真依廻戦 (ヴィヴィオ)
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改定

誓約を修正。呪術回路を呪力回路に修正し、失敗に修正。呪力を増やす手段は別の手段に変更。
肉体改造は細胞の方に変更。
変わりに赤ん坊の頃から呪力操作を頑張り、反転術式を覚えることにしました。


 

 

 

 大人達が見詰めてくる。視線を隣にやれば俺と同じぐらいの幼い少女がいる。そう、少女……成人男性だった俺はある日、気付いたら身体が縮んで性転換していた! 何が起こったのか、何を言っているかわからないが、どうやら転生してしまったらしい。

 

「名前はどうします?」

「姉が禪院真希で、妹が禪院真依だ」

 

 そう、俺は禪院家に生まれた双子の妹ちゃん。禪院真依に転生した。姉は禪院真希で妹の俺が禪院真依ということで、もうここが呪術廻戦の世界だと確定してしまった。

 それ即ち……死亡フラグ満載の超ヤベー世界であるということだ。神様、チートをください! そう思って色々と試してみたけれど、なにもなかった。

 まあ、赤ちゃんの時から記憶があるというのがチートと言えばチートだろう。何せ、赤ちゃんの学習能力はチートって偉い人が言ってた。だから、頑張れ俺! 前世の知識も全てインストールだ! 

 呪術廻戦の世界なのでまずは呪力操作をマスターする。真希じゃなくて真依なら呪力がある事は確実。ならば赤ちゃんの頃から呪力操作に精を出し、コントロール能力を抜群にすればいい。

 えっと、臍の辺りから全身に呪力を回して……呪力、呪力……わからん! そんな物、持ってないからわかるわけないよなぁっ! 

 仕方ないので周りを観察しながら知識を入れること数日。父親であろう人が連れてきた人が俺と真希の手を握ってきた。

 最初は何をしているかわからなかったけれど、体内に気持ち悪い物が流れ込んでくる。それが身体中を回っていくの感じられる。

 

「私の術式で調べました。真依は呪力がありますが、術式は相伝の物とは違います。真希は呪力がありません。おそらく天与呪縛かと」

「そうか……」

 

 連れてきた人の報告で父親が落胆する。俺としてはそれどころじゃない。この人の言葉が正しいのなら、流し込まれたのは呪力だ。呪力を感じる絶好の機会といえる。だから、原作で書かれた通りに臍の辺りから動かすことに集中する。

 

「申し訳ございません……」

「お前が悪いわけではない」

 

 母親が父親に謝っている。俺達双子は相伝の術式を持っていないので禪院家としては落ちこぼれだから。まあ、そんなのは関係ない。これからを生き抜くためにも呪力という玩具をしっかりと練習しよう。

 

「それとご報告があります。真依の方は問題があります。彼女は……鬼子や神憑きの可能性があります」

「そうか……わかった。直毘人と相談する」

 

 

 

 

 


 

 

 

 六年ほど女の子として過ごしたけれど、やはりチートらしいチートはなかった。ただ、呪力のコントロールは生まれてすぐの時からどんな時も、寝ている時以外はやったし、今では寝ている最中でも呪力を身体中で動かすができるようになっている……と、思う。たぶん。

呪力の精密操作ができ、全身、何処からでも呪力を出して纏えるようになったので、体の外で呪力と呪力を掛け合わせる練習をしているが、まだそちらは出来ていない。

 

「アレが生まれた。双子か。大丈夫なのか? 殺した方が良いのでは?」

「双子とは凶兆だからな……」

「姉は呪力も術式も無いらしい。妹は呪力はあるが、術式は禪院家の物ではない」

「そうか……女で術式も引き継いでいないとなると、塵だな。血を残すための孕み袋くらいにしか使えんか」

 

「気にすんな。それよりもほら、続きだ」

 

 お姉ちゃんは俺がこちらを見て話している大人達の事を気にしているように思ったのだろう。特にこないだは従兄弟の直哉に無茶苦茶、塵やらなんやら言われ、叩かれたりもした。

 

「……うん……」

 

 原作通り、構築術式で呪力量も少なかった。一発の弾丸を作ったら鼻血が出る程度だ。使えない。このままでは渋谷辺りで確実に死んでしまう。

 姉である真希は原作通り、天与呪縛で生まれながらにして、人間離れした身体能力を得る代わりに呪力を犠牲にしてしまっている

 そんなお姉ちゃんが赤い着物を着た真希が蹴鞠を放ってくる。それを緑の着物を着た俺が追いかけて蹴り返す。と、いっても、お姉ちゃんは的確に蹴り返してきて、俺は追いつけなかったり、取りこぼしてしまうことが多い。圧倒的な身体能力の差に加えて呪力操作の練習をやっているからだ。

 飛んで来た蹴鞠に合わせて移動は足に呪力を集め、受け止める時は体で、蹴る時はまた足にやっている。何度も失敗しているけれど、そもそもが銃弾を刀で斬り裂いたり、素手でキャッチするお姉ちゃんには勝てない。本当にもう人外だよ。

 

「お姉ちゃんは……将来、なんになる?」

「呪術師」

「なんで?」

「見返したいし」

「そっか……」

 

 間髪入れずに言われた言葉に心を決める。飛んできた蹴鞠を受け止めて、思いっきり蹴り返す。

 

「どうした真依?」

「お姉ちゃん、俺もじゅじゅちゅしになるよ」

「俺じゃない。私な。また怒られるぞ。というか、言えてないし」

「そう、だね」

 

 呪術師になる。原作通りに向かうのなら、姉である真希は呪術師になり、妹である真依も無理矢理呪術高専に入れられて、呪霊と戦うことになる。死亡率高すぎる世界へ強制突入だ。

 死にたくないし、痛いのは嫌だし、怖いのも嫌だ。呪術を使って遊んでいたい。本当、原作の真依の気持ちは痛いほどわかる。

 そう、わかる。だって、そこら中にSANチェックが必要そうな不気味な化物、呪霊がうようよしているのが見える。こんな死と隣り合わせの世界に無理矢理入れられたら狂ってしまう。そうならないために毒舌とか、あんな性格になったのかもしれない。

 だけど、やるしかない。それに身体は女だが、原作の真依と違って心は男だ。そして禪院家では女性の地位はかなり低い。特に禪院家が継承している相伝の術式を持っていない俺達双子は落ちこぼれで、酷い扱いを受ける事が確定している。

 雑用として禪院家で過ごし、行き着く最後は呪霊や呪術を悪用する呪詛師に殺されるか、孕まされて子供を産まされることだろう。特に後者は心が男である俺にとっては最悪最低だ。

 真依は好きだとはいえ、真依の身体で男とするなんて吐き気がする。気持ち悪い。死んだ方がマシにすら思える。むしろ死ぬね、間違いない。舌を噛み切って自害するレベルだ。

 それに恵の生みの親である禪院甚爾は子供の頃に見えないし、倒すこともできないのに呪霊の群れに放り込まれたそうだ。おそらく俺達も同じ事をされるかもしれない。そうなると死んでしまう。

 かと言って、家から逃げることもできない。逃がしてはくれないだろう。既に逃亡した前例(恵の父親である禪院甚爾)がいるんだから尚更だ。

 と、いうわけで真依として呪術を鍛えて呪術師になるしか未来はない。原作の真依はいやいや呪術高専に入れられて戦っていた。つまり、幼少期にはあんまり鍛えてないと思う。鍛えだしたのは真希が出て行って高専に入れられる事が確定してからだと思う。そう思うことにしてしっかりと鍛えよう。

 構築術式だって頑張ればできるはずだ。というか、普通に考えて何も無い状態から呪力を元にして物質を作り出すんだから強いだろう。それに領域展開における結界内での生得領域の具現化とは異なり、構築術式で一度生成された物質は術式後も消えることはない利点も有る。それ故に呪力消費が激しくて、体への負荷が大きいが。原作初お披露目の時の真依には一日一発の弾丸を作るのが限界だ。

 だけど反転術式ともなれば構築の反対で物質を何もなかった状態にすることができるはず。それがなんであろうと、物質であればだ。つまり、相手の心臓であろうとね。

 

「うん。きめた」

「どうしたんだ?」

「はんてんじゅちゅしきを覚える」

「は?」

「じゅじゅちゅを鍛えるの。だから、もうあそばない」

「おい! どうしたんだよ!」

「呪いの勉強、するの」

「あ~わかった。私も行く。で、何処に行くんだ?」

「書庫」

 

 移動した先にある禪院家が所有する書物が保管されている。これだけでかなりの資産となることは間違いない。落ちこぼれとはいえ、禪院家の娘なので問題なく調べることができる。なので、とりあえず呪いについて詳しく知る。

 

 呪いとは人間から流れ出た負の感情や、それから生み出されるものの総称とのこと。書物では日本国内での変死死者、行方不明者は年平均1万人を超えており、そのほとんどが呪いによる被害とされているとのこと。

 それを引き起こしているのが呪霊。呪霊とは呪術師以外の人間から漏出した呪力が澱のように積み重なったことで形を成したモノらしい。

 人間を襲う危険な存在という点では共通しているが、その姿形や習性は個体によって多種多様とのこと。基本的に知性は低いけれど、人間と変わらぬ知性を持つものも存在する。また、怪談や妖怪など、共通認識のある畏怖のイメージから生まれた呪霊は仮想怨霊、死後呪いに転じた人間は怨霊と呼ばれている。学校や病院のような大勢の思い出に残る場所は負の感情の受け皿となり、呪霊が発生しやすいわけね。

 呪霊は呪力をほとんど持たない人間が祓うことはできず、個人差もあるけれど基本的に見ることも触ることもできない。また、力の強弱に関わらず、呪力を伴わない攻撃はどれほど受けてもダメージを負わないが、呪力を伴う致命的な攻撃をされると消滅する。

 呪術界では、呪霊の呪力量や戦闘力に応じて、以下のように4級から1級、特級に等級分けしており、人口の差により、地方と比較して都会の呪いは狡猾で等級が上がりやすい。ちなみに特級は呪力が籠っていない装備ではクラスター弾での絨毯爆撃と同等の威力がないと心許ないらしい。

 

 呪術師は呪術を使う人間で、呪霊を祓うために暗躍する。呪術師になれる人間は非常に限られており、社会的にはマイノリティな存在。天与呪縛の例を除き、その全員が呪霊を視認し祓えるほどの呪力を体に宿している。

 術式行使による呪力の消費量や容量の差はあるものの、非術師に比べて呪力の漏出が極端に少なく、その呪力から呪霊が生まれることは無い。例外として、術師自体が死後呪いに転じる場合があり、それを防ぐ為に、術師を殺す際は呪力を伴う攻撃をしなければならないとされる。通常の武器で殺したら駄目というわけだ。

 秘匿死刑の実行、任務先に関する情報は全て開示される等、様々な越権が許されている一方、原則として一般人を呪殺することは禁じられており、破った者は呪術規定9条に基づき呪詛師に指定され、処刑対象となる。

 

 呪術は呪霊を祓うための武器であり、使用すると残穢と呼ばれる呪力の痕跡が残る。呪術師だけでなく、一部の呪霊も使用する。

 効果は多種多様で、術師の数だけ祓い方があると言われる。また、呪術においては、縛りと呼ばれる制約を設ける事ができ、縛りにより制約を受け、他の能力の強化などができる反面破った場合は何らかの罰を受ける。縛りの中には、まれに自分の意思とは関係なく先天的に身体に課されるものもあり、このような縛りは天与呪縛と呼ばれる。天与呪縛の代償は大きい反面、強大な力を得られる。こちらは真希お姉ちゃんがそうなるわけだ。また、利害関係によって他者ととともに縛りを課すこともある。

 

 呪力は人間の負の感情から生まれる負のエネルギー。呪霊の体も呪力で構成されている。呪力をほとんど持たない人間は、呪霊を祓うことが出来ず、個人差もあるが基本的に見たり触れることが出来ない。また、呪力の有無はほぼ生まれつきで、後天的な作用はほとんどない。呪術師の身体の中では、臍を起点に流れ廻っている。

 

「で、どういうことだ?」

「真希お姉ちゃんは呪術が使えないってこと。代わりに運動能力は高いはず。もっとも、呪霊が見えないから、見る事は呪いが籠った道具でなんとかするしかない」

「そうか。それなら戦えるように鍛えないとな。武器は呪具とかいうのを使えばいいか」

「それでいいんじゃない? 俺が「私」……私が作れたら、それを使えばいいし」

「ああ、それでいこう」

 

 二人で資料を読みまくる。数ヶ月かけて雑用しながらある程度覚えたら、真希お姉ちゃんは外に出て身体を動かしていく。だから俺……私は次の段階に入る。

 

 

 私が持っている術式を使う。構築術式。何もないところから物質を作り出す術式だ。術式は呪術師の肉体に刻まれていて、術師は自身の術式に呪いの元である呪力を流し指向性を与え、様々な異能を発揮する。

 さて、ここで考えてみた。構築術式は呪力というエネルギーを使って無から物質を生み出すのは鋼の錬金術師に似ている。呪力と等価交換した物を生み出せるというわけだ。

 では、生み出せる物に制限はあるのだろうか? 物質であればいいのなら……例えば呪力を発生させている内燃機関を複製すればどうだろうか? 

 しかし、それではイメージがわかない。どうやって呪力を生成する? 生成……生成……あるじゃないか。Fateの世界に魔術回路という物が。魔力=呪力という扱いであれば可能ではないだろうか? 

 呪力を生み出す物を生命力から魔力を生み出す魔術回路と定義し、術式を延々と受け継がれている魔術刻印と定義すればいい。

 どちらも身体の中にあるのであれば、物質には変わりがない。ひょっとしたら魂の方に関係があるのかもしれないが……魂も物質化が可能だ。第三魔法である天の杯でできる。ならばやってやれないことはない。原作でも恵が術式の解釈を広げることで強くなっている。特に汎用性の高い術式ならば尚更だろう。

 

「まぁ、流石にこのままでは無理……かな?」

 

 ここで使うべきは術式を強化すること。術式を強化するには縛りを利用する。縛りは呪術における誓約だ。なんらかのリスクや制限と引き換えになんらかのメリットを得るが、破った場合は得たメリットを失ったり、最悪の場合何らかの罰が降りかかる。

 自身で自身に科す縛りの例としては相手に自身の術式の詳細をあらかじめ公開する術式開示などがあり、それによって術式の効果や呪力を底上げする事ができるが、縛りを破った場合は向上した分の能力を失う。

 他者との間で縛りを結ぶ場合もあり、こちらは主に裏切り等が無いように相手の行動を縛るために用いられる。

 Hunter×Hunterと同じと考えることができる。あれ、そう考えると構築術式は具現化系かな? 

 制約がどこまで有効かはわからないが、色々と考えてみようと思う。ちなみに効果が一番高いのは命を賭けることらしいので、命を賭ける。冥さんがカラスに自死を強制させることで本来微弱である動物の呪力制限を解除して相手にへ突撃させた。この一撃は特級クラスの呪霊にも有効だった。

 まあ、私の場合は自分が死ぬわけではないので、そこまでの効力はない。

 

 

 色々と考えた結果、以下のようにする。

 

 1.私は自らの血を持つ子供を生まない。

 2.男を恋愛、性的な意味で愛さない。

 1と2を破った場合、自害する。

 3.双子の真希が死んだら、やっぱり自害する。

 上記の事を破った場合、死亡する。

 

 縛りを行ったので行ってみよう。構築術式を自分の腕に使いながら試してみると……物凄い激痛が襲い掛かってきたのでのたうち回る。術式はすぐに崩壊し、使うことすらできない。だというのに鼻血や腕から血液がでてくる。

 どうやら、このままでも無理みたいなので更に実験をするしかない。とりあえず、治療を終えてから呪力の回復と掃除を行う。

 

 

 

 


 

 

 

 次の日。お姉ちゃんが訓練に行ってから原作通り、試しに弾丸を作ってみる。弾丸の場合は両方から鼻血だけでなく、頭も痛くなり、所々肌から血が滲みだしてきた。もしかしたら、体の内側に作るのと体の外側に作るのでは難易度が違うのかもしれない。こちらも検証しないと駄目かも。そもそも私が使っている術式が原作の真依と同じ構築術式と違う可能性だってあるし。

 

「……っと、なると……痛みを我慢すればいける……?」

 

 ただ、普通に我慢できるレベルではない痛みだったので、ここは科学の力を使おう。まず生成するのはフェンタニルを生成する。これは主に麻酔や鎮痛、疼痛緩和の目的で利用される合成オピオイドである。化学式がC22H28N2Oで、分子量336.48 g·mol^−1。

 本日はフェンタニルのイメージを確実にするためにしっかりと勉強しよう。またお掃除も行っておく。お姉ちゃんにバレたら怒られるし、止められるかもしれないからね。

 

 


 

 

 翌日。銃弾と同じでかなりしんどいけど、フェンタニルは血を吐きながら作る事ができた。イメージがしっかりとできていれば問題ないみたいだ。痛みに慣れてきた事と、呪力操作がしっかりとできているからだろう。

 まあ、自分で即座に試すのは怖いから、その辺の動物で試してからかな。真希お姉ちゃんが帰ってくる前に部屋を片付けておかないと。

 

「なんか変な臭いがしないか?」

「気のせいだよ」

「そうか」

 

 どうにかお姉ちゃんを誤魔化すことに成功した。明日からフェンタニルを作って保管し、動物実験を行おう。

 

 


 

 

 一ヶ月が経った。実験を続けてから、実験動物君が死なずに居る分量を発見したので自分に少しずつ投与して、意識があって感覚がなくなる値を見極める。

 呪力操作もしっかりと体に教え込みながら続けていく。それと呪力のコントロールについては禪院家が保管している呪具を使う。原作の虎杖が使っていたような物と同じ効果を持つボールがあったので、それを使ってやってみる。

 呪力を流すと大きくなり、無くすとビー玉サイズになる。それ乗ってバランス感覚を鍛える。ボールに呪力を流しつつ、全身からの放出と部分部分へ呪力を高速移動させる練習をした。

 幼女のゴールデンタイムのお陰か、一ヶ月ほどでだいたい扱えるようになった。

 術式もフェンタニルを使いながら問題なくできるようになったので、自らの体を使った改造実験を開始する。 

 

 術式を自分の体に使うと、身体中から血液が吹き出してしまった。けれど問題なく術式は維持できているのでこのままいく。

 肉体の構築が終われば外に出て他の人に助けてもらう。成功したような、失敗したような感じになった。少し筋肉量が増えただけだった。

 

 

 


 

 

 

 一ヶ月ほど入院した。退院できるようになったので、お姉ちゃんが退院の準備をしている。それを止める。だって、ここは都合がいいから。

 お姉ちゃんが驚いている間にさっそく魔術回路ならぬ呪力回路を作ろう! 強化された術式と呪力であれば問題なし! 行くぞー! フェンタニルを体内に注入! 構築術式発動! 

 

「真依ィィィィィィィッ!」

 

 身体中から血液を出して噴出し、腕や足が折れて痛みと呪力不足で気絶しちゃった♪ 

 

 

 見慣れた病室で起きたら確認してみる。どうやら、失敗したようだ。魔術回路ならぬ呪力回路を作成するのは無理みたい。

 なので別の手段を取ることにする。呪力が馴染みやすい細胞を構築し、体の細胞と入れ替える。呪力を増やす方法はまた考えるとして、その前段階としよう。呪力を満たした細胞と入れ替えるぐらいは可能だろう。

 その後、お見舞いにやってきたお姉ちゃんに聞けば一週間くらい昏睡状態だったようだ。だけど気にしない。

 どうせ目指すならイリヤちゃんや美遊ちゃんのような身体の七割以上は呪力回路で埋めているような存在だ。今回は失敗したけれど、また別の手段を取ればいいし。ついでにここは病院なのでちょっと危険な反転術式の練習をしようと思う。

 起きたらお姉ちゃんが居ないかどうかを確認し、構築術式で細胞を増やして、傷を負う。副作用でかなり気持ち悪くて何度も吐いたし、入れた部分が破裂したりした。腕にできた傷を反転で治療する。失敗して更に怪我が広がり、病院で治療してもらう。

 最初は一週間から数週間、拒絶反応で気絶して治療してもらうを繰り返した。起きたらまた細胞を増やして反転術式の練習をして治療してもらう。このループでどんどん呪力との親和性を高め、術式の理解を深めていく。デメリットとしては呪力が浸透しやすい分、呪術に対する防御力が落ちるかもしれないけれど、呪力でガードできなければ一緒なので問題なし。

 鎮静剤とか痛み止めとか使ってくれているから、自分でフェンタニルを作る必要もないので最速で強くなるには本当にいい環境だよねー! 

 

「何やってんだやめろ! やめてくれ!」

 

 真希お姉ちゃんが泣いて無理矢理止めようとしてきた。なのでお姉ちゃんが居ない時にやった。

 すると、お姉ちゃんは泊まり込むようになったので、無視してやることにする。

 お姉ちゃんに押さえつけられたけれどもやめず、禪院家の当主である禪院直毘人叔父さんが命じた呪力を封じる手段を持ってくるまで止めなかった。

 結果、私は病院八ヶ月、生まれてから六年の成果として反転術式を覚えることに成功した。原作の知識があるとはいえ、赤ん坊からのゴールデンタイムを頑張っただけはある。やはり、幼子は最高だぜ! 

 さてさて、反転術式を覚えたので、次に試したいことができた。呪力回路は失敗したが、別の方法で呪力を増やそうと思う。その為に構築術式をもっと練習しないといけない。うん、退院したら頑張ろう。

 

 



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マキマキ

 妹が入院して一ヶ月が経ち、退院することになった。そのため、私は病室で準備を整えている。

 

「必要ないよ」

「は? 何を言って──」

 

 真依が必要ないと言ってきた事に言い返すため、振り返る。するとそこには腕が腫れたと思ったら、次は身体中の穴という穴から血液を吹き出し、ベッドの上で起こしていた体を倒す双子の真依の姿があった。

 

「真依ィィィィィィィッ!?」

 

 慌ててベッドに駆け寄って血が噴き出るのを止めながら、悲鳴のような叫び声を上げて人を呼ぶ。両親は来ていないから自分で助けを呼ぶ。

 ドクターやナースの人達が急いでやってきて、真依の治療を開始する。その後、なんとか真依の治療は成功した。

 だけど、真依はそれからも回復する度に何度も何度も、何度も何度も何度も何度も体中の穴から血液を噴出させて、ボロボロになっていく。

 この事から、私はお父さんやお母さんに相談した。二人は当主である叔父さんにお願いして許可をもらってきた。

 叔父さん達は一応、禪院家自体が狙われているのかもしれないと考え、呪術師を派遣してくれた。そこで妹の真依を診てもらった。その場では結果を教えてもらえず、家に戻って両親や叔父さんが居るところで報告された。

 

「残穢が残っていました。間違いなく、呪術によるものです」

「ほう……つまり、これは何処かの呪詛師が俺達に喧嘩を売ってきたってことか?」

 

 上座で酒を飲みながら叔父さんが聞いてくる。

 

「そうならば許し難いな」

「早急に対策をしないといけませんが……」

「いえ、違います」

「どういうことだ?」

「残穢は禪院真依の物でした」

「「「は?」」」

「なんだ……ただ、呪術を使って失敗してあんなことになってるだけか? 攻撃でもなんでもなく?」

「はい。それ以外に残穢も呪霊も確認できませんでした」

「真依の術式は……アレだったな。そこに何かがあったか?」

「いえ、何もありませんでした。ですので、失敗したのだと結論づけました」

「そうか。ならどうでもいい。死なれたら困るから治療だけは続けるよう言っておけ」

「かしこまりました」

 

 えっと、どういうことだ? 真依は自分から傷ついているってことで……アレ? え? え? 

 

 

 混乱してから数日。真依は起きては血塗れになって治療され、輸血を繰り返しているらしい。何度も何度も……次第に真依が入院している部屋は血の臭いが漂うになり、天井には夥しい数の飛び散った血が見える。そんなところに来る人はだんだんと減っていく上に噂が噂を呼び、呪霊が集まってくる。

 真依は私の言う事なんて聞かずに止めることはない。だから、私は泊まり込むことにして、無理矢理止める。それでも押さえつけたとしても呪術を行使されて止められない。

 数ヶ月も経てば病院も次第にこれ以上受け入れ続けることができないと言われ、家で療養することになるのだが……そう簡単には移せない。

 だから、お父様と当主様であり、叔父に泣きついた。流石にどちらも病院からの通達には放っておけとは言えなくなってきたようで、呪力を封じる呪具を貸してくれた。それを持って真依の所に行くと、真依は嫌そうな顔をしながらもようやく止めてくれた。

 

「これ以上するなら、これを付けて呪力を封印するぞ!」

「両腕くらいは変えられたし……まあ、いいか。その呪具はどんなの?」

「聞いた話では呪力の操作を阻害する奴ってことだ」

 

 今度こそ、退院の準備を進めながら、真依と話していく。真依はそれをつける。すると、呪具は真依の腕をきつく締め付けていく。

 

「だ、大丈夫か!?」

「ああ、これはアレか。うん、大丈夫」

 

 輪の呪具はすぐに広くなって真依が引き抜き……何を思ったのか首に取り付けやがった! 

 

「うふふ、これで呪力操作に失敗すれば首が締まる。成功しなければ死ぬ」

「ナニヤッテンダコノヤロウ!」

「野郎じゃない」

 

 ぎちぎちと首が閉まったり、馬鹿みたいに大きくなったりしていく呪具を使っていく。もう押し倒して無理矢理取り押さえ、奪い取る。

 

「酷い、お姉ちゃん……返して。私のだよ?」

「違うからな。というか、せめて腕とかにしろ」

「死ぬか生きるかのところじゃないと、もっと高い呪力コントロールが身に着けられないのに……」

 

 残念そうに言う真依は……瞳が虚ろだ。何処か狂ってやがる。やっぱりコイツも禪院家の娘だ。間違いない。

 

「あ、お姉ちゃん」

「なんだ?」

「パフェ食べたい。病院の料理って味気なくて……」

「当たり前だ馬鹿野郎! 私も何度か見かけてる間に食べてみたいし、行くぞ!」

「お姉ちゃん大好き♡」

「ふん。ほら、行くぞ」

 

 真依に手を差し出して、荷物を持ちながら一緒に向かう。退院手続きは終わってるし、後は帰るだけ。だから、真依の言う通りにパフェを食べに行けばいい。お金は貰っていないが、退院祝いの為に貰った電車賃を走ることで節約して貯めておいたから大丈夫だ。

 

「ここでいいか?」

「ファミレス?」

「ああ、そうだ。ほら、入るぞ」

「うん」

 

 二人でファミレスに入り、席に座ってメニューを見てみる。どれも高い。だが、見たこともない美味しそうな物が多い。

 

「どれがいい?」

「お姉ちゃんが決めていい」

「いや、これは真依の退院祝いだからな」

「いやいや、お姉ちゃんが決めて……」

「だから真依が……」

「マキマキが……」

「誰がマキマキだ。そもそも食べた事がないから味がわからん」

「それもそうか」

 

 生まれてこの方、食べた事もない。そもそも真依が入院しないと外に出ることもなかっただろう。

 

「なら、この一番大きくて高いのを二人でわける?」

「それでいいか。これならいっぱい入ってるしな。値段は……ギリギリいけるか」

「じゃあ、それで」

「ああ。ところで、どうやって注文するんだ?」

「このボタンを連打して店員を呼んでやるのよ」

「わかった。これだな……」

「ちなみに連打は嘘よ。一回でいいから」

「おい」

「お姉ちゃんの力で押したら壊れるかも?」

「お前な……まあ、いいや」

「普通に優しく押したら大丈夫だと思うけど」

「壊れるかもしれないから、お前が押せ」

「わかった」

 

 真依は押すと鐘の音が聞こえ、少しすると店員がやってくる。それを慣れたように真依が注文していくのを見詰めていく。

 

「来た事があるのか?」

「生まれてからほぼ一緒に居るのにあるわけない」

「確かにそうだよな……」

 

 考える限り、入院している時ぐらいしか離れていない。それ以外は互いに修業している時ぐらいか。だが、それでも家から出ているはずはないし、気のせいか。

 

「ところで注文しておいてなんだけど、お金は大丈夫? ちゃんと金額とかわかってる?」

「馬鹿にすんな! それぐらい楽勝だ! でも、ちょっと怖いから確認してくれ」

 

 食い逃げとかになるのは怖いから、真依にも財布を渡して確認してもらう。

 

「ふ~ん、これがお金ね」

「そうだが……見たことないよな?」

「ないわね。ただ、これぐらいなら……お姉ちゃん、手品を見せてあげる」

「は?」

 

 真依は五百円を掌の上に乗せて見せてくる。それから握り、手を開くと何故か五百円玉が二枚になっていた。

 

「え?」

「まだまだこれから。えい♪」

 

 今度は二枚を両手に握り、また開く。すると四枚になっていた。命を賭けた縛りと高レベルの呪力操作のお陰で使いやすくはなっている。

 

「お前、それ……」

「手品よ。種も仕掛けもある、ね」

「よし、これでもう一個頼めるな」

「いや、犯罪だからね?」

「知ってる。さっきのお返しだ」

「ちっ」

 

 本物の五百円玉を財布に残し、残りはポケットに直した。消せないみたいだ。まあ、どうでもいいな。

 

「そもそもそれ、呪力が籠ってるだろ。使ったら駄目な奴じゃん」

「……あ、本当だ。これ呪具じゃん。こほん……お姉ちゃんは何を使ってるの?」

「ん?」

「武器だよ、武器」

「今は身体を鍛えてるだけだな。なんかお勧めとかある?」

「槍かな。槍だな。槍がいいな」

「なんで槍?」

「斬れるし、殴れるし、距離を持って攻撃できるから。それに外れるようにして鎖で繋げれば双節棍にも使えるから、便利」

「なるほどな……なら、それを試してみるか」

「後は合気道でも覚えたらいいんじゃない?」

「真依はどうするつもりだ?」

「私は呪力と術式の強化かな」

「もう怪我するような事はすんなよ」

「とりあえずは今使えるようになった呪力のコントロールを練習するよ。色々としたい事もあるし」

 

