インフィニット・ライダー(お試し版) (ナナシ)
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闇夜の邂逅

 此処は日本の首都、東京——今の時間帯は月がよく見える午前一時——今の時間帯は寝る時間であり、起きている人間は限られている。しかし、とある無人のビルの中ではある異形な化け物達が徘徊している。

 その姿は禍々しく、芋虫のようにも思える——バイオウイルスを注入されたかのような姿をしているが、三体おり、何かを捜しているようには思えなかった。

 

「あ——あ——、ゾンビのように徘徊しているな?」

 

 そんな中、声をかけてきた人物が居た。異形の化け物はそれに気づくと、そこには二人居た。

 どちらも全身黒い服——特殊部隊のように重装備で有るが武器はない——あるのは、腹部には変なバックルが有る。

 中央にはくぼみが有り、左には刀らしき物があり、右には誰かの横顔が描かれていた。そして、彼等の手には、錠前らしき物が有り、片方はオレンジ——もう片方はブラッドオレンジらしき物が描かれていた。そんな中、一人が口を開く。さっき話していた人物でもあった。

 

「夜中は寝る時間、それともあれか? 食いもん探しか? それとも、交尾の意味で雌でも捜しているのか?」

 

 そんな異形な化け物達を二人のうち、片方の人物は揶揄う。整った顔立ちに茶髪に黒目の青年がだ。

 もう片方は瓜二つの容貌であるが、黒髪であり、片方の青年の言葉に呆れる。

 

「一春、そんなことを言うな、あれの見過ぎだ」

 

 彼、一春に対してそう言う中、一春は少し揶揄う。

 

「あれは見てないよ? 見たとしても修正版で、無修正は、NO」

「あのな……それに隠れながら倒すのが役目だろう?」

「仕方ないじゃん……かくれんぼは俺の十八番じゃねぇし! かくれんぼはゲーム映像の中だけだし!」

「……ゲームは程々にな!」

 

 二人は手に持っている、果物らしき物が有る錠前らしき物の横を軽く押す。音が鳴り響くる中、腰にあるバックルの中央にはめ込み、左にある刀で切るように押すと、果物らしき物が下へと開き、上は果肉が、もう片方の下には何かの人物が描かれている。

 刹那、頭上からはファスナーが現れ、開くと、オレンジと、もう片方はブラッドオレンジが降ってきて、彼等の頭に、それぞれ嵌まる。二人の胴体や四肢——首から下全体が紺碧色のスーツに変わる。同時に果物が四方に開き、紺色の身体の上半身を防御する意味で鎧と化す。

 

 紺碧色の身体にオレンジ色の鎧を纏い、三日月の型が有る兜を冠っている。片方は紺碧色の身体は兎も角、ヨロイは紅い、兜も紅い。正反対のようにも思え、瓜二つの兄弟に相応しいようにも思える。

 その姿は、遥か昔に己の生き様を賭けて、主君の為、家族の為、国の為に戦い、散って逝った漢達の生きた証である武士の姿をしている。彼等はその祖先——否、その武士の血を引き継ぐ者達。

 また、その姿は近未来の日本、つまり、今の時代の科学をも取り入れている。遥か未来の武士であるかのようにも思える。しかし、その姿を目撃したのは極一部。都市伝説のように語られ、架空の存在としか思われていない。

 理由は、梟のように、夜中でしか活動していないからだ。彼等は梟——そう思われても仕方ない。目の前にいる異形の存在はミミズ、ネズミのような小さな獲物。

 人に害を為し、恐怖させる存在。駆除するのが、彼等の役目だからだ。人知れずに、だ。

 

「いっちょ行くか! ってか!」

 

 茶髪の青年が——赤い鎧の方の武士が腰に携えている。刀らしき武器を手に取ると、駆け出す。先手必勝と言わんばかりであるのか、異形の存在の一体を斬り捨てた。火花が散る中、即座に他の二体も斬り捨てる。

 

「俺の名は戦極一春! だが、今は鎧武Rと変わっているからな!」

 

 赤い鎧の武士は、自らを鎧武Rと名乗り出る。鎧武は兎も角、RとはREDのRから取り、REDは日本語で赤——鎧が紅いからと言う理由でだった。

 それを付けたのは一春自身であり、難しく考えたくないが為だった。そんな光景を、もう一人の鎧武らしき人物はRの言葉に呆れながら、加勢しようとする中、耳元にある声が聴こえた。

