SAOに来たんですが、キリトさんがいないようです (青い灰)
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第一章 始まりの攻略戦線
主人公いないってマジすか


 

 

 

 

 

S(ソード) A(アート) O(オンライン)

 

 

それが世界の名だ。

 

内容はVRMMOでは初のRPG、

更に『フルダイブ』という技術により

仮想空間に五感を接続、

まるで現実のように味わえるゲームだとか。

 

だがその実態はゲーム製作者、

茅場晶彦が仕組んだデスゲームだった。

 

アインクラッドという100層からなる世界を

全て攻略し、ゲームをクリアしなければ

全てのプレイヤーは死亡する運命にある。

 

 

 

そんな、小説の物語だった。

 

 

 

 

 

 

小説の物語だったハズだ。

キリトという主人公がいる物語の、ハズだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このソードアート・オンラインという世界に、

どうやらオレは転移したようだった。

 

前世の記憶は何故か、全くと言っていいほど無い。

だが、SAOという原作については知っている。

だから最初の安全なエリア『始まりの町』にいれば

そのうちクリアされると思っていたのだ。

 

 

だが、知らない記憶がある。

このリアル世界での名前は神谷(かみや) (じん)

SAOのVRゲーム機、ナーヴギアは被った。

だがそれは記憶としてあるだけで、

オレがやったことじゃない。

 

プレイヤー名は『ジン』。

 

 

 

つまり、人格が入れ替わった。

この世界の人間じゃない

オレとしての記憶は、ゲームスタートから。

 

さっさとログアウトしようと思った。

だが、つい魔が差したのか、こんな考えが(よぎ)る。

『全部キリトに任せればいいんじゃね?

 どうせなら1~2層でゆっくり暮らそう』

 

 

 

…………今になって、バカだと思う。

 

結果、茅場を名乗る赤ローブに

『始まりの町』に強制召集され、

ログアウトを封じられる。

 

そして、第1層攻略の目処が立ったのは

デスゲームスタートから1ヶ月後。

2000人が死んだ。

…………この辺で嫌な予感がしていたのだが、

事が起きるのは確かこの後だったと安心。

 

 

攻略会議の色々を横目で見ながら

なんとなくクエを進めたりしていた。

 

 

 

 

そして、数日後だ。

最悪なことが発覚する。

 

 

 

 

 

「……………嘘だろ?」

 

 

見上げる掲示板にあったのは、第一層のボス戦。

その ()() という大きな見出しに、

『死にたくないし主人公に任せときゃいいかー』

という、そんな甘い考えは打ち砕かれたのだった。

 

 

「キリトが、負けた?」

 

 

思わず呟く。

主人公補正は最強のハズだ。

有り得ない、が頭を支配する。

 

 

「………………ということは、このまま」

 

 

死んでいくしかないのか。

いや、ただの間違いだろう。

そう思いたかった。

 

…………このまま、キリトがいないのなら。

全員がこのゲームをクリア出来ずに、死ぬ。

 

 

「……………死んでたまるか」

 

 

絶望は、怒りに変わって。

その矛先は何処にもいない主人公へ、

もしくはこの理不尽な世界へと向けていた。

 

こんな意味の分からない状況。

どうにか打破しなくてはならない。

 

 

「やってやる………どうせ、ゲームだ」

 

 

ゲームと思い込む。

そうだ、死ぬことはない。

恐れを捨てて、死ぬまで戦ってやろう。

 

 

 

 

 

 

 

なんで主人公がいねぇんだよ。

 

そんな怒りを胸に抱えたまま、

オレは槍を片手に、まずはレベリングへと向かう。

 

 

 

 

 

 






プレイヤー名:JIN 武器:槍
………今作の主人公。特記なし。


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レベリングにも命を賭けないといけない件



原作読んでレベリング
めっちゃキツそうだと思った(小並)。




 

 

 

「オラ死ね!」

 

 

槍でペネントという植物モンスターを殴りつける。

視界の左上のHPバーは緑色を維持しており、

黄色になった瞬間にポーションを

ガブ飲みするようにしている。

 

 

「ぬぉらぁぁッ!!」

 

 

殴りつけたネぺントは怯んだ所を更に追撃、

矛先で口の下にある弱点を貫く。

するとピタリと動きを止めたネペントは、

ガラスの割れるような音と共に

光の欠片になって消滅する。

 

そして、何度目かのファンファーレ。

メッセージが目の前に現れるが、

まだネペントは群がってくる。

 

 

「コナクソォ!やめときゃ

 良かったやっぱバカだろオレぇ!!」

 

 

群がってくるネペントの数は10を越えている。

振るわれる蔓の鞭によってビシビシと

むず痒さを感じながら体力が減っていく。

 

それを腰から引っ張り出したポーションで

誤魔化しながら左手でメッセージを消し、

槍を振り回してネペントたちを弾き飛ばす。

 

 

「食らいやがれクソ野郎がぁぁあ!!」

 

 

そして、右手の槍を大きく引き絞り、剣技(ソードスキル)を発動。

槍を深紅の光が包むが、未だに既視感を感じる。

(十中八九すぐ死ぬ槍使い兄貴だろうけど)

 

そして、引き絞った槍を全力でブン投げる。

 

 

 

名を〝ブラスト・スピア〟。

槍を投擲するというシンプルなソードスキル。

意外と広めな射程で標的を目掛けて翔ぶ槍技。

 

 

 

かなり遠くに離れた敵に向けてロックオンしたため

それは数体のネペントたちを貫いて

深紅の線を引きながら標的の弱点に突き刺さる。

 

クリティカルの影響もあり、

標的のネペントは一撃で絶命。

槍はネペントを貫いた状態で

地面に突き刺さっている。

 

 

「めんどくせぇ、な!」

 

 

それを走って取りに行き、

槍を地面から引き抜いて構える。

カッコ悪いが、退路も確保できて

この世界で数少ない遠距離技の1つでもある。

 

そして余談だが、今のレベルは13。

ステータスは基本的に敏捷にしている。

最低限の筋力で、敏捷にしか振っていない。

その二択しかないのだが。

 

 

「はぁぁぁッ!」

 

「えっ」

 

 

突然聞こえた呼気に、思わず

そんな呆けた声を出してしまう。

この聞き覚えのある声。

 

そして、声の主はビビるほどの速度で

ネペントの群れに突貫していく。

ソードスキルの音が連続で響き、

ペネントたちが中々の速度で葬られていく。

 

だが。それと同様に、

ガリガリとそのHPバーも減っていく。

 

そして。

ソイツ、やらかしやがった。

鼻をつくような嫌な匂いが広がる。

 

 

「く!?」

 

「あっやべぇ」

 

 

呆けてる場合か、と体を動かす。

こちらも槍を振り回し、

群れの中に入って行った声の主を見つける。

HPバーは5割を切っている。

 

鞭を振り上げたネぺントの上部に槍を突き刺し、

そのまま大きく振り下ろす。

敵HPバーの全損を確認と同時に、

ボロボロのフードを被ったそいつの腕を掴む。

 

 

「馬鹿、逃げるぞ!」

 

「えっ!?」

 

 

そのまま腕を引き、

振った敏捷の全力アシストを受けて走る。

群れから抜けるのは群れ突入から

そこまでかからなかったため楽だった。

 

 

そのまま、町の近くまで全力疾走する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで、助けてくれたの」

 

「死ぬからに決まってんだろーがよ、阿保」

 

 

問いかけに、そう即答する。

それにフードはムスッとした顔。

助けたのに助けられてご立腹なようだ。

まぁ、しかし。

 

 

「会えて良かった。

 お前、一層ボス攻略組の生き残りだよな」

 

「………………私は、その」

 

「お前の思ってるのとは違う。

 キリト、って奴を知ってるか?」

 

「─────えっ」

 

 

無理矢理にフードを剥がす。

栗色の髪をした美少女だが、

イマイチ顔に元気がない。

心なしか、やつれているように見える。

目の下には濃い隈があり、

眠っていないだろうことを思わせる。

 

やはり。

 

 

「し、知らない、けど………」

 

「…………なら良いんだ。

 取り敢えず会えて良かったよ、()()()さん」

 

 

原作メインヒロインこと、

主人公キリトの正妻のアスナ。

 

 

 

 

 

 

 

とある情報屋から買った、

頑なに秘匿としていた情報に彼女がいた。

 

 

 

 

 

 

全滅した一層ボス攻略組の生き残りがいると。

 

 

 

 

 

 

………全額支払って土下座した甲斐があった。

というか、キリトがいないのなら頼れるのは

ぶっちゃけアスナさんしかいないと思う。

 

 

 

 



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死にたくないのは普通ですしおすし


主人公は口悪いけどそういう性格設定です。




 

 

 

「な、なんで、私の名前を………?」

 

「あー………この手のゲーム、情報屋がいるんだよ。

 まぁ立ち話もなんだし、町に入ろう。

 Mobが寄ってきてもあれだし、なにより疲れた」

 

 

軽く息を吐き、町へと戻る。

そういえば、という感じで思い出したが

アスナはこの頃ゲームについての知識が

ないことを思い出す。

 

適当な飲食店でパンのようなものを

2つ買い、近くの噴水近くのベンチに座る。

彼女はフードを被り直している。

あまり人に見られたくないのだろう。

 

そもそも女プレイヤーが少ないという話だったが、

本当なのだろうか。

男が多いのは確かだが、女もちらほらいる。

 

 

「ほれ」

 

「……っと…ありがとう……」

 

 

買ったパンの片方を投げ渡す。

早速本題に入らなければ。

行儀は少し悪いがパンを齧りながら話し出す。

 

 

「ま、聞きたいことがいくつかあるんだよ」

 

「……………」

 

「もう一回聞くが、黒毛の片手直剣の男……

 名前はキリトって言うんだけど、知らないか?」

 

「知らない………けど……討伐隊の中じゃないの?」

 

 

首を振るアスナだが、それは違う。

パーティーを組んでいたハズだから、

知らないとおかしい。

 

………えらいことになった。

まさかキリトがいない世界だとは………

ともかく、軽く咳払いをして話を変える。

 

 

「じゃあ2つ目だけど、ボス攻略の本は見た?」

 

「一応は………配布されてたから……だけど」

 

 

まぁ、間違いの情報だが。

ボスの攻略本はβテスターたちが作ったものだが、

実際は茅場がデータを弄ったせいで

違うものとなっている。

彼女の言葉を予測して言う。

 

 

「タルワールじゃなく、野太刀だった、か?」

 

「っ!?なんで知って………!?」

 

「実はオレも討伐隊にいたからな」

 

「そうなの!!?」

 

「声がデカイぞ」

 

「あ、ご、ごめんなさい………」

 

 

ま、嘘なんですけどね。

都合の良い嘘だが、

これで怪しまれることはなくなるだろう。

 

 

「お互い、なんとか逃げきれて良かったよ」

 

「…………だけど、あの人たちが」

 

「野太刀のソードスキルも学習できた。

 次に生かせるようになったじゃないか」

 

「っ、あなたは………

 あの人たちを犠牲だって言うの!?」

 

「仕方ない、とまでは言わねぇけどさ。

 じゃあ何だ?お前は一緒に

 あそこで死にたかったのかよ?」

 

「こうやって生き残るくらいなら………

 あそこで殺されていた方が良かった!!

 貴方は違うの!?

 見殺しにして、勝手に逃げて!!」

 

 

お前がそれを言うのか………

若干困惑するが、まぁ的を得ている。

あと声が大きいと何度言えば。

胸倉まで掴まれて逃げられないし。

周りの目がキツいよ?

 

とにかく、的を射てはいる。

だが、その考えは間違っているだろう。

 

 

「────馬鹿だろ、お前?」

 

「……っ………!?」

 

 

溜め息をつき、

彼女で睨みつけながら、静かにそう言い放つ。

 

 

「死ねば良かった?

 ならさっさと下に飛び降りたら良いじゃねーか。

 討伐隊の奴等に会えるんじゃないか?」

 

「っ………」

 

「ほら黙る。オレを助けるフリして

 あんな無茶なレベル上げに命張ってさ?

 こう言葉にされて馬鹿だと思わないか?

 頭を冷やせ、死にたくなけりゃな」

 

「………………あなたに、何が」

 

「分かるっつーの。

 同じ討伐隊だって言ったぞ?

 話を逸らそうとしても無駄だ」

 

「っっっ…………!!」

 

 

煽りまくる。

とにかく、こんなおかしくなった奴は

一度思いっきり溜め込んでるものを

吐き出してやらねばならない。

 

まぁそれを許さないで追撃し、

一方的に追い詰めていく。

が、それもここまでだ。

 

少し間をあけて、言う。

 

 

「だから、戦うんだよ」

 

「………え?」

 

「これからも死人は多く出るだろう。

 また同じ間違いを繰り返してどうする。

 死んでいった連中と同じ地雷

 踏み込んで死にたかねぇだろ?

 いや、そもそもだぞ?」

 

 

呆れ顔で言い放つ。

 

 

 

「死にたいって思うのは悪くねぇけど、

 『死にたくない』って思うのが普通だろーが」

 

 

 

虚を突かれた顔で呆然とする彼女。

あ、これ癖になりそう。

こんな相手を『は?』って呆然とさせるの楽しい。

 

 

「奴等も死にたくて死んだわけじゃない。

 それは皆同じだって分かってるだろーが。

 だから……そいつらの分まで戦う。

 それでいいだろ、全部」

 

「で、でも……私は、私たちだけが、生き残って」

 

「生き残ったお前を責める奴はいても、

 怖くて震えて戦ってすらいねぇ奴に

 生き残ったお前を責める権利なんざねぇよ。

 だから安心して言って良いんだぞ?」

 

 

最後に、笑って言う。

話の締めくくりはさっぱりすれば良い。

 

 

 

「『生きてて良かった』ってさ」

 

「あ………ぁ…う……っ……ぇぐ……」

 

 

その零れ伝う涙は嬉し涙か、

それとも溜め込んだものが溢れたのか。

まぁ別に興味もないが、まぁこれで。

 

 

 

 

「話は終わったから行くぞ。

 周りの目がキツい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣きじゃくる彼女の腕を引きながら、

逃げるようにその場を離れる。

 

 

 

 

 

……………これでオレも生き残り判定食らったなぁ。

周りの奴等に聞かれてたし………

ヘイトが集まるのは嫌なんだけど………

 

 

 

 

 



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鼠のペイントが入ってないやん!?

 

 

 

「で、お前をこうやって懐柔させた訳だけど」

 

「今更だけど今ので怪しくなってきたわ」

 

「おっと口が滑った」

 

 

路地裏にアスナさんを引きずり込み、

なんとか泣き止んでもらった後。

そんなことを話しながら

今度は宿屋へと向かっていた。

 

 

「まぁなんだ、手伝ってくれない?」

 

「手伝うって……私は何をすればいいの?」

 

「あれ手伝ってくれんの?」

 

「これでも慰められた感謝はしてるわ。

 確かにあのままの私だったら

 いつか……ううん、きっとすぐにでも死んでた。

 だから、ありがとう」

 

 

その顔はどこか晴れやかな笑顔。

良かった良かった。

とりあえず信用はしてくれたようなので

これからの方針を話す。

 

 

「んじゃあ………ボス再攻略の手伝いをしてくれ。

 討伐の人員集め、それと攻略本の作り直し。

 先の宿に知り合いがいるからそいつと協力でな」

 

「あぁ、だから宿なのね。

 てっきり篭絡されるのかと思ってた」

 

「お前オレをなんだと思ってんの?」

 

 

なんか変な方向に信頼されているのでは?

原作よりもテンション高くなってるし。

 

宿屋の前まで来ると、

フードを被った女が出迎えてくれていた。

挨拶代わりに代金の入った小袋を投げ渡すと、

女はそのフードを取る。

 

 

「ん、バッチリだナ。待ってたヨ」

 

「悪いな、遅くなった」

 

「あなたは………?」

 

「おっと、そっちは初めましてだナ」

 

 

フードの下は金褐色の髪をした女。

身長はそこまで高くなく、年齢は若く見えるが、

さてリアルとしてはどうなのか。

確か高三だったっけか。

 

そして、彼女の頬に

あの3本線が入ってない珍しい光景が見れている。

 

まぁこっちのゲーム内でのリアルの話は

タブーなので話したりはしないが、

まぁとにかく。

 

 

「オレっちは情報屋のアルゴ。

 これからどうぞご贔屓に、ってナ」

 

「情報屋………もしかして、私のことを?」

 

「まぁナ。そいつ、財布ごと

 寄越すからびっくりだったゼ」

 

「ま、同じ生き残りとして励ましてやろうとだな」

 

「まるでストーカーね………」

 

「こころ壊れる」

 

 

グッサグサ刺して来るなぁ………

流石はレイピア使いと言った所だろうか。

身体どころか精神にも風穴が開くんですが。

 

少し落ち込んでいると

アルゴはケラケラと笑い出す。

 

 

「ニャハハ、ま、オレっちも得したし。

 これからが楽しみになったからヨシとしたんダ。

 本当は売るつもりはなかったヨ、

 勝手に売っちまって悪いけど、

 これが仕事だからナ、勘弁してクレ」

 

「仕方ないわ。あ、そうだ。

 もしかして私もその時の情報を買えたりする?」

 

「安くしとくヨ」

 

「やめてくれない?

 女2人で男苛めて楽しいの?」

 

「「意外と」」

 

「えぇ……」

 

「んじゃ、部屋は取ってあるから

 詳しい話はそこでするとしようナ」

 

 

そうして宿屋に入っていくアルゴについていく。

すると、アスナが不思議そうな顔をして

こちらの袖を引いてくる。

 

 

「これから何をするの?」

 

「新しい攻略本を作るんだ。

 1からやり直さねぇといけねぇしな」

 

 

こうして、再びボスに挑むための

攻略本作りが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「じゃ、まずは元々の

 攻略本と照らし合わせてみるカ」

 

「あぁ、前半は攻略本の通りだったけど、

 後半がかなり違ってたからそこを見直そう」

 

 

部屋に3人で円を作り、

それぞれが攻略本を手にして会議を始める。

ちなみに記載するのはアルゴである。

この職人に任せれば問題ない。

 

 

「うん。まず武器だったけど………

 タルワールじゃなくて、野太刀って呼ばれてた」

 

「もうカテゴリから違ったのカ……

 こりゃ失態だナ、βテスターたちが

 恨まれないよう操作しておくカ」

 

 

確か彼女もβテスターだったハズだ。

そこまで有名でもなかったと思うが。

だからソードスキルについても知っている。

 

 

「ソードスキルは………

 上段の振り下ろし、確か〝幻月〟だったか。

 それと居合の〝絶空〟だったっけ?」

 

「ふむふむ………中々面倒な相手だナ……」

 

「あとは………遠距離の私たちに向けての

 もう1つ居合があったような気がするわ。

 刀が白く光ってたし」

 

「〝辻風〟か。範囲の広い居合技だナ。

 遠距離まで接近して切り抜くソードスキル」

 

「そういえば切り上げもあったか。

 〝浮舟〟って名前だっけ?

 でも追撃はしてこなかった、

 軽くスタンがかかるくらいだ」

 

 

原作では確かディアベルを切り上げてたハズだ。

その後に追撃はなかったと思う。

その他にも思い出せる分は、

ソードスキルはそれが全てだった。

 

 

「………これが一層ボスって中々に鬼畜だナ。

 前半だけとはいえセンチネル(取り巻き)

 いるとなると、攻略組がやられたのも納得ダ」

 

「しかも後半から強くなってた。

 目が赤色に光って……それから皆やられたの」

 

「怒り状態……ってヤツだな。

 動きが俊敏になってたし、

 多分敏捷に補正が乗ってたと思う」

 

「………成程ナ、こんなもんカ?」

 

「どう?」

 

「他にはないと思うけど」

 

「ん、オッケーだ。

 これで攻略本の編集は終わりだナ。

 じゃあ次は………」

 

 

 

 

「攻略組の再編成、だな。

 新しい仲間を募ってくか」

 

 

 

 

 



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ボス『Illfang the Kobold Lord』攻略前半戦


主人公は常に最前戦にいてもらうので
かなりの頻度でボコボコにされます。
ていうか前回と前々回タイトルで
寿司ネタ被ってるのに気付いた。

ちなみにソードスキルはSAOの
ゲームなどから持ってきてます。




 

 

 

 

「よし、集合時間だな。

 かなり集まったんじゃないか?」

 

 

アルゴ、アスナと一緒にボス攻略本を作って

一週間が経過していた。

そして、現在地は迷宮区の最奥。

巨大な扉がある部屋の前。

 

眼前には、15~20ほどのプレイヤーたちが、

隣にはフードを被ったアスナがいる。

アルゴが掲示板で召集をかけてくれた者たちだ。

その中には、生き残りが他にもいたという。

 

…………エギルさんも生き残りだそうな。

忘れててごめんなさい。

 

 

「うん、手伝ってくれてありがとう」

 

「礼ならアルゴにな。

 あとでたんまり金取られるぞ」

 

 

親指と人差し指で円を作り

金を示すジェスチャーをしながら

笑みを浮かべるアルゴが見える見える。

 

それはともかく、

アスナが全員の人数を数え終わる。

 

 

「18人ね。前よりも少し減ったけど、

 攻略本も書き直したから少しは大丈夫かも」

 

「それじゃ後は頼むわ、

 オレにゃリーダーとか無理」

 

「だろうと思ってた」

 

 

ちなみにアスナとはパーティーを組んでおり、

プレイヤーたちにも

2人1組で組んでもらっている。

左上に見える仲間のHPに頼もしさを感じる。

 

 

「皆さん、今日は集まってくれてありがとう!

 前回の皆のためにも、必ず勝とう!!」

 

「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」

 

 

流石は美少女、野郎ども大歓喜である。

 

ともかく、これからだ。

1人も欠けずに、ボスを討伐する。

 

 

重苦しい扉を押す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅の巨大なコボルドが、そこにいた。

その巨体に見合う斧と円盾(バックラー)を手に、

それは玉座から立ち上がる。

 

 

「行くぞ」

 

「っ、ジン!?」

 

 

同時に、右手に槍を構え全速力で疾走する。

 

吠えるコボルドの王。

その近くに緑色の4本のHPバーが浮かび上がり、

Illfang the Kobold Lord───

そのボスの名が、刻まれる。

 

そして更に、そのボスの周囲に

小型のコボルドたちが3体、現れる。

 

 

「邪魔、すんじゃねぇよ!!」

 

 

出現した僅かなタイムラグを狙い、

コボルドの一匹の首元……その鎧の隙間に

槍を突き刺し、更に槍を振り回して

横2体のコボルドを吹き飛ばし、

その首を空高く刎ね飛ばす。

 

不意打ち、そしてクリティカルが

ガリガリと現れたHPを削り抜く。

そしてバキッという音と共に、

コボルドの一匹は光となって消滅する。

 

 

「かかれ!!」

 

 

全員が硬直した瞬間、

腹から出来る限り大きな声で叫ぶ。

後ろのプレイヤーたちはそれにやっと

ハッとしたように走り出してくるが、

既にコボルドロードは動き出している。

 

声を出す瞬間にはこちらに走り出していた

アスナはレイピアを構え、

ソードスキルでコボルドロードの攻撃を弾く。

 

 

「スイッチ!!」

 

「了解、下がれ!」

 

 

ソードスキルの硬直が入ったアスナを横目に、

怯んだコボルドロードへと槍を両手で構え

ソードスキルを繰り出す。

 

 

〝トリプル・スラスト〟

 

 

大きく前に踏み込み、高速で3連突きを放つ。

敏捷によって補正がかかり、

ほぼ同時の速度の3連突きが放たれ

ソードスキルによる硬直も初期の技なため

ほぼゼロに等しいほど少ない。

 

 

「■■■■■■■■!!!」

 

「バァーカ、効かねぇよ!!」

 

 

反撃の斧が薙ぎ払われる、が。

硬直の短さを利用して連続でソードスキルを発動。

槍を両手で斜め下に矛先を向けて構える。

 

 

〝スパイラル・ゲート〟

 

 

薙がれた斧に、槍の矛先が当たる。

それと同時に硬直が解除され、

その振るわれる斧の力を利用して

槍を起点に斧の上へと飛び上がる。

つまり、カウンターのソードスキルだ。

 

 

「お、らァ!!」

 

 

槍を回転させながら横向きに跳びあがり、

その頭に狙い澄ました一閃を放つ。

 

 

「■■■■■■■!!」

 

「あ、やべ───」

 

 

が。

次の瞬間、全身を鈍い衝撃が襲う。

 

咄嗟に顔を逸らしてその突きを回避され、

ミスした代償として硬直してしまう。

そして、薙ぎ払った斧の腹で、

強く地面に叩きつけられる。

 

 

「ぐ、ぁ………!」

 

 

左上でHPバーが凄まじい速度で減っていく。

それはHPの半分を切り、黄色まで。

 

残りHP、4割。

 

()()()()()()()

即座に身体を起こし、トドメとして放たれた

斧の振り下ろしを回避する。

 

 

「お、らぁッ!!」

 

 

同時に大きく槍を右手で振り回し、

大きく水平に、右に薙ぎ、踏み込んで左に薙ぐ。

 

まだまだ。

 

両手で構え、突きを放つ。

深く突き刺し、コボルドロードの腹を

強く蹴って槍を引き抜き

その場から離脱する。

 

 

「あっぶぇ、死ぬ………!」

 

「ジン、上!!」

 

「は?」

 

 

大きく頭上へ飛び上がったコボルドロードを、

アスナの呼び掛けでなんとか視認。

 

振り下ろされるソードスキルに、

回避は出来ないと咄嗟に判断。

両手で槍を頭上に構えて斧を受け止める。

 

武器防御スキルは取ってあるが、

これでは耐久が凄まじい速度で減る上に

相手のソードスキルの補正によって

防御を貫通してビリビリとHPが減る。

黄色が、紅に変わる。

 

残りHP、2割。

 

流石に危険だと思うので

防御されたことによる硬直に入った

コボルドロードに背を向けて

疾走し、距離を取る。

 

 

「死ぬ………あぶねぇ……!」

 

 

右手でメニューを開き、アイテム欄から

ポーションをオブジェクト化、

口に突っ込んで飲み干す。

 

レモンのようなキツめの酸味が口に広がる。

正直おいしくはない。つーか味に飽きた。

するとアスナが他のプレイヤーたちに

コボルドロードを任せ、こちらに走ってくる。

 

 

「大丈夫!?」

 

「見て分かるだろ、まだまだ行ける」

 

「どこがよ!?死にたいの!?」

 

「はっ、冗談。

 ほら見ろ、一本削ってやったぞ」

 

 

コボルドロードのHPは4本のうち

1本が全損している。途中途中でアスナも

ソードスキルを打ち込んでくれたお陰だ。

 

このまま行けば、さっさと削りきれる。

 

 

「う………だけど!」

 

「ほら来るぞ、雑兵は

 オレらが相手しなきゃなんねぇし」

 

 

立ち上がり、槍を構えて

再び現れた3体のセンチネルを迎え撃つ。

 

ボスのHPが残り1本になるまでは無限湧き、

ボスを他のプレイヤーたちに任せるのなら、

こいつらの相手は必然的にこちらになる。

 

 

「有象無象が、邪魔すんじゃねぇ!!」

 

 

大きく槍を握る右手を引き絞る。

 

 

〝ブラスト・スピア〟

 

 

ペネント戦でも使った槍投げを放ち、

硬直が起こる前に走り出し、前に跳躍。

空中で硬直が起こる。

 

2体のセンチネルを貫き、

地面に突き刺さった槍付近へと着地。

同時に硬直が解け、槍を引き抜いて

3体目のセンチネルへと構える。

 

 

「らぁッ!!」

 

 

跳躍からの叩きつけ、

怯んだセンチネルを二発目の薙ぎで

HPを全損させる。

 

 

無限湧きとはいえ、リポップには時間がある。

7割まで回復した自己HPを確認し、

メニューを操作してポーションを取り出し

口に突っ込む。

 

そして隣に駆け寄ってくるアスナを見て、

最後にボスのHPを確認する。

 

 

3本目に入った。

ボス残りHP、5割だ。

 

この先、あと1ゲージ削れば、野太刀に変わる。

 

 

 

 

さて、ここからが本番。

 

踏ん張り所だ。

 

 

 

 

 



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ボス『Illfang the Kobold Lord』攻略後半戦

 

 

 

「さぁて、第二ラウンドと行こうか」

 

「待ちなさい」

「ぐぇ」

 

 

槍を左手に構え、走り出そうとした瞬間。

アスナに後ろ首を掴まれる。

思わず前のめりになってしまい、

息が苦しくなる。

 

 

「んだよ、人がカッコつけてんのに……」

 

「そのカッコつけで死んだらどうするの。

 私も行くわ、手伝わせて」

 

「はいはい………じゃ、スイッチ頼むわー」

 

 

アスナが首を離すと同時に、

気を取り直して走り出す。

槍を左手で回し、ステップで

コボルドロードの背後に回り込む。

 

 

「おぉぉッ!!」

 

 

呼気と共に跳躍、槍の穂先で水平斬りを打ち込み

それから右手に持ち変える。

更に空中で追撃のソードスキルを発動する。

 

 

〝スピン・スラッシュ〟

 

 

右手のみで頭上に構えた槍を回転させて斬りつけ、

その回転の勢いを利用し、両手で構え直して

更に威力の高い薙ぎ払いを見舞う。

 

 

「■■■■■!!?」

 

「スイッチだ!

 一度下がって体勢を整えてくれ!!」

 

「お、おう!助かる!」

 

 

ボスを任せていた集団に叫び、下がらせる。

全体的に体力が下がってきていた、

これ以上は死人が出る前に

畳み掛けてボスを殺す。

背後から凄まじい速度の足音に、叫ぶ。

 

 

「アスナぁ!!」

 

「分かってる!

