隕石降ったら大混乱、SF混ざってさあ大変 ~HSD×D異聞~ (ファンリビおもろ~)
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プロローグ モノローグって結構便利

 最初の主人公のモノローグをやっておくと、主人公のある程度のバックボーンとかスタンスとかを伝えやすいですよね。


 

 

 

 メメント・モリという言葉を知っているだろうか?

 

 死を想えという意味のこの言葉は、雑にまとめると「人間はいつか死ぬしいつ死ぬかわからないから、そのあたりをちゃんと考えよう」とかそういう意味だ。

 

 俺はこの言葉と同様の感情を、小学校に上がる前から痛感することになった。

 

 人間、身近な人の死を経験するのは大抵が祖父母とがその類だろう。そしてそれはベッドの上で死んでいるところを見ることな印象がある。

 

 だが、俺()の場合は違った。

 

 幼馴染二人を突き飛ばし、代わりにトラックに下半身を潰された体。

 

 大量に流れてアスファルトに集まっていく血だまりに、それに比例してどんどん真っ白になっていく肌色。

 

 そうして死んでいく幼馴染の一人だった女の子が、俺の人生における初めての死別だった。

 

 そのあとも、はっきり言ってひどかった。

 

 そんな衝撃がきっかけで、離散していく幼馴染。俺も俺でその影響でいろいろ精神的に追い詰められ、両親は気を使って引っ越しすることになった。

 

 そして最悪なのが、その事故の原因が居眠り運転とか酔っ払い運転とかじゃない。

 

 運転手はすでに死んでいて、しかも彼も被害者以外の何物でもない。なら元凶を恨めばいいのかと言いたいが、彼だって好きでやったわけでも不注意だったわけでもない。なにより、その彼もその事故の直後にリンチに会い、無残な死体となったことを覚えている。

 

 じゃあなにが元凶だったのかというと、一言でいえば()()だ。

 

 俺が生まれるより何年も前、まだ俺たちの星が二十世紀だったころ。ディザスター・レメゲトンという天災が起きた。

 

 民間学者や趣味で観察している者はおろか、NASAという宇宙探査の大御所すら一切気付かず、突如として直径100m近い隕石が、いきなり大気圏突入してきたことが発覚。その隕石は大気圏を突入中に粉々に砕け散ったが、72ぐらいの直径数メートルの大きな破片と、無数の数十センチぐらいの小型の破片として地上に降り注いだ。それも、なぜか大都市とかは避けたが海にはほぼ落ちないという違和感まみれの落ち方をしてだ。

 

 そのことから、宇宙人による意図的な物とか言われているが、本当のところはわからない。

 

 わかっていることは約三つ。

 

 その隕石のほとんどを構成するのは、当時の地球では発見されてなかった未知の元素。いつの間にか触れ回っていた「マセイナ」と名付けられる元素が結晶化した、アステニュウムと呼ばれる結晶だったこと。

 

 そしてアステニュウムの影響を受けたのか、地球でもマセイナが大気中に確認されるようになったことが発覚。それ以来、夜にオーロラが浮かぶことが雨が降る程度の頻度でおきること。

 

 そして何より、その影響で人間離れした超人が出現したこと。世界各地で一斉に発生し、またユダヤ系ポーランド人が最初に発見されたことから、同じ人種と国籍の人物に世界共用語として人造言語エスペラント語を作り出した人物がいたころから、星辰世代(ザメンホフ)と呼ばれるようになるその超人が、今や最強の兵科として世界の注目を集めるようになった。

 

 俺は生まれてなかったから知識だけだが、ディザスター・レメゲトン直後は本当に最悪だったらしい。

 

 第一世代となる、人種年齢性別国籍を一切いとわず、いきなり圧倒的な身体能力を会得し、質によっては空中飛行や独自の異能装備―通称アステライザー―すら具現化する彼らは、その多くが大量殺人者となったそうだ。

 

 世界全土を襲う隕石の墜落という恐慌状態に、いきなり強大な力を手にしたらそりゃ暴走するとは思うけど、それで被害に在った人たちが納得できるかと言えば別。最弱でも拳銃の十発ぐらいじゃ骨折すらしない化け物が、この恐慌状態で、しかも何十万人もいてその多くが大惨事を引き起こしているとなれば、差別感情どころか人狩りを集団で行ってもおかしくない。

 

 当然今でも差別感情が強い地域はあるが、この混乱の中真っ先に隕石が持つ秘めた可能性に気づいた者たちが、アステライトと共に星辰世代を保護し正しく生きれるようサポートしたこともあって、まあ何とか社会的な地位を獲得できる余地があった。

 

 アストール国と呼ばれるその新興国家は、大型破片と小型破片である宗家型・分家型と呼ばれることになる最高品質マセイナ結晶の半分近くを独占したこともあり、関連技術で圧倒的シェアを独占。第一世代星辰世代の生き残りと、ディザスター・レメゲトン後の影響で生まれた時から星辰世代の第二世代の四割以上、そしてそれらの技術からアストール国が編み出した、人工調整型星辰世代である第三世代の半数を確保。自然発生するアステニュウムや第四世代と呼ばれる後天変化型星辰世代の多くも確保しており、アステニュウム運用兵器TD(トバルカイン・デバイス)の圧倒的保有率と性能もあり、軍事力においても米国の総軍と渡りあえる化け物国となっている。軍事的連携条約を結んだ国も含めれば、保有する星辰世代の数は全体の七割を超えているしな。

 

 あの悲劇を引き起こした要因も、突如として高位第四星辰世代に覚醒してしまった人がパニックを起こしたのが原因だ。力加減がわからずに驚いた勢いで飛び跳ねてしまい、トラックに横からあたって運転手の首をへし折ったんだ。

 

 ……まあ、その人に関してはいい。俺もテレビで被災している人を見たら心が痛むけど、そのあと好物の狐蕎麦や寿司が出てくればそっちに夢中になる程度には、一般人染みたドライさを持っているから。

 

 そう、だからまあ、客観的にみると気持ちはわかる。

 

 特に俺の両親は、ディザスター・レメゲトンでいろいろとひどい目にあったことが縁で意気投合して結婚したからな。家族ぐるみでその件の愚痴とかで話が弾むから、まあ客観的に見れば気持ちはわかる。

 

 だけどまあ、俺が第四星辰世代になったとたんに、家庭崩壊でW不倫から電撃離婚&再婚っていうのは、当事者としては納得しづらい。

 

 しかも親族全員そこには納得して、むしろ俺をどうやって合法的に追い出すかばかり考えてたからキッツい話だ。星辰世代が大嫌いだって公言している人たちばかりだからまあ理解できるけど、だからって思うところがないわけじゃない。

 

 ……だけど、捨てる神あれば拾う神あり。まあ捨てたのは肉親で拾ったのも神の敵なんだけど。

 

 いや、俺も本当に驚いた。

 

 一昔前のSFが現実になったような世界で堕天使が、キリスト教の神様が作った異能を宿しているとか言って俺に接触してきたからな。

 

 どっちにしても実家に居場所がないと思ったこともあって、俺はそっちに行くことを決めた。親族全員もろ手を上げて喜んだ時は、もう徹底的な差別主義者過ぎて納得できなくても起こる気になれなかったよ。

 

 とまあ、俺の人生は本当に、波乱万丈だと断言できる。

 

 だからこそ、俺は二つの座右の銘をこの時点で刻み込んだ。

 

 すなわち「死を想え(メメント・モリ)」と「人事尽くして天命を待つ」。

 

 目の前であの子が死ぬことに何もできなかったのはもう嫌だ。同じことを繰り返したら生きていくのも嫌になるし、自分がそうなるときだってあるだろう。

 

 都合よく神様が助けてくれるなんて思わない。そもそも俺は神の敵にお世話になっている。それに困ったときもそうでないときも神頼みする奴はまず多い。しかも今まで特に経験でも何でもないのにいきなり命の危機に祈ったり、小銭を賽銭箱に投げ込んで人生の大一番の助力とか、俺が神様だったら心を配れないし、多すぎていちいち確認できない。

 

 だから、俺は自分で自分も誰かも助けられるようになろう。そして、いざという時誰かが助けてくれるに値する男になろう。

 

 勉強もするし鍛錬もする。いつ災害に巻き込まれてもいいように、サバイバル講習はちょくちょく受けるし、どんな時に災害に巻き込まれてもいいように、最低限のサバイバルキットとファーストエイドキットは常に携帯。けが人がいたらそれでどうにかできる範囲で応急処置だ。

 

 実戦だって経験しよう。命がけの戦いとか正直きついが、こっちが何もしなくても悪人は何かしてくるんだから、なら最初から戦いなれて、立ち向かうほうが心の準備ができる。

 

 募金も献血もちょくちょくしよう。むしろ毎月必ず給金から定期的に寄付もしよう。

 

 神頼みだって本気でやろう。幸い日本の八百万の神様は、堕天使たちと多少の交流があるらしい。サバイバルの予習もかねて山籠もりをするときに、釣ったり狩ったりした獲物を、丁寧に後処理して奉納もする。

 

 やらない善よりやる偽善。誰も助けない奴より誰かを助ける人の方が、助けたいと思うはずなんだからそうしよう。日本には「情けは人のためならず」といい、情けは巡り巡って自分に来るからという、「自分のために人助けをすること」を奨励する言葉もあるんだから。

 

 持っている力も鍛え上げよう。どうも汎用性が高すぎて使いづらいうえ、なんていうか究極系は頑張れば必ずできるってわけでもない。だからいろいろ考えて提案したし、その結果生まれたテスト部隊に、言い出しっぺとしてちゃんと配属している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが、堕天使の組織である「神の子を見張る者(グリゴリ)」の一員。人工神器研究部隊「コートショップ」の一人である。この俺蒼生基弥の半生である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある初夏の午後。高校生が夏服に代わって少し経つ時期の、そんな平日の午後のことだ。

 

 どこにでもある公園で、泣いている子供をあやそうとして、困り切っている少女がいた。

 

 年は十代後半に入った直後。ゆえに、本来なら高校生ぐらいであるがゆえに、こんな時期にいることが不思議な時期だ。

 

 ならば不良かと余人は思うだろうが、彼女は断じてそうではない。

 

 丁寧に整えられた、少し白髪の混じった髪は染められてなどいない。

 

 立ち振る舞いの不良のようなそれではなく、むしろ堅物と言われてもおかしくないような、どこにいるときも気を張って礼儀正しくいようとする雰囲気を感じられるそれだ。

 

 風紀委員や優等生に対する印象を与えるそんな少女は、胸に下げたロザリオをつかむと思わず天を仰いだ。

 

「……主よ、これも試練なのでしょうか………」

 

 思わずそうこぼしながら、気を取り直して少女はしゃがみ込む。

 

「びぇえええええええん!!」

 

 大声でなく子供は、盛大に転んでしまったのか額から血を流している。

 

 その子供の泣き声と、時折車が通りすぎる音をBGMに、少女は心からどうしたものかと思う。

 

 ふと公演を通り過ぎようとしたその瞬間、盛大に転んだ子供に気づいて駆け寄ったのが運の尽き。

 

 子供は泣いてばかりで話が進まないし、怪我は軽いが親が見つからないため、どうしたものかと思ってしまう。

 

 土地勘はあるつもりだったが、十年以上たっているせいで交番の場所がわからない。救急車でも呼んでしまおうかとも思ったが、支給された携帯の充電を忘れていて、電池切れだ。

 

 かといって見捨てるという選択肢など、彼女にはありえない。

 