 コイツ……またやるつもりだな。全然反省してやがらねぇな。まあ、私がさせなければいいか。

 

「お待たせしました」

「ありがとう♪」

 

 滅茶苦茶でかいパフェが来たので、二人で食べていく。生クリームとかいう未知なる物の甘さが口の中に広がり、幸せが感じられる。

 

「ほら、真依も食えよ」

「うん。美味し♪」

 

 真依の奴は遠慮しているのか、自分からあんまり食べないからスプーンで掬って無理矢理食べさせる。真依は対抗したのか、こちらに食べさせてきた。こんな風に食べていくと、すぐになくなった。

 

「また今度食べたいな」

「そう。なら、今度作ってあげる。生クリームとバナナ、苺、メロン……」

 

 つらつらと材料の名前を上げていく真依になんだか嫌な感じがしたが、気にしないことにした。

 

「料理をするつもりか?」

「それも楽しそうだから。何せ錬金術って台所から始まったらしいし」

「錬金術?」

「なんでもないわ。それよりも帰りに図書館へ行きたいの。いい?」

「あ? 図書館か……」

「出来れば私立で貸し出しできるところがいいかな」

「それなら……聞いてくるか」

「お願い♪」

 

 真依にお願いされた図書館へと連れて行き、そこで貸し出しカードを作って何冊かの本を借りて家に帰った。私と真依、二人の分なので十冊になる。

 

「こんな鍛冶について書かれてるのなんて何に使うんだよ?」

「必要な物かはわからないけれど、使えそうだからね。まあ、期待せずに待っていて」

「そうか。わかった。期待せずに待っててやるよ」

 

 荷物を持ちながら長い長い階段を登って鳥居を潜る。ようやく実家についた。すると雑用係の人が呼びに来ていた。

 

「ご当主様がお待ちです。真依、きなさい」

「わかりました。お姉ちゃん、荷物をお願い」

「わかった。じゃあ、またな」

「うん」

 

 荷物を私と真依の部屋に仕舞っておく。本は適当に積み上げておけばいいだろう。掃除は綺麗にしてあるし、後は疲れているだろうから、寝床の準備くらいしておいてやるか。

 

 

 

 



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3話

 家に帰ったら、いきなり呼び出しを受けたのでご当主である叔父さんの部屋まで戻ってきた。すると、そこには叔父さん以外にこの世界での父親と母親、当主候補である従妹など他にも多数の人が居る。

 もっとも、育児放棄されているのでそこまで大事とも思えない。私の家族と言えるのは半身である真希お姉ちゃんだけだ。見舞いにもこないしね。どうでもいい。

 

「戻ったか」

「はい」

 

 父親達を無視して、ご当主様、禪院直毘人の前に座り、返事をする。ご当主様は普通にお酒を飲んでいる。

 

「それで何の御用でしょうか?」

「治療費や清掃代が馬鹿にならんから、やめろという話だ。儂としてはどうでもいいがな」

「なるほど。しばらくは止めておきます」

「ならばいい」

「ご当主様。退院祝いとしてお願いがあります」

「なんだ? 聞くだけ聞いてやろう」

 

 他の人達が睨みつけてくるけれど知ったことじゃない。

 

「お金が欲しいです」

「金か。なら、呪霊を祓え。仕事の斡旋ぐらいはしてやる」

「じゃあ、武器をください。ドラグノフかヘカートⅡがいいです」

「またとんでもない物を頼んできたな。確か、スナイパーライフルとアンチマテリアルライフルだったか」

「です。政府に伝手があれば手に入れられると思います。無理でも設計図さえ頂ければ作ります」

「伝手は禪院家の物で用意してやるが、稼いで自分で買え。武器は……家にあるのを貸してやる。依頼は何かあったか?」

「ある。来月に呪霊の定期的な掃除依頼があった。他の術師と共に連れていけば死ぬことはないだろう」

「だ、そうだ。少し早いが、行ってこい。せいぜい死なないように準備を整えておけ」

 

 恵パパの時と違い、少し優しい。私達が女だからかもしれない。後遺症が出て子供を産めなくなるのは困るのだろう。

 別の術師が同行するのは理解できる。私と真依なんて二級の呪霊でも出たら殺されるだろうし。やはり武器とかは自前で用意して準備を整えるしかないか。

 

「使う呪具は自分で作って使ったりするのは問題ないですか?」

「ああ、できるのなら構わん。材料は家の森にある奴なら好きに使え」

「わかりました。それと最後に……敷地内にあるのなら何を使っても構いませんか?」

「使われていない物ならな」

「では、森や山の中に小屋を立ててもいいですか?」

「却下だ。まずそれなりの成果をあげろ」

「わかりました」

「かかった治療費とかは後ほど稼いで返せ」

「はい」

 

 話は終わりらしいので、そのまま部屋を出ていく。しかし、借金が出来てしまった。まあ、呪具を売っていけばなんとかなるだろう。最悪……というか、普通にダイヤモンドでも生成して売ってみるか。呪具のダイヤモンドとか、呪われたダイヤ待ったなしだろうけどね。

 

 

 


 

 

 

 部屋に戻ると、お姉ちゃんがお布団を敷いて待ってくれていた。

 

「お帰り」

「ただいま」

「食事の前に風呂へ行って、それから夜まで適当に過ごして寝るぞ」

「うん。後、お姉ちゃん」

「なんだ?」

「明日から山と森の探検してみない?」

「どうしたんだ? 呪霊が出るから嫌がってただろ」

「いいの。呪霊の群れを払いに行くのに私も連れていかれることになったから」

「そうか。それなら色々と準備しないといけないな。それで山と森で訓練か」

「うん。食事は山と森で採る。もしくは普通に食べに戻る」

「まあ、やるだけやったらいいんじゃないか?」

「うん。付き合ってくれる?」

「当たり前だろ。私は真依のお姉ちゃんだぞ」

「ありがとう♪」

 

 一緒にお風呂に入り、洗ってもらう。ほとんど眼を瞑ったままなので、お姉ちゃんにされるがままだ。

 風呂が終われば真希お姉ちゃんと一緒に部屋で借りてきた読書だ。お姉ちゃんは禪院家の書物を読んで、私は鍛冶に関しての読書ではなく、鉄に関しての物を読む。

 製鉄に関してだ。玉鋼を構築するために製鉄方法についても調べる。こうすることで少しでも呪力消費を抑え、質を向上させる。

 もちろん、呪力操作をしながらだ。呪具は首につけたら怒られるので、腕につけている。お姉ちゃんの方は私が大きくした呪具のボールに乗ってバランス感覚を鍛えながら読書をしている。化物かな? 

 

「森の中からは呪霊が居るけど、武器はどうすんだよ?」

「武器を作るから、それで倒して」

「私、見えないんだけど……」

「眼鏡から作るか」

「作れんの?」

「もう調べてあるから大丈夫」

 

 禪院家の書物から補助監督とかに与えられる呪具の作り方は知っている。ならばあとは私の構築術式で作ればいい。

 

「どうせなら拘ってみようかな?」

「嫌な予感がするんだが……」

「気のせいよ」

 

 本を持ちながら外に出て風呂場に移動して服を脱ぐ。すっ裸になった後、呪力を生み出す。それと隠し持っていた最初に使った残りの鎮痛剤をキメてからやる。

 

「構成材質をガラスとポリカーボネートとポリビニルブチラール、ポリウレタン、ナノカーボンに定義。構成構造をラミネート構造に設定。構成材質を呪力による補強。完成理念を定義、鍛造技法を設置──全行程完了。構築術式発動」

 

 呪霊が見えるようにする。目を守る。ついでに視力も強化して暗視機能もつける。さあ、どうなる? 

 

「かはっ!?」

「やっぱりじゃねえか馬鹿真依!」

 

 吐血したけれど大丈夫。命を賭けた縛りと鍛えた呪力操作でちゃんと出来た。ナノカーボンフレームの強化ガラス眼鏡(子供用)が! 

 

「はい、お姉ちゃん……プレゼント」

「ありがとう……と、言いたいがな……血塗れの眼鏡を渡されても困るんだが……」

「てへ♪」

 

 シャワーを浴びて体と眼鏡を綺麗にしてから外に出る。周りの視線がヤバイ。なんだ、ロリコン共か? これはさっさと部屋で寝よう。身の危険を感じる。というか、視界がぼやけてるし、やばい。反転術式を使って治療をしておこう。

 

「寝てろ」

「……ん……わかった……」

 

 


 

 

 気が付けば朝。お姉ちゃんに抱き枕にされていた。そんな状態で呪力を体に流して澱みなどを排除し、スムーズに呪力はいきわたるようにする。

 セルフチェックをして問題ないのを確認。問題ないようなので今日は普通に武器を作る。槍は流石にまだ危ないので普通に棒にしておく。

 今日は朝から子供用の八角棒を作っておく。材質はナノカーボン……なんてしたら多分、死ぬので普通に木を使う。それも家にある後生大事に育てられている木の枝を使う。そいつを素材にして構築術式を使ってみようと思う。

 まあ、バレたら怒られるし、折った部分の枝は反転術式で回復させておく。それから森へと移動して地面に枝を刺してから大地から栄養を吸い取る感じで構築術式を使う。

 イメージとしては圧縮されて水分が抜かれた感じで行う。呪力がゴッソリと減って腕にバッサリと傷が出来た。今回も薬をキメているので痛みはない。針と糸を構築術式で生み出して縫い合わせてから、反転術式を使っておく。その上からガーゼを付けて包帯を巻けばこれでよし。

 

「できた」

 

 綺麗な成形された血塗れ八角棒四尺(121㎝)が出来ました。パチパチ。それなりに呪力を持っているのがわかるので呪霊をぶっ殺すのにも使えるでしょう。やったね! 

 

「ま~~い~~」

「あ、お姉ちゃん! いいタイミングだね。はい、これ武器ね」

「ああ、ありがとう……じゃない! またやったな!」

「必要だから。今日はもうしないし、後はお姉ちゃんにお任せだから。頑張ってね、お姉ちゃん!」

「くっ……いいか、絶対に大人しくしていろよ。というか、家に居ろ! 私が慣れたら、連れていってやるから!」

「あ、じゃあ、地図を用意して候補の探索をお願い。近場に水辺があって、木がある場所。それなりに本家から離れていて、周りに色々と作っても大丈夫なようなところがいいな」

「……めんどくせぇが、まあいいだろう。飯食ったら行ってくる」

「よろしくねお姉ちゃん!」

「任せろ」

 

 食事をしてから、お弁当におにぎりを握ってお姉ちゃんに渡す。その後は普通に勉強だ。鍛冶に必要な道具の作り方から調べ、それをノートに書き写していく。

 ああ、アウトドアグッズの作り方も覚えないと……煉瓦もか。覚える事がいっぱいある。それでもやるしかない。死なないため、犯されないため、最後まで生き残るために。

 

 

 

 

 勉強していると、部屋の扉が開いた。どうやら、お姉ちゃんが戻ってきたみたい。お姉ちゃんは肩に八角棒をかけながら部屋に入ってくる。私はすぐに起き上がってお姉ちゃんの周りを周回して確認していく。

 

 

「お帰り」

「ただいま」

 

 お姉ちゃんは着物に小枝や葉っぱをつけていて、所々に小さな傷があるけれど無事みたいで良かった。

 

「どうだった?」

「暗くなってきたから切り上げてきた。良さそうな場所はまだ見つけられてねぇ」

「そう。そっちはゆっくりでいいよ。それよりも呪霊はどうだった?」

「問題なく見えるし、倒せたぜ」

「それなら良かった。怪我は少ないみたいだし、大丈夫だね」

「ああ、問題なかった。思ったよりも呪霊って弱いな」

「ピンキリだしね」

 

 森や山に居るのは四級から三級が精々だ。四級は通常兵器が呪霊に有効と仮定した場合、木製バットで余裕なので呪力の籠った呪具で撲殺推奨。三級通常兵器が呪霊に有効と仮定した場合、拳銃があればまあ安心レベルなので、こちらも呪具で撲殺推奨。それと三級、四級程度の低級呪霊は呪力が薄いため、壁などの物体をすり抜ける能力を持つ。これも呪力が籠っていない装備で攻撃できない理由の一つかも。

 

「つーか、着物じゃ動きづらくてしょうがねえ……」

「私は好きだけど、確かに着物じゃない方がいいね。買えないし、作るか」

「血を吐くような物はやめろよ」

「わかってる。訓練がてら、作るよ。用意しないといけない物もあるし」

「何を作るんだ?」

「キャンプ道具」

 

 そう、作るのはアウトドアで使うキャンプ道具。つまり、ゆるキャン△をするのである。一々、ここに戻るのも大変だし効率的じゃないから、あちらで実験しつつ呪霊の群れを祓う準備をする。

 

「あ?」

「向こうで泊まるから必要でしょ?」

「あ~なるほどな。まあ、そっちの方が効率的か。私にはわかんないし任せるが、怪我はしないようにしろよ。それよりも風呂行くぞ」

「そう言うと思って用意はしてある」

「んじゃ、さっぱりして飯を食いにいくか」

「は~い」

 

 眼鏡をかけたままのお姉ちゃんと一緒にお風呂に入る。今日はもう作らないので、普通に入って眠る。

 

 次の日はお姉ちゃんのトレッキングブーツと長袖のシャツとジャケット、長ズボンを作って渡しておく。これらは構築術式で作ったけれど、素材はそこまで拘っていない。精々が内側に肌触りがいい絹と外側に厚手の革にした程度。これで木々や枝は問題ないだろう。呪霊の攻撃も呪力が籠っているからある程度は防いでくれるだろう。

 

「んじゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 

 お姉ちゃんが見えなくなった後、こっそりと桶に血を吐いた。それでも外面だけは良くしておいたのでバレはしない。呪力が回復したら反転術式で回復しよう。

 

 

 

 



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4話

 

 

お姉ちゃんが修業に良い場所を探してくれている間に私は自分の武器を用意する。私の武器はやはり、原作通りに銃器だ。術師を殺すのに呪いの武器なんて必要ない。狙撃して射殺してしまえばいい。

続いて私の武器その2は構築術式を術式反転すること。これにより、構築の反対である撤去術式になる。撤去は取り除くこと。つまり、物質を取り除いて無に返すことがことができる。

まあ、色々と実験して試していかないといけない。呪力を増やす方法も考えたけれど、実現できるかわからないしね。

 

「はやくこれを持っていけ」

「……はい……」

 

巫女服を着た人に荷物が入った箱を受け取ったので、目的の場所に持っていく。禪院家では禪院家相伝の術式を継いでいないと、六歳になると子供でもお雑用をしないとご飯が食べられない。だから、私も雑用して食料を貰う。お姉ちゃんの分も貰うために頑張らないといけない。

そんなわけで呪力を使って運動能力を強化して荷物を目的地へと届けていく。雑用が終われば雑用の間に見つけた低級呪霊、蠅頭(ようとう)の下へとやってきた。蠅頭(ようとう)は胎児みたいな姿をしている。

 

『……GIGI……』

 

視線を合わせずに近づき、手の届く距離になったら腕を呪霊に突っ込んで呪力と呪力を掛け合わせて反転させる。生み出した聖のエネルギーを流し込む。

 

『GIGAGAA!!』

 

流し込んでいると、抵抗みたいな薄い膜を感じる。それを突き破ると、蠅頭(ようとう)は体を溶けさせて消えていった。

 

「ん」

 

どうやら、負のエネルギーと聖のエネルギーが対消滅したみたい。おそらく、膜のような抵抗が消えるか、消えないかの状態を維持することが、五条悟がやった術式と術式反転を合わせる虚式を作り出すことができるのかもしれない。まあ、私にはまだまだ無理だから、これから頑張ってできるようになろう! 目指せ五条悟!

 

「……次の実験体……」

 

別の蠅頭(ようとう)の下へと向かう。いや、今度は三級のようで蠅頭(ようとう)とはまた別の呪霊だ。

黒い木の枝で出来た化物。アニメで出た奴だね。今度は三級呪霊だね。まあ、実験する内容は変わらない。

 

「構築術式、術式反転」

 

呪霊を見て分解しようと構築術式の術式反転を使う。でも、何も起きなかった。呪力が減っただけで、何も無い。それどころか、こちらに気付いた呪霊が襲い掛かってきた。

 

「ひっ!?」

 

怖くて後ろに飛び退ろうとして、転んだ。呪霊は私に襲い掛かってこようとしたので、無我夢中でポコポコと手を振り回す。すると呪霊は消滅した。

はずかしいっ!?

 

「なにやってんねん。馬鹿やろ」

「っ!?」

 

振り向くと、そこにはやや吊り目で整った顔立ちを持つ、若い金髪の少年が居た。常に薄笑いを浮かべている気持ち悪い奴。偽ギン野郎の親戚だ。

 

「やっぱり、扇の娘もたいしたことあらへんね。まあ、術式ももっとらんようやから仕方がないんやろうけど」

 

起き上がって直哉の方を見る。彼はニヤニヤと笑いながら何かを言おうとするが、無視して次の実験体に向けて移動する。

 

「待ちぃ……」

「……なに?」

「何って……」

「用が無いなら邪魔しないで。時間がないから簡潔に一行で」

「何ふざけて……」

「終わり。じゃ」

 

走って次の所に向かう。そこは既に祓われていたのでまた別の所に。息が切れてるけど、気にしない。

次の実験体である低級呪霊をみつけた。その近くで先程の術式反転が効かなかったことを考える。

何故効かなかったか……まあ、わかる。呪霊はあくまでも恨みや後悔、恥辱など、人間の身体から流れた負の感情が具現し意思をもった異形の存在。二級以上でないと壁をすり抜ける。

これはつまり、言ってしまえば体が存在しないということで、物質ではない状況と言える。魂とか呪力とか、わけわかんない状態ってこと。実体がないのに撤去や分解しても意味ねーのです。はい、私が馬鹿でした。

 

「つまり、やるべきは構築術式……構想理念を制定。形は球体。効果は呪霊を取り込んで実体化させる。呪力の結晶体」

 

構築術式を発動し、口の中と鼻から血が出る。低級呪霊の体内に手を入れて作りだした物は呪霊を巻き込んで球体へと変化した。真っ黒なまっくろくろすけな球体は小さな飴玉だ。

これは私の体に入れてある呪力と親和性の高い細胞で強制的に呪霊を受肉させた物でもある。イメージとしては夏油傑が呪霊を球体にして飲んでいたので、それと同じ感じ。もしくはドラゴンボールの魔神ブゥがやっていたお菓子になっちゃえと言った感じかな。

 

「いただきます」

 

食べてみる。すぐに気持ち悪くなって吐いた。まるでゲロや生ゴミを水に入れて煮詰め、シュールストレミングの臭いとババネロとかのデスソースを混ぜ込んで球体にしたような物だ。こんなのを食べてたら、そりゃ夏油傑もイカレるのは間違いない。

 

「うぷっ……うぇ……」

 

口を手で拭ってから、吐いた中身から呪力の飴玉を回収して水道があるところに移動する。そこで洗った後、飴玉も綺麗にしてから一時的においておく。

 

「テッテレー! 私の強い味方、フェンタニル~!」

 

不味くて喰えないのであれば舌を麻痺させて何も感じないようにして食べればいいじゃん!

っと、いうわけで飴玉を入れて噛み砕き、水で流し込んだ。吐いた。吐いた。吐きまくった。気持ち悪すぎる。私の呪力と呪霊の呪力がぶつかり合って拒絶反応を起こしているみたい。

やっぱり、呪霊は食べる物じゃない。でも、これぐらいしか考えられない。夏油傑も頑張ったのだからやるしかない。ただ味と私の呪力と親和性を上げて……そうか、そうなるように構築すればいい。

呪力が私のと適合せず、副作用や拒絶反応が起こる? ならばろ過して無色透明な呪力に変えてしまえ。いくつもフィルターを通して、私の呪力へと変換してしまえばいい。味に関しては苺を再現しよう。

しかし、そうなるとイメージの修正が必要になる。参考にするのはろ過の方法……あるじゃん。というか、居るじゃん。呪力を餌にして花を咲かせた特級呪霊が。

それと同じ事をすればいい。作成した弾丸を呪霊に打ち込み、対象の呪力を養分として成長し、私と同じ呪力へと変換して苺の飴を作り出す。これならば受肉にした感じでも可能。吸収できるかはわからないけれど、明日にでもやってみよう。

 

 

 


 

 

 

次の日。お姉ちゃんを見送ってから、私は低級呪霊を見つけて実験する。私のほぼ全ての呪力が持っていかれたけれど出来た。黒苺の飴を食べる。不味い。不味いけれど、食べれないわけじゃない。

食べてからしばらくしたけれどなんの変化も起きない。いや、一時的に呪力が回復したように感じただけでたいしたことはない。おそらく普通に胃で溶けただけでは呪力の絶対量を増やすことはできない。

ここで諦める訳にはいかない。なので、私は更なる手を考えた。作った黒苺の飴を食べて術式反転で胃ごと実体部分を分解、撤去して呪力だけにする。その状態で構築術式を使って胃を再構築する。こうすることで肉体に呪力を取り込んでいく。何、主人公君も呪力はなかったけれど、両面宿儺の指を食べて呪力を得たんだから、似たようなことになるだろう。

 

 

一週間かけてやってみた。黒苺の飴を複数個用意して、それを食べて纏めて術式反転を行い、続いて構築術式を行う。もちろん、血を吐くけれどもフェンタニルをキメてるので術式を維持はできる。

うん、ちょっとは呪力が増えた。実験は成功だ。だから、今度は呪力を制御してミルフィーユのように自らの体に層を作るようにしていく。外側を一定にして、体内に行くほどどんどん呪力が圧縮されて質が高くなるイメージ。外部に呪力量を知られないための対策だ。

 

 

 

 


 

 

 

 

 実験の成功から数日。お姉ちゃんと一緒に山登りの日がやってきた。お姉ちゃんと八角棒一緒に向かう。

 

「まずはこっちだ」

「うん」

 

 森を進み、何ヶ所かを回るもキャンプに良い場所はないみたいで、次は山に入る。獣道を通っている間に呪霊が襲ってきたけれど、お姉ちゃんが瞬殺してくれる。

 

「大丈夫か真依?」

「大丈夫だよ」

「疲れたら言えよ。おぶってやるから」

「そこまでやわじゃ……やわかも」

「全然運動してないもんな」

「あははは」

 

 呪力で体を強化しているので、そこまでではないけれど一般的な術師よりも私は非力だ。筋肉をつけないと。しかし、筋力量が足りないから、構築術式を使って肉体改造をすることも考えよう。

 

「もうちょっと行けば景色がいい所だ。そこで休憩にしよう」

「は~い」

 

 深い山を登って行くと、開けた場所についた。禪院家が所有する山は幾つかあり、そのうちの一つがここだ。

 

「一応、ここだが……どうだ?」

「ん~別のところがいいかな。水場とかも欲しいし」

「だったら、あそこか」

 

 お姉ちゃんが指差したのはこの山から見える別の山だ。微かに朽ちた建物が見えるけど、それだけだ。

 

「アレ、何があるの?」

「廃墟」

「なるほど、呪霊が棲んでそうだね」

「呪力も溜まってるみたいだな。掃除したはずなんだが……」

「とりあえず行ってみよう」

「ああ」

 

 山を下りて廃墟の場所を目指していく。降りた先にある川を渡り、別の山へと登って行く。

 

「遅いぞ~」

「はぁ……はぁ……」

 

 こちとら呪力で強化しているのにお姉ちゃんがやばすぎる。道なき道を平気で突き進んでいくのだ。岩から岩へ、木から木へと飛ぶなんて当たり前にやっている。

 

「もうちょっと運動しろよな~」

「くっ……」

「ん?」

「お、おんぶして……」

 

 屈辱にまみれたような感じになりつつ、お願いするとお姉ちゃんは仕方がないと言いたげな表情で、私の前にしゃがんでくれるので抱き着く。

 

「んじゃ、行くぞ~」

「うん」

 

 お姉ちゃんが足を踏み込むと、一気に加速していく。木々がどんどん迫ってきて、ものすごく怖い。しかもめっちゃ揺れる。体感だけど時速40キロは絶対に出ている。

 

「怖いなら目を瞑ってていいぞ」

「こ、怖くないし!」

 

 ギュッと抱き着いておく。本当に怖くはない……ちびったりもしていない。本当だよ? 

 

 

 

恐怖のジェットコースター体験を終えた私は廃墟にやってきた。近くには滝と川があり、その川の畔に建てられた廃墟がある。と、言っても、崩れかけた木造の建物があるだけだ。

 

「ここは調べた限りだと、神社があったみたいだな」

「神社?」

「ほれ」

 

 お姉ちゃんが指差した先には鳥居だったであろう物も存在している。

 

「禪院家が所有する呪具の保管場所だったみたいだが、移転させて放置されているってところかな」

「呪具が残ってたりするかな?」

「さあな……で、どうだ?」

「ちょっと調べてみる」

 

 地面に手をついて呪力を流し、様子を確認してみる。確かにここは呪力のたまり場になっているし、低級呪霊が発生しやすいみたい。

 おそらく封印もかねた呪具の保管庫として使っていたみたいだから、呪いに汚染されたので移転したという感じだろう。

 

「ここにしょう」

「オッケー。それでどうすればいい?」

「まずはこの辺りの呪霊を祓ってきて。その間に生活できる準備をしておくから」

「了解」

「じゃあ、行くよ。闇より出でて、闇より黒くその穢を禊ぎ祓え」

 

 結界術の(とばり)を行使する。これは外から見えなくして呪いをあぶり出す漆黒の結界であり、非術師には認識できない。また、条件をつけることで色々と効果をつけることも可能。今回は呪霊の炙り出しがメイン。

 

「初めてだけど、なんとかできた♪」

「みたいだな。じゃ、私は片付けてくる。ついでに食料を穫ってくるからな」

「うん」

 

 お姉ちゃんが呪霊狩りに出たので、私は生活するためのスペースを作ろうとしたところで、何か変な気配を感じて思わず振り返る。でも、そこには廃墟しかない。

 

「?」

 

 気のせいか。小首をかしげて別の角度から見てみるけれど、やはり何も感じない。やはり何も無いのかもしれない。

 

「まあ、やるだけやっておこうか」

 

 廃墟となっている神社に近づいて姿勢を正し、深いお辞儀を二回行う。胸の高さで、右手を少し引いて手を合わせる。 肩幅程度に両手を開き、二回打って手をきちんと合わせ、心を込めて祈る。内容はここを使わせてもらう事と社を再建し、祀る事。祈りを終えれば深いお辞儀をする。

 二礼二拍手一礼を終えたら、改めて準備する。場所は河原を避けて木々があるところにする。河原は痛いし嫌だ。

 まず、木々の間にタープと呼ばれる日差しや雨、風などを防いだり、テーブルやチェアを置いて食事をしたりくつろいだりする場所を作れる布状の屋根を設置する。順番が違うかもしれないけれどキニシナイ。それと、今回はポールを立てるのではなく、木に結び付けて使うので、高い位置に登って設置していく。

 

「構成材質をナノカーボンに定義。構成材質を呪力による補強。完成理念を定義、鍛造技法を設置──全行程完了。構築術式」

 

 呪力で出来たタープを複数枚構築し、木々に縛り付けて一角を完全に覆ってしまう。雨水が逃げる道もしっかりと用意し、邪魔な枝は切り落す。これは乾かして薪にするので無駄にはならない。

 続いて大型のドーム型テントを設置する。写真に撮っておいた説明書通りに組み立てる。ポールを立ててペグを打ち込むのは一人では苦労したけれど、以外に楽しい。

 呪力で運動能力を強化しているのでしっかりと組み上げる。テントの中はグランドシートの上に柔らかさ重視にインナーマットを三枚重ねておく。普通のマットも全面に敷くことで問題なく痛みがなくなった。

 続いて広いテント内にレジャーベッドを二つ用意し、その上にエアーマットを設置。寝袋も出したのでこれで快適に寝れる。

 テントの中はこれぐらいにしてタープの下にアウトドア用のテーブルとイスを取り出す。椅子は軽量タイプの奴としっかりした奴を両方だしておく。しっかりとした奴は食事用で、軽量タイプは寛ぎ用として持ち運ぶためだ。

 

「よし、こんな物でいいか」

 

 見渡す限り、これで問題ない。なので次は食事を作るために大き目の焚き火台とバーベキューコンロとメッシュテーブルがセットを作って配置。バーベキューコンロに炭と成型備長炭を入れて着火。焚き火台の方にも火を入れておく。

 リュックサックの中から予め切って持って来ておいた野菜とお肉を取り出して準備しておく。焚き火台の方にはアルミホイルに包んだサツマイモを入れておく。

 飲み物とかは川で冷やすようにするから、今はいいとして、他に……。

 

「あ、トイレ……」

 

 とりあえずトイレ用に少し離れたところに穴を掘る。ここはなんもないからね。囲いだけは作っておこう。まあ、トイレの前にスープを作るために鍋に水を入れて沸騰させておこう。

 

 

 

「ただいま~」

「お帰り、お姉ちゃん。どうだった?」

「呪霊は全部狩った。それとほれ」

 

 スープをオタマでかき混ぜながらお姉ちゃんの方を向くと、お姉ちゃんは片手で猪を引きずりながらやってきていた。

 

「血抜きからだね」

「ああ、そうだ。夜はぼたん鍋をするぞ」

 

 少し離れた場所で足にロープを結んで吊るしてから頭を切断して血抜きする。皮を剥いで内蔵などを取り出して埋めておく。

 

「下処理は終わったし、手を洗って食べるか」

「うん」

 

 持ってきた食材でバーベキューを楽しんでいく。あ、一応、焼いたお肉と野菜、お酒を廃墟の神社前にお供えしておく。お酒は構築術式で出した。

 お姉ちゃんと食事を楽しんだら、次にろ過機を構築術式で作成し、川の水を入れておく。安全な水の確保は大事だから。

 

「風呂はどうする?」

「川の水を使おう」

「んじゃ、そっちは私がやる」

「お願い」

 

 お姉ちゃんと二人で小学生二人のゆるゆるなキャンプを楽しんでいく。夜は星空が綺麗だし、空気もいい。何より静かで蛍も出てきていい感じだ。

 明日は川に魚を穫る仕掛けを作る。それから神社の再建と鍛冶道具も……その前にデリンジャーでも作ろうかな。流石に武器が欲しいし。あ、そうだ。ここに黒苺の飴を作る植物を植えたらいいんだ。呪力を吸い取って作るようにすれば、何も呪霊から作る必要なんてないしね!

