ピーターパンしてたら世界が変わってた (霧丹)
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1.ピーターパンのはじまり

 

 

 

『ネバーランド』と名付けたこの島で俺は子供たちを見守りながら過ごしていた。

それ自体はとても良い事だしキャッキャ笑いながら遊ぶ子供たちを見るのは微笑ましいものだ。

 

今の俺を取り巻く複雑な環境さえなければの話なんだが。

 

いや、俺が犯罪者であることは間違いないし、やってきた事は賞金首になっても当然の事だとも思っている。

 

 

 

ここは偉大なる航路にある島の1つ。ただ、島から発せられる磁気が弱いのか、それとも他の島の磁気が強いのか知らないが普通に航海しているとこの島に辿り着くことはない。

途中で他の島の磁気に上書きされてログポースの方角が変わってしまうからだ。

 

この島に辿り着いたのは本当に偶然だった。海賊船に追われ気候が急変し遭難しそうになって必死に船を進めた先がこの島だったからだ。

島に人間はおらず、凶暴な動物も見当たらなかったので勝手に自分の島にしようとがんばったのが懐かしい。

 

思えば子供の頃から無茶ばっかりして走り続けてきたものだ。

 

ふと自分が今の状況になるまでを思い出しながらも、目の前の相手を見やる。

 

 

うん、大海賊(四皇)とまで呼ばれる男が今俺の目の前にいる…

 

 

 

 

 

そしてしみじみと思う。どうしてこうなってしまったのか…と。

 

 

 

 

 

俺は気付いた時には山賊に虐げられていた。

殴られ、蹴られ、痛いと泣けば更にまた殴られる…

 

子供の身体に満足な飯も食わせてもらえず、逃げ出そうとしても捕まってしまい縛られてからまた殴られたんだ。

なぜそんな事をするのかと聞いても笑いながら「弱いからだ」としか答えてくれず、まさに生き地獄だと何度も思ったものだった。

 

頭の中には前世の記憶なのか知識なのかわからないが、文化的で平和な生活をしていたことを俺は識っている。

 

だが今の生活はなんだ。山賊たちからの暴力の嵐に耐え、いつ死んでもおかしくないような毎日を送っている。

いや、毎日「もう死にたい」と思いながら生きていたと言ったほうが正しいな。

 

 

「ぎゃっはっはっはっは、ガキにやる飯なんざねぇよ。食いたきゃてめぇで見つけてきな」

「「「「「ぎゃはははははははははは」」」」」

 

 

そんなある日、当然山賊たちは食料をまともに分けてくれる事もないので山に木の実を探しに行ったときだった。

足を滑らせて麓のほうまで転げ落ちて行った先で変な果実を見つけた。

どう見てもどう考えても毒がありそうにしか思えなかったんだが、毒なら毒でいいかと達観したまま齧りついたんだ。

その果実は、いや果実って言ったら果実に失礼なほど不味かった。もしかしたらマズいけど栄養価は高いのかもしれないと我慢して全部食べたんだ。

そしてそのまま逃げたかったけど、俺がなかなか戻ってこないから逃げたんだと思った山賊たちが捕まえに来ていつも通り虐げられる生活を送っていた。

 

きっかけは「もうこいつにも飽きたし処分するか」という山賊の1人の言葉だった。

山賊の仲間たちは誰も止めず、拷問好きだという1人の山賊に引きずられ山奥へと連れられてしまった。

俺は「やっとこの地獄から逃げられる」という思いと「死にたくない」という思いが半分半分だったが、「死にたくない」という思いが強くなった時に俺の首を掴んでいた山賊が突然ペラペラの紙みたいになったんだ。

わけがわからなかったが、咄嗟にその紙の山賊を掴んで必死に破った。もう千切りまくった。

山賊は紙になってしまっていたようで、子供の俺でも簡単にビリビリと破ることができた。

 

そこからは早かったよ。山賊を1人ずつ誘い出したり、油断しているところを後ろから襲ったりして全員紙にしてから破り捨てた。

どうやら俺は相手を紙にすることができるらしい。あと紙を生み出したり操ったりすることもできるみたいだ。

ただ、俺自身が紙になったりすることはできなかった。これは「今は」かもしれないけど。

 

山賊を全員破り捨てた俺は、山賊たちの有り金を全部奪って山を下りていった。

下山した先には小さな村があり、みんなが俺を見て驚いていたことに逆に驚いた。

 

 

「お前さん…生きておったのか!?」

 

「…え?俺を知ってるの?」

 

「知ってるも何も、お前さんはこの村の生まれなんじゃよ」

 

 

話を聞いてみると、俺はこの村で生まれたが山賊に村が襲われた時に連れ去られたらしい。

そして両親はその時に取り戻そうと抵抗して殺されたそうだ。

村人たちは抵抗しても殺されるだけだとそれを見ているしかできなかったと謝られた。

今、世界中の海で海賊が暴虐の限りを尽くし、ロックスやらロジャーやらと悪名高い海賊たちがのさばっているため、世界政府や海軍もそちらにかかりきりで山賊など相手にしないという事だった。

そこから俺は、なぜそう思ったのか覚えていないが「俺が悪いやつをやっつけてやる!」となって海に出ることにしたんだ。

 

山賊から奪った金を村長に渡して小舟をもらい、そのまま海に出て島を目指して進みだした。

 

別の島に着いて港町を見渡してみると、俺と同じくらいの男の子が自分より大きな樽を背負って歩いていた。

その身体は痣だらけで、俺と同じように殴られ蹴られの毎日なのかもしれない。

涙ぐみながらゆっくりと歩いていくその姿に自分を見たからか、手伝おうと声をかけようとしたんだけどそこに親らしき人がやってきた。

そして「いつまでグズグズやってるんだ!さっさと運べこのグズ!」と暴言と一緒に殴ったんだ。

 

すぐに殴った大人のところに行って「どうして子供にそんな事をするんだ」って言ってみたんだけど、まともに取り合ってもらえず「自分のガキをどうしようが親の勝手だ」とまで吐き捨てられた。

次の日になってもまたその男の子は同じように働かされていた。

 

他の大人に言ってみても、自分たちが生きていくだけで精一杯だと、他人を助けるような余裕がないという答えだった。

 

海賊がいるから助けてくれない、生活が苦しいから助けてくれない、相手のほうが強いから助けてくれない、理由を挙げればきりがないが結局強い者だけが楽しい生活をして、弱いものが虐げられるというのが今の世界の現状なんだと思い知らされた。

 

だが今の俺に世界をどうこうできるような力はない。というか個人の力で世界を変えるなんて不可能だ。

 

だからと言って目の前で俺と同じ目に遭っている子を放っておくなんてできない。

 

そこからは早かった。虐待している親なんて親でもなんでもないとばかりに深夜寝ている男の子を紙にして連れ去り、知識にあった非常にダメな事をした警告という意味で赤い紙(レッドカード)を置いていった。

 

その紙にした男の子を持って村を出て、別の島へと移動してから男の子を元に戻したら「助けてくれてありがとう」とお礼を言われた。

話を聞いてみると、やはりかなり暴力を振るわれていたらしく「ここから逃げたい」とずっと思っていたということだった。

やはり俺と同じ境遇だったその子を助けられたという気持ちと、俺は間違ってなかったんだという安堵から、その子と一緒に旅をしながら同じような子を助けられないかと考えるようになった。

 

俺の紙にしたりする力はどうやら悪魔の実というやつの能力らしく、カナヅチになる代わりに不思議な力を使えるようになるものなんだと教えてもらった。

紙を生み出したり変化させたりできるので、相手を紙に変えるのはもちろん、他に色んな色や模様の紙を出したり、紙吹雪を舞わせたり折り紙を出して鶴を折ることができたりと子供らしい使い方もできた。

 

そうやって2人旅をするようになったんだが、当然だが寝泊まりするにも食事をするにも金がかかる。

自分がいた島で山賊から奪った大半の金は村長に渡したので、今俺が持っているのは小銭が少々といったところだった。

そこで俺は閃いた。閃いてしまった。

 

 

俺のこの能力でベリー紙幣を出せばいいんだ…と。

 

 

背に腹は変えられない。自分だけならいいけど俺が連れてきた男の子まで飢えさせるわけにはいかない。そうやって仕方ないことなんだと自分に言い訳しながら何度も挑戦し、うまくいくようになったので紙幣を生み出して使っていった。

 

そうやって島を巡り虐げられる子たちを連れ出しては引き連れていき、船も小さな小舟から少々大きめの船に買い替えたりと他人から見たら完全に人攫いみたいな事を続けていた。

もちろん子供だけではなく、ひどい目に遭っている事が多かったのが女の人だったので助けてから事情を説明し、一緒に来るかどこか違う島で暮らすか選んでもらったりもした。

 

最初にそれを行ったからというわけではないが、連れ去る時はその全部で見つからないように細心の注意を払いながら、その場に赤い紙(レッドカード)を置いていった。

 

一緒に来てくれる人が多かったので年上の子たちには子どもたちの世話や遊び相手をしてもらったり、塞ぎ込んでいる子たちを慰めてもらったりと、とても助けてもらっていた。

自身の能力で紙幣を増やし、船を増やしながら航海を続けていくと、立ち寄った島の中には子供を売ろうとしていたところすらもあり、そういうときはもはや問答無用とばかりに紙幣代わりにレッドカードを置いて連れて行ったりもしていた。

 

そうやって1隻で収まっていた人数がいつの間にか増えていき、船も足りなくなったので2隻になり、3隻4隻と増えていき船団のようになっていった頃、ロックスという悪名高い海賊が死んだという情報が流れてきた。

それ自体は良い事なんだろうが、俺たちにとってはさして影響はない。ロックスがいようがいなくなろうが、ロジャーがいようがいなくなろうが虐げられている弱者は間違いなくいる。

 

5隻の船で子供や奴隷のように働かされていた者たちを乗せて見つからないようにと次の島へと移動していたとき、遂に恐れていた事が発生した。

 

 

海賊船に狙われたのだ。

 

 

まさか夜の海で見つかると思っておらず、急いで離れるために舵を取るがこちらはただの民間船。そして相手は海賊船だ。

もし捕まってしまえば女子供などの海賊にとってはまさに獲物しかいない宝船のようなものだ。

海賊たちが沈める目的ではなく、拿捕しようとしていたのが幸いとなり、更には本当に偶然だろうが、嵐が起こり海賊船から逃れることができた。

だが、嵐と海賊たちから逃げた先がカームベルトだったのがまた問題だった。

本来ならば海王類の巣である以上いつ襲われてもおかしくなかったのだが、夜行性の海王類がいないことを祈りつつ船を進め、なんとか眠っている海王類を起こさないように静かに慎重に船を進めていった。

 

夜明け前にどうやら無人島のような島を見つけることができ、そのまま船で朝まで過ごしてから上陸して誰かいないか調べてみることにした。

だが、どうやらこの島は人の手がまったく入っておらず、どう見ても野生のままの植物や木々が生い茂るだけの島だった。

 

今回海賊に追いかけられた事もあり、俺はみんなと相談してこの島を拠点にしようと提案した。

幸いにも海を巡ったおかげで偉大なる航路の情報も少しはあったし、必需品と言われるログポースも高かったが購入していた。元手は能力で生み出した紙幣だから懐も傷まないし。

 

あまり海沿いに堂々と建物を構えてしまうと遠くからでも見えてしまうため、少し奥まったところを切り開きそこでみんなで生活できるようにすれば良いのだと。

そこからは5隻あった船のうち3隻を木材として利用したり、設備を再利用するためにみんなで分解していった。

 

 

この島に名前を付けようという話になった時に、子供を連れて行って楽しい思いをさせるってピーターパンみたいだなと考えた俺は『ネバーランド』という名前を提案し、以降この島は自分たちの中ではネバーランドと呼ぶようになった。

 

 

 

ついでに「まるで俺はピーターパンみたいだな」と言ってしまったことから、みんなからピーターと呼ばれるようになってしまった…

 

 

 

 

 



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2.ネバーランドと革命軍

 

 

 

俺たちはネバーランドと名付けた島を拠点とし、人のいる島では食料や材料などを大量に買い揃え島を開拓する事に専念していった。

もちろんその間にも人助けという名の人攫いはずっと行っていた。

拐われたほうも最初は怖がっているが、周りがみんな同じ年齢に近い子供たちばかりなので仲良くなるのに時間はかからない。

そしてそんな子供たちから「虐められているところを助けてもらった」という全員が同じ状況のため俺と打ち解けてくれるのも早かった。

 

俺はこの海賊や山賊、更には一般人の大人たちまでもが大手を振って弱者を傷つける時代に「俺たちはあんな風にはなりたくない」という気持ちと、「そんなことをしようと思わない幸せな自分たちの国」を作り上げてやると燃えていた。

 

そうやってネバーランドがみんなの力でまともな住処へと変わっていき、人が増える度に改築してほったて小屋から家になり屋敷になり城のように大きくなった頃、最初に助けた俺と同じ年の頃の男の子たちも既に青年となっており俺に話があるということだった。

 

 

「ピーター、ネバーランドもみんなの頑張りで過ごしやすい場所になってきたな」

 

「あぁ、だが俺たちが行ったことのない町では俺たちと同じような目に遭っている子たちがまだまだいる」

 

「その通りだな。そこでなんだが、俺もピーターと同じようにそういった子たちを助けたい。このネバーランドに来ればもうあんな思いをしなくて済むということを教えてやりたい」

 

 

どうやら今まで一緒に行動してきた結果、この広い世界中の虐げられている子供たちを助けたいので二手に分かれようということだった。

どうやら海賊のロジャーという男が海賊王と言われ、処刑された際に何か煽るようなことを言ったせいで海賊が増加しているのだという。

そして海賊が増えたことによって、いろんな島でも海賊の被害に遭った結果拐われたり奴隷のように働かされている子供も増えていっているらしい。

俺は心配だったが、一応船に乗っているときも身体は鍛えていたし何かあれば逃げるからというので大人しく見送ることにした。

 

 

そしてこの青年が思わぬ先駆者となってしまった事で、連れてきた時には幼かった子たちが大きくなった時には「自分たちも同じような目に遭っている子をピーターのように助けたい」と言い出すのも必然だったのかもしれない。

 

 

そうやって助け出しては見送っていくうちに、気がついた時にはそんな子たちが世界中に散らばっていた。

男の子は「悲しい思いをしている子を助けるんだ」と自主的に集まって身体を鍛えたりしていたし、

女の子は料理や裁縫などを学びネバーランドで世話をする子と、直接助けられなくても見つけて他の子に伝えたりサポートをしたりできるからと諜報員のような事をする子までいた。

 

もちろん何もせずに生活できるわけではないので、料理の得意な子は食事処や酒場などで働きつつ客から噂話や情報を集めたりと何かしら働きながらではあったが。

 

確かに俺1人で世界中の島々を巡って助けていくなんて不可能だし、みんなの力を借りれば少しでも多くの人たちを助けられるかもしれない。

そしてなぜか俺以外のみんなも助けた子を連れてくる時には現地にレッドカードを置いてくるみたいで、変な慣習を作っちゃったなと1人でちょっとだけ反省したりもした。

 

毎年どこかで酷い目に遭っていた子がネバーランドに来る傍ら、毎年一人前となり「自分たちと同じような子を助けたい」と巣立っていく子がいる。

もちろん全員が全員そうなるわけではなく、中には冒険したいと冒険家や海賊になる子もいたし、逆に海賊がいるから悪いんだと海軍に入隊する子もいた。

だが、そんな風に様々な自分の道を歩き出した子たちも、自分では動けないからと「この島で子供が酷い目に遭っているから助けてやってくれ」と連絡はくれたりするのでネバーランドの事はちゃんと覚えていてくれているようだ。

 

最初は俺が自分と同じ目に遭っていた子供を助けたところから始まったし、決して褒められるような手段ではない事は間違いないが、それでも不幸なままの子が少しでも減ってくれたらと思う。

 

俺もみんなに任せてずっとネバーランドにいるわけではなく、世界中の島々を巡りながら同じように人助け(人さらい)を続けていた。

そうやって町を回っているときに、赤い紙は子供を拐っていくという噂を聞くようになってきた。

 

それを聞いた他の人が子供を大事にしてくれればいいが…

 

レッドカードがちゃんと周囲への警告になってくれていればいいなと思うが、まだまだこの海賊が蔓延する世界では難しいのかもしれない。

これでもこの世界で役に立つとは言えないが、どこかの世界の知識が俺の頭の中には存在している。

だから子供たちの遊び道具としてこの世界にも存在するトランプやUNOといったカードを作って遊ばせているのだが、もしかしたらと期待を込めて決闘者(デュエリスト)御用達のカードたちを作って世界中に広めてもらったことがあった。

 

これで少しでも争いが減り、諍いがあればデュエルで決着をつける世界になればと期待したものだがまったく効果がなかった。

まぁ海賊が敵と出会って戦う時にカードゲームで決着をつけるという、そんな平和な大海賊時代は残念ながら到来することはなかったということだ。

それでも男の子や一部の大人には人気が出たからそれはそれで良かったかなという結果に終わった。

 

そんなこんなで幾人かの子供を保護しネバーランドへと連れて帰ってきたところに、どうやら俺に会いたいという人間がいるという連絡が入った。

 

 

モンキー・D・ドラゴンという男だそうで、俺と直接会って話をしたいのだそうだ。

 

 

なぜ俺と話したいのか、何の用件で話したいのか、何よりもどうして俺の事を知っているのか、疑問は尽きないが話さなければわからない。

 

少なくとも俺は『子供を助けるために勝手に拐っていき』『金を工面するために自身の能力で紙幣を生み出し』『誰にも見つからないのをいいことに島を1つ占拠している』

やっている事が犯罪だらけな以上あまり知らない人間と関わりたくはないが、どうやら伝え聞く限りでは捕まえるとかそういう話ではないということだ。

 

とはいえネバーランドに来てもらうというのは論外であり、別の島で日時を合わせて会うこととなった。

 

「わざわざ来てもらってすまないな。俺はドラゴンと言うものだ」

 

「あぁ、いろいろと聞いておきたいことはあるが、俺のことはピーターと呼んでくれ」

 

「聞きたいことはわかっている。その疑問の答えにもなると思うが、まず俺の話を聞いてくれ」

 

「…わかった。ドラゴンの用件を聞こう」

 

ドラゴンの話の最大の要件は世界政府打倒の協力要請だった。

どうやら結構前から世界中で子供が拐われているという事は知っていたようだ。

しかしその詳細を確認してみると、拐われているのは必ず虐げられたり酷使されたりと酷い目に遭っていると言う子供などばかりで、裕福ではなくても普通に暮らしている子供で拐われた者がいないという情報を得たという事だ。

そしてその行いが、ドラゴンたちがこれから活動していこうとしている事とも重なる部分があるので、なんとかネバーランドの仲間を探し出して話を聞いてもらい、お互いに協力できないかと俺に話を持ちかけたというわけだった。

 

「ふむ、どういった協力を求められているのかによるが、戦力という意味でなら断る。あの子たちは暴力に晒されて生きてきたところを、ようやく平穏を得たばかりなんだ」

 

「あぁ、それはこちらも把握している。よって戦いなどへの強制などはしない。協力してもらいたいのは情報と、あとは子供の世話だな。俺たちも政府によって被害を受けた子たちを救うこともある。その後の受け皿としてピーターのところで預かってもらえれば助かる」

 

なるほど、ドラゴンはこの世界政府があるから弱者は弱者のままの世界になると言いたいのか。

しかも世界政府の上に天竜人という人間たちがおり、日夜誰かを奴隷として拷問などを当たり前のように行っているということを教えてもらった。

そこに子供も大人も男女も関係なく、老若男女誰もが玩具として扱われているという。

まだまだ俺たちの知らないところでたくさんの人が苦しんでいるようだ。

それを教えてもらっただけでも今日会合の場を設けた甲斐はあるというものだ。

 

ドラゴンたちはまだ人数が少ないながらも同志たちを集めており、これからも志を同じくする者たちを増やしていくつもりのようだ。

そして今は水面下で力を蓄え、俺たちと同じく世界中に同志たちを置きたいのだという。

 

自分たちの集団を「革命軍」と名乗るつもりだというので、今の話で断る理由はなかった俺は情報の提供と被害者の受け皿としての要請を了承し、革命軍と協力関係を結ぶことにした。

ただ、向こうは情報を欲し政府の被害に遭った子供を保護してもらえるというメリットがあるのに対して、こちらは革命軍に求めるものが特にないというか考えていなかった。

 

そこで、ドラゴンに対し「ネバーランドの仲間たちが身を守れるようなこちらの知らない自衛手段などはないか?」と問うてみたところ、覇気というものがあるということを教えてもらった。

武装色の覇気、見聞色の覇気、覇王色の覇気という3種類のものがあり、才能に左右される覇王色の覇気は別として、あとの2つは身につければ役に立ちそうだ。

何か道具が必要なわけでもなく身1つで使用できる技術というのはとても助かるので、ドラゴンに頼んでこちらが情報を渡し子供の世話をする対価として仲間たちへの教導を頼むことにした。

ドラゴンもこれを了承してくれて、ネバーランドに1人覇気を使える者を常駐させるということで話は纏まった。

 

こちらは世界中に仲間が散らばっているとはいえ、革命軍が知りたいことをピンポイントで知らせる事ができるとも限らない。

なので具体的に何かを一緒に行動することはないままお互いがお互いに自分たちのやるべきことを行っていく中で、海軍に入っていた幾人かの仲間が久しぶりにネバーランドへと帰ってきた。

 

どうやら長期間の航海が終わり、少し長めの休みをもらったため俺たちが元気にしているのかと様子を見に帰ってきてくれたようだった。

俺たちはそれを歓迎し、そして新しくネバーランドに来た子たちを紹介したりしながら海軍の話を聞かせてもらったりしていた。

 

そこでわかったのは、海軍には六式という体術があるということだった。

会得するまでは厳しい修行が必要だが、習得してしまえば並の海賊や山賊なんて相手にならないほどに強力な力だという。

海軍に所属しているからその力を使えるのかと聞いてみたが、まだ修行中で全ては扱えないということだった。

だがそれでも使えればネバーランドの子たちを守る大きな力となることは間違いない。

 

今は革命軍の人間に覇気を教えてもらっているところだが、これ(覇気)に体術も合わされば身を守る力としては十分だろう。

俺はこの六式の情報と訓練の仕方などを詳しく教えてもらい、今まさにネバーランドで強くなろうと特訓している子や、既に成人し世界に散らばっている仲間たちにも教えていくことにした。

これで仲間たちが危ない目にあっても、逃げて少しでも生き残る確率が上がればと思ってのことだったが、直接降り掛かってくる火の粉を払う事ができるということもあり、みんなも学ぶことに積極的だった。

海軍に所属している仲間たちも覇気の練習をしながらも、休暇期間が終わるということで名残惜しそうに帰っていった。

次に会うときは覇気も六式も全部使えるようになってもっと強くなると言い残して。

 

ちなみに俺もみんなと一緒に学んでみたんだが、どうも覇気というものがよく理解できなくて難航している。疑わない事とか信じる事とか言われてもまったく理解できず、どうも俺の中にある余計な知識が覇気の習得を邪魔しているような感じだった。

周りの子供たちも徐々にいろんな技術を習得していってるのに、俺だけ足手まといになってるような気がして頑張ってるんだが、体術はともかく覇気は時間がかかりそうな気しかしない。

 

そうして俺が必死に六式や覇気をミミズのような速度で学んでいる中、ネバーランドにいる子だけでなく、巣立って世界中に飛び立っていった子たちも交代でここへと戻ってきては修行していくサイクルが出来上がり、もう全員が六式と覇気を程度の差こそあるが身につけていると言っても過言ではないという状態になっていた。

だが、どうやら誰も覇王色の覇気というものは扱えないようで、こればかりは生まれ持った才能だから仕方ないものらしい。

まぁそれができたからと言ってどうもないのだが、才能がないと言われるとちょっと悔しかったりもした。

 

とはいえ、革命軍から常駐で来ている人からは「全員が覇気使い、六式使いで世界中に仲間がいるなんて海賊や海軍にだってそこまでの事はできない」と言われたので、おそらくすごいことではあるんだろう。

 

 

俺からすればネバーランドの仲間たちが自衛の手段(覇気や六式)を持ってくれているというだけなのだが…

 

 

 

 



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3.ネバーランドの日々

 

 

仲間の子たちに負けじとこっそり特訓した結果、ようやく俺も覇気のコツ的なものを掴みかけてきた時に仲間の1人から連絡が入ってきた。

 

どうやら俺に現地へと来てほしいとの事で、詳しく聞いてみると子供を保護したが追われているらしく、ネバーランドに連れて行こうとしたが知らない場所へ連れて行かれるのに抵抗があるということだった。

すぐにウエストブルーにある、とある島へと向かい仲間がやっている酒場へと顔を出すと、そこには小さな女の子が皿洗いをしていた。

 

仲間に話を聞いてみると、酒場で料理を盗んで逃げた子を捕まえたはいいが、お腹を空かせているようなのでご飯を食べさせた後に話を聞いた結果、親もおらず帰る場所もないという事。

そしてこの子はどうやら賞金首になっているらしく、海賊や山賊だけではなく金目当ての一般人からも狙われて逃げ続けていたらしい。

 

仲間が皿洗いをしていた子を呼び、席についたので俺は事情を聞いてみることにした。

 

