サクラサクシアワセ (ソカ)
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プロローグ―物事の始まりは―
プロローグ ~百花繚乱な桜の中で~


『ぼく』はこの自然溢れる場所が好きだった。虫がいっぱいいて、川が流れてて、おっきい山があって……なにより美味しい空気が好きだった。

 お父さんの方のおじいちゃんおばあちゃんの家に遊びに行ってぼくは時間を忘れて毎日毎日遊びつくした。

 だからだったのかな……。こうなっちゃったのは。

 

「ここ……どこ……?」

 ぼくは偶然見かけたアゲハチョウを朝から追いかけていたんだけど、見失って気が付いたらぼくは山の中にいた。見回しても木や草があるだけで、どっちに行けば家に帰れるかなんてわからなかった。辺りは真っ暗で静かなのが尚更怖い。

「……お母さん、お父さん……ど……こ……」

 思わず僕は何が何だかわからなくなって走り出した。一刻も早く家に帰りたかった。怒られるかもしれないけど。

「うわあああああああっ!」

 無我夢中で走っていた。でも、目の前に突如として光が見えた。だから僕はそこに目掛けて飛び込んだ。

 

「……こ、ここは……?」

 びっくりしてしまった。何故ならそこは夏だって言うのに桜が百花繚乱に咲き乱れていたから。それに吹き荒れる桜の花びら一枚一枚が光を帯びていて、すごく幻想的な世界だった。夢を見ているのかって思って→頬をつねったら、「……いった!」……痛かった。夢じゃなかった。

「き、綺麗……」

 さっきまで泣いていたのもウソのように、ぼくの顔に笑顔が戻っていた。さらに桜の中を走っていくと、そこは村が見通せる丘だった。桜の花びらのおかげであたりがよく見えていた。

「す、すごいや……魔法みたい……」

 思わず、呟いた。

「……あら?なぜここに男の子が……?」

 ぼくは思わず声のした方に振り向いた。そこにはいつの間にか巫女服姿のお姉さんがいた。

「…………グズッ」

「え……?」

「う、うわああああああああん!!」

 思わず泣いていた。誰かがいて思わず安心してしまった。

「……怖かったんだね。よしよし~」

 お姉さんがぼくの頭を撫でてくれる。すっごく暖かくて落ち着いてきた。

 

 ぼくはここに着くまでのことを話した。お姉さんはうなずきながら聞いてくれた。

「お姉さん?ここは何処なの?」

「……ここはね?普通じゃ来れないんだけど……きっとキミも『試されるヒト』だから来れたのかな……?」

「……ためされる……ひと……?」

 幼いぼくには言葉の意味がよくわからなかった。

「桜たちも今日は喜んでるみたいだし、うん。渡しちゃおうかな?」

 お姉さんはポケットから桜色の鈴を出して僕に見せてきた。

「ねえ?キミの話を聞いたから、お姉さんの話、いや、お願いを聞いてもらっても良いかな?」

「うん。良いよ」

「この鈴はね?誰かに良いことをすると持ち主に鈴が勝手に鳴ってくれて教えてくれるの」

「勝手になの!?」

 それこそ魔法なんじゃないかって思った。お姉さんはさらに右手をぼくの目の前に広げた。

「でも、この鈴を持つことになると、必ず誰にでもいいから、毎日良いことを5つしなくちゃいけないの。桜の花びらと一緒の数だね。そうすると持っている人にいつの日か幸せが帰って来るの。大変かもしれないけど、やってみるかな?」

 お姉さんの言葉に惹かれるものがあった。ぼくは「……うん。頑張ってみる」と言った。

「優しくならなくちゃいけないんだよ?」「……うん。もっと良い子になる……」

「我慢しなくちゃいけないんだよ?」「……ぜったい、絶対良い子になる。お母さんやお父さんのお願いもこれからはちゃんと聞く……」

 質問し終わったお姉さんは一番の笑みを浮かべるとぼくの視線に身体を合わせてきた。

「……そっか。キミのその優しいキモチ、ちゃんと感じたよ。ねえ?お名前聞いても良いかな?」

「……ゆうと。桜丘優音(さくらおかゆうと)です。名前が優しい音って書いてゆうとです」

「……優音くんか……。良い名前だね。それじゃあ私は優音くんを信じてこれ、あげちゃいます。優音くんの名前のように優しい音がするからね?絶対に失くさないでね」

 お姉さんから鈴をもらった。鈴を持つと身体中に温かい気持ちが流れ込んでた。

「ありがとうお姉さん」

「ここはいつでも来て良いからね。鈴が教えてくれるから。そろそろお父さんお母さんが心配しそうだから今日はまたね?ここからただ真っ直ぐ行けば山を降りることが出来るから」