 はぁぁぁぁッ!!」

 

 

アスナのレイピアが白い輝きを放ち、

ソードスキルが発動される。

細剣も敏捷補正の乗るソードスキルだが………

 

 

「うぉ!?」

 

「何であなたが驚いてるのよ!」

 

 

得意げな顔で言うアスナ。

明らかに10mはあった距離を一瞬で詰め、

鋭い突きの一撃が放たれた。

それにコボルドロードが怯む。

 

確か〝スティンガー〟というソードスキル。

距離を詰め、一撃を放つ技だったか。

 

………いや、これは〝閃光〟ですわ。

ソードスキル補正と敏捷補正のかけ算ヤバすぎる。

原作で言っていた『剣先が見えない』どころか、

まだ一層だと言うのに

姿が捉えられないほどの速度が出ている。

 

 

「スイッチ!」

 

「了解!」

 

 

怯んだコボルドロードへと追撃を仕掛ける。

 

右手の槍を縦に回転させ、3連続の斬撃、

強く踏み込み、その速度を乗せた突きを放つ。

当然ソードスキルではないので硬直はない。

 

怯みから抜けたコボルドロードが

斧を構えた瞬間に離脱……したかったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ぐ、ぁ」

 

「っ!?」

 

 

なんとか背を向けてアスナを押し飛ばすが、

斧のソードスキル、〝ダブル・クリーブ〟による

水平二連の斬撃に背中を引き裂かれる。

 

鈍く気持ちの悪くなる衝撃が身体を襲う。

クリティカルが入ったのか、

止まる気配のない恐ろしい速度で

視界左上のHPバーが減少する。

 

 

「や、べ」

 

 

思わず、笑みが浮かぶ。

 

まさかこんな所で終わり、とは。

 

 

 

 

吹き飛ばされる。

衝撃によって身体が宙に浮く。

これでは生き延びても、落下ダメージで死ぬ。

 

 

こんな時に冷静になって集中力が高まったのか、

世界が色を失い、スローになったかのように変化。

 

トラウマを思い出したかのような

アスナの絶望に染まる瞳が、見えた。

 

 

 

 

    認められるか、馬鹿が

 

 

 

 

終わってたまるか、この意味の分からない世界で。

理不尽だらけのこんな世界で死んで、たまるか。

 

重くなった目蓋を無理矢理開き、

強く敵を睨みつける。

 

 

 

 

「舐めんなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

全力で吠える。

槍を地面に突き刺し、吹き飛ばされる勢いを弱め、

衝撃で腰のホルダーから外れたポーションを

手に取り、砕いてその液体を口に含む。

 

ミリ単位で残ったHPがギリギリで回復し始める。

 

 

「ぜぇらぁぁぁッ!!!」

 

 

着地と同時に硬直中のコボルドロードへと

左手で槍を構え、大きく腕を引き絞る。

 

 

〝ブラスト・スピア〟

 

 

紅を引く槍を投擲、その頭を撃ち抜く。

ガリッ、と耳を衝くような

サウンドエフェクトが響き渡る。

コボルドロードのHPが目に見えて減少し、

3本目のゲージを吹き飛ばす。

 

遂に耐久値が限界を迎えたのか、

槍が爆散、光の欠片となって消滅する。

 

 

「■■■■■■■!!!?」

 

「削り切る!!手伝え!!」

 

「ぁ、え、わ、わかった!

 みんな、全力でソードスキル!!」

 

「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

 

 

頭部を貫かれたボスは片目が欠損状態になる。

視界を半分奪い、更に頭部クリティカル、

部位欠損によるスタンが入っている。

スタンのため野太刀に持ち変えはできていない。

 

この隙に最後のHPバーを全て削り、仕留める。

 

アスナの号令で

待機していたプレイヤーたちが走り出す。

 

 

「めんどくせぇな…………!」

 

 

メニューを操作し、装備欄を開く。

砕けた槍もショップにある売り物で

スペアはあるため、それを装備。

追加で腰のポーションを3本飲み干す。

 

 

「おぉし、ブッ殺してやんよ………!」

 

 

濡れた口元を拭い、槍を構える。

 

全員が連続して放つソードスキルによって

凄まじい速度で削られていくボスのHPは既に

3割を切っている。

 

ならば全力でトドメを刺すだけだ。

 

 

 

 

疾駆。

 

スタンから抜けたコボルドロードが

野太刀を取り出して暴れるが、

そのHPは残り2割まで行っている。

 

ならばその2割、全て持っていくまで。

 

 

 

だが、その瞬間。

 

コボルドロードの野太刀が深紅の光を帯びる。

一撃でディアベルを殺したあれが来る。

 

 

 

上等。

 

もうこの距離では立ち止まっても食らう。

なら迎え撃つしかない。

というか、元よりそのつもりだ。

 

 

 

 

「悪いアスナ、だが許せ!!!」

 

「えっ」

 

 

そして一度、軽く跳躍。

 

偶然その場にいたアスナにそう叫び、

思いっきり()()()()()()()()()()

全力で飛び上がる。

 

 

 

 

 

 

 

そして、コボルドの王が

刀を振り上げる、その眼前に迫る。

 

 

 

「■■■■■■■!!!!」

 

 

 

咆哮するコボルドロード。

 

右腕に全力を込め、槍が深紅に染まる。

超至近距離。

 

 

 

「うるせぇよ────クソ野郎」

 

 

 

〝ブラスト・スピア〟

 

 

 

 

 

 

 

深紅の槍が、コボルドロードの頭を刺し穿つ。

 

 

 

自由落下に入ったこの視界は、

コボルドロードのHPバーが消滅するのを、

確かに捉えていた。

 

 

「あー……………」

 

 

落下ダメージ痛そうだなぁ、と

そんなつまらないことを考えて。

 

その後ろで、空中で静止していたコボルドロードは

光の欠片となって爆散、消滅したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

マジで、疲れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ただ晴れやかな決断を



まだ一層なのに何度も死にかける主人公……
今回は短めです。




 

 

 

 

 

「正直トラウマになりそうだよ、お前が」

 

「うるさいわね………」

 

 

落下ダメージの後、

踏みつけたせいで怒り狂ったアスナに

本気で殺されるのではと覚悟した。

 

というか仲間やプレイヤーを攻撃すれば

犯罪者(オレンジ)プレイヤーになってしまう。

その状態で転移門からワープして町にでも行けば

クソ強NPCの衛兵に殺されるだろう。

なんで逃げるのが大変だった。

 

その場に腰を下ろし、

共に戦った皆で勝利を喜び合う。

 

遠くで『CONGRATULATION!』だの

『やったな!』『すげぇよ!』だのと

聞こえてくるが…………

 

 

「…英雄か……悪くないかもなぁ……」

 

 

誰にも聞こえないような声で呟く。

キリトのようになるつもりはないと思っていたが、

悪くはないかもしれない。

こうやって誉められるのは単純に嬉しい。

 

 

「ま、確かにボスを倒せたのは、貴方のお陰よ」

 

「みんなの協力があって、だな。

 流石にボスをソロではキツいわ」

 

「……改めて、おめでとう。

 これからも頑張りましょう」

 

「……………そうか、

 あと99層もあるのか。頑張らないとな」

 

 

地獄のような長さだが、やるしかない。

最悪、ヒースクリフを倒せるレベルまでは

上げておいて安定を取りたいし………

 

もしも、自分がこの世界で唯一の

イレギュラーなのだとしたら………

何が起こるか、まだ分からない。

オレは、主人公(キリト)ではないのだから。

 

 

 

アイテム欄を見る。

ラストアタックボーナスによる報酬、

ボス討伐の報酬がかなりの量で入っている。

 

槍は残念ながら見当たらない。

斧や刀はエギルやクラインがいたらあげよう。

そして────

 

 

「…………やっぱり、あるんだよな」

 

 

黒いコート。

このステータスでの装備も可能だ。

 

 

「どうしたの?」

 

「ラストアタックボーナス、ってのがあってさ。

 トドメを刺した奴は報酬が少し増えるんだけど、

 それで黒いコートがあった」

 

「良いんじゃないかしら?

 ボスドロップの防具だから強いだろうし」

 

「…………………………」

 

 

少し、沈黙する。

本当に、これを装備していいのだろうか?

 

 

 

 

 

躊躇いがあった。

きっとオレは英雄には、黒の剣士にはなれない。

だから必死に、死に物狂いで、全力で、

1人のプレイヤーとして戦い抜くしかないのだと。

 

憧れがあった。

あの黒い剣士に憧れていた。

英雄に、なってみたいと思ってしまった。

この世界を自分が終わらせようとしていることに、

気がついてしまった。

 

 

 

どうすれば、いいのだろうか。

 

 

 

 

 

「そうね、それに─────」

 

「?」

 

 

アスナの言葉に、思考が凍てついた。

 

 

 

 

「───あなたなら、きっと似合うわ。

 槍を持って風になびく黒いコート。

 …………カッコいいじゃない」

 

 

 

 

そして、凍てついた思考が溶けていく。

 

 

あぁ、そうだ。

気がつかなかった。

 

 

 

黒の剣士に、あの英雄になる。

そんな必要はどこにもなかった。

 

 

 

 

「…………はは、そうか」

 

「えぇ」

 

 

思わず、笑みが溢れた。

 

 

 

 

 

────だって、自分として在れるのだから。

 

剣士にもなる必要はない。

二刀流を無理に取得する必要もない。

やりたいことをすれば良いんだ。

 

そうだったんだ、最初から。

救いたい人がいるなら救えばいい。

この世界を終わらせたいなら終わらせればいい。

 

英雄に、なりたいのなら。

 

その憧れがあるのなら。

 

 

 

 

「うん………似合ってるわ。カッコいい」

 

 

周囲から、おぉ……と歓声が聞こえる。

そんな大した存在ではない。

自分は英雄なんかじゃない。

 

それでも、黒が似合うと言ってくれる人がいる。

あなたが英雄だと、言ってくれる人がいる。

 

 

 

自分の成すべきことを、成すまでなのだから。

 

自分がやりたいことを、やるだけなのだから。

 

 

 

 

「さぁ、ゲームクリアの第一歩だ。

 この調子で、この世界を踏破するか!」

 

 

 

今はただ、晴れやかな気分だった。

 

 

 

 



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第二章 深紅の軌跡
なにやってんだよ、団長!?


 

 

そんなこともあったなぁ。と思い出す。

第一層攻略が終わり、

流れに乗ってきたプレイヤーたちは

攻略を24層にまで進めていた。

 

そして、24層ボス攻略後。

今回もなんとか犠牲者を出さずに

ボスの攻略を終えていたオレたちは

いつものように床に座り込んでいた。

 

 

そして違和感に………

奴が、現れていることに気づく。

 

 

「────」

 

 

さも自然な、直剣を携えた男。

その灰色の髪は風になびいており、

大きめの盾を持っている。

 

その男は、ただ1人腰を下ろさず

疲弊したプレイヤーたちを俯瞰していた。

 

 

「…………ジン、どうしたの?」

 

「……い、や?なんでもないけど?」

 

「?」

 

 

アスナに様子がおかしかったのを悟られる前に

止めるが、その瞬間に。

 

目が、合った。

 

全てを見透かされるような感覚。

それを瞬時に振り払うように、

作り笑いを浮かべて軽く手を上げて挨拶をする。

 

 

「───」

 

 

すると、その男もにこやかな笑みを浮かべて

手を振ってくれる。

………まだプレイヤーとして振る舞っている。

ならば、あまり関わるべきではない。

勘づかれる可能性もある。

 

立ち上がり、転移門へと

その男から逃げるように向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ、神聖剣を見せる前の、

ただのプレイヤーとして振る舞う世界の魔王。

 

いずれ巨大なギルドとして台頭する

〝血盟騎士団〟のリーダー。

 

そして、ゲーム製作者にしてゲームマスター。

 

 

 

ヒースクリフが、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、数日後。

アルゴと情報集めの仕事をしていたオレは、

いつものように彼女の元へと向かっていた。

 

すると、そこに。

 

 

「…ぃっ!?」

 

 

思わず路地の角に身を隠す。

本能というか、もう瞬間的に。

そしてそこから、見つけた奴を覗き見る。

 

やりにくそうなアルゴと、

感情の読めない表情で淡々と話すあの男。

盾と直剣を背にした、ヒースクリフだ。

 

2人はしばらく話すと、

ヒースクリフがその場を離れる形で

いなくなったのだった。

 

 

「もう出てきていいゾ」

 

「お、ぉう……気付かれてたか」

 

「あの男が背を向けてたからナ。

 オレっちは気付くサ」

 

 

アルゴに言われ、その角から出て

彼女の元へと向かう。

すると彼女はニヤニヤ笑いを浮かべながら

すり寄りながら聞いてくる。

 

 

「情報の匂いがするナ~?

 なぁ、あいつの情報、欲しいカ?

 今なら交換で良いゼ~?」

 

「やめろ。抱きつくぞ」

 

「脅し方が独特だナ…………」

 

 

まさかの色仕掛けである。

最近はおふざけが過ぎると思うよ。

仁義はどうしたよ仁義は?

浜に捨ててきたのか?

取り敢えず離れてくれるアルゴから一歩下がる。

 

 

「んだヨ、お得意様だし

 抱きつくくらいは許すゾ?」

 

「理性が持たなそう」

 

「ふむふむ、ジンは色仕掛けに弱い、カ」

 

「メモやめろ?というかお前、

 誰とでもやりそうな感が凄いな」

 

「むっ、失礼だナ。

 オレっちだって最低限のマナーは守ってるゾ」

 

「色仕掛けしてきた奴が何を言うか」

 

「ま、オレっちのココロは

 情報として売ってやらんこともないガ?」

 

「ほう、なんコルだ」

 

「ざっと10億コルだナ」

 

「ぼったくりじゃねぇか、

 いいのか?期待するぞ?」

 

「だからなんなんだヨ、その脅し………

 つーか本気で買う気なのかヨ」

 

 

そのうちマジで買ってやろうと決意。

えー、という顔をするアルゴだが、

まぁ軽口はこの辺にしておいて話を始める。

黒コートの懐からノートを取り出すと、

アルゴの目付きが情報屋のものへと変わる。

 

 

「迷宮区まで行ってきた。

 マッピングと敵Mobはこんなもんだろ」

 

「…………成る程。もう4分の1を攻略したんダ、

 アインクラッドも本番ってワケだナ」

 

 

アルゴの言葉に頷く。

むしろまだまだ序盤な気もするが、

確かに25、50、75などのボスは異常に強く、

それからも敵が強くなる傾向があったハズだ。

 

 

「あぁ、全体的に敵Mobが強化され始めてる。

 戦闘に慣れてないソロとかは危険だ、

 パーティーの推奨もしておいてくれ」

 

「了解。お前は………いや、これも情報だナ。

 中々の情報を手に入れてきてたもんだから

 報酬はさっきの奴の買った情報で良いガ?」

 

「察しが良いな、頼むわ」

 

「任せナ。

 『アスナ、ジンの2人を探している』だってサ。

 理由までは教えてくれなかったけどナ」

 

 

…………猛烈に嫌な予感がする。

そういえばアスナが血盟騎士団に入ったのも

この時期ではなかっただろうか。

もしも勧誘ならば蹴るべきだろう。

 

そも、槍は広範囲攻撃だから

パーティーなど多人数での戦闘向きではない。

隣にでも立たれたら邪魔にしかならないし、

攻撃が出しにくい。

どちらかというとソロ向きなのだ。

 

………というのは建前であり、

ヒースクリフの近くにいたくない、

というのが本音だ。

マジで嫌だよ、あの人苦手なんだよ、

なんか見破られそうなんだよ色々と。

 

 

「………で、どうすんダ?」

 

「オレの情報を売るな。口止め料はいくらだ」

 

「あぁ……タダでいいゼ」

 

「は?」

 

「……………もう遅いからナ。

 まぁ、その、なんだ、許してクレ」

 

「ゑっ」

 

 

そう言って顔を逸らすアルゴに、

背筋に冷や汗が流れる。

そして、背後に現れた気配に

ガチガチとゆっっっくり振り向く。

 

 

「〝黒槍〟だね?少し良いかな」

 

「……………………残念ながらオレは

 黒槍じゃないのでこの辺で失礼しますね?」

 

「ははは、面白い冗談だ。

 ボスドロップの黒いコート、背負った両手槍。

 攻略組で君を知らぬ者はいないさ、ジンくん」

 

 

男は笑う。

 

 

 

 

 

 

 

「なに、1つ聞きたいことがあるだけさ。

 我が〝血盟騎士団〟に、入る気はないかい?」

 

 

 

 

 

 

 

……………いやです……

 

 

 

 

 

 



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働きたくないでござる

 

 

 

 

「嫌です………」

 

「ふむ、理由を聞かせてもらえるかな?」

 

 

苦い顔を逸らして拒否したオレに

ヒースクリフが問うてくる。

ヤダよラスボスと同じギルドとか。

主に胃が死ぬ。

という本音は置いておく。

どうにか弁解をせねば…………

 

 

「まず、オレのプレイスタイルです。

 基本ソロなのは知ってますか」

 

「〝閃光〟のアスナくんと共に

 行動することも多いと聞いたが?」

 

「…………」

 

 

ヒースクリフの後ろに回りこんだアルゴが

悪いナ、と舌を出してジェスチャーし、

その場から走り去る。

それに額に青筋を浮かべながら見送る。

 

 

「アスナは半年も一緒に戦い抜いたからです。

 オレの槍はタンクの後ろから少しずつ

 ダメージを与えていくものじゃない。

 柄で殴って、穂先で斬って、刺し殺す。

 少なくとも中衛じゃない」

 

「つまり、パーティー向きではない、か。

 君の槍は早い。おそらく敏捷型だろう」

 

「えぇ。そもそもアスナより遅い仲間がいると

 攻撃範囲内にいられるから………

 その、言い難いんですけど、邪魔ですから。

 大人数で動くのは苦手ですし」

 

「ふむ。

 ………何故、私のギルドがパーティーを

 組めるほどの大人数だと分かったのかね?」

 

 

あっ。

…………、………………、………………。

 

どうしよう。

全力で外見は平静を保つがこれはヤバい。

おもいっきり失言だった。

これから血盟騎士団が台頭すること前提で

口走ってしまった。

 

落ち着け。素数を数えて落ち着くんだ。

素数は1と自分の数でしか割れない孤独な数字、

オレに勇気を与えてくれる。

2、3、5、7、11………あ。

 

 

「そもそも、そこまで知名度は高くないギルド。

 25層からのアインクラッドの強化に合わせて

 どこも人員を増やしていくハズだからな」

 

「だが私は攻略ギルドとも言ってはいないが?

 

「お前、この前のボス攻略にいたからな。

 覚えてるさ、みんな疲れて腰を下ろしてるのに

 お前だけが立ち上がって見下ろしてるんだから。

 その精神力が羨ましいくらいだが」

 

「……………成る程、頭も回るようだ。

 すまないね、君を甘く見ていた」

 

 

よっっっっっし!!

切り抜けた!!

心の中でガッツポーズして少し目を閉じる。

 

 

「まぁ前線に1人で突っ込んでますから。

 プレイスタイルとしては

 確かに殴って斬っての脳筋ですし」

 

「ははは、余計に君を引き入れたくなったが……

 まぁ、いいだろう。

 だが、気が変わったのなら歓迎するよ」

 

「あー、うん。ありがとうございます」

 

 

そう言い、軽く笑みを浮かべながら

こちらに背を向け、去っていく男を見送る。

おぉ怖い怖い。

 

 

「………………あぁ、1つ言い忘れていた」

 

「うん?」

 

「アスナくんもギルドに加入することになったが、

 それで君は心変わりすることはないかい?」

 

「………………いえ、特には」

 

「そうか。では、また会おう」

 

 

…………やっぱり、か。

ここまでも原作通り。

おそらく明日にでもアスナから

コンビ解消のメッセージが送られてくるだろう。

 

まぁ別に気の合う友人ではあるが、

別に恋人とかそんな関係になろうとは思わない。

関わり合うことが減るが………

だがやはり、少し心配だ。

 

いずれ攻略の鬼とまで呼ばれるようになる

彼女の心労を考えると、たまに連絡したり

狩りに行ったりするのもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………オレも頑張らないとな」

 

 

これで、完全にソロプレイヤー。

死なないように気をつけなければ。

 

 

 

 

 

 

 



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トラウマの黒猫団


『3話の悲劇』。

誤字報告、ありがとうございます。
訂正しました。




 

 

 

「下がってろ!」

 

 

そう叫び、槍を左手に構える。

数人の隙間を走り抜け、

大きく踏み込み敵を薙ぎ払って下がらせる。

 

 

「下がってポーションを使ってくれ。

 絶対に油断するな、敵が来たら言えよ!」

 

「わ、分かった、だけど君1人じゃ」

「いいから逃げろ!死んじまうぞ!」

 

「っ、ご、ごめん………!」

 

 

…………さて、必然か、

もしくは偶然なのか。

それとも、()()()()()()()()()()()()()()

 

最近、そんなことを考える。

オレの行動が、無意識に

キリトと同じになってきていること。

彼は武器強化の素材集めで

下層までやって来て、あのギルドと出会った。

 

丁度、オレも同じだった。

武器強化の素材を集めに下層まで降りた時。

さも偶然のように、

危機的状況だった彼等に出会った。

 

 

「頭がおかしくなりそうだよ

 …………全く──────なぁッ!!」

 

 

 

薙ぎ払い、突き刺し、切り裂く。

 

偽物の命とはいえ、もう殺すための動きに

躊躇は完全に無くなっていた頃の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━現在の攻略情報━━━━━━━━━━

 

 

攻略最前線組の〝黒槍〟〝閃光〟

そして〝聖騎士〟の活躍により32層のボス撃破。

 

聖騎士、ギルド血盟騎士団を発表。

既に閃光が所属し、副団長である模様。

 

依然、黒槍は行方が不明。

ソロプレイヤーとして最前線で活動中か。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数時間後~

 

 

 

 

「いやね?

 別にオレだって隠れてるワケじゃないし。

 下に降りたくなる時だってあるよ。

 強化素材とか下層の限定とかあるしさ」

 

「お願いします!」

 

「や、やめようよ、

 攻略組の人たちは忙しいんだから………」

 

「だからってさぁ、

 女1人おいて土下座って君たちさぁ………うん」

 

 

即、身バレしましたよ。

宿屋の一室で4人の男に土下座され、

大いに戸惑っている。

原作と違うじゃないか………どこでミスった?

いや死なせる気は一切ないけど。

 

 

「お願いします、戦い方を教えてください!」

 

「槍しか知らねぇです………」

 

「上手い戦い方を!」

 

「ソロです………」

 

「お金を!」

 

「自分で稼いでどうぞ………」

 

「なら、ならギルドに入ってくれませんか!?」

 

「血盟騎士団の勧誘蹴ったの知らない?」

 

 

泣きそうな顔されても野郎じゃ響かねぇよ。

と、1人の少女が土下座している4人を

見下ろしている時に耳打ちしてくる。

 

 

「ごめんなさい………迷惑ですよね」

 

「いや、良いんだけどさ…………」

 

 

少女のプレイヤー名は、サチ。

()()()()()()()()()()

キリトが目の前で死なせて

トラウマになったヒロインの1人だ。

流石に原作も忘れかけてきているが、

死ぬ時だけは鮮明に覚えている。

 

………それはともかく、だ。

攻略組プレイヤーとして知られ過ぎた。

アルゴとの契約関係は続いているし、

おそらくそのせいだと思うのだが…………

 

 

「……………分かったよ、だけどギルドには入らない。

 半年だけお前たちの用心棒になろう。

 あとボス攻略戦は抜けさせてもらうから」

 

「ほ、本当に!?やったぁぁぁ!!」

 

「よっしゃあ!!」

 

 

その言葉に喜びまくる4人を苦笑いで見る。

すると、横に立っていたサチが聞いてくる。

その顔は不安そうだ。

 

 

「………良いの?」

 

「いいのいいの。

 少し前線の連中との付き合いにも疲れたし」

 

 

本音と共にキザったらしくウィンクし、

彼女にフレンド登録のメッセージを送る。

胡散臭いかもしれないが、

彼女は薄く微笑んで承認してくれる。

 

前線は殆どの連中がギルドなせいで

ドロップの取り合いが本当にうるさい。

アスナまでガチギレしながら取り合いしてるし、

止めるヤツがいないので

逃げているせいで最近は嫌われてきている。

 

 

「…………ありがとう」

 

「オレなんかで良ければ。

 次のボス戦は33層……二週間後だから時間はある。

 こんなだが、仲良くしてくれると嬉しい」

 

 

こうして、オレは黒猫団に

用心棒として居座ることになるのだった。

 

 

 

 

 





アンケートです。



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ただ少しでも



アンケートですが、ハーレムですか………
何人も一度に描写するのは結構めんど((殴
難しいのでハーレムは微妙に苦手ですね。

まぁ面倒でも楽しいんで、
アンケートが狙いと外れてしまった方々も
楽しんで頂けりゃ嬉しいです。




 

 

 

「遅い」

 

 

思わず呟いてしまう。

というのもレベルの上昇が、だ。

やはりパーティーを組んでいると

安全ではあるのだが…………

 

ソロでやっているからか、

体感ではもう5~6は上がっているのに、

実際は1人で1か2程度。

現在は26層の小さな安全エリアのある洞窟で、

俺たちは固まって食事をとっていた。

 

 

「うーんこの、なんつーかな。ムズムズする」

 

「そうなのか!?

 凄いレベルの上がり方だと思うけどなぁ」

 

「やっぱり、攻略組だから……?」

 

「ソロだからかもな。

 最前線でソロだと1日に2は上がる」

 

 

心配そうに聞いてくるサチにそう答える。

まぁこの下層では上がらない。

そもそも適度にパリィするだけで

ダメージは与えないようにしている。

その分黒猫の全員が均等にレベルが上がっていた。

 

 

「あれ、だったらここは?

 半日でここまで上がったのに」

 

「休み休みやってるし強い敵ばかりだしな。

 1日ってのは休み飯無しで24時間って意味」

 

「嘘、ジンはそんなことしてたの!?」

 

「攻略ガチ勢の攻略組は普通にやってるぞ」

 

 

へー、と驚く黒猫たち。

それに、内心は逆にこちらが驚いてしまう。

アインクラッドに毒されてる証拠だろうか。

 

黒猫に入って2ヶ月、といった所だ。

意外と楽しいので1度ボスをサボったせいか、

最近はアスナがうるさくなってきている。

フレンドのメール欄を開けば

アスナからの狩りの手伝いという名の

無料での素材受け渡しの依頼がたまっている。

 

仲良くやりたいが、

最近のアイツなんかおかしくなってるようで、

その、なんというか、怖い。

 

 

「どうしたの?」

 

「ん」

 

 

と、メールを開いて苦い顔をしているとサチが

メニュー欄を覗き込んでくる。

そういえば周りの奴等もこちらを見ているようだ。

半笑いでそれに答える。

 

 

「いやな、攻略組の血盟騎士団、いるだろ?

 そこの副団長とは一時期コンビ組んでてな」

 

「血盟騎士団の副団長って……〝閃光〟!?

 やっぱジンは凄いな!

 メールでも来てたんですか!?」

 

「あーまぁ、そうなんだが。

 ……最近は、攻略に真剣になりすぎてるようでさ。

 時々狩りを手伝ってるんだが、

 素材を寄越せ、これも攻略のため、ってな。

 どうするかな、と考えてたんだ」

 

「…………ジンにも悩みがあったんだ」

 

「どれだけレベルが上がろうと人間だ。

 腹も減るし、悩みは出来る。

 ……………勿論、死ぬ時は死ぬしな」

 

 

サチにそう言い、さて、と立ち上がる。

全員も食事を終えている。

 

 

「明日から少し前線に行くから

 今日のうちにあと1つレベルを上げるか!」

 

「「「おぉーーっ!」」」

 

 

気合いを入れるメンバーで、

サチだけが、俯いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「さて、と」

 

 

やって来たのは、27層迷宮区。

先程よりもかなり敵が厄介になってきている場所。

そして、あの場所には注意しながら。

 

 

「やっぱり1層だけでここまで違う………」

 

「あぁ、だけど戦えてる。

 このままやっていこう!」

 

 

気合い十分のメンバーだが、

やはりサチだけが元気がない。

見ていられなくなり、声をかける。

 

 

「サチ」

 

「っ!ぁ、う、うん。どうしたの?」

 

「いや、少し。

 2人だけで話したいことがある。

 夜、宿の外に来てくれるか?」

 

「う……うん。分かった」

 

「あぁ、じゃ、今日はここまでにするか!」

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

空が暗くなる頃。

無事、黒猫団の帰還に安堵する。

 

 

「なんとか壊滅の危機は回避できた、か」

 

 

宿の外は街灯の明かりが照らしている。

迷宮区で隠し部屋を見つけはしたが、

トラップの危険性を十分に教え撤退させた。

 

明日からはもうここに戻るつもりはない。

確かに楽しかったが、

そろそろ血盟騎士団が追いかけてくることを

アルゴからのメールで知った。

それに、腕が鈍る前に行かねばならない。

 

 

「……………ジン」

 

「ん……悪いな、呼び出して。

 少し悩みを聞いて欲しいだけだ」

 

「……うん」

 

「少し人気のない場所に行こうか」

 

 

サチが来たのを確認し、町の外れにある場所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、まず………サチ」

 

「う、うん」

 

「一緒に行くか」

 

「…………………え」

 

 

その眼は、どこか。

嬉しそうでもあり、怯えも感じているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誤解しないように言うけど、

 圏外(した)に飛び降りようって意味じゃない。

 上層に行こう、ってことだ」

 

 

「…………どうして?」

 

 

「怖いから」

 

 

「…………………」

 

 

「ここで黒猫団のみんなといて、

 思い出した…………死ぬのが怖いんだよ、オレも」

 

 

「ジンも?」

 

 

「死ぬのが怖い、なんて恥ずかしいがね。

 巷で噂の黒槍が、死ぬのが怖いってよ。

 笑えるだろ?」

 

 

「……………………」

 

 

「笑ってくれ」

 

 

「ふふ、おかしいよ…………笑ってほしい、なんて」

 

 

「そっちか。まぁいいんだけど、さ」

 

 

「あのね」

 

 

「…………」

 

 

「私も、怖いの」

 

 

「そうか」

 

 

「きっと、みんな………っ、

 心の中じゃ……っく……怖いんだよ……っ」

 

 

「……………………そうか」

 

 

「抱き締めて………私が死んじゃわないように」

 

 

「………………あぁ」

 

 

「私……………ジンがいなくなるのは、っ……」

 

 

「…………」

 

 

「嫌だよ……………!ずっと私の傍にいてよ…………!

 怖いよ、ジンが死んじゃうのが………!」

 

 

「…………………サチ」

 

 

「んっ……………────、

 ───……っ…卑怯だよ、そんなの…………」

 

 

「知らなかったか?

 オレは卑怯な悪い男なんだよ」

 

 

「ふ、ふ…………」

 

 

「…………………鬼みたいなレベリングが必要だな」

 

 

「ついていくよ、背中に」

 

 

「後ろから刺さないでくれよ?」

 

 

「ふふ、そんなことしないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ………行こうか」

 

 

「うん………」

 

 

 

 

 

 

 

 






黒猫団の話が1話しかないから展開早いの許して。




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冷たい閃光


コロナには気をつけよう!
余談ですが手洗いする時間は
Happy Birthdayの歌を一回分らしいです。




 

 

サチと共に黒猫団を抜けて3ヵ月。

オレは再び前線に戻っていた。

ついて来た……というか連れてきたサチは

やはり最前線では付いていけない、ようなので。

 

 

「よっクライン、久しぶり」

 

「お前、お前お前お前!!

 久しぶりじゃねぇかジンお前この野郎!!

 半年振りくらいか!?

 有名になりやがってよぉぉぉ!!」

 

 

いつものようにアルゴに頼んで場所を聞き、

クラインのギルド『風林火山』にやって来ていた。

全く暑苦しいギルドである。

ちなみにクラインとは10層辺りのボスで

何度か共闘していたので会ってはいた。

 

彼等は今、34層にギルドホームを構えて

レベリングをしており攻略組の

背中を追いかける形で付いてきている所だ。

 

どうやら他の奴等は買い出しに行っているようで、

ギルドホームにいるのはクラインだけだった。

 

 

「あ、あの………」

 

「ん?………おいジン、この娘は?」

 

「オレの………友達?

