Re:ゼロから始める異世界生活-Story of Zi-O- (きゃぷてん)
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第一章 怒涛のファーストタイム
2019:イン・アナザーワールド


色々あって、『Re:ゼロから始める魔王の異世界生活』のリメイク作品作る事にしました。
剣と魔法のファンタジー再びです。
……ん?剣と魔法?
剣と魔法……
けんとまほう……
けんと……

賢人ォォォォォォォォ!!!


———— 赤茶色の荒野。

 

寂れたその風景には、巨大な石像があった。

 

そんな存在感のある石像の前には、黄金の鎧を纏う、1人の『王』がいた。

 

王は、崩れ始めていた石像を、見つめ続けている。

 

そんな彼の前に、1人の人間が現れた。

 

王はその人物を見る。

 

その人物は、女だ。黒いドレスをその身に纏っている。

 

その女からは、負の気配が漂っていた。

 

負の気配と同時に、孤独も、感じた。

 

———— あなたは1人、なの?

 

その女の開口一番の言葉は、それだ。

 

女のその言葉に、王は黙する。

 

———— 私も、1人なの。

 

王が何も答えずとも、女は言葉を紡ぐ。

 

———— あなたの、名前は。

 

———— ■■、■■■。

 

———— 私は、■■■。

 

これが、魔王と嫉妬の魔女の、邂逅。

 

 

 

 

 

 

目の前に見える水溜りは、赤い。

 

誰かが踏んだのか、波紋が広がる。

 

ーーーーバル?

 

鈴のような可憐な声がした後、短い悲鳴が聞こえて、血溜まりに倒れ込んだ。

 

血を作り出した少年の手は、目の前にある白い手へ伸ばし、掴んだ。

 

ーーーーお前を、救ってみせる。

 

少年の心が決意で満たされる。

 

決意を胸に抱き、彼は死の世界に誘われた。

 

生が終わり、死が始まる。

 

死が終わり、生が始まる。

 

輪廻転生は、命あるもの達のサイクル。

 

だが彼の場合、それは輪廻転生と、言えるのだろうか?

 

答えは分からない。

 

答えを知るのは魔女だけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の世界。

 

何もない、虚無の世界。

 

その世界に1人佇んでいた少年は、自分以外の人間を見つけた。

 

その人物は女性で、ドレスのようなものを着ている。

 

その人物は、真っ直ぐと少年を見つめていた。

 

そして、少年の元へ歩き出す。

 

甲高い足音が、虚無の世界に響く。

 

少年の元まで来たその女性は呟いた。

 

ーーーー愛してる。

 

それは愛の、純粋な愛の囁きだった。

 

ーーーーあなたは、1人じゃない。私が、傍にいる。

 

彼女は、少年の手を掴んだ。

 

ーーーーその日になったら、また会いましょう。

 

その言葉に呼応するように、光が虚無の世界を照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………変な夢、見たなぁ」

 

クジゴジ堂のソファーで1人寝ていた常磐ソウゴは、ぽつりと呟いた。

 

ソウゴはソファーから身を起こし、立ち上がって歩き始める。

 

歩き、扉を潜ると、そこには彼の叔父の常磐順一郎が作業をしていた。

 

「叔父さん、また修理?」

 

「おお〜、ソウゴ君。うん、今日はねぇ、時計の修理が来たんだ!この前は蜘蛛のペットロボットの修理とか来たからなぁ」

 

「蜘蛛のペットロボット?そんなのあるんだ」

 

「何でもねぇ、フリーマーケットで買ったんだって。中身も難しい構造してたから、結構修理に時間掛かっちゃったよ〜」

 

「ふぅん」

 

 返事をした後、ソウゴはふと、あることに気づいた。

 

「あれっ、ゲイツとツクヨミとウォズは?」

 

「ん?あー、何かね、時空の歪みがどうとか言って、どっか行っちゃったよ」

 

「時空の歪み!?」

 

順一郎の口からさらっととんでもない言葉が出たことに、ソウゴは驚く。

 

「えっ、何処に行くとかは?」

 

「あー、言わなかったねぇ」

 

「マジか……………………まぁ、とりあえず、俺ゲイツ達を追いかけてくる」

 

 ソウゴは順一郎に言って、扉へと向かった。

 

「そっか、じゃあいってらっしゃい!」

 

「行ってきます!」

 

順一郎に返事して、ソウゴは扉を出た。

 

 

 

 

ソウゴは扉を出て、水色のカラーリングをした自転車を出そうとする。

 

が、その時

 

『常磐ソウゴ』

 

ふと、ソウゴは自分の名前が後ろから呼ばれ、振り向く。

 

だが、そこには誰も居なかった。

 

空耳だろうと思ったのか、改めて自転車を出そうとすると。

 

『会いたかったぞ……』

 

すぐ傍に、自分の名を呼んだ声の主がいた。

 

「っ!?」

 

その男は黒いフードを被った人物であり、その不気味な容貌にソウゴは思わず後ろへ飛ぶ。

 

「誰だあんた!?」

 

「名乗る必要は無い…………今こそ復讐を果たす」

 

そう言うと、彼は何処からか白いベルトーーーージクウドライバーを取り出し、腰に装着した。

 

そして、ライドウォッチを取り出す。

 

「!そのウォッチは」

 

その人物が持っているウォッチを見て、ソウゴが驚いている間に、ベゼルを回し、ウォッチのスイッチを押す。

 

『バールクス!』

 

ウォッチをベルトのD‘9スロットへと装填。ライドオンリューザーと呼ばれるスイッチを押し、ベルトのロックを解除する。

 

「変身」

 

そう呟き、ベルトを360度回転させる。

 

『ライダータイム!仮面ライダー!バールークース!』

 

その姿は、BLACK RXの力を持つライダー。

 

「仮面ライダーバールクス……!」

 

仮面ライダーバールクスであった。

 

「何でお前がそれを……」

 

「はあっ!」

 

ソウゴが疑問を投げ掛けるが、彼は長剣を使ってソウゴに斬りかかる。

 

ソウゴはそれを避けて、ジクウドライバーを取り出し腰に装着し、ウォッチを取り出す。

 

『ジオウ!』

 

ベゼルを回し、スイッチを押してD‘9スロットに装填。

ライドオンリューザーを押してベルトのロックを解除する。

 

「変身!」

 

ベルトが360度回転すると、世界も回転した。

 

『ライダータイム!仮面ライダー!ジオーウ!』

 

ソウゴは仮面ライダージオウへと変身する。

 

ピンクの文字で『ケン』と刻まれているジカンギレードを構え、バールクスの元へ駆ける。

 

「でやあっ!」

 

ジオウが剣を振るい、バールクスもそれを長剣で受け止め、金属が打ち合う甲高い音が辺りに響き渡る。

 

それから、また一振り、二振り、三振りと剣撃を加え、しばらく剣戟が続いた。

 

その時、ジオウは後ろに飛ぶ。

 

「これで!」

 

懐からジオウIIウォッチを取り出し、起動しようとした。

 

だが

 

『ロボライダー!』

 

バールクスがロボライダーのライドウォッチを起動し、BLACK RXの武器であるボルティックシューターを召喚する。

 

そしてトリガーを引き、ジオウに向かって放つ。

 

「うわっ!」

 

その攻撃を喰らってしまったジオウは吹っ飛び、ジオウIIウォッチを手放してしまう。

 

地面に転がったジオウIIウォッチをバールクスが拾う。

 

「ふんっ……!」

 

そしてジオウIIウォッチを強く握ると、ウォッチにヒビが入り、色が失われてしまった。それを乱暴に地面に投げ捨てる。

 

「ジオウIIウォッチが…………!」

 

ジオウがヒビが入り、色が失われてしまったジオウIIウォッチを見て驚愕する。

 

「喰らうがいい、常磐ソウゴよ!」

 

『フィニッシュタイム!バールクス、タイムブレーク!』

 

バールクスがベルトの操作をし、空へ飛び立ちジオウへキックを放つ。

 

「はああああああああああっ!」

 

「ぐああああああああああっ!」

 

そのキックを喰らってしまったジオウは変身解除をして地面へと転がる。

 

そしてその反動で、何個かのライドウォッチを落としてしまった。

 

「しまった…………!」

 

体に走る痛みを感じながら、ウォッチを見て苦悶の表情を浮かべながら言うソウゴ。見てみれば、オーマジオウライドウォッチも転がっていた。

転がったウォッチをバールクスが拾っていく。

 

「これは貰うぞ」

 

拾ったウォッチを見せながら言うバールクスにソウゴはよろけながらも立ち上がる。

 

「終わりだ、常磐ソウゴ!」

 

バールクスは長剣に赤いエネルギーを溜めて、構えを取る。

 

そして、剣を振り、斬撃を常磐ソウゴに向けて放つ。

 

その攻撃にソウゴは咄嗟に手で防ぐ。

 

斬撃が直撃し、爆発が起こる。

 

爆発が起こり、煙が立ち始める。

 

やがて、煙が止むと……

 

「……消えた?」

 

目の前から、常磐ソウゴがいなくなっていたのだ。

 

「一体何処に…………ん?」

 

ソウゴを探すバールクスは、ある事に気付く。

 

「…………この匂いは……成る程、そういう事か」

 

バールクスは何かに納得したかのように頷く。

 

「魔女の匂い…………異世界へ飛んだか、常磐ソウゴ」

 

 

 

 

「…………うっ、あっ……」

 

 ぼんやりとした視界の中で、常磐ソウゴは目覚める。

 

「ここ、は…………俺は確か……」

 

ソウゴはバールクスの斬撃が放たれたところで意識が途切れていたことを思い出す。

 

そして、彼の意識が覚醒したのな、目をバッチリと開く。どうやら倒れていたらしく、そのままゆっくりと起き上がる。

 

「…………え?」

 

そこで彼は、目の前の光景に、素っ頓狂な声を漏らした。

 

「…………何ここ!?」

 

彼の目の前には、獣の姿をした人間や、中世ヨーロッパのような街並みが広がる、まるで"異世界"と言えるような光景が広がっていた。




旧版は気が向けば更新します。

その気が向く日が何時かは分かんないけどね

次回『EP1 2019:うんめいのデアイ』


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2019:ウンメイのであい①

ウンメイノー
ウワァァァァァァァァァァ!!!

ハイパーキャストオフ

!!!ァァァァァァァァァァワウ

加賀美はスバルだった…?


「ーーーーこの本によれば」

 

暗闇の空間で、変わった服を着ている青年は、ハードカバーの本のロックを解き、本を開き読み始める。

 

「普通の高校生だった常磐ソウゴ。彼には魔王にして時の王者オーマジオウとなる未来が待っていた。」

 

青年は、頁をめくる。

 

「そんな彼の前に現れたのは醜き平成を亡き者にしようとするもう1人のソウゴであった。常磐ソウゴは、この私の裏切りすらも乗り越え、王として、この世に君臨するのであった……」

 

彼は、再び頁をめくる。

 

「そして、今回彼は仮面ライダーバールクスの襲撃に遭って異世界に転移し、同じく転移者のナツキ・スバルと精霊術師のエミリアと出会うのであった」

 

本の内容を読み上げた後、気が付いたように「おっと」と言って本を閉じ、

 

「先まで読み過ぎました。それでは、どうぞ」

 

 

 

 

 

「えぇ……あぁ……えぇ?」

 

 ソウゴは、困惑したように周囲を見渡す。見れば普通の人は勿論、獣人がおり、中世ヨーロッパらしい街並み、車ではなく、大きなトカゲが走ってる。

 

「さっきのバールクスの仕業かな……?」

 

ソウゴは先程戦った仮面ライダーバールクスを思い出す。

 

「あっ……バールクスと言えば!」

 

ソウゴは思い出したように、慌てて自身の懐を探り出す。

 

「……半分くらい、ウォッチが盗られちゃったのか」

 

ソウゴは、たまたま近くにあった噴水の縁に置いたある物を見ながら暗い表情で呟く。

置かれたものは、ライドウォッチだった。置かれているウォッチの種類は以下の通り、クウガ、ダブル、オーズ、フォーゼ、鎧武、ゴースト、エグゼイド、ビルドのウォッチであった。

 

「ウォッチが盗られたから、グランドジオウウォッチも消えちゃったし、何より……」

 

ソウゴは、取り出したあるウォッチを見る。

 

「ジオウIIウォッチが壊されるなんて……」

 

それはジオウIIウォッチだ。それはヒビが入って色褪せており、ライドオンスターターIIと呼ばれる起動スイッチを押しても、反応は無い。

 

「叔父さんがいればどうにかしてくれそうだけど、今は此処に居ないしなぁ」

 

そう言いながら、ソウゴは常磐順一郎の顔を思い浮かべる。

 

「……それに、オーマジオウのライドウォッチも」

 

盗られてしまったライドウォッチの中には最強の仮面ライダー、オーマジオウの力が込められているライドウォッチもあった。

 ソウゴは状況を重く見たのか、眉を顰める。

 

「……まず、此処がどこか調べないと」

 

 噴水の縁に置いてあるウォッチをしまいながら、ソウゴは振り返って歩き始めた。

そして歩き始めてちょうど、近くを通りかかった青年に声を掛けた。

 

「ねえ、アンタ」

 

声を掛けた青年は、ソウゴの声に反応してこちらを見る。

その人物は、炎のように髪が赤く、青空のように澄んでいる青色の瞳があり、その顔も整った端正な顔立ちであった。

体格も細く長身であり、その服装は制服らしき純白のジャケットに、同じく純白のスーツパンツを着ている。ジャケットの下には黒い服も着ている。

そして腰には、シンプルな鞘に納められている剣を下げていた。

 

「?何かな」

 

青年は微笑を浮かべながら、ソウゴに言った。

 

「えーっと、俺、実は此処とは違うところから来たんだけど、此処が何処か分からなくてさ。ちょっと教えてほしいんだけど」

 

「此処は王都ルグニカだよ。しかし、王都に入るには検問を通す筈だが……知らずにここに入ってきたのかい?」

 

「まあ、ちょっと色々あってさ」

 

「成る程ね。しかし、君は珍しい髪、それに変わった服装をしているね……一体、何処から来たのかな?」

 

 青年は、ソウゴの格好をじっと見下ろして質問する。

 

「何処って、日本から」

 

「ニホン……?聞いたことがないな。一体どの辺りに?」

 

「んー、東の方」

 

「ルグニカには大陸図で見て一番東だから、この国よりそのニホン?という国は無いと思うけど」

 

「あっ、ここ一番東なんだ」

 

青年の言葉に、意外な顔をするソウゴ。

 

「嘘をついてるようには見えないが……まあ、そこはいいか。とにかく、今のルグニカは平時より少し落ち着かない状況にあるんだ。僕で良ければ何か手伝うよ」

 

「落ち着かないって、何かあったの?」

 

「実は、今このルグニカには、王がいないんだ」

 

「えっ、王様がいない?」

 

青年から発せられた衝撃の事実に、ソウゴは驚いた顔をする。

 

「うん、それで今、国は落ち着かない状況にある」

 

「でも、そういうのって後継ぎの人とかいるんじゃないの?」

 

「普通はそうだが、王が御隠れになったと同時に、ルグニカの城内で流行り病が蔓延してしまってね。それによって子孫は根絶やしにされてしまった」

 

「うわっ、それヤバいじゃん!」

 

「一応、国の運営は賢人会の方々によって行われている。全員、王国史に名を残す方ばかりだから、国の運営に心配はない。だが、やはり王のいない国などあってはならない。だから、5人の王候補によって行われる王選が近い内に始まるんだ」

 

「へぇ〜」

 

「それで、他に聞きたいことはあるかな?」

 

「特には無いけど……アンタ、何か騎士とかやってる?」

 

「おお……ご名答、よく分かったね」

 

 青年は感心したように声を漏らした。

 

「そりゃあ、何か制服みたいなの着てるし、剣も下げてるからさ」

 

「いや、それでも凄いさ。一目で僕の事を騎士だと見抜くなんて。改めて自己紹介をしよう。僕の名前はラインハルト・ヴァン・アストレア。ルグニカ王国の騎士団に所属している」

 

「そっか、俺の名前は常磐ソウゴ。よろしくね、ラインハルト」

 

「トキワ・ソウゴ、か。よろしく頼むよ、ソウゴ」

 

ラインハルトは手を差し出す。それを見たソウゴも、手を出してラインハルトの手に重ねて握手を交わした。

 

「それでソウゴは、これからどうするんだい?」

 

「んー……まあ、なるようになるよ。俺、ルグニカを歩き回ってみる」

 

「そうかい。なら気をつけて。もしも何かあれば衛兵の詰所に行って僕の名前を出してくれ。それならまた僕にまた会えるよ」

 

「そっか。分かった。何かあったらアンタの事訪ねるよ。それじゃあね、ラインハルト」

 

そう言って、ソウゴは歩き出す。

 

「ああ、また会える日を楽しみにしているよ、ソウゴ」

 

ラインハルトもソウゴを見送り、再び歩き出した。

 

 

 

 

「てめえ・・・!よくもやってくれたなあっ!」

 

ソウゴは路地裏の近くを通りかかると、そこから揉めているような声が聞こえてきたのだった。声がした路地裏を見るとそこには3人の不良のような人の1人が青年の頭を踏みつけていた。

 

「ちょっとアンタ達何やってんの!」

 

ソウゴは路地裏に入り声を張り上げてそう言った。

その声に不良らしき3人は一瞬ビクっと肩を震わせながらソウゴの方を見て、踏み付けにされてる青年もソウゴを見る。

不良の内、1人は小柄なマッシュルームヘアーの少年で、1人は、髪を水色に染めて舌を出し、首輪をしている青年。最後の1人は、大柄の中年の男だ。

そして、踏み付けにされている青年。その青年は、黒髪で、よく見るとジャージを着て、ビニール袋を持っている。完全に、自分と同じ日本人としか思えない青年に、ソウゴは一瞬、怪訝そうな顔でその青年を見る。

 

「……な、何だよ、ただの人か。一瞬衛兵かと思ってビビっちまったじゃねえか」

 

「ほんの少しだけな!」

 

「ほんのちょびっとだけどな!」

 

「……何かすげー既視感ある光景だぞ、これ」

 

3人の息ぴったりな掛け合いに、青年は思わず突っ込みを入れた。

 

「とりあえず、その足、下ろしたら?」

 

「何だ何だぁ?お前、痛い目見たく無いならあんまりカッコつけない方がいいと思うぜ?痛い目見たくないんなら、お前も出すもんだしなぁ」

 

髪の毛を水色に染めている青年がソウゴに言った。

が、その時であった。

 

「どけどけどけ!そこの奴ら、ほんと邪魔!」

 

素早い足音とともに、切羽詰まったような声が聞こえてきた。

その声の主は素早くソウゴ達を横切って行く。

その人物は小さな少女であり、金髪のセミロングで、意志の強そうな赤い瞳、ちらっと覗かせる八重歯。その格好は、着古した汚い格好である。

 

「うわっ、なんかすげー現場だな!アタシ忙しいんだ!強く生きてくれ!」

 

と、ほぼ一方的に激励の言葉を送りながら、少女は行き止まりの筈の奥へと駆ける。

そして、立てかけてあった板を蹴り、壁を掴んで建物の上へとすぐに消えた。

その突然の出来事に、一同は唖然としていた。

 

「……あー、えーと。今ので毒気が抜けて気が変わったりしてませんかね?」

 

「むしろ水を差されて気分を害したぜ。てめぇら共々、覚悟しやがれ」

 

その言葉を聞いて、ソウゴは思わず身構えた。

が、またその時であった。

 

「ーーーーそこまでよ、悪党」

 

路地裏の入り口から、凛とした声が聞こえた。

一同は声のした路地裏の入り口を見る。

 

「それ以上の狼藉は見過ごせないわ」

 

銀髪で、紫紺の瞳の少女が、ソウゴ達の前に立っていた。



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2019:ウンメイのであい②

作成中

(良いタイトルが思いつか)ないやん!どうしてくれんのこれ?

〜思考中〜

あっ、そうだ(唐突) ①と②に分けてさ、終わりでいいんじゃない?(棒読み)

という訳で、前回のタイトルの最後に①を追記したゾ


「それ以上の狼藉は、見過ごせないわ」

 

路地裏の入り口にいた少女は、凛とした声でそう言った。

美しい、可憐な少女であり、腰まで届く銀色の髪に、理知的な紫紺の瞳。

白を基調としたその服装はシンプルなデザインだが、彼女の羽織っている白いコートには、鷹に似ている鳥を象った刺繍が施されていた。

 

「君、は……」

 

「誰?」

 

踏み付けにされていた青年がその少女の存在に目を見開いて呟く。

一方のソウゴは、少女の存在に呆然としている4人とは反対に、いつも通りの様子で少女に聞いた。

 

「今なら許してあげる。私の不注意もあったもの。だから、潔く盗った物を返して」

 

「…………は?盗った物?」

 

「お願い、あれは大切な物なの。あれ以外なら諦めもつくけど、あれだけは絶対駄目なの。良い子だから大人しく返して」

 

どうやら、懇願の気配を漂わせている様子の少女。

だが、不良達はどうやら困惑していた。

 

「あー、これも既視感ある」

 

 足蹴にされてる青年が呟く。

 

「ちょっ、ちょっと待て!話が食い違ってると思うんだが!?」

 

「何のこと?」

 

男達は足蹴にしている青年とソウゴを交互に指差し

 

「こ、こいつらを助けに来た……って訳じゃ?」

 

「……変な格好の人達ね。仲間割れの途中?私と関係あるのか聞かれたら、無関係って答えるしかないわ」

 

「待ってくれ! 目的がこいつらじゃないなら、俺らは別口だ! さっきのガキだろ!」

 

「盗まれたって言ってたろ! 壁だ! 壁蹴って屋根伝いに逃げてった!」

 

「奥だ奥!その向こう!あの勢いなら通りをもう3つは抜けてる!」

 

途端に不良達は続け様の言葉に、少女の視線は足蹴にされている青年の元へ向かう。視線を向けられた青年は頷き、今度はソウゴに視線が向けられる。その視線は「そうなの?」と、真偽を問うような物だった。

 

「うん、向こう行ってたけど……」

 

「ふぅん……じゃあ盗った子は路地の向こう?急がなきゃ」

 

少女は踵を返し、その足は路地の外へ向かう。男達は露骨な安堵を浮かべたが、それは次の瞬間にすぐ崩れた。

 

「それはそれとして、見過ごせる状況じゃないの」

 

少女は振り返り、掌をこちらに向ける。

その掌から水色の輝きが流星のように飛んだ。

直後に、肉を打つような重い音が響き、不良達が苦鳴を上げて吹っ飛ばされた。

そして、甲高い音を立てながら、地面に拳大の氷塊が落ちた。

その氷塊はやがてすぐに霧散する。

 

「おお、すっげぇ!今の魔法?」

 

ソウゴが目を輝かせながら少女に聞く。

少女は「そうよ」と、質素な返答だった。

 

「やり……やがったなぁっ」

 

氷塊の一撃を受けた不良の1人が立ち上がり、もう1人の男も立ち上がった。最後の1人は、打ちどころが悪かったのか、立ち上がってこない。

 

「もう収まりがつかねぇ!こうなりゃぶっ殺す!」

 

「ふぅん」

 

不良は怒り心頭と言った様子だが、少女は特に変わらぬ様子であった。

 

「そういえば、さっきあなた、私のこと誰って聞いてきたわよね?」

 

少女は、ソウゴに視線を向けてそう言った。

ソウゴは「うん?」と言った様子で少女を見る。

 

「私は……ただの、通りすがりの精霊術師よ」

 

「せ、精霊術師だと!?」

 

「そのとーり!」

 

少女の言葉に、青髪の男が反応し、次に何処からか声が聞こえてきた。

その声の主は、少女の掌の中にいた。

 

「やあやあ、皆さん初めまして!」

 

「こ、こいつ本当に……!」

 

少女の掌の中にいたのは、手のひらサイズの可愛らしい猫だった。

毛並みは灰色で垂れた耳。見た目としては、アメリカン・ショートヘアという猫に近い。

鼻の色はピンクで、尻尾は体長ほどあった。

少女の掌の猫を見て、青髪男の顔は焦ったような顔になる。

 

「僕も加勢させてもらおうか」

 

路地裏の入り口から再び声が聞こえる。その声も少女と同じく凛とした声であった。

そしてその声の主を見て、青髪の男は焦った顔から青ざめた顔へと変わった。

 

「も、燃えるような赤髪に空色の瞳……それに、鞘に龍爪の刻まれた騎士剣。まさか、剣聖のラインハルトか!?」

 

「自己紹介の必要はなさそうだ。……もっとも、その二つ名は僕にはまだ重すぎる」

 

「おー、ラインハルト。さっきぶりだね?」

 

声の主であったラインハルトを見て、ソウゴは軽く手を挙げて呼びかける。

 

「やあ、ソウゴ。奇遇だね」

 

「あら、ラインハルト、その子と知り合いなの?」

 

「ええ、休日で王都を散策していた時、先程、少しありましてね」

 

少女の意外そうな言葉に、ラインハルトはそう言って返す。

 

「精霊術師に剣聖だと!?ひ、卑怯だぞ!」

 

「3対1でその子を痛めつけておいてよく言うわ」

 

中年の男が吠えるが、少女は地面に倒れている青年にちらっと視線を向けて言った。

 

「逃げるならこの場は見逃そう。もしも強硬手段に出るというのなら、相手になろう。その場合は、三対二だ。数はこちらの方が多い。とはいえ、僕の微力がどれほどの助けになるかは分からない。だが、騎士として抗わせてもらう」

 

「ねぇねぇ、三対二じゃなくて、正しくは四対二だろう?僕の事を忘れないでほしいな」

 

「ああ、これは失敬」

 

ラインハルトの言葉に、少女の掌にいた猫がぷくーっと頬を膨らませて反論し、ラインハルトはそれを笑って返す。

 

「じょ、冗談じゃねぇ!おい、逃げるぞ!」

 

「てめぇ、このクソアマ!次この辺りで見たらただじゃおかないからな!?」

 

「この子に何かしたら末代まで祟るよ?その場合、君が末代なんだけど」

 

不良の精一杯の恫喝だが、猫の返事は軽々としていながら辛辣であった。

不良達はその返事で顔を青くし、倒れていた仲間を抱えて、無言で雑踏の方へと逃げ込んで行った。

不良達が逃げた後、ソウゴは足蹴にされていた青年の元へ駆け寄る。

 

「大丈夫?」

 

「あ、ああ……何とかな……」

 

ソウゴの言葉に、そう返して、青年は上体を起こそうとする。

が、その時。

 

「動かないで」

 

少女が、青年が体を起こそうとした時に待ったを掛けた。

 

「あの人達にやられたばかりでしょう?無理に起きない方がいいわ。今、治癒魔法を掛けてあげるから」

 

「お、おう、すまねぇな……」

 

少女は、青年の元まで行ってしゃがみ、手を出すと、淡緑の光が漏れ出て、青年の体を包み込み始める。青年も軽く謝罪の言葉を口にした。

 

「どうやら、大丈夫そうですね。それじゃあ、僕は行かせてもらいます。エミリア様」

 

「ええ、非番の日なのに巻き込んじゃって、悪かったわね」

 

「いえ、僕自ら選んだ事なので、何も問題はありません。それじゃあソウゴ、僕は行かせてもらうよ」

 

「そっか。休日、満喫してきてね!」

 

ソウゴの笑顔の返答に、ラインハルトも微笑んで返す。

ラインハルトが路地裏から出て、雑踏へと紛れていったことによって、路地裏はソウゴと少女と青年の3人だけとなった。

 

 

 

 

「はい、これで傷は治ったわ。もうちゃんと立てそう?」

 

しばらくして、少女による青年の治療は終わった。傷も浅かった為、治療もすぐに終わった。そして少女は、青年に立てるかどうかの確認をする。

 

「あ、ああ、ありがとう。もう1人で立てる」

 

そう言いながら、青年は「よいしょっと」と言いながら、上体を起こして、立ち上がる。

 

「それで、早速で悪いけれどあなた達に聞きたいことがあるの」

 

「聞きたい事?」

 

少女の言動に、ソウゴは反応し聞き返す。

 

「私から徽章を盗んだ子の事、知ってるでしょ?」

 

「盗んだ子って……もしかして、金髪の子?」

 

「そう、その子よ」

 

「悪いけど、俺は知らないな」

 

「じゃあ、貴方は?」

 

ソウゴが否定の返答をすると、今度は青年の方に少女は視線を向ける。

 

「俺は……まあ、一応知ってるぜ」

 

「本当!?だったら早く教えて頂戴!」

 

青年のその言葉に少女はがっと食いつくように勢いよく迫った。

 

「お、おう。お、教えるけど、その前に」

 

迫ってくる少女に動揺した様子を見せながら、青年の視線はソウゴへと向けられる。

 

「ちょーっち、この人と話したいことがあるからさ、少し待っててくんね?」

 

「別に良いけれど……本当に、少しにしてね。私も急いでるんだから」

 

「おう、合点承知!じゃあアンタ!こっち来てくれ!」

 

「えっ、おわっ、ちょっと!」

 

少女の返答を聞いた途端、青年はソウゴの腕を引っ張って路地裏の入り口の方へと駆け込む。ソウゴはその突然の行動に、思わず足を躓かせながら青年へ続く。

 

 

 

 

「いやー、さっきは助かったぜ、アンタ!」

 

「いや、助けたのはあの子だから、礼はあの子に言ってよ」

 

青年のソウゴに対する礼の言葉に、ソウゴはそれを少女に言うように勧める。

 

「でもって、あんた。もしかしなくても……日本人、だよな?」

 

「うん、そうだけど」

 

「やっぱりか!いやはや、一目見た時から同胞の気配がしたからなぁ!」

 

笑いながらそう言う青年。

 

「何か、安心したぜ。異世界人が俺だけってのは、何か心細いしな」

 

安堵したように、そう言う青年。そして、何かに気がついたように「おっと」と、言い

 

「自己紹介が遅れたな!俺の名前は菜月昴(ナツキ・スバル)!無知蒙昧にして天下不滅の無一文!」

 

「それって、胸張って言えることかな」

 

スバルのその自己紹介に、ソウゴは思わずツッコミを入れるも、まあいいやと、すぐに一蹴し

 

「俺は常磐ソウゴ。スバル風に言うなら、王になった男、かな」

 

「えっ、何それは……何?オンラインゲームとかでそんな名前使ってんの?」

 

「別に、ゲームとかで使ってるわけじゃないけど?」

 

「えぇ……」

 

こいつ、実は電波系か、すごいイタイ人なんじゃね?と、心の中で呟く。可哀想な物を見る目でソウゴを見るが、本人は変わらない様子で、自分を見るスバルに首を傾げる。

 

「どうしたの?」

 

「え!?いやぁ、何もねぇよ。何もない」

 

ソウゴが問いかけられて慌てた様子で答えるスバル。そして、気を取り直したように咳払いをし

 

「助けられた上で図々しいかもしれねえんだけど……アンタ、少し頼まれてくれないか?」

 

「何?」

 

「……さっきの子なんだけどよ。実はあの子、探し物してるんだ」

 

「探し物って……もしかして、さっき言ってた徽章のこと?」

 

「そうそう、それだよ。で、それがさっきの金髪の子、フェルトに盗られちまったんだ」

 

「フェルト……インク使ってそうな名前だね」

 

「それはフェルトペンな。それで、フェルトの奴、それを盗んで夕方に貧民街でロム爺っていう爺さんの盗品蔵でそれを売ろうとしてるんだ。だから頼む!それを止める為に手伝ってくれねぇか!本当に、助けられた身で頼むのは図々しいとは思ってるけど……頼む!」

 

スバルは張り詰めた様子でそう言いながら、ソウゴに向かって頭を下げる。それに対するソウゴの答えは……

 

「うん、分かった」

 

「!本当か!?」

 

ソウゴの返答に、頭を上げたスバルは顔を輝かせる。

 

「うん、だって困ってる民を助けるのは、王様の仕事だろ?」

 

「あー、うん、そうだな!とにかくありがとう!」

 

ソウゴの言葉を適当に流しながら、感謝の言葉を伝えるスバル。

 

「でもまず、あの子の元に戻ろう、待たせてるし」

 

「そうだな」

 

そう言って、二人は路地裏へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「お待たせ!」

 

「もう、遅い!少しにしてって言ったでしょう!」

 

「ごめんごめん、悪かったって!話し込んでたら長引いちゃって!」

 

怒った様子の少女に、スバルは頭を掻きながらそう言った。

 

「はぁ……まあ、いいわ。それで、貴方、徽章を盗った子のことを知ってるのよね?早く教えて頂戴」

 

「ああ、盗んだ奴は、フェルトって言ってな。そいつは盗んだ物を貧民街にある盗品蔵に売り捌いているんだ」

 

「ふぅん……そうなの、ありがとう。じゃあ私はこれで。それと今度からは、こんな人気の無い路地に入らない方がいいわ。厳しく脅したから、あの人達ももう関わらないと思うけれども一応ね。あ、これは心配じゃなくて忠告。次に同じような場面に出くわしても、私があなたを助けるメリットがないもの。だから、期待しちゃダメだからね」

 

と、早口でまくし立てて振り返り、路地裏の入り口にスタスタと去っていく。が、ソウゴがそれを止める。

 

「ちょっと待って!」

 

「何?言っておくけど、これ以上は私もちょっとしか付き合ってあげられないから」

 

「俺たちも、徽章探しを手伝うよ」

 

ソウゴのその一言に、少女は目を丸くして二人を見た。

 

「えっ……何で?」

 

「だってさ、困ってる民を助けるのは、王様の仕事だろ?」

 

「へっ……お、王様?」

 

「ま、まあとにかく君!俺達と協力するのも悪くない話だぜ?人数が多い方が、相手がヤバい奴だった時に数の差でどうにか出来るかもだし?」

 

「確かにそうかもしれないけれど……」

 

スバルの一言に、少女は言葉に詰まった様子である。

 

「まぁ、悪意は感じないし、素直に受け入れても良いと思うよ?」

 

少女の傍でふわふわと浮いていた先程の子猫が、そう少女に言う。

 

「って訳で、決定!あ、俺の名前は常磐ソウゴ!で、こっちは……」

 

「俺はナツキ・スバル!無知蒙昧にして天下不滅の無一文!」

 

「それは、随分と危機的な状況だね。あ、僕はパック。よろしくねー」

 

二人が自己紹介した後、子猫も自己紹介をする。

 

「で、君は?」

 

ソウゴが、少女の方を見てそう言った。

 

「……本当に、何のお礼も出来ないけど、良いの?」

 

「うん、全然良いよ」

 

「……そう、私の名前は、サテラ。サテラって言うの」

 

少女は、少し瞑目して、数秒沈黙した後に、そう言った。パックが「趣味が悪いよ」と、呟くが、それはこの場の誰も気付かなかった。

 

「それじゃあ、早く行きましょう?」

 

「ん、そうだね」

 

そうして、二人は路地裏の入り口まで歩き始める。

パックは、サテラの髪の中に入り込んだ。

そんな中で、スバルはサテラの背中を見つめながら

 

ーーーーこれが終わったら、君の本当の名前を教えて貰おう。

 

と、心の中で、呟いた。



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2019:ドロボーのゆくさき

うん、ヨシ!

この人、勢いで誘っちゃったけど、どうしよう?

どう考えてもヨシ!じゃねえだろ、おい。何を見てヨシ!って言ったんですか?

もうあれだ。この人がチート能力貰った俺tueeeee系の人である事を祈るしかない。

何せ、盗品蔵には、『アイツ』が、来るんだ。

アイツに一般人が束になろうが、多分、皆殺しになる未来しか待ってないだろう。

フェルトは明け方の夕暮れに来るし、そん時に、アイツも一緒に盗品蔵に来る。

……うん、ほとんど詰みゲー状態。交渉成功して、ダッシュで帰ればどうにかなるかもしれないが……万一、力ずくで取り返すなんてことがあればそりゃもう。

頼む、どうにかSSR一般人であってくれ。いやSSR一般人って、何?ソシャゲのガチャかよ。というか仮にチート能力持ってたら、それは一般人と呼んでいいものなのか。

いや、そんな事はどうでもいい。とにかくどうか神様仏様、俺にくれって我儘な事は言わないからどうかこの人にチート能力を授けてくださいませんか。いや、マジで。

……せめて、もしもあの人がいてダメだったとしても、せめてあの子は助けなくては。

 

「……よし」

 

と、頭の中で思考していたナツキ・スバルは、何かを決意したように呟く。

 

「な、なあ、サテラ!」

 

スバルは、サテラを呼ぶ。名を呼ばれたサテラは振り返る。

 

「何?スバル」

 

「いやぁ実はさ、サテラには、やっぱり此処で待ってて欲しいんだけど」

 

「えぇ!?いきなり何言ってるの、スバル!」

 

「いやまあ落ち着けって! 俺とソウゴが盗品蔵に行って、徽章を取り返してくるからさ! それにもしかしたらもう売られちまってるかもしれないだろ? ほら、それで上手〜く交渉してどうにかするし! それにやっぱ危険かもしれないしさ!」

 

「売られてるって、それだったら尚更よ! 何でわざわざ待ってなきゃいけないの!? 急がなきゃダメでしょ! それにさっき人数が多い方が、相手がヤバい奴だった時に数の差でどうにか出来るかもって、スバル言ってたじゃない!」

 

「いや、なんて言うか、急な心変わりーっていうか……」

 

「急すぎるわよ!」

 

と、スバルの意見に真っ向から反対するサテラに、スバルは苦笑いしながら説得を試みるが、それも反対されてしまう。その時、ソウゴが彼らの間に入る。

 

「まあ、落ち着きなって、サテラ。多分スバルにも、何か考えがあるんだよ」

 

「ソウゴ…………でも」

 

「大丈夫!」

 

ソウゴは、両手でサテラの肩を掴んで

 

「俺たちに任せてよ」

 

その目は真っ直ぐとサテラを見つめている。

まだ、彼とは会ったばかりだ。でも、何となく、任せてみようという気持ちになった。

そして、サテラは少し考え込んで

 

「…………うん、分かったわ」

 

ソウゴに対して、サテラは頷いて、返答した。

 

「ありがとう」

 

ソウゴは、サテラが意見を呑んでくれたことに礼を言った。

 

「とりあえず、スバルの言う通り、もう売られてるかもしれないから、急いで行った方がいいかもね」

 

と、言いながら、ソウゴは懐からあるライドウォッチを取り出す。

 

「何だそれ?時計?」

 

スバルが質問している間に、リューズを押して起動する。

ソウゴがウォッチを投げたかと思えば、突如ウォッチが巨大化し、バイク、ライドストライカーへと変形した。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?何かバイクが出てきた!?」

 

「な、何これ!?すっごーい!」

 

スバルはバイクが突然出て来たことに驚き、サテラは驚きながらも、その目は好奇心に満ちていた。

 

「ほぉー、随分と変わった形状をしてるね。スバルはこれをばいく、って呼んでたけど、ばいくって何なんだい?」

 

サテラの髪から出てきたパックが質問をする。

 

「まあ何ていうか、ガソリンっていう燃料を燃やして、その熱で超スゲー速さで動くんだよ」

 

「成る程ねぇ〜」

 

「引く物も無しに動けるの?その形状もそうだけど、不思議ね、そのばいくって」

 

「時計がバイクになるなんて聞いたことないけどな」

 

パックが納得したように頷き、サテラは目を輝かせてライドストライカーを見ている。スバルはウォッチが変形したことにツッコミを入れていた。

ソウゴはバイクに跨り、一緒に出てきたヘルメットを被る。

 

「スバル、早く乗って」

 

「あ、おう!」

 

呼ばれたスバルはソウゴの後ろに乗る。

ソウゴはバイクのエンジンを掛けると、大きな音が鳴り響く。

その様子に、益々スバルとサテラとパックの三人は目を輝かせた。

 

「ね、ねぇ、ソウゴ!」

 

そんな時、サテラがソウゴを呼ぶ。

 

「も、もし、徽章が戻ってきたら、そのばいくに乗せてもらえないかなぁ、なんて……」

 

サテラは、その白い頬を少し火照らせながら、ソウゴに頼む。

 

「あ、いや、別に無理にとは言わないわ。嫌なら……」

 

「全然良いよ?」

 

「え……本当?」

 

「うん。ちゃんと徽章取り戻して、一緒に乗ろっか」

 

「……うん!約束だからね!」

 

サテラは笑顔で返事をする。

「勿論」と、ソウゴも笑顔で返答した。

 

「よーし、さあ行こう!」

 

エンジンの駆動音を鳴らし、タイヤの後輪が勢いよく回転し始めると、ライドストライカーはスピードを出して走り出し、一気にサテラの元から去って行った。

 

「……行っちゃった。すっごーい」

 

「はぇ〜、もうあれ竜車より速いでしょ」

 

残された二人は、走っていくライドストライカーを呆然としながらも見送った。

 

 

 

 

 

ライドストライカーに乗ってるソウゴは、スバルの案内を受けながら王都を走る。

 

「やべぇ……」

 

「何だあれ!?」

 

通行人たちも走るライドストライカーに驚愕の反応を示していた。

 

「ねえ、スバル!」

 

「何だ、ソウゴ?」

 

「一つ気になったんだけど、何でサテラが徽章を探してて、フェルトって子がそれを盗ってるって知ってたの?それに、さっきもまるでサテラを貧民街に行かせたくない様に見えたんだよね」

 

「うっ」

 

ソウゴに質問をされたスバルは痛い所を突かれた、と、言わんばかりに苦い表情をする。

 

「いや……それはその……えーっと、ほら。実はな、サテラがフェルトに徽章盗られる所見たんだよ、俺。だから、助けてあげたいなーって。それに、貧民街って俺たちの世界で言う所の、スラム街だからさ。そんな危険な所に、あんな可愛い美少女を連れて行ける訳ないだろ?」

 

「……ふーん」

 

ソウゴの返事は、何処となく素っ気なかった。

 

 

 

 

 

 

 

『おいでませ貧民街』

 

『レックス 参戦しない 何故 検索』

 

「……文字読めねぇけど、何か碌な事書かれてない気がするぞ、これ……」

 

二人は貧民街へと着いた。

そして、入り口にいるのだが、立て看板を見たスバルは思わず突っ込む。

 

「ねえスバル、盗品蔵は?」

 

ソウゴは、変形し地面に落ちたライドストライカーのバイクウォッチを拾い、スバルに聞く。

 

「え?あぁ、おう、分かった。こっちだ」

 

そしてスバル達は、貧民街の道を歩き出す。

 

「おっ、着いた着いた。ここだよ」

 

しばらく歩いてスバルが指差す所を見ると、そこには建物があった。

建物自体は汚れていて、所々ヒビが入ってたりしている部分があるが、その大きさはちょっとした集合住宅並みだった。

 

スバルは空を見上げる。

空は、気持ちの良いほどに、快晴であった。

 

「まだ、フェルトが来る時間じゃないな。待っとくか」

 

「そうだね」

 

そうして、二人は地面へと座り込んだ。

 

「あっ、やっべ」

 

 ふと、スバルが声を漏らした。

 

「ん? どうかした?」

 

「サテラにフェルトが夕方に来るの伝えてなかった。帰ってくるの遅くて心配して来ちまうかも……」

 

「あー…………まぁ、その時はその時じゃない?」

 

「…………そうだな」

 

 

 

二人がフェルトを待って、暫く経つ。

空には、美しい橙色の夕日が浮かぶ。

二人は、前から土を踏む、足音が聞こえてくる。

 

「そこで何してんだ、にーちゃん達」

 

二人が声のする方向を見ると、そこには路地裏を嵐のように通り過ぎたあの少女がいた。

 

「フェルト!」

 

スバルがフェルトの名を呼ぶ。

 

「あー?私の事、知ってんのか?……って、よく見たら、にーちゃん達、あの路地裏にいた奴らじゃねーか」

 

一瞬怪訝そうな表情でスバル達を見るも、あの路地裏の出来事を思い出し、ハッとした顔で言う。

 

「はは、覚えてもらって光栄だぜ」

 

「で、にーちゃん達は此処に何か用でもあるのか?」

 

フェルトは、盗品蔵に視線を向ける。

 

「用は君にあるんだ、フェルト」

 

「あ?私に?」

 

ソウゴからそう言われて再び怪訝そうな表情をするフェルト。

 

「盗みの依頼か?それなら、前金出せよ。相手の質によっちゃあ、追加報酬貰うけど」

 

「盗むの依頼って……そういうの、しちゃいけないと思うよ?」

 

「生きるためにゃ、しょうがねーんだよ。これがなきゃ、体でも売るしかねぇんだ」

 

「……確かに、必死に生きなきゃいけないのは分かるけど」

 

フェルトの言葉に、ソウゴは苦い顔をする。

 

「で、結局、用件は何なんだよ?」

 

「……君の持ってる徽章、それを渡して欲しいんだ。それを元の持ち主に返したいんだけど」

 

「はぁ?にーちゃん達、あのねーちゃんの仲間なのか?渡す訳ねーだろ、折角の収穫だってのに」

 

「まあ待て、別にタダでとは言わねぇよ」

 

二人の会話にスバルが割って入った。

 

「取引しないか?それなら、文句ないだろ?」

 

「取引?それなら全然いいぜ。ま、そっちがどれだけ出すかにもよるけどな。なんせ、これを手に入れたいのはにーちゃんだけじゃない」

 

フェルトは、徽章と思われる逆三角形の掌に収まる小さな物体を出す。

 

「取引する相手が、もう一人いるってこと?」

 

「そうさ」

 

フェルトの返事を聞いた時、スバルは眉をひそめ、背中が一瞬ひんやりと冷たくなる感じがした。

 

「んじゃ、中に入るぞ」

 

「分かった」

 

「……おう」

 

 

 

 

 

 

 

「大ネズミに」

 

「毒」

 

「白鯨に」

 

「釣り針」

 

「我らが貴きドラゴン様に」

 

「くそったれ」

 

フェルトが合言葉らしき物を言うと、盗品蔵の扉が音を立てながら開く。

するとそこには、2メートルはあろう身長の大男がいた。

 

「よお、ロム爺。待たせちまったな」

 

「フェルトか。そっちの相手は、誰じゃ?」

 

ロム爺と呼ばれた男は、ソウゴとスバルを見る。

 

「新しい取引相手だよ。私が盗ったモンで取引したいんだとさ。あ、ミルクくれ」

 

フェルトは、歩いて席に座り、ロム爺にミルクを頼む。

ソウゴとスバルも、フェルトの隣の席に座った。

 

「おい、ロム爺、このミルク水入れて薄めてねーだろーな?不味いぞ」

 

「人が好意で出してやったもんを不味いというな」

 

「はいはい、悪かったよ」

 

フェルトはミルクの入っていたコップをロム爺に渡した後、スバル達の方を見る。

 

「さて、取引をすると言ったが、そっちはいくら出すんだ?これには宝石があって、アタシもそれなりに苦労して手に入れたもんだ。それに見合うもんだと、互いに嬉しいよな?」

 

フェルトは、徽章を二人にひらひらと見せる。

 

「悪いけど、俺、実は一文なし!」

 

「いや、おい!それじゃ、まず話になんねーじゃねぇか!」

 

スバルの一言に、フェルトがツッコむ。

 

「まあまあ、落ち着けって。一文なしでも、物々交換って手があるだろ?それでいこうじゃねーか」

 

そんなフェルトを、スバルは宥めながら言った。

 

「別にそれでもいーけどよ……じゃあ、何出すんだ?」

 

「じゃじゃーん!これだ!」

 

スバルはポケットから取り出した物を見せる。

それは、ガラパゴス・ケータイ……略して、ガラケーであった。

 

「何だそりゃ?」

 

フェルトが怪訝そうな表情でスバルに聞いた。

 

「これは、巷で噂のミーティアさ」

 

「みーてぃあ?いやどう見てもガラケ……」

 

「しーっ!合わせろ!」

 

ソウゴがガラケーでしょ、と言おうとした瞬間、スバルはそれを遮ってソウゴに言った。そして、フェルト達に向き直って咳払いし、

 

「んで、これの効果は時間を切り取ってこの中に形として残せるんだ」

 

「見てろよ」と、言ってガラケーのシャッター機能をオン。

そして、フェルトとロム爺に向かって撮ると、撮影音と、光が発生する。光を浴びた二人は、驚いた声を漏らし、スバルへ文句を浴びせる。

 

「おい、いきなり何しやがる!」

 

「何の小細工じゃ!」

 

「まあ、待てって。ほら、これを見ろ」

 

「あー?って、これは……」

 

スバルが突きつけた携帯の画面をフェルトとロム爺が見ると、そこには先程撮った二人の写真が。

 

「おお、すげぇ!私の顔が映ってる!」

 

「ホントにミーティアじゃったか!これなら、聖金貨二十枚は下らん!」

 

「ねえ、さっきから気になってるんだけど、ミーティアって何?」

 

「魔法使いのようにゲートが開いてなくても、魔法が使える道具の総称じゃ。噂に聞いてはいたが、実物を見るのは初めてじゃのう」

 

「へぇー」

 

ソウゴの質問に答えたロム爺は、ガラケーをミーティアだと思い込んでおり、興味深そうに見ている。

すると、ふと、扉が開く音が聞こえた。

その扉の開く音に、スバルの心臓は跳ね上がるように心拍数が増す。

 

ーーーーまさか。

 

「おいおい、ノックぐらいしてから入ってこいよ」

 

スバルは、恐る恐る扉の方を向く。

フェルトは扉を開けた人物に対して軽く文句を言った。

 

「あらあら、ごめんなさいねぇ」

 

その人物は、どうやら女性であった。

身長は高く、年齢は恐らく二十代前半だろうか。

目尻の垂れたおっとりとした雰囲気の美人で、病的に白い肌が薄暗い蔵の中でもひどく目立つ。黒い外套を羽織っているが、前を開けているので肌にぴったりと張り付いた同色の装束が目についた。男の目を引くであろう、ナイスバディだ。

髪はこの世界では珍しい黒髪。背を越して腰まで届く長い髪を編むように束ねている。

何処となく、妖艶な佇まいであった。

 

「……一つ、聞きたいのだけれど、そちらのお兄さん達は?」

 

女性の視線は、ソウゴとスバルに向く。視線を向けられたスバルは、思わずビクッと怯えた。

 

「ん?ああ、実はこいらもな、アンタと同じく徽章を求めてるのさ。んで、さっきまで取引してた」

 

「……へぇ。そうなの」

 

女性は、じっと視線を二人に向けている。スバルは、相変わらず怯えており、ソウゴは、スバルの様子の変動に気付いた。

 

「ねえ、お兄さん達?一つ良い?あなた達は何で徽章を求めてるか、教えて貰えるかしら?私は、雇い主の依頼で求めてるのだけれど」

 

「え、あぁ……俺たち、実は宝石とか綺麗なもんを集めるのが趣味で…… 」

 

「はぁ?何言ってんだよ、持ち主に渡すためだろ?」

 

フェルトのその一言で、スバルは血の気が引いた。

 

「フェルト!何言ってんだよ!」

 

「は、はぁ!?だってにーちゃん達の目的はそれだって言ってたじゃねぇか!」

 

「いや、えっと、あ、アンタ!これはこいつの冗談でーーーー」

 

「なぁんだ」

 

スバルは女性に向かって必死に言い訳をするが、女性のその冷たく放たれた一言に、あ、と声を漏らした。

 

「ーーーーあなた達、関係者なのね」

 

冷徹無情の殺意が、ソウゴとスバルに牙を向く。



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2019:レディー・ファイト

「兄ちゃん避けるォォォ!」

 

「うおっ!?」

 

フェルトがスバルを掴んでその場から飛び出し、地面へ転がる。

 

「あら?避けられちゃったわね」

 

見ると、女性が首を傾げながら、手にはくの字に折れている内反りのナイフーーーーククリナイフを握っていた。

鈍い輝きを放つ凶器を握りながら、女性は変わらず微笑みを浮かべる。

 

「でも、今度は外さないわよ?」

 

そう言って、ナイフを再び構える。

 

『サンダーホーク!』

 

『コダマスイカ!』

 

と、その時、小さな二つの影が現れ、一つは鳥が雷で攻撃し、一つは小人が黒いスイカの種のような物で攻撃を行う。その突然の攻撃に女性は思わず怯む。

次に、ピンクの光線が二つ程女性に向かって飛ぶが、それはナイフによって防がれた。

女性がその光線が飛んだ方に視線を向けると、そこにはソウゴがは銃を構えていた。それはジカンギレードであった。

 

「皆は早く逃げて!」

 

「に、逃げろって、にーちゃんはどうするんだよ!?」

 

「俺がこの人を足止めする!」

 

「にーちゃん一人に任せて逃げれる訳ねぇだろ!」

 

フェルトがソウゴの言葉に反論する。その顔からは焦りが見えた。

 

「そうじゃ!わしも歳は食ってるがまだまだ若いもんには負けんぞぉ!」

 

そう言ったロム爺は大きな棍棒を持つ。

両手で持つのでさえ苦労しそうなサイズだが、ロム爺はそれを軽々と持っている。

 

「どぉりゃああああああああ!」

 

「よせロム爺!あんたじゃエルザに敵わない!」

 

ロム爺は棍棒を持ってエルザと呼ばれた女性に突撃しようとする。それをスバルが制止するが、それも虚しく、戦闘が始まった。

 

「巨人族と殺し合うのは初めてよ?」

 

「抜かせ、小娘!挽肉にして大鼠のエサにしてやるわ!」

 

ロム爺は棍棒をエルザに向かって次々と振るうが、それは軽々と避けられていく。

その際にも、ソウゴはジカンギレードの引き金を引き、ピンク色の閃光が乱舞する。

先程の鳥や小人も雷やスイカの種で攻撃するがそれも避けられていった。

 

「こいつ、中々すばしっこいわい!」

 

「どうにか隙作れないかな?」

 

「悪いけど、そう簡単に隙を見せるほど甘くないわよ、私」

 

「背中はガラ空きだけどねー」

 

中性的な声が聞こえてきたかと思えば、扉から氷塊がエルザに向かって飛ぶ。それに気付いたエルザは咄嗟に避けた。

 

「ありゃ、避けられちゃったか」

 

扉には、サテラとパックがいた。

 

「サテラ!?何でここに……」

 

「遅いから心配して来ちゃったんだけど……大変な事になってたみたいね」

 

スバルの問いかけに、サテラは答える。

その時、ロム爺はサテラの容貌をじっと見て

 

「お嬢さん、もしやエルフか?」

 

サテラは少し瞑目して、小さく吐息した後、

 

「……いや、違うわ。私がエルフなのは、半分だけ」

 

「ハーフエルフで、しかも銀髪じゃと!?しかもさっきサテラと……よく分からんが、何やら深い事情がありそうじゃな」

 

ロム爺が納得したように小さく頷いた。

 

「──精霊、精霊ね。ふふふ、素敵。精霊はまだ、お腹を割ってみたことないから」

 

その中でエルザは恍惚の表情でパックを見る。

 

「くっそてめぇ、どういうことなんだよ!これを買い取るのがアンタの仕事だろ!?」

 

フェルトは手に持っていた徽章をエルザに見せる。

 

「ここを血の海にするなら、話が違うだろうが!」

 

「盗んだ徽章を買い取るのがお仕事。持ち主まで持ってこられては商談なんてとてもとても。だから予定を変更することにしたのよ」

 

 怒りに顔を赤くしていたフェルトが、エルザの殺意に濡れた瞳に見つめられて息を呑む。そんなフェルトの恐怖を、エルザは愛おしげに見下した。

 

「この場にいる関係者は皆殺し。徽章はその上で血の海から回収することにするわ。あなたは仕事をまっとう出来なかった。切り捨てられも、仕方がないわ」

 

これを微笑みながらいうものだから、彼女のサイコパスな様が際立つ。

 

「……もう話し合いもクソもねぇ。戦わなきゃ生き残れないってか……!」

 

フェルトが顔を苦痛に歪めながらそう呟く。

 

「てめぇ、ふざけんなよ――!!」

 

 エルザの言葉は怒鳴りかかるくらい、スバルを怒らせる原因となった。

 

 驚いたようにスバルを見るエルザ。フェルトやロム爺、サテラもソウゴも例外ではなく。しかし一番驚いているのは誰でもなくスバル自身であった。

 

「こんな小さいガキ、いじめて楽しんでんじゃねぇよ! 腸大好きのサディスティック女が!! 予定狂ったからちゃぶ台ひっくり返して全部オジャンってガキかてめぇは! 命を大事にしろ! 腹切られるとどんだけ痛いか知ってんのか、俺は知ってます!!」

 

「……なにを言ってるの、あなた」

 

「自分の中の思わぬ正義感と義侠心に任せてこの世の理不尽を弾劾中だよ! 俺にとっての理不尽はつまりお前でこの状況でチャンネルはそのままでどうぞ!」

 

と、スバルの怒声にエルザが呆れたように小さな吐息をついた。

 

「よし、パック行けるか!?」

 

「全然行けるよー!」

 

見れば、エルザの周囲に先端を尖らせた氷柱が二十本以上包囲していた。

 

「まだ自己紹介もしてなかったね、お嬢さん。ボクの名前はパック。名前だけでも、覚えて逝ってね」

 

エルザに放たれたそれらは盗品蔵の床に突き刺さり、白く煙を上げる。

氷の射出速度は路地裏での速度をゆうに超え、着弾をかろうじて目で追えるレベルだ。本来ならば人体を易々と貫通し、絶命は免れない攻撃。

だが、

 

「やりおったか!?」

 

「何で今そのフラグを建てたーー!?」

 

ロム爺が言ってしまった。

そしてスバルの呼びに呼応するように

 

「備えはしておくものねぇ。着てきて正解だったわ」

 

煙を切り裂くようにエルザが現れ、羽織っていた外套を脱ぎ捨てる。

 

「どうやってあの攻撃を……!?」

 

「簡単な話。私の外套は一度だけ魔を払うことが出来る術式が編まれていたの。命拾いしてしまったわね」

 

ソウゴの疑問にエルザは丁寧に答える。ソウゴはすぐさまジカンギレードで撃つが、弾は全てナイフによって防がれた。

 

「サテラ!パック!一緒にこの人を止めよう!」

 

「ええ」

 

「勿論!」

 

二人が返答し、戦闘は再開される。ソウゴはジカンギレードでエルザに向かって撃ち、サテラとパックは氷柱を撃ち出していく。

ピンクと水色の弾幕が縦横無尽に乱舞するも、それを軽々と避ける。身を回し、身を伏せ、時には壁を足場にし、人間の域を超越したような動きをする。避けきれない攻撃はナイフで防ぐ。

 

「ちっ、あれもう人間の動きじゃねぇだろ」

 

スバルがエルザを見て思わずツッコむ。

 

「でも、このまま物量で押してけば消耗戦で勝てるか?」

 

「あの黒い娘の身のこなしが尋常でない。とはいえ、精霊がいつまで顕現できるかが勝負じゃ。精霊抜きじゃと一気に形勢が傾くぞ」

 

「そういえば……」

 

スバルの脳内に、ある言葉が浮かぶ。この場では、スバルだけが記憶しているであろう言葉。

 

『出てこれないっていうか、ボクはこんな可愛い見た目だけど精霊だからね。表に出てるだけでけっこうマナを使っちゃうんだ。だから夜は依り代の結晶石に戻って、お天道様が出てる間に備えてるんだよ。まぁ、平均的には九時から五時が理想かな』

 

「……前にそんなこと言ってたな。そろそろ五時を回るか!?」

 

現在、夕刻の戦闘開始からそれほど時間は経過していないが、これだけ魔法戦をすれば溜め込んでいたマナとやらも盛大に使っているだろう。

 

「楽しくなってきたのに、心ここにあらずなんてつれないわ」

 

「モテる雄の辛いところだねぇ。女の子の方が寝かせてくれないんだからさ。でもさ、夜更かしするとお肌に悪いだろう?」

 

その時、エルザの動きがふいに止まる。

 

「そろそろ、幕引きと行こうかな?」

 

「ーー足が」

 

エルザの足は、氷によって床に縫い付けられていた。

砕かれた氷塊の破片が降り積もり、エルザの足を絡め取ったのだ。

 

「無目的にばらまいていたわけじゃ、にゃいんだよ?」

 

「してやれたって、ことかしら?」

 

「年季の違いだと思って、素直に称賛してくれてもいいよ?じゃ、オヤスミ」

 

パックがサテラの肩の上に飛来し、その小さな体が小刻みに揺れる。

まるで必殺技でも放つかのようなポージング、両手が前に突き出され、そこからこれまでで最大級の魔力が集中し、そして発射された。

もはやそれは破壊光線と呼べるもので、射線上の全てを凍てつかせた。

直撃すれば、氷像とかするのは免れない。だが、

 

「おいおい……嘘だろ……」

 

「嘘じゃあ、ないわよ。ああ、素敵。死んじゃうかと思った」

 

それは直撃していれば、の話である。

 

「女の子なんだからぁ、そういうのは僕、感心しないな」

 

不満げに声を漏らすパック。それは技が外れた事によるものでは無く、エルザの行為に対する不満であった。

エルザの右足から、血が滴っていた。氷結魔法の射線上からわずかに離れ、素足で立つ彼女の右足からはおびただしい出血が見られる。  当然だろう。なにせ、彼女の右足の底は、ばっさり削がれているのだから。

 

「うげぇ、痛そ〜……」

 

ソウゴが顔を引き攣らせて言った。

 

「ええ、そうね。痛いわ。だけど素敵。生きてるって感じがするもの。それに……」

 

エルザはその足を躊躇なく傍らの氷塊に押しつけた。大気のひび割れる音にエルザの喉が鳴り、ナイフが振われ氷の表面を削った。

そして、乱暴な止血は完了した。

 

「ちょっと動きずらいけど、これで充分よ」

 

エルザは足音を響かせる。

エルザの足にある氷塊は、まるでガラスの靴のようにも思える。

 

「パック、行けそう?」

 

「ふぁ……ごめん、すごく眠い。ちょっと舐めてかかってた。マナ切れで消えそう」

 

軽く欠伸をしたパックはサテラの呟きに答える。

その姿はぼんやりと輝いていた。

 

「後はこっちでどうにかする。だから今は休んで。ありがとね」

 

「君に何かあったら、僕は契約に従う。いざとなったら、オドを絞り出しても僕を呼び出すんだよ」

 

その言葉を残し、パックは消えた。

 

「ああ、いなくなってしまうの?それは酷く残念なことだわ」

 

エルザは肩を落とし、失望にしたように言った。

だが、すぐに戦闘は再開された。先程の破壊光線に巻き込まれないように控えていた鳥と小人ーー改め、ソウゴのサポートメカ、タカウォッチロイドとコダマスイカも戦闘を再開する。

 

「ちっ、フェルト、せめてお前だけでも逃げろ!」

 

「は、はぁ!?いきなり何言ってんだよ!私にけつまくって逃げろってか!?」

 

フェルトはスバルの逃亡を催促する言葉に反論する。

 

「そいつの言う通りじゃフェルト!せめてお前だけでも生き残れ!もう勝算も分からん!」

 

「ろ、ロム爺まで!」

 

「年上の言う事を聞け!俺は一応18だから、多分お前はこの中で一番年下だ。したら、お前が生きる確率が一番高いとこを選ぶのが当たり前だ。当たり前なんだよ」

 

「んだよそれ……」

 

「ーー大丈夫さ、また会える」

 

ーーこれ、一度言ってみたかった!

 

と、スバル本人は全力のイケボのつもりでかっこつけて言った。

 

「こんな時にかっこつけてんじゃねえよ!」

 

「うるせー!言いたかったんだよ!とにかく早く逃げろって!」

 

フェルトからツッコまれるが、スバルは反論して逃亡を促した。

フェルトは歯を食いしばってくやしそうな顔をし

 

「……っ、にーちゃん、ロム爺!強く生きろよ!」

 

「勿論じゃ!」

 

「オッケー!」

 

そしてフェルトは目にも止まらぬ速さで扉に向かって走り出す。

 

「行かせると思って?」

 

だがエルザはそれを阻もうと懐から抜き取ったナイフを投げた。

 

「こっちとしては行ってほしいんだよ、なっ!」

 

そう言ってスバルはすぐ傍にあった転がっていた椅子を投げ、ナイフにぶつけた。

甲高い音を立て、ナイフは椅子と共に落ち、フェルトの脱出を許した。

 

「……少しだけ、腹ただしいと思ったわ」

 

「はんっ、ざまぁみやがれ」

 

トーンの低いエルザの声に、スバルはしたり顔で挑発した。

 

「反撃開始じゃあ!」

 

ロム爺は再び棍棒を持ってサテラとソウゴと戦闘中のエルザの元へ突撃し、その棍棒を振るう。

 

「ダンスに横入りだなんて、無粋じゃないかしら?」

 

エルザはそう言いながら棍棒の攻撃を避ける。

 

「そんなに踊りたければ最高のダンスを躍らせてやるわ! そら、きりきり舞え!」

 

そう言ってロム爺は棍棒をまた振るう。

そしてエルザが上に飛んで避け、同時に棍棒も上に振ろうとした瞬間

 

「なぬっ!?」

 

踵で棍棒を蹴った。そして、そのとてつもない脚力によってロム爺は棍棒を思わず手放してしまったのだ。

地面に転がった棍棒に意識を奪われてしまい、ロム爺は隙を見せてしまう。そして

 

「ぐあっ!?」

 

背中に、激痛が走る。

それは、いつの間にか背中に回っていたエルザがナイフで切ったからだ。傷は深く、ロム爺は地面に突っ伏してしまう。

 

「ロム爺!」

 

スバルが思わずロム爺の名を呼ぶ。

 

「さあ、あなた達もダンスを楽しませてくれるのよね?」

 

エルザはソウゴとサテラにナイフを向けて言う。

そして、エルザはサテラに向かって駆け出す。

サテラは氷の盾を作り、エルザの攻撃を防ぐが、その速さによってエルザはすぐに横に回り、そのナイフを首に突き付けようとする。

が、

 

「ふっ!」

 

すんだの所で、ソウゴがジカンギレードの剣モードで防ぐ。

エルザは一旦後ろに大きく飛ぶ。

 

「そろそろダンスも疲れてきたんじゃない?」

 

「いいえ、むしろ足りないくらいだわ」

 

「……そっか。サテラ、ロム爺の治療頼める?俺がこの人を食い止めるから、その時に」

 

「えっ、でも」

 

「大丈夫……行ける気がする」

 

そう言って、ソウゴはジクウドライバーを取り出して、腰に装着する。

ジオウライドウォッチを取り出して、ベゼルを回してスイッチを押し起動する。

 

『ジオウ!』

 

ウォッチをD‘9スロットに装填。

ライドオンリューザーを押してベルトのロックを解除する。

 

「変身!」

 

ベルトが360度回転すると、世界も回転した。

 

『ライダータイム!仮面ライダー!ジオーウ!』

 

そうして、もう一つのオレンジと黒に彩られたウォッチ、ゴーストライドウォッチを、ベゼルを回して起動する。

 

『ゴースト!』

 

それをD‘3スロットにセット。

ライドオンリューザーを押し、ロックを解除しベルトを360度回転させる。

 

『アーマーターイム!カイガン!ゴー・ス・トー! 』

 

仮面ライダージオウ・ゴーストアーマーに変身。

 

「……あなた、何者?」

 

エルザが目の前のジオウに聞いた。

 

「俺は、仮面ライダージオウ!」

 

幽霊の戦士の力を纏いし王が、殺人鬼と対面した。




(電話)どうして終盤まで変身しなかったんですか?どうして……

大人の
事情


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2019:ゴースト&ショータイム

初っ端からネタ満載なので注意してね!


