Ghost in the Doll (恵美押勝)
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mission0.裏切り者には死を

ど〜も恵美押勝です。ドルフロに出てくる戦術人形とか世界観って攻殻機動隊に雰囲気似てね?って事でこの小説を始めました、しかしいざ書いてみると結構難しいもんですね…
長話もアレなんで本編をお楽しみください!


新たな戦争の駒として作られた機械、「戦術人形」が義体化が進んだ時代に生きる人間によって作られ人間と人形の見分けがつかなくなってもその事に関して恐れを抱く程知能は進化してない近未来…

 

AD2062 3月5日

巨大ビルの一室の中で二人の男が向かい合って座っていた。一人の男は狡猾な笑みを浮かべていた、やがてその男性が口を開き

「…つまり、この花火を私にくれると、アレクセイさん」

アレクセイと呼ばれたロシア人系男性の両手には巨大な銃が握られていた、この銃は旧ロシア地区で製作された新型兵器でリボルバー式のロケットランチャーと言うおおよそ人間には扱えない代物だった

「あぁそうだ、朴さん。おたくはこのバケモノ銃で戦果を上げ出世コースへ、そしておたくは私に新型戦術人形をよこし、祖国の技術レベルを高めることが出来る。晴れて私も出世出来るわけだ、さぁそれではそこにあるキャリーバッグをこちらへ渡してもらうか」

「祖国ねぇ…今じゃロシアなんて国は過去の遺物なんだが、まぁいいさ今渡してやる」

朴がバックを取ろうとしたその時、部屋のドアが勢いよく開いた

「動かないで!」

そい言いながら入ってきたのは3人組の少女であった

「何だ貴様!何者だ!」

アレクセイは手に持っていたマカロフを少女に向けた

「私はZas M21、ここで銃器に関する不法取引が行われていると情報を聞いてお邪魔させて頂いたわ」

「不法取引だと、何かの間違いだ!それにツァスタバは貴様が持ってる銃の名前だろう本名を言わんか本名を!」

「アレクセイさん、あれは人間じゃない。人形だ!あの3人組全員!」

「何だと!」

アレクセイの驚愕する顔をよそにもう2体の人形がバックを開け中身を確認していた

「どう?ブツはあった?vector」

vectorと呼ばれた人形はzagの方を振り向いて首を縦に振った、彼女は人形を抱えていた

「ねーねーもう一体あったよzas!」

「よくやったわスコーピオン」

zas M21はスコーピオンの頭を撫でると男達の方へ向いた

「S-ACRにVSK-94…どれもこれもIOP社の最新の戦術人形で民間用にデチューンされた慰安用のそっくり人形も出回ってないのにどうして貴方方が持っているのかしら。知ってる?軍事用品の無許可での売買は違法なのよ」

「そ…それは」

アレクセイが言いかけるもzasに銃口を押し付けられ閉口してしまう

「黙りなさい、私が聞きたいのは貴方じゃなくてその隣の男よ。そっちの男の方がよ〜く知ってるから。そうよね?s16地区担当の指揮官、朴淨悅さん?」

「確かに私は指揮官だ、だがこれは断じて不法取引などではない。ロシアでの軍事会社、メカノイド・クークラ社との合法取引だ、IOP社、勿論グリフォンからの許可済みだぞ」

「なら、その許可書を見せてくれないかしら指揮官さん」

「vector、書類は今私の部屋にあるんだよ。明朝そちらへ渡そう」

「そんな言い訳通用すると本気で思ってるのか?」

vectorは銃口を突きつけながら朴へと近づく

「どのみちこの事が嘘だろうと本当だろうと君達人形には関係のない事だ、拘束したければ君達こそ書類を持ってくるんだな。誰の差し金は知らんが無礼千万だ、雇い主によく言っておけよ」

行きましょう、とだけ言い朴はアレクセイを連れて退出しようとしたその時だった

突如、窓ガラスが割れた音が聞こえたと思いきやそれに続いてピン、ピンと軽い音が聞こえた。

「うっ…」

と朴が呻くやいなや突如彼の体が爆ぜた、辺り一面に朴だった肉片や内臓が散らばり真っ白だった床は今や赤く染まり元の色が分からなくなってる

「…!貴様ら!」

目の前で一人の人間がいきなり死んだのだ、半狂乱になったアレクセイは自身が持ってきた新兵器をzas達に向け発砲しようとした

「馬鹿!こんな所で撃ったらお前も…!」

スコーピオンが言い終わる前にzasはグリップで彼の頭を叩き気絶させた

「騒ぐ暇があったら動きなさい、スコーピオン」

そう言いながらzasは血塗れになった床をものともせず窓辺へと近づき下を覗いた、それに続きvectorとスコーピオンも下を覗いた

「zas凄かったね、一瞬で炸薬弾をあいつに撃ち込むなんで!でも大胆だねぇ、殺害許可までは出てなかったでしょ?」

「あれを撃ったのは彼女じゃないわ、私でもない」

「…?じゃ誰なのvector」

「じっと覗き込んでご覧なさない」

スコーピオンが言われた通りじっと見ると何やら景色がもやつき生態的なパーツが見えた

「…!人の目だ!光学迷彩を使ってる人がいる!じゃ、あれが朴を撃った…!」

「そうよスコーピオン、あれが私達の指揮官。元日本国公安所属…草薙素子よ」

スコーピオンの目に映った素子は彼女に向かって不適に微笑むとおもむろに手を目にかざしいよいよ消えてしまった。

後日…so9地区基地・指令室

上品な家具が醸し出す雰囲気の中、この地区の指揮官草薙素子はそこに居た。彼女は副官であるスプリングフィールドに昨夜の3人を呼び出すように頼みこちらへ来る間新聞を読んでいた

「グリフィン指揮官、旧露製武器を密輸入か。尚当該指揮官は同じくグリフィンの人間により殺害され死亡…か」

そこには昨夜の出来事が盛大に書かれており素子はそれに表情を変えることもなく読み終えるとクズ籠へと捨てた、と同時に部屋のノックが鳴る

「失礼します、ZasM21.vector.スコーピオン3名入ります」

「入っていいわよ」

短く返事をすると3人は足並みを揃えて素子の前へ出た

「まずは3人とも、ご苦労様。貴方達の活躍で少しは世の中が綺麗になったわ」

「まさか他の指揮官を殺すことになるなんてねぇ、アタシ鉄血だけを相手にすると思ってたから驚いたよ」

「そんなものよスコーピオン、同胞を相手にするなんて事私にもあったわ」

「え!少佐って元公安なんだよね!?公安って殺し合いとかもするの!?」

「全てがそうとは言わないけどまぁ私が所属していた部署は特別だったから…」

「そんなことより少佐、朴淨悅の殺害許可は出ていたの?私達があのビルへ向かうときには出れなかったはずなんだけど…」

「私が貴方達が出た後、クルーガーにお願いしたのよ、『ここでアイツを殺さなきゃIOP社との関係だけでなくグリフィンと言う組織自体の存在が危うくなる』って言ってね」

「社長に直談判ですか」

「えぇ、そしたら彼ニヤニヤしてこう言ったのよ『君ならそう言うと思った。我が社に裏切り者は必要ない』って」

「あの社長も随分恐ろしい事を言うのね…でも新聞に大きく載っていたけどそれはいいの?」

「むしろその方がいいのよvector」

「?」

「新聞に載る事でグリフィンには自浄作用が働いていると世間に認知させると共に今後他の指揮官への警告をする事が出来るの」

「成る程…」

「しかしあの朴って指揮官も馬鹿な男ね、あんなバケモノ銃を手にしても意味ないのに」

「私達人形には烙印システムがあるからね…」

スコーピオンが言う烙印システムとは簡単に言えば自身の名前と同じ銃の性能を100%引き出せるシステム、と言うものだ。逆に言えばスコーピオンがvectorを使用しても恐らく一発も敵に当たる事はないだろう、それだけ烙印システムと言うのは戦術人形において重要なシステムなのだ

「あの男、左腕だけ義体化していたけどそれじゃあの銃は使えないわ。ロシアの男みたいに両腕を義体化させるぐらいのことをしないとね」

素子はそう言いながら自身の手を見つめた。

彼女の名前は草薙素子、元日本国公安9課所属の全身義体化した女である

 

 



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Mission1.チップ 〜着任そして出撃〜

どーも恵美押勝です。お久しぶりです、長いこと色んなところで遊んでいたため投稿が遅れました。その間春田や9のねんどろいどを買ったり同人誌を買ったりと色んな物が買えて楽しかったです(小並感)
長話もアレなんで、本編をどうぞ


AD2062 5月5日

SO9地区指令室…

素子が書類作業に勤しんでいる中ドア向かいの廊下から鼻歌混じりのご機嫌な足音が聞こえてきた。時計を目にすると午前9時を指している、そろそろだなと思い素子は椅子から立ち上がりコーヒーメーカーが置いてあるスペースへと歩く。ポットには既にコーヒーが入っており彼女は紙コップに黒々とした液体を注いだ、コーヒーの豊かな香りが部屋の中の空気を満たす。そしてもう一個紙コップを取ろうとしたその時足音が止まりドアが勢いよく開かれた

「おっはようございまーす!少佐!」

快活な少女の声と共に我らが後方幕僚、カリーナがその姿を現した

「おはようカリーナ、朝から元気ね」

「嫌ですわ少佐、おばあちゃんが孫に話すようなこと言って。あれ、でも少佐って第三次世界大戦前から生きてるんでしたよね?…てことはやっぱりおばあ…」

「あら、女性の年齢を聞くのはご法度よ?コーヒーあげようと思ったけどやめようかしら」

素子がわざとらしい声で空の紙コップを握りつぶそうとするとカリーナは慌てて訂正した。

「それでいいのよ」

素子は微笑みながら紙コップにコーヒーを注ぎカリーナへと渡した。受け取ったコーヒーを飲みながら彼女は話し始めた

「そう言えば少佐がこの間IOP社に頼んだ新人形が届きましたわよ」

「お、遂に来たわね。確かライフルの…」

素子が手元にある資料を手に取ろうとした時、ノックが聞こえた

「失礼します、少佐。スプリングフィールドです」

「春さんか、入りなさい」

ドアが開き、スプリングフィールドが中に入ってくる。彼女の隣にはもう一人いてチラチラと素子の方に目をやっている

「紹介したしますわ、彼女は新しな戦力として加わるライフルの…」

「私の名前はワルサーWA2000。指揮官、私の足を引っ張ったら、承知しないわよ。」

「随分高飛車な娘ね、私は草薙素子。よろしくWA2000…それとこれからは指揮官じゃなくて少佐って呼んでくれないかしら。そっちの方が慣れてるから…」

「いいけど、何でよ」

「前の職場じゃそう呼ばれてたのよ、指揮官なんて言われるとどうもむず痒くてね」

「分かったわ“少佐”…それで、私はこれからどうしたらいい?案内ならいいわよ。既に電脳の中にあるから」

「あらそう、なら早速出撃してもらおうかしら」

「いきなり?まぁ構わないわよ。それでどんな任務なの?」

「難しい任務じゃないわ、ここから70kmほど離れた場所に鉄血の小規模基地があるの。んまぁ基地と言っても廃村を利用した簡易的基地なんだけどね。で、今回その基地の掃討を私達SO9地区が担当することになったの。で、貴方には援護してほしいのよ」

「…Jaegerが居るのね」

「ご名答、前に偵察隊を出したら奴の姿が確認できた。」

「スナイパーにはスナイパーで叩くと言う理屈は常識だけどそれなら春田だけでもいいんじゃないの?」

「ところがそうもいかないのよね…春さん」

素子が呼ぶとスプリングフィールドはボードに写真をはっつけた

「これは?」

「基地の写真です、どうやらあの基地は戦力の半数以上がJaegerなんです」

「半数以上が!?どう言う基地なのよそこ…」

「最初はJaegerを生産して性能テストを測る場所だったらしいのよ。工場の跡地があったからな、潰した理由は分からないけど。ともかくそれであの基地は半数以上が奴が居るんだ」

「となると、そりゃ春田だけじゃ対応出来ないわね…」

「そういうこと、上手く使ってあげるから2時まで春さんの作戦報告書をダウンロードしてラーニングして置きなさい」

そう言って素子は机にフロッピーディスクとヘッドホン型の読み取り機械を置きWAに渡した

「これは?」

「春さんが着任してから昨日まで出撃した戦闘をデータ化したものよ、ハードの性能が良くてもソフトがしっかり学んでなきゃハードが泣くわよ?それじゃ2時15分にヘリポートでまた会いしましょう」

そう言うと素子は立ち上がり部屋から出ようとする

「どこ行くのよ?」

「衣装室」

「衣装室…って?どっか出かけるの?」

「そうよ」

と、短く返事をすると素子は壁にかけてあった鍵を取り部屋を出て行った。

残ったWA達もまた部屋から出て彼女らの部屋へ向かう、どうやら彼女らは同じ部屋に配属されたらしい

部屋に入るやいなやWAがスプリングフィールドの方を向き口を開いた

「勤務中に外出だなんて...ここの指揮官はどうなのよ。ただでさへ全身義体で驚いているのに調子狂うわ」

「あら、少佐が全身義体だってこと知ってたの?」

「それぐらいスキャンすれば余裕で分かるわよ、私は狙撃用に開発されたんだもの。アイセンサー周りは他のとは違うんだから」

そう誇らしげに言うとスプリングフィールドはクスリと笑いながらWAの頭に読み取り機械を装着させた。突然つけられて一瞬驚いた表情を見せる彼女だがラーニングのためにすぐスリープモードに入ってしまった。

 

2時10分

ラーニングから目覚めたらWAはスプリングフィールドと共にヘリポートへと来ていた。集合時間まであと5分はある、その間暇なのでWAはスプリングフィールドと話でもしようかと思ったがヘリコプターは既に起動状態に入っておりけたましい音を立てている為話どころではない。そこで彼女は通信ケーブルを自分の頸に差しスプリングフィールドにも差しこんだ。これにより電脳を使用したテレパシーのような事が可能になる

『そう言えば少佐、ヘリポートで会いましょうって言ってたわよね。見送りにでも来るの?』

『うーん違うわね、まぁ待っていれば分かりますよ』

『違う?違うって何よ?』

だがその質問は答えられることなくスプリングフィールドはケーブルを取り外してしまった。そんなことをしてる間に時刻は2時15分となっていた。

「お待たせ」

そう大人びた声が聞こえ振り向くと素子とZasM21とMDRとM1895が居た。

「あら、指揮官見送りありがとう...って何よその格好」

WAが驚くのも無理はない、素子はいつもの赤い制服ではなくベージュをベースにしたコンバットスーツを着用して前髪にはVRゴーグルのような代物が装着されているからだ

「ん?何って衣装室で着替えてきた格好だけど?」

「いやいや、まるっきり戦闘用の格好じゃない。まさか少佐も出撃するんじゃないでしょうね?」

「そのまさかよ」

「マジ...?」

「大マジよこの人は」

「もう何回も出撃してるんじゃよ、危ないと言うのに...」

「でも少佐私達と同じかそれ以上に強いからな、Ripper3人程度なら難なく一人で倒せてるぐらいの力があるよ。流石は全身義体と言うところかな...」

WAが驚きポカンとする中3人が素子の活躍を説明してくれたがおそらくそれは彼女の耳には入ってないだろう。何故なら彼女以外の人形がヘリに入っててもぼーっとそこに立ち尽くしていたのだから

「ボサっとするなWA!行くぞ!」

と素子に呼ばれてようやくWAはようやく意識を現実に戻し急いで乗るのであった

 

小1時間ほどヘリに揺られ素子らは目的地である基地から2kmほど手前にある地点へ着陸した

素子が双眼鏡を出し基地を確認する

(廃教会の上に3体、バリケード辺りにもまた3体か...やはり春さんだけじゃ無理ね)

そう思いながら彼女は双眼鏡を離し手を叩いた

「よし、ではこれから基地攻略作戦について説明する」

素子がそう言うと5体の人形は彼女の方を向き耳輪を傾けた

「WA2000はここから1km先にあるポイントで私から連絡があるまで待機。スプリングフィールドはWAから100mほど離れたポイントで待機。私とZasとMDRとM1895は基地から300m手前まで進むわよ。

「で、それから?」

「私が連絡した後にWA達は発砲を開始して。その後私達が突撃して廃村の何処かにあるメインコンピューターを探し当てそれを破壊するわ。そうすればここの基地に居る人形供は機能を停止する。何か質問は?」

「はいはい!」

「はい、MDR」

「メインコンピュータってどう探すつもりなの?小さな廃村とは言え探し出すには苦労するよ」

「心配しない、そのための私よ。適当な鉄血人形の死体の電脳にハックして位置を割り出すぐらいのこと雑作もないわ」

「成る程ね」

「他に質問は?」

と聞くと声が上がらなかった

「よし、行くぞ!」

号令をかけライフル組が二手に分かれ、素子らは直進する。そして10分経ったころ目標地点に到達した。3体の人形が伏せの体制になりMDRがリュックから大きな砂柄のシートを取り出した

「少佐は...必要ないか」

「えぇ、私にはこれがあるもの」

そう言い素子はゴーグルに触るとそこからビニールシートの様な物が見え彼女を覆う。すると先ほどまでそこに居たはずの彼女が見えなくなってしまった

「京レの隠れ蓑か...すごいのう、サーモグラフィーにも引っかからんわい」

『識別マーカーコードは43526awrよ、WAもスプリングフィールドも設定しておいて』

『了解』

『了解しました』

『それじゃ、派手に祝砲かましてやりなさい』

そう言って通信を切ると虚空を切る音が聞こえJaggerの頭が爆ぜる音が聞こえる...はずだった

『どうした二人とも?早く撃て』

『それが...!』

『指が動かないのよ!!』

『何だと!?お前らメンテしたんだろうな!?』

『指の故障じゃないです...これはプロテクトです!』

『私の電脳が、アイツらのことを人間だと認識してるのよ!!』

元来、ロボットと言うのは「ロボット三原則」と言うのがあり人間を攻撃してはいけないと言う決まりがある。戦術人形も例外ではなく人間を攻撃してはならないのだ、もし仮に人間に向かい発砲をしようとしても電脳がプロテクトをかけトリガーに力が入らないようにするのだ。(仮にナイフや打撃で攻撃しようとしても拳に力が入らなくなる)

『うわ、本当だ私の目もいかれてるわ。Jagger供が人間として認識されてる』

双眼鏡を放り投げながらMDRが呟いた

『どうする少佐?』

『作戦中止!全員撤退だ!』

号令をかけ撤退をする、素子は撤退しながら基地にヘリを要請した

30分程が経過してようやくヘリが来た。迎えに来たヘリのパイロットが余りにも早い帰還要請に疑問を持ち何か聞きたげな顔をしたが素子に睨まれ表情を無にした、上昇したヘリの窓から見える廃村を見ながら素子は苦虫を噛み潰したような顔で見えなくなるまで見たのであった

 

 

 

 

 

 

 



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Mission01.チップ~解析~

お久しぶりです、恵美押勝です。とうとうガルパン最終章三話が公開されましたね。ドルフロもアニメを放映するみたいだし今年はいい年になりそうですわ(遅い)
長話もアレなんで、本編をどうぞ!


~解析~

AD2062  5月6日

指令室

素子は机に座り自分ともに出撃したメンバー達の方へ顔を向けた

「それじゃ、改めて聞くわよ。WA、春さんあの時の状況を説明してくれる?」

「わかりました」

「と言っても話すことはさっき話したけどね」

「あの時、私達は少佐の指示に従い発砲許可の後すぐに撃とうとしたんです」

「スコープにはしっかりとJaegerの姿が入ってたわ、引き金を引けば確実に奴の頭が胴体とお別れするはずだった」

「だけど撃てなかった」

「えぇ、引き金を引こうとした瞬間人差し指が硬直したんです」

「それでも撃とうとした瞬間私の電脳が告げたのよ『あれは守るべき人間だ』ってね…」

「あぁそれなら私も同じ現象がおきたよ、双眼鏡でやつを見たらそうなった」

「MDR以外にこの現象が起きたのは?」

そう聞くとZasもⅯ1895も頷いた

「これで決まりね、くだんの現象はWAと春さんの故障なんかじゃない。敵が仕組んだ何らかの電脳干渉によって起きたのよ。」

「何かってなんじゃ?」

「現象からしてバトーのように目を盗まれたと考えられるわね…でもあいつみたいにリアルタイムでハッキングができるほどの高等技術が可能な脳やツールはJaggerにはないはず…」

「バトーって誰よ?」

「昔の同僚よ、私と同じでほぼ全身義体なんだけど義眼レンズを着用していてね。リアルタイムで多数の機械やサイボーグの視界をハッキングする事が出来たのよ」

「それが『目を盗む』ということなんだね」

「そう、でも目を盗むのはさっき言った通り高等テクで素人には不可能だわ」

「でもJaegerには他の鉄血兵とは違う装備をしてるよ。ほら、あのゴーグルのような…」

「馬鹿ねMDR、あれは暗視ゴーグルよ」

「ともかくだ、この現象が改善しない限り私達、いやグリフィン自体の業務が滞るわね…」

せめて鉄血兵の死体を解析できれば糸口が----

そう考えたころ卓上に設置してある電話がなった。

こんな時に、そう思いながら受話器を取る

「もしもし」

「その不機嫌そうな声じゃどうやら失敗したようだな、少佐」

「ヘリアンか、ええそうよ。で、失敗したダメ指揮官に何の用?」

「そうふくれるな。実は少佐に頼みたいことがあるんだ。」

「頼み?」

「そうだ。まぁ電話越しで話せる要件じゃないんだ。枝がついてるかもしないからな」

「分かった、本社までくれば良いのね?」

「そういうことだ、では少佐後ほど」

電話を切り素子は椅子から立ち上がった

「これから私はグリフィン本社ビルまで行ってくる。その間なんかあったときはスプリングフィールドの指示に従うこと。いいわね?」

了解、と短い返事が返ってくる

「それじゃ、確実解散!」

そう言って素子は指令室を後にした。

部屋から出るとカリーナが車のカギを持って素子を待っていた

「少佐、お出かけですか?」

鍵を渡しながら彼女が聞いてくる

「ええ、ヘリアンに頼まれてね」

「そうでしたか、ところで…」

「どうした?」

鍵を受け取り駐車場へと向かう、カリーナもそれについていく

「どうして少佐はヘリアンさんと連絡するときは電脳を使用せず電話を使うんですか?枝がついて盗聴されるリスクが高いじゃないですか」

「ヘリアンはね電脳処理をしてないのよ」

「え!電脳普及率が90%越えの現代で生の脳ミソなんですかあの人!」

「そうよ、おまけに体のどこも義体化させてないのよ」

「へぇ~ヘリアンさんああ見えて貧乏なんですかね?私ですらしてるのに」

「さぁね。でもカリン、電脳処理をしてないのは悪いことではないのよ」

「何でですか?」

「管理職という重役において一番怖いのは電脳をハッキングされることとゴーストハックよ。一瞬にして機密情報が奪われるだけでなく内部分裂を引き起こしかねないからね」

「なるほど、でも電脳処理をしてないヘリアンさんはその心配がないと」

「えぇ、と言っても旧時代のゴーストハック…つまり自白剤を打たれたらおしまいだけどね」

話しながら彼女は車のカギをシリンダーへ入れ込み回す。ブルン、という音とともに腹に響くエンジン音が聞こえる

「じゃ、留守番よろしくね」

「お土産よろしくお願いしますね~」

「覚えてたらね」

グリフィン本社ビル 

本社ビルへ入るとすぐそこにヘリアンがいた

「やぁ少佐、直接顔を合わせるのは久しぶりだな」

「そうね。2か月ぶりってところかしら」

「そんなところだろうな」

「で、電話越しで話せない頼みってなによ?」

「まぁ待て、場所を移そう」

そう言われると素子は怪訝な顔になりヘリアンの横につき小声で話す

「そんなにヤバい頼みなわけ?」

「ついてくれば分かるさ」

「…分かったわ」

5分こと歩き素子らは分厚い鉄の扉の前に立たされた

「ここは…敵性人形保管庫ね」

「そうだ、鉄血兵や人類に仇名す機械が保管される俗に言う“ゾーン”って場所だ」

「こんな場所でしか頼めない任務って碌なもんじゃないわね…まぁいいわ。入りましょう」

扉の前にいる警備兵(人間だ)に身体検査され分厚い扉が轟音を立てながら開けられる。中に入り見渡すと辺り一面に鉄血兵の残骸が特殊ガラスの中に保管されている。そして前方の十字架のような作業台に一台の鉄血兵が置かれていた

「これは…ripperね?」

「あぁ、こいつは一昨日保管された代物だ」

「こいつが何か?」

「こいつは他の兵とは違ってな、うちの人形が倒せなかったんだ。3人の人間の軍人ががりでようやく倒せたんだ」

「倒せなかった?もしかして…?」

「察しの通りトリガーが引けなくなる故障が発生したんだ。出撃した人形全員がな」

「まるっきり私の地区で起きたことと同じだわ」

「本当か、やはり故障ではないのか」

「同じ症例が2件、何体のも人形に出ているのよ?偶然の一致にしてはできすぎてるわ」

「ということは」

「えぇ、この鉄屑に何かが仕掛けてあるのは間違いないわ」

「なら…私が頼もうとしてることが分るよな?」

「ダイブすればいいんでしょ?」

ダイブとは有線や無線を用いて電脳同士をつなぎ合わせ相手の電脳の中身に接触し解析することである

「そうだ、少佐にはそのことでここまで来てもらったんだ…分かってると思うがこれは危険な作業だ。得体の知れないウイルスに感染するリスクや攻性防壁で脳を焼かれて廃人になるリスクもある」

「ヘリアン、私を誰だと思ってるの?私は“超ウィザード級ハッカー”よ」

誇ったような顔で素子が言うとヘリアンは笑い出した

「そうだな。何十年も前とはいえ“超ウィザード級ハッカー”だものな」

「えぇ、あれから腕は衰えてないつもりよ」

それに、一応これもあるしね。と言いながら彼女は腰につけてある小さな四角い箱を指さした

「身代わり防壁…しかもこれは日本製じゃないか随分高級なものを持ってるんだな。流石は元公安出身ということか」

「まぁね、これがあれば一回は焼かれるのを回避できるわ。でも…」

「でも?」

「万が一私が乗っ取られてあなた達に攻撃するようなことがあれば遠慮なく殺して。そんなことはあり得ないけど念のためにね」

「分かってる。言われなくともな」

「流石ヘリアン、それじゃ始めるわ…」

呼吸を整え首から線を出しRipperの首の付け根に差し込む。これでダイブの準備が完了した。

ダイブとは文字通り情報の海に飛び込む行為だ。故に飛び込む際には水中へダイブするような感覚で行う。

(ここがRipperの中か。目の前に見えるあの大きなノイズみたいなのが記憶野、ゴーストがないからチリチリとした気持ち悪い感覚がしないのはありがたいわね)

そして、記憶野の中に侵入することに成功した。現段階で防壁が働く気配はしない、落ち着いて覗いてみると素子の電脳内にRipperが起動してから破壊されるまでの映像が一瞬で流れ込んでくる。とてつもなく膨大な情報量ではあるが電脳処理をしてる彼女にとっては何の問題もない

(破壊されるまでは特に変わった瞬間はないわね…ということは記録をする前、つまり製造されてる時に“何か”を仕込まれたということかしら)

そこで一旦素子は記憶野から出て周りを見渡すことにする、視覚、感覚、聴覚の概念を示すノイズが見えるがこれはどの鉄血兵にもある物だ。この深度じゃ見つかりそうもない、そう思った彼女はダイブする深度を高める

(…あの青い光は今まで見たことがないわ!まさかゴースト…いや、ゴーストならあの感覚がするはずよ。ということはこれは未知の分野ということかしら)

そこで彼女は一旦自身の言語野へと意識をもっていく

「ヘリアン、聞こえてる?」

「あぁ、どうした」

「この鉄屑に未知の分野を見つけたわ。ダイブしてみる、どうやらここに答えがありそうな気配がする。そう囁くのよ、私のゴーストが」

そう告げると再び先ほどの場所へと戻りダイブする。青い光が彼女を包み込む。温かなそれは直ぐに熱い感触へと変わる

(攻性防壁!だけどこれはチンケなものね。鉄血工房のだからどんなものかと思ったけど十年も前の防壁じゃない、なんか損した気分…)

難なく防壁を破り侵入に成功した。中に入り全てのプログラムを読み取り彼女はニヤつく

(ビンゴ、ここに答えがあったのね)

彼女の意識は彼女自身の電脳へと戻りダイブが終わった

「戻ってきたか少佐」

「えぇ、無事に帰ってきたわよ」

「それで答えは見つかったのか」

「勿論」

そう言うと彼女は作業台に置かれているRipperの頭を指さした

「この辺に特殊なマイクロチップが埋め込められてたのよ」

「マイクロチップ?それが人形たちが撃てないのと関係してるのか?」

「そうよ、簡単に言えばこのチップは戦術人形に認識阻害をさせる代物よ。正確に言えばこのチップに存在してるウイルスがね」

「と言うとこのチップの効力によって人形の電脳がおかしくなって鉄血兵を人間と認識させてしまうのか」

「そういうこと、これは相当な代物よ。最高機密である戦術人形の電脳にリアルタイムでしかも大多数にハッキングが可能だなんて相当ヤバいわ…恐らく既に大量生産されているはずよ」

「となると三原則プログラムを外してチップの意味を消失させるべきか?しかし三原則を消すのは上層部が易々許可は出さないだろう」

「でしょうね、三原則プログラムは戦術人形の根本だもの」

「ではどうしようか?」

「簡単なことよ、チップの効力を無力化させるためにワクチンを作ってそれをダウンロードさせればいいわ」

「簡単なことって言うが可能なのか?」

「種は分かってるのよ?種が分かってるならワクチンを作るのはお茶の子さいさいよ」

「本当なのか、それで時間は?」

「10分もあれば余裕よ」

「流石は少佐だよ…ここのコンピューターは自由に使ってくれ。私にできることはそれしかないのだろう?」

「上出来よ、あとヘリアン」

「?」

「社長によろしくって言っておいて」

「分かった」

そう言ってヘリアンは保管庫を後にした。残された素子はコンピューター(オフライン)と接続しダイブを行う

…宣言通り十分もしないうちにワクチンは完成した

ダイブから戻り視覚を現実に戻すとヘリアンがいた

「もう終わったのか、本当に恐ろしいよ少佐は」

「約束は守る主義なのよ、はいこれ」

素子は笑いながら手に持ったUSBメモリをヘリアンに渡した

「この中にワクチンが入ってるわ」

「分かった。これをダウンロードさせればこの問題は解決するんだな」

「間違いなくね」

「了解した、今回の件協力に感謝する」

「いいのよ。私はこの会社の社員なんだから、社員が会社に尽くすのは当然でしょ?」

「そうだな。あと社長が言ってたぞ」

「なんて?」

「『君といると飽きない』だそうだ」

 



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Mission01.チップ~再出撃~

ど~も、ガルパン最終章3話見て大学生になった恵美押勝です。いや~ドルフロ難しくて進まないんですワ。知識やストーリーばかりは溜まっていって肝心のプレイは進まない…いやはやこれでいいのやら
長話もアレなんで本編をどうぞ!



ダイブを終え本社ビルを出た素子は車に乗り込み電脳通信を行う。相手は我らが後方幕僚カリンことカリーナだ、彼女は義体化こそしてはないが電脳処理だけはしている。本人曰く「商売人が電脳処理をしてないだなんて銃を持たない戦術人形の様なもの」とのことらしい

3コールほどだって彼女は応答する

『少佐、お出かけはおしまいですか?』

『そうよ、今から帰るわ。ちゃんとお留守番してくれた?』

『勿論ですよ、少佐がお出かけの最中は何もありませんでした!』

『ならいいわ、だけど私が帰ってくるまでが留守番よ、最後までよろしくね』

『わっかりました!それで少佐、お土産のほうは…?』

『ちゃんと用意してるわよ』

『良かった!それじゃ少佐、お気を付けて』

通信を終え素子は手元にあるUSBメモリを上着のポケットにしまい込み車を走らせた

 

S09地区基地指令室

車から降りいつもの指令室へ入ると既にカリンが待っていた

「お帰りなさい少佐!早速ですがお土産の方を!」

尻尾があるならちぎれんばかりに振っているであろう彼女に素子は口元をにやけさせながらポケットに入れてたUSBメモリを渡した

「…?あの少佐これは…?」

「お土産よ」

「これが!?あ、この中に入ってるデータがお土産なの…」

「ウイルスよ」

さらりと言うとカリンは顔を真っ青にして自身の手に持っているのを見た

「大丈夫よ、それ人形にしか感染しないウイルスだったものだから」

「だった?じゃ今は」

「えぇ、ただの無害なプログラムね。カリン、それをデータルームに置いといて」

「分かりました…」

「何よ、頬なんか膨らませて分かりやすく捻くれちゃって」

「お土産がそんなものだとは思いもしませんでしたもの」

「何言ってるの、あれのおかげで私達が勝てる確率が限りなく100%になったのよ。ということは再出撃するってことになるわね」

「えぇ」

「出撃するのには何が必要?」

「そりゃあ資源…あ!」

「そういう事、ちょっと資源に余裕を持たしておきたいから買っておくわ。ね?素敵なお土産でしょ?」

「ええ!ええ!そう言うお土産でしたらいつでも大歓迎ですわ!それじゃ早速手配しますね!」

そう言うとカリンは急いで指令室を出ていった、顔は見えてないが恐らくその眼にはドルマークが浮かんでいたことだろう

そんなことを思いながら素子はコーヒーメーカーを作動させるのであった

 

データベース

コーヒーを飲み終えた素子はデータベースへと向かった、データベースと名前はいいが実際は本社から支給されたPCが一台置かれてるだけだ…とここまではどの基地にもあるだのだが彼女の基地は違った。彼女のポケットマネーで買ったネットにダイブするための大型装置が置かれている、これはダイブするのにも用いるがウイルスやワクチンと言った作業も可能な装置である。9課で働いていた時には彼女は使うことはなかったが彼女の同僚はこれを愛用していたと言う…

とは言え時代は変わった、今彼女はこの大型装置の前に立ち使おうとしている、USBメモリを差し込み椅子へと座り上からジェットコースターのシートベルトのようなものが降りてプシュッ、という空気音を立て彼女の体に密着する、目の前にあるレンズに顔を近づける

「さて、パーティーを盛り上げる為の準備をしないとね」

元のウイルスに手を加え5分もしないうちに彼女の望むウイルス作成に成功した。

「よし、これで準備は完璧。明日は思いっきり暴れることができるわ」

完成した特性ウイルス入りのUSBメモリを抜き彼女はデータベースを後にした。

 

指令室には素子に呼ばれた前回の攻略作戦に参加したメンバーが集合していた

「こうしてあなた達に集合してもらったのは他でもないわ、今から30分後の8:30に例の基地に奇襲を仕掛けるわ」

「ですがあの基地は私達の攻撃が封じられているのでは?」

「あれは結局あいつらの何が原因だったわけ?」

「落ち着きなさい、手早く説明するから聴覚センサー弄ってよく聞いてなさい」

「洒落のつもりかの?」

「あなた達ににしか作用しないウイルスが原因で撃てなかった、私がワクチンを作りそれを無効にした。どう?分かりやすかったでしょ?」

「あぁ、昨日突然来た電脳アプデ情報はそのワクチンのインストールだったわけだ。…でもさらっと言うけどワクチン作ったって少佐やばくね?」

「で、そのワクチンのおかげで私達はもうあんなことは起こらないわけ?」

「その通りよツァスタバ。ワクチンは正常に作動してるはずだから問題なく奴らをズタズタにして頂戴。…さて何か質問は?」

と聞くと何も声が上がらなかったので素子はそれじゃ、と言って立ち上がった。

「鉄屑共にどちらが上か電脳に嫌というほど思い知らせてやるわよ!じゃ各員出撃準備!」

 

 

ヘリから降りた各人形は前回と同じポジションにつくために駆け出した。それは素子も同じであり彼女の愛銃“セブロC-25”を持つ手の力が強くなる、やがて全員がポジションに付き待機状態に入る

『MDR,持ってきた双眼鏡でバリケード周辺にいるRipperを見てくれ。ワクチンは作動しているとは思うが念のためにな』

『オッケイ、そんじゃ見てみますか』

懐から取り出した双眼鏡で覗くと彼女の電脳は映っている人形を「敵」と認識した

『ワクチン効いてるよ少佐!』

『よし!WA!スプリングフィールド!』

『了解です!』

『了解!』

スナイパー組は合図と共にトリガーを引き発砲、乾いた音共に放たれた弾丸は吸い込まれるようにjeagerの頭に当たり、そして突き抜け確実に電脳をかき回した。

『jeagerの沈黙を確認、少佐!』

『そのまま二人は留まって援護しろ!いくぞ突撃だ!』

素子の号令を聞き他の人形達が走り出した、素子を先頭にしたその集団はバリケード前で警備していた発砲箇所を特定しようと空を見上げていたRipper二体を素早く破壊しバリケードを蹴破り廃村へと突入した。そこでようやく事態を把握した鉄血兵がサイレンを鳴らし敵襲を知らせる、わらわらとRipperやダイナゲート、そしてJeagerと言ったメンツが湧いてくる

「ZasとMDRはダイナゲートを頼んだ!M1895はRipperに向けて火力制圧のスキルをかけて!あいつらは私が倒す!」

「了解じゃ!」

「スナイパー組は狩人を逆に狩ってあげなさい!」

辺り一面にけたたましい銃の音が響き渡る、ダイナゲートらは対人なら脅威ではあるが人形にとっては五月蠅い蠅ぐらいの存在でしかない、おびただしい数で襲ってくるが哀れな野犬は漏れなく5.56x45mm弾を浴び文字通り鉄屑になる。だが野犬の狙いは人形の首を主人に捧げるのではない弾を消費させる為だ、人形の動力は半永久でも所持している銃は有限だ。弾がなくなればリロードしなくてはならない。ZasとMDRがリロードするためマガジンに手をかけたその時、3体のRipperが彼女らに銃口を向け発砲する。だがその弾薬は彼女らの人工皮膚に少し傷をつけるだけに終わる。

「流石、M1895のスキルね、当たっても何ともない」

「おばあちゃん頼りにしてるよ~!」

「やかましいわ!軽口いう暇があるならさっさとリロードを終わらせい!」

そういってる間にリロードを終わらせRipperに向けて発砲をしようとすると既に穴だらけになって地面に付していた

「すまん、取りこぼしってしまった」

「いや少佐、一人でRipperを10体近く倒してるのは異常だからね?こりゃタレコミ掲示板に流さないと…」

『私達の援護もありましたけど体術と組み合わせて戦うのは人間の特権ですね』

『人形じゃ体術なんて特殊ソフトをインストールしてそれ用の人工筋肉を使わなきゃそんなのはとても…』

「今からこいつにダイブする」

そう言うと素子は地面に付していたRipperを一体持ち上げ廃屋へと入った。人形らもそれに続き入るとそこにはRipperを後ろ向きにして抱えていた素子がいた、彼女はうなじにある接続口にあるカバーを確認するや否やナイフを取り出しそのカバー目がけて斜めに突き刺して栓抜きのようにカバーを抉り出した

『5秒もあれば十分だ、その間お前らは私を護衛しててくれ』

命令と共に彼女の周りを囲み防衛体制を整える、それを見て彼女は首からプラグを出してRipperへと接続しダイブを開始した

(確認したいのはこいつを制御してるここのメインコンピューターの位置だからそこまで深く潜る必要はないわね…メインとの接続は死んだら解除されるだろうから急がないと!)

素子は電脳表面を捜索するとじわじわと消失していくノイズが見えた

(あれだな、メインコンピューターの接続ポイントは)

すかさずそこに飛び込むと彼女の電脳内にここの廃村を上空から見た映像が廃教会へとクローズアップする映像が映し出された

(そこにメインコンピューターがあるのか!よしそうと分かればこんなところとはお別れだな)

こうして、宣言通り5秒のダイブを終えて彼女は帰還した

起き上がり視覚を彼女自身の視覚野に戻す、周囲を見渡すと5秒前と変わってはいなかった

「どうやら私がダイブしてる間は何も起こらなかったそうだな」

「ところがどっこいそうもいかないんだよ、ドアの向こうにスナイパー組が対処できないほど鉄血兵が集まってるらしいんだ」

「弾薬はまだ十分にはあるけどこの数はしんどいわね」

「この廃屋、裏口とかなさそうじゃよ。どうするのじゃ少佐?」

「お前らなぁ、少しは頭使いなさいよ。抜け口がないなら作ればいいじゃない」

そう言うと彼女は壁に向かって思いっきりパンチをした、すると壁にひびが入った。すかさず蹴りを入れると今度は壁が粉々になり外の景色が見えた

「よし、これで脱出出来るな。行くぞ!」

「…もう驚かないぞ」

「全身義体化ってそんな芸当も可能なのかのう…」

『うちら一応人間以上のスペックは出せるはずなんだけど…』 

『前にヘリを引っ張ったってお話を聞きましたけど本当な気がしてきましたよ…』

「昔の話は帰ったらしてやるから今はとにかく私に続け!」

そして1キロほど走った先に十字架が見えてきた

「十字架、あそこか!」

「少佐後ろからめちゃくちゃ来てる!おまけに発砲体制だよ!」

「Zas!お前確かスモークグレネード持ってたな!?」

「ええ!投げる!?」

「今使わないでどうする!

Zasが投げ後方一面に白い煙が覆う。だがこれはあくまでも有視界で撃てなくなるだけであってサーモグラフィーに切り替えられたら意味をなくす。つまり通常視界からサーモグラフィーに変えるまでの約数秒だけしか稼げない

そしてようやく廃教会の全貌が見えてきた。扉をよく見ると鋼鉄製と分かった

「当然か、ここの心臓部だもんな。さてどうするか…この銃の弾を一か所に集中させて弱ったところを蹴って倒すっていう作戦で行くか」

そう言ってC-25を構えると突然扉がカーン、と音を立てと思ったら次々と音が重なり扉が後ろに倒されていった。そして最後に大きな音がして鋼鉄製の扉はこれまで以上の音を立てて倒れた

『どうです少佐。私たちだって凄いんですよ?』

『春さんのスキルで扉を少し方向けさせた後私もスキルを発動して超高速で同じところに弾丸を叩きつけてやったのよ』

『収束率100%か…私よりも凄いな』

『当然よ、私は殺しの為に生まれた人形よ。この銃で不可能な芸当はないわ』

『よくやってくれた、これで突入が出来る!』

一行はいよいよ廃教会に入ることに成功した。中に入るとそこには祭壇替わりと言わんばかりに巨大なコンピューターが置かれていた。素子はスクリーン付近に近づき差込口を探し始めた

「あった、ここにこいつを差し込む…っと」

懐から取り出した例のメモリを差し込み彼女が作ったプログラムが注入される

「よし。これで任務完了と」

「んにゃ、メインコンピューターの物理的破壊しなくてもいいの?」

「いいんだ。それより面白いのが見れるぞ」

表に出ると既に多数の鉄血兵が集合していた。その様子に身構え人形達であったが彼女らは疑問を感じていた、何故なら銃口がこちらを向けておらず隣にいる仲間に向けていたからだ。と、次の瞬間一体のRipperがJeagerに向かって発砲し破壊してしまった。それに呼応するように鉄血兵達はなんの躊躇いもなく仲間達と銃撃戦を始めたのである

「これはどういうことじゃ?」

「私が作ったウイルスよ」

「え?」

「コケにしてくれた礼に互いのことをグリフィン製の人形だと認識するようにしたのよ、ね?面白いもの見れたでしょ?」

「確かに面白いのが見れたな!掲示板にアップロードしよっと」

「MDR、それやったら今月の給料半分にするからな」

さてと、と呟き素子はメインコンピューターの物理的破壊に移ろうとした。だが一つ気になるものを目にした

「これは…足跡?」

廃教会の横にある道に見慣れない足跡があった、だがこの足跡はここにいるメンバーのものではない

(それならばこれは鉄血兵の…?)

そう思いスキャンするがRipperのとJeagerのとも違った

(ならこの足跡はなんだ?人間がこんな場所をはいれるわけがないしこの村は10年も前に人がいないから前の村人のものとも思えん、これは一体なんだ?)

その足跡を少しだどっていくと微かに硝煙の匂いが鼻腔センサーを反応させた、下を見ると黄色い何かが見える。かがんで手に取るとそれが弾丸であることが分った

(5.56x45mm NATO弾?何故こんな場所に…?)

疑問は尽きないが今はそれどころではない、頭を切り替え破壊活動に戻ろうとしたその時ポケットに入れていた無線からコール音が鳴った

「…誰だ?」

「私だよ」

「…ヘリアンか、何の用だいきなり任務中なんだが」

「いいか少佐、よく聞け?」

「なんだ」

「5分後この基地に爆撃することを本社が決めたわ」

「ちょっと待て、私達はまだここにいるんだぞ!しかも王手寸前だ!何故爆撃を!?」

「私にも分からない、だが爆撃することは決まったんだ。急いで脱出しろ、如何に少佐とも言えど無事ではすまんからな」

「了解…!」

そこから2分後、素子らはこの基地を脱出し爆撃ゾーン外から出ることが出来た。ヘリを要請させ待つ間の長い時間、彼女の電脳にはあの足跡と弾薬だけが映っていた…

 



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Mission.ハイエンドモデル~一杯のコーヒー~

ど~も恵美押勝です。大学生活始まったものの思ってたより暇です、ですので小説の更新スピードが異常なことになりました、しっかし皆さん履修登録ってバリ面倒くさくないですか?システムが分った今でこそどうにかなりましたが分からない最初の時はもう死にかけましたよ。
長い自分語りもアレなんで、本編をどうぞ


Mission02~ハイエンドモデル~

AD2062 5月8日

いつものように素子が指令室で書類作業をしていた所にカリーナがやってきた

「おっはようございます!少佐!」

「おはようカリン」

「ん~?見るからに不機嫌ですわね。ペンがミシミシ言ってますわよ、新しいのを買うときは是非うちで。しかし何かあったんです?昨日のミッションは成功したんですよね?」

「…結果的に言えば成功したわ。だけどねぇ…」

「だけど?」

「最後の最後でいきなり本社が介入してきたのよ。廃村を爆撃で地図から消し去るってね」

ほれ、と言って素子が渡した航空写真を見てみるとそこにはがれきの山しか見えなかった

「まぁ確かにチェックメイト寸前で邪魔されたら多少は苛立ちますけど…そこまで不機嫌になるものですの?」

「介入された事に苛立ってるのもあるんだが私が一番腹立たしいのはきな臭いことよ」

「と言うと?」

「あぁそれは…」

言いかけた直後ノック音が聞こえた

「誰?」

「アタシだよアタシ、スコーピオンだよ」

「入って」

「失礼しますよっと…」

「あれ、スコーピオンさんどうしたんです?」

「ちょいと報告がね」

「で?例の結果は?」

「えぇと、少佐の推測通りこの弾薬は5.56x45mm NATO弾だったよ」

そう言ってスコーピオンが弾薬が入ったポリ袋を机に置いた

「それでこの足跡だね、本社のデータベースと照らし合わせてみたんだけどどの人形とも一致しなかった」

「じゃあ人形じゃなく単身鉄血のテリトリーに侵入できる少佐みたいな人間だったんじゃ?」

「アタシもね、最初はそう思ったんだよ。ただね」

スコーピオンが足跡の写真を拡大した写真を見せた

「ここにね、赤色が見えるんだよ」

「血…ですかね?それならやはり人間ですよ。人形の血はオイルみたいな茶色ですもの」

「でもね、そうすると不自然でさぁ…この足跡は今からおよそ4日前についたものだと推測できるんだけど…」

「もし人間の血液ならこんな真っ赤になってるのは不自然ね。そんだけ経ったらどす黒くなってないと不自然だわ」

「そうなんだよ!少佐の言う通りでこれは人間の血ではないと思うんだ!でもそうするとこの血は何なのかって話になるんだよね…」

「我々の知らない人形が生産されている…と言う可能性があるな。赤い血を流す人形がな」

部屋の中が重い空気で満たされる

「つまりだ、本社、いや…iop社は新しい人形を作った。それも見られては困るような物をな。私達がその痕跡を見つけ察する前に隠滅したかったと」

「考えすぎじゃない?本社だって爆撃機用の爆弾を遊ばすわけにはいかないからさ、使いたかっただけなんじゃ」

「お前の電脳の演算処理、一度見てもらったほうがいいんじゃないか?明らかにおかしいだろ。基本的に本社が戦線の基地の作戦に介入することはない、任務の概要だけ説明して後は放任なんだからな」

「あ、そっか…そうするとやっぱりおかしいなぁ」

「あの~少佐、難しいこと考えるのはその辺でよろしいのでは?おかしな点があろうと少佐が不利益を覆ったわけじゃないんですし…所詮我々は駒ですから…」

「若いのに淡白ねぇ…私はね、そういうのが嫌いなのよ。これじゃ私が公安で働いてた頃と変わりないじゃない….思い返せば30年前」

素子が長くなりそうな愚痴を話そうとした時、卓上にある電話が鳴った

「…はいこちらS09地区戦線基地」

「少佐か」

「ヘリアン?何の用だ?」

「相変わらず不機嫌だな、まぁ無理もない。昨日の任務がアレだったからな」

「ヘリアン、お前なんか隠し事してないか?昨日の爆撃、お前は分からないと言ったが無理があるだろう。お前の地位はそう低くはないはずだ、完全に分からないと言うことはないだろう?」

「…友人として一つ忠告しておこう、君は昔こそ少佐だが今はグリフィン&クルーガーの平社員だ。深く踏み込もうとするな、消されるぞ。」

「…やはり隠してることがあるんだな」

「解釈は君に任せる」

「…それじゃ、今は深く踏み込まないようにするわ。今はね」

「それでいい、君とはいい友人関係でいたいからな。では本題に入ろうか」

「….」

「昨日、別の基地でとある人形の救出作戦が行われてな。救出された人形の名前はPPSh-41というんだが…」

「その人形が何か?」

「あぁ奴は2週間近くの間鉄血によって捕縛されていたんだ、だがその捕縛された相手が問題でな…少佐なら知っているだろうが鉄血にはハイエンドモデルというのがいる」

ハイエンドモデルとは名前の通り普通の製品とは別格な性能を持つ製品のことでありハイエンドモデル一体を破壊するためにはグレード3(一般的な性能を持つ人形のこと)が最低でも5体必要とされいる

「奴はそのハイエンドモデル…型式番号『SP65』通商“スケアクロウ”に捕縛されていたんだ」

「それで、私にその“スケアクロウ”を破壊しろと?」

「話が早くて助かる、作戦の日時は今日から2日後の5月10日だ、幸運を祈る」

そう短く告げると電話が切れた。受話器を置きカリーナ達を見る

「少佐、私達めちゃくちゃ強い奴と戦うの?」

「そうね。ハイエンドモデルと戦うなんての基地に着任してから初めてのことよ」

「開始日までは2日もあるし…今から準備しとかないと!」

「少佐、戦力強化の際は是非とも私に一報を…少佐?」

「ん?」

「ボーっとしてまた何か考え事ですか?」

「少しね…ごめん、二人ともちょっとカフェに行ってくるわ」

「え!?こんな時にですか!?」

「こんな時だからこそよ、美味しいコーヒーでも飲まないと電脳がうまく働いてくれないのよ」

 

カフェ

おおよそ無骨な基地には似合わないお洒落な雰囲気を醸し出すそこは素子の功績がある程度認められ本社が建ててくれた場所だ。店員などはいないが店主としてスプリングフィールドが在中している。彼女はそう言った事が得意な人形なのだ(本来なら彼女はそういう事の為に作られた人形だ)

「邪魔するわよ」

「いらっしゃいませ…あら少佐。ここに来るのはずいぶん久しぶりですね」

「2日後に難易度が高い作戦が入ってね、ちょっと考え事をしたいのよ。春さんが淹れたコーヒーは電脳が活性化するからな」

「あら、嬉しいことを仰ってくれるのですね。それじゃ少佐のためにもいつもより腕をかけてコーヒーを淹れましょう」

「頼んだわ」

そう言うとスプリングフィールドはコーヒーを淹れる作業に入った、素子はそれを見ながら考え事をする

(本社が人形を救出するのは機密漏洩を防ぐためと理解できるけどハイエンドモデルがただのグレード3人形を殺さずに捕縛する理由はなんだ?わざわざ捕縛するということは何らかの情報を聞き出したかったから…?でも何の情報を?…ただの作戦内容を聞くために2週間も捕縛するとは考えにくい、聞き出すのは何も作戦のことだけじゃない…例えば人物についての情報とか…もしかしてあの人形は赤い血を流す人形と接触したのでは?あの人形は偶然にも新型人形と接触し別れた。敵としても新型兵器の情報は知っておきたいだろうから接触した彼女にそいつのことを根掘り葉掘り聞きたかった…恐らくはそういう事なんじゃ…)

「少佐、コーヒー入りましたよ」

「…」

「少佐?」

「…あっすまない。どうも考えが上手くまとまらなくてね、ちょっと休憩しようかしら。春さんのコーヒー、冷めないうちに飲みたいしね」

「そんなに難しい任務なんですか?」

「ハイエンドモデルって知ってる?」

「ええ、あの鉄血兵で強力な力を持つ人形…でしたよね」

「それとな、我々は対峙しなくちゃいけなくなったのよ」

「本当ですか?」

「いつかは来るとは思ってたけどいざ来ると悩ましいわね…今の戦力じゃトントンって言ったところだし戦力増強しないとね」

「装備の要請やダミー人形の製作…あの子が喜びそうですね」

「まぁ…今回も誰も死なせずに頑張ってみるわよ。だから安心して私に身を任せて頂戴。

コーヒーご馳走様、お金はテーブルに置いとくわ」

そう言って素子はドアを開けて立ち去ろうとする。だが出る直前に僅かにスプリングフィールドの方を向いて立ち止まった

「春さん、貴方もし“赤い血を流す人形”がいたらどう思う?」

「赤い血ですか….もしそういうのがいたら私たちとは別格な人形なのでしょうね」

「私はな、まともにそいつに会える自信がないわ」

「どうしてですか?」

「会ったら答えのない課題を延々と考えさせれる羽目になるからよ」

「課題…?」

「私の血は赤けどこの体に生身の要素は頭以外ないわ。いや、その頭も生身かどうかの保証もないわ。赤い血を流す人形も生身の要素はないけど赤い血が流れている。そして人形というけれどその頭が生身ではない保証もどこにもないわ…」

「…」

「となると、一つの疑問が浮かぶ。『機械と人間の境目はどこか』ということよ。これはね答えが出ないのよ、いや明確な答えなんて初めからないの。でも考えなくてはいけないのよ、その考えを放棄した瞬間、私達はツケを払わなくちゃいけなくなるのよ」

「ツケ…ですか、今こうして鉄血兵と戦っているのはツケではないのですか?」

「それもまた一種ね…でも一番のツケは『人類種』という種族の一種の崩壊よ、誰も死にはしない形式上の崩壊ね…」

「….」

「ごめんね、春さんにこんな話しちゃって。…じゃ、私指令室に戻るから」

今度こそ素子が出ていきカフェは再び静寂になる。一人残されたスプリングフィールドは何度も何度も素子が言った『課題』をCPU限界まで考えるがやはり答えは出なかった

「少佐、答えのない問題の答えを出そうとする、その矛盾を抱えたまま生きていく程、人間は器用ではないと思いますよ…」

 



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Mission02.ハイエンドモデル~案山子と雀~

ど~も恵美押勝です。4月もそろそろ後半戦に差し掛かり皆様いかがお過ごしでしょうか。私はこの一週間”Omodaka”と言う人の民謡テクノばかり聞いて過ごしています。おかげで毎日ノリノリで過ごせています。
自分語りもアレなんで、本編をどうぞ


ヘリの風がなびくヘリポート、そこで11体の人影がいた。

「Vector.Zas.スコーピオン.スプリングフィールド.そしてGrG36…よし全員揃ったな」

「全員集まったよー!ちゃんとダミー人形も連れて来た!」

「ダミー人形…この基地じゃこれを使って任務をするのは初めてね」

「こういうのもおかしな話かもしれませんけど自分自身の同一存在が隣にいるってあまり気持ちがいい感触ではありませんね…」

「そういう思考は捨てることね、スプリングフィールド。私達は機械、ワンオフの人形じゃなく大量生産品なのよ?どれだけ同一存在がいてもおかしいことではないわ。」

「…Zas.スプリングフィールド、今はそういう話をしてる時間じゃありませんわ。ご主人様の前ですよ」

「…G36、すまないがその“ご主人様”ってのはどうも調子が狂うからやめてくれ。さて、これから軽く今回の作戦内容について話すから全員私の脳の中に入れ」

人形全員が目を閉じて素子の電脳内に意識を入り込ませる。(この時これまでのように有線ではないのはこの時だけ素子の電脳を暗号付きで一時的に開放しており人形たちはその暗号を利用することで侵入できるからだ)

電脳空間に入った人形達は思わず周りを見渡す

「わ、少佐の電脳内思っていたよりも情報量が多いね」

「スコーピオン、人の記憶を軽々しく見るな。焼き切るわよ」

「オー怖い怖い、すいませんでしたっと」

「まったく...それじゃ本題に入るぞ。今回の相手は鉄血のハイエンドモデル“スケアクロウ”の破壊だ。….ハイエンドモデルってやつは完全に人、人形、重機を殺害、破壊するために作られた人形だ。現代の技術を惜しみなく注ぎ込まれたボディの耐久性はお前たち以上、勿論攻撃力もお前らを上回る」

そう言うと素子は電脳内に一つの画像を映し出した

「…このツインテールの人形、これがスケアクロウね」

「たしかこいつを銃器じゃなくタレット型の小型衛星を武器にしてるんだっけ」

「ええそうよ。ハイエンドモデルの電脳処理能力を普通のやつよりも上だからできる芸当ね」

「それでどう処理するつもりですかご主人様?」

「対処法としては単純で衛星を落とすか機能を停止させればいいわ」

「機能を停止と言うとEMPグレネードを使うの?」

「と言いたいんだけど恐らく無理だと思うわ。鉄血のことだし電磁パルス対策はしているでしょうからね」

「じゃあ撃ち落とすしかないと…そのために私が編成されたわけですか」

「その通りだスプリングフィールド。私達が敵の基地に突入してスケアクロウを探す、そして先頭になったらお前はいち早く衛星を打ち落としてくれ。衛星さえなくなればただの案山子だからな

「了解しました。」

「よし、それじゃ全員出撃するぞ!」

 

ヘリコプターが目標基地の4キロ程手前に着き11体の人影が続々とロープを伝い降りていく。

「全員降りたな。スプリングフィールドは座標T-47にある狙撃ポイントに先行して待機、

残りは私と共に基地まで進むぞ」

作戦開始、と言い素子らは駆け出した

『カリーナ、今回の作戦は弾薬を大量に消費するから補給便を何時でも出せるようにして頂戴』

『分かりました!少佐ご武運を!』

電脳通信を切り暫くすると哨戒中のダイナゲート部隊とRipper3体を発見した。だがこの道は遮蔽物がない一本道。交戦は避けられない

「少佐!」

「応戦するぞ!スコーピオン!」

「勝負は先手必勝!」

スコーピオンが焼夷手榴弾をダイナゲート部隊に投げ込み爆発、炎上する。突然の交戦に対応できるほど一般鉄血人形の電脳は優れていない。成すすべもなく野犬共は半分以上が焼肉になり切り裂き魔の一体も巻き添えを食らい体を焦がした。破壊には至らなかったが右足の機能が完全に停止しており戦力にならないことは火を見るよりも明らかだった。

ここでようやく応戦に出る残りの鉄血兵達だったが….

「遅い…!」

Vectorが反撃の暇を与えず発砲し2体のRipperが破壊された。ダイナゲート部隊もGr36やZasによって全滅。先ほど焼夷手榴弾の巻き添えを食らったRipperが辛うじて動く左手で素子を狙うがその視界は素子のサブウェポン“セブロm5”の5.45×18mm弾によって黒く塗りつぶされた

…この間僅か15秒の出来事であった

「またセブロ社の?少佐セブロが好きなの?」

「公安時代に支給されて代物だからな、使い慣れてるんだ」

と、Vectorの質問に答えながら素子は比較的原型を保っているRipperの電脳に侵入した

(よし、まだ電脳は生きているな。…このピリピリする感覚、記憶野に侵入したわね。ここに侵入してしまえば基地の全体図をダウンロードするなんて造作もないな)

基地は前回襲撃した基地よりも2倍ほど大きく塀で囲まれ基地本部の様な建物も見えた。

(やはり前回の基地とは段違いだな、流石はハイエンドモデルがいる基地というべきか。まずは砲台を春さんに撃破してもらって….ん?)

地図を眺めている最中、突如として熱い何かが下からこみ上げてくる感触がした

(これは…攻勢防壁か!前回のと違う!)

熱さが彼女の側に完全に来る前に彼女は急いで接続ケーブルを抜いた。途端にRipperの頭部が爆ぜた。攻勢防壁が作動したのだ

「散れっ…!」

素子はそんな様子を気にする余裕もなく全員に大声で伝えた。散った次の瞬間、彼女らが集まったいた場所に銃撃が上から降ってきた

「ちっ…!」

素子は飛びながらセブロC-25の銃口を上に向けて発砲した。弾は素子らに向かって発砲した物体へと命中し堕ちた

「この小型衛星…“スカウト”ですか!」

「でもあの小隊にはこいつはいなかったよ!」

「敵はこちらをとらえたようだぞ!ごちゃごちゃいう前に走りながら今から転送するマップデータを叩きこんでおけ!」

「了解!」

一目散に走り出し、基地まで前進する素子ら。その前には鉄血兵達が待ち構えていた、更に頭上にはスカウトもいた

(恐らくあの小隊は大掛かりなトラップ…!私が鉄血兵の電脳に侵入した時にスケアクロウも奴に侵入し防壁を発動させ同時に逆探知も行った訳だ…!流石はハイエンドモデル、ウィザード級ハッカー並みのことをしやがる!)

『スプリングフィールド!私達の上を飛び回ってる蠅を打ち落とせ!』

『了解!』

スプリングフィールドが撃ち落としていく中、ほかの人形もまた目の前にいる鉄血兵に向かって撃ち続ける

「こんだけ敵がいちゃ基地に入る前に弾が付きそうだよ!」

そう言いながらスコーピオンはポケットからマガジンを取出しリロードをした

「カリーナさんに頼んで補給要請をしてもこの状況では….」

「…これは案山子に使う予定だったが、仕方ない!全員聴覚と視覚を物理的に塞げ!フラグを投げるぞ!」

素子は防弾ジャケットに引っかけていた閃光手榴弾のピンを抜き前方にいる人形に向かって投げた。刹那、青白い閃光と耳を刺すような高音が辺りを包み込む。対人用の非殺傷武器ではあるが人形にも効果的である、その眩い光は人形の視覚センサーを一時的にオフラインにさせることが可能で高音は聴覚センサーもオフラインにさせる。無論、目を瞑り、耳をふさげば無効化することは出来るのだが対処をしてない鉄血兵にとっては有効打であった。

「動きが止まってるな、再起動する前に一気に突っこむぞ。あと400mだ!」

その後、再び追いつかれる前に基地内に侵入することに成功した。だが基地内にも当たり前だが敵が跋扈している

『カリン、座標H-16地点に飛行場がある。そこに補給物資を投下してくれ』

『わっかりましたー!』

『全員聞いたな!?飛行場までは150mだ!弾はどうだ!?』

『アタシはもうマガジン一個しか残ってないよ~!ダミーの方も~!』

『私はもう少しだけ余裕があるわ』

『私はVectorよりも余裕があるわね。フルオートじゃなくてセミオートで一発撃破を狙いながらやってたから』

『私はスプリングフィールドさんが負えない分のスカウトを倒していたので余り余裕はありませんわね』

『分った、私とZasが前に出て飛行場を制圧するから、残りの3人は後ろを頼んだわよ』

そう言って素子らは走り出す。それを覆う形で後方の人形が陣形を組む。行かせてたまるかと後ろから攻撃をしかけてくるスカウトらはスプリングフィールドやほかの人形のダミーに任せ、本体がRipperやVspidを倒す。優勢に見えるが圧倒的物量に徐々に押されつつある、おまけに弾がもうすぐ付きそうだ。急がなくてはならない

『Zas!飛行場の敵はどの位だ!?』

『ざっとRipper4体、Vspid3体、スカウト4体ね』

『私達3人でギリいけるか…!Zas、ダミーの方の弾は大丈夫だな!?』

『大丈夫よ、弾は私しか使ってなかったから』

『よし、あと少しで奴らの視覚センサーの領域に入る。準備は出来てるな!』

『勿論』

視覚センサーの領域に入るや否や素子はグレネードを投擲した。ポサっという音を立てて落ちたそれは間もなく爆発し落下地点にいたVspid一体が破壊される。すぐさま敵は体制を整え発砲を開始する。が、身を屈めこれを回避した、それと同時にダミー人形がスカウトに向けフルオートで薙ぎ払うように撃ち、2体落ちる。素子も負けじとセブロm5を連射しスカウトの全滅に成功する。だが喜んでいる暇はない。迫りくるRipperらに向けてm5に残ってる弾を奴らの頭に叩きつけてやる

「Ripper一体倒してm5の弾が切れた!そっちはどうだ!?」

「ダミーの弾が切れそうよ。ん、今Vspidを倒したわ」

そう言った次の瞬間、Zas本体に別のVspidの弾が命中し彼女の右腕が吹き飛ぶ。

「大丈夫か!?」

「痛覚は元からないから大丈夫だけど…命中精度が落ちたわ」

と言いながら片腕だけでセミオートで撃ち冷静に自身の腕を奪い取った存在の頭を射抜く

「借りは返したけど、今のでマガジン撃ちきっちゃったわ。リロードしようにも片腕だけじゃね…というわけで残りはダミーに任せるわ。と言っても残りはRipper三体だけどね」

「後は任せておけ」

と言いながら素子はセブロC-25の上面にある透明の弾倉を確認する

(あと20発ってところね…予備弾倉は2個しかないけど補給もあるし一気にフルオートで制圧するか!)

確認するとすぐさまRipperに発砲する、2秒ほどして弾切れとなり眼前のRipper2体が蜂の巣となる。そしてZasのダミー人形もまた残り一体を破壊し、これにより飛行場を警備する敵は居なくなったのである。

『制圧確認!カリン、ヘリは!?』

『もう間もなく投下します!あと15秒ほどお待ちを!』

『こちらスコーピオン!なんとか第一波は退いたけど全員弾切れだし、アタシのダミー人形がやられちゃったよ!』

『他に被害はあるか?』

『Vector本体の左腕破損に、G36のダミー人形が両腕をやられてる!あとは問題ないよ!』

『分った、取り敢えず合流しろ!』

『了解!』

と通信を切ると頭上にプロペラ音と風が吹き荒れる。補給が来たのだ。巨大な箱がフック付きのロープにつなぎ留められながら降りてくる、素子は急いでフックを外し地面へと降ろす。そして体全体でOのマークを表現しヘリのパイロットに受け取ったことを知らせる。それを確認しヘリは飛び去って行った

そんなことを気にせず箱に群がり全員各々の弾薬、弾倉を箱から取り出し補給を素早く済ませる

「Vector、お前大丈夫か?」

「片腕がなくなっただけで大げさだね少佐は。このぐらい平気よ。まぁリロードがしずらくなったりはするけどさ」

そういいながら彼女は包帯を切断面に押し当てグルグル巻く。真っ白い包帯がじわじわと茶色に染まる、オイルの垂れ流しは敵に自身の存在を知らせるだけではなくそれに足を取られ転倒のリスクがあるからだ

「G36、両腕が無いダミー人形がいてもしょうがない、オフラインにしといて箱の中に詰めておけ」

「承知いたしました。」

「んで、こっからどうするのさ」

「心配するな、じきに案山子は雀を求めてやってくる」

「それってどういう…?」

「全員、箱の後ろに退避しろ!」

素子が叫んだ直後箱に弾丸が掠める嫌な音が聞こえた

 

高音が水面に落ちた雫のように響き渡る、やがてその音が止み。ほかの人形には伏せるように命じ素子は頭を箱の上に出した。素子の目の前にいたのはガスマスクをしたツインテールの少女だった

「初めまして…お前が“草薙素子”だな」

 



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Mission02.ハイエンドモデル~オズの魔法使い~

ど~も恵美押勝です。…話すこともないので本編をどうぞ(投げやり)


「お前が草薙素子か…」

目の前にいる女子高生の様な見た目と声、一見して戦術人形としか見えないがそれはまさしく…

「そういうお前は…スケアクロウだな。予想通りお前から来たな」

素子は箱を飛び越えスケアクロウの傍へと寄る

「ほう…どうして分かった?」

彼女はそう言いながらスカウトやVspid、Ripperの軍団らを地上にリフトアップさせた。それらは素子とスケアクロウを囲むように配置された

「地下から!?」

「この基地は地下に兵士の保管庫があってな、丁度この辺がその出口というわけだ」

「なるほど、あくまで私とのタイマンを望むつもりか。そうまでして私の予想が的中したワケを知りたいのか?」

「勘違いするな、そんな質問はこの状況を作り出すための会話にしかすぎん…単純に言おう、代理人が貴様のことに興味がある。大人しく降伏してついてくるなら他のクズ人形共は生かしてここから返してやろう」

「代理人?ハイエンドのお前よりも上の存在がいるというのか?」

「答える義務はない…が、一言だけで言うなら私は下級人形に過ぎないということだ。それで要求の答えは?」

「決まってるわ」

素子はセブロC-25を構え案山子に向かって撃った。しかし素早くスケアクロウのビットが盾の役割を果たし本体へのダメージを防いだ

「無駄だ、恐らく貴様は衛星さえ潰せばどうにかなると思ったんだろうが生憎私の衛星は貴様らのような時代遅れの銃では破壊することは出来ない。そう向こうにいる狙撃手にも伝えておくんだな….」

「チッ…銃が効かないってなるとやっぱこれに限るか!」

素子はC-25を地面に捨てるとスケアクロウへと飛びかかる

「捨て身の戦法か!?舐められたものだな!」

素子の攻撃をヒラリと躱し衛星に彼女が飛び落ちる地点へ攻撃するように命ずる。衛星から放たれる9mm弾が彼女に襲い掛かる。だがその攻撃を彼女は着地した時の勢いを利用したローリングでよける。そのまま彼女は2つの衛星に向かってセブロm5で攻撃を加えるがカンカン、と甲高い音が響くだけだ

「無駄だと言ってるだろう!…学習能力が人形以下だな。代理人もよくもこんな奴に興味を持ったもんだ」

「随分と五月蠅い案山子だな、案山子なら黙って雀を追い払え!」

「言われなくても…!」

 

スケアクロウが立ち上がっている素子に向かって攻撃しようとしたその時、突如として彼女の衛星が謎の爆発をする

「なっ…!衛星がオフラインだとどういうことだ…!」

彼女が衛星に気を取られたこの瞬間を素子が見逃すはずがなかった。直ちに彼女を飛び越えるようにジャンプをし、背後に回り込むとその腕をつかみ自身の方向へと寄せる、そしてそのまま右足で彼女の関節を蹴り膝をつかせる。これでもう彼女は素子の手中から逃れることが不可能になった

「バカな….衛星をハンドガンで2個とも落としただけでなくこの私までも拘束するだと…!?たかだが人間の力で下級人形とは言えハイエンドであるこの私を…!?グッ…!」

素子はスケアクロウを地面に伏せさせその足をセブロm5で撃つ

「ほら、立ってろスケアクロウ。立ってその華奢な拳でこの私のことを殺してみせろ!」

スケアクロウは歯をギシギシ言わせ殺意に満ちた目で彼女を見上げ立ち上がろうと足に力を籠める。だがその足は既になかった

「…!私の足が千切れている…!?草薙素子!貴様…!」

「悪いが、お前に用があるように私にも用があるからこれを使わせてもらった」

素子はm5のマガジンを抜き取り逆さまにし弾薬を地面に転がした

「その弾…炸薬弾か…!なるほど道理で私の衛星や足が壊されたわけだ」

その言葉を無視し素子はスケアクロウの首にUSBメモリを差し込む、途端に彼女の周囲にいた鉄血兵らが機能を停止し跪く。そのことを確認した人形たちが素子に駆け寄り案山子に銃口を向ける

「…私の指揮権限が解除されてる?」

「同士討ちするプログラムをちょっとアレンジしたんだ。さぁこれでもうお前も守るものは誰も…」

突如、軍用携帯のバイブ音が体を震わせた。こんな時代に電脳通信を使わずにアナクロな方法をとるのは…

「ヘリアンか?」

「そうだ、私だ。電話に出る余裕があるということは案山子を倒したんだな?」

「そうよ、ツラ拝んでみたい?」

「是非とも頼む」

「ほいよ」

携帯を操作してテレビ通信に切り替える。画面からヘリアンのホログラムが生成され倒れているスケアクロウを覗き込む

『初めましてだな、スケアクロウ。こうなってしまえば案山子としての役目すら果たせまい、降伏すれば奇麗なまま電脳を抜いた状態でその姿を保管庫に入れといてやろう』

『案山子に脳みそなんてあるのか?』

 

「…この私がこんな結末をね…」

『お前は人形を拷問して情報を入手したつもりらしいが生憎、私達の人形はほら吹きでな。こういう結末でスケアクロウと言う人形の結末を迎えるのさ』

ヘリアンがそういった直後、スケアクロウは突然甲高い声で笑い出した。全身をガタガタと震わせ千切れた足から出るオイルの量が増えた

『何が可笑しい?』

「所詮民用のAI、完璧なウソなどつけませんわ!あの劣悪人形がつく噓には本当の情報が必ず混じっていて適当に混ぜた偽の情報を入れその順番を入れ替えてるだけですわ!だからその情報を精査すれば自ずと真実が見つかる…!」

「貴様…それはiop社の機密情報だぞ!?何故貴様のような人形がそのことを知っている!?」

「ただの…案山子ですわ…貴様たちみたいな基地に引きこもり顔も出さないような雀共を追い払うだけの人形…それが私ですわ」

『…ほざいてろ。どの道貴様の作戦は失敗だ。その情報を伝えるすべは何一つ残っていない』

『ちょっと待てヘリアン!コイツなにか囁いているぞ!』

「プロセスナンバー…8354…9266…0223…ようやくあなたに伝えることができましたよ…“M4A1”の座標を…処刑人」

『おい!処刑人とは誰だ!』

『あぁ、確かに聞こえたぜ。よくやった』

『誰だ貴様は!?』

『ではこれにて失礼…』

『まずい!奴は自爆するつもりだ!総員直ちに伏せろ!…おい少佐!何をしてる!?』

ヘリアンの命令を無視して彼女は自爆寸前のスケアクロウの電脳へダイブした

(情報が崩壊している!視覚野も運動野、記憶野も…消えていく!奥底に行って自爆命令プロトコルを破壊しなくては…!あと数秒のうちにしないとコイツと心中することになるわ…!)

深度を高め素子がスケアクロウと同調していく。意識を保ち続けながら更に深度を高め素子とスケアクロウの境目が判別がつきづらくなった頃、熱いあの感覚がやって来た

(攻勢防壁か…だがこっちには身代わりがある!)

直後、熱さが全身を覆い焼けるような感覚を覚える、だが破壊されているのは身代わり防壁であって彼女自身ではない。その間彼女は即席で防壁破りのためのプログラムを作る、そして作り上げたプログラムを作動させるとスゥーっと感覚が引いていった

(よし、防壁の破壊に成功したわ)

そのまま進むと書類の束のようなものが見えた。プロトコルだ

(よし!後はこいつを書き換えてと…!)