 

 

 

 

 



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5話

お待たせしました。色々と修正しています。回路関係は一度失敗にしております。変わりに呪力操作を赤ん坊の頃からさせてコントロールを強化し、反転術式まで使えるようにしております。赤ん坊の頃から小学生までのゴールデンタイムというか、学習能力チートタイムを使用しております。
縛りも命に関するものに変更しました。身長系統は四歳で止めるのは流石にアレなのでなくしました。また基本的な開始を六歳スタートに変更しております。



 

 

 

 

「……ん……」

 

 目が覚めると……知らない天井があった。いや、知っている天井だ。昨日、作ったテントだ。

 

「んん……真依……」

 

 隣を見れば私を抱きしめて眠っているお姉ちゃんの顔がすぐ近くにあった。お姉ちゃんの息がかかる。つまり、私はお姉ちゃんに抱き枕にされている。それも二つをくっつけた広いレジャーベッドの上に引いた一つの寝袋の中でだ。

 大人用のを用意したから、大きすぎたし少し寒かったから二人で一つの寝袋で寝ている。六歳の私達では余裕だからね。

 

「お姉ちゃん、朝だよ」

「……真依……」

 

 可愛らしいお姉ちゃんの頭を撫でていく。幼いお姉ちゃんはかぁいいなー! ぷにぷにの頬っぺたをムニムニする。

 

「……おはよう……」

「はい、おはよう」

 

 起きたようなので、二人で寝袋から出て着替える。寝間着から来た時の服に変えてテントを出る。

 

「さむっ」

「焚き火も消えてるからね」

「さっさとつけようぜ」

「うん」

 

 とりあえず、ろ過機から水を取って鍋に入れてコンロの火をつける。お姉ちゃんにはその辺りにあるまつぼっくりを拾って、そこに火をつけて焚き火台の上に置いてもらう。そこに小さな枝から大きな枝、薪の順番で乗せていくことで火が大きくなっていく。

 その間に私は昨日、適当に解体してテントの中に入れておいた猪のお肉を鍋に入れる。この肉は保存のために燻製にしないといけない。いや、今日中に食べきる? 

 

「んで、今日はどうするんだ?」

 

 お姉ちゃんが猪のお肉を串に刺して焚き火で焼いていく。私はスープをお椀に入れてお姉ちゃんに渡す。

 

「私が魚を取れるようにするから、お姉ちゃんは鳴子を設置してきて」

「おう、お姉ちゃんに任せとけ」

 

 お姉ちゃんにはとりあえず鳴子を設置してもらう。猪とか普通に襲ってきそうだからね。寝ている時に襲われたら困る。テントが壊されちゃうしね。

 そんなわけで、お姉ちゃんと別れて川に仕掛けを施す。構築術式で地獄網を作り上げて川の半分に仕掛けておく。それなりに多いけれど、取れる量は少なくていいので問題はない。

 

「真依~って、流されそうじゃないかよ!」

「助けて!」

 

 命綱はちゃんとつけたけれど、流されていく。普通に腰より上はあるしね。呪力で体を強化していないと流されておわる。

 

「まったく……真依は私が居ないと駄目だな」

「うん」

 

 お姉ちゃんと一緒にしっかりと川に設置した。ほとんどお姉ちゃんがしてくれました、はい。

 

「ほいっと」

「……」

 

 そんなお姉ちゃんは……仕掛け終わった後、川に一人で入って素早く素手を水の中に入れて魚をすくい上げて河原にあげます。罠なんていらなくないですかねー! 

 

「コイツで昼と夜の飯は確実にいけるな」

「串で刺して塩焼きだね。山菜もあったから、それを使えば山賊焼きも可能かな」

「野菜とか苦いから要らないんだが……」

「ちゃんと食べないと大きくなれないから駄目」

「うっ……」

 

 まあ、私も山菜は苦くて嫌だ。玉葱とか焼いたのは美味しいけどね。構築術式で作るか。

 

「イートミー」

「あ?」

「なんでもないよ」

 

 私を食べて。私の呪力で作った物だし、そんな感じになるかもしれない。まあ、とりあえずは色々と準備してからかな。一ヶ月くらい、川魚と肉、野菜でいいしね。

 

「そっか。じゃあ、真依はご飯の用意を頼む。私は風呂の用意でもするからさ」

「わかった。任せて」

「頼むぞ」

 

 お姉ちゃんが河原にある石を使ってお風呂を作っていく。石を重ねて川の水が溜まるようにするみたい。熱い焼けた石を入れればできるって感じだね。

 

「~♪」

 

 私はまな板を出して、お姉ちゃんが取った魚を捌いていく。腸を取り出して川で洗い、串に刺して塩をふって焚き火で焼いていく。山菜は後で取りにいかないとね。

 

「出来たよー」

「おう」

 

 朝の残りのスープを温め、暖を取りながら食べる。流石に同じスープは飽きてくる。それでもお姉ちゃんは大人しく食べてくれている。まあ、魚は初めてだからかも。

 

「あ、骨は置いておいてね。出汁を取るから」

「わかった」

 

 捨てそうにしていた骨を回収しておく。魚介スープと豚骨(イノシシ)スープを作ればまだいいしね。

 

「お風呂は?」

「ありゃ、すぐには無理だな」

「まあ、そうだよね」

「ああ。だからゆっくりやろうか」

「うん。じゃあ、神社を片付ける?」

「それもそうだな。何かあるかもしれないしな」

 

 呪物や呪具が残っていたら、それはそれでお宝さがしとして面白いかもしれないけれど……かなり危険だしね。

 と、言うわけでお昼からは潰れた神社の後片付けをします。まず、お姉ちゃんと一緒に屋根に使われていた瓦や木材を退かしていきます。

 

「呪力はどうだ?」

「あるから気を付けてねー」

「見えないけどな」

「眼鏡があるから大丈夫」

 

 

 

 三日ほど午後の時間を使って全てを退けることが出来た。並べてみると腐り落ちた木材がほとんどで、呪具なんて存在していなかった。ただ呪物と言えるような、言えないような微妙な物はあった。

 

「動物とかはまだわかるんだが……これ、なんだ? 男の奴か?」

 

 根本から折れている石で出来た欠けた男性器みたいなのがあった。他にも石像であろう蛇の頭とかもある。狐とか、鬼とか、犬とかの石像もあるので本当に節操がない。

 

「わかんねぇけど、こんなのを祀っていたのか?」

「ある程度の形は構築術式で復元したのがこれだからねー。多分、そうだと思うよ?」

「確かに呪力の残穢は感じられるな」

 

 長い年月で抜けているか、この石自体が欠片か。それとも呪物を封印する入物として使われていたか……わかんない! 

 

「どっちにしろ、もう呪力は微かにしかないな」

「やっぱり根こそぎ持ってかれてたか」

「当たり前だよなー」

 

 特級呪具とか残っていたら儲け物だったけど、そう上手くはいかないよね。わかりきっていたことなので、それほど悲しくはない。

 

「再建するのか?」

「うん。やっぱり、神社の社だからね」

「そっか。でも、ここに作るのは微妙だよな。また崩れてくるかもしれないし……」

「そうだよね……」

 

 この神社が潰れたのは腐敗もあるけれど、一番の原因は落石だ。大きな岩が転がり落ちてきて、社を押しつぶしたことだ。そこから雨水が入って腐っていったみたい。滝の上から流れ落ちたのかもしれないけれど、そんなに強くはないし……わかんねー。

 

「なあ、本で読んだんだが……こういう滝の後ろには秘密の洞窟とか、秘密基地があるんじゃないのか?」

「あ~行ってみる?」

「行こう!」

「うん」

 

 お姉ちゃんが手を引いて連れていってくれる。滝の裏への通路は……存在しない。普通に岩肌があるだけだった。呪術で隠されているところなんかもないように感じる。

 

「無いね」

「無いな~。でも、水中から行けるかもしれないぞ」

「それは確かにあり得るかも……」

「んじゃ、見てくるから待ってろ」

「気を付けてね」

「ああ」

 

 お姉ちゃんが服を脱いで滝壺に飛び込んで行ったので、私は服を回収してからお湯を沸かしておく。それとこれからの事を考えると、水着を用意しておこう。

 お姉ちゃんと私のも含めて……どうせなら旧スク水にするか。紺色と白にしておこう。まともに小学校に通えるかもわからないし、六歳は過ぎているので年齢的には問題ないから大丈夫。

 お姉ちゃんと私の体型は同じなのでこちらも問題なし。と、いうわけで水中で活動し易いイメージをしながら、構築術式を使う。

 

「構造理念を設定……」

 

 出来た旧スクール水着にはしっかりと真依と真希の名前を平仮名で書いておいた。どうせなら完璧にしあげないとね。後はゴーグルも作っておこう。

 

「ただいま~!」

「お帰りなさい。はい、タオル」

「おう」

「あったかい物」

「ありがとう」

 

 お姉ちゃんが体をバスタオルで覆ったので、私のバスタオルで頭を拭いてあげる。お姉ちゃんはコップに入った白湯を飲んでいく。

 

「それでどうだったの?」

「ああ、洞窟があったぞ」

「マジで?」

「マジだ。暗かったから奥は見れていない。眼鏡をつけていけなかったからな。行くか?」

「よし、行こう」

 

 ワクワクしながら二人でスクール水着に着替えて、ゴーグルをつけて潜る。一人じゃ不安なのでお姉ちゃんに手を掴んで誘導してもらう。

 

「到着したぞ」

「ぷはぁっ……ここは……ちょっと待ってね。ライトを作るから。懐中電灯でいいか。鍾乳洞?」

 

 たどり着いた場所は鍾乳洞だった。灯りは一切ないので、ライトを作って確認したから間違いない。空気がちょっと怖いので、こちらも構築術式で酸素を作っておく。酸素も物質だから、普通に作れる。

 

「どうだ?」

 

 二人で水の中から外に出て周りを確認していく。壁を叩いたり、脆いところを探して隠し通路などがないのかを入念に調べた。

 

「呪力は……うん、結構感じるけどそこまでじゃないかな。確かに外よりは高いけど、それだけ。それに人の手が入っているようには見えないよ」

「ちっ、外れか」

「ううん。秘密基地には持ってこいかな」

「秘密基地か……いいな!」

「だね!」

 

 まあ、補強とかは必要だ。それにひょっとしたら水中からまたいける穴があるかもしれないし、この先に穴を開けたらそこから進めるかもしれない。どちらにしろ、空気が心配になる。

 

「ここで生活するか?」

「今すぐにすると死ぬよ」

「死ぬのか」

「うん、死ぬ。空気の確保ができないし、体が冷えて終わるかな」

「……駄目じゃん」

「だから色々と準備が必要」

「わかんねーから真依に任せるわ」

「任せて、お姉ちゃん!」

 

 まずは空気を確保するために構築術式を使って壁に取り付けるパイプを作る。パイプの中にはトンネルなどで見掛けるファンを取り付けて外へと通す。水中の壁を真似てカモフラージュも行う。

 呪力が切れることが確実なので、回復手段として周りに呪力を吸ってろ過して私の体に馴染む呪力へと変換する黒苺の苗をそこら中に構築しては埋めておけばいい。とりあず、本日は帰宅する。呪力が足りないので戻ってごはんにする。

 

 

 

 四日で水中の壁に周りの壁と同じように擬態させたパイプを三本ほど設置し、地上側からも術式反転で開けた穴に三本のパイプを通して空気を取り込むようにした。

 もちろん、呪力は足りないので、お姉ちゃんに呪霊を取って来てもらって、黒苺の飴へと変えて呪力を補給しての作業だ。

 

「お前、よくそんな糞不味いの食えるよな……」

「食べたくないけどね……それに味は後で作りかえるから」

「そっか。まあ、頑張れ」

「他人事だね……うぇ……」

「まあな。私が食っても意味ないし」

「そもそも数が足りないから食べないで」

 

 口に飴を放り込んでから構築術式を使う。畑にする区画には黒苺の苗を複数作り出して埋めておく。これだけで今日の呪力は切れたので、すごい眠くなる。

 

「寝るから……適当に起こして」

「わかった。私は木材を運び込んどく」

「お願い……」

 

 私が寝ている間にお姉ちゃんが神社の木材をこっちに運んできてくれるので、大人しく呪力が回復するまでゆっくりしておく。

 

 

 起きたら周りの壁を構築術式で補強していく。不味い黒苺と黒苺の飴を食べながらただひたすら補強する。お姉ちゃんには神社を組み立ててもらう。屋根に関しては接着剤がないのでどうしようもない。だからタープの屋根を使う。後程、作ればいい。

 また、お姉ちゃんには三日に一度、家に戻ってもらっている。私のふりもしてくれているので誤魔化せていると思う。そんなに気にもされていないしね。

 こんな感じで二週間が経ち、どうにか神社の再建が終わった。木材を削ってあるところをパズルのように組み合わせるだけなので、私達でもできた。もちろん、運動能力を強化しているからこそできる裏技ともいえる。

 復元した石像なども運び込んでしっかりと祀っておいたし、鳥居も設置した。祀っているのは荒魂だったら困るからね。

 

「まあ、流石に武器を作らないと不味いか」

 

 残り一週間で二級呪霊とバトることになるからね。そろそろデリンジャーを作ろう。

 作るのはレミントン・デリンジャー。アメリカ合衆国で作られた41口径の

 護身用に作られた拳銃。使用の上下二連の中折式シングルアクション拳銃

 だ。上方を支点にしてバレルが解放され、発砲は撃発機構のラチェットによって自動的に上下いずれかの順から発射されるので、散弾銃のように装弾を意図的に撃ち分けることは出来ない。全長が12.38cmで重量312gという軽い拳銃になるので、私の体系でも普通に使える。

 デリンジャーのパーツを一つずつ、全力の呪力を込めながら作る。素材は石像の欠片と神社の木材を一部利用し、構築する。

 五日かけて黒苺を食べながら、作り上げたパーツを組み合わせて一つの銃が完成した。呪力もたっぷりと籠っているので間違いなく呪具になっている。

 低級呪霊に試射してみたけど、問題なく殺せた。弾丸は普通に作った奴だったけれど、試射が終われば黒苺を作り出す特別な植物弾頭を作成してセットしておいた。予備として十発の弾丸を作成して隠し持っておく。

 切り札として袖口に隠す武器としてはこれでいいので、次は保険として簡単なクロスボウを作る。非力な私でも使える強力な武器だ。こちらはお姉ちゃんの物も作っておく。銃であるデリンジャーと違って、原始的で簡素な作りをしているので簡単に作れた。

 複数作り、両足と両腕にセットして、連射機構も再現。これで一つ三本まで攻撃可能。お姉ちゃんにも渡しておいたので遠距離も対応できる……はず。

 

「真依、山を下りるぞ」

「は~い」

 

 久しぶりにお姉ちゃんと一緒に下山する。秘密基地はちゃんと封鎖しておいたし、帳も解除した。それにテント道具などは全部、秘密基地に入れておいたので大丈夫だ。

 目標は二級呪霊を特殊弾頭でぶち殺し、奴の呪力を手に入れること。それによって私はより一層強くなれる。

 

 

 

 

 

 



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6話

考えてた妖怪(呪霊)が京都から遠すぎるので有名な方に。


 

 

 山を下りて久しぶりに着物に着替えた。相変わらずの黄緑色の物で、問題ない。お姉ちゃんも赤い着物になっている。そんな私達は一緒に集合場所にやって来て居る。

 集合場所には禪院家に所属する呪術師が複数人居て、その中にはお父さんも居る。当主の姿は確認できない。

 お父さんは高専でいう補助監督の人達と同じ役割をしている雑用係の人達と話した後、私達の方を一瞥してからこちらにやってきた。

 

「なんだよ?」

 

 お父さんは私達を睨みつけるように見詰めてくる。すぐにお姉ちゃんが持つ八角棒と私が持つケースに目を付けた。

 

「それはなんだ?」

「呪具だよ。真依が用意してくれたん」

「お前が作ったのか? 真依の呪力ではできないはずだ」

「パーツの一つ一つを作って組み合わせました」

「……見せてみろ」

「返せよ」

「物次第だ」

 

 お父さんがお姉ちゃんの持つ八角棒を手に取って確認していく。振り回してから、お姉ちゃんに投げ渡した。

 

「それは問題ない。お前達が持つのに丁度いいだろう。そのケースの中はなんだ?」

「クロスボウです。非力なので単発式の遠距離攻撃手段です」

「そうか」

 

 お父さんがケースを開けて全て確認していく。

 

「これは真依が使え。呪力の無い真希では無理だ」

「矢にも呪力を込めていますけど……」

「駄目だ。この程度の呪力では役に立たん。真希には過ぎた物だ」

「あ?」

「お前は大人しく真依の横に居ろ。これは命令だ。お前と真依とでは真依の方が価値がある」

「ちっ」

 

 お姉ちゃんは憤っているけれど、これって見方を変えたらお父さんはお姉ちゃんと私にアドバイスしているんだよね。お姉ちゃんは大人しく八角棒を持って私を守る事に集中し、攻撃は私に任せろってことだろうね。

 

「時間です!」

 

 お父さんが立ち上がり、私達の側から離れていく。私とお姉ちゃんは雑用係の人達に言われて車に乗り込んで現場へと向かう。

 

 大きな車なので他の呪術師の人も乗っているけれど、私達の事をニヤニヤ見てきて私達の事をこそこそ何か言っている。

 

「気にするな」

「うん。大丈夫」

「ならいい。真依は私が守る」

「私もお姉ちゃんを守る」

「なら問題ないな」

「うん、何も問題ない」

 

 隣に座って窓の外を見るお姉ちゃんの服の裾を握りながら、口に黒苺の飴を入れて瞑想を行う。表層の呪力は一定にして体内の奥深くに呪力をため込んで漏れないようにしていく。これからやるのは殺し合いなのだから一切油断はできない。

 

「真依、着いたぞ」

 

 気が付けばお姉ちゃんが私の手を握ってくれていた。どうやら、思っていたよりも緊張していたみたいだ。

 

「ここは……」

「大江山らしい。ここから歩きのようだ」

「大江山……酒呑童子か……わかった」

 

 ケースを持ちながら大江山を登っていく。しばらく進んで山の中腹に着くと、雑用係の人が止まった。

 

「到着しました。それではご説明いたします。ここから帳の中へと突入して沸いている呪霊を祓ってください」

「ほんなら、まずは初心者である真依ちゃんと真希ちゃんに行ってもらおうか。何、叔父さんの娘やったらいけるやろ」

「は?」

 

 お姉ちゃんが従兄弟の直哉に突っかかりそうになったので、止める。

 

「大丈夫。行こう、お姉ちゃん」

「でもよ……」

「平気。お姉ちゃんが守ってくれるんだよね?」

「ちっ、わかった」

 

 ケースからボウガンを取り出して、左右の腰に二つ、片手に一つ。背中に一つ持つ。お姉ちゃんにも二つ、腰につけてもらう。その状態でお姉ちゃんの手を握ってそのまま帳の中に入っていく。帳の中に入ると、強烈な気配は感じない。精々、三級や二級の呪霊が屯しているぐらいに感じる。でも、何か違和感を感じる。

 

「どうした?」

「なんだか呪力が……変」

「……警戒しながら進むぞ」

「うん」

 

 後ろから他の人達も入ってきたので、さっさと進んでいく。四級や三級の呪霊がわらわらと寄ってくるけれど、お姉ちゃんが八角棒で薙ぎ払って吹き飛ばし、体勢が崩れた所を叩き潰していく。

 

「真依は遠くの奴を頼む」

「了解」

 

 ボウガンを両手で構えて狙いを呪力の多いように感じる呪霊へ向けて放つ。事前に呪力を込めて作った矢は狙いの三級呪霊を殺し、そのまま他の呪霊も殺していく。

 

「弱いね」

「これならなんとかなるか?」

「でも、油断は禁物」

 

 わらわらとやってくる低級呪霊相手にお姉ちゃんが無双していくので、私は矢を節約しながら奥へと進んでいく。

 

「ふ~ん、多少はやるようやね。まあ、真依ちゃんが居るからわかっとたけど」

 

 おそらく、甚爾さんの事を思い出しているのかもしれない。でも、こちらはしっかりと準備しているので、甚爾さんと違ってお姉ちゃんは呪霊を祓うことができる。甚爾さんの場合は祓う手段が無い状態で呪霊の群れに投げ込まれたらしいし。それでも生きている甚爾さん、マジやばい。

 そんな事を考えながらもやっぱり、違和感を感じるので地面に呪力を流して色々と確かめてみる。そうするとわかったのは帳の中全体に満遍なく呪力が満ちていることだ。

 

「真依、どうした?」

「何が?」

「笑ってるぞ」

「うん。お姉ちゃん、ちょっと無茶をするから守ってね」

「無茶をするなよ」

「必要な事だから」

「……わかった。だが、できればするな」

「やだ♪」

「後でお仕置きだ」

「えー」

 

 言いながら、構築術式を使う。作るのは黒苺ではなく、それと同じ性質を持つ植物だ。呪力を吸い取って地中深くで結晶化するようにしておく。

 

「理念と用途を設定。構造を設定。構築開始」

 

 口から血が出てくる。吐血したけれど問題はない。痛みは何時ものフェンタニルという薬をキメて防ぐ。

 

「大丈夫か?」

「平気。次の場所に行くよ」

「わかった」

 

 帳の中を中心部に行かないように外周部分を周りながら何箇所かの地中に設置していく。すると、帳の中に満ちる呪力に……変化はない。だと言うのに地中に存在している植物はどんどん成長していっている。

 

「よし、お姉ちゃん……帰るよ」

「余裕だが……」

「駄目。すぐに逃げる。このままじゃ死ぬ。お願いだから、言う通りにして」

「……真依がそこまで言うのならわかった」

 

 私達はすぐに帳の出口を目指す。周りからは怯えて逃げるかのように見えるだろう。そう見せている。だからこそ、周りの呪術師からは嘲笑を受けるけど、それがどうした。命あっての物種だ。

 呪力を吸って成長する植物がどんどん成長しているのに帳の中の呪力は常に一定だ。それがどういうことを示しているかなんてわかり切っている。

 

「逃げるんや?」

「怖いし、矢も心ともないから帰る」

「だ、そうだ」

「そうなんや……やっぱ論外やな」

 

 直哉にそう言われるけれど無視。すぐに走って逃げる。わき目も降らずに逃げる。逃げ続ける。

 

「おい、真依……」

「なに?」

「変だ」

「え?」

「もうとっくに出口についていいはずだ」

「まさかっ!?」

 

 慌てて周りを確認すると、森が続いている。それと近くに大きな岩がある。それだけだ。定期的に呪霊が襲い掛かってくるだけなので、そちらも問題はない。だけど、周りの景色が先程から大して変わっていない気もする。

 

「ね、念の為に木に傷をつけて逃げるよ」

「ああ」

 

 恐怖に襲われながらも走る。すると傷がついた木の場所まで戻ってきていた。それに気付いて、恐怖に体が震えてくる。

 

「もう逃げないのか?」

 

 声と共に強烈な酒の匂いがして振り返る。すると大きな岩の上に上半身裸の男が居た。そいつは巨大な杯に瓢箪から酒を入れて飲んでいる。

 

「ま、真依……」

「お姉ちゃん……」

 

 そいつの頭には二本の角が存在していた。それは人々から鬼と呼ばれる存在。その中でも強大な存在として語り継がれている鬼。

 

「だ、大丈夫だ。こいつから感じる呪力は弱い」

「ち、違う! 帳全体に、広範囲に自分の呪力を浸透させて誤魔化しているだけ!」

「正解だ。この程度に気づかない雑魚に興味はねぇし、復活のための呪力を集めるのにも都合がいいからなぁ……」

 

 おそらく、今まで気付いた人は殺されてきた。低級呪霊に貪られて死んだと思われていたんだろう。普通はもっと警戒されるはずだけど、等級の低い人が何人もかえってきたら運が悪かったとか、それぐらいに思われたのかもしれない。もしくは……それなりの呪霊を出して討伐させることにしているか。どちらにしろ、私達には絶対に勝てない。

 

 相手は最低でも一級。最悪だと特級の呪霊に間違いない。本当に泣きたい。それでも……お姉ちゃんが居るから生還を諦める訳にはいかない。お姉ちゃんだけでも助けないと。だったら、取る方法は一つ。

 

「取引をしよう!」

「真依!?」

「取引だと?」

「見ての通り、私達はすごく弱い! 鬼さんが戦っても面白くもなんともない! 違う?」

「そうだな。だが、喰えば力になる」

「わかってる。だから、呪力を持ってる私が貴方にお酒を作って提供する。気に入らなかったら食べたらいい」

「真依っ!? 何を言っているんだ!」

「だから、代わりにお姉ちゃんを逃がして。お姉ちゃんは呪力がないから、鬼さんの餌にはならない」

「……確かにそうだな。だが、酒は本当に作れるのか?」

「見本があればできる!」

「いいだろう。嘘じゃないようだし、その取引に乗ってやる。だが、お前が俺が気に入らない酒を作ったら、二人とも喰う。逃がした方も追いかけて喰ってやる」

「それでいい。お姉ちゃん、お願い。誰かを呼んできて」

「……私じゃ無理な方法だな」

「お姉ちゃんじゃ逃がしてもらえない」

「わかった。待ってろ」

 

 すぐにお姉ちゃんが走って行った。私は鬼さんの下へと向かい、杯に近づく。狂いそうになるほど濃い酒の匂い。それを我慢しながら、鬼へと問いかける。

 

「お酒の好みを教えてください」

「いいだろう」

 

 さあ、命を賭けた構築の始まりだ。私達二人が生き残るのが最優先。無理でもお姉ちゃんはなんとしても逃がす。お姉ちゃんが死んだら縛りで私は自害する。故にお姉ちゃんだけはなんとしても生き残らせる。そのためならこの命、くれてやる! 

 

 

 

 

 




酒呑童子(男)さんVS呪術少女真依。負けたら食べられます。さあ、鬼滅を始めましょう(ぇ


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7話

戦闘はかるく流します。だって真依が普通に戦えないですし。


 

 森の中を必死に走る。後ろから真依の悲鳴が聞こえてきても必死に歯を噛みしめながら逃げる。それでも道が進まない。寄って来る呪霊を八角棒で薙ぎ払いながら考える。どうすればいい? どうすれば助けを呼べる? 