『盛りのついた猿かよ』

 

『家族電子遊戯』

 

『鬼を滅する刃』

 

『序、破、急、:II』

 

フェルトは走っていた。道の途中に変な看板立ってるなぁって思いながら走ってた。

 

戦いの場から逃げる為。あの場にいれば命を落としていたことは明白だろう。

 

一瞬、後ろからロム爺の悲鳴が聞こえた気がする。恐らく、やられた。

ロム爺を倒した相手に、フェルトが報いる機会などない。あの銀髪のハーフエルフも同じだろう。精霊の援護もなしに太刀打ちなど出来ない。

あの武器で戦うソウゴも多分無理だろう。

 

そして、スバルはもっと分かりやすく駄目だ。

 

どう見ても素人で場慣れしている気配もなく、手が綺麗で武器なんて握った試しもなさそうである。傷ついた経験も無い箱入りなんだろう。

 

 いい気味だと思ってやればいい。世間知らずが少しの義侠心で、身の程知らずの真似をしたのだと、その無謀さを嘲笑すればいい。

 

スバルがかっこつけて自分を逃がしたのだから、逃げ切ってもらった方が浮かばれるに決まってる。

決まってるのに、

 

「――誰か、誰かいねーのかよ!」

 

 細い道を途中で行こうとしたのに、フェルトの足が駆け抜けるのは大通りへ繋がる貧民街の本道だ。

 

切羽詰まった顔で、息を切らしているフェルトの視線は定まらない。

自分でも意味がわからないまま、フェルトは涙目になりそうな自分の瞼を擦る。

 

 ロム爺ならいざ知らず、あんな出会ったばかりの少年が死んだところで何が悪い。

 

でも、彼はエルザの言葉に怒り、逃すために囮になってくれてる。

わけのわからない感覚だが、フェルトは走る。

 

 少年の行動に、何かを感じてしまった自分がいるのだ。それがあるから、それが熱を求めてやまないから、叫び出したい激情を抱えたままフェルトは走った。

 

 そして、駆け抜けた先で彼女は――、

 

「――お願い、助けて」

 

「わかった。助けるよ」

 

剣聖と出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かめん、らいだー……」

 

「……なんじゃそりゃあ?」

 

サテラとスバルはジオウを見てそう言った。

 

「ふっ!」

 

ジオウが手で印を結ぶと、肩アーマーの眼魂からパーカーゴーストが4体ほど出現し、エルザに向かって飛んでいき、攻撃を始める。

エルザもナイフで応戦し、パーカーゴーストと戦う。

 

「はああああっ!」

 

ジオウはジカンギレードを持ってエルザの元へ突撃する。

パーカーゴーストを相手にしていたエルザはジオウに気付き、ジカンギレードをナイフで受け止めた。

 

何撃かジオウが撃ち、エルザがジオウの首元をナイフで切ろうとするが、ジオウは大きく海老反りして避け、後ろに回ってジカンギレードで切る。

エルザは後ろにいるジオウの方に振り向く。

 

「うふふ……まさか隠し玉があったなんて……でもそういうの、嫌いじゃないわぁ。もっともっと、私を楽しませて頂戴?」

 

そして再びエルザはジオウの元へナイフを持って突撃していく。

 

「すげぇな……あっ、サテラ!ロム爺は!?」

 

スバルは目の前の光景に唖然としながらも、ロム爺の安否をサテラに確認する。

 

「安心して、命に別状はないわ。今、傷を治療してる」

 

サテラの手から淡い光の玉がロム爺の傷口に近づけられている。

 

「そっか、なら良かった……でも」

 

スバルはほっとしたように安堵の顔をする。だがその顔はすぐに解け、戦闘中の二人を見る。

 

「ここを掻い潜らないと、本当の安心は出来ないな……頼むぜ、ソウゴ」

 

「……」

 

スバルは祈るように呟いた。そんな中、サテラも横目でジオウの戦闘を見る。だがその目は、ソウゴのベルトのライドウォッチを映している。

 

(……ソウゴの使ってるあのミーティアみたいな物。あれって……)

 

サテラは、少し前の事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

「ん、あれは……」

 

 サテラは徽章探しの途中、とある路地裏に一人の人間がいるのを見つけた。どうやらその人間は、黒いフードを被っていた。

 側から見ればどう見ても怪しい格好をしている不審者だ。しかし、エミリアはその人物が気になったのか声を掛けようとするが、

 

「ーーーーリア、気を付けて」

 

パックがサテラの元に現れる。

 

「どうしたの?パック」

 

「ーーーーあの人から、とてつもない悪意を感じる」

 

「……っ!?」

 

「どうやら、憎悪と怨念から来ているようだね」

 

パックのその警告に驚くサテラ。確かに怪しい風貌をしているが、中に凄まじい悪意まで抱え込んでるとは思わなかった。

 

「……奴は、ここに……」

 

どうやら何か呟いたようだ。声質からして、男だろうか。

サテラの中で、何となくではあるが、嫌な予感がした。

どんな表情をしているかも分からないような不気味な風貌、そして、憎悪と怨念。

何となく、冷や汗が出てきた気がする。

そんな中で、サテラは一歩踏み出し、声を張って言った。

 

「貴方、そこで何をしているの?」

 

男はその声に気付き、サテラの方を振り向く。

男はサテラの質問に答えず、沈黙してじいっと、サテラの方を見る。

何も答えずに自身を凝視する男に、サテラは若干の恐怖の感情が出始めた。

 

「……何で、黙ってるの?」

 

また質問を投げかけるが、答える様子は無い。

 

「……答えないならいいわ。貴方、私の徽章について何か知ってる?知っているなら、答えて頂戴」

 

サテラは自身が探している徽章についての質問を投げかけた。

だが、その質問にも答えない。

何度も質問に答えない内にサテラに苛立ちが出てきたその時だった。

 

「っ!?待ちなさい!」

 

突如、急に男が駆け出したのだ。

その駆け出した男に、サテラは氷柱を射撃する。

男はその氷柱を脇腹に喰らい、その箇所を押さえながら霧散してしまった。

 

「!消えちゃった……」

 

サテラは目の前の光景に呆然とした。

怪しい男が突如逃げ、消え去ったのだから。

しょうがない、と思い、徽章探しを再開しようとした時に、地面の方に目が止まった。

 

「?何かしら、これ……」

 

地面に何か、ゴツゴツとした物が落ちており、それを拾う。

先程の男が落としたのだろうか。それは銀色と黒で彩られており、水色の文字と紋章のような物も書かれている。

 

「これは……火と水と風と土のマナに似たような力が込められているねぇ」

 

パックはそれをじっくりと見てそう言った。

サテラは、一応持っておこうと思い、懐に仕舞った。

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ!はあっ!でやあっ!」

 

剣を三連続で打つ。

ジカンギレードとククリナイフが打ち合う甲高い音が鳴り、火花が飛び散る。

ジオウは、後ろに飛びウォッチのスターターを押す。

 

『フィニッシュタイム!ゴースト!』

 

ライドオンリューザーを押し、ベルトのロックを解除し360度回転させる。

 

『オメガ!タイムブレーク!』

 

ジオウの右足に炎が収束し、駆け出す。同じくエルザも駆け出し、互いがキックをし合うと、衝撃波が起こり、互いに後ろに大きく吹っ飛ぶ。

 

「おおっとっと」

 

ジオウはふらつきながらも、着地する。

 

「ソウゴ!」

 

ジオウは声のした方を見ると、サテラがいた。

 

「これを!」

 

サテラから何かを投げられ、それをキャッチして見てみると、そこには

 

「!ウィザードライドウォッチ!」

 

それは、仮面ライダーウィザードの力が秘められしライドウォッチであった。

 

「何でサテラがこれを……まあ、いいや。行ける気がする」

 

そう言って、ジオウはベゼルを回し、スターターを押す。

 

『ウィザード!』

 

ウォッチをD‘3スロットにセット。

ライドオンリューザーを押し、ロックを解除しベルトを360度回転させる。

 

『アーマーターイム!プリーズ!ウィ・ザード!』

 

仮面ライダージオウ・ウィザードアーマーへと変身完了。

 

「さあ、ショータイム……な気がする!」

 

希望の魔法使いの力をその身に纏い、ショーの幕は上がった。さあ、()()れ。

再び、剣戟が繰り広げられる。

ジオウは、エルザの一撃を防ぎ一旦後ろに飛ぶ。

が、

 

「ーーーーあなたの腸、貰うわよ」

 

いつの間にか、低姿勢になったエルザがすぐ傍まで迫っていた。

そしてナイフが、ジオウの腹付近に近付けられる。

 

「「ソウゴ!!」」

 

サテラとスバルがソウゴの名を呼ぶ。

だが、

 

「!?」

 

エルザのナイフは、通らなかった。

いや、通ったには通ったのだが、通らなかった。まるで、水を切ったような感覚を覚えた。

一瞬驚愕したその時、ジオウが高速で回転して突如地面へと姿を消した。

突如ジオウが地面へと姿を消したことに困惑するが、後ろから大きな音がした。

振り向いて見ると、そこには先程姿を消したジオウが飛び出ていた。

 

『フィニッシュタイム!ウィザード!ギリギリスラッシュ!』

 

「でやあっ!」

 

ジカンギレードの刀身から、氷の斬撃がエルザに向かって飛ぶ。

それをナイフで撃ち落とそうとするが、その攻撃を喰らったナイフは氷の塊と化した。

 

「ふふふ……あなた、魔法も使えたのね?」

 

自身の武器を使用不可能にされたのに、愉快げに笑ってジオウに聞くエルザ。

 

「まぁ、そうかな」

 

「そうだったの。だったら、もっと私に魔法を見せてくれるのかしら?」

 

そう言ってエルザは二本目のククリナイフを取り出す。

 

「そうだなぁ……これとか」

 

そう言って、ジオウが上に手を翳すと、赤い魔法陣が出現し、そこから色とりどりの花が現れて、それが全て花弁となり、この盗品蔵の中を舞う。スバルとサテラは、その光景に思わず見惚れる。

 

「ダンスには花が必要だと思わない?」

 

「そうね、花は美しい。だから、そんな美しい花に美しい腸を添えてあげたいわ」

 

エルザはナイフを構えてジオウに向かった。

今度は、更に凄まじい速度でジオウに攻撃を繰り出した。

ジオウもその身に風のエレメントの力を纏わせ、エルザと同じように凄まじい速度で攻撃をする。

その暴風の如き戦いで、花は荒ぶるように舞う。

その中で、ジオウはナイフによるダメージを受けてしまった。

 

「ぐあっ!」

 

地面に転がるジオウ。ダメージこそ大きくないものの、大きな隙をエルザに見せることになってしまう。

 

「終わりよ。貴方とのダンス、楽しかったわ」

 

そう言ってエルザは地面に転がるジオウに素早く近づこうとする。

が、その時、何かがエルザの足を絡め取った。

それは

 

「ーーーー鎖?」

 

エルザの足首から太ももまで、鎖が巻き付いてた。

見ると、鎖は赤い魔法陣から出現していた。

途端、魔法陣がエルザを包囲するように現れ、鎖が出現し、エルザの四肢と体を縛った。それによって、二本目のククリナイフも落としてしまう。

 

「……ふふっ、してやられたわね」

 

「さあ、フィナーレの時間だよ」

 

いつの間にか起き上がっていたジオウが、ウォッチのスターターを押した。

 

『フィニッシュタイム!ウィザード!』

 

ライドオンリューザーを押し、ベルトのロックを解除して360度回転させた。

 

『ストライク!タイムブレーク!』

 

ジオウの足元に大きな赤い魔法陣が出現し、炎が出現してそれがジオウの右足に収束する。

そして空中に浮遊し、エルザにキックを放った。

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァっ!!」

 

「キャアアアアアアアアアアアア!!」

 

炎のエネルギーが収束したキックをまともに喰らったエルザは、大きな断末魔を上げ、吹っ飛んで盗品蔵を突き破っていったのであった。



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2019:ソードマスターラインハルト

すべてを終わらせる時…!


「……な、何じゃこりゃあ!?」

 

「すっ……ごーい」

 

エルザが突き抜けた盗品蔵の穴の空いた壁を見て、サテラとスバルの二人は驚愕の声を出していた。スバルに至っては当初、この光景を理解するのに数秒間は掛かったのだ。

 

「ふぃー……」

 

ジオウは、息を吐く。

 

「すげぇ! すげぇよソウゴ! アイツをぶっ飛ばしやがった! マジですげぇ!」

 

 目を輝かせながらジオウは駆け寄るスバル。

 

「あ、そういえば、どうしてサテラがこれを持ってたの?」

 

ソウゴは、ベルトのウィザードウォッチを触ってサテラに聞く。

 

「えっとね、実はソウゴ達に会う前に、変な人と会ったの」

 

「変な人?」

 

「すごーく黒い服装で、パック曰く、とてつもない悪意を秘めてるって。路地裏にいてて、何をしているのかって聞いたけど無視するから徽章の事を聞いてみたら突然逃げ出して、それで攻撃した時にそれを落としていったの」

 

「黒い……服装……」

 

 ソウゴは覚えがありげに呟く。

 

「俺の事か?」

 

突如男の声がして一同が見ると、そこにはソウゴのライドウォッチを取った例の黒いフードの男がいた。

 

「!この人よ!」

 

「やっぱりか……ライダーの力を返せ!」

 

サテラが男を見て思い出したように言って、ジオウは男に向かって叫ぶ。

 

「悪いがそうは行かないな」

 

そう言って男はバールクスライドウォッチを取り出し、ベゼルを回してスターターを押し起動する。

 

『バールクス!』

 

ウォッチを腰に装着していたジクウドライバーのD‘9スロットへと装填。ライドオンリューザーを押し、ベルトのロックを解除。

 

「変身」

 

そう呟いて、ベルトを360度回転させる。

 

『ライダータイム!仮面ライダー!バールークース!』

 

男は仮面ライダーバールクスへ、変身した。

 

「はああああああっ!」

 

バールクスは長剣を持ってジオウに斬りかかり、それをジカンギレードで受け止め、甲高い音を立てる。

 

「ふっ!」

 

ジオウは長剣を跳ね返し、手を翳して魔法陣から鎖を召喚し、バールクスを拘束する。

だが、バールクスはそれを力尽くで引きちぎった。

 

「何!?」

 

「でやあっ!」

 

再び長剣が振られ、それをジカンギレードで受け止めた。

剣戟が繰り広げられるが、甲高い音と共に火花が散る。

剣戟が繰り広げられていたその時

 

「ぐあっ!?」

 

突如、腹に刃物で切られたような痛みが走り、ジオウは後ろに吹っ飛ぶ。

見るとそこには、ナイフを構えているエルザがいた。

 

「まだ、やられてなかったのかよ……!」

 

スバルはエルザを見てそう言った。

 

「ふふ……よくもやってくれたわね……!もう腹を切るだけで済ませてあげないわ。ズタズタに引き裂いてあげる……!」

 

エルザは相変わらず微笑んでいるが、その目は微笑んでおらず、殺意の篭った淀んだ瞳。

ジオウは、立ち上がりジカンギレードを構える。バールクスとエルザは共に駆け出した。

ジオウは二人の長剣とナイフの同時攻撃を受け止め、弾き返し手から炎を噴かす。

エルザはその攻撃に怯むが、バールクスにはその攻撃が効いてる様子は無く、迷わずジオウに突っ込んでゆく。

土の壁、ディフェンドの魔法が発動し、バールクスを阻むが、それはすぐに破壊された。

その後も、防戦一方の展開が続いた。

 

「おいおい、このままだとやべぇぞ……!サテラ、どうにか……」

 

「どうにかしたい所だけど……二人とも強いみたい、パックがいないと私でも厳しいわ」

 

「マジか……」

 

スバルはサテラの返事に苦虫を噛んだような顔をする。

 

ーーーーこのまま、また、終わるのか。

 

スバルの脳に、そんな考えがよぎったその瞬間。

 

「そこまでだ」

 

盗品蔵の屋根を貫き、一人の人物が登場した。

その者の登場に、バールクスとエルザも動きを止める。

その人物とはーーーー

 

「危ない所だったようだけど、間に合ってなによりだね」

 

「ーーーーラインハルト!」

 

燃えるような赤い髪と空のような青い瞳を持つ青年、ラインハルトであった。

 

「その声は、ソウゴかい?随分と、変わった鎧を着込んでいるね」

 

自身を呼んだジオウを、声ですぐにソウゴだと見抜く。そしてその姿を見て感想を述べるが、直ぐに相手の方に向き直った。

 

「黒髪に黒い装束。そして北国特有の刀剣。君が腸狩りかな?」

 

「えっ、何その物騒な名前は……」

 

「その殺し方の特徴的な所からついた異名だよ。危険人物として王都でも名前が上がっている有名人だ。実際は、ただの傭兵という噂もあるらしいね……所で、君は確かあの時の……」

 

「ああ、俺か。俺はナツキ・スバルだ。あん時は、助けてくれてありがとな」

 

「いやいや、当然の事をしたまでだよ。僕は、ラインハルトだ。宜しくね、スバル」

 

「おおう、いきなり呼び捨て……」

 

微笑んで早速呼び捨てにするラインハルトの距離の詰め方に軽く驚くスバル。

 

「……さて、腸狩りの隣にいる君は誰かな?どうやらソウゴと似たような鎧を着込んでいるようだけれど」

 

ラインハルトは再びエルザ達の方を振り向き、バールクスに訪ねる。

だが、バールクスは何も答えない。

 

「アイツは仮面ライダーバールクス。前に俺が戦った敵だ」

 

「成る程、彼はソウゴが戦った敵か……だが、何故こんな所に?」

 

「分からない、というか、前に倒した筈なんだけど」

 

「倒した筈の敵が何故か再び現れた、か……」

 

ソウゴの言葉に、ラインハルトは顎を持って思考するように俯く。

が、直ぐに頭を上げ

 

「とにかく、色々聞き出したいこともある。御二方、投降をお勧めしますが」

 

「血の滴る極上の獲物を前にして、飢えた肉食獣が我慢するとでも?是非とも、その腰の剣を使って戦ってほしいわね。伝説の切れ味、味わってみたいわ」

 

「この剣は抜くべき時以外は抜けないようになっている。鞘から剣が出ていないということは、その時ではないということです」

 

「安く見られたものねぇ」

 

「茶番はいい。さっさと片付けるぞ」

 

二人の会話をバールクスは茶番と一蹴する。

 

「あら?何故貴方の指図を受けないといけないのかしら。出会ったばかりなのに」

 

「ふん、指図もなにも、倒すべき敵は一緒の筈だが?」

 

「ふぅん……まあ、いいけれど」

 

そう言ってエルザはナイフを構え、バールクスも長剣を構えた、

 

「さて、使う武器は……」

 

「あっ、これ使って」

 

そう言ってジオウは出現した魔法陣に手を突っ込み、そこから取り出した二本目のジカンギレードをラインハルトに渡す。

 

「ありがとうソウゴ。有り難く使わせてもらう」

 

剣を受け取り、礼を言うラインハルト。

そして、バールクスへと向き直り構える。

 

「さあ、行こうか」

 

「ああ!」

 

剣聖と魔王が並び立ち、二人の敵と相対する。

そして互いは同時に駆け出し、戦闘は開始された。

刃がぶつかり合い、火花が散る。

その戦いを見守るスバルとサテラの前に、ある人物が来た。

その人物の土を踏む音にスバルは気付く。

 

「フェルト!」

 

「はぁはぁ……間に合ったみてーだな」

 

肩で息をする少女は、八重歯の目立つ金髪の少女であった。

 

「何でここに……」

 

「逃げてる時に、あの赤髪のにーちゃんに会ってさ、それで今ここに来たってわけだよ」

 

スバルの質問に答え、フェルトは戦闘中のラインハルトを見る。

 

「で、あの赤髪のにーちゃんと戦ってる鎧の奴は誰だ?」

 

「ああ、あいつはソウゴだよ」

 

「ソウゴって……あの変な剣持ってたにーちゃんの事か。随分と変な鎧を持ってたんだな」

 

「うん……言われてみれば顔にカタカナって変な鎧だな……」

 

フェルトに言われたスバルはジオウの顔を見る。顔には、ピンクのクリスタルで『ウィザード』とカタカナで書かれている。

 

「はあっ!」

 

ラインハルトはジカンギレードを銃モードに変え、バールクスに向かって撃つ。

 

「くっ」

 

その弾は矢当ての加護の力により、バールクスにダメージを与えた。

 

「近距離も遠距離も対応出来るのか。中々面白い武器だね」

 

ラインハルトはジカンギレードを見ながらそう言って、再びバールクスに向かって引き金を引いて撃つ。

 

「はっ!」

 

ジオウは手を翳し、魔法陣から鎖を召喚しエルザを拘束しようとする。

だが、エルザは飛び立ってそれを避けた。

 

「同じ手には2度も引っかからないわよ!」

 

挑発するようにそう言うエルザ。

だが、次の瞬間、ジオウのジカンギレードが突如伸びて、飛び立っていたエルザを拘束した。

 

「何!?」

 

そしてそのまま、地面へと落とされ叩きつけられる。

伸びた剣が再び元のサイズへと戻ったと同時に、取り巻いていた魔法陣は消えた。

 

「さあ、舞台の幕を引くとしようか」

 

ラインハルトはそう言うと、ジカンギレードを剣モードにし、低い姿勢で構える。

瞬間、大気が歪み、氷結魔法で下がっていた気温が更に下がる。

凄まじい剣気がラインハルトから発せられる。

 

『フィニッシュタイム!バールクス、タイムブレーク!』

 

ラインハルトと相対していたバールクスは、ウォッチのスターターを押し、リューザーを押しロックを解除して、360度ベルトを回転させる。

すると、長剣に赤いエネルギーが溜まる。

 

『フィニッシュタイム!』

 

ジカンギレードにウィザードライドウォッチをセットする。

すると、周囲に魔法陣が出現する。

それは火のエレメント、水のエレメント、風のエレメント、土のエレメント。

世界を構成する四つの元素が、ジカンギレードの刀身に収束する。

相対するエルザは、変わらずナイフを構え、三本目のナイフを取り出した。

その光景に、スバルとサテラとフェルトは息を呑む。

 

『ウィザード!ギリギリスラッシュ!』

 

その音声と同時に、ラインハルトとジオウは同時に剣を振るった。

ジオウの刀身からは、四色の輝きが放たれ、ラインハルトの刀身からは、白き極光が放たれた。

やがてーーーーその極光は、盗品蔵を引き裂き、空間ごと真っ二つに切り裂いた。

そして、大気が歪むほどの余波が暴風となり、盗品蔵の様々な物品を吹き飛ばす。

 

「おいおいおいーーーー!?なんじゃこりゃーーーー!?」

 

その暴風からロム爺を守っているスバルも吹き飛ばされないように踏ん張る。

やがて、その暴威は収まった。

その時には、もう盗品蔵は、軒並み破壊され、今にも崩れそうであった。

そこには、剣を下ろしているジオウとラインハルトが立ち尽くす。

 

「いやいや……やり過ぎだろ……」

 

スバルはその惨状を、唖然として見つめた。

 

「ふっ……流石は、剣聖と呼ばれるだけあるか……」

 

バールクスは、剣を地面に突きながら、膝を付いていた。もはやアーマーはボロボロとなっている。

 

「常磐ソウゴ……お前とは、何度も交差する運命にある……」

 

バールクスは、ジオウに向かってそう言った。

 

「いずれまた会うだろう……」

 

そう言って、バールクスは霧散し消えた。

 

「ちっ……いずれ、この場にいる全員の腹を切り開いてあげる。それまではせいぜい、腸を可愛がっておいて」

 

同じく、ボロボロとなっていたエルザも言葉を残し、廃材を足場にして跳躍し逃走した。

 

「あっ、待て!」

 

ジオウが叫ぶが、身軽に建物を飛び越える背中は直ぐに遠ざかった。

 

「逃したか……」

 

そう言いながら、ジオウはベルトのウォッチを引き抜き、元の人の姿に戻った。

 

「ご無事ですか、エミリア様」

 

ラインハルトは、エミリアと呼ばれた銀髪の少女へと近寄る。

 

「えっ、エミリアって……もしかして、それが君の本当の名前なのか!?」

 

「えっ、あっ……」

 

「あ、やっぱり本当の名前があったんだ?」

 

スバルがサテラという名ではなく、エミリアという名前だったことに驚き、ソウゴはやっぱりか、という顔をする。エミリアは、偽名であることがバレてしどろもどろになる。

 

「ソウゴも気付いてたのか?」

 

「うん、何か、名前を名乗る時、悩んでた感じがしたっていうか」

 

「えっと……ごめんなさい、二人を騙すつもりは無かったの。その、なんていうか……」

 

「別にそんな謝んなくても、怒っちゃいねぇよ。むしろ、君の本当の名前が知れて嬉しいくらいだぜ。改めて、よろしくな、エミリア!」

 

「ーーーーうん、よろしく、スバル」

 

スバルはにかっと笑ってサテラ改め、エミリアに笑う。エミリアも、一瞬呆然とした顔になるも、同じように笑った。

それに、ソウゴは微笑んだ。

 

「はあー!何かどっと疲れた気分だ!」

 

そう言って、スバルはその場に寝転がる。

 

「これが全部一日の出来事だなんて信じらんねぇよ」

 

スバルは空に輝く月を見ながらそう言う。

月を見ながら、スバルの瞼は下がって行き、意識を手放した。

 

「あ、寝ちゃった」

 

「無理もないわ」

 

ソウゴがスバルの顔を除き、エミリアも顔を覗いた。

 

「ラインハルト、助けに来てくれてありがとう。でも、何でここに来てたの?」

 

「王都を散策していた時に、銀色の物体に乗る男二人が、貧民街に向かって爆走しているという噂を聞きつけてここに来たのです」

 

「「あー……」」

 

ラインハルトの言葉を聞いて、ソウゴとエミリアは覚えがあるように声を漏らした。二人の脳には、ライドストライカーが思い浮かんでいる。

 

「そして、彼女と出会ってここまで来ました」

 

ラインハルトは、ロム爺を看護しているフェルトを見る。

 

「そう、あの子に」

 

エミリアもフェルトを見た。

フェルトはその視線を受けて振り返り、気まずげにその瞳を伏せた。

 

「エミリア様、彼女とは……」

 

「ラインハルト。色々と力になってもらってありがとう。助けてもらって感謝してる。でもその上でお願い。ここから先のことに、口出ししないで」

 

強い口調で言い切られ、それ以上の言及をラインハルトは諦める。

 

「な、なあ、ねーちゃん」

 

フェルトはおずおずとして様子で、エミリアに声を掛ける。

そして、懐からある物を取り出しエミリアに差し出す。

 

「ロム爺を助けてもらったからな。恩知らずな真似は出来ねー。これは返す。今度は、盗られないようにしろよ」

 

「出来れば、こんなこと二度としてほしくないけど」

 

「はっ、それは無理な話だ。こっちも、色々あるんだよ」

 

エミリアの頼みをすぐに切り捨て、強かな笑みを浮かべるフェルト。

そして、フェルトがエミリアに徽章を渡そうとした時ーーーー

 

「これは……」

 

「え……」

 

フェルトの手を横合いから掴んでいた。

その様子にフェルトとエミリアとソウゴの三人は驚いた表情でラインハルトを見る。

 

「ちょっ、いてぇよ!離せ!」

 

首を振りながら手を離そうと必死に抵抗するフェルト。

だが、ラインハルトの力は緩む気配は無い。

 

「なんて、ことだ……!」

 

震えるように呟くラインハルト。

その言葉に、エミリアは瞳に動揺を浮かべ

 

「待って、ラインハルト。確かに、お咎めなしで済ませるのが難しいことなのはわかってるの。でもその子は徽章の価値を知らなかったの。そして盗られた私自身はそれを問題にしてないし、盗られた私に落ち度があったことだから。だから」

 

「違います、エミリア様。僕が問題にしているのは、もっと別にあるのです」

 

強い口調で言われ、エミリアは困惑して押し黙る。

ラインハルトはフェルトの顔を見る。

ラインハルトの視線を受けたフェルトの瞳は不安に揺れた。

 

「君、年齢を教えてくれるかな?」

 

「えっ……多分、15だ。というか誕生日知らねーんだよ私」

 

「名前は?」

 

「ふぇ、フェルトだよ」

 

「家名は?」

 

「か、家名なんて大層なもんはもっちゃいねえよ。ってか、離せ!」

 

話している内に調子を取り戻したのか、乱暴な口調でフェルトは暴れる。

ラインハルトはエミリアを見つめると、

 

「エミリア様、先程のお約束は守れなくなりました。彼女の身柄は、僕が預かります」

 

「何かあるの?ラインハルト」

 

ソウゴはラインハルトに訪ねる。

 

「……すまない、ソウゴ。その質問には、答えることが出来ない。もしかしたら、これはこの国を揺るがす事態かもしれないんだ……」

 

「……もしかして、王選に何か関係でもあるの?」

 

「……ふっ、やはり君は凄いな」

 

質問に答えず唐突に自身を褒めるラインハルトにソウゴは困惑の表情を浮かべる。エミリアも同様だ。

 

「君にはついてきてもらう。すまないが、拒否権はない」

 

「てめぇ、ふざけんな。助けたからってあんまり調子に……っぁ」

 

そして突如、フェルトの体勢が崩れ、意識を失いその体はラインハルトに抱えられた。

 

「フェルト!」

 

「大丈夫、少し寝てもらっただけだよ」

 

意識を失ったフェルトにソウゴは思わず名を呼ぶも、ラインハルトはすぐにそう返した。ラインハルトは、フェルトの手から徽章を優しく奪い、エミリアに差し出す。

 

「スバルはこっちで預かっておくわ。そっちもお願いね」

 

「ええ、分かりました」

 

エミリアの言葉に、ラインハルトは一礼。

 

「それで、スバルを連れて帰るけれど、ソウゴも来る?」

 

「え、いいの?」

 

「うん、全然。というより、むしろ来て欲しいの。お礼だってしたいから」

 

「お礼? そんなの全然いいのに」

 

「でもソウゴが居なかったら、私は今頃どうなってたか分からないわ。それぐらいすっごく大きな恩があるの」

 

「うーん、でも」

 

「ひとまず、一度屋敷に行きましょう。スバルも寝ちゃってるから」

 

「まぁ、そうだね。俺もちょうど色々あって家に帰れない所だったし」

 

「帰れないって……お家の人と、喧嘩でもしちゃったの?」

 

「いや、別にそうじゃないけどさ……まぁ、そこはいいじゃん。さ、早く行こう」

 

そう言って、ソウゴはバイクライドウォッチのスターターを押し、起動する。それは変形し、ライドストライカーになった。

 

「銀色の物体……成る程、それの事だったのか」

 

ラインハルトはライドストライカーを見て納得したように頷く。

ソウゴはライドストライカーに跨り、ヘルメットを被る。

 

「さ、エミリア、乗って。ちょうど、約束してるしさ」

 

「あっ……そうね。分かったわ」

 

そうして、エミリアはスバルを背負ってソウゴの後ろの座席に乗る。

 

「しっかり掴まってね!」

 

「うん!」

 

エミリアは、ソウゴの腰に手を巻きつける。

 

「それじゃあソウゴ、エミリア様、お気をつけて」

 

「ラインハルトもね」

 

「ふふ、ありがとう」

 

ラインハルトは笑ってソウゴに返事をすると、ライドストライカーのエンジンは火を噴きタイヤが甲高い音を出しながら、バイクはラインハルトの元から走り去っていった。

走り去って、フェルトを抱えて一人立つラインハルトは、空に浮かぶ、青白く輝く月を見て

 

「落ち着いて月を見れるのは、今日が最後かもしれないな……」

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーかくして」

 

暗い空間の中で、コートを纏う青年は呟いた。

 

「常磐ソウゴは一つ、ライダーの力を取り戻した」

 

青年は、『逢魔降臨暦』というタイトルの本の頁を見ている。

 

「彼の異世界で歩む覇道は始まったばかり。彼が取り戻すライダーの力は、後、11個。それは、ある物達の手に渡ったーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーうん?」

 

月を見上げていたラインハルトは、あることに気付く。

それは、空から小さな一つの赤い光が降ってきたのだ。

その光は、やがて地面に優しく着地した。

その光に、ラインハルトは近づく。

 

「何だろう、これは」

 

ラインハルトはその光を拾い上げる。

それは、黒と赤で彩られているライドウォッチ。

それは、2014年に生まれし、スーパーカーで駆ける、正義の熱血刑事の力。

 

 

 

 

 

 

「ーーーーそして、次に手にする力は」

 

青年は本の頁を捲る。

 

「青き鬼が持つ、響く鬼の力」

 

 

 

 

 

 

 

とある紫の光が、ある屋敷の庭に降り、着地する。

 

「何でしょう、これは」

 

それを、青き髪の少女が拾った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ……あの攻撃で、ライダーのウォッチが何処かに行ったか」

 

何処かで、バールクスに変身していた男は苦い顔をして呟く。

 

「まあいい……常磐ソウゴにさえ見つからなければどうという事は無いだろう。だが、回収はしていた方がいい」

 

そして、男はふと、思い出したように呟く。

 

「結局、あのウォッチは何処へ行ったのだろうか」

 

男の頭に浮かぶのは黄金のライドウォッチ。

 

「オーマジオウの力……手に入れた直後、突然何処かへと消えた……何故だ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処かの荒野。

 

そこにはポツンと玉座があり、そこに一人の男が座る。

 

その男の手には、黄金のライドウォッチが握られている。

男は玉座から立ち上がる。

そして腰に、黄金のベルトを出現させた。

 

「変身」

 

『ーーーー祝福の刻!』

 

男の声に呼応するように、地面に赤き巨大な時計が出現する。

 

『最高!最善!最大!最強王!オーマジオウ……!』

 

全てのライダーの力を統べし最強の王。

今ここに、君臨した。

 

「……」

 

王は、意味深気に、空を見つめた。




勝ったぜ。投稿者:一般高校生(不登校)


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第ニ章 激動のセカンドタイム
2019:その後の朝


これまでのリゼロSZ

「夜は焼肉っしょぉぉぉぉぉぁ!!」

「俺がルールだぁぁぁぁぁぁ!!」

「名護さんは最高です!!」

「銃です」

「100%喋らないぞ!!」

(転倒するアナザービルド)

「望み通りにしてやる!!(モタモタ…)」

(ギシギシ…バキン!)「あ!!」
「うわっ!!不器用なんですねぇ!!」

「豚の餌ぁぁぁぁぁぁ!!」















SOUGO「お前達の嘘あらすじって……醜くないか?本編スタートだ」











「ーーーーこの本によれば」

 

暗闇の中で、大時計の前に立つ『逢魔降臨暦』というタイトルの本を持った青年が、本のロックを解除し、開く。

 

「普通の高校生だった、常磐ソウゴ。彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた。

 彼は突如異世界へと転移し、同じく転移者のナツキ・スバルと異世界人のエミリア、そしてパックと出会う」

 

彼の本にはナツキ・スバルとエミリア、パックが写っていた。

 

「常磐ソウゴは、エミリアが探しているという徽章をフェルトが持っていると知り、彼女がいる盗品蔵へと向かうが、そこで腸狩りの異名を持つ殺人鬼、エルザ・グランヒルテと遭遇する」

 

本には、エルザ・グランヒルテが写った。

 

「常磐ソウゴは、ナツキ・スバルやフェルト達を守る為に、仮面ライダージオウへと変身。そして、エミリアが持っていたウィザードライドウォッチを使いジオウ・ウィザードアーマーへと変身。見事エルザ・グランヒルテを撃破するのであった」

 

彼の傍には、いつの間にかジオウ・ウィザードアーマーが立っている。

 

「だが安心するのは束の間。突如、常磐ソウゴのライダーの力を奪った張本人、仮面ライダーバールクスが現れ、常磐ソウゴを襲撃。更にエルザ・グランヒルテも加勢し、ピンチとなるが、そこに『剣聖』ラインハルト・ヴァン・アストレアが現れ、窮地を脱した」

 

本には、ジカンギレードを構えるラインハルト・ヴァン・アストレアが写る。

 

「常磐ソウゴが集めるべきライダーの力は後10個。そして彼が次に手にする力は、鍛錬に勤しむ響く鬼の力。その力は持つ者は、罪滅ぼしに生きる、青き鬼の少女。そんな少女と、常磐ソウゴとナツキ・スバルはどう向き合うのか?ここから先は、未来のお話……」

 

そう言うと、青年は本を閉じて踵を返し、何処かへと去って行く。

青年が去ると、その空間は、やがて闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 その時に得た感情を、今でも覚えている。

 

 日常となった景色は燃え、見知った人々は、帰らぬ者へとなってゆく。

 

 滅んで、終わって、報われず消えてゆく、世界。

 

 優しくなくて、不条理で、蹂躙されるだけの、世界。

 

 そんな中で、手を伸ばして、懇願した。

 

 そんな救いのない世界であったとしても、自分には、それしかなかったから。

 

 ずっと目の前を遮ってくれる背中の後ろから、覗き見るだけだった世界。

 

 それがふいに取り払われて、眩い世界に目を細めて、肌を焼く火の熱さと色を、焦げついた肉の臭いと色を、宙を舞う『角』の美しさとその色を、全てをその目に、開き切っていなかった視界に刻みつけて——。

 

 終わりゆくだろう世界の中で、自身が何を思ったのか。

 

 その時に得てしまった感情。そのことを、今も覚えているから。

 

 

 それから、彼女の日々は、全てその感情の罪滅ぼしだけでできていた。

 

 

 

 

 

 

 

少年が瞼を開き、最初に飛び込んでのは、白い天井だ。

身を起こし、辺りを見回す。窓からは光が差し込んでいる。朝だろうか。

身を再び倒し、天井を見て、ナツキ・スバルは呟いた。

 

「……知らない天井だ」

 

 

 

 

 

 

第漆話見

   知

   ら

   ぬ、天井

 

※『2019:その後の朝』です。

 

 

 

 

 

 

 

 

時に、場面変わって常磐ソウゴ。

 

「……なんて、心の底から腹立たしい奴なのかしら」

 

彼は、巻毛の少女の恨み節を受けた。

 

「……え、俺、君に何かした?」

 

「ベティーの扉渡りを破った。ベティーが腹が立つには充分な理由なのよ」

 

「扉渡り、はよく分かんないけど……迷惑かけたなら、ごめんね?」

 

「分かればいいのよ、分かれば」

 

「それで、ここは図書館なの?」

 

「ここはベティーの書庫兼、寝室兼、自室かしら」

 

「はえ〜、そうなんだ」

 

ソウゴは部屋を見渡す。そこには見渡す限り本棚があり、それは天井まで届いている。本棚には、本がぎっしりと詰められている。

 

「沢山本があるなぁ……君は本を読むのが、好きなの?」

 

「……ええ、そうよ。だってここの本は……」

 

少女は、何処か遠い所を見るような目をしていた。

 

「……どうかした?」

 

「……いいえ、何もないのよ」

 

「……そっか。あっ、一冊本を読んでみてもいい?」

 

「ふん、好きにするかしら」

 

ベアトリスから許可を貰い、ソウゴは本棚を見る。そして、その中から選ぶ。

 

「……うーん、何て書いてあるか分からない」

 

解読不能の文字を見ながらそう呟いた。

 

ソウゴが見ているページには、髪の長い女性らしき人物が書かれていた。その女性のイラストはまるで、とても恐ろしい、悪魔の存在のように書かれている。

 

「ねえ、ベティー」

 

「気安く呼ぶんじゃないのよ。名を呼ぶなら、ベアトリスの名で呼ぶかしら」

 

「ふぅん。じゃあ、ベアトリス」

 

「呼び捨てかしら」

 

「この本に書かれてある女の人は誰?」

 

「無視かしら……それは嫉妬の魔女。またの名を、サテラと呼ぶかしら」

 

ベアトリスはソウゴに見せてもらったページを見て答える。

 

「嫉妬の、魔女?何か怖そーだね」

 

「まさか、知らないのかしら?400年前に存在していた魔女よ。

 彼女はかつて存在した大罪の名を冠する六人の魔女を全て喰らい、世界の半分を飲み込んだ最悪の魔女なのかしら。

 いわく、彼女は愛を欲していた。いわく、彼女には人の言葉が通じない。いわく、彼女はこの世の全てを妬んでいた。いわく、彼女の顔を見て生き残れたものはいない。いわく、その身は永遠に朽ちず、衰えず、果てることがない。名を呼ぶことすら、憚れる」

 

 つらつらとそう述べ、言葉を差し挟ませる暇を与えないベアトリス。  そして羅列した情報を締めくくるように、

 

「いわく」  

 

最後の前置きを置いて、言った。

 

「その身は、銀髪のハーフエルフであった」

 

「何それ……世界の半分を飲み込むなんて、そんな事どうやって……」

 

「世界の半分を飲み込んだ、それしか書かれてないのよ。具体的な詳細は知らないかしら」

 

「へぇ〜……じゃあ、その後は?」

 

「賢者と剣聖と龍と呼ばれる者たちによって封印されたのよ。余りに力が強すぎて、倒すことは出来なかったのかしら」

 

「やばいね…………」

 

 そう言いながら、ソウゴは本を閉じて棚に戻す。

 

「俺はそろそろ行くよ。じゃあね、ベアトリス」

 

そう言って、扉を開けて、部屋から出て行くソウゴ。最後に、扉を閉じる音が部屋に響いた。

 

しばらくして

 

「……腹立たしい奴が来るのは、今日で2回目かしら」

 

「あちゃ、俺、記念すべき1回目逃しちゃった感じ?」

 

三白眼の少年がやって来たのであった。

 

 

 

 

 

「…………記憶を思い返す限りだと、あのドリルロリにやられたんだよな」

 

スバルは、全身を炎で炙られたような感覚を思い出した。

 

スバルは部屋で目覚めた後、適当に廊下を歩いて適当に扉を開けて部屋に入り、ベアトリスと出会った。

 

が、そこでベアトリスの機嫌を損ねるような真似をしてしまい、彼女の力によって気絶させられてしまったのだ。

 

「あら、目覚めましたね、お客様」

 

「そうね、目覚めたわね、レム」

 

耳に飛び込んできたのは、声質の同じ二人の少女の声。

 

「今は陽日七時になるところですよ、お客様」

 

「今は陽日七時になったところだわ、お客様」

 

二人の少女曰く、現在は陽日の七時らしい。

恐らくは朝の七時だろうか。

 

「さっきの目覚めがノーカンなら、ほぼ丸一日寝っぱなしか……まあ、最高で二日半も寝続けた俺には大したことじゃないけどな」

 

「まあ、穀潰しの如き発言ですよ。聞きましたか姉様」

 

「ろくでなしの発言ね。聞いたわよ、レム」

 

「やめろ!俺の心のライフがゼロになるような発言はやめろ!」

 

スバルは布団を跳ね除けて勢いよく起き上がると、ベッドの左右から挟んでいた二人の少女が驚いて小走りに部屋の中央で合流。互いに手を取って、顔を寄せ合いスバルを見る。 並ぶ二人の少女、それは瓜二つの顔立ちをした、双子の少女だった。

 

身長は150センチ真ん中くらいで、顔は幼さと愛らしさが同居していた。髪型もショートボブで揃えているが、髪の分け目が違い、右目と左目が片方ずつそれぞれ隠れている。髪の色も桃色と青色で違っていた。

双子の少女を凝視したスバルは、本人にとってとてつもない事実に気付き、驚愕していた。

 

「何……だと……!?この世界に、メイド服が存在するというのかっ……!?」

 

黒を基調としたエプロンドレスに、頭の上にはホワイトプリム。細い肩が露出する特殊なメイド服は短いスカートが相まって扇情的である。

 

「メイドは俺にとって奥ゆかしさの体現のイメージだったが……これも悪くはないっ!!」

 

「大変ですよ。今、お客様の中で卑猥な辱めを受けています。姉様が」

 

「大変だわ。今、お客様の頭の中で恥辱の限りを受けているのよ。レムが」

 

「俺のキャパシティ舐めんなよぉ。2人纏めて妄想の餌食だぜ。姉様方」

 

両手を宙でわきわきさせ、その動作にメイド2人の顔に戦慄が浮かぶ。

 

「許してください、お客様。レムは見逃して、姉様を汚してください」

 

「やめてちょうだい、お客様。ラムは見逃して、レムを凌辱するといいわ」

 

「超麗しくねぇな、この姉妹愛! お互い売るとか、そして俺は超悪役!」

 

とまあ、三人で茶番をしている際に、スバルはふと気付いた。

 

「……大人しく、起きれなかったの?」

 

そこには、三人を眺める少女が。

腰に届く長い銀髪は、今日は結びを解かれて自然と背中へ流されている。服装は王都で見たローブ姿ではなく、白色のイメージが強い細身に似合ったデザインの格好。スカート丈の意外な短さと、すらりと長い足が絶妙で思わずスバルはガッツポーズ。

 

「おおう! 超イイネ! サイコー! 選んだ奴、絶対分かってるゥ!」

 

「……どういう意味か分かんないけど、くだらないって事が分かるのがすごーく残念」

 

喝采をするスバルに呆れた様子の少女。

エミリアが、扉の前に立っていた。

 




最近俺の賢人君が聖剣を封印してきました。なのでもっと強くなってきます。


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2019:オウサマとのぞみ

「という訳で、おはよう!エミリアたん!」

 

「おはよう、スバル。……ん?エミリアたんって何?」

 

「エミリアたんの愛称だよ。きゃわゆいだろ?」

 

「きゃわ、ゆい……?まあ、良いわ。もう朝ご飯の時間だから、ここに来たのだけれど」

 

「おっ、朝飯か。こんな豪華な感じの部屋だし、きっと良い飯なんだろうな。へいへい、そこのメイド姉妹。俺の元の服はどこにあんの?何か今の俺の格好、入院服みたいになってるけど」

 

「わかりますか、姉様。ひょっとして、あの薄汚い灰色の布切れでしょうか?」

 

「わかったわよ、レム。たぶん、薄汚れた鼠色のボロキレでしょうね」

 

「かなり不敵だな。その薄汚いドブネズミ色のボロだよ。無事なら持ってきてちょうだい」

 

スバルの求めに、二人はエミリアを見る。許可を欲する目だろう。エミリアが顎を引いて応じると、お辞儀をして丁寧に出て行った。

 

 

 

 

 

 

「おおっと、お前は」

 

 着替えて食堂に来たスバルは、目の前にいるある人物に驚く。ちなみにエミリアは着替える為に自身の部屋に戻った。

 

「感動的な再会だなぁ、おい」

 

「ベティーからしたら最悪の再会かしら」

 

「釣れねーこと言うなって」

 

巻き髪の少女、ベアトリスに軽口を叩き、スバルは広い食堂をざっと見渡した。

食堂は中央に白いクロスのかかった卓が置かれており、すでに皿の並べられた席が点在している。

ほえー、と声を漏らしてスバルは軽く感心してると

 

「失礼いたします、お客様。食事の配膳をさせていただきます」

 

「失礼するわ、お客様。食器とお茶の配膳をさせてもらうから」

 

食堂の扉を開き、台車を押してくる双子のメイドが入ってきた。

青髪の少女がサラダやパンを並べ、桃髪がカップにお茶を注いで配膳する。

 

「おー、いいねぇ。いかにも、THE・貴族な食事だな」

 

そんな時、食堂の入り口が開く音がして、見てみると着替えて来たエミリアがいた。

 

「にーちゃ!」

 

弾むように席を立つベアトリス。長いスカートを揺らして走り、その顔は笑顔で満ち溢れていた。

 

「や。ベティー。四日ぶり。ちゃんと元気でお淑やかにしてたかい?」

 

エミリアの髪から姿を見せるパックの言葉に、ベアトリスはうんうんと頷く。

 

「にーちゃの帰りを心待ちにしてたのよ。今日は一緒にいてくれるのかしら」

 

「うん、だいじょうぶだよー。今日は久しぶりに二人でゆっくりしてようか」

 

「わーい、なのよ!」

 

エミリアの肩から飛び立ち、差し出されるベアトリスの掌の上にパックが着地。ベアトリスは受け止めたパックを愛おしげに抱くと、その場でくるくると回り出す。

 

「ふふ、たまげたでしょ。ベアトリスがパックにべったりだから」

「たまげたってきょうび聞かねぇな……」

 

「あ、そういえばソウゴは?」

 

「お?そういえばいねぇな。まだ寝てるんじゃねぇのか?」

 

「朝ご飯の時間なのに……私、見に行ってみる」

 

エミリアは食堂の入り口から、ソウゴが寝ている部屋は向かう為に出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソウゴ君……叱らせてもらうよ」

 

『ジクウドライバー!』

 

『ジモウ!』

 

「変身!」

 

『仮面ライダー!ジモーウ!』

 

「最初に言っておく!叔父さんの髪はカツラじゃなくて自毛だ!」

 

仮面ライダージモウ。その頭部は、謎の白い光で包まれていた。

 

 

 

 

 

 

「叔父さんっ!?」

 

ソウゴは布団を跳ね除けて慌てて起きた。

が、数秒経った後に落ち着いて

 

「何だ……夢か……」

 

そう呟いて、ソウゴは布団へと倒れ込み、寝ようとする。

その時、扉からコンコン、とノックする音が聞こえた。

 

「ソウゴ?入るわよ」

 

鈴のような可憐な少女の声と共に、扉が開かれる。

入って来たのは、綺麗な銀髪を靡かせる少女。エミリアだ。

 

「ソウゴ、もう朝ご飯の時間よ。起きて」

 

エミリアがソウゴが寝ているベッドの近くまで歩み、起床を促す。

 

「んー……朝ご飯?分かったー」

 

ソウゴは目を擦りながら、身を起こしベッドから降りる。

 

「あ、そういえば変な夢みたんだよ」

 

「ん?どんな夢?」

 

「俺の叔父さんがライダーに変身する夢」

 

「え、ソウゴの叔父さんが仮面ライダーに?」

 

「うん……後なんか、叔父さんの髪はカツラじゃなくて自毛だーとか言ってた。で、何か頭も光ってた」

 

「ふぅん……確かに変な夢ね」

 

エミリアの頭の中では、頭が光ってるジオウが思い浮かんでいた。

 

「そういえばカツラって何?」

 

「うーん……髪の毛の帽子?」

 

「髪の毛の帽子って、何だかすごーく変な感じね」

 

「そう表現するしかないというかなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー」

 

「おー、ソウゴ。おはよう」

 

ソウゴがエミリアと共に食堂に入り、朝の挨拶をする。それを返したのはスバルだ。

スバルはもうテーブルの下座席に座っている。

ソウゴとエミリアもテーブルの下座席に座った。

 

「「当主、ロズワール様がお戻りになられました」」

 

扉の前に立っていた双子のメイドのズレのないステレオボイス。

それと同時に、扉が開かれた。

 

「やーぁやーぁ、みーぃんな。おはよう。待たせたねーぇ」

 

嬉しそうな声と同時にある人物が入ってくる。

それは長身の男性だ。その髪は濃紺で、背に届くぐらいまで伸ばしている。体付きは華奢で肌の色は病的に青白い。

顔つきも整っていて、目は左右で青と黄色で色が違うオッドアイだ。

たが、服装の配色が奇抜で、顔にピエロのようなメイクを施しているせいで、その整った面貌も台無しであった。

 

「おおう……当主って聞いたから厳つい感じの人かと思ったけど……」

 

スバルはその男の姿を上から下まで見て、

 

「随分と変わった人というか……ピエロみたいな人だな」

 

少々引いた様子で、見た目に対する感想を述べた。

 

「何か、面白そうな人だね」

 

ソウゴは好奇心の宿った目で男を見てそう言った。

そのピエロの様な男は、ベアトリスを見て目を見開いた。

 

「おーぉやーぁ?ベアトリスがいるなんて珍しい。久々にわーぁたしと食事を一緒にしてくれる気になったとは、嬉しいじゃーぁないの」

 

「冗談はその顔だけにしろかしら」

 

馴れ馴れしい言葉を切り捨て、ベアトリスは再びパックを愛で出す

男は、「それは残念」と言っているが、特に残念そうな様子は顔に出さない。

 

「そーぉれで?」

 

ロズワールは、ソウゴとスバルの方を見る。

 

「君達がぁ、ナツキ・スバルくんと、トキワ・ソウゴくんだね?」

 

「お?そうだけど……」

 

「俺達のこと知ってるの?」

 

「ちょこーおっと話を聞かせてもらったからねーぇ。それで、私がロズワール・L・メイザースだーぁよ。よろしくね?」

 

ロズワールと名乗った男はニコッと微笑んで、自己紹介をした。

 

「さぁさぁ、朝ご飯も出来てるし、冷めないうちに頂こうじゃなーいの」

 

ロズワールは、テーブルの上座席へと足を運び、着席した。

 

 

 

 

「うん、おいしい!」

 

スバルはサラダらしいものとスープ風の物を口にして感想を述べる。

 

「昨日も食べたけどやっぱおいしいねぇ、これ」

 

ソウゴも同じく感想を述べた。

 

「ふふっ、レムの料理を気に入ってくれて何よりだーぁよ」

 

ロズワールは二人の食事の様子を見て微笑む。

レムというのは、青髪のメイドの少女の名前である。ちなみに桃髪の少女はラムという名前だ。

 

「さて、食事の最中で悪いけれど、私の話を聞いてくれるかーぁな?」

 

「うん?何だ?」

 

スバルは口の中の物を全部飲み込んだ後、ロズワールの方を向き訪ねる。ソウゴもロズワールの方を向く。

 

「まず、今回はエミリア様の徽章を見つけ出してくれたこと、腸狩りから守ってくれたこと、感謝すーぅるよ」

 

「……うん?エミリア様?何で屋敷の主がエミリアたんを様付け?」

 

ロズワールの言葉に引っかかり、思わず聞いたスバル。

その言葉にロズワールはスバルを見て目を細める。

 

「おや、知らないのかーぁな?じゃあ説明しよう。まず、このルグニカ王国に王が居ないんだよ。と言っても、もう既に市井には知れ渡ってる事実だーぁよ」

 

「あっ、知ってる。それラインハルトから聞いた」

 

その言葉を聞いて、ソウゴの脳にはラインハルトの会話が思い浮かぶ。

 

「でもよぉ、そういうのって、後継ぎとか居るんじゃねぇの?」

 

ロズワールの言葉を聞いたスバルは思った疑問をぶつける。

 

「普通はそうなんだけどねーぇ。実は半年前に王が御隠れになったと同時に城内で流行り病が蔓延しちゃってねーぇ」

 

「病気ばかりは本人責める訳にはいかないよなぁ。じゃ、その場合、国はどーなんの?」

 

「国の運営は賢人会によって行われているよ。いずれの方々も、王国史に名を残す方ばかりだ。運営に問題は無い。しかーぁししかし、王不在の国などあってはならない、そうだよねーぇ?」

 

「おっ、そうだな」

 

ロズワールの問いかけに、スバルは返答する。かなり軽い返答だが。

 

「でもって?それがエミリアたんを様付けにすんのと、どう関係があんのよ」

 

「そりゃあ、自分より位の高い方を敬称で呼ぶのは当然のことだからねーぇ?」

 

スバルは口をポッカリ開けて硬直するスバル。

音が鳴りそうな機械的な動きでエミリアの方を向き

 

「……ええっと、騙そうとか、そう言う訳じゃないんだけど……」

 

「……えーと、つまりエミリアたんは」

 

「今の私の肩書きは、ルグニカ王国四二代目の王候補の一人。そこのロズワール辺境伯は、私の後ろ盾なの」

 

告げられたスバルは、その情報を脳で理解するのに5秒くらい時間が掛かり、そして、

 

「話の途中で薄々気づいてたけど……エミリアって、王様になる人なんだね」

 

「謝罪するから打首だけは勘弁してくださいぃぃぃぃぃぃ!!」

 

ソウゴの言葉と同時に、スバルは素早く土下座した。

 

 

 

 

 

「いやー、すごいよね。まさかエミリアが王様の候補だなんて」

 

「……それ知ってまだその態度でいられるの、逆にすげぇよお前」

 

土下座を終えて席に座ったスバルは食事に戻って相変わらずの態度のソウゴに一種の尊敬の念を覚えていた。

 

「まぁ、少ーぉし話が逸れちゃったけど、本題に入ろうか。エミリア様」

 

「うん、分かってるわ」

 

呼びかけに頷くエミリアが懐から何かを取り出して机に置いた。

 

「それって……あの時の徽章じゃん」

 

机に置かれた徽章を見て眉を上げたソウゴが言った。

 

「竜はルグニカの象徴でね。『親竜王国ルグニカ』なーぁんて大仰に名乗ってるぐらいだ。城壁や武具のあちこちにもそのシンボルがある。中でもその徽章はとびきり大事だ」

 

 そう言ったロズワールは目線でエミリアに続きを催促した。エミリアは目をつむって唇を震わせる。

 

「王選参加者の資格。──ルグニカ王国の玉座に座るのにふさわしい人物かどうか、それを確かめる試金石なの」

 

「ってことはエミリア、王様になる為に必要なそんな大事な物失くしてたの?」

 

「な、失くしたなんて、人聞き悪い!手癖の悪い子に盗られちゃったの!」

 

「いや、一緒だろ!」

 

ソウゴの言葉にエミリアは反論し、更にスバルがエミリアの言葉にツッコんだ。

 

「ていうかそれ失くすとどーなんのよ!?再発行とか出来るの!?」

 

「ま、失くしましたーじゃ済まないだろーね。王とは即ち、国を背負う物。そんな大任を背負うという人が、徽章一つ守れないなんて、言語道断だ」

 

スバルの質問にロズワールは答える。

その中で、ソウゴはふとある言葉を思い出す。

 

『あなた達は何で徽章を求めてるか、教えて貰えるかしら?私は、雇い主の依頼で求めてるのだけれど』

 

「……もしかして、エミリアが王様になるのを阻止しようとする人もいるってことなのかな?あの襲ってきたエルザって人は、誰かに頼まれて徽章を狙ってたみたいだし」

 

「そーぅだろね。王選から脱落させるのに、徽章を奪うなんて簡単に思いつくしねーぇ」

 

「ってことはそんな奴らから徽章を取り戻した俺達、完全にG!J!って訳だな!」

 

スバルは腕を天に掲げ、その手はサムズアップが作られていた。有頂天である。

 

「うん、そうなの。二人は私にとって、もうすごい恩人。命を救ってもらっただけじゃ済まないくらい。だから、なんでも言って」

 

「へ?」

 

エミリアのその言葉に素っ頓狂な声が出るスバル。

 

「私にできることなら、なんでもする。ううん、なんでもさせて。二人が私に繋いでくれたのは、それぐらい意味のあることなんだもの」

 

「ん?今何でもするって……と言うのはやめておこう。というか、ロズっちってエミリアの後ろ盾、つまり支援者ってことだけど、どんな立場にあんの?相当偉そうな立場ってのは何となく分かるけど」

 

「そうだね、私の肩書きはルグニカ王国の辺境伯って身分になるかな。もっと聞こえのいい役職なら、宮廷魔術師になるかーぁな」

 

「宮廷魔術師……国お抱えの魔法使いってことか?」

 

「そう。それも、筆頭魔術師。王国で一番の魔法使いなの」

 

 スバルの言葉を継ぐエミリアだが、何故か不満そうな表情。

 

「そんな凄い人だけど見た目と口調は完全に変人だな」

 

ロズワールの立場が偉い事は分かったが、彼のピエロの様なメイクと服装、その口調にツッコむ。

 

「で、エミリアたんって未来の王様候補だけど、そんな重要な役割を持つ子を王都で一人で歩かせてたのか?」

 

「ふーぅむ。昨日ラムを一緒に付けてた筈なんだけどねーぇ」

 

「でも現に王都で一人で歩いていた。その監督不行き届きはアンタの責任でもある。まぁ何だ、言いたい事は分かるだろ?」

 

「なーぁるほど。私財で比較して無一文に等しいエミリア様より、私の方が褒美を求めるには適した相手だーぁろうねーぇ」

 

「そーゆーこと!そしてアンタはそれを断れない筈だぜ?」

 

スバルは席から立ち上がり、天に指を向ける。

 

「ふふっ、良いだろう。じゃあ君の望みを言いたまえ。私に出来る範囲であれば、どんな望みも叶えてあげよう」

 

同じくロズワールも席から立ち上がり、スバルと向き合う形になる。

 

「へへ、貴族は話が分かるなぁ!男に二言は無いよな?」

 

「ふふっ、勿論だとも」

 

「じゃあ宣言しよう!俺の望みは一つ!俺をこの屋敷で雇ってくれ!」

 

そう言い切ったスバル。

そのスバルの申し出に、女性陣達は唖然とした表情であった。レムラム姉妹は表情の変化に乏しい顔に困惑を、ベアトリスは本気で嫌そうだ。

 

「そ、そんな事で良いの?」

 

目を白黒させながら困惑の声を上げたのはエミリアだ。

 

「これで良いんだよ、エミリアたん。俺ってば今、徹頭徹尾の一文無し。大金せしめて豪遊ってのも手だけど、継続的な生活基盤を手に入れるってのも手でしょ?」

 

「それなら別に、食客扱いでも良かったんじゃない?」

 

「あっ、そっかぁ……ロズワールさんやっぱ食客で……」

 

「ダメです。男に二言は無いからねーぇ?」

 

「ウッソォ!?」

 

笑顔で目の前に指で×印を作るロズワールにスバルは頭を抱えた。

 

「クソ……男に二言は無いなんて言うんじゃなかった……まあよろしくオネシャース……」

 

「ふふ、よろしくねーぇ。さて、スバル君の望みも聞き入れたことだし、次と行こうか」

 

ロズワールは、ソウゴの方に視線を移す。

 

「君はどうするのかーぁな?トキワ・ソウゴ君?」

 

「ん、俺?」

 

ロズワールに名を呼ばれ、食事の手を止め視線を移すソウゴ。

 

「スバル君はここで雇われる事を望んだ。君は何を望むのかーぁな?」

 

「ソウゴ、遠慮なく言っていいのよ?私とロズワールに出来ることがあるなら何でもするわ」

 

「お礼なんて、そんなの全然いいのに」

 

「だから、遠慮なんてしなくていーの。それにさっきも言ったけど、私はソウゴに命を救ってもらってるし、徽章を探すのだって協力してくれた。私はソウゴにすごーく大きな恩があるから、それをちゃんと返したいの」

 

「うーん、そこまで言うなら。じゃあ、そうだなー…………」

 

 ソウゴは天井に視線を向ける。

が、すぐにエミリア達の方に視線を戻し

 

「此処に住ませてくれない?ちょっと俺、今家に帰れない状況だからさ」

 

「つーぅまり、君は当家での食客の扱いで良いって事かーぁな?」

 

「……ソウゴも欲が無さすぎるわよ?」

 

エミリアはソウゴに苦言を呈するように言う。

 

「だってさー、何を望むかって言われても、特に思いつかないしさ」

 

「……思いついたら言ってくれるの?」

 

不安げな顔でエミリアは尋ねる。

 

「んー……そうかも?」

 

再び天井を見て少し唸った後、にへらっとした顔で言った。

 

「じゃあ、思いついたならすぐに言ってね?ソウゴ」

 

「うん、じゃあ考えとく」

 

不安げな顔が晴れ、笑顔でそう言ったエミリア。ソウゴも同じく笑顔で返した。

 

「くっそ、ずりーぞソウゴ……ま、やらかしたのは俺だけど……」

 

「ふふ、賑やかになりそうだねーぇ」

 

苦虫を噛み潰したようような顔をするスバルを尻目に、ロズワールは微笑みを浮かべていた。




相変わらず働かない我が魔王と中の人ネタをカマシスギ!した叔父さん


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2019:勤・務・初・日

基本改訂版は大きな変更があった時に出します。
この機会に言っておくと、リゼロSZのほぼ全てのエピソードにも最近変更を加えました。是非、前のエピソードを読んでくれたら幸いです。


「改めて、当家の使用人頭を務めさせていただいております、レムです」

 

「改めて、ロズワール様のお屋敷で平使用人として仕事をしている、ラムです。よろしくお願いします、お客様。よろしく、お客様改めバルス」

 

現在、ソウゴとスバルの二人は屋敷の案内を受ける為にレムとラムと一緒に食堂の扉の前に居た。

 

「おい俺にだけにフランクだな姉様。ていうかバルスって何だよ、天空の城崩壊させる呪文か」

 

自分の名前が思いっきり改造されてる事と、自分にフランクになっていることにツッコむ。

 

「だって、お客様、改め、スバル君は同僚になるのでしょう?」

 

「だって、バルスは立場同じの下働きでしょう?」

 

「いやまぁ、確かにそうだけどさぁ」

 

そう言われたスバルはレムとラムの返事に何処かもどかしそうな感じであった。

 

「別に、俺もスバルと同じ感じで接していいよ?」

 

「じゃあよろしく頼むわね、トワキ」

 

「泊?」

 

「トワキよ」

 

ソウゴは一瞬聞き間違えるも、すぐに訂正をするラム。

 

「じゃ、案内を開始するわよ。屋敷の西棟に使用人の控室や衣装部屋があるから、バルスは私に着いてきなさい。東棟に客室があるから、トワキはレムに案内してもらいなさい」

 

「分かった」

 

「オッス」

 

ソウゴとスバルは返事をし、屋敷を案内してもらう為、別れた。

 

 

 

 

「おおよそ屋敷の案内は終わったわ。後は建物の外に庭園と、屋敷と門の間の前庭があるわ。そっちも後で見て回るけど、他に何か質問は?」

 

「(特には)ないです」

 

屋敷の案内を受けたスバルと案内をしたラム。

ラムの質問にスバルは単調に応えた。

 

「そう、無いようだから仕事の方に移るとしましょうか。今日のラムの仕事は前庭と庭園の手入れと周囲確認。昼食の準備の手伝いと、その後の陽日の8時から食器を磨く……それらをバルスに手伝ってもらうわ」

 

「わーお。初日から忙しくなりそうだな」

 

「これから徹底的に扱いてあげるから、精々へこたれないように覚悟しなさい」

 

「これが卑猥な意味に聞こえるほど俺の心は汚れてるだなあって」

 

「何を今更なことを言ってるのかしら?」

 

「ひでぇ!」

 

ラムが特に変わりない様子で容赦なくそう言い、スバルはツッコむ。

 

「茶番はここまでにして、早速仕事場へ……」

 

「ちょっと待てい」

 

ラムが歩き出そうと背を向けた時、スバルが引き止める。

 

「?何かしら」

 

「ちょっち、やらなきゃいけないことあるから待ってくれ」

 

「何?尿意でも湧いてきた?」

 

「美少女が尿意とか言うんじゃありません!てかそんなんじゃねぇんだよなぁ。まあ見とけよ見とけよ」

 

スバルはラムの元から一歩後ずさる。

そして

 

「スバルパワー!注☆入!」

 

…………

 

間。

 

「……何かしら、それは」

 

「俺の地元のドラマの名台詞and決めポーズ」

 

「そんなことやる為に私を引き止めたの?」

 

「悪かったよ。じゃあ早く仕事場に案内するんだ〜っちゃ」

 

「その語尾は何?」

 

 

 

 

 

 

 

「これで屋敷の案内は終了です。何かありましたら、私か姉様を尋ねてください」

 

「うん、分かった」

 

屋敷を回り終えたレムとソウゴ。

 

「では、私は仕事に戻らせてもらいますので、それでは」

 

「頑張ってね〜」

 

レムは踵を返し、歩き去っていく。

ソウゴは応援の言葉とともに、見送っていった。

やがて、彼は一人になる。

 

「……さて、どうしようかな」

 

【選択肢】

どうしますか?