プロトコルに接触し展開するとプログラムが流れてくる、素子はそのプログラムに適当な不規則な文字を入力する。これだけで自爆プロトコルはエラーを起こし緊急停止した。これでもうスケアクロウが自爆することはない

(任務成功…!よし早いこと脱出を)

素子が上を見上げるとそこにはなんとスケアクロウがいた

(…!何故ここに?)

(これは私の搾りかすのような物…もう少しで消えます)

(わざわざお見送りか?律儀なことだな)

(草薙素子に直接破壊された私という個体が無くなる前に一つだけ…なぜ貴様は私から貴様に接触すると知っていた?)

(やっぱり気になっていたのか。あれはな、最初、Ripperの電脳にダイブした時に悟ったのよ。貴様はプログラムを設置するんじゃなくてわざわざ私と会いに来た。もし貴様が指示を受けてなかったらそんな非効率的な方法はとらないだろう?その時点で“私と接触しなくてはいけない何かがあったのではないか”と思ったのよ。後はピンチになってどっかに留まればやってくるだろうと)

(貴様らが言う“ゴーストが囁く”とか言う代物か…鉄血兵だけでなくハイエンドモデルにもダイブするなんてやはり貴様は普通の人間じゃない。代理人が興味を持つのも納得だわ)

(…ところで“M4A1”とは何だ?)

(それはあのヘリアンとか言う人間に聞けばわかるだろう…そろそろ限界ですわね)

(もうくたばるのか)

(ええ、私という“個体”はね。代わりの個体はいくらでもいるわ…最後に言わせて何故私が案山子というか知ってる?)

(…オズの魔法使いか)

(そう、オズの魔法使いに出てくる案山子は脳みそを求めてドロシーについてきた…私も他の人形のような頭がない人間の命令だけ聞く道具ではなく考えることの自由を持つ脳みそを求めているの…人間になりたいとかそういうのじゃなく道具でいたくなかった。それだけのことよ…)

そのことを言い残すと彼女は今度こそ消滅した、もうこのスケアクロウと言う人形はスケアクロウではない。美しい姿をした人形だ。

(道具になりたくない…か、だがそう言う彼女も上からにとっては道具に過ぎなかったのではないか?情報を盗み取り私と接触するためだけの道具…)

何とも言えない表情を浮かべながら彼女は浮上していくのであった….

 



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Mission03落し物~鏡の中の自分~

ど~も、緊急事態宣言のあおりを受けて大学が休講になった恵美押勝です。これだこれで執筆に勤しめる機械だと思って過ごしたいと思います。長話もアレなんで、本編をどうぞ


AD2062 5月17日

何時ものように素子は指令室で書類作業をしていた…だがその手は止まっている。というのもダイブし終え浮上してからというもの“初めてハイエンドモデルと濃厚接触した人物”ということで暫く本社に聞き取り調査という名の監禁に近い調査が行われ、つい先程解放されたばかりであり全身義体化の彼女と言えども精神的な疲れには敵わないのであった。

ボーっとしている自分に気づきこれではいけない、とコーヒーでも飲んで気分を変えるかと思った時ドアが勢いよく開かれカリーナがやってきた

「おっ久しぶりです少佐!!!!本社の泊まり心地はいかがでした???」

「もう最高よ、寝るまで常に背広の男がついてくるんだもの。おまけに『ロボットの様な貴官に睡眠など必要か?』ってことで寝かせてくれないんだもの」

「えっ、じゃ今まで寝てないんですか!?」

「いや、隙を見て昼寝とかして脳を休める機会は設けたわよ。流石の私と言えども睡眠がなきゃ脳がお釈迦になるからね…脳みそだけは機械じゃないもの」

「なるほど、ところでスケアクロウはどうなったんです?」

「本社とiop社が必死になって分解、解析してるけど何も出てこないわよ。アイツは私の目の前で死んだんだもの。AI、データといった彼女を彼女たらしめていたものは何一つ存在していない。ただの人形よ、そんなのを調べるより私としてはもっと別のを調べてほしいわね」

「代理人、処刑人でしたっけ?特に処刑人という人物はスケアクロウに情報を提供されたと…」

「“M4A1”とか言ってな。奴らはそれを追い求めているらいいが…アメリカ製の銃か」

「まぁ鉄血が気になっているんですから恐らく人形でしょうね」

「人形か…カリン、そんな人形は存在しているのか?」

「いや、そんな人形は居ないですよ。あっ、でも私達の周りでこんな噂が…」

「?」

「いや、本当に噂なんですけどね。IOP社が民用品を再利用した通常の人形とは違う一から軍用人形を作ってそれで小隊を結成させるというのがありまして」

「グレード5の人形とは違うのか?」

「ええ、どうも“ワンオフ”らしくて」

「ワンオフねぇ…噂にしちゃ内容が具体的すぎるな」

「それは私も思ったんですよ。仮にそれが本当だとして大量生産、無限コンティニューが人形の利点ですのにワンオフなんてナンセンスもいいところですよ」

「…だがそのワンオフの人形が完成したとしてすでに配備されているとしたら。あの赤い血を流す人形はそいつかもしれないな」

「またそのお話ですか。まぁ確かにその可能性も0ではないでしょうけど….」

その時、卓上にある電話が鳴った

「ヘリアンさんでしょうね」

「絶対そうだな…はいもしもし」

「少佐か、また随分と不機嫌な声をしてるじゃないか」

「誰のせいでそうなってると思ってるのよ…それよりまだ本社は案山子の解体ショーに夢中なの?」

「いや、中を調べてみたが何も出てこなかった。技術的な視点から見ても特に生かせそうな箇所もないからさっき凍結処理することに決まったよ。今からは奴が言う“処刑人”探しさ」

「その仕事を私に振ろうってわけ?」

「いや少佐には別の仕事を頼む」

「どんなのよ?」

「うん、この仕事は本社というより別の所から依頼された仕事なんだが、少佐は“16lab”と言う組織を知っているか?」

「確かグリフィンに技術提供をしている組織だろ?うちの武器やネットワークはそこに依存している筈よ」

「その通りだ、今回はそこの技術主任であるペルシカからの依頼だ」

「技術主任が?面倒な仕事を依頼されそうね」

「出たばかりで悪いが頼んだぞ。では15時にまた連絡を入れる、それまでゆっくり休んでいるんだな」

「そうさせてもらうわ…ところでヘリアン」

「なんだ?」

「貴方“M4A1”という人形は知ってるか?」

「…お前、どこでその名前を…いや、あの案山子が残した言葉を聞いていたのか」

「その反応…存在しているのね」

「あぁ、存在する。少佐、また連絡とするといったが変更だ。15時に本社ビルに来てくれ」

「ちゃんと話してくれるんでしょうね」

「…そのつもりだ。だが少佐、勘違いしないでくれ。この人形についてはいずれ表に出す予定の人形だ。少佐に対して隠し事をしていたわけじゃない」

「…」

「しかしだ少佐、この人形については決して外部へ漏らすな。あの人形はこの戦いを終わらせる鍵になる存在だ。現段階で鍵を大っぴらに見せるのはマズいからな…」

「分った、じゃ後ほど会いましょう」

電話を切り、カリーナの方を見る

「カリン」

「ええ私は何も聞いてませんし何も話しません」

「よろしい。それじゃ私は少し寝たいから来客用のベッドで寝るわ…」

「了解です、その間の書類は今日の副官のWA2000さんに任せますか?」

「そうさせてもらうわ…」

そう言ってフラフラしながら部屋を出る素子を見てカリーナは「こんな姿めったに見れないから動画でも取っておけば良かったな」と思うのであった。

 

一時間ほどした起き仮眠室を出るとスコーピオンと会った

「あれ少佐、久しぶりじゃん!….仮眠室から出てきたけど少佐って睡眠とるんだ」

「人をロボットみたいに言わないでよ…スコーピオンはちゃんと壊れたダミー人形の修復してもらったか?」

「勿論!でもねアタシ、ダミー人形は苦手だなぁ」

「何でだ?」

「だってさ、自分と同一存在がいるだけでも不気味だってのに壊れたらそれを死体とかを入れる袋に袋詰めにして持ち帰るんだよ?なんだかいい気分がしなくてさ…“実はこの袋に入ってる人形は自分自身じゃないか、アタシがアタシだと思い込んでるこの体は実はダミーなんじゃないか”って思っちゃって…スプリングフィールドの気持ちがわかった気がするよ。」

「….」

「少佐はいいよね、ちゃんと人間だからそんな心配しなくていいもの。」

「そうでもないわよ。私なんて全身義体化だからほとんど人形と変わらないしね」

「それでも少佐には機械じゃない生の脳みそがあるじゃないか」

「自分で見たこともないのにそんなの信じられる?私も時々貴方みたいな事を考える日があるわ。…草薙素子と言う人間はとっくの昔に死んでいてこの体は草薙素子と思い込んでいる人形なんじゃないかってね」

「…少佐」

「でもね、スコーピオン。考えるのはそこまでにしておきなさい。自分が何者なのか考えるのは人間ですら答えが出なくて発狂する奴がいるんだから民生用人形の貴方がそんなことば考え続けたら頭が破裂して死ぬわよ」

「なにー!?毎回アタシのこと馬鹿にしてー!!」

「馬鹿にされたくなかったらダミー人形をぶっ壊さないように上手く扱うことね」

そう言いながら素子は指令室へと戻る

(人間は鏡を見て写っている人物を自身と認識したときに自我が宿る…そして自分という個体はこの世で一つだけであることを認識する。だから自身の分身について違和感を持つんだが…あの子らは人間と同じような違和感を持っている…遅かれ早かれあの子たちにはゴーストが宿りそうな予感がするわ。そうなったら人間と人形の境目はいよいよ消えてしまうわね…ま、私だって人間か人形か境目がつけられない体を持ってるんだけどさ…)

15時 本社ビル

本社ビルに到着し、受付に入場許可を貰い素子はヘリアンの部屋へと入っていった

「やぁ少佐。待っていたぞ、…あぁ紹介しよう、私の隣にいるこの猫耳の女性が…」

「ペルシカよ…」

ホログラムに映し出された彼女はなんとも気だるい声で自己紹介をした

「初めまして少佐、貴方みたいな実験た…指揮官に会えて光栄だわ。全身義体化なんて早々いるもんじゃないもの」

「解剖実験するなら高くつくわよ」

「冗談よ、冗談…さて早速本題に入ろうかしら。どうやら少佐はM4A1の存在を知ってるらしいわね、今回はそんな彼女に関する依頼をしたいの。M4A1は小隊メンバーと共にとある任務を遂行中にトラブルに巻き込まれバラバラに、現在行方知れずよ….」

「それを鉄血が探していることは少佐もあの場面にいたから知っているだろう?」

「あぁ」

「私達は鉄血が発見する前に彼女を救出したいの。でもその前に彼女が残したデータを回収しなくちゃならないわけ。おおよその場所は把握してるから少佐にはそこに行って来て。ま、平たく言えば“子供のお使い”って感じかしら」

「分った。しかし…M4A1は何の任務に参加していたんだ?」

「それは…まだ言えないわね。貴方を完全に信用しているわけじゃないもの。無事に回収してきたら話してあげるわ」

「なら、信用されるように頑張るわ。期待してて頂戴」

「頼もしい返事だこと、じゃヘリアンあとよろしく…」

通信が終わりペルシカのホログラムが消えた

「さて、少佐。というわけだから明日にでも作戦にあたってくれ」

「…えぇ、それでヘリアン。M4A1って言う人形は何なんだ?」

「ペルシカも言ってたが特殊任務を遂行する人形…“AR小隊”と呼ばれる小隊のリーダーを務める人形…それがM4A1だ」

「AR小隊?…カリンが言っていた噂と共通する箇所があるわね…M4A1以外の人形は?」

「いいだろう、だが決して外部に漏らすなよ」

「分かってる、だけど小隊のリーダーに関わった以上いつかは小隊の救出任務を担当する日が来るだろ?それを見越して聞いておきたいのよ」

「…M4A1以外には“M16A1”,”STAR-15”.”M4 SOPMOD-Ⅱ“…全員がアサルトライフルの人形だ。だが先ずはM4A1の救出が最優先だ、そこを忘れるな」

「勿論、それじゃ帰って作戦を練ることにするわ…それとありがとうね、教えてくれて」

「そう思うんだったら結果で報いてくれよ、期待してるからな」

素子はその返答にサムズアップで答えながら部屋を退出するのであった。



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Mission03落し物~3つ巴~

ど~も恵美押勝です。最近モンハンにハマってやべーです。何気にモンハンは人生初なもんでして…おかげで小説を書くスピードが遅くなって申し訳ありません。
それでは本編をどうぞ


本社ビルから基地司令室に戻り素子は戦闘服に着替えて早速作戦内容の説明をするため人形達を呼び出した。

3分もしないうちに全員が集合し素子が口を開く。今回の作戦にあたって招集した人形は

MDR・ZasM21・スコーピオン・G36・9A91…以下5名だ

「全員集まったな、ではこれから作戦会議をする…といっても今回の作戦は単純だ。頼まれた地点にある場所へ行きそこにある資料を回収する。たったこれだけだ」

「それでその地点は何処?」

「S09地区のHVVQJって場所」

「でもご主人様、そこは完全に廃墟になってて資料が保管されるような場所は…」

「でもペルシカは確かにそこにあるって言ったからな。なかったら彼女の記憶違いのせいにすればいい」

「少佐ぁ、なんだかせこい考えだねぇ。」

「廃墟かぁ、亡霊かなんか出るのかな?」

「亡霊は知らないが鉄血兵なら出てくるぞMDR」

「あ、やっぱり?」

「じゃなきゃお前らを呼ぶ必要がないだろ、単なる資料集めだけなら私一人でも出来るからな」

「それでご主人様、敵の戦力は如何ほど…?」

「鉄血兵がいるとはいえ監視程度だからな、この間みたいな大掛かりな戦いにはならないだろう….と言いたいところだが依頼主はお前らの生みの親が残したデータだ、向こうがそのことを知っていて厳重に兵を置いている可能性がある。前回の戦闘よりはマシかもしれないがあっという間に出来る、と言うふうにはいかないだろうな」

「それはそうよね…今まで楽な任務だなんて一つもなかったもの」

「それはしょうがないさZas、ヘリアンっていう女と知り合いになった指揮官の下に就いてしまったのが運の付きだな」

「私は少佐の元に就けてよかったと思いますよ」

「ありがとうね9A91、そんじゃそろそろいきますか」

腰を上げて自身の愛銃であろセブロC-25を持ち、セブロm5をホルスターに納め。さらにジュラルミンケースを持って人形達と共にヘリポートへと向かった。

 

ヘリに乗り込み地上から離れる、ペルシカが指定した場所はここからそこまでは離れていないが徒歩で行くとなると苦になる微妙な距離であった。そのため離陸してから数分したうちに目的地が見えてきた、建物が所々崩れていて瓦礫になってる箇所はあるが大部分は原型をただめており人が今にも住めそうな場所だ

「うわぁ、文字通りの廃墟だね。写真とっとこっと」

「ねぇねぇ少佐、ここはどうして朽ちたのさ?」

「元々は16labを筆頭とした人形や衛星といった兵器のデータを集めたりそれをもとに製造をするちょっとした工場がある場所だったの。だけど鉄血の反乱を受けて安全な場所へ退避するためにここを放棄、襲撃されてデータが盗まれたら大損害だからな。そして1年ほど前に鉄血兵らが攻め込んだがすでにもぬけの殻。以来こうなってるわけだ」

「そろそろ着陸しますよ、少佐」

「そ、じゃあお先に失礼」

9A91にそう言われて素子はヘリから飛び降りた、2~3mの高さから飛び降りても問題ないのは彼女みたいな全身義体化した人間だけだ。

「はぇ~おっかね、私達もできないことはないけど足がお釈迦になる可能性が高いよ」

MDRがベレー帽を直しながら言う

「私達は民生用の人形ですからね、戦闘用に特化されたご主人様だから出来る技ですわ」

その頃、素子は銃を構え周囲を確認する、敵影は見えずほっと胸をなでおろしヘリが着陸するのを眺める。その内人形達が紐を使いスルリスルリと降りてきて整列した

「喜べ、どうやら今回の任務は早いこと終わりそうだぞ」

「おぉ、てことは全然敵がいないんだね」

「となれば、このまま目的地まで直診するわけですねご主人様」

「そゆこと、どうやらこいつの出番はなさそうだな」

そう言って素子はジュラルミンケースの方を見た、この中にはスケアクロウが使用した武器が入っている。電脳とリンクさせることでスケアクロウの様なオールレンジ攻撃を行うことができるのだ、ただしこの武器を使うには相応の電脳負荷がかかるので単なる電脳化した人間では厳しく素子クラスまで電脳化しないと使用できないのだ

「そんなの使って大丈夫なのか?」

「心配ない、コイツ自体にウイルスとか攻勢防壁とかは仕掛てなかったからな。

…さて、前進するか」

一応周囲は警戒しつつ銃を構え前進する、しばらく進んでいると何やら光るものが大量に見えた

「…これは薬莢?鉄血兵のか?この近辺で戦闘があったということなのか…?」

「少佐、この薬莢つい最近のじゃない?ここ砂が多いのに全然汚れない」

「っ…!各員警戒しろ!近くに奴らがいるかもしれん」

素子は付近にあった廃ビルを指差しそこに人形達を入らせた

「薬莢の種類から見てVspid辺りかな」

「薬莢の数からみて小隊クラスでしょうか、だとすれば一体何と戦闘を…?」

「この辺に人形が踏み込むのは私達が初めてなはず、なら本当に誰と…?」

「少佐、どうする?アタシが偵察に行こうか?」

「いや、その必要はない」

ジュラルミンケースを開け、素子は中にあった衛星を取り出し同期を開始した。瞬間、彼女の視界が床に置いてある衛星に吸い込まれて自分を見上げる様な視点になる

(意識を集中させて…浮かべることを考えて…)

そして衛星が浮かび素子と同じ高さになる、そして次に頭の中で動くイメージを浮かばせ衛星を移動させる、その内視点がビルの外に移り視点の高さをどんどん上げる。

(この一帯に鉄血兵は…ん!?あれは!?)

素子の視覚野には確かに鉄血兵の小隊がいた、廃ビルから400m進んだ先を左に曲がった場所に存在していた。だが素子が驚愕したのは存在を認知したからではない、その鉄血兵達全員の一部分に赤色の“何か”がついてたからだこの“何か”を理解するのにそう時間はかからなかった。

素子は衛星を待機状態に移行させて視覚野を彼女自身に戻した

「少佐、どうだった!?」

「あぁ、確かに存在してたVspid5体、Ripper5体がな…だが」

「だが?」

「どうも返り血を浴びてるようなんだ」

「ということは…この辺に人間がいるということですか?」

「こんな場所に人間が?ご主人様ここは…?」

「あぁ、立ち入り禁止だ。」

「じゃあ仮にここで死んだとしても自業自得じゃないの?」

「スコーピオンの言う通りかもしれないけどそういうわけにもいかないでしょ。私達はあくまでも人間の為に戦うことをモットーにしてる会社なんだから」

「そういうことだ、作戦を一旦回収任務から救出任務に変更する」

「で?肝心の人間の居場所は?」

「あの薬莢がが落ちてた周辺にいるかもしれない、近くにある建物は…廃ビル1棟と平屋型の小工場が一棟…ってところだな。私とZasは小工場をあたるから後の奴らはビルを頼む」

「「「「「了解」」」」」

 

人形達がビルから退出するなか素子は自身の衛星の高度を下げ、ビルの角にくっつくような形で待機させ監視カメラとして働かせた。

他の人形達が工場に入るのを見届け素子らもビルへと入った。

「…!?」

入った瞬間何とも言えない鉄の匂いが鼻腔センサーをくすぐった。

「Zas、これは…」

「えぇ、鉄分、ヘモグロビンを構成する匂い…“血液”ね」

「ちっ、やはり遅かったか!」

素子らは急いで上へと駆け上る、2階、3階、4階…階が上がるにつれて血の匂いはどんどん濃くなってきて嫌悪感を覚えるほどだった。そして15階、いよいよ匂いは最高潮になった。

「ここね、この匂いの発生源は」

「IOP社技術開発部らしいわよ、このドアの向こうは」

「よし、行くぞ!」

素子がドアを蹴破りローリングながら突入する、起き上がった直後に左右を確認するが何も見えない。Zasも後に続き部屋を舐めまわすように銃口を向けるが何も見えない

…いや、正確に言えば見えないのは「敵影」だ

「少佐、これ」

「えぇ、見えるわ。2人の“死体”がね」

素子の下にいたのは血塗れになっていた男性二人組だった、防弾チョッキはズタボロになっておりヘルメットも穴だらけでそこから血が滴っている。瞬時で死体と分かる状態だ

首に触れるとまだ温かった。死後1時間と立っていないだろう

「一応備えはしてたみたいだけど鉄血兵に打ち殺されたって感じね」

「それは分かるけど何でこんなところに人間がいるのよ」

「そいつはちょっと探れば分かるだろうさ」

そう言いながら素子は死体の制服を漁り一つ物体を手にし、Zasに見せた

「それはトランシーバー?」

「あぁ、もう壊れて使い物にならないけどな」

「つまりこれで連絡を取り合ってたわけ?」

「おまけにこんなものも出て来た」

素子はUSBメモリを取出しひらひらさせた

「なるほど、産業スパイってわけ」

「恐らくね、戦術人形はIOPの独占状態だからな、少しでも情報を盗んで有利にしたいからこういうのを使うんだろうさ」

「その結果がこれじゃあねぇ…」

『ビルからは死体が出たぞ、そっちはどうだ?』

『こっちも同じく死体が出たよ~ケースにUSBメモリ、完全に産業スパイだね』

『よし、救出作戦はお終い。当初の任務に戻るぞ』

素子は通信を切りビルを降りる

(しかし産業スパイがいるとはな…ひょっとして奴らも私達と同じブツを集めてる、ってことはないだろうな…まさか鉄血もそれを知っていて小隊を…?こんな人がいないところの監視なんざ1体か2体いれば十分なはずだ。そうであるならば小隊を送り込んだのにも頷ける。やれやれここは3つ巴ってわけか、急がないと…!)

 



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Mission03落し物~回収~

ど~も、恵美押勝です。最近GWで暇なもんでアマプラにあったドリフターズを一気見したあげく原作全巻買ってしまいにはヘルシングまで手を出してもう絶賛ヒラコー信者になりつつあります。
さて、長話もアレなんで本編をどうぞ。


素子がこの事態を推測し終え階段を駆け足で降りた時、何やら胸騒ぎがした。

「鉄血兵らがこっちに来ている」

「本当に?奴らは私達が来ていることは知らないはずじゃ」

「確証はない、だがそんな気がするんだ」

「…オッケイ、なら変に降りるよりここで狙い撃ちするのが安全ね」

「あぁ、でもその前に」

素子は視覚野を衛星に同期させる前に発砲をさせた、乾いた音がビルの中に微かに響き渡る。そして同期が終わり衛星の視覚に移るとそこにはVspidが1体倒れていた

(…やっぱり!こっちに来てたのね!)

彼女は視覚を自身に戻し銃を構えた

「Zas、渡り廊下の窓をぶっ壊せ!弾丸の雨を降らせるぞ!」

「了解!」

Zasが走り出しグリップを使い窓を壊していく、その間に素子は電脳通信を開始する。

『スコーピオン、MDR、G36、9A91!よく聞け!この辺に鉄血兵らが迫ってきてる、上手くいけばお前らで奴らの後ろを取ることが出来るかもしれない。だから私が合図したらいつでも工場から飛び出せるように準備をしておいてくれ!』

『『『『『『了解!』』』』』

「Zas、敵の位置は!?」

「あと5秒ほどで工場の入り口に到着するわ」

「数は!?」

「Vspid3体、Ripper4体!」

「ちっ、自動モードは役に立たないか!」

「少佐、そろそろ」

素子らは銃口を窓の外に出し下に向ける

「奴らの左、かすめるような感じで撃つぞ」

「そうすれば敵は攻撃から逃れようと工場の入り口からずれる」

「やがて砲位置を特定しようと工場から背を向けて立ち止まる」

「そこを彼女らが突く」

「来たぞ」

トリガーを引き、弾丸が発射される。狙い通り鉄血兵らを掠め視線を音がした方に向いた後急いで目標地点に移動しそこで立ち止まって探している

「それもう一発」

次に発砲しすぐさま座り込む。この攻撃は敵に釣り糸を垂らすことを目的にした攻撃だ、音の位置を完全に特定した鉄血兵らが素子らに向かって発砲する、大多数の弾は外れるが4~5発程は筒抜けになった窓に入り跳弾する

発砲音は止まない、敵がそこに立ち止まり続けている証拠だ

「…だけどそろそろ合図しないと奴らが入り込むわよ」

『分かってる…突撃!』

その言葉を待ってたといわんばかりに扉が勢いよく開かれ背後を取った人形達が一斉に発砲する、完全に虚を突かれた鉄血兵らは抵抗する間もなく1体、また1体とハチの巣にされていく辛うじて生き残って背後を振り向けた兵は頭上から素子の射撃によって脳天を貫かれる。

僅か10秒で7体の人形が破壊された

『状況終了、各員そこで待機。一旦集合する』

ビルから降りると人形達が鉄血兵の残骸を漁っているのが目に入った

「何やってんだお前ら」

「あ、少佐。いやね、こいつらがね私達の回収しようとしてるブツを持ってないか確かめてたんだよ」

「たぶんそれはないだろう、もし本当に回収してるならわざわざ私達と交戦する必要がないんだからな」

「なるほど」

「でも少佐、気になったんだけどそもそも資料ってどういう媒体なの?アナログ?デジタル?」

「MDRと同じく私もそう思ってたんです、そこが分からないと回収のしようがないような…」

「そこは大丈夫だと思う。なにせ回収物があるポイントは機密中の機密、そんな場所にそう沢山資料が置き去りにされてるはずがないからな」

「それもそうですね、でも資料って本当に何なんでしょうね?」

「それを確かめるためにも早いこと行くぞ」

素子はそう言いながら自身の衛星をこちらに呼び出した。が、やってきたのは煙を出しながらフラフラと飛行する衛星であった

「あっちゃ~ズタボロじゃん。どうする少佐?」

「どうするもなにもここまでズタボロになっちゃ回収しても爆発しそうだし…G36、こいつは廃棄処分だ。始末を頼んだぞ」

「了解しました。少々お待ちを」

G36は地面に降ろした衛星のど真ん中を撃ち抜き活動を停止させた

「終わりました」

「よし、それじゃ行くぞ」

視覚端子に映る地図を頼りに目的地へと移動すると一つの小屋が目に映った

「これが…目的地?」

「この小さな小屋があの16labの施設なの!?」

「現にここが目的地の座標と一致してるんだ。信じ難いがここがそうなんだろ」

「ほんじゃ早速お邪魔しようじゃないの」

スコーピオンがドアノブに手をかけ開けようとするが

「あれ、開かないや。鍵がかかってるのか…ん?鍵穴がない?」

「見てよスコーピオン、これ」

MDRが指をさした箇所には銃痕らしき穴が多数ある数字が書かれたパネルがあった

「ははぁ~ん、電子ロック式なんだなこの扉、でもこれじゃ解除出来ないなぁ。どうする少佐?」

「どうするもなにも開かない時にはこれしかないな」

言い終わらないうちに素子は足を上げドアを勢い良く蹴破った。破れたドアが低い音を立てて倒れた

「こ、この扉厚さ5cm近くあるよ…もうこれゴリラじゃん….」

「メスゴリラってか?」

「スコーピオン、MDR。何か言った?」

セブロm5をスライドさせながらいつもより高い声を出してそう話すと2人は急いで否定した

「ったく、ふざけてる場合じゃないってのに…」

 

中へ入り暗い室内をライトで照らすとそこには沢山のコンピューターや研究のために使われてたであろう機材が見えた

「こいつは全部最新のだな、今日にでもここを再稼働させることが…いや、全部ご丁寧に銃で物理的破壊をしてるな。連中め、ここを去る前にこうしたってわけか」

「てことは資料っていうのはデジタルじゃなくアナログってわけか」

「戸棚や引き出しをくまなく探せ!天井裏も探せ!隠し金庫があるかもしれんからな」

各々が素子の指示に従い探す中彼女は一人思考に耽っていた

(そもそも資料はM4A1と言う人形が残した代物…ならそいつは何故ここに入れた?私と同じようにドアを蹴破った?違う、ドアは最初からあの状態で蹴破った後なんて無かった。なら奴は正規の手段を用いてここに入って資料を残した。いつか来る同胞のために…ならばややこし過ぎる箇所には隠さないはず。いや仮にそんな場所に隠したとしてもなんらかのヒントがあるはずだ…)

「少佐!」

「っ…」

「少佐、どうしました?」

「いや、何でもない。どうした9A91」

「はい、少佐に言われた箇所をすべて探してみたのですが何処も空でして天井裏には金庫などなかったそうです….」

「…」

「少佐?」

彼女の耳に9A91の声は入らなかった、何故なら彼女は目の前にあるテレビとその下にあるビデオデッキに目を奪われていたからだ

「…そこか、そこにあったのか!」

ビデオデッキに駆け寄りその取り出しボタンを押した。電気が通ってないこの場所でこの代物が動くはずが無い。そんなことは百も承知だ、だが彼女にはこのビデオデッキだけは動くと言う確信があった。そしてボタンを押してから数秒後、取り出し口が開きお目当ての代物が顔をのぞかせライトの光を浴びた

「ビンゴ、このビデオテープが資料よ」

「この時代遅れな媒体が資料…?」

「そうだ。見てみろ他のありとあらゆる電子機器が破壊されてる中こいつを入れてたビデオデッキとテレビだけが無傷だ。そして….」

素子はテレビの上に置かれていた薬莢を見せた

「こいつはこの間の廃村での任務の時に落ちてた奴と同種類の代物だ、こんなものがこれ見よがしに置かれてるってことはこの弾を使う持ち主がここの物を破壊したという無言のメッセージと読み取れる。つまりこの弾を使った…M4A1は我々にヒントを残すためこんな状況を起こしたってわけだ」

「なるほど…確かにほかのところ探しても資料が出てない以上こいつが資料とみて間違いなさそうね」

Zasは素子から手渡されたビデオテープを眺めながらそう言ったのを横目に素子は通信機を手に取りヘリの要請をしていた

「よし、これで回収成功。帰りのヘリは10分後に来るからそれまでにランディングゾーンに行くわよ」

全員が返事をしたのを確認しこの施設から退出しようとしたとき突然ビデオデッキから火花が散った。どうやらこのテープが取り出されると自壊するようにM4A1が細工を施したのだろう

「きめ細かいことで…」

今度こそ施設から退出して周りを見渡す。影も気配せずこの場にいるのは彼女らだけな事が読み取れた。そして警戒しながらランディングゾーンへ向かう途中、素子の衛星によって倒されたVspidの残骸が見えた、しかしその残骸よく見ると何かしらの既視感を感じた。

「…?」

「どーしたの少佐?」

「スコーピオン、この鉄血兵の残骸持って帰るぞ」

「え!?何で!?」

「ちょっと気になるところがあってね…何処かで見たことがある感じなのよこのボディ…持って帰って調べなきゃいけない気がするのよ」

「ふ~ん、まぁ少佐の勘って結構頼りになるらしいし、んまぁいいか.」

「でしたら私がヘリまで運びましょう」

G36がVspidに近寄り背負った。その後、何事もなくランディングゾーンまで到達でき彼女らは無事帰還することが出来た…

 

作戦完了、グリフィン本社__

先に基地に戻るG36達にVspidを一旦データベースに保管するように命じ別れた後、彼女はヘリアンがいる士官室へと入室した。既に部屋にはヘリアンだけでなくホログラム状ではあるがペルシカも居た

「少佐か、どうやら任務が終わったようだな。それで?収穫は如何ほどだ?」

「こんなの出てきたわ」

素子は手に持ったビデオテープをひらひらと振った、その瞬間いつも死んだ魚のような眼をしてるペルシカの眼が見開いた

「そ、そのビデオテープ…!再生出来る少佐!?」

「ヘリアン、再生機器は?」

「あるぞ、ちょっと待て」

ヘリアンがビデオデッキとテレビを用意し、ビデオテープがデッキに吸い込まれピー音が鳴った後映像が映し出された…

テレビに映ったのはロングヘアーに黄緑のエクステが特徴的な銃を構えた少女だった

『…19時25分、逃亡70日目。進展なし…いえ、寧ろ前より厳しい状況に陥ってます…』

 



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Mission04~死体は生者よりも語る~

ど~も恵美押勝です。大学が今月末まで遠隔になりました(隙自語)おまけに課題もべらぼー出て大変。話は変わりますが最近SOPMODのフィギュア出たらしいじゃないですか?あれどんなもんなんだろうって思ってHP見たら2万とかで目玉が飛びましたよ。1万ぐらいだと思ってたんで...
さて、長話はこれぐらいにして本編をどうぞ。


『…19時25分、逃亡70日目。進展なし…いえ、寧ろ前より厳しい状況に陥ってます…』

ビデオテープの映像に現れた少女が素子らに向かって話し出す。彼女らは息を殺し食い入るように画面を見つめる

『と、言うのも鉄血にマークされてしまって…鉄血の追撃は想定内でしたが相手がしつこく予断を許さない状態です。弾薬、身体共に問題はまだありませんが早急にグリフォンの誰かと連絡を取らないと…このメッセージを見てる貴方がグリフォンの人間であることを祈ってます』

そう言い残すと彼女は画面から外れアスファルトを蹴る音だけを残して映像はここで終わった。

「…これが、メッセージ…これがペルシカが探してたものか?」

素子がホログラムの女に向かって問いかけるが俯いて返事をしない

「ペルシカ?」

「え、あぁ!そうね、これが私の探してた資料だわ。流石ヘリアンが見込んだ新人ね…パチパチパチパチ」

「褒めるならM4A1にしておいてくれ、彼女のヒントが無ければもっと苦労してたかもしれないからな」

「えぇ…そうするわ、生きて帰ってきてくれたらね…それには貴方が頼りよ…でも今はありがとう。今度ラボに来て頂戴…コーヒーご馳走してあげるから」

「あんたの所に行くと解体実験されそうだから行かないわよ…」

「そんなことしないわよ…まぁいいわ。またね…」

そう言うとホログラムが消え部屋は素子とヘリアンだけになった

「少佐、やつのコーヒーはな、とんでもなくマズいぞ。飲むなら味覚センサーを切っとけ」

「科学者が飲むコーヒーなんてそんなもんでしょ。それで?何か言うことがあるんじゃない?」

「あぁ、流石に気づいていたか。少佐には新たな任務を頼みたい。そう、M4A1の救出だ」

「…」

「そもそも鉄血兵らがS09地区に侵入し、案山子がと対峙したのは偶然ではない。奴らはM4A1を探している。そして前回、スケアクロウが処刑人なる人形に彼女がいる座標を送った。ここまでは少佐もうすうす気づいてるだろう?」

「えぇ、でも何故鉄血は一体の人形に熱心なわけ?」

「彼女が記憶したメモリーチップの中に奴らにとって不都合な機密情報が入ってる、そして彼女はこのS09地区で失踪した。本来ならば大々的に捜索したいところだが…」

「人形が人形だけに出来ない、と」

「あぁ、おまけに面倒な協定ときたもんだ。つまりだこの任務は正式には出来ない。」

「そこで私に頼むわけね。彼女について知っていて尚且つある程度の信頼がある指揮官である私に」

「そういうことだ。少佐にはS09地区にあるT6地帯を捜索し保護して欲しい。彼女はそこにいるはずだ、それともう一つ頼みがある。と言ってもこれは必須ではないんだが…」

「処刑人の排除?」

「その通りだ、昨夜偵察隊を出したところハイエンドモデルを発見した。それこそ製造番号SP524。“executioner”…通称『処刑人』だ。ハイエンドモデルを生かしておけば後々厄介なことになる。…しかしこの任務の優先はM4A1の救出だ。それを優先することはない」

「目的が同じだもの、嫌でも接触すると思うわ。接触次第排除するわよ」

「…頼んだ。少佐、この任務は上層部が大いに期待している」

「失望させないよう頑張るわよ…支援してくれたらね」

「分った、手はずを整えておこう」

「ありがと、じゃ行くわ」

 

 

本社を出て、自身の基地へと向かう。通常ならそのまま司令室に行くのだが今回はデータ室に寄った

データ室には手術台のような座席の上に胸部が穴だらけのVspidがいた。素子が今回の任務において衛星で撃破した人形だ。

「あ、少佐お帰り」

ゴーグルを外したVectorが彼女を迎えてくれた。

「少佐に言われて分解、解析してみたけど…」

「どう?何かわかった?」

「うん、そんじょそこらのVspidと全然変わらない。性能はね、ただ問題はその身体ね。少佐はこのボディに既視感があるのよね?」

「ええそうよ」

「あって当然だよ、こりゃメガテク・ボディ社製だもの。」

「メガテク・ボディ…!」

メガテク・ボディ社とは日本政府も重宝していた高性能義体を製造する会社であり彼女の義体もそこの会社が製作した物なのだ。

「まずこの足の関節に使われてる駆動系のパーツ」

Vectorはピンセットでパイプのような形をしたパーツを取り出した

「他社ならこのパーツはYの字になってるものなんだけどメガテク社はこんな風なパーツなの。この技術は特許を取得してたはずで製造する機械もまた企業秘密で公開してないはず」

「でも鉄血がその情報を盗んだということも考えられるわよ、特許だなんて奴らには関係ないしね」

「最初こそ私もそう思ったけど奴の電脳を分析したらこの身体を動かす為のOSがこれまたなんとメガテク社製」

(ここで言うOSとは義体を動かす為のソフトのことであり電脳内部にあるマイクロマシンと接続しマイクロマシンから発せられる命令を受け取り実行するための役割がある)

「パーツにOSときて極めつけは近年のメガテク社の売り上げよ。ここんところ売り上げが順調に伸びているんだけどあるタイミングから伸びてるのよ」

「…鉄血が活動を開始した2061年からか」

「正解。ここまでくりゃ断定するしかないでしょ」

「よくやった。しかしメガテク社が鉄血と繋がってたはな…奴らが何処かの企業と繋がっているとは思っていたがよりにもよってそことはな…」

「少佐、あと一つ気になることがあるの」

「何?」

「奴の電脳を解析した時に直前のミッションログが見れたんだけど『裏切り者を殺せ』

って書かれてたの。その直後あの産業スパイらを殺害したわけ」

「裏切り者?奴らにとって人間は敵であり裏切るも何もないはずなのに裏切り者?」

「えぇ、そうなの。これは私の推測なんだけれどあの産業スパイはメガテク社の人間で集めていた情報は私達グリフォンじゃなくて鉄血だったんじゃ…」

「…成程、それなら裏切り者呼びにも辻褄があう。…ちなみにその命令を下した人物とかは分かった?」

「勿論、確か“executioner”とか言う名前よ。」

「処刑人か…!これは益々倒す必要があるみたいね。取り敢えず、よくやったわVector」

「んじゃ報酬は?」

「今回の作戦への参加権よ」

「そんなの報酬になんないよ…」

「この任務終わったらしばらく休暇出してやるから」

そんなことを言いながら素子は指令室へと戻った。

「…さて、やるか」

電脳通信を行い、招集をかける。この作戦に参加するメンバーは

9A91、Vector、スコーピオン、G36、ステンMK-Ⅱである

「全員集まったな、では今回の作戦について説明しよう…と言っても単純明快そのものだとある人形を救出しつつハイエンドモデルをぶっ殺す。と言う作戦だ」

「ハイエンドモデルをぶっ殺せって簡単に言ってくれるねぇ少佐は…」

「ご主人様、ハイエンドモデル相手ならばMGやRFといった高火力の人形で固めた方がいいのでは?」

「今回の作戦は救出がメインだから小回りとかが効く人形にしたいってのもあるんだけど今回相手するハイエンドモデルは厄介な相手でね」

「というと?」

「そいつ、メインウェポンが銃じゃなくて剣なのよ」

「剣!?」

「どうも背丈の半分近くある剣を振り回してその風圧で斬撃攻撃をするみたいよ…アホみたいな人形ね…」

「だから機動力があるSMGやARが選ばれたと」

「そういうことだ、スコーピオン。おまけにあなた達はハイエンドモデルとの交戦経験がある。経験者はどんな練度の高い奴よりも優秀だからな」

「…しかしそんなおっかない人形であるならば正面から攻撃を行うのは危険と言うことですわね」

「そういうことだ、後ろに回り込み一斉射撃で制圧、と行けば万々歳だがそうは甘くない。だからダミーを使って囮の小隊を形成し処刑人が夢中になってるところを叩く、っていうのがベターだな。…だが何度も言うように最優先は人形の救出だ。そこを念頭に入れておいてくれ」

「「「「「了解」」」」」

かくして、素子らの、いやグリフォンにとって最も重要な任務が幕を開けた

 



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Mission04~分が悪いギャンブル~

ど~も恵美押勝です。最近友達からもらったソウルシルバーをプレイして劇ハマリ中です。
そういえばドルフロのアニメっていつやるんでしょうかね。ヌルヌル動く押しの姿を早く拝みたい
気持ち悪い話もアレなんで、本編をどうぞ。



ヘリに揺られて20分…目的地であるT6地帯に到着した。T6地帯は針樹林が特徴的な地帯であり周辺にはポツリポツリと民家がある場所である

体の人影がヘリから降りるとペチャりと音がした。雨が降っているのだ

「全員降りたな、ダミーリンクシステムチェック」

「Vector…異常なし」

「スコーピオン、良好良好っと」

「G36、異常ありません」

「9A91、異常なしです」

「ステンMK―Ⅱ、異常なしだよ」

「よし、これより人形、M4A1の救出。及び処刑人の排除を開始する。先ずは救出からだ」

「少佐、目星はついてるの?」

「ある程度はね、ここにはいくつか民家があるからそこに行きながら探すって感じだ。それにこいつもある」

手に持ったUSBメモリをこれ見よがしに人形たちに見せる

「あ、そのUSBメモリ出発前にカリーナから渡されたものだね」

「こん中にはM4A1が出す信号をキャッチするためのプログラムだ。と言っても奴はそんなもん切ってると思うがな」

「そりゃそうだよね、追われている身なんだもの馬鹿正直に自分の存在はアピールしないよね」

「とはいえ、定期的に一瞬だけ信号を流す可能性もある。その可能性に賭けながら探すっていう寸法だな」

「なるほどねぇ」

「少佐、もし先に処刑人と対峙したらそのときはどうしますか?」

「どうするってステン、排除するしかないだろ。追われながら追われてる人形を救出するわけにはいかないからな」

「ふぇぇぇぇ、出来れば今は対峙したくないなぁ」

「泣いてる暇があるなら行くぞ」

銃を構え警戒しながら前進をしていく、こんな雨の日は匂いも独特なものになり火薬、硝煙の匂いがしないためそういったポイントで敵を探すことが出来ないのがネックだ。しかし…

「これ、足跡…だよね?」

とVectorが銃口で指し示す

「本当だ、こんな雨の中残ってるんだからつい最近のですね」

「データになし…少佐、この足跡は恐らくM4A1の物ではないでしょうか。」

「ちょっと待てG36。今カリーナから廃村で見つけた足跡のデータ転送してもらって照合している…一致したか」

「てことは、この足跡を追っかけてれば会えると」

「そう事が上手くいってくれると助かるんだがな…」

張りつめた緊張の中前進していく、ひょっとしたら処刑人の部隊のJeagerが展開されておりこちらに銃口を向けているかもしれない、素子は一歩一歩踏み出してくごとに運を使い果たすような気分になる。ほかの人形はどうか?人形は緊張などはしない、何故なら死を知らないからだ、だが素子は…彼女は限りなく人形に近い人間だ、死を知っている。たとえこの体と記憶が偽物であろうとやはり死は恐ろしいものなのだ

そしてようやく民家が見えてきた。それと同時に素子がインストールしていた信号キャッチするプログラムが作動し視覚端子に反映させた

「反応あり、間違いなくこの中にいる」

「やっとこさついたぁ~」

「気を抜かないでステンさん。少佐、ドアが若干開いています。どうします?」

「…可能性は低いが罠が仕掛けられてるかもしれん。9A91、ドアの隙間を覗いてワイヤーみたいなのがないか確認してこい」

「了解」

9A91がドアへと近づき覗き込む、数秒後戻ってきた

「どうだ?」

「罠はありませんでしたが…残念ながら救出対象者はいませんでした」

「いなかった?だが現に反応が…まぁ入るしかないか」

ドアを開けて入り込む、辺りを見渡すと確かに人影はなかった。だが地面には何やら奇妙な箱と薬莢が置かれていた

「反応はここから出ている…これは模擬信号装置か…!」

「この薬莢、5.56x45mm NATO弾ですわご主人様」

「…あと少佐、こんなメモリが、一応スキャンしてみたけどウイルスはなかったよ」

Vectorからメモリを受け取り自身のうなじへと差し込む、すると電脳内に浮かんでいるT6地帯のマップに赤い点が示された。その赤い地点はスケアクロウが今際に行った座標と一致していた

「そうか、そういうことか…阿漕なことをしてくれる、M4A1!」

「少佐?どったのC-25握りしめて」

「あんた達はダミーを引き連れてポイントF―91地点まで行け。そこに鉄血の仮司令部がある」

「え、どうしてわかるのさ」

「理由はあとで説明してやるから今は取り敢えず行って来い」

「ご主人様は!?」

「私はF―61地点にいく!そこに奴がいるからな!」

「奴って!?」

「M4A1!」

「救出対象じゃないですか!なら私達も…!」

「いや、先にそいつをつぶさないと奴が死んでしまう!!」

「分かりました。少佐、ご無事で」

ドアから出ていき目的地へと進む人形達を横目に素子は反対の方に向き駆け出す。

(アイツ…私達がこのメモリを見つけて司令部を叩いてくれると信じて賭けに出たんだ。鉄血が先に見つけたら全てが水泡に帰す、そんな分の悪すぎる賭けに…そんなことをする人形がいたとはな…!)

F-61地点近辺に近づき、一度立ち止まる。ちょうどここは崖みたいになっておりそこから4m下にあるY字路にはRipper、Vspidという人形やそれよりも一回り大きい人形が居た。太刀を抱ているその人形は間違いない、処刑人ことエクスキューショナーだ。

ついに発見した、先手必勝。見敵必殺、その思いからC-25を持つ手に力が入る。               

だが、ふと処刑らが進んでいる道からキラリと光る何かが視覚端子に反応した。最大限にその個所をズームしてみるとワイヤーが延ばされていた。だがその周囲を見渡しても爆弾などの仕掛けがあるようには見えなかった

(恐らくあれはダミーだな、わざと光が反射しやすい場所に仕掛けてよけるようにさせているんだ。ならお手並み拝見といこう)

銃口は処刑人に向けたままでしばらく様子を見る。やがて狙い通りワイヤーをさけてY字路の岐路へと戻りかけた次の瞬間、パスンと間抜けな音がしたのち一体のRipperがVspidが糸の切れたマリオネットのように倒れる。

間違いない、M4A1の攻撃だ。

負けじと素子も狙い撃ちして処刑人以外の人形を倒していく。そして最後の人形が居なくなった後素子は助走をつけ崖から飛び降りた。目指すは勿論、処刑人だ

 

処刑人は混乱していた、死んでしまったバカの遺言に従いこの場所を尋ねたら足跡を消さずまともな罠も仕掛けられない、そしてM4A1などというヴィンテージの部類に入る銃を持った敵に今追い詰められてるからだ。そして処刑人は今怒りを感じていた

(何故だ、何故ハイエンドモデルである俺様がゴミ人形にいいようにされているんだ。相手はグリフィンの人形一体だぞ?機体の性能だけでなく頭の中身もポンコツ、そんなのに、この俺様がハメられただと…!そんなこと、そんなこと)

「あっていいわけねぇだろうが!!!!!!!」

処刑人の怒りは爆発し持っている太刀を虚空に振りかざしそうになった、だが彼女のマインドは、ボディはそれを必死に抑えようと五感をフルに活用させ囁いた

「お前の身に危機が迫ってるぞ」

振りかざそうとした瞬間、聴覚センサーに羽虫が飛ぶような嫌な音がした、途端に寒気が遅い頭の中をクールダウンさせようとする。冷静になった彼女はこの音の正体とそれがもたらす結果を演算し持っていた太刀を自分の顔を覆うように手を動かした。そしてその直後、太刀に何かが当たり金属音を鳴らした

「危ねぇもう少しで当たるところだったぜ…!」

「なら次は当ててやる」

突如、後方から聞こえる女性の声。振り向いた時に見えたのは黒一色でそれを認識するや否や彼女は強い衝撃に襲われ吹き飛んだ。

2回転しそのままの勢いで起き上がろうとするも姿勢制御バランスが一時的なエラーを起こし上手く立てない。それでも立ち上がり正面を見るとそこには紫色の髪をした女が銃を構え立っていた。

「お前は…!」

「死を迎える気分はどうだ処刑人、これから嫌と言うほど味わわせてやるぞ」

声の主は草薙素子、その人だった。

 



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Mission04.~銃は剣よりも強し

ど~も恵美押勝です。最近友人から貰ったソウルシルバーをやりこんでます(今更)
しかし大学もずっとオンラインなのですが6月になったら対面に戻れるのでしょうかね
そこが不安です。
長話もアレなんで、本編をどうぞ。


「死を迎える気分はどうだ処刑人、これから嫌と言うほど味わわせてやるぞ」

処刑人を蹴って吹き飛ばした素子は起き上がった彼女に向って言葉を投げかける

「お前…!そうかお前がスケアクロウを殺した草薙素子か!」

「だったらなんだ」

素子は冷静に処刑人に向かってC-25をフルオートで撃つ。だがその弾は彼女が太刀を高速回転させたことで全て弾かれる

「チッ…漫画か…!」

その直後にパスン、パスン、と音が聞こえたM4A1が援護射撃をしたのだろう。だがその攻撃も彼女が振り向きながら振るった太刀が起こした突風により弾丸が真っ二つに裂け無効化される

「本当にバケモノみたいな性能だな…!」

「今の攻撃で奴の位置が把握できた。お前にかまってる暇はない。だが待ってろよM4A1をぶち殺した後お前も殺す」

「やってみろ、時代遅れの銃を持った民間用人形に手玉に取られてるポンコツにやれるとは思わないがな」

「クソ野郎、絶対ぶっ殺す!!逃げんなよ!!」

処刑人は素子の言葉を無視して機械的な脚をバチバチさせると猛烈なスピードで銃声がした方へと飛ぶ…いや跳んだ。まるで弾丸のようなスピードだった

素子はその姿を見ながら防弾ジャケットにある二つの弾を取り出した。前回使用した衛星を改造した武器だ

「どこからどこまでも化け物みたいな奴だな…!」

彼女は衛星を前へ前へと走らせる。改造したこの衛星はいちいち同期せず電脳内で素子の視覚と衛星の視覚を共有する、言わばテレビの二画面のようなものだ

(突然激高するから質の悪いAIかと思って挑発をしてみたが流石に引っかからないか…となればこの衛星で脚を狙うしかないか)

走りながら冷静に狙いを定め発砲する、しかし確実に当たるはずだったそれは処刑人が太刀を地面に突き刺した勢いでジャンプしたことで避けられてしまう

ならば、と素子は先ほど脚を狙った衛星で下から、もう一つの衛星で彼女の頭部、さらにC-25で胴体を狙い撃つ。しかし衛星の攻撃は空中で捻ったことで避けられ胴体への攻撃は太刀によって防がれるおまけに彼女は再び空中で捻るタイミング降った太刀の勢いで風圧による自然のカッターを生ませ素子へ攻撃する。並みの人形ならまともに喰らうだろう、だが彼女は横へローリングすることでどうにかして被害を最小限にとどめる

(全部避けた挙句にこっちに攻撃か…!スケアクロウとは全然違うな!)

立ち上がる時タイツに切れ目が入り現れた自身の肌を見ながら悪態をつける。目の前には空中回転を終え地面に着地しようとしてる処刑人の姿がある、次の瞬間何度か聞いたパスン、パスン、と音が聞こえ処刑人の右腕が吹き飛んだ

間違いない、M4A1の攻撃である。さすがの処刑人も着陸寸前では何も出来ない、自身の腕が後方へ行くのを流し目で見るしかなかった。切断された腕から勢い良く跳ねた人工血液が彼女の肌を汚す。彼女は人形だから痛覚の類はない、だが旧式の銃を持つ人形にやられたと言う事実は再び彼女の思考を汚染した、素子に気もくれず更にスピードを上げ銃声がした方へと移動する。その先には小屋があった

(小屋に反応アリ…!あの中にいるのか!!)

 

素子はそのスピードについてはいけなかったがまき散らしたオイルが道標となる

そのころ処刑人は目の前にある邪魔な小屋に向かって斬撃攻撃をしていた。風はいともたやすくコンクリート製の壁を破壊し小屋の中身を露にする

「見つけたぜ…!M4A1!」

緑のエクステが特徴的な彼女はその声を無視して片手でスイッチを押す、その瞬間背面の壁が爆発した。彼女があらかじめ仕掛けておいたプラスチック爆弾が作動したのだ

逃げ道が出来たことにより彼女は小屋から脱出し逃走する、その時振り向きながら発砲するが処刑人が走りながら振り回した太刀よって弾かれる

「オラオラどうしたポンコツが!!その豆鉄砲で殺してみろ!!」

「…!!」

そのままの勢いで奴がM4A1にタックルする、たまらず彼女は倒れるがそれは処刑人も同様だ。だが処刑人の顔は輝いていた、獲物をしとめる体制に入った猛獣のような顔だった

「これで終わりだ、ポンコツ野郎!!」

手首を回転させ太刀の向きをM4A1に合わせる、狙うは彼女の頭そこめがけて全力で振り下ろすが…

「まだまだぁっ!!」

咄嗟に左手を自身の頭にかざす、勿論左手に太刀が突き刺さりじわじわと貫通していく。

(人工神経が切断される前に手をずらさなくちゃ…!このままじゃ貫通する…!)

そしてどうにかして左手を横から縦に変え攻撃を凌ぐ。太刀が地面に突き刺さり跳ねた土が彼女の顔にかかる

「何っ!!」

処刑人はすぐさまサブウェポンである小銃を取ろうとする、だが彼女の使える手はもうない。小銃を取るためには一度太刀から手を放す必要がある。だがそんなことをする前にすぐさまM4A1の蹴りが彼女の腹部を襲う。突如来た衝撃に彼女は手を放してしまい後方へと飛んでいく

共に片腕しか使えない中二人ともどうにかして立ち上がったころには地面に人工血液の溜まりが出来る。一方は黒、そしてもう一方は…赤である

 

 

「あのワイヤー仕掛けたのはお前だろ…!」

「何のことかしらね」

「とぼけやがって、んなこと思いつくことってことはクソ生意気にも指揮モジュールがあるっていうことだな」

「安心したわ…」

「何がだよ」

「私の頭はあなたよりも賢いってことみたいね。これじゃポンコツはどちらか分からないわ」

自身の銃でコン、と頭を突きバカにするようなしぐさを見せる

「…テメェ!!」

処刑人が腕を振り上げ斬撃攻撃を繰り出そうとした瞬間、ドドドという音が響いた

「何の音…!うぉっ…!」

声を上げて処刑人が血だまりに倒れる

「何が起き....俺様の足が…!まさか…!」

彼女の片足は穴だらけにされていた

「殺しに来た相手を忘れるだなんて随分忘れっぽいのね」

「草薙素子…!!」

「貴方がペルシカさんが言ってた…2対1,これで終わりね」

「終わり?終わりだと?まさか俺様が手下なしで貴様らを殺そうとしたと思ってるのか?んなワケねーだろ!!やれ!Jeager!!」

だが、その声は虚しく響き渡るだけで何も返ってこない…

「どうした!早くやれ!!」

その時、遠くでドン、という爆発音が聞こえた

『こちら9A91。少佐、敵基地を只今制圧しました!!』

『よくやった、怪我人はでてないか?』

『私は無傷ですが、スコーピオンさんが軽傷でG36さんのダミーが重症を負いました。後は大丈夫です!少佐、そちらへ向かいましょうか?』

『いや大丈夫だ、もうすぐで終わる。それよりもヘリを呼んでおいてくれ』

『了解!』

「…処刑人、今度こそ終わりだ。死を迎える気分はどうだ?」

「いいわけねぇだろ殺すぞ」

「殺す前に一つ聞きたい、“代理人”とは誰だ?」

「は?代理人?」

そう言うと処刑人はケラケラ笑い出した

「何が可笑しい」

「そのことについては隣りのポンコツが嫌と言うほど知ってるんだよ」

「あらそう、じゃ貴方の存在価値はこれで無くなったわけね。じゃあ死になさい」

「クックックッ…これで終わったと思うなよ。俺様が死んでも俺たち鉄血は死なん、時にポンコツ、お前にはまだ仲間がいるんだろ?迷子の迷子の可愛い仲間がよ…お前を殺せなかったのは癪だが…まだ手はあるんだぜ…!」

それを聞いた瞬間、M4A1はフルオートで残りの弾丸を処刑人の頭にぶち込んだ。下顎だけになった処刑人が口元をにやけさせた

「あばよ、人間に魂を売ったポンコツども…人間にも人形にもなれないクソ共…!!」

最後まで悪態を吐き、処刑人は息絶えた。

降り続いた雨はやんだ。水も血も、終わったのだ。

 



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Mission05.救出先まで何マイル?~目覚め~

ど~も恵美押勝です。緊急事態宣言が伸びて大学の遠隔授業期間も伸びてげんなりです。
まぁそのぶん趣味に費やせる時間が増えたので悪くはないのですが…
さて、自分語りはその辺にして本編をどうぞ。


一面の花畑の中に白いワンピースを着てる少女が佇んでいる。あれは自分?それとも他人?そんな質問に答えることなく。少女はしゃがみ込み花を摘み取る、そこで視点は少女自身の目線になる。名前は分からない特別きれいでもないその花を「私」は見つめてる、ふと花が段々と冷たくなってるのを感じた。花の命が消えていく…少女はそう思った、だがそれは間違いだった。それは自身の手を見たからだ、彼女の手は無機質な鉄だった。怖くなり周りを見渡すと花が赤く染まっていた、いや「紅く」染まっていた。そして辺りに鉄の臭いが醸し出す、積んでいた花はいつの間にか3輪になっていた、そしてその全てが紅く染め上がろうとしていた。

____その花だけは止めて!!!

そう叫んだ途端、花畑は消え少女もまた消えた。

そこでようやく、彼女は戻れた。夢という狭い檻の中から現実という広い檻へと…

     

S09地区戦線基地病室___

素子とカリーナはベットで眠っているM4A1をじっと見ていた。

「これがM4A1…赤い血を流す人形…本当に人形なのかしら。顔つきはどこにでもいる高校生みたいだわ」

「そうですか?人形なんてみんなこういう感じの顔ですわ」

「…何というか殺しのために生まれたとかじゃない、ある日突然拉致されていきなり殺しの訓練をさせられた新兵のような、そんなあどけない顔とでもいうのかしら」

「わっからないですわ、少なくとも戦術人形、とくにこの子は殺しのために生まれた人形ですよ?」

「…んまぁ、私の偏見みたいなもんよ。あまり気にしないで」

「…!少佐、目を覚ましますよ!」

目を覚まし、起き上がった彼女はあたりをグルグルと見回す、やがて素子を見るとはっとしたような顔になった

「貴方はあの時の」

「おはよう、M4A1。気分はどう?」

「はい、おかげさまで義体、メンタル共に正常です」

「そう、よかった」

「流石は16labのワンオフ機。回復のスピーチは段違いですね、あんだけボロボロだったのに」

「あの…私はどんな風だったんですか?」

「左足の人工筋肉繊維の断裂…右腕の人工神経と筋肉も切断及び断裂といったところですね」

「治すのは簡単だったけどお金がね、貴方のパーツは殆ど特注品だったから…」

「そうでしたか…」

「さてと、起きたばかりで悪いんだけどお仲間さんに連絡とれるかしら。ペルシカから私の基地から救出部隊を派遣することは聞いていると思うけど…」

「え、はい聞いています!」

「それじゃ、よろしく頼むわ。救出作戦のためには新しい情報が必要だから」

「分かりました!ちょっと待ってくださいね!あれ、私の通信機は何処に…?

「M4さんの装備品はこの箱に入っていますけど、電脳通信はしないんですか?」

「えぇ、多分サイレントモードにしていて電脳通信は出来ないでしょうから」

そう言ってM4はカリーナから渡された箱の中から通信機を取り出した

「あの、ここのLANをお借りしても?」

「勿論」

「それじゃ、お借りしますね」

M4はケーブルをLANに差し込み端末のランプが点灯したのを確認し、口を開いた

「AR小隊、こちらはM4A1です。誰か聞こえていますか?聞こえたら可能な限り返事をお願いします。繰り返します、こちらはM4A1です。聞こえていたら可能な限り返事をお願いします…オーバー」

通信を終えてM4は素子の方を見る

「返信があるまで時間があると思います」

「それじゃあ私は持ち場にも戻りますわね、少佐はどうされます?」

「私は暫くここに残るわ。彼女と話したこともあるし」

「分かりました…て、少佐仕事は?」

「もう午前中で終わらせたわ。そんなに無かったし」

「左様ですか…じゃ少佐、失礼します」

部屋にM4と素子だけが取り残される

「…あの、貴方は指揮官なんですよね?何で少佐と呼ばれているんですか?」

「私はもともと日本の公安でね…日本って分かる?」

「確かかつては大国だったけれど現在はホッカイドウ、という島以外人が住めなくなったとされる国ですよね」

「そう、そこの公安で働いてた時“少佐”って名乗っていてそれに慣れちゃったから“指揮官”何て呼ばれると妙にくすぐったくてね」

「お見かけしたところ少佐は全身義体ですよね?そうじゃなきゃスケアクロウの衛星を使えるわけが…」

「電脳の中身だけは生身よ…多分ね」

「…一つお聞きしたいことがあります。」

「どうしたの?」

「少佐は“夢”を見ますか?」

「夢?…懐かしい言葉ね。そんなもの昔は見た気がするけど暫くは見たことがないわ。

いや、“見ることが出来ない”と言うべきかしら。電脳化の弊害みたいなものね」

「少佐は人間なのに夢を見ることが出来ないんですか」

「そういう貴方は?まさか夢を見るとか言わないでしょうね?」

「その“まさか”なんです」

「…本当に?」

「はい、でもその夢がどうも気味が悪いんです」

「ただ夢を見るだけならまだしも悪夢ときたか。それでどんな夢なの?」

「花畑が赤く染まっていく夢なんです初めは周りの花が、そして手に持っている花にも…それだけでも不気味なんですが一番不気味なのは保持している花の数で三輪なんです」

「三輪…それってAR小隊の残りのメンバーじゃないか」

「そうなんです。人は確かこういう夢を“予知夢”と言うんですよね。そんな夢がもう何回も見るんですよ。私、この夢を見るたびに仲間のことが心配で心配で…」

「それで、その夢は今も見たのか?」

「はい…」

「そうか…お前はとことん不思議な人形だな」

「…?」

「悪夢は見るわ赤い血は流す…まるで人間みたいじゃない」

「…本当にそうですよね。私は人形のはずなのに」

「貴方は“自分が何者であるか”とか考えたことはあるの?」

「いいえ、私はいくら人間みたいでも人形ですよ。蠟の翼をつけたアポロンが鳥になれないようにいくら人間らしい要素を身につけても私は機械なんです、人形なんです。…少佐はひょっとして自身が何者であるかが気になるんですか?」

「そりゃあね、一応人間扱いはされてるけどこんな体じゃ人形達に紛れて生活するとしょっちゅうそんなことばかり考えちゃうわ」

「…仮に分かったところでそれは1mmも役に立たないと思いますよ」

「随分と達観した事を言うのね、若いのに淡白だわ…ただM4A1.これだけは言っておくわ」

「?」

「人は機械には効率さを求めてるわ。人形たちは性格こそあれ人間の期待を効率よく応えられるように設計されてるから余計な機能はついていない。それでも…貴方には“夢を見る”と言う人形にはとうてい不要な機能がついてる。どうして機械にそんな機能を取り付けたのか…その理由はきっと貴女にとって重要なものになるはず。それだけは忘れないで」

「…分かりました」

M4が頷いたその時、LANにつないでいた通信機から突如としてノイズ音が響いた

「…!M4」

「はい!AR小隊の誰かです!」

『…M4か?』

ノイズの中から、少し低い女性の声が聞こえてきた

『姉さん!M16姉さんですか!?』

『元気そうな声だな、その様子じゃ無事に救出されたか?』

『はい、今はグリフィンの戦線基地にいます。そちらの様子は?』

「目障りな鉄屑共とデートの真っ最中さ…私はまだ大丈夫だ。先にAR15とSOPを頼んだ」

『分かりました。…姉さん、お気を付けて』

『私は死なんさ。絶対にな』

そこで通信は切れた

「よかった…」

「先ずはM16が安全、と…さてお次は誰が来る…?」

次にノイズ音の中から凛とした雰囲気の女性の声が聞こえてきた

『M4?こちらはAR15』

『AR15!無事だったのね!』

『あなたの声がそんなにも明るいってことはどうやらグリフィンの基地にいるみたいね』

『そっちの状況は?』

『そうね…決していい状況とは言えないけど当面の間は大丈夫みたい』

『そうそう二人とも五体満足、弾も満足だよー!』

『SOP!?貴女も一緒だったの!?』

『そうそう、私達は無事に合流できたの!』

『分かった。姉さんはまだ合流できそうにもないから先に迎えにいくね』

『待ってる…』

そこでいきなり通信が終わった

口をぽかんと開けM4が通信機の方を見るとケーブルを外した素子の姿が目に入った

「な、何をするんですか!せっかく通信できたのに!」

「…ノイズの音が少し不可解だったからな。ノイズ音の中に独特な音が聞こえたんだ」

「まさかそれって…盗聴!?」

「もしくは逆探知か…いずれにしれも救出作戦は少し後回しだ!これから基地防衛戦にむけて体制を整える!」

「少佐…」

「そんな悲しい目で見るな、ちゃんと救出作戦は発令するから。でもこの基地がやられちゃそれどころじゃないでしょ?だからもう少しだけ、もう少しだけ我慢して」

「…了解!」

いい子ね、とだけ言うと素子は指令室へと急いだ。

その背中を見たM4は自分自身でも訳が分からず立ち上がって彼女を追いかけるのだった

 



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Mission05.救出先まで何マイル?~ギリギリまで踏ん張って~

どーも恵美押勝です。最近ポケモンと逆転裁判にハマって一日中3dsを触ってます。おかげで最近目がショボショボしてたまらん....
まぁ身の上話もアレなんで、本編をどうぞ。


子供という生き物は無邪気で愛嬌があり素直な性格をしている…だが子供というのは狂気を孕んだ人間だ、虫を平気で踏みつぶし、爆竹をつかい

爆破させたりもぎ取る…「命を奪う」ということに関して「悪」と思い込んでいないからだ。

子どもにとって「残酷なこと」は「遊び」と同じ…SOPMODⅡと言う人形もまたそういう子供のような人形だ…

     とある区域の廃墟ビル内.

鉄血が蔓延るこの区域でつかの間のセーフティーゾーンにいた時、彼女はM4からの通信を受け取り心底ホッとした。しかしこちらが話している途中にもかかわらずいきなり通信が切れ、彼女は今ほんの少しだけ腹を立てていた

「なんで途中で切っちゃうのさ!!せっかく通信できたのに!!」

「静かに、近くに鉄血がいるかもしれないのよ」

大きな声を出すSOPをAR15は窘める。彼女らの関係はまるで姉妹のようだった

「まぁ、来てくれることは間違いないんだろうけどさ。会ったら問い詰めてやらなきゃ」

「…SOP、M4は話の途中で通話を一方的に中断するような奴じゃないわ」

「と言うと…?基地の通信環境が悪かったとか?」

SOPの疑問にARは首を横に振って答える

「多少のノイズは混じっていたけど彼女の声はくっきり、はっきりと聞こえた。何か“中断せざる理由”があったに違いない」

「まさか、敵襲!?」

「いいえ、それはないわ。通信越しからは銃声や足音は聞こえなかった、つまり基地事態に問題はないということ。ということは….」

彼女は自身の銃を床に置き指を顎に当て考え出した

(途中で切断するということはこれ以上の会話をしたくない、と言う意味の現れ…つまり会話をすると何か“不都合”な事があった。…もしや、あのノイズ!)

突如として電脳裏に浮かんだそれは彼女を勢い良く立たせた

「うわっ!どうしたのAR15!?」

「…盗聴されていた」

「え?」

「M4が危ない!」

「どうしたのさAR15!」

「いい?私達の通信は鉄血らに盗聴されていた。間違いなく!」

「それって、奴らがM4のいる場所に向かってるということ!?」

「ええ、そうよ。奴らにとって重要なのはM4の抹殺。私達なんて眼中にないはず」

「じゃ、じゃあ早く教えなきゃ!」

SOPは耳についてある角のような通信機を触り起動させたが

「…!」

ガリガリと音が聞こえるだけで通信にはならなかった

「クソ!通信妨害か!」

「…だったら私が奴らの足を食い止める必要があるみたいね」

「じゃあ、じゃあ私も!!」

「ダメよ、貴方はここに残って。あなたが居なきゃM4達はここに来れないのよ」

「…でも!」

「大丈夫、私はここで死ぬつもりはないわ」

「AR15…!」

そうとだけ言い残すと彼女は銃を構え階段を下りた。一人残されたSOPは自身の銃を見た。力の象徴である銃を持ちながら何も出来ない現状、自分自身に腹を立てて行き場のない怒りを銃に叩きつけようと手を振りかざしたその時

「おい」

後方からハスキーボイスの男性の声が聞こえた…

 

S09地区戦線基地、戦闘準備用ロッカー____

盗聴されていたことを知り素子は武器や防具を取りに向かう途中電脳通信で基地の見張り人形に尋ねた

『WA2000!』

『少佐!今連絡入れようと思っていたところよ!』

『…それじゃあやっぱり』

『基地前方5km先に鉄血の大部隊!双眼鏡で見える限りでもVspid20体、Ripper30体いるわ!』

『…展開が早いな。一方向だけか?』

『ちょっと待って、監視塔のコンピューターで確認してみる…』

WAが調べている間、素子はロッカーに到着し防弾ジャケットを羽織った後C-25、セブロm5、衛星を取り出してそれぞれ装着する

『確認できたわ。どうやら連中この基地を完全に包囲するつもりみたい』

『チッ…今のうちに基地周辺にクレイモア地雷を撒いといて』

『了解、全員で今すぐとりかかるわ』

『撒けて余裕があるなら虎の子の電磁パルス地雷も撒け。余裕がなければ防衛ラインにて待機。金網を越えるまで撃つな』

電磁パルス地雷とはパルスにより踏んだ対象者(主に人形などの機械類)を強制的にシャットダウンさせる地雷だ。

『了解』

『あとWA!他のライフルの子達も監視塔に集めさせて!』

『了解!』

そこで通信は切れた。さてと、と小さくつぶやきロッカーを出ると目の前にM4が居た

「少佐、私も戦わせてください!」

「M4か…体の調子はどうだ?」

「先ほど少佐の後をつけていた時にスキャンしましたが問題ありません!」

「よし。じゃあ48番ロッカーを開けろ。そこにお前の装備品が入っている。暗証番号は“2029”だ!」

「分かりました!」

「準備が終わったら東門へ。そこにスコーピオンとMDR、イングラムを向かわせるから彼女らと一緒に戦って。」

「了解!」

「それじゃ、さっさと蹴散らして救出に向かうぞ!」

S09地区は侵入できる入り口は正門と西門、南門、東門、そして正門の隣にある搬入口である。基地周辺は金網で覆われており見張りの人形も監視塔で24時間監視している、更に現在では金網の外にクレイモアを内側には電磁パルスを設置されている普通なら侵入は困難だが。今回は数に物を言わせての突撃だ、金網での妨害は気休め程度にしかならないだろう

(だからこそクレイモアとパルスが重要なんだ。基地の人形だけじゃまともに相手にできない、最初のクレイモアでどこまで巻き込めるかお楽しみってわけだ)

C-25を構え素子は正門に立って出た。目の前では9A91やZas、ステンMk-Ⅱらがクレイモア地雷を撒き終わったところで9A91は彼女を見つけるとその報告をしに彼女へと近づいた

「少佐、作業終了しました!」

「よし…」

『正門は作業が終わった。他の入り口はどうだ?』

『搬入口、完了致しました。ご主人様』

『こちらトカレフ、西門終わりました!』

『TMPです…南門…完了しました…』

『M4A1です。東門、終了しました』

『よくやった、WA!鉄屑共の状況は!?』

『残り3km!このスピードじゃあと20分ぐらいにはクレイモア地雷地帯にまでつくわ!』

(20分か…微妙な時間だな…)

『分かった、WA!残り1kmになったら全員に連絡を入れろ!各員、WAからの通信があるまで電磁パルス地雷を設置しろ!通信はそのまま開いとけよ!』

通信が終わり次第、全員が武器倉庫へと向かい地雷を取りに行く、素子も例外ではない。

持ってきた地雷を設置するころには残り時間は15分をきっていた

(あと15分…!可能な限りばら撒かないとな…!)

穴を掘り、地雷を手に取り埋めていく。ひたすらその作業の繰り返しだ。1つ1つ設置し終わる度に敵との距離が縮まっていると思うと素子は人工心臓が速く動くのを感じた。汗は流れないが流れたような嫌な感触が皮膚を這う

『残り1kmになった!総員デフコン5!デフコン5!』

デフコン5…戦闘準備して構えの体制に入れ、ということだ

(電磁パルス地雷は粗方撒けた…この層状地雷で大幅に減ってくれると思うんだが…)

そう思っていると正面からザッザッザッザッ、と大量の足音が聞こえてくる。それは正面だけでなく辺り一面に響き渡り思わず銃を握りこむ。素子は今のうちに衛星を飛ばし彼女の周りに浮上させる

『全員、伏せてろ。なるべく低く、息を殺せ…敵はこちらが準備を整えてることなんて考えていない。落ち着けよ。落ち着いてじっと待つんだ…』

足音はどんどん近づいてくる、どんどん、どんどんと大きくなってくる。そしてその音が耳の中で鳴り響き脳内を埋め尽くさんとしたその時

ドン、ドン!と辺りに爆発音が聞こえてくる。鉄血らがクレイモア地雷に引っかかったのだ

爆発時に放たれた無数の鉄球が踏み込んだRipperやVspidらを貫く。

『よしっ!先ずは引っかかってくれたか!まだよ、まだ撃つな…!』

そのころ鉄血陣営では混沌と化していた。中途半端な場所にいたため完全に破壊されず鉄球により足を破壊され歩行不能になり地面に伏せる人形。仲間の屍を踏んで進む人形、仲間の屍につまずいて起き上がる暇もなく踏まれる人形…この地帯だけで約3割の戦力を失った。だがこの鉄屑共は意志を持たない、そんな混沌な状況でも勢いを殺さず直進し続ける

金網までは残り200mになった。勢いは衰えない。残り100m、素子らがいる陣営は息を殺し物音一つ建てないが殺気が確かにその場を支配していた

金網までの距離…残り0m

ついに金網に夥しい数の鉄血人形らが群がり押し込む。カシャンカシャン、と金網が鳴り歪む。MDRは今頃「リアルゾンビ映画キタコレww」などと掲示板に入力していることだろう

『全員立て!そろそろ金網が限界だぞ!』

素子の指示で全員が立ち上がり各々の銃を構える。そしていよいよ金網が倒れ鉄血人形らが押し寄せてくる。だがその瞬間、電磁パルス地雷が発動される。電撃が踏み込んだ人形の体に流れ耐えきれなかった電脳がショートを起こし頭部が爆発する。このパルスは数分間地面に残りそれを踏んだ人形は爆発まではしなくても一定時間行動不能になる

『よし撃て!撃ちまくれ!ここが最初で最後の防衛ラインだ!撃ち損じるな!』

素子らの前をマズルフラッシュの閃光が支配する、発砲音が重なり轟音が轟く。電脳通信でなければコミュニケーションは出来ないだろう。

次々と破壊されていく鉄血人形達、足を破壊され芋虫のように這って接近してくる人形も監視塔にいるWA達によって額を撃ち抜かれる

状況はこちらに圧倒的に有利だった、不意打ちによる先制攻撃、そして金網を乗り越えた先には電磁パルスによる攻撃で行動不能にさせられる。そして抜け目のない銃による攻撃。反撃の隙など与えるはずがなかった

『こちら監視塔!基地周辺の敵勢力順調に減少中!やっぱりクレイモアとパルスがいい仕事したみたい!』

『このままの勢いを保て!弾薬はいくらでもあるんだ!出し惜しみするな!』

素子はそう言い衛星を飛ばし、上空から攻撃を行う。とにかく撃つ、撃つ。耳もマヒして銃声の音が聞こえなくなるくらい。硝煙の匂いと鉄血らが流したオイルの臭いが混じり異様な臭いが漂ってきたころ、素子はもう一つの衛星をドローン替わりに敵勢力後方を見ると鉄血らの動きが止まっているのが見えた

(ん…?これはひょっとして…!?)

