憑依物語 (そりゃないわ)
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プロローグ的な話

「おい!早く逃げるぞ!」

「良いか!?俺達が逃げ切るまで時間を稼げよ!」

 

身体中に激痛が走るなか、僕の耳に奴らの声が辛うじて聞こえた

 

「ぐ····ぅあ」

 

肋骨をやってしまったのか叫ぼうとしても出るのは僅かばかりの呻き声と、胸に走る激痛

 

「····ぐ····そぉ·····」

 

「突き落とされて」ろくに受身も取れずに背を打った為か肺を圧迫したらしいのか呼吸すら余り取れなかった。

 

しかし不幸中の幸いなのか両足は無事····とまではいかないが打撲程度ですんでいる·····と思う。

 

おかしいぐらいに冷静な自分に呆れながらも、僕は痛む身体を我慢しつつ前にへと顔を向けた。

 

『ギャッギャッ!!』

『グギャギャ!!』

 

濃い緑色の皮膚を持ち、体型は僕ら人族に似ているものの、その顔は醜くしわくちゃになっておりギョロリとした双眸からはギラギラと獲物を追い詰める獣と同じそれを感じる。

 

 

───所謂ゴブリンと言うこの世界ではありふれた魔物、それが18体と言う群れでこちらに足を走らせていた

 

「·······」

 

 

 

万年Eランクの自分では最早どうにもならない

 

 

身に降りかかる理不尽、絶望、しかし何故か怒りも憎悪も殺意も感じない、代わりに「やはりこうなったか」と諦めの感情

 

「·····」

 

自分と言う「無能」が命を散らすまで残り20秒辺りを過ぎた辺りで倒れ伏す少年は目を閉じ今までを思い出す。

走馬灯とも言うべきなのか過去の映像が次々と頭をよぎっていく。

 

「·····」

 

 

───僕が死んだらどうなるんだろう

 

 

 

─────ドドドド···!····!

 

 

様々な思い出が過っていく、妹は元気にしてるだろうか、アイツは今もパーティーで元気にやってるだろうか

·······でもまぁ

 

 

 

『ゲヒャヒャヒャ!!!』

『ギャヒャヒャヒャヒャ!!』

 

 

─────ドドドドドドドドドドドド!!

 

 

 

もういいか、どうせ死ぬんだし

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!

 

 

このスキルを寄越した女神様、もし生まれ変わったら少しはまともなスキルにしてくれよ?てか何なんだよ「大成の器」って全然成功も何もしてないよ

 

 

最後に呆れたようなそんな苦笑を浮かべこの身体を襲うであろう衝撃に身を任せようと力を抜いた

 

 

────スキルの発動を確認しました

 

 

 

どこか無機質な声を耳に残して僕は───

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

こうして、一人の少年の命が潰えようとしている時少年がいる世界とはまた別な世界にて、また一人の青年の命が潰えようとしていた。

 

 

大規模の都市近くにある広大な森、世間では森の中央に行くとどんな英雄だろうと、剣聖だろうと、勇者だろうと生きて帰ることは出来ないと言われていて、「帰らずの森」と物騒な名が付けられていた。

 

その森の中央に青年はいた、上下を黒い服で揃えており、また黒髪で美男子では無いが何処か野性味を感じさせるような精悍な顔立ちをしている

 

しかしその身体は今にも朽ち果てようとしていた、頭からはダラダラ血が流れ、瞳もどこか焦点があってなく、右側の脇腹は食いちぎられたのか欠けていて、やはり血が流れ出ていた、片腕は本来なら曲がってはいけない方向に曲がっており

 

しかし青年の目からは闘志を感じさせた、動くもう片方の手で剣をを離すものか、と精一杯握り締め、一切の油断なく「帰路」に付いていた。

 

青年の周りはまさに地獄絵図という言葉がピッタリの惨状だった。

 

近くの木々にべっとり付く人間とは違う血、あちらこちらに凶暴なモンスターの頭や足、どちらにせよモンスター本体はどこかしら欠損していた。

 

「あ"····ぐぃ"ぎぃ"」

 

想像を絶するような痛みに青年の口から思わず言葉にならない呻き声をあげた。

 

森の中央に待ち受けていたソレ、それは封印された魔神でもなく、古より伝わる伝説の龍でもなく

 

一つの「ゲート」、まるで城門のような大きさのソレは

 

 

「····ついて·····っねえ」

 

 

未発見迷宮ダンジョンの最深部、そして無数のモンスターが犇めく、そんな空間だった。

 

 

「こんな····こと·····だったら"アリス·····っにもきて貰うべきだったな」

 

弱々しくも一歩一歩進んでいく青年は口うるさくも面倒見がいい、幼馴染み兼魔法使いを思い浮かべやがて首を軽くふった。

 

視界が霞む、呼吸が上手く取れない、血を流しすぎたのか全身が永久凍土に裸同然で放り出されたかのように冷たくなっていくのが分かる

 

「こりゃ·····っしぬぁ」

 

そしてついに、その場に倒れてしまう、起き上がる気力すらわかない、でもそれでも起き上がろうと力を込めようとするもピクリとも動かない。

 

───せめて怪物行進(モンスターパレード)の危険性は王都に伝えないと

 

 

いくら、ダンジョン内にいた「魔物全てを殺した」っていってもゲートの壊しかたも分からない以上まだ出現する可能性は充分に有り得る。

 

もし怪物行進が起きたら·····

 

「────っ!くそがっ·····」

 

危険に晒される幼馴染みを幻視してしまい、怒りが募るがそれでも動かない身体に悪態が零れる。

 

その時、前方に気配を感じたモンスターのそれとは違う、人間のものだった、しかも一人や2人ではない、それこそ50人程恐らくここらでドンパチかましてた事が王都に伝わったのか·····

 

「(意識が····)」

 

朦朧とする意識、この苦しみから解き放たれたいとばかりに無意識に意識を手放そうとする己

 

もういいんじゃないか?

 

恐らく赴いたのは王国騎士団、しかも前線で活躍する第4騎士団ならば安全だ

 

自分が死のうとも、辺りの戦闘痕や中央まで続く自分の血痕を見て冷静な判断を下すだろう。

 

元は、自分の愚かな実力試しが始まりだが、結果的には未発見の高難易度ダンジョンによる怪物行進を防げるかも知れないのだ。強くなることしか頭にない自分にしては上出来だろうに

 

ならば······

 

『レイグ!』

 

「───────」

 

 

青年──レイグは記憶にある大切な幼馴染みの声を幻聴した

 

「(誰が、アリスを守るんだ?国か?最近やたらとアリスに言い寄る勇者か?ギルドの連中か?』

 

ふざけるな

 

「死に·····た·····な、い」

 

死ねない、まだ死ぬわけにはいかない、諦めるわけにはいかない

 

あの子が····アリスが幸せになってあの太陽のような笑みを絶えず浮かべるようになるまで

 

ここまでやって来たんだ、冒険者にして最高峰まで登り詰めた、顔も広くなった、あの子と一緒に頑張ってきたんだ

 

「(あぁ、クソ、クソクソクソ!駄目だ意識が····)」

 

こんなんじゃ死にきれない、アリスをまだ幸せにしてない

 

 

「あ······り······」

 

だが無情にもレイグの意識はそこでプツリと切れてしまった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「(·····何だ·····この感覚)」

 

レイグは自分は死んだ筈と、何故意識があるんだと状況を把握しようと顔に意識を向けようとする

 

「··········は?······」

 

思わず呆けた声がでる、レイグは口を開いてない筈なのに声が出たこと、更にはそもそも身体の感覚が無いのだ、自分の身体はここにあると認識が無いのだ

 

「(俺は、どうなっちまったんだ?)」

 

自分はどうやら流されているみたいだ、よく分からないし辺りは真っ黒で何も見えないし何も感じない

 

ただ、自分が緩やかに何処かにゆらゆらと流されているのは分かった。

 

「(─────ん?)」

 

そうしていること何分、何時間、そもそも時間が立っているのか?

 

感覚が麻痺してきたのか元から壊れていたのか分からないぐらい流されていると見えている真っ黒の空間の奥に白い粒のような光が現れた。

 

 

「(あれは─────おおおお!?)」

 

レイグがその光を認識した瞬間何かに引っ張られるような感覚をはっきり感じた。どんどん光に近付いていくのが分かる

 

白い光に突っ込む直前

 

 

 

──────異界の英雄よ、大成した者よ、新しき冒険に幸あれ

 

 

誰かにそう言われた気がした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

「ッハァ!?」

 

急遽感じる違和感、身体が重い、足に若干の痛みに胸に激痛が走る、がそれよりも

 

 

「何だ何だ!?まじでどうなってる!」

 

 

目の前には今まで腐るほど見てきたし倒してきたゴブリン、しかも数は18体と群れにしては多い。

 

「(とにかく避けねぇと!)」

 

足の痛みを無視して取り敢えず立ち上がり即座に横っ飛びしようと足を踏み込んだ。

 

「(重い!?)オラアアァァァァア!」

 

まるで重力魔法を何重にも重ねられたかのような鈍さを無視してゴブリンの突撃を回避する。

 

何回か転がり立ち上がり今度こそ自分の状態を確認した、怪我も身体の調子など先程とは比べようもないくらい軽いが足を打っているのか鈍痛が襲う

 

 

「(っ!魔力が僅かだが残ってる!これなら!)」

 

ゴブリン達はレイグを見失ったのか一斉に止まってキョロキョロしている

 

その間に魔法を発動させる

 

 

「(癒しよ!)」

 

心で念じ治癒魔法を発動させる、少し治りが悪いが取り敢えずこの場は何とかなるだろう。

 

「(てかこの身体、まじで重いな!?)」

 

悪態を付きながらも、腰に差してあったポーチにあったナイフを取り出す。

 

「ナイフは割と綺麗に手入れしてるんだな」

 

感心しつつも、口から出た自分の声とは違い高めの声に辟易しつつも取り敢えず「憑依」と言う事実を受け入れた。

 

ゴブリンはようやくレイグに気付いたのか、憤慨している様子で「グギャグギャ!!」と喚いていた。

 

が気にせずに一番近くにいるゴブリンに向けて駆ける。

一応この身体の持ち主は多少は鍛えているのか、足に負担は大して感じなかった。

 

先程諦めたような顔で自分達を這いつくばって見ていた獲物とは思えない雰囲気と予想外のスピードに気付けば懐に潜られており、首に何かが通ったような感覚を知覚した瞬間

 

───ゴブリンの意識は永遠に閉ざされた。

 

ゴブリンの一体を一瞬で仕留めたレイグは倒れ込むゴブリンの腹を思いっきり蹴り付ける、残り少ない魔力をちびっと使って僅かなブーストも忘れない。

 

『ギャ!?』

 

仲間が吹き飛んで来たのをろくに反応できずにぶつかりよろける別のゴブリン

 

レイグはゴブリンを蹴り飛ばした時にはもう行動を開始していた、よろけたゴブリンの背後に回り込むよう駆けて、その際二匹ばかりのゴブリンの喉を横一文字に掻き斬った

 

ブシュゥ!噴き出す緑色の血を横目にレイグは(やはり剣がいいな)と思いつつ、よろけたゴブリンの無防備な首筋にナイフの刃を通した。

 

そこでようやくレイグによって瞬時に4体も倒されてしまったことを周りのゴブリンは理解した。

 

一番奥にいるゴブリンが何かを喚いて逃げ出した。

 

「·······」

 

恐らくこの群れのリーダー的存在だったのだろう、残されたゴブリン達は目に見えて慌て出して、こちらを見て震えている。

 

「·····敵対するなら殺す、だがその意思が無いならどこにでも行け」

 

レイグは裏切りやそう言った行為が大の付くほど嫌いだ。それは前の身体の時の経験則から来るものだが····

 

モンスターだろうが人間だろうがそれは変わらない

 

シッシッと追い払うような仕草で判断したのだろう、残されたゴブリン達は急いで身ぐるみを取っ払ってリーダーが逃げていった方へと逃げていった。

 

「··········さて、と」

 

レイグは大きく息を吐いて、周囲の気配を探り何もいないことにやっと一息ついてその場で胡座をかいて座った

 

積もる疑問は大量にある、まず何で赤の他人であるこの身体に自分が憑依したのか。

 

何でこの身体は生きていたのに前の持ち主の意思が何処にも感じられないのか。

 

 

────異界の英雄よ、大成した者よ、新しき冒険に幸あれ

 

 

あの声の主が自分をこの身体に導いたのか。

 

何故、自分の魂がこんなにもこの身体に馴染むのか。

 

 

 

 

「──────アリス」

 

 

 

 

あれからどうなったのか、「向こう」の俺はどうなったのか

 

様々な疑問が浮かび上がるなか、幼馴染みと自分の事が一番気がかりだった。

 

同じ世界の人間に憑依したなんてそんな希望的観測に捕らわれる程あまちゃんではない、この世界の空気と元の世界の空気がまず違うのだ。まず空気中の魔素が薄いし何より

 

 

「(あの光だ、あの光を通りすぎた瞬間世界が変わった)」

 

 

この身体に憑依する直前に見た白い光、多分あれがゲートだろう

 

 

「何が「新しき冒険に幸あれ」だ、何様だ、人の魂を何だと思ってんだ。」

 

誰が望んだ?誰が媚びた?ふざけるな、だいたい持ち主も持ち主だ、この身体にあの状況だったって事は「諦めたんだ」どうしてあんな事態になってたか、分からないがせっかくの命を何だと思ってやがる。

 

 

未だ大きく疑問は残るが、当面の目標は決まった。

 

 

────持ち主の魂を探しだして、この身体を持ち主に突き返して、自分はあるべき所に戻る!

 

 

「例え、俺の行き着く先が天国だろうが地獄だろうがな」

 

 

こうしてレイグは異世界大陸「アルタナ」での活動を決めた。

 

 




後悔はしていない


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1話『大成、現状を把握する』

短いです、今後はこのぐらいの文字数になります


これからの行動方針を決めたレイグは一先ず立ち上がり改めて身体の調子を確認する。

 

「足は問題無さそうだが、魔力が回復次第もう一度かけ直した方が言いかもな」

 

言いながらチクチク痛む自身の胸元を見て、眉をしかめる

 

「本来なら骨は自然治癒に任せたいが····こうも喋る度に痛みが来るのはウザいな」

 

足より先にまず胸の方が先だな、と決めて近くの村へ行くため歩をすすめ

 

「あ·····」

 

何かを思い出したレイグは固まったまま、頭を抱えた

 

そもそも、ここどこ状態だったのだ。物語ならばこういう状況でも慌てず何やかんやで近くの町を探し当てたり、もしくは前の持ち主の記憶が受け継がれて何食わぬ顔で町に戻るのだが·····

 

「······転生すれば良かったのかな?」

 

 

レイグの呟きは木々のざわめきと胸に走った痛みに変わった。

 

 

------

 

 

取り敢えずこの山なのか森なのか分からないところから出ればどうにかなるだろうと言う楽観的意見のもと、真っ直ぐ歩き始めた。

 

ん?ゴブリンが置いていった荷物?悪臭放つ履物を掴んだ時点で残りカスと呼べる程しか残って無かった魔力使って燃やしたよ

 

綺麗にな、スッキリしたよ、んで死ぬ程後悔したよ。

 

叫びたかったけど我慢したよ胸痛かったんだもん。

 

「······(ナイフで戦うよりは····か?)」

 

途中で見かけたそれなりの大きさでそれなりの重さの木の枝を拾った、止め刺すまで木の枝を使うことにした。

 

近くの岩に座り込み先程戦闘で使ったナイフで木の枝を削り形を整える。

 

「····しかしまぁ、さっきはそれなりって評価したが改めて使うとキチンと手入れされているじゃないか」

 

何度も研き直しているのか刃渡りが恐らく20cmあったものが15cmぐらいまで減っている。

 

「しかし剥ぎ取りナイフか、この紋章の彫り···こいつ冒険者だったのか」

 

ナイフの柄の部分に盾に剣を重ねたような彫りを見つけ

恐らく冒険者ギルドの支給物だろうと当たりを付ける。

 

懐かしいな、と自分とアリスが駆け出しの頃へと思いを馳せようとして

 

「っと、思い出に浸るのはマジで後にしないと、時間が分からんがまだ昼になったばかりっぽいな」

 

太陽が丁度真上に見えたので大体そのくらいだろう予想する。

 

「····よし、いい感じに整ったな、魔力も回復したっぽいし今のうち胸治しとこ」

 

そう呟きつつ、胸に癒しの魔法を施す。

 

「っし!行きますか·····ん?冒険者?」

 

いざ再出発とばかりに意気揚々と木の枝片手に歩き始めようとして冒険者のワードを思い出す。

 

こいつ冒険者なんだよな?だったら····

 

逸る気持ちを押さえつつレイグはポーチの中を漁る、必要最低限の救急用品や携帯食料の他、目当ての物を見つける。

 

「あったあった、冒険者カード」

 

そう、それは冒険者ならば誰でも持ってはいるがその重要性は命の次くらいには大事な物である。

 

レイグの世界では、冒険者カードを持った状態で(ステータス)と念じると自分の軽い個人情報、現在の能力の数値か、所有しているスキルの概要欄、そしてなんと

 

 

 

────地図も載っているのである!

 

「頼む、ご都合主義よ!此方の世界と同じ仕様であれ!合ってくださいお願いします!

 

 

───(ステータス!)」

 

 

すると冒険者カードの上に次々と文字が並べられていく。

 

 

「アリスゥゥウウ!やったぞ!俺は勝った!勝ったゾォおお!」

 

その場に跪き、カードを崇めるかのように頭より上に持っていき、へへー、と何回も頭をペコペコする、この男どうやら前の世界にプライドを置き去りにしてきたようだ。

 

しかしレイグは確認しようとカードを眺め、そして凍り付いた。

 

「················は?」

 

 

少しの沈黙の後に、やっと出た言葉はそんな気の抜けたような呆けた声。

 

冒険者カードにはこう出ていた

 

 

 

レイグ·アーバス 16 Lv3

 

 

攻 63

 

防 40

 

早 58

 

魔功 36

 

魔防 25

 

知 81

 

skill

大成の器(異界の英雄レイグ·アーバス)

 

#常時発動しています。

補正、レベルアップ時、全ステータスに+100

 

翻訳(new)

 

#現存する言葉全てを翻訳可能

 

 

 

 

 

 

 

「俺と·····同じ名前?」

 

 

ーーーーー

 

 

「分からん」

 

少し固まったが直ぐ切り替えて、考え始めるも2分立たないうちにぶん投げた。

 

「(まぁ、大体の予想はつくが)」

 

勿論、名前が同じだけっていうふざけた予想ではない、最初は正直パニックになりかけたが、冷静になると納得だ。

 

自分の魂がこの身体に馴染み「過ぎている」、普通元は違う肉体に全く違う魂が乗り移りその支配権を得たとしても、多少は元の身体とのズレが生じる筈じゃないか?

あくまでも予想に過ぎないが。自分の魂がこの身体に移って感じた違和感は身体能力の差と魔力の量だった、しかもすぐさま修正できたし、何より他は全てこの身体に順応している。

 

それこそ、修正した時の力加減だったり、思考、歩き方、呼吸の仕方、全てが最初から順応出来ていた。

 

 

 

───まさか

 

 

 

「この世界は、元の世界と似てるのか?」

 

 

それが本当かどうか、なるべく早く近くの町か村に辿り着きたい

 




ここはこうした方がいいよ、等の指摘、アドバイスがあると嬉しいですm(_ _)m


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2話『大成、寝床を求める』

タグ増やした方が良いんかな?


あれだけ地上を明るく照らしていた太陽が、今は夕焼けに代わり暗くなる前兆を見せ始めた頃。

 

ようやくレイグはその山から抜け出せた。

 

「······やっと出られた·····」

 

どこか疲れたような声でそう言うレイグ、実はあれからカードをよく見たが、分かったのは冒険者としてのランクが最低であるEランクと言うのと、(new)と付いた魔法という項目があったと言うだけで、後は預金額等のどうでもいいのか重要なのかよく分からない事だった。

 

肝心の地図が無かったのである。

 

そこからは必死だった、幸い携帯食料はあったし、動植物はいたし食には困らないものの、水も無ければ替えの服もない

 

一日だけならギリギリ問題ないであろう。

 

しかしこの状態が続いてみろ、髭は生えるだろうし、体臭もキツくなるそれだけでもし町を見つけたとしても入らせてくれないし、警戒はされるし、冒険者カードを見せて入れたとしても待っているのは鼻を摘まんで露骨に避けられる仕打ち

 

宿屋は門前払い、八百屋に近付こうものならば、包丁を持ち鋭い目で此方を睨み付けるおっちゃんバッチャン若奥様(トラウマ)、ギルドには入れるだろうがそこでも冷たい対応

 

広場で遊んでいるだろう子供達に見つかったなら「くさい」と連呼され石やら、泥やら何でも投げつけてくる始末(強トラウマ)

 

幼馴染みには、「臭い」と感情を感じさせない表情で一言(超トラウマ)

 

「········マジか」

 

山から出たのはいいが、そこから広がるのは広大な草原、目を凝らしても町がありそうな気配は全くない。

 

 

「まぁ、道があるだけでも儲け物か?」

 

目の前に見える馬車一台分ではあるがちゃんと道になっている地面が続いている

 

「探索魔法覚えとくんだったなぁ」

 

アリスが使っていたのを思い出し、教えて貰うんだったと、軽く後悔した。まぁ、仮に使えたとしても今の魔力量では大した距離は見えないだろうが。

 

 

取り敢えず歩く

 

「·······」

 

ひたすら歩く

 

「··········」

 

歩き始めて2時間が経過した頃、とうとうレイグはキレた

 

 

「何なの!?こんだけ広大な土地があって、町や村どころか人っ子一人通らねぇじゃねぇか!?」

 

もう辺りは暗く、狼であろう遠吠えまで響く始末。

 

「·······まぁ、普通暗くなり始めたら夜行型のモンスターや獣を警戒して出歩かないか」

 

怒鳴った事で冷静さを取り戻したのか、大きく深呼吸を繰り返して落ち着く。

 

そうして未だ見晴らしの良い草原を見渡し、そこら辺の森に入り野宿と決心

 

夜中の移動は慣れてはいるが、この身体でそれを出きるかと言われたら即答で無理と答える。

 

「·····焦ってもしゃあないか」

 

そう言って自分を納得させてまだ視界がハッキリしてるうちにさっさと寝床を見つけようと移動を開始する。

 

ーーーーーーー

 

レイグが森に入り中を探索し始めた頃

 

森の中を疾走する人影があった、疾走と言ってもその足取りは重く、どこか覚束ない、今にも倒れてしまいそうだ

 

「はぁ······はぁ·····」

 

「何かから逃げている」その人影は少女のようだ、10代後半に差し掛かるであろう少女、茶色の長い髪を揺らしその顔は形の良い顔を真っ赤にして息を切らせながらも懸命に走っている

 

 

─────っくそ!待ちやがれ!

 

 

背後から聞こえたその怒声に少女はビクッと反応して、綺麗な紅い瞳で後ろを確認する

 

「(姿は見えない!どこか·····隠れる所に·····!)」

 

しかし辺りを見渡しても細い木々や中途半端な茂みしかないのを確認して焦る

 

「(っ!もう····体力が·····!)」

 

足の感覚が無くなって来てる、何かに躓いたら動けないだろうにそれでも少女は走り続けた。

 

「(あんな生活は嫌·····!)」

 

無理矢理拐われて無理矢理奴隷紋を刻まれた。

反抗しようものならその身体に電撃を流され、他の奴隷達と共に別の街に連れてかれ檻に入れられたまま見せ物にされ軽蔑と獣欲に満ちた視線に晒される日々

 

少女は奴隷だった、よく見るとみずぼらしい膝下まである服を来ていて、茶色の長い髪もかなり傷んでおり端整な顔も汚れがかなり目立っているせいで酷い見てくれになっていた。

 

「っ(この奴隷紋さえなければ!)」

 

忌々しげに胸元に刻まれた奴隷紋を見る

 

「(魔法さえ使えればあんな奴ら!)」

 

怒りと悔しさと恐怖で涙が出てくる、視界が涙でボヤけた事と奴隷紋の事に気を割いてしまったからだろう

 

がっ

 

木の根に躓いてしまい身体が傾く、ろくに受け身も取れずに転んでしまった

 

「あぅっ!?」

 

少女の逃走劇はあっけなく終わった。

 

膝を強打したのだろう、激痛が少女を襲う、更に

 

 

バヂヂヂヂヂヂ

 

 

「キャアアアアアアアアアアアア!?」

 

 

胸元の奴隷紋が光り全身を協力な電撃が走り抜ける。

 

「あ·····あぁ······」

 

流された時間は3秒にも満たないが、それでも少女を屈服させるには充分だったし、恐怖によって失禁もしてしまっていた。

 

「おいおい、あんまり手間かけさせんなよダリア」

 

世話が焼ける子供に話し掛けるような、どこか穏やかな声で少女──ダリアに話し掛ける目の前にたった男

 

ダリアや他の奴隷達を支配している奴隷商人だった。

 

穏やかなのに悪意しか感じないその声音にダリアは涙や鼻水でグシャグシャにしながら恐怖に喘ぐ。

 

「旦那、ここはキチンと主従関係ってのを教えてやらなきゃ駄目って奴じゃないですかい?」

 

奴隷商人の後ろから山賊のような格好をした男が3人程出てきた。

 

「────ッヒィ!?」

 

手下の提案に奴隷商人はがっとダリアの頬を手で掴み顔を近付けた。

 

「あー、しゃあねぇか性奴隷で処女ってのは人気があってなるべく手は出したくなかったんだがなぁ」

 

「そうこなくっちゃ!旦那」

 

途端に獣欲染みた視線を向けてきた奴隷商人に手下達、その意味が分からない程ダリアは子供じゃないし

 

 

 

 

それを受け入れる程人生を諦めてなかった。

 

 

「いったい····あ····が······」

 

「あん?」

 

俯きブツブツ何かを呟くダリアに訝しげな顔をする奴隷商人にダリアは顔を怒りに染め上げ声を振り絞り、恐怖を殺して怒鳴った。

 

 

「一体あたしが何をしたって言うのよ!?」

 

もう、構うもんか、電撃を流されようと犯されようと暴力を振られようとも。

 

そのときは舌を噛みきってやるとばかりにダリアは怒鳴った

 

「あたし何もしてないじゃない!誰の恨みもかってないし、あたしも家族も借金なんかしてない!犯罪だってやってないし、ギルドの規約違反だってしてないわ!」

 

フーッフーッと怒りに震えるダリアをポカンとした顔で見ていた奴隷商人達は次第に震えて笑いだした。

 

「ヒヒ·····まぁ、何だダリア

 

 

恨むんなら美人な顔で産んだオメェさんの親を恨みな」

 

 

そう言ってダリアのボロボロの服に手をかける奴隷商人

ダリアはギュって目を閉じ舌を歯ではさみ噛みきろうとして。

 

「ぶべっ!?」

 

「っ!?」

 

目の前の男が横に吹き飛んでいく様を見た。

 

 




何か楽しくなってきた


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3話『大成、腹が減る』

#前回のあらすじ

奴隷少女の名前はダリアちゃん☆




「よし、ここら辺が丁度良いか?」

 

程よく木々や茂みなどに囲まれていて、パッと見では分からないであろう空間を見つけたレイグは一度その場に寝転び具合を確認する。

 

少々固いと思ったのか顔をしかめ

 

「·····むぅ、仕方ない」

 

今から落ち葉や小枝などを拾っていたらそれこそ明日に支障が出る

 

そう判断したレイグは、傍らに置いてあった武器である木の枝を使い地面を掘っていく。

 

スコップや鍬では無いため多少は手こずったが問題なく自分の身長分は掘って解した。

 

「·····腹へった」

 

静かに空腹を訴える腹に手をやり、腰にあるポーチから携帯食料を取りだそうとして

 

「そうだった、下山する途中で切らしたんだった」

 

そうタメ息をつくが、何もしなくては益々空腹に喘ぐだけと思い

 

辺りの気配を探る

 

「何もいない?················いやこの気配······」

 

 

辺りからは生物がいるような気配が全く無く、不審に思うレイグ、もう少し探ってみるとここから少し離れた場所に人の気配を感じる、がどうも様子がへんだ。

 

 

「追われているのか?」

 

 

顔を厳しい物に替えていきそちらに目を向ける。

 

「·····飯は後回しかぁ」

 

少し汚れてしまった木の枝の切っ先に付いた土を払い落とし、そちらの方向に駆け出そうとして。

 

レイグは地面を跳躍して進む「やつ」を見つけてしまった。

 

いつの間にいたのだろうか。

 

灰色のモコモコっとした毛皮に仔猫よりかは大きい体躯そして何より小さいにも関わらず丸々小太りしたその愛らしいボディ!

 

「あ·····あ····あぁ·····」

 

 

只の野ウサギだった

 

しかしレイグにとってはこれ以上ないご馳走だったし、何気にこう言った状況で頂く野ウサギの肉は美味である

 

「········」

 

今向かおうとしていた森の奥と野ウサギを見比べる。

 

もしかしたら勘違いかもしれない、と右側の悪魔が囁いた。

 

もし、勘違いじゃなかったら貴方は計り知れない罪悪感に苛まれる事になるでしょう、と左側の天使は囁いた。

 

「ぐぅ······」

 

 

ギュルルルルゥ、ついには自分の腹までが囁き始めた。

 

 

─────俺は!

 

 

 

腹に決めたレイグは野ウサギに身体を向ける、ビクッと反応していつでも逃げる準備をする野ウサギ

 

歯を食い縛り、ズビシィ!と効果音がなるぐらいの勢いで人差し指を野ウサギへと向けた。

 

「てめぇこらウサギちゃんごらよぉ!(ギュルル·····)てめぇここで待ってなかったらあれだかんな!(ギュルルル)

えっと····まってろよおぉぉぉぉ!!(グギュゴオォォォォ)」

 

「?」

 

こてんと、首を傾げる野ウサギから視線を振り切り駆け出すレイグ

 

野ウサギは「何やあれ」とばかりに鼻をピクピクさせてどこかに行ってしまった。

 

「(アリス、こうして今日も強い心を手に入れました、でも何だろうね、あの葛藤で何か大事なモノを失ってしまった気がするんだ、アハハ何だろうね一体)」

 

 

 

ーーーーーーー

 

「!動きが止まった」

 

気配がする方に向けて走りはじめて1~2分たった頃まるで追いかけっこのように動いていた気配が止まり一ヶ所に纏まった。

 

耳を澄まし足音をなるべくたてずに走る、少しでも拾える声に邪魔をしないように。

 

 

『──私が何をしたって言うのよ!』

 

「──────」

 

聞こえてきたのは多分少女の声、近付いている証拠だろう耳を澄まさなくても聞こえてきた

 

理不尽に抗う声、しかしどこか自棄になっている含みを感じる

 

 

レイグは身体に魔力を遠し循環させると同時に足を踏み込んで一気に加速した。

 

直ぐ様、男4人に女一人が見えた。

 

予想通り女の顔を掴み顔を近付けているのは奴隷商人だろう、女はボロボロの服を着ており奴隷商人の後ろにいるのは手下であろうか

 

「·····」

 

何か笑い方が異様にキモかったので顔面に一発蹴りをいれた

 

「ぶべっ!?」

 

「!?」

 

吹き飛ぶ奴隷商人にビクッとなった少女、そしてポカンとする手下であろう男達。

 

「な、何だ貴様はぁ!?」

 

パニック状態でレイグを見上げる奴隷商人、何やら首に引っ提げている紐を引っ張りモノクルを取り出す。

 

「(モノクル?····あぁ、「鑑定」付きのマジックアイテム)」

 

それを装着してる間に、俺は少女を確認する。

 

少女は寝転がったまま此方を呆然と見ていた、身体が幾らか痙攣している、雷属性の魔法でも喰らったのだろうか·······

 

微か匂うアンモニア臭、恐怖の余り漏らしてしまったのだろうと察した

 

「っくはははははははははははは!」

急に奴隷商人が笑いだした、恐らくレイグのレベルを見て笑ったのだろう

 

奴隷商人はかなり腫れた顔で此方を指差して声高々に叫んだ。

 

「何だ、びびらせやがって!レベル3の雑魚がよ!」

 

「·······」

 

それを聞いて笑い出す手下達、驚愕の表情に切り替える少女。

 

まぁ、当然の反応だな

 

「てかまだまだガキじゃねぇか、何でここにいるんだか、良くもまぁこんな低レベルで俺達に立ち向かおうと思ったもんだ!」

 

心底可笑しいとばかりに笑いながら喋る奴隷商人、喋り終えると同時に手下達がニヤニヤしながら腰のサーベルを抜いた。

 

「!」

 

レイグが「お?」という顔つきに代わり手下達を見る、正確にはその手に持つサーベル

 

奴隷商人は何を勘違いしたのか愉快とばかりに「もう遅い」と言った。

 

「言っとくがそいつらは元とはいえCランク冒険者だ、駆け出しのお前じゃ何もできずに殺されるのがオチよ!」

 

「へへっ!そういう事だガキ、変な正義感で関わるとろくな目に会わないんだぜ?」

 

「冥土の土産に良い勉強になったなぁおい!」

 

まるで此方を怖がらせたいのかドスの効いた声で話す手下達。

 

「アンタが誰か知らないけど、逃げて!私の事は良いから!」

 

まるで懇願するかのように逃げるように叫ぶ少女。

 

 

 

「────ふざけんな」

 

「え?」

 

レイグは一歩前に出て、不敵に笑い手下達を見下した。

 

その様子に手下達は顔から笑みを消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「Cランクで立ち止まって、逃げた腰抜けが何を偉そうに語ってんだ?グチグチご高説ほざく暇があるんなら殺しに来れば良いだろ?

