Persona5 ~Phantom Thief of Å Villain~ (誤字脱字)
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第一話 A new breeze is coming down

※P5オリ主介入モノSSです。
※P5ベースでP5Rのキャラは出ません
※P5Rの時間軸を元にしております
※念のためにアンチ


ペルソナ5開発に辺り、一二三が本来怪盗団に入る予定だったが、容量の為、却下になったとありましたので入れたくなりましたが、キャラが掴めずオリ主として書きました。 よろしくお願いします





……カコン―――……カコン―――

 

塀の外は鉄の馬が往生し、天を突くは未来的な建造物が群れを成す

 

……カコン―――……カコン―――

 

だけど、塀の内側は別世界。

昨今コンクリートジャングルと化した東京では、滅多にお目にする事のない純日本庭園が広がっており、時折聞こえる獅子落としの音色が心行くまま『わびさび』を感じさせてくれて穏やかな気持ちにさせてくれると私は思うのだが、残念なことに今はその余韻に浸る時ではない

 

チラリと机を挟んで私と対面して座る人物に視線を送ってみると、手に持った湯飲みを机に置いたので、そろそろ頃合いだろうと悟った私も同じく湯飲みを降ろして口を開いた

 

「……組長」

「爺ちゃんで構わねぇよ、椿。……ここには、肉親しかいねぇからよ」

 

重く心に響くような声は、聴く人によっては威圧感を与えてしまうが、長年聞き慣れた私には逆に安心感を与えてくれる声だ。肉親だからこそ覚える感覚に口元が上がってしまうが仕方がない事だろう

 

「わかったわ、爺ちゃん。それで私に何用かしら?迎えを寄越す程だから余程の事だと思ってもいいのかな?」

「余程ってほどじゃねぇが………折り入って頼みがある」

「え、頼み?……もちろん、話しによるけど聞くわ。」

 

普段は迎えなど寄越した試しもないのに今日に限って校門を出れば黒塗りの車と厳つい男達が私を持っていたので、一大事かと思っていたら只の頼みごと?

爺ちゃんの事だから危険な橋を渡る話ではないと思うけど、前みたいに見合い話だったら今日の出来事を学校に説明する労力の分、小遣いをふんだくってやろうと祖父の言葉を待ったが、出てきた言葉は私の予想を悪い意味でも良い意味でも裏切ったモノだった

 

「頼みってぇのは進学先………受験先を秀尽学園にして貰いてぇんだ」

 

真っ直ぐに私の眼を見据えてくる爺ちゃんの瞳は冗談でもなく本気だと窺えた

余程の事じゃないって云う割には人生を大きく左右する選択だとは思うけど、最終就職先が家業を継ぐ事が決まっている私にして見れば余程の話じゃないって意味なのかな?

実際、本来の受験先の洸星を選んだ理由は稲山組の島*1で実家から一番近いからって理由だけど、秀尽って確か……

 

「……秀尽のある地域は天草組の島だった気がするけど?」

「俺も馬鹿じゃねぇ。大切な孫を俺の手が届かないトコに行かせる訳ねぇが……天草のとこが、狐を飼い慣らし始めやがった」

「狐?……ダンベエ*2がついたってこと?」

「あぁ、奴さんの金回りを調べるにおそらく議員さんか企業主だろうが、どうもきな臭くてならねぇ」

 

私達の様な組のモノを用心棒として裏に控えさせる人達は少なからず存在はしてはいる。

用心棒―――と云えば聞こえはいいが、厄介事が起きた時の対処をする代わりに金を貰うギブ&テイクなシノギ*3……表に出せない様な対処も仕事の一部に入る

天草は今時珍しく『過激』な行いを行う組で用心棒など守られる側が嫌がり、雇い主がここ数年いないと情報に上がって来ていたけど……それだけの話?

確かに敵対組織に資金源が出来たのは十分に警戒する事だけど騒ぐ程ではない

それ以外の要因が爺ちゃんに危機感を与えているってこと?

 

爺ちゃんは煙草に火を付け、大きく吸い天を仰いだ

 

「天運……とでも云えばいいのか、事が上手く行き過ぎてやがる。狐って言うのは大きければ大きい程、足が付きやすいってぇのに、それが全く見えねぇ」

「処理班がいるってこと?」

「軍隊でもあるめぇし、奴さんにそんな力があるとも思えねぇが……何かしらはいるな。おい!桐嶋!茶ぁ入れろや!」

「へい!」

 

打てばすぐ響くとばかりに外で控えていた桐嶋さんが爺さんと私の湯飲みに新しくお茶を入れるが、空気読もうよ………

私に考える時間を与える為にわざわざ醒めぬお茶を飲みきったと言うのに、これには爺ちゃんも呆れて軽く桐嶋さんの頭を叩いた

 

何故叩かれたのか首を傾げる桐嶋さんは、私にもお茶を注いでくれるが、私的には今呑んでいるモノを呑み終わってから注いで欲しかったと思い、軽く桐嶋の頭を叩いた

私達に頭を叩かれ不思議そう退出する桐嶋を見送り、私は口を開いた

 

「……大体の事情は分かったわ。私にその『何らか』を探って欲しいってことね?」

「まだ染まりきっていねぇ、おめぇさんなら奴さんの鼻を誤魔化せるからよ。勿論、おめぇさんの意志は尊重する……危険な山だ」

 

危険な山、ね……

後々、此方側の世界に入るつもりだったから覚悟は出来ている。まぁ、予想より早くデビューするだけで特にデメリットもないし、元々秀尽学園は第二希望の高校だったから抵抗もない。……いくつか確認しなきゃいけない事はあるけど、今の所、問題はないわね

 

「……いいわ、いくつか条件はあるけど引き受けるわ。でも、なんで秀尽なの?探るだけなら稲山組の島にある学校でも良いじゃないかしら?」

 

そう、確認する事の一つ目はこれだ

探るだけならわざわざ危険な天草組の島にある学校に行かなくても良い訳で、此方側のテリトリーの学校に通っていても問題はないはずだけど、なにか考えがあるのかしら?

眼で答えを促すと、爺ちゃんは膝を活きおいよく叩き豪快に笑った

 

「そりゃ~おめぇ!ブレザーだからに決まってんだろ!」

「………はぁ?」

「セーラー服もいいが俺は断然、ブレザー派だ。セーラー服を馬鹿にするつもりはねぇが、ブレザーは一人一人違った着こなしがある!」

「……洸星もブレザーだけど?」

「馬鹿野郎おめぇ!無地のスカートの何処がいいんだ!秀尽は、ちぇっく柄だろ?……いいじゃねぇか!死んだ婆さんも良く着てたもんよ!」

「え、え~………」

「それに黒と赤の制服……ありゃ~稲山組の色に合ってる。勿論、おめぇの第一志望の洸星も捨てたもんじゃねぇが、野郎の制服が眩しくて仕方ねぇ!男の制服って言ったら黒一択だろ!」

「…………」

「そう言った意味も含め、幹部の奴等とも話した結果、制服のアレンジに寛大な秀尽になったわけよ!」

「………もう好きにしたら?」

「おう!今からもおめぇさんの制服姿が楽しみだ!ハハハハハハ!」

 

知りたくも無かった爺ちゃんの趣味に私は肩を落としたが、本人気持ちは知らずとばかり爺ちゃんの笑い声が悲しく響くのであった

 

 

そして時は流れ4月11日――――

 

 

「後から『秀尽がある地域が一番キナ臭い!』とかキメ顔で言っていたけど、完全に自分の趣味を唄っていたわね」

「どうかしたの、稲山さん?」

「……入学する前に保護者との思い出を思い出しただけよ、新島さん。それより、代表の挨拶は大丈夫よね?」

「えぇ、ちゃんと練習もしたから大丈夫よ。稲山さんは、式の流れは頭に入っているかしら?」

「ただ項目を読み上げるだけなんて小学生でも出来るわよ」

「ふふ、頼もしいわね。副会長さん?」

「ありがとう。それよりも会長の挨拶、楽しみにしているわね?」

「……プレッシャーかけないでよ」

 

私達と教壇を挟んで反対側に座る人達からの視線を感じ、時間になった事を悟った私は、いまだに手を頭に抱えて俯く彼女にヒラヒラと手を振りながら既定の場所へと向かった

壇上で手をヒラつかせるなど式典に有るまじき行為に下で見ている何人かの教師は顔を歪めているけど、知った事はないし、私の家を知っている校長が睨みを聞かせているから下手に注意してくることはないだろうけど……

 

「(……体育教師の鴨志田、ね。校長のお気に入りだし色々と突っかかって来そうだわ)」

 

早くも目を付けられた事に対し、気分が落ちてしまうけど、しつこい様なら脅せばいいと割り切り壇上の端……ポツンと置かれたマイクスタンドの前に立った

 

目の前には『最後の』と感傷に浸っている顔や怠そうにしている顔、新生活を期待し目を輝かせている顔……千紫万紅の表情に応える為にも任せられた仕事は熟す

軽く喉を鳴らした後に私は口を開いた

 

『これより第〇回、秀尽学園始業式を始めます。』

 

稲山椿18歳、秀尽学園生徒会副会長の肩書を持つ花の女子高生は表の顏。裏は―――

―――関東最大の指定暴力団、四代目稲山組直系稲山組・稲山一蓮組長が孫娘にて敵対暴力団の情報を探るエージェント

 

……エージェントとは名ばかりで、なんの成果も上げられていない私の最後の高校生活が幕を開けたのであった

 

 

 

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Persona5 ~Phantom Thief of Å Villain~

 

第一話 A new breeze is coming down(新しい風がやって来る)

 

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「……月島も外れ、ね」

 

机の上に広げられた東京地図に新しくペケ印を付け、目尻を押さえながら大きくタメ息を付く。

地図に掛かれたペケ印は既に二十を越えており、ペケ印の数は私が花の高校生活を棒に振り掴んだ外れ情報の数でもある

 

「月島は、最近チンピラが良い顔聞かせているって噂だったから期待していたのにショックだわ。……春休み前に戻りたい、私の青春返せ」

 

長期休日を利用し、月島周辺をいろいろと探ってみたが、そっちの筋に関わる話は浮いて来なく掴めた有望な情報は、もんじゃ焼きが美味しいお店とお好み焼きが美味しいお店のみ……私は食べナビの編集者じゃないっての!

期待していた噂のチンピラと接触に成功しても筋者でも無ければ男気もない只の粋がっているガキだった事が輪を掛けて残念でならない

 

「少しでも光るモノがあればスカウトも視野に入れていたのに口を開けば『遊びに行こう』『連絡先教えて』……こちとらそんな気も暇もないっつーの!」

 

春休みが無駄に終わった悲しみとつまらない男に絡まれた怒りから脱力し、机へと手を伸ばし突っ伏せてダラしない姿を晒してしまうが構うものか!誰も生徒会室へ入って来ない予定だし思う存分、ダラケテやる!とそう思っていたが――

 

「……なにしているの、稲山さん?」

 

開く事は無いと思われていた扉が開き、聞き覚えのある声に伏したまま顔を横に向ければ、黒のタイツが目に入った

何らかのスポーツ、いや格闘技をやっていたと思われる筋肉の付きようからタイツに隠された生脚は程良く引き締まり『美脚』と言える……いけない、下衆男のせいで私まで下衆な考えが浮かぶようになっているわね

 

溜息を一つこぼし、姿勢を正して声の主である新島さんに笑顔を向けた

 

「いえ、世の中の男は屑ばかりだなって」

「なにそれ?それより何で生徒会室にいるのかしら?今日は……会議も打合せもない筈よ?」

「少し落ち着いて絵図を描きたい、もとい調べたい事があっただけ。それより、新島さんこそどうかしたのかしら?」

 

広げていた地図を仕舞いながら私も新島さんに質問を投げかけると彼女も同じ様に溜息をこぼして椅子に腰を掛けた

 

「……新学期初日に大遅刻してきた生徒達がいたのよ。それで、生徒会も気に掛けてくれって校長先生が」

「なるほど。……お役所勤めは大変ね?」

「貴女もお役所勤めでしょ、副会長さん?」

「ん」

「……生徒会室管理だから持ち出しは出来ないからね?」

「わかってま~す」

 

特に何も言わずに差し出した手の意味を察したのか、新島さんは鞄から遅刻してきた生徒のファイルを取り出し私の手に乗せた

 

『雨宮蓮』と『坂本竜司』、ねぇ……

付箋でチェックされている二人の生徒。転校生である雨宮君は知らないけど、坂本君は聞いた事がある。中学生時代に陸上競技で優秀な成績を収め、今後の成長と即戦力を期待しスポーツ推薦枠として本校に入学した『元』陸上部所属の生徒。

『元』と頭に付く通り、足のケガが原因で素行が荒れて去年に不祥事を起こした生徒………教師からは問題児として腫物を触るような扱いになっているが、彼の本質から見れば一度や二度の遅刻やサボりなど気に留める必要はないように感じる

 

「大遅刻って云っても生徒会が監視するレベルの生徒ではない…校長が大袈裟に云っているだけじゃないの?」

「監視って言葉は好きじゃないわ。問題は坂本君じゃなくてもう一人の彼。彼は、その……噂の生徒だから、よ」

「噂?」

「暴力事件の」

「……あぁ、そういう噂流れていたわね。眉唾ものだと思って忘れていたわ」

 

天草組の事で頭が一杯で気にもしていなかったけど、春休み半ばぐらいに、秀尽学園に『傷害事件を起こした学生が転校してくる』と噂が流れ始めたのだ

出所は不明でどう広まったのか知らないけど、犯人は断定できる

噂の彼が本校に転入してくるのが決まったのは春休み前の3月初旬、噂が流れ始めたのは中旬であり、その間に雨宮君の事情を校長から聞いている人物で校長が信頼を置く人物……学年主任の教師もしくは彼でしょうね?