「ありがとう……お姉さん」

「あっ、忘れてた。私のことは桜奈(ろな)って呼んでね?」

「……楼奈お姉さん?」

「お姉ちゃんで良いよ?安心して良いんだよ?」

「そ、それじゃ……楼奈お姉ちゃん……」

 ぼくはなんだか照れ臭くなった。

「うん。それじゃバイバイ、優音くん」

「バイバイ……楼奈お姉ちゃん」

 ぼくは楼奈お姉ちゃんが指してくれた道に向かって走っていた。

 

 家に帰ったらそれはそれは家族全員に怒られた。でもぼくは今日の出来事が印象強すぎて夜はなかなか寝る事が出来なかった。

 翌日の朝からぼくは毎日楼奈お姉ちゃんに会いに行った。小学校のことを話したり家族のことを話したり、逆に楼奈お姉ちゃんからはここのお祭りのことをたくさん聞いた。

「ここで行われる桜舞祭(おうぶさい)はね?この地域に咲く桜が一番綺麗だってことで作った祭りなの。あっ、ここの場所は関係ないんだけどね。それで皆で屋台を並べたり、有名な人を呼んだりして、今年も綺麗な桜を見せてくれてありがとうって桜の木々にお礼をするの」

「そうなんだ~」

「で、よく桜舞祭で出されるのが、これだよ」

 楼奈お姉ちゃんは手を後ろに引いて少し目を瞑った後、ぼくにその手を差し出して開いた。

「桜餅。お祭りが始まるときに必ずみんなで食べるんだよ。良かったらどうぞ」

「食べる食べる!」

 すぐに楼奈お姉ちゃんから桜餅をもらって食べた。

「おいしいよ、楼奈お姉ちゃん!」

「ありがとう、優音くん」

 桜が咲き乱れる丘で二人で食べた桜餅は忘れられないものになった。

 

 でも、やっぱりその時は来てしまった。夏休みが終わり、お父さん達と一緒に実家に帰らなくちゃいけなくなった……。

 もちろん、ぼくは楼奈お姉ちゃんと一緒にいたかった。家族以外でこんなにも安心できる人なんていなかったから。

 帰る前夜、ぼくは楼奈お姉ちゃんに帰らなくちゃいけないことを話した。

「そっかぁ……でも仕方ないもんね」

「でも!ぼくは楼奈お姉ちゃんともっと色んなことを話したいし!一緒に桜餅だって食べたいし!それに……!それに……!!」

 思わず泣いてしまった……。泣いたことがこんなにも恥ずかしいと思ったことはなかった。

 

「うん。でも、優音くんと私には鈴があるでしょ?それにキミはきっと、いや、ゼッタイ、良い子になれるよ。だってあの日から今日までキミのお父さんやお母さんに良いことしてきたもんね?私はキミとまた会えるのをずっと、ずっと楽しみにしているからね」

 

「楼奈お姉ちゃん……!」

 楼奈お姉ちゃんも、ぼくと同じように、泣いていた……。でも、ぼくのことを安心させようと抱きしめてくれた。すっごく、暖かかった……。

 




初めまして。ソカと言います。
初めてこうして小説を投稿する初心者ですが、正直緊張で心臓がバックバクです(汗)
まずある程度の説明ですが、今回はご存知の通り主人公である桜丘優音(以後:優音)の楼奈との出会いを書かせていただきました。楼奈はキーパーソンな形なので、恋愛対象ではないです。(需要があればルートは作るかもしれません。)次回からは優音が高校二年生になり、楼奈と出会った田舎に移り住むところから始まります。はたして楼奈はいったいどうしているのかは、次回で!





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プロローグ2 ~変わらない場所~

お待たせしましたプロローグ第二話です!


「…………うぅ…………。夢…か……」

 ひどく懐かしく、切ないけど、すっごく暖かい夢を見た。結局『俺』はあの時から、あの人との約束を守り続けている。鈴も今では携帯ストラップとして機能している。あれから色んなことを覚えて覚えて、中学生になる頃には一人で家事一通り完璧に出来るようになったし、それなりに文武両方とも力を付けて来た。全てはそう。

「誰かに、幸せを届ける為」

 そう呟いて俺はバッグからケースを取り出した。そこには……。

「……やっぱりこれがないとね」

 そう。あの人と何度も食べてきた桜餅。今日のは取り寄せで注文した最高級の桜餅だ。あっ、ちなみに桜餅は二種類あって、一つは桜餅道明寺(もしくは上方風桜餅という)……。丸みを帯びていて団子に似ている。で、もう一つが僅差で強いて好きな桜餅長命寺(もしくは江戸風桜餅)。餡を板状の餅で包む方がこっちだ。ネットで探しまくってようやく手に入れた一個300円の六個セットだが、何も問題はない。