「はじめまして、俺はピーターと呼ばれている。君の名前を教えてもらってもいいかな?」

 

「…ニコ・ロビン」

 

「ロビンちゃんか。いい名前だね。俺たちは君を捕まえたりしないから安心してくれていい。ただ、どうしてロビンちゃんが賞金を掛けられて追われているのか教えてもらってもいいかい?何か力になれることがあるかもしれない」

 

「…………」

 

何か訳があるようだな。だがこのまま放っておくという選択は俺にはない。

 

長い葛藤の末にロビンちゃんが話してくれたのは、住んでいた島がある日突然滅ぼされたこと。

何かしたのかと聞けば何もしておらず、歴史の研究をしていただけで住んでいた島が海軍に滅ぼされた上に生き残りだからと賞金首にされてしまっていたようだ。

 

そんな話を聞いて黙って放っておくなどできるはずもなく、ロビンちゃんにネバーランドで匿ったほうがいいと思い説明してみたが、なかなか信じてくれないのでこの酒場で働いているのは元ネバーランドの子だよと教えて説得を手伝ってもらった。

それでも自分は化け物なんだと自身の腕から更に別の腕を生やしてみせたニコ・ロビンちゃんだったが、俺も同じようなもんだと手から紙を生み出して鶴を折って見せた。

 

この頃には俺も能力を多少なりとも応用させることができていたので、手から紙が出てきて勝手に動いて鶴になるというのはなかなか見応えがあったようだ。

そしてどうやらそれを見て、共通点があるからか少しは心を開いてくれたロビンちゃんは同じ年の頃の子供たちがたくさんいるというネバーランドを見てみたいと一緒に行くことになった。

 

移動中の船の中で「わたしを捕まえたらお金もらえるのにどうして捕まえないの?みんなわたしを捕まえようとするよ?」と子供らしくない質問をされてしまった。

 

「お金が欲しいというのはみんな同じだろう。子供1人を捕まえて大金が手に入るなら捕まえようとするのも仕方ない事だと思う」

 

「…なら!」

 

「ロビンちゃん。酒場にいた俺の仲間は昔ね、親から1日にパン1カケラと冷たいスープしかもらえず毎日働かされていた。倒れても無理やり起こされて終わるまでは家に帰ることさえ禁止されていたんだ。そして俺も両親を山賊に殺されて、毎日山賊に殴られ蹴られていた。だからロビンちゃんを捕まえたりしないよ」

 

自分たちも子供の頃はひどい目に遭ってきたと伝えてみたが、やはりそれだけでは納得できないようだ。

それも仕方ない。金に目がくらんでしまうのは誰だって同じ事なんだから。

 

「それだけでは納得できないみたいだね。ならこれを見てごらん。ロビンちゃんを捕まえなくたって、俺たちはお金に困ってはいないし困ることもない。もちろんこれは悪いことだけど、こうやって俺たちは生きてきたんだよ」

 

あまり子供に見せるものではないが、俺は手から紙を、いや紙幣を生み出して見せる。

慣れたもので見ても触っても違和感のないベリー紙幣をロビンちゃんに渡し、わざわざ捕まえる必要がないことを伝えておいた。

 

ネバーランドに到着し、子供たちがたくさん砂浜で遊んだりしている光景はロビンちゃんには珍しかったらしいが、手を取って一緒に子供たちの元へと行き紹介してあげる。

 

「みんな、今日からこのネバーランドの仲間になったロビンちゃんだ。ここへは来たばかりだからみんなで色々と教えてあげてくれ」

 

「「「「「はーーーーい!!」」」」」

 

そのまま子供たちの輪に入ったロビンちゃんは、いろいろと話しかけられて戸惑っているが1つ1つ質問に答えながら一緒に遊んでいった。

 

ロビンちゃんは悪魔の実を食べてしまい故郷でも避けられていたようだったが、ここでは俺がいるし悪魔の実の事もみんな勉強して知っているので避けたりすることもない。

そしてロビンちゃんも俺という同じ悪魔の実を食べた人間がいることからか、俺にもよく懐いてくれているようで楽しそうに毎日を過ごしていた。

まったく、悪魔の子なんて誰が付けたんだ。どうみても普通の女の子じゃないか。

 

 

 

 

ある日革命軍から1人の子供を預かって欲しいと連絡があった。

それ自体はいつもの事だ。革命軍が子供を保護するということは世界政府によって被害を受けている子供が多いため、ネバーランドにはよく革命軍経由でも子供たちがやってくる。

少し前だってかつて奴隷とされており、解放されたところを保護したという女の子もネバーランドにやってきていた。

 

どうやら今回預けたいという子供は記憶喪失らしく、自分の名前すら覚えていないとの事だ。

そしてなんとか家に帰してやろうとしたが、本人が「帰りたくない」と言っており記憶を失いながらも帰りたくないということは無理やり帰すのは良くないと判断し俺たちに任せたいとの事だった。

 

片方の目のあたりを火傷したような傷を持つその少年は自分の名前も覚えていなかったが、持ち物に書かれていた「サボ」というのが恐らく名前ではないかとの事で、そのままサボと呼ばれているようだ。

本人は記憶はないものの学ぶことには意欲的で、特に強くなりたいという意思が強いためここで保護しながら鍛えてやってほしいとの事だった。

とはいえ訓練ばかりの生活をさせる気もないので、同じ年の頃の子供たちと遊び、学び、下の子の面倒を見たりしながらみんなで一緒に身体を鍛えたりしていた。

記憶はないんだろうが、面倒見が良い事から弟妹がいたのかもしれない。だがそうだとしたら帰りたくないって言葉の意味がわからなくなってくる。

まぁいずれ記憶を取り戻した時にでもわかることだろうし、今は無理をさせず見守るしかできないのだが。

 

サボはいずれ革命軍の一員として動いていくつもりのようだが、それは本人の意思なので俺がとやかく言う事でもない。

ネバーランドの仲間の中にも革命軍の一員として今の世界を変えたいという子もいるし、そういう子はドラゴンに「将来的に革命軍として共に活動させてやってくれ」とも伝えてある。

あまり活動内容を聞いたりしていないので心配ではあるが、ドラゴンならば悪いようにはしないだろう。

 

 

ロビンもサボもすっかりネバーランドに馴染んで日々を過ごしていたある日、ロビンが2人で話したいというので砂浜に2人で来ていた。

 

「ピーター。わたしね、将来はお母さんや博士と同じように歴史の研究をしたいの。わたしはお母さんに褒めてもらいたくて古代文字が読めるようになったの。だからお母さんと同じように世界中を旅して歴史の本文(ポーネグリフ)を調べたいと思ってるの。そして空白の100年の謎を解き明かしたい」

 

「…なるほど。確か歴史の探求は世界政府が禁じているんだったか。ロビンは禁止されていても知りたいんだね?」

 

「…うん。どうしてお母さんや博士たち、オハラがあんな風に滅ぼされなきゃいけなかったのかを知りたいの。ピーターはわたしが歴史を研究するの反対する?」

 

難しい質問だ。海軍の仲間に聞いてみたが、詳細はわからずバスターコールというものでオハラは滅ぼされたのだと聞いていた。

ロビンの意思は尊重してやりたいが、そのバスターコールとやらがネバーランドに向く可能性も否定はできない。

今は誰にも見つかっていないネバーランドだが、これからもずっと誰にも見つからないわけではないだろうからな。

だがそのためにロビンにやりたい事を禁止するのも間違っているだろう。

 

「ロビン。俺はロビンの夢を反対したりはしない。だが、表立って歴史を研究していますなんて言ったらオハラと同じような目に遭うかもしれないことは理解しているね?」

 

「…うん」

 

「だから、1人で行動するのではなく俺や仲間たちを頼りなさい。ネバーランドの仲間たちは世界中にいる。ロビン1人で出来ないことでも仲間がいれば出来るようになるんだ。俺も1人で子供たちを助けていたが、今ではこうやって仲間たちが協力してくれているからネバーランドがここまで大きくなって、世界中の虐げられている子を助けることができているんだよ」

 

ロビンは賢い子だ。ちゃんと物事を判断して感情だけの無鉄砲な行動で突き進まないだけの冷静さは持っている。

ならば俺たちが手を貸してあげることで無謀な事をする必要もなくなるし、少しずつかもしれないがロビンの夢に近づくこともできるだろう。

俺には歴史の本文(ポーネグリフ)とやらがどこにあるのかまったくわからないが、みんなで力を合わせて情報を集めればそのうち在り処だってわかるかもしれない。

少なくともロビン1人で闇雲に探したところですぐに見つかるようなものでもないだろう。

 

ロビンはポーネグリフを探したり調べたりすることでネバーランドに迷惑がかかるかもと心配しているようだが、1人で勝手に突き進まれたほうが危険だということはわかってくれたようだ。

まずはネバーランドでしっかりと生きていくための知識を養い身体を鍛え、もし賞金稼ぎや悪党に見つかって追いかけられても逃げられるだけの実力を身につけてからだということを理解してもらった。

 

俺はいつもと変わらず島を巡ったりみんなに遅れまくっている覇気の習得を特訓したりの毎日だった。

みんなに比べて遅いのはもう仕方ないと思っているのだが、どうしても頭の中にある知識が邪魔をしていてうまくいかない。

気とか魔力とか霊力とかいろいろな単語が頭に浮かぶのだが、それらを使えるわけでもないしただ信じるということの難しさを実感させられていた。

 

そんなある日、俺はネバーランドで子供たちと遊んだり一緒に特訓したりしながら過ごしていた。

サボは「早く海に出たい」という気持ちが強いようで、何度も実戦で戦わせてほしいと言ってきたが、あまりにも無謀にしか思えなかったのでずっと却下していた。

それでも諦めなかったので革命軍とも相談し、現場学習というか何もさせないが一緒に行動させるくらいはいいだろうということでたまに遠出させることになった。

あんまりダメだって言い続けて勝手に飛び出されても危ないから、これくらいが妥協できるラインかなと話し合った結果だ。

 

サボが丁度革命軍と共に出かけているため普段サボが面倒を見ていた子と話でもしようかと思っていた時、島に設置していた見張り台から緊急を告げる鐘の音が聞こえてきた。

 

「ピーター!海賊船だ!海賊がこっちに向かってきてる!!」

 

「慌てるな!年長の子たちはみんなを連れて地下室へ移動しろ!みんなも慌てなくていいから手を繋いで地下に移動するんだ!」

 

子供たちを大急ぎで屋内へと誘導し、隠れ場所として作っておいた地下室へと匿っていく。

常駐してくれている革命軍の人間に先頭を任せ、子供たちを頼むと伝えておいた。

地下室には島の裏側へと続く通路もあるので、何かあればそこから逃げられるようになっていた。

全員を地下室へと入れてから蓋をして、その上に能力で作った床の模様の紙を敷いて地下室をわからないようにしておく。

 

これでここには俺しかいない。

 

海賊が一体何の用でこの島に来たのかわからないが、後の事はみんなに任せておけば大丈夫だろう。

 

最悪の事も頭を過るが、少しでもここでみんなを逃がす時間を稼がないと…

 

 

 

 

 

そんな覚悟を決めている俺の前に、1人の男が船から降りてきた。

 

 

 

 

 



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4.大海賊は困っている

 

 

 

 

「一体どうなってんだこりゃ…」

 

 

 

 

 

世界三大勢力の1つ、四皇と呼ばれる海賊団の一角を担う赤髪海賊団。

 

その大頭である赤髪のシャンクスは今自分たちを取り巻く状況に困惑していた。

彼らは自ら島や町を荒らしたりはしない。酒を飲んだり食料を手に入れるのだってきちんと金を払い買い取っている。

 

もちろん海賊である以上、賞金首として悪名のほうが高い事は承知しているし海賊だというだけで怖がられるのだってある程度仕方ないことだ。

それでも島に停泊し補給したりするときはちゃんと島の住民に説明もしているし暴れたりしないよう部下たちには言いつけてある。

 

だが、いつからだっただろうか?段々と補給するときに立ち寄った村や町で恐れられ拒まれるようになったのは。

 

最初から違和感はあった。

 

まるで一部の住民から人さらいや極悪人のような目で見られることがあったのだ。

気の所為かとも思ったが離れたところで「子供を返せ!」なんて声と、それを必死で止めている声が聞こえたことも1回や2回じゃない。

 

しかしシャンクスにしてみればまったく身に覚えがない事であり、人さらいや人買いなどたった一度たりともやったことがない。

 

もちろん自分に黙って仲間たちが勝手にやったって事もないと言い切れるし、自分たちの船に子供が乗っていることもあり得ない。

 

これは自身が見聞色の覇気でも確認しており、副船長であるベン・ベックマンにも相談して聞いたもらったこともある。

しかし結論はやはり「赤髪海賊団の誰1人として子供を拐ったこともなければ、どこかに連れて行ったこともない」というもので、その結果にシャンクスは密かに安堵のため息を吐いたものだ。

 

だが事態はそう楽観的に考えるような状況でもないのが事実で、自身が旗揚げしてからあったこの問題は、段々と寄る島寄る島で同じような事を聞くようになってきた。

 

そして決定打となったのはシャンクスが四皇の一角として有名になった後だ。

 

ただの一海賊団だったのが世界三大勢力の一角を担う海賊団として世界中に認知された後、まるで世界最悪の海賊団が四皇となったとまで噂されたことがある。

 

これにはシャンクスをはじめとして、船員の誰もが首を傾げる事だった。

曰く、世界中の子供を攫いその島を間接的支配下に収めている

曰く、子供のいない者の場合は別の大切な者が拐われる

曰く、あかがみを見た時には既に手遅れになっている

曰く、あかがみは世界中に配下を置き、世界を支配しようとしている

曰く、曰く、曰く、

 

気がついた時にはこのような噂が世界中に広まっているのだ。

シャンクスたちは海賊だ。世界中の海を冒険するし、4つの海や偉大なる航路の前半後半すべてを股にかける海賊だ。

世間的に海賊は悪党であると思われているし、実際に島に上陸しては暴れていろんな物を奪っていく海賊だって存在するのは間違いない。

 

だが、赤髪海賊団からしてみれば、あまりにも事実無根な噂で住民から冷たい目で見られ一方的に嫌われているのも気分の良いものではない。

もちろんこの噂について否定し、なぜこんな噂が世界中に広がっているのか調べもした。

 

だが、わかっているのは「あかがみが子供を拐っていった」というだけで、他に何もわからなかったと言っていいだろう。

 

これについて海軍などに相談したりしていないのかと住民に聞いた事もあったが、その答えは「海軍は海賊の事件などを管轄するもので、陸での事件はその国の治安組織に報告しろ。また人さらいならば山賊の仕業も考えられるだろう。赤髪海賊団の仕業だと言うがその証拠がなければ断定はできない」というものだったという。

 

仲間たちだって最初は笑いながら「お頭の悪名が巡り巡って変な噂に行き着いたんだろう」とか「俺たちに恐れをなしてどっかの海賊団が評判を落とそうとしてやがるんだ」などと楽観視していた。

しかし、ここまで深刻な事態になると「誰かが俺たちを騙って人さらいをやってるんじゃないのか」や「うちの旗に泥を塗るようなヤツはとっ捕まえてやる!」とピリピリした雰囲気が一味の中で流れていくのも仕方ない事だった。

 

シャンクスはなるべく仲間が勝手に暴発したりしないように気を配りながら宥めていたが、もちろんこの噂で一番イライラしているのは本人であり、犯人は必ず捕まえてやると心に決めていた。

 

 

 

「お頭!やっと俺たちを騙る人さらい野郎の手がかりが手に入ったぜ!」

 

「…!?そりゃ本当か!?」「「「「「!?」」」」」

 

 

 

ある日、相変わらず悪い噂をなんとか説明し、停泊を渋る島民を説得して補給することができた赤髪海賊団に仲間の1人から思わぬ情報が入ってきた。

 

この港町でもやはり子供を赤髪海賊団に拐われたと喚き立てる人はいたが、自分たちは絶対にやっていない事、拐われたという時期にはこの島の近くにすらいなかった事をなんとか理解してもらって冤罪であることを証明したばかりだ。

 

嫌な気分を洗い流そうと気分一新して酒場で盛り上がっていたところに待ちに待った朗報が入ってきた。

これにはシャンクスだけでなく赤髪海賊団全員が食いついた。

相手は今まで自分たちに悪評を擦り付けて散々虚仮にしてくれたやつらだ。

ただで済ませるつもりはないとそれぞれが怒りを抑えて報告を待っていた。

 

「お頭!まだ敵の正体まではわかってねぇ。ただ、子供が拐われて連れて行かれるところを見たってやつがいて、大体の方向なんかがわかったって程度だ」

 

「…そうか。それでも今までに比べりゃ大分違う。なんとか捕まえてやりたいところだが…」

 

「ヤツらがどれくらいの規模の組織なのかも、なんで子供を攫うのかもわからない。俺たちの船に子供はいないから囮なんて事もできねぇしな」

 

「とにかく地道に探すしかないな。これからも情報を仕入れておいてくれ」

 

まだ手がかりというには薄い。連れ去られた方向だってそいつらの根城に向かっているかどうかもわからない。

とにかくシャンクスたちは子供を拐われたという情報を集めることにした。

そして噂を確かめていくと、自分たちが思っていた以上に拐われている子供の数が多かった事が判明した。

更に悪い情報として、子供だけかと思っていたら若い男や女も拐われたという話まで出てきた。

古い情報ならば10年前どころかもっと昔から女や子供が拐われたという話もあり、明らかに赤髪海賊団を結成するよりも前からそういった話があったようだ。

ただ、子供だから無作為に拐われているというわけでもないようで、同じ時期に子供だった住民に聞いてもなぜ自分が拐われなかったのかわからないと言っていた。

 

「同一犯なのかわからないが若い男女や子供を狙って攫う。でも攫う子供なんかはみんなではなく選んでいる。そして拐われた家では赤髪海賊団(おれたち)に拐われたと言っていた。なんなんだこりゃ…」

 

「お頭、あまり考えすぎるな。まずは情報をしっかりと集めてからだ。それに世界中でこの話が聞こえる以上ただ1つの海賊団にできるような代物じゃない。仮に他の四皇の海賊団とその傘下であっても不可能だ。それこそ世界政府や海軍と同じような規模の組織だって考えたほうが自然だぞ」

 

「確かに副船長の言う通りだな。しっかし本当に何が目的なんだ?俺たちよりも昔から動いてるやつらってことなのか…」

 

シャンクスが答えの出ない問題に悩んでいると、副船長であるベン・ベックマンは海賊が徒党を組んでどうにかなる問題ではないと指摘する。それも世界政府クラスの組織力が必要だとも。

 

だが、かつて海賊王となったロジャー海賊団に見習いとして乗船していたシャンクスにも聞いたことがない組織だ。

もしかしたらかつてロジャー海賊団の副船長でもあったシルバーズ・レイリーに聞けば何か知っているかもしれないとも思うが、今現在世界中の海を渡っている自分たちですら雲をつかむような話である以上、ひとところに居座っているかの元副船長が知っているかどうか…

 

 

 

 

 

そこからも赤髪海賊団の航海は海の上では順調で島に立ち寄ると嫌悪を隠さない態度の出迎えの繰り返しだった。

 

中には上陸すら拒否されることすらあった。

 

その島では港町の町長の子供が拐われたらしく、いつも通りにと説明しようとしたが「娘を返せこの犯罪者め!!」とまったく話を聞いてくれなかった。

だが、他の住民に聞いてみると「町長は娘さんにひどい事をしていて、止めても聞いてくれなかったから拐われて良かったかもしれない」なんて声を聞いたのが妙に印象に残っていた。

その話を聞いて町長に確認してみても、町長は認めず「儂は娘に何もひどい事などしていない!拐っていった海賊が今更言い逃れか!?」と赤髪海賊団が犯人だと決めつけていた。

その港町では町長があまりにも話が通じず、仕方なく別の港町へと船を回したところ、また別の情報を得る事ができた。

 

そこで得られたのは、やはりかなり昔から子供や娘が突然いなくなる事があったそうだ。

そして拐われた子供の親は「あかがみがきた。子供を拐われたのはあかがみの仕業だ!」と必ず言うということだった。

シャンクスは自分以外に昔からいた海賊で赤髪などいたか思い出してみるが、少なくとも手配書や自分の記憶では見たことはない。

 

珍しくイーストブルーのとある島で停泊したときはそこまで嫌悪されるような対応をされなかったので安堵したものだ。

思わぬ出会いと成り行きで片腕を失う事になってしまったが、それ自体は後悔していないし愛用の麦わら帽子を託してきたので今度は海賊として出会うことを楽しみにしている。

 

 

 

 

そうしていくつかの島を周り、自分たちの冒険をしつつも情報を集めていったシャンクスたち赤髪海賊団のクルーたちはついに重要な情報を手にすることができた。

 

 

それは赤髪海賊団の船員たちができる限り広範囲で本格的に情報を集めた事で信憑性のない噂から、直接拐われた家の人間までかなりの人数から聞いた内容を纏めたことでわかったことだった。

情報は多岐にわたり、今までに散々聞いた拐っていくという関係の悪い噂以外にもまるで教会の教えのように「親がいない子供や居場所のない子供、そして虐げられている者には救いの導きが必ず訪れる」などと言われていたりもするらしい。

 

そして場所はまだ正確ではないが、どうやら偉大なる航路にある1つの島では子供たちが楽しく暮らしているという話もちらほらと聞くことがあるようだった。

 

そこだけ聞けば誰かの庇護が必要な子供たちが集まって楽しく暮らしているだけだが、その話も本当かどうかもわからず、噂の大多数は赤髪海賊団が拐って行ったというものだった。

 

手がかりといえるものもそれしかないため、なんとかその島に行って真相を確認しようにも、前半の海なのか後半の海なのかもわからない。

だが、少しずつ情報が集まってきた。シャンクスは今までに集まった情報を頭の中で整理し、早急にこの問題を解決しようと決意した。

もしその島がハズレでもそれはそれで構わない。その時は少しばかり補給させてもらってまた手がかりを探すだけだ。

そう思いながらシャンクスたち赤髪海賊団は冒険と宴の日々を過ごしていった。

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

「やっと見つけた…」

 

 

 

ついに赤髪海賊団は偉大なる航路にある1つの島へと降り立つ。

 

 

 

『ネバーランド』と呼ばれる島に。

 

 

 

 

 



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5.ネバーランドと大海賊

 

 

 

俺は今海賊船から降りてきた男と対峙している。

 

この男が船長なのかどうかはわからないが、赤髪の隻腕の男だ。

 

先手必勝といきたいところだが、今のところ相手に戦う気配がないのでひとまず用件を聞いてみることにした。

 

「この島は見ての通り何もない島なんだが、海賊が一体何をしに来た?」

 

「あー…そう警戒しないでくれ。俺たちは別に島を荒らしに来たわけじゃないんだ。少しばかり補給をさせてもらいたいのと、ちょっと聞きたいことがあってな。とりあえず怖がらせないように俺だけ来たんだが、仲間たちも島に入っても構わないか?」

 

「……略奪しにきたなら最初から襲ってきているか。いくつか条件があるが、それで良ければ補給なども許可しよう」

 

「助かる。ちなみに条件ってのは?」

 

「この島の事を外部に漏らさないこと。この島で一切暴れないこと。この島に武器を持ち込まないこと。この3つだ」

 

「この島を知られたくない理由はわからないが、わかった。約束する」

 

この約束が守られるかどうかは俺にはわからないが、最悪の事も考えて海軍にいる仲間に確認しておくか。

少しばかり心配ではあるが、海賊船から船員たちが降りてきている間に建物へと戻り一旦みんなに大丈夫だと告げて部屋に戻るように促した。

だが好奇心旺盛な子供は海賊を見てみたいと遠目から覗いていたり、中には普通に話しかける子もいたりで俺のほうがヒヤヒヤさせられた。

どうやらこの海賊たちはやたらと暴力を振るう海賊ではなさそうだが、海軍の仲間から海賊というものがどんな奴らなのか聞かされていただけに油断はできない。

 

…どうやら海軍の仲間からの情報ではこの海賊は赤髪海賊団という、世界三大勢力の1つである四皇という海賊たちの一角ですごい有名らしい。

どうも海賊や海軍なんかは基本的に避けているせいでそのあたり疎くなってしまっているな。

世界中の仲間から集められる情報は基本的に頭に入れているが、赤髪海賊団も名前くらいは聞いたことがあっても具体的な情報はなかった気がする。

 

そんな赤髪海賊団の船員たちも、この島が子供ばかりで大人がほとんどいない事には驚いていたようだ。

だが、どうやら子供好きな船員も多いようで、それぞれ子供たちと楽しそうに話している。

 

 

「そういや自己紹介が遅れたな。俺はこの赤髪海賊団の船長やってるシャンクスというものだ。お前さんの名前も教えてくれないか?」

 

「俺はここネバーランドの…なんだろ?まぁ、みんなの面倒を見ているピーターだ」

 

「なぁピーター。お前さんは赤髪海賊団って聞いて驚いたり騒いだりしないのか?」

 

「うん?四皇っていうすごい海賊だっていうのは聞いたが驚くべきなのか?」

 

 

どうやらシャンクスが言いたいのはそういうことではないらしい。

赤髪海賊団は世界中の住民の間で嫌悪されているらしく、なぜかやってもいない人さらいなどの濡れ衣を着せられているということだ。

そして自分たちの旅をしながらその噂の原因を探し出すために調査もしているようで、この島が有力な手がかりだということを突き止めやってきたらしい。

 

よくわからないな。人さらいならどちらかと言うと俺たちのほうがやっているはずなんだが…

 

しかも住民たちは赤髪海賊団を見るや否や「あかがみが来たぞ!子供を隠せ!そして拐った子供を返せ!」とか言われるため意味がわからずシャンクスだけでなく船員たちも困惑しっぱなしらしい。

今俺が見ている限りではシャンクスは人さらいとかやりそうにないんだが、やっぱり海賊だけに人身売買とかやっているのだろうか。

 

 

 

しかしなんでシャンクスって断定してるんだろ?拐っていった現場に赤い髪でも落ちてたのか?