 

まぁ、傷害事件程度で騒がれても私からしてみれば『その程度?』にしか感じないわ

 

「噂に踊らされる気はないけど、何かが起きてからじゃ遅いわ。……生徒会からも彼の事を気にかけるようにしましょう」

「りょ~かい、会長」

「話は終わりね?球技大会の書類を纏めなくちゃいけないから先に帰ってくれて大丈夫って!」

 

席から立ち上がり彼等のファイルを返すタイミングを狙い、新島さんの手元にあった書類を5枚ほど抜き取った

 

「何でもかんでも一人でやらない。……この御礼は帰りのクレープに付き合ってくれるだけでいいわよ、会長さん?」

「もう!……ふふふ、ならお願いするわ」

「ふふん、お任せあれ」

 

私達は下校する生徒の声をBGMにしながらも作業を進めていったのであった

 

 

 

4月12日――――

 

 

「……対戦表や段取りは兎も角、球技大会の設営って生徒会の仕事かしら?バレー部がやった方が速いでしょ、絶対に」

「バレー部は大きな大会前だから負担はかけられないって校長先生が――」

「なら鴨志田先生はどうなのよ?選手じゃないから暇でしょ、彼」

「……それは、その」

 

大会の設営をしている私達の目前には、校長と話している鴨志田先生……

現場責任者として生徒が危険行為を及ばないか監督しているつもりだろうが、彼の目線は生徒には向いていないし機材の運び出しも設備の安全確認もしない

生徒会を信頼していると云えば聞こえはいいが、やらされている身からしてみれば手伝ってくれの一言……生徒会も人数が少ないのだから理解してくれ

 

しかし、私の期待は彼には届いていないらしく、校長と一緒に体育館を出て行ったのであった

 

「これで不祥事が起きたら彼の責任ね?………指でも折ってやりましょうか?」

「馬鹿な事云ってないで手を動かして」

「は~い、会長」

 

と返事をして見たのは良いモノのやっぱり気持ちが入らない

他地区から集まった生徒達の初めての交流の場として新学期早々、イベントを提案した学校の心意気は買うけど肝心の先生があれだとやる気が出ないわ

でも、サボると新島さんは怒るし帰りの時間も遅くなるからやるしかないけど、何か話しながらじゃないと……

 

「あ、そう言えば彼、ちゃんと学校に来ていたわよ」

「彼?……転校生の事ね」

「えぇ、そもそも噂を鵜呑みにしちゃいけないわ。見た感じ、そんな事をする人間には見えなかったわ」

 

見かけたのは登校している所だったけど、あの鴨志田先生にも挨拶を交わしていた彼からは罪を犯す雰囲気は感じられなかった。むしろ自分の信念が明確にある人が持つ真っ直ぐな瞳をしていた

 

「そう言う人間こそ裏では何をやっているかわからないわ。……どうかしたの、胸を押さえて?」

「……気にしなくていいですわ、会長」

 

ふふん、そのブーメランは私にはよく刺さります

 

「それに彼……2年生の問題児と一緒にいたわ」

「……坂本竜司くん?陸上のスポーツ推薦で入学した」

 

昨日見せて貰ったファイルのもう一人

入学当初から一緒に居たみたいだし友達になったのかしら?

 

「うん、でも……無理な練習で怪我をしちゃってそこから非行に走ってしまったのよね、彼」

「……非行、ね」

 

新島さんの話しぶりから他の教師と同じで『彼がどうしてそうなってしまったのか』までは知らないみたい

……いやいや、カタギの情報収集力なんて幼い頃から稲山組に身を置いている私と比べたらあってないようなものだったか

彼自体に興味も同情もないけど、懇意にしている友達が俗物の考えで物事を考えているのは何だか癪に触るし、彼女の為にもならないと思い私はそれとなく教えてあげる事にした

 

「新島さんは、当時の状況はどこまで掴んでいるのかしら?」

「え?」

「新島さん。これは副会長ではなく一人の友人としての助言ね?………何事にも最初の種火って言うモノはあるものよ」

「種火?」

「えぇ。非行に走った原因であり、悪の根源。それは―――」

 

指で銃の形を作り、先程二人が出て行った扉を撃ち抜いた

 

「………ッ!まさか!」

「その『まさか』はどんな意味を持っているか私は判らないけど……人間、裏では何をしているかわからないものよ」

 

本当、何をしているか判らない

 

 

4月15日――――

 

「……なんで私がパシリみたいなことをしなきゃいけないのよ」

 

私の心は、現在進行形で荒れていた

原因は二つ。一つ目は球技大会だ

勿論、私と会長(生徒会役員含む)が入念に準備を進めた甲斐もあって球技大会は問題なく進行し終了した。トラブルが発生したら直ぐに解決し、怪我人が出ても保健室へ連れて行き進行の妨げになる前に対処した。そして、今回最大の目的である『新入生が新しい環境に溶け込めるイベント』は、一年の廊下を見渡す限りでは十全に達成できたと思う。

今回のMVPは生徒会役員で決まり、パーフェクトな進行!…………球技大会の優勝組が教員グループと云う事を除けば

 

なに生徒の交流の場を荒らしてくれているのだよ、良い年とった大人がでしゃばるなんてナンセンス!生徒と教師の距離を縮める一環とか抜かしているけど、返って溝が深まるっつーの!

そんな場違いな行いをした教師に私は心底、呆れ怒りを覚えた

 

そして2つ目、球技大会の怒りが醒めぬ今日!この私が!校長のパシリにされたのだ!

事の発端は、2年の女子生徒が授業中に屋上から飛び降り自殺を図った

ゲリラ的に行われた行為は学園中に多くの目撃者を生み出し案の定、気の弱い生徒は動揺、馬鹿な生徒は女子生徒が落下した中庭へと授業中と言う事も忘れ殺到した

無論、その時に教師が上手く生徒を落ち着かせていれば野次馬が生まれる事も無かったのだが、教師も人に変わりは無く、動揺そして混乱。現場に向かう生徒を留める事が出来なく授業崩壊

 

仕方なく『耐性』のある私が、荒れた教室を納めたのだが、その姿を校長に見られ自体の収拾に駆り出される羽目になってしまった。

校長からして見れば私は、このような事態に見慣れているから動揺していない、迅速な対応が出来るとでも思っての人選なのだそうが、私は殺人処女である。

『耐性』があるだけで動揺も混乱もする。だから、校長の言葉に『生徒を借りだすな!』と反論出来なかったのが悔やまれる。

そして頼まれた内容が体育教官室にいる鴨志田先生を校長室まで呼んで来てほしいと言うモノ…………ふふん、私を伝言鳩に使うか

 

「きゃ!?」

「あ、わりぃ!」

 

イラついて周りが見えていなかったようで後ろから来た生徒と接触し倒れ込んでしまった

去って行く後姿は私と同じくらいの背丈で、この学校では珍しい金髪であった

 

「……レディーにブツかっておいて手も貸さないなんてナンセンスだわ」

「大丈夫ですか?」

「ッ!貴方は……雨宮君?」

「友達がすみませんでした」

 

ぼやく私を尻目に遠ざかって行く彼、それとは反対に差し伸ばされた手―――

顔を上げて見れば黒髪のくせ毛に黒縁眼鏡の少年……噂の彼、雨宮蓮が私に手を差し出していた

まさかココで彼に手を差し伸ばされるとは思ってもいなかったので、思わず手を取ってしまったが、彼も急いでいるのか謝罪の言葉を私にかけると直ぐに金髪少年が向かった先へと行ってしまったのだ

 

「ふふん、友達ね~?……それにしても彼らが向かった先って確か」

 

この廊下を真っ直ぐに云っても階段や渡し廊下はなく、あるのは体育教官室のみ

まさか、と思いながら私も体育教官室へと向かい、扉に手を掛けようとしたその時、荒々しい声が聞こえて来たのだ

 

扉に掛けていた手を引っ込め、そっと私は聞き耳を立てると聞こえてくる声は3つ…いや4つあり、おそらく体育教官室の主である鴨志田先生と金髪少年、雨宮君とあと一人だろう?

緊迫した雰囲気が扉越しでも分かったし、ただ事ではない事が起っていると感じる

内心、鴨志田先生の事を良く思っていなかった私は、今後の交渉材料にとスマホの録音機能を立ち上げた。そして直ぐにその行動は正解だった事に笑みを浮かべた

 

「たった今、病院から連絡が入った。意識不明で回復は絶望的…そんな奴が何を訴えるって!?もう回復の見込みは無いってよ……可哀想に」

「ウソ…だろ…」

「テメェ…ッ!」

 

驚きと怒り、そして傍観

言葉を発してはいない一人も含め、その場にいるみんなが鴨志田先生が告げた虚言(天ぷら)に踊らされていた

 

「また、それかよ……なら、もう一度『正当防衛』が必要だな?」

「うっせんだよ、クソがぁ!」

「ッ!おちつけ」

「何で止めるんだよッ…!?」

「挑発に乗るな」

「けどよッ…!」

 

『正当防衛』に『挑発』、そして『もう一度』の意味……

鴨志田先生が過去に正当防衛を行った生徒は……あぁ、金髪少年は坂本君、か

彼が陸上を離れたのは鴨志田先生が一枚噛んでいたのは知っていたけど、暴力を振るった事には変わりない。……本来なら自分を制して逆境を乗り越えて力に欲しかったとあの時は思ったけど、今の会話を聞く限りだと坂本君は踊らされていたと言う事か

 

大人の都合に子供を使うやり方は好きになれないし、個人的にも彼の事は気に喰わなかったし、将来有望な生徒をこれ以上、踊らされるのは秀尽学園生徒会副会長としても見逃せないわ

 

私はそっと体育教官室の扉を開いた

 

 

 

 

「遠慮しないで、やれよ?」

「なにをするつりですか、鴨志田先生?」

「「「「「!!!???」」」」

 

いきなりの第三者の登場に4人とも驚きの表情を浮かべるが、流石年の功。

4人の中で一番早く復活したのは鴨志田先生であり、苦虫を潰したような顔を浮かべた

 

「……生徒会の稲山か。なに、この三人が私に突っかかってきただけだ。この三人は私の方から処罰を降す予定だから生徒会は気にしなくてもいい」

「なにが突っかかってきただ!」

「よせ、竜司!」

 

鴨志田先生の云い様に血が昇ったのか坂本君が鴨志田先生に殴りかかろうとするのを雨宮君が再び止めに入った。…うん、ここで手を出されては全てが台無しになってしまう

だから大人しくしていてね、坂本君?

 

「先生の判断に意を唱えるつもりはありませんが、先程の鴨志田先生の発言も軽率だと思います。突っかかって来た生徒に『遠慮しないで、やれよ?』と云う発言は教師としても大人としてもどうかと思います」

「……俺にも原因があるとでも言うのか?」

「はい。売り言葉に買い言葉……大人なら子供の戯言を流す程度の器を見せて戴けなければ困ります」

「ッ!」

 

鴨志田先生は苦顔を更に歪め私を睨めつけてくるが、堅気でしかない睨みなど私にとっては赤子に睨まれている程にしか感じない。……せめて野生動物ぐらいまでになって出直して来い

場の雰囲気が、先程とは打って変わって鴨志田先生に逆風が吹いていると感じた外野は私の顏と鴨志田先生の顔を交互に見ては戸惑いを現していた

 

「それと、先程病院から連絡が入って彼女は助からないと云っていましたが、嘘は良くない。医療関係者が学校に生徒の生死の連絡を伝えるとは思えませんし、連絡があったとしても学園で起きた事ですから校長先生に連絡が行く筈です。……たかが体育教師にそれを連絡する理由がありませんよね?」

「ッ!……こ、校長先生は手が離せないから代わりに「そもそも連絡が速過ぎません?まだ、運ばれて1時間もしてないのに手遅れだなんて判断を病院側がしますかね?」~ッ!まだいたのか!お前達はもう出ていけ!俺は色々と忙しいのだ!」

 

チェックメイト

嘘が表情に出た時点で貴方の負け、第三者に当り散らし紛らわしてダブルスコア、退出させる理由も浮かばないなんてテクニカルKOも良い所だわ

冷静に考えれば只の学生に病院がどのように連絡してくるなんて知る筈ないと言うのに

 

「私も退出します。……そうでした、その手が離せない校長先生がお呼びですよ、鴨志田先生?」

「ッ!おまえ!」

「では、失礼します」

 

先に出て行った3人の後を追う様に体育教官室から退出し、扉を閉めたが今頃、怒りで顔を真っ赤にさせている鴨志田先生が体育教官室にいると思うと笑い声が出てしまいそうになるけど腹を抱えて笑うのは生徒会室へ戻ってからと口元を引き締め、教室へ戻ろうと足を進めたが見覚えのある顔を見つけ足を止めた

 

