終わってしまう世界の果てで (チャイナドレス先輩)
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プロローグ
世界の終わり


始まりからクライマックス


プロローグ

 

 

広大な砂漠の中でただ一人。

仲違いし、最後の最後まで分かり合えなかった幼馴染の亡骸を抱き、大切だった少年の仇の死体が砂漠の砂に埋もれていく様を視界の端に収め、太陽と月が重なる不気味な空を仰ぐ。

自分も幼馴染も仇もひどい姿をしている。

顔も腕も足も……身体全身が傷だらけどころか風穴が空いており、流れた血で砂の大地を汚し、空気はあたり一面鉄くさい。

正直に言うと、自分でも何で生きているのかと言うほどの重傷だと思う。

だけど……全てがどうでもいいぐらいに疲れているはずなのに、ある存在に対する怒りと憎しみで力が沸々と湧き上がってくる。

 

「お前に……みんな……全て奪われた」

 

一人の少年と出会ったことが全ての始まりだった。

別な世界から来たと言う、可笑しな少年。

何の力も無い、ただの人間。

そんな無力な少年と目の離せない幼馴染み、そして私……この3人と『みんな』で、ただ平和に暮らしたかっただけなのに……

どうしてこうなってしまったのだろう……

 

「……返せ」

 

『奇跡を叶える代わりに代償を払う』

 

それがこの世界の法則。

砂漠で、凍土で、灼熱の大地で、みんな水を、食べ物を、幸せを願った代償に身体の一部か、人間として大切な何かを消費する。

この【等価交換】と呼んで良いのか分からない法則に『みんな』大切な何かを無くしていった。

罪悪感を、道徳を、満足感を……その【等価交換】の果てが、この見渡す限り砂で埋もれた乾いた世界。

もう世界の何割が砂なのかすら考えるのも嫌になる。

砂の世界にした張本人は世界を砂で埋め尽くすつもりは無かったのだと理解している。

その人を倒したのは私だからある程度のことはわかる。

 

アレは狂っていた。

狂っていたから自分が何をしているのか、自分が何を望んでいたのかすら分からなかったのだ。

 

「…………返してよ」

 

しかし……いや、だからこそ、その人を倒して生き残った私は理解した。

この世界のは何を望み、何を目的としたのか。

その理由が……その所業が許せない。

 

「『みんな』の大事なものを返せ!!」

 

天を睨み、天に叫ぶ。

 

お前の望み通り力を手に入れた……

だけど、お前の思い通りにはさせない……

この世界をお前には任せられない……

最後に残った私がお前を倒す……いや、私が倒さなくてはいけない!

その代償に何を支払っても、この世界を破壊してでも……散っていった『みんな』の為にもこの世界を救う!!

 

自分の中にある『何か』から力そのものを無理やり絞り出して、祈り(呪い)の言葉を発した。

 

みんなの願いが叶うのなら

天に祈り、地に思いを馳せよう

ああ、どうかみんなを守らせてほしい

 

 

引き出した力で私の【奇跡】を組み上げ……

そして、私は拳を握りしめて、振りかぶり、天に向けて拳を振るった。

 

 

 

 

この世界は滅ぶことが決まっていた悲しい世界。

一人の少年がこの滅びの世界に迷い込んだことで、その物語は加速した。

その少年は何を見て、何を感じ、何を成したのか……




次回からシリアス成分75%OFFとなりお身体に優しいお話となっております

2022/7/25
※地の文などを全体的に修正
※最後の登場人物の言動を修正

「行くぞぉぉぉおおおお!!!」

そして私は拳を握りしめて、振りかぶり、天に向けて拳を振るった。

追記
この話に登場した人物は怒りと憎しみで論理的に考えられておりません。
世界を壊したいのか、救いたいのかチグハグになってます。


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砂漠都市オービア
1話:恩は返すものだが、実際に恩を返すのは意外と難しい


当社比でシリアス75%OFFの健全な作品です


Hey!

ニッポンの良い子のみんな!

異世界転生、もしくは異世界転送っていう物語のジャンルは知ってるかな?

我々が住む地球以外の別な世界があると仮定して、不幸な事故か寿命で死んだ主人公が別な世界に人間か非人間として転生、あるいは死なないで魔法的な(?)事故か別世界の王族とかが召喚(拉致)されたりするのが転送と言ったように細かい切り分けができるが、大体同じジャンルだ!!

最近は本当にそのジャンルのお話が増えてきた。

転生先がスライムだったり、ドラゴンだったり、魔王だったり、勇者だったり、剣だったり、宇宙戦艦だったり、自販機だったり……

その転生した人は転生特典とかで特殊な能力をもらえてたり、転送した人は元から特殊な才能を持っていたりする。

あと他には転生や転送に共通して言えることだが、その別世界で使われている特殊な技能を学んだりする事で使用することが可能になったりする。

 

……え?

何で今そんな話しているのかって?

 

HAHAHA!!

 

それはね……ボクが創作の中の話だと思っていた異世界転送と思われる現象を体験しているからだよ。

 

 

 

***

日曜日の朝、妙に暑いし眩しいなぁと思いながら目を覚ましたら、砂漠にいた。

寝巻きのジャージ姿で、周りを見渡しても砂、砂、砂、そして太陽。

夢だと思って、2度寝しようと思ったが、太陽と空気の暑さと砂の熱さでそんなことしてる場合ではないと判断してとりあえず歩いた。

時計は無いが、1時間ぐらい歩いたと思う。暑さと軽い脱水症状でフラフラとしていたら運良く何かの運送を行っていたキャラバンに発見され保護された。

砂漠に適応した人種なのか、肌が黒くて顔の彫りが深い人達で、剣や弓で武装している。

体格も良くて身体中傷だらげで、指や腕などの身体の一部を欠損している人もいて、怖そうな人達だったが、日差し避けの大きなマントと水を恵んでくれた。

当然ながら言葉は通じなかった。

だが、助けてもらった気持ちを身振り手振りで伝えた。

一番傷が多く、左目を閉じている大きな男の人が、笑いながら何か言っている。

多分、このキャラバンの中で一番偉い人……隊長だろうか?

気にするなとか、そんな事を言っていると思う。

過酷なこの砂漠の環境でマント、水や食料を分けてくれた俺の命の恩人だ。

この助けてもらった恩をいつか必ず返そうと心に誓った。

ボク、将来貴方みたいな他人が困っている時に助けれる人間になる事を目指します!!

 

 

 

***

7日後

 

 

 

ボクは今、砂漠の街の中で今は生活している。

風を凌げる壁があるし、日差しを遮る屋根もある。

布や木で出来たボロボロの建物ではなく、タージ・マハル的な建物だが、あそこまで大きくないがとても立派な建物だ。

1日3食は流石に出ないが、2食は必ず出てくるので、飢えて死ぬ心配もない。

 

え?

ボクは今その建物で何してるって?

 

手枷首枷を装備して、鉄の檻の中で一生懸命この世界の言語を勉強中ですが何か?

 

え?

何でそんなことになっているのかって?

 

ボクを保護したキャラバンの連中にこの街で奴隷として売られたからだよ。

 

 

 

あのキャラバンはもともと奴隷を運んでいたらしい。

夕飯を食べてしばらくしたらとても眠くなったので(多分、一服盛られた)、寝て、起きたらこの手枷と首枷、そして足枷をつけられて他の奴隷達と一緒の檻の中に入れられていた。(奴隷商に売られてから足枷は外してもらった)

 

クソッ、いつか会った時にこの礼は必ず返してやる!!

 

……話を戻そう。

どうやら、この世界……というか、この砂漠の街では黒くない肌と平たい顔の日本人……いや、元の世界でいう東洋人的な特徴を持つ人種が存在しなくて、希少価値がとても高いらしい。

言葉は通じないが、出会うやつ出会うやつが俺のこと珍しそうに見ていたし、売られた時の支払いを見てたし。

大体140㎝の大きな袋二つ分が俺の値段だった。

貨幣価値は分からないが、絶対に大金だろうと思う

 

……随分と儲けてますね店長さん。

今、奥の金庫らしい部屋からポンと出してきたよね?

 

ちなみに、この奴隷商の店長?は元の世界でいう白人的な特徴を持っていた。

白い肌に彫りの深い顔。

外人の見た目から年齢を判断するのは難しいが、多分30〜40歳。

元の世界でいうインドやアラブと言った、砂漠での服装ぽい物を着ている。

そしてハゲ。

あと左手の薬指がないのが特徴。

 

不思議に思ったのが、出会う全ての大人達もしくは中学生ぐらいの歳の子の身体的な欠損が目立つ様に思う。

指や目……もしくは腕や足などの身体の何処かの部位が必ず無いのだ。

 

……何か有るのか?

