扱いを受ける事も多く、この学園には所属しているカナダの代表候補生のコメット姉妹に至っては現役のアイドルだったりする。

 

現に大和と同じ企業代表の何人かはアイドルや歌手と言った方面で活躍しているものもいる。

シフォンとの会話に出てきたメンバーも其処に分類されているメンバーである。

コメット姉妹がIS学園では無く此方に留学しているのもアイドル活動に理解がある、寧ろバックアップもしてくれているという理由もあったりする。

 

「そう言うわけでお仕事で海外にいるシルヴィアちゃん以外の『四神』チームで登録しておいたから宜しくお願いね」

 

「って、仕方ないけどオレだけ事後承諾!?」

 

「ううっ、だって、他の二人を決めるのに時間がかかったんだもん」

 

『よよよ』と噓泣きをするシフォンを他所に、その状況を鑑みてみる。希望者が少ないと言うわけではない、多くて決まらなかったのだろう。

その為、開発時のコードネームが四神を模した大和達四人の中の参加可能な三人と言う事で決まったわけだ。

 

「分かりましたよ、その事はもう良いです」

 

交流戦の日程を聞くと出されたお茶に口をつける。話している間に冷めたお茶もそれなりに美味しかった。



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戦姫絶唱シンフォギア ウルティメイト #1

 

「リミット完全開放」

 

この日、世界は終わる。世界蛇、世界を飲み込む巨大な怪物。目の前の敵に対してこの時の彼にはそんな認識で十分だった。

 

三つ巴の戦いの末の結末としては受け入れるしかない。分かり合えなかった結果なのだから。

 

手元にあるのは五つのブレスレット。SONGの奏者達との戦いで命を落とした仲間達の力の源たるウルトラアクセサリー。

 

その事を恨む気はもう無い。向こうも同じ数だけ命を落とした。そして、最後の決着を制したのは自分なのだから。

 

取るべきは最悪の状況の中での最善を掴むための行動。

 

「レム、次元航行艦『星雲荘』の機能を使ってこの世界からの離脱を」

 

『了解しました』

 

身に纏うウルトラスーツTYPE- zeroの通信機から響いてくる電子音を聞いて彼、センカは目の前の敵に挑む。

 

「力、貸してもらうぜ、みんな!」

 

この世界はもうダメでも、一つでも多くの世界を救う為に。

 

 

『ティガレット』

『ダイナレット』

『ガイアレット』

『アグルレット』

『メビウスレット』

 

 

五つのウルトラアクセサリーの力を自身の力に上乗せする。

 

 

『ゼロレット』

 

 

「リミット完全開放。コード、ウルトラ、ダイナマイト!」

 

『メビウスレット』のデータの中に有った技のデータから各スーツに装備された最終兵装。原典(オリジン)とは違い純粋なる全エネルギーを解放した自爆兵装だ。

 

正真正銘の全身全霊の一撃が世界を喰らう怪物を吹き飛ばす。

自分の世界の事は既に諦めているが、他の世界までも犠牲にはさせない。そんな意思を命を落とした仲間達の力も上乗せして、その技を放つ。

 

地上に新たな太陽が出現する様を幻視させる一撃を最後にセンカはその意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『センカ、治療完了しました』

 

スピーカーから流れる合成音声。それを聞いてセンカの意識は覚醒する。視界に入るのは自分達の……今は自分しか居ない家である艦の見慣れた天井。

 

「っ……。レム、あの蛇野郎はどうなった?」

 

治療ポットの中から這い出しながら、彼『如月 センカ』は次元航行艦『星雲荘』の管理AIのレムへとそう問いかける。

 

『ウルトラダイナマイトによってダメージは与え一時追い返したものの世界蛇は健在です』

 

「そうか」

 

『その間に貴方を無事に回収できました。貴方の所有しているウルトラアクセサリーにも欠損は有りません。ですが』

 

「奴に奪われた分は欠損している、か?」

 

『その通りです。次に、スーツの方は予備パーツを組み直し新造は完了しました。物資が不足しているので早急な補給が必要です』

 

「そうか。……ところで何か視界が少し低く無いか?」

 

『それでしたら、ポットでの大規模な治療の際に何故か数年ですが肉体年齢も若返っています。このポットで治療すると若返るバグが確認されているのは貴方だけですよ』

 

「言うなよ」

 

そう言う体質なのだろうと無理矢理納得して置くことにする。

自分自身を爆弾にする大技を使って命が助かったのだからそれだけで十分だ。

 

『ですが注意してください。あなたの場合は他の方達と違い限界があるのです』

 

「分かってる」

 

治療ごとに若返るのならば限界を超えたら治療できない危険性もある。あまり多用出来ないと言うことだろう。

 

「それで此処が?」

 

『はい。元の世界で回収したブレスレットのエネルギーと同質の物を観測された並行世界です』

 

「そうか」

 

モニターに映る地球を見下ろしながらセンカはそう呟く。

 

『最優先で回収すべきブレスレットのエネルギー反応は既に確認しています』

 

地球の映像の一部が拡大される。手持ちのブレスレットの一つである『セブンレット』と同質のエネルギー反応が確認された場所。

 

『バルベルデ共和国にてブラザーズレットの一つのエネルギー反応が確認されました』

 

バルベルデ共和国。それが偶然なのかは分からないが、自分達の世界に於いて『奴』に奪われた『ギンガレット』の所在地でもあった場所だ。

 

『なお、軍から物資の補給と活動資金の確保も可能です』

 

「サラリと強盗を推奨して無いか、お前?」

 