 咎なく苦しむ無辜の民、それも子供をほおっておくなど、信仰に生きる身としてあり得ない。時としてそれを成さねばならないのが世の中のしがらみではあるが、それでも可能な限り善処したいと願いのが彼女の美徳だった。

 

 だが、どうした者か。

 

「あ、あのね? 額は切ってるけど、それぐらいなら大したことないから、泣かないでください……ね?」

 

 抱きしめてあやすが、けがをしたことでパニックになっているのか子供は全然泣き止まない。

 

 これは本当にどうしたものかと、むしろ彼女自身が思わず泣きそうになったその時―

 

「――ちょっと失礼」

 

 ―そんな男の声がして、すぐ近くにしゃがみ込む気配がした。

 

 飛び跳ねないように慎重に振り返ると、黒髪の少年がしゃがみ込みながら、子供の傷口に視線をまっすぐ向けつつベストのポケットからポーチを取り出していた。

 

 赤地に白の十字マークが入ったポーチは、どう考えても医療用ポーチだ。簡易的なものかもしれないが、そんなものをベストからポイッと出すあたり、ちょっと普通からずれている印象を受ける。

 

 そしてアルコールスプレーで自分の手を消毒し、数十ミリリットル程度のプラスチックボトルに入った精製水で傷口をハンカチで子供の服が濡れないようにしながら洗い、「化膿止め」と書かれた軟膏を塗り、ガーゼを医療用テープで張り付けた。

 

「よしっ。これでもう大丈夫だからな~……っと」

 

 そう言いながら、小さな紙にペンでさらさらと何かを書き込みながら、少年は子供に笑顔を浮かべる。

 

 そして、いつの間にか子供は泣き止んでいた。

 

 少女があっけにとられる中、少年は子供に書き込んでいた紙を渡す。

 

「ほれ。これ、今からお母さんに渡しに行ってくれないか? お兄さんからのお願いだ」

 

「うんっ! ありがとー、お兄ちゃん!」

 

 そして泣き止むどころかにっこり笑って走っていく少年を見送って、少年は立ち上がった。

 

 其の早業に、少女は思わず立ち上がりながら、質問を止められなかった。

 

「え、え、何がどうなってるんですか!?」

 

「大したことはしてないさ。そんでもって、したことが重要なんだよ」

 

 そう言って軽く笑う少年は、走り去っていく少年を微笑みながら見送っている。

 

「不安を和らげるには「対処してもらった」っていう実感が必要不可欠。それがあるかなうかでだいぶ変わるんだよ。あとはまあ、怪我したこととかどれぐらいかとかどんな軟膏使ったとかを書いたメモを親御さんに渡してもらえば、あとは向こうがやることやってくれるだろ」

 

 そう言いながら、少年は少女のロザリオをみて、苦笑いを浮かべる。

 

「……ま、俺からすれば大したことはないさ。悪魔の縄張りで悪魔祓いと向き合うことに比べれば、な」

 

「―――っ!?」

 

 その言葉に、少女は一飛びで五メートル以上距離を引く話しながら、腰を落として素早く身構えた。

 

 ……彼女は、悪魔祓い(エクソシスト)。悪魔や堕天使、または妖怪や吸血鬼、さらには神話体系の手の物などと戦う、聖書の教えに属する対異形要員である。

 

 古巣のここでとんでもない事態が起きたことから、上層部の意向で補充要因として先遣班との合流を測ろうとしたときだったが、それを指摘されたら警戒するほかない。

 

 そして今いるこの場所も面倒だ。

 

 駒王町。日本にある地方都市であり、同時に異形としての縄張り争いの置いては、教会最大級の敵である悪魔が持っている。

 

 もともとはプロテスタント側がにらみ合っている環境だったのだが、少女が小学校に上がる前に一戦交えており、当時の担当上級悪魔を滅ぼしながらも、プロテスタントは本格的に撤退している。

 

 今の担当はリアス・グレモリー。事実上幼馴染のソーナ・シトリーと半ば共同経営しているこの場所は、戦術的戦略的には大したことがないが、それでも過剰警戒が必須な要所である。

 

 理由は単純。

 

 悪魔を率いる四大魔王。そのうちルシファーを襲名したサーゼクス・グレモリーと、レヴィアタンを襲名しているセラフォルー・シトリー。この両名の妹が彼女たちだからである。

 

 そこに対して「とんでもない非常事態」が関わってしまったため、教会は有数戦力をしかし必要再上限の勝算を得られるレベルで派遣。しかしディザスター・レメゲトンなどで宗教への依存が高まり、更に星辰世代を獲得できたタカ派が自分と縁のある増援を送ったため、ハト派が悪魔との戦争激化は時期尚早と、カウンターとして増援と縁がある自分を送り込んだ。

 

 なので少女からすれば、戦いたくはないが今下手に出くわすとややこしくなるといったところなのである。

 

 上層部からの指示で、拠点にしている廃教会に向かっているころだったのだが、こんなところで悪魔側と接触するのは、後々ややこしいことになる。

 

 それを警戒した少女はしかし、敵意がないことを示すために挙げられた少年の両手を見て、少し違和感を覚える。

 

 その対応で対話の余地ありとみたのか、少年は苦笑いを浮かべた。

 

「……そっちとやりあうつもりはない。俺としてもグレモリーに接触するために来たんだけど、怪我した子供と困り果てた女の子を見つけたんでな。リーダーが電話でまず接触を図る方向だったから、その間に……って感じなんだよ」

 

「そ、そうなんですか……? というより、そちらはいったい……?」

 

 その言い方では、グレモリーやシトリーに縁あるものではなさそうだ。

 

 なので、そのあたりをはっきりするために詰問しようとし―

 

「……基弥まずい! なんかもう、教会とグレモリー眷属がにらみ合ってるとか!」

 

 ―飛んできた声に、少女は肩を震わせた。

 

 声が飛んできた方向には、一台のキャンピングカー。その助手席側から二十歳ぐらいの女性が声を上げており、その向こう側では堕天使と思われる女性が、電話で少し緊張感を見せながら会話している。

 

 だが、少女が肩を震わせたのは、それだけではなかった。

 

「……基弥って……、蒼生基弥……くん?」

 

「………あれ? なんで苗字まで?」

 

 その反応に、少女は世の無常を悟って天を仰ぎたくなった。

 

 神は天にいるゆえに世はこともないが、だからといってむやみやたらと神が人世に介入するわけにもいかない。

 

 人の社会は人がきちんと向き合ってどうにかするべきであり、何より人生という試練をきちんと生き抜いてこそ、人は天の国に住むに値するのだと思っている。

 

 故に神が過介入することを彼女は望まないが、それでもこの()()は、さすがにショックを隠せなかった。

 

「十年以上たちますから、わかりませんよね。……藤納戸(ふじなんど)玻璃紗(はりさ)、と言えば、思い出しますか? ……基弥君」

 

「……………マジか。いや、確かにクリスチャンだったのは覚えてるけど、マジでハリサか」

 

 

 

 

 

 

 

 これは、本来ありえない、運命に巻き込まれる者たちの物語。

 

 

 

 

 

 

 

 本来を上回るハイスクールD×Dにおいて、真紅と白銀に並び立つ、共に漆黒を纏うことになる蒼穹の物語である。

 




まあ、これはまだプロローグなのでよくわからないことも多いでしょう。






とりあえず、この作品のオリジナル要素はそのほとんどが外宇宙からやってきた要素がかかわっております。








次の話から、原作主人公のイッセーも出てきます! ぜひお楽しみに!!


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序章 蒼紅邂逅編
第一話 青となる少年と、赤を宿す少年


さて、本格的な話の始まりとなる、序章の第一話です。


 

 オッス! 俺イッセー!

 

 スケベと根性だけが取り柄な高校生から一変、堕天使に殺されたと思ったら悪魔に生まれ変わって、しかも伝説のドラゴンを宿しているとかいう、なんかすごいことになってる高校二年生!

 

 悪魔になってから人間の俺を殺した堕天使から、友達になったシスターのアーシアを助けるためにカチコミしたり、主であるリアス部長の望まぬ結婚を止めるためにいけ好かないライザーって奴をぶちのめしたり、結構色々頑張ってます!

 

 ……ちなみに。アーシアちゃんは俺ん家にホームステイを希望してくれたし、更にリアス部長も俺ん家にホームステイしてくれました!

 

 父さんも母さんも「俺が変態だから」と最初は反対したけど、なぜか「花嫁修業と思ったらどうか」っていわれたとたんに大喜び。今では家族同様に仲良く暮らせています! でも花嫁に行ったりしたらマジで泣きそうで、今から想像しただけでも悲しいです……。

 

 どうもお気に入りの弟分やお兄さんのように思われてるらしく、三人で一緒のベッドに寝たり、時々一緒にお風呂入ってるぜ。……ぐふふ、思い出しただけで鼻血が出そう。

 

 だけど、いろいろと大変なことも多い。

 

 俺に宿っている赤い龍ってのは、聖書の神様が作った神器(セイクリッド・ギア)ってのになってるからなんだけどさ? アーシアも神器を持ってるんだけど、それで悪魔を治しちゃった製で、聖女として扱われてたのに魔女扱いされて追放されたんだよ。しかも神器に目を付けた俺を殺した堕天使のせいで、一度死んでリアス部長に俺と同じように組成してもらった。

 

 同じ眷属のイケメン野郎に木場祐斗って奴もいるんだけど、教会で行われてた「人工的に聖剣を使える奴を創る」って計画の被検体で、しかも失敗作ってことで毒ガスで死にかけたところを、これまたリアス部長が悪魔として蘇生したらしい。

 

 ……悪魔は堕天使達の組織「神の子を見張る者(グリゴリ)」や、聖書の神や天使たちと仕えている教会と三つ巴で小競り合いとかしてるそうだけど、ぶっちゃけ堕天使にも教会にもいい印象が全くないんだけど。

 

 悪魔は悪魔でライザーとかイラってきたけど、リアス部長やお兄さんで魔王やってるサーゼクス様とか、いい人に出会ってるから悪い印象はあまりないんだよなぁ。

 

 で、そんなことが起きてたら、今とんでもないことになっちゃってるんだよ駒王町(ここ)が。

 

 聖書にしるされている超すごい堕天使で、さっき言った神の子を見張る者の幹部やってるコカビエルが、木場が使い手になるための人体実験受けてたエクスカリバーを奪って、この駒王町にやってきたっていうんだ。

 

 なんでもエクスカリバーは七本に割れて、教会は六本を確保してたんだってさ。で、カトリック・プロテスタント・正教会が二本ずつ持っていた内、一本ずつを奪ってこっちに入ってきたとか。

 

 なんで悪魔の縄張りに入るんだよ。自分のところにいとけよな!

 

 で、そのことを伝えに来た上「手出しすんな」とか言ってきたのが、そのエクスカリバーの使い手二人。

 

 しかも一人は俺が小さいときに近くに住んでた幼馴染。それも男だとばかり思ってたら、紫藤イリナってかわいい女の子になってたからもうびっくり。

 

 ……ただ、イリナはアーシアのことを魔女って言いやがるし、一緒にいたゼノヴィアって奴に至っちゃアーシアを殺そうとしてきやがった。

 

 前からその辺むかついてたから、俺もいろいろ言ってやったんだよ。「アーシアを傷つけるなら神様だってぶん殴る」って。

 

 まあ、ほんとに殴るかどうかは別だよ? それにたまってたことを言いたかっただけで、リアス部長が止めたらすぐにそれでやめるつもりだったし。

 

 ……ただ、そこで木場が乗り気になってさあ大変。結局模擬戦闘をするってことになったんだけど――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くそぉ。イリナの裸……見たかった……ごっふぅ!?」

 

「……そちらも一発ぐらいなら、踏んづけてもいいですよ?」

 

「え、あ、いいの? うん、イッセー君はいやらしさを捨てて悔い改めたらいいと思うの」

 

 俺が悔し涙を流していると、同じ眷属仲間で一年生のかわいいロリっ娘、塔城小猫ちゃんが盛大に踏んづけてきました。イリナにまで踏むこと勧めてくるよ。

 

 小猫ちゃんは、俺が悪魔になってから俺のツッコミ担当になってる気がする。いや、さっき事故で裸にしちゃったから小猫さまのお怒りもごもっともなんですけどね?