 

「くそがっ!!」

 

 おそらく、ここには帳に偽装された生得領域か領域の中なのだろう。だからこそ、逃げられない。同じところをグルグル回らされている。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!」

「……」

 

 親指を噛みながら条件を考えて、考えて一つの事を思いついた。捨てよう。八角棒を捨て、眼鏡を捨てる。これで私は呪霊も見えないし、倒すこともできない。だが、それがどうした。

 

「これで駄目なら死ぬしかないな……」

 

 走ると、今度は少し先に進めた気はした。おそらく、これが正解だ。相手は呪力で識別して迷わせているんだろう。だったら、呪力を全て捨てればいい。なら、服を脱いで一気に走る。私の服は真依が作ってくれたものであり、服にも呪力がある。

 おそらく、呪霊に縋り付かれていて体が重くなってくるが、気にせず走り抜ける。

 

「負けてたまるかっ!」

 

 予想通り、帳から領域から出ることができた。身体中に傷を付けながら転がり出たら、外に居た雑用係や待機していた呪術師達が一斉に見詰めてくる。その中にお父さんも居た。

 

「お父さん! 助けて! 真依がっ、真依が死ぬ!」

「やはり早すぎたか」

「まあまあ、内容を聞いてあげましょうよ。こんな格好で出てきたんですから」

 

 白髪の青年がお父さんの隣にやってきて、私に上着をかけてくれる。

 

「何が出た?」

「鬼、鬼が出た!」

「何?」

「鬼だと……?」

「確かにここには酒呑童子の遺物と言われた角の呪物が収められていたはずだが……」

「復活するはずがない! 我々はしっかりと祓っていた! 嘘をつくな!」

「どちらにせよ、鬼が出たのが本当なら不味いんじゃないのかな?」

「そうだな。私が調べてくる。もしも何もなければすぐに知らせる。お前達は情報を伝えて準備しておけ」

「俺も出ようか?」

「ここは禪院家の領域だ。ご遠慮願おう」

「じゃあ、高みの見物とさせてもらおうか」

 

 お父さん達が帳の中へと入っていく。私はそれを見送るしかない。それになんだか目の前が真っ暗になって……

 

「彼女は病院に連れていきます」

「そうだね。その方がいいだろう」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 目の前に存在する鬼の男。私は岩の上に胡坐で座っている鬼さんの好みを聞くと、強いお酒がいいと言われたので、最初から強い酒を作る。

 

「穀物とジャガイモを主原料として、70回以上の蒸留を繰り返す」

 

 96度という高アルコール度数に仕上げる。用意するのは世界最高純度のスピリッツ。名前はスピリタス。

 

「構築」

 

 杯にたっぷりのスピリタスを生み出す。構築すると同時に指が折れた。それでも痛みを我慢して差し出す。

 

「ふむ。酒精は強いな……味は……」

 

 鬼さんが一口飲む。私はそれを唾を飲み込みながら必死に願うように見詰める。

 

「駄目だな」

「え?」

 

 次の瞬間、腕が振るわれたと思ったら、強烈な痛みが襲い掛かってきて、体が体勢を保てずに落下する。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」

 

 片足が無くなっていた。歯をガチガチ鳴らしながら、鬼の方を見ると私の右足を持って口に入れ、バリバリと食べながら酒を飲んでいる。

 

「がぁぁっ!?」

 

 のたうち回りながら、必死に考える。止血、止血をしないと死ぬっ! 構築術式で傷口を纏めて塞ぐ。

 

「はーっ、はーっ」

 

 血液も構築術式で作り上げる。ショック死しそうな中、必死に対処する。それを鬼はニタニタと笑いながら見詰める。コイツは私を逃がすつもりなんてないのかもしれない。

 

「次の酒だ」

 

 それでもやるしかない。どうする? どうすればいい? まだ死ねない。せめて真希お姉ちゃんが逃げ切るまでは時間を稼がないと……

 

「そ、その前にそのお酒を飲ませて。どんな好みかわからない……」

「いいぞ」

 

 瓢箪のお酒を頭からかけられて体が焼ける。すぐに身体中にフェンタニルを使って痛みを消し、反転術式で再生させる。耐えながら術式反転で構成物質ごとに撤去して物質を理解する。理解できない物もあるけれど、この酒が何かわかった。おそらく神便鬼毒。この鬼は自らを殺す原因となった神便鬼毒を飲み続けて耐性を得るつもりなのかもしれない。この酒はその名の通り、鬼が飲むならば、自由自在に空を飛ぶ力をたちまち失い、斬っても、突いてもするがままになる。逆に普通の人間が飲むと、かえって力が付くというというもだが、当然そんなうまい話しがあるわけがない。酒が入った場所から身体中に呪力浸食してきて暴れまわってくる。

 

「さあ、作ってみせろ」

「あっ、あぁっ!?」

 

 呪力が枯渇しかけな中でかろうてじて生み出す。コップ一杯程度のお酒ができた。イメージは私の中に入ってきた物を全て吐き出す感じでやったので、楽にはなった。

 

「駄目だな」

「ひぎっ!?」

 

 もう片方の残った足も切り飛ばされた。急いで止血するも、目の前が真っ暗になっていく。

 

「もう終わりか」

「あがぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 髪の毛を掴まれて持ち上げられ、腕が引きちぎられ食べられる。そして、そのまま首に口がつけられる。その瞬間、鬼は私を投げ捨てた。その衝撃で意識が一時的に覚醒していく。

 薄れゆく意識でふと気づくと鬼の角が落ちてきて地面に突き刺さった。見たら、お父さんが鬼に太刀で斬ろうとしている姿が見えた。

 お父さんが強いと思った鬼は拡散していた力を全て集め、本来の力を発揮しだした。私は鬼の角を残っている手で掴み、懐に入れていたデリンジャーの弾丸を打ち込む。衝撃で激痛が襲ってくるけど関係ない。

 鬼とお父さんが戦っている中で成長していく黒苺を這いながら口に入れて食べ、呪力を回復する。

 

「……ああ、恨めしい、妬ましい……本当に、よくも私の手足を……殺してやる……」

 

 掠れ行く視界の中、鬼がお父さんを剛腕で弾き飛ばす直前にデリンジャーの弾丸をありったけの呪力を込めて放つ。

 

「あ?」

 

 鬼は反応して掌で受け止めた。だけどそれが間違いだ。

 

「良かった、当たって♡」

 

 呪力を吸い取り、急激に成長していく黒苺の蔦は一瞬だけ鬼を拘束する。瞬時に拘束を抜けられるけれど、そこを見逃すお父さんじゃない。その一瞬だけで太刀が鬼の首に太刀が煌めくのを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……知らない天井だ……」

「真依っ!?」

 

 気が付いたら、白い天井があるところで口には酸素マスクや点滴などがされており、ベッドの横には涙目のお姉ちゃんが居た。

 

「……お姉ちゃん……」

 

 手を差し出そうとして、無いことに気づいた。視線を下にやると本来あるべきところに膨らみが存在していない。

 

「真依、真依……ごめん、守れなかった……私だけ……」

「そんなこと……ないよ……? お姉ちゃんが呼んでくれたお陰で助かった……」

「真依ィィィィィィィッ!!」

 

 お姉ちゃんをあやしながら、これからどうするか考える。片腕と両足が欠損か。まあ、構築術式で作ってしまえばいい。なんの問題もないな。呪力と術式に関する理解も深まった。すごく楽しみ。メカ丸みたいなの取り付けるのもいいかも? いや、流石にそこまでしたらお姉ちゃんが闇落ちしそうだしなしかな。

 じゃあ、どうしよう? 反転術式で治療しながらゆっくりと考えようか。

 

 

 

 

 

 

 三ヶ月後、退院した私は介護が必要となり、更に禪院家での立場が悪くなった。ほとんど居ない者として扱われ、お姉ちゃん以外と会うこともなくなった。毎日、毎日、二ヶ月が経ってもお姉ちゃんが謝ってきて、何かと世話を焼かれて……正直、すごく鬱陶しい。いや、笑顔で世話をしてとは言わないけれど、鬱屈したお姉ちゃんは嫌い。もう少しで半年近くになるのだ。 

 

「というわけで笑えー」

「無理だ……」

「ん~じゃあ、そろそろいいかな」

「なにがだ?」

「お散歩行こう。連れてって、お姉ちゃん♪」

「何処にだ? 真依が行きたいところなら何処だって連れていってやるぞ」

「あそこ♪」

「え?」

 

 お姉ちゃんに車椅子を押してもらいながら電車やバスを使い、移動した。途中からはおんぶしてもらって帳の中に入る。そこに入るとお姉ちゃんは泣き出して、吐きそうになりながらも運んでくれた。

 

「ほ、本当にここか?」

「うん。降ろして」

 

 私達が来た場所は鬼と戦った場所だ。あれから禪院家による再探索が行われ、徹底的に呪霊は払われたらしい。呪物も別の場所に運ばれたらしい。

 

「ここにはもう何もないぞ」

「ん~やっぱり回収はされていないか」

 

 地面に寝転がりながら、術式反転を使って地中深くまで穴を開く。

 

「え? 真依?」

「今から体を戻すから待っててね。構築術式」

 

 自分の足から蔦を構築して地中深くにある物と接続する。そこから大量の呪力が流れ込んでくる。私が仕込んでおいたあの場に満ちていた呪力を吸い取る植物。それを回収する。周りの地面が掘り起こされ、周りが黒苺だらけになる。それを術式反転して繋がっている場所から呪力に変換し、即座に構築術式で両手と両足を構築する。どうせなら術式反転の時に理解した鬼の角の構造も利用して骨を作り、筋肉繊維一本一本を強靭になるようにイメージしながら行う。

 

「ま、真依……」

 

 蔦が足や腕の形になり、人間の腕や足へと再構築された。体を確認してみると、動かし辛いので、撤去して再構築を繰り返して元通りの姿をした腕や足に作りなおした。鬼が集めた数十年分の潤沢な呪力は慰謝料としてしっかりと利用させてもらう。片腕だけならバランスも悪いので両腕も念の為に作りなおしておく。

 

「よっと。はい、お姉ちゃん。私は五体満足だよ。ほら、笑って」

「この馬鹿野郎!」

「いたっ!? 何するの!」

 

 お姉ちゃんに思いっきり殴られた。解せぬ。

 

「治せるんならさっさと治せ!」

「え~やだ。だって治したら他の奴等が鬱陶しいもん」

「は?」

「私、このまま秘密基地で禪院家にバレないように色々とやるから」

「おい、マテ」

「お姉ちゃんしか会いに来ないから、別に部屋に居なくても大丈夫だよね? あ、一応心配だから人形だけ用意しておこうか?」

「つまり、なんだ……私に今まで教えずに放置してたのは他の連中を騙すためか?」

「うん♪ その方が騙されてくれるでしょ?」

 

 流石に両手両足を再構築できるとなれば、禪院家は黙っていないはずだ。行き着く先は監禁されてひたすら治療に従事させられるかもしれない。それなら、もう力をつけるまで好きに動ける環境を作った方がいいだろう。それに鬼の呪力を私の呪力に変換しているとはいえ、鬼の肉体構造を一部再現しているので秘匿死刑にされる可能性もあるしね。それにこっそり活動して探したい人も居る。いや、利用したい呪詛師かな。その人にお願いして協力してくれるならよし。それが無理なら体を分解して構築して術式を奪ってやるつもりだ。

 

「もっぺん殴らせろ」

「きゃ~!」

「待てぇっ!」

 

 お姉ちゃんから走って逃げる。思ったよりも速度が出て無茶苦茶転んでしまった。お姉ちゃんはすぐに私の上に馬乗りになって口に指を入れて頬っぺたをぐにぐにしてくる。

 

「いひゃいよ」

「滅茶苦茶心配したんだからな!」

「ごめんなしゃい」

「で、妨害されない間に力を付けてどうするんだ?」

「禪院家を乗っ取る!」

「は?」

「お姉ちゃんを当主にするの」

「……いいな、それ。あいつらの鼻を明かせるし。でも、私が当主か? 真依じゃなくて?」

「え、私は興味ないよ。正直、お姉ちゃんさえいれば別に五条家に移籍してもいいし」

「あ~つまり、基本的には意趣返しなわけだ」

「お姉ちゃんが最初に言ったことだよ?」

「そうか。五条家は大丈夫なのか?」

「五条家はわからないけれど、五条悟は胡散臭いけど信じられる」

「金はどうするんだ?」

「呪具を作って売ろうかな。禪院家にバレなければいいだけだし、コッソリと売るよ」

 

 悟先生に売り込みをかけよう。まあ、今は先生じゃないかもしれないけど。いや、先生か? どっちだろ? 結構、もうあやふやだしねー。

 

「わかった。でも無理はするなよ」

「うん」

「それと変装はどうするんだ?」

「髪の毛を伸ばしてみる。山に入る時はお姉ちゃんのふりをすればいいしね」

「わかった。じゃあ、まずは家に戻るか」

「だね。そこで人形を用意しておくよ」

 

 お姉ちゃんと手を繋ぎながら山を下りるために歩いていく。私は髪の毛を伸ばして服装も可愛らしいものに変えておく。東方の輝夜姫みたいな服装にしておこう。

 しかし、私の術式は原作の真依とは少し違っているのかもしれない。私の魂と真依の魂が合わさったことで変な変化が起こっているのかもしれない。まあ、気にしないでいいや。

 とりあえず、当面の目標は強くなることと、五条悟と仲良くなって彼の細胞を手に入れること! 悟先生の目が欲しいです! そうしたら一々術式反転で撤去して理解する必要もないしね! 

 

「うんうん、いい感じにクレイジーだね」

「「っ!?」」

 

 振り返ると、大岩の上に黒い服を着たサングラスの白髪が居た。前と同じシチュエーションに思わず二人して飛び退り、戦闘態勢を取る。

 

「禪院家を乗っ取るか。それに僕を利用しようなんていいね」

「なんでいる」

「こないだの奴か」

 

 え、こないだも居たの? ナニソレ聞いてない! 

 

「恵の事で話をつけにきていた時にこないだの騒ぎがあって君達の事が気になってたんだよね。それで見に来たら山に入っていくし、面白そうだから見学してたの」

「油断した。どうする、真依。やるか?」

「勝てないよ」

「そもそも戦う理由がないって。僕、君達の味方してあげる。と、言っても使える呪具を買ってあげるくらいだ」

 

 いつの間にか背後に居て私の肩に両手を置いてくる。思わず裏拳を叩き込む。五条悟はすぐさまバックステップで回避した。

 

「セクハラ」

「え? いやいや、いくらなんでも……」

「セクハラだよね?」

「セクハラだな」

「君達ね……まあ、いいや。スイーツ奢ってあげるから、それで許して」

「「許す」」

「よ~し。じゃあ、契約だ。僕は君達から適正価格で呪具を買う。君達は僕に適正価格で呪具を売る。また治療に関しても依頼する。互いに裏切らない。これでどうかな?」

「私の正体の秘匿と後ろ盾になってくれるなら、それで構わない」

「契約成立だ。縛りをするよ」

「その前に携帯も買って欲しい。私達、持ってないから連絡もつけられない」

「そうだね。いいよ、僕が買ってあげよう」

「わ~い、ありがとうパパ」

「ちょっ!?」

「パパ?」

「パパ活って奴だね!」

「……はっはっはっ、面白いね。それでいこうか!」

「え”」

 

 からかうつもりで言ったのに肯定されると非常に困る。まあ、いいか。しかし、他にも色々と追加してみようかな。

 

「なあ、アンタは強いのか?」

「最強かな?」

「じゃあ、私を鍛えてくれ」

「君は天与呪縛があるから難しいね」

「そっちは大丈夫。あてがある。だから、五条家の力で探して欲しい呪詛師がいる」

「呪詛師か」

「うん。できたら捕まえて。最悪、死体さえ綺麗ならいい。代価は支払う。何がいい?」

「それじゃあ……なんか僕の役に立てる物を作ってみてよ」

「何が欲しい?」

「とりあえず、ナイフかな」

「わかった。しばらく待っていて。準備が出来たら連絡を入れる」

「了解」

 

 五条悟と契約を交わして互いに裏切らないということで縛っておく。もっとも、普通に商売する関係だからそんなに厳しくもない。

 その後は携帯ショップで私とお姉ちゃんの携帯を買ってもらい、スイーツ食べ放題に連れていってもらって、たらふく食べさせてもらった。

 

 禪院家に戻る前に準備だけして、人形を車椅子に乗せて連れて帰ってもらった。私は山へ一人で登る。普通に強化した肉体に呪力を流すと馬鹿みたいな身体能力になった。ただ、コントロールが難しいし、全身の体を改造したわけではないので一部に負担がかかってすぐに怪我をする。完全な宝の持ち腐れだ。

 

「到着」

 

 自宅になる秘密基地についたので、服を脱いで乾かしてから灯りをともして色々と一週間かけて準備する。

 一週間で準備するのは大きな釜と杖。炉や金床、槌。これらは全て呪具として作り上げた。

 釜には水を入れて呪具の素材になりそうな奴を適当に投入。杖でかき回しながら術式反転を使用。邪魔な部分を撤去して、呪力とドロドロした奴にして停止。構築術式で新しい形へと鬼の呪力をろ過して取り込んで上がった呪力をふんだんに混ぜながら強化した黒苺の苗を本物の美味しい苺の味をイメージしながら作る。

 それを畑の部分に植えておく。

 次は同じ方法で金属を作る。それを炉で熱して金床に乗せて槌で叩いて精錬していく。非力だった時はできなかったけれど、今は大丈夫。

 ナイフが出来たら釜に入れて金属の塊に術式反転と構築術式で作りなおしてまた鍛える。繰り返すことで高純度の呪力を圧縮した金属を作り出していく。やっている事は錬金術師のアトリエシリーズにある品質向上関係だ。

 

「中和剤が足りな~い! 呪いが足りな~い! よし、神便鬼毒を水の代わりにしよ~!」

 

 中和剤……潤滑液として投入し、打ち終えた鉄を冷やす水にも混ぜる。黒苺をもきゅもきゅしながらひたすら打ち込む。気が済むまで練り上げたインゴットを改めてナイフに加工……なんてせずに槌と金床、釜、炉を作りなおして宿る呪力を強化。それが終わればまた繰り返して……更に一ヶ月かけて一本のナイフを作りあげた。刀身に文字を掘って私の血液を垂らして完成。製作者の名としてネームレスを入れておく。

 ちょっと、かなり、滅茶苦茶呪力を感じるけど気のせいだ。そこらの呪霊に触れさせたら面白いことになるかも。絶対鬼を殺すナイフを五条悟パパに送ってあげよう。特級にはなっていないけれど、それなりの呪具にはなっているかな。

 

 

 

 




五条先生、上のことこの辺りで嫌いになってると思いますので、乗ってくれました。あくまでも利害関係。


ナイフはFateのジャックちゃんが持ってる感じの奴です。鬼系統に特攻を持ちます。餓鬼の呪霊とかに。素材の声を聞き取りました。


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8話

「Prrrrrrr、Prrrrrrr」

「……はっ!?」

 

 やばい。やばい。身体が震える。吐く息が白い。そんな状態で寝袋の中からもぞもぞと動いて身に纏っている毛布から顔を出す。

 寝袋の中に入れておいた悟パパに買ってもらった携帯を開く。着信はお姉ちゃんだった。

 

「もしもし?」

『無事か!?』

「うん、大丈夫だよ……」

 

 実は寒さで死にかけたけど大丈夫と伝えておく。この寝袋の中にはカイロもいっぱい入れてあるから、少しはましなんだけどね。

 

『雪がかなり積もってるけど、そっちは大丈夫か?』

「無茶苦茶寒い。でも、なんとかするから大丈夫だよ」

『私がそっちに行こうか?』

「来ちゃ駄目。雪山とかどれだけ危険だと思ってるの。お姉ちゃんが死んだら私も死ぬからね?」

『何言ってんだよ、そんなこと……』

「そういう縛りをして術式とか強化しているからね。私とお姉ちゃんは一心同体みたいなもの」

『そんなの聞いてないぞ!』

「今言った。まあ、お姉ちゃんは気にしなくていいよ。私が死んでもお姉ちゃんは生き残るから」

『ふざけんな! いいか、こないだの事だってまだ許してないんだからな!』

「私が助かるためには絶対にお姉ちゃんが助からないと駄目だったから、反省も後悔もしていない」

 

 ドヤァ顔になるけれど、向こうには伝わっていないだろう。そう思ったら、お姉ちゃん声が滅茶苦茶冷たくなった。

 

『今度泣かす』

「ごめんなしゃい」

 

 思わず謝ってしまったけれど、やっぱり反省も後悔もしない。お姉ちゃんを優先する。それが私ができるせめてものことだ。私は真依()なのだから。

 

『まあ、今はいい。それで本当にやばかったら助けを呼べよ』

「うん。ちょっと連絡を取ってナイフをさっさとお金に変えて、寒さ対策をするか、どこかのホテルにでも泊まるよ」

『それがいいかもな。じゃあ、また連絡するからな』

「またねー」

 

 電話を切った後、寝袋から外に出る。外は無茶苦茶寒いので毛布に包まりながら移動する。

 神社の中なので、祭壇まで行ってからお祈りしてから改めて外にでる。ものすごい寒さの中、外を移動して畑に向かう。そこで黒苺を収穫して口に入れる。

 すると苦味とえぐみ、酸味など吐瀉物を処理した雑巾の味のような感じ。味の改修は終わっていないから仕方がない。そんな時間はないからね。

 

「あぁ、最悪な目覚めだ。でも、これは覚醒にはちょうどいい……ふぇ!? マジで? マジかー」

 

 滝壺へと通じている水中への入口を見ると、そこは氷が張っていた。そう、凍っていたのだ。十二月とはいえ、こんなのないわー。

 

「そりゃ寒いはず……って、まずい!」

 

 急いで空気を取り込むためのパイプを確認する。こちらも凍り付いていた。もしかしたらパイプの向こう側が雪で埋まってるかもしれない。

 

「うん……本当にお姉ちゃんには感謝だね」

 

 下手をしたら酸素不足で永眠していたかもしれない。とりあえず、急いで酸素を構築して放出しておく。

 しかし、こうなると新たに空気を取り込む方法を考えないといけない。まあ、その前に寒さ対策をしないとね。火を焚くのは不味いので、エアコンとかがベストかな。どちらにしろ大改造が必要だ。

 タープの天井もどうにかしないとね。やっぱり、お姉ちゃんが居た方がいいけど後回し! 

 

『なんだ?』

「ナイフが出来たけど、連絡がなかった。送り先もわからないし……それに色々とまずい状況だからお金が欲しい」

『あ~忘れてた。色々とあったんだ。ごめんね。それでナイフだっけ。できたんだ?』

 

 不機嫌な声がすぐに元に戻った。おそらく、色々と言うのは親友である夏油傑のことだろう。確か、この時期ぐらいに呪詛師になった気がする。うろ覚えだけど。

 

「うん。早急にお金が欲しい」

『まずい状況ってどうした? お兄さんに相談してみな』

「寒い。お腹すいた。凍死しそう」

『それは確かに不味いな。ちょっと待ってね。俺も呪具の値段とか詳しくないからさ。専門の人に頼むから』

 

 流石に由緒正しい一族の跡取りなだけあって、自由にできるお金とかもいっぱいあるし、呪具とかも揃えてもらっているんだろう。いや、そもそも呪具を使う必要すらないのかも。

 

「すぐにお金は貰えない?」

『そうだね……あ、真依ちゃんの術式は構築術式だったか。それなら泊まる場所も用意するから、こっちにおいでよ』

「いいの?」

『いいよ~。その代わりさ、俺のお願いも聞いてね』

「わかった」

『じゃあ、合流場所は……』

「了解。向かえはどうする?」

『そこに行くと禪院家にバレるかもしれないから、そっちから頼むよ。人里まで降りたら、途中でタクシーを拾ってくれてかまわない。俺が代金を支払うからね』

「お願いします。出来る限り、急ぐけど準備に数日かかる」

『わかったよ。それじゃあ、待ってるね』

 

 とりあえず、これでいい。まず必要な物を用意しよう。必要なのは夏以外の水へと潜る時に必要なドライスーツを構築する。

 ドライスーツとは、首から足の先まで一体になった完全防水のスーツのことで、水が入ってこない構造になっていて、首と手首から先以外は濡れない。ドライスーツの下には水着ではなく動きやすい服を着ることができる。これでダイビングを終えた後はスーツを脱ぐだけでいいので、楽ちんとなるわけだね。あとはフードなども作ってしっかりと防寒の準備をする。

 これ以外にももう十二月なのでクリスマス用の服を用意しておく。赤いモコモコのワンピースとパンツを用意しておく。それと山の移動用にスノーボードとスノーボード用のブーツも作っておく。

 三日ほどでダイビング道具も含めて血を吐きながら黒苺を食べながら用意した。それと収穫した黒苺のヘタを取って洗ってから大鍋で水とお砂糖、お酒を煮込んだ物に入れて飴にしておく。それを瓶に入れて赤いポシェットを作って、そこに携帯やナイフと一緒に入れて、デリンジャーと共に防水ケースにいれる。それからケースにスノーボードを結び付けておく。

 

「ほいっと」

 

 ドライスーツに着替えてゴーグルもつけて潜る用意をしてから、蹴りを氷が張っている穴へと叩き込んで粉砕する。そこにケースを掴んで飛び込む。無茶苦茶冷たいのを我慢して水中を泳いでいく。

 

 

 数分、泳いでから外に出てドライスーツを脱いでタオルで体を拭いていく。それからケースから荷物を取り出し、着ていたドライスーツなどは術式反転で水を撤去する。ケースにドライスーツを入れて岩を動かして隙間にいれて、そこに岩や石を入れて隠しておく。

 

「さて、いきますか」

 

 ケースから取り出したスノーボード用のブーツを履いてスノーボードにセット。デリンジャーを袖に隠してそのままスノーボードで山を下っていく。

 どんどん速度が上がり、体を上下に揺らしながら左右に移動して木を避けながら移動していく。

 

「ヒャッハー!」

 

 映画の某頭脳が大人な小学生のように木々を回避して……無理! 

 

「いたゃい……」

 

 起き上がってからまた降りる。呪力で強化した身体能力で回避していく。本当に名探偵はすごい。まあ、木々の間を高速で駆け抜けていくのは訓練になるので、これはこれで面白い。

 

 

 何度も木や根にぶつかりながらも、森を抜けた。そう思ったら、地面がなくなった。すぐ下に道路があったけれど、どう考えてもガードレールの先へと飛び越えてしまう。だから、空中で身体を回転させてガードレールにどうにかスノーボードをあてて体を後ろに倒すことで道へと戻る。

 道には頭から落ちたので、両手をついて即座に腕の力だけで飛び上がり、空中で体勢を整えて床に立つ。

 

「……ふぅ……」

 

 危なかった。鬼の力を一部とはいえ手に入れたお陰で身体能力はかなり上がっているので助かった。しかし、道まで出ると流石に雪は退けられている。なのでスノーボードにタイヤをつけてスケボーのようにして走る。

 道を滑るだけでいいのでかなり楽になる。とはいえ、京都府の人里離れた山なのでかなり長い距離になる。正直、走った方が速いかもしれないけれど、見られたらやばいからこちらでいい。

 

 数時間、滑っていくとようやく人里に降りられた。坂が凄い面倒だった。今度、ソーラーとエンジンでも取り付けてやろうか。でも、そうなると免許とか、保険とか、ナンバープレートの習得とか糞面倒になるのだ。

 とりあえず、住宅地に着いたので、携帯でタクシーを呼ぶ。でも、一応その前に悟パパに連絡しておこう。

 

「あ、パパ? 今、住宅地に降りたからタクシーを呼ぶところだけど、大丈夫?」

『ん? 大丈夫……ああ、そうだ。場所だけ教えてくれるかな? こっちで呼んでおくから。それと呪力は極力抑えておいてね。一般人として活動してもらわないと困るから』

「任せて」

『じゃ、少し待ってて』

「うん」

 

 携帯を切ってから少し時間が出来たので、ネットサーフィンでもしていよう。必要な知識は貪欲に蓄えるに限る。まずは断熱材とかの方法かな。秘密基地……アトリエは絶対に改造しないと不便すぎるし。

 

 

 

 車が私のすぐ横に停車したので、顔をあげるとタクシーが泊まっていた。どうやら、個人タクシーみたい。

 

「依頼を受けてやってきました。五条様ですね。どうぞ、お乗りください」

「ありがとうございます」

 

 運転手さんが私を上から下まで見て、嫌な気持ち悪い感じがした。でも、悟パパが手配したような物だし、素直に従うことにする。呪術師に嫌な奴は多いし。

 

「荷物はトランクにお願いします」

「わかりました」

 

 タクシーの後部座席に乗り、発進していくのを窓を見ながら待つ。タクシーが角を曲がる時にカーブミラーに別のタクシーが私が居た所にやってくる姿が見えた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ん……」

「お、起きたか?」

 

 頭が重い。なんだかフェンタニルを決めた後みたいな感じがする。目を開けると見知らぬ天井が存在していた。

 

「……パパ……?」

「残念ながら違うねぇ……」

 

 その声に嫌な感じがして体を起こそうとしたけれど、動かない。視線をやると両手と首が鉄製の輪で固定されている。足も同じようで少しも動かせない。

 

「なっ……」

「可愛い可愛いお嬢さん、君は誘拐されたんだよ」

 

 タクシードライバーの人がハサミを持ちながら近くによってくる。そして、服を切っていく。

 

「ああ、その表情はいいね。でも、安心していい。可愛い姿のままずっと生きられるようにしてあげるだけだからね。あの子達みたいに」

 

 頭を掴まれて無理矢理動かされ、視線を壁際に移される。そこには幼い少年少女達や女性が並んでいた。彼女達は一切動かない。生気の無い瞳はまるで人形のように感じる。

 

「……ま、まさか……」

「俺の術式は人を人形に変えることができる。生体アンドロイドだ。これがまた好事家連中に高く売れるんだぜ。ましてや五条家の娘だったらな。変態共に可愛がってもらえ」

「ひぃっ!?」

 

 頬をペロリとなめられる、怖気が走る。そんな中、必死に考える。もしかなしくてもピンチだ。相手は呪詛師だから、殺される可能性が高い。両手両足も動かないし、本当にやばい。

 

「たっぷり怖がって……」

「あ、あの、わかりました。でも、せめて両手を自由にさせてください」

「そんなことするわけないだろ」

 

 体が動けば……いや、待てよ。原作の真依は手に持つリボルバーに銃弾を構築していた。だったら、多少は離れても構築ができる。それなら……無茶苦茶気持ち悪いけれど我慢できる。

 

「その、最後にキスがしたいです。キスもしたこともなくて死にたくありません」

「いいぜ」

 

 至近距離まで近づいてくる男の顔を見ながら一気に呪力を利用して構築していく。

 

「っ!?」

 

 男は勢い良く離れた。フラフラとしながら、壁に手をついてこちらを見詰めてくる感じがする。私は即座に術式反転を使って両手と両足、首の拘束を撤去して立ち上がる。

 

「……なに、しやがった……」

「フェンタニルを気化させて顔面に叩き込んであげました」

「鎮痛剤……麻酔薬……」

「正解だ」

「だが、甘ぇっ!」

 

 人形に命令を発しようとしたので、接近して喉を噛んで声が出ないようにする。更に構築術式を使ってフェンタニルを顔面に叩き込んでやる。死んでも構わないから高濃度の奴だけど気にしない。私も吸わないように口元をしっかりと押さえて自分の体内に入る奴は撤去しておく。

 私の体を舐めたコイツは殺す。絶対に殺す。苦しめて殺す。すり潰して並べて、晒して……いや、それは勿体無いか。

 とりあえず、男の体を先程まで私が寝ていた場所に寝かせて枷を取り付ける。それから、荷物を漁ってデリンジャーを回収して弾丸を男の体内に入れてやる。一応、人形達も拘束しておく。

 

「うわぁ……」

 

 人形達は人の皮を外して張り付けられたりしているのもある。死んでいると思ったら、この人形達の一部には意識があった。体その物を人形に変化させたのもあるようだ。

 とりあえず、術式反転で人形を分解してみる。すると内部の構造まではっきりとわかった。死んでいるのは処理し、意識が残っているのはそのまま残しておく。ただ拘束だけはしておいた。

 

「とりあえず殴ろう」

 

 呪力を拳に込めて男の腹を殴る。殴る。殴る。殴る。殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る……数十数百回も殴ると狙いどおり黒閃が発動した。

 黒閃は打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪みだ。自分で出すために精密な呪力コントロールが要求される。でも、私は生まれてすぐに呪力コントロールの練習をしていたので精密操作には自身がある。

 

「黒閃が出たならいいや」

「……たす……て……」

 

 こちらを見詰める男にニコリとほほ笑んでから答えてあげる。

 

「そういう人を助けてあげた?」

「……助けた……!」

「そう。それはいい人だね。でも、私には関係ない。私は貴方を実験体として分解してやるよ」

「っ~~~!?」

 

 男を術式反転で少しずつ撤去して肉体構造を理解し、コイツが持つ術式も深く理解した。黒閃の補助もあり、色々と楽しくなってきた。最終的に男の体は術式を吸い上げて果実に作り変える植物を構築する。

 まあ、術式を抽出してもちゃんと使えないだろうけれど気にしない。知識を得られるのならそれでいい。どちらにせよ、偽俊さんのように術式を抽出するような植物はかなりつらくてできた瞬間、気絶しそうだったのでそれを食べる。

 

 



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9話

駆け足ぎみ。技術習得は忙しました。


 

 起きたら知らない天井だった。何回目かわからない。手足を動かしてみると、今度は拘束されていないのできっと大丈夫だろう。

 

「お、起きた?」

 

 私の視界に入ってきたのは見覚えがある顔だ。どうやらここは悟パパが用意した場所みたいで、安全な場所なのだと思う。

 

「あれからどうなった?」

「真依ちゃんは三日ほど眠っていたよ」

「三日……」

「大変だったんだよ。体中から出血してさ。友達に出張してもらって反転術式で治療してなかったら死んでたかも」

「それはありがとう、ございます」

 

 よくよく、体を確認してみると服装が変わっていた。いや、まあ切られていたし仕方がない。誰に着替えさせられたかが問題……いや、別に問題ないか。流石に犯されたりしていないだろうし。

 それにワンピ―シャツのパジャマの間から見えた体は包帯がグルグル巻きにされていて、血が滲んだ跡もあるのでおそらく悟パパの言っていた事は事実だろう。流石に術式を抽出した実を食べたのは駄目だったか。

 

()()()()に手ひどくやられて……いや、アレは自爆かな? 何か食べてたみたいだけど、何を食べたんだ?」

 

 もしかしたら、術式の抽出に成功して自由に扱えるようになったのなら、何と言う名称がいいだろうか? 