 ちょっとお前に頼みがあってな」

 

「なんで疑問系なんだよ……

 まぁお前の頼みと来ちゃあ仕方ねぇなー!」

 

「サチ」

 

「う、うん」

 

 

と、クラインの前にサチが進み出る。

 

 

 

「クラインさん」

 

「は、はい」

 

「ジンの信頼できる親友だって聞きました」

 

「お、お前そんなに思ってたのか………!」

 

「暑苦しいからひっつくな」

 

 

 

「え、えっと………」

 

「おっと悪いな、で……なんだ?」

 

 

「私を、『風林火山』に入れてください!!」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

とまぁ、これがサチとの結末。

 

風林火山の連中は暑苦しいが信頼できるし、

カタナ使いの男のギルドだとか言われたが

そこは『お前オレの親友だろ?』とゴリ押した。

 

あそこは強くなるし、

血盟騎士団と同格ギルドの聖竜連合と

同レベルの実力もある。

そもそもクラインが情に厚いから大丈夫だろう。

オレが言うのもなんだが、

あの連合は全員ヘタレだから安心だし。

 

 

 

 

 

 

「…………ふぅ、久しぶりに最前線に来たが……

 まー、敵さんがお強いこって」

 

 

オレは最前線、40層迷宮区にいた。

無論、ソロである。

久しぶりの感覚を掴むのに苦労する。

 

光となって消えたMobから槍を引き抜き、

右手で回して血を払う。

正確には血ではないのだが、

エフェクトがくっつくので払っている。

 

と、再びMobが湧き始める。

現れたのは人型の敵が4体。

騎士の名を冠した敵だが、これがまぁやりにくい。

 

 

「PK慣れしそうで怖いな、おい!!」

 

 

走り出す。

敵が構えているのも槍だが、

こちらも臆せず槍を回しながら突っ走る。

 

 

「ふぅぅ、っ!」

 

 

息を吐きながら低姿勢で走るまま、

敵の突きを身体を横に逸らして回避する。

 

懐に入った。

 

低姿勢から鎧の隙間を狙って

首に槍を突き刺し、右に振り抜く。

血のように紅のエフェクトが

それに合わせて光る。

クリティカル、だが

レベルが足りないため倒しきれない。

 

 

「は、ぁッ!」

 

 

そんなことは予想している。

蹴りを放って騎士の体勢を崩して倒れさせ、

胸を狙って槍を突き刺す。

鎧を貫いた槍は騎士の肉を貫通し、床に突き立つ。

 

ここでMobのHPが全損。

動きがピタリと静止し、光の欠片となって爆散。

だがまだ敵は来る。

 

 

「ぜ、らぁぁッ!!」

 

 

身体を引き、槍を握る右手を引き絞り

息を吸い上げ、右足を強く踏み込む。

 

 

〝ブラスト・スピア〟

 

 

深紅の槍を投げ放つ。

握り方を変えたため、回転しながら槍が飛翔する。

貫通力を増した紅の槍は2体の騎士の鎧を貫き

壁に突き刺さる。

 

それに走り寄り、槍を掴む。

壁を抉りながら2体まとめて斬り上げ、

その上半身を()かち、HPバーを破壊する。

 

 

「最後ッ!」

 

 

背後に迫ってきた騎士。

光を爆散させる壁から槍を引き抜き、

ソードスキルの光を纏う騎士の槍を

真上に弾き上げ、硬直させる。

 

 

「ふ、ぅ……疲れるな、全く」

 

 

敵の硬直で余裕が出来たため一端槍を下げ、

身体から力を抜いて息をつく。

 

そして、敵の硬直が解けた瞬間。

 

 

「オラくたばれ」

 

 

右手に握った槍を一閃。

騎士の首を迷宮区の暗い天井へ刎ね飛ばす。

 

ビクッ、と騎士の身体が最後に痙攣し、

騎士の身体と地面に落ちた頭が光となって爆散。

それを見送り、壁に背中を預けて溜め息をつく。

 

 

「はぁ、あーあー気持ち悪い。

 プレイヤー斬ってる気分だわ。

 茅場の野郎ホント趣味悪いな」

 

 

そんな悪態をつき、

擦れる金属音と共に聞こえる足音の方を向く。

数は20、と言った所だろうか。

その先頭を歩くそいつは貫禄があった。

 

勿論、索敵スキルをスキャンしたため気付いた。

視線を向けると、

緑色のカーソルが大量に浮かび上がる。

 

まぁ、大抵は気がつくだろう。

おめでたい紅白の騎士鎧やら騎士服。

武器まで紅白に染められているのを見ると

黒ばかり使っているせいか気持ち悪くなってくる。

 

 

「覗き見たぁ、趣味が悪いな」

 

「部下への上位プレイヤーの戦い方の観察。

 私からは腕が鈍っていないか、

 それを見させてもらっただけに過ぎないわ」

 

「口調が団長に似てきたな。

 戻した方がいいぞ、気持ち悪いし」

 

「他人に口調についてまで

 口出しされる筋合いはないわ」

 

「おぉ怖い怖い…………」

 

 

たった半年近く放っておいただけで

ここまでなるか、と苦い顔になる。

だが、懐かしの再会だ。

槍を背中に納め、握手しようと手を差し出す。

 

 

「久しぶりだな、アスナ」

 

「ボス戦だけを私たちに任せて

 久しぶり、だなんて良いご身分ね、黒槍」

 

 

差し出した手を弾かれる。

 

 

「もう名前も呼んでくれねぇのかよ………

 頼むから許してくれって、

 また前みたいにイチャつこうぜ?」

 

「立ち去りなさい、マッピングの邪魔よ」

 

 

 

いや人変わりすぎだろ…………

別人じゃないだろうか、と疑うほど。

 

 

 

 

血盟の騎士服を纏った彼女は、冷たくなっていた。

 

 

 

 

 





敵MobはSAOIFのものです。
やってないですけど。



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血戦の前触れ


アスナさんの黒歴史、何卒暖かい眼でご覧ください。




 

 

 

 

「…………そうだなぁ」

 

 

少しばかり考え込む。流石に〝邪魔〟は傷つく。

まぁあちらの言い分も確かだ。

もしもオレがもう少しアスナに気を使ってやれば

こんな険悪にならなかったかも知れない。

 

確かに、彼女たちに苦難を押し付けた。

ボス戦サボったのも事実だし。

 

 

「警告よ、立ち去りなさい」

 

「……………なぁアスナ」

 

「貴様………!副団長が退けと言っているのだ!」

 

 

アスナの部下が前に進み出て怒鳴ってくる。

お前に言ってんじゃねぇよー。

 

 

「いやお前に用はねぇわ。

 アスナ、ちっとばかし気を詰め過ぎだよ」

 

「貴様ッ!!」

 

「黙れ有象無象」「………静かになさい」

 

「………っ……!」

 

 

偶然とアスナもオレと同時に部下を睨みつける。

その血盟騎士は不満げに押し黙り、

とぼとぼと下がっていく。

その睨みを効かせたまま、

アスナは冷徹な視線をこちらに向けてくる。

 

 

「つまり、だ」

 

「…………………」

 

「お前も休むことを覚えろ、攻略馬鹿」

 

 

全力の皮肉を込めて言う。

アインクラッド最前線を行く〝攻略組〟、

それに『休め』というのは侮辱にも等しい。

 

 

「…………残念ね。

 そこまで堕ちたとあれば、黒槍の名が泣くわ」

 

「イエスかダーで答えろ。

 オレと少し下層で休むぞ」

 

「まだ巫山戯(ふざけ)る気?

 ─────あまり邪魔すると敵と見なすわ」

 

 

アスナが手を上げる。

するとその背後にいた血盟騎士たちが

『待ってました!』と言わんばかりに

それぞれの得物を構え始める。

 

 

「おいおい良いのか?

 ────全員、生命の碑に横線引いちまっても」

 

 

それでも尚、挑発をやめない。

そしてアスナは、溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────残念だわ」

 

 

オレの元へ、デュエルの申請が送られる。

それは『ノーマルモード』のデュエル。

 

 

別名────完全決着モード。

どちらかが死ぬことで決着のつく、決闘だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「周囲に敵を入れないように包囲しなさい。

 そしてもし、私が負けることがあっても

 あの男に一切手を出すことは許さないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

正直、めっちゃ焦っている。

だってちょーっと押せばアスナが折れると

思っていたばかりの会話だったのだ。

なのにアスナは、完全にこちらを殺すレベルで

ガチギレているではないか。

 

…………だが、もうこの状態は不味い。

どうしようもない状態だ。

壁に寄りかかっていたせいで逃げ道を

血盟騎士団に塞がれているし、

奴等は腐っても最前線の者たちだ。

逃げられはしないだろう。

 

 

「………………本気みたい、だな」

 

「私はいつだって本気なの。

 もう………世界を楽しむ余裕なんてない。

 早くこの世界から抜け出して、私は………」

 

「………………疲れてんだよ、お前は」

 

 

彼女の言葉を聞いて分かった。

 

 

()()()()()()()()()

 

 

早く楽にしてやらねば不味い。

 

決断は終わった。

覚悟も決まった。

ならば、後は。

 

 

 

 

 

 

「ここまで()()

 こうなったお前を()()

 ──────なら、後は()()、それだけだな」

 

 

 

 

 

デュエル(殺し合い)が、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 






カサエルの手紙の名言すき。



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冷徹キャラは正直似合わない



ヒロインとの殺し合いとかいう凄い回。
戦闘だけなのに中々に凄い文字数だぁ………(満足)
戦闘描写は大好きですが
もしかして分かり難くないですかね………?




 

 

 

 

 

 

瞬間、アスナの姿が掻き消える。

 

 

 

 

 

「───────ッ!!!」

 

 

なんとか槍を構えるのに間に合い、

凄まじい速度の突きを弾き上げる。

 

 

「チッ………」

 

「こんなこと望んでねぇんだけどな」

 

「そう」

 

 

背後に回りこまれる。

即座に回し蹴りを放って追い払う。

距離を取ったアスナは軽く跳躍しながら

こちらの様子を見ている。

 

恐ろしい速さだ。

反応がギリギリ追い付くくらいか。

最初の〝リニアー〟を食らっていれば

即死の可能性すらあっただろう。

否、即死させるつもりだった、というべきだ。

()()()()()()()

クリティカル狙いとは、

やはり殺し合いがお望みのようだ。

 

 

「次で殺すわ」

 

「覚悟決めたつもりだったが、

 冷静になりゃ大好きな奴は殺したかねぇな」

 

 

再びアスナの姿が消える。

目が追い付かないが、本能で反応する。

上だ。

 

 

「軽々しく愛を囁くのね」

 

「伝わるまで囁いてやるよ」

 

 

少しでも反応が遅れたら

頭を串刺しにされてしまうところだった。

身体を逸らして上空からの突きを回避。

 

だが、終わらない。

青い光を纏った神速連続の刺突が放たれる。

〝スター・スプラッシュ〟だったか。

 

 

「気持ちが悪い」

 

「それ単純に傷つくな」

 

 

スター・スプラッシュを見切る。

腕の動きを予測し計算、

エフェクトの噴出方向を確認。

 

─────最初の突きの狙いは、右眼。

 

その叩き出された計算予測結果に

思わず笑みが浮かぶ。

まさか利き目の視界を奪いに来るとは………

槍を構えて踏み込み、その初撃を迎え撃つ。

 

 

「………ッ…!」

 

「お前そんなにオレが嫌いかよ……」

 

 

呆れた笑いを浮かべるこちらに、

アスナは空中で硬直を強いられ落下してくる。

それを抱き止める。

 

冷たい。

サチの時と同じで、温もりを感じない。

データの身体は忠実だ。

感情は、データによって簡単に再現される。

ひた隠しにしているのが分かる。

 

 

「細いな、リアルではちゃんと食ってたのか?」

 

「ふざけないで!!!」

 

「っとォ!危ねぇな!」

 

 

超至近距離から放たれた〝リニアー〟を

首を逸らして回避する。

敏捷補正か、硬直のほぼ無いリニアーが

連続で襲いかかってくる。

右手で槍を回して細剣を絡め取り、

左手で再び抱き寄せる。

 

 

「離して!!」

 

「殺し合いだろ?待ったなしだってのに

 離して、なんて聞くわけないだろ。

 オレは殺し合いなんて気は一瞬で失せたけどな」

 

「っ………はぁッ!!」

 

「っごぇっ!!?」

 

 

拳を腹に撃ち込まれる。

補正の乗った光を放った拳が鳩尾に突き刺さり、

視界左上のHPバーが2割ほど減る。

めっちゃ痛い。

 

 

「げ、ほっ………おま、やり過ぎだろ………!」

 

「はぁっ、はぁっ………絶対殺す……ッ!」

 

 

顔を真っ赤に染めたアスナが突っ込んでくる。

良い顔になった。

水平に振り抜かれた細剣を槍で受け止め、

ギリギリと金属が擦れて火花を散らす。

鍔迫り合いの形になる。

 

 

「ふ、ぅ、ははは、人間らしい顔になったな!」

 

「黙りなさいッ!許さない………!!」

 

「冷たい顔してるより怒り顔は似合ってるぞ!!

 おらこっちがカウンターだけと思うなよッ!!

 カッコよく、は違うけどな!!」

 

「……………ッ!」

 

 

もう懐かしさすら感じる過去が、

フラッシュバックする。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

『うん………似合ってるわ。カッコいい』

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

鍔迫り合いでアスナを押し退け、

ソードスキルを発動する。

 

 

〝スピン・スラッシュ〟

 

 

頭上で槍を回転させ、アスナに距離を取らせる。

それが終わった瞬間、

彼女は真っ赤にしたままの顔で

突っ込んでくる。

 

 

「やっぱお前、覚えてねぇだろ?

 いいぞ、もう一度、いや何度だろうと」

 

「ッ!?」

 

 

踏み込み、アスナの懐で嗤う。

スピン・スラッシュの最後に、

薙ぎ払いがあることを彼女は覚えていなかった。

別に構わない。

 

 

 

 

これから、があるのだから。

 

 

 

「お前の隣で見せてやるよ」

 

 

「……………!!」

 

 

 

 

 

大きく槍を薙ぎ払う。

それに反応したアスナは細剣で防御するが、

既に遅く、力を込めるまでが間に合わない。

 

大きくアスナを吹き飛ばす。

そのまま壁に叩きつけられ………ない。

なんとアスナは壁を蹴り、天井へと移る。

 

 

「蜘蛛みてぇだな」

 

「失礼ね!!」

 

 

天井から凄まじい速度で迫ってきたアスナの

斬り払いを槍で受け流す。

だがそれでも体勢を崩さないのは

彼女の戦闘経験だろうか。

 

アスナの刺突が床に突き刺さるが、

即座に手を持ち変え、斬りつけてくる。

再び鍔迫り合い。

 

 

「おっと、乙女に対して失言だったかな?」

 

「…………あぁもうッ!!

 本当に………本当に貴方は!!」

 

「………っははは!良い顔してるじゃねぇか!!

 一番似合うと思うぞ、その顔ッ!!」

 

 

槍を引き、突きを誘発させる。

身体を逸らしてそれを回避、

ソードスキルを発動、槍を青い光が纏う。

 

 

〝トリプル・スラスト〟

 

 

前進。

アスナへと急接近し、三連突きが放つ。

それを彼女は弾ききるが、

生憎と、これは最初期のソードスキル。

硬直は少ない。

 

槍と細剣が交錯する。

火花を散らす。

 

 

「ほら、もっと笑え!!

 お前にはそれが何よりも似合う!!」

 

「っっっ………やめなさい!!

 ……………っ、恥ずかしいのよ!!!」

 

「はははは!ならもっと言ってやろうか!?」

 

「やめてって言ってるでしょ!?」

 

 

振り下ろされる細剣を弾き、

突きを放つが身体を逸らして回避される。

 

槍を弾かれ、今度は突きが胸を狙ってくるが

槍を引き戻し、その柄で防ぐ。

そのまま細剣を押し返す。

 

槍を回転させ、彼女に距離を取らせる。

彼女の着地と同時に強く踏み込み跳躍、

槍を大きく振り上げ、叩きつける。

床を砕くほどの威力のハズだが、

それを〝リニアー〟で相殺される。

 

着地し、突きを放って回避されるが

引き戻しながら薙ぎ払う。

だが彼女の細剣もそれを防御、弾かれる。

 

 

 

振り下ろされた細剣を

両手で横持ちにした槍で防御する。

 

 

「もっと楽しくやろうぜ、ゲームなんだからな!」

 

「…………分かってるわよ、そんなこと!」

 

 

 

そろそろ決着だ。

 

 

 

 

構えた瞬間、ソードスキルを回避するため

反射で距離を取ろうとしたアスナは、

()()()()に、驚愕する。

 

 

 

 

「突き穿ち!!」

 

 

大きく引き絞られた右手の槍を、

血の色をした光が包む。

 

狙いは決まっている。

 

相手はバックジャンプによる空中、回避不可。

スローになった世界で、叫んだ。

 

 

「刺し穿て!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     〝ブラスト・スピア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

螺旋の渦を巻く深紅の光が、

防御しようとしたアスナの細剣を砕け散らせる。

 

 

 

そして、アスナの胸に突き刺さる、瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耐久値限界を迎えた槍が、光となって砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

















後ろの血盟騎士団の皆様
「Mob寄せつけないようにしてるのに
 何を命懸けでイチャついとるんですか」



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ん?



沢山の感想頂きました。
本っ当にありがとうございます。
いやホントにモチベーション上がるし
めっちゃ嬉しいです。

黄色い熊(Poh)さんのことを
気にしてらっしゃる方多い……
やっぱ皆アイツが印象的なんですね。
よく考えたら団長と同格の脅威なんだよなぁ。




 

 

 

 

「あーあ、武器壊れちまったよ。

 店のもんだから買えばいいか、代えもあるし」

 

「……………こ、怖かった~……!」

 

「はっはは、悪い悪い。

 リザインだ、オレの敗けだよ」

 

「なっ、私の敗けよ!

 武器壊れたの私も同じだし……」

 

「んじゃドロー………か」

 

 

いつものような口調に戻り、

着地出来ずに尻餅をついたままのアスナと

言葉を交わす。

随分と垢抜けた表情だ。

 

空中にdraw、の文字が出る。

思えばカウントダウン前から戦っていた。

それほどまでに緊迫していたのに、

いや全く、我ながらよくやったわ。

 

メニューを開いて代えの槍を装備して

背中に納め、彼女に歩み寄る。

少し彼女は肩を震わせ、困ったように笑う。

 

 

「………ごめん、腰抜けちゃった」

 

「おっと、ならお持ち帰りしてOK?」

 

「………………OK」

 

「そういうことだ、騎士団の皆さんよ。

 副団長は預からせてもらうから今日は解散。

 強Mobに遭遇したとでも報告頼むよ」

 

 

キザったらしくそう言い放ち、

アスナの背中、そして膝裏へと手を回す。

それに彼女は頬を真っ赤に染め上げる。

 

 

「ちょっ、聞いてないわよっ!?

 なっ、な、なんでお姫様だっこなの!?」

 

「引きずられるよりマシだろ?」

 

「それはそうだけど…………っ!」

 

 

実はこれがやりたいだけである。

動揺するのを見越してお姫様だっこ、

驚いて顔真っ赤のアスナに

『おんぶ』の選択肢は出てこない。

 

恨めしそうにこちらを睨みながらも

道を開けた血盟騎士たちを横目に

帰り道を進むのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ほい、お疲れさん。

 頑張った自分と相手に乾杯」

 

「か、乾杯」

 

 

アスナを連れてやって来たのは

最近ねぐらにしている28層の村にある小さな宿。

1部屋でもかなり安いし広い。

 

その部屋でオレは、

少し前にクエスト報酬で手にいれたワイン(?)、

そして持ち帰りが出来る高級ショップの料理群を

机の上に並べ、アスナと向き合う形で座る。

 

グラスに注いだワイン(?)でアスナと乾杯。

いつもの戦闘服は脱いで軽装になっている。

 

 

「好きに食っていいぞ」

 

「………冷静になったら

 あなた殴りたくなってきたわ」

 

「なんで!?」

 

「食べる前に話をしましょう、

 冷えるまでには話せるわ。

 聞きたいでしょ、私が怒ってる理由」

 

「んまぁ、そうだが…………」

 

 

まぁ確かに上層に戻らないのはオレの責任だが、

取っつきにくくなったのは

アスナの方が先だ。

だが………それ以外に理由が?

 

 

「分からないって顔してるけど………」

 

「分かんねぇからな」

 

「…………………」

 

「はい?」

 

 

声が小さく、俯いたアスナに聞き返す。

その肩は震えているが…………えっ?

まさかなにか失礼なことしてた?

 

 

「あなた、下層にいて何をしてたの」

 

「そりゃ色々と………」

 

「しらばっくれなくていいッ!!」

 

「ひっ!?」

 

 

バァン!!、と机を叩いてアスナは立ち上がる。

思わず身体を引き、逃げの体勢になり

椅子が倒れそうになる。

 

 

「団長だけじゃなく私からも

 血盟騎士団に誘うメール送ったのに返信無し!!

 ギルドは入る気はないのかと思った矢先に

 強化素材探しに下層に行ってみれば………!!

 あの小さなギルドのレベリングなんかして!!

 それにあの女の子には

 随分と優しく教えてたわねぇ!!」

 

「あ、アスナさん落ち着い───」

 

「私もちょっと付き合いが悪いと思って

 ボス攻略が終わったらご飯にでも

 誘おうと思ってたら…………!!

 来なかった挙げ句、言い訳は寝坊した!!?

 嘘つかれたこっちの気分にもなってよ!!

 小ギルドの人たちと楽しそうに狩りなんかして、

 上層にも全く戻って来なくなって……………!!」

 

「そ、それには複雑なワケが───」

 

「何が複雑なワケ、よ!!

 それにアルゴさんから聞いたわよ、

 そのギルドの娘と2人でギルドから

 抜けたんですって!!?

 どういう関係なのか言いなさい!!!」

 

「ただの友だ───」

 

「ダウトォッ!!!」

 

「ひぇっ!?」

 

 

………………もしかしなくても

オレが全部悪いな、コレ。

あの対応の悪さは

まさか……その寂しがりの裏返し?

だとしたら最悪じゃねぇか、オレ………

 

 

「あ、アスナ」

 

「………………………もう口利いてあげない」

 

「オレが悪かったよ…………

 あと1つ言っておくけど、サチは本当に友達だ。

 今は風林火山に入ってるんだよ、クラインの。

 もう下層に長居するつもりはないし、

 これからは攻略もしっかり手伝う」

 

「……………………………」

 

「あと誤解があるから言っとくけど、

 オレは黒猫団……ギルドには加入してない。

 これからも入るつもりはない………けど。

 もしオレなんかの力が必要なら、

 またコンビを組んでくれないか?

 許してくれ、なんて言える立場じゃないけど

 なんでもするから、詫びさせてくれ」

 

 

「……………………えっ、ねぇ、今」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()って言ったわよね?」

 

 

 

「あっ、えっ、そこの揚げ足とるの?」

 

「………………」

 

「あ、アスナさん?眼が怖い………」

 

 

息を荒くしながら机を回ってこちらに

回りこんで来たアスナに、

肩を掴まれ逃がしてくれなくなる。

 

眼が血走っている。

息が荒い。

…………とてもこわい。

 

 

 

「なんでもするって言ったわよね!!」

 

「ギルド加入は嫌だからな!!?」

 

「そんなことじゃないわ!!

 ねぇ本当になんでもするのよね!!」

 

「怖いわ!!なんで嬉しそうなの!!?」

 

 

「なら────!!」

 

 

 

そして、オレは本気で後悔することになる。

『なんでもする』、等と言ったことを。

 

 

 

 

 

 

「1ヶ月、私のものになりなさい」

 

 

 

 

 

そんなことでいいのか?

 

そう思ったが…………その1か月が経過するのは、

永久的なほどに長く感じることになるのだった。

 

 

 

 

 





知らなかったのか?
ギャグからは逃れられない………!



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なんでもするとか言っちゃいけない


ストレアとかプレミアとか、
大抵のキャラは内容とか正体は知ってるんですよ?
でもその、fbだけしかやったことないんですよね…

改行が多いようなので少しだけ詰めてみました。
調整中なので読みにくいようでしたら
教えてください。




 

 

 

 

迷宮区奥地、とある部屋でMob騎士(大型)の、

振り下ろされるソードスキルをステップで回避。

〝スラント〟……単純な初期ソードスキルとはいえ、

この最前線でも最高レベルの敵が使えば

かなりのダメージを食らうだろう。

 

 

「よっ、と!」

 

 

右手で握った槍で右に斬り払い、跳躍。

槍を両手で構え直し、振り下ろす。

一連の慣れた流れで十字に斬撃を叩きつけるが、

流石は最前線のMobと言った所だろうか。

敵HPバーは未だ4割ほど残る。

 

背後から迫ってくる気配は素早く、

その足音で連携を確認。

叩きつけた槍を利用し、棒高跳びの要領で

大きく飛び上がり敵の真後ろへと降り立つ。

 

 

「やぁぁぁッ!!」

 

 

バキュウン、という重い音が響く。

単発、だが重いソードスキルが敵を貫き、

そのHPバーを削り切る。

 

振り向くと、静止した騎士は膝をつき

光の欠片となって爆散した。

敵とはいえ、その特殊な死亡演出に

こんなものもあったのね、と彼女は目を丸くする。

 

 

「お疲れさん、ほれ」

 

「おっとと、ありがと」

 

 

槍を背中に納め、開かれる扉を横目に

こちらと同じく得物であるレイピアを納めた

アスナへとポーションを投げ渡す。

彼女のHPバー減少は3割ほどだが、

最前線では非戦闘時はHPが9割以上を

維持するようにしている。

 

こちらもHPバーが4割ほど削られていたので

ポーションをオブジェクト化して飲む。

レモンジュースに茶葉を入れたかのような

正直美味しいとは思わない味が口に広がる。

もうこの味にも飽きるほど慣れたものだ。

 

 

「それにしても、ジンって

 ソードスキルみたいな動きするわよね」

 

 

と、戦闘中でもないのに恐ろしい速度で

ポーションを飲み干したアスナが聞いてくる。

ソードスキルみたいな動き、か。

特に思い当たることはない。

 

 

「んー?そうか?」

 

「もしかして自前?

 槍って突くものだと思ってたけど

 殴ったり斬ったり………凄い戦い方だよね」

 

「ほー、アスナは槍を突くものだと思ってたのか」

 

「え、違うの?」

 

 

きょとん、とアスナは可愛らしく首を傾げる。

美少女は何しても絵になるな、と

最近は思うようになってきた。

話に戻るが、本来は槍は突く武器ではない。

 

 

「元々の槍ってのは投擲武器だ。

 石器時代とか昔から狩りに使われてて、

 そこから対人の武器として発展していったんだ。

 斧とか鎌とかも槍から派生したもんだからな。

 刺突、ってのは間違ってないけどな」

 

「へぇー!そういえばジンも槍投げてるもんね。

 〝ブラスト・スピア〟だっけ?」

 

「そう。ま、威力はあるんだけどなぁ………

 手元に戻って来ないのが難点なんだよ」

 

 

彼女の言葉に頷く。

あの深紅の光を纏う槍は凄まじい威力が出るから

重宝しているが、槍使いでは実際見たことがない。

サチにも教えたが彼女は半笑いで

『無理』とはっきり言われた時は何故か傷ついた。

 

 

「あれってどういう仕様なの?

 投げるから装備から外れるってことだよね。

 でもメニューから装備し直してないよね?」

 

「それがちょっと特殊な仕様っぽいんだよな。

 気になってな、一回試したことがあるんだよ」

 

 

ブラスト・スピアを発動し、槍が手元を離れた時。

メニューの装備欄を開くと、装備名が薄くなり

【Temporary】と表示されていたのだ。

つまり、()装備状態となっている。

それは投げられた槍を掴んだ瞬間に

仮装備状態は解除され、装備状態に戻った。

 

つまり、再びメニューを操作して

装備する必要はないのだ。

攻撃が完全に封じられることになるが。

 

 

「成る程………まだまだ知らないことばかりだね」

 

「主武器投げることなんてないしな。

 投擲スキルなんてもんがあるんだし」

 

 

そして実はあのソードスキルには

投擲スキルの補正も乗ったりする。

投げる、ということは同じなうえに更に始動の

モーションが似通っているため槍ソードスキルと

投擲ソードスキルを同時発動させ、

ダメージを格段に上げる────裏技、

もしくはシステム外スキルというものだろうか。

 

アルゴに教えればまぁ金になるだろうが、

そもそもブラスト・スピア自体が(一時的とはいえ)

『武器を失う』という状態に陥り、

マスターした体術スキルがあっても

危険極まりないものであるため嫌な顔をされた。

俺もあまり死人は見たくないため

秘匿としてアルゴと決めておいた。

彼女にはガチの顔で『使うナ』と言われたが

勝利のためには仕方ないのである。

 

 

「それじゃクエストも終わったし、帰ろっか」

 

「…………はいよ、お姫様」

 

 

そうして、今日の楽しい時間も終わりを告げた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

~22層、湖畔の木造プレイヤーホーム~

 

 

 

 

 

「アノ、ヨロシイデスカ?」

 

「ん?どうしたの?」

 

 

満面の笑みで聞き返される。

そのウィンドウはなんですか、と聞きたいが、

注目されるそれは嘘をつかない。

代わりにソファに座る俺は、こう問うことにした。

 

 

「ナンデ俺ノ前デ、ソレ解除スルノ?」

 

「さぁ?なんででしょうね?」

 

 

満面の笑みは変わらぬまま。

彼女は少し悩むように顎に手を当て、

なんと()()()()()()()()()()()()()

台所へ向かいやがったのだ。

 

 

「…………どうしてこうなった」

 

 

半月前の己の発言に後悔しながら、

半笑いで、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

現在、2023年11月3日。

 

 

攻略組は俺が戻って来たこと、

そして年末という焦りもあり、

凄まじい速度でアインクラッドの攻略を進めた。

 

現在の最前線は48層。

俺とアスナの大喧嘩騒動から

やっと半月が過ぎたワケなのだが…………

───────俺とアスナは、()()()()()()

いや、させられているというべきか。

別に嫌ではない……のだが。

美少女との同棲とか男の夢だし?

 

…………話を戻すが、半月前。

アスナの『私のものになれ』発言により、

彼女の生活には全て俺が共にいることになった。

俺もアスナも家がなく宿屋暮らしなため、

一緒にいれないじゃん!とアスナが1日目に気付く。

 

それから、2日目。

アスナと半々にして、この22層の家を買った。

展開早くなーい?