 

『エミリアに会いに行く』

 

『ベアトリスに会いに行く』

 

『スバル達に会いに行く』

 

『大乱闘に参戦する』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウボァーーーーーー!」

 

時間は昼より少し前。

厨房でナツキ・スバルの悲鳴が響き渡る。

彼の左手の指からは血が滴っており、スバルは思わず口に含む。

 

「はっ、だらしないわね」

 

ラムが悲鳴を上げるスバルを嘲笑する。スバルは相変わらず痛がっている。

 

「皮剥きって意外とムズイもんなんだなー……やはりヤバい」

 

スバルが再確認するようにそう言う。

 

「姉様、スバル君、準備は大丈夫ですか?」

 

大鍋に材料を流し込み、かき混ぜ調理を進めていたレムが振り返る。

 

「さすが姉様、皮剥きする姿もさまになりますね!」

 

「うぉいうぉい、姉様を褒めるのは良いけど俺の仕事ぶりも評価してほしいナー」

 

「切り方が横暴だと思います」

 

「ばんなそかな」

 

レムがスバルの野菜の切り方を冷静に指摘し、スバルは変な返答をする。

 

「バルスはナイフの扱いがなってないのよ。皮剥きをする時は、ナイフを固定して野菜を回すの」

 

ラムは手本を見せる為、実際にジャガイモを剥いて見せる。

そしてするするとジャガイモの皮が綺麗に剥けていった。スバルはおー、と感嘆の声を漏らしてそれを見る。

 

「ね?簡単でしょう?じゃ、やってみなさい」

 

「よっしゃあ、今度こそ行くぜ」

 

 気合いを入れて皮剥きにリベンジするスバル。ラムはそんな彼を見守る。

 

「おお、出来る、出来るぞ!」

 

スバルはジャガイモがするすると切れていく様に思わず口角が上がる。

ちらっと横目にするとそこには自慢げな顔のラムが。

素直に礼を言うのは、正直癪なので、そのまま作業を続ける。

 

「……えと、レムさん?どした?」

 

スバルはふと、こちらをじっと見つめるレムに気がつく。

準備を終えていたレムは、背筋を正しスバルを見ていた。

 

「何か、ずっとこっち見てたけど」

 

「えっ、あっ……」

 

スバルに指摘されたレムは、言葉に詰まった。

ーーーーと、その時、厨房の扉が開く音がした。

そこから来たのは

 

「おー、良い匂いするね」

 

常磐ソウゴだった。

 

「お、ソウゴ。どした?」

 

「暇だから来ただけ」

 

「いや、冷やかしかよ」

 

いつも通り笑って言うソウゴにスバルは呆れた様子。

 

「今日のお昼ご飯はシチューなんだね、レム?」

 

ソウゴは大鍋を覗いてレムに訪ねる。

 

「……ええ、そうですよ」

 

レムは返答する。ソウゴはへぇ〜と、言いながら相変わらず無邪気な笑顔を浮かべ鍋を見ている。

ーーーーレムは、そんな彼を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「疲れたぁぁぁぁ!」

 

夜。

風呂場で湯船に入っていたスバルの声がその場で反響し響き渡る。

 

「いやー、働きマンデビューしたけど初日からやめたくなるな……」

 

「ちょっと見てたけど、大変そうだったもんね」

 

湯船には、ソウゴも入っていた。

 

「お風呂は命の洗濯だって聞くけど、今ならそれも分かる気がするぜ」

 

天井を見ながらそう言った時、風呂場の扉が開く音がした。

 

「お邪魔すーぅるよ」

 

「……あんたのネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲……意外とあるな……」

 

その人物はロズワールであった。

ロズワールは湯船の中へと入っていく。

 

「風呂場だと、ちゃんとメイクは落としてるんだね」

 

ソウゴはロズワールの顔を見て言う。

 

「そういえばそうだーぁね。ひょっとすると、私が君達の前に素顔を晒すのはこれが初めてかーぁな?」

 

そう言いながら、顔を触るロズワール。あのピエロのメイクが無ければ、端正なイケメンの男性だ。

 

「ラムやレムとは上手くやれそうかーぁな?あの二人はここで働いて長いから、後輩の接し方も弁えてるはずだけどねーぇ」

 

「レムとはあんましだけど、ラムとは上手くやってる。というか、ラムは馴れ馴れしすぎるというかな。何か渾名付けてくるし」

 

「ラムなりの親しみを込めたものだね、それは」

 

「親しみあんのかなぁ……」

 

スバルは半信半疑な様子で呟く。

 

「そーぉれでそれで?ソウゴくんはここでの暮らしは如何なものかな?満足してればいいのだけれど」

 

「まぁ、今の所はいい感じだよ」

 

「ふふっ、そーぉれは良かった」

 

ソウゴの返答にロズワールは満足そうな様子。

 

「これから、更に仲良くできたらいいねーぇ」

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

自身の部屋で、紙に何かを書いているレム。恐らく、日報であろうか。

すると後ろから、扉が開く音が聞こえた。

振り返って見てみると、そこには姉であるラムが。

 

「お疲れ様です、姉様」

 

「貴方もお疲れ様、レム」

 

互いに労いの言葉をかける姉妹。

ラムは歩き出し、クローゼットを開けて寝巻きに着替えようとする。

 

「姉様」

 

「何?レム」

 

「姉様は、あの二人のことをどう思われますか?」

 

「バルスとトワキのこと?」

 

レムはラムに、ソウゴとスバルのことについて尋ねる。

 

「まだ初日だから、判断するには材料が足りないわ。これからの行動次第ね」

 

「そう、ですか……」

 

「……そう不安がらなくても、もしもの事があれば私達で対処すればいいわ。ロズワール様に危害を加えるような真似は絶対にさせない」

 

ラムは変わらず表情を変えずに言うが、その目には決意が宿っていた。

 

「それじゃあ、私は寝るわね。お休み、レム」

 

「お休みなさい、姉様」

 

挨拶を交わした後、ラムは自身のベッドに向かい、その中に入っていった。

 

「……姉様」

 

ラムに聞こえないように彼女を見て小さく呟くレム。

その脳裏にはーーーーいつかの日の、あの光景が浮かんでいた。

 

「……私も姉様に危害を加えるような真似は絶対にさせません」

 

再びラムに聞こえないように小さく呟くレム。

その目には、ラムと同じく決意が宿っておりーーーー同時に、憎悪の感情も、宿っている。

 

(あの二人が、奴らと同じ者ならーーーーその首を、必ず討ち取る)

 

レムは、彼らから微かに香った咎人の匂いを、思い出した。




言い忘れてたけどコメントも遠慮なく送ってくれよな!(コメント乞食)


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2019:襲撃者〈レイダー〉①

この先ずっと笑ってたいので初投稿です。


目を開ければ、そこは森。一面が緑の世界。

 

 

見知らぬ森だ、ここは何処であろうか。

 

 

耳を澄ませば、川のせせらぎが。

 

 

耳を澄ませば、葉が揺れる音が。

 

 

耳を澄ませば、鳥のさえずりが。

 

 

耳を澄ませばーーーー

 

 

森の奥から、響く音が。

 

 

気付けば、その音がする方へ、歩を進めていた。

 

 

歩を進めて行く。止まらずに進んでゆく。

 

 

歩いていると比例するように、響く音も大きくなってゆく。

 

 

空を見上げる。

 

 

空は青い。が、雲の流れる速さが凄まじい。風が強いのだろうか。

 

 

まあ、そんなことは気にすることではない。音のする方へ進もう。

 

 

再び、歩き続けた。

 

 

そして遂に、響く音の下へ辿り着いた。

 

 

そこには、一人の鎧を纏いし者が居た。

 

 

紫色の鎧を纏う者は、両手に何か赤い棒を持ち、その先端をを何かに叩きつけている。

 

 

楽器か何かなのだろうか。棒が叩きつけられる度に響く音は低いが、それでいて壮大で、勇ましいものだった。

 

 

2本の赤い棒を交差して打ち付け合い、音が響く。直後、先ほどに比べ叩く速さが増した。まるで演奏の終盤に入った時のように。

 

 

最後に大きく棒を叩きつける音が響き、演奏は締めくくられた。

 

 

その演奏に聞き入ってた自分は、思わず拍手を送る。

 

 

鎧の人物は、自身の方に振り返る。

 

 

その人物の顔は、太陽の光が邪魔をして見えなかった。

 

 

だが、一つだけ顔のとある部分が見えた。

 

 

それは、

 

 

ーーーー頭に生える、2本の銀色の角。

 

 

『ーーーーーーーー。』

 

声が聞こえたと同時に、意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

青髪の少女は目覚める。

しばらく呆然としながら天井を見つめ、その後にゆっくりと起き上がった。

 

「……また、あの夢……」

 

彼女にとって3度目の夢。

誰かに言ったわけでもないその呟きは、未だ隣で寝ている姉にも聞こえず、ただ虚しく部屋の中で響くだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ"ぁ"〜、疲"れ"だ"ぁ"〜」

 

二日目の夜、濁音混じりの声と共に部屋のベットへと倒れ沈み込むスバル。昨日と同じく、働き詰めだったスバルは体に疲労が蓄積されていた。

 

「随分お疲れのようだけど、そこの椅子に座りなさい、バルス」

 

入り口に立っているラムはベットに倒れ込むスバルへ椅子への着席を促す。

 

「朝に知らせた通り、今日は貴方に読み書きを教えるわ。早く座りなさい」

 

「あぁ……そうだったわ」

 

ナツキ・スバルは朝に言われた知らせを思い出し、気怠げな様子でベットから起き上がり、椅子へと向かい座る。

 

「後、貴方の頼み通り、トワキの所にはレムを向かわせたわ。今頃貴方と同じ様に読み書きを教わってると思うわよ」

 

「あー……してたな、そんな頼み」

 

「読み書きが出来ないなんて、二人揃って何処の村の蛮族なのかしら?」

 

「蛮族じゃねーし!」

 

 

 

 

 

 

 

「……という訳で、スバル君の頼みで貴方に読み書きを教えに来ました」

 

ソウゴの居る部屋の扉の前にはレムが立っており、来た用件を説明すると、部屋の中へと入っていく。それに続くように、ソウゴは椅子に向かい、引いて座る。その隣にはレムが椅子に座り、前にある机に赤い背表紙の本とノート、羽ペンのセットを置いた。

 

「まずは基本のイ文字から。ロ文字とハ文字はイ文字が完璧になってから。イ文字を把握してからこの本の童話に入りましょう。冥時の一時まで頑張りますよ」

 

「うへぇ、大変そー」

 

「ですが、読み書きが出来なければ碌に買い物や本を読むことも出来ませんので」

 

「まぁ、そうだよね」

 

 レムがノートを開いて羽ペンを持ち、サラサラと真っ白のページに文字を書いていく。彼女は速筆の上、達筆でもあった。

 

レムが文字を一通り書き終えた後、書いた文字の読み方を教え、ソウゴに羽ペンを渡す。

 

「文字を覚えるには反復練習です。きっちり覚えれるまで何度も書きましょう」

 

「大変そうだけど、それしかないよね」

 

 羽ペンを受け取ってレムの言葉に頷いてノートに文字を書き始めるソウゴ。

静寂に包まれた部屋の中で、ペン先と紙が擦れ合う音が微かに鳴り続ける。

 

「ねえレム、昨日からスバルがここで働き始めたけどさ、どんな感じ?」

 

 ふと、ソウゴが字の書き取りをしている時、レムに何気ない質問を飛ばす。

 

「……正直に言って、スバル君の仕事ぶりは全然ダメです。料理も、掃除も、洗濯も何もかも全然出来ないから碌に任せられませんよ。かなり教養に欠けてますね」

 

「ふふ、そっか。大変そうだね」

 

 レムの愚痴にも近いようなダメ出しにソウゴは微笑んで返す。そうしてソウゴはまた字を書く作業に戻った。

 字を書いて、しばらく経った時、

 

「ソウゴ君」

 

 レムが呼びかけて、ソウゴは彼女の方に顔を向ける。

 

「ん?何、レム」

 

「ソウゴ君は」

 

 レムはじっ、とソウゴの目を見つめて

 

「魔女教、についてどう思いますか?」

 

 その質問をされて、ソウゴはきょとんとした顔になる。

 

「魔女教……?え、何それ?」

 

 ソウゴは笑ってレムに問い返す。

 

「…………いえ、何でもないです。忘れてください」

 

「え?……あ、うん……」

 

「……もう、時間ですね」

 

「あ、もう終わり?やっとかー、手が疲れたよ」

 

 ソウゴはそう言いながら手を前に伸ばす。

 

「明日、またこの時間帯に姉様かレムが来るので、よろしくお願いします」

 

「ん、分かった」

 

 レムは予定を伝えて、童話集の本を持って、部屋から出て行った。

 

「魔女教、か……」

 

 部屋に一人残ったソウゴはぽつりと、レムが言った言葉を呟く。

 

 それから彼はしばらく何かを考えるような顔をした後、椅子から立ち上がりベッドに入って就寝した。

 

 

翌日。

 廊下で歩いているラムは買い出しに行く為、荷物持ちとして来てもらう為にスバルの元へ行っている途中であった。

 

「ラム」

 

後ろから名前を呼ばれ、振り返るラム。そこには、ソウゴが。

 

「どうしたの、トワキ」

 

「ちょっとラムに聞きたいことがあってさ」

 

「聞きたいこと?」

 

 ラムに問い返され、ソウゴはうんと返事をした後、

 

「レムってさ、魔女教と何か……」

 

「トワキ」

 

 聞こうとした瞬間、ラムに声のトーンを落とした状態で、名を呼ばれた。

 

「ーーーーラムは今、忙しいの。質問に答えてる暇なんか無いわ」

 

 そう言って、彼女はスタスタと歩いて廊下の向こうへと去っていく。

 

「ちょっ……」

 

 ソウゴは思わず手を伸ばすが、それはすぐに下へと降ろされた。

 まるで彼女は聞かれたくないことを聞かれてしまった時のように、言葉を遮って去っていった。

 

「……………………」

 

 しばらくラムが歩いていく姿をソウゴは見た。その後、そのまま何処かへ歩き出した。

 

 

 

 

「……当たり前のように扉渡りを破って禁書庫に入るのはやめろかしら」

 

 不機嫌そうな声でソウゴに文句を言って鋭い視線を向けるのはベアトリス。

 

「ごめん、行ける気がするって感じの扉を選んだら一回で当たった」

 

「どんな扉なのよそれは」

 

 呆れ気味な声と表情で返事をする。そして、彼女はため息を吐いた後、「それで」と前置きを入れ、

 

「ベティーに何の用があって来たのかしら」

 

「うん、聞かせてほしいんだけどさ、魔女教って何?」

 

 単刀直入に聞くソウゴ。その質問を受けたベアトリスは一瞬、丸くする。

 

「魔女を知らなかったお前からその言葉が出てくるとは意外かしら」

 

「まあ、ちょっとね。それで魔女教って?」

 

「魔女教とは、その名の通り魔女を信仰している宗教なのよ。嫉妬の魔女、サテラを」

 

「やっぱりか……それで、どんなことしてるの、魔女教は」

 

「奴らは各地に神出鬼没に出現し、犯罪行為を繰り返しているのよ。各国から危険視されていて、見つけたら即座に殺せと言われているのよ」

 

「うわ、そんなにヤバいんだ、魔女教って」

 

「他にも、幹部に魔女教大罪司教と呼ばれる者達が居て、組織の目的は嫉妬の魔女サテラを復活させるという話もあるのよ」

 

「へぇ……」

 

 こくこくと頷きながら声を漏らした後、ソウゴはもう一つ質問を飛ばす。

 

「あと一つ。知ってたら教えてほしいんだけどさ、レムは魔女教と何かあったの? 何か昨日、俺に魔女教のことをどう思う、って聞いてきたんだけど」

 

 昨晩のレムと、今日のラムの反応。ソウゴはそれを思い出しながら聞く。

 

「双子の妹か。あいつは魔女教に故郷を滅ぼされたらしいのよ」

 

「え!?」

 

 余りにもあっさりと話される衝撃の事実。それに思わず素っ頓狂な声を上げるソウゴ。

 

「故郷が滅ぼされたって……どうして……」

 

「ベティーが知るかしら。福音書にそう書いてあったんじゃないのかしら」

 

「福音書?」

 

「魔女教徒が持つとされる書物。そこには、所有者の未来が記されており、それに従って活動してるらしいのよ」

 

「つまり、予言書なんだね」

 

ウォズが持っていた逢魔降臨暦がソウゴの脳裏を過ぎる。

 

「とりあえず、レムは魔女教に故郷を滅ぼされて恨んでるってことかな」

 

「恨む理由はそれだけでは無いかしら」

 

「?」

 

 ベアトリスの呟きにソウゴは疑問の表情を浮かべる。

 

「まだ知りたいという顔をしてるかしら。でも、ベティーは少し喋り疲れたのよ」

 

ベアトリスは座っていた脚立から立ち上がり、本棚に歩み寄る。それで、本棚の上の方を指差し

 

「一番上の右から三番目。取るかしら」

 

「あっ、うん」

 

 ソウゴは一番上の右から三番目の本を本棚から取る。

 ソウゴは本をベアトリスに渡し、彼女もそれを受け取る。そして、脚立に戻って座り、本を開いて読み始める。

 

「それ読んだら、もう一回話してくれる?」

 

「さぁ、どうかしら」

 

ソウゴの問いに、ベアトリスは適当に流した。

 

 

 

 屋敷の玄関を掃除しているレム。その最中、扉が開く音が。入って来たのは、スバルとラムだ。

 

「お帰りなさいませ、姉様」

 

「ただいま、レム」

 

レムが出迎えの言葉を掛け、それに返答するラム。

 

「おい、ラム。これ、どこに置いときゃいい?」

 

スバルがラムに尋ねる。スバルの手には大きな紙袋が二つほど抱えられている。

 

「厨房に持って行って頂戴」

 

「りょーかい」

 

そう言ってスバルは厨房に行く為に歩き出す。ラムもそれに続いて歩き出そうとした時、

 

「そういえばレム」

 

「何でしょう、姉様」

 

ラムは、レムの近くに寄り、

 

「昨日、トワキに何か変なことを聞かなかった?」

 

二人にしか聞こえない声で、レムに問いただした。

 

「えっ…………」

 

 何故、姉がそれを知ってるのか。そう思いながら声を漏らし、驚愕の表情を浮かべるレム。

 

「その顔は、聞いたのね」

 

「………………」

 

 思わず黙りこくるレム。

 

「……レム、疑う気持ちは分かるわ。けれど、変に揺さぶりを掛けるようなことをするのはやめなさい。万が一の時の為にも」

 

「おーいラム?どした?」

 

 その時、スバルが中々来ないラムを見て呼びかけた。

 

「何でもないわ、バルス」

 

そして、歩き出そうとした時、

 

「今はまだ、動くべきではないわ。いいわね?」

 

 レムの耳元で、そう言ったラム。

 

「……はい、姉様」

 

 それにレムは、こくりと頷いた。その後、ラムはスバルと共に厨房へ向かった。二人が去った後、レムは持っていた箒の柄の部分を強く握りしめる。

 

「……姉様は、優しすぎます」

 

 一瞬、レムの額が仄かに光った。



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2019:襲撃者〈レイダー〉②

故あって改訂版投稿したよ


 バタンと、本が閉じる音がした。

 

「おいニンゲン、本を読み終えたのよ。望み通りあの姉妹のことを話してやるのかし……ら……」

 

ZZZZZ……

 

「起きろなのよ!」

 

「うえっ!?寝てない寝てない!」

 

「見え見えの嘘はつくなかしら!」

 

居眠りしていたソウゴを大声で怒鳴って起こすベアトリス。起きたソウゴは慌てて否定するが、がっつり寝ていたところを見られたので無意味である。

 

「まったく……お前までベティーをイライラさせるような真似をするのはやめてほしいのよ」

 

「ごめんごめん。それで、レムのこと教えてくれるんだよね?」

 

「切り替えの早い奴かしら…………はぁ、一度しか話してやらないからよーく聞いておくのよ」

 

ベアトリスは話す態勢に入り、ソウゴも聞く態勢に入る。

 

「まず、あの少女はーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の、夜。

 

「そぉーれで、スバルくんの様子はどーぉだい?」

 

空には月がある。上弦の月で、欠けた月で、綺麗な月。その月の下で、密やかに報告が行われていた。

 そこは広い部屋。中央には来客を迎える応接用の椅子とテーブルが置かれ、奥には執務用の椅子と机が。

 ロズワール邸本練の最上階、主のロズワールの執務室である。

 

「3日目だけど、現在の評価は?」

 

「そうですね、全然ダメです」

 

彼に問いかけられた人物は、彼の膝の上に座り、桃色の髪を撫でられた。それは、ラムだ。

 

「はは、そーぉかい、全然ダメかい」

 

「バルスは本当に何も出来ません。料理もダメ、掃除も下手くそ、洗濯を任せようとすると鼻息が荒い。裁縫は達者ですが、それ以外はどれも任せられません。しかも、今日庭園で魔法を思いっきり失敗していました。大きな黒雲が突然上がったから、何なのかと」

 

「確か、シャマクの魔法だったねーぇ」

 

 今日、スバルは庭園で魔法の体験をした。パックにスバルの魔法の属性を調べてもらい、それが陰だと判明した。

 そして、パックの手伝いもあり、陰魔法のシャマクを発動したーーーーはいいが、訳あって魔法が暴走し、大きな黒雲が庭園の一角を覆ったのだという。

 ちなみにシャマクの魔法とは、目眩しの魔法である。

 

「それで、彼が間者の可能性は?」

 

「否定は出来ませんが、その可能性はかなり低いと思います。良くも悪くも、バルスは目立ちすぎているので」

 

「あはーぁ、そーぉかい。じゃ、次に行こう。ソウゴくんはどーぉだい?」

 

 ロズワールが次に聞くのは、ソウゴのこと。

 

「トワキは、特に変わった動きは見せていません。至って普通です。間者の可能性も低いかと」

 

「…………そーぉかい」

 

ロズワールが返事をするまで少し間が空いたことに、ラムが疑問の表情を浮かべる。

 

「何か、彼に気になることでも?」

 

「…………そうだねぇ。気になるところがあるとすれば…………彼の力、だろうか」

 

「力?」

 

「彼はあの腸狩りを一度追い詰めた、と聞いた。つまり、彼はそれほどの実力があるということだ。が、彼はそんな実力者には見えない。ただの平凡な少年に見える。見かけによらないのか、それとも違うのか…………気になる所、だね」

 

「…………珍しいですね、ロズワール様が一個人に興味を持つなんて」

 

「私だってぇ、人に興味くらいは持つよ?それじゃあ、引き続き彼の監視を宜しくねーぇ。そして、くれぐれもレムが先走らないように姉の君が注意しておくようにねぇ。今が、大事な時期だから」

 

「…………はい、注意しておきます」

 

 この密談に参加していないラムの妹、レム。彼女は、時にこちらの意図を汲んだ上で独断に走る傾向がある。故に、その独断が良くない結果を招く可能性がある。そして今回も、少々先走った行いをしてしまった。

 それを思い出しながら、ラムは厳かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………くん。

 

 

…………こえ……ますか…………

 

 

あ……たの……すぐ近くに…………

 

 

求めてる…………力が……あり………す……

 

 

そして……気を……けて…………

 

 

危機も……すぐ傍に…………

 

 

…………の人を……守って…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 目を見開く。

 窓からは日が差し、鳥のさえずりが聞こえる。

 

「………………」

 

 少年は身を起こす。

 

「あの時の声だ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー」

 

ソウゴは食堂の扉を開き、朝の挨拶をする。

 食堂に既に揃ってるスバルとエミリア、ロズワールは、同じく「おはよう」と、朝の挨拶で返した。ベアトリスは居ない。

 ふとソウゴは、ロズワールの後ろに立っているレムをじーっと見る。レムはその視線に気付いた。

 

「どうかしましたか?」

 

「……ううん、何でもないよ」

 

 誤魔化すように、微笑んで返す。

ソウゴはそのまま椅子まで歩き、着席する。

 揃った一同は、祈りの言葉を捧げ、いつも通りに食事を始めた。

ロズワールの傍に立ちながら、食事の様子を見ているレムとラム。時に雑談を交わしながら、食事の手を進める。特に変わらない風景。

 しばらくして、

 

「ご馳走様。今日も美味しかったよぉ、レム」

 

ロズワールが食事を終えた。朝食の感想を伝えられたレムは、目を閉じて会釈。

 

「外出の用があるから、私は少し支度をしてくる。お先に失礼すーぅるよ」

 

 席から立ち上がり、食堂の扉まで歩く。そして、扉を開き「そーぉれじゃ」と言って出て行った。その間に、姉妹二人はロズワールに向かってお辞儀していた。

 

「…………私がいない間、何か一波乱ありそうだーぁね」

 

 彼は、自身の従者であるメイドーーーーレムが、ソウゴに視線を向けていることに気付いていた。……が、その視線は、決していい物だとは、言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禁書庫にて

 

「やっほ、ベアトリス」

 

「……オマエ、随分と匂いが濃くなってるのかしら」

 

開口一番から不満を飛ばすベアトリス。鼻をつまんで手を振って悪臭を遠ざける素振りをする。

 

「匂いって、昨日言ってた?」

 

「そうなのよ、双子としばらく会わない方が賢明なのかしら」

 

「一緒に屋敷にいるし、会わない方が難しいと思うな」

 

忠告を飛ばされるがそれを断る発言をするソウゴ。

 

「そういえば、その匂いが濃くなる原因とかあるの?」

 

「そんなの、ベティーは知らないかしら」

 

ソウゴの質問に少し苛ついた様子で返すベアトリス。

 

「…………ねぇ、今日俺さ」

 

 ソウゴは何かを話そうとした。が、何故か途中で話すのをやめる。

 

「?どうかしたかしら」

 

「…………いや、何でもない」

 

「そう……それで、ベティーに何の用があってオマエは来たのかしら」

 

「俺の匂いがどうなってるか聞きにきたんだけど…………もうさっき聞いたからいいかな。それじゃ」

 

 ベアトリスに手を振って帰ろうとするソウゴ。が、その時

 

「ちょっと待てかしら」

 

扉に手をかけようとした時に引き止められて振り返るソウゴ。

 

「何?」

 

「来るかしら」

 

 手で来るように促され、ベアトリスの方に行くソウゴ。次に「しゃがめ」と言われてベアトリスの視線に合うくらいにしゃがむ。そして、ベアトリスは脚立から降りて、その手をソウゴの胸に当てた。

 

「………………」

 

 しばらく、目を閉じるベアトリス。

 

「……!?」

 

瞬間、彼女は目を見開いた。

 

『私は生まれながらの王である』

 

『最高、最善の魔王になってみせる!』『祝え!その名も仮面ライダージオウ!』『善も悪も、光も闇も、全て受け入れる!』『そして……俺の友達だ』『お前達の平成って、醜くないか?』『デコボコの道で、何が悪い!?』『瞬間瞬間を必死に生きてるんだ!』

 

 土石流。

 

「…………ああっ!?」

 

ベアトリスは急いでソウゴの胸から手を離し、思わず後退る。そして下を向いて胸を押さえながら、はぁはぁと、息を荒げる。いつの間にか、床に雫が落ちていく。

 

「ちょっ、ベアトリス!?大丈夫!?」

 

 ソウゴはベアトリスの異常な様子に焦った表情をしながら彼女に近づき触れようと手を伸ばすが

 

「…………出て行け」

 

「……え?」

 

「今すぐ出て行くのかしら!」

 

「うわっ!?」

 

 ベアトリスがソウゴに向かって手を突き出したかと思えば、ソウゴの体は思いっきり扉の外へ吹っ飛ばされ、廊下に転がる。その後、扉は勢いよく閉まった。

 

「っ!ベアトリス!」

 

廊下に倒れていたソウゴは身を起こし、扉を開けて部屋の中を見る。が、

 

「あ……」

 

そこはただの、客室になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 もはや立ってるのもままならず、少しでも楽になろうと床に身を預けるベアトリス。

 

「あれは……なんだったの、かしら……」

 

あの男からは何かしらの力を感じた。

 その力の正体を知ろうと、体の中のオドに干渉しようとした、が。干渉をした途端、何か大きな力に蝕まれるような、そんな感じがした。

 それと同時に、脳内にも一気に様々な情報が入ってきた。と言っても、状況が状況だった為、どんな内容だったか碌に覚えていない。

 

「オマエは一体、何者なの、よ…………」

 

頭痛と吐き気と倦怠感によって意識が朦朧になるなか、ベアトリスはこの部屋にはもう居ない男の名を呟いた。

 

「トキワ……ソウゴ……」

 

彼女の意識は闇に呑まれ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「何だったんだろ……」

 

 廊下を歩いているソウゴは呟く。

 

「ベアトリス、大丈夫かな」

 

 異常な様子だったベアトリスのことを心配するソウゴ。ソウゴはあれから色んな扉を開けたが、ベアトリスの部屋に中々入れない。

 

「……悩んでてもしょうがないか。また会えた時に大丈夫か聞こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

『バルス、この洗剤ではこう洗うのよ』

 

『トワキ、見てるなら手伝ってちょうだい』

 

『バルス、買い出しに行くわよ』

 

『レム、今日は私がトワキの元に行くわ』

 

『バルス、また手を切ってるの?』

 

『トワキ、茶を届けに来てあげたわよ』

 

 

姉様、どうしてですか姉様。

 

何故その者達と親しくするのですか姉様。

 

貴方にあんな目に遭わせた者達に何故優しくするのですか。

 

ああ、姉様。

 

姉様。

 

姉様。

 

姉様。

 

姉様。

 

姉様。

 

姉様。

 

お姉ちゃん。

 

姉様。貴方が優しいのは理解しています。

 

でもそんな貴方が奴らに付け入れられると思うと耐えられません。

 

奴らが   と姉様の大事な居場所に居られると思うと耐えられません。

 

だからーーーー  は奴らを■します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜空に満月が輝く時間となった。

 

 人々はもう寝る時間である。

 

「ふぅ……危ない危ない。俺の腸内でサードインパクトが起こるとこだったぜ」

 

スバルは安堵の表情でトイレから出てきた。

 

そして、部屋に戻る為に廊下を歩き初める。

 

 窓からは光が差し掛かっている。

 

 暗闇と静寂に包まれた廊下では、その光さえも、不気味に感じる。

 

 そして人間は、そんな不気味な空間の中では音に敏感になるだろう。だからこそ、

 

「……ん?」

 

 スバルがその音に気づいたのも、必然なのかもしれない。

 

「…………鎖の音?」

 

音がした方を振り向いた時には、

 

「っ!!」

 

 その凶器は、スバルの下へ飛んで来たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 常磐ソウゴは部屋に戻り就寝する為、廊下を歩いていた。

 結局、あれからソウゴはベアトリスと会うことは出来なかった。色んな扉を開けたが、ベアトリスの部屋に繋がることはなく。日が暮れてからも、彼女と会うことは無かった。

 

「…………ベアトリス、大丈夫かな」

 

ベアトリスへの不安を募らせるソウゴ。

 

「明日になったら、元気にだったらいいんだけどな」

 

 と、前向きに希望を見出す。

 

 そんな時

 

「!?」

 

 突如、ソウゴの脳内にある光景が見えた。それはーーーーーー

 

「スバル……?」

 

スバルが見えた。そして、見てみればなんと、彼を襲う謎の鉄球も見えた。

 

「……よく分かんないけど、嫌な予感がする」

 

 不吉な予感を覚えたのか、ソウゴは、脳内に見えた光景の現地へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「うおおお!」

 

 体を大きくのけ反らせ自分を襲う鉄球を避けるスバル。

 スバルに当たり損ねた鉄球は、暗闇の中へ戻る。

 

「な、何なんだよ一体!?」

 

困惑の声を上げるスバル。だが、そんなスバルはお構いなしとばかりに、次の攻撃は来た。

 

「なっ……!?」

 

 今度は複数の氷柱が飛んで来た。

 

(やべぇ、これはっ……!)

 

 避けれない。そう思った瞬間。

 

「スバル伏せて!」

 

 後ろから聞こえた声で咄嗟にスバルは伏せる。

 

『フィニッシュタイム!ジオウ、ギリギリスラッシュ!』

 

電子音声が鳴ったと同時にピンク色の斬撃が飛び、氷柱を全部破壊する。

 

「スバル、大丈夫!?」

 

 ジカンギレードを持ったソウゴがスバルに駆け寄り安否を確認する。

 

「あ、ああ。どうにか……」

 

 見たところスバルは無傷のようで、無事であった。

 

「まさか、貴方まで来たのですね」

 

暗闇の中から声がして、それと同時に、声の主も姿を見せる。

 

「ソウゴくん」

 

「…………レム?」

 

それはレムであった。

 ソウゴは目を見開き、スバルは呆然として名を呼ぶ。

 

「何も気づかないまま、終わってもらえるのがよかったのですが」

 

「…………レム、何でスバルを?」

 

「単純なことです。疑わしきは罰せよ。メイドとしての心得です。スバルくんを殺したら、次は貴方を殺すつもりでしたが。ここで纏めて殺します。抵抗しないでくれたら、楽に終わらせてあげますよ」

 

「……悪いけど、そういうわけにはいかない」

 

 ソウゴはジクウドライバーを腰に装着する。

 

「スバルは隠れてて」

 

『ジオウ!』

 

ソウゴはスバルにそう言いながら、ウォッチのベゼルを回しリューズを押して起動する。

 

「……相手は女の子だから、手加減してやれよ」

 

 そう言いながら、スバルは端にある柱に身を隠す。

 

 ソウゴはウォッチをD‘9スロットに装填。ライドオンリューザーを押してベルトのロックを解除する。

 

「変身!」

 

 ベルトを360度回転させる。

 

『ライダー、ターイム!仮面ライダー!ジ・オーウ!』

 

ソウゴは仮面ライダージオウへと変身完了する。

 

「!姿が変わった……」

 

「ふっ!」

 

 レムが驚いている間に、ジオウはジカンギレードを持ち駆け出す。レムもそれに対応してすぐさま戦闘態勢に。

 

「はあっ!」

 

「ぬんっ!」

 

 ジオウが剣を振り、レムは鉄球ーーーー改め、棘がついているモーニングスターでそれを受け止める。

 そしてそこから、2連、3連、4連と剣の攻撃をジオウは繰り出す。

 レムはそれを全部受け止め、一旦後ろに飛びモーニングスターをジオウにぶつけようとする。

 

「っ!あっぶね!」

 

 どうにかギリギリ避けるジオウ。

 そして、ジオウを当て損ねたモーニングスターはスバルが隠れてる柱とは別の柱へとぶつかった。モーニングスターはレムの元に戻り、柱には穴が空いていた。

 

「やばっ……」

 

 ジオウはその柱の穴を見て思わず呟く。

 

「……ここじゃ戦いづらいか」

 

 そう言った後、ジオウはある行動に出る。

 

「ふっ!」

 

 ジオウはレムの元へ真っ直ぐ駆け出す。

 真っ直ぐ来るなんて愚かな。そう思いながら、レムはそれに対応しようと、腕を振るいモーニングスターをぶつけようとするが、

 

「よしっ!」

 

「なっ!?」

 

 ジオウは鉄球を避けると鎖を掴み、そのままレムの元へ再び駆け寄る。

 どうにかしなければ。レムはそう思い、片方の空いている拳を握り、ジオウを殴ろうとする。

 

「くっ!」

 

 ジオウもそれを掴む。が、割と威力があったのか、受け止めた瞬間、苦痛の声を漏らす。そしてジオウは、片方に握っている鎖を捨て、その手でレムの肩を掴む。

 

「はああああっ!」

 

「!?」

 

 突如ジオウは窓の方へと走り、そのまま突っ込んでいく。そして、窓の割れる音が大きく響き、二人は外へと飛び出た。

 

「ソウゴ!」

 

 柱に隠れていたスバルは、二人が落ちていった窓へ駆け寄り、外を見る。下では、庭園で二人が戦いを繰り広げていた。

 

「うおおおおお!」

 

ジオウは走ってジカンギレード・ジュウモードで引き金を引いて、光弾を放つ。レムはそれを軽々と避けていく。

 

「はあああああああっ!」

 

「たあああああああっ!」

 

二人はお互い、右拳を握り、それを相手へ振り上げてゆくのであった…………。




Doubt is a source of conflict.

『疑いは争いの元である。』


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2019:マヨナカの鬼人①

『フィニッシュタイム!』

 

 ジカンギレードのスロットにフォーゼライドウォッチを装填し、トリガーを引く。

 

『フォーゼ!ギリギリスラッシュ!』

 

 ジカンギレードに茶色のエネルギーで形成された仮面ライダーフォーゼの13番目のスイッチの力、チェーンアレイが纏われる。

 

「はあっ!」

 

「ふんっ!」

 

 ジオウはそれをゴーカイに振り回し、レムに向かって球を投げつける。対するレムも、同じくモーニングスターを投げつける。

 ぶつかり合った鉄球は、甲高い音を立てながら弾け合った。

 ジカンギレードに纏われていたチェーンアレイのエネルギーは弾けあった時に消滅したが、レムは元々がその武器なので、再び鉄球がジオウに振るわれる。

 ジオウは次々と繰り出されるモーニングスターの攻撃を避けながら、腕にあるライドウォッチホルダーからあるウォッチを取り出す。

 

『エグゼイド!』

 

 それはピンクと黄緑で彩られたエグゼイドライドウォッチ。

 ベゼルを回してリューズを押し起動した後、ベルトのD‘3スロットにセット。ライドオンリューザーを押し、ロックを解除してベルトを360度回転させる。

 

『アーマーターイム!レベル・アップ!エ・グ・ゼ・イー・ド!』

 

 チベットスナギツネ……間違えた、ドクターであり天才ゲーマー。仮面ライダーエグゼイドを模したアーマーがジオウに装着される。

 それと同時に、両肩に装備されているガシャットショルダーが光り輝くと、ジオウを中心にネオンピンクの幾何模様が波紋のように広がり、周囲にチョコブロックが配置される。

 これは『ゲームエリア』と呼ばれる特殊空間であり、かつて仮面ライダーエグゼイドも使用していたシステムである。そのエリアが展開された影響で、チョコブロックは周辺に配置されたのである。

 

「よっ、ほっ、はっ!」

 

ジオウは浮いていたチョコブロックに次々と飛び移りながらレムの攻撃を避け、あるチョコブロックを破壊する。

 すると、そこから大きなメダル型の物体が出てきた。その名も『エナジーアイテム』。これには様々な種類があり、モノによっては戦況を一気に有利に進めることが可能なアイテムだ。

 そして、ジオウが手にしたエナジーアイテムはーーーーーー

 

『透明化!』

 

 透明化のエナジーアイテム。これの効力は文字通り獲得者が一時的に透明になれるものである。

 

「!?」

 

透明化を手にしたことによってジオウの姿が不可視となり、それに目を見開いて驚くレム。

 

「かはっ!?」

 

 そんなレムは突如、斬りつけられたような痛みが走り、それと同時に、『ヒット!』というポップなエフェクトがレムの元に出現する。

 一体何処から。そう思って周囲を確認しても、誰もいない。そうするとまた斬りつけられ『ヒット!』のエフェクトが出現する。また周囲を確認しても、誰も居ない。

 すると今度は、何処かで破壊音がした。

 

『高速化!』

 

甲高い声が聞こえ、その発生源を見ようと振り返ろうとした瞬間、また斬りつけられた。その痛みを感じさせる余裕を与えないとばかりに、次の一撃が繰り出された。そして、また痛み。以下、ループ。

 レムのそのメイド服が、切り裂かれ、血で染まっており、その下の白い肌に裂傷が刻まれていた。耐えられない痛みに倒れていた時に、ジオウは現れた。透明化と高速化の効力が切れたのだ。

 

「…………ッ!話に聞いてたとおり、中々やるようですね。ですが私も、負ける、訳には…………ッ!」

 

 立ち上がろうとするが、レムの体はズキズキと痛み、崩れ落ち再び倒れる。

 倒れたレムに近寄ろうと歩き出すジオウ。

 しかし、その時。

 

「……!」

 

 ジオウは思わず足を止めた。

 レムの元から、赤い蒸気が立ち上っていた。そして、ジカンギレードによって受けた傷も、みるみるうちに治っていた。

 そして、レムはゆらりと立ち上がり、ジオウを睥睨する。その瞳から、理性を失くした状態で。

 

「あは、はははーーーー」

 

 その口角を吊り上げた三日月のような口から、哄笑が発せられた。

 その額から、白く輝く角を生やしながら。

 

「ーーーー魔女ぉっ!」

 

「ッ!」

 

そのままレムは、ジオウの元へと突進したーーーー!

 

 

 

 

 

 

 

 ナツキ・スバルは廊下を駆け抜ける。一刻も早く、あの戦いの場に向かう為。

 行って、自分に何が出来る?行っても、邪魔になるだけだ。そんな考えが脳裏をよぎった。

 そうだ、確かにそうだ。自分が行ったって何も出来ない。戦いの邪魔になるし、余波も喰らってしまう。

 でも、あそこに向かわなければならない。そんな気がした。

 

「スバル?」

 

 廊下を駆け抜けていた時、スバルの名を呼ぶ人物と出会った。エミリアだ。その銀髪は、窓から差し込む月光によって美しく輝いている。

 

「何だか急いでるみたいだけど、どうかしたの?」

 

「そういうエミリアたんこそ、何でここにいるんだよ?女の子はもう寝る時間だろ?」

 

「すごく大きな音がしたからそれで起きちゃって…………何の音か見に行こうとしたんだけど」

 

恐らく、窓が割れた音のことだろう。どうやらエミリアの部屋にも聞こえる程大きな音だったらしい。

 

「それで、スバルは?」

 

「いやー、なんつーか、そのー」

 

 言えるだろうか。ソウゴとレムが外で戦っているからそれを追いかけているだなんて。

 言えないだろう。エミリアにとって恩人である自分達を、レムが殺そうとしていた、なんて知ったら、ショックを受けるに違いない。

 どうにか上手いこと言わなくては。濁しながら、言い訳を考えていた時。

何かが、横を通り過ぎていった。その通り過ぎて行った者はーーーー

 

「ラム?」

 

桃色の髪をした、レムの姉であるラム。彼女も先程のスバルのように、廊下を駆け抜けた。

 ラムは、あっという間に闇の中に消えていく。

 

「今の、ラムかしら?どうしたんだろ……」

 

 エミリアはラムが走っていった方を振り向いて、首を傾げる。一方のスバルは、走って行った彼女を見て、元々あった焦燥感がより高まった。

 

「…………俺、ちょっと行かなきゃいけない」

 

「え?」

 

「ラムを追いかけてくる!エミリアたんはここで待っててくれ!」

 

「ちょっ、スバル!?」

 

 走り出してエミリアに告げるスバル。エミリアも手を伸ばすが、スバルもすぐ、闇の中へと消えて行った。

 エミリアは、自身の胸に、手を当てた。謎の不安に、身を駆られながら。

 

 

 

 

 

 

 

 場所はロズワール邸の庭園から離れ、周辺の森。

 そこでジオウとレムの戦いは続いていた。

 

「あは、はははははぁ!魔女!」

 

 レムは、狂った笑い声を上げてモーニングスターを振り回し、ジオウを殺さんとする。

 ジオウはその猛攻を避けるので精一杯の状態だ。

 

「レム! しっかりしろ!」

 

 ジオウがレムに呼びかけるも、レムは聞く耳を持たず、未だ攻撃を続ける。

 

「ッ!だったら!」

 

ジオウは腕のホルダーからあるライドウォッチを取り出す。が、

 

「ぐあっ!?」

 

 ウォッチを取り出す隙を見せてしまった為か、腕をモーニングスターで攻撃されてしまい、持っていたウォッチが吹き飛んで地面に転がる。

 

「しまった!」

 

 思わずウォッチが飛んだ方を振り返る。その瞬間、背中に大きな衝撃を受け、ジオウは吹っ飛んだ。

 その攻撃をした人物はやはりレムだった。彼女は再び攻撃をする為にジオウにモーニングスターを振るう。

 ジオウは咄嗟に落ちていたウォッチを回収してそれを避けた。

 そしてそのままウォッチをジカンギレード・ジュウモードに装填。

 

『フィニッシュタイム!』

 

 ウォッチを装填してすぐに引き金を引く。

 

『ウィザード!スレスレシューティング!』

 

 ジカンギレードの銃口から炎弾が発射される。その炎弾はレムの元へと真っ直ぐに飛び、彼女の身を焼かんとする。

 だが彼女は手を突き出して自身の周りに青色の結界を展開し、その炎弾を防いでしまった。

 

『アーマーターイム!プリーズ!ウィ・ザード!』

 

だがジオウにとっては、変身出来る時間さえあれば大丈夫だったので、防がれても良かったのだ。

 

「はあっ!」

 

 突き出した手から緑色の稲妻が発せられる。

 レムが横に飛んで回避したことにより、それは木を貫く。木は黒く焦げ、煙を上げた。

 稲妻を回避したレムは変わらず狂乱しながらモーニングスターをジオウへ当てようと振り回す。

 まずはあのモーニングスターをどうにかしなくては。そう思ったジオウは再び手を突き出して、今度は水を噴射させた。

 大量の水をレムは浴びる。だが、それに怯むことは無く、ジオウに突進し、拳を握ってその一撃を見舞おうとするがーーーー

 

「はあっ!」

 

「ぐゔっ!?」

 

ジオウの手から今度は強い光が発せられた。その極光にレムは呻き声を上げながら思わず目を閉じた。

 そして、光が止んで目を開いた時にはーーーー

 

「!?」

 

誰も居なかった。レムは腰を低く落とし、唸り声を上げながら辺りを警戒する。

 ふと、後ずさった時に、何か音がした。

 すかさずレムは振り返るが、誰も居ない。足には、先程ジオウが噴射した水によって出来た水溜りが。恐らく、それを踏んだ音だろう。

 再び周囲を警戒する。聴覚を、嗅覚を、最大限まで研ぎ澄まして警戒する。

 ふと、水溜りにレムが映った。特に何の変哲もない水溜りであった。

 何もないのに、水面に波紋が広がるまでは。

 

「おりゃあっ!」

 

「かはあっ!?」

 

横っ腹に蹴りを入れられ、口から息が漏れる。

 レムは、手にあったモーニングスターを手放して吹き飛んだ。地面に落ちたモーニングスターは、水溜りから出てきたジオウに蹴っ飛ばされ、茂みの中へと隠れた。

 先程のトリックは至って簡単。ライトの力でレムに目眩しをした隙に、クリアの力で水溜りの中にジオウが隠れていたのだ。こうして、モーニングスターをレムの手から離すという目的は果たされた。が、

 

「ふぅんっ!」

 

「ぐっ!」

 

 敵はまだ倒された訳ではない。

吹き飛んでいたレムが空中回転をし、ジオウへとキックを放つ。それをジオウは両手を前に持ってきて交差した状態で防御する。

 レムは後ろへ飛び、ジオウはキックの衝撃で少しよろける。

 着地したレムは腕を振り、先端が鋭利な氷柱を出現させて10本ほどジオウへ向け撃つ。ジオウはそれを、出現させた炎の障壁で全て防いだ。

 

「さあ」

 

 ジオウは下半身のロングコートを翻す。

 

「ショーの時間だ!」




CMターイム
前回と似たような終わり方だけど許してちょーよ


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2019:マヨナカの鬼人②

 ロズワール邸の玄関の扉が勢いよく開かれる。そこから飛び出てきたのはラムだ。

 夜のロズワール邸の庭園を走るラムの表情は焦燥感で満ちている。肌に冷たい風を感じながら。

 

早く、はやく、ハヤク、行かなければならない。自分のたった1人の妹の下へ。

 

 そうして、ラムがロズワール邸の門から出て行くのは遅くなかった。

 

「ーーーームッ!」

 

ああ、どうして彼女は先走ってしまったんだ。主人からも注意しておくように言われたのに。彼女に先走らないよう、念を押した筈なのに。

 何故、彼女は行ってしまった?

 

「おいッーーーー!」

 

 それは愛、故なのか。

 

「ラムッ!」

 

 耳の中に甲高い声が入り込んだ。それで驚いたからなのか、ラムは足を止める。

 声がした方を見ると、下を向いて手を膝につきながら息を連続で吐き続けるナツキ・スバルが。

 

「バルス…………何でここに」

 

「はぁっ……はあっ……それはっ……こっちの台詞、だっての……」

 

 ヨロヨロと疲労感満載の顔でラムに近付くスバル。ただでさえ三白眼で目付きが悪いのに、余計に悪人臭が強い顔になっていた。

 

「バルス、悪いけどラムは今急いでるの。貴方に構ってる暇は…………」

 

「レムを追いかけてるんだろ?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ラムは目を丸くする。

 

「…………何で貴方が」

 

「そこは後々説明するつもりだよ。とにかく、一緒に協力してレムを探そう。……まあ、つっても」

 

 スバルは隣に目を向ける。

 

「こんだけ派手にやってりゃ、手分けなんてしなくてもすぐに見つかりそうだけどな」

 

 明らかに戦闘をした時に倒れたであろう木が、森の奥に沢山転がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 場所は森の何処かに移る。

 拳と拳がぶつかり音が、森の中で響いた。

 

「ふぅんっ!」

 

 一度後ろに引いていたレムがジオウの下へ走った後、軽くジャンプして体を右後ろに捻って回し蹴り。それを左手で掴むジオウ。

 右足を掴まれ一瞬宙に浮くが、すぐに空いていた左足でジオウの肩を蹴る。それによってジオウは掴んでいた足を放してしまい、レムが地面に着地。

 

「いった……!」

 

 ジオウの変身しているとはいえ、その蹴りの威力は高いらしく、肩を押さえる。しかし相手はそれを待とうとせず、再び突撃。ジオウも当然それに気付く。

 

「はあっ!」

 

 ジオウは左手を思いっきり突き出すと、突如腕が如意棒の如く伸びた。

 驚くレムをよそに、その手は足を掴んでそのまま彼女を木にぶつけようと投げた。

 

「ッ! ぬぅぅぅぅぅんッ!」

 

 投げられたレムは、なんと激突しそうになった木に着地し、そのまま踏み台にしてその勢いでジオウの下へ飛んでいったのだ。軽い離れ業である。

 そのままレムは拳を握り、ジオウにパンチをしようとする。

 その時ジオウは驚きながらもすぐさま地面から土の厚壁を生成した。そしてその土壁はレムのパンチを受け止めた。だが、後ろに退いたレムが氷柱を土壁に向かって放つ。複数飛んだそれは、次々と刺さって壁にヒビを入れ、やがて轟音を立てて砕け散り、土煙が舞った。

 そしてその土煙の中にジオウを串刺しにせんともう一度氷柱を複数放つ。それが煙の中に呑まれてゆくのはすぐであった。

 段々と土煙が晴れてゆく。そこには氷柱によって串刺しになったジオウがーーーー

 

『フィニッシュタイム!』

 

 いなかったが、代わりにドゴーン! と激音が後ろから響いた。

 

『クウガ! スレスレシューティング!』

 

 レムは振り返ったが、時すでに遅し。

 ジオウが左手に持っていたジカンギレードの引き金が引かれていた。

 

 ーーーーーードスッ。

 

 瞬間、肉を裂く音が聞こえた。

 不可視の空気弾が放たれ、それがレムの右肩を撃ち抜き、直後、血が噴水のように吹き始めた。

 

「ーーーーがぁぁぁぁッ!」

 

 それが激痛であったことは、言うまでも無い。

 

 そして別の場所では。

 

「! おいラム、今なんか声が……」

 

「ええ、聞こえたわ」

 

先程の声は、スバルとラムに届いていた。

 2人はお互いを見て頷いた後、声がした方へと走ってゆく。

 

「ッ! ふんっ!」

 

レムは今も血を流している傷口に手を当て、淡い水色のオーラが発生する。彼女が使う水魔法による回復魔法である。

 回復している間は苦悶の表情を浮かべていた。まもなくして、魔法による止血は終わった。

 レムはジオウの方を振り向く。相変わらず彼女の理性は取り戻せていない。狂気を纏った笑顔はなくなっていたが、憎悪の宿った目が、唸り声を上げてジオウを睨みつけていた。

 

 そうして、レムは再びジオウに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、まだかよラム?」

 

「急かさないで、バルス。ラムも今集中してるの。それと、せっかちな男は嫌われるわよ」

 

「でもせっかちは悪いことじゃないし…………」

 

 どんな言い訳だ。そう思いながら、ラムは瞑目し『千里眼』を使用中。

 『千里眼』とは、ラムの持つ能力であり、人だけに限らず他の生き物と視界を共有する力である。波長の合う生物の視界を借り、また別の生き物の視界を借りて距離を伸ばすことで文字通り千里を見渡すことが出来るのである。

 そして彼女は、その千里眼を使って妹であるレムを捜索中であり、現在いる場所は、レムと思いし声が聞こえてきた場所である。

 

「てか荒れ放題だよなぁ、ここら一帯。後処理どうすんだよ」

 

 そこには木が倒れた跡やら、地面に穴が空いた跡やらと、被害の跡が著しく残っていた。

 

「! 見つけたわ、こっちよ!」

 

レムを見つけたらしいラムは咄嗟に走り出す。

 

「ちょっ、待てよ!」

 

スバルは慌てて彼女を追いかけた。

 森の中は複雑で、ただでさえ今は夜で真っ暗だ。そんな中でも、ラムは躊躇うことなく進んでゆく。スバルはそんなラムを追いかける。足元の石や倒れている木につまづかないよう注意しながら。

 そこそこの距離を走った。スバルの肺が悲鳴を上げ始めた頃、ラムは突如足を止めた。スバルも同じく足を止めて、膝に手をつけて呼吸を荒げる。

 

「はぁっ、はあっ…………どうした、ラム?」

 

「しっ」

 

ラムは振り向いて左人差し指を口に当てる。彼女は前に視線を向け、スバルもそれに続いて視線を向けた。すると、そこにはーーーー

 

「ぬぅんっ!」

 

「ぐっ! おりゃあっ!」

 

時計を模した仮面に右フックを打ち込む水髪の少女。相対している仮面男は、仕返しとばかりに少女の脇腹にキック。

 

「ソウゴとレムだ!」

 

 レムと常磐ソウゴ……もとい、仮面ライダージオウが戦闘中。

 ジオウは仮面で顔を隠しているので、どんな表情かは当然分からない。しかしレムは素顔で戦っているので表情は分かる。

 それは憎悪やら殺意やら、かと思えば焦燥やら。決して良い感情が篭っているとは言えない。少しでも戦いの邪魔をしたら、地平線の彼方に吹っ飛ばされそうなくらい、今のレムはスバルにとって怖く見えた。

 そしてレムの姿を見ても、その戦いが余程激戦であったことを物語る。

 仕立ての良かったメイド服は引き裂かれており、その下の白い肌には無残な裂傷が刻まれている。鮮やかな青い髪は乱れ、服には大量に出血した跡が残っている。

 

「……ん?」

 

 スバルはふと、レムの額に何かが生えてるのを見た。

 

「あれは……角?」

 

 レムの額から生えている白色の角。スバルにはそれが、彼女の険しい表情と、血で染まっているのが相まって、あるものを連想する。

 

「……まるで鬼だ」

 

 それは彼の故郷……日本に伝わる民話や郷土信仰に登場する架空の存在。

 

「おりゃ!」

 

ジオウがジカンギレード・ケンモードで突きの一撃を繰り出す。しかし、手応えは無く、剣は宙を切った。

 そしてどういう訳かジオウは、刀身を重く感じているのか、腕が少し下に下がっていた。

 

「!」

 

 当然と言えば当然だろう。何せ、ジカンギレードの上にレムが乗っかているのだから。

 

「ふんっ!」

 

「ぐあっ!」

 

 レムがジオウの顔に飛び蹴り。まともに喰らってしまったジオウは吹っ飛んで倒れる。

 これによって大きな隙を見せたジオウ。レムがそのチャンスを逃す筈が無く、彼女はジャンプして彼に飛び乗る。

 

「ふんっ!」

 

「がはあっ!」

 

 馬乗りの状態でジオウに拳を振るうレム。ジオウは完全に好きにやられる状態。

 

「魔女ッ! 魔女ぉッ! 死ねッ! 死ねぇッ!」

 

「おいおいおいおいおい! 今のレムどう見てもおかしいぞ!?」

 

 普段のレムは基本冷静で、完璧に仕事をこなすイメージがスバルにはあった。だが、今のレムは、そのイメージとは遠くかけ離れていた。明確な殺意で、怒り狂いジオウを殺そうとしている。理性を失った、ただの獣と化していた。

 

「今のレムは暴走状態よ。理性を失ってる」

 

「マジかよ!? どうすりゃ……」

 

「あの子の額にある角に大きな衝撃を与えれば、あの子を止めることが出来るわ」

 

「成る程! じゃあやってやる! この拳で!」

 

そしてスバルは咄嗟にレムの下へ駆け出す。

 

「ちょっ、バルス! 待ちなさい!」

 

 ラムが慌てて引き止めるが、もうスバルはレムのすぐそばに。

 

「レム! 目ぇ覚ませぇぇぇぇぇぇ!」

 

「! スバル!?」

 

大声で呼ばれ、それに気付き振り向くレム。ジオウもスバルを見て少々驚いた様子。そして、肝心のスバルはレムにその渾身の一撃をーーーー

 

「ふんっ」

 

「ごへっ!?」

 

 与えることは叶わなかった。逆にレムに一撃喰らわされてしまった。

 

「れ、れ……む……こ、股間は反則…………」

 

 股間を押さえながら蹲るスバル。そんなスバルをレムは足で一蹴り。

 

「ぎゃああああああああ!!」

 

「スバルーーーー!」

 

 そのまま木へ衝突して地面へ墜落。スバル、気絶。

 

「あの、馬鹿…………ッ!」

 

 苦虫を噛み潰した表情で頭を抱えるラム。

 

「ッ! 今だっ」

 

 しかし、スバルのその行動も無駄ではなかったらしい。ジオウはレムがこちらに振り向いた瞬間、彼女に手を向ける。

 

「ッ!? ぐあッ!?」

 

鼻を手で覆ってジオウから急いで飛んで退避するレム。

 仮面ライダーウィザードのスメルの力で鼻が曲がる程の激臭をレムに放った。レムが離れたことによって体が自由になり、起き上がるジオウ。

 

「トワキ!」

 

 ラムがジオウ、ソウゴを呼ぶ。先程スバルがジオウを見てソウゴの名を呼んでいたので、彼がソウゴであることは確認済み。

 

「ラム!」

 

「説明は後! 今あなたが戦ってるレムは見ての通り暴走状態よ。額から生えてる角に大きな衝撃を与えれば、レムは元に戻るわ!」

 

「……分かった、やってみる!」

 

 ジオウはジカンギレード・ジュウモードにビルドライドウォッチをセット。

 

『フィニッシュタイム!』

 

 待機状態。ジオウは出現した魔法陣に手を突っ込み、もう一つのジカンギレードを取り出す。それにもビルドライドウォッチがセットされている。

同時に引き金を引いた。

 

『『ビルド! スレスレシューティング!』』

 

 一つからは複数のスマートフォンのアプリアイコンのような物が。もう一つからは、紫色の蝙蝠の大群が出現。

 アプリアイコンはレムの周りをぐるぐると旋回し、蝙蝠達は纏わりつくようにレムの周りを飛ぶ。

 レムはそれを厄介だというような表情で追い払おうとする。

 

『ダブル!』

 

その間にジオウはダブルライドウォッチを起動。

 ドライバーからウィザードライドウォッチを抜き取り、ダブルライドウォッチを装填。

 そしてロックを解除しドライバーを回転させる。

 

『アーマーターイム! サイクロン! ジョーカー! ダ・ブ・ルー!』

 

 ベルトから仮面ライダーダブルを模したアーマーが出現し、それがジオウの下へと装着される。ダブルアーマーへの変身が完了。

 

「はあっ!」

 

 ダブルアーマーの右肩に装着されているライトサイクロンが緑光を放つ。

 そしてジオウが右手を伸ばすと、緑色の竜巻が出現し、高速でレムに迫った。

 レムの周りにいた紫色の蝙蝠は退散し、アプリアイコンも消え去る。その直後に、竜巻がレムを巻き込んだ。

 彼女は竜巻の中で洗濯機で洗われている洗濯物の如く、ぐるぐるとすごい勢いで回っている。

 彼女は竜巻に抵抗できず、ただただ目を回すのみ。

 

『フィニッシュタイム!』

 

竜巻の下にいたジオウは、その間に再びベルトの操作。

 

『ダブル!』

 

ダブルアーマーの左肩に装着されているレフトジョーカーが紫色に光り輝く。

 ジオウは左手を構え溜めのポーズに入ると、手に紫色のエネルギーが収束する。

 今も竜巻の中で目を回すレム。すると突如、竜巻がすっ、と止んで、そのまま地面へと頭から真っ逆さま。

 先程まで目を回しっぱなしだったレムには、着地を取る態勢など取ることは出来ず、完全にグロッキー状態。

 だが彼女は、朦朧とした意識の中で、あるものだけははっきりと捉えることが出来た。

 

「ねえ……さま……」

 

見開いた目でこちらを見つめる愛しき我が姉。

 

『マキシマム! ターイムブレーク!』

 

自身の姉に手を伸ばそうとした瞬間、頭に大きな衝撃が走り、そこで意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レムッ!」

 

ラムはすぐさまジオウが抱えているレムの下へ駆け寄る。

 レムは、ジオウの腕の中で眠っている。それを見てラムは安堵の表情。

 

「…………ラム。とりあえず、2人を早く屋敷に運ぼう。俺がスバルを運ぶから、ラムはレムを頼める?」

 

「ええ、分かったわ」

 

 抱えていたレムをラムに預けたジオウは、未だ地面で伸びているスバルの下に行き、彼をおんぶして、屋敷へと向かう。ラムも、レムをおんぶしてジオウへと続いた。

 

「レム…………」

 

 ラムは自身の背で眠る妹を不安げな表情で見る。

 

「…………起きたら、この子と話し合わなきゃならないわね」




せっかちは悪いことじゃない(至言)


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2019:渦巻く!疑惑!精霊戦慄!

今、この小説を見たな?
こ れ で お 前 と も 縁 が 出 来 た!


 ロズワール邸の玄関で、エミリアは歩く。

 

 右へ歩いたかと思えば、次は左へ、かと思えば、右へ。その名も繰り返し。

 

 不安を、焦燥を、下を向くその顔に宿して。何処かへ行った彼の身を案じて。

 

「ただいまぁ〜」

 

開いた扉から声がした。

 立ち止まって扉に視線を移せば、茶髪の髪に、ストライプの服の上にピンクのカーディガンを着た青年が。

 

「ソウゴ!」

 

 入ってきたのは少々疲労した様子の常磐ソウゴ。その背には誰かがおぶられている。エミリアはソウゴの元に駆け寄る。

 

「ああ、エミリア? ごめん、ちょっと疲れてきたからさ、スバルを部屋に運ぶの、手伝ってくんない?」

 

 ソウゴは背中に背負っていたナツキ・スバルを一旦降ろし、彼の左腕を肩に掛ける。

 

「す、スバル? ど、どうして寝ちゃってるの?」

 

「ちょっと、色々あっちゃってさ」

 

 苦笑いで濁すソウゴ。

 エミリアが怪訝そうな顔で彼を見るが、扉からもう一人誰かが入ってくるのに気づいた。

 

「ラム! 何で貴方まで」

 

「少々、事情がありまして。説明は致しますゆえ、今はレムを部屋に」

 

 そう言って彼女は現在眠っている自身の妹を運ぶ為に部屋へと足を進ませる。

 

 エミリアは困惑を含んだ目で彼女の背中を見つめた。と言っても、その背中は背負われているレムによって見えないが。

 

「エミリア、俺達も」

 

「えっ? あぁ、そうね……」

 

しばらくラムを見つめていたので、ふとソウゴから声を掛けられて素っ頓狂な声を上げる。

 

 エミリアはスバルのもう片方の手を自身の肩に掛けて、ソウゴと協力して部屋へと運び始める。

 

 ふと、ソウゴの横顔をエミリアはちらっ、と見た。その顔には傷があり、そこから微量の血が滲み出ている。

 

 何故か4人とも外に出ていて、内2人は睡眠中。そしてソウゴの顔の傷。彼らの間に何があったのか。

 

 エミリア、少しもやもやとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからしばらく台本形式に入ります。ご了承ください。

 

 

エミリア「おめでとう!」

 

パック「おめでとう!」

 

レム「おめでとうございます」

 

ラム「おめでとう」

 

ロズワール「めでたいねーぇ」

 

ベアトリス「おめでとうなのよ」

 

ラインハルト「おめでとう!」

 

フェルト「おめっとさん!」

 

エルザ「おめでとう」

 

ソウゴ「おめでとう」

 

スバル「…………ありがとう」

 

 

 エミリアたんに、ありがとう

 

 文無しの異世界生活に、さようなら

 

 そして、なんかよくわかんないけど、

 

 おめでとう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここから通常にお戻り致します。おふざけに付き合っていただきありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナツキ・スバルはゆっくりと目を開けて、起床する。

 

「…………何でエヴァ最終回のパロディなの?」

 

 スバルが呟いたその時、扉が開かれた。

 

「スバル? 起きてたの?」

 

どうやら扉を開いたはエミリアらしい。

 

「ああ、エミリアたん」

 

「良かった、大丈夫そうね」

 

「まぁ、この通り元気だよ。それで、部屋に運んでくれたのはエミリアたん?」

 

「うん、昨日の夜に、ソウゴが寝てるスバルをおんぶして帰ってきたから、一緒に運んだの」

 

「そうだったのか、ありがとう…………そういえば、レムとラムは?」

 

「2人も昨日、ラムが寝てるレムを背負って帰ってきたけど…………」

 

 レムが寝ていたというエミリアの話を聞くに、ソウゴがレムをどうにかしたのだろうと察するスバル。

 

「………………スバル、実はね、昨日何があったか、もうソウゴとラムから聞いてるの」

 

「………………ッ」

 

 スバルは苦虫を噛んだような顔で、思わずエミリアから目を背ける。

 

「…………スバル、レムのことは、ごめんなさい」

 

「え…………あ、いや、何でエミリアたんが謝るんだよ? エミリアたんは何も…………」

 

「ううん、これは私にも責任はあるわ。レムは私の使用人でもあるから。私がもっとちゃんとレムのことを見てあげれば、ソウゴとスバルが傷つけられることもなかった」

 

「…………っても、エミリアたんは王様の勉強があるし、レムのことを見れないのも、しょうがないだろ? それに、俺は今こうして無事なんだから、そこまで気負わなくていいって」

 

 スバルは手を広げてエミリアに体を見せるようにし、無事であることをアピールする。

 

「でも…………」

 

エミリアは納得いかない、という顔をした時、扉が開く音がした。二人は音がした方向に振り向く。

 

「ソウゴ…………」

 

「スバル、起きたんだ」

 

エミリアが入ってきたソウゴを見て名を呼ぶ。ソウゴは起きているスバルを見て言った。

 

「調子はどう?」

 

「ああ、全然平気だぜ」

 

「そっか、それなら良いんだけど」

 

その時、また扉が開く音がした。

 

「どうやら起きたようね、バルス」

 

入ってきた人物は、ラムだった。

 

「ラム」

 

「起きがけで悪いけれど、バルスをエミリア様の恩人として先に言っておくわ。———— 今回は当家の使用人が貴方に多大なるご迷惑をお掛けしたことを、誠に深くお詫び申し上げます」

 

 そう言ってラムはスバルに向けて手を添え、約45度くらい腰を曲げてお辞儀をする。それにスバルも少々面食らった様子。

 そして、ラムは顔を上げた。

 

「次は同僚として言うわ。これから屋敷の仕事の際は、レムには常に監視としてラムがついておくことになったわ」

 

「え…………何でだ?」

 

「当然でしょう? まさかバルス、レムに命を狙われていたことをもう忘れたの? 最初はロズワール様が帰還するまでの謹慎処分を与える所だったけれど。でもレムが抜けると屋敷の管理がままならないわ。バルスは頼りにはならないし。ロズワール様が正式な判断を下すまでは、ひとまずそうするの」

 

「いや頼りないって、ひどくねぇ?」

 

「当然のことを言ったまでよ」

 

 スバルが突っ込むが、鋭く切り返すラム。

 

「…………………なぁ、聞いときたいんだけどよ」

 

 ふとスバルは、真面目な顔になる。

 

「レムは、何で俺達を襲ったんだ?」

 

「どうやら、バルスとトワキを魔女教だと判断したからだそうよ」

 

「魔女教………………? 何だそれ? 宗教か?」

 

「魔女教は、嫉妬の魔女を信仰してる宗教だよ。色んな所で、皆を傷つけるようなことをしてる。レムとラムの故郷も滅ぼしたんだ」

 

 スバルの疑問にソウゴは答えた。

 

「つまり、犯罪集団ってことか」

 

 ———— 成る程成る程、各地で人々を傷つけるなんて、ひでぇ奴らだ。おまけに、レムとラムの故郷まで滅ぼしただなんて。

 

……………………。

 

 ———— うん?

 

「いや、おいおいおいおいおい! ちょっと待て、さらっとヤバいこと言ったよね今!? レムとラムの故郷滅ぼしたって本当なのかよ?!」

 

「トワキの言ったことは事実よ。ラムはこの目であの光景を見たわ」

 

 驚く声を上げるスバルに対し、冷静に答えるラム。あの光景とは恐らく、故郷が滅んだ時のことだろう。

 

「…………何でレムは俺達をその魔女教だって思ったんだ? 疑われる程、何も怪しい動きをした覚えはないぞ?」

 

 レムが襲う気持ちはまあ分かる。自分達の故郷を滅ぼした仇敵の一味が、目の前にいるのだから。が、その仇敵だと判断した理由に関しての見当は全然つかない。

 

「魔女の匂いがするから、とレムは言っていたわ」

 

「魔女の匂い? 何じゃそりゃ?」

 

「俺とスバルから出てる匂いだよ。ベアトリスが言ってた。レムは、その匂いを嗅ぎ取れるらしいよ」

 

 スバルの疑問に答えたのはソウゴだ。

 

「へぇー…………何でそんなの臭うんだ?」

 

「魔女に見初められたか、目の敵にされたか、だって」

 

「顔も名前も知らない奴にそんな扱いって、ゾッとしねぇな」

 

スバルはふと、すんすんと自分の体を臭う。何も、臭わない。無臭。臭くもなければ、良い匂いもしない。

 

「つまり、その匂いだけで俺達を魔女教だって判断したのか? 言っちゃなんだけど、早とちりじゃないか、それ」

 

「しょうがないわ。実際、レムは早とちりして独断に走る所があるから。

 それとバルス、貴方に聞くわ。さっきも言った通り、レムにはラムがつくことになっているけれど、仕事は続行するの? レムに襲われた恐怖で、碌に仕事が出来ないのだったら、部屋にいてもいいけれど」

 

「……いや、仕事はやるよ。一人何もしてないのは、何か気が引けるしな」

 

「そう…………分かったわ」

 

 そう言って、ラムは扉まで歩いた後、振り返ってスバルに言う。

 

「ラムはレムの元へ行って朝食の準備をしてくるわ。バルスも準備が出来次第、厨房に来なさい」

 

「分かった」

 

 スバルの服装は白色の患者衣ガウン。仕事場には完全に不釣り合いな格好。

 ラムとスバルの二人は廊下に出た後、ラムはレムを迎えに自室へ、スバルは着替える為に衣装部屋へ。

 

「私たちは、食堂へ行きましょうか」

 

「そうだね」

 

 エミリアとソウゴの二人は、食堂へ行く為に、廊下に出て歩き始めた。

 

 

 

 

「………………」

 

スバルは執事服に着替えて厨房に居た。ラムは椅子に座って皮剥きをしており、レムはどうやら、鍋を煮込んでいる様子。

 

「来たようね、バルス」

 

 入口で立っているスバルに、ラムは気付いた。レムはちらっと、後ろを見た。その時に思わず、スバルとレムの目は合った。

 

「お、おはよう、レム」

 

 右手を上げながら、とりあえず朝の挨拶をする。

 

「……おはようございます、スバルくん」

 

「…………うん」

 

………………。

 

 妙な間が流れ、どことなく、気まずい空気になる。

 

「バルス、野菜の皮剥きを」

 

「え、あ、おう」

 

 その空気を察したのか、察してないのか。ラムはスバルに傍にある野菜の皮剥きをするように促す。スバルはそれに応じ、傍にある椅子に座り、果物ナイフを手に取って皮剥きを始めた。

 

 スバルは以前のように手は切らず、さくさくと野菜の皮をナイフで切り、剥いていく。

 

 ふと、手を止めてレムの方を見た。レムは鍋をかき混ぜているようだ。

 

 まさか、毒でも入れてるんじゃないだろうか。

 何て、そんな考えが一瞬よぎるが、あの食事はエミリアも食べるし、それは無いだろう、と思う。

 

 いや、もしかしたら出されるお茶に————————? いや、でも、お茶を淹れる時にラムが見てるだろうし。

 

 ナツキ・スバルはレムを疑わずにいれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かしら、スバルとレム」

 

「きっと大丈夫だよ。ラムもいるし」

 

 廊下を歩いている最中に、ふと出てきた、エミリアとソウゴの会話。

 

「ん?」

 

 ふと、ソウゴは開いている扉があることに気づいた。その扉から、縦ロールの髪型の幼い少女が現れる。

 

「あっ、ベアトリス。元気になったんだ?」

 

「元気になった? ベアトリスに何かあったの?」

 

「うん、昨日ベアトリスが俺に触れたら、突然具合悪そうにしてさ。あれから昨日一日会えなかったんだよね」

 

「ソウゴに触れたら…………? ソウゴが何かしたわけじゃないのよね?」

 

「勿論」

 

「オマエ」

 

ソウゴがエミリアに返事した直後、ベアトリスはソウゴを指差して呼ぶ。

 

「話があるのよ、来るかしら」

 

「話? 分かった。エミリア、先に行ってて」

 

「うん、分かったわ。待ってる」

 

部屋の中に入るベアトリスにソウゴが付いて行き、扉が閉じる音が響いた。

 

「ベティーが、ね」

 

ふと、何処からか出現したパックがソウゴとベアトリスが入った扉を見た。

 

「ベアトリスのこと、やっぱり心配?」

 

「そりゃ勿論。ベティーが具合悪そうだなんて、相当だよ。通りで昨日、屋敷から気配が感じにくかった訳だ。……ソウゴに触れたら、か」

 

先程の会話を思い出して、パックは呟く。

 

(ベティーは恐らくソウゴに干渉した、けれど、彼の力に触れて気配が感じにくくなるほど一時的に弱まった…………。

 ソウゴ、君はホントに、何者なんだろうね…………。何せ、常人じゃ受け止めきれない力を体に宿してるのに…………心が狂わずに、正気を保って、平然としていられるんだから。……それとも、狂気が最早正気となったのか。それとも、人の形をした”ナニカ”、なのか。それとも……)

 

 疑念が渦巻くパック、彼は実の所、ソウゴに少し戦慄の感情を覚えていた。もしかしたら—————自分を超えるかもしれない力を、彼は持っているのだから。

 

「パック?」

 

エミリアに呼びかけられて、パックは現実に引き戻される。

 

「どうかした?」

 

「……いいや、何でもない。少し考え事をしてただけさ」

 

「そっか。じゃあ、行きましょう」

 

「そうだね〜」

 

先程の疑念を感じさせない、マイペースな口調で、エミリアへ付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、ベアトリスが元気みたいで良かった」

 

「別に元気でも無いのよ。今も頭が痛むかしら」

 

「あぁ……そう、なんだ。それで……昨日は何であんなに具合悪そうにしてたの?」

 

「それを含めて、今から話すのかしら」

 

ベアトリスは脚立に腰掛ける。その時、少し咳き込んでいた。

 

「昨日、ベティーがあんな醜態を晒したのは、オマエの中にあるオドに干渉をしたからかしら」

 

「オド? 何それ?」

 

「オドとは、元来生命の体内に備わっている、文字通り魂の力かしら。……干渉したあの時のことは、思い出すだけで身震いするかしら」

 

 ベアトリスはソウゴのオドに干渉した時、体が蝕まれるような感覚を覚えた。それはまさしく————— 炎に、包まれたかのように。

 

「あれは—————— 炎。魂の、炎」

 

 炎。下手に触れれば、火傷する。

 

それから、ベアトリスは少し俯き、しばらく沈黙する。ソウゴは特に声を掛けることなく、沈黙するベアトリスを見つめる。

 

「本題に入るかしら」

 

ベアトリスは顔を上げ、ソウゴの目を見据えた。

 

「ベティーはオマエのオドに触れたその日———————— 夢を、見たかしら」

 

少女は語り始める。夢幻(むげん)の、世界を。



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2019:夢幻と世界と約束

(2章を進めるために)久しぶりに聴きにきた…お前の歌を。

なんて冗談は置いておいて、初っ端から歴代ライダー作品に関する描写があります。そういうのが苦手な人はご注意。

それと後書きもクソみたいな下ネタがあるので注意です。


 少女が見た夢。

 

 それは無限の世界の一欠片。

 

A New Hero. A New Legend.

 

目覚めろ、その魂

 

戦わなければ生き残れない!

 

疾走する本能

 

運命の切札をつかみ取れ!

 

ぼくたちには、ヒーローがいる

 

天の道を往き、総てを司る!

 

時を超えて 俺、参上!

 

覚醒(ウェイクアップ)! 運命(さだめ)の鎖を解き放て!!

 

全てを破壊し、全てを繋げ!

 

これで決まりだ!

 

俺が変身する!!!

 

青春スイッチ、オン!

 

さあ、ショータイムだ!

 

キミはこの力、どう使う?

 

この男、刑事で仮面ライダー!!

 

ヒーローは、一度死んで蘇る。

 

狩り、開始。

 

ノーコンティニューで運命を変えろ!!

 

さぁ、実験を始めようか。

 

世界最強の社長はただひとり!オレだ!

 

文豪にして剣豪!!

 

ヒーローと悪魔が相棒(タッグ)…つまり最強!

 

このゲーム——最後に勝つのは俺だ

 

つかめ!最高のガッチャ!