宗教的な話なのか、この街特有の儀式的な何かが?

 

……分からないことを考えるのはやめよう。

出会っている全ての大人達の一部分が無いというのはこの街にとって当たり前のことをの可能性が高い。

当たり前の事だから質問すれば答えてくれるかもしれない。

つまり、ボクが言葉を早く理解できるようになれば、その事を聞けるようになるのも早くなる。

 

 

まぁ、取り敢えず……何だ?

勉強は勿論頑張るけど……言葉が分からないと死活問題だし

 

ぷりーず、へるぷ、みー

 




見直してみると登場人物が野郎ばかりでモブの外見しか伝えたいないことに気付いた……

次は女の子のターン

次のお話の進捗は現在0%のため投稿するまでに時間がかかります


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2話:持たざる者の苦しみは持つものには分からない……胸の話じゃネーヨ?

……前話の主人公の全ての一人称の間違いの確認
そして、話の終わり方に違和感を感じる……

……(間違いが多すぎる)修正が必要だ

ウイスキー水割りを飲みながらだとやっぱりダメだ
だから今回はハイボール飲みながら執筆した

……時間が経って氷が溶け、炭酸が抜けたので実質水割りになったけど

そんなこんなで3話目です


砂漠都市オービア。

 

約300年前に発生した『砂化現象』で生き残った街を基盤にして発展してきた都市。

 

現在人口約50万人。

 

他の大都市である聖都や極寒都市、地下都市を繋ぐ中継地点としての役割もあり、物流も盛んで、この都市からなら何処へでも行け、どの都市の物でも手に入る。

 

都市としての目玉は各都市から仕入れた品物……美術品や『奴隷』を月一で競売にかける『月例オークション』。

 

あなたも一度インモラルな空気を味わいませんか?

入場料1000ゴルド払えば誰でも参加できます。

 

 

~砂漠都市オービアのガイド1ページ目より~

 

「……おいおいおい、このオークション言外に貧乏人お断りって言ってんじゃネーかヨ。1ゴルドでパンが買えんだゼ?50ゴルドで安宿に泊まれるんだゼ?そして一般人の平均月収1600~1800ゴルドだろーがヨ。ガイドブックに記載する意味ネーだロ」

 

目立たないように、【砂漠都市】という灼熱の環境に合わせるて装備している除け用のフード付きマントを目深く被り、ガイドブックを両手で持ち読みながら大通りの真ん中を歩く。

この状態だと殆ど前が見えなく、先ほどから何人かの人とぶつかりそうになるが相手からよけてくれているのでまだ誰ともぶつかっていない。

 

「まぁ、観光をするためにこの都市に来た訳じゃネーし、特に興味もネーが、暇つぶしにガイドブックを手に取ったけどヨ、1ページ目から持たざる者に喧嘩を売ってるなんて驚きだナ」

 

ペラペラとガイドブックのページを捲りながら同行者に話しかけ続ける。

先ほどから何度も人とぶつかりそうになっているがみんな避けてくれている。

この町は優しい人ばっかだナと思う。

それならガイドブックを読みながら歩かなければ人の迷惑にならないというツッコミがあるとは思うが気にしない。

 

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「とりあえず聖都行きの次のラクダ便までこの都市で過ごさなくちゃいけないんだから、安宿とバイトでも探しさネーとナ。……なんで次のラクダ便が1週間後なんだヨ。なになに……『C級危険生物が砂漠都市から聖都の道の途中で大量発生しているので、駆除の為お時間を頂きたい』って、オイ、C級は雑魚だからすぐに済むはずだロ?何らなワタシが行って駆除してきてよろうカ?」

 

一般人にとっては脅威だよというのツッコミを期待した話だったのだが、先程と変わらず返事がない。

 

「……おいさっきから聞いてんのかヨ?ワタシが独り言を言っているみてーで恥ずかしーじゃネーか……」

 

先ほどから一言も発さない隣で一緒に歩いている幼馴染の方を向く。

サラサラでつい梳きたくなるような細く長い金髪、デカく一歩歩くたびにポヨンポヨンと跳ねる胸、教会に所属することを示す紺色の修道服、細い腰とデカい胸を強調するようなコルセットベルト、奇麗で透き通るような碧眼で柔らかい印象を与えるたれ目、小さくて可愛いく形の整ている桜色の唇……そして何よりも聖女の中の聖女という印象を与える微笑みで世の男性も女性も虜にする美少女である幼馴染。

 

「……ヨ」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな幼馴染が隣にいなかった。

代わりにハゲが隣を歩いていた。

そのハゲに変なものを見る目で見られていた。

 

「「……………………」」

 

大通りに風が吹き、小さな砂の渦が出来て、すぐに消える。

今日は飛んでいる砂が少なくて助かるナー……

じゃなくて……

 

「……おィィイ!?あのおっぱい女どこ行きやがっタ!?」

「あのー、大通りのど真ん中でおっぱいって叫ぶのってどうかとオジサン思うな~」

 

ハゲが何か言っているがどうでもいい。

まさかまた変な場所に入って迷子か!?

この前はコスプレ喫茶の売り子しているのを発見したんだけど!?

さらにその前は何故か街中で繁殖していた特A級危険生物の巣の中で何故かお昼寝だよ!?

どんな場所に行ったにせよすぐに見つけないとマズい!!

また監督不届きで怒られる!!

 

「おいハゲ!修道服を着たバカデカいおっぱい女がどこに行ったか分かるカ!?」

「(イラッ)……いや知らんけど」

「クソッ!!このハゲは役立たずだナ!!」

「喧嘩売ってんのかテメェ!?ハゲハゲ言いやがって……」

「うるさイ!!」

 

掴みかかってきた私よりは10㎝は身長が高いハゲ野郎を逆に胸倉を掴んで()()で持ち上げ……

 

「うわぁ!?」

「こっちは急いでるんだヨ!!」

 

そのままハゲをぶん投げる。

ハゲをぶん投げた勢いで、フ-ドが外れ、マントがなびいて隠れていたワタシの顔や身体が日光に晒される。

 

 

フードの中から現れたのは、灰みのある暗い紫色の短い髪と赤いツリ目。

マントの中身は、小ぶりな胸を包んでいる赤い花が刺繍されている黒いクロップドタンクトップ。

首とウエストにはタンクトップとは別な黒いツルツルな生地。

タンクトップと同じ赤い花柄の黒い前垂れ。

ワインレッドのダボダボのズボン。

肩から手首にかけて何も隠すものがなく、健康的な肌を晒しているが手首には赤いリストバンド付けている。

 

 

【聖女】の幼馴染でその【聖女】の【騎士】である彼女、レーナ・エンスは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すでに投げたハゲとは別の方向を向いて走っていた。

 

 

 

 

ハゲを投げ飛ばした近くで焼いた肉串を売っている店の中に突っ込んで辺りが騒がしくなったがそんなことはどうでもいい、早くあの幼馴染を探さなくてはッ!!

 

「ウォォオオ!!今度はどこに行った!?キツネカフェか!?子供達が集まる公園か!?それともいかがわしい大人の遊戯場か!?」

 

全力疾走で街を走る、馬と同じ速度で走る。

大通りを通る人たちは私の爆速する姿を見て道を開ける。

オラ!!今のワタシにぶつかったら重症確定だぞコラ!!

だから、道を開けやがれ!!

 

「ソ○プだったら私が殺されるからそこだけは勘弁してくれェェエ!!」

 

今日もワタシは街を駆ける。

あの幼馴染の【騎士】として。

そして私の監督不届きでの処罰が無いようにする為に……

 

「【聖女】がソ○プとか絶対にマズイィィイ!!」

 

 

 

後日【教会】へ砂漠都市の大通りでソ○プ、ソ○プと大声で叫ぶ【教会】所属と思われる者が大通りを凄い速さで走っていて色々危なかったという苦情が入り、無事にその後上司から怒られます。




この話に出てきたハゲは1話のハゲと同一人物です

キツネカフェというのは、最初にここの部分に猫カフェと書いていたが、そういえば砂漠キツネって言う生き物がいたな〜と思い直し訂正しました

参考までに、
馬の短距離での速さはサラブレッドで時速85km前後
人を乗せたら時速60〜70km
この人物は人が歩く大通りを大体時速60km以上出して走っています

この世界の通貨単位はゴルド
1ゴルド=100円のイメージ
中世の貨幣価値などを念のため勉強したが、分かりにくかったので現代の日本の若者の平均月収を参考にして、それの少し少ない値にしたものをゴルド単位にしたのがこの世界の一般人の平均月収
つまり大体16〜18万円が一般人の収入のイメージ
物価も基本的に安いので贅沢三昧をしなければ普通に生活ができる。

次は巨乳な幼馴染のターン

前話の全体的な修正をした後の執筆だから次の話は本当に時間がかかる


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3話:……え?これ各話ごとにみんな言う感じ?いやですよ。みんなやってるからとかって言う同調圧力で強制するのやめましょう?