 

負け犬野郎共が」

 

「てめえぇぇぇぇえええええ!!!!!」

 

 

言い終わるや同時に手下の一人が襲い掛かる、元Cランクと言っていたし、レベルも20程はあるのだろう中々素早い動きだ。

 

「────」

 

だが遅く見える、こればかりは俺の意識に代わったからなのかは分からんがこの身体でも行けると思った。

 

サーベルを振り上げている隙に、振り上げている腕とは反対側に入り込む

 

「死ねぇ!」

 

そうすることで手下はレイグに当てようと腕を反対側まで無理矢理振り切る、その時顔も若干前のめりになる。

 

レイグはその斬撃を一歩分後ろに下がる事で回避

 

 

────すると同時に持っている木の枝で若干下がっている顔の顎を鋭く突いた。

 

脳を揺さぶられたであろう手下は簡単にそのまま倒れた。

 

 

「は?」

 

 




小説のあらすじを入れることに決めました


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4話『大成、わるものをやっつける』

#前回のあらすじ

木の枝でほっぺたピチューン


「は?」

 

レベル3の駆け出し冒険者が元とはいえCランク冒険者を一瞬で下した。

 

あまりにも有り得ない光景なのだろう。

 

奴隷商人も手下達も、奴隷の少女すらも目を皿にして固まっていた。

 

「間抜けが」

 

その隙を突いて、固まっている手下一人のもとに向かい足払いをかける

 

「どわっ!?」

 

もう一人が気付き慌ててサーベルを突き刺そうとしてくるが、その前に肘を上に振りかぶるような体勢を体を捻って作ったレイグが放った肘鉄が倒れかけている手下の鼻っ面に思い切り突き刺さる。

 

「っぶばぁ!?」

 

鼻血が吹き出しそのまま頭から地面に叩きつけられ悶絶する手下その2

 

レイグは横から迫り来るサーベルにも完璧に対応した。あっさりと右手に持つ木の枝の表面に刃が触れたタイミングで手下その3がいる方とは反対側に体を回して受け流した。

 

「へぁ?」

 

気付けば前傾姿勢になっている自分の真下にいるであろうレイグを確認すると同時に顎が拳に押し上げられて歯と歯がぶつかりガチンとなった。

 

ついでに簡単に脳を揺さぶられフラフラになり地面に倒れる。

 

「あ······な、あ?」

 

グワングワンに揺れる視界の中バギャア!と何かが折れる音と同時に狂おしい程の激痛が手下その3を襲った。

 

「ぎゃああああああああああああああ!!!!」

 

パニックになってる状態でのたうち回り折られた腕を地面にぶつけ更にのたうち回る悪循環に陥る手下その3を無視してレイグは奴隷商人の方に向き直るのと同時にポーチに入っている剥ぎ取りナイフを投擲した。

 

 

────カッ!

 

「ヒィッ!」

 

「───っ!?」

 

呆然としていたダリアがそばで挙がった汚い悲鳴にぎょっとして慌ててそちらを向くと、自分から後2mほどの距離でこちらに手を伸ばした奴隷商人の顔の真ん前にビイィィィィィンと木に刺さったナイフの柄が震えていた。

 

 

 

 

「─────そこから動くな」

 

まるで地獄のそこを這うような低い声音に奴隷商人はおろか少女でさえ体が金縛りにでもあったかのように動かなくなった。

 

目を向けると、件の少年は何かを我慢するような顔で奴隷商人を見つめていた。

 

そしてこちらに来ようと足を動かした瞬間顔を押さえていた手下その2が苦し紛れの抵抗とばかりにレイグの足首を捕まえようと片手を伸ばそうとした。

 

「あ!!───」

 

思わず声を挙げようとしたと同時にレイグが煩わしそうな顔で動かした足を体を少し捻って手下その2の顎を角度を付けて蹴り付けた。

 

手下その2は呆気なく鼻血を垂れ流したまま白目を剥いてカクンと倒れた。

 

「ばっちぃ手で触んなボケが」

 

まるでチンピラみたいな言い方で罵声を放つレイグはついでと言わんばかりにその手からこぼれ落ちたサーベルを拾い上げる

 

奴隷商人の顔が分かりやすく青ざめ始めたのを見てダリアはちょっと内心(ざまぁ!)と笑った。

 

やがてレイグは奴隷商人の前まで来ると、相変わらず何かに堪えるような表情で尋ねた。

 

「分かるな?」

 

「は、はい?」

 

主語も何もない疑問文、当然奴隷商人もどう言うことかと聞き直すが。

 

「 わ か る な!?」

 

「ヒイィ!?」

 

鬼のような形相で怒鳴り返された、これには関係ないダリアも恐怖で涙目になった。

 

奴隷商人にとっての理不尽は留まりを知らない

 

「どっちなんだ!?」

 

「は、はい!承知しましたぁぁあ!」

 

思わず了承の意を伝える奴隷商人、その反応にレイグはウムと頷き。

 

「やれ」と少女に向けて顎をしゃくった。

 

「「何を!?」」

 

流石に今回は奴隷商人とダリアの突っ込みが被った。

 

「あぁん?んなもんその子の胸元にある奴隷紋の破棄に決まってんだろうが」

 

「!?」

 

「っい、いやぁそれは····」

 

レイグの発言に驚愕の表情を浮かべ、奴隷商人を見るダリア奴隷商人は冷や汗を流してレイグを見上げていた。その顔は「勘弁してくれ」ではなく「どうしよう」とそんな顔に見えた。

 

「········っち、何で奴隷紋は刻めんのに破棄は出来ないんだよ」

 

それを察したレイグがため息を吐きながらサーベルの刃の平らな部分で奴隷商人の頬をペチペチ叩く。

 

ダリアはレイグの言葉を聞いて奴隷商人の顔を見て察したのか俯いた。

 

レイグはダリアのその様子を見て(しゃあないか)と一人納得してサーベルを持ってない手の方で奴隷商人の顎を打ち抜いた。

 

「あがっ!?───·········」

 

短い悲鳴と共に気を失う奴隷商人を見届けて、ダリアの方に体を向ける。

 

「────大丈夫か?」

 

堅い声音だけど、先程よりも断然優しい声音でダリアは初めてそこで気付いた。

 

「(私······助かったんだ····)」

 

「お、おい」

 

戸惑った声を挙げるレイグにダリアはどうしたのかと尋ねようとして、自分が泣いている事に気付いた。

 

その声を聞いて急に助かった実感が沸いてきた、涙は止まることを知らなかった。

 

「う、う······」

 

レイグはその様子を見て、安心させるように笑ってゆっくり頭を撫でて泣き止み落ち着くのを待った。

 




グギュルゴオオオォォォォ········

レイグ「··········」丶(・ω・`) ヨシヨシ

ダリア「う····うぅ····」

グギュルゴオオオォォォォ········

レイグ「───っく·····」


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5話『大成、腹が減りつつも少女を助ける』


#前回のあらすじ


レイグは腹ペコ(グギュルゴオオオォォォォ!


 

数分はそうしていただろうか、気付けば顔を真っ赤にしたダリアがモジモジしながら上目遣いで困ったようにレイグを見上げていた。

 

「ん、落ち着いたか?」

 

「は、はい·····」

 

体の痺れががまだ取れないのかが俯せなままのダリアに立てるか?と尋ねるレイグ

 

「無理····そうです····」

 

そう言いながら身を捩るダリアたが、大して動けていなかった。

 

レイグは「ちょっと失礼」とだけ言って、ダリアの体を仰向けにする。

 

「え?え?」

 

と不安がるダリアを無視してレイグは背中と膝裏に手を入れてそのまま持ち上げた。

 

「ふぅえぇ!?」

 

どこか可愛らしい叫びを挙げたのも束の間、懇願するようにレイグを見上げた

 

「あ、あの降ろして····あの、そ、その、漏らしてるから···」

 

最後はボソッと小声で呟いたが、レイグは納得したように頷いた。

 

ホッとする反面何故か寂しさを僅かに覚えるダリア。

 

「気にしてないから、気にすんな」

 

と笑顔で断り、そのまま歩き始めた。

 

「(私が気にするんですけど!?)」

 

助けて貰ったとはいえ、それは勘弁して欲しかった。せめて厚かましいかもしない が、自分で立てる迄待って欲しかったと。羞恥心と申し訳ない気持ちからダリアは顔を伏せた。

 

先程いた場所から数分も歩くと思い出したように後ろを気にしだすダリア。

 

「まぁ、追ってくる事は無いと思うぞ?」

 

何の脈絡もなしにそういったレイグに心を読まれたのかと驚愕の表情をレイグに向ける。

 

露骨に顔に出てた、と指摘せずにそのまま理由を口にする

 

「あの中で一番頭が切れるのは間違いなくあの奴隷商人だったし、だから一番最後にまわして見せつけたんだよ

 

 

────お前ら程度じゃいつでも殺せるんだよってな」

 

「貴方は一体─────っ!?ご、ごめんなさい!私、助けて貰った恩人に自己紹介もせずに!あ、あの私ダリアって言います「ダリア·ミルス」です。」

 

助けて貰い、慰められて、尚且つこうして抱えられて貰ってるのに未だ名乗ってすらいない事に青褪めた。

 

レイグは苦笑し、気にしなくていい、と言った。

 

「あの状況じゃ無理もない、気にするなって言うのも少し無理があるのは分かるが、俺が気にするから気にしないでくれると嬉しい····あぁと、名前だったな俺はレイグだ。レイグ·アーバス」

 

「レイグ様····」

 

「············はぁ、まぁいいか」

 

 

 

────ご主人様と呼ばれるよりは

 

 

過去の幾つかあるトラウマコレクションの中の一つを思い出し、げんなりするレイグ

 

ん、一番酷い奴?んなもん初体k────

 

自主規制(アーーーー)

 

 

レイグは最初寝床と決めた場所に戻ってくると側に生えた木にダリアの背を向けて座らせた。

 

「っ·······」

 

「レイグ様?」

 

「いや、大丈夫だ気にすんな····それよりその奴隷紋何だが·······」

 

 

腹を押さえて何かに耐えるような顔をしたレイグを見て、助けられた時も何かに耐えるような顔をしていたことを思い出した。

 

やはりどこか怪我を!と心配になり尋ねるが本人は気にすんなと一蹴。

 

それどころか奴隷紋の事を話題に出した。

 

何かを決めたような顔

 

 

 

 

 

 

「(つまりは····「そういうこと」ですね?ご主人様)」

 

ダリアが覚悟を決めた顔をしたのを見て、ヒクッと一瞬顔を歪めるレイグ。

 

「(待て、この子今何の覚悟した!?)·····ん、ん"!良ければ俺n────」

 

「──喜んで!私を貴方様の奴隷にして下さいご主人様!」

 

嫌な予感がしつつも気を取り直し用件を伝えようとしたところ、案の定ダリアが顔を赤らめて会話をぶったぎってそう叫んだ。

 

 

「···········」

 

「··········あ、あのご主人──レイグ様?」

 

一世一代の告白の叫びを挙げたダリアは黙り込んでしまったレイグにどうしたのかと「ご主人様」と言いかけてレイグの顔がまるで〇ン〇を我慢するような顔になったので思わず元に戻した。

 

「ソレヨリソノドレイモンナンダガ、ヨケレバオレニハキサセテクレナイカ?」

 

「レイグ様!?」

 

 

まるで言葉だけを話す高性能なロボットみたいな話し方をするレイグに驚くダリア、そんなに嫌だったのかと自分を責めそうになるが、それよりも聞き捨てならないことをレイグが言った。

 

奴隷紋を破棄?

 

「レイグ様は冒険者でありながら高位の神官様なのですか?」

 

それが本当なら願ってもない、後払いになってしまうかもだが金ならちゃんと払おう

 

「まぁやっぱり「ここも」そう言う認識なんだよなぁ、さっきの奴隷商人の時に何となく分かってたが」

 

「え?」

 

レイグは眉間を指で揉みつつ続きを話した。

 

「奴隷紋の刻み入れは神と使用者を通じて行うんだが、

破棄に関しては刻まれてる本人じゃなきゃ誰でも神と通じて使えるんだよ」

 

あの奴隷商人はダリアとは違う反応だった、多分知ってはいるが魔力が足りなくて使えないのだろう。

 

「良いか、奴隷紋は言わば裁判だ事実、その神官様も、何度かは破棄に失敗してるんじゃないか?」

 

「········確かに稀に聞きます」

 

「その稀に値するのが、奴隷に墜ちた奴が犯罪を犯した者だったり借金をしてしまった者だったりする奴、つまり神どころか誰が見ても「償え」って奴らばかりだ。

·····だからこれは失礼を承知で聞く、不快に思ったなら殴る蹴るなりしてくれて良い、ダリア

 

 

 

 

 

 

 

────お前は罪を犯したか?、他者を踏みにじり、過ちを犯したか?他人の不幸を蜜として飲み下したか?」

 

レイグはダリアの真っ直ぐ射ぬいた、レイグとしてもダリアが清廉潔白だと言うのは「あの慟哭」で分かっているつもりである。

 

だからこその再確認、実際は必要ないがレイグが勝手に決めてるルール

 

実際は神が破棄の際奴隷紋を通して刻まれた人の魂に目を通すらしい。

 

らしいと言うのは、友人からの受け売りだからである。

 

ただレイグは、神が観る前に自分も見定めたいと思ってる。相手の覚悟を、何を思って解放されたいのかと。

 

 

「はい、私は何の罪も犯してません。だから私を助けて下さいレイグ様、そして家族に会わせてください、その為なら私は全てを貴方に捧げます」

 

レイグに問われ息を呑んだダリアだが、厳しい口調とは裏腹にどこか後悔の念を抱いてるのを感じとり。これは必要な事なんだと思い。ダリアは一語一句本心を込めて口にした。全て本心である。

 

レイグはそれを聞くやいなや、「ならば良し」とだけ言った。

 

「ならさっさと済ませよう、俺が限界だ」

 

そう言いながらもズズイとダリアとの距離を残り拳一個分まで縮めて、座ってダリアと同じ目線の高さにする

 

「黒曜石を思わす綺麗な黒い瞳」がダリアを貫く。

 

良く見るとまだダリアと同じ歳なのだろう、少年らしいあどけなさを残しつつ「黒髪」を若干靡かせ精悍な顔立ちだった。

 

ぶっちゃけタイプ

 

 

「す、済ますって······」

 

レイグとの距離の近さに奴隷紋の事だと分かりきっているのに、「あらぬ妄想をしてしまう」ダリアは顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。

 

「?······すまん、ちょっと胸元開くぞ」

 

そう言って剥ぎ取りナイフで胸元の服に切れ目を入れて割と豪快に開く。

 

「ひゃわあぁああ!?」

 

可愛らしい悲鳴が森の中に響く。

 

レイグは現れた立派な谷間様に吸い込まれないように、目を反らしながら優しく掌を奴隷紋の上に置いた。

 

ピクンと反応するダリアを無理矢理無視して魔力を流し込む。

 

「(魔力を使いっぱなしだったのが好をなしたな)」

 

少しだが確実に増えている魔力量にホッとしながらも、奴隷紋が光るのを見て、魔力を更に流していく。

 

「これって──」

 

「(許してやってくれ神様、この子は和を乱す者ではない)」

 

無駄だと分かりながらも、心でそう願わずには居られない

 

 

 

 

────赦そう

 

 

ダリアの脳内にその声が響くと、同時に胸元の奴隷紋がパアァンっと青白い粒子なって消えた。

 

 

 

更に同時にレイグが白目を向いて腹から轟音を鳴らしながら倒れたのだった。





シャッチョサーン、モウオワリ?


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6話『大成、夢を見る』

補足、奴隷紋云々は作者による独自解釈でよろしくです



#前回のあらすじ


悪 霊 退 散(違う


───これは夢だ。

 

目の前に広がる光景を見て、まずそう思った。現実逃避でも何でもなく

 

目の前に幼い俺がいて幼いアリスに泣きついている。

 

アリスは涙を浮かべながらも俺を抱き締めてから、ゆっくり離して騎士甲冑を着込んだ人達や上等な服を着込んだ人に連れられて馬車に乗り込んで行く。

 

町の人達は拍手喝采を挙げていて。

 

俺の両親やアリスのおじさんおばさんは寂しそうに笑っていて、妹のネアは俯いてその表情が窺えなかった。

 

もう一度言う

 

「これは夢«げんじつ»だ」

 

俺のモノではない。

 

 

幾年か経ち、魔王を討つ為「英傑スキル」を持った者を連れて勇者パーティーなるものが結成されて、そのパーティーに所属しているアリスがメンバーと一緒に村に寄ってくれた。

 

 

───何を言ってる、この歳の頃は村は跡形も無くなってたし。俺とアリスは一緒に旅をしていたぞ。

 

 

アリスは相変わらず優しいし面倒見が良くて、でも勇者はそんなアリスの目を盗んでは俺に向けて見下すような勝ち誇ったような顔をしていた。他のメンバーもだった。

 

 

───はぁ?こいつらの顔は今でも憶えてっぞ?いきなり「アリスさん、貴方は我々勇者パーティーにこそ相応しい!貴方のような美しく、また「賢者の器」に選ばれた貴方が何故隣にいるようなゴミと一緒にいるんだ!」って言われたからその場で決闘挑んでぼろ雑巾にしてやったわ!

 

 

今と同じくらいの俺、幼馴染みを奪われ(未遂)、無気力なせいか村人や家族に怒られ自棄を起こし村を出て、近くの町で冒険者登─────

 

あぁくそ、今情報収集してるんだから邪魔するなよ

 

急に浮上していく意識に思わず悪態をつく。

 

でも

 

「(未練タラタラじゃねえかよ?)」

 

 

確かにこれは俺«奴»の現実«夢»だった。

 

 

 

「────あぁもう、ほぼ忘れてんじゃねえかよ·····」

 

木々の合間から、差し込む光に目を細めながら

 

ゴギュルヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!

 

最早、下痢か何かじゃないかと言う程の音にレイグは何も言えず寝転がったまま脱力した。

 

「あー、そっか昨日文字通り魔力スッカラカンになってぶっ倒れたんだっけかぁ·······」

 

鳴り続ける轟音に顔をしかめながらも

 

その場に漂う匂いを鼻はキャッチしていた。

 

「レイグ様!?目を覚まされたんですか!」

 

「ダリア?····」

 

「はい!ダリアです!おはようございます!」

 

昨日助けた元奴隷の少女、ダリアが笑顔で駆け寄って来た。

 

「昨日はありがとうございました!」

 

「ふごっほぉ!?」

 

そのまま跳躍して寝たままのレイグに抱き付く。

 

ダリアの思った以上にあるダリアちゃん1、2号が空きっ腹を押してくる。

 

気絶待ったなしのレイグに気付かず、奴隷から解放してくれた感謝や興奮で気付かないダリアはレイグの首に抱き付き脚をバタバタさせている。

 

反応がないレイグに不思議に思ったダリアが顔を上げレイグを覗き込むと

 

レイグは白目をグリンと剥いて口を大きく開けて舌を伸ばした状態で気絶していた。

 

 

 

ーーーーーー

 

「上手い上手い上手い上手い!」

 

「まだありますから、ゆっくり食べてください」

 

いつの間にか用意されていた鳥の丸焼きをガツガツ食べているレイグをダリアは優しく見守っている

 

どうやら奴隷紋が消えた事で能力制限のバフも消えていたとの事だったので、朝早くから魔法で軽く狩りをしていたとの事。

 

「そういや、ダリアはこれからどうするんだ?自分の街に帰るんだろ?」

 

「····その事なんですけどレイグ様、少し良いですか?」

 

急に真面目な顔付きになったダリアにレイグは「重要な話か」と切り替え、肉を飲み込みダリアに向き直る

 

「私もレイグ様と旅をさせて頂けませんか」

 

予想外の提案に思わず言葉に詰まるが、流石に看過できない

 

自分が言うべき言葉を整えていき。

 

「········何故だ?昨日あれだけ家族に会わせてくださいって」

 

「このままでは、私の気が収まらないからです」

 

「何故そんなに頑なになる?」

 

「レイグ様は私の命の恩人です」

 

ダリアの目を見て内心ため息をつく、こりゃ「固いな」経験上この目をする奴は大概「強い」

 

····でも、こいつがそう決心しても未だ行方を知らないこいつの家族の気持ちはどうなる?

 

「家族はどうする?」

 

「家族ならいつ──────」

 

 

 

「いつでも会える、何て口が裂けても言うなよ?」

 

「っ」

 

自然と口調がキツくなってしまう、だがこれもダリアやその家族の為だ、言葉足らずかもしれんが。

 

元々俺とダリアの関係なんてあってないようなものだ第一会ってからまだ半日も経ってない

 

「確かに昨日俺はダリアを助けた、でもそれは偶然って言えばそれまでだし、ダリアが欲しくて助けた訳じゃない、礼はこの朝食で充分返して貰ってるんだ。

 

 

──家族って普通に暮らしてれば毎日会えるけどさ、君みたいに突然にその普通を奪われる可能性はいくらでも転がってる。君はその辛さを分かってる筈だ······家族をその辛さから解放してやってくれ」

 

 

ダリアの瞳が揺れ、俯き見えなくなってしまう。

 

何も言い返してこないのは、ダリア自身に自覚や言い返せない何かがあるからだ。

 

なのに、どうして

 

 

「それでも···貴方に付いていかせて下さい」

 

目の端に涙を浮かべて此方を見る

 

「·········」

 

「確かに、貴方が昨日あの場に現れたのは偶然かもしれません、この場所が彼処から離れてる距離も考えて、本当に偶然だったのでしょう、それでも······」

 

 

いつしか涙は止まらず、ポタポタと地面を濡らしていく視界が涙で霞んでいるだろうに、それでも此方を強く見ていた。

 

ワナワナと震える唇が口を開く。

 

「それでも貴方は私を救ってくれました!舌を噛み切って絶望から逃げようとした私を貴方は救ってくれたんです!そんな貴方に恩を返せずに私は家に帰れません!

 

恩を感じちゃいけませんか!?ここまでして貰ってまだ会ってから半日も経ってない男の人に恩を返したいと思うのは身勝手ですか!?」

 

「······(こりゃ勝てねーわ)」

 

正論を叩き付ける相手に大して負けずに自分の感情論でぶつかる姿に、幼馴染みの姿を重ねてしまった時点で俺の負けだろうチクショーが

 

「·····何か、俺が苛めてるみたいな構図だなこりゃ」

 

「········すいません」

 

 

どこかふて腐れたような態度だが、此方の態度が柔らかくなったのを感じたのだろう。不安げに見てくるダリアに苦笑する。

 

 

「近くの街に行ったら、即手紙出せ条件それだけ、分かった?」

 

 

そう言うと、ダリアは分かりやすく頷いて抱き着いてきた

 

仲間が一人増えましたと、心の中のアリスに報告したら怖い顔で中指立てられました、なんでや

 




ダリアちゃんに質問です。

Q特技は?

ダリア「(特定の人に)ハグ」

さぁおいで!

ダリア「ふぁっくゆー」

なんでや


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7話『大成、仲間と共に』


#前回のあらすじ


レイグ爆ぜろ(·言·)


あれから少しこれからの事とかを話して二人であの森を出てダリアの道案内の下、ようやく最寄りの街に辿り着けた。

 

道中モンスターの群れに遭遇したりしたのだが、二人で難なく討伐。

 

というよりダリアが想像以上に魔法使いとして秀でていたのだ。ダリアはどうやら「黒魔道」のスキルを持っていて魔法使いに相応しい適正と才能を持っていた。

 

魔法の扱いが非常に上手かったのだ。

 

正直俺の方が足手まといじゃないかと、落ち込みかけたがダリアが全力で首振り人形になっていた。へ、情けねぇや

 

実は昨日の奴隷商人の手下との戦闘で、レベルが2程上がっていたのだ。どうやら人間相手でも経験値が入るらしい。

 

ステータスは結構伸びた·····のか?

 

前の時と比べると殆んど変わってない気がする

 

ダリア曰くLv5にしては補正は抜きにしてもかなり高いらしいが。

 

 

 

レイグ·アーバス 16 Lv5

 

 

 

 

 

功 121(+200)

 

 

 

防 72(+200)

 

 

 

早 105(+200)

 

 

 

魔功 80(+200)

 

 

 

魔防 52(+200)

 

 

 

知 100(+200)

 

 

 

skill

 

大成の器(異界の英雄レイグ·アーバス)

 

 

 

#常時発動しています。

 

補正、レベルアップ時、全ステータスに+100

 

 

 

翻訳

 

 

 

#現存する言葉全てを翻訳可能

 

 

無詠唱❬中❭(new)

 

 

#中級魔法迄なら詠唱を破棄。

(スキル効果の成長可)

 

 

無詠唱は前の時から使えたので、レベルアップ時に更新したのだろう。

 

「やっと着いたな······」

 

「フフ、良かったですね」

 

感慨深く呟く俺を微笑ましく見るダリア。何でそんな眩しい物を見るかのように目を細めるのかは謎だ。

 

「後、レイグ様?」

 

「分かってる、「大成の器」の項目と補正分の数値は消してあるさ」

 

再度確かめるような視線に俺は即座に頷く

 

一応、旅する仲間としてダリアには俺の正体を明かしている流石に驚いていたがすんなりと信じていた。

 

言った本人が言うのもあれだが簡単に信じすぎじゃないか?と指摘すると

 

『そう言った嘘を吐くような方ではありませんので、隠さずに明かしてくれて、私嬉しいです』

 

と、見惚れるような笑顔で言われた。

 

何だ、天使か

 

その時にステータスを見せ合った

 

案の定ダリアのステータスは高かった。

 

 

ダリア·ミルス 17 Lv15

 

 

 

 

功 180

 

 

防 220

 

 

早 150

 

 

魔功 780(+500)

 

 

魔防 500

 

 

知 100

 

 

skill

 

 

黒魔道

 

#魔法攻撃力に常時+500、成長補正

 

#魔法防御力に成長補正

 

 

大成のお墨付き(new)

 

 

#呪い、状態異常等のバットステータスを反転する

 

#全ステータスに成長補正弱

 

 

流石に俺も引いた、何なら一番ダリアが目を見開いて驚いていた。

 

こんなスキル見たこと無かったみたいだ、俺だって無いよ、なんだよ「反転」って

 

つまりあれか?呪いなら「祝福」毒なら「毒無効」とかそんな感じか?ヤバイなそれ(語彙力

 

 

偶々あの奴隷商人がダリアの冒険者カードを持ってて本当に良かった

 

勿論「大成のお墨付き」の項目は隠して貰った。

 

街の正門に向けて歩く俺とダリア、っと危ない危ない

 

 

「ダリア」

 

「?どうかされましたかレイグs──わぷ!?」

 

こっちに振り向くダリアに俺が羽織ってた上着を放った、顔から受けたダリアは一瞬もがいたがそのまま固まった。

 

「流石にその格好は不味い、少し汗臭いかもしれんが我慢してくれ」

 

少し罪悪感があるが致し方ない、そう思ってるとダリアは顔の辺りが一瞬ピクピクしたと思ったら、次の瞬間には上着を着ていた。はっや!?

 

「大丈夫です、憶えました」

 

「何を?」

 

ま、まぁ大丈夫なら良いだろ、······何か鼻息荒いが

 

「取り敢えずダリアは俺に合わせてくれ」

 

「了解です、偶々通りかかった私が「記憶喪失になって倒れていた」レイグ様を保護、で良いんですね?」

 

「頼む」

 

 

そう、これも今朝ダリアと話し合って決めたことだ、俺はこの世界の「レイグ·アーバス」ではない、このまま行くと間違いなく面倒な事になる。

 

これはこの街だけに限った話ではない、他の街や村に移動する事も拠点を移すことも考えなくてはならない、この街もそうだがもし移動先に知り合いらしき人物でもいたらボロが出る。

 

俺達は互いに確認しあい、身だしなみに若干の不安はあるが問題ないと判断

 

再び正門へと歩いていく。

 

·····おい、この門番船漕いでるぞ

 

「ねぇ門番さん、この街に入りたいんだけど」

 

そう強めに言い放ったダリア、何なら腕を組んでいる。

 

思わず吹き出しそうになったが、我慢した俺を誉めて欲しい、え?何?ダリア、君普段そんな感じなの?

 

俺の時と全く違うじゃん、だってほら

 

「もう少しで休めますよ、レイグさm ──ん」

 

全然違うじゃん

 

「んぁ?···········ってレイグ!?お前生きてたのか!?」

 

「いいいいいい!?」

 

目を醒ましたのか気だるげにダリアを見てその隣にいた俺に視線をスライドさせて、3秒程硬直したと思ったら凄い勢いで掴みかかってきた!?

 

思わず変な悲鳴をあげる俺

 

すみませんアリス、作戦開始僅か数秒でボロが出そうです

 

心の中のアリスに報告すると、仕方ないわねとばかりに首を振っていた。

 

 

死にたくなる程情けなくなった

 

 




ダリアちゃんに質問です

Q好きな言葉は?

ダリア「マジ卍」

そげぶ


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8話『大成、顔馴染みがいる宿屋に向かう』

#前回のあらすじ


ダリアちゃんはクンカーの称号を手にいれかけている!


「······なるほど、それでそっちのダリアちゃんが倒れているレイグを保護して」

 

「ええ、目を覚ましたレイグさんが記憶喪失、って言う感じね」

 

取り敢えず落ち着いた、門番が冷静に事の経緯を尋ねてきたので、事前に決めていた記憶喪失の話を出した。

 

「········さっき俺に「生きてたのか!?」って詰め寄ってたけど····何かあったのか?」

 

間が空いたので、俺も会話に参加する。ダリアも気になっていたのか門番に目を向ける。

 

門番は一瞬ギョッとしたが、すぐさま頭を振って複雑そうな顔で事のあらましを語り始めた。

 

 

 

 

駆け出し冒険者ディラン率いる新米パーティー、元からいる弟に加え、声を掛けられたレイグ計3人のパーティーはある日ゴブリン5体の討伐クエストを受けたらしい。

 

レイグは基本的に荷物持ちをさせられていたらしく、その日も「暗い面持ち」で街を出ていたらしい

 

その日の晩、普通通りに帰ってきたのはディランと弟だけだった。

 

門番が慌てて事情を聞くと、どこか演技がかかったような悲痛な顔をして

 

 

──山でゴブリンの群れに遭遇したんだ!あいつは、レイグは俺達に逃げろって言ってくれて····!