 

 幾つもの始まり。

 

怪奇蜘蛛男

 

ライダー3号 その名はV3!

 

X.X.Xライダー誕生!

 

人か野獣か?! 密林から来た凄い奴!

 

おれは電気人間ストロンガー!!

 

改造人間 大空を翔ぶ

 

惑星用改造人間の大変身

 

10号誕生!

 

BLACK!! 変身

 

太陽の子だ!RX

 

復活

 

戦士の覚醒

 

誕生秘話

 

旅の始まり

 

紫紺の戦士

 

響く鬼

 

最強男

 

俺、参上!

 

運命・ウェイクアップ!

 

ライダー大戦

 

ドラゴンを探せ

 

Wの検索/探偵は二人で一人

 

メダルとパンツと謎の腕

 

青・春・変・身

 

指輪の魔法使い

 

変身!空からオレンジ!?

 

俺の時間はなぜ止まったのか

 

開眼!俺!

 

AMAZONZ

 

I'm a 仮面ライダー!

 

NEO

 

ベストマッチな奴ら

 

オレが社長で仮面ライダー

 

はじめに、炎の剣士あり。

 

家族!契約!悪魔ささやく!

 

黎明F:ライダーへの招待状

 

ガッチャ!ホッパー1!

 

 幾つもの終わり。

 

ゲルショッカー全滅!首領の最後!!

 

デストロン最後の日

 

さらばXライダー

 

やったぞアマゾン!ゼロ帝の最後!!

 

さようなら!栄光の7人ライダー!

 

さらば筑波洋!8人の勇士よ永遠に…

 

地球よさらば!一也宇宙への旅立ち!!

 

ゴルゴム最期の日

 

輝ける明日!

 

雄介

 

AGITΩ

 

新しい命

 

俺の夢

 

永遠の切り札

 

明日なる夢

 

天の道

 

クライマックスは続くよどこまでも

 

フィナーレ キバを継ぐ者

 

世界の破壊者

 

キットの物語

 

Eにさよなら/この街に正義の花束を

 

明日のメダルとパンツと掴む腕

 

青・春・銀・河

 

終わらない物語

 

変身!そして未来へ

 

友よ、君はだれに未来を託すのか

 

未来!繋がる想い!

 

M

 

終わりなきGAME

 

AMAZONZ

 

ビルドが創る明日

 

ソレゾレの未来図

 

新たなページが、開くとき、

 

あくまで家族、いつかまた会う日まで

 

黎明Ⅰ:ここからがハイライトだ!

 

 少女が見た世界はどれも、色とりどりの異形達が、もう一つの異形との戦いを繰り広げていた。

 

 色とりどりの異形の名。それは。

 

「仮面ライダー」

 

本郷猛(1号)

 

一文字隼人(2号)

 

風見志郎(V3)

 

結城丈二(ライダーマン)

 

神敬介(X)

 

山本大介 (アマゾン)

 

城茂(ストロンガー)

 

筑波洋(スカイライダー)

 

沖一也(スーパー1)

 

村雨良 (ZX)

 

南光太郎 (BLACK・BLACK RX)

 

風祭真(シン)

 

麻生勝(ZO)

 

瀬川耕司 (J)

 

五代雄介(クウガ)

 

津上翔一(アギト)

 

城戸真司(龍騎)

 

乾巧(ファイズ)

 

剣崎一真(ブレイド)

 

日高仁志(響鬼)

 

天道総司(カブト)

 

野上良太郎(電王)

 

紅渡(キバ)

 

門矢士(ディケイド)

 

キット・テイラー(ドラゴンナイト)

 

フィリップ 左翔太郎(ダブル)

 

火野映司(オーズ)

 

如月弦太朗(フォーゼ)

 

操真晴人(ウィザード)

 

葛葉紘汰(鎧武)

 

泊進ノ介(ドライブ)

 

天空寺タケル(ゴースト)

 

水澤悠(アマゾンオメガ)

 

宝生永夢(エグゼイド)

 

千翼(アマゾンネオ)

 

桐生戦兎(ビルド)

 

飛電或人(ゼロワン)

 

神山飛羽真(セイバー)

 

五十嵐一輝(リバイ)

 

バイス

 

浮世英寿(ギーツ)

 

一ノ瀬宝太郎(ガッチャード)

 

◇◇◇◇

 

「「……………………」」

 

 沈黙。

 

「単刀直入に聞く。オマエは何者なのよ…………オマエは、この世で生まれた者なのかしら」

 

 口を開けたベアトリスは目の前にいる常磐ソウゴを睨み、問う。

 

 声のトーンも心なしか低くなっていた。彼に対する本能的な恐れを抱いてるからだろうか。

 

 同時に、自分でもおかしなことを聞いている、と彼女は自覚している。この問いはつまり、お前は別の世界から来たのか、と聞いてるようなものだ。

 

 だが、彼女がその問いをするまでに至ったのは、常磐ソウゴの中に宿る力、あの摩訶不思議な夢。それが理由だった。

 

 しばらく間が空いて、ソウゴは口を開く。

 

「そうだね、結論から言うと俺はベアトリスの言うこの世の者じゃない。俺は、別の世界から来た。ベアトリスの見た夢は別の世界の光景。多分、俺の力に触れた影響で見えたのかも」

 

「! …………信じがたすぎる、が………判断材料は十分に揃ってるかしら」

 

ということは、彼のオドに干渉した時に一瞬見えたものも、別世界の光景なのだろう、とベアトリスは理解する。

 

「…………まさか、あの男も?」

 

「スバルのこと? 勿論」

 

「…………別の世界を垣間見た上に、別世界のニンゲンがこの世界に…………まさか、そんなことが本当に…………」

 

いざ状況を口にすると、それこそ今の自分は夢を見ているのではないかと、彼女は自身を疑う。スバルとソウゴは文字の読み書きが出来なかったり、世界を滅ぼしかけた嫉妬の魔女を知らないなんてこともあったが、別世界から来たのならそれは理解できる。

 

「…………そもそも何故この世界に? 目的は何かしら。それにどうやって世界の移動を? まさか、噂の通り大瀑布を渡ってきたのかしら?」

 

「大瀑布……この世界の端にある大きな滝だよね。確か大瀑布の彼方から来たって言う人もいるんだっけ。悪いけど違うよ。俺が元の世界で敵と戦ってた時に、気を失って気づいたらこの世界に居たんだ」

 

「原因は分からない、か」

 

「で、さっき言った敵もこの世界に来てて、そいつに奪われたライドウォッチを取り返すのが目的、ってとこかな」

 

「……碌でもないことを企んでないようなのは分かったかしら。害になるようなことをしなければ、別にいいのよ。とりあえず、今はもう用は済んだ。さ、もう出ても良いかしら」

 

「……ライダーの夢を見て、どうだった?」

 

 ベアトリスが本を読み直そうとした時、ソウゴが問いかけた。

 

「……どう、とはどういうことかしら」

 

「夢を見て何か感じたものとかはあったのかなって。何処まで見たのかは知らなけど」

 

「………………どうもなにも、奴らは名前も知らぬ他人の為に、わざわざ身を挺してまで戦おうとする。自分が損をする道を選ぶ意味が分からないのよ。…………とある奴に至っては、孤独の道を選んでたかしら」

 

 友の為、世界の為。だから、自分が1人になる道を選ぶ。1人、戦い続ける道を選ぶ。

 

 そんなニンゲンをベアトリスは見た。

 

 別に、その道を無理矢理に選ばされた訳では無い。他にも道はあった。

 

 しかし、選んだのだ。1つの道を。報われるかも分からない道を。

 

「仮面ライダーは、アホばかりかしら」

 

「アホ、か。…………そうかもしれないね。でも、俺はアホでも良かったと思うよ。1人でも民を幸せに出来るなら。それに、誰かがやらなきゃいけないことだっただろうし」

 

「その『誰か』に何故わざわざ成るのかが疑問なのよ」

 

「譲れないものがあったからだよ」

 

 正義、献身、自由、平和、信念、愛。

 

 千差万別の理由。

 

「ベアトリスにはある? 譲れないもの」

 

「…………ベティーは」

 

 問われて俯いた。本を持っている手に力が入ってることに、本人は気づいていない。無意識なのである。

 

 彼女は今、想いを馳せているのだろう。

 

 この場所にいる意味を、自身に課せられているモノのことを——————。

 

「……………………よく考えたら、そんなことまでオマエに答える必要は無いかしら」

 

 しばらく俯いた後、顔を上げて口を開いた。

 

「…………ふぅん、そっか」

 

 ベアトリスのその答えに、ソウゴは視線を上に向ける。その後、視線を彼女に戻してそう答えた。

 

「……ちょっと長く話しすぎちゃったね。そろそろ行くよ」

 

「勝手にするかしら」

 

ソウゴは扉へと向かい、ノブに手をかける。

 

「後さ」

 

振り向かないで、彼女に向けて言葉を紡ぐ。

 

 もう本を読んでいたベアトリスは、顔を上げた。これ以上何だ、とでも言いたげな顔で。

 

「待っている人が待ち続けても来ないんだったら、自分から行くのも良いと思うよ」

 

 その言葉に————彼女は、目を見開いた。

 

「————何で、オマエが、それを」

 

「ごめんだけど、それは答えられない。でも、未来が変わってほしいんだったら自分の力で変えるんだ。誰かの人生じゃなくて、自分の人生だからさ」

 

「……………………」

 

 その言葉にベアトリスは言い返さず、ただ黙って聞いていた。

 

「……ごめん、説教っぽくなった。それじゃ」

 

 ソウゴは扉を開いて、出ていった。扉を閉じる時、振り返ることは無かった。

 

「……………………」

 

 ベアトリスは座ってた脚立の反対側、後ろの足掛けに乗せていた本を取った。

 

「お母様」

 

 か細い、悲しげな声で口にする。そして縋り付くように、本を胸に抱いた。

 

 ————来ないのであれば、自分から?

 

 ————未来が変わって欲しいなら、自分で変えろ?

 

「…………簡単に、言うんじゃないのよ」

 

 そんなこと、出来るならとうにやってる。出来ないから、こうなっている。安易に希望の言葉を投げかけるな。

 

 自分は夢幻の世界で見た戦士達のように運命を、苦しみを超えることは出来ない。

 

 なら自分は、ニンゲンより意志が弱いというのか。だとしたら、何と滑稽なことか。精霊である自分が、ニンゲンに劣るとは。

 

 心の中で、自分自身を嘲笑する。部屋に今も在り続ける静けさも、己を嘲笑ってるように思う。

 

「……………………」

 

 あの男は、“その人“のことを知っているとでもいうのか。何故、どうやって知ったのかは、この際どうでもいい。

 

 知ってるなら、思わせぶりなことを言わず早く教えて欲しい。この四百年に、約束に、契約に、終わりを迎えさせて欲しい。

 

 結局自分で未来を変えることはできない、選ぶことができない。惨めだ。だからもう、出来ることは待つことしか。

 

「ベティーはあと、どれだけ」

 

◇◇◇◇

 

 食堂では食事が行われていた。誰も喋らないで、黙々と行われていた。

 

 それは厳粛な場だから、とかそう言う理由ではなく、喋りづらいからかもしれない。主に朝の一件が原因で。

 

「…………あー、えっと、レム! このスープ、美味しいなぁ!」

 

 無理に何か言おうと、スバルはレムにスープの出来を誉める言葉を投げかける。

 

「…………ありがとうございます」

 

「……うん」

 

 レムに淡々と返されて、そのまま食事に戻るスバル。

 

「………………」

 

 それを見たエミリアは、昨晩のことを思い返した。

 

◇◇◇◇

 

-昨晩-

 

 食堂でソウゴとエミリアは椅子に座っていた。ソウゴとエミリアは対面の状態である。

 ラムはレムの傍にいて、スバルは自室で眠っている。

 

「………………」

 

「………………」

 

沈黙が場を支配している状況をエミリアはどうすればいいか、と悩む。何から聞くべきか分からないというのもそれを手伝っていた。

 

 とはいえ、黙っていては何も進まない。だから単刀直入に聞く。

 

「ねえ、ソウゴ…………何が、あったの?」

 

「…………レムがスバルのことを襲った」

 

「…………え?」

 

 エミリアの問いに、ソウゴは口を開き告げた。

 

 レムが、スバルを? 一体どういうことなのだろう、悪い冗談ならやめてほしい。エミリアは一瞬そう思うが、ソウゴの深刻げな顔を見て、それが冗談抜きの事実であることを悟る。

 

「何でっ……レムが……スバルを?」

 

「それは本人の口から聞かないと」

 

「……そう、だよね」

 

「……お茶淹れてくるよ」

 

「出来るの?」

 

「少しはね」

 

 ソウゴは立ち上がって扉から出ていく。その後しばらくして、お盆に載せたお茶の入ったカップを持って帰って来た。

 

「はい」

 

「ありがとう」

 

 お茶を受け取り、一言礼を言うエミリア。

 

 ソウゴが淹れてくれたお茶を飲んで、息を吐くエミリア。美味しくて、少し意外に思う。

 

 その時、扉が開く音がした。振り返っていたのはラム。そして、レム。

 

「ラム。それに、レムも……」

 

「エミリア様…………トワキから、事情は聞いていますか?」

 

「…………レムが……スバル達のことを、襲ったんだよね?」

 

「…………はい」

 

 間が少し会った後、ラムは肯定する。

 

「……エミリア様、今回の件、誠に申し訳ありませんでした」

 

 ラムはまず、エミリアに頭を下げる。

 

「……トワキ改めて、お客様。今回は当家の使用人が多大なるご迷惑をお掛けしたことを、誠に深くお詫び申し上げます」

 

 今度はソウゴにも向き直り、頭を下げる。

 

「そして業務の際はレムの側に常にラムが監視として付くことになりました。レムに対する正式な処罰は、ロズワール様がご帰還次第仰ぐつもりです。同じことをバルスにも伝えます」

 

「………そうなんだ、分かったわ」

 

 ラムの話を聞いて、そう言ったエミリアはレムの方を見た。ラムが謝ってる時も眉を下げて不安げな表情だったが、今は口を結び真剣な表情をしている。

 

「ねえ、レム。どうして、スバルを襲ったの?」

 

 単刀直入に問いただす。

 

「……彼から、魔女の臭いがしたからですよ」

 

「……魔女の臭い?」

 

 突然知らない言葉が出て来て、表情を変えずとも内心では少し困惑するエミリア。

 

「魔女の臭いは、魔女教徒共には皆ついてる臭いです。レムは、スバルくん達が魔女教だと判断したから襲撃をかけました」

 

「魔女教…………? それは一体…………」

 

 今度は魔女教というワード。

 

「嫉妬の魔女を信仰する宗教です。世界各地に神出鬼没に出現しては、多くの人間の命を奪う極悪非道な犯罪集団です」

 

 エミリアの疑問に答えのはラムだった。

 

「かつて、ラム達の故郷も奴らに滅ぼされました」

 

 それを聞いて、エミリアは驚愕する。

 

「…………じゃあどうして、スバルからその臭いがするの? それに達ってことは、まさかソウゴからも…………」

 

「魔女に見初められたか、目の敵にされたか、だって。ベアトリスが言ってた」

 

 次に疑問に答えのはソウゴだ。

 

「魔女に? それはどうして……」

 

「それはもう本当に分からない。嫉妬の魔女には会ったこともないからさ」

 

「そっか……」

 

 分からないならば、それは仕方ない。その後、改めてレムと向き直るエミリア。

 

「ねえレム、スバルとソウゴは魔女教じゃないと思うわ。だって、二人は私のことを助けてくれたもの。人の命を奪うなんて思えないわ」

 

「…………それはどうでしょうね? 陣営に溶け込むための演技かもしれませんよ」

 

「そんなわけ無い。そんなことの為に、腸狩りっていう危険な人と戦うとも思えない」

 

「それさえ全部自作自演の可能性もあるでしょう?」

 

「…………分かった。きっと私が何て言っても、今のレムは二人を信じないのでしょう。でも、逆にレムが何と言っても、私は二人を信じる」

 

 目を鋭くしているレムからどれだけ言われようと、エミリアは引かない。真っ直ぐとレムを見つめる。

 

「だから約束して」

 

 そう言われて、怪訝そうな表情をするレム。

 

「もしも貴方が、一緒に過ごして二人を信じることができたら……その時は、襲ったことをちゃんと謝って」

 

 それを言われて考えるように目を瞑るレム。そして、開眼。

 

「……分かりました、約束しましょう。果たされるかは分かりませんが」

 

「————絶対だからね」

 

 お互い、真っ直ぐ見つめ合い瞳に姿を映し合う。

 

「……エミリア様、そろそろ就寝をいたしますが、ラムは定期的に起きてレムやバルスの様子を見ておきます」

 

「……うん、分かったわ。でも無理しないで。私も起きれたら様子を見るわ」

 

「俺もそうするよ」

 

 エミリアの申し出にソウゴも便乗する。その後、ラムとレムは共に出ていった。

 

「エミリア、さっきのカッコよかったよ」

 

「……そんなことないわ。悪いことしたら、ごめんなさいって謝るのは当たり前でしょう? でも、それは心がこもって無いとダメだと思うから」

 

「そう言うところがカッコいいんだよ」

 

「……分かった、気持ちは受け取っておきます。ありがとう、ソウゴ」

 

 それから、自室に戻るのはすぐのことだった。

 

◇◇◇◇

 

「エミリアたん? 大丈夫?」

 

「え?」

 

 スバルに呼ばれて素っ頓狂な声を出すエミリア。

 

「いや、ボーッとしてたから大丈夫かなって」

 

「あ……う、うん! 大丈夫よ、ちょっと考え事してただけ」

 

「なら良いけど」

 

 スバルは食事に戻った。エミリアも同様であった。

 

(…………信じてくれるといいな、二人のこと)

 

 エミリアは思う。それは悪行に対するケジメ、つまり謝って欲しいというのもあるがそれだけでなく、純粋に自分が信じる彼らを信じて欲しいというのもある。

 

 そんな彼女の願いが果たされるのは、そう遠く無いことである。

 




まだ始まってすらいないけどガッチャードを加えておいたことを教える。ちなみにこの回を作成してた当時はまだリバイスまでだったことを教える。モタモタしすぎた…草加のように



やり合わなければイき残れない!孕めオラァ!
3!2!1!タイムアウト!孕めオラァ!
おばあちゃんが言っていた…孕めオラァ!
何かイける気がする!孕めオラァ!
お前達のコンドームって…醜くないか?…孕めオラァ!
中出しは人類の夢だ!孕めオラァ!
乱交しあえ人間ども!射精したものはイかしてやろう!さあ!孕めオラァ!
疾きこと(略 風林火山!孕めオラァ!
この力で叶えてやるよ…!孕めオラァ!

この中の一つだけぬきたしで言われたという事実


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2019:青き鬼、ただその身を捧ぐ。


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響鬼風の表紙。


 ロズワール邸の入り口。そこにはレムとラムとスバルがいた。これから買い出しに行く予定である。

 

「買い物行くの?」

 

 屋敷の入り口に到達したと同時に、声が聞こえてきた。

 

「ソウゴか。そ、買い出し行くんだよ」

 

「俺も付いて行っても良い?」

 

「俺は別にいいけど……二人はどうだ?」

 

 スバルはレムとラムの方を見る。

 

「ラムは別に構わないわ」

 

「……レムも構いませんよ」

 

「じゃ、決まりだね」

 

 そうして三人にもう一人が加わることになった。

 

◇◇◇◇

 

 ロズワール邸の近くにはアーラム村という村がある。人口は200人前後といったところ。

 

 ロズワールは貴族であるためいくつかの土地を領地として保有している。つまり、この村も彼の領地の一部であるのだ。

 

 一部の住民を短いながらも紹介しておこう。

 

 雰囲気がまるで村長のようなのでムラオサと呼ばれる老人。

 

 スバルの尻を触るというセクハラをしては「若返った若返った」と笑う老婆。ちなみにこっちが本当の村長である。

 

 青年団代表の角刈りの青年。

 

 村にいる元気な子供達。リボンのカチューシャを付けた少女のペトラ。鼻水を垂らしてるマフラーの少年リュカ。小太りな少年ミルド。ツインテールの少女メイーナ。兄弟であるダインとカイン。

 

「スバルー」「肩車してー」「遊べー」

 

「ははは、お前ら元気だなあ!」

 

 そんな子供達とスバルは遊んでいた。買い出し中に絡まれ、自然とそんな流れになったのだ。

 

 その間に、レムラム姉妹は買い物をしようと最初の店へ行こうとした。

 

「ねえラム」

 

 行こうとした時、ソウゴがラムを呼ぶ。

 

「ちょっとレムと二人で話したいんだけどさ、良い?」

 

「…………何かあっても自己責任よ。というか、その何かを起こさないためにラムが監視になってる訳だけど」

 

「あー大丈夫大丈夫。何かは起こさないから、その辺は安心して。すぐに終わらせるよ、なるべくだけど」

 

「……………………本当に、自己責任よ」

 

「分かってるって」

 

 ラムの警告に対して軽い調子で応ずるソウゴ。

 

「……レムのことは警戒するに値しない、と思われてると捉えていいんですか?」

 

「ん〜?」

 

 二人は民家を囲う煉瓦に座っていた。

 

「別にそーいうのじゃないよ。そもそも、状況的にレムだって俺のこと襲えないでしょ?」

 

「………………」

 

「今ここでレムが騒ぎを起こせば、村の人を巻き込んだ乱闘になる。そうすれば、村の人は皆レムやロズワールを責める。そうなるのはレム的にも望んでないはずだ。

というか俺たちを襲うこと自体、もう出来ないよね。皆にバレずに俺たちを殺すチャンスなんて、あの夜の一回だけだったでしょ。

本当は俺たち二人をバレないように殺して、山奥か何処かに死体を処理するつもりだった。でも失敗してエミリアやラムにも知られた。だから襲いたくても襲えない。そんな所じゃない?」

 

「……まあ、大体合ってます。ご丁寧なご推察をありがとうございます。…………それで、何を話したいんですか?」

 

「今日の晩御飯の相談! ……は冗談で。まあ、レムに関する話ってとこ」

 

「………………」

 

「実はベアトリスと色々話してさ」

 

◇◇◇◇

 

 記憶の回想。

 

「まず、あの少女は————鬼族という種族なのかしら」

 

「鬼族……」

 

 ソウゴはベアトリスの言葉を反復して呟く。

 

「そして当然、奴の姉も同種族となるかしら。鬼族は頭部に角を持ち、強靭な肉体と比類なき戦闘能力を持つ種族なのよ。が、数は少なく絶滅の危機に瀕していたかしら。姉妹の村も滅んで、生き残りがいるのかも不明なのよ」

 

 鬼族についてすらすらと解説をするベアトリス。

 

「そして、鬼族の角。それはまさしく、鬼族にとっては心臓と同じと言っても過言ではないかしら。鬼族は角からマナを吸収して生命活動を可能とするのよ。つまり、折られた場合は……」

 

「死ぬの?」

 

「そう。マナを補填することができず死亡するのよ。で、姉妹の姉はその角が存在しないかしら。マナも、ロズワールに注入してもらうことによって生活してるのよ。それでも常に身体は不調かしら」

 

 ラムの重要な情報を、清々しいほどに淡々と説明するベアトリス。

 

「そして姉の角は、例の魔女教によって切り落とされた。

 とある日の夜に村に魔女教が襲撃してきたのよ。当時の姉は魔法の才に溢れ、子供ながらに奴らと戦うことはできた。でも切り落とされてしまった。だから、妹は魔女教どもを憎んでいるのよ」

 

 レムの魔女教に対する憎悪の理由を説明するベアトリス。

 

「妹は魔女の臭いを嗅ぐことができる。魔女の臭いとは、魔女から魔女に見初められたか目の敵にされたか、何かしら特別な扱いを受けて着く臭いなのよ。魔女教には全員着いてる臭いかしら。その臭いがお前と目つきの悪いアイツから臭うかしら」

 

「へえ、俺とスバルから」

 

「オマエ達が変な行動でもすれば、妹は早合点して殺しにかかるのよ。何もしなくても、早合点する可能性はあるけれど」

 

「何もしなくても襲うかもなんてやばいね」

 

「それほど魔女教を憎んでいるということかしら。自分のせいで角を失った姉を、今度こそ守る為に」

 

「……自分のせいって? 魔女教が切ったんじゃ?」

 

「正確には、魔女教との戦いの中で妹を庇いその隙を狙われたからなのよ。それに妹は罪悪感を感じているのかしら。……己の人生を捧げるほどに」

 

「………………」

 

「……今の妹は姉のためだけに生き続けている。そこに自分の人生の欠片もない……見苦しいったらありゃしないのよ」

 

 最後の一言は吐き捨てるようであったが、レムのことを憐んでいるような表情をしているようにも思えた。

 

 

「…………ベアトリス様から聞いたんですね」

 

「ごめんね、詮索するような真似しちゃって」

 

「気にはしません。謝る必要はありませんよ」

 

「ふぅん、ありがと」

 

 ソウゴは青が澄んでいる空を見上げて、レムは地面を見ている。

 

 しばらく喋らない間があった。

 

「レムはさ、今の生き方で楽しいの?」

 

その沈黙を破るソウゴの問いかけ。

 

「……レムには、楽しく生きる資格なんて無いですよ」

 

「自分のせいでラムが角を失ったから?」

 

 その言葉と同時に、小さく風が吹く。その風はレムの髪を揺らした。

 

「それはレムのせいじゃない。悪いのは魔女教だろ」

 

「……分かってます。分かってますよ、それくらい。それでもレムに、楽しく生きる資格も、自分の人生を歩む資格もないんです」

 

「何で、そこまで自分を責めるの?」

 

「あの時の、あの時の自分が、許せないから」

 

 レムの脳裏に、炎の世界が過ぎる。

 

 炎の中で、小さな白が軌跡を残して飛んでいた。

 

 その白を見ているときに、自分は何を考えていたか。

 

 不幸を、嘲笑っていた。

 

「だから、レムは償わなければならないんです。この身を捧げてでも。姉様の代替品として、姉様が出来たことも全部出来なきゃいけないんです。

 姉様が角を取り戻すために、この命が代償として必要なら……喜んで差し出せます。代替品なら、本物のために尽くさなければいけないんです」

 

 考えたくも無い、が。

 

 もしも、もしも姉が死んだとして、自殺をしようとしたとして。

 

 自分も、後を追いかけるのだろう。同じように、死にゆくのだろう。

 

 そんな想いがレムにあった。

 

「……レムにとって今の生き方で思う通りに生きれてるなら、俺は何も口出ししない…………って言いたいとこだけど、ちょっと破滅的じゃない? それ」

 

 ずっと空を見ていたソウゴはそこでようやくレムの方に視線を向けた。

 

「破滅的でも構いません。それで、償いになるのなら」

 

「……そう。今は何を言ってもダメそうってのは分かった。じゃあこの話は終わり、付き合わせてごめんね」

 

 ソウゴは煉瓦から立ち上がり、スバルや子供達の元へ行く。どうやら盛り上がってラジオ体操を始めているらしい。周りの大人達も興味を持って参加していた。

 

 レムも煉瓦から立ち上がりラムの元へ歩き始める。そんなレムをソウゴは振り返って見た。

 

 

 回想、続き。

 

「ラムはその事を気付いてるの?」

 

「気付いてるかしら。少なくともお前達がやってくる前からは」

 

「なんとか……なってるなら今もレムがそんな状態なわけないか」

 

「…………姉も今の妹には色々思うところはあるかしら。それでも、どうにかすることは未だ出来ずにいるから今もなお耐え続けているのよ」

 

「………………」

 

 ベアトリスの話を聞いて、ソウゴは黙りこくる。

 

「…………そっか。ありがとう、話してくれて」

 

 しばらくして、ソウゴは表情一つ変えずに礼を言った。

 

「というか、毎回俺の質問に答えてくれるよね」

 

「何処かの誰かに比べて聞き分けが良いから答えてやってるのよ。変な勘違いはするなかしら」

 

「ふぅん……そうなの。それじゃ、この辺りで。じゃあね」

 

 ソウゴは禁書庫の扉から外へ出た。

 

「……………………」

 

 一人残されたベアトリスは、ソウゴの身に宿る力に密かに興味を抱いていた。後日、炎に焼かれるほどの地獄を味わうことになるのだが。

 

 

「…………お互いに想い合ってても、すれ違うことはあるよね。そりゃ」

 

 その言葉は誰にも聞こえず、喧騒に揉まれて消えた。




今回は原作でも書いてあったレムの「罪滅ぼし」「代替品」のところにフューチャーした話のつもり。レムのセリフはワシの解釈も含んでるから解釈違い起こしたらごめんな(予防線)


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2019:襲来する物の怪

「ヴィクトリー!」

 

 スバルが両手を掲げると、住民達も彼の言葉を同じように叫んだ。

 

 ラジオ体操をやり切って、住民やスバル達は互いにハイタッチをする。

 

「で、余興は終わったの?」

 

「余興なんて大したもんじゃねーよ。子供達と体操してたら大人達も悪ノリしただけだ」

 

 冷めた目で出迎えるラムにスバルはそう言った。あははは、と笑うスバルはふと袖を引っ張られたことに気づく。

 

 見ると、青髪でおさげの髪型をしている少女がいた。

 

「どした? 言いたいことあるなら聞くぜ?」

 

 しゃがんで目線を合わせてやるスバル。少女は別の場所を指差した。

 

「……もう少しだけなら待っても良いわ」

 

「お気遣い感謝するぜ、姉様」

 

 許可が降りたので、少女に手を引かれついて行くスバル。

 

 ついて行ったのは村の奥で、その場には他の子供達もいた。

 

青髪の少女が子犬を抱いて戻ってきた。

 

「おお、可愛い犬っころじゃねーか」

 

 フワフワとしてそうな褐色の体毛を持つ犬に歓喜の表情を浮かべるスバル。

 

 見た感じ赤子のようにも見える子犬に彼も愛らしさを感じ、撫でようと手を伸ばしかけるが、

 

「ウウウ……」

 

「いやおいおい……何か不機嫌になったぞ……?」

 

 何故か毛を立てて威嚇し始める。スバルも思わず困惑する。

 

 子供達もいつも大人しいのにー、スバル何やったのーと言っている。

 

「悪いなあ、怖がらせたか?」

 

 愛想笑いを浮かべるスバルに、子犬がふいに頭を下げた。「お」と声を漏らし、頭を撫でようとする。

 

「おー、予想通りのフワフワだ。触ってて気持ちいいぜ。……ん? どうしたんだここ? 怪我でもしたのか?」

 

 犬の頭頂部の丸くハゲてる部分があり、そこを触るとガブッと手を噛んだ。

 

「あげー!」

 

 痛みに思わず手を引き抜くスバル。傷がついてる部分をさする。

 

「いったー……触っちゃダメなやつだったか。地雷踏んだわ」

 

「ははははは!」「触りすぎるから!」「噛まれてやんのー」

 

「うるせーガキンチョ共! いたた……」

 

 子供達の、特に男児は爆笑。スバルはそんな子供達に怒りながら傷を押さえる。

 

「ちょっと大丈夫ー?」

 

 と、側で見ていたソウゴがスバルに駆け寄ってきて、傷を見ようとする。

 

「あれ? この子、怖がってる」

 

 見ると、青髪の子が抱えてる犬がソウゴに怯えたような目線を向けていた。

 

 どうしたのー、と子供達も心配している。やがて、ソウゴが子犬に視線を向けた時————子犬は一層怯えて、少女の腕から抜けて逃げ出した。

 

 子供達は不思議そうにしており、青髪の少女も戸惑った様子。

 

「あの犬、どうしたんだ? 急に逃げ出しやがった」

 

「………………」

 

 スバルが傷を押さえながら不審そうにしている中、ソウゴは犬が去った先を見つめいてた。

 

 

 屋敷に帰宅して夕方になった後、買い出した物で晩御飯の支度をした。そしてそのまま食事をした。

 

「よっ。俺は元気してるけどそっちは元気か?」

 

「オマエを見たせいで上がりかけていた元気が下がったかしら」

 

 気軽そうに手を挙げて尋ねてくるスバルに眉を顰めてそう返したベアトリス。

 

「ひっでェ〜」

 

「で、何しにきたのよ?」

 

「暇つぶし」

 

「帰れかしら」

 

 何故かドヤ顔で言ったスバル。そんな彼にベアトリスは辛辣な反応。

 

「釣れねーこと言うなよォ。俺とお前の深ーい仲じゃねーか」

 

 そう言いながら彼女の下へ歩み寄るスバル。

 

「そういう気色の悪い発言はオマエにある呪いのせいと解釈していいのかしら?」

 

「…………は? 呪い?」

 

 ベアトリスの発言を聞いて、思わず口を開けてポカンとした表情をスバルはした。

 

「そ、それってどういうことだ?」

 

「どうもなにも、オマエは呪詛師によって呪いを植え付けられているのよ」

 

「…………それってほっといたらどうなる?」

 

「病魔に侵されるか、一定の行動を禁じられるか、純粋に命を奪うか。まあ、人の役に立つ呪いはないかしら」

 

「すううううっ…………それ、どうにかすることはできないっすかねー?」

 

「できないのよ」

 

「——————」

 

 俺、死んだわ。

 

 脳内でそう呟いて、頭が真っ白になるスバル。だが、ベアトリスの次の一言で現実に引き戻された。

 

「ただし、それは発動した呪いに限るかしら」

 

「え?」

 

「発動前は呪いはただの術式。技術があれば解けるのよ」

 

「…………それってもしかして、ベアトリス……ベアトリス大先生様は解呪をすることができるのですか?」

 

「命が関わったら急に態度を改めやがったのよ。まあ、解呪はできるかしら」

 

「じゃあお願いしますしてください! 何でもしますから!」

 

「オマエになんでもできるなんて期待はしてないけれど……さっきの間抜け面に免じて解呪してやるのよ」

 

(こいつ謀りやがった……)

 

どうにかすることができない、と言われた瞬間、自身は酷い顔をしていたのだろうとスバルは思った。それを見てベアトリスは愉悦を覚えていたのだろう。

 

 そうこうしているうちに、ベアトリスの光の宿った手がスバルの身体に触れる。

 

「…………おいおい、これは…………」

 

 呪いが植え付けられたのだろう部分から黒い靄が発生していた。その位置を見て、スバルは目を見開いた。

 

 その靄をベアトリスは掴み取り、握り潰した。

 

「まったく、忌まわしいったらありゃしないのよ」

 

「…………なあ、黒い靄が出てた場所が呪いが植え付けられた場所か?」

 

「そうなのよ。呪詛師は対象に触れることによって呪いを植え付けるかしら」

 

「…………呪いってさ、動物でも出来たりする?」

 

「出来るとしたらそれは魔獣かしら。魔女が生み出した生物とされるから、出来てもおかしい話ではないのよ」

 

「…………ワリィ、急用が出来たっ!」

 

 スバルは急いで部屋から抜け出した。部屋から抜け出した後、目の前には窓があった。

 

 そこからは外の景色が見えた。

 

 どんな景色かというと、アーラム村があるだろう所に赤い炎が発生していた。

 

「マジかよっ!」

 

 スバルは一目散に走り出す。

 

「スバル!」

 

 走ってる途中、声をかけられた。その主はソウゴで、隣にはフード付きのローブを纏うエミリアもいた。

 

「ソウゴ! エミリア!」

 

「村で火事が起こってる。スバルも気付いてるよね?」

 

「ああ。こんなことになるなんて……!」

 

「早く行きましょう! 村の人たちを助けないと!」

 

 こうして3人になり再び走り出す。しばらく走ったあと、玄関についた。そこではたまたある人物たちと合流した。

 

「レム! ラム! ここにいるってことは……」

 

「村で火事が起こってるから行こうとしているわ。……バルス達はともかく、エミリア様はここにいるべきです」

 

「そんな! どうして!?」

 

「万が一、これが何者かによる放火だとしたら、貴方の身に危険が及ぶ可能性があります。ですので、屋敷に……」

 

「今は村が大変なのよ? ロズワールも居ないから、皆で協力すべきだって思うわ」

 

「ロズワール様が不在だからこそです。いざという時にお守りできない可能性も……」

 

「だとしても、私は行くわ! こんな大変な時に、村の人を助けないでいるなんてできないもの!」 

 

「エミリア様……」

 

「まあ、もしもの時は僕がいるから安心してもいいよ?」

 

 パックが虚空から出現してエミリアへの援護発言をした。

 

「……分かりました。お願いします、大精霊様。そしてエミリア様、決して無理をなさらぬよう」

 

「分かったわ。無理はしない」

 

「ラムは屋敷の守りをします。レムは……村に一緒に行ってちょうだい」

 

「……わかりました、姉様」

 

「エミリア様……レムのことも頼みます」

 

「ええ、勿論」

 

 そのように話は纏まる。

 

「よし、行こう!」

 

 ソウゴの一言でラムを除く一行は屋敷から出動した。

 

 

 村では悲鳴が響き渡っていた。民家は火で燃えて、その中で人々は何かから逃げようとしていた。

 

やがて、村にソウゴ達が現着。

 

「あいつらは……何だ!?」

 

 スバルの視線の先には、二つの異形が存在していた。

 

 ボロボロのロングコートを纏い、頭が荒削りの赤い石で出来た指輪の異形と、仁王像を思わせる羽衣を纏った二本の金棒を持つ紫色の鬼の異形。

 

「アナザーウィザードとアナザー響鬼……!」

 

「知ってるの?」

 

「あれはアナザーライダー。俺が前に戦った敵なんだ。でも細かい説明は後。俺が消化するから、エミリアやレムはちょっとの間アナザーライダーの相手して! スバルは村の人の避難を!」

 

『ジオウ!』『ウィザード!』

 

「変身!」

 

『ジ・オーウッ!』『ウィ・ザード!』

 

 ソウゴはジオウ・ウィザードアーマーに変身して水の魔法を使って消化活動を始める。

 

「わかった! 行きましょう、レム!」

 

「はい!」

 

 エミリアがアナザーウィザードへ、レムがアナザー響鬼の相手をしようとする。

 

「後レム! これ!」

 

 ジオウがレムに向けて何かを投げ渡した。彼女がそれを受け止めて見ると愛用のモーニングスターが。

 

「探してきといた!」

 

「……ありがとうございます!」

 

 何故わざわざ自身のために武器を探してくれたのか————そんな疑問が浮かび上がるが、今はそんなことを考えている暇はないと切り捨てて戦いにレムは臨む。

 

 スバルは村人の避難誘導を行う。スバルは一人の青年を避難させようとした。

 

「アンタ! 早く逃げるんだ!」

 

「で、ですが! 子供達が!」

 

「子供達!? 子供達がどうしたんだ!?」

 

「いないんです! 暗くなる前まではいたんですが、突如いなくなって……! その後にあの怪物が!」

 

「なっ、嘘だろ…………!? まさか、魔獣が!?」

 

 スバルは森の方を向く。その先に攫われたであろう子供達がいるかと踏んで。

 

「とにかくアンタは逃げろ! 俺たちでどうにかする!」

 

 そう言って青年を逃すスバル。まずはこの混乱を治めるのが最優先だと彼は判断した。

 

 甲高く金属がぶつかる音がした。

 

 アナザー響鬼の持つ金棒……アナザー音撃棒とモーニングスターがぶつかる音だ。

 

 モーニングスターの鉄球を真正面から金棒を突き出して受け止め、そのまま弾き返したのである。

 

 一瞬はよろめくが体勢を立て直し、再び鉄球を振るう。その鉄球を今度は蹴りで弾き返した。そしてその威力は、先程の金棒の威力の比ではない。

 

 とてつもない勢いで帰ってきた鉄球。どうにかそれを受け止めるレムだが、その衝撃に後ずさった。

 

(なんて威力……!)

 

レムは鎖越しにでもアナザー響鬼の力を感じ取っていた。

 

 アナザー響鬼のオリジナルたる仮面ライダー響鬼。音撃棒による攻撃や火を使った攻撃が得意だが、最も特筆すべき点はそのフィジカル。

 

 響鬼は基本フォームの時点で40tのキック力を誇り、その特性はアナザー響鬼にも受け継がれていた。だが今の彼がそのパワーと同等なのか、それとも上回っているのかは、定かではない。

 

 アナザー響鬼が棒を構える。先端に火が宿り、それがレムに飛ばされた。

 

「ヒューマ!」

 

 レムが手を突き出し叫ぶと、薄く形成された氷のシールドが張られる。炎弾がぶつかると共に砕けた。

 

 エミリアとアナザーウィザードは魔法の撃ち合い状態だった。

 

 エミリアの氷とアナザーウィザードの炎弾。お互い当たってはその場で相殺されの繰り返しだった。

 

 流石にこのままではまずいというのはエミリアも理解していた。エミリアは精霊使いのため大気中のマナを使うが、それも無限ではないのでいつかは尽きてしまう。それだけは避けたいところだった。

 

 もし、ここでエミリアが避けようものなら炎弾は彼女を追いかけるだろう。そこでエミリアはある行動に出た。

 

「!」

 

 なんと、アナザーウィザードの真上に飛び上がったのだ。そして間髪入れずエミリアは氷を放ち、アナザーウィザードはそれを食らった。

 

 エミリアが地上に降りると、アナザーウィザードは氷の中に閉じ込められていた。ふぅ、と彼女が息を吐いた時、氷にヒビが入った。

 

「!?」

 

 エミリアが身構えた時、氷は砕け散った。中からは炎を纏ったアナザーウィザードが。あらかじめ炎の鎧を作っておくことで対策していたのだ。人間の身体であれば自殺行為だが、アナザーライダーの身体だからこそ出来た芸当である。

 

 驚いていたエミリアは直様アナザーウィザードの元へ駆け出しハイキック。魔法の撃ち合いに持ち込まれる前に格闘戦にしようと彼女は考えた。

 

 しかしアナザーウィザードは身体に風を纏い、飛んでキックを避けた。滞空して際に、氷柱を撃ってきた。

 

「!」

 

 エミリアは氷のシールドを顕現させて防ぐ。アナザーウィザードが地面へ着地した時、素早く駆け出してスライディングをした。当然それは避けられるが、エミリアは地面に手をついて氷の木を生成し跳んだアナザーウィザードを追いかける。

 

 アナザーウィザードは氷の木を火を使って溶かすが、その隙にもう片方の手で氷柱を出して攻撃をするエミリア。

 

 だがその氷をアナザーウィザードは自身の身体を水にすることで避けた。

 

「!?」

 

 それにエミリアは驚愕した。それに彼女はさっきからアナザーウィザードの戦い方に違和感のような、既視感を感じていた。そもそも、ウィザードという名前も聞いた事がある。

 

 そう、つい最近、というかついさっき身近で見たような————。

 

「はあああっ!」

 

「!」

 

 水から元の身体に戻ったアナザーウィザードへ横から火事の消化を終えたジオウが炎のキックを放った。

 

 避けられるが連続でキックを行うジオウ。魔法陣から水の鎖を出現させ拘束しようとするがアナザーウィザードは土の壁を作り防ごうとする。

 

「あっ……」

 

『ウィ・ザード!』

 

 そこでエミリアは気づいた。アナザーウィザードとジオウの変身音で一部分だけ名前が共通してることと、どちらも魔法を使っていることを。

 

 何故そんな共通点が両者にあるのかは分からないが、ジオウが加勢として来てくれたのは有り難かった。

 

 水の鎖が土の壁を貫通しアナザーウィザードを拘束した。

 

『ウィザード! ギリギリスラッシュ!』

 

『エグゼイド! ギリギリスラッシュ!』

 

 2本のジカンギレードで二刀流にし、ウォッチを装填して必殺技を発動。

 

 マゼンタと氷の斬撃が飛び、アナザーウィザードに命中した。

 

 それによって吹き飛んだアナザーウィザードはアナザー響鬼の下に転がる。立ち上がってレムと交戦中だったアナザー響鬼に目配せをした後、両者は村の奥の森へ駆け込んだ。

 

「待て!」

 

「ソウゴ!」

 

 追いかけようとしたジオウの下にスバルがやって来る。

 

「村の子ども達が行方不明なんだ!」

 

「え……!?」

 

「そんな……!」

 

 スバルの言葉に驚愕するジオウとエミリア。

 

「もしかしたら、あの怪物どもが森の中に連れ去ったのかもしれねぇ! 助けにいかねぇと! それにもしかしたら、呪いも植え付けられてるかも」

 

「呪い? スバル、どういうこと?」

 

 エミリアがスバルの言葉に疑問を持ち問う。

 

「実は、昼間子供が連れてきた犬に噛まれてな。その噛んだ犬が、呪いを植え付ける魔獣だったんだ! 森の奥に犬がいたとしたら……!」

 

「魔獣? そんな……」

 

 レムが森の方へ向かってある箇所を見た。しかしその後に目を見開く。

 

「結界が切れてる……!」

 

「結界? それが切れるとどうなるんだ?」

 

 スバルがレムに尋ねる。そして彼女が見てた箇所を見ると、光を失った宝石が木に取り付けられていた。

 

「魔獣が、村の中に入ってきます」

 

「じゃあ確定だな……! こん中で呪いを解けるのは?」

 

「もしかしたらパックが出来るかもしれないけど……パック、どう?」

 

「できるよ〜」

 

 エミリアから呼ばれたパックが出てきてそう言った。

 

「だったら大助かりだな」

 

「じゃあ行くしかないね、森に!」

 

 ジオウの一言で今度は森へ行くことになった。

 

 

 一行は森の中で子供達やアナザーライダーを捜索する。

 

「生き物の匂いがします……!」

 

「怪物? 子供達?」

 

「分かりませんが、獣の匂いはしません」

 

 そのまま一同はレムがした匂いのほうへ進む。その後、森を抜けて小さな丘へ出た。そこには、

 

「子供達だ!」

 

 スバルが駆け出して子供達の安否を確かめる。

 

「よかった、生きてるぞ!」

 

「いえ、ですが衰弱が酷いです。スバルくんの言う通り呪いがかけられてるのかも……」

 

 スバルが明るい顔をするが、すぐにレムが現実的な一言を告げる。

 

「パック、どう?」

 

「んー、どれどれ……難しくはないけど、数は多いね。時間がかかるかも」

 

「とにかく助けてくれ!」

 

「はいはい、お任せあれ〜」

 

 パックが治療を始める。

 

「すばる……?」

 

 治療を進めているうちに、ペトラが目を見開いた。

 

「ペトラ! 良かった……! 無理すんな、今呪いを……」

 

「一人……後一人の子が……」

 

「え?」

 

 スバルが周囲を見るが、昼間の青髪の子供がいなかった。

 

「青髪の子がいない……! 違うとこにいるのか……!? 探さないと!」

 

「待ってください、スバルくん。ここにいなくて連れて行かれたのなら、もう……」

 

「分かってるよ、でも……ダメだったとしてもちゃんと遺体は持ち帰りたい。それに、俺はペトラの意思を汲みたいんだ」

 

「俺も、最後の子も探すべきだと思うな」

 

 スバルの考えに便乗するように言ったジオウ。

 

「ですが……それにどうしてそこまで。スバルくんとソウゴくんには関係が……」

 

「関係はあるよ。俺はペトラ達と遊んで、やりたいことも聞いたし、ラジオ体操またやろうって約束した。だから、俺はペトラの意思を汲んでやりたい」

 

「スバルくん……」

 

「俺は王様だからさ。民の願いを聞き入れるのは王様の務めでしょ?」

 

「王様……?」

 

「あー、気にしなくて良いから」

 

 ソウゴの言葉を聞いて怪訝そうにしたレムにそう言ったスバル。

 

「レム、行かせてあげて」

 

 レムにエミリアが声を掛ける。

 

「エミリア様」

 

「私も最後まで探さなきゃいけないと思う。ここは私とパックに任せて。もう一人の子とあの怪物を」

 

「……わかりました」

 

 その場をエミリア達に任せ、スバル達は青髪の子供とアナザーライダーの捜索をすることになった。



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2019:群狼

前回のお話に加筆をしてるから皆見てくれよな!


 ナツキ・スバルとレムと常磐ソウゴ————仮面ライダージオウが森の中で青髪の子供を捜索して数分。

 

 少々開けた空間で例の少女が見つかった。

 

「いた!」

 

小声で言ったスバル。見え見えの罠……ではあるものの、こちらには二人のアタッカーがついている。

 

 三人は頷き合い、少女の元へ歩き始めた。

 

「「「!」」」

 

 しかしその時、黒い狼達が森の茂みからゾロゾロと現れた。その上、例の少女の身体が霧散した。

 

 茂みからは更にアナザーウィザードとアナザー響鬼が現れる。

 

「罠か……!」

 

 顔を歪め呟くスバル。

 

「レム、行くよ!」

 

「はい!」

 

 駆け出す狼達。それをジカンギレードとモーニングスターで迎撃。

 

 向かってくる狼は身体を切り裂かれ血を噴き、鉄球に頭を砕かれていった。

 

 その様子を腕を組み悠然と眺めるアナザーウィザード。その後、アナザー響鬼を顎でしゃくり、共に駆け出した。

 

「!」

 

 ジオウはアナザーウィザードの接近に気づく。炎を纏ったパンチが繰り出されたので、水を纏いそれを受け流す。

 

 足払いも飛んで避け、氷を纏いキック。それをギリギリで受け止めるアナザーウィザード。

 

 レムにはアナザー響鬼が接近し、一度後ろに引いて距離を取りながらモーニングスターを振るう。鉄球は金棒で弾かれ、もう一度振るってもやはり弾かれる。振るい、弾かれを繰り返すうちに近づかれた。

 

 そこでレムは敢えてモーニングスターを手放し、徒手空拳で戦うことにする。振るわれる金棒は力は強いが、振り方自体は単純なので容易に避けられた。その間にアナザー響鬼の身体に攻撃を入れる。

 

「スバル、一旦逃げろ!」

 

「お、おう!」

 

 ジオウに言われて今までの道を引き返そうとするスバル。

 

 しかし回し蹴りを受けて後ろへ引くアナザー響鬼が彼は背後に待機させていた犬の魔獣……ウルガルム達に目配せするとスバルに襲い掛からせた。

 

「ッ!?」

 

 急に集中的に狙われ始めたことにより焦るスバル。

 

「スバルくん!」

 

 スバルを見て叫ぶが、レムのその隙を狙い駆け出すアナザー響鬼。しまった、そう考えた時には既に腹に拳が入っていた。レムの視界に夜空が入り込む。

 

「レム! がはっ!?」

 

 太ももにウルガルムが歯を突き立てた。痛みにより体勢を崩し、それに便乗するように2、3、4、5体目も噛み付き、更に交代で噛み付いていった。

 

「ううっ……ぐふっ……ッ、スバルくん!」

 

 ダメージから立ち直り、スバルに噛み付いているウルガルムを剥がそうとレムは動くが、その前にアナザー響鬼が炎を放った。

 

「ぐうっ!?」

 

 背中を炎弾が襲い再び倒れ込む。

 

「スバル! レム!」

 

 ジオウが叫ぶ。その時、アナザーウィザードが不意を突いてジオウを突き飛ばした。

 

「くっ……うっ」

 

 炎の弾を受けても、気力があったのかまたも立ちあがろうとするレム。だが遅かった。

 

『スリープ』

 

 その声が聞こえた時、レムの身体を白い光が包む。レムは目を閉じ、そのまま倒れた。

 

「っ、しまった!」

 

 完全に不味い状況になった。

 

「しょうがない……!」

 

ジオウは風を纏い高速移動してレムを抱え、噛んでいるウルガルムを切り裂き気絶してるスバルも抱えその場から去った。

 

 それを追いかけようとするアナザー響鬼をアナザーウィザードが制止する。彼らはその場に留まったのであった。

 

 

 沈んでいたナツキ・スバルの意識が浮上し、閉じていた瞼を開く。

 

「ここは……あいって……」

 

 身を起こそうとした時、身体の節々が痛んだ。手を見てみると、傷跡があった。

 

「そうだ、あいつらに噛まれて……治療されたのか」

 

 ウルガルム達に噛まれたことを思い出すスバル。

 

「そうだ……ソウゴやレムは……」

 

 二人のことを思い出して周りを見ると、傍には眠り込んでるエミリアが。

 

「看病してくれてたのか……」

 

「や、おはようスバル。調子はどうかな?」

 

 パックが現れ、スバルに尋ねた。

 

「パックか。まあ、傷口が引き攣る感じはするが今は何ともないぜ。……そういえば、村の子供達は? 呪いの解呪はできたのか?」

 

「それは安心。呪いの解呪なら僕とベティーでやった。問題はないよ」

 

「良かった……」

 

あの場にいた子供は全員無事だとわかって安心するスバル。それだけに、青髪の子が気がかりだった。もうダメなのか、それとも生きているのか。

 

「エミリアは、一晩中ここに?」

 

「大人しく待つように言ったんだけど聞いてくれなくてね。スバルの治療でオドまで削ってるから、寝かせてあげてくれる?」

 

「オド? 何それ?」

 

聞き覚えのない単語に首をひねるスバルに、パックはヒゲを弾いた。

 

「大気中に満ちる魔力がマナ。オドは逆に生き物が本来、体の中で蓄えてる魔力だね。個人差はあるけど総量は決まってるし、文字通り身を削ることになるから、できるだけリアには使うのを控えるように言ってるんだけど……」

 

口ごもるパックの態度に、スバルはエミリアがどう行動したか容易に想像させられる。

 

もともと、夜半にパックを呼び出すのは契約外なのだ。ただ、解呪のためにはパックとベアトリスの手を借りることが必須で、エミリアならばそれを躊躇わないだろう。

 

「そういえばソウゴとレムは? あれから二人はどうしてるんだ?」

 

 ソウゴとレムは村に現れたあの怪物……アナザーライダーと呼んでいた者達を無事に倒してくれたのだろうか。

 

「ソウゴは無事に帰ってきてるけれど、あの子は……」

 

「何だ? レムがどうかしたのか?」

 

「……直接見に行った方がいいと思うよ、治りたての身体の状態を確かめるついでにさ。今、あの子はこの村にいるから」

 

「……?」

 

 パックの言い方に違和感を覚えながらも、許可を貰ったので外に出ることにしたスバル。

 

途中、エミリアの隣を抜ける前に、銀髪の少女に対して丁寧に頭を下げる。下げながらエミリアの寝顔が見えて、悪戯したい気持ちを堪えるのに必死になってから、外に出た。

 

「ああ、まあ、当たり前っちゃ当たり前か」

 

部屋を出て、正面にあった玄関から建物の外に顔を出したところで、騒然となっている村の様子にスバルはそうこぼした。

 

時刻はまだ朝日が昇り始めて間もないといったところだが、村の中央にある広場にはすでに多くの人影が集まっている。

 

小さい村落だ。騒ぎがあれば、すぐに村中に内容は広がる。年寄りや女性、子どもたちが不安そうな顔でいるのを、屈強な青年を中心とした一団が励ましながら囲っている。

 

 周囲の家を見る。家は昨日燃やされていたとは思えないほどに修理が成されていた。

 

「すんげぇ完璧に修理されてっけど……業者でも来てたのか? だとしても1日でこれは……」

 

「俺が直したんだよ」

 

 声をかけられて振り返るとそこにはソウゴが。

 

「スバル、身体の調子は?」

 

「おお、今んとこいい感じだぞ。で、直したってどういうこったよ?」

 

「ライダーの力で直したの。おかげでこの通り、皆いつも通りの生活は送れてるよ」

 

「ほぇー……ライダーの力ってすげー」

 

 小学生並みの感想、なんて言葉がスバルの頭で浮かんだ。自分で言っといてだが。

 

「そういえば、レムは? それと……アナザーライダーだっけ? そいつらは?」

 

「……レムのことだけどさ……」

 

 

 スバルは村のとある小屋に案内された。

 

 ————そこでは、椅子に座る桃髪の少女の側で、青髪の少女がベッドで眠っていた。

 

「レム、か? ああ、良かった。レムも無事だったんだな!」

 

「無事じゃないわ」

 

「え?」

 

 レムが安眠している様を見て安堵するスバルだったが、それを直様否定する声が。

 

「レムは、無事じゃないからこうして眠っているのよ」

 

「ど、どういうことだ?」

 

 ラムからの言葉に戸惑うスバル。それをソウゴが補足した。

 

「……レムはアナザーライダーの攻撃で眠った。倒さないと、効力が切れず目覚めないんだ」

 

「……あいつら、まだ倒せてなかったのか」

 

「……状況がちょっとやばかったから、撤退したんだ」

 

 昨日の直前までの出来事を思い出す。自身は確か、犬の魔物達に身体中を噛みつかれた。それからは気絶してたので記憶がないが……その途中でレムも攻撃を受けていたのだろう。

 

 自身とレムの緊急事態。撤退するのは当然の考えだ。

 

「……じゃあ、今アナザーライダーはどこ居るんだよ?」

 

「あれから見張ってるけど、何故か森の中に居座り続けてる。多分、俺がまた来るって思ってるんだろうね」

 

「……自分から行かずに、待ってソウゴを倒す気でいやがるのか。随分な舐めプだな……」

 

 顔を歪めるスバル。レムがダウンさせられたことで完全に侮られている。そのこととレムが眠らされたことも相まって、怒りが沸いてきた。

 

「こんなところにいたかしら」

 

 後ろから声がして振り返った。そこには扉を開けているベアトリスが。

 

「ベアトリスか。どうした?」

 

「お前に言いたいことがあって来たのよ。…………あと半日もしないうちに、お前は死ぬかしら」

 

 淡々と、そう告げられた。

 

「…………冗談なのか、先に聞いて良いか?」

 

「………………」

 

 沈黙。それでもう察せる。

 

「……まだ解呪できてなかったってことか」

 

「……呪いが複数にも渡って植え付けられたせいで、絡まってほどけない糸のようになっているのよ。ベティーでも流石に解呪はできないかしら」

 

「マジかよ……つーか、どうして半日って分かる?」

 

「半日もすれば、魔獣がマナを求めて術式を発動するのよ。魔獣の呪いは対象のマナを奪うというものかしら。目的は肉体維持のためにマナが必要だからなのよ」

 

「腹が減ったから飯を食うって理論か……野生動物らしくて分かりやすいな。……でもそれ、本当に解ける方法はねぇのか?」

 

「……解ける方法は、本当にないかしら。でも、魔獣の呪いは食事。もしも噛んだやつらが死ねば、食事は中断され呪いは発動しなくなるかしら」

 

「なるほど、それで実質解けたも同然ってわけか……」

 

 状態異常をかけられた時は、かけてきた奴を倒せばその効能が失われる。現代にいた時、ゲームや漫画でそんな展開はよく見た。

 

 今回はその状態異常自体が治るわけではないが、発動する奴を倒せば治せたも同意義。

 

 では、自身に噛んできた魔獣の総数は?

 

「…………多すぎてわかんねぇ」

 

 最低5体は噛んできたのは覚えている。だが交代していたのもうっすらとだが覚えてるので、正確な数は不明だった。

 

「クソが、難易度ルナティックかよ」

 

 魔獣掃討、レム救出。この二つをクリアしなければならない。だが、なにぶん前者の難易度が高めだ。後者はまだ倒す敵がはっきり分かるが、魔獣は複数いる上にどれがどれかも分からない。

 

「にーちゃは……」

 

「……わかってる。エミリアに知らせてないんだろ。あの子のことだ。きっと無茶する」

 

 自分のために、エミリアに面倒をかけたくはない。せめて解決するとしたら自分の手でやりたいくらいだ。

 

 だが、どうすれば。そう思った瞬間、椅子がガタッと動く音がした。

 

 スバルとベアトリスの横をラムが通り抜けようとする。

 

「ラム! ……どこに行くつもり?」

 

 ソウゴがラムを引き止める。

 

「……言わなくても分かるでしょう」

 

「……ラムじゃアナザーライダーは倒せない」

 

「何の確証を持って? 自分より弱いから勝てるわけがないって傲慢?」

 

「そういうわけじゃないよ。アナザーライダーは対応した同じライダーの力を使わなきゃ倒せない。ラム1人じゃ無理なんだよそもそも」

 

 傍で聞いて分かった事実。つまり、アナザーライダーの撃破のためにはソウゴが必要不可欠なのだ。

 

 それをラムも察したのか、黙っていた。

 

「俺も行く……レムもスバルもどっちも助けるよ、必ず」

 

 決意するように、ソウゴは呟いた。




次回 2019:ドヤコンガ


嘘です。ごめんちゃい♡(NOY感)

次回 2019:討・伐・戦・線 (マジ)


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【先行公開】HERO TIME 暴太郎戦隊ドンブラザーズ+仮面ライダージオウ feat.リゼロ
どん1話 2022:まおうとあばたろう


先行公開です、先行公開。二章の後のお話の。
二章終わってねぇのに何やってんのかって?仕方なかったってやつですよ、ええ。一応二章のお話も書いてるんで許して。


「アバターチェンジ!」

 

『ドン! モモタロ〜ッ! いよっ! ニッポンイチッ!』

 

「桃から生まれた! ドンモモタロォーッ!」

 

 桃井(ももい)タロウが変身するドンモモタロウ。

 

 完璧超人なドンブラザーズのリーダーで、ドン王家の一族。他のメンバーのことはお供と呼んでいる。

 

 縁を大事にし、他者に助けを求められたら手を差し伸べる。(むしろ自分から『困ったことがあれば言ってくれ』、と申し出る)

 

 物事をハッキリと言い、嘘をつくことが出来ない。ついた場合、短時間の間、死んでしまう。

 

「アバターチェンジ!」

 

『サルブラザ〜! いよっ! ムッキムキ!』

 

「浮世におさらば! サルブラザー!」

 

 猿原真一(さるはらしんいち)が変身するサルブラザー。

 

 普段は無職であり、風流人として暮らしている。生計は相談に乗った人のお礼で立てているらしい。ちなみにお金に触ると火傷する。その為か、飲食店の支払いは俳句を読んで払っているのだ。

 

 前述したように風流人で、俳句を愛し温厚な性格であるのだが、それに反して何処か俗っぽいところがあったりする。

 

「アバターチェンジ!」

 

「イヌブラザ〜! いよっ! ワンダフル!』

 

「逃げ足No. 1。イヌブラザー!」

 

 犬塚翼(いぬづかつばさ)が変身するイヌブラザー。

 

 無実の罪によって指名手配されており、警察から逃げ回る日々を送っている。ぶっきらぼうな性格だが、襲われている人がいたらすぐさま助けるなど、いい奴である。

 

 ちなみにだが、自分以外のドンブラザーズの正体や、それに関する事情に関しては、一切何も知らないのである。

 

「アバターチェンジ!」

 

『キジブラザ〜! いよっ! トリッキー!』

 

「鳥は堅実! キジブラザー!」

 

雉野(きじの)つよしが変身するキジブラザー。

 

 普段はフェズントコンサルタントに勤めるごく普通のサラリーマンで、ドンブラザーズでは年長者である。

 

 みほという女性と結婚しており、彼女のことを溺愛している。……が、そのせいで時折ヤバい一面を見せることも。『モンスターより人間の方が生々しくて怖い』と言っていたが、まさかそれが自分に返ってくるとは思いもしなかっただろう。

 

「アバターチェンジ!」

 

『超一龍! アチョォーーーー!』

 

「筋骨隆々! ドンドラゴクウ!」

 

 桃谷(ももたに)ジロウが変身するドンドラゴクウ。

 

 ヒーローになるため田舎から上京してきた青年。タロウと同じドン王家の生まれである。当初は変身アイテムを持ってなかったが、後日、ドンドラゴクウとして覚醒する。

 

 純真無垢な性格だが、悪く言えば子供っぽく、戦いに乱入して場を掻き乱すこともある。

 

「アバターチェンジ!」

 

『エクストラ! ホアチョーーーーッ!』

 

「俺が最強! ドントラボルト!」

 

 桃谷ジロウのもう一つの人格である闇ジロウが変身するドントラボルト。

 

 ジロウとは正反対に荒くれ者な性格。タロウを越えようと躍起になっている。というか、最早それが生き甲斐になっているようだ。

 

 実は彼こそが最初の人格であり、明るい方のジロウが後から生まれた人格である。

 

「チェンジ全開」

 

『ババババーン! ゼーンカイザー!』

 

 ドンブラザーズのメンバー……と言えるかは分からないけれど、五色田介人(ごしきだかいと)が変身するゼンカイザーブラック。

 

 ミステリアスな雰囲気を醸し出しており、多くを語らない謎に包まれた男。が、時々お茶目な面を見せることもある。(例:バイクに乗り昭和のスターみたいな格好でデートに来る、写真集を自身の店で販売 等々……)

 

 彼が経営している喫茶どんぶらに無いものは無いらしい。事実、ピアノが置かれてる部屋があったり、手術室があったりする。

 

「アバターチェンジ!」

 

『オニシスター! いよっ! 鬼に金棒!』

 

「漫画のマスター、オニシスター!」

 

 そしてこの私、鬼頭(きとう)はるかが変身するオニシスター!

 

 売れっ子漫画家として世間から持て囃されていた私だが、ドンブラザーズに選ばれるとどういう訳か、書いた漫画が盗作扱いされ、世間からは非難の嵐! ……まぁ、何だかんだめげずに頑張ってるけれど。

 

 そんな私達ドンブラザーズは、人の欲望が暴走した怪物ヒトツ鬼や、別の次元に住む脳人(ノート)にアノーニ、獣人(じゅうと)達と日々戦っているわけである。

 

 そういう訳で、今回の私達の活躍をとくとご覧あれ!