やっと固有名詞が出せる……


因みにこの世界の時間や暦は、1日は24時間、1週間は7日、1月は30日、1年は12ヶ月です


砂漠都市オービア

 

とある大きな酒場

 

 

酒場……酒を飲む場所、働いた後の大人たちの疲れを癒すオアシス。

酒場ではそれぞれの楽しみ方がある。

一人で静かに飲むもよし、みんなでワイワイ騒ぐのもよし、知らない奴と一緒に飲むのもよし、知人や知らない奴と喧嘩するのもよし、可愛い給仕係にちょっかいをかけて半殺しになり金を巻き上げられるのもよしと、そんなみんなの楽しみ方を受容してくれる場所。

 

そんな酒場で今日もならず者達が羽目を外しバカ騒ぎをしている。

 

「ギャハハハハ!!今日は俺の奢りだ野郎ども!!」

「「「ウォォオオ!!」」」

「おー」

 

ここはある酒場の一角。

丸い大きなテーブルに所狭しと並んだ料理と酒、それを囲む黒い肌の男4人と1人の少女。

全身傷だらけで隻眼の親分。

片腕や、鼻、指などの部位がない部下3人。

そして灰色のマントを纏う少女。

 

「まさか拾ったガキがあんな高値で売れるとは思わなかったぜ!!」

「いや、あの金額は当然じゃね?むしろもっと貰えたかもしれない……」

「確かにあの見たことない特徴の可愛いガキで……しかも男なんだから今回のオークションで金持ちの変態共に買われるはず」

「馬鹿野郎共が。あまり欲を出すな。確かに多少買いたたかれたかもしれないがしばらく遊んで暮らせる金には違いないじゃねーか」

「すみませーん、スイカジュースお代わりくださーい。あと豆の煮込みと唐揚げも追加で」

 

〜20分後〜

 

酒もいい感じに進み、みんなほんのりと顔が赤くならながらも飲み食いをやめず、バカ騒ぎをしている。

 

「生きている内に食べろ、飲め、遊べ!!死んじまった後に楽しみなんてないんだからな!!」

「いよッ!お頭!アンタ時々すげー深いこと言うよな!!」

「考えさせられる」

「何でこんな砂漠のキャラバンで奴隷を運ぶ仕事の親分やっていて見知らぬ少年を拉致して売り飛ばした人物の発言とは思え無いほど学がありますよね?」

「ズズズ、ムシャムシャ、ゴックン」

 

〜更に20分後〜

 

人間、40分もバカ食い続ける事は不可能……

ここいるならず者共もそれは同じ……

食べるのはやめ、酒を飲みしゃべることにシフトしている。

 

「それにしてもよ……」

「なんでしょう親分?」

「また下らない昔話ですか?」

「この人酔っ払うといつもそれだよな」

「給仕さーん、この焼き串追加でー」

「さっきから一緒に飲み食いしているこの女の子はだれだ?」

「「「「…………」」」」

 

話していたならず共たちと食事をしていた少女の動きが止まり、少女と親分に視線が集まる。

少女は奇麗な金髪、緑色の瞳で柔らかいたれ目、白く透き通るよおうな肌、体全身を隠すようなマントを羽織っているが、その胸はマント越しでも分かるくらい大きい。

そんな少女と全身傷だらけで顔が怖く、隻眼のおっさんが見つめあっている。

ぶっちゃけ事案である、憲兵がこんな場面みたら満面の笑みで親分が豚箱にぶち込まれるだろう。

 

「…………」

「…………」

「まぁまぁ、お気になさらず。あ、親分さんお酒が切れてますよ。私がお注ぎします」

「あ、これはどうも。いやー、こんな別嬪さんに酌をされるなんて夢みたいだ」

 

トクトクと、グラスに琥珀色の液体を注がれ、親分はその酒をグビっと仰ぐ。

 

「いやそうじゃなくて、お前本当に誰!?何当然のように俺たちと同じ席で飲み食いしてるの!?」

「奢りと聞いて」

「見ず知らずの奴に奢るほど俺の心は広くねーよ!!」

「俺はてっきり臨時収入でこの少女の事『買った』のかと思ってました親分。このロリコンクズ野郎、落ちるとこまで落ちたのかと思ってました親分」

「実は俺、お頭の事は睡眠薬盛って少年を捕まえて売り飛ばした辺りから見損なってました」

「え?マジで?俺も俺も」

「少年拉致って売り飛ばした件はオメーらも同罪だろうが!!」

 

ならず者の飲みに平然と参加している少女が只者ではない事と親分の株が下がっている事が確認できたと所で、ならず者達は仲間内で言い争いを始める。

 

「前から気になってたけどな、お前ら俺のことそんなに尊敬してねーだろ。さっき下らない昔話とか言ってたし」

「今更かよ……そこはテキトーに流せよ、だからその歳になっても結婚出来ねーんだろうが!!」

「喧嘩売ってんのか!?」

「ああ!!売ってるね、聞こえなかったのかオッサン!!」

 

左腕の無い部下と親分が一食触発の状態となる。

部下が喧嘩腰なのは酒が入っているせいなのか日頃の不満なのかはわからないが喧嘩になりそうな雰囲気になる。

親分は近くにあった空の酒瓶を手にし、部下は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、お互いがお互いを殴れる位置に移動する。

他の部下2人はバカを見る目で2人を見ており、喧嘩を止めるつもりは無いらしい。

そんな中、少女かこの場にいる全員に聞こえるように言う。

 

「……所でですね」

「何だ!?」

「今取り込み中だ!!」

「私の事を『買った』と思ったとは、私の何を『買う』のですか?」

「「「「…………」」」」

 

コテンと首を傾げながら聞いてくる少女。

私の何を『買った』つもりなのだろうと無垢な目で聞いてくる。

その少女の行動で喧嘩をする空気では無くなり、男達は考える。

 

この純粋な少女に何て言おうか、と。

 

(え?説明する?俺は嫌だけど)

(卑猥な話をして幼気な少女の恥ずかしがる姿を見たいセクハラおじさんムーブしたい人は説明してどーぞ)

(なにこの純粋な生き物?)

(先ほど少年を拉致って売り飛ばしてきた俺たちにこの純粋さは毒だ)

 

そして男たちは見つめ合い……

 

「「「「まぁいっか」」」」

 

問題の先延ばしを決断した。

 

「そもそも一人増えた程度どうでもいいか!」

「そうそう!こんな可愛い子と一緒にいられるだけで幸せですよね!」

「よーし、飲み直しじゃー!」

「金はいっぱいあるんだ!酒も料理もじゃんじゃん持ってこーい!!」

「わーい」

 

〜更に更に20分後〜

 

ならず者共は酒を飲み、少女は食べる。

親分は顔を酒で赤くし完全に酔っ払っている様子だ。

 

「そういや、ヒック……嬢ちゃん……名前は何て言うんだい?」

「もう言ってることが酔っ払いオヤジのナンパだな」

「本当にな」

「すんませーん、この人酔っちゃったみたいでー、水をピッチャーで下さーい!」

「テメェらなぁ……」

 

後日、部下3人を〆ることを固く決意した親分。

 

そんな中、少女は……

 

「良いですよ」

「お?」

「マジマジ?」

 

少女からの同意を得て、興奮する男たち。

少女は食べるのをやめて席を立つ。

ならず者1人1人の目を見た後に彼女は大きな胸の前に右手を持っていき軽く会釈をしながら言う。

 

「私の名前はシュガーナ・マーナ・マーニ」

「みんなシュガーって呼んでますので、ぜひそう呼んでください」

 

シュガーは微笑みを浮かべながら自己紹介を行った。

その柔らかい笑みは老若男女関係なく魅了する力があった。

 

「おおお!」

「可愛い名前だね、君にぴったりだと思うよ!」

「すみませーん、水追加でー、ピッチャーじゃ足りないから寸胴鍋で持ってきてくださーい!そしてこのおっさんの頭に叩きつけてくださーい!」

(……ん?どっかで聞いたことがある名前)

 

シュガーの微笑みを見た男達は興奮し騒ぐ中、1人の部下はシュガーの名前を聞いた様な覚えがあるので思い出そうとする。

 

(どこかで聞いた覚えが……いや、見ただったかな?……ダメだ思い出せん)

「さて、皆さんへのご挨拶も済んだし、料理が冷めるから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かァア!!おっぱいがデカい【聖女】がどこに行ったか知りませんカ!?」