 

『一夏、近くにインベス達に襲われている少女がいる』

「なっ!?」

 

 その言葉に鎧武は、一夏は戦慄する。しかし、鎧武Rにも連絡されたのか、彼は慌てる。

 

「女の子独りに集団で攻めるってか!? 異種姦みたいだなおい! それは嫌いだ!」

 

 鎧武Rは異形の化け物を斬り捨てるとそう言って、今度はこう言った。

 

「殿は任せろってな! 俺独りでもこんな化け物、一体や二体——まあ、無双はしないけどな!」

 

 鎧武Rは階段の方へと駆け出す。その後ろ姿を鎧武は眺めている——訳も無く、後の事を弟に任せ、連絡され、指定された場所へと向かうのだった。

 

「あ——あ——っ! これじゃあ、バイオハザードってか!」

 

 鎧武Rは異形な化け物を相手にする中、ある場所へと向かう。

 

「や——い、や——い! のろまめ〜〜!」

 

 鎧武Rは逃げなら煽る。挑発しており、その挑発に異形の化け物は奇声を上げながら追いかける。鬼ごっこのようにも思える中、鬼は異形の化け物で、ターゲットは鎧武R。鎧武Rは駆け上がると、

 

「バイオハザードだよ! 否、インベスハザードってか!?」

 

 鎧武弐号は階段の踊り場から三体のインベスの一体を足蹴りする。インベス達はドミノ倒し、更には階段から転げ落ちる。

 鎧武弐号はインベス達を見下ろすと、両手の人差し指を化け物達へと向ける。

 

「一片やってみたかったんだよね? 階段から突き落とすこういって……まあ、警察もんだけど?」

 

 鎧武弐号は腰に携えている刀を、否、鍔のような部分には銃口が有り、それを化け物に向ける。

 

「まっ、これも正当防衛、ってか?」

 

 刹那、鎧武弐号は刀の柄にある、銃の引き金のような物を引くと、鍔の部分にある銃口から銃弾が放たれ、化け物達を倒し、化け物達は爆発、四散するのだった。

 

「快、か——おぇっ」

 

 鎧武弐号はこの行動を快楽として楽しんでいるようにも思えたが、突然、吐き気を感じ、口元を抑える。化け物から異臭がするのではなく、肉が見えたからではない。理由は、彼自身が良く知っていた。

 

「あ——あ——っ、男が言うと気持ち悪いな……まっ、俺が言ったから自業自得かね?」

 

 鎧武弐号はそう言うと、先に向かった、鎧武と、鎧武に抱えられている女性の元へと向かうのだった。

 

 

 同時刻。変身を解除した一夏は外に居た。異形の化け物を即座に倒していたのだ。同時にある女性を介抱している。長い水色の髪に可愛らしい顔立ちの少女が気を失っていた。服は白い制服であるが、どこの学校かまでは判断出来ない。

 しかし、一夏は少女を介抱している中、後ろから、返信を解除した一春が両手を頭の後ろに当てながら笑っていた。

 

 

「月の見える場所から気を失っている女性に愛の告白? それともプロポーズ? 一兄も憎い事をするね?」

「…………」

「それとも寝ている人にあんな事や、こんな事でもするってか?」

 

 一春は一夏に対し、軽く揶揄する。兄の行動に感心するのでは無く、単に揶揄している。その証拠に彼の表情は楽しんでいる。周りから見ればそう思われるだろう。しかし、内心、兄を心配している——理由は簡単、兄には幸せになってもらいたいからだ。

 自分達は長い間、苦汁を嘗める日々を過ごしていたからだ。兄は自分を良く守り、自分も兄に助けてもらってばかりだった。今では思い出したくもなく、忘れたい過去。

 彼の兄への揶揄も過去を思い出させないようにする為の行動。前を向いて欲しいが為の行動。弟が、自分ができる唯一の行動だった。一春の言葉に一夏は呆れる。

 

「一春、そんなロマンチックな出来事はないぞ? 後、最後は犯罪だ」

「そう? 最後は兎も角、ロマンチックじゃん? やっとの思いで最愛の人を救えた王子みたいでかっこいいよ?」

「……一春、恋愛映画は程々に」

「えっ? 俺が見てるのはアクション映画だよ? 恋愛映画なんて恋人同士が観る」

「それは偏見だ。そうしたら全ての人を敵に回すぞ」

 

