刀鍛冶師が行くネギま (金属粘性生命体)
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日記:1

息抜きです。他作品もよろぴく


 

 

 

 

○月✕日

 

 転生した。

 

 何を言ってるのか分からないだろうが俺もようわからん。目覚めたら謎の鍛冶場にいて、そこに置き手紙みたいな物で

 

「お前転生したから、よろぴく♪」

 

 的なことが書いてあった。

 

 

 は?

 

 

 

○月△日

 

 とりあえず周辺含め身の回りを探索してきた。そして分かったことと言えばここが京都なのと、よく分からん呪術師みたいなやつらがいること。

 

 そして俺が千子村正であること。

 

 ちょっと再確認してもよくわからなかったが、どうやらFGOの千子村正の姿、知識、技術、能力を持って転生したらしい。身体能力アホみたいに高いね、ひとっ飛びで家を越えれるとかなんか凄い。

 

 能力持ってるからか刀の投影ならできた。それ以外?なんか情報がないらしく、干将莫耶の刀バージョンみたいなのと、カリバーン、エクスカリバー、そしてローアイアスしか無い。十分だが、刀なら太刀、大太刀、短刀、野太刀とか様々なものを投影できる。もちろんあれもある。でも使ったら死ぬんじゃなかったか……?

 

 

○月□日

 

 お試しで刀を打ってみた。簡単に全ての動作ができた、凄い。

 

 なんか魔力みたいなもん纏った呪具みたいになった。

 

 なんで?ちょっとよくわから無いから何本か作って検証してみる。

 

 

 

○月♪日

 

 ひとつ分かったことは何かしらの想いを乗せながら打つと呪具とかみたいなもんになるらしい。

 

 恐らく一本目はワクワクした気持ちで打ったから呪具……魔剣でいっか、魔剣ができた。

 

 効果としては所有者を興奮状態にして、痛覚に関して鈍くする効果らしい……特攻用かな?

 

 それとここまで詳しく見れたのは恐らく村正の持つ『刀剣審美(A)』の効果だろう。お陰様で一目で見た刀の扱い方、能力、状態がすぐにわかった。これならなんとかやっていけるかな?

 

 

 

○月♡日

 

 とりあえず京都側の呪術師?の総本山らしき場所に赴いて、刀の押し売りでもしてみた。

 

 総本山としての組織名は関西呪術協会というらしい。マジで妖怪とかいるのね……というか羽生えてる人とかいるけど、珍しくないんだろうか?珍しくないんだろうなぁ。

 

 それと刀だけど意外と好評だった。

 

 神鳴流とかいう流派を扱うらしく、刀鍛冶師は結構喜ばれた。お試しということで、現当主の近衛詠春に「斬る」、それのみを考えて打った刀を渡してみた。銘は「断雲(ちぎれぐも)」。

 

 山に谷ができた。

 

 

 

○月☆日

 

 昨日の出来事に少々現実逃避してたが、頑張れば俺も出来そうだと体が理解しているが故に衝撃はかなり弱かった。そういえば2部後半のPVでエアーズロックみたいなもんぶった斬ってたしできるよね……

 

 てことでまぁかなり好評だったので、専属契約結んで定期的に刀を届けることになった。たまーに手入れの依頼とかも来るらしい。

 

 これで暫くは安泰だろう。

 

 

 

 

○月?日

 

〜〜

 

 

□月!日

 

 

〜〜

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 いつものように業務を終わらせ、少し休憩をしていた時。ある男がここ、関西呪術協会へ訪れてきた。

 

 部下曰く、刀の押し売りに来たらしい。

 

 しかし、このご時世に刀の押し売り?一体どんな男なのか、名前は聞いてないか、そう部下に聞いた途端、怪訝な顔になった。

 

「どうした?」

「いえ、ただ……騙っている可能性もありまして」

「? よく分からないけれど、教えてくれないか?」

「えっと、その男の名前は()()()()ということらしいです」

 

 千子村正。まさかまさかの刀鍛冶師としては上等すぎる名称。それは確かに部下が騙っているなどと思う訳だ。かの村正一派はおおよそ1660年程までは存在していたとされるがそれ以降は未確認。もしや今になって現世に出てこようと画策しているのだろうか?それかただの騙りか。

 

「……一度会ってみましょう。話はそれからでしょうね」

「いいのですか?」

「えぇ、会わなければ埒が明かない。村正を騙るものか、村正を継承したものか」

 

 もしかしたら当時の村正が出てきたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その男の第一印象は凄まじい、だった。その身に纏っている服は弓籠手と、戦国時代から飛び出してきたかのような裁着袴を履いていた。

 

 しかしそれはさほど重要ではない。問題なのはその身を覆う強烈な雰囲気であろう。その気配は寄せ付ける物全てを斬る様な威圧感、しかしその中に滾る鍛冶場を思わせるような熱気。もはや応対するためのこの部屋が、鍛冶場になったのかと錯覚するほどには凡人とは程遠い男がそこに座っていた。

 

(千子村正、それを名乗る人物ですから生半可な人物では無いと思っていましたが、これ程までとは……)

 

「ん?」

「初めまして、関西呪術協会現当主の近衛詠春と言います」

「おう、(オレ)の名前は千子村正。しがない鍛冶師だ」

「よろしくお願いします」

「よろしく頼む」

「それでご要件ですが、刀の押し売り、と言うことですが。本当ですか?」

「そうだな、こっちに来たばかりで金がねぇんだ、売ろうにも刀の需要なんざここぐらいしか付近になかったもんだからここに来たんだ。迷惑かもしれんが最近できた業物だ。お前さんの目に適う代物だと思うぞ」

 

 只者じゃない鍛冶師が言う業物。かく言う私も神鳴流剣士の1人。少し気になってしまい話を促してしまった。

 

 彼は脇に置いていた布で包まれた刀を持ち、解いてこちらに手渡してくる。

 