 

 

 

赤い髪じゃなくて赤い紙なら俺たちが置いていってる…ってまさか!?

 

 

 

「あー…シャンクス。少し2人で話さないか?ちょっと伝えておきたい事があるんだが…」

 

「ん?別に構わないが、なんでそんな言いづらそうな顔してるんだ?」

 

「いや、ちょっとその濡れ衣に心当たりがあってな。大きな声で言う事ではないというか、一体どうしたもんかと思ってな」

 

「本当か!?ちょっとでも何か手がかりがあるなら教えてくれ!こっちも困ってたんだ!」

 

ひとまず俺の部屋へと案内し、冷えたお茶を出して落ち着いてもらう。

酒なんて出してその勢いのまま暴れられても困るからな。素面で冷静に話を聞いてもらわなければならない。

 

黙っててもいつかはシャンクスも事実を知る時が来るだろうし、それならばこのまま黙ってやり過ごすよりも話してしまったほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

そしてしみじみと思う。どうしてこうなってしまったのか…と。

 

 

 

 

 

どうやって言い出そうかとか、なんでこうなったのかと今までの自分の半生をしみじみ考えていると、シャンクスから催促のお言葉が飛んできた。

 

「ピーター。お前さんが何を知っているのか教えてくれ。俺たちもやってもない人さらいの濡れ衣には迷惑してるんだよ」

 

「あー…あー…シャンクス。落ち着いて聞いてくれ。たぶんだが原因がわかった。てかなんでそんな事になっているのかはまったくわからないが、少なくとも原因だけは心当たりがある」

 

「うん?原因に心当たりがあるのか?もしお前さんたちが噂を流していたとしても世界中に広がるとも思えないんだが」

 

「いや、そうじゃない。俺たちがわざわざシャンクスの悪評を広める意味もないし、そんな事はしていないんだが原因は俺たちのせいだろうな」

 

そこから俺はシャンクスに、今までやってきた事やネバーランドを作った経緯などを説明していった。

山賊に理由もなく虐げられ、そこから解放されて同じ境遇の子供たちを拐ってでも助けていったことや、そこから島を見つけ開拓して仲間たちが世界中に散らばっていることなどだ。

そして今回の誤解の原因となった、拐った子供の場所に赤い紙を置いてくるというのが広まっていき、レッドカードではなく赤紙と伝えられてしまったんだろう。

そこに赤髪海賊団が発足してしまったので、何も知らない人間たちの間で赤紙=赤髪と認識されてしまったのが今回の騒動の原因になってしまったようだ。

 

これについては推測だが間違っていないと思う。子供を拐われた親などは自分がその子供を虐げていた事も気にせず「子供を拐われて赤い紙が落ちていた!」と騒ぎ、何も知らない住民たちは赤紙に拐われたと認識していたが、丁度赤髪海賊団という海賊が現れたために「あかがみというのは赤髪の事だったのか」と逆に勘違いしたのだろう。

そして噂が噂を呼び、最早真実などどうでもいいとばかりに赤髪=人さらいという図式で定着してしまったのではないだろうか。

 

たまたま赤髪であるシャンクスが船長で名前を赤髪海賊団にした事が完全に風評被害を呼んでいた。

 

ひとまず事情を説明し、俺たちの悪評を完全に肩代わりさせられていたシャンクスに頭を下げて謝罪しておいた。

 

「あー…なんて言ったらいいんだ。悪気もまったくなくて赤髪海賊団が出来るよりも前どころか、下手すりゃ俺が生まれる前から子供たちを助けてたんだから、俺から文句を言うのもなぁ…完全に噂が先走っただけの勘違いだったのかよ…」

 

「なんと言ったらいいのかわからないが、原因は間違いなく俺たちだし謝るしかできないんだが、かと言って世界中に俺たちの事を広めるわけにもいかないんだ」

 

「言いたい事はわかってる。まぁ故意に悪評をバラ撒いてるならと思って探してたんだが、原因がわかって良かった。解決はできそうにないが、だからと言ってここの事を言いふらしたりはしないから安心してくれ」

 

「すまない。俺たちはこれからもこの活動を続けていくつもりだが、できる範囲で俺たちも噂が誤解であることを伝えていくようにはしてみよう。後は仲間たちに事情を話しておいて、シャンクスたちがどこか島に立ち寄った時には協力するように伝えておく」

 

シャンクスに噂の原因というか真相を話し、部屋を出てみんなが集まっている場所へ行ってみると子供たちが冒険譚を聞きたくて集まっていたようだ。

そこで船員たちが自慢げに数々の冒険の話を聞かせているようで、子供たちもそんな話を目をキラキラと輝かせながら聞いていた。

 

シャンクスも副船長だという男に俺からの話を伝えているようで、副船長の男も「そりゃもう巡り合わせが悪かったとしか言えんな」と苦笑いしていた。

 

赤髪海賊団はそこからしばらくネバーランドに滞在し、子供たちにせがまれては嘘か本当かわからないような冒険の話をしては子供たちに「海賊は自由でいいぞ!」と勧誘まがいの事をしていたが、海賊になって冒険したい!という子には「まだ早い」と笑っていたのだが、六式や覇気を使えると聞くと大層驚いていた。

 

うちの子たちは自衛のために六式と覇気を教えていると自慢気に話してやると「どこまで過保護なんだよ…」と呆れたような視線で見られたが、もう弱いからと逃げられもせずに暴力を受けるような目には遭わせたくなかったので仕方ないんだ。

 

更に世界中にいるネバーランドの仲間たちもほぼ全員六式や覇気を使うことができると自慢してやった。

これでも半世紀近くかけて苦境にいた子供たちを勝手に救ってきたのだ。もはや仲間たちの数は数え切れない。

本当に戦うのが嫌だという子もいるから、そういう子にはせめて逃げるための手段として剃という技術と見聞色の覇気だけは習得させるようにしている。

 

ちなみにネバーランドにいる子の何人かは海を冒険してみたい!とやる気になってしまっていたので、シャンクスに頼んで海賊体験させてやってくれとお願いしてみた。

一応みんな六式も覇気も使えるし、実戦の経験はないけど役には立つと思うよということでアピールしてみたところ、渋られたが最後は「まぁ戦える術は持ってるし見習いからな」と了承してもらえた。

ついでとばかりに、もし立ち寄った先で虐げられている子供などを見つけたら保護するか教えてほしいとも言ってある。

四皇というのがどれくらいすごいのかは俺にはわからないが、シャンクスたちとも良い関係を築くことができればまた少し助けられる範囲が広がるかもしれないからだ。

 

俺たちは革命軍のように名前を付けて活動しているわけでもないので、同盟とかそういうものではないが、困った時に助け合える関係くらいになれたらいいなという事をみんなのいる前で話し、赤髪海賊団と協力関係を結ぶことに成功した。

 

何せうちの仲間が赤髪海賊団の見習いになるからな。いくら巣立っていくからと言ってもそれで仲間との関係が終わるわけではない。

たまには連絡して冒険譚を聞くのもいいと思って電伝虫の番号も聞いておいた。

 

まぁ協力関係と言っても俺たちは戦力にはならないから、あくまでもお互いに何かあった時に情報提供しあうくらいの関係だ。

 

「ところでシャンクス。ちょっと聞きたいんだが、冒険してる中でポーネグリフっていうの見たことあるか?」

 

「…どこでそれを知ったのかわからんが、そこに手を出したら政府に目を付けられるぞ?」

 

「うちの子が歴史を知りたいって言っててな。もし見たことがあるんならどこにあるか教えてもらおうかと思ったんだが…」

 

「そういうことか。悪いが俺から何かを言うわけにはいかん。ただまぁ、歴史が知りたいんならいずれは海に出る必要があるだろうな」

 

「なるほどな。まぁ俺にはよくわからんがその子にはそう伝えておくよ」

 

四皇であるシャンクスでさえ具体的に言うのが憚られるような何かなんて想像もつかない。

大体、歴史を調べるのがダメっていう時点でよく理解できないんだよな。俺にどこかの世界の知識があるからかもしれないが、昔を知るからこそ今をもっと良くできたりするんじゃないのか?

 

もしかして世界政府が禁止するくらいだからめちゃくちゃ危ない生き物とかいるのかな?「世界の歴史を知りたければ我を倒してからだ!」とか言って立ち塞がるボスがいるみたいな…

それで世界政府は本当は自分たちも知りたいけど、挑んでも返り討ちにされてしまうため世間には犠牲を出させないために禁止にしてるとかなら理解できるな。

 

なんか頭の中に海にいるめっちゃでっかいドラゴンが浮かんできた。革命軍のドラゴンではない。竜のほうだ。こんなの海の上で戦って勝てる気がしないな…

少なくとも俺にわかったのはロビンを勝手に行かせないで正解だったって事だけだ。

今も仲間たちと楽しく過ごしながらいろいろと学んでいるロビンだが、いずれは歴史を求めて世界中を旅することになるんだろうな。

俺の想像が正解なのか不正解なのかわからないが、世界中に仲間がいるからみんなに協力してもらいながら、自分のペースで歴史を探していけばきっと知りたい事を知れる日が来るはずだ。

てかマジで歴史を知るためにボスがいたらどうしよう…それはボスがいたときに考えるか。

 

 

そういえば世界政府が歴史の探求を禁じているって言っても、もしドラゴンたちが世界政府を打倒したら関係なくなるんじゃないだろうか。

それならドラゴンを応援したほうがロビンのためになる気がしてきた。

 

 

いろいろと考えさせられる事が多かったが、赤髪海賊団がネバーランドに来たのは結果的に良かったと言える気がする。

 

 

「結構長居しちまったが、そろそろ俺たちも自分たちの冒険に出ることにする。この島は良い島だったぜ」

 

「そうか。まぁたまには遊びに来てくれ。海に出るとなかなか顔を見れない事も多いからな。後はうちの子をよろしく頼んだ。俺にとってネバーランドの子はみんな仲間であり家族みたいなもんだからな」

 

「家族で仲間か。ピーターと気が合いそうな知り合いがいるが、まぁ約束通りここの事を教える気はないが、仮に教えてもここまでは来ないだろうし会う機会がなさそうだな」

 

「へぇ、ぜひ会ってみたいもんだが俺から海賊に会いに行くってのもなぁ…まぁ島を巡ってる時に運良くいたら声でもかけてみるか。なんて名前なんだ?」

 

「島を巡ってるだけじゃなかなか会えないとは思うが、そいつは白ひげって海賊だ。まぁ俺もなかなか会う事はないが、もし会ったらピーターの事も伝えておくさ」

 

そんな赤髪海賊団もそろそろまた本格的に航海するというので、みんなで見送りにいった。

見習いとして船に乗る仲間にもエールを送り、シャンクスには仲間をよろしくと伝えておいた。

 

 

しかし白ひげか。海賊なのに船員を仲間としてだけでなく家族としても見ているなんて、シャンクスの言う通りなかなか気が合いそうだな。

まぁそういう場合はお互いの家族自慢対決になりかねないんだが、それはそれで是非一度やってみたいものだ。

 

 

 

 

そんな事を考えながら赤髪海賊団の船が島を離れていくのを見送っていった。

 

 

 

 

 

 




予約投稿ここまで。また数話書き溜めてから投稿します。





※以下蛇足


赤髪=赤紙、同音異義語というところから更に、赤紙=戦時中の赤紙(召集令状)や差し押さえ的な赤紙=(人や資産を)連れて行く、に掛けました。

そしてレッドカード=サッカーの警告=周囲へのやってはいけない事(女子供への虐待など)=警告表示という意味も含ませています。


時系列については、1話の「どうしてこうなってしまったのか」から、この5話の「どうしてこうなってしまったのか」までは主人公の回想です。
なのでドラゴンと出会ったりロビンやサボを迎えたりなどの主だったものを思い出しているため時間がかなり飛んでいます。

主人公の年齢については、幼少の頃に船出したあたりでロックスやロジャーが海で名を上げていますので、大体ロジャーやレイリーらと10~15才ほど下くらいです。

原作開始時期には50代中盤から60才くらいの間となっています。


シャンクスのほうもルフィとの出会いは時系列ではなく、評判が悪い中で珍しくあの島は普通だったなと思い出し、合わせてルフィの事も一緒に思い出している感じです。


また風評被害の調査も海賊たちが口頭でしているためどれだけ会話しても
噂を聞いた町人「現場に赤い紙が落ちていたらしいですよ」
海賊「なんでわざわざ赤い髪を…」
みたいになります。

直接拐われた親に聞いたとしても
海賊「どうして赤髪海賊団が子供を拐ったって言えるんだよ!?」
親「うるさい!子供の部屋に赤い紙が落ちてたんだよ!子供を返せ!」
という感じです。
子供との思い出の品として紙を後生大事に保管している親なら虐待などしないでしょうし。

これを解決するには発足の時点で『赤い髪の毛海賊団』と名乗る必要があったのではないでしょうか。


偽札は主人公自身がよくわかっていない異世界知識があるため赤い紙を作る以外に偽札を作るという発想へと至りました。
公式がデザインしている紙幣は透かしがありそうな感じでしたが、果たしてそんな技術がこの世界にあるのかわからなかったのでないものとしています。




表現の仕方が拙くて申し訳ありません。


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6.人魚と古代文字

 

 

赤髪海賊団がネバーランドから出港してからしばらくして、サボが革命軍と共に島へと帰ってきた。

土産話ではないがみんなで食事をしながら話を聞いてみると、世界政府とその加盟国があるせいで苦しんでいる人々が思ったよりも多いようだ。

各国の王たちも善政を敷いているのはほとんどおらず、悪政によって苦しんでいる人のほうが多いため、サボもまた「早く世界政府を倒さないと」と決意を新たにしていた。

 

だが、世界政府を打倒するというのは具体的にどうすればいいんだろう?

今世界政府が敷いている法はほぼ世界中に広がっていると言っていいだろう。俺が1人偽札造幣局やってるベリー紙幣なんかも世界中で使用されているものだ。

 

もし紙幣が利用できなくなってただの紙切れになってしまったら世界中で大混乱になるんじゃないのか?

それともお金はそのまま、法も一部変えるけど同じものもあるよ!みたいな感じなのかな?

 

それならむしろ政府を倒して新しい政府を作るよりも、既存の世界政府の中枢だけを入れ替えて方針転換させたほうが現実的だと思うんだが。

まぁそれはそれでどうやるのかと聞かれても答えられないんだけど。

 

「一度ドラゴンと会って聞いてみるのもいいかもしれないな」

 

世界政府を倒したはいいけど、そこから新しく世界に法を敷くまでは世界中が無法地帯になるわけだし、あとドラゴンがどういう世界を視野に入れているのかも聞いたことがなかったな。

革命軍の中にもネバーランドの仲間がいる以上、いたずらに政府打倒を掲げて危ない思いはしてほしくない。

 

()()()()()悪法を敷いているのなら倒して英雄にでもなれるだろうけど、その下で各国が悪政を敷いている場合はそういうわけにはいかない。

ドラゴンたちの中では元凶となる世界政府を倒したいんだろうが、今のまま倒してもただ巻き込まれるだけの人も多くなってしまい、下手すれば弱肉強食の動物みたいな世界になりかねない。

 

うーん、ロビンの夢のためには世界政府がないほうがいいんだろうが、そう考えるとなかなか思うようにはいかないなぁ。

 

 

かれこれ約半世紀もこの世界で生きているわけだし、生い立ちというか気がついた時には弱肉強食の中だったからなぁ。

あんなものを世界の普通にするなんて認めるわけにはいかない。

まぁ俺が勝手に考えてる事だし、ドラゴンたちはちゃんとそのへんの未来図を持って行動していることだろう。

 

そういえば最近は俺が最初の頃に助けて一緒に行動していたみんなと会えてないな。

たまーに助けた子供たちを連れて来る時に里帰りのように戻ってきているみたいだが、タイミングが悪く俺がいない時に戻ってきてしまっているようだ。

この年になると懐かしい顔が見たくなる事もある。今もこの島にいる子供たちは遊んだり訓練や勉強に勤しんだりしているが、たまには旅立った仲間たちとも話したくなる時もあるというものだ。

 

 

…いやいや昔を懐かしむなんてもっと老けてからでいい。俺はまだまだ若いはずだ!

精神の老化は肉体の老化に繋がるはずだ…たぶん。

こんな事を考えるくらいなら能力や身体を鍛えながらいつも通り旅をしよう。そして子供たちを助けていこう。

 

そうやって考え事をしたり自問自答したりしていると、ネバーランドに1隻の船が帰ってきた。

この船は仲間が子供たちを助けて連れてきたりするときに使用している船だ。

こういうときはみんなで出迎えるようにしている。知らない島へ連れてこられた子たちが不安にならないようにという配慮だ。

降りてきた仲間に声をかけて労い、新しく島に来た子たちにも優しく声をかけていく。

 

だがその中に、とても珍しい子がいた。なんか大きい金魚鉢みたいなのに入った人魚の子供だった。

 

「君は…人魚でいいのかな?」

 

「…………」

 

「ピーター、この子は見ての通り人魚だ。人間に捕まってしまい売られるところだったのを助けたんだが、どうやら逃げられないように怪我を負わされていて故郷までは帰れないらしい。だから落ち着いて傷を癒せるようにここに連れてきたんだ」

 

「そういうことか。お嬢ちゃん、ここは誰も君を傷つけたり売ったりなんてしないよ。君も怪我が治るまではこの島にいるといい。怪我が治ったらいつでも帰っていいからね」

 

人魚っていたんだな。人魚というものは話では聞いた事があるが、出会うのは初めてだ。

何も言わない人魚に代わって教えてくれた連れてきた仲間の話では、捕まって怪我をさせられて売られるところだったらしい…だからずっと怯えたような表情をしているわけだな…

 

「いやピーター。この子も今は初めて見る顔が多いからこんなんだが、船の中では子供たちとは結構仲良くしていたぞ」

 

「…なるほど。大人が怖いのか初対面が怖いのかわからんが、時間をかけて仲良くなっていくしかないか」

 

海王類のような怪獣みたいなのは見たことがあるが、人魚が存在するとは思わなかったな。

そういえばどこかで人魚の島がとか聞いたことがあった気がする。その時は「そんなところもあるのか」程度だったからなぁ。

 

本当は送り届けてあげたほうがいいんだろうが、どうやらかなり深海の奥深くにあるようで普通に潜っていける場所ではないとの事だった。

もちろん行くための方法はあるのだが、その場所は海賊などの無法者も多く存在しており、更にはドラゴンから話だけ聞いたことがある天竜人という権力をもって横暴を繰り返す者たちも来たりするらしい。

 

なるほど、それならこのネバーランドで傷を癒やして海の中を泳いで帰るほうが危険は少ないな。

人魚の子は本当に子供たちとすぐに仲良くなったようで、楽しそうに笑っているところから人間が嫌いだとか怖いだとかではないようで良かった。

 

 

怪我もそんなに酷いわけではなかったので、しばらく一緒に生活しながら養生していたらすっかり完治して元気いっぱいの姿を見せてくれた。

 

ネバーランドにいる間は、いろんな俺たちの知らない海底の事を教えてもらったり、人魚や魚人という者たちが暮らしている魚人島という場所での生活などを教えてもらったりと、小さな子たちだけでなく俺たちも知らないたくさんの事を聞くことができてとても有意義だった。

 

そんな話を聞いたものだから、俺だって行ってみたいなって思ってしまったくらいだし、シャンクスたちの冒険譚を聞いてワクワクしていた子供たちが行ってみたいと思うのも当然の事なんだろうな。

 

「ありがとうピーター。あなたたちのような人間がいてくれて良かったわ」

 

「どういたしまして。君さえ良ければまたいつでも遊びにおいで。ただ悪い人間もいるから見つからないようにね」

 

「うん!帰ったらみんなにピーターたちの事を言っておくね!」

 

「…あまり周りに吹聴したりはしないでくれよ?俺たちも君を拐ったような悪い人間に見つかりたくないんでね」

 

一緒に魚人島というところへ行くことはできないが、せめて見送りにとみんながネバーランドの浅瀬に集まって別れの言葉をかけていく。

みんなで海を泳ぐ人魚の子に手を振りながら、見えなくなるまで見送っているとロビンが俺に声をかけてきた。

 

「ねぇピーター。世界中にいるみんなに、歴史の古い何かの情報があったら教えてって言ってたんだけど、いろいろと噂とか昔から伝わるような話とかも集まってきたし、私もそろそろ海に出る準備をしようかと思うの」

 

「そうか…今なら世界中に仲間たちがいるし、ロビンに夢を諦めろというのも酷な話だもんな。まずはどこから行くつもりなんだ?」

 

「そうね…幸いにもネバーランドがあるのは偉大なる航路だし、いくつか候補はあるんだけどここからログを辿っていくのも悪くないと思ってるわ」

 

「無人島じゃない限りどこかに仲間がいるから大丈夫だと思うが気をつけろよ。あとビブルカードは忘れちゃいけないぞ」

 

もうロビンも旅立つような時期なのか…最初この島に来た時から十数年、思い出せば随分と明るくなったものだ。

まぁ元々俺という能力者がいたから子供たちもロビンの能力を見ても偏見なんてなかったし、俺たちじゃ教えられない知識も革命軍の人間から教えてもらったりと、「知る」という事に貪欲だったロビンだ。

たまに夢中になりすぎるところが心配だが、基本しっかりしてる子だし大丈夫だろう。

 

この島へ帰ってくるのにもビブルカードがある。これはこの島へ来てしばらくして知った事だったんだが、なぜか爪を原材料にして持ち主のいる場所を示してくれる便利な紙だ。

これをこのネバーランドにずっといる仲間の爪で作ることによって、仲間たちはログポースもエターナルポースも必要なく帰ってこれる。

 

そして世界各地に散らばっている仲間のビブルカードがあれば、その島までログポースなどがなくても向かう事だってできる。

俺もビブルカードを新しく生み出せるかと思って試してみた事があったんだが、爪をどうやって使ってビブルカードを生み出してるのかまったくわからなかったので作成できなかった。

 

ただ、複製したいビブルカードを持っていれば、それと同じビブルカードを生み出す事はできたので何度も爪をもらって作り直す手間だけは省けている。

 

だが、ビブルカードを爪から作り出すことができない代わりといってはなんだが、結構便利な使い方を習得することができた。

 

元々人間を紙にすることができるわけだし、他の物もできないかと思ったらできたわけだ。

つまり大きな荷物なんかを紙にして畳んで持ち歩き、使いたい時に元に戻せば重たい物や大きな物を持つときに重宝するわけだな。

 

問題というか欠点は、元に戻すのに俺がいないとダメだから、仲間が旅立つ時に使ってあげて楽をさせてやれるなんて事ができないことだ。

畳んで渡しておき、元に戻したい時に開くと戻るなんて都合のいい使い方はできないようだった。

 

このあたりは元からできない能力なのか、俺の熟練度が足りないためにできないのかがわからないからどうしようもない。

何せ普段は偽札生み出すか折り紙生み出すかしか使ってない能力なだけに、その2つに関してはかなりのものだと自負しているが、他に使う機会がないからあんまり思いつかなかった。

 

そのうち頭に残る異世界知識を掘り下げて、他に何かいいアイデアでもないか探ってみようかな。

 

思いついた中で一番使いたかったのは、俺が生み出した紙に文字を書いたら他の紙にも同じものが写されるというアイデアだったんだが、生み出した後にそういった付加能力を付けることは俺にはできなかった。

 

 

俺がやってきた事は世間に知られたら大犯罪だし、そんな事を自ら公表するような真似はしないが、どこで情報が漏れるかもわからない。

なのでネバーランド以外で仲間と「どこそこで子供が虐待されている」などという情報をやり取りする時は全部紙に書いて暗号にしている。

 

最初のほうはそれで情報交換していたんだが、とは言ってもアナグラムや表現を変えているだけなので解読される可能性は高い。

しばらくはそれを使っていたが、やはり機密性において安全と言えるものではない。

 

そこで俺が目を付けたのがロビンだ。彼女は歴史を探求している島の生き残りということで賞金首になってしまっている。

 

世界政府が歴史の研究を禁止しているのならば、俺たちは歴史を研究しなければいい。

 

 

 

つまり「研究はしていないから古代文字で情報をやり取りするだけならセーフ」ということである。

 

 

 

これならば誰に見られても読まれる心配はなく情報を交換できるのだ。

 

それを思いついてからロビンに少々申し訳ないと思いつつお願いして、みんなの先生役になってもらった。

 

きっと解読からなら相当な時間がかかるのだろうが、こっちには古代文字が読めるロビン先生がいるんだ。

 