『センカ、悪人に人権は有りません』

 

このAI、なんか妙な方向に人間味が出ている気がしてきたセンカだった。

 

『この世界の当面の活動資金の確保も並行してお願いします。私の方でも風鳴訃堂の銀行口座から生活費を盗む手筈を整えておきます』

 

「頼む」

 

『お任せください、バルベルデの軍に罪は着せておきます』

 

なお、センカとAIの間で当然の流れで風鳴訃堂からの盗みは確定した。これから襲撃する相手に全部罪を着せた上で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはほんの偶然だった。偶々活動資金と物資の強奪と……目的だった『ウルトラマンレット』の確保。それが全部軍の所に有ったから襲撃しただけだ。

そこにノイズが出現したからついでとばかりに基地の壊滅と並行して殲滅した、それだけだった。(軍人の人的被害は考慮していない)

 

自分を見上げる様に見つめている銀色の髪の少女との出会いは偶然だった。

 

見捨てる事は簡単だ。

自分達の世界と同じ流れを辿りながらも、この並行世界は過去の時間軸に当たると言う事も今理解した。見捨てた所で目の前の少女は自分が見捨てた所で助かるのだから、放置した所で罪悪感は感じないで済む。

 

「一緒に、来るか?」

 

だが、そう言って手を差し伸べる。

センカには彼女を見捨てる事は出来なかった。

 

そんなセンカの手を彼女も戸惑いながらも取る。

 

これがセンカと『雪音 クリス』の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、別の場所、別の時間では……

 

「大丈夫かい、立花響ちゃん」

 

腕から伸ばした光の刃で彼女を襲っていた怪物の首を刎ねた仮面の男は彼女へとそう告げる。

 

首を刎ねた怪物の体に腕を差し込み、指輪の様なものを回収するとそのまま遠ざける様に怪物の体を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた怪物の体は爆散するが、まだ周囲には多くの怪物がいる。

 

男と少女の周りにはまだ多くの怪物達がいる。彼女の家族を殺した怪物達が。

だが、仮面の男はそんな怪物達など存在しない様に言葉を続けていく。

 

「僕はトレギア。ウルトラマンTYPE-トレギア。君を、助けに来たよ」

 

機械にも生物にも似た青いスーツを纏った男はそう言って彼女へと手を差し伸べる。

 

 

この日、全てを失った少女『立花響』は……タチの悪い仮面の不審者と出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして二人の少女の運命が変わった瞬間から物語は始まる。



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ハイスクールd×d クロス 勇者指令ダグオン 設定

1人の転生者の特典の謎の暴走により転生者は死亡。彼の特典となっていた凶悪な宇宙人達が解放され、宇宙要塞サルガッソが作り出された。

 

彼らの目的は惑星狩り、その最初の標的は地球!

 

それに対抗するために上位神は、転生者を作り出した神の計画に巻き込まれた七人の少年少女達に力を与え「ダグオン」に任命。

 

彼らは地球をそして自分達の未来を守るため、勇者としての戦いの日々に飛び込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大道寺センカ

本作品の主人公。駒王学園の二年生。トライダグオンでファイヤーエンと同型のダクテクターを装着する。

炎とは正反対の冷たい性格。ダグオンの使命は飽くまで仕事と割り切っている。熱い炎では無い冷たい青い炎のイメージ。

人付き合いは悪く喧嘩も多いが成績は優秀だが、正義感は薄い。昔の彼を知る者は昔は正義感が強く優しかったと言う。

他のダグオンのメンバーとは距離を置いていて一人で戦う事が多い。

転生者によって家族や幼馴染からの信頼を失った事が彼が変わった原因である。

 

両親と妹は転生者の特典の暴走によって出現したサンドール星人によって幼馴染と共に死亡。その後、サンドール星人にセンカの融合合体したダグファイヤーがトドメを刺す。

現在はダグベースへの入り口になっているアパート『駄宮恩荘』の一室に一人暮らし。

街で暴れるサンドール星人に襲われた少女を助けて死にかけるが同じく巻き込まれた五人の少女と神様に助けられてダグオンの一員となる。

 

 

 

 

 

 

望月あざみ(新サクラ大戦)

ヒロインの一人。駒王学園の一年生。

ダグオンチームの中での唯一の別の世界からの転生者。

メンバーの中での最年少だが実戦経験者で一番の実力者。

トライダグオンではシャドーリュウと同タイプのダグテクターに変身する。

華撃団が降魔に敗北した時間軸の彼女の転生体。宇宙人と降魔の違いはあれど経験した悲劇を繰り返さないと決意している。

本人の技量もあり、ダグオンチームの中で最強の実力者。駄宮恩荘の管理人でもある。

サンドール星人が暴れる際にはお供の機獣シャドーガード達と共にダグシャドーとなって時間稼ぎを行い他の六人を助けるのを手助けした。特典のせいで強化されていたサンドール星人に対してシャドーダグオンに合体して一度は撃破するが、サンドール星人の中に有った特典の宇宙人達には逃げられてしまい、同時にサンドール星人も再生してしまった。

ダグオンに選ばれたセンカ達に再生したサンドール星人を任せて宇宙人を追跡するも、足止めに残ったグローザムに敗れて逃してしまう。

 

仲間との協調性のないセンカに対して頭を悩ませている。

 

 

 

 

 

美竹蘭(BanG Dream!)