 あ~いい物があった。異能の力が手に入って糞不味い実ならやっぱりワンピースのアレかな? 

 

「……悪魔の実……?」

「は? もしかしてワンピースの?」

「それ」

「マジで?」

「もちろん偽物。多分成功すらしていない」

「だよね~!」

「あはははは」

 

 術式を抽出して自分が扱えたら最高なんだけど、やっぱりまだまだ情報も技術も足りない。やはり、手に入れるしかない。狙うべきは夏油傑の肉体。加茂憲倫に取られる前に確保する。

 そうなると狙うタイミングは夏油傑が百鬼夜行を率いて襲撃してくる時だろう。それまでに力を手にいれないといけない。使える時間は残り九年ぐらい。この残り時間を有効に使おう。ひとまずの時間制限として設定する。

 

「はい、あ~ん」

「あ~ん」

 

 悟パパがウサギにされたリンゴを差し出してきたので、それを食べる。久しぶりに美味しい物を食べたので幸せな気分になる。何時もは舌を麻痺させて黒苺を食べてから、塩で味付けした魚や大量に作ったスープしか食べていない。調味料を買うお金もないし、自分で構築したら呪力のせいかくそまずくなる。それで食べるぐらいなら普通に何もつけないで食べた方が美味しいし。

 

「そういえば良く場所がわかったね」

「まあね。俺は最強だからね」

「ねぇ、パパ……もしかして、私を囮に使った?」

「どうしてそう思うのかな?」

 

 小首を傾げて聞いてみると、楽しそうに笑いながら聞き返してきた。

 

「……さっきの予想以上という言葉とタクシーの来たタイミング。それにアイツが言っていた五条の娘という言葉。おそらく、故意に私の情報を流して釣った。タクシーが数台来ていたから、色々な会社に依頼したのかな。それに急にパパが自分で手配すると言ったし」

「正解♪ ご褒美にリンゴを追加だ」

 

 シャリシャリと食べながら、悟パパを睨みつける。頬が緩みそうになるのを必死に止めながらだけど。

 

「他には?」

「助けに来たのは私が倒れてからだった。パパならすぐに駆け付けて倒せたはず。なのにそれをしなかった。あえて泳がしてアジトまで連れていかせたんだよね?」

「もしかして怒ってる?」

「怒ってない。どうせ私が呪術師としてやっていけるかどうかを見ただけだよね?」

「うん。イカれているのはわかっていた。でも、人を殺せるかどうかはわからなかったからね。まあ、君はあまり気にしなかったみたいだけど……」

 

 そういえば人を殺していた。そう思うと気持ち悪くなってくる。あの時は気持ち悪さと怒りに支配されていたけど……人を自分で殺しちゃった。いずれはそういう覚悟もしていたけれど、こんなに早いなんて思ってもみなかった? 

 いやいや、そんな事はない。近い内に殺す気満々だった。だって、その為に悟パパに呪詛師を探してもらうようにお願いしたんだからね。

 でも、やっぱり自分で殺すのはちょっと堪えたみたい。いや、人を殺しておいてちょっと堪えた程度ってなんかおかしい。私、もしかして人を人と思わないようになってる? 呪霊の呪力を体に取り込んでいるし……影響を受けてるかも。

 

「いやぁ、まさかキスを強請ってから相手を油断させ、高速で術式転換して相手の動きを封じてからボコボコに殴って黒閃の練習台にするなんて予想以上だったよ」

「……見てたの?」

「もちろんだよ。危なかったら助けるつもりだったからね」

「……そう……」

「アレ? もしかして怒った?」

「ううん、怒ってないよ。ただ、パパが幼気な少女が強姦されるのを見て喜ぶ鬼畜ロリコンの変態野郎だったなんて思わなかっただけ」

「え?」

「これはもう呪術界や一般社会に拡散して注意喚起しないと……」

 

 体を抱きしめながら、近くにあった携帯を掴んでメールを書こうとすると、悟パパが慌てて携帯を取り上げてきた。

 

「やっぱり怒ってるよね!」

「だから怒ってない。ただ、私が味わった気持ち悪さを体験するために悟パパは筋肉モリモリのゴリラマッチョマンに迫られて掘られたらいいと思う」

「ちょっ!?」

「それとそのせいで私はトラウマを負った。もう男に触れられるのを想像しただけで気持ち悪くなってきた……」

「ごめん。許して?」

「私、力を増やすために縛りをした」

「ど、どんなのかな?」

「自らの血を持つ子供を生まないのと、男性を恋愛、性的な意味で愛さない。これらを破った場合、自害するというの。変態共に体を好き勝手されるぐらいなら死んだ方がましだし」

 

 悟パパに嘘を言わないように縛りをしたタイミングだけを誤魔化して告げる。これで罪悪感でも感じてくれたら儲け物だ。

 

「私、もう子供を産めない体になっちゃった。責任取ってね?」

「そんな縛りを小学生がする?」

「した」

「随分な耳年増かな……いや、神憑きや鬼子ならおかしくはないか」

「聞いた事はあるけど、それは何?」

「君みたいに知らないはずの知識を持っていたり、生まれ変わったりした存在だよ。薄っすらと前世の記憶を持っていたりする。たまにそういう子供が生まれてくるんだ。ほとんど殺されるか、育児放棄されて死ぬんだけどね」

「……」

 

 私みたいな転生者が居るってこと? でも、そうか。呪術師が……いや、人が死なない手段を研究するなんて当たり前だ。その一つが転生による生まれ変わりであるならば何もおかしくはない。私が殺されなかったのはお姉ちゃんがいたからかもしれない。おそらく、お姉ちゃんを人質としたらコントロールが出来ると思われていたんだろう。まあ、それが正解だよ、ちくしょう。

 

「で、責任だったかな。そんな噂を流されたら俺も困るし、何が願いかな?」

「六眼が欲しい。パパの眼球、ちょうだい」

「イカれてる要求だね。当然、却下だよ♪」

「じゃあ、六眼を持ってる人が死んだら、その瞳をちょうだい」

「……それなら、まだ用意できるかな。何時かはわからないけれど」

 

 何時くれるかは悟パパの自由だから、渡したくなければ渡さなくていいという約束だ。

 

「それでいい。貰えれば儲け物ってぐらいだから」

「ちなみに聞くけど、手に入れたらどうするの?」

「? 私の目と入れ替える」

「うん。やっぱり君は呪術師向きだよ。他にあるかな?」

「ちょっと調伏したいのが居るから、戦う時に手伝って欲しい」

「調伏? 君は式神の術式は持ってないはずだよね?」

「うん。ちょっと方法を考えたから、手伝って」

「まあ、いいけどね」

「言質取ったからね。縛りの契約だよ」

「何を相手させるつもりなんだ?」

「大丈夫。パパなら問題ないよ。むしろ保険だから」

 

 そう、悟パパなら一切問題はない。

 

「じゃあ、調伏する時の手伝いと六眼の提供。これで十分かな?」

「後、例の呪詛師の捕縛と今回、呪詛師が作っていた人形が欲しいかな?」

「呪詛師は現在調査中だよ。もう少し待ってね。人形は正直、悩んでたけど、どうするつもりかな?」

「彼女達をできたら人に戻してあげたい」

「なるほど。本音は?」

「研究したい。その過程で戻せるなら、報酬として戻してあげる」

「そういうことなら手配しよう。どちらにしても専門家に見せる予定だったからね」

「わかった。それならこちらからの要求はもうない」

「じゃあ、今度はこっちからの要求だ」

「ん。なに?」

「まあ、待ってて。人を呼んでくるから」

「わかった」

 

 悟パパが出ていった。少し待っていると、筋肉隆々のお爺ちゃんを連れてきた。白髪で髭もある。京都高のお爺ちゃんではない。

 

「この人は五条家が契約している呪具を作っている一級呪術師だ。今回、特別に来てもらったからね」

「坊たっての願いで来た。このなまくらを作ったのはお前か?」

「はい……私です」

「そうか」

 

 お爺ちゃんはいきなり私を殴ろうとしてきた。でも、その前に悟パパが拳を受け止めてくれた。

 

「まったまった。相手は女の子で子供だからね?」

「……そうだったな。すまん。余りにも素材が可哀想でな」

「い、いえ……」

「まず言っておく。このナイフはてんで駄目だ。三級から二級に微かに届くと言ったところだろう」

「えっと、三級から二級で駄目なんですか?」

 

 思わず敬語になって聞いてしまう。だって怖いし、仕方がない。

 

「駄目だ。作りが甘い。鍛錬が足りない。中身がスカスカだ。まるで素人が適当に打ったかのような塵だ」

「うっ……」

「だが、素材は良い。三級から二級なのは素材の呪力が高いからだ。ただそれだけだ」

「値段はいくらかな、お爺ちゃん」

「二百、三百万と言ったところだろうな。全くもって勿体無い。俺なら一級の上位にできるぞ」

「あ、なら素材だといくらになりますか?」

「三千万はくだらん」

 

 素材の方が高いんだ。これ、もう戻して売った方がいいかもしれない。

 

「だってさ。そこでだ。これ、素材に戻せる?」

「貸してください」

「ほら」

 

 投げ渡された抜き身のナイフを受け取り、術式反転して呪力と一部分の鉄以外を撤去し、構築術式で呪力を追加してやってきた工程を細部まで思い浮かべてインゴットを構築する。

 

「どうぞ」

「おお……」

「どうかな? 彼女の術式は構築。お爺ちゃんが望む素材を一度用意したら、それを撤去して理解し、強化して呪力が続く限りはいくらでも構築できる」

「良い、良いぞ坊! これならば一級どころか特級を作れるやもしれん!」

「うんうん、それは重畳だ。じゃあ、お願いしていた事、いいかな?」

「構わん。だが、この童次第よ」

 

 意味が分からないので、悟パパを見る。いや、素材が欲しいのはわかる。私だって製作者として欲しいし。

 

「真依ちゃん。俺から提案がある」

「何?」

「このお爺ちゃんに弟子入りしてみない?」

「え?」

「真依ちゃんは素材を提供し、お爺ちゃんから技術を学んで強力な呪具を作れるようになるってこと」

「儂の技術ならば一級は確実にできる」

「この人、人生を鍛冶に捧げてきて後継者も居ないんだ。家としてはそれは困るんだ。だから、真依ちゃんが技術を継承して変わらずに呪具を提供してくれると嬉しい。ね、Win-Winでしょ?」

「その提案は私にも利益が多分にある。よろしくお願いします、師匠」

「儂の持つ全ての技術を叩き込んでやる。厳しいが覚悟しておけ」

「頑張る……ううん、必ず成し遂げてみせる」

 

 私の目標は禪院家を乗っ取る事。その為にお姉ちゃんをスーパーでハイパーなルナティックモードにすること。全身を特級呪具で装備したお姉ちゃんは間違いなく特級術師になるだろう。そこに文句は言わせないZe。

 

 その日から、私は五条家の所有する山で師匠と鍛冶をする。ただひたすらに呪力の籠ったインゴットを作り、それを師匠に鍛えてもらっては作り直し、最高の玉鋼を作りだす。

 一週間の内、三日は金属の生成で血を吐いて倒れ、三日で呪力で運動能力を強化して鍛冶を習い、残りの一日は悟パパと呪霊狩りのデートだ。一級や二級の呪霊を悟パパの監視下で戦わせてもらい、危なくなったところで悟パパに捕まえてもらって、弾丸を撃ち込んで黒苺に変えて持ち帰る。

 その黒苺を使って三日で出来る限り金属を作るというのを一年ほど繰り返した。おかげで鋼の真髄が理解できた。ガチで小学生はチートな学習能力がある。師匠の呪具も撤去して分解し、その構造や理念、鍛錬方法や籠っている呪力を細部まで理解することができたので技術の習得は比較的速くできた。

 速くはできたが、簡単ではない。全てを理解するということは自らの血肉として取り込むのが一番いいので、自分の体に構築しなおすことでより理解が増す。もちろん、拒絶反応でひどい目にあうけど、そこは反転術式で治療して乗り切った。気持ち悪くて何度も吐いたけど止めない。体が壊れてもそこを撤去して分解して新しく再構築すれば健康で健全な体が戻ってくる。

 呪力は呪霊から補給するのでほぼ休まず動き続けることができる。師匠も私のそれを見て喜んで自らの体を分解して再構築することを望んできたので、足とかからちょっとずつやってみた。

 次第に阿吽の呼吸になり、一年で私は師匠の技術を余すところなく継承した。その後は二人で師匠が持つ特級武具や呪物を解析して理解し、再現して五条家の宝物庫に突入して必要な物を手に入れた。

 それと人形である呪骸についてもしっかりと勉強した。傀儡呪術学の第一人者、夜蛾正道の呪骸を入手して解析し、分解。再構築して勉強した。人形にされた子達の技術も合わせて夜蛾正道先生に何度も講義してもらった。人形にされた子達をはやく両親の下へと返してあげるためでもあるので、快く教えてもらった。もちろん、こちらも無料ではなく呪骸の素材を提供することで了承していただいている。

 五条家で修行して九歳となった時、ようやく師匠と二人で満足の行く呪具が完成した。

 

「パパ、見てみて~!」

「綺麗な太刀だね。まるで吸い込まれるようだ」

「名は呪刀村正だよ」

 

 出来た太刀は見ているだけで引き込まれそうなほど綺麗で、波紋がまるで脈動しているかのうに波打っている気すらする。籠っている呪力もすさまじく、特級クラスの物はある。

 

「おめでとう。それでお爺ちゃんは何処かな?」

「そこに居るよ?」

「は? 何処にも居ないけど……」

「やだな~パパったら……手に持ってるじゃない」

 

 悟パパが手に持つ太刀を指さす。

 

「いやいや、ちょっと待とうか」

「まさかとは思うけど……」

「ソレが師匠だよ。自らの手を同化させ、鍛えることで呪力をより高めた」

「……嘘だろ?」

「もちろん、本当だよ」

「うむ。本当じゃ」

「やっぱ嘘じゃん」

 

 師匠が鍛冶場から出てきた。ちゃんと五体満足だ。獣の槍のように死んでない。そもそも殺す理由がない。

 

「嘘でもないぞ。その太刀には素材として儂の腕を使っている」

「……混ぜたのか」

「構築したのをね」

「儂の体はすでにほとんど弟子に構築させたものだからな」

「……クレイジーだな、二人共。混ぜたら駄目な奴だったかもしれない。ま、いっか。それでこの太刀は?」

「師匠専用だよ。パパのも作るから腕ちょうだい」

「うん、嫌だよ」

「残念」

 

 悟パパの体を素材にしたら凄いのが出来そうなんだけどね。

 

「ああ、そうだ。真依ちゃん」

「何?」

「俺、教師になるからあんまり手が空かなくなるかも。だからさ、さっさとやってしまおうか。頼まれてた呪詛師も捕まえてあるからね」

「ありがとう。他に頼んでいた物は?」

「しっかりと用意してあるよ」

「なら、大丈夫かな。それとちゃんと生きてる?」

「ああ、ちゃんと生きてる」

「大好き、パパ」

「はっはっはっ」

 

 五条家が所有する屋敷の牢獄へと移動し、そこに捕らえられている呪詛師と面談する。

 

「今からする私のお願いに“はい”か“Yes”で答えてください。その回答次第で貴女とお孫さんの命がどうなるか決まります」

「……何をさせる気じゃ」

「私が言う人を降ろしてください。私に協力してくれる限りは安全をお約束しましょう。必要な物は全て用意しています」

「……いいじゃろう」

「ありがとう。それじゃあ、保険を入れさせてもらうね」

「何をする気じゃ」

「貴女達の体内に爆弾を仕込む。逆らったりしたらボンだから。それとちゃんと縛りもしておくよ」

 

 爆弾を体内に仕込むことで反乱を防止する。呪詛師を使うんだから、これぐらいの保険は必要だ。それに元々、彼女は術式を使って殺した相手に憑依する。例として子供を殺して姿を偽り、ターゲットに近づいて暗殺などをしている極悪人とその仕事を手伝っている人だ。なので、私と悟パパで適切に管理、運用して世界のためになってもらう。

 

「それで、誰を降ろせばいいんじゃ?」

 

 そう、私が悟パパにお願いしていたのはオガミババだ。彼女を生きた状態で捕らえる事をお願いした。彼女の術式は降霊対象の体の一部を自分を含む誰かに呑み込ませてその身体に憑依させる。 素材は遺骨や遺灰などでもいい。必要なのはおそらくDNAだろう。

 

「で、誰を降ろすんだ?」

「もちろん、お姉ちゃんの師匠になる人で、私の護衛だよ」

「うわぁ、天与呪縛の師匠とか嫌な予感しかしない」

 

 用意したのは呪骸だ。それも人を人形にした奴の術式を真似て逆に人に似せた人形……ではなく、内部構造などを限りなく人に似せた子供に抱えられる程度の黒色で出来たぬいぐるみだ。

 

「ああ、ちゃんとしてくれたら失敗してもいいから」

「うむ」

 

 何度か試して肉体と魂の情報の内、肉体を降ろしてやってみたけど失敗ばかりした。なので失敗した肉体の残骸と同じ一族である私の血を利用して新しく呪骸を作り、それに降ろしてもらった。

 

「あ?」

 

 狙いどおり、人型っぽい二足歩行ができる黒い兎の呪骸に憑依した。もうぬいぐるみではなく普通に伏黒甚爾の肉が詰まっている兎獣人といえる。外見はぬいぐるみだけどね! 

 

「なんだこれ!?」

「あはははははははっ!」

 

 悟パパは指差して大爆笑。伏黒甚爾は大混乱。是非もないよね。

 

「叔父さん、初めまして。禪院真依と申します。私の式神(使い魔)として契約してください」

 

 もちろん、術式じゃないので影に潜ませるとかは無理だ。自分の手で持ち歩くか、付いてきてもらうしかない。

 

「断る」

「私は禪院家を叔父様と同じ状態である姉に乗っ取ってもらおうとしています。協力してくださいませんか?」

「面倒だ」

「えい♪」

 

 兎の体を爆発させて殺す。また作りなおして降ろす。説得する。攻撃されるのを悟パパに防いでもらいつつそれを繰り返す。

 

「契約してくれるまで無限ループです。仕事内容は私の護衛とお姉ちゃんの鍛錬。禪院家のくそったれ共をボコることです。それ以外は遊んでいても構いません」

 

 さあ、楽しい楽しい無限ループの始まりですよっと。叔父様からしても悪い事ではない……と、思いたいけど悪い事か。

 

「……いいだろう。週休四日は寄越せ。それと仕事を終えたらちゃんとした肉体を寄越せ」

「構いませんよ、叔父様。ただ、行動はある程度は制限させてもらいます。呪詛師に戻られたら困りますから」

「いいぞ。養ってくれるならな」

「小遣い制にしますね」

 

 一ヶ月で720回以上、爆破して説得したら契約してくれた。やったね! 契約が終わったら、悟パパと喧嘩して楽しそうにしているけど気にしない。

 これで色々とできる。オガミ婆も手に入ったし、どんどん技術と戦力を手に入れよう。

 

 

 




オガミ婆による降霊術で叔父様を式神? 使い魔にします。最恐のボディーガードです。戦力は格段に弱くなってますが、段々と改造されていきます。メカ丸君みたいに。もちろん、肉体の強化面的にです。

やっぱり、真希ちゃんの師匠は叔父様だと思いますのでこんな形に。


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10話

感想、評価、誤字脱字報告ありがとうございます。大変嬉しいです。


 

 

 伏黒甚爾、叔父様を彼の肉体情報をオガミ婆の術式で作り替え、私の構築術式でDNA構造を再現して改変した黒い兎の特別に作り上げた生体呪骸に降ろす事に成功した。

 これにより、悟パパとの契約が一部終わったので、パパは高専へと向かった。

 私も師匠から技術を貰ったのでこれ以上、師匠の下に居るわけにもいかない。私はあくまでも禪院家を乗っ取る事が目的であり、鍛冶師として一生を過ごすつもりはない。もちろん、関わりを断つわけではなく自分の工房に戻る独立といった感じで取引や交流は続ける。

 連絡先も交換しているので、何時でも情報や意見の交換、素材の発注など行うので問題なし。と、いうか……ここ二年ほどお姉ちゃんと少ししか会っていないしね。

 そんなわけで私は工房へと戻る。黒い兎のぬいぐるみを抱きながら、久しぶりの山道を進み、滝がある場所にやってきた。そこはほとんど変わっていない。いや、そこに満ちていた呪力は感じられなくなっている。

 

「懐かしい場所だな……」

「来たことあるの?」

「食べもんの確保に使ってた」

「同じだね」

 

 歩くのが面倒だと言って私の頭に乗っている叔父様を連れ、隠してある場所を掘り起こしてトランクケースを取り出す。

 中身は二年前に作ったドライスーツだ。中身を取り出したら、叔父様を突っ込む。

 

「おい、何をしやがる!」

「これから水の中に入るから、その中に入ってないと濡れる。それでもいいなら、構わないけど……」

「……よし、任せる」

 

 大人しく仕舞われた。流石に濡れるのはもふもふの毛並みでは大変なのだろう。ちゃんと鍵もかけてから、ドライスーツに着替える。叔父様とはいえ、男に肌を見せるのは問題だから丁度いい。

 

「……ピッタリ、だと……?」

 

 二年前のドライスーツはサイズがほとんど誤差の範囲にしか変わっていなかった。つまり、ほとんど成長していない。肉体を改造しまくっている弊害かもしれない。呪霊を食料に変えて体内に取り込み、一部を撤去して肉体に取り込んで再構築することでこの身に宿る呪力を増やしている。そのせいかもしれない。まあ、やめない。大人の体が必要ならそれこそ構築すればいいだけだし。

 

「よし、行こう」

 

 トランクケースには入りきらないので、リュックサックも作ってそちらに入れて一気に滝壺に潜る。肌を突き刺すような冷たさもドライスーツのお陰で無事……ではない。流石に二年間も放置してたら劣化しているようで、ちょっと冷たい。

 急いで覚えているルートを泳ぎきり、出口に到着……したら出入口がなかった。そこは植物に覆われている。仕方がないのでナイフを構築して切り裂く。

 スパッと植物の蔦を切り裂いて中に入ると、鍾乳洞の至る所に蔦が伸びていて周りを覆いつくしていた。大量に存在する黒色の苺と蔦が蛇のようになって蠢いている。

 

「……やば、放置しすぎた……」

 

 黒苺はその特性上、呪力を吸い取って成長していく。それはつまり呪霊が発生するメカニズムと変わらない。元から受肉しているか、していないかの違いでしかない。

 

「叔父様、叔父様、早速お仕事です」

 

 トランクケースを開けて地面の部分に中の叔父様を放り出す。叔父様は不機嫌な状態で周りを見てから……呆れていた。

 

「なんだこれ?」

「倒して」

「お前もやれよ」

「もちろんです。創造理念を設定、基本骨子、構成材質を設定、製作技術、作り手の意思、蓄積年月を設定。其に至るは数多の研鑽。千の刀、万の刀を象り、築きに築いた刀塚。此処に辿るはあらゆる収斂(しゅうれん)。此処に示すはあらゆる宿願。

 此処に積もるはあらゆる非業。我が人生の全ては、ただこの一振りに至るために……剣の鼓動、此処にあり────」

 

 生み出すのは私と師匠が作り上げた()()()()()()()()()()()()の刀達。銘無き刀剣(ネームレス)

 

「叔父様。構築時間は十分。好きに使って暴れてください」

「あいよ」

 

 叔父様が人間のように掴めるように作られたうさぎのぬいぐるみの手で刀を取り、植物の蛇を切り裂く。刀は砕け散り、霧散する。だけど、その代わりに蛇は一刀両断されて倒れる。

 私が作り上げた刀は壊れる事が前提として構築されている。その身に宿る呪力をただの一撃に全てを込めて自壊する。自爆の縛りを与えて威力を強化している。Fateの衛宮士郎が使う壊れた幻想(ブロークンファンタズム)や冥冥さんが使うカラスを自壊させて使うことと同じだ。

 これらの技術は師匠に教えてもらった。もっとも、師匠はこれを見せたら激怒して無茶苦茶殴られたけどね! そりゃそうだ。失敗作とはいえ自分達の作品に自爆機能をつけて使い捨ての弾丸にしているわけだしね。まあ、私の知ったことではない。

 

「えい」

 

 手に持って型も何もない適当に呪力で強化した力で適当にふるって蛇を撃退する。複数の蛇を二人で撃退しながら神社へと進んでいく。こうなった原因の核を見に行く。

 

「アレが原因かな?」

「だろうな」

 

 見覚えがある男性器の形をした石像と何かの木片。それが核となっているみたい。だったらやることは一つだ。

 

「破壊するぞ」

「駄目。アレは使うから確保して」

「お前な……」

「よろしく」

「高いぞ」

「後でおやつあげるから」

 

 叔父様が突撃していく中で無数の蛇達を見ながら、呪力を見る。そこでふと思い出した。男性器、蛇、石、木片……これらに多く合致する物があることに。

 

「まさかミシャグジさま?」

 

 禪院家は遥か昔から続く呪術師の家系だ。諏訪神社か洩矢神社に祀られている物の一部が流れてきていても不思議ではない。盗まれたか、呪霊として暴走したか、なんらかの時に退治して封印を理由に持ち帰っていても禪院家ならば不思議ではない。

 

「叔父様、領域展開とかされないよね?」

「そこまでじゃねえな。生まれたてだ」

「良かった」

 

 まあ、そもそも黒苺は私の呪力に変換するので、私がコントロールできるはずだ。でも、こいつらは石像などが介入して変質しているので完全なコントロールは難しい。

 

「ん~よし、決めた」

 

 術式反転で今着ている服を撤去し、構築術式で巫女服を作り上げる。それを身に纏いながら二拍一礼を行う。そして、蔦を掴んで構築術式を発動する。

 

「右、謹んで旧貫を検ずるに、当砌は守屋大臣の所領なり。大神天降り御ふの刻、大臣は明神の居住を禦ぎ奉り、制止の方法を励ます。明神は御敷地と為すべきの秘計を廻らし、或は諍論を致し、或は合戦に及ぶの処、両者雌雄を決し難し。

 爰に明神は藤鎰を持ち、大臣は鉄鎰を以て、此の処に懸けて之を引く。明神即ち藤鎰を以て、軍陣の諍論に勝得せしめ給ふ。 而る間、守屋大臣を追罰せしめ、居所を当社に卜して以来、遙かに数百歳の星霜を送り、久しく我が神の称誉を天下に施し給ふ。応跡の方々是新なり。

 明神、彼の藤鎰を以て当社の前に植ゑしめ給ふ。藤は枝葉を栄え藤諏訪の森と号す。毎年二ヶ度の御神事之を勤む。爾より以来、当郡を以て諏方と名づく」

 

 諏訪信重解状の一部をそらんじながら、蔦を私の手ごと杭を構築して貫き、一つに繋げる。

 

「創造理念を設定、基本骨子、構成材質を設定、製作技術、作りての意思、蓄積年月を設定。鉄の輪」

 

 黒苺の呪力を奪い取り、鉄の輪を構築する。これが本物だろうとそうでなかろうと関係ない。どうせなら、纏めて呪核にしてくれるわ! 

