【FE封印】女の子は、誰でも【ロイ×リリーナSS】 (いりぼう)
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【FE封印】女の子は、誰でも【ロイ×リリーナSS】
――――――私が知っている貴方は、
正装しても、ボタンを一つ掛け違えるし、
ダンスのステップひとつ、上手く踏めない、
ちょっとボーッとした男の子。
【男子、三日会わざれば刮目してみよ】とは、よく言ったものだ。
そんな男の子だった彼が、いつの間にか、ひとまわりもふたまわりも大きく見える。
私が見てないところで、幾多もの経験を積んだんだ。
喜びも、悲しみも。
優しさも、痛みも。
一生のうちで得る経験値の何倍ものそれを、この戦争中に彼は得た。
だからなのかな。
背筋もしゃんとして、今まで以上にその背中が広く感じる。
一番近かったはずの、貴方の隣が――――――
今は、とっても遠く感じるの。
ただ、側にいたい。
それを思うことさえも、
烏滸がましいと、感じてしまうぐらいに。
「―――リリーナ?」
彼に呼ばれて、ハッとした。
「どうかした?少し、ボーッとしてたみたいだけど?」
「う、ううん、なんでもないの。ちょっと考え事してただけよ。」
「考え事?」
彼は真っ直ぐな瞳で、私を見つめてくる。
私は、その瞳に弱い。
その眼差しだけは、昔から変わらないのに…今はそれを向けられると、鼓動が速くなる。
「ロイさま~!!」
私がたじろいでいた所に、一人の女の子がやってくる。
そして近づくや否や、彼に抱き着いていく。
「うわぁ!ら、ララムさん!」
彼は急な少女からの抱擁に、驚きながらも赤面していた。
「急にどうしたの…!?視界の外から飛びついてくるからびっくりしたよ…。」
「えへへ~、ロイさまに見てほしいものがあるの!新作のおどり!」
「と、とりあえず一旦離れてくれないかな…。」
彼がそう言うと、彼女は離れて軽やかに舞を始める。
美しい装束と流麗な動きは、見る者の目を奪う。
頼まれて渋々、といったところだろうが、彼もまた彼女の舞を眺めている。
「ロイ…私、拠点に戻ってくるね。」
「え?あ、リリーナ…?」
いたたまれなくなった私は、その場を足早に去ってしまった。
やっぱり男の子って、ああいうのがいいのかしら…?
拠点に戻っても、軍の仕事を手伝っても、
心のどこかに引っ掛かる気持ちが、拭いきれない。
ララムは踊り子だ。
日々、舞の為の鍛錬は欠かしてないし、それゆえに身体の無駄は削ぎ落とされて洗練されている。
そして、舞をより美しく見せる為に、華やかで身体の線もしっかりと出た装束を身に纏う。
年頃の男性からしてみれば、注目してしまうのも無理はない。
引っ掛かるのは、決してララムのことだけじゃない。
ロイは、いまや一軍の将。
自然と軍の中の人間と積極的に顔を合わせ、言葉を交わし、お互いの意思疎通を行う場面も多い。
当然その中には女性もいて、恋愛感情かどうかはさておき、好意を向けている者も少なくないだろう。
仕方のないことなんだ。
彼は今、そういう立場なのだから。
もう、私が側にいないと何もできなかった彼じゃない。
だからこそ感じる、貴方との距離。
遠くなっていく隣。
――――――ねぇ、ロイ。
今の貴方の瞳に、
私は、どう映っているの?