本作のヒロインの一人。ガールズバンド、『Afterglow』のメンバーの一人。担当はギターボーカル。

トライダグオンでサンダーライと同型のダクテクターを装着する。

特典の暴走によって出現したサンドール星人に襲われた際にセンカに助けられた少女。救われた際にブレイブ星人ぽい外見の上位神にダグオンに選ばれる。

無自覚だが助けられた際にセンカに対して好意を抱いている。ダグオンに合体する際も自分だけが一人なのが最近の悩みの一つ。

最初のサンドール星人との戦いでは戦ったもののダグオンとして乗り気ではなかったが、最終的には大切な今を守る為に戦う事を決意する。

彼女達との交流がセンカが本当の勇者になるキッカケになる。

 

 

 

 

青葉モカ(BanG Dream!)

本作のヒロインの一人。ガールズバンド、『Afterglow』のメンバーの一人。担当はギター。

トライダグオンでアーマーシンと同型のダクテクターを装着する。

特典の暴走によって出現したサンドール星人に襲われた際にセンカに助けられた少女。救われた際にブレイブ星人ぽい外見の上位神にダグオンに選ばれる。

無自覚だが助けられた際にセンカに対して好意を抱いている。

最初のサンドール星人との戦いでは戦ったもののダグオンとして乗り気ではなかったが、最終的には大切な今を守る為に戦う事を決意する。

マイペースで話し方もゆっくりである。センカも何を考えているか分からない相手との認識だが、不思議と邪険に出来ない。

彼女達との交流がセンカが本当の勇者になるキッカケになる。

なお、ライナーチームは最初からスーパーライナーダグオンに合体できるメンバーが揃っているが、最初はロックがかかっている為にライナーダグオン止まりだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

上原ひまり(BanG Dream!)

本作のヒロインの一人。ガールズバンド、『Afterglow』のメンバーの一人。担当はベース。

明るく気立てが良い性格で、バンドの調整役。空気がイマイチ読めないタイプで、ついつい空回ってしまう。涙もろく、感動系エピソードに弱い。

トライダグオンでターボカイと同型のダクテクターを装着する。

特典の暴走によって出現したサンドール星人に襲われた際にセンカに助けられた少女。救われた際にブレイブ星人ぽい外見の上位神にダグオンに選ばれる。

無自覚だが助けられた際にセンカに対して好意を抱いている。

最初のサンドール星人との戦いでは戦ったもののダグオンとして乗り気ではなかったが、最終的には大切な今を守る為に戦う事を決意する。

Afterglow及びダグオンチームのリーダー。(センカはチームとは考えておらず、あざみは自分は隊長の器じゃないと辞退)

彼女達との交流がセンカが本当の勇者になるキッカケになる。

なお、ライナーチームは最初からスーパーライナーダグオンに合体できるメンバーが揃っているが、最初はロックがかかっている為にライナーダグオン止まりだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

羽沢つぐみ(BanG Dream!)

本作のヒロインの一人。ガールズバンド、『Afterglow』のメンバーの一人。担当はキーボード。

Afterglowのメンバーの一人。バンドの中で、最も普通と思っており、コンプレックスを抱いている。しかし、普通が故に努力家で前向き、少しのことではめげない性格でメンバーの心の支えになっている。バンドのメンバーからは、そんな性格を「ツグってる」と評されている。

トライダグオンでウイングヨクと同型のダクテクターを装着する。

特典の暴走によって出現したサンドール星人に襲われた際にセンカに助けられた少女。救われた際にブレイブ星人ぽい外見の上位神にダグオンに選ばれる。

無自覚だが助けられた際にセンカに対して好意を抱いている。

最初のサンドール星人との戦いでは戦ったもののダグオンとして乗り気ではなかったが、最終的には大切な今を守る為に戦う事を決意する。

彼女達との交流がセンカが本当の勇者になるキッカケになる。

なお、ライナーチームは最初からスーパーライナーダグオンに合体できるメンバーが揃っているが、最初はロックがかかっている為にライナーダグオン止まりだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇田川巴(BanG Dream!)

本作のヒロインの一人。ガールズバンド、『Afterglow』のメンバーの一人。担当はドラム。

他人を悪く言ったり、恨んだりしないさっぱりとした性格。商店街の大人達と仲が良く、地元のお祭りがあると和太鼓を叩きに出る。

トライダグオンでドリルゲキと同型のダクテクターを装着する。

特典の暴走によって出現したサンドール星人に襲われた際にセンカに助けられた少女。救われた際にブレイブ星人ぽい外見の上位神にダグオンに選ばれる。

無自覚だが助けられた際にセンカに対して好意を抱いている。

最初のサンドール星人との戦いでは戦ったもののダグオンとして乗り気ではなかったが、最終的には大切な今を守る為に戦う事を決意する。

彼女達との交流がセンカが本当の勇者になるキッカケになる。

なお、ライナーチームは最初からスーパーライナーダグオンに合体できるメンバーが揃っているが、最初はロックがかかっている為にライナーダグオン止まりだったりする。

その為最初は一人だけ合体形態が無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダグマシーン

ダグオン達の専用マシン。外見は元の物と変わらないが等身大の姿への合体も可能。(原作ダグオンの宇宙人達だけでなくウルトラマンシリーズの宇宙人も敵にいる為の処置)

また、融合合体した七人が合体する事でOVAに登場したファイナルダグオンに合体出来る。

・ファイナルダグオン

ダグファイヤーからダグサンダーまでの7体のロボと七人が究極融合合体した姿。外見はOVAの物と同じ。

(主に掛け声のタイミングを合わせる為に)センカの『つないだ絆を一つに』の声と共に七人が手を重ね『究極融合合体』と叫ぶ事で7台のマシンが粒子状に変換され合体して完成する。