 

酒場の外からバカデカい声で叫ぶバカの声が聞こえた瞬間シュガーの表情は死んだ。

 

「たっく、うるせーな。酔っ払いか?」

「騒がしい酒場よりうるさい声が外からするとは相当ですね」

「ああ、相当酔っ払ってるから、相当のバカだな」

「せっかくいい感じなのに、白けるぜ」

「……ソーデスネ」

 

男達は外で大きな声で叫ぶ人物に小言を漏らし、シュガーは頬を引き攣りながら片言で同意する。

 

「オイ!!そこのいかがわしいお店で遊んでそうなオッサン共!!爆乳の【聖女】と遊べる店知らねーカ!?」

「そんな大それた店この世にねーよ!!死んで別世界行って来い!!そしてどの辺がそう見えたのか詳しく教えろ、直すから!!」

「バカデカい声出しバカみたいな内容をバカみたいに叫ぶなバカ共!!そしていかがわしいお店によく通ってんのはこの愚弟だけだボケェ!!俺は1週間に1度ぐらいだ!!」

 

少女と思われる声と男性2人の声が聞こえてくる。

内容は大変バカらし過ぎて酒場にいる人間全員が白けた顔でお互いの目を見あっている。

 

「……あのバカ騒ぎしている兄の方もしっかり通ってんじゃねーか」

「取り敢えず週1で通うのは少ないか多いかについて」

「いや、週1も多い方だろ……」

「つまり弟は週1以上いかがわしいお店に行ってるってことで、あながちあのバカな少女の目はバカにできないな……いや、バカなんだけどさ」

「…………ホントにバカ」

 

シュガーは恥ずかしくなったのか俯き始め、他の人に顔を見られない様にする。

 

「誰がバカダ!!」

「グヴァア!?」

「あ、兄者ァァアア!?」

 

バゴン!!

ヒューンドーン!!

ガラガラガラ!!

 

何か重い音が響いた後にもう一度大きな音がして、何かが崩れる音が聞こえる。

 

「ウワァァアアア!!週1でいかがわしいお店に通っているオッサンがぁぁああ!!」

「オイ!!誰か憲兵呼んで来いよ!!」

 

先程の3人とは別の叫び声が聞こえる……丁度現場に居合わせた通行人だろう。

 

「……え?今の音何?」

「状況的にあのバカ女が週1でいかがわしいお店に通ってるオッサンを吹っ飛ばした音じゃね?」

「人間殴った時にこんな音出ないよ……ていうか殴った時の音が1番大きくね?」

「これ本当に人間が殴ったのか?バカなメスゴリラが殴ったんじゃ無いのか?」

「………早く終わって」

 

外から聞こえてくる音や声に戦慄する一同。

シュガーだけは歯を食いしばり、この時間が早く過ぎれば良いと願う。

 

「オイ!!週1以上でいかがわしい店に通っている弟の方!!金髪碧眼でおっぱいのデカい修道服を着たおっぱい聖女をワタシは探してんだよ!?」

「ぐるじぃ……首絞めないで……」

 

外ではバカなメスゴリラが弟の方の首を絞めながら探し人の特徴を言うが、首を絞められている張本人は答えるどころでは無い問題が発生しているので答えられない。

 

「……ちょうどここに」

「……金髪で」

「……碧眼で」

「……おっぱいの大きい少女がいますね」

「…………」

 

修道服こそ見えないが、大体の特徴に一致する少女シュガー。

多分マントの下に着ているだろうと思われる

シュガーは完全に俯いた。

耳まで真っ赤にしているので顔の方も可愛くリンゴのような赤に染まっていることだろう。

 

「質問に答えロ!!そんなおっぱい【聖女】がソ○プで働いてたら大変だろうガ!!もし本当にソ○プで働いてたら……ワタシが通うワ!!オールタイムで予約入れて男どもに触らせないようにするゾ!!」

「いや、そこは連れ出して助けろよ……」

「うるさイ!!」

「ぎィやァァアア!?」

 

ヴゥンヴゥンヴゥン

 

何かをふり回す音が聞こえ始めた。

 

「弟者が……弟者がァア!!」

「総員退避ィイイ!!どこに飛んでくるかわからないぞ!!」

 

店の外から、バカな少女でも週2回以上いかがわしいお店に通っている男の声でもない声が聞こえる。

 

「……これって人間を振り回している音?」

「……おい、お前、外見てこいよ」

「嫌だよ、絶対恐ろしい光景を目撃するだけじゃん」

「君の連れとても強いんだね……」

「………」

 

外ではどの様なバケモノが暴れているのか想像がつかない……

そんな中で、バケモノに襲われているいかがわしいお店によく通っているオッサンがまだまだ余裕を感じる声で言う。

 

「ふ、不覚を取ったがこの程度で俺の『体力』を消耗し切る事は……」

 

スポッ

 

「……あ」

 

ビューン

 

風を切り裂くすごい音が酒場の中にも響き……

 

ドーン

 

何かに激突する音が聞こえた。

 

「すっぽ抜けタ」

「「「お、弟者ぁああ!!」」」

 

どうやらいかがわしい店に週1以上に通ってるオッサンがぶん投げられたらしい。

そして、現場に居合わせたと思われる人たちの叫び声が聞こえる。

 

「これ通行人が叫んでんのか!?」

「あの週1でいかがわしい店に通ってる奴の弟だけどお前らの弟ではないだろーが!!」

 

酒場で声を聞くしか無い一同は見えないこともあって混沌としている現場とは違い、冷静なツッコミを入れる。

 

「クソッ!!こうなったら全てのいかがわしいお店を虱潰しに突撃するしかないのカ!?」

「おいバカやめろ!!」

「多分そんな場所にいないから!!そんな大それた事を誰もやらないから!!だから金髪おっぱい【聖女】のことはもっとまともな場所探せよ!!」

 

おっぱいおっぱい言われ続けたシュガーはついに耐えきれなくなり……

 

「おっぱいおっぱい言うな!!デカくなりたくってデカくなった訳じゃないよ!!」

「おいぃい!!今は君黙ってて!!色々と!!お願いだから!!」

「ほらおっぱいの小さい給仕係に睨まれるかr……」

「お客様ーお水を寸胴でお持ちしましたー」

 

ゴン!!

 

「ではごゆっくり~」

 

カツカツカツ

ビクゥンビクゥン!!

 

給仕係は去っていき、失言をした部下の一人……左腕がない男が水の入った寸胴で殴られて床に痙攣しながら倒れる。

 

「「「………」」」

「自業自得」

 

その水が入っている寸胴を()()で持ち上げながら脇に除ける少女。

人間を振り回すバケモノと知り合いなだけはあるらしい。

 

「ハッ!しまっタ!!そういったお店があるということは知っているがどこにあるのかなんて知らなという事実に気付いてしまっタ!!」

「よし、いいぞ!!そのまま落ち着いて一生黙ってろ!!」

「クッソ!!これじゃ大切な幼馴染を探せないじゃないカ……」

「大切な幼馴染ならおっぱい【聖女】とか呼んでやるなよ!!」

 

心の底から絞り出したかの様な声で言うバカな少女。

まるで自分は大切な者も守れない弱い存在だと自虐する様である。

 

「……いヤ!確かにワタシはこの街のいかがわしいお店を知らない……しかし、弟者!!この街でお前以上に詳しい人間はいないはずダ!!」

「………」チーン

「確かに週1以上通ってるならその通りだが今はダメー!!」

「俺たちの弟者が死んじゃう!!」

「早く病院へ……いや死体留置所か?」

「カフッ……任せくれ……ハァハァ、この街全ての店舗は把握している」

「息吹き返したー!!」

「流石、弟者だぜぇ!!」

「まずはこのまま、まっすぐ行って繁華街より離れた所にある店だ。この前やっとポイントが溜まって割引サービスされるんだ」

「よし、分かっタ。このまま真っ直ぐだナ!!」

「それ、ただお前が行きたいだけだろうがぁあ!!」

「体のいい運搬係にしてるぞ弟者!!逞しいな!!」

「今行くぞ、シュガアアァァァ………」

「ちょっ、お前は気付けぇええ!!」

 

そのバカなメスゴリラはドップラー効果を残し弟者を連れて去っていった。

あまりの展開の早さに酒場にいる者たちではツッコミができなかった。

 

「「「「………」」」」

「……」

 

顔を伏せたシュガーという少女。

男たちはそんな少女の事をジト目で見つめているとシュガーはゆっくりと顔を上げ始めた。

その顔には微笑みがあった。

天使のような笑みで彼女は言った。

 