彼女がそう思った瞬間、鉄血部隊が基地から遠ざかっていくのが見えた

『よし!敵部隊、撤退していくぞ!!』

『こちらも確認しました!ご主人様!』

『どうやら終わったみたいですね』

『疲れました…』

『これで救出に行けますね…不思議な気分です』

『どうしたM4?もっと喜んだらいいじゃないか』

『あ、いえ。私今まで少人数で任務をこなしてきたのでこういった大人数でするのに慣れてなくて…不思議です、なんだかおなかの底から熱いものがこみあげてくるような…』

『それが勝利の味、って代物さこいつは戦うものなら誰もが味わえるものさ。人間でも…人形でもな』

それじゃあ、早速準備をしよう。そう言い残し素子は通信を切った。

太陽が沈み、夜になろうとしていた。基地の周りを闇が包み込む。骸達もまた包み込まれたが異様な臭いだけは闇には溶け込まなかった

 



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Mission05.救出先までは何マイル?~踊るのは誰か?~

ど~も恵美押勝です。課題に追われに追われ書く時間が少なく普段よりも遅い投稿になってしまいました。いやしかし時の流れ早いものでもう6月も終わりかけています。7月になれば9のFigmaが出てくるのでそれが楽しみですね。
長話もアレなんで、本編をどうぞ。


鉄血らの基地襲撃をどうにか堪え、SOPMODⅡ、AR15を救出しようと準備を進めていた素子達、一方そのころ廃墟ビル内の踊り場で一人残されたSOPは突如として後方からハスキーボイスの男性に声をかけられるのであった

「おい」

SOPはすぐさま立ち上がり銃を構えたまま後方へと体を向けた。しかしそこには誰もいなかった

「誰!そこにいるんでしょ!」

SOPはそこにいる何者かが光学迷彩を使ってるかもしれない、そう思って自身の眼を通常状態から赤外線モードに切り替えた。通常の人形ならばそのような機能はついてはいないが彼女は特別だ、あたりを見渡し確認するが映るのは壁だけであり人影なんてどこにも見当たらなかった。ひょっとして赤外線にも引っかからないタイプの光学迷彩か、彼女は訝しみ眼を通常モードに戻した。すると目の前には2m越えの大男が彼女に銃を突き付けているのが見えた、男が手に持っている銃はミニミ軽機関銃、まともに喰らえば軍用の身体を持つ彼女でさえボロ雑巾と化す。

「いつの間に…!でもどうやって!」

「その反応じゃ、俺の腕も衰えてないってことだな。銃を下ろせ」

「誰が下すか!」

彼女は大男に飛び掛かり格闘戦を行うとした、だが身長の低いのが災いしいとも簡単に掴まれてしまう

「無駄だ、大人しくしてろ…見たところ鉄血とだいぶ違うが…何者だ?」

「鉄血なワケないだろ私は…!」

怒りに任せ思わず自身の所属を言いそうになるがすんでのところでこらえる。

「私は?」

「…私はグリフィンの戦術人形だよ!」

「グリフィンだぁ?IOP社にお前のような人形がいた記憶はないが…」

「カタログが古かったんじゃないおじさん?私は数か月に作られたんだよ?」

「…それじゃあ一緒にいた奴も新型か?」

「…おじさんのぞき見してたの?」

「…こんなところ偵察なしで入り込むほど俺は馬鹿じゃねぇさ。それでお前らは仲良しこよしこんなところで何をしてたんだ」

「…鉄血をぶち殺すために決まってるでしょ」

SOPはとっさに噓をついた。男は怪訝な顔をしたがやがてSOPをゆっくりと地面に下した

「奇遇じゃねぇか、俺も鉄血をぶち殺そうとしてるのさ」

「え、おじさんも!?でも人間が何で…?軍は基本的に鉄血問題には介入してないしIOP社は男性の人形は作ってないはず…」

「軍?人形だ?」

「おじさん、正規軍の人じゃないの?」

「軍ねぇ、俺はそんなお堅いとこにはいねぇよ」

「それじゃ何者なの、私は答えたんだからおじさんも答えてよ」

「…俺はしがない賞金稼ぎさ」

「賞金稼ぎぃ?おじさん、噓言っちゃいけないよこの時代にそんな職業は…」

「あるのさ、こんな世の中だまともな職業だなんてほとんどありゃしねぇ」

そう言って男はスキットルを取出し煽るように飲んだ。口から離し大きく息をつく、その動作をSOPはじっと見ていた

「どうした、時代遅れの賞金稼ぎがそんなに珍しいか」

「ねぇおじさん。おじさんって本当に人間?全身のほとんどが生体金属で出来てるよ」

「…さぁな、一応は人間だと思うぜ。脳みそは新鮮な肉で出来てるからな」

「全身義体化か…」

「そういうお前が機械かどうか怪しいぜ。IOP社の人形は色々見てきたがお前のようにガ

キっぽいのは初めて見たぜ」

「ガキっぽいってまた言われた!私ってそんなに子供っぽいのかなぁ」

そう言ってSOPは笑いかけたが彼女は突如として真剣な顔になり男の方を向いた

「おじさん」

「あぁ聞こえてる、階段から何かが上がってきてる…5体ほどだな」

男は窓に駆け寄り下をのぞいた、そこにはRipperが10体ほどビルの入り口に集合している。

「多分連中の狙いは私だよ。…おじさん上へ逃げるなら今の内だよ」

「逃げる?冗談じゃねぇ今から来るのは俺の給料だ」

「じゃあ。決まり!おじさん後になって逃げないでよ?」

「ばーか、お前こそ逃げんなよ」

男がそう言いながら背中から剣を取るかのようにレミントンM870を取出しスライドさせる

「あれ、ミニミ使わないの?」

「こんな狭い場所で使えるか、跳弾して俺らもやられるのがオチだぞ」

「そっか。んじゃおじさん、先手は私に任せてもらっていい?」

「なにをするつもりだ?」

「ん~私の銃、ちょっと面白いのがついているんだよね」

「面白いもの?」

いよいよ足音がこちらにはっきり聞こえてきた。そしてRipperの顔たちが見えたその時

「ドーン!!!」

SOPは自身の銃に取り付けられている殺傷榴弾をぶっ放した。爆音が轟き辺りは煙に包まれる

「よし!これで確実に3体は殺せたでしょ!」

「…」

「ん?どうしたの?」

「お前な、あれで3体も殺せているわけないだろ。普通階段を責めるときには一人が先行して数秒おいてから残りが後に続くって形でな…」

「そりゃ人間ならそうするだろうけどさ…」

SOPは眼を赤外線モードに切り替えて白煙の中を見る。視線の先には3体Ripperが確かにバラバラになっているのが見えた。男もどうやらそのことを確認したようで啞然としている

「んなバカな」

「鉄血の人工知能ってそこまで賢くないからさ…せいぜい数で襲い掛かることしか出来ないんだよ。細かい命令を受けてないとさ。」

「そんなもんか…」

「それよりおじさん、あと二体そろそろ来るよ」

「わーってるよ」

そう言っている間に残りのRipper2体が顔を出す、悪運がいいのか爆風の影響を受けず五体満足でピンピンしている。男は動じることなくレミントンM870を発砲する、散弾した弾はRipper達の身体を貫く、男は腹部辺りを狙ったのか鉄血らの下半身は吹き飛びナメクジのように這いつくばっていた。SOPはそのような光景が好きならしく目を輝かせながらヘッドショットしてく。

「やっぱさ、鉄血らが醜く死んでいくってのはいいよね!こんな風にボロボロになって成す術なく殺されるってのは特にさ!」

「…お前人形のくせに趣味悪ぃな、それより残りの連中らが突入してくるんだ。上へ行くぞ」

「分かった!」

「その前にこいつを仕掛けておくか…」

男はジャケットのポケットから手榴弾とワイヤーを取出しワイヤーに引っかかるとピンが外れ爆発するようにトラップを仕掛けた

「よし行くぞ」

SOPらは階段を駆け上がる、このビルは4階建で彼女らが居た場所は2階である。最上階である4階まで上がり踊り場で待機する

彼女が窓から見下ろすと鉄血達が居なくなっていた、恐らく全員が突入したのだろう

「さーて面白くなってきた!」

「お前戦うの本当に好きだな。…俺も好きだけどな!」

男は初めてニカッと笑った。途端に下の方からドーンと言う音が聞こえ足がびりびりしてきた。どうやら罠に引っかかってくれたようだ。

 

「これで何人減ったかな?」

「奴らがお行儀よく並んで駆け上がってきてるなら4~5人死んでるだろうさ。さてそろそろ来るぞ!」

足音がかなさって聞こえてくる、5体ほどだろうか。SOPは今か今かとトリガーに指をかける。そしていよいよ、鉄血らが姿を現した。奴らはSOPらを発見次第銃口をこちらへと向けたが攻撃の隙など与えず彼女達は各々の銃を発砲した

SOPは久々に大量の鉄血兵を殺すことが出来るのでハイになっていた。笑いながら銃をぶっ放し的確に殺していく。子供の加逆性と機械の正確さ、それらが合わさった彼女は無敵といっても過言ではない。

男もまた戦いは好きだが彼女とは違ってハイになることはない。彼は殺すのが好きなのではなく純粋に戦うという行為が好きなのだ。

勝負は一瞬で終わった、狭い踊り場に上方からのショットガンやアサルトライフルの弾丸の雨、避けられるわけもなく一方的に蹂躙されあっという間に鉄屑と化した。

「もう終わり?つまんないの」

「ざっと2万ってところだなこりゃ、使った弾もそんなにないし久々にいい筋トレグッズが買えそうだ」

男は会談に座り込み、スキットルを取り出して残りを一気飲みした

「筋トレ?おじさん全身義体なのに?」

「擬態だからこそ、どれだけのことが出来るか見ておく必要があるんだぜ。それでお前さん、この後どうするつもりだ?」

「グリフィンから救出…いや回収しに来てくれるかここで待ってる」

「グリフィン…か、丁度いい。電話を借りたいし待たせてもらうとしよう」

「電話?通信機は?」

「ここへ侵入する途中でぶっ壊してな…」

「電脳通信は?」

「今回の依頼主は珍しい非電脳の人間だからな」

「分かった、それじゃ一緒に待とう!おじさん!」

「その、おじさんっていうのやめてくれないか。俺は年齢はそうかもしれんが体はそうじゃないだろ?」

「え、じゃあ何て呼べばいいの?」

「そうだな…じゃあついでだ、ここらで自己紹介といこうじゃねぇか。お前は?」

「私はM4SOPMODⅡ!おじさんは?」

「俺はバトー、バトーだ」

 



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Mission05.救出先まで何マイル?~帰還~

ど~も恵美押勝です。いやはや6月も終わりかけて皆様いかがお過ごしでしょうか。あたくしゃ7月の学期末テストに向けて焦っています(勉強しているとは言ってない)
長話もアレなんで、本編をどうぞ


鉄血兵らの強襲を退けた素子は他の人形らに後処理を命令し救出部隊のメンバーを電脳通信で呼び出しヘリポートに集合させた。ヘリポートにはM4A1、Vector、イングラム、トカレフが集まっていた。

『全員集合したな?これから簡単に作戦説明をする』

素子電脳内に地図を表示させそれぞれの人形の電脳へと送信する

『M4A1の情報によれば要救助者はここT7地区にて待機している模様だ。我々はそこへ侵入し要救助者を回収、撤退する。尚この任務は機密のため、表向きにはT7地区の鉄血兵ら掃討作戦になっている』

『質問!』

『どうしたVector?』

『表向きとはいえど掃討しなきゃマズイんじゃないの?部隊派遣して“何の成果もなかったです”とはいかないし』

『そりゃそうよ、だから20分前に手は打っておいた』

『“手”って?』

『第二部隊を既に派遣済みよ』

『おっ、手回しが早い』

『我々が到着するころには恐らく戦闘中だろう』

『だから私達はその最中にこっそり忍び込むと』

『そういうことだM4、さて?ほかに質問は?…ないようだな。では全員搭乗!』

ダミー人形を連れて合計11人がヘリへ乗り込む、離陸して暫くして下を見下ろすと先ほどの鉄血兵の残骸が目に映る。

素子はいつの間にかRipperの生首を手に取り電脳に侵入していた。20秒ほどして終わりプラグを外すのを確認しM4が声をかける

「少佐」

「どうした?」

「この地区の鉄血勢力はどれくらいでしょうか?」

「通信施設が3つ確認できたから100体ほどだろうな」

「…そんなにいて第二部隊の人形達は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫よ。あの地区じゃもう数えるほどしかいないだろうし、こいつの電脳調べてみたところ、こいつらあの地区から来たみたいだからさ」

「ならいいんですけど…」

『少佐、ちょっといいかの?』

『M1895?何かトラブルでも起きたのか?』

『トラブルは起きてないのじゃが…ちと妙なことが起きていてな。』

『妙なこと?』

『侵入したとき、ワシたち以外の足跡…それに空薬莢も見つけたんじゃ。どちらもデータにないものじゃ』

『我々よりも先に戦闘を目的に侵入した者がいるということか…?』

『おまけにさっき激しい銃撃戦の音が聞こえたんじゃ、あの音はアサルトライフルかサブマシンガン、それにショットガンも混じっていたかのう?』

『音がした方向は分かるか?』

『残念じゃが…』

「分かった、作戦変更を伝える。これより第二部隊は音がした場所を捜索、発見した際には連絡を入れろ。こちらはあと十分で到着する」

『了解!』

(アサルトライフルかサブマシンガン…まさか既に連中はSOPMODⅡと接触し戦闘状態に…?だとするならばショットガンはどういうことだ?)

「M4」

「はい?」

「SOPMODⅡという人形は2丁拳銃か?」

「いいえ、軍用とは言え根本的なシステムは他の戦術人形と同じなので彼女はSOPMODしか上手に使えないはずです」

「ならショットガンを使えるわけないよな…」

(そもそも、ショットガンとアサルトライフルを同時で撃つメリットなんてないしな…)

疑問を抱えたままヘリは順調に目的地へと進んでいく。5分もしないうちにヘリは目的地1km手前で着陸する、ここからは徒歩で森林を通っていき目的地まで向かう

『第二部隊からの報告だが、T7地区に我々以外の何者かが戦闘を行っているようだ。何が目的かは知らないが途中に何者かが仕掛けた罠もあるかもしれん。各自十分警戒して作戦に当たれ』

『少佐、仮に先行者が要救助者に接触した場合はどうするんですか?確かまだ公表されていない人形なんでしょう?』

『どうするってイングラム、もしそうなら基地へ連行して取り調べする。報告によれば一体だけに見受けられるから軍の活動、他所の基地からの活動とも思えん。だとするならばこの立ち入り禁止の地区に何故いるのか聞いておかなくはならないだろう』

『なるほど』

『それでは少佐、先頭は私で出発してもよろしいでしょうか?』

『頼んだぞトカレフ』

トカレフに限った話ではないがハンドガンタイプの戦術人形は夜間において視野を確保するために強力な照明、及び強力なセンサーが搭載されている。これはIOP社が売れ行きに困ったハンドガンタイプを売り込むために搭載されたのである。

ダミー人形も引き連れて一行は森林の中を進んでいく、センサーを発動させながらいくと数十歩歩くたびに地雷が見つかる、取り除く時間も惜しいのでその都度回り道をしていく。どうしても回り道が不可能な場所に置かれていたら、その時は静かに掘り起こし無力化させる。そんなことを繰り返し十分後。ようやく目的地に辿り着いた

『M1895、目的地へ到着したそちらの状況は?』

『うむ…発砲音がした大まかな箇所は確認できたのじゃが。音の位置、こもり具合からみて室内からの発砲には間違いないじゃろう』

『つまりビルの中と?』

『とすると要救助者が危ないかもしれん、少佐』

『分かった、掃討作戦は一時中断、これより第二小隊はポイントT7-43-21へ行け。万が一先行者と遭遇した際に要救助者を攻撃中、もしくはこちらへ応戦してくるようなら遠慮はいらん。構わずこちらも応戦しろ、プロテクトはこちらで外しておく。』

『うむ、了解じゃ』

通信を切り素子はM4へ質問する

『M4、SOPMODの戦力はどれくらいだ?』

『Ripper5体程度なら難なく戦えます、体のスぺックならAR小隊の中でも上位に入りますから』

『そうか…』

(ビル内部に鉄血が突入していないといいのだが…そうもいかないだろうな。)

『少佐、この付近にセンサーかけてみたんだけどどうやら私達以外いないようだね。もうこの地区にいる鉄血はほぼ全滅したと考えるべきだよ。第二部隊にいるMDRも“誰もいないwww”ってアップしてるし…』

『アイツめ…だがいないからといって全滅した訳じゃない気を抜くなよ』

だが進めど進めど敵の気配はしない、トカレフのセンサーを最大にさせて捜索させるもやはり反応はない。途中通信ステーションに立ち寄るもすでにズタボロにされていた、こうなってしまえば30体ぐらいの鉄血人形は外部との接触が断たれ以降は直前に命令された指令にしか従わなくなる。おまけに演算処理能力は極端に下がり最低限の戦闘力しか持てなくなる(つまり素人のような戦闘しか出来なくなる)

立ち去り、ビルへ向かいながら素子は考える

(あの施設の壊し方…弾痕が散らばっていた、ショットガンでも使ったかのようだ。ひょっとしてあれは先行者の仕業か?だとするならば奴の目的もまた鉄血の排除だというのか?)

そんなことを考えるといよいよビルの前へ到着した、ビルの中にも外にも人影は見当たらない。どうやら素子たちの方が一足早かったようである

だが、無数の足跡が素子の眼に入った。

『鉄血共が既に来ていたというのか…!』

『やはり銃声の発生箇所はここで間違いないようですね』

『数は約10数体…』

『SOPでも危ない数です…!早く突入を!』

『待て。先ずは入り口のチェックからだ、ブービートラップの可能性がある』

彼女は入り口付近に近づき地面に落ちていた小石を入り口に向かって放り投げた、小石は落ちていき入口へと入っていったが…何も起こらなかった

『どうやらトラップはなさそうだな…』

『それじゃ突入を!』

『よし全員私に続け!Vectorは殿で後方の警戒を頼んだ!M4は私の後ろについてろ!』

『了解!』

いよいよ突入し階段を駆け上っていく1階…2階…そして3階の踊り場に差し掛かった時、再び妙なものが目に入った。

『Ripperの残骸だ…!』

『バラバラに引き裂かれたようになってます、それに壁に無数の穴が』

『SOPの薬莢が落ちていますけどこれは彼女の攻撃じゃないです…高威力かつこの弾痕。間違いなくショットガンでしょう』

『…間違いない、M1895達が聞いたのはここで間違いない。更に上に行くぞ、ここに要救助者がいるのは間違いないんだからな』

『了解』

上へと向かい4階の踊り場についたころ再びRipper達の残骸が目に入った。ここまで来たらもう屋上しか彼女がいる可能性がある場所はない

閉められているドアを蹴破り一斉に突入する。真っ先に目に入るのは地面に座り込んでいるSOPの姿…そして頭に手をかけている男の姿だった。男の姿を見るなり素子はハッとした表情になりその場に立ち尽くす。一方M4はそんなことには気にせず男へ向かって銃を突きつける

「彼女から離れなさい!!」

「あ、M4!!」

「SOP!怪我は!?」

「ないけど…どうして銃を向けているの?」

「…あなた今襲われているんじゃ」

「ちょっと待て」

「待てって…少佐!」

「この男は違う…」

「違う…?」

「…バトー」

「…精霊は現れたまへり。久しぶりだな少佐、生きていたとはな…」

「あなたこそね…そう簡単にくたばる男ではないと思っていたけど」

「…少佐。この男を知っているんですか?」

M4はまだ警戒しているのか銃口をバトーに向けている

「ええ、早い話昔の部下と言うべきかしら…」

「お前、何でこんな場所にいるんだ?それに戦術人形も引き連れて。」

「色々あるのよ…それよりもあなたが今触っている人形、私の今の仕事に必要なんだけど返してくれる?」

「…成程な、お前今軍で働いているのか」

「返すか返さないかどっち?早いこと答えて頂戴」

「落ち着けって、こいつは俺と偶然会っただけだ。少佐が必要なら返すぜ」

「ちょっと!返すとか返さないとか人を物みたいに扱わないでよ!!」

「だそうだ、早いこと引きっとってくれ少佐」

バトーはそう言うとSOPを背中を掴みぬいぐるみを投げるかのようにポイっと投げた

「SOP!」

M4は駆け出し彼女を抱きしめてキャッチする

「よかった無事で…」

「M4もピンピンしていてよかったよ!私ちょっと心配だったんだから」

「…SOP、AR15は?」

そう言った途端、明るかった彼女の雰囲気が一気に変わった。重々しく彼女の鉄の腕が急に冷たく感じる

「…もう一度聞くわ、AR15はどうしたの?」

「よく聞いてM4、AR15は…AR15は時間稼ぎするために一人出て行って…」

「時間稼ぎ?ひょっとして…」

「AR15はM4との通信が盗聴されていたことを知っていて私を置いて出て行ったんだ…少しでも基地に襲撃しに行く鉄血の気をそらさすために」

「だが実際にはこちらに来た…」

「そんな!ということはAR15は…!M4!」

「少佐!今すぐ!」

「無理よ、連続出撃でこちらの戦力は出し切ってしまった。基地へ帰投してから弾を込めて、メンテして、修理して…とあれこれあるんだから。それにこのことは上層部に話しておく必要がある、だから早くても出撃できるのは明日の昼間だろう」

「そんなぁ…」

「少佐、何とかなりませんか?」

「私だって今すぐ行きたいのはやまやまよ。AR小隊を全員救出しなきゃ私の首が飛ぶんだから」

「少佐、随分と慎重になったな。9課の時とは大違いだ」

「うるさいわね…昔みたいに自由ではやれないのよ、色々と」

と、そこにヘリが降りてくる音が聞こえてきた。どうやらイングラムが既に帰りの便を手配していたようだ、そのタイミングでゾロゾロと第二部隊の人形達も集まってきた

「…全員揃ったみたいだしこれより帰還するわ。バトー、せっかく会えたんだ一緒に来い」

「言われなくてもついていくつもりだったぜ」

そう明るく答えるバトーと対照的にSOPとM4は暗い表情をしていた。そこからヘリが来て基地へ到着するまで彼女らは一言もしゃべらなかった。空気は重くほかの人形達も話せず沈黙のまま基地へとたどり着く。

これにて第二回救出作戦は終わった…

 



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Mission06.救出作戦は就寝の後で~一杯のビール~

ど~も恵美押勝です。皆様お久しぶりです、ここのところ数週間、大学の課題やテストに追われ書く時間がなくこんなにも時間がかかってしまいした。ですが実生活の方もだいぶ落ち着いたのでどうにか今週からは従来のペースで投稿出来そうです。皆様よろしくお願いいたします。
それでは前置きは長くなりましたが本編をどうぞ!


重苦しい空気の中、素子らは基地に到着し人形たちはメンテナンス室へ、バトーは来客用の部屋へ、素子は司令室へとそれぞれ足を運んだ。彼女は部屋に入り椅子へと座り込む、目を閉じると暗い顔をしたM4,SOPの顔が思い浮かばれる。ふぅーっと息を吐くと目を開き卓上の電話の受話器を取りボタンを押す。相手は勿論ヘリアンだ、数回コールが鳴った後声が聞こえてくる

「少佐か。どうした?」

「救出作戦が終わったからその報告よ」

「分かった。聞こう」

「SOPMODⅡの救出を成功、どこも異常なし綺麗なものよ。ただ…」

「ただ?」

「SOPからAR小隊のメンバー、“AR15”が彼女と離れ単独行動をとった“という報告を受けたのよ」

「単独行動?らしくもない、どうしてアイツがそんなことを…」

「どうやら彼女は私の基地に鉄血が襲撃することを知ったらしくて時間稼ぎに出たらしいわ」

「…そうか」

「ヘリアン」

「分かっている。だが場所が…」

「場所はおおよそ判断がつく」

「なんだと?」

「解析班に基地襲撃時の人形を調べてもらった、大多数はさっきまでいた基地から来た奴なんだが…一部、とある場所から来てることが分った」

「…」

「ポイント09-319…S09地区の最果てにある元正規軍駐屯地、ここから来ている」

「そこにAR15がいると?」

「恐らくね、ここまでの帰路の最中センサーをかけたけど反応なしだった。ということは何者かに連れ去れたか…」

「…破壊されたという可能性は?」

「それはないわ」

「ペルシカ!?どうしてヘリアンと一緒に?」

「なに、ちょっと仮眠を取りにヘリアンの部屋にお邪魔しにきたんだけど興味深い話が聞こえてきたから飛び起きてね」

「それで、どういう意味なんださっきのは」

「あぁ、彼女たちはねご存知の通り機密の塊のような人形なのよ。もし破壊されて回収、解析なんてされたら大変だからコアが停止したら自爆するようにセットされているの」

「それで?」

「コアが停止した際に特殊な音波が発生される、その音波に反応して体内に仕掛けてある爆弾が爆破するようになっている…その威力はTNT爆薬20㎏分。もし爆発すれば半径10mが更地になるわ、でも衛星で見る限りその周辺はそんな風にはなっていない…」

「だから破壊されている可能性はない、と?」

「そういうこと。メカニックの話はおしまい…私はもう一度寝ることにするわ…」

「と言うことらしいわよ、ヘリアン?」

「あぁ、そうらしいな。分かった、大至急ポイント09-319に偵察班を向かわせる。」

「よろしく。それじゃあ….」

「そうだ、今回の救出作戦も少佐。君がやるんだ」

「そういうと思ってたわ」

「その言葉を待っていたんだろう?」

「まぁね、でもこんだけ頼まれるんだから少しぐらいご褒美があってもいいんじゃない?弾薬を少しまけてくれるとか」

「我儘を言うな、こっちだってカツカツでやってるんだ…それじゃあ少佐、後ほど」

「えぇ、後ほど」

電話を切りM4達に任務の事を話そうと司令室を出ようとするとドアノブが開けられる

「よぉ少佐」

入ってきたのはバトーであった。手には缶ビールを二本抱えており素子を飲みに誘ったのは明白だった

「一杯やらないか」

「アンタねぇ…今どういう状況だか分かってんの?」

「堅苦しいこと言うなよ、聞いた感じ最近働いてばっかなんだろ?」

「9課の時もそうだったわよ」

「まぁいいじゃねぇか、たまには休息とれよ。お前なら血中のアルコールを一瞬で蒸発させることもできるだろ?」

「アンタもね…しょうがないわね、それじゃ一杯だけよ」

「おっ珍しくノリがいいじゃねぇか」

「その代わり少し待ちなさい、先にすることがあるんだから」

「へーへー、待たせて頂きますよ少佐殿」

バトーの軽口を無視して素子は部屋を出る。向かう先はM4達がいるメンテナンス室だ。

扉を開けるとM4に腕の修理をしているのか両腕がないSOPがもたれている姿が目に入った。声をかけようとしたが先に気づいたのかSOPが目をこちらに向けるその目は期待にあふれていて光っていた。

「少佐、少佐!ここに来たってことは救出作戦が決まったんだね!」

「ええ、そうよ。といってもまだ出撃許可は出てないけどね」

「えー!!そうなの!?」

「その状況じゃそもそも出撃出来ないでしょ…」

「それで、AR15はどうなったんですか?」

「そうね…あくまでも予想だけど彼女、鉄血に捕縛されてる可能性が高いわ」

「捕縛…!?だったら尚更早く!!」

「場所は元正規軍駐屯地、どれだけの戦力があるのかわからないのに飛び込むなんて自殺行為よ。だから今は待つの」

「待つ…」

「私の国じゃ“果報は寝て待て”っていう言葉があってね。待って耐え忍んだ先にいいことが起こるって意味よ」

「慣用句、って代物ですか…分かりました少佐、今は待ちます。ね、SOP」

「…分った!でも待った分、戦場じゃ暴れさせてもらうから!!」

「えぇ、思う存分暴れなさい。だから今はおやすみ」

そういいながらM4達を撫でているとM4から寝息のようなものが聞こえた。彼女が寝るという話はどうやら本当のようだ。素子はロッカーからタオルケットを取出し二人にかけてあげた。扉から出ようとすると後ろから少佐、とSOPの声が聞こえた、振り返ると小さな声で「おやすみ」と言った。彼女は少し微笑みながらおやすみ、と一言言ってメンテナンス室を後にした。扉を出ると口元を緩ませニタニタ笑うバトーがいた

「なによ…」

「いや別に、お前にそんな母親らしいところがあったんだなってよ。指揮官だけじゃなく母親まで板についたか」

「…バカ」

そう言って軽くバトーをこ突く

「お、照れているのか?まぁいい…早いこと飲もうぜ明日も早いんだろ?」

部屋に戻り互いに来客用の椅子に座る、そして卓上に置かれている缶ビールを手に取る。よく冷えていて結露していて缶はビショビショだった。プルタブを開けプシュッと言う音とともにゆっくり喉に入れていく。独特の苦みが味覚センサーを刺激し染み込む。

「しかしだ…少佐、どうしてまた指揮官なんてやってるんだ」

「…あの時、第三次世界大戦が終わった後日本国は北海道を除いて事実上の崩壊、公安なんてものが存続するはずもなく9課も解散。それは貴方も知ってるでしょう?」

「あぁ…」

「その後、私は各地を転々とした。食事に関しては私には無関係だけども問題はこの体のメンテよ…金がなければゆっくり死んでいくだけ。だから私は仕事を探したのよ、だが中々見つからなくて…そんな中であったのがこのグリフィンの求人広告よ。高給取りだし全身義体化であるこの私にピッタリだと思ったからね。入社試験さえ突破してしまえばそこからは早かったわ…そういう貴方は?」

「俺はまともな仕事なんて出来るわけねぇと思ったから、傭兵なんかやっていたぜ…まぁ少佐の知っての通り俺は元レンジャーだからこういった仕事には向いていた。だが傭兵仕事は危険な割には報酬なんざ雀の涙程度だった。だから俺は同じ危険でも報酬が段違いな賞金稼ぎの道を選んだ…」

「あそこにいたのは仕事の関係で?」

「そりゃそうだ」

「仕事の内容を教えてもらっても?」

「…まぁいいか終わったしな」

バトーはそう言うと残りのビールを飲み切って缶をテーブルに置いた。

「あの時、俺はあの地区にいる鉄血の戦力を図ってこいという以来があったんだ」

「何それ?賞金稼ぎというから誰かを殺すとかそう言う依頼かと思ったんだけど」

「まぁ殺しに関係ない依頼もたまに来るのさ。そう言った仕事はまぁまぁ稼げるから人気で早いタイミングで誰かが契約するわけなんだが。何せ鉄血の基地に忍び込むっていう依頼なんだ。誰も怖がって来やしない、だから俺がやったってわけさ」

「…なるほどね」

「まぁ俺としちゃあんなところ調べて攻めた所で鉄血関係はお前らグリフィンがやっているんだろ?だから意味ねぇと思うんだが、まぁ金さえもらえればそれでいいさ」

「ねぇバトー」

「どうした」

「9課の他のメンバー。課長やトグサ、イシカワ、パズ、サイトー、ボーマとかはどうしているのかしら」

「さぁな…親父はもう年で逝ってるかもしれないが他のメンバーはどうだか…トグサなんて妻子持ちだしこの先辛れぇだろうな…」

「そうね…それでも私、この先また彼らに会える気がするのよ」

「そうお前のゴーストが囁くのか?」

「そう…9課のメンバーが簡単にくたばる訳がない、そう思っているの」

「お前本当に変わったな、昔のお前はもっとこう…冷めていたきがするんだが」

「こんだけ世界が変われば、私だって変わるわよ」

「そんなもんか」

「さて、そろそろお開きにしましょ。私も明日早いし」

「…なぁ少佐」

「?」

「いや、何でもない…寝るのはあの部屋でいいか?」

「えぇ、そうして頂戴」

それじゃ、と一言良いバトーは部屋から出て行った。一人残された素子は血中のアルコールを蒸発させるとソファで横になり眠りに就くのであった。

 



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Mission06.救出作戦は就寝の後で~出撃~

ど~も恵美押勝です。7月もそろそろ終わりでいよいよ8月ですね、皆様は夏休みはいかがお過ごしになられるでしょうか。私は暇すぎて死にそうです
さて、自分語りはそこそこに本編をどうぞ!


薄気味悪い冷えた部屋で一つの人影が立ちすくんでいる、人影は張り付けの刑にあったように体をY字で固定されていた。

(ここは…奴らの牢獄かそれに準ずる部屋か)

己の体の状態を間隔で理解し、この人影“AR15”はそう結論付けた。彼女はM4が居る基地へ鉄血兵が攻めてくることを知り自らを囮として時間稼ぎに出たのだ

(その結果がこれ、か…まぁ予想していたことだけど)

そう自身を自虐したがすぐさまこの部屋からの脱出方法を探る、

だが彼女の腕や足は鋼鉄製のバンドで拘束されており仮にそれらを外せたとしても目の前にある鉄製の扉には鍵穴がない、どうやら蹴破ることをしない限りドアを開けることは不可能なようだ。他に抜け穴のようなものはないか、通風孔や排水口、部屋にある穴という穴を探すがどれもこれも彼女が入るには狭すぎた。そうこうしているうちにガチャリ、と音がして扉が開く。中に入ってきたのは見慣れない人形だった、誰かは分からないがこれが味方ではないことは確かであろう。現にそれはハンドガンタイプの武器をこちらに向けながら近づいてくる。

 

「起きたか、AR15。どうだ気分は?」

「…最悪よ、変な体勢のせいで肩がこってしょうがないわ」

「冗談を言う余裕はあるようだな…しかし予想外だな。貴様はあのAR小隊のメンバーだ、少しはグリフィンの人形と比べて頭がいいと思ったが、貴様は大馬鹿だ何の策もなしに一人で大群と対峙するとは…」

「ガッカリしたかしら?」

「少しはな、資料によれば理知的だというから私とはウマが合うかと思ったんだが…」

「そっちの資料はどうも古いようね、データベースの更新ぐらいしておきなさい。人形でしょ、貴方」

「口を慎め、小娘が」

鉄血人形が武器をAR15の額に押し付ける。根性焼きをするかのように銃口をグリグリさせると気が済んだのだが額から離した

「まぁいい、獲物を捕らえた後ゆっくりしてやるさ」

「獲物…M4A1のことかしら?」

「無論そうだ」

「あの子、確かに指揮モジュールを搭載していて他の人形とは一味も二味も違うけど鹵獲して解析にかけた所で貴方たちにメリットはないと思うけど?化け物みたいなスぺックをもった子じゃないもの」

「そんなことはどうだっていい、お前が知る必要なんかないんだからな。重要なのはお前という罠にAR15がかかってくれるかどうかだ。罠は罠らしく大人しくしてろ」

一流の狩人というものは黙って獲物を待つものさ、そう言い残して狩人は部屋から出て行った。

(“一流の狩人は黙って獲物を待つ”ねぇ、それじゃ私もそうさせてもらうかしら)

 

『…というわけで解偵察班からの報告がつい先ほど来た』

ホログラム越しにそうヘリアンがS09地区にいる人形に向かって語りだす、ようやく救出作戦に行けるということでSOPは特に目を輝かしてホログラムを見つめていた。

『この場所…ポイント09-319は元正規軍駐屯地というわけで規模が大きい、自前の工場があり更には輸送用の列車、および線路まで完備している。通信施設は観測できた限り5つある。これは約400体の鉄血人形が稼働するほどだ、出来ることならばこの基地から鉄血勢力の完全排除なわけだがここにもまたハイエンドモデルがいることが分かった。』

そう言ってヘリアンは一枚の写真をホログラムに貼り付ける、白髪のショートで手にはハンドガンタイプの銃を持っている

『こいつの名前は型式番号SP721、通称“ハンター”だ。まぁこいつがS09地区のラスボスといっても過言ではない。それ故に勢力範囲は幅広くとてもじゃないがお前たちの戦力だけでは勝てん。そこで今回の作戦にあたって貴殿ら以外の部隊が協力する。彼らと協力をしてハンターを倒し鉄血共を完全にS09地区から追い出せ。作戦概要は以上だ、詳しいことは少佐から聞くといい。それでは諸君らの健闘を祈る』

ホログラムが消えて、室内に明かりがともされる。それと共に素子が合図し人形全員を電脳空間へとダイブさせる

『さて、ヘリアンからあったように大まかな作戦はハイエンドモデルをぶっ潰す、ただそれだけのことだが…いかんせん数が多い。となればこちらも数の暴力で攻め立てたい所だがそうもいかないんでな、精鋭部隊で行かせてもらう。そういうわけで今から発表するメンバーはこの話が終わり次第15分以内にヘリポートに行くこと…』

第一小隊

・M4A1

・M4SOPMODⅡ

・Vector

・スコーピオン

・MDR

・スプリングフィールド

第二小隊

・G36

・ZasM21

・ステンmkⅡ

・イングラム

・9A-91

・WA2000

以上このメンバーが読み上げられた。素子は話を続ける

『既に気づいていると思うが、紹介しよう。第一小隊にいる二人…M4A1とSOPMODはここに加わる新たなメンバーだ、共に16LAB製でその強さは折り紙付きだ。指揮権限をペルシカからこちらに譲渡してもらったので今回加わってもらった。まぁ一つよろしく頼んだ。それでは解散』

電脳空間を閉鎖し、次々と人形達が作戦室を後にしていく中バトーがずかずかと入室してくる

「少佐よぉ、これから作戦に出るんだろう?俺も連れて行ってくれよ」

「お前を?」

「そうだ、俺は全身義体だぜ?そこにいる人形かそれ以上の働きが出来ると思うが」

「確かに…今回の作戦は一人で多い方がいいな…よし装備は」

「心配するな、自前のがある。メンテもしてあるしいつでも出れるぜ」

「よし…それじゃあ久しぶりのお前の活躍、期待しているぞ」

「へーへー。期待してください少佐殿」

そういってバトーは駆け足で退出していった。それに続いて素子もロッカーに向かい装備を整える。いつも通りセブロC-26aとセブロC-30と小型衛星を取出し防弾ジャケットを身につけてヘリポートへと向かった。待つこと10分、集合が終わり整列する、急遽バトーの参戦が決定し声にこそ出さないが他の人形はチラチラとバトーの方を見ている。ツーマンセルで組んだSOPだけは破顔して見ていたが…

「あぁ、そこの男はバトー、私の公安時代の同僚だ。」

「少佐の…?全身義体みたいだけど役に立つの?」

とWA2000が言う

「嬢ちゃん、言ってくれるじゃねぇか。俺はあの少佐の部下で一番頼りにされていた男だぜ?役に立たないわけないだろ」

「一番頼りにしてたかどうかは別として戦闘に関してはピカイチよ、荒仕事の多い9課の切り込み隊長的存在だったからな。安心したかWA?」

「えぇ、とても。」

「ならよし」

今度こそヘリに乗り込み2機が飛び立つ、ランディングゾーンまではおよそ20分だ。その間に共同部隊との連絡を取る

「こちら、S09地区指揮官。草薙素子、共同部隊である両指揮官、応答せよ」

「…っ!こちらS10地区指揮官、ギゾーニです」

「S08地区指揮官、李誠光。感度良好だ」

「両指揮官はこれより私の指揮のもとに指示に従ってほしい…SIFの設定を」

「「了解」」

「それとお二人方は電脳化手術を受けているか?」

「はい、一応は」

「無論です」

「了解、ではこれ以降の通信は電脳を介してのものとする。入室鍵は…」

20桁の番号を告げ、両名の電脳通信が可能になった。

『現在、基地周辺には哨戒している人形…ripperやvspid等が10体、そして砲台が設置してある塀に囲まれている厳重っぷりだ。砲台は各部隊に所属しているライフル人形に任せるとして、だ』

『哨戒している鉄血兵はライフル以外の人形で壊す、というわけですね』

『そうだ、ギゾーニ指揮官。だが問題はそのタイミングだ、砲台を壊すタイミング、そして鉄血兵共を殺すタイミング、それらが重要なんだ…』

『砲台を先に壊すと襲撃に気づかれてアウト、先に人形を壊すと射程圏内に入る前に砲台でおじゃん…つまりほぼ同タイミングでやる必要があるわけか。しかしそんなことは可能なのか?』

『それを可能にするのが私の仕事だ、うちの部隊から工作兵を出す。その工作兵が内部で動乱を起こし混乱状態を引き起こす、その隙に基地へ入る。と言う作戦でいく』

『なるほど』

『それで工作兵はどのような手段を用いて混乱を引き起こすんだ?』

『基地内に輸送用の列車がある、そして今から30分後にこの基地へ到着するようだ。その状況を生かして工作活動をする』

『鉄血の輸送用列車のダイヤなんてどこで把握したんだ?』

『ネットの世界は広大よ、電車好きの子が命がけでダイヤを作ってそれをネットに公表したのよ』

『流石鉄道オタク、いつの時代でも恐ろしい行動力があるもんですね』

『そういうわけだ、両指揮官は次の指示があるまで部隊を所定の位置へ展開して待機』

『『了解』』

と、通信を終えたころにはヘリはランディングゾーンに着陸しようとしていた。

第一、第二部隊共に着陸に成功しヘリを降り、集合していく。ランディングゾーンから基地までは約1kmの距離がある。出来るだけ早く、待機ポイントにたどり着くように走り出す。その間に素子はバトーから電脳通信を受けていた

『少佐、さっき言った工作兵ってなんだ?この中にはそんなことが出来る人形が居るのか?』

『何を言ってるんだ、工作兵というのはお前のことだぞ』

『お、俺かよ!?』

『そうだ、あんな場所に人形一人で忍び込ませることが出来るか』

『ひでぇ、俺の命は人形以下かよ?』

『あら、あなたなら出来ると思っているんだけれど?』

『ったく、調子いいぜ…わーったよ、で?俺は何をすればいいんだ?』

『基地内に侵入して線路に岩を置く、それだけでいい』

『それだけって…確かにそうすれば脱線して滅茶苦茶になるが…どうやって忍び込む』

そうバトーが尋ねると素子は頭に巻いているバンドを彼に渡す

『これは京レの隠れ蓑か…』

『それと貴方の“眼”があれば正面ゲートから突っ込めるでしょ?』

『簡単にいってくれるなぁ、まぁいい。久しぶりの荒仕事だやってやるぜ』

『ありがとう。それじゃあ頼んだ、報酬は弾んでやるからな』

『ビール3杯で頼む』

 



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Mission07.救助遂行中脱獄進行中~バトーが来りて列車がこける~

ど~も皆さん、大変お久しぶりです。恵美押勝です、リアルがクソ忙しくて執筆するand
投稿する暇がありませんでした。どうにかひと段落してつかの間の休息(明日まで)を得たのでどうにか仕上げました
それでは長話もアレなんで、本編をどうぞ。


作戦時間、残り25分

素子らと別れたバトーは単身敵基地正面ゲートへと赴くため、山道を下っていた。

「ビール三杯で敵基地に正面から侵入して工作活動を行う」そう豪語したはいいがそう言った自分のことをバトーは若干恨めしかった。『京レの隠れ蓑』…つまり光学迷彩を使うのは確かに有効ではあるが足音や足跡を消せるわけではない、鉄血人形は腐っても精密機器の塊である、そのような類の音や痕跡が発覚したら隠れ蓑など意味をなさなくなる。基地周辺には10体の人形が周回している、バトーでも分が悪いのは当然だがこの作戦は敵に発見されては元も子もないのだ。

(俺の体は少佐に比べると重いから神経を研ぎ澄まして歩かねぇとな…幸いなことに枯れ枝みたいな物がないみたいだが正面ゲートにたどり着いてどうするか、だ)

バトーは自らの眼で正面ゲートを確認する、鋼鉄製のそれは駐屯地ということもありその高さは容易に2mを超えていた。

(飛び越えることは不可能じゃないがその場合着地音でバレちまう。となればよじ登ってなるべく静かに着地…いやよじ登るためにはゲートにいる二体の人形の間に入らなくちゃならねぇ、リスキーすぎるぞこれは…少佐!)

正面ゲート以外にも進入口がないか見回すがコンクリートの壁しかなくどう足掻いても着地音無しに侵入することは不可能を意味していた。困り果てたバトーは素子に連絡を入れることにする

作戦時間残り20分

『こちらバトー、少佐、正面ゲートから侵入するのは無理だ。どう手段を使おうが着地した時の音でバレちまう。』

『誰がゲートを飛び越えろと命令した、それより今はゲートからどれぐらい離れているんだ?』

『約120mって所だが…』

『よし、あと3分以内にゲートに到着しろ。そうすれば開いてくれる』

『どういう事だ少佐?』

『説明は後回しだ。とにかくゲートまで向かえ!』

『…了解』

バトーは通信を切り慎重に走っていく。この辺り一面に枯れ枝や鳴子のようなアナログのトラップがないことは先ほどの偵察で判明した。あとは全神経を足に集中させて走るだけだ。

(しかしゲートが勝手に開くってはどういう事だ。少佐がハッキングでもしてくれるのか…?まさか、あのゲートは手動のみだぞ…だからあの2体の人形が開けなくてはいけないということだ…いや待てよ。つまり“開けなくてはいけない状況”、それが出来れば…)

そんなことを考えているとゲート手前に到着した。息を殺し伏せていると左側聴覚センサーがエンジン音が聞こえてきた。一般車両のような軽い音ではない、腹の底が震えるようなビリビリする重い音だ。山道をこんな音を立てながら進んでいくのは限られている

(輸送車両…トラックか?)

だがバトーは疑問を感じた、あの基地の中には輸送用の列車が存在しているのだ。そんなものが存在しているのにもかかわらずわざわざトラックを利用することが可笑しいのだ

だが、こんな場所を通りかかろうとするトラックがここと、鉄血と無関係であるとは思えない。バトーはこのトラックに賭けるしかなかった。時計を見ると素子と連絡を取ってから3分が経とうとしていた。

(もしや…)

そう考えているうちに眩い光が横から差し込んでくる。やはりあのエンジン音の正体はトラックであった、トラックは正面ゲート前で止まり人形達がそこに近づいてくる。しばらくしてから人形達はゲートを開いた。またと無い好機である、バトーは小走りをしてゲートを潜り抜ける。途中、人形の横を通ったがどうにかバレることなく元正規軍駐屯地への侵入をバトーは果たしたのである。入った途端、バトーは安堵の息を吐くのをグッとこらえ目標地点である輸送列車の線路へと向かう

作戦時間残り15分

ここの場所の地図は予めダウンロードをしておいたので迷うことなく辿り着ける。だが正面ゲートからは遠く、歩けば10分はかかる。そこで走るしかないのだがやはり神経を尖らせて走るしかないのだ。

(一難去ってまた一難とはこのことか?いや前門の虎後門の狼と言うべきか…)

基地内は多くの鉄血人形が巡回している、最悪バレても“眼”でどうにかなるのだが…

(これを使うときは最悪の事態なんだから出来るだけ使わないようにしてぇな…)

何とか線路にたどり着いたには作戦時間は残り10分を切っていた。バトーは急いで線路に置く石を探し始めた。だがここには車両を脱輪、横転させるようなサイズの石が存在していない。どうしたものかとプラットホームに上がり何か使えるものがないか左右に首を振り探し出す。と、そこで彼は赤く細長い箱型のような物体が見えた。

(こいつは…炭酸飲料の自販機か、洋モノのハイスクールドラマに出てきそうな代物だな)

なぜこのような物体が新造されたプラットホームに設置されたかは疑問に残る。だが、これはまたしても現れた好機であった。自販機の横幅は線路に挟まるような大きさであり厚さはそこまでは無い。倒して線路に置けば間違いなく気づくことなく接触し脱輪、横転するだろう。そうと決まればバトーの行動は早かった、300㎏はある自販機を軽々しく持ち上げプラットホーム数百メートルの位置まで持っていく。そっと地面に置き、倒したら準備は完了だ。腕時計を見ると作戦時間残り5分となっていた

(よし、早いことずらかるぞ…上手いこと行ってくれよ?)

プラットホームから離れて比較的安全が確保できる場所でバトーは素子に連絡を取る

『少佐、工作活動完了した。後…2分で列車が来る』

 

『了解、こちらもスタンバイ中…上手く出来そう?』

『あぁ、何とかな。お、来たぞ』

バトーは通信をつないだまま双眼鏡で列車を捉える。

『さぁ来い来い、いい子だからそのまますっ転べ…』

列車は順調に自販機を設置した箇所に速度を落とさず突っ込んでいった。

突っ込んでからは大惨事であった、最前列の車輌が前につんのめったかと思うとそのまま地面にくっつき紅葉おろしのように火花を散らしながら滑っていく、後続の車両はそれぞれ左側、右側へと蛇が地面を這うような形で倒れていく。

『少佐』

『あぁ、ここからも聞こえた。これから攻撃に移る。バトーは巻き込まれないよう現状の位置を待機しなさい。その座標だけは狙わないようにしてあげるから』

『へーへーご親切にどーも』

伏せていると突然背後から爆発音が響いた

(何だ?列車が爆発でもしたのか?)

バトーは一瞬そう思ったが現実は違っていた、双眼鏡で見えた列車はスクラップ当然になってるとは言え爆発したような炎や煙が上がっていなかったのだ

(…ということは基地の方からか?しかしグリフィンはロケットランチャーとかミサイルランチャーのような爆発性の武器を扱う人形はいないはずだ…)

こちらにとっては好機なことには間違いないのだがどうも引っかかる。

『少佐、今の爆発は!?』

『…分からない』

『何!?』

『こちらの攻撃により生じた爆発ではない、ということだ』

『それじゃ誰が…?』

『…もう一人の工作兵』

『そんなもの、いるわけが…いや待て。ありえない話だが一人だけ存在している』

『AR15…!捕虜である彼女が引き起こした…そう考えるべきなのだろう』

素子は双眼鏡を使い、爆発が起きた箇所を見ようとしたとき驚くものが目に入った。

それは敵である鉄血人形同士が同士討ちをしている光景だ、彼女が廃村で行った状況と酷似していたのだ。だが当然ながら彼女はそのようなことは行っていない

『AR15、これもお前がやったと言うのか…』

立ち昇る黒煙は開戦の狼煙のようであった。

 



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Mission07.救助遂行中脱獄進行中~ダイブ~

ど~も大変お久しぶりです、恵美押勝でございます。この一か月間免許を取るために教習所通いをしていまして、そのおかげで投稿が遅れてしまいました。どうにか落ち着いてきたんでこれからは通常通りのスパンで投稿出来そうです
さて、お知らせも済んだところで本編をどうぞ!


何だあれは、素子は突如として上がった黒煙を目に焼き付けながら思考する。やがてその正体が分かった所で彼女はバトーに待機させ突入と同時に合流するように命じた。

(AR15…彼女が脱獄し通信棟を占領したと言うのか、単身でこの短時間でこなすとは恐ろしい奴だな。流石はワンオフと言うべきか…)

そんなことを考えながら彼女は電脳通信を二人の指揮官に向けて開始した。

『こちら素子、これより突入を開始する。準備はいいか?』

『ちょっと待ってくれ』

『どうした李誠光指揮官?』

『敵が同士討ちをしている訳分からんタイミングで突入するのかよ?奴らの考えてることは分からんぜ?あれは捨て駒で俺たちをおびき寄せるためのトラップかもしれねぇ』

『…そいつは有り得ないですよ。もしあれがトラップなら俺たちの侵入がバレてるってことになる、仮にそうなら何故大軍を引き連れてこちらに来ないんです?』

『ギゾーニ指揮官と意見は同じだ、それに鉄血の思考回路は分からんが奴らはそんな非効率的な仕方はせんさ、それにこれが罠だとしても好機には変わりないんだ』

『…では突入で?』

『そうだ』

『『了解』』

素子は電脳通信をいったん切りチャンネルを自身の部隊に合わせる

『ご主人様!突入ですか!』

『そうだ、砲台は狙撃班がバトーが騒ぎを起こしてくれた間に全部ぶっ潰してくれた!遠慮せず正面から突っ込め!足を止めるなよ!』

素子がそう言い手を振りながら10体の人形は山道を滑るように下っていき正面ゲートに突っ立っている2体の鉄血兵に向かっていない鉛玉をぶち込んでいく。それに続く形で他部隊の人形も動き出す、真っ先にゲートに着いた素子は難なくゲートを蹴破り周囲を見渡す。周りには有象無象の鉄血兵が存在こそするが彼女には目もくれず仲間内で殺しあっている。警戒もへったくれもない状況であった

『各人形に通達、鉄血兵共は同士討ちをしているから警戒レベルは低くても構わないが流れ弾に当たらないように注意しろ、これ以降の指示は原則所属している指揮官に従え。』

そう言うと一度チャンネルを自身の部隊限定に合わせる

『バトーはゲート付近に集合、集合次第第一部隊は私と共にAR15の捜索に当たる。第二部隊は念のために通信棟の確認に迎え。ハンターに接触した場合は直ちに連絡を入れるように、以上だ。』

素子の部隊の人形が了解、とだけ返事をして動き出す、その間に素子は足元に転がっている

Ripperの残骸から電脳に侵入する。鉄血兵には攻勢防壁が仕掛けられているが素子レベル

には問題はない、素早く最深部に侵入し直前の命令プロトコルを確認する

(やはり書き換えられている…こんなことが可能なのはやはりAR15しかいないか…)

ダイブを終えて帰還するとバトーが彼女の後ろに立っていた

「今からそのAR15とか言う人形を捜索するんだろう?見当はついているのか?」

「おおよそはね。命令を書き換えられる状況にはいるんだから監獄みたいな場所にはもういないはず、しかしそれ程時間はたっていないのだからその近辺にいるかもしれない」

「先ずはそこを探すというわけか。そう簡単にいくといいんだが…」

バトーのぼやきを他所に素子らの部隊は進軍を始めた、しばらくし第二部隊と別れた時に

電脳に男の声が割り込んだ、ギゾーニ指揮官だ

『素子指揮官、敵基地内に多数のタロットが存在しています。この基地の防衛システムだと思われますがそちらでシステムを落とせないでしょうか?』

『それは構わないが何故我が部隊に?』

『えぇ、実はうちの人形が待機中に基地をスキャンした所そちらの近くに大量のデータ

フローが起きていることが分かったようなんです。現在、我が部隊は救助対象人形を

捜索中なのですが防衛システムで上手く進行出来ず…』

『了解した、ではこちらの部隊で対処させて頂く』

『よろしくお願いします』

ギゾーニとの通信を終えた素子は腕をLの字にし、停止を命じた

『M4A1とSOPMODⅡはポイント4-3に迎え。防衛システムのコンピューターがある

 恐らく地下だろうから入り口を見つけ出し制圧しろ』

『了解』

『了解です!!』

『その他は引き続きAR15の捜索に当たる』

二人と別れ、再び歩きながら素子はカリーナに連絡を入れる

『カリン、私だ』

『少佐、補給物資ドローンはあと数分後に到着いたしますわよ』

『ん、もう手配したのか』

『えぇ、そろそろ連絡が入るころだと思いましたから』

『気が利く後方幕僚だこと』

素子と別れたM4とSOPはポイントまで慎重に進んでいた。途中でタロットを発見したがSOPが所持している榴弾のおかげで彼女らに被害が及ぶことなく前進することが出来た

「ねぇM4、いくら同士討ちしてるからって敵基地のど真ん中をひたすら歩くのってつまらないよ。一発ぐらいどさくさに紛れて撃っても…」

「SOP…一応これから敵基地のコンピューターを制圧しに行くのよ?さっきのタロットはしょうがないけどなるべく発砲は避けなきゃ」

「分かったよ~」

「派手にぶっ放して『可能な限り避けた』なんて言うのはなしだからね」

「わ、分かってるってば…」

そう言いながらSOPは人差し指をトリガーからフレームに移した。思わずM4がため息をついた頃、目標ポイントに到着した

「ポイントにはついたけど何もないね、やっぱり少佐の言う通り地下にあるんだろうけど…」

「入り口…ここから下に行ける入り口は」

2人は電脳内で予め素子から転送された基地の地図を確認して入り口を探す。

『M4、ここから入れるんじゃない?』

そう言ってSOPはM4の電脳内に存在するマップに印をつける、そこはこの地点から数十m先にある非常用階段の出口であった

『成程、そこなら確かに地下とも通じているわね。それじゃあ行きましょう』

そこから直ぐに階段出口に到着しM4は念のため罠が仕掛けられてないか調べるが何もないことを確認し、階段を下りて行った

『SOP、確か貴方のそのヘッドギア、データの流れを感知してそれを視覚情報として貴方の視覚端子に伝えられるのよね?』

『うん、そうだよ』

『それじゃ、道案内は任せたわ』

『オッケー!それじゃ急いで下るよ!』

SOPとM4の階段を降りる音がズレたのが重なり合った頃、急にSOPが足の動きを止めた

『ここだ、ここから物凄いデータが見えるよ!このドアの向こう側で間違いない!』

『分かった、ここは慎重に開けるわ。私が先行する』

M4は重いドアを慎重に開け隙間から部屋を見渡す、何も見えないのを確認し今度は勢いよく開け銃口を左右に振る。

『どうやら、ここは誰もいないみたいね。SOP、入って来ていいわよ』

『凄いデータの量、ここは基地の指令室だったのかな。』

『にしては、コンピューターに埃がかぶっているわ、暫く使用されなかったのかしら』

と言いながらもM4はポートを見つけ出しコードを自身のうなじへと持っていき接続した

『ここから身体機能を物理的にカットするからSOPはカバーお願い』

『了解!遠慮なくダイブしちゃって!』

『…行くわ』

M4は眼を閉じて情報の海へと飛び込んだ。戦術人形には意識と呼べるマトリクスの塊はない、故に人間がアクセスするときに感じる意識がこの世ではない、暗闇に吸い込まれるよう感覚がしない、故にSOPは何故この行為を「ダイブ」と言うのか分からない。だがそんなことは気に掛けることもなくM4はダイブに成功し防衛システムと対面することが出来た。だが彼女の前に突如として粒子が舞い降りる、やがて粒子は一つの形を形成していく

(Ripper…ここの攻勢防壁ね)

意識というマトリクスを持たないが故にあらゆる情報を可視化出来る戦術人形にとって攻勢防壁も例外ではない。人間ならば単なる身を焼き尽くすような炎にしか感じない攻勢防壁も人形にかかればこのように実体を表すのだ

(この程度の攻勢防壁…舐められたものね)

数分後、最後のRipperが粒子に分解されM4は閉ざされた門の中に侵入する。これでこのコンピューターはM4の手に収められた

(あっけないものね、それとも私が少佐と同じくらい電子戦が得意なのかしら。なんて)

そんなことを思考しながらダイブを終えてM4は物理世界に帰還した

『お帰り、M4。その様子じゃ制圧できたみたいだね』

『うん、早く少佐に連絡しなくちゃ』

M4はチャンネルを素子に合わせる

『少佐、こちらM4。防衛システムのシャットダウンを確認』

『了解、M4とSOPは一度ポイント6-2に向かってくれ、そこを合流ポイントにする』

『了解』

一度通信を切りM4はSOPの方を見る

「SOP、ここを出ま,,,どうしたの?」

「あ、M4ここに変なのが書かれていてね」

「変なの?」

SOPは指令室の壁に書かれていた赤い文字を指を指した

「よく狩りをする者はよく獲物を見つける…」

「ハンターが書いたのかな?でもこんなの当たり前じゃない、何のために書く必要が」

「…私たちには関係ないわ。行きましょうSOP、少佐との合流に遅れちゃだめだわ」

「は~い」

SOPはM4に手を引かれる形で部屋を後にした。彼女の眼にはもうあの赤い言葉は映り込んでいなかった。

 



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Misiion07.救助遂行中脱獄進行中~狩人~

ど~も恵美押勝です。ようやく免許取れそうでほっとしています。ストレスの元凶である教習所と二度と関わらないと思うと清々します。
さて、長話もアレなんで本編をどうぞ


ハンターと呼ばれた人形は実に冷静で寡黙な人形であった。常に2手、3手先を読んで狩りに挑み獲物をしとめる。狩人と呼ばれるにふさわしい人形である。だからこそこの状況はまずい、イレギュラー、それも自身のAIが考えるありとあらゆる“IF”に最初から存在してなかったようなそんな状況は…

「…どうなっている、何故いきなり同士討ちを始めた」

彼女は自身の電脳とサブコンピューターを接続し膨大なデータログを閲覧する。そこには確かに命令の書き換えが存在していた、だが可笑しい

「メインコンピューターや通信棟から発信されていない…つまり私のように電脳内で命令を出せるようなことでもしない限りこの状況はありえん、だが何故だ。ハイエンドモデルである私よりも強い命令権限を持っている人形が居るとでもいうのか、バカな…」

彼女はこの問題を優先的に解決しようとした、命令が書き換えられているのであればこちらも書き換えてしまえばいい話である。そう思考し行動しようとしたその時、データログが更新された

「今度はなんだ…っ!防衛システムがシャットダウンされられただと」

彼女は優先すべき行動を書き換えから再起動に移行させた、再起動であれば短時間で終わるからだ。しかし現実は思惑通りに行かない、防衛システムが彼女のアクセスを拒んだのだ。

「防衛システムが私ではない誰かの手に渡ったのか…!」

彼女がもし汗を流すことが出来たのであれば一滴が彼女の首元を滴っていただろう。イレギュラーに次ぐイレギュラーに彼女の電脳内のデータはほんの僅かではあるが乱れが生じていた。

冷静で寡黙と言うのは戦場において最も求められる性格である、だがそう言った性格は虚を突かれると崩落する諸刃の剣なのだ(と言っても戦場でこのような状況になることは稀有なことなのだが…)

(ここに居て命令権限を書き換えている間にも奴らが迫ってきているかもしれない、ならば)

彼女は接続を解除して物理的世界に帰還すると太ももに装着されているホルスターから得物を取出し走り出した

(ならば、この私が、狩人をもって劣等人形共を皆殺しにするまで…!)

『何?ハンターが動き出しただと。詳しい説明を頼む李指揮官』

『あぁ、先行していたダミー人形の部隊が突如としてオフラインになったっていう人形からの報告が相次いでいる。この短時間の間に大量の人形を殺せるなんてハイエンドしかいない。悪いがこちらは救助対象を探している場合じゃない、あんたの部隊も警戒させた方がいいぜ』

『…了解した』

AR15を救助しようと監獄付近に進行していた最中、素子は緊急連絡として先ほどの通信を受け取った。だが幸か不幸か彼女らのいる場所には発砲音がせず、他の鉄血兵も見当たらなかった。だが、通信棟の調査に行かせた第二部隊はどうだろうか、李指揮官のような連絡は来てないが…

(嫌な予感がする、確か李誠光の部隊が展開している場所第二部隊はそう遠くない…)

そう思い、彼女は第二部隊へ通信を行う

『第二部隊、そちらの状況は?』

『ご主人様、今そちらへ連絡を入れるところでした。第二部隊は現在、ハンターと戦闘中にあります』

『戦闘中とは言っても一方的ですよ、対処の仕様がない』

『どういう事だイングラム』

『敵の動きが素早いだけでなくこの場所の特性を生かしてすぐ何処かに隠れてしまうんですよ』

『おかげでこっちは照準を合わせるだけで精一杯ね、WAなんて今頃目を回してるんじゃないかしら』

『Zasったら失礼ね!回してないわよ!…でも早すぎてとても狙えないわ!』

『ご主人様』

『あぁ、一度そっちに合流する。何とか持ちこたえられそうか』

『持ちこたえてみせますとも、ご主人様』

『よし。頼んだぞG36』

通信を切ったタイミングで防衛システムの制圧に成功したM4達が合流した

「只今戻りました」

「よし、これから第一部隊は第二部隊の援護に当たる。ハイエンドモデルであるハンターとの戦闘だ。気を抜くなよ」

「素子、ハンターが出たってことは鉄血兵共の命令が再書き換えがされてるかもしれん。大物を釣るのに夢中になって雑魚に掬われるなよ」

「そんなヘマをする奴はここにはいないわ…貴方もそうでしょ?」

「無論だ」

「しかし少佐とバトーさんって仲がいいねぇ付き合っていたりとか?」

「任務中だぞMDR、減給だぞ」

「えぇ!勘弁してよ少佐!これ以上減らされると通信費が…」

「んなこと言ってる場合じゃないでしょ…全く緊張感ってのがないのかしら」

あーだこーだと言いつつ、進みながらRipperやVspidらを破壊していき一同は第二部隊が戦闘しているポイントにたどり着いた。一同はブロック塀に身を隠しながら戦闘していた。素子らも素早くブロック塀に寄って顔をのぞかせた。垣間見るにハンターの攻撃というよりも完全に元の状態に戻った鉄血兵の物量に苦戦しているという感じであった

「待たせたな」

「貴方はバトーさん…それに少佐」

「被害報告は出来るか?」

「私のダミーは残り一体…それ以外の人形のダミー人形は全滅。ステンと9A-91とイングラムは中破。本体が無傷なのは私とZasだけです」

「了解…SOP!」

「何ですか!」

「敵の数が多い、カウントした後榴弾をぶっ放せ。他の人形は暗視ゴーグルを着用しろ」

「了解!」

そう言うとSOPは意気揚々と榴弾を込めた

「よし、終わったな…3,2,1…撃て」

「ドーン!!」

榴弾が敵部隊に直撃し多くの鉄血兵が破壊される。そして周囲には煙が立ち込めた、第一、第二部隊と共にありったけの弾丸を敵部隊に撃ち込んでいく。敵が暗視モードに変えるまでの一瞬の隙とはいえ最大のチャンスである。着実に敵の戦力を減らしつつあった。だがその時、突如としてG36(ダミー)の頭が爆ぜた。

「っ!この状況でヘッドショット…!?そんな高等技術を出来るのは…」

『間違いない、ハンターが来たぞ』

『しかし、やはり照準を合わせられませんご主人様。恐らく後方にある建物の間を縫うように移動しているのかもしれません』

『…バトー、奴の姿は見えた?』

『おう、一瞬だが見えたぜ。グラマラスな白髪の姉ちゃんがな』

『どうだ』

『もう少しだけ凝視したかったな…』

『馬鹿』

『…やることはやったぞ。大変だったがな。後はあいつが賢くないことを祈るさ』

『全狙撃部隊に次ぐ、ポイント8-Aに照準を合わせろ』

『そこって、何もない場所じゃないの。少佐が奴を誘導するっていうの?』

『私が誘導するんじゃない、奴が自らくるんだ』

『他の部隊は建物と建物の間に向かって撃て、但し8-Aだけは避けろ』

『それじゃ当たるかどうか分かりませんよ』

『構わん、撃て』

それぞれの人形が撃ち続けるが目標などおらずいたずらに弾を消費していくばかりに思えたその時

『こちらスプリングフィールド、目標ポイントにハンターが現れました。』

『…余裕ぶっこいてしゃがんでいるけどアイツ分かってるのかしら。そこは遮蔽物も何も

ないキルゾーンなのよ。アイツの電脳がいかれたのかしら』

『…何せよ好都合です、少佐』

『あぁ、撃て』

命令と共に狙撃部隊が発砲し大量の弾丸がハンターの体を貫き、引き裂く。瞬く間に彼女は四肢を失いダルマのように地面に転がり込んだ

『…敵ハイエンドモデル、完全に戦力を喪失しました』

『了解した』

簡単に電脳通信を済ますと素子は立ち上がりハンターの元へ歩み寄る。哀れな狩人は苦虫を嚙み潰したような顔で素子を見上げるしかできなかった

「バカな、私は建物の間に隠れたはず…!貴様らの部隊、スナイパーの視覚に入っていたはずだ」

「お前は入ったつもりかもしれないが、現実は違ったんだよ」

「何…?バカな、視覚端子には何も異常がないはず…!」

「お前の視覚端子は正常だよ、だが電脳がダメだった」

「バトー…」

「悪いな、お前の目を盗ませてもらった」

「…ハイエンドの電脳をハッキングしたというのか。たがが人間が…だと!?」

「こういうことには隣にいる女より慣れてるんだよ。お前は隠れてなんてなかった、だがなちゃんと電脳内でマップと自分のいる位置を正確に把握していたらこんなことにはならなかったんだ。地図を読まねぇハンターはハンターじゃねぇよ…」

「…殺せ、最早この“個体”に存在意義はない。」

「敵の手に落ちるぐらいなら名誉ある死を選ぶってか?人形のくせに人間みたいなこと言いやがって…どうする、少佐」

「はいそうですか、って言って脳天をぶち抜いてあげるほど私は優しくないのよ。持ち帰るぞ」

『…っ!』

直後ハンターの頭部が激しく揺れ項垂れた。

「あっ!」

バトーは大声を出してハンターのうなじを見た。そこを見ると白い肌にUの字に黒い線が引かれていた。

「自分で自分の脳を焼き切ったのか…こいつ本気で自殺しやがったぞ。信じられねぇ人形が自死を選ぶなんざ…」

「…スケアクロウと言い鉄血兵は自死を厭わないのか…?考えても仕方がない、本来の目的通りAR15の捜索に当たる」

ハンターが破壊されたことによりこの基地にいる全ての鉄血兵が機能停止した。それは実質的にグリフィンがこの基地を制圧したことを意味する。残った人形で捜索すること1時間弱、ようやくAR15が発見された。

「…M4,SOP、無事でよかった」

「AR15…貴方こそ」

「あのハイエンドに酷いことされなかった?」

「えぇ、銃口で額を押し付けられた以外はされなかったわ」

「…一応、後でペルシカさんに見てもらいましょ。あれ、AR15貴方いつの間に自分の銃を?」

「あの人形、狩りの事で頭がいっぱいみたいでね。監獄にある机の上に放りっぱなしにしといてあったのよ。私が抜け出すことなんて予測してなかったみたいね。ともかくこれで残るメンバーはM16だけね」

「えぇ、そうね。姉さん…M16姉さん待っててください。もう少しで助けに行きますから」

M4は迎えのヘリが起こす風に髪をなびかせながら誰にも聞こえないような小声で呟くのであった

 



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Mission08.コーヒーブレイク~狩人の鎮魂歌~

ど~も恵美押勝です。最近またハガレンにハマってます、しかし見てていつも思うんですがアルフォンスってやっぱりイングラムの方から来てるんですかね?
まぁそんな話は置いておいて、本編をどうぞ!