・ライアン、ガンキッド

本作では簡易AIが搭載された自律型のロボット。ライアンも原作では人の手に収まる程度の大きさに小型化出来たが、本作ではガンキッドも可能。

センカのダグテクターから出撃命令を送ることが出来るが、十全な機能を発揮するには誰かが融合合体する必要がある。



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ハイスクールd×d クロス 勇者指令ダグオン  序章

超生命体ジェノサイドとの決戦、取り憑かれたファイヤーダグオンを押さえ付けたパワーダグオンを介してスーパーファイヤーダグオンに合体し、スーパーファイヤーダグオン諸共ジェノサイドを倒そうとしたセンカだが、本来の世界の記録を有していたジェノサイドはスーパーファイヤーダグオンの中からダグファイヤーを排除し、完全にスーパーファイヤーダグオンを掌握してしまった。

 

ジェノサイドの力の余波からか、簡易AIによって制御されているライアンとガンキッドさえも乗っ取り、禍々しい色に染まるスーパーファイヤーダグオン。

自分を見下ろすの最も強い己の力の象徴が、目の前から遠ざかる。

奪われた力への渇望か、失った物への未練からか、スーパーファイヤーダグオンから伸ばした手が遠ざかる。

 

己の、ダグオンの敗北。そして、己の、地球の終わりが近づく時。

孤独の象徴(スーパーファイヤーダグオン)を求めて伸ばし、空を切った手が受け止められる。

 

過去から仲間で有ることを否定して来た、仲間になろうともしなかった者達の手が、彼の手を掴む。

 

彼女達を通じて出会った人達が、センカが目を逸らして、認めていなかった絆が彼の伸ばした手を掴む仲間と重なって行く。

 

 

ー繋いだ絆を一つにー

《究極融合合体》

 

 

重なり合う七人の手と七体のマシーン。七人をクリスタルが包み粒子化したマシーンがそのクリスタルを中心に新たな勇者を誕生させる。

その声と共に七体のマシーンが融合し、誕生した最後の勇者ファイナルダグオン。

対峙するのはジェノサイドに乗っ取られた過去の孤独の象徴(スーパーファイヤーダグオン)絆と共に掴んだ未来の象徴(ファイナルダグオン)

 

「オレは……」

 

『我は究極にして絶対の存在……』

 

「オレ(私)達は……」

 

『ダグオンだ!!!』

 

センカと仲間達の姿が重なるファイナルダグオンの一撃が、彼に関わって来た人達の声が響く中、スーパーファイヤーダグオン諸共ジェノサイドを消滅させ、長きに渡るダグオンの戦いは終わった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訳ではなかった。

 

サルガッソは破壊したものの、一年での戦いで倒したのは宇宙人達のほんの一部だけという事を知って、全員揃って盛大に落ち込み、地球各地に潜伏した宇宙人達との新たなる戦いが始まってしまった訳で有る。

 

決戦前に約束していたデートには戦いのダメージから眠り続けた結果、約束の時間に盛大に遅刻して謝ったり、ファイヤージャンボとファイヤーシャベルを壊してしまったことから暫く説教される事になったりと、守り切った日常と変わった己に満足する中、センカが駒王学園の二年になった時の事だった。

 

 

 

 

『なんか、この世界には宇宙人以外にも、天使も悪魔も堕天使も神様の類もいるらしい』

 

『はあ!?』

 

『うん、知ってた』

 

『うむ、ようやくお前も接触した様だな』

 

仲間内の通信アプリにそんな色々と諦めた様なセンカに約二名を除く全員がツッコミを入れる中、その2名、望月あざみと協力者の宇宙人『エンペラ星人』からの返事に今度はセンカも含めて全員がツッコミを入れるのだった。

 

「この世界って……思ってた以上にファンタジーでも有ったんだな……」

 

通信アプリに映る説明を見ながら唖然として呟くセンカ。

 

これは絆を受け入れた鋼の勇者と絆を繋いだ者達の新たなる戦いの物語。



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ハイスクールD×D クロス 魔神英雄伝ワタル 00

七魂の龍神丸が明日完結なので記念に簡単にですが書き上げました!


???

 

 

オレは炎部龍斗。旧名『兵藤龍二』。....本当に、龍二だった頃は、ふざけた人生だった。

オレには兄とも呼べないような兄が一人いた。その兄のせいで、俺の人生はめちゃくちゃになってしまった。

友人は一人を除いてできないし、兄の起こした面倒ごとは全て俺に返ってくるし、女子からも侮蔑の視線を送られるのもザラにあった。

そして、遂には両親までもが俺を疑い始めた。そんな現状が嫌になって家出をしたのだが、父方の遠縁の親戚である炎部家に引き取られる事になった。

 

そんなある日、オレは己の中にある力の正体に気がついた。

 

 

 

 

竜の見る夢。

遥か昔、聖書の神によって神器(セイクリッド・ギア)に封じられた名もなき龍神。竜の夢によって作られた異世界、夢幻創界山へと。

 

 

 

同じように夢の世界へと招かれた彼女達と共に、その神器の中に封じられた名もなき龍神と共に、夢の世界の平和を脅かしていた悪意の塊を打ち倒した事でオレはこの神器の本当の力と出会った。

 

異世界でオレ達が戦って倒した魔神を異世界から取り出す力。それがオレの宿していた神器の力。

正確には元々は夢の世界に干渉する力だった様子だが、魔神を取り出すことができるのは、名もなき龍神の力によるものなのかは分からない。

 