そして、このまま狩りやクエストをこなして

アスナと共に生活し、半月が経過していた。

 

 

 

 

 

 

彼女の作る食事は勿論美味しいし、

無茶な命令はされていない。

こちらの発言も普通に許されている。

いるのだが。

それを逆手に取られ、言わせようとされている。

 

 

「生殺しってキツ過ぎるだろ………」

 

 

思わず頭を抱え、蚊の鳴くような声で言う。

台所のアスナは満面の笑みで、

そのウィンドウを見せつけるように

こちらの見やすい位置へと移動させる。

そのウィンドウが、悩みの原因である。

 

───《倫理コードの解除済み》のウィンドウが。

 

 

「あら、どうしたの?」

 

 

満面の笑みのアスナが聞いてくる。

 

 

「ナンデモナイデス………」

 

 

そう感情を殺した声で返す。

楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

 

 

─────これが、あと半月続くのか……………

 

 

夕刻の茜色の光が、窓から漏れていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

倫理コードについて簡単に説明しようと思う。

 

SAOには幾つかのハラスメントコードがあり、

プレイヤー同士の執拗な接触や

嫌がらせと該当されるものを感知すると

被害者側に現れるウィンドウで、

相手を選択1つで黒鉄宮と呼ばれる場所の

犯罪者を入れる監獄エリアに飛ばすことが出来る。

 

倫理コードというのはその一種で、

文字通り倫理に反するものが該当されている。

セクハラとかが主な例だろう。

そして、β版には(というか本来は)無かった現在、

その倫理コードを、なんと解除することが可能だ。

つまり、倫理コードを解除すれば合意で

『ピー』や『ピー』なことが出来るということ。

 

 

 

そして今、例えば俺がアスナに抱きつこうと

倫理コードが現れることはなく、

監獄に送られることもない。

勿論、俺にそんな度胸などあるハズもなく。

 

俺はヘタレである。

それを知ってのアスナの行動がこれだ。

あまり……あまりにも大胆過ぎではなかろうか。

しかも、生活する場所も同じなため、

ほぼ毎日これを目の前で解除されている。

俺こういうの良くないと思うなぁぁぁ!!!

 

 

「…………ねぇジン?」

 

「ナンデショウカ」

 

 

夜食を終え、食後のティータイムをしていた時。

アスナに問われ、俺は感情を殺して返す。

アスナはニヤニヤ笑いを浮かべ、

ウィンドウは残されたままである。

 

 

「ジンってヘタレだよね」

 

「悪いか」

 

「さぁ?」

 

 

開き直るが、彼女は悪戯っぽく返すだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、ってなんだよ」

 

「女の子がここまでしておいて、ってことよ」

 

「そんなこと言ってると襲っちまうぞ」

 

「やれるならやってみれば?」

 

「………男は狼だぞ」

 

「………子犬の間違いじゃないの?」

 

「……………………そろそろ、本気だからな」

 

「……………………ほんとぉ?」

 

 

 

 

 

 

「────────っ」

 

 

 

 

 

 

 

ここから先は、言うまでもないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 



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第50層攻略会議


キリトの存在はちょっと考えかねてます。
それを踏まえてのアンケートがありますので
よろしくお願いします。




 

 

 

「少し、発言をいいですかね」

 

 

思わず立ち上がり、そう言い放つ。

周囲の視線が全て集まる。

 

 

「今回は流石に我慢ならないんで。

 悪いがリーダーの各々、発言許可をくれますか」

 

 

現在地は49層主街区、ミュージェンという名の

賑やかな石造りの町、その中央にある会議場。

広場は昼の陽気に照らされているが、

もう1月ということもあって肌寒さを感じる。

 

そこに集結していたのは、

血盟騎士団の団長や幹部たち、

そして、聖龍連合の者を含めた攻略組だ。

俺もソロ攻略組プレイヤー筆頭として参加し、

各ギルドの団長たちと同じく最前列にいた。

 

 

「構わないとも。

 攻略の鍵、その1人である君の意見だ」

 

 

赤衣のヒースクリフが頷く。

普段はこのような魔術師のような格好だが、

それはゲーム開始のチュートリアル説明をした

茅場のものと酷似している(本人なのだが)。

よくバレねぇな………同じものだと思うんだけど。

あと1人だけずっと立って傍観決め込むな。座れ。

 

 

「同じく。貴方の意見を

 聞かないという理由はありませんから」

 

 

聖龍連合のリーダーの茶髪の男………

名をリンド、だったか。

笑みを浮かべてはいるが、正直なところ

油断ならない奴だと思っている。

何度か聖龍連合とレベリング中に鉢合わせたが、

邪魔されるわ勝手に敵にトドメ刺すわで

ぶっちゃけコイツらは嫌い。

 

クリスマス事件もコイツらのせいで

大変なことになったのだが………

その話はまた今度することにするとして、

軽く頭を下げておく。

 

 

「助かる。んで、風林火山は………」

 

「友達なら断る理由なんざねぇだろ?」

 

「公衆の場で恥ずかしい返事をありがとう」

 

 

そのクラインの返しと

俺の呆れた言葉で笑いが周囲に広がる。

単純に恥ずかしいからやめて?

サチもその後ろで口元を緩め、

小さくこちらに手を振っている。可愛い。

 

それはともかく、全ギルドからの承諾も得た。

咳払いをして笑い声を静め、話を始める。

 

 

「今回の攻略だが………レベル65以上。

 このプレイヤーに絞ってもらいたい」

 

 

俺の言葉に、広場がざわつき始める。

それは力をつけてきた風林火山も

ギリギリ入るか分からないくらいの範囲であり、

人数は半分ほどになるだろうか。

 

それにヒースクリフが手を上げる。

その表情は穏やかではあるが、読めない。

何を言われるか身構える。

 

 

「それは何故かな、ジンくん。

 ボスの攻略は力もだが………数も重要だ」

 

「分かっています。ですが今回は50層のボス。

 覚えていますか、25層での惨状を」

 

「………………ふむ」

 

 

クォーターポイントとなる25、50、75層。

経験した25層のボスは2つ頭……双頭の巨人だった。

当時、抜け駆けをしようとした軍はほぼ壊滅し、

攻略組をやめてしまっている。

事実、俺たちも苦戦した。

ヒースクリフがいなければ負けていただろう。

ムカっ腹は立つが、実際に彼は強い。

アシストを受けている様子は全くないし。

 

そして、そこから雑魚敵Mobも

ソードスキルを頻繁に使うようになったりと、

格段に強化がされ始めたことは

攻略組ならば誰もが知っていることだ。

 

 

「私感を含めた仮説ですが……

 おそらくアインクラッドのクォーターポイント、

 そこのボス、そこからの敵は格段に強化されると

 俺は考えています」

 

「…………成る程、死者を出さないため、と。

 君はその思いで発言したということか」

 

「他に理由なんかありますかね」

 

 

半ば呆れ気味にヒースクリフに返す。

死んだら終わりなのだし、

他人を心配するのは普通だと思うのだが。

 

 

「ソロならレアアイテム狙い、だとか。

 クォーターポイントの仮説が正しいでしょう。

 私もそう考えますよ、黒槍さん」

 

「………………ジンで構いません。

 それと、俺の武器を見れば分かると思いますが」

 

 

腹立つ奴が会話に割り込んで来た。

聖龍連合のリンドは笑みを浮かべたまま、

こちらに顔を向けてくる。

それに俺はレアアイテム狙いではない、と

自分の店売り武器を見せつけるが………

 

 

「ではジンさん、と。

 それは貴方がコレクターである、

 という可能性も拭い切れないでしょう?」

 

「……………まぁ、勿体ないというのはありますが」

 

「えぇ、えぇ、分かります。

 そんな気持ちを持つプレイヤーは沢山いる。

 なのに貴方はそれを独占しようと考えている、

 なんてことはありませんか?」

 

「ありません」

 

「本心はいつだって分からないものですよ。

 それにクォーターポイントの仮説は

 おそらく本物でしょうね。

 事実、25層から血盟騎士団の団長殿は

 あの神聖剣装備がドロップしたのでしょう?」

 

「確かに、そうだな」

 

 

ほら見ろ、と連合の者たちから声が上がる。

ほんと嫌いキレそう。

おい団長『我関せず』みたいに瞑目してんな。

必死に冷静を保ちながら煽ってくる

リンドに耐え続ける。

背中の槍を取って思いっきり殴りつけたい。

 

 

「つまり聖龍連合の者は、

 プレイヤーの命よりドロップを優先する、と?」

 

 

と、なんとここでアスナが立ち上がり

助け船を出してくれる。流石です副団長。

アスナの言葉に聖龍連合の連中は静まり返る。

 

 

「………その言い方は卑怯ではありませんか?」

 

「ジンへの言い方に比べれば同等だと思います」

 

「…………、…………………そうですね。

 少し言い過ぎました、攻略会議中だというのに」

 

「いえ、尤もな話です。

 欲に飲まれぬよう今後とも気をつけます」

 

「………………………………チッ」

 

 

おい舌打ち聞こえたぞコロコロすんぞ。

アスナへとグッドサインを隠れて送り、

軽く息を吐いて話を戻す。

 

 

「話を戻しますが、今回のボス………

 【The Golden Asura】黄金の多腕型ボスだが、

 おそらく物理に高い耐性があるうえに

 多腕による攻撃の猛攻を凌ぐ必要があります」

 

「クエストの報酬である攻略情報からの推測だな。

 高レベルの盾役(タンク)は必ず必要だ。

 先程の君の意見を採用するなら足りなくなるが」

 

「えぇ、ですから盾役の方々には

 レベリングを行ってもらいたい。

 安全に攻略するうえでは盾役は重要です。

 特に、ボス攻略戦では。

 今回は耐久戦になる、戦線維持が必要ですから」

 

 

それに各々は頷く。

確か50層のボスでは転移クリスタルでの

脱走者が次々と出て戦線が崩壊したハズだ。

猛攻に耐えられる盾が必要になる。

 

 

「ふむ………ではボス攻略までを伸ばすとしよう。

 2週間後だ。各自、それで大丈夫か?」

 

「構いません」

 

「いいでしょう」

 

「おう」

 

 

俺、リンド、クラインの全員が応じる。

それを確認し、ヒースクリフは告げる。

 

 

「では解散としよう。

 各自、レベリングを怠ることのないようにな」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「悪ぃな、あいつらに何も言ってやれなくてよぅ」

 

「最近、感じ悪いよね」

 

「別にいいって、気にすんなよ。

 ていうかサチはっきり言うようになったな……」

 

 

自信がついてきたのか、

サチは見るからに不機嫌そうだ。

感情を表現できるようになったのだろうか。

 

攻略会議が終わり、俺は風林火山と共に

他ギルドのいなくなった会議場で話をしていた。

夕刻、空は茜色に染まっている。

 

 

「なぁ、ジンよ。

 聖龍連合の奴等の噂は聞いたことあるか?」

 

「噂?」

 

「この前話題になったやつだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、お前………笑う棺桶(ラフィン・コフィン)って知ってるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷たい風が、石の町を震わせる。

 

 

 

 

 

 






問題はリーファ(直葉さん)を
ヒロインにするか、ということです。
キリト兄貴がいればALOに行くでしょうから
そっちに確実にラブを向けるでしょうし、
キリト存在しないならヒロインになります。

ヒロインにするのならキリトは存在しません。
ヒロインにしないならキリトは存在します。

私としてリーファをヒロイン認定するかは
考え所なので………アンケートをお願いします。
(読者様方に任せてしまってすいません)



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vs最悪



キリコの人気凄いですね………
なにはともあれ、キリト(仮)登場となりタイトルに矛盾が発生してしまいました(←戦犯)。

というワケで『SAOに来たんですが』はSAO編の終了で完結させて頂き、ALOからの続編を作ることにしました。キリコ登場はALO編からなのでお待ちください。
(元はリーファのアンケート)


今回からまた文章の形体が変わってます。
ご了承ください。




 

 

 

 

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)、とクラインから聞いた時から、何か違和感があった。

 

 

気持ちの悪い何かが、まるで見ているような。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「少し買い物とレベリングして来るわ」

 

「え、冗談でしょ?」

 

 

呆れた顔で返される。日は既に沈み、もう時刻は11時頃。

ちなみに攻略会議が終わった今日だが、実はまだアスナの所有物期間中だ。

 

 

「いや、ちょっと眠れなくてさ。

 今日は会議だったからか身体が動かし足りない」

 

「なにその戦闘狂みたいな理由………

 行くのは良いけど、気をつけてね。

 最近なにかと物騒みたいだから」

 

「ラフィン・コフィン、だろ?」

 

「うん。血盟騎士団でも有名になってきてる。

 人殺しのギルドとか、ホント意味分かんない」

 

 

アスナは心底不機嫌そうに言う。まぁ俺もあの屑どもは嫌いだ。聖龍連合やヒースクリフよりも、奴等はここから実質的な脅威になる。

と、ここでアスナがハッとしたように顔を上げる。

 

 

「まさかジン、ラフコフの所に……?」

 

「んなワケねぇだろ!?」

 

「ち、違うわよ!もし居場所を知ってて

 それを倒しに行くとかじゃないでしょうね!?」

 

「違うっつーの、ただのレベリングだって」

 

 

今度はこちらが呆れた顔で返す。アスナは必死な顔だが、気持ちが分からないこともない。この時間帯は確かに下層ではオレンジプレイヤーが彷徨(うろつ)く時間帯でもある。

 

それにアスナは少し考えるようにし、1つ溜め息をついて頷く。

 

 

「……………分った、信じる」

 

「ん、さんきゅ。じゃ行ってくるわ」

 

「……………………」

 

 

後ろからの疑うような視線が痛いんですが……

まぁそれはともかく、家の扉を開けて出る。

 

 

向かう場所は主街区、それから迷宮区だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

それに気づけたのは偶然だった。

まるで自身の影のように自然に、其処にいたから。

あぁ全く、気持ちが悪くて仕方がない。

 

 

「ストーカー野郎、とっとと出て来い」

 

 

瞬時に背後に忍び寄って来たそれに、槍を振り回して距離を取らせる。

 

 

「ほぉう、思った以上だな」

 

「お前に何か思われるだけでも吐き気がするわ」

 

 

振り向く。

そこにいたのはフードを被った男。手には鉈のような包丁が握られており、そしてそのカーソルは、オレンジ。

 

 

「自己紹介でもしようか。

 黒槍なんて呼ばれてるが、ただのジンだよ」

 

「…………っはははは!!

 殺そうとした相手に自己紹介かよ!!

 面白ぇ、あぁやっぱりお前は面白い………!!」

 

「きもっ」

 

 

吐き捨て、槍を右手で回して踏み込む。筋力値と敏捷値を全力で利用し、懐に潜り込んだ。

相手は油断していたのか、それとも余裕か。

────その反応が遅れた。

 

 

「────帰って寝たいからさっさと死んでくれ」

 

「っ…………ふんッ!!」

 

「ち…ッ!」

 

 

身体を引き、両手で槍を掴む。振り下ろされる刃を受け止め、距離を取られる。相手はまだまだ余裕が感じられ、底が見えない。

 

 

「ヒュウ、死ぬかと思ったぞ」

 

「死んで欲しかったんだけどな………

 お前────PoHだな」

 

「オレを知ってんのか、嬉しいねぇ」

 

「俺は虫酸が走るだけだがな」

 

 

言い、疾駆する。

同時に相手もこちらに向かってくる。

 

 

「ぬぅア!!」

 

 

薙がれた刃を跳躍で回避。その頭を蹴り砕こうと回し蹴りを放つ。だが。

 

 

「残念だな?」

 

 

その足を掴まれ、嘲笑われる。

 

 

「甘く見すぎだな糞野郎」

 

「!ちッ……」

 

 

足を掴まれるが、そのままの体勢を筋力で維持しながら槍を構える。それに気付いたPoHは足から手を放す。

 

 

「おらぁ、よッ!」

 

「ぬぅ!?」

 

 

その足に槍を突き刺し、動きを封じる。そのまま足から着地、斬り上げる。ガリィッ、というサウンドエフェクトと共にPoHの傍に浮かぶHPバーが2割ほど削れる。同時にこちらも奴もバックジャンプで距離を取り間合いから逃れた。

 

 

「っ、ははは!………お前何者だよ」

 

 

笑いと一転、鋭い眼光がこちらを捉える。傭兵としての歴戦の威圧感、それに右手の槍を回しながら威嚇を返す。

 

 

「俺にもよく分からん」

 

「…………話す気はねぇってことか」

 

「マジで分からん」

 

「…………………まぁいい。

 お前は………いや、違うか?」

 

 

見定めるようにPoHは顎に手を当てこちらを見る。それに睨み返し、問う。

 

 

「今度はそっちが分かんねぇな。何が違うって?」

 

「最初はお前を仲間に引き込むつもりだったが……」

 

 

仲間…………笑う棺桶に、ということか?おそらくPoHはこちらの素性を調べている。そう思考していた時だった。

 

 

 

「やっぱ()()だ」

 

 

 

一瞬だった。

瞬きの内に、懐に迫られる。

 

 

「─────っ!!」

 

「っくく」

 

 

何とか反応が間に合い、槍を両手に構えてその一閃を受け止め………きれなかった。凄まじい衝撃に身体が仰け反りそうになり、耐えながら足が地面を擦りながら後退させられる。笑い声と共に更に接近される。

 

 

「速っ………!!」

 

「どうしたどうした!!この程度かよ!」

 

 

凄まじい速度で放たれる斬撃。更に1つ1つが隙を突くような場所を狙ってくるせいで槍での防御で精一杯になってしまう。あとそんなことを言われても懐に入られたから槍が動かしにくいだけなんだっつうの…………!!

あまりソードスキルは使いたくないが………

 

 

「しゃあねぇ、食らえ!」

 

「!」

 

 

大振りの一撃をまともに貰い、HPバーが3割削られるが、代わりにソードスキルを発動。槍を眼前の地面に真っ直ぐに突き立てる。

 

 

〝スパイラル・ゲート〟

 

 

PoHの連撃の合間、槍が青い光を纏う。奴もそれに気付くも、既に腕を振り抜いた後。鉈包丁の一閃が、槍に激突する。

 

 

「な────!?」

 

「はぁぁッ!!」

 

 

青い光が弾けるように爆発。鉈包丁を槍の旋回で絡めて相手の体勢を崩し、その隙に爆発した青い線を引く鋭い突きがPoHを貫く。奴はそれに少し仰け反り、それを見て下がる。

 

 

「ふぅーッ、くく、やるじゃねぇか」

 

「……………」

 

 

槍で防御、反撃したが、ダメージの貫通でHPバーは既に6割を切っていた。だが、奴も手負いなのは同じ。ソードスキルによる大ダメージからは逃れることは出来なかったようで、奴のHPバーは残り4割ほど。

後ろに下がりながら腰に準備していた回復結晶を使い、念のためこちらの体力を全快させる。

それに奴はフン、と鼻を鳴らす。

 

 

「……………てめぇ、さては読んでやがったな?」

 

「当たり前だ糞野郎。

 聖龍連合の時から狙ってたようだからな。

 ボス攻略組をギルドに襲わせるつもりだろう」

 

「っ、は、ははははははッ!

 マジかよ、全部お見通しってか?」

 

「あぁ、だから今」

 

 

距離は大体10m、と言った所か。流石に奴もこの距離は詰められない。奴を視界に入れたままメニューを開き、装備欄からそれを装備する。

 

現れたのは、銀色の()()()()。鍔に施された鍵のような装飾が特徴的な【シルヴァーキー】の銘を持つ剣。

当然店売りのものではなく、とあるボスからの特殊ドロップで手に入れたもの。勿体なくて売り渋っていたが、まさかこんな形で使うとはその時は思わなかっただろう。

 

 

「っ、くく、はははははは!!冗談だろ!!?」

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()メニューを閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

「慣れないソードスキルは封印だな。

 さぁて─────加減抜きで………殺してやるよ」

 

 

 

 

 

 

笑い嗤う。

 

システムの穴を突いた馬鹿げた発想だが。

いや全く……こうして人を殺すのは、初めてだ。

 

 

 

 

銀色の切先が、フードを取った殺人鬼を捉える。

 

 

 

 





はいそこ、新武器の名前がダサいとか言わない。
冒涜的な深淵を知る方々なら分かるのでは?
門が開けたりしないのでご安心を

寝惚けながらキー打ってたので
少し展開がおかしいかも知れません。
なんで2人戦ってんの?ってなるかもですが
2人とも理解してて、それは次回分かります。



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悪夢の目覚め


課題が終わらねぇ!(二徹)
   ↓
届いたモンハンやって気分転換しましょうね~
   ↓
Saoの執筆してねぇ!
ということで作者の徹夜テンションのせいで少し文章がおかしくなりますがご了承ください。ちなみに今朝やっと寝れました。

落ち着いたら編集します。多分。




 

 

「らぁッ!」

 

 

薙いだ槍がフードを切り裂く。素顔が露になったPoHが懐に入り込んで来る。

 

 

「おらァ!」

 

 

気迫と共に放たれた高速の包丁が振り抜かれるが、銀色の閃光がそれを弾き、PoHの体勢を崩す。その隙を見て右手の槍で貫く………が、包丁の腹がそれを逸らす。けたたましい金属音が響き、火花のエフェクトが大量に飛び散る。

 

 

「っはははは!そうだ、そう来ねぇとなァ!!

 後にも先にもお前だけだ…………

 ここまで殺したいと思えたのはよォッ!!」

 

「気持ち悪い」

 

 

冷たく冴えきった思考でそう吐き捨てる。包丁の連撃を回転する槍で弾く、弾く、弾く。そして隙を見つけては銀色の閃光を迸らせ一撃で殺せる場所を、狙い撃つ。

 

だが、包丁によってそれを防がれ、鍔迫り合いに持ち込まれる。

 

 

「ぐ……!っ、ははははは!!

 どうだ、分かるだろうお前にも!!

 殺したいだろうオレが!!

 そうだ、救い続けるお前のその歪み!!

 オレがお前を人間にしてやるよぉッ!!」

 

「理解できねぇな……話すだけ無駄かよ」

 

「そうだ無駄だ!!殺して殺されて!!

 っはは、はははははははは!!!」

 

「頭おかしいんだな、俺もお前も」

 

 

槍を包丁に打ち付け、奴を後退させる。その瞬間に踏み込み、左手の銀色の剣を振り抜く。真上に弾かれるが、頭を狙って槍を放つ、が、それも当然首を逸らして回避される。だが、十分だ。弾かれた剣を再び連続で撃ち込んでいく。

 

 

「っはは……そうだろう…そうじゃねぇとなァ!!」

 

「やっぱり俺は、

 守るもののためなら平気で人を殺せるみたいだ。

 気に食わねぇが結局お前の望み通りかよ、クソ」

 

「そうだ、それでいい!!

 お前はオレの最高傑作だよッ、

 くっ、は、はははははははははは!!!」

 

 

連続で左手の剣を撃ち込み、隙を狙っては右手の槍で致命の一撃を放つ。集中力を削っていく面倒な戦法だが、必ず殺すためにはこれでいい。ここで仕留めなければならない。犠牲を少しでも減らすために。

 

 

「ならよ」

 

「……………っ!?」

 

 

紅の光を帯びた刃が、剣と槍を同時に弾く。…………それが、ソードスキルだと即座に悟り、地を蹴って大きく奴から下がる。

 

 

 

「白黒つけようじゃねぇか。

 ──────正義の人殺しさんよぉ」

 

 

気迫。

明らかに今までとは違うと分かるほど強い殺気が、身を震わせる。剣と槍を握る手が震える。あぁやはり、潜り抜けてきた死線が違うのだ。それを実感する。

 

もしこの場から逃げれば、奴は俺から興味を失くす可能性もあるだろう。隠れ住めば、逃げ切れるかも知れない。

 

だが。

なんともたちが悪いことに、奴の言う通りだ。今ここで相手を殺しておかねば互いが邪魔になる。

 

 

 

「ここでお前を殺す。

 ──────覚悟しろ、人を唆す悪魔」

 

 

 

奴の名を知っているが故の最大の皮肉だ。奴は俺の言葉に一瞬だけ眉を潜めて。

 

 

「─────っはァ!!」

 

「!!」

 

 

瞬きの瞬間に包丁を振り上げ、接近される。足を踏ん張り、左手の剣でそれを受け止める。金属音が耳を突く。

 

 

「何処で知ったのか知らねぇが………!

 ここで終わりにしようぜぇ、ジィン!!」

 

「上等だクソ野郎!!

 この世界がお前の墓場だ!!」

 

 

吼える。

同時に左右に得物を引き、二連続で打ち合う。足払いを跳躍で回避し、槍を振り下ろすが、奴もそれを身体を逸らして回避、跳び蹴りが脇腹を捉えるが、寸前で剣の腹で防御する。だが蹴りの衝撃で迷宮区の壁に叩きつけられる。

 

 

「ぐぅ……ッ!」

 

「おらァ!!」

 

 

それを首を狙った包丁が振り払われるが、剣で弾き、壁を蹴って天井へと跳び移る。奴の頭上から投擲スキルを発動、槍を投げつけるが飛び退いて回避される。着地し、槍を抜く。

 

 

「っ………!」

 

 

PoHの姿が見えない。即座に後ろ手に槍を回し、振り向く。いない。足音だけが視界の外で響いてくる。完全に見失った。

 

 

「こんなアサシン染みた動きも出来んのかよ」

 

 

背後から風を切る音。振り向くと同時に剣で払うが、まるで煙を斬るかのようで、そこに奴の姿はない。フェイントだと理解し、地を蹴る音が聞こえた正面に奴の姿を捉える。薙がれた刃を地面を削り上げながら振り上げた槍で弾き上げ、隙を作る。

 

 

「らぁッ!!」

 

 

振り上げた槍を、垂直に振り下ろす。影のように真横に避けられるが、それを剣で斬り払う。ガリッ、というサウンドエフェクトが響き、命中したのを確認する。

 

 

「ぐ………っ!」

 

「逃がすかぁぁぁぁっ!!!」

 

 

怯んだ隙に槍を奴の身体に突き刺す。

 

 

「ぐ、がぁっ!!っ、ははははっ!!」

 

「な………がはっ!?」

 

 

その槍を掴まれ、壁に叩きつけられる。だが槍はまだ奴に突き刺さったままだ、押し込み、怯ませる。そして、槍を回してマントを巻き込む。

 

 

「何!?」

 

「ら、ぁぁぁぁッ!!!」

 

 

そして、巻き込んだマントを利用して槍を引き、奴を引き寄せる。だが奴もその引き寄せを使い、こちらの首へと刃を振るう。こちらも銀色の刃を振り下ろす。

 

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

「───────!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

銀色の刃が奴の頭を叩き斬り。

 

 

 

 

 

「か、は………っ……!」

 

 

 

 

 

 

鈍色の刃が、俺の首を斬った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「まだだぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」」

 

 

同時に吼える。

まだだ。視界が、思考が炎に包まれる。燃え盛る殺意を刃に込めて、殺すべき敵へと振りかざす。

 

最早、HPバーは消滅している。

 

 

「ぬぁぁぁぁッ!!!」

 

 

敵の刃が肩から腰までを切り裂く。

 

 

「がぁぁぁぁッ!!!」

 

 

敵へ槍を叩きつけ、銀剣で首を斬りつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

砕け散ろうとする命を構成する光を掻き集め、渾然の一撃を敵に叩きつけ続ける。燃え上がる殺意のままに、たとえ死んでも敵を排除しようと足掻き続ける。

 

 

一心不乱に、敵を蹴り飛ばした瞬間。

 

 

 

 

「─────ぁ」

 

 

 

左手が、斬り飛ばされる。

だが、相手は向こう側の壁に叩きつけられ、その手から包丁は既に落ちていた。

 

最大の好機が、訪れる。

 

ほぼ無意識の中、右手を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりだ、PoH」

 

 

 

深紅の雷が、引き絞られた右手を包み込む。

 

 

 

 

 

「お前が俺を人殺しだって言うのならそれでいい。

 間違っちゃいねぇし。

 …………けど、これだけは絶対に譲れない」

 

 

 

 

突き穿つ。刺し穿つ。

 

 

 

 

 

「人を人殺しにするお前は、赦さない」

 

 

「──────終わりか」

 

 

 

 

 

 

紅の雷光が、翔ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「は"ぁ"ぁ"!!死ぬかと思った!!」

 

「死ぬかと思ったわ………じゃねぇぞお前!!

 なんで死んでんだよ!!?」

 

「……………………………馬鹿」

 

 

やって来たクラインたちにごめんごめん、と謝る。風林火山の面々も勢揃い。サチには抱き締められているが、プレートメイルのせいで硬くて痛い。あと苦しい。

なんとか離してもらうと後ろから聞こえる更なる足音。凄まじい速度でこちらに近づいて来ている。

 

 

「馬鹿ぁぁぁぁぁ!!」

 

「よぐぅ!?」

 

 

高速のダイビングを受け止めきれず、石床に後頭部を強打する。

 

 

「あ、アスナさん?」

 

「何が死ぬかもだからよろしく、よ!!馬鹿!!」

 

「馬鹿ばっかり言われてるよ」

 

「馬鹿だからだろ」「馬鹿だからでしょ」

 

「泣きそう」

 

 

風林火山の面々が頷く。泣きわめくアスナに肩を掴まれてガンガン揺すられる。

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなったかと言うと。

 

 

PoHが襲ってくる少し前、回復結晶を店で買った辺りでアスナとクラインにメールを送った。

 

 

「お前からメールが来た時は肝が冷えたよ……

 なぁにが『PoHと戦うから手伝ってくれ』だよ。

 来てみたら幹部までいやがるしよ………」

 

「預けてて正解だったな。流石は俺だ」

 

「反省しなさい」

 

「ごめんなさい」

 

 

預けてて、というのはクリスマス事件の時に手にいれた蘇生結晶だ。使わせてしまったが、まぁ仕方ない。PoHと戦ってる間は気がつかなかったが、既にHPバーが全損していたらしく、死ぬ寸前で戦っていたようで。

 

 

「まぁ、結果良ければ、ってヤツだな。

 やったじゃねぇかジン、

 PoHの野郎は倒したんだろ?」

 

 

その言葉に、頷く。PoHは殺した。………だがそれでも、狂った心がそれを赦さない。

 

 

「そう、だな……………俺が、殺した」

 

「そう気負っちゃだめだよ。

 あの人のせいで、今まで沢山の人が死んだから。

 これから死ぬかもしれない人たちを、

 ジンは助けたんだよ」

 

「サチの言う通りよ、ジン」

 

 

それに、力なく笑って立ち上がる。

 

 

「そうだな………少し、1人になりたい。

 アスナ、悪いけど………気合いを入れたいんだ」

 

「うん、分かった。

 ……………死のうなんて考えちゃダメだからね」

 

「はは、分かってるって。

 それじゃ───みんな、ありがとう」

 

 

こうして1人、皆に背を向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PoHの言った『歪み』。

それを、奴との戦いで理解した。

 

 

「…………全てを救う。

 それが、おこがましいのかよ」

 

 

奴も、もし。

もしも、これまでを幸せに生きてこれたのなら。

 

 

 

「…………いや、考えるな。

 あいつは死んで、当然なんだから」

 

 

 

 

 

 

胸の疼きは、いつまでも消えることはない。

 

 

 

 

 

 

 






アンケートで生死を決めて編集します。
任せてばかりですいません。

(結果)
PoHは死んだ!もういない!