子供たちもみんな脳が柔らかいのか、現代文字と古代文字を覚えることに成功していた。

ちなみに俺はいくつかの単語程度だ。やはりこの年季の入った上に異世界知識入りの脳みそには古代文字は荷が重かったらしい。

 

ちなみに同じ生徒でも成人したくらいの仲間たちは、俺と同じように苦労して俺より少し上程度だったので、やはり言葉や文字を覚えるのは若いほうがいいのだろう。

それでも子供の年に比べたら時間はかかるが、最後にはある程度は習得していたようだが。

 

そうやって古代文字を覚えた仲間たちは世界中で大いに活躍してくれている。

紙に情報を書いて交換したとして、どこかでそれを見ている者がいないとは限らない。

基本的に情報を交換した後の紙は燃やすか千切るかしているんだが、そんな時でも読めない文字で書かれていれば、もしその紙を処分できず奪われたとしても安心できるという寸法だ。

 

最初はロビンだけが先生になっていたが、今や当時ロビンに教えてもらっていた子が大きくなって新しく来た子に古代文字と現代文字を教えている。

もちろん教える時は古代文字なんて言わずに、俺たちが作り出した暗号だと言っている。

それと同時に「この暗号(古代文字)は読み書きできることを誰にも言わない」ということもしっかり教えているが。

 

 

 

 

 

世界政府に禁止されている事は「歴史の研究やポーネグリフの解読」らしいから、俺たちが古代文字を扱えるようになっても問題はないということだな。

 

 

 

 

 

 



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7.仲間たちの旅立ちと現在

 

 

ロビンからそろそろ旅に出るということを告げられて、歴史の研究なんていう他の仲間よりも危険な目に遭う可能性があるだけに何かお守りでも用意しようかと思っていた。

 

俺の能力で何かできないかとか考えていたんだが、紙で身を守る事なんてできないしなぁ…

 

水に濡れたり燃えたり破れたりしたら終わりの紙だけに、耐久性がないのがネックだ。

 

 

そういえば燃えるで思い出した。少し前に「俺たちは世界中を冒険してみたい」と言って2人連れでイーストブルーに旅立った仲間がいたんだが海賊になったらしい。

その2人はシャンクスたちから冒険の話を聞いて、自分たちもそんな冒険をしてみたいと考えていたようだ。

 

まぁ前にも海賊になった仲間はいるから、それ自体は本人の意思だしいいんじゃないだろうか。

なんでも海賊とは名乗っているが冒険主体で、出会って意気投合したから一緒に旅をすることにしたとか言っていた。

 

そこの船長が燃える身体だとか火を出すとかそんな感じの事を言ってた気がする。

 

そんな連絡を受けた時に一緒に聞いたのが、なんかワノ国とかいうところに行った時に、その国がまた酷いところだったらしい。

もちろんその国にもネバーランドの仲間がおり、話を聞いてみると子供を虐待どころか権力者が住民を虐待しているということだった。

 

そして聞かされたその国の惨状は子供が虐待されているとかいうレベルではなかったために、こういう国にこそ革命が必要なんじゃないかと後で聞いて思ったものだ。

 

その話を聞いた2人のほうも一緒に残ると言ったそうだが、「もしかしたらここと同じような国がまだあるかもしれない。お前はこのまま海を渡り、そういった国があったらそこへ行って俺たちが助けられたみたいに他の子を助けろ」と言われたそうで、そのまま燃える船長と一緒に旅をしているそうだ。

 

これまでその国の情報が来なかったのは、ワノ国が鎖国しているせいで連絡手段に乏しく、ネバーランドまで連絡することができなかったためらしい。

そして、ワノ国の仲間が「自分たちの代わりにネバーランドへ連絡しておいてくれ」という伝言を受け俺たちに連絡したという事だった。

 

そんな情報を受け、革命軍のほうに聞いた内容を伝えておく。できればそんな国のほうを優先して革命を起こしてもらいたいものだ。

 

そのワノ国にはシャンクスと同じ四皇と呼ばれる海賊がいるらしいが、やはり四皇と呼ばれるほどの海賊の後ろ盾というのは大きいものなのだろうか?

基本情報としては知っているが、実物を見ていないだけにどうも現実味がないのが本当のところだな。

 

もしかしたら会ってみたらシャンクスたちのように気のいい海賊なのかもしれないし、その名前だけを利用し笠に着た者たちが悪行を働いているのかもしれない。

もちろんシャンクスたちが例外で、ワノ国にいるのは本当に悪い海賊の可能性だって否定できないんだが。

 

 

俺たちが海賊などに出会わないように気を使いながら行動しているのでわからない事が多いが、世間的に海賊が悪でそれを取り締まるのが海軍とされている。

 

しかし、仲間たちからの情報によれば海軍が横暴を働くケースもあるらしいのだ。

 

最初は民間人を守るためにと志高く海軍の門を叩いたんだろうが、それがいつの間にか「俺が守ってやっている」という意識に変わっていったんだろうか?

 

そういう情報は町中にいる仲間から俺たちに伝えられて、俺たちから海軍にいる仲間へと伝えられるようになっている。

そこから上へと報告を上げてもらうようにしているのだが、それで変わる時もあれば変わらない時だってある。

 

もちろん悪事を働く数は圧倒的に海賊のほうが多いのは間違いないが、やはり中には良い海賊悪い海軍というのも存在するということだ。

 

仲間たちの中にも海軍で働いている者はそれなりにいるため、そういう同僚の報告を聞くのは心苦しいものもあるかもしれないが、海軍というのは人によって志す正義が違うらしいので自分にとっての正義を持ってくれていれば大丈夫だろう。

 

考え方によっては自分にとっての正義をそれぞれが掲げるなんてすごい軍隊だと思う。

例えばだが世間的に悪行だったとしても、海軍の中でそれを正義だと言って掲げた場合は許されるのだろうか?

それとも正義掲示審査みたいなものがあって「君の正義は認められないから変えなさい」とか言われるんだろうか?

 

今度海軍の仲間から連絡があった時にでも聞いてみようかな…

 

海軍で頑張っている仲間たちも結構実力を認められて昇進していっているみたいだし、部下を持って自分の正義を貫いているのだろう。

 

 

ロビンは海に出た時には追われる立場になる。今はこの島にいるからそんな心配は皆無だが、海軍だけでなく賞金稼ぎからも追われたりするだろう。

もちろんこの島に来た時から身を守るための訓練は欠かさなかったし、覇気や六式体術もちゃんと使用できるようになっている。

 

ロビンと出会う海軍や賞金稼ぎがネバーランドの仲間だったら問題ないが、それでもずっと一緒に過ごしていたわけじゃないし、時期がズレていて会った事がない仲間だっているわけだしロビンがネバーランドの仲間だと気付いてくれなかったら困るな…

 

よし、ロビンへのお守りは仲間だと分かるように俺が生み出した紙で何か作って渡そう。

 

水や汚れに強い紙質にして、よく女の子に作ってあげたようなブローチみたいな感じでロビンのハナハナの咲かせる能力に掛けて花を作ろう。

 

それなら邪魔にならないし、仲間たちならばきっとそれに気付いてくれる。

 

丸1日かけて何度も試行錯誤した結果、なんとか納得のできる出来栄えの花を作ることができた。

これなら例え海に入っても大丈夫だろう。火に弱いのは変わらないが、それでも燃えにくいはずだ。

 

「ロビン、これを付けて旅をするといい。仲間たちならばこれを見ればネバーランドにいたと気付いてくれるはずだ」

 

「綺麗な花ね。ありがとうピーター」

 

「決して無茶をしてはいけないよ。何かあればすぐに連絡しなさい」

 

「ふふ、大丈夫よ。そんなに心配しないで。この島に連れてきてくれたおかげで、私は1人じゃないって思い直すことができたわ。困った事があってもみんながいるから平気よ」

 

ロビンは心配しすぎだと言うが、俺は毎回こんな感じで見送っているのでいつも通りだ。

そして旅をするのに困らないように偽札の札束を渡すのもいつも通りなんだ。

 

今世界中でどれだけの偽札が出回ってるんだろう…?

 

生きていくためにお金が必要でお金を稼ぐために働く、だが働くという過程を省略して札束を生み出している俺は、その働く時間を子供たちの救済に当てている。

しかし偽札を生み出し続けてもう50年くらいになっている。いくら必要分だけとはいえそれなりの数の偽札が世界中を出回っているということになるな。

 

革命軍も動き各地で動いているようで、ドラゴンは直接世界政府を倒そうとしている革命軍のトップという事から「世界最悪の犯罪者」と呼ばれているらしい。

 

もし偽札が出回っている事を知られた場合、俺のほうが「世界最悪の犯罪者」扱いになるんだろうか?それとも偽札くらいじゃ最悪とまではいかないのかな?

 

世界政府の基準は聞いてみないとわからないけど、ドラゴンも何をやったらそんなレッテル貼られるんだろうな。

まさか世界中の国で「世界政府があるから我々は苦しい思いをしているんだ!」とか「君たちの苦しみを根本から無くすためには世界政府がなくならなければならない」みたいな街宣活動してないよな?

 

そんな事するくらいなら、前にも考えたけど隠密に世界政府の中枢を入れ替えたほうが確実だと思う。

 

ロビンを送り出しながらそんな事を考えつつ、自分でうんうん唸ってても答えは出ないのでドラゴンに会いに行くことにした。

サボも今ではすっかり青年になったので、革命軍のほうで活動していることが多いし他の仲間もいるからたまには顔を見にいくのもいいだろう。

 

ロビンが旅立った事も教えてやらないとな。ロビンとサボは顔見知りだからどこかで出会うかもしれないし、何も言わずに突然ロビンを見たらサボもビックリするかもしれない。

 

幸いにもネバーランドには常駐している革命軍の人間がいるから聞けば教えてくれるだろう。

彼も革命軍の人間ではあるが、最初にドラゴンと協力関係を結んでからずっといてくれているので、実質ネバーランドの仲間と同じようなものだ。

 

もう長い期間ずっと覇気の教育をしてきてくれているので、新しくネバーランドに来た子たちは訓練するときはまず彼に覇気の存在を教えてもらっている。

 

「少しいいかい?ドラゴンに会いに行こうかと思ってるんだが、彼は今どこにいるか知ってたら教えて欲しいんだが…」

 

「ドラゴンさんか。あの人も世界中を飛び回ったりしてるからなぁ」

 

「ちょっと聞きたい事があってね。ついでにサボや他の仲間たちの顔も見たいんだが、彼らも一緒に移動しているのかな?」

 

「いや、サボたちはたぶん革命軍の本拠地にいるんじゃないかな?もしかしたらドラゴンさんも戻ってるかもしれないし、そっちに行ってみるといい」

 

「ありがとう。とりあえずサボたちのところに行って、ドラゴンがいたらラッキーくらいに思っておくよ」

 

サボのビブルカードも、革命軍に入った仲間のビブルカードもあるので場所はわかる。場所というか方角がわかるだけだが…

まぁどれだけ移動する時間がかかるのかはわからないが、俺が旅をするときは荷物を全部紙にしてしまうので嵩張らないからすごく便利な能力だ。

 

例えば1人で移動する船だったとして、そこに積み込める食料などには限界がある。

食材なら腐ったりしないように気をつけないといけないし、出来上がったものなんて当然何日も持つわけがない。

魚を釣りながら調理して食べるなんてスキルがあれば別だろうが…

 

だが俺なら作ったものを紙にしてしまえばいいので、料理を紙にしておけばいつでも美味しいご飯が食べられる。

難点は1人で食べると、いつもの大勢で食べているのに比べて少々味気ないという気分になることくらいだ。

 

ネバーランドはその人数が多い分、食事は膨大な量になるから俺が旅するときの食事のために追加で作ってもらう必要もない。

みんながお腹いっぱい食べられるように、食材の買い出しもだが畑など自給自足の生産活動もしているからだ。

 

大多数の仲間は世界中に散らばっているが、中にはこの島で成長し結婚したりする子たちだっている。

そういった子たちはこの島に根を下ろしたいという事で、いろいろと役立つ事をやってくれたりしているわけだ。

 

勝手に無人島に乗り込んで名付けたネバーランドだが、今じゃ普通に国だと言われても納得できるくらいに成長している。

それもこの島の磁場のログが他の島に持っていかれているおかげなので、この島を見つける事ができたのが何よりの幸運だったのかもしれないな。

 

ただ、俺の一番の悩みというか…仕方ないと思いながらも申し訳ないと思う事がある。

 

それは、仲間全員の顔と名前が一致しなかったりわからなかったりすることだ。

 

子供たちを助けて連れてくる時に多い時は1隻に3~400人くらいいたりするし、それが俺だけじゃなく世界中のみんなが助けてくるため、1度に1000人以上が同時に来たりすると本当にわからなかったりするんだ。

 

そういった中には名前のない孤児なんかも結構多いため、その際には島にいる仲間が付けてあげたりするんだが俺が名付けた事はない。

 

なのでよく接する子はまだわかるんだが、まったくわからない子もいるというのが現状の悩みだな。

子供たちや仲間たちは俺の事をわかっているから困った事は少ないんだが、もういっそ名札とか付けてもらっておくか?

 

 

 

 

 

革命軍も世界中で同志を集めているとか言ってた気がするから、ついでにドラゴンに「どうやったら仲間の名前を覚えられるか」って聞いてみようかな。

 

 

 

 

 

 



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8.革命軍と新たな仲間

 

 

「ピーター!お久しぶりですね。突然どうしたんです?」

 

「たまには顔を出すのも悪くないと思ってね。少しばかり寄らせてもらったんだよ。ドラゴンはここにいるのかい?」

 

「そうでしたか。残念ながらドラゴンさんはここにはいませんね。何か用事でもありましたか?」

 

「いや、少しばかり聞いてみたい事があっただけなんだ。いなかったらまたの機会にするよ」

 

あれからネバーランドを出発し、ビブルカードを頼りに海を進みながら革命軍の仲間たちの元へとやってきた。

ちょうど見張りをしていたのが仲間の1人だったので問題なく受け入れられ、元気そうにしている事を確認できたが肝心のドラゴンは留守のようだった。

 

そのまま近況を聞いてみると、革命軍は世界政府加盟国のいくつかで革命を起こしているらしい。

そういえば確かに革命軍経由でネバーランドに来る政府の被害者の子供たちが多くなってきていたな…

ということは革命が成功したのか失敗したのかわからないが、それが原因で難民となっている子供が増えているのか?

それとも革命が起きなかったら、話に聞いていたワノ国みたいに一部の人間がその他大勢を虐げるような国だったのだろうか?

こればっかりは直接聞かないとわからない事だけに、ドラゴンの留守は残念だった。

 

「あ、ピーター!どうしてここに?」

 

「久しぶりだね。サボがあんまりネバーランドにいないから元気にしているか見に来たよ」

 

「うっ、それを言われると…みんなは元気にしてる?」

 

「ああ、みんな何も変わらず元気にしているよ。そうそう、ロビンがこの前海に出てね。サボもロビンを知っているだろう?どこかの海で出会うかもしれないから教えてあげようと思ったんだ」

 

「そっかぁ、ついに海に出ることにしたんだな。なら確かにどこかで会うかもしれないな」

 

サボも元気そうにしているな。あと確か女の子も革命軍にいたはずなんだが…

世界政府というか、天竜人にひどい事をされていたという女の子も何人か預かっていて、革命軍が連れてきた1人がもう誰もそんな目に遭わなくてもいいようにって頑張っていたのを思い出した。

 

「あれ?ピーター?」

 

「おお、ちょうど君の事を考えていたんだ。元気そうな顔が見れて嬉しいよ。えーと…」

 

「あはは、ピーターの事だからあたしの名前思い出せないんでしょ?あたしの名前はコアラだよ」

 

「そうそう、コアラだ。君が来た時の事は思い出せるんだが、昔の事ばかり思い出すのは年なのかもしれないな」

 

「そんな事言いながら今でも覇気や能力を鍛えてるの知ってるんだから。あたしが一番ネバーランドのみんなと連絡取ってるんだからね。あとロビン姉さんが旅に出たのもとっくに教えてもらったよ」

 

どうやらコアラは俺が名前を思い出せないのを知っていたようだ。

…もしかしてネバーランドのみんなが知っている事なのか?俺だけが知られていないつもりだったとかだったら落ち込みそうだ。

 

しかもコアラが革命軍でネバーランドと連絡する係でもやってるんだろうか?

 

俺が直接連絡を受ける事は少ないからなぁ。大体島にある電伝虫には連絡係が報告を受け取って俺に伝えてもらう事が多いため知らなかった。

別に元気にしているか顔を見るついでだけど、俺が来るより先にロビンが旅だった情報が伝わっていたのか…やっぱり情報伝達が早いって素晴らしい事だ。

 

他の仲間たちはいないのかと聞いてみたが、コアラの話では革命軍として世界各地にいるようでここにはいないらしい。

ちなみに革命軍として派遣された先でネバーランドの仲間と会う事のほうが多いので、本人たちも結構出先で仲間と会える事は喜んでいるようだ。

 

そこからサボやコアラも含めてみんなの話を聞かせてもらったりしていった。

もちろんネバーランドとは関係のない革命軍のメンバーも、サボたちの革命軍としての仲間はどんな感じなのか知りたかったので積極的に話すようにしていた。

 

「そうか…革命軍の計画が成功したことで難民が増えたのかと思ったが、その国自体が相当酷かったんだな」

 

「ああ。国民を食い物にする国王や貴族たち、そして今日の食べるものすらままならない国民たちを多く見てきたんだ。だから子供たちだけでもネバーランドに連れて行って、国民の力で腐った貴族たちを淘汰しなければいけなかったんだよ」

 

「そこまでなのか…国民の声が届かない国というのは悲しいものだな」

 

「まったくだ。つくづく天竜人やそんな連中をなんとかしないといけないって実感してるよ。もし仮にピーターが大量のお金を生み出したとしても焼け石に水の状態だったんだ。もう国民たちも限界にきていたよ」

 

「うん?どうしてサボは俺がお金を生み出せるなんて知ってるんだ?見せた事はなかったはずだが」

 

「なぁピーター。ネバーランドはいろいろ自給自足してるのは俺も一緒にやってたから知ってるけどさ。あれだけの人間をあれっぽっちの畑とかで養えるわけがないだろ?そうすると何処かで買ってこないといけない。でも仲間たちからお金が送られて来たりしているわけでもない。更には俺たちが旅立つときには餞別として札束まで渡されてるんだぜ?そしてピーターの能力は紙を操ったり生み出したりすることだ。もう答えは出てるようなもんじゃないか」

 

「…まいったな。それみんな知ってるのか?」

 

「いや、俺が勝手に察してただけだから気付いてる仲間はいるかもしれないが、誰かとそういう話をしたことはないな。まぁ、もしかしたら全員ある程度大きくなったら気付いてて言わないだけかもしれないが」

 

自慢するような事でもないから誰にも言ってなかったが気づかれてる可能性もあるのか…

俺が偽札を作れる事を教えたのは、かなり最初の頃の仲間とロビンくらいだ。

 

まぁネバーランドで勉強などを教えたりする中にお金についても教えてるはずだから、もしかしたらそれで気づく子もいるのかもしれない。

しかも思い切って聞いてみたらコアラも他の革命軍にいるネバーランドの仲間もこれについては知っているようだった。

 

そこまでしてあれだけの数のみんなを養ってくれてたわけだから感謝しているとは言われたが、考えてみればそりゃそうだよな。

子供たちを新たに連れて来た時などに積み下ろされる大量の食料とか見てたら、そりゃ買ってきたってわかるだろうし、みんなが旅先で苦労しないようにってサボの言う通り餞別だって渡している。じゃあそのお金の出どころは?ってなるよな。

 

もしかしてネバーランドの仲間たちは全員、俺がお金を生み出せる能力とか勘違いしてるのかも?その派生で折り紙を出したりしてるとか思われてる可能性もなくはないのか…?

今まで誰かに偽札だって面と向かって言った事はないから、そんな風に考えてる仲間もいそうな気がする。

 

今のサボとの話だって「ピーターがお金を生み出したとして」って言ってたし、そんな悪魔の実の能力だと思われてるのかもしれない。

 

それは置いといて、たまには仲間たちに会いに行くのも悪くないな。

いつもはドラゴンじゃないが俺もネバーランドにいない事もあるし、そういう時に戻ってきたりした仲間とは会えない事も多い。

そして仲間たちがいない国や町などを周るようにしているため顔を合わせない事もある。

 

よし、せっかくだし俺が一番最初に助けたあいつに会いに行こう。

 

「長居してしまってすまなかったな。俺はもう行くとするよ」

 

「えー?せっかく来たのにもう行っちゃうの?」

 

「コアラも身体に気をつけるんだぞ」

 

「なぁピーター。少しだけいいか?」

 

「ん?どうしたサボ」

 

そろそろ出発しようと別れの挨拶をしていると、サボが少し2人だけで話したいようだ。

みんなから離れた場所へと移動しサボの話を聞いてみたんだが、

 

「ピーター。うちのドラゴンさんが世界政府や海軍から世界最悪の犯罪者って呼ばれてるの知ってるよな?」

 

「ああ、それは聞いたことがあるがそれがどうしたんだ?」

 

「それは革命軍が直接世界政府を倒そうとしているから、海賊たちとは別ベクトルで危険視されてるからなんだけど」

 

「そうだったのか」

 

「今はまだ大丈夫かもしれないけど、もしかしたらピーターもドラゴンさんと同じように犯罪者として扱われるかもしれないんだ」

 

「…安心しろサボ。俺がやってきた事を考えれば犯罪者になってておかしくない。むしろ今はまだなってないのが不思議なくらいさ」

 

「全部覚悟の上ってことか…なら一応だけど言っておくよ。世界政府はまだピーターの事を知らないが、見つかった時の事も考えておいてくれ」

 

サボが何を心配しているのかわからないが、俺は幼少の頃にすでに両親の仇だったとはいえ山賊を殺めている。

更に生まれた島を出てからはずっと人さらいをしてきたようなもんだからな。

 

どれだけ取り繕ったところで犯罪者である事には変わりない。

 

もし見つかってしまったら、俺の首にも数百万ベリーとかの賞金が懸けられるのだろう。

 

偽札?あれは島に紙幣を作る工場みたいなものがあるわけじゃないし、誰が作ったかなんてたぶんわからないはずだ。

 

サボからの話も終わり、みんなに別れを告げて海へと出る。

次は最初に出会ったあいつのところに向かってみよう。久しぶりに会うし楽しみだな。

 

しばらく海を進んでいって着いた島で、かなり久しぶりの懐かしい顔を見ることができた。

 

「久しぶりだなピーター。お互い年をとったもんだな」

 

「まったくだ。だが元気そうで何よりだよ」

 

「それもお互い様だ。まぁ家に来い。今日は時間あるんだろ?」

 

こいつは俺が生まれた島を出て最初に連れてきた仲間第1号だ。

そして今ネバーランドの仲間たちが、世界中で自分たちと同じような境遇の子供たちを救いたいと言って旅立っていくきっかけを作った第1号でもある。

 

今は情報を集めたり若い仲間たちのサポートを行っているようで、困った時に相談したりする頼れる先輩といった感じのようだ。

 

そいつの家に迎えられて、何よりビックリしたのは奥さんと子供がいたことだった。

なんで言わなかったのかと聞いたら「だってお前今も独り身だろ?いくら子供たちに囲まれてるからって、なんか俺だけ結婚したって言うのもなぁ」とか若干こっちを気遣われた。

 

いや、ネバーランド内でだって結婚する仲間はいるんだから、別にお前が結婚してても文句なんて言わないって。しかも子供までいるんだからお祝いとか渡したよ?