それが原因となって中学に入った頃には日本神話にスカウトされてしまったのには頭を抱えたくなったが。

 

なお、本来はオレだけしか鑑賞できない夢幻創界山に呼ばれた仲間の少女達が呼ばれたのは、仲間の魔神達に選ばれた事が理由らしい。

そして、オレと共に戦った魔神、名もなき龍神の夢の世界での姿である龍神丸はその世界の要で、今の状況では呼べず、神器の成長が必要らしい。

 

そんな訳で、高校入学の際には日本神話に過去に倒した魔神を販売しつつ、その戦力を認められ日本神話の監視役として、租借地となった街で魔王の妹とその眷属を監視する事となった訳だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでオレはあの愚兄のデートを覗かにゃならないんだよ」

 

何故か入学の倍率が高いはずの学園で元兄と再開する羽目になり、以前と変わらず、同じ思考の友人二人と共に問題行為を起こしている兄の兵藤一誠に告白したのが、許可なくこの街に入り込んだ堕天使なので彼のデートの監視をする羽目になったのだ。

 

(それにしても……はぐれ悪魔は入り込むわ、堕天使が入り込むわ、普通に舐められてるのか、日本神話(うち)と魔王の妹二人?)

 

後者を舐めるのは別に良いが、自分が所属する勢力が舐められているのは普通に頭にくる。

 

まあ、億に一つの可能性で本気であの堕天使が一誠に恋した可能性もあるので手出しはしていないが。

 

そして、公園に差し掛かるといつの間にか公園に結界が貼られていた。

 

(人払い。黒決定だな、あの女)

 

そして、一誠の目の前で女はボンテージのような服装に変わり、光の槍を作り出した。

 

「拙いっ!」

 

別に見捨てたところで心は痛まない相手だが、それでも立場上は堕天使に殺させるわけには行かない。

 

龍斗の手の中に現れるのは六色の勾玉の装飾が施された剣。ゆっくりとその剣の青い勾玉に触れると、

 

「来い、龍蒼丸!」

 

剣から天へと昇るのは青い光の龍。そして、天からは青いロボットのような物が降りてくる。青いロボット『龍蒼丸』の頭に龍斗が吸い込まれると龍蒼丸の瞳に光が灯り、両肩から爪が現れ龍を象ったエンブレムが浮かび上がる。

 

光の槍を作り出し、一誠に突き刺そうとしたそれを、一瞬で近づいた龍蒼丸のパンチが光の槍を砕いた。

 

「何!?」

 

「ウェ!? ロボット!?」

 

突然の出来事に驚愕する堕天使の女と、突然のロボットの乱入に驚愕する一誠。

 

既に一誠は何が起こっているのか分からず、内心では錯乱していた。

無理もないだろう。初めて出来た彼女とデートしていれば、突然彼女の背中に羽が生えて殺されそうになったと思ったら、次はロボットが乱入してきて助けられたのだから。

最早、当人にもどこまでが現実でどこまでが夢なのかは分かっていない。

 

「新種の神器!?」

 

「何が目的かは分からないが、この地でお前達の好きにはさせない!」

 

龍蒼丸を新種の神器か何かと考えている堕天使の女(実際その通りだが)を龍蒼丸を通して指差しながら、龍斗はそう宣言する。




夢幻創界山は無印から2、超の二十一の世界から成り立っていたりします。

なお、龍斗が取り出せるのは敵魔神で丸魔神は自分が選んだ共に戦った者のところに、龍神丸は禁手としてでしか出せず、七魂の龍魔神がその代わりです。


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ハイスクールD×D クロス 魔神英雄伝ワタル 幕間

自称至高の堕天使レイナーレとその一派の一件が解決した後に龍斗は駒王町を去って行った。

 

名目上は転校であるが、日本神話としても自分達の組織に魔神を供給出来る重要人物である龍斗を何時迄も悪魔の勢力下には置いておきたくないと言う事だろう。

 

しかも、龍斗が去って行ったのはフェニックス家との婚約解消を賭けたレーディングゲームの前。是非とも彼に協力を仰ぎたかったリアスの思惑はハズレ、見事に敗北を喫してしまった。

 

だが、片腕を代償とした禁手と肩腕がドラゴンになった事を利用した十字架や聖水等の必死の策を用いたイッセーがライザーとの一騎打ちに勝利した事により、リアスの婚約は解消され、リアスはイッセー達の元に戻ってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此処で終わればめでたし、めでたしで終わっていただろう。

だが、魔神の供給者がイッセーの実の弟である事を知った、今回のイッセーの行動により面子を潰された貴族達が声をあげたのだった。

 

「そ、そんな……」

 

「ど、どうしたんですか、部長?」

 

手元にある通達の書かれた書類を見たリアスの顔に暗い物が浮かぶ。

書かれていたのは今回のイッセー達の行動に対する悪魔の上層部からの処分だった。それをイッセー達に見せるとまだ悪魔になってから日が浅いイッセーとアーシア以外の全員の表情に浮かぶのは驚愕の感情だ。

 

書かれていたのは要約すればイッセーの行動やそれを幇助した他のリアスの眷属達、及び眷属を監督すべき立場のリアスの上級悪魔としての指導力不足としての処分が上層部より下されてしまったのだ。

 

サーゼクスもこれには反発したが、老害達の思惑や軍事担当の魔王の思惑もあり、これが通ってしまったのだ。

 

 

 

 

リアス・グレモリー

無期限のレーディングゲーム公式戦出場資格の凍結

赤龍帝 兵藤一誠及びリアス・グレモリー眷属

昇級資格の無期限の凍結

 