 

と心底悔しそうにしていたらしい。

 

ギルドに報告すると、取り敢えず後日確認の為に調査隊を派遣する流れだったらしい。

 

 

 

どうやら面倒な事態になり掛けているようだった。

 

「·····すまない、心配をかけたみたいだが本当に分からないんだ」

 

嘘は言ってない、ある意味本人じゃないし

 

「いや、良いんだ生きててくれて良かった、そっちのダリアちゃんもレイグを助けてくれてありがとう!·······記憶はゆっくり思い出せばいいさ」

 

 

 

そう言って、俺の肩をゆっくり叩いてくれた。

 

「(····何だ、普通に気に掛けてくれてんじゃん)」

 

恐らくこの門番は人が良すぎるのだろう、どこか涙ぐんでいる

 

しかし記憶喪失設定にして正解だった、さっきからこっちが発言するたびに一瞬ギョッとしたりするところを見ると、前の「レイグ」との差異に反応してるようだ。

 

「あ、あぁ!すまない、街に入りたいんだったな!おかえりレイグ!「ストルの街」にようこそダリアちゃん!」

 

そう思い出したように言う門番

 

「二人はどうするんだ?ギルドに真っ直ぐ向かうのか?」

 

「いや、今日はもう休みたいと思ってる·····やっぱ顔は出した方が良いか?」

 

「いきなり行っても両方ともパニックになる可能性がある、ギルドの方には俺から伝えとくから今日はゆっくり休んでくれ」

 

「助かる····後、俺はこのまま街に入って大丈夫か?」

 

そう聞いた俺に門番は、疑問符を浮かべたが得心がいったように問題ないと言った

 

どうやらストルの街のギルドマスターが、下手に騒ぎにならないように箝口令を敷いてくれていたらしい。

 

有能なギルドマスターで助かった。

 

内心溜飲を下げた俺は自分が宿を借りているのか聞こうとして。

 

「(あれ?分かる?····)」

 

 

────メインの大通りに肉屋の脇の小道に入ってすぐの「沈む太陽」が「俺が」部屋を貸して貰ってる宿屋だ。

 

知らない筈の情報が自然と浮かんできた

 

「色々とありがとう、えと·····」

 

「アレスだ、記憶早く戻ると良いな!あ、宿とか大丈夫か?流石にそこまでは分からないんだ!」

 

門番──アレスはそう言うと申し訳なさそうそうな顔をした。

 

「いや、何か宿の場所はパッと出てきたから大丈夫だ、色々ありがとうアレス、ダリアさん行きましょう」

 

そう言ってダリアの手を掴み街の中へと歩いていく。

 

ダリアは「ふぇ」と可愛らしく悲鳴をあげたが、やがて観念したのか俯き逆に握り返してきた。

 

······何か恥ずかしいぞこれ

 

本来の自分より6も年下の娘に何を動揺してんだ俺は····

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「中々賑わってますね」

 

「そうだな、この街が潤ってる証拠だ、ダリアはここは初めてなのか?」

 

 

人々が交差する大通り、王都程ではないが中々の喧騒に包まれていた。

 

この街はそれなりに発展しているのだろう、良く見るとそこかしこに大荷物を抱えた商人らしき人や、人を集めている大道芸人、人を魅了する音を奏でる吟遊詩人

 

ダリアはどこか緊張と興奮を混ぜたような声でそう呟いたので尋ねると、どうやらダリアはこの街から南に、つまり俺達が来た方向の山二つ程越えた所にある「リーガル村」と言う所が生まれでそこから出たことは一度もないと言う。

 

15歳の頃に冒険者になり、Cランク冒険者として期待を受けてたらしかった。

 

「おお!レイグじゃねえか!今日は休みかい?」

 

すると焼いた肉を串に刺して商売をしているオッチャンに話しかけられた。

 

「───あぁ、今日はこの人がこの都市で冒険者活動をしたいって言ってて、案内してるところだよ」

 

一瞬迷ったが、普通に素で話す俺、ダリアが慌てて顔を近付ける

 

「レイグ様、大丈夫何ですか?」

 

「俺も最初迷ったがそこまで関わりはなさそうだったんでな、それにこの規模にこの賑わいがある街だ「知ってる冒険者が様子がちょっと変」なんて噂、直ぐに余所からの情報に押し潰されるさ」

 

「············本当は?」

 

「一々記憶喪失云々の下りをするのがダルい」

 

そう正直に言うとダリアは破顔して「レイグ様ったら」と笑っていた。

 

ダリアは串焼き肉のオッチャンにペコリと頭を下げた

 

「私ダリア、リーガル村からやって来たんだ!」

 

「へぇ!あんな遠くから!良く来たな!」

 

元気の良い挨拶が好評のようだ、機嫌が良くなったオッチャンは串焼き肉を二本くれた。

 

「ありがとうオジサン!」

 

「ありがとう」

 

「良いって事よ!これからも贔屓にな!」

 

そう最後に言ってニッと笑ってくれた。

 

その際ダリアに何かを言っていたがダリアは顔を真っ赤にさせて固まってしまっていた。

 

それから服屋で何着か見繕って(奴隷商人の有り金から算出)

 

何故か俺の上着を返そうとしないダリアを説得して上着を返して貰い、その足で記憶通りに宿「沈む太陽」の前までやって来た。

 

見た目は結構古めかしい造りの木造平屋で古びていると言うより年季が入ってると言った感じだ。

 

ダリアはシンプルな白のワンピースを着ていて、ちゃんと靴とサンダルも買い揃えた(奴隷商人の有り金から算出)

 

若干煤けてはいるものの茶色の長い髪にあっておりダリアの端整な顔を引き立てていた。(ありがとう奴隷商人の有り金)

 

これで身だしなみに関しては文句は言われないだろう

 

カランカランと開き戸を開けた際にドアの上部に付いた鐘が音色を響かせる。

 

受付にいたのは30台に差し掛かったであろう女性で会計用であろう長方形のテーブルに顔を伏せて寝ていた。

 

この街職務怠慢な人間がちょこちょこいるなぁ

 

 

「あのー、すいません!」

 

早速ダリアが話し掛ける、女性は煩わしそうに灰色の髪を揺らして顔を上げた、青い瞳の下には酷い隈が浮かんでおり、全く寝てないことが分かった。

 

「ったくなんだってんだい───」

 

目を細めながらも、此方に顔を向ける女性ダリアを見てその隣にいる俺に目をスライドさせる。

 

「(あれ?ついさっきと同z)」

 

 

固まったと思ったら険しい表情になり

 

「こんのばかっ!!!今まで何処に言ってたんだい!?こんなに心配かけてぇ!」

 

目に涙を溜めてそう言われ、逆に俺が固まった。

 

 

 

 

 

アリス、今回ばかりは俺は悪くないと思うんだ、だってこんな予想できるわけないでしょ?

 

心の中のアリスにそう問い掛けると難しい顔で悩んでいたが「やはり女性を泣かせるのは駄目」とばかりに✕印を腕で作っていた。

 

つらたん

 




レイグ「俺の服汗臭いからそっちの綺麗なワンピに着替えなさい!」

ダリア「HA★NA★SE★」




そろそろダリア視点を挟んで行こうかなと思っております。


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9話『大成、人妻を泣かす』

#前回のあらすじ


奴隷商人の有り金万能説






こんな駄作にお気に入り感謝ですm(_ _)m


涙目で怒鳴り付けられて、挙げ句の果てに胸倉を掴まれて振り回されるとは思わなかった。

 

パニクり過ぎて逆に冷静になった。

 

ダリアは呆然としてた、多分思考が停止してる。

 

涙目所かポロポロ涙を溢す恐らく宿屋の主人であろう女性取り敢えずここは落ち着いて一つ一つ対処しないと!

 

「おおおおちついてててて!?」

 

「何言ってるのか分からないよ!ハッキリと言いな!」

 

うん、これは俺も分からないな、全然落ち着いてないわこれ

 

いや、だって普通に怖い、青筋浮かべて俺を睨み付けてるし見た目は細身寄りなのに何か俺中に浮いてるし

 

「ミランダ!落ち着きなさい!レイグも!」

 

 

すると、奥の通路から出てきた料理人のような男性が駆け寄ってきた。

 

女性──ミランダさんの肩に手を置いて宥めようとする、いや待って?何か俺も暴れてるみたいに言われてなかった?

 

「ぅるっさいっ!」

 

「ブフゥ!」

 

「ちょっ!?」

 

瞬殺だった、後ろも見ずに正確に裏拳を鼻っ面に当てるミランダさん。

 

男性は鼻血を噴き出して簡単に地に伏した、多分夫だよな······?

 

ダリアが復活して、慌てて間に入ってこようとするが手で制す、多分こうなったら俺がこの人の気が済むまで殴られるなり何なりされなきゃ収まらないだろう。

 

「········本当に」

 

「え?」

 

黙って目を閉じていた俺だったが、聞こえて来た声は先程までの激情に任せた声では無く、何かを耐えるような、漏れだしてしまいそうなそんな弱々しい震え声だった。

 

ミランダと呼ばれた女性の顔には未だ残っている怒り、そして恐怖

 

「ほ、本当に、アンタに何かあったのかと」

 

「───────」

 

そして安堵

 

 

気付けば俺は地面に足が着いており、ミランダさんは静かにしゃくり上げていた。

 

「ごめんなさい」

 

気付けば俺はそう言って低頭していた、謝らなければとおもった、恐らく怒られているのは前の俺であって今の俺ではない。

 

それでも謝ったのは不意に、この人に「母さん」を重ねてしまったからだろうか。

 

死の直前まで俺とアリスを、体を凶刃に晒されながらも、激痛で涙が押さえきれなくても俺の身を案じてくれた姿に

 

それともただ単にこの体に起こった無意識的行動に俺の精神が引っ張られたからなのだろうか。

 

「·······今まで何してたのか、ちゃんと説明して」

 

俺に謝られたミランダさんは暫しの沈黙の後、感情を押し殺すように小さくそう言った。

 

俺はミランダさんから目を反らさず頷いて口を開いた。

 

 

ーーーーー

 

「記憶······喪失」

 

深刻そうな顔でそう呟くミランダさん

 

少し落ち着いた俺達は宿の一室を使って向かい合っている、俯くミランダさんにダリアがすかさずフォローをする。

 

「えっとミランダさん、記憶喪失って言ってもそんな酷いものじゃないんだ!この宿屋に来るときだって道なんて分からない筈なのに自然と浮かんだって言ってて、事実レイグさんの案内一発でここにたどり着いたんだよ!」

 

「お、おお!それが本当ならすぐ思い出すかもしれんな!」

 

ダリアのフォローに便乗してミランダさんの旦那さん──ダインさんが励ますようにミランダさんに声をかける。

 

「アンタ」

 

「?どうしたんd」

 

「黙ってな」

 

無言になるダインさんをダリアが半目で見ているのを尻目にミランダさんは深くため息を吐いて

 

項垂れた。

 

「本当に忘れちまったのかい」

 

「すいません」

 

ぐっと唇を噛み締めるも次の言葉を紡ぐ

 

「──半年、アンタがこの「沈む太陽」に泊まり込むようになって半年、子供がいないあたしらにとっちゃアンタは子供みたいなもんなんだよ。

 

どこかぎこちないアンタが主人の作った飯を食った時のアンタの輝いた顔は未だに忘れてないし、疲れて帰ってきたアンタがあたしらに「ただいま」って笑顔で良く言ってくれたね。飯所が忙しい時アンタはこっちが遠慮してもお構い無しに手伝ってくれた事があったね、嬉しかったよあの時は·····

 

 

 

ぜんぶ、わすれちまったってのかいっ·······」

 

どこか恨みがましく、そしてどこか懇願するミランダさんの視線、ダインさんが辛そうに目を閉じてダリアが痛ましいものを見るように目を反らした。

 

否定して欲しいのだろう「今までのは嘘です」そう言って欲しいのだろう、例えウソでも。

 

でもそれは出来ない、してはいけない。

 

「正直今の話を聞いてもピンと来ませんでした」

 

「っ·········」

 

悲痛に顔を歪めるミランダさん、でも俺に期待してはいけない、俺は俺であって、この優しい人達の知る「俺」ではない。

 

「でも」

 

「·······?」

 

「さっき俺を心配してくれた時、無性に謝らなきゃって思ったんです。何故かミランダさんやダインさんを悲しませてはいけないと思いました。上手くは言えないですけど·····

 

 

 

 

今はこれで良いですか?」

 

「···········」

 

でも、希望はもっていいはずだ。

 

ダインさんが微笑みミランダさんの頭を撫でて、ダリアはちょっと涙目だ。

 

「·······怪我は無いんだね?」

 

「はい、ダリアさんのおかげで無キズです」

 

 

ミランダさんは俺の返事を聞くと、暫く黙っていたが深呼吸をするように息を吸って吐いた

 

そして乱雑に腕で目元を拭きながら後ろを向いて

 

「晩飯になったら呼ぶから好きにしてな、部屋は自由に使って良いから、水浴びは裏庭にあるから」

 

そう早口で一気に捲し立てそそくさと部屋を出ていった。

 

「全く、ミランダも素直じゃないんだからな····レイグ、ダリアちゃんも今日は疲れただろうゆっくり休みなさい

 

記憶戻ると良いな」

 

 

ダインさんはそう言って静かに部屋を去った。

 

「レイグ様····」

 

心配してくれるダリアにこれ以上心配かけないように微笑んで頭を撫でる。

 

「大丈夫」

 

とだけ言った。

 

 

こんな中身の無いことしか言えない自分自身に嫌気が刺す、そして

 

 

「(お前はこうして帰りを待つ人達が少なからずいるというのに諦めたのか

 

 

レイグ·アーバス)」

 

俺《奴》に大して。

 

 




レイグ「大丈夫ですかダインさん!」

ダイン「馴れてる」

レイグ「!?」




次回ダリアちゃん視点です


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『ダリア』


後悔はしていない( ・`д・´)キリ


「ふぅ·····」

 

先程の騒動から2時間程たち、私は貸し与えて貰った部屋のベットに腰掛ける。

 

今しがた、水浴び場を借りていた所だ。

 

掌を私の顔の高さまで持っていき。

 

「火炎よ」

 

ぼそっとそう言って、掌に魔力を集中して魔法を発動する初期魔法ぐらいなら私でも詠唱破棄出来るのだ、多分「黒魔道」による成長補正による産物だと私は思ってる。

 

魔力を調整し、拳の半分くらいの火玉が出現した。火玉を私から少し離れた位置に浮かして固定する。

 

「風よ」

 

続いて風の魔法、私の向かい側に魔方陣を出現させて任意永続で固定する。

 

魔力量を調整して初期魔法とはいえ本来強風レベルの風をそよ風レベルまで落として発生させて温風を生み出して髪を乾かしていく。

 

「~~~♪」

 

自然と鼻歌が出てくる、気分が高揚してくる。

 

半年間使えなかった魔法が再びこうして自分の手で操れる日が来るとは思ってなかったし、思わなかった。

 

半年間、長いようで短いかもしれない月日の経過、その最中で同胞が買われていく事も、慰み物にされることも

 

 

見せしめに他の奴隷が目の前で殺される事もあった。

 

もう一生飼い殺されるしか道は無いと思ってた。

 

一生大好きな家族に会えないのかと、流す涙はとうに枯れていた。

 

大好きな魔法をもう使えないのかと絶望した。

 

「~~~♪(レイグ様······)」

 

そんなある日、私は逃亡を決意した。

 

ストルの街に奴隷を売りに行く途中で野営をしていて、奴隷商人の男と、手下達が眠りに付いた時だった。

 

檻の鍵が壊れていたのか、南京錠がポトリと落ちて扉がひとりでに開いたのだ。

 

私含めた奴隷皆がゴクリと生唾を呑んだのが分かった。

 

そして同時に恐怖を抱くのも······分かった。

 

中には私よりも更に小さい子供もいた、皆檻の外に広がる外の世界に羨望し恐怖していた。

 

『··········』

 

脳裏に浮かんだ家族の笑顔、私は静かに立ち上がり静かな声で尋ねた。

 

『誰か、馬を扱える人はいる?』

 

その言葉に誰もが戸惑い、顔を見合わせた。

 

やがておずおずと一人が手を上げた、彼女はどうやら付き合っていた男性が騎馬兵を務めていたらしく、直接な乗馬はしたことが無いが良く見ていたため扱い方は分かるとの事。

 

『私が囮になる、多分一人は残るかもだけど皆で頑張って』

 

こういうのは勢いだ、誰かが「でも」何て言い出したら多分何も出来なくなる、気まずくなって終わりだ。

 

だから、私はまず皆に指を噛みきって血を流して貰い頭から額に流れるよう塗って貰った、そして寝たフリをして貰う。

 

『────もうこんな生活は嫌よ!!』

 

そう言って近場にあった森に駆け込んだ、あくまで希望的観測だったけど、天はあの子達に味方したみたいだ。

 

奇跡的に「乱心した奴隷が他の奴隷を殺して逃げた」と思い込んで貰えたらしい。全員が怒り心頭で追いかけてきた。

 

『(私の味方も····してくれないよね)』

 

分かっていたが絶望感が心にのし掛かった、もう無理だと思った、この半年動けてない私にとって全力疾走はいつ崩れても可笑しくなかった。

 

 

 

「うん、もう臭わない♪(でも助かった)」

 

 

捕まって自害すら覚悟したあの瞬間、その時に現れたのは、同い年ぐらいの少年、黒髪に黒い瞳って言うちょっと珍しい風貌だった

 

助けに来てくれたのは嬉しかった、でも奴隷商人がレベル3って言ったとき、逃げて欲しいって思った。

 

最後に貴方みたいな人がいると分かっただけでも幸運だった

 

 

───そこからはあっという間だった。

 

レベル3なのに元とは言えCランクの冒険者を3人とも一瞬で倒し、奴隷商人を脅迫したのだ。

 

現実味が薄すぎて実感できなかったけど、暖かい言葉をかけられて久しぶりに恐怖以外で涙を流した。

 

彼は慌てるわけでも無く、ただ頭を撫でて待ってくれていた。

 

そしてついには奴隷紋からの解放までしてくれた。

 

彼──レイグ様と旅をする事を決心した次の日の朝、私は怒られた。

 

「いつでも会えるなんて口が裂けても言うなよ?」

 

「家族をその辛さから解放してやってくれ」

 

レイグ様は本当に優しい、厳しい口調でも会ったばかりの私や会ってすらいない家族の為に怒れるんだから。

 

 

レイグ様はどうやらこの世界の人では無いらしい、厳密には他の世界にいたレイグ様の魂がこの世界のレイグ様と同姓同名の存在に憑依してしまったらしい。

 

流石にその経緯までは聞けなかったけど

 

でも納得した、レイグ様のこの同年代と話してる感じがしない感覚も、どこか達観してるような感覚も

 

 

 

そんなレイグ様が悲痛そうな顔していた。

 

この世界のレイグ様が拠点にしているストルの街で懇意にしている宿屋「沈む太陽」そこの女主人ミランダさんと旦那さんのダインさんはレイグ様が昨日帰って来なかったレイグさんの心配をしていたらしい。

 

ひとしきり暴れた(ダインさんは本当に同情した)ミランダさんはしゃくり上げながら心配していた意思をレイグさんに伝えた。

 

私はその姿に少なからず狼狽した思わず母の姿を重ねてしまったのだ。

 

レイグ様からすれば正直関係ない話なのに、何かその姿に重ねるモノがあったのだろうか、本当に悲しそうな顔をしていた。

 

「っ」

 

さっき起こったばっかりのせいか、胸が苦しくなる。

 

きっとその表情の背景には辛いなんて言葉じゃ表せないことが一杯起こったんだと思う。

 

「(レイグ様の事をもっと知りたい)」

 

チョロい?安い女?好きなだけ言えばいい、でも仕方ないじゃないか、惚れるに決まってる、好きになるに決まってる。

 

「(アリスって人が羨ましい)」

 

森の中でレイグ様が寝言で呟いた名前、どんな関係なんだろうか、恋人?家族?

 

でもレイグ様を好きって言う気持ちは負けない、最終的に選ぶ選ばないはレイグ様だけど、これから一緒にいるのは私だ。

 

ねぇレイグ様?あの森での問答の時私は貴方に「命の恩人だから」と言いました、でも恥ずかしさから言えないことがあったんですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────貴方の傍にいたいから。

 

 

 




ミランダ「·········(あの娘、レイグに手を出してないだろうね)」

「おぅい奥さん!エール一つ!」

ミランダ「あ"あ"ん"!?」

「ピィイイイ!?」

ダイン「気になるんだろうねぇ····」


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10話『大成、冒険者ギルドへ』


#前回のあらすじ


貴方の事がしゅきだからぁぁぁぁあ!

byeダリア


「フッ!フッ!」

 

「沈む太陽」での一夜が明けて、まだ太陽が差し掛かり始めた時間帯。

 

俺は部屋の中であの奴隷商人の手下から頂いたサーベルを剣に見立てて振っていた。

 

これから冒険者として、活動していくなかで馴れてきてるとはいえこの身体じゃ、いつか意識と体で足を引っ張り合う事態が発生するかもしれない。

 

やらないよりはましだと思ってる。

 

「·····しっかし直剣と湾曲剣だと大分違うなぁ」

 

幾ら直剣に見立てて振っても、5回に一回は風の抵抗かずれてしまう。

 

「まだ奴隷商人からぶんどった金があるから、ギルドに行く前に何か見繕うか」

 

取り敢えずサーベルを鞘にしまってベットの上に放り投げる。

 

続いて体術の練習、正拳突き、手刀、徒手空拳から始まって足技も組み込んでく。

 

どれほど時間がたったのだろうか、この世界に来てから初めての明朝特訓で気が高ぶっていたのかもしれない。

 

窓から見える小道は相変わらずの日陰オンリーだが、大通りの方から僅かではあるが軽い喧騒が聞こえてくる。

 

「······熱中しすぎたな「トントン」はい?」

 

『ダリアです、レイグ様、ミランダさんが朝飯の準備が出来たって言ってたので呼びに来ました』

 

「あぁ、わざわざすまないな」

 

ガチャっと扉が空いてダリアが入ってくる。

 

「レイグ様、今日は冒険──」

 

何かを言いながら中に入ったダリアはドアを閉めて俺に向き直るとカチンと固まった。

 

「ん?」

 

どうしたんだと思い、ダリアを改めて見るとその視線は俺·····というよりは俺の胴体に定められていた。

 

「あ·····っとそうだ、俺上裸だった悪いな」

 

「··········」

 

ダリアは顔を赤くして黙っていたが

 

 

 

「·······どうぞ」

 

目を細め若干顔を反らして流し目で俺を見てきた、手は後ろに組んで胸を突き出すポーズである。

 

「何が!?」

 

宿屋から響いた俺の叫び声に近くを歩いていた人はビクゥっと肩を揺らしたらしい。

 

 

ーーーーーー

 

「ギルドに行ってくるのかい?」

 

「はい、まず顔を出さないと行けないみたいなんで、それにせっかくだし余裕あればクエストも受けてみようかなって」

 

朝飯を食べ終えて冒険者用の服に着替えた俺とダリア、ダリアはどうやらローブとかはあんまり好きじゃないらしく、動き安い近接戦闘向きの装備を拵えていた。

 

そっかそもそも、ダリアは魔防が高めなんだよな。

 

「まぁ、ダリアもいるみたいだし心配は要らないみたいだけど、気を付けて行ってくるんだよ」

 

「まぁまぁ、ダリアちゃんの話によるとレイグもそこそこ出来るんだろ?」

 

「そうですね、正直私が驚いてるぐらいです」

 

昨日ミランダ達夫婦の夕飯にお呼ばれした時、2人ともダリアにあれこれ聞いていた。

 

だからかそこそこの力を持っているであろうダリアなら俺を任せられると信用したらしい。

 

ただ、その際·······いや、これは後で

 

「じゃあ、行ってきます!」

 

「行ってきます!」

 

「「行ってらっしゃい」」

 

気持ちの良い笑顔で俺達は見送られたのだった。

 

ーーーーーー

 

どうやら冒険者ギルドの建物は大通りの一番奥にあるらしく、俺達は朝早くから開いてる露店を見ながら奥へと進んだ。

 

「すまない店主、このサーベルをやるから少しまけてくれないか?」

 

道中寄った露店は武器を扱ってるみたいで、直剣も置いてあったので値段を聞くと、金貨1枚ぽっきりと返ってきた。

 

払えなくも無いが、もしギルドでの話が長引いたりしたら結局収入はゼロなので少しでも安く買えないかと持っていたサーベルを渡す。

 

「へぇ、大分綺麗に研いであるなぁ、状態もかなり良い」

 

店主が割りと本気で感心したような声音で、続ける

 

昨日、時間かけて整備したのが吉となったようだ。

 

「良いぜ、このぐらいなら此方が喜んで買い取りたいくらいだよ」

 

そう気前良く言ってくれたので、物々交換にして貰った。

 

「凄いですレイグ様!」

 

「いや、逆にカッコ悪い所見せちゃったな、物々交換なんて」

 

そう言うとダリアはとんでもない!と身を乗り出してきた。

 

「経済的に余裕が無い状況で変に見栄を張るより、どれだけ良いものをどれだけ好条件で手に入れると言うのは。それだけで計画性を感じ取らせて、男女とわず安心出来ます」

 

ダリアは頬を紅潮させて続ける。

 

「寧ろレイグ様の場合先程みたいな謙虚より、俺に着いてこいぐらいの強きだと私がぬr───安心出来ます」

 

「分かった!分かったから落ち着け!」

 

人の視線が集まって来たので逃げるようにその場を離れる、つかこいつ何か言い直そうとしてなかったか?

 

そうしていると目先にでかい建物が見えてきた、やっぱりでかいなギルドは

 

 

「─────」

 

「?レイグ様どうし」

 

 

一瞬立ち止まり再び歩きだした俺にダリアは歩調を合わせつつ、尋ねようとした

 

 

 

『おい、レイグだぜ?生きてたってマジだったのかよ』

 

『だから言ったろう、しかも記憶喪失だってよ』

 

『記憶を失っても、ギルドにくるって····他に仕事無かったのかしら』

 

 

俺達の近くを歩いている他の冒険者らしき集団が此方をチラチラ見ながらそう言った。

 

これは········

 

「っこいつら」

 

「ストップだ、ダリア」

 

「何でっ·······」

 

ダリアが目に殺気を走らせながら掌を構えるまえにその手を握り締めて止まらせる。

 

「あいつらが言ってるのは俺じゃないこの世界の俺だ、だから俺は気にしない、だからお前も気にするな」

 

「だからって····」

 

それでも納得のいってないダリアの手を強く握り締める

 

ビクッと反応したダリアにだけ聞こえるようにいう

 

「俺もムカつくが、それでもお前が俺のために怒ってくれることの方が嬉しかったぞ?」

 

本心を伝えるとダリアは顔を真っ赤にして俯いた、可愛い。

 

「レイグ様は優しすぎます」

 

「それほどでも」

 

どこか膨れたようなダリアにそう返すと「もうっ」と拗ねたように言って破顔した。

 

周りを瞬時に見回すと、ギルドが近いのもあって冒険者の数が急に増えてきた。

 

 

 

 

────7割

 

今周りにいる冒険者達から感じる悪意ある視線の割合だ、残りは無関心、安堵の視線も感じるが·····

 

「(これだったのか、お前の帰りを待つ人達がいるにも関わらずお前が諦めた理由は)」

 

 

分からなくもない、荷物持ちしかさせて貰えない毎日、きっと嫌がらせの毎日だったろう。毎日が悪意に晒される日々だったのだろう。

 

でも、やっぱり

 

 

 

 

 

 

 

 

お前は馬鹿だ、レイグ·アーバス

 

 

アリスもそう思うだろ?

 

そう心の中のアリスに言うと、アリスは得意気に頷いて「アンタより馬鹿ね」と笑顔で言った

 

悪意を感じるぜ······

 




ダリア「節約は基本です!」

レイグ「たまには豪遊もしたいけどな」

ダリア「良いですね!豪遊!」

レイグ「··········」


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11話『大成、怒る』



#前回のあらすじ


実は私···着痩せするタイプなん↑です↓


それらの視線を無視して進み、ギルドの入口までやって来た俺とダリア

 

何も言わない俺には相変わらずの嘲笑、遂にはダリアに向けて不躾な視線まで寄越すようになった。

 

「ダリア、大丈夫か?」

 

「·······」

 

顔を険しくして黙り込んでるダリア、良く見ると顔色が少し悪い。

 

「(そうだった、元々ダリアは「そういう」目的で捕えられた奴隷だった)」

 

つい最近までダリアが置かれてた環境を思い出し後悔する

 

正直この世界の俺の境遇を軽く見ていた。

 

「ダリア、今日は」

 

「おいレイグ、誰だよこの女ァ?」

 

休んどけ、と言おうとして後ろから声をかけられた。せめて野暮用が終わるまで待っとけや!と内心愚痴を言って後ろを振り向く。

 

ガタイの良い男が2人、ニタニタと笑っていてその視線はダリアの全身に向けられていた。

 

ビクッと震えるダリア。

 

俺はスッとダリアを背に隠すようにして、男2人の前にたった。

 

男達の顔が醜く、気に食わないと歪むのが分かった。

 

「おい、てめえ誰に向かってそんな目向けてんだ?」

 

「あれじゃね?あの雑魚門番が昨日ギルドで騒いでた記憶喪失、それで俺達に対する態度も全部忘れたんじゃね?」

 

 

──本当はあまりこの世界の俺の事情にそこまで干渉するきなんて無かった。元はと言えばこの世界の俺の自業自得が招いた事態だ、それが全てじゃないとしても。

 

いずれ俺はこの世界から消えようとしている。

 

その時、周りが変わっていてこの世界の俺は順応出来るだろうか。

 

この世界の俺の周りの再構築はこの世界の俺がすべきと考えていた。その為ならこの程度の悪意、どうとでもとおもった。

 

とっとと情報を集めて、この世界の俺の魂にこの体突っ返して、消える

 

「じゃぁもっかい教えてやんねぇとな」

 

「お前は俺達先輩冒険者のサウンドバックってな!」

 

「ついでにそこの女も貰ってくぜ?こんな上等な女お前にゃ勿体ねぇ」

 

 

 

 

だが、ダリアは関係ないだろう。

 

離さないようにダリアの手をしっかり握る、柔らかい掌は汗でじっとりと濡れていた。

 

「っ····レイグ····様?」

 

 

何で彼女がこんなに青褪めて震えなきゃならない?それは違うだろ、これはこの世界の俺のせいでも誰のせいでも無い

 

俺の責任だ。

 

「ここじゃ人目がある、やんならそこのギルドの裏で良いだろう?」

 

そう言って俺はギルドの脇に広がる道に顎をしゃくって示す。

 

「あ?テメェ誰────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいから着いてこい

 

 

自然と声に殺気がこもってしまう、昔から俺は仲間の事になると直ぐキレる悪い癖があるとアリスや仲間からも言われてきた。

 

だが無理だ、治せる自信が無い

 

悪いなアリス、と心の中で呟き、ダリアの手を引いて歩き出す。

 

男達は俺の殺気にビクッとしていたが、やがて怒鳴りながら後を追ってきた。

 

他の冒険者達の興味津々の視線を感じながら、俺達4人はギルドの裏に向かった。

 

「··············」

 

 

興味深い視線とはまた別の、まるで観察するような視線を感じながら。

 

 

 

ーーーーーー

 

ギルドの脇を歩き続けると人目に付かなそうな割りと広い空間に行き着いた。

 

「あの·····レイグ様、わ、私····」

 

申し訳ないと思ってるのだろう、声が震えている。

 

もう一度強く握り締めて安心させるように俺自身の心も安定させてから「何も心配すんな」と言って。

 

 

後ろから蹴り飛ばそうとした男の足を受け流して、腹に一発入れてやった。

 

腹に拳がめり込み男が鈍く呻いた。

 

「っぶ!?」

 

「!?」

 

更に、伸ばしきった男の足を抱え込み地面に着いているもう片方の足を足刀で素早く払って浮いた男の足を抱え込んだまま一回転して、そのままもう一人の男に向けて投げる。

 

 

「うぉわあ!?」

 

「ちょ!?」

 

支えきれずに倒れる2人の男を鼻で笑ってやる

 

「どうしたセンパイ?俺にサウンドバックってのを教えてくれるんじゃなかったのか?不意打ちして、返し技食らってて、教えられるのか?」

 

「て、テメェ調子に···」

 

「グダグダ言う前に教えてくれよ、駆け出しなんざに不意打ちして失敗して、地面に寝っ転がってる様でどうやって俺がテメェらのサウンドバックにしてくれるんだ?」

 

倒れている2人がみるみる顔を赤くして震えを大きくしている。

 

一人が口を開いた。

 

「それぐらいにしとけ?俺達はここらのチンピラを束ねてるCランクの冒険者だ、お前もそこの女も表歩けなくなるぞ?」

 

へぇ、凄いな

 

口を開かなくなった俺を見て口を分かりやすく歪ませた男2人は立ち上がって俺の方に歩いてきた。

 

「第一生意気何だよ、半年間ろくに成長すら出来なかったクソザコが何を開き直ったか知らねえが、俺達に歯向かおうなんてな!」

 

「今回は聞き分けの良かったテメェに免じて、女渡すだけで勘弁してやるよ、安心しろって!ちゃんと満足させてやるからよ!」

 

そう言ってギャハハ!と汚く笑う2人を見て俺はつまらなそうな表情をして見せた。

 

2人は立ち止まり、苛立ったように俺を見下ろした。

 

全身に魔力を循環させつつ、口を開いた

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、喋んな腐る」

 

「じゃあ望み通りに殺してやるよぉ!」

 

青筋を浮かべて殴りかかってきた男の拳を受け止めて、男の顔を殴り飛ばした。

 

多分「大成の器」の+補正もあったのだろう男は簡単に顔面をグチャグチャにして吹っ飛んだ。

 

道端に置かれてた木箱に突っ込んで破砕音を撒き散らす

 

もう一人の男が凍りついたように固まった、その男に近づいて見上げてやる。

 

「おら呼んでこいよチンピラ集団」

 

「え、あ······」

 

冷や汗を流しながら男は吹き飛んだ仲間と、俺の顔を何度も見比べている。

 

「じ、実はさっきのは、は、はったりで·····」

 

だろうな、ランクCってのも嘘だろう、あの奴隷商人の手下達ですらまだまともな動きかたをしていた。

 

第一こいつらには人を率いるような才覚は全くない。

 

チンピラだろうと何だろうと一組織を築いてる代表ってのは、普通の荒くれ者とは違う·····それこそ──

 

そこで俺は男から視線を切って俺達が通ってきた道へ視線を移す、と同時に循環させた魔力を止めた

 

「え?」と俺男が俺の視線を追って振り返って、声無き悲鳴を上げた。

 

いつの間にか、一人の男が立っていた、黒い革スボンにシンプルな白いシャツを羽織ったその男は険しい顔をしてたった一言

 

「そこまでだ」

 

──それこそこういう奴だろう。

 

 

 





一体最後の男はダレナンダー


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12話『大成、覚悟を聞く』

#前回のあらすじ


?「待たせたなぁ!」


静止の言葉を投げかけた男

 

レイグの前に立つ冒険者の男が震えている。

 

「ぎ·····ギルマス····」

 

「おめぇら一体どこで問題を起こそうとしてやがる」

 

淡々とした口調でそう語るギルドマスター改め、ギルマス。

 

「へ、へへ!これは違うんですよギルマス、レイグが無事帰還したとはいえ記憶喪失だったって言うじゃないですか、ここは先輩として冒険者のいろはを再び」

 

「ほう?堂々とお前の女寄越せ発言をしていたらしいが?」

 

「そ、それは····」

 

言い訳する暇もない冒険者の男は顔をひきつらせる、ギルマスは更に畳み掛けた。

 

「証拠云々は言わせんぞ?あの現場は他の冒険者やギルドの職員だってバッチリ見てる

 

 

 

───不当な脅迫行為は、冒険者資格剥奪、までは到底及ばないが監視付きで、3週間の謹慎」

 

「そんな!」と悲痛を訴える男だが無機質なまでに淡々としたギルマスに何も言うことが出来ず項垂れた。

 

すぐさま駆けつけた憲兵に気絶した男と俯いた男を引き渡すとギルマスはレイグに声をかけようとして

 

「っ·······(これが「あの」レイグ·アーバスか?確かに記憶喪失と報告は受けたが·····性格改変どころじゃない

 

まるで抜き身の刃)」

 

レイグはダリアを背に庇うように立っているだけだ、警戒するどころか殺気を放ってすらいない。

 

それでもギルマスは知らずのうちに息を呑んだ。

 

思わず鑑定スキルを発動させてしまった

 

「(レベルは5、ステータスだってそんな秀でた物があるわけではない、確かに高いが······)」

 

引退した身ではあるが元はSSランクとして名を馳せていたギルマス、腕は落ちたかもしれないがそれでも──

 

「対面して早々、覗き見した成果はあったかい?ギルドマスターさん」

 

「!?」

 

はっとなってレイグに意識を戻す。

 

レイグは相変わらずの直立不動、しかしギルマスは自分の首に剣の切っ先を突き付けられているような感覚に襲われた。

 

ステータスや経験も目の前のレイグより遥かに上の筈なのに何故、動揺していたギルマスは何かを言うことが直ぐに出来ず黙ってしまった。

 

「······話が出来そうな人で良かったよ」

 

そう言ってレイグは軽く脱力した、解放されたギルマスは軽く息を整えて改めて口を開いた

 

「いきなり鑑定を使って悪かったな、大丈夫····わ聞くまでも無いな。」

 

「気にしないでくれ、アンタの判断は正しい」

 

助かる、と言ってギルマスはレイグの後ろにいるダリアに目を向け、軽くではあるが低頭した

 

「うちの冒険者が迷惑をかけた、すまない」

 

「····いえ、これは私の問題でもあるので気にしないでください、本来なら私一人で対応出来る場面だったので」

 

「··········」

 

訳ありなのだろう、顔色はまだ幾らか悪いその少女を見てギルマスはまた低頭した。

 

「······ギルドマスターさん、俺達は少し遅れてから向かう」

 

ダリアの背中をさすっているレイグを見て察したギルドマスターは「俺の部屋は2階の一番奥だ」とだけ言って去っていった。

 

少しすると「見せ物じゃないぞお前ら!」と怒声が響いてきた、軽く人払いをしてくれたのだろう。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

「レイグ様」

 

その場に2人きりになった俺とダリア、するとダリアが目に涙を浮かべて謝ろうとしてきた。

 

「ごめん、ダリア」

 

だから俺は謝罪を被せた。

 

「俺があまりにも身勝手で考えたらずだった」

 

今回ダリアは俺の都合に巻き込まれただけだ、二日程前までダリアは奴隷だったのだ

 

少し考えればわかるはずだった、ああいった視線がダリアにとってどれだけの傷を与えるかを。

 

ダリアの明るさ、優しさに俺は甘えていた。

 

「違います、違うんですレイグ様···レイグ様が謝る必要なんてどこにも無いんです!」

 

ダリアは首を振りながら否定した。

 

「私がレイグ様に助けて貰って、奴隷紋からも解放して貰って、仲間にして貰えて、幸せで····だから私忘れてたんです!私こそ貴方に甘えていただけなんです!