「友達と一緒に行かなかったのかしら?」

「まだ、お礼を言っていなかったから……助かった」

「階段で手を貸してくれた御礼だと思ってくれていいわ。それに、鴨志田先生の態度が気に喰わなかったのは私も同じ」

「聞いていたのか?」

「あれだけ大声で騒いでいたら扉1枚越しなんて無いに等しい、今度からは周りにも気を付けなさい。でもまぁ、私以外に聞いている人なんていないでしょうから教師に喰ってかかったって事実は広まる事はないでしょう」

 

彼の場合『あぁ、やっぱり』と思われてしまうかもしれないけど、これ以上余計な尾鰭は、誰しも付けたくはないでしょうからね

 

「だけど入学早々、厄介な人に目を付けられたモノね、貴方も。それと忠告……鴨志田先生は校長の後ろ盾がある分、貴方達に本当に処分を言い渡せるわ」

「……処分」

「あの感じだと退学かしら?」

「ッ!」

 

いきなり話が飛び過ぎているかもしれないけど、鴨志田先生の権幕から容易に想像が出来るし、現に鴨志田の性で一人の教師が学園を去る事になった事実もある。

生徒会がいくら彼等を庇おうが、決定は覆る事はないだろう

ご愁傷さま、と俯いた彼の肩に手を置こうとした時、彼は顔を上げ一言呟いた――

 

「……このままじゃ終れない」

「ッ!」

 

聞く人が聞けば鴨志田先生に往復を考えている様に聞こえるが、私には彼がそんなチャチな事をするとは思えなかった。彼の目が――彼の意志が―――復讐など比ではない程の大事を仕出かす様に予告しているかの様に見えたのだ

 

本来なら、そんな反抗的な(そそる)眼をする生徒に対し、秀尽学園生徒会副会長として注意するべきなのだろうが、稲山椿個人としては彼の背中を押したくなったのだ

 

「なら、貴方達の処分が決まる次の理事会までにはケリをつけた方がいいわ。……一度決まった決議は覆らないわ」

「……わかっている」

「……そ。何をするつもりかは知らないけど応援してあげるわ」

「………あぁ」

 

妙に思いが篭った言葉を云い残し彼は立ち去って行った

彼が何を仕出かすかは分からない、本当に復讐するだけなのかもしれない。だけど、彼がこの戦いに勝利した際には、最後の高校生活に新たな風を運んでくれるような気がしたのであった

 

 

Next stage→ The name is phantom

 

 

 

*1
一家の縄張りから一部を預かっている勢力範囲

*2
金銭面をバックアップするスポンサー、金主、旦那衆からの派生

*3
収入を得る為の手段




稲山 椿

秀尽学園3年生の女子学生
指定暴力団「稲山組」の孫娘
数年前から頻繁するようになった事件に敵対組織が関与している可能性を感じた稲山会長より情報を掴む為、敵対組織の島にある秀尽学園に通い情報を集めている
都内のマンションに一人暮らし中。貸し駐車場にバイク3台、車(予定)一台


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第二話 The name is phantom

Persona5 ~Phantom Thief of Å Villain~

 

第二話 The name is phantom(その名はファントム)

 

 

 

 

5月6日―――

 

 

「Take Your Heart。……あなたの心を頂きます、ね」

 

真っ赤な紙に新聞紙の切り抜きで作られた例の一文、裏面には小学生が書いた落書きの様なマーク。そして差出人の名前は『心の怪盗団(ザ・ファントム)

本校の掲示板に貼られていたこの『予告状』は、いま話題の最中にある

 

通常なら悪質な悪戯だと生徒にも教師にも相手に去れずに処理される程度の案件なのだが、今回に関してはそうはいかなかった。……なぜなら『予告状』通り、心を奪われた人物が現れたのだから

 

鴨志田卓―――――

手口は判らないし説得したのかは定かではない。しかし、受取人である鴨志田は先日の朝礼において登壇し、生徒への暴言や部員への体罰、女子生徒へのセクシャルハラスメント行為。そして、なにより先日、飛び降り自殺を計った女子生徒に深く関与していたと自白したのだ

壇上で泣き崩れるその姿は、普段の鴨志田とはかけ離れており、まるで別人のようなで、まさに『心を取られた』かのように感じられた

社会の裏側を知っている私から見てもその変わりようは異常に見え、それがカタギの目からしてみれば尚更に異常に見えたはず……案の定、生徒達は教師の自白に驚き彼をそうした原因を追究……先の悪戯主である『心の怪盗団(ザ・ファントム)』へと辿り着いたのは無理のない話だった

 

「……まだ残っていたのね、稲山さん」

「おかえりなさい、新島さん」

 

手元のカードをヒラヒラと弄んでいるとタメ息と一緒に扉が開らかれた

時刻は放課後。この時間帯に生徒会室の扉を開ける生徒なんて生徒会役員しかいないけれど、今日は先日(かもしだ)の件もあり役員は、全員帰したのに関わらずやって来る人物なんて真面目な生徒会長様しかいない

 

「鴨志田先生の置き土産が残っていますから。体罰を受けた生徒や体罰の実態を知っていた生徒への全校アンケート用紙の作成及び集積表の作成、臨時保護者会出席者の名簿作成……本来なら第三者委員会が作成する仕事をやっていますからね?」

 

教師による体罰が原因で生徒が自殺を行ったと、あの場にいた生徒全員に告白すれば口止めしていたとしても情報が漏れる事は、目に見えていた事であり、当然の如く警察沙汰になり第三者委員会が設置された。それにあたり、学園側も委員会への対応、追求に関する返答などやる事が山ほどあり、なぜか信頼の厚い生徒会にも仕事を振られてしまったのだ

 

「……早期に解決したいのでしょ」

「逆に不味いモノが上がらない様に先に知っておきたいって云う校長の思惑も感じるわ」

 

臭い物には蓋をするとばかりに第三者委員会には心地よい返答しか出さないつもりなのでしょうけど、いずれは判る事であり時間稼ぎにしかならない。……むしろ、時間稼ぎをしたいから足掻いているのかもしれないわ

 

「それで狸校長からの呼び出しは何かしら?」

「……なんでもなッ!?」

 

眉間に皺を寄せる新島さんの額を私は人差し指でトンっと突っついた

案の定、ポカンと口を開ける彼女に私は笑って自身を指差した

 

「一人で抱え込まない。周知の事実ですけど、秀尽学園生徒会副会長は頼りになるって噂よ?」

「……ふふ、貴女の事じゃない」

「ふふん、そうそれ。貴女は笑った顔の方が可愛いわ」

「もう、からかわないでよ!」

 

褒められ慣れていない性か顔を真っ赤にし、手をあおぐ彼女は可愛い

そんな顔もずっと眺めていたいモノだけれど、気持ちの切り替えの上手い彼女は、すっと表情を変えて目線を私の手元へと移したのだ

 

「校長先生には鴨志田先生に出された予告状の犯人捜しを言われたわ」

「予告状、ねぇ?」

 

鴨志田先生が急変した原因の一因であろう予告状の送り主である集団『心の怪盗団(ザ・ファントム)

時期的に見ても彼等が何かを知っているのは明確ですものね?

 

「校長先生は校内に貼られていた事から生徒の犯行だと思っているみたい」

「そこで、教師や協力者の可能性を考えないあたり、相当余裕が無いわ」

「えぇ。……でもあながち間違ってはいないと思うの」

 

そう言うと新島さんは生徒会室据え置きのホワイトボードに事の経緯を書き始めた

 

「校内掲示板に貼られていたと言う事は学校に容易に入る事の出来る人物。そして、予告状に使われている用紙は、学校で使われている用紙ではない。……この二つだけでは何とも言い切れないけど、今ある大きな手掛かりは、この二つね」

 

ホワイトボードに書かれた二つの事柄、現状で判るもっとも簡易な手掛かり。

一つ目の手掛かりは、生徒教員全員が予想できる事柄で、二つ目の手掛かりは教師と一部生徒……赤い用紙が何処で管理されているか判る人物なら予想できる手掛かり

 

「用紙に関してはあの後、直ぐに確認しましたが減っている痕跡はありませんでした。犯人が減った分を戻した可能性はありますが……まぁ、ないでしょうね?」

「えぇ、戻すぐらいなら最初から学校の備品には手を出さないわ」

「そんな訳で学校の印刷機を使用するのもリスキーだと判る相手だろうし、予告状は自宅で作った。そして第三の手掛かりが、これ」

 

先程からずっと持っていた一枚の予告状

掲示板に貼られ回収できたモノで唯一、他の予告状と違うモノを新島さんに手渡した

最初は違いが判らなかった彼女も数秒し直ぐに違いに気づいた

 

「……切り口、かしら?」

「えぇ、予告状は原本を印刷後、全て手作業で切り分けられている。でも、その中の一つに裁断を失敗して切り口が曲がった予告状があった。……恐らく指紋対策に手袋をつけて作業をしたと思うわ。慣れていないと手袋をしながらの作業は難しいから失敗したのでしょう」

「誤差も微妙……まとめて見ないとわからないレベルだわ」

「ふふん、こんなモノをご丁寧に用意し、使用するのであれば細部まで気を使う人物……大人なら尚更、気にするわ。でも廃棄しなかった理由は、金銭的に余裕が無かった、とか?カラー用紙は割高だし?」

「……そういうことを気にしない人物っていう線もあるけど、その事も考慮し7:3で学生の方が可能性は高いわね?」

「えぇ、鴨志田先生は外面良かったみたいだし、外部犯の線も薄い、と」

 

在校生関係者……OBや親族に頼ったって云う可能性は捨てきれてないけど、私も新島さんと同じで7:3の可能性だと思っている。そして更に私は第四、第五の手掛かりを口にした

 

「更に上げるとしたら犯人は運動部関係者で最近、犯行を考えたみたいよ」

「え?」

 

驚く彼女を尻目に私は、自慢げに鞄から一部の新聞を取り出し机の上に広げ、予告状の文字と照らし合わせたのだ

 

「この予告状に使われている文章は、4月20日のスポーツ新聞一部から作られているわ。……文化部がスポーツ新聞を読まないって訳はないけど、少なくとも20日のスポーツ新聞に文化部が食いつきそうな記事は記載されていなかった」

「うそ……」

「もっと詰めるであれば予告状に『俺たち』って書いてあることから複数犯と云う事は理解しているわね?」

「え、えぇ」

 

驚きながらも頷く彼女からインクペンを受け取るとホワイトボードに書き込んでいった

 

「おそらく男性2人以上か男性1人女性1人以上のグループと云ったところかしら?」

「え!?そこまでわかるの!?」

「えぇ、あくまで私の推測だけど文面から見て『クソ野郎』って言葉を使っている事から知能の低い男性の可能性が高い。そして最後に『覚悟してなさい』。……文面が崩れているのよ。これを一人で作っているのであれば最後は『覚悟しろ!』とかになるはず。この事から予告状を造るにあたって誰か監修していた存在がいる。そして、それは作成者より知識がある人物」

「……それは何故?」

「こんな知能の低い言い回しをする人が『色欲の罪』とか気を利かせた文面を思いつくとは思えないわ。それに文面が崩れているのは敢えてそうして個人を断定させないようにしているとも感じる」

「……感情的な人とそういう行為に知識がある人達って事ね?」

「えぇ、それでこそ全て一人で行っていたとしたら………相当頭の切れる学生よ、ソイツ?異なる二面性を持ちながら今も普段と変わらず何食わぬ顔で過ごしているのだから」

 

特に感情的な犯人に至っては自身の成果を周りに伝えたいと考える筈なのに、特にそう言った情報は流れて来ない。恐らくもう一人の犯人がストッパーとして彼もしくは彼女を押さえているのだろう

 

「目星がついたのはいいけど、男子2人組とか男女とかって結構、幅が広いわね」

「そこはアレよ。鴨志田先生が教えてくれるわ」

「ッ!?最近になって鴨志田先生と揉めていた生徒ね!」

「まぁ、可能性としては一番大きいかしら?」

 

後は地道に聞き込みしていれば犯人候補に行きあたるだろう

しかし、私の予想があたっているのなら犯人候補は彼等になる

鴨志田と揉めていたし、一人は男子バレー部だし、更にもう一人は反抗的な瞳を宿した転校生

 

でも、その事は会長様には伝える気はない

私の憶測である可能性はあるし、なにより彼の瞳は魅力的だったから……

探偵ごっこもお終いとホワイトボードに書かれた手掛かりを消しながら、残っている仕事の配分をどうしようかと会長様に視線を向けたが、彼女は生徒会室の扉に手を掛けて半身の状態であった

 

「………え?」

「なら私!今から生徒に聞き込みをして来るわね!」

「今から!?」

「えぇ!何事も早い解決がいいでしょ!」

「ちょっと、まって!昨日の今日で動くのは時期早々と言うモノで!それにアンケート用紙の作成はッ!」

 

さし伸ばした手は虚しくも空をきり、停止の声は届かず会長は生徒会室を出て行ったのであった

 

 

 

 

 

日は沈み外灯が町を照らす中、とぼとぼと帰路につく私達。………実に愚か

結局の所、冷静さを取り戻した会長様は謝りながらも戻ってきて2人で仕事を熟していたのだが、見回りの教師が声を掛けにくる時間まで熱中して作業を行ってしまった

 

期限もだいぶあるし明日、他の生徒会役員と共に作業を進めようと話していたのに、2人共仕事人間なモノだ

 

そんな事から反省会も兼ねて私が糖分摂取を提案し、会長はそれを了承

駅近くのカフェに赴き入店しようとした所、ポケットに入れたスマホが震えだした

 