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっ! そりゃあッ!」

 

 街中にて。

 

 赤色の戦士、ドンモモタロウがザングラソードでヒトツ鬼と戦っている。

 

「避けろ!」

 

その声と共に、黒色の星形手裏剣と薄紫の光弾が飛ぶ。イヌブラザーだ。

 

 ドンモモタロウが後ろに飛ぶと、攻撃がヒトツ鬼に直撃した。

 

「ケンケンケェーン!」

 

「おりゃー!」

 

「ふゥんっ!」

 

「はあーっ!」

 

 空からキジブラザーが突撃、オニシスターがフルコンボウという金棒で殴りかかり、サルブラザーは飛び蹴り。

 

 更にドンドラゴクウが龍虎之戟(リュウコノゲキ)で金色の斬撃を飛ばし、爆発が起こった。

 

「くうぅうぅうぅうッ! 俺は、俺は総理大臣になってッ、この国を支配するんだァー!」

 

 攻撃を喰らい倒れるものの、なお立ち上がるヒトツ鬼。

 

「お供達、行くぞ!」

 

 ドンモモタロウがザングラソードのギアディスクを回しながら告げる。各々が返事する声が聞こえた。

 

『ドンブラコ! モ〜モタロ斬! モ〜モタロ斬!』

 

『ドラゴン奥義!』

 

 サルブラザー、オニシスター、キジブラザー、イヌブラザーがドンブラスターを構え、光弾をヒトツ鬼へと集中攻撃。

 

桃代無敵(とうだいむてき)! アバター乱舞!」

 

「ライトニング! ドラゴンフラッシュ!」

 

『激龍の舞!』

 

『必殺奥義! モモタロ斬!』

 

 龍虎之戟の刀身に赤いエネルギーが、ザングラソードの刀身には虹色のエネルギーがそれぞれ纏われる。

 

 二人が強力な一撃を叩き込もうと、ヒトツ鬼へと駆け出し、その刃を振おうとする。

 

 これでヒトツ鬼が倒され、一件落着。もしくは、巨大化したヒトツ鬼を倒して一件落着と。その場にいた誰もがそう思っていた。

 

 が。

 

「むぅ……!?」

 

「え……!?」

 

 甲高い音がした。二人の刃が、同じ刃によって受け止められた。

 

 彼らの前に、赤色の異形が居た。

 

「何!?」

 

「新しいヒトツ鬼か……?」

 

 驚愕するオニシスター。冷静に分析するサルブラザーだが、少なからず声色に戸惑いが見られる。一方のキジとイヌも驚愕の声をあげていた。

 

「フンっ!」

 

異形はザングラソードと龍虎之戟の刀身を弾き、剣をドンモモタロウとドンドラゴクウに向かって振るう。二人は後ろに飛んでそれを避けた。

 

「貴様……何者だ?」

 

 ドンモモタロウはザングラソードの先端を突きつけ、異形に問いかける。

 

 しかし異形は呻き声を上げるだけで何も答えず、黒刀を構え、ドンブラザーズを睨んでいた。

 

 しばらくして、異形が駆け出し、ドンモモタロウに黒刀を振るい、それはザングラソードで受け止められ、剣戟が始まった。

 

「私達も!」

 

「うん!」

 

 サルブラザーの呼びかけに応じるオニシスター。二人同時に異形へと駆け出す。

 

 異形は二人の存在に気づき、一度ドンモモタロウとの剣戟を止めて彼らの攻撃を避ける。

 

「はあーっ!」

 

 サルブラザーが自身の剛腕を異形へと振るう。

 

 それに対して異形も、自身の腕に青色のオーラを纏わせて、同じように振るった。

 

 お互いのパンチがぶつかり、青色の衝撃波が広がり、どちらも後ずさる。

 

「何!?」

 

「はあっ!」

 

 驚愕するサルブラザー。その間に、オニシスターがフルコンボウで攻撃を仕掛ける。

 

 その攻撃を避けながら、異形も黄色い金棒を取り出して、それを彼女へと振るった。

 

「俺達も行くぞ!」

 

「はい!」

 

 そう言ってイヌブラザーとキジブラザーは異形の下へ駆け出した。

 

「よーし僕も! アバターチェンジ!」

 

『エクストラ! ホアチョーーーーッ!』

 

 ドンドラゴクウは龍虎之戟をアックスモードに変え、バックルから取り出したギアをセットし、トリガーを引く。

 

 巨大なアバタロウギアがドンドラゴクウの体を通り抜け、その身を銀色の戦士、ドントラボルトへと変えた。

 

「俺の出番かッ!」

 

 すると先程まで明るかった声はドスの効いた低い声へと変化する。彼のもう一つの人格が現れた証拠だ。標的を異形に定め、武器を構え突撃する。

 

 三人が一斉に突撃しようとすると、異形はピンク色の翼を生やし、空へと飛翔。飛んだ勢いに思わず怯む一同。

 

 高速で飛行してくる異形がドンブラザーズを連続で攻撃し、地上に着地すると、今度は黒い星形手裏剣を飛ばして攻撃。

 

「っ! 調子に乗るなよ!」

 

 ドントラボルトは異形へと駆け出して跳び、斧を脳天から振り落とそうとする。

 

 しかしすると今度は、それを同じ金色の斧で受け止められる。

 

「隙ありー!」

 

 ドントラボルトから分裂したドンドラゴクウが、槍で異形に攻撃しようとする。

 

 異形はドントラボルトを蹴り飛ばすと、すぐさま斧を槍に変えて、その攻撃を受け止めた。

 

「なっ!」

 

 ドンドラゴクウが驚いている間に槍を弾いて、体を斬り付け後退させる異形。

 

「くっ、まるで私達のような技を……!」

 

 青色の剛腕、黄色の金棒、黒色の星形手裏剣、ピンク色の翼、金色の槍と斧。どうにも自分達の同じような技を使うことに困惑を抱いてる様子のサルブラザー。

 

「ふんっ!」

 

 飛び込んできたドンモモタロウは再び異形との剣戟に持ち込む。

 

 刃がぶつかり合う甲高い音が鳴る中、異形が背中を見せる。

 

「……ん?」

 

 ふと、何かに気づいたサルブラザーは目を凝らし、背中を見た。よく見ると、文字が書かれているようだ。

 

「D・O・N・B・R・O・T・H・E・R・S…………ドンブラザーズ?」

 

 異形は薄く汚れた黄色の銃を取り出して、スクラッチを回し、トリガーを引く。

 

『ドンブラコォ……! リュウソウジャー……!』

 

 天から巨大なアバタロウギアのようなものが降ってきて、異形の体を通り抜ける。

 

 すると瞬く間に、異形の身はかつてドンモモタロウが倒した騎士竜鬼へと姿を変えた。

 

「ヒトツ鬼に変身した!?」

 

 驚愕の声を上げるのはオニシスター。それと同時に、騎士竜鬼は剣を構えドンモモタロウへと襲いかかる。

 

「面白い。ならばこっちもだ! アバターチェンジ!」

 

 ドンモモタロウはドンブラスターにリュウソウジャーアバタロウギアをセットし、スクラッチを回してトリガーを引く。

 

『ドンブラコ! リュウソウジャー!』

 

 ドンモモタロウも同じように巨大アバタロウギアが体を通り抜け、勇猛の騎士・リュウソウレッドへと変身。

 

 リュウソウケンを構え、騎士竜鬼へ向かい、剣戟。

 

リュウソウレッドはドンブラスターにザングラソードを翳す。

 

『パァーリィーターァイム! リュウソウジャー! いざ参る!』

 

「ァ騎士竜一桃! リュウソウ斬!」

 

『アーバタロ斬! アバタロ斬!』

 

 背後に出現したティラミーゴの幻影がソードに宿る。

 

『剣ボーン!』

 

 トリガーを引いて剣を振うと、リュウソウチェンジャー状のエネルギーとなって騎士竜鬼の元へ飛んだ。

 

 騎士竜鬼もまた剣に赤黒いエネルギーを纏わせて振るう。二つの竜がぶつかり合い、爆発。

 

「ふぅー……! 俺は、総理大臣に……!」

 

 一方、完全に忘れ去られていたヒトツ鬼……その名も魔王鬼は逃走を計ろうとしていた。

 

 そんな時だ。彼の目の前に、銀色のオーロラが現れたのは。

 

 魔王鬼はそのオーロラの向こうに何かを見て、すぐさま飛び込んでいった。

 

「待て! 逃がさんぞ!」

 

 リュウソウレッドは騎士竜鬼を蹴飛ばすと、まだ存在しているオーロラの中へ飛び込んだ。

 

「私達も!」

 

「ああ!」

 

 オニシスターに応じたサルブラザーが、オーロラに向かおうとする。だがその時、斬撃が彼らの足元に飛び、爆発が起きる。

 

 元の姿に戻った異形がオーロラに飛び込むと、それはたちまち消えたのであった。

 

「くっ…………あっ! オーロラが!」

 

「何!?」

 

 煙が晴れた後、オーロラが消失していることに驚愕するオニシスター。それは、サルブラザーも同じだった。

 

「そんな…………タロウ!!」

 

 

 

 

 

「最後に腕を天に伸ばしてフィニッシュ! ヴィクトリー!」

 

「ヴィクトリー!」

 

 両手を掲げて締めの言葉を口にするのはナツキ・スバル。それを追従する大勢の声。

 

 歓声が上がり、隣り合う人々が手を打ち合う。

 

 先ほどまで、スバルとアーラム村の住人達でラジオ体操が行われていたのだ。

 

「ふぃー、昼飯の後にいい汗かいた!」

 

「やっぱり、ラジオ体操人気だね」

 

「スバルくんの言う通り、子供からお年寄りの方まで幅広く楽しめるのが人気の秘訣なのかもしれませんね」

 

 汗を拭うスバルの下へ現れたのは常磐ソウゴとレムだ。

 

「こんなに人気出るとはぶっちゃけ思わなかったけど、ちょっとした運動にもなるし結果オーライだな」

 

 腕を組んでうんうんと頷くスバル。そんな彼に微笑むソウゴであったが、

 

「……ん?」

 

「どうしました、ソウゴくん?」

 

 ふと、ソウゴが空中の一点を見つめ始めた。それに気づいたレムが彼に問う。

 

「いや……あれ……」

 

「あれ?」

 

「どうかしたのか?」

 

 ソウゴが指差した先を見るレム。スバルも二人の様子に気づき、指した先を見る。

 

「何だありゃ……」

 

 みれば、銀色のオーロラが現れていた。スバルは一瞬目を擦ってもう一度見るも、未だオーロラは存在しており、幻覚でないことを確信する。

 

 やがてそのオーロラからシルエットが見え始めた。小さかったそれは、どんどん大きくなり————。

 

「があぁぁあぁああ! 総理大臣!」

 

「か、怪物!?」

 

 オーロラから現れたシルエットは魔王鬼だった。

 

 スバルが思わず驚愕の声を上げる。魔王鬼は雄叫びを上げると、アーラム村の住人へと襲いかかり始めた。住人達は悲鳴をあげて逃げ始める。

 

「レム、行くぞ!」

 

「はい!」

 

 ソウゴの掛け声に応じ、モーニングスターを装備するレム。ソウゴもジクウドライバーを装着し、ウォッチを構える。

 

『ジオウ!』

 

「変身!」

 

『仮面ライダー! ジ・オーウ!』

 

 ウォッチとベルトを操作して仮面ライダージオウへと変身。

 

 戦闘態勢になった所で、戦闘を開始しようとする二人。だが、

 

「追いついたぞ!」

 

 後ろから声が聞こえたかと思うと、黒い剣が飛んできて、それが魔王鬼に命中する。

 一同が剣が飛んできた方向に視線を向けると、そこには赤い戦士が。

 

「何だアイツ!? 仮面ライダーか!?」

 

「いや違う。あれは……」

 

 その姿を見てスバルが声を上げるが、その発言をソウゴはすぐさま否定し、見覚えがある様な呟きをする。

 

「さぁ、祭りの続きだ!」

 

 赤い戦士ことドンモモタロウは魔王鬼の元へと駆け出してそのままハイキックをかます。

 

 ザングラソードを回収して魔王鬼に斬りかかろうとしたとき、赤黒い光弾が迫りそれを防いだ。

 

「貴様は…………!」

 

 光弾が飛んできた方向を見ると、そこには先程突如現れた赤い異形がいた。異形は黒刀を持って再びドンモモタロウへと襲いかかる。

 

 二人が再び戦い始めた中で、魔王鬼はどこかへ行こうとするが、それを見たジオウはジカンギレード・ジュウモードで撃って阻止する。

 

「こっちの方は任せて!」

 

「誰だか知らんが頼んだぞ!」

 

 ジオウの呼びかけに応じるドンモモタロウ。その間に、ドンブラスターにギアをセットする。

 

「アバターチェンジ!」

 

『ドンブラコ! シンケンジャ〜!』

 

 ドンモモタロウはその身をシンケンレッドへと変える。

 

「………………」

 

『ドンブラコォ……! シンケンジャー……!』

 

異形も黄色い銃を操作して侍鬼へ変身する。その姿はさながら外道に堕ちた武者のよう。

 

 シンケンレッドはシンケンマルを、侍鬼は大太刀を互いに構える。

 

「いざ、尋常にぃ…………! 勝負!」

 

「はあっ!」

 

 一方で、魔王鬼に回し蹴りをするジオウ。そこにレムのモーニングスターの一撃が入る。

 

「くっ! ふんっ!」

 

魔王鬼の装飾である時計の針が回転する。

 

 すると、魔王鬼の脳内にあるヴィジョンが浮かぶ。それはレムが氷柱を飛ばし攻撃する様子のようで————。

 

「ヒューマ!」

 

 レムが手を突き出し、詠唱。

 

 すると、六本の氷柱が魔王鬼に向かって飛んだ。

 

 しかし放たれた氷柱はエネルギーを纏った魔王鬼の剣によって全て切り裂かれる。

 

『クウガ!』

 

ジオウがクウガライドウォッチを起動して、装填してベルトを操作。

 

『アーマーターイム! クウーガー!』

 

 クウガアーマーに変身し、魔王鬼に殴り掛かるジオウ。

 

 魔王鬼が剣を振り下ろし、それをバク転で回避すると、近くに落ちていた木の棒を拾う。

 

 モーフィングパワーが発動し、それはたちまちドラゴンロッドへと変化した。見れば装甲もいつの間にか青色に変化している。

 

 ロッドを構え駆け出し、魔王鬼の剣を受け流しながら、確実に一撃一撃を叩き込んでゆく。

 

「はあっ!」

 

 ジオウが魔王鬼の手をロッドで払い上げると、剣が飛ぶ。

 

 ロッドを手放して、降ってきた剣を手に取るとそれはタイタンソードへと変化。それと同時に、装甲も銀と紫に変化している。

 

 そのままタイタンソードを振り上げると、魔王鬼は吹っ飛んだ。

 

 嵐。

 

「はあっ!」

 

 ショドウフォンで書いた文字が火の竜巻となり、侍鬼に迫る。

 

 侍鬼も同じく嵐の文字を書き、黒色の竜巻を実体化させ、火の竜巻とぶつかり合って相殺させる。

 

『ドンブラコ! デカレンジャ〜!』

 

『ドンブラコォ……! デカレンジャー……!』

 

 姿を現すデカレッドと特捜鬼。

 

 サイレンが鳴り響く中、手に持った二丁拳銃で走りながらの撃ち合いとなる。

 

 やがて迫りあって格闘戦に入り、時に殴り、時に蹴り、時に撃つを繰り返した。

 

 デカレッドは後ろに飛んで、ドンブラスターとアバタロウギアを構える。異形も同じく銃を構える。

 

「アバターチェンジ!」

 

『ドンブラコ! ハリケンジャ〜!』

 

「……………………」

 

『ドンブラコォ……! ハリケンジャー……!』

 

 両者は、風が鳴き、空が怒る。空忍ハリケンレッドと、忍風鬼へと変身。互いに刀を構える。

 

「超忍法! 影の舞!」

 

 障子が閉まる。

 

 障子の中で二つの影が、刃を何度も交じえ合った。

 

 障子が突き破られ、両者が転がる。

 

「アバターチェンジ!」

 

『ドンブラコ! ジュウオウジャ〜!』

 

「……………………」

 

『ドンブラコォ……! ジュウオウジャー……!』

 

 大空の王者・ジュウオウイーグルと動物鬼。

 

「ハーハッハッ! この俺を舐めるなよ!」

 

 緋色の翼を宿し、王者の本能を覚醒させた両者が大空を駆け、ぶつかり合う。

 

『アーマーターイム! ゴォー! ストォー!』

 

 ゴーストアーマーに変身したジオウはガンガンセイバーとジカンギレードの二刀流で魔王鬼に斬りかかる。見れば肩の眼魂ショルダーがムサシアイコンになっていた。

 

 レムも徒手空拳に切り替えたのか、魔王鬼に手刀を喰らわせる。

 

 ジオウがジカンギレードとガンガンセイバーを空に向かって投げると、首を回しながら右手を突き出し、左手を後ろに掲げる。

 

 かかんっ! と、ツケの音が聞こえた気がした。

 

「…………何ですかそれ」

 

「歌舞伎の見得!」

 

 見れば肩がゴエモン魂のものに変化している。降ってきたジカンギレードとガンガンセイバーをキャッチして、駆け出した。

 

 すると一瞬で相手との間合いを詰め、魔王鬼を十字に切り裂く。先程の見得の影響で速度が増しているのだ。

 

 レムはそれに驚き、自分も遅れを取るまいと駆け出す。駆け出した彼女の右足には水魔法による氷が収束しており、左足をバネにして飛ぶと、空中で身を捻り魔王鬼に回し蹴りを喰らわせた。

 

『ビルド!』

 

『アーマーターイム! ベストマッチ! ビィールゥードォー!』

 

 ビルドライドウォッチでビルドアーマーに変身するジオウ。

 

 右側のフルボトルショルダーが蒼く変化すると、両腕に蒼炎が纏われ始める。

 

「蒼炎青龍拳!」

 

 ジオウが右と左の手のひらを指を曲げた状態で合わせ、突き出し叫ぶと、纏われていた蒼炎が龍の頭の形を取り、咆哮を上げ魔王鬼に向かい突撃した。

 

 蒼く変化していたフルボトルショルダーが今度は赫く変化し、両腕と胸部装甲に業火が纏われる。

 

「業火不死鳥拳!」

 

 両腕をどちらも斜め上に掲げて叫ぶ。両腕と胸部装甲に纏われた炎が不死鳥となり、雄叫びを上げ魔王鬼の下へ飛ぶ。

 

「蒼炎青龍拳、業火不死鳥拳……聞いたことありませんね。何処の拳法ですか?」

 

「今作った」

 

「今ですか?!」

 

 だったら聞いたことが無いのは当然だ。というより、よく咄嗟にそんなもの思いつくな、とレムは思う。

 

「はあーっ!」

 

 そんな時、二つの影が乱入する。一方はルパンレッド、一方は警察鬼だ。

 

 ルパンレッドは軽い身のこなしで警察鬼の銃攻撃を避けながら自身も銃で撃つ。

 

「アバターチェンジ!」

 

『ドンブラコ! パトレンジャ〜!』

 

「……………………」

 

『ドンブラコォ……! ルパンレンジャー……!』

 

 パトレン1号と快盗鬼。正義の警察と悪のこそ泥。

 

「実力を行使する! 逮捕だ逮捕ォ〜!」

 

 パトレン1号の高い防御力で快盗鬼の銃撃をものともせず突撃し、射撃。

 

 間合いを詰めると、パトレン1号は拡声警棒パトメガボーを取り出して振り下ろすが、快盗鬼も赤い剣を取り出し甲高い音を立てそれを受け止める。

 

 しばらくそれで剣戟を続けると、互いに後ろへと飛んだ。

 

『パーリィーターイム! ドン・モモタロウ!』

 

 元の姿へと戻ったドンモモタロウがドンブラスターの天面のボタンを押す。

 スクラッチギアを前後に回すと、DJのレコードよろしく音楽が流れる。

 

『ヘイ! かもぉん!」

 

 しばらくしてノリの良さような男性の声がすると、ドンブラスターの発射口に虹色のエネルギーが収束し始めた。

 

狂瀾怒桃(きょうらんどとう)・ブラストパーティー!」

 

『いよぉぉ! ドンブラコォ!」

 

 トリガーを引くと、巨大な虹色の光弾が放たれる。

 

 対する赤い異形も、持っていた黄色の銃の引き金を引くと巨大な赤黒い光弾が放たれた。

 

 二つの光弾がぶつかり合い、爆発が起きる。

 

 ドンモモタロウ、ジオウ、レムの三人は咄嗟に目元を腕で塞いだ。

 

 爆発による煙が晴れて三人が腕を下げて視線を向けると、異形と魔王鬼は何処かへと消え去っていた。

 

「逃げたか…………」

 

 ぼやいたのはドンモモタロウだった。

 

 ドンブラスターを取り出し、レバーを引いてターンテーブルからアバタロウギアを外すとその身が赤白い光に包まれる。

 

 やがて光が晴れると、現れたのは赤い服を羽織った長身の青年だった。

 

 ジオウもベルトからウォッチを取り外し、変身解除する。

 

 青年はソウゴ達の方に振り返る。

 

「助けてもらったな。礼を言う」

 

「良いよ、王様として当然のことをしただけだし」

 

「王様? アンタ、変わっているな」

 

 特に戸惑いの様子を見せずに疑問の声を上げ、真顔のままそう言い切る青年。

 

「俺は常磐ソウゴ。アンタの名前は?」

 

 ソウゴは青年に問いかける。

 

「俺はタロウ。桃井タロウだ」

 

 これが———— 20人目の平成ライダーと、46人目のスーパー戦隊の邂逅なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

HERO TIME 暴太郎(あばたろう)戦隊ドンブラザーズ+仮面ライダージオウ

feat. Re:ゼロから始める異世界生活

 

 

 




声:桃井タロウ
じかーいじかい
 どう言うわけか異世界へと転移してしまった俺。どうにかしようと必死なお供達。
 しばらくの居候の身となり屋敷で働く俺。ややこしい事態になったが、俺のやることは変わらない。困ってる人を助け、ヒトツ鬼を倒すだけだ。

『どん2話 2022:イセカイあばたろう』、というお話。


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どん2話 2022:イセカイあばたろう

タロウ「ヒトツ鬼を相手にしていた俺たちドンブラザーズの前に突如現れた謎の敵。そいつは何故か俺たちの能力を使い、今までのヒトツ鬼に変身できる厄介な相手だった。
 その後、謎のオーロラによって俺はヒトツ鬼と謎の敵と共に、異世界へと転移するのであった……」





 

「タロウが何処かに消えちゃったの。何か知らない?」

 

 鬼頭はるかは、目の前で座り込んでいる男に問いただす。

 

 そもそも彼女は今どこにいるのか。それはバーチャル刑務所という亜空間。周囲には積み重なっている電子回路の模様が特徴的な巨大な青色の壁が回転していた。

 

 彼女だけでなく、猿原に雉野にジロウも訪れていた。

 

 そして、彼女の目の前にいる男は桃井陣。彼は箱型の牢獄に収監されている状態だ。

 

 桃井陣は桃井タロウの父親である。しかし、実の父ではない。

 

 かつて21年前に時空の裂け目から落ちてきた桃のカプセルの中に入っていた赤子のタロウを偶然見つけ、彼を拾い育て始めたのである。

 

 しかし、桃井タロウ……ドンモモタロウを育ててしまったのが罪となったらしく、現在は投獄され、守護人としての役割を与えられているのだ。

 

「結論から言えば、タロウは別の世界へと消えた」

 

「別の世界……? そんなことが……」

 

「あのオーロラはヒトツ鬼の力なんですか?」

 

 猿原が顎に手をやり、雉野が率直な疑問を投げかける。

 

「いや違う。ついでに言っておくと脳人や獣人の仕業でもない」

 

「だったらあのオーロラは一体!」

 

 ジロウが声を上げ詰め寄った。

 

「あのオーロラの正体は分からない。が、あれは時折この世界に出現する。そして出現する度に、人々を何処か別の世界へと連れ去ってゆく……」

 

「……正に神隠し、と言った所か。ではもう一つ聞かせてくれ。あの赤い怪物は何なんだ? どうやら私達の力を使っていた。しかも背中には『ドンブラザーズ』と書かれていたぞ」

 

 猿原は戦いの中で、異形の背中に書かれていた文字を思い出しながら陣に問う。

 

「あれは————」

 

◇◇◇◇

 

 ロズワール邸の食堂にて、ソウゴ達は集まっていた。

 

「それにしてもすごいわ、モモイさんもソウゴみたいに変身ができるのね!」

 

 目を輝かせ歓喜の声を上げたのはエミリアだ。そんな彼女の視線の先にはスープを飲んでいる桃井タロウが居た。

 

 戦いの後に立ち話もなんだから、と屋敷へと案内されたのだ。

 

 そして村に現れた謎の怪物達のことと、変身したタロウと共に怪物と戦ったことをエミリア達に話し、今に至る。

 

「それで、何ていう名前なの? ソウゴみたいに仮面ライダー?」

 

「ドンモモタロウだ」

 

「ドンモモタロウ? 変わった名前ね。どうやって変身するの? ソウゴみたいにベルトとウォッチ?」

 

「ドンブラスターという銃とアバタロウギアというものを使う。それによって変身が可能になる」

 

「へえ、そうなんだ!」

 

 やはり目を輝かせるエミリア。

 

「しっかしドンモモタロウ、ねー…………さては犬とか猿とか雉……って感じのお供がいたりする?」

 

 冗談めかした様子でスバルがタロウに尋ねる。

 

「よく分かったな。それに加えて鬼と龍と虎のお供もいる」

 

「へぇ鬼と龍と虎……いや鬼!? 桃太郎の敵じゃん!? 良いの!?」

 

「敵ではない、お供だ」

 

「いやそれは分かったから……」

 

「そのお供? も変身するの?」

 

 スバルが苦笑いする横で再びタロウに問いかけるエミリア。

 

「ああ。それで俺はお供達と共に、暴太郎戦隊ドンブラザーズとして活動している」

 

「あ、あばたろう? そりゃまたすげぇ名前だな……」

 

「ふふ」

 

 奇抜な名前に困惑の表情を浮かべるスバル。しかしエミリアは目を輝かせている。よほど気に入ったらしい。

 ソウゴが傍でそんなやりとりに微笑んでいる。

 

「あはーぁ。とにかく、改めて感謝すぅーるよ。モモイ・タロウ君。君は村の危機を救ってくれたみたいだからね。私はあの村の領主だ、何かお礼が出来ればいいんだけれど」

 

 もう一人の人物もそんなやりとりに微笑んだ後、発言する。それはロズワールだ。

 

「必要ない……と言いたいところだが、あいにく俺はこの世界については何も知らない。住居も金も持っていない。読み書きについても分からない。それらを支援してくれれば有り難いのだが」

 

「ふーぅむ、なるほどなるほど。どうやら訳ありのようだけど……下手に詮索するのはやめておこう。分かった、君の部屋と資金を用意しよう。読み書きについては今日の夜にラムかレムに教えに行かせる。いいね? 二人とも」

 

「「はい、ロズワール様」」

 

 一瞬のズレもないステレオな音声で返事をするメイド姉妹。

 

「感謝する」

 

 タロウは頭を下げ、礼を言う。

 

 そんな時、タロウは料理を完食した。

 

「ご馳走様」

 

「どーよ。レムの料理は。美味いだろ?」

 

「ああ、美味かった。32点だ」

 

 タロウのその答えを聞き、自分の料理でもないのに自信ありげに尋ねた質問者のスバルはずっこけそうな勢いで体勢を崩した。

 

「ちょ、ちょーっとそりゃ過小評価すぎやしませんかねー?」

 

「中々手厳しいねぇ〜」

 

「失礼ですがお客様、レムの料理は少なくとも100点はあるかと思われますが……」

 

「32点だ」

 

 苦笑いのスバルとロズワール。評価を貰った本人であるレムも何も言ってないが同じ顔だ。

 

 そんな彼らの後から出たのはラムだった。しかし、タロウはその答えを変えない。

 

「そこまで言うのであればお客様にも作ってもらいましょうか」

 

 ラムは眉を顰めると、突如タロウにそんな挑戦を叩きつける。

 

「ね、姉様、レムは気にしてませんから……」

 

「いいえ、これはレムだけの問題じゃないのよ。お客様はレムの料理にケチを付けた。レムが許しても、ラムが許せないわ」

 

「良いだろう。受けてたってやる」

 

 立ち上がる桃井タロウ。

 

 両者は稲妻が走る勢いでその視線を交える。ゴングの音が聞こえた気がした。

 

「どんな流れだよ……」

 

「仲が良いみたいだねぇ〜」

 

「良い……のかなぁ」

 

「うーん……良いんじゃないかしら?」

 

 上から呆れ顔のスバル、微笑みのロズワール、首を傾げるソウゴ、微苦笑のエミリア。

 

 しばらくして。

 

「完成した、食ってみろ」

 

屋敷の厨房を借りたタロウが料理を完成させ運んできて、椅子に座っているラムの前に置く。

 

「お手並み拝見、ね」

 

 スプーンを手に取り、目の前に置かれたスープを掬い、口へと運ぶラム。

 

「こ……これは……………ッ!」

 

 目をかっ開き、わなわなと震える。

 

「美味い…………ッ!」

 

「言葉遣い崩れてんぞ!? そんなに美味かったのか!?」

 

 ラムなら美味しい料理を食べた時、「美味しい」とでも言うのだとばかり思っていたスバルは、それが崩れたことに驚愕する。

 

 ラムの言葉遣いを崩す料理がどれだけ美味いのかと、ソウゴがウィザードライドウォッチのコピーの力で生成したスプーンを受け取り、スープを掬い飲んでみた。

 

「こ…………これは………………」

 

 その時————。

 

 スバルの脳内に————。

 

 電撃が走る————。

 

 

 

 

 

 

 何だァ……………………。

 

 

 

 

 何だァ、これはァ……………………?

 

 

 

 

 何だこれはァァァァァァァァァァァァ!?これがァ!!!!これがこの世の物なのかァァァァァァァァ!?美味い美味い美味い美味い旨いィィィィィィィィィィ!!旨すぎりゅよォォォォォォォォォォォォん!!!!スープの出汁についてはよく分からないがァ!!これは間違いなく良い出汁を使っているなァ!!こりゃあ酒のつまみに合うぜェェェェェェェェェ!!まぁ酒は飲んだことねェけどォ!!未成年だからなァ!!スハハハハハハハハハハハハァ!!食欲よォォォォォォォ!!今ァァァァァァァ!!スープを飲み干してェェェェェェ!!!そりゃあァァァァァァ!!!愛ある完食だァァァァァァ!!!!んぎぃぃぃぃぃみみみみみみみみみみみみみみみィィィィィィん!!これ程までにィィィ!!!!これ程までにィィィ!!!!美味いスープを飲んだことがなァァァァァァい!!天に昇るゥゥゥゥゥゥ!!天に昇るゥゥゥゥゥゥ!!痺れるゥゥゥゥゥゥ!!痺れるゥゥゥゥゥゥ!!脳がァ!!!!脳が震えるゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!直に脳を揺らすゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!脳内の快楽物質ドバドバ出ちゃうよォォォォォォォォォ!!これが新時代かァァァァァァァァァァァァ!!!!これは世界中のスープ界隈を全部変えちまうぜェ!!変えちまうぜェェェェェェェェェェ!!!!この果てしないスープの旨さが世界にもっと届くようにするべきじゃないのかァァ!?うォォォォォォ!!!!スープは最強ォォォォォォ!!!くぁwせdrftgyふじこlpォォォォォォ!!

 

 後に————。

 

 ナツキ・スバルはこの瞬間を————。

 

 奇跡の3秒間と呼んだという————。

 

「美味い……美味すぎる……」

 

 気づけば、スバルを涙を零していた。

 

 それは悲しみの涙であり、感動の涙でもある。

 

 これから、自分はこれ以上のスープでもない限り絶対に満足することが出来ないだろうという悲しみと。

 

 同時に、新時代を見出すほどに素晴らしいスープと出会い、それを味わえたと言う感動。

 

 二つの感情が混ざり合い、彼の涙腺を緩め、雫をこの世界へと産み落とす————。

 

「す、スバル? 大丈夫? 泣いちゃってるよ?」

 

「大丈夫さ、エミリアたん…………。ただ…………スープの真理を…………見ただけだよ…………ああ、素晴らしい…………例えるなら……そう、まるで今宵の月のように」

 

「ごめんスバル、ちょっと何言ってるか分からない。月も出てないよ?」

 

(姉様とスバル君をこんなに感動させるなんて…………モモイ・タロウ。恐ろしい男です…………)

 

 彼らのやり取りの中で、タロウにレムは戦慄していた。

 

「……そういえば、ソウゴ達は村で怪物と戦ったのよね? もしかして最近倒したアナザーライダー?」

 

 話題転換と言わんばかりにエミリアがソウゴに問う。後ろでは、レムがタロウのスープを飲みラムと全く同じ顔をしていた。

 

「あー……一体はそうだけどもう一体は分からないな」

 

「「アナザーライダー?」」

 

 偶然にも、別々の世界にいる桃井タロウと鬼頭はるかの声が重なった。

 

「そうだ、それが君達が戦った怪物の名前だ。そしてあれは、アナザードンブラザーズ」

 

「アナザードンブラザーズ……」

 

 陣によって告げられた名前を反復するように呟くはるか。

 

「アナザーライダーはライダーの歴史か力そのものを奪って誕生する。アンタはライダーじゃなくて戦隊だから、アナザーセンタイってところかな」

 

「成る程、奴が俺達の力を使っていたのはそういうことか」

 

 ソウゴの説明に、タロウは納得が行った様子で言った。

 

「今はまだ何ともないが、奴は私達の世界の歴史を大きく揺らがす存在。このままだと、いずれドンブラザーズの歴史は消えてなくなる」

 

「そんな!」

 

 ドンブラザーズの歴史が消える。つまり、それはタロウ達との出会いも無かったことになると言っているようなものだ。陣の宣告に悲痛そうな表情のはるか。

 

「……どうすればそれを止められる?」

 

「簡単だよ。ドンブラザーズの力で、アナザードンブラザーズを倒すんだ」

 

「成る程な、確かに簡単だ」

 

ソウゴの答えにタロウは腕を組んで言った。顔は変わっていないが、最初の問いより少し声が明るい。

 

「だったら私達も異世界に行かないと!」

 

「でも、どうすれば」

 

 同じ時、アナザーを倒すには自分達の力が必要だと知ったはるかは他のメンバーを見て言った。その後に問うのは雉野。

 

「……そうだ! マスターに頼んでみよう! どうにかしてくれるかも!」

 

「いやいや、流石にいくら彼でもそんなことは……」

 

 はるかの提案に、猿原は「ないない」、とでも言わんばかりに手を振った。

 

 その後、喫茶店『どんぶら』にて。

 

「マスター、異世界に行ける方法ってありますか?」

 

「あるよ」

 

(あるのか……)

 

 はるかの質問に即答したマスターである五色田介人に内心で突っ込む猿原であった。

 

「……とはいえ、転移をする為には準備が必要だ。少し時間をくれ。準備が出来次第呼ぼう」

 

「! ありがとうございます!」

 

 希望が見えて、はるかは表情を明るくし介人に深々とお辞儀をした。

 

「一体がアナザーライダーなのは分かったわ。じゃあもう一体は何なの?」

 

 事情を聞いたその後、エミリアは質問を再びする。

 

「あれはヒトツ鬼だ」

 

 そして答えたのはタロウ。

 

「ヒトツ鬼? 何それ?」

 

「ヒトツ鬼は人の欲望から生まれる存在。憑依した人間の欲望を暴走させ、自我を失った人間の体を使いその姿を現す。倒せばヒトツ鬼を祓えるが、人によっては何回も取り憑かれる者もいる。俺たちドンブラザーズの主なる敵だ」

 

「へぇー…………」

 

 エミリアはこくこくと小さく頷き声を漏らす。

 

「まぁとにかく、これで俺はアンタ達とは縁が出来たわけだ。それにしばらく居候させてもらう身だ、何か手伝えることがあれば言ってくれ」

 

「うぅむ、手伝えることかぁ。お客人に苦労はさせたくないんだけれどねーぇ」

 

「気にするな、出来る範囲であれば何でもする」

 

 タロウからそう言われ、ロズワールは「ふむ」と顎に手を添え、視線を下に向けて考える素振りを見せる。

 

「……じゃ、お言葉に甘えちゃおうかーぁな」

 

◇◇◇◇

 

「そう言うわけで、アンタ達とはしばらくの間同僚となる。よろしくな」

 

 そこには、執事のスーツをバッチリと着こなしているタロウがいた。ちょうどいいサイズがあったらしい。

 

「……じゃ、しばらくの間よろしくね、お客様改めロウタ」

 

「俺はタロウだ。ロウタなんて名前じゃない」

 

「すんませんこいつこういう奴なんすよ……」

 

 ラムに付けられた渾名について指摘するタロウ。それにスバルは苦笑いしながら言った。

 

「しかし、この屋敷は随分と使用人の数が少ないな。こんなに大きければもっと人数が必要だと思うが」

 

「今は人数が増やせないの。事情があるから」

 

「ふぅん。まぁいい。それで、屋敷の家事だがまず何をすればいい」

 

 タロウはラムの回答を軽く流し、指示を彼女から貰おうとする。

 

「……まずは食器洗いをしてもらおうかしら」

 

「分かった、洗い方は心得ている。それ用の用具と洗剤について教えてくれれば後は出来る」

 

 数分後、厨房にて。

 

「す、すげぇ……ピッカピカだ……まるで新品みてぇ……」

 

「それにすごく手際が良いです……かなり手慣れてるように見えます」

 

 スバルは陶芸品でも扱うような慎重な手つきで持っている皿を見て驚愕し、レムも同じく驚愕気味の顔で皿を見ていた。

 

「……………………」

 

 ラムは腕を組んで何とも言えない表情。

 

「終わった、次は何をすればいい?」

 

「……次は浴室の掃除を」

 

「分かった、道具を…………」

 

 数分後、風呂場にて。

 

「す、すげぇ…………雑巾一つで…………めっちゃピカピカに…………」

 

「しかも雑巾掛けをする速さが高速のそれでした…………人間業とは思えません…………」

 

「こんなんが新人とか各方面に失礼だろ……」

 

 流星の如く輝いている風呂場の床を驚愕の表情で見つめるスバル。レムも同じ驚愕の表情だ。

 

「……………………」

 

 再び何とも言えない表情のラム。

 

「終わった、次は?」

 

「…………次は」

 

 その後、庭園の手入れ、寝台の布団干し、洗濯、部屋の掃除、夕飯の支度、等々。

 

 タロウはどれも完璧な仕事ぶりを成し遂げたのであった。

 

◇◇◇◇

 

「それで、どーぅだい? タロウくんは」

 

 夜、ロズワールの執務室にロズワール本人とラムがいた。

 

「……正直、ロウタの仕事の出来は完璧です。それこそ、レムに匹敵するくらいには。途中からはバルスの仕事にも指導を入れてました」

 

 ラムの脳内にタロウがスバルに「ダメだダメだ! 成っていない!」と言っている光景が浮かぶ。

 

「君にそこまで言わせる辺り、余程すごいようだーぁね、彼は。その割には不服そうに見えるようだけれど……さてはレムの料理の件が気に入らないのかーぁな?」

 

「…………いいえ、決っっっして。そのようなことはございません」

 

「ふふ、そーぉうかい」

 

 何故か"決して"の部分に力が込もっていた。まあ本心は違うということだろう。

 そんな様子のラムに微笑むロズワール。

 

(……まぁ、彼も想定外の存在だが……私の悲願の為に利用できるのなら利用したいものだーぁね……)

 

「しかしあのロウタも何故か読み書きだけはできません……。今はレムが教えてますがきっと四苦八苦してることでしょう……」

 

 ロズワールが自身の目的を思う中、悪い笑顔を浮かべ始めるラム。彼女の脳内では勉強に苦戦しているタロウの姿が浮かんでいた。

 

「これでどうだ。イ文字とロ文字とハ文字を暗記して全部書いたぞ」

 

「………………えっと、全問正解です」

 

 そんな彼女がレムからタロウが一晩で読み書きを完全に習得したことを知り、虚無の顔になるのは就寝前のことであった。

 

◇◇◇◇

 

 カッポーン、という効果音でもしそうなロズワール邸の夜の大浴場。

 

「どう? こんなでっかい風呂に入れるなんて贅沢でしょ」

 

「ああ、確かに贅沢だ。こんなに大きな風呂に入れる機会なんて中々無いからな」

 

 浴槽の中には二人の男……桃井タロウと常磐ソウゴがいた。

 

「聞きたいんだけどさ、タロウは何でドンブラザーズとして戦ってるの? ヒトツ鬼って人の欲望から生まれるし、実質終わりなき戦いでしょ?」

 

「決まってる、それが俺の使命だからだ。例えヒトツ鬼が、10年、20年、未来永劫出てこようとも、俺は戦い続ける」

 

「……そっか」

 

 視線を下に向けこくこくと頷いた後、向き直りそう言ったソウゴ。

 

「そういうアンタは、何故仮面ライダーとして戦っている?」

 

「そりゃあ、俺が王様だからだよ」

 

「王様……そういえば、出会い頭にも言っていたな。改めて聞くが、それはどう言う意味なんだ?」

 

「どう言う意味って……そのまんまの意味だけど。俺が王様ってこと」

 

「ふぅん……何故王様だ?」

 

「世界を良くしたい、民が幸せでいて欲しいからだよ。その為なら命を賭けても惜しく無い、仮面ライダーになったのも民を守る為だ。生まれた時からそうするって決めていた、気がする」

 

「……王様というのは大変だ。人の上に立つということは、酷な判断もしなければならないということだからな。それでもアンタは……」

 

「行けるよ」

 

 タロウの言葉を途中で切るように、ソウゴは言い切る。

 

「1人じゃ大変かもしれない。でも、俺には仲間がいる。一緒に命を賭けてくれる仲間が。だから行ける。そんな気がする」

 

「……そうか」

 

 ソウゴの顔は何処か清々しかった。その顔を見たタロウは、表情を変えず言った。

 

「アンタにもいるだろ? 仲間」

 

「仲間じゃない、お供だ」

 

「……はいはい、そうだったそうだった」

 

「まぁ、まだまだ未熟だが、お供達も最近はよくやっている方だ。それに、二度も命を助けてもらったこともあったからな。奴らとの縁も、悪くはないものだった」

 

 タロウの脳にドンブラザーズのメンバー達との出会いの記憶が、戦いの記憶が、日常の記憶が駆け巡る。

 

「……そんなに好きなんだ? お供達のこと」

 

「? 何を急に……」

 

「だってお供のこと語ってる時、笑ってたよ? タロウ」

 

 ソウゴから指摘され、思わず口を触るタロウ。

 

「これは……」

 

「……大事にしなよ、お供達のこと。その人達との出会いは……より良い未来へ進む為の大切な縁だと思うから」

 

「……………………」

 

「……そろそろ、上がろうかな」

 

 ゆっくりと水面に視線を向けたタロウをよそにソウゴは立ち上がり、足を上げて浴槽から出た。

 

◇◇◇◇

 

 現実世界では。

 

 鬼頭はるかは液晶タブレットに絵を描いてた。漫画家である彼女は盗作の汚名を晴らす為、面白い漫画を描こうと日々奮闘中なのだ。

 

 ふと、彼女はペンを止める。

 

(待っててね、タロウ…………必ず迎えに行くから!)

 

 向こう側の世界にいるであろうドンブラザーズのリーダーに思いを馳せ、漫画を書き始めるのを再開した。

 

 猿原真一は、自身の邸宅にて夜の月を眺めながら、筆と縦に細長い白紙の色紙を持っていた。

 

「ここで一句」

 

 そう言うと、色紙に筆で文字を書き始める。

 

『夜の月や 天に昇りて 咲き誇る』

 

どうやら月を見てインスピレーションが来たのか、俳句を詠んだ。

 

 本人はその出来に満足してるのか、うんうんと言った様子で頷いている。

 

「ただいまぁ、みほちゃん!」

 

「おかえり、つよしくん!」

 

 会社での仕事を終えた雉野つよしが扉を開けると、奥から妻である雉野みほの声がした。

 

「ちょうど料理も出来上がったところなんだ、一緒に食べよ?」

 

「うん、勿論!」

 

 みほの誘いに満面の笑みで応じるつよし。

 

 上着をハンガーにかけ鞄を置いた後、みほと椅子に座り、両者共に「いただきます」と言ってご飯を食べ始めた。ちなみにオムライスである。

 

「美味しいなぁ、やっぱりみほちゃんの料理は最高だよ!」

 

「そう? つよしくんに喜んでくれて嬉しいな」

 

 犬塚翼は路地を歩いていた。

 

「犬塚さーん!」

 

 後ろから声が聞こえて、翼は振り返る。するとそこには走ってきた桃谷ジロウが。

 

「お前か。どうした?」

 

「いえ、お仕事の帰りで、これからご飯食べに行こうかと思って! あ、良かったら犬塚さんも一緒にどうです? 僕が奢っちゃいますよ!」

 

「良いのか? ……じゃ、喜んで」

 

「よし! じゃあ行きましょう! オススメのお店知ってるんですよ!」

 

 桃井タロウは、自身に与えられた部屋のベッドに入り、天井を見つめていた。

 

「……………………」

 

『……大事にしなよ、お供達のこと。その人達との出会いは……より良い未来へ進む為の大切な縁だと思うから』

 

 タロウは、ソウゴのその言葉が何故か心に残っていた。

 

「より良い未来か……」

 

 呟くタロウ。ソウゴの言葉は、頭の何処かには置いておこう。そう思いながら、タロウは眠りについた。

 




声:桃井タロウ
じかーいじかい
ついにドンジオが最終回!
敵との決戦の時だ。異世界に集結するお供達。何?まさかお前達は!

ドン最終話「2022:どんぶらオールスター」
めでたしめでたし!


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どん最終話 2022:どんぶらオールスター 上


介人「これまでのドンジオ……」


ソノイ「センシャルでエキゾチック!! オリエンタルノートッ!!」プシュッ

ソノニ「(プシュッ)ゴージャスで、ロマンチック!! フローラルノート!!」

ソノザ「ミステリアスでハーバル!!(プシュッ) ウッディーノート!!」

ソノイ「暴太郎戦隊……」

(アバタロウセンタイ……) ※エコーです

(ドンフレグランス……) ※エコーです

ソノイ「ドンフレグランス!!」

ソノイ「お前ら全員(プシュッ)……匂ってやるぜ!!」

(※プシュッは香水の音です)


タロウ「違う違う!! これまでのドンジオは!!」


タロウ「中身は赤身だ!! 鉄火丼レッド!!」カアンッ!

猿原「天まで昇るぜ!! 天丼ブルー!!」カアンッ!

はるか「卵はふわとろ!! カツ丼イエロー!!」カアンッ!

犬塚「海苔を散らせ!! 海鮮丼ブラック!!」カアンッ!

雉野「ァベェニ生姜がポイントォ!! ギュュュウドォォォンピィィィンク!!」カアンッ!

パシッ パシッ パシッ(手を繋ぐ音)

バッ(食事処の提灯が広げられる音)

タロウ「暴太郎戦隊!!」カアンッ!

5人「ドンブリーズ!!」
カアンッ!カアンッ!

タロウ「払ってやるぜ!! どんぶり勘定でなァ!!」


はるか「ってそれも違うでしょうがァ!!」

はるか「異世界へと飛んでしまった桃井タロウ。そんな彼を迎えに行く為、私達ドンブラザーズもまだ見ぬ異世界へと飛ぶ決意をしたのであった! そう言うわけで! もう一つのどん最終話、とくとご覧あれ!」


 来たるかな また来たるのかな 春風や

 

…………突然俳句から始めてすまない。猿原真一だ。

 

 まず、最近の私の出来事を少しばかり語ろう。

 

 私は戦いに疲れポイントを使って休暇を取り、漫画家として売れっ子だった過去の時代に戻った『はるちゃん』こと鬼頭はるかを迎えに行った。

 

 それでその時間軸での他のドンブラザーズのメンバーとの邂逅やら、未来からの刺客が襲来やらと、色々あったのだ。

 

 その後、どうにか私達は元の時間軸へと帰還を果たすことは出来たのである。

 

 それでもって、

 

「ほーほっほっほっほっほっほっほっほっ!! ほっほっほっほおうほっほほうほっほああーーーーーー!!」

 

 私は……私は今……。

 

 はるちゃんと……ドライブデートを……しているんだ……。

 

「ほーーーーーーーーーーうほっほほっほうほあああーーーーーー!! 全力全開!! エンジン全開!! マッハ全開!! 爆走じゃァァァァァァァァァァァァァ!! ヒャッハァァァァァァァァァァァァ!!」

 

「はるちゃん!! 目を覚ますんだ!! はるちゃん!! 自分の本能に飲み込まれてはいけない!!」

 

 今。

 

 はるちゃんが。

 

 運転を担当しているのだが。

 

 それはそれはまぁ。

 

 荒いったら、荒い。

 

 ドリフトは決めるわ。

 

 急カーブはするわ。

 

 おかげさまで車内に体をぶつけまくるわと。

 

 とにかく、ヤバいのだ。

 

 こういう時こそ空想の力が必要なのかもしれないが、空想しようにもする暇がない。

 

 いくらはるちゃんといえどこんなデートは勘弁願う。

 

「ふっふっふゥゥゥゥゥゥゥゥゥう!! ドリフトするの気持ち良すぎでしょ!! 音速超えてもまだまだ足りねェぜェェェェェェェェェ!!」

 

 もはやはるちゃんは別世界へとトんでしまっている。

 

 私の声はもはや届いていないだろう。

 

「誰か!! 誰か助けてェェェェェェェェェ!! ライダー助けてェェェェェェェェェ!! 出してェェェェェェェェェェ!!」

 

 果たしてこのドライブデートに終着点はあるのだろうか。

 

 それはまさしく神のみぞ知るのだろう……。

 

 誰でもいい……桃井タロウでも……ジロウでも……雉野でも……犬塚翼でもいいから……。

 

 助けて……。

 

「ヨホホホほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほっほーーーーーーーーーーうほっほああーーーーーー!!」

 

「うわァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

◇◇◇◇

 

 現代の時間軸にて。

 

「あ」

 

 鬼頭はるかは彼女の叔母である鬼頭ゆり子の頼みで買い物の為、外に出ていた。

 

 その帰り道、彼女は空にある物を見た。

 

「虹だ。朝は雨だったからなぁ」

 

 今は晴れているが、朝は雨だったことを思い出すはるか。

 視線を戻し帰宅しようとした時、彼女はある女性を目にする。

 その女性は、空に浮かぶ虹に向けて手に持っているカメラで撮影をしていた。

 

「あれって……もしかして……」

 

 はるかはその女性の後ろ姿に覚えがあった。

 

「あの……」

 

 はるかは駆け寄りその女性に声を掛ける。声を掛けられた彼女は振り返った。

 

「カメラマンの前田真利菜さんですよね?」

 

 カメラで撮影していた女性の名は前田真利菜。はるかが一時期ドンブラザーズを脱退していた際、彼女がオニシスターの後任を担当していたのだ。

 

「貴方は……」

 

 だが、はるかが再びオニシスターになったことにより、真利菜がドンブラザーズとして活動していた記憶は無くなった。その為、はるかとの出会いの記憶も真利菜は覚えていないのである。

 

「あっ……私、鬼頭はるかです!」

 

「鬼頭はるか……あぁ、あの漫画家の!」

 

「虹、撮ってらっしゃったんですか?」

 

「はい、そうです。本当はもっとちゃんと準備したかったんですけど。良い虹の写真を狙うには、雨が降る前から準備しなきゃいけないんです。晴れた時こそ、奇跡の瞬間がやって来ますからね!」

 

 真利菜は空の虹を見上げて、生き生きとした笑顔でそう言った。

 

(……変わった甲斐があったかも)

 

 一度は解決した盗作問題をまた被ることになってしまったが、彼女が、真利菜が被るよりかはマシかもしれないと、はるかは思う。

 かつてはるかがオニシスターをやめて真利菜が後任になった時、今度は彼女の撮った写真が盗作だと呼ばれ始めたのだ。

 

(今思えば、アレも未来の真利菜さんでも来てたのかな)

 

 自分を盗作と訴えた椎名ナオキが未来の自分だったことを思い出し、はるかは考えた。

 

「あ、すいません。少し熱くなっちゃって」

 

「いえいえ、そんなこと!」

 

 細かいことはいいかなと思い、真利菜との会話にはるかは戻る。

 

「そうだ、近々個展をやる予定なんです。もし良かったら見にきてください!」

 

「そうなんですか? じゃあ是非!」

 

「……お互い頑張りましょう。はるかさんも盗作の疑い晴らしてくださいね!」

 

「えっ……」

 

 真利菜の言葉に、はるかは予想外の言葉を投げかけられ思わず戸惑いの表情を浮かべた。

 

「私、貴方の漫画読んでみたんですけど……あんなに情熱の籠った漫画が盗作だなんて、私にはとても思えません。きっと、何か深い訳があるんだと思います。それに……何だか貴方とは初めて会った気がしません」

 

「真利菜さん………………ありがとうございます。私、盗作が晴れるような漫画をきっと描いて見せます! だから……真利菜さんも人を感動させるような写真、これからも沢山撮ってください!」

 

「……勿論です! …………あっ、すみません、私はこの後用事があるので、これで!」

 

「あっ、はい。個展、今度必ず見に行きますから!」

 

 去り際にそう言われ、会釈して去っていく真利菜。はるかは彼女の背中を見つめる。

 

 はるかは空を見上げた後、家へ帰宅する為、歩き始める。

 

 鬼が見た虹は、とても美しかった。

 

◇◇◇◇

 

「入るよ」

 

「らっしゃい!」

 

 猿原真一はラーメンの屋台に来ていた。

 

「何にしやしょう?」

 

 仕入れをしていた屋台の店主は猿原に訪ねる。彼の名は白井。かつてサルブラザーであった男であり、猿原からしたら先代と呼べる人物だ。

 

 かつてはサルブラザーの力を手に入れたがそれを私利私欲なことに使い怠惰な性格になり始め、ドンブラザーズの資格も失い以前の職場からも追い出され職無しの流れ者であったが、とある一件から心を入れ替えて新たにラーメン屋として再出発をした。

 

 席についた猿原は貼ってある札を見る。彼の視線は、『空想のラーメン 時価』に注がれていた。

 

「空想のラーメンを」

 

「あいよ!」

 

 猿原の注文を受け、白井は準備を始めた。

 

「お待ち、メンマ大盛り!」

 

 しばらくして、準備が終わり白井はラーメンの器を差し出し、それを猿原が受け取った。

……が、その器の中は空であった。スープの一滴も入っていない。

 

「ふっ、相変わらず分かっているな」

 

 だが猿原はそれに対して文句を言うことは無く、器を受け取りテーブルに置いた。

 

「いただきます」

 

 猿原が手を合わせてそう言った後、右手に割り箸を持つ。

 それを器の中へ入れ、まるで麺を掴むような動作をすると口へと運んで啜る音を立てる。傍から見れば、それは落語家の芸のようであった。

 

「うん、美味い!」

 

 だが、猿原本人は真面目に食事をしている。これは彼曰く「空想の力」であり、「想像力は時に現実と同等の力を持つ」とも語っている。つまり、一見食していないように見えても、彼にとってそれは真面目な食事なのだ。

 

「それで、最近どうです? モンスターとの戦いは」

 

 白井は仕込みをしながら猿原に問う。

 

「ふむ……トラブルはあったりするが……まぁ上手いことはやっているよ」

 

「そうですか、なら良かった。……本当なら俺がやるべきことだったんでしょうけど。今からでも間に合いますかね? サルブラザー2とか」

 

「ううん、それはどうだろうなぁ?」

 

「ははっ、冗談ですよ。はい、サービスの替え玉」

 

「おっ、どうも」

 

 猿原は白井から替え玉の皿を受け取る。皿の上にはやはりと言うべきか、麺は乗ってなかった。

 

◇◇◇◇

 

 ぐうっ、と腹の音が聞こえる。

 

「もう昼か……どっかで飯でも食うか」

 

 その音の発生源は犬塚翼だった。腹をさふりながら、彼は店を探すために歩く。

 しばらく歩くと店を発見。入ろうと歩いた時。

 

「ああっ、貴方は!」

 

 誰かが声を上げた。その声の方を見ると。

 

「お前は……」

 

「久しぶりですね!」

 

 犬塚の目の前にいたのは金髪のパーマに黒いジャケットを着ていて、ギターケースを抱える男。その名も乾龍二。

 乾はバンドマンであり、訳あってイヌブラザーに変身したことがあり、犬塚とも関わりがある。

 

「お待たせしました!」

 

 店員が犬塚と乾の元へ料理を運ぶ。両者とも生姜焼き定食だ。二人とも「いただきます」と言って食べ始める。

 ちなみに彼らの傍には、大食漢の太い男性がいた。その男は既に何十杯もカツ丼を平らげていた。最初に店へ入った時、犬塚と乾はその光景に軽く引いた。彼は元天装鬼の男である。

 

「それで、最近どうだ? 彼女とか、夢とか」

 

 食事の途中、犬塚が乾に聞く。

 

「夢については……諦めました」

 

「…………そうか、すまん」

 

 余計なことを聞いてしまった。そう思った犬塚は、乾に謝罪する。

 

「いえ、良いんです。それに……新しい夢も見つけましたから」

 

「新しい夢?」

 

「彼女を幸せにする。それが新しい夢です」

 

誇らしげな笑みを浮かべてそう告げる乾。

 

「その為に、今は働き口を探してるところです! それに、音楽の夢も完全に諦めた訳じゃないんです。これからは動画サイトにぼちぼち投稿して、あわよくばスカウトされたりー……なんて」

 

「……そうか、頑張れよ。応援している」

 

 意気揚々と語る乾を見て、微笑む犬塚。それと同時に、いつか自分も恋人である夏美を取り戻すことを想った。

 

◇◇◇◇

 

「いただきます」

 

 ロズワール邸の大食堂で椅子についていた桃井タロウが目の前の朝食を前にしている。

 

 まずはサラダを食べる。キャベツのシャキシャキとした歯応えを味わいながら、トマトを咀嚼し甘酸っぱい感触が口内で弾けている。

 キャベツとトマトとは言ったが、正式名称は不明だ。

 

 サラダを完食し終えた後、次にパンに手をつけた。ちぎって口の中へと運んでゆく。

 そのパンは固すぎず柔らかすぎず芳醇な香りが漂い、中の生地もモチモチとした食感であり、シンプルな素材でありながら美味しいパンであった。

 こちらも正式名称は不明だが、外見はロールパンと同じであった。

 

 パンを食べた後、ついにスープへと移った。

 

 その際、タロウと共に同席していたスバルとエミリアとロズワールの後ろに立っているレムとラムは彼の方に一斉に視線を向けた。4人とも緊張した目つきだ。

 

 タロウが食そうとしているスープを担当したのはレムであった。早い話、32点の批評を貰った前回のリベンジなのである。

 

 スプーンで野菜やら鶏肉やらを掬って口に運び、最後はスープを全て掬い飲み干したのであった。

 

「ご馳走様でした」

 

スプーンを置き、手を合わせるタロウ。

 

「あのー……どうでしょうか? 今回のスープ……」

 

「うん、少し腕を上げたな」

 

「おっ、これは割と良い評価を貰える感じ……!?」

 

 レムに尋ねられ頷きながら言ったタロウ。その反応にスバルは期待した表情をするが、

 

「42点だ」

 

「いやまだ低いんかいっ!」

 

「相変わらず厳しいようだねーぇ」

 

 タロウが下した点数を聞いてスバルはギャグ漫画もかくやという勢いでツッコミを入れた。ロズワールも苦笑いしている。エミリアも同様で、ソウゴは微笑みながら食事を続けていた。

 

「何事もすぐにとはいかないからな。研鑽して積み重ねていけ」

 

「……成る程、分かりました。精進します」

 

 タロウからそう言われ、レムは気を引き締めたような表情で返答した。近くにいたラムは機嫌が悪そうである。

 

「タロウさん……こういう時って大体お世辞でも高い点数にするべきっすよ?」

 

「世辞など言ったところで、相手の為にならないから不要だ。俺は真っ当な評価しか付けない」

 

「その評価の基準が高すぎるっつーか……誰も彼もがアンタみたいな天才ってわけじゃないんすよ」

 

 スバルのその何気ない軽いノリの一言に、ずっと真顔であったタロウの表情が少しばかり翳りを見せた。

 

「あ……」

 

それに気づいたエミリアは不安を浮かべた顔で小さく声を上げる。レムもそれに気づいたのか気まずい表情。

 ソウゴも表情こそ変えてないが、タロウのことを見ている。

 

 しかし、スバルはタロウの顔と2人の反応に気づくことはなく、言葉を続ける。

 

「というかさー、俺がいうのもなんだけどアンタは謙遜ってもんを……」

 

「バルス、よしなさい」

 

 そこへスバルを止める声が入った。それはラムであった。

 

「ラム、お前は良いのかよ?」

 

「別に良いわけじゃないわ。ただ、これ以上不毛な争いを続けようとするバルスが見るに堪えなかっただけよ」

 

「いや見るに堪えないて」

 

「ロウタが低評価を下そうが、更に腕を磨いて目にモノ見せてやればいいだけよ。レムが」

 

「いやそうだけど。そうだけどアンタじゃないんかい」

 

 真面目に言ってるのか、ふざけているのか分からないラムの発言にツッコミを入れていくスバル。一方のエミリアとレムは良い方に場が和み、ホッとする。

 

 そして、ラムの介入の意図を察していたタロウは密かに微笑んでいた。ソウゴはそれに気づき、同じように微笑んだ。

 

◇◇◇◇

 

「アァァァアァ…………!! 誰か、誰か俺に自由を教えてくれェェェェェェェェェ!!」

 

 街中では新たなヒトツ鬼が出現し、暴れていた。その名は預言鬼。

 

 預言鬼が暴れている最中、突如として街中に五つの影が出現する。

 

 タロウことドンモモタロウを除く、ドンブラザーズのメンバーであった。

 

「! ヒトツ鬼!」

 

 預言鬼の存在に真っ先に気付いたのはオニシスター。

 

 その声によりサルブラザー、イヌブラザー、直前まで会社のアレコレで電話をしていたのであろうキジブラザー、腕立て伏せをしていたドンドラゴクウも預言鬼に気づき、臨戦態勢に移った。

 

「! お前らァ、俺に自由を教えろォォォォォォォォォ!!」

 

 預言鬼はドンブラザーズに気付き襲いかかる。

 

 タロウなら「自分で見つけろ!」なんて一蹴しそうだなァなんて思いながらオニシスターはフルコンボウで迎撃する。

 

 サルブラザーは自慢の剛腕で殴りかかり、ドンドラゴクウは龍虎之戟でリーチを活かしながら刺突攻撃。キジブラザーは空から奇襲をかけ、イヌブラザーはドンブラスターによる射撃攻撃を行う。

 

 その攻撃を一斉に受けた預言鬼は倒れるが、

 

「え!? 木!?」

 

 倒れていたのは預言鬼の鎧を纏った大木であった。

 オニシスターが驚いてる間に、後ろから悲鳴が聞こえる。預言鬼の攻撃をキジブラザーとイヌブラザーが受けたのだ。

 

「問題! 自由とは何だ!?」

 

 突如として預言鬼が問題をドンブラザーズに向けて出題する。

 

「自由か……自由というのは、何者にも縛られないこと。だが、真の自由というは人の心それぞれにあり……」

 

「長い! 不正解!」

 

「ぐあーっ!」

 

 サルブラザーが答えるが、少し長かったのが預言鬼の癪に触ったらしく電撃を喰らってしまう。

 

「僕に任せてください!」

 

 ドンドラゴクウが預言鬼に迫ろうとする。

 だが預言鬼は何処からかミサイルを発射し、地面に着弾させ爆発させる。ドンドラゴクウは後ずさるが、爆炎の中から預言鬼が現れ、両手に氷を纏った状態でパンチを繰り出す。

 

 咄嗟にそれを避け、その後も繰り出されるパンチをいなしながら、刺突を喰らわせるドンドラゴクウ。

 

 対する預言鬼も長槍を取り出してそれを振りかざす。それを龍虎之戟で受け止め、お互いに刃で打ち合いをしばらく続けると、互いに競り合いとなる。

 

 そして、そのタイミングで異変は訪れた。

 

「あっ、あれは……!」

 

異変にまず気づいたのはオニシスターだった。彼女の視線の先に”それ”はあった。

 

「あのオーロラ!」

 

 桃井タロウを異世界へと連れ去った灰色のオーロラカーテンがあった。

 

 オニシスターが立ち上がった瞬間、それは彼女含むドンブラザーズの元へ迫り、彼らと預言鬼を一瞬で飲み込んだ。

 

「! ここは……」

 

 オニシスターが辺りを見回すと、そこは何処かの荒野。辺りには誰もいない。他のメンバーも周りを見回している。

 

「ふっ! はあっ!」

 

 一方、謎の場所へ転移してもドンドラゴクウは変わらず預言鬼と戦い続けていた。

 

「ぐあっ!」

 

 だがその時、彼の脇腹に光弾が命中してその体を吹き飛ばす。

 その光弾が飛んできた方向にサルブラザーは視線を向ける。するとそこには、

 

「! お前は……アナザードンブラザーズ……!」

 

 赤い異形————もとい、アナザードンブラザーズがいた。

 

「アァアアア……! 総理大臣ンン……!」

 

 彼の後ろには魔王鬼も居た。ついに決戦の時。

 

 ロズワール邸では、庭でタロウ達が洗濯をしていた。

 

『ドン! ブラスター!』

 

 服を干していたタロウの目の前にドンブラスターが現れる。

 

「現れたか」

 

 タロウはただ一言そう言った。

 

◇◇◇◇

 

「ふっ! はあっ! ぐっ!」

 

 サルブラザーがアナザードンブラザーズにパンチをするがそれを受け流され、逆にパンチを喰らわされる。

 

「はあっ! グエーッ!」

 

 オニシスターがフルコンボウで殴りかかるが同じ黄色の棍棒で受け止められ、逆に殴り返された。

 

「うわあっ!」

 

「ぐあっ!」

 

 キジブラザーとイヌブラザーがドンブラスターを使って撃つがそれを避けられると飛行して攻撃され、地面に着地した後は黒い星形手裏剣で攻撃される。

 

「はあっ!」

 

「ふんっ!」

 

 ドンドラゴクウと加勢したドントラボルトも切り掛かるがその攻撃を金の槍で受け止め弾き返し、そのまま切って彼らを後退させる。

 

 そしてアナザードンブラザーズは黒刀を構えると、みるみるその刀身に赤黒いエネルギーが満たされてゆき、剣を振るうと大きな斬撃をドンブラザーズに放った。

 

 斬撃が直撃すると大きな爆発が起き、六人の悲鳴が混ざって響き渡る。

 

 爆炎が晴れると、変身解除した状態の六人が倒れていた。

 

「あいつ……! 強い!」

 

「だが……! このまま終わるわけにはいかないだろう!」

 

 はるかと猿原に続くように、他のメンバーも立ち上がりそれぞれ武器を構える。

 しかしそれも無駄だと言わんとばかりに、アナザードンブラザーズは再び刀身にエネルギーを溜める。

 その時だった。

 

「ッ!」

 

 突如飛んできた赤色の複数の光弾がアナザードンブラザーズに命中し、後退させる。

 

 その光弾に一同は振り返ると、そこには、

 

「タロウ……!」

 

 赤いサングラスを掛けている桃井タロウがいた。それと、常磐ソウゴ達も。

 

「まだ行けるな、お供達」

 

「あぁ」

 

「うん!」

 

「ふんっ……」

 

「はい!」

 

「勿論ですッ!」

 

「言われるまでもない……!」

 

 タロウの問いかけに猿原、はるか、犬塚、雉野、ジロウ、裏ジロウはそれぞれ答える。

 

「ふふっ……良いお供だね!」

 

『ジクウドライバー!』

 

 ソウゴはそう言いながら笑い、ジクウドライバーを腰に当てる。両端から噴き出すようにベルトが形成され、ぐるりと回り装着。

 

『Zi-O!』

 

 ベゼルを回しジオウライドウォッチを起動させ、彼から見て右側のD'9スロットに装填した後、天面のライドオンリューザーと呼ばれるボタンを押してロックを解除し、ジクウサーキュラー、もといベルトが傾く。

 

 彼が腰を落とし、左腕を右肩近くまで上げる動きをすると同時に、タロウ達もドンブラスター、もしくは龍虎之戟のギアテーブルにアバタロウギアをセットし、それぞれ構えた。

 

「変身!!」

 

「「「「「「「アバターチェンジ!」」」」」」」

 

 八人の声が重なる。異なっていた道が交わって行く。

 

『ぃよぉ〜ッ!』

 

 ドンブラスターを使う五人が金色の桃のエンブレムが刻まれたスクラッチギアを回すと、合いの手が聞こえた。

 

『ドン! ドン! ドン! ドンブラコオッ! ア・バ・タ・ロォ〜!』

 

 四回ほど回した後、再び声。だがその次に放たれる声はバラバラで、『ドンブラコ!』やら『ウッキウキ! ウキウッキ!』やら『福は内! 鬼も内!』やら『ワンダフル!』やら『トリッキィー!』やらと、違いは間違いじゃないとでも言わんばかりに、とにかく個性を押し出していた。

 『ドラ! ドラ! ドラゴォーン!』『タイ! タイ! タイガァー!』と一方の2人の武器も独自の音声を放っている。

 

 やがて七人は武器を天に掲げトリガーを引き絞り、ソウゴは上げていた左腕を振り下ろして傾かせたベルトを、ジクウサーキュラーを回転させる。

 

『ライダァー! タァーイム!』

 

 その声と同時にソウゴは回転する巨大なリングに囲まれると体が黒いボディに変化しはじめ、七人は天から降ってきたアバタロウギア型のエネルギー、アバターデータが体を通り抜けアバタロウスキンがその身に纏われる。

 

『仮面! ライダァー! ジ・オーウッ!』

 

『ドン! モモタロォ〜! よっ! 日本一ッ!』

 

『サルブラザァ〜! よっ! ムッキムキィ!』

 

『オニシスタァ〜! よっ! 鬼に金棒ッ!』

 

『イヌブラザァ〜! よっ! ワンダフルッ!』

 

『キジブラザァ〜! よっ! トリッキィ〜!』

 

『超一龍ッ! アチョォーーーーーー!!』

 

『エクストラッ! ホアチョーーーーーーッ!』

 

 色とりどりのスーツとマスクが装着され、変身完了。

 

 そして……仮面ライダージオウと、ドンブラザーズ達が今ここに————!