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ガバガバセキュリティと癒し系(?)



寝ずに2徹中です。またまた気分転換モンハン。
火事場ほんとすき。ナルガスラアク会心火事場で上位マガイマガド5分切りしてあーサイコサイコ………
体がピョンピョンするんじゃ^~(徹夜明けのふわふわ感)

あ、今回はキャラ登場回なので短めです。






 

 

 

 

 

「おはよー」

 

 

あの戦いから2日が経過していた。アスナは解放してくれたので攻略とレベリングはやめにして、俺は自分用に買った50層の小さなプレイヤーホームで休んでいた。ベッドの上に寝転がり、アイテム欄を吟味する。

 

 

「………つくづくエリクサー病だよな、俺」

 

 

自分に言い聞かせる。アイテム欄にあるのは大量のレア装備とレアアイテム。非売品も多く、売れない表示されるものまである。エリクサー病、というのはレアなアイテムを使わずに温存しておく所謂貧乏性ゲーマーの病気なのだが、おそらく俺は重度のこれだ。

 

 

「あれ、おーい」

 

 

自分には合わないダガーや刀、棍。更に明らかにレベルに合わない下層の防具など、余らせているものが多すぎる。エギルの所に行って売ってもいいのだが、あいつもあいつでその装備やアイテムのレア度を見て仰天するもんだから勿体なくなる。長くて1年近く装備欄にある第1層で手に入る槍まである。馬鹿だろ………と自分でも思う。

 

 

「おーいっ」

 

 

しかも金には困ってないのだ。最近は前とは逆に最前線に籠っていたし、縁起悪いがPoHのクソ野郎も金を呆れるほど持っていたようで、それだけでスペアの最前線ショップの槍を5本は用意できるハズだ。もう用意してたのに。

 

 

「ねぇねぇー」

 

 

と、クソ野郎を思いだし気分が悪くなってきた時。アイテム欄に1つの見たことのないアイテムを見つける。思わず目を見開き、見てみようとタップする。

そのアイテムの名は────

 

 

「おーっはよーーーーっ!!」

 

「びぁぁぁあぁぁぁぁぁあいだぁぁあっっ!!?」

 

 

耳元で聞こえてきた大声に悲鳴を上げる。思わずベッドから跳ねるように飛び上がり、本能的に装備すらしていない槍を背中から取り出そうとした瞬間にベッドのシーツに足を取られて転倒、後頭部をベッドの角にぶつける。

そして一瞬だけ目を開けた時、視界に入った

【Immortal Object】のウィンドウ。キレそう。

 

 

「っっうぅ~~~!!?」

 

「あれっ、大丈夫?」

 

「は!?は!?えっ!?あ!?」

 

 

なんで、鍵を閉めたハズの、しかも許可が必要なハズのプレイヤーホームに浸入して来ている奴かいるのか。そこまで痛みもない後頭部を押さえながら慌てる思考を巡らせて声を出す。そこでやっと装備していないことと、ここが圏内であることを思い出し、顔を上げる。

 

 

「っ!?」

 

 

そこには見たことのある顔がいて、思わず息を詰まらせる。そして、脳を何故、が支配する。

 

 

「えっと………ほんとに大丈夫?」

 

「あ、いや大丈夫、なんだけど………えっ」

 

 

だって彼女は、原作にいるハズがないのだ。

原作から派生したゲームで、会うとしてもまだまだ先の階層で会うハズなのだ。何故まだこの50層という階層で、既に現れたのか。

 

薄紫色の髪に、赤い双眸が腰を抜かしている俺を映している。紫を基調とした………胸の露出が多いエr………けしからん軽装に目がいくが、それを理解して瞬時に目を逸らす。

 

 

「ス………っ、いや……誰だ、ここは俺ん家だぞ」

 

「?あぁごめんごめん、勝手に入っちゃって。

 でも鍵は開いてたよ?」

 

「え?」

 

「ほら」

 

 

彼女が指差す方向を見てみると、確かに扉は開きっ放し。…………まさか入口も?そう彼女へと視線を向ける。

 

 

「うん。入り口も」

 

「…………………………………………あっ、

 でも勝手に入るのは良くないよな?」

 

「てへっ♪︎」

 

 

舌を出して悪戯っぽく笑う紫色の女。

は?可愛いかよ。全くそれで許すわけが「許すわ」

 

「いいんだ?」

 

「いいよもう」

 

 

いってぇ………と呟いて頭を掻きながら立ち上がる。

美少女がやるから許される『てへ』がそこにある。

無論PoHやら団長は例外で殺意を向ける。

エギルとクラインはドン引きするくらいだろうか。

 

 

「はぁ…………俺はジン。

 不法浸入者さんの名前を聞かせてくれ」

 

 

シーツを適当に畳んで持ち上げ、彼女に問う。既に分かっていることだが、知っていてはおかしいだろう。彼女はにへら、と笑って答える。

 

 

 

 

 

「うん。私はストレア、よろしくねー」

 

 

 

 

違ったら黒鉄宮送りにしてたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「で、なんで俺ん家に勝手に入ってきたの」

 

「なんでだろ?」

 

「えぇ………」

 

 

迷いなくそう答えるストレアに困惑する。聞きたいのはこっちなんだっての…………取り敢えず2人でテーブルに座り、紅茶(?)と蜂蜜(?)付きパンを出し、それを口にしながら話をすることになった。お陰でこの時の俺はあの気になるアイテムのことをすっかり忘れていた。

 

パンを美味しそうに頬張るストレア。露出が多い。未だにこんな大胆さには耐性がつかない……いや、耐性がつかない方が正常なのだろうが。

 

そして、アスナを思い出し顔が急激に熱くなる。

 

 

「ん?どうしたの?」

 

「なななんでもないですようん」

 

「ほんと?顔まっかっかだよ?」

 

「にゃぁあぁぁっ!?大丈夫だかお"う"っ!?」

 

「えっほんとに大丈夫?」

 

 

テーブルに乗り出して近寄ってくるストレア、それにあの夜を思い出し異常なほどに暴走してしまい、椅子ごと後ろに倒れる。再び目の前に現れる【Immortal Object】。分かっとるわ。

 

 

「はぁっ、はぁっ………わ、悪い。

 いやちょっと、うん……………これをどうぞ」

 

 

息をつきながら己を落ち着かせメニュー欄を開き、軽めのマントコートを取り出してストレアに渡す。目の毒だ。良い意味でも悪い意味でも。

 

 

「わ、いいのー?」

 

「良い……ってかお願い。うん」

 

 

無邪気にそれを貰って喜んでくれているのか、彼女は嬉しそうにそれを来てくれる。これでしっかり胸が隠れてくれた。ヨシ!咳払いをし、立ち上がる。

 

 

「あ、そうだ、ジン」

 

「ん?」

 

「私、ちょっと1人じゃ心細くて」

 

「うん」

 

「私とパーティー組んでくれない?

 これでも前線でも戦えるくらいの力はあるんだ」

 

「うん………………はい?」

 

「やったー!これからよろしくね!」

 

「えっ」

 

 

ほんわかした流れから突然巻き込まれていくの?いやまぁ見捨てる気はないけど。えっ、カーディナルバグってないよな?ユイさーん?妹先にこっち来てますけど………でもカーディナルに報告送ったらストレアは消されそうだな…………

 

ストレアは隠している、もしくは記憶喪失だろうが、残念ながら俺は既に知っている。

 

 

彼女はメンタルヘルスカウンセリングシステムというシステムあり、ユイと同じ試作AIの二号目、ということ。

 

 

そして……いつか別れを告げなければならないこと。

 

 

 

 

 

 

嫌な予感がする。

 

 

彼女がいるということは、もしかしたら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

75層で彼を倒しても、SAOが終わらない可能性が

出て来てしまったということでもあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホロウとなったあの悪夢が、

また再び現れる可能性があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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この世界で生きてるんだから


ジョジョ6部アニメ化決定しましたね。賛否が分かれる部ですが……個人的には楽しみです。ちなみに私は7部が一番好きです。皆様方はどの部が好きなんですかね?




 

 

 

「ってわけで、連れて来た」

 

「やっほー。みんなよろしくねー!」

 

 

あれから数日が経過して、ボス攻略戦の当日。

 

俺はアスナ、風林火山の連中と共に予定時間よりも先に迷宮区に集まってもらい、ストレアを紹介することにした。彼女もボスの攻略には役立つ、と言っているので連れて来たが…………

 

 

「………………………ジン」

 

「なんでしょうか」

 

「また浮気したのね」

 

「何の話か分からないな。またってなんだ。

 誰とも結婚したつもりはないんですが」

 

「リズから聞いたわよ、口説かれたって」

 

「いやマジで知らないんだけど!?

 それ俺じゃなくね!?」

 

「…あのさ……ジン………」

 

「やめろサチお前までそんな目で見るな違うぞ」

 

 

最近女性陣が怖い。一時アスナに拉致………同棲してたのもあるが、20層辺りから世話になってるリズやら、風林火山の影響で物怖じしなくなったサチやら…………

 

 

「ねぇジン、浮気は駄目だよ?」

 

「違うっつってんだろ!?

 クライン助けて!」

 

「やだよ怖ぇし」

 

「友達だろ!?」

 

「ごめん」

 

「おぉーーーいっ!!?風林火山の皆さん!?」

 

「あー………すいませんっす、

 サチさん兄貴のことになると本気なんで………」

 

「そういうわけで………

 俺らちょっと狩りに行ってきやすわ」

 

「へぁ!?逃げやがった!?」

 

「そういうワケだ。ま、頑張れよ少年。

 お前の性格考えるとそれは試練だ。

 もっと大変になると思うが」

 

「嘘だろ!?おい!?嘘だよね!?」

 

「じゃあな!」

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁーーー────………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その辺にしてくれたまえ。

 火力要員が先に疲弊してしまっては困るのでね」

 

 

ストレアを除く女性陣に囲まれた時だった。その声が足音と共に響いてくる。その声にアスナはげっ、と声を上げて敬礼。サチもムッとした顔で少し下がる。

 

 

「た、助かった…………団長か……」

 

「ふむ………………それも君の人徳というものだ。

 潔く受け入れたまえ」

 

「状況から全部先読みして言うのやめてください」

 

 

現れたのは、ヒースクリフ団長率いる血盟騎士団たちだった。助けてくれたつもり、ではないだろう。本当に火力要員の俺が疲れるのを止めた、それだけじゃなかろうか。いや絶対に、間違いなくそうだろう。あいつは趣味悪い、間違いない。うん。

 

 

「速いっすね、

 まだボス攻略には時間がありますけど?」

 

「なに、皆にもボス前の休息が必要だろうとね。

 どうやら副団長は先に行ってしまったようだが」

 

「自由行動にさせて貰いましたから。

 あと今後、護衛も付人も必要ありません」

 

「悪いが副団長という立場上、必要なことだ」

 

「うぐ…………」

 

 

珍しくアスナが唸っている。そういや護衛がウザいって愚痴ってたのを思い出すが………クラディール、か。血盟騎士団の面子を見回すが、どうやらあの男はいないようだった。挑発しない限りは大丈夫だろうが。

 

すると、団長も珍しく……一瞬だが、眉を寄せる。そして視線を、ストレアに向けた。

 

 

「見ない顔だが、ソロ攻略組の1人だろうか」

 

「俺が仕切ってるつもりじゃないが、そうですね」

 

「………………………」

 

「どうやら警戒させたようだ。すまない。

 私はヒースクリフ。血盟騎士団の団長だ。

 共に戦う仲間として、よろしく頼む」

 

「…………レア。こちらこそよろしく」

 

 

またこちらも珍しく………いや、妥当な警戒だろう。ストレアは偽名を使い、ヒースクリフを普段とは違う眼で見つめている。おそらく彼女も気づいたのだろうか。

 

最悪、ヒースクリフがストレアを知っている可能性もある。それだけは避けたいがための偽名だろう。

 

 

「ふむ、ジンくん」

 

「なんすか」

 

「彼女の力量は保証できるのか………

 それを君の口から聞かせてもらいたい。

 縁起もないことを言うようだが、

 これから戦うボスは犠牲が出る可能性もある」

 

 

その犠牲、という言葉に苛立ちながらも、答える。少なくともストレアの強さはここに来るまでに確認している。彼女は攻略組でも十分にやっていけるほどの強さがあるのは事実。

 

いや、それよりも。

 

 

「犠牲だと?あぁそうだな。出すつもりはない。

 俺が出させない。お前も言っただろ、

『仲間の命が助かる確率が1%でもあるなら

 全力でその可能性を追え、それができない者に

 パーティーを組む資格はない』だったか?

 仲間の安全は全てにおいて優先される。

 本当なら誰もボス部屋に入れなくねぇんだよ」

 

「………………」

 

「レアの強さは俺が保証する。

 けどな、お前も自分だけじゃなく仲間は守れ」

 

「…………肝に命じておこう」

 

 

彼に背を向ける。少し憂さ晴らしをしたい気分だ。背中の槍を取り、その場から離れようと歩き出す。血盟騎士団とすれ違い、ヒースクリフの横を抜ける。

 

 

「あと言っておく。

 仲間の命が助かる()()って言ってたな。

 命を確率で測るんじゃねぇ、数学者かお前は。

 ………あっいや数学者かも知れねぇけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺たちは、確かにこの世界で生きてるんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

敬語じゃなくて悪かったですよー、と苛立つ団長の後ろにいる血盟騎士に吐き捨て、後ろ手をヒラヒラと振りながらその場を後にする。

 

まだ時間はある。少しヒースクリフとは離れたい。確かにあいつは自由にこの世界に出入りできるようだが、俺たちは違うのだ。アスナもクラインもサチもストレアもアルゴも、それは、あのクソ野郎だって同じだった。

 

ゲームとしての感覚が抜けないのは製作者として仕方ないとは思うが…………人の生死を確率なんかに任せるつもりはない。

 

 

助けられる命なら、絶対に助けなければならない。

 

 

 

 

 

「そっか、そういうことだったんだね」

 

 

追いかけてきたストレアの言葉に振り向かないまま、聞き返す。そういうこと、とはなんだろうか。

 

 

「なにが?」

 

「んーん、なんでもないよ。

 ただ………優しいんだよね、ジンは。

 優し過ぎるくらいに」

 

「恥ずかしいっつーの。

 助けられるなら助ける、それだけだよ。

 何もおかしくはないだろーよ」

 

「………そうかもね。君にとっては」

 

「は?」

 

「今はいいよ。ただ、ね」

 

 

ストレアが足を止めるのが分かる。それにこちらも足を止めて、振り向く。少し物悲しげな紅の双眸が、槍を持つ黒髪の何者かを映している。

 

 

 

──────あぁ、そういえば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっと、■■■■■■■■■」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────俺は、どんな顔をしてたっけ。

 

 

 

 

そんな些細なことを思い浮かべたせいで

ストレアの言葉は、ただ耳をすり抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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ボス『The Golden Asura』攻略前半戦


投稿遅くなりました。

ボス戦とボス名は完全オリジナルです。一応『黄金の仏像めいた多腕型ボス』という原作での発言を引っ張って来てます。




 

 

憂さ晴らしのMob狩りを終え、戻ってきた時には既に全員が揃っていた。時間は丁度、扉近くのヒースクリフが頷く。

 

 

「どうやら全員集まったようだ。

 では諸君、準備の確認をしてくれたまえ」

 

 

ヒースクリフは言葉と共に扉に手をかける。俺はその最後尾でストレア、風林火山の面々と共にいた。アスナは副団長ということで最前列である。背後を確認、誰もいないのを確認し、全員でボス部屋前で最後の装備確認。

 

 

「行くぞ、お前ら、あとジンに姉ちゃんよ」

 

「レアだよ、よろしく!」

 

「おう!よっしゃ、気合い入れて行こうや!」

 

「「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」」

 

 

クラインの声に風林火山の面々が叫ぶ。他のギルドでも声が上がっているようで、気合い十分だ。それに笑い、大きく息を吐いて槍を手に取る。

 

 

「はー。さてさて、やりますかね」

 

「頑張ろうね、ジン」

 

「おうよ、サチも気をつけてな」

 

「うん。ジンも前に出過ぎないようにね」

 

 

横に並んだサチとハイタッチ、するとストレアがおぉー、と目を輝かせて寄ってくる。

 

 

「ねぇねぇ、それ私もやりたい!」

 

「うん、ターッチ」

 

「ターッチ!ほらジンも!」

 

「はいよ、っターッチ」

 

「ターッチ!よっし、頑張ろー!」

 

「ふふっ、頑張ろうね!」

 

 

ストレアとハイタッチを交わす。

サチも元気になったものだ。これもクラインたち風林火山のお陰だろう。お喋り中に熱くなって俺の話を早口で何時間もするのは恥ずかしいのでやめて頂きたいところだが。まぁ良い状態だ。

 

そういえば黒猫団も俺とサチを追って実力をつけて来ているらしく、今回は残念ながら参加できなかったが攻略組の少し下までは頑張っているらしい。凄まじいな………

 

 

「よし、各自準備はいいようだ。

 では────征くとしよう」

 

 

ヒースクリフが扉に手をかけ、開く。同時に全員がボス部屋に入り込み、俺たちも続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは円形、石造りの部屋だった。天井含め、丸みを帯びた部屋は見慣れたものだが…………その奥に、黄金に輝くそれはいた。それは目を見開き、般若のような表情を見せる。黄金の体躯は巨大、そして6本もの腕を持つ巨人、と言ったところだろうか。

 

そして、大気を震わせるほどの咆哮が部屋中に響き渡る。その瞬間にイエローカーソルと共にボスの名前とHPバーが出現。【The Golden Asura】。

 

槍を右手に、左手を石造りの床につきクラウチングスタートの体勢を取る。それに気づくのは、ボスに集中しているからか、誰1人としていない。

 

 

「戦闘───!!」

 

 

ヒースクリフが叫ぶ。

『開始』、そう叫ぶ前には飛び出していた。

 

 

 

 

 

 

「─────つぁ!!!」

 

 

連続で地を蹴り、全力で加速する。

 

 

「っ!おいジン!?」

 

 

クラインの声が響いてきた頃には、血盟騎士団を追い越していた。ほんの一瞬、ヒースクリフと目が合う。彼は驚いたように目を見開き、笑って、そして尚も口を止めない。

 

 

「開始!!」

 

 

彼の声を置いていく。加速、加速、加速。繰り返し地面を低姿勢で蹴る。見えるのはボスだけ、槍を構えて、加速した力全てを使い、跳び上がる。

 

 

「一番槍だ、食らえ!」

 

 

ボスの首筋を槍で突き刺す。SEと共にHPが目に見えて削れたのが視界の隅に映り、瞬時に2つの腕が迫ってくる。対処に頭を回した瞬間だった。

 

 

「はぁぁぁぁッ!!」「せりゃああああっ!!」

 

 

聞こえたのは、2つの声。2つの腕が大きく弾かれる。………一瞬『は?』となった。ボスまでの距離は最前線にいたヒースクリフからは50m近くある。この速度についてこれるのは1人だけと思っていたが……………

 

 

「もうっ、先走り過ぎよ!!」

 

「私たちにも頼ってね、1人じゃないんだから!」

 

 

アスナと、なんと大剣を構えているストレアだ。遅れてヒースクリフ、クライン、サチが走ってくる。攻略組の全員もそれに遅れて続いてくる。ストレアの方を向き、笑い返す。

 

 

「わーってるよ!!」

 

 

アスナ、ストレアに遅れて着地し、槍を構える。金色仏は重苦しい咆哮を放ち、こちらを威圧してくる。腕を振りかぶり、引き絞り、それぞれ3本ずつが迫ってくる。

 

アスナの元に血盟騎士団や風林火山にストレア、

そして俺の隣に輝く剣を持つヒースクリフが立つ。

 

 

「合わせたまえ」

「言われるまでもねぇっての」

 

 

即座に言い放ち、ソードスキル

〝スピン・スラッシュ〟を発動。

俺は槍を頭上で回転させ、ヒースクリフは大盾を前に剣を大きく引き絞る。

 

 

 

放たれた3本の拳が迫る。

 

ヒースクリフの鋭い一撃が一本目の腕を逸らし、こちらは溜めからの重い薙ぎが二本目の腕を逸らす。

 

真横にそれぞれの腕が突き刺さる。

 

そして三本目の腕を、硬直がほぼ同時に解除された俺とヒースクリフの強攻撃が真上に弾き飛ばし、隙を作る。

 

 

「今だな」

 

「お、らぁッ!!」

 

 

どこまでも冷静なヒースクリフを横目に吼え、槍を連続で叩きつける。だが、硬い。奴の剣もソードスキルだったとはいえ、それであのダメージ。プレイヤーとしてもヒースクリフのスキルは事実的に最強なのだ。それであのダメージ………勝ち目が、見えてこないのを悟る。

 

 

「埒が明かねぇな………!」

 

「あぁ、なにか決定打が必要だ」

 

「んだよ、物欲しげな目で…………

 …………言っておくが俺にゃ打開策なんざないぞ」

 

「君の武器とスキルだが、

 まだ良いものがあるのではないかとね」

 

「あったら苦労しねぇよ」

 

 

さては二刀流がバレたか?そんな思考が脳裏をよぎる。嫌な予感しかしないが………奴から手を出して来ることはないだろう。ハッタリをかまして眼を逸らす。

 

弾いた腕が再び迫り、ヒースクリフとは逆方向に飛び退いて回避する。ちょうどいいところで奴と分断できたが………

 

 

「余所見してちゃダメだよ!」

 

 

ストレアが追撃の拳を大剣で弾き上げる。もしまともに食らっていたらHPをごっそり持っていかれただろう。ギリギリだった。

 

 

「おおっと、さんきゅ」

 

「うん、気をつけていこう!」

 

 

分断されたが、ヒースクリフの野郎は大丈夫だろう。横ではアスナたちが応戦しており、吹き飛ばされるプレイヤーたちは一撃でもかなりHPを削られている。

 

 

「あの腕ほんと厄介だな………!」

 

「……………そういえばジン、

 最初の一撃ってどこに命中させたの?」

 

「あ?そういえば……………」

 

 

あの時、確かにあの場所への攻撃で大きく削れた。なら、もしかしたらあの場所が弱点として設定されている可能性がある。ボスにもクリティカルが設定されていてもおかしくはない。あそこにソードスキルを叩き込めれば、そう考えた時だった。

 

 

「ジン、ストレア!!危ない!!」

 

「え」「っ、やべ」

 

 

アスナの声と同時に、多腕が突如として迫ってくる。数が多い。迷いはない、ストレアを突き飛ばした瞬間、アッパーカットが身体を打ち上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

 

視界の外から次の腕に掴まれる。そして。

 

 

「──────が、ふ」

 

 

震える。身体が潰れる気持ちの悪い感覚に、脳が吐き気を催させる。地面に、叩きつけられたことを理解する。声が聞こえ、瞬時に途切れそうになった意識を舌を噛んで起き上がらせる。

 

 

「やっべ、死ぬ………っ」

 

 

見上げると、6本の腕全てが俺を狙っていた。だが、俺の前にあの聖騎士が立ちはだかる。十字架を模した剣が光を帯びた、そう思った瞬間。

 

 

「ぬぅんッ!!」

 

 

バキィッ、と聞いたこともないような重いSE。飛び上がったヒースクリフが、ただソードスキルで剣を振り下ろしただけで………ボスのHPバーが目に見えて1本目の2割ほど消し飛び、怯む。

 

 

「おいおい………マジか?」

 

「立ちたまえ。

 私を震わせた男が先に死んでどうする」

 

「…………………は、響いたようで良かったよ」

 

 

鋭い真鍮色の眼に言われるがまま立ち上がり、回復結晶を取り出してヒール、と呟き砕く。腹立つがタゲを移されないよう攻撃する聖龍連合により、ボスのHPは2本目まで削られていた。

 

 

「やはりレベリングは適切だったようだ」

 

「あいつら本当に嫌いだ。お前も嫌いだけど」

 

「フッ、一ギルドと比べられるほどに

 私も嫌われてしまったか。

 これでは勧誘など無理と割りきるべきだな」

 

「嫌だね、絶対に血盟騎士団は胃が痛くなる。

 つーかそういうとこだぞ、団長」

 

「秘策が、()()()()()()?」

 

 

視線がこちらを貫く。それに少し迷い、今戦線を任せている奴等が目に入る。吹き飛ばされる仲間たち、呆然と立ち尽くしてこちらを見ているストレア…………………

 

槍を、持ち変える。

右手でメニューを開き装備欄へ。

 

 

 

 

 

「では、お手並み拝見といこうか」

 

 

 

 

 

左手に現れた剣を手に、溜め息をつき。

あぁもうやけくそだと、心の中で呟いて。

 

 

 

「見世物じゃねぇぞ、オラァ!!!」

 

 

 

眼を丸くする仲間たちの横を抜けて、翔んだ。

 

 

 

 



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ボス『The Golden Asura』攻略中半戦


ソードスキル不可なだけで二刀の装備可能でした。ちゃんと原作読み直せ駄作者ァ!
あっ片手に槍装備は許して。主人公槍使いだし………もう遅かった。

あっ、UA100000突破しました。
ありがたやありがたや。


クソ遅投稿です。許して。

読み返したけど主人公イキってる?
じゃ、ほんへでボコされて反省しましょうねー




 

 

 

「らぁぁぁぁッ!!」

 

 

太腕を駆け上がって跳躍、身体をひねって回転させ、槍と剣を同時に黄金仏像の首筋へと叩きつける。2つのガラスを砕くようなSEが響き、突如与えられた大ダメージに黄金仏像がスタンする。そして、初めて二刀流のソードスキルを発動する。

 

 

「し────ッ!!」

 

 

〝ゲイル・スライサー〟

 

 

アシストにより身体が前方へと動き出す。青と緑の光を纏った両手の得物を振り上げ、斜め十字に切り裂く。凄まじいライトエフェクトが炸裂し、更にスタンを与えた。ボスのHPが3割近く削り取る。元々が片手直剣のため少々違和感はあるが、片手槍に持ち変えたので問題はない。

 

ちなみに銀剣の攻撃力はそこそこだが、パラメータの修正値がバグを疑うレベルで跳ね上がる。あるとないではダメージ量の変動が大きい。

 

ストレアの横に着地し、構え直す。

 

 

「じ、ジン………!?」

 

「話は後!とにかく合わせて切り抜ける!!」

 

「う、うん……!」

 

 

スタンを特有のレジストで解除したと思われるボスが咆哮する。今のでHPバーの1本目を奪い去ったが、まだ3本ある。だが。

 

 

「生えた!?」

 

「………このボス、HPバーが削り切られるごとに

 腕が2本増えるんだ。ジン、ごめん………」

 

「何を謝ってんだよお前は………!

 とにかく力を貸してくれ、貸せ!!」

 

 

新たな二本の黄金の腕を露にした黄金大仏が、それを振るわせ襲いかかってくる。それに少し遠い場所で得物を構え直す血盟騎士団の2人へ叫ぶ。

 

 

「ちっ………アスナ、団長!!

 皆と腕を頼む、俺にHPを削らせてくれ!!」

 

「っ、そっちはお願い!!」「承知した」

 

 

今はやるしかない。守りは2人に任せて、ここは早期決着に持ち込まなければならない。何故か苦い顔をしたストレアに顔を向ける。

 

 

「ストレア、ボスの腕に全力の一撃を

 叩き込んで動きを止めたりできるか?」

 

「出来る……かも。腕に入ったダメージが

 一定量を越えれば、その腕は一瞬だけ止まる」

 

「じゃ頼むわ、俺はその隙に腕よじ登って

 首に連続でソードスキルを叩き込んでやる」

 

「…………危険だと思ったらすぐに下がってね」

 

「分かってるっ、来るぞ!!」

 

 

床を削る轟音のSEを響かせながら拳が迫ってくる。横でストレアが大剣を構え、ソードスキルの光を纏わせる。こちらは精神統一、笑う膝を屈伸で無理矢理に止めさせる。

 

 

「はぁぁぁぁッ!!!」

 

 

呼気と共にストレアがソードスキルを発動。踏み込みから大きく大剣を振り上げ、それに黄金の腕が止まりかけた瞬間。振り下ろしが腕を叩き落とす。確か、イラプションと呼ばれるソードスキルだったか。

 

 

「今だよ!!」

 

「ナイス………!」

 

 

その叩き落とされた腕に飛び乗り、走り出す。腕が動き出した瞬間、右手の槍を突き刺して落ちないように手袋から下がる鎖を巻き付けたうえで強く握り締める。

 

 

「上が、れぇぇぇぇッ!!」

 

 

突き刺した槍で引き裂きながら、腕の上を駆ける。跳躍で喉元に迫るが、まだ何があるか分からない。

 

 

「ジン、上!!」

 

「っ!?」

 

 

腕が振り上げられている。

不味い、このままでは──────

 

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 

その時、背中を駆け上がったのか、アスナが黄金大仏の背後から現れる。ソードスキルが振り下ろしの軌道を逸らし、こちらの真横を豪腕が風を切りながら振り下ろされる。

 

 

「行けぇぇっ!」

 

「らぁぁぁッ!!」

 

 

アスナの声を受けながら、両手の武器を左右に大きく広げる。このソードスキルは地上なら少し溜めが必要になるが、空中ならば踏ん張る必要もない。

 

 

〝エンド・リボルバー〟

 

 

身体がシステムアシストによってひねられ、高速で回転。酔いそうなのはともかく、両手の武器で相手を連続で切り刻むソードスキル。

 

目に見えてボスのHPバーが削れていく。ゲージの3分の1、と言ったところだろうが、やはり決定的ではない。ソードスキル後のスタンにより自由落下に入る。

 

 

「っ、やべ……!」

 

 

視界の隅で、黄金仏像の腕が拳を固めて引き絞られるのが見える。だが。

 

 

「ふんっ!!」

 

「うぉ!?」

 

 

巨大な盾がそれを弾き上げ、連続する剣によって叩き落とされる。その槌でもないのに凄まじく重い一撃に思わず声が漏れる。

 

団長はこちらに目を向け、攻撃を続けろ、との視線を投げ掛けてくる。彼ならばこちらと同じくらいにダメージを与え続けることも可能だろうが、どうやら華を持たせてくれるようだ。その期待にも応えなければ。

 

硬直が解け、着地。それと同時に再び走り出す。そして。

 

 

「は────?」

 

 

俺の、その声。全員が、同じ思考になったのではないか。そう思えるほどに、その光景は異様としか言えなかった。

 

 

 

 

 

 

ボスは……いや、SAOに出現するMob、NPCを含めた全てのAIは通常なら、攻撃するターゲットを決める。それは攻撃によって蓄積する隠し値、ヘイトと呼ばれるものによって決まるのはSAOプレイヤーなら誰もが知っていること。

 

だが、一部のボスは違う。ヘイトは個人に集中せず、攻撃するプレイヤーをAIで切り替え、少しずつ各自の体力を削ってくるハズなのだ。この多腕型のMobのような存在は典型的。多くの腕で各プレイヤーを次々に攻撃していく、と言ったようなものだ。

 

 

 

そのハズだ。

 

 

なら、これは?