「………ちょっと外すわね?」

「こんな時間だし親御さんからじゃない?」

「うちって基本的に放任主義ですけど……新島さん、私トールバニラソイアドショットチョコレートソースノンホイップダークモカチップクリームフラペチーノでお願い」

「……え、なにそれ?」

「トールバニラソイアドショットチョコレートソースノンホイップダークモカチップクリームフラペチーノ。……紙に書いたからこれ渡せば伝わるわ!会計は……これでお願い!新島さんの分も買っていいですから!」

「ちょっと稲山さん!?」

 

一万円(ゆきち)を新島さんに押し付けて退店し、直ぐに裏路地へ駆け込んだ

周囲に人影がない事を確認し後、私は電話を耳に当て声を殺しながら言葉を口にした

 

「……鴨志田から薬物反応が出たの?」

 

開口一言目が裏路地へ入った原因である

花の女子高生が路上で『薬物反応』なんて言葉を口にして誰かに聞かれたりしたら堪ったモノではない。

鴨志田の急変は、薬物を摂取していた疑いがあった為、組の力を借りて薬物検査の結果を流してくれるように頼んでいたのだ

もし薬に手を出しているのなら最悪、生徒やバレー部員にも横流されている可能性が出て来るので、そんな事は生徒会としても一個人としても許せない。

至急と伝えていたから尚更言葉尻に力が籠ってしまったが、電話越しで聞こえてきた声に熱が冷めていった

 

『落ち着け椿。奴さんはクスリはしてねぇよ。』

「………そう、それは良かった」

 

唯一の肉親からの電話だからなのか薬物の可能性が無くなった安心感だからなのか肩の荷が下りた私は大きく息を吐く

 

「なら……彼の急変は、他に原因がありそうね」

『そこら辺はサツが調べるだろう。それよか少しばかり時間あるか?』

「カロリーの化け物を頼んだから少しならあるわ」

『カロリーの化け物?』

「トールバニラソイアドショットチョコレートソースノンホイップダークモカチップクリームフラペチーノ」

「………タブレットに面白れぇモン送ったから見ろや』

「面白いもの?」

 

どうやら私の近親者も新島さんと同じで呪文注文には耐性がないようだと、新島さんに失礼な事を考えながらも鞄からタブレットを取り出しメールを確認してみれば一枚の写真ファイルが送られてきていた

電話してきた爺ちゃんの声は明らかに弾んであり、余程良い事が起きたのであろうと思いつつ言われた通り、写真ファイルを開いて見れば顔馴染の構成員と共に写る数枚の絵画。その絵画を見て私は疑問の声が出てしまった

 

「これって……【さゆり】?」

『おうよ、知ってたか!名高き絵描き斑目の代表作【さゆり】だ』

 

カッカッカ!と電話越しに笑う爺ちゃんを尻目に私は【さゆり】と言う絵画について記憶を辿っていく―――

【さゆり】とは最近話題の画伯、斑目一流斎の失われた代表作。黒髪の女性が、どこか母性にあふれた笑みを浮かべた絵画だ。暇つぶしに買った旅行雑誌に『かの斑目画家が【さゆり】の構想を練った地』と下らない記事と一緒に連載されていたので記憶に残っていたのだが、私が疑問に思った理由はそこではない

 

「う、うん。前に雑誌で見たから知っているけど、何でその【さゆり】が複数枚あるのかしら?」

 

そう、送られた一枚の写真には、その場にいる屈強な構成員の手には余る程の【さゆり】が鎮座していたのだ

 

『天草とは関係ねぇが最近、顔を聞かせている組が稲山組にちょっかいかけてきたもんだから相手してやったら出て来てよ』

「出てきたって……贋作って事?」

『あぁ、贋作だが出来がいい。目利きも出来ねぇコレクターなら高く買ってくれると思ってな!それでオメェさんにも小遣いと何か買ってやろうかって思ったわけよ』

 

確かに有名画伯の絵画は贋作とはいえ価値はある。さらに言えば色々と逸話がある【さゆり】を本物が発見されて流れて来たと虚言を付けば尚の事、数倍いや数十倍の価値が出てくるだろう。

組にとっては贋作だろうが本物だろうが関係なく、良い資金源が手に入ったぐらいしか感じないし、折角お小遣いをくれると言うのであれば素直に甘えようと思った次第、作者への感謝の気持ちはあるが、罪悪感は欠片も持ち合わせてはいけない

 

「……なら車が良いわ」

『あぁん?足は単車があるだろう。それに免許はあんのか?』

「取得中よ。今すぐに欲しいって言う訳ではないわ。車は……卒業祝いでお願い」

『おめぇがそれでいいのならいいがよ。ッ!?まさか男と出掛けるのに使うつもりじゃねぇだろうな!』

「残念、女友達よ。……仲良くしている友達を誘って卒業旅行っていいと思わない?」

 

女友達の二人旅……素直に行けたら嬉しくは思うけど、あの堅物の会長様は厳しいかもしれないな~?車初心者だし女2人で泊まり込みですからね~?

 

『そうかい。なら、卒業祝いに買ってやる。』

「えぇ、ありがとう。でも黒塗りは勘弁してね?」

『わかってるって』

 

冗談を交えながらも私は電話を切った

 

 

しかし、この時の私は知る余地も無かった

良いカネになると思っていたブツが数日後には無価値の紙切れに変わってしまう事を………そして、それを行ったのが校内だけで噂になっていたはずの『怪盗団』によってなされることを――――

 

更には呪文を間違えて店員に伝えた会長様が怪物を越えるハイカロリーモンスターを私に押し付けてくる事も………

 

 

5月7日―――

 

 

 

「ア″ァァ~…糖分切れた~、かいちょ~帰りにお茶しませんか?」

「ごめん、今日は…」

「え~?……まさか、男でも出来ました?」

「ち、違うわよ!ちょっと調べ事があるだけ!」

「調べ事……例の怪盗団ですか?」

「……えぇ」

 

昨日、私が口を滑らした性で我が生徒会長様の『怪盗団』探しに進展があったようだが、私としては『怪盗団』より糖分摂取の方が、優先順位が高いゆえ……面白くはない

 

「私なりに調べて見たのだけど、鴨志田先生に目を付けられていた生徒がわかったわ」

「……こんな短時間で凄いですね?」

「そうでもないわ。……彼等って、元から目立っていたもの」

「ふ~ん、それで目星は?」

「二年生の高巻さん、坂本くん、三島くん、鈴井さん。そして…雨宮くんね」

「ふ~ん」

 

気のない返事で答えているけど、内心この短時間でここまで絞れた事に驚いた

確かにこの5人は、鴨志田と問題を起こしていたし噂も立っていた。私も彼等だろうと目星をつけていた手前、驚きを顔で表す事はしなかったけど……

違うとしたら屋上から飛び降りた鈴井さんは怪我の影響があるから外しているって感じかな?

 

「それにしても意外でした。会長が怪盗団探しに躍起になるなんて?」

「………」

「会長?」

 

返事が返ってこない彼女へ視線を向ければ、アゴに手を当てて考え込んで、ふっと言葉を漏らした

 

「ねぇ、稲山さん……私のやっている事って本当に正しい事なのかしら?」

 

表情を曇らせ言葉が淀む。いつもの彼女らしからぬ姿に若干そそられる気持ちが湧き上がるけど、今はその時ではない

 

「彼らを目星にしたのも鴨志田先生が変わる前に関わっていたからで、明確な証拠はない。それに生徒の中に犯人がいると決めつけて調べるなんて……」

 

なるほど、そう言う事ね。警察なら兎も角、私達は一生徒でしかない。

ただの生徒が怪盗団の運命を握る責任に後ろめたさがあるのかぁ

 

「そうですね、校長から依頼されて……いや、この時点で可笑しいのですが、確かに生徒会の範疇を越えている行為です。それに生徒会が『怪盗団』探しに一役買ったと言われれば在校生に反響は少なからずあるでしょう」

「………そう、よね」

「まぁ、私は生徒会とか校長からの依頼とか関係なしに自分のしたい様にするのが一番だと思いますよ?」

「……自分のしたい事?」

「命短し恋せよ乙女、ではないですが、しない後悔より行動して後悔した方が自分に納得できると思いませんか?……勿論、危ない橋を渡らない前提ですけどね?」

 

まだ『怪盗団』の手口が分からない状況下では、彼らに喧嘩を売らない方が得策

クスリには手を出していないようだけど、世の中には常識を掻い潜る危ない薬が存在するし、催眠・脅迫・洗脳……いずれかの行為を行った彼らに近づき過ぎた結果、第二の鴨志田になる可能性は捨てきれない

 

うちの会長は真っ直ぐに行き過ぎる性格だから絡め手に弱そうですしぃ……まぁ、そこら辺は私が傍にいれば問題は無くなりますけどね?

 

「先当って会長は自身のやる出来事に目を向けるべきだと思います。……来月の模試とかね?」

「えぇ、わかったわ。……後悔が無いようにするわ」

「ふふん、その通りですわ」

 

こりゃダメだわ

今の彼女は焦っている様に感じられる。間違いなく『怪盗団』に接触するだろうが、まだ間に合うはず

雰囲気的に校長から何か言われた感じだし家族関係の事で脅しでも掛けられたのかしら?それ以外にも鬱憤が溜まっている様に思える

 

「私行くわね?……また、明日」

「えぇ、ごきげんよう」

 

生徒会が没収した少年誌を片手に持ち生徒会室を後にする彼女に私は溜息を吐く事しか出来なかった

 

 

 

 

 

Next stage→ I was a villain

 

 

 

 



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第三話 I was a villain

Persona5 ~Phantom Thief of Å Villain~

 

第三話 I was a villain(私は悪党だった)

 

 

 

 

6月7日―――

 

 

鴨志田の件から凡そ1ヶ月、彼等は再び注目を集める事になった。更なる巨悪を改心させたことによって――

 

画家『斑目一流斎』のスキャンダル―――

門下生や弟子達の作品を盗作し、あたかも自身の作品として世に発表し若き画家の才能と夢を食い物にした極悪人。我が校で時の人になった彼等から云わせれば『虚飾の大罪人』のスキャンダルは、世間に彼らの存在を学校と言う小さいコミュニティから世間と言う大きなコミュニティへと認知させる切欠としてはあまりにも大きい出来事であり、そして我が組に齎された損害は予想よりも少なく済んだ

 

何故ならば【さゆり】の贋作は、既に組の倉庫には一枚も無く、全て売捌いた後だからだ。

『鉄は熱いうちに打て』と爺ちゃんの掛け声と共に入手から数日で足が付かない様に全ての贋作が完売。十分な資金を我が組と私の懐に産み出したのだ。……まぁ、斑目の悪行に伴い【作:斑目】の作品の評価が見直される事にはなったが、【さゆり】自体は、名画と云う事には変わりなく贋作だとしてもある程度の需要はあり続けるだろう

 

そんな事もあり、もはや手元にない絵画の作者がどうなろうと関係ないと潤った財布事象にホクホク顏で教室へ向かおうとしたら掲示板に1通の張り紙が…………例の赤い手紙でも無ければ血生臭い脅迫文でもない。張り紙に群がる生徒の隙間を縫って書かれている文章を読んで、またよからぬ事が起りそうだと頭を抱えるのであった

 

 

 

 

 

「『生徒の皆さんへのお願い 情報を募集します 気づいた事があれば 生徒会長へ相談してください』……いつから探偵になったのですか、生徒会長様?」

「……知らないわよ。」

「ですよね。大方、事態が発展しない事に煮えを切らした校長の仕業だとは思っていましたが、生徒達はそんな事なんてお構いなし、蓋を開ければこんなにもってね?」

 

机の上には公募した『情報』が書かれた匿名の通知が50枚ほど広げられている

全校生徒数から考えるに、この投稿数は多くはない。中には『いいバイトってない?』やら『怪盗団サイコ―!』と言った中身が無い物、白紙や落書きと言った遊び感覚で入れられたモノも多く『怪盗団』に対する有益な情報が書かれたモノは皆無に等しかったのだが、別の意味で問題が判明してしまった。

 

 

「『友達を助けて欲しい』、ね?」

「……恐喝されている生徒って誰なのか検討は着くのかしら?」

「いえ、寄せられた情報には『恐喝されている生徒がいる』や『友達を助けてほしい』というものばかりで、唯一の情報が渋谷で何かが起きているってくらいです」

「そう……」

 

怪盗団の情報ではなく、今校内で起きている問題の解決を求める投稿が多く寄せられていたのだ

 

「無視するには物騒すぎる内容ですし、とりあえずは生徒会としては、この張り紙は回収した方が良さそうね?」

「えぇ。明日、校長先生の所に行って『恐喝』の件について伺ってみるわ。」

「なら、私も行くわ。そう言う事だからみんなには、張り紙の撤収と生徒に無駄な心配を掛けないようにそれとなく促して頂戴」

「「「「はい」」」」

 

気持ちの良い返事と共に仕事に取りかかる生徒会役員達に来期の生徒会は安泰だと安堵する一方、この問題は今期の生徒会最大の難題だと皺を寄せるのであった

 

 

 

翌日、昨日の件や今生徒達の間で問題になっている件を校長に伝えたのだが、校長の顔色は優れなかった

まぁ、学生だと言うのに圧がある私達に問い出されたら否応にも顔色が悪くなるだろう

昨日の校長の独断行動に対する説明責任、学生間で横暴する危険な案件、そして鴨志田の横暴の認知確認……学園の長として一人の大人としての対応が期待されたのだが、私達の問い掛けにしどろもどろに応える校長は本当に切羽詰っているのであろうと感じられ―――

 

「わ、私も忙しくてね。どうしてもと言うなら君が解決してくれ!」

「…え?」

 

―――あろうことか最悪最低な選択である責任放棄をしてきたのだ

校長の云い様に唖然とした様子の生徒会長様。このままだと流されて要らぬ責任まで負わされると感じた私は声を上げた

 

「ちょっと待ってください!これ以上の『怪盗団』捜索は学生の領分を逸脱しています!生徒会は探偵でも無ければ貴方の部下でもありません!」

「それもそうですが、君達は私が赴任して来てから一番優秀な生徒会長と副会長です。君達なら出来ると私は思っていますし――」

「だからなんだと云うのですか!?いくら私達が優秀だとしても生徒会の仕事は学校生活を送る上で問題点や課題を解決、改善する事です!……これ以上、貴方が好き勝手に生徒会(わたしたち)に干渉するのであれば出る所出ますよ?」

「ッ!」

「ちょっと稲山さん!」

 

流石に言葉が過ぎた様で狸はタコへ変わり、会長様は私を咎めてきた

いつもならもう少しオブラートに包んで告げますが今回ばかりは、こっちにも事情がある故、強く言ってしまった。……まぁ、第三者から見れば学生が校長を脅している様に、いや、実際に脅しているのだけど何せ世間体が宜しくない。この場には私達3人しかいないのだが、障子にメアリー

いらぬ噂が飛ぶのは良くないと『Its joke』と誤魔化そうとした瞬間――――校長が動いた

 

 

 

「……犯罪組織の件ですが、真実ならば私から警察に相談してみましょう」

「本当ですか!」

「えぇ、ただ……被害を受けるのは貴女かもしれませんがね?」

「ッ!」

 

タコが墨を吐いてきた。しかも最悪のタイミングで――ッ!