 

「………………あれっ?」

 

 その時、同行してきたエミリアが何かに気づき声を上げた。

 

「タロウさん…………何処行ったの?」

 

 見れば————変身したであろう桃井タロウが、その場に居なかった。

 

 それを聞いた他のメンバーもタロウが居ないことに気づき周囲を見渡す。

 

「ハーハッハッハッ!」

 

『ぃよぉ〜ッ!』

 

 その時、何処か遠くから甲高い笑い声と合いの手が聞こえた。

 

 声がした方を一同が見ると————。

 

「ハッハッハッハッ! ハーハッハッハッ!」

 

 何故か数人の天女が舞い踊る中、神輿に担がれたドンモモタロウがやって来たのだ————。

 

「「「「え????」」」」

 

 スバルとエミリアとレムとラムが思わず出した声は、それはそれは綺麗に重なった。

 

「え? え? え? な、な、な、何? 何アレ? え? な、何? え? 何? え? ホントに何? え? は? え? ん?」

 

 スバルは戸惑いに戸惑っていた。本当に戸惑っていた。それ以外に彼の今の状態を表すことは出来なかった。

 

「タロウさん………………?」

 

「タロウくん………………?」

 

「ロウタ………………?」

 

 エミリアとレムとラムも、呆然とした顔でドンモモタロウを見つめていた。

 

「やぁやぁやぁ! 祭りだ祭りだァ! 踊れ! 歌え!」

 

 天女によって紙吹雪が舞い、複数人の祭り男によって担がれている神輿の上にその存在感を強調する赤色の巨大なバイク————エンヤライドンに搭乗しているドンモモタロウは、桃のエンブレムが入った扇子を扇ぎ、高らかに声を上げる。

 

「袖振り合うも他生の縁! 躓く石も縁の端くれ! 共に踊れば繋がる縁! この世は楽園ッ! 悩みなんざ! 吹っ飛ばせェ! 笑え笑え! ハッーハッハッハッ!」

 

「…………いや笑えねェよ!!」

 

 スバルは盛大にツッコミを入れた。しかしそれに構わず、ドンモモタロウは笑っていた。

 

 ドンモモタロウはエンヤライドンのハンドルを回し、エンジンを噴かす。

 

 やがて担がれていた神輿から盛大にジャンプして地面に着地して走り出す。しばらくした所でドリフトを決めて華麗に停車した。

 

 エンヤライドンから降りて悠々と歩き、他ドンブラザーズのメンバーの元へ赴く。

 

「お供達! 名乗るぞ!」

 

「名乗る……?」

 

 スバルはこれ以上何をやるんだよ、と言いたげな顔でドンモモタロウを見る。

 

「聞けえェェ!」

 

 だがドンモモタロウはそんな視線を気には止めない。アナザードンブラザーズを視線に据え、高らかに告げた。

 

「桃から生まれたァッ! ドンッ! モモタロォ〜ッ!」『よっ! 日本一ッ!』

 

「浮世におさらば〜。サルブラザー!」『よっ! ムッキムキィ!』

 

「漫画のマスター! オニシスター!」『よっ! 鬼に金棒ッ!』

 

「逃げ足No.1! イヌブラザー!」『よっ! ワンダフルッ!』

 

「鳥は堅実! キジブラザー!」『よっ! トリッキィ〜!』

 

「筋骨隆々! ドンドラゴクウ!」『超一龍!』

 

「俺が最強……! ドントラボルト……!」『エクストラッ!』

 

「暴太郎戦隊ィ!」

 

 全員が名乗りを上げ、最後にドンモモタロウが自身らが何の戦隊であるかを告げる。暴太郎とは何なのか全然分からないが。

 

「「「「「「「ドンブラザーズ!!」」」」」」」

 

何処からかクラッカーから噴出されたような紙吹雪が飛び出し舞う。それはおめでたいお祭りごとのように。

 

「お……おおー…………」

 

「かっ…………かっこいい…………!」

 

 こくこくの頷きながらその名乗りの勢いに気圧されるスバル。一方でエミリアはまるでヒーローショーを観る子どものように目を輝かせていた。

 

「おい」

 

 名乗る際、右手で扇子を掲げオニシスターに支えられた状態になっていたドンモモタロウがジオウ達を見る。

 

「お前達も名乗れ」

 

「……へっ?」

 

素っ頓狂な声を出したのはスバルであった。急に名乗りをドンモモタロウからせがまれた為であった。

 

「いや……突然名乗れって言われても……」

 

「時の王者、仮面ライダージオウ!」『Zi-O!』

 

「いや名乗ったー!?」

 

ジオウが威勢よく名乗り、戸惑いから一転、ツッコミを入れた。

 

「ロズワール・L・メイザース辺境伯が使用人筆頭。もとい、スバルくん専属の万能お役立ちメイド、レム!」

 

「レム……!?」

 

「ロズワール・L・メイザース辺境伯が使用人。もとい、レムのただ一人の姉、ラム!」

 

「ラム……!?」

 

「……わ、私はエミリア! ただのエミリア! 大精霊パックを従える精霊術師にして、やがてルグニカ王国の未来を担う者!」

 

「あ、ちなみにパックは僕のことね!」

 

 エミリアが名乗った後、何処からかパックが出て来てそう言った。

 

「…………み、皆……名乗っちゃったよォ〜!?」

 

「おい、お前も早く名乗れ」

 

「へっ」

 

「ウダウダするな、早くしろ」

 

「エッ、アッ、アッ、アッ、アッ…………ハイ……」

 

 ドンモモタロウに妙に圧のある言葉に、スバルは生返事で返した。

 

「……お、俺の名前はナツキ・スバル! 元無知蒙昧にして天下不滅の無一文! 今はロズワール邸の下男!」

 

「ほう、やれば出来るじゃないか」

 

「……そりゃどうも……」

 

 ドンモモタロウの褒めの言葉をスバルに送るが、本人は嬉しそうでは無かった。

 

「さァ、祭りだ! 行くぞォォォォ!」

 

「よォし! 何か行ける気がする!」

 

 ザングラソードを持ったドンモモタロウと字換銃剣ジカンギレードを持ったジオウがわざわざ待っていてくれたアナザードンブラザーズ(と、魔王鬼と預言鬼)目掛けて駆け出す。

 そしてそれに続くように、他のメンツも走り出した。キジブラザーは飛んでいた。

 

「そりゃァ!」

 

「ハアッ!」

 

 アナザードンブラザーズに斬りかかるドンモモタロウとジオウ。相手も黒刀で迎撃、激しい剣戟が繰り広げられる。

 

「ケンケンケェーン!」

 

「喰らいなッ!」

 

 魔王鬼にキジブラザーの羽による斬撃、イヌブラザーにより放たれる光弾が飛ぶ。

 

「行くわよ!」

 

「腕の見せ所だね!」

 

 エミリアが掌を魔王鬼に向けると氷柱が放たれる。パックも腕を振るい氷柱を放った。

 

「せェい!」

 

「おらァッ!」

 

ドンドラゴクウの刺突攻撃とドントラボルトのジャンプにより振り下ろされる斬撃攻撃を魔王鬼は見舞われる。

 

「ふんっ!」

 

「はあっ!」

 

サルブラザーの剛腕とオニシスターのフルコンボウの一撃が預言鬼にダメージを与える。

 

「はあっ!」

 

「フーラッ!」

 

 モーニングスターの鎖を振り回して勢いをつけ投げ飛ばすレムと杖から風の斬撃を放つラム。

 

「……なあ、俺の出番あるか?」

 

「あるんじゃないかしら。肉壁としての出番が」

 

「いやオイオイ」

 

 屋敷の倉庫から剣を拝借してきていたスバルだが、自分以外のメンツが明らかに善戦してるので、出番ある? と純粋な疑問を投げかけた。その後のラムの発言にすぐツッコんだが。

 

「つーか本当にお供に鬼がいたんだな……」

 

 スバルはオニシスターを見る。特に頭部にある銀色の角を。

 ちなみに当の本人はというと。

 

「いやーこんな……こんな漫画でしか見ないようなメイド服着て……その上バリバリ戦うメイドさんとかマジでいたんすね! はーっ異世界スゲー!」

 

「……姉様、何ですかこの人……」

 

「きっと頭がアレなのよ」

 

 レムとラムを見てテンションを上げていた。彼女の漫画家魂に火がついたらしい。

 

「そこのメイドさん! この戦いが終わったら勿論! 取材させてもらってもいいですよね!?」

 

「へっ!? 取材!?」

 

「はい! そうです! 返答はハイかYESしか受け付けませんので!」

 

「断らせる気ねェな!?」

 

  オニシスターの言葉にツッコむスバル。何か今日沢山ツッコんでる気がするなァと内心で彼は思っていた。

 

「はっ! ラムとレムを取材しようだなんて、良い度胸をしてるじゃない。高くつくわよ?」

 

「ヘッヘッヘッ、話が分かるようで助かりますぜ姉貴!」

 

「いや姉貴て」

 

 見るからに手をゴマスリして悪徳商人のような雰囲気を醸し出すオニシスター。そしてツッコミのスバル。

 

「ふむ……ここで一句」

 

「え?」

 

「異世界で 新たな出会い 巡り合う」

 

「????????」

 

 急に俳句を詠み出したサルブラザーにスバルは虚無の顔で茫然としていた。ツッコむ気力を失くしたのだろうか。

 虚無顔になってるスバルの横で、青き猿の風流人は満足げに頷いていた。

 

『タイムチャージ!』

 

『ヘイ! ヘイ! ヘイ! ヘイ! カモォン!』

 

 ジオウがジカンギレードのギレードリューズというスイッチを押し、ドンモモタロウはザングラソードのスクラッチを回す。

 

『5……! 4……!』

 

『アーバタロ斬! アーバタロ斬!』

 

 ジカンギレードのカウントダウンが始まる。その横では陽気な歌が聞こえる。

 

「ふっ!」

 

『3……! 2……!』

 

「そらあっ!」

 

『1……!』

 

 アナザードンブラザーズの黒刀を受け止めると、二人でそれを弾き飛ばす。

 

『ゼロ・タァイム!』

 

 カウントダウンがゼロを迎えた瞬間、二人は己の得物のトリガーを引き絞る。

 

「ザングラソード!」

 

『必殺奥義! アバタロ斬!』

 

「快桃乱麻ァ!」

 

「……ジカンギレード!」

 

『ギリギリ斬りィ!』

 

「時々刻々!」

 

 刀身にエネルギーが迸り、二振りの光り輝く剣がアナザードンブラザーズに振るわれ、その体を後ろへと飛ばす。

 

「さっきの技名どう?」

 

「45点だ!」

 

「きびし〜」

 

 ドンモモタロウの技名への評価に対し、何処か茶化したようにジオウは言った。

 

「はあっ!」

 

「ふんっ!」

 

 ドンドラゴクウとドントラボルトが龍虎之戟から金と銀の斬撃を魔王鬼へと飛ばす。

 イヌブラザーとキジブラザーもドンブラスターで黒と桃の光弾を照射。

 エミリアとパックも氷柱の雨を降らせる。

 

「エル・ヒューマッ!」

 

「エル・フーラッ!」

 

 レムとラムの氷柱と風の斬撃が飛び、サルブラザーとオニシスターによる青と琥珀色の光弾が預言鬼に向かって飛んだ。

 

『スレスレ撃ちィ!』

 

 ジオウの『ジュウ』というマゼンタの文字型の光弾と、ドンモモタロウの紅白の光弾がアナザードンブラザーズに命中する。

 

 腕で防ぎながらも後退するアナザードンブラザーズ。腕を下ろした後、黄色の銃、アナザードンブラスターを構える。

 

 彼が片方の手を上げると、何処からか鳥の咆哮が聴こえた。

 やがてその手に掴んだのは、錆び付いた黄金の不死鳥、アナザーオミコシフェニックス。それをアナザードンブラスターに装着。

 

『パァーリィータァィィィィム……!』

 

 その瞬間、アナザードンブラザーズの体を漆黒のオーラが包み込んだ。

 そのオーロラが晴れると、彼の身体には錆び付いた黄金の鎧とボロボロのマントが纏われていた。頭からはゴツゴツとした歪な角が生えており、極悪非道で欲に塗れた醜悪な鬼のようにも見える。

 その名も、アナザーゴールドンブラザーズ。

 

 そして手を広げて天を仰ぐと、彼を中心に漆黒のドームが発生する。

 

 すると、カラフル且つサイケデリックな外見が特徴の怪人の大群が現れた。その名もアノーニ。

 本来はドンブラザーズの世界と隣り合わせの別世界、脳人レイヤーに住む怪人であるが、今回はアナザーゴールドンブラザーズが生み出した者。さしずめアナザーアノーニと言ったところだろう。

 

 怪人はアナザーアノーニだけではない。欲望の怪人、ヒトツ鬼も現れていた。

 

 一般的なヒトツ鬼であるベニツ鬼にシソツ鬼だけでなく、ドンブラザーズがかつて戦った歴代のヒトツ鬼までもが現れていた。これはさしずめアナザーヒトツ鬼だ。

 

 そして更には、獣人の群れまで出現していた。

 

 獣人とは、今や滅んだ脳人世界・イデオンにて世界を維持する資源としてより効率の良い存在を求めたドン王家によって創られた人工生命体。 しかし結果は失敗に終わり、現実世界の人間を襲いコピーして成り代わり始め世界を侵食する存在となった。

 

 獣人にはランクが存在しており、猫、鶴、ペンギンの三つである。右に行くほど、それは強力な個体となる。

 

 今回の、さしずめアナザー獣人達はネコクローを装備している猫の獣人であった。

 

「な、何だよこれ!? 怪人が、こんなに…………!」

 

 大量に出現した怪人達を見て驚愕するスバル。

 

「ほう、面白い! 俺達が相手してやる!」

 

 そう言って、ドンモモタロウが突撃する。それに続くように、ジオウ達も突撃する。

 

「くっ! ふっ! はあっ!」

 

 オニシスターはフルコンボウを使ってヒトツ鬼やアノーニ達と戦っていた。

 

「! この音は…………!?」

 

 その最中、彼女はある音を聞いた。それは、まるでバイクの走行音のような。

 

 すると、オーロラカーテンが現れる。無限の可能性を手繰り寄せる、世界の銀幕が。

 

 その向こうに、一つの影がこちらに向かっていた。

 やがてその影は大きくなり、銀幕から飛び出した。

 

 現れたのは大きなライトが目立つ青色のバイクに乗り、ヘルメットを被った青緑のスーツの男だった。男はウィリーをしながら走行しており、しばらく走って前車輪を地面につけると、ドリフトを決めて華麗に停車する。

 

 男はヘルメットを脱いでバイクから降りる。

 男は茶髪で端正な顔立ちをしており、その瞳の色は青。余談だが、何故かボトムはスラックスとハーフパンツの重ね履きをしていた。

 

「桃井タロウ!」

 

 男はドンモモタロウを、桃井タロウを呼ぶ。呼ばれた本人は男を見た。

 

「ソノイ!」

 

 男の名はソノイ。彼は脳人レイヤーと呼ばれる異次元世界に住んでおり、人間とは異なる高次元存在の”脳人”である。ちなみに彼は絵画鑑賞が趣味であり、同時に脳人のファッションリーダーでもある。

 

「私達も加勢しよう。アナザードンブラザーズは、私達脳人にとっても敵だ!」

 

 そう言うと彼の後ろに再びオーロラカーテンが出現して二人の人物が現れる。

 

 まず一人は女性であり、その名はソノニ。

 白い瞳を持つ彼女は、ニーハイソックスに見えるフェイクニーソにフットカバーと白いローファー、中に短めのショートパンツを履いているミニスカートにへそ出しの上着と、些か刺激の強い白い衣装で統一されているショートヘアの美しく妖艶な女性。人間の恋愛に興味を持っている。

 

 もう一人の男性はソノザ。茶色の瞳を持つ彼は遊牧民を思わせる茶色い衣服とブーツを身に着けており、やや長めの黒髪を後ろに纏めており、柄の部分が長槍の形状をした傘を常に所持していた。人間の喜怒哀楽に興味を持っている。

 

「ソノニ、ソノザ、行くぞ!」

 

「ええ」

 

「おう!」

 

 ソノイの言葉に二人は応じ、三人は左腕を胸にかざす。腕には全員脳人ブレスが装着されており、それぞれ異なるデザインをしていた。それに彼らは触れる。

 

 触れた瞬間、そのブレスの装飾が巨大化して脳人シールドとなると、彼らの体が光に包まれ、シールドが胸部に装着されて光が晴れる。

 

 光が晴れて現れたその姿は、ジオウやドンブラザーズと同じように全身に鎧を纏った姿だった。

 

 ソノイはメインカラーが紺青の仮面の騎士のようなスキン”バロンクロス“を身に纏った形態。その手には悪き存在を一刀両断する両刃の剣、“一級剣バロンソード“を装備していた。

 

 ソノニはメインカラーが白のスキン“コロンドレス“。額には羽根のような意匠があり、鳥を思わせる金で縁取られた装甲が特徴。頭には小さな角が2本ある。 武装は“二重弓コンドルアロー“。双剣に分離して二刀流で戦うこともできる。

 

 ソノザはメインカラーが茶色のスキン“カゲスタイル“。銀色の武骨な装甲に包まれている。頭部には短い3本の角と渦巻きのような意匠がある。

 武装は持っている傘が変化した十字の刃を持つ槍“三刃槍カゲスピア“。これによる激しい三段突きが彼の得意技。

 

「清廉潔白完全主義、ソノイ!」

 

「美しい花には棘がある。愛を知りたい、ソノニ!」

 

「思い込んだら一直線! ソノザ!」

 

「「「脳人三人衆!! 見・参!!」」」

 

 彼らが武器を構えてポーズを決めると、突如背後から爆発が起き、青と白色と茶色の煙が舞い上がった。

 

「アンタらも名乗るんかァい! しかもなんか爆発したァ!?」

 

「行くぞ!」

 

 ツッコミを入れるスバルをよそにしながら、三人は怪人の大群に突撃した。

 

「はるかさん!」

 

敵を倒していたオニシスターは自分の名前を呼ばれ振り返る。近くにいたサルブラザーとイヌブラザーも振り返った。その視線の先には、またオーロラカーテンが。

 

 そしてそのオーロラカーテンから三人の人影が現れた。その人物達を見て、オニシスター達は驚愕する。

 

「真利菜さん!?」

 

「白井!」

 

「お前……!」

 

 現れたのは、前田真利菜と白井と乾龍二だった。

 三人は、全員共通としてその手にドンブラスターを持っていた。

 

「真利菜さん、何で…………」

 

「目の前にドンブラスターが現れて、これに触れたら全て思い出したんです。それでオーロラに……」

 

「俺もラーメンの仕込みをしていたら、この銃がね」

 

「俺は路上ライブの帰りにな」

 

事情を説明し、オニシスターの疑問に答える真利菜達。

 

「とにかく、私達も一緒に戦います!」

 

「加勢させてもらうよ、兄さん!」

 

「イヌブラザーに今日限りの限定復帰だ!」

 

 そう言って、真利菜、白井、乾の三人はブラスターのギアテーブルにアバタロウギアをセットして構える。

 

「「「アバターチェンジ!!」」」

 

『ぃよぉ〜ッ!!』

 

 合いの手と共にスクラッチギアを回す。

 

『ドン! ドン! ドン! ドンブラコッ!』

 

 そして、天に掲げトリガーを引き絞る。

 

『オニシスター! よっ! 鬼に金棒ッ!』

 

『サルブラザー! よっ! ムッキムキィ!』

 

『イヌブラザー! よっ! ワンダフルッ!』

 

 彼らの体をアバタロウギア型のエネルギーが体を通り抜けデータが実体化し、スキンが纏われた。

 

「おおーッ! これは熱い展開! よし! 皆さんも何か名乗りしてください!」

 

「へ!? な、名乗り!?」

 

「へー、そんなのするのか」

 

「名乗りか、昔考えたなぁ」

 

 オニシスターの突然の頼みに、真利菜オニシスターは素っ頓狂な声を上げ、白井サルブラザーは知らなかったという感じであり、乾イヌブラザーはノスタルジーに浸っていた。

 オニシスターは「さ、早く早く」と見たそうにしている。そんな彼女に気押され、真利菜オニシスターは向き直って咳払いする。

 

「写真のマスター! オニシスター!」

 

「怠けにおさらば! サルブラザー!」

 

「ギターテクNo.1! イヌブラザー!」

 

「おォーっ!」

 

 三人の名乗りを見て感嘆の声を上げるオニシスター。

 

 名乗った三人はそれぞれ怪人の群れへと向かう。

 

『What's up!?』

 

 次にカーテンから現れたのはザングラソードによく似たマゼンタの刀身とシアンの刃を持つ刀。

 

 オーラを纏いひとりでに浮いていたそれのスクラッチギアが回転する。

 やがて刀からエネルギーが放出されると、それは人型へと形成し、紫色の鎧の戦士が姿を現した。

 

『DON! (MURA)(SAME) eeeeee! 切り捨て御免 (Sorry)yyy!』

 

 現れた戦士の名はドンムラサメ。所々装飾に違いはあるが、ドンモモタロウとその容姿が似ていた。彼はドン王家によって生み出された獣人に対抗する為、脳人の元老院が開発した兵器である。

 

『———— 戦いなさい、ムラサメ』

 

 ドンムラサメの脳内に女性の声が響く。声の主の名はマザー。正体は不明であるが、彼女によってドンムラサメは備わっていない筈の自我が芽生え、脳人レイヤーを脱走したのだ。

 

『アナザードンブラザーズは、存在してはならぬもの!』

 

「———— はい、マザー」

 

 マザーの言葉を受け、ドンムラサメは背負っていた刀改め、ニンジャークソードを逆手に持ち、構える。

 

『あっ、その前に貴方も名乗りなさい、ムラサメ』

 

「…………ジョーズに目覚めた、ドンムラサメ…………!」『ドン! ムラ・サメェ!』

 

 そして、目の前にいる怪人達を見据えて駆け出した。

 

 銀幕が出現し、戦場に再び人が現れる。それは椅子に座っている五色田介人であった。

 本を読んでいた彼は、戦士達の戦いに視線を向ける。

 

 椅子から降りると、何処からか銃を取り出す。その名は全界変身銃ギアトリンガー。カラーはレッドのそれは鳥の頭を模していて、銃口はガトリングのそれになっていた。

 

 天面の水色のカバーを開き、アバタロウギアとは別のギアを取り出す。その名もセンタイギア。金色の縁で彩られており、45の文字と戦士の姿が彫られている。

 ギアテーブルにゼンカイザーギアをセットして、カバーを閉じた。

 

「チェンジ全開」

 

 そう呟くと同時に、ギアトリンガーの横に付いてあるハンドルを回し始める。それに比例するように、銃口も回転していた。

 

『45・バァァァァァァン!』

 

 しばらく回すと甲高い声が鳴り響く。その後、一定のリズムで『バンバン!』という声が鳴り、介人はギアトリンガーを突き出してトリガーを引いた。

 

『ババン! ババン! ババン! ババン! ババババァァァァァァン! ゼェェェェェェンカイザァァァァァァ!』

 

 撃ち出された光弾はゼンカイザーギアの形を取り、介人の体を通過する。

 白黒のスーツが身に纏われ、マスクが装着されるとゼンカイザーブラックへ変身完了。

 

「ふっ!」

 

 マントを翻しギアトリンガーを構え、トリガーを引きながら駆け出した。

 

「やあっ!」

 

「はあっ!」

 

「おりゃあっ!」

 

 場面は再びオニシスターとサルブラザーとイヌブラザーの戦いに移る。

 

「……あん?」

 

 ふと、イヌブラザーは戦場の中で何かを見た。

 

「ちょっと待て!? 何だあれは!?」

 

 イヌブラザーが声を上げたのにオニシスターとサルブラザーが気付く。彼の見てる方向に二人も視線を移すと、そこには、

 

「く、車ァ!?」

 

 驚く声を上げたのはオニシスターであった。何と、車がこちらに向かってくるのだ。怪人達を轢きながら。

 

 しばらく走ってきて停車すると、ドアが開いて中から人が降りてきた。その人物は、

 

「大丈夫ですかはるかさん!」

 

「みっ、未来の私!?」

 

 それはなんと、もう一人の鬼頭はるかであった。そして彼女は、オニシスターが言ったように未来の鬼頭はるかである。

 

 そして、もう一人車から人が降りる。

 

「ひ、久しぶり……って程でもないか……過去のはるちゃん……おえ……」

 

「未来の……猿原……さん? 大丈夫?」

 

 それは同じように未来の猿原真一だった。だが、顔は真っ青な状態で今にも吐きそうだった。

 

「な、何があったんだ……未来の私……?」

 

 恐る恐る尋ねるサルブラザー。

 

「い、いやぁ…………少しばかり…………はるちゃんとドライブデートをしてね…………おっ、おえええ…………」

 

「あぁ…………」

 

 未来の猿原の説明を聞いて、何かを察して未来のはるかを見るサルブラザー。

 

「とりあえず、色々とヤバい状況っていうのは分かります。一緒に戦いましょう! さ、しんちゃん!」

 

 未来はるかがしゃがんでいた未来猿原の腕を掴み立ち上がらせる。彼はよろついていた。

 

「…………頑張れ!」

 

 サルブラザーはただそう言った。

 

「「アバターチェンジ!!」」

 

『ドンブラコォ!』

 

 スクラッチギアを回してトリガーを引き絞る。二人の体をギア型のエネルギーが通過し、スーツを形成して変身完了。

 

『オニシスタァ〜!』

 

『サルブラザァ〜!』

 

 二人が変身完了したと同時に、再びバイクの走行音がした。

 

「あれは……!」

 

『DON! (MURA)(SAME) eeeeee!』

 

 ドンムラサメがバイクに乗って走っていた。しかしよく見れば、バイクと同じようにマスクや体に黄金のラインが施されている。

 

「未来のムラサメ!」

 

 そう、彼は未来のドンムラサメである。かつて、未来の鬼頭はるかを狙う刺客として到来したのだ。

 

「ふん………………」

 

 怪人達を轢きながらバイクを停車し、ニンジャークソードを構え駆ける。

 

「はっ! ふんっ!」

 

 ソノイがバロンソードで敵を連続で切り裂く。

 

「ソーノーイー君」

 

 突如何者かに呼ばれ振り返るソノイ。すると、そこには右手に白い手袋をつけ、深紅のコートを着ている男が居た。

 

「お前は……ソノシ!」

 

ソノシと呼ばれた男は手を振って不敵に微笑む。彼も同じく脳人であり、監察官という立場でソノイ達脳人三人衆の上官である。

 

「何をしに来た!」

 

「そんな怖い声を上げなくても、今日は君達と戦いに来たわけじゃあないんだよ」

 

 剣を突きつけるソノイにそう言って、アナザーゴールドンブラザーズを見るソノシ。

 

「元老院の命令でね。君達と同じように、私達もあのアナザードンブラザーズを倒しに来たってワケ」

 

「私達?」

 

 ソノイが疑問の声を上げた時、ソノシの後ろにオーロラカーテンが出現し、二人の人影が現れる。

 

 一人は紫の瞳に、紫色のブラウスをお洒落に着こなしている美麗な容貌の女性。

 もう一人は、灰色の瞳に髪型をオールバックにして灰色の毛皮を羽織っている筋肉質で剛健な男性。

 

「ソノゴ、ソノロク、行くヨ」

 

「うふふ……たっぷり可愛がってあげるわァ……♡」

 

「纏めて叩き潰してやるゥ……!」

 

 ソノシの言葉に続けるように、妖艶な笑みを浮かべるソノゴと獰猛な笑みを浮かべるソノロク。

 三人は左腕を翳して、装着してある脳人ブレスに触れる。ブレスの装飾が脳人シールドとなり体が光に包まれ、シールドが装着されて光が晴れ、鎧を纏った姿となる。

 

 ソノシはメインカラーが深紅で赤い鳥のような意匠があるスキン“アカハデマスク“。その手には“四苦無(しっくない)レッドシャドー“を武装しており、狙った獲物を四方から追い詰める。

 

 ソノゴは額から後頭部にかけて曲がった角が特徴的なスキン“ナショナルフィット“。五速剣“キッドレイピア“を武装し、五つ星級の素早い剣さばきを得意とする。

 

 ソノロクは頭に二対の羽根の様な物が生えたスキン“超硬クリスタル“。六棘棒サンゼンコン“でロックオンした敵を容赦なく叩き潰す。

 

「清潔第一、ソノシ!」

 

「美貌一番、ソノゴ!」

 

「親切大好きィ! ソノロク!」

 

「我ら……」

 

 ソノシのその一言に続けるように、他二人も武器を構える。

 

「「「脳人監視隊!!」」」

 

 脳人三人衆の時とは違い、彼らの後ろで爆発は起きなかった。

 

「さァ、消毒の時間よ……!」

 

 ソノシはそう言って駆け出す。ソノゴとソノロクもそれに続いた。

 

「……………………」

 

 その戦いを、崖の上から見つめている者がいた。それは、キジブラザーこと雉野つよしの妻であるみほだった。

 だが、その表情は真顔であり、何処か様子が違う。

 

「鶴の獣人よ」

 

 鶴の獣人と呼ばれ振り返った彼女が見据えた先にいたのは、警官の制服を着ている中年の男性。彼の名前は寺崎、ドンドラゴクウこと桃谷ジロウの育ての親である。

 

「ペンギンの獣人……お前も来ていたのか」

 

そう言われた寺崎————ペンギンの獣人は、アナザードンブラザーズを見る。

 

「彼らがあの者を倒せなければ、全てが終わる」

 

「ああ………………何もかも、無くなる」

 

 そう言って、それぞれ違うところを見る二人。寺崎はドンドラゴクウを、みほはキジブラザーを見ていた。

 

「………………手を貸すとしよう」

 

「………………これも運命(さだめ)、か」

 

 みほと寺崎は、その体に淡い水色のオーラを纏うと、瞬く間にその体が異形の者へと変化させた。

 

 みほは鶴の獣人へ、寺崎はペンギンの獣人へ。前者は鶴の姿を模した片刃剣、“ツルサーベル“を持ち、後者は構えを取って、崖から飛び上がり戦いの最中へ飛び込んだ。

 

 立ち上がりし全勢力。

 

 交わってゆく縁。

 

 熱狂の祭りが、DONッと幕を開ける————!




えっ?最終話じゃないだろって?上下巻完結タイプだからセーフ!まあCMタイムってことで、多少はね?


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どん最終話 2022:どんぶらオールスター下


告 知

ドラゴンファイヤーズ長官

“五色田介人写真集“大好評発売中

SEXYなの? CUTEなの?

どの五色田介人を好きになっても、良いよ。

“冗談社“
※この宣伝はフィクションです

テーレッテレッテレレレッーレッ ※cm明けのBGM


 丁髷を持つ赤い桃太郎は戦場の中で剣を振るう。その姿は、祭りの中で舞い踊る神のようだった。

 

「ふうんっ! はあっ! そらあっ!」

 

 ザングラソードで敵をドンドン切り裂いていくドンモモタロウ。

 

「はあああああっ! ぃどっこいしょおー!」

 

 敵の肩に乗っかって頭を両足で挟み込む。そのまま体を捻り相手ごと地面に倒れて剣で切り刻み、背後から迫った敵の攻撃もノールックで受け止めて振り返って斬る。

 

 立ち上がりドンブラスターを構え、バックルから一枚のアバタロウギアを取り出す。

 

「アバターチェンジ!」

 

『ぃよぉ〜! ドン! ドン! ドン! ドンブラコォ!』

 

 ギアテーブルにギアをセット、合いの手と共にスクラッチギアを回してアバターデータをロードする。

 

『ゴレンジャー!』

 

 ドンモモタロウはブラスターから『大先輩(でェせんぱい)!』という声がリズムよく流れる中、トリガーを引いた。

 

『よっ! 秘密戦隊ィ!』

 

ゴレンジャーアバタロウギア型のエネルギーがドンモモタロウの体を通過すると、彼はアカレンジャーに変身した。

 

「ハッハッハッ! トイヤアッ!」

 

 鞭型武器、レッドビュートをアノーニ達に向けて振るう。

 

「アバターチェンジィ!」

 

『ドンブラコォ! キョウリュウジャー! ガブリンチョ! よっ! 獣電戦隊ィ!』

 

 キョウリュウジャーアバタロウギアを使い、牙の勇者・キョウリュウレッドへと姿を変えた。

 

「俺を止めれるものなら止めてみろ! ハーハッハッハッ!」

 

 キョウリュウレッドは変身銃ガブリボルバーと獣電剣ガブリカリバーの二つをその手に持つ。至近距離にいる敵を切り裂き、遠距離の敵を撃ち抜きまくる。

 

 キョウリュウレッドはガブリボルバーの上の装填口にガブティラ獣電池を挿入し、カバーを閉じる。

 

『ガブリンチョ! ガブティーラッ!』

 

 閉じた後、レバーを上下に操作し、顎型カバーが開閉する。

 

『ガブティーラッ! メッチャムーチョ!』

 

「ふっ!」

 

 リボルバーを左腕に持ち、右腕にシリンダーを当てて滑らせて回す。

 『ハッハッハッハッハッ』とリボルバーから音が鳴る中、右腕に恐竜の背びれを模した銀色の装甲が武装され、その手にガブティラファングというグローブが装着された。

 

「はあーっ!」

 

 アノーニ達を殴り薙ぎ倒しながら、獣電鬼へと向かうキョウリュウレッド。

 獣電鬼も徒手空拳で戦うがキョウリュウレッドはそれを全ていなし、ガブティラファングで獣電鬼の腕に噛み付き、空へと投げ飛ばす。

 

『ガブリンチョ! ガブティーラ! ガブティーラ!』

 

 ガブリボルバーにガブティラ獣電池を装填し、シリンダーを回す。

 

『バモラムーチョ! ガブーン! ガブーゥン!』

 

 トリガーを引くと、銃口から光弾が放たれ、ガブティラの頭の形を取る。やがてそれは空に浮かんでいる獣電鬼に撃たれ、空中で爆発した。

 

「アバターチェンジ!」

 

『ドンブラコォ! ニンニンジャァー! アカジャー! アオジャー! キジャー! シロジャー! モモジャー! ニンジャー! よっ! 手裏剣戦隊ィ!』

 

 キョウリュウレッドがニンニンジャーアバタロウギアを使い、暴れて天晴・アカニンジャーに変身。

 

「忍ぶどころか、祭りだ!」

 

 変身忍刀・忍者一番刀の刀身を撫で、手裏剣鬼へと駆けるアカニンジャー。道中のアノーニ達を斬り捨て、時に赤色の手裏剣を飛ばす。

 

『金の術!』

 

「シュリケン忍法! 金の術!」

 

『きんきらじゃー!』

 

 五トン忍シュリケンのダイアルを金に合わせて忍者一番刀にセットし、ブレードを回転させた後に、刀を振るった。

 

 手裏剣鬼はその後の攻撃に備えて頭のカサニンジャーシュリケンを構えるが……何も起こらない。

 が、突如頭部に強い衝撃が走る————。しかも一度だけでなく、二度も、三度も。

 何と、空から金色のタライが降ってきて頭に命中したのだ。

 

『ザ・技!』

 

 アカニンジャーは忍者一番刀の技と書かれたボタンを押す。

 

『ナンジャナンジャ? ナンジャナンジャ?』

 

 忍者一番刀の刀身に赤いエネルギーが迸る。

 

「シュリケン忍法奥義……忍烈斬!」

 

『アカジャー! ニンジャー!』

 

 アカニンジャーシュリケンのブレードを回した直後、アカニンジャーは目にも止まらぬ速さで動き、手裏剣鬼を四方から斬り刻む。

 

『忍者一閃!』

 

 そして天高く飛んだ後、真っ直ぐに降下して忍者一番刀を脳天から振り下ろし最後の一撃を決める。手裏剣鬼、爆発四散。

 

「アバターチェンジ!」

 

『ドンブラコォ! マジレンジャー! よっ! 魔法戦隊ィ!』

 

 マジレンジャーアバタロウギアを使い、燃える炎のエレメント・赤の魔法使いマジレッドに変身。

 

「ジー・ジー・ジジル! マジパンチ!」

 

 マジレッドが呪文を唱えると、赤色の魔法グローブ“マジパンチ“が両腕に装着される。

 

「ほう、ボクシングか。面白い!」

 

 マジパンチを見てそう言ったマジレッドは敵に殴りかかる。連続で拳を叩き込み、アッパーカットを決める。

 

「マジ・マジ・マジカ! レッドファイヤースクリューアタック!」

 

 呪文を唱えると、その身に炎を宿すマジレッド。助走をつけてジャンプした後、その身体をドリルのように回転する。

 

 魔法鬼は魔神スティックを振るい炎を放つが、それごと突撃されて爆発。

 

「アバターチェンジ!」

 

『ドンブラコォ! トッキュウジャー! 変身イタシマース! よっ! 烈車戦隊ィ!』

 

トッキュウジャーアバタロウギアでトッキュウ1号に変身。

 

 その手に線路を模した剣、レールスラッシャーを持つ。トッキュウ1号がそれを振るうとレール状のエネルギーが複数現れて煙突鬼達を拘束する。

 

 更に回転銃剣トッキュウブラスター・ウチマスモードを構えトリガーを引く。

 

『ウチマスヨー! ゴチュウイクダサーイ!』

 

エネルギー弾が拘束された敵を全て撃ち抜いた。

 

「アバターチェンジ!」

 

『ドンブラコォ! ゴーカイジャー! ゴォー! カイジャアー! よっ! 海賊戦隊ィ!』

 

 ゴーカイレッドに変身し、ゴーカイサーベルとゴーカイガンを装備する。

 

「ハッハッハッハッハッハッ!」

 

 走って高笑いを上げながら敵を豪快に切り裂き、引き金を引いて天に撃ったかと思えば弾丸が敵に降り注ぐ。

 更にはサーベルからワイヤーが伸び、それが鞭として振り回されて敵の体を地面へと伏せる。

 

「ハデに面白いものを見せてやる! はあっ!」

 

 ゴーカイレッドが飛び立つと、その体が光り輝く。やがてその光が晴れると、なんとその体が巨大なゴーカイレッドのレンジャーキーに変化していた。

 

「そらあーっ!」

 

 キーの下カバーを展開し、ブレードの部分を露出させた状態で敵の群れへ突撃する。その奇想天外な攻撃に旅好鬼やアノーニ達は対処できず、ブレードで相手を倒すレンジャーキーックを喰らった。

 

『ドンブラコォ! キラメイジャー! キラメこうぜ! よっ! 魔進戦隊ィ!』

 

 ひらめきスパークリング・キラメイレッドに変身。

 

 手に持っていた煌輝剣キラメイソードと煌輝銃キラメイショットを合体。

 

『キラメイバスター!』

 

キラメイバスターとなる。

 

『キラッキラメイチャージ!」『チェックメイジ!』

 

 キラメイバレットを装填し、レバーを引く。銃口にエネルギーが収束しトリガーを引くと、赤い光弾が敵を撃ち抜いていった。

 

「アバターチェンジ!」

 

『リュウソウジャー! リュウSO COOL! よっ! 騎士竜戦隊ィ!』

 

サルブラザーは叡智の騎士・リュウソウブルーにチェンジ。

 

 リュウソウケンのハンドルを掴んでガブガブさせた。

 

『ソレ! ソレ! ソレ! ソレ! その調子!』『剣ボーン!』

 

刀身に騎士竜トリケーンの頭部を模したエネルギーが纏われ、剣が振るわれるとそれが飛ばされ敵を一掃。

 

『トッキュウジャー!』

 

トッキュウ2号にチェンジしてホームトリガーを装備する。

 

 目の前にいたアノーニ達に向けて車止め標識型のエネルギーを発射することで、動きを停止させる。その間に光弾を撃って一気に撃破。

 

『ゴォーカイジャーァ!』

 

ゴーカイブルーへチェンジ。もう片方の手にゴーカイガンを持つ。変身者は剣が苦手らしいので、本家とは違い二丁拳銃だ。迫り来る敵をゴーカイに撃っていく。

 

『ルパンレンジャー!』

 

『快盗チェンジ! ルパンレンジャーァ! よっ! 快盗戦隊ィ!』

 

ルパンブルーにチェンジ。前方から来る敵を撃ち抜き、ノールックで後ろの敵を撃った。

 

 右腕に"マジックアロー"を装備。光の弦を引きビーム状の矢を放った。

 

『アバレンジャーァ! よっ! 爆竜戦隊ィ!』

 

本気爆発・アバレブルー。右腕に大型武器、トリケラバンカーを装着。

 

角部分にエネルギーを纏わせ、爆竜鬼に向けて袈裟斬りをするブルースラッシュ。

 

「アバターチェンジ!」

 

『ゴレンジャー! よっ! 秘密戦隊ィ!』

 

 アオレンジャーに変身して、ブルーチェリーを構えて矢を引く。

 

 青いエネルギーを纏った矢が複数本放たれて秘密鬼達を貫いた。

 

「へぇ成る程……俺もやってみるか。よし、これで!」

 

白井サルブラザーはサルブラザーがチェンジする様子を見て自分も試みようとし、バックルからギアを取り出す。それはシンケンジャーアバタロウギアであった。

 

「アバターチェンジ!」

 

『ドンブラコォ! シンケンジャー! よっ! 侍戦隊ィ!』

 

 白井サルブラザーはシンケンブルーへと変身完了。秘伝再生刀シンケンマルを構える。

 

「いざ参る、ってね。はァァァァっ!」

 

 疾走しながら次々に敵を切り裂いてゆく。足を止め踵を返してシンケンマルに龍ディスクをセットし、それを回すと刀身に水のエネルギーが収束する。

 シンケンブルーは剣を振るい水の斬撃を飛ばしてアノーニを一掃する。

 

 そして、シンケンジャーの紋章が描かれている秘伝ディスクをセットして回すと、光を纏って形を変える。形を変えたそれはウォーターアローという大弓であった。

 弓の中心に舵木ディスクをセットする。

 

「はあっ!」

 

 弓を視線の先にいる侍鬼に向け、レバーを引いた。放たれた光弾はカジキの形を取り、鳴き声を上げて敵にぶつかり爆発。

 

「ほほー、やるじゃないか」

 

「へへっ、兄さんこそ」

 

 お互いに称賛を送るサルブラザー二人。敵に向き直り、ブラスターに新たなギアをセット。

 

「「アバターチェンジ!」」

 

『『ドンブラコォ!』』

 

『デンジマン! よっ! 電子戦隊!』

 

『ジャッカー! 電撃隊ィ! よっ! 電撃隊!』

 

 デンジブルーとダイヤジャックにチェンジし、電子鬼達の元へ駆け出した。

 

「アバターチェンジ!」

 

『タイムレンジャー! よっ! 未来戦隊ィ!』

 

タイムイエローにチェンジしたオニシスター。ボルバルカンを連射して未来鬼を撃ち抜いた後、ダブルベクターで切り裂いた。

 

『ルパンレンジャー!』

 

ルパンイエローに変身し、近くにいたアノーニを銃で一回殴った後は銃撃戦に。

 

その後は装備したシザーシールドで敵の攻撃を全て防ぎ、ブレードブーメランを投擲して纏めて撃破。

 

『ジュウオウジャー! アーァアァアーッ! よっ! 動物戦隊ィ!』

 

サバンナの王者・ジュウオウライオン。腕を軽く振るうだけでアノーニ達は吹っ飛ぶ。

 

野生解放により両腕が肥大化し爪が伸びる。その爪に電気を纏い敵を引っ掻く。

 

『キラメイジャー!』

 

導きシューティング・キラメイイエロー。キラメイショットに複数のキラメイバレットを装填&レバーを引くの動作。

 

『キラメイチャージ!』

 

「はあっ!」

 

 トリガーを引いて打ち出された複数のバレットは敵に当たって跳ね返り更に別の敵に当たる。それが繰り返され一気に殲滅。

 

『チェックメイジ!』

 

『ニンニンジャー!』

 

 煌めきの凪・キニンジャーへ。忍者一番刀を逆手持ちに構え敵を切り裂いて行った。

 

『木の術!』

 

「シュリケン忍法! 漫画の術!』

 

『もくもくじゃー!』

 

 キニンジャーが刀を突き出す。すると辺りにA4サイズの紙が辺りに舞い始めた。木は紙の原料だからだろうか。

 

 紙には"初恋ヒーロー"(作:鬼頭はるか)の内容が描かれており、敵の下で皆爆発した。

 

 芸術は爆発だ。かつての岡本太郎はそう残した。

 

「「アバターチェンジ!!」」

 

『ドンブラコォ! トッキュウジャァー!』

 

『ドンブラコォ! ゴォーカイジャァー!』

 

 オニシスターと真利菜オニシスターはそれぞれトッキュウ3号とゴーカイイエローへ変身。

 

「よォし、出発進行!」

 

「ハデに行きます!」

 

 前者はシンゴウハンマーを、後者はゴーカイガンとドンブラスターの二丁拳銃を構える。

 トッキュウ3号は派手に振り回して敵を薙ぎ倒し、ゴーカイイエローは変身者がカメラマンの為か、正確な射撃で敵を撃ち抜く。

 

『ファァァァイナルウェィィィィィィブッ!』

 

 真利菜オニシスターがゴーカイガンにゴーカイイエローレンジャーキーを装填すると銃口に黄色いエネルギーが収束し、引き金をひいて発射。エネルギーを纏った弾丸が飛ぶ。

 

「行っけェ! ホォームラァーンッ!」

 

 そこでシンゴウハンマーを野球のバットのように構えていたトッキュウ3号は飛んでいた弾丸に向けてそれを振るい、飛ぶ速さを加速させる。

 

 弾はイエローレッシャーのエネルギーを纏い空中で生成された線路を走り、海賊鬼と烈車鬼を纏めて撃ち抜いた。

 

「ふふーん、どうじゃい!」

 

「! 次、来ますよ!」

 

 ゴーカイイエローの呼びかけによって、次の敵に気づくトッキュウ3号。二人はドンブラスターを構えた。

 

「「アバターチェンジ!!」」

 

『『ドンブラコォ!!』』

 

『ギンガマン! よっ! 星獣戦隊ィ!』

 

『ターボレンジャーァ! よっ! 高速戦隊ィ!』

 

 ギンガイエローとイエローターボへ。星獣鬼と高速鬼とぶつかり合うのはすぐだった。

 

『キョウリュウジャー!』

 

弾丸の勇者・キョウリュウブラック。ブラスターで敵を次々と撃ち抜く。

 

「アームド・オン!」

 

 キョウリュウブラックが取り出したガブリボルバーのシリンダーを右腕に当てて滑らせ回した。

 

 右腕に銀色の装甲が装着された後、パラサショットが出現。それで敵を一気に撃ち抜いた。

 

『ライブマン! よっ! 超獣戦隊!』

 

 ブラックバイソン。バイソンロッドを構えて超獣鬼の下へ駆け出す。

 

「はあっ!」

 

 超獣鬼の身体を斬りつけて吹き飛ばしたあと、ロッドを光らせて破壊光線を放った。その名もバイソンスパーク。

 

『リュウソウジャーァ!』

 

威風の騎士・リュウソウブラック。駆けながらリュウソウケンで敵を切り裂き続ける。

 

 リュウソウケンのハンドルを持ちガブガブと操作する。

 

『剣ボーン!』

 

 ミルニードルの頭部を模したエネルギーが放たれ、アノーニ達を一掃。

 

『カクレンジャー! よっ! 忍者戦隊ィ!』

 

ニンジャブラックに変身。

 

「隠流忍法! 木の葉の術!」

 

ニンジャブラックが掌印を結ぶと、彼を中心に風が起こり木の葉が舞い始める。それによって忍者鬼達が翻弄されてる内に、次の掌印を結んだ。

 

「雷鳴の術!」

 

 忍者鬼達に雷が降りかかる。

 

『マスクマン! よっ! 光戦隊!』

 

ブラックマスクに変身してマスキーロッドを手に持つ。

 

 ロッドの先端に電磁気が纏われ、光鬼にそのまま打ち込み、相手は爆散。マスキーロッド電磁アッパー突きが決まった。

 

『ドンブラコォ! ジェットマン! よっ! 鳥人戦隊ィ!』

 

『ドンブラコォ! ゴセイジャー! よっ! 天装戦隊ィ!』

 

 イヌブラザーはブラックコンドル、乾イヌブラザーは巌のランディックパワー・ゴセイブラックに変身する。

 

「行くぜ!」

 

 ブラックコンドルは何処からかブリンガーソードを取り出し、ジェットウイングを展開して空を飛び、鳥人鬼とぶつかる。

 

『ガァチャ!』

 

「ゴセイウェポンカード、天装!」

 

『サモン! ランディック・アックス!』

 

 ゴセイブラックがテンソウダーの下顎を開き、ランディックアックスのゴセイカードをセットする。顎を閉じると黒き大斧、ランディックアックスが召喚された。

 

「ふっ……クールに、そして熱く戦うのが黒いヒーローの使命さ!」

 

 少々キザなセリフを言いながら、ゴセイブラックはアックスを構える。

 

「さあ来い……俺は負ける賭けはしねェ」

 

 目の前にいるアノーニの群れと天装鬼を見据え、ゴセイブラックは駆け出した————!

 

「はあーっ!」

 

 ブラックコンドルはブリンガーソードを一閃し、鳥人鬼を撃破する。

 

「よし…………はっ、乾!」

 

 下に倒れているゴセイブラックを発見する。それに襲い掛かろうとする天装鬼達。

 

「させるか!」

 

 ブリンガーソードを構えそのまま降下して一閃。天装鬼達を撃破。

 

「乾!」

 

 ジェットウイングを閉じ、ゴセイブラックに駆け寄るブラックコンドル。

 

「おい! しっかりしろ! おい!」

 

「ああ……空が目に沁みやがる……綺麗な空だ……」

 

「言ってる場合か! 敵にやられたのか!?」

 

「違うな…………俺は俺自身に敗れた…………」

 

「何?」

 

 それは天装鬼達との戦闘に遡る…………。

 

『ふっ! はっ!』

 

 アノーニ達を斬り倒していくゴセイブラック。そしてそのまま、天装鬼に向かっていく。

 

『喰らいな!』

 

 その瞬間、天装鬼の姿が青く輝く。シーイックパワーが発動されたようだ。光が晴れるとそこには、

 

『なっ……祥子、ちゃん……!?』

 

 そこにいたのは乾龍二の恋人である祥子————ではなく、雉野の妻であるみほだった。

 

『のわーっ!』

 

 ゴセイブラックは動きを止めた隙を突かれ、元に戻った天装鬼に攻撃されて倒れた。

 

「俺は戦士である前に人間だ……例え偽物であろうとも……惚れた女は斬れねェ!」

 

「あ、あぁ……そうか……気持ちは分かるが……」

 

 ゴセイブラックこと、乾イヌブラザーの言葉に同意するブラックコンドルことイヌブラザー。

 

(それ、まさかまた間違えたんじゃないんだろうな…………)

 

 イヌブラザーの予想は的中していた。かつて、乾イヌブラザーはみほを祥子と間違えたことがある。とはいえ、みほと祥子の顔は全然違うものであったが。

 

「貸しを作っちまったな、アンタ。この戦いが終わったら、一杯奢るぜ」

 

「じゃ、それまでにまた倒れるんじゃねェぞ」

 

「ふっ…………当たり前だ」

 

 ブラックコンドルが差し出した手を取って立ち上がるゴセイブラック。彼らは目の前の敵を見据え、ドンブラスターに新しいギアを入れる。

 

「「アバターチェンジ!!」」

 

『『ドンブラコォ!!』

 

『ジュウレンジャー! よっ! 恐竜戦隊ィ!』

 

『メガレンジャー! よっ! 電磁戦隊ィ!』

 

 マンモスレンジャーとメガブラックに変身し、恐竜鬼と電磁鬼と対峙した。

 

「アバターチェンジ!」

 

『ドンブラコォ! キラメイジャー!』

 

 キジブラザーは手捌きインクレディブル・キラメイピンクへ変身。

 

「よーし行きますよ! キラメイショット!」

 

 煌輝銃キラメイショットを取り出し、トリガーを引いて光弾が発射される。

 

 蓋を開いて円盤弾のキラメイバレットを5枚セットして、レバーを引く。

 

『キラメイチャージ!』

 

「はあーっ!」

 

 銃口にエネルギーが収束してトリガーを引き、ピンク色のビームが発射され、魔進鬼もろとも敵に直撃。

 

『チェックメイジ!』

 

「アバターチェンジ!」

 

『ドンブラコォ! オーレンジャー! よっ! 超力戦隊ィ!』

 

 オーレンジャーアバタロウギアを使い、オーピンクに変身するキジブラザー。サークルディフェンサーを装備する。

 

 装備したサークルディフェンサーを持ち超力鬼へ斬りかかる。

 

 やがてディフェンダーを構え体当たりをする疾風・超力ディフェンサーを見舞った。

 

『ドンブラコォ! ゴーォカイジャーァー!』

 

 ゴーカイピンクへアバターチェンジ。本家同じく2丁拳銃スタイルであった。

 

 身体をぐるぐると回しながらトリガーを引いてアノーニ達を撃ちまくる。回り終えたあとは少し酔っていた。

 

『パトレンジャー!』

 

『警察チェンジ! パトレンジャーァ! よっ! 警察戦隊ィ!』

 

パトレン3号に。スライディングをかました後に下から敵を撃っていった。

 

『リュウソウジャーァ!』

 

剛健の騎士・リュウソウピンク。リュツソウケンで敵を切り裂く。

 

『剣ボーン!』

 

 リュウソウケンのハンドルを操作したあと、アンキローゼの頭部を模したエネルギーが放たれて爆発した。

 

『トッキュウジャーァ!』

 

トッキュウ5号に成ってテッキョウクローを持つ。掛け声を上げながら敵をクローで裂く。

 

『ゴーグルファイブ! よっ! 大戦隊ィ!』

 

ゴーグルピンクに変身しピンクリボンでなびかせるリボンシャワーで大鬼を攻撃する。

 

 大鬼の身体にリボンを巻き付かせて電撃を流した。ピンクリボンフラッシュだ。

 

『フラッシュマン! よっ! 超新星!』

 

ピンクフラッシュにチェンジして飛び上がり、超新星鬼にキックを見舞う。吹き飛ばされた超新星鬼は爆発。

 

『ゴーゴーファイブ! よっ! 救急戦隊!』

 

ゴーピンクが救急鬼にファイブレイザー・スティックモードで攻撃して突き飛ばした。技名"スティックボンバー"により撃破。

 

『カーレンジャーァ! よっ! 激走戦隊ィ!』

 

ピンクレーサーに変身した。パイブレードを持って走り出す。

 

「うおーっ! みほちゃんみほちゃんみほちゃーん!」

 

 何故か妻であるみほの名前を叫びながら激走鬼やアノーニ達を斬っていた。斬っていた激走鬼になっていた時の記憶が蘇ったのだろうか。

 

「行くよはるちゃん!」

 

「ええ、しんちゃん!」

 

 未来サルブラザーと未来オニシスターは互いに頷き合う。そしてやはりというべきか、それぞれ新たなアバタロウギアを取り出す。

 

「「アバターチェンジ!」」

 

『ドンブラコォ! ガオレンジャー! よっ! 百獣戦隊ィ!』

 

『ドンブラコォ! チェンジマン! よっ! 電撃戦隊ィ!』

 

孤高の荒鷲ガオイエローとチェンジペガサスに変身する未来オニシスターと未来サルブラザー。

 

百獣鬼と電撃鬼に対峙する。

 

 二人はそれぞれイーグルソードによるノーブルスラッシュと稲妻化したアースフォースを放つペガサスイナズマスパークを放ち撃破する。

 

『バイオマンッ! よっ! 超電子ッ!』

 

『バトルフィーバー! J! よっ! バトルフィーバァー!』

 

 お次はイエローフォーとバトルフランス。対戦相手は超電子鬼と世界鬼。バイオソードによるサンダーソードとスパニッシュダンスでまたもや撃破。

 

「僕らも! アバターチェンジ!」

 

 ドンドラゴクウは左腕に装着されている虎的盾鑼のギアテーブルからアバタロウギアを取り出す。

 金色のギアテーブルのカバーを開いてセットして、そのまま閉じる。

 

『ドーラドラドラドラドラァ! ドラゴンレンジャー!』

 

 その後、側面に付いている金色のギアを素早く回転させることによりギアのアバターデータをロードし、増幅。

 

『熱烈歓迎ィ! 恐竜戦隊! 謝謝!』

 

 ボタンを押してデータを上空に打ち出す。それによって天に扉が開き、そこからアバタロウギア型エネルギーが出現してドンドラゴクウの体を潜り抜けた。

 

 そしてその姿は、ドラゴンレンジャーへと変化していた。

 

 その手に獣奏剣を持ち、鍔の部分に設けられている唄口に口を当てて横笛の要領で吹き鳴らし、流れるメロディーを聞いたアノーニ達は耳を抑えて苦しむ。

 

 その隙に剣で斬っていった。

 

「これになると何故かお兄さんになった気分になるんですよねー……何でだろう?」

 

 そんな疑問を呟きながらも、次のギアを取り出してセット。

 

『キョウリュウゴールド! 熱烈歓迎ィ! 獣電戦隊ィ!』

 

雷鳴の勇者キョウリュウゴールドにチェンジ。

 

『ザンダー! サンダー!』

 

 直列獣電剣"ザンダーサンダー"のレバーを操作し、アノーニ達に向けて雷を放つキョウリュウゴールド。

 

『リュウソウゴールドォ! 熱烈歓迎ィ! 騎士竜戦隊ィ!』

 

栄光の騎士リュウソウゴールドとなり、モサブレードで斬撃を放ちアノーニ達を一掃。

 

『パトレンX! 熱烈歓迎ィ! 警察戦隊ィ!』

 

気高く輝く警察官パトレンX。バッテン十手刀"Xロッドソード"の十手モードを持ち、レバーを操作。

 

『一手! 二手! 三手! 十手! 一騎当千!』

 

『イチゲキXストライク!』

 

 十手からビーム"エクセレントエックス"が撃ち出され敵を一掃。

 

『スターニンジャー! 熱烈歓迎! 手裏剣戦隊ィ!』

 

彩の星スターニンジャー。ギター忍撃"スターソードガン"に風雷シュリケンをセットする。

 

『雷マジック!』

 

『忍者ショット!』

 

 ソードガンを操作した後、銃のように構えて電撃を放つ。ライトニングロックスターだ。

 

『シンケンゴールドォ! 熱烈歓迎ィ! 侍戦隊!』

 

寿司侍ことシンケンゴールド。斬撃勘定刀サカナマルを構える。

 

 自身に迫り来るアノーニ達を前にサカナマルを逆手持ちで構える。

 

 そしてすれ違い様に素早く居合い斬りでアノーニ達を全て斬り捨てた。

 

『ゴセイナイト! 熱烈歓迎ィ! 天装戦隊ィ!』

 

地球を清める宿命の騎士ゴセイナイトにチェンジし、レオンレイザーを構えパソコン鬼に光線を放つ。

 

 その後レオンレイザーソードに変形し、刀身にエネルギーを纏わせてパソコン鬼を素早く切り裂く"ナイトメタリック"を見舞った。

 

「ふん……!」

 

ドントラボルトも虎的盾鑼からアバタロウギアを取り出してセット。

 

『ドーラドラドラドラドラァ! ビッグワン! 熱烈歓迎ィ! 電撃隊ィ!』

 

「ビッグワン・フィニッシュ……!」

 

 ビッグワンに変身。ビッグ・バトンに4大エネルギーを込めて、邪鬼に一閃するビッグワン・フィニッシュを放つ。

 

『ルパンエックス! 熱烈歓迎ィ! 快盗戦隊ィ!』

 

孤高に煌めく快盗・ルパンエックスに。Xロッドソード・ソードモードのレバーを操作。

 

『カウントダウン! 3! 2! 1! 0!』

 

『イタダキXストライク!』

 

斬撃"スペリオルエックス"を敵に放った。

 

『ゴーカイシルバー! 熱烈歓迎ィ! 海賊戦隊ィ!』

 

 ゴーカイスピアを持ったゴーカイシルバーは投げの体勢で構える。

 

『ファイナルウェィィィィブッ!』

 

 スピアがエネルギーを纏い投げられる"ゴーカイシューティングスター"が放たれた。

 

『キラメイシルバー! 熱烈歓迎ィ! 魔進戦隊ィ!』

 

貫きシャイニング・キラメイシルバーは閃輝ドリル"シャイニーブレイカー"のボタンを押す。

 

『ビーム一丁!』

 

 トリガーを引くと、ドリル状のエネルギーが放たれた。

 

『ジュウオウザワールド! 熱烈歓迎! 動物戦隊!』

 

世界の王者・ジュウオウザワールド。

 

 リール超回転"ジュウオウザガンロッド"をガンモードにしてリールを回す。

 

『ジュウオウザバースト!』

 

 音声が鳴った後にトリガーを引いてキューブウルフを模した光弾が放たれた。

 

『トッキュウ6号! 熱烈歓迎ィ! 烈車戦隊ィ!』

 

トッキュウ6号に変身して赤色往来灯"ユウドウブレイカー"を構える。

 

『オーライ! オーライ!』

 

 ブレイカーの刀身にエネルギーが纏われた後、斬撃が飛ばされる。

 

 ドンムラサメがニンジャークソードを逆手に構えて敵を切り裂いていた。

 

一鮫(イチシャーク)! 斬鮫(キリサメ) !』

 

 まずはニンジャークソードのギアを一度回してトリガーを引く。

 

 ドンムラサメはソードを地面に突き立てると地中へと沈み込む。

 

 相手が地面に消えたことに敵が戸惑ってる中、ムラサメが飛び出して斬りつける。

 

二鮫(ニシャーク)!  暴鮫(ハヤサメ)!』

 

 ギアを二回転。ソードを振るうと4本のアンカーが飛び出してそれが鞭として振るわれた。

 

三鮫(サンシャーク) ! 群鮫(ムラサメ)!』

 

 ギアを三度回す。剣を振るうと三つの斬撃が上部を露出させて地面に潜行する。アノーニ達の周りをしばらく回った後、地面から飛び出して攻撃した。

 

『What's up!?』

 

「アバターチェンジ!」

 

 ドンムラサメはニンジャークソードのスクラッチギアを回す。そしてトリガーを引くとその姿はときめきの白眉・アバレキラーへと変わった。

 

『Avatar! Yhaaaaaa! (Say)! (Bay)!』

 

 氷河鬼と対峙し、取り出したウイングペンダクト・ペンモードで宙にミサイルを描く。

 

「行け!」

 

 ウイングを振るい、ミサイルを放つ。氷河鬼にぶつかり、爆発を起こした。

 

 ソードのギアを回し次の戦士にチェンジする。

 

 その姿は不屈の騎士・ガイソーグだった。

 

『エンシェントブレイクエッジ!』

 

 ガイソーケンのハンドルを操作。刀身に紫色のオーラが宿り、それが斬撃として飛ばされる。

 

再びギアを操作し、チェンジしたのは地獄の番犬・デカマスター。

 

 ディーソード・ベガを構え、刀身に纏ったエネルギーが伸びたそれを振るい敵を全員真っ二つにして一掃する。技名、ベガインパルス。

 

次は猛る烈火のエレメント、天空勇者ウルザードファイヤー。

 

「マージ・ゴル・ジー・マジカ!」

 

 呪文を唱えた後に炎の竜巻を飛ばし、そこから更に斬撃を入れることで敵に追撃をかけた。

 

『What's up!?』

 

 未来ドンムラサメがニンジャークソードのギアを回す。

 

「アバターチェンジ……!」

 

未来ドンムラサメはタイムファイヤーにチェンジした。

 

 タイムファイヤーはDVディフェンダーを連射してアノーニ達を撃ち抜いた。

 

 ディフェンダーソードに変形させた後はファイナルモードを発動しアノーニ達をX字に切り裂くDVリフレイザーを放った。

 

リュウソウブラウンにチェンジ。ブラウンリュウソウケンにビュービューソウルの力が宿り、風の斬撃を飛ばした。

 

 次に閃光の勇者・キョウリュウシルバー。ギガガブリボルバーで敵を何体か撃った後、フェザーエッジでXの斬撃を放つ。

 

 その次、輝く太陽のエレメント・天空勇者マジシャイン。

 

マジランプバスターを構えて、銃口に収束した光が大きな光弾となって擊ち出された。

 

 ドンブラザーズ達が一度その場に揃う。まずは桃と猿と鬼と龍と虎がギアを取り出してセットした。

 

『ドンブラコォ! ゴーバスターズ! IT's MORPHIN' TIME! よっ! 特命戦隊ィ!』

 

『ビートバスター! スタッグバスター! 熱烈歓迎ィ! 特命戦隊!』

 

 ドンモモタロウがレッドバスター、サルブラザーがブルーバスター、オニシスターがイエローバスター、ドンドラゴクウがビートバスターでドントラボルトがスタッグバスター。

 

 特命戦隊ゴーバスターズにアバターチェンジ。

 

「レディ……ゴー!」

 

 レッドバスターが緑の残像を残して高速移動。四方から連続で特命鬼を切り裂き、横からブルーバスターが地面を叩きつけ衝撃を起こして攻撃。イエローバスターがジャンプして高所からのキックを放つ。

 

 ビートバスターがドライブレードで斬り裂き、スタッグバスターがモーフィンブラスターで撃ち抜いた。

 

『キュウレンジャー! セイザチェンジ! よっ! 宇宙戦隊ィ!』

 

『ホウオウソルジャー! リュウコマンダー! 熱烈歓迎ィ! 宇宙戦隊ィ!』

 

ドンモモタロウがスーパースター・獅子レッド、サルブラザーがビーストスター・オオカミブルー、オニシスターがフードマイスター・カジキイエロー、イヌブラザーがリングスター・オウシブラック、キジブラザーがスピードスター・ワシピンク、ドンドラゴクウはスペースバスター・ホウオウソルジャー、ドントラボルトはドラゴンマスター・リュウコマンダー。

 

 内5人はそれぞれ変形させたキューザウェポンを、リュウコマンダーはリュウツエーダー、ホウオウソルジャーはホウオウブレードとホウオウシールドを。

 

『ギャラクシー!』

 

 武器から光線や光弾が放たれ、宇宙鬼を倒した。

 

『ゴーオンジャーァ! よっ! 炎神戦隊ィ!』

 

『ゴーオンゴールドォ! ゴーオンシルバァー! 熱烈歓迎ィ! 炎神戦隊ィ!』

 

桃、マッハ全開・ゴーオンレッド。

 

猿、ズバリ正解・ゴーオンブルー。

 

鬼、スマイル満開・ゴーオンイエロー。

 

鮫、ドキドキ愉快・ゴーオングリーン。

 

犬、ダッシュ豪快・ゴーオンブラック。

 

龍、ブレイク限界・ゴーオンゴールド。

 

虎、キラキラ世界・ゴーオンシルバー。

 

 彼らを目前にした炎神鬼はいつの間にか自分が黄金のロードの上にいることに気づいた。だが気づいた時にはゴーオンジャー達が武器を持って迫っていた。

 

「サーベルストレート!」「ランチャースターター!」「バレットクラッシュ!」「アックスツーリング!」「レーザーハイビーム!」『ミッション6! フルパワー!』

 

 次々に叫ばれていく技名と共に、炎神鬼の身体にダメージが蓄積される。全員の技が終わった後、炎神鬼は爆ぜた。

 

『ボウケンジャー! よっ! 轟轟戦隊ィ!』

 

『ボウケンシルバーァ! 轟轟戦隊!』

 

熱き冒険者・ボウケンレッドの桃。

迅き冒険者・ボウケンブラックの犬。

高き冒険者・ボウケンブルーの猿。

強き冒険者・ボウケンイエローの鬼。

深き冒険者・ボウケンピンクの雉。

眩き冒険者・ボウケンシルバーの虎。

 

「スクーパーファントム!」「ハンマーブレイク!」

 

 ボウケンイエローとボウケンブラックがバケットスクーパーとラジアルハンマーで轟轟鬼に打撃攻撃。

 

「ナックルキャノン!」「シューターハリケーン!」

 

 ボウケンブルーとボウケンピンクはブロウナックルとハイドロシューターで強力な水流と突風を放つ。

 

「レッドゾーンクラッシュ!」「サガストライク!」

 

ボウケンレッドとボウケンシルバーがボウケンジャベリンとサガスナイパーで斬撃と光線を放ち、轟轟鬼にトドメを刺した。

 

『ゲキレンジャー! よっ! 獣拳戦隊!』

 

『ゲキバイオレット! ゲキチョッパー! 熱烈歓迎ィ! 獣拳戦隊ィ!』

 

アンブレイカブル・ボディ、ゲキレッド。

 

オネスト・ハート、ゲキイエロー。

 

ファンタスティック・テクニック、ゲキブルー。

 

アイアン・ウィル、ゲキバイオレット。

 

アメイジング・アビリティ、ゲキチョッパー。

 

 上から桃、鬼、猿、龍、虎。

 

「厳厳拳!」「鋭鋭刀……!」

 

 まずはゲキバイオレットとゲキチョッパーが技を繰り出す。エネルギー弾と斬撃が獣拳鬼に命中する。

 

「咆咆弾!」「瞬瞬弾!」「転転弾!」

 

 ゲキレッドとゲキイエロー、ゲキブルーがゲキタイガー、ゲキチーター、ゲキジャガーのオーラを作り出し獣拳鬼にぶつけ撃破した。

 

『ダイナマン! よっ! 科学戦隊!』

 

 まずダイナレッドが飛び上がり、その両腕を飛び上がった他のメンバーが掴んだ。

 

「ニュースーパーダイナマイト!」

 

 レッドが叫んだ後5人が一斉に回転して炎を纏って巨大な火球敵の群れに突撃。

 

「大爆発!」

 

 文字通り大爆発が起こり科学鬼は倒された。

 

『ファイブマン! よっ! 地球戦隊!』

 

ファイブレッドとファイブブルーとファイブイエローとファイブブラックとファイブピンク。

 

 それぞれファイブラスターを持ち地球鬼に一斉射撃を行う。

 

 そのうちファイブレッドはブラスターをVサーベルに変形させたあと、駆け出して地球鬼を斬り上げる。

 

『ダイレンジャー! よっ! 五星戦隊!』

 

『キバレンジャー! 熱烈歓迎! 五星戦隊! 謝謝!』

 

リュウレンジャーが桃、シシレンジャーが鮫、テンマレンジャーが猿、キリンレンジャーが鬼、ホウオウレンジャーが雉、キバレンジャーが虎。

 

 キバレンジャー以外の五人が大輪剣に気力を込め、五星鬼に投げつける大輪剣・気力シュートを放つ。

 

『吼新星! 乱れやまびこ!』

 

 キバレンジャーが白虎真剣を逆手持ちにし、虎の頭をした柄頭から破壊音波を放ち、それがトドメとなり五星鬼を撃破した。

 

『サンバルカン! よっ! 太陽戦隊ィ!』

 

 桃と猿と鬼がサンバルカンに変身。

 

1(ワン)!」

 

 まずはバルイーグルがバルカンボールを蹴り上げる。

 

2(ツー)!」

 

 その次はバルパンサーがボールをアンダーハンドパス。

 

3(スリー)!」

 

 次にバルシャークがボールをトス。

 

「アタック!」

 

 最後にバルイーグルがボールをアタック。そのボールは太陽鬼に命中し爆発を起こした。

 

 

「「「アルターチェンジ!」」」

 

『ドンブラコォ! ア・バ・タ・ロォ〜! ドン・ブ〜ラコ!』

 

 ドンモモタロウは水色のドンモモタロウアルターアバタロウギアをセットしてエンブレムを回しアルターギアをロードした後、ブラスターのトリガーを引く。

 

 天面の蓋が開き、ドンモモタロウアルターアバタロウギアのエネルギーが身体をすり抜ける。

 

 すると、ドンモモタロウは脱力したかのように倒れ込む。それと同時に、彼の体からドンブラザーズのエンブレムが飛び出した。

 

『ドン! モモタロォ〜! よっ! 天下一ッ!』

 

 音声が鳴ったと同時に出現した葉っぱが機械的なデザインの桃となる。

 

 その桃に先程のエンブレムが宿ると変形し、ドンモモタロウアルターとなった。

 

『ドーラドラドラドラドラァ! アルター!』

 

 虎的盾鑼にドンドラゴクウアルターアバタロウギアをセットして金色のギアを素早く回転。その後、ボタンを押す。

 

 龍の顔が刻印された紅玉が出現すると、ドンドラゴクウも脱力したように倒れ込む。

 

『威風堂々! ドン! ドラゴクウ!』

 

 その紅玉を緑色のドラゴンが咥え込むと人型に変形し、ドンドラゴクウアルターとなった。

 

『Mash up!』

 

ドンムラサメはニンジャークソードのギアを素早く回転させる。

 

(Ark) ! (Dark)邪悪(Jerk) ! (SHARK)! Aaaaaaah! DON! MURASAME ALTER! Wow! 鮫忍者(SAME NINJYA) !』

 

 ドンムラサメの身体は光り輝き、ドンムラサメアルターに変身。鮫型からすぐさま変形し人型となる。

 

ドンモモタロウアルターとドンドラゴクウアルターとドンムラサメアルターはそれぞれ高速で飛びながら自身の獲物で敵を切り裂く。

 

 ドンドラゴクウはドラゴンモードになって火炎放射を、ムラサメはサメモードになり、口から魚雷を発射。

 

「大盤振る舞い! 大召喚だ!」

 

『ドンブラコッ!』

 

 『ゴーォバスタァーズ!』『キョウリュウジャー!』『トッキュウジャーァ!』『ジュウオウジャーァ!』『キュウレンジャーァ!』『ルパンレンジャーァ!』『パトレンジャーァ!』『リュウソウジャーァ!』『キラメイジャーァ!』

 

 ドンモモタロウアルターはレジェンド戦隊のアルターを一斉召喚する。

 

『ドントッキュウモモタロウ!』

 

 空中を生成した線路で走るトッキュウジャーアルターと合体し、ドントッキュウモモタロウアルターに成った。

 

 飛び回りながらフミキリアームでアノーニ達を切り裂く。

 

『ドンジュウオウモモタロウ!』

 

 ジュウオウジャーアルターと合体し、ドンジュウオウモモタロウアルターへ。

 

 縦横無尽に飛び回って攻撃を行い、ジュウオウジャーアルターのエネルギーを召喚して突撃させる。

 

 最後はジュウオウジャーアルターのエネルギーを巨大化させて重なることによりアノーニを纏めて拘束し、爆発を起こした。

 

『ドンリュウソウモモタロウ!』

 

 両肩のナイトキャノンで攻撃しているリュウソウジャーアルターと合体。ドンリュウソウモモタロウアルターへ。

 

 胸部のティラミーゴヘッドから光線を放ち、ナイトソードで敵を切り裂いていく。

 

『ドンルパンモモタロウ!』

 

 装備のブレードで敵を裂いていくルパンレンジャーアルターと合体、ドンルパンモモタロウアルターに。

 

 変形したルパンレンジャーアルターが右腕に装着されて剣となり、赤い斬撃が放たれる。

 

『ドンパトレンモモタロウ!』

 

 光線を放っているパトレンジャーアルターと合体してドンパトレンモモタロウアルターへ。

 

 縦になったパトレンジャーアルターでアノーニからの攻撃を弾き、ビームを撃って返り討ちに。

 

 その後は更にルパンレンジャーアルターとパトレンジャーアルターが合体し、VS武器グッドストライクバズーカになる。ドンモモタロウがトリガーを引き、強力なビームを撃った。

 

『ドンゴーバスモモタロウ!』

 

 ドンゴーバスモモタロウアルター。高速移動して右腕のクローで連続で引っ掻き回す。

 

『ドンキュウレンモモタロウ!』

 

 ドンキュウレンモモタロウアルターへ。背中のウイングで飛翔し、シシボイジャーのエネルギーを纏い流星の如きスピードで動き回り攻撃する。

 

『ドンキラメイモモタロウ!』

 

 ドンキラメイモモタロウアルターになり、両足のローラーで地面を駆けながら肩のキャノンで水のビームを放つ。

 

 ドンドラゴクウアルターが手裏剣を模したドローンのニンニンジャーアルターに乗り龍虎之戟で敵に攻撃。

 

『レジェンドアルター!』「ニンニン合体!」『威風堂々! 手裏剣戦隊!』

 

 その後はニンニンジャーアルターと合体してドンニンニンドラゴクウアルターへ。

 

 飛び回りながらニンニンカッターにエネルギーを纏わせて攻撃。

 

『威風堂々! 海賊戦隊!』

 

 ゴーカイジャーアルターが飛んできてドンゴーカイドラゴクウアルターにチェンジ。両腕のブレードで敵を全て切り裂く。

 

 

 

 

「アバターチェンジ! ロボタロウ!」

 

 ドンモモタロウのその掛け声で、ドンブラザーズはロボタロウギアをセットする。

 

『よぉ〜ッ! ドン! ドン! ドン! ドンブラコォ! ロボタロウ〜! ドン! ブラボ〜! ドン! ブラボ〜!』

 

 トリガーを引くと周りにエネルギーのマンホールが複数出現。

 

 更に新たなアーマーが何処からか出現し、エネルギーのマンホールによってバウンドして周囲を舞った後に彼らの身体に装着される。

 