「分類は大太刀、銘は『断雲(ちぎれぐも)』。工法に関しちゃ固有のもんでな、教えることは出来んが頑丈でしなやか、刃紋を見て貰えりゃわかるが寸分の違いなく軟鋼と硬鋼を使っている。素材も完全天然素材で、純度はほぼ完璧の代物だ、どうだ?お前さんから見てそれの出来栄えは」

 

 思わず見蕩れてしまった。それほどまでに目の前にある刀は美しく、蝋燭の明かりで揺らめく刃紋に目を吸い付けられてしまう。

 

「……驚嘆です。現代でここまでの刀が打たれたとは信じられないほどに完成度が高いです」

 

 現在私が所有している『夕凪』よりも凄いかもしれない代物が、今目の前にある。

 

「ひとつ聞きたいのですが」

「ん?」

「あなたはこれからどうするつもりでしょうか?」

「そうさなぁ、ここで受け取った金を元手に材料買ってまた刀を打つかねぇ」

「ちなみに他にもこれと同じようなものがあるのですか?」

「ある。6本ほどだが、材料がなくてそれ以上は無理だった」

「また同じものを作ることは?」

「できなきゃ刀を打つものとして廃れる」

 

 これはここで逃しては行けない人材だ。

 

「村正さん、うちと専属契約、結びませんか?」

「……専属契約ぅ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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日記:2



 シン・エヴァ見てきたよ。

 良かったよ。

 映画見てきな。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

□月○日

 

 

 専属契約を結んでから3ヶ月経った。特に変化もなくってのもおかしいけれど、こっちの世界で確立した生活は比較的安定している。刀の値段は一本最低でも50万くらいする。魔剣だと最低1500万するらしい。ちょっと何言ってるかわかんないや。

 

 毎日としては刀打ったり、詠春の希望に沿った武器。槍やら弓やらなんやら作ったりしていたな。それと自分の娘の護衛役として雇った娘さんを紹介された。

 

 人間と烏族のハーフらしい。かなり綺麗な翼を持っていた。翼に装飾という名の武具を着けれないかなってちょっと画策してたりする。その話をしたら怪訝な顔をされた。しかしちょっと俺の持つ刀を見せたら引き寄せられるように懐いてきたな。

 

 しかしありゃ下手すると魔剣やら妖刀の類に魅入られてしまうんじゃねぇか?どうやら刀との相性が高すぎるのが原因っぽいな、詠春に気をつけるよう言っておこう。

 

 

 

 

□月□日

 

 

 この前話した妖刀云々の話で詠春の野郎が一本の刀を持ってきやがった。

 

 銘は、『再重(さいじゅう)』というらしい。これを所有していた人物は必ず何らかしらの災害に襲われ死ぬ、もしくは再起不能になることが多いらしい。なぜ持ってるのか聞いたら浄化、もしくは封印するために持っているとの事。

 

 で、そんなものを俺にみせて何がしたいのかと言うと、何とか出来ないかってことらしい。何とかできるとでも?と言いたいがぶっちゃけできる。てかできた。

 

 抜き放った刀身はボロボロで、何年も研がれていなかったのが分かったので、こいつを素材に新しい刀に打ち直してやったら妖刀じゃなくなったのだ。

 

 新しい銘は『最上(もがみ)』となり、所有者に防災に関するご利益を得るようになるといったふうになっている。

 

 なんで打ち直したら妖刀じゃなくなるかと言うと、要は呪われているという思い込みによる力と年代が重なったから実際に災害に見舞われるのだ。それを再誕させることにより転生し、転成したのだ。唐突に思い浮かんだ方法だったがよかったよかった。詠春も家の宝にすると言っているから喜んでいるだろう。

 

 

 

△月△日

 

 

 さらに数ヶ月ほど経った。しばらくの間忙しすぎてペンを取る事すら出来なかった。

 

 なんでかというと百鬼夜行が発生したからだな。しかも俺の家周辺で。お陰様で俺一人で対処することとなって、異界化した家で数週間ほど耐久戦闘していた。あ、いや、別に俺一人ではなかったが……実質一人だけであっただろうな。

 

 有名どころの妖怪ばかりで色々と疲れたが、まぁいい修練って感じになったかな。刀の扱いも今までの体に振り回されるのとは違い、文字通り自分で操れるようになったからむしろメリットが多かったな……いやデメリット多いわ。サーヴァントとしての特性もあったから食事とか睡眠要らなかったが、精神的にはかなりきつかった。

 

 もう二度と遭遇したくない。

 

 

 

 

△月Δ日

 

 

 お試しで西洋剣を作ってみたがなんかコレジャナイ感溢れるパチモンみたいな剣になった。だが意外と強度とか持ち心地は良いので、これはこれでアリなのかもしれない。名剣とまでは言わないが普通に良作となった。

 

 今後は他の武器も作ってみたいものだ。手裏剣とか、金剛杵とか戦斧とかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 不味い。不味い不味い。

 

「至急戦闘可能な人員を集めてください!村正さんの自宅が異界化した!百鬼夜行の発生だ!早く!」

 

 百鬼夜行が発生するなんて既に周知の事実であっただろうに、いつもの事だといつもの様にしていたらこの有様だ。

 

 村正さん宅とその周辺が百鬼夜行が発生する異界に連れていかれた。しかし、それだけだと私たちでも対処できるが、百鬼夜行による異界化はもっと違う。

 

「百鬼夜行による異界化された空間には手出しができない」

 

 そして中に存在する人が全滅するか、妖怪たちが諦めて帰る、もしくは殲滅されるかされる。それか1ヶ月間変化がなければ異界は開かれない。

 

「くっ……あの時、直ぐに帰らなければ良かったですね」

 

 今日、刀の手入れをお願いしに向い、仕事がある為後日受け取るために帰ったのが仇となってしまった。

 

「無事で居てくださいよ……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 眼前に迫る数多の狼の爪。思わず目をぎゅっと閉じてしまった。