 一夏の言葉に一春はキョトンとする。

 

「えっ? 敵って、誰?」

「…………」

「一兄、誰なの敵って?」

「……非リア充」

「……ワォ」

 

 一春は納得すると、そのまま何かを思うように踵を返す。

 

「どこ行くんだ?」

 

 一夏がそう訊ねると、一春は肩越しで見ると、ニカッと笑う。

 

「そこら辺に自動販売機が無いかを見てくるわ。まあ、あればコーヒーかな?」

 

 一春は笑う。しかし、その笑みは揶揄いの意味でもあった。一夏と少女を二人きりにさせる。いわば、吊り橋効果のようにする為だった。一夏は彼の言葉の意味を理解していない中、一春は何も言わず、自動販売機を探す意味でその場を離れるのだった。

 



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三枝の三兄弟

 此処は東京の某所にある巨大な建物——その建物は他よりも大きく、目立つ場所にある。それができたのは三年前であり、白を特徴としている。否、城とも言える。

 そんな場所には今跳ねている時間帯なのか人は居ない。居たとしても、警備員くらいだろう。そんな中、そんな場所の入り口には突然ファスナーが開き、そこから一人の青年が出てくると、ファスナーは消えた。そして、青年とは一春だった。

 一夏とは別の意味で別れ、一人で帰還している。しかし、彼の表情は呆れ、憤りが入り交じったかのようにも思える。理由は、彼自身の言葉から良く分る。

 

「あ——あ——っ! バイクがあれば一発で帰還出来るのに十六以上じゃなきゃ免許も取れないし、最悪だ——っ!」

 

 一春はそう言う理由で怒っていた。そう、彼はバイクで帰りたかったのである。バイクがあれば直にであるが、年齢の関係上、法律関係でもバイクに乗れるのは後一年待たなければならない。

 組織には錠前型の即席バイクがあるが支給されていない。彼等の年齢の関係で与えていない。与えたら、無免許どころか補導されるからだ。一春はそこを理解していても納得いかないのだ。

 

「止めなよ一春、近所迷惑だよ?」

「しかたないよ黒鷲の兄貴、バイクに乗りたがる一春の事だから、気持ちは理解出来るぜ?」

 

 一春に対し、気遣いと揶揄いの声がした。一春が声をした方を見ると、二人の、彼等とは同世代の青年達がいた。 

 どちらも瓜二つの、彼等と同じように全く同じ顔をしている。しっとりとしたロングカットの黒髪に琥珀色の瞳。童顔とも思える中、

 服は片方は黒を基調としたシャツにズボン。片方は焦茶色のシャツにズボンと言った、彼等が好きであろう色を使ったとも思える服をしている。

 彼等を見た一春は呆れる。

 

「何だ、お前等も任務を終えたのか、黒鮫に黒鷲」

 

 一春の言葉に黒鮫と黒鷲の二人は頷く。

 

「おうよ一春、こっちのインベス退治は軽く終えたぜ? 俺様がいればちょちょいのちょ」

「とか言ってるけど、黒鮫の奴、道端に落ちていたエロ本を拾おうとしたのに止めたんだよ?」

 

 黒鮫の言葉に、黒鷲は少し呆れる。

 

「んだよ黒鷲の兄貴! そんくらいいだろう!?」

「ダメな物はダメだよ。いくら読みたいからって、拾おうとするのは」

「エロ本なんて落ちているのが奇跡なんだぜ!? これは拾いたくなるのが男だろ!?」

「それは理由にはならないよ——第一、拾おうとしたのに、何故止めたの?」

 

 黒鷲の言葉に黒鷲は疑問を抱く。その言葉に一春も「えっ?」と疑問を抱く。そうなのだ、黒鮫は拾いたいと思っても躊躇したのが変だからだ。黒鷲の言葉に黒鮫はキョトンとした顔で、答えた。その言葉に彼等は戦慄する。

 

「小学生か中学生くらいの女の子が写っている奴だったから」

「「エロ本ってレベルじゃない! 完全に犯罪レベルだ!」」

 