先程虚仮にされた腹いせか、ニタニタと笑みを浮かべながら私を見てくるタコを絞め殺したくなったが、新島さんもいる手前、我慢しながら校長を睨み返した

 

「……それはどういう意味ですか?」

「この件は君の方が詳しいのでは?と言う話しです。それにその犯罪組織とやらの話を追えば怪盗の手掛かりも得られるかもしれません。話は終わりましたね?では……退出しなさい」

「「……はい」」

 

完全にしてやられた形になってしまった

心の何処かではタコも教師であり、生徒の立場が悪くなる事は言わないだろうと思っていたが、完全に裏切られた。……いや、信用できないと判っていたのに隙を見せた私の落ち度、か……

 

私は、自身の失態に拳を握りしめながらもその場を後にしたのであった

 

 

退出を促され生徒会室に戻る帰路は最悪な雰囲気だ

会長と副会長の関係を逆手に取って、この私に脅しをかけてくるなんて!

勿論、私達『稲山組』は渋谷の件は関わっていない、ただ長年の経験から同業者の匂いを感じ取っていたので、会長の前では、いらぬ心配を抱かせない様に直接的な発言は避けて警察に任せる流れに誘導してきたと云うのにあの野郎……!

 

「あの様子だと鴨志田の件、校長は知っていましたね」

「………」

「渋谷の件はサツに頼るとして、『怪盗団』の件は教育委員会に申し立てれば………新島さん?」

 

隣を歩いていた彼女の足が止まった

何事かと思う反面、先程の件だろうと当たりは付けている手前、周りに人の気配があるかどうか確認しもう一度、彼女の名前を呼ぶと俯いていた顔を上げ強い眼差しで私を見つめ、そして口を開いた

 

「単刀直入に聞くわ。渋谷の件、貴女達も関わっているの?」」

「いやいや、何を言って……えぇ~?」

 

誤魔化しようにも彼女の強い眼差しは嘘や虚言ではなく真実を求める物であり、同時に私があっち側の世界の人間だと確信していた

………お姉さんにでも聞いていたのかな?

 

「お願い、答えて……」

 

懇願する様に私に詰め寄り、手を取ってくる新島さん……

もう隠す事も言い逃れする事も出来ないと悟った私は顔を逸らしながら真実を伝えた

 

「……私達は関わっていないわ」

「本当に?」

「えぇ、組ではウリもクスリもご法度よ」。

「そう……よかった」

 

手を放し、安堵で胸を下ろす新島さんの瞳からは緊張の色が消えていた

 

「……新島さんは判りやすいわ。事件の手掛かりが掴めなくて残念って感じかしら?」

「それだけじゃないわ。この件に貴女が関わっていなくて安心したの」

「安心?……確信持っているみたいだから云いますけど、私って渋谷の奴等と同じで犯罪組織側の関係者ですけど?」

「知っているわよ、最初から」

「え?」

 

薄々気づかれていたとは思っていたが、最初からって?

呆気にとられる私を尻目に新島さんは淡々と言葉を口にした

 

「お姉ちゃんが、教えてくれたの。……最近、この辺りを縄張りにしている稲山組ってヤクザが影で何か動いているから気を付けなさいって。……まさか、同い年で同じ学校に関係者が入学してくるとは思っていなかったけど」

「あ、ははは。出所は、やっぱりお姉さんだったか~」

「最初は何かの冗談だと思ったわ。同名の他人とも考えたけど、確信を持ったのは貴女の言葉の淵縁からこぼれる『ヤマ』や『カタギ』って単語が出るようになった時かしら?……普通の女子高生がいう言葉じゃないもんね?」

「任侠映画が好きなの!って言っても、もう遅いですよね?……それで、関係者どころかバッチリ身内な私ですけど、どうするおつもりで?お姉さんに報告しますか?『噂のヤクザの孫娘が同じ学校にいる』って?そもそも、その~え~と、と、友達にいたって?」

「なんで過去形なのよ?……今も友達よ」

「えぇっと、私ヤクザの孫娘。貴方、検事の身内……OK?」

 

珍しく言葉に詰まる私に対し新島さんは、くすっと笑みをこぼした

 

「生まれた家なんて関係ないわ。云いたい事を真っ直ぐに云える貴女だから友達になったのよ」

「……この際だから言いますが、私はヤクザの直系で、貴女の進学希望は警察学校だった筈。表だって交流してはいけない関係――」

 

友達と言ってくれる嬉しさ半分、まだ幼い彼女に、反社との付き合いのデメリットを説こうと口を開いたが、すっと差し出された人差し指に言葉が止まる

 

「確かに貴女の家は世間的には認められないのかもしれない。でも貴女は貴女でしょ?」

 

 

空気が鎮まり静寂が訪れ、校庭からは部活動に勤しむ生徒達の声が聞こえてくるが、私の心境はそれどころではなかった

 

「……やばい、私惚れちゃうかも」

「なにいってんのよッ!ちょっと!」

 

速くなる心音、高まる気持ちを抑えきれずに私は新島さんに抱きついた

誰かに見られたら誤解されそう、いや、誤解されてもいいと思えて彼女の耳元で吐息と一緒に言葉を紡いだ

 

「新島真さん、こんな私を友達だと云ってくれる貴女だから言うわ。……渋谷の件はカタギである貴女が関わって良い問題ではない。下手に首を突っ込んだから貴女も被害者の仲間入りよ」

「ッ!」

「私達からして見れば三下だけど貴方達にとっては厄介な相手と言う事。校長にはもう一度、私から警察に頼る様に伝える。だからこの件からは手を引いて………おねがい」

 

彼女から身を放し、両手を肩に起きながらも彼女の眼を見つめた

私が真剣に伝えている事を彼女も感じてくれたのか一息ついた後、返事を返してくれたのだ

 

「……わかったわ、渋谷の件からは手を引くわ」

「ありがとう、新島さん……いえ、真!」

「っ!?ちょっと!」

 

私は再び真に抱きつき、頬に軽く口付を交した

我ながら大胆だったと思ったけど驚きと羞恥で驚く彼女の表情(かお)を見て更に感情が高ぶり、柄にもなく舞い上がってしまった

そう舞い上がってしまったのだ………彼女の気持ちも考えずに

 

 

 

 

そして私は気付いてしまった時にはもう遅かったのだ

 

 

「To:TSUBAKI INAYAMA

 

     私、頑張ってみるね……

 

           From :MAKOTO NIIZIMA」

 

 

彼女が危険な橋を渡ってしまっている事を………

彼女の裏切りを……

 

 

 

 

 

6月12日―――

 

共通模擬試験

全国の進学を希望し足を運んだ学生には悪いが私の気持ちは試験どころではなかった

昨日、送られてきたメールに書かれた一文の真意を聞く為に彼女を捜し周っていたのだ

 

休み時間、昼休み、そして試験後……

時間が許す限り捜し回ったのだが、全てが空振りに終わり焦りを覚えてしまう

 

彼女の事だから一人で抱え込んでいる可能性が高く、犯罪組織そして怪盗団の件を一人で解決しようとしているのに違いない!

そして、校長から実家の事を引き合いに出された私に心配を掛けまいと意図的に私を避けている!

 

………私の事を思っての行動だと心の何処かでは踊り回っている私がいるが、同時に約束したのに裏切られたと憤怒する私もがいる

 

歓喜と憤怒、二つの感情が混ざり合いゴチャゴチャになって―――

 

「……shit!」

 

衝動的に自販機の横にあるゴミ箱を蹴り飛ばした

カランカランっと音を立てる転がる空き缶を無表情に眺め、一息……

物に当るなど自分らくしない行動だったと反省し、その場を離れようとした時―――

 

「缶は片付けないのかい?」

 

やけに耳に残る声が掛けられた

イラつきながらも振り返ってみれば最近TVで見る事の多い人物が微笑んでいた

 

「……新手のナンパですか?」

「流石に試験会場(ここ)で、ナンパする勇気は僕には無いよ」

「そうですか…なら私は「新島さんの事を捜しているのかい?」ッ!……彼女は、いま何処に?」

 

私は静かに優男に近づき胸倉を掴み上げて問い質した

彼は目を白黒させて驚いている様だが、どこか私を観察している感じにも見えた

 

「……何か?」

「いや、すごい顔。まるで犯罪者だ」

「さっさと唄え。こちとら気が立ってんよ」

「その前に手を放してくれないかな?…締まっていて苦しいよ」

「………」

 

降参とばかりに両手を上げる彼に私は、苛立ちを覚えながらも手を放す

 

「新島さんならさっき、バスに乗っている所を見たよ」

「っち!」

 

開放され軽く笑みを浮かべながらも身なりを整える彼に、視線で早く言えと急かすと肩を下げて唄うが、その内容に舌打ちが出てしまう

遅かれ早かれ明日には学校で彼女と顔を合わせる事になるが、このごちゃまぜになった気持ちは抑えられないし、耐えられない

柄を返し彼女の後を追い掛けようとしたが、彼に肩を掴まれてしまった

 

「………まだ何か?」

「彼女の後を追うのは辞めた方がいい」

「あぁ?」

 

眼光鋭く、また首を締められたらたまったものではないと両手をあげ降参の意を表す彼に対し落ち着きを見せていた私の感情が再び燃え上がっていくのを感じたが、彼の紡ぐ言葉にどうしようもない不安感が舞い込んできた

 

「彼女から君に伝言さ」

「……伝言?」

「『心配しないでほしい。全てが終わったら、またお茶しましょう?』だってさ」

「……なによそれ。私の気持ちを裏切っておきながら心配しないで?ふざけんな!貴女だって精一杯でしょう!校長にお姉さんに学園の事も!何もかも一人で背負うって云うの!?」

「君なら絶対に助けてくれるって信頼でもある様に感じるよ?今日、君と会わない様にしたのも彼女なり罪悪感を覚えて気まずいからじゃないかな?あくまで僕の推測でしかないけど、少なくとも君の事を思って行動したのは事実だ」

 

なにそれ、勝手に『信頼』しないでよ……

生徒会と言うコミュニティ以外での信頼関係は、これから築いて行けると思っていたのに一方的な感情の押し付けだったと思うと苛立ちが自分への憎悪となって渦巻き心の底から溢れ出てきそうだ

 

「僕も新島さんの全てが分かる訳ではないけど、さっき言った通り『信頼』はしているよね?何かあったとしても君が、君の家が助けてくれると信じているから」

「……私の…家?」

「あぁ、この職業柄かな?君のご実家の事は知っている。……言葉が悪いかも知れないけど、言わせて貰えば君に頼めば最悪の事態は避けれると打算していると思うよ」

「………」

 

何も言い返せない

彼の瞳の奥で淡く光るナニカが、私の心に入って来て感情を濁らせていく……

ニイジマサンハワタシヲミテクレテイナイノカナ?

 

「何も新島さんが君と友好を結んだのは、そういう事を望んでと言う訳ではないと思おうけど、保険には考えているかも知れないね?」

 

…ホケン?そんなの利用しているだけじゃない!

堅気からして見れば極道もマフィアも変わりないと思われても仕方がないけど!

都合の良い女(ユウジン)である稲山組(わたし)に頼み込めば卑劣な行為から身を守ってくれると愚行したのカナ?