 

 

 

 

 何故こんなことになったのか、発端は最近関西呪術協会と専属契約を結んだという鍛冶師の元にこっそりと忍び込んだことだろう。一度会ったことは会ったが、それでもその技量はわからなかった私はその家に忍び込んでしまったのだ。しかし、それがいけなかった。

 

 親に今夜は出歩くなと言われたのに、百鬼夜行が起こると言われていたのに私は外に出てしまったのだ。その報いがこれだと言うのなら……私は……わたしは……

 

「おう、嬢ちゃん」

 

 一向に痛みが来ないので不思議に思っていたら、恐らく私の目の前に立っているであろう人物から声をかけられた。

 

「無事だったかい……ん、意識もちゃんとある。全身は擦り傷だらけだが問題は無さそうだ」

 

 目を開けるとそこには専属契約を結んだという鍛冶師、千子村正という男が私の容態を確認するために膝立ちになっていた。

 

 しかしそれを隙と捉えたのか男の後ろに居た大量の狼──後に知ったが千疋狼(せんびきおおおかみ)という狼の群れの妖怪らしい──が一斉に飛びかかった。

 

 だがその群れは一瞬のうちにバラバラになり、男は既に立ち上がっており、右手に持っていた短刀には大量の血が着いていた。それはつまり今の一瞬で千子村正という鍛冶師が、戦闘すら出来ないと思っていた存在が私でも敵わなかった妖怪を相手を圧倒したのだ。

 

「ちっ、油断も隙もありゃしねぇ。ちったァ休ませてくれや」

 

 しかし、それだけで終わらないのが百鬼夜行。数多の妖怪によるお祭り騒ぎ、行列になって並ぶ大災害でもある。数ヶ月に1度ほど、十数体の百鬼夜行は発生していたが、この規模のものは数十年に一度だ。

 

「おっと、こいつァ俺でも知ってる。確か塗り壁とか言ったか?デケェだけでとろいな。斬り捨て御免ッ!」

 

 そういった途端男は目にも止まらぬ速さで抜刀。縦に両断された塗り壁。それを踏み台にさらにこちらになだれ込んでくる数々の妖怪たち。有名どころもいればマイナーな妖怪たちがたった一人の男めがけ襲いかかってきている。

 

「土蜘蛛に鵺、山姥に1つ目小僧。ろくろ首、一反木綿、河童までいるのかい。有名どころが多いが、(オレ)の知らねぇ奴らも多いな」

 

 全てが知名度で言うと最高クラスの妖怪たち。しかし目の前に立つ男はそれらを全て鎧袖一触。一太刀で飛び出してくる妖怪たちは斬られていく。そしていつの間にかそれに見蕩れている私がいた。なぜなら男のその動きはまるで舞の如く、火のごとく流れるように動いているのだ。尋常じゃない刀の使い手、しかも周辺に落ちている大太刀、太刀、短刀、打刀(うちがたな)、脇差、薙刀、長巻。様々な種類の武器を息付く暇もなく取っかえ引っ変え出使っているのだ。

 

 身惚れなければそれは剣士とは言えない。そう言えるほど、美しく、猛々しかったのだ。

 

「しっかし、いつになったらこっから出れるのかねぇ」

 

 見蕩れている間に男はこの居間に居た妖怪たち全てを斬り捨てたのか、こちらに歩きながら使っていた武器の血と脂を拭き取っている。

 

「刹那とか言ったか、この現象何か知ってるかい?」

「あ、えっと……百鬼夜行と言って大量の妖怪が異界の中で練り歩く現象で、す。それで、本来なら十数体しか出ないはず……なんで、すが。恐らく今回発生したのは数十年に一度規模のやつ……です」

「……ったァく。今日の占いが悪かったのはそういう事か。どうやったら終わるかは」

「異界の中の人が死滅するか、妖怪が飽きて帰るもしくは殲滅されるか。1ヶ月間異界が発生していたら自然と消滅、します」

「なるほど……」

 

 そう呟いたあと、男は驚きのことを行ってきました。

 

「殲滅するか。肩慣らしにちょうどいいだろうからな」

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから男は数日かけて家中の妖怪達を殲滅し尽くし、今回の百鬼夜行の発生原因。大妖怪、ぬらりひょんと一週間に及ぶ戦闘が終わり、ついに百鬼夜行が終わったのでした。

 

 そして無事なことが確認された村正さんは詠春さんに沢山謝られ、私はひとりで勝手に行動しないようにと、一時間ほどきつく説教されました。

 

 

 ……かっこよかったなぁ。村正さん。あの技、教えてくれないかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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日記:3

 

 

 

 

 

△月○日

 

 今日も今日とて刀を打つ。でも最近は色々と試していることがあるのだ。いわゆる刀に対する属性付与というものだ。

 

 刀に対して火属性やら氷属性なんてものが付与出来ればもっと戦法が広がるため急務になっている。詠春もなかなか乗り気のせいか色んな呪物とか持ってきてやがる。

 

 今日なんか特に酷かった。下手したら俺の家が丸ごと呪われるかと思うほどには強烈なやつだった。確か名称はなんだっけなぁ……

 

 そうそう【神便鬼毒酒(しんぺんきどくしゅ)】って言ったっけな。なんかどっかで聞いたことのある名前だ。

 

 

 

△月✕日

 

 昨日受け取った【神便鬼毒酒】をどうやって使えばいいのか分からんかったが、とりあえず焼き入れの時に水の代わりに使用してみた。

 

 刀が熔けた。

 

 は?