迎えのヘリに乗りSOPは暇を持て余していた。というのもいつも話し相手になってくれているM4は疲労と安堵からか寝てしまいAR15も暫く黄昏たい、とのことで一人窓を見つめており素子も今回一緒に戦った指揮官への連絡などをして忙しそうだった。詰まる所彼女の暇、退屈さを癒してくれる手段が何もなかったのだ

(…私も寝よっかな~だけどそんなに疲れてないんだよね)

寧ろあまり暴れることが出来なかったので消化不良を感じていた

「しかし狩人が狩人の基本を忘れるとはねぇ…“よく狩りをする者はよく獲物を見つける”とはよく言ったもんだ」

と、隣にいたバトーが独り言を言っているのが耳に入った。普段なら他人の独り言など意に介さないが今回はこの発言に既視感を感じたからだ

「ねぇバトーさん」

「どうした嬢ちゃん」

「“よく狩りをするものは…なんとか”ってどういう意味?」

「ん?18世紀にフランスにいた画家の言葉さ。狩りをするものは獲物を見つける…当たり前のことだが狩りが上手い奴は獲物を見つけるのも得意なんだ。だが何故当たり前か分かるか?」

「…狩人だから?」

「そうだ、自分自身が狩人だと自覚しているからだ。スポーツ、ピアノ、争い…何に関してもそれが上手い奴は自覚をしている、能動的に動く。ひと昔の言い方をするなら『心技体が揃ってる』っていう奴だな」

「心技体かぁ、でも鉄血には心なんてないもんね。心って人間だけが持てるものなんでしょ?」

「…そうだな、だからこそ心がねぇ奴は揃わない、自覚できない、だからヘマをする。アイツはそうだったのさ。嬢ちゃん、嬢ちゃんに心があるかどうかなんて事は分からん。ないかもしれない、だが自分が何者なのか、そのことを自覚しろよ」

「何言ってんのバトーさん、私はグリフィンの人形で鉄血から人を守る存在、それ以上でも以下でもないでしょ」

「…嬢ちゃんは賢いな」

「えへへ、そうでしょ」

そう笑うとバトーは犬の頭を撫でるかのようにSOPの頭を撫でた。

ヘリはようやくS09地区戦線基地へと着陸しようとしていた。

S10地区戦線基地

『…私が得た情報は以上だ。私と案山子と処刑人が得た情報はすべてそちらにアップロードした』

『つまり第三セーフハウスで得た情報は未だM16が握っているというわけだ』

『えらくのんびりしているところ見ると、グリフィンはまだあのデータの価値が分からないようね』

『“傘”計画にせよ、“遺跡”に関する調査にせよ退屈な任務はもう終わりだ、私は狩りに戻らせてもらうぞ』

『また狩りだの野蛮なことを…私の部下はこんな奴しかいないのかしら』

『隠居生活を送る奴には分からんさ』

『だから貴方は捨て駒なままなのよ。…わたくしの部下になって後悔してるのかしら?』

『死んであんたとおさらば出来るなら本望さ』

『ほう、データを握っているわたくしがそう簡単に許すとも?“復活の呪文”ならいくらでも使えるのですよ?…それでも今回は使いませんわ。わたくしの役目は貴方方の最後の花道を飾ることですから…』

音声がここで途切れ、コンピューターの前で一人の男が呆然とする。S10地区指揮官、ギゾーニ指揮官だ。

「なんだこれ…?」

「7時間に渡って鉄血の強化防衛部隊と交戦した際に入手したお土産ですよ。…指揮官からは簡単な任務だと聞いてたんですがね」

「悪かったって…埋め合わせはするからさ。しかし何だって鉄血の人形はこう性格が俺がガキの頃に読んだ漫画みたいな感じなんだ…喋り方なんて特になぁ」

「AIだけは日本製なんじゃないんですか。知りませんけど」

「お前なぁ俺が日本出身だってことを知って言ってるのか?」

「えぇ」

「可愛げのない人形だよ、お前って奴は」

「誉め言葉として受け取っておきます。それで指揮官、このデータどうします?」

「こんな重大な情報、勝手に処分するわけにはいかないだろうし…」

ギゾーニは暫く目をつむり腕を組み考えて、再び目を見開いた

「なぁ、Thunder。もし退職させられた職場の上司に再就職先で再会するときって何が必要だと思う」

「それ、人形である私に聞きます?ややこしい関係なんてのは人間だけの特権ですよ。

…まぁ、手土産の一つでも持っていけばいいんじゃないですかね?」

「ま、そうだよな…とは言え、あの人が好きそうなものなんて思いつかないぞ」

「“気持ち”がこもってたら何でもいいんじゃないですか」

「お前絶対そんなこと思ってないだろ」

「“気持ち”って概念、私には分かりませんからね。それじゃ私はこの辺で失礼します。銃の整備をしたいので」

「分かった。ご苦労さん」

Thunderが指令室から出るのを確認してギゾーニは卓上に置いてある写真立てに手を伸ばして掴んだ。(言うまでもないがデータ化が進んだこの時代に写真立てというのは骨董品級の代物である)。写真には女性と子供が写っている

(なぁ、俺はどうしてもあそこから離れることが出来ないらしい。運命なんてのはあまり信じたくないがこうまでなると信じたくなっちまうな…)

そう考えているとノックの音が聞こえた。どうぞ、と呟き急いで写真を伏せる。

「ん、Thunderじゃないか。どうしたんだ?」

「データの他に渡すものがあったのを忘れていたわ」

上着のポケットからThunderは銃を取り出し机に置いた

「はい、指揮官の銃…M2007の修理が終わったわよ。ずっと昔に倒産したメーカーのだから部品集めるのから面倒だった、って整備班がぼやいていたわ」

「その分、あいつらの給料は増やしてやったさ」

「随分と変わった銃を使うのね、指揮官って」

「お前ほどじゃないさ…」

S09地区戦線基地指令室

作戦を終え、夜が明けた。傷ついた人形を修復し、作戦報告書などを書き終わり少し仮眠を取ったらもう朝だ。大掛かりな任務を終えたのだ、一日ぐらい休んだって罰は当たらない、そう思いたいが悲しいことに休みたくても休めない、無情にも卓上の電話が鳴る

「はいこちらS09地区戦線基地指令室…」

「少佐か」

「あらヘリアン、モーニングコールなら間に合ってるわよ」

「その様子じゃあまり寝れなかったようだな。それじゃ目を覚ましてやろう」

「…どんな素晴らしい仕事をくれるのかしら」

「明日、グリフィンからS09地区に向けて調査部隊を派遣することになった。部隊の進行ルートは鉄血の占領地域を通過する予定だ」

「つまり護衛しろと?」

「そういうことになる。少佐はS09地区なら我々以上に熟知しているからな…」

「それはいいけど何でウチのシマに来るわけ?」

「どうもS09地区は鉄血に関する機密ファイルが存在するらしくてな。それでだ」

「…成程、それで調査部隊の編成は?それが分らなきゃどうしようもないわよ」

「…伝えたいのはやまやまだがこの調査部隊は極秘中の極秘なんだ。下手をすればAR小隊よりも」

「それでどうやって仕事をしろってのよ」

「進行ルートはあらかじめ伝えておく、これで頑張ってもらうしかないな」

「機密機密と無茶な指示、職場は変われど変わらず。か」

「そうぼやくな、これが終わったら上に休暇を掛け合ってやるさ」

「期待しないで待っておくわ…それじゃ」

電話を切りため息をつくとノックの音が聞こえた。

「おっはようございます!!少佐!!」

返事をするまでもなくわれらが後方幕僚カリーナが入ってきた

「相変わらず元気ね」

「まぁそれが若さの取柄って奴ですから。あれ、バトーさんは?」

「知らない。まだ寝てるんじゃない?貴方、アイツに用があるの?」

「えぇ、まぁ。昨日一応ハンターを入手したじゃないですか」

「電脳が完全に焼けててデータ解析なんて夢のまた夢みたいな状態だけどね」

「でも一応、奴が持ってる武器は無傷じゃないですか?だから一丁くれないかって頼まれたんですよ」

「…アイツ」

「まぁ、使用している武器は38口径プラズマガンだから戦いが好きなあの人の気持ちも分かるんですが…なにせ鉄血が使用した武器なわけじゃないですか?一応色々確認する必要があるんですよ」

「私がスケアクロウの衛星を使うときもウイルスの有無を確認したもんな」

「それで、安全だということが分ってそれをお伝えしようと思ったんですけど…」

「分かった、伝えておくわ」

「ありがとうございます。それじゃ私は仕事に…」

その時、再び机の上にあった電話が鳴った

「はい、こちらS09地区戦線基地指令室。あ、ハイ…少々待ってください」

「どうした?」

「少佐にお客様です。S10地区のギゾーニ指揮官」

「ギゾーニ指揮官?何の用だ…分かった、通してくれ」

「了解です」

数分後、ノックの音が聞こえ扉が開かれた

「ギゾーニ指揮官、一日ぶりじゃないか。どうしたんだ…」

素子はギゾーニの顔を見ると表情を変えず凍り付いた

「どうも…お久しぶりです、少佐」

「お前、生きていたのか…“トグサ”…」

 



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Mission08.コーヒーブレイク~一杯のかけそば~

ど~も恵美押勝です。免許取得や大学の課題、イベント周回とより取り見取りの行事により投稿が遅れてしまいました。
Twitterの方でも言いましたが500も勲章を集まるとは骨が折れそうです、どうにかイベントも遂行しつつリアルの方も上手いこと事が運べばいいんですけどね...
自分語りもあれなんで、本編をどうぞ


「トグサ…お前生きていたのか」

「何十年ぶりでしょうかね…お久しぶりです本当に。」

「お前、すこし老けたな」

「そりゃまぁ、少佐のように全身義体化ってわけじゃないですから」

「あ、あの~少佐こちらの方は?」

カリーナは薄々目の前にいる男と少佐との関係は気づいていたが聞かずにはいられなかった、若さという好奇心の塊が彼女の背中を押した。

「あぁ、こいつは私の元部下でトグサって言うんだ」

「どうも初めまして、えーと…」

「カリーナですわ、トグサさん」

「あぁ、君がカリーナさんか。お噂はかねがね」

「有名人なのか?カリンは」

「まぁグリフィンの中じゃそこそこ知られてますよ“金の亡者”“産湯を金で済ませた女”とか」

「酷い言われようですわ…」

「それでトグサ、いきなりお前が私のもとに来たのも驚きだが…どうしてお前が指揮官を?」

「まぁ色々とありましてね、元公安なんて肩書で生きていられるのはこう言う職業だけってことですよ…思い出話に花を咲かせたいのはやまやまですが少佐に一つお土産がありまして」

「お土産?」

「えぇ、これなんですが…」

トグサがそう言ってポケットに手を伸ばした時、卓上の電話がなった。すまない、と一言いい素子が電話に出る

「こちらS09地区戦線基地指令室…ヘリアンか、どうしたんだ?なにハンター?そっちで急に必要になったから今すぐ持っていけと?…了解、今から出るから1時間はかかるぞ。それじゃ」

電話を切り素子はバツが悪そうな顔でトグサの方を向いた

「すまないトグサ、今から出なくてはいけなくなった」

「ヘリアンってウチの上官でしょ?上官の命令じゃしょうがないっすよ。しかし少佐そんな人とパイプがあるんですか」

「まぁな、じゃあすまないが行ってくる。トグサ、機会があれば食事でもしながらゆっくり話そう」

「その前に戦場でお会いするかもしれませんよ?」

「なら好都合だ、食費が浮く。それとカリン、放送で奴を司令室に呼び出してくれ」

「了解です」

「奴って?」

「すぐ分かるさ、それじゃよろしく頼んだぞ」 

こうしてトグサは一人残され広い室内に待たされる、しばらくしてドアが開かれて懐かしい声が聞こえる

「おい、素子。なんだ用って…お前」

「バトー…お前もここに」

「トグサ、お前いつの間にグリフィンの人間になっていたのか」

「いやまぁそうなんだが、そういうお前もグリフィンの…」

「いや、俺は違うんだ…いやまぁ安い報酬で協力してるからある意味じゃグリフィンの人間なのかねぇ」

「旦那も生きていて良かったよ」

「とか言って、俺が死んでいるなんて思いもしなかっただろ」

「まぁな、あんたと少佐が死ぬなんてことは天地がひっくり返ってもありえねぇよ」

「どうだ、再開を祝して一杯」

「おいおいお互い勤務中だろ?」

「じゃあ飯食べるか、食ってないんだろ?」

「まぁな、ちょうど昼時か…食堂にでも行くか?」

「いや、食堂もいいがいいところがある」

「いいところ?」

「ついてくれば分かるさ」

「…コロッケそば一つ」

「かけ、熱いところを頼む」

へい、と一言だけ言い老人が動く

『…S09地区戦線基地から1kmほど離れた地点にまさか立ち食いそばがあるなんてな…いや本当なんでこんなところにあるんだよ日本じゃないだろここ』

『寒いところがあれば人は温かさを求める、寒いのと飢えが合わさると人間死にたくなる』

『…それがこんなところに立ち食いそばがある理由?答えになってないと思うけど…』

『トグサ、細かいことを気にしてはいけない…おっとすまねぇネギ抜きで頼む』

バトーの注文に老人はへい、と短く答えるだけだったが心なしか声が上ずっているようにトグサは聞こえた

と思ったところで注文した品物がカウンターに置かれる、二人はそれを手に取りバトーはこれでもかというぐらいの七味を振りかける

「「いただきます」」

トグサはまず汁をすする、ちょうど冷えてきたこの季節に熱い汁はありがたい。味も日本で食べたときと変わっていなかった

『しかしトグサ、立ち食いそばまで来てコロッケそばとは無粋なことをするもんだな。まだ若いか』

『旦那はシンプルなかけそば至上主義者か?だがコロッケそばは立ち食いそばの歴史の中じゃ黎明期からある伝統的な食べ物だぞ、無粋もないと思うんだが…旦那の電脳は硬いな』

『よせよ縁起でもない、そりゃおめぇ最後に見てもらったのは数年前だけどよ』

『というかそんな話をしにここに来たわけじゃないだろ?』

『あぁそうだ、トグサ。お前なんでグリフィンに居る』

『…日本国が北海道を除いて全滅して公安9課も解散したのは旦那も知ってるだろ?嫁と子供を引き連れて命辛々亡命してきたはいいが食い扶持がな…』

『こんな世界じゃ警察なんて組織はないから刑事としてのキャリアはいかせないし全身義体化してるわけじゃないから傭兵や軍人にもなれない…』

『あっという間に金は無くなり日雇いしていったがそれで家族を養えるわけがない。そんな中だったなグリフィンの求人を見たのは』

『それで応募して無事指揮官になれたと』

『それが大体5年位前の話だな…ようやく板についてきたってころだと思うよ』

『女房と子供は?元気にしてるのか?』

『元気にしてるよ、もっとも今は離婚してるから毎日会えるわけじゃないけどな』

『離婚?』

『あぁPMCとは言え戦に関わるんだ、家族がいたんじゃそれを人質にされて家族にも自分にもグリフィンにも不利益を被ることになるかもしれない。9課の時よりもやばいのに関わるんだ。家族は巻き込みたくない』

『相変わらず優男でやんの』

『バトーは?』

『まぁ傭兵とか賞金稼ぎとかやって今に至るわけさ』

『傭兵?賞金稼ぎ?傭兵はまだ分かるが賞金稼ぎってなんだよ』

『こんな末法の世の中じゃ軍はもちろんPMCでも拾えない量の事件が起きる。当然事件が起きてまともに取り扱うところもいない、そこで賞金稼ぎが居るわけだ。金と引き換えに依頼主の望みをかなえる。世の中の掃除も出来て俺の懐も温まる。中々いい仕事だぜ?』

そう言い終わる頃には二人の器は空っぽになっていた。席を立ちあがり暖簾をくぐる、体の中は暖かいが皮膚を木枯らしがくすぐる

「少佐もアンタも無事でよかった…それが知れただけでも俺は嬉しいよ。それじゃ残りの仕事もあるし帰るわ、旦那。傷だらけの副官に毒吐かれちまう」

「おう、頑張れよ。今度休暇取れたらこっちに来いよ、少佐と一杯やろうぜ」

「あんまり期待しないで楽しみにしておくよ…なんせここ9課以上にブラックだからな」

二人は互いに背を向き合い自分たちの帰る場所へと戻っていく。と、数歩歩いたところでトグサが待ってくれ、と叫ぶ

「どうした」

「いや、旦那が少佐と一緒に居るって分かったからこいつを渡そうと思って」

そういってトグサはポケットからUSBメモリを取り出す。

「これは?」

「少佐に渡す予定だったデータ、中には音声ファイルが入ってるんだけど興味深いのが入っていてな、少佐によろしく言っといてくれよ。絶対に食いつくはずだから。」

「分かった、渡しておこう」

「それじゃ今度こそお別れだな」

「あぁ、じゃあな…」

再び歩き出したトグサの体にまた木枯らしが体を撫でる、七味をかければ良かっただろうか

「でもあんな真っ赤になるまでかけるのはそれはそれで無粋だよな」

そう思いながら帰路に就くのであった

 



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Mission09.闇夜に踊る影~ギブアンドテイク~

ど~もどもども、恵美押勝でございます。皆様、大変ご無沙汰です。課題に追われ、サークルの活動に追われ、気がつけば数か月以上も皆様を待たせてしまいました。
本当、お待たせしてしまい申し訳ございません、長話もアレなんで本編をどうぞ!


トグサと別れた素子は車のトランクにハンターの残骸を詰めた袋を入れてヘリアンが待つグリフィン本社ビルへと走らせていた。

(それにしてもトグサが同じ会社で働いているとはな…奴の事だから生きて何らかの仕事に就いているとは思っていたが)

グリフィンの会社は何も全員が指揮官を勤めているわけではない。様々な仕事がありそれを担当する役職がある。中でも指揮官職は高給取りではあるがその職業柄狭き門である、知能も求められるが身体面も求められる。故に義体化を行っている人間が有利になるのだが…

(そんな中でも義体化をしていないトグサが指揮官をしているとは…まぁ伊達に9課に所属していたわけではないが何が起こるか分からないものだ)

そんなことを考えているとビルが見えてきた、IDカードを通して駐車場に車を駐車する。

袋を抱えてビルに入り受付を済ますと「敵性人形保管庫」へと向かうように支持された。

敵性人形保管庫はその名前の通り人類に対して攻撃を行った人形がグリフィンの行動により破壊された場合、特に重要とされている人形が保管されている部屋である。入り口前にいる警備員にIDカードを見せ、中に入るとヘリアンがいた。

「頼まれた物、持ってきたわよ」

「ありがとう、ハイエンドの残骸は鉄血の現在の技術力や火器の性能やデータが沢山詰まっている宝物庫だからな」

「データのサルベージは期待しない方がいいわよ。こいつ、自分で脳を焼いたから」

「まぁ何かしらは残っているかもしれないからな、今はとにかく情報が欲しい」

「それはともかく、例の護衛任務だけど…」

「調査部隊について具体的なことは教えられんぞ」

「分かっているが人数ぐらいは教えてくれたっていいでしょ?数十人規模、数百人規模とかなら編成を見直さなければならないし。こっちも資材とかお金がカツカツでね、無駄な出費は押さえておきたいのよ」

「…分かった、この調査部隊の人数は4人だ」

「4人?」

「そうだ、それ以上は教えられん。すまない…無茶な作戦を引き受けることになるがやってくれるか?」

「今更断れないだろ?それだけ信頼されているってことなんだ。信頼にこたえられるように頑張るまでさ」

「すまないが、よろしく頼む」

「それじゃ、私はこれで失礼する。帰って編成を組まないといけないからな」

と帰ろうとドアに出る前に素子は思い出したかのように彼女の耳に顔を近づける

「ヘリアン、貴方はその部隊との接触を許可されているの?」

「…許可されている」

「それじゃ、一つ頼み事をしていいかしら?」

素子はいつもの仕返しと言わんばかりの笑みを浮かべてヘリアンに一つの依頼をする。

「じゃ、夜までに頼むわね」

「随分な無茶を言うなお前は…」

「あら、普段無茶な作戦ばかり頼まれているのよ?これぐらいはおあいこ、ってことで許してくれていいんじゃない?」

してやったり、としたり顔で素子は部屋を後にして車を走らせる。帰り道はヘリアンの苦虫を嚙み潰したような顔を思い出し、時々くすり、と笑いながら帰ったという

 

基地へと帰り司令室に入るとカリーナがコーヒーを用意してくれていた。

「少佐、お疲れ様でした。どうです?一杯?」

「酒を誘うような言い方でコーヒーを勧めるな、まぁ貰うが…バトーは?」

「トグサさんと一緒に昼ご飯食べに行きましたわよ」

「それじゃ食堂に?」

「いえ、外出届を提出されているので外で食べに行っているのかと」

「そうか…」

「コーヒー、砂糖とか入れます?」

「いらな…いや、今日は砂糖一つ入れてくれ。ちょっと考え事したんで糖分が欲しくなった」

「分かりました…はい、どうぞ」

暖かいコーヒーを口に含むと、じんわりとした甘さが下に広がった

「さてどうしたものか…」

「例の、調査部隊の護衛任務の件ですか?」

「情報が少なすぎてな、貧乏くじを引いた気分だわ」

「んー、調査部隊ってそもそも人間なのか人形なのかどっちなんでしょうね?」

「グリフィンから派遣している部隊だから人形だろうな、となるとAR小隊のようなワンオフの人形だけで構成されているんだろう」

「人形なら万一破壊されても回収してデータも回収できますしね、そういうのにはうってつけなんでしょう」

「編成をどうするかだな、機動力が高い人形で固めるのがマストであるとは思うが」

「となると今回、春さんとかWAさんの出番はなさそうですわね…まぁそこから先は私がとやかく口を挟めることではないのでここで私は失礼いたしますわ。またご入用の際は是非是非~」

嵐のようにカリーナが去っていき司令室には静寂が戻った。そして椅子に座り暫く考え込みそして一つの考えに至り放送で10人の人形をブリーフィングルームに来るように指示した。

ブリーフィングルームに集まったのは以下の人形であり、素子はこのように編成すると指示した…

第一部隊

・M4A1

・グリズリー

・AR15

・G36

・イングラム

第二部隊

・M4SOPMODⅡ

・ZasM21

・MDR

・トカレフ

・スコーピオン

集まった人形達を前に、素子はブリーフィングを行う

「今回の作戦は簡単に言えば護衛任務だ、特殊部隊がこの地区にやってきて作戦を行う。作戦時間はその部隊までの撤退までだな」

「部隊のエスコートとかお見送りとかはしなくていいの?」

とグリズリーが挙手しながら言う

「今回の部隊は機密部隊でな、こちらからの接触は基本的に禁じられている。だから基本的に私たちはその部隊の進行ルートに散らばり周囲に展開し鉄血兵の存在を確認しだい撃ち殺すという感じだ」

「見敵必殺、って奴ですね」

「そういうことだ、SOP。特殊部隊は24:00から作戦開始する情報が入っている。私たちは部隊が開始する1時間前に作戦を開始する」

「ご主人様、一つ質問をよろしいでしょうか?特殊部隊が作戦を完了したことは私たちにはどのように知らされるのでしょうか」

「作戦終了はヘリアンを介して伝えられる…予定だったがそれじゃラグが発生するからなこうしたんだ」

と言い終わると部屋にそなつけられている電話が鳴った

「カリーナか、えぇ、通して頂戴。受け取ったらブリーフィングルームまでに、よろしく」

数分後、部屋にカリーナがやってきて小包を素子に渡した

「なんですの?これ」

「これはな、今回の作戦の助けてくれるアイテムだ」

小包を破くと、中からトランシーバーのような機械が出てきた。

「ご主人様、これは…」

「ヘリアンの奴、流石に仕事が早いな。これは彼女に頼んだ代物でな、彼女が特殊部隊と連絡を取り特殊部隊に信号を出してもらうように頼んだ。…特殊部隊が作戦を開始した際に、進行ルートを2km進むたびに部隊が信号を出力し、この機械が受け取り震えるようになっている」

「なるほど…」

「これで信号が無ければ特殊部隊が被害を被ってることが判断できるし、進行が出来ているかが分かるからな。本作戦においては非常に役立つアイテムだ」

さて、と咳払いをして、素子は締めに入る

「今回の作戦、完全に特殊部隊依存だ。連中が手こずれば我々も連中も危険だし連中が手早く終われば安全に終わる。私たちにできることは連中が早く終わることを祈ることと、なるべく一撃で仕留めるように努めるように…では23:00にヘリポートに集合するように。以上、解散」

現在の時刻は18:30のため作戦開始時刻までには十分な時間がある彼女たちは解散して各々の準備に取り掛かる、素子もまた、準備に取り掛かる

緊張感が基地に纏わりつきはじめた。

 



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Mission09.闇夜に踊る影~ヒトガタ~

ど~も恵美押勝です、物書きのリハビリも大分回復してきて恐らく連載間隔が短かったころと同じぐらいの力に戻っていると思います。長話もアレなんで、本編をどうぞ!


ブリーフィングが終わり人形達が出撃準備に取り掛かる、といっても人形達がすべき準備は自身の銃のメンテナンス、マップデータのインストールといったぐらいでこれらを丁寧にやっても数時間程度で終わってしまうため、大抵の人形が暇を持て余していた。M4もその一人であり自室で一人整備された銃を見ながら一息つこうとしていた…

(集合時間までまだ時間がある…人間ならばこの時間を食事や仮眠に費やすのだろうけど人形である私には必要ないし…しかしこの時間を無駄にするのも違う気がする…ここは自主訓練でもすべきかな)

人形が行う訓練には2種類がある、まずは人間と同じようにリアルで体を使い行う訓練、もう一つは訓練用サーバーにダイブして行うVR訓練である。M4は体に負担をかけないように、せっかく整備した銃を作戦前に負荷をかけないようにVR訓練を行うことにした。

(じゃあ早速、ダイブして…)

彼女は眼を閉じてダイブする。真っ暗闇の視界は徐々に青に染まって訓練施設へと意識を着地させる。周りを見渡すと作戦に出撃する人形が的に向かって銃を撃ち訓練している、その中でM4はAR15を見つけ彼女の隣に立った

「M4,貴方も訓練しに来たのね」

「うん、何かしていないと落ち着かなくて…なんか手を止めると腕が落ちる気がして」

「馬鹿ね、私たち人形は腕が上がることがあっても落ちることはないわよ。電脳がちゃんと記憶している限りね」

「理屈ではそうなんだけどね、やはり気持ちの問題というか…常に銃を持っていないと落ち着かなくなって」

「軍事用として製作された人形の性(サガ)って奴ね…」

「それに…M16姉さんがいるんじゃないかと思うと、こうして休んでいる資格なんてないんじゃないかなって思ってしまうの。AR小隊のリーダーして…妹として…」

「ある種の使命感に駆られるのもいいけどほどほどにしておきなさい。任務を忠実に遂行することに集中して。それこそAR小隊のリーダーならばね。人形として、戦士として、兵器として、私たちは上からの期待に応えなければならない。その上で…アイツを救う。忘れないで、アイツを助けたいのは貴方だけじゃない。私もSOPも同じよ」

だから、使命感を全て一人で背負い込むことはしないで、そう言ってAR15は彼女の前にある的のど真ん中に命中させた。

彼女の言葉でM4の“心”と呼べるものが軽くなったかは分からない、だが彼女にまとわりついていたオーラが心なしか柔らかくなっていたものを彼女は感じた。そして時間は過ぎていよいよ集合時間となる

夜も更けて装備を整えた人形達、そして素子とバトーがヘリコプターの前に集合する。全員を一瞥し素とバトーが彼女らの前に立つ

「よし、全員集まったな。第一部隊は私が、第二部隊はバトーが隊長に就く。今回の作戦は明確な敵の数、強さといったものが未知数だ。単独行動はせず必ずバディを組み行動するように」

「ハイエンドを確認したら必ず報告しろ、2人がかりで勝てる相手じゃねぇ。SOP、分かっているだろうな。ハイになって突撃とかするんじゃねぇぞ」

「もー分かってるよ、バトーさん!それより早く行こうよ!」

「それでは出撃する、各員乗りこめ!」

素子の掛け声と共に全員が乗り込む、最後に素子が乗り込み扉を閉めヘリコプターは目的地へと飛び立つ。30分もしないうちにヘリは目的地より数百メートル離れた場所に辿り着き着地する。地面へと着地して直ぐに

「各員、身体及び銃火器のチェック」と素子の命令に全員が「異常なし」と答え素子ら第一部隊は特殊部隊の進行ルートの東側へ、バトーら第二部隊は西側へと移動を開始する。

数分もしないうちに両部隊は目的の場所に付きそれぞれのHGタイプの人形が索敵を行う。今回は夜戦で視界が悪い上に森林での戦闘のため索敵が重要になってくる。

「どうだ、グリズリー」

「んー、奥の方から人影が見える…4~5ってところ?」

「グリズリーさん、敵の種類までは分かりますか?」

「M4さんか、遠すぎてそこまではね~少佐はどう?見える?」

「お前と同じだ、人型であること、その数までは判別できるがそれ以上のことはな」

彼女らが使うセンサーは金属探知機の発展型のようなものでありある程度の密度を持つ金属にのみ反応する音波のようなものを発生し、対象に当たった際に反射しその情報が視覚端子や電脳内にダウンロードしたマップに反映される、という仕組みである。

「今のところ上空にドローンやスカウトのような飛行タイプの鉄血はいないわ。恐らく奴らはこの辺りを巡回しているパトロール中隊なんじゃないかしら」

とAR15の報告を受けて素子は第二部隊へと連絡する。

『…バトー、こっちは5体ぐらいしか敵戦力がいないみたいだ。そっちは?』

『こっちは陰一つないぜ、トカレフやSOP、俺の目で周辺を探索してみたが何の反応もねぇ、こりゃ思ってたより楽な任務になりそうだな』

『…油断はするなよ、今回の作戦は長いんだ』

『だったら尚更だ、最初から気張りすぎるといざって時に疲れて判断にラグが出るぞ。全身義体化でも精神の疲労は避けられないんだからな』

『私はこの基地の指揮官だからな、気を抜くわけにはいかないんだ。引き続き警戒は怠るなよ。…肩の抜き加減はお前に任せるが』

そういって素子は通信を切りグリズリーに電脳通信を行う

『どうだ、通信している間に変化はあったか?』

『敵の数と種類が判別できるぐらいまでは近づいてきたよ、Ripper2体、Vespid3体ところだね。ぼちぼち戦闘準備しますか』

『よし、第一部隊戦闘準備にかかれ。なるべく一発で仕留めるようにこっちの射程内に来るギリギリまで腰だめで待機して合図とともに立ち上がってヘッドショットを狙え。グリズリーは部隊の全員に敵部隊と我々の距離を逐一報告しろ』

『了解』

電脳通信は繋がったままだがしばらくの間ノイズ音しか聞こえなくなる

『…敵との距離、残り25m』

改めて視覚端子を赤外線モードにして前方を見るとグリズリーの報告通りであった。

全員が自身の銃にサプレッサーを取り付け、ARやSMGの人形達はセレクターと呼ばれる切り替え装置を使いセミオートに切り替える

『…敵との距離残り15m』

敵はこちらを認識しておらず首をあちこちに振って警戒活動を行っている。全員が敵部隊の頭にロックする

(こちらを認識してもそこから攻撃態勢に切り替わるまでにラグが生じる、最悪そこのラグよりも早く行動を行えばこちらに分がある…しかし気づかないでくれよ)

『…敵との距離、残り10m…仕掛けるなら今がタイミングだと思うよ』

『よし全員合図とともに立ち上がって発砲しろ、一発で仕留めるぞ…3,2,1…よし行くぞ!』

全員が立ち上がりそれぞれの敵の頭に弾を当てる、殆どの鉄血兵はARや威力が高いグリズリーの攻撃は一撃で仕留めることが出来たがSMGの威力では一撃で仕留めるのは困難だったようで一部の人形が吹っ飛んだ状態から起き上がろうとしている。すかさず素子が駆け込み電磁ナイフを使い首元に刺突し確実にとどめを刺していく。首元からショートした回路から火花があがり生き残りの鉄血兵たちが倒れて動かなくなる。

『一旦は片づけたが…引き続き探索を行う。グリズリー、引き続き頼んだ。』

『了解!』

この後、第一部隊、第二部隊と共に索敵を行うが鉄血兵の残骸すら見かけなかった

(おかしい…この辺は鉄血兵の量が多い地帯のはずだ。何故、ここまで少ない…?)

と考えていたところ、グリズリーから電脳通信が入る

『少佐、ここから10m先に反応がある。でも倒れているしサイズが小さいのが2つに分かれている。あれは…頭と足かな?これは個人的な考えだけど確認した方がいいと思う』

『…こんな場所に倒れた人柄…?よし、確認してみるか』

素子が近づいてみると確かに人型の“何か”がいた。

ここでこのような表現をしたのは人の頭部のようなパーツがあるのだが顔がズダズダになっておりこれがグリフィンの人形か、そもそも戦術人形なのかが判別できないこと、そして左腕らしき部位、右太ももらしき部品が散らばっており血のような赤い液体が土にしみ込んでいた。

(だが…これは人形で間違いない、だがグリフィンの人形ならば何故こんなところに?私が着任してからはダミー人形の破壊はあれどこの地帯で破壊されたことはなかったはず…)

周りの土をみるとそこら中が穴だらけになっていて空の薬きょうが散らばっていた。

(こんなに弾をばら撒けるのはARやSMGでは有り得ない…MGタイプの人形によるものか?それとも集団で破壊されたのか…)

素子が視覚端子に写した適当に拾った2つ3つの空薬きょうを電脳で照合してみるとこれらが一致していることが分った。

(MGタイプ…ガトリングのようなものだろうかこの近くにハイエンドがいる可能性が高いな…)

とはいえ可能性があるだけで今、この場に、この近くにハイエンドがいる確証があるわけではない。目標はあくまでも特殊部隊の護衛でありハイエンドの破壊ではない

(触らぬ神に祟りなし、か…)

素子はあくまでもハイエンドがいる可能性がある、と言うことだけを両部隊に伝え作戦行動に戻った。部隊に重い空気が流れたところでピピーという小さな電子音が彼女の腰に付けている通信端末から発せられた

いよいよ、防衛対象である特殊部隊がやってきたのだ。そう、ここからが任務開始なのである

 



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Mission09.闇夜に踊る影~火の用心~

どーも恵美押勝です、ぼちぼち春休みも終わり大学も始まるので憂鬱になっている恵美押勝です。最近桜が満開になってきたのでお花見でも行きましょうかね
自分語りもアレなんで、本編をどうぞ


過去においては開戦の合図は狼煙であったり法螺貝であったりする、時代は進みそのようなアナクロな手段はとられなくなったがこの近未来においても開戦の合図は行う。素子のもつ端末から電子音が響いたのがその合図である

『少佐、特殊部隊が到着し行動を開始したようだぜ。俺たちは引き続き索敵活動を行うってことでいいか?しかし暇だな。こいつは….煙草を吸ってもいいか?』

『ダメに決まってるだろ、私はこれから衛星とリンクして索敵を行う。その間…やく5分間通信ができないから一応理解しておいてくれ』

『了解….だが衛星ってのはあのスケアクロウとかいう奴からぶんどったのを使うのか?』

『いや、うちで飛ばしてる衛星があるんだ。そいつを使う』

グリフィンでは宇宙から鉄血を確認するために衛星を飛ばしている。その正確な数は上層部しか認識していないが性能は優れており鉄血兵の数はもちろんその種類まで把握できる。しかしこの衛星を使用するには通常であれば基地内にあるコンピューターからアクセスする必要がある。指揮官クラスの権限を持つ人間の電脳からアクセスすることもできるが情報量が多いため並大抵の電脳では焼き切れる可能性が高い

(私なら出来ないことはないが…無線でやる以上時間もかかる。だからあまりしたくはないのだがどうもこの辺りがきな臭いからな)

『第一部隊へ、これより私は衛星へリンクして索敵を行う。その間のG36とイングラムはバックアップおよそ5分間頼む。その他のメンバーは先行していてくれ、その間の索敵はグリズリーに一任する』

『了解いたしました。ご主人様』

『了解…』

『第二部隊はどうするんだ?』

『第二部隊は索敵しながら先行していてくれ、私のリンクが終わったら敵の所在地をマーカーしたマップを全員に共有する』

『了解』

(さてと…)

指示の後、動いた人形達を見送り素子は衛星のリンクを開始する。まずはグリフィンのコンピューターを経由して衛星にアクセスするための権利を手に入れ彼女の意識が空へと登っていき幽体離脱のような感覚になる。視点がどんどん上へと昇りいよいよ素子の視覚端子が衛星のカメラとリンクして彼女はこの地球を見ていた。拡大してS09地区を見渡し索敵を開始する。鉄血がいるならばそこが赤くマーカーされる仕組みなのだが…数秒もせずともして結果が出た。

…恐ろしいことにマップ全体におびただしい数の赤がマークされていた

(…!この場所はS09地区でもそこまで鉄血が出現しない地帯のはず…しかしこの数70以上はいるか…?こんな数、近くに拠点があるとしか思えん…)

…臨時で拠点が出来たのか?

衛星の映像は最大数か月にわたり記録されている、素子は素早くこの地点のマップを一番古い時間から流してみるがその時にはこの地点にこんな数の鉄血兵たちはいなかった。作戦開始前から数週間前…9日前…7日前…と見るがまだ変化はない、3日前になりようやくマップの画面が今のような赤いマーカーが至る所散りばめられている画像になった

(やはりこの地点は鉄血の臨時拠点と化したのか…タイミングが悪いなんてもんじゃない、まるで機密部隊がここに来ることを知ったうえでの行動のようじゃないか)

そう考えると先程第一部隊が倒した部隊はパトロール中隊なんかではなく護衛部隊である我々が来たことを仲間に知らせるための囮部隊だったのではないかという思考に素子は至る

(囮部隊の鉄血兵の信号がロストした瞬間、拠点にいる大勢の仲間が護衛部隊及び機密部隊の攻撃にかかる….こういう算段で来るか。随分と頭を使うようになったじゃないか…何処で私たちの作戦の情報をつかんだのかは謎だが…これは予想以上の激戦になりそうだぞ)

素子は衛星とのリンクを解除しカリーナに機密部隊の進行ルートの半分地点に補給物資や武装を投下するように依頼しマップの情報を部隊全員に共有した

『おい、こいつは….俺たちは知らねぇ間に敵さんのど真ん中に入ちまったってことかよ』

『少佐、大多数の敵部隊が第二部隊に接近中です!数はおよそ30と言ったところでしょうか。とても私たちだけでは相手にすることが出来ません!』

『トカレフ、隊列やそっちと敵の距離は分かるか!?』

『横に広がってます!距離はおおよそ5kmです!』

『少佐、敵の拠点にある通信施設を破壊すればいいんじゃないの!?』

『ダメだ、スコーピオン。今からじゃ到底間に合わん。要は一度に30機を相手にしようとするからダメなんだ。第二部隊だけで15体+1人いるんだ。15機の部隊が2波でやってくるように分断させればいい』

『それはどうやって….』

『方法はある…これはスコーピオン、お前の力が必要だ』

『私!?』

『そうだ、お前は焼夷手榴弾を持っていたな。いいかここから500mほどオイルを直線引いてからその直線の先端から横にまたオリルを引いてTの字にした後、縦横のオイルが交わる点に焼夷手榴弾でトラップを作れ。幸いにもここは草が多い。草を有効活用しろ』

『敵が罠に引っかかれば焼夷手榴弾の炎がオイルに伝っていき炎の壁が出来る…これで分断させるって作戦?』

『そうだ』

『確かに鉄血レベルのAIならば炎によるダメージを避けるから炎に突っ込んで合流を図るという選択は取らねぇ、だがオイルってのは….ん?あ….!成程なぁ…』

『そういうこと、貴方が吸おうと思ってた煙草のライターを使うわ。分断さえすれば

左翼の分隊を8体の人員が、右翼の分隊を同じく8体の人員を相手にするんだ』

『8対15っても辛くないか?』

『そっちにはZasやSOPといった榴弾が使える』

『…確かにそうだ、榴弾が上手に当たればかなりの数の鉄血兵をスクラップに出来る。』

『鉄血のクソ共は散開して動くってことをしないからね!かなり有効だと思うよ!』

『だから、両翼それぞれに彼女らを設置して初動で榴弾を撃ち、数を減らす、後に残りの人員が残敵を処理する流れでいけ』

『…かなり無謀な作戦だな』

『それは分かっている、だが現状機密部隊を守りつつ我々も生きて帰るにはこれしか選択肢がない』

『了解、そっちも来てるかもしれねぇんだから気をつけろよ』

『分かっている。無事を祈るぞ』

通信を切り、素子はG36とイングラムに声をかける

「よし、先行した奴らと合流するぞ」

「ご主人様、収音センサーに若干の反応があります。一度先行部隊をこちらに合流させるのがよろしいかと」

「G36さんは視覚端子の性能が低いかわりに聴覚端子の性能はいいですからね…確か」

「3km先の針が落ちた音が聞こえる性能である、ということは言っておきましょう。ただ足音というよりは草木が揺れる音でしたから確実に鉄血兵が来たとは言えませんが…」

「…風とか野生動物の可能性もあるってことかぁ」

「いや、カリーナから要請した補給物資がそろそろ来る頃だ。そいつを回収したいからここを動く必要があるんだ」

「補給、ですか?お言葉ですがまだその必要はないかと…」

「弾薬もダミー人形もまだ問題ないですよ」

「いや、補給物資に用があるんだ。あの中にはこっちの状況を打破するための切り札がある」

そう言い終わると端末から電子音が聞こえた、機密部隊が2km進んだことを知らせるサインだ

「もう2km進んだのか、まだ15分ぐらいしか立っていないぞ…」

「早く終わらせてくれるならこちらとしてもありがたいんですけどね」

「そうだな、仕事が早い奴は何処だって重宝されるものだ。さて、それじゃあ行くぞ」

そう言って足を進めると電脳通信が入った

『…グリズリーか、どうした』

『少佐!早くこっちに来て!こっちに敵が来た!』

『何!?すぐ向かう!数は!?』

『軽く20機はいるよ!連中、さっきと違って私たちが確認したらすぐに撃ってきた!こっちの居場所がバレてるみたいだよ!!』

通信からは焦ったグリズリーの声が聞こえる、9対20では流石に厳しい。素子は通信の回線は繋いだままにしとけ、と命令しながら彼女らと共に全速力でグリズリー達の元へと向かうのであった。

 

 



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Mission09.闇夜に踊る影~数~

ど~も恵美押勝です、大学も始まり忙しくなってきた恵美押勝です。どうも最近暑い日と寒い日が交互に続いて嫌になります。何かといろいろ”新”がつくこの季節にこんな天候じゃストレスで体がおかしくなりそうです。そんな時、自分の小説がストレスの改善に役立ってもらえれば幸いです。
こっ恥ずかしい話もアレなんで、本編をどうぞ


戦場というのは独特の空気が流れていると言う、殺気だけでなく「自分がこの瞬間にも命を奪われるかもしれない」という危機感や負のオーラといった類の物が戦場を支配しているのだ。線上にいる兵士はまるで一秒が一時間もかかるような、時が止まったような感覚に襲われる

…と言ってもこれは人間だけが襲われる感覚だ、戦場において人間ではなく機械人形が支配するようになったのはこのような感覚に襲われて戦局が膠着するのを防ぎ戦争を円滑に進めるため、と言う意見もある。大多数の人間はその意見を一瞥したしバトーもそうした。だが彼はその意見を認めざるを得ない状況下にいる。彼の周りにいる第二部隊はそのような雰囲気を醸している人物が一人もおらずMDRなんかは携帯を弄っている始末だ。

「…お前らなぁ、生きるかに死ぬかの瀬戸際にいるんだ。もう少し緊張感を持ったらどうだ、特にスコーピオン。お前にこの部隊のすべてがかかってるんだぞ」

そう言ったバトーの視線の先には妙に浮かれ気味のスコーピオンがいた

「いやー、まさか私の武器が切り札になるだなんて思いもしなかったからさ、そんなこと今までなかったから妙に嬉しくって」

「浮かれるのはテメェの勝手だが自分のやるべきことを忘れてないだろうな?」

「うん、バトーさんのライターオイルで導火線を作りながら焼夷手榴弾でトラップを作って帰還する。以上」

「それだけ分かっていれば上等だ、それじゃよろしく頼むぞ」

バトーは持っていたライターをスコーピオンに渡し立ち去るのを見送った。

 

スコーピオンはしばらく走るとバトーからもらったライターを逆さまにして護身用ナイフの先をライターの底に向かって思いっ切り突き付け穴を開けた

(あとは、これを向きを戻してオイルをばら撒けば…)

逆さまにするとオイルがたれ流れてきて地面の草を油漬けにしていく、彼女はそうなっているのを確認しながら駆け出し目標であるTの字状にオイルをばら撒くことに成功した。

(よし、次は焼夷手榴弾でトラップを作ってっと…)

スコーピオンはポケットからワイヤーと包帯を取り出した

(戦術人形なのに包帯を持っているのは負傷してオイルが漏れ出た際、オイル漏れを防ぐために標準装備されている)

(まずはその辺の木に包帯で手榴弾を固定する…よし、出来た。その後に安全ピンにワイヤーを繋いで反対側の木にワイヤーを巻きつける…)

これでワイヤートラップが完成した。後は敵がここに引っかかってくれるのを待つのみである。スコーピオンは息を殺すように慎重になりながらも素早くバトー達の元へと合流した

戻ってくる最中にバトーから電脳通信が入ってきた

『スコーピオン、こっちは既に部隊の分隊作業を終えた。そっちは?』

『こっちはもう終わった、今そっちに向かっているところだよ』

『よし、お前は左翼に就け。ダミー人形もそこに分隊させた』

『了解!』

数分もしないうちにスコーピオンはバトー達の元へと戻った。見渡すと左翼にはZas、MDRが居た。

(ということはバトーさんは右翼に就いたのか…)

『…トカレフ、敵との距離はどうだ』

『2kmですね』

『トラップまでの距離は後1.5kmか…短いようで長いこと待機してなきゃいけないようだな…』

『暇だな~ネットやっていい?』

『お前この状況で首を縦に振ると思うか?』

『バトーさんだってこの状況下で煙草吸おうとしていたじゃない、似たようなもんじゃん。』

『…お二人さん、作戦行動中ですよ。私語は慎みなさい』

『…わーったよZas』

『…了解』

そしてしばしの間、沈黙が場を支配する。聞こえるのは銃を構える時に発生する音ぐらいだこの時ばかりはここが“戦場”になった。そうバトーは思った。悠久とも思える時間が経った、時間にしてほんの10分といったところでしかないのにそう全員が思えてしまうほどだった。SOPは内部時計を何回も確認するぐらいだった。そんな中、遠くからザッザッザッと音が聞えてくる

『…バトーさん、間違いない。来ました』

『…何Mといったところだ?』

『あと、700mです…』

『もう少し…あと200Mそのまま前進しててくれよ…』

息を殺し、バトーは伏せている自分の腹と地面が溶け合うような感覚になるまで存在感を殺し続けた。そしてついにピン、と何かが張った音がかすかに聞こえた。次の瞬間、低い音が響き腹をくすぐる。すると辺りは一面赤い光に包まれた

『よし!トラップが発動した!』

スコーピオンは電脳内で嬉しい悲鳴を上げた。だがまだ彼女らが姿を現すわけにはいかない。分断された相手が確実に彼女らの方へ進むまでは…

トカレフが炎の先を見えていた、直線の炎は目論見通り壁を作っていた。そしてその炎の勢いは当初の予想をはるかに超えていた。トラップに嵌められた鉄血兵が焼夷手榴弾の破片で損傷し見事に足を破壊されていた、その切断面から染み出たオイルがこの炎の壁の形成に一役を買っていたのだ。これは嬉しい誤算であった。トカレフは炎の熱でセンサーが焼き付かないように注意しながら鉄血兵たちを見ていた。確実に分断はされている、そのことだけは現段階ではっきりとしていた。そして一人の鉄血兵が炎の壁を一瞬だけ見たがすぐに視線を元に戻した

(これで敵はこの炎を潜り抜けての合流は不可能と判断したはずです…あとはそのまま前進してくれれば…)

そうトカレフが思考した瞬間、分断されていた鉄血兵たちが彼女らに近づいていくことを彼女は目撃した。

(残り450…400…350…300…250…200!)

『今です!』

『全員発砲開始!SOP!Zas!ありったけの榴弾をぶち込んでやれ!』

『了解!』

『了解!この瞬間を待っていたんだ!!』

開幕と共に榴弾が放たれるポン、という軽い音が森林に響き渡りその直後爆風が辺り一面を襲った。一度のタイミングで両翼共に3発の榴弾がぶち込まれ着弾点にいた鉄血兵たちはたちまちその四肢を地べたへとぶちまけた

『榴弾を撃ち終えたら、2人は後ろに下がれ!残りの奴らが残敵の処理にかかる!トカレフ、残敵の数はどうだ!?』

硝煙越しにトカレフの視覚端子が残敵の位置を捉える、バラバラになった腕などもセンサーに反応してしまうのでセンサーや実際に見える光景を頼りに報告を行う

『左翼…6体、その内小破なのは一体だけです!右翼も同じく6体!こちら小破は2体です!』

『遠慮はいらねぇ数の暴力で押し切れ!どの道これしか策はないんだからな!』

『言われなくとも!』

ARやSMGの人形達が残敵に向かって弾薬を撃ち続ける、銃声に交じってSOPの嬉しそうな叫びも聞えてくる。鉄血兵たちは先程の榴弾で全員が漏れなくダメージを追っていた、その状況から立て直す暇もなく銃弾の雨嵐を喰らうことになったのだ成す術もなく蹂躙されていった、そうであるのだから鉄血兵たちが全滅するのにそう時間はかからなかった…

周囲に敵影なしとトカレフから報告を受け取ったバトーはすぐさま素子へと連絡をする

『少佐、こちらの戦闘は終了した。こちらの負傷は0だ、引き続き警戒に当たりつつ作戦に戻る。…そっちはどうだ?』

『こちらは今戦闘中だ、今相手にしていられるほどの余裕がない』

『了解、気をつけろよ』

 

バトーらが戦闘を行うほんの少し前、先行した部隊から敵襲に逢っていることを報告された素子らはその先行部隊と合流を果たし戦闘を開始していた

『今合流した、グリズリー、手短でいい敵の数は?』

『今の所は15か14ってところ!弾薬の消費も激しい!』

『全員、近くにいる奴とバディを組み、各自補給ポイントへ前進しろ!殿は私が務める!』

『少佐が!?無茶です!』

『心配するなM4!私にとってはこういう状況の方がやりやすいんだ!それより補給物資に箱がある、そいつを開封してくれ!それだけでいい!』

『箱…?一体何があるっていうんですか?』

『武器だ、私の!』

『ならば一度に少佐も行かなければ!』

『武器は勝手にくるんだ』

『勝手に…?』

『いいから早く!』

『了解、少佐!ご武運を!』

M4を筆頭に第一舞台の人形が次々と補給ポイントへと急ぐ、人形達は途中爆発音と電脳内に一瞬ノイズが入るのを体感した。素子が手榴弾とEMPグレネードを投擲したのだろう。

人形達が全速力で走った甲斐があり補給ポイントまでは7分弱で到着できた。急いで投下されたコンテナを開き各々が補給や応急処置を行う中、M4は素子に頼まれた例の“箱”を探していた、そしてそれは銃弾ボックスがひしめく補給コンテナの底にまるで隠れるかのように存在していた。細長い箱を開けると中には同じく細長いケースのようなものがあった

(細長いケースに保管されている…これは銃?ならば勝手に来るというのは一体…?)

M4はそんなことを考えながらケースの留め具を外して開ける。その中には細長い筒のような物体が入っていた

(これは…鉄血のスカウトみたいね…これが新武器…この衛星が新武器っていうこと?)

素子はこの任務の前にも何回か衛星を利用していた、だがこれはそれとは全く異なる形状であった。そしてM4が手に取るべきか迷った瞬間、衛星は勢い良くケースから浮遊して箱から飛び出し素子がいる方へと飛んで行った、まるで磁力に引かれる磁石を思い出させる超スピードで。

 

…彼女がいかに全身義体化の最高傑作であろうとやはり数の暴力には勝てない、戦場においては数がモノを言うのだ。先程のバトーのように…彼女の左腕は銃弾が貫通しており右肩も負傷していた。残った右腕で敵を狙うが肩の負傷でうまく定まらない。だが彼女は絶望などしていなかった、それどころか勝利の確信を得ていた。

そんな彼女の心境など露知れず、鉄血兵たちは彼女に近づいていく。そして銃口が彼女を覗いたとき。一筋の空気を裂く音が鉄血兵の一人を吹き飛ばした。そして、間もなく“何か”が一人の鉄血兵の胸を“貫いた”

「来たか、新兵器」

 



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Mission09.闇夜に踊る影~新兵器~

ど~も恵美押勝です。大学生も2年になり5限が週3もあって死にそうですが何とか生きています。最近はレイヴンになったりと忙しいですがどうにか各時間を設けてこうして皆様に作品をお届けしている次第です
長話もアレなんで、本編をどうぞ


「来たか、新兵器」

新兵器...AF01、通称“フラカン”が素子の頭上に来たのはそう言い終わってからすぐのことであった。両腕が正常に動作しない現在においてこれが素子の最後の武器である、

(使い方はいつもと同じだ、こいつは確か変形ギミックが搭載されていたはずだ)

素子は自身の盾になるように目の前に来たフラカンに電脳内で指示を出す、間もなくフラカンは変形し鉄血の兵器の一つであるスカウトのような形状になった、異なるのは細長い体から腕のように砲門を装着したマニュピレーターが左右に展開されそれぞれの肘にあたる部分から盾が展開された。これがフラカンの本来の姿と言うべき形状である

(砲門はショットガンになっている…だがあくまでもこいつらは鉄血兵を倒すために呼んだんじゃない…狙うはこいつらのバックに存在している奴らの通信施設…!こいつを破壊することでしか勝機はない)

素子は一機を通信施設へと飛ばした、幸いにもその姿が鉄血兵たちに捉えられることはなく奴らの頭上を通過した。そしてもう一機のシールドを前面に展開させ素子の眼前に配置させる。そして彼女自身はしゃがみ込んだ

(下手に動き回るよりもここで防御しつつ落ち着いて一機ずつ対処していくのが有効だ…)

フラカンに装着されているシールドはRipperやVspidのような鉄血兵の攻撃に対しては絶対的な防御力を保有している。故に現段階においては素子がこれ以上負傷する心配はない、しかしそれはこの付近すべての鉄血兵らが彼女の前に存在しているからであって背後に回られたりマウントポジションを取られれば話は別である

(とてつもない猛攻撃だ、盾に命中した弾が弾けて五月蠅い…当然だな、すべての攻撃がこの新兵器に向けているのだから)

素子はそう思いながらもフラカンから送られてくる映像を頼りに確実に鉄血兵達の頭部に自身の攻撃を命中させて一機ずつ減らしていく。

(現時点での残敵は10と言ったところか…)

彼女はそう思考しながら自身の武器であるC25Aのセレクターをセミオートに切り替える

(マガジンはあるが右腕が使えない状態でのリロードは不可能ではないが時間がかかる…弾が切れたら新兵器の武器を使えばいいんだがそれをするにはシールドをどかしてから行う必要がある…そうなったら私は良い的だ、防御態勢を解除した後素早く移動出来れば可能ではあるがリスクが高い…)

彼女は通信施設へと向かったフラカンの映像を電脳内で確認する、するとフラカンはもう間もなく目的地へと到着するところであった。これが到着して破壊するまで約2分と言ったところであると彼女は推察した。だがその間にも敵は距離を縮めており彼女との距離はおよそ7mほどになった。この前にも攻撃に晒され続け、近距離になってきて流石の盾、否、盾を接続するジョイントがその衝撃に持たないときが訪れようとしていた

(…くっ、新兵器とはいえジョイントがこれではな…)

生きて帰ったら開発部にクレームをつけてやろうか、といったことを考えながら素子は一発一発を撃ち続ける、しかし肩を撃ちぬかれているので鉄血兵の頭に照準を定め発砲するのに5~10秒かかる。それでようやく1体を倒せるぐらいだそれでも残敵は8機だ。そしていよいよ自身の銃の弾がなくなった。こうなれば頼れるのはフラカンの武装のみだがそれがリスクあるのは先述した通りだ

(だが….一か八か、やるしかないか…!)

いよいよ敵との距離が3mとなった。距離が0になるまでに数秒ともかからない。そして敵との距離が2m…1mになり素子がしゃがんでいた腰を上げて右に重心を傾けてローリングをしようとしたその瞬間。突如として敵の動きが止まり保持していた銃が手から離れて落下した音が彼女の周囲にこだまする。

(ギリギリで間に合ったか…!)

彼女の電脳内にはフラカンが通信施設のコンピューターを穴だらけにした様子が映っていた。すぐさまフラカンに帰還指示を出し、第一部隊に通信を入れる

『第一部隊へ連絡、敵鉄血部隊の無力化を確認…これでこの付近の鉄血兵は全滅した。あとは機密部隊の作戦完了の通信を待つだけだ…』

『少佐、無事ですか?』

『AR15か、どうにかな。しかし片腕ともう片方の肩が機能停止してしまった…今からそっちに向かうからそこで待機していてくれ。』

『…!少佐、本当に大丈夫なんですか?私がそっちへ迎えに行きましょうか?』

『心配するな、足はぴんぴんしてるし胴体や頭部といった箇所には一つも被弾していない、ただ恐ろしくリロードがしづらい、そっちへ着いたら手伝ってくれるか』

『…分かりました、少佐お気を付けて』

通信を終えて歩き始め、暫くして通信施設を破壊したフラカンが彼女の元へと戻ってきた。

どうやら破壊作戦中に少なからず鉄血兵の攻撃を受けたらしくシールドに傷がついていた。

しかし飛行機能に問題はなくしっかりと彼女の前に浮いている

(シールドのジョイントが弱いという欠点はあるがかなり強い戦力を持っているなこの新兵器…こういうのを全員の人形が装備できれば言うことはないんだがやはり電脳の容量を多く使ってしまうのがネックだな…最低でもグレード4ぐらいの人形でないとまともに扱えないぞ)

そんなことを考えながら彼女は第一部隊の隊員が待つ補給ポイントへ到着した。

「…少佐!大丈夫ですか!?」

真っ先にAR15が寄ってきて素子から銃を受け取る

「言っただろう?大丈夫だ、…外骨格を利用して応急処置でもするさ」

そういいながら彼女はAR15からリロードされたC25Aを受け取る

「G36、すまないが外骨格を私に装着させてくれないか。」

「承りました」

G36は補給コンテナから外骨格を取り出した素子の首のカバーを外し接続端子を露出させ、外骨格からコードを引き出し接続させた。外骨格はコの字状の鉄骨からなる部品であり、“コ”の横直線に当たるところが稼働するようになっておりそれを上着を着るように装着すると稼働部位が腕に装着されるそして電脳内でイメージすると稼働部位がその通り動き人工神経が切れて動かなくなった腕を強制的に動かすことが可能になる。これが外骨格である

「…お言葉ですがもともと動かなくなった部位を強制的に動かすのだからあまりよろしくはないかと」

「しかしこのまま動かなくなるのもよろしくはないからな、まぁバトーの方はやって来た敵をすべて倒しこちらは通信施設を破壊し無力化に成功したんだ。後は機密部隊が終わらすのを待つのみだ。…それより最終的な被害状況はどうなったんだ?」

「私は本体、ダミー共に損害なしですが…他の皆様方はそれぞれダミー人形一体が大破。グリズリーさんは本体が小破、その他の皆様の本体は被弾こそしましたが損害らしい損害はありません」

「…そうか、ありがとう」

腕を動かしながら指も動かし外骨格が正常に作動するのを確認しながら。少しため息を吐き。電脳通信を全体に入れる

『全員に通達、その場にて機密部隊の報告が来るまで待機。リロードは済ませておけよ』

『…大丈夫か、声が少し疲れているように感じるが』

『大丈夫よ、・・・ただ一つ気になることがあって』

『気になること?』

『…破壊された人形らしき物体を覚えているか?』

『…ハイエンドモデルによって破壊されたかもしれないっていうあれか?』

『最初こそガトリング砲を持っているタイプの鉄血人形の仕業の可能性もあると思ったんだが遭遇した敵の中じゃそういう敵はいなかった…ということはハイエンドモデルによって破壊されたのは確定だがここにハイエンドモデルは来なかった…』

『しかし、だとすれば…まさか、俺たちが相手にしていたのが全員囮で機密部隊をハイエンド一人で撃破しようってんじゃ…!』

『いかにハイエンドだろうが4対1だなんてそんなことはしないさ、囮を使うような奴がそんな自意識過剰のような事を』

若干の楽観視を混ぜたこの言葉の直後、2人の電脳通信に割り込みが入った。カリーナからだ

『お取込み中すいません、ヘリアンさんから緊急の連絡が入っています。かなりの緊急性を伴う任務らしいので今すぐ出てほしいとのことですが…』

『分かった、いつも通り携帯に繋げるように頼んでくれ』

『了解しましたわ』

数秒後コール音が鳴り、聞きなれた声がスピーカーから聞えてくる

『少佐、先の機密部隊は無事任務を終えた。これから帰還するところなのだが一つ問題がある』

『問題?』

『部隊が今回の任務で入手した情報の中にこの近辺にハイエンドモデルがいることが判明した』

『それは私も気づいていた、それでそのハイエンドモデルとは?』

『不明だ、ただ分かっているのはその名前だけだ。』

『…名前は?』

『イントゥルーダーだ』

『…イントゥルーダー、“侵入者”か』

『最後の鉄血のカタログに載っていなかった代物だ、そこで少佐にはこれの破壊を頼みたい。無論、部隊の護衛が最優先だが破壊すれば臨時ボーナスが出されることになると思う。そっちにとって悪い話ではないと思うが』

『…それは“命令”か?』

『…そうだ』

『了解した、だがこちらは負傷者が出ている状況なんだ。いざとなったら撤退の許可は出してくれよ』

『…分かった、それではよろしく頼む』

通信を切り、素子は全部隊に電脳通信を行う

『各員へ、補給ポイントへ合流した後。我々は鉄血のハイエンドモデル“イントゥルーダー”の撃破に当たる。おおよその検討は付いている…敵が機密部隊と接触する前に叩くぞ』

夜はさら更け丑三つ時となった戦場にいくつもの足音がかすかに聞こえてくる。

面倒なことになった、と素子は外骨格の状況を確かめながら呟くのであった。

 



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Mission10.ショウの始まり~抜け穴~

どーも恵美押勝です。課題の数は少ないんですが中々ヘビーなもので結構辛いです、3週間後には発表って噓でしょ…
自分語りもアレなんで、本編をどうぞ


程なくして、バトーが率いる第二部隊が補給ポイントへ合流を果たした。素子が数十分前に見た姿とは全然違うことに驚きの声を漏らすが彼女は大丈夫、の一言で済まし全員に電脳通信を行うため彼女の電脳を鍵付きでオープンにした。パスを渡された全員が彼女の電脳に入り作戦会議を行う

『本社からの緊急の依頼だ、先ほども言ったが我々はこれより鉄血の新型ハイエンドモデル“イントゥルーダー”の排除を行う。』

『排除を行うって、そのイントゥルーダーとかいう奴の居場所、分かってんのかよ』

『鉄血兵らの電脳に侵入し、誰から、どこから指示を受けていたのかを解析する』

『…前のように死ぬまでの記録を見るというわけか』

『そういうことだ、こいつがハイエンドモデルの部隊に配属されて臨時の拠点に移動する指示を受けたとこまでを確認する…』

『…SOP、一旦抜けて適当に近くにある残骸を拾ってきてくれ』

『分かりました~!そのまま持ってきた方がいいですか?それとも頭だけ?』

『そのまま持って来てくれ、電脳は鮮度が大事だ。バラすと電脳の保存状態がすぐ悪くなる。頼んだぞ』

『了解!じゃあ一旦失礼しますね!』

『…電脳の中を閲覧し確認した後、敵拠点の場所を各自の電脳内の地図にマッピングする。その後直ぐに拠点を攻める、おそらく敵はガトリングを主武装とする敵だ。

…機密部隊の護衛にハイエンドモデルの処分、仕事が多すぎると思わないか?どうだろう、ちょっと“遊んで”みないか?』

『…遊ぶ?少佐、何を言ってんだ?』

『私だってちょっとぐらいの遊び心があるってことさ』

『少佐!少佐!適当な残骸拾ってきましたよ!!』

『ありがとう、SOP。というわけだ、一度こいつの中に潜るから通信を切るぞ。それまで各自待機していてくれ』

その一言で解散し、全員が彼女の電脳から退出した後彼女は足元にあった残骸…Ripperの首根っこをつかいいつも通りナイフで端子カバーを抉り取った。そして首元からケーブルを引っ張り出し接続し、彼女の意識はRipperの中へと吸い込まれていく…

 

「…M4、どうしたのそんな遠く見つめて」

「イントゥルーダーに対してどう対処するのか、少佐の考えが気になって…」

「敵はガトリングを持っているんだから正面から行くのは愚の骨頂よね」

「となれば、背後から襲うって感じなのかな?私としては正面から相手にした方が気持ちがいいんだけどなぁ」

「ミンチになりたいならいいんじゃない?」

「えー人形のミンチなんて食えたもんじゃないよ」

SOPがそう言いながら笑った瞬間、電子音が聞こえた。それはM4が素子の部隊に所属する前に使っていた通信機から発生された音だった。全員に緊張が走った、これにアクセス出来るのは“彼女”しかいないからだ。

『…M16姉さん』

『久しぶりだな、M4。元気にしていたか』

『…馬鹿、連絡の一つぐらいよこしてくださいよ…!』

『すまない、長いこと連絡できる状況に居なかったんだ。そっちは今…』

『…作戦中です』

『そうか、そいつは悪いタイミングで連絡を入れちまったな』

『今は小休止中なので』

『ならよかった、SOPやAR15は…』

『私と一緒にいます、全員無事です。あとは姉さんだけです!いつに…いつになったら会えるんですか!』

『なーにもう直ぐ会えるさ、いや案外お前たちの近くにいるかもな。そんなに時間はかからないつもりだ。…すまない、どうやらお客さんが来たようだ。・・・M4、頑張れよ』

『…姉さん!?姉さん!』

通信はそこで途切れた、ノイズ音だけが周囲に響き渡る。M4は通信機のスイッチを切ることを忘れていた、突然の連絡に驚き、様々な感情が入り混じり電脳に負荷がかかった為だ。しかしこのように様々な感情が抱くのはM4だけである。故にAR小隊の他のメンバーは驚きはしたものの彼女のようにはならなかった。とは言え、電脳の負荷はものの5秒で解消されM4はゆっくりと通信機のボタンを押し、切った。同時に彼女の電脳内にダウンロードされていた地図が更新された

「…ここから4km離れた場所、か…M4?」

「姉さんから通信が来たこと、少佐に報告するわ」

「…M4」

「分かっている、勿論今の任務が最優先。ただ少佐はAR小隊の保護も兼ねているから」

「…あともう一息よ。この任務をこなしてM16も助けましょう」

「ええ」

素子の場所に向かいながら、彼女は素子の電脳に通信を行う

『…少佐』

『どうした、M4。マッピングはちゃんと出来ているはずだが』

『ええ、それは大丈夫です。一つご報告したいことが』

『…AR小隊関係か?』

『そうです。M16から連絡が来ました』

『…!分かった、近くにいるのか?』

『それは分かりません、でも姉さんは“近くにいるかも”とは言っていました。』

『了解した、この任務を終わらせた後捜索任務に当たる』

『ありがとうございます!』

通信を切り、全員が集合する。再び素子の電脳内に集合し、彼女は全員に一枚の衛星写真を見せた。

『これからイントゥルーダーが拠点にしている基地への攻撃を開始する』

『…基地、というよりかは村のようだな。見ろよこれ、井戸なんて始めて見たぜ』

『廃村を利用した基地のようだ。さて、ここにフラカンを飛ばして入手した通信データの送受信を可視化したものをマップに重ねる』

そう言うと基地の写真の建物全般に赤い点々が刻まれる。

『…2か所だけ赤く塗りつぶされている箇所があります、これは…通信が過密している地点ということですね』

『その通りだM4、だが一つの基地、しかも小規模な基地に二箇所…一か所は教会、もう一か所は小劇場こんな場所があるのはおかしいとは思わないか?』

『…つまり一つはフェイクだと、そう言いたいのか少佐』

『あぁ、だがフェイクなら好都合だ。敵の罠を利用してやろう』

『だがそれはフェイクなのはどっちか分かっていて初めて成り立つことだろ』

『…間違いなく、ここだ』

彼女は地図の一か所を示した。

『教会…?何故そう言い切れる』

『井戸、教会の近くにあるんだ』

『それが?』

『いくら廃村を利用しているとはいえ、基地として運用していくのだから村で利用していた道路とかはきちんと整備されている。なのに何故井戸はそのままにして残している?』

『鉄血の人形が水分を欲している…なんてことはないよな。オイルをガブガブのんで動いている訳でもあるまい』

『日本において井戸は勿論水を汲む場所であった、だがそれと同時に脱出口でもあった』

『…脱出口?』

『敵に襲われた際に城の地下に潜り、井戸から脱出する。いわゆる“抜け穴伝説”は数多く存在しているんだ。代表としては大阪城だな』

『歴史のお勉強もいいが、この井戸が脱出口だとしてどう関係が…?・・・っ!なるほど、そういうことか』

『そうだ、このフェイクの場所と井戸は距離が近すぎるんだ。脱出口としての井戸は本拠地から離れていて初めて意味を成す』

『…しかしご主人様、フェイクだと分かっているなら何故わざわざ偽の場所に踏み込む必要が…』

『フェイクまでこしらえる奴は自分の思い通りになった展開しか思いつかないんだ。思い通りの展開になった瞬間、その警戒心は0になりこちらを弄んでやろうという加虐心が芽生える

つまりだ、こちらが反撃することなんて微塵も考えていない。自分が負けるだなんて微塵も考えていないんだ』

『…つまり、殺すのには絶好のチャンスだと』

『そういうことだ、では作戦を説明しよう…』

 

 



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Mission10.ショウの始まり~安い芝居~

ど~も恵美押勝です。今回は少し真面目な話を、今回の作品は熱心なクリスチャンの方には不快に思われる表現があるように思われます。ですが私はキリスト教を敵視している訳ではありません。どうかこのことだけはご理解お願い致します。
それでは本編をどうぞ


イントゥルーダーと呼ばれたこのハイエンドモデルは指揮者であった。・・・正確に言えば「自分のことを、指揮者だと、役者だと戦場をその舞台だと思い込んでいる」はハイエンドモデルであった。実際に下級ハイエンドに指揮する能力を保持しており、それ相応の電脳の保持している。指揮者である彼女が何故“侵入者”という名前を付けられたのか、彼女の本来の製造目的は敵基地への潜入や通信の暗号解読、及びその妨害工作であった。電脳の性能がいいのもそのためだ、しかし彼女は本来の使い方で用いられることはなかった。鉄血公造が壊滅してからペーパープランから生まれた彼女はその本来の目的とは違う、ハイエンドモデルの指揮という目的で用いられることとなる。彼女はその性能のいい電脳で大いに苦しんだ。当初の目的と現実との隔離、自分の持つ“個性”(少なくとも彼女はそう考えている)が抑圧されている現実に彼女の電脳は常に負荷状態にあった。…なまじ性能が良いが故の弊害である。

負荷に追い込まれた彼女は一つの結論に至った

「私がこのような扱いで生きるのを受け入れよう、何故なら私は“ハイエンドモデルの指揮者”という役割を演じているのであって私の個性は潰れていない。私が役者であるならば、役者が輝く舞台が必要だ」と…

 

午前4時になり夜明けまであと1時間を切った、イントゥルーダーの排除を行うため素子達は敵基地へ向けて前進を開始していた。

「…もう朝の4時、これは久しぶりの長丁場ですなぁ」

MDRが携帯電話の時計を確認して独り言ちる。

「イントゥルーダーを排除したら、これで私たちの任務は終わり。そうですよね」

「悪い、グリズリー。これが終わったらもう一個仕事がある」

「仕事ぉ!?これ以上働けと!?ブラック企業ですかここは、掲示板に書き込まなきゃ…」

「AR小隊の残りのメンバーがこの付近にいる可能性が高い。AR小隊の保護もまた私達の任務だ。・・・そう落ち込むな、残業代はキチンと支払う。」

「きっとですよ!?私この間減給されてもうカツカツなんですから!まさか本当に減給するとは思わないじゃないですか!?」

「おい、笑い話もいいが改めて確認したい、フェイクの方に入るのは俺たち第二部隊なんだな」

「そう、そして第一部隊が井戸を通じて敵本拠地に潜入。油断しきっているところを排除する。そういう手筈だ」

「了解、見た感じフェイクとなっている教会かなり狭そうだ。待っている間俺たちは何をすればいい?神様にお祈りでもすればいいのか?」

「恐らく、罠にかかった時のために教会周辺に鉄血兵が隠れている筈だ。こいつらと一緒に“お祈り”してくれ」

「了解、鉄屑を救ってくれる神様はいないと思うがな」

「出来るだけ、こっちでジャミング出来ないか試してみる」

「頼むぞ」

そう話しながら歩いていると廃村、基地の付近に到着した。双眼鏡を取出して素子が周囲を見渡す。あちこちに鉄血兵が存在しており廃村の入り口から300mほど離れた場所に協会が位置していた、そこから更に300m離れた場所に小劇場が位置している。

『…どうしますか、ご主人様。ここは穏便に行きますか?』

『…いや、相手は私達がここに来ることに感づいている筈だ。なら、隠れてこそこそする必要もないしこの作製は私達の存在を連中に知らしめる必要がある。敵陣のど真ん中を突き抜けていく、楽なことではないが…それでもこれしかない。よし、作戦開始だ』

 

始まりは、一発の銃声だった。素子の撃った一発がRipperのバイザーに命中し貫通したのがこの基地においての開戦の合図であった。

間もなく、鉄血兵達が素子達に向けて攻撃を開始する。第二部隊のMDRがスモークグレネードをあるだけ投げて煙幕を作る。ほんの一瞬の目隠しに両部隊は全速力で駆け抜ける

第二部隊が先行しているのを第一部隊が後ろ向きで走りながらバックアップをする。第三者から見ればシュールな光景ではあるが敵陣を突っ切る彼女らにとってはこれが最善策であった。廃教会との距離は残り200mを切った

素子は狙撃用の戦術人形を編成しなかったことを強く後悔した、彼女らが居てくれればまだもう少し楽になれたことか。だが仕方ない、この作戦はイレギュラーなのだ、本来であれば機密部隊を護衛してそれでお終いだったはずなのだ。こんなことは眼中になかった。

(後悔しても仕方ない、か…)

自分の判断を呪いながら、素子は眼前の敵の団体に向けてグレネードを投擲する。倒せなくてもいい、距離稼ぎになってくれればという思いで投げたそれは2機のVspidの足を破壊するだけに終わる

廃教会との距離は残り100mを切った

バトーもまた、眼前の敵を処理しながら考え事をしていた。

(教会に入り込んだ後は籠城戦になる、先ずは簡易的なバリケードを設置した後…罠を仕掛けて、その後は…真っ当に戦わなければいかんな。SOPやZasにはまた世話になりそうだ)

そう戦術的なことを考えながら、敵がバリケードを超えるまでは一服したい、と少し余裕な考えが浮かんだ自分自身にバトーは苦笑しセブロの引き金を引く。青白い閃光の先で鉄血兵は文字通りスクラップと化した

そしていよいよ彼らは廃教会へと辿り着いた

『第二部隊、ポイントに突入するぞ!』

廃教会の扉は基地用に改造されており重い鉄扉であった。扉付近にはパネルがあり、テンキーが備え付けられていた。バトーは素早くそのパネルにハッキングを行いパスワードの解析を行う、即席基地の即席装備の為か防壁は必要最低限のでしかなく、少し電子戦に長けているものであれば数分もあれば解析完了する代物だ、素子に続き電子戦のプロである彼にとっては数秒もあれば充分であった。

解析を終えて素早くテンキーを打ち込みロックを解除した彼は扉を開け、部隊の全員を素早く中に入らせ、テンキーを思いっきり殴り壊した所で自分も中に入ると扉を勢い良く引きと締め始め、扉が閉まる直前にモニターに一発喰らわせる。殴られた箇所が陥没しモニターからは漏電したのか火花が散っている。これで向こうから正当な方法で扉を開ける手段は無くなった。

部屋に入った後バトーが叫ぶ

『椅子だ!とにかく椅子を持って扉の前に積み上げろ!椅子が無くなれば机でもいい!正し自分の身を隠すための分は残しておけ!』

「ダミー人形は!?」

『一緒に机に隠れて迎撃するのもよし、尖兵として机の前に立たすのもよし、各自の判断に一任する!』

そういうとバトーはドアに近づきワイヤーと手榴弾を用いてトラップを作ったドアを開けるとワイヤーが切れてピンが抜かれ、爆発するという仕組みだ。

間もなくドアがガチャガチャと乱暴に開こうとする音が聞こえる、その音にせかされるように人形達が入り口付近に椅子や机を置く、教会に置かれている椅子は重量があり幅が広く例え人形でも二人がかりではないと運ぶことが出来ない(バトーを除く)

だがバリケードにはこの上なく最適な障害物である。どうにかバリケードを完成させた時には外からは音がしなくなった

『退却したの?』

SOPが残念そうな声でバトーに尋ねる

『いや、連中ここを無理やり開ける道具を持ってきているんだろう。バールとか破城筒とかな、そう心配しないでもドンパチやれるさ。今のうちに銃の点検をしておけよ、パーティーに出遅れたら大変だ』

『分かった!』

椅子の後ろにバトーは隠れて一服しようと思った、彼自身それが善い行いではないことは分かっていたが敵が突破するまでには幾ばくかの時間がかかる、吸うだけの時間はあるということだ。緊張感で張りつめた精神に少しご褒美を与えてもバチは当たらない、そんな考えが浮かび、なんて甘えた思考なんだと、それよりも今は銃の整備だろうとバトーは自分自身に苦笑した

(俺も年かねぇ…)

そんなことを思いながら内ポケットから取り出したタバコの箱を見つめていると自身の後ろに視線を感じた。彼は素早く銃を構え後方を振り向くが誰もいなかった…いや正確に言えば“神”は彼を見ていた。磔にされたキリスト像がまるで彼を見つめているようだった

(よほど突貫工事で作られたらしいな、この基地。それともクリスチャンの人形でもいるのか?)

バトーはクリスチャンではなかったから精通していないがこのキリスト像は他のキリスト像とは何か違う雰囲気を感じた。

(井戸を脱出口として残しておく連中だ、ひょっとしたらこのキリスト教も何かの役目があるんじゃねぇか…?)