 

「叔父様」

「ああ」

 

 叔父様が鉄の輪を掴み、それで次々と切断していく。大量の鉄の輪を生み出しながら、しばらく待つと高速で動く叔父様が男性器の石像の周りの蔦を全て切り落としてこちらに投げてくれた。

 それを鉄の輪を潜らせて改めて構築する。呪核を構築するために私の呪力を更に流し込み、強烈なイメージとして構築術式を叩き込む。

 

「ミシャグジさま、ミシャグジさま」

 

 出来た小さな白石で出来た呪核を半分にして片方を鎖骨の辺りに押し付けて体内に取り込む。もう片方の方には私の腕に取り入れ、腕を鉄の輪で切り落とす。止血だけして構築術式で止血だけしておく。

 

「何をやってる?」

「ごめん、叔父様……ちょっと寝る。呪力がもうない」

「ちっ」

 

 倒れるように眠ってしまう。

 

 

 


 

 

 

 気が付けば寝袋の中だった。胸元には叔父様が居て私を温めてくれている。どうせ言っても否定されるだろうから言わない。

 

「さむっ」

「起きたか」

「うん、起きた」

「なら、この寒さをどうにかしろ」

「ちょっと待っててね」

 

 とりあえず、腕を構築する。ついでに悟パパに頼んで買ってもらい、分解して構造を理解していた発電機と炬燵を構築する。叔父様は即座に炬燵に入って丸まってしまった。

 なので、私は私で周りを確認する。植物の蔦が壁を浸食して不味い事になっている。神社も崩壊しかけている。仕方ないのでこちらも作り直しだ。

 更に奥の壁も崩れて通路の先が出来ている。正確には水溜りが出来ているので、潜ったら先に行けるかもしれない。

 

「まずは家の再建かな」

 

 呪力を巡回させながら確認すると、一部で変な事が起こっていた。取り込んで呪核の半分を通して、私の腕に入っている半分に繋がっている。これは計画(プラン)通りなので大丈夫だ。

 私の戦力は低すぎるので、どうせならミシャグジさまを作ろうと思う。本物ではないし、呪骸になるからそこまで強くはならないだろう。それでも……ミシャグジさまをコントロールできるとは思えないので、私と繋がりを作って崇め奉ることで荒魂を和魂にしてそのお力を借りようと思う。失敗したら失敗しただ。本物じゃないからきっと大丈夫。後は守矢神社に行って信仰をパク……利用させてもらおう。

 

「ん」

 

 呪核の半分を取り込んで斬り落とした腕を構築術式で白石で出来た蛇にする。それを更に作った杖に絡ませる。イメージはグラブルのカリオストロが持つウロボロス・オリジン。

 

「やっぱり、錬金術師には杖だよね~」

 

 尾を咥える蛇は無限を象徴する。まあ、ウロボロス・オリジンは咥えてないのでそこは改造する。二匹の蛇を絡めせて無限のようにしておく。二匹にすることで私とお姉ちゃんを表している。

 

「てりゃー」

 

 黒苺の飴を大量に噛み砕き、食べて呪力を回復してから杖を地面に突いて構築術式を発動する。まずは壊れかけている洞窟の修復だ。

 古木の根元に石棒を祀るのが最も典型的なミシャグジ様信仰のあり方なので植物である木を利用する。木の根で周りを補強しつつ外の山に繋げていく。

 木の構造を細工し、根と木の中に小型の換気ファンをつけた偽装したパイプを通して空気を確保する。木の上の方に空気を入れ替えする場所を作ることで偽装する。もちろん、一本などではなく複数の場所に取り付けることで見つかりにくくする。木を隠すのなら森の中という奴だ。

 ついでなので監視カメラも木に仕込んでおく。これで中に居ながら外が確認できるしね。

 ここまでで呪力が切れたので次の日に作業するためにお弁当を食べて叔父様を抱きしめて炬燵の中で寝る。嫌がる叔父様は無視する。

 

 二日目。回復した呪力を使って神社を再建する。とりあえず一部屋だけの社になったけれど問題ない。そこに炬燵を動かして、発電機は外に置いておく。

 

 三日目。

 

「暇だ。なんか暇つぶしを用意しろ」

「はい、叔父様。どーん、どーん」

 

 適当な掛け声で4kの有機ELテレビとプレステ4プロを作る。なに? 未来だろって? 知らん。何もこの時代に合わせる必要はない。未来の技術を再現したらいいだけだ。呪力が馬鹿食いだけど後悔も反省もしていない。だって、積みゲーとかやってないのがいっぱいあるんだもん。またやりたいのだってある。それにどうせなら綺麗な画面でやりたいしね

 

「あ、そうだ……絶対にばれないインサイダー取引やろ」

 

 携帯で悟パパに作ってもらった呪具師としての偽造口座とかを利用して株式を購入しておく。未来の一大企業とかわかるし。あれ、でも日本の株価が暴落するか。まあ、その前に売ればいいだけだ。

 

「なにやってんだ?」

「投資」

「俺にもやらせろ」

「駄目。だって叔父様は向いてないし」

「おい」

「事実じゃん。競馬で失敗しまくってるし」

「あ、やめて、痛い」

 

 ぺちぺちと叩かれるので、大人しくテレビとプレステを発電機にセットしてゲームディスクも入れておく。ちなみに作ったのは前世で持っていた私の奴なのでダウンロードした奴なら普通にプレイできる。

 とりあえず叔父様がゲームしだしたので、私は炬燵の中でそれを確認しながら収穫した黒苺を食べながらぼ~と見詰める。

 だって、黒い兎のぬいぐるみが床に置いたコントローラーをポチポチして四苦八苦しながら遊んでいるんだ。とっても可愛い。思わず写真を撮って悟パパに送ってしまった私は悪くない。あと、黒苺は糞不味い。

 

 四日目。炬燵で寝ていた。起きたら叔父様はゲームをしている。おかしい。もう半分以上ストーリーが進んでいる。休まずやってやがる。

 

「食事、どうする?」

「食べるもんって黒苺だけだろ。糞不味いからいらん」

「まあ、そうか。うぅ、寒い……」

 

 さて、寒いので本日はエアコンと発電機を追加する。後、呪力で作ったガソリンも入れておく。エアコンは文明の利器である。昨日、作った方が良かったんだけど、叔父様の機嫌を損ねるのも面倒だから仕方がない。

 

 五日目。今日は家である社を拡張する。流石にお風呂に入りたいからね。トイレと風呂場、炊事場を作る。火は厳禁なのでIHの物を用意した。後、冷蔵庫も用意した。まだ使わないけど。

 

 六日目。本日も拡張。廊下を一つ追加して部屋を一つ追加した。

 

 七日目。ベッドとエアコン、タンスを制作。叔父様がずっとゲームしているのでうるさくて眠れないから仕方がない。

 

 八日目。渡り廊下を作成。離れに工房を作る。ついでにエアコンと発電機も追加。

 

 九日目。反射炉を作成……しようと思って止めた。流石にバレる可能性があるので火は使わないでおこう。代わりに大釜と温度設定を改造したIHの奴とエアコンを用意する。室外機と発電機も三機追加した。

 

 十日目。倉庫を作る。量産した呪具を保管しておくための場所として使う。

 

「おい、もうゲームがねえ。次の寄越せ」

「え、いや、待って。流石にそろそろ手伝って?」

「あ?」

「週休四日どころか、もう六日も追加で休んでるからね?」

「なにすんだよ?」

「壁、ぶち壊して」

 

 叔父様に壁をぶち壊してもらって内部空間を拡張する。流石に手狭なってきたからね。ぶち壊してもらった先を補強する。壊したところは呪力が結構あったので、畑にしておく。

 

 十二日目から十五日目。地下と貯水槽を作った。出入口ではない方の水がある場所に新しく作ったドライスーツを着て潜ったら、広めの空間だったのでそこをコンクリートで埋めてポンプで水を貯水槽に移した。

 

 十六日目。地下の上に社を拡張した。リビングになっている場所の壁をぶち破り、大きくしたので広々とした。

 

 十七日目。地下室をワインセラーみたいにして神便鬼毒酒を貯蓄しておく。

 

 十八日目。広くしたリビングに祠を作ってミシャグジさまを祀る場所を作る。お供え物はお酒とかにしておこう。

 

 十九日目。流石に黒苺で我慢できなくなってきたので買い出しに出掛けることにする。

 

「叔父様、買い出しに行くよ」

「俺はパスだ」

「却下。護衛だからね」

 

 冷めた瞳で見つめながら、抱き上げてトランクケースに入れる。巫女服から普通の服に着替えてお出かけだ。

 

 山を下りて正月になっている街並みを確認する。銀行に行ってお金を降ろすと……なぜか師匠と悟パパから百万円ずつが振り込まれていた。怖くなって聞いてみたら、お年玉らしい。

 

「高過ぎない?」

『平気平気。あ、それと街に出てきてるならちょっと呪霊狩ってきてよ。仕事があるんだよね~』

「別にいいけど、報酬は別だよ?」

『それでいいよ。報酬は五十万。出てくる呪霊に希望はある?』

「炎系がいいかな」

『炎系だと……君には因縁があるのがあるね』

「ん?」

『鬼火だってさ。まあ、本当かどうかわからないけど』

「じゃあ行ってみる」

『よろしくね~』

 

 悟パパの依頼でそこに行ってみたら……ヤバイのが居た。念の為に双眼鏡で確認していて良かった。バレる前に即逃げたのでセーフ。これには叔父様も同意してくれた。

 

「パパ、パパ」

『どうしたのかな?』

「アレ、無理。特級呪霊が居た」

『は? マジで?』

「マジ。この依頼、降りるね」

『了解。ちょっと待ってね』

 

 叔父様が即座に私の腕から抜け出して後方に移動して蹴りを叩き込む。するとそこには悟パパが居た。掌でしっかりと受け止めている。

 

「で、何処?」

「あの火山にある山小屋」

「OK。見てくる」

 

 悟パパが消えて、少しすると戻ってきた。

 

「狩れた?」

「いや、既にもぬけの空だったよ。残穢はあったけどね。本当に特級だった?」

「間違いない」

 

 何せ原作の特級呪霊だ。こんなところで会うなんて思ってもみなかった。

 

「未確認の特級か。火山に向かって行ってたからそっちも確認したけど、マグマで死んだ……とは特級なら思えないね」

「うん。えっと、こんな感じかな?」

 

 絵を書いて見せておく。

 

「了解。上にも伝えておくよ。一応、特級の可能性があるとだけね。戦ってもいないと確認できない」

「相変わらずか」

「だね。上の連中は腐ってるから。それより真依ちゃん。ちゃんと食べてる?」

「黒苺なら」

「それは食べてるとは言わないよ。よし、パパが奢ってあげるから美味しい物を食べに行こうか」

「じゃあ、お姉ちゃんも呼んでいい?」

「いいよ。何が食べたい?」

「焼肉」

「お前には聞いてねぇ。というか、食えるのか?」

「食えるわ」

「じゃあ、焼肉で。松阪牛食べたい」

「何処がいいか調べるね」

 

 久しぶりにお姉ちゃんに会ったので、抱きついて思いっきり甘えた。だけどお姉ちゃんの背が伸びていて、私を撫でてくるのは解せぬ。

 あ、松阪牛はとても美味しかった。お姉ちゃんと一緒にたらふく食べてお土産に冷凍したのをキロ単位で購入してくれて持たせてくれた。お姉ちゃんはお菓子の類をこっそりともらった。

 お姉ちゃんと別れてから保存のきく食料と調味料、それに種や地図とかも買って帰った。その地図を見ながら地下を掘り進んで禪院家とは反対方向に伸ばし、麓に繋げる場所を作ることにした。だって、一々山を下りるのが面倒だし。隠し通路を作ったらパパも来やすいし、補給部品を頼める上に構築した素材の取引がやりやすい。

 いっそ移動のためにドルオタを見つけて引き込みたいとすら思ったけど、下手に介入してドルオタに好かれると厄介なので止めておく。

 とりあえず九ヶ月で地面を撤去し、補強してトンネルを掘り進める事ができた。トロッコをも設置しながらだったのでとても大変だった。あと、監視カメラと侵入者用の撃退に呪骸を設置しておく予定。

 この九ヶ月の間、雪が解けたらお姉ちゃんがやってきて叔父様に訓練をつけてもらうようになった。悟パパも水を潜ってやってきてくれるので取引してお金がいっぱいになった。稼いだお金は参考資料として呪具などの購入に使う。裏オークションなどでも散財している。こちらからは裏には呪具を流さないけれど、表には流しているのでそれなりに有名になってきている。

 もちろん、ネームレスの名前でだ。ただ悟パパを通してなので五条家がバックに居る事はみんな知っている。

 もちろん、呪骸の研究も進めて人形にされた人達を一応はもどすことがきた。生体パーツを構築してそれを組み立てて人形に肉付けする形でほぼ人と変わらないようにした。皮膚スキンが壊れない限りはバレることはないだろう。ご両親などには説明し、ちゃんと相談もして政府のサポートも受けられるようにしてくれたらしい。何かあれば呼んでくれたら治療することにはしているので呼んでもらう。それと実験も兼ねてオガミ婆にも協力してもらって悟パパに二人の呪骸をプレゼント(?)したら呆れられて返品された。

 

「解せぬ」

「当たり前だ」

「儂は感謝しているがな!」

「その口調、必要ないのでは?」

「呪骸だしね」

 

 人形化の術式を真似て作ったのは単純だ。天内理子とそのメイドである黒井美里だ。彼女達はすでに死んでいるし、問題も解決している。なので戸籍さえ作れば人としての生活に戻れる。だというのに……何故か、私の工房に住む事になった。殺した張本人である叔父様も居るのに悟パパが何を考えているかわからない。お姉ちゃんも賛成してくるし、解せぬ。

 

「いや、だって真依ちゃんさ……ほっといたらろくな物を食べないし、結構危険な事を平気でやるよね?」

「うっ」

「監視は当然である……だね」

「ですね」

 

 まあいいや。買い出しに行く必要がなくなるから、好きにしてもらおう。私は戦力を強化する。ミシャグジさまを作って、更に私自身の強化を行う。

 ドラグノフとヘカートⅡ、それに加えて身体能力を爆上げするために私が撤去し、構築して血肉とした物も利用する。ちょっとトラウマだけど構わない。トラウマが何するものぞ! 勝てば良かろうなのだ! 

 

 

 

 

 

 




ミシャクジ様は東方の奴にする予定です。普通の蛇ちゃん。天内ちゃん達は多分遺灰ぐらいは残ってるだろうしね。採取したDNAから適当な肉体……それこそ肉と骨、脳を構築した後はオガミ婆が魂の情報と肉体の情報を降ろせばいいわけですしね。流石に生きてない人だし、脳の事とかもあるから、脳は呪骸の技術で作った呪核を脳として利用している感じです。ほぼクローンです。


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11話

残酷な描写と気持ち悪い描写があります。ただ、加害者と被害者は同一人物です。


 

 

 やばい。やばい。やばいやばいやばいやばい! あまりの事で思わずしゃがみこんで泣きじゃくる。

 

「おい、泣くなよ」

「ほっとけ」

 

 お姉ちゃんが頭を撫でてくれるけど、叔父様はどうでもいいといった感じで漫画を読みだした。

 

「何をしているの?」

 

 理子お姉さんが叔父様を膝の上に乗せてモフモフされていく。叔父様は抵抗しようとするけれど、理子お姉さんに手を出させないよう命令してあるし問題ない。まあ、叔父様がその気なら抵抗なんて容易いけど。

 

「理子姉さん……真依が私と模擬戦をしたら泣き出してな」

「ん?」

「姉に瞬殺されて泣いてるだけだ。気にする必要もねえ。ひたすら拡張ばっかしてる奴と俺と死にかけるまで訓練してる奴とじゃ力の差が開いて当然だ」

 

 そう、お姉ちゃんに何もさせてもらえずにボコられた。いや、デリンジャーは撃ったよ? 普通に避けられたし、模造刀でデリンジャーを斬り落とされて首に模造刀を突き付けられた。お姉ちゃんの動きが見えないとかまずくない? 援護もくそもできないんだけど。

 

「お茶をどうぞ」

「ありがとう、美里さん」

 

 我が家の家事はメイドの美里さんがやってくれることになった。なので基本的に私は拡張と開発、量産に力を入れられる。それはそれとして、呪力を増やすためと素材確保のために呪霊狩りをしようとしたんだけど、お姉ちゃんからストップがかかった。

 弱い私が現地に赴くなんてとんでもない! との事で、売り言葉に買い言葉で模擬戦闘になった。そこでボコボコにされたのですよ。

 

「覚えていろよ~!」

「お茶は……」

「もらう!」

 

 お茶を一気飲みしてから工房に逃げる。

 

 

 


 

 

 工房(アトリエ)に戻ってきた私はアウトドアチェアに座りながら、両手の指を顔の前で合わせながら考える。

 お姉ちゃんの動きに反応できなくて、ちょっと本当に身体能力を上げないと普通にやばい。これ、呪霊や呪詛師が相手だと普通に殺されていた。特級とか呪詛師に限らず、術式って初見殺しや即死するような物が多いしね。

 

「優先順位を変更しよう」

 

 これまでは鍛冶と呪具を作る技術を習い、人形にされた人を助けるために呪骸の研究をしていた。今までは最強の護衛が居たから安全に呪霊狩りで呪力集めができたけれど、悟パパは時間が取れなくなったので私自身の戦力強化が必要になってきた。

 叔父様も居るとはいえ、戦う力はかなり減っている。呪具も特級から二級ぐらいしかない。とっておきのも一級なので特級相手はしんどい。

 なので、他の犠牲者の人には可哀想だけど一応は人として活動できるのでこれぐらいで許してもらおう。メンテナンスぐらいはちゃんとする。

 目標は天与呪縛を持つフィジカルギフテッドと近接戦で勝てないまでも戦えるようにすること。その為に使うべき素材はアレだ。

 

「古来より鬼は力の象徴とされてきた」

 

 鬼は悪魔を祓うと言われ、すべての災禍を祓う力があるとも伝えられている。そう、日本の鬼は悪や善、神まで多様な現れ方をしている。特定のイメージで語ることは困難であり、単純に悪者とはできない。ただ、「怖ろし気」「力強く」「超人的」のイメージは多くの鬼に共通している。

 

「構築」

 

 大江山で私の体を喰らい、かの呪霊が持つ呪力をろ過して私の手足へと再構築した。その時に分解した鬼の角を掌の上に構築した。もっとも、私の呪力で作られただけで偽物であり、その力は格段に弱い。そもそもが神便鬼毒の酒によって弱まっている。

 

「術式反転」

 

 鬼の角から神便鬼毒の成分を撤去する。すると感じられる呪力が増加した。あの呪霊である酒呑童子は神便鬼毒を摂取することで耐性を得ようとしていたけれど、そんな物は私には必要はない。そもそも人々の酒呑童子への思いが呪力となって与えており、復活した可能性が高い。そうなると神便鬼毒を克服など不可能だ。マイナスとプラスを掛け合わせるなど……できるかもしれない。悟パパがメドローアよろしくやっちゃってるしね。

 

「まあ、どうでもいいか」

 

 神便鬼毒を抽出した鬼の角を撤去し、再構築する。一度撤去することで今度は神便鬼毒が無い状況を……待てよ。このまま行けばやばいんじゃない? 

 酒呑童子の力をただの人が扱えるとか、無理。主人公の虎杖君みたいな特殊な生まれもしていない私だ。禪院家の血を引いているとはいえ……うん、無理。酒呑童子に体が乗っ取られるのがオチだ。行きつく先は秘匿死刑か封印。または呪霊に乗っ取られる。

 

「そう考えると……いいな」

 

 思わずニヤリと笑ってしまう。黒苺の飴を噛み砕き、なんとも言えない糞不味い味を食べながら、神便鬼毒を撤去した純粋な鬼の角と神便鬼毒を作成する。

 二つを混ぜ合わせるから駄目なんだ。なら、二つは別々に作って運用する。そのために先に蒸留器を作ろう。あれの作り方って確か……ネットで調べるか。

 

「お~い、真依~」

 

 お姉さんが呼んできたので、工房(アトリエ)から出る。渡り廊下にお姉ちゃんが居た。

 

「どうしたの?」

「ここ、携帯の電波が不安定なんだって。どうにか出来ないかって美里さんと理子お姉さん達が……」

 

 どうせゲームとかネットに繋げたいんだろう。いや、電話も引いてない。ここは山の中で地下でもあるわけだし……ん? トンネル作ったから別にインターネットや電話ぐらいならどうにか出来るかも。

 

「わかった。ちょっと待ってて」

「うん」

 

 とりあえず、悟パパにメールして山から出来るだけ近い麓の村に家を買ってもらう。買う人は悟パパではなく、悟パパを経由してお金を渡す被害者家族の人だ。

 人形にされた子を助けた人の数家族に近場の家を二つ、三つ買ってもらってその地下から私達が出入りできるようにする。そこから電話回線とインターネット回線をケーブルで直通させればどうにかなる。延長コード使いまくりだけどね。

 もちろん、かかる費用は全部こっちで持つし、メンテナンスもしやすいので喜んでくれるだろう。そういう風に頼んでみた。

 五条家ではなく、夜蛾先生の方から政府に働きかけてやってくれるようにするって、すぐにメールで返信がきた。ついでだから、色々と発注しておこう。パソコンとか欲しいし。

 

 

 


 

 

 

 三ヶ月。隠し通路を通して電話線とインターネット回線を直通した。これにより、理子お姉さんや美里さん達は普通に外出するのも楽になった。もちろん、私もだ。三つある家から出入りできるし、荷物もそこに住んでる人達が受け取ってくれる。お姉ちゃんが山へ行くよりも怪しまれないのもいい。

 それと工房(アトリエ)の更に地下深くへと隠した裏工房(アトリエ)を作りあげた。表に出せない事をやるためであり、火を使っても外に漏れないように断熱材などもふんだんに使ってある。

 

「~♪」

 

 発注して届いた物を分解して構造を理解し、呪力を込めに込めて作った鉄でパーツを一つずつ作った組み立てた蒸留器。

 そこに大量の神便鬼毒酒を蒸留し、濃度を上げにあげた。続いて蒸留酒を液体金属である水銀と大釜で混ぜ合わせる。ミシャグジさまの杖でグルグルかき混ぜていく。

 水銀は古来より占星術や錬金術の分野で最初用いられた。これは、天球上をせわしなく移動する水星を流動する水銀に結びつけたものとされている。また、液体で金属であるという流動性が、神々の使者として天地を自由に駆け巡ったヘルメスの性格と関連づけられたためともいわれる。

 

「投入~」

 

 続いて粉々に砕いた金属の粉末を入れてかき混ぜ、呪力を注ぎながら新たな形をしたアマルガム合金へと構築していく。形は手枷と足枷。手枷には鎖もつけておく。鬼の力を弱め、封印する拘束具が完成した。

 

「続きまして……」

 

 掃除した後は沢山構築しておいた鬼の角を熱して、金床に乗せて槌で叩いて平に変える。そいつは冷水で冷やしておいて、次の鬼の角も同じようにする。それを繰り返し、繰り返してある程度を作ったら、今度は熱してから重ね合わせて打ち付けていく。

 

「よし、呪力が増えた」

 

 鬼の力が籠った呪力を神便鬼毒を使った拘束具に触れさせると、呪力がかなり弱まった。計画(プラン)通り。続いて実験するための人体実験道具を用意する。

 

「えっと、確か……人体の60%、炭素原子が50%。 酸素原子が20%、水素原子が10%、窒素原子が8.5%、カルシウム原子が4%、リン原子が2.5%、カリウム原子が1%だったかな? 鋼の錬金術師だったら、水35リットル、炭素20kg、アンモニア4リットル、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素、細胞66%、細胞外液24%、細胞外固形物10%。そして人体の情報である血液だったね。どーん」

 

 工房(アトリエ)に用意した診察台の上に人体構築を行う。構築したのは見覚えがある女の子だ。ちなみに先の材料は大人の奴なので子供なためにもっと小さい。流石に呪力がやばいので、黒苺の飴を噛み砕く。

 診察台の上に寝ている一糸まとわぬ女の子。もちろん、動かない。魂がそもそも存在していない。人体構造は人形にされた人達を分解した時と、私自身の体を撤去したり構築したりしているので問題ない。そう、診察台の上に寝ているのは呪力によって構築された私のクローンだ。

 

「細部まではわからないし、内視鏡で見るか」

 

 服を脱いで自分の体内をしっかりと撮影して、それを基にして構築するものはしていく。女の子の大事なところとかも見て、しっかりと作り上げた。

 八日使って八体の私を作り上げた。それとFateのジャック・ザ・リッパーが持つナイフをイメージして鍛錬して構築した物も用意した。

 それらを使って私を解剖してより詳しく私という私を理解する。呪力で無理矢理作り上げた部分をこれにより、更に呪力が少なく構築できるようになる。出てくる血液は私の物なので出来る限り保存して輸血パックにしておく。

 解剖というか、解体することによってどんどん呪力がナイフに宿るけれど、女性特攻を持つ解体聖母ができるかもしれないのでよしとする。無駄なく余すところなく使えるし、いい。

 ちなみに解体したのは肉はミキサーで粉々にしてから大鍋に骨とかと一緒に入れて砕いた鬼の角と混ぜ合わせて煮込んだ。それを使って肉体を再構築することで呪力コスト削減と廃棄物が出ないようにする。

 

「流石にこんなの他人にはできないよねー気持ちわる」

 

 吐きそうにはなるけれど、死ぬよりマシだ。そもそも私が私を作って殺しているだけだ。問題ない。お姉ちゃん達にバレなきゃ平気平気。周りに停滞している残穢や呪力の濃度がやばいけど、ミシャグジさまや黒苺の飴にして利用しているから無問題(モーマンタイ)

 

「さてさてさーて」

 

 血塗れ診察台の上に寝ている私に拘束具を取り付ける。神便鬼毒の奴で、しっかりと地面に取り付け、ついでに爆弾も仕掛けておく。もちろん、高濃度に蒸留した神便鬼毒を注入した注射器も複数用意してある。針が通らなかったらやばいので、体に直接カテーテルを突っ込んである。

 

「行くぞー!」

 

 許可した鬼の角を頭部に突き刺します。構築して一体化させます。結果は……肉体が拒絶反応を起こして爆発した。鬼の力に耐えられなかったようなので、集めて何時もの工程を繰り返して体を強化する。

 

「骨から強化するか」

 

 鬼の角と同成分の骨を作り、骨格にしていく。今度は爆発しなかった。でも、暴れたので神便鬼毒を注入して大人しくさせる。鬼の呪力が強すぎる。丁度いい割合を探そう。

 

 

 一年かかった。私は私を数百単位で殺し、ついに作り上げた。おそらく特級呪具であろう酒呑童子のカチューシャと鬼の力を封印するための神便鬼毒の拘束具。

 カチューシャは鬼の呪力を身に纏い、外見を一部以外は変化させずに内面を呪力によって変質させる。

 瞳が真紅へと変化し、頭の左右から身長と不釣り合いに長くねじれた角が二本生える。運動能力や耐久力、再生能力など身体能力がかなり強化される。この再生能力は装着した状態に構築術式を自動で発動して元に戻すからだ。

 拘束具がないと戻れなくなるのでセットで運用しないと鬼化待ったなし。後、多分に素材として私が使われているし、私の体も改造してあるので私以外は使えない。双子であるお姉ちゃんは多分、天与呪縛で肉体が強化されているから使える。もっとデータを取って安全性を高めた物をお姉ちゃんに何れ送ろう。

 ちなみにこれらの副作用というか、なんというか……鬼の呪力が強くなるために残穢も私の物から変質するのでネームレスとして活動するにはこちらの恰好をメインに使おう。世界樹の迷宮のカースメイカーみたいな装備にすれば身バレも防げるだろう。

 

「よし、お姉ちゃんにリベンジだー!」

 

 裏工房(アトリエ)から外に出ると……バッタリとお姉ちゃんとエンカウントした。思わずダラダラと汗が流れてくる。お姉ちゃんの隣にはニッコリと微笑む悟パパ。その背後には理子お姉さんたちも居る。

 

「ど、どうしたのかな……?」

「御用改めだ」

「こ、ここには何もないよ……?」

「なんかやばい呪力が流れてきてたんだよね」

「それはこの特級呪具クラスのを作ってたからで……」

「そうだね。確かに特級クラスかも。おめでとう」

「ありがとう」

「そいつはどうでもいいんだ、真依」

「え?」

「それよりも私が気になるのは漂ってくる濃密な真依の血の臭いだ」

 

 やばいやばいやばいやばい! 