実際問題、そんな甘く片付けられるものではない。、裏の人間であったとしても所詮は、他人の庭であり、隣人の稲山組(わたし)がいくら叫ぼうが全くと言って良い程に声は届かない

 

 

 

だと言うのに私の忠告を破って自ら危険な道を進んだ新島さん、そんなのって――――

 

 

 

  『……都合よく裏切っておきながら、また私を裏切る(利用する)の?』

  『……上等じゃない。私も裏切らせて貰うわ!』

 

 

 

新島真と言う女性と過ごして築き上げたモノは上辺だけの偽物だった

 

(ロキ)の云う通り、カウンターガーディアンとして利用しているだけだ

 

醜く人間の深層心理に存在する絶対的な醜態であり怠惰なり

 

己が道を切り開らかず、(ヘラ)へと縋る傲よ…

 

それとも彼女と過ごし築き上げてきた絆は真実だと唄うに値するのか

 

今一度、汝の心に問いかけて見るがいい――……

 

 

 

だと言うのに私の忠告を破って自ら危険な道を進んだ新島さん、そんなのって――――

 

 

 

   『……都合よく裏切っておきながら、また私を裏切る(利用する)の?』

  『……上等じゃない。私も裏切らせて貰うわ!』

 

 

 

「………へぇ」

「保険?上等じゃない!例え彼女が私の忠告を裏切ったとしても私は貴方が言う通り『信頼』しての事だと信じるわ!だから私も彼女を『信頼』して彼女を裏切らせて貰う」

 

思い出すのは私が新島さんに言った言葉

『しない後悔より行動しての後悔』を実行したに過ぎなく彼女が信じる道を歩んだだけ

それが私の忠告を無為にする行動だってわかって起こしたのなら言った私が責任を取らなくてどうするって云うの!

恐らく彼女は望まないだろうけど、裏切った報復だ

こっちも好き勝手、新島さんの思いを裏切らせてもらう

 

心の中の突っかかりが取れて、先程まで渦巻いていた気持ちが心に納まっていくのを感じながらも私は、初めてちゃんと彼の眼を見て笑みを浮かべた

 

「迷惑を掛けましたね?柄にもなく冷静さを失っていました。……感謝します、明智五郎くん?」

「……僕の事、知っていたんだね?」

「有名人じゃないですか、二代目探偵王子」

 

つい先週もテレビに出演していた今をトキメク探偵王子

ルックスも良く爽やかなイメージからお茶の間の人気タレント……私もミーハーではないから詳しくはないけど、送られてきた情報からは彼が本物の探偵だと報告されていた

 

「しかし、探偵って云う人種はお節介なのですか?新島さん経由で私の事を知っていたとしても伝言を頼まれるなんて」

「僕もそこまでお人よしじゃないよ。ただ……君が少し僕と似ていると思ったからさ」

「ふ~ん」

 

極道と探偵が似ている、ね……

そういう彼の表情は、テレビで見る彼とは掛け離れた、どちらかと言うと社会の裏側を知っている私達に近い表情をしていた。

暗く濁った社会の影……理不尽や横暴、裏切りなどを実際に体験したような曇った瞳を彼が持っている事に驚きはあれ、今まで会った男性には持っていない魅力に私は頬が緩んでいった

 

「ふふ~ん、この礼は必ず返すわ。……なんならデートしてあげるわ」

「はは、それは楽しみだ」

 

そう返す彼の表情は既にいつもの表情(かめん)へと変わっていた

 

 

6月20日―――

私はあの日の翌日、10日間ほどの欠席届を提出した

高校3年のこの時期に出す長期の欠席届に教師陣は首を傾げ、口を揃えて『病気』の心配をしてくれたが校長だけは口に出さずとも心なしか『安堵』しているように感じられた

 

おおよそ、信憑性がなかった渋谷の犯罪組織の件に真実味が浴びた為に動揺していたのだろう

そんな中、『稲山』が欠席届を出したと聞けば自ずと渋谷のマフィアに対処する為だと想像したのも容易い

勿論、私が校長なんかの為に動く気など更々なく、新島さんにいらぬ責任の矛先が向かない様にするためだ

 

勿論、彼女には軽くメールはしてある

いきなり10日も欠席するのだ。心配する必要はない事と生徒会の事をおねがいしますと……

そして最後のやり取りは―――

 

 

 

「To: MAKOTO NIIZIMA

 

     私も頑張ってみるね……

 

           From :TSUBAKI INAYAMA」

 

 

 

裏切られたのだからこの位の意趣返しはいいだろう

 

学校側から生徒を守る為に彼女は動く

世間側から生徒を守る為に私は動く

 

秀尽学園きっての会長副会長コンビとしての手腕を見せてあげましょう!………って息巻いたのは良いですが、ここ数日の成果はボロボロ

 

無論、わかった事もある

星は金城潤矢 独身32歳

高校中退後『運び屋』としてマフィアの傘下に加わり、長い下積み生活を送った後、渋谷区の幹部に昇進

渋谷は各地から流れる薬を目的地となる他の区画に中継する地域の拠点となる区画であり、彼は自身の経験と知識から『運び屋』に指示し、それなりに安全なルートを確立している人物

 

奴さんを探す為に先だって行ったのは色々と勢いの良い天草組への挨拶だ

……渋谷を島にしている天草組も稲山組と同じくクスリの売買を表向きは禁止しているので、隣接する稲山組の島にクスリが流れて来ている可能性を建前に声を掛け協力体制および稲山組の渋谷内での行動に目を瞑って貰っている

いくら冷戦状態であり敵対する可能性があろうとしても通す筋は通さなければいけない

無論、天草組の人員も稲山組の島での行動を一時的に許可している。……こちらがいちゃもんをつけている手前、ある程度の妥協も必要なのだ

 

天草の奴らを島に入れるのはリスキーだが、早期解決を目指す為仕方がない

爺ちゃんには迷惑を掛けるが、カタギに被害が既に出ている手前、苦湯を呑んでもらった

 

そして金城のシノギだが……本当に胸糞悪いモノであった

クスリの売買と運搬、それに調達。これだけなら只のクスリのバイヤーで憎悪感を抱かないのだが、奴は『運び屋』にカタギの学生を使っている

何も知らない学生を使う事で薬の出所と組への危険を減らし、もし捕まっても蜥蜴の尻尾切り自分達には何も痛手が無い。『運び屋』としては美味しい労働力である為、良く使われる手だが、本当に許せないのは、その後だ。

 

奴は『運び屋』を更に強請って小遣い稼ぎまでしている

部下に『運び屋』の学生を尾行させ、それを出汁に家族に被害を加えると脅迫し彼等から財産を巻き上げているのだ

 

百歩譲って堅気の学生を『運び屋』にして稼ぐのは許そう。金に釣られて引き受けた彼らも悪い……手痛い社会勉強として受け取って貰おう

だが、その後も手を出すのは許容の範囲を超える

誤解しがちだが、極道と堅気は持ちつ持たれつの関係にある。その事も判らず金を絞り取るしか頭にないマフィアは、だから嫌いなのだ

 

だが、ここからが苦労の始まりだった

この落とし前をつける為に情報収集も含め何カ所か奴らの拠点を潰して周っていたのだが肝心の金城が姿を暗ましたのだ

どうやら少し動きすぎたせいで警戒し相当深くに潜ってしまっているようだ

 

……時間がないと事を急いだ弊害だと反省はするが、残りは星の確保のみ

欠席届最終日まで粘ってみたモノの姿を捕える事は出来なかった

 

「最後まで手を出せなかったのは悔しいけど、これ以上の欠席は爺ちゃんが許してくれないし、仕方がないか………」

 

現場に出る事は出来ないが、策は練る事はできる

金城は金に執着しているようだし、頃合いを見て囮捜査でも仕掛けて見るのも一興と後の事は組の者に任せバイクのエンジンをかけた時―――黒塗りのハイエースに乗った新島さんとそれを追うタクシーに乗った彼が目の前に飛び込んできたのだ

 

「…………あの馬鹿ッ!」

 

突然の出来事に思考が停止してしまったが、二、三の瞬きの間には脳がフル回転で動きだし、バイクのアクセルを全開に回しタクシーの後を追いかけた

ただ単に知り合いの車に乗っているとか、探偵ごっこの延長だったら良かったのだが、あからさまに彼女達は攻め過ぎてしまっている

 

危険がある故、『攻め』ではなく『守る』役割を与える事で彼女の行動を抑制したつもりだったけど、今の彼女には『怪盗団』と言う切札があったのを忘れてしまっていた

そんな彼女が『守る』だけで終わる女ではない事は長年の付き合いからわかっていたのに不甲斐ない!

 

自身の考えの甘さに苛立ちを覚えながらも2台の後を追い、辿り着いた先は会員制の遊戯クラブであり、一度稲山組の者が見て回った場所であった。

……まさか敢えて手が入った場所に身を隠すとは私も本当に考えが甘い!

 

このまま私一人で仕掛けるのも一手、ある程度なら対応できる武器は持ってはいるが、中にいる彼女達が離脱した事を確認しなければ文字通り流れ弾に当たる可能性がある。……それに逃げられても仕留められても刑務所送りになる確率は高く、それは彼女達は望まない解決策であり、立場的にも咎められる行動だ

 

鉄砲玉になるのは軽率だったと頭を振りながらも、念の為に持ってきていたサラシをビルの影で腹に巻いて心構えだけでも作っておく。……事を起こすのは彼女達が解放されてから

既に組の者には連絡を入れたし3時間後には金城を押さえる事が出来るが、それより速く彼女達が奴さんの誰かと一緒に出てきた場合……助ける為に私は鉄砲玉になろう

 

これまでの学校生活楽しかったな~、やり残したことが無かったっけ?と自問自答し時間を潰していると顔色が悪い新島さんと彼等―――雨宮君、坂本君、高巻さん、そして明星学園の制服を着た長身の男性が店から出てきた

 

制服で捜査していた事実に驚きを覚え同時にクスリ漬けにされていない彼女らを見て安堵の息をこぼす

相手はクスリのバイヤー……もしもの場合は考えていたが今回は『小遣い稼ぎ』を優先されたみたいだ

 

ともあれ条件は満たされたと彼女達を保護する為に足を踏み出した瞬間―――

 

 

 

――――世界が揺れた

 

 

 

Next stage→ I am thy. Thou shalt be me



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第四話 I am thou, thou art I

プロット練り直しましたので一部変更です



第4話 I am thou, thou art I(我は汝、汝は我)

 

 

渋谷―――

日本屈指の繁華街であり、若者の街と云っても過言ではなく若者と流行が集まる発展都市の筈なのだが、私が目の辺りにしている渋谷は、若者の街とは掛け離れた空から万札が舞い振り、地にはATMが動き回る奇奇怪怪(ききかいかい)な街へと変貌を遂げていた

 

新島さん達を待っている最中に連日の疲れが出たのか?と思い何度か頬を叩いてみたが、コレが夢でない事を教えてくれるのみで、正直お手上げ侍状態。だからと言って何もしない訳にも行かず辺りを散策している中で、解決に導いてくれそうなモノの検討は付いてきたのだが……

 

「……UFOよね、あれ」

 

奇奇怪怪(ききかいかい)な街を更に異色に染めているUFO……

まるでこちらを誘い込む様にUFOから伸びる階段の先には大きな建物が見え隠れしている

このまま街に留まっていても事態の変化は望めないし、宇宙人と遭遇したとしても人型なら殺りようはあると己を奮い立たせ階段を上った先には、やはり建物があった。……あったのだが―――

 

「……カネシロ銀行って何よ」

 

架空銀行よろしく日本銀行ほどの大きさをした似非臭い建物が聳え立っていたのだ

非現実的で馬鹿げている光景に本格的に頭が痛くなってきた

 

しかし、考えていても仕方がないと一階の窓を叩き割り室内に侵入、内部構造は銀行に似た作りになっていたが、人の気配はなく容易に探索する事が出来た。……出来たのだが何分、構造が可笑しくただ単に広い。それにエレベーターに鍵が掛っているようで、これ以上奥への探索は難しくなっていた

 

何かしら手を打たなくてはと考えながらも来た道を戻っていると、何やらエントランスの方で話し声が聞こえたので近づき2階に身を隠した。

耳を澄ましていると下の階から聞き覚えのある声が聞こえ、もしかすると思い縁から下を覗いてみると気前の良いスーツを着た小太りの男性と黒ずくめの人型そして……コスプレ集団と新島さんが言い争いをしていたのであった

 

「意味不明な銀行に侵入した先はコスプレ会場でした……一体どうなってんのよ、これ」

 

よくよく見てみるとスーツを着た小太りの男は金城であり、コスプレ集団と比べてインパクトは弱いが、逆に秀尽学園の制服の新島さんだけが浮いている様に見えて笑いが込み上げて来そうなモノだが、彼等の会話は決して笑えるモノでは無かった

 

「………まさか金城の客になったっていうの!?」

 

姉に払って貰え、お前が客を取れなど金城が口にする言葉はどう考えても裏の仕事を斡旋しているにしか聞こえない。そこから想像するのは容易く新島さんが金城に弱みを握られたと言う事実。

頭の中でスパークが走り彼らの会話だけで新島さんの状況を理解した私は腰が浮き、無策にも飛び出そうとした瞬間―――

 

『助けに行くのか?』

「ッ!……誰?」

 

聞き覚えのある声に呼び止められたのであった

ドクンドクンと大きく音をたてる胸を手で押さえながらもゆっくりと振り返った先には、私と瓜二つの容姿をした存在の登場に思わず後退りしてしまう

人間ありもしない事を体験するとパニックに陥ると良く聞く話ではあるが、実際に混乱は無く不気味さと一部の恐怖が私の感情を締めていた

 