 

 転生悪魔はチェスの駒を模した悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を使って転生します。素質によっては駒をいくつも使う時があるとか。

 

 で、小猫ちゃんはパワーとディフェンスが高くなる戦車(ルーク)の駒を使ってるから、打撃がすっごく痛いです。

 

 くっそぉ。俺が一生懸命頑張って、子供未満とかいう低すぎる魔力を凝縮した必殺技、女の衣服を粉々にして裸にする洋服崩壊(ドレス・ブレイク)が火を噴くかと思ったのに。

 

 聖剣は悪魔にとって毒だけど、俺はライザーをぶちのめすために左腕をドラゴンにしたから、行けるかと思ったんだけどなぁ。

 

「くっそぉ……。あっちはどうなんだ?」

 

 俺はあきらめて、木場とゼノヴィアの闘いを見ることにする。

 

 木場は足がめっちゃ速くなる騎士(ナイト)の駒を使っている。そして思い描いた魔剣を創る魔剣創造(ソード・バース)で戦う、イケメンらしいスマートな奴だ。

 

 正直ちょっといけ好かないけど、それでもリアス部長の眷属だし、アーシアを助ける時の頑張ってくれた。ライザーの眷属と戦った時も、はっきり言って目で追えないぐらい速かった。

 

 だけど、そのイケメンが台無しってぐらいに木場は冷静じゃない。

 

 リアス部長が言うには、魔剣創造と同じように聖剣を創る神器もある。だけど本物の聖剣に比べるとどうしても弱いらしい。

 

 だけど木場は、真っ向からエクスカリバーをぶちのめそうとしてるせいか、ゼノヴィアの奴は余裕を持って対応できてる気がする。

 

「愚かな。たかが魔剣創造ごときで、この破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)に攻撃力で勝とうとはね」

 

「それがどうしたぁ! 僕は、お前たちを、エクスカリバーを……!」

 

 ……これは、ちょっとまずいな。

 

 俺でもわかるぐらい、ゼノヴィアの方が有利だ。

 

 七つになったエクスカリバーは、それぞれが能力を持ってるらしい。

 

 イリナが持ってるのは形状を自由に変えることができる擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)だそうだ。そしてゼノヴィアのは、なんかクレーターを作るぐらいでかい威力の破壊の聖剣。

 

 真っ向からのぶつかり合いだと、木場が不利なのは俺でもわかる。

 

 だけど、木場はとにかく全力でぶつかり合う方向で言ってやがる。

 

「なら……この全力でぇ!!」

 

「実におろかだね、先輩。それではエクスカリバーに選ばれないのもわかるというものだ」

 

 そして、バカでかい魔剣を作った木場と、エクスカリバーを構えたゼノヴィアが、一気にぶつかり合いそうになって――

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、悪いんだけどちょっとストップな?」

 

 

 

 

 

 

 

 ――その真っ向からのぶつかり合いを、間に割って入った男がいなしやがった。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだと!?」

 

「……誰だ!!」

 

 ゼノヴィアは目をひん剥いて信じられないような顔になって、木場は唾をまき散らしながらそいつに怒鳴った。

 

 そしてそんなことをした奴は、黒い髪の俺と同じぐらいの男だった。

 

 ちょっと無造作な髪をしたそいつは、なんていうか幅広いけどちょっと短めの剣を両手に持って、二人の斬撃をなんていうか……そらした?

 

「……ちょ、ちょっと待って? あれってうそでしょ?」

 

「ん? どうしたんだよ、イリナ?」

 

 なんかイリナが、めちゃくちゃ動揺してる。

 

 え、なに?

 

 確かにすごいことしたけど、それが何か?

 

「だってイッセー君! あの人が使ってるの、魔剣創造(ソード・バース)よ?」

 

「はぁ!?」

 

 え、ちょっとまじかよ!

 

 木場が両手で魔剣を使ってもいなしたゼノヴィアの、破壊の聖剣を魔剣創造でいなしたのかよ!?

 

 それも、両手で構えた威力重視の木場の魔剣と、さっきまでの魔剣を砕きまくったゼノヴィアのエクスカリバーをそれぞれ片手で!?

 

 ……はっ! まさかあれも禁手(バランス・ブレイカー)って奴か!?

 

 確かにそれなら納得だ。俺が左腕をドラゴンにした時も、禁手の鎧は上級悪魔のライザーと真っ向からぶつかり合えた。

 

 な、ならできても不思議じゃない……のか?

 

「……まさか、こんなところで禁手に至った神器を見ることになるとはね」

 

「それも魔剣創造とは、複数あるとはいえ、同じところの二つの魔剣創造がそろうだなんて……」

 

 リアス部長も、女王(クイーン)の駒を使った三年生の姫島朱乃さんも、真剣に驚いてる。

 

 そんな俺たちの視線を受けて―

 

「……え? 禁手? どこに?」

 

 ―男は目をひん剥いて周りを見渡してた。

 

 いや、あんたが驚くな!

 

 俺もなんていうかガクってきたよ。文句言ってやろ。

 

「お前のことだろ!?」

 

「……は? いや、俺は禁手になってなんかないけど?」

 

 え、違うの?

 

 なんかマジ顔で言ってるし、嘘じゃないっぽいなこれ。

 

 え、でも、木場でも無理だった真似をなんかすっごくやってのけてるのはマジだしなぁ。

 

「じゃあなんで、木場の全力と破壊の聖剣を片手で同時にいなせるんだよ?」

 

「……何言ってんだおまえ? いなすのに重要なのは、角度とタイミングだぞ? そりゃ強度はある程度必要だけど、強度が相手のより弱かったらその時点でできないとか、そんなわけないだろ?」

 

 そ、そうなのか。

 

 つまり、いなしたのは技術……ってことか。

 

 いや、それでもすごいだろ!?

 

 俺がどう突っ込んだらいいかと思ってると、木場が目を血走らせて魔剣を再び作り出した。

 

「邪魔を……するなぁ!!」

 

 っておい! なんかよくわからないけど、いきなりそいつに切りかかるのは―

 

「っと。ちょっと落ち着きなさい」

 

 ―と思ったら、女の人が木場の肩に手を置いてそれをなだめた。

 

 出るところがしっかり出てるナイスバディ! 身長も結構あるし、い、いいおっぱいをお持ちで……じゃない!

 

 気づいたら、俺たちの周りを包囲するように、なんか黒い泥みたいなものでできた犬が何匹もいる。

 

 今度は何なんだよ。まさかコカビエルって奴の部下か?

 

 そう思ったら、今度は白髪交じりの女の子が、慌てて走ってきた。

 

「戦士イリナに戦士ゼノヴィア! これは一体どういうことですか!?」

 

 そしてその子は、イリナ達のことを怒鳴る。

 

「……ほぅ。君が戦士ハリサか」

 

「……ああ、藤納戸さんの娘さんの。って、なんで怒ってるの?」

 

 イリナがポンと手を打って、俺もふと思い出したことがある。

 

 そういえば、イリナに誘われて教会に行ったことが何度かあるけど、その時たまに、結構な人数の俺たちと同じぐらいの子供たちのグループがいたっけ。

 

 人数は、男女八人ずつぐらいだったなぁ。そういえば、その中でもイリナとよく話してた子に雰囲気が似てる。

 

 ………ん?

 

 そういえば、あの黒髪の奴も………。

 

「なあイリナ。そっちの黒髪って、藤納戸……って人と一緒にイリナとあってなかったっけか?」

 

「え? ああ、そういえば藤納戸さん、友達多かったわね。あれ? そういえばローズマダー班の人もそうだったし、もしかして彼も?」

 

 イリナが何か思い出した風に言ってるけど、そのローズマダーって奴もいるのかよ。

 

 そういえば、藤納戸さんたちと一緒にいたのは、外国人もいたな。でも、こいつはそうじゃない感じなんだけど?

 

「いえ、その、それが……」

 

 なんか、めっちゃ藤納戸さんが言いよどんでる。

 

 あのぉ~、めっちゃくちゃ面倒ごとな予感がするんだけど………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それについては、こちらから説明するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今度はさらに一人、女の人が現れた。

 

 黒髪の人ほどは出てないけど、スレンダーなモデル体型な、青みがかった髪を後ろでまとめた、宝塚で男役してそうな雰囲気のお姉さん。

 

 なんか俺たちを見て苦笑を浮かべながら、その人は黒髪の男と女が近くについてから、肩をすくめた。

 

「コカビエル様の追撃任務を受け先遣隊として派遣された、神器研究実験部隊「コートショップ」。僕はリーダーのアズィール・ヴォディガンだ」

 

 そうお姉さんが言ったのに合わせて、今度は魔剣を使った男が片手を上げる。

 

「ども。コートショップのメンバーやってる、蒼生(そうせい)基弥(もとや)です」

 

「同じく、コートショップのメンバーの星崎(ほしさき)碧唯(あおい)よ。私と基弥は人間だけど、アズィールはハーフ堕天使ね」

 

 あ、それはどうもご丁寧に。

 

 ………じゃない!

 

 え、ちょっと待ってどういうこと?

 

 堕天使ってことは神の子を見張る者の連中なのか?

 

 いやいやいやいや、それ以上に今なんて言った!?

 

 コカビエルの、追撃ぃ!?

 

 あいつ、神の子を見張る者の幹部じゃなかったのかよぉ!?

 

 も、もうどういうことかさっぱりわからない。

 

 え、え、どういうこと―

 

 

 

 

 

 

 

「―――これはどういうことだ、戦士ゼノヴィアに戦士イリナ」

 

 

 

 

 

 

 ―その瞬間、俺達の近くの地面が、盛大に吹っ飛んだ。

 

 なんだ!? ゼノヴィアの破壊の聖剣って程じゃないけど、それでも直径20センチ近い穴ができたぞ!?

 

「……む、誰かと思えば星辰十字軍団か」

 

「あれ? でも、私たちが話を終えるまで、シトリー眷属の方を警戒してるんじゃなかったかしら?」

 

 ゼノヴィアとイリナがそう首をかしげる中、藤納戸は苦虫をかみつぶしたかのような顔つきになってる。

 

 というより、声をした方に振り向いたら、悪魔祓いと思わしき連中が九人ぐらいいるんだけど。

 

 しかも全員、悪魔祓いが使う光の剣を、持ち手だけの状態にして左手に持ってる。そして手の甲で支える形で、右手のでかい拳銃をこっちに向けてやがる。

 

 光の剣と銃が悪魔祓いの基本装備だけど、あんなに銃はでかくなかった気がするんだけど。あ、堕天使についたはぐれ悪魔祓いだから違うのか?