「あーやっとうるさい『知らない』人がどこかにいきましたね。折角の料理が冷めちゃいますんで早く食べましょうよー」

「「「笑って誤魔化そうとするな!!」」」

 

 

シュガーナ・マーラ・マーニ

現在【協会】が保有する戦力で最大の戦果を挙げるコンビの片割れ。

後にこの世界を終わらせる存在になるとはまだ誰も知らなかった。




実際の所、週1でいかがわしいお店に通うのは多いのだろうか……
あまりそういったお店に行かないから作者良く分からない

次の話も金髪聖女のシュガー

まだ話の流れでは書いてませんがこの少女が『愛を消費して奇跡を起こす』能力の持ち主。

何故、今回の話はシュガーと言う少女視点で書かなかったについては、作者がコメディみたいな感じで描きたかったのと愛を消費した人間の心理描写……つまり、特定の愛がない人物の考えていることは表現が難しいと判断したため。

プロローグにも書きましたが、この世界は願いの代償に大事な物を消費する世界です。
シュガーと幼馴染の少女もその例に漏れず、登場するまでの間に奇跡を願い代償を払っています。


次の話ではシュガーの消費した物についてとこの世界の『法則』や普通の人たちは何を考えているのかなついての説明回になります。

因みに主人公や登場人物達の名前は各神話や宗教の登場する神様や天使、悪魔の名前を参考に付けています


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4話:いや、いつもはもっとちゃんとしているよ?だけど予想外の事が重なって正常な判断ができなかったんだ。信じろ。

書こうと書こうと思ってたらいつの間にか4ヶ月が過ぎていた……
これが小説を書くという方なのか?

まあ、やばいと思ったのが今年の5月末で、そこから設定やストーリーの見直しや設定の追加などで半月、ダクソの誓約マラソンで半月、テリワンレトロに再びハマって更に半月……ほほ自業自得ですね。

今後は定期的に投稿できるように頑張ります


これは夢だ。

 

「……やめろ」

 

いつも見る夢。

 

「……やめろよ」

 

自分の罪と後悔が見せる実際に起こった過去の出来事だ。

 

「やめろ!!こっちに来い!!」

 

山に遊びに行こうなんて言わなければ良かった。

今日、山に遊びに来なければ、熊に襲われずに済んだのに。

俺は熊に左腕をズタズタにされ、痛みに震えることなんてせずに済んだのに。

一緒についてきた幼馴染の少女は熊に殴り飛ばされて全身血まみれにならずに済んだのに。

 

「こっちに来いって言ってんだよ!!」

 

熊はこちらを見向きもしない。

小便チビらせて、歯をガタガタ言わせて怖がっている俺の事は『脅威』としてみていない。

そんな『無力』なガキより、俺より重症な幼馴染の方に行く。

『食事』を優先して、幼馴染の方に行ってしまう。

 

 

 

 

今、俺が無力だから『彼女』も死ぬし俺も死ぬ。

嫌だ……そんな終わり方は嫌だ。

俺はどうなったていい、だけど彼女だけは助けたい。

何を犠牲にしたっていいです。

どんな力でも構わない

 

 

≪その願い、叶えてやる≫

 

ふと、声が聞こえた気がする。

 

≪しかし、貴様には【資格】がない≫

 

その声が何を言っているのか分からない。

 

≪故に、その【代償】は身体で支払ってもらう≫

 

男の声なのか女の声なのか。

 

≪腕か?足か?目か?それとも臓器か?≫

 

若いのか老いているのかも分からなかった。

 

≪まぁ、俺には【資格】を持たない奴なんてどうでも良い≫

 

だけど、その声は。

 

≪しかし、願うのが少し遅かったな?≫

 

とてもムカつくことを言っていた気がする。

 

 

***

 

 

砂漠都市オービヤ

 

とある宿の一室

 

 

「うぅ~、頭痛ぇ……」

 

俺の名前はテル。

身長は174cm、髪の色は栗色で髪型はロングヘヤー。

筋肉で引き締まったボディが自慢のナイスガイだが、本日は寝起きから調子が悪い。

まずは悪夢を見たことから始まり、次に頭痛を感じる。

その痛みはまるで頭を鈍器で殴られたかの様にズキンズキンと痛む。

昨日はどうやら飲みすぎたようで、昨日の記憶が曖昧だ。

確か金髪でおっぱいの大きい少女が俺たちの宴に何故か参加していて、何だかんだで一緒に飲み食いをしていた事はまでは覚えているのだが……断片的に覚えているのは……バカみたいな大きなバカの声……ちっぱい……寸胴鍋……だめだ、これ以上思いだせない。

思いだそうとすると頭痛が大きくなる……

 

「あ、起きましたか。もうお昼になりますよ?はい、これお水です」

「あぁ、ありがとう」

 

ベットに寝ていた身体を起こしたら隣にベットに座っていた金髪でおっぱいの大きい青い修道服を着た少女から水の入った『水滴の付いている』コップを手渡される。

取り合えずこの『キンキンに冷えた水』を飲み、今日は休みなのでどのように過ごすか考え……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……って、アレ?

 

 

 

 

「……」

「……ん?どうかしましたか?」

 

ジーっと、その少女の服装を見る。

青い修道服……それは、この世界最大の勢力【教会】の【聖女】である証。

俺らみたいな『奴隷商』のような卑しい奴とは関わりはない存在、なのだが……

 

「……なんでお前ここにいるの!?」

「?」

 

コテンと可愛く首傾げてんじゃねーよ。

 

 

***

 

 

【教会】

【聖人】や【聖女】を世に出し、人間が生きずらい世界で俺たちが最低限生きていられるようにしてくれている。

この世界の人間は【教会】の協力なしでは生きられない。

故に、この世界にいる人間は【教会】には『絶対』に逆らう人間はいない。

【奇跡】を起こす【聖人】や【聖女】の育成を行い、世に出し、世界に安定をもたらすのが最大の役目。

 

 

……なのだが。

 

 

「何でお前は俺たちと一緒にいるんだ?」

「それは……色々あって」

 

先日、奴隷商を営んでいる俺たち男4人はこの少し良い宿に泊まった。

部屋が2人部屋が2つしか空いていなかったから、俺たちはその2つの部屋を借りてから酒場に向かった。

部屋にはベット2つ、ソファー1つと結構広く、ソファーで寝れば1つの部屋で大人3人は寝れるようになっている。

俺が酔い潰れている(?)間に何かがあって、現在この少女が急遽、俺たち4人と一緒に行動するようになって発生した寝床問題は、他の3人は少女と俺を一緒の部屋にさせ、自分たちは男3人で一緒の部屋になったんだろう。

そして、誰がソファーで寝るか争って、何やかんやあって親分がソファーで寝たのだろう。

間違いない。

うん、床でも良かったから俺も同じ部屋が良かったなかな?

 

現在、俺たちはお互いのベットに座って向かい合っている。

出口側のベットに少女、窓側のベットに俺が座っている。

俺は昨日の服装のまま、白いチュニックに細いベルトに灰色のズボン。

少女は青い修道服で、ベットの端には茶色のコルセットベルトと荷物が入るであろう皮製のバック、あと折り畳まれている白い布(多分マントだろう)が置いてある。

あのコルセットベルトをこの少女がつけたら素晴らしいモノ(おっぱい)がより強調される(素晴らしくなる)ことだろう。

 

「理由になってないぞ?」

「それよりお仲間から手紙を預かっていますので、こちらを参考にしたほうがよろしいかもしれません」

 

誤魔化すように少女が手紙を近くのテーブルから取り、一度断ってから『左腕』の無い俺のために、手紙を開封した状態にして手渡してくる。

少女から渡された手紙を受け取り、何が書いてあるのかを確認する。

 

〈その【聖女】の面倒を見といて。これ親分命令な。守れなかったら減給〉

〈酔いつぶれたあなたを宿まで運んだんですから、彼女のお守りで貸し借りが無くなると思ってください〉

〈間違っても襲うなよ『おっぱい星人』?『色々』と危険だから……〉

 

「………スー、ハー」

 

手紙の内容が『良く』理解できたので深呼吸をして、口を大きく開く。

 

「あのクソ野郎共が!!」

 

仲間たちからの手紙(ゴミ)を握りつぶして叫ぶ。

厄介事を俺に押し付けてどっか行きやがった!!

そして誰が『おっぱい星人』だボケェ!!

いや、確かにおっぱいは好きだけど!!

仮にこの手紙が見られていたら俺の心証最悪だったんですけど!?

この【聖女】なら手紙を勝手に見ることは無いとは思うけど、俺が『左腕』無いこと忘れてない!?

善意で手紙を開封してから渡してくるかもしれないだろうが!!

実際そうだったし!!