『新島はカネシロの客になった。ならばカネシロと同じ道を行くオマエが助けに行くのは筋違いなのではないか?』

「………何を言っているのかしら?」

 

だが、此方の心情など知った事はないと話し始めたワタシはエントランスにいる彼女(にいじま)を指差しながら金色の目で私を見つめ問い質してきたのだ

 

『ヤクザとマフィアは組織的には全く違うモノだが悪事に手を染めて力を付け組織を大きくし地位を高めていく。組織の違いはあれ、カネシロは悪道を通るニンゲンでありオマエも同じく悪道を通る同業者だ。……同職の食い争いは不毛だとは思わないか?』

「……貴女にとやかく言われる筋合いはないわよ?」

『確かに筋違いだが、貴様の言動も筋違いだろう?ニイジマは自分の認識の悪さによってカネシロの客になった。……その行動に対しとやかく言う権利は貴様にもない。ましてや同業者の邪魔をする意味もないだろう』

 

本来、聞くに値しない言葉だが、何故か耳に…心に響き彼女の言葉に対し『確かに』と思えてしまっている自分がいるのに私は驚きを覚えると同時に怒りを抱いた

 

「……確かに今回の件は金城の方が一枚上手で新島さんの認識が甘かったのが原因。同業者として認めたくはないけど上手く立ち回ったと思うわ。だけど、だからと言って見捨てていい訳がない!私には……私には彼女を助けられる力がある!なら助けてあげるのが友達って言うモノじゃない!」

 

最早、公論は終りだとばかりに彼女達を助ける為に奇襲を仕掛けようと手摺に手を掛けた時、後ろに居た彼女がクスクスと笑い始めたのだ。下の階層には届かない程度のさほど大きい笑い声ではないが、妙に耳に響き……不安を駆り立てる声に(ワタシ)ワタシ()を睨み付けた

 

「……なにが可笑しい」

『助けられる力だと?……その力はカネシロと同じことをやって身に着けた力だろうに』

「なっ!?」

 

『なにを!』と反論する前に彼女は立て続けに言葉を紡いだ

 

『カネシロがやっている事は稲山組も通って来た悪道であり此方の世界ではよくある話だ……弱者を嬲り奪えるモノは全て奪い己が力へとする。その結果、弱者が淘汰されようが知った事ではない』

「ち、違うわ!私はそんなアコギなこと『あわよくば!』ッ!」

 

 

 

 

 

『私の客にしたかったと思っただろ?』

 

 

 

 

 

「ッ!」

『友達……。あぁ、確かに友達だ!今まで(いえ)の事で避けられ続けていたのに事情を知っても尚、変わらぬ付き合いをしてくれるのだから尚更大切にしたい!』

「………」

『しかし、いずれ別れる事になる!疎遠になる!それが高校卒業か、または明日か!オマエは折角できた友達を手放したくないのだ!』

「そ、そんなことは……」

『ならばどうすれば離れ離れにならなくてすむのか!?そうだ!自分の客にしてしまえばいい!そうすれば立場を利用し金を揺すりながらいつでも会える!永遠に!』

「そ、そんなのは友達とは言えないわ!友達って言うのは『そもそもニイジマは貴女の事を本当に友達だと、信頼を預けていると思っているのか?』ッ!」

『ニイジマの姉は検事だ。ヤクザと反対の位置にいる。もしかしたらニイジマが姉と同じ道を進んだ際の出世の道具にされるかもしれないぞ?』

「そ、そんなことは…」

『売り飛ばされずに、そして離れられない関係はどう築いたらいい?言葉の鎖よりも頑丈で丈夫な楔はなにかしら?……あぁ、そうだ。私の客にしてしまえば売られる事も離れる事も出来ない!』

「ッ!……じゃない」

『ふふん、貴女は私。私は貴女の代弁者なのよ……だから声を大にして言うわ!』

「…なんかじゃない」

 

なぜだろう……反論したいし怒りでどうにかなっちゃいそうなのに……自然と涙がこぼれ始めていた。私はワタシがわからない、今にも爆発しそうな気持が涙として溢れ出てくる

 

『本当はカネシロに嫉妬したのよ!私より先に友達(えいえん)を掻っ攫ったカネシロを!』

「ッ!あんたなんて私なんかじゃ「うぜえんだよ、この成り金が!」ッ!……え」

 

最早我慢の限界が訪れた瞬間、普段の彼女からは想像の出来ない怒声にフッと我に返った

唖然と彼女の方に視線を送ると頭を抱え苦しみながらもカネシロを睨み付け怒号を吠え―――蒼い炎が立ち上がると共に大型の単車(バイク)に乗った彼女が姿を現したのだ

 

「なに、あれ……ヨハンナ?」

 

趣味も講じて単車には詳しくなっていたつもりだが、見た事も聞いた事もない単車の登場に色々な事が頭を駆けまわる。カスタム車?でも排気量可笑しくない?そもそも新島さん免許は?などと色々と浮かぶがどれも全てが答えに結びつかない

 

『……ペルソナ。内なる自身に秘めたもう一人の自分。それは反逆の意志であり心の具現』

「ぺる、そな……心の具現……」

 

この答えを教えてくれたは先程までの勢いが嘘の様になりを潜めたワタシ―――

弱弱しく今にも泣き出しそうなワタシの金色の瞳と目が合わさり――――頭の中に声が響いた

 

 

 

 

【生まれた家なんて関係ない】

 

「ッ!?なにこれ!?」

 

【云いたい事を真っ直ぐに云える貴女だから友達になったのよ】

 

「これは、この間の…」

 

【確かに貴女の家は世間的には認められないのかもしれない。】

 

「…………」

 

【でも貴方は違うでしょ?】

 

「………そっか、そうよね」

 

 

言葉だけではない瞼を閉じれば脳裏に浮かぶ彼女の顔―――

私と言う人間を信じ真っ直ぐに見詰めてくれる貴女に私は助けられたのだ

奇しくも新島さんと同じく頭を抱え響く声に震えていた私は、表を上げると真っ直ぐにワタシを見つめた

 

「………あーぁ、本当に新島さんは速まった事をしてくれたわ。足並みを揃えてくれれば他にやり方があったって云うのに」

『……………』

「どうせ此方の世界に踏み込むなら私の眼の届く範囲。それこそ私の手の中なら良かったのに。………いつも私の想像を裏切る行動をとってくる。そう考えると確かに私と新島さんは相容れない立場同士なのかもしれないわね?」

『………』

「だからココがターニングポイント。今ではない未来において責任感の強い彼女の事だから金城経由で此方の世界に遅かれ早かれ首を突っ込んでしまうかもしれない。……貴女が心を鬼にしてあんなキツイ事を言ったのは、私との交友関係で彼女に迷惑が掛からない様にする為。……そして真っ黒な私が後ろ盾になって新島さんを此方の世界から守れるようにしたかったのね?」

『………』 

「稲山組も……爺さんもアコギな真似をして組織を大きくして力を得たのかもしれない。そして私はその恩恵を受けて育っていた。」

 

今まで疑った事は一度もない。

両親を亡くしてから男手一つで今まで育ててくれた格好良い大切な祖父だ。いや、疑いたくなかったのかもしれない。……格好良い極道である祖父がアコギな真似をしている現実を

 

「私が得た力はアコギな力。でも、貴方も聞いたでしょ?家なんか関係ないって真顔でヤクザの孫娘に云える新島さんを!だから私は信じたいし、力になりたい!例え悪党の力でも共に歩む事が出来なくとも!守る事は出来るって!そして友達を、この力の糧にはさせたくない!」

『……お前は誰だ?』

「ふふん、自分の名前も云えないのかしら?……私は関東指定暴力団稲山組組長が孫娘、稲山椿!悪の力を持って友達を守る女よ!―――ッ!」

  

 

名乗り上げた瞬間、地面から私を包む様に風が吹き荒れ秀尽の制服が蒼い炎に呑まれていき、次の時には黒色の和服をベースにした服装へと変化を遂げた

 

そして、もう一人の私も地から這い出る鎖によって雁字搦めに拘束されもがき苦しみ、鎖が肉体に食い込み至る所から血が滲み出ていたが、頭に響く声だけは穏やかであった

 

 

 

 

影を持っている人間だからこそ、光り輝くものが出てくる

 

影から出てくるそいつ独自の生き方、光に人は憧れる

 

日陰者だから光を拝んじゃいけねぇわけねぇ

 

我は汝、汝は我―――――

 

おめぇさんが、目ん玉をひん剥いてりゃぁ

 

見えねぇもんも見えんだろう

 

 

 

 

 

「えぇ!私は全て見ていくわ!光も影も!だから来なさい!」

 

かの声に応えるや否や私の口元に鬼の半面が現れ、歌う事を禁ずる

そんな半面が邪魔で邪魔で仕方が無く、手を掛け一気に引き剥し、声を高らかにペルソナ(かの者)の名を叫んだ

 

「刻め!ザトウイチ!!!」

「「「「ッ!?」」」」」

 

拘束されていたワタシの内側を食い破り躍り出るペルソナ―――ザトウイチは、二階の手摺から身を投げ出した私に続きエントランスへと飛び降りると彼女らを囲む黒い人型を一掃した。 

 

「真!」

「ッ!えぇ!」

「「フレア/メギド!!!」」

 

だが、まだ終わらない。

真に声を掛ければ当然とばかりに私に合わせて彼等と対峙する白鬼に攻撃を放つ

その衝撃は絶大で、白鬼だけではなく一掃した黒い人型も巻き込み消滅させたのであった

 

「な、なに!?」

「脱出するわよ!」

「あ、世紀末先輩チース!」

「……叩かれたいの?」

 

いきなりの奇襲と反撃にカネシロは事態の理解が追い付かない様子

それとは逆に落ち着きを取り戻した新島さんは後輩君とじゃれる余裕すら生まれていた

 

「遊びはそこまで。今なすべき事はっ!」

「えぇ、一時撤退よ!」

「ってもどこから!?」 

「出口は一つでしょ!ついて来て!」

「後ろ失礼!」

 

単車(ペルソナ)のエンジンを吹かし始めた時には、彼女が何をするのか理解したとばかりにタンデムシート……は無かったのでマフラーカバーだと思われる箇所に足を乗っけて彼女の肩に手を置いた 

 

「安全運転でお願いします!」

「初乗りで二人乗りは自信ないけど……行くわ!」

「コスプレ君達も早く着いてきなさいね!」

 

私の言ったコスプレと言う言葉に絶句している彼らを余所に新島さんは正面入り口を吹き飛ばし脱出を計ったのであった

 

 

 

 

ぐにゃりと世界が歪んだ

それはあの世界へと侵入した感覚と同じで戻ってこれると本能的に感じた時には見慣れた渋谷駅が目の前に存在していた

 

私からしてみれば異世界から行き成り、現実世界へと帰還を果たしたのだから周囲の人々に豪く驚かれると身構えたのだが、驚きの声はなく最初からソコにいた(・・・・・・・)かの様に通り過ぎて行った

 

まだまだ、あの世界の事やこの(ペルソナ)について理解が追い付かず、コスプレ集団もとい雨宮君達に連れられるがままに渋谷駅のポールベンチへと腰を掛けたのであった

 

「今まで生きて来た中で一番疲れたわ」

「……同感、です」

 

初めて扱う未知の力の反動と情報量の多さに妙に身体が重い……

全身の力と言うか生命力と言うモノが根こそぎ持って逝かれた様な怠惰感に駅の壁に背を預けポケットから飴玉を取り出し口に含んだ

瞼を閉じ、口に広がるミントの香りに少し顔を歪めながらも身体に染み渡って行く糖分が身体を癒してくれているのが判る

 

まだ回りきらない頭で雨宮君達と稲山さんの話を薄らと聞きながらも『お姉さんが検事』だとか、『私がもっとしっかりしていれば』とか後悔後に立たずとはまさにこの事だな~と軽く考えるが半面、雨宮君達の口から『怪盗団』と言うワードが出てくる度に彼等が噂の『怪盗団』であり、あまりにも無警戒な態度を取る為、軽く手を叩いた

 

それ程強く叩いていないのにも関わらずに怪盗団の視線を一斉に集める事が出来て、私ご満悦

 

「少しは警戒しなさいよ?こんな人通りが多い所で軽々しく『怪盗団』なんて口にしたらダぁメ」

「あ、わりぃ……って!おぃい!一緒に居たから勘違いしてたけど思いっきり部外者じゃねぇか!」

 

ふふ~ん、素直は美徳!

坂本君は素直に己が間違いを謝り、頭を下げたが直ぐに私が部外者と言う事に気づき大声を上げ、注目を浴びそうな行為を再び行ったので私はにんまりと笑みをこぼし、そして表情を戻した

 

「金城潤矢……未成年に裏の仕事を斡旋して、それを脅迫材料にして金を巻き上げ、その家族をも更に脅すアコギなシノギで金を稼いでいる小悪党。」

「「「「「!?」」」」」

「彼の縄張りは渋谷全体。……天草組の島だけど彼等も隠している感じに思えなかったし鼠が入ったって所ね?」

 

同意を求める様に彼らに話を振るが、当の彼等と言えば猫を囲みながら相談事をしているようで――――

 

「お、おい!なんでコイツ、金城の名前を知ってんだ!?まさかッ!」

「いや、決めつけるのはまだ早い。彼女はペルソナを使っていた」

「だけど、敵じゃねぇって訳もないだろ!」

「うむ……」

 

―――……猫がしゃべった!?