 

 それにしても、すごい嫌な目つきだ。

 

 はぐれ悪魔祓いのフリード以上に、俺達に敵意を向けてることを隠してない。

 

 そしてその一人、三十になるかならないかぐらいの男が、眉間にしわを寄せながら、いやそうな目をゼノヴィア達に向けてきた。

 

「戦士ゼノヴィア。我ら悪魔祓い(エクソシスト)の武技は、人々を堕落に導く害獣共や、そして正しき光から引き離そうとする異教の物に向けられるものだ。上が「悪魔相手に手出し無用」としている以上、人類社会の病原菌に武威を見せるのは研究材料を与えてしまうから控えてくれないか?」

 

 ……敵意満々だよ、こいつら。

 

 こっちのことを害獣とか病原菌とか、めっちゃくちゃ言ってきやがる。

 

 しかも、「手出し無用」っていったときにすっごく嫌そうな顔をしてたし、殺せるなら今すぐにでも殺したいって言ってるようなもんだなオイ。

 

「……言ってくれるわね。私たちを殺せなくてつまらないのかしら?」

 

 リアス部長もいらってきたのかそういうけど、なんかあきれたような視線を隊長格が向けてきやがった。

 

「……ゴキブリに殺虫剤をかけることを楽しめる人間など、どう考えても珍しい手合いだと思うのだが? 我らの行いは人を汚す者への怒りによって行われる責務であり、やりがいを感じることはあっても楽しみにできる余地がはないはずだが?」

 

 ………こ、の、野郎………っ!

 

 敵意を全く隠してないな、オイ!

 

「戦士ゼノヴィア。我々はてっきり「交渉が決裂したから排除する」という流れかと思いました。これで人の世界でありながら自分達の縄張りなどと抜かす害獣を処分できるとほっとした者なのですがね」

 

「いや、私はできればコカビエルに注力したいんだけどね。ただ、悪魔になっても信仰を捨てきれない転生悪魔がいたので、せめて楽にしてやろうかと思ったんだが」

 

 ゼノヴィアのその言い分に、連中はこっちをめちゃくちゃいやそうな目で見てくる。

 

 本当に俺達をいやなものとしか扱ってないんだな、こいつら……っ。

 

「……魔女、アーシア・アルジェントか。のこのこと教会に入ってきた忌々しき悪魔を癒すなどという、優しさと甘さをはき違えた女か」

 

「……てめえ、今なんつった!?」

 

 さすがに我慢できなくて、俺は無理やり立ち上がってにらみつける。

 

「汚した奴をほっとけないっていう、人として当然の優しさを見せたアーシアを、魔女とかはき違えたとか言ってんじゃねえぞ!」

 

 ゼノヴィアとイリナの態度もむかついたけど、こいつらはそんなもんじゃ断じてねえ!

 

 ここまで行ってくるとか、本気の殺し合いもしてやろうか、オイ!

 

 俺が本気で怒鳴ってにらみつけると、男の近くにいた俺と同じぐらいの男が、一歩前に出て俺に向き合った。

 

「……害獣に落ちた人類の背信者が、人の倫理を語れるとでも思っているのか?」

 

「あぁ!?」

 

 俺が殴り掛かりたくなってると、そいつは吐きそうな表情で、盛大にため息をつきやがった。

 

「人生とはすなわち、天の国に住まう価値を得るべく、より正しくあらんとする試練の時。そしてその人の人生にて欲望を刺激し、堕落し腐敗させる病原菌の塊こそがお前たち悪魔だろう。人であることを捨ててまで生きることに拘泥する貴様らが、人の正しさを語ろうとすることが愚かと知れ」

 

 こっちに銃口まで向けながら、そいつは吐き捨てるように言った。

 

「まして教会という我らが守るべき土地に、のうのうと入ってきた悪魔を捕まえもせずに手当てし、こちらの者を負傷させての逃亡など論外だ。戦争中の敵兵士にそんな利敵行為と行い味方を傷つければ厳罰は当然。まして我らの間に戦時条約などというものはないのだからな」

 

「……ふざけんなよ。アーシアの優しさを馬鹿にするってんなら、そんな神様なんか誰が信仰するか!」

 

 こいつら、本っ当にとんでもないな。

 

 俺は、ゼノヴィアにも言ったことをはっきりといってやる。

 

「言っとくが! アーシアを馬鹿にしたって時点でこっちは本気でむかついてんだ! しかも殺すっていうなら、たとえ相手が神様だろうとぶっ倒す!」

 

 そして、俺は左腕の籠手を突き出した。

 

「文句があるならかかってきやがれ! リアス・グレモリーの兵士(ポーン)である、この赤龍帝の兵藤一誠が相手になってやる!!」

 

 ああ、はっきり言ってやる。

 

 俺はこいつらが大嫌いだ。アーシアを傷つけるってなら、神様が来たってぶん殴って―

 

「馬鹿伏せろ!」

 

 ―その瞬間、足に何かが巻き付いて俺はひっくり返り―

 

「「「「「「「「「ならば死ね」」」」」」」」」

 

 ―同時に、九発ぐらい緑色の光の玉が俺の頭の一を通り過ぎた。

 

 ………って、ちょっと。

 

「いきなり撃つか!?」

 

 まさかいきなり殺しに来るとか、ちょっと想定外なんだけどぉ!?

 

「イッセー!? あなたたち、何を―」

 

「さえずるなよ、害獣が」

 

 その瞬間、リアス部長に隊長格が銃口を突きつける。

 

「我らが前で悪魔に落ちた元人間が主に仇名すといったのだ。宣戦布告をされたのだから殺すだろう。……さえずるなよ、我らは主の怒りと裁きの代行者として、その愚かさに嘆きを持って相対している」

 

「……まあ、言いたいことはわかりますが落ち着いていただきたいですね」

 

 その銃口の前に、藤納戸が割って入った。

 

「言っておきますが、上層部は悪魔まで同時に敵に回すことを良しとしてません。ここでリアス・グレモリーの眷属と殺しあうのは問題行動では?」

 

「確かにそうだが、偉大なる主の御業である神器を手にしておきながら、悪魔に落ちぶれ主に仇なす者を見逃せと?」

 

 な、なんか知らないけど、藤納戸が俺をかばってくれてるのか?

 

 俺が目をぱちくりしてると、藤納戸は懐から一枚の紙を取り出して広げて見せた。

 

 ……あれ? 男たちどころか、イリナやゼノヴィアも目を丸くしてるぞ?

 

 っていうか、リアス部長達やアズィールさんたちコートショップの人も目を丸くしてるっぽい。

 

「……見ての通り、私は今回「枢機卿の代行」として派遣されています。暫定的なものですが、この作戦の指揮権は私にあるということです」

 

「………了解した。それで、堕天使どもの戯言を聞くということかね?」

 

 その言葉に、藤納戸は素直にうなづいた。

 

「まあ、釈明や弁明の機会はきちんとあるべきでしょう。その上で悪魔側の対応も見たうえで判断しますので、余計な刺激を与えたくないから仮説拠点で待機をお願いします」

 

 その言葉に、男たちは少しいやそうにしながら即座にうなづいた。

 

「ああ! たとえ暗部であろうと、それにふさわしいというのならば猊下たちが言葉添えをなすなんて! これもまた、真の信仰を持つ者への慈悲! 主よ、猊下たちに祝福を!!」

 

「……ふむ。まあ、こちらとしてもまずコカビエルを優先するのは当然か。私たちがいればそこの先輩が落ち着かないだろうし、こちらは構わないよ」

 

 そう言いながら、イリナとゼノヴィアも帰り始める。

 

 男たちもてきぱきと武器を収めて帰っていくけど、そこに、俺に対して真っ向から反論してきた奴が、藤納戸に振り返った。

 

「……我らが主の体現である、怒りと裁きを怠るのはどうかと思うんだがな、ハリサ」

 

「……主が体現するのは、慈愛と許しですよ。それを忘れないでください、ビセンテ」

 

 え、お知り合い?

 

 あ、そういえば、イリナに連れられた教会であった藤納戸たちの中に、こんな感じのがいたような気もする。

 

 俺が記憶を探っていると、ビセンテと呼ばれた奴は、今度はコートショップの蒼生とか言ったのに目を向ける。

 

 よく見たら、なんか右手の手甲みたいなのをつけて、しかもそこから俺の足に向かってワイヤーが伸びてる。

 

 俺を転ばして助けたのは蒼生か。あとでお礼言っとかないとな。

 

「見損なったぞ蒼生。お前は、あの尊き犠牲から何を学んだんだ」

 

「……ビセンテ。俺があいつの死で学んだのは、無残な死別なんて重荷は御免ってことだけだよ」

 

 ………えっと、なんか、重いお話?

 




 ちなみに本作では、悪魔にしろ教会にしろ、どの勢力でも敵対派閥の発言力や戦力が程度はともかく上がっている設定です。原因はもちろんディザスター・レメゲトン。

 ハト派よりは自勢力に混乱が波及しないよう、もしくは混乱状態の人間世界を落ち着かせることに注力。しかし相手を出し抜きたいタカ派はアステニュウムを「情勢打破のカンフル剤」とみなした結果、こぞって集めた結果マセイナ関連技術で力を増している感じです。







 あと感想でご指摘在りましたが、マセイナにおいては換装の通りのそれに、もう一つのある創作物シリーズを混ぜ込む形で組み立てました。

 ガチのクロスオーバーではなく混ぜ込んだ独自設定にすることによって、ある程度の整理を測ったりしています。

 またディザスター・レメゲトンの存在は「原作にない影響の説得力」が多分にあります。

 創作物において、「説得力」とは「リアリティ」と書くとどこかで読みましたが、まさにその通り。どんな創作物でも「AはBだからCである」を納得させることができるかどうかは、作品の完成度に大きく作用します。

 なのでオリジナル要素を入れるのならば、その基点となる何かがあるべき。結果として、本作では原作がゆがむ要因としてディザスター・レメゲトンという設定を作り上げました。


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第二話 呉越ならぬ三国同舟の同盟

 さて、二話目ともなるとどんな感じがいいのか考え中ですね。




 一応言っておきますが、この作品は生粋の非アンチを筆頭としています。



 今後えぐい展開があるにしても「ハイスクールD×D」という物語をよりよくしたいとすることはあっても、原作を貶し罵倒するようなことは一切ありませんので、その辺はご理解ください。


 

 

 

 

 

 あー……これ俺もやるのか?