幼少からの知り合いなだけに返ってその気遣いが切ない気持ちにさせられるわ。

 

「なぁピーター。話は変わるが、ネバーランドに来る子供たちもそうだが、世界中に海賊が増えたり国王が暗愚だったりで様々な所で難民が増えたりしているのは知っているか?」

 

「ああ、ここに来る前に革命軍にも寄ってきたよ。国王や貴族たちが守るはずの国民を虐げているらしいな」

 

「その通りだ。俺も世界政府の加盟非加盟問わずいろんな島や国からの情報を聞いているとな。あまりにもその惨状に言葉を失うことも多々あった。そこで俺はネバーランドを増やせないかと思ってな」

 

「ネバーランドを増やす?そこでも子供たちを助けて育てていくのか?」

 

「やってる事はネバーランドと同じだ。世界は広い。ネバーランド1つだけだと世界中のそういった者たちを助けられないっていう結論に至ったんだ」

 

「なるほどな。それをこれからやっていくということか?」

 

「いや、実はもう第2のネバーランドはあるんだよ。直接伝えたほうがいいかと思ってネバーランドに行ってもなかなかお前と会えなくてな。ちょっと無茶な事もしたが、ノウハウはあったからな。お前もみんなに結構な金を渡してただろ?だからネバーランドの仲間にも協力してもらって作り上げることができたんだ」

 

「お前…そういうことは俺にも言えよ。お前たちだけでやるなんて大変だろうに」

 

「ピーターの作り上げた子供たちの楽園を、助けられた俺たちが引き継いでるんだぞって驚かせたかったんだ。何度行ってもあんまり会えないから、そのまま伝えられずに今になるって感じだな」

 

「名前はネバーランドのままなのか?第2のってなんか変な気がするな」

 

「そこはピーターに名付けてもらおうと思ってたんだよ。遅くなっちまったが、ぜひピーターが決めてくれ」

 

「…すぐに言われてもなぁ。確かネバーランドは、ネバーネバーランドとも呼ばれてたな」

 

「じゃあそれでいこうぜ。第2のネバーランドは、ネバーネバーランドだ」

 

奥さんと子供がいた事実もビックリだったが、まさかネバーランドが増えてるとは思わなかった…

驚かせたいのはわかるが水くさいな。それに俺は偽札でなんとでもなったが、自分たちだけでネバーランドを、いやネバーネバーランドを作り上げるのは大変だっただろうに…

 

しかも詳しく聞いてみれば、かなり前からそういった活動もしていたようだ。

 

どうやら別で協力者もいるらしく、かなり昔にたまたま向かった先の島で奴隷にされている子供を見つけて連れ去ったはいいが、それが天竜人とかいう人間の奴隷だったらしく追いかけてきたんだそうだ。

その時に偶然助けてくれた人がいて、連れてきた子供と一緒に匿ってもらいながら話しているうちに仲良くなって今も交流があるんだって。

 

俺たちよりも年上の人らしいんだけど、すごく軽快な動きで追手を翻弄していったそうだ。

 

助けてもらったんなら、いつかは俺もその人にお礼を言っておかないとな。

 

更には本当にネバーランドと同じように、いざというときの身を守るための訓練などを行っていっていたらしい。

 

確かに世界中にどれだけの国や人がいるのかわからないが、世界政府加盟国だけでも170国以上あるらしいからな。

加盟していない国も合わせれば相当な国の数になるだろう。それだけの数の国で難民や虐待などの子供たちを助けるとなると確かにネバーランドだけじゃ溢れてしまっていたかもしれない、

 

 

 

次の日、俺はネバーネバーランドを見せてもらいに行くことになった。

 

 

 

 



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9.動く時代と奇縁

 

 

 

ネバーネバーランドは本当にネバーランドによく似ていた。

 

 

似ていたというか、そりゃ第2のネバーランドとして作ったらしいから似ていて当然なんだが。

 

「ピーターだ!ピーターってみんなを助けてるすごい人なんでしょ?」

 

「いや、俺は全然すごくないよ。周りのみんなが俺を助けてくれたから、今こうやってみんなを助けることができているだけさ」

 

「ふーん、でもみんなピーターのおかげだって言ってるよ?」

 

「きっかけはそうでも今じゃ俺の力なんてちっぽけなものさ。でも、みんなで力を合わせれば1人じゃできない事だってできるんだ。君たちも仲間を大切にして、1人じゃ難しい事は仲間と協力するんだよ?そうすればできないことなんてないさ」

 

「「「「はーい」」」」

 

このネバーネバーランドの子供たちにも俺の事は教えているらしく、ピーターが来たと行ったらみんな集まって一斉に喋りだすから少々困ったりもしたが、知らないおじさんが来たというのにみんな友好的に接してくれていた。

 

ここまで作り上げるなんて大変だっただろう…その分ネバーランドより自給自足の部分に力を入れているらしいが、なんというか感慨深いものがあるな。

 

ここはネバーランドと同じ目的で、そしてネバーランドだけではカバーできない地域の子供たちを助けるという事のために作られている。

そしてやはり海賊などに見つからないように、通常のログでは辿れない島を利用することでネバーランドのように見つかりにくい島になっているようだ。

 

ネバーネバーランドはネバーランドよりも世界政府や海軍に近い場所にあるだけに、世界政府の被害を受けた子供を連れてきたりが多いらしかった。

 

そのため海賊などのわかりやすい脅威よりも、政府の諜報員などといった方に細心の注意を払っていると言っていた。

だが子供を連れて行かれるという事に対して政府の諜報員が調べたりするのか?とか思っていたが、世界政府や海軍本部などがある近くでは天竜人などといった権力者がたまに出歩いていたりするらしい。

 

過去に何度か協力者にも力を借りて奴隷を助けた事があったり、逆に協力者から頼まれて奴隷にされていた者を匿ったりしていたため、そういったところからも諜報員が調べたりしている事もあるようだ。

 

とは言ってもそのあたりの情報は全部教えてもらっているみたいで、その協力者の知り合いに情報通の人がいるらしい。

普段はぼったくりをしているバーをやっているらしいが、仲間の場合は情報交換したりが主のようだ。

 

そんなネバーネバーランドでしばらく子供たちや面倒を見ている仲間たちと一緒に過ごし、別れを惜しみながらもネバーランドへと帰ることにしたんだ。

 

そこで、なぜか俺にお礼を言いたいという女性がやってきた。

 

「ピーターさん。あなたのおかげで私たちは今生きていられています。私たち家族は以前この地へ来てとてもつらい目に遭いました。私自身も病でもはや幾ばくかの命だと思っていました。しかしあなたの作り上げたこの島のおかげで、私も夫も子供も生きていられるのです」

 

「いや、ここは確かに第2のネバーランドとして作られたのかもしれない。でも作り上げたのは俺の仲間たちだ。だからあなたもそんな事は気にせずこれからやってくるだろう子供たちを見守ってあげてほしい」

 

やはりこの人もひどい目に遭ったのだろう。今は見る限り病の様子も見られないし、元気になったのであれば何よりだ。

 

そんなお礼を受けるのは仲間たちだと思うが、その気持ちでこれからやってくる子供たちに接してくれれば何も言うことはない。

 

そのまま見送られつつネバーランドへと帰り、みんなに土産話としてネバーネバーランドの事やサボたちの事を話したりしつつ過ごしていた俺だったが、ここから少し慌ただしい事態へと進んでいくことになる。

 

 

 

 

 

以前海賊となりワノ国の事などを教えてくれた仲間から連絡がきた。

最初はいつも通り元気にしている連絡かと思っていたんだが、そういうわけではないようだ。

 

内容は俺たちに情報を提供してほしいという頼みだった。仲間からの頼みなら断る理由などないが、情報が欲しいのはその海賊団との事らしく俺たちの力を借りたいとの事だ。

 

「ピーター。突然の連絡ですまない。少しみんなの力を借りたい事態が起こってしまったんだ」

 

「ワノ国の事を教えてもらって以来だな。声を聞いたところ元気そうだが何かあったのかい?」

 

「ああ、ネバーランドの仲間たちに人探しをしてもらいたいんだ。ただ、俺たちが探している事は知られたら逃げられるかもしれないから、見つけたら教えてほしいんだよ」

 

「ふむ、迷子や船員探しといった類ではなさそうだな。事情を教えてくれないか?」

 

聞けばその海賊団で仲間殺しをして逃げたヤツがおり、そいつを追って意気投合して一緒に冒険することになった燃える船長が飛び出そうとしたが、それを仲間たちが止めたんだとか。

どこにいるのかもわからない相手を闇雲に追いかけても、相手は罠を張り待ち受ける可能性だって仲間を増やして多勢に無勢になる事だってあり得る。

 

そういう事を説明した上で、人を探すならば伝手があるからしばらく頭を冷やして待てと押し留めてあるのだとか。

船長が飛び出そうとしたのかと聞いてみたら、どうやらワノ国の後に別の海賊団に吸収されていたようで、今は白ひげ海賊団というところにいるということだった。

 

その時知ったそうだが、白ひげ海賊団にも、その傘下の海賊団にもネバーランドの仲間がいたらしい。

俺も誰がどこの海賊団にいるとか詳しい事までは知らない事が多いので初耳だったが、基本的にピースメインという種類の冒険したりする海賊には仲間がいたりするみたいだ。

 

そういう海賊は民間人を襲ったりしないから、安心して冒険を楽しんだりできているということだった。

白ひげ海賊団も仁義を重んじる白ひげ船長の影響か、そういう気質の船員が多いためネバーランドの仲間たちも溶け込みやすいようだな。

 

しかし白ひげか…その名前最近聞いた気がするな。あぁ、シャンクスから聞いたんだったか。

 

そして船長の白ひげに事情を説明した上で、俺たちに協力を求める事の許可をもらい連絡してきたそうだ。

 

ちなみに燃える船長は今は2番隊の隊長という役職についているらしい。

 

その仲間殺しをしたのが2番隊の隊員だったため許せずにそのまま飛び出そうとしたのだとか。

だが、仲間から見てもその燃える隊長は直情径行というか、思い込んだら突っ走るタイプなので危なっかしく心配だったため、白ひげにだけ俺たちとの関係を伝え相談したそうだ。

 

本来ならば普段から息子と呼んでいる船員を殺されて怒り狂うかと思いきや「嫌な予感がする」と慎重な姿勢だった白ひげ船長を見て、白ひげ海賊団に入った仲間のほうも念のため俺たちに協力を頼む事を決めたらしい。

 

話を聞いていけばその仲間殺しをした男は相当危険な男のようだ。

 

俺の仲間たちもその燃える隊長を心配して一緒に行く可能性が高いし、俺も念のため他の仲間たちに協力してもらうほうがいいな。

俺はその仲間殺しの男の名前や風体など詳しい情報を教えてもらい、世界中の仲間たちにその人物を見かけたら教えてくれるように頼んでいった。

 

その男に仲間がいるかもしれないから、もしいたらその仲間の情報も教えてもらうようにし、最後に「決して近づいてはいけない」と危険性も伝えてある。

 

これで人がいる場所ならばどこにいてもすぐに捕捉することができるだろう。

 

その事を教えてもらった白ひげ海賊団の電伝虫にかけて仲間に伝えておいた。

 

 

 

 

 

「…そうか、そっちは少し大変な事になっているようだね」

 

「ええ、ここで暮らしている仲間たちの話ではここ最近の間での出来事みたいだから、そんな豹変具合に戸惑っている国民のほうが多いみたいだわ」

 

「何か作為的なものを感じるな。くれぐれも気をつけるんだよ」

 

「また何かあれば連絡するわ。1人では行動しないから心配しないで」

 

ロビンから連絡が来たので話を聞くと、今はアラバスタという国にいるようだ。

仲間からの情報を元にいくつかの島を巡ってみたが得られるものはなかったようで、そのまま次の情報を元にアラバスタへ向かったと。

どうやらかなり歴史の古い国だということを仲間から聞いていたので、知りたい事があるかもとアラバスタにいる仲間を頼って行ったらしい。

 

そしてやはり渡しておいた紙ブローチは役に立ってくれたみたいだ。

 

元々折り紙を教えたりしているときに、女の子にはこうやって紙の装飾品を作ってあげたりしていた。

 

小さな女の子ならば別として、成人女性ならば普通なら貴金属の装飾品を付けるのに、わざわざ紙のブローチや髪飾りを付けているってだけで仲間たちは「もしかしたらネバーランドの仲間かな?」と俺たちとの関係を気づく事ができるのだろう。

 

特に俺の場合は色だって好きな色で紙を生み出すことができる。

つまり花びらの色が違う紙の花を作る事だってできるのだ。今の俺には後から詳細な部分だけを変えられないから最初の時点では複雑な色模様の紙にしか見えないんだが…

これを花にした時に花びらの部分の色が違うようにしておいたのだ。これに本当に苦労した。

 

アラバスタでは仲間とも無事合流することができ、ロビンは賞金首になってしまっているため変装などをしながら国や遺跡などを見て回ろうという予定だったのだとか。

 

だがその国は今随分と荒れているようで、三大勢力と言われる七武海という集団の中の1人がその国で起きている反乱の旗頭になっているらしいのだ。

なんでそんな人物が反乱の旗頭なんだ?と思ったら、その七武海はアラバスタを拠点に活動しており、長い期間ずっとアラバスタにやってきた海賊などを退治したりしていたという事だ。

 

そして国軍や、下手をすれば国王などよりも信頼を得ている男のため、国に不信感を持った人間たちはその男をトップに据えているという事だった。

そこにいる仲間の話では元々国王は善政を敷いていた平和な国だったのだが、砂漠の多い国で生命線となる雨が降らなくなり、そこに国に対する不信が募っていったとの事だ。

 

そこまではまだ反乱などという行いには至らなかったのだが、決定打として周囲の雨を奪うという物を国が保有していると判明した事で事態が大きく動いていったらしい。

 

だが仲間が言うには「そんな事をするような国王ではないはずだ」という事から、反乱組織の旗頭である海賊の調査などを行っていると言っていた。

 

それを聞いてまず思ったのが「今まで善政を敷いていたような国王が急に心変わりをするものなのか?」ということだ。

大体周囲の雨を奪うものなんてそんな狭い地域だけをピンポイントで雨を降らせたりできるものなんだろうか?

国王と話したことがあるわけじゃないけど、仲間がそこで生活していてそういうくらいだし何か事情がありそうだな。

 

反乱を起こしているのだって国民なわけだし、どういった経緯で反乱なんて言われるほどの事を起こすに至ったのかわからないが、善王なのであればさぞ心を痛めていることだろう。

 

今俺が話を聞いて考えられるのは、洗脳や脅迫といった類だな。

 

もし黒幕がいて、何かの目的のために国王にそれをやらせていたのであれば、突然国王が雨を奪うという愚行に及んだとしても納得できる答えだ。

誰か近しい人間を人質に取られたりしていれば、もしかしたら雨を奪う命令に逆らえなかったなどあるかもしれない。

 

 

それに、今アラバスタで行われている事は革命軍に似ているとも思えるが、どうにもきな臭い感じがする。

 

「ピーター?さっきロビンが連絡したと思ったんだが何かあったのか?」

 

「いや、少し気になる事があってな。今アラバスタで反乱の旗頭になっているという海賊について詳しく教えてほしいんだ」

 

「何から話せばいいんだろうな。ロビンから聞いた話もあるかもしれないが、俺たちがわかっているのは数年前くらいに王下七武海の一角であるクロコダイルがアラバスタを拠点にするようになったんだ。そしてそこからはアラバスタに来る海賊を退治したりして国を守るような行動をするようになった」

 

「それで?」

 

「最初は七武海なんて言われても元が海賊船の船長をしていたような賞金首だし何かあるんじゃないかと警戒していた国民も、国に近寄る海賊を片っ端から退治していくクロコダイルをやがて信用するようになり、今では国王や国軍よりも頼りにされているという声もが聞こえてきたりするな。だからこそ反乱軍なんて言われてる集団をまとめ上げるのにクロコダイルの名前は効果を発揮するんだろう」

 

「なるほどな。それだけ聞くと腰を据えた場所を荒らされないために動いているとも、国民のために動いているとも考えられるな。ちなみにそのクロコダイルはどんな風体のやつなんだ?」

 

「そうだな…顔の真ん中あたりに横に大きな縫い傷があり、葉巻を好んでいるのか咥えている事が多いな。まぁ顔は手配書なんかを見ればわかるだろう。あと大きな特徴として左手がフックになっているな」

 

「左手がフックだと…?それは間違いないのか?」

 

「ああ、俺も直接見たことがあるから間違いないな。俺たちはこの争いのどちらにも加担していないが、国が大きく乱れるようならまっさきに被害に遭うのは子どもたちだ。だからこの国にいるネバーランドの仲間は国王側と反乱軍側それぞれの近くにいて、危なくなれば避難させたりできるようにしてあるんだ。それがどうかしたのか?」

 

「いや、なんでもない。また何かわかったら教えてくれ」

 

少し気になってしまったのでその旗頭になっているという海賊の名前や風体などの情報を聞いてみたところ、俺の不安は一層大きくなっていった。

というもの、片腕がないというのはシャンクスもそうだったし何とも思わなかったのだが、その腕にフックを付けているらしいのだ。

 

片腕にフックをつけた海賊か…しかも今でこそ七武海とかいう立場で懸賞金も解除されているが、元々は海賊船の船長をしていたらしい。

 

俺がこの名前(ピーター)を名乗っているからなのか、子供を連れてきてネバーランドと名付けた島にいるからなのか、どこか奇妙な縁を感じる。

 

普段の俺ならばそれを聞いたからと言ってわざわざ向かうような事はしない。

そもそも、俺が勝手に異世界知識で片手にフックを付けた船長を怪しいと思っているだけで、クロコダイルという男は本当にアラバスタという国を想って反乱軍に力を貸している可能性だってあるのだ。

 

それに俺はなんちゃってピーターパンなだけのおじさんなので、七武海なんていう有名な相手をどうこうすることなんてできはしない。

だが聞いてしまった以上、心の奥にあるモヤモヤを解消するには直接行って見てみるのが一番だ。

 

取り越し苦労ならばいい。それなら争乱の中にあるアラバスタでいつも通り子供たちを救ったりしていくだけだ。

だが何が起こるかはわからないので、一応念には念を入れてから行動することにした。

 

 

 

各方面への連絡を行い、準備を整えた俺たちはそこにいる仲間のビブルカードを頼りに一路アラバスタへと向かった。

 

 

 

 




以下蛇足

現在の時間軸は原作開始1~2年前くらいです。

黒ひげが白ひげ海賊団4番隊隊長サッチを殺してヤミヤミの実を奪って逃亡し、各地で仲間を集めて原作にて登場したことから、新世界から逃亡しながら各地を回り楽園まで移動しているわけですし少なくとも1~2年はかかっていると考えています。

そして今後に必要なため少々強引ですが主人公にはアラバスタに向かってもらいました。

アラバスタは、ロビンがいない事で暗躍しつつも反乱軍を率いているクロコダイルということにしました。
原作ならば暗躍しながらも「あくまでも内乱だから」と無関係のようなスタンスでしたが、国王以上に支持を得ていて力もあるクロコダイルに反乱軍が協力を求めない理由はないはずなので、今作では旗頭として先頭に立ってもらいました。

決してフック船長なのに暗躍だけしているのが味気ないと思ったわけではありません。


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10.暴かれる陰謀

 

 

 

「ここがアラバスタか…」

 

「突然ピーターが来るなんて連絡があったからビックリしましたよ。一体どうしたんです?」

 

「いや、何か確信があって来る事にしたわけじゃないんだ。ちょっと気になるというか、モヤモヤしたものがあってね」

 

アラバスタへと到着した俺たちは、この国に住む仲間に迎えられていた。

 

反乱だとか物騒な単語を聞いていたから国中が殺伐とした雰囲気に包まれているのかと思っていたが、思っていたよりも町は賑わっているようだ。

無関心というわけではないだろうが、そこまで国王などを敵視しているようにも見えない。

 

お店で食事をしながら働く人たちに話を聞いてみても「あの国王様がそんな事をするのかねぇ?」などと半信半疑といった具合だった。

そういった話を聞いてみるだけでも、国王が権力を振りかざしたり悪政を敷いたりしていないことがわかる。

 

これでもし雨を奪ったのが事実なのであれば、恐らくだが国王が脅されたりしている可能性が高いのかもしれない。

 

食事と情報収集を終えて、新しい報告もあるからとこの国に長くいる仲間の家に招待されたので向かい報告を聞いていく。

ちなみにこういう場合でも自分たちの活動(子供たちの救済)の場合は暗号を使うが、今回はこの国の現状に関する情報なので暗号は使わない。

 

「ピーター。どうやら仲間たちで調査した結果、いろいろと新しい情報が入ってきた」

 

「ああ、内容を聞かせてくれ。俺がわかっているのは国王が雨を奪い、物的証拠もある。それによって国民が反乱を起こし、そして七武海が旗頭になっているということだ」

 

「今この国で水面下で動いている集団がいることがわかった。規模などはわからんが、どうやら国王軍の中で裏切り工作をしたり国民を扇動したりしているらしい」

 

「それは確かなのか?」

 

「間違いない。俺たちの仲間にも勧誘があったようだ。船旅をしながら賞金稼ぎをしていた仲間に声がかかり、そしてアジトがこの国にあるということだった。そいつらが言うには、理想国家の建設がなんとかとか言ってたみたいだな」

 

「…それで?」

 

「その時は断ったらしいんだが、そんなに間を空けずにこの反乱騒ぎだろ?俺たちだって住んでいるこの国を荒らされたくない気持ちもある。だからそっちにも仲間を潜り込んで調査してもらっていたんだ」

 

仲間からの報告はまさかの内容だった。国王への不満や不信が原因で反乱が起こっているのも確かなんだろうが、そこに扇動する者たちがいるとは…

だが反乱軍へ参加するように扇動しているということは、当然反乱軍が勝ってほしいということだよな。

 

反乱軍が国王を打ち倒したとして、一体誰が得をするんだ?王制から民主制にしたいのか?

 

だが国王が善政を敷いている国で、わざわざ革命を起こしてまで民主制にする必要があるようには思えないんだが…

今革命軍がやっているような、国民を顧みないような君主を打ち倒すためなんだとしたら反乱軍が勝って欲しいために水面下で工作するのも頷ける。が、今回は当てはまらないはずだ。

 

だとしたら大臣みたいなのが国王の座を狙ってるとかもあり得るのか。

それか、俺の勝手な思い込みだから考えないようにしていたが、クロコダイルの立場ならそれもあり得るんだよな。

反乱軍が国王を倒したとして、次に国王に収まる可能性が高いのは旗頭であるクロコダイルだ。

 

海賊としてこの国を奪うために動いていたとしたら…まぁ考えても詮無きことか。

 

そこからしばらくは町を周って話を聞いたり、そこに住む子供たちに折り紙を教えたりしながら様子をみていたが、困窮したり泣いている子が少なかった。

そして年配の、といっても俺と同じくらい前後の年の国民には今もなお慕われていることがわかり、この国を治めるコブラ国王というのは賢王なのだなと実感したものだ。

 

 

 

 

 

「ピーター。どうやら仲間たちが突き止めたようだ。黒幕は七武海クロコダイルで確定だ」

 

ある日、いつも通り情報を集めたりしながら過ごしていた俺の元にそんな報告が入ってきた。

水面下で動いている集団、バロックワークスというらしいんだが、そこに潜入していた仲間がアラバスタの王女と出会ったらしい。

 

最初は否定していたらしいが「君もアラバスタの反乱に加担しているのか?」と聞いたところから態度が変わり、こちらの事情も説明しつつ話を聞いたら王女も潜入しているとの事だったそうだ。

 

そして黒幕を突き止めたはいいが、後はバレないように抜け出して国王に伝えるつもりが別の島に派遣されてしまったらしい。

今は潜入していた仲間に連れられて、一緒にこっちに向かっているということだった。

 

なんて危険な真似をする王女なんだ。俺たちの仲間のように身を守れるだけの力を持っているわけでもないだろうに…

これは年長者として少々お説教しておくべきかもしれないな。

 

 

「ピーター。王女をお連れしたよ。ビビ王女、こちらは我々の恩人であり育ての親といってもいいピーターです」

 

「初めましてビビ王女。俺は…そんな恩人なんて大袈裟なものではないが、ピーターと名乗っている」

 

「ええ、初めまして。ただ申し訳ないのだけど時間がないの。早くお父様に伝えないと…」

 

「落ち着いてくれ。君の父のところへは俺たちの仲間が君の連れの男と一緒に向かっている。少し君に話しておきたいことがあってね」

 

「話なら後にして!一刻も早く反乱軍を説得して本当の事を伝えないと手遅れになってしまうのよ!」

 

うーん…かなり焦っているみたいで王女は全然こちらの話を聞いてくれないな。

 

だが気持ちが昂ぶったのか、涙を流しながらの彼女の慟哭を聞いて、本当にこの国が好きで国民が大切なのだろうということが伝わってきた。

そのためには自分の危険も顧みない、献身的な思いが行動となって王女自ら潜入するなんて事までやってしまったのか。

 

よく見れば十代半ばくらいの、まだまだ少女じゃないか。こんな子が国民同士で争わないためにそこまでするとはな。

きっとこの子にとって国民がみんな平和で笑っていられる国が夢なのだろう。

 

 

 

ならば俺もこの子を救うために全力を尽くそうじゃないか。

 

 

 

「王女の想いはよくわかった。子供の夢を助けるのは大人の役目だ。みんな!子供の夢を助けるために少しばかり俺に手を貸してくれ!」

 

「「「「「もちろんだ!!」」」」」

 

「…え?手を貸してくれるの?」

 

「ああ、今の話を聞いて助けない理由などないさ。もう心配はいらない。さぁ、一緒にお城へ行こう」

 

俺たちだってただの革命や反乱だったり、王女の父親が愚王だったら足を突っ込んだりはしないだろう。

だが国を狙う明確な悪者がいて、その国を想う姫の涙を見てしまったら動かないわけにはいかない。

 

そう思ってしまうのは俺の中の異世界知識が原因なのか、それとも俺にも男としての何かがあるのだろうか。もういい年したおじさんだけど…

 

まぁネバーランドで子供たちに絵本や紙芝居を読んであげるときにそういう本も多かったからなぁ。

男の子はお姫様を守る騎士に、女の子はお姫様に夢見るという事でそれが根付いているんだろう。

そしてそれは、読み聞かせていた俺にもしっかり根付いていたようだ。

 

話を聞いていた仲間たちが一斉に動き出し、他の仲間たちにもその事を伝えていく。

 

もちろんあくまでも俺の個人的な思いでもあるので、無理に協力してもらおうとは思っていない。

争いになる可能性だってあるし、そういった戦うかもしれないという事も考慮した上で手伝ってくれるのならばという話だ。

 

とはいえ、今いる仲間たちは全員協力してくれるようだ。ありがたい話だな。

 

俺たちは王女と一緒にアルバーナのある王城を目指して移動していく。

だが思ったよりも距離があるため、移動するだけでも相当な時間を費やしてしまった。

砂漠の国というのは移動するだけでも体力を消費してしまうため、こまめに休息を取りながら数日かけて確実に王城へと近づいていった。

 