 

 

 

 

 

 

 

 

黄金の豪腕の()()が、こちらに狙いを定めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怖気が走るその光景に、戦意が途切れそうになる。

数々の拳に叩き潰されるのが、容易に想像できる。

 

何故?

今まで特攻したことは何度もあった。

だが、このようなことは一度も─────

 

 

「──────が」

 

 

拳が、全身を打つ。

 

 

 

 

 

 

黄金の雨が、降り注いできた。

 

 

 

 

 

 

 



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ボス『The Golden Asura』攻略後半戦


調子に乗った主人公を分からせる回。
お待たせしてしまい申し訳ない。
それもこれもシャミ子が悪いんだよ(責任転嫁)。




 

 

 

 

「っ!」

 

 

ハッとする。考えている場合ではない。早く攻撃範囲から離れなければ─────そうして、走り出したが。間に合う筈もなく。

 

 

「が───ふ」

 

 

一撃。

地面に叩きつけられ、全身を打ち付ける。振動で視界が揺らぐが、HPバーの確認はできた。

 

 

「─────」

 

 

次々と拳が全身を打っていく。フロアボスが使ってくるソードスキルのような設定なのだろう、HPバーの減り自体は少ないが、終わりが見えず、確実に固定ダメージとして換算されているのか、同じ値で何度も減っていく。

 

黄金の雨が、声を上げることすら許さない。

 

HPバーは凄まじい速度で減少していく。

 

 

 

 

残り8割。

カウントダウンが始まる。

 

 

 

 

残り7割。

全身に鈍い痛みが走る。

 

 

 

 

残り6割。

再び鈍い痛み。

 

 

 

 

 

残り5割。

慣れが来る。

 

 

 

 

 

残り4割。

終わりが近付いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで、ゆっくりと心臓へナイフを突き立てられているような感覚だった。

 

 

服を裂いて

 

皮膚を破り

 

筋肉を貫き

 

血を噴かせ

 

 

そして、いつか現実(リアル)の心臓へと到達する。

 

 

 

 

 

(あ、死ぬ)

 

 

 

 

残り─────1割。

 

 

自動回復が、追い付く筈もなく。

 

 

 

 

そして、情けをかけたように、黄金の腕が、大きく振り上げられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを、待っていた。

 

隙が出来る、その時を。

視界に入る、赤き鎧を。

 

 

 

ソードスキルの間にも、必ず隙がある。

それを知る男は其処にいる。

黄金の雨を突き進んでくる深紅の男が言う。

 

 

「貸し1つだ、ジンくん」

 

「あんたに借りとか最悪だ……けど、助かった」

 

 

大きく振り下ろされる拳を、大楯が弾いた。

ヒースクリフは涼しげな表情で、回復結晶を此方へ投げ渡してくる。それを受け取り、ヒールを唱えて体力を回復される。

 

 

「死ぬかと思った……」

 

「フ、これには私も驚きの行動だったが………

 ボスが君だけを狙っている間、皆を回復に

 集中させ、体勢の立て直しを図らせてもらった」

 

 

とぼけてみせるが、彼は皮肉を返してくる。

周囲へ目を向けてみれば、殆どが体力を回復させて

いる。更に扉から後続が続いてくる。全員が血盟

騎士団の連中だ。

 

 

「ボスを追い詰めてからの

 後続まで用意してやがったのかお前………」

 

「一度、下がるといい。私が行くとしよう」

 

「いや……俺も」

「駄目に決まってんだろ」

 

「うぐぇ……クライン?」

 

 

後ろ襟を引っ張られて、バランスを崩す。そして、倒れそうになるのを硬い膝当てが支えた。聞こえた声に振り向き、見えたバンダナに誰かを理解する。

 

 

「悪いな団長さんよぉ。

 こいつは無茶ばっかするタチなんだ」

 

「無茶じゃねぇよ……体力回復したし」

 

「その考えがもう無茶だっつってんだよ。

 肝が冷えたぜぇ、ったく」

 

「いやでも………っ!」

 

 

ボスの大技を弾いた、その硬直が解ける。

黄金の巨影が再び行動を開始し、全員が、それを

見上げた。そして、ヒースクリフが地を削りながら

突き立てた剣を引き上げ、火花を散らしてみせる。

 

 

「そこで、見ていたまえ。

 ────そして識れ。

 君1人だけで、終結すべき世界ではないことを」

 

 

ヒースクリフが走り出す。

俺もそれを追おうとするのだがクラインに掴まれたままなのを思い出し、足を止める。

 

 

「おいっそろそろ離せ!」

 

「はぁ……おめぇイノシシか何かか?

 あいつが見てろって言っただろーがよ」

 

「なんで─────」

 

 

流れるまま、再びヒースクリフへと目を向ける。

 

 

 

 

 

 

そうして、言葉の意味を、やっと理解した。

 

 

 

 

 

ヒースクリフへと標的が移り、黄金の拳が振り下ろされる、が。

 

 

「ふ────ッ!」

 

「な─────」

 

 

その拳を素早く回避しながらヒースクリフは即座に

攻撃体勢へ入り、剣を引き絞る。そしてダァン、と

鉄板を鈍器で叩いたような、重い音が響き渡る。

 

それにボスのHPバーへと目を向けると、なんと1割

近くが削られた。ソードスキルですらない、ただの

一撃によって、だ。更に連続する他の連中の猛攻も

ボスのHPを少しずつ、だが確実に奪い去っていく。

 

 

「なぁ、ジンよ」

 

 

それに目を見開いていると、クラインが言う。

 

 

「お前は確かにオレなんかよりも強ぇよ。

 でもよ、お前1人で全部上手くいくと

 思ってんなら、そりゃ大間違いだ」

 

「いや、別に俺はそんなこと………」

 

「だったら、なんでボス戦の一番最初に

 お前1人で突っ込んで行きやがったんだ?」

 

「あ……………」

 

 

そこで、やっと気がついた。

そうだった。確かにあの時は。

 

 

「消耗する前にボスのHPを削ろうとして………」

 

「んで、助けたのは誰だよ」

 

「………………ストレアに、アスナ、団長……」

 

 

今更、気がついたことに。今まで気がつけなかった

そのことに、恥ずかしくなり、俯いてしまう。

 

思えば、助けられてばかりだ。

 

俺は自分の都合しか考えていなくて、自分だけで、

勝手な行動ばかり起こしていた。その度に、誰かに

助けられていた。

無意識のうちに『あとは誰かやってくれるだろう』

─────そう思いあがっていた。

 

あの拳の雨に打たれた時も、ヒースクリフが助けて

くれる筈だと最後は信じてしまっていた。

 

 

「やっぱ、気付いてなかったか」

 

「あぁそうだ………気づかなかった……!!

 クソ、馬鹿かよ、いや馬鹿だ俺は………!

 はた迷惑なクソ野郎じゃねぇかよ…………

 周り巻き込んでばかりの本当に猪じゃねぇか!」

 

「ま、今の状況もお前があいつの攻撃の標的に

 なった時間あってこそ、なんだけどな………

 お前、少しは周りを見た方がいいぜ?」

 

 

クラインが指差す方向へ視線を向けると、アスナやストレアたちが猛攻を仕掛けている。目に見えて削られるHPバーは、最初に俺が1人で特効した時より減りが早い。それは当然のことだ。

 

 

「恥っず………俺、思った以上にしょうもねぇな」

 

「…………………さて、終わるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ストレアが、高く高く、飛び上がる。

 

 

「はぁ──────ッ!!!」

 

 

振り上げられた大剣が深紅の光を纏い、虹のような軌跡を引きながら、黄金の身体を両断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の硬直。

 

ボスの両断された身体に、更に亀裂が走る。

 

 

そして硝子の割れる音が、その広い空間に響いた。

 

 

 

 

 

上がる喝采と歓声。

蚊帳の外で、溜め息をついてクラインを見上げる。

腹から、本音を絞り出した。

 

 

 

 

 

「俺、足手纏いだったな」

 

 

 

 

それにクラインはやれやれ、と肩をすくめて笑う。

 

 

 

 

「そういうことも経験だ、若者よ」

 

 

 

 

そのおちゃらけた返しに、もう笑うしかなかった。

 

 

 



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祝勝会


続編に関してですが、一部の設定を変更します。
ヒロインたちの関係をもっと緩くする、等ですね。
(主に序盤で何も考えずに色々やったせいで)
色々と物語がややこしくなりますから緩めます。
主人公はそのまま続投させますので、ご安心を。

他の設定変更は大したものではないですが………
主人公が起こした改変についてなど、
物語が完結すれば全て書き起こしますので
続編が楽しみな方々、もう少し待って頂きたい。


来年から忙しくなるので急がねば………
じゃないと本気で終わるか分からんのです。




 

 

 

「それでは、アインクラッド50層勝利を祝して」

 

 

コップを掲げる。

テーブルを囲むのはストレア、風林火山。

 

 

「乾杯!」

 

 

歓声が上がる。開会の一言を言い終え、ストレアとクラインの間の、サチの向かい側に座る。旨そうな食べ物に目を輝かせるストレアに苦笑いしているとクラインが話しかけてくる。

 

 

「お疲れさん、お前も随分と

 リーダー感が出てきたんじゃねぇか?」

 

「柄じゃねぇんだよなぁ……やっぱり。

 つーかストレアがやった方が良いんじゃね?

 お前だったろ、ボスにとどめ刺したの」

 

「わはひ?」

 

「あぁごめん、飲み込んでから話そう……」

 

「んん? んっく」

 

 

ガツガツと頬一杯に食べ物を運んでいくストレアに少し引きながら言うと、彼女は咀嚼を繰り返して、食べ物を飲み込んで首を傾げる。

 

 

「なになに? 何の話してるのー?」

 

「ストレアさんがボスにとどめを刺した話だよ。

 凄く強いんだもん。私もびっくりしちゃった」

 

「あぁ、あれ? ガンガン攻撃して

 HP減らしてくれた皆のお陰だよー。

 サチも影から凄いダメージ出してて驚いたよー」

 

 

女子2人で話し始め、それを横目で見て串焼きを手に

取る。するとクラインが小さく手招きしているのに

気付き、串焼きを齧りながらその耳打ちを聞く。

 

 

「………………なぁジンよぉ、

 お前、どっからそんな女の子連れてくんだよ?

 SAO中の女でも集めてんのかお前?」

 

「んなワケねぇだろ………自然に集まってんだ。

 ストレアも高レベルプレイヤーだし、

 最前線に出てくるのもおかしくないだろ?」

 

「俺らとタメ張ってるような奴らは古参ばっかだ、

 あの娘は見たことも聞いたこともねぇぞ、オレ」

 

「まぁそりゃそうだろな…………」

 

「んあ?」

 

 

ストレアはプレイヤーではないし、そもそもSAOのシステム、カーディナルの一部だ。思わず口に出てしまったが、クラインは気付いてないようだ。

そもそも、本当になんで来たんだろうか。

嫌な予感しかしないんですが。

 

 

「………しかし」

 

「ん?」

 

 

突然に驚くほど真面目な声音になったクラインに、思わず顔を上げる。クラインの視線は、真っ直ぐにストレアに向けられており─────

 

 

 

「ありゃあ─────でけぇな」

 

 

 

「…………………………いや、まぁ、うん、確かに」

 

 

目を伏せる。

戦闘中なんかは集中していて気付かないが、普段は凄い揺れるし………もうなんか露出凄いし………

 

 

「分かるよ」

 

「だよな…………でもなんか

 手ぇ出すのはヤベェ気がすんだよなぁ。

 言動が子供っぽいからか………?」

 

「…………………………」

 

 

男の直感というやつだろうか。

確かに彼女に手を出すのは色々と不味い気もする。システム的にストレアと『そういうこと』するのははたしてOKなのだろうか…………ではなく、手を出すのはいかんだろうが。冷静になるんだ。

 

自分を抑えつつ、椅子に座り直して息をつく。

 

 

「煩悩退散」

 

「あら、どんな煩悩なのかしら?」

 

「えっ」

 

 

聞こえた声に振り向こうとして────

後頭部を鷲掴みにされ、動けないことに気付く。

 

 

「あっえっ、ちょっ、えっ?」

 

 

いや、そんな筈はない。

彼女は血盟騎士団の団長に諭されて、渋々ギルドの祝勝会に行った筈だ。ここにはいない、呟く程度は発言しても許されると思って痛い痛い痛いこの鈍い痛みの感じあんまり好きじゃないっていうか

 

 

「あ、あの、ちょっと痛いっていうか、

 筋力補正でも頭は握り潰せないから、ね?

 きっと空耳だから、話し合う余地くらいは……」

 

「煩悩退散、確かにそう聞こえたわよ?

 視線はどこを向いてたかしら?」

 

「私の胸見てたよね」

 

「気付いてたのかよ痛い痛い痛い痛い」

 

「女の子は気付くのよ、視線が露骨だから」

 

「ジン………」

 

 

いきなりのストレアのカミングアウトにサチからの視線が苦々しいものに変わっている。視線だけでも動かすが、どうしても後ろは見えない。

食事を口に運びながら疑問符を浮かべるストレア、感情の消えた目でこちらを凝視してきているサチ、引きつった笑みのクラインと、ざわめく風林火山。

 

 

「何か言い残すことは?」

 

「……………仕方ないことなんだ、男だもの」

 

「最低」

 

「おぐり」

 

 

そのままスープの皿に頭を突っ込まれる。

コンソメみたいな味で美味しい。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「抜け出してきたわ」

 

「凄いなお前………副団長じゃないの?」

 

「好きでやってるワケじゃないわよ。

 実力主義な連中が多いから仕方なくやってるの」

 

「いっそ抜けりゃ良いんじゃないの?」

 

 

ストレアが首を傾げるが、それが出来ないことは、俺たちも重々承知している。アスナは苦い顔で溜め息をつくと、サチの隣に椅子を引いてきて座る。

 

 

「今更、なのよね。

 申請が通るとも思えないし、抜けれたとして

 ギルドの連中に付き纏われるのがオチよ」

 

「そっかぁ、大変だね」

 

「ストレアはギルドには入ってないの?」

 

「私もギルドには入ってないよ。

 アインクラッドでは人が多い方が安全だけどね」

 

「そうなのよね………

 あぁ、本題を忘れる所だったわ。ジン」

 

「はい?」

 

 

突然こちらを向いたアスナの声音に、思わず敬語で返してしまう。なんか怒気混じってない?

 

 

「……あの時、ボス戦でのスキルだけど」

 

「あぁ、二刀流か」

 

「それよ。ギルドでも初めて聞くスキル………

 おそらく、団長と同じ〝ユニークスキル〟だと

 血盟騎士団を含めた各ギルドは睨んでるわ」

 

 

周囲がざわめく。

ここで今まで沈黙していたクラインが口を開く。

 

 

「二刀流、ねぇ……聞いていいのか迷ったけどよ。

 この際だ。ジン、入手方は分かるか?」

 

「知らね。気づいた時にはスキル欄にあったし」

 

「ていうか片手、槍持ってたわよね。

 二刀流って片手直剣用のスキルじゃないの?」

 

「別に槍二本でも出来たぞ」

 

「そりゃバグじゃねぇのか?」

 

「さぁ? ソードスキルだけど

 流石に槍二本は大抵のソードスキル不可だった。

 片手なら一部のソードスキルは撃てたけど」

 

「でも、もしジンが片手直剣を使ってたら

 恐ろしく強力なスキルだっただろうね。

 二刀流、防御を捨てた火力特化スキルだろうし」

 

 

サチの言葉に、俺を除いた全員が息をのむ。

確かにそうなのだが……どうにも両手に剣を持つのは違う気がする。ただでさえ猪の俺だし、ある程度の射程がある武器でないとすぐに死ぬだろう。

 

 

「でも要望があるなら剣に持ち変えようか?」

 

「駄目よ」「駄目だな」「駄目だよ」

 

「……………理由を聞いても?」

 

「ただでさえ紙耐久なんだから

 それ以上防御を薄くされたら困るわ」

 

「右に同じだ」

 

「私もアスナさんと同じ意見」

 

「そんな簡単に俺が死ぬワケねぇだろ」

 

「出たわね慢心・驕り・自己中心。

 一回死んだ癖によくそんなこと言えるものね」

 

「うぐ………」

 

「こればっかりはアスナの言う通りじゃない?

 宝の持ち腐れだけど、極力使わない方がいいよ。

 まだスキルの熟練度も上がりきってないでしょ」

 

 

ストレアにとどめを刺される。

確かにそうだけどさぁ………ロマンと火力は凄いし。

 

 

「でもさ、槍と剣のソードスキルを

 片手ずつで使えるんだから強いだろ?」

 

「ソードスキル後の硬直時間あるだろ」

 

「防御とカウンタースキルもちゃんとあるし」

 

「敵の連発ソードスキルに耐えきれるの?」

 

「ここぞ、という時の敵HPバー削り」

 

「50層ボスでは反撃されてたわね」

 

 

 

 

「………………無慈悲すぎる……あまりにも……」

 

 

「はい論破」

 

 

こうして、完全に撃沈された挙げ句、二刀流という

ソードスキルは封印されることになったのだった。

 

 



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悪徳商法

シリカさん登場回。
原作とはキャラが違いますが、どうぞお許しを。
ついでに今回はネタが濃いです。




 

 

 

「…………これは、不味いな。うん。

 かなり不味い状況だな、これは………」

 

 

35層北部にあるサブダンジョン『迷いの森』。

馬鹿みたいに広いこの森は数百のエリアに分かれ、更に1つのエリアに入って1分が経過すると他エリアとの繋がりがランダムに入れ替わる。

 

地図でエリアを確認しながら行動するか、1分以内にエリアを突っ切ることでも森の移動は容易になる。

 

 

だが面倒な仕様もあり、攻略組は殆ど興味を持たずさっさとボスに挑み、次層への道を切り開いた。

宝箱(トレジャーボックス)もまだ残っているようで、その限定素材を集めに、あと人を探しにこの森にやって来ていた。

 

………という理由では、あるのだが。

この森には丁度、ある少女が迷いこんでいる。

それを助けるという裏の目的もある。

 

あるのだが。

 

 

「やっちまったぜ」

 

 

エリアの変わり目で、突如として襲いかかってきたゴリラの棍棒が地図を粉砕。一気に耐久値がゼロになってしまい…………つまり、迷った。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「こりゃあ……間に合うか!?

 いいや、間に合わせる………!」

 

 

3時間ほど森をさ迷い、遂には日が暮れてしまった。確か彼女がモンスターに襲われるのは夜の筈だ。

ダッシュで見飽きた森を走り回り、憎きゴリラ共を見敵必殺しながら少女を探す。

 

急がねば死ぬかもしれない。

 

別の誰かが助ける可能性もあるが、それはあくまで可能性の話だ。この夜の森を好んで行動する馬鹿なプレイヤーはそれこそレッドの連中やMobくらい。

生き残ったとしても、夜の森は危険すぎる。

 

 

「────!」

 

 

硝子の割れるような聞き慣れたSE。

誰かが戦っている────原作では、ギリギリまで彼女はMobに反撃していた筈だ。もしかしたら。

背中の()の柄に手をやり、鞘から引き抜く。

 

 

「■■■………」

 

「っ!」

 

 

茂みの奥。件の棍棒ゴリラ2匹と、無謀にも、短剣を構えてゴリラへと飛びかかろうとする少女がいた。ギリギリセーフだ。体勢を低く取り、剣を構える。

 

 

〝ソニック・リープ〟

 

 

緑の光が剣を包み、飛び込むように走り出す。

突進技は使い慣れているが、流石に剣では違和感が凄い。ゴリラの腹を袈裟に引き裂く一閃、HPバーが消し飛び、僅かな硬直時間。

 

右足を軸に身体をひねり、剣を振り上げて二匹目のゴリラを斬り上げる。凄まじい勢いで敵のHPバーが減少していくが、ギリギリ倒しきれていないようでゴリラは振り向き様に棍棒を薙ぎ払おうとする。

 

地を蹴って軽く跳び、薙ぎ払われる棍棒を回避。

正直言って避ける必要もないが、動きを身体に染み込ませるために、回避と攻撃は本気でやっている。

 

 

「ふ───っ!」

 

 

息を吐きながら剣を振り下ろし、腕を根元から斬り落とす。そして完全にとどめを刺すために、首へと剣を振り抜く。ズバァン、と気持ちの良い音が響き衝撃がゴリラの首を貫いて、刎ね上がった。

 

 

「ふ、ぅ」

 

 

着地して息をつき、剣を払う。

索敵スキルで周囲を何度か確認するが反応はない。そして視線を少女へと向ける。少女は怯えた様子で後退り、その近くには青い羽根のアイテムがある。

 

 

「間に合わなかった………か」

 

 

そのHPバーはレッドゾーンに達してしまっている。と、そこで彼女の回復アイテムが尽きていたことを思い出し、腰のホルダーから回復結晶を取り出し、彼女に差し出す。

彼女は驚いたように目を丸くして視線を俺と結晶へ交互に動かして、恐る恐る、といった様子で結晶を手に取り、俯いて震える声で、ヒール、と呟いた。

 

 

「……う、っく………ピナぁ………っ」

 

 

羽根を優しく両手で包み、彼女はポロポロと大粒の涙を流す。原作でもそうだったとはいえ、痛ましく見ていられない。俺も、間に合わなかった罪悪感に襲われる。

 

 

「私を……1人に、しないで…………」

 

 

ただ、そこで待つ。小さな嗚咽が止まるまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「ありがとうございました…………

 助けてもらったうえに、回復結晶まで貰って……」

 

 

頭を下げる暗い顔の彼女に、首を横に振る。

 

 

「構わない。お前だけでも間に合って良かった」

 

「………………ピナ……」

 

 

心が痛い。ゴリラに気をつけてさえいれば………

ゴリラで1レベル上がるまで狩り尽くしてやろうか。そんなゴリラへの怨念は一先ず置いておき、彼女が手にしている青い羽根のアイテムを指差す。

 

 

「それ……アイテム名はあるか?」

 

「……………、…………っ!」

 

「ちょっ、待て待て泣くな!

 心アイテムがあるなら蘇生の可能性がある!」

 

 

彼女は戸惑いながらも片手で羽根をクリックする。そして現れたウィンドウに目を通して、息を呑む。更に、再びその赤い瞳から溢れそうになる涙を見て俺はギョッとして言う。それに、彼女はバッと顔を上げて立ち上がり、すがるようにこちらのコートを掴んでくる。

 

 

「そっ、それって本当ですか!!?」

 

「マジだ。47層にある〝思い出の丘〟って

 フィールドダンジョンがあって、そこの

 頂上に咲く花が使い魔を蘇生できるって話だ」

 

「よっ、47層!?

 無理じゃないですかそんなの!!」

 

「逆ギレされても困るわ。

 だから可能性だって言っただろーがよ」

 

「………っ、な、ならレベルを上げて……!!」

 

「心は3日で形見に変化して蘇生不可だ」

 

「っ…………!!」

 

 

彼女は顔を赤くして、怒りに肩を震わせる。

その怒りは自分に向けているのだろうが………元より助けるつもりだったし手伝ってやらんこともない。

………なんかちょっと生意気だけど。

 

メニューを開き、アイテム欄の肥やしだった装備を幾つか見繕う。そしてトレードメニューを開いて、現れた空欄をクリックする。すると、彼女の眼前にウィンドウが現れる。続けてアイテム欄を開いて、アイテムをクリックしていく。

 

 

「………なんですか、これ」

 

「装備だ」

 

「見たら分かります」

 

「俺のアイテム欄の肥やしだ」

 

「知りませんし」

 

「勿体なくて売れなかったアイテムだ」

 

「いやだから知りませんし」

 

「お節介な通りすがりからの餞別だ」

 

「……………………」

 

「装備すりゃ47層の連中の攻撃にも多少耐える。

 ダガーは3~4発は撃ち込めば倒せるだろうよ」

 

「………………………幾らですか」

 

 

「こちらセットで無料となっております。

 更に今なら…………………なんと追加で、

 通りすがりの俺がサポートいたします!」

 

「別の人に頼むので追加は要りません」

 

「要れよ」

 

「要れってなんですか、要れって」

 

「おんやぁ? いらないのか?

 タダだぞ。追加は絶対についてくるがな」

 

「……………………………………」

 

 

彼女は深く悩み込むような顔をして、こちらの顔と表示されているウィンドウを睨みつける。

いやなんで俺の顔まで睨むんだよ。

 

そして、ウィンドウへと震える指を伸ばし───

 

 

 

「よし、腹減ったし主街区に帰るぞ」

 

「………………やっちゃったよ………」

 

 

 

彼女は承諾の証である○を、クリックした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あと帰り道には迷った。ゴリラは見敵必殺した。

 

 

 

「ゴリラ殺すべし。慈悲はない」

 

 

 



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詐欺師ではない


寝る前に連投です。




 

 

 

「はー………やっと帰ってこれたか」

 

「………なんで私こんな人といるんだろう」

 

 

なんとか迷いの森を抜け出し、転移結晶にて35層の主街区、農村のような佇まいのミーシェという町に俺は少女を連れて転移してきていた。森では出会い頭にゴリラを一撃必殺していたからか、彼女は苦い顔をして溜め息をついている。

 

 

「気にしたら終わりだぞ。

 さて……やっと安全な所まで来れたな。

 自己紹介でもしておくか」

 

「…………シリカです」

 

「ジンだ。よろしく頼む」

 

「………?

 どこかで聞いたことあるような……?」

 

「気のせいだろ」

 

「まぁ、そうかもしれませんね」

 

 

すぐに思考放棄したシリカに微妙な気持ちになる。考える気ねぇだろ。まぁ身バレしないだけマシだと軽く息をつき、足を進める。

 

 

「さて………まぁ、腹減ったし飯にするか」

 

「えっ、私も行かないといけないんですか」

 

「明日の話もしなきゃいかんしな。

 あのダンジョンの難易度はそこそこ高い。

 確か使い魔の名前は…………ピナ、だったか?

 お前も友達を早く救ってやりたいだろ」

 

「…………………はい」

 

「っし、オススメの店とかある?

 旨いもん食いたいんだけど」

 

「……………いい話してたのに………」

 

「うるへ。腹が減っては戦は出来ぬ、だ。

 ダンジョン攻略は戦みたいなもんだからな」

 

「じゃあそのまま宿に行きましょうか。

 あそこのチーズケーキが美味しいんです」

 

「チーズケーキか、そりゃ楽しみだ。

 宿もとれて一石二鳥だな」

 

「えっ、宿にも泊まるんですか」

 

「ホームなんざねぇし、別に良いだろ」

 

 

そうして歩きだすと、シリカはちょこちょこと隣に並んで歩く。………なんか犬みたいだな。

しばらく歩いていると、周りの視線が妙にこちらに向けられていることに気がつく。予想以上に彼女はこの辺では認知度が高いようだ。まぁ前線は前線でコル!レベリング!攻略!で頭が一杯の連中だからだろうが…………流石にこれでは気が散る。

 

 

「あっ、シリカちゃん!」

 

 

そんな声の方へと目を向けると、2人のプレイヤーがこちらに駆け寄ってくる。パーティーの様だが………と、そういや原作にもこんなシーンがあったことを思い出す。追い払おうと思ったが、一応沈黙する。

 

 

「随分遅かったね、心配したよ」

 

「1人ってことはフリーになったの?

 俺らとパーティー組まない?」

 

「あ………えっと、お話はありがたいんですけど、

 今はこの人とパーティーを組むことになってて」

 

 

俺のコートの裾を引いてシリカが言う。

すると2人の男はこちらを睨みつけてくる。……………折角だし煽ってみようか。

 

 

「………女に強要する男は嫌われるぞ?」

 

「あぁ? お前……見ない顔のくせに

 勝手に抜け駆けしといて何様のつもりだ?

 俺らは前からシリカちゃんに声をかけてたんだ」

 

「ふーん」

 

「こいつ………!」

 

「あ、あの! 私が頼んだんです、すみませんっ」

 

「シリカちゃん、そんな男と組むべきじゃないよ」

 

「ごめんなさいっ、また今度!」

 

「おっととと」

 

 

走り出すシリカに無理矢理腕を引かれて行く。

 

 

「何してんですか!?」

 

「いや、折角だから煽ってみようかな、と」

 

「何が折角だから、ですか!?

 ていうか、ジンさんも思い出の丘に

 ついて行くの私に強要させましたよね!?」

 

「記憶にございませんねぇ」

 

「なんで私こんな人といるんだろう!?」

 

「よいではないか、よいではないかー」

 

「良くないっ!」

 

 

随分と元気になったシリカに引きずられ、宿屋へ。彼女が気持ちを立て直せたようで良かった。

 

…………そうして、宿屋に引き込まれる前に。

 

 

「ふぅん………」

 

「…………………」

 

 

宿屋の近くにいた赤い髪の女の、値踏みするような目がこちらを見ていた。唇を舐める女と目が合い、そして、宿屋の扉がそれを遮った。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「んで、お前はここで何してんだよ」

 

 

宿屋の一階、シリカに解放されて、やっとの食事にありつこうとしていた時に、視界の隅っこに見えたフードに気付き、俺は立ち上がって話しかけた。

 

 

「やっぱり気付いたカ。

 まぁバレるなとは言われちゃいないけど、ナ」

 

「知り合い、ですか?」

 

「あぁ、そうだ。

 改めて、こんなとこで何してる」

 

「それを聞くなら1000コル、ってとこだナ?」

 

 

人差し指と親指で作る、金のジェスチャー。

俺は仕方なく表示されたウィンドウの承諾ボタンをクリックし、情報を買うことにする。

 

 

「ニャハハ、毎度アリ」

 

「いつもご苦労なこって、()()()さん?」

 

 

鼠のアルゴはニッと笑い、向かいの席を指差した。

 

 

 

 

 

 

俺は向かいに、シリカはアルゴの隣に座る。

まぁそりゃそうなるよね。男と女2人だし。

 

 

「えっと……アルゴさん?」

 

「情報屋のアルゴだ、これからよろしくナ。

 竜使い、シリカちゃん?」

 

「なんだ、知ってるのか?」

 

「オレっちは情報屋だゼ?

 それにこの娘は、中層じゃかなり有名ダ。

 なんとあのフェザーリドラをテイムした、

 ビーストテイマーなのサ」

 

「ほーん………あっ」

 

「500コル、ナ?」

 

「…………………いや払うけどさ、今の卑怯だろ」

 

「隙を見せるのが悪いんだヨ」

 

 

目の前に現れたウィンドウを承諾して消す。

俺より悪徳な気がするが、これもおふざけの一環。そこまで高くもないし、コルは余るほどある。

 

 

「あの、アルゴさん、私も情報って買えますか?」

 

「いいゼ、最初だから特別に安くしとくヨ」

 

「この人の安全性とか………」

 

「おい」

 

「ニャハハハッ、そんなことならタダでいいゾ!