 彼の言葉に二人は声を揃える。それは完全に犯罪ものであり、色んな意味でヤバい。黒鮫はそれを平然と言えたのは凄かった。が、彼は話題を変えようとした。

 

「まっ、関西の方は黒虎の兄貴、戒斗さん、凰蓮さんが何とかしてくれているし、関東は俺達が何とかしなきゃな?」

「話題を変えないでよ!?」

 

 黒鷲の言葉に黒鷲は少し困惑する。しかし、黒鮫は辺りを見渡すと、ある事を指摘。

 

「一春、一夏はどうしたんだ?」

「えっ?」

「えっ? ……あっ、そういえばそうだね? 一夏は」

「一兄? ああ、可愛い女の子を家まで送っているぜ?」

「えっ!? 可愛い女の子!? どんくらい可愛かったんだ!?」

 

 一春の言葉に黒鮫は食い掛かる。黒鷲は慌てながら止めるも、一春は肩をすくめる。

 

「可愛い子でも一兄はいやらしい考えはしないぜ? まあ、女の子を介抱するくらいだからな?」

「そうか? もしも襲ったら」

「そんなことはないね? 俺達は思春期を迎えているけど、欲望を吐き出す程の考えなんてない——コンビニにあるエロ本やレンタルビデオのピンクの暖簾をチラチラ見る事もしない一兄の事だからな? まあ、前者は法律で禁止されたからないけど」

「ハハハ……」

 

 一春の例えに黒鷲は苦笑いする。思春期としては珍しくはない上、そう言った事を考えたい年頃でもある。自分は当てはまらないなんて甘い考えはない——彼の言い分は正論か詭弁かまでは判断出来ない中、一春の様子には憤り、焦り、哀しみ、楽しみがない。

 あるのは何処か微笑んでいるのだ。何を考えているのかは分からない中、黒鮫は両手を頭の後ろに当てながら呆れている。

 

「一夏の事を信頼しているんだ? 何でそうまで言い切れるんだ?」

「ちょっ、黒鮫」

 

 黒鮫の言葉に黒鷲は慌てる。疑問に思うのも無理は無い——一夏が手を出さないとは限らない。最悪、犯罪を起こす可能性もあり、何が遭ったからでは遅いのだ。

 危惧している訳ではないが、仲間としても心配している、一春の悪友だからでもあり、思春期を迎えた者同士でもあり、ライバルだからでもあるのだ。

 黒鮫の言葉に一春はキョトンとする中、軽く吹き出す。

 

「何が可笑しいんだ?」

 

 黒鮫は首を傾げると、一春は軽く笑いを終えると、言った。

 

「俺は戦極一夏の弟——それ以外に理由はないから」

「……ハッ?」

「えっ?」

 

 彼の言葉に三枝兄弟は目を丸くする。しかし、一春はニカッと笑っていた。その笑顔には曇りはない。信頼しているからこそ、背中を預けられる存在だからこそ、だろう。

 彼なら大丈夫、奴らの存在がない限り、彼は安心なのだ。一春はニカッと笑っている中、三枝兄弟に対し、あることを言う。

 

「それにお前等だって、黒虎を入れて三枝の三つ子兄弟だろ?」

「「……えっ?」」

「知ってるんだぜ? お前等の不屈の精神や絆は組織内では有名だからな? 海の黒鮫、陸の黒虎、空の黒鷲——三位一体の攻撃に死角は無し、ってな?」

 

 一春は二人にしたいし、褒めるかのような言葉を述べる。そうなのだ、彼等を含め、関西にいる黒虎の三枝兄弟はとてつもなく強い、黒鮫は鉄壁の守りを得意とするグリトンと言うライダーに、黒虎は攻撃を得意とするナックルに、黒鷲は最速の動きをする黒影にだ。

 何れも戦極兄弟とも対等に渡り合える存在。戦力としては申し分無いが性格は違う。黒虎は次男であり猪突猛進でありながら知識は良く、三人の中では一番上。黒鮫は三男で馬鹿であるが悪を許さない熱血漢。黒鷲は長男で常識人であり、仲裁役かつ穏やかな性格をしている。

 何れも性格は違うが、一春は黒鮫とは悪友で、黒鷲は一夏とは長男同士なのかウマが合う。

 

「まっ、話は良いとして、あそこへ行こうぜ? 凌馬義兄さんや高虎主任の所に」

 