 

 

今後、リアスはレーディングゲームへの出場資格を奪われ、イッセーを始めとする眷属達は昇級する資格を奪われたと言う事だ。

 

当然、レーディングゲームのチャンピオンを夢見ていた少女の夢は、ハーレム王を夢見ていた少年の夢は終わりを告げてしまったと言う訳だ。

 

だが、

 

「あの、此れには凍結とだけあって、剥奪された訳じゃない様です」

 

通達を見ていた木場がイッセーとリアスにそう声をかける。

 

慌てて通達書の二枚目を読むリアス。

 

 

 

『なお、今回の行動は問題だったが、反省を促す事、及び若者達の将来を鑑み、資格の剥奪ではなく凍結とし、以下の罰則を終えた後に資格の凍結を解除する物とする』

 

 

 

そう綴られた一文に安堵の表情を浮かべるリアス達。どんな重い罰則でも力を合わせて乗り越えようと考えた矢先の事だった。

 

 

・赤龍帝 兵藤一誠の弟の魔神創造者 兵藤龍二の悪魔勢力の所属または魔神の悪魔勢力への独占販売の交渉を成功させる事

 

 

 

強大な敵を打ち倒す事でもなく、単なる交渉を纏めるだけで済むことに安堵する矢先に実は無理難題だったと言うオチだ。

 

悪魔側の上層部としては、赤龍帝の弟なら悪魔勢力に換算するべきと考えていた為の思惑だったのだ。

 

同時に悪魔側からの魔神の購入価格も日本神話に販売している価格よりも遥かに安いが、一介のの高校生や公爵家の令嬢とは言え高校生であるリアスとしては破格の大金だった。

 

現状魔神の購入は龍斗から日本神話、日本神話から友好関係を結んでいる他の神話勢力という流れで繋がっている為に、実は三大勢力が購入出来るのは使い古した量産品を横流し品で、日本神話ならばボス魔神が複数買える価格で量産品しか買えないと言う状況だった。

それを、全ての魔神を一括の価格での購入と言うのが交渉の内容でもある。

 

これなら龍斗も受けてくれると思ったイッセーは絶対に纏めて見せると意気込みを見せる。

 

こうしてリアス以下グレモリー眷属は、休日を利用して、己の未来と夢を賭けた交渉の為に、龍斗の住む町へ向かったのだった。



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ハイスクールD×D クロス SDガンダム

主人公side

 

 

やあ、初めまして、オレは『大河 センカ』。

【ハイスクールD×D】という作品の世界に転生した転生者だ。

 

出会った神様(?)に転生することになったのだが、このままでは死亡フラグ満載の世界ですぐに死んでしまうと理解したオレは、三つの特典を貰った。

……転生する前に渡されたドラグバイザー見たいな腕につける機械と空に差し込むカートリッジなのは気になるけど。

貰った特典をくじ引きの様にカートリッジから引けた言われたのだが、最初のは【ネット通販(ホビーショップ)】転生先の世界に無いプラモデルなどが前世の世界から通販で買える力。……ふざけるなと叫んだオレは悪く無いと思う。

秒で死ぬ事を覚悟しながら弾いた二枚目は【超成長】あらゆる技能や身体能力が人並み外れて早期的に会得できたり、成長できるらしい。うん、悪くは無いけど、ちょっと弱い気がする。

 

プラモデル等を買える能力と成長の能力。これでどうしろと言うのかと頭を悩ませながら引いた最後の得点は【結界コントローラー(超戦士ガンダム野郎)】。端的に言うとガンプラやカード、フィギュアと一体化しそのキャラクターに変身できるアイテムらしい。しかも、ガンプラは完成度によってスペックが左右され、カードやフィギュアは一定の値しか出せないと。

 

つまりは、プラモデルを買い、それを制作する技術を高め、それに変身して戦えると。ハズレかと思った特典が実は戦術の根底にある事に内心喚起してしまった。……取り敢えず、護身用にカードは常に持ち歩くことに決めた。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、堕天使レイナーレは困惑していた。

単にこの街に居た危険な神器(セイクリッド・ギア)を宿した人間、『兵藤一誠』を人間に化けて彼女になった振りをしてデートをした最後に始末した。そこまでは良い。

一誠に光力で作り出した光の槍を突き立てたのは良い。

だが、目の前に現れたそれは何なのかが分からない。

 

「我は大将軍。頑駄無大将軍なり!!!」

 

金と白の鎧を見に纏った白き最強の武者。二代目頑駄無大将軍が高らかとその名を宣言する。

 

さて、何故こうなったかと言うと数日前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生したから数年が経った。いくつか己の特典で分かったことがあった。

先ず力の源となるアイテムはポイント制。はぐれ悪魔を代表とする敵を倒したことで得られると言う事だ。強力なガンプラを手に入れる為には多くのポイントが必要となり、入手には時間が掛かる。

次にその姿を借りたとしても自身の身体能力や戦闘技術も重要となっていると言うことだ。

戦闘技術の習得や熟練、切り札となるガンプラの製作、これは超成長の特典に助けられている。

 

そして、意外な点としては頑駄無結晶(ガンダムクリスタル)の力が想像以上のチートアイテムであると言うことだろう。単純に組み込んだだけで大幅にパワーアップするのだから、真の意味で使いこなせる大将軍はどれだけ強くなるのかは想像できない。

 

 

『こらー! 待ちなさい! 変態ども!!!』

 

 