 

 

 

△月□日

 

 どうやら強力な腐食性が原因で鋼が持たないようだ。これは材料の段階から考えなければならないな。

 

 対腐食性ということを考えればステンレスなどがあるが、刀として扱うに少々強度が不安だ。これはかなり悩まされそうだな。

 

 詠春も首を捻っていたが、そういえばあれ使えるなら作れそうな気がする。ちょっと試してみる。

 

 

△月?日

 

 対腐食性という概念を付与した魔剣なら耐えることが出来た。これならいい刀が出来そうだ。ただ、どうなるかちょっと分からない……

 

 まずひとつ言えることがあるとしたら、なんかイヤーな予感がするのだ。

 

 

△月!日

 

 やっぱり厄ネタだった。

 

 しばらくは布団から起き上がれそうにもない。

 

 

 何が起きたのかと言うと、どうやら全力を持って打っていたらその反動と呪いの強さにより肉体が汚染されていたようだ。禊をしなければならないと言うが、「明神切村正」を脇に寝かせていたら楽になったのでしばらくは持つだろう。

 

 明日、滝行しに行ってくる。

 

 

 そうそう、新しく打てた刀の銘は

 

酒呑童子・紫(しゅてんどうじ・ムラサキ)】という。

 

 刀身が紫色に染まっていて、腐り切るという奇妙なことが出来る。鞘は【神便鬼毒酒】を保存していた瓢箪を材料に作り出した。後はこの刀からでる強烈な酒気に多くの人は酔うだろうな。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「以前に迷惑をかけないと決意したばっかでしょうに……」

 

 若気の至りなんて言葉が使えないほどには歳をとった、それはつまり失敗も成功も味わってきたということ。それなのに以前発生した百鬼夜行の件を糧に成長ができていなかったようだ。

 

「それにしてもこの刀。何やら奇妙な気配を感じますね?」

 

 村正さんに持っていった最上呪物【神便鬼毒酒】。酒呑童子を酔い潰したという強烈なお酒。それを用いた刀。良くもまぁ作り出すことができたものです。もはやこの刀、妖刀と化していますね。

 

「封印処置、した方が良いのでしょう。勿体ないですが、これはさすがに危険すぎます」

 

 鞘に入れていない限り周囲のもの全てを腐らせる。そしてありとあらゆる生命体を酒に酔わせる。これほど危険な刀はありませんね。

 

「明日封印処置しましょう。今日はその下準備ということで札の準備や──」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 夜、なにかに呼ばれる気がして目が覚めてしまった。一体何に呼ばれたのか、気になってしまった私は深夜に屋敷の中を歩き回る。

 

 恐らく私のことを呼んだであろう存在に近づけば近づくほど、何かの声が聞こえてくる。耳をトロトロに溶かし尽くすようなその声は、聞く度に多幸感に溢れていってしまい、徐々に歩きから走りに変わっていく。

 

 そしてついに見つけた声の主は刀から聞こえてきていた。

 

 たしかこれは村正さんが新しく打った刀のはず。妖刀と呼ぶに等しいと近づくなと言われていた。

 

 なのに私はフラフラと、誘蛾灯につられる蛾のごとくその刀に近づいていく。

 

『そうそう、こっちへ来とぉくれやす』

 

 ついに手に取れる距離になり、手を伸ばし。

 

『抜いてくれへん?』

 

 そして、刀を抜きはなった。

 

 

 

 

 

「ふふふ、偉う可愛い子やったなぁ。悪いような気もするけれど、しゃあないことやさかい。しばらくこの体、借るなぁ」

 

 

 

 

 もはやそこには淫靡に笑う少女が立つだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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日記:4




 お久しぶりです。今まで使ってたスマホがぶっ壊れて5年くらい前のボロボロスマホで執筆してます。

ちょっと性能が悪いので短めです。

書くだけで重いってどゆこと。


 

 

△月@日

 

 

 滝行に行ってきている間に何故か知らないが妖刀【酒呑童子・紫】が消えたらしい。

 

 同時に桜咲刹那、彼女も失踪したらしい

 

 

 ……確実に魅入られている。

 

 恐らく今回の一件はとんでもないことになり、見つかった場合あの刀も未来永劫封印されるか、破壊されるかされるだろう。

 

 だがそれは認められない。俺が作った()なのだ。使われた上で破壊されるなら刀も本望だろうが、ただ危険なだけで壊される。そんな理不尽は許されない、元来刀というものは人を傷つけるためのものなのだ。

 

 たかだか魅了する程度、(オレ)がかつて作った刀に魅入られるのと変わらない。ならば、ならば

 

 守ろうか。

 

 

正義の味方らしく

 

 いや、愛する人の為に。

 

 


 

 

 

 

 

 

 大江山その山頂にて、オレは立っていた。

 

「久しぶりだな、酒呑童子」

 

 その手にはつい先程作られた彼女の姉妹刀がある。

 

「久しぶりやんなぁ、マスター」

 

 そして眼前に立ち尽くすのは桜咲刹那の体を一時的に借り受けている酒呑童子。

 

「なぁ」

 

 久しぶりに会った知り合いとの会話のように、自然に浮かべてしまう微笑みを向けて彼女と向かい合う。

 

「なんや?」

 

 同様に愛しいものを見つめる様にこちらを見やる酒呑童子。

 

「こっちに、来ないか?」

 

 彼女を見た時から決意していたこと。

 

 今世からではなく、前世から想い続けた。

 

「無理やなぁ」

 

 落胆はしない。なぜならその答えは知っていた、いや、分かっていた。

 

 確かに見た目は借り受けているとはいえ本当の姿も少女だ。だが、それでもその本質は鬼なのだ。

 

 人から奪うことを悦楽とし、人を誑かすのを必然とし、人を殺すのを生き甲斐とする。本来鬼とはそういった存在だ。

 

「残念やろか?」

「知ってたからな、特に残念とも思わないさ。ただやるべきことが決まっただけだからな」

 

 そして鬼とは徹底的な実力至上主義。敗者は勝者に従う、それにどんな遺恨があろうとも鬼という存在は従うのだ。

 

「だからこそオレはこれからお前と戦うことになる」

「ふふ、やっぱし旦那はええなぁ。鬼というもんを理解しとる」

「ははは、それも踏まえてお前に惚れてるんだ」

「あら、そないな事言われると照れてまうわ」

「だからよォ……今は()で良いよなぁ?」

 