そして、結局この娘と一緒にいる理由が一切分からないんだけど!?

荒む心を落ち着かせて、少女に向き直る。

 

「あー、何点か確認したいんだが……えーと」

 

酒場で自己紹介されたが、なんて名前だっけ?

何で俺はこんなにも昨日のことを覚えていないんだ?

そして、俺は何でこんなに頭が外からも中からも痛むんだ?

少女は俺が名前を聞こうとしている、あるいは忘れたことを察して再度自己紹介をしてくれる。

 

「シュガーです」

「悪いな。俺の名前はサヴィだ」

「はい、サヴィさんですね。見ての通り、私は【教会】所属です。任務の帰りでこちらの都市に立ち寄ったのですが、【聖都】から【砂漠都市】の間でC級の危険生物が大繁殖していて、その区間立ち入り禁止になって移動が出来なんですよ。それで、この都市に暫く滞在することになりました」

「そうか、よくわかった」

 

危険生物が大繁殖していることは知っている。昨日飲みに行く前の親分の話では、討伐隊の数が足りないので民間からも募るようになり、報酬が出るはずだから俺にも参加しろとか言っていたな?

『雑魚』のC級なので俺なら余裕とか言っていたが、その『雑魚』が大繁殖しているので、実際の脅威度はB級の上位、もしくはAの下位とか鼻がないうちの会計担当が言ってた。

確かにそんな状況なら安全が確保されるまで道が封鎖されるから言っていることに違和感はない。

……しかし、だ。

 

「それで?結局何で俺たちと一緒にいるの?【聖女】なら護衛の【騎士】が一緒のはずだろう?」

 

目に見える『欠損』がないので、この【聖女】は『教会の戦力』でもあるが、それ以上に重要人物である存在なので、単独行動は流石にありえない。単独行動が許されているのは【片翼の聖女】のみで、その他は必ず複数人での行動で、最低でも2人コンビでの行動になるはず。

シュガーが【片翼の聖女】であれば何もおかしくは無いが、残念ながら別人だ。

【片翼の聖女】とは一度戦ったことがあるから姿は分かっている。

……いやー凄かったね【片翼の聖女】。

流石は『教会の最高戦力』。

思い出したら怖くて眠れなくなるのでこれ以上考えないようにする。

……反則だろあのスピード。

 

「……実はやむを得ない事情で【騎士】のレーナとは分かれているんですよ」

「へー、やむを得ない事情ねー」

 

目を逸らすなこっちを見ろ。

目を逸らしても目が泳いでるのは分かるんだよ。

まあ、この場で嘘を暴いたとしてもどうせ一緒に行動することになっているで時間の無駄だし、何か理由があって分かれているのは本当らしい。

そしてそんな嘘を追求して時間を浪費するよりも重要な事がある。

 

それは……俺は今とても腹が減っているという事だ。

朝食わないでずっと寝ていたらしいので相応に空腹を感じている。

 

「とりあえず昼飯を食いに出かけよう。この宿は朝飯はでるが、昼飯と夜飯はでないから外で食べてくるしかない」

「わかりました。あなたのマントは私のすぐ後ろにあるので取りますね」

「いや、取らなくていい」

 

砂漠の街なので、日差しが強く日焼け防止のマントの装備が必須になる。

現在俺はベッドに座っていて、マントを掛けてある出口付近の壁とは2mほど離れている。

彼女の言う通り、彼女のすぐ後ろにあり普通なら彼女に取ってもらって受け渡された方が良いだろう。

『普通』ならな。

 

「その距離なら『取れる』」

 

俺はマントをとるために、肘から上の無い左腕を日焼け防止用のマントに向けて……【光る腕】を発生させる。

【光る腕】はその名前の通り『光る左腕のことだ。俺が【奇跡】を望む事で得た能力。その腕は太陽のような炎のようなオレンジの発光体で構成されている。太陽のようなと表現したがそこまでの光はなく、蝋燭の火程度の光なので日中はそんなに目立たない(発光しているので夜ならとても目立つ)。

【光る腕】を伸ばしてマントを取り【光る腕】を元の長さに戻して、マントを肩にかけ【光る腕】を消す。

『光る腕』は消える際にキラキラと散るように消える。

……フッ、決まった。

フフン、カッコいいだろう?

惚れても良いんだぜ聖女様?

 

「よし、準備できたから行くぞ」

「……」

「ん?どうした」

「そういえば、昨日からあなたは服装も身体もそのままでしたので流石に色々準備して欲しいのですが……」

「……」

 

この少女には部屋の中にいてもらい、外で体を洗ったり着替えたりで10分ほど待ってもらった。

……締まらないなぁ。

 




前回、世界の『法則』などを説明すると記載しましたが、あれは嘘です。

よくよく考えたら金髪聖女のシュガーメインの回に必ず2人登場させなくてはいけないことに遅れながらにも気づきました。
もっと多く書けば良いけど、隻腕男テルの締まらない落ちで話を締めたいのでシュガーの話はここまで。

シュガーメインと書いておきながら殆ど男のことしか分からない点はご容赦下さい。

次回はいかがわしいお店に突撃をしたレーナの話になります。

こちらは今月中に投稿出来たら良いなぁ。

2022/7/31
登場人物の名前を変更
テル→サヴィ


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5話:『硬さ』×『速さ』×『力』=『破壊力』!!

小説を書き始めて思ったことがあります。

小説を書くというモチベーションの維持というか、
小説を書き続けることがどんなに困難か分かりました。


前に投降した話から約1年も間が空くとは思いませんでした。

私自身があまり、同じことを長く続けることが苦手なので、
物書きを職業としている方や、他のネット小説作家の凄さがわかりました。

そんなこんなで6話です。


追伸
ウィスキーからウォッカに飲むものが変わりました。


【砂漠都市】と【聖都】を繋ぐ道(※現在立入禁止区画)から少し離れた砂の山の上

 

 

 

「うじゃうじゃいやがるナ」

 

ワタシたちが道として利用している道から約2㎞先の地点に黒い何かが大量に蠢いている。

黒い何かの中心にある物を群れで食い合っているのか、1匹も止まる気配がない。

蠢く何かは遠くから見れば細い紐のような姿で、先端には目や鼻に当たる部位がなく、牙の生えた口が見える。

C級危険生物【サンドワーム】。

まあ、『通常』なら大体3~4mぐらいの大きさのバカデカい肉食ミミズのことだな。

目がないので、獲物を音や振動で探知して襲い掛かってくる。

砂漠に生息しており、毎年ラクダや行商人などに被害が出ているが、肉が柔らかく比較的弱い部類なので『ある程度強ければ』退治でき、その肉に毒はないので食べることも出来る。

この世界では貴重なタンパク源でサンドワームの肉は討伐時には大きすぎるので短く細く切られ揚げて食べるのが一般的だ。

 

「あの形状、サンドワームで間違いないナ。この場所から約2㎞の地点だナ。なあ、あの気持ちの悪い黒い塊が見えるカ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弟者」

「ああ、問題無い。アレが見えなかったら医者に目を診てもらうべきだ」

 

 

 

***

 

 

護衛対象であるシュガーと別れてしまったのが、2日前。

2日間シュガーがいかがわしい店にいないか探していたが、シュガーのシの字も見つからなかった。

いくら探しても見つからないストレスからワタシは、『もしかしたら【聖女】という立場から危険生物の討伐に行っているかもしれない』と『理由』を付けて危険生物の討伐の為、ワタシたちは今、【砂漠都市】を離れ、砂漠に出没するという危険生物を狩りに来ている。

弟者はついでに連れてきた。

 

ちなみに分かりきっていたことだが、危険生物が出没するという場所にシュガーはいなかった。

あいつの【奇跡】も『魔法』も派手だから近づけば分かる。

 

「しかし、ワタシは鍛えてるし任務で長時間活動することが多いから徹夜での強行軍とか慣れているが弟者はそこの所大丈夫なのカ?」

「大丈夫だ。安心してくれ。私も『体力』には自身がある方なんだ」

 

ほぉ……訓練をしているワタシと同じペースで移動していたから相当な体力を持っているとは思ったが、自信満々に言うということは何かあるな?

連れてきたのはワタシだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

「何たって私が【奇跡】で望んだのは『体力』なのだから。ちなみに【代償】は『ある事が我慢できなくなる』だ」

「ああ、うん、何を理由に【奇跡】を望んだのかは言わなくて良いからナ?」

 

何について我慢ができないのかも言わなくて良いからな?

その代償が原因でいやらしいお店に週2回は通ってるのな?