 

 

私はあの目から逃げていただけなんです!もう奴隷にならないからって!あの目で見られる事は無いんだって簡単に決めつけてただけなんです!」

 

「それは!───それはそうかもしれないが、それこそ俺が気付くべきだった、お前は美少女だ、雑魚冒険者なんて評価をつけられている俺と一緒にいればダリアがそういう目で見られるのは分かっていた筈だった、それなのに何もしなかったんだぞ

 

俺は大切な仲間であるダリアより確実性もない曖昧な目的を優先したんだ」

 

ダリアはその言葉にやはり静かに首を振った。

 

嬉しそうにそして申し訳なさそうに笑って「やっぱりレイグ様は優し過ぎるんですよ」と呟いた。

 

「私はレイグ様の目的を知ってます、それでも私は貴方と旅をしたいと思ったんです。

 

元を正せば私の覚悟が足りなかったんです。

 

私はあの時怯えて縮こまってる場合では無かったんです」

 

「─────」

 

ガツンと頭を殴られたような気分とはこの事だろう

 

 

俺はあの時、欲望やら悪意の視線に去らされていたコイツに何て言おうとしていた?

 

 

───お前今日は休んでろ?

 

こんなの「お前邪魔だからどっか言ってろ」って言ってるようなものじゃないか。

 

······ダリアは笑っているが、その顔は自責の念に染まっていた。

 

何かをいいかけているのか、そしてその何かはとても辛いことなのか目尻に涙が溜まっていた

 

ダリア、何を考えている

 

嫌な予感を覚えると共に、一つの事に気付いた。

 

 

 

 

俺達は仲間になって日が浅い、浅いなんてもんじゃない、まだ1日しかたってない。

 

言い訳する訳じゃないがこれって····

 

「ダリア」

 

「······?」

 

「俺達、お互いに知らなさすぎたんだな」

 

「あ·············」

 

 

たったそれだけの話、そもそもダリアと出会ってからゆっくりする時間なんてほとんど無かった。

 

「それは·····駄目ですね·······」

 

「俺達、謝ってる場合じゃないよな、でもやっぱりごめん俺ダリアの覚悟を踏みにじりかけてた」

 

「····私の方こそごめんなさい、レイグ様だって責任を感じてらっしゃったのに」

 

何か謝ってばっかりだな俺達、向こうも同じことを考えていたのかお互いにクスッと笑った。

 

 

「·····ダリア」

 

「はい」

 

「······これからだな」

 

「はい♪」

 

本当にこれからだ

 

ーーーーーー

 

 

 

ッバアアァァン!!!!

 

 

「!?!?!?!?!?」

 

閉まっていたギルドの入口の観音式の大きい扉を思いっきり開け放つも

 

中にいたかなりの数の冒険者やギルド職員達は体をビクゥとさせて一斉に此方を向いた。

 

 

「オラオラァ!ギルマスはどこだおらぁ!?去り際に何か言ってたけどボソボソ言っててきっこえねえぇぇんだよ!!」

 

「~~~~~~」

 

ヤンキーが入ってきた

 

 

失礼、レイグが入ってきた。

 

大分離れた所でダリアが恥ずかしそうに俯いてその後を着いてくる。

 

「れ、レイグ君!?」

 

「ぁあん?誰だアンタァ?」

 

キチガイみたいに周囲にメンチを切りながら歩いてると受付カウンターにいた一人の受付嬢が慌てて飛んできた

 

「だ、誰って、そっそっか····記憶喪失なんだよね···私は───」

 

「んなこたぁどうでもいい!とっととギルマスだせやぁ!」

 

「ひゃあ!?な、何ですか貴女ぁ!?」

 

今度はレディースの総長が受付嬢を超至近距離でメンチ切った

 

 

失礼、ダリアが受付嬢にメンチを切った。

 

「何やってんだおめぇらは······」

 

そしてその様子を見ていたギルマスは顔をひきつらせながら2人をギルド長室に呼んだのだった。

 

 




~ギルド前~

ダリア「き、緊張してきました!」

レイグ「こういう時はな、見てろよ?」

ダリア「はい!レイグ様!」


バアアアアアァァン!!

ダリア「···············」


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13話『大成、話をする』

#前回のあらすじ


ギルドに特攻じゃあああああ!( ^ω^ )⌒( ^ω^ )⌒





すいません、前話を見直して「違うな」と思い少しの修正と加筆をしましたm(_ _)m

よろしければ確認してやってください


「い、一体何だったんだ?」

 

「さ、さぁ」

 

「アンタ····さっきレイグ君に何を吹き込もうとしたの?」

 

「先輩、チャンスだと思って。大恋愛の末、女3人を切って結ばれた恋人と言おうとして···」

 

「やべぇなコイツ」

 

レイグとダリアが二階に連行されていって、静かになったギルドのホール。

 

誰もが固まっていたが、少しの沈黙の後ようやく各々動き出す。

 

動き出すも、その視線はチラチラと二階の奥に向けられていた。

 

「·····彼は何者?」

 

興味が殆どの視線の中、どこか探るような視線を向けている少女がいた。

 

話し掛けられた冒険者は「ん?」と振り向いて納得の表情を見せた。

 

「あぁ、アンタはまだストルに来てから日が浅いし、知らないわな」

 

「·····聞かせて」

 

青いポニーテールを靡かせて少女は淡々とそれだけいった。

 

 

 

ーーーーーーー

 

「悪いな、ギルマスあれはわざとだ」

 

「じゃなかったらお前らを憲兵に渡してるよ」

 

そりゃそうだ

 

部屋は広く、応接間といった感じで一番奥に机があり、その前にはそこそこな椅子が二つ並んでいた。

 

「早速だが、今回のあらましを教えてほしい」

 

俺達は頷き記憶喪失について話した。

 

 

 

 

 

 

「······ふむ、それは大変だったな」

 

「あぁ···ってまぁこれで「表向き」の話は終わりかな?」

 

悩ましげに頭を押さえているギルマス、こっちはこっちで面倒事があったのか?

 

ギルマスは俺の言葉に食いぎみに「何?」と反応した。

 

「·····アンタだって、俺に対して言葉通り記憶喪失って信じてた訳じゃないんだろ?」

 

「それは、まぁ····な、少なくともEランクであるお前に「アンタ」呼ばわりされてもしっくり来るぐらいには違和感を感じてるよ」

 

ギルマスはどこが伺うような態度で続けた。

 

「だが良いのか?」

 

「アンタだからいいんだ、これはダリアとも話して決めた」

 

俺の言葉にギルマスはダリアに目を向ける、まるで怯えた様子を感じさせないダリアにギルマスは感心の顔を見せた。

 

「リーガル村のダリア·ミルスよ」

 

「·····半年前に行方不明になった期待の新人か」

 

「え?」

 

ダリアの自己紹介に頷きを返して、ギルマスはそんなことを言った。

 

ダリアって有名なんだな

 

「冒険者登録して僅か一週間で実績を上げてDランク、更にそこから3ヶ月でCランク、文句無しの最年少記録更新だ」

 

まぁ、あの強さなら納得だな、ダリアは顔を真っ赤にしてアウアウ言っていた。

 

「その半年間含めての話だ、正直確証を持ってるぶん信じるのは中々難しいと俺自身思ってる。」

 

「······話してみてくれ」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

「良かったんですか?あのまま置いてきちゃって」

 

「····まぁ、大丈夫だろ」

 

案の定ギルマスは固まった。話をし終わった後にステータスを見せたのたがそれが決め手になったみたいだ。

 

俺としては今後も変わらず「記憶喪失」で、通す気でいる。

 

でもやはりそれを2人で通していくのは難しいと思ったのだ。

 

だから権力も発言力も影響力も人望もあるギルマスにそう言った話をする気は割りと前からあった。

 

「まぁ、なるようになるだろ、クエスト行くか?」

 

「そうですね!」

 

そう言って2人でクエストの用紙が貼ってある板所に向かっていく。

 

「れ、レイグ様!めっちゃ見られてます!」

 

「そりゃあんだけ騒いだしなぁ」

 

「あの、私、受付けの女の子にめちゃくちゃ睨まれてるんですけど」

 

「そりゃダリアお前·····何であの子にだけあんなにメンチ切ったの?」

 

「だってあのメスブ····雌豚が···」

 

「せめて言い直してあげなさい···」

 

やだこの子辛辣···

 

ゴブリン·····コボルト·····うん?フォレストウルフか····

 

ある意味初めての依頼だし、これでいっか。

 

そう2人で物色していると此方に駆けてくる気配が二つ

 

振り返ると、どこか軽薄な感じがする俺やダリアぐらいの年頃の金髪の男が2人いた。

 

「おい!レイグ!」

 

「········誰?」

 

急に怒鳴られては気分も悪くなる、そう問い返すと。2人の内幾らか体が大きい方が怒り気味に返した。

 

「何で昨日帰ってきたなら俺達の方に来なかった!?」

 

「そうだ!お前のせいで見舞金がパアだぞ!」

 

 

────なるほど、コイツらか

 

ダリアも察したのかゴミを見るような目で2人を見ている。

 

周りも娯楽を見つけたとばかりに軽くヤジを投げる奴も出てきた。

 

「············ダリア、これで良いか?」

 

「そうですね!それにしましょう」

 

駄目だ、怒りすら沸いてこねぇ

 

なら無視だな、こういう手合いと話しても時間の無駄に終わる。

 

「は?何俺達を無視してくれちゃって───」

 

「つか誰?その、可愛い子紹介しろ───」

 

俺達は無視して、2人のの脇を歩いていき、そのまま「棒立」ちの2人とすれ違った。

 

俺とダリアが何故か慌てている受付けの元へ向かっていると

 

バタンと、何かが倒れる音が二つ

 

「お、おい何だコイツら、急に倒れて」

 

「うわ!コイツら漏らしてやがる」

 

ざわめいてる背後を見てダリアが苦笑していた。

 

「······何したんですか?」

 

「ムカついたから、殺気で黙らせた」

 

「······ありがとうございます」

 

「·····おう」

 

どこか気恥ずかしいまま俺達は受付けカウンターへとたどり着いたのであった。

 

アリス、見たか?俺だって穏便に解決できるんだぞ?

 

心の中の我が幼馴染みにそう報告すると「やるじゃない」と言ってモジモジした。

 

可愛い

 

内心照れてたら脇腹ダリアにつねられた

 

痛い·····

 

 




レイグ「ムカついたから殺気で黙らせた」

ダリア「濡れました」

レイグ「え?」

ダリア「────スー、いえ何でも」



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14話『大成、依頼を受ける』

#前回のあらすじ


レイグ(前)を見捨てた奴ら、そこまで重要キャラじゃなかった!




「──ちょっとレイグ君来たわよ?」

 

「先輩!私対応しますから!」

 

「オメーは駄目だ、何吹き込むかわかんねぇ」

 

「は、はなせぇ!!」

 

········近寄りたくねぇ。

 

「わ、私行ってきますか?」

 

ダリアが気遣ってくれるが、そう言うわけにもいかないだろう。

 

この境遇になっている以上こういった人間関係の厄介事、面倒事をダリアに押し付ける訳には行かない。

 

「すまない、クエストを受けたいんだが···」

 

俺がそう声をかけると受付け嬢達は騒ぎを止めて、視線で頷き合い年長者らしき女性が前に出てきた。

 

他の受付け嬢は他の冒険者の相手に回っていた。

 

「·····本当に記憶喪失になってたのね」

 

「····すみません」

 

「早く、記憶が戻ると良いわね」

 

どこか痛ましいものを見るような目で見られてから、まるで仕切り直しだとばかりに笑顔になった。

 

「ああ!貴女がレイグ君を助けてくれたダリアさんね、レイグ君がお世話になったわね!」

 

「(おかん······)」

 

「(お母さん····)」

 

レイグの身を案じる姿といい、ダリアにする挨拶といい、完全にその姿はオカンだった。

 

因みに彼女は割りと本気でレイグの事を息子に近い何かを感じている。

 

「あっと、そうだったレイグ君」

 

「はい?」

 

「おかえりなさい、生きててくれて良かったわ」

 

「······どうも」

 

心からそう思ってると笑顔の受付け嬢に気恥ずかしくなったレイグは顔を背ける。

 

「ごめんなさいね?クエストだったわね?確認するのでお預りします」

 

瞬時に仕事モードに切り替わった受付け嬢にレイグとダリアは感心しながら、依頼用紙に目を通す様子を見ていた。

 

すると彼女はピタッと止まりクエスト用紙を返してきた。

 

「受理できません」

 

「なっ」

 

「····Cランククエストで、フォレストウルフ「だから」ですか?」

 

「え?」

 

キッパリと不許可の意を唱えた受付け嬢。

 

ダリアは驚いたが、俺はやっぱりか、と後頭部を掻いた。

 

フォレストウルフ単体はそこまで強くはないし、正直ゴブリンやコボルトより少し強いぐらいだ。

 

何故Cランクなのかって?簡単だ、群れで行動するからだ。

 

しかもこれが中々統率が取れていて、連携攻撃も出来るしかなり厄介だ

 

「ある条件下であれば」クエストランクはCからBの上位まで跳ね上がるのだ。

 

·····そうだよな、レベルやステータスが低いだけじゃない、俺Eランクなんだよな。

 

 

「·····そこまで知っているなら、分かるでしょ?幾らダリアさんがCランク冒険者と言っても、貴方が足を引っ張って2人とも危ない目に遭う可能性だってあるの。

 

 

貴方は自分の我儘で仲間であり、恩人でもあるダリアさんの命を危険に晒す可能性つもりなの?」

 

·········正直ここまで言われるとは思ってなかった。

 

正論も正論、ド正論だ。ぼっこぼこだよ

 

 

 

 

 

 

 

遺憾?バカ言え、寧ろ安心したわ。

 

難癖つけるような冒険者だって少なくは無いだろう、実質さっき絡んで来た奴らは全員そういうタイプだ。

 

それでもこうやって身の丈に合ってないクエストを受ける危険性を説ける人は中々いない。

 

黙っている俺に表情を厳しくしたまま受付け嬢は続けた。

 

「·····先程レイグ君がギドルさんを倒したと小耳に挟みました、もしかしたらレイグ君の才能が少し開いたのかもしれません、格上に勝つことによって自信が付いたのも分かりますし、いい傾向と言えます

 

ですが自信を持つことと自惚れるのとは全然違います」

 

「でも、受けます」

何故!

 

 

受付け嬢の叱責がホール内に響き渡る、シーンと静まり再び視線が集まる。

 

「··········」

 

「────はぁ、ダリアさん」

 

「は、はい」

 

俺を睨み付けていた受付け嬢だが、一切ぶれないと察したのか、眉間を揉みながらため息を吐き、何故かダリアを呼んだ。

 

受付け嬢の空気に呑まれ、幾らか緊張したダリアが言葉を返す。

 

「レイグ君が無理したら気絶させてでも連れて帰って来て下さい、クエスト失敗でも構いません。

 

責任は私が取りますので」

 

書類に了承印を押した受付け嬢は、そう言いながら用紙を俺に渡した。

 

その際、受付け嬢はレイグをどこか聞き分けの無い子供を見るような、しかしどこか優しい顔をしていた。

 

 

 

ーーーーー

 

「ち、ちょっとアンナさん!良いんですか?Eランクのレイグ君にCランククエストって···いくらCランク冒険者がついてるからって」

 

レイグとダリアが低頭してギルドから去っていくのを確認した受付け嬢のうちの一人が慌てた様子で受付け嬢最年長であるアンナへと声をかけた。

 

「·······一緒だった」

 

「え?」

 

雰囲気が全く違うし、言動も全く違う、最早別の人が乗り移ったと言われても信じるレベルだった。

 

「どれだけ、内気で弱気でも、周りに馬鹿にされようともここって言うところはブレない、あの時と同じ目をしてたのよ、折れるしか無いでしょ」

 

疲れた用に椅子に身を沈ませて、アンナはそれでも嬉しいような優しいような、そんな笑顔を浮かべた。

 

 

レイグの安全を祈りながら次の冒険者の相手をし始めたのであった。

 

 

そんなオカンな彼女、実は28歳独身である

 

ーーーーーー

 

あれから俺達は一度「沈む太陽」に帰って、クエスト経由で帰りは明日になると伝えた。

 

近隣の村にフォレストウルフが出現して被害が出ているらしく、恐らく泊まり込みになるであろうと思ってる。

 

渋っているミランダさんをダインさんという犠牲の元に説き伏せ。

 

必要な食料、水などを用意して俺達は街を出た。

 

 

「あの受付け嬢の人、いい人でしたね」

 

「あぁ、早く終わらせて早く返らんとな」

 

普通なら通らないような我儘を許してくれたんだ、感謝しきれないよ本当に。

 

「はい!」と元気よく返してきた仲間に頷き返して、俺達は近隣の村へとその足を動かした。

 

 

初クエスト開始だ。

 





受付け嬢のアンナさんに質問です!

Q、結婚しないの?

アンナ「は?おい」

えっ?ちょ───!?


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15話『大成、村に着く』

#前回のあらすじ。


ダリア「レイグ様は年上好き?ならワンチャンあんじゃね?」

やめろ、どしてそうなった


ストルの街近隣と言っても、徒歩でも片道何時間あるであろう距離だ。

 

だから必ずそういった遠征依頼の為に冒険者専用の運用馬車がどの街にも存在する。

 

「馬車なんて初めて乗っかったかもな」

 

「そうなんですか?」

 

味わったことの無い、地面を歩かずに進むという違和感、そして凹凸の付いた地面を車輪が通った時の揺れる感覚。

 

この世界に生まれ、冒険者として生きている者からすれば、固い木の板を繋げて作られただけの粗末な馬車の荷台。そして乗り心地の悪さに顔をしかめるだろう。

 

レイグは、初めての感覚に「おお···」と目を見開いていた。

 

「あぁ、こっちでは馬車なんてのは貴族、王族、商人が使ってるイメージが強かったからな」

 

「(ふふ、レイグ様かわいい)」

 

目を煜かせて、どこか声が高くなっているレイグにダリアは頬を緩めた。

 

「ハハッ!冒険者さん面白いね!どんな田舎に住んでいたんだい!」

 

レイグの台詞を聞いて面白かったのか、馬の御者が話し掛けてきた。その台詞には他意はなく、純粋にレイグやダリアと話したかったのだろう。

 

「山に囲まれた糞田舎」

 

「ワハハハハ!辛辣だなぁ!」

 

出だしは順調で、和やかな雰囲気だった。しかし街を出発して一時間もしないうちにレイグの顔に険しさが生まれてきた。

 

右側50M先にに広がる小規模の森に目を向ける。

 

「(ゴブリン、いや、リーダーもいるなこれ)」

 

気配はまるわかりだが、姿の隠し方は中々上手かった。

 

「レイグ様」

 

「あぁ」

 

そう短く答えて朝方買った直剣を鞘から抜く。うん、やっぱししっくり来るなと、レイグは満足げに頷いた。

 

御者に「魔物だ」と答えてダリアに「援護頼む」とだけ言って。森に向け駆け出した。

 

無駄と言う無駄を省いたレイグの走りは、スキル補正もあってか普通のレベル5とは比べ物にならなかった。

 

すぐさま距離を詰められた森に潜む気配、ゴブリン達は堪らないとばかりに森から飛び出し、迎撃の姿勢を向ける。

 

そのゴブリン達に遅れて明らかに体が一回り大きいゴブリンが貧相ではあるが胸当てや棍棒を装備して2体ほど出てきた。

 

ゴブリン8体に、ゴブリンリーダー2体

 

『ギャギャ!』

 

『グギャギャ!』

 

リーダーがレイグになど眼中は無いとばかりに、馬車がある方、性格にはダリアを指差して叫んでいた。

 

その様子に青筋を浮かべるレイグ。

 

事もあろうにゴブリン達はともかくリーダー2体はレイグなど物の数にすら入れてなかったのである。

 

「上等」

 

そう震える声で言ったレイグは残り6Mと言った所で、更に深く脚を踏み込み、更に魔力で踏み込んだ脚にブーストして爆ぜた。

 

その結果

 

6Mと言う距離は一瞬で埋められ、並んでいた2体の間、顔の高さの位置に飛び込んでいたレイグが右側のリーダーの肩に脚を乗っけて飛び込んだ勢いを殺しつつ左側のリーダーの首をあっさり絶ち斬った。

 

『ギャ?』

 

まるで幻のように消えたレイグにリーダーは?を浮かべると同時に肩から感じた重みが消え、そちらに顔を向け、そこには首から上が無くなっている同胞の姿を確認した。

 

 

 

────と、同時に首を何かがスゥっと駆け抜けていく感触と共にリーダーの意識は永遠に閉ざした。

 

 

 

 

 

 

 

「じ、嬢ちゃん、あ、あの兄ちゃんの冒険者ランクって·····」

 

「信じがたいですが、Eですよ」

 

私は興奮する気持ちと、御者の呆然とした質問に答えながらも、魔法の詠唱を中断しなかった自分を誉めたかった。

 

────分かってたけど、ここまでだなんて!

 

ゴブリンリーダー、ゴブリンと付いてはいるがその体は裕に2Mを越えて、体格なんて今日ギルド前で絡んで来た豚達と比べることすら失礼なほどにゴツい。

 

私は初めて見たけど、書物などで知識はあった、リーダーの個体ランクはCランク上位

 

それをああも容易く倒すなんて···!

 

魔法の詠唱の最後の節を読み上げていく。

 

───炎の精霊サラマンダーよ、今一度力を貸し与え彼の敵を討ち滅ぼせ───

 

高まっていく魔力、半年振りの魔法行使による緊張、不安。

 

「レイグ様!」

 

「頼んだ!」

 

まるで、待ってましたとばかりにその場を離れるレイグ様、いつの間にか残ったゴブリン達を一ヶ所に纏めている。やっぱりレイグ様は凄い、私も頑張るんだ。

 

「(───レイグ様の傍に居るために!!)

 

フレイム·ランページ!」

 

 

私の指先が一瞬強く発光して、消えた。代わりに、ゴブリン達の真上と真下に赤い魔方陣が展開される。

 

 

ゴブリン達が慌てて逃げようとしているが遅い。次の瞬間

 

 

ボボボボボボ!!

 

次々と火球が生み出されていき

 

「あの世で後悔しなさい」

 

一瞬で8体のゴブリンを消し炭にした。

 

 

 

ーーーー

 

ダリアの魔法がゴブリン達を一掃した。

 

「(マジか、確かに攻撃に特化したスキルだとは思ったが、ここまでか····)」

 

何で、中級魔法なのに威力が明らかに上級魔法のレベルなんだよ。アイツまだレベル15なんだよな?

 

ダリアを見ると、両手を振って喜んでいた。

 

その後、特にモンスターに襲われる事もなく。御者にひたすら質問責めされていた。

 

やれ、本当にEランクなのかとか。

 

やれ、ダリアとどんな関係なんだ、付き合ってるのか?とか、これには少し困ったが顔を真っ赤にしたダリアが体をくねらせながら御者の首を絞めていた。

 

流石に、止めた。

 

そうし騒ぎながら馬車に揺られて数十分。

 

俺達はストルの街近隣の村「リデア村」へと行き着いた。

 

ーーーーーーー

 

「こっちだ、付いてきてくれ」

 

村に付いた俺は、御者のおっちゃんに村の長である人の家に案内された。

 

どうやら御者のおっちゃんはこの村出身らしく

 

俺達に依頼を受けてもらって安心したらしい。

 

「·······(村自体に被害は無さそうだな、だが、なんだ?この村の人達の覇気の無さは···)」

 

ダリアも村の様子に気づいたようで、不安げに俺を見てきた。

 

「·····すまないな、もう少し前まではまだ活気は合ったんだが····」

 

申し訳無さそうに言う御者だが、やはりその顔は辛いことに耐えるようだった。

 

「····何か合ったのか?」

 

「····このクエストはさ、(塩漬け)なんだよ」

 

 

歯を噛みしめて、どこか寂れてしまっている村を憎々しげ見つめて。御者のおっちゃんはそう言った。

 

 




ダリアちゃんに質問です!

Q趣味は?

ダリア「レイグ様の顔を観察することです」

Qつまりストーカーね?

ダリア「は?おい」

え?ちょ───!?(二回目


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16話『大成、村にて』

#前回のあらすじ


悲報!レイグ(今の)生まれ故郷は糞田舎ww

レイグ「は?おい」

え?ちょ───!?(学習能力皆無


「塩漬けクエスト」

 

意味は様々あるようだが、よくある意味合いとしては依頼されたクエストの内容とその報酬金額に不満を持った冒険者が、金額を吊り上げようと放置しているクエストって言うのがある。

 

しかし、そんな物をギルドが放置している訳が····

 

「依頼達成報酬の額を上げられなくなったのか····?」

 

妥協案としてあるのは、ギルド職員が依頼主の元に足を運び「そちらで上げられるだけ報酬額を上げる」という提案をして、上げてもらい。

 

これ以上は厳しい、とギルド職員に情に訴えて交渉して貰うというのがある。

 

俺の質問に御者の男は、気まずげに視線を反らした。

 

ダリアが顔を険しくして口を挟んだ。

 

「ま、待ってください····依頼を出したのって····?」

 

そう、この塩漬けの「最悪」の落とし穴は放置された日数である。最初は作物が荒らされた、家畜が喰われた等の被害でも、日数がたてば経つほど。

 

 

 

 

 

「───2ヶ月じゃ」

 

そう言って話し掛けて来たのは一人の老人だった。

 

「そ、村長····」

 

「·····そなたらが、依頼を受けてくれたと言う?」

 

 

そう尋ねてくる村長の目は誰にも期待してない、人生に疲れた、そんなだった。

 

「あぁ、レイグ、Eランク冒険者だ」

 

「ダリア、Cランク冒険者よ」

 

俺達の自己紹介を聞くと村長はますます目に落胆の様子を見せて、背を向けようとした。

 

「村長、いくら何でもそれは····」

 

御者が村長のあまりな態度に咎めようと口を開き、横から延ばされた手のひらにビクッと驚いた。

 

御者が延びてきた方、俺を見ると、戸惑いの表情を浮かべていた。

 

「俺達は気にしてない」

 

「はい、ろくに挨拶も出来ないようなお爺さんとは違うので」

 

「訂正するよ、俺は気にしてない」

 

「レイグ様!?」

 

 

 

ーーーー

 

村長があんな様子なので、俺とダリアは御者と別れ、村の中を確認することにした。

 

「レイグ様?どうします?」

 

「·····この依頼か?」

 

「はい」

 

ダリアが固い表情で訊いてきた。

 

·····正直、2ヶ月も干されてしかもフォレストウルフとなると面倒臭いことになってる筈だ。

 

「フォレストウルフの勢力は拡大してると踏んで良い、幸いアイツらは臆病だし、火と見回りを切らさなければこの規模の村だったらまだ襲われる事はないと思う。」

 

「······Bランク····ですか」

 

「········」

 

ダリアが幾らか緊張した様子で呟いた。

 

普通なら降りるだろう、あまりにも身の丈があってない、フォレストウルフは単体は弱いもののその本領はチームプレイだ。それに奴らは何故か自分に有利な場所に誘い出すのが上手い

 

しかもクエスト受注受理した際、Cランククエスト扱いだから、当然報酬もそれ相当。

 

俺は別に報酬がどうだろうと気にならないが·····

 

黙っている俺達に怒声が叩きつけられる。

 

 

 

「帰れよ!冒険者!」

 

その怒声の主は幼かった、まだ10歳頃だろうか。小さい男の子は憎々し気に俺達を睨み付けた

 

「お前らが!お前らが弱い癖に!母さんの飯一杯食って!皆冒険者がいれば安心だって!なのに!」

 

言っている内容がメチャクチャだった。

 

でも余程俺達······いや、冒険者が憎いのか涙を浮かべ、それでも言葉を続けようと声を張り上げた

 

「この村は危険だからっと村長が言ってた!危険だから商人も旅の人も誰も寄ってこないって言ってた!魔物が一杯居るから狩りも出来なくなったって隣のおじさんが悲しんでた!お、お前らのせいで····俺の」

 

「··········」

 

ダリアが微かに震えているのが分かった。

 

周りの村の人達は、ざわめくが誰も男の子を止める者は居なかった。

 

「レン!何をやってるの!?」

 

レン───男の子の名前であろう言葉を叫ぶように、一人の女性がレンと呼ばれた男の子の前に飛び出した。

 

「っせぇ!」

 

レンは目を瞑ってそう叫ぶと、この場を走り去っていった。

 

女性は顔を悲しげに歪めて!ハッとしたように頭を下げてきた。

 

「ごめんなさい!息子が!」

 

土下座でも始まりそうな雰囲気で謝る女性、俺は女性を宥めて話を聞かせて貰う事にした。

 

「すいません、少し話を聞いても良いですか?」

 

 

女性は申し訳無さそうに了承して俺達をこの街の寄合所へと案内してくれた。

 

「·········」

 

ダリアは俯いたままだった。

 

 

 

ーーーーーーー

 

女性は先程の男の子、レンの母親らしい。

 

話を聞くとどうやらこの村は騙されたらしい。冒険者を騙る連中の悪質なイタズラらしかった。

 

依頼を出して3日目にそいつらが来たらしく、かなり偉ぶっていたらしい

 

「俺達はAAランク冒険者だ。この村が困っていると聞いてな」と言う言葉を信じきった村長含め村の住人は、出来る限りの最高の持て成しをしたと言う。

 

村の子供達、当然レンも瞳を輝かせてその偽物連中に冒険譚をせびっていたらしい。

 

偽物連中は夜になるとフォレストウルフは動きが鈍くなるんだと得意気に語り、剣を抜いて意気揚々と森に入っていき。

 

結局帰って来なかったらしい。

 

そして偽物連中の安否を気にしたレンの父親が森に探索しに行ったが、翌日還らぬ姿で見つかったらしい。

 

動く気配が全くない、物資物流、フォレストウルフ達の脅威、そしてレンの父親の死、戦う力が無い村人が何者にも期待できないのは当然といえば当然だった。

 

「······クズですね」

 

控えめに言って、何よりそんな奴らと同列扱いされるのが余計ムカつく。

 

「·····すいません、私の教育不足だったんです、あのこの暴言について許して上げて下さい、この通りです。」

 

そう言って頭を再び下げようとした母親を宥める

 

「·····受けます!」

 

「え?」

 

今まで、俯いて顔を強張らせていたダリアだったが、いきなり立ち上がって叫んだ。

 

「レイグ様受けましょう!この依頼!」

 

「覚悟は決まったのか?」

 

「いえ、悩んでました!この村を救ったら英雄扱いじゃないですか?」

 

「ん?······まぁ」

 

そう、なるのかな?