 こいつは絶対に期待を裏切らない、

 情報屋、鼠のアルゴが保証してやるヨ!」

 

「アルゴ………」

 

「ヘタレだから手を出されることもないしナ!」

 

「おい」

 

「良かった……詐欺師みたいだったから」

 

「誰が詐欺師じゃオラ」

 

 

 

 



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夜の間に


いかんのー、これ書いてると
新しいSAO二次が頭に浮かんでしまうのです。
構想だけが脳内でぐるぐるしている。
終わるかな………終わりそうにねぇなぁ………
でもやりてぇなぁ…………悩み所さん!?

他の小説完結も見えてきませんねぇ!
これも終わるまで予定はあるけど長すぎるっピ!




 

 

 

晩飯を終え、俺はシリカに早めに休んでおくように言い、無理矢理にアルゴを外へと連れ出していた。

 

「ん、どうしたんダ?

 オネーサンと夜のデートでもしたいのカ?」

 

「それはまたの機会で。

 ちっとばかし話しておきたいことがある」

 

周囲を見回す。

確か、シリカの部屋で話をすれば、聞き耳スキルを持った奴に盗み聞きされてしまう。だが、無理して隠そうとしても標的に逃げられてしまうだろう。

取り敢えず、それよりも。

 

「なんでここにいる。金は払ったぞ」

 

「それはお前も分かってるダロ?

 お前が下層に降りる理由は大切な何かがあるって

 そろそろあいつらも気付いてきてるってことダ」

 

「………俺の監視、か。

 あーしまったな………目立ち過ぎか、俺?」

 

「そりゃ、あれのせいだろうナ」

 

それを問いただそうとした時、違和感に気がつく。どこからか……何か、遮蔽物に隠れてこちらの様子を伺われているような、粘り気のある感覚。

PoHと戦った時から分かるようになった感覚だが……それはマップや索敵よりも正確に思えてきている。

 

「………アルゴ」

 

「(分かってるヨ)」

 

「(あぁ、話題変えるぞ)」

 

アルゴがこちらへ近寄り、耳打ちする。盗聴野郎のお出ましのようだ。俺も頷き、言ってから離れる。ちなみに彼女に盗聴の危険があるのは伝達済みだ。

 

「やっぱり、レッドギルドの数はまだ多いか」

 

「あぁ、お前も気をつけろヨ。

 ここ最近は物騒な噂も多いしナ」

 

「俺も久しぶりにパーティーを組むしなぁ……

 特に大人数に襲われたら不味いかもだし、

 明日が終わればそろそろギルド加入も考えるか」

 

「それをオススメするヨ。

 オレっちも情報を集めておくから頑張れよナ」

 

「あぁ、ありがとな。

 ………ギルドといえば、件のレッドギルドがな」

 

話の流れで、そのギルドの話題を切り出す。本気で話しているつもりだ。アルゴも苦い顔で頷く。

 

「酷いもんだよナ、ギルドの

 リーダー以外は全滅したって話だったカ」

 

「あぁ、見てきたが自殺しかねん勢いだった。

 生き地獄だろう………ゲームとはいえ、

 何故そう簡単に人を殺せるんだろうな………」

 

本当に理解の範疇を越えている。

実際に、連中はそういった性格であるのだろうが。そしてゲームという、この世界の元々の在り方が、それを加速させているのだろう。

それにアルゴは大きな溜め息をつく。

 

「オレっちには理解できないし、したくもないナ。

 …………そろそろ寝るカ。明日もあるダロ?」

 

「あぁ、起きてれば、あいつの部屋で

 明日の打ち合わせもしときたいしな」

 

「手は出すなヨ」

 

「分かってるっつの………じゃ、そろそろ」

 

「あぁ、ゆっくり休めヨ」

 

「お前もな。良い夢を」

 

彼女に背を向けてその場を後にする。

アルゴは1人ではあるが、彼女も中々の手練れだし、それに連中も圏内で誰かを襲うことはないだろう。

 

圏内、という脳裏に浮かんだ単語。

宿に入り、歩きながらそれを脳内で復唱する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………圏内殺人、それもいつか起こるのだろうか。

 

 

主犯(やつ)は、殺した。

 

だが、どうにも嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

 

それを振り払うように、首を振る。

 

きっと、大丈夫だ。

 

 

きっと。

 

 

 

 

この予感も、この感覚も。

 

きっと、気のせいだ。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「おーい、まだ起きてるかー?」

 

ノックして、扉の先にいるだろうシリカへと聞く。

 

『はっ、はい! ジンさん!?』

 

「攻略の打ち合わせをしようと思ってんだけど、

 あー…………今夜じゃない方がいいか?

 眠いなら別に明日でもいいんだけど」

 

『だ、大丈夫です!

 丁度、私も聞きたいと思ってて』

 

妙にうわずった声が聞こえ、軽い足取りがこちらへ近付き、扉がすぐに開かれて─────

 

 

「えっ」

 

 

思わず、困惑に低い声が口から漏れる。

それに彼女は気付いていない様子で、首を傾げた。

 

 

「え? ど、どうかしましたか?」

 

「なんだ………その………」

 

「え、えっ?」

 

「部屋に回れ右しろ話は明日だじゃあな!!」

 

 

取り敢えず謝るが、彼女は今だ気付かない。これは不味いと咄嗟に思い付くまま言葉を並べてそこから自室へ戻ろうと廊下を走り出す。そして、最後に。

 

 

「服は着ろ!!」

 

「えっ────」

 

 

下着姿のシリカの叫びを背中で聞きながら、部屋に逃げ込むように飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、一時間ほど。

夜中、11時を過ぎる頃に自室の扉がノックされる。俺はというと、脳裏に染み付いてしまった下着姿のせいで眠れるような気がせず、悶々とアイテム欄に目を通して心頭滅却しようとしていた。

 

『あの……ジンさん』

 

やはり聞こえてきたのはシリカの声。大きく深呼吸してから声を返す。あまり意識するのもよくない。

 

「なんだ?」

 

よし、ちゃんとした声が出ている。

そう内心で頷き、彼女の声が返ってくるのを待つ。ボソボソと小さな声は聞こえてくるのだが………

 

『えっ、えっと………その、あ!

 明日のお話を、聞かせてもらえませんか!?』

 

「ん、そうか、そうするか」

 

脳を切り替える。そうだ、攻略の話をすれば、気も紛れるだろう。煩悩退散、いかんぞ相手は確か13。

俺はロリコンじゃない。自己暗示をかけながら扉へ向かい、鍵を外して扉を開く。そこにはしっかりと服を着ている、若干顔の赤いシリカがいた。

 

「………えっと」

 

「まぁ、うん。いらっしゃい」

 

「は、はい、お邪魔します………」

 

 

 

 

 

 

 

 

テーブルの位置をずらして、椅子を向かいに置く。彼女は顔を赤くしたまま俯いている。当然と言えば当然だろう、そういう年頃だし。椅子を指差して、重たい口を開く。

 

「まぁ、座ってくれよ」

 

「はっ、はい!」

 

「リラックスしていいからな………?」

 

「…………………」

 

彼女は椅子に座ると、言われた通り大きく深呼吸をする。その様子に少しだけ笑い、アイテム欄を開き2つのカップアイテムをタップしてオブジェクト化、そしてルビー・イコールというアイテムをタップ、そのカップに注ぐ。湯気の立つ赤い飲み物だ。

 

レアアイテムだが、どうせ使うことはないだろう。この世界が終わるとしてもデータとして残り続け、そしていつか、崩れ落ちてしまうのだ。

ならば使ってしまうのが、これも嬉しいだろう。

 

「ま、飲んでくれよ」

 

「ありがとうございます………」

 

彼女はカップを手に取り、ゆっくりとそれを飲む。すると少しばかり目を丸くして、落ち着いたように肩から力を抜いた。

 

「おいしい………」

 

「だろ?」

 

カップ一杯分を飲むと敏捷が1だけ増加するのだが、それは黙っておくことにする。未だ思い詰めているだろう彼女の肩から力を抜くことができるのなら、それがいいのだし。

 

「あの……これは?」

 

「ちょっとした嗜好品的なアイテムだよ。

 どっちにせよ、俺はあんまり飲む機会ねぇしな。

 残りものだが……喜んでくれたなら嬉しいな」

 

「………………ごめんなさい、気を遣ってもらって」

 

「下着見られて恥ずかしかったことか?」

 

「ちっ、違いますよ!!

 ていうか忘れてくださいっ!!」

 

顔を真っ赤にしてテーブルを叩き立ち上がる彼女に乾いた笑みを返す。忘れようにも忘れられなくて、寧ろこちらも困っているところだが。

 

「は、冗談だよ。

 さて……明日の攻略の話だったよな?」

 

「は、はい………もうっ」

 

「思い出の丘………あぁ、そういえば」

 

「?」

 

座り直して首を傾げるシリカを横目に、メニューのアイテム欄からそれをオブジェクト化させる。

小箱のようなものの中に小さな水晶球が納められたそれは、ミラージュ・スフィアというアイテムだ。

 

「お楽しみだ、びっくりするぞ」

 

「えっ?」

 

その水晶球の部分をタップし、現れたメニュー窓を

操作する。そして最後に『OK』のボタンに触れる。

瞬間────水晶球が光を放ち、そのアイテム上に

巨大なホログラムが現れる。

 

それは、47層を形作っていた。

 

 

「うわぁ………!」

 

「ミラージュ・スフィアってアイテムだ」

 

「凄い………綺麗……」

 

 

それに目を輝かせている彼女を他所に、あの感覚が現れる。その感覚は、獲物を狙う隠しきれぬ欲望を思わせるものだと、その時に理解した。

 

「………」

 

「ジンさん?」

 

 

メニューを開いて全速力でスキルセットをタップ、〝忍び足〟スニーキングのスキルを装着してから、彼女を置いて立ち上がり、扉を開ける。

 

 

「趣味が悪いな?」

 

「─────!」

 

 

視界の端で動いた影は慌てたように動き、階下へと逃げて行く。それを追うことはせずに、息をつく。シリカがこちらに駆け寄ってきた。

 

「え、どうしたんですか?」

 

「男女の密談を盗聴しようとする変態じゃね?」

 

「もっと言い方ありますよね!?

 なんか………いかがわしいですよ!?」

 

「そりゃ男の部屋に女の子がいるわけだし………」

 

「うっ………間違って……ないですけど………」

 

「安心しろ。追い払ったしな」

 

「あ、ありがとうございます………?」

 

 

扉を閉め、シリカに再び椅子に座るように促す。

 

 

「さて、攻略の話に戻るか」

 

 

 

 

明日の攻略の話を再開し、それが終わる頃……………

 

 

 

 

「ここまで来てやっと………って、おん?」

 

 

 

 

 

 

うつらうつらと船を漕いで、眠りに落ちている。

そんな彼女に、笑みがこぼれる。

 

 

 

「寝ちまった、か」

 

 

 

彼女に肩を貸し、ベッドに寝かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生憎、床で寝ようと立って寝ようと筋肉痛はない。

 

 

「良い夢を」

 

 

呟いて、明かりを消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女らが、夢の中だけでも幸せが見られるように。

 

そう願いを込めて、瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 



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丘を進んで剣を振るう



新年もう明けましたおめでとうございます。

コロナや通信制限のせいじゃなくて……
俺が悪いんだよ
読者が続きを読めないのは俺のせいだ
もう……嫌なんだ、自分が……
俺を……殺してくれ……もう、消えたい………


結末まで構想ついてるけどモチベがキツい。
面白そうな場面とか設定が思い付くのが……
本当に俺が悪いんだよなぁ(銃フェラ)





 

 

 

「いやぁぁぁ無理無理無理無理ぃぃいぃぃっ!!」

 

 

そんな絶叫が、美しい花畑に響き渡る。

突如として現れたMobから伸びる蔓がシリカの足に絡みつき、彼女をその大口へと放り込もうとする。逆さ吊りの状態でミニスカートを必死に押さえて、シリカは手にした短剣を滅茶苦茶に振り回す。

 

花畑から土を盛り上げて登場したそいつは、言葉にするならば『歩く花』と言った所か。伸ばした蔓がヒュンヒュンと風を切り、捕らえた餌を食らわんと開かれた大口には鋭い牙が生え揃い、妙にリアルな太舌がとてもグロい。もしもあんなのに捕まったら俺でも絶叫すると思う。

 

『そういやこんな場面あったなー』と顎に手を当てながら、スカートの中身を見ないよう目を逸らす。今更な気もするがとにかくだ。彼女が食われる前に大きな声で助言する。

 

 

「そいつ見た目より弱いから落ち着け!

 蔓切って花の下にある白い部分を狙えば───」

 

「無理ぃぃいぃぃっっっ!!」

 

「はよせんと食われるぞ」

 

「それも嫌ぁぁぁあぁっ!!」

 

 

涙目になりながら、彼女はそう言ってスカートから手を離し、素早く蔓を切り裂いて拘束から逃れる。そして態勢を立て直すと、俺の言った弱点を射程に入れ、大きく短剣を持つ手を引き絞る。

 

 

「っ、この………ッ!!」

 

 

羞恥か怒りか、そんな言葉が続かぬうちに、深紅を纏ったソードスキルが食人花の弱点へと放たれる。重単発型だろうか、その一撃は見事に食人花Mobの首(茎?)を刎ね、HPバーを消滅させた。

 

光の欠片となって爆散した食人花を前に、着地したシリカは此方へと振り向いて問うた。

 

 

「…………見ました?」

 

「見てないよ」

 

「本当は」

 

「不可抗力でしょあれ」

 

 

拳が飛んできたので避けた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「無理ですぅぅぅうぅぅぅっ!!」

 

 

そして数分後。

今度はイソギンチャクのような粘液に濡れた触手を伸ばしたMobを前に、花畑に再び絶叫が木霊する。こいつデザインした奴さぁ………ほんとに。

 

また涙目になったシリカは俺の背中に回ると、俺を盾にして隠れ、顔を出す。

 

 

「じっ、じじじジンさん!!

 無理!! 無理ですっ、私無理ですっ!!!」

 

「あー………うん、俺がやる。

 だから後ろを警戒してくれ……」

 

 

正直、俺もこういう奴は無理なのだが……………虫とか

幽霊はともかく、このヌメヌメしてる触手は…うん、

ちょっと、いやかなり気が重い。

 

腰の直剣を抜き、シリカにタゲが行かないよう前へ出て右足を下げ、左手の剣を正中に構える。どんな攻撃が来てもバランスを崩さぬよう右手は広げる。

 

 

「気持ちわるいんだ────よっ!」

 

 

粘液を帯びた気色悪い触手が、拘束しようと迫る。数は3、触られたくもない。腹を狙ってきた最初の触手を斬り落とすと同時に走り出す。

 

最悪の事態に備えて、彼女には渡した脱出用の転移結晶をオブジェクト化させている。少し離れる程度問題はないし、レベルもそれなりに上げさせた。

 

触手を斬り払い、イソギンチャクの本体へと接近。見たことないMobだが………レベル差は十分過ぎる。慢心とまではいかないが余裕を持って、迫る触手を斬り飛ばして弱点をさが─────

 

 

「むぐ、っ……?」

 

 

その触手の奥、体内と思わしき場所から飛び出した細い線に、胸を貫かれる。ズクン、と鈍痛が走り、それに思わず身体が怯む。

 

槍糸(そうし)─────タテジマイソギンチャクなど一部のイソギンチャクやクラゲなどが触手に持っている、細胞中の刺胞から発射される糸だ。詰まる所───

 

 

「毒針か───!」

 

 

触手に多いと聞くが、分布は分類によって様々だ。そしてこいつはそれを体内に持っており、おそらく継続してHPを減少させる毒を保有する毒針。

 

小癪な真似を。

だがシリカを前に出さなくて正解だった。そして、完璧なものではないが毒耐性スキルは持っている。毒も麻痺も、それこそ死ぬほど味わった。そもそも自動回復の方が回復量を上回っているし。

 

そして、弱点も見つけた。

恐らくだが、この触手に守られた槍糸の射出口だ。そこへ、振り上げた剣を思い切り突き立てる。

 

 

「おぉ、らぁっ!!」

 

 

瞬間、迫って来ていた触手の動きがピタリと静止し本体も、俺を貫いた槍糸も、その動きを止める。

イソギンチャクを形成するポリゴンが崩壊を始め、そして一気に収束、強く弾け飛んだ。

 

 

「わっ───!」

 

 

シリカの驚きの声が聞こえてくる。

フィールドボス的な存在だったのだろうか。まぁ、こんな気色悪いMobが狩られないのも無理はない。

 

弾ける瞬間に後ろに飛んで距離を取り、光片の嵐を見届けて俺は握っていた剣を鞘へと納めた。そして視界の隅で毒のアイコンが消える。毒耐性スキルが功を奏したようだ。

 

 

「す、凄い………」

 

「まぁ随分と派手に消えたもんだ」

 

 

呆然としている彼女の方へ歩み寄り、向かい合う。

彼女は俺に気付いていなかったようで、ハッとして

引きつらせた顔をこちらへと向けた。

 

 

「なんだったんですかあれ………」

 

「知らねぇよ……毒針まで持ってやがったし、

 まぁ単体沸きだろ、今後二度と会いたくねぇわ」

 

「そうですね………って、毒針!?

 えっちょっ、大丈夫なんですか!?」

 

「避けたよ。ていうか海洋生物だよねあれ。

 槍糸つってさ、クラゲとかが持ってるやつ。

 なんでこんなメルヘンチックな花畑にいんのさ」

 

「ここにいるモンスターのせいで

 もうメルヘンチックに思わないんですけど」

 

 

真顔で言うシリカには完全に同意である。どうして思い出の丘なんて名前で触手ばかりなのだろうか。黒猫殺しよりも今やこれが一番のトラップである。

 

 

「はぁ………最悪だ。後で温泉でも行こうかな……」

 

 

モンスターが消滅した今はないものの、触手が纏う粘液に濡れてしまったので、そんなことを呟いた。その時、バッとシリカが顔を上げる。

 

 

「おっ、温泉!!?

 温泉があるんですか!?」

 

「うん、あるよ。

 何層だったっけ……確か安全地帯だ。

 隠し通路があって、そこから入れた筈だけど」

 

 

その時は驚きやら嬉しさやらで思わずマップに印を付けただけで終わったが、確かまだ誰にも教えてはいなかったと思う。いやアルゴに売ったか………いや多分あいつも黙ってそうな気がする。

 

結構前に準備して行ったが普通に気持ち良かった。湯の温度も丁度いいくらいに熱かったし、良すぎて他の皆に教えるのも忘れていた。

 

 

「あの……教えてもらったり、とかは……」

 

「帰ったら、な。ピナも連れてくんだろ?

 護衛しながら連れてってやるよ」

 

「っ、はい!」

 

 

気合いを入れて頷く彼女と共に、更にMobが増え、急勾配になっていく丘を進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

目的地は、あと少しだ。

 

 

 

 



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取るに足らない襲撃


結末は完全に構想が終わったのでメモしました。
これであとは書くだけだな!()

随分と長くなっちまった………




 

 

 

「あ────ジンさん!」

 

「何かねシリカさん」

 

 

襲い来る植物系Mobたちをそろそろ慣れてきた剣で斬り捨てながら進んでいると、突然シリカが叫び、コートの裾を引いてくる。剣を払い、そちらへ顔を向けると、彼女は丘の頂上を指差しており────縦直方体の形の、岩のオブジェクトが見えた。

 

 

「丘の頂上……!」

 

 

シリカは待ちわびていたようにそう言葉にすると、一目散に丘を駆け上がる。それを慌てて追いかけ、そして長かった丘を遂に登りきる。

 

だが、その岩の上にある筈の花はない。

線のような細く短い草が生えているだけで────

 

それを先に見た彼女はこちらを青い顔で見やるが、すぐに岩に起きた変化に気付いたので首を横に振り顎で岩を指し示す。それにシリカが再び振り向く、その時だった。

 

 

「あ!」

 

 

草を掻き分けて、白い蕾をつけた茎が伸びていく。

早送りのような成長速度で茎は大きくなっていき、

そして────────

 

 

 

鈴の音と共に、淡く白光を放つ花を咲かせた。

 

 

 

 

シリカは一度此方を振り向く。

俺も安堵に胸を撫で下ろし、彼女に向けて頷いた。

 

彼女は恐る恐る、といった様子で右手を伸ばして、その白い花の表面に触れる。すると光となって崩れ落ち、その花だけが彼女の手に残る。そして、全く無音で開示されたウィンドウが花の名を示し───それを彼女が紡ぐ。

 

 

「─────プネウマの花」

 

 

再び安堵、身体から力が抜けていく。これで彼女の目的は達成された。無事に入手することが出来た。プネウマ、その言葉の意味は記憶の中にある。

 

 

「プネウマ………ギリシア語で風、大気……

 そこの哲学じゃ存在を表す用語だ。

 存在………この世界じゃ、特に耳に残る言葉だな」

 

「これが、使い魔の蘇生アイテムですもんね……」

 

「本当にそれらに愛着を持ってないと

 入手することもないようなアイテムだしな……

 無事に入手できたのは、その心意気の賜物だろ」

 

「良かった…………」

 

 

シリカは白い花を大事そうに抱き締める。

さて────彼女は終わったが、俺は此処からだ。急がねば、丘の頂上では囲まれる。まだあの連中に追い付かれぬうちに、潜伏場所まで戻ろう。

 

 

「まだ此処は危ない。町まで我慢できるな?」

 

「…………はい。よろしくお願いします」

 

「おう、早いうちに戻ろう」

 

 

早足に、丘を下りていく。

索敵スキルは、既に警報を鳴らしているのだから。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

小川の渡す橋の上に差し掛かったその瞬間に、隣を歩いていたシリカを手で制する。カンストしている索敵スキルによる隠蔽識別が、遂に引っかかる。

 

 

「え?」

 

「後ろに下がれ。転移結晶の準備を」

 

 

押し下げるようにシリカを下がらせ、橋の向こうを睨んだまま左手で剣を抜き放つ。そのままに右手でメニューウィンドウを開き操作、ショートカットをタップする。瞬間、左手の剣が長槍へと変化する。

 

クイック・チェンジ、と呼ばれる、ソードスキルとまた違った〝派生スキル〟。今のたった数秒ほどの動作で武器を切り替えることが出来るものだ。殆ど使ってこなかったが成る程、これは中々に有用だ。

 

 

「隠れてんのは分かってるぞ。

 出てきたらどうだよ、ストーカーども」

 

 

槍の穂先を隠れているであろう木陰や茂みに向けて警告する。1人ずつ、確実に潜伏場所から追い出す。すぐに観念したのか、全員が出てくる。取り敢えず索敵をかけるが、もう隠蔽の反応はない。

 

現れたのはやはりと言うべきか、昨日の赤髪の女を筆頭としたオレンジカーソルのプレイヤーたち。

 

 

「ロザリアさん……なんで……!?」

 

「あらあら、よく見破れたものね。

 中々に高い索敵スキルを持ってるみたい」

 

「まぁね。ひー、ふー、みー、よー………

 ざっと10人ってとこか。それはともかく、

 待ち伏せなんて趣味が悪ぃもんだな、暇なの?」

 

 

話の流れで敵の数を確認する。

女を含めて10ピッタリ、本当に暇なのだろうか?

 

 

「ちゃんとお仕事はしてるつもりなのよ」

 

「オレンジギルドの、だろうが。

 趣味が悪いってどころか、もう最悪だな」

 

「オ、オレンジギルド………!?」

 

 

後ろからシリカの驚く声が聞こえてくる。赤髪女のカーソルはオレンジではないが、彼女は悪い笑みを浮かべて肯定も否定もせず、だ。

 

 

「じゃあ率直に言うわね。

 シリカちゃん、花を渡して貰えるかしら?」

 

「なっ………!」

 

「駄目に決まってんだろ。

 わざわざ触手Mob掻き分けて行ったんだ。

 そいつが許しても俺が許さん、絶対に」

 

 

もう二度とあんな体験はする訳にはいかない。等と言うのは流石に冗談混じりだが。そんな俺の言葉に赤髪女は堪えきれなくなったように高笑いする。

 

 

「そうなの、あはは!

 私たちのためにご苦労様!」

 

「やらんって言ってんだろ。

 耳詰まってんじゃねぇのか、聞こえますかー?」

 

 

いつものように煽りをかます。耳を向け、大きめの声でそう聞いてみる。赤髪女は引きつった笑みを、辛うじて崩さずにいる。終いには周りのオレンジの連中が宥めようか耳打ちを始めている。

 

 

「…………………………ねぇ?

 あんまり調子に乗らない方がいいわよ」

 

「そう怒んなよ、カルシウム足りてっか?」

 

「……………………忠告はしたわよ」

 

 

赤髪女が右手を高く掲げる。オレンジ連中が慌てて武器を取り、此方を恨めしそうに睨みつけてくる。そして女がその笑みを一層深いものへと変えた。

 

 

「殺していいわよ」

 

「っ、逃げて下さいっ!!」

 

 

オレンジの連中が走り出すと同時に、後ろで彼女の言葉が響いてくる。連中から目を離さぬように少し顔を逸らし、彼女の方へ振り向く。

 

泣きそうな顔をしていた。

膝から崩れ落ちて、結晶を此方に差し出している。

連中から完全に顔を背け、彼女へ笑いかける。

 

 

「そこで見てろ」

 

 

槍を回し、迫るオレンジプレイヤーたちに構える。うっかり殺してしまわないようにするために攻撃はせずに、弾き、逸らすのみ。何の縛りプレイだよ。

 

 

 

 

 

まぁ、ともかくだ。

PoHや最前線と比べれば素人同然の動き。易い。

 

 

「死ねやぁぁぁっ!!」

 

「お前らじゃ殺せないんだよ、なぁっ!」

 

 

まず1人、強めに足払いをかけ転ばせる。

 

 

「っ!?」

 

「ほらどうしたよ、そらっ!」

 

 

2人目、驚く奴の手を蹴りメイスを弾き飛ばす。

 

 

「おらぁっ!!」

 

「腹がガラ空きだぞ、っと!」

 

 

足を引いて3人目、右手で掌底を叩き込む。

 

 

 

 

 

 

と、なんとここで止まってしまった。

完全に驚きやら焦りやらが顔に出てしまった連中を更に煽り、槍をくるくると振り回して背中に直す。

 

 

「この程度かよ、なぁオイ!

 こっちは武器も使ってねぇぞ、ほれ!」

 

「っ………何やってんだい腰抜けども!

 こんなやつ一人に怯んでんじゃないよ!!」

 

 

これで、奴等はシリカのことは眼中になくなった。初めからこれが狙いだったが、思った以上に煽りに耐性が無さすぎる。全く、本当に腹が立つ。

赤髪の女に命令されるが、オレンジの連中は完全に怯みきってしまっている。こいつらはもういいな。

 

 

「チッ、こうなったらアタシが────!」

 

「………………………」

 

 

飛び込んでくる赤髪女を見据えて、だが動かない。これも目的の1つだ。十字槍が引き絞られ、そのまま吸い込まれるように、俺の身体を突き刺す。

 

 

「っ、くくくっ………」

 

「ジンさん!!」

 

 

シリカの声が、また聞こえてくる。

懐では、ぐりぐりと槍を捩じ込む女の笑い声が──

 

 

 

「…………………は?」

 

 

 

何故、という情けない声に変わる。

逃がさないように、槍を掴んでいる女の腕を掴む。周囲から、驚愕のざわめきが聞こえてくる。

 

ダメージを与える。

そこからHPバーへと視線を動かすのは、この世界で戦っているプレイヤーなら当然のことだ。だから、誰もが驚いているのだと思う。女の腕が震えるのが伝わってくる。女とはいえ相手が相手、気色悪い。

 

 

「なんで、勝手に……ひ、HPが……」

 

「お前の槍のダメージが52ってとこだ。

 突き刺してるから毎秒そのダメージが入る、な」

 

 

唐突だが、軽く説明してみる。

ここまでやった上で力の差を見せつければ、流石に大人しくなってくれるだろうと思う。

 

 

「有名なんだけど戦闘時回復(バトルヒーリング)って知ってる?

 俺の自動回復が毎秒50ってとこなんだが………

 はい、ここで問題だ、赤髪女さんよ」

 

「ひっ」

 

 

出来る限り最高の笑顔で、問いかける。

 

 

 

「俺に毎秒与えられるダメージ、なーんだ」

 

 

 

完全に怯えきり、こちらを見上げてカチカチと歯を鳴らして赤髪女はまるで答える様子はない。溜息をつき、女の腕から十字槍に持ち変え、ぐいっと強く引いてやる。バランスを崩した赤髪女を蹴りつけ、尻餅をつかせてからその十字槍を腹から引き抜く。

 

 

 

「2だよ、たったの2。これどう思う?」

 

 

 

もう一度、溜め息をついて十字槍を握る手を離すと十字槍はカラン、と音を立て力なく石橋に落ちる。すると、いつの間にか後ろに下がっていた足払いをかけたオレンジプレイヤーの男が口を開いた。

 

 

「め、滅茶苦茶だ……なんだよ、それ………!」

 

 

青ざめるオレンジギルドに、笑みを消す。

落としてしまった十字槍を拾い上げて、その穂先が当たらないように赤髪女へと投げ返してやる。が、それはその前に再び落ちるだけだ。どうやら完全に大人しくなったようなので、一度、目を伏せてから本題である話に入る。

 

 

「ちょっと話をしようか。

 あぁ、誰1人逃がさないから楽にしていい」

 

「……ジン、さん………?」

 

 

橋の高くなっている縁に腰を下ろし、彼等の方へと向けて話を始めようとした時、後ろの方から彼女が俺の名を呼ぶ。そう、振り向こうとした時だった。

 

 

「ジン……ジン!? 『黒槍』か!!?

 ロザリアさん、こいつ、っ……攻略組だ!!」

 

「なぁ…っ……!!?」

 

「だとしたら、なんだよ?

 シリカ、悪いけど詳しい話は後にする」

 

 

振り向けば、彼女は震えながらも頷く。

それに出来るだけの微笑みを返し、オレンジギルド連中へと向き直る。そして、逃げ出そうとしているメイスを持っていたあの男に気付いた。

 

 

即座に腰から投げナイフを抜き、投擲スキルを使い座ったまま右腕を振り抜く。その投擲スキルによる速度バフのかかった投げナイフは、凄まじい速度でその逃げ出そうとした男の肩に突き刺さり、衝撃で男はその場に押し倒れる。

 

 

「悪いな、聞こえなかったかよ。

 『誰1人逃がさないから楽にしていい』って」

 

 

男はもがくが、しかし自由に動けない。必死に手を伸ばすが、何をしようと無駄なことだ。

 

 

「レベル3の麻痺毒だ。

 効果は10分くらいってとこか……まぁ聞けよ。

 別にあんたらを皆殺しにしてもいいんだけど、

 実はそこの彼女以外からも依頼を受けててな」

 

 

そう催促し、腕を下ろす。

もう誰も動く気配はないので、話を始める。

 

 

 

 

「お前ら、シルバーフラグスって覚えてる?」

 

 

 

 



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仮想≠現実


連日投稿です。
これでシリカ編はあと1話だけですね。
リズ編もあるから頑張らねば…………




 

 

 

 

ある日のことだった。

 

久々に1人で新層のマッピングをしようと転移門へと向かっていた時、その門の前が妙に騒がしいことに気がついた。人だかりを掻き分けて進んでいくと、そこでは1人の男が血盟騎士団と思われる2人の男に泣きついている所だった。

 

泣きつく男は必死に助けを求めていた。

その血盟騎士にも鬱陶しそうに振り払われ、しかし誰も手を差し伸べようとはしなかった。

 

 

 

 

─────不可解だった。

 

俺の目から見れば恐ろしく奇妙なことだった。

 

 

 

 

何故、泣いている人をこうも無視できるのか。

何故、誰もが目を逸らそうとするのか。

 

 

何故?