 

 とりあえず、蒼生基弥だけど、なんで俺がモノローグすることになるんだよ。

 

 ま、ちょっと教会の連中が過激で困ったもんだったけど、何とか死人をどこにも出さずに済んだ。

 

 で、リアス・グレモリーたちに連れられて、俺達は駒王学園の旧校舎の一室で、紅茶を出されて椅子に座って会話体制だ。

 

 とりあえずちょっと飲んでみたけど、紅茶に詳しくない俺でもおいしいと思う。

 

「お、あんたたちは飲んでくれるんだな」

 

「へ? いや、出されたものはできる限りきちんと食べないと失礼だろ?」

 

 なんか変なことを言ってきた赤龍帝に応えると、なんかグレモリー眷属のほとんどが苦笑した。

 

 それに心当たりがあるのか、同じく紅茶を飲んでたハリサがため息をついた。

 

「……悪魔側との戦闘は避けろというのが上のお達しなのですが、もう少し穏やかにやって欲しかったです」

 

 あぁ~。なるほど、飲んだりしなかったのか。

 

「まあ、信徒からすれば悪魔から出された飲食物を飲むとか背教に思えるんじゃないか? それにほら、海外じゃ無宗教って「何をもって正義とするか証明できない」って言ってるようなものってどっかの本で読んだ気がするし」

 

「それでもですよ。宗教が正義を示すのなら「自らが正義を示せているかどうか」と常に己を戒めるべきです」

 

 俺がそれとなくフォローするけど、むしろハリサはバッサリ切った。

 

 っていうか、なんで俺は信徒に対して信徒のフォローをする羽目になってるのか。

 

「……で、とりあえずお伺いしたいのですが、何がどうなって戦士イリナや戦士ゼノヴィアと戦うことになったんですか?」

 

 と、気を取り直したのハリサは話を進めることにしたらしい。

 

「いちおう言っておきますが、彼ら「星辰十字軍団」の言い分は、タカ派の筆頭ですけどそれでも教会の言い分としては筋が通っています」

 

 そんでもって、かなり不満気だけどハリサはあいつらの言い分をフォローした。

 

「私は事情に精通してませんので、アーシア(彼女)を悪く言うつもりはありません。ですが、同時に追放した側が間違っているというつもりもありません」

 

 そうはっきり言ってから、ハリサは兵藤にまっすぐ目線を合わせる。

 

「あなたがアーシア・アルジェントに好意を抱いているからといって、それをもってして教会の判断をイコールで悪とみなすのはよしていただきたい。貴方が好きなものが良いものであるかは別の問題、好き嫌いで良い悪いの判断を決めることは間違ってますので、その理論で教会に牙を剥くなら次は私も容赦しませんよ?」

 

「……アーシアが悪魔を治したことが、そんなに悪いってのか?」

 

 兵藤はハリサにまっすぐきつめを向けるが、ハリサはそれをまっすぐ見つめ返して受け止める。

 

「その悪魔が悔い改め主に頭を垂れたのならまだしも、結局逃げて負傷者を出しているのなら当然です。彼らも言っていたでしょう、利敵行為と」

 

 そうはっきり告げて、そしてあえて俺たち全員に聞こえるように、ハリサは胸を張って告げる。

 

「私は聖書の神が司るのは慈愛と許しとみなしていますが、それは無辜の民や己が罪を悔い改めようとする者たちに対してであるべきです。試練と裁きも確かにある側面の神を奉じる物として、咎がある者がそれに見合った叱責を受けるのは当然とみなしていますので、悪しからず」

 

 まっすぐに、特に強く感情を見せず、穏やかだがはっきりとした口調で言い切った。

 

 自分の言葉に嘘偽りも後ろめたいものもない、当たり前だと信じているからこそできる言い方だろう。

 

 兵藤もそこは理解したのか、不満げだけど特に大声を出したりはしていない。

 

「……ま、俺は言いたいこと言ったからいいんだよ。そのあと部長が止めてくれるって信じてたから、そのまま終わるつもりだったんだけど……」

 

 そう言って、兵藤はちらりと部屋の隅を見る。

 

 ………さっきから、すごい目つきでイケメンを台無しにしている金髪の優男がそこにいた。

 

「……祐斗は、聖剣計画の被験者であり、同時に失敗作として殺されかけたところを眷属にしたのよ」

 

 と、リアス・グレモリーが補足してくれた。

 

 あぁ~、なるほど。そりゃまずい。

 

 ただでさえエクスカリバー使いに含むところがあるだろうに、身内がらみでひと悶着起きれば、そりゃこれ幸いと戦闘態勢に入るわけだ。

 

 っていうか、聖剣計画っていうことは、あれだよな。

 

 ちらりと碧唯姉さんやアズィール姉さんに視線を向けると、これまた同じ感想なのか、もう目と目で通じ合ったよ。

 

 さて、どうやって切り出したものか―

 

「……その件については、当時の担当者の独断によるものだそうです。当時関係者でない以上教会を代表して詫びることはできませんが、それでも仮にも教会にいる物の中にそのような外道がいた体たらく、理解できるなどとは言いませんが、お怒りはご察しします」

 

 ハリサはそう言って一礼すると、ふとこっちをちらりと見た。

 

 あ、こっちを気遣ってくれてる感じだ

 

「………いえ、今はよしておくと―」

 

「いや、構わないよ。そういう意味ではこちらこそ謝るべきだしね」

 

 ハリサが話題を変えようとするのを止めて、アズィール姉さんが一歩前に出た。

 

 うん。まあ、どっちにしても言わないといけないしな。

 

 俺は碧唯姉さんとうなづきあってから、アズィール姉さんの隣に並び―

 

「そっちに関しては、むしろこちらがお詫びする」

 

 ―そういうアズィール姉さんと一緒に、俺達も二人そろって頭を下げた。

 

 思わず、リアス・グレモリーたちは目をぱちくりさせた。

 

「………聖剣計画に堕天使が関与してたなんて聞いたことがないのだけれど?」

 

「いえ、当時の研究主任、「皆殺しの大司教」とさげすまれるバルパー・ガリレイは追放処分を受けて、今は堕天使側に身を寄せてるんです、はい」

 

 うん、ハリスの言う通りなんだよな。

 

「……常に他勢力と緊張状態では優秀な人材を更にえり好みで分けるのも大変でね。ほかの勢力に敵意を持っているというのは、その勢力と友好関係にでもならない限りはこちらに対する帰属意識につながるから、まあ必要悪として容認しているのが現状だ。実際、バルパー・ガリレイの段階で人工聖剣使いの技術は確立しているだろうからね」

 

 謝罪はそこそこに説明を重視する方向で、アズィール姉さんはそう告げる。

 

 そんでもって、木場祐斗とかいう金髪は、思いっきり不機嫌な表情をこっちに向けてくる。

 

「失敗作として処分してきたのにかい?」

 

「そこについてはごもっともだ。最も、彼の認識では「失敗作」ではなく「出涸らし」なんだろうけどね」

 

 そう言いながら、アズィール姉さんはため息をついた。

 

「彼は聖剣計画において「そもそもなぜ聖剣を使えるのか」に着目し、結果として聖剣を扱う因子の存在を発見することに成功したんだ。それらは必要数にまず満たないものだらけだが、ほとんどの人間が多少は持ち合わせていてね。その結果、彼は「足りないなら集めればいい」という発想に至ったんだ」

 

 そう、バルパーの研究は、実際完成していたといってもいい。

 

「アーサー王伝説にはまりエクスカリバーを振るうことを夢とし、しかし適合できなかったことから彼の執念はすさまじかった。輸血……というより骨髄や臓器の移植の要領で、彼は不特定多数の人間から因子を抽出し結晶化、それを比較的適性の高い者に移植することで、後天的に政権を扱える素質を、七分割されたエクスカリバーに使い手を見繕えるレベルで確立しているよ。ここまでは教会にも残っているだろうから、源流はそうなんだろうね」

 

 そこまで言ってから、アズィール姉さんは盛大にため息をついた。

 

「それで終わっておけばいいのに、因子を抜き取った者たちをガスで処分したから追放されたのさ。因子を抜き取るだけなら生きたままできるから、今の教会ではさすがに死人は出てないだろう」

 

「……なるほど、知人にエクスカリバー以外の人工聖剣使いがいましたが、そういえば祝福の際に結晶を使うと伺っています。それですね」

 

「つまり、僕たちは殺される必要なんてなかったっていうことなのか………っ」

 

 ハリサが思い返すようにそれを補足し、木場は歯を食いしばって虚空をにらむ。

 

 まあ、それに関しては怒って当然だな。

 

「都合がいいことにバルパーは、コカビエルと同時期に行方をくらましてる。もとからコカビエルは神器より聖剣や星辰世代(ザメンホフ)に着目してたから、十中八九一緒にいるってのが上の見解だ」

 

 俺はそう言って、なんかもうたまったうっぷんをため息で吐き出した。

 

「ぶっちゃけ全員殺さず捕まえろとまではいわれてないし、他の連中の処遇さえこっちが決めさせてくれれば、バルパーのジジイは「勢いあまって悪魔が殺しちゃいました」とか言ってもいいと思うんだけど……どうよ?」

 

「……まあ、他の一緒に行ったと思われる候補も性格がめちゃくちゃあれだし、必要最小限の数以外は無理して生かさなくてもいいとは思うわね。アズィール、どうするの?」

 

 俺も碧唯姉さんも、その辺に関してはぶっちゃけ乗り気じゃない。

 

 きちんと自重聴取や情報を確保したいし、まあ「身内の問題を身内がしっかりケジメをつける」ことができるに越したことはないけど、すでに他勢力を巻き込んでるんだから少しぐらいは無効に発散させてもいいとは思う。

 

 そしてアズィール姉さんも、ちょっとだけ考え込んだけどすぐにうなづいた。

 

「そうだね。僕としては、復讐を「犯罪を助長しない」範囲内でやる分には構わないと思っているから、それぐらいはかまわないと思うよ?」

 

 まあ、アズィール姉さんもそういうと思ってたよ。

 

「いいのですか? 個人的嫌悪でそういうえり好みをするのは、ちょっとどうかと―」

 

「いやいや。嫌いな奴のために命を懸けてまで助命嘆願をするには、相応の価値というものが必要さ。まして僕らは敵勢力二つを相手に「協力」を懇願しに来たんだから、相応の対価や条件は覚悟しないとね」

 

 ハリサにそう返してから、アズィール姉さんはまっすぐに木場を見つめる。

 

「それに、個人的にバルパーレベルの外道はいなくなってくれた方が神の子を見張る者(グリゴリ)全体のイメージアップにもなる。彼の参加は必要悪と容認しただけで、全肯定して賞賛すべきではないからね」

 

「……もしかして、あなた方はバルパーと深く接点があったのかしら?」

 

 それに対して、まあリアス・グレモリーに気づかれるのはそうだよなぁ。

 

 俺達、個人的にバルパーに対して詳しい部類だし。

 

 なもんで、俺達三人全員が苦笑いしてた。

 

「……コートショップは神器研究でも結構変則的なものをやっていてね」

 

「聖剣因子の利用が議題に上がった時、いろいろと彼の話を聞いててうんざりしてたの」

 

 アズィール姉さんと碧唯姉さんが、遠い目をしながら素直に白状する。

 

 まあ二人はまだいいさ。

 

 ある意味一番ダメージがでかい俺が、何度目かのため息とともに一番重要なことを白状する。

 

「その過程で、俺も実験で聖剣因子入れてるんだよなぁ。ま、因子との相性が微妙だから、三流聖剣が扱える程度で、ぶっちゃけ魔剣創造(ソード・バース)で十分ってオチだしさ」

 

 いやほんと、ストレスが溜まってストレスが溜まって胃や頭が痛い時期だった。

 

 誇らしげに「きちんと出涸らしを処分した」とか言ってくるから、組織の一員としてぶちのめすとややこしいことになるとぐっとこらえて技術や理論を吸収する毎日だったらしいからなぁ、研究班。

 

 俺は俺で因子を取り込む被検体だけど、あの糞ジジイ適合できるかどうかをパッチテストもしないで「死ぬならその程度」的感覚でやろうとするし。

 

「……いい機会だし、俺も一発殴った方がいいだろうか?」

 

「君も、苦労しているんだね」

 

 すっごいしみじみと言わないでくれないか、木場。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おっす、俺イッセー!

 

 今俺達、なんと寿司屋に来ています!

 

 しかも回らない寿司! それも奢りで! 出費は上層部がとってくれるとのことで、「一人十万円以内で」とお墨付き!

 

 いやぁ、状況が状況だけど、ちょっとワクワクしてきたぜ!