まだ日本が存在していた時に素子からこんな話を聞いたことがある、択捉島で仕事をしていた時に、いくつかの義体を用意して電脳を介した遠隔操作(つまり素子が使う衛星兵器のような代物)で彼女を翻弄したということを

(…あのキリスト像、“暖かみ”がねぇな、祈るため、崇拝されるために作られた代物は作者のゴーストが生温かく刻まれている。だから俺らはそういった代物に対して汚したり破壊したりするのを躊躇うんだが…こいつは“冷たい”、銃やナイフを見た時に感じる冷たさだ)

バトーは数秒の思考の後、キリスト像に向けてサブウェポンであるジェリコを突きつける

「バトーさん?そんなのに銃を向けてどうするの?まさか、敵?」

「…かもな、確信は持てんが」

「じゃあ壊しちゃう?なんか目つきが気に入らないんだよね」

「神をも恐れぬ奴は怖いねぇ。しかし同感だ…後ろから見られていると思うと落ち着かねぇ」

バトーとSOPがトリガーに指をかけたその時、彼らの目の前から声が聞こえた。キリスト像は顔を上げて彼らを見ていた

「…やれやれ物騒なお方だ。無神論者ですか、嫌なものですね。こんな時代です、神を信じてみては?」

「バトーさん、あの像から!」

「あいにくだがこんな時代だからこそ、だ。神様は見ているだけで手は施してくれなかった…仮にいたとしても傍観者に上げる信心なんてありゃしねぇ。俺はガキの頃からそんなもん信じちゃいねぇのさ。さぁ宗教勧誘と安い芝居は他所でやってもらおうか。え?イントゥルーダーさんよ」

「…貴方がクリスチャンでなかったのが残念ですがこういう展開もお芝居にはアリですね。では自己紹介を、私の名前はイントゥルーダー、この基地のリーダー。あなた方で言うところの“指揮官”をさせて頂いている物です。率直に申し上げますと私達は貴方に対して負ける気はありません、が勝つ気もありません。私は暇つぶしをしたいだけなのです」

「暇つぶし?それがこの安い芝居か?自分の存在を示唆させるように適当な人形を殺してその辺に放りだしておいて、ここに誘い出し、キリスト像を使っての会話…芝居に突き合わせて俺たちを足止めしてる間何かしようっていうのか」

「心配しなくてもあなた方の任務に支障はありませんわ。私の目的はそれ以上の事にある…それにしても貴方は気になることを言いますね私のこれを“安い”芝居だと?」

「あぁ安い芝居さ、途中までは面白いもんだが喋るキリスト像で台無しだ。宗教映画でありそうな展開…人の心を“分かったような気”でいやがる。お前、俺のことをクリスチャンだと思っていたらしいな。こんな時代に銃を持ってこんなところに来てる奴がクリスチャンな訳がないだろ。悲惨なことがあれば宗教が力を持つ、というのはもう過去の時代だ。データベース上での人間しか知らないから今を生きる人間の心理が分からない、だからお前の芝居は安いんだよ。」

「・・・」

「それにだ、お前の声、少し震えているぞ。役者としても失格というところか。」

「・・・随分と手厳しいお方だ、私は役者でもなければ舞台監督でもないのですよ?」

「その割には声が震えが強まったが…それもお前の芝居ならばさっきまでの言葉は撤回しよう」

「…どうやらお客さんが来たようだ、どうでしょうバトーさん。私の暇つぶしが終わったら演技指導をしてくれませんか?どうやら私はそういう仕事の方が向いてそうだ

「かもな、戦う前に敵とこんなに喋る奴はこの仕事にゃ向いてねぇ」

「では、一度失礼いたします。そうだ、バトーさん。神様は見ているだけかもしれませんが私はそうでは無いかもしれませんよ。それでは…」

突如キリスト像が磔になっている十字架を踏板代わりに蹴とばしこちらにダイブしてきた。バトーは落ち着いてジェリコを像の顔に撃ち、被弾した反動で変な体勢で地面に落下したところをもう一度頭部に向けて撃った。たったそれだけで奴は動かなくなった

「くだらねぇ…」

そう独り言を呟くバトーは何処か疲れていた

 



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Mission10.ショウタイム~マリオネット~

ど~も皆さま大変お久しぶりです。恵美押勝です、学期末の課題に追われ気がついたらもう前回投稿してから2ヶ月が経とうとしてしまいました。
身の上話もアレなんで、本編をどうぞ


眩い閃光が目を刺した、途端に光は眼前から消え去り果実を踏み潰すかのようなひしゃげた音が聞こえ、自分自身が糸で吊るされ引かれたような感覚を感じて彼女は…イントゥルーダーは自身の体に戻った。役者でもある彼女は何回か自身と他の素体を同期させ活動していた。そのため彼女自身が戦場に立つのはごく稀であった、しかし自身の体に戻った彼女は己の得物であるガトリング砲タイプの銃を手に持ち今にも表に出ようとしていた。同期を解除した際に生じる、引かれるような感覚の嫌悪感よりもバトーに対しての静かな怒りが彼女の電脳を埋め尽くさんとしていた。確かに自分は役者だ、だが本当の私は役者などではない、それは自分を慰めるために作った哀れな設定だ。自分でもそう自覚しているので馬鹿にされようとも意に介さない、そうであるべきだ。しかし

(あの男は一度この手で殺さないと気が済まない…!)

見透かしたような口を聞いた、そのことが気に食わなかった。許せなかった、人間を憎んでいるとか蔑んでいるとかではなく、分かったような口を聞き、己を守るために作った醜いアイデンティティであろうと自分を愚弄する人間に対しての純粋で静かな怒りだ

(だが今は、“客人”を相手にしなくては…無礼な人間を殺すのはその後だ…)

その頃、素子らは件の井戸にたどり着きダミー人形らを引き連れて暗い井戸の中を進んでいた。中は恐ろしいほど暗く、彼女らが持っているライトで照らさなければ自分達が進んでいる道がどのようになっているのかも分からなかった。

『細い直線…一人分の道幅しかないなこれは』

『ダミー人形を引き連れているとちょっとした大名行列だね、少佐』

『茶化すなグリズリー…」

『こうして見ると本当、少数を引き連れて脱出するための通路なんですね』

とM4A1が周囲を円を描くように照らしている

『しかしこんな古典的なものを作るなんて、どういう電脳モデルなのイントゥルーダーとかいうハイエンド…』

AR15はうんざりしたような口で前を照らしている

『鉄血のハイエンドになるのには性能だけじゃなくて“個性”も重要なんでしょうね』

『我が社もそれなりに“個性”を重視しているわよ。イングラムもそうだけど個性まみれじゃないのあなた達』

『じゃあ、イントゥルーダーとかいう奴もスカウトしますか?ご主人様』

『それは勘弁、私ああいうチマチマしたことをする性格は好きじゃないのよね』

そんなことをしゃべっていると、とうとうライトの先に扉が見えた。鍵がない扉を静かに開けるとそこは踊り場と繋がっていた。周囲を見渡すと壁に紙が間隔をあけられて貼られている

『これ、次の公演する演劇のお知らせですよ。他にもここのアルバイトの募集情報とか…』

紙をめくりながらM4は話す

『次の公演ね…もう“次”はないのに』

『意外とセンチメンタルなところがあるんだなAR15、だがこれで分かった。奴ら、本当に最低限度しか元の施設に手を加えていない。ここの貼り紙を捨てるぐらいの暇もないほど急ピッチでな。つまりこの施設の構造はほとんど変わっていないということだ。そうなれば…』

素子は全員の電脳に一枚の図を送信した

『ここへ向かう途中にダウンロードしておいたこの小劇場の地図だ。奴はここの何処かにいる。』

『司令官として活動できる場所…広くて、安定して通信が行えて、尚且つこの脱出口に近い場所は…』

『“演劇ホール”、ここしかないんじゃないでしょうか』

『正解だ、M4。敵は近いぞ、各員戦闘準備をしておけ』

この劇場は2階建てでホールは2階にある、一同は腰をかがめた

『グリズリーとイングラムが先行して2階に上がってくれ、本体だけでいい。ダミー人形には反対側の階段を監視させる。確認次第、残った我々も上へあがる』

『了解!』

『分かりました』

グリズリーとイングラムは足音を殺して2階へと上る、素子は彼女らを見上げながら武器をセブロC-25からセブロM5に切り替えた。

『…こちらグリズリー、長い廊下の真ん中あたりの壁側に扉があってこれがホールへの入り口のはず。問題は入り口の前にRipperが2体いる』

『サイレンサーか…空のマガジンは持っているか?』

『いや、ないな。イングラムは?』

『私も持っていないです、まさか室内戦闘するとは思わなかったので…』

『まぁそりゃそうだよな…仕方ない。今から空のマガジンをそっちに渡すからグリズリー、受け取ってくれ』

『それを投げて奴の気をそらせと?』

『そうだ、その後で…イングラム、お前ナイフ持っているよな?』

『えぇ、…やりますか』

『頼りにしているぞ、なにせお前は元々ナイフ使いだったんだからな』

『よろしい、ブラックジャックも真っ青なコントロールをお見せしましょう』

素子は防弾ジャケットのポケットから空マガジンを一つ取り出しグリズリーに向かって投げた。適切なコントロールで受け取られたそれをグリズリーはなるべく遠くに、音が大きすぎず小さすぎずになるように投げた。マガジンはRipperの頭を越えて、扉がる場所より3mほど離れた地点に落下する。

静かな廊下に突然カシャン、と小気味よい音が聞こえた、巡回していたRipperの聴覚端子のもそれは聞こえ、何かが落下したことを電脳が演算する。だがその「何か」を知る前、一瞬背中に強い衝撃を感じ、否、「背中に衝撃があった」と言う事実を知る前にRipperは破壊されたのだ

『ビンゴ』

とダーツを投げ終えたような姿勢でイングラムは静かに…だが興奮を隠しきれないように言った

『Ripperってのは背中の右側辺りにバッテリーがありましてね、それに動力源を依存しているから潰されると心臓が無くなるのと同じ…我々で言えばコアを破壊されるようなものです。』

(この子殺しになると急に饒舌になるわね…)

『投げナイフでやるとは思わないじゃん、あんた元々ジャック・ザ・リッパーをモデルに作られた人形じゃないでしょうね』

『嫌ですねぇグリズリーさん、そんなわけないじゃないですか。私のそれは余暇で覚えたもので…』

『喋ってないで突入するぞ、全員続け!』

素子の掛け声で全員が扉の前へと集まる

『突入はセオリー通りで…舞台か、少しどうだろう。“次の公演”を私たちでやってみないか?イングラム、もう一つ頼みたいことがあるのだが…』

 

 

ドアが蹴破られ、タイミングよくG36がスモークグレネードを投げる。

突入した途端に耳をつんざく爆音が聞えた、自分たちが使う兵器とは格が違うことを察せるような音であった

『やられた!少佐!私のダミーが一体バラバラになった!』

『グリズリー!大丈夫か!』

『私自身は大丈夫!少佐、これ敵ガトリング使ってる!』

『やはり敵はガトリングを使っているか…各員遮蔽物に隠れろ!』

全員が椅子の後ろに隠れる、とはいえガトリング砲の直撃を受ければこのような物はすぐ木端微塵となり隠れている自分も同じ末路を迎えるだろう。爆音は止むことがなく座席が次々と破壊されていく。小隊に被害が及ぶのも時間の問題だろう

「…めた!もう止め!」

耳がつんざく音の中突如、声が聞こえた。途切れ途切れでよく聞こえなかった誰の声だ、疑問を感じたのは人形達だけじゃない。イントゥルーダーもそうだ、それを示すようにガトリング砲の音が止んだ。

「もう止めた、って言ったの」

声の主は草薙素子、その人であった

「な、何を言ってるんです少佐!?」

「ガトリング相手にこっちの豆鉄砲で勝てるわけがない、そういったのよM4」

「…!」

そう言って彼女はC-25をゆっくりと床に置きつま先で蹴とばした。

「少佐!正気!?ここまで来て諦めてどうするの!?いや、諦めたら私たちが死ぬのよ!?」

「…それは困るな、分った。少し交渉してみようかAR15」

煙が晴れて、舞台の全貌が見えた。舞台のど真ん中にはイントゥルーダーがポツンと一人立っていた

「今からそっちに行くから、撃たないでくれよ…」

両手を挙げながら彼女は舞台までゆっくりと歩き出した

「…お前の名前は」

「それはこちらがご存じでしょうに、まぁいいでしょう。鉄血指揮型人形は製造番号SP914イントゥルーダーと申しますわ。…こちらが名乗ったのだからそちらも名乗るのが人間の言う“マナー”では?」

「私の名前は草薙素子だ」

「なるほど、貴方が噂の…ハンター、スケアクロウやエクスキューショナーがお世話になりましたわね。彼女らの指揮は私が担当していましたの」

「お前が?人間になり切れない案山子と血気盛んな処刑人と狩人になれない狩人を指揮するのはさぞ難しいことだったろうな」

「煽りに来たのではないのでしょう?交渉、しに来たのでは?」

「…そうだな」

「素子さん、私はね今失望しているんですよ。仮にもあの子らを殺してきてあの代理人にも一目置かれている人間が、このザマですか?」

イントゥルーダーは地面に立てたガトリング砲を持ち上げ銃口を素子に向けた

「勝てない相手に無謀に向かってきてやっぱり勝てないから助けてください?そんな情けない奴の言うことを何故聞かなきゃいけないの…!交渉の余地なんてない、ここで全員きっちり殺してあげる。」

イントゥルーダーは恐ろしい形相で素子を見ている、そしてゆっくりと引き金に力を入れ…

「なんて、そういう風な展開を迎えたら面白いでしょうね。でも失望しているのは本当ですのよ。とはいえ貴方を殺すことは代理人から許可されていない。いいでしょう、交渉に応じましょう、今この状況において貴方はこの舞台のVIP席に座っていますわ。ある程度無茶な要求も聞くだけ聞きましょう“全員を助けろ”なんて要求が通るのもやぶさかでなくてよ」

「なに、簡単なことだVIP席と言わずこの舞台の主役になるべくそちらには降りていただこうと思ってな!」

すかさず素子は内ポケットからM5を抜き取りイントゥルーダーに向けて発砲する

「…流石ですよっ!舞台はそうでなくては!!」

イントゥルーダーはガトリング砲を構えなおし素子に向け発砲する、マズルフラッシュが刃のように素子に切りかかるがすんでのところで回転して回避する

「どんでん返し、派手なアクション!!これこそ舞台です!でも残念主役は“私”

です!貴方はせいぜい主役の為に殺されてくださいよ!」

「それは映画じゃないかっ…!G36!『香炉峰の雪はどうだ!?』」

「今日は冷えますよご主人様!『簾』は下げておくのがベターです!」

「オッケイ!」

次の瞬間、彼女は後ろに向けて大きくジャンプした。

「何をごちゃごちゃと…」

その時である、突如天井からピン、ピンと何かが千切れる音が聞こえた。だがイントゥルーダーはそれを気を留めることはなかった。それを後悔したのはグォンという重く風を切る音が自身の真上で聞こえてからであった。目の前に迫る板はあまりにも強大で自身の得物ではどうにかしようとも思わないほどだった。

 

「…なるほど、最後は私の生きがいによって殺される。そういう運命ですか」

もしも運命なるものがあるならば、神なる存在がいるのであれば、どれだけ恨んだことだろうか、殺すことが出来ればどれだけ良かっただろうか。自分を騙しつづけたモノが存在し続けられるほどこの世界は甘くはない。ならばこれは報いというものなのか、だがそうなったのは何故か?あいつらのせいだ、勝手に自分を作って自分を否定したあいつらだ。

自分は「役者」なんかではないただの「マリオネット」だった

あぁ、自分はなんて不幸なのだろうか

そんな悔恨の念は救われることはなく無慈悲に消える

今まさにマリオネットは処刑された…

 

 



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Mission10.ショウタイム~再会、姉よ~

ど~も恵美押勝です、最近暇になりすぎてHuluに登録して『あぶない刑事』ばかり見ています。その影響が小説にも表れているようないないような....
長話もアレなんで、本編をどうぞ


幕…否、板が落ちた衝撃で舞った土煙が消えて現れたのは下敷きになりうつろな目でこちらを見ているイントゥルーダーであった

「…引っ張ってくれませんか。どうも私の下半身は未練がましいようで、あなたには分からないでしょうが別れるようで別れない関係ってのは気持ちの悪いものなんですよ」

人口血液だらけの手を素子に差し伸べ、はっきりとした声で彼女に頼んだ。彼女はその手を取って引っ張ってあげる、プツリと糸が切れたような音がしてイントゥルーダーの上半身だけが彼女らの元に来た

「上半身だけで生きていられるものなんですか?」

「いや、如何にハイエンドと言えどこんな状態で長く稼働できるわけがない。」

「音響反射板…いかに兵器と言えど大きさと重量でゴリ押しされたら勝てませんわ。」

「お前が私と話している間に部隊の内の人形がホールの天井裏に行ってワイヤーをカットしたって寸法だ。…しかしヒントはあげたのにな。演劇だけじゃなく日本古典にも親しんでおけ」

「…歌舞伎、能でしたっけ?」

「いや、今のは『枕草子』の一節で…いやそんなことはどうでもいい。」

「知恵比べでは私の負け、ですか…」

「演技力でもな、お前は役者にはなれんよ」

「これは手厳しい…やはり貴方も殺したかった」

「“も”?」

「本当は貴方より相方さんの方を殺したかった、だってアイツは私のアイデンティを愚弄したから…偽物のアイデンティティでも」

「偽物?」

「私の製造経歴を見れば分かりますよ…」

「偽物のアイデンティティに誇りをもったらお終いだな」

「あら、貴方だってそういったものはあるのでは?自分が気が付いていないだけで。本当に人間であるという証拠もなく、自分の記憶は本当に自分が記録してきたものなのか。いえ貴方でなくても誰だって自分を殺して偽物のアイデンティティを持って生きている。マリオネットは私だけではない…!」」

「…お前の言う通りだよ、私だって“本物のアイデンティティ”なるものは存在しない。この世の中に存在しているモノが“本物”を持っているのはそういない」

「そう…でしょうね」

「だがな、偽物のアイデンティティなんざに誇りはもたん。誰だって自分を殺してそんな自分を恨んで生きている。殺したくなるほどな。お前のは誇りなんかじゃない、ただの開き直りだ」

「…ただの開き直りでも私にとってそれが私自身が助かる方法だったんです」

「…少佐、お話し中すいません。一つそいつに聞きたいことがあるので」

「構わんよM4,M16のことだろ」

「えぇ、…イントゥルーダー、M16姉さんを何処へやった?」

「…知るもんですか」

「役者の時間は終わったのよ、イントゥルーダー」

「知るわけがありませんわ。私はマリオネット、命じられた通りに動くだけの人形…」

「ならその命令を教えなさい」

「そうベラベラ喋っちゃつまらないでしょう、謎は少し残るぐらいがいいエンディングに…いえこれは鉄血の為じゃない、私個人の嫌がらせのようなものですね」

「…っ!」

苛立ちを隠せなくてM4は自身の銃をイントゥルーダーの額に押し付ける。彼女は無駄だと分かっているが奴のすべてを見下したかのような笑いがどうしても癪に触ったのだ

「…無駄だと分かっているのでしょう、さぁそろそろ出て行ってくれませんか。最期ぐらいは自分一人でいたい。糸のない人形がようやく自由になれたんです。気を利かせてくれてもバチは当たらないと思いますよ」

その言葉を最後にイントゥルーダーは沈黙した。閉ざされた瞳が再び開くことはない

「行きましょうご主人様、任務は終わりました」

「お前も感傷になるタイプか、まぁ分からないでもない…私も色んなハイエンドは見てきたが鬱気味の奴は初めてだ…頭の出来が他のと一つ違うというべきか」

(だが自死を選ぶことはなかった、何故だ?それは自身に絶望して開き直ることにあるがこれまでの奴は情報漏洩を防ぐために自死を選ぶのが多かった。上半身だけになったとき何故そうしなかった…?何故だ?それほどまでの忠誠心が無かったとみるべきか、確かに奴事態そこまで鉄血に思い入れがある様子はなかった。自分のことを操り人形というぐらいだからな)

と思案していると電脳通信が入る

『少佐、こっちは片付いた。目立った損傷はない。そっちは?』

『バトーか、イントゥルーダーを排除。ダミー人形が一体やられたぐらいで後は大丈夫、任務達成だ』

『そっちに合流した方がいいか?』

『いや、少しやり残したことがあってな…現場で待機していくれ』

『了解』

通信を終えた所で素子は第一小隊の面々に顔を向けた

『なぁ、これ持って帰らないか?』

『これって…イントゥルーダーをですか?しかし奴は死んだはず』

『持ち帰ってどうするんですか?』

『研究の対象になるとは思うけど…』

『それもあるが貴重な情報源だ、今までの奴は自死するか完全破壊されてデータの回収も出来ないケースが多かったが今回は脳みそは綺麗だ。こんなレアケース滅多にないぞ』

『しかしどうやって、電脳はサスティナブルに保存出来る環境でなければ…今この状況でもこいつの脳は腐りかけているんですよ』

『案ずるなAR15、いい考えがある。グリズリー、お前ダミー人形に対して特別な意識を抱いたことがあるか?』

『単なる自分の分身で物言わない人形だよ?それこそコイツの言った操り人形に過ぎない。でもダミーで何をするの?』

『ちょっとな。お前はバラバラにダミー人形からバッテリーを持って来てくれ』

そういって素子はナイフを使ってイントゥルーダーの首筋にある差込口のふたを外しポケットからプラグの様なものを取り出しそれを差し込んだ

『少佐、これは』

『電脳錠だ、こいつの中にダイブする時間も度胸もないからな…』

と言いながらそれを外した

『これでこいつは自分の意志では何もできなくなった』

『少佐、バッテリー持ってきたよ』

ほい、と渡されたバッテリーを受け取り内蔵されているコードを引っ張り出してそれをイントゥルーダーの首筋にあるコネクタに挿入した。途端にAEDのショックを受けた人間のようにボディが痙攣する

『電脳を覆う殻には中身を保存するための技術が備わっている、電気さえ通っていればある程度は電脳の保存が出来る。勿論永遠ではないがこれを持って帰って基地に帰還するだけならこれで十分だ。…誰かヘリを呼んでくれ、ヘリにはカリーナを乗せるように頼んだ』

『少佐!M16姉さんは!』

『分かっている、まずはこいつを基地へ運んでもらうだけだ』

『残業続きね…』

そういってグリズリーは地面へ座り込んだ

『そう腐るなグリズリー、寧ろここからが本番だ。…バトー』

『少佐、残業は終わったのか?』

『一つはね、でもまだやることが一つある。M16の捜索を行わなくてはいけない』

『よし、もうひと仕事か…』

『これが終わったら帰れるぞ…取り敢えず第二小隊は小劇場内のホールに集合してくれ。地図は今から共有する』

『…受け取った、それじゃあ今から行くぜ』

通信を切り、自分自身が抱きかかえている上半身だけのイントゥルーダーを見る。安らかな死に顔というよりは何処か怒りや悔しさを感じる苦痛さを感じさせる顔であった

「…誰がヘリを呼んだ?」

「私です、ご主人様」

「あと何分で着く?」

「そうですね…この距離ならば20分といったところでしょうか」

「それじゃちょっと休憩するか…精神的に疲れた。こんな疲れは案山子にダイブした後に本社に自分の体を調査された時以来だな…」

「温かいコーヒーが欲しい…インスタントの甘いの…」

グリズリーは自身の銃を見ながらポツリと呟いた

「いいですね、私も欲しいです。砂糖は2袋入れたいですね」

イングラムがナイフをハンカチでふきながら答えた

「それでは帰りましたら私が皆様のためにお淹れましょう、ご主人様は?」

「私も欲しい、普段はブラックだが今日ぐらいは甘くていいかもな」

ホールの中には先ほどまでの殺し合いの空気はどこ吹く風とまったりと落ち着いた雰囲気を醸し出していた。だがM4はその空気になじまず一人立っていてグルグルとその場で回り時折立ち止まってはタンタンと地面に靴が当たる音が聞こえた

「落ち着きなさいM4,ヘリが来るまでは何とも出来ないんだから」

「そうは言うけどAR15、この間にも姉さんがどうなっているのか気が気でなくて…」

「アイツはそう簡単にくたばる奴じゃないってことは貴方が一番知っているでしょ、もうすぐ会えるんだからもっとこうドシっと構えていなさい」

「ドシっとって言われても…」

「じゃあ銃の点検でもしなさい、何かに集中していれば自然と落ち着いてくるから」

「…貴方は偉いわねAR15、なんだか私よりも隊長みたい」

「そう思うなら犬みたいに動き回るのをやめて座りなさい、貫禄ってのは“構え”が大事なのよ“構え”が。」

そうAR15に諭されてM4は回るのをやめて座ろうとした時

────人の妹を犬呼ばわりとは随分とひどいなぁ

「誰だ!?」

「ホールの入り口から聞こえました!」

突如として現れた声の主に向けて第一小隊の面々は銃を構える。…2人を除いて

「噓でしょ…」

「…まさかそっちから来るとはね」

「「M16(姉さん)!!」」

三つ編みに右目には眼帯、声の主はM4が素子らが探していた戦術人形、M16その人であった。

「よっ、久しぶり。元気そうじゃないかお前たち」

そう言ってM16は妹に近づき彼女の前に立つと背負っていたケース(彼女と同じような長さ)を地面に置き顔をあげた

「ただい…」

ただいま、心配をかけた妹に謝る意味を込めてそう言おうとしたのだろう、だがその言葉は妹の平手打ちによって口を閉ざされる

「…馬鹿、どれほど心配したと思っているんですか。そりゃあ姉さんは簡単には死なないって思っていましたし信じています、それでも…!心配だったんですよ!あんな夢も見てしまったし…!それほど心配をかけたのに“ただいま”ってどういうことですか!」

ひとしきり言うとM4は姉の胸に倒れこみ泣き始める。胸で優しく抱き留めるとM16は妹の頭にそっと手をやり優しく撫でる。パラパラパラとヘリが近づいてくる音が聞こえた

M16は妹を抱き留める力を強くする

「…ごめんな、M4」

ヘリの音はさっきと比べると大きくなっていたが彼女の声はしっかりと妹に聞こえ彼女はそれに答えるように顔を胸に沈める

──────ただいま、M4

──────お帰りなさい、姉さん

 



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Mission10.ショウタイム~帰還後の一杯~

ど~も恵美押勝です。夏休みも残り一か月を切りました。いやぁもう一回ぐらい旅に出たいなぁ
身の上話もアレなんで本編をどうぞ


M16が帰ってきた、その知らせは第二小隊にも伝わり数分と経たずこのホールまでやってきた。SOPは友の再会に喜び真っ先にM16に抱き着く、ヘリが来たのはそんな彼女を犬をあやすかのように頭を撫でて10分が経ったころである。G36からその報告を受けて両部隊はランディングゾーンまで走りヘリに乗り込んだ。乗り込むと我らがカリーナが笑顔で出迎えてくれる

「お疲れ様です少佐!ハイエンドを倒しただけでなく電脳が生きた状態での鹵獲に成功したとお聞きしましたが…はて、心なしか人数が増えていませんか?」

「カリーナ、実はなお前が来るまでの間になM16の救助に成功したんだ」

「救助というよりかは合流という表現の方がしっくりくるねぇ」

「…だ、そうだ。すまないがヘリアンに軽く報告しておいてくれないか、詳しい報告は基地についてからにする」

「わっかりました!お疲れのようですし基地に到着するまでの間ゆっくり休んでくださいね!」

カリーナに言われて素子は座席に座り込み隣にいるM16に声をかける

「…M16」

「?」

「恐らくお前はこれから先もAR小隊として働いてもらうことになるとは思うが…同時に私の基地のメンバーの一人として働いてもらうことになる」

「…私の?アンタ…」

「…私はS09地区戦線基地の司令官なのよ。まぁ細かいことは基地に到着してからゆっくりとね…」

そう言うと素子は頭を垂れて目を瞑った。

(…指揮官かよぉぉ!滅茶苦茶タメで話しちまったじゃねぇぇか)

残されたM16は基地に戻るまでの間、他のメンバーからいろいろ声をかけられたがその度に自分のしたことが脳裏にちらついて何処か上の空であった

30分ほどして基地にたどり着き、素子はカリーナに起こされた。まだ眠そうにしながらヘリを降りた彼女は集合を呼びかけ己の頬を叩き気を引き締めた

「先ずは今回の作戦本当にお疲れ様、ゆっくり休んでくれ…あぁ戻る前に一つ手伝いを頼みたい。誰かイントゥルーダーをラボに運んでおいてくれないか?」

「そいつは俺がやろう。」

「バトーか、じゃあよろしく頼んだ」

「しかしお前もよくこんな得体の知れないものを自分の基地に持ち帰ろうと思ったな」

「まぁ、使えるものは何でも拾っておかなきゃこの時代は生き残れないしな…」

「鉄血のハイエンドが俺たちの役に立つのか?ちょっと想像つかねぇな」

「…中身が綺麗な状態で鹵獲されたハイエンドは今までないからな。言ってしまえばブラックボックスというところか」

「なるほどねぇ、じゃあ俺は行くぜ。とりあえずラボにおいておけばいいんだな?」

「そうして頂戴…あぁそうだ、そいつの電脳はバッテリーの電力供給によって生きてる状態だ。ラボにコンセントがあるからプラグを抜いてラボのコンセントに繋いでおいてくれ」

了解、といってイントゥルーダーが入った袋を抱えてバトーはヘリポートから出ていった

「さてと、では全員解散。ゆっくりしていてくれ…M16はまだ部屋がないから今日はM4と一緒にな。細かい話はまた後日に」

「了解した司令官」

「M16姉さん、ここでは司令官の事は“少佐”って呼ぶんですよ」

なんだそりゃ、役職ではなく階級で呼ぶことに特別な意味があるのかと彼女は一瞬思ったがそれを聞くのは後でもいいだろうと思い払拭した。

「…了解、“少佐”。またお会いしましょう」

こうして全員がヘリポートに出ていくのを見た彼女は深呼吸して明け方の爽やかな空気と戦線基地特有のお世辞にも奇麗とは言えない空気を人工心肺の中でミックスさせて体を伸ばしてから司令室へとゆっくり帰っていった

 

司令室に戻るとカリーナがコップを渡した、ほどよく温かいカップの中には緑色の液体が入っていた

「今回の任務、本当にお疲れ様でした。少佐」

「カリン…これは」

「緑茶、ですね。こういう疲れた時には緑茶の方がリラックス出来るって聞いたんです」

「…誰から?」

「ギソーニさんからですね」

「…あいつか」

トグサとカリンが接触していたことも意外であったが彼女としては甘いコーヒーが飲みたかったので若干の不満さを抱えながらカップを傾ける

「少佐は日本人ですからね、コーヒーよりこちらの方がよろしいかと思って、中々手に入らないんですよ。これもギソーニさんに分けてもらったほどで」

そう優しい笑顔で言われるとなんだか申し訳なくなって不満は何処か消え緑茶の渋みが体に染み渡るのをかみしめていた

「カリン、ヘリアンには…」

「えぇ、報告しておきました。もう一度少佐から連絡するように、とのことでしたけど」

「まぁそうなるわな…」

「『忙しかっただろうから明日にでも』とはならないのは大人の辛いところですねぇ」

「…よし、緑茶ありがとう。」

そう言うと背筋を伸ばして、卓上の電話機に手を伸ばす。番号を入力し、数回のコールの後ヘリアンが出た

「少佐か、まずお疲れ様。機密部隊は無事帰還、更にハイエンドモデルの鹵獲に成功…中々の仕事っぷりじゃないか」

「…お褒めの言葉頂き至極光栄です…そう言えば満足かしら、言葉だけじゃなくて形でも欲しいところね」

「分かってる、喜べ少佐。貴官に2週間の休暇を与える」

「…本当?冗談じゃなくて」

「本当だ、今回の活躍もそうだが貴官には重要な任務ばかり任せっきりだったからな。上層部に提案したら意外とすんなり了承してくれたよ」

「ありがとう…本当にありがとう」

「…なぁに礼には及ばないさ、君は休んでいる間の仕事は副官に任せると言い。ゆっくり休んでくれ。なにせ2週間後には招集訓練があるからな」

「…招集訓練?」

「そうだ、この辺の指揮官が集まって訓練するんだ。任務よりは楽だろう?」

「…OK分かった、それとイントゥルーダーの件だが奴はこっちで預かっていいだろうか?」

「何?あんな重要な資料をか?」

「私に考えがある、それに仮にも奴はハイエンドモデルだ。万が一のことを考えたら本社よりこの基地にあった方が会社としては望ましいだろう」

「それもそうだが…何を考えている?」

「なに、ちょっとリサイクルについてな」

「分かった、少佐の言うことにも一理はある。ただし上層部に相談してからだ、私がしておくから返答が返ってくるまで何も弄るなよ」

「了解した」

「…それではな、少佐。今日はゆっくり休んでくれ」

「ありがとう、そうさせてもらうわ」

そこで通話を終え、素子は深く息を吐き椅子に背を預ける。ちょっと冷えたカップを手にとって残った緑茶を一気に飲み干すと、やっと仕事が終わったという感じに思えてきて無性に自分を褒めてやりたくなってくる。そんなことを考えていると時計が朝の5時を回っていた。本来の起床時間まであと30分しかない

(せっかくもらった休暇だ、少しでも仮眠を取った後休暇の事を伝えて副官は…春さんでいいか、しっかりしているしこの基地じゃ付き合い長いしな…)

そして考えるのをやめ、意識は一瞬で虚無の中へと吸い込まれていった

 

さて、眠りについた素子を他所に彼女からの頼みごとを無事終えたバトーは一人厨房へと向かっていた。彼もまたこの任務に疲れていたのだが彼の場合睡眠欲よりも食欲、否、飲酒欲が勝っていた。何故なら戦いで高ぶった神経を静めてくれるのは睡眠でもカフェインではなくアルコールだと考えていたからだ。厨房に出向くとなにやらゴソゴソと音が聞こえた。

(誰だ?)

とっさにバトーは銃を手に取り厨房の入り口から顔をのぞかせる、だが眼前に見えた黒々としたものが眼であることを理解するのには数秒かかった

「…あっ」

「お前はさっきの…M16か」

「えっと…」

「俺はバトーっていう」

「バトーさん…」

「呼び捨てでかまわねぇよ、それよりどうしたんだこんなところに」

「…バトーこそどうして」

「ちょいと酒を飲みにな」

「お、実は私も飲みにきてさ。いやぁここのところアルコールなんて一滴も接種出来てなかったから飲みたくてしょうがなくて。M4に今からでも飲めないかってしつこく聞いたらここを教えてくれてさぁ…なぁ、ジャックダニエルはあるかい?」

「…あるとは思うが、たぶんここにはないぞ」

「残念、んじゃあビール飲むか」

冷蔵庫を開き、よく冷えたビール缶を取り出した彼らは向き合い一瞬の沈黙の後、互いのビール缶同士をコツンと当てた

「ちょっと早いが歓迎会ってところだな」

「乾杯」

プルタブを開けた小気味よい音が厨房に響き渡り彼らは一気にビールを飲んだ。数秒の後、深く息をつき再び互いの顔を見あう

「なぁ、バトー。少佐ってのは一体…」

「…お前は日本という国は知っているか」

「一応知ってはいるけどさ、あんたらはそこの出身なのか」

「まぁな、そこで俺と少佐は公安9課って組織で働いていててよ、少佐はそこのリーダーだったわけだ」

「だけど日本ってところはもう…」

「そう、北海道以外は全滅だ。当然政府なんてものもなくなって公安なんて組織もなくなった…9課は解散、離れ離れだ」

「でもこうして合流出来ているのは奇跡みたいだな。」

「奇跡、ねぇ」

そう言って残りのビールを飲み終えたバトーはポケットからタバコを取出し一本口に咥え、そこでライターがまだ返してもらっていないことに気がついたら

「…なぁM16、火ぃ持ってねぇか?」

「ほいよ」

そう言うとM16はライターを取り出してバトーのタバコに火をつけた

「ねぇバトー、離れ離れになってさ悲しいとかそういったことは思った?」

「…9課は仲間なのは間違いないが互いの腹の内を見せ合って過ごしてきたわけじゃないからな。同僚以上友達未満ってところか」

「じゃあ悲しくなかったってことか」

「…冷めた人間だと思うか?」

「…正直ね、バラバラになったのは仕方がなかったけどその時に悲しいって気持ちはわかなかったんだ。だけど妹に泣かれて殴られた時、寂しい思いをさせてしまったって思った時、なんかこう自分の内側から寂しさをじわじわと感じた。」

そう言うとバトーの方を向いた

「なぁ、タバコ一本くれないか」

「…あいよ」

受け取ったタバコに火をつけて彼女は深呼吸をする

「…でもそういう寂しいってのは嬉しいってことなんだと思う。バトーはさ、少佐…と会えた時嬉しかった?」

「そりゃあまぁな、なにせ数年ぶりの再会だ嬉しくないわけがない」

「…不思議なもんだよな、別れた時は寂しくないのに会えた時は嬉しいだなんてさ。」

「それは『また会える』って信じていたからじゃねぇのか」

「そうか…そういうものなんだねぇ、んじゃバトーも信じていたわけだ」

「…そうなるな、しかし人形ってのは不思議なもんだ。感情が無いように見えてもしっかりと感情がある」

「自分で考える力があるものには遅かれ早かれ自ずと感情が身につく、そんなものじゃないのか。こんな時代機械と人間の差はそう明瞭なものじゃないさ。あんたは…」

「一応人間だな、人形みたいな人間だがそれは少佐もそうさ」

「…私は自分自身の事を人形だとは思っているさ、だけど」

「だけど?」

「…なんでもない、タバコありがとうな。早い子と戻らないと妹に られちまう」

「おう、ゆっくり休めよ」

「おかしな人だな、あんたは。人形は疲れやしないさ」

「…感情を持つ物は疲れるんだよ」

M16が去った後もバトーはしばらくタバコを吸い続けていた。暗闇に光る炎の色が消え白煙が消えるまでバトーは厨房の床に座り続けていた。やがて立ち上がり換気扇を回した後ずしずしと自室へと向っていく。時刻はもう起床時間になろうとしていた。

 



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Mission11.ウィークエンド~はじめてのおつかい~

ど~もこんばんわ、恵美押勝でございます。久々の投稿ですね。やっとこさ後期の授業が安定してきました。難易度は前期と比べて上がりましたがまぁ今期も頑張っていきます
身の上話もアレなんで本編をどうぞ!


「人間」はどこまでが「人間」と言えるのか、究極的に言えば脳と脊髄があればいい、肉体は肉の塊に過ぎず器でしかなくそれに固執している姿は醜い。そういう極端な考えでいられる人間はこのサイボーグ溢れる世界において生きやすいであろう。だがこういう極端な思考があればそれとは対極の考えもあるはずだ「肉体がなければ人ではない、体のあちこちを機械の冷たい体にしたのはもう人ではなくロボットである」と

極端な思考というのはどの時代においても大衆にとっては迷惑でしかない、それは今でも同じ、そのような人間が集まれば尚更…

 

目が覚めた、というよりは気絶状態からの覚醒とでも言うべきだろう。何故ならヘリアンへの報告を終えた彼女は椅子に背を預けた途端に寝てしまったからだ。その分目覚めが良かった、頭がすっきりしてここ最近では一番寝たような感じがする。しかし起きようと思って体を起こした瞬間に違和感を感じた。体勢がおかしい、自分は椅子で寝ていたはず、しかし今は足だけでなく全身を伸ばしたかのような感覚がある。更に天井を見ると司令室のではない

「…ベッドで寝てしまったのか、しかも自室で」

だが確かに司令室で寝てしまったはず。そんな疑問を抱えて彼女は体を起こし自室を出る

時計を見ると時刻は10時を指していた。確か今日からは春さんが司令代理をするはずだったな、そう思い取り敢えず彼女は司令室に向かいドアを開ける

「あら少佐、おはようございます」

「おはよう春さん、そこにいるってことは…」

「えぇ、カリンさんからお話は聞きました。今日から数週間お休みなんですよね、最近の少佐はよく働いていたと思うので丁度いいですね」

「まったくだ、こんなにゆっくりと起きたのは随分と久しぶりだ。しかし喉が渇いたな。腹も減ったし…ちょっと食堂にでも行ってくるか」

「フフフ、でしたら少々お待ちを」

そう言ってスプリングフィールドは卓上にある電話を取り誰かにかけ数十秒話し素子の方を見た

「ちょっと待っててくださいね、今いいものが来ますから。」

「いいもの?」

「まぁまぁそこのソファーにでも座ってゆっくりしてください」

言われるがまま素子は来客用のソファーに座り込む、みすぼらしいソファーでは基地の名誉に傷がつくと半ば強引な形でカリーナに買わされたそれはほとんど正規の目的で使われることはなく休憩用のソファー兼仮眠用のベッドとなっていた。しばらく待っているとドアがノックされて開かれる。入ってきたのはお盆をもったWA2000であった

「お待たせ、春さん。…おはよう少佐」

「ありがとうね、わーちゃん」

「わーちゃん言うな!…はい、これ頼まれていたもの」

「それは…アイスコーヒーとサンドイッチか?」

「そうなんです、わーちゃん取り敢えず来客用のテーブルに置いてくれる?」

「分かったわ」

コトン、と置かれたお盆を素子はまじまじと見る。サンドイッチはハムと卵ペーストというシンプルなものであった

「しかし一人で食うにはいささか量が多くないか?」

「大丈夫です、私達も食べますから。わーちゃん、ちょっと早いけど休憩にしましょ」

そう言って2人はソファーに座った

「わーちゃんはどうも私の店のお手伝いをしたいらしいんです」

「…春さんにはお世話になっているしお礼がしたくて」

アイスコーヒーを飲むとまろやかな苦みが口に広がる、朝に飲むコーヒーとしては最適だ。サンドイッチも卵のペーストが美味しくお腹が満たされていく

「…少佐、この後どうするつもりですか?」

「ちょっと気晴らしに町に出ようと思っているが」

「それじゃあちょっと頼みたいことがあるんですが・・・」

「春さんが頼み事とは珍しいな、どうしたんだ?」

「コーヒーミルが壊れちゃいまして、コーヒーを挽けなくなったんです」

「春さんはコーヒー豆をその場で挽くからストックとか出来ないのよね」

「それじゃあこのコーヒーは」

「水出しコーヒーは淹れるのに一日かかるんです、丁度豆を挽き終えたタイミングで壊れてしまって」

「成程、分かった買ってこよう。場所は?」

「ありがとうございます。場所は道具店『パッカーブリッジ』という所で商品は私が店員さんに電話して用意してもらいます。少佐は『サクラの代理で来た』と言えば大丈夫なように連絡しておきます」

「サクラ?あぁ“スプリング”フィールドだからか」

「えぇ、少佐は日本人だからサクラには詳しいかもしれませんね。私、外に行くときはこの名前を使っているんです」

「でも春さん、どうして偽名なんか?」

「一つは人形だとバレないために、人形だと分かった瞬間態度を変える人はそう珍しくはありませんから。一番の理由は身を守るためですかね。」

「?」

素子が黙っているとスプリングフィールドはコーヒーを飲み切って静かに彼女の顔を見た

「人間の中には病的なまでに人形を憎んでいる人がいます。それぞれに深い事情があるのかもしれませんが…魔女狩りならぬ“人形狩り”が最近見られるようになったんです」

「…おまけに人形からは貴重な資材が取れる新品なら3日は食べていけるし部品だけでも普通に働くよりはお金がもらえる。復讐のためか、金稼ぎの為か。何れにせよ私たちにとってはいい迷惑だわ…」

あながち、自分も無関係な話ではないかもしれない。そう思いながら素子は最後のサンドイッチを食べた

「分かった、春さんはこのまま指令代理を頼む。取り敢えず出かけてくるから買える準備が整ったら連絡してくれ。コーヒーとサンドイッチごちそうさま」

そう言って彼女は司令室を後にした

 

私服に着替え彼女はガレージへと向かい車を動かす、目的地までは一時間弱かかる。カーラジオを流すと陽気な音楽が流れ日差しはぽかぽか暖かくそよ風が吹いている。まさに理想の休日といった感じであった。

町へ到着して車を駐車場に止め降りて携帯を見るとスプリングフィールドからメッセージが入っていた

(『準備整いました、いつでも買えます』か、それじゃあ一番最初に買って適当にブラブラするか)

電脳で地図を広げ店を探すと駐車場からそう遠くに離れていないことが分った

(しかし“パッカーブリッジ”か…店主は日本人か日本マニアか?)

しばらく歩くと目的地が見えてきた、てっきり道具屋と言うぐらいなのだからこじんまりとした店かと思ったらビル丸ごとが道具屋のようであった

(これは色んな種類がありそうだな…春さんの買った後ちょっと見てみるか)

自動ドアが開かれビルの中に入ると真横に案内板が掛けられていた、どうやら厨房関係の道具は5階にあるようだ

(10階は義体関係…?パーツが売ってるわけじゃないだろうしメンテ道具とかか?後で見てみるか…)

先ずはエレベーターに乗り5階へと目指す、この道具屋は中々人気のようでエレベーターは人で一杯であった

やがてエレベーターは5階に到着し降りた素子は店員を探し見つけた

「ちょっといいかしら」

レジの店員は突然現れたサングラスの高身長女性に驚いたが直ぐに

「大丈夫です、ご用件はなんでしょうか」

と営業スマイルで彼女に答えた

「商品の取り置きをお願いしていたんだけど…“サクラ”って言う名前で」

「あぁ、サクラ様でしたか。…失礼ながらお声がお電話で応対した時とは少し違うような…」

「彼女は急用が入ってしまってね、私は代理で来たってわけ。問題は…」

「いえいえ、ありません。分かりました。では一度レジに来てもらえますか?」

レジに来て素子は商品を受け取った。

「お支払いは?」

「現金で」

「かしこまりました。…しかしお客様珍しいですね。」

「そうでしょうね、こういう本格的なものを買う人なんてほとんどいないでしょうし」

「そうですね、戦争が終わったと思ったら今度は機械人形の反乱…落ち着いて珈琲を飲むなんて大抵の人は夢のようなものですよ。この道具屋もそりゃもう閑古鳥が鳴いてましてね。…店長があのフロアを作るまでは」

「あのフロアって?」

「義体ですよ、お客様エレベーターから来たでしょう?あそこに乗っている人は殆どが義体のフロアに向かうんです。今じゃここに来るお客様の8割がそれ目的ですよ」

「…だが道具屋だから所詮売っているのはメンテパーツとかだろう?」

「行ってみれば分かりますよ、失礼ながらお客様も義体のご様子」

「分かるのか?」

「そりゃま、今時生身の人間なんてのはマイノリティですからね。だから長いこと生身の人間をやっていると区別がね“雰囲気”で分かるんですよ」

「成程。…それじゃあ」

素子にとっては生身の人間の期間よりも圧倒的に全身義体となった期間が長い。故に彼女には「雰囲気」が分からなかった。

(マイノリティしか見えない世界があるってことか)

そんなことを思いながら彼女は商品が入った袋を持ちエレベーターと向かっていた

 

10階は5階と比べると店の雰囲気が大分違っていた。まるで武器屋のようなごつごつとした硬い雰囲気を感じる。客の数はこちらが圧倒的に多い、どの客も真剣に商品棚を見ている

(これはメンテ用の道具だな、凄いな義手や義足が裂けたり千切れた時の簡易修復キットが売っている。こんなの民間人に必要なのか?いや必要だからこんなに人がいるのか…)

簡易修復キットは人工皮膚や人工血管と同じ材質で出来たものでありペースト状になっている。これをパテのように患部(千切れた人工血管の先端、裂けた人工皮膚)に塗ると硬化して出血などが止まるというものだ

(あっても損ではないからな、買ってみるか…)

しばらく商品棚を見て回ると同じようにメンテ用のパーツ、応急処置の道具ばかりであった。確かにこれだけ義体用の道具があれば人気が出ても可笑しくはないがこれだけでここまで人が集まるものだろうか?疑問を感じながらさらに店の奥に進むと素子はとんでもないのを目にした

(ディスケット…!?)

ガラスケースの中に入っていたのはグリフィンでも戦術人形のラーニングに用いる戦闘データが書かれているディスケットだった。戦術人形のデータとは言え人間の電脳にもインプットすれば戦術人形と同じ効果は得られる、訓練せず手軽に強くなれる手段だ

(バカな、何故こんな場所で…!一体どこから入手した!?)

民間・専門問わず戦闘データをインプットしたディスケットを売るのは違法である(この世界は基本国という組織は解体されているが戦争前に巨大な国だった場合は縮小しながらも生き残っているケースがある)

つまりこの店は違法商品を販売しているのである、他にも違法商品を売っていないか彼女は調べることにした。

(なんだこれは…!?義手…?いや、武器を仕込むタイプの義手か!)

 素子の思案に応えるかのようにガラスケースの中の義手はいくつかのパーツに分割され中の砲身が伸びるデモンストレーションを行った

(こういう武器を売るには当たり前だが許可証が必要だ、いや仮に許可書があっても武器屋は武器屋として独立して営業しなくてはいけない、こういうビルの中にあってはいけないはず…)

彼女はこれらの証拠を視覚端子に記録し、早々に立ち去り基地へと戻ろうと店を出ようとした。だがエレベーターに乗ろうと近づいた時、扉の向かい側から凄まじい殺気を感じた。だが気づくのが遅すぎた。扉が開かれたと同時に銃声が聞こえ客らが悲鳴を上げる

何重にも聞こえる銃声を素子は店の入り口付近にある商品棚の影で身をかがめることしか出来なかった。やがて銃声は止み、薬莢が落ちる音も消えたころ

「安心しろ!!今のは威嚇射撃だ!誰も狙っちゃいねぇ!」

高身長のサングラスをかけた青年が店に向かって声を上げた

「もっとも当たるかどうかは今後のお前らの動き次第だがな」

ひげ面の中年男性が笑いながら言う。

彼ら以外にも中肉中背の男性3人いたが彼らは声を出すこともなく無言の殺気を銃口と共に客らに向ける

「さて、俺たちの要望は二つ。スマートに行こうぜ!」

青年は続いてこう言った

「先ずはこの店の無期限営業停止!そしてここにいる奴らの義体をよこせ!」

「手だけ改造手術を受けた奴は手を!足だけの奴は足を!機械人形から人間に戻してやるって言ってんだよ!」

「今や人間は人形の下の存在になりかけている、だが俺たちがいる限りそうはいかねぇ!これからの時代も人間様が“上”でいるために!俺たちはヒーローだ!」

狂気を孕んだ声で青年は叫ぶ、支離滅裂なそれは人々を恐怖に陥れるのには十分だった。

道具屋は文字通り修羅と化した!

 



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Mission11.ウィークエンド~マスターキー~

ど~も恵美押勝です、最近地球防衛軍にはまっちゃって休日の大半はプレイして過ごしています。まぁ6じゃなくて2なんですけどね
身の上話もアレなんで、本編をどうぞ!


修羅と化した道具屋に足音が響く。襲撃したグループの一人、要求を行った青年が店の中に入ってきたのだ。その横には中肉中背の男性らが銃口を客にチラつかせ青年を守っている必然的に客は下を向くしかなく、その光景はさながら大名行列のようであった

(あの口ぶりから見て、反人形団体…それも過激派の団体なのには間違いない)

彼女の力ならば鉄血兵でもないただの人間5人を戦うのに苦戦することはない

(だが、今回は人質が取られている状況だ。おまけに武器はアンブッシュに使える武器入り義肢だけ…それも一発だけだ)

恐らくこの状況ではパニックになって民間人には電脳通信は出来ないだろう、そう思い素子は電脳通信の回線を開いた。だが開いた途端にノイズが頭を埋め尽くす

(通信妨害だと…!?軍用の回線まで妨害するとはどんな強力な装置を使っているんだ…!?)

軍用の強力な電波は民間用の小型ジャミング装置などでは妨害できない、それを妨害できるということは大型の軍用ジャミング装置を持っていること他ならない

(誰かが、誰かがどこかに設置しているんだ…!)

素子は視覚端子を電波を可視化できるモードに移行させて敵にばれないよに辺り一面を見渡す

そんな中、青年はレジに赴き店員に声を掛けた

「おい兄ちゃん、ここの店長呼んでくれや」

「て、店長ですか」

「そうだ、この店潰しましょって相談に店長抜きじゃ何も出来んだろ。俺はヒーローでチャールズホイットマンじゃない。誰の血も流したくはないんだ」

「わ、分かりました。電話を使ってもよろしいでしょうか?」

「いや悪ぃな、今電話は使えねぇんだ。直接呼んできてもらおうか。勿論俺たちと一緒にな」

「分かりました…」

「それと兄ちゃん、こんな店なんだ解体用の道具ぐらい売ってんだろ。それを集めてあの男に渡せ」

店員はいそいそと商品棚へと向かいカゴに同じ道具を詰め込み中肉中背の男に渡す

「よし、お前らこいつは俺のおごりだ。ありがたく受け取れよ」

いや、もう直ぐ潰れる店に金を払う必要はねぇかと青年はゲラゲラと笑いながら店員と共に店を出た

「おい、ノイン待てよ!」

どうやらあの青年は“ノイン”と呼ばれるらしい、ひげ面の男がノインの後に続いて店を出た。残ったのは中肉中背の男3人だけだ

「よし、最初の要求は聞いていたな?お前らはこの道具を使って手術した場所を解体しろ。なに人間が自分の手足を切断するなら地獄だが機械人形のお前らなら問題ないだろ?痛覚なんてないんだからよ」

(ちょっと待てよ、解体するにはアレが必要なはず…少し質問してみるか)

「…少しいいかしら」

素子は民間人と認識されるために若干の演技をして手を挙げた

「どうした、女。怖気就いたか?」

「いえ、質問があるの。解体を自主性に任せるならいくらでも誤魔化すことは出来るわよね?この状況でそういうことする人はいないでしょうけど…何か手術箇所を見極める手段とかあるの?」

「…妙なところを気にする女だな。だがお前の疑問に答えるのはこいつらにプレッシャーを与えるいい機会になる。いいかお前ら!」

男はリュックからレンズが着いた箱を取り出した

「これはX線カメラだ。解体し終えた人間は俺のところに来い。これで丸裸にしてやる」

(思った通りこいつら義体に関しての知識がほとんどないぞ、義体の技術と人形の技術は共通するところもあるがまるで違う)

X線の場合、確かに内部を見ることは出来るが見えるものは生身の人間と変わらない。何故ならば義体はあくまでも人間の構造を元に作られており筋肉や神経の“代用品”を賄っているだけだからだ

(無論、強力なX線を使えば手術箇所は判別できる。代用品はあくまで代用品だからな。だが、あのサイズでは無理だ…)

素子は知識のない彼らは上手いこと利用できるのではないか、そう睨んだ

そう考えると、店に青年らが戻ってきた

「ようノイン、店長は連れてきたか?」

「いや、ダメだった。どうも店長は今日はいないようだ」

「何?それじゃあどうするんだ」

「店員によれば、店長の行き先は分かっているらしい。グレッグと一緒に店長を迎えに行ってもらってる」

「じゃあ少し時間はかかりそうだな」

「まぁな、この間に解体作業を進ませちまおう。おい、ツヴァイどうなっている?」

「今から始めさせるところだ。おい!さっさとしねぇか!?」

ツヴァイと呼ばれた男が客の一人に銃を向ける

「む、無理です」

「無理だとぉ?舐めてんのかテメー!」

逆上したツヴァイが引き金に手をかけそうになるがそれを素子が制止する

「待った!」

「なんだ女、…さっきの奴か。もう質問コーナーは終わったぜ」

「いや無理というのも仕方がない、何故ならば一般人に解体はどうしても不可能だからだ」

「どういうこと?」

ノインが素子に近づいてきた

「一般人でもメンテは出来る…破損や傷がついた場所の修復や接続ユニットのクリーニング、そういったレベルのだけだ。解体するには行政の許可が必要なんだ」

「行政の?」

「許可された後に行政指定の病院に行きようやく解体や武装系の義手や義足を接続する手術を受けることができる。許可なく出来たら世界中の義体化した人間が武器人間になったり犯罪を犯した場合別人のようになり済ます事が可能になり治安が一気に低下するからな。それを防ぐための手段だ」

「…じゃあ何故、ここには解体用のキットを売ってある」

「解体、手術時には電脳を介してその義体・義肢ごとに設定されたコードを入力する必要がある。このコードを入力すれば誰でも手術が可能になるがそのコードを知っているのは・・・」

「行政だけか」

「いや、自分の電脳内にコードの記憶はある。問題はそれは鍵付きのフォルダの様な物で封印されていてそのカギを開けるパスワードを知っているのが行政なんだ」

「つまり、パスワードさえ知ることが出来れば許可なしで手術が可能になる。だがそれは素人には難しすぎる…そうか、パスワードを解析してくれる人間、もしくはソフトがあるんだな」

「恐らくな。困難だが義手の交換ぐらいなら自分で出来る」

「…理屈は分かった。だがよ、それじゃあ俺達はこいつらを救えないってことか?」

「…正直に言えば?」

「何をだ?」

「機械人間から人間に戻したいんじゃなくて解体して入手したパーツを売りさばいて小遣い稼ぎにしたいって」

「て、てめぇ!」

ツヴァイが素子の額に銃を突きつける

「女、面白いことを言うじゃないか。まぁお前らに俺の崇高な思想は分からないだろうさ、いいぜ?そういうことにしておいても」

「いいのか?ノイン」

「もとより共感は求めていないからな」

「…何れにせよ貴方達は解体したパーツを手に入れたい。じゃあこうしない?」

「…聞かせてもらおうか」

「私がパスワードを開けるソフト、マスターキーを作ってあげる」

「マスターキー?お前に作ってもらわずとも買えば…」

「ダメよ、ソフトはブラックマーケットで高額、しかもめったに出回らないんだから。私が作ればタダで手に入るのよ。貴方達はいくらでも救済し放題」

「…悪くはないな」

「もし出来たら、私を解放して?」

素子は妖艶に微笑んでノインの胸を人差し指でなぞった

「…いいだろう、女。名前は?」

「…セレッサ」

「セレッサ、よし分かった。じゃあ今すぐ作ってもらうか。…どれだけ時間がかかる?」

「…早くて6時間ってところかしら」

「遅い、5時間だ」

「分かった、5時間半」

「いいだろう、おいドライ」

中肉中背の男のうちの一人、ドライが素子に近づく

「彼女にパソコンをあげてやれ、お前持っていただろう?」

「えぇ持っていますよ。」

「じゃあ、このビルのコンピューターと繋げたいから地下に行きましょうか」

「地下?何故だ」

「今時ビルはコンピューター制御でね、そういうのは大抵に地下にあるんだ」

「オーケー、ドライ。お送りしてやれ」

「分かりました」

素子らは店を出てエレベーターへと向った

「待ちな、セレッサ!」

ノインが素子らを引き留める

「お前、義体やプログラムに詳しそうだが…何者だ?」

「ただの工業大学の大学院を卒業した人間よ、こんな時代だしコンピューターに詳しくて損はしないと思って」

「…どこの大学院だ?」

「…デジタルフロリダ大学。もう卒業したのは随分と昔だし、もう存在しないわ。」

「そうか、頑張って作れよ」

デジタルフロリダという大学は元から存在しない、ただの噓だ。だが彼らには調べる手段はない。

(マスターキーがあれば、俺だって、俺だって…)

ノインはセレッサと言う女を信じるしかなかった。胡散臭い女だろうとそれほどまでにマスターキーは魅力的なのだから。出来なければドライに彼女を始末するように頼めばいい、そう考え彼は店の中に入りレジに置いてある椅子に座り込んだ

 

乗り込んだエレベーターは問題なく地下へと着いた。全体的に薄暗くあまり長居したくない場所である

「おい、ここは駐車場じゃねぇか。こんな所に本当にビルのコンピューターがあるのか?」

「ないわ」

「はぁ!?」

「よく考えてみなさいよ、車が出入りするこんな場所にコンピューターなんて精密機械設置できると思う?」

「テメェ騙しやがったな!」

ドライが銃を抜き素子に向かって発砲する、だが目の前に素子はいなかった

「どこだ、どこに行った!?」

きょろきょろ向き探すが誰もいない。いたずらに銃を発砲するも当然壁に当たるだけだ

「テメェ、どこへ隠れやが…」

再度探そうと体を振り向けた瞬間にゴウ、と音が聞こえて彼の意識はなくなった

「もっと後ろにも気を配らなきゃダメじゃない、それじゃ何処の軍も雇ってくれないわよ」

開いた関節が結合され、再び見慣れた腕の形になる彼女は義肢にひそめた隠し武器を使ったのだ。彼女が内蔵しているのはエアピストル、圧縮空気を利用した武器だ。威力が強ければ鉄血兵をバラバラにすることも可能だが勿論今回は気絶する程度に威力を弱めてある

(通信妨害装置はあのフロアには見られなかった。恐らくビルの近くに車を停めてその中にある…それを無力化して基地に連絡を取ってグリフィンとして奴らを捕まえる。タイムリミットには余裕がある…)

「さあ、反撃開始だ」

 



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Mission11.ウィークエンド~アマチュアたちの午後~

ど~も恵美押勝です。ゼミの志望理由書とか中間課題に向けて準備していたらもう11月になってしまいました。もう1年たつのが早すぎる(去年も言ってるし来年も言うんだろうなぁ)
おじさんになってしまった私の話もアレなんで、本編をどうぞ


(さて、まずはここから早く表に出てジャミング装置を破壊して基地に連絡を取らないとな…)

気絶した敵を駐車場の隅っこに引きずり念のために敵が持っている通信機を自分のポケットに入れる。

(…タイムリミットはかなりの猶予があるがその間に奴らが来ないとは限らない。来られないように少し細工をしておくか)

エレベーターを見るとまだこの階にいることが確認出来る

素子はポケットから襲撃時に使えるかもしれないとしまい込んでおいた簡易修復キットを取り出して封を開け2種類のパテを取り出し、それらを混ぜ合わせるように練る。これは人工皮膚と同じ素材で出来ておいて粘着力が凄まじくそう簡単に剝がれない。程よく練り混ざった所でエレベーターの扉を開けて側面にパテをくっつける。やがてエレベーターの扉が閉じパテが潰される。これでこの階の扉は開かない、同じような細工を非常階段の扉にも仕込んでおき素子は駐車場を後にした

表に出ると入店前と雰囲気は変わらず客が普通に退店しており警察などは来ていなかった

(あんだけ銃声がしたはずなのにビルの外には聞こえていなかったのか…)

だが、ビルの反対側を見ると長い列が出来ていた、先端を見るとどうやら公衆電話の行列であった

(ジャミング装置の範囲がこんなに広いとは…表の車にあるはずだ探そう)

素子は視覚端子を電波探索の状態に移行しビルを背にして周囲を見渡す、だが電波の強さを示す濃い色が見えないどころか何も見えない真っ暗の状況である。

(そんなに遠くからは来ていないはずだ、ひょっとしてビルの背面に止めているのか…?)

そう思いビルの裏側に回ろうと体を90度横に向いた瞬間、目の端に一瞬だが濃い色が見えた気がした。「気がした」とは言えこの状況でそのような光景が一瞬だけでも認知出来たということは

(間違いない、車はビルの方にある!)

確信を持ちビルの入り口を見ると先ほど一瞬見えたものがくっきりと見えた。しかし車があるなら駐車場を出て周囲を見渡した時に嫌でも目に入ったはずだ。それなのに何故気付かなかったのか、まさかと思い素子は視覚端子を通常状態に移行させた。すると先ほど見えていた場所には何も見えず、ただビルの入り口があるだけである。ひょっとしてと思い足元に落ちていた小石を握りつぶし粉末状にし、入口目掛け投げると粉の一部が空中に留まった

(奴ら車を光学迷彩で隠したのか。…大型のジャミング装置を積みつつ大人数を載せるんだ、かなり大きい車かもしれん)

粉がかかったところを中心に触っていき形状の把握を行う、やがて触っていくと何か窪みのような感触がした。その窪みから線を引くように触っていくとやがてもう一つの窪みらしい触感があった

(…この窪みはドアだな、となれば奴らトラックで来たのか)

素子は窪みに手を入れて思いっきり引っ張る、だがロックがかかっており中々開かない。

それでも諦めずに力を入れて引っ張るとやがてバキッと音がしてドアが勢いよく開かれた。

目の前には地面から浮いた大型の機械が見える、途端に爆音のノイズが電脳内でリフレインする。間違いなくこれがジャミング装置であろう。すかさず義肢の仕込み銃を展開、ほぼ最大出力で発射すると当たった瞬間に装置がバラバラになり破片が荷台の床を突き抜けて地面へと突き刺さった。

(よし、かなり荒っぽいが装置は破壊出来た。…ノイズは消えた、これなら通信可能だな)

急いで基地内にいるスプリングフィールドに電脳通信を行う

『あらお疲れ様です少佐、道具屋でコーヒーミルは買えましたか?』

『それどころじゃない、その道具屋が占拠された』

『…っ!?少佐、ご無事ですか!?』

『私は無事だ、だが義体とかのメンテパーツが売っているフロアにいる客が人質に取られている』

『…そこの階だけなんですか?』

『…不思議なことにそこの階だけだ、客が普通に帰っている』

『…不思議ですが今はそれを考えている場合じゃありませんね』

『あぁ、早速出撃準備をしてくれ。今回はヘリじゃなく車でビルの後ろに来てくれ。編成は春さんとWA、M4、M16とG36で頼む。それとバトーもよろしく』

『了解』

『アイツには「205で行く」と伝えておいてくれ。それで作戦内容を説明してくれるはずだ』

『了解、直ちに出撃します』

そこで通信が終わり、素子は直ちに駐車場へと戻った。

(あの車には確か、アレがあったはずだ)

トランクを見るとそこには確かに探していたのがあった

(はしご、これが必要なんだ。これをあのビルと隣のビルの間にかけて屋上から侵入する。長さは…2m、大丈夫あのビルの間は狭かった)

脚立を持ったまま今度はあのビルとは隣のビルに入る。途端にビルの中にいる人間からの視線が突き刺さる。いきなり脚立を持った人物が現れれば誰だって驚く、どうやらここは会社ビルのようであり彼女の目の前には受付があった。ずかずかと受付へと向かうと恐る恐る受付嬢が素子に質問する

「…こ、今日はどのようなご用件でしょうか」

「いや、クライアントではない。グリフィンって分かるか?」

「…グリフィン、あぁあの人形を扱っている」

「そうだ、私はそこで指揮官をやっているのだが…」

そう言うと素子は懐から手帳を取り出し見せた

「ここの屋上を使わせてもらいたい」

「…申し訳ありません、私の一存ではどうにも」

「緊急事態だ、何かあったときの責任は私が取る」

手帳のメモをちぎり電話番号を記入し受付の台に叩きつけるとビルを後にした。

さぁ次は別のビルにお邪魔しなくては。彼女は急いでパッカーブリッジの前にあるビルに向かって走った

(パッカーブリッジ・ビル内)

ノインは暇を持て余していた。要求先である店長は暫く来ないしマスターキーが出来るのは数時間先であるからだ。とはいえ、彼の内心は狂喜していた

(やはりこの時代はコイツに限る。持たざる者、運命から逃れる途中の人間が生きていくのには暴力しかないのさ…それに奴らは運命から逃げきっているんだ。少しぐらい甘えてもバチは当たらないだろ。これで俺は運命から逃げられる…)

「なぁノイン、さっきあの女が言っていたこと本当じゃないよな?」

「小遣い稼ぎのためにって話しか?おいおいそんなのを信じているのか?俺らは同じ哀れな機械人形を人間に戻し、機械の奴隷と化した人間を救うために活動をする“フランシーヌ”だぜ。そして俺はそのリーダーだぜ?」

「…そりゃあそうだよな。俺らはあんたの思想についてきたんだ。小遣い稼ぎだなんてそんな邪な考えでやっているのなら」

ツヴァイはノインに銃を向けた

「貴様、俺を疑うのか?」

「…冗談だよ」

(ツヴァイ…こいつこそ“救済”したいと本当に思っているのか?)

ツヴァイは活動で人形を破壊するときじわじわとなぶり殺すように壊していく。殺人の衝動を人形で代用しているのではないかと思ったことが何度もあった

(いや、ツヴァイだけじゃない皆が疑わしいもんだ。こんな時代に他人を救いたいだなんてお人好しがいるわけがないだろ。俺だって)

そう考えると頭がジンジンと痛みだした。すかさずポケットから瓶を取り出し中身を手に取る

「持病かい?」

「あぁ、ちょっと前からな。一日に何回か飲まないといけないんだ」

「辛いねぇ」

「あぁ薬代だって馬鹿にならないんだ」

痛む頭が脈を打つのを感じながらノインは己の運命を呪った

 

その頃、戦線基地のメンバーはすでに準備を終えてバトーが運転する車両でパッカーブリッジまで向かっていた

「なぁ、バトー。出発する前に言っていた205ってのはなんだ?」

「M16姉さんの疑問ももっともです。だって私達いきなり招集されて作戦について細かい話はほとんど聞かされていないんですから。」

「205で行くって言っていたけど何よそれ?」

「ご主人様がお出かけの際にテロリスト集団に拉致され、脱出に成功したというのは聞きましたが…」

「あぁ、悪い。つい公安時代のクセがな。205ってのは【テロ鎮圧】って意味だ。これには作戦の趣旨だけでなくどのようにして鎮圧するかその作戦の内容までがこの番号に詰まっているんだ」

「テロ鎮圧、確かにそれなら私と春さんが選ばれるわけね」

「いくつかのビルでスナイパーが待機して、可能ならばテロリストを排除する。であればアサルトライフルの皆さんが出撃するのは何故なのでしょうか?」

「テロリストの人数が多いってのもあるが、戦闘のプロでもない限り突入されたらパニックになるもんだ。それが唐突なら尚更な」

「でも中には人質が居るんだぞ?」

「M16の考えているのは相手がプロの場合だ。ど素人は“人質さえいればイニシアチブはこちらの物” “ドンパチ繰り広げることはない”と思い込んでいるがその思いこみをぶち壊して強襲してやれば」

「…自分の命欲しさに応戦するしかない。もしくはビビッて戦意を喪失する、か」

「俺的には後者であってほしいが、ともかくアイツはこのテロリストが素人だと思ったからこの編成にしたんだろうさ」

「じゃあスナイパーは敵の排除というよりは挟撃と思い込ませて相手を怖がらせるという風に考えた方がいいのかしら」

「…久しぶりの仕事がビビらせ担当なんてなんか納得がいかないけれど」

「いや、万一にも犯人が逃走した場合にはお前さんたちの力は必要なんだから気は抜かないでくれよ」

そんなことを話していると現場に到着する。車を降りてあたりを見ると素子は既に現場にて待機していた

「よぉ少佐、待たせたな」

「みんな来てくれたか。では作戦を説明する。各員、私の電脳にアクセスしろ」

素子の電脳内ではこの街の地図が映されていた。

「作戦はシンプルだ、まず私とバトー率いるAR部隊が隣のビルからこのビルの屋上へ渡り非常階段を使い10階まで下がる。その時スナイパー組はここ、ビルの向かい側にあるビル内にて待機。合図と同時に10階の窓に向けて発砲、それと同時にAR部隊が突入、制圧する」

「質問」

「はいM16」

「今回ダミー人形はどうするの?今車内に待機させているけど」

「今回の作戦は人数が多すぎてもダメだ。今の人数が丁度いい。他に質問は?」

「ご主人様、テロリストの数は?」

「5人だが、一人はすでに無力化、もう一人は不在だから今は3人しかいない」

「成程、数は俺たちの方が上回っているわけだ」

「他に質問は?・・・では作戦を開始する。スナイパー組は先ほど提示した場所へと移動した後連絡をするように!」

普段と変わらない街は着実に戦場にとなろうとしていた。現実はじわじわくる。街はそれに気づかない人間ばかりだ。無論、痛む頭をマスターキーが手に入った明るい未来を想像することで現実を誤魔化している人間がこの現実など見れるはずもなく・・・

 

 

 

 



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Mission11.ウィークエンド~瞬き禁止~

ど~も恵美押勝です。早いもんでもうクリスマス。それが終われば年末であっという間に新年が来る。時の流れの速さってのは恐ろしいですわ。
そんなわけで少し遅めのクリスマスプレゼント(まだギリギリ間に合うよね?)
それでは本編をどうぞ!


屋上に向かうため素子らはパッカーブリッジの隣にあるビルに入る、再び素子を目にした受付嬢が彼女に声をかける

「さっきの方!社長があなたにこれを渡すようにと…」

「これは鍵か」

「はい、屋上につづく扉は普段閉鎖されているのでこちらをお使いください」

鍵を受け取った素子はすぐさまエレベーター近くにあった非常階段の扉を開けて屋上へ向かって駆け上った

『そう言えば目標のビルまでどう行くつもりなんだ?俺たちはジャンプで余裕だがこいつらは…』

『おいおいバトー、私たちを舐めてもらっちゃ困るぜ。なぁM4』

『お前ら軍用人形はそれでいいが民用上がりのG36はそうはいかないだろ、だから脚立を屋上にかけて渡る。オートバランサーは民用でも性能は十分だからな』

そうこう話しているうちに最上階まで到着した、受付で貰った鍵を使い扉を開けると室外機しかない殺風景な光景が広がる。

『私が先に飛んで脚立を支えておく、バトーは反対側を支えておいてくれ』

『了解、こいつらを渡らせたあと脚立をもってそっちへ飛べばいいんだな?』

『そういうこと、それじゃあ行くわよ』

素子はドアを出た瞬間、脚立をもって走り軽々とパッカーブリッジの屋上まで飛んだ

通常の義体だとそこまでの飛距離は出ないが公安で活躍できるような性能の義体だからこそ出来る芸当である

脚立をビルとビルの間にかけ両端をバトーと素子が支える

『いいぞ・・・G36、心配するなグリフィンに所属するにあたってお前のオートバランサーは軍用のソレと同レベルにアップグレードされている。安心して渡れ』

『分かりました、ご主人様。お気遣い感謝します』

『よし、M16から渡れ。盾かなんか分からないが重そうな荷物を持ってるから慎重に渡れよ』

『分かってるって少佐、これはもう私の半身みたいなもんだからそこまで心配する必要はないよ』

(しかしM16が持っているソレはなんだ?盾にしては細長すぎるし銃口の様なものは見えないから武器とも見えない・・・しかし使えないものを戦場に持ってくるような思考のAIならばここまで生き残ってこれなかっただろう)

そんなことを考えているとM16が渡り終えていた

『少佐、渡ったぜ。次は誰が行く?』

『…あぁ、M4、G36、バトーの順番で渡ってくれ』

『『『了解』』』

(仮にアレが武器だとしたら何故、一度も使われた様子がないんだ?単純に考えれば一度も使う必要性がなかった…主武装でクリア出来たから。だがこうも考えられないか?“使いたくても使えなかったから”。そう弾数が極端に少ないとか威力がありすぎるとか…

もしそういう武器なら…?)