『ドン! ロボタロウ〜! よっ! 世界一!』

 

『サル! ロボタロウ〜! よっ! ムッキムキィ!』

 

『オニ! ロボタロウ〜! よっ! 鬼に金棒!』

 

『イヌ! ロボタロウ〜! よっ! ワンダフルッ!』

 

『キジ! ロボタロウ〜! よっ! トリッキーィ!』

 

 ドンロボタロウ、サルブラザーロボタロウ、オニシスターロボタロウ、イヌブラザーロボタロウ、キジブラザーロボタロウに変身完了。

 

「アバターチェンジ! ロボゴクウ!」

 

「アバターチェンジ……! ロボボルト……!」

 

虎的盾鑼に虎龍攻神ロボタロウギアをセットする龍と虎。

 

『ロボタロウ!』

 

 盾鑼を天に掲げボタンを押し、ロードしたデータを打ち出す。

 

 周りにエネルギーのマンホールが複数出現。新たなアーマーが出現し、マンホールにバウンドして彼らの身体に装着。

 

『ドンロボゴクウ!』『ロボボルト!』

 

両者はドンロボゴクウとドンロボボルトに変身。

 

「ふっ! はあっ!」

 

 ドンロボタロウは背中のブースターで高速移動して敵を切り裂く。その後、ザングラソードを振り回し竜巻を発生させて敵へぶつけた。

 

「心桃滅却……」

 

ドンロボタロウはザングラソードを構える。

 

『秘技!』

 

「アバター光刃……!』

 

『気才! 異才! 居合斬!』

 

 瞬間、ブースターによって高速で駆け出したドンロボタロウは居合斬りで目前の敵を全て切り裂いた。

 

「見よ! お猿のパワー!」

 

 サルブラザーロボタロウが両腕を地面に叩きつける。大きな振動が起こり、敵が吹き飛んだ。

 

「トゲトゲ発射ァ!」

 

 オニシスターロボタロウがフルコンボウを掲げ、敵に向けてトゲのミサイルを放つ。

 

「はあーっ!」

 

 イヌブラザーロボタロウが高速で回転しながら敵に突撃。

 

「スーパーケンケンケーェン!」

 

 キジブラザーロボタロウが嘴にエネルギーを纏って敵を貫いていった。

 

ドンロボゴクウは空から火炎放射"ドラゴンファイヤー"を放ち、敵を一掃。

 

ドンロボボルトは駆け出して次々と敵を爪で引っ掻き続ける。口からタイガービームという光線を発射して更に攻撃。

 

「お供達! 必殺奥義だ!」

 

『パァーリィータァーイム! ドン! ロボタロウ〜! いざ参る!』

 

「前人未桃……!」

 

『アーバタロ斬! アバタロ斬!』

 

「打ち上げロボタロウ!」

 

 キジブラザーロボタロウが飛び、イヌブラザーロボタロウは駆け出し、ドンロボタロウは飛び上がった。

 

 サルブラザーロボタロウが地面を叩きつけた衝撃により、オニシスターロボタロウが空に飛び上がる。

 

「トゲトゲ花火ィ〜!」

 

 フルコンボウのトゲが発射。飛行してるキジブラザーロボタロウと走っているイヌブラザーロボタロウが敵に当たるようトゲを誘導する。

 

 ぶつかったトゲは花火を起こし爆発。

 

『必殺奥義! ロボ! タロ! 斬!』

 

「ふうんっ!」

 

 ドンロボタロウがエネルギーを纏ったザングラソードで敵を連続で切り裂く。

 

 最後にオニシスターとサルブラザーが地面を叩きつけ敵を打ち上げ爆発した。

 

「「「「「ドン! ドン! ドンブラザーズ!」」」」」

 

 その叫びと共に、花火が打たれた。

 

「お供達、大合体だ!」

 

『ドンブラコォ! 大合体!』

 

「ワオーン!」「オニー!」「ウオッホー!」「ケンケンケーン!」

 

 犬が左足、鬼が右足、猿は両腕、雉は肩と。ドンロボタロウに合体する。合体する間は『大合体!』とドンブラスターの音声が流れ続けていた。

 

 そして最後に、ドンロボタロウの頭に兜が装着。

 

『完成! ドン! オニタイジン! よっ! 銀河一!』

 

 ドンオニタイジン、完成。

 

「いざ、出陣〜!」

 

タロウのその掛け声と同時に、手に持っていた"ドンばい"という軍配を振るい、強風を起こして敵を吹き飛ばす。

 

 その後、肩に装着されていた二振りの剣"キジンソード"を手に取り、敵に向け斬撃を飛ばした。

 

「僕らも合体です!」

 

『大合体!』

 

 ドンロボゴクウの身体が分解し、ドンロボボルトと合体する。

 

『完成! 虎龍攻神(トラドラゴンジン)!』

 

 その手に"熱烈貫戟(ねつれつかんげき)"という剣を持ち、軽く振り回してポーズを取った。

 

 ドンオニタイジンと連携し、互いの剣は敵を斬り続ける。

 

「キジミサイル!」

 

 右肩のキジブラザーロボタロウの口からミサイルが発射され周りの敵に命中。

 

「オニキーック!」

 

 右足のオニシスターロボタロウによって繰り出される百烈蹴り。

 

「おお!」

 

 肩のキジブラザーロボタロウから羽が展開され飛行するドンオニタイジン。

 

「天空サル連撃!」

 

 飛びながらサルブラザーロボタロウが両腕で連続パンチを繰り出す。

 

「行くぞ! 一騎当千!」

 

 特殊な背景が展開され、船の上でキジンソードを交差させて一本の巨大な刀を生成。

 

「「「「「ドンブラパラダイス!」」」」」

 

川からどんぶらこと流れてくる桃を突き刺し合わせて巨大な桃を作り出し、桃諸共敵を切り裂いた。

 

『必殺奥義! ロボタロ斬!』

 

「ドラゴン拳! トラドラ奥義!」

 

 ドンドラゴクウが叫ぶと、左手に神盾撃器(イージストライガー)が装着される。

 

そして構えを取ると、ドンロボゴクウとドンロボボルトの形状を模った気が出現。

 

「炎虎龍々ジロウ'sハリケーン!」

 

 ドンロボゴクウとドンロボボルトを飛ばして攻撃した後、熱烈貫戟の刀身が伸びて纏めてアノーニを貫いた。

 

「ジロウ、超絶大合体だ!」

 

「はい!」

 

 ドンオニタイジンからのドンモモタロウの声に虎龍攻神のドンドラゴクウが頷く。

 

「呉越同舟……!」

 

『『大合体!』』

 

「「超絶大合体!」」

 

 ドンモモタロウとドンドラゴクウがドンブラスターと龍虎之戟を重ね、データを送受信。

 

 ドンオニタイジンとトラドラゴンジンが分解し、それぞれのパーツが合体し始める。

 

『完成! トラドラァ!』『オニタイジンッ!』

 

「「「「「「「完成! トラドラオニタイジン!」」」」」」」

 

 トラドラオニタイジン、完成。

 

 召喚された緑色の馬、アバターホースに騎乗して走り出す。

 

「キジンスピア豪傑突き!」

 

 キジンソードを合体したキジンスピアを回し、その後エネルギーを纏った一突きを繰り出す。

 

「「キジンスピアー剣豪斬り!」」

 

 もう一度スピアを回すと、今度はエネルギーを纏った刃でアノーニ達を切り裂く。

 

「流鏑馬モード! ドラゴンキングダムアロー!」

 

 キジンスピアを縦に構え、複数本の光の矢を放って攻撃。

 

 その後、アバターホースから飛び降りる。

 

「精神一桃・ドンブラシャングリア!」

 

 エネルギーを溜めて、太く青い光の矢を放つ。それは高速で飛び、軌道上の敵を一掃。

 

「天下桃一!」

 

「「「「「「「ドンブラファンタジア!」」」」」」」

 

 トラドラオニタイジンの周りに合体してる7体の顔を模した桃型のエネルギーが出現し、一斉に飛ばされて敵の下で爆ぜた。

 

 

 

 

ゼンカイザーブラックは現在、機界鬼と対峙していた。

 

 互いのガトリングの銃口が火を吹き、弾丸がぶつかり合う。

 

 攻撃の手が止むと、機界鬼の周りにアナザーアノーニ達が出現。

 

 ゼンカイザーブラックは身構えるが、その場に騒がしい乱入者達が来た。ドンブラザーズ達だ。

 

「「「「「アバターチェンジ!」」」」」

 

『『『『『ドンブラコォ!』』』』』

 

 ドンモモタロウとサルブラザーとオニシスターとイヌブラザーとキジブラザーがギアをドンブラスターにセットして操作。

 

「「アバターチェンジ!」」

 

『『ドーラドラドラドラドラァ!』』

 

 ドンドラゴクウとドントラボルトもギアをセットして操作。

 

「「アバターチェンジ!」」

 

『『What's up!?』』

 

 ドンムラサメと未来ドンムラサメもニンジャークソードを操作する。

 

「私も〜! アバターチェンジ!」

 

『ドンブラコォ!』

 

 未来オニシスターもドンブラスターにギアをセット。

 

『ゼンカイザー!』『ゼンカイジュラン!』『ゼンカイガオーン!』『ゼンカイマジーヌ!』『ゼンカイブルーン!』『ツーカイザー!』『ステイシーザー!』『ツーカイフリントォ!』

 

 ギアに込められた力の源である戦士達の名が叫ばれる。皆一斉にトリガーを引いた。

 

『ババン! ババン! ババン! ババン! ババババーン! ゼーンカイジャー! よっ! 秘密のパワー!』

 

『よっ! 恐竜パワー!』

 

『よっ! 百獣パワー!』

 

『よっ! 魔法パワー!』

 

『よっ! 轟轟パワー!』

 

『熱烈歓迎! 海賊のパワー! 謝謝!』

 

『熱烈歓迎! 暗黒のパワー! 謝謝!』

 

『よっ! 発明のパワー!』

 

ドンモモタロウは秘密のパワー・ゼンカイザーへ。

 

イヌブラザーは恐竜パワー・ゼンカイジュランへ。

 

オニシスターは百獣パワー・ゼンカイガオーンへ。

 

キジブラザーは魔法パワー・ゼンカイマジーヌへ。

 

サルブラザーは轟轟パワー・ゼンカイブルーンへ。

 

ドンドラゴクウは海賊のパワー・ツーカイザーへ。

 

ドントラボルトは暗黒のパワー・ステイシーザーへ。

 

ドンムラサメは機械のパワー・ハカイザーへ。

 

未来ドンムラサメはレッドのパワー・ゼンカイレッドへ。

 

未来オニシスターは発明のパワー・ツーカイフリントへ。

 

ドンブラザーズ達は機界戦隊ゼンカイジャーへチェンジした。

 

『よっ! 機界戦隊!』

 

「ハーハッハッハッ! 全力全開だ!」

 

 高笑いを上げてゼンカイザーは機界鬼に向けて銃撃。それに続くカラフルな戦士達。

 

ゼンカイザーブラックも悠然と歩きそれに続いた。

 

 まずゼンカイザー。黒じゃなくて白いほう。高笑いを上げながらドンブラスターとギアトリンガーで撃ちまくる姿は中々のものだ。

 

「はあっ!」「ガオーッ!」

 

 ゼンカイジュランはジュランソードで敵を切り裂き、ゼンカイガオーンは敵に飛びついたり身を転がしたりとアクロバティックな動きをしながらガオーンクローで引っ掻く。

 

 その後にゼンカイジュランの胸部のティラノの頭から炎を噴射し、二人の武器に纏わせて斬撃として放った。

 

「ぬぬぬ・マジーヌ!」

 

 ゼンカイマジーヌがマジーヌスティックを翳しながら呪文を唱える。ピンク色の光線が複数飛んで敵を攻撃する。

 

「身体が分割するぞーっ!」「何ですかそれー!?」

 

 ゼンカイブルーンの上半身と下半身が分割していて、更にどちらも自律行動が可能でそれぞれ敵を攻撃中。上は回転しながらブルーンピッカーで、下はキック中。

 

その光景にゼンカイマジーヌはギョッとしていた。

 

「ヨホホイッ!」

 

 敵の攻撃を躱しながらキックやギアダリンガーによる銃撃を見舞い、手を地面につけて軸にして逆立ちキック。

 

 ギアダリンガーで敵を連続で叩き舵輪のマークを刻む。トリガーを引くとその舵輪に向かってエネルギーの碇が一斉に発射された。

 

 ステイシーザーはステイシールドで殴打攻撃をしてギアトジンガーで射撃。右手首に装着されている多連装ミサイルランチャーを放つシーザー暗黒流星群を。

 

 ハカイザーがブイメランを投げ、ゼンカイレッドはギアトリンガーの銃口から炎の刃を生成して連続で敵を切り裂き、貫いていて、ツーカイフリントはロックピストルで撃ち抜いた。

 

 ゼンカイザーブラックは襲いくるアノーニの攻撃を最小限の動きで避け、蹴るかギアトリンガーからの水色の刃で切り捨てている。

 

 残るは機界鬼だけとなった。

 

「行くぞ」

 

 ゼンカイザーブラックがギアトリンガーのハンドルを回しながら他一同に言った。

 

『ヒーロー! スーパーゼンカイターイム! ゴッゴー! バンバン!』

 

『全速前進! 回せ回せー! いっぱーい!』

 

 ゼンカイジャー5人とツーカイザー、ステイシーザーにゼンカイレッドがそれぞれ武器を操作する。

 

「ゼンカイ、フィニッシュバスター!」

 

 ゼンカイザーブラックのその一言でトリガーは引かれた。それぞれの銃口から打ち出された光線が重なり合う。

 

 機界鬼も腕のガトリングから光線を撃つが重なり合ったビームには敵うことなく爆発。そして追い討ちといわんばかりにゼンカイジャーを象徴するマークの鋭利な部分が突き刺さった。

 

『ダイゼンカイ!』

 

『ツーカイに、弩ッキューン!』

 

 

 ソノイがバロンソードを振るう。迫り来る敵を一刀両断し続ける。

 

「はあっ!」

 

 掛け声を上げて刀身から青い斬撃を飛ばす。

 

 その後、胸元の脳人シールドに赤い宝石と十字架のようなレリーフが取り付けられ強化形態へと変身。

 

 宝石からビームを放ち目の前の敵を一掃。

 

「ふっ!」

 

 ソノニも分割して短剣状態のコンドルアローで回転斬り。その後合体させて光の矢を放つ。

 

「はあああっ!」

 

ソノザはカゲスピアを振り回して敵を怯ませ、その隙に何体かを切りつけた後、残った一体には得意の三段付きを見舞った。

 

ソノシとソノゴとソノロク。纏めて略してソノシゴロク、またはソノシゴロ。

 

「ふっ!」

 

 華麗な動きで四苦無を振るうソノシ。四苦無を振るうとそれは鞭となり敵の身体に叩きつけられる。

 

「はあっ!」

 

 レイピアで素早く突きを繰り出すソノゴ。反撃の隙を与えず間髪入れず突きと斬撃を行う。

 

「おらあっ!」

 

 サンゼンコンで頭から敵を叩き潰すソノロク。サンゼンコンを天に掲げ、先端から光弾を乱射して広範囲攻撃を行なった。

 

 

 

 

「はああああっ!」

 

 ドンブラスターで何者かを撃つキジブラザー。その何者かはキジブラザーにそっくりな異形。

 

 その名もキジノ鬼。かつてキジブラザーこと雉野が成った個体である。

 

 光弾を全て手持ちの武器で全て防ぐキジノ鬼。かつて戦った時の特性は引き継いでおり、イヌブラザーを上回る足の速さで移動しキジブラザーに攻撃する。

 

「うわあっ!」

 

 それからも連続で攻撃が入ってキジブラザーが膝をついた時、キジノ鬼の攻撃を止めるものが入った。

 

「ふんっ!」

 

 白い剣でキジノ鬼の身体を斬る異形。それは鶴の獣人だった。

 

「! あ、貴方は……」

 

「……何をボサッとしている? さっさと立って戦え」

 

「は、はい!」

 

 慌てて立ち上がるキジブラザー。その間に、キジノ鬼は周りのアノーニを吸収して強化形態のバルーン鬼になった。

 

『パーリィタァーイム! キジブラザー!』

 

 ドンブラスターの天面のボタンが押され、ギアを連続で回すキジブラザー。

 

 鶴の獣人もツルサーベルの刀身にエネルギーを纏わせる。

 

『ヘイ! カモーン!』

 

「ふんっ!」「はあっ!」

 

 二人は同時に技を放ち、それはバルーン鬼に命中し撃破した。

 

「よし! ありがとうございま……あれ?」

 

 キジブラザーが鶴の獣人に礼を言おうとしたが、本人は既にどこかへ行っていた。

 

 

「よっ! ほっ! アウーッ!」

 

 龍虎之戟で目の前の敵を突き、後ろから迫る的にはキックをするドンドラゴクウ。

 

 更に自分の元へ複数のアノーニが走ってくるのを見て構えるが、

 

「ふっ!」

 

 ペンギンの獣人が滑るように高速で移動して、手刀で一気にアノーニを撃破した。

 

 その光景に驚いたドンドラゴクウは立ち尽くすペンギンの獣人を見た。

 

「…………あれ? この匂い何処かで…………あの! …………あれ?」

 

 ペンギンの獣人から感じ取った匂いにうっすらと覚えがあるドンドラゴクウが、本人は何処へ去っていた。

 

 

 様々なスーパー戦隊に変身し、激しい戦いを繰り広げるドンブラザーズ達。そんな彼らの勢いに、ジオウ達も負けてはいない。

 

「でやあっ!」

 

 ジカンギレードを振り戦うジオウ。相手を一度蹴ると、一つのライドウォッチを取り出す。

 

『響鬼!』

 

 響鬼ライドウォッチのベゼルを回し、リューズを押して起動。そしてそのまま、ジクウドライバーのD'3スロットに装填。

 リューザーを押しドライバーのロックを解除してサーキュラーを回した。

 

『アーマァータァーイム! 響鬼ィィィィィィ!』

 

 変身音叉音角の音が響き、仮面ライダー響鬼を模したアーマーが出現。それをジオウが蹴飛ばすと、アーマーが弾け飛び、彼の体に装着される。

 

 ジオウ・響鬼アーマーへと変身し、彼はその手に二振りの音撃棒・烈火Zを装備する。

 

 棒の先端についている赤い鬼石の『阿』と『吽』に火炎が迸る。ジオウは駆け出し、敵の横をすり抜けると同時に棒を振って腹に熱き衝撃を与える。

 

 そして振り返ると、口から紫色の炎を吹き出し敵の群れに火炎放射を放つ。その技の名は鬼火という。

 

『フィニッシュタァーイム! 響鬼!』

 

 ジオウライドウォッチと響鬼ライドウォッチのリューズを押した後、すぐさまロックを解除してサーキュラーを回転。

 

『音撃! タァーイムブレーェイク!』

 

 音撃鼓・火炎鼓のオーラが出現し、敵を纏めて拘束する。

 

音撃棒を鼓に向けて連続で叩きつけると清めの音によって敵は爆発した。

 

鎧武(ガイム)!』

 

ジオウはドライバーから響鬼ライドウォッチを引き抜いた後、鎧武ライドウォッチを取り出して起動し、すぐさまドライバーにセット。そしてロックを解除して回す。

 

『アーマァータァーイム! ソイヤァ! ガ・イ・ムゥ〜!』

 

 空中に生成された鎧武の顔を模したアーマーが現れる。

 それがジオウに装着されるとアーマーが展開し、鎧武アーマーに変身完了。直後に大橙丸Zを2本装備する。このアーマー特有の二刀流スタイルだ。

 

「はあーっ!」

 

 掛け声を上げて、敵を切り裂くジオウ。切り裂く度に迸るオレンジの果汁。

 敵の攻撃を避けた後、そのまま回し蹴りをして脚部装甲のダイダイゴウライタイにセットされてある大橙丸Zからオレンジの斬撃が飛ぶ。

 

 体勢を整えると、右手の大橙丸Zが光り輝く。光が晴れると、それはバナスピアーへと変化していた。

 

「ふっ!」

 

それを地面に突き刺すと、巨大なバナナ型のエネルギーが連続で出現し、敵を次々と穿つ。その名もスピアビクトリー。

 

 左手の大橙丸Zが光り輝くと、それはブドウ龍砲へと変化。

 

 そしてすぐさま緑宝撃鉄を引くと、銃口に紫色のエネルギーが収束する。トリガーを引くと放たれたエネルギーが龍の形を取って敵を一掃し、必殺のドラゴンショットが決まった。

 

 鎧武のかつての戦友の武器が敵を打ち払う。

 

『フィニッシュタァーイム! 鎧武! スカッシュ! タァーイムブレーェイク!』

 

大橙丸Zの二刀流を構え駆け出す。すれ違いざまに敵を切り裂き続け、最後は振り向いてオレンジの斬撃を放った。

 

『エグゼイド!』

 

エグゼイドライドウォッチを起動し、ベルトに装填。ロックを解除して回す。

 

『アーマァータァーイム! レベル・アーップ! エグゼイーィド!』

 

 エグゼイドアーマーに変身。

 

「はあーっ!」

 

 駆け出して地面を思い切り蹴ると、高く跳躍するジオウ。そしてその勢いで敵を腕に装備されているガシャコンブレイカーブレイカーで殴る。

 

 肩のガシャットショルダーの影響によって現れたチョコブロックを破壊すると、そこから大型の黄色いメダルが。

 

『高速化!』

 

 高速化のエナジーアイテムを獲得したジオウは目にも止まらぬ速さで敵を倒していく。

 

『マッスル化!』

 

 マッスル化のエナジーアイテムも獲得し、左腕にゲキトツスマッシャーを装備して更に敵を薙ぎ倒す。

 

『フィニッシュタァーイム! エグゼイド! クリティカル! タァーイムブレーェイク!』

 

ジオウは駆け出し地面を蹴り上げる。ガシャコンブレイカーブレイカーで敵を纏めて連続で殴りつける。『ヒット!』『グレート!』『パーフェクト!』の文字がそれぞれ出て、爆発。

 

『ダブル!』

 

 ダブルライドウォッチを起動して、ベルトに装填して変身。

 

『アーマァータァーイム! サイクロン! ジョーカァー! ダ・ブ・ルゥー!』

 

 サイクロン型とジョーカー型のメモリトロイドが敵を攻撃しながらガイアメモリショルダーに変形。ジオウがそれを装着しダブルアーマーに変身した後、左手でスナップをきかせる。

 

 駆け出して疾風を纏った回し蹴りを繰り返すジオウ。切札の力によって紫色のエネルギーが纏われたパンチも放たれる。

 

『ヒート! メタルゥ!』

 

 ガイアメモリショルダーのサイクロンはヒートに、ジョーカーはメタルに変わる。棒術武器のメタルシャフトを使い、両端に熱き炎を纏わせて敵を薙ぎ倒してゆく姿は闘士のごとく。

 

『ルナァ! トリガァー!』

 

 ヒートはルナに、メタルはトリガーに変わる。銃撃手の武器たるトリガーマグナムの引き金を引くと、黄金のエネルギー弾が幻想の如く分裂して敵を撃ち抜く。

 

『フィニッシュタァーイム! ダブル! マキシマム! タァーイムブレーェイク!』

 

風を纏いジオウが浮かび上がる。両足に緑と紫のエネルギーが収束した後、キックを放った。

 

『フォーゼ!』

 

 フォーゼのウォッチを起動、そしてベルトに装填して変身。

 

『アーマァータァーイム! 3(スリー)! 2(ツー) ! 1(ワン) ! フォォォォォォゼェー!』

 

 仮面ライダーフォーゼを模したアーマーが装着され、フォーゼアーマーに変身。

 

 背中にあるブースターが火を噴いて、勢いよく地面から飛び立つ。

 

 両腕のブースターモジュールからも火が噴出して、その勢いで敵を殴りつけた。

 

『LAUNCHER ON!』

 

 瞬間、右足のモビリットエンジンが光り輝くと、ランチャーモジュールに変化。構えるとミサイルが噴出し、敵に直撃して爆破した。

 

『HOPPING ON!』

 

『SCISSORS ON!』

 

『CRAW ON!』

 

 左足のモビリットエンジンはホッピングモジュールに、右腕のブースターモジュールはクローモジュールに、同じく左腕はシザースモジュールにそれぞれ変化。

 

「はあーっ!」

 

 ホッピングモジュールの力でぴょんぴょんと飛び跳ねながら、シザースモジュールとクローモジュールで攻撃。敵もその予測不能な動きには対処は出来ない。

 

『フィニッシュタァーイム! フォーゼ! リミット! タァーイムブレーェイク!』

 

ロケットモードに変形し、ドリルモジュールのエネルギーを纏う。

 

「ライダーロケットドリルアターック!」

 

高速回転して敵に突撃。纏めて爆発四散。

 

『ウィザード!』

 

 ウィザードライドウォッチを起動、そしてベルトに装填。

 

『アーマァータァーイム! プリーズ! ウィ・ザァードッ!』

 

 仮面ライダーウィザードを模した形態、ウィザードアーマーに変身。

 

 マントを翻し駆け出すと、地面を蹴って軽くジャンプし、空中で体を捻らせ炎を纏ったキックを繰り出す。

 

 ネコ獣人によってクローが横に振るわれるが、咄嗟にバク宙してそれを回避し、地面へ着地すると同時にジカンギレードで斬りつける。

 

 右足、左足で回し蹴りを2回繰り返し、体を空中で横向きにしてクルクルと回り敵を斬りつける。

 

 ジカンギレードをジュウモードにした後、すぐさま体を360度回して周囲にエネルギー弾を放つ。

 

 体を捻らせて敵の頭を蹴る。そのまま相手の背中に手をつけて台として利用し、近づいてくる他の敵を勢いをつけて蹴る。

 

 敵の攻撃をしゃがんで避け、それに繋げるように足払い。立ち上がるとバレエのようにクルクルと回り、それに翻弄された敵を蹴る、蹴る、蹴る。更に側転して蹴る。そしてバク宙して相手を撃つ。

 

『フィニッシュタァーイム! ウィザード! ストライク! タァーイムブレーェィク!』

 

マントを翻すジオウ。駆け出してロンダートを行い、最後は飛び上がって炎を纏ったキックを放った。

 

『オーズ!』

 

 オーズライドウォッチを取り出しベルトにセット。

 

『アーマァータァーイム! タカ! トラ! バッタ! オォォォォズゥゥゥゥゥゥ!』

 

 何処からかタカとトラとバッタを模したメカが出現し、それがジオウの身体に装着されオーズアーマーに変身した。

 

「はあっ!」

 

 バッタスプリンガーの力で高く飛んだジオウ。その勢いで敵をトラクローZで切り裂き、再び跳躍して敵を蹴り上げる。

 

『タカ! カマキリ! チーター!』

 

 スキャニングブレスターのトラの文字が黄緑色のカマキリの文字に変化する。バッタの文字も黄色のチーターの文字に変わっていた。

 

 それと同時に、両腕にはカマキリソードZが装着されていた。

 

敵の攻撃を二振りのソードで受け止める。攻撃を弾いた後、身体を切り裂く。その後チーターの能力で高速移動。敵を次々と切り裂いていく。

 

『コブラ! ゴリラ! タコ!』

 

 ブラスターのタカの文字は橙色のコブラに、カマキリは灰色のゴリラに、チーターは青色のタコに。

 

 腕に装着されたゴリバゴーンZで豪快にドラミングを決める。

 

 駆け出してその剛腕で敵を殴る。頭から出現したコブラを鞭のようにして相手を薙ぎ払う。

 

 複数の敵に囲まれるがブレイクダンスのウィンドミルを行った時、8本に足が分裂した。8本の足は敵を捕え、振り回して他の敵ごと一掃する。

 

『フィニッシュタァーイム! オーズ! スキャニング! タァーイムブレーェィク!』

 

 最初のタトバコンボの状態に戻って、ドライバーを操作。

 

「セイヤー!」

 

 赤、黄、緑のリングが発生し、飛び上がって赤色の翼を展開し両足キックで潜り抜けるジオウ。リングのエネルギーによって強化されたキックを敵に見舞った。

 

『ウォズ!』

 

 ジオウはウォズライドウォッチを取り出して起動。そしてベルトに装填する。

 

『アーマァータァーイム! カ・メ・ン! ライィィィィダァァァァ! ウォォォォズ!』

 

『ジカンデスピアァ! カマシスギ!』

 

 ジオウはウォズアーマーをその身に纏う。ジカンデスピア・ヤリスギモードを構え敵に振るい始める。

 

『フィニッシュタイム!』

 

 ジカンデスピアのタッチパネルの一番上のアイコンをタップ。そして連続でスライドする。

 

『一撃カマーン!』

 

 緑色の巨大な斬撃を放ち、敵を一掃する。

 

 

「やああああっ!」

 

エミリアが氷塊をパックと共にアノーニ達へぶつけていく。

 

 地面に氷を走らせて敵の全身を氷漬けにする。

 

「はああああっ!」

 

レムはモーニングスターを振るい、大勢のアノーニを一気に吹き飛ばす。

 

 鉄球を地面に打ち付けて、敵を宙に舞わす。舞っている敵には氷を撃ち出して攻撃した。

 

 

「! 何か来るぞ!」

 

 ふと上を見たサルブラザーが叫ぶ。他のものも彼が見てる方に視線を向けると、確かに緑色の光る何かが地上に急接近をしている。

 

 それが地上へと辿り着いた瞬間、大きく爆風が起こり、砂煙が舞った。

 

 その煙は徐々に晴れ始める。それによって、落ちてきたものの正体は人型だと分かり始める。やがて、その煙は完全に晴れた。

 

「! お前はッ」

 

「まさか、そんな!?」

 

「嘘でしょ!?」

 

「えっ、えっ、えええええー!? もう来ないはずじゃ!?」

 

「ッ、こいつ!」

 

 ドンブラザーズの、桃と猿と鬼と雉と犬はその正体を見て驚愕していた。

 

 傍にいたゼンカイザーブラックも、それを見て少なからず動揺した。

 

「帰ってきたのか…………! ドン・キラーが!」

 

 それの正体は、ドン・キラー。蛍光グリーンの近未来的な服装を纏い、両目の瞳も同じく緑色で、回線を思わせる銀色のラインが走っている。

 

 かつてのドン王家が、ドンブラザーズ達が力を悪用し、踏み外した行動をし続けた時のために技術の粋を結集し製作した戦闘用アンドロイドだ。

 

 起動したら最後、『ドンブラザーズを抹殺する』というプログラムに沿って何処までも追跡し、搭載された兵器等を使うことによって徹底的に殲滅をしようとする。

 

 本来は元の世界で五色田介人が起動スイッチを金庫に入れて管理をしているのだが、訳あって発動されてしまったことにより“何の落ち度もない“現在のドンブラザーズが狙われるハメになった。大事なことなので二度言っておくが、“何の落ち度もない”現在のドンブラザーズが、である。

 

 その後はまた訳あって宇宙に行って帰ってこない筈だったのだが、こうしてドンブラザーズの前に現れたのである。

 

「何だアイツ!?」

 

「す、すごーくモモイさんそっくりの顔ね!?」

 

 驚愕していた二名、スバルとエミリア。傍に居たレムとラムとジオウも同じくだ。

 

 そしてエミリアの言う通り、ドン・キラーの顔はドンモモタロウこと桃井タロウに瓜二つであった。

 

「でも何であんなにそっくりなのかしら……」

 

「決まっている。————カッコいいからだ」

 

「あっ、それ自分で言っちゃうんだ」

 

「日頃の態度に比例するような自信ね」

 

 エミリアの疑問に対するドンモモタロウの回答に、特に大きなリアクションもなく突っ込んだスバル。ラムも軽い毒舌を一つ。

 

「あっ! タロウさんそっくりのロボット!」

 

「あァ……?」

 

「おいあれ……!」

 

「あいつは……」

 

「ドン・キラー……!」

 

 ドンドラゴクウとドントラボルト、ソノニとソノザとソノイも現れる。

 

 ドン・キラーはゆっくりと、ドンブラザーズ達を見ると————獲物を見つけた獣のような、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「来るぞ!」

 

 ドンモモタロウの一声で身構える一同。その瞬間、ドン・キラーの瞳から緑色のビームが発射された。

 

 一同はそれを左右横に飛んで避ける。当たり損ねたビームは地面に当たり爆ぜ、軽い爆風を起こした。

 

「めっ……目からビーム出たァ!?」

 

「……どう考えてもまずい気がする……!」

 

 思わず声に出して驚愕するスバルと呟くジオウ。その間にも、ドンブラザーズはドン・キラー迎撃の為に駆け出した。

 

「ふんっ!」

 

 ドンモモタロウがドン・キラーにザングラードを振るう。しかしそれはすぐさま手で跳ね除けられ、逆に平手で腹を打たれ吹き飛ばされる。

 

「うあっ……!」

 

 オニシスターとサルブラザーはドンブラスターを使いドン・キラーに接近しながら連続で光弾を放つが、全てその体で弾かれてしまう。掌から光弾を放ちオニシスターに命中させ、掴みかかってきたサルブラザーも軽々と振り払う。

 

「ぐえーっ!」

 

「ぬわあっ!」

 

 イヌブラザーが投げた手裏剣を蹴って跳ね返し、逆に相手に命中させる。空から撃とうとしていたキジブラザーに目からビームを放つ。ビームが命中したキジブラザーは悲鳴をあげて墜落。

 

「があっ!」

 

「のわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ドン・キラーに突撃するドンドラゴクウとドントラボルトは龍虎之戟で刺突と斬撃を放つ。だがその一撃は受け止められ、両者は天高く投げ飛ばされる。

 

「うわーっ!?」

 

「ぐうっ!?」

 

 ドン・キラーが振り向くと、剣が振られるのが見えた。それを片手で受け止める。剣の主はソノイだった。

 

「ソノニ! ソノザ!」

 

 ソノイが仲間である2人の名を呼ぶと、ソノニはエネルギーを纏った矢を放ち、ソノザは槍から斬撃を放つ。

 ソノイがドン・キラーから離れた後、矢と斬撃は命中する。爆発が起きたものの、煙が晴れると身体には傷一つ付いていなかった。

 

『フィニッシュタァーイム!』

 

 空から声がして、ドン・キラーは上を見る。するとそこには、キックの構えを取るジオウが。

 

『タァーイムブレーェク!』

 

「はあああああっ!」

 

足にマゼンタのエネルギーが収束し、ドン・キラーにキックを放つジオウ。だがドン・キラーは正面から足を受け止め、そのまま投げ飛ばした。

 

「ぐあああああっ!」

 

「ふっ!」

 

 レムがモーニングスターを放つ。だが先端の鉄球は受け止められ、伸びていた鎖を掴まれ引っ張られる。強い力で引っ張られたことにより身体ごとドン・キラーの前まで飛ぶ。

 

「がっ!」

 

 無防備になったその体はドン・キラーの拳を喰らい吹っ飛んだ。

 

「はああっ!」

 

 雄叫びを上げてエミリアは跳躍し、上から攻撃を仕掛ける。細長い氷柱をその手に持ち振るうが、ドン・キラーはそれを受け止めてへし折る。

 

 へし折れた氷柱にエミリアは思わず目を向ける、拳を向けるドン・キラーに気付き腕に氷のシールドを展開する。しかしそれはすぐさま砕かれ、ダメージは少ないものの体が吹っ飛ばされる。

 

 立ち上がるエミリア。ドン・キラーは口からビームを放ち、エミリアは再び氷のシールドを展開してそれを防ぐ。ビームの凄まじい力でシールドを削られるものの、同時に再生もする。

 

 しばらくして、手を横に動かしビームを上手く受け流し脱する。そのままドン・キラーに急接近して体を捻ると、氷を纏った左足がドン・キラーの左手を捉える。

 

 氷により手が地面に縫い付けられドン・キラーが態勢を崩す。それによって生まれた僅かな隙をエミリアは逃さず、右手に纏った氷塊をドン・キラーの顔にぶつけた。

 

 甲高い音が響き渡る。

 

 ————だが、その顔には傷一つ付いていなかった。それどころか、氷塊が砕けてしまう。

 

 エミリアはそれに驚く暇もなく、ドン・キラーの右手から放たれた光弾が腹に直撃し吹き飛んだ。

 

「誰か忘れちゃいないかな!」

 

 中性的な声が聞こえたと同時に、天からドン・キラーに向かって大量の氷柱が降り注ぎ、砂煙が舞った。

 

「さて、どうかな?」

 

 エミリアの下に灰色の猫が戻る。氷柱を降らせたのはパックだった。

 砂煙が晴れると、大きな氷塊が出来上がっていた。きっと、ドン・キラーはあの中で氷漬けに————。

 

ぴしっ

 

「ん?」

 

 パックが声を出した瞬間、氷にひびが入る音が連続で続き、最後には砕け散る音が響いた。

 

 周囲に細氷が舞う中、ドン・キラーは平然と立っていた。

 

「……あらら」

 

「そんな……っ!」

 

 パックは頭を掻いて困ったような顔と声を出すが、内心は戦慄しており、エミリアも悲痛そうに顔を歪める。

 

「あれ喰らって倒せねえって……んなのアリかよ!?」

 

「何て力なの……!」

 

 スバルとラムも戦慄する。パックの魔法を喰らってもドン・キラーに傷は一つも付いてないからだ。

 当の本人は、ドンブラザーズを見て口からビームを放つ。

 ドンブラザーズはそれを避け、せめてもの抵抗とばかりにドンブラスターを一斉掃射する。

 

『ドゥルルルルルルルルル!』

 

 ゼンカイザーブラックも加勢し、ギアトリンガーのハンドルを回し連射する。

 

 だが、ドン・キラーの身体はそれを全て弾き返す。

 

「くっ……やはりドン・キラーに対抗するには、あれしか……!」

 

 ゼンカイザーブラックが小さくそう漏らす。

 

「んあ?」

 

 その時、スバルは上空からまた何か迫ってることに気づいた。

 

「また何か来てるんですけど!?」

 

 他のものも視線を向けると、確かに赤色の光る何かが地上に急接近をしている。

 

 それが地上へと辿り着いた瞬間、大きく爆風が起こり、砂煙が舞った。

 

 その煙は徐々に晴れ始める。それによって、落ちてきたものの正体は人型だと分かり始める。やがて、その煙は完全に晴れた。

 

「ドン・キラー・キラー……!」

 

「ドン・キラー・キラー!? 何そのヤケクソネーミング!?」

 

 スバルはゼンカイザーブラックが呟いた名前に大きくツッコんだ。

 

 彼らの目の前に新たに現れたのはドン・キラー・キラー。もしもドン・キラーが何らかの要因で暴走した際、それを止めるために開発された戦闘アンドロイドである。

 

 赤と銀で彩られた近未来チックな服装を纏い、両目の瞳は赤色で、回線を思わせる銀色のラインが走っている。

 

 そしてその面貌は何故かサルブラザーの猿原真一と瓜二つであった。

 

 ドン・キラーを視線に見据えたドン・キラー・キラーは目からビームを放った。同じく、ドン・キラーも目からビームを放った。

 

 ビームのせめぎ合いとなるが相殺され、衝撃波が生み出される。

 

 互いに迫り合い、取っ組み合いとなる。ドンブラザーズには大ダメージとなるようなドン・キラーのパンチを受けてもドン・キラー・キラーは怯んだ様子は無く、逆に相手にパンチを見舞う。

 

 その後、周囲が見守る中しばらくの格闘戦が繰り広げられた。

 そして、互いが掴み合うと、空に向かって軌跡を書きながら飛び立った。

 

「…………飛んでった…………」

 

 周囲が呆然と見上げる中、スバルは呟く。

 

「…………これで再び……あの二人は未来永劫、果てしなく戦いを続けるだろう………」

 

 宇宙では、ドン・キラーとドン・キラー・キラーが、高速で飛行しながらビームで撃ち合い、激闘を繰り広げるのであった。

 

「…………そういえば、何でドン・キラー・キラーはお猿さんの人に顔が似てたのかしら?」

 

「そりゃあ……かっこいいからじゃないか?」

 

 エミリアの疑問に、サルブラザーは頭を掻きながら答えた。

 

 

 先程とは別の場所で、ジオウとエミリアが戦っている。

 

「ヌァーハッハッハッハッハッ!」

 

何処からか甲高い笑い声が聞こえた。それに気づいたジオウとエミリアは崖の方に目を向ける。するとそこには、6つの人影が存在していた。

 

「そこの仮面の戦士達よ! 俺様達が力を貸してやろう!」

 

 そう言って指差すのは先程笑い声を上げていた青年。髪に赤いメッシュがかかって

 

いる彼は白いブラウスの上に赤と黒のケープと右に垂れ下がる紅いマントを羽織っていた。

 

 他五人のうち一人、リーゼントに青のメッシュがかかっている男は瞳は青く、左耳にイヤリングをしている。その身には黒いタンクトップの上に青のレザージャケットを着こなしている。

 

 うち一人の女性はブロンドの髪を縦ロールにしており、頭頂部は盛り髪でティアラを付けている。華やかなデザインの黄色い肩出しのワンピースドレスレースの手袋、銀のサンダル等、いかにも女王らしい。

 

 もう一人の女性は、黒髪のロングヘアで右目は髪で隠れている。黒を基調に紫のラインが入った服装をしており、顔の下半分が隠れるほど襟が長く、服装の露出も非常に少ない。

 

 男女の中で最も体格の良い男性はウェーブのかかった長い髪を頭頂部で結っている。右目の下には紅を差し、反対側の頬に四つの小さい円形のペイントがある。服装は黒・橙・金色等があしらわれた派手な羽織袴姿だった。

 

 最後の男は黒髪の端正な顔立ちの若者で、フェイスペイントが施されている。金の装飾を蜘蛛の巣のように巡らせた白いコートを纏っており、貴族を思わせる格好。しかし、その服の右裾から覗く手はまさしく異形のそれ だった。

 

「たく、いきなり妙な所に連れ出されたかと思ったら、とんでもねェ乱闘騒ぎが起こってやがる」

 

「私たちが手助けしてあげるわ、光栄に思いなさい?」

 

「……………………」

 

「微力かもしれませぬが、お力添えをいたしましょう!」

 

「六つの国の王が巨悪を倒すため異界の英雄と手を組み共に戦う、とさ……王道ながらも良い筋書きだと思わないかい?」

 

「アンタ達は……」

 

 ヤンキーチックな青の男と高飛車なブロンドの女性と無口な紫の女性と物腰柔らかな黒の男と飄々とした白の男。

 

 彼らの言葉に続けるようにジオウが問う。

 

「俺たちは!」

 

 赤の男の声に合わせて5人は様々な装飾が為された銀色の剣————王の証たるオージャカリバーを構え、白の男はタランチュラの装飾が施された短剣、クモノスレイヤーを構える。

 

Qua God(クワガタ)!』

 

Tone boy(トンボ)!』

 

Comn and Kick it(カマキリ)!』

 

Pop it on(パピヨン)!』

 

Hatch it(ハチ)!』

 

Guys Go(解放)!』

 

 赤色の鍬形の角、青色の蜻蛉の尻尾、黄色の蟷螂の鎌、紫色の蝶の羽、黒色の蜂のお尻。それぞれが操作されオージャカリバーに光を灯す。クモノスレイヤーにチェンジクモノスキーが差し込まれる。

 

 王の凱旋とも言える荘厳な音楽な流れる中、その一言は叫ばれた。

 

「「「「「「王鎧武装!」」」」」」

 

 瞬間、構えをとった5人は同時に鍬形の角を引き下ろし、一人はキーを回す。とくと見よ、平和を守る王の姿。

 

『You are the KING! You are the!  You! are! the KING!』

 

 6人の体が琥珀色の結晶体に包まれる。その後、出現した巨大な機械の虫達がその結晶を砕いた時、彼らの身体は変貌していた。

 

 テクノロジーの国『ンコソパ』の王。その名も、

 

「叡智の王、ヤンマ・ガストだ!」『トンボ・オージャッ!』

 

 医療と芸術の国『イシャバーナ』の女王。その名も、

 

「絢爛の女王、ヒメノ・ラン!」『カマキリ・オージャッ!』

 

 氷雪の国『ゴッカン』の国王兼最高裁判長。その名も、

 

「不動の王、リタ・カニスカ!」『パピヨン・オージャッ!』

 

 農業の国『トウフ』の王殿。その名も、

 

「豊穣の王殿様、カグラギ・ディボウスキ!」『ハチ・オージャッ!』

 

 地帝国『バグナラク』の新たなる王。その名も、

 

「狭間の王、ジェラミー・ブラシエリ!」『スパイダァークモノスゥー!』

 

 そして、始まりの国にして最強国『シュゴッダム』の新たなる王。その名も、

 

「邪悪の王! ギラだ!」『クワガタ・オージャッ!』

 

 彼らもドンブラザーズと同じく戦隊であった。

 

 正式名称は|六王国異様事案対策用戦略救命部隊《ろくおうこくことさまじあんたいさくようせんりゃくきゅうめいぶたい》、通称は彼らの世界の守護神の名を由来し、その名も————。

 

「我ら! 王様戦隊キングオージャー!」

 

 クワガタオージャーがオージャカリバーを逆手持ちに掲げて高らかに告げた。

 

「さァ! 共に雑魚どもを蹴散らすぞ!」

 

「……あぁ!」

 

 クワガタオージャーが王様鬼達にオージャカリバーの剣先を突きつける。彼の言葉にジオウは強く頷いた。

 

「ヌァーハッハッ! 平伏せ雑魚どもが!」「全員ぶち抜いてやんよ!」「切除する!」「さてさて、参りましょう!」「……死罪だ」「行くとしようか」

 

キングオージャー達は崖から飛び立ち敵の群れへと飛び込む。

 

「おらおらおらおらおらぁ!」

 

キングズウエポン・銃モードで敵を撃ち抜き続けるのはトンボオージャー。

 

『オージャシューティングッ!』

 

「喰らいやがれっ!」

 

 ウエポンのエンブレムを叩くように押し、トリガーを引いて巨大な青い光弾で纏めて敵を倒す。

 

「はあーっ!」

 

 オージャカリバーとキングズウエポン・鎌モードの二刀流で敵を刈り取るのはカマキリオージャー。

 

『オージャスラッシュッ!』

 

「やあああっ!」

 

 カリバーとウエポンを連結させ、黄色い刃を纏うことで大鎌となる。それで敵を一気に斬り払った。

 

「ふん。ふっ、はっ!」

 

 キングズウエポン・弓モードで矢を放ち敵を貫くパピヨンオージャー。

 

『オージャシューティングッ!』

 

「ふんっ!」

 

 天に打ち上げられた矢は分裂し、敵の群れへ一気に降り注ぐ。

 

「ほっ! よっ! はあーっ! どっせい!」

 

 キングズウエポン・爪モードで敵を突くハチオージャー。後ろから掴み掛かる敵は背負い投げで飛ばし、力士のように四股を踏むと地面が震動し敵が吹っ飛ぶ。

 

『オージャスラッシュッ!』

 

「せえいっ!」

 

 エネルギーを纏った爪で敵を一気に貫く。

 

「えいっ! やあっ!」

 

エミリアが殴る、蹴るの徒手空拳で戦闘中だった。そんな時、彼女の後ろに猫獣人が迫る。

 

「おっと! BANG!」

 

 スパイダークモノスがヴェノミックスシューターで後ろからエミリアに迫る猫獣人を撃ち抜いた。

 

「大丈夫かい? 銀髪の素敵なお嬢さん」

 

「あっ、ありがとうございます!」

 

 助けてもらったので礼を言ったエミリア。二人は互いに背中合わせになって光弾と氷柱を放った。

 

「はあーっ!」

 

「でやあっ!」

 

 オージャカリバーとキングズウエポン・剣モードの二刀流で戦うクワガタオージャーとジカンギレードで戦うジオウ。

 

『オージャスラッシュッ!』

 

『ジ・オウ! ギリギリスラッシュ!』

 

 オージャカリバーが合体したキングズウエポン・薙刀モードとジカンギレードから放たれた斬撃が重なり、X字になって敵を切り裂く。

 

「ヌアーッハッハッハッ! 貴様、中々やるな!」

 

「でしょ? 俺も王様だからね」

 

「え、そうなのか!?」

 

「そう。で、今は最高最善の魔王を目指してるとこ」

 

「…………最高最善の魔王って、ただの良い王様じゃないか?」

 

「うん、そうかもしれないけどそういうツッコミはなし。俺が目指してるからそれで良いの」

 

「え、ええ?」

 

「というかアンタも邪悪の王って名乗ってるけど……実は良い王様でしょ」

 

「そんなことはない! 俺様は邪悪の王! ……です!」

 

「…………ふっ」

 

「ねぇ今鼻で笑ったよね!? 鼻で笑ったよね!?」

 

「ほら、次行くよ次!」

 

 と言ってジオウは走り出した。「ちょっとー!」と叫びながらクワガタオージャーも戦いを再開した。

 

Oh-Qua God(オオクワガタ)!』

 

 崖の上にいた何者かが黄金の剣、オージャカリバーZEROのクワガタの角を引く。

 

「……王鎧武装」

 

 その一言を告げ、再び角を引いた。

 

『Lord of the! Lord of the! Lord! of the! SHUGOD! オオゥクワガタァ! オージャッ!』

 

 琥珀色の結晶体に包まれ、それが砕かれる。銀色の戦士、オオクワガタオージャーに変身した。

 

「はあーっ!」

 

 崖から飛び降り、その勢いで剣を一直線に振り下ろし敵を切り裂いた。

 

「お前は……ラクレス!?」

 

 クワガタオージャーがオオクワガタオージャーの姿を見て驚愕の声を上げる。

 

 ラクレス……本名ラクレス・ハスティーとは、クワガタオージャーことギラの実の兄であり、シュゴッダムの前王である。同時にオオクワガタオージャーの変身者でもある男だ。

 

「なぜお前がここに!? お前はあの時……!」

 

 クワガタオージャーの脳内で、かつての戦いが回想される。

 

 民を道具だとしか思わない傲慢な独裁者たるラクレスを、決闘裁判の末に崖へと落とし打ち倒した時のことを。

 

 お互い、マスク越しに睨み合う。

 

「……ふっ!」

 

 結局、オオクワガタオージャーは何も答えず敵に斬りかかる。

 

「…………今は味方なのか?」

 

 クワガタオージャーは色々思うところはありつつも、今は共闘することに決め戦闘に戻り始めた。

 

 そしてクワガタオージャーは金色の王冠を取り出す。その名もオージャクラウン。彼が統べているシュゴッダムに代々伝わる”始祖の王冠“である。

 

 赤い宝石に触れると、それは光り輝く。

 

『KING! KING!』

 

「王鎧武装! 始祖、光来!」

 

 その掛け声と共に、頭に装着。それと同時に、全ての宝石が光り輝く。

 

『You are! I am! We are the! We are the! KING! KING! OHGER!』

 

 巨大なオージャクラウンが彼の身体を天から通過した後、琥珀色の結晶体に包まれる。それが砕けると金色のクワガタが彼の身体にしがみ付き、その身を金色へ変える。

 

『キングクワガタ・オージャッ!』

 

 悲しみを支配する黄金の王者。その名も、キングクワガタオージャー。王の武器たるオージャクラウンランスを構える。

 

「はあーっ!」

 

 ランスから赤い斬撃を一つ飛ばすだけでアノーニは皆吹っ飛び爆散した。

 

 守りが全員いなくなり、王様鬼一人となる。

 

『『『『『オージャチャージ!』』』』』

 

 各メンバーごとにオージャカリバーの部位を3回連続で引く。

 

必殺(Hit Search)!』

 

 スパイダークモノスがクモノスレイヤーに刺したチェンジキーを操作。

 

『キングオージャー!』

 

 更にキングクワガタオージャーはオージャクラウンランスのクラウンを回転させる。

 

『オージャチャージ!』

 

 オオクワガタオージャーもオージャカリバーZEROのクワガタの角を連続で3回引く。

 

『フィニッシュターイム!』

 

 ジオウもジカンギレードにジオウライドウォッチをセット。隣にいるエミリアも両手を掲げ氷を収束させる。

 

『『『『『オージャフィニーッシュ!』』』』』

 

『ダンシングキング!』

 

『キングオージャー! フィニッーシュッ!』

 

『ロードフィニッシュ!』

 

『ジ・オウ! ギリギリスラーッシュ!』

 

 色とりどりの光線が王様鬼の下へ飛ぶ。それによって、大爆発が起こった。

 

 

「そらあっ!」

 

 ドンモモタロウが魔王鬼と預言鬼を纏めて斬りつける。軽く悲鳴を上げて吹っ飛ぶ両者。

 

「我が宿敵よ!」

 

 そんな時、何処からか中年男性を思わせる低い声が轟く。その声に一番に反応したのはドンモモタロウだった。

 

 彼の視線上にある崖の上にオーロラカーテンが出現し、そこから一人の男性が現れる。

 

「お前は……」

 

 そこにいたのは、声の通り中年の男性。失礼ながら頭のてっぺんは禿げていて、顎にはフサフサの髭を生やしており、その身には紫色の忍者の装束の上に古代民族を思わせる衣装も着込んでいる。

 

 彼の名は大野稔。かつて桃井タロウに挑むため、手裏剣鬼、魔法鬼、轟轟鬼に変貌し、果ては星獣鬼にさえ憑依されていた男。そして王様鬼となる未来も待っており、最もヒトツ鬼に憑依された人物だ。

 

「お前か……また来たのか」

 

「そうだ。そして俺は貴様に勝つ為! 別の俺自身とも手を組んだのだ!」

 

「何?」

 

 瞬間、彼の周辺に複数のオーロラカーテンが出現した。そしてそこから……4人の大野稔が出現した。

 

 4人はそれぞれ違う衣装で、一人は黒いハットに黒いベストを、一人は学ランを思わせるジャケットを、一人は兜と鎧を、一人は科学者を思わせる白衣を着ていた。

 

「っ!?」

 

「うわあのおじさん増えてる!?」

 

 ドンモモタロウとオニシスターは驚愕していた。他その場にいた猿と犬と雉と龍と虎も困惑していた。当然ではあるが。

 

「超ッ! 変ッ! 身ッ!」

 

「貴様の罪を数えろォ!」

 

「宇宙ゥゥゥゥゥゥ! キタァァァァァァ!」

 

「フルーツジュースにしてやる!」

 

「実験を始めるぞォ!」

 

 赤いサークルが出現した後、5人の大野稔は古代鬼、探偵鬼、友情鬼、果実鬼、創造鬼にそれぞれ変貌する。そして崖から飛び降り一斉にドンブラザーズに襲いかかる。魔王鬼と預言鬼もこれを好機と見たのか便乗して襲いかかる。

 

「ドンブラザーズの皆!」

 

 それを見兼ねたジオウがドンブラザーズの面々を呼ぶ。

 

「これを!」

 

 彼らが振り向いた瞬間、ジオウは何かを投げた。ドンブラザーズはそれを受け取る。

 

「! これは」

 

 投げられたそれどうやらアバタロウギアのようで、ドンモモタロウのものには仮面ライダージオウの姿が写っていた。

 

「仮面ライダーのアバタロウギアだ! 使ってみて!」

 

 ジオウにそう言われドンモモタロウは「ほう」と呟く。

 

「お供達! やるぞ!」

 

 ドンモモタロウのその一声で、それぞれギアをターンテーブルにセットする。

 

「「「「「「「アバターチェンジ!」」」」」」」

 

『ぃよぉ〜ッ! ドン! ドン! ドン! ドンブラコオッ! 仮面ライダァァァァ!』

 

『ドーラドラドラドラドラァ! 仮面ッ! ライダァァァァ!』

 

 ギアを何回も回してデータをロードして増幅後、トリガー、もしくはボタンを押す。するとアバタロウギア型のアバターデータが出現し彼らの体をすり抜けると、その身にアバタロウスキンが纏われた。

 

『いざっ! ヘンシィィィィィィン!』

 

『熱烈歓迎ィ! 仮面ライダー! 謝謝!』

 

 彼らが変身したのは音声の通り————そう、仮面ライダーであった。

 

 ドンモモタロウは仮面ライダージオウ、オニシスターは仮面ライダークウガ、キジブラザーは仮面ライダーダブル、サルブラザーは仮面ライダーフォーゼ、イヌブラザーは仮面ライダー鎧武、ドンドラゴクウは仮面ライダービルド、ドントラボルトは仮面ライダーウォズに変身。

 

「これは……!」

 

「すっごい!」

 

 サルブラザーことフォーゼとオニシスターことクウガは自身の姿を見たり触ったりしている。

 

「わぁーかっこいい! さぁ、お前の罪を数えろ! ……なんちゃって」

 

「……オレンジなのか? これ?」

 

 キジブラザーことダブルは指差すポーズをして、イヌブラザーこと鎧武は鎧をマジマジと見ていた。

 

「兎と戦車……どういう組み合わせなんだろ?」

 

「ほォう……」

 

 ドンドラゴクウことビルドは頭部を触っており、ドントラボルトことウォズは新しい姿に興味津々の様子。

 

「面白い! 行くぞお供達! はあっ!」

 

 ドンモモタロウことジオウは飛び立つ。それに続くように他のメンバーも次々と飛び立つ。

 

「はあーっ!」

 

『タァーイムブレーィク!』

 

 ジオウは魔王鬼に向けて足裏のキックの文字をマゼンタに光り輝かせタイムブレークを放つ。

 

「ライダーロケットドリルキック!」

 

『LIMIT BREAK!』

 

 フォーゼは右腕と左足にロケットモジュールとドリルモジュールが自動的に装着され、ライダーロケットドリルキックを友情鬼へ。

 

「おりゃあーっ!」

 

 古代鬼に向けクウガは右足に炎と封印エネルギーが収束されることによって放たれるマイティキックを。

 

「セイハーッ!」

 

『オレンジスカッシュ!』

 

 鎧武は果実鬼にオレンジの輪切りのエネルギーを通過し無頼キックを。

 

「ジョーカーエクストリームッ!」

 

『マキシマムドライブ!』

 

 ダブルは風を纏い、身体を分割させてジョーカーエクストリームを探偵鬼に。

 

「はあああああああっ!」

 

『ボルテック! フィニーッシュ!』

 

 創造鬼は巨大なグラフで拘束され、そこから滑ってくるビルドにボルテックフィニッシュを見舞われる。

 

「うおおおおおおっ!」

 

『タイムエクスプロージョン!』

 

 ウォズは足裏のキックを蛍光グリーンに光り輝せ放つタイムエクスプロージョンを預言鬼に。

 

「どああああああああ!」「うぼあああああああ!」「ぐあああああああ!」「ぐはああああああああ!」「だはあああああああ!」「うあああああああ!」「ぎゃあああああああ!」

 

 ヒトツ鬼の、大野稔達と魔王鬼と預言鬼の断末魔が響き渡る。

 

 それぞれ放たれたライダーキックは見事ヒトツ鬼に大ダメージを与えて爆発を起こし、撃破に導いたのであった。

 

 

「ふっ! はあっ! でやあっ!」

 

 ジオウはアナザーゴールドンブラザーズと戦っていた。黒刀の一撃をジカンギレードで受け止めて後ろへ飛ぶ。

 

「ジオウ!」

 

 ドンモモタロウに呼ばれ、振り返るジオウ。その直後、彼から何かを投げられ、それを咄嗟に片手で受け止める。

 

「! これはッ」

 

それは赤と黒で彩られたライドウォッチ。下には、2022の電子数字が書かれており、上には————ドンブラザーズを象徴するマークが。

 

「使え、俺達の——————ドンブラザーズの力をな!」

 

「——————ああ!」

 

 ジオウは、ウェイクベゼルを回してドンモモタロウの顔が写った状態にする。そして、リューズを押した。

 

『ドンブラザーズ!』

 

 ドンブラザーズライドウォッチをベルトに装填。そしてロックを解除して、回した。

 

『アーマァータァーイム! ドンブラコォ! ドン! ブラザァーズ!』

 

 ドンモモタロウを模したアーマーが現れる。それを蹴ると、アーマーは分裂し、ジオウの体に装着されていく。

 

 目にはマゼンタで『ドンブラザーズ』の文字が、額にはメタリックピンクの桃が、肩にはドンブラスターを模した装甲が、更に頭部にはドンモモタロウにも付いていた丁髷の『ドンまげ』が。胴体はドンモモタロウの装甲を模している。

 

 ドンブラザーズアーマーに変身完了した。

 

…………さて、本来ならばここで彼の家臣がこの変身を祝うはずなのだが。ここには居ないので代わりに。

 

 ————祝え!

 

 全ライダーの力を受け継ぎ! 時空を超え、過去と未来を知ろしめす時の王者!

 

 その名も仮面ライダージオウ・ドンブラザーズアーマー!

 

 時の王者・仮面ライダージオウがスーパー戦隊の力さえ継承した瞬間であるッ!

 

「さァさァさァ! お祭り騒ぎだァ!」

 

 ドンブラスターZとジカンギレードを構えて走り出すジオウ。

 

「来い! オミコシフェニックス!」

 

 ドンモモタロウは指笛を吹いた。

 

 すると空の彼方から黄金の不死鳥、オミコシフェニックスが咆哮を上げて飛んできた。

 

『パァァァァリィィィィタァーイム! オミコシフェニックスッ!』

 

 ドンモモタロウは手に取ったオミコシフェニックスを変形させ、ドンブラスターに装着。

 

「ァゴールドアバターチェンジ!」

 

 首を回しながらそう告げスクラッチギアを回し始める。

 

『いよぉー! ドン! ドン! ドン! ドンブラコォ! ドン! フェスティバルタァ〜イム! ワッショイワッショオイ!』

 

 ドンモモタロウは黄金の波が流れ天女が舞い踊る特殊空間の中で、祭り男によって担がれた神輿の上に立った。

 

「ハーハッハッハッ! 最強の力、見せてやろう! フッ!」

 

 そしてブラスターを上に向けてトリガーを引いた。すると天面の蓋が開き、オミコシフェニックスが出現。身体から水面を思わせる柱状のエネルギーを放ちドンモモタロウを覆う。

 

『ハァ〜! セイヤ! セイヤ! セイヤセイヤセイヤセイヤセイヤァ! 完! 全! 無ッ欠の! オーニ退治ィ〜! ゴールドンッ! モモタロォ〜! よっ! 天下無双ッ!』

 

 身体に黄金のアーマーが装着され、マントも出現。最後に顔に黄金のサングラスが取り付けられ、ゴールドンモモタロウに変身完了した。

 

「はあーっ!」

 

 ジオウのドンブラスターZの銃口はアナザードンブラザーズを捉え、光弾が放たれる。

 

 それを黒刀で防ぐが、その間に接近してきたジオウが斬りかかってきた。

 

 その攻撃をアナザーゴールドンブラザーズはすぐに受け止めるが何度も連続で斬撃を撃ち込まれたことにより防御が崩れ、身体に斬撃が入る。

 

 更に水色の鋭い光弾も撃たれる。ゴールドンモモタロウだ。ゆっくりと歩きながらも、射撃の手を止めることはない。

 

 アナザーゴールドンブラザーズは高速移動をする。それを見たゴールドンモモタロウも高速移動をした。ジオウも同様にする。

 

 目にも止まらぬ速さで動く三者がぶつかり合う。

 

 高速の中で三者の剣がぶつかり合った後、全員後ろへ飛んだ。

 

「最強の更なる力、見せてやる」

 

 ゴールドンモモタロウはドンブラスターにトッキュウジャーのアバタロウギアをセットする。

 

『ドンブラコォ! トッキュウジャー!』

 

『ワッショイワッショイ! 大先輩!』

 

 そのままトリガーを引いた。

 

『フェスティバルタイム! 極! 烈車戦隊!』

 

ゴールドントッキュウ1号にチェンジした。

 

 アナザーゴールドンブラザーズが黒い弾を撃つが、トッキュウ1号はジオウとザングラソードとトッキュウブラスターの二刀流で全て切り落とした。

 

 駆け出してアナザーゴールドンブラザーズに斬りかかり、黒刀で受け止められるがそれも弾かれ身体を切り刻む。

 

 後ずさったアナザーゴールドンブラザーズがトッキュウ1号に斬撃を放つが、

 

『極! 動物戦隊!』

 

 次はゴールドンジュウオウイーグルに変身。羽を広げて斬撃を払った。

 

『極! 騎士竜戦隊!』

 

ゴールドンリュウソウレッドへ。逆手でリュウソウケンを持ってアナザーゴールドンブラザーズを連続で斬り、横からジオウがキック。

 

『極! 手裏剣戦隊!』

 

ゴールドンアカニンジャーにチェンジ。忍者一番刀の刀身にエネルギーが纏われる。

 

『フィニッシュタイム!』

 

 ジオウはジカンギレードにドンブラザーズライドウォッチをセットする。

 

『ドンブラザーズ! ギリギリスラーッシュ!』

 

「「はあーっ!」」

 

 二つの剣から斬撃が放たれ、X字に重なってアナザーゴールドンブラザーズに命中した。

 

 アカニンジャーがゴールドンモモタロウの姿に戻った時、敵を倒し終えた一同が集う。

 

「来い、オミコシフェニックス!」

 

 その中で口笛が吹かれると、未来オニシスターの下にオミコシフェニックスが到来。

 

「ゴールドアバターチェンジ!」

 

「アバターチェンジ、ロボタロウ!」

 

 未来オニシスターがドンブラスターに変形したオミコシフェニックスをセットしてギアを回転させ始める。隣では未来サルブラザーもギアをセットした。

 

『ドンブラコォ! オニ! フェスティバルタァイム! セイヤ! セイヤ! セイヤセイヤセイヤセイヤセイヤァ! 完! 全! 無ッ欠の! オーニ退治ィ〜! 超! 鬼に金棒!』

 

 ゴールドンモモタロウと同じ変身プロセスを踏み、ゴールドンオニシスターへチェンジ完了。

 

 身体には黄金のアーマーとマント、マスクの角部分が大きくなり金色になっていた。

 

『サルロボタロウ!』

 

 未来サルブラザーもサルブラザーロボタロウに変身完了。

 

「ふんっ!」

 

 まずはゴールドンモモタロウが手をパンッと大きく叩く。小さいながらも赤い衝撃波が広がった後、その手で桃の形を作りアナザーゴールドンブラザーズを覗き込む。

 

 呼応するように額の桃のエンブレムが光り輝く。ゴールドンモモタロウが手を離すと、アナザーゴールドンブラザーズは桃のエネルギーの中に閉じ込められていた。

 

『『Wow! 四鮫(ヨンシャーク)! 流鏑鮫(ヤブサメ)』』

 

『ドラゴン! 奥義ィ!』

 

『タイガァー! 奥義ィ!』

 

2本のニンジャークソードのギアが4回転し、2本の龍虎之戟のトリガーが引かれる。

 

『『『『オージャチャージ!』』』』

 

 キングクワガタオージャーを除く各メンバーがオージャカリバーの部位を3回連続で引く。

 

必殺(Hit Search)!』

 

 スパイダークモノスがクモノスレイヤーに刺したチェンジキーを操作。

 

『キングオージャー!』

 

 キングクワガタオージャーはオージャクラウンランスのクラウンを回転させる。

 

『オージャチャージ!』

 

 オオクワガタオージャーもオージャカリバーZEROのクワガタの角を連続で3回引く。

 

ゼンカイザーブラックは再びギアトリンガーのハンドルを回し、脳人や獣人達は各々の武器にエネルギーを纏わせていた。サルブラザーロボタロウも両腕に青いエネルギーを纏わせる。エミリアとレムも氷を手に収束させていた。

 

『パーリィターァイム!』

 

 ドンブラスターを使う者達によって、天面ボタンが押された時の音声が鳴り、ギアも回された。

 

 ゴールドンモモタロウとゴールドンオニシスターはオミコシフェニックスの羽を広げ、水色のボタンを押し込む。

 

『『超! フェスティバルターァイム!』』

 

「抱腹絶桃……フェスティバル縁弩!」

 

 必殺技を呟くのはゴールドンモモタロウ。

 

『セイヤ! セイヤ! セイヤセイヤセイヤセイヤ! セイヤ! セイヤ!』

 

『フィニッシュターァイム! ドンブラザーズ!』

 

 ドンブラスターから音声が鳴る中、ジオウがベルトを操作した。

 

「桃代超最強……! オールスターアバター乱舞!」

 

 ジオウはジカンギレードと、ザングラソードZを構える。

 

『必殺奥義! ターァイムブレーェイク!』

 

 ジクウドライバーからその音声が流れた瞬間、皆必殺技を放った。 

 

『ゴールドンブラコォ!』

 

「雷刃……! 闇駆白虎……!」

 

「ライトニング! ドラゴンフラッシュ!」

 

『乱れ雷虎! ホワターッ!』

 

『激龍之舞! ア〜〜タタタタタッ!』

 

『『『『オージャフィニーッシュ!』』』』

 

『ダンシングキング!』

 

『キングオージャー! フィニッーシュッ!』

 

『ロードフィニッシュ!』

 

『よお〜ッ! ドンブラコォ!』

 

色とりどりの光線、二体の紫色の鮫、銀色の虎、赤い龍、二体の黄金の不死鳥————そして、大きな桃型のエネルギーがアナザーゴールドンブラザーズ目掛けて一斉に飛ぶ。

 

 アナザーゴールドンブラザーズもその身を黒い不死鳥に変えてバリアを自力で破り突撃してくる。お互いの攻撃がぶつかり合って押し合いとなった。

 

「はあああああっ!」

 

 不死鳥となっているゴールドンモモタロウが雄叫びをあげる。纏っていた黄金のオーラが一層強い輝きを帯びた。

 

「うおおおおおっ!」

 

 大きな桃型のエネルギーの正体であるジオウも雄叫びを上げた。エネルギーを纏いながら剣で斬ろうとする中、ドライバーのドンブラザーズライドウォッチが輝いた。それに呼応し、桃も輝く。

 

 黒い不死鳥、アナザーゴールドンブラザーズは徐々に攻撃の勢いに押されていった。

 

 そして、

 

『ももや〜!』

 

再见(ざいちぇん)!』

 

 貫かれた。元の姿に戻ったアナザーゴールドンブラザーズは大きく手を広げ、大爆発を起こした。

 

「「「「「「ドン! ドン! ドンブラザーズ!」」」」」」

 

 勝利を宣言するようにその言葉が叫ばれた。ドンブラザーズのメンバー達によって。

 

 爆発の跡には、アナザードンブラザーズのライドウォッチだけが転がっていた。

 

「お……おお! よっしゃー! 勝ったぞー!」

 

「いや、まだだ!」

 

「え?」

 

 スバルの歓喜の声をゴールドンモモタロウがすぐさま否定した。

 

地面に転がっていたアナザードンブラザーズウォッチの周りを『蟾ィ螟ァ蛹』と書かれた警告テープのようなものが囲い、紫色の炎が燃え盛る。

 

空中に巨大な脳人レイヤーが展開され、炎がそこにまで昇るとアナザーゴールドンブラザーズからフォームチェンジしたアナザートラドラオニタイジン極が出現。大きな雄叫びを上げる。

 

「何だありゃ!?」

 

「すごーくおっきくなっちゃった!?」

 

 その様子を見てスバルとエミリアは声に出して驚いていた。

 

「お供達! オミコシ大合体だ!」

 

ドンモモタロウは暴太郎極ロボタロウギアをブラスターにセットする。

 

『ドンブラコォ! 超! ロボタロウ合身!』

 

まずはドンオニタイジンへ再び変身。

 

「こっからは俺の合体だ!」

 

「見ててください、私の合体!」

 

「最強キター! ……何でこんなことを」

 

「本日三度目〜! 肩〜!」

 

合体後、オミコシフェニックスが鳴き声を上げて到来。身体が分解する。

 

「さあ、羽の数を数えろ!」

 

 分解した一部はキジンソードとドンロボタロウの胸アーマーと合体し、"ゴールドンランス"となる。

 

 オミコシフェニックスの顔と羽部分が胸に合体し、ドンロボタロウの頭にピンクの『暴』の装飾が施された金色の兜が装着。

 

『完成!』「完成!」

 

「「「「「ゴールドンオニタイジン! もも!」」」」」

 

 ゴールドンランスに暴太郎極ロボタロウギアが合体した後、右手に持ち左手にゴールドンシールドを装備。

 

 ゴールドンオニタイジン、完成。

 

『一騎当千! 鬼退治ィ〜!』

 

「僕らももう一度合体です!」

 

 ドンドラゴクウとドントラボルトはロボタロウギアを虎的盾鑼セットして操作。

 

『完成! 虎龍攻神!』

 

 脳人レイヤーに巨大化した虎龍攻神が出現。

 

『ブラックオニタイジンです、ムラサメ』

 

「はい、マザー……!」

 

 ニンジャークソードが光り輝くと、何処からか黒い鎧が飛んできてドンムラサメに装着され、ブラックロボタロウに変身。ついでにソードは身体に吸収された。

 

 謎の紫色の空間でブラックロボタロウは飛行中。周りには猿と鬼と犬と雉の色が黒く染まったロボタロウが飛んでいた。

 

 ブラックロボタロウからの紫色の雷を受けて、それぞれのロボタロウは彼に合体。鬼と犬が足になり、猿が腕、雉が肩。最後に頭部と胸部にドンムラサメのバイザーを模したメットと装甲が装着されブラックオニタイジンムラサメが完成した。

 

「ふんっ…………!」

 

 未来ドンムラサメの身体が紫色のオーラに包まれると、彼は未来ブラックオニタイジンムラサメに変身する。ブラックオニタイジンムラサメとは違い、メットと装甲のマゼンタの部分が金色になっている。

 

「降臨せよ、キングオージャー!」

 

 クワガタオージャーがオージャカリバーのクワガタの角を引いた後、そのまま天に掲げる。

 

『シュ・ゴーッド!』

 

 そして、10体の昆虫型機械生命体守護神シュゴッド達が集結する。

 

『ゴッド! クワガタ!』

 

 まずはゴッドクワガタが変形をする。中にはクワガタオージャーが搭乗。

 

『ゴッド! カマキリ!』『ゴッド! ハチ!』

 

 ゴッドカマキリとゴッドハチが変形。中にはカマキリオージャーとハチオージャーが搭乗。

 

 二体はゴッドクワガタの足部分に合体。

 

『ゴッド! テントウ!』

 

 二体のゴッドテントウがゴッドクワガタの両腕部分に合体。

 

『ゴッド! パピヨン!』

 

 パピヨンオージャーが搭乗するゴッドパピヨンは己の装甲の一部をゴッドクワガタに合体させることにより、それは頭部となる。

 

『ゴッド! トンボ!』

 

 トンボオージャーが搭乗するゴッドトンボは下半身を分離させた後、ゴッドクワガタの背中に合体する。

 

『ゴッド! クモ!』

 

 二体のゴッドクモはゴッドクワガタの胴体部分に合体。それと同時に、胸部と頭部の角が上がり展開する。

 

 その後、分離したゴッドトンボの尻尾部分と、ゴッドパピヨンの胴体が人型になっているゴッドクワガタによって合体させられ“昆虫剣シュゴッドソード“となる。

 

『ゴッド! アント!』

 

 剣にゴッドアントが合体し、エネルギーが充填される。

 

『キング! キング! キングオージャー!』

 

 守護神キングオージャー、完成。

 

 ……が、その直後、機体をキングオージャーの顔が描かれたアバタロウギアのエネルギーが潜り抜けた。

 

 そして、キングオージャーの顔にドンオニタイジンのお面が取り付けられたのだ。

 これにより、ドンキングオージャーという形態に変身したのである。

 

「え!? 何このお面!?」「何これ美しくなーい!」「そうか? 結構イカしてると思うぞ」「これはまた面妖な……」「もっふんのお面にしてくれ」

 

「おっとォ……?」

 

 ドンオニタイジンのお面がつけられたキングオージャーを地上から見ていたスパイダークモノスも困惑していた。

 

「ほーう。誰だか知らないが、中々似合っているな」

 

「えっ? あ、ありがとうございます……」

 

 ゴールドンオニタイジンの内部にいるドンモモタロウから称賛の声を贈られ、困惑しながら会釈するクワガタオージャー。

 

「おおー! 皆すっごぉー!」

 

 ジオウは巨大ロボがドンドン完成していく様を見て感嘆の声を上げていた。

 

「ジオウ! エンヤライドンを使え! お前も大合体だ!」

 

 ドンモモタロウがゴールドンオニタイジンからそう呼びかける。

 

「え、良いの? よーし!」

 

 ジオウはエンヤライドンに飛び乗り、エンジンを吹かせ走り出す。やがて大きく飛び上がり、脳人レイヤーに入り込んだ。

 

それを見ていたゼンカイザーブラックがギアトリンガーにゼンカイジュランギアを裏返してセット。ハンドルを回し、トリガーを引いた。

 

すると、脳人レイヤーにジュランティラノが召喚され、咆哮を上げエンヤライドンと並走する。

 

「おお、でっかい恐竜!」

 

ジオウはドンブラスターZにドンゼンカイオーロボタロウギアをセットする。

 

『ドンブラコォ! ゼンカイジャー!』

 

音楽が流れ出してジオウが飛び立つと、エンヤライドンが巨大化。

 

「ドン・全界合体!」

 

巨大なゼンカイザーブラックの幻影が出現し、そう告げた。

 

『ドン! ゼンカイオー!』

 

エンヤライドンとジュランティラノがそれぞれ変形と分解をして、合体。

 

『よっ! 全力全開!』

 

 ドンゼンカイオー、完成。

 

ジオウはドンゼンカイオーの中にある操縦席に召喚される。その操縦席はセンタイギア風の台座にドンモモタロウを摸した装飾のあるオブジェが取り付けられていた。

 

「おおー! ここが操縦席かー!」

 

 ジオウはキョロキョロと周りの空間を見たり、オブジェを触ったりする。

 

「すっ……げぇ……! 巨大ロボだ!」

 

「わぁぁぁ……!すっごーい! かっこいい!ソウゴ乗れるなんて良いなー!」

 

スバルもエミリアは二人とも、勢揃いしたロボ達に目を輝かせていた。

 

「…‥何でもアリね……」

 

「……ですね……」

 

 同じくロボを見たラムとレムは、呆然とした表情だった。

 

 ここに、巨大戦力は揃った。

 

アナザートラドラオニタイジン極

 

 

ゴールドンオニタイジン&虎龍攻神&ブラックオニタイジンムラサメ&未来ブラックオニタイジンムラサメ&キングオージャー&ドンゼンカイオー

 

最終ロボ大決戦。

 

Ready————fight!