 

「……なあ、一ついいか兵藤?」

 

 と、俺の隣でシトリー眷属の兵士(ポーン)、匙元士郎が、なんかどんよりとした感じで俺に声をかける。

 

 まったく、回らない寿司なんて豪勢なもんが食べれるってのに、なに暗い雰囲気出してるんだよ。

 

「なんだよ匙、せっかく人が空いてたからって、シトリー眷属のお前も招待したんだから、ちょっとぐらい楽しもうぜ?」

 

「だからだよ!」

 

 思いっきり大声で怒鳴られた。

 

 そしてそれで軽く耳を抑えた蒼生が、こっちにジト目を向ける。

 

「匙だっけか? 耳元で大声を出さないでくれないか? 注文する側の身にもなってくれ」

 

「それだよそれ!」

 

 と、匙はさらに蒼生にも怒鳴りつけた。

 

「なんで! シトリー眷属()が! グレモリー眷属はともかく堕天使側の連中のおごりで! 寿司を食いに来る羽目になったんだよ!!」

 

 ………話はちょっと前にさかのぼる。

 

 とりあえず、部長と藤納戸は共闘に対して、割と意欲的だった。

 

 アズィールさんが言うには、コカビエルは「三大勢力の戦争を早く再開したい」っていうスタンスで、でも神の子を見張る者の上層部では自分だけだったらしい。

 

 そんでもって聖剣使いや星辰世代はともかく、上層部のほとんどが意識を向けてる神器研究に興味が薄かったから、暴発して行動を起こしたって考えてるらしい。

 

 つまり、コカビエルがエクスカリバーを盗んで駒王町に来た理由は「教会の武装で堕天使が悪魔の要人を殺せば、どの勢力のタカ派が乗っかって戦争再開だろう」ってことらしい。

 

 ……最悪だぁああああ! ふざけんなぁああああ!

 

 ま、そこに関しては部長も藤納戸も同意見だったってことで、共同戦線を結ぶことには乗り気だった。

 

 ただ、部長はサーゼクス様に自分の婚約で迷惑をかけたばかりだから、いきなりこんなことを言って心配させることをちょっと躊躇。

 

 藤納戸は藤納戸で、もともと星辰世代を確保して強大化したタカ派が抑えきれない中で、大事になれば戦争が再開すると危惧している人の頼みで来たらしい。土地勘がある上、同じ理由でタカ派の星辰十字軍団? ……ってのにも、俺相手に真っ向から反論してきたビセンテって奴が幼馴染だから、比較的抑え込みやすいと思われたとか。だから共闘を素直に納得してくれると思えないと不安視してた。

 

 ま、俺もサーゼクス様にはお世話になったから心配はかけたくない。それにビセンテたちはもちろん、イリナやゼノヴィアも悪魔に対して敵意が強かったから、こっちも大変だろ。

 

 ってことで、アズィールさんは妥協案として「情報を小出しにすることでサーゼクス様達の精神的負担を和らげる」ってことを提案。その間にタカ派の連中を足止めして、直接ハト派の枢機卿に話を通すって方向になった。

 

 もちろん俺たちも警戒はするけどね!

 

 そんなわけで、部長や藤納戸やアズィールさんは、今もそのあたりの段取りを煮詰めてる。あと間違いなくタカ派が出会えばちょっかいをかけてくるアーシアも、その会議に参加、ソーナ会長たちシトリー眷属も「姉に知られるとまずい」と協力することになった。

 

 で、その間に比較的連携が取れそうなグレモリー眷属とコートショップのメンバーで親睦を深めてくれと、寿司を食べに行くことになった。

 

 ちなみに理由は―

 

「……ふふっ。うどんににゅうめんも頼めるとか、サイドメニュー豊富な本格寿司店って最高ね! 蕎麦は蕎麦でも蕎麦掻まであるって知ったら、アズィール悔しがりそう」

 

「蕎麦もいろいろ種類が当って狐蕎麦完備、いなりずしを置かずにきつね蕎麦食って、更に江戸前寿司も食べれるとか、ここはいい寿司屋だな、おい!」

 

 ―このハイテンションな、星崎碧唯さんと蒼生基弥さんを見ればわかるでしょう。

 

 この二人、好物がそれぞれ「うどんを筆頭とした日本食を中心とする、麺類全般」と「寿司、そしてきつね蕎麦やうどんを中心とする味付きの油揚げ料理」って感じだった。

 

 そこで両方とも完備しているお店を部長が探してくれて、六人椅子を取ってくれたわけだ。

 

 で、会議に必要なリアス部長とアーシアちゃん、そして「堕天使勢力と仲良くするのはちょっと……」と辞退した朱乃さんがいない。そこで俺と木場と小猫ちゃんに、星崎さんと蒼生だけだと一人余るから、ついでにシトリー眷属に連絡要員をってことで、匙が選ばれたわけだ。

 

「……つーか、俺は状況がよくわかってないんだが。そもそもなんで、木場はエクスカリバーやそのバルパーって奴のことが嫌いなんだよ」

 

「あ、そこから伝わってなかったのか」

 

 そういえば、俺も匙が来たときに「寿司食うぞ!」って感覚だったな。

 

 てっきりソーナ会長が説明したのかと思ったけど、さすがに木場の過去は話しづらいか。俺もそこまで深くは知らないし。

 

「……そうだね。あとで話すよりは注文が来る前に、軽く触れた方がいいかな?」

 

「いいの? 私たちにまで話して」

 

 木場に星崎さんがそういうけど、木場はぎこちないけど笑顔だった。

 

「僕の復讐が思わぬ形で果たされそうだしね。結果的に巻き込むことになるだろうし、できる限り簡潔に話させてもらうよ」

 

 ……そして、話を聞き終わった。

 

 毒ガスとか処分とかは知ってたけど、やっぱり木場自身の視点からだから、さらにこう、眼頭にくる。

 

 そして―

 

「うぉおおおおおおおおおぉっん!!!」

 

 ―匙が号泣してた。

 

「なんてひどい話なんだ! なんてクソッタレな奴なんだ、バルパーの野郎は!! 許せねえ、許さなくて当然だよなぁ!!!」

 

「あ、うん。それは同意見だけど、とりあえず鼻をかめ。鼻水がテーブルに落ちる」

 

 途中までは目を伏せて拳を震わせるぐらいに感情移入してた蒼生が、軽く引きながらティッシュを匙に押し付けた。

 

 そして匙は思いっきり鼻をかみ、適当にあたりを見渡してから、これまた蒼生が出したビニール袋にティッシュをポイ。

 

 そして、匙は勢いよく木場の手を握った。

 

 ……ちなみに、席順は通路に近い順から蒼生→匙→俺と、星崎さん→木場→小猫ちゃんって順番。外様で迷惑をかける側ってことで、コートショップの二人が注文をしたり受け取る側を買って出た感じだ。

 

「木場、俺はお前のことを女にもてまくるいけ好かないキザ野郎って嫌ってたけど、そういうことなら話は別だ! 理解できるなんて言われてもかえってむかつくだろうが、今の話を聞いてお前がバルパーの野郎を恨むのは当たり前だってことはわかる! 俺も全力で協力する! やってやろうぜ、エクスカリバーを打倒して、そのバルパーって野郎をぎゃふんといわせてやる!!」

 

 おお! 匙、お前のことを勘違いしてたぜ。

 

「……いいわね、本当の友情とか、絆って言葉が似合い雰囲気。私、そういうのに弱いのよ」

 

 っていうか、星崎さんがなんか涙をぬぐっている!

 

「あ、ごめん。碧唯姉さん、神の子を見張る者(グリゴリ)に関わる一件で、親しい友人全員と縁が切れてて」

 

「……言っていいんですか?」

 

「ああ、その辺は隠してないっていうか、諸事情あって結構自発的に話すから問題ない」

 

 なんか蒼生と小猫ちゃんが気になることを言っているけど、それはそれ。

 

 そして、匙はなんか照れくさそうにして、何か考え込んだ。

 

「……ああ、木場が人に言いたくないだろうことを言ってくれて、星崎さんも人にあまり言えないようなことを言ったんだ。ちょっと違うが、俺もあまり人に言えないことを話すべきだな!」

 

「いえ、私はこっち側の人にはそこまで隠したりしないことなんだけど……」

 

 星崎さんがそういうけど、匙は聞こえてない感じで話し始める。

 

「実は俺、ソーナ会長とできちゃった婚をすることが夢なんだ!」

 

 ―――なんだと!?

 

「……へっ、みなまで言うな。できちゃった結婚でいうのはまずエロいことをしないといけないから、その時点で貴族相手にゃハードルは高い。でも、たとえわずかな可能性でも俺は夢を捨てたくないんだ」

 

 なぜかみんなは生暖かい視線か冷たい視線を匙に向けているけど、俺はむしろ熱い想いをたたきつけたくなる。

 

 というよりだ。俺は今、さっきの匙に負けず劣らず涙を流すしかなかった。

 

「匙! お前は、お前は……俺の同志だったんだな!!」

 

「なんだって!? ま、まさかお前も……」

 

 戦慄する匙に、俺は涙を流しながらうなづいた。

 

「ああ。お前ほどじゃないが、俺も部長のおっぱいをこの手に触れ、そして吸うことが夢なんだ!」

 

「そ、そんなことが、可能なのか?」

 

 匙の疑問ももっともだ。

 

 何せ俺達は下っ端の下級悪魔。そしてリアス部長もソーナ会長も、生粋の上級悪魔というお貴族様。

 

 だけどな、匙よ。

 

 希望の光は、確かにあるんだ。

 

 それを、俺が教えてやらないといけないだろう!

 

「大丈夫だ! 現に、俺はライザーと戦った後、部長からファーストキスをもらったんだ!! そして今はアーシアも含めて三人で一緒にベッドで眠っている!!」

 

「なぁああああにぃいいいいいいいいっ!?」

 

 盛大に声が響き渡る。だけど、当然の反応だ。

 

 なぜか小猫ちゃんや木場が魔力で結界を張ってるけど、できればこの店の皆に知ってほしかった。

 

 それはともかく!

 

 俺と匙はうなづきあって、そしてその手を熱く握りしめる!

 

「やろうぜ、匙!」

 

「ああ。俺達ならきっといけるよな、兵藤!」

 

「ああ、俺達は昇格がモットーの兵士(ポーン)!」

 

「なら、きっとその高みへと至れるはずだ!」

 

 そして、俺達はこぶしを握り締めてぶつけ合う。

 

「目指せ、サクセス逆玉ストーリー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……祐斗先輩や蒼生さんは、あんなふうになってはいけませんよ?」

 

「ははは。僕としては部長は主であり姉ともいえるし、何よりイッセー君から取る気はないから大丈夫さ」

 

「まあ、同じ色っぽいお姉さんに仕える青少年として気持ちはわかる。……ただまあ、俺が何か言ったら殺されそうだ」

 

 なんか、外野がぼそぼそ言ってるけど気にしてられるか!

 

 このまま熱く語りあって―

 

「まあ確かに。基弥は私もアズィールも知ってるからね」

 

「碧唯姉さん静かに!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「どういうことだ、コラァ!!!」」

「……そろそろ静かにしてください、変態先輩コンビ」

 

「「へぶぁ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 詰め寄った瞬間に、後ろから小猫様のお叱り(物理)を喰らって撃沈してしまった。

 

 くそ! 絶対後で真相を確かめてやるからな!!!

 




 と、そんな感じで共同戦線となりました。

 まあ、ぶっちゃけタカ派筆頭であるビセンテとかは、共同戦線とかしたらストレスで余計な暴走につながりますので、「共通の敵がいるから、ある程度のすみわけをする」が基本になりますが。


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第三話 事態急変

はい、そろそろ事態が急変する第三話です!