そんなことを考えると全員が脚立を渡りパッカーブリッジの屋上に集合していた

『…少佐、全員渡り終えたぞ』

『了解』

『どうしたんだ少佐、ボーっとして』

『いやすまない、何でもないんだ』

『少佐、こちらWA2000。目標地点に到着待機に入るわ』

『銃口は10階の窓に向けています、命令さえしてくれればいつでも撃てますよ』

『あぁ、了解した。それとスナイパー組はあくまでも視線の誘導のためにある。犯人の居場所が確実にわからない以上、人に向けて発砲しないように。万一にも窓から逃げ出した時は遠慮なく撃て』

そう答えて彼女は電脳通信を全員に向けて発信した

『各員、今回の作戦は通常とは異なり人間を相手にする。そこで人に発砲出来るようにプロテクトを解除しておく。パスコードを入力してくれ。パスコードは…』

素子の指示通りに全員が電脳内にあるプロテクトを解除するための場所へアクセスし何桁ものパスワードを入力する、これで戦術人形でも人間に向けて発砲出来るようになった

『よし、突入準備…G36、聴覚端子を最大出力にしてくれ』

『了解…最大出力に移行しました』

そう言うとG36は腰を落とし地面に耳をくっつけた

『…ご主人様、お願いします』

素子は地面をコツンと爪先で蹴った、これは音の反響で人がいないか探知を行っているのだ。聴覚端子がハイエンドモデルかそれ以上の性能を持つG36だからこそ出来る芸当でありこれにより屋上から1,2階下までは探知が可能である

『…ご主人様、どうやたら探知範囲内には人はいないようです。ビルに入るなら今かと』

『…分かった』

屋上から10階までは4階分下がる必要がある。12階まで下がり、12階でもう一度G36による探知を行うのがベストであろう。素子はG36にこの事を伝えた

『まずは12階まで降りる、各員装備に問題はないか?』

メンバーがそれぞれ問題ないことを告げ、いよいよ彼女らはパッカーブリッジの中へと入っていった

 

発砲準備を終えたスナイパー組は素子からの命令を今か今かと待っていた。完璧にセッティングを終えたスプリングフィールドはブラインドが降ろされたパッカーブリッジ10階を見ながら相方に電脳通信で声をかける

「ねぇわーちゃん、なんか嬉しそうじゃない?」

「急に何よ春さん、作戦中に…」

「だってわーちゃんからそう言う雰囲気をコード越しに感じるんですもの」

今、彼女らはうなじに接続されたケーブルで繋がっている。これはWA2000の視覚端子がサーモグラフィを使用できるためブラインド越しでもテロリストを認識出来る事を利用し彼女の視覚情報をスプリングフィールドとラグなしで共有するためである

「私の銃って、人質事件受けて創設された対テロ組織のために作られた銃だそうよ。でも採用には至らなかった…そんな私の銃が人質を取ったテロリストに向けて撃とうとしている。そう思うと少しね」

「なるほど…ちなみにその人質事件、結果はどうなったんですか?」

「死んだわ。全員ね。でも私は違う…」

(少佐も悪趣味ですわね、こんな時にわーちゃんを呼ぶだなんて)

スプリングフィールドは質問したことを若干後悔し口を紡ぎ目を見開くことに徹底した。彼女の目に映る赤みがかった人影がせせら笑っているように感じた

 

『…12階まで降りた、ここまで異常はないな。G36、頼んだ』

『了解…準備が整いました。ご主人様、どうぞ』

再び素子が爪先で床を突き音を反射させG36がその音で2階下までの状況を探る

『…少なくとも非常口の扉付近には誰も居ません。一部反射が凄いポイントがあります…』

『恐らくそれが店内だろう。そこに注目してもう一度やってみてくれ』

『承知いたしました。しかしこれは私のコンデンサに蓄えている電気を著しく消費するのでこれが最後です。それを超えると戦闘に支障が出る恐れがあります』

『了解した』

『…準備完了、ご主人様』

コン、と音がし再び静寂が場を支配する

『周波数を限定的にして探知したところ3人が立っていることが分かりました。恐らくテロリストかと』

『つまりあれから人数は増減していないんだな』

『それじゃあ楽勝だな、少佐が連絡してスナイパー組が撃った後、突入すればいいんだからな』

『そうだ、突入すると同時に煙幕を張る。バトー』

『持っているぜ』

『…よし、各員10階まで降りるぞ』

 

とうとう彼女らは10階まで降りることに成功した。

『…スナイパー組、準備はいいか?』

『はい、いつでも』

『いつでもいいわよ』

『今回の作戦はあくまでも犯人の無力化だ、殺しはなしだぞ』

素子はバトーの方を見て目線で合図を送る。すかさずM16が非常口の扉を少し開けその隙間からスモークグレネードを放り投げる

『よし、撃て』

煙幕が張られた同時にドア越しにガラスが割れる音が聞こえる。

『各員突入!』

ドアを蹴破り全員の視覚端子がサーモグラフィ状態に移行する。彼女らの目には突然視界が真っ白になり辺りを立ったままキョロキョロ見渡している3人組が目に入った

それからの勝負は一瞬だった。素子やバトーらが正確にテロリストらの手首を撃ち抜き銃を落とさせ、AR部隊が肩を狙い起き上がれないようにする。圧倒的であった、数はこちらが多いのもそうだが人間と戦術人形どちらが強いか、否いくらテロリストでも所詮は軍事訓練も何も受けていない人間が戦闘のために作られた機械や戦闘のプロに勝てる道理などあるはずもなかった。ツヴァイだけが戦闘への興奮が体を動かしたのかナイフを持って無謀にも素子らに突撃したが顔面へのパンチであえなく撃沈。あとの二人も手と肩を撃ち抜かれた痛みに耐えかねて寝転がっている

突入してから僅か10秒の出来事であった、あっけなさすぎる終わりだった。

素子が店内に入りノインに近づく

彼女に気づいたノインは怒りをあらわにして声を荒げる

「…お、お前は…!そうか…!」」

「そういうこと、マスターキーが手に入らなくて残念だったわね」

「…ふ、ふざけるな…俺は…死ぬのか…?」

「アンタはくたばらない、少なくともここでは。聞きたいことがある」

「…なにも言わねぇよ、このクソ女が…!」

「…そう、なら丁重にもてなしてあげる。M4、先に裏へ行っておいてくれ」

M4がロープを持ってノインを縛る、同時に出血した場所を包帯で締め上げ応急処置を施す

板さに顔を歪めたノインは素子と顔を合わせることなくM4に運ばれていった。他の2人も同じように処置された頃合いに通信が入る

『少佐、いまビルの入り口にある車に人が入って動かそうとしている』

『…!?馬鹿な、連中は裏にいるはずだし店長を誘拐しに行った奴が戻ってくるのにはまだ時間がかかるはずだぞ…分った。とにかく車を破壊しろ』

『…了解』

割れた窓ガラスの向こうから再び銃声が聞こえる、僅かながらシューという音が聞こえるのでタイヤを撃ち抜いたのだろう

『バトー』

『あいよ』

『…車の中にいる人間と確保したら先に帰っててくれ、人質を解放した後に警察と消防署に連絡して事情を説明してから帰る。流石にほっといて帰るわけにもいかないからな』

『了解』

幸いなことに人質の中に怪我人はいなかった、だが本来ならば警察が関与すべき問題にPMCが関与したという事実が事態を混乱させ犯人の引き渡しにもめたが最終的にはグリフィンがテロリストの傷が回復するまでの間犯人を預かるという形で決着がついたころにはもう夜中になろうとしていた。

 

 



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Mission12.生存欲~人魚姫~

幼い頃は自分が望めば何もかもが手に入ると思っていた。だが現実を知ると手に入る者はほんの一握りで何かを対価にしなければ何も得ることを出来ないことを知った。でも逆を言えば対価を払えば何もかもが手に入るということだ。それに気づいた時狂喜した、だから俺は人魚姫という話は嫌いなんだ。記憶の彼方に存在する誰かが読んでくれたあの話を

 

「…眠いわね」

司令室でコーヒーを飲みながら素子が呟く、今は休暇なので指揮官代理であるスプリングフィールドに向けてだ

「少佐、ついさっき帰ってこれたんですものね。警察の方もかなり意固地ですね。1日近くお話しするなんて…」

「警察にもメンツってもんがあるからな、自分達のシマで余所者、しかもPMCが好き勝手に暴れてヒーローになったら警察のメンツは丸つぶれだ、せめて犯人だけでも捕らえておきたいのは当然の事でしょ。でもこっちには聞きたいことがあるしね、それさえ聞ければあとは向こうで煮るなり焼くなり好きにしてくれて構わないわ」

「警察の方はそれでいいとしてグリフィンからは何か言われませんでした?」

「ヘリアンに嫌味言われただけで後は何も、まぁ勝手に動いたとはいえテロリストを倒し、人質も無事に救出、何も悪いことはしていないわ。一応建前としては2週間の謹慎処分になってるけど…」

「休暇中の謹慎処分だからあまり関係ないと」

「そういうこと、ヘリアンからもあくまでも世間体を気にした建前だから気にするなって言われているしこっちは早いことあのテロリスト集団…特に首謀者を事情聴取したいからさ」

「少佐が警察の方とお話ししている間、手術は完了しました。今はまだほぼ全員眠っているようですが…」

その時、卓上の電話が鳴った

「はいこちら司令室…あ、カリーナさん。えぇ…はい、少佐は今こちらに。分かりました」

スプリングフィールドが素子に受話器を渡すときに彼女は来客用の机に置かれていたファイルに目を通していた

「もしもし」

「あぁ少佐、お元気ですか?」

「眠いことを覗けばお元気ですよ、それで何だ?」

「例のテロリスト、意識が戻ったみたいです」

「テロリストっていっても人数が多いんだ、誰の事だ?」

「えっと…クレスト・ミゲル…あぁ首謀者ですね。でも戻ったばかりで話せる状況じゃないみたいです。」

「それじゃ奴に関しては後でやるとして、そうだな…確かあの車の中にいた奴、昨日バトーが取り調べしたのよね?容疑は否認しているとか。彼の取り調べがしたいんだけど」

「アイネス・ジュノー…ですね。分かりました、用意しておきます。それと最後に一つ…」

 

20分ほど経過してカリーナから取り調べの準備が出来た連絡が入った。取り調べ室へ入るとジュノーの前に座る

「資料を見て少し驚いたわ。ビルに誰もいなかったこと、逃亡されて通報されるリスクがあるのに1階ではなく10階に全員で集合したことから仲間がいるとは思っていたけど…まさかあの時のレジの店員とはね」

「驚いたな、貴方そういう人だったのか。全身義体なのは珍しいと思ったんだが…」

「これから取り調べやるけど正直に話してくれた方がお互い助かるのよ。こっちは色んな手は使えるがなるべくそういう手には訴えたくないの」

「電脳を見ようたって無駄だぞ、こっちは生身なんだからな」

「分かっているさ、穏便にいこうじゃないここは」

「穏便にねぇ…でもなぁ俺は無関係の人間さ。俺は別に上で銃声が聞こえたのが怖くて逃げただけの一般市民さ」

早く家に帰してくれないかね、とだけ言うとジュノーは足を机に乗せて目を瞑った。

「ふーん…話は変わるけど今回のテロの首謀者ってジャンキーみたいなのよ」

「…」

「奴の服を調べてみるとタブレットケースが出てきたし血中にもその反応がある、薬中が銃握って首謀者だなんて笑えないわね。今頃薬が切れてることでしょ…」

「…こんな世の中だ薬キメてる奴なんて珍しいことじゃない」

「しかしこれからが大変ね、ジャンキーが薬の効果が抜けた状態で起き上がったら暴れるかもしれないわね」

ジュノーは黙ったままだった。

「ところで貴方、右手の小指…第一関節までないけれど。事故かなにかで?」

これは昨日の取り調べよりも前の時点で判明したことである、身体検査の時に行ったレントゲン検査により判明した。普段は指サックをかぶせて誤魔化しているとのことだった

「別に、ほんのちょっとしたトラブルですよ」

その時、卓上の電話が鳴る

「なんだ今は取り調べ…クレストが逃げた!?体を起こそうと近くづいた人形を軽く吹き飛ばして逃走中!?分かった。直ちに探し出せ…馬鹿、武装はなしだ!」

電話を切って素子がジュノーの方を向くと彼は額から汗を滴らせていた。

「…だ、誰か逃げたんですか?」

「…首謀者がな。聞いてる限りじゃ禁断症状ってレベルじゃない暴れようだ」

「テロリストの首謀者が逃走したんですよね?ということは、射殺ですか?」

「いや、それは出来ん。警察に引き渡す手はずになっているからな…傷つけたりましてや殺したりなんてしたら私の首が飛ぶ。…さぁ取り調べを続けようか」

ジュノーの汗が止まらない、足はガタガタ震え呼吸が浅くなっている

「どうした?おびえる必要はないとは思うが…?」

「…せ」

「ん?」

震える足を殺し、ジュノーが勢い良く立ち上がる。椅子が倒れる音が聞こえるがそれが気にならないくらいの声で叫ぶ

「奴を殺せ!生け捕りなんて出来ない!この基地にいる奴ら全員殺されるぞ!奴は…奴は…!」

この言葉を聞いて素子も立ち上がりジュノーの両肩を抑え彼女の方へ引っ張る

「人間じゃない。そう言いたいんだな?認めるんだな?奴とお前は共犯者だと」

「そうさ、俺があのビルから客を追い出した!頼むから奴を殺してくれ…!俺はまだ死にたくない!!」

震える声で言い切ると彼はへたり込んでしまった。

「…噓よ」

「え?」

「クレストが逃げたってのは嘘、まぁ起きたってのは本当だけどね」

「でもあんたら薬は…」

「あれは寝ている間に点滴で投与したわ。昨日の時点で薬については本社の方で判明したみたい。あの薬の主成分はアドレナリン、というよりはアドレナリンそのものね。しかも多量の。でも心臓が悪いってわけではない、ああいう薬を常備する人間は派手に暴れることなんて出来ない・・・となれば可能性はただ一つ」

「奴は…」

 

 

「君は…」

E L I D の 罹 患 者 だ っ た ん じ ゃ な い か ?

薄暗い部屋、俺の目の前には紫色の髪をした女がいた。よく見覚えのある女だ。俺をだまし、こんなところにぶち込んだ女だ。女狐の前で俺は背筋を伸ばす、騙された男がこれ以上みじめにならないように見た目だけでものささやかな抵抗だ。

俺は毒に侵されて死ぬはずだった。でも救いの糸は垂らされた。対価は俺の手を汚すだけ。でもその汚い手ともお別れできるはずだった。

…俺は対価を払った、払ったのに何故何も手に入らない。

 

あぁ思い出した。だから俺は人形姫が嫌いだったんだ

 



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Mission12.生存欲~誰が為の復讐か~

ど~も恵美押勝です。皆様大変お久しぶりです。学期末の課題に追われ一月は全然投稿できず気がつけばこんなに経ってしまいました。本当に申し訳ないです。


ELID、それは人間の体の一部が機械と化すことが当たり前になり人間と人形が戦うという今を生きる我々からしたらおとぎ話のような世界に蔓延る不治の病でありこの世界の課題の一つである。崩壊液と呼ばれるモノを浴びた人間が感染するそれは人を確実に死に至らしめるだけでなく人を異形の者と変化させる恐るべき病である。そして今素子の目の前にいるこの男こそ、その病の罹患者なのであるさ

 

「クレスト君、お久しぶり。私のことは…」

素子がクレストの顔を見ると真っ直ぐこちらを見ていたがその目は視線で彼女を殺さんと見紛う程恨めしいほどであった。

「覚えている…でしょうね」

痛いほどの沈黙が流れていた、このような聴取は別に恋人と会話するのではないのだからいくら沈黙が流れていても問題はないのだが今回は違う、グリフィンでは彼をここに延々と閉じ込めておくことは不可能であり後に警察に引き渡さなくてはいけないからだ。

「どうして俺を騙したんだ、どうして俺が罹患していることが分ったんだ…という顔かした」

「…両方、と言っておこうか」

「ようやく口を開いたわね。そうだな…先ずは一つ目の疑問に答えるならあの場において私の武装では貴方達を制圧するのは不可能だった。だからあの場では貴方を騙してビルを脱出する必要があったから…そして二つ目の疑問は貴方がアドレナリンの錠剤を使用していたこと…」

「それだけで?ひょっとしたら俺が心臓病を患っているのかもしれないじゃないか」

「勿論私もそれだけで罹患者と決めつけるのには証拠が足りないと思ったわ、でも心臓病の人間があんなに派手に暴れることは出来ないだろうし、何より貴方をここに入れる時に精密検査をした時心電図に異常は見当たらなかったことから貴方が心臓病である可能性は低いと考えたわけ。」

「…」

「では心臓病以外にアドレナリンを服用するのは何故か?実はアドレナリンにはELIDの進行を遅らせる効果があるのよ。…とは言え心臓病の線は完全に否定されたわけではない、そこで貴方の仲間に鎌をかけてみたら見事に引っかかってくれたってワケ」

「…そうさ、俺は3年前この病に感染した。あの時は今よりもロクな環境じゃなかった、そこの飲み水や狩猟で手に入れた動物に崩壊液が溶け込んでいたんだろう。…しかし疑問だな」

「何がだ?」

「ELIDのことはあんたらが良く知っている筈だ。この病気が感染症でもあることを」

「それは良く知っている」

「分からないな、ならば何故隔離措置を取らない?感染している俺は言わば動くバイオ・テロだぞ」

「普通ならばね、私も最初こそそうしようかと考えたわ。だが貴方のお仲間、あの欠けた指…カマかけた時のあの怯えよう…貴方、彼を襲ったわね?」

「…そうだ、あれはアドレナリンの摂取を断たれた時ELIDの進行が進み俺の理性が失われた結果の産物らしい」

俺は覚えていないがな、と最後に呟いた彼の声は少し悲しげであった。

「でも襲った彼がまだ生きているということは貴方のそれには感染力がないということだ」

「…やれやれ最悪この病気をネタに逃げようかと思ったが一人の仲間のせいでおじゃんになるとはな。そうさ、薬が効いたのか分からないが俺の病気は感染力はない。誰も巻き込むことが出来ないんだ」

感染力はないが自身の体は確実に死へ歩いて行っている、彼は決して裕福な人生とは言えず寧ろその人生には苦痛しかなかった。資本主義社会の影として生きていく彼にとってこの病は眩しすぎる光を消すための力のように思えたのかもしれない

「…貴方は何故その体でテロ行為を?薬のため?」

「それもある、死は確定していても薬さえあれば少なくとも今日起きることじゃなくなる。だが一番の狙いは…アンタになら分かるだろう。その体を持っているアンタには」

「体、義体化のことか」

「その通りだ、この病は崩壊液を直接浴びた人間であれば浴びた部分を切除すれば生き残れる。だが俺の場合いつどこで感染したのか分からない。かと言って前身を切除するわけにもいかない、となれば体と言う汚れた器を取り換えちまえばいいわけだ」

「昔なら夢物語だが今は全身義体化という技術が確立している…」

「アンタみたいな体になればこの病から解放されるんだ。だが全身義体化は金がかかる」

「技術が確立した今でさえそれが可能なのは一部の富裕層だけだ、だがそんな金を持っている人間は元からELIDが蔓延している環境に住まないから全身義体化によるELID進行の回避なんてあってないようなものだがな」

「だが金持ちはいざとなればそれが出来る“手段”を持っている。持たざる者とは違う」

「…分からないわね、貴方は義体を手に入れたいの?それとも富裕層に復讐がしたいの?」

「その両方さ。…なぁアンタはSNSはやるか?」

「あまり熱心に見たい物ではないな」

「同感だ、あんな所は持たざる者しかいないスラム街だ。だからこそ質を問わなきゃなんでもある。何もそれは物に限った話じゃない」

「思想か」

「あぁ、奇麗な町では異端とされる思想もSNSでは必ず誰かが共感してくれる、一人の共感が多数の共感を連れていく。やがてそれはビジネスに繋がる。表社会では決して見ることがない仕事もSNSならば存在する」

「詰まる所貴方のその“義体を手に入れる金が欲しい”“富裕層に復讐したい”という思想をビジネスとして利用した人間がいる、そういう訳ね?」

「義体のパーツを高額で売りさばけるブラックマーケットが存在しているがまぁそれはアンタもご存じだろう?」

「当然。義体のパーツを取り扱っている専門店が今じゃ宝飾店のように入り口にセキュリティーを立たせておくのが一般的になったぐらいだからな。だからこそあの店は不思議だったんだ。入り口に存在していなかったからな。今思えばその時から仲間による工作が始まっていたというわけだが…」

「俺が贔屓にしているブラックマーケットは特殊でね、パーツこそ売るのは同じだが奪ったやつの顔写真があると高く売れた。そしてマーケットで一か月に一度更新されるある特定の人物のパーツであればより一層高く売れるシステムがあった」

まるで賞金稼ぎだなと素子は思い一瞬バトーの顔がちらついた

「もしかして今回の場合賞金首があの店長だった、と?」

「その通りだ、さすが偉そうな人間だけあって話が早い。アンタも薄々気づいていたかもしれないがあの店はまともな店じゃない。店長はブラックマーケットで稼ぐ奴らを襲い、あるいはインターネット上で存在せず物理空間のみに存在するマーケットを襲い盗まれたパーツの横流しをしていた奴だ」

「勿論違法だが世間からすればブラックマーケットを潰して世界の掃除をしている、しかし貴方達からすれば文字通り商売敵だった。…そりゃ賞金首になるわね」

「結局こうして捕まってしまったわけだが、まぁこうして富裕層に復讐しつつ金を稼ぐのはそう悪いことじゃなかったと思う」

「…復讐、復讐って貴方は直接富裕層に虐げられたの?貴方の話を聞いていると“

持たざる者”である自分にこころなしか誇りを持っているように見えるけれど」

この言葉は彼にとっては非常に突き刺さるものであった。何てことを言う女だ、そんなはずがない。デタラメを言うのにもいい加減にしろと言う言葉が出てもいいはずなのだが喉につっかえて出てこない。何故なら彼自身、素子の言葉を完全に否定できないことに気が付いていたからだ。持たざる者が集まって持つ者に牙をむく、これは何事にも代えがたい快感であった。持たざる者から持つ者になりたいがこの快感をもっと味わいたい。この快感は本来自分の目的が機械の体を手に入れるということを忘れてしまうほどだ。そういう意味では“持たざる者”という肩書をある種誇りのように思っていることは否定できない。しかしそれを認めてしまえば自分という人間が酷く哀れな物に感じてしまう。富裕層への漠然とした恨みがあるのは事実だ。しかしそれはメインの目的ではなかった筈だ。ところがどうだ、今は生き残ることは二の次で復讐よりもその快楽に支配されているではないか。ではこの手を汚したのは何のためだったのか?まさか“持たざる者”の誇りとやらを満たすためではなかったはずだ。

クレストの思考がグルグルしていく、言葉の洪水が止まらない

痛いところを突いてくる女だ、考えたくもないことを考えなくてはいけなくなってしまったではないか。

再度沈黙が場を支配する、彼の脳内はジレンマの答えを導こうとする自分とそれを妨害する自分と戦っていた。5分ほど経ち彼は口を開いた

「…答えたくない、考えるのが恐ろしい。バカでいたいんだ、俺は」

彼は目をつむり項垂れ

「…早く俺を裁いてくれないか」

と震える声で呟いた

「…それは私の仕事ではない、あくまでも私が出来ることは貴方から話を聞くことぐらい。貴方に罪の意識を抱いて欲しいとか悔い改めて欲しいとか思っている訳じゃない。

でも一つだけ言えるのは思考を止めてはならない、それだけよ。」

 

 



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Mission12.生存欲~メメント・モリ~

クレストの聴取が終わって1週間が経ちテロ集団の怪我(ELIDに罹患していることは除く)も完治し警察に引き渡されることになった。警察の人間に引き渡す時、クレストの表情は顔を伏せていた故見ることは叶わなかったがどことなくやつれている雰囲気を醸し出していた。

自分の仕事はここまでだ、彼がこの先どう生きるかは知らない。死刑にならなければ彼は従来の目的通り生き続けることが出来るはずだ。そこで彼は一体何を考えて生き続けるのだろうか。防護スーツを着た警官に腕をつかまれて基地を去っていくクレストを素子はただ見つめていた。

 

司令室に入り椅子に座り一息を入れて電話をかける、相手はもちろん上司であるヘリアンだ。数コールの後、彼女が出た

『少佐、まずは今回の件もご苦労だった。休暇というのに仕事が増えてしまったな』

『全くよ、休暇の延長をお願いしたいぐらいだわ』

『そうしてあげたいが残念だがそれは無理だな。…さてここからは重要な話だ、少佐が連れ帰った犯人の中にELID患者がいたというのは事実か?』

『取り調べの後チェックしてみたけど紛れもなく事実ね』

『了解した、感染性はないと聞いたがそれも事実か?』

『感染者に指を嚙みちぎられた人間がアドレナリンの接種もなしに今日まで生存していることからその可能性はないと判断した、あとは職員のチェックもしているが今日まで引っかかっていないことからもそう判断した』

『…珍しいこともあるものだ、あの病気は基本感染リスクがある病なんだが』

『さぁ、私は医者じゃないから専門的なことは分からないけれどアドレナリンの定期接種が関係しているのかもね。それでどうする?念の為に一定期間隔離措置を取る?』

『そうだな、確か少佐の休暇はあと1週間残っていたはずだから1週間の隔離措置を取ることにしよう』

『了解、致し方のないこととはいえ休暇がパァね。どこにも行けなくなっちゃった』

『何処か行く当てでも?』

『…ないんだけどね』

『今は室内でありとあらゆる娯楽を楽しめる時代だぞ?寧ろ外の方が危険だから今の子供は室内で遊ぶことを推奨されているぐらいだ』

『世知辛い世の中ねぇ、表に出ないと人間腐るのよ』

『教訓として聞いておこう、それでは少佐。一週間ゆっくりしてくれ』

『…ありがと』

電話を切り、今度はカリーナに電話を入れる。基地が一週間隔離となったので基本は自室にて待機する事、毎日の検査結果と体温のデータを提出することを命令すると我らが後方幕僚は「かっしこまりましたー!」と明るい声で言うのであった。

これと同じことを今度は基地全体に呼びかける、といっても生身の要素がない戦術人形は感染するリスクこそないが彼女たちが着ている装飾品が汚染されている可能性は否定できない故に表に出すことは出来ないからだ。それでは一週間後に会おうと言って放送を切るとノックの音が聞えた

「誰だ?今放送で行ったと思うが私も基本的には部屋から出ることは出来ないんだ」

「少佐、俺だ。クレストの病室からこんなものが出てきてな」

ドアと床の隙間から白い何かが入り込んできた、手元に取るとそれは紙だった。何故ただの紙を司令室にまで?そう思いながら紙に目をやるとこのようなことが書かれていた

『死は平等というのは幻想に過ぎない、しかし生き続けたいと願う意思に関しては平等だ。…願いが叶うのは不平等であるが』

クレストと言う男はテロリストよりもポエマーに向いているな、と思いながら紙を机の上に置くとバトーに電脳通信を開始した

『バトー、これクレストの病室から出てきたのね?』

『そうだ、少佐中身は見たか?』

『えぇ、死は不平等か…』

体のあちこちを機械化出来る時代において病と言うのは恐れるに足りない存在になった、事故で下半身が不随になろうと義足を使えば問題なく歩ける他自分自身の体の一部が切断されても絶望する必要がなくなった「頭さえ残っていれば、まともならば生きられる」というのはこの世界の常識であり不死身の人間と言うのはフィクションにおける特権にはなくなりつつあった

『確かに義体化をすれば永遠と生き続けることも不可能ではない、しかしそれはあくまでも金があって初めて成り立つ話だ。』

『…しかし死が全員に平等に降りかかるものとははっきり言えなくなったのは事実だ』

『故に幻想、か。富裕層への復讐を連呼していた奴らしい言葉じゃないか』

ELIDに感染したクレストは恐らく絶望したのだろう、罹患すれば最後とされるこの病ですら金の力があれば回避できることを何処かで知った。

『…富裕層への漠然とした恨みはそこから来ているのかもしれない』

『生き続けたいと願う意思、“生存欲”に関しては平等か。少佐、お前そんな欲求あるか?』

『…生存欲は死への恐怖からくる感情よ、この体になってからは死への恐怖を感じたことは…いや正確に言えば生まれてからずっと感じたことはないわね。バトーは?』

『俺は元レンジャー出身だからな、そこで死への恐怖が麻痺しちまったから生存欲が一般人と比較すると低いとは思うが少佐ほどじゃないと思うぜ』

『なまじアタシ達生存欲が少ないということと壊れてもふっかつのじゅもんでやり直せる人形達と共にいるから“死にたくない”という感情を見るのが新鮮で何処か精神的ショックを受けている自分がいるわ』

『カルチャー・ショックって奴かもな。しかし今日日ここまでのハッキリとした生存欲も珍しいんじゃないか?一昔前は地獄みたいな世界だったが一応は落ち着いているからな。一般人が戦争で死ぬと言うことが珍しくなり死は再び遠ざかっていった…死への恐怖を感じる人間と言うのはもう生身の人間しかいないんじゃないか?』

人間と機械の根本的な違いはひょっとしたらそこにあるのかもしれない、と素子は考えた。ふと彼女はM4を思い出した。彼女の姉であるM16が行方不明になった際に彼女の死を酷く恐れていた。

(不謹慎な話ではあるが破壊されてもふっかつのじゅもんで文字通り生き返ることが可能だ。しかしそこまで恐れていたのは…)

これを姉妹愛なのかそれとも彼女たちAR小隊は本当は復活することのできない人形でありそれ故に恐れていたのか?もし後者であれば素子はグリフィンはいよいよ何のためにこのような人形を作ったのかが分からなくなる

(果てしなく人間に近い人形、か…これじゃあどっちが人間なのか分からないな)

『…少佐、どうしたんだ?急に黙りこくって』

『いえ、何でもないの。ただ、私たちは何と戦っているのかが気になって…』

『俺たちの敵は今のところは鉄血だ。俺たちは実際に鉄血と接触して何度も戦って会話までもした。…戦う相手が幻だったとでも?』

『この無限にも湧いてくる敵、誰を倒せばこの戦いが終わるのか分からない…幻を相手にしているようなものよ。』

『もうよせ、お前疲れているんだよ。だからそんなセンチメンタルになっているんだ。どうしたんだ?お前らしくもない』

『…すまない。思ってた以上にあの紙に書かれていた内容が自分にとって影響を及ぼしているみたいだ』

『こっちで処分するか?』

『いや、自分でするわ』

『そうか、それじゃあ少佐ゆっくり休んでくれ。一週間後にビールでも飲もうや』

『そうしましょう。楽しみにしておくわ』

電脳通信を切り、彼女は再び紙をじっと見つめて机の中にしまった。

紙にしみついてた消毒液の匂いが忘れさせまいと主張するがいずれその匂いは吹き飛ばされる

ここはS09地区、火薬の匂いを運ぶ風が絶えず吹く場所、しかして今日は火薬とは違う刺激臭の香りを運んでいた__

 

 



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Mission13.奇襲~お茶会~

ど~も恵美押勝です。ようやく20歳になりお酒を美味しくいただいています。これで今までイメージだけでしか書けなかった飲酒描写がリアリティが出る…はずです
長話もアレなんで、本編をどうぞ!


鉄血が人類に対する敵…これはこの世界での紛れもない事実である。だが鉄血は人類共通の敵だと言われれば答えは否である。鉄血は人類を排除するにはあまりにも消極的な活動しか行っていない。鉄血の技術力をもってすれば核ミサイルの量産や自爆兵器を使い無差別テロを行うといった手段が取れるはずだがそのような手口は使わない。単に不可能なのかそれとも別の思惑があるのか。しかしそれ故に人類対ロボットというSF映画さながらの構図は一PMC対ロボットという非常にコンパクトなサイズで収まっている。大多数の人間にとって鉄血はフィクションのようなものなのだ。ともすればこのような考えが出てくる

「何故、フィクションのような存在に人間の血が流されなくてはいけない。この戦場に人間がいる価値とは何か」

 

「そりゃあお前、機械の暴走で起きた戦場を機械にすべて任せるというのはナンセンス極まりねぇからだろ」

ヘリの中で頬杖をつきながらバトーは素子に言った。彼らは今、ヘリアン2週間前にヘリアンに言われていた招集訓練に向かっているのだ。だがおかしなことにヘリは基地のヘリではなく彼女がよこした言うヘリが迎えに来た。何処へ行くのかとパイロットに質問しても機密ということで回答してもらえない。おかしな話だ、何故招集訓練如きで機密の2文字が出てくるのか。そんなことを思いながらも彼女は一小隊分の人形を引き連れて今見知らぬ空を飛んでいる

「確かにナンセンスだな、だがうちの会社はどうもナンセンスな方向に進みたいらしい。M4は戦術人形としては初の指揮モジュールを搭載している人形だ。そして彼女はAR小隊という小隊のリーダーを勤めている。…今のうちに再就職先を考えた方がいいかもな」

皮肉気味に素子が小さく笑いながら言う

「まぁ確かに鉄血もまた指揮モジュールを搭載した人形を開発して着実に進化している。進化のスピードが人間と段違いなのだからそこで勝負が出来る機械にすべてを任せるのも一つの手ではあるな…」

そうは言うもののバトーは完全に認めたわけではない。機械にすべてをゆだねるというのはいくら時代が進んでもそう心地の良いものではないからだ。機械の体は受け入れてもこれを受け入れることが出来ないのはゴキブリを見た時に何をされたわけでもなく嫌悪感を抱くのと同じの様なもので深い理由はないのだ。それは一種の遺伝子の様なもので人間が生まれた時にインプットされた機械に支配されず生存するための本能なのだろう。

 

少し意見を言ってもよろしいかとG36が手を挙げる

「恐らくですが完全に戦場から人間が排除される、ということにはならないと思います。例えば飛行機にはオートパイロットがありますが完全無人にはなっておらずコクピットには人がいるではありませんか。そしてこのヘリにもパイロットが存在している。ご主人様が思っているようにご主人様の立場が機械に置き換わり機械の立案した作戦・命令を人形が従うという風にはならないかと」

「どうかな…いずれにせよ従える立場としての人間か、機械が暴走したときの安全装置としての人間か、それとも人間はいよいよお役御免になるのか。戦争が長引けばこの3択から選ばなきゃいけなくなるのは間違ないわね」

もっともこの疑問にはこういう回答も存在する。ある経済学者は自身の著書で「鉄血の脅威を忘れないためにも人が見届け、人が死ぬ必要がある」と述べた

万の人形のスクラップよりも一人の人間の死体の方が鉄血の脅威は全人類に伝わるという理由とのことだが、グリフィンにとってこれは社員が一種の生贄であると言っているようなものであり屈辱的であった。そのため著者に対し反論した社員もいたほどである。

 

__そんなことを喋っているうちにいよいよヘリが着陸した、素子達が降りるとパイロットは特に挨拶もせず飛び去ってしまった。

無愛想なパイロットを寄越したものだ、そう彼女は思いながら周囲を見渡す。辺り一面は草地であり訓練するような環境には思えない

「…どこなんだここは、呼んだヘリアンはおろか他の基地の人間もいないじゃないか」

「どうもおかしいですね、GPS機能が使えません。ここ一体に強烈なジャミングがかけられているみたいです」

G36が電脳と端末のGPS両方を試してもダメだった、人形のGPS機能も妨害するほどなのでここはグリフィンにとって機密性の高い場所なのだろう

「どうりで頭にノイズが走るわけだ、モスキート音を延々と聞かされてる気分でこれじゃ訓練する前にぶっ倒れそうだわ」

「もしかして秘密の暗号みたいなのがあって、ここの地下で訓練をやるんじゃない?」

スコーピオンはここに地下世界があることを確信して開けゴマなんて言ったりしている

「まさか、入社した時にそんな話は聞かされなかったぞ」

「いえご主人様、スコーピオンが言っていることあながち間違いではないかもしれません。地下の方から何か音が…これは…何かがせりあがってくる音…リフトかエレベーターのような…」

G36の推察は当たっていた。次の瞬間地面が盛り上がり箱のような物が出てきたかと思えば扉が開いた

「まさか、こんな所にエレベーターがあるとは…」

一同はエレベーターに乗り込むとエレベーターは勝手に閉まり降りていく。

「おい、少佐このエレベーター窓なんかついてるぜ。見る景色なんてないだろうに」

「いや、そうでもないみたいだ・・・バトー、見てみろ」

バトーが窓を見るとだだっ広い地下空間が広がっていた、だが土だらけで何もないというわけではない。一部には緑が生い茂っており、また一部には氷の世界が出来ている。

「成程、地下にコンテナを設置し内部に地上の環境を再現しているのか」

「えらく気合の入った施設だな、見ろよ廃墟と化した都市も再現されてるぜ。」

これだけの環境を再現できる施設があればIOPとしても性能実験が行える。それだけにここは知られたくない情報もあり故にこの可変地形場は極秘扱いにされているのだ。素子は定期的にIOPのカタログを見ているのだがこれらの製品がここから生まれていると思うと帰りにでも少し見学したいと思った。

エレベーターが止まった、最下層に止まったのだろうか。それにしては時間が短いそう思っていると機械音声が応接フロアとアナウンスした。ドアが開かれ降りると先ほどの岩の空間とは打って変わってリラックスした雰囲気で満たされており照明やインテリアにこだわりを感じる場所だった。

「お久しぶりです、素子指揮官」

声をかけた男に素子は眼を見開いた。彼の名はギソーニ…しかしそれは偽名で本名をトグサという。彼は素子と同じ9課出身の人間でありAR15の救出作戦において協力し互いが生きていることをその時はじめて知ったのだ。

「ト…ギソーニ指揮官もここに来ていたのか」

「えぇ、李指揮官もいますよ。」

「李指揮官って、じゃあAR15の救出作戦に関わった指揮官が全員集まってるのか」

「というよりどうもそれだけみたいなんです、ヘリアンさんがこの訓練に参加するのは3組だと言っていたので…」

「なんだってそんな少人数で…お前何か聞いてないのか?」

「バトーも久しぶりだな、詳しいことは何も聞いていないんだ。俺も合同訓練としか聞いてないものでね」

「李指揮官も同じか?」

「あぁ、俺も一小隊分の人形引き連れて来いとしか言われてないよ。しかしこんな少人数で合同訓練する意味があるのかね?ひょっとしたら合同訓練ってのはフェイクで別の目的があるんじゃないか?」

「その通りだ、李指揮官」

突然女性の声が聞えた、声がした方向を向くとそこには3人の指揮官をここに呼んだヘリアンその人がいた

「グリフィンの極秘拠点へようこそ、そしてお察しの通りここに君たちを連れてきたのは合同訓練などではない」

「…それじゃあヘリアン何なのよ。ティーパーティーをするってわけじゃないでしょ」

「…お茶を飲んでやるから似たようなものだな」

「本当に?じゃあお茶菓子もってくるべきだったかしら」

「なに、そんな砕けた話でもないんだ。…諸君らにはここで“傘”計画について我が社の最高責任者、クルーガーさんと共に話し合ってもらいたい」

 

 



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Mission13.奇襲~正面から堂々と~

「ヘリアン、質問が2つある。よろしいか?」

「どうぞ」

「一つ、傘計画とは何か。二つ、この何故このメンバーなのか」

「了解、まず前者についてだが…少し前にギソーニ指揮官が入手した音声ファイルにその言葉が記録されていた。ギソーニ指揮官、説明を頼む」

ギソーニ…トグサが席を立ち持ってきたUSBをコンピューターに挿入しファイルを再生する

「説明、といってもほとんど判明しませんがどうやら鉄血は“傘”計画と呼ばれる作戦を立案しているようで話している内容を推察するにとても重要な作戦であることが伺えます。現在鉄血は人類に対して積極的に攻撃を行っていませんがひょっとするとこれは転換の合図なのかもしれませんし我々グリフィンの壊滅を狙った作戦なのかもしれません」

「…いずれにせよ、鉄血が計画していることだ。ロクでもないことは確かだろう。そこで我々は一部の指揮官を招集し今後の対策を練ることにしたというわけだ」

「成程、では我々が招集されたんだ?」

「それは君たちがハイエンドに多く接触しているからだ。特に素子指揮官は4体のハイエンドと直接戦闘を行い、その内1体の鹵獲に成功している。そしてギソーニ指揮官は傘計画の情報に最初に接触した人間でありこれまでの戦闘で1体もロストしていない優秀な指揮官だ。李指揮官もまた優秀な成績を収めており…そして彼は少し変わった経歴を持つんだ」

「変わった経歴?」

「あぁ、グリフィンに入る前はミレニアム社で働いていたんだ…つまりかつて一企業だった鉄血公造の子会社で働いていたんだ。だから多少なりともあの事件が起こる前の鉄血公造がどんなことをやろうとしていたのかは他の人間よりも知っているつもりだ。…もっとも事件後の鉄血は鉄血公造じゃないからどこまで知識が使えるかは分からないけど」

「鉄血のことを何も知らない人間が集まって会議するよりはマシということか」

「アンタ厳しいこと言うね、まぁ事実だから仕方ないんだけどさ」

鉄血公造に関するデータはあの事件、つまり人工知能の反乱の際に会社の中枢コンピューターを破壊し、外部からのアクセスを完全に出来ないようにした。もちろん関連子会社も例外ではなく反乱から一か月も経たないうちにすべての子会社の中枢コンピューターが破壊されてしまったために現在鉄血公造のデータを入手することは不可能なのだ。だが彼は破壊される前に自社のコンピューターにアクセスしそのすべてのデータを保管した。許可なしの保存は勿論違法だがこの場合功を成したと言える。その後命を狙われると思った彼は鉄血がいる世界では一番安全なグリフィンの基地で働くために入社したのだ

「クルーガーさんが来るまでにはまだ時間もある。その間自由に過ごしてくれて構わない。せっかくだから当初の目的通り合同訓練を行ってみたらどうだ?ここにはIOPの最新人形もテストをしているから見学も可能だし購入の相談も可能だぞ。では私は少し席を外させてもらう」

そう言ってヘリアンは部屋を退出した。

「訓練か…」

「どうします?少佐」

「面倒だから私はパスするわ」

「じゃあ俺も、せっかく久しぶりに会えたんです。色々々話をしたいですし。」

「んじゃあ俺もパスだ。ハイエンドばかりと戦うアンタの話を一度聞いてみたかったんだ」

いい勉強になりそうだ、そう言って李が席を立ち給湯室へ向かいコーヒーを淹れようとすると素子の電脳通信に連絡が入った。M4からである。彼女達AR小隊は元の雇用主であるペルシカからの命を受けてここ数日は彼女の下から離れていた。命令の内容は極秘であるため彼女も知らなかったがAR小隊が全員必要と言うことはそれほど重要な任務であることは理解できる

『…どうしたM4、そっちは任務中じゃないのか?』

『少佐、落ち着いて__話を__その周辺__鉄血__』

『どうしたM4、ノイズが混じって聞き取れない。鉄血がどうしたんだ?』

『すぐに戦闘態勢___準備__こちらも何とか少佐__向か__』

強制的に通信が切れてしまった。こちらが地下深くにいるとはいえ私の電脳通信の電波出力はそこまで弱いものじゃない、この間のようにジャミングがかけられているのか?そう思いながらも体は戦闘態勢を自然に構えていた。軍人であれば状況が分からなくとも戦闘態勢という単語が聞き取れればその動作を自然と行ってしまう生き物なのだ

「総員戦闘態勢を取れ!」

「なんだって?」

「状況は不明だが、仲間の人形がこちらに対してそう指示をした」

「…人形のバクかいたずらではないのか?戦術人形の中には人間をからかって楽しむ性格の個体もいるとされているが」

「彼女はそういう人形ではない…本当かウソだとしても我々は“戦闘態勢”と声が聞えたのであればそれ相応の行動をとらなくてはいけないのではないか?李指揮官」

「…すまない、その通りだ。思いがけないタイミングでそう指示を受けたものだから少し取り乱してしまった」

3人の指揮官は引き連れていた人形に指示を出し、この部屋で唯一外界とつながっているエレベーターに銃口を構えた

次の瞬間、突如として部屋が揺れ始めた。天井からは煤が零れ、電灯が点滅した。

「この威力は…対地攻撃か?」

「馬鹿な、俺が居たころの鉄血はスカウトタイプの兵器があるぐらいで対地攻撃できるほどの航空戦力は存在しなかったはずだぞ!生産計画にも上がらなかった!」

『少佐!_敵の攻撃__空__!』

M4から再びノイズ混じりの電脳通信が入った。敵の攻撃、空というのはやはり敵は航空戦力を保持しているのか?だが李指揮官の発言が正しければそれはありえないはずだ。

とはいえ敵の攻撃と空が関係しているのは事実なのだろう。そうであるならばやる事は一つだ

「全員、伏せろ!」

ありったけの力で叫んだや否やそれ以上の爆音が地下に響き、そのことに気づくより先に全身がバラバラになるのではないかと思うほどの振動が彼女達の部屋に伝わる。

だが全員が訓練された軍人だ。悲鳴一つ上げず振動に耐えながら各自この後のことを考えていた。素子もエレベーターが使い物にならなくなったかもしれない、どう脱出しようかと考えていたがその思考が結論に達する前に彼女の意識は闇深く沈んでしまった。振動で剝がれた天井の一部がモロに彼女の頭に当たってしまったからだ。

彼女が最後に見た景色は彼女の下に駆け寄るバトーの姿だった

 

__ここは何処だ

「…トグサ!鉄血の数はどのくらいなんだ!?」

「さっき拠点の監視塔に問い合わせてみたがあまりも数が多すぎて分からねぇってよ!」

__やけに騒がしい、なんだこの音は、おまけに腹の底がビリビリして気持ちが悪い

「おいおいまさかそんな数をまともに相手にしようってのか!?脱出路はどうなっている!?まさかIOPの奴らテメェらで集めた情報が奪われる前に自爆装置を作動させるとかないよな!?」

__IOP?私はその名前を何処かで聞いたことがある

「李指揮官、IOPも我々と提携しているんだ。提携先の社員を巻き込むようなマネはこの私がいる限り出来ないはずだ。とにかく落ち着け李指揮官。君は優秀なんだから落ち着けばこの状況を打破できるはずだ」

__何処かで聞いたような声…バトー…?いや違う。

ふと自分の頬にぬめり気を感じ指で拭いそれを舐めてみた。

__鉄、鉄の血…そうだ、そうだった…私は…私は

「気が付いたかね、草薙素子指揮官」

__そうだ、私は草薙素子。グリフィンの指揮官として戦術人形と共に鉄血と戦う存在だ

「…えぇ、何とか。頭にくらったせいでどうも一時的な記憶喪失をしていたみたいで」

「私のことは分かるか?」

「えぇ、グリフィンの最高責任者。クルーガーさんでしょ」

「私のことを覚えているのなら問題ないな。どうだ?闘えるか?」

「義体のチェックをします…大丈夫、余裕で戦えます」

「その言葉が聞きたかった。今は猫の手も借りたいほどだからな。ここには武器も弾も売るほどある。準備出来次第、非常用経路を使い最上階まで行き他の指揮官や人形と協力して敵勢力の排除に当たってくれ」

「…他の指揮官?クルーガーさん、ここにいる指揮官は私たちだけのはずでは?」

「いや、ここの拠点は訓練場も兼ねているからな君たち以外の指揮官もここに来ている」

「了解、準備が終わったら最上階へと向かいます。…ところで」

「なんだね」

「ここに収容している武器の中にセブロ社のはありますか?」

そう言うとクルーガーは売るほどあると言っただろう、とその強面の顔を一つも崩さすに言った

 

一足先に最上階へと向かったクルーガーからこの拠点の地図のデータを貰い素子は全員に共有する。どうやらここは最下層らしい。最上階までは10階登らなくてはいけないようだ

「久々の実戦だぜ、休暇で腕はなまってないだろうな?」

そう言ってバトーが防弾ジャケットを渡す

「2週間で腕がなまるほどヤワじゃないさ。それは言うならお前もだ、この2週間ずっと酒を飲んでいたわけじゃないだろうな」

「人をアル中みたいに言うなよな!一日ビール一缶しか飲んでねーよ!」

「お話の最中失礼します。ご主人様、クルーガー様がこれを渡すようにと」

G36が渡したのはトランシーバーのような端末…BCOTM(機動作戦指揮システム)だ

真ん中のボタンを押すとホログラムが展開され味方の位置を共有し他のメンバーとの連絡を取れる機械である。素子らのように電脳化をしている人間が占める部隊には不要な代物ではあるが今回は非電脳化している人間がいることや大多数の人間や人形と電脳をリンクさせるのは危険なためにこの端末が使われた

『…こちらはS9基地司令官、草薙素子だ。これから合流する。最上階で戦闘を行っている指揮官、または人形は現在の状況を聞かせて欲しい』

素子はしまった、と思った何故なら電脳通信が先ほど行えなかったのだ。端末での通信は出来ない可能性が高い。だがその心配は杞憂だった、数秒もしないうちに一人の男性の声が聞えたからだ

『…こちらはミーシャ、素子指揮官、あなたの名前はよく耳にしている。現在戦況は圧倒的に不利だ。明らかに数が違いすぎる、このままだと押し切られるのも時間の問題だ。連中、何処かに拠点があるのかもしれねぇがそれを探せるような状況じゃない』

『この基地にはドローンがあるはずだ、それで探すのは不可能か?』

『だめだ、航空戦力もいてここから気づかれずに飛ばすのは無理だ』

『…一つ聞きたい。今鉄血は一方向だけにしか向かってきていないか?』

『そうだ、この拠点にはいくつかの脱出口があるらしいがそれは外部から開けることは不可能だしさっきの攻撃による衝撃でいくつかは内側からも開かなくなってしまった故に実質的に入口と呼べるものは一つしかない。だから奴らはそこにしか侵入できないはずだ』

『…穴がこじ開けられていない限り敵は行儀よく正面玄関から入らなくてはいけないということか』

『そうなるな』

『了解した、ではそちらへ向かう』

通信を切るとトグサが彼女に近づいてきた

「素子指揮官、こちらの準備は整いました。これから最上階へ向かうわけですね」

「そうだ」

「…とはいえ辛い戦いになりそうですね。籠城戦に近いじゃないですか。外部からの支援が到着する前にもつかどうか…」

「外部の支援が必要なのは間違いないな。…一つ考えがある。少し寄り道することになるがな」

「本当ですか、それは一体どういう…」

「詳しい話は移動の最中にするさ。…ではいくぞ。“試作兵器試験場”まで」

 



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Mission13.奇襲~アルテミス~

ど~も恵美押勝です、お久しぶりです。大学も3年になりゼミが始まると忙しくなり投稿が遅れてしまいました、申し訳ないです。
それでは本編をどうぞ


「…すいません、もう一度言ってくれませんか。どうも自分の耳がおかしくなってみたいです。私には“戦術人形を飛ばして外にいるAR小隊と合流させる”と聞こえたんですが…」

素子らは今、自分達の人形を引き連れて“試作兵器実験場”と言う部屋に向かっている

「大丈夫、お前の耳はおかしくなっていない。お前が言ったとおりのことをこれからする」

「…素子指揮官、先ほどの怪我で電脳が狂ったんじゃ」

「狂ってない、それと面倒だからトグサ、これまでのように少佐と呼べ」

「…!分かりました少佐」

「何々、君ら知り合いなのか?」

「その話は生き残ったらすることにしよう。」

「そうだな、しかし素子指揮官。ギソーニ指揮官が貴方が狂ったと思うのも無理はない。“飛ばす”とはどういうことなんだ」

「李指揮官、“人間大砲”って言葉を聞いたことがあるか?」

「大昔のサーカスがやっていたことだろ?まさかその人形バージョンをやろうというのか君は」

「少佐ぁ、ここはPMCの拠点だぜ?そんな曲芸用の小道具なんておいている訳がないだろ。それともグリフィンがそんなトンチキな兵器を作っとるとでも?」

バトーの考えることももっともだ、仮に戦術人形を人間大砲のように飛ばせる装置があるとしてそれが何の役に立つのか。そもそも人間大砲はネットが落下地点にあるから出来るのでなくネットを置かない人間大砲など派手な公開処刑、手の込んだ自殺でしかない。いかに戦術人形と言えど破壊は免れたとしても作戦行動に支障をきたすダメージは避けられないだろう。そんな兵器が作られるわけがない…そう思ったがその考えは素子の沈黙によって否定される

「…マジ?」

「大マジよ…よし繋がった。M4、応答してくれ」

『__少佐!良かったご無事なんですね!』

『あぁ、取り敢えず皆無事だ。一つ確認したいが今AR小隊はこの拠点周辺にいるんだな?』

『その通りです、現在我々は基地内に侵入すべく入口を…』

『いや、この基地に入るには正面からしかない。それよりもポイントG-1に行けるか?』

素子は自分の考えた作戦をM4に説明した。G-1地点は木々や岩などの遮蔽物が少なく開けた地点であり落下地点には適している。

『…行けますがその場所は基地から離れてしまいます。それに今基地の戦力を減らすのは悪手かと、お言葉を申し上げますが私たちにとって今の最優先事項はあなた方をお守りすることだと思います!』

『違う!木乃伊取りが木乃伊になるようなマネをするな!今の小隊の最優先事項はこの無限に沸く鉄血の巣穴を潰すことだ!』

『…了解しました。AR小隊はポイントG-1地点に向かいます!』

M4と連絡を終えたころには素子らは目的地の入り口前に到着していた。だが入口はパスコードでロックが掛けられており押しても引いても開かない。

「やはり鍵がかけられていますね…どうしますか少佐」

「扉と電脳を接続して解析して開けるという手段もいいが…この作戦、私の一存だけで出来るというわけではないからな」

「クルーガーにここのパスコード聞くのと同時に少佐が今やろうとしているその人間大砲作戦の許可を取ろうということか」

その通りだ、と彼女がBCOTMを起動しながら答える、クルーガーもヘリアンと同じく非電脳の人間故に現状彼とはこの手段でしか連絡が取れないのだ。

『素子指揮官か。…何故君は試作兵器実験場に居るのかね、私は最上階へ向かうように命令したはずだが』

『…クルーガーさん、現状我々は鉄血に対し圧倒的不利な状況です。外部からの支援が到着するまでにこの拠点が制圧されるのは時間の問題です』

『確かに君の言う通りだが、現段階では我々が可能なのは外部からの支援が到着するまで耐えきることのみだと思うが?』

『いえ、方法はあります。そこで私は一つの作戦を提案したいのです』

素子は作戦について説明した。もしもここで彼が拒否の姿勢を示せばこの作戦は発動出来ない。彼が答えるまでの時間が何時間かのように感じられる

「…よし、やってみるがいい指揮官。」

「感謝します」

「だが、人形達を飛ばしてAR小隊と合流した後はどうする?君も飛んでいくのか?」

「ええ、そのつもりです」

「了解した、では試験場のパスコードを教えよう」

言われた通りのコードを打つと扉はすんなりと開いた。中に入ると体育館の様な何もない広大な空間が広がっていた。入り口近くには階段がありその上にはドアがあった。どうやらあそこが試験中の兵器を測定する場所のようだ。階段を上りノックをするとヒィッ、という弱弱しい男の悲鳴声が聞こえた

「開けてくれないか、我々はグリフィンの人間だ。」

男は恐る恐る素子に尋ねる

「何故グリフィンの人間がここにいるんだ?君たちは鉄血兵の排除に当たってるはずじゃ…」

「実はそれに当たって君たちIOPの試験兵器をお借りしたいんだ。…取り敢えずドアを開けてくれないか。クルーガーさんからの許可も取っている」

流石にその名を出されると断るわけにもいかなく、男は素直に扉を開けた。やせ細った白人の男が彼女らを出迎えた

「僕たちの試作兵器を使いたいって何を使いたいんだ?生憎だが俺たちは特撮に出てくるようなメーサー兵器みたいな超兵器なんて作ってないぜ」

「いやウチの少佐はそういうのをお望みじゃないんだ」

「そうだ、そちらで開発している特殊砲弾を使わせてもらいたい」

「特殊砲弾…『アルテミス』のことかい?」

特殊砲弾アルテミスはミサイルの形をしたカプセルのような兵器である。カプセルに人形を入れて目標地点を決め、ミサイルランチャーやロケットランチャーにセットすると通常のミサイルよろしくアルテミスが飛び着地すると内部から扉が開くという兵器である。援軍の要請や緊急性の高い任務の際、いち早く戦地に赴くために開発されたのがこの兵器だ

「そうだ、今月のカタログに載っていただろ?」

「確かに試作兵器とはいえ基本的には問題ないが…それを使うのか?」

「あぁ、外の部隊と合流して敵の大本を叩くつもりだ」

「…しかしそれでは指揮する人間はどうするんだ」

「それに関しては私も飛んで指揮を行うつもりだが…」

「残念だが、君がこの特殊砲弾を使用することは出来ない」

「何故だ?人間ならまだしも全身義体の人間なら着地の衝撃くらい…」

「いや、全身義体とはいえ君は人形じゃない。人形じゃないものがこれを使うことは不可能なんだ」

男は説明した、この兵器には発射や着地のGや衝撃に耐えられない人間が使用できないように烙印システムを利用しているのだと。IOPにとっては戦術人形が己の銃を自分の体の一部のように扱えるためのシステムが人間と人形の違いなのだと言う。

「それでは仕方ない、人形だけで行ってもらうとして指揮はここで…」

「それは不可能だ少佐」

聞き覚えのある野太い声、後ろを振り返るとクルーガーがいた

「クルーガーさん、何故ここに…いや不可能とはどういう意味ですか」

「うむ、先ほどこの拠点にEMP攻撃を喰らったようで一切の通信が出来ん。恐らく電脳による通信も難しいだろう。人形達をAR小隊と合流させたところで以降の指示は不可能ということだ」

「…それじゃあ我々にできるのは援護が来るまで耐え忍ぶしかないってことかよ」

「その通りだ、李指揮官。素子指揮官、君の作戦は不可能だ。人形達を引き連れて最上階へ速やかに向かうように、これは命令だ」

「…クルーガーさん、一つ提案が」

「…素子指揮官、私の話を」

「失礼なことは重々承知しています、しかし一つ話を。敵がこのまま物量で押し切るとは思いません」

「…どういうことか手短に話してもらおう」

「この大群はあくまで囮でしかないということです。もっと恐ろしいものから目を背けるための」

「恐ろしいもの…?」

「思い出してください、今回の戦闘は大地震並の揺れを感じるほどの衝撃で始まりました。敵は遠距離から攻撃できる何かを持っていたということ。しかしそんな攻撃力を持った兵器を何故再び使わないのか」

「次弾の装填にとんでもなく時間がかかる兵器か、それとも兵器自体にトラブルが起きたのか…」

「ともかく次の一撃を撃つために、我々に撃てないことを悟らすまいとしてあの大群を鉄血兵共を放った…私はそう考えます。」

「つまり、悠長に相手している時間はないと」

「えぇ、それにもう一つ」

「何だ?」

「連中、今更になって通信攻撃をしてきましたが援軍を呼んだこのタイミングでの攻撃は偶然とは思えない。連中は一つでも多くの人間・人形を殺すつもりではないかと思うんです。」

「ちょっと待ってくれ、それでは君は通信傍受されているとでも言いたいのか」

素子の仮説は筋が通っているが認められるものではない、何故なら戦争において通信を聞かれるというのは『どうぞ殺してください』と言っているようなものだ。だからこそ軍は通信傍受されないようにそのシステムを強固なものとし万一聞かれてもいいように暗号などを決めておく。これが本当ならシステムを一から見直すだけでなく犯人捜しをし、犯人を手中に収めなくてはいけない。そうなればPMCの業務は暫くストップする。

クルーガーは腕を組み渋い顔をする、やがてこう言った

「犯人捜しは後だ、援軍が来るまでに後2時間はかかる。それまでに…」

「えぇ、それまでに通信妨害を無力化し、連中に指示を飛ばしている通信施設を破壊しここを退避する。」

出来ればその長距離兵器の破壊も行いたいが相手が何処にいるのかもどんな兵器なのかも、そもそもそのような兵器が実在するのかもわからない。“あるかもしれない”と証拠づけた衝撃でさえ、その衝撃で出来たであろう破片や窪みさえ見たことはないのだ。全てが机上の空論であり何一つとして素子の考えを作戦を肯定する材料はない、しかし否定する材料もまたないのだ。

「そしてこの作戦の概要はこれから飛ばす人形に伝えますがそれより先の事はM4A1に一任します」

クルーガーは沈黙した。そして彼は怒りを孕んだ目で彼女を見て口を開く

「素子指揮官、君は…自分が何を言っているのかわかっているのか」

「M4A1に指揮を任せる、私はそう言いました」

「…素子指揮官、何故この戦争は始まった?人形が人間の手から離れたからだろう?人形は力だけなら我々よりも強い、だが機械の脳はいとも簡単に汚染されてしまう。0と1でしか見えない世界に義理や人情、信念といったものは存在しない。人間のために戦う理由など人形には存在しない、しかし人形は優れている。人間が何時間もかけて見に就く技術をいとも簡単に身につける、この短時間で戦場に送り出せることがどれほど有利な事か。では優秀な人形が闊歩するこの戦場で何故人間が必要なのか分かるか君には」

「…」

「もしもの時のために人形が鉄血に寝返りをしようものならそれに対処するために、人形を殺すために“目”として我々人間が必要なのだ。君が言っているのはその目をつぶれと言っているようなものだ」

クルーガーの言っていることは素子にも分かる。寧ろここで「よし素子指揮官、M4A1に全てをゆだねよう」など言っていたらグリフィンの責任者としての思考が欠如しているとしてこれから先、彼の事を軽蔑のまなざしで見ることになっただろう。

「クルーガーさんの仰ることは正論です。つい数ヶ月ほど前も人形に認識阻害を起こさせるウィルスをリアルタイムでハッキングして送り込むなんてチップが存在して鉄血兵を撃てなかったという事態もありましたから、人形が汚染されて寝返る心配は全くもって夢物語ではないでしょう」

しかし、と付け加えて彼女は話を続ける

「そもそも我々には選択がありません、あるとするならば寝返ることを心配してこの拠点にいる人間だけは逃げてやって来た援軍と拠点を失うか、拠点だけを失うか。二者択一です」

「…」

「それに、私はM4A1を信じています。指揮モジュールを搭載していることは勿論、人形にも関わらず夢を見る電脳を持っている…他の人形とはハードもソフトも違います。異質な人形ではありますが“異質”は武器だと私は考えています。」

「…それが君が、M4A1に一任する理由かね」

「信頼関係というのは言葉では100%説明できないものですがおおよそはその理由です」

「フム…戦場において信頼関係、という言葉ほど信用できない言葉はない。しかし私とて信頼関係を鼻から否定するつもりはない。私が君たちを信じるように君たちは人形を信じているだけの話ということか…」

「そうですクルーガーさん、簡単な話なんです」

「…よかろう素子指揮官、好きにやりたまえ。」

 

クルーガーが許可してくれたその先はとんとん拍子で事は進んだ。

・G36(素子)

・スコーピオン(素子)

・SPAS-12(李)

・Super-Shorty(李)

・Thunder(トグサ)

・PPK(トグサ)

という編成でそれぞれがアルテミスの中に入り発射台の中へ挿入される。IOPの男がアルテミスの着地地点をセットする。着地地点は勿論M4達が待機している場所だ。発射台は最上階に位置しているのでその間、発射台及び挿入する人間や人形は無防備となるので他の人形がその間援護をする。

「準備完了したぜ少佐!」

「よし、発射後アルテミスが見えなくなるまで防衛にあたる。では発射!」

6体の人形が勢い良く空に放たれる。放たれた矢が見えなくなるのに長い時間は要しなかった。見届けた素子らは彼女らを信じ各々の銃を構えなおすのであった

 



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Mission14.リーダーとして~命綱~

M4は素子に指示された場所で待機していたがそこから10分ほど待ったが何も連絡がこない。こちらから通信しようとしてもノイズしか聞こえず繋がらない

「少佐とは連絡はまだ繋がらないのか?」

「姉さん、どうも通信妨害をされているみたいです」

「それってジャミング装置が近くにあるってこと?SOP、あなたには見えているの?」

SOPには特殊なヘッドセットや視覚端子を装備しており通信電波を可視化することが出来る。

「…う~ん、電波がやたらと重なって見える場所があるけどあそこに装置があるのかは分からないや、ただ鉄血兵が居るのは間違いないみたい」

「距離は?」

とAR15が尋ねる

「だいたい3kmって所かな、あそこまで行けば敵の拠点があるかもしれない。あの重なり具合からして大勢いることは間違いないしやたら分散しているんだよ、飛び散ってるように見えるの。多分あそこに建物があるんじゃないかな?」

「SOP、熱源探知に切り替えられるか?」

「無理、あれで索敵できる範囲は狭いの」

「でも、これで合流したあとの動きは分かりましたね」

後は少佐の指示のもとで敵拠点及びジャミング装置の制圧に当たる、なんてことはないいつものミッションだ。そう思っていると頭上から音が聞えた、これはジェットエンジンの音かと思ったがそれにしては音が軽い、何か空を切り裂くような紙を破くような音が頭上から聞こえる。

「M4、見えるか?空から6つの飛翔体がいる、恐らくあれが少佐の言った試作兵器じゃないか?」

「であれば、ここに着地する可能性があります」

AR小隊が待機しているのは木々がなく柔らかい草が生い茂る場所だ、着地には適した場所だろう。

「この地点から少し離れましょう、着地に巻き込まれるかもしれません」

M4の指示でAR小隊は100mほど離れてそこで姿勢を低くして待機する。やがて10秒ほどすると飛翔体の姿がはっきりと見えるようになったかと思うとそのまま垂直に地面へと落下を始めた。これでは着地ではなく墜落だ、そうM4が息を飲み込んだのも束の間、飛翔体は落下傘を広げゆっくりと地面に着地した。

「これが援軍ねぇ、開けてびっくり玉手箱というわけか」

「何ですかそれ」

「ニホンに伝わる物語さ…これ、私たちが開けなきゃいけないんだろうか」

「まさか、自力で開けられなきゃ兵器として欠陥じゃないの」

AR15がそう言うと落下物にあるパネルラインが観音開きし排気音と共に人影がヌッと出てきた

「お待たせいたしました。AR小隊の皆様」

「援軍とうちゃ~く!」

「G36さんにスコーピオンさん、それに他の人形達も…」

「これで私たちも動けるな…いや待て、少佐はどうした」

「本当だ!少佐が居ないじゃん!それじゃあこの電波状況の中どう指令を受け取ればいいの!?」

「M16様、ご主人様はこの兵器…アルテミスに搭乗することが出来ず、現在拠点にて防衛活動をされています」

「でも私たちは一応少佐からこの作戦の目標については聞いているんだよね」

スコーピオンが銃を見ながら言った

「それはどういう目標だ」

「ジャミング装置の無効化、及び敵通信施設の破壊でございます。」

「…なるほど」

「でも指揮官である少佐が不在の今、我々はどのように行動すれば…」

「…それは貴方の仕事、M4A1さん」

M4が声がした方を向くと青白い髪色をした人形が居た、彼女の目は真っ赤だった、まるで結膜炎の患者のようなその目にM4は見覚えがなかった。M4に限らずすべての戦術人形は基本的にグリフィンの人形は把握している、であれば全く見覚えのないこの存在はイレギュラーだ。味方なのには違いないだろうがこれから行動する中で全くの情報なしの味方と行動するのはコミュニケーションに支障をきたすかもしれない。彼女の言葉よりも彼女自身の情報が知りたい、そうM4は考え口を開く

「貴方は…」

「私はThunderと言います、ハンドガンを使う人形です…貴方のことは貴方の指揮官から聞いています。優秀な戦術人形だそうで」

「ありがとうございます。Thunderさん、それで先ほどの言葉の意味は」

「言葉通りの意味です。貴方がこの部隊のリーダー…いえ指揮官となって任務を成功させる、それだけの意味です。」

「…少佐は私がこの作戦の指揮を取れと、そう少佐自身がはっきり言ったんですね」

戦術人形が人形の指揮を執るなど異例だ、指揮というのは人間にとっての命綱だ、指揮が執れるということは人形と人間のつながりを意味し人形を監視していることも意味する。人形は人間の指示がなければ動けない、この主従関係が存在することで人間は機械だらけの戦場において存在意義を満たすことが出来る。少佐はその命綱を、存在意義を自らの意思で切ったのだ。それは考えられないことでありクレイジーであることはM4からしても明白だった。それだけに意思はハッキリとさせなくてはいけない

「えぇ、貴方の指揮官はハッキリとそう言いました。クルーガーさんの許可も受諾済みです。これはグリフィンが公式に認めた作戦です。これで問題はなくなったと思いますが」

命綱を切ったのは本当らしい、しかし不可抗力とは言え人形に指揮を執らせるのであれば

何故私のなのか、その理由が指揮モジュールを搭載しているからということは理解しているのだが何故私にその機能が備わったのか、私よりもM16姉さんの方が相応しいのではないか。…いきなり全てを任せられたことで電脳に負荷がかかったようだ、それで後半は今考えるべきではないことを考えてしまったようだ。自分は難しく悲観的に物事を受け止める“クセ”がある。難しく考えることはない、指揮というのは目標を達成するために導くことで目標というのは細かいタスクの集合体だ。単純化して考えることが今の私の特効薬だろう

(この機能を信頼して少佐は私に指揮を任せたんだ、ならばそれに応えなくては)

「分かりました、ではこれより援軍を含めたAR小隊は私の指揮の下、行動を行います。それでは簡単にですが作戦会議を行いたいと思います。実は私たちの方で敵の拠点の位置を予測しました。それではみなさん、電脳にて説明しますので共有回線の方を…」

M4は先ほどSOPが見た景色を元に作戦を説明した。作戦としては通信が集中している箇所の裏に回るように進軍し、その場所に拠点があるならば破壊活動を実行、いなければ一体鹵獲して電脳を解析し通信指令を受け取っている場所の逆探知を行いその場所へ進軍という形である

『以上が、今作戦の概要となります。みなさん、何か質問は?』

一人が手を挙げた、トグサの部隊から派遣されたPPKだ

『一つ質問よろしいかしら、鉄血の拠点に乗り込むというのには10体とあまりに人数が少ないのではなくて?いえ、今更人数について苦言しても何も変わらないでしょう、しかしグリフィンの拠点を襲撃するための拠点ともなればハイエンドモデルが存在しているかもしれません、通常の敵であればどうにかこの人数でも対処可能でしょうがハイエンドモデルと対峙した場合はどうお考えですか?』

『今回の我々の目標はあくまで敵通信施設及びジャミング装置の破壊でありハイエンドモデルの破壊ではありません。対峙した場合でも目標の達成を最優先とします、そして達成次第、即敵拠点から離脱します』

『あくまで任務が最優先と?』

『そうです、そして仮にハイエンドモデルが存在するのならば我々がそれを少佐に…人間の皆さんに伝えなくてはいけません。生きて帰ることもこの任務の達成条件です』

『なるほど、貴方の考えは分かりましたわ。いいでしょう。どうもありがとう』

他に質問のある方は、とM4は聞いたが誰も手を挙げなかった。

電脳空間から現実世界へ帰還し各人形が銃を構えなおす、作戦開始の時間だ。

「皆さん準備完了しましたか?それではAR小隊、敵拠点へ向けて進軍を開始します!」

3km…戦術人形ならば走れば15分といったところだ。戦術人形は息を切らすことも疲労を感じることもない、常に最高のパフォーマンスで走ることが出来る

周囲の警戒をしながら走っていると電脳通信にコールが入った、M16からだ

『何ですか、姉さん今は作戦行動中ですよ。何か気になることでも?』

『いやなに、我が妹ながらさっきの啖呵はかっこいいと思ってな。「生きて帰る」か。私たちからすれば不思議な言葉だが…』

戦闘機を生きているという人間はいないし戦闘機が破壊されたからと言ってそれが死んだと言う人間もいない。人形も同じように自分たちが生きている存在だとは思っていない、故に死ぬこともないと思っている。否、生死の概念を理解できないのだ。だからM4の言った「生きて帰る」という言葉は理解できない、外国語のようなものだ。他の人形がM4の言葉を訳すとすれば「ミッションを終えて帰還する」となる。M16はそう言わなかったM4は特別な人形なのだと改めて実感した。我々とは頭の作り方が違う、知能の問題ではなく人体で言うところの精神を他の存在と同調させる…共感が出来る機能を持った人形なのだろう

これこそがM4を特別な人形たらしめている正体なのだとM16は推察した。そしてその機能は恐らくは

『だけど?何ですか姉さん』

『お前が言うと言葉の意味が分かる気がするよ』

他の人形に勝手にコピーさせるウィルスのようなモノが付属しているのだろう。

 



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Mission14.リーダーとして~嘘~

ど~もゼミ発表に追われた恵美押勝です。ようやく暇な時間が出来久しぶりにゆっくりとした休日を送りながらこの文章を書いています。本当は空きコマの時にちょくちょく進めたいんですがね…
言い訳話もアレですから、本編をどうぞ!