そんな事を現実逃避気味に考えていると、三人の男子が女生徒に追いかけられていた。

名は松田と元浜、そして兵藤一誠。この学園において数少ない男子生徒であり、学園中に変態三人組として名を轟かせている三人である。

 

「はぁ……」

 

仕方ないとばかりにため息を吐き、先頭を走っていた一誠足元に持っていたペットボトルを放り投げる。

 

「へっ?」

 

それを踏んでしまい、惚けた声を上げて一誠が転ぶと後ろを走ってきていた他の二人も巻き込まれて一誠を下敷きにして転んでしまう。

 

「ぐべっ!?」

 

倒れた所に人二人にのし掛かられた一誠はカエルのつぶれる様な声を上げ、そのまま地面とキスをする。

 

倒れながら、何をするんだとペットボトルを拾い上げるセンカを睨みつけるも、後ろから向けられて来る殺気にブリキのおもちゃの様に振り返る三人。

 

其処には殺気を身に纏った女生徒達の姿があった。目の笑っていない笑顔で手に武器を持って殺気だっている姿は普通に怖い。

 

「あっ、大河くん、ありがとう」

 

「あ、ああ、ごゆっくり……」

 

笑顔でお礼を言われるが、その笑顔がものすごく恐ろしい。

その後の一誠達の末路は想像できたので、巻き込まれない様に離れて行くセンカ。

背後から聞こえる一誠達の悲鳴を聞きながら足早にその場を離れて行く。

 

毎回の事だからと気にも留めていない。そもそも、この三人の行動が原因で割と、駒王学園では男子の肩身が狭いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事のあった翌日だった。一誠に彼女が出来たと言う湧き上がったのは。

 

変わらぬ日常が崩れると言うのは一瞬とは言うが、あの三人組の中でも一誠の場合は普段の行動をフルオープンにしてなければ彼女の一人も出来たとは思うので、他校の生徒ならば普段のフルオープンみたいな行動を知らないのだから不思議では無い。

 

(だけど、気になるな)

 

それは単なる直感だった。女子のネットワークで学外まで轟かしてしまっている危険性だってある一誠に告白する女子が、罰ゲーム以外にいるのかと言う疑問が湧く。

 

(まあ、罰ゲームから始まった付き合いでも、彼女が出来れば一誠の変態行為も治るだろうからな……)

 

そんな事を思いながら、休日にデートをするとか言っているが、万が一の可能性を考えて様子を探る事を選択するセンカだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ッチ! 嫌な予感が当たったか!?)

 

彼女が出来た事を友人の松田と元浜に自慢したり、デートプランを必死に考える一誠の姿を他所に時間は流れ、デート当日の二人をセンカは気づかれない様に尾行していた。

 

何が悲しくて折角の休日を人のデートの尾行で潰さなきゃならないのか? そんな考えも頭に浮かぶが、彼の所属上万が一の可能性を考えると無視する訳には行かないのだ。

 

そんな中、一誠の初デートも終わりに近づく中日も暮れた公園で、正体を表した堕天使によって一誠が串刺しにされた。

 

そうなる前に助けに入る筈が、完全に出遅れた。ポーチの中から用意してあったガンプラを取り出して、腕にある装置を起動させる。

 

「結界変幻!」

 

己の姿をガンプラと一体化させ、センカはガンダムの姿へとその身を変える。

 

「我は大将軍! 頑駄無大将軍なり! 堕天使よ、この地でお前達の好きにはさせん!」

 

堕天使レイナーレを指差し、そう宣言する。

 

 

 

 

『大河センカ』。日本神話直属の駒王在中の三大勢力の監査官。



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ガンダムビルドファイターズ ネタ

作品のプロローグ部分のネタです。


ガンダムビルドファイターズ トライから数年後、ガンプラバトルは薄明の時を迎えていた。

 

 

 

 

 

華々しいはずの照明に有るのは無人の表彰台。

騒めきも起こらず、観客も皆沈黙している。床に落ちるのはトロフィーとこの大会の優勝商品であった壊れた世界で一つとされたガンプラ。

 

余りにも早すぎる展開には誰一人ついて行けていない。

 

この直前まで行われていた決勝戦は誰もが目を奪われていた。歓声もうるさいほどに響いていた。

 

圧倒的な力を見せる四代目メイジン・カワグチ候補と、それに食らいついていく少年。一瞬のスキを捉えた少年の一撃がメイジン候補の機体を貫き、勝利を納めたのだった。

 

だが、問題は次の瞬間に出た四代目メイジン候補からの少年への不正の告発から始まる。

メイジン候補の言葉を信じてしまった審判による判断により、失格となる少年だった。

 

少年へのブーイングが響く中、現れた三代目メイジン・カワグチと国際ガンプラバトル公式審判員が四代目候補の違反行為を告発するのだった。

 

己の不正を告発されながらも笑いながら去る四代目候補だったが、勝者であった少年も渡されたトロフィーと賞品を床に投げ捨て、去っていった。

 

四代目メイジン・カワグチの不正による失格、その不正発覚の直前による勝者であった少年の失格。

 

その大会をガンプラバトルの薄明の始まりと言う人もいる。

 

その大会の直後だった。

規模に関係無くネットワークを通じてガンプラバトルをする者達に襲い掛かる正体不明の乱入者達が出現したのは。

強制的にバトルレベルを変化させられ相手のガンプラを粉々になるまで破壊され、相手のガンプラは無限に再生すると言う状況に、ガンプラバトルに恐怖を感じる者も増えて来た。

 