 

 

「クハハハハ。国王コブラよ!お前がこの国から雨を奪った事はわかっている。大人しく認めればその首1つで事は収まるんだ。後の事は俺がやっておいてやるから安心しろ」

 

「「「「「雨を奪うな!水を返せ!」」」」」

 

そして近くまで来た時には状況は俺が思っていたよりも早く動いていたようで、緊迫した雰囲気が反乱軍がいる城の外を包んでいた。

先頭にクロコダイルが立ち、後ろを反乱軍たちで固めて国王へと降伏勧告をしている。

 

それを受けて国王も側近だけを連れて城の前まで出て行き、反乱軍と対峙して己の無実を主張しているが反乱軍は聞く耳持たないといった感じであった。

俺たちが王女を連れて城に着いた時は、クロコダイルが今まさに国王に攻撃を加えようとした時だった。

 

「そこまでだ!!」

 

本当は生み出したカードとかをカッコよく投げて止めたかったところだが、そんな事を練習もせずできるはずもないので静止の声だけでクロコダイルを止める。

なんとか伝わったのか、クロコダイルのほうも俺の声を聞いて止まってくれたようだ。

 

「誰だてめぇ…俺の、いや反乱軍の邪魔をするとはどういうつもりだ?」

 

「お前の企みは既にわかっている!反乱軍たちよ!彼女の話をよく聞くんだ!」

 

ここからは俺の役目ではない。彼女の言葉だからこそ伝わるものがあるだろう。

 

国王や側近さえも王女の姿を見て安堵や驚きの表情をしていたが、王女の話を黙って聞くみたいだ。

 

王女が前に出て必死に自分が得た真実を伝えていく。国王は何もやっていない事、クロコダイルが国を乗っ取ろうとしている事、国民に不審の芽を植え付けて扇動した事などだ。

反乱軍の中にもざわめきが聞こえてくるが、クロコダイルはまったく動じていなかった。

 

「クハハハ!勝手に俺を黒幕に仕立て上げるのは結構だが、王族である王女がどれだけ無実を叫び言い逃れしたところで誰が納得できるというのだ。それに王宮でダンスパウダーが見つかっているのが何よりの証拠だ!」

 

「それもあなたの計画でしょう!あなたが作り上げたバロックワークスがこの国で暗躍していたのはわかっているのよ!」

 

「クハハ、随分とお転婆な王女様だな。だがそうだな、確かに俺は反乱軍に人が集まるように仕向けたさ。だがそれの何が悪い?俺と同じようにこの国を不審に思った人間を増やしただけだ。仲間を増やすのは当然の事だろう?」

 

「なっ!?あなたはこの国を乗っ取るために、自分に付き従う人間を増やしたかっただけじゃない!」

 

「…そこまで言うのならば明確な証拠があるんだろうな?王女の妄言に付き合ってやるほど、そしてそれを聞き流してやるほど俺は優しくはねぇぞ?」

 

「それは…………」

 

「クハッ、どうした王女様!俺にお前たちの罪を着せるのならば俺がやったという証拠を出せ」

 

証拠を出せと言われて言葉に詰まってしまう王女を見ながら、なんとか手はないかと考える。

確かに王女自ら潜入していたとはいえ、それが本当かどうかなんて反乱軍のみんなにはわからないだろう。

そして国王側はダンスパウダーとかいう物が王宮で見つかっているらしい。

王女が歯を食いしばり涙を流すまいと堪えているが、俺も仲間からの情報を聞いているからわかっているだけで証拠なんて持っていない。

反乱軍の面々も戸惑いから、どこか訝しむように王女を見つめている。

 

「あら、証拠ならここにあるわよ?」

 

「……ロビン?」

 

「ピーター。あなたが来ていると聞いて驚いたわ。それにまさか反乱を止めようとするとも思わなかったわよ?」

 

「少しばかり気がかりがあってね。この国にいる事は知っていたが、どうしてロビンがここに?」

 

「そうね、先にそっちの件を終わらせちゃいましょうか。じゃないとゆっくり話もできないわ」

 

何か方法はないかと思っていたら、思わぬところでロビンと再会した。

しかもロビンの手には紙束があり、この反乱の暗躍の証拠を持ってきたのだということだ。

どうして遺跡とか周ってたはずのロビンが?と思うが、そういった話は後だな。

 

ロビンは持っていた紙束を王女へ渡し、王女はクロコダイルの近くにいた薄いサングラスをかけた男性に声をかけて見せていた。

 

「クロコダイル!全部、全部お前の仕業だったのか!?俺たちは騙されていたのか!」

 

「クハハ、誰が騙したというんだ?国家転覆を企んだお前たちに手を貸してやっただけだろうが。今更人のせいにするとは見下げ果てたヤツだな」

 

「黙れ!お前さえ……」「コーザ!!」

 

「もう黙ってな。計画が成功すれば長生きできたものを。もうお前たちは用無しだ。俺が集めたバロックワークスの能力者たちだけでも十分にこの場にいる全員を黙らせることはできる」

 

その男もその紙に書かれている事を読んで理解したらしくクロコダイルに掴みかかっていったが、クロコダイルは話に取り合わずその男を左手のフックで突き刺し開き直ったようだ。

確かに踊らされたのかもしれないが、操られたわけでも脅されていたわけでもないし、あくまでも自分の意思で反乱軍に加わったのだろう。そのあたりについては俺には何も言えない。

 

どこからがクロコダイルの計画でどこまでが不幸な偶然だったのかわからないが、今明確にわかっているのはクロコダイルを止めないといけないことだ。

そして反乱軍の中から、同士だったはずの者たちを切り捨てて何人もの男たちがクロコダイルの元へと集まってきた。

 

…いや、中には女性もいるし、どっちかわからないのもいる。こいつらがクロコダイルが集めた能力者たちのようだな。

 

「クハハハハ!例え反乱軍の雑兵がいなくなったとしても、俺には能力者の部下たちと10万人のバロックワークス社員たちがいる。ここで国王も王女も殺して俺がこの国の王位を継いでやろう!」

 

 

 

 

そんな事を許すわけにはいかない。ここが正念場だな…

 

 

 

 

 



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11.アラバスタ大団円

 

 

「反乱軍たちよ!君たちと戦う意思はない!下がれ!」

 

「敵はクロコダイルとその部下たちだ!巻き込まれないように離れるんだ!」

 

国王や側近からのそんな忠告の声を聞き、反乱軍の集団はクロコダイルたちから離れていく。だが、逃げようとしていた者すらも斬り伏せながらクロコダイルたちは笑っていた。

国王軍もどれだけ数がいるのか知らないが、能力者と戦えるのはそんなに多くないだろう。反乱軍を巻き込まないために下がらせるのは良い判断だな。

 

しかしクロコダイルの能力はそんな数を関係ないとばかりに巻き込んでいくことに戦慄を覚える。能力者としてこんなにも差があるとは思わなかった…

俺ができる事って紙にしたり紙を生み出すだけだから、個人的には満足はしてるけど戦闘となると不向きな能力だと思っているが。

 

「クハハハ!この程度か?これなら反乱軍なんぞにわざわざ手を貸してやる必要もなかったな」

 

砂嵐を巻き起こしたりしながら見下す発言をして笑うクロコダイル。確かに10万人もの戦力と地の利もあって本人の能力も戦闘にも向いている能力なんだろう。

 

だが何もクロコダイルや能力者たちと1対1で戦う必要はない。俺たちはそんな相手でも身を守れるだけの力を身に付けてきたんだ。

 

「仲間たちよ!すまないがクロコダイルを止めるのを手伝ってくれ!」

 

「「「おう!」」」「「「こっちは俺たちに任せろ!」」」「「「ならこっちは俺たちだ!」」」

 

俺の呼びかけに応えてくれたのはこの場に一緒に来た者たちだけでない。反乱軍の中からも、そして国王軍の中からも、更にはバロックワークスの中からすらもその声に応えて仲間たちが飛び出してきた。

 

クロコダイルよ。お前は10万人の戦力をかき集めてきたんだろうが、俺たちにもネバーランドから一緒に来てくれた仲間やこの国にいる仲間たちで1万人以上いるんだ。たぶん。

もちろん全員が参加しているわけではなく、避難させたり後方援護だったりとアラバスタ国内でも散らばってはいるが…

 

それでもバロックワークスの集団を相手に次々と打ち倒していく仲間たち。

能力者たちを相手にしてもそれは変わらない。むしろこっちが終始優勢な状況だ。

敵の攻撃は見聞色の覇気で躱し、武装色の覇気を使える者は纏いながら攻撃を当てていく。

六式は全部使えたり1つしか使えなかったりの差はあるが、みんながそれぞれ利点を活かして戦っている。

 

「てめぇら!どうして()()()を使っている!?」

 

「なんの話だ?俺たちはみんな護身用に身を守る力を持っているだけだ」

 

「ふざけるな!!なぜこの前半の海でそれだけの人数がその力を使えていやがる!?」

 

クロコダイルが言っているのがどの力の事なのかわからないが、前半だろうと後半だろうと人間がやることはそう変わらない。

虐待されていたりする子や戦災孤児などを助けていくのに場所を選ぶはずがない以上、どこにいても身を守って逃げられるだけの力を身につけるのは当然の事だろう。

 

そしてみんなが小さい頃から磨いてきたその力は、アラバスタという国を乗っ取ろうとしているクロコダイルとその部下たちに対しても遺憾なく発揮されている。

もうバロックワークスとか言っていた集団の大半の人間は倒れており、手の空いた仲間たちも残った敵やクロコダイルへと向かおうとしている。

 

クロコダイルはこちらを警戒してか、直接戦おうとはせずに遠距離から攻撃したり避けながら様子を見ていたようだ。

もはや決着は時間の問題だろうと思われたが、クロコダイルが思わぬ行動に出た。

 

「チィッ、使えねぇヤツらだ。だが()()さえあればてめぇらごとき……砂嵐(サーブルス)(ペサード)!!」

 

「くそ!砂嵐で視界が…」

 

「ピーター!クロコダイルが王宮のほうに逃げたぞ!」「おい!国王と王女もいないぞ!どこいった!?」

「クロコダイルが国王と王女を連れて行ったみたいだぞ!」「追いかけるぞ!」

 

 

「みんな!俺とあと数人でクロコダイルを追いかける!残った仲間たちはクロコダイルたちにやられた怪我人の手当てを頼む!」

 

「ピーター。私も行くわ。相手は能力者、しかも自然系ですもの。こっちも能力者がいたほうがいいわ」

 

「わかった。それじゃ一緒に来てくれ」

 

まさかクロコダイルが国王と王女を連れて逃げるとは思わなかった。

俺はこの場に残る仲間に怪我をした者たちの治療を頼み、ロビンを含め数人を連れて王宮へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「クソが!まさかここまで計画が狂うとはな…だがまぁいい。プルトンさえ手に入ればこの国とはおさらばだ」

 

本来ならば反乱軍のバカ共を指揮して国王を倒してしまえば、そのまま俺がこの国の王となっていたものを…とんだ邪魔が入ったもんだぜ。

俺が集めた能力者たちと社員ども、そして反乱軍の戦力をまとめ上げて最後に強大な古代兵器を手に入れれば世界政府ですらもう俺に手を出すことはできない。

 

今まさにあと一歩ってところまで来ていたものを、わけのわからねぇ集団が邪魔しにきやがった。

それだけなら蹴散らして終わりだったはずだ。だが、あいつらはあの力…覇気を使っていやがった。

あれは後半の海では使い手も多いが、この前半の海では使えるヤツなんてほとんどいなかったはずだ。

 

それが大量に現れやがったんだ。あれじゃ部下の能力者たちであろうと勝ち目は薄いだろう。

だからといってただ退くわけにはいかねぇ。

 

せめてプルトンだけはもらっていく…それで俺の勝ちだ。

 

「…七武海として海賊を狩るのは見せかけだけだったというわけか」

 

「クハハハ。コブラよ、てめぇの大事な国民はバカばっかりで助かったぜ。ちょっと海賊を倒してやれば手のひら返して媚びてきやがる」

 

「例え私やビビを人質にしたところで意味はない。彼らならきっとお前を倒してくれるはずだ」

 

「クハハ、あんな厄介なヤツらとわざわざ戦おうなんぞ思ってねぇさ。それにあいつらだっていつまでもこの国にいるとは限らねぇだろ?ちょっとてめぇに()()()()に案内してほしいだけだ。そのために王女(人質)を持ってきたんだしな。大人しくしておけよ?俺の気分1つでミイラが出来上がるぞ」

 

「くっ、こんな男を信じていたとは…」

 

「てめぇは知っているはずだ。この国に古代兵器(プルトン)か、もしくはそれがどこにあるのかを示したものの在り処がな」

 

歴代の王を祀ってある葬祭殿、まさかそこに地下通路があったとはな。これじゃあ俺が王になったとしても探すのにかなりの手間がかかったかもしれん。

まぁいい。これで古代兵器は俺のものだ!

 

 

 

 

「ここがそうか。…で?古代兵器の在り処はどこだ?」

 

「…この石碑がそうだ。だがこれは誰にも読めん。もちろん私にもな」

 

なんだと!?誰にも読めねぇモンを後生大事に置いてやがったのか!

古代兵器の情報を聞きつけて、時間をかけて手間をかけて目当てのものがやっと手に入るっていう時に…

 

「…ならばもうてめぇらを生かしておく必要もねぇな。この葬祭殿をてめぇら王族の死に場所にしてやる。運ぶ手間も省けるだろう?」

 

「くっ!ここまでか…」

 

「クハハ、往生際の良いヤツは好きだぜ。そのうち俺の邪魔をしやがったヤツらもてめぇのところに送ってやる…死にな!」

 

 

 

 

 

「「剃!!」」

 

「大丈夫か国王さん。王女も無事だから安心しろ」

 

「君たちは…私もビビも助けてくれて感謝する」

 

「すまないが俺の仲間と一緒に下がっててくれ。仲間たちは国王と王女を頼む」

 

ギリギリ間に合った…危うくクロコダイルに国王も王女もやられるところだった。

なんとか探し当てることができて仲間と一緒に助け出したはいいけど、俺たちだけでこの地下空間で戦うには分が悪いかもしれないな。

 

なんだこの大きな石は…?なんか部分的に読めるな…もしかしてこれ暗号で使ってる古代文字で刻まれてるのか?

 

「またてめぇらか…俺はてめぇらに用はないんだがな」

 

「俺もお前になんて用はないさ。大人しくこの国から出ていくというなら俺から言うことはない」

 

「クハハ。言われなくても出ていくさ…だが俺の邪魔をしたてめぇにはこの地下で埋まってもらうがな。浸食輪廻(グラウンド・デス)!!」

 

「なっ!みんな急いで避難しろ!崩れ落ちるぞ!」

 

だがそんな事は後回しだ。クロコダイルのやつめ!最後に自分ごと埋まるつもりなのか!?

それともあの砂になる能力は周囲の砂とも同化できたりするんだろうか?

とにかく今は逃げる事が最優先だ。

 

「クハハハハ!これで全部砂の下だ。長年の計画が潰れたのは痛いがまだ当てはあるんでな。もうこの国に用はねぇ。また俺は次に向かえばいいだけだ……あ?」

 

「…はぁはぁ、みんな無事か?」

 

「ええ、大丈夫よ。王様も王女様もピーターが一旦紙にしてくれたおかげで速度を落とす事なく連れ出せたわ」

 

「そうか、それなら良かった」

 

生き埋めなんて冗談じゃない。それに人間1人担いで逃げるのだって自分だけで走るよりも遅くなる以上、俺たちのように移動できない国王と王女は紙にして丸めて持って出たんだ。

 

別に破れたりさえしなければクシャクシャにしても丸めても畳んでも元には戻るんだが、だからといってクシャクシャにするのは気が引けるし丁寧に畳む時間もなかったので、消去法で丸めた筒みたいにして持って走った。

 

「てめぇらまだ生きてやがったのか。だがてめぇは国王(コブラ)王女(ビビ)を庇わないといけねぇ。対して俺は周囲も人間も気にせずに力を使える。そしててめぇご自慢の仲間とやらも今はそれだけしかいねぇ。まだ俺の邪魔をするつもりか?」

 

「あら、いつから私たちしかいないなんて思っていたの?いつの時代だって大きな力を持った悪者を倒すのは、たくさんの仲間を連れた騎士(ナイト)だったりするものよ」

 

ロビン?突然何を言い出すの?それって確か昔読んであげた絵本の話じゃなかったっけ?

大きな竜に連れ去られたお姫様を助けるために勇者が旅立って、いろんな人に協力してもらいながら最後はお姫様を取り戻すハッピーエンドのやつだよね。

 

ほら、クロコダイルもわけわかんないって顔してるよ。

 

「あぁ?何を言ってやがる」

 

「わからないのかしら?こっちに集中してないで周りをよく見なさい」

 

「……なっ!?どこから湧いて出やがった!?」

 

「「「「「待たせたなピーター!助けに来たぞ!!」」」」」

 

そこには次々と集まってくる仲間たちがいた。俺が念のために「手を貸してほしい」と伝えていたのもあるが明らかに数が多い。

もしかして王女の手助けをするって決めた段階で仲間のほうでも助力を頼んでいたのか?

 

「悪いなピーター。大急ぎだったもんで今はこれだけしかいないんだ」

 

「いや、これだけっていうか…来てくれるのは嬉しいが何人いるんだ?1万人くらいいそうな勢いなんだが…」

 

「俺たちも何人いるのかなんてわからないな。でもそれくらいいるんじゃないかな?何しろピーターの手助けができるっていうんならみんな喜んで集まるさ」

 

今アラバスタには元からいる1万人以上の仲間に加えて、近隣から急いで集まってくれた仲間が更に1万人近くいる事になるのか…

そんなに多くの仲間が協力して手を貸してくれたり、集まってくれた事に思わず感動してしまいそうになる。

 

俺にとってはとても心強い援軍だが、クロコダイルにとっては予想外の展開だろう。

だが俺たちが勝手にクロコダイルをどうこうするわけにはいかない。

 

これはこの国の出来事なのだから、ちゃんとこの国で裁くなり追放するなり決めなければいけないと思うからだ。

 

「国王、あなたがクロコダイルの処遇を決めてくれ。元々この国で起きた出来事なんだから、クロコダイルがこの国の転覆を目論んでいたということを、あなたたちが国民に知らせなければいけないと俺は思う」

 

「…ありがとう。クロコダイルよ!私は世界政府に今回の事を報告し、お前の七武海としての権限を剥奪することを進言する。そしてお前自身は海軍に引き渡し裁きを受けるがいい」

 

「チッ!状況が悪すぎるか…なら今は大人しく捕まっていてやる。だが俺は諦めねぇぞ。必ず新たな力を手に入れてやる!」

 

どうやら国王は世界政府に言って七武海じゃなくなってから、海軍に海賊として引き渡すようだ。

それがこの国のやり方なのだろう。それなら俺たちが何か言う必要もない事だ。

 

クロコダイルは抵抗せずにこの国の兵士に連れて行かれ、残った仲間たちは「せっかく来たのに何もしないのもなぁ」ということで、砂嵐に埋まってしまった町やお城などを復旧したりするために各地に散らばっていった。

 

まぁネバーランドにあるものがお手製の物ばかりなので、みんな大工仕事はお手のものだしな。

 

 

「本当にどれだけ感謝しても足りないくらいだが、改めて言わせてほしい。この国を救ってくれて本当にありがとう」

 

「礼には及ばないよ。俺たちは少女の夢を手助けするために勝手に行動しただけさ。今の状況は結果的にそうなったに過ぎない。」

 

「例えそうであったとしてもだ。君たちに助けられたという事実は変わらない。それに今だって各地の復旧に手を貸してくれている。既にたった数日で砂に埋れた町が元に戻りつつあるという報告も受けている。ビビとイガラムを助けて連れてきてくれて、クロコダイルの企みを打ち破ってくれたのは全部君たちのおかげだ」

 

そこまで持ち上げられるとむず痒いな。クロコダイルが捕まり仲間たちがそれぞれの場所へ移動して、俺はロビンとネバーランドから来た仲間と一緒に王城にいた。

だがどうも落ち着かない。会う人みんながお礼を言ったりしてくるからだ。

 

クロコダイルの暗躍の証拠を掴んだのはロビンたちだし、バロックワークスと戦っていたのは仲間たちだ。

俺自身はそこまで褒められるような事をしていないので、余計に居心地が悪い気がするんだ。

 

「ねぇ王様。1つ聞きたいのだけれど、この国にはあのポーネグリフしかないのかしら?他にもあるなら教えてほしいのだけど」

 

「我が国にあるのはあれ1つだけだ。少なくとも私が知っているものはな。それに、他にあるのかどうかが書いてあるのかもしれないが、私には読めないのでわからないんだよ」

 

「そう…確かにあれをクロコダイルが読めたら厄介だったかもしれないわね」

 

「まさか君はあれを読むことができるのか?」

 

「…ええ、ピーターも読めたでしょ?」

 

「うーん、俺はみんなより覚えが悪いから単語だけわかったくらいかなぁ。プルトンっていうのと後いくつかは読めたぞ」

 

やっぱりあれは古代文字で刻んであったってことか。本当に一部分の単語だけだから、なんて書いてあるのかはわからないけどな。

 

「…ねぇピーター。正直に答えてほしいんだけど、もし古代兵器があるとしたらピーターは欲しい?」

 

「いや、いらないだろう。どんなものか知らないけど、そんなの使ったら助けるつもりの子供を巻き込んじゃう気がするぞ?」

 

「ふふ、やっぱりピーターならそう言うと思ったわ。なら一応あの場にいたみんなにも口止めしておいたほうがいいわよ」

 

古代兵器っていうのがどんなのか想像もつかないが、どう考えても子供を助けるのには過剰だと思う。

例えば、古代兵器っていうのが異世界知識にある「どこにでも一瞬で行けるドア」みたいなのだったら欲しいけどさ…

 

ロビンからの忠告通り、あの場にいた仲間には他言無用を伝えておいた。

これでこの国も大丈夫だろうと安心していたのだが、これで一件落着とはならなかった。

 

海軍に引き渡すはずだったクロコダイルが逃げ出したらしいのだ。

しかも部下の能力者も連れて行ったらしい。この国の兵士が探しているとの事なのだが、砂漠の多いこの国で砂を扱うクロコダイルを探すのは困難だろう。

 

 

 

 

しばらくは俺も含め復旧などを手伝っていたが「もう大丈夫」ということだったので集まってくれた仲間たちは元の場所へ、俺たちはアラバスタを出てネバーランドへ戻ることにした。

 

 

 

 

 



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12.脅威のカケラ

 

 

 

「……………報告は以上です」

 

 

 

「ご苦労だった。下がれ」

 

世界政府の中枢、世界の動きを決めているとさえ言われている5人の老人たちが諜報員からの報告を受けていた。

 

世界政府が注視しているのは世界三大勢力、つまり「四皇」「王下七武海」「海軍本部」の均衡である。

この均衡があるからこそ世界は平穏を保たれているとさえ言われるほどだ。

三大勢力と呼ばれる者たちが世界の平穏に一役買っているのは間違いないのだが、だからといって平穏を望んでいる者ばかりではない。

 

だからこそ今回の報告は、その平穏に亀裂が入る可能性のある内容だった。

 

 

そしてそれとは別で警戒している者たちもいる。世界政府を直接打倒しようとしている「革命軍」と呼ばれる者たちだ。

革命軍は海賊や海軍を相手に行動を起こすわけではなく、あくまでも世界政府を打倒することを目的としている。

 

この連中は文字通りに世界政府加盟国で「革命」と称して民衆を操作し、治めている王族や貴族を倒している。

もちろんそんな国が増えれば世界政府としての影響力にも響いてくるため、政府の諜報員だけでなく海軍のほうでも動くように指示を出している。

 

 

 

しかし今、それらとはまったく別の極めて危険な者たちの存在がその姿を現したのだ。

 

 

 

「この報告が事実だとすれば、どう対応するべきか…」

 

「全てが事実だとすれば、もはやバスターコールなど何の意味もないだろう。下手をすれば手痛いなどと言っていられないほどのしっぺ返しをこちらがもらいかねない」

 

「うむ、迂闊に刺激してしまえば被害は計り知れないだろう。この地(マリージョア)ですら安全とは言えなくなる。…とはいえ静観するにも危険すぎる相手だがな」

 

「然り。相手の目的がわからぬ以上、安易に手出しはできぬが…かといって放置もできぬのがな」

 

「唯一積極的な動きがないのが救いだな。そやつらの動き次第で世界の平穏は一気に崩れるぞ」

 

 

その存在を知る事ができたきっかけはあったのだ。それは「天竜人の奴隷を何者かが連れ去った」という五老星にとっては些細な事件だ。

奴隷を奪われた天竜人からの指示で政府の諜報員たちも詳しく探ろうとしたが、努力の甲斐なくまったくその足取りを掴めなかった。

 

当時その天竜人の護衛として付き添っていた政府の役人の話では、政府の諜報員などが使用する「剃」のような感じだったらしい。

追いかけても仲間か協力者のような者に邪魔をされ捕まえる事ができず、既にその調査は打ち切りとなった。結局奴隷の行方はわからないままで終わっている。

 

その調査は成果の出ないまま終わってしまったが、得られるものがなかったわけではなかったのだ。

天竜人が奴隷を連れ去られたというその場には赤い紙が残されていたというのだから。

 