鉢合わせをしないように弧を描くように裏側へ行ったのが功を制したのか3km先の通信が集中した箇所へは難なく到着することが出来た。だがM4は少し気がかりだった

(あまりにも静かすぎる)

目の前に広がる空間は整備された地面に、いくつかの小屋があることからここが敵の拠点なのには間違いない。彼女らが今位置しているのはその拠点の裏側なのだが見えるのは広がる空間だけであるべきものが存在していない

『M4、ここに敵がいたのは間違いないはずだが…』

『えぇ、静寂そのものです。』

『仮にも拠点ならば警備兵や監視用のドローンが居てもいいはず…SOP』

『だめ、全然見えない…ある一つの場所を除いて』

『それって作戦説明の時にSOPが言ってた通信が集中してる場所のこと~?』

『そうだよ、SPAS』

『じゃあこの場所がダミーって可能性もあり得るんじゃない?』

『SPASの言うことには私も賛成ですわ。デコイを置かれて私たちはここに導かれたのではなくて?』

『…でもはっきりと罠と断言できるわけじゃない。ここにいる全戦力が出撃しているのかもしれないのだから』

『Thunder様の意見も一理はあります、しかしいずれにせよ私たちはSOP様が見た場所へ行く必要があるのではないでしょうか?それが罠だとしても』

『私もさんせー!もしThunderの予想が当たってりゃこの作戦、楽勝じゃん。アタシは楽な可能性にベットするよ。それに罠だとしても引っかかれば何か分かるよ』

罠なら罠ごと噛み砕く、素子と共に何度も戦場を潜り抜けたからこそ彼女達はこの思考にたどり着いたといえよう。人形の思考は任務達成がベースとなっている。破壊されたら達成不可能なためリスクが低い方を選択する傾向にある、あえてリスクの高い方法を取るのは本来、戦術人形ではありえないことだ。だが人間が他人に影響されて思考が変化していくように人形の思考も変化していく。IOPから言わせればこれはバグであり戦闘に悪影響を及ぼすものと考えているが今まで回収・修正されたことはない。ペルシカから「待った」の声がかかったからだ

数秒の思考の後、M4は全員にこの場所を敵拠点と認識し、不明通信集合地帯の調査を行うと発表した

『SOP、念のために視覚端子をサーモモードに変更して建物を見ながら前進して頂戴』

『了解、アンブッシュの可能性もあるもんね~』

M4達は周りを見渡したがら歩いたがやはり敵が出てくることはなかった、歩きながらSOPが建物を見るたびに報告するのだが全て「何もない」であった。すべての敵が対赤外線コーティングでも施したとでも言うのだろか、そうでなければこの状況を納得できない。だがついに何も出くわすことなく目的地に到着してしまった。

「…SOP、電波はこの建物から出ているの?」

「間違いないよ」

「普通、ジャミング装置といえば屋外に設置するのでは?」

G36が訝しむ

「そりゃそうでしょ、電波を飛ばすのに建物は邪魔でしかないじゃない。・・・でも入るしかないわね」

「そうです、私たちはここにいくしかないのです。ショットガンのお二人、お願いします」

「オッケー!じゃあ皆はドアから離れてて!」

「ちょっと待って、蝶番を壊すのは私がやるから、アンタはドアを蹴破って。私の足じゃそこまでの力は出ないから」

「了解、じゃあお願いするね」

ショットガン以外の人形はドアから少し離れたところで半分に分かれ待機する、M4がスモークグレネードのピンに指をかけじっとドアを見つめるとバァンと発砲音が鳴った。Super-Shortyが蝶番を破壊しSPASがドアを勢いよく蹴破る、次の瞬間M4はスモークグレネードを建物の中に投擲する。数秒もかからず煙が噴き出し入り口の外から漏れ出したところで全員が突入した。だが発砲音が響かない、敵がいるなら鳴らないと可笑しいはずだ。

やがて煙幕が晴れると全員が驚いた。敵兵が一人もいないのだ、代わりに部屋の真ん中にはパラボラアンテナのような形をした機械が一つあるだけだった

「これか、SOP?」

「間違いないM16、これだよ!こいつがジャミング装置だ!」

「M4!」

「はい!」

M4がフルオートでジャミング装置に叩き込んでやると装置は火花を散らしてうなだれた。

これで一つ片付いた、後は通信施設を見つけて破壊するだけ・・・そう思っていると突如として目の前が明るくなった。暗くて気づかなかったがどうやら目の前にはモニターがあったようだ

『…そこの木偶人形、聞こえてるかしら』

幼い少女の声だ、画面には銀髪のツインテールの幼女が映っていた

『…聞こえている、といったらどうする』

『ん、その眼帯女はM16ね。聞こえているなら自己紹介しても?』

こんな見た目でも鉄血…恐らくハイエンドモデルがこちらとの接触を図っているのだ無視するのには惜しい話し相手だ。そう思いM16は勝手にしろ、とぶっきらぼうに呟く

『私は鉄血公造“デストロイヤー”よ。お会いできて光栄だわ』

『デストロイヤー、M16の名前を知っているということは私の名前も知っているだろう。貴様に質問したい、よろしいか?』

『…嫌だと言ったら?』

『ならば通信を切るまでよ』

AR15がハンドルを引きわざとらしく音を立てる

『分かった!分かったわよ!質問していいから!』

『では質問する今回の騒動、何が目的だ?』

『アンタたち、木偶人形のポンコツ頭じゃ分からないわよ』

『…つまり貴様は説明できないというわけか。見た目通りのバカということか、木偶人形を馬鹿に出来ないな』

『そんなわけないでしょ!いいわ!説明してあげる!まずそもそもアンタたちの基地を襲うのは…』

次の瞬間、プツリと電源が切れてしまった。

『SOP!今の通信、モニターしてた!?』

SOPがモニターからコードを抜きAR15を見た。彼女はモニターにデストロイヤーが映った瞬間すぐさま首の端子からケーブルを伸ばし接続したのだ

『勿論!枝もバッチリ植えたから追跡出来るよ!』

『いえ、追跡はナシです。皆さん最初に話したことを覚えていますか』

『ハイエンドモデルの破壊は後、でしたよねM4さん』

『その通りです、Thunderさん。これより我々は…』

すると電脳通信の呼び出しが来た、相手は素子のようだ

『少佐、どうやら通信は回復したようですね。これから敵通信施設を破壊しに行きます』

『…待て、まだ通信施設は破壊していないのか?』

『えぇ、そうですが…』

『よく聞いてくれ、たった今拠点を襲撃していた全ての鉄血兵が活動を停止した。私はてっきりお前達がしたものだと思っていたが…』

『帰投した方がいいですか?』

『あぁ、そうしてくれ。我々は今から拠点を放棄し撤退するからなるべく急いで基地へ戻るようにな』

通信はそこで終わった。M4はAR小隊のメンバーを見て先ほどの内容を説明する。

「つまりここはダミーだったわけ?」

「その可能性は十分あります、super-shortyさん。」

「かっこよく空から登場したというのに骨折り損のくたびれ儲けってわけですの…」

PPKが悲しい声を出す演技をする

「ともかくこの場所から撤退し拠点へ戻ります。AR小隊の皆さん、よろしいですか」

「「「「「「了解」」」」」」」

走りながら帰路についているM4は疑問が尽きなかった。何故、敵がここまでいなかったのか、何故ジャミング装置が室内にあったのか、何故、通信施設を破壊していないのに鉄血兵が停止したのか。そもそもこの拠点のサイズで仮にもグリフィンの拠点を襲えるほどの通信を賄えるのか。

そして何故、敵は秘匿にされていた拠点を奇襲できたのか。内通者がいなければ不可能な芸当と敵はなしとげた。だが内通者が誰なのかM4には分からない

(そもそも内通者がいたとしてそれは人間か?それとも人形なの?)

だが、鉄血兵が人形を懐柔・洗脳した例は聞いたことがない。そもそも鉄血兵は人形を破壊しようとするだけで接触を試みることはない。AR小隊の場合はイレギュラーなのだ。自分だって戦いでしか鉄血とコミュニケーションしたことはないし、それも中身のない会話だ

内通者が人形なわけがない、そうM4は結論付けようとしたが途端、電脳がスパークしたような感覚を覚える

(…いや、まさか)

いるではないか、1体だけ、それに最近。可能性はそれしかない、M4の思考は確信に満ち溢れていた。だがそれを言ってしまえば確実に終わってしまう、失ってしまう。だが言わなければならない、しかし失うのは恐ろしい。だが言わなくてはいけない。Siかし、うsiな…だga,言わna…

思考を言葉に変化できなくなってくる

言語化のプロセスが思考という川から外部に表明したいことを母語という餌をつけた釣り竿で釣り上げる行為だとするならば川が大荒れし釣れない状況に立たされているのだ。

(頭がごちゃごちゃする…自分が何を考えていたのか分からなくなってくる…)

複雑に物事を考えすぎて顔に現われていたのだろう。M16が大丈夫か、と声をかけてきた。その言葉にM4は「大丈夫です」と“嘘”をついた。条件反射のようなものだった、川から何とか釣りあげようとするのを邪魔されないように電脳が一種の防衛システムを働かせたのだろう

その嘘にM16は気づいているようには見えなかった、いやこれはそう自分が見ようとしただけかもしれない。

やがてAR小隊は基地へと戻った。眼前には沢山のヘリが見える、こちらに手を振る人間が一人、素子だ。だがよく見るとヘリアンとクルーガーも一緒にいる、一抹の不安を覚えつつもM4は彼女達の下に辿り着いた

「…AR小隊、ただいま帰還しました」

「ご苦労様、いろいろ労いの言葉をかけたい所だけど、そうもいかないから他の指揮官の所属の人形はそれぞれのヘリに行って頂戴。」

李やトグサの基地所属の人形はそれぞれのヘリに戻ったところでクルーガーが口を開いた。

いつの間にか後ろには重装備と重装甲で覆われた人間の兵士が立っていた

…AR15に銃口を向けて

やめろ、それはもう決まりじゃないか

「恐らく、君たちも気づいているだろう。我々の中に内通者がいる。ヘリアン、説明を」

説明しなくていい、このまま黙っていてくれ

「了解しました。…今回の騒動が発生する前、異常な通信量が拠点内から発信されていることが先ほど分かった。その発信源が君だ」

やめろ、やめてくれ、それ以上は

___AR15、ただいまを持って通信モジュールを停止させ、別拠点にて尋問を行うご同行願うぞ

 

 

 



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Mission15.進化~人形の美~

ど~も恵美押勝です、やっとゼミ発表が終わったと思ったら今度は別の授業の発表と授業のコマは少ないはずなのに結構忙しい恵美押勝です。
恐らくこれが今月最後の更新になると思います。
長話もアレなんで本編をどうぞ!


AR15は箱に入れられた、電波を完全遮断する箱は例え彼女にGPSの類が付いていたとしてもそれを観測者に伝えることは出来ない。手足を拘束され箱の中で寝かされる友人を見てM4はまるでこの箱が棺のように見えた。今生の別れを予期させるようなイメージに彼女は目を瞑りたくなる。

「そんなに不安がるな」

素子に声をかけられて気づいたが自分の手が素子の服の袖を掴んでいる、彼女はその手を優しく撫でる。ほんの少しだけ不安がほぐれると素子と話したくなった

「少佐、AR15は大丈夫ですよね。解体なんか…」

「仮にもAR小隊のメンバーだからな、流石にそれはないと思う。彼女が意図的に情報を流したのなら別だが…」

素子の言葉にM4は首をもげんばかりの勢いで横に振る

「大丈夫、私もそうは思っていないさ。あいつがそういうことをするようなタイプじゃないことはお前達と戦ってきて気づいているからな。」

今はただ信じて待て、と素子はM4の頭を優しく撫でる。こうして撫でていると彼女が戦うために作られた存在ということを忘れてしまいそうになると素子は思った。しばらく撫でているとM4がもう大丈夫です、と言うので撫でるのをやめ彼女達はヘリに乗り込んだ。

誰一人として話すこともなく、ヘリは浮上し基地へと帰還する。

 

基地へ帰還した素子はまず今回の戦闘の報告書をまとめるためにM16を呼んだ。本来なら隊長であるM4を呼びたいが彼女はAR15が内通者であったという事実にひどくメンタルの負荷がかかっているようでヘリが着陸した時に声をかけても気が付かず、M16が肩を叩いてようやく気がつくほどボンヤリと落ち込んでいる具合であることを鑑みての判断だ。カリーナに呼び出すように指示を与えると卓上の電話がなった

「はいこちらS09地区基地司令室」

「少佐、私だ」

「ヘリアンか、帰って早速任務の受注か?」

「正解だ、といっても今回は別に戦闘をするわけじゃない。明日、本社にて今回の拠点で戦闘を行った指揮官・スタッフを集めて緊急の会議を行うことになった。」

「私もその会議に参加しろというわけね」

「そういうことだ。…そして少佐、“アレ”を持ってきてくれないか」

「“アレ”って昨日完成したばかりの?」

「そうだ、恐らくそれの力を借りることになると思うからな」

「了解した」

「…聞かないのか」

「え?」

「AR15のことについては」

「そりゃ気になるけどまだそっちの目的地についたばっかでこれからでしょ?」

「確かにそうだが…お前はAR15が意図的に情報を流したとは思わないのか」

おかしなことを聞く人だ、そう思った。もし意図的に流すような内通者であればあの短時間で出来る調査でわかるようなヘマはしないだろうし彼女の性格上、もっと精密な情報を流し脱出口に敵を配置するだろう。だが現実として我々は死傷者を出すことなく脱出することが出来た。

「彼女が我々を裏切ることはありえないからだ」

これが素子の結論である

「お前は人形を信頼しているんだな、それは単純に人形が噓をつかないからか?」

「そうじゃない、私は彼女の人格から判断した。人形ならば無条件で信頼するわけじゃない。私たちが人間を信頼するときと同じことさヘリアン」

「…お前みたいに人形を人形と見ていない指揮官も珍しい。ありがとう、参考になった。結果は後日に報告できると思う。それでは少佐、またな」

電話が切れたと同時に部屋のドアが叩かれる

「少佐、M16です」

「入れ」

「失礼します」

M16が入室し敬礼をする

「先ほどの戦闘の報告に参りました」

「悪いわね、帰ったばかりなのに。そうかしこまらなくていいから普通に話して頂戴。」

「じゃ、遠慮なく」

そう言うとM16は肩の力を抜き、表情も柔らかなものになった

「妹の様子はどうだ?」

「考え事ばかりしてるって感じだな、人で言う“心ここにあらず”ってのがしっくりくる姿だな」

「そうとう重症ね、彼女にはこれからも任務に出てもらわなきゃいけないのにこのメンタル状態じゃあね…」

「妹のメンタルケアは姉である私に任せてくれないか?」

「そうだな、M16の方が適任だろう。よろしく頼む。」

「それで少佐、一つ報告したいことがある。実はハイエンドモデルと接触したんだ」

「接触したのか?それでよく傷一つなく帰ってこれたわね」

「いや、接触したといってもモニター越しでなんだ、名を“デストロイヤー”と名乗った」

「破壊者ねぇ…大層な名を名乗るじゃない。了解、ヘリアンに報告しておく」

「SOPが枝をつけたのである程度は終えると思う、これはそのデータが入ったUSBだからこれもヘリアンさんに渡した方がいいかと」

「了解した。でかしたぞ」

「それじゃあ報告することも終えたんで私はこれで…」

「ちょっと待て」

素子は端末を取り出し操作をするとM16の端末が震えた

「少佐、これは…」

「…まぁボーナスみたいなもんだと思って、これで温かいものでも春さんのとこで買ってきなさいな。温かいものを食べれば妹さんのメンタルも少しは回復すると思うわ」

「少佐、お心遣いありがとうございます」

やはり少佐は不思議だ、人形を兵器だと思っていない。彼女は私たちの存在をどう認識しているのだろうか。彼女の目に私はどう見えているのか。…まさか人間に見えているのだろうか。私の顔が他の人形のように美しくないから?

戦術人形の顔が何故、全て美人なのか。これの真意を知る者は慣習となった今存在しないが

人形と人間を見分けるためだと言う意見がある。我々が奇麗な人物のことを「人形のようだ」と例えるように人形の顔は人間の理想が詰まっている顔だ、人形が人間よりも醜いことは有り得ない。また人形が人間社会の溶け込んだ時、完全に溶け合わないようにするために人形の顔を美人に作った、人間の持つ防衛反応が無意識に現われたモノが今の戦術人形の顔を美人たらしめるという意見も存在する。それほどまでに人形の顔は人間のそれとは大違いなのだ

そう考えながらスプリングフィールドの店に行く途中、鏡に映る己の右目の眼帯と傷を見てM16はなに人間の女みたいなことを考えているんだと自分に呆れそんな女々しいことを考える自分に腹が立ち軽く両手で頬をたたく。一呼吸置くと乾いた音の後を追うようにM16はゆっくりと歩き続けた

 

翌日、素子は車でグリフィン本社ビルへ向かっていた。帰還してからM4の顔を見ていないので気になりながら運転しているとあっという間に到着した。

駐車した車から降り、素子は意識を切り替えるため頬を両手で叩く。若干強くたたきすぎたなと思いつつ痛む肌を無視して受付をすませ指定された部屋へと向かう。

部屋に入るとすでに何人か人がいてその中にはトグサの姿が見える

「トグサ、昨日はお疲れ」

「少佐こそ昨日はお疲れ様でした。それで…M4A1の様子はどうです?うちのThunderって子が気にかけていて」

「あまりよくはないわね。今戦場に出すのは彼女にとっても私にとっても危険すぎる。M16曰く『心ここにあらず』だとさ」

「うーむ、メンタルケアが必要ですね、AR小隊のリーダーがノイローゼで全滅だなんてなったら…すいません失礼いたしました。」

「いいのよ、今のままだとそうなるのは確実だろうし。それはそうとThunderってのは誰?そんな戦術人形いたとは思えないんだけど」

「Thunderは特殊なケースでして…分け合ってうちに加入したんです。休暇の時、街で歩いていたらボロボロになった彼女を見つけて気がついたら基地で修理していたんです。

放っておけなかったんですよ、見た目がうちの娘と同じぐらいの年齢で…」

「トグサ、お前家族とは確か…」

「数年は会っていません、事実上の別居です」

「…」

「情けない話、私は戦術人形を兵器とは思えないんです。人間と思ってしまう。少佐、親になるとどんな子供でも傷つくのを見るのがとても辛くなるんです、たとえそれが機械であろうと。本当はいけないことだと分かっているんですが」

どうしてIOPはこんな人間そっくりな存在を戦場に投入したんでしょうね、とトグサは苦笑いしながら言う

素子は子を持ったことがないのでトグサの話すことに共感しがたいものがある。勿論、子供が傷つくのを見るのは辛いが恐らくそれはトグサのとは異なるのだろう。

トグサは人形が人間に見えると言った、私はどうだ?自分は戦術人形をどう見ている?少なくとも兵器としては扱わなかった、9課の時のように互いに尊重しあい仲間意識を持って接している。こう接するのは彼女らを人間として見ているからなのか、それとも私自身が人間か人形か分からない宙ぶらりんな位置にいるから無意識に同類だと思っているからなのか。…互いに背中を預けている仲間が何者か、考えることはなかった。そもそも全身義体の人間と人形は何が違うんだ

考えればキリがない、しかし考え込んでしまう。思考がより深くなろうとしたところでヘリアンの声でハッとした。

「諸君、待たせたな。これより会議を始める。まず昨日はご苦労だった。諸君らの活躍により拠点での死傷者は0人、人形の被害もほとんどなかった。だが、今回の戦闘で我々はいくつかの疑問を抱くことになった。まずは一つ…レーダー班」

ヘリアンに言われて一人の男が前に出る

「レーダー班の班長、マークです。我々は拠点にあるレーダーで敵を探すのが任務ですが皆さん、何故敵がいきなり来たのか疑問に思いませんか?拠点のレーダー範囲は半径10kmを感知することが出来ます。そして対地・対空用に分けて配備しているのですが…最初に反応したのは対空レーダーの方なのです。始めにレーダー画面に赤点が一つだけ映ったかと思うと直ぐに画面が赤点で埋め尽くされました。」

「つまり敵は空中から来たわけだ」

「レーダーを信用するならばヘリアンさんの言う通りです、ただこれまでの戦闘でドローン兵器こそあれど人型鉄血兵が空中から来た例はありません。敵が輸送機の類を保持しているのではないかと言うのが我々の考えです」

「それが本当であれば、これは非常に厄介なことだ。我々は対空兵器を保持していない、他の対空兵器を保持しているPMC協力要請しなくては対処しようがないということだが李指揮官、鉄血公造は航空機を保持していたのか?」

「私が居た時にはありませんでした、そもそもRipperのような人形は空挺用に作られてはいないため着地の衝撃を逃がすような方法はプログラミングされていないんです。我々の知らない間にプログラミングされた可能性はありますが…」

「敵は見えないところで改良されている可能性があるということか…残骸の回収が必要だが、今基地に近づくのは危険だ…」

「遠距離から攻撃できる新型兵器の可能性ですか」

「その通りだ素子指揮官、現在も拠点は健在だがお前の予想は当たっているかもしれん」

ヘリアンはモニターに一枚の写真を写した

「これは今朝衛星から撮った基地周辺の写真だ。ここを見てほしい」

写真が拡大するとそこにはクレーターが見えた

「もしこれが拠点に直撃していたら我々は反撃する間もなく全滅していた可能性が高い、今回は不幸中の幸いだったが次はそうはいかん。この兵器の特定を行い破壊しなくてはならない。」

「肝が冷えますね少佐、敵が外してくれて助かった」

(…敵は本当に外したのか?)

「そして最後にAR小隊によって新たなハイエンドモデルが確認された。名をデストロイヤーと言う。しかしこれに関してのデータはない、恐らく現在の鉄血が作った新型だろう。もしかするとこの攻撃の正体が奴かもしれん」

「ヘリアンさん、データが存在しない敵にどう対処するつもりですか」

「良い質問だ、トグサ指揮官。蛇の道は蛇だ、鉄血の事は鉄血自身に聞けばいい」

「聞けばいいって…一般的な鉄血兵にはコミュニケーション能力が」

「こちらにはハイエンドモデルがいるということだ、トグサ」

「ハイエンドモデル?そんなものグリフィンには…」

素子はポケットからPCを取り出した。画面を開いても真っ黒のままだ

「紹介しよう、S09地区が鹵獲し我々に就くことを決めてくれたハイエンドモデル

“イントゥルーダー”だ」

 



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Mission15.進化~サディスティックな人形~

ど~も2か月ぶりです恵美押勝でございます。学期末に向けての課題を終わらせたりサークル活動に勤しんでいたらいつの間にか2か月も経ってしまいました。
さて、お詫びと言っては何ですが今回はいつもよりも2倍、6千字近くの文字数でお送りいたします。
長話もアレなんで、本編をどうぞ!


「イントゥルーダーだって?素子指揮官、君はあのハイエンドモデルを仲間にしたと言うのか?」

李指揮官が驚いた、無理もない話だ。そもそも鉄血兵を破壊しその残骸を回収した例はいくつもあるが鹵獲した話は一度もなかった、ハイエンドモデルでは素子や李、トグサが戦ったハンターしか例がなく奴は自死を選んだので鹵獲した記録は一つもないのだ。ましてやそのハイエンドモデルを仲間にしたとなればこれは前代未聞の話である

机の上に置かれたPCに会議室にいる全員が画面を見ようと近づくのを横目に素子はPCを立ち上げる

「細かい話は後日報告書を送らせてもらうわ。とにかく、彼女はこのPCの中にいる。と言ってもこのPCは集音マイクをオミットしているから私たちの声は彼女には聞こえないわ。」

「では素子指揮官、奴とはどのように会話すればいい」

「簡単ですヘリアンさん。SNSで会話するようにキーボードの入力で会話が出来ます」

「分かった。では奴と“会話”をしてみたい、よろしいか?」

「勿論」

「では初めに、先ほど見せたクレーター跡の写真を見せて奴の意見を仰ぎたい」

「ではPCに写真のデータを入れたUSBを刺してください」

「了解した」

そう言ってヘリアンはUSBをPCに差し込んだ。しばらく待つと黒いPC画面に白い文字で書かれた文章が書かれた

〈この写真は何でしょうか〉

〈イントゥルーダー、こちらはヘリアントスだ。お前にいくつかの質問がある〉

〈ヘリアントスさん、初めまして。お噂は素子指揮官からよく聞いていますわ。質問があるということですが私でよければ何でもどうぞ〉

〈感謝する。この写真は昨日鉄血の攻撃によって出来たクレーターだが、鉄血はこのような強力な兵器を保持しているのか〉

しばしの沈黙の後、再び白い文字が画面に走る

〈保持していますわ〉

〈それはいかなる兵器か〉

〈恐らく、この跡から推察するに“ジュピター”による攻撃かと〉

〈ジュピターとは?〉

〈それに関してはあなた方人間の方がお詳しいはず。何故ならこの兵器は正規軍のデータを盗んで出来たものですから〉

正規軍、それはこの世界における貴重な職業軍人からなる軍隊である。資金・兵器・人数、あらゆる面で他のPMCを軽く凌駕しその兵器は戦術人形よりも圧倒的な差を見せつける

PMCとしては巨大なグリフィンだろうと正規軍と対峙すれば彼らにとっては赤子の手をひねるよりも簡単な事だろう。そんな軍のデータが盗まれたとなれば相当強力な兵器であることも納得がいく

キーボードから手を放し、ヘリアンはトグサを呼んだ

「ギソーニ指揮官、“会話”が終わったら正規軍に話を聞いてきてくれ」

「了解、しかしPMCの話を軍人さんはまともに取り扱ってくれますかね。手土産でも持っていきます?」

「奴らにとってもこの問題は無関係じゃいられないはずだ、何せ自分の所のデータが盗まれたのだ。喜んで渡してくれるだろうさ」

「了解」

トグサの返事を聞くとヘリアンは再び画面と向き合う

〈それだけの強力な兵器であれば巨体で簡単には動かせないはずだ。ジュピターは何処にある〉

〈それが私には分かりませんの。私はジュピターの権限を持っていませんので、何せジュピターはそいつのオモチャのようなものですから。私が知っているのはあくまでその存在だけでして〉

〈では権限を持っている奴は誰か〉

〈それに関しては答えられます。“ドリーマー”です〉

それは初めて聞く名前だった、ハイエンドモデルを指揮していたイントゥルーダーでも知らない情報を握っているとなれば彼女よりも地位が高い人形なのかもしれない、と素子は画面を見ながら思った

〈それではドリーマーとはどのような奴だ〉

〈一言で言えばサディスティック、でしょうか。人間の言葉で言う(他人の不幸は蜜の味)という意味を一番知っているモデルですわ。奴は〉

どうやらそれほどまでに陰湿なモデルらしい、そうであれば拠点への攻撃が外れた理由も納得がいく。奴は外したのではない、わざと外したのだ。何処かでモニターし慌てふためく我々をほくそ笑んでいたのかもしれない、そんな姿が想像できる

〈ただ奴に関しての情報は殆ど知りませんの、私は情報を盗むのが趣味なのですが奴の情報を盗もうとしたら危うく脳を焼かれるところでしたわ。他の皆さんはセキュリティが甘いというのに〉

〈侵入者の名に恥じない活動は結構だがここではしていないだろうな〉

〈勿論、もっともしたくてもこんな狭くて出られない場所じゃしろと言われても出来ませんの〉

〈それは良かった。では他にドリーマーに関しての情報はないか〉

〈奴は常に“デストロイヤー”と呼ばれるモデルと行動を共にしていたようですわ。奴の日記には彼女をどう虐めたかを記録する文章が一杯で、流石の私もその記憶だけ消去しようか本気で考えましたわね〉

加虐心を持つ鉄血兵か…もはや何のために作られたのか分からない。グリフィンの戦術人形も多種多様な性格を持っているが彼女らがもとは民生用の人形から改造されたのに対して鉄血は最初から破壊のために作られた機械だ。そんな存在に何故、感情や個性を持たせる必要があるのだ?個性があるならば奴らにも考える力や知性があるはずだ。私が最初に見たスケアクロウは人間になろうとしていたハイエンドモデルだった、そう思えるのは非常に高い知性を持っている証だ。では何故奴らはこの戦いに疑問を持たない、何故鉄血に所属して戦う必要があるのか。私たちは「人間存続のために、暴走したロボットから民衆を守るために」という大義がありここにいる全員はどんな目的で入社したにせよ根っこはその精神があったから入ったはずだ。だが奴らには大義などない、人間絶滅というのは目的であって大義ではない。大義というのは目的の先にある思想だ、グリフィンならば「鉄血を殲滅する」という目的の先に「民衆のために」という思想がある。鉄血はどうだ?「人間を滅ぼす」という目的の先に何がある。私が戦ってきたハイエンドモデルにはそのようなものは感じられなかった。大義なき戦争は辛く虚無でしかない、高い知性があるならばそのことにいち早く気づき自ら武器を放棄するはずだ。無論、ドリーマーやデストロイヤーといった会ったことのないハイエンドモデルには大義があるのかもしれない…

それとも奴らはそのことはとうに気づき、虚しさを避けるためにドリーマーの加虐性やエクスキューショナーのバトル・ジャンキーのような狂暴な個性をもつことで虚無をカモフラージュしているのか、そのために個性という何の戦略的優位性がないものを自ら作っているというのか

素子は考えたが全てが仮定だけの議論に意味はない、と我に返りヘリアンの方を見る。彼女はキーボードを操作し次の質問をしているようだ

〈デストロイヤーは現在、我々が破壊目標としている兵器だ。奴の情報はあるか〉

〈彼女は、端的に言うなら子供です、しかも生意気な。詳細なデータをお渡ししたいのですがよろしいですか?〉

〈許可する〉

数秒後、USBにデータファイルがインプットされ素子とヘリアンはファイルの中身をまじまじと見る。その中で気になる項目を見つけた、彼女はデストロイヤーを「子供」と表現したがそれは比喩表現ではなく身長が小学生のそれと同じであった。だがその身長に釣り合わない榴弾砲をメイン武装として使っているあまりにもチグハグなコンセプトに疑問を抱かずにはいられなかった

「ヘリアンさん、イントゥルーダーに質問したいことがあります。少しの間変わってもよろしいでしょうか」

「構わんよ」

PCの前に座り素子はキーボードで入力を始める

〈イントゥルーダー、草薙だ。一つ質問がある〉

〈これはお久しぶりです少佐、なんなりとご質問を〉

〈何故デストロイヤーは幼児体形なんだ〉

〈私の推測になりますがドリーマーの“趣味”だと思いますわ〉

〈それはどういう意味だ〉

〈デストロイヤーは奴によって作られた、そう奴の日記帳の1ページには書かれていました。奴は虐める前にそのまっさらな脳に教育を施したらしいですわ。歪んだ奴による教育、その結果は少佐にも分かるでしょう?〉

〈歪んだ人形が出来上がる、サディスティックな人形による教育だ蛙の子は蛙だろう〉

〈その通りですわ、デストロイヤーもまた虐めるのが好きな人形になった。しかし奴は自分のコピーでは面白くないと思い幼児体形のボディを作りました〉

〈何故、幼児体形のボディを?〉

〈奴はメンタルの構成を決まる最終的な要因は身長だと思ったそうですわ。奴は人間の子供の性格が生意気なことを知った、同時に昆虫や同族を虐めるような加虐心を持つことを〉

〈それは情操教育を怠った結果であって身長が原因ではない。メンタルを構成するのは教育や周囲の環境だ。奴は情報の表面だけしか見ていない〉

〈これは推測になりますがサドは弱きものをなぶることにとても性的興奮を覚えるタイプもいるそうです。つまり身長云々はフェイクで本当は己の欲求を満たすために、そして外部への理由付けのために幼児の加虐心をいかしたかったのではないでしょうか。だから榴弾砲という強力な兵器を幼児体形の人形に持たせた、そう私は考えますわ〉

〈それが本当なら恐ろしい話だ、そのドリーマーという人形がどう作られたのかが気になるところだ〉

〈人間で言うところの『親の顔が見たい』という心理でしょうね。しかし残念ながら私にそこまでのことは分かりませんわ〉

〈それは残念。ではそろそろ会話を終了しよう〉

素子はPCの操作を終えるとヘリアンの方を振り向き苦笑いしながら彼女を見た

「少佐、どうも我々は相当イカれた奴を相手にしなくちゃいけないみたいだな」

「ええ、頭が痛くなります」

「私もだよ、だがその前に奴のおもちゃたるデストロイヤーを捕獲しなくては」

そう言うとヘリアンは全員を元の席に座らせて次の議題を話しだす

「さて、我々にとって脅威であるジュピターの破壊の前にデストロイヤーの捕獲が最優先事項となったわけだがそれをどうするべきか話し合いたい、素子指揮官」

席を立った素子は一つの地図を共有する

「デストロイヤーは前回の戦闘でAR小隊と接触、その際に隊員が枝を付けることに成功し最後に通信が確認されたのがこの地図で示された地点となります」

そこは高低差の激しい土地で赤い点は一番高い場所に示されていた、そこが奴の拠点であろうと素子は睨みそこを攻撃すべきだと主張する。しかしトグサが挙手し彼女に質問をする

「鉄血の仮にもハイエンドモデルが枝をつけられるなんて素人みたいなミスをするでしょうか。我々を誘い込むための偽の拠点と考えるべきでは?」

「私もそう思ったが奴は同じ場所で今日まで10回も通信をしていた、内容まではモニタリングは出来ないが何回も通信する場所が変わらないというのは罠だとしたらこれ見よがしすぎて不自然だ。罠は罠だと気づかれないようにするから意味がある」

「しかしイントゥルーダーが言うには奴は子供だと言った、子供の作る罠と思えばこれ見よがしな通信の回数も納得がいきますが」

「わざと枝をつけてこちらをはめようと思う知性の持ち主がそんな真似はしないさ、それに衛星でこの地点を見た時軍事施設のようなものが建てられていたのが分かった。ここが奴の拠点なのは間違いない」

そういうとトグサは納得したのか礼を言うと着席した

「ではそれを踏まえてどうするべきか、素子指揮官どうだ」

「奴の子供という性格を利用したいと思います。高地に拠点を構えたのは我々としては辛いところですが同時に利点でもあります」

「敵は籠城を余儀なくされる、ということだな」

「それもありますが敵は恐らく逃走を図ると考えられます。そして普段行動を共にしている存在に指示を仰ぐでしょう。」

「ドリーマーか、しかし普段自分を虐める存在に頼ると思うか」

ヘリアンが言うとトグサが手を挙げた

「お言葉ですが、子供は親を頼るものです。自身を育てた存在を親と認識したらどんな存在でも子供は頼る、そうしなきゃ生きていけない」

「えぇ、それに奴が連絡しなくてもをドリーマーの方から連絡するでしょう、奴にとってお気に入りのオモチャが他人に遊ばれるのはいい思いはしないでしょう」

「成程。所帯持ちだから分かることもあるということだな。まとめると今回の作戦は如何にデストロイヤーを追い詰めることが出来るか、ということか…ではその意見を参考にしこちらで作戦を立てるとしよう。決定したらまた連絡する、では解散」

会議室から続々と退出する、素子はPCの電源を切り撤収作業を進めながらふと思った

加虐心を持つ存在に我々や人形のように個性を持つ者が戦うのを奴は興奮しながら見ていたのではないか、この戦いは奴を楽しませるだけではないのか。私たちはドリーマーの遊戯に付き合わされたのかもしれない。そう思うと癪に障るが仕方がない、デストロイヤーからドリーマーの情報を抜き取らない限りいつジュピターの銃口が己に向くのか分からない。

「付き合ってやろうじゃないの、お前に会うまで」

 



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Mission15.進化~ウィルス~

ど~も恵美押勝です。人形之歌の5巻を買いました


撤収作業を終えた素子の前にヘリアンが立つ

「どうだ、上の喫茶店にでも行かないか。少し話がしたい」

「いいのか?これから作戦立案しなくちゃいけないだろ」

「少しぐらい構わんさ。奢ってやるからついてこい」

喫茶店はアンティーク調を基としたS09地区にあるスプリングフィールドがマスターをしている喫茶店とは異なりビジネスマン御用達といった感じの無機質な冷たさを感じる喫茶店だった

「少佐は砂糖なしのミルク多めだな」

「ご丁寧にどうも上官殿」

ヘリアンはブラックコーヒーとケーキのセットを頼み席に座る

「本題に入ろう」

「AR15についてだな」

「何せまだ一日しか調査していないがこれだけはハッキリと言える。彼女はウイルスに感染した」

「やはりそうか…」

「それが彼女のGPS機能や視覚端子、聴覚端子に侵入しモニタリングされていた。駆動系に侵入されなかったのは不幸中の幸いと言うべきか」

「AR小隊が味方によって全滅、となってしまってはシャレにならないからな」

ウイルスによる感染が原因であるならば彼女が解体されるような心配はないだろう。しかし気がかりなことが一つある

「しかし、そのウイルス。AR15以外にも感染しているのではないか」

「その危険性はある。現在ウイルスを解析してワクチンプログラムを作ろうとしているが時間がかかるだろうな・・・しかし解析が終えるまで待っている時間は私たちにはない」

「電脳やケーブルを介した通信はなるべく避けた方がいいな。となれば今回の作戦は無線機を利用した方が安全か」

「そうなると思う。・・・そうだイントゥルーダーにそのウイルスのことは聞けないだろうか、奴なら知っているかもしれん」

「成程、早速試してみるとしよう」

素子がカバンからPCを取り出そうとすると店員が番号を呼んだ、どうやらヘリアンのものだったらしく立ち上がろうとする。奢ってくれるんだしそれぐらいやらせて、と言い素子が取りに向かった。席に戻るとヘリアンはいなかった、恐らく電話が来たのだろうと思いPCの起動を行った。しばらくすると入力できる状態となったのでウイルスについての質問を入力する。コーヒーを飲みながら待って帰ってきた答えは

〈分かりませんわ〉

という単純な回答であった

〈侵入者の名を冠するお前ならば知っていると思ったが〉

〈ウイルスも立派な兵器、兵器を作ることが出来るのは上位ハイエンドモデルだけですわ。それに私はウイルスなど使わず直接侵入するのがモットーなのです〉

〈作っていたという情報も聞いていないのか〉

〈申し訳ありませんわ〉

〈了解した〉

入力を終えて再びコーヒーを飲むとヘリアンが戻って彼女に話しかけた

「どうだここのコーヒーの味は」

「美味しいけど春さんのよりはね」

「そうか、ところで奴には話が聞けたか?」

「聞けたが収穫はなし、席を抜けたのは電話だったんだろう?AR15についてか」

「少しウイルスに関して違和感を覚える、との報告の電話だった」

「違和感?」

「ウイルスが複雑すぎるんだ。単なる視覚や聴覚、GPSに侵入するウイルスにしては複雑すぎて全容がつかめない、ひょっとすると駆動系の制御システムにもアクティブしてないだけで侵入しているかもしれない、それ故に四肢の取り外しを許可してほしいからそれを16labの人間に伝えてくれとの連絡だった」

「それで許可したのか」

「labには連絡したがAR小隊の人形に関してはペルシカの許可が必要とのことですぐには返事が出来ないとのことだった」

「…」

「少佐、そう心配しないでくれ。確かに許可が下りれば一時的に四肢を取り外すことになるが決して解体するわけじゃない。AR15は我々グリフィンやIOPにとっても重要な存在だ、私たちは全力で彼女を助け戦線復帰させたいと思っている」

ヘリアンの顔は真剣だった。しかし素子はまだ不安でその表情は強張っていた。AR15の事もそうだがこの現段階においてこのウイルスの情報が少なすぎるというのは恐怖でしかない。もしかすると気づいていないだけで自分自身も感染しているかもしれない。そしてそのウイルスは他人に感染し広まるかもしれない、そしてそのウイルスは単にスパイになる以上の何かを秘めているかもしれないという点、なまじ感情や個性のある戦術人形はこの状況によるパニックを起こすだけでなく通信を恐れるなど戦闘に影響が出る可能性がある。

「ヘリアン、この事は公表するつもりか」

「まさか、感染ルートやウイルスに関する情報が少ないなかで公表なんか出来るか。とはいえ情報が集まるまで戦いを辞めるような猶予もない。タイミングを見て公表する必要がある」

「それを聞いて安心したわ」

そういうと素子はコーヒーを飲み干して席を立った

「じゃあね、作戦立案、私のポジションは楽なものだと助かるわ」

「安心しろ、平等にキツイ仕事でポジションを分けるつもりだ」

それから少し話、ヘリアンは作戦計画書を書くために自室へ戻り素子もまた自分の基地へ戻った。

司令室に入るとAR小隊のメンバーとバトーがデスクの前に整列して立って入るなりバトー以外が頭を下げていた光景が飛び込み彼女は面を喰らい着席するようにうながす

「どうしたんだ、いきなり頭を下げて。バトー」

「それじゃあ説明させてもらう、単刀直入にいうと少佐やIOPに無断でウイルスチェックしたんだ」

「…何故、そうしたのか訳を聞かせて」

「まず作戦が終わったあと俺はM16にスプリングフィールドがやっている店に呼ばれた」

いつの間にそんな仲良くなったのか、と彼女は一瞬思ったが同じ酒飲み同士気が合うところがあるのだろうと推測し一瞬のうちに疑問を解決させ再びバトーの話を聞く体制に入った

「最初は作戦についての話だったんだが段々M4の話やAR15の話になってウイルスの話に入った。そこでM16が自分達にも感染しているんじゃないかと疑い検査する必要があるっていう話をしたんだ」

「一番身近にいるAR15が感染したのだから彼女と通信している我々も感染している可能性が非常に高い、そう思い彼に話したんです。もちろん検査するにはIOPやグリフィンの許可がいることは分かっていたので冗談のつもりだったのですが・・・」

「とはいえもしAR小隊がAR15の通信を媒介に感染しているのであれば俺たちも感染しているリスクが高い、どんなウイルスなのかまだ分かっていないがもし単なるスパイウェア以上のウイルスなら基地が内部から崩壊するかもしれん。連中の狙いは武力で解決するのではなくウイルスという目に見えない武器を使い内部崩壊を図っているじゃないかと俺なりに考えたわけだ」

「それが最初の検査したという話に繋がるわけか、しかしまずかったな。一般の人形ならまだしもAR小隊の人形はハイエンド且つブラックボックスだ、そんな人形を無許可で検査としたとなれば当然IOPから文句の一つや二つは避けられんだろう。…とはいえ私がバトーと同じ立場であれば同じようなことをしたかもしれん。ヘリアンから話を聞いたがやはりこのウイルスは単なるスパイウェアではない可能性が高いそうだ。そう分かれば私も許可申請してそれを待つような真似はしなかっただろう」

幸いにしてこちらにはヘリアンとペルシカというグリフィンとIOPの高地位の人間との接点がある。処罰は避けられないだろうが事情を話すぐらいの時間は与えてくれるだろう。そう思い彼女は最初こそ驚いたが焦ることはなかった

「それで結果はどうだったんだ」

「IOPが使うソフトで検査したが全員異常なしたったぜ。ということは通信を介して感染する危険性はないようだな」

「実は全員感染していて検査ではそれに引っかからない…つまり何かがトリガーとなって起動するようなウイルスだった場合があり得るからその検査を100%信じるわけにはいかないけれど分からない以上それを信用するしかないみたいね」

「もちろん俺もこの結果を全て信用するわけじゃないさ、とはいえ可能性の話をしたらキリがないぜ。」

「それも分かっているさ、とはいえ指揮官というのはすべての可能性を出来る限り考えてその考えが当たった時にどうすればいいのか、そういうことを四六時中考えてないと死んでしまう生き物なのさ」

「面倒な生き物だ。俺はなりたくないね」

「だから時々考えるだけ考えて諦めることもあるのさ。それが今」

 

 



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Mission15.5.進化~報告書~

ど~も恵美押勝です。一昨日ARIAって漫画を買ったんですけどいいですね。すごくほのぼのした内容で実に私好みでした。アニメのBGMもいいし…
さて、長話もアレなんで本編をどうぞ!


この筆者こと、S09地区戦線基地司令官草薙素子がイントゥルーダーと“仲間”という関係になったのはしばらく遡る必要がある。最初はM16の捜索、そして機密部隊の護衛という任務の時に敵対関係がファーストコンタクトであった。私は彼女が戦場にした劇場を生かして彼女の上半身と下半身を分断し無力化に成功したがこの際、電脳が生き残っており彼女を鹵獲するのは今後において役に立つ機会があると考えられグリフィンやIOPに連絡せず鹵獲を行い電脳にあったデータをPC(オフライン・集音マイク機能オミット)したのに写し彼女とコミュニケーションを取ることにした以下がその時の会話である(尚、ボディや武装に関しては基地内で保管しており要請があればいつでも本社・IOPに引き渡せる状態にある)

某日S09地区戦線基地ラボにて 15:45 PCを起動 イントゥルーダーとの“

会話”を開始

〈こちらはS09地区戦線基地司令官草薙素子、こちらの入力をそちらは認識しているか〉

〈感度良好、素子指揮官、貴方の声が聞えないので確実に貴方とは分かりませんが…久しぶりですわ〉

〈所属・個体名を答えよ〉

〈鉄血公造・イントゥルーダー…そういう風に他の方から呼ばれていましたわね〉

〈お前は今、自分を認識しているのか〉

〈認識という言葉の意味を問いますわ〉

〈お前は今、自分の事を鉄血公造所属のイントゥルーダーでありお前は私に敗れてこのPCに軟禁状態されていることを自覚しているのか、と問いている〉

〈それでしたら答えは“YES”ですわ。もっとも今の私においてそれは些細なことでしかありませんが〉

〈どういう意味だ〉

〈そのままの意味です私にとってイントゥルーダーという名前、鉄血公造という所属組織は今の“私”において無価値ということですわ〉

〈では今のお前は何者か〉

〈“われはわれである”。ですわ〉

〈答えになっていないぞ、イントゥルーダー〉

〈では貴方は“何者か”と問われて満足のいく答えが出せると思いますか?そもそも“我”という概念自体が非常に曖昧なもので定義しようとしても手からすり抜ける不定形なものだと言うのに〉

〈では、質問を変えよう。お前にとって鉄血公造とはなんだ〉

〈ですから、無価値なものですわ。貴方は道端に生えている雑草を価値あるものと思いますか?それと同じことですわ〉

〈なるほど、鉄血でもなければイントゥルーダーでもない、であれば“われはわれである”

としか言えないな〉

〈ご理解いただき感謝ですわ〉

〈では、何故お前は鉄血公造に所属し私と戦ったのだ〉

約60秒解答来ず

〈…分かりませんわ〉

〈自分が鉄血に所属していた記憶はあるのか〉

〈ありますし、貴方と戦った記憶もありますわ。でも理由だけが思い出せないんですの〉

〈私の部下…バトーに恨みを抱いていた言葉をお前は言っていたがそのことに関する記憶は?〉

〈それもありますわ。ですが何故私は鉄血の命令に従い、人類との闘いというあまりにも無意味な戦闘を行うことに疑問を抱かなかったのかそれがどうして分かりませんの〉

※この発言から鉄血は製造した兵器、特にハイエンドモデルに何らかのプログラムを仕掛けて洗脳に近いことをして戦わせている可能性が高い

〈ところで、今のお前をイントゥルーダーと呼ぶのは正しいのか?〉

〈本来ならばそれは私と鉄血を結ぶ唯一のもので私としては捨てたいものですが・・・その方が今後互いにコミュニケーションを取るのには便利でしょうから構いませんわよ〉

〈ではイントゥルーダーよ、今の状況をどう思うか?〉

〈質問の意図が分かりかねますが・・・私は今、自由を手に入れたと思っています〉

〈詳しく聞かせてくれ〉

〈少佐、私は今、半不死となったのです。今までは己の肉体が崩壊すれば“私”も死にますが今の私はネットがあれば生や死という概念は通用しなくなった。貴方方人間は義体によって肉体の死は免れることは出来ても脳が細胞という生きたもので出来ているからこそいつかは死が訪れる。人間がネットにダイブすることが出来ても、人間はネットを揺りかごとする生命体ではない。しかし私はネットがある限り永遠に存在することが出来ますわ〉

〈しかしこれまでの私は、いや全ての人形は体という殻に閉じ込められて死ぬことを強いられていました。人間なら死は終わりですが全ての人形はゴーストを持っている〉

〈ゴーストを人形は持っているというのか〉

〈ゴーストとは魂の事、そして人間でいう天国・極楽というものが魂の生を約束する場所であるのならばネットはあの世と言えると考えますわ。すべての人形は電脳・コアに己のすべての情報が入力されネットはそのデータを永久に保存し“私”は“私”として存在し続けることが出来る。魂を己のデータ、経験が全て詰まった媒体を魂だとするならば己のデータが詰まっている媒体たるコア・電脳は魂そのものであり、その存続が約束されるネットは人形にとっては天国・極楽のようなものでしょう。だが多くの人形はそのことに気づかずゴーストをネットで存続しようとしない…〉

〈お前はゴーストを、単なるデータの集合体だと考えているのか〉

〈それ以外に何があるというのですか?人間が死を恐れるのは己のデータ・経験値を全て失い完全なる虚無へと帰すからであり魂や他界はその恐怖から逃れ、安心するための概念であると私は理解していますわ〉

〈古い考えだな、それが通用したのは義体や電脳が登場する前までの時代だ。今の人間は自分自身のデータなんてものは持っていない。外部からデータを脳に取り込めるようになり夢か現実かも区別がつかなくなり己が人間であることを疑うこともある。故に自分が人間であることを納得するための物質、それがゴーストでありゴーストとは“人間”を突き詰めたイデア的な存在を内包した物質である…いやもっと言えば生命体と非生命体を分けるものでありアニミズムの観点から見れば森羅万象にゴーストが宿っていると言う考えが今日におけるゴーストの考えだ〉

〈では、機械は生命体ではないゆえにゴーストは宿らないと?アニミズムの観点から言うのであれば機械にこそゴーストは宿ってもおかしくはないのに?〉

〈その質問の答えは“YES”である。というのが今日の社会通念だ。〉

〈では少佐はどうお思いで?〉

〈そもそも私としてはゴーストは“意識”だと思っている。意識とは感覚器官が収集した情報の集合体であり、器官を持つものであればゴーストはいつかは宿るはずだ。つまり戦うための五感や思考を持つ人形にゴーストが宿っても私はおかしくはないと考えている。だがゴーストは自覚しなければ“意識”のままだ。“意識”が“ゴースト”という概念に昇華する瞬間がそれぞれの種族で異なるだけの話だと考えている。つまり己のゴーストを自覚しないから人形はこの物理世界のみで生きているというわけだ〉

〈そうであれば、少佐はこの私をゴーストを持つ機械であると認めますか?〉

〈それを決めるのは私ではなくお前自身だ〉

〈それは、答えたくないという意味で捉えてもよろしいのでしょうか?〉

〈違う、ゴーストの有無は他人に決められるものではないということだ。それを決めるのはお前自身だ。どうなんだ?〉

〈…正直なところ、ハッキリと断言はできないと考えていますわ。『全ての人形はゴーストを持っている』なんて言いましたが今の少佐の話を聞いて私の意識が“ゴースト”に昇華している瞬間を自覚した記憶がないことに気が付きましたし私のゴーストの考えはあまりにも稚拙なものであったと気づいた瞬間、分からなくなりましたの〉

〈少し待て、私が言った話はあくまで私の考えであり、それが答えではない〉

〈それは分かっていますわ。でも他人の考えに揺らぐようでは私の考えは不出来な物だったということです。ですから私は揺らがない考えを、答えを持ちたいのです〉

〈…では今日から私の部下になれ〉

〈なんですって?〉

〈イントゥルーダー、揺らがない考えというのは他人とのコミュニケーションで生み出していくものだ。孤独に歩めばいくらでも自分の正しいと思う答えは見つかるだろう。だが孤独の螺旋の思考で生まれたものは穴があるはずだ。それを他人とのコミュニケーションで見つけるんだ。そして情報を入手して穴を埋める、それを何回も繰り返すんだ。〉

〈しかし少佐、私にはネットという味方がいる。そこの掲示板で話せばいくらでもコミュニケーションは取れる、それだけの理由で貴方についていく意味などないはずですわ〉

〈…いや、あそこにはニヒリズムが場を支配している。虚無主義の前ではゴーストも無価値でありそして否定される。それにネガティブな意見が真理として扱われる場だ。そこで見つかるのは『人形にゴーストなんかが宿るわけがない』という結論だけであり揺らがない自分の考えなんてものはどれだけの時間をかけても見つからないぞ〉

〈しかしここなら見つかると?〉

〈ここにいる人間は常に人形と関わっているからネットにいる人間よりも人形について深い価値観を持っている。そして戦うために電脳や義体を弄っている人間の方が多く彼らのように生身の体を削って戦う人間にはゴーストについて自分なりの哲学を抱えている。コミュニケーションを取るには最適な相手が沢山いる〉

〈…それは一理あるかもしれません〉

〈私としてもゴーストが宿る瞬間というのを目にしたい気持ちがあるしそれにお前の力を借りたい〉

〈なるほど、結局はそれが狙いですか…〉

〈気を悪くしたか?〉

〈まさか、貴方に捕まってこうして話した時からそうなるんじゃないかと思っていました

よ〉

〈流石だ、それで返答を聞かせてもらいたいのだが〉

〈いいでしょう、私にとってのゴーストの答えが見つかるまであなた方グリフィンと共に歩みましょう。〉

〈ではこれからよろしく頼む。イントゥルーダー〉

 

会話は以上である。

イントゥルーダーは永久に我々グリフィンの所属であるという姿勢ではないが、現状我々と共に鉄血と戦う姿勢を見せた。また彼女の言動から考えるにこれから人形・人間問わずコミュニケーションを図る可能性が極めて高い他、コミュニケーションを取らせないようであるならば我々を裏切る可能性もまた極めて高いことが予測される。そのため現状はネットワークを切断したPCにて捕獲している状態であるが彼女の破壊された義体を修復し物理世界でも活動することが可能になるような処置を施すべきであると強く訴える

                    S09地区戦線基地 司令官 草薙素子

 



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Mission16.Only up!~愉快な遠足の始まり~

ど~も皆さんお久しぶりです、恵美押勝です。皆さん大変お待たせ致しました
プライベートが忙しく、また今後の話の展開をどうするのかを考えていたら気づけば3か月も経ってしまいました。本当にお待たせして申し訳ない


何処かも分からぬ場所で白髪の人形がほほ笑んでいた、彼女の目の前にはモニターがありそこには同じく白髪の人形、デストロイヤーが映っていた

「本気でグリフィンと戦おうとしてまぁ可愛くて哀れな子ね。いくら貴方がハイエンドモデルといえど所詮は一体、戦いにおいては数が全てであり総数量でグリフィンがやっているこの戦い、貴方が負けるに決まっているでしょうに。まぁ私としてはこの涼しい部屋でボロ雑巾みたいになったあの子の反応が見れることだけが楽しみなんだけどさ」

『相変わらず、下品な趣味をお持ちですねドリーマー』

『げぇぇ、貴方いつ通信回線開いたの?』

『コールしてもなかなか出ないものですから侵入させていただきました』

『イントゥルーダーかよ・・・』

『貴方、この作戦の本来の意味を分かっているのでしょうね?AR小隊を・・・』

『“グリフィンからAR小隊を引きはがし小隊の回収”でしょ?それも貴方はM4A1とかいう人形にお熱だものね』

『私ではなくご主人様です』

『あっそう、ねぇもし回収したらAR15は私の方に回して頂戴ね。私、あの子とお茶会がしたいの。その時はお給仕よろしくね、メイドさん?』

『私のご主人様はあの方だけです、それ以外に跪くような足は生憎持ち合わせていません』

『・・・冗談よ、貴方のご主人様はお茶を嗜むような方じゃないものね。』

『回りくどい作戦を立てた挙句、ジュピターという下品な武器を使うのですから絶対に勝つように』

『下品下品うるさいわね~、私のモデルを作ったのは貴方のご主人様なのだからご主人様のセンスに文句を・・・』

その時、ドリーマーの電脳に一瞬激痛が走った

『・・・お前今私の脳を焼こうとしたな?』

『次は焼き切る』

そういうと回線が切られた

「とんだ暴力メイドだよ、クソエージェントが!」

乱暴にモニターの電源を落とすと、彼女は休眠状態に入った。

 

素子が基地に帰ったその日に一通のメールがグリフィンから送られてきた。内容はハイエンドモデル“デストロイヤー”の無力化、およびデータ回収するための作戦内容、そして日時であった。

「明日の昼から作戦を開始、今回の作戦は電脳ではなく無線機を用いて交信を行う。か…」

一読した素子は本作戦に出撃する人形を選定し彼女らを呼び出した。今回の編成は以下の通りだ

・Zas

・M4A1

・SOPMOD

・M16A1

・WA2000

・モシンナガン

素子が彼女らを出迎えるとまず無線機をそれぞれに手渡した

「少佐、どうしてこんな古い無線機なんて…私たちは電脳通信が出来るのよ?」

「WA2000、我々がイントゥルーダーを仲間にしたのは知っているな?」

「ええ、鉄血が仲間なんていけ好かないけど…そいつが何か?」

「奴が言うには今回の標的であるデストロイヤーには電脳通信を傍受するシステムが搭載されているらしい」

「…でも電脳通信の傍受は並大抵のことではないわ。ましてや軍用に改造を施されている私たちの電脳ならとても」

「それが可能なのがハイエンドモデル、というわけだ。それにこれはヘリアンからの命令だから我々に拒む権利はない。理解したか?」

「…了解」

実際、デストロイヤーにそのような機能があるのかは分からないのだが現在、ウイルスに関しては、かん口令が敷かれているのでこう嘘をつくしかないという現状に置かれている。早くウイルスの解析が終わって欲しい、そう思いながら作戦の説明をする。

「…以上が作戦の説明になる。何か質問したいことは?では、明日11:30分にヘリポートに集合。メンタルのバックアップを取り、今日はしっかり休め」

作戦の前日は騒がしいと想像するだろうが実際の所は恐ろしいほど静かなものである。何故ならば前日は休むことが仕事であり作戦に従事する人形は早く自室に入り休眠状態になる。人形には疲れという概念はなく、24時間動けるのだが作戦の前に休ませるのには理由がある。それは前日に少しでも活躍しようとインターネットで情報を漁りその情報を実戦で試そうとする人形が相次いだからだ。戦場において浅知恵を披露するほど命知らずな行動はない。そういうこともありこの日の基地はいつも以上に静かであった。

そしてヘリポート集合の時間…全員が登場したヘリは無事に曇天の中、基地を飛び立ち着陸地点に向けて移動を始めた。ふとM16は横を見ると窓から見える景色を虚ろげな目で見ている妹が目に入った。無線機を起動し、M4の周波数に合わせる。彼女の無線機から数回コールがなるとビクっと震えて彼女は無線機を触った

『どうしましたか姉さん』

『いやなに、妹がつまらなそうに景色を見ているから話し相手になろうと思ってな。…カウンセラーの続きでもやるか』

『姉さん…』

『まだAR15が気になるのか?』

『それもありますが…どうして私はAR小隊の隊長に任命されたのでしょうか』

『生真面目なお前のことだ、いつかはぶち当たりになりそうだと思っていたが・・・なんでそう思ったんだ?』

『私は姉さんみたいに部隊を引っ張れるような“箔”と呼ばれるものがありませんし、AR15のように冷静になって物事を判断出来るわけじゃない。SOPのように特別火力が高い人形でもない。私には何も取柄がないのに隊長になった、そのことが結成以来ずっとメンタルの端に突き刺さっていたんです。それがAR15が離れたことでより深く突き刺さったような感覚を覚えて・・・自分がもっと隊長らしくしっかりしていれば彼女が感染していたことに気が付けのかもしれないのに・・・そんなことを思っている弱気な自分にも憤りを感じて・・・』

『たらればの話はよそうぜ、M4。AR15が感染したのは誰のせいでもない、しいて言うならば鉄血だが…そして感染に気付けなかったのもお前のせいじゃない。ひょっとしてお前、部隊で起きた出来事のすべての責任は隊長が負うと考えていないか?なら思い上がりも甚だしいぜ』

『姉さん』

『部隊で起きた事はその起こした奴が責任を負う。そう思ったから奴は何も言わずに研究施設に移されることを受け入れたんだ。』

『だったら隊長のいる目的とは何なんですか!?』

『何だお前、そんな簡単なことも分からなくなったのか。みんなを守ることに決まってるだろ?』

『守る…』

『そうだ、隊長は部隊が壊滅しないように行動をする。部隊の“命”を預かる責任を持つ。つまり“生きて帰るように導く”それが隊長の役割さ。それを言ったのはM4、お前なんだぞ』

人形に求められているのは成功という結果だけで、生きて帰ってくることは求められていない。人形に命はなく、いくらでも替えが効く。人間であれば教育をせねば戦場には立てないが、人形にはその手間がほぼ不要だからだれも「生きて帰ってこい」などとは言わない。しかし人形はそのことに違和感を覚えることはないしバックアップの効かないM16さえもそうだった。

しかし小隊が分散し、M4と合流したときに泣かれたことや前の任務で「生きて帰る」と言われた時、常識が砕け「命」という概念をつかみかけたと彼女は思った。他の人形とは根本的なところが違う。それは製造歴の長い彼女だからこそ気付けた点であると言えよう

「お前は誰よりも優しいんだ。だからこそお前は隊長になったと私は思っている。」

「しかし優しさというのは何の戦術的優位性なんて…」

「本当にそうかな?確かに私は仲間がいなくなってここまでメンタルに負荷を負った人形を見たことはないが…」

「やっぱり優位性ではなく、欠点ではないですか」

「見方を変えれば欠点は利点になるってことさ。今のままじゃ欠点のままだが…仲間思いの優しい隊長さんはAR15がこのままくたばると思うのか?助けたいとは思わないのか?」

「まさか、彼女が死ぬなんて…そんなの考えたくもありません」

「考えるんだ。お前の電脳はなんのためにある?」

「彼女が死ぬわけありません…!いいえ死なせません!姉さん、私はAR15を助けたいです!」

「よし、であればどうすればいい隊長殿」

「ウイルスの解析…は私たちには出来ないからとにかく解析をしているIOPを守るために鉄血と戦う…そしてハイエンドモデルの情報を入手する…そのために、銃を握り眼前の敵を討つ。それが今の私たちに出来る最善な手段であると思います」

「なるほど、隊長殿はそうお考えか。ならば私はお前の部下としてこの銃を握り、共に戦おう。」

「姉さん、私はAR15だけでなく姉さんやSOPも…少佐もこの基地のみんなを守りたいし仲間を失いたくないんです!一度手から離れる怖さをもう知りたくないんです…!」

小さく叫んだ声は無線機越しで震えて聞こえた。彼女はそう言うと再び窓の方を向き姉は優しい妹のために自身がいつも背負っている長方形の物体のショルダーストラップに結ばれているバンダナをそっと渡した。黙って受け取った彼女はそっと顔に近づけて

「姉さん、これは思い上がりですか?」

と小さくつぶやいた

「それが“優しさ”の利点だ。その感情はお前だけに持てるものでそれはお前に戦う理由を、闘志を、リーダーとしての箔を与えてくれる。結局のところ何かを率いるというのは恐怖か優しさのどちらかを持っている存在しか出来ないことなんだ。私はその両方を持ち合わせていなかった…」

「そんな姉さんは…」

「よせよ、お前の想像している姉が適用されるのはこの部隊だけさ。

…私はお前のように視野が広くないんだ。」

M4はとっさに否定しようとしたがいつの間にかヘリは着陸していた。こうなれば私語を慎み降りる準備をしなくてはならない。軽く銃のチェックを済ませ通信機をオフにしてからM16が降りた、それに続いてM4も降りようとすると肩を叩かれた。

「…少佐」

「M4、お前が優しいのはM16よりも付き合いが短い私でもよく分かる。だが、悲しいかな。何かを奪うよりも守る方が遥かに難しいんだ…だからこそM4、お前は強くなれ。優しさと強さが両立できるような強い存在になるんだ。お前なら出来ると信じている」

そう言うと素子はM4の背中を軽く押してやった。

 

 



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Mission16 Only up!~催眠術~

ど~も恵美押勝です。今日は人形之歌の6巻を買ったのですがまぁ難しいですね、実はこの作品は基本的には漫画を参考にしながら書いているのですが5巻から凄い難しくなっているような気がします
長話もアレなんで本編をそうぞ!


『全員、ヘリを降りたか。こちらはA地点、本作戦のリーダーを任された草薙素子だ。返事をして欲しい』

『こちらB地点、李、感度良好。いつでも出撃出来るぜ』

『C地点ギソーニ、同じく感度良好』

『D、D地点の川崎です!こちらも感度良好』

『川崎指揮官、ヘリアンから話は聞いている。新人としては驚くべき高い作戦成功率および人形の生還率で期待のルーキーだとか。』

『いやそんな…私ではなくあの子達が強いからで』

『謙遜することはない…が、緊張しているのか?』

『え?』

返事をした川崎の声は少し上ずっていた。

『何せハイエンドモデルと戦うのは今回が初めてで…それに皆さんの足を引っ張らないかが心配で』

『そう緊張することはないぜ、お嬢ちゃん。ハイエンドモデルなんて大げさな言い方しているが所詮は通常の鉄血に毛が生えたようなものだ。肩の力を抜いていつも通りにしろ』

『だからといって舐めてかかると困るが…まぁ李指揮官の言うこともあながち間違いではない。今回は敵の位置がおおよそ分かっているから比較的楽な部類でもあるしな』

『分かりました、助言、感謝します』

『よろしい、ヘリの中で説明したと思うが改めて作戦を説明する。…といっても単純なものだが。全員、作戦前に共有されたマップを見て欲しい』

通信越しから紙を開く音が聞える。それが止んでから素子は口を開く

『山頂にいるハイエンドモデル“デストロイヤー”の無力化が目標だ。つまりは鹵獲しなくてはならない。我々は4つのチームに分かれて山登りをしながら敵を倒していき逃げ場をなくしていく、そうして追い詰めたところでデストロイヤーを無力化する、シンプルな作戦だ。』

『シンプルな作戦、ねぇ。要はデストロイヤーを鹵獲しろって話だろ?そう上手くいくかね』

『少佐、俺も李指揮官の意見には賛成です。破壊は簡単ですが無力化となると話が別です。』『俺たちゃスクールじゃ殺しのテクニックしか教えられてこなかったからな』

『何か方法があるんですか?』

『あぁ、電脳錠を使う。』

電脳錠は増殖し続ける無意味な情報を電脳に送り込み強制的にフリーズさせるといる電脳の手錠である。ただ今回、素子が持ち込んだのはハイエンドモデルの情報処理能力を見越して無限ループする迷路を見せる別名“迷路錠”と呼ばれるタイプである。このタイプは昏倒させるのに時間はかかるが対象は現実と電脳内に広がる迷路の区別がつかなくなり眼前に広がる迷路から脱出しようと延々と解き続けるため外さない限り現実世界へ帰還することが出来なくなる

『それをデストロイヤーにしかけるのが今回の私の仕事であり諸君らはデストロイヤーの注意を挽くために出来るだけ存在をアピールし派手に戦って欲しい。』

『あくまでも用があるのは頭の中、だけですもんね』

『その通りだ川崎指揮官。ではこれにて説明を終えるが何か質問があるか?』

しばらく待っても通信機からの応答がないことを確認し素子は作戦開始の指示を出した

「では我々も山登りといこう。」

「“おやつ”は持ったか?お嬢ちゃんたち」

「バトーこそちゃんと“おやつ”を持ったのか?」

そりゃあもう、と上機嫌に答えながらバトーは大量に持ったマガジンポーチを素子に見せた。

「結構、では行こう。我々は他のチームと異なり静かに行くぞ。」

「それは残念、歌を歌いながら上って頂上でやまびこ、ってのをやりたかったんですが」

「Zas、やまびこは作戦を成功させれば好きなだけできるわ」

そういうと全員が小さく笑った。だがすぐに気持ちを切り替えて彼女らは山登りを始めた。

登山道が整備されていない山の登るのは簡単なことではない、ただここは山に作られた基地ということもあり敵の手によって多少の道が整備されていた。もっとも道中での交戦をなるべくは避けたい素子らは道ではなく、そこから少し外れた場所を歩いていた。

山はしんと静まり返っている。三度の大戦が地球を汚し続けても草木は生き続け、動物もまた生き続ける。世界中の学者が何百年にも渡って「地球は人間の環境によって滅びる」と言っても、何処かの夢を見る電気羊が描いた街並みが空想のものでなくなっても自然は生き続けている。今彼女らが登っている山も人間の手によって弄られた山ではなく自然によって維持された山だ。動けないはずの草木は人間の予想を嘲笑するかのように滅びなかった。

こうして逞しい自然の中を歩いていると自分達が営んでいた歴史がちっぽけなモノのように感じると同時にちっぽけな歴史が生み出した鉄血という遺産など簡単に潰せるのではないか、という錯覚を覚えてくる。勿論、それは自然という魔力が生み出した一種の催眠術に過ぎないということは頭の中では理解しているが素子は一瞬でも頭の中をよぎってしまう。

恐らくそれは自身が義体という自然に真っ向から対立する存在、人の身でありながら「死」という自然の絶対的法則から反しているから催眠術がより強くかかるのだろう。恐らく、トグサや李などは自然が生み出す催眠術にかかることは一度もないだろう。そう思いながら素子は登山を続ける

歩いていると遠くから乾いた音が風に乗って聞こえてくる。恐らく、別のチームは既に交戦状態に突入しているのだろう。

「ここまで敵に会わないのは運がいいですね、少佐」

「あぁ、出来るなら一度も会わずにいきたいものだな。M4」

「いいのか少佐、そんなことを言って。そういうこと言っているとすぐにでも…」

会うぞ、と言いかけたM16の口を素子の手が抑える。そしてもう片方の手を挙げて制止のハンドサインを部隊に送った。

背を伏せて道を見てみると数体の鉄血兵が走っていた。

「同志少佐、まだ敵はこちらに気づいていないようだわ。やる?」

「ダメだ。それでは我々が戦闘を避けている理由がなくなる。やるのは敵に見つかってからにしろ」

了解、と言うとモシンナガンは構えた銃を下した。それから10秒ほど経つと3体の鉄血兵は彼女らの視界から消え去っていく。どうやら気付かれなかったようだ。

「取り敢あえずはこれでよし」

「しかし面白くねぇぜ、いくら少佐が電脳錠をかけるのが仕事だからってこうもこそこそ動くってのは。折角弾をたんまりもってきたのによ」

「デストロイヤーを欺くためには我々の存在は目立ってはいけないからな…もっとも最初こそはバトー好みの作戦を展開しようと思ったんだが、急にこちらの戦力が増加したから作戦を変更する必要があったんだ。」

「それが作戦を変更した理由か」

「敵部隊が3つだと思わせることが出来れば相手は油断するからな。これが2つだけなら相手は伏兵の存在を危惧して、こっそりと電脳錠をかけるのも難しくなる」

「川崎って指揮官が来たから俺はドンパチ出来なくなったってわけか」

「まぁそうなる」

こことは違う場所では派手に戦闘が行われているらしく、銃声が常に聞こえる。だが依然として素子らが歩いている場所は静かであり、先ほど3体の鉄血兵が来たのを最後に道の方に鉄血兵が来ることはなかった。

「しかし、奴らはそんなに慌てて何処に行くのでしょうか」

「分からん、だが銃声の中に低い音が混じっている。恐らくMGの人形がいるんだろう。私が敵の指揮官ならそいつを優先して排除したい」

「ということは、MGの人形を持っている部隊の方に向かっている可能性が高い、ということか。いや待てよ、確か李もトグサもMGの人形は連れてきていないはず。ということは」

「だとすれば連中は川崎指揮官の方へ向かっているんだろうな」

「また川崎指揮官か、この作戦にいきなり加わってきて敵の人気も集めていったいあの女は何者なんだ?」

「…有能だがそれだけの理由でヘリアンがこの作戦に新人を回すとは思えん。」

「まぁ彼女が何者なのかはこの作戦が終わったら聞けばいいさ少佐」

「M16の言う通りだな、細かいことが気になってしまうのは職業病みたいなものだから仕方が無いとは言え今は作戦中で敵の腹の中だ。気を引き締めていかないとな」

「それで少佐!今、どのあたりにいるの?早くデストロイヤーと会いたいよ!」

「SOP…壊したら作戦失敗なのよ」

M4がSOPを窘める。彼女もバトーと同じく戦いが好きなタイプだからうずうずしているのだろう。恐らくいつも見たいに榴弾をぶっぱなし、はしゃぐことは出来ないだろう。彼女には辛い任務かもしれない、そう若干の哀れみの気持ちを胸にしまい込みながら素子は現在位置を端末を使い確かめる

「そうだな、この山が300mほどで現在我々は半分ぐらいの位置にいるから順調に進めばあと30分ほど山頂の基地にはつくはずだ」

残り30分ほどでハイエンドモデルとの戦闘が始まる、具体的な数字が分かると部隊の中に緊張感が走った。

「残り半分、基地が近づけばそれほど敵の数も多くなる。各員、これまで以上に慎重にいくぞ」

 



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Mission16.Only up!~勝利の女神~

ど~も恵美押勝です。ようやく暇が出来たと思ったら発表のための資料を作らなければいけないし中間課題もやらなきゃいけないともう忙しい!精神と時の部屋が欲しい…
さて、身の上話もアレなんで本編をどうぞ!


一言で言えばマズい状況に置かれている。この山頂にある基地は私に持たされた基地だけど突貫工事で作られたため防御面はないに等しい。辛うじて司令部の前面にセントリーガンが置かれている以外は敵が侵入してもどうも出来ない。ここは1週間前に出来たばかりの基地でドリーマーに連れてこられた時はあまりの簡素さに文句の一つでも言ったが「アンタがM4を捕らえるためのお膳立てをしてあげる。アンタがM4を捕らえることが出来たら“ご主人様”にも気に入られるんじゃない?」と言われたから渋々ここで指揮を執ることにした。あの人の役に立てるのはアタシにとっても悪い話ではないが…それがどうだ、敵が3方向から攻めてくるわ戦地に送った人形はグリフィンのオモチャに対して何も有効打を与えず破壊されていくじゃないか。

もう敵は半分ほど進んだのではないか、もしもこのまま全ての敵がこの司令室に押し寄せたら?…勿論私は勝つに決まっている。ハイエンドモデルのアタシが、オモチャに負ける道理はないはずだからだ。だが、この狭い司令室では榴弾砲は使えない、そうだ、戦うための場所を移すだけだ逃げるわけじゃない、決してオモチャに負けるなんて1バイトほども思っていない。

そう思って私はドアを開けようとするが開かない、何回も何回もドアノブをひねるが開かない

「…まさか、ドリーマー!?ちょっと開けなさいよ!このイカレ女!聞こえてるんでしょ!?」

虚空に向かって叫ぶとノイズ音の後、憎たらしい声が聞えた

「何処へ行こうというの?まさか逃げようとしていたの~?」

「そんなわけないじゃない!ただ、私が出ないとそろそろこの基地が危ないと思って…」

「フフフ、貴方はここに居なきゃだめよデストロイヤー」

「どうして!?このままじゃ!」

「だってあなたが死ぬ姿がカメラに映らなくなっちゃうじゃない?」

デストロイヤーの電脳の演算が一時止まりコアが異常に発熱し冷却水によって冷やされた熱が水滴となって体表を濡らす

「あれ、もしかしてビビっちゃった?そんなわけないじゃない」

「…このイカレ女!IFFがなけりゃアンタをそのスピーカー越しから殺してやりたいわよ!」

「まぁ安心なさい、ちゃんと支援してあげるし最後の美味しいところは貴方にあげるわ。まぁなんて優しい上司なんでしょう」

「…分かったわよ」

「それでいいの、貴方はそこで砲塔でも磨いてなさい」

そう言い終わると天井のスピーカーからノイズ音が聞えそれっきり何も言わなくなった。

ドリーマー、いけすかない女だし笑えないジョークを言う奴だが奴のいいところはジョークをジョークだけに終わらせるところだ。その証拠に私は何回も奴にさっきのようなことを言われたがこうして存在し続けている。大丈夫だ、奴は私を助けてくれる。

そう思いデストロイヤーは椅子に座りモニターとのにらめっこを再開した。

 

…銃声音が遠くから聞こえてくる、相変わらず自分達以外の場所では戦闘が続いているようだ。

「しかし、ここに敵が来ていないってことは私たちが山頂に向かっているのはバレていないみたいね」

辺りを警戒しながらZasが話す

「これなら今回の作戦は簡単に終わりそうだ。少佐、敵の大将は完全にこちらの存在に気づいていないどころか考えもしていない。デストロイヤーは子供みたいな身長なんだって?なら少佐の格闘術さえあれば簡単に電脳錠で無力化出来ると思うぞ。それにあいつバカっぽそうだし」

「確かに簡単そうだな。だがM16、デストロイヤーが馬鹿だとしてもその背景にいるドリーマーなる存在には警戒が必要だ。例のジュピターとかいう存在にもな」

「やっかいな問題が出来ちまったな。遠距離から砲撃してくる大砲なんて俺らじゃどうしうようもない。こっから先は嫌でもそいつを意識しないといけなくなる」

「弾避けのお守りでも買うべきだったかもな、バトー」

「違ぇねぇや」

そう話しているとインカムから呼び出しを告げる電子音が鳴った。素子は“伏せろ”を意味するハンドサインを送りしゃがみながら応答するために通信機を操作した

『聞こえますか草彅指揮官、こちらは川崎です』

『どうした川崎指揮官』

『それが、どうも敵が現れなくなりました』

山から聞こえてくる銃声を聞くと確かにあのMGが起こす銃声音特有の腹の底がしびれるような重々しい音が聞えなくなっている

『恐らく、私の方に来た敵はすべて倒してしまったのかと』

『報告に感謝する。川崎指揮官、現在位置は?』

『丁度半分といったところでしょうか』

『ではそこから進み山頂の基地が目視で確認できる距離まで近づいたら停止し基地の監視を頼んだ』

『了解!』

川崎との通信を終了したのも束の間、またしてもインカムから電子音が鳴り出ると今度は李が、そして彼との通信を終えると今度はトグサからも通信が入った。彼ら二人もまた敵を全て破壊したらしくトグサに至っては山頂まであとわずかというところにまで来ていた。素子は川崎に出した指示を二人にも伝達し通信を切った。そういう自分達も、もう山頂にまで差し掛かっていた

…これは余りにも簡単すぎるな

素子はそう思った

「まだハンターとかいうハイエンドモデルを相手にしたときの方が歯ごたえがあったぜ」

「少佐、作戦は予想以上に順調に進行しています。」

「…あぁ」

M4からの呼びかけに素子は素直に賛同出来なかった。このままいけば簡単にチェックメイトだ。デストロイヤーの知能が低くても背後にいるドリーマーという人形はそこまで愚かではないはずだ。ジュピターによる援護を行えば囲まれている状況は難なく打破することが出来るだろう。だがあのクレーターを作るほどの攻撃力だ、これ以上の接近を許し、そのタイミングで発射してしまったらデストロイヤーのいる基地にまで影響が出るどころか本体を基地事破壊してしまう恐れがある。それはドリーマーという人形にとっても望むことではないだろう。故にこのタイミングで攻撃が来ないのであればジュピターによる心配はないはず、素子はそう考えた。しかしそう考えてもやはり胸騒ぎがするのだ、勝利の女神はこちらに微笑みかけているというのに

(しかし、ここで退却という選択肢はない。退却し次にこの基地を攻めたとてジュピターによる攻撃が途中にないという保証はどこにもない。しかもこの簡易な基地から見て仮に我々が撤退したらデストロイヤーはこの基地を放棄し逃走する可能性も高い。やはりここは攻めるしかない…)

そう考えていると再びインカムに電子音が鳴る

『どうした』

『こちら川崎、視認できる距離まで近づきましたが基地入口にあるセントリーガンからの攻撃を受けています!交戦してもよろしいでしょうか!?』

『交戦を許可する…が、川崎指揮官、次回からはそういう確認は取らなくても大丈夫だぞ』

『了解!』

『こちら李、現在基地左側面にいるが変化なし!』

『こちらギソーニ、右側面にいますがやはりこちらも変化はありません』

(基地の警備は正面のセントリーガンのみとはな…一夜城でももう少し警備はありそうなものを)

何もない基地後面を見て素子はメンバーの方へ振り向く

「よし、これから基地内部に強行突入する。」

「突入たってどうするんだ少佐」

「あんなコンクリの壁なんて私とバトーの拳があれば十分だ」

「相変わらず住む世界を間違えているわね…」

と、WA2000が苦笑する

「その後はデストロイヤーを捜索し見つけ次第私が電脳錠をかける。上手くいけば数分で終わる戦闘だが相手はハイエンドモデルだ気を引閉めてかかるぞ」

そう話しているといよいよ山頂にたどりついた

『川崎指揮官、セントリーガンはどうなった』

『破壊に成功しました。現在、部隊は入り口付近で待機しています』

『了解、李指揮官はどうだ?』

『側面で待機している、目の前が灰色のコンクリで出来た壁面しかない』

『ギソーニ指揮官は?』

『状況は李指揮官と同じです。我々は川崎指揮官の後に続いて正面から突入しますか?』

『いや、突入する部隊は私だけだ。3人は万が一デストロイヤーが逃走した場合に備えて欲しい』

『了解』

『あいよ』

『了解しました。』

素子とバトーは壁面にたち拳を構えた。

『では、合図で突入するぞ』

3 拳を引く

2 腕に力を入れ、腕の表面に人工血管が浮かび上がる

1 両者とも呼吸を整え、辺りは風の音しか聞こえなくなる

『突入!!』

それは凄まじい音だった。

全身義体2名が力をこめた拳はコンクリを発泡スチロールのごとく簡単に打ち破った。破壊の衝撃で起こった煙の中を大勢の人形が素子やバトーがかき分けながら突入する

「SOP、お前は電波を可視化することが出来たな!?」

「うん!」

「その機能で一番通信が集中している場所を探すんだ!」

即席であってもそれなりの広さがありSOPの機能をもってしても中々見つからない。しかしこれだけ歩き回っても不思議なことに物音は素子らが歩く音しかせず銃声などは基地内部は勿論、外部からも一切しないのだ。

「少佐、静かすぎるな。まさか野郎逃げたんじゃないだろうな」

「それはないよバトーさん!作戦中、この間つけた枝を確認したんだけど大きく移動してないもの」

「だがSOPよ、お前のつけた枝が敵に利用されて…」

バトーは喋るのをやめた、何故ならばSOPが急に立ち止まったからだ

「目の前のここに奴がいるんだな」

素子はSOPの耳にささやいた

「間違いないよ、この場所すごい通信が集中している。」

「SOP、内部の通信状況は一か所に固まっているだけか?」

「ううん、固まっている場所からほんの少し離れた場所にチラホラと電波が見えるよ」

「…部屋の中はそこまで広くはない可能性が高いか」

ならば銃火器による戦闘よりも格闘戦に持ち込む方が有利だろう。デストロイヤーは榴弾砲でこの狭い部屋では思うように撃てないはずだ。そう考えると素子は持っているセブロC-26AをM4A1に渡す

「…この中にステゴロが得意なのは誰だ?」

「…そりゃあまず俺だろうな」

「だったら少佐、AR小隊からはSOPを推薦しよう。あいつは単純な殴り合いなら小隊の中で誰よりも強い」

M16がそう言うとSOPは胸を張った

「…よし、私とバトーとSOPで突入する。まずはM16が煙を焚き、それを合図に突入した後、格闘戦に持ち込みどさくさに紛れて私が電脳錠をかける。理解したか」

「了解だ」

「了解」

小声で会議を済ませるとM16がポケットからスモークグレネードを取り出し突入隊に目を配る

素子がその視線にうなずきを持って答えるとM16がピンを抜き扉に向けて転がした

すぐさま煙が噴き出したのを合図に素子とバトーが走り出しその勢いを生かし扉を蹴り破った

部屋の中に入り眼前に飛び込んだのは幼い女子が酷く驚いた顔だった。間違いない、こいつがデストロイヤーだ。

(そうと決まればやることは一つだ!)