 顔に満面の笑みが浮かぶのを感じ、もう堪らないと言わんばかりに足に力を込める。

 

 村正なんぞ知らん、今だけは俺の時間だ。この愛おしい時間を味わうのは俺だ、お前(千子村正)ではない。

 

「ふふふ」

「ははは」

 

 それを見た酒呑童子もまた足に力を込め、自身の本体とも言える【酒呑童子・紫】を構える。

 

「ほな」

「いざ尋常に」

「やりましょか」

「参る!!」

 

 大江山、山頂にて2人の修羅がぶつかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、その様子を見て近衛詠春は顔を青ざめていたという。隠蔽、防御諸々の結界が破られそうで。

 

 

 

 

 

 

 







※主人公はロリコンじゃありません


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幕間【殺し愛】

アヴァロンルフェで心臓粉々にされたので投稿。


 

 

 

 横へと振るう、弾かれる。

 

 縦に振るう、ズラされる。

 

 突きを繰り出す、受け止められる。

 

「クハ」

 

 久しぶりの再会に喜びの感情が全身を支配する。それに呼応して右手に持つ刀も振動する。

 

「うーん?」

「……どうしたよ」

「嗅いだことのある匂いがするんやけど……色々混ざりすぎやない?」

「まぁお前に匂いだけで気づかれるのはちょいと都合が悪かったもんでな、匂いは誤魔化してるんだ、よっ!」

 

 魔力を刀に注ぎ込むと炎熱を纏った状態になった刀を振るいその延長線上にある山々ごと酒呑童子を焼き斬る。その一閃は強烈でその余波により酒呑童子の頬には一筋の傷ができていた。

 

 その傷より零れた血を酒呑童子は手の甲で荒々しく拭き取り……獰猛に笑った。

 

「……ふふ」

「あ、やっべ──」

 

 さて、ここで忘れてはいけないことがある。鬼とは一体どういう力を持つかだ。

 

 伝承では山を砕き三里の山を地面を砕きながら駆けると言われているらしい。ならば、鬼の首領である酒呑童子はどうなるのかと言えば、こうなる。

 

 

 

 酒呑童子が右手に持つ刀を縦に振るった瞬間5つほどあった山に一直線で巨大な谷が出来上がった。その一閃をギリギリで避けきった村正は冷や汗が止まらなかった。

 

「おいおい、少しは手加減してくれてもいいだろっ!」

「ふふふ、ほんまにおもろい人やわ。ここまで滾るような事をしてくれたのはそっちやろうに」

 

 そう言い村正が持つ刀に注目しながら笑う。

 

「斬られてようやっと分かったわ。それ、茨木やろ?」

「おうともよ。こいつぁ【尺骨・羅生門】ていう、茨木童子が所有していた骨刀を元に自ら切り落とした両腕を溶かして馴染ませたものだ。だからこいつもな……って何黙ってやがる。喋ればどうだ?久々の再会だろうに」

 

 刀身は赤とオレンジに染って、柄が黒ずんでおり炭のような匂いを漂わせている。打刀と呼ばれる種類であり、非常に扱いやすいが、その刀身は非常に高い温度を保っておりただの鉄では焼き切られるであろうことがわかる。

 

『い、いや。今の吾では酒呑に顔を合わせられん……ほっといてくれ』

「ありゃま、恥ずかしがってるなぁ」

「ふふふ、茨木らしいわ。それで、何ができはるん?」

「こういう事が出来る。やるぞ茨木」

『…………』

「おい」

『……分かった。少しだけだ』

 

 その言葉に笑みを浮かべ刀身に腕をさらけ出し、焼けるのを感じながらもそれで左腕の肘から先を切り飛ばした。しかしそのきり飛ばされた腕は地面に落ちず村正の眼前で宙に浮いていた。

 

「へぇ、それは確か茨木の」

「正直この技を使うのはまだ慣れ切ってないし、時間もないからな……今できる全力でぶちかます」

 

 全身の魔力を左腕に集約、右手に持つ刀を地面にー突き刺し右手を左腕の残った部分に添える。徐々に切り飛ばされた腕が燃え盛っていき……それは巨大な鬼の手へと関わっていった。

 

「ほなうちも本気で向い打ちますわ」

「宝具、擬似展開。魔力を全力で回せ……!ここら一体全て、焼き野原にするッ!」

 

 どこからが現れた杯と瓢箪を持ち酒呑童子は杯から酒を零す。落ちた雫は地面に触れた瞬間莫大な量の酒となり、津波となり村正へと迫っていく。

 

「本来とは違ぇが、焼き飛ばす!」

『合わせろ!』

「おうさ!」

『「『羅生門大怨起』ッ!」』

「溶けて、溶けて、死にはったらよろしおす……『千紫万紅・神便鬼毒』……旦那はんは骨の髄から魂まで全てウチのものや」

 

 

 

 

 

 

 衝突。

 

 

 

 

 

 

 

 酒の津波が焼かれ、周囲一体が燃え盛り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 酒呑童子の持つ刀は村正の手の中にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、酒呑」

『ただいま、旦那はん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後近衛詠春と共に山の修繕+街への記憶改変諸々やった。

 

 詠春の胃が死んだ。

 

 

 

 

 

 



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日記:5

 

 

 

 

 思わず眉間に手をやり、目を揉んでしまう。この事態は少々……いやかなり面倒なことになった。

 

「えー、もう一度聞きますが村正さん」

「応」

「そちらのお方は……?」

「酒呑童子だ」

「……はあぁ〜

 

 何を言ってるのか理解できるが、なぜそんな人物が今ここに居るのか。なぜ女性なのか、なぜ幼いのか、なぜ生きてるのか……もう全てがわけわからない……

 