……「新規開拓」とかいろいろあって、とりあえず序盤だけ匿名でやってみようかと思っていましたが、ふむ、一話更新ごとの平均閲覧者数300ちょっ取って当たり、自分はあまり人が集まるタイプの作品を書けないってことなのかどうなのか。

人気作は一話で千人超えることだってありますし、やはり題名とタグで人を集めれるかどうかが重要なのでしょうかねぇ……?


まあとりあえず、序章と設定資料集を投稿し終えたら、一生から本来のHNに戻すことになると思います。


 

 基弥Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はふと目を覚ますと、そっとスマホで時間を確認する。

 

 時刻はすでに夕方だった。むしろ夜といってもいい。

 

 ここ数日、とりあえず一種の住み分けじみた形で、三大勢力で連携体制を作ることができた。教会が保有する星辰世代で構成された「星辰十字軍団」が厄介かと思ったけど、ハリサが枢機卿代行として任務を受けていたことから、不承不承ではあるけど「コカビエルが最優先」と納得したらしい。

 

 ま、ビセンテたちは「隙あらば諸本滅ぼす」といったスタンスを崩していないようだけどな。

 

 っていうかアイツ、星辰世代だったのか。

 

 ビセンテは、ハリサと同じく俺の幼馴染だ。

 

 信徒という意味ではハリサと同じだけど、まさかハト派よりのハリサとどっぷりタカ派のビセンテで、ここまで距離ができるとは思ってなかった。

 

 あの事故が起きるまでは、むしろ「殉教」には躊躇っぽい印象があったんだけどな。

 

 ま、俺達はそういうこともあるので、なかなか睡眠時間を確保できない。なので、比較的動きにくいと思われる昼に眠る感じになってた。

 

 ……こういう時、キャブコン型のキャンピングカーを移動拠点として用意してくれたアズィール姉さんには感謝だなぁ。

 

 車の中で寝泊まりできるから、寝床が確保できないってことが起きにくいし。ホテルとかに泊まると、襲撃された時他の人に迷惑が掛かりやすくなるし。

 

 それにこのキャンピングカー、堕天使の技術力がふんだんに使われてるから高性能なんだよ。最高時速150km以上でドリフト走行できるし、フレームそのものが蓄電機能があるから電機もふんだんに使えるし、各種デッドスペースに水タンク入れれるうえ、汚水のろ過や汚物の圧縮機能がトイレ・排水機能がある分、シャワーどころか小型の風呂桶まで使える。戦車に狙われても逃げ切れる装甲まで付いてるしな。

 

 まあ、その分移動拠点として重視しているから、居住性は普通のキャンピングカーより劣るんだけどな。椅子とかは収納機能を仕込んでるから。

 

 まあその分、寝床は基本として運転席上のあの膨らんだ部分を使う程度なんだけ……ど……。

 

「ん~……あと五分……」

 

「ふふふ……どうだい、もっと僕があえいだ方がいいのかい……」

 

 ……左右で裸の姉さん二人に密着されてると、こっそり降りて夕食の準備するのも無理なんだよなぁ。

 

 さて、ここではっきりというが、俺は童貞ではない。そして見ての通り、アズィール姉さんと碧唯姉さんの二人と関係を結んでいる。

 

 まあ、だからといって恋愛関係かというとそうでもない。

 

 アズィール姉さんは二十代前後の人間の男性が好みだ。なんだかんだで二百年以上生きている堕天使だから寿命の差があり、また芸術家を目指す人に良く惹かれることから、若い芸術家志望のパトロン兼愛人となっている感じだな。

 

 そしてさらに共通点として、性癖が特殊な奴と付き合うことが数多いそうだ。

 

 レではなくセのほうのNTRはもちろんのこと、スワッピン〇、レ〇のガン見など、数が多い分バリエーションも豊か。質の悪いことに彼氏に趣味を合わせるタイプというか染まりやすいタイプであり、更に思い出を大切にするタイプでもあるから性癖が多種多様だ。

 

 まあ、性的な趣味ばかりじゃないから多芸でもあるんだけど。当人自身の趣味はシュノーケリングだけど、同時に彼氏たちとの思いでを曇らせないように少しずつ、しかし最低でも数十年レベルの積み重ねによって、銀細工も陶芸も木彫りの熊も手編みマフラーも、全部店売りできるレベルの完成度。敵のあぶり出しもかねてストリートでバイオリンを弾いたら、お捻りで夕食にうな重が食えた。さらに洒落たバーに酒を飲みに行くときなんて、一曲歌ってその出来でただ酒を呑むなんてことができるレベルだ。

 

 まあそんなわけなので、現在フリーの状況は下半身が飢えているらしい。アズィール姉さんは俺の面倒を見る担当でもあるので、モーションをしっかり書けてきた。

 

 ……はっきり言おう、あとくされなくエロいことができる、それも競泳水着が似合う系のエロいお姉さんにモーションを駆けられて我慢できるほど、俺はご立派な精神性をした童貞じゃなかった。

 

 そんでもって碧唯姉さんの方は結構複雑だ。

 

 この人は逆に悪い男に引っ掛けられたタイプ。そのまま盛大に嵌って身持ちを崩しており、実家と縁はほぼ切れている。

 

 そんなわけで下半身がうずく人でもあり、男があれ過ぎて女もイケるクチであり、アズィール姉さんは元カレの性癖でそっちもOKであり、そいて碧唯姉さんが入ってきたときには俺は何年もアズィール姉さんと関係を持ったわけである。

 

 特に彼女もいない段階で、エッチでタイプの違うお姉さんからサンドイッチを申し込まれて断れる男は、聖人になれるか生粋の同性愛者とかブス専とかの癖の強い性癖だけだと思う。いろんな認める。

 

 ……まあ、そこはいい。

 

 だけどまあ、年上なだけあって俺よりいろいろと動いている姉さんたちを起こすのは忍びない。とりあえず軽い夕食を作り終えるまでは寝させてやりたい。

 

 そこで俺は、深呼吸をして慎重に慎重を重ねて抜け出そうと決意した。

 

―pipipipipipipipipipip――

 

 そのタイミングでスマートフォンが盛大になった。

 

 しかも俺だけでなく、アズィール姉さんや碧唯姉さんのもだ。

 

 同時に電話が鳴るってことは、十中八九コカビエル案件だろう。それも、結構下級の事態な気がしてきた。

 

「……はいもしもし! 姉さんたちは寝てるから、起きるまで俺が聞く」

 

『寝てることを知っているだとぉ!? 蒼生お前、やっぱりそういう関係か!?』

 

「……切っていいか匙」

 

 真っ先に反応するな。スケベな男として気持ちはわかるけど、今それどころじゃないんだろ?

 

「非常時だと思ったんだが違うのか? なら、切っていいか?」

 

『ってそうだった!? ちょっと大変なことになってるから、急いで連絡したんだよ!』

 

 分かればいい。

 

 確か匙は、夕方から夜にかけて疑似餌になってコカビエル一派のつり出しをやっていたはずだ。

 

 兵藤や木場と一緒に動いていたはずなんだが、いったいどうした?

 

『……エクスカリバー使いとバルパー・ガリレイに仕掛けられた! しかも逃げられたんだけど、教会の連中と木場が追いかけて行ってはぐれちまったんだ!』

 

 おいおいマジか。

 

 全く! 教会の連中は悪魔や堕天使と共闘したくないだろうからともかく、木場の奴は熱くなりすぎだろ。

 

 ……いや、憎しみの源泉ともいえる野郎が目の前に現れたら、そりゃ冷静じゃいられないよな。

 

「わかった。すぐに姉さんたちを起こす。とりあえず一旦切るぞ」

 

 とりあえず、俺達がすることはあいつらの発見と増援の派遣になるんだが―

 

「……基弥」

 

「……起きるのが遅れてすまないね。状況は大体把握した」

 

 すでに姉さんたちも起きて、強引に意識をはっきりさせてる。

 

 とりあえず、俺達はすぐに着替えて合流するべきだと判断して―

 

 ―――pipipipipipipi

 

 今度はなんだ?

 

 そう思いながらスマホを確認して、覚えのない番号だったので首をかしげながらそれに出る。

 

 詐欺とかの電話だったら神の子を見張る者の技術を利用して事務所に殴り込んでやる。

 

「はいもしも―」

 

『よかった出てくれました! 私です、ハリサです!』

 

 ってハリサぁ!?

 

「ど、どこにいるんだハリサ!? っていうか、木場たちは!?」

 

『すいません、少し出遅れて、今星辰十字軍と共に一緒に、彼らが向かったと思われる場所についてます』

 

 そ、そうか。

 

「……っていうか、確か番号交換してたよな?」

 

『戦闘中にバッテリー部分が壊れてしまいまして、慌てて追いかけていたので気が回りませんでした。これは十字軍団の人たちから適当なことを言って借りたものです』

 

 ……まあ、素直に理由を言ったら貸してくれそうにないからな。

 

 俺がちらりと周りを確認すると、すでにアズィール姉さんがリアス・グレモリー連絡を取り合っている。

 

「……ああ。だけど君は待機してくれ。……焦る気持ちはわかるけど、君に何かあればコカビエル様の思うつぼである以上、どうしても守勢に回ってもらわないと困るんだ。……ああ、連絡はしてくれるのか。それもそれで面倒なことになるけど、それでも保険にはなるだろうね」

 

 どうやら、リアス・グレモリーは連れ出さない方向らしい。

 

 となれば、だ。

 

「ハリサ。とりあえず一旦連中を止めといてくれ。俺たちが合流したうえで、三つ巴とか四つ巴にならないように突入ルートとかを調整してから袋叩きに―」

 

 そう言おうとした瞬間、スピーカー越しに爆音が響いた。

 

『――な、向こうから!? まさ……釣り…せ……っ!?』

 

「おい!? オイどうしたハリサ! 返事をしろ!!」

 

 俺が声を荒げるけど、連続して爆音が響いたと思ったら、スマホが壊れたのか通信がつながらなくなる。

 

「……くそ! 場所はどこだよ!」

 

 ハリサとビセンテがまずいだろこれは!

 

 だけど場所をまだ聞いてない。これじゃあどこにいるかわからないだろ。

 

 俺が歯噛みしてると、碧唯姉さんが俺の型にてを置いた。

 

 振り返れば、緊張感はあるけど俺をほっとさせるように笑みの色だ。

 

「大丈夫、逆探知は間に合ったわ! 山間部だけど車で近くまで行ける場所!」

 

 碧唯姉さんナイス! マジで助かる!