き、き、聞き間違えじゃなければ確かにあの黒猫は人語を話していた。まさかあの空間には侵入すると幻聴を及ぼす副作用があるのか!?で、でも!幻聴作用があるのであれば個人に起るモノで彼等全員が黒猫の言葉が理解出来ている様に見える訳で集団幻聴!??

 

回り始めた頭が余計な事まで答えを導き始め終いには『語尾はニャンじゃない』と言う画期的で斬新で未知の答えを出したところで、肩に手を置かれ正気に戻れた

 

「安心して、彼女は敵じゃないわ。どっちかと言うと彼女も金城を探していた口だから」

「え?それって…どういう意味?」

「……いいかしら、稲山さん?」

 

許可を貰うべく視線を合わせてくれる新島さんに私は頷く

 

「彼女のご実家は極道なのよ」

「極道って……ヤクザか!?」

「竜司!声デカいって!」

 

三度目の正直ならぬ三度目の大声は坂本君と高巻さんの二人から発せられたが、内容が内容だけに洸星高校の子も目を大きく開けて驚きを露わにしていた

 

「新島さんが言った通り、実家絡みで金城の居場所を探していたのよ。そしたら見知った顔が数日前から探していた金城のアジトへと連れて行ってくれた。予想外な事は、金城の顧客になっているなんて何かの冗談だと思ったわ。でも、これで金城の居場所が分かったから、この事に対してはみんなに感謝しているわ。……ありがとう」

 

改めて頭を下げて感謝を告げる。勿論、みんなをこれ以上、裏社会へ干渉しないように釘を刺す為でもあるが、洸星高校の子が口を開いた

 

「感謝、か……金城をどうするつもりだ?」

「貴方は?」

「洸星高校二年、喜多川佑介。画家をしている」

「………あぁ!斑目さんのお弟子さん!?」

 

斑目の名前が出た瞬間に顔を歪める喜多川君

彼の名前と顔は【贋作・さゆり】の件で斑目の内弟子と言う事で資料に上がっていたのを思い出し思わず声に出てしまったが、不正を働いた師匠の事を言われるのは不快だろう

 

喜多川君に軽く謝罪し金城の処遇について濁して伝えた

 

「勝手に人様の島でアコギなシノギをやっている奴の末路なんて一つしかないでしょう?」

「いや、そうではなく―――」

「脅迫されている件を心配しているのね?大丈夫、元凶がいなくなるのだから脅迫の件は無くなるわ。」

 

敢えて喜多川君の追及を押し切る形で会話を終らせる

【どうするつもり】と聞いて来ているので、どうなるのか―――凡その想像が付いているだろうけど学生が気軽に入り込んでいい内容ではないでしょ?

 

「……殺すのか?」

 

だと言うのに雨宮君はその一線を何の躊躇もなく超えて来てしまった

案の定、【どうするつもり】の意味に気づいていなかった坂本君と高巻さん、それと猫?は驚きの声を上げていた

 

「………貴方、空気読みなさいよ?知らなくても良い事だわ。この件は忘れなさい」

「それは出来ない」

「……お姉さんの話を聞いてなかったのかな?この件はどう考えてもカタギが口を挟んでいい問題ではないのよ?」

「だからって殺すのは間違っている」

「貴方、自分の立場をわかっているのかしら?いくら、金城が子悪党だとしてもコッチ側の人間ならコッチのやり方で落とし前つけるのが筋よ。金城なんかに弱みを握られている貴方はどうするつもりなのかしら?」

「法の下で裁きを受けて貰う」

「法って……」

 

彼の言葉を受けて思わずため息が出てしまう

悪人を法の下に裁きを降すなんて、今の日本では到底無理な事だと理解していない

豚箱に入れられたとしても直ぐに出て来て、同じ道に戻ってくる事など目に見えて判っていると言うのにそれを成そうとするなんて……

 

判っていない、と彼を諭す為に口を開こうとした時に新島さんが間に入って来た

 

「ごめんなさい、稲山さん。貴女の忠告を受けていたのにこんな事に巻き込んでしまって」

「……どちらかと言うと巻き込んだのはコッチですわ。私が余計な事を話さなければ巻き込まれた可能性は減ったモノ。でも安心して。カネシロは稲山組がケリを付けるから」

「……そのことなんだけど、金城には私が、いえ私達がケリを付けるわ」

「ッ!」

 

まさかと思い、彼女の顔を二度見してしまうが、彼女の顔から冗談ではなく本気でそうしたいと訴えているのが感じ取れた

 

「貴女の考えている事はわかっている。でも、私は彼等と一緒に金城を改心させたいのよ」

「改心?」

 

聞き慣れない言葉に頭を傾けると先程まで沈黙していた猫?が雨宮君の肩に乗っかり、『改心』の詳細。更にはあの世界の事、あの力の事を教えてくれた。

現実放れしている内容だけど実際に体験した事なので信じるを得ないと言った感じかな?ちなみに猫?の名前はモルガナと言うらしい

 

「……なるほど、ね。さっきの金城は本物じゃなくて心の具現。そしてあの世界の心を盗めば改心し、罪を償うと」

「あぁ、正義を成す為だ」

「………正義、ね」

 

正直、彼等が言っている事が事実であれば金城は豚箱を出た後は更生し、二度と此方側の世界へとは足を踏み込んでこないだろう。悪事を起こす気が起きないのであれば

 

しかし、それよりも気になった事ができてしまった。それは―――

 

「なら稲山組にも予告状をだすのかしら?」

「「「「ッ!」」」」

 

【理不尽なルールや強者に嬲られた人々を助ける】と言った彼等の行動理念は逆に云えば、彼等は【理不尽や強奪者、社会的強者】をターゲットにしている事が明確であり、社会的強者であり強奪者であり理不尽なルールを敷いている反社会的勢力など格好のターゲットであるのだ

 

「自分で云うのもなんだけど、稲山組は金城とは比較にならない程の巨悪よ?正義を語るのであればターゲットになっても可笑しくない。」

「……」

「正義を語る怪盗団はどうするのかしら?」

 

無論、私が判る範囲で現在、稲山組に黒い噂は流れてはいないし、ウリもクスリもご法度にしている。だが、過去は判らない。もう一人のワタシが言っていたように過去に悪事に手を染めていた可能性は捨てきれないし、むしろやって来ていただろうと今の私ならわかる

 

どうするのだと視線で訴えかけると彼は重く口を開いた

 

「……今は出さない」

「理由は?」

「……貴女を見ていると悪党だとは思えない」

「ふ~ん、私は、まだ染まっていないだけで稲山組は真っ黒かもしれないわよ?」

「ちょっと椿!」

「新島さんは黙っていて!」

 

流石に云い過ぎだと口を挟んでくる彼女を黙らせ雨宮君を睨み付ける

別に意地悪して彼を試しているのではない。彼の瞳にブレは無く本当にそう思っているのが手に取って分かるのだ。ただあの時、廊下で見せていた反抗的で強い意志が篭った瞳で私を見つめ返してきて、それがもう―――――タマラナカッタ

 

彼との睨み合いは私の根負け、思わず声を上げて笑ってしまった

 

「くふ、くふふ!くふふふふ!悪党に見えないから盗まない狙わないって綺麗事過ぎるわ!正義を語るのであれば芯を通しなさい!」

「………芯は通している」

「ふふん……でも、気に入ったわ。」

「?」

 

首を傾げる彼に私はスマホを取り出し彼等に見える様に翳した

 

「不思議なモノね?結構な時間が経っていた筈だけど、現実だとあまり時間が経っていない。………本当なら私がココにワンコールするだけで金城の所に稲山組の構成員がカチコミする所だったのですが……辞めましたわ」

「「「ッ!」」」」

 

私の言葉に顔色を変える彼等だが雨宮君だけは違った

 

「……狙いはなんだ?」

「流石ね……ここ数年、東京の勢力図に大きな動きがあったわ。勿論、稲山組にも影響を与える程の大きな変化。それが、意図的に引き起こされている可能性があるの。……目に見えない様な力によってね?」

「……」

「目に見えない力……これは私の勘だけど、この力や異世界に似た様なものだと思っているわ」

「……それで?」

「貴方達が正義を成すというのであれば後々巨悪は立ち塞がる。その中には私の御相手がいるかもしれない。ならばこの力に理解がある貴方達に協力する事が解決の近道だと思ったわけ」

 

タダよりも高い物はない

私は貴方達に私と言う戦力を渡し、貴方達は私に情報を与えてくれる

ギブ&テイクの関係が後々、裏切るとしても対立するにしてもいい関係を生む出してくれる。……まぁ、彼等にとっては些細な事なんだろうなぁ~と彼等の顔色を見ていると嫌にも思ってしまう

無条件の信頼、そして期待が篭った瞳は、こそばゆいが嫌では無かった

 

「いいだろう、契約だ」

「オーケー、宜しくね~?」

 

無論、彼はどちら側になったとしても彼の正義の下、行動に移せると判っているのも大きい

差し出した手を握り返し、笑みを浮かべる彼を見つめていると脳裏にあの声が聞こえてくる

 

 

我は汝…汝は

汝、ここにたなる契りを得たり

 

契りはち、

囚われをらんとする反逆の翼なり

 

我『顧問官』のペルソナの生誕に祝福のを得たり

自由へと至る、なる力とならん……

 

 

だが、それは私にかけられた言葉ではない

 

 

雨宮蓮君

色々と噂の絶えないニューフェイスである彼。

数多の絆が貴方を強くするのであろうと私は直感的に感じたのであった

 

 

 



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参考資料

If you do it, it will be doubled (やられたらやり返す倍返しだ)

 

【プロフィール】

名前:稲山椿

 

CV:―

 

性別:女性

 

年齢:18

 

誕生日:4月15日

 

血液型:AB

 

CN:レディ

 

コミュ:顧問官

 

ペルソナ:ザトウイチ

 

武器:投げナイフ

   短刀・合口・匕首

 

特技:簿記計算、舞踊

 

クセ:ジャグリング

 

趣味:食べ歩き、株式、ツーリング

 

食の好み:素材の味を生かしたモノ、特に果物

 

理想の恋人:反抗心のある人

 

宝くじが当ったら:株式投資

 

怪盗団へ:蓮「なにかあったら家に来なさい。貴方なら直ぐに上に行けるわよ?」

竜司「今度、牛丼屋に連れて行ってよ、一人だと勇気いるのよ、あそこ」

佑介「食べ歩きに行くから付き合いなさい。お金?後輩に払わせる気はないわ」

双葉「雑に扱ってないわよ?勝手に足が取れただけ」

 

【概要】

怪盗団のネゴシエータ―

私立秀尽学園高校に通う生徒会副会長の高校3年生

新島真とは同じクラスの友人(のちに親友)であり相棒的立ち位置

祖父が反社会的勢力の会長であり、その後ろ姿には憧れと尊敬の念がある。

何れは自分も組の役に立ちたいと思い経済学専攻で進学希望中

 

【人物】

学業優秀、運動神経も悪くなく何でも卒なく熟す才色兼備なタイプではあるが教師からの評判はイマイチ宜しくはない。何故なら1学年2学年とやんちゃをし過ぎてブラックリストに乗る程の問題児だった為であり、稲山椿の素性を知らない教師からは問題児として事情を知る教師からは御家柄で敬遠されている。だが、生徒からの人望は厚く生徒会選挙へ推薦された。

 

本人は乗り気ではなかったが、カタギの期待を裏切る訳にはいかんでしょ?と覚悟を決めて立候補。しかし、対等してきた候補者が『新島真』であり久しく出会わなかった好敵手に珍しく本気で臨んだが僅差で落選した

その裏では、問題児を生徒会長へするのは反対だと教師側からの組織票があったのは誰も知らない。

しかし、2人の選挙公演は他の候補者(特に副会長)には刺激が強かったようで、『生徒会会長』『副会長』の座は二人のモノと公言し他の候補者も同意。落選した稲山椿が新島真の推薦もあり『生徒会副会長』の座に付いた

 

乗り物が好きで単車を特に好んでいる。現在、貸し駐車場に3台の単車が置かれている

甘いのは好きだが、果物系の甘味が好きでクレープのフルーツ盛りが一番の好物

日頃から良く運動をしているおかげか代謝が良く、太りにくい体質

 

【容姿】

想像にお任せします

ただ、背中に墨は入っています

 

【服装】

夏服:既製の制服に薄い半袖カーディガンを羽織っている

冬服:既製の制服にロングカーディガン+ファー付のダウン

怪盗服:戦国無双 特別衣装『綾御前』みたいの+黒鬼の口半面

 

【単車】

・スポーツツアラータイプ

2015年Ninja250 special edition(JBK-EX250L キャンディプラズマブルー/エボニー)

 

・ビックスクータータイプ

2016年 PCX special edition(EBJ-JF56 パールジャスミンホワイト)

 

・オフロートタイプ

V-ストローム

 

【ペルソナ】

ザトウイチ

万物属性と斬撃系を中心に覚える【顧問官】のペルソナ

盲目の男性型のペルソナであり、手に持った刀で戦闘を行う

椿の意志に応え【もう一人の自分】を拘束し食い破る事で生まれたペルソナであり、ジョーカー達【叛逆の意志】とは違うペルソナ覚醒の仕方であり、椿の場合は【もう一人の自分】と向き合う事で発症した

しかし、それは以前の自分からの脱却、叛逆であり世間に対してではなく自分に叛逆したに過ぎない

 

 

 

 

 



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