 

母親はポカンとしてダリアを見上げている。

 

「そしたら多分銅像が建つじゃないですか」

 

「建ちませんね」

 

「えぇ!?じゃあ私が悩んでた時間って·····」

 

お前はこの数分間のシリアス中に何を悩んでるんだよ。

 

「え?あ、あの····」

 

目をぱちくりさせる母親を尻目に俺とダリアは笑みで頷きあった。

 

「俺達の初見せ場だ」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、レンの母親の叫び声が村中に響いた。

 




ダリアちゃんに質問です!

Q嫌いな人は?

ダリア「リーガル村にいる隣の家のクレイヴ君」

いや誰!?


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17話『大成、森へ』

#前回のあらすじ


レイグ「銅像は草」

ダリア「そりゃないわ」


「レン!?レン!?どこに行ったの!?」

 

 小さい子ならもう舟を漕ぐ時間帯、辺りに夜の帳が落ちて、一刻が過ぎた頃。

 

 村中に響き渡る声で叫び続けるレンのお母さんに、他の村人達が何事だ!?と家から出て来る。

 

「········」

 

 御者の家を借りていたレイグは勿論、その様子を見ていたダリアも取り乱した母親の今にも泣きそうな顔を見て、察した。

 

 ──あのばか、森に入りやがった!

 

「奥さん、どうしたんだよ!レンがどうした!?」

 

 村人の一人が落ち着かせる為、母親の肩に手を置き宥めようと声をかける。

 

「晩御飯の片付けで、洗い物してたの、そしたら包丁が無くて······!きっと、森に行ったんだわ!」

 

 酷く狼狽した様子で取り乱していたが、レンが森に行ったと自己完結すると同時にそのまま村の入り口に向けて進もうとする。

 

慌てて、宥めようとしていた人が羽交い締めにして抑えた。

 

「だ、駄目よ奥さん!夜の森は危険だって村長が!」

 

「私に息子を見殺しにしろっていうの!?」

 

「っ······それは······」

 

 2、3人程で母親をおさえるが、細身の身体のどこにそんな力があるのか、大暴れしていた。

 

「離して!離してぇ!あの子しかいないのお!あの子までいなくなったらわたしぃ!」

 

「·········」

 

 レイグは誰にも悟られないように静かに近付き、母親の後頭部に手を翳す。

 

「(誘え《いざなえ》)」

 

 魔法を発動して、強制的に母親の意識を眠らせた。

 

「あ、あんたは·····」

 

 僅かに警戒心を含んだ声に分かりやすく溜め息を吐いてやる。

 

 今、この場には子供を除いた殆どの村人がいるのを確認したレイグは口を開いた。

 

「ダリア、頼んだ」

 

 ───手筈通りに。

 

「───(コクッ)」

 

 ───やっぱりレイグ様かっこいい!

 

 アイコンタクトを交わしつつ(交わせてない)レイグはその場から出口に向けて、歩いて行った。

 

「に、逃げるのか!」

 

 後ろから、そう罵声を叩きつけられるがレイグは無視して、真っ直ぐ出ていった。

 

 取り敢えず母親を泣かせたレンは殴ると心に決めて。

 

 森への入り口は村から徒歩で5分はかかる所にあった。

 

「······(急がないとだな)」

 

 レイグは内心焦りを覚える、レンの居場所は分かった

、まだ今のレイグの位置から、そお遠くない、今は疲れているのかは分からないが動いてはいない。

 

 レンに近付いている、群れが10体程。

 

「────これ、何体居るんだよ····」

 

 嫌な予感が的中しやがった、とレイグは溜め息を吐く。

 

 森のあちらこちらから気配を感じる、60匹くらいでは効かない、100···そのくらいいるかもしれない。

 

 しかも、だ。

 

「一匹変なのが混じってやがる」

 

 大した強さではないが、それでも今日倒したゴブリンリーダーよりかは強いだろう。

 

 考えなくてもこの気配が多分このフォレストウルフ大量発生に繋がったのだろう。

 

「うーん?ダリアの「説得」が成功すれば良いけどな」

 

 

そう呟くレイグの顔が険しくなった、レンの気配が出口とは全く違う方向に走り始めたのだ。

 

「世話が焼けるヒーローだなおい」

 

 そう言って、走る速度を上げた。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 レンは冒険者が大嫌いだった。嘘つきだし、偉そうだし。

 

 何よりレンとレンの母親から、父親を奪った。

 

「ヒィッ!?」

 

 後ろから聞こえる、この2ヶ月間、聞かない日は無かったフォレストウルフの鳴き声。

 

 それでもこんなに近くで聞いたことなんて無かった。

 

「ハァッハァッ·····ッヴ」

 

 限界運動量を越えてしまったのか腹に痛みが走る、それでも痛みを我慢して走った。

 

 次第に喉の渇きと気持ち悪さが襲ってくる。

 

 止まったらどうなるのかレンは分かっていた、でも

 

 

 

 

 

 

 ────ここで死んだら、父に会えるのかな。レンは不意にそう思った、思ってしまった。

 

 大好きな父に会えるなら····

 

 と自ら走る速度を緩めてしまった。

 

『ウォオオン!!』

 

「うわああああ!?」

 

 すぐさまレンに追い付いたフォレストウルフ一匹に後ろから押し倒された。

 

「っくぅ!」

 

 背中に爪が突き刺さってるのもお構いなしに体重をかけており、レンの顔が苦渋に染まる。

 

 他のフォレストウルフも追い付き自分の周りはフォレストウルフに囲まれていた。

 

「────」

 

 少年は、脱力した。抵抗も止めてしまった 

 

「おい、クソガキ」

 

『ギャン!?』

 

 少年は何が起きたのか分からなかった、背中にかかっていた重力が消えて、乗せていたであろうフォレストウルフは囲んだまま固まっている同胞達の外側で横たわり身体をピクピクさせている。

 

 目の前には人の足、上を見上げるとそこにはどこか不機嫌そうな昼間の冒険者だった。

 

「·······え?」

 

「·····ちょっと待ってろ」

 

 そう呟いて、冒険者──レイグは直剣を抜いた。

 

 

 

 

 

 軽く殺気をぶつけながらにじりよると、囲んでいたフォレストウルフ達は戸惑いながら下がっていく。

 

「──なら俺から行くかな」

 

 下がるばかりで、仕掛けて来ないフォレストウルフの意図を察した。

 

「(取り敢えず一旦はこの場を退かんとな)」

 

 後ろのクソガキを見ながらそう思った。俺が正面にいるフォレストウルフに踏み込んだ

 

『ウォン!』

 

 当時に左右それぞれ違う高さから襲いかかってきた。

 

「うぜぇ」

 

 後ろにいるクソガキの「あの様子」を見てから無性に腹が立つ。

 

 剣を一回上に放り投げ、左右から襲ってきたフォレストウルフの顔を掴んで動きを止める。

 

 昼間のゴブリンリーダーでレベルが多少上がっていたのか、大して抵抗を感じない。

 

 そのまま両手を捻り首をゴキンと折った。

 

 倒れるのを確認してから上から落ちてきた直剣をキャッチして、前で固まった一体を斬り捨てる。

 

 残ったフォレストウルフ達の方に振り返る。

 

「かかってこい」

 

 死にたければかかってこい、暗にそう告げた。

 

 フォレストウルフ達は顔を見合せひいていった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

「·········」

 

「·········」

 

 静まり返り、見下ろすレイグと向かい合っているレンが気まずそうに、しかし何処か不服そうに口を開いた。

 

「べ、別に助けて何て·····」

 

 その声を聞いてレイグは

 

「そうか」

 

 とだけ淡々と返した。

 

 レイグはそのまま何も言わず

 

「─────────え?」

 

 その細い首筋に直剣を沿わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ死ぬか」

 

 レイグの声はどこまども淡々としていた。




レイグ絶対ぶちギレマン参上


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18話『怒りの訳は』

#前回のあらすじ


レイグは何故切れたのか?


誤字報告感謝ですm(_ _)m


「じゃあ死ぬか」

 

 そう淡々と言い放ったレイグの顔はとても冷たい顔をしていた。

 

 

 本気だ。

 

 

 そうおもってしまう程、レイグの瞳は絶対零度の如く冷たく、小さな命を摘み取ってしまう事が悲しい悲壮感を孕ませていた。

 

「な、何でだよ!助けに来てくれたんじゃ無いのかよ!」

 

 再度訪れた理不尽に思わず声を荒げるレン。レイグは全く動じた様子も無く。

 

「助けを乞うのか?、命が惜しいのか?」

 

 まるで言葉を話す、機械のような話し方にレンはビクッと身を縮こまらせた。

 

 それでも、そんな当たり前な事を!とレイグに噛み付くように怒鳴る。

 

「そんなの、当たり前だろ!?」

 

 

 

 

 

 

「なら、何で諦めた」

 

「───え?」

 

 相変わらずの淡々とした口調、それでもレイグの顔は憤怒に染まっていた。歯を食い縛り、目を見開き、その手は爪が食い込む程キツく握り締められていた。

 

「お前が、フォレストウルフに捕まった時、少しでも足掻いたか?生にしがみついたか?」

 

「っそんなの力があるやつには分からねぇよ!勝手な事を言うなよ!?」

 

 目の前のコイツには分からない、レンはそう決めつけた、自分の価値観を押し付けてるだけだ。そう思えてならなかった。

 

 痛い所を突かれたであろうレイグは、それでも問い続ける。

 

 まるで何かを否定するように

 

「お前、あの瞬間母親の事とか考えたのか?」

 

「え?」

 

「死んだ父親の元に行きたい、とか思ったんじゃないか?」

 

「そ、そんなのお前「お前の!」

 

 

 明らかに動揺した様子を隠せないレンは、またはぐらかそうとして、その慟哭を聞いた。

 

 

「お前の!母親が泣いていたぞ!周りなんか気にしないで!お前が心配で心配で堪らなくて!この森に来ようとしていたんだぞ!」

 

 目を見開いて固まるレンに構わずレイグは慟哭を続ける。

 

 

「関係ない?あぁ、関係ねぇさ!だから何だ?目の前で子を思って泣いてる親見て助けになりたいって思っちゃいけねぇかよ、おい!」

 

 ───レン!またつまみ食いしたでしょ!?

 

 母親が作った好物を性懲りもなくつまみ食いをして、バレて頬っぺたをつねられたのを思い出した。

 

「あぁ!そうだよな!母親何かどうでもいいから、あの場面で死んで父親に会いたいって思ったんだもんな!?」

 

 ───レン?お母さんが貴方を守るからね?

 

 父親が死んで毎日のように泣き腫らしていた時、落ち込んでいた母親が強い母親を演じてくれた事を思い出した。

 

「俺達は何と言われようと構わねえさ、けどお前の母親があのあと言ってたんだぞ?お前の事を許して上げてくれって土下座だってやろうとしてたんだぞ!」

 

「お前が死んだら、母親はどうなるんだよ!」

 

 ───貴方っ·········

 

 

 父親が死んでから、大分日がたったある日の晩、母親が人知れず涙を流していたのを思い出した。

 

 そんな事を考えてしまったからかレンは母親に会いたくなってしまった。あって昼間はゴメンなさいって言わなくちゃって思った。

 

 

 

 

 

 

「ごめ···なさい」

 

 静かに泣いて呆然と呟くレンにレイグは「そんなのテメェの母親に言えバカ」っと言った。

 

 そしてレイグは大きな溜め息をを吐いてレンの背中を回復魔法で癒し始めた。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 はあぁぁぁぁぁぁあ······

 

「(何暑くなっちゃってんの俺······)」

 

 どうしよう、死にたい、何でこうなった?俺はクールに助けて、このガキを村に送り届けてから、本格的に討伐開始するきだったのに。

 

「··········」

 

 必死に涙を引っ込めようとしているのか目をごしごしするレン、あ、こらそんなにしたら目に傷が付くでしょ!あ~あ~、こんなに鼻水垂らして····ん、何だよ服引っ張っ─────あああああ!?おまっ何俺の服で鼻水拭いてんだごらぁ!?

 

 少し時間を置いて落ち着いたのか、本来のやんちゃぶりを発揮するレン。

 

「········」

 

 さっきはああも熱くなってしまったが、ただ単に俺は認めたくなかっただけなんだ。

 

 諦めない事が無駄でしかないなんて、自分を·····「あの時の俺」を否定して欲しくなかったのかもしれない。

 

 だからあの場面でレンが生きることを諦めたのがむかついたし、正直押し付けた感は半端ないと思ってる。

 

「───泣き止んだか?」

 

「っ!べ、別に泣いてねえし、これあれだから!涙じゃないから!」

 

「そんなに強がんなよ、馬鹿になん」

 

「第一、泣いてたのそっちじゃねぇの?」

 

「んだとゴルァ!?このクソガキィ!!」

 

「いだだだだだだだだだだぁ!?」

 

 ちょぉっと大人しくしてりゃコイツ!

 

 容赦しねぇ!もういい!相手が10やそこらの子供だろうが何だろうが知ったことかぁ!食らえ!(子供の頃に大体の人はやられたであろうコメカミに指の第2間接部分で挟めてグリグリするやつ)!

 

 そうやってレンをリラックスさせていると(一応本当)

 

「っ」

 

 その時、森の奥からずっと感じる殺気が一気に膨れ上がった?これは───

 

「?どうし」

 

 

 

 

 

 

 

ヴォオオオオオオオオオオオオン!!!!  』

 

 

 聞こえた咆哮は確かにフォレストウルフのそれだが、遠くからでも感じる威圧感が段違いだった。

 

「な、何?何でこんなに震えて」

 

 震えているレンを尻目に内心舌打ちをした。

 

「(っくそが、村に戻る余裕くらいくれっての!)」

 

 一度は退いていった気配が倍以上に膨れ上がっていき、それがこちらに向かってる。

 

「っおいクソガキ!お前ちょっと上に言ってろ!」

 

 そう言って有無を言わさずレンの首根っこを持ち上げ、近くの木の上目掛けて放り投げた。

 

「うわあぁあ!?」

 

「掴まれ!!」

 

 何とか理解できたのか、地上4Mはあるところの木の枝にしがみついてくれた。

 

 少しでもこの場を離れようと、森の奥目掛けて直剣を抜いて駆けていく。

 

「いいかっ!必ず戻る!絶対降りてくるんじゃねえぞ!?」

 

 そう残して。

 

 

ーーーーーー

 

 

「·······いるなぁ」

 

 思わず愚痴を溢す感じに呟いてしまう。駆け抜けた先、少し開けた場所に出てきた。

 

 四方八方から感じる殺気、どうやら囲まれたらしいとレイグは判断する、辺りを見回すように視線を走らせていると。

 

「·····あれが親玉か?」

 

 レイグの正面に 7匹くらいで固まっている群れの中、一際目立つ風貌の生き物がいた。

 

 フォレストウルフより体格が2回り程おおきく、その伸びる爪は全てを引き裂きそうなそんな凶悪な見た目をしていた。

 

「(·····黒毛に、あれは····3つ目?·······ブラッディウルフ?)」

 

 ブラッディウルフ、フォレストウルフの変異亜種である、あの3つ目には個体が生まれてくる度ランダムで固有スキルが発現するらしい。

 

 

周りのフォレストウルフはまるでブラッディウルフを守るかのように佇んでいる。

 

「っ!」

 

 ザシュっ!

 

『ギャン!?』

 

 背後からフォレストウルフが襲いかかって来たが、レイグの後ろ踵による蹴上げを喰らったフォレストウルフはそのまま斬り捨てられた。

 

 

 

 

─────それを合図にフォレストウルフがあちらこちらから襲いかかってきた。

 

 




ガチパートが続くのでここらでレイグのステータス確認


レイグ·アーバス16Lv8
 





功 230(+500)

防 171(+500)

早 257(+500)

魔功 200(+500)

魔防 160(+500)

知 199(+500)

 

skill

 

大成の器(異界の英雄レイグ·アーバス)

#常時発動しています。

補正、レベルアップ時、全ステータスに+100



????(new

#上記スキルの派生スキル(スキル所持者の任意発動 




翻訳

#現存する言葉全てを翻訳可能



無詠唱❬中❭(new)

#中級魔法迄なら詠唱を破棄。

(スキル効果の成長可)


ブースト

#瞬間的なステータス向上


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19話『大成、暴れる』

#前回のあらすじ


フォレストウルフ「密です」

しゃーない


 夜に支配された森の一角、レイグがフォレストウルフの大軍とぶつかり合って15分が過ぎようとしていた。

 

 絶えず肉を断つ音、次いで響き渡る魔物の唸り声、怒声·····そして断末魔。

 

 それを産み出しているレイグは驚いた事に、返り血を浴びてはいるが、傷一つ付けることなく剣を振るっていた。

 

「ォオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

『ギャン!?』

 

『ギャイン!?』

 

 四方八方囲まれて、しかも休む暇も無く襲われているのに走らせる剣の軌跡は正確無比だった。

 

 前から飛びかかって来たフォレストウルフを唐竹割りで断ちきり、更に一歩踏み込み深く身を沈めて、後ろから飛び掛かろうとしていたフォレストウルフがレイグが身を低くした事により。レイグの上をそのまま通過──

 

 

『キャインッ!?』

 

 する前に体勢的に前を向いているレイグがフォレストウルフの首を直剣で貫いた。

 

「ッオゥラァ!」

 

『『『!?!?』』』

 

 更には、貫かれた剣に支えられたフォレストウルフの尾を掴み、全力で前にぶん投げる。ブーストもしたのかかなりの速度でぶん投げられたフォレストウルフの骸はかなりの数のフォレストウルフを吹き飛ばした。

 

 レイグは一旦大きく跳び退きフォレストウルフの集団から少し離れた場所まで下がり。短い時間でも、周りを見渡す。

 

「ふぅ·····70は仕留めたと思ったんだがなぁ····」

 

 どこか半笑い気味なレイグの目先には、未だどうやってこの人間を食い殺してやろうと血走った目で見てくるフォレストウルフの大軍だ。

 

「······」

 

 ちらっと横目で相変わらず高みの見物をしているブラッディウルフを見た。

 

「·······?」

 

 違和感を感じた、他の魔物にはあるのにコイツにはそれが感じられない、そんな感じ。

 

『ウオオン!』

 

「·····頭を叩いてみるか?」

 

 目の前の敵を屠りつつ俺はブラッディウルフ目掛けて走り続けた。

 

 フォレストウルフの追随をかわしながらドンドン距離を詰めた。

 

 そしてもっと不可解な事が起きた。

 

「·········お前」

 

 ブラッディウルフはその瞳を光らせたと思うと。レイグとブラッディウルフ以外のフォレストウルフ全てが犬でいう伏せの状態になった。

 

 レイグは異常な光景に半ば呆然としながらも、意識はブラッディウルフから離さない。

 

「お前は誰だ?」

 

 あろう事か、レイグはブラッディウルフに話し掛けた。····正確に言えば

 

 

 

 

『───興味深い』

 

 正確に言えば「ブラッディウルフを通して此方の様子を見ている、誰か」であるが。

 

「·····傀儡召喚か」

 

 傀儡召喚、只の召喚魔法とは違い「契約ではなく支配、又は服従した状態の相手」を使役する召喚魔法だ。

 

 契約が対等な立場のもとに成立したならば、傀儡は文字通り術者の「一生」に隷属して成立させる魔法だ。

 

『この状況で冷静で居られる胆力、そしてその洗練された戦闘能力と剣筋······巷を騒がせている勇者パーティーより余程興味深い』

 

「────せい」

 

 

 ザシュっ!と肉を断つ音が鳴り響きソイツ···ブラッディウルフの首があっさり落ちて、血飛沫が飛ぶ。

 

 ·······················

 

 ··············

 

 ········

 

『は?』

 

「んだよ、まだ通じてんのか」

 

 迷惑そうな顔でそう吐き捨てるレイグ。よく見ると周りのフォレストウルフ達もどこか口をあんぐりしている。

 

『お、おおお前!何て事を!?』

 

「敵の前でギャーギャー言ってるからだろうが」

 

『空気を読めよ!?せっかくこっちは謎の敵感出してたのに!』

 

「───狙いは怪物行進か?」

 

『お前っ人が──っまぁいい!失礼だが興味深い奴に遭えたのは収穫だった。』

 

 向こう側の奴が気を取り直したのか。軽く咳払いをした。

 

『いや、まぁ確かに希望的観測ではあるものの、そう言う狙いはあるにはあったぞ』

 

『だが、あくまで目的の副産物的な感覚でしかなかった。』

 

「目的?·····つまりあれか、規模を拡大させて、勇者パーティーの耳に入れさせる、で来るようにするってか」

 

 レイグの言葉に「うぐっ」っと詰まる謎の男。

 

 図星らしい、少し悔しそうに唸っている。

 

「お前がどのくらい厄介かは知らんが、ここは退いとけ」

 

『──仕方あるまい──こ──やる』

 

 傀儡獣が死んだ事でパスが切れたのか、急に向こうからの声が伝わり難くなった。

 

 もう用はないとばかりにソイツに背を向け、残るフォレストウルフを始末するために歩き出そうとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さら────··──·大成者─』

 

「何?」

 

 何やら聞き捨てならないことを口走った。レイグは思わず振り返ったが、事切れたブラッディウルフと戸惑っているフォレストウルフしか居なかった。

 

「··········次からは空気読も」

 

 そう思いながら、再び狼狩りを勤しむレイグだった。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「全く!「人間と言うのは」どうしてこうも相手に合わせるというものをしようとしないのだね!?」

 

 先程、ブラッディウルフを通してレイグと離していた謎の男はプリプリしながら腕を組んで座っていた。しばらくムッツリとしていたがやがて男はクツクツと笑いだした。

 

「────あの男が「器を満たし者」か」

 

 一目で分かった、レベルの割に高すぎる戦闘能力、技術、駆け引き、全てにおいて自分でさえ凌駕できるであろう。

 

「魔王様が勇者以上に警戒している、と言うから「大成の器」の保持者を観察していたが·····その努力が実った、かな?」

 

 そう言って自身の「黒い腕」を擦っている。次いでその口元がまるで三日月のように歪んでいった。

 

「楽しくなってきたな」

 

 そう言って男は自身がいる部屋の窓の外を、「赤黒い空模様を」を見上げた。

 

 




   一方その頃········


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『長』



#前回のあらすじ


レイグ、空気を読めと怒られる

レイグ「m(_ _)m」


 

 レイグ様があの子供を探しに村を出ていったのを見届けて、私は村人達に言い放つ。

 

「じゃあ皆、早速準備するわよ?」

 

 いきなりそう言った私に村の人達は困惑したようにざわざわしている。

 

「な、何をするんだ」

 

 恐る恐ると言った感じで、集まっている村の人達の少し年配の男性が尋ねてくる、どこか警戒と猜疑心を含んだ表情に私は(これはキツいかも)と顔をしかめた。

 

 レイグ様、私にこの大役が務まるのでしょうか?

 

 若干遠い目をした私は御者さんの家の中でレイグ様と話し合った事を思い出した。

 

 

ーーーーーー

 

「村人達を、ですか?」

 

「あぁ、俺はフォレストウルフを全滅····まではちとキツいかもしれないが、壊滅状態までは追い込みたいと思ってる。」

 

 レイグ様が考案した案は、村人達に協力して貰い「追放運動」を働きかけることだった。

 

 私に言い渡されたのは「村人達を説得して、全員で森を踏み荒らすだけ」とのこと。

 

「小さい村ではあるが、100人くらい居るなら大丈夫だ、フォレストウルフは基本臆病だ、火を恐れ自分より大きい奴には集団じゃないと挑めない、松明を持たせて全員で力強く歩くだけでかなり効果が現れる······頼めるか?正直この作戦で一番大変なのはダリアだ」

 

 幾らか眉を下げて、心配してくれるレイグ様に内心歓喜を覚えながらも「確かにそれは」とも思う。

 

 まだ村を一周ぐらいしか見て回ってないが大人達の未来に対する不安や絶念が子供達にも伝染していた。

 

 加えて、先の偽者の一件に干されていた依頼、そして来たのはCランクの私とEランクのレイグ様。

 

「不安になる要素しかないな」

 

 口元をひきつらせて言うレイグ様に私も微妙な顔を返してしまったと思う。

 

「──レイグ様、私に任せてください」

 

 私の言葉を聞いてもレイグ様はどこか浮かない顔をしていた、どこか「ダリアを自分の都合に付き合わせてる」、そんなことを思ってそうだった。

 

 客観的にみたら誰もがそう思うと思う。

 

 明らかに依頼内容の範疇を越えている、肩入れをしすぎていると言われてもしょうがないだろう。

 

 

 

───レイグ様は本当の意味でこの村を救おうとしている。

 

 たまたま受けた依頼先が危機に瀕している、たったそれだけで。

 

 でも私は知っているのだ、レイグ様がそれだけでは無いのが、レイグ様は諦めるという行為が嫌なだけなんだ。

 

「レイグ様、私は嬉しいんです。頼ってくれているのが、だからそんな顔しないで下さい」

 

「ダリア·····」

 

「レイグ様·····」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの?盛るなら良い場所あるから教えてアッ」

 

 邪魔をした御者さんの目潰しをした私を誰が責めると言うのだろうか。

 

 

ーーーーーーー

 

「何って、今から皆であの森に入るのよ」

 

「はぁ!?」

 

 村人の反応は当然だ、魔物が怖いし命が惜しいから依頼を出したのに、意味が無いじゃないか、何を言ってるんだ?と私を責める視線が増していく。

 

 その反応も当たり前だ、でも───

 

「皆、分かってんだろ?そう言う段階は過ぎてるって」

 

 そういって私の横に立っているのは御者さん、若干目元をヒクヒクさせて、私から少し間を空けて立っている。うん、素直に反省。

 

「ギョシャ·······」

 

 え、この御者さん「ギョシャ」って名前だったの?

 

「ギョシャさんの言う通りよ、もうこれは「只討伐するだけ」じゃ。収まり付かないって皆も分かってるでしょ?」

 

 そう、本当にその段階を越えている、魔物以前の問題なのだ、あの男の子が言っていた事をギョシャさんに聞いてみてますます思った。

 

 寄り付かない商人、閉鎖的になっていく、痩せていく土地、幾らストルの街近隣と言っても。魅力もない村に寄るかしら?

 

 正直、近隣の村や集落は、少し歩けば他にも幾つかあるのよね。

 

 

 

 

「って言って、アンタもあの兄ちゃんも逃げるんだろ?「あの時」みたいに」

 

 その時、「ついに」村人側からその声が上がっていた。

 

 どんどんその言葉に他の村人に浸透していき·····

 

 ギョシャさんが何とか収めようと声を荒らげるが全く聞き入れない様子。

 

「冒険者なんて信じられない!」

 

「ギョシャの家で食った飯は上手かったかよ!?」

 

「もう騙されないぞ!」

 

 放火火事の如く、一度着いた火は消えず、寧ろ強く勢いを増した。

 

「皆、頼むこの嬢ちゃん達を信じてやってくれ!本当にあの時の奴らとは違うんだって!」

 

「うるさい!お前も同罪だ!こんな余所者連れてきて!·······第一こんな子供が本当に冒険者かよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃあ勝手に滅びろ!

 

 気付けばそう叫んでいた、完全に頭に血が上っている私は村人達全員を睥睨し更に叫ぶ。

 

「そんなに死にたければ死ねば良い!折角レイグ様がこの「村を」救おうと動いているのに!」

 

 村人達が静かになって私の声だけが響く。赤子の泣き声が僅かに聞こえる。でも止まらない。

 

「こんなに狭い視野でしか物事を計れないなんて残念だわ!私達はクエストを受けたんだから依頼通りフォレストウルフは倒して上げる、でも、そのあとは知らない、閉鎖的な村で生きて、外と全く関わらず。

 

 

 

全く同じ事を繰り返して滅んでしまいなさい!」

 

 

 レイグ様が気に掛けていたのは、その事だった。依頼達成するのは良い。

 

 そのあと、この村がどうやって生きていくかだった。商人による物資の流れが無ければ当然お金も動かない

 

 現状文無しで、痩せた土地で作った作物で生きている状態

 

 その状態では当然村人はますます閉鎖的になりストレスも溜まっていく。

 

 そこにモンスターや盗賊が来たら?簡単に略奪されるだろう。

 

 だから、例え強くなれないとしても、脅威に立ち向かえる心の強さは持って欲しいとレイグ様は言っていた。

 

 

 「ギョシャさんごめんなさい」

 

 ギョシャさんは目をぱちくりさせたあと複雑そうに笑って「気にすることはない、寧ろすまない」といって頭をさげられた。

 

 

 「待ってください」

 

 もうどうにもならない、そんな状況にどこか弱々しい声が響いた。

 

 そっちを向くと、一人の老人がいた。

 

 そう、リデア村の村長だった。今さら何?と私は思わず睨むように見てしまった、しょうがないでしょ!第一印象悪かったし!

 

 私が何も言わずに視線だけを返すと村長がいきなり何も言わずにその場で膝を着いた。

 

「村長!?」

 

「ダリア様、この度は私含め、村の者が失礼を働いた

 

 

 

すまなかった」

 

 そう言って頭を地面に着けた、所謂土下座だった。

 

「ワシは思った、本当にこのままでは村が滅びると、奇跡的にフォレストウルフの脅威が去っても、金もない、交流もない、農作以外に何もできない我々では····」

 

 村長は頭を伏せたまま震えていた

 

「ワシだけならそれも良い、と思っていた。どうせ生きて後10年あるか無いかぐらいじゃ」

 

 頬を伝って見えた何かは冷や汗か、それとも·····

 

「でも、ワシは腐っても村長じゃ、皆の生活を守る必要がある」

 

 震える声で「助けてくだされ」と更に地面に頭を押し付ける村長。

 

 更に

 

「すまなかった!」

 

「ごめんなさい!」

 

 次々と、村人達が村長に習い土下座を始めた。私とギョシャさんは目を丸くして、その光景を呆然と見ていた。

 

 皮肉でも何でも無く村長に対して凄いと思った。どこかギルドマスターに通じる何かを感じる。

 

 村人達からは掌返しが露骨な感じもするが、言い訳もせずに懸命に謝ってる姿からはちゃんと誠意も感じる。

 

「·····俺も土下座する?」

 

「·····絶対しないでください」

 

 ギョシャさんの言葉に私はそう返すしかできなかった。

 

 





次回、むらびとぱれーど


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20話『大成、夢にて······』


#今回の話の前半、もしかしたら分かり辛い描写になっていると思います。ご了承下さい。


 

「これで全部か?」

 

 静まりきった森の中で、俺は疲労を滲ませた声でそう言った。あぁ·····

 

「疲れたぁ······」

 

 極度の緊張から解放されて、俺はその場で倒れ込む。ビチャっとフォレストウルフの血で汚れるが今更だ、もう全身が血まみれになっていた。

 

 今すぐにこの場から離れたい、獣独特の臭いだったり血の臭いだったり、あちらこちらに飛び散ったりしてる血だったりで、軽く阿鼻叫喚になっている····が

 

 もう無理、もう動けん。魔力やブーストで無理矢理動かしていたのもあって、もう少ししたら反動来るだろうなぁ。

 

「·······」

 

 辟易としながらさっきの傀儡獣のブラッディウルフを思い出した。

 

「大成者······か」

 

 

『異界の英雄よ、大成した者よ』

 

 この世界に入る時に聞いた言葉と同じ言葉····だよな。有力な情報ではあるんだろうけど、如何せん他の情報が少なすぎる。でも

 

「取り敢えず、依頼達成だな」

 

 無事だったことを喜ぼう。

 

 目をつぶって。耳を澄ますと

 

 

 

───オオオオオオオオオオオオ··········

 

 村人達が雄叫びを上げているのが遠くから聞こえた。

 

 雄叫びに次いで、走る音までもが此方にまで響いた。

 

「さすがダリア」

 

 顔が笑みで緩むのが分かる。

 

 

何か忘れてる気がしなくもないが、パッと思い出せない事の大半はどうでもいいことだって誰かが言ってたかもしれないので。

 

 そう思うことにして俺は寝る事にした。

 

ーーーーーー

 

 

 

──ん?

 

「ん?夢か」

 

 気付けば俺は目を開けて立っていた、いきなり夢と断定出来たのは。

 

「そう、これは夢よレイグ」

 

 決して、今、俺の傍には居ないであろう大切な人が見慣れた笑顔で目の前に居るからである。

 

 茶色のセーターに青いデニム生地のズボンという最後に会った時の服装、腰辺りまで伸びた綺麗な金髪をポニーテールに纏めあげ、お姫様と言うより宿屋の美人看板娘と言った感じの彼女、チャームポイントとも言うべき鼻の上に僅かにあるそばかすは確かに彼女──アリスだった。

 

「久しぶり、アリス」

 

「何言ってんの、まだ「会えなくなって」たったの3日めじゃない」

 

「·····そっか、まだ3日しか経ってないんだな」

 

 おかしいレイグと、カラカラ笑う彼女、からかうような口調、優しく見守るような表情は相変わらずだった。

 

 俺は話した、この世界に来てからこんなことがあったんだとまるで小さい子供に絵本を読み聞かせるかの様に。アリスは笑って、時には呆れて、時には驚いて、時には悲しんで、やっぱり笑って俺のどうでも良いような話を聞いてくれた。

 

「アリス·····俺さ──」

 

 俺が何を言うか、分かったであろうアリスはまるでステップを踏むかのような軽い足取りで目の前に立つと。

俺の口元にピッと人差し指を添えた。

 

「ダメ、レイグ」

 

「······夢の中ぐらい良いじゃないか」

 

 思わず拗ねるような口ぶりになってしまった。

 

「それは「その時」にまで取っておきなさいな、全くせっかちなのは変わんないねレイグは」

 

「アリス?」

 

「いーいレイグ?これは夢よ、でも·····

 

 

 

 

 

 

 

でも、この世界で貴方は決して一人では無いわ」

 

······どういう意味だ?