迷惑かけてたのはこちらですが、バチがこうなるとは……っん。それで村正さんはそちらの、酒呑童子さんをどうしたいのでしょうか?」

「どう、とはどういう事だ?普通に迎え入れればいいじゃねぇか」

「そうは行きませんから、はい。神鳴流(うち)の事情的に言えば」

「あぁ、そういえばお前さんら退魔師とかいうけったいな存在だったか」

「けったいなとは失礼ですね。まぁ、事実胡散臭い感じはしますが由緒正しいのですがねぇ……ちなみに酒呑童子さんはどのようなお考えで?」

「うちは旦那はんの傍ならどこでもええよ?」

(オレ)もそうだな、こいつと一緒の方がいい……ってそうか。お前さんにはこいつの状態を話してなかったな」

 

 状態?一体どういうことなのだろうか。

 

「今こいつは仮初の肉体を持って生き返っちゃいるが、刀がなきゃこいつぁ生きて行けねぇんだ。付喪神って言えばわかりやすいか?」

「付喪神、ですか……確かにあれほどの古い酒ならばその可能性は十二分にありますね……なら、村正さんの式神としましょうか」

「どうせ面倒になったんだろう?」

「それもありますが、一番穏便に済むのがそれですから。本当に生き返ったのならば大問題でしたが、あの刀のように依代が必要とした存在ならば我々は意外と寛容なのですよ」

 

 最悪壊せばいいし、うちの身内にもそう言った特殊な式神持ちもいる。ただ、それが酒呑童子だと言うのが問題ですけども……ってなんですかその刀。いや、ちょっと嫌な予感が──

 

「じゃあついででこいつの説明も──「いえもう事情は」──こいつは【尺骨・羅生門】って言ってな。酒呑童子と同じように中には茨木童子が居るんだが、こいつも式神として扱っても大丈夫か?」

『な、吾に(なれ)の使い魔になれとッ!?』

「いや、前居たとこだと元々そうだっただろうに。元に戻るだけだ」

 

 ため息がまた漏れそうになるが今回は抑えることが出来た。そういえば大江山に行く前に何かを回収していたのを見ていたけども、それを使って作った刀なのだろうか……そうなんでしょうねぇ。

 

「まぁ……はい、分かりました。こちらで色々と対処しておきますので村正さんはしばらく休んでいてください」

「おう、行くぞ酒呑」

「ほな、またね」

 

 

 

 今後はかなり忙しくなりそうだ。刹那の処罰と鬼2人の復活、村正さんの刀も魔法世界(ムンドゥス・マギクス)で評価が上がっていますし、木乃香の進学先の問題も……恐らくほかにも何か問題が……あぁ、どうしたものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

$月★日

 

 酒呑童子と茨木童子が復活した。しかもオレが前の世界でやっていたFGOの、オレのカルデアの酒呑童子と茨木童子だ。酒呑童子はレベル100、スキルマ、フォウマ、絆レベル15、宝具5にする程気に入っていたサーヴァントだ。うちの主戦力であった。茨木童子は聖杯以外は全て酒呑と同じだ、とはいえレベル90にはしているから2個ほど入れている。

 

 で、どうやら彼女たちはサーヴァントとして顕現したらしい。英霊の座がこの世に存在したのか疑問に思ったが、どうやら存在しないらしく、今ここにいるのは刀を依代……英霊の座の代わりにして召喚されているとのこと。もしや、この世界ってオレのサーヴァントめちゃくちゃいるのか?

 

 聞いてみたら居たらしい。えぇ……?オレは2部後期OPが発表された後ぐらいしか記憶が無いから、多分それまでの……オリュンポスまでのサーヴァントは存在するのだろう。

 

 

 うーん、ギルガメッシュもいるのか、存在しているのか。生きているのか……まぁあいつのことだし、見届ける為にどっかにいる可能性も否めないんだよなぁ。

 

 

 

 それと彼女達のスペックだが、霊核に聖杯が融合してるから魔力はほぼ無尽蔵とのこと。てことは酒呑童子は聖杯5個分の出力、茨木童子は聖杯2個分の出力を持つのか……と思ったらどうやらオレにも融合されてるらしい。しかも聖杯じゃなくて大聖杯が。

 

 

 

 え?

 

 

 

$月∀日

 

 

 どういう訳かやっとわかった。そういえばオレの体って一応サーヴァントとほとんど同じなのだ。霊体化できるし、スキルも宝具使える、食事も睡眠も必要ない。だけどこの体を維持する魔力はどこから来ているのか、それが不明だったんだが……まさか大聖杯と融合しているとは。

 

 だけどコレのおかげでオレは存在できているのだ、感謝はするけども……なんで最弱英霊(アンリマユ)も中にいるんですかねぇ……?

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、マスター」

 

 微睡みの中、声が聞こえた。

 

「おーい、聞こえてるかー?食べちゃうぞ?」

「……あ、あぁ……そういうお前さんはアンリマユ?」

「おうよ、皆さん大好き最弱英霊のアンリマユさんですよっと」

 

 周り全てが真っ暗闇の中。より黒い男の子がそこにいた。全身には様々な紋様が刻まれており、赤い腰布を纏ったみすぼらしい少年だ。

 

 彼が、彼こそが悪であれと、呪われて死んでいった哀れな英霊。もはや英霊ですらない最弱のサーヴァント……アンリマユである。

 

「それで、今になって出てきた?(オレ)がこの世界に来た時に話しかけてくれたって良かったじゃねぇか」

「仕方がないだろ?今の今までオレは起きてなかったんだからよ。一応マスターの中に居たから事情とか諸々は知ってはいるけどな」

「そうか。じゃあ仕方がねぇ……それで?今のお前さんは何が出来るんだ?」

「なーんにも、今の所はマスターの中にいるしかないさ。だけど呼んでくれりゃオレも外には出れるぜ?最弱たるこのオレが必要になるなんて思わないけどな!」

「それでも並の人よりは強いし、お前さんの強みはその粘り強さに速さだろうに……後は(オレ)の中にある大聖杯、あれは汚染されていないが、どういうこった?」

「ありゃあオレより融合しきってるマスターが居るからだな。いなけりゃ汚染されてるさ……こんぐらいか?聞きたいのは。じゃあ起きる時間だ、話しかけたい時は寝る前に呼びかけてくれ、それか現界させてくれよ」

「あぁ、相談相手ができたのはこっちとしてもありがてぇ。じゃあまたな」

「また、な」

 

 

 

 


 

 

 

 

「いっしし、あれが本来のマスターか」

 

 ちょっと拍子抜けしたが、カルデアに居た頃とほとんど変わっちゃいない。いや、オレたちからすりゃカルデアだがマスターからするとゲームなのかね?