 

「悟さん、どうだ?」

「うん。僕でもちょっと引くレベルの事をやってたわ」

 

 いつの間にか悟パパが私の背後、裏工房(アトリエ)の隠し階段から上がってくる。やばい物は余すところなく使っているから大丈夫なはずだけど……

 

「見てよ、この複数のナイフ。何十人じゃきかないぐらいの血を吸ってるよ。他にも血塗れの実験室みたいな作業場や肉片も落ちてる。パソコンにあった録画データもやばいね」

「バカなロックが……」

「総当たりで解除したよ」

「プライバシーの侵害だ!」

「ちなみに嘘だよ」

「ま~い~?」

「ひぃっ!?」

 

 墓穴を掘って全部白状させられた。正座させられて説教を数日されてしまった。自分の身体を使った人体実験も禁止された。これクリーンで安全な方法だというのに……治験や人形にされた人を治すのに必要な事なのに……

 

「却下だ馬鹿野郎」

「とりあえず、もうお前は一人で工房(アトリエ)に入るな。誰かの監視下でやれ」

「そんなっ!?」

 

 お姉ちゃんに無茶苦茶叱られて心配され、泣かれたので致し方なく人体実験は封印する。監視は理子お姉さん達だから、まあ大丈夫だと思う。

 それと一番心にぐさりと来たのはお姉ちゃんに双子である真依を殺すことは私を殺すことでもあると言われた言葉だ。うん、もう自分ではしません。封印は封印でも永久封印だ。ただ呪術回路とかは作りたいから、そっちは呪骸でやろう。

 

 

 

 

 




本当にクレイジー。呪術師の中でも極まってる方。どちらかというと片月の根源を目指す魔術師っぽい。

真依のステータス
肉体:E
呪力:B
技術:B(戦闘C制作A)
術式:C~A

鬼のカ:肉体をAからEXへ。封印されないと戻れなくなる。
神便鬼毒の拘束具:鬼の力を封印して元に戻す。

五条先生は制作以外EX。適当な感じですが、五条先生には絶対に勝てません。


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真希

 真依は私の妹だ。生まれた時から常に私と一緒に居た。ただ、真依は私と違って何時もぼ~としてしていた。まるで見てはいけない物を見ているかのようだった。実際に真依は呪霊を見ていたようで、怖がって私から離れなかったし、私の服の裾を掴んで何時も一緒に行動していた。

 だから、私は真依を守ることが私の使命だと思った。いくら私が知らない事を良く知っているとはいえ、妹だからな。その手段として禪院家で認められるよう呪術師となることを決めた。真依に伝えると真依は変わった。

 私と違って呪術師としての才能がある真依は色々と術式を使って作ってくれた。それも自らの体を犠牲にしながらだ。私は心配で何度も止めたけれど止めてくれなかった。

 その後、呪霊討伐の依頼に出て後悔した。そこで出会った鬼によって真依が手足を失った。私は逃げるしかできなかった。だから、必死に体を鍛えた。私にはそれしかないから。

 それからしばらくして真依が用意してくれた。師匠である可愛いウサギの叔父さんは私と同じ天与呪縛によるフィジカルギフテッドだったらしい。彼に師事して激しい訓練を頑張った。色々な武術を教えてもらい、前よりも動けるようになったし、真依の銃弾を斬ることすらできるようになった。

 そのせいか、真依が泣いて拗ねて引き籠った。何やら一心不乱に呪具を作り出しているみたいだが、日に日に顔色が悪くなっている。心配しても聞いてくれない。ただ期待して待っていて……と、言うだけで聞いてくれない。真依の居る工房(アトリエ)に行っても居る時と居ない時がある。

 一年が経ち、いよいよ真依の様子がおかしくなってきた。悟さんにお願いして協力してもらった。その結果、真依はおぞましい事を行っていた。

 人形にされた人達を通して知った知識を利用して自分と同じ体を作り出し、その体を使って実験を繰り返していたらしい。体を切り刻み、トラウマになっているであろう呪物、鬼の角を作り出して植え付けていたらしい。

 何十、何百体もの自分を殺して作り上げた呪具としての鬼の角は封印用の呪具を使う事でコントロールできるらしい。

 確かに凄いことだが、真依が傷ついている事は許せないので徹底的に説教してやる。それでも反省しているのかはわからない。真依は強くなる事や呪具を作る事に関しては私の言う事を聞いてくれないし。それでも真依と双子である事を利用して説得したから、今回は少しは反省してくれているだろう。

 

「じゃあ、説教が終わったところでその呪具の性能チェックと行こうか」

「っ~~!?」

 

 悟さんが正座をしている真依の後ろから足裏をツンツンしている。真依はそれで悲鳴を上げないように耐えていた。

 

「ならやっぱり戦いか」

「そうだね。ま、ここじゃ無理だから行ってみようか。はい」

 

 気が付いたら目の前の光景が変わっていた。私達は悟さんによって何処か別の所に移動させられたみたいだ。周りを見渡すと、周りが山で囲まれている窪地だな。

 

「ここは家が持ってる土地で派手に暴れても大丈夫だよ。ここで真依ちゃんは僕と戦ってみようか」

「さっきの恨み、返してやる」

 

 震えながら立ち上がった真依を見て、私は一つ決めた。

 

「私がやる」

「いやいや、真希ちゃんが相手したらまずいでしょ。死んじゃうかもよ?」

「大丈夫だ。真依が私を殺すことはない。だよな?」

「当たり前だよ。むしろお姉ちゃんが死んだら私も死ぬ」

「なら大丈夫だ」

「ん~」

「お前が止めたらいいだけだろ」

 

 叔父さんの言葉に悩んでいた悟さんも納得してくれたみたい。

 

「それもそうだね。いいよ」

「うし!」

 

 真依の前に立つとすっごく不安そうにしている。自分が作った物がどんなにヤバイ代物か理解できているのかもしれない。

 

「なんだよ。私が相手じゃ駄目なのか?」

「だって、殺しちゃうかもしれないし……怪我させちゃうかも……」

「大丈夫だよ。僕が止めるからね」

「パパなら大丈夫か。ちゃんと止めてね」

「任せて~♪」

 

 軽く言ったけれど、悟さんの実力は本物だ。私の師匠である叔父さんも悟さんに殺されたらしいし。

 

「よし、やるぞ。来い、真依」

「ん。行くよ、お姉ちゃん……っ!?」

 

 真依が瞳を閉じると、痛みを感じたのか頭を抑える。すぐにカチューシャから捻じれた大きな角が生えていく。

 

「アレは明らかに頭蓋骨に入ってるのかな?」

「呪具を融合か寄生させているような物だろうが……」

 

 少しして、真依の瞳が開かれる。深紅に変化した瞳が私を見詰めてくる。そこに映るのは何時もの真依の感じじゃない。

 ニヤリと笑った真依から禍々しい巨大な押し潰すような呪力が放たれる。その呪力に覚えがある。

 私と真依が初めて呪霊を討伐しに大江山に行った時に出会った鬼の呪霊と同じ呪力だ。いや、それよりも巨大で禍々しい感じがする。体が自然に震え、嫌な汗がダラダラと流れてくる。

 

「あの時の鬼かな?」

「そう。奴が飲んでていた神便鬼毒を分離させ、純粋な鬼の力だけを抽出した。それから鬼の角を量産し、鍛錬して重ね合わせて精錬して作り上げた一品」

「明らかにあの時に感じた鬼の呪力よりも上だけど、何本使った?」

「きりよく一本に百本合わせてみた。つまり、鬼の角二百本分!」

「うん、君は馬鹿だね」

「馬鹿だな」

「ああ、大馬鹿だ」

 

 そりゃそんだけ使ったら、特級クラスの呪具にもなるし、真依の呪力が鬼の呪力で覆いつくされている。手足の枷の部分だけはちょっと薄いか? 

 

「あ、これ渡しておくね。私が暴走したら注射して」

 

 そう言って、真依が悟さんに注射器のケースを投げ渡した。

 

「中身は神便鬼毒を濃縮させて作った奴だから、それさえ打てば大人しくなる。成分と分量はしっかりと実験してあるから大丈夫だよ」

「この配分量とかを調べるのに苦労したでしょ」

「うん。頑張った」

 

 多分、何体もの真依が犠牲になっているんだろ。

 

「よし、それじゃあやってみようか」

「行くよ、お姉ちゃん」

「来い」

 

 私は真依に作ってもらった鍛錬用の鋼鉄製八角棒を構えながら、真依を見る。真依は楽しそうに笑ったあと、目の前に現れた。

 そう、目の前にだ。轟音と共に一瞬で。瞬きする暇すらなく、近づいてきていてギリギリ八角棒で真依の拳をガードする。

 

「流せ!」

「っ!?」

 

 師匠の言葉が聞こえて即座に条件反射で正面からではなく、横に流すようにして背後に飛ぶ。しかし、真依の一撃であっさりとへし折られ、私は錐揉みのように高速回転して吹き飛ばされる。空中で体勢を整え、地面に指を突き刺して削りながらようやく体が止まる。

 真依が居た所には足跡のクレーターが出来ていた。先程まで私が居た場所から少しずらすと真依が拳を地面に突きさして転んだ状態で巨大なクレーターの底に居た。

 

「大丈夫か?」

「それ、私のセリフだよ?」

 

 呆然としている真依に言った後、つっこまれた。確かに真依のセリフかもしれない。

 

「うん。これは駄目だね」

「死ぬな」

「真依ちゃ~ん。ちなみにそれ何%?」

「5%」

「なるほどなるほど。じゃ、僕が相手するよ」

「うぃ」

 

 私じゃ無理なので大人しく下がる。師匠を抱きしめて二人の戦いを見る。真依は悟さんを相手に殴りかかっていく。悟さんは顎に手をやり、肘をもう片方の手に置きながら真依の攻撃を受けていく。全くの無傷だ。

 

「もっと出せるよね?」

「うん。10%……あはっ♪」

 

 拳が音速を超えて轟音と共に悟さんに激突する。けれど、悟さんの身体に触れる前に止まる。それに対して真依は蹴りや拳などの乱打をしていく。

 

「20、30、40、50……」

 

 呪力の出力が上がっていくと、真依の体に変化が現れていく。爪が伸び、腕が赤い光に覆われていく。その光は段々と真依の身体中から発せられ、真依の瞳もどんどん凶悪な感じになり、笑い声をあげながら殴っていく。

 

「うん。ちょっと攻撃してみるね~」

 

 悟さんが攻撃すると、真依の腕が吹き飛んで背後の山肌が削れた。次の瞬間には真依の腕は再生していた。いや、再構築か。

 

「もっかい行くよ」

「がっ!」

 

 今度は腕が吹き飛ばされずに赤い骨が残った。そこから逆再生するかのように再構築されていく。

 

「これは骨も変えているのか。狂気の産物だ」

 

 真依は暴走状態のようで、暴れだしている。だけど、それを悟さんが受け止める。頭に手をやってこちらに来れないようにしている。ちなみに地面はどんどん削れて吹き飛んでいた。

 少しすると、真依の拘束具についている鎖が勝手に伸びていて真依の体を縛りつけていく。真依が苦しみだすと、赤い光が消えて鬼の呪力がどんどん小さくなっていった。最後にはカチューシャの状態に戻り、瞳の色も普段の真依の奴に戻った。

 

「アレだね。解放しても10か20が限界だ」

「それでも充分にバケモンだろうが」

「まあね。ただ技術がない。ただ身体能力に物を言わせて殴ってくるだけだ」

 

 筋肉痛なのか、悶え苦しんでいる真依を膝枕しながら話を聞いていく。

 

「そもそも、これ、狙撃を逃れて接近してきた奴へのカウンターと逃走用の奴だからガチの接近戦なんてやらない」

「は?」

「お前、その為だけにこんなのを作ったのか?」

「前、お姉ちゃんの動きが見えなかったのもある。援護できないし、視力とかをあげる必要があったからそのついで」

「ついででこんなの作るなよ……」

「大丈夫。お姉ちゃんのも用意するから」

「……」

「つまり、真依ちゃんの攻撃をやっとのことで抜けてきたら鬼の力でカウンターを決めるか、逃げるわけだ。それも煙幕とか爆弾とか使いながら」

「そう」

「敵からしたら滅茶苦茶嫌がるだろうな」

「本当だね~」

「戦いは敵の嫌がることをしてなんぼ。それに私はお姉ちゃんやパパ達と違って戦う者じゃない。造る者。道具を作り出すのがメイン。それを戦いに使用するだけ。サポーターでクリエイターなの。ファイターじゃない。戦えるだけの呪術師(錬金術師)なだけ」

 

 戦いの場に出るなと言いたい。でも、真依は絶対に出てくるだろうな。私が戦いの場に居たら確実に出る。

 

「まあ、宝の持ち腐れには違いないから、慣れていこうか。僕が定期的に相手をすれば大丈夫だろうしね」

「よろしく~」

「仕事の依頼もあるから、そっちもよろしく頼むよ。それと理子達のメンテもあるしね」

「ん」

 

 真依は手をひらひらさせてから、気を失うように眠りについた。やっぱり、私も一緒に住むのがベストだろう。いっそ禪院家に戻すか? 

 

 

 

 

 

 

 



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13話

 

 工房(アトリエ)の中にお姉ちゃんの悲鳴が轟く。お姉ちゃんと戦い、すぐに悟パパと力の調整をしてもらった。だいたい操れるのは10%ぐらいまでで、最高で20%ぐらい。それを超えると暴走することがわかったので戻ってきた。

 戻って来た私はお姉ちゃんと一緒に即座に工房(アトリエ)へと籠った。理由は簡単だ。

 

「ふざけんなっ!? やめろっ! やめるんだ!」

 

 両手を鎖がついた手枷に拘束され、天井にある滑車によって吊るされている愛しい、愛しいお姉ちゃん。

 お姉ちゃんは恐怖に震えながら体を揺らすけれど、足も私がつけているのと同じ枷を取り付けて足を開いた状態で拘束してある。

 

「やだ」

 

 お姉ちゃんの服を掴み、無理矢理破り捨てる。既に私との戦いでボロボロだしね。服から下着まで全部剥ぎ取る。

 

「真依! なにしやがんだっ!」

「綺麗だよお姉ちゃん。それにすべすべでぷにぷにだね」

「ひゃっ!? こそばゆっ」

 

 お姉ちゃんの肌に指を這わした後、採血を行う。それが終わればすぐに後ろを向いて引き出しの一つから道具を取り出す。

 

「や、やめろっ! それで何をする気だっ!」

「決まってるよ。こないだの仕返し……徹底的に調べてあげる♪」

「いやぁぁぁぁっ!!」

 

 お姉ちゃんの体を隅々までメジャーを使って計測し、触診していく。それらを全てノートに書く。

 書き終わったら、高品質な土蜘蛛の糸で作られたランジェリーをお姉ちゃんに着せていく。これは五条家で保管されていた土蜘蛛の呪物から糸を貰い、分解してデータを収集して私の呪力を合わせて構築した。もちろん品質を向上させてある。

 

「あ、もう拘束しておく必要もないか」

 

 ランジェリーの次に普通のゴスロリ服をお姉ちゃんに着せたのでもう問題はない。なので指を鳴らして拘束を解除する。

 拘束具がドロリと溶けて鎖を辿って私の所に戻ってくる。この拘束具は自由に動かすことができるし、形も変えられる。

 イメージとしてはFateに出てくる月霊髄液(ゔぉーるめんはいどらぐらむ)だ。と、いってもあそこまで自由度もない。できるのは勝手に動いて防御したり、神便鬼毒を投入してくれたりする。ぶっちゃけると、体に繋げてるだけのただの呪骸だしね。

 

「ま~い~!」

「似合ってるよ、お姉ちゃん」

「お前……」

 

 ちなみに私はジーンズとTシャツだけの簡単な姿だ。シャツは半袖でジーンズは普通の一般的な奴。どちらも私の呪力で構築してあるのでそれなりの一品……などではなく、こちらも土蜘蛛の糸が使われている。完成品ではなく、試作品なので品質はだいたい999まであるとしたら600ぐらいだ。お姉ちゃんのランジェリーは933くらいの奴。

 

「気持ちいい肌触りでしょ?」

「それはそうだけど……と、いうか、なんで拘束した!」

「だって嫌がって正確に測らせてくれないだろうし……?」

 

 小首を傾げてから、お姉ちゃんにお茶とお菓子を提供する。私は一人で工房(アトリエ)に入ることは禁止されたから、仕方ない。なのでお姉ちゃんを放置してお姉ちゃん用の武器を作るために鬼化して作業をする。鬼の呪力を使うことで色々と楽に作業ができる。

 私が頭部に使っている鬼の角を鬼の呪力を使って新たに構築し、それと鉄を大釜で煮込んで液体にして固体へと変化させる。その固体を熱して冷やして叩いていく。

 槌も金床も鬼の角を使って作った特別製なので出来上がった金属はたっぷりと鬼の呪力が取り込まれた金属になる。金属の名前は鬼神鋼と名付ける。

 これを使ってお姉ちゃんの新しい武器を作る。作るのは刀で私が師匠に習った鋼の神髄を全て込める。ついでに私の骨とお姉ちゃんの血も混ぜておく。後はひたすら心を込めて鍛錬するだけ。

 

「1にお姉ちゃんのため、2にお姉ちゃんのため、3にお姉ちゃんのため……」

「重いぞ」

 

 ひたすら鍛錬して鍛え上げた刀身を分解し、素材に戻して打ち直す。ひらすら繰り返して品質が上がったところをお姉ちゃんに握ってもらって修正し、また鍛錬する。完成した刀を分解し、複製したら今度は重ねて更に磨きをかける。最後は焼入れをして波紋を入れたら怪しい赤いオーラを出す刀の完成。

 

「可愛くないな」

「おい」

 

 刀身を少し掘って蝶々を入れていく。掘った部分には鬼の角と黒苺の種を粉末にしてから塗料と土蜘蛛の糸にある粘着成分を利用して埋め込んでおく。呪力を斬って力に変えるようにすれば問題ないだろう。

 

「どう、可愛くなったでしょ?」

「いや、刀に可愛さとか求めてねーから」

「むぅ」

 

 とりあえず、出来た刀を振るってもらう。重心とかも調整してお姉ちゃん専用武器として鍛え上げた。もちろん、重量も圧縮してあるので普通に重い。

 

「とりあえず、これで素振りでもしておいて」

「わかった」

 

 お姉ちゃんに適当な訓練用の重い金属を渡してから次に鞘を作る。こちらは神便鬼毒を吸って育てた木々と混ぜ合わせて鞘を作り上げる。これにより、神便鬼毒の効果で暴走した鬼の力を封じることができるだろう。鞘として刀の暴走を抑えるのならこれほどの物はない。

 

 


 

 

 本用は鞘に抜刀する時に加速させたりする機構を取り付けたかったけれど、そこまでの機械技術はないので今は諦める。代わりに鞘にも花の細工を施し、刀が収められている時は蝶々も映し出されるようにしておく。女の子が持つのにふさわしい一品だね! (なお、引き抜いた場合やお姉ちゃんと私以外が使った場合は考えないものとする)

 

「すいません、真依様」

「ん?」

 

 振り向くと、お姉ちゃんではなく美里さんが居た。いつの間にか交代していたみたい。それはそれとして、自分の腕をかかえている。

 

「取れました。メンテナンスをお願いします」

「わかった」

 

 死者の霊を用意した肉体に降ろしている関係上、呪力が切れたら体が崩壊する。依代である体が崩壊すれば魂も肉体に留まる事ができずに消滅することになる。この対策として、呪骸と同じく呪核を搭載してそこから呪力を消費することにしている。そのせいで定期的に呪核を入れ替えなくてはいけない。死人を維持するだけでコストが馬鹿みたいにかかってしまう。それこそ常に術式を使っているようなものだしね。

 

「そこに寝て」

「わかりました」

 

 美里さんに診察台の上に乗ってもらってから壊れている部分を再構築していく。

 

「あの、戦う力を手に入れることはできますか?」

「肉体の情報と魂の情報によって蘇生できているから、難しいけれど強化は可能かも。込める呪力を増やせばいいだけだから。でも、術式は使えないと思う」

「それでも構いません。今度こそお嬢様を守れれば……」

「ん。それじゃあ、少し改造しようか」

「お願いします」

 

 骨と筋肉を私が使っている物を彼女の肉体と同じ成分になるように構築し、心臓も構築した呪核を複数混ぜ合わせて作る。これで呪力がかなり増えるけれど、やっぱり戦闘はお勧めできない。消費と回復が絶対に釣り合わないからだ。

 

「出来る限り、戦わないようにね」

「わかっています。緊急事態の時だけです」

「それなら大丈夫かも?」

 

 護衛の戦力を作った方がいいかもしれない。呪骸を増やしていくのも手だと思う。機神兵ならぬ鬼神兵とかね。でも、呪該は呪核をやられたらそれで終わりだし……パンダ君みたいに呪核を複数搭載すればいいけどそんな簡単にはできない。普通は反発するしね。

 いや、私が作る呪核なら同一個体として作り出せばいけるかもしれない。どちらにしろ、データがたりない。やっぱり、パンダ君に会いにいくか。夜蛾先生には人形にされた女の子を人に戻すために技術提供をしあっているし、大丈夫だろう。

 

「はい、完成。メンテナンスも終わったけど、やばくなったら悟パパを呼んで降ろしてもらってね」

「わかりました。ありがとうございます。それと休憩なさいますか?」

「そうしようかな。もう呪力がほとんどないし」

 

 鬼の呪力を使っていたけれど、流石にもうない。だから、今日はここまでにして工房(アトリエ)から出る。工房(アトリエ)から出て、リビングに移動すると皆がすでにくつろいでいた。

 

「今日は私が用意したぞ。感謝して食べるがいい」

「理子お姉さんが……大丈夫?」

「大丈夫に決まってる。ちゃんとレシピ通りだし」

「私も手伝ったしな」

 

 今日の夕飯は理子お姉さんとお姉ちゃんが作ってくれたみたいだ。お姉ちゃんの晩御飯は自分で用意しないと家では用意されていないので、食べて帰るみたい。ちなみに今日の晩御飯はハンバーグカレーだった。もちろん、甘口である。

 

「真依。私、禪院家を出ようと思う」

「はい?」

「よし、了承が取れたな。私もここに住む」

「いやいや、待って。今、出られたら困る」

 

 そもそもお姉ちゃんが家を出たのって、中学を卒業する時だったはず。多分、あってるよね? 

 

「なんでだ?」

「私の人形はどうするの? ここに住むのは構わないけど……」

 

 すでに帳を使って禪院家の関係者に限定して認識阻害を行っている。それ以外の人は普通に入れる。もちろん、複数の帳を段階的に使う事で見つからないようにしてあるし、防衛力も高めてあるから他の人からみつかる可能性は低い。だからお姉ちゃんがここに住むのは別に構わないのだけれど……私としてはもう少しあちらに居てほしい。こちらの受け入れ準備が整っていないし。

 

「一緒に出たらいいだろ」

「そうしたら探されない?」

「それは……」

「お姉ちゃんの気持ちもわかる。私もお姉ちゃんと一緒に住みたい。だから、後一年から二年だけ我慢して欲しい。その間に大丈夫なようにするから」

 

 これは本当に思う。お姉ちゃんをあんな家にいつまでも置いておくつもりはないし、私としても一緒に住みたい。だから、準備期間の間に呪骸をもっと極めて遠隔操作で出来る私の偽物を作り出す。これにより、禪院家の連中をだまくらかす。

 

「一年から二年か……何をするつもりだ?」

「まず一年は別の場所で修行する。それと並行して呪具師として本格的に活動する。そうすれば禪院家の影響力が強いところから出て活動すればいいし、バレる可能性があるここに住む必要はない」

「……ここを出るのか?」

「一応、使うけれどあまり居ることにはならないかも。トラックを改造してキャンピングカーみたいにして、移動式の工房(アトリエ)にするよ。呪霊との戦闘で手足を失った呪術師も居るだろうから、その人達に新しい手足をあげてお金を稼ぐつもり」

 

 私の力で稼ぐのなら何がいいか。そう考えると呪具を売る事。でも、それだけなら他の人でもできる。そう思って思いついたのが呪術師は人数が少なくて殉職率が高い事。殺し合いをしているので怪我はとても多い。家入さんが治療できるので引っ張りだこだから、私も一部その仕事を代用しても客の取り合いにはならない。過剰供給されているわけだしね。

 つまり、私の目的はキャンピングカーで日本中を回って配置されている呪物を分解して再構築し、構造と構成物質を理解して量産すること。これなら呪物もちゃんと置かれているし、問題ないよね! 後、ミシャグジさまを完成させるための修行をしに洩矢神社に行こうと思う。ミシャグジさまへの信仰を私が作ったミシャグジさまへも信仰を貰っちゃうのだ。

 

「真依、本当に大丈夫なのか?」

「平気だよ。一応、五条家の後ろ盾を得てやる予定だし。それに特級クラスが来ない限り平気平気」

「なんだかフラグくせーな」

「叔父様も居るしね」

「俺をあてにするな」

「護衛だから残念でした」

「ちっ」

 

 叔父様の強化も考えておこう。新しいボディを作ろう。叔父様なら鬼の力だって普通に使いこなせるだろうし。叔父様が使う装備も考えておかなきゃ。ん~巨大化させる方法は呪力で構築すればいいし……そもそも私が鬼の力を使うより、才能がある叔父様が使った方がいい。よし、戦闘になったら鬼の呪力は叔父様に供給して巨大化させよう。武器もそれ用のを用意すればいい。やっぱり巨大な大鎌は鉄板だよね。

 

「なんだか嫌な予感がしやがるぜ」

「気のせいではないな! ところで私達はどうするのだ?」

「理子お姉さんと美里さんはついてきて。ぶっちゃけると、美里さんじゃないと運転できないしね。年齢的にアウトですし」

「あ~」

「で、美里さんが居ないと理子お姉さんはここで生活できる?」

「できる! と、言いたいがきついかも」

「一年くらい洩矢神社を中心に活動すると思うから、学校に入りなおしたらいいと思うよ」

「可能、なのか?」

「その辺の面倒なことは悟パパに丸投げ!」

「うむ。よきにはからえ」

「はは~」

 

 理子お姉さんと小芝居しながら、予定をくみ上げていく。お姉ちゃんにはお金を渡して色々な道場を巡ってもらうことにする。特に柔術や合気道なんかを中心に覚えてもらえばいいだろう。

 

「遺物とかあれば回収しておいてね。後で返すから」

「いいのか? まあ、返すからいいか」

 

 その場で借りるだけだしね。英雄達を召喚して師事するのもいいかもしれない。イタコが居ればそれができる。お姉ちゃんの英才教育を徹底的に施したらどうなるか、楽しみだ。とりあえず、大型トラックを改造を依頼しよう。

 お金は絶対にばれないインサイダーでいっぱいある。それに呪具の売り上げも多い。億単位のお金が転がりこんできてるしね。まあ、出費も億単位だけど。裏で取引されている呪物が高過ぎるのだ。裏ルートで流れているのを買い取って、分解して再構築してから高専に買い取ってもらっているけれど……出費が痛い。まあ、未来への投資と考えて今は諦めます。

 

 

 



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14話

 

 

 

 

 本拠地から長野県岡谷市川岸東橋原区(旧橋原村)にある洩矢神社がある場所に移動してから半年。色々とヤバイことがあった。具体的には私が取り込んでいた呪核がミシャグジさまと共鳴したのか、なんなのかは知らないけれど私の生得領域でご対面した。

 そこで鬼化してバトって体を乗っ取られたけれど一緒に来ていた悟パパが解決してくれた。それから色々と話し、洩矢神社の巫女として活動して頑張れば調伏に挑戦させてくれることになった。

 ミシャグジさまからの依頼を受けて色々とやることになり、手始めに老朽化していた建物などを分解して再構築した。それに御神体となりえる物も奉納したり、地域のお掃除をしたり、呪霊を祓ったり、普通にお手伝いしているだけだ。

 そんなこんなで半年ほど頑張って私の呪力をミシャグジさまに作った御神体などを通して奉納し、体内に取り込んだ呪核にミシャグジさまの呪力を注いでもらって混ぜ合わせていた。

 自己の肉体を改造しながら呪力を馴染ませるなんてもう何度もやってきたしね。まあ、逆に言えばミシャグジさまも私の体を使い易くなるってことなんだけど。そんなミシャグジさまとの戦いも悟パパが居れば問題なし! 

 と、いうわけで土地神であるミシャグジさまをゲットだぜ! ミシャグジさまも体は女で心が男の私を気に入ってくれたみたいだ。ミシャグジさまからしたら、私を通して呪力を得られるし、分霊を育てられるので式神となってくれた。そう、分霊。与えられるのは卵の分霊で私が育てないといけない。卵自体はいっぱいもらえるけどね。

 ちなみに式神として依代が必要なので呪核と私の体そのものが依代となる。そのために巫女としての修行も継続している。

 

「いや~まさか二度も土地神と戦わされるとは思わなかったよ」

「ありがとう。悟パパ♪」

 

 洩矢神社にある社務所の中で悟パパとちゃぶ台を挟みながら座ってお茶を飲んでいる。

 

「あ、これ請求書ね」

「お金取るの!?」

「当たり前だよ。まさか無料だと思った? しっかり、きっちり働いてもらうよ」

「は~い」

 

 受けとった請求書に書かれている金額は860億円。すごい金額が書かれてる。まあ、無理ないよね。

 

「ちなみに払えないよ」

「ゆっくりと払ってくれればいいからね~」

 

 ニコニコと告げてくる悟パパ。まあ、私ほど使い勝手の良い手駒は居ないしね。

 

「とりあえず、治して欲しい人が七人ぐらいいるんだけど……」

「欠損部位一つにつき一億でいいよ」

「取るね~」

「だって借金がいっぱいだからね」

「あと君の師匠が鬼鉄を欲しいってさ」

「出来た奴の半分でいいよ」

「とりあえず、試供品でね」

「どぞ~」

 

 渡してから貰った資料を見ていく。治療してほしい呪術師がかなり多い。五条家に関わる人達で怪我をして引退していたようだ。その人達を治療して人を増やすのかもしれない。

 

「私はここに居るから、血液と肉片をちょうだい」

「そう言われると思ってこちらに用意してあるよ」

 

 渡されたのはそれぞれタッパーに入った試験管に入った血液と肉片。あとタッパーの蓋には写真が張られている。

 

「じゃあさっさと作ってしまいますか」

 

 タッパーに入っている血液と肉片を分解して再構築する。新鮮な方が細胞とか色々と楽だからね。構成するDNAを覚えてしまえば後は楽ちんだからね。あ、良い事を思い付いた。

 

「あくどい顔をしてるけど、どうしたの?」

「いえいえ、別に問題ありませんよ。それより連れてきてくださいね。移動工房(アトリエ)は用意できたので、そちらで作ります」

「オッケー」

 

 

 


 

 

 

 次の日には連れてこれられた人を診察し、必要な部位を確認して細工してから構築する。しっかりと腕や足を取り付けてあげる。代わりに肉体と術式の情報に加えて呪力も頂いておく。貰った呪力を分霊の卵へと注ぎ込むことでミシャグジさまを成長させるわけだ。

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「定期的にメンテナンス……経過観察をするから、連絡をお願い」

 

 狭い大型トラックの中で椅子に座りながら、カルテを書いていく。ちなみに今の服装は偽装もかねて髪の色を紫にして、瞳の色を赤にした。髪型はショートカットでフリルの多い赤色をメインにした黒色や紫色で彩られたゴスロリを着て赤い花ヘッドドレスをつけている。花の中心には角を隠す感じにしてある。もちろん、手足に拘束具がある。その上から白衣を着ている。やっぱり、白衣は必要だよね。

 

「違和感があればまた教えて。と、言っても数日は仕方がないし、幻痛があるだろうから痛み止めを出しておくね。それと呪力の変化は私の呪力と貴方の呪力が混ざっている弊害だから術式の変化もあるかもしれないし、鍛え直すように」

「つまり、すぐには呪術師として活動はできないのですか?」

「無理。死ぬ。絶対に死ぬから止めて。と、いうか……戦闘しやすいように戦闘タイプに改造してあげてもいいけど、どうする?」

「え、それはちょっと……」

「ヘタレ」

「なっ!」

「ちなみに取り扱ってる装備はこちら」

 

 私が構築できるカタログを渡しておく。この中から使える奴を選んでもらう感じだ。

 

「私の呪力が入っているから扱い易いネームレス製の呪具がおすすめ。今なら二割引きで販売が可能」

「じゃあ、この十文字槍で」

「ランクは?」

「一級で。振込は口座で」

「毎度ありがとうございます」

 

 八千万ゲット。左腕、右足で合計二億八千万円。この分ならはやめに借金返済できるかも。それに色々と美味しいしね。

 

「お大事に~」

 

 見送ってから、教えてもらった術式を確認する。流石に悟パパも五条家に関わる術式を持つ者は渡してきていない。六眼なんてもっての他だ。だけどさ、今なら簡単に五条家の血を手に入れることができるんだよね。いや、既に呪霊化しているかもしれない。

 なら採血された奴を手に入れるしかないな。そもそもDNAが必要なだけだし、家に忍び込んで髪の毛とか手に入れたらいいや。確か、宮城の仙台市だったよね。とりあえず現状がわからないから会いに行くか。

 

「ご主人様」

「お見送りは終わった?」

「はい。その、一般の方の治療はしないのですか?」

「呪術師以外で?」

「そうです」

「うむ。呪術師は当然ですが、それ以外に手足を無くして悲しんでいる方は多いからな」

 

 美里さんと話していると、理子お姉さんが扉を潜って入ってきた。近所の高校に通っているので、学生服だ。どうやら授業が終わったみたいだね。

 

「ん~呪術師以外はお金次第?」

 