 

「この事は覚え···て無いかもしれないね、まだ私達は馴染んで無いみたいだから

 

······でも、それでも··」

 

 馴染む?私達?俺とアリスの事?一体何を何でそんな寂しそうな····

 

 ん?喋れない!?ふざけんなまだこちとら言いたい事あるんだぞ!おい!

 

 

「忘れないで」

 

 

アリスっ!

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

「ん·······」

 

「起きましたか?レイグ様」

 

 目を開けると頭に柔らかい感触を感じ、真上から最近聞き慣れた、でも意外と聞き心地の良い声が落ちてきた。

 

「だ····りあ?」

 

「はい、ダリアです!」

 

 元気そうに答える彼女、取り敢えず状況を確認して····相変わらずのそこら中から漂う、血、獣の臭い、そして血だらけの森。そこまで時間は経ってないようだ。

 

 どうやら本格的に寝てしまった所を、ダリアが見つけてくれて見ていてくれたらしい。

 

 しかも膝枕されてるし···何か恥ずかしいぞこれ。

 

 あー、つーか動けねぇ····ダルい。

 

 てか何だろう、凄い大事な夢を見てた気が、全然思い出せないや···

 

「村の人達は?」

 

「はい!隠れていたフォレストウルフ達も流石に100人が横に並んで松明振り回して叫びながら走ると言う光景に真っ直ぐ逃げていきました。」

 

「そこまでやったのか」

 

そりゃ逃げるわ、俺でも逃げるわ

 

 

「はい!何か気分良くなったのかそのまま、他の森の方にまで走ってっちゃいましたけど····」

 

 ·······まぁ結果オーライか····?

 

「悪い、重かったろ?今どいて····」

 

「わ、私は大丈夫何でもう少しこのままで!!」

 

「お、おぅ」

 

 勢いに押されて、そのままの状態を維持する事にした。いやまぁ現状何も出来ないけど。

 

 ダリアも、顔を真っ赤にして俯いてしまっている。

 

 ·····しばらくそうしていると、ダリアがなぜか泣きそうな笑みを浮かべた。

 

「ダリア?」

 

「無事で良かったです」

 

「──あ···」

 

 

「大丈夫だと信じてました····でも、レイグ様が血まみれで倒れていたのを見て、·····わたし·····わたし···」

 

 涙を溢しながらダリアが、口元を手で覆って震えていた。

 

「ダリア」

 

 泣かないでくれ、俺なんかの為に、そう思ってダリアの目元を血が付いてない指で拭う。

 

 でも、俺なんかの為に泣いてくれて

 

「ありがとう」

 

 力があまりでないから上手く笑えてるか分からないな······

 

「────れいぐしゃまぁあああああ!!!」

 

 あ、だから泣かない──うおおお!?抱きつかないで!恥ずかしいから!てか、血が付いちゃうから!

 

 

「お楽しみですね、あんちゃん?」

 

「お前、レン何勝手に降りてきて!つか見てるなら何とかしてくれ!」

 

「いやぁ何て言うかぁ?「いいかっ!必ず戻る!絶対降りてくるんじゃねえぞ!?」ってカッコつけてたのに静かになっても全く帰って来ないから心配になって来てみればぁ?そのねぇちゃんに膝枕されて幸せそうにしてるみたいだから邪魔しちゃったのかなぁって」

 

 このガァキャァァァァァア!?

 

「れいぐしゃまぁああああ!!!」

 

 ああもぅ、何故こうなるの!?

 

 

 俺は心の中のアリスにそう声をかける。

 

 心の中のアリスは此方を見て鼻で笑って背を向け去っていった

 

 ああもぅ、何故こうなるの!

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「いでえぇぇ····」

 

 数十分後、頭を擦っているレンの姿があった。

 

「ったく」

 

「レイグ様駄目ですよ?小さい子供にそんな乱暴しては」

 

「全くの無抵抗の時に抱き締めてきたダリアに言われたくない」

 

「········りぴどー」

 

「何言ってんの!?」

 

「あんちゃん」

 

「ああん?今度はなに?」

 

 最早投げ槍にそちらを見ると、レンが真面目な顔で、俺達から3歩ほど離れた所に立っていた

 

「あの時は酷いこと言ってごめんなさい、あと助けにきてくれた時も」

 

 深く頭を下げて謝るレンに思わず面喰らう俺達。

 

「お、お前ちゃんと謝れたんだな?」

 

「失礼だな!?」

 

「悪い悪い、まぁ何だ、帰るか」

 

 罰が悪くなったのでそう言うとレンは「おう!」と言って駆け出した。

 

俺達も行くか、と声をかけて俺達もレンの後を追いかけようと足を動かそうとして。

 

「花?」

 

 先程まで俺が寝ていたであろう場所に全く血によごれてない白い花が一輪咲いていた。

 

「これ勿忘草ですね!綺麗、しかも一輪だけだなんて」

 

 何故か気になって、マジマジと見ていたが、結局何が気になったのか分からず、その勿忘草を人なでして俺達もレンの後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

───そう言えばアリスが好きな花だったな、まぁ何故か白は嫌いと言ってたが

 

 

 

 




ダリアちゃん

ダリア「··········」

これ、健全な奴だから

ダリア「っち」

ダリアちゃん!?


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21話『大成、村に戻って』

勿忘草(白)

·「わたしを忘れないで」

リピドー

·性的興奮、又は欲求が高まること。

本作品

·健全な奴




 あれから村に戻ってきた俺達、もう月が薄れ始め、太陽は見えずとも、山の影から僅かに夜の世界に光を差し込んでいた。

 

 村の人達は行進から帰ってきたのか、夜明けにも関わらず、この村に来たときとは全然違う生き生きした顔をしてた。

 

 レンは村の皆を見ると一目散に駆け出した。

 

「みんなぁ!」

 

「レン!!お前心配したんだぞ!」

 

 村の人達はレンを見るや否や取り囲み、軽く小突いたり、撫で回したりしていた。

 

「あんちゃんが助けてくれたんだ!」

 

 レンが俺を指差しながら言うと、村の人達が一斉に俺達を見て、一斉に詰め寄ってきた!?

 

「おぉ!お前さん、生きてたか!」

 

「ダリアちゃんが言ってたろ、気絶してるだけだって」

 

「いやぁ、流石にあの惨状を見たらなぁ」

 

 話しかけてくる村人達には素直に心配してくれている様子が見えた、まぁ気まずさはまだあるみたいだが、最初に感じた陰鬱さは感じない。

 

 

「········もう、魔物は怖くないか?」

 

 口々に言う村人達に問いかけると、皆気まずそうにしたり恥ずかしそうにしながら。一人、一人と頭を下げ始めた。

 

 

「受け取って下され」

 

 思わず固まっていると、老人が後ろに御者のおっちゃんを引き連れて声をかけてきた。

 

 老人···村長は、そう言ってから村人達にならって頭を下げた。

 

 

 

「村の代表として、人として礼を言わして欲しい。

 

 

ありがとうございました」

 

 村長が震えて礼を言った後、村人達も礼を言い始めた。

 

 気恥ずかしかったので、後頭部を掻きながら「おう」としか返せなかった俺は視界の端でレンが村の人に話しかけているのを捉えた。

 

「な、なぁ母ちゃんは?」

 

「あぁ、レンの母さんなら、今家に」

 

 レンは母親の所在を聞いて、自分の家であろう建物に駆け出していった。

 

「────」

 

「レイグ様のお母様はどんな人だったんですか?」

 

「!」

 

 その光景を何気無しに見ていると、ダリアが俺の左手を握ってくれた。

 

「おい、ダリア血が」

 

「何を言ってるんですか、今更ですよ」

 

 どこかおかしい感じに笑うダリアの笑顔が妙に眩しかったので顔を反らす。

 

 母さん·······か

 

「·····とんでもない人だったよ、親父は投げ飛ばす、息子も投げ飛ばす、何なら村を襲った盗賊すら投げ飛ばしてた人だ」

 

 うん、本当にとんでもなかった、村の荒事トラブル解決は取り敢えず母さんに任せとけば問題なかったからな。

 

 どこか引いている様子のダリアに苦笑いを溢し、「でも」と続ける。

 

「凄く優しい人だった」

 

 ダリアはそれを聞いて「そうですか」と静かに目を瞑って言った。そこへ「バタン」と大きな音が村に響いた。

 

 レンが向かっていた家の玄関の扉が勢い良く開き「レン」と叫びながら、レンの母親が出てきた。

 

 レンが「母ちゃん!」と叫び、母親に抱き付こうとする。

 

「貴方は何て事をしたの!!」

 

「ブッ!?」

 

 だがレンの母親は息子の姿を確認するや、ギンッと音が付きそうなくらいに睨んで。やけに無駄のない動作でレンの頬を張った。

 

 バヂィン!と鈍い音を響かせて真横に冗談抜きに2mぐらい吹き飛ぶレン。

 

 その場の空気が凍り付くのが分かった。

 

 村の人達は冷や汗を流して、初めて見るのか唖然とした様子で母親を見ていた。

 

 村長何か、何がどうしてそうなったのかブリッジしながら唖然としていた。

 

 御者のおっちゃん何か、村の女性陣数名に取り囲まれて蹲ってゲシゲシ蹴られながら唖然としていた。

 

 比較的まともだったのは俺とダリアだけで、ダリアは母親の表情を見て、露骨な程に俺の腕を抱き抱えて震えていた。

 

「レイグ様!?何でそんな微笑ましく見てるんですか!?」

 

「いや、確かにビックリしたけど、あれってレンを大事に思ってるからこそ出来た芸当だろ?何かさ、感動しちゃって」

 

「確かにそうかもしれませんけど·····」

 

「それに俺の母さんもあんな感じだからさ」

 

「なるほど」

 

 納得したのか現場を見て徐々に涙ぐんでいくダリア、順応速いねぇ君。

 

 静かに近寄る母親にレンが涙目で震えたまま、こっちを見てる。

 

 まぁ気持ちは分からんでもない、でも、元はと言えば原因はレンなんだから。

 

 

 

 

 

「この馬鹿息子っ!」

 

「う、うわあああああああああ!?」

 

 しっかり親の愛を刻まれてこい、レン、いや別にざまぁみろとか思ってないから。

 

 

本当に

 

ーーーーーーー

 

「本当にもう行かれるのですか?」

 

「あぁ、なるべく今日中に帰りたいからな。」

 

 あの親子劇を堪能させて貰った後、少しだけ村の人達にご馳走になった。

 

 あまり気が進まなかったのだが「村の英雄にそんな無礼な事は出来ないから是非」と、逆に断れなくなってしまい。

 

 風呂を貸して貰ったり、短くはあるが仮眠も取らせて貰ったりした。村の子供達も、顔をパンパンに膨らませたレンが俺の奮闘劇を大分誇張して広げたのか、村を出る頃には、大分懐かれていた。

 

「おいレン、また包丁持ち出したりすんなよ?」

 

「ばっ、もうしねぇよ!」

 

 俺のからかうような口調に、顔を赤くして怒るレン「こら」と軽く怒るレンの母親に皆が笑った。

 

「それに、次に握るのは剣って決めたからな」

 

「·····そっか」

 

 なら大丈夫だろう。レンも、この村も抗う事の大事さを見つけた。諦めない事で得られる成果を知った。

 

 確かに、抗っても駄目な時だってあるし諦めないからってどうにもならない時だってある。

 

 

 

 

 現に俺はどうにもならなかったからこの体に憑依してしまったのだ。

 

「(でも、お陰でダリアと出会えた)」

 

「?どうかしました?レイグ様」

 

 俺の視線に気付いたのかダリアはこてんと首を傾げた。「何でもないよ」と答え、村に別れを告げる。

 

 御者のおっちゃんが操る運用馬車の荷台に元気に乗り込むダリア。

 

 

 「············」

 

『レイグ様、私に任せてください!』

 

 

 何でもないなんて事はない、ダリアには感謝してる、頼りにもしてる。

 

『無事で良かったです』

 

 

 嬉しかった、心配して涙まで流してくれた、割りと今ではこの世界に来れたことに感謝したりする。でも

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後は別れるのかと思うと、嫌に胸が軋んだ。

 

 

 

 




母は強し!


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22話『大成、街に帰り···』

#前回のあらすじ



村長のブリッジにおっちゃんのリンチ現場と言うパワーワード


「手掛かり、ですか?」

 

 村から馬車に揺られて、1日ぶりに帰って来たストルの街、たった約一日離れていただけなのに何故か久しぶりと言う感慨にふけるレイグとダリア。

 

 特にレイグは数時間の長時間戦闘から、あんまし休んでいない為、荷台の上では爆睡だった。

 

 そして、門番のアレスに挨拶をして中に入った。

 

 御者は、馬車を戻してから自分の宿屋に戻ってこれからの事についてゆっくり考えたらしい。

 

 元々は出稼ぎも兼ねた仕事だったらしく。リデア村の事情が変わった事で、手助けしたいと思っていたらしい。

 

 そう言って「本当にありがとーなぁ!」と別れ際に叫んでいた御者にノッたレイグが「感謝しろよぉ!」と叫んだ、ダリアはギョッとして慌てながらレイグの腕を掴んで引き摺った。

 

 取り敢えずは依頼達成の報告をするため、大通りを歩く途中で、レイグがブラッディウルフとそれを操っていた男の事を話していた。

 

「あぁ、その男に会いに行きたくても、場所もなんも分からなくてな」

 

「「大成の器」を知っているかのような口振りだったんですよね?」

 

「あぁ」

 

 聞き直してくるダリアに頷くレイグ

 

「うーん、教会本部、とかですかね?」

 

「あぁ、それは俺も考えた、でも仮にも女神を崇拝する信者の大元が魔物を操って怪物行進起こそうとしてたなら。偉い問題だよな···」

 

「むぅ····」

 

 元はと言えばレイグが容赦無しにブラッディウルフを殺してしまったから大した情報も得られず終いなのだが、本人はそんなこと当に忘れているらしい。

 

「案外魔王が知ってたりして······」

 

「·······有り得るな」

 

「え?」

 

 むしろそっちの方が可能性高そうだな。とこれからの方向性を内心固めていくレイグ。

 

 ダリアはそんな大事な事に関わることなのに、そんな適当な方向性の決め方で良いのかと不安になる。

 

「良いんだよこんなもんで、どちにしろ長丁場になる覚悟はしているんでな。でも当分は此処を拠点にするつもりだ」

 

 不安そうなダリアを安心させるように頭を撫でて言うレイグ。

 

「な、何か気になることでも?」

 

 自然と撫でられて、赤面しながらも質問するダリアにレイグは今自分がしていることに気付いて慌てて「悪い!」と謝って頭から手を離した。

 

「あ······」

 

「あー、気になるって言うか、ほらさ魔王とかさ、もしも関わることも視野にいれるならさ。多分色んな所回るだろ?だから二人分の旅費とかさ、後は少しでも、レベルとか上げないとな」

 

 名残惜し気に頭を撫でたダリアだったが、レイグの口から自然と出た「二人分の旅費」と言う言葉に口元を緩めた。

 

 「(っしかし、前の視線は論外だがこの視線も何かやだなぁ)」

 

 レイグは談笑しながらも、周りからヒシヒシと感じる視線に内心溜め息を吐いた。

 

 先日のギルド裏での騒動が原因だろうが、恐らく目撃者が多数居たのもあるのだろう。悪感情しか感じなかった視線が関心や挑戦的、疑心を含んだ視線にシフトチェンジしているのである。

 

 ダリアに関しては素直に凄いとレイグは思った。今だダリアに向けられる視線の多くは劣情、欲望が殆んどだが、全く気にしている様子が見受けられなかった。

 

 ───俺と一緒に居る為なんだよな──

 

 自惚れじゃなければ、ダリアはそのようなことを言っていた、とレイグは思い出す。それに昨日のあの森での事も。

 

 レイグは色恋に疎くはないが別段鋭くもない、それでもこれまでの態度、又は露骨なまでの肌のふれ合い。それで察する事が出来ないほど鈍くも無い。

 

 それに対して満更じゃない自身の事も分かってるつもりである。じゃなければ何時かくるダリアとの別れに胸を軋ませなんかしないだろう。

 

 つまりこの男、大切な幼馴染みがいながらにしてダリアの健気さに意思がぐらんぐらんなのである。

 

「(参ったな····)───ん?」

 

 割と本気で困っていると(自業自得)周りから刺さる視線の中に覚えのある視線を感じた。

 

「(あいつか)」

 

 昨日、ギルドの前や中で騒動を起こした時に感じていた此方を探るような視線

 

 その主へと目を向けると、大体同い年であろうか、背中にパルチザンを差した女の子が居た、反対側をレイグ達と同じ方向、同じ歩幅で歩いている。

 

 どこか上品な佇まいをしており、軽合金を含む鉱石で作ったのか華奢な印象を受けるプレートアーマーを装備している、背中の真ん中まで伸びてる白みがかかった青い髪をポニーテールに纏めている。

 

 微動だにしないその少女はパッチリとした紫の瞳を瞬きもせず此方をじー、と見ている。

 

「!!」

 

 レイグと目が合ったことに気付いた少女は一瞬びくっと反応したあと、また「むぅ」と言う感じで再びじー、と見てきた。

 

「(あーもー、何で目合わせちゃうかな俺は、どうしよう、何かクール装ってるけど何か関わりたくないなぁ、)」

 

 そんなレイグの様子に気付き、流れで件の少女に気付くダリア、じー、と睨むようにレイグを見る少女とどこか困ってるレイグを見比べる。

 

 ピコンと火の玉を浮かべたダリアは

 

「オウオウそこのめんこい嬢ちゃんよぉ!旦那に何か用があんのかごらぁ!?」

 

「コラコラコラコラコラ」

 

 取り敢えず絡んだ。

 

 レイグは必死に止めた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

「すみません·····」

 

 場所は代わって、近場の喫茶店、ギルド内の飲食スペースでも良かったのだが、少女曰く「落ち着いて話せないし、邪魔されたら嫌だから」らしい。

 

 その場の勢いで絡んでしまったダリアは顔を真っ赤にして謝っていた。

 

「まぁ、許してやってくれ、悪気は無いんだ」

 

「大丈夫、何となく分かるから」

 

「ありがとうございます····」

 

 取り敢えず、ダリアも落ち着いた事で場も整ってレイグが本題に入る。

 

「あー、いきなり聞くが何で俺達を見てたんだ?昨日から見てたよな?」

 

「え!?」

 

 ダリアが驚いて、少女はコクリと頷き口を開いた。

 

「不快だったなら謝る」

 

「いや、それは別に構わないさ、で、何で?」

 

「······見定める為に見ていた」

 

「見定める?」

 

「·····自己紹介、遅れた」

 

 ハッとなった顔で呟いてから少女は低頭した。

 

「私は、カーラ、カーラ·ヴァネスティラ·····一応領主の娘で次女」

 

 どこか言いづらそうな顔でそう言ったカーラ、レイグは「次女」と聞いて大体の予想がついた。

 

 レイグ達も挨拶を済ますと。

 

「単刀直入に言う、私を一定期間で良い

 

 

 

 

パーティーに居れて欲しい」

 

 淡々とした口調でそう言ったのだった。




めんこい

·北海道でかわいいと言う意味、異世界属性は全くの0である。


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23話的な話


前話を読み直してるうちに「あ、これ俺じゃまとめきれねぇわ」と思ってカーラの5女設定を次女設定にしました。

すいませんm(_ _)m


 

「断る」

 

「まだ何も言ってない」

 

 自己紹介にキッチリ自分は貴族の娘って入れてくる辺り面倒臭い感じしかしない。

 

「まぁまぁレイグ様、話だけでも聞いても良いんじゃ無いですか?」

 

「·········」

 

 宥めるような笑みで言うダリア。

 

 速攻で絡みに言ったダリアには言われたくないんだよなぁ。····取り敢えず話は聞こう。

 

 

 

 カーラの話を要約すると、カーラは昔から冒険者に憧れていたらしく、逆に昔から勉強な貴族社会での作法、お茶会等と言った事が嫌いで、仕方なかったらしい。

 

ほん

 

 流石に見かねた、両親やお付きのメイド、姉等が説教したらしい。普段は温厚で優しい両親や姉が凄まじい勢いだったらしい。

 

ほん

 

 その時に既に、地元の町にて冒険者登録を済ましており。良く、というか頻繁にクエストを受けていた事実が発覚して母親とメイドが卒倒

 

ほん

 

 カーラの熱意にたじろいだ父親と姉が相談して、出した案が。「今から3ヶ月の期間で冒険者ランクBに上がることが出来れば、安心も出来るし許可もする」とのこと

 

 

つまりは。

 

 

「只の我が儘じゃねぇか」

 

「自覚はある」

 

 質悪いな!

 

「第一、ランクはどうなんだよ?」

 

「D」

 

「期日は?」

 

「2か月」

 

「別を当たってくれ」

 

「速答!?」

 

 俺の速答に顔を僅かに強張らせるカーラ。

 

 驚くダリアだが、言葉とは裏腹に「それは···」と言う顔をしている。実際な話Cランクへの昇格が最年少最速記録を持つダリアでさえ、3ヶ月と一週間だ。

 

 冒険者のランクは大体の奴らがCで躓く。

 

 その原因は只単純に、ギルドの査定が厳しいからだ。実力は当然、本人の人柄、迅速さ、正確さ、全てにおいて跳ね上がる。

 

 Bランク冒険者となると段々とギルドのホールにある掲示板に貼られていないようなクエストを任せられる事もある。

 

 今Dでは、幾ら速くても後、5ヶ月は必要だろう。

 

「······大丈夫、ランク適正外クエストを受けて、クリアする、あなた達もランクが上がる」

 

 確かに、その方法がうまく行けばかなりショートカットされるわな。

 

 冒険者ランクが幾ら高くても、低くても受けられるランクに制限は無い、全て自己責任だからだ。だからリデア村のクエストを受ける際あのおかん受け付け嬢があそこまで怒ったのだ。

 

 現にそれをやってある程度速くランクを上げられたという冒険者も何人か知っている。ランクは上がって報酬も上がり良いことばかりだ、でも

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達に死ねってか」

 

「──っ」

 

 そういう話になってしまう、確かに俺達の旅が長丁場になると俺自身覚悟はしてる。だが、貴族の我が儘に付き合っていられる程暇では無いんだ。

 

 確かに、俺達だったら正直Aランクぐらいでも少し無理すれば行ける·····と思う。でもカーラはそれを知らない、つまりCランク冒険者とEランク冒険者と言う俺達に「危険なクエスト一緒に来てくれ」って言ってるんだカーラは。

 

 そんな奴に背中は任せたくない。

 

 

「·····レイグ様·····」

 

「──ごめんなさい、あなた達の迷惑を考えてなかった」

 

 カーラは一瞬悲痛そうに顔を歪めたが、そう言って俺達の前から走り去って行った。 

 

「レイグ様····」

 

「ちょっとキツイ言い方したな·····」

 

「···でも間違った事は言ってませんでしたよね」

 

 ダリアもカーラの事が気になるのだろう、同性で同年代、更には同業者だからな。

 

 今はダリアの励ましが辛かった。

 

 ··········阿保みたいな我が儘とは別に何か事情あったのかもしれないな。

 

 

「·······ギルドで報告したら、カーラ探してみるか」

 

「っはい!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「貴方大丈夫なの!?怪我はしてない!?」

 

「だ、大丈夫だからちかいちかいちかい!!!!!」

 

 

 中に入ると、早速受け付けカウンターに向かった俺達は昨日担当してくれた受け付け嬢にいきなり抱き付かれた。

 

 何言ってるか分からない?俺も分からないよ·····

 

 あちこちベタベタ触ってくる受け付け嬢に引きながらも「大丈夫ですから」と言って落ち着いて貰う。

 

「依頼達成と達成確認のサインはリデア村の村長に貰ったんで、確認お願いします」

 

 そう言ってレイグはポーチから依頼用紙を取り出して渡した。

 

 受け付け嬢は用紙を見るとびっくりしていた。

 

「あのクエスト、クリアしたの?」

 

「えぇ、少々張り切っちゃいました」

 

 そう返すと、受け付け嬢はどこか動揺したまま「そ、そう」と言って依頼用紙を持ったまま、奥で書類作業をしている職員に一言離すと俺達に「お、おつかれさま、今日はゆっくり休みなさい」と言って二回に上がっていった。

 

「な、何だ?」

 

「多分、Cランククエストの塩漬け状態で難易度の跳ね上がったクエストをクリアしたから····ですかね?」

 

 「あー」と納得して項垂れるレイグに先程引き継ぎされていた職員が巾着袋を持ってきた。

 

「アンナさんね、最初あなた達を見送ってからは出来る女って感じでキリッてしてたんだけど、昨日仕事が終わる頃にはあんな感じだったわよ?」

 

 思わず、ダリアと揃って愛想笑いで返してしまった。

 

「それはそうとはいこれ、フォレストウルフ討伐依頼お疲れさまでした」

 

 そう言って渡された巾着袋に入っていたのは金貨10枚に大銀貨8枚、銀貨8枚だった。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

「さ、レイグ様行きましょ!」

 

「わ、分かったから」

 

 ギルドから出るや否や、レイグの腕を掴み引っ張るダリア

 

先程俺達がカーラと一緒にいた喫茶店まで戻ってきた。

 

「何処に行っちゃったんですかね····」

 

「ギルドに行ってから、報酬受けとるだけだったからそんな経ってない筈なんだよな。」

 

 10分も居なかったから、もしかしてどこかで再びスカウトしていたりするかもしれないと思ったレイグは隣でダリアが深く息を吸うのが見えた。

 

「え?だ」

 

「カーラちゃああぁぁぁん!!どこお!?!?」

 

 

 少なくとも周囲の通行人や冒険者達が腰を抜かしてひっくり返るくらいには大きい声だった。

 

「ダリアちゃん!?」

 

「いたら返事してえェェェェえ!!!」

 

「落ち着こう!な!?向こうもそんな大」

 

 

「カーラちゃあああああああああん!!」

 

「ま、まってダリア!?」

 

 遂には走り出した、ダリアを顔を真っ赤にしたレイグが追いかけていく。

 

「───(何だあいつ?)」

 

 視界の端で此方をどこか警戒したような視線を寄越した男が、静かに家の中に入ってくのを見ながら。

 

 

 

 

「私はここですよぉ!!!」

 

「お前は一回落ち着け!」

 

 

 アリス、お前からも何か言ってくれ

 

 心の中のアリスにそう言うと、何故か大声で歌い始めた、何だよ『ひゃくのかぁぜぇにぃ』って。




大型デパート等に一人は欲しいダリアちゃん


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『私にはこれしか』

#前回のあらすじ

レイグ、街中で黒いシルエットを見る


 初めて家族と喧嘩をした。お父様の顔を真っ赤にして怒るなんて初めて見たし、何時も見下してきていたお姉様があんな激情に身を任せて叫ぶところ何て初めて見た。

 

 「3か月以内に冒険者ランクをBに上げることが出来れば認める」そう父に言い渡され。最初は地元のギルドで活動していたが思いきって地元から少し離れたストルの街に来た。

 

 正直余裕だと思っていた。町にいた時もDランクに早く昇級出来たし、DランクやCランクまでなら割と苦もなくこなせていたからである。

 

 でもストルの街に来たことで、冒険者としてどれだけ驕っていたのかを思いしらされた。

 

 扱っているクエストの質だったり、難易度、そしてランクアップまでの査定の厳しさ、1ヶ月何てあっという間だった。

 

 あまりやりたくなかったけどどこか強ランクパーティーに入れて貰おう、寄生冒険者と詰られるし蔑まされるだろうけど、認めて貰うためなら、と恥を忍んで。

 

 そこで向けられたのは、欲望にまみれた視線だった。

 

 私が理想を抱いていた冒険者とは遠くかけ離れた醜い姿。

 

 身が凍るような思いをしたのを今でも忘れていない。

 

 

 やはり、私は落ちこぼれなのだろうか、勉強もお姉様に勝てず、器量も貴族令嬢としての作法だってお姉様の方が完璧だった。

 

 歳が10を越えた頃、初めてお茶会に連れていって貰ったけれど、ガチガチに緊張してしまい何をしていたのか全く覚えていない。最後には嘲りの視線を集めていたと思う。

 

『貴女は、なにもしなくていい』

 

 そう言ったお姉様の目は何かを含んだ冷たい目をしていた。お父様は何も言わずそして、何もしなかった。お母様は「貴女には貴女にしかない良いところがあるわ」と言ってくれた。

 

『良いところって?』

 

 そう聞くとお母様は困った顔付きになって笑うのみ。

 

 私には癒しがあった、あの小さな世界の中で唯一の癒し、それは冒険のお話を綴った本だった。

 

 勇者でも何でもない冒険者、辛いことばかりでも、常に彼の周りには仲間がいた。共に苦難を乗り越え、どんなに苦しくても彼ら彼女らは笑顔を絶やさなかった。

 

 時には人を相手に、時にはモンスターを、何処か泥臭い話ではあったが私は「冒険者」にのめり込んだ。

 

 

 ───贈呈の儀───

 

 齢10を越えた子供達を教会にて女神様に能力を頂く儀式、そこで私は冒険者に成ることを決めた。

 

 私が授かったスキルは「〇〇の槍術士」と言う物だった、正直訳が分からないスキルだけど、家に隠れてヴァネスティラ家に仕えている兵団の人に色々手解きして貰えた。

 

 今思えば、あれはお世辞だったのだろう、それでも「筋が良い」「良い騎士になれますね」と誉めて貰えたのは嬉しかったし、ますます冒険者への道を進ませた。

 

 

 

 

 

 

 その時には「私には冒険者しかない」と言う思いしかなかった。

 

 でも、現実は残酷、やはり私は····

 

 そんな時だった、ギルド前でやたらと注目されている同じ年頃の男女を見つけた。

 

 黒髪に黒目の男の子に茶髪に綺麗な赤い目をした女の子、初めてみる同年代の少年少女の冒険者、と言うのもあったのかもしれない。

 

 私は何故か2人から目を話せなかった。

 

 2人とも悪意に晒されていた、その場にいる100に近い悪意を一身に集めているにも関わらず。

 

 『(気にしてない?)』

 

 女の子の方は顔を真っ青にしていた、無理もない私だってあれだけの視線を向けられたら。逃げ出してしまうだろう。

 

 男の子の方は全く気にしてないのか、それどころか周りを冷静に見回してる余裕すら感じられた。

 

 驚くべきはギルドの玄関前で起きた事だった、彼らより一回り大きい体格の2人の冒険者に絡まれていた。男の子が女の子を庇って前に出て、「ちょっと裏こいや」みたいな態度でギルドの脇道を顎でしゃくったのを見てギョッとした。無謀な、とも思った。まず体格の違いがまるっきり大人と子供だ

 

 

 

 

いいからついてこい

 

 

 私はその時、初めて「殺気」と言うものに触れた、私に向けられた物では無かったけど、それでも背中に冷たいナニかが走った感覚があった。

 

 脇道の奥に消えたふたりを興味半分で追いかけるかどうするか迷っている人達、興味無しとばかりにギルドに入っていく人達。

 

 私が立ち止まったまま動けずにいて、少しするとギルドから一人の男の人が出てきた、男の人は此方に見向きもせずに脇道の奥に消えていく

 

 更には憲兵達まで出てきて、また脇道へと消えていった。

 

 

 何が何やら···と、私含めてその場に固まった冒険者達、やがて憲兵と手を拘束されて歩く先程の冒険者の片割れと

 

『な、何だあれ?』

 

『あ、あれドギルだよな?』

 

 憲兵2人がかりで運ばれている顔グチャグチャの男が続いて運ばれてきた。

 

 憲兵達が下手人を連れてその場から離れていき、先程ギルドから出てきた男の人が姿を現した。

 

 

『見せ物じゃないぞ、お前ら!』

 

 と、怒鳴った、只怒鳴っただけなのに私は全身がビリビリと痺れる錯覚を覚えた。

 

 他の冒険者達はカラダをびくつかせて慌ててギルドの中に入っていく、私も彼らに見倣って中へと入る。

 

 

 

 先程の少年少女の事を思い出して、何故か浮き出てきた羨望の感情を抑えて。

 

 

 

 ギルドの中に入ると、何人、または何組かは、クエストの受注していたりしてたが、大体の人はホール部分にあるテーブルの椅子に腰を落ち着かせ入り口を見つめていた。

 

 

 

 ヤンキーがカチコミしに来た。何言ってるかわ正直私も不安だけど、でも間違ってないと思う。

 

 ヤンキー化した彼等は先程の男の人、ギルマスに連れられて二階の奥へと消えていった。

 

 

 ざわめくギルドのホールで、私は近くにいた冒険者に思いきって聞いた。

 

 少女の方は分からないが、少年、レイグ·アーバスは半年前にこのストルの街にやってきたらしい、しかし評判は最悪、人としては満点に近い評価はあったが、性格も内気気味で、レベルがほとんど上がらなかったらしい。

 

 どうやら、先日ゴブリン討伐依頼を受けその最中、群れに襲われてしまい他のパーティーメンバーを逃がして、生存は絶望とまで言われていた。

 

 そして記憶喪失になっていたとも。

 

 先程みた印象としては、聞いた話のどれもが当てはまらないことに皆首を傾げているようだった。

 

 

 

 

 でも私としてはどうでも良かった。半ば諦めもあったのかもしれない。私の才能ではどうにもならないって決め付けてしまった部分もあったのだろう。

 

──「あの子達と一緒に冒険がしてみたい」、そう思いながら。私は今日もコボルト討伐のクエスト用紙を手に取った

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

『俺達に死ねってか』

 

 

 ひゅっと喉から変な声が出るのを反射的に抑えた、背中にじっとりと汗が滲み不快感が生まれるが、そんな事さえ気にならなかった。

 

 怒りも感じない、責めるわけでもない、無機質な黒い瞳に射ぬかれた。

 

 

 

 

 

 

 ギルド騒動の翌日、私は彼等を待ち伏せした。見つけた彼等は談笑を交えて話しながらギルドへと向かっていた。

 

 一度重ねてしまった理想を体現してくれているその姿に、身に合わない欲をかいてしまったのだろうか

 

 私は彼らに頼んだ、事情も話した。

 

『他に当たってくれ』

 

 そう、淡々と返されてしまった、私も言葉足らずだったのも有った、でも焦っていた私はあり得もしない「Bランク」に縋り付いてしまったのだろう。

 

 Cランクであるダリアさんは兎も角としてEランク冒険者である彼に「ランク適正外クエストを受ければ、大丈夫」等とほざいたのだ。

 

 彼の目は私の全てを見透かしているような、黒い瞳に見つめられた私は、その場から逃げ出した、謝罪をしたのかも分からない。

 

 「仲間を作って、「冒険」がしたい」

 

 と言う憧れさえ、私は自ら遠ざけてしまったのだ。喫茶店から少し離れた所で走るのを止めた私は、俯いたまま動けなかった。

 

 

 

「なぁ、お前聞いたんだけどよ、冒険者ランクを上げたいんだって?」

 

「···········」

 

 私に話しかけてきた冒険者風な男3人組、いずれもBランクと言った。

 

 男達は私に提案をしてきた、自分達のパーティーに入れてやって良い。その代わり·····

 

「···········」

 

「へへっ」

 

 体に向けられた視線を感じて何を要求されるか分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 罰なのだろう、関係ない彼らを自分の我が儘で振り回そうとした私への。

 

 




因みにレイグにギルド前で絡んだ冒険者、ドギルの相棒の名前はドリル(どうでもいい


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24話的な話


うーん、変にぐだったかも(;ω;`)




 

 

「な、何だ!?コイツ急に暴れやがって!」

 

「おい!しっかり抑えとけよ!?」

 

 何でか分からない、諦めた筈の私はコイツらに無様に貪り尽くされて終わる運命だと思った。

 

『ん"ん"!!』

 

 くぐもった声が、汚ならしい布を噛まされ固定された口から漏れた。男達はそれを見て焦ったように私を抑えにかかった。

 

「テメェ!」

 

『ヴッ!?』

 

 頬に走る鈍い痛み、次いで口内に広がる鉄の味、どうやらそこそこの力で殴られたらしい。

 

「─────」

 

 本来なら屈するであろう、痛みに負け、言うことを聞くからもう打たないで、と懇願すべきであろう私。

 

 でも私は奴らに向けて悪手であろう強い眼差しを向けていた。

 

「(何でだろう·········本当に·····)」

 

 

 

 

───カーラちゃあああああああああん!