しかし、人の願った物に対して言うのも何だが、本当に下らない【奇跡】の使い方してるな。

 

……よくよく考えてみると、コイツ『肉体』が【代償】じゃ無かったってことか。

【代償】で持っていかれるものの基準は依然として分からないな。

まぁ、『体力』があるって本人が言っているし、多少雑に扱っても問題ないだろう。

 

「ただ1つ気になるのだが……」

「ア?何だヨ?」

「レーナ君、君の話しではここから大体2㎞の地点にサンドワームがいるんだね?」

「何度も言わせるなヨ。まだワタシは若いがこれでも経験豊富ダ。あの距離なら間違いなく2~3㎞だヨ」

「ただの確認だよ。私も多分それぐらいの距離にサンドワームがいるだろうということは先ほども言ったが見えている」

 

デカイミミズ同士が絡み合ってる姿がこの距離からでもよく見える。

あまり長く見たくは無い光景だな。

 

「それでは何でそんな離れた距離のサンドワームが蠢いている姿が一匹一匹肉眼で目視出来るんだい?全長3~4mでその距離ならここまで詳細に見えるはずがないんだけど?」

「それはそれだけサンドワームが巨大化してるからに決まってるだロ」

 

1匹あたり大体20mはあるか?

4mでも十分人を丸呑み出来る大きさだが、今回の大きさは荷馬車を馬と荷台ごと丸呑み出来る大きさだな。

初めて見た。

サンドワームは大きさに比例して表皮は硬くなり倒し辛くなるからあの大きさなら危険度Cを通り越して危険度Aぐらいにはなる。

これは【砂漠都市】は、【聖都】に協力を要請しなくちゃダメだな。

【砂漠都市】の戦力だけでなく、【砂漠都市】に駐在している【教会(ウチ)】の戦力でも力不足だろうな。

肉食ミミズどものエサになるだけだ。

 

「……」

 

因みに、他の都市などの危険生物の被害状況は【森林地域】>【砂漠都市】>>【火山都市】>【凍結都市】>>>>>【聖都】となっている。

主に生物の住みやすさで被害状況に差が出ているらしい。

 

まあ、一番生物的に住みやすいのは【聖都周辺】だけどな。

植物の緑もあって、水もあるし。

だけど、【聖都】周辺は『シスコンの姐さん』が頑張ったおかげで他の被害地域に比べてあり得ないほど被害が少ない。

おかげでワタシ達は『任務の調査のついでにその周辺の危険生物の討伐』とかをやらされたりもする。

この『その周辺の危険生物の討伐』の命令もすごいアバウトで、その危険生物を見つけたら、もしくは存在したという痕跡を確認できたら調査して討伐だから、確実に存在している目標の討伐ではない。

 

何が言いたいか?

調査任務は基本的に暇。

 

「それにしても、君はいいのかい?」

「ン?何がダ?」

 

はっきり言え。

ワタシは今、ストレスで限界なんだ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「君の幼馴染のシュガー君の捜索を打ち切って危険生物討伐(こんなこと)をしていて良かったのかい?」

「……アー、そのことカー」

 

前髪を持ち上げながら頭をガリガリと搔く。

 

「昨日一昨日で【砂漠都市】全ての如何わしいお店を調べた結果、シュガーはいなかっタ……」

「うんうん」

 

そう、なんとか昨日一昨日徹夜で【砂漠都市】全ての如何わしいお店を調べることができたが、あのクソおっぱい聖女のシュガーを見つけることはできなかった。

そういえば【教会(ウチ)】の【砂漠都市】支部の奴らが、ワタシに向けて何か『…ガー様が悪い男に~』とか訳の分からない叫んでいたような気がするが、多分気のせいだろう。

 

「探しても探しても見つからない……そして、最後のお店を出てワタシは考えに考えて一つの結論に至っタ」

「最後の店を出てから5秒もしないうちに『ヨシ!危険生物狩りに行くゾ!』ってなったと俺は記憶しているんだけど」

「シュガーが見つからないのなら、もう放っておいて自由に動いた方が合理的だと思わないカ?どうせあの街から出ていないシュガーなら特に命に別状は無いはずだシ。もう【教会(ウチ)】の団長にはシュガーと別行動を取った時点で怒られるの確定だシ。それなら、無駄に時間使うより一般市民の為になるような事やった方が褒めてくれるシ。それに今【砂漠都市】にいる奴らでこの件対応できるのワタシかシュガーの2人だけだシ。つーかもう、シュガー探すの飽きた地図と睨めっこしたくない考えたくない身体動かしたい暴れたイ

「ああ、うん、最後に本音出したね?」

 

それ(本音)以外に理由が必要か?

まぁ、いい。

ワタシもそろそろ我慢の限界だし、さっさと討伐しに行くか。

 

「そんなことより、なあ、弟者。何でワタシ達が【教会】で一番危険生物の討伐数が多いのか教えてやるヨ」

 

今は一人だけだけど、と口に出さないで立ち上がり、マントに付いた砂を払い、目を瞑り意識を集中させる。

 

自分の中にある『何か』から力の結晶や塊といったものを汲み上げるようなイメージをする。

 

〔私の望みに必要ならば〕

〔天に吠え、地を駆けよう〕

〔私にも力があるのだから、置いていかないで〕

 

両の手を握り締めて、『力』を込めると……ワタシの両腕は『黒い籠手』に包まれた。

光沢のある黒を基本に鈍い銀で縁取られた装飾の無い無骨な【籠手】。

この『黒い籠手』がワタシの【奇跡】。

 

「それがレーナ君の【奇跡】……」

「そう、これが私の【奇跡】ダ。私の『拳』に砕けないものは無イ。さっさとあのミミズどもをぶち殺してくるゼ。流石にA級相手だと弟者も危ないだろうからナ。ここで大人しく待ってナ」

 

そう言ってレーナは、体を屈めて足元に『魔法』を発動させるための準備をする。

 

***

 

『魔法』は『教会』で教育を受け、訓練しないと使えない。

『魔法』を使うのには自分の『力』……ほかの奴らは『魔力』とか言っているが、この『魔力』に自分の『魔法属性』を加えて、自分のやりたいことをイメージする。

『魔法属性』の種類と、イメージした内容、あとは力を注いだ量によって魔法の効果や威力が決まる。

『魔法』を教えてくれた先生が言うには、『魔法』は才能がある者にしか行使できない、『魔法属性』は『魂』の奥底にある自分の色を見つけることが必要、この『魔法属性』は先天的なもので自分たちのような人間には選ぶことができない、『神様』から頂いた才能……とか言っていたが、私にはよくわからない。

私は、使えるから使っている。

それに『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と思う。

 

話が逸れたな……その中でも『合成魔法』は複数の『属性』の『魔法』を組む合わせる『魔法』で、通常の『魔法』よりも難易度が高い。

そもそも複数の『属性』を持つことが稀であるとのことだ。

 

「『(サラマンドラ)』……『(シルフィード)』」

 

ワタシはその難易度の高い『合成魔法』を使うことができる。

合成させる『属性』にはそれぞれ相性があり、相性の良いもの同士を掛け合わせると使える【魔法】の力が増えるというものだ。

例えば、火:1と風:1という力の具合で【魔法】を合成させた力が5になり、本来2つ分のはずの力を5つ分の力として【魔法】使えるようになる。

その5つ分の力を火:2と風:3という力の配分の組み合わせにして風に熱を加えた【熱風魔法】をとしたり、火:4と風:1の組み合わせで炎の力の方向を風で調整した【爆発魔法】など。

説明自体は簡単だが、この配分の調整が難しいし手間だ。

一度【魔法】として使う力同士を合成させて、できたエネルギーを一定の時間内に新しい魔法に組みなおす必要がある。

つまり、短い時間の内に実質3つの魔法を行使している。

だから、私たちは各種【合成魔法】を必要に応じて使えるようによく練習して慣れておく必要があると教えられたが……私は実質1種類しか使っていない。

 

「『爆発(ぶっ飛ばせ)』」

 

***

 

「『爆発(ぶっ飛ばせ)』」

 

ボン!

 

「ちょっ、おま……」

 

レーナ君は今組み合わせたであろう『魔法』を足元で爆発させてサンドワームの群れに一直線に向かった……と思う。

断定しないのは、爆発の影響で、大量の砂が舞って周りが見えなくなっているためだ。

 

「ゲホッゲホッ、あの(アマ)……」

 

砂煙が晴れた時には、あの女レーナ君の姿が小さく見えるほどに遠くに移動したようだった。

……レーナ君が【教会】に所属していると言っていたことについては、ここ数日一緒に過ごした言動から半信半疑だったが、いきなり『足元を爆発』させていたことから【魔法】を使っていることは間違いない。

 

それにしても【魔法】か……。

初めて目にしたよ。

穢れのなかった小さい頃は、昔話や『勇者様のお話』で読んで【魔法】には憧れたものだ……。

 

ボン!