 

まるで昔話のように今でも世界中で語られる「あかがみに子供が連れ去られる」という話。

それはただの昔話ではなく、どうやら今も変わらず世界中で起きているというのだ。

 

世間的には四皇の一角、赤髪のシャンクスがその犯人だと思われているようだが、調査した結果違うとわかっている。

なぜならシャンクスが海賊になるよりも、もっとずっと前からそう言われていたらしいのだから。

もしかしたら「赤紙」を残す事で「赤髪」へと目を向けさせるミスリードの役目を持たせていたのかもしれない。

 

それが嘘か本当かもわからない。五老星、そして世界政府にとって取るに足らない、報告にも上がってきても気にもかけないような小さな小さな出来事。

当然、逃げた人物が六式の1つ「剃」を使用していた可能性を考えて、政府関係者なども探ってみたが浮かび上がるような人物はいなかったのだ。

 

その結果、天竜人の奴隷連れ去り事件はそんな昔話のような「あかがみの人さらい」と関連があるのではないかというのが当時の諜報員の報告だった。

 

そしてそれから何度も天竜人からだけでなく、ヒューマンショップからも奴隷を連れ去られたりしていたようだ。

連れ去られた奴隷がいた場所には赤い紙が置かれていた事からも間違いないだろう。

 

 

本来であれば聞くまでもないという反応で終わるような些事だったはずが、ここにきて「もっと詳細に調査をしておけばよかった」という後悔の原因になっている。

 

というのも、確定ではないがその連れ去った者たちが世界政府の脅威となっている可能性が出てきたのだ。

 

 

今回の報告では世界政府に加盟する、最初の20人の末裔がいるアラバスタ王国。

そこで王下七武海の一角を担っていたクロコダイルが国家転覆を企み、そして敗れて逃げ出したということだった。

そこまでならばクロコダイルの穴埋めをして、違う者を新たな七武海へと選出すればいい。

 

だがクロコダイルの企みを打ち破った存在こそが、五老星ですら頭を痛めるほどの存在()()だった。

 

個人で強力な力を持った者が現れたのならばまだいい。政府や海軍で抱えてもいいし、仮に海賊などになったとしてもその動向を警戒しておけばいいのだから。

だが諜報員がアラバスタの件を聞きつけて現地に向かった時には、すでにその者たちはいなかった。

 

そして国民たちに、特に反乱軍に加担してクロコダイルたちとの戦いを見ていた者に話を聞いてみれば、1人の強大な力ではなく集団で戦っていたらしいのだ。

更に詳しく聞けば曖昧な部分や不明点なども多々あるものの、使っている体術は政府関係者が使用している六式と同じか似たようなもののようで、それらを使う1万人近い集団だと言うではないか。

 

その報告と一緒に、六式のような体術を使う正体不明の者ということで、自分たちの犯行だと示すように置かれてあるはずの赤い紙があったわけではないが「天竜人やヒューマンショップの奴隷連れ去りの犯人」との何かしらの関連があるのではないかという疑いがあるとの事だった。

 

仮定の話ではあるが、もしその2つが繋がっていたとしたら、その連中は相手も場所も選ばずに長年に渡り人を集め、既に1万人以上の兵力がいながら更に数を増やし続けているのではないかという事になる。

 

 

 

世界政府にとって悪い話はこれだけではない。

 

 

 

その諜報員が集めた情報の中には、その集団がアラバスタのポーネグリフに接触した可能性すらあるとの事だったのだ。

しかもあのオハラの生き残りがその場にいたという可能性さえ浮上してきた。

 

これは確実な情報ではない。ただ可能性があるというだけだ。

 

クロコダイルの悪行の証拠を提示したのが「ロビン」という名の女だというのだ。

本人かどうかなど問題ではない。そんな事を言っていれば手遅れになりかねないのだから。

 

つまりその集団は「六式の体術を使う最低でも1万人規模の戦闘集団」かもしれず「古代文字を読める唯一の存在であるオハラの生き残り」を匿っているかもしれず更には「アラバスタのポーネグリフを読んで古代兵器(プルトン)を所持しているかもしれない」ということだ。

 

そして海賊などのように自らの名を世界に知らしめる事すらせずに、ある意味革命軍よりも更に水面下でその力を研ぎ続けているかもしれないのだ。

 

すべてが仮定の話であり、つまりまだ何も判明すらしていないが、仮に本拠地を見つけてバスターコールをかけたとしてもプルトンで返り討ちになる可能性さえもあるということだ。

 

「革命軍なんぞという連中よりもよほど厄介な相手だな。その集団を統率している人物さえわかれば犯罪者として扱う事もできるのだが…」

 

「だがそれすらも相手を刺激することになりかねんぞ。そやつらはまだ政府(我々)に対して刃を向けてはおらんのだ」

 

「しかし悠長な事を言っていられないかもしれん。今はまだ我々に鉾を向けていないだけかもしれんのだから…」

 

「今は最大級の警戒を持って当たるしかないだろう。連中の目的も首魁も何もわからぬでは対策の立てようがないのは事実だ」

 

「今までまったく動きを見せていなかった以上、その者たちが話のわかる相手である事を期待するしかあるまい。今はまずクロコダイルの後任を急がねばならんぞ。七武海の失墜は世界にヒビを入れかねないのだからな」

 

まだまだ連中の動きも目的も何もわからない以上、今方針を決める事はできない。

本拠地や統率者が判明すればそれらを探ることもできるだろうが、相手は古代兵器すら手中に収めている可能性がある以上迂闊な真似はできない。

 

 

 

 

しかし、この場にいる5人全員が報告を聞いたと同時に同じ懸念を抱いていた…

 

 

 

今回の1件は果たして1から10まで、全部がクロコダイルの計画だったのだろうか?と。

 

今までにアラバスタと同じように国が滅ぶような危機など、他の国でだっていくらでもあったのだ。

だがそんな国の危機があろうと、今までそのような連中の話など聞いた事がないのだ。

 

そしてそんな他の国とアラバスタ王国との違いといえば…考えるまでもない。ポーネグリフの有無だ。

 

つまり、この暗躍していた連中はクロコダイルから国を守ったように見せているが、本当の目的はそうではなく、ただクロコダイルの企みを利用してポーネグリフと()()()()()()()()を手中に収めようとしていたのではないかと。

 

あらかじめ情報を流してクロコダイルの欲を刺激し、アラバスタを荒らさせる事によってポーネグリフの…いや、古代兵器(プルトン)の在り処を知るために実は裏で操っていたのではないのかと。

 

連中にとってはポーネグリフの場所さえわかるなら、最初からクロコダイルに古代兵器をくれてやるつもりがない以上、クロコダイルが企んでいた計画が成功しようが失敗しようがどちらでも良かったのではないかと。

 

そうでなければ正体不明の連中がわざわざアラバスタだけを救うなど辻褄が合わない。

だがその連中の目的が古代兵器であればと考えると、クロコダイルの暗躍も、その場所がアラバスタであったことも、オハラの生き残りがポーネグリフに接触したかもしれない事も辻褄がピタリと合うのだ。

 

そして最後に政府の諜報員ですら不審に思わず、その後の事としてほんの少しだけ記載されている報告。

そこには短く「連中はアラバスタ国王軍がクロコダイル捕縛の後、クロコダイルの仕業によって砂で埋もれた町を復旧して去っていったとの事」と書かれている。

 

しかし、世界の平穏を担っていると自負する5人の最高権力者からしてみれば、これは「ポーネグリフを読み解いた後、連中はそのまま古代兵器を掘り出しに行った」と考えられるのだ。

1万人もの数の集団が何の目的もなく七武海を相手に国を救い、国の復興まで手伝って帰っていったなどと誰が信じるものか。

 

連中は「ポーネグリフを読み解いてプルトンを掘り起こして持ち帰る」ところまで計画してクロコダイルを泳がせていたのだろう。

 

 

だからこそ警戒しなければならない。しかしまだ今はこの事を表に出すわけにはいかない。

 

 

 

それになぜか下界では近年羽振りの良い者たちの行動が目につくとも聞いている。

ただ与えられた権力と天竜人であるというだけで何でも思い通りになると思っているバカどもが金を必要以上にバラまいているのだろう。

 

そういった者たちが欲をかかぬようにしておかねばならない。

 

 

 

 

 

こうして世界政府の最高権力者たちの話し合いが続いていった…

 

 

 

 

 




無理矢理感がありますが、主人公の存在を世界政府に少しだけ認識してもらいました。


現在の世界政府の持っている疑いは
・昔から子供などを拐って兵士としての教育を施し戦力に育てている
・1万人規模の殺人体術を使う集団を率いている
・オハラの生き残りを匿ってポーネグリフを狙っている
・アラバスタで古代兵器を探し出して所持している
ここまでです。



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13.白ひげ海賊団と燃える隊長

 

 

アラバスタでの騒動が一段落したので、ネバーランドから一緒に出発した仲間と共に俺たちは島へと戻ってきた。

ロビンはしばらくアラバスタに留まり国の歴史などを聞いたり調べたりしながら過ごすようだ。

 

ネバーランドに戻ってきた俺たちは互いに労いながら日常へと戻っていった。

いつも訓練しているとはいえ、やはり実戦というのは精神的に疲れるものだな。

 

戻ってきた時に「おかえりピーター!」と迎えてくれる子供たちのなんと愛らしい事か。

 

特に今回はロギア系なんていう珍しい能力者であり、七武海なんていう名の知れた実力者が相手だったのだからこの疲労も当然だろう。

 

まぁ俺はそんなに戦ってないんだけど…

 

しかしクロコダイルが逃げ出すとは思わなかったな。アラバスタの兵士たちは探しているらしいけど、なんとか見つけて捕まえることができればいいけどな。

いくら見た目フック船長とはいえ、俺では荷が勝ちすぎる相手だと思う。

 

 

 

 

 

「…………そうか。その男を捕まえられなかったのは残念かもしれないが、それでも生きて戻ってくることができたんなら喜ぶべきだな」

 

「ああ、まったくだよ。なんでそんなに生き急いでんだってくらい無茶な事を仕出かす隊長だよ」

 

「助けてくれた仲間たちには俺からもお礼を言っておくよ」

 

「礼と言えばピーター。今俺たちがいる船の船長がピーターに礼を言いたいんだってさ。できればこっちに来てくれるとありがたいんだが…」

 

「うん?礼なら手伝ってくれた仲間に言ったほうがいいと思うぞ?俺は今回何もしてないからな」

 

「もちろん直接助けてくれた仲間たちもちゃんと礼をするんだが、ピーターにも会いたいみたいだ」

 

「…まぁいいか。みんなも世話になってるみたいだし、挨拶くらいしておくのも悪くないな。それじゃこっちも支度をしてから向かうよ」

 

 

アラバスタのほうは無事に解決したといってもいいが、ネバーランドを発つ前に協力の要請を受けていた情報提供のほうがまだ完全には解決していなかった。

 

というのも、俺たちがアラバスタで関わっていた出来事の間に、白ひげ海賊団のところにいた仲間たちのほうも情報提供の協力を得たおかげで探している男を捕捉できたらしい。

どうやら白ひげの船から逃げ出してから仲間を増やしながら移動しているようで、別の男たちと一緒に町を歩いているところを見つけたようだ。

 

本来ならちゃんと準備して挑むべきだが、燃える隊長のほうは我慢できなかったのか、居場所の連絡を聞いてすぐに周囲が止めるのも聞かずに飛び出してしまったらしい。

本人曰く「あいつは2番隊の部下だった。だから隊長の俺がケジメを付けなきゃならねぇ」ということなんだと。

しかも1人乗りの結構スピードの出る乗り物で飛び出していったせいで、仲間たちも追いかけたが追いつけなかったという事だった。

 

燃える隊長がどれだけ強いのかわからないが、殺されたのは別の部隊を率いる隊長だと言っていたはずだ。

つまり最低でも隊長を殺せるような男を相手に、しかも仲間までいるようでは何も考えず感情に身を任せて単身突っ込んでたら、いくら隊長であろうとも危ないでは済まないかもしれない。

 

そう考えた白ひげ海賊団にいる仲間たちは、探している男が滞在する場所にいるネバーランドの仲間に救援を求めたらしい。

とはいっても、加勢してくれという内容ではなく「燃える隊長が危険に陥るようなら救出してやってほしい」という内容だった。

 

そんな頼みを聞いた仲間たちは、なるべく見つからないように裏切り者の男と燃える隊長の戦いを見守っていた。

だが、健闘むなしく燃える隊長が負けたため、決闘が終わって気が緩んだ隙を突いて助け出してそのまま離脱したらしい。

助け出した隊長はかなり大怪我をしていたようだが、命に別状はなく意識を失っているだけだったようだ。

 

そして白ひげ海賊団にいる仲間に引き渡されて治療されているとの事だったんだが、ここでなぜか白ひげ船長が「助けてくれた礼をしたい」と俺に会いたいと言っているそうなんだ。

この場合俺よりも助けた本人たちに言ったほうが良くないか?と言ったんだが、そっちにももちろん礼をするが俺にも会ってみたいということだった。

 

もしかして以前シャンクスが白ひげ船長に俺の事を伝えておくって言っていたから、それで会う丁度いい機会だと思ったのかな?

 

まぁネバーランドの仲間もそれなりの人数がお世話になっているようだし、一度顔を合わせておくのも悪くないかもしれない。

シャンクスも交流ありそうな感じだったし、仲間たちもいるんだから悪い海賊ではないのだろうと思う。

 

あと燃える隊長のお見舞いなんかも持って行ったほうがいいか。

 

白ひげ海賊団は偉大なる航路後半の海を周っているらしいので、また少しばかりネバーランドを留守にする事を伝えてから今回救出に動いてくれた仲間と合流して向かうことにした。

 

 

 

 

 

「はじめまして白ひげ船長。俺はピーターと名乗っている。そして今回そちらの隊長を救出してくれた仲間も一緒に来たよ。あと他にもこの船には俺の仲間たちがたくさん世話になっていると聞いているよ」

 

「グララララ、おれぁ白ひげだ。お前には一度会ってみたかったんでな。だが…まずはエースを助けてくれた事、礼を言う」

 

「あれは仲間たちが頑張ってくれただけさ。俺はそんな事があったのを後で聞いてね。そうそう、お土産とお見舞いを持ってきたんだ。お土産は酒が好きだと聞いてたから酒にしようと思っていたんだけど、みんなに飲みすぎだって心配されてるらしいじゃないか。だから身体に良い薬膳のお茶を持ってきたよ」

 

「…酒じゃねぇのかよ。おれぁ飲みたいときに飲んでるだけだぞ」

 

「我慢しろとは言わないが、俺も白ひげ船長と同じく心配される身なんでね。そんな仲間の心配を無下にするわけにもいくまい?だからお裾分けさ」

 

「グラララ、変わった野郎だな。うちの船や傘下の船に乗ってるヤツらからも、そして赤髪の小僧からもお前の話は聞いている。仲間からはずいぶんと慕われているみたいだな。みんなが声を揃えてお前の事を「恩人であり育ての親だ」って言ってたぞ?」

 

そう言ってくれるのは嬉しいがそんな大袈裟な事でもないだろうに。

一緒に来た仲間は別の船員やこの船に乗っている仲間と話に行ったので、お見舞いの品を渡してもらうように頼んでおいて俺は白ひげ船長と一緒に酒を飲みながら話している。

 

この白ひげ船長は船員たちから「オヤジ」と呼ばれ慕われているようで、聞いてみると行き場のないゴロツキだった者たちが拾われてこの船にいたりするらしい。

なるほど。俺たちが子供を救っているように、白ひげ船長は行き場のない若者を救っているのか。

そう考えると俺たちは似たようなものなのかもしれないな。そう伝えると「そんな大層なもんじゃねぇよ」と笑い飛ばされたが。

 

船員もみんなこっちに来ては「エースを助けてくれてありがとう」と言っていくので、かの隊長もみんなから好かれているのだろう。

あまり外部の人間がおせっかいを焼く必要はないかもしれないが、いや外部の人間だからこそ苦言を言っておくべきか?

 

そう思っていたら体中に包帯を巻いた男がこっちにやってきた。少々渋い表情をしているが、何かあったんだろうか?

 

「あー…あんたたちが俺を助けてくれたんだってな。俺はエース、ポートガス・D・エースだ」

 

「はじめましてエース。俺はピーターと名乗っているよ。ところでどうしてそんな表情をしているんだ?」

 

「……俺は勝手に飛び出していって返り討ちにあって、あんたらに助け出されてここに戻ってきた。それが情けなくってさ」

 

「それでも君は生きている。おそらく君は「俺ならやれる」という気持ちがあったんだろうけれど、今回の事で1人ではできないことがあると理解したはずだ。俺が仲間たちに言い続けていることだけど、何かあれば仲間を頼りなさい。ここには君を心配し、生きて戻ってきたことを心から安堵している仲間がたくさんいるじゃないか」

 

周りで聞いていたみんなはウンウン頷いているが、そう言っても本人はなかなか納得はできなさそうだな。

まぁこの手のタイプはネバーランドにだって何人もいた。普段は聞き分けいいはずなんだが、思い込んだら一直線というかなんというか。

 

なので諌めるために例え話として、ついこの前あったアラバスタでの出来事を話して聞かせる。

何せあの件は俺はほとんど戦わず仲間たちが成し遂げたと言っても良い出来事だからだ。

七武海という有名で実力のある海賊を相手に仲間たちが力を合わせて立ち向かった結果、最後は逃げられてしまったとはいえ降参させて捕まえることができたんだから。

 

そんな出来事を話していれば、聞いていた白ひげ船長も七武海のクロコダイルは知っていたようで少々驚きながらも「あれはお前らの仕業だったのか…まぁお前の仲間ならそれくらいできるか」と納得もしていた。

 

白ひげ船長、俺が言いたいところはそこじゃないぞ。

 

自分に自信を持つのは結構な事だが、それを過信した結果が今回の結末だったわけだしな。

1対1で戦って負けたっていうのが悔しい気持ちはわからないでもないが、だからといって「今度は負けない!」なんていう根拠のない自信で突っ走るほど考えなしじゃないだろう。

 

「エース。許せないという気持ちは君だけじゃなくみんなが持っているんだ。そうじゃなかったら俺たちに協力を求めたりしないはずだ。だから君は1人で突っ走るんじゃなく仲間と一緒に挑むべきだったんだ」

 

「ぐっ……だけどさ!」

 

「君にも君なりの考えがあった事は確かなんだろう。俺にはそれを間違っているかどうかわからない。だから俺が言っているのは、(ピーター)ならどうしていたかという事だけさ」

 

「グラララ、エースよ。ピーターの言う通りだぜ。アイツを許せねぇのはここにいる全員が同じ気持ちだ。だからお前は今よりもっと強くなれ。力だけじゃねぇ、心もだ」

 

「オヤジ…」

 

なんだ、ちゃんと冷静に受け止める事もできてるじゃないか。いや、オヤジと慕う白ひげ船長を想うが故に突っ走っちゃったのかな?

エースは見た感じサボたちと同じくらいの年みたいだし、今回はいい経験だったと糧にしてくれたらいいか。

 

お小言はそれくらいにしておいて、船上ではみんなで大宴会が始まった。

みんなが笑いながら酒を飲み、エースに「本当に無事で良かったな」と声をかけている。

エースのほうは気まずそうな表情をしていたりするから、まだなかなか素直に良かったとは思えないのかな。

 

たぶんエースは末っ子気質なんだろうな。みんなに見守られて好き勝手やってるからもう少し大人になるか、弟妹とかでもいれば変わるのかもしれないな。

ネバーランドでは年長者が年少者の面倒を見ながら、成長し年長者が巣立っていけば新たな年少者がやってくるので、みんなが弟妹でありながら兄姉も体験できるというサイクルになっている。

 

そうやって成長していきながら勉強や人付き合いだけじゃなく、覇気や六式を学んだり教えたりしているのだから。

もちろん最初は事故が起こらないように覇気は教導してくれている革命軍の人間の監視の元でだが。

 

そんな事を白ひげ船長と教育談義みたいに話していたら、思わぬ言葉が返ってきた。

ネバーランドは子供が大多数を占める島だからか「しばらくの間エースにそんな子供の面倒を見させてやってくれないか?」との事だ。

普通なら息子と呼んでいる仲間を他所にやったりはしないらしいが、俺たちは海賊でもないし似たような部分もあるから一時的に預けて精神的な成長を促したいというのが狙いなのだろう。

 

確かにそういうのは体験しないと実感沸かない部分だもんな。

 

白ひげ船長からその事を告げられると、エースは少々渋ったが話を聞き了承していた。

まぁエースに伝えられた表向きの理由は「怪我の療養も兼ねて、助けてくれたピーターたちの島の手伝いをしてきてやれ」となっているが…

 

 

 

 

 

「随分と世話になってしまったね。それじゃあエースはしばらくネバーランドで預かるよ」

 

「グラララ、世話になったのはこっちのほうだ。エースの事は頼んだぜ。エース、お前もしっかり子供の世話を頑張りな」

 

「ああ、さっさと終わらせて戻ってくるさ。今度こそ負けないように修行もしてくるつもりだ」

 

 

数日ほど船に滞在させてもらい、ネバーランドの仲間たちとも顔を合わせいろいろと話した俺たちはエースを連れて別れの挨拶をしていた。

もちろん白ひげ船長にもシャンクスのときにお願いしたのと同じように、虐げられている子供などを保護したら教えてほしいと伝えている。保護できなくても情報だけでも構わないからとも。

 

 

 

ネバーランドへ向かう船の上ではエースに子供たちとの接し方などを話していたのだが、そこでエースからよくわからない質問をされた。

 

「なぁピーター。あんたはさ、海賊王に子供がいたとしたらどう思う?」

 

「んー?そりゃ海賊王って言っても人間なんだから子供がいたとしても不思議じゃないだろ?」

 

「そうじゃねぇ…もし子供がいたとしてさ。その子供は死ぬべきだと思うか?」

 

「いいや、そうは思わないな。それに聞いているかもしれないがネバーランドは孤児や虐待されていた子供の集まりだ。もしその中に海賊王の子供がいたとしても驚かないさ。…待てよ?そう考えると、もしかしたらネバーランドに実は海賊王の子供がいるかもしれないな」

 

「いや、いないだろ」

 

「わからないぞエース。もしその子供が孤児だったり虐待されていたならばいる可能性のほうが高い。ネバーランドにいなくてもネバーネバーランドのほうにいるのかもしれん」

 

何やらエースが呆れた顔をしているが、世間的に海賊は悪党だしその王様の子供ともなれば命を狙われている可能性が高い。

つまりロビンのように子供の頃から危ない目に遭っていたとしたら、ネバーランドに連れてきていても不思議じゃないんだ。

まぁ子供がいるのかどうかすらわからない例え話なんだろうけど。

 

 

「…そうか。もしかしたら俺が育ったかもしれない島か…」

 

 

「どうしたエース。ホームシックにはまだ早いぞ?」

 

「そんなんじゃねぇよ。ちょっと考え事してただけさ」

 

 

 

 

そうなのか…子供たちの世話はなかなか忙しいから、ネバーランドでゆっくり考え事ができる時間があるといいけどな。

 

 

 

 

 



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14.ネバーランドでの再会

 

 

「ピーターだ!」「ピーターが帰ってきた!」「おかえりピーター!」

 

「ただいまみんな。今日はこれからしばらくの間みんなのお世話をしてくれるお兄ちゃんを連れてきたよ。名前はエースだ」

 

「エース!」「よろしくエース!」「エースもピーターに助けてもらったの?」

 

「…ハハハ、こんなにいるのかよ」

 

ネバーランドに着いて気付いた子供たちが迎えてくれているが、まだまだ甘いぞエース。

ここにいるのは浜辺で遊んでいた子供だけだし50人くらいしかいない。

12才くらいの年長者から5才くらいの子までいて、走り回ったりしながら遊んでいたみたいだ。

 

現時点でこのネバーランドに何人の子供がいるのかなんて俺にもわからないけど、エースが驚くのはまだ早い。みんな集まったら10倍やそこらの話ではないのでもっと驚く事になるだろう。

 

せっかくだしこの子供たちの世話でもしてもらうか。

みんなに「今からエースが一緒に遊んでくれるぞ」と言ったら喜んでエースを連れて行ってしまった。

 

その間にもはやお城みたいに大きくなっているみんなの家に戻り、みんなに帰還の報告と白ひげ海賊団でお土産にもらった物などを仲間たちに渡しておく。

もちろん家庭を持っている者や仲の良い者同士で一緒に住んでいる者など、別々の家を建てて暮らしている者も多くいるが大半の子供たちはここで暮らしている。

 

エースにもしばらくここで暮らしてもらう予定のため、空いている部屋があればと思ったんだが生憎と空室はないようだった。

今もまだまだ世界中で争いや虐待などが起こり続けている。これからも俺だけじゃなく、世界中の仲間たちがそういった中で生きる術を知らない子供たちを救出していくだろう。

 

…つまり部屋が空くことはまだまだなさそうだ。エースには子供たちと相部屋で我慢してもらうか。

 

 

「どうだったエース。ネバーランドでの初日は?」

 

「まさか俺が振り回されるとはな…俺にも義兄弟がいるんだが、思ってたのと全然違って驚いたよ」

 

「はは、まだまだこれからだぞ。それにたまにはこういうのも悪くないものだろう?」

 