 

 

───おちつけぇぇぇえ!?

 

 あの2人が私を呼ぶ声が聞こえただけで、何でこんなに抗っているのだろう。

 

「んだてめえ、その顔ぉ!」

 

『っ!』

 

 再び殴られる、痛みと恐怖に体が強張る。

 

 私は彼らに期待をしてしまっているのだろうか、一度はすげなく断られた相手に。

 

 殴り飛ばされ地面に横たわった私の口に固定された布が取れた

 

「───誰」

 

「おっとー!っぶねぇ!」

 

『んぶぅ!?』

 

 助けを呼ぼうとして、慌てて口を塞がれ、他の奴が私の両足を掴んで開こうと力をいれ始めた。

 

『んんん!?』

 

 恐怖と嫌悪感と拒絶反応が起きて吐きそうになるが、何とか我慢する。

 

「おいおい?てめぇから黙ってついてきた癖にそりゃあないぜ?」

 

「最近ギルマスの野郎が幅聞かせてるから、ろくに女漁りができねぇんだよ」

 

 下種が。

 

 ぎりぃ、と歯を食い縛る。

 

「よし、防音魔法と魔力関知を妨害する結界は貼ったぞ」

 

 その時が一人の男が中に入ってきて笑みを堪えながら言った。

 

 その言葉を後に残る2人はニタリと厭らしく笑った。

 

「んじゃやるか?」

 

「だ、誰か!!」

 

 男が手を離したので、すかさず助けの声を上げた。可笑しそうに笑った

 

「あぁ、ムダムダ、言っただろう防音魔法って、この家にかけられてるから、叫ぼうが叩こうが向こうには聞こえないんだよ、残念だったな」

 

 そんな嘲りの言葉すら無視して叫ぶ、頬を張られようが、蹴られようが叫んだ、もし、もしまだ憧れを掴む事が許されるなら、あぁ、女神様

 

「たく、うぜぇなあ!?」

 

 チャンスを───

 

 

 

 

 

 

「お前がうるせえぞ」

 

 ドアが破壊される音と共に、勢いよく吹き飛んできたドアが私の足を掴んでいる奴にぶち当たり吹き飛んでいった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「レイグ様酷いですぅ、あんな、人の目があるところであんな激しく」

 

「人聞きが悪い事は言わない、これ俺との約束分かった!?」

 

 俺は暴走して、先に駆けていったダリアを物理的(拳骨)に静かにして、もと来た道を戻っていた。

 

 俺の横を頭を抑えたダリアが涙目で抗議してくるが無視だ無視。

 

 

 

 後でちゃんと謝ろう。

 

「レイグ様、本当なんですか?カーラさんが拐われたかもって」

 

「正直勘でしかないんだ、証拠があるわけでもないし、カーラ本人を見たわけでも無い」

 

 ただあの時ちらっと見えた警戒して此方を見ていた男の目に映っていたのは焦りだ

 

 しかも、如何にも小心者みたいに辺りをやたら見渡して家の中に入っていった。

 

 

「レイグ様」

 

「あぁ、ダリアは上空に向かって何か魔法でも撃ってくれ」

 

 件の場所に戻ると、少なくとも何かがあると言うのは確信付いた、何ともへたっぴな結界が張ってあったのである、しかもジャミング用の結界だけである。

 

 

 家の造りは奥が長い平屋、気配は奥から感じる。

 

「(鍵は開いてるのか?罠?)」

 

 一応警戒しながらも、扉を開けて中に入ると同時に上空から魔法の破裂音が鳴り響いた。

 

 器用だな、発動した魔法を空中で魔力を込めて爆発させたのか。

 

 関心しながら中の様子を探ると、酒や男物の下着が散乱してる、日頃から乱れた生活をしているんだな。と呆れながらも付いてきたダリアと一緒に奥へと進んでいく。

 

 

『誰かぁ!』

 

「───」

 

「───」

 

 聞こえてきたのは、先程あったばかりの少女、カーラの声だった。

 

 必死な声音、何回も叫んだのだろう、少し掠れていて震えていた。途中から男達の怒声や頬を張る音が響く。

 

「お前がうるせえぞ」

 

 問答無用で目の前の鍵が掛かったドアを蹴り飛ばした。ブーストしてたのもあり、まるで砲弾のような勢いで吹き飛んだドアはカーラの傍にいた男にぶち当たり。その勢いを衰えること無く一緒に吹き飛び壁にぶち当たった。死んではいないだろ。

 

 隣には魔法の詠唱をしているカーラがいた、魔力が高まっていくのが分かる。

 

 同じ魔法使いなのだろう、へたっぴな結界を張ったであろう男が青ざめた様子でダリアを見ている。

 

「お、お前ら!コイツの──」

 

 もう片方がなにかを話そうとして、腰に手を伸ばしていたが関係無いとばかりに、すぐさま距離を詰めて蹴り飛ばした。

 

「ひゅご!?」

 

 言葉にならない言葉を発しながら、そいつは後ろの壁に向かって吹き飛んだ。

 

「ひ、ヒイィィィィィイイ!?」

 

「───」

 

 

 自棄になったのか、残ったそいつはダリアに向かって特効した、しかしダリアはそれを見ても動じず寧ろ青筋を浮かべた。うん、怖い

 

「魔法使いが──」

 

 ダリアは一瞬で魔法の詠唱を中断して、男に大して横にずれるように前に出た。同時に男の顔があるがわの腕を伸ばして。

 

「肉弾戦で挑むんじゃねええええええ!!」

 

 そう言ってダリアはその細い腕に魔力を見よう見まねで纏わせてその男の胸部分に叩きつけた!?そしてその技はまさに──

 

 

 ら·····ら·····ら····

 

「(ラリアットぉおおお!?)」

 

怒りよりもダリアの行動に驚きすぎて、逆に怒りが消えてしまった俺は、唖然となってるカーラと一緒にダリアを見ていた。

 

「ぎゃあああ!?」

 

 ボギィと嫌な音を響かせながら吹き飛んでいった男は他に吹き飛ばされた男達同様、カーラの後ろにある壁へと突っ込んだ。

 

 少しはスッキリしたのかダリアはふんっと男達を見下していた。

 

「大丈夫──っとその前に憲兵が来るな」

 

 カーラに話しかけようとして、近づいている気配で気付いた俺は、未だ呆然としているカーラとダリアを両脇に抱えて。リスク考え無しでその場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 あとダリア、ブーメランって言葉知ってる?

 





ダリア「あぁ、レイグ様が私を抱えて、この部分はもう洗えません」

レイグ「駄目です」

ダリア「世知辛い」


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25話的な話

ネタバレではありませんが、メインパーティーは基本この3人で回っていきます。

「ア」の方の出番は挟めつつも、まだありません


 レイグ達がその場を離れて、直ぐに憲兵達が5人やってきた。自分達の警邏区域で突如上空で魔法が破裂したのだ、憲兵全員が険しい表情だった。

 

 比較的近かったので、通信用の魔法具を使い近くで同じく警備をしていた仲間を呼び出し現場に向かうと、大通りから差程離れていない小路に建つ平屋住宅の前に人だかりが出来ていた。

 

「何があったんだ?」

 

 硬い表情ではあるが、心配させないように穏やかに話しかける憲兵。話しかけられた住民はどこか安堵しながら「上から何かが破裂した音がなって少ししたら、いきなり、家の中から破砕男が鳴り響いた」と言う要領を得ないものだった。

 

「とにかく分かった、貴方達は普段の生活に戻ってくれて構わない。」

 

 その言葉に安心した様子を見せた住民達は気にした素振りを残しながら一人一人とその場を離れていった。

 

「お、おい」

 

「どうした?」

 

 家の中を探索していた仲間が動揺した様子で呼びに来た、仲間の案内を元に奥の部屋まで行くと

 

 ドアは綺麗に蝶番ごと無くなっていて、奥に視線を向けると3人の男がいた、一人は顎を破壊されており、もう一人は恐らくこの部屋のドアと床に挟まれたまま意識を失っている、もう一人は胸元を抑え重く呻いていた。

 

「な、何が───」

 

 あまりの光景に憲兵は呆然とした。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 あのあと、ブーストした体でダリアとカーラを抱えた、レイグは窓から外に出て家を飛び上がり、更には隣の建物の屋根まで飛び上がり、そこから屋根伝いで「沈む太陽」の前までショートカットしていた。

 

 ダリアは楽しそうにしていたが、カーラは短い時間の中で整理が付いたらしい、どこか暗い表情で俯いていた。

 

「だぁ····しんどい」

 

「レイグ様のそれ凄いですよね!一部分だけでなく全身くまなく循環させられるんですから」

 

「まぁただ、今回みたいに無理矢理な使い方すると、自分にも反ってくるがな···」

 

 興奮したように言うダリアにレイグは苦笑いを浮かべて、「魔力のコントロールに役立つから教えるか?」と問うと、はい!、と元気よく返すダリア。

 

「取り敢えず、話は俺の部屋に行ってからな、カーラ」

 

「·····分かった······」

 

 

 

「ミランダさん、戻りました」

 

「ん、お疲れさん、依頼はどうだったい?」

 

「無事に達成です!」

 

 「沈む太陽」に入って、出迎えてくれたミランダさんに挨拶をすると、本当に母親に出迎えられているような感覚になった俺は、後頭部をかいて目を逸らすしかできない俺に代わって、ダリアが返してくれた。

 

 「そいつは良かったよ、おや?新しいパーティーメンバーかい?」

 

「········」

 

「まだ審議中です」

 

「───え···?」

 

 俺の言葉に、カーラはえ?と呆然とした顔で俺を見ていた。ミランダさんは嬉しそうに答えて、「そりゃ良かった」と気前よく言った。

 

「あんたも宿を使うのかい?」

 

「········まだ、分からない」

 

 ミランダさんは別段気を悪くしたようすも無く、笑って「ゆっくり決めな」と言った。

 

 

 取り敢えずそのまま俺の部屋に直行した俺達は腰を落ち着かせた。

 

 最初は無言状態が続いたが、やがてカーラが口を開く。

 

 「先ずは、助けてくれてありがとう、本当に助かった」

 

 頭を下げるカーラに俺達は頷いて、次いで「でも」と続ける前に俺が口を開いた。

 

 

「ゴメン」

 

「え?」

 

「あの時、俺はカーラを一方的に拒否した、確かに提案は度が過ぎている感はあった、でも俺達にも頼まれた以上色々話を聞く義務はあった筈なんだ」

 

 確かにカーラにもああなった原因はあるだろう、これは分からないがカーラは何らかの期待を持って俺達にも接したのだろう。

 

 でもその期待を俺が真っ向から否定、までは言わないけど異を唱えた。多分今回の誘拐はそれが付き入れられる隙を作った要素、なんだと思う。

 

「それは違う!」

 

 必死な形相で大声を上げたカーラは、ハッとして、下を向いた。

 

「······それは違う、私は事情の全てを話した、でも私は貴方のランクの事も関係無しにランク適正外クエストの話を持ちかけた、下手すれば貴方達に危険をもたらすなんて考えもせずに」

 

 どこか、青褪めた顔で呟くカーラ。

 

「カーラさん、この際、貴方の家の事もカーラさんの立場も、何なら先程起きたことも全部脇に起きましょう。」

 

 そんなカーラを落ち着かせるようにダリアが立ち上がりカーラの傍に移動して落ち着かせるように言う。

 

「······え?」

 

「さぁ貴方の目的を教えてください」

 

 ダリアが此方を見てくる、頷くとダリアは意を決してカーラを強い眼差しをで見ていた。

 

「目的····?」

 

「はい、貴方の家の事情も、貴方が冒険者に憧れて家族と喧嘩した。事の経緯は教えてもらいました。

 

 

でも、貴方が冒険者になってから「何をしたいのか」それをまだ教えてもらってません。」

 

「───」

 

 カーラが息を飲むのが分かった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

「目的····?」

 

 ダリアさん、そしてレイグさんが私を見つめている、カーラさんは続けた。

 

「はい、貴方の家の事情も、貴方が冒険者に憧れて家族と喧嘩した。事の経緯は教えてもらいました。

 

 

 

でも、貴方が冒険者になってから「何をしたいのか」それをまだ教えてもらっていません。」

 

 言葉が詰まる、だってそれは、そんなの

 

 私の、わたしの全てを晒けだせと言うこと?

 

「因みに、私はレイグ様にどこまでも付いていく事が私のしたいことです」

 

「!?」

 

「!?」

 

 え?今凄いこと言ったダリアさん?レイグさんなんか顔を赤くしてダリアさんに驚愕の表情を向けている。今のってプロポー····

 

「·····あぁ、もう····俺のしたいことってか目標か····」

 

 そしてレイグさんが語った事は、信じがたい事、異世界?違う世界の自分に憑依?到底信じられる事ではない。

 

 レイグさんの目は本気だった、いや、今までも。これからも何時までも本気なのだろう。それがどれだけ困難な事が分かっていながら。

 

 2人がこうして自分の内をさらけ出してくれた意味は私でも分かる、決して私が話しやすいとかそういうものでは無いと言うのも。

 

 これはチャンスなのだろう、最初で最後のチャンス

 

 「────

 

私は、ただあの本の主人公みたいな、誰もが笑顔を向け、誰にも笑顔を向け、龍を倒す、と馬鹿げた理由で何処までも進んで。

 

騙された時があった、苦しい時もあった、それでも皆で協力して進んで、笑いあって進んで

 

何度も挫けた、何度も折れた、でも何度も立ち上がって最後には本当に龍を倒す

 

 

────そんな冒険をしたかくて、でも私は才能がなくて、見返したくて」

 

 駄目だ止まらない

 

 したいこと事に異物が混ざってる、私の醜い所が出始めてる

 

 分かっていても、止まらない、チャンスなのに

 

「───何かを成せる冒険者になって、皆を見返したかった、「貴方達の知っているカーラはもういない」って、凄いって誉めてもらいたかった

 

だって皆お姉様ばかり、私が出来ない事をお姉様は何でも出来る、お勉強も作法も、胆力もある、綺麗だし、どんな服も似合う、お茶会の時に色んな子達に囲まれていた

 

お父様もお母様もメイドも執事も皆お姉様の事ばかり

 

私だって!お父様達の子供なのに!お姉様ばかりずるい!」

 

 

 それは只の嫉妬、醜い、自分の事しか考えてない。

 

 涙が止まらない、一度溢れた感情はマグマの如く留まること無く、私を激情に晒していく。

 

 きっと彼らは失望している、「そんな下らないことで、俺達を危険な目に合わせようとしていたのか」と憤怒の形相を浮かべている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、もしそんな私でも、認められたなら

 

「じゃあ、これからバンバン見返してかないとな」

 

「はい!頑張りましょう!カーラさん」

 

 求めても良いですか、あの物語の続きを。




念のためハーレムタグ付けた方がいいかしらん


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26話的な話


#前回のあらすじ


カーラお嬢様はわがままっこ(当社比


 

 その後はカーラが泣き出して大変だった、余程溜め込んでいたであろうか、泣き止む気配は無いし大声を上げるもんだから、俺達も唖然としちゃったし。

 

 俺もダリアも、防音魔法は使えなかったから、確実に宿内にも、外にも響いていただろうし。

 

 気を使ってくれたのか、様子を見に来なかったミランダさんには感謝だ、途中ダインさんの悲鳴が聞こえた気がしたが気のせいだろう。

 

 

「···ごめんなさい、もう大丈夫」

 

 まだ嗚咽混じりの声ではあるが、はっきりとした声音で言うカーラ。

 

 ダリアが背中を擦っていたが、その様子を見てカーラから離れた。

 

「今日はもう遅いから、明日早速依頼·····と行きたいが、その前に連携とか、お互いどのぐらい出来るのか把握しないといけんからな。明日は軽めになクエスト受けるか」

 

「そうですね、カーラさんは大丈夫ですか?」

 

 ダリアがカーラにそう聞くが、カーラは何処か戸惑いがちだった。

 

「···本当に大丈夫?多分それ相応の適正外ランクのクエストを受ける事になるけど····」

 

 俺達が不安、というよりはそれが原因で俺達が傷付く事が不安なんだろう。

 

「取り敢えずは自分の心配をしな、Bランク目指すってのは、文字通り1つの壁を越えるって事だ」

 

 そう「壁」だ、ゴブリン、コボルト、フォレストウルフとは比較にならない強さを持つ魔物にも合うだろうし。

 

 当然、生態系が異なるモンスターだっている。

 

「壁·····頑張る」

 

「その意気だ」

 

 両手を握り、鼻でふんすと息を吐く様子が何故か可笑しくて笑ってしまった。

 

 どうにか、まだ完全じゃないが先の事は振り切ったように見える。強いなコイツは

 

「····荷物持ってこないと」

 

「え?あ~そうですね、「沈む太陽」で今後寝泊まりなんて予想だにしないですもんね」

 

 

 ダリアが俺を半目で見てきて、居心地が悪い。

 

「すまん」

 

 言い訳もせずに素直に謝る、するとカーラがクスッと笑って立ち上がった。

 

「大丈夫か?俺達も·····」

 

 あんなことがあった後だ、流石に心配した俺達が同行を申し出ようとするが、カーラは「大丈夫」と言った。

 

 そしてそのまま俺の横を通り抜け部屋のドアに辿り着き、こちらに振り替える。

 

 

 

 

「最終的には、「龍」を倒すんだからこんなことにビビってられないよ」

 

 そう言って笑い、ドアを開けて走り去っていくカーラ。

 

「良い笑顔ですね」

 

「····だな」

 

「あと、レイグ様、さっきはごめんなさい」

 

「··········」

 

 さっき、間違いなくさっきの告白のことだろう。まぁ、かなりビックリした。いや、今でも動揺してる。

 

 割りとパニックになってる、まさかこんな直ぐに打ち明けられるとは思わなかったし。

 

 短い付き合いでも、ここまで献身的なダリアに対して、「ソレ」に近いものを俺は感じている。

 

「········」

 

 黙ってしまった俺を見て、ダリアは何処か悲しいような、安堵したような笑みを浮かべて、立ち上がった

 

「ごめんなさい、急に変な事言って、明日から頑張りましょう!3人で!」

 

 そう声を張って、「今日の夕飯何か聞いてきますね!」と部屋を出ていこうとするダリア。俺は思わずその細い腕を掴んでいた。

 

 ダリアが「え?」と言ってこちらに振り向く。

 

「あ·····」

 

 引き留めたは良いものの、言葉が詰まってしまった。俺は何を言えば良いんだろうか。

 

 ただ、ダリアが悲しむのは嫌だと思った

 

 少しの沈黙が、やたらと長く感じた。ダリアはやがて安心したように笑って、俺の手を振りほどき両手で俺の手を握ってくれた。

 

「レイグ様?ゆっくりで良いですよ?」

 

「───」

 

 ダリアの綺麗な赤い瞳が俺を見つめている、何故か真っ白になりかけた頭が落ち着いていくのが分かった。

 

 

 

 

「待ってて欲しい」

 

「はい」

 

「絶対に答えを出すから」

 

「はい、待ってます」

 

 今はまだアリスの事とか、この体の事とか、スキルの事とか何一つ整理が付いてない。きっと聞く人が聞いたら「優柔不断」等と罵られるだろうな。

 

 それでも、笑顔一つで了承してくれたダリアには感謝しかないよ、本当に

 

「あ、後な?」

 

 それはそうと嬉しくもあるが恥ずかしくもあるので解放していただきたい。

 

「はい?」

 

「その·····手」

 

 この柔らかいおててを

 

 ダリアが「手?」と言って自分の手を見ようとして、ドアが開いてミランダさんが顔を出した。

 

「あんた達?鶏肉か豚肉はどっおっとこりゃ邪魔しちゃったネェェェェェ!」

 

「待って!ミランダさん待って!?」

 

 顔を出した瞬間にバタンとドアを閉め遠ざかる足跡、最悪だあの人悪びれる所か、口元にやけてたぞ!?

 

「あわわ、私ったら大胆な事をををを」

 

「落ち着こ、もっと凄いことしてるよ君?」

 

 逆に落ち着いたわ

 

 

 その日の夕飯時に、ミランダさんとダインさんは始終にやけながら機嫌良く話していた。

 

 そしてその様子をカーラは不思議そうに見ていて、俺とダリアは顔の熱さを誤魔化しながら飯を平らげた。 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

翌日、明朝鍛練を何時も通りこなして、レイグはダリアとカーラを起こした。

 

「冒険者カード?」

 

「あぁ、同じパーティーメンバーだからさ、お互いの情報は知っておいた方が良いだろう?」

 

「そうですね!私も前回確認してから一回もしてなかったですし」

 

 食堂に行く前に一回レイグの部屋に集まり、ステータスの情報共有を提案すると。ダリアは賛成したがカーラから返事が無かったのでそちらを見ると。

 

「·····ぉおおおお·····冒険者パーティーっぽい」

 

 そう言って顔はあんまり表情が変わってないが、目がキラキラしていた。レイグは何故か目元を抑えて顔を背けてしまった。どうやらダリアも同じ反応をしていたらしかった。

 

「?どうしたの?」

 

「大丈夫」

 

「私達はいつまでも、仲間ですからね!」

 

 食い気味な2人にやや困惑しながらもカーラは「ありがとう?」と返した。

 

 

 

 

レイグ·アーバス16Lv15

 

 

 

 

 

功 540(+1200)

 

防 460(+1200)

 

早 550(+1200)

 

魔功 480(+1200)

 

魔防 450(+1200)

 

知 380(+1200)

 

 

 

skill

 

 

 

大成の器(異界の英雄レイグ·アーバス)

 

#常時発動しています。

 

補正、レベルアップ時、全ステータスに+100

 

 

 

????(new

 

#上記スキルの派生スキル(スキル所持者の任意発動 

 

 

 

 

翻訳

 

#現存する言葉全てを翻訳可能

 

 

 

無詠唱❬中❭

 

#中級魔法迄なら詠唱を破棄。

 

(スキル効果の成長可)

 

 

ブースト

 

#瞬間的なステータス向上

 

 

 

 

 

ダリア·ミルス 17 Lv18

 

 

功 320

 

防 380

 

早 220

 

魔功 1100(+500)

 

魔防 760

 

知 270

 

 

 

skill

 

 

 

黒魔道

 

#魔法攻撃力に常時+500、成長補正(下記スキルと連動)

 

#魔法防御力に成長補正(下記スキルと連動)

 

 

 

大成のお墨付き

 

#呪い、状態異常等のバットステータスを反転する

 

#全ステータスに成長補正(弱)

 

 

 

カーラ·ヴァネスティラ16Lv13

 

 

功 185→370(new

 

防 190→380(new

 

早 145→290』(new

 

魔功 35→70(new

 

魔防 35→70(new

 

知 125→250(new

 

 

 

skill

 

 

〇〇の槍術士(随時変更可能)

 

・所有者に槍の扱い方の共有

 

《解放された心得》

 

・孤独→仲間思い(new)

 所有者の仲間が居る限り、レベルアップ時、ステータスアップ補正

 

《未解放の心得》

 

・〇〇

 ??????

 

・〇〇

 ??????

 

 

 

 

「は?」

 

 全員の声が一致した。

 





レイグ→化け物路線一直線(当社比

ダリア→魔法において化け物路線一直線(当社比

カーラ→かなり癖のあるskill


おーけい?


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27話的な話


#前回のあらすじ


レイグ「柔らかいおてて」

むにぃ!


 

「は?」

 

 俺はダリアとカーラを見ていて、ダリアは俺とカーラをカーラは何処か戸惑っているが納得した様子があった。

 

「カーラさん、今まで半分の力で生きてきたの?」

 

「······分からない、このスキルを貰った時には酷いステータスだったから、代わりに槍の扱い方が直ぐ分かったから、本当に技術だけで今まで何とかって感じだった。

 

でも納得した、だから昨日からやけに体が軽いと思った。でもスキルを見たのは初めて。

 

今までは〇〇の槍術士だけしか出て来なかった」

 

 つまり俺達とのパーティー結成で何らかの条件を満たして、スキル概要の閲覧と「孤独」が「仲間思い」に変わったってか?

 

 つか初めて見るスキルだな。

 

「最初から槍の使い方が分かってるってことか?」

 

 カーラは頷いて、次ぎは私の番とばかりに口を開いた。

 

「レイグさんのこのステータスは?明らかに伸び方といい一般的な同レベル冒険者に比べて違いすぎる。」

 

「あぁ、昨日俺がこの世界の俺とは全く違う俺がこの体がに憑依した話しはしたろ?確証は無いが簡単な話だ。

 

この体が、スキルの効能で前の世界の俺に追い付こうとしてるんだと思う」

 

 割とソレっぽい俺は思ってる、この「大成の器」(レイグ·アーバス)って言うのが前の俺の魂がこの器ってのを満たしている状態だって言うならだけど。

 

 俺の説明に一応の納得を見せてくれた2人、次いでカーラはダリアに目を向けた。

 

「ダリアさんも、ここまで魔法に尖っている人は初めて見た、あくまで私基準になるけど1000越えはこの街には数える程しか居なかったと思う。」

 

 確かにダリアの伸び代がレベル3UPでステータスが倍近くになるのは異常過ぎるかもな。

 

「元々、魔法に関してのステータスが上がりやすいスキルなんですよ、後はレイグ様のお蔭ですね」

 

「レイグさんの?」

 

 そう言ってダリアはカーラに俺とダリアのであった時の事を事細かに話した。

 

 あの、出きれば俺が居ない時に話してもらって良いですか?

 

 話が終わる頃にはカーラはキラキラした目で俺とダリアを見ていた。何か琴線に触れたみたい、やだそんな純粋な目で見ないで。

 

「····奴隷を助けて、無傷で奴隷商人達を倒して、そのまま一緒に冒険者

 

 

───うん、これこそ冒険者」

 

 お前の冒険者に対しての定義を聞きたいよ、そうやって雑談混じりの話をしているとミランダさんが呼びに来てくれたので、取り敢えず直ぐ出られる様、準備をして食堂に向かうのだった。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 ギルドに入ると、感じる何時もの視線に、嫉妬や羨望等が混じっていた。

 

 まぁ、ダリアは言わずもがな、カーラも可愛いというより綺麗と言った感じで注目を集めてる。

 

「おはようございます、アンナさん」

 

「うん、おはようレイグ君、朝御飯しっかり食べた?」

 

「は、はい」

 

 おかん·····

 

 苦笑いで口元がひくつくのを自覚しながらアンナさんの言葉に頷く、ダリアは最早慣れているようで、元気に「おはようございます!」と挨拶をした。

 

「あら、カーラさん!パーティに入ったのね!」

 

「っ····は、はい」

 

 アンナさんに話しかけられて肩をビクつかせるカーラ、顔には「何を言われるんだろうか」とありありと書かれており、どこか視線も俯きがちだった。

 

 少し、肩をポンポンしてやる、後ろからの圧が若干強くなった気がするが今更だ、こういう時は、お前は独りじゃないぞ意識させることが必要だ。

 

「良かったわね!私もレイグ君とダリアさんならカーラさんを任せられるわ」

 

「え?」

 

「貴女、少し前までかなり焦った顔をしていたからね、ちょっと心配だったの。他のパーティー組んでる人達には何処か近寄りたくないって感じがしたし。正直近寄って欲しくなかったし」

 

「···········」

 

「良かったわね」

 

 カーラはアンナさんの言葉に少し固まっていたが、顔を赤くして「ありがとう」とボソッと言った。

 

 取り敢えず、やっと俺達とパーティーを組んだ実感が沸いたのか、ニマニマしていた。

 

「アンナさん、ここら付近にダンジョンなんて無いかな?」

 

「ダンジョン!?」

 

 

 急に興奮したよう叫ぶ冒険者中毒カーラに周囲がギョッとした顔をするが、俺とダリアは最早慣れたのか。アンナさんの反応を待った。

 

「え?あ、えぇ、あるわよ?と言うか、無期限で常設されているのよ「Cランクダンジョン 髑髏」の調査依頼」

 

 

 本当にこの世界は俺のいた世界と似てる、ダンジョンの名称だって同じだ。ギルドのルール、構成、奴隷紋にしたって同じだった。

 

「(だから怖いんだよな)」

 

 その体験した知識に頼ってしまうのが、もし異常事態にあったら目もあてられない。

 

「····それとレイグ君、ギルマスから伝言よ

 

 

「何も見つからなかった、もう少し探してみるわ、後定期的に冒険者カード見せに来てくれ、経過が知りたい」

 

だそうよ?·····大丈夫なの?」

 

 何も聞かされていないであろうアンナさん···いや、奥の方からも幾らか心配するような視線を感じる。

 

 取り敢えず、大丈夫としか言えなかった。

 

 信頼がない、そう思うとある意味カーラの事情に便乗する形にはなってしまうが。ランクを上げるというのは渡りに船だと思った。

 

「ギルマスから多少の無茶は許してやれって言われてるけど、本当に無茶したら怒りますからね?それはダリアさんも、カーラさんも、一緒です」

 

「はい、無茶はしません」

 

「すみませんダンジョン髑髏って名前のとおりやはり骨系統のモンスターがメイン要するにアンデットも関わってくるはずその場合だとやはりゾンビ系のモンスターとかは出るんですかあと隠し扉とかトラップとかの情報をおねが────」

 

「カーラさん」

 

「はい!」

 

「ボーン系はアンデットではありませんので、あと、分かりましたか?」

 

「はい·······」

 

 アンナさんは軽く溜め息を吐き再度口を開く。

 

 何か、メンバーがすんません。

 

 本当にそう思いながらアンナさんに頭を下げるのだった。

 

ーーーーー

 

「(しかし、何も見つからなかった···か)」

 

 先程のギルマスの伝言を思い出す。彼はあれから再起し「大成の器」について調べてくれたのだろう、王都までは行かなくとも、ここのギルドだって中々の大きさだ、一度だけ見せて貰ったがギルマスの執務室には必ず「様々」な書類を保管する部屋が造られているらしい。

 

 もし、無かったのだとすると頼みの綱はかなり絞られてしまう。教会本部、王都······

 

 

 

 

 

 

『さら────··──·大成者─』

 

 あと、あのブラッディウルフを操っていた奴、多分魔界

 

「(何にせよ今気にしたって仕方ないよな)」

 

 

「速く行こう、骸骨龍《ボーンドラゴン》が待ってる、伝説の幕開け」

 

「カーラさん!?Cランクダンジョンにドラゴンは出ないですからね!?」

 

「取り敢えず落ち着こ?まず目的違うから」

 

 

───いざダンジョンへ 

 

 

 





パ~フゥ~(法螺貝

〇〇〇行こうぜ!