「はぐ……あっ、最初も良いけど、それ以上に後味が結構良いな……」

 しっかりと最初から最後まで桜の香りが残る美味しい桜餅だった。そして早速感想を桜餅ノートに収める。しっかりと製造場所等全て書き込む。

「ごちそうさまでした」

 で、桜餅を素早く食べ終えた俺は、新幹線である場所に向かっていた。それは……

「……変わっちゃったんだな……」

 

 俺があの人と出会った、元・田舎だったのが今では学園都市になり、名前は桜のお祭りにちなんだ、『桜舞市』だ。両親が仕事で海外転勤になり、さらについ最近祖父母ともに亡くなり、祖父母家をどうしようかと考えていたとこに俺が直談判し、見事住む事が決定した。そして親戚や家族に手伝いを頼み、掃除や家具類を整理して生活環境を整えておいた。木造二階建てがほぼ自由に使えるのは結構いいことだと思うし、それに俺は掃除は大好きだし。それに伴って俺は桜舞市にある『桜舞総合学園(通称:桜舞園)・高等科』に転校する事にした。中学から大学まであるマンモス学園で、自然と未来を大切にした風景、最新の授業が毎日展開されるとのことで人気は鰻上り中の有名校だ。

 それだけじゃなく桜舞市は大まかに二つの区間に分けられていて、一つは昔ながらの木造住宅や商店街が並ぶ『自然住宅エリア』、もう一つは桜舞園を含めた『近代都市エリア』の二つになっている。俺がこれから住む場所も自然住宅エリアに入っている。

 

 電車や新幹線を乗り継ぎ、俺は桜舞市の中心点、『桜舞市中央駅』に着いた。けど今は早朝のコンビニしか開いてない朝五時ちょっと過ぎ。俺は予約しておいたタクシーに乗り、家を目指した。

 家に着き入ると、木造住宅ならではの落ち着く良いにおいがした。

「ただいま」

 荷物を置くとリビングにある仏壇の前で正座をし、お線香を焚いて手を合わせた。

「……お爺ちゃん、お婆ちゃん、ただいま。無事、家に着くことが出来ました。これからこの家で過ごしますのでどうかよろしくお願いします」

 挨拶をして俺はとりあえず荷物を自分の部屋に置いた。

「……それじゃあ、あそこに行きますか」

 俺はあの山に向かった。

 山の入り口に着くと鈴が鳴って、それから木々がざわめいた。これは俺が小さいときにもよくあった。山が俺を迎え入れてあの場所に案内してくれようとしている証拠だ。

「……ありがとう」

 俺は進んだ。一歩一歩真っ直ぐに。鈴は俺を導く為に鳴り続ける。

 そして……。着いた。

「……ただいま」

 ここだけは変わっていなかった。あの時と同じように桜が百花繚乱に咲き乱れていた。さらに進んで行くと桜舞市全体が見渡せる丘に着いた。そこには、先客がいた。あの時と姿が変わっていなかった。

「ただいま……楼奈さん」

「おかえりなさい……待っていたよ。優音くん」

 俺は嬉しかった。あの時と同じ笑顔を見せてくれたから。

「すっごくおっきくなったんだね。声もかっこよくなったし」

「あの夏以来行けてなかったですから……。それにそんなことを言われると恥ずかしいですよ」

「あはは!照れてるんだね。それにそんなかしこまらなくても良いんだよ?前みたいに気楽に話して?あと、私のこともう呼び捨てで良いんだよ?」

「そ、それじゃ……。ろ、楼奈」

「はい♪」

「…………」

 思わず顔を真っ赤にして照れる。やっぱりこの人には流されてしまう。

「それに今日は優音くんの誕生日だよね?だから、お誕生日プレゼントを用意したの」

「プレゼント?」

「うん。鈴を一旦私に貸してほしいの」

 俺はよくは分からなかったが、とりあえず携帯から鈴ストラップを外して楼奈に渡した。

「私の手にあなたの手を重ねて?」

俺は言うとおりに手を重ねた。

「それじゃあ、いくよ?」

 楼奈が目を瞑ると、周りの桜の花びらが鈴に吸い込まれていった。

 一定量集まった所で鈴が桃色に光った。

「この鈴に力を詰めたよ。キミが今まで沢山の人に配っていた幸せ、今度はキミの為に幸せになれるように願いを込めたんだ」

「……えっ?」

 意味が分からなかった。俺の為に、力を使った?