 

 

気がつけば、手を差し伸べていた。

助けるのが俺の役目だと、理解している。

 

 

 

偽善? 正義感?

 

…………何れも、違うような気がする。

 

 

 

云うなれば、『使命感』だと思った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「10日前、38層でお前らに襲われたギルドだ。

 脱出したリーダーを残して、全員が死んだ」

 

 

それに、赤髪女が笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

「えぇ、貧乏だったもの、覚えてるわ」

 

 

強気に女は言う。虚勢だろうが今はどうでもいい。女へ向けて一度舌打ちをして話を続ける。

 

 

「リーダーは最前線の転移門広場で泣きながら

 仇討ちの依頼を受けてくれる奴を探してた。

 …………けどな、殺せとは言われてねぇんだよ」

 

 

コートの内ポケットから、濃紺の転移結晶を出す。回廊結晶、予め設定しておいた場所に転移できる、NPCの店では売られていない非売品だ。

 

 

「そのリーダーさんが全財産で買った回廊結晶だ。

 これでお前らを黒鉄宮に送ってくれ、ってな」

 

「…………馬ッ鹿みたい、そんな理由で

 あんたはこんな所まで下りてきたワケ?

 殺せばいいのに、意味がわかんないわ」

 

「別に理解を求めてるつもりじゃねぇよ。

 お前たちが理解出来るとも思えないけど」

 

 

嘲る女にそう返す。

絶対に理解することなんて出来ないのだろう。だがそれでも懲りずに女は嘲笑を浮かべて続けるもので思わず立ち上がってしまっていた。

 

 

「マジになっちゃって、前線の奴等は

 あんたみたいな馬鹿ばかりなのかしら?

 ゲームで殺しても罪になるワケじゃないのよ?

 そんなつまんない正義感、アタシ大ッ嫌いなの」

 

「………………なら聞くが、

 同じような理屈でお前は殺されてもいいのか?

 ガラスみたいに砕けて死んで、納得できるか?」

 

「大体、この世界で死んだからって

 現実で死ぬなんて証拠は何処にもないのよ!?」

 

 

無理だった。

 

 

 

 

「なら!!」

 

 

 

堪忍袋の尾が切れる、とは、こういうことを言うのだろうと、後になって理解した。

 

 

 

 

 

 

「此処で死んでみるか」

 

 

 

 

 

 

 

即座に槍を掴み女の背中を足で地面に押さえつけ、女の首に刃を当てがう。周囲の者たちが驚愕に息を呑むのが分かった。無論その女も、目を見開いて。

 

 

「は、ぇ」

 

「動かない方がいいぞ」

 

 

ヂッ、と小さなダメージのSEが響く。

穂先の刃が首に食い込み、少しずつ、赤が広がる。

 

 

「残り13秒」

 

「ひ、ぁっ」

 

 

その表情が恐怖に彩られる。

残HPから計算したカウントダウンを始める。

 

 

「12」

 

「い、ぁ、待っ、待って、ねぇ!!」

 

 

聞かずに刃を動かしていく。

 

 

「11」

 

「冗談、冗談だから! お願い!!」

 

 

減少していくHPバーが更に恐怖を煽る。

 

 

「10」

 

「いや、いやいやいやいや!!

 この………ッ!!」

 

 

起き上がり反撃しようとする女へと、空いた右手で麻痺毒のナイフを投擲する。距離の近さもあって、HPバーが急速に減少しイエローへ変化する。

 

 

「ぎぃっ!? ひ、ぁっ」

 

「動くなって言ったんだけどな」

 

 

槍を引き、その腹を蹴り上げて仰向けに転がす。

 

 

「死ぬのは怖いだろ、なぁ?」

 

 

更に顔を青ざめて、恐怖しているオレンジギルドの連中へと顔を向けて聞く。

 

 

「VRMMOはリアルだからな。

 知ってる奴が死ぬのはどんな気分だ?

 次はお前らが殺されるかもしれないぞ?

 死ぬ奴がどれだけ『怖い』か、分かったか?」

 

 

もう誰も、何も言わない。

 

 

「これは、ゲームであっても遊びではない。

 茅場晶彦の言葉の意味は、こういうことだ」

 

 

言葉を続ける。

理解されなくとも、伝わればいい。

恐怖でも、嫌悪でも、何でもいいから。

 

 

 

「確かに此処は仮想世界だ。

 でも、俺たちが此処に居るのが現実なんだ」

 

 

 

言葉は滅茶苦茶かもしれないが。

甘いものかもしれないが。

 

 

 

「俺は、此処で『生きて』る。

 HPが無くなれば此処でも『死ぬ』んだ。

 たとえ、リアルで死ぬって証拠はなくても」

 

 

 

伝われば、それでいい。

 

 

 

 

「俺たちが此処に居るのは現実か?

 それとも此処に居るのは仮想か?

 生きてる人を殺すってことを、よく考えろよ」

 

 

 

 

そう言い終われば、静寂が訪れる。

誰もが俯き、暗い顔で黙り込んでいた。

 

赤髪女も、酷い顔をしていた。

───始まりの日は、誰もがこんな顔だったのを、今も鮮明に憶えている。

 

 

「………………憐れだな」

 

「───────────」

 

 

焦点の定まらない目。

肩を震わせ、怯えている女が憐れでならなかった。

その女が見えるように、膝をついて見下ろす。

 

 

「──────────」

 

 

だから────これは────その────

何と言うのか────そう、情け、というやつだ。

 

 

「ヒール」

 

 

懐から回復結晶を取り出し、女の震える肩に触れて唱える。女はビクッと震えると、驚いたように俺の顔を見上げた。

 

 

「死にたくは、ないだろ。

 誰だって同じだってことを、覚えとけ」

 

 

女は、悔しそうに顔を伏せ、また震え出した。

 

 

 

 

 

 

 

………………何をしてんだ俺は。それだから甘いのだ。心の中で呟き、その自分への嫌気に溜め息が出た。懐からもう一度、回廊結晶を取って立ち上がると、それを高く掲げて唱えた。

 

 

「……………コリドー・オープン」

 

 

結晶が砕け散る、と同時に、青い光の渦が現れた。呆然としているギルドの連中に、顎で催促する。

 

 

「入れ。拒否するなら無理やりにでも入れるが」

 

 

ギルドの者たちは互いに顔を見合わせると、次々と渦の中へと入って行った。

 

 

最後に残ったのは、あの逃げようとしたが麻痺毒で今も動けない男と、それと同じ麻痺毒で動けない、あの赤髪女だった。

 

 

「しゃあねぇな………」

 

 

俺がやったことだし仕方ない。頭を掻き、男の服を掴み上げ渦の出口に誰もいないのを確認してから、その渦へと放り込む。

さて、残るはあの女だが………1つ、忠告だけする。

 

 

 

 

 

 

「人は、考えることが出来る『自由』がある。

 目の前の存在を、殺すのも、生かすのも、

 その自由の中から選択肢として存在している」

 

 

 

 

 

「自由なんだよ、人は。

 ………………どうしようもないくらいに」

 

 

 

 

 

「だから、どう他人に、固定観念に囚われずに

 考えるか────それが大切になってくる」

 

 

 

「人を殺すってことが、どれだけのことなのか。

 それをよく考えてみることをお勧めするよ。

 別に嫌ならそれでいい。それがお前の考えなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

よく考えたのなら、尊重するし、否定しない。

それが意思というものならば。

 

 

 

 

だが、それでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ1つ言っておくと、だけど。

 仮想世界でも、殺しは殺しに変わりない」

 

 

 

 

 

 

女の服を掴み上げ、渦へと放る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「個人の観念は緩いもんだが、

 概念ってもんは、嫌気が差すくらいに硬いぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

これで、役目は終えた。

渦が閉じるのを見届け槍を納め、彼女を見る。

 

 

「俺が怖いかもだけど、少しだけ我慢してくれ。

 このままお前を置いていく訳にもいかないし」

 

「……………ごめん、なさい」

 

「謝らなくていいよ」

 

 

彼女も震えていた。

少し、やり過ぎたかも知れない。

 

 

「怖がらせたのは俺だし、

 本当に謝らないといけないのは俺だ。

 お前を…………餌にしたようなもんだからな。

 絶対に守るつもり、ではいたんだけど………」

 

「………いえ、守って、くれました。

 大丈夫です、大丈夫………です、から」

 

 

大丈夫な訳がない。

肩を抱いて、必死に震えを止めようとする彼女を、見ていることが出来なかった。せめて、何か───

 

 

「え────」

 

 

彼女の前に腰を下ろして、手を()()()()()()()

 

 

 

 

「ありがとう、ございます─────」

 

 

 

彼女は、目尻に涙を浮かべてその手を握った。

俺はすぐに戸惑いを隠して、握り返す。

 

 

 

選択としては、間違ってはいない。

現にしたし、俺もするのだろうが…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(─────なんだ、これ)」

 

 

 

 

勝手に動く身体に気味の悪さを覚えたのは────これが、初めてだった。

 

 

 

 

 

 



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凶兆


シリカ編終了………というか、なんというか。
奴のインパクトが強すぎる。




 

 

 

「レベルは……どのくらいなんですか?」

 

 

宿に戻り、彼女を部屋に呼び話をする。

あれからシリカは妙によそよそしくなってしまい、完全に萎縮してしまっているようだった。まぁ俺が悪いのだが……嘘は言えないので今のレベルを話す。

 

 

「78、だな」

 

「……………」

 

 

帰り道は全くの無言だった。彼女は俯き、しかし、すぐに困ったような笑みを張り付けて顔を上げた。何が言いたいのかは、分かっているつもりだ。

 

 

「凄い差ですよね、私とは33も違って───」

 

「確かにそうだけどさ。

 レベルは、やっぱり数字でしかないんだわ」

 

 

それに驚いた顔で、また彼女は目を丸くする。

テーブルに置かれた白い花を何気なく見下ろして、次いで自分の手を握って放してを繰り返す。

これらも、どちらも同じ〝データ〟でしかない。

 

 

「俺もお前も、生きた人だからな。

 そこには何の差もありはしない……と思う。

 立ってる場所が違うだけだ」

 

「………………」

 

 

立っている場所の違い、それにまた彼女は暗い顔になりかけるが、身体中から力を抜いて、座る椅子の背もたれに体重を預けて、彼女に笑いかける。

 

 

「でも、これも何かの縁だ。

 お前が助けを求めてくれるなら、すぐに向かう。

 用事があれば何時でもメール送ってくれ。

 ボス攻略の時以外なら、大抵は暇だしな」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

「おう……………っと、少し失礼」

 

 

件のメールの通知音にメニューを開く。フレンド欄から確認すると、送り主はクラインだった。何かと思いながらメールを開く。

 

 

 

『大事な話がある。

 副団長様もいるから50層主街区の宿に急げ』

 

「…………?」

 

 

 

ボス攻略の話か……それともサボり過ぎただろうか。だが何か様子がおかしく感じる。しかしアスナまでいるとは、本気で何かあったのだろう。

ピナの蘇生に立ち会えないのは残念だが、急ごう。立ち上がり、メニューを閉じる。

 

 

「もう、行っちゃうんですか……?」

 

「あぁ、仲間から少し……急がないと。

 悪いな。何かあったら気軽に呼んでくれ」

 

「…………はい」

 

 

彼女は真っ直ぐに此方を見て、立ち上がった。

 

 

「ありがとうございました。

 その……私なんかが言うのもですけど。

 これくらいしか、言えませんけど。

 ───────攻略、頑張ってください」

 

 

その言葉に、頷く。

 

 

 

「この世界に、負けないでください。

 きっと……ジンさんなら、出来る気がするんです」

 

 

 

何の根拠もない言葉だろう。

けど、それは確かに────心に響いた。

 

 

 

「終わらせる。絶対な」

 

 

 

そうして笑いを返して、扉を開けて部屋を出る。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「遅ぇぞー!」

 

 

そして、50層主街区アルゲード。

もう慣れた迷路を進み、宿へと辿り着いた。そして開口一番、クラインの声が響いてくる。

 

 

「悪ぃ! ちょっと下層に行ってた!」

 

 

そう返して、その広い部屋を見回す。

テーブルを囲んでソファが配置されており、そこにいるメンバーはクラインを含めた風林火山の面々、そしてアスナ。あと何故かストレアも笑顔で此方に手を振っている。なんで?

 

 

「………………色々言いたいけど、まぁいいわ。

 今はそれどころじゃないの。ここ、座って」

 

「お、おう。ありがと……」

 

 

ジト目で睨んでくるアスナが、渋々といった様子でソファの端に隙間を作る。武装を外しながら其処へ向かって座る。俺の逆側はストレアが座っており、そして向かいはクラインから少し間を取ったサチ。

 

 

「……なんでストレアまでいるのか聞いていい?」

 

「仲間外れは嫌だなー」

 

「いや仲間外れとかじゃないけど………」

 

「私が呼んだの」

 

 

と、言うのもアスナだった。

頬を膨らませるストレアに悪い悪い、と謝りつつ、ソファに座り直して、彼女を呼んだ理由を聞こうとするが、アスナはそれを手で制する。

 

 

「理由なら話の後で言うわ。

 多分、本題を聞けば分かると思うけど」

 

「………ん、分かった。

 それで……皆、なんか凄い深刻そうだけど、

 本当にそんなヤバいことでも起きたのか?」

 

 

頭を掻く俺の言葉に、ただストレアを除いた全員が凄い目付きで睨んでくる。あのサチまでも、だ。

 

 

「そんな軽いことじゃないんだ。

 お願い、真剣に聞いて欲しいな」

 

「んぐ、悪い………」

 

「はぁー………単刀直入に言うぞ。

 うちのメンバーからの情報だから確かなことだ」

 

 

サチに諌められ、それに溜め息をついたクラインがいつになく真剣な顔で、前屈みになって言う。

 

 

それは…………本当に、耳を疑うことだった。

 

出来るものなら、聞きたくもなかったこと。

 

 

 

 

 

 

もう二度と聞くことのないと思っていた響きで。

 

それは俺に、俺たちに、知らしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「PoHの野郎が、生きてるかもしれねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────悪夢はまだ、終わってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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消え失せぬ悪意


ヒスイの地オリチャーRTAから帰ってきました。
うぉろさんゆるしてチャートこわれる((急所連発




 

 

 

「誰それ?」

 

 

俺が驚きに打ちひしがれていると、考えれば確かに何も知らないであろうストレアが首を傾げた。

ストレアがいつ生まれたのは分からないが、恐らく俺がPoHと殺し合ったときよりも後だろう。

 

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)………聞いたことあるでしょ?

 今は勢いを失ってるけど、かなり大きい組織で、

 PoHって奴はそこのリーダーだったの」

 

「………悪い人ってこと?」

 

「人殺し……レッドギルドって言えば分かるわよね」

 

「っ……なんで、そんなことするの……?」

 

「連中は楽しみたいだけなんだろうよ。

 オレたちが殺し合うように仕向けたり、

 殺したり………頭がおかしいとしか思えねぇな。

 昔からそんなことばかりやってやがんだ」

 

 

青ざめるストレアの前で、クラインが悪態をつく。だが、だから終わらせたと思った。まだひっそりと活動を続けていると聞いたことはあったが、かなり勢いも落ちたとも聞いた。

 

解せない。

あいつは殺したハズだ。

 

あの時、確かに─────────

 

 

 

 

『終わりか』

 

 

 

 

詰まらなそうな、だが狂喜の浮かんだ狂人の笑みが脳裏を過る。あの時、奴は笑っていた。奴は自分で殺すことよりも、他人に殺させることを好む。

 

俺を人殺しに出来たことへの嬉しさ。

だが自らが死んでしまう、その残念さ。

 

最期の言葉は、その2つの意味を含んでいた。

狂人だったが分かる。奴は奇しくも俺たちと同じ、確かにこの世界で『生きて』『殺して』いた。

だからこそ奴は、絶望を与え続けてきていた。

 

 

 

「俺が殺した」

 

 

 

確かにあの時、殺した。

せめて言葉にして、それを証明付けようとする。

 

 

「殺した筈だ、確かに…………」

 

 

生きているかもしれない。

その言葉を、ひた隠しにしていた悪魔への恐怖を、振り払うように顔を手で覆う。

 

 

「あの時……殺した、筈で「ジン!!」っ!?」

 

 

名を呼ばれ、それに驚いた俺は思わず立ち上がり、臨戦態勢に入っていた。背中にある筈の得物に手を伸ばそうとして、その武装を全て解除していたのを忘れ、即座にメニューを開いて─────

 

 

 

「───────ぁ…………」

 

 

 

そこで、やっと視界が開けた。

驚愕、焦燥、心配……………様々な感情を顔に浮かべた皆が目に入り、やっと正気を取り戻す。

 

 

「───────」

 

 

全身から力が抜け、膝から絨毯の上に崩れ落ちる。立ち上がっていたアスナが、必死の形相でこちらに駆け寄ってそれを支えてくれた。

 

忘れていた呼吸を思い出し、咳き込む。

 

 

「ごほっ、っ、げほっ……! う、あ……」

 

「大丈夫!?」

 

「だい、じょう、ぶ……大丈夫、だから………」

 

 

アスナの肩を借り、荒い呼吸を整える。

この世界で呼吸が荒くなることなどない筈なのに、という疑問すら忘れて、呼吸を繰り返そうとする。

そしてそれを思いだし、感覚を取り戻す。

 

 

「あ、れ……どうして、俺、咳き込んで……?」

 

「……もう大丈夫そう?

 リアルの感覚を思いだしたんじゃないかしら……

 すごい顔だったし……仕方ないと思うわ」

 

「……………………もしかして……」

 

 

落ち着き始めたからだったのか、その誰にも聞こえないような、ストレアの小さな呟きが耳に入った。彼女の方へ視線を動かすと、その細められた赤眼と目が合う。彼女は慌てたように視線を泳がせる。

 

どうしたのだろうか。

 

 

「……ストレア?」

 

「えっ!? ………だっ、大丈夫!?」

 

「あ、あぁ、もういい……けど」

 

 

取って付けたような『大丈夫』の言葉に更に怪しくなるが、まぁ今はそれよりも、だ。

 

 

「アスナ、悪い。もう大丈夫だ」

 

「あ、うん」

 

「ありがとう……………いや、

 本当に話逸らしたな、ごめん」

 

 

アスナに離してもらい、皆に頭を下げてそう謝る。それぞれ首を横に振ったり、息をついたりと反応はそれぞれだが、許してもらえたようだ。

 

 

「ふー……焦ったぜ、全く。

 お前があんな風になるなんてなぁ」

 

「私も見たことなかった……」

 

「そりゃ格好悪いとこ見せたな……」

 

「いやいや、おめーも人間だっての。

 そんなこともあるってもんよ、な?」

 

「………さんきゅ、クライン」

 

 

クラインにも助けられてばかりだ。そう礼を言って椅子に戻り、腰を下ろす。アスナも隣に戻って座り話を再開する。

 

 

「改めて悪い……で、話はどこまで進んだっけ」

 

「ストレアに説明が終わったとこだね。

 今から本題に入るけど……本当に大丈夫?」

 

「大丈夫だ、うん」

 

「なら、話を戻すか」

 

 

アスナの代わりにクラインが話を始める。

また怖気に襲われぬよう、少し肩の力を抜く。

 

 

「事の始まりは、28層のギルド失踪事件だ。

 それはお前たちも知ってるだろ?」

 

「うん、確かギルドの全員が失踪したんだよね。

 いないを気にしたギルドの元組員が

 ホームを確認したんだけど、もぬけの殻」

 

「メールも既読すらつかない、

 そいつは生命の碑を確認にいったが、

 全員の名前に横線が引かれてることはなかった。

 結局、ただの旅行か何かだろう、って

 片付けられた。一月前の事件だったか」

 

 

ストレアの言葉を引き継いで、その事件について、簡単な言葉にしてみる。その大事になった事件は、前線の俺たちの耳まで届いていた。当然捜索などは行われず、調査の依頼を出していた奴が少しの間は捜索依頼を出していたらしいが、最後は渋々という様子で諦めたのだとか。

 

最早、今となっては誰の興味も引かぬ事件だ。

頷いたクラインは、暫しの沈黙の後に口を開いた。

 

 

「そいつは毎日、生存確認に行ってたみてぇだ。

 で………昨日の朝、リーダーが帰ったそうでな」

 

「そりゃ良かった、とは言えないのか」

 

「あぁ、リーダーもギリギリで生きてたらしい。

 それで……リーダーはその後、外周から飛んだ」

 

「…………サバイバーズ・ギルト」

 

 

クラインの言葉に驚いていると、ストレアが呟く。その言葉の意味が理解出来なかったその場の数人が訝しげに眉を寄せる。知っている言葉だ。どうやらアスナも知っていたらしく、その意味を説明する。

 

 

「虐殺、災害とかに遭った人が

 『どうして自分が生き残ってしまったのか』、

 そんな風に亡くなってしまった人たちに

 罪悪感を感じるようになること、だったわね」

 

「そいつも耐えきれなかったんだろうな。

 しかし、それとPohがどう繋がるのかがな………

 で、続きがあるんだろ」

 

 

その心中は察するに余りあるが、まだまだ繋がりが見えて来ない。そう言ってクラインの方へと視線を向けて、続きを催促する。

 

 

「あぁ、まだ話は終わってねぇ。

 リーダーの証言を、アルゴの奴が取ったらしい。

 あいつは今は来てねぇが………これだ」

 

 

そう言ってクラインが取り出したのは、メッセージ録音用の、青に近い緑色をしたクリスタル。確か、原作でサチがキリトに送り、メッセージと『赤鼻のトナカイ』を録音したものだったか。

 

クラインはそれをテーブルの上に置き、再生する。

 

 

 

『………全員、拉致されたんだ。

 逆らえば殺すって、髑髏面の奴に言われて』

 

 

聞こえてきたのは、男の声。件のリーダーだろう。

 

 

 

 

『洞窟みたいなとこに連れて来られて……

 ギルドの仲間同士で殺し合いをさせられた。

 死にそうになる度にそこにいた奴等に

 回復結晶で回復させられて……もう嫌だった!

 1ヶ月の間、ずっとだ!!

 それで…『飽きた』って、そいつらの中にいた

 鉈みたいな武器を持ってた不気味な奴が……

 それで全員、一撃で、あいつに…………

 俺は、それに耐えて『逃げていい』って……っ、

 連中がいなくなっても、見張られてる気がして、

 いや、あいつらは今も俺を見て笑ってる!!』

 

 

『……はぁ、落ち着いたよ、あぁ。

 ちくしょう、みんな………なんで、俺だけ……

 ………………そいつは、マントで顔が見えなかった。

 軽い口調の奴で……ぁ、今、分かった、けど、

 俺たちをずっと、本気で殺し合うよう仕向けて

 ……そいつが、ボスって呼ばれてて……え、ぁ、

 笑う、かん、おけ……ボス……あ、ぁあ───!』

 

 

 

 

 

 

 

恐怖の悲鳴は、録音が終わるまで続いていた。

 

 

 

 

 

 



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青空は今日も変わらず


1年越しってマジ?
忙しくなるって自分で言っておきながら……




 

 

 

あれから、2ヶ月ほどが過ぎた。

攻略で色々といざこざがあったりしたのだが、まぁそれはともかく。俺がアスナとよりを戻そうとして動きが早かったせいか、アスナが『攻略の鬼』とか呼ばれていないため、攻略は微妙にペースが落ちており、それをストレア加入もあり、何とか頑張って速めているのだが………

 

 

「……Zzz」

 

「えっ」

 

 

それはもう、驚いた。

アインクラッド第59層、主街区ダナクを歩いていた時だった。小川沿いの道に小さな人だかりが出来ているではないか。そこに向かってみれば、これだ。

 

 

「…えっ……えぇ……?」

 

 

二度見。それから思わず苦笑い。

芝生の上に寝転がり、すぅすぅと寝息を立てるKob副団長様、『閃光』のアスナがそこにいた。

 

 

 

 

 

確かに原作ではこの場所で寝転がっていたキリトとアスナの掛け合いがあり、流されたアスナがここで爆睡してしまうという話があった。

詰まるところ。

 

 

(お前が寝てるんかい!?)

 

 

というのが、俺の心境である。

まぁ確かに今日は呆れるほど心地よい天気で気温も丁度いい。周りの人目はあれだが、ここで眠るのは本当に気持ちが良さそうだった。現に、眠っているアスナは目覚める様子がない。

 

 

「……俺も寝ようかな」

 

 

その俺の呟きに、周りの者たちの視線が集中する。思わずいつもの調子が出てしまい、己の気の緩んだ発言を後悔する。

 

腐ってもアスナは血盟騎士団の副団長だ。アスナがギルドを放って俺たちと居られる時間は多くない。故に、ギルドや道端で偶然会った時は挨拶を交わすことすらない。そして(不本意なのだが)攻略組のソロプレイヤー代表になってしまった俺との繋がりは、世間には未だ噂程度にしか広まっていないらしい。

 

故に、多少しんどいが仕事とプライベートに公私を分けることになった訳だ。それが原因でまた仲違いしたこともあったが……

 

 

「……」

 

 

とはいえ、このイベントが来たということは、だ。ここは見守る他ない。断じて『俺も寝たい』という心境があるワケではないが、仕方ないので人ごみを掻き分けて進み出て、彼女の近くにどっかりと腰を下ろす。

 

 

「………見世物じゃないんだけどなぁ」

 

 

ともかく、メニューを開いてアイテムの整理をして時間を潰す。くすくすと笑い声が聞こえたり、熱い視線が注がれたりしている気がするが、次第に俺の行為の意味が分かったのか、彼等は少しずつ離れていったのだった。

 

そうして、エギルの店に売りつけに行くアイテムを整理し終わった頃だった。

 

 

「………んぅ……?」

 

 

声を漏らして、アスナが目を覚ます。

彼女は目を擦りながら、ぽやー、とした目をこちらに向けてくる。どうやらぐっすり眠れたらしい。

そして口を開けて大きな欠伸。1ターン後に眠ります。眠ってたまるか。

 

 

「じん……? おはよ……ふぁ」

 

「おはようさん。よく寝てたな」

 

「だってすっごいきもちよくて……へっ!?」

 

「分かるけど無防備が過ぎない? お父さん心配」

 

 

顔が真っ赤になるアスナ。

本当こういうところは感情に素直な表現がされるな、このゲーム………茅場はほんと何考えてんだか。

冗談はさておき、最近の事件を考えるとマジ危険だし本気で心配だよジンくんは。

 

 

「ご、ごめん……」

 

「引っぱたかれるかと思った」

 

「しないよ!?」

 

「好感度の上昇を感じる……」

 

 

原作はどうだったかなあ、等と思いながらしみじみと呟く。件のアスナはむー、と頬を膨らませていて少し不満そうだが。

 

 

「私、そんな荒々しい?」

 

「速さで殴るタイプなの俺と同じ脳筋……」

 

「ステ振りとタイプは関係なくない!?

 鬼か何かだと思われてるの私!?」

 

「鬼かなあ」

 

「じゃあそれらしく引っぱたこうか!」

 

「ごめんゆるして」

 

 

怖い笑顔で腕を振りかぶるアスナに両手を合わせる。なんとか腕を止めてくれた彼女に胸を撫で下ろすと、彼女は大きく息を吐いて、くすくすと笑い出した。

 

 

「いいよ、守ってくれてたんでしょ?

 許してあげる」

 

「よかった………っ」

 

 

そう安堵した時、胸の辺りに鈍い痛みが走る。

まるで心臓をわし掴みにされているかのような、強く締めつけられているような痛み。思わず、こみあがる感覚に、あるハズもない呼吸が詰まる。

 

 

「がっ……、げほっ……!」

 

「!? 大丈夫!!?」

 

「っ…ぐ、ぅ……いや、問題ない……から」

 

「……ううん、大丈夫じゃないよ。

 少しホームに戻って休もう?」

 

「いやいや、ストレスか何かだろ。

 ほら、前に笑う棺桶の話もあったしさ。

 その時からちょっと、な」

 

「………………」

 

 

今更攻略組を抜けるなんてのは不味い。

胸の痛みで死ぬワケもないし、戦えないこともない。気合いと根性が足りていないのだ。きっとそうだ。

虚勢だとしても。それでも、やらなきゃいけない。

 

 

「……うん、落ち着いた。問題ねぇよ、ほんと」

 

「……………ジンさ、リアルで病気とかあるの?」

 

「お前ここじゃリアルの話は」

 

「教えて」

 

「ないよ。なかったハズだ」

 

 

そもそも俺の身体じゃないし。

前世の記憶もサッパリだから、あまり考えたくない。そもそも俺はこの世界の人間じゃない。部外者的な、そんな立ち位置だ。しかしここに立ってしまっていて今更膝を折るなんて赦されない。

そんなおかしな責任感で、今も立ち続けている。

 

 

 

本当は、自分が自分じゃないようで。

怖くて恐くて、仕方がないのに。

誰でもない自分が、生きていていいだなんて。

みんなが、それを証明してくれるのが嬉しくて。

 

 

 

 

「……本当に?」

 

「あぁ、リアルじゃみんな病院で

 生命維持装置に繋がれてるだろうし、

 そんなに心配することでもないだろうよ」

 

「……」

 

「まだ死ねない。このゲームをクリアして、

 俺たちは寿命を迎えて死ぬんだ。

 それがいい。そうじゃなきゃいけない」

 

「…………うん。そうだね」

 

「日々を頑張ろう。

 今まで通りに、これからも」

 

「うん」

 

 

空は今日も、こんなにも青い。

たとえ、この空が誰かの夢だとしても。

 

 

今、俺たちが見上げる空は、本物なのだから。

 

そして、せめて。

 

本物だと、信じていたいから。

 

 

 

 

 

「さ、腹減ったしメシでも行くか。

 折角だし奢ろう」

 

「いいわよ、私が出す。

 見てて貰ったお礼もしたいし」

 

「んじゃー、それでチャラな」

 

 

こうして、オレはほとんど『あの事件』を忘れたままアスナと共に転移門に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

酷く、酷く。

 

辛い胸の苦しみを、隠しながら。

 

 

 

 

 

 



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