野暮なことを考えてしまった。
いけないいけない。
今は戦争中なんだ。
そんなことを考えている場合じゃない。
でも――――――
「リリーナ!」
ふと、呼び止められた。
彼の声だ。
「よかった…探したよ。」
息が上がっている。
必死になって私を探してくれていたみたいだ。
「どうしたの、ロイ?そんなに息を切らして…。何かあった?」
「いや、何かあった訳じゃないんだけど…心配になって。」
「心配?」
「うん…。リリーナ、最近考え事が多いみたいだし、ついさっきだって…。それに、急にいなくなっちゃうから、どうしたんだろう、って…。」
余計な心配をかけてしまった。
ただでさえ、一軍を率いて心労が耐えない彼に、私個人のことで。
忍びない気持ちでいっぱい。
――――――に、なってるはずなのに。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
嬉しい、と思ってしまう自分がいる。
悪い子だなぁ、と思いつつも、気持ちは正直だ。
ならば――――――
「ねぇ、ロイ。」
「なんだい?」
「今夜、少しお話できない?」
すっかり夜も更けた。
澄んだ空気は少し肌寒いが、風が肌をなでる感触が心地よい。
見上げれば、月が世界を照らしていて、
叙情的な詩でも聴こえてきそうな、そんな夜――――――
「ごめん、おまたせ!」
彼が小走りで近づいてくる。
遅くまで軍議だったみたい。
「ううん、私も今来たところ。」
微笑みながらそう返してみたけど、
本当は、気が逸って、落ち着かなくて、
少し前から、ひとりで待ってた。
でも、彼が来てくれたら、そんなことどうだっていい。
「なんだか久しぶりね、こうやって二人で話すのも。」
「そうだね。戦争が始まってからずっと忙しかったから、ゆっくりする時間なんて本当になかった。」
「色んな事が起きて、色んな人と出逢って、世界中を渡って…息をつく暇がないのも当然よね。」
「当たり前に過ごしてきた日常が、目まぐるしく変わっていく。戦乱の世の中というのは、今まで【当たり前】だと思っていたことがどれだけ尊いものなのかを、すごく痛感させられるね。」
彼は夜空を眺めながら、そう呟く。
世の中が変わっていく。
それに適応するように、彼も変わっていく。
それでも――――――
「変わってないことだってあるよ。」
「変わらないこと?」
「僕が、リリーナの側にいること。そして…リリーナが、僕の側にいること。これがどれだけ僕にとって、すごく心の拠り所だったか、とてもじゃないけど計り知れないよ。」
「ロイ…。」
変わらない、その瞳。
真っ直ぐで、澱みのない。
昔からずっと、彼はその瞳で私を見てくるんだ。
だから、私の気持ちも変わらない。
ごめんなさい、お父様。
今夜だけは、私――――――
少し、悪い娘になってしまいます。
私は、長椅子に腰掛けた彼の手に自分の手を重ねた。
「リリーナ…?」
戸惑う彼の声。
急な行動だから、困惑もするよね。
「…変わらないもの、他にもあるわ。」
私はそう言うと、しなだれかかるように身体を彼に預けた。
密着って、こういう事を言うのかな。
高まる彼の胸の鼓動が、すぐ側で聴こえてくる。
少しは、ドキドキしてくれてるのかな。
「私の、気持ち。」
言葉を続けた。
「リリーナの…気持ち?」
どぎまぎしながらも聞き返す彼を、私は見つめる。
感情が昂ぶって、瞳が潤んでいるのが自分でもわかる。
でも、見ててほしい。
今だけは、私の事だけを。
私だって、普通の女の子。
女の子は、誰でも、
好きな男の子に、ずっと見ててほしい。
好きな男の子を、独り占めしたい。
貴方の――――――
一番でありたい。
「…私は、ずっと前からロイの事…。」
見つめ合う顔が近づいていく。
「リリーナ…。」
彼の顔が真っ赤になっていく。
もう、止められない。
刹那のことだった。
「ロイ様!どちらへ!!ベルンに動きがあったようです!緊急軍議を!!」
突然の呼び声に、二人してビクッとなり、即座に距離を離した。
急に今までの一挙一動を思い出し、私も顔が熱い。
「ご、ごめん!行ってくる…!!」
「う、うん、いってらっしゃい…!」
彼は動揺を隠さないまま、そそくさと拠点に向かってしまった。
私もその場で、行き場なくこみ上げる感情に、必死に抵抗するしかなかった。
――――――翌日。
昨日は、どうかしちゃってたな。
今日から、どんな顔して彼に会えばいいのか。
「僕が、リリーナの側にいること。そして…リリーナが、僕の側にいること。」
そうハッキリ言ってくれた。
それなのに。
それだから。
私は溢れる感情が抑えきれなくなってしまった。
あれでもまた、側にいてくれるのだろうか。
あれでもまだ、側にいさせてくれるのだろうか。
そんな悶々とした心境だろうが、否が応でも彼とは顔を合わせることになる。
「おはよう、リリーナ。よく眠れた?」
いつもと変わらぬ、彼の姿。
私にかける言葉も、その瞳も、いつもと変わらない。
やっぱり意識してたのは私だけ?
あの鼓動の速さは、困惑によるものだったの?
そう思うと、少し残念な気持ちになる。
すると、彼は少し周囲を見渡してから、私の耳元でそっと呟いた。
「…僕もきっと同じ気持ちだよ。」
「え…?」
短くそう言った彼は、恥しそうに視線を反らし、
「だから言ったでしょ?側にいることは変わらない、って。」
…と、言うと、そそくさとその場を離れた。
鼓動が、速くなる。
体温も、上がっていく。
私は今日もまた――――――
行き場のない昂ぶる感情と、一日を過ごさなきゃいけないみたい。
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