「あのね?幸せは、誰かに渡って、その辿り着いた幸せがまた誰かに渡って、きっとその幸せが、自分に帰ってくる。これってすごく幸せなことなんじゃないかって私は思うの。キミは沢山の幸せを、沢山の人たちに渡した。きっとその幸せは沢山の人たちが新しい幸せを産んで、次の人たちに渡っている。だから、そろそろその渡してきた沢山の幸せをね?キミが受け取るべきだと思うの」

「でも、俺は……」

 今まで幸せの見返りなんて考えたことが無かったから俺は動揺した。

「良いんだよ?」

 そう言うと、楼奈は若干姿が薄くなっていた。

「ろ、楼奈!?」

「大丈夫。私は別の姿で生きているから。キミが幸せで満ち溢れる事を私はいつも祈ってるよ。これからも時々はキミの夢の中にでも……出るから……ね……?」

「……わかったよ。幸せになれるように、頑張って……みるよ……」

 俺も思わず泣きそうだった。本人にはゼッタイに言えないけど、楼奈には、初恋に似た思いを抱いていたから……。あの時、迷い込んで一人だと思って寂しくて、引き千切れそうな俺のココロを彼女は優しく包み込んでくれた。彼女から沢山の事を教えてもらったあの夏休みの日々。俺は絶対に忘れない。彼女と過ごした時間を。

「それじゃあ、私はいつもの姿に戻るから……。それじゃ、またね?優音くん……」

「ばいばい……。楼奈」

 楼奈は桜の花びらに紛れて、消えてしまった……。

「でも、それでも、俺は……幸せを届けるから……!誰かが笑ってくれるだけで……俺は、幸せだから……。そこまで楼奈が、俺に幸せになって欲しいって、言うなら、出来る限り、なってみるよ……!!」

 俺の涙声も、桜吹雪と共に消えていった……。ふと右手に漂って来た桜の花びらを俺はギュッと握り締めた。

 

 

もしかしたら、この瞬間から俺の幸せが始まっていたのかもしれない。まるで桜の木々から沢山の桜の花びらが遥か遠くまで飛んで行くかのように、一つの幸せが次なる沢山の幸せを生む。俺は幸せの本当の意味にまだ触れていなかったのかもしれない。でも、俺は幸せを届ける人になりたいから毎日毎日、例え、それが自分自身を傷付けることになったとしても……。沢山の人と出会い、その人たちと沢山の時間を共に過ごして、俺は、きっと、本当の幸せを掴むかもしれない。そんな桜の花びらの下で彩られるであろう、大切な、とっても大切な思い出。

 

 

 サクラサクシアワセ

 




これでプロローグは終わりです。
優音君は懐かしき土地、今は桜舞市になりましたがここに単身で移り住む事になりました。そして楼奈は優音君に幸せになってもらいたく力を使い、消えていってしまいました……。でも彼女はすぐにまた現れます(?)。
もし全話通じて誤字脱字等ありましたら気軽にコメント下さい。ただし悪質なのは却下させてもらいます。
次回から本編が始まりますのでどうか末永く待ってもらえたら嬉しいです!
優音「サクラサクシアワセをよろしくお願いします!」
あと後日に設定集のページも作りますのでそれも同様にお待ちください!ではまた次回で!


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登場人物紹介(随時追加します)

サブタイトルの通りに登場人物の紹介ページです。ヒロインやサブキャラは随時アップしていくのでお待ちください~(汗)


◎主人公 桜丘優音:さくらおかゆうと ニックネーム:優音 イメージはショートカットの茶髪で上着ポケットに携帯を入れ、ストラップの鈴だけはみ出してる。

 幼い顔立ちで若干身長が平均より短め、桜の丘でもらった鈴のおかげからか、人に尽くしたい、家族や友達を大切にしたいという気持ちを大切にする。勉学・運動は共には中の上~上の下でそこそこできる。手先が器用。特に家庭科はトップクラスでそこら中の主婦並、それ以上の技を持つ。一番好きな食べ物は楼奈と食べてきた桜餅。

 動きを捉えるのがかなり得意で、視線は時々かなり鋭く、ちょっとした挙動を見逃さない。

 人の言ったことを信じやすく、冗談があまり通じないのが弱点。ほこりを見るだけで掃除衝動が起こってしまう。(奉仕精神のせい)恋愛ごとは全く考えたことが無かったため初心(うぶ)。

 楼奈から幸せになれるように力をもらい混乱するが、鈴やヒロインがもたらす騒動に主人公は混乱しながらも毎日を歩むことになる。



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