 

また『爆発』の音がした。

ふむふむ、見たところ攻撃する前の姿勢制御と、突入速度を出すために空中で、また『足元を爆発』させたようだ。

 

なるほど、ふむふむふむ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……うん?

普通、火の玉や風の刃を相手に飛ばすのが【魔法】じゃなかったっけ?

あの【魔法】……『足元を爆発』させているから、あれではほぼ自爆なのでは?

あと2㎞先の出来事なのでよく見えないが、レーナ君近づきすぎではないだろうか?

【魔法】で遠くから攻撃はしないのか?

 

 

ボン!

 

そんなことを思っていると、たぶん、レーナ君の肘の辺りが『爆発』して……

『爆発』で加速した拳の一撃が、サンドワームの内の一体の頭に拳が当たり、サンドアームの頭が破裂した。

 

「えぇ……」

 

【魔法】で遠距離から攻撃しないんだなと思うより、文字通り拳で巨大な生物の頭を吹き飛ばしたことについて反応に困っている。

はっきり言って、ドン引きしている。

 

 

「ハッハー!!見たか弟者!!まだまだ行k……」

 

2㎞離れた位置からでも聞こえるバカでかい声で、こちらに言葉を伝えていたレーナ君は……

 

 

「……ア」

 

パクリ

 

近くにいたもう一体のサンドワームに喰われた。

 

 

 

 

「……」

 

あまりの衝撃的な出来事に俺はサンドワームがレーナを飲み込んで、ゲップをするところまで見終わるまで止まっていた。

 

「ちょっとぉお!?意気揚々と出て行って1匹だけ頭をザクロにしただけで食われたんだけどあの女!?何が『ワタシ達が【教会】で一番の~』だ!?かっこ悪いにもほどがあるだろうが!!」

 

しかし、俺がこんなところで叫んだところで状況は変わらない。

俺はサンドワームの群れから背を向けて来た道に戻る。

 

「……砂漠都市に戻って巨大化したサンドワームのことを報告s」

 

ボォオン!!

 

来た道を戻ろっていたところ、サンドワームの群れがいた方向から爆音が聞こえた。

 

 

***

 

よくワタシの『魔法』の使い方はおかしいと言われるが、アレやコレや考えるより殴った方が早いだろ?

『拳』の速度が上がるという事は、対象に攻撃が届く時間が短くなるという事だろ?

速くなれば速くなるほど『拳』の威力が強くなるだろ?

結局戦いとは、どれだけ相手にダメージを与え、どれだけ早く倒すかだろう?

早く倒す為に何をするべきか?

威力を出す為にどうするべきか?

ワタシから言わせれば、みんなは難しく考えすぎている。

 

ワタシの『奇跡』は『籠手』。

必然的に武器は己の『拳』。

ならば『殴る』しか無いだろう?

うだうだ考える前に殴れば、早く問題は解決する。

 

約3年前、ワタシはワタシなりにワタシの持論をみんなに説明しても、みんなワタシに反論する。

反論しなかったのはシュガーと姐さん、団長だけだ。

どう考えても『拳』と『爆発魔法』の一撃より『爆弾魔法』*1の方が威力が高くて、わざわざ自爆のようなことをしなくていい?

そもそも『拳』と『腕』が、『魔法』の威力に耐えれる訳がない?

そう言われた後にワタシは反論したみんなを修練場に連れ出して一緒に訓練したらその後から、みんな反論しなくなった。

 

 

どうしてみんなが反論しなくなったのかって?

 

それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この『拳』と『爆発魔法』で、そのみんなの言う『爆弾魔法』より強力な破壊力を出してやった!!

『硬さ』×『速さ』×『力』=『破壊力』!!

何よりも硬いワタシの『籠手』付きの『拳』をめちゃくちゃ速く動かし、さらに力を込めて凄い破壊力がある攻撃に、『爆発魔法』の爆発の勢いを利用すればさらに強くなるに決まってるだろ!!

証明終了!!

 

 

その証明の代償でワタシは修練場の中心には大穴を空け、怪我人を多数出した責任を取って2週間の謹慎と向こう3年の減給。

あと数ヶ月は減給が続く。

長かった、もう少しだ。

 

 

しかし、ちょっと力を入れ過ぎてまさか修練場ごと吹っ飛ぶとは思わなかった。

予想外の威力は出ちゃったけど、それにしてもみんなはちゃんと防御しておけよ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

まあ、ワタシの理論が正しいことが証明されて気持ちよかった。

 

これからも私は、どんな化け物でも、どんな相手でも、『ぶっ飛ばしてやる、消し飛ばしてやる』。

 

***

 

爆音に驚いて急いで先ほどの位置に戻ったら、連続した爆発と爆発のたびに『爆ぜる』サンドワームの姿が見えた。

 

 

「『爆発(ぶっ飛ばせ)!』」

 

 

『ぶっ飛ばせ』の言葉が出るたびに、レーナ君の身体が加速して拳がサンドワームの身体に突き刺さり、サンドワームが破裂する。

 

 

「『爆発(消し飛べ)!!』」

 

 

『消し飛べ』の言葉が出るたびに、レーナ君の身体を中心とした大爆発が起こり、数体のサンドワームが文字通り『消し飛ぶ』。

多分、先ほど食われた時も、この『消し飛べ』という『爆発魔法』で脱出したようだ。

 

「『爆発(ぶっ飛ばせ)爆発(ぶっ飛ばせ)爆発(消し飛べ)!!』」

 

砂の中に隠れたサンドワームは、砂の中に突撃してからまた自身を爆発させている。

拳を突き出した体勢で、レーナ君自身が爆発したようなので、拳を突き刺して拳から爆発させるこも可能らしい。

 

 

「ハッハッハァー!!」

 

そして、ついに一匹残らずサンドワームを皆殺しにして、砂と血に汚れたレーナは豪快に笑い、勝利の雄たけびを上げている。

 

 

私は、先ほどまでの戦いぶりを見て、ある噂を思い出す。

名前が少し異なるので、すぐに分からなかった。

 

曰く、自爆を顧みない爆発の魔法を好んで使う女の【騎士】がいる。

曰く、危険生物の討伐()()優秀だが、各地で問題行動を起こしている。

曰く、その『女騎士』には罪悪という概念がない。

 

 

その者の名は、爆炎のティレーナ。

 

***

 

「【砂漠都市】に帰るぞ弟者、早急にナ」

 

ワタシは、ミミズどもを皆殺しにした後、弟者と合流した。

※『爆発(ぶっ飛ばせ)』を使って、超高速で弟者の近くに着地(着弾)しようとしたが、うまく避けてくれた。

 

「それは何でだい?」

「通常、ここまで巨大化と繁殖はまずあり得ないからダ。こんなことが起きているのには何か要因があル」

 

昨日一昨日は気づかなかったが、そもそもどの都市や地域でも食料が少ないはずなのに、【砂漠都市】のあちこちで屋台があったり、宴が多く開かれていたように思う。

【奇跡】で危険生物を成長させたのか、もっと何かしらの要因があるのかは分からないが、一度砂漠都市で調査が必要だ。

 

「【教会】の仕事だからもちろん協力するよ。……ただ今回の問題には関係ないけど一つ気になることがあってね。」

「ア?なんだヨ?」

 

急ぎだって言ってんだろ。

消し飛ばすぞ。

 

「確か、本当の名前はティレーナ、だよね?【教会】の任務の都合上本名を知られてはいけないとかあるとは思うんだけどちょっと安直な偽名じゃないかな?」

「ワタシ、イントネーションや活舌の問題でワタシの名前をフルネームで言えないだけだヨ。」

「……ゴメン」

 

 

……なんか盛大にムカついたからやっぱり消し飛ばそうかなコイツ?

 

 

 

 

*1
爆発する球を射出して遠距離で爆発させる魔法のこと




レーナの戦い方は基本脳筋です。
レーナ自身がよく考えたら結果、彼女は脳筋になりました



【代償】
【奇跡】を願った際に持っていかれるもの。
主に身体の一部か精神的な何かが対象となる。


【魔法】
奇跡も、魔法も、ある世界。
救いは……

ある程度話が進んだら、作中の設定や各キャラの紹介などまとめた話を出す予定

【レーナの名前】
本名:ティレーナ・エリュニエンス
略称:レーナ・エンス
あだ名:レーナ

【レーナの魔法】
爆発:《ぶっ飛ばせ》
・自身の体を加速させる時に使う
※自爆魔法

爆発:《消し飛べ》
・自身を中心として周囲を爆発に巻き込む
※自爆魔法


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