プロファイターや世界大会上位者達さえも敗北する乱入者達の姿によって、誰もがガンプラバトルを避ける様になった。

イオリ・セイ、カミキ・セカイ、三代目メイジン・カワグチの敗北によってそれは決定的になってしまった。

 

その年の世界大会の中止。それは、ビルドファイター達の敗北を意味していた。

 

その戦いの中でメイジンは気付く。乱入者達は四代目候補と同じ不正ツールを使っているのだと。そして、その不正ツールの弱点に気付いたものはあの少年一人しかいないと言うことに。

 

 

 

 

 

そして、それと時を同じくして、新たなガンプラバトルシステム『ガンプラバトルサーキット』が発表される。

ヤジマ商事とは違う企業から発表されたそれはジオラマの中に立体映像で再現されたガンプラによるバトルだが、バトルレベルに依らずガンプラが壊れないことを喜んだ人々によって発展していくこととなる。

 

そして、問題の乱入者達に対応するチームとして四代目候補がいた事が、全て仕組まれていたと理解した時には全て遅かった。

 

凶悪な乱入者達『バンデッド』を迎え撃つ『GBSフォース』の存在と、ガンプラが壊れないバトルシステム。

そして、かつてのビルドファイター達を不正ツールと自分達に都合の良いルールで締め出し、バトルを乗っ取った企業。その裏にある一つの大きな野望。

ガンプラバトルは何も知らない人々の支持を受け、その歴史は幕を閉じようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語は一年後、唯一不正ツールに勝利した少年から始まる。

 

 

 

 

『ガンダムビルドヒーローズ』

 

 

 

 

此れは、フィールドを超え、ガンプラと共に世界を救う物語。



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IS×VS騎士ラムネ&40炎

篠ノ之束が開発したマルチフォームパワードスーツ、『インフィニット・ストラトス』が開発され、その欠陥により女尊男卑思想の世界の中……………になることは無かった。

1人の正体不明、国籍不明の科学者の手によって齎された各国一つずつの、新たなISコアと通常兵器でISを迎撃可能とする革新的な技術。それによりISの有用性は大きく後退していった。

 

 

『オルガン・シンフォニー』

 

 

そう名乗った科学者に対する興味は世界中で高いが、その正体を掴むことはできず、唯一分かったことは女性であると言う事だけであった。

多くの国や企業が彼女を見つけ出そうとしたが、誰一人彼女を直接見た者は居なかった。

 

彼女のもたらした技術をISに応用する度に新たな技術を提供して、世界のバランスを保つかのような行動から『調和の女神』と謳われた彼女の真の目的が明らかになったのは、織斑一夏が高校受験の試験会場を間違えISに触れてしまった事で世界初の男性操縦者となってから数日後、全国で実施された検査の中でただ一人起動させた第二の男性操縦者『馬場 雷夢』の発見された時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白騎士事件の発生に前後するように両親が失踪した事に始まり、織斑 一夏が世界初の男性操縦者として確認される一年前にオルガン・シンフォニーのラボに連れられ真の意味での世界初の男性操縦者となり、世界で初めて彼女と直接会合した人間になったり、オルガン製の専用機を渡されたり、戦闘訓練を受けさせられたりと、一つ一つ上げていくと濃密すぎる人生を送ってきたと思う。

 

白騎士事件に前後した事で、行方不明の両親が白騎士事件の被害者と思われた為に、“何一つ関係無い”事件の被害者と誤認した政府から口止め料を半ば騙し取る羽目になり、更に政府からの監視の意味合いもある形で更識家の当主が後見人になってくれた。

 

特に両親の失踪の真実を知っている身の上としては、事件のもみ消しを図る政府に対して恨みを抱くどころか、大金騙し取った申し訳なさしか沸かなかった。そもそも、居なくなる前に両親から事情は聞いているのだし。

 

まあ、結果的に更識の当主の娘2人と仲良くなれたのは良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在では、

 

「はぁ!」

 

現行のISとは違う全身装甲の白いISの振るう剣によって切り裂かれた敵が消えていく。データで編まれた相手なので残骸が残らない為に動きを阻害することはない。

 

最早芸術品と呼べる域まで作り上げられた美しい造形と、現行のISを遥かに超えた性能を誇る雷夢専用機『カイゼルファイヤー』。

彼女の、オルガン・シンフォニーの望んだ勇者の為の器。

かつては敗北するために用意されたそれを再設計し直した物。

 

そして、それを纏うのは、自分と同じ世界からの漂流者より生まれた少年。

彼女の望む勇者と似た風貌をした彼の姿に歓喜の情を覚える。

 

この世界の歪さは少しでも修正しなければならない。

彼の為に、

 

この世界のラムネスとして戦い抜く為に。

 

この世界には相応しい敵がいる。

ファントムタスクと篠ノ之束と言う彼と戦うべき悪しき者が。

 

形は違えど、彼女の望んだ勇者の姿と状況に少しずつ近づく事に喜ばずには居られない。

 

訓練を終えた雷夢に近づき、タオルを渡す己の思いを受け継いだ少女の後継機との仲の良さに笑顔を浮かべる。

彼の側にいるのは己では無いが、すぐ近くにはこの世界の己と言うべき者がいてくれた。遺伝子の完全な一致など、別世界でもそうは起こらないだろう。それが起こり、この世界のラムネスの近くにいると言う奇跡に喜ばずには居られないのだ。

 

愛しい者の名を呟く彼女の表情には歓喜に満ちた笑顔が、その瞳から流れるのは自分が知る彼ともう二度と会えないという悲しみの涙が浮かんでいた。



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