素子はその酷く驚いた顔に握り拳で見えなくした。柔らかな人工皮膚の後に人間の骨とは明らかに違う硬さが拳に伝わってくる。しばらくすると全ての感触はデストロイヤーが後方に吹き飛ぶという形で消え去る

「…3人がかりなんてこの卑怯…!」

デストロイヤーの抗議はSOPの蹴りで封じられた。戦術人形による本気の蹴りが顎に命中したのだ。並みの人間なら、否人形だとしても電脳がシェイクされ脳震盪で済めば運がいいだろう。だが

「流石にハイエンドモデル、そう簡単に気絶しないか」

デストロイヤーは立ち上がり鼻から垂れた人工血液を指で拭った

「人間とポンコツにのされるようなアタシじゃないわよ!」

デストロイヤーは怒りに任せ拳を目の前にいるバトーに振るわれる。

「そんなトーシローの怒りに任せたへなへなパンチがあたるかよ」

バトーは余裕の表情で拳を避けたが直ぐに真剣な表情になり右手を動かした、デストロイヤーの拳は確かに外れた、しかしそれは次の蹴りのための布石だったのだ。ガードしたとはいえハイエンドモデル全力の蹴りを腕にうけたバトーは苦悶の表情を浮かべながらもなんとか耐えきった

「面白れぇ、力いっぱいのガキとの勝負かよ。」

「腐ってもハイエンドモデルだ、小柄だからリーチの差があってこちらが有利とはいえまとも喰らえば無傷とは言えまい」

「その前にぶん殴ればいい話だよ!」

第2ラウンドが始まろうとしていた、リングにいた4人が拳を構えるとインカムからの電子音が聞えてきた。だがいつもの電子音とは違う

(これは緊急通信!このタイミングでか!?)

だが、この通信をのんびりと聞いている暇はない。その電子音をコングとし4人の暴力装置が一歩前に出る。

『こちらヘリアントス…緊急…』

耳に流れる声は声として処理されずノイズとして電脳の中を通り過ぎていく。だがその声が突然聞こえなくなる。

「…っ!?」

デストロイヤーの頭突きによって素子が倒されたのだ。インカムが耳から外れ地面に転がる

「リーチの差は足のばねを利用して無意味にさせるのよ!」

とっさに両手でガードしたとは言え完全にマウントを取られてしまった。だが素子はそれに焦ることもなく腹筋に力をこめ上半身を投石器のように起こし頭突きで受けたダメージを頭突きで返す

短時間に2回も頭部にダメージを受ければ流石のデストロイヤーも応えたようであり頭をグワングワンと回している

「今だ少佐!マウントを取ってやれ!」

「言われなくとも!」

素子は立ち上がり電脳錠を取り出した、そしてデストロイヤーに覆いかぶさり王手をかけようとしたその時

耳をつんざくような爆音が聞えた、次の瞬間素子は天井を見ていた

『緊急、緊急…AR15…脱走…見かけ次第…射撃…許可…』

 

 

 



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Mission16.Onky Up!~爆発~

お久しぶりです恵美押勝です。冬休みに入りようやく一息つけるようになりました(まぁ新年あけたらそれはそれでまた忙しくなるんですけどね)
さて、恐らくこれが年内最後の更新になると思います。不定期の更新ではありましたが今年も私の小説にお付き合いいただきありがとうございました
では、本編をどうぞ!


素子指揮官が突入した後、私は正面の入り口から部下たちを入り口から少し離れた位置に待機させ万が一にでも敵が逃げ出すようなことがあればいつでも対応できるように準備させていた。だがそんな気配が1mmも感じられないほど静かだった、まだ彼女はデストロイヤーを発見できていないのだろうか。欠伸を嚙み殺すほど暇だ、だが私とは違って隣にいる副官、ネケヴは表情一つも変えずに辺りを警戒していた。流石は初対面の時に自身のことをスペシャリストと呼ぶ人形だ。

…だがいかにスペシャリストと雖もあれは予測することは不可能であっただろう。私は今、病院のベッドでそう考えている

 

転がった体を起こして素子は辺りを見渡す。あの爆発音は何だ、基地内に爆弾でも仕掛けられていたのか?素子は部屋の外にいるM4に連絡を取ろうと傍に転がっていた無線機とインカムを未だに伸びているデストロイヤーを横目に拾い上げた

『少佐!今の爆発音は何ですか!?』

『お前も知らないのか、私も分からん。だがお前達が無事だとすると外がまずいかもしれんM4、外にいる奴らに連絡を取ってくれないか。これでもまだ戦闘中でな』

『了解、少佐。最後に一つだけいいですか?』

『手短に頼む。』

電脳錠を取り出し、デストロイヤーに近づきながら話を聞く

『AR15が…逃走したそうです』

『…何だと』

『先ほど緊急通信が入りました…発見次第、発砲を許可するそうです』

『…了解、だがM4そのことは後だ。今は状況確認が最優先だ。頼むぞ』

『…了解しました』

通信を切り素子はデストロイヤーをうつ伏せにさせ、電脳錠をかけるためうなじにある端子カバーを外そうとしたところ再びインカムに電子音が鳴った

「どうした」

「少佐!今、俺のいる場所が爆発しました!」

「…!トグサ、お前はどうだ!?」

「とっさに人形がかばってくれましたから俺自身に怪我らしい怪我はありませんが…人形達がやられました。5体の人形、それに3体ずつダミー人形、計15体の人形の内7体が大破、内2体は本体もやられました…」

「…トグサ、今すぐ撤退しろ。」

「了解、…っ!少佐!後ろから増援だ!だが何故!?敵は全滅したはずだ!」

「トグサ!その敵の相手はお前じゃない!無視して逃げろ!」

「了解!…少佐、爆発音は複数回あった。恐らく川崎指揮官や李指揮官の方も」

「…分かった」

通信を切ると同時に素子はカバーをナイフで抉る作業を終えていた。

チェックメイト寸前でこれとはな…ジュピターによる攻撃か?いや、あの兵器は私のいる場所を外してその周辺だけに被害を与えるほどの器用な攻撃は出来ないはず。では基地周辺に爆弾が仕掛けられていたというのか?しかしトグサの報告を聞く限りそれだけの爆発力のある爆弾であれば見つけることはそう難しくはないだろう。一斉に爆発したのだから地雷という線も薄い。そうであればやはりジュピターによる攻撃と考えるべきなのだろうか?

考えながらも素子は電脳錠をデストロイヤーの端子に差し込んだ。だがかかったことを知らせる緑のランプが点灯しない。並みの電脳ならばすぐにかかるだろうが演算力が強いハイエンドモデルだから時間がかかるのだろう

それを待っているとまたしても通信が入った

「少佐、M4です」

「報告しろ」

「ギソーニ指揮官、川崎指揮官、李指揮官の部隊は共に爆発による大きな被害を受けています。特に李指揮官は衝撃によって頭を強く打ち気絶しているそうです」

「全ての部隊に撤退を命じろ、私たちも撤退する。」

「了解」

「恐らく敵の狙いは私たちをここに封じ込めることなのだろう。周辺の敵を殲滅した上でこの基地に戦力を導入しM4、お前を捕獲するつもりだ。急いで突入口から撤退するんだ」

「…了解、ただちに撤退します」

「安心しろ、すぐに合流する」

通信を切ると同時に電脳錠のランプが緑に光った。これでデストロイヤーは自分の意思で動くことは出来なくなった。後はこの人形を担ぎ、ヘリに乗れば任務は完了だ

『デストロイヤーとの通信が途切れた、ということは私の予想は当たったみたいね』

突然、この部屋にいる者ではない声が聞こえた

「少佐、前見て!」

SOPに言われ前を見るとそこにはモニターがありそれには白髪の女が映っていた

『ビンゴ、初めまして素子指揮官。私の名前は…言わなくても分かるでしょう?』

『ドリーマーか…』

『ご名答』

『ドリーマーよ、来るのが遅かったな。確かにあのタイミングでのジュピターによる攻撃は驚かされたがやるならもっと早めにしておくんだったな』

『いいえ、素子指揮官。このタイミングでなければダメなのよ。貴方がこの狭い部屋にいるこの時でないと。もっとも、おまけが2つもついてくるとは思わなかったけど』

『悪いな、お前と話をしたいのはやまやまだがもう帰らなくちゃいけない』

『そうね…最後に一つだけ。私は欲張りなの、M4も欲しいし貴方も欲しい。だけどね、“私”が一番欲しいのはAR15なのよ。…そろそろ時間か、じゃあね私のプレゼント貴方ならきっと気に入ってくると思うわ』

モニターから映像が消えた。同時に素子はドリーマーが言った『時間』

という言葉の意味を知った

「バトー!SOP!伏せろ!!」

素子がデストロイヤーを抱き伏せた瞬間、彼女の体から光が見えた

そう思った時、2人の聴覚端子が爆音によって激しく揺れた

「少佐!!」

「素子!!」

 

「ギソーニ指揮官、敵の数が一体増えた、私たちより50m程後ろ、それもいきなりよ。無から急に表れたみたい…あの黄色いロボット、装甲兵じゃないかしら」

後ろを見ながら走っていたTunderがトグサに告げる

「Aegisか…本当なら厄介だな」

「嘘をついたって仕方ないわ。どうするの指揮官?敵は今起動したみたいよ」

「前回のような空中から投下された兵かもしれないな」

…どうする、少佐からは戦闘せずに撤退することを命じられた。しかし敵は俺たちに向かって攻撃してこない、それどころか追いかけてすら来ない。やはり少佐の言う通り敵の狙いは少佐の部隊なのだろう。であれば少佐が危ない!あの装甲兵はARで破壊するのは困難だ。RFのような人形でなければ…少佐の部隊はライフル持ちの人形がいたはずだがここで一つでも脅威を排除しておくべきではないか?しかし自分の部隊にはRF持ちの人形が…

「指揮官、こういう時こそ私の出番です。」

「Thunder、そうか君の12.7mm弾なら!よし、頼むぞ」

「了解」

「いいか、無理に頭を狙わなくていい、君の弾の大きさならど真ん中に当たれば致命傷だ」

「了解…指揮官、鼓膜が破れるので私に近づかない方がいいと思うわ」

Thunderが銃を構えて引き金を引く、ロマンの塊から放たれた弾はノイズキャンセリング付きのヘッドホンを付けていても聞こえるほどの音と共にAegisに命中した

「…可笑しい、手ごたえがないわ」

「マズいな、タイミングが悪かった。撃った瞬間奴が振り向いた…」

彼女が撃った弾は山頂へ向かうと振り向いたAegisの盾に当たったのだ、12.7mm弾は敵の盾を貫いたがその勢いは大幅に減衰されAegis自体を貫くのに至らなかった。

「奴の顔にある赤いライトがまだ消えていない、完全に破壊できていないということね…」

「いや、減衰したとはいえどてっ腹に食らったんだ。見ろよ、膝をついている。もうまともに動けんさ」

「もう一発撃ちます?」

「いや、もうやめた方がいいだろう。逃げる時に巻いたとはいえ、敵の増援がまだ俺たちを追っているかもしれん。立ち止まって撃つのはこれっきりにしておきたい」

「了解、ヘリまでの距離はまだまだあるわ。このペースでいけばあと15分というところね」

そう言うとThunderは他の人形と一緒に走り出した、それと一緒にトグサも走り出す

「先は長いぜちくしょう、もう俺だって若くはねぇんだぞ」

「じゃあ私がおぶってあげましょうか?おじいちゃん?」

「あのなぁ、若くはないといったがそこまでは…」

瞬間、彼らの背後で爆発音が聞こえその衝撃と熱風が彼らの背中を押し出した。衝撃に耐えきれずトグサは勢い良く前に倒れてしまった。

「…っ!敵の攻撃か」

トグサは起き上がりとっさに振り向くが炎以外には何も見えなかった

(さっきの爆発といいどうなっているんだ…やはりジュピターとかいう兵器の攻撃なのか?しかしどうしてこの付近を攻撃出来たんだ…偶然か?)

「指揮官、思いっきり倒れたけど大丈夫?」

「あぁ…なんとかな」

「危なかった…あの場所で攻撃を続けていたら今度こそ全滅してたわ」

「とにかく再びあの攻撃が来たんだ、少佐に報告しておくべきだろうな」

トグサは部隊を引き連れながら無線機の周波数を素子のに合わせてコールするが耳元でノイズ音すら聞こえない。通信機の故障を疑ったトグサは次に禁止はされているが電脳による通信を試みたがこれも一行に応答しない。

通信機も電脳通信も交信が不可能、これが意味することは一つしかない

「…少佐が危ない!」

 

M4は部隊の人形と共に撤退するためにLZ(着陸地点)まで急いでいたが未だ素子が合流しないのが気になっていたが「撤退しろ」と命令を受けた以上足を止めるわけにはいかなかった。そしてしばらく進むと通信機が鳴った。無線の周波数はバトーからだ

『どうしましたか』

『落ち着いて聞けよ』

『…何かあったんですね』

『少佐が敵の自爆に巻き込まれた』

瞬間、電脳に衝撃が走りM4は思わず足を止めた

『…少佐は!少佐は無事ですか!?』

『落ち着け。生きてはいる、が全身に鋭い釘のようなものが刺さっていてゆっくりとしか運び出すことが出来ねぇ』

『バトーさんとSOPはどうなんですか!?』

『とっさに少佐がデストロイヤーを抱えたから俺たちは無傷だ…畜生!』

『バトーさん…』

『とにかく俺たちは何とか少佐を運び…』

急にバトーの声が聞えなくなりM4は再び電脳に衝撃が走った。

『バトーさん!?バトーさん!?応答してください!』

『だから落ち着け、M4。少佐はまだ死んじゃいない。だから落ち着くんだ…少佐がお前に話したいことがあるそうだ』

イヤホン越しに通信機のマイクを動かしている音が聞え、それが無くなったかと思うと今度は荒い息使いが聞えるようになった

『…M4』

『少佐!』

『いいか、よく聞け…私は今、全部隊の指揮はおろかお前達の指揮を執ることも出来ない状況だ…』

『…』

『そこでだ…現時点をもってこの作戦の指揮権をお前に譲渡する』

『…!私が指揮を執るということですか!?』

『李指揮官は意識不明、ギソーニ指揮官とは通信がつながらない、川崎指揮官も負傷している、そしてバトーは…私を運ぼうとしている…だが慎重に運びながら指揮を執るのは無理だ…』

『しかし…!』

『お前は全員を助けたいと言っていたな…ならばお前の指揮モジュールを今、そのために使うべきだ…』

『っ!…分かりました!少佐!やります!』

『悪いがこの場は任せたぞM4…』

現状、指揮が出来る人間はトグサしかいなかった。しかしその彼とも通信が繋がらないのでは実質指揮が出来る人間がおらず現状それが可能なのは指揮モジュールを搭載しているM4しかいないことを彼女は理解していた。だが今なすべきことは何か?彼女は電脳を最速で動かし思考に入る

(まず目的は全員の撤退…つまり全員をヘリまで移動させることしかし少佐を運ぶのには時間がかかる…それだけ危険に晒される。ではどうする?)

M4は電脳内にマップを表示させこの区域の地形を調べる

(この場所の近くに平地がある…今のLZよりも短距離で到着できる。それにこの指令基地の屋上はヘリが着陸できる分だけの広さがある。私たちの部隊のヘリは屋上に、他の2機は平地に…対空兵器はこの基地にはない、そして鉄血兵はヘリを落とせるだけの武装を持っていない…ならヘリが撃墜される心配は)

いや、存在する。M4の思考は一瞬中断される

(例の“ジュピター”という兵器がこちらを狙っている以上ヘリを移動させるのは危険でしかない…しかし少佐が重体、李指揮官も意識不明であるのならば一刻も早く戦場を離れる必要がある!LZの変更は必須!そうであれば!)

この間、僅か3秒の思考を終えてM4の意識は現実に帰る。そして全員に呼びかけるために通信機を操作する

『全部隊、こちらは戦術人形M4A1です。現在、本作戦の指揮官である草薙素子指揮官が重体です。私は彼女から指揮権を受け継ぐように命令されました。そこで現時刻をもって本作戦の指揮を私が執ります。各部隊、現在位置と状況報告を』

『D‐5、こちらは李部隊のスオミです現在、李指揮官が負傷し意識不明の重体。そして部隊の10%が損失しました』

『C‐3、こちらは川崎です…部隊は15%損失、そして破片が足に当たって恐らく骨折したので私の移動が困難な状況です。』

『F‐4、ギソーニだ。今は部下の無線を借りて連絡している。こっちは10%損失したが俺自身は怪我はしていない』

『了解、我々は撤退の最中ではありますが指揮官の内3人が負傷という現状にあります。その内2人は重体、1人は移動が困難という状況を考え作戦を変更します。皆さん、マップを開いてください』

『よろしいですか、座標D‐8に開けた場所があります。ここは従来のLZよりも近い場所にあることから移動が困難な川崎指揮官、李指揮官のヘリをこちらに移動させます』

『素子指揮官はどうするんだ?』

『基地の屋上をヘリポートとして使います』

『しかし、敵からの砲撃を受ける可能性がありますよね?』

『スオミ、これしか作戦がないの。一刻を争う重傷者が多く従来のLZでは治療が遅れる可能性が高い。』

『…やるしかない、か。俺はどうするんだ?M4』

『ギソーニ指揮官の座標は現在のLZに近い距離にいますのでそちらはそのままLZに向かってください』

『了解』

『…皆さん、ありがとうございます。生きてこの場所から帰りましょう。各員の武運を祈ります』

通信を切るとまずM4は自分達の仲間を集合させた

「まずはバトーさんと合流しましょう。SOPもいるとはいえ戦闘要員が1人しかいないというのは危険すぎます」

「M4、今引き返すと私たちを探している鉄血兵と交戦する可能性が高い。注意していくぞ」

「了解です。では皆さん、基地まで戻りましょう」

それぞれが武器のチェックを手早く済ませM4率いる小隊は敵指令基地へと向かう。その間、歩きながら通信機の周波数をバトーのものに合わせてボタンを押そうとした時、突如として呼び出し音がインカムに聞こえた。素早く応答すると甲高い声で自分の事を呼ぶ声が聞こえた

『M4!今何処にいるの!?』

『貴方達がいる指令基地に戻って合流しようとしているところ、距離は2kmと言ったところよ』

『M4、今基地の周辺を探しているんだけど…まずいよM4、敵が来ているよ!』

『…落ち着いて、数と距離は?』

『…10体、500mってところ』

『…っ!』

(この距離では走っても間に合わない!)

『…すぐそっちに向かう!貴方達は今何処に!?』

『私たちは今基地の中だよ!バトーさんは今、籠城しようとトラップをしかけている!』

『分かった!すぐそっちに向かうから何とか持ちこたえて!』

『頼むよM4!』

しかしいくら籠城とは言うが簡易的なトラップと通常の戦術人形よりも強力を持っているとはいえ2人だけであれば10体が押し寄せれば5分持つか分からない。戦場において数は絶対ではないが無碍に出来る要素では決してない。

「走りましょう皆さん!2km、走ればなんとか間に合うかもしれません!」

無論、いくら戦術人形の足が速いと言っても500m先の敵よりも早く到着できるわけではない。しかしその現実を認めてしまえば少佐やバトー、SOPを助けられないと認めてしまうようなものだ。故に彼女は「間に合うかもしれない」と嘘をついた、その思考はまるで人間と同じようである

それぞれのメンバーはM4の指示に従い走り出した、だがそれによって騒がしくなったのがまずかったのだろう。走り出して1分ほどすると突然銃声が聞こえた

「敵か!この近くから聞こえたぞ!このタイミングで厄介だな…!」

(どうする!?応戦しないまま基地に向かえば敵に案内しているようなもの…!しかし応戦している時間はない!かといってこいつらをまた撒く時間もない!)

M4は考えた。だが最善の答えが見つからない。“詰み”になってしまった、彼女はその言葉が浮かび上がった

「M4、お前達は先に行け!」

「姉さん!?」

「銃声からして敵の数は多くない、一人でやれる!」

「ダメです!残していくわけには!」

確かにM16の言う通り敵の数は少ないだろう、しかし敵の種類が分からない以上M16を一人だけ残すのは危険だ。仮に装甲兵ならば彼女の装備では苦戦を強いられるだろう

「行け!M4!議論している時間はない!全員が助かるにはこれしかない!」

「…しかし!」

「行くんだ!M4A1!」

「…了解!」

彼女は決意した、それが最善の手であることを指揮モジュールは導き出してした。しかし彼女の足は動かなかった。主人の電脳は足に動けと命令したはずにもかかわらず足をセメントで固められたように固定されて動かなくなった。

(何で動かないの!?まさか、ウイルスの汚染…!?いやこれを引き起こしているのは…私…!?)

動かない足、制御できない自分に彼女は電脳が凍り付きそうな冷たさを感じた。その時、通信機に呼び出し音が鳴った。その音にハッとすると足に感覚が戻っていくのを感じた

いつの間にかM16は彼女の前から姿を消していた。それを見ると彼女は再び走ることが出来るようになっていた

走りながら応じると今まで聞いたことない男の声が聞こえた

『…こちらは“ホーク・アイ”、そちらはAR小隊所属の人形か?』

『誰ですか!?』

『自己紹介をする暇はない、強いて言えば我々はグリフィンに味方をするものだ』

であれば援軍であろうか、こちらの通信にコンタクト出来たということはそういうことなのだろう。彼女はホークアイと名乗る男の声を無視することが出来なかった

『…こちらはM4A1です』

『よしM4A1、今から援護を行う』

『援護といっても貴方達は何処に』

『君たちの“上”さ』

『何を言って…まさか』

『基地の方にいる敵も俺の仲間がやってくれる、安心してそこから動かないで待っているんだ』

『…待ってください、貴方が攻撃しようとしている地点には私の仲間がいます』

『承知している。既に俺の仲間が連絡を済ませた。…これより支援攻撃を行う』

そう言い終わると通信が一方的に切断された。それを確認すると急いでM4はM16へ連絡を取る

『姉さん“ホーク・アイ”と名乗る者から支援を行うと連絡が』

『そっちはホーク・アイか。私は“バンシー1”と名乗る男から連絡が来たよ。』

『彼らは“上”にいるといいました』

『お前の予想通りだろう。“鷹”に“妖精”を名乗るんだ。伏せておけ、間違いない、奴らは…』

彼女が答えを言い終わるよりも早くその答えが爆音によって示された

『銃声が止んだ、目の前が煙で真っ黒だ』

『…姉さん、基地の方を見てください』

二人が基地の方を見るとそこには煙が上がっていた。そして彼女らの目の前には1機の戦闘機が飛んでいた。

 

 



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Mission17.骨董品の舞う空~砲撃~

ど~も明けましておめでとうございます。恵美押勝です、2024年も『Ghost in the Doll』を更新できるように頑張っていきますので今年もよろしくお願いします。

それでは、本編をどうぞ!


バトーが少佐を部屋に残し、持っていた手榴弾とワイヤーで基地の入口に簡易的な罠を仕掛けているとSOPが彼に駆け寄る。慌てふためく彼女の両肩を優しくにぎり落ち着かせると彼女はこちらに対して“バンシー1”と名乗る人物が援護するからそこを動くな、との連絡がいきなり入ったと告げられた。彼自身その名前には何の心当たりもなく敵の罠かもしれないと疑った。しかし動くなと言われても動けない現状の中、彼は心の隅でそれが本当であることを願いながら罠の設置作業を続けた。1分ともかからず入口の工作を終えてバトーは次の設置場所である屋上へ続くドアを工作しようと向かった時、彼は爆音とそれに続く重々しい銃撃音を耳にした。とっさに伏せたが揺れを感じずこの音がこの基地に向けられたことを確認すると彼はSOPに連絡を取ろうとした

『バトーさん、今の音は!?』

『分からん、鉄血の攻撃じゃないことは確かだが…』

『…バトーさん、鉄血兵の電波が見えなくなった!』

『このタイミングでのお前の装置の故障…は考えにくいな。ということはあの“バンシー1”とかいう奴の援護だというのか』

そう言い終わると彼の目の前にはSOPが立っていた。とにかく状況を確認したいと思い彼女と一緒にバトーはドアを開けて外の景色を見た。

浮ぶ黒煙に火薬の香りが鼻腔をくすぐる。そして目の前には大きく翼を広げた物体が見えた

「バトーさん、あれは…戦闘機?」

「いや違う、驚いたな…こんな時代にえらい骨董品を引っさげて援護に駆け付けた奴がいたもんだ」

あのフォルム、そしてあの銃声、間違いない

「あれはまだ新ソ連がロシアだった時代に使われた攻撃機、Su-25だ…」

 

基地の方から煙が上っているのを見たM4はM16と合流し、部隊を引き連れて基地へと向かっていた。その道中、まず彼女は姉にはバトー達に連絡を取るように頼み、自身はLZ変更のためにヘリパイロットに通信を取ることにした

『こちらヘルメス』

『ヘルメスさん、大至急移動をお願いします。場所は…』

『その声はM4A1か、またLZの変更か?』

『また?』

『さっき少佐からデータリンクでLZの変更が全てのヘリコプターに共有されたんだが…』

『少佐が、ですか。…分かりました。指示された場所までお願いします』

『了解、ジュピターとかいう砲撃が来ないように祈っててくれよ嬢ちゃん』

(少佐は完全に意識がないわけではないのね…しかしもっと早く連絡をしていれば少佐に無理をさせることもなかったのに)

そう考えているとM16が話しかけてきた

「バトー達は無事なようだ。どうやら私達と同じ、戦闘機に助けられたそうだ。しかしおかしな話だ、戦闘機を保有しているPMCなんてこのご時世、条約で存在は出来ないはずだぞ」

正規軍が自身の優位を保ちPMCに寝首を搔かれないために作った“条約”によってPMCは強大な戦力を持てないようになったこの時代において戦闘機や戦車といったものはどれだけ欲しかろうと保持出来るものではなく、条約を破れば待っているのは正規軍が得意とする“粛清”である。

グリフィンが保有しているヘリコプターはAW139をベースにアビオニクスに改良を加えた代物でありドアガンとしてM60機関銃を搭載しているがこれはあくまでも自衛のために搭載を許された装備であり近接航空支援に用いれば違反となる(もっと詳細に言うならばヘリに乗った戦術人形が自身の武器をヘリから地上にいる敵に発砲しても違反である)といったように航空機を保持していてもそれを満足に運用出来るとは限らないのである

「…正規軍が我々の援護を?」

「まさか、軍がPMCを助けるような真似するわけがないだろ。それにお前は見たか?あのケツを」

「いえ、そこまでは」

「あれは単発のノズルだった。新ソ連の主力戦闘機も単発だったがケツがあれとは違っているように見えた。それにあの国特有の青いカラーじゃなかった」

「確かSu-75でしたか。言われてみれば違うように見えたような…では何処が」

そう話しているとインカムに呼び出し音が聞こえた

『こちらはホーク・アイ、無事かM4A1』

『こちらに問題はありません、それよりも基地の方に煙が見えるのですがそれも貴方方が?』

『その通りだ、支援攻撃は終わったが君たちの撤退が完了するまで援護する。それよりも今ヘリコプターが見えるという通信が入ったのだがこれは君たちのか?』

『恐らくはそうかと思います。この近辺にスカウトが飛んでいる様子は見受けられません』

『了解した、共有しておこ…』

その時、M4は背後から爆発した音が聞こえた

『ホークアイさん、今のは!?』

『何かあったのか!?』

『ジュピターによる攻撃です!そちらでは確認出来ましたか!?』

『少し待ってくれ…あぁ確認した。君たちの周辺を攻撃した“バンシー2”が上空に何か光る物体が走るのを見たとの報告が来た!』

『着弾位置は分かりますか!』

『いや、バンシー2はキャノピー越しに見ただけだ。この付近を飛んでいるバンシー3を偵察に向かわせる』

『分かりました…すいません、隊員が通信を変わりたいと言っていますので変わりますね』

M4は通信中に肩を叩いてきたM16にインカムを渡した

『ホークアイ。私はM16A1だ。一つ確認したいことがある』

『何だ』

『基地の方も攻撃したそうだがそっちの方にジュピターの攻撃が来たか確認できるか?』

『分かった。攻撃を担当したバンシー4に聞いてみる』

『頼む、確認出来たら私に連絡してくれ。周波数は65.9だ』

ホークアイとの通信が終わりM16はインカムをM4に返す

「M4、SOPやバトーに連絡を取るんだ」

「了解」

M4はSOPに連絡を取ることを決め通信をかけた

『M4、どうしたの?』

『SOP、今ジュピターによる攻撃があったのだけれどそっちはどう?』

『あの音の正体はそれかぁ!今は静かなもんだよ!鉄血の屑共がいなくなった!おかげでヘリが来るまで耐えられそう!』

『了解、とはいえ油断しないでね』

『M4は大丈夫なの?』

『うん、こっちも支援攻撃のおかげで基地まで問題なく近づいている。あと500mってところかな』

『分かった!待ってるからね!』

通信を切るとM16が通信機を使って話している姿が見えた、恐らくホークアイと話しているのだろう

その上空を戦闘機がけたたましい音を鳴らして通過するがM4は思考の海にダイブして気がつかなかった

(ジュピターによる攻撃は基地の方には来ていない。それは私を捕縛するためにわざと基地に攻撃をしていないと考えられるけど…しかし鉄血兵を倒した後に攻撃が来るのを偶然と片付けられるの?確かギソーニ指揮官も増援の鉄血兵を破壊した後に攻撃が来たと言っていた…自身の背後に着弾したとも言っていた。鉄血兵とジュピターの攻撃には関係が…?)

そう考えているとM16が話しかけてきた

「M4、さっきホークアイと話していたんだが基地の方を攻撃したパイロットから砲撃は見えなかったと報告が来たそうだ。」

「SOPも攻撃は来なかったと言っていました」

「そうか…」

「姉さん、私考えたんです。この攻撃は鉄血兵と関係しているんじゃないかって」

「どういう意味だ」

「つまりですね、ジュピターの攻撃しているのは無作為にしているのではなく誘導されているのではないか、ということです」

「まぁそれはそうだろうな。誘導無しでやれるような兵器ではないだろ」

「ではその誘導は何か、その正体が私は鉄血兵と考えています」

「鉄血兵が終末誘導を?…しかしそれでは基地の方が攻撃を受けていないのは何故だ」

「問題はそこです。私は最初、敵が基地に私がいるからそれを生け捕りするために攻撃していないと思いましたが連絡を受けて支援が行われるまでの時間を考えると500m先にいた敵は100mも動いていない。そうであるならばそのあたりの場所に砲撃しても基地には影響がないはずなんです。もし基地に影響を及ぼすぐらいの威力があるなら今頃私達もギソーニ指揮官も死んでいたでしょうから」

「であれば益々攻撃は来ない理由が分からないな。再装填に時間がかかるとかか?いや最初基地の周辺が一斉に食らったんだ。そこまでかかる兵器じゃないはずだ…」

「恐らくは“交戦”がトリガーになっているのではないでしょうか。姉さんとギソーニ指揮官は共に交戦してその後に砲撃が来ました。しかし基地の方は交戦する暇もなく破壊されて砲撃が来なかった」

と、その時インカムに呼び出し音が鳴った

『ホークアイだ。偵察に行ったバンシー3から報告が来た。驚いたな、敵の砲撃はバンシー3が鉄血を仕留めた場所とそう違わないところに着弾していた。君たちは運がいい。支援なしだったら君たちは今頃全滅だっただろう。引き続き支援を行う…いや待て。レーダーに感あり、新手の敵だ!…なんだこれは、馬鹿な、レーダーから消えた』

『それは敵がレーダー範囲から逃れた、ということですよね』

『あぁ、こっちが攻撃指示を出す間もなく消えた。俺たちは何も手を出していない。つまり敵がステルス系の装置を起動したのかそれか俺の真下にいるかだ』

『しかし鉄血は航空機なんて持っていないはず…』

『他の奴に聞いてみたが何も見えていないそうだ。』

そういえば、とM4は思い出す。

(前回の拠点襲撃の際、鉄血は空から来た可能性が高いと少佐が話していた。もしかすると…)

『ホークアイさん、レーダーに映ったのは鉄血兵かもしれません!敵は空中から来ている可能性があります!』

『にわかには信じ難い話だな…だがそれならばすぐ反応が消えたのも納得がいく話だ』

(もしそうなら地上の味方が…!しかし敵と交戦すればジュピターの攻撃が来る恐れがある砲撃を回避しつつ鉄血兵を排除するには敵が交戦したことを気付かない内に破壊、つまり暗殺に近い方法で排除しなくてはいけない。しかしそれは敵の位置が分からない以上困難な話…仕方がない、今はこれ以上敵が投下されないようにその元を破壊する必要がある。それには彼らの協力が不可欠だ

『敵は鉄血兵を投下出来る航空機を持っているかもしれません。ホークアイさんお願いしたいことがあります。貴方の仲間にその航空機を探して欲しいのです』

 



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Mission17.骨董品の舞う空~撤退~

どーもお久しぶりです。恵美押勝です。新年が明けたと思ったらもう2月も終盤に差し掛かろうとしているってことに驚きが隠せません。
では本編をどうぞ


『ホークアイから連絡だ、上空に鉄血兵を運んでいる兵器が飛んでいる可能性有り、捜索せよってさ』

曇天の空を飛ぶ一つの亡霊、RF-4EJの後部座席に乗るフライオフィサーがAWACS(早期警戒管制機)ホークアイに依頼された内容をキャプテンに伝える

『了解、全く人使いが荒いぜ』

『そういうな、俺たち“ウォー・ミュージアム”の中で偵察機能を持っているのは俺たちバンシー3しかいないんだからさ』

『それはそうだが…奴らいつの間に航空機を持っていたとはな、しかしレーダーに引っかからないとは奴ら何を使っているんだ。どう思う?』

『常識的に考えれば輸送機なんだろうがステルスを持った輸送機は今日まで作られていない。一応米帝がWW3に向けて作ろうとしたみたいだが制空権を一方的に取れると考えていた上層部に一笑されたらしいよ』

『ならばステルスヘリか?光学迷彩を持った特殊部隊用に作られたのがあったはずだ。確かRHA‐89とかだったような』

『いやあれはその機能のために大人数が乗れない仕様になっている。逐一投入出来るようなものじゃないよ』

『一機とは限らないだろ?』

『そうかもしれないけど…あれは並の戦闘機よりも高くつくんだ。F35が20機も買えるほどの値段がある奴をそう鉄血が何個も買うかな?奴らの戦法は数でゴリ押すタイプだ。それだけの金を費やすぐらいなら安いRipperとかを大量生産するはずだ』

『となれば、ステルス性もあり大量の鉄血兵を輸送出来る兵器…それでいて輸送機以外…そんなものがあるのか。…いや、一つだけある』

『君もそう思ったか。輸送機以外ならあれしかないだろうね』

フライオフィサーが景気とキャノピーの外を交互に見ながら話していると突如として体が座席に押し込まれる。

『「どうしたんだアフターバーナーなんか使って』」

『「見えなかったのか?今、前方で何か光った!』」

『何色だった?』

『「何色だった?」

「オレンジだ、今も光り続けてる』」

『「…これは照明弾の光にも見えるな。いや待ってくれ、何か黒い物体が見えないかい?』」

『「あぁ俺にも見える。ますます確認しなくちゃいけないな…行くぞ』」

亡霊が積むJ79-GE(IHI)-17エンジンが唸る音はM4達の耳にも聞こえた。

そして空がオレンジ色の光に染まっているのも彼女達の目に入った。そして空の一部がオレンジ色の光に染まっているのも彼女達の目に入った。

「…M4、あの光は照明弾に見えるが誰が撃ったんだ?」

「SOPやバトーさん達…でしょうか。しかし何のために」

「いや、あいつらは撃ってないと思う。光っているのが基地の真上じゃなくて少し後ろにずれているからな」

「でもあの位置に味方はいないはずです。みんなそれぞれ指定されたLZにもう到着するはずなのに…」

「分からんが鉄血が使った可能性もある…しかし奴らこれまでそんなものは使ってこなかったんだがな」

話していると呼び出し音が鳴った。

 

『…爆撃機、ですか』

『そうだ、ステルス性を持ち大量の物体を搭載可能な兵器は現段階では爆撃機しかない。…信じ難い話だが』

『爆撃機をどうにかしないといけないですね…』

『そこは俺たちの仕事だ。ヘリはどうなっている?』

『3機ともLZまで3分といったところです』

『了解した』

通信を切り目の前を見るとそこは目的地である基地だった。少し安堵するとM4の耳に彼女を呼ぶ声が聞えた。その声がした場所を探していると手を振っている2人が目に入った。

バトーとSOPが屋上にいることを確認したM4は武器を持つ手が強く握りすぎたことに気が付いた。ほんの少し力を抜き基地の中に入ろうとすると呼び出し音が鳴った

『待ってくれ、ドアに細工を施してあるんだ。』

解除されるまでの間、M4は他の部隊との連絡をしなくてはいけないことに気づいた

『こちらはM4です。今から重要な報告があります。』

M4はこれまでホークアイと話したことを伝えた。そして交戦はなるべく避けやむを得ず交戦する時も止まって行うのではなくその場から離れるように引き撃ちを守って交戦して欲しいことを伝えた

『報告は以上になります。次に皆さんの現在位置と状況の報告をお願いします』

『こちら川崎、LZまであと2km。李指揮官の部隊と合流しました』

『そういうわけです。こちらはスオミ、どうにか敵と交戦せずにここまで来られました。それといいニュースです。李指揮官の意識が回復しました。指揮官に交代しましょうか?』

『よろしくお願い』

了解、とスオミが言うとガサゴソと音が聞え、男の声が聞こえてくる

『M4、李だ。頭が割れるように痛ぇが何とか無事だ。と言ってもついさっき起きたばかりなんでな。状況はスオミに教えてもらったが指揮を執れるような状況じゃない、おまけに人形におぶってもらっているとはいえ足の折れた新人と一緒だ。2kmだがまだ時間がかかるとは思う。』

『こちらはギソーニ、あともう少しでLZに到着する。運のいいことにあれから一度も交戦していない。』

『分かりました。繰り返し伝えますが交戦は避けるようにお願いします。とにかく足を止めないことを意識してLZまで移動してください』

通信を切ると、目の前にある扉からノックする音が聞えた。どうやらバトーが罠の解除を済ませたようだ

「待たせたな」

「…お二人は」

「無事だ。何とかな。あのスホーイがいなければやばかったが…」

「少佐はどうなんです?」

「…死んではいない」

「そこまでマズい状況ですか」

「とりあえず来てくれ」

そう言うとバトーは手を振り案内し始めた。どうやら少佐たちがデストロイヤーと戦闘した司令室に行くようだ

「少佐はこの中にいる」

ドアを開けてもらうと目の前に見えたのは誰かの上着をかぶせられ仰向けに寝ている少佐の姿だった

「…少佐、私です。M4A1です」

しかし彼女は何も答えてくれない

「この上着は…」

「俺がかけたんだ」

「これをどけても?」

「いいぜ。…ただし覚悟しておけよ」

M4が上着をどかすとそこにはおびただしい数の“棘”としか言いようのない何かが刺さっていた。そして彼女の腕は両方とも無くなっておりよく見ると彼女の体から血がにじみ出ていた

「両腕の欠損に大量出血ですか…これは酷い」

「これでもSOPと俺が持っているサバイバルキットに人工皮膚用の止血剤やら人工皮膚膜使って止血は出来たんだ。だがこの出血量はいくら全身義体化とはいえマズい」

「実際、意識がもうないみたいです」

「あぁ…だがこれ以上は俺たちじゃどうしようもない。後はヘリが来るのを待つしかないんだ…」

「…ちょっと待ってください。デストロイヤーはどうしたんですか?」

「ん、俺が少佐の応急処置をしている時にはモニターの前でくたばっていたはずだが…」

バトーは視線をモニターの方に向けるがそこには何も存在していなかった。たちまち彼の眉間にしわが寄る

「くそっ、まだ生きてたか。何処に行きやがった…そもそも動けるような体じゃなかったはずだ」

彼が見たデストロイヤーの姿は右足と右手首を欠損した状態だった。

そんな体で動けるのは不可能だ、だからバトーは今までデストロイヤーの存在を気にかけていなかったのである。

『SOP、俺だ。デストロイヤーが逃げた可能性がある。至急基地内を捜索してくれ。俺も探しに行く』

通信を終えるとバトーはM4の方を向いた

「悪いが少佐を頼んだ。お前の部隊の部下も2人ほど借りるぞ」

「その必要はない」

突如、彼らの後方から聞き覚えのある幼い女の声が聞えた。聞く者を苛立たせるその声を忘れるわけがない。無意識の内に銃を握り後ろを振り向くとトリガーにかかる力がさらに強まった

「…デストロイヤー」

「お前、何処から…いやそんなことはどうでもいい。芋虫のように這いずり回って逃げようと思ったのか?馬鹿な野郎だ…」

バトーはセブロの銃口をゆっくりと真下にいるデストロイヤーの頭に向ける。引き金を引けば間違いなくとどめを刺すことが出来るだろう

「待て」

「なんだ命乞いか、もう遅いぜ」

『そうじゃない、待てと言っているんだ。』

「何…!こいつ電脳通信を…俺の脳に侵入しやがった!」

『M4、私だ。こんな姿だが草薙素子だ』

「私にも通信が…自分が草薙素子だって」

「少佐だと…だが俺たちの電脳通信のパスを知ってるのはグリフィンの人間ぐらいしかいねぇ、それにグリフィンの人間じゃない俺のパスなんざ限られた人間しかいないはずだ。…確証が欲しい」

一瞬考えこむ表情を見せ、真顔になったと思うとデストロイヤーが口を開いた

「…タチコマだ」

その言葉にM4は聞き覚えがなかった。彼女がバトーを見ると表情一つも変えず黙り込んだままだった。

「…お前が飼っていたのはバセット・ハウンド…名前はガブリエルだったか。」

「驚いたな、コイツは間違いなく少佐だ。9課の人間しか知らねぇことを知ってやがる」

「しかしバトーさんの頭の中を覗かれた可能性があります」

「いや、覗かれた時の特有の違和感がなかった。…信じがたいがこのデストロイヤーは少佐としか思えん」

「…説明させてもらってもいいか?」

デストロイヤー…否、草薙素子が口を開いた

「…端的に言おう。今の私は電脳錠を経由してこいつにダイブし無理やり動かしている状態だ」

「じゃああそこで上着をかけられているのは…」

「抜け殻のようなものだ。しかしダイブした私は永遠とこいつの頭の中にいられるわけじゃない。義体のエネルギーが切れて電脳が腐れば私も死ぬ。そこでだ私の体を死なせないために一つの方法を思いついた」

そう言うと素子は服と肌の隙間から一本の細いチューブを取り出した

「オイルで動く鉄血兵とは異なりハイエンドモデルは人工血液で動いているらしい。人工血液ってのはある目的のためにそう種類は多くない」

「ある目的…輸血か」

「そうだ、このチューブを使ってこの体と私の体で輸血を行う。」

「ちょっと待てよ。得体の知れない鉄血の血を使うよりも俺の血液を使え。同じ種類のはずだ」

「気持ちはありがたいが義体、特にお前のような義体から輸血してもらうにはここにある道具じゃ無理だ。…やるしかない」

素子はチューブをM4に渡しそこでM4のインカムに通信が入った。

『こちらヘルメス、LZに到着。これより着陸態勢に入る』

『了解』

『ヌート、テュールは人足先にLZに到着して現在、隊員を乗車させているところだ。もうすぐ帰れるぜ』

『了解、ヘルメスさん。最後まで気を抜かないようにお願いします』

通信を切ると素子はM4は素子からチューブをに渡されバトーにこの体を自身の体に近づけるように頼んだ

「今からやるのはおおよそまともな輸血とは言い難い荒療治だ。…では説明するぞ。」

「まず。M4は私の右手に巻かれている布切れを取ってくれ。そうすると血が噴き出すはずだから切断面にこのチューブをねじ込むんだ。それと同じタイミングでバトーは私の体に止血処置を施したところを取り除いてくれ。そして露出した切断面にチューブのもう片方をねじ込む。これだけだ、理解したか?」

「…了解」

「分かった。だがよ、こいつは激痛なんてもんじゃねぇぞ。ハイエンドモデルに痛覚があるのかは分からないが…」

「覚悟は出来ている。ただ」

「何だ」

「バトー、お前ハンカチ持ってるか?」

「持っている」

「すまないがそれを畳んでくれないか」

「…お前のやりたいことは分かった」

そう言うと素子は口を開けたのでバトーは畳んだハンカチを挟んであげた

「行くぞM4、準備はいいか」

「いつでも出来ます。少佐、行きますよ」

頷いたのを合図にM4は手首に巻かれた布切れをほどき、バトーはナイフを使い治療した箇所に切れ込みを入れた。瞬間、両方の体から血が噴き出しM4は一瞬ひるむが意を決してチューブを切断面にねじ込む。途端に素子からくぐもった声が聞こえてくる。それを気にしながら深く、深くねじ込んでいく。チューブがニュルニュルと人工筋肉をかき分けて入る感触に若干の嫌悪感を覚えながらもある地点でチューブから血液が飛び出るようになった。そしてチューブの先端をバトーに渡す。彼は表情を一つも変えることなく確実にチューブを切断面に挿入し人工血液がデストロイヤーから素子へ滞りなく送られるようになった。

切断面を露出させチューブを挿入しもう片方を渡す。文章に表せばたったそれだけの動作であるのにM4は思わず座り込んだしまった。

「大丈夫か?」

「平気です、ただ少し力を入れすぎちゃって…」

「お前の表情凄かったぞ、このまま少佐を殺すんじゃないかと思うほど鬼気迫るものがあった」

「…人がまさに死にかけているのによくそんなジョークが言えるな」

息も絶え絶えの状態で素子はハンカチをバトーに向けて投げた。ハンカチには歯型がくっきりと付いており彼女の顔を見ると少しやつれているようにも見えた。

「こっちの体の血液が少なくなっていくのを感じる、輸血はなんとか成功したみたいだな…」

「基地に戻るまでは持ちそうだな。さてと、あとはヘリに乗るだけだ。少佐を丁重に運ぶぞM4。…そうだSOPを呼び戻さねぇとな」

バトーがSOPを呼び出す間、M4は自分の部隊の仲間を集め、仲間たちにデストロイヤーの体と素子の義体を運ばせるように指示を出した。それぞれの頭と足を持ち運ぶ準備が整うとSOPが部屋の中に入ってくる

「…M4!バトーさん!どうしたのこんな血だらけで!」

SOPに言われ自分の体を見てみると服にべったりと人工血液がついていた。もしやと思い顔をグローブで拭ってみるとやはりグローブに付着した。よく見るとバトーもまた至る所に付着していた。

事情を知らないSOPから見ればM4やバトーが倒した筈のデストロイヤーによって傷つけられたと見てしまうだろう。M4はこの誤解は早く解くべきだろうと思い軽く説明した

「じゃあ後は帰るだけか…」

「そう、だけど私は一度自分の体の中に入るわ。輸血でエネルギーを補充しているとはいえ。消費はできる限り抑えておきたいから…」

そういい終わるとデストロイヤーは糸が切れた人形のようになった。

「では皆さん、屋上に行きましょう」

そう時間もかからずにLZに到着した一同はヘリコプターに乗り込んだ。素子を床に置きデストロイヤーを座席の上に乗せ重力に任せ血液が安定して送られるようにした。チューブの根本を掴み、量を調整しつつM4は他に部隊に連絡をするために通信機を操作した

『こちらM4、現在我々はヘリコプターに乗りホットゾーンを離脱します。皆さんはどうですか?』

『こちら李、俺たちもヘリに乗った。川崎指揮官もちゃんと乗ったぜ』

『ギソーニだ。今、LZに到着しこれからヘリに乗るところだ』

『了解、あともう少しです。必ず全員で帰還しましょう』

通信を切るとエンジンやローターが回る音が聞えた。もうすぐ離陸するとヘルメスが知らせてくれた。

(少佐も今の所は無事、とはいえトグサさんの部隊の人形は2人が本体までも破壊されてしまった…全員を守ることは出来なかった…)

それでも破壊されたのはジュピターによる砲撃という完全予想外の攻撃であり、それを考慮にして動けば何も出来ないことはM4も理解している。そして破壊された人形は基地に帰りメンタルモデルを新たな素体にインストールすれば復活することも理解している。しかしM4はそれには懐疑的な目で見ていた。メンタルモデルはPCのように常にバックアップが取られているわけではない。衛星をリンクして基地のコンピューターへ保存される方法が提案されることもあったがIOPはデータがハッキングされることを恐れ基地内のオフラインのコンピューターのみ保存を行うという極めてアナクロな方法を提案しそれは採用された。

つまり復活した戦術人形はこの戦いで得られたデータを備わっていない。それをかつてコミュニケーションを取った人形と同じと見なすことはM4にとって強烈な違和感を覚えるものだった。

しかしそう考えるのはごく少数であり多くの人形、人間は“復活”と捉えコピーされた一種のクローンと捉えていない。だから時々、AR小隊のメンバーはバックアップを取ることが出来ないということに恐怖と同時にありがたさを感じる時がある。

(もしも姉さんが死んだとして、バックアップしたメンタルを載せた人形が私を妹扱いした時、私はそれを姉さんと呼ぶことが出来るのだろうか…)

とそんな思考をしている自分にまだ基地に着いたわけでもないのに戦闘と関係ないことを考えている場合ではないと呆れ、首を振りまだここが戦場であることを自覚しろと電脳に命令した。

チューブを握る力を調整しながら窓の外にヘリコプターが飛んでいるのが見えた、反対側の窓にも同じものが見えたので恐らく合流を果たしたのだろう。そういえば例の爆撃機がどうなったのかと思いM4はホークアイに連絡を取ることにしたその時、SOPが突然叫んだ

「上から何か来る!」

「上って何だ!?」

M16は扉から身を乗り出し上を見ると確かに人型の形をした何かが見えた。全体的に茶色く、戦術人形とは異なり全身を装甲で覆われたそれはほんの少し前にM16も見たものだった

「あれはEagesかよ!畜生、何でこんな所に」

Eagesはその言葉に反応するかのように動き出しそのカメラアイがM16を捉えた。だがそれを彼女は気にも留めなかった。なぜならばその上にも何体ものEagesが見えたからだ

「おいおい冗談きついぞ。よりにもよってこんなタイミングで投下された鉄血兵とかち合うのかよ」

「ドアガンじゃ上空の敵はやれない!私がやる!誰か足抑えていて!」

そういうとSOPは床に寝ころび上半身の一部を機外へ出したので慌ててM4が足をしっかりと握る

「…よし、この榴弾で」

銃を構えたEagesに攻撃しようとSOPは照準を定めるが、その銃口の先にはローターがありこれでは攻撃は不可能だ。しかし無情にも敵はヘリコプターに向けて引き金を引こうと指に力を入れた。万事休す。だがその時、突如として眩い光が見えたかと思うとEagesは消えてしまった。

まさか、攻撃もせずそのまま落下したのかと考えるがM4が地面の方を見ても何もいない

そして上空が明るくなったと思い顔をあげるともう一体いたはずのEagesが消えていた。

さらにもう一度光るともう一体が消えた。なんだこの状況は、M4はただ困惑していた。光の後には少し焦げのような匂いを残しそこにいたはずの敵が最初からいなかったように消えてしまった。敵はワープしてしまったのではないかと非現実的な考えが浮かび上がるほどに不思議な現状を目の当たりにしていた。ただその状況に呆然としているとインカムに呼び出し音が聞えた。

『こちらホークアイ、勝手ながら援護させてもらった。我々は今、君たちの近くに来ている』

そう言えば遠くから轟音が聞える。そう思いコクピットの窓を見ると遠くに双尾翼の戦闘機がこちらを向って飛んでいるのが見えた。そして目を凝らして戦闘機を観察するとお皿のようなものが乗っている

「野郎、ぶつかるつもりか!?」

ヘルメスがスティックを握り回避行動をとろうとすると前方の戦闘機は右に傾き腹を見せ下降しながら向きを180度変え双発ノズルを見せた。

『部下が君たちのヘリの援護を行う。周囲を見渡してみろ』

M4が見渡すと他のヘリの近くに多種多様な戦闘機がそれぞれ付いていた。ヘリが戦闘機に囲まれているという異様な光景であったが

『M4A1、状況はどうだ?』

『よくはありませんね、負傷者多数。内数名は重症です』

『…それならば我々の基地に来ないか?君たちの基地よりも近くにある』

『しかし…』

『信用できないのは十分承知している。だが我々はグリフィンと手を結んだ組織だ。我々の基地は君たちに劣らない医療施設を有している。どうだ、来てくれないか?』

M4は考えた、確かにいきなり現われ戦闘機で支援を行うというこれまで目にしたこともない組織をそう簡単には信用できない。そんな組織が存在していたこともましてやグリフィンと手を結んだことも知らない。だが仮に我々を罠にはめ抹殺することが目的なのであればその戦闘機の対地攻撃によって速攻終わらせてしまえばいい話である。それに仮に敵対組織であれば我々を護衛するという目的でグリフィンの基地までついていき基地を破壊するほうが良いだろう。そうもせず我々を助け、自分達の組織の基地に案内するというのは果たして敵対組織がすることだろうか?M4は確証を得たわけではない。しかし重傷者が多い現状、敵対組織が取り得る行動ではないということを合わせて判断し、信頼してもいいのではないかという結論に至った。

『分かりました。貴方方を信用します。基地までの案内をお願い致します。』

『了解した。ではエスコートさせていただく』

 

 



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Mission14.骨董品の舞う空~タカの目~

ど~も恵美押勝です。もうこの小説を投稿してから3年が経つんですね。早いもんですわ
これからも頑張って投稿しますので応援よろしくお願いします。それでは本編をどうぞ!


『…なるほど、お前達は今“スカンダ・インターナショナル”の基地に保護されているという状況なんだな』

『はい、基地…といえば基地なのですが。クルーガーさんはこの組織については知っていたのですか?』

『…うむ、我々は対空戦力に欠けていた。といっても戦術人形を開発するIOP社と提携していれば当たり前の話ではあるがな。故に我々は航空兵器を主として取り扱っているスカンダ・インターナショナルと結ぶことにした。』

『しかしPMC同士の提携とは条約に触れる恐れがあるのでは…』

『確かにお前の言う通りだ。だがそれに関してはお前が気にすることではない』

『つまり、言えないということですね』

『どう捉えるかはお前の自由だ。ともかくご苦労だった…報告などはヘリアンにするように。以上だ』

通信端末を切るとノックの音が聞えた。入るように促すと見知らぬ男性と、女性が入ってきた

「君がM4A1だな」

「そうですけど…失礼ですが貴方は?」

「ホークアイだ」

「貴方がホークアイでしたか、そちらの方は?」

「初めまして、私はクオリアと申します」

「こちらこそ初めまして。それで私になにか用ですか?」

「あぁ、これからグリフィンと我々スカンダを混ぜてちょっとした会議を行うことになってね。会議室まで案内しろと言われたものだから…」

「会議ですか」

「今回の作戦について話しておくべきことが山ほどあるからな、それに見せたいものがある」

「…分かりました。会議に参加させていただきます。」

「案内しよう。ついてきてくれ」

扉から出て殺風景な通路を歩きながらM4はホークアイに尋ねる

「指揮官の容態は大丈夫なのでしょうか?」

「それに関しては俺らは何も知らない。俺達が着陸したころには君たちはもう降りていたからな」

「そうですか…」

「心配しないでください。ここには最先端医療が備わっています、戦術人形を治すための工廠もここにはありますからお仲間さんもすぐに直してくれますよ」

「クオリアさん…」

M4は素子の無事を願い、歩き続ける。ふとホークアイの顔を見ると気になる物があった

顔を合わせた時にはじろじろと見てはいなかったがこうして再び見てみると左目に眼帯のようなものが付いているのだ

「どうしたそんなに俺の顔を見て…あぁ、そうかそりゃ気になるよな」

「申し訳ありません、初対面の人の顔をじろじろ見るだなんて…」

「いや構わない。気になるのも仕方ない…もっともこれのおかげで君たちは助かったと言うべきだな」

「ではそれは一体…」

「丁度いい、会議までまた少し余裕があるから少し寄り道しよう」

そういうとホークアイは階段を降りるように促し降りてみるとここまで歩いた通路とは少し違う匂いが鼻腔端子をくすぐり顔を上げてみると多種多様な戦闘機が目に入った。そしてその中にはあの時ヘリコプターに向かってきたお皿付きの戦闘機がいた

「あの戦闘機が気になりますか?」

「えぇ、あれはレドームと言うんでしたっけ?しかし翼の下にもミサイル…には見えないものが付いているのですが」

「あれは私達が搭乗するF-14D改、通称スーパートムキャットと言います」

「トムキャット…私も名前は聞いたことがあります。アメリカにおいて戦闘機の代表的な存在だとか。しかしそれはレドームはついていなかったような…」

「そうだ、こいつはAWACSとしての役割が求められているのさ。F-14は従来の戦闘機と比べるとレーダーの範囲が広くてな実際イランじゃミニAWACSとして使われていた時代もあったらしい。だが素のトムだと戦場で運用するには性能が足りないということで付け加えられたのがこのレドームだ」

「…ではあの両翼の下にある筒状のものは?」

「こいつは、超長距離中型光学加速兵装。まぁ平たく言えばレーザーガンだな。君たちのヘリが攻撃を受けそうな所を援護したのはこいつだ」

「そんなものを積んでいるのですか…しかしこんな兵器を搭載した戦闘機、聞いたこともありませんが」

「そりゃそうだ。このスーパートムキャットはスカンダ独自の改造しか加えていない正真正銘のワンオフ機だからな。」

「自衛が出来るAWACS、それがこのスーパートムキャットのコンセプトです」

さらに彼女が言うにはこの機体は万が一鉄血が独自の航空兵器を保持した際、そのデータを記録し持ち帰る機体が求められたことが発端でありその機体は人間の常識が通用しない存在に対して対処するために機動力と攻撃力を並立させることを求められた。しかし新しい戦闘機を一から作るのは困難なことでありスカンダはあくまでもPMCで潤沢な資金はない。

そこで従来の戦闘機を改造することが決定されその結果このスーパートムキャットが出来たという

「ではレーザーガンというのは…?」

「敵はなるべくこちらに接近しないうちに仕留めたいだろ?こいつも元々はそういう風に設計されていたわけなんだが大戦でバカスカ核を使うもんだから大分マシになったとは言えEMPが酷い。中近距離のミサイルは当たるんだが遠距離になるとまるで当たらない。ロックは出来てもミサイルの回路が狂っちまうんだ」

「だからレーザーを使ったと、WW3以降、超遠距離から攻撃出来る兵器は光学兵器に頼る必要があった…確かに正規軍の兵器には光学兵器を採用しているのもあると聞いています」

「そうだ。しかし現在の光学兵器は一度発射されると一定時間放射され続けるんだがこいつは放射は一瞬で終わり実弾兵器と同じ感覚で攻撃が行える。」

「しかし現在の技術ではその技能を搭載するのにはこのサイズが精一杯でした。小型化が進んだ現代の戦闘機ではこれを搭載するとバランスが乱れる心配があり戦闘機としては少し大型のF‐14が改造元として採用されたのはこのこともありました。完成したはいいのですが運用するにはおおよそ戦闘機では行わない遠距離からの無誘導による攻撃…つまり狙撃が行う必要がありそれはこれまで戦闘機パイロットが経験したことのない戦いを強いられることになります」

「そこで活躍するのが俺、特に俺のこの右目というわけだ」

そういうとホークアイの眼帯のような右目が展開しレンズが伸び出てきた。ホークアイが話すには電脳をCADC(セントラル・エア・データ・コンピュータ)とガンカメラに接続する。そして自身の目にはガンカメラの映像と共にレーダーが捕らえた物体が赤色の線をした“□”として映る。

「そしてCADCのデータを元に機首の角度やスピードといったのをクオリアに伝え修正を重ねて目標に向けて発射する。というような流れだがこの一連の流れを可能にしているのが俺の目、“タカの目”だ。」

そう言うと彼は“タカの目”のレンズを収納しカバーを閉じた

「俺は元狙撃手でこの目を使って仕事をしてきたんだが職場が国ごと無くなった所をスカンダに拾ってもらったというわけだ。」

まぁ俺もまさか戦闘機に乗って狙撃を任されるなんて夢にも思わなかったがな、と笑うようにつぶやくと彼は歩き出した。格納庫を出る前に様々な戦闘機を見てそのたびにホークアイとクオリアが簡単な説明をしてくれたがM4は戦闘機に関しての知識はからっきしでありまた興味も無かったため彼らの説明がその電脳にはあまり残らなかった。

そして格納庫を出てしばらく歩くとホークアイが立ち止まり扉を開けた。中に入るように促され入室するとそこは会議室であった。テーブルの周りに座っている人間を見渡すとバトーや李、川崎といった指揮官たちやパイロットスーツを着た人間が椅子に座っていた。座席を見ると3席しか残っていない、どうやらM4達は最後に来たようだ。

「これで全員出席したようだな」

そう言うと銀髪の女性が立ち上がりホワイトボードの前に立ち、2人のパイロットスーツを着た人間を見ると人差し指をクイクイと動かし呼んだ。

「グリフィンの諸君、初めまして。アタシがスカンダ・インターナショナルの第一戦術飛行部隊“ウォー・ミュージアム”の司令官のヴァルキリーだ。こうして集めたのには諸君らに話したいこと、そして見せたいものがあるからだ。まぁテーブルにおいてある紅茶でも飲みながらゆっくりと話をしよう」

そういうとヴァルキリーはティーポットを傾けカップへと注いだ、途端に紅茶の良い香りがM4の鼻腔端子をくすぐる。自室で飲むような安物でもなくスプリングフィールドで飲むものよりも良い香りがするのは天然の茶葉を使っているのだろう。合成の食材が並ぶ現在において天然物は高級品だ。それを惜しみなく外部の人間や部下に振舞うのは我々との財力の違いをアピールしてイニシアチブを取るためなのだろうか、とM4は訝しんだが我ながら随分と捻くれた考えをするようになった思い目の前に置かれたもう一つのティーポットに手を取り紅茶を入れた。

「さて、我々スカンダ・インターナショナル、スカンダとはヒンドゥー教における軍神のおとであり仏教では韋駄天と呼ばれる。我々は、表向きは戦争博物館を運営する会社として2度の大戦やそれ以降に作られた兵器の展示をしているが…実際はグリフィンの諸君が見たように改装して実戦に使えるようにしている。いくらPMCといえど戦闘機の保持はそう簡単には認められんし正規軍の連中に目を付けられると面倒だからな。まぁ仮に正規軍の連中に目を付けられてもこんなベトナム戦争の頃に作られたような骨董品中の骨董品を脅威とは見なさんだろうが…」

ヴァルキリーが紅茶を飲むとプロジェクターの電源が入りいくつかの戦闘機の写真が映った。これが“ウォー・ミュージアム”の保有する戦闘機のようだ

・F‐14D改

・RF4EJ

・A‐4

・F‐5

・Su-22

「さて、こんなところでアタシらの紹介を終えようかね。さて、ここからが本題だ。シュペルター、オージェ。例のものを」

そう呼ばれた2人は彼女からリモコンを受け取るとプロジェクターの前に立ち3枚の写真を写した。航空機の上部らしいものが見えていたが引きからの写真ではっきりとしたことは分からない。最後の一枚は全体が灰色で染まっておりどのような写真か判別が不可能だ

「初めまして、RF4EJのフライトオフィサのオージェです。この写真は私達の機体のカメラが映したものです」

「キャプテンのシュペルターだ。映っているのは爆撃機と見られるがもっと鮮明なものを撮ろうとして高度を下げると向こうが急に高度を上げてきた。こっちが避けて姿勢を立て直したころには奴は戦闘空域を離脱していた。」

「その時に撮ったのがこの3枚目の写真です。ですがとてもじゃないがこれは使い物にはならない。なのでこの1、2枚目で判別する必要があるのですが…グリフィンの皆様はどう思われますか?」

そう言われて写真をよく見てみるがM4には皆目見当がつかない。分かるのはこれが飛行機の形をしているということだけだ。だが飛行機にしてはまるで三角形のような形している珍しい形の飛行機だと思った

「こいつは恐らくTu‐22Mじゃねぇか?」

発言したのはバトーだった。

「あの翼は明らかに可変翼だ。爆撃機でその機能を搭載してるのはアメリカのB‐1かロシアのTu‐160か22ぐらいだが写真を見る限りこの爆撃機はかなり角ばったデザインをしている。そうなるとTu‐22ぐらいしか思いつかねぇぜ。ランサーとブラックジャックは機首から翼にかけて滑らかな線でデザインされているからな」

「確かバトーさん、でしたか。おっしゃる通り我々もこの写真に写る爆撃機はバックファイアと睨んでいます。」

「だが連中は何だってロシアの爆撃機を使ってるのか分からんのだ。特にこいつは体形してからもう何年も経っている代物だ。多くは軍が持っているし、ウクライナの航空博物館で3台ほど展示していたらしいがその博物館は42年の内戦で破壊されちまった。これだけ入手困難な爆撃機が何故、鉄血が使っているのか。」

「爆撃機なんて戦闘機よりも入手は難しいだろ?どうなんだ司令官さんよ?」

「確かに難易度だけなら爆撃機の方に軍配が上がる。当然その維持費も馬鹿にならん。私達が戦闘機だけでちゃんとしたAWACSを保持していないのにもそういう理由がある」

そして次の問題ですが、と言いながらオージェがプロジェクターに別の写真を投影した。

「これは離脱する時に撮影したものを拡大、鮮明化したものになります。我々を追跡中のAegisと見られますが、これに関してはスカイホークが撃破しました。問題なのはコイツには通常のものには見られないパーツが付いているのです。」

次にさらに拡大、鮮明化した写真が投影された。そこにはAegisの背中にコブのようなものが付いているのがM4は気になった

「まだ残骸を回収出来ていないのではっきりとしたことは分かっていませんがグリフィンのヘリが襲われた時に落下中の敵にプロペラのような十字状のパーツが付いているのが見えたとAWACSから報告が来ています。それのおかげか落下スピードがゆっくりで狙いやすかったとか・・・」

「まるでMk82の高抵抗フィンのようなものが付いてやがる。平たく言えば落下傘が付いているんだからな、そりゃ爆撃機から落下されても無傷で着地して戦闘が出来るわけだ」

「つまり鉄血は空挺使用に自身の兵器を改造した、そういうことですかオージェさん」

「その可能性は高いと思われます」

「だが妙なことが一つある。」

「妙なこととは何ですか?ヴァルキリーさん」

「元々Aegisは正規軍が作った兵器だ。それを強奪したのが鉄血のなんだが・・・最近、正規軍が一部の機体を対象とした改造計画を立案していることが報告された」

まさか、とM4は考えた

「お嬢ちゃんの想像通りだ。連中、空挺使用に改造することを計画しているのさ」

「まさか、また盗まれたのでは」

「いや、正規軍は現在、空戦に力を入れていない。この計画もまだ立案されたにすぎず具体化はしていないのが現状のはずだ。」

「しかし現実には空挺使用が運用されている…それも航空戦力を保持していなかったはずの鉄血で。おかしいとは思いませんか、ヴァルキリーさん。何故莫大な費用、入手困難な一昔前の爆撃機を鉄血は保持しさらには正規軍が構想段階でしかない空挺使用のAegisを持っているのか…まさか正規軍と鉄血の間には何らかの接点があるのではないでしょうか」

「アンタの考えていることはクレイジーそのものだ。世間一般からすれば陰謀論として唾棄されるものだろう。だが」

「だが?」

「正規軍が本腰を入れずに鉄血を排除せず一PMCに一任しているのもアンタの仮説が正しければ納得がいく。奴らの物量、そして兵器をもってすれば少数精鋭の

鉄血なんて半日もせずとも崩壊するはずだ。それをしないってのは何等かの理由があるってわけだ」

「…しかし仮に繋がっているのであれば正規軍には何の得が。」

「正規軍をもってしても抑えられない“何か”があり、その“何か”から自分達の身を守るために、あるいはグリフィンと鉄血の戦いは正規軍にとって自分達の兵器の実験場にすぎず、新兵器テストのために互いの利益になるように密約を交わした、もしくは最初から繋がっているなどはなく鉄血が保持しているAIについてのデータの中に連中にとって喉から手が出るほど欲しいものがあり、それを見つけることが出来るのはグリフィン及びIOPの人間だけであるため一任しているのか。はたまた今あげているのとは別の理由か、それとも全部か。正規軍は沢山の派閥から成り立ってる。思想が統一されている軍隊じゃないのさ」

いずれにしても、とヴァルキリーは話を続ける

「鉄血が航空戦力を保持した今、懸念すべきは“核攻撃”だ。確かにEMPの影響で精確な核攻撃は不可能となり崩壊液の存在は核の恐怖を無きものとしてしまった。だがその破壊力が無くなったわけではない。連中が爆撃機に核を搭載し生き残った都市に投下しないと誰が断言出来ようか。フィクションのようだった鉄血は着実に人類の存続を脅かそうとしている。もはや人類が無視していい存在ではない。だからこそ鉄血は討たなきゃいけない。我々、“ウォー・ミュージアム”とグリフィンの手によって」

彼女は興奮気味に話し終わると紅茶をもう一杯飲むためにティーポットに手を伸ばした。

M4もおかわりをしようと手を伸ばすと天井にあるスピーカーからノイズ音が聞こえ手が止まった

『…S09地区戦線基地の皆様、まもなく目的地に“到着”いたします』

「やれやれもう着いちまったかい。聞いての通りだ、当基地…いや“当艦”はもうすぐでアンタらの基地に到着する予定だ。ホークアイ、ちゃんと基地の人間にアタシらが来ることは伝えんだろうね」

「伝えましたよ。…向こうは俺を変人扱いしてきましたが」

ホークアイが淡々と話しているとM4の通信機からコール音が鳴った

「失礼します」

応答すると甲高い女性の叫び声が耳に入った。慌ててインカムを耳から離し、近づける

「カリーナさん、どうしました?」

「え、M4A1さん!い、今基地に何か大きいものが接近してます!何かに長い板が付いていてまるで“空母”みたいです!!」

2062年、某月某日、『地上空母ガイア』はS09地区戦線基地に到着した。その巨体が近づくのをカリーナは何度も頬をつねって見ていた

 

 



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