 

「そこは難儀な所だけど……人理修復を共に過ごしたマスターなんだ、大目に見てやるよ」

 

 たとえ思い出がゲームだとしても、マスターはマスターだ。オレはだからこそ力を貸した訳でな。

 

「オレは確かに最弱英霊だけどな、マスターの期待に応えるにはオレ以上のサーヴァントは居ないだろうよ」

 

 最弱(最強)だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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日記:6 あと移動

 

 

 

∀月●日

 

 酒呑童子復活から一年経ち、今年で1997年らしい。

 

 らしいというのは単純にオレたちがずぼらで把握していなかったからだ。この前の正月祝いでやっとその事を知った。てことはオレはこの世界に来てからおおよそ……1年近く経っているのだ。少し感慨深い物がある。

 

 その間にもやはり刀を大量に鍛造していたのだが、どうやらこの日本の地にいる魔法使いの首領であり詠春の父、近衛近右衛門がオレの腕前に惚れ込んだのか会ってみたいという話が上がったらしい。

 

 どうやらそれだけでは無さそうだが……

 

 

 

 

 

∀月♂日

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

∀月♀日

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

∀月〒日

 

 

 近衛近右衛門とか言う奴の面会依頼が正式に通ったらしい。だが話を聞く限り余り歓迎されていない模様。何故だろうか?

 

 

 酒呑が話を持ってきてくれた。酒の席で色々と聞いてくれたようだ、ありがたい。

 

 

 どうやら魔法使い達は過去に【魔法世界(ムンドゥス・マギクス)】とやらで戦争をやっていて、そこに参加することになった日本陣営……陰陽師達とかが数多く死んだというのになんの保証もなく、謝罪もないらしい。同盟関係だったのに蔑ろにされた+戦死者の遺族達の恨み。後は日本の領地を勝手に乗っ取った恨み等が加算されて険悪な雰囲気になっているとの事。一部の人達はその恨みで、日本の魔法使い達の本拠地と言える麻帆良に襲撃したりしているとの事。しかも魔法使いたちは容赦なく襲撃者を殺しているから、そこから来る恨みも積もっている。

 

 思ったより重い事情で驚いた。そこに何故オレが行くことになったのか不思議だがまぁ……了承してしまったからには約束を守るのが大事だろう。酒呑は刀として同行、茨木はお留守番だ。理由としてはどうやら桜咲を気に入ったらしく頻繁に和菓子をたかりにオレの部屋に2人でよく来るようになった。しかもちゃんと鍛錬にも付き合っているとの事だから離れ離れにするのもあれだろう。仲良くやってくださいな。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「久々に京都から出るな……いや、こちらに来てからだと初めてか」

『うちも初めてやわ。麻帆良ちゅう場所はどないな所やろか』

「魔法使いとやらが多く居て、どうやら(やっこ)さんらは正義の味方を目指しているらしい」

『は〜、そりゃけったいな。イマドキそないな事目指して何しはるん?』

「知らないが、まともだといい」

 

 新幹線のグランクラス。要は最高のおもてなしがされるお高い席にオレは座っていた。ただ、周りには余り人が居らず小声で話せば周りに気づかれず酒呑と話す事が出来る。

 

「しっかし、こんな鍛冶師に何の用だか。オレが出来んのは鉄を打つことぐらいだってぇのに」

『そら流石に謙遜すぎやない?鬼の首領であるうちとやり合えるんやし、自信持ったらええのに』

「そりゃ対外的には無かったことだ。オレが──」

 

 楽しく酒呑と会話していた最中、突如として周囲の人の気配が消えた。流石にこれは違和感が凄いし、何となく心当たりもある。

 

 ()を開き本来なら視認できない気を見えるようにし……見つけた。

 

「あそこに呪符がある、酒呑」

『ほな』

 

 周りに誰もいないので誰はばかることなく酒呑が刀から霊体を出し、実体化する。そしてオレが指さした先にある呪符を酒気で溶かし尽くした。

 

「ふふふ、脆いわぁ」

「そう言ってやるんじゃねぇ。お前さんの酒気は少々呪われすぎてる、ただの呪符程度じゃあ耐えきれねぇよ」

 

 鬼の首領である彼女の身は存在するだけで呪いの一種に近い。周りの全てを酒で魅了し、堕落させることも可能なのだ。ただし、理性の無い獣にする程度だが……

 

「しかし、何が目的だ?大体は分かりきっちゃいるが、人を寄せつけないだけか?」

 

「それは貴様が我々が登場する前に呪符を破ったからだろう!」

「これはこれは……ふふ、随分と可愛らしゅう子が出てきはった」

「……子供、か」

 

 声が聞こえた方に視線を向けるとそこには凡そ10代前半の子供がこちらを睨んでいた。その周囲には顔を何かしらの布で隠した護衛らしき男が3人、刀を抜きこちらを睨みつける女性が更に1人居た。

 

 それぞれ表情や雰囲気ではこちらに対して怒りを抱いているのがわかった。

 

「……お前さん、名前はなんだ?」

「なっ!?失礼なこのお方が誰か──「知らねぇよ」──くっ」

 