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28話的な話

#前回のあらすじ


3人で初めての─────


 

──ダンジョン

 

 この大陸のみならず、世界のあちらこちらに「出現」する、地下へと続く迷宮型の洞窟、根本的にこのダンジョンと言うのは常識から離れたものだった。

 

 先程「出現」と言ったが、本当にその場に現れるのである、何の前触れもなく、気付けばそこにあるのだ。

 

 次にモンスターである、何故かダンジョン一つ一つに沸いてくるモンスターはそのダンジョンに「役付けられたコンセプト」(「髑髏」なら文字通り「頭蓋骨」を象る)によって決められており、弱いモンスターしか出てこないダンジョンもあれば魔境か!?と疑うレベルで強いモンスターしか出てこないダンジョンもある。

 

 また、お約束と言われる宝箱などは置いてはいない、代わりにこのダンジョン、外とは違い倒したモンスターの一部を戦利品として、倒した時、何時までも残らないで薄くなっていき、最後には消えるのだ。

 

 ただ、稀に全くそのモンスターに全く関係ないアイテムを落とす時があるらしい。

 

 

 

 

 

 

 ストルから10km程離れた森の奥、そびえ立つ山の麓に存在するダンジョンは見た目高さ200m程しかない、小規模の山である。

 

 ──Cランクダンジョン「髑髏」

 

 ここ最近出現したダンジョンであり、ストルの街に居る冒険者の半分近くは頻繁にとまでは行かないがここに潜っている。調査依頼による報酬が美味しいのも一つの理由だが、討伐したモンスターのドロップアイテムをそのまま自分の物に出来ると言うのと。

 

「ダンジョンコア?」

 

「はい、ダンジョンを支えていると言われている、ダンジョンの魔力結晶····らしいです」

 

 森の中にて馬車の荷台に揺られながら、レイグはこの世界においてのダンジョンの在り方をダリアとカーラの2人から聞いていた。

 

 概ね、レイグの前居た世界と何ら変わらないみたいだったので、なら大丈夫かな、と思ったのだが「ダンジョンコア」と言う聞きなれない単語に眉を潜めた。

 

 「ダンジョンコア」、ダンジョン内のモンスターの「生成、複製、回収」全てを補っている魔力が「固形化」した物らしく、その魔力量の凄まじさは未だ計り知れない。

 

「一番深い所にあるんだろ?」

 

「はい、ですがストル近くのダンジョンは出現 したのが最近なのか余り調査は進んでないって聞きましたね。」

 

 深さはダンジョン毎に違い、ランクの低い高いに応じて変わるわけではない。例えばEランクのダンジョンが地下5階だったらSランクのダンジョンは地下50階、と言うわけでは無いのだ。

 

 レイグは自分がこっちに来る前に見たダンジョンを思い出した。

 

 様々なモンスターがいた、獣だったり、異形だったり、それこそ龍だったり。

 

 恐らく最下層と思わしき、ただただ広い空間、端が随分と遠く感じた。ただ思い返すと最下層に居るはずのガーディアン的な存在がなかった気がする。

 

 今思うと、どこかきな臭かったな····と苦笑いをこぼすレイグ、ダリアとカーラは?を浮かべた。

 

「ダンジョンコア、見てみたい、あわよくば手に取りたい!」

 

「そ、そんなテンション上がるほどのものか?」

 

 揺れる馬車の荷台の上、いきなり立ち上がったカーラにレイグは若干引きながら見上げた。

 

「テンションあげあげ!まずダンジョンコア自体が出回る事がない!価値が高すぎて仮に手に入れたとしても逆に怖くなって、ギルド経由で王宮か王都のギルドに贈ってしまうの、それ以前にダンジョンコアを守るガーディアンが強くて並みの冒険者では手に入らないレベル!そんなダンジョンコアがこの手に触れたらと思うと」

 

 確かにカーラの言うとおりダンジョンのガーディアンは強い、Eランクダンジョンなんか、本当にEランクでもガーディアンに手も足も出ずに殺されてしまうだろう。

 

 そのぐらいダンジョンのランクに応じて、そこのガーディアンはずば抜けて強い。

 

「落ち着きなさい、ほら深呼吸して」

 

「すぅ········はぁ·······」

 

「うん、1+1は?」

 

「ダンジョン!!」

 

「うん、オッケー」

 

「いやいやいやいやいや」

 

 等とふざなけながら、森の中間地点までやってきた。

 

 御者の話によると、ここ最近はモンスターの襲撃もなく比較的安全に御者の他に軽い運び屋等の仕事が出来て助かっているとのこと。

 

 前までこの森は割と植物系統のモンスターが生息していたらしいのだが、ダンジョンが出来てから何故かその数を減らしていったと言う。

 

「ダンジョンが関係してるって事なのか?」

 

「そこまではわかんねえが···」

 

「そんな話聞いたこと無いですね·····新種のダンジョンとかですかね?」

 

「だとすると他の冒険者達がダンジョンに集中するのも分かる」

 

 

 そんな話をしている間にもやっと馬車は森の通路を進み木々の間を抜けて、件のダンジョンの全容を明らかになった。

 

 軽く伐採でもしたのか、軽い広場になっていて、ダンジョンの入り口は高さ6m程あり、横幅は10人以上が余裕で横並びしてもまだ余裕はあるんじゃないかと思うぐらい広い。中に入るとすぐ下に降りる広い石造りの階段が待ち構えていた。カーラが目をキラキラさせている

 

 入り口付近には御者と思わしき人が馬車を動かす馬を労ったり、同業者同士で話していたりしており。入り口には憲兵のような格好をした人が3人程立っており、恐らく検問的な役割の人達だろう。

 

 荷台から降りたレイグ達は御者に礼を言って。入り口に向かった。

 

「ん?調査依頼か?」

 

「あぁ、依頼用紙もほら」

 

「········確かに確認した、あんたら初めて見るな一応言っとくけど虚偽報告だけは止めてくれよ?」

 

 どこか揶揄するような感じがする台詞だが、顔は半分疲れているような感じだった。

 

 調査依頼を受けた場合、ダンジョンから出てきた際、中で起きたこと、モンスター、出てきた最大数、最小数、又、その頻度等を細々と報告する義務がある。

 

 しかもダンジョン依頼の大本が王都にあるギルド本部なので、これには国の重役も関わっているらしい。

 

「その感じだと·····」

 

「あぁ、いるんだよ、ちょっと前からそれっぽいことだけ書いてとんずらしちまうやつ」

 

 と、どこか疲れたように言う憲兵に苦笑するレイグとダリア、カーラは「ねえ行こう?ダンジョンあるよ?」とばかりに無表情で入り口の真下まで行きレイグ達を見つめている。

 

 取り敢えず無視して話を聞いてみると、そいつらは潜ってもいない階層の事を書いてみたり、実際に潜っても浅い階層の事しか書かないらしい、どうやら同一人物らしく。

 

 特徴を聞いてみると、なんとつい最近絡んで来たばかりの元パーティーメンバー(笑)のディランと言う冒険者だったらしい。他の冒険者に聞いても「そいつらにはここまで潜る実力はない」と返されるとのこと。

 

「まあ、気を付けてくれや」

 

「わざわざありがとう」

 

 焦れたのか床を転がり始めたカーラを見て溜め息を吐いたレイグ達に同情したのか憲兵は苦笑いして送り出してくれた。

 

 いい人やぁ

 

「良いなぁ、男一人に可愛い女二人、ハーレムじゃねぇか」

 

 後ろから、そんな会話が聞こえてくる内心レイグは「近くに居るのにそんな話をすんなよ」と苦笑する。ダリアはカーラを追いかけて先に行ってしまったらしく。

 

 それを追いか───

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、俺も「賢者アリス様」みたいな可愛いパーティーメンバー欲しいなぁ!勇者様ばっかりずるいなぁ」

 

「───·······」

 

 追いかけて、下へと降りていった。 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 広がる岩造りの広間、正面から始まって左右に3本づつ広がる通路へと繋がる入り口と思わしき穴。「オオオオ····」と上の入り口から入り込む空気の流れが中で反響して、どこか荘厳な雰囲気を出していた。

 

 感覚を研ぎ澄まし気配を探ると、バラけた位置に3~4人程の塊が止まっていたり、進んでいたりした。他の冒険者パーティーだろう。

 

 

 先に着いていたダリアとカーラはどこかぼうっとした感じでこの空間内を見つめていた。

 

「(ダリアはCランクダンジョンは初めてって言ってたし、流石のカーラも固まっちゃうのは仕方ないか)」

 

 そう当たりをつけて、少し鼓舞してやるかぐらいの気持ちで2人に声をかけようとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「 人 ! 生 ! 初 ! の ! ダンジョンダアァァァア !!!!!!! 」

 

「·····················」

 

「·····················」

 

 顔を真っ赤に上気させて、その瞳を宝箱を見つけたトレジャーの如く輝かせ、ダンジョン内に響き渡る声で叫んだカーラを死んだ目でみるレイグとダリア

 

 

まずこのバカにダンジョンの常識を叩き込まなくてはいかないようだ。とレイグは青筋を浮かべ、ダリアは魔力を高めた。

 

 




カーラちゃんに問題です!

カーラ「何でも」

問1
 貴方が今いる場所は?」

カーラ「ダンジョン!」

問2
 2+2=?

カーラ「ダンジョン!」

問3
 週刊少年ジ〇〇〇の三大原則 努力 友情 あと一つは?

カーラ「ダンジョン!!」



···············


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29話的な話



#前回のあらすじ


獲ったどおオオオオオオ!


 

 

───カタカタカタカタ

 

「ソレ」は揺れているモノ

 

───カタカタカタカタ

 

「ソレ」は揺れているモノを持つ者

 

───カタカタカタカタ

 

ある者は「ソレ」が着いた刃を振りかざし

 

───カタカタカタカタ

 

ある者は「ソレ」が妖しく光る杖を両の手に構えている。

 

 

 

────それらは一体なぁんだ?

 

 

「簡単な質問、上から順にワイト、ワイトデュラハン、スケルトンソルジャー、ワイトマージ

 

 

どやぁ」

 

 「そういう事じゃねぇんだよ、この残念お嬢様ぁ!」

 

 

そう叫ぶレイグ達三人の後ろには骨達がその体である骨を揺らしまくりながら追いかけていた。

 

ーーーー

 

カーラが興奮で叫んだ直後、フロア内の至るところから此方に向かってくる気配を感じたレイグは、ダリアとカーラに率いてすぐさま移動を開始した。

 

 先程いた広間でも良かったが、探知魔法を使っていたのか「左端の通路に抜けるぞ」と言ってそっちの道に入っていった。

 

 その道は正解だったのか、モンスターとは遭遇せず若干ぐねぐねしていたが、一本道だった。

 

 レイグが「あと少し走ればさっきより大きな広間に出る、頑張れ!」と言って二人を鼓舞する。それにダリアとカーラが少し苦しそうに頷いた。

 

─────カチッ

 

「「「·········カチッ?」」」

 

 カーラの足下から何かを押すような音がいやに鮮明に聞こえた。その場の三人とも止まってしまった。

 

 そして止まった直後、まるでタイミングを見計らったのかと思う程に。

 

 

───ガコンッ!

 

 まるでスライドするかのように三人のすぐ横にある壁が一部上へと消えて言った。当然そこに現れるのはこの道の隣道、当然最初の広間へと集まっていくモンスター達がいた。

 

 既に骸とは言えいきなり隣に獲物を見つけたら固まるようである。一瞬の沈黙の末、意外にも冷静だったダリアが「今日も天気が良いですね?」と、会釈して、レイグとカーラの掌を掴み。走り出した。

 

 当然後ろから骨達が追いかけてくる、そして冒頭へと戻るのであった·····

 

ーーーー

 

「この先の広間で後ろの奴ら迎え撃つ、カーラ、ぶっつけ本番だが行けるか?」

 

「冒険者登録してこのかた今までソロで頑張ってきた私の力、甘くみない方が良い」

 

「それ、自虐ネタのつもりですか?」

 

 魔法の詠唱をしながら器用に冷たい視線をぶつけるダリア、カーラは視線をさっとそらす。何故かデコピンで許してやろうかな、何て思うレイグだった。

 

 一本道を抜けると、円形のレイグの言った通り最初の広間より幾らか広い空間へと三人は躍り出た、即座に中央を陣取る。

 

 元々連携を取ることや、カーラの戦闘能力を計る為にここに来たのだ。今のこの状況、逆に取れば都合が良いかもしれない。

 

 入ってきた道とは反対側の道の方にも警戒をしながら、カーラはパルチザンを構え、俺とダリアは魔法の準備をする。

 

 

そして

 

「フレイム·ランページ!」

 

「サンダーブラスト!」

 

 

 わらわらと入り込んで来たモンスター達に、その魔法名の通り、乱打の如く上下から蹂躙する火炎の弾と突風の如く稲妻が降り注いだ。

 

 声帯すら死んでいるモンスター達はその身を焼く業火と引き裂くような稲妻になすすべもなく一度に数十体のモンスターを灰塵へと返した。ドロップアイテムの事等お構いなしである。

 

 「勿体無い!」と内心悲鳴を挙げながらも。その魔法の威力に驚愕を覚えたカーラはそれを表情には出さず、仲間の死にも反応を見せず、ただ敵を殺す事だけを考えたモンスター達の眼前へ、躍りこんだ。

 

「(凄い······スゴイスゴイ!体が軽い!)」

 

 改めて感じる身体能力の激変に興奮しながらも、即座に3度の突き、一秒の間に放たれた突きは全て「狂い無く」、骨兵達三体の核へと届かせた。

 

そこで終わらず、若干下がるくらいの感覚で身を捻りながらのバックステップ、事切れた骨兵からパルチザンの穂先が抜けると同時に身を捻った勢いで回転しながら一歩前へ、二歩目で槍の柄を持つ両手に力を込め直し

 

「セイッ!!」

 

 三歩目で短く鋭い呼気と共に凪払った。

 

『───────』

 

 声にならぬ悲鳴を挙げて、ガシャアっとその身を破壊されながら後ろに吹き飛ばされる骨兵に骨戦士、更にはワイトデュラハンまでもが吹き飛んだ。

 

 ワイトやスケルトンソルジャークラスは大した事は無い、厄介なのはワイトデュラハンとワイトマージだ、別段何か厄介な能力等を持っている訳では無いが耐久性の強いワイトデュラハンと覚えてる魔法は少ないが一体一体、持ち合わせる魔法の種類が違う。

 

 知識で分かっていたカーラはそれらが以前なら手に負えなかったが、今ならどうとでも出きる、体の底から沸き上がる全能感を覚えた所で、口の中で頬の裏側の肉を歯で噛んだ

 

「自惚れだけはしない」

 

 その痛みを我慢して、更に一歩踏み出そうとして、レイグがカーラの槍を構えている方向と反対側にいる骨戦士3体を一気に核毎断ち切った。

 

 流れるような剣技に一瞬見とれた、が気を持ち直してカーラは目の前の敵を葬っていく。

 

「雷《いかづち》よ」

 

 レイグの声がカーラの耳に届く、上空に20以上の魔方陣が構成され、すぐさま身を怯ませるような「バヂヂヂ」という音が鳴り響いた。

 

「(凄い·······)」

 

 思わず確認したカーラは驚愕に目を見開いた、レイグは今の一瞬でワイトマージの位置を把握して「同時に」全てを倒したのだ。

 

 後ろから迫る剣をパルチザンの石つきをクイッと持ち上げて反らして、直ぐ様足で蹴り飛ばす。

 

 

「二人とも!!」

 

 奮戦するレイグとカーラにダリアから声がかかる。意図を察したレイグとカーラはそれぞれ左右に飛び込むように跳躍。直後ダリアの魔法が火を吹いた。

 

 

 

「フレイム·ストーム!」

 

 

 魔法を唱えた瞬間、ダリアの前に直径4mはある魔法陣が構成、そこから吹き出た炎、全てを焼き尽くす業火の奔流は全てを飲み込むかの如く、その言葉の通りレイグ達が相手していたモンスターを一瞬で飲み込んだ。

 

 魔法を止めた後も、幾らか荒い息を吐きながら少しずつ整えようと吸って吐いてを繰り返す。

 

「(上級魔法まで使えんのかよ!?)」

 

「(じょ、上級魔法·····初めて見た·····)」

 

 熱が残っているのか、陽炎が発生している道とダリアを見比べているカーラは驚愕の表情を浮かべていた。

 

 一方、レイグは驚愕を覚えながらも、カーラへも驚愕の感情を寄せていた。

 

 骨兵達を相手取りながらカーラの様子を見ていたレイグだが、凄まじい、の一言。余りにもレベルと技量がチグハグなのだ。

 

 乱戦状態での立ち回り、恐らくこれ自体はカーラの才能と努力による賜物だろう、しかし技量、これは説明が付かない。

 

 完成形に近いような感じがしたのだ、幾ら鍛練で槍の腕を上げたと言っても、一対一ならまだしも、こういった乱戦等では槍だけじゃなく他の武器でも発揮しづらい、ましてやカーラは槍、リーチが長い分逆に危険に陥りやすい。

 

「(·····予想外過ぎた、はっきり言って、指摘するポイントがあんま無い)」

 

 と思っても仕方ない、とレイグは頭を振った。

 

 まだモンスター達の襲撃の第二派が残っているのだ。 

 

 

 

 

 





冒険者(ハンター)登録してこのかた今までソロで頑張ってきた私の力、甘くみない方が良い( ・`д・´)



ぅぐ(涙)


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30話的な話



#前回のあらすじ


レイグ「お前ら、中々やるじゃねえか」

カーラ「おめぇもな」

ダリア「おめぇもな」

レイグ「!?」

大体あってると思うm(_ _)m今回は少し長めです。


「はっ!」

 

 カーラがモンスター軍団、第二派最後の一体に止めを刺して、スケルトンソルジャーから力が抜けるのを確認してから槍を引き抜いた。

 

 ガシャンと音を立てて崩れ落ちる様を見届けているカーラにレイグとダリアが歩み寄った。カーラ、ダリア共に初めての乱戦だったのか、どこか憔悴した様子はありつつ二人とも何処か気が昂っている様子だった。

 

 レイグはそれを見て、仕方ないと思った、ああいったダンジョン内での乱戦等はまず無い。というのもまずダンジョン内で遭遇するモンスターパーティーなぞ、精々多くて5~8体ぐらいだ。

 

 たが、今回みたいな大量出現と言うのは全く無いわけではない、カーラがやらかしたみたいに大声で叫ぶ、若しくは大きな音を出すことで確証は無いが多分ダンジョンに「危険視」される事で異分子を排除しようと「駆除命令」が出ているんだとレイグは経験上思ってる。

 

「どうだ?暴れまわった気分は」

 

「凄かった、本当に自分なのか疑った」

 

 目をキラキラさせながら、鼻息荒くカーラはそう口にすると、ダリアの方を凝視した。

 

 あまりの目力に、びくってなるダリアは「な、何ですか?」と言ってレイグに隠れるように後ろに回った。

 

 どうやらカーラの目が血走っていて、怖かったらしい。只事じゃない感じを匂わせる目力といい迫力は凄まじかったのかレイグも頬が轢き吊るのを感じた。

 

「ダリア、貴女上級魔法使えたの?」

 

「え?は、はい····何発もは撃てないですけど、他にも何個かは」

 

「見せて!」

 

「アホか」

 

 レイグはそう突っ込んで、デコピンをかました、ベチィッ!と凄まじい音を立てて顔を仰け反らせるカーラは「おごぉ」と年頃の女の子が出してはいけない声を発した。

 

 溜め息を吐いたレイグ、カーラを見る限りさっきの事は反省してはいる様子を見せてはいるが······

 

 額を押さえて此方を涙目で睨みつけるカーラ「冗談なのに」と呟いているが、彼女は一度その冗談を言ったときの顔を鏡か何かで確認した方が良いだろう。

 

 気付けば戦闘後の緊張感が程好く解れたのかな、3人は壁に寄り掛かる。

 

「でも確かにダリア凄かったよ、俺も驚いた」

 

「え?あ、あの、ありがとうございます」

 

 顔を赤くしてしどろもどろになるダリア、レイグに褒められた事が嬉しいのか、口元を緩めている。

 

 レイグがそういった嘘を吐かない性格と把握しているからこそ余計だ、レイグは勿論カーラだってそう思った。ダリアはLv18にも関わらず中級、上級を一発にずつ、その後は第二派の時に初級魔法の詠唱破棄しての連発での大立ち回り。

 

 確かにダリア自身のスキルの恩恵がでかいのは頷けるがカーラの槍の技術と同じく、中級魔法を使った後、数分後に上級魔法を使うというのは、中々難しい、当然脳への負担も違う。詠唱と言う「省略してくれるプロセス」があるから、魔法の構成もスムーズに出来ているが、それでも脳に負担はかかるのだ。

 

 初級魔法の連発に関してはスキルに助けられたが、それでも十数発をインターバルほぼ無しで撃ち続けるのは、Lv18のダリアでは負担がでかいはず

 

「ダリア」

 

「?どうしましたレイグしゃま!?」

 

 レイグは此方に振り向いたダリアの額にそっと手を添えた、ダリアは額に感じるレイグの感触にパニックを起こしかけるが、添えられている掌が青白く光ると、倦怠感に苛まれていた感じが消えて、すぅ····と冴えていくような感覚を覚えた。

 

 ダリアの反対側にいるカーラはその様子を見て「綺麗···」と呟く。薄暗いダンジョンの中、青白く光り、周囲には青白い魔力の粒子が漂っていて、カーラの言う通り幻想的な空間を作っていた。

 

「魔力までは流石に回復は出来ないが、少しは楽になったか?」

 

「·········ふぁい」

 

 どこか呆けるような声音で返すダリアはやはりぽー、とした顔でレイグを見つめていた。よしっと言ってレイグはダリアから手を離して立ち上がる。

 

「·········」

 

「·········その手は?」

 

 立ち上がったレイグに続いて、名残惜しそうな顔をしたダリアが立ち上がって腰回りを手で払う。が、カーラは立ち上がらずレイグを見上げたまま掌を掲げている。

 

 レイグはそれを見て察したのか、「困った奴だなぁ」と苦笑いして、頭に手を置いた。

 

「体力までは回復出来ないからな?、精神力で我慢しろ」

 

「うむ、仕方ない─あ、嘘ですごめんなさい」

 

 どこか偉ぶったような態度を取ったので、半分本気でやめてやろうと手を引いたら素早く謝って来たので、仕方なく回復してやるレイグ。

 

「───私は冒険者としてやってけるかな」

 

 ぼそりと呟かれた言葉は、普段の感情の起伏が分かりづらい何時もの声音ではなく、不安が籠った声音だった。

 

 カーラ自身、今日の戦闘自体かなりの手応えを感じていた。Cランクダンジョンとは言え大分奮闘したという自信はある。だから不安なのだ。

 

この自信が「自惚れ」にしか過ぎないということになったら。その様子を見てダリアとレイグは顔を見合わせて、やがてにっと笑った。

 

 

 

「「当然!!」」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「じゃあ上がるか」

 

 ドロップしたアイテムをある程度拾って、今日は切り上げると言ったレイグに二人は頷きレイグの元に集まる。

 

 集まったアイテムはどれも骨系統の物ではあるが、やはり質は良さげなものが多かった、加工に使えたり出来るだろう。後はギルドに買い取ってもらえれば中々の値段になりそうだとレイグは満足気だ。

 

「───おおい!大丈夫かぁ!?」

 

 その時、レイグ達が入り込んできた道とは反対側から、4人組の冒険者パーティーがやって来た。見た感じ剣士二人男に魔法使いらしき女、弓使いらしき女が一人と言う中々バランスが取れたチームだ。

 

 カーラが目をキラキラさせている、今にも何かを叫───びそうだったけど、ダリアが首筋トンして眠らせたので問題は無かった、レイグは何も見ていない。

 

 うん!今日も晴天である(ダンジョン内)

 

 

「俺達が戦ってた、骨供が一斉に逃げ出したから、しかも叫び声まで聞こえたから「もしかして」って·········」

 

 うちのポンコツランサーがすいません、とレイグは本気で頭を下げようと思った。しかし男達は口をポカンと開けて俺達──というよりは広間を見ていた。

 

「心配をかけて悪い!この通り何とか対処したから問題はないよ」

 

「え?あ、あぁ、無事なら良いん····え?」

 

「もしかしてこの落ちてるの」

 

「全部ドロップした奴····!?」

 

ーーーーー

 

「わ、悪い呆然としてた·····」

 

「君達凄いね!これだけの数、」

 

 彼等はストルの街で活動している冒険者では無く、王都からやって来た冒険者らしい、何でもリーダーのバズがストルの街出身らしく帰省ついでに、新参者のダンジョンを調べに来たらしい。

 

「心配かけた御詫びだ、ここにあるドロップ品持っててくれて良いよ」

 

 そう軽々と言ってのけたレイグにバズ達は目を剥いた。

 

「い、いやいや流石にお前さ」

 

「良いの!?ありがとう!」

 

「丁度頑丈な矢筒が欲しかったんだよね!」

 

「ありがたや!!」

 

「おめぇらぁ!!」

 

 仲良いな、と微笑ましく見るレイグとダリア、どこか荒くれ者の印象を受けるバズだが、かなりの気苦労をしているみたいでレイグは思わず苦笑いした。

 

 謝ってくるバズに「いいって」と返すレイグ、元々このドロップ品目当てではないし、ドロップ品だって持てる数は持った。

 

「ありがとうなレイグ、全然足りねぇがこれだけは受け取ってくれ!じゃなきゃ流石に収まりつかねぇ!」

 

 そう言って硬貨が入ったような音を鈍く響かせる巾着袋をレイグに渡してきた。

 

「·····まぁ、じゃあ有り難く頂くよ」

 

 そこまで言われてしまえば、レイグも素直に受け取るしかなく、礼を言って受け取った。

 

 再び礼を言ってくるバズ達冒険者に手を振ってその場を離れようと足を動かそうとして

 

「?·······」

 

「木の枝、外から持ってきちゃったみたいですね」

 

「········みたいだな」

 

 胸当てにくっついていた木の枝を見つけた、しかも生木、ダリアが言うように外から持ち込んだんだろうと当たりをつけて·····

 

「············」

 

 だが何故か気になってしまったレイグはそれをポーチの中にしまいこんだ。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「はああああああああああ!!!」

 

 

 洞窟内に少年の声が響き渡る、顔立ちが整った金髪の少年は叫びながらその手に眩い金色の光を放つ剣を振りかぶった。

 

『人間が舐めるなよ!』

 

 その凶刃が振るわれる相手は、人間と同じ体躯を持ちながらも肌は浅黒く、目の球結膜は黒で瞳は金色と言う、一般的な人間の容姿とは離れていた、更には頭部に生えた二本の捻り曲がった角。

 

『はあっ』

 

 魔人、と呼ばれる男はその斬撃を障壁で防ぐ、魔力と障壁がぶつかりスパーク音が鳴り響く。

 

「リサ!」

 

「分かってるわ!」

 

 一瞬歯を食い縛った少年は直ぐ様、味方である同い年ぐらいの剣を構えた少女に指示を飛ばす。

 

 燃えるような赤いロングヘアの髪の凛々しい顔をした彼女は待ってましたとばかりに魔人の後ろから現れた。しかし魔人はこの襲撃にも気付いていたのか。再び障壁で防いだ。

 

 リサの整った顔が悔しげに歪む。

 

『フハハ!惜しかったな?だがそうも殺気を迸らせていたら嫌でも気付いてしまうさ!』

 

 愉快、と嗜虐的な顔をする魔人、そして新たに二人に向けて魔法を放とうと魔力を高めて。

 

 

 

 

 

 

「───凍てつけ」

 

 

 その体躯を瞬時に凍らせた。抵抗も無く、一瞬で、人を構成する全ての要素を凍らせ、その勝ち誇った愉快を顔に孕みながら呆気なく魔人はその生を閉じた。

 

 金髪の少年はそれを見て死んだと確信してから反対側のリサとハイタッチをした。

 

「あぁもぅ、私の出番が少ししか無かったですっ!」

 

 一番後方に控えていた、法衣を見にまとった少女がその綺麗な銀髪を靡かせて不満そうに叫んだ。

 

「ふふ、リリアンが周囲のモンスター達を惹き付けてくれたから楽に倒せたよ」

 

 リリアンと呼ばれた少女はその可愛らしい顔を膨らませて怒っているが、愛嬌があって大して怖くないのでその場が和やかになるのが分かる。

 

 そんな彼女に文句を言われた彼女は金髪のポニーテールを揺らしながらカラカラと笑った。

 

 リリアンは「むぅ」と唸って、やがてジト目でそばにやって来た剣士二人を睨んだ。

 

「そもそも、最初からリサさんとアレックス君が、「剣聖解放」と「勇者解放」を使ってれば終わってたんじゃないですか?」

 

「まぁ、なにはともあれ俺はお前達を信じてたさ」

 

 そう言ってアレックスはリサとリリアンの頭に手を置いてニカッと笑った。

 

「······お前は調子が良いな」

 

「むぅ······もっと撫でなさい」

 

 思いっきり話題を反らしたアレックスに呆れながらも顔を真っ赤にして嬉しそうにしているリサとリリアン。

 

 アレックスはそれを満足気に見やって、気付けば自然にその輪から外れていた魔法使いの彼女に笑顔を向けた。

 

「ナイスフォローだぜ

 

 

 

 

 

アリス」

 

「本当よ」

 

 呆れたように「勇者」「剣聖」「聖女」を見ながら、やれやれと「賢者」アリスは笑った。

 

 

 





首トンで気絶させるっ実際には無理らしいんだが········俺は信じるよ、ご都合主義、って奴をさ


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31話的な話

#前回のあらすじ

レ イ グ は 木 の 枝 (?) を 手 に 入 れ た!


 

 道中気絶した(させられた)カーラを揺り起こし、三人はダンジョンの入口まで上がってきた。上がってきたレイグ達に気付いたのか、憲兵が「お疲れさん」と言って手を挙げた。

 

 外に出ると、時間的にまだ昼間に差し掛かった頃で、ダリアとカーラはダンジョンに入ってからまだ数時間しか立ってないことに驚いた。

 

 憲兵の人達は、降りていった直後のカーラの叫びを聞いていたのか、同情するような、そんな苦笑いで口を開いた。

 

「もしかして、初めてのダンジョンだった?」

 

「·········」

 

 話し掛けられたカーラは、ふいっと気まずそうに視線をそらした、その様子とダリアにじっとりとした目で見られているのを見て、憲兵は「ドンマイ」と苦笑いした。

 

 どこか「モンスターの軍団から逃げ切ったのか」と僅かながら称賛と感心が混じっているのを感じたレイグだが、「本当は全滅させた」等と混乱を起こしたい訳では無いので、肩を竦めるに留めた。

 

 その後、一階層で現れたモンスターの種類、そして床に壁がスライドするギミックがあることを報告した。ギミックに関しては未だ把握していない情報だったらしく、一応調査は入るらしいが感謝された。

 

「そう言えば、御者に聞いたんだが、このダンジョンが出来てから周辺のモンスターが減ったって聞いたんだが。何か知らないか?」

 

「·····一応、王都の騎士団が調査隊を派遣してくれているんだが、著しい結果は出てないんだ」

 

レイグにそう聞かれた憲兵達は、揃って難しい顔をした。

 

 「この話はあんまし口外しないでくれよ?」と真剣な面持ちで付け足した憲兵に「箝口令案件を易々と一般冒険者に話すなよ····」と呆れるレイグとダリアに目を輝かせるカーラ、どうやら「秘密の情報」を教えてもらってる状況が琴線に濃厚接触しまくってるらしい。

 

 調査依頼の用紙に調査完了の印を押してもらい、それを受け取る。一言、二言会話を交わした後、待たせていた御者が操る馬車の荷台に乗り込む。

 

「そうだ憲兵さん、何か食ったら良い」

 

 その際、レイグがダンジョン内であった冒険者パーティーのリーダーであるバズから貰った硬貨が入った袋の中を見て、さっと大銀貨3枚程手に取り憲兵に向けて弾いた。

 

 危なげなく、それをキャッチした憲兵が疑問を浮かべて大銀貨を見て、笑顔で手を振ってきたのでレイグ達も振り返した。

 

「まぁ、情報料にしては安いがな」

 

「レイグさん凄い、冒険者みたい」

 

「冒険者なんだけど」

 

「でも、何で態々騎士団が調査を····?」

 

「多分、信頼と金の問題じゃないかな」

 

 案に「冒険者に依頼を出せば」と言ってるダリアにそう返す。こういった国絡みの調査依頼と言うのは基本的に高ランクパーティー等の実力者且つ、国と直接関り合いのある奴らに当てられる。

 