 お金が稼げるなら作ってあげてもいいけれど、弊害があるんだよね。まず私が構築した物は当然として私の呪力が宿るし、残穢だって残る。まあ、残穢は現状では私、真依と鬼の酒呑童子、ミシャグジさまの呪力が混ざって変な事になっているけどね。

 そんなわけで一般人に施すと考えられるのは呪術師に覚醒する。呪力を狙って呪霊に襲撃される。呪詛師に襲撃される。これぐらいはありそう。しかも一般人に施すということは私が呪詛師と認定されてもおかしくない。

 

「呪術界が正式に認めるならまだしも、個人的にはやらないかな。呪詛師になりたくないし」

「む。それはそうだな。すまない」

「まあ、呪術師に関しても問題がないわけではないですけどね」

「ん?」

「代金の収集がしっかりと出来るかどうかですね」

「ああ、支払い能力があるかどうかか」

「はい」

「私としては肉体と術式のデータが入ればそれでも儲け物なんだけど……まあ、少し考えてみよう」

 

 正直、五条家がバックについているから一億とか馬鹿みたいな値段で受けている。これは私が悟パパに借金があるからだ。他との差別化としては優先的に依頼を受けるということで問題はないだろう。

 それ以外の術師に関しては当然だが、呪詛師は受けない。ただ、呪詛師からも受けるとはデマを流す。治療に来た呪詛師を捕らえて術式や呪力を引っこ抜いて使える人材はオガミ婆のように更生させ、無理そうなら始末する。もちろん、情報は五条家を通して呪術界に渡すし、発信機と爆弾を取り付けて犯罪行為をしたら容赦なく殺す。

 いや、爆弾で殺すのは勿体無いから生命力を呪力に変換させて全てを呪核として引っこ抜くか。そっちの方が私にとって有益だし、それで呪骸を作れば呪術界の戦力が増える。

 後、支払いできない呪術師についてだけど、これは彼等が呪霊と戦うことを利用して稼いでもらおう。こちらから銃と弾丸を貸し出して呪霊を狩る時に止めをそれでさしてもらう。そうすることで黒苺と同じ性質を持つ呪核を生み出せるようにすれば等級に応じて借金を減額しよう。いや、呪核だと普通に売られそうだから黒苺の飴玉にするか。

 

「ん。稼いでもらう方法も決めた。これでちょっと運用してみる。私が狩りに出るよりも安全だし、大丈夫かな?」

「何を考えたの? どうせろくでもないことだろうけど……」

「失礼だよ、理子お姉さん。人類を守る戦力が増えるんだから皆がハッピーだよ。うん。間違いない」

「いいから言ってみろ~!」

 

 理子お姉さんに頬っぺたをぐにゃぐにゃされたので大人しく伝えたらドン引きされた。解せぬ。しかたないから、膝に乗ってきた白い石で出来た蛇のミシャグジさまの赤ちゃんを撫でる。

 

「まあ、いいんじゃねえか?」

 

 叔父様がロフトでピコピコゲームしながら適当に言ってくる。味方なのでよしとする。一応、護衛として上に待機してもらっている。まあ、基本的にゲームしているか、ネットサーフィンしているぐらいだけど。

 

「あ、負けた。金くれ」

「昨日、お小遣いを電子マネーで三十万あげたでしょ」

「それっぽちはもう溶けた」

「最低ですね」

「クソだな!」

 

 三十万を一日、二日で溶かすとか金銭感覚がおかしい。まあ、人の事が言えないんだけどね。とりあえず叔父様には競馬ゲームをやってもらっておこう。

 

「来週までお小遣いは無しだから」

「来週にはあげるのか」

「あげるんですね」

「まあ、それぐらいなら数秒で稼げますし……」

 

 理子お姉さんと美里さんからなんとも言えない視線を向けられまらしたが、まあ大丈夫です。よくあることですから。じゅ、呪術師に一般人の感性を求めてはいけない。

 

「ところで話を戻しますが、逃げられませんか?」

「小型の発信機を体内に埋め込んでおけば逃げられないでしょう。逃げるようなら裏サイトで懸賞金をかけてやります。叔父様、その辺りは詳しいですよね?」

「ん? ああ、覚えてるぞ。と、いうかアイツに頼めよ」

「それもそうですね」

 

 叔父様から教えていただいた仲介屋さんにアンダーグラウンドから呪具の買い付けとかお願いしていますしね。仲介料を抜かれますが、まあ問題ありません。

 

「呪詛師を使っていいのか? 呪術師だろ?」

「理子お姉さん。私は懸賞金をかけただけ。そして、こちらはターゲットの居場所はわかっている。さて、そうなるとどうなるかな?」

「ん? ん~? そりゃ、ターゲットを狙って呪詛師が集まってくる。私も狙われたからな」

「じゃあ、集まった呪詛師を正規の呪術師はどうする?」

「そりゃ倒す……あっ」

「撒き餌にするということですね」

「正解。まあ、生き残れたらお金は支払ってあげるよ。もちろん、追跡可能にしてね」

 

 どちらにしろ、呪詛師の所在地が把握できるから襲撃は可能だ。呪詛師は殺しても問題ないし、彼等は特殊な術式を持っている。なら、利用させてもらおう。

 

「この子を自由にして大丈夫なんでしょうか?」

「真希から頼まれたが、不安だ」

 

 美里さんが入れてくれた紅茶を飲みながら次の人を確認していると電話が鳴ったので、相手を確認して取る。

 

「はい」

『伊地知です。ご注文の品が届きましたので引き渡します。場所は何処がいいでしょうか?』

 

 相手は補助監督として働きだしている伊地知潔高さん。悟パパにいいように使われていく人だ。今から既にかもしれない。

 

「わかりました。宮城の仙台市でお願いします」

『はい。許可証などもお持ちしますので必ずご本人がお願いしますね』

「ええ、わかっています」

 

 電話をしながら美里さんを見ると、頷いて運転席の方へ向かっていった。

 

「どうぞよろしくお願いいたします。それと仕事があれば受けますので呪詛師でも呪霊でも用意しておいてください」

『よろしくお願いします!』

 

 電話を切ってから洩矢神社を後にするので、他の人に引き継ぎをお願いしておく。と、いっても理子お姉さんは残るのでお仕事は大丈夫だ。

 

「理子お姉さん。美里さんを少し借りますね」

「いいけど無事に返してね」

「もちろんです。私が運転してもいいんですが、何分届かないので……」

「駄目だから」

 

 流石に補助監督をつけるわけにもいかないし、五条家から人を借りるのも私が困る。なので美里さんだ。使い勝手の良い人を手に入れるべきなんだけどね。助けた人達は巻き込みたくないし……やっぱり高性能な人と変わらないような呪骸が欲しい。

 スパコンでも作ってAIを作るか。AIを搭載した機械を分解して理解すればどうにかできるかもしれない。人間の脳とスパコンを融合させればいい。失敗作がいくらできても再利用は可能なんだからね。うん、やっぱり夜蛾先生のところに行ってパンダ君を見てみよう。

 仙台市に行ったら、次はパンダ君のお宅訪問しよう。分解させてくれないかな、あのモフモフ。駄目かな? 駄目だろうね? まあ、とりあえず抱きついてモフモフを堪能したら改造させてもらおう。

 まあ、それよりも伊地知さんから受け取るドラグノフとヘカートⅡだ。弾丸とか設計図とかちゃんと用意してもらった。代わりに色々と政府に収めたし、五条家のサポートもあるので問題はない。何せ私のメインウエポンだから、お金に糸目はつけないのだ! 

 ドラグノフちゃんとヘカートちゃんに早く会いたいな。分解して再構築して品質を上げて魔改造して呪詛師や呪霊で試し撃ちだ。ああ、楽しみ♪ 

 

 

 

 

 




赤ロリ真依ちゃん。仙台市へそれが終わればパンダ君のところに。



パンダ君「くんな」


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伊地知

ちゃんとトレースできてるかわかりません。ごめんなさい。


 

 

 ネームレスに受け渡し場所として指定された宮城仙台市にやってきました。荷物は彼女に依頼された品物であるドラグノフ狙撃銃とPGM ヘカートII。それをゴルフバックとギターケースに入れて持ってきています。どちらも日本では所持する事が禁止されている物ですが、政府と制作会社の許可は取れたので問題ありません。

 

「はぁ……」

 

 五条さんの娘であるネームレス。彼女は五条さんの本当の娘ではありません。ただ、彼女がパパと呼んで五条さんを慕っているだけです。何処の誰かもわかりませんが、五条家の血が入っているのかもしれません。どちらにせよ名前をネームレス、名無しとしていることからろくでもない出自なのは確実でしょう。ただ、五条さんに頼まれて偽の戸籍は用意しました。スナイパーライフルやアンチマテリアルライフルを所持するためのライセンスは必要ですからね。

 詮索したらヤバイ事はわかっているので、詮索はなしです。幼い子供を戦場に出すのは心苦しいですが、力量はあの五条さんが認めているのですから年齢以外の問題はないのでしょう。それでも力の無いこの身を不甲斐なく感じます。

 

「彼女は戦いに出ずに呪具を作るだけでいいのですが……」

 

 良質な呪具を制作している彼女を危険に曝すよりも、高専などで匿って呪具を作ってもらっている方が安心できます。五条さんに何度言ったとしても聞いてくれません。

 

『本人の希望だからね~。それに心配ないよ。彼女は二級なら楽勝だから』

『それって一級クラスってことですか?』

『限定的だけどね』

 

 そう言って取り合ってもくれません。確かに彼女の年齢で一級の実力があるのであれば天才と言っていいでしょう。ですが、彼女から感じられる呪力はそれなりにあると思える程度です。それでも自ら作り出した呪具を使って呪霊を狩ったり、呪霊によって肉体を欠損した人に義足や義手の呪具を与えるなども行っています。それ以外の呪具は五条家を通して呪術高専に降ろしてくれていますから、こちらとしても助かっています。義手などは五条家の者が優先されていますが、五条さんの義理の娘として戸籍は登録してあるので当然でしょう。派閥としては五条家ですからね。

 考え事をしていると彼女から電話がかかってきました。車を運転しているので停車してから出ます。

 

 

「はい。伊地知です」

『伊地知さん。ネームレスだけど……』

「どうなさいましたか?」

『待ち合わせの場所を変更』

「は?」

『変更して。場所はメールに地図を添付して送ったからすぐに来て。じゃないとめん……大変な事になるかも。じゃ』

「ちょ!?」

 

 あっさりと切られ、思わず携帯を叩き付けようとして止めました。すぐに着信音が響いてメールが届きました。確認すると地図が添付されてあったのでそこに向かいます。

 

「五条さんに似て来てる……」

 

 最悪な想像をしながら待ち合わせの場所に到着しました。看板を確認する限り、そこは地下にあるクラブのようです。仕方が無いので車をコインパーキングで停車してゴルフバックとギターケースを持って向かいます。

 地下に降りて扉を開くと、音楽や喧騒が聞こえてきます。そのまま進んで幾つかの扉を超えて中に入ると、若い男女が音楽に合わせて踊ったり、お酒を飲んだりしています。煙草の煙が漂ったりもしています。

 

「失礼します。伊地知様でしょうか?」

 

 ネームレスの姿を探して辺りを見渡していると、店員の名札をつけたイケメンの青年が声をかけてきました。彼は気配を偽っていますが、明らかに堅気ではない人ですね。

 

「そうですが……」

「お嬢様がお待ちです。どうぞこちらに」

「はぁ……」

 

 ニコニコした表情で案内してくれる彼に従い、奥へと進んでいくとVIPルームの個室に到着しました。扉をノックすると、中から何も聞こえてきません。つけられている窓を店員が確認すると、扉を開きました。

 

「お嬢様は歌を歌ってらっしゃるようですので、このままどうぞ」

「ありがとうございます」

「それではごゆっくり」

 

 店員の人が去って行ったので中に入ります。中では幼い容姿をした……明らかに日本人ではない金髪紫眼の子が片手にマイクを持ち、もう片方の手に大きな黒い兎のぬいぐるみを抱きながら熱唱しています。曲はアニメのマクロスΔに出て来た物のようで、画面にはワルキューレがとまらないと出ています。

 

「いや、あわないでしょう」

 

 服装が青いエプロンドレスで、不思議の国のアリスをモチーフにしているのがわかります。しかもご丁寧に呪具で作られていますね。髪の毛は伸ばして染めているのかもしれません。瞳はカラーコンタクトですね。肌の色は……何かで変えているのかもしれません。どちらにしよ大変可愛らしい人形のような美少女です。

 

「遅い。美少女天才錬金術師を待たせるなんてひどいんだぞ☆ 歌い続けて喉が潰れるかと思ったんだからね☆」

 

 大変な事になるってそっちですか。

 

「無茶苦茶いいますね! 変更したのはそっちでしょう!」

「アレ、ツッコミはなし?」

「何度もからかわれていますからね」

「じゃあ、止めよ。正直キツイし」

「それならやらないでいいじゃないですか……」

「それはそれで面白くないし……どうせならロールプレイしてみたいし……」

 

 まあ、言っても無駄でしょう。とりあえず、荷物を置いてソファーに座ります。VIPルームなだけあって良い物を使っています。

 

「何か飲む? お勧めは飲まない方がいいけど」

「……」

 

 彼女の言葉に注文しようとメニューを取ったのですが、テーブルにおきます。忠告のように言ってくる時は必ず何かがある時だと思った方がいいです。五条さんは罠という時もありますが、彼女はそこまではいっていません。直に忠告してくださいます。

 

「……ところで、何故ここに?」

()()()()()()()だったから札束で殴った」

「なるほど、()()()通りですね」

「うん、()()()()()

 

 彼女が面白いというのは呪霊か呪詛師、呪具か呪術師が関わっている事でしかない。つまり、ここは私達の仕事に関係する何かがあるということです。

 

「それより、私が欲しい物、買って来てくれた?」

「こちらにあります」

 

 テーブルの上にギターケースを置き、少しだけ開いて書類を取り出します。それを彼女に渡し、読んでもらいます。

 

「ふむふむ」

「登録名は五条音夢。五条家が何かあった場合、責任を取る事になります」

「了解。まあ、妥当な線だね」

「はい。それと改造などは構いませんが、線状痕の変更をした場合は必ず届け出てください。もし届けていない場合は捕まります」

「うわぁ……」

「それと使用した弾丸の数も記憶しておいてください。こちらも提出してもらう必要があります」

「面倒」

「アンチマテリアルなんて物騒な物を頼む方が悪いんですよ」

「じゃあ、アンカーバスターやクラスターで我慢するよ?」

「それは我慢じゃありませんから!」

 

 確かに特級クラスを相手にするならそれぐらいは必要です。呪具にした後であれば必要はないでしょうが……

 

「販売はできる?」

「できません。改造の許可を取るだけでもかなり大変だったんですからね」

「素材は変えないと話にならないし、そこは頑張ってもらわないと……」

「わかっています。ですから、何とかしてきました。少なくないお金と呪具が必要でしたが、呪具に関してはよろしくお願いいたします」

「了解」

 

 使ったリストを渡すと、彼女は顔を顰めました。それもそのはずです。彼女が想定していたよりも交換した呪具の量が多いのでしょうし。

 

「ドラグノフはともかく、ヘカートはやはり厳しかったですね。それとその二つを呪具にできたら引き渡すよう依頼もされています。頼めるでしょうか?」

「強欲ね。それにこちらがやりたい事がバレているみたい」

「情報が漏れていたようです。国内にスパイが潜んでいるのでしょう」

「私の身が狙われる心配は?」

「あります。多分にありますが、五条さんに喧嘩を売るような物ですからね。ある程度は抑えられるでしょう。ですが、何人かは無理です」

「そいつらは好きにしていいのよね?」

 

 実験動物でも見るような瞳をしながら、ぺろりと舌で唇を舐める幼い少女。彼女から一瞬、恐怖を感じる。全身から冷汗が噴き出しました。

 

「ええ、正当防衛が認められますし、登録された呪術師でなければ好きにしてください。ただ一般人を使ってきた場合は……」

「一般人に興味はないから、殺さないように気を付けて渡すね」

「お願いします。こちらがライセンスです。身分証明にも使えるので持つ時や使う時はしっかりと肌身離さず持っておいてください」

 

 ライセンスも渡しておきます。彼女の顔写真と年齢がしっかりと書かれています。年齢は22歳で女性で階級は左官。特殊部隊に所属しても問題ない物になっています。ええ、政府が作った偽造とも言えない身分証です。しっかりと登録されるので問題ありません。対テロリスト部隊という扱いです。テロリストは呪詛師と言い換えて構いません。これは昔からあります。捜査権を得られる理由付けの一つとして扱われています。

 

「このライセンス、GPSとか入ってる?」

「さあ?」

「ふ~ん」

 

 彼女はあっさりとライセンスを両手に挟んで分解し、再構築した。一瞬の早業である。

 

「あの……」

「監視装置は潰しておいた。女の子に監視装置を付けるなんて駄目だぞ☆」

「あ、はい……言っておきます」

「お願いね☆」

 

 そう言ってから、彼女は兎のぬいぐるみに取り付けられているリュックサックに手を突っ込んで中から札束を取り出します。

 

「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ……あれ?」

「どうしました?」

「おかしいの。ここに入るのに二つ使ったけど、後八ツはあるはずなんだけど……」

 

 黒い兎のぬいぐるみがダラダラと汗をかいているのを感じます。二つ、つまり二百万を使ってここを借りたのでしょう。出された五つの札束を確認します。何時もの事ですから。

 

「おかしいな、おかしいね、おかしいですね。なんで? なんでかな? なんでなのかな?」

 

 黒い兎のぬいぐるみの耳を掴んで持ち上げ、ぬいぐるみと視線を合わせました。

 

「何に使いやがった。馬か? スロットはないよな? あの人と会った時、一瞬だけトイレにいった時かな? でも、電子マネーじゃないから買えないよね? だから持たせてたわけだし……まさか、頼んだの?」 

 

 黒い兎のぬいぐるみが顔を背けてこちらを助けを求めるかのような視線を送ってきます。

 

「うふふふ」

「あ~」

「おらっ!」

「ぐはっ!?」

 

 うさ耳を持ったまま壁に押し付けて何度も何度も殴ります。黒い兎のぬいぐるみは手を巧みに操作して受け止めて弾いていきます。しかし、段々と威力が増していっています。それに比例して頭のヘッドドレスに隠れていた物が伸びだしていますね。

 

「叔父様、叔父様。私、ちゃんと小遣いをあげてるよね? どうせ勝てないんだから賭け事なんかしないでよ。やるならゲームにしなよ。何度も私、言ってるよね?」

「ケチケチすんなよ。どうせはした金じゃねえか」

「三百万ははした金じゃないから! 車が買えるんだよ、車!」

「走った方が速い」

「それはアンタだけだぁぁぁっ!」

「いや、お前もだろ」

「まさかそんな……かもしれない」

 

 どちらも化物ですね、はい。普通は無理です。フィジカルの化物同士、相性がいいのかもしれませんね。

 

「だいたい少ないんだよ。月五百万は寄越せ」

「じゃあ、もっと働け」

「楽しい仕事を寄越しやがれ」

「オーケー、オーケー。仕事をたっぷりとあげる。伊地知さん資料ちょうだい」

「こちらに」

 

 仙台市に存在する呪霊が確認できたリストを渡します。言われた通りに調べて用意しておきました。

 

「これなら、先にこっちかな」

 

 怒りは収まったようで、ソファーに座って膝の上黒い兎のぬいぐるみを置いて頬っぺたを引っ張って遊びだしました。大変可愛らしい姿ですが、引っ張ってる力が半端ないです。

 

「お金が足りない分は後で渡すね」

「ええ、構いませんよ。振り込みでも問題はありませんが、念の為ですし……」

 

 そう告げた時、部屋の中に白い煙が入ってきました。

 

「火事ですかっ!?」

「ちがうよ。はい」

「あ、どうも」

 

 渡されたのは酸素ボンベ付きガスマスクでした。部屋の中に煙が充満する前に取り付けます。彼女も付けていますし、大丈夫でしょう。

 

「一番怖いのって呪霊より人だよね?」

「だろうな」

「ですね」

 

 しばらくした後、煙が床下の隅にある換気口から吸われていきます。

 

「あ、伊地知さんは気絶したふりでいいよ。叔父様は伊地知さんの護衛をよろしく。狙いは私だろうしね」

「任せておけ」

 

 黒い兎のぬいぐるみは私の懐に入ってきました。いつの間にか彼女の手にはもう一つの黒い兎のぬいぐるみが握られておりました。それとギターケースやゴルフバックが別物とすり替えられています。

 

「くれぐれも一般人相手に呪術は使わないでくださいね」

「大丈夫、大丈夫。フィジカルでぶん殴るから」

 

 既に肉体が凶器なのでそれも可能でしょう。彼女がガスマスクなどを消してからソファーに寝ころび、しばらくすると、扉が開いて店員たちが入ってきました。その後、彼女が連れていかれました。

 私も別の所に連れていかれ、何処かに監禁されました。二時間ほど暇をつぶしていると、外が騒がしくなり、警察が入ってきました。事前に通報されていたのでしょうね。

 

「警察です! 無事ですか!」

「ええ、ありがとうございます」

 

 警官の人達によって拘束を外してもらい、外に出ます。彼等に聞くと、ここで大規模な麻薬の取引や拉致監禁、人身売買があるとの事で、通報が女の子の声であったそうです。また警視庁のメールに私が監禁されている部屋の映像が流れてきて、事実と認定して突入したそうですね。この黒い兎のぬいぐるみがやったのではなく、部屋の隅に確認できた白い石で出来た蛇がやったのでしょう。電波は遮断しても呪力まで遮断できませんからね。

 

「銃声!?」

 

 地下から聞こえてきたソレと同時に建物全体が揺れていきます。地下からは膨大な量の呪力が感じられました。すぐに携帯を借りて連絡を取り、捜査権を貰い出ていってもらいます。

 それから黒い兎のぬいぐるみの指示に従って移動し、隠し扉を兎のぬいぐるみ蹴り飛ばして破壊しました。そのまま進んでいくと、エレベーターがありました。エレベーターに乗って移動すると壁際が牢屋になっている広いダンスホールのような場所に到着しました。

 牢屋の中には若い女性達が捕らえられており、薬でおかしくなっている人も居ます。ステージの方を見ればそこに上半身が裸の女性で下半身は蛇の姿をした呪霊が存在し、尻尾に店員であろう者達を捕らえていました。その上から白い石でできた蛇達もからみついています。

 その呪霊は身体中から植物の蔦を生やし、店員達と一緒に拘束されています。銃声が響き、呪霊の鱗が粉砕されて中には弾丸が食い込みました。そこから黒い蔦が生えてきます。

 銃声をした方を見ると、二階の席の手摺にドラグノフを乗せて構えている普段の黒髪に赤色のドレスを着たネームレスが居ました。彼女の周りには店員が倒れて気絶しています。彼等の身体には白い石で出来た無数の蛇が巻き付いて身体を拘束していますね。

 

「ほらほら、早く術式を出してよ。終わっちゃうよ? 私は射撃訓練が出来ていいけどね」

「GAAAAAAAAAAAAAAA!!」

「あ、外れた。首を狙ったのに胸にいった。惜しい」

 

 捕らえられている店員を一切気にせずに撃っていますが、呪霊にしか効果が無い弾丸を放っているようです。ですが、この距離なので普通に死にます。そういうのは白い石で出来た蛇が身を挺して守っているようですね。

 

「これはちょっと早かったかも。術式を出すまで成長してないか」

「そもそもよく気付きましたね」

「この子達を通して声が聞こえたの」

「そうですか」

 

 白い石で出来た蛇を撫でる彼女はまるで母親のようです。

 

「もう食べていいよ」

 

 ネームレスの言葉に呪霊に向かって一斉に殺到して噛みついて喰らっていきます。彼女が従えているあの白い石で出来た蛇からは莫大な量の呪力が感じられます。呪術師何人分かもわかりません。一匹一匹が最低でも二級はあるでしょう。

 

「叔父様、お花を摘むよ」

「面倒だ」

「三百万」

「ちっ」

 

 黒い兎のぬいぐるみが黒い茎から出てきた黒い花を回収していきます。それをネームレスが食べて顔を顰めます。

 

「まずい。もう一個」

「不味いなら食べなきゃいいじゃないですか。むしろ食べ物じゃないでしょう」

「これは彼女達の無念や怨念だから。しっかりと食べて浄化してあげないとね。そうしたら、きっと来世では幸せになれると思うよ。私が言うんだから間違いない」

「そうですか……そうですね。そうだと良いと思います」

「じゃ、後始末よろしく!」

「良い子だと思ったんですが、間違いでした」

「呪術師に良い子が居るわけないじゃない。何言ってんの。頭大丈夫?」

「デスヨネー」

 

 ネームレスは椅子に座りながらスケッチブックを取り出してペンで何かを書いていきます。どうやら魔道具の設計図のようです。早速、ドラグノフを改造するのでしょう。持っていた銃たちは既に分解されているようです。

 

「手伝っては……」

「叔父様、ミシャグジさま、手伝ってあげて」

 

 黒い兎のぬいぐるみと白い石で出来た蛇に手伝ってもらいながら後処理に来た人達に引き渡します。

 

「あ、呪術師になれる素質がある人、いたけど教える?」

「お願いします」

「この子とこの子で……」

 

 教えてもらった人達に話をして彼女達をマークしておきます。治療が終わってから、調査して適正があれば高専に連れていきましょう。無ければ監視だけして解放です。問題がありそうなら呪力を封じる呪具を渡します。

 

「あの、こちらの荷物は……」

「あ、私の荷物です」

「そうですか。では署の方でお話を伺えますか?」

「はい?」

「貴方の荷物から大量の麻薬が出てきました」

「ネームレス!」

「ああ、アレ、ただの白い粉よ。魔法の粉ね。気持ち良く、ヘブンになれるわ」

「やっぱり……こんな幼い子に……」

 

 手錠を持ってにじり寄ってくる警官の人達に壁際に追い込まれます。

 

「あの成分分析の結果がでました。確かに魔法の粉でした」

「麻薬だろ?」

「いえ、魔法の粉です」

「ねるねるねるねと混ぜて練れば練るほど美味しい魔法の粉よ」

「「「 ねるねるね~るね!」」」

 

 焦った。凄く焦りました。ネームレスはクスクスと笑っています。つまり、確信犯ですね。私をおちょくるためだけに白い魔法の粉を用意したのでしょう。

 

「……大変ですね」

「……はい……もっとひどい人が更に一人いますから……」

「あははは」

「伊地知さん、美味しい物を食べにいく。仙台市の名物は何?」

「それはですね……なんでしょう」

「それでしたら……」

 

 お勧めの物を聞いて食べにいきます。ネームレスが奢ってくれるそうですが、辞退して自分の分は自分で払います。流石に子供に、幼女に奢ってもらうわけにもいきません。これは大人として当然です。ええ、高価な場所なので財布の中身が寂しくなって少し泣きました。

 

 後日、勤労感謝の日に上質なスーツが二着、送られてきました。どちらも呪具で防御力と快適性が強化された物です。呪具としては低く見積もって二級、高く見積もれば一級の品物です。どう考えてみても数千万はする品物です。

 仕舞いたい、仕舞いたいのですが……無理です。何故なら添えられたメッセージカードにはこう書かれていました。

 

『仕事着にしないと祟る。具体的には胃を完膚なきまでに破壊するから。着なきゃ殺す』

 

 着るしかありません。流石に殺すは冗談でしょう。ですが、胃を破壊するぐらいはやってくるはずです。それに職人らしくしっかりと拘って作られています。いえ、これは名店にいるテイラーが作成した物を呪具に変えたのでしょう。どちらにせよとんでもない呪力を使っている事は確実です。

 私の安全を思って用意してくれたのですから、着ないのは失礼にあたります。それにまだそんな歳ではないですが、まるで娘や姪からのプレゼントのようにも感じてしまって嬉しくもあります。

 年末の忘年会で会った七海さんもネームレスから白いスーツをプレゼントされたようです。私と違って完全に着こなしています。ただ、五条さんは拗ねていました。私と七海さんにはスーツが送られたのに自分には渡されていないからです。

 

「音夢~俺にプレゼントは~?」

「え? パパにスーツ? いらんでしょ」

「ちょっ!? ずるいよ!」

「防弾、防刃、防水、消臭などなど刺されても無傷ですむスーツだけど、パパはダメージ喰らわないじゃない」

「そうですね。五条さんには必要ありません」

「ええ、そうですね」

「欲しい~! 俺も欲しい~!」

「子供か」

「ぶふっ」

 

 皆が笑い五条さんが更に拗ねます。そうしたら、ネームレスは唇に指をあてて可愛らしい声でおねだりをしました。

 

「私、パパの目が欲しいな~くれたらなんでも作ってあげる」

「駄目だね~」

「六眼欲しい。代わりのを用意するから、駄目?」

「だ~め!」

「ちっ」

 

 可愛らしい見た目に騙されてはいけません。彼女はイカれてる呪術師の中でも特にクレイジーなぐらいな子ですから。プレゼントで懐柔されてはいけません。何を要求されるかわかったものではありませんから。ただ、数年後に私は彼女に心から感謝する事になりました。このスーツのお陰で命が助かったのですから。

 

 

 

 

 

 

 




 真依ちゃんのオーダーメイド・白黒スーツ

高級店のテイラーに作ってもらったスーツを撤去して解析し、素材を土蜘蛛の糸にして特殊な液(呪力と鬼の血、鬼の角の粉末、着色料)で染め上げてあります。
身体能力強化、防刃、防弾、呪力耐性、快適な温度調整、服の自己再生、匂いの消臭が得られます。夏でも冬でも快適に過ごせる一品になっており、常日頃からスーツを着る人にとっては最高の一品です。ななみんもニッコリ。

五条さんもちゃんと真依ちゃんから貰えましたが、最初の一週間しか着ずに仕舞いこまれて真依ちゃん激怒一ヶ月口をきいてくれません。五条さんは甘味でご機嫌取りをしましたが無理だったので一級呪霊を数体献上して許してもらえました。
なお、二人の喧嘩に巻き込まれた伊地知さんは胃がやられましたとさ。


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