 女性が食ってかかってきたが聞きたいのは子供の名前だ。その身に溢れる清浄な雰囲気は恐らくだが……

 

「いいだろうよく聞くが良い!」

 

 尊大な態度に手を挙げ声を張る子供。

 

「余の名前は安倍麻知(あべのまち)!かの安倍晴明の子孫が一人だ!」

「あぁ、女児だったのかい。それで、なんの用だよ」

「ふん!余の性別など関係あるまい。余はな家族たちを犠牲にした魔法使い共と仲良くしようなどという愚行をする貴様を誅殺しに来たのだよ」

 

 思わず手に投影していた刀を下ろす、こいつを見ているとなんかやる気が起きないのだ。

 

 何故だろうか、目をはっきりと見つめてみる……なるほど、ね。

 

「お前さん、ひとつ聞きたいんだがよ」

「……なんじゃ」

「お前さん本人が魔法使いを恨んでるのかい?」

 

 その瞳には憎悪という物が足りなかった、嫌悪が少なかった、怨恨というものを孕んでいなかった。そしてそれらを感じるのは、隣に立つ女性と顔を隠して分からないが身に纏う雰囲気から相当の恨みを持つ男2人からなのだ。

 

「どうにもお前さんは魔法使いというものを恨んじゃいないらしい。その反面でお付きのテメェらからは心の底からの憎悪を感じる。大方お前さんはその三人の建てた計画を実行するために協力しに来たって感じだろう。違うか?」

 

 そう言ってやると目に見えて動揺を露わにする安倍麻知。どうやら図星のようであり、年齢故か隠すということが出来ていなかった。

 

 そして残り3人はその言葉を聞いた瞬間、殺意を全身から滾らせて各々が刀剣、槍、短刀を構えいつでもこちらに飛びかかれるような姿勢へと変わった。

 

「……なぜ、なぜ分かった?」

(オレ)の眼は元々特別性でな、本来の用途じゃねぇとはいえ宿業やら因果やらを見抜くことが出来んだ。それ以外としちゃあ……勘かねぇ。ま、なんであれテメェらは反省しておきな!」

 

 会話している最中に襲いかかってきていた3人のうち男二人を酒呑が一撃の元に叩き落とし、女1人を投影したハンマーで短刀をへし折り首を掴みあげる。

 

「トロイわぁ。もうすこ〜し早う出来へんの?」

「ぐっ!?」

「がふっ……!」

 

「かひゅっ!?」

「すまんな、儂だって本来はこんなこたァしたくないんだが、テメェらが襲いかかってきたのが悪いからな」

 

 そのまま地面へと叩きつけてやり眼前へと投影した抜き身の刀を突き刺す。酒呑は叩き落とした2人に酒を嗅がせ酩酊させて正常な思考を奪っていた。

 

「ひとまず黙っておきな……さて、嬢ちゃん。お前さんは何がしたい?こいつらを助けるために、何が出来る?」

「何を……」

「忘れちゃあいけねぇ。元々儂が麻帆良の地へと向かっているのは詠春からの依頼みたいなものだ。分かるか?お前さんらは関西呪術協会の長たる近衛詠春を裏切ったんだよ。なら安倍麻知の部下もしくは家族であるこの3人の処遇がどうなるかは分かるな?」

「……ッ!」

「だから聞いたんだよ、何が出来ると。おそらく詠春の事だから麻知、お前さんは無事に事が終わるだろう。そんなお前さんは、この処罰されるであろう3人のために何が出来る?」

 

 そう問いかけるも口が開けない様子の安倍麻知。幼く、立場がまだ弱い彼女が何が出来るのか、それを今は必死こいて思考しているのだろう。

 

 そこに無粋な言葉が投げかけられる。

 

「姫さ──」

「黙れ、今はテメェらが口を挟む状況じゃあねぇんだよ」

「しかしっ!姫様には関係ない話!我らを処罰するだけで──」

「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ!」

「──!?」

 

 思わず怒号を上げてしまった。あまりにも愚かな事を抜かすこいつの言葉を聞いて感情を抑えられなくなってしまった。

 

「あぁ!?関係ないだァ??馬鹿にしているのかテメェは!こうなったのはテメェらが嬢ちゃんを私怨でここに連れて来たからだろうが!やるならテメェらだけでやりゃ良かったんだ!どうせ免罪符にしようだとかそんなことを考えてたんだろうが!嬢ちゃんの良心につけこんでこんなことをしやがってよォ……!」

 

 思わず刀を握る手に力が篭もり、拵えを付けていない柄の部分を握りつぶしてしまった。それを見て少しエスカレートしすぎたから、一つ息を吐き冷静になるように目を数瞬閉じる。

 

「ふぅ…………まぁいい、今回のことは黙っておいてやる。とっとと帰りやがれ」

「ッ!?余は答えを返せておらぬぞ!」

「一つ貸しだ。それでいいだろうよ。行け」

「しかし!」

「行け」

「っ……すまぬ……」

 

 刀を抜いて女を解放してやり、その場から少し離れる。

 

「ほんまに良かったん?こない簡単に見逃して」

「はん、別に儂達になんか被害があったわけじゃないからな。元々ことを大きくする気はなかったんだ。ただ、あの女の考えに腹が立って怒っただけだ」

「……じゃあうちも気にせんとく。それでええんやろ?」

「あぁ、悪いな」

「ふふふ、うちと旦那はんの仲やないか。気にせんといて」

「なぁにが儂とお前の仲だァ」

「あら、ちゃいますか?うちはとっくのとうに恋人やと思たんやけど」

「……お前さん、そんなこと考えれたのかよ」

「失礼やわ、旦那はんは。夜の方の伽もしてはったのに」

「うぐっ……すまんな」

「ふふふ……」

「調子狂うなぁ……」

 

 

 

 

 






うちの酒呑童子は純愛風味で行きたいと思います。殺し愛もしますけどね、それもまた純愛よ……


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