 

「行くぞ!」

 

 先陣を切ったのはゴールドンオニタイジン。彼に続くように他のロボも駆け出す。

 

 繰り出されるゴールドンランスの一突き。熱烈貫戟と4振りのソーシャークソードが身体を切り裂き、更にはシュゴッドソードとアバターソードの一撃が見舞われる。

 

「最強オニキック!」

 

 ゴールドンオニタイジンはランスを軸として身体を支えながら、アナザートラドラオニタイジン極に両足でキックを見舞う。

 

「ドンレッグバスター!」

 

ドンゼンカイオーの右肩のドンブラザーズギアが右足に移動。その後ギアが回転し、エンヤライドンのマフラーから弾幕が発射される。

 

「はあっ!」

 

 更にブラックオニタイジンムラサメからは光弾が放たれた。

 

 数の差もあり攻撃を連続で受けてしまうアナザートラドラオニタイジン極だが、手から黒いオーラを放つと異形達を召喚した。

 

 それは、ドンブラザーズが戦った歴代のヒトツ鬼ング達。

 

騎士竜鬼ング、烈車鬼ング、警察鬼ング、地球鬼ング、宇宙鬼ング、獣電鬼ング、高速鬼ング、恐竜鬼ング、鳥人鬼ング、炎神鬼ング、五星鬼ング、電磁鬼ング、獣拳鬼ング、忍者鬼ング、大鬼ング、魔法鬼ング、科学鬼ング、爆竜鬼ング、超新星鬼ング、特捜鬼ング、超獣鬼ング、救急鬼ング、星獣鬼ング、邪鬼ング、未来鬼ング、秘密鬼ング、百獣鬼ング、世界鬼ング、電撃鬼ングが、一同の目の前に出現。

 

「くっ! 大量に出しとけば良いとでも思ってんのか!」

 

「問題ない! 一気に倒すぞ!」

 

 イヌブラザーがヒトツ鬼ングの大群を見て愚痴を漏らした後、ドンモモタロウがそう告げた。

 

 ゴールドンオニタイジンはゴールドンランスを構える。

 

『ゴールドンッ! ロボタロ斬!』

 

「不桃不屈!」

 

「「「「「ドンブラユートピア!」」」」」

 

 ゴールドンランスのアバタロウギアが高速回転。エネルギーが迸り、ランスが巨大化。槍先から極太のビームが放たれ、更にそれを左右に動かすことでヒトツ鬼ング達を一掃した。

 

「一気に決めるぞ。超絶大合体だ!」

 

 ゴールドンオニタイジンは一度トラドラオニタイジンに変身。

 

 ドンロボゴクウが右腕に合体した後、オミコシフェニックスが胸部に合体。

 

ゴールドンランスに熱烈貫戟と神盾撃器が合体しゴールドンランス極となる。

 

「完成!」

 

「「「「「「「トラドラオニタイジン極! もも!」」」」」」」

 

 トラドラオニタイジン極、完成。

 

「「ニンジャーク秘技・鮫時雨!」」

 

 二人のブラックオニタイジンムラサメが胸から紫色のビームを放ちアナザートラドラオニタイジン極へと当てる。

 

「行くぞ!」

 

『GOD KUWAGATA!』

 

 クワガタオージャーが告げ、ドンキングオージャーがソードを掲げると、桃を掴んでいるゴッドクワガタの幻影が出現。

 

 エネルギーを纏ったソードで斬りつけた後、ゴッドクワガタが突撃した。

 

「ドン・ゼンカイクラッシュ!」

 

 ジオウが叫ぶと同時にドンゼンカイオーのアバターソードにエネルギーがチャージ。

 

 同時にアナザートラドラオニタイジン極に向かって巨大なドンブラザーズギアが丸鋸の如く突進。それに追撃するようにアバターソードで一刀両断。

 

「銀河統一!」

 

 最後はトラドラオニタイジン極。

 

 ランスの暴太郎極ロボタロウギアが回転しながらエネルギーを溜める。

 

 更に周りには7体のロボタロウの幻影が出現。

 

『ゴールドンッ! ロボタロ斬!』

 

「「「「「「「ドンブラファンタジア! 極!」」」」」」」

 

『えんやらやあ!』

 

 オミコシフェニックスの羽から2本のビームが発射され、ランスが突撃。

 

 ビームが直撃した後ランスに貫かれ、とうとうダメージに耐えきれずアナザートラドラオニタイジン極は爆発四散した。

 

「「「「「「「究極大勝利ィ〜!」」」」」」」

 

『めでたしめでたし!』

 

 その後、アナザードンブラザーズウォッチは青白い電気が走り、そのまま砕け散った。

 

 崖の上で、女と男が戦いの一部始終を見ていた。

 

「私達が出る幕は無かったみたいね……まぁ、どうでもいいけど」

 

「カッチカチのバッキバキだな……」

 

 そのまま踵を返し、何処かへ去り行く二人。彼らがドンブラザーズの最後の敵として立ちはたがるのは、未来の話。

 

◇◇◇◇

 

「ここまで世話になったな。礼を言おう」

 

 戦いが終わり、ドンブラザーズやジオウ達は変身を解いていた。

 

 タロウがソウゴに向かって礼を言っており、その様子を猿原や雉野やジロウ、スバルやエミリア達が見守っていた。

 

 オニシスターことはるかはレムラム姉妹にインタビュー中だった。

 

イヌブラザーはいつしか何処かに消えていた。恐らく帰ったのだろう。

 

 参戦していた他の戦士達も、どうやら帰ったようだ。

 

「良いよ別に。俺は王様として当然のことをしただけだからさ」

 

「…………そうか」

 

 ソウゴの回答にタロウは微笑みながら頷く。

 

「だがここまでお前と共に戦って、分かったことがある」

 

「?」

 

 ソウゴはタロウの言葉に首を傾げた。

 

「————ライダーなど、お供にもならん!」

 

 その一言に彼らの周りにいた者達は驚いていたり、どういうこと? と言った感じの戸惑った表情をする者で別れていた。

 

 だが、一人は違った。

 

「……ふふっ」

 

 常磐ソウゴは笑みを漏らす。

 

「じゃ、俺も戦隊は家臣にはいらないかな!」

 

 挑発するような笑みでそう言った。タロウも不適な笑みでそれに応える。

 

「折角だ、ここで決めておくとしよう。仮面ライダーと戦隊、どちらがオンリーワンか!」『ドン! ブラスター!』

 

 タロウは不敵な笑みを湛え、ドンブラスターを構えた。

 

「良いね、それ!」『ジクウドライバー!』

 

 ソウゴも同じように不敵な笑みを湛えてジクウドライバーを取り出し、装着。

 

「え、ちょ、桃井さん!?」

 

「ソウゴ!? 何で普通に乗っかってんだよ!?」

 

 慌てている雉野とスバル。しかし、そんな彼らに構わず両者は変身を始めた。

 

「アバターチェンジ!」『ドンブラコォ!』

 

『ジ・オウ!』「変身!」

 

『ドン! モモタロォ〜!』

 

『仮面ライダァー! ジ・オーウ!』

 

 二人はドンモモタロウと仮面ライダージオウに再び変身した。

 

「俺こそ……オンリーワンだ!」

 

「何か……行ける気がする!」

 

 両者は駆け出し、互いの身体を殴り合う。アーマーに拳がぶつかり、衝撃波を出しながら両者は後ずさる。

 

 二人は得物を構え、声をあげて駆け出す。

 

 その後、金属がぶつかり合う甲高い音が響き渡るのはすぐであった。

 

◇◇◇◇

 

 翌日。

 

 喫茶どんぶら。

 

席に座っていたタロウは手に持っているジオウアバタロウギアを見つめていた。

 

「それにしても、桃井さんが無事で本当に良かったですよ!」

 

「全く。私達にとやかく言う割には、心配だけはかけさせるんだな、君は! ……まあ、無事で何よりだが」

 

「にしても異世界ですか〜。ねえタロウさん、ドラゴンとかいました!?」

 

「ドラゴンは居なかったな。人間じゃない者はいたが」

 

「え、本当ですか!?」

 

「ああ、確か……」

 

「う〜……もうちょっと話聞きたかったのに〜……」

 

 タロウが話している横ではるかは机に突っ伏しながらぼやいていた。

 

 あの時、タロウに引っ張られる形で強制帰還になったのだ。

 

「ねえマスター! 異世界に行かせてくれない? 出来るんでしょ?」

 

「……ダメ」

 

「えー! 何でー!」

 

「……大人の事情」

 

「え〜……何それ〜……」

 

 介人の言葉を受けてはるかは机に突っ伏した。

 

「そう気を落とすな。あいつらとは縁がある。その内また会えるだろう」

 

 タロウはジオウアバタロウギアを見つめてそう言った。

 

「その内っていつよ〜……」

 

 はるかがそう呟いたのは直ぐだった。

 

ロズワール邸の食堂。そこではレムがスバル達にスープを配膳していた。

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

 ベアトリスを除く屋敷の一同が言った。それからスープを啜りだす。

 

「どうですか?」

 

「俺は普通にうめぇと思うよ?」

 

「私もそう思うわ」

 

「二人に同じくだねーぇ」

 

 スバルとエミリアとロズワールはスープの感想をレムに告げる。

 

「では、モモイさんのと比べるとどうですか?」

 

「え? あー……うーん…………すうーっ……同じくらい美味いよ?」

 

「……絶対にモモイさんのスープに打ち勝ってみせます」

 

「吠え面かかせてやるようなスープにしましょう、レム」

 

 タロウのスープに対抗心を燃やすレムとラム。

 

「………………」

 

ドンブラザーズライドウォッチを見るソウゴ。

 

「……これからも頑張りなよ、後輩」

 

 違う世界にいる戦士に向けて、小さく激励の言葉を送った。

 

 数日後。

 

 桃井は勤務先であるシロクマ宅配便のビル内に居た。着ている服も会社の制服であった。

 

 彼は昼飯を同僚と一緒に食べていた。

 

「そういえばよ、タロウ。お前しばらく休んでたけど何でだったんだ? 連絡も入れてなかったしよ」

 

 タロウの隣に座っている太めの体型が特徴の男、桐山が尋ねた。他の同僚である石川と竹中と磯野さなえも気になってるようでタロウを見る。

 

「ああ、異世界に行っていたんだ」

 

「…………ぷっ、あはははっ! 何だよ異世界って〜?」

 

「タロウが冗談言うなんて、珍しいこともあるもんだな!」

 

「冗談じゃない」

 

「はいはい、そういうことにしといてやるよ」

 

 タロウの言っていることは真実ではあるのだが、当然というべきか同僚達はタロウの冗談だと思っていた。

 

「まあ、何か色々あったんでしょ? 真面目なタロウくんに限って、連絡もしないでサボるとは思えないし。ほら、これあげる」

 

 そう言ったさなえがタロウの弁当箱にお菜を分けた。

 

「ありがとう、さなえさん」

 

タロウもまあいいか、といった様子でさなえに微笑んで礼を言った。

 

 それから昼食を終えたタロウは配達に出た。その先でも、縁は巡る。

 

「おおあんたか! 久しぶりやなあ! 実はなあ、あれから頑張って司法試験受かったんや! これもあんたのおかげやな!」

 

 配達先の鈴木春男。彼は少し前にもタロウから配達を受け取っているのだ。その時は司法試験に何度も受からないことで気を落としていたのだが、タロウから励まされ合格しようとやる気を燃やしていた。

 

 そしてどうやらあれから合格したらしい。努力を積み重ねた結果なのだろう。タロウはそれを「良かったな」と微笑みながら素直に祝福していた。

 

 次の配達先までシロクマ宅配便の配達専用車を運転しているタロウ。信号が赤になったので停止する。

 

 変わったヘッドホンを付けたスキンヘッドの男と、やたら長い金髪のサラリーマンと服の色が赤で占められているOLが横断歩道を歩いて行った。ちなみに最初の男は、未来で超電子鬼になる小野力雄という者。後は爆竜鬼だった永井も通過した。

 

「……!」

 

 タロウはある二人を見た。どうやらそれは仲睦まじい親子のようであった。母の東智子とその息子である耕一郎。

 

 お互い談笑していて、なんとも幸せそうだった。タロウはかつて智子に肩揉みをしたことを、二人の幸せを願ってノクターンを弾いたことを思い浮かべ、ただ微笑んでいた。

 

 それから信号は青になったので車を走らせた。

 

「ええ? 巷で噂の謎のヒーロー? そんなのがいるなら、是非力を貸してあげたいね」

 

 タロウは通り過ぎたので気づかなかったが、道端で電磁鬼だった豪田健太郎が誰かと電話していてそう言っていた。その後、本当にヒーローのスポンサーになるのはまた別のお話。

 

「お届け物です」

 

 ある時は恐竜鬼だった若者へ新作のゲームの配達を。またある時は超新星鬼だった小山に激辛なスパイスの配達を。またまたある時は救急鬼の男にミントガムの箱の配達を。

 

 またまたまたある時は、

 

「ありがとう。よし……これで衣装の修繕が出来る」

 

 サンタクロースに。

 

「何処か破損したのか?」

 

「ああ、少しヘマしてね。お尻の部分を……」

 

「それは災難だったな。今年の12月も頑張ってくれ」

 

「ああ、そうするよ」

 

 某病院で、特殊な形であったが特命鬼だった井沢太一が車椅子に乗って看護師に押されながら廊下を移動していた。

 

 その道中で、荷物を届けにきたタロウとすれ違う。

 

「………………」

 

ゆっくりと振り返り、すれ違ったタロウを見た。

 

「井沢さん? どうしました?」

 

「いや……」

 

 看護師に尋ねられた後、視線を正面に戻し、再び押され移動する。

 

 会ったことはないが、前にあの男に沢山遊んでもらった気がする。そんな感覚を井沢は覚えていた。

 

「ちょっ、またアンタ!? 折角お食事中だったのに、まーた邪魔してくれるわけ!?」

 

 と、桃井は獣電鬼だった房子にクレームをつけられていた。ちなみに指定の時間通りに来たのに、である。

 

(こうなれば……)

 

 桃井は荷物を片手に持った後、房子の手を取った。

 

「え?」

 

「すまないが、これで勘弁してくれ」

 

 そう言って房子の手に口付けした。ちなみに、ソノイも同じことをしたことがある。

 

「はっ!? はあーっ! あ、あらーっ! こ、ここまでされちゃ仕方ないわね! というかアンタ、よく見たら結構イイ男じゃない!」

 

 すっかり上機嫌になり、票にサインをしていた。桃井はこれはある意味ソノイのおかげか……と内心思っていた。

 

猿原は刑務所の面会室にいた。プラ板で仕切られている向こう側の扉から男が出てきた。

 

「しばらくぶりだな、亀田勉。ちゃんと反省はしているか?」

 

「あんたらのおかげでね……!」

 

 そう吐き捨てた男の名前は亀田勉。出頭して逮捕される前は詐欺師として活動していて、指名手配もされていた人物だ。

 

 彼の被害者から相談を受けた猿原が、ドンブラザーズのメンバーと協力して彼を出頭させることに成功した。その過程で、秘密鬼になってしまうこともあったが。

 

「釈放されたら、真っ当に生きるんだぞ」

 

「そうさせてもらいますよ。あんな目には二度と遭いたくないですからね」

 

「……そうだ、差し入れにこれを」

 

 と、猿原は亀田に何かを差し出す。それを受け取って見た亀田は目を細めた。

 

「……俳句なんていらぬわ!」

 

 俳句が書かれた色紙を机にペシッと勢いよく叩きつけた。

 

 ラーメン屋『極ラーメン道 松井組』。

 

 店内では客がラーメンを食べてる傍ら、店員や組長……店長の松井達がラーメンを作っていた。

 

「へいらっしゃ……お前……!」

 

 店の扉が開かれ客が来たのかと思った松井だが、来たのは先代サルブラザーの白井だった。彼はかつてここの店員だったのだ。

 

「……何しに来やがった」

 

「…………ほらよ」

 

「それは……宇都宮テツのサイン!」

 

 見せられたのは宇都宮テツという俳優のサイン。かつて白井が松井から盗み出し、金に困った時に売ったものだ。

 

「金かき集めて買い戻してきたんだ…………あん時は悪かった」

 

「…………たく。お前、新しいラーメン屋開けたんだって? 大猿の男から聞いたぞ」

 

 大猿の男とは猿原のこと。どうやら店に来てたらしい。

 

「ああ。今はまだ屋台だけど……アンタのとこにも負けない店になってやる」

 

「へっ、生意気なこと言いやがって。やれるもんだってんなら、やってみやがれ!」

 

 白井と松井はお互い不適な笑みを浮かべて視線を交える。松井に挑む挑戦者(チャレンジャー)ととなった白井が何処まで登り詰めるかは、まだ先のおはなし。

 

 鬼頭はるかは玄関から外に出ようとしていた。

 

「はるかー! 出かけるから帰りに牛乳買ってきてー!」

 

「はーい!」

 

 奥から声をかけてきたのは、はるかの叔母の鬼頭ゆり子。出かけようとするはるかにお使いを頼んでいた。

 

 玄関から出て、更にマンションからも出る。

 

 歩いている最中、はるかが通ってる津野角高校の校長の阿須野がティシュ箱のセットを持ち帰ってるのを見た。花粉症だからティッシュの消費が早いのかもしれない。

 

 後は道路で王苦ミライ自動車教習所の教官の武藤が車に乗って走ってるのも見えた。五星鬼だった芦田がランニングしていた。宇宙鬼だった青年がアイドルの吉良きららやコーラちゃんや黒砂糖のかりんが映っている大型ビジョンを見て尊さにやられていた。

 

 元忍風鬼で映画監督の黒岩が三枝と歩きながら次の映画について話していたし、なぜか「あしたにいきるぜ!」と言いながら走ってる男も見た。ちなみに彼は元超獣鬼だった。

 

 はるかは"どんぶら"とは別のとある喫茶店に到着し、外の席に座る。そこでタブレット端末とタッチペンを取り出した。

 

 傍の席では海賊鬼だった大井成樹が眉を顰めながらタブレットとにらめっこしていた。しばらくすると何か思いついたのか、タッチペンで絵を描き始める。

 

 店内の席では、獣拳鬼だった田丸が『合格』と書かれた鉢巻を巻いて本に書かれてる問題を解いていた。高速鬼だった青年は本をを片手に一人将棋を打っている。

 

「はるかさん!」

 

 はるかがタブレットに漫画を描いてる時、誰かに名前を呼ばれて顔を上げた。

 

「真利菜さん!」

 

前田真利菜だった。偶然ここを通ってはるかを見掛けたのだろう。

 

 それから雑談になった。どんな漫画を描いているのかとか、どんな写真が撮れたのかとか、互いの作品のことだった。

 

おにぎり専門店『おにぎりごろごろ』。そこでは色んな客がおにぎりを食べていた。騎士竜鬼だった卓球元金メダリストの春日誠や本野格西病院の看護師である動物鬼だった切田風香に、料理人の高村までいた。

 

「ん〜! 美味しいッ!」

 

 そこには雉野つよしもいた。

 

「いやー、水野さんが握るおにぎりはいつも美味しいですね!」

 

「はは、ありがとうございます! 日本で一番のおにぎりになれるよう、日々頑張ってますので! グルメ評論家の飯田典子さんからも高評価も貰いましたからね!」

 

 水野が見上げた先には壁に飾られてある飯田典子と書かれたサインと、水野と飯田が写ってる写真があった。

 

「あ、いらっしゃいませ!」

 

 扉が開かれる音がして水野が笑顔で入ってきた客に応える。雉野も振り返って客の姿を見ると、

 

「あ、部長!」

 

「雉野! なんだ、お前も来てたのか?」

 

 雉野の上司である山田は隣に座る。

 

「確か、ここはお前が前に営業に行ってた店だよな? 俺、実は初めて食うけど美味いのか?」

 

「ええ、美味しいですよ! それはバッチリ保証します!」

 

「おお、そりゃ楽しみだ。すいませーん!」

 

 山田はおにぎりの注文をする。その後、高評価を残したのは言うに及ばずだ。

 

 道中でとあるカップルを犬塚翼は見かけた。湊カツミ……ではなく田辺誠と鳥人鬼だった加奈子の二人だ。いちゃついてる彼らを犬塚は見送る。

 

 仲のいい二人を見て微笑んでいた犬塚だが、その後に男を追い回している女を見かけた。

 

「真之助ー! 私だけを見てって言ってるでしょー!」

 

「ひぃ〜! ごめんってたまきちゃーん!」

 

真之助と呼ばれた男がたまきに追いかけられながら悲鳴を上げていた。

 

 それを見て犬塚は口を引き攣らせ苦笑いする。

 

「愛する人がいるのは、素晴らしいことですわね」

 

 後ろを振り返ってみると日除けのためのツバの長い帽子を被っている白いドレスの女性が赤薔薇の花束を抱えていた。彼女は伊集院瑞穂、かつて彼女は想い人である青田武夫が描いた絵を取り返す為に犬塚を巻き込んだことがあるのだ。

 

「アンタ……」

 

「愛は人生を豊かにしてくれる。愛は人生に彩りを加えてくれる。白いキャンバスに色を塗って、一つの絵画になるように……」

 

「……そうだな、その通りだ。そして出来上がった絵は……いつまでも心に残り続ける」

 

「……ええ」

 

この時、二人は自身の人生に彩りを加えてくれた相手のことを思い浮かべていた。犬塚は夏美を、瑞穂は武夫のことを。

 

 それから瑞穂は花を武夫の墓に添える為に去って行った。犬塚も、何処かへと歩き出した。

 

 華果村の華果駐在所。丁度自転車を停めている寺崎がいた。

 

「寺崎さ〜ん!」

 

 呼ばれて振り返る寺崎。その先には、桃谷ジロウ。

 

「おお、ジロウ。また里帰りか?」

 

「えへへ……顔が見たくなっちゃって」

 

「はは……そうか」

 

「ジロウくーん!」

 

 二人が話していた時、ジロウを呼ぶ声が聞こえた。本人が振り向くと、そこには一人の少女と三人の男性がいた。

 少女はジロウの幼馴染であるルミで、三人は三増、佐五、八会というジロウの友人だ。

 

「ルミちゃんだ! じゃあ行ってくる!」

 

「おう」

 

 駆け出すジロウを寺崎は見送る。その後、ジロウは————誰もいない虚空へ、話しかけていた。

 

「………………」

 

 その光景を、寺崎はただ見つめるだけだった。

 

「おやじ、いつもの」

 

 ソノイはおでん屋の屋台に訪れていた。

 

「おお、ノイちゃん! はいよっ、いつもの!」

 

 おでん屋のおやじは皿にソノイの好きな具を入れて差し出す。

 

 箸を割って早速いただくソノイ。美味しかったのか、満足そうにうんうんと頷いた。

 

「ソノイ達がアナザードンブラザーズを倒したか……」

 

「うむ……これでこの時空の安寧は保たれた」

 

 黄金の脳人レイヤーと思わしき場所で仮面を被り、青い服と赤い服を着ている二人の老人が話していた。彼らは元老院で、脳人の上層部の者。今回の事件を危惧していたのだ。

 

「今回ばかりは共闘したドンブラザーズにも感謝するしかないな」

 

「ああ……」

 

 彼らもドンブラザーズがアナザードンブラザーズを倒してくれたことには感謝しているようだ。

 

「母ちゃん……俺、変な夢見たんだよ」

 

「ん? どんな夢だい?」

 

実家の牧場で大野稔は『一本!』と書かれたシャツを着ている母、一子に話した。

 

「俺が別の世界で、4人の俺と一緒に戦う夢を見たんだ」

 

「そりゃあ……変な夢だねえ」

 

「うん……」

 

 と、二人はお茶を啜った。

 

 タロウは次の配達先に荷物を送るためにせっせっと歩く。しかし、その途中である人とぶつかってしまった。

 

「あ……すいません」

 

 肩が当たった青年は振り返ってタロウに謝った。

 

 青年の顔を見たタロウは、軽く目を見開く。その面貌は、再会を信じているあの男のそれで————。

 

「……どうしました?」

 

 タロウにジッと見つめられて、怪訝そうな顔をする青年。

 

 彼を見つめていたタロウは、しばらくして晴れやかに笑った。

 

「————縁ができたな!」

 

 

 

暴太郎戦隊ドンブラザーズ+仮面ライダージオウ feat. Re:ゼロから始める異世界生活

 

fin

 

めでたしめでたし!




 あとがき⏰
長文なのでご注意

リゼロSZ外伝
『暴太郎戦隊ドンブラザーズ+仮面ライダージオウ feat. Re:ゼロから始める異世界生活』
はこれにて完結!4話に渡って読んでいただきありがとうございました!ドンジオはこれにて終了ですが、リゼロSZはまだまだ続きますのでそちらもお楽しみに〜。

“本編の制作経緯”
割とこの作品の構想自体はドンブラザーズの放送初期からありました。

井上敏樹大先生によるドンブラのエキセントリックなストーリーに魅了されていた自分の脳に、リゼロSZとのクロスエピソードという天啓が来たのです。

その為に2章を完結させようとするが中々進まないし、ドンブラも中盤まで進み続けるし……放送してるうちに投稿したいのにこのままじゃ放送終了してしまう!

そうだ!先行公開という体でいこう!

という訳で2章のエピソードそっちのけでどん1話を作り始めました。結局どん最終話前編が投稿されてる時には放送終了しましたけどね!まあそのおかげでソノナとかソノヤとかキングオージャーとか機界鬼も出せたわけですけども。

“オールスター“
どん最終話のタイトルである「どんぶらオールスター」。
当初は普通にリゼロ世界にドンブラザーズ達が合流してアナザードンブラザーズをそのまま撃破……って流れだったんですけど、またまた天啓が来ました。

そうだ、オールスターしよう。

 そういう訳で例のタイトルになり、大勢のキャラクターが登場。オールスターなので出せる限りのキャラを出しました。

これを機にジオウもまだ登場していないアーマーにフル変身させました。2章で変身する予定の響鬼アーマーも先行登場。

余談ですが作者はワンピース・スタンピードみたいなオールスターモノが好きです(隙自語)

というかこのエピソードって映像の方が映えるんじゃね?(適当)

“アバターチェンジ”
今回アバターチェンジした戦隊達は本編+ドンゼン+meetsセンパイジャー+Wヒーロー夏祭り2022「あなたが見たい!!アバターチェンジ」+その他スーパー戦隊の皆様でお送りしています。

ゼンカイジャーのアバターチェンジに関しては各メンバー専用ギアがあるという中々無法なことをしています。まあドンブラだし多少はね?後ハカイザーがドンゼンで出てくれたの個人的に嬉しかったよ。

アルターチェンジの方もミニプラで商品化されていた本編未登場のアルターを出しました。

そして、仮面ライダーのアバタロウギアによるアバターチェンジも実現。作中では明言しませんでしたが、対応したライドウォッチからアバタロウギアが生成されています。

”大野稔“
まあドンブラといえばこの人も欠かせないよね。作中では増えて色んなヒトツ鬼に変身。ちなみにヒトツ鬼のスキン名は以下の通り。

探偵鬼
スキン:疾風と切札

果実鬼
スキン:フルーツ侍

友情鬼
スキン:スイッチオン高校生

古代鬼
スキン:笑顔の戦士

創造鬼
スキン:ベストマッチ科学者

ということでこの作品の大野稔氏は"忍者魔法冒険星獣未遂王様機界柏餅探偵果実友情古代創造おじさん"という称号を晴れて獲得した訳である。いやーめでたいね。早口言葉かな?

ちなみに魔王鬼と預言鬼は

魔王鬼
スキン:時の王様

預言鬼
スキン:祝福家臣

って感じです。

”王様戦隊キングオージャー“
はい、先日終わったドンブラの次回作戦隊です。2年前スタイルで登場。
出したかった理由についてはドンオニタイジンのお面を被ったキングオージャーを出したかったからです。あれもうこの先一生出ないかもなので。

それと今回登場したオオクワガタオージャー。結局ドンジオ本編では正体は明かされず、ラクレスだったのかは不明のままでした。映像化したら演じるのはラクレス役の矢野さんだけど、手元が写るだけでセリフも"王鎧武装"と掛け声だけ、って感じかもです。
変身したのは本編のラクレスなのか、別世界のラクレスなのかは、読者の判断に委ねます。
余談ですけどキングオ本編でラクレスはシュゴ仮面として出ましたが、バレバレだったし声の加工も全然隠す気無くて笑いました。

“ドンブラザーズアーマー“
仮面ライダージオウのオリジナルフォーム。ドンブラザーズライドウォッチを使用することによって変身可能となります。

さて、こちらも結構唐突にアイテムが出現しました。これに関して補足しておくとライドウォッチを見た桃井タロウがドンモモタロウの力を利用して生成した…という設定です。

本編では披露されませんでしたが、ドンブラスターZによってアバターチェンジも可能です。

“最後にタロウとぶつかった男“
皆察してるかもなのでこの男の正体を言っときます。
彼はドンブラザーズの世界の常磐ソウゴです。表記するなら”常磐ソウゴ(ドンブラザーズ)”って感じ。
この世界では今のところ変身能力のない普通の高校生です。

ガチの余談ですけどドンブラ本編でルミちゃんを演じた朝乃あかりさんが所属事務所のホームページから消えてて一時期ちょっとした騒ぎになってたけど、移籍&改名して声優になってたという発表を聞いて驚き&安心しましたね。


それじゃあの!


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外伝
2022:交響F:ギーツの世界


外伝だということを教える


 別世界の何処か、にある場所。

 

 そこには一面芝生のコートがあり、それを囲うように設置されてある観客席には、大勢の人々がいた。サッカースタジアムのような場所らしい。

 

 その人々はどうも、緑色の服ばかり着ている者達や、黄色の服ばかり着ている者達、紫色の服ばかり着ている者達、水色の服ばかりを着ている者達と、それぞれバラバラの服を着ている。中には、デコレーションしてある団扇やプレートを持っている人なんかもいるようで————。

 

 そんな時、突如としてコートの中心に、黒いスーツを着ている一人の男が現れた。

 

「————会場にお集まりの諸君! ご機嫌よう! そしてようこそ! 仮面ライダー達が己の願いを賭けて戦う、デザイアグランプリへ!」

 

 現れた男———— エース・ F(フォックス)W(ホワイト)・レッドは、マイクを持って目の前にいる大勢の老若男女の観衆達に告げる。

 その声を聞いた観衆達の声が大きく響き渡った。

 

「デザイアグランプリはついに決勝戦! ここまで過酷な戦いを切り抜け、勝ち上がってきた戦士達を紹介しよう!」

 

エースが告げると、彼の真上にホログラムが現れる。するとそこには、男と緑色のマスクの戦士が映っていた。

 

「仮面ライダータイクーン、緑狸(みどりたぬき)ケイワ!」

 

 狸を模したマスクの戦士、仮面ライダータイクーン。

 

 変身者の緑狸ケイワはラクーンコーポレーションの若き社長。

 ラクーンコーポレーションは医療・福祉系を手掛けてる巨大な企業。余談だが、健康食品の開発もしている。

 

 ケイワ自身も、災害による被災地への支援、児童施設の創設等、幅広く取り組んでいており、本人の甘いマスクと人格者ぶりが見える発言により人気を博している。

 

「仮面ライダーナーゴ、玖乃猫(くのねこ)ネオン!」

 

 次に映し出されたのは、猫を模した金色のマスクの戦士、仮面ライダーナーゴとその変身者である女性、玖乃猫ネオン。

 

 彼女は世間で大人気のアイドルだ。名前は芸名っぽいが、れっきとした本名である。人気の理由、それは顔が良いというのは勿論、歌唱力の高さ、ダンスのキレの良さ、ファンサービスの良さ、後は……顔が良い。大事なことなので2回言っておく。

 

 それ故かガチ恋してる人もいるし、彼女の握手会の為に券が付属してるCDを買い占める者もいる。それを利用して転売目的でCDやグッズを買い占める者も。

 

 が、少々アレな噂も漂っていたりする。ホストに貢いでる、ヒモの彼氏がいて養ってる、とか。嘘か誠は定かではない。彼女の人気に嫉妬したものが流したのかもしれないし、現場を目撃した誰かが流したのかもしれない。真実は本人の心の中である。

 

「仮面ライダーバッファ、藤牛(ふじうし)ミチナガ!」

 

 牛を模した紫色のマスクの戦士、仮面ライダーバッファと変身者である男性、藤牛ミチナガ。

 

 彼は、とにかく頂点にこだわる男。一番じゃないと気が済まず、一番のためならば手段は選ばない。今回のデザイアグランプリでも優勝するのに躍起になっている。

 

「仮面ライダーパンクジャック、十瓜(じゅううり)ウィン!」

 

 ジャック・オー・ランタンを模した橙色のマスクの戦士、仮面ライダーパンクジャックと変身者である男性、十瓜ウィン。

 パンプキンモンスターズというバンドに所属している男性だ。世間では大人気のバンドである。

 

 そして————。

 

「仮面ライダーディエンド、海東大樹!」

 

 水色のマスクの戦士と、金髪で白色のコートを着こなす青年————海東大樹、仮面ライダーディエンドが写っていた。

 彼に関しては、一切の経歴が不明であった。何処で生まれて、何処からやってきたのかも。もしかすると————別の世界から来たのではないか? と、一部ではまことしやかに囁かれている。

 そんな素性不明の男だが、訳あって参加する事が出来たのだ。

 

「それでは、戦士達の入場を!」

 

BGMが流れたと同時に、スタジアムの一角にあるシャッターが開き、そこから複数の人影が現れる。先程、紹介されたケイワ、ネオン、ミチナガ、ウィン、海東達であった。

 

 彼らが現れた瞬間、一瞬にして会場は熱狂の渦を生み出す。ネオンや海東はそんなギャラリーにファンサービスとして笑顔を向けたり手を振ったりしている。

 

「さて、今回彼らに挑んでもらう最終ゲーム。その種目は…………キツネ狩りだ」

 

エースがそう言って後ろへ下がった瞬間、コートの真ん中に一つの人影が現れた。その人物は全身が真っ黒であり、頭部にはどうも狐を模した金色のマスクが装着されている。そして腰回りには黒いベルト————デザイアドライバーが装着されていた。

 

「この種目のルールは簡単、そこにいる狐を狩ればいい。狐を狩った者は、晴れてデザ神になれる!」

 

『SET!』

 

金色の狐————またの名を仮面ライダーG(ゴールド)ギーツ・エントリーフォームはデザイアドライバーにマグナムレイズバックルをセット。そしてリボルバーを回して引き金を引く。

 

『MAGNUM! READY FIGHT!』

 

 白い鎧が装着され、瞬く間にマグナムフォームへと変身した。

 

「さあ、戦士達諸君! 最終ゲーム、スタートだ!」

 

 エースのその言葉を聞いたケイワ達は、一斉にデザイアドライバーを取り出して装着する。

 

『DESIRE DRIVER!』

 

 各々が自分の所持するレイズバックルを取り出す。そしてそのままドライバーに装着。

 

『SET!』

 

 待機音が流れ始める。各自は独自の変身ポーズを取り始める。

 

 ケイワは拳で胸を叩いた後、突き出した腕を交差させ、その後左手を握って上に、右手を開いて下に突き出す。

 

「変身!」

 

 ネオンは右手を顔に近づけつつ、円を描く様に腕を回し両手で猫耳ポーズを取った。

 

「へ〜〜んしん!」

 

 ミチナガは左手で右腕を払い、小指と親指を突き出しながら胸をなぞり、左手を掲げる。

 

「変身!」

 

 ウィンはそのまま右手を掲げる。

 

「変身!」

 

 海東は右手の人差し指と親指を立てて銃のような形にした後、その手を天に掲げる。

 

「変身!」

 

 その後、一斉にバックルを操作した。

 

『NINJYA!』

 

『BEAT!』

 

『ZOMBIE!』

 

『MONSTER!』

 

『KAMEN RIDE! DIEND!』

 

 ケイワは仮面ライダータイクーン・ニンジャフォームへ。

 

 ネオンは仮面ライダーナーゴ・ビートフォームへ。

 

 ミチナガは仮面ライダーバッファ・ゾンビフォームへ。

 

 ウィンは仮面ライダーパンクジャック・モンスターフォームへ。

 

 そして海東大樹は、仮面ライダーディエンドへ。

 

『READY FIGHT————FOR DESIRE!』

 

 最後のゲームの火蓋は、今切られた。

 

◇◇◇◇

 

「はあああああっ!」

 

 真っ先に駆け出したのは仮面ライダータイクーン。

 

 ニンジャフォームの速度を生かして一番に仮面ライダーG ギーツの下に辿り着き、地面を蹴って飛び上がりニンジャデュアラー・ツインブレードで斬りかかる。

 

 G ギーツはそれを身体を軽く反らすことで一撃目を回避。それから二撃、三撃と間髪入れず連続で斬撃が来るが、見切っているかのように最小限の動きで回避する。

 

 四撃目の斬撃が来た時、G ギーツはマグナムシューター40Xで刃を受け止めて弾き、引き金を引いてタイクーンの身体に弾を打ち込んだ。

 

「ううっ! くっ! はあっ!」

 

 タイクーンは撃たれた胸を抑えるが、すぐさまニンジャデュアラーをG ギーツに向けて投げる。

 

 ニンジャデュアラーは高速回転をしながらGギーツに向かって飛ぶ。一度はそれは避けられるものの、空に飛んでいったデュアラーはブーメランのように軌道を変えて再びGギーツに迫る。

 

「ふっ!」

 

 デュアラーを避け続けるギーツに迫るタイクーン。そのまま飛び上がってキック。それに気づいたGギーツは横に飛び避ける。

 

 そのままGギーツへ殴りかかるタイクーン。だが連続して飛んでくる拳をGギーツは全ていなす。

 

 回し蹴りが飛んでそれをしゃがんで避けたGギーツはタイクーンの足に払い蹴りをする。

 

「ぐはっ!」

 

 地面に倒れたタイクーンに立ち上がったGギーツはシューターの引き金を引いて連射した。

 

 タイクーン、早くも退場————かと思いきや煙が発生する。彼がいた場所には、丸太が残っていた。

 

「はああっ!」

 

 上空からシングルモードになったニンジャデュアラーをGギーツに向かって振り下ろすタイクーン。

 

「ちっ! 狸野郎が、俺より先に行きやがって!」

 

「皆〜☆ ネオンが頑張ってるとこ、見ててね〜☆」

 

「しゃあっ! この戦い、俺がWINしてやるぜェ〜!? ヒィーハァー!」

 

 舌打ちした仮面ライダーバッファはゾンビブレイカーを構え駆け出す。

 

 指ハートをして観客にファンサ&アピールをした後、仮面ライダーナーゴはビートアックスを持ち同じく駆け出す。

 

 パンクジャックはモンスターグローブを打ち付け合い、テンションを上げて走り出した。

 

「この世界のお宝……手に入れようじゃないか」

 

 シアンの銃、ディエンドライバーを持ったディエンドはそう呟き、駆け出した。

 

「はあああっ!」

 

 バッファは割り込むようにタイクーンと戦うGギーツに攻撃を仕掛ける。

 

 ゾンビブレイカーを一直線に振り下ろすがGギーツはその一撃を軽々と避け、バッファに向けて射撃する。

 

 ゾンビブレイカーを盾にしてそれを防ぎ突撃するバッファ。

 

「ニャー!」

 

「おらーっ!」

 

はたまた割り込むようにGギーツに攻撃を仕掛ける二人のライダー。ナーゴとパンクジャックだ。

 

 ビートアックスとモンスターグローブの一撃が飛んできて、それも再び避けシューターで射撃する。

 

「はっ!」

 

 水色の光弾が飛んできた。Gギーツが避けて見ると、そこにはディエンドが。

 

「デザイアグランプリに優勝するのは、この僕だ」

 

「優勝して頂点に立つのは、俺だ!」

 

「勝つのはネオンだよ!」

 

「WINするのは俺だァ!」

 

 ディエンドの言葉に続けるように、バッファ、ナーゴ、パングジャックも叫ぶ。

 

「……俺、だって……!」

 

 タイクーンは、ニンジャデュアラーを握りしめる。

 

「…………」

 

 エースはスタジアムの専用席に座り、その戦いを見守っていた。

 

「ついに決勝ですね。これまでのゲームがあっという間に感じられます」

 

 戦いを見ているエースの傍に現れたのは白黒の服を着た女性。彼女はナビゲーターのツムリ。今回の試合はエースがナビゲーターとなっていたが、普段は彼女が担当しているのだ。

 

「ああ、そうだな。今回は果たして誰が勝つのか……楽しみだ」

 

『POIZON CHARGE!』

 

 バッファは足を使ってデッドリーポンプを上げた。鎖鋸“テリブルチェーン“が高速回転し、紫のオーラを纏う。

 

『METAL THUNDER!』

 

 ナーゴはエレメンタドラムを押し、ストラムレバーを弾く。メタルサンダーのモードがセレクトされた。

 

『ROUND1!  2!』

 

 タイクーンはシュリケンラウダーを2回回す。

 

『REVOLVE ON!』

 

 それぞれのライダーが必殺の準備をする中、Gギーツはデザイアドライバーを回転させた後、黄金のレイズバックルを取り出した。その名もフィーバースロットレイズバックル。

 

『SET FEVER!』

 

 ゴールデンレバーを引くと、スロットリール“レイズジャックポット“が高速回転する。そして出てきた絵柄は————、

 

『TACTICAL BREAK!』

 

『TACTICAL THUNDER!』

 

『TACTICAL SLASH!』

 

『MONSTER STRIKE!』

 

『DIEND STRIKE!』

 

 五人のライダーによる必殺技が同時に放たれる。

 

 大きく爆発が起こり、辺りに土煙が漂う。

 

 一同は勝利を確信するが————。

 

「!?」

 

 煙が晴れた先に残っていたのは、一本の丸太だった。

 

『NINJYA!』

 

 その音が聞こえてきたのは、一同の後ろからだった。

 

『HIT! NINJYA!』

 

 そこにいたのは姿を変えたGギーツ。

 

 Gギーツの下半身はマグナムフォームの装甲になり、上半身にニンジャフォームの装甲が装着されていた。

 

 ニンジャマグナムフォームへと変身していたのだ。

 

「そう簡単には行かないか……」

 

 バッファが呟いた時、Gギーツは駆け出す。地面を蹴って飛び上がり、その勢いでライダー達に襲いかかる。

 

 だったらと、バッファも同じようにフィーバースロットレイズバックルを取り出す。ナーゴとパンクジャックとディエンドとタイクーンも取り出した。

 

『『『『『REVOLVE ON!』』』』』

 

 バッファ、ナーゴ、パンクジャック、ディエンド、タイクーンは一斉にベルトを回転させ、フィーバースロットレイズバックルを装填した。

 

『『『『SET! FEVER!』』』』

 

 レバーを引いて、リールが高速回転。さて、出た絵柄は————。

 

『BEAT!』

 

「ビートか……」

 

『ZOMBIE!』

 

「え〜、ゾンビィ〜?」

 

『NINJYA!』

 

「うぇ、ニンジャ?」

 

『MUGNUM!』

 

「ある意味当たりかな」

 

『MONSTER!』

 

「っ……」

 

 その後、リボルブオンリングによって上半身のアーマーが下半身に装備されたあと、上半身にそれぞれ新しいアーマーが装着された。

 

 それぞれ違う拡張装備で再びGギーツへ駆け出す。

 

 タイクーンのモンスターグローブが空振り地面に当たってヒビが生まれる。

 

 バッファとナーゴのアックスとブレイカーの一撃を避け、飛んできたニンジャデュアラーとシューターを更に避けた。

 

 Gギーツはバックルをセットし直して、再びレバーを倒す。リールが高速回転し、出た絵柄は————。

 

『MUGNUM!』

 

 瞬間、ファンファーレが流れ始めた。

 

『HIT! FEVER! MUGNUM!』

 

 ニンジャフォームのアーマーが消滅し、その後新たにマグナムフォームのアーマーが装着。

 

 Gギーツはフィーバーマグナムフォームに変身。

 

 それを見て、バッファとナーゴとパンクジャックもバックルをセットし直してレバーを再び倒す。出た絵柄は————。

 

『ZOMBIE!』『BEAT!』『MONSTER!』

 

「! よし……!」

 

「当たり来た!」

 

「しゃあっ!」

 

 一斉にファンファーレが流れ出す。

 

『HIT! FEVER! ZOMBIE!』

 

『HIT! FEVER! BEAT!』

 

『HIT! FEVER! MONSTER!』

 

 バッファはフィーバーゾンビフォームに、ナーゴはフィーバービートフォームに、パンクジャックはフィーバーモンスターフォームに。

 

「俺は……勝たなきゃならないんだ!」

 

 タイクーンもバックルをセットし直し、レバーを押した。

 

『NINJYA!』『HIT! FEVER! NINJYA!』

 

 フィーバーニンジャフォームへと変身した。

 

「…………頃合いかな」

 

 呟いたディエンドがディエンドライバーを操作してカードを装填。

 

『ATTACK RIDE!』『INVISIBLE』

 

 トリガーを引いた時、ディエンドの姿は消えた。

 

 彼の姿が消えたことにファン達は騒然とする。

 

「消えた……?」

 

「一体何処に……」

 

 立ち上がったエースやツムリもディエンドが消えたことに驚いていた。

 

 しかし、ライダー達はそんな騒ぎを気にすることなくGギーツとの戦いを続けている。

 

 Gギーツは二つのマグナムシューターでデュアラーとブレイカーを受け止めて直ぐに弾き、タイクーンとバッファの腹に光弾を撃った。

 

 パンクジャックとナーゴからの攻撃は敢えて地面に倒れ込むことによって避け、両足のガンで二人を撃つ。

 

「————ぐっ!?」

 

「エース様!」

 

 その時、突如エースは何者かの攻撃を受けて倒れ込む。彼にツムリが寄る。

 

「「「「はああああああっ!」」」」

 

 タイクーン、バッファ、ナーゴ、パンクジャックの4人がかりでフィーバーブーストフォームとなっていたGギーツに攻撃しようとした。

 

 しかしその時、Gギーツの身体に青白い電気が走り、動きを停止して項垂れた。

 

「!? 止まった……!?」

 

「何だ……!?」

 

 タイクーンとバッファが戸惑いの声を上げる。

 

「これがゲームマスターのドライバーか……良いお宝だね」

 

 虚空から声がした。やがてその主は、姿を現した。

 

「ディエンド……!」

 

 エースの目にはヴィジョンドライバーを手に持っているディエンドの姿が映っていた。

 

「海東さん……!」

 

「あいつ……!」

 

「あの人……!」

 

「おいおいマジか……!?」

 

 同じくディエンドを視線に捉えたタイクーンは驚き、バッファは怒っている様子。ナーゴとパンクジャックも戸惑っていた。

 

「はっ……まさかこの俺が化かされちまうとはな」

 

「ふふ……流石の狐も、怪盗のトリックは見破れなかったみたいだね」

 

「随分とおいたが過ぎる怪盗だ……ドライバーを返してもらう」

 

「素直に返すとでも?」

 

「思っちゃいないさ。だから……」

 

 エースは懐からデザイアドライバーを取り出し、装着。

 

『DESIRE DRIVER!』

 

「力尽くで取り返す」『SET』

 

エースはドライバーにマグナムレイズバックルとブーストレイズバックルを装填。指で狐を作り、それと目を合わせる。そして、フィンガースナップで指を鳴らした。

 

「変身」

 

『DUAL ON』

 

引き金を引き、ハンドルを回す。

 

『GET READY FOR! BOOST! &! MUGNUM!』

 

 エースはその姿を白と赤のアーマーを纏う、白い狐の仮面の戦士に姿を変えた。

 

 その名も————仮面ライダーギーツ。

 

「ツムリ、下がってろ」

 

 ギーツにそう言われてツムリは頷き、後方へ移動する。

 

「開幕から、ハイライトだ」『READY FIGHT』

 

 ベルトからの音声と同時に、シューターの照準をディエンドのマスクに定めて射撃。

 

 ディエンドは頭を横に逸らし避ける。その間にギーツは接近し、銃を使った格闘戦に持ち込む。

 

 最初の打撃を避け、左腕のガンから発射される光弾をディエンドライバーを盾にして防ぐ。

 

 ブーストのマフラーが噴射し、勢いがついた連続の回し蹴りも後退して避けていく。

 

『REVOLVE ON』

 

 回し蹴りをしてる最中、ベルトを操作してリボルブオンを発動。

 

 リボルブオンリングが展開され、ディエンドも流石にそれに怯んだ。怯んでるうちにアーマーの交換は完了し、レッグガンで身体を撃ち、マフラーを噴かし拳を叩き込む。

 

『REVOLVE ON』

 

 ディエンドは大きく後ずさるが、ギーツは間髪入れず再びリボルブオンを発動して彼の頭を掴んだ。

 

「!」

 

 驚いてる内に、リボルブオンリングが展開。ギーツの上下は入れ替わり、ディエンドの頭を掴んでいた手は足となる。アーマーの交換が終わった後、その勢いでそのまま彼をコートへ投げ飛ばした。

 

「くっ! 流石ゲームマスター、中々やるね……!」

 

 ディエンドは痛みに悶えながらも、ギーツの実力を素直に評価する。

 

「ライダー諸君! そこの彼にヴィジョンドライバーを盗られてしまった。済まないが、奪還に協力してもらいたい!」

 

 ギーツはライダー達にそう呼びかける。

 

 その声を聞いて、真っ先に駆け出したのはタイクーンだった。

 

「はああああああっ!」

 

 ニンジャデュアラーの一撃をそのままディエンドライバーで受け止め、その勢いに後ずさる。

 

「ドライバーを返せ……!」

 

「それは無理な相談だね!」

 

「ぐ!」

 

 タイクーンの腹を蹴るディエンド。次にバッファがゾンビブレイカーでディエンドに斬りかかる。

 

「このコソ泥が! 抜け駆けしようとしやがって……!」

 

「落ち着きたまえ、闘牛くん。カルシウムが足りてないのかな?」

 

「黙れ!」

 

 軽口を叩くディエンドを一蹴しブレイカーを振るうバッファ。その内にナーゴとパンクジャックもやって来た。

 

「まさかこんな卑怯な泥棒さんだなんて思わなかったよ!」

 

「海東だけに怪盗ってか〜? Ah! 同じ戦士としてマジShockだよ!」

 

「どうとでもいいたまえ。このお宝は僕のものさ」

 

 ひらひらとヴィジョンドライバーを手で弄る。その間にブレイカーの攻撃がくるが、当然避ける。

 

「君達の相手は彼らだ」

 

 ディエンドは3枚のカードを取り出し、銃に装填。

 

『KAMEN RIDE』『LAZER-TURBO!』『GENMU!』『JIN!』

 

 その後、トリガーを引くと三つの人影が現れた。

 

 それは、仮面ライダー。レーザーターボ、ゲンム、迅だった。

 

「仮面ライダー……!?」

 

 タイクーンの呟きと同時に、三人は駆け出した。レーザーターボがパンクジャックに、迅がナーゴに、ゲンムがバッファとタイクーンにだった。

 

「逃すと思うか?」

 

 彼らが戦ってる隙にその場から離脱しようとしたディエンドの前にギーツが現れる。

 

「面倒だな……! これで!」

 

『SET』『GREAT!』

 

 バッファは新たなバックルを装填してボタンを押した。

 

 アーマーがエントリフォームの物となるが、マスクにはバイザーが取り付けられ、その手に剣を持っていた。その名もレイジングフォーム。

 

「ふっ!」

 

『SET』『GREAT!』

 

 タイクーンも同じようにバックルをセットしてレイジングフォームに変身。

 

 二人がレイジングソードでゲンムに斬りかかり、バグヴァイザーとの競合いになるが、二人であることと、パワーの高さによってレイジングソードが勝った。

 

 弾かれて無防備になったゲンムの身体が二振りの剣によって斬り刻まれる。ダメージの負荷に耐えきれず、ゲンムは爆発して消滅した。

 

 二人はギーツと戦っているディエンドの元へ向かう。辿り着いて後ろから斬るが、それに気づいて横に避けるディエンド。

 

「しつこいねえ、君達も」

 

「当たり前だ!」

 

「今度はこれかな」

 

ディエンドは新たなカードを取り出し装填。

 

『KAMEN RIDE』『ABADDON!』

 

 トリガーを引いて召喚されたのはダークグリーンの仮面ライダーの軍団。その名も仮面ライダーアバドン。

 

「げっ! 何か増えてら!」

 

「ちょっと多すぎ〜!」

 

 レーザーターボと迅を倒したナーゴとパンクジャックもアバドン軍団に驚く。

 

「こんくらい!」

 

 バッファがレイジングソードでアバドン達を連続で斬り続ける。タイクーンも同様だ。

 

 二人のレイジングソードの刀身が光り輝く。取り付けられているバックルのレバーを引いた。

 

『FULL CHARGE』

 

 バックルを取り外し、ドライバーにセット。

 

『TWIN SET』

 

『TAKE OFF COMPLETE JET & CANNON』

 

 それぞれバックルを操作し、フォームチェンジ。

 

 タイクーンはコマンドフォーム・キャノンモードへ、バッファはコマンドフォーム・ジェットモードへ。

 

 タイクーンは肩のキャノンから砲撃を発射、バッファは飛び立って空からの攻撃をする。

 

『REVOLVE ON』

 

 タイクーンがリボルブオンを発動。アーマーが交換されジェットモードへ。

 

「はあああああっ!」

 

「くっ!」

 

 ディエンドの元へ真っ先に高速で突撃。アリーナの外まで飛び、ディエンドを地面へ吹き飛ばした。

 

「絶対に返してもらう……! 姉ちゃんのために!」

 

「……姉ちゃん? どういうことかな?」

 

 タイクーンの最後の言葉に、ディエンドは反応した。

 

「……俺の姉ちゃんは、事故で今は植物状態なんだ。それを治す為に、デザグラで勝たなきゃいけないんだ……!」

 

「……………………」

 

「だから……お前の持ってるドライバーを返してもらう!」

 

『RAISE CHARGE!』

 

 タイクーンがレイジングソードを操作する。刀身にエネルギーが纏われ、それを構え駆け出した。

 

「!」

 

 ディエンドは銃を構え、ファイナルアタックライドのカードを装填しようとする。

 

————兄さん! 待ってて、今すぐ元に————。

 

「——————」

 

 ディエンド————海東大樹が銃を下ろしたことによって出来た僅か数秒間の隙。

 

 この隙はタイクーンにとって最大の好機であり、レイジングソードの刃を切り刻むには充分だった。

 

「はあああああっ!」

 

「ぐはああああっ!」

 

 大きく吹き飛んだディエンドと、地面に転がるヴィジョンドライバー。

 

 タイクーンはドライバーを直様拾った。

 

「…………あははははっ。まさか、狸くんに一本取られちゃうなんてね」

 

「…………アンタ」

 

「ここはもう引き上げるしかないかな。今度会うときは、しっかり盗ませてもらうよ」

 

『INVISIALE』

 

タイクーンに左指で銃を撃つポーズをした後、ディエンドはインビジブルで姿を消した。

 

「………………」

 

 タイクーンは感じていた。最後に、彼が戦うことをやめていたことを。

 

 確か、自分の話を聞いた直後だった気がする。彼も、助けたい家族がいるのだろうか。

 

「タイクーン!」

 

 後ろから呼ばれて、振り返った。そこにいたのは変身を解いたエースが。

 

「良くやってくれた。さあ、それをこっちに」

 

「あっ……はい」

 

 エースにドライバーを渡すタイクーン。

 

「今回は完全に俺の失態だ、すまなかった。後日、最終戦をやり直す。それまでにしっかり身体を休めてくれ」

 

「…………分かりました」

 

 返事はするものの、考えているのはディエンドのことだった。

 

 

後日。

 

『デザイアグランプリ、タイクーン優勝!』

 

 とあるスマホのネット記事にそう書いてあった。

 

「やあ」

 

 その記事を見ていた人物の隣に、チューリップハットを被った男が座る。

 

 今いる場所は何処かの喫茶店。男はマスターに注文をした。

 

「せっかくお宝を手に入れる為のお膳立てに、君をエントリーしたんだがねえ……何故、最後にわざとやられたんだい?」

 

 男はコーヒーにミルクを入れて混ぜる。

 

「………………少し」

 

過去はよぎる。

 

————兄さん! 待ってて、今すぐ元に戻すから!

 

————兄さん! 目を覚まして!

 

「昔を思い出したものでして」

 

「…………そうかい」

 

「…………お」

 

 男はスマホを弄ってる時に、ある記事が目に止まった。

 

『SMART BRAIN社、オーガドライバーNEXT及びオーガフォン20full plus、サイガフォンXXfullを開発か』

 

「…………次のお宝はこれかな」

 

 次の標的(ターゲット)を見つけた男は、不敵に笑う。

 

 

DGPルール

願いを持つ者であれば、何者だろうとエントリーが可能である。

 




リゼロ陣営が最早一ミリも関わってなくて草
ちなみにMovieバトロワでも出てた鹿島サッカースタジアムで戦ってるイメージだよ

登場人物&用語紹介

ギーツの世界
海東大樹がしばらく滞在していた世界。

エース・F・W・レッド
デザイアグランプリのゲームマスター。浮世英寿に似ている。ヴィジョンドライバーを持っているのでそれで変身も可能だが、仮面ライダーギーツに変身。

緑狸ケイワ
仮面ライダータイクーンに変身する。桜井景和とよく似ている別人。ラクーンコーポレーション社長。

玖乃猫ネオン
仮面ライダーナーゴに変身する。鞍馬袮音に似ている。アイドル。名字の由来は"猫の命は九つある"という諺から。

藤牛ミチナガ
仮面ライダーバッファに変身する。吾妻道長に似ている。

十瓜ウィン
仮面ライダーパンクジャックに変身する。晴家ウィンに似ている。パンプキンモンスターズというバンドに所属。名字の由来はハロウィンの月である十月とカボチャの漢字表記である南瓜から。

緑狸サラ
ケイワの姉。この世界における仮面ライダーハクビだが、事故により現在植物状態。最終的にケイワが優勝し、後日目覚めた。

ツムリ
本家とは同名の別人。

仮面ライダーG(ゴールド)ギーツ
デザグラのラスボスとして登場している。ドゥームズギーツとか言ってはいけない。

仮面ライダーディエンド(デザイアドライバー)
海東大樹がデザイアドライバーで変身した姿。ドライバーの中心にはディエンドのライダーズクレストが刻まれたIDコアがある。

脱落した参加者

黄鹿(きじか)カイマ/仮面ライダーシーカー

北熊タケシ/仮面ライダーシロー

岩飛タカヒト/仮面ライダーギンペン
※イワトビペンギンが由来

熊猫カナト/仮面ライダーダパーン
desire:何もかも面白い世界

桃羊モリオ/仮面ライダーメリー

白山羊ユキエ/仮面ライダーレター

鳥木(とりき)イッテツ/仮面ライダーケイロウ

水狼(すいろう)サエ/仮面ライダーロポ

雀ダイチ/仮面ライダーナッジスパロウ


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2068:ミライ

短めのお話


最後の舞台(ファイナルステージ)での戦いの後、若き日の私と少しばかり話した。

 

「終わったな」

 

 最初に喋ったのは私だったと思う。

 

「そうだね」

 

「殺してないが良いのか。あの調子だとまた来るぞ、あの男は」

 

「別に。また倒すだけだよ。それに、何度も戦ってるうちにあっちの気持ちも変わるかも」

 

「だといいんだがな」

 

少しの間、黙った。

 

「まさか私が生き返るとはな」

 

「本当にね」

 

「まだ私を必要とする者がいるということらしい。物好きなやつもいるものだ」

 

「まあほら、キャラとライダーのデザインがカッコいいじゃん。あと声が良い」

 

「そういうものか」

 

「そういうもんだよ。それにさ、見えてるだろ。近い内の未来にまた必要とされるのが」

 

「……複数の私の敵になったり神に振り回されたりと大忙しか」

 

「近い内の未来といえばバールクスが後輩の戦いで再生怪人扱いされてたよね。正直あれ笑っちゃった」

 

「平成を否定してた者が平成のダークライダー達に紛れるとは皮肉なものだな。SNSだと尊厳破壊などと言われていたぞ」

 

「平成を消そうとしたツケが回ったってことだねぇ、そりゃ」

 

 若き日の私が笑う。

 

 昔も、私はあんな笑い方をしてたのだろうか。

 

 今は、あんな無邪気に笑ってない。

 

 50年の間で、笑うことなんてしなくなった。

 

 してる笑いなんていつも乾いてる。

 

 巨大な宮殿を持ち、数多の家臣を従え、王都を作りそれを統治し、そして、そして————。

 

 王となる。

 

 ずっと、幼い頃からずっと願っていた夢を掴んだ、叶えた。

 

 でも、私は笑ってない。

 

 私が夢を叶えた姿を見て欲しかった人は、その時には既にいなかった。

 

「叔父さんは元気か」

 

「勿論。バリバリ現役」

 

「良かった」

 

 ずっと傍にいたものは、ある日急になくなった。

 

 いつも日常で見てたものは消えた。

 

 なくなったと知った時には泣いた。

 

 それからもう泣いてない、と思う。

 

 砂と水を両手ですくったことがある。

 

 でも、粒と雫はこぼれ落ちてゆく。両手ですくっても、落ちてゆく。

 

 集めようとしても、もう手遅れで、何も出来なくて。

 

 この手があっても、一番すくいたいものは、すくえない。

 

 いつもいつも。

 

 何かを落としてて、何かが潰れてて、何かが崩れてた。

 

 

 50年、墓を守り続けた。

 

 ずっと愛してる人々を、いつも通りにある平和を、守る為に戦った戦士の墓を守ってた。

 

 墓を建てたのは私だった。

 

 戦士としての彼らを殺したのは私だった。

 

 受け継いでるつもりだった。

 

 無駄にしないって誓った。

 

 悪のために鎧を剥ぎ取ってるだけだとも知らないで。

 

 もう、役目は終わった。

 

 それでも、罪は消えず、残り続けてる。

 

「はい、お供え」

 

「ありがとう」

 

 もう一つ、役目が終わった今でも守ってる墓があった。

 

 私がいる未来が消えてもその墓だけは残した。

 

常磐家之墓

 

ずっと会いたいって思ってる。

 

もう会えないって分かってる。

 

あの人たちが私を見つけても、私はあの人たちを見つけられない。

 

だから、此処で繋がれることを信じたい。

 

「これからどうするの」

 

「——————」

 

 とある男がいた。

 

 その男はずっと縛られて生きていた。

 

 縛っていた鎖を破り捨て、その男は、思う通りに生きることを決めた。

 

「やってみたいことがある」

 

「へぇ」

 

 私にそういう資格があるのか分からない。

 

 望んではいけないって何処かで思ってた。

 

 許されないだろうって思ってた。

 

 でも、それでも。

 

 望んでもいいのなら。

 

「じゃあやりなよ。アンタのしたいこと。自分の人生、生きたいんだろ」

 

 その言葉を聞いて、自身の口が少し吊り上がっていくのに気がつく。

 

 心に温かいものを感じた。

 

 きっとこれからも、私は私を呪い続ける。

 

 罪を積み重ねた事実は残り、十字の傷を背負ってゆく。

 

 でも、停まり続けてた時間を、止めていた足を一歩でも動かしたいって今は思う。

 

「ならば、私は私の人生の為に行くとする」

 

「そう。じゃ、俺も皆のとこ行くよ」

 

 立ち上がって、墓を見て。

 

 「行ってきます」

 

 踵を返して歩き始める。

 

 若き日の私と何処かで別れる。

 

 ふと、振り返る。前を見る。振り返る。前を見る。

 

 振り返って、前を見る。

 

 そうやって、歩いていく。

 

 そして、此処にいる。

 

 時間と共に、歩み始める。

 

 




おじいちゃんが未来に進もうとしてることが読み取れればいいよ
おじいちゃんが何をしたいのかはまた次のお話で


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