 一春は身を翻すと、エレベーターの方へと向かう。一春の言葉に三枝の兄弟は彼の行動に驚くも、追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 因に関係ないが、黒鮫が拾うとした奴の関連した物は組織が調べて、組織が潰したのは言うまでもない。



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黒鮫の揶揄い

「ふざけんなよ〜〜スポーツ新聞にエロ記事ないじゃないかょぉ〜〜」

「ないよ、流石に時代が進むと、そう言った関連記事は法律で禁止になっているから」

「んだよ、また時代か? PTえぃ?」

「そうなるかもね? まあ、僕には関係ないし」

「っ〜〜〜〜あ〜〜〜〜つまんねぇ〜〜」

 

 翌朝、ここは食堂。今の時間帯は朝方であり、人は、厨房で食事の準備をしている。何を用意しているのかは、厨房にいる彼等、彼女等にしか判らない。

 そんな中、食堂の隅にあるテーブルには黒鷲と黒鮫の兄弟が居た。黒鮫はテーブルの上で新聞紙を広げ、新聞を読んでる——アダルト記事を目的としていた。が、そこにアダルト記事はなく、有るのは情報やスプーツ関連、番組表と言った今日に関係する物ばかり。

 黒鮫は記事がない事に落ち込んでいる。そんな彼、弟に黒鷲は苦笑いする中、新聞紙に目を通す。そこには、色んな記事が有り、注目選手や試合結果などと言った、平凡な記事ばかりだった。

 しかし、ある記事に目を通すと、表情を曇らせる。

 

「他国による審判買収、八百長、ねぇ……」

「あん? 黒鷲の兄貴どうしたん? ——ん?」

「全く、最近は変な事ばかり多いな……」

 

 黒鷲は腕を組む。そんな彼に、黒鮫は両手を頭の後ろに当てながらキョトンとする。

 

「そんなのは昨日のリアルタイムで凄い流れていたよ? SNSやTwitterで有名だし、世界トレンド一位にもなったからね〜〜」

「最近はネットでも有名案件だね……全く、最近どうなってるの? 世界の其々の世界事情って」

「俺達がそう考えても、子供の俺達には関係ない、何て言いきれないけど、将来不安だょねぇ〜〜」

「就職難、高齢社会、児童虐待——ますます不安になるな……」

「そうそう、って、あれ?」

 

 黒鮫は何かに気づく。

 

「待って黒鷲の兄貴、今、俺達は将来の不安を考えていたっけ?」

「うん? ……あれ、違うの?」

「全く違うよ!? 何時から話が逸れてるよ!? 俺がアダルト記事からの、将来の事で悩んでいるみたいだよ!?」

「……そう言えば、そうだね?」

「嫌だよ俺!? 朝から勉強なんて嫌だよ! せめて飯食ってからにしようよ!? 脳が働かないよ!?」

「黒鮫……矛盾だよ、それ」

 

 黒鮫の言葉に黒鷲は訝しげになる。朝から勉強は兎も角、食事を摂ってから脳を働かせたい——所謂、何かをすると言う例えになる。仕事、運動、勉強などと言った行動を助長させる。

 片や否定、片や準備——矛盾しているようにも感じるのだ。黒鷲はその事を指摘したい中、声をかけてきた者がいた。

 

「黒鮫、黒鷲」

 

 その声は青年の声。彼等には良く知り、仲間でもあり、親友。その声に兄弟は声がした方を見やる。そこには、彼が居た。一夏だ。昨晩から帰っておらず、今帰ってきたばかりだった

 一夏の存在に気づいた黒鮫はニヤニヤする。揶揄う理由があるからだ。朝帰りは兎も角、理由としては別に有る。それは、一夏自身が良く知っている。

 彼は、ある理由で一春と別れ、今帰ってきたばかり。どうして遅れたのか? どうして朝帰りになったのかは彼の口から語られる事以外、何もない。

 彼が自ら体験し、彼自らがその体験談を自分達に語ってくれる事を期待していた。黒鮫はその事を、一夏に指摘した。

 

「昨晩はお楽しみでしたね?」

 