 

 ああそうさ。俺が助けに行けるって状況下で、助けを躊躇してハリサとビセンテが死ぬってのは御免被る。

 

 そうさ。何かできる余地があるのに躊躇して失うのが嫌だから、俺は殺し合いなんて死を身近に置くような世界にあえて片足突っ込んでるんだ。

 

「……アズィール姉さん!」

 

「もちろん行くさ。まあ、当面は直線だから三分でよろしく頼むよ」

 

 ああ、付き合いそこそこあるから、その辺をわかっててくれて助かるぜ。

 

 そういうわけで、俺はとりあえず―

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぼろろろろろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ―盛大に吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 勘違いしないでほしい。吐いたのは別に魔が悪いときに吐き気を催したとかそういうことではない。

 

 はっきり言おう、俺は小物だ。

 

 あったこともない遠く離れた異国の悲劇に同情する程度の善良さはあっても、だからボランティア活動でそこに飛び込めるような精神性は持ってない。むしろ晩御飯ができたと言われれば、その時点ですっぱりそっちに意識を向けれる、一般人染みたドライさを持っている。

 

 はっきり言って死ぬのは怖い。そりゃそうだ、普通は怖い。

 

 死を想え(メメント・モリ)を座右の銘にしてるからって、だからいつ死んでも構いませんなんて思えるような、ご立派な精神性は残念ながら持っちゃいない。たとえ見捨てたら一生重荷を背負うことになり、そんなものが勘弁だとしてもだ。きついのはきつい。

 

 だからまあ、これはいわゆるルーティーン。一種の精神安定法として編み出したものだ。

 

 間違いなく殺し合い、少なくとも相手が殺しに来るとわかっている時は、まず吐くことにしている。吐きたくなるほどの命を懸けるストレスと、吐きそうになる無残な死体を見るだろうことも、吐いてもなお足りないだろう人を殺すことになるという事実も、前もって吐くことで抑え込む。それが俺のルーティーンだ。

 

 思い込みってのはばかにならない。っていうか医学的にもプラシーボやノーシーボって言って重要視されている。

 

 だから、吐かずに挑むと後がきつい。具体的には気が緩んだら一気に吐くし、そのあとも調子が悪くなる。場合によっては精神安定剤を飲む必要になるぐらいだ。

 

 まして、幼馴染が二人も死んでいるかもしれないところに行くのならなおさらだ。

 

 だからまあ、前もって吐くのは当然なんだが……。

 

「……これは、ひどいわね。二つの意味で」

 

「ああ、ちょっと引く」

 

 碧唯姉さんの言い分がその通りすぎる。

 

 なんというか、これはもうひどい。

 

 コカビエルがアジトにしていたのは、廃棄された山間部の建物だった。

 

 多分、バブルとかのあおりで倒産したとかそんな感じの、ちょっとしたホテルとかそんな感じだったんだろうけど、もう跡形もない。

 

 完全に崩落してる。あと周辺のアスファルトとか木々とかがほとんど吹き飛んでて、軽い地崩れまで起きている。

 

 こんなのどうやってごまかすんだよ。っていうか、結界が張っていたにしても揺れとかで近くに人がいたら気付かれただろ。

 

 敵も味方も盛大に暴れまくったらしいな。こりゃ大惨事としか言いようがない。

 

「正直な話、これ生きている人がいたら奇跡ね。悪いけど、覚悟した方がいいわよ」

 

「安心してくれ碧唯姉さん。そんなもの、ここに来る前からしとかないとダメだろ?」

 

 碧唯姉さんに気遣いはうれしいけど、実際そんなものはしてるともさ。

 

 現実問題、殺し合いがすでに始まってから向かう以上は、すでに終わって死人が出ていることが前提だ。

 

 間に合わず、ハリサやビセンテが死んでたとしても驚くことなんて何もない。驚くってことは、命がけの殺し合いが起きたってことを理解してないからだ。

 

 ……そんな重荷、背負いたくはないんだけどな。

 

「基弥、来てくれ!」

 

 その時、アズィール姉さんの声が響いた。

 

 くそ、やっぱり死体で対面ってオチか。

 

「ハリサとかいう子だ! まだ息がある!」

 

 ………っ!

 

 俺は全力で走り出すと、神器で周辺警戒をしていたアズィール姉さんが指し示す方向に駆け出した。

 

 アズィール姉さんは、堕天使と人間のハーフだからか神器を宿していた。はっきり言って下位の部類で、異形たちとの直接戦闘には向いてない。

 

 そのアズィール姉さんの神器で片付くられる、泥炭でできた犬が、死体とがれきの山から、血や臓物に泥や埃でまみれた、女の子を引っ張り出してる。

 

 ハリサだ。確かに、ここ最近顔を何度も併せてたから間違いない!

 

 だけど………っ!

 

「ハリサ! くそ、聞こえてるなら返事をしろ。あと応急処置のために脱がすけど文句を言うなよ!」

 

 これは一刻も早く応急処置だけでも終わらせないといけないだろ。むしろ今なんで生きてる!?

 

 止血帯は手持ちのキットに入れているし、非合法だが医療用接着剤や止血剤も持っている。いざとなれば火属性の魔剣で焼いて止めればいい。

 

 だから死ぬなよ、いやマジで。

 

「すいませ、ん。どうやら、誘い込まれた……ようです」

 

「ああもう! 返事を白と入ったけど、そんなにしゃべれとは言ってな……いや、やっぱしゃべって意識を保て!」

 

 ったく。不幸中の幸いって程度だけど、内臓とかをごっそりやられたりとかはしてないな。

 

 だけど、だけど……。

 

「……大丈夫」

 

「何がだ!? 言っとくが出血がひどくて割と命がやばいんだ―」

 

「―戦士を選んだ時点で、死ぬことも四肢を欠損することも……覚悟してますから」

 

 ―――ああ、そうか。

 

 どうやら感覚がはっきりしてるんだな。気づいてるんだな。

 

 そう、ハリサの左腕は、盛大につぶれていた。

 

 他も骨折している箇所とかがあるが、左腕はつぶれているとしか言いようがない。

 

 ここまで原型をとどめてないなら、アーシア・アルジェントの神器でも完治は無理だろう。

 

 それを痛感しながらも、俺は応急処置の手を止めない。

 

 ただでさえ、応急処置をしなければ命に係わる状態なんだ。ましてそれが幼馴染なんだ。とどめに、俺がこの場で一番医療知識に明るいんだ。

 

 幼馴染を俺の手抜かりで死なせるとか、そんな重荷は断じて御免だ。

 

「アーシア・アルジェントを呼んだ方がいい」

 

「……それは、お断りします」

 

「魔女として追放されて悪魔になったのは事実だから、そりゃ抵抗はあるだろうな。だけど俺は、俺が嫌だから人を助けるんだ。幼馴染を手抜かりで死なせるなんて、そんな重荷を背負って生きていくなんて勘弁なんだよ」

 

 ああ、悪いが俺は俺の利己的な理由で助けてるんだ。

 

 だから、そっちの都合なんて知ってられるか。

 

「……優しい――いえ、気遣いができる人に……なりましたね」

 

「今のどこがだ。脳にもダメージが入ってるのか?」

 

 俺がそういうと、ハリサは静かに首を振った。

 

「普通に利己的なら、そんなことをあえて言いません。わざわざ言ったのは、私があなただけを恨めば済む話にしたかったからでしょう?」

 

 ………くそ、反論できない。

 

 まあ実際、ビセンテ当たりならアーシア・アルジェントに直されたらガチで屈辱に思いそうだしな。ハリサだって、アーシアを魔女として認定することそのものを謝罪はしてないし。

 

 よしんばアーシアを恨まなくても、ハリサもビセンテも悪魔に堕ちた魔女に治療されたってことで後ろ指をさされるかもしれない。そうでなくも当人が負い目として引きずるかもしれない。

 

 だから、わかりやすく俺が恨まれる対象になればそれでいい。

 

 自分本位な理由で命を助けるんだから、せめてそれで恨まれることぐらいはするべきだと思っただけだ。まして巻き込むアーシア・アルジェントに、しわ寄せがいかないようにするのは当然だと思う。

 

「……ほかの言いたいことはありますけど、今はそうじゃありません。というより、そういうことじゃないんです」

 

 ハリサは視界があいまいになってるだろう状態なのに、俺をまっすぐ見つめてきた。

 

 これは、本当に()()()()()()()()()ってことか。

 

「コカビエルは、駒王学園高等部を基点として、駒王町ごとリアス・グレモリーとソーナ・シトリーを吹き飛ばす気です。強奪したエクスカリバーを融合させる過程で得られる力を利用する、といってました」

 

 ………おいおい冗談だろ。

 

 教会の宝剣ともいえるエクスカリバーを利用して、悪魔の要人を二人も、堕天使の最高幹部が、一般市民数万人以上を巻き込んで吹き飛ばすだと?

 

 そんなことになれば、三大勢力どころか下手したら人間、それもこの日本を盛大に巻き込んで戦争が起きるぞ。

 

「……連絡がついた。どうやらコカビエル様は、すでにリアス・グレモリーに宣戦布告をしているようだね」

 

 アズィール姉さんはスマートフォンでいつの間にか会話をしていて、その後盛大にため息をついた。

 

 俺はいま、すっごい顔してるんだろうなぁ。手が止まってたし。

 

 碧唯姉さんも、頭痛を感じたのか額に手を当ててた。

 

「勘弁してよ。いくら何でもやりすぎでしょう……っ」

 

「全くだね。しかもあまり時間もなさそうだし、仕方がない」

 

 そういうと、アズィール姉さんは少しうなづいて俺に向き直った。

 

「後の処置は僕が引き継ぐ。二人は今すぐ駒王学園に向かってくれ」

 

 ………ま、そうなるよな。

 

「待ってください。事態は非常時です、私はほおって全員で―」

 

「それをすると、基弥は絶対に引きずられてポテンシャルが下がるからね。それに僕はデスクワーク主体のサポートタイプで、しかもこういう戦場が狭く開けているならあまり役にも立たない」

 

 ハリサの反論をさえぎって、アズィール姉さんは苦笑を浮かべながら肩をすくめる。

 

「とりあえず、シトリー眷属が保有している建物に向かうよ。シトリー家は医療法面が発達しているようだし、何より負傷した紫藤イリナもそこで眠っているようだ」

 

 あ、やっぱり被害は甚大だったか。

 

 こりゃなおさらだな。

 

 俺は小物なんだ。戦争なんて御免被るっていうか、こっち側が責められることが間違いない状況なんて戦争でなくても勘弁してほしい。

 

 ああ、だから―

 

「任せろハリサ。コカビエルの奴には、俺がおまえの分もぎゃふんといわせてやる」

 

 ―言ってしまったから、もうやってやるしかないわけだ。

 

「ま、私たちは露払いでしかないんだけどね」

 

「ついでに言うと、白龍皇の手が空いたから、すでに駒王町にはついているようだ」

 

 軽く笑みを浮かべながら、碧唯姉さんとアズィール姉さんも俺にうなづいてくれる。

 

 っていうか、増援に選ばれたのは白龍皇かよ。

 

 あいつバトルジャンキーだから不安なんだけど。あと碧唯姉さんとはそりが合わないし。

 

 ……まあ、それはいいか。

 

「ああ、数万人の命がマジでヤバいってのに、何もしないで黙ってみているなんて勘弁だ。逃げるにしたって、まずやるべきことはやってからだな」

 

 我ながら情けないけど、それが本音だ。

 

 重荷を背負って生きる気はないけど、そうでないなら死ぬ気もない。

 

 ま、何もしないで後悔するだけってことが無いよう、気合を入れてやることやるとしますかね。

 

「じゃあ、連絡もかねて、最初からコレを使うように」

 

「「了解」」

 

 アズィール姉さんに合わせ、俺達は共通の装備を取り付ける。

 

 それは、俺達三人が試験運用している特殊装備。三人の名前がそれぞれ青系統の色を含んでいることから、青を基調とした手甲型の装備。

 

 それは、俺と碧唯姉さんに合わせ、わざわざアズィール姉さんが最低格にしかなれない非効率的な素質であってもなお第三世代となった、星辰世代(ザメンホフ)用装備。

 

 神の子を見張る者(グリゴリ)開発したTD(トバルカイン・デバイス)、スカイライト・ボルト。

 

 じゃあ、そろそろ本腰入れて荒事をするとしますか。

 




 さて、次から各種オリジナル要素が戦闘でも明かされることになります。

 そして星辰世代をはじめとする各種オリジナル要素ですが、敵中心とはいえ双方の強化に使われることになると明言しておきましょう。


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