「…ああ、確かに悪くないな。てかピーターよ。なんであんなガキどもが覇気とか使えるんだよ?しかも追いかけっこで空中を移動するとかなんの冗談だと思ったぞ」

 

「この世界は戦いたくないからといって平和に過ごせるほど弱いものに優しくない。だから、せめて身を守れて逃げられるくらいの力はみんなに身に付けてもらいたいからね。それに辛く苦しい訓練よりも、なるべくなら楽しく遊びながら学べるほうがいいだろう?」

 

「なるほどな。油断してたとはいえ、まさかガキに遊びででも捕まるとは思わなかった。だが俺もまだまだ能力に頼ったりしてる部分が大きいと反省したぜ。オヤジがそこまで考えてたのかわからねぇが、この島にいれば俺はもっと強くなれる気がする」

 

「焦ることはないさ。白ひげ船長は何も力を付けるためにこの島へ寄越したわけじゃない。言っていたように怪我の療養だと思って子供たちと一緒に過ごすといいよ」

 

エースのネバーランド初日はなかなか驚く事のほうが多かったみたいだな。

俺考案の、見聞色の覇気で先読みしながら捕まえようと、そして捕まらないようにと工夫しつつ遊ぶ追いかけっこだ。

もちろん練度の差はあるので年長の子は多少手加減しつつ年少の子を楽しませたりもしているのだが、今回はエースがいたので普通にやったのだろう。

 

そこからはエースも一緒になって子供たちと遊んだり勉強したりしながらネバーランドに馴染んでいった。

 

 

 

「…………とまぁ、そんな感じでね。今はネバーランドで子供たちの世話をしてもらいながら過ごしているよ」

 

「…そうか、それならいいんだ。手間をかけさせてしまったみたいだな」

 

「別にシャンクスが気にする事ではないだろう?もしかして知り合いだったのかい?」

 

「ああ、一度会ったことがあるんだ。それでティーチが仲間殺しをしてエースが追いかけたっていうもんだから、嫌な予感がするんで白ひげにエースを止めるように言いに行ったんだが、こっちの忠告を聞いてくれなくてな。ピーターのところが動いてくれて良かったよ」

 

久しぶりにシャンクスから連絡が来たと思ったら、なぜかエースを助けた事を感謝されてしまった。

シャンクスたちもエースが飛び出した事を知っていたらしい。ネバーランドの仲間から聞いたのか別のところから聞いたのかまでは確認しなかったからわからないけど。

 

今はここで子供たちと過ごしているから近況を教えてあげたら安心したみたいだ。

呼んでこようか?と聞いたが「そこまでしなくていい」という事だったので、また気になったときにでも話をさせてあげればいいかと思いながら連絡を終えたら、またすぐに次の連絡が来たみたいだった。

 

今となっては世界中から連絡が入るので電伝虫が1匹では足りないため、ネバーランドにはかなりの数の電伝虫を置いてある。

そこで電話番をしている仲間もいるので、大体は連絡を受けて仲間から伝言や報告などを受けたりするのがほとんどだ。

 

今連絡をしてきているのは…革命軍にいるコアラのようだな。

 

「やぁコアラ。今日はどうしたんだい?」

 

「あ!ピーター!話は聞いてるよ。アラバスタ王国で大立ち回りしたんでしょ?」

 

「そこまでの事はしていないよ。ほとんど仲間たちの活躍だったからね」

 

「そうなの?ロビン姉さんとも少し話したんだけど、ピーターが来ててビックリしたって言ってたよ?」

 

「アラバスタでの話を聞いて少々気になる事があったんだよ。結果的に行って良かったと思うけどね」

 

まさかコアラにも話が伝わっているとは思わなかった。

別に聞かれて困る内容ではないけど、大立ち回りというほど大袈裟なものでもないと思うんだが…

 

コアラのほうも特に重要な用件があるわけじゃなく、よく連絡をしていると言っていたから世間話や軽い情報交換みたいなものなのだろう。

雑談をしながらネバーランドに今、白ひげ海賊団から療養兼子供たちの世話をしてくれている者がいるという話を教えてあげる。

 

「ピーター。ちょっといいか?」

 

「エースか。今話中だから少し待っててくれ」

 

噂をすればじゃないが、エースがちょうど部屋に入ってきた。そんな間もコアラの話は続いている。

 

「へぇ~。ピーターがアラバスタから戻ってきてからそんな事があったんだね。でもみんなの相手をするのって結構大変でしょ?私やサボくんだって面倒見てもらってた側から見る側になったとき思ったより大変だったもん」

 

「なっ!今サボって言ったか!?」

 

「えっ?なに?どうしたの?」

 

「落ち着けエース。突然大声出してどうしたんだ?コアラ、すまないが後で連絡しなおしてもいいかい?」

 

一旦コアラとの通信を終わらせて、何やら興奮しているエースを宥めて話を聞いてみることにした。

どうやらエースには小さい頃に杯を交わした義兄弟がいて、その2人のうち1人が死んでしまったらしい。で、その名前がサボというらしかった。

死んでしまったんなら別人じゃないのか?と思ったんだが、考えてみればサボは確か記憶を失っていたはずだ。

 

エースの知っているサボと同一人物かはわからないが、会わせてみればわかるか。

 

そうは言ってもサボのほうもドラゴンと一緒に出かけたりしているようだし、エースは早く会わせろと言うが空いた時間にネバーランドに来てもらうほうがいいだろう。

コアラにもう一度連絡を取り「もしかしたらだが、サボが記憶を失う前の事がわかるかもしれないからサボが戻ってきたらネバーランドに来るように伝えてくれ」と頼んでおいた。

 

 

 

後日、革命軍のほうからサボが戻ってきて伝言を伝えたら「ネバーランドに行ってくる!」と言って飛び出していったぞと連絡を受けた。

その事をエースに伝えたら、エースのほうもサボに会えると随分と喜んでいた。

 

 

エースよ、喜ぶのはまだ早いと思うぞ?エースの知っているサボと同一人物かわからない上にサボは記憶がないんだから…

 

 

それからのエースは、待ち人がまだかなまだかなとソワソワしながら毎日を過ごしていた。

子供たちの世話はしてくれているのだが、その間も何度も何度も何度も何度も海のほうを見ていたりしているのだ。

 

あまりにもあからさま過ぎる様子だったので、子供たちにもバレバレであり「エース、彼女でもできたの?」と勘違いされては否定しているのが見ていて面白かったくらいだ。

俺に聞いてきた子たちには「サボがエースと義兄弟かもしれないから来るのを待ってるんだよ」と教えてあげてあるが、サボが来るまでずっと誤解され続けるのだろうな。

 

 

 

 

 

今、エースとサボは仲良くいろんな事を話している。

 

俺もサボとエースの対面を見守りたかったんだが、ちょっと買い出しの手伝いに行っている間にサボが戻ってきたらしいのだ。

そのあたりはエースとサボが2人だけで話したみたいだから誰もわからないんだが、最後にはサボは記憶を取り戻すことができてエースの事も思い出したらしい。

つまりエースの言っていたサボは、ネバーランドで育ったサボと同一人物だったということだ。

 

「ピーター。エースと会わせてくれてありがとう。おかげで俺は全て思い出すことができたよ」

 

「そうか。それは良かった。まさかこんな繋がりがあるとは思ってもみなかったよ」

 

「はは、まったくだよな。まさかサボが助けられてこの島で生きてたなんてな」

 

サボを助けたのはドラゴンたちだから、俺は革命軍との約束通り受け皿として面倒を見ていただけに過ぎない。

だが、サボにとっては記憶を取り戻してもこの島は「出身ではないけど故郷だ」と言ってくれてたから嬉しくなり「義兄弟であるエースもなんならこの島を故郷と思ってくれてもいいぞ」と言っておいた。

もうこの島が故郷の仲間なんて世界中に数え切れないくらいいるんだ。今更1人増えたところでどうということはない。

 

「…本当に故郷と思ってもいいのか?」

 

「ああ、構わないよ。エースに故郷があるのなら無理にとは言わないが、このネバーランドをみんなで作り上げてもう50年近くになる。自慢じゃないがなかなか良い島だろう?」

 

「エース。この人はお前の事を否定したりはしない。てかこの人のほうがヤバいくらいだから大丈夫だ」

 

おいサボ。それは少し言い過ぎじゃないのか?なんだ俺のほうがヤバいって。

…まぁ確かに誘拐歴50年だもんな、考えてみたら大犯罪だな。だからといって止めないが。

 

エースは何か自分の中で葛藤しているようだが、ネバーランドはみんなの夢を否定したりなんてしない。

海軍に入りたい子は海軍に入り、冒険したい子は冒険家や海賊や賞金稼ぎになったりもしているし、サボたちのように世界政府を倒したいという子もいれば、ロビンのように歴史を知りたいという子もいる。

 

もちろん「コックになりたい」とか「お嫁さんになりたい」とかみんなの夢や目標は様々だが、余程の事がない限り一方的な否定はしないつもりだ。

というか、今までに否定するような夢を語った子がいないわけだが…

 

「…なぁピーター。前にさ、海賊王に子供がいたらって話をしただろ?」

 

「ああ、そんな話もあったな。それがどうかしたのか?もし子供がいたとしたらネバーランドにいる可能性は高いが、わざわざ調べるなんてしてないからわからないぞ」

 

「そうじゃねぇよ。俺がさ、その海賊王の子供だったって言ったらどうする?」

 

「エースが海賊王の子供だったのか。道理でこの島にいなかったわけだな。納得した」

 

「…それだけなのか?」

 

そう言われても俺は海賊王に会った事もないし、もしその子供をネバーランドで探せとか言われても世界中に散らばってる仲間に聞いて回るわけにもいかなかったからな。

特に孤児とかの場合は自分の生まれもわからないだろうし、そうなったらもうお手上げ状態だ。

 

「だから言っただろエース。この人はこんなもんだ。天竜人からでさえ奴隷にされている子供を奪うような人だからな。もしエースの事を俺たちが出会った子供の頃から知ってたとしても、ここに連れてこられてネバーランドで育ってたってだけだと思うぞ。もちろん俺たちも一緒にな」

 

「…こんな島があるんならもっと早く知りたかったな。まぁあそこも俺たちが杯を交わした場所だから思い出の場所ではあるんだが」

 

「今からでも遅くはないさ。すでに子供たちは君を慕っているだろう?手のかかる弟妹が増えたとでも思っておけばいいさ。それに君には白ひげ船長や船の仲間がいるだろうが、この島でも仲間が増えたと思えばいい。もうすでにネバーランドの仲間は君と一緒に冒険をしていたりしてるじゃないか」

 

 

 

 

エースが何を気にしていたのか結局わからなかったが、サボと再会できたことだし些細な事だろう。

 

 

 

 

 



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15.エースとサボによるピーター評

 

 

エースとサボが再会したことによりサボは記憶を取り戻すことができ、喜びのまま語り合いたかったものの…2人は大勢の子どもたちの面倒を見ることに追われたためひとまず夜を待つことにしていた。

 

「エースの無事と…」「サボの記憶が戻ったことを祝して…」

 

「「カンパァァ~イ!!」」

 

そして子どもたちが寝静まり時間ができたことで島の海岸へと移動し、2人でひっそりと酒を片手に改めて喜びを噛み締めていた。ネバーランドは大人よりも圧倒的に子どもが多い島なためあまり酒類は置いていなかったが、再会できた事と記憶が戻ったお祝いということでピーターからもらっていた。

 

「なぁサボ、お前はこの島で育ったんだろ?ある程度は聞いたがお前の口からも聞かせてくれよ」

 

「この島のことか?それともピーターのことか?」

 

「おれがわからねぇのはなんでピーターがここまで子どもを集めてるのかって事だ…もちろん虐待された子どもを助けてるってのはわかってる。ただ貴族や金持ちの道楽にしては行き過ぎてるし、わからねぇことが多すぎる」

 

「まぁそれはこの島に来て誰もが思うことさ。ただ助けるだけじゃなくいろんなことを教えてもらい、更に抗えるだけの力まで与えてくれるんだからエースの疑問は当然だろうな」

 

エースは幼少期から山賊に預けられており、決して世間一般にあるような生活を送ってきたわけではない。しかしそんな生活だったからこそサボやもう1人の義弟と出会うことができたというのもまた事実であり、なお生活が幸せだったとは言えないまでも地獄だったというようなものでもなかった。

 

その後海へと繰り出し自分で海賊団を立ち上げ…破竹の勢いで海を突き進んで白ひげと出会い、紆余曲折の末に尊敬するオヤジを持つことができた。

 

決して長いとは言えないかもしれないがエースもこの海を旅することで様々な経験をし、金や権力というものの強大さや厄介さというものも知っているつもりだった。そんな中で仲間を殺されたことで仇を討つべく1人追いかけ…結果として助けられてこの島へとやってきた。

 

そこで見たものは子どもが楽しく遊んだり頭を悩ませて勉強したり、時には叱られたりしながらも愛情をしっかりと受け取り日々を生きている様子だった。子どもの頃から兵士とするべく訓練させている国があることを話に知っていたエースは少しばかりの疑いも持っていたが、それが間違いだったというのは見ればわかった。

 

ただ…そうするとわからない部分が出てくる。

 

子どもは金を生まない…そして子どもはいればいるほど金がかかる。食料だって着るものだって子どもが増えれば増えるほど必要になる。だから世界には子どもを売り飛ばす親もいるし労働させる親だっている。

 

ピーターが実は世界貴族の一員だったりどこかの国の国王だったというのならわからないでもないが、もしそうだとしてもそんなことを新参者の自分に言うはずもない。だからこそエースは信用できる義兄弟であるサボに、この際だからと疑問をぶつけることにした。

 

 

 

……

………

 

 

 

「まずピーターのことを教えてくれ」

 

「ピーターのことか…」

 

エースからピーターやネバーランドの事を聞かれたサボもまた、どう答えたものかと頭を悩ませていた。

 

自分の知っていることを素直に言うことは簡単だったが、いくら義兄弟のエースとはいえ伝えてもいい事とまずい事がある。特にピーターの能力については勘付いている者はいても直接本人から聞いた者はそう多くないと聞いている。

 

ピーターの悪魔の実の能力…紙を生み出したり紙にしたりする能力。

 

ここだけ聞けば何も特別な事のない比較的弱い能力だろう。もちろん能力については使い方次第であるというのは世界中の常識として広まっているし、サボも実際に見てそうだと思っている。能力によっては互換関係があったり相性があったりと戦うにしてもそう簡単に強弱が出るようなものではない。

 

しかしピーターはその能力を戦い以外のところで見出してしまった。

 

一体誰が紙を扱う能力で偽札を作ろうと考えつくというのか…そしてその能力と目的が完全に合致してしまっていたのがピーターにとっては更に良かった。そして世界にとっては非常に都合が悪かった。

 

船を買う時、食料を買う時、本などを買う時、資材を買う時…多少は本物の紙幣もあるのかもしれないが、ほぼこのすべてをピーターが生み出した札束で支払っている。正直なところサボも一体この世界にどれだけの偽札が出回っているのかなんてわかっていない。

 

しかもピーターは子どもたちが成長して島を出るときには何かあった時のためにと餞別として500万ベリーを『毎回全員』に渡している。これはサボももらったし革命軍にいるコアラももらっている。それを知ったときにはサボは頭を抱えた…もしかしたら偽札で買い物してお釣りに偽札を受け取っている可能性すらあるということだ。

 

普段は子どもたちに折り紙として与えたり遊ばせたりしているから誰も気付かないし思いつきもしないかもしれないが、世界最悪という異名はドラゴンではなくピーターにこそ相応しいのではないかと頭を過ったことがないかと言われれば嘘になる。

 

たまにピーターは自虐なのか何なのかわからないが「誘拐歴50年」と言うことがある。しかし誘拐しているのは虐げられている子だけであり、身寄りのない子どもたちの受け皿になってくれてもいるのでむしろ歓迎すべきことだろう。

 

世間的には『赤髪海賊団』が子どもを連れ去っているという誤解が広がっているのは知っているが、ネバーランドのことを公表して世界に対して赤髪海賊団の誤解を解くわけにもいかない。これについては誤解を受けている当人たちも理解してくれているためネバーランドとの間に問題は起こらないが、なぜか子どもを虐待したり酷使している連中ほど声高に「返せ!」と言ってくるらしい。

 

このあたりは赤髪海賊団にいるネバーランド出身の仲間から直接聞いているが、おそらく子どもを奪われた者たちは虐げている事実に見向きもせずに世間体だけ考えて『自分たちは子どもが大切で大物海賊団であろうと立ち向かっている』というポーズなのだろうとサボは考えていた。

 

赤髪海賊団が民間人に手を出したりしないという事も合わさって口だけなら大丈夫と思っているのだろうが、加害者のくせに被害者のように振る舞う者というのはどこの島にも一定数いたりする。これは貴族だからだとか一般人だからだとか関係なくあることなので、ある種人間なら誰もがああいう風になりえるということを、サボたちは自戒の意味を込めてネバーランドの教育の中に取り込むように進言したこともあった。

 

ちなみに赤髪海賊団の船長であるシャンクスは全て知っているので気にしていない…が、実は今も現在進行系で子どもを連れ去った家には赤紙が置かれていることを知った時にはさすがに口元が引きつっていたらしい。

 

なおサボが聞いた話ではシャボンディ諸島には仲間たちによって奴隷を救い出す者たちもおり、現地の協力者と一緒に助けたりもしているそうだ。普通ならば奴隷を連れ去った者の体格や風体などをもとに海兵や政府の諜報員が犯人を探すのだが、奴隷を取り戻す者たちはローテーションしているらしく…つまり実行犯は数人どころではなく、実は数千人規模で順番に行動しているため手がかりになるものが何もないという神隠しのような結果で捜索は終わるということだった。

 

ちなみにこういった行動はネバーランドの仲間たちの中で海軍にいる者もいるため対立が発生しかねないものだったが、海軍にいる仲間は奴隷として扱われている者の惨さを目の当たりにしていたためむしろ奴隷の解放に積極的に協力してくれていた。

 

もちろん奴隷たちを連れ去られて良く思わない者たちは存在したが、残された赤紙…つまり『文句があるなら赤髪海賊団に言え』という隠されたメッセージを読み取った何も知らない海兵や諜報員は何とか赤髪海賊団をどうにかできないかと考えているということだった。ちなみにピーターに聞いたところ「赤紙を置いてくるのは自分たちがどれだけの事をしたのか理解させるため」と言っていたが、残念なことにピーターの思惑は完全に外れてしまったと言っていいだろう。

 

ピーターは50年くらい前からこの活動を始めたと言っていた。つまり赤髪のシャンクスが生まれる前どころか海賊王が海賊王になる前から、この大海賊時代と呼ばれる時代よりも前から動いていたということだ。そしてサボが知っている範囲なんてここ10年程度のものであり、もしかしたら実は氷山の一角かもしれないのだ。

 

その話を利用すれば世界政府を揺るがすことも倒すことも可能かもしれない。

 

しかし世界政府を倒すことはできても、無関係の平和を享受している人たちも間違いなく巻き込まれる。もし万が一ピーターが死んで偽札が紙くずになってしまったら世界中が弱肉強食の物々交換の世界になる。悪魔の実の中で何かを生み出す能力者の場合、たとえその場を離れても意識を失っても生み出したものは残っていることが多いはずだが…残るにせよ消えるにせよモノがモノだけに結果を知りたくもない。

 

つまりピーターが死んだとしても偽札が残るかもしれないが、いろいろと覚悟が必要であまりにもリスクが大きすぎるためピーターにはとにかく長生きしてもらいたい。

 

サボたちが望んでいるのは世界の破滅ではないため、絶対にピーターを悪用されるわけにはいかないしその存在を知られるわけにもいかない。

 

それにサボが助けられたのはドラゴンたち革命軍のおかげだが、その後様々な知識や経験を積むことができて今があるのはピーターのおかげだと思っている。自分たちに平穏を与えてくれたピーターには危険な目には遭ってほしくないとも思っているが、これからも子どもたちを保護していくだろうからどこまでいっても危険と隣り合わせにはなるだろう。

 

「とりあえずおれに言えることは…ピーターはある意味この世界の要と言ってもいいくらいの存在だ」

 

「なんか思ってたよりデカい話になってきたな…そりゃこの島ともう1つの島で子どもを育ててるってんだからスゲェとは思うけど、世界の要ってのは言い過ぎじゃねぇのか?」

 

「はぁ!?この島ともう1つってどういうことだ!?」

 

「ピーターが自分で言ってたぞ?このネバーランドとネバーネバーランドってのがあるってよ」

 

「あのひとは……まさか知らないのかよ……」

 

「そりゃどういうことだよ?」

 

とにかく大事な存在だということだけ伝えたサボだったが、エースから返ってきた言葉の中に聞き逃がせない言葉が含まれているとは思わなかった。本当は言える範囲でピーターの成した事を説明しようと思っていたのに、ネバーランドが2つしかないなどとエースに説明しているとは思わなかったのだ。

 

よくよく考えればピーターは基本的にこのネバーランドを中心に活動しているし、ピーターはこの島の代表と呼べる存在だからこの島にいることが多い。

 

翻ってサボは革命軍として世界中を巡っており、各地でネバーランドの仲間に会うことも日常茶飯事と言ってもいいくらいだった。ピーターにとっては当たり前の事なのだろうが、しかしピーターに助けられ幸せをもらった子どもたちがピーターと同じ夢を見ないとどうして考えるのか…

 

もちろんそれぞれに冒険家や海軍や海賊などという道を選ぶ者たちだって多くいるし、自分やコアラのように革命軍という道を選んだ者だっている。ネバーランドではない別の島に根を下ろし穏やかに暮らす者だって多いし、結婚し子どもがいる者たちだっている。

 

しかしそんな中にピーターと同じ夢を見て目指そうとする者がいないと考えるほうがおかしい。

 

サボだって一度はその夢を見たことがある…ただ子どもだったからなのか直接的に根本を排除しようという考えのほうが勝ったから革命軍にいるというだけだ。そして全員にとって親とも呼べるピーターが掲げる理想を…夢を共に叶えたいと思う子どもがいないと思うほうがどうかしている。

 

「エース…一応言っておくがネバーランドは1つや2つじゃないぞ」

 

「ん?でもピーターがそう言ってたぞ」

 

「あのひとが忘れてるのか知らないのかわからないが、少なくとも4つの海には2つずつネバーランドがある。偉大なる航路のほうも前半後半合わせて…俺が知ってるだけでもこの島を除いてあと4つあるな。あくまでおれが知っているだけでだ」

 

「意味わかんねェよ…なんでピーターが知らないんだ?」

 

エースの疑問はもっともであり、そしてそれは誰よりもサボが知りたい疑問だった。

 

恐らく理由は「完成してから見せて驚かせたい」といったものだろうとはなんとなく予想できるが、島の存在を知っているサボはてっきりピーターも知っているものだと思っていた。別に悪意があって隠しているわけではないと信じているし、自分たちがピーターと胸を張って肩を並べたいという気持ちもあるのだろう。

 

さすがにピーターが『聞いていたのに忘れている』ということはないはずだ。子どもたちの名前をまったく覚えられないという悩みは年のせいとかじゃなく単純に多すぎて覚えられないだけとわかっているし、これはピーターがどうこうではなく誰も全員の名前を覚えるのは不可能だと思う。

 

サボだって関わりの深い人間ならともかく、それ以外となると覚えられる自信はないし間違って覚えている自信がある。かなり頑張れば2~300人くらい覚えられるかもしれないが、そんな人数など1年もかからず増えていく程度の少人数なのだからピーターの悩みは一生解決しないだろう。

 

「ピーターが知らない理由は…たぶんだけど完成して驚かせようとしてるか、連絡がつかないかどっちかだと思う」

 

「連絡がつかないって…電伝虫はあるんだろ?」

 

「よく考えてみろエース。おれたちの仲間は世界中に散らばってるんだ。そしてわりと頻繁に連絡を取り合ってる…つまり」

 

「電伝虫が常に使われてて繋がらないってことか…」

 

サボの答えにはエースも納得するしかなかった。このネバーランドには電伝虫が多数常設されているが、連絡員をしている仲間は1人1台の電伝虫を担当しているわけじゃない。

 

そして基本的に緊急と言えるような連絡はそれ専用の電伝虫を置いており、そうじゃないのなら話すことは世間話や雑談が多い。島を出てしまえば顔を見ることが少ないため…寂しい思いをしないようにと長話になることも多かった。

 

ピーターが知らない理由はわからないが、やはり何かあった時のためにも知らないということはなほうがいいはずだ。

 

そう考えたサボは明日にでもピーターに教えておくことにした。

 

どれだけサボが考えたところで既にネバーランドはピーター1人をどうにかすれば無くなるようなものではなくなっている。ならば今サボにできることは再会できた義兄弟と今を楽しむことであって悩むことではないはずだ。

 

「ところでさ、おれがいなくなってからの事とか、エースが海に出た時のことも教えてくれよ」

 

「もちろんだ。そういやルフィにもサボのこと教えてやらないとな」

 

「エースがしばらくここにいるなら、もしかしたらこの島で再会できるかもしれないな」

 

「サボは革命軍のほうはいいのか?」

 

「ああ、しばらくネバーランドで待機しろって言われたよ」

 

まだまだ語り足りない2人は酒の肴にと思い出話に花を咲かせるのだった。

 

 

 

 



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