 「はっ?」彼の言葉に一夏は意味が分からず、恍けてしまう。そうだろう、一夏が居なかったのは、別行動をとったのは少女を送っていったからだ。

 一夏らしいといえば一夏らしいが彼、一夏はそんないやらしい事は考えていない。思春期を迎えている年頃の彼は自覚しており、する気は毛頭ない。

 まあ、合意ならば致し方ない。逆にまた、それが大問題に発展する事もある為、それ相応の準備をしなければならないのだ。できちゃった——若気の至り、もしくはショットガンを片手に——なんてめんどくさい。

 

「恍けるなよぉ〜〜昨晩、一春から女の子を家にまで送ってったんだろ?」

「ああ、そのことか……」

 

 一夏は察する。しかし、一春は更に煽る。

 

「どこぞの堅物スナイパーのように一目逢った瞬間に」

「黒鮫!」

 

 弟が一夏を揶揄う事に黒鷲は怒る。これ以上は止せ、そう言いたかった。弟は一夏を侮辱している。弟としては悪い事だと言う事を認識させたいのだ。兄としての役目でもあり、兄としての自覚も有るからだ。そんな兄・黒鷲の怒号に黒鮫はキョトンとする。

 

「どうしたん? 黒鷲の兄貴?」

「どうしたもこうしたもないよ? 一夏を揶揄うのは止めなさい!」

「えっ? どうして? 一夏、彼女出来たかもしれないんだよ?」

「介抱だけで、送っていっただけで彼女なんて、そういった吊り橋効果じゃないよ!」

「そうかな? 俺的にはそう言った事は良いと思うぜ?」

「どうして?」

 

 黒鷲は訝しげに訊ねると、椅子に凭れ掛かるように座り直す。

 

「だって俺達ってさ、選ばれた存在じゃん? と言っても、俺達って何時死ぬかも判らないじゃん?」

「……そう言う話は止めなさい」

「あり得なくないでしょ? 俺達はアーマードだし、俺達を含めて十人はいるじゃん? その中で全員が生き残るなんて無理な話だよ」

「「…………」」

 

 彼の言葉に黒鷲と一夏は互いを見合う——直ぐに彼を見やる。彼はキョトンとしているが、少し悲しそうに笑う。

 

「俺達ってさ、拾われ子じゃん? この会社、ユグドラシル直属の部下になるまで多くの訓練や知識を叩き込まれたし、休日もあれば楽しい事も遭ったじゃん?」

「……確かにな」

 

 彼の言葉に一夏は悲しそうに微笑む。あの時の事を思い出していた。自分や一春、三枝の三兄弟を含めた自分達は十代ながらも青春を謳歌していた。

 楽しくも苦しい思い出が有るが、訓練の際は互いをライバル視していた為にお互い次は勝つ、次も勝つ、なんて話は良く有った。今思えば、今もしているが互いをライバル視している事は今でも消えない。

 一夏は黒鮫の言葉に少し懐かしむ中、黒鮫は少し笑う。

 

「それに選ばれても何時死ぬかも判らない、殉職するって事もあり得なくないし」

「……それはそうだけど」

 

 黒鷲は不安になる。

 

「俺達って何時死ぬかもしれない中で恋人が出来るのは嬉しい限りだし、最悪——と言うよりも最高の時に結婚、出産まで行けばめでたいじゃん? 死と隣り合わせの中で一筋の光があるのってなんか力が湧くし? この子、もしくは娘の為にも生き残れるって考えられるよ」

「……彼女じゃないけどな」

「えっ? そうなの一夏? 違うの?」

 

 黒鮫の言葉に一夏は深く頷く。

 

「な——んだ、早とちりか」

「黒鮫が早とちりでしょ?」

 

 黒鮫は呆れる中、黒鷲も呆れる。理由は違うが一夏の事に関係する事は共通しているだろう。が、一夏は二人の様子に困惑しつつも、ある事に気づく。

 

「そう言えば一春は?」

 

 彼の言葉に黒鷲と黒鮫は気づく。しかし、黒鮫は軽く笑う。

 

「どうした?」

 

 一夏は黒鮫の様子に気づくと、訊ねる。そしたら、黒鮫は軽く笑いながら言った。

 

「まだ寝てるよ? それも、最高の寝言をね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜〜ん、ごめん一兄〜〜携帯から知らない変な請求来ちゃったよ〜〜どうするんだよ〜〜」

 

 一春は一夏との同室で苦しい寝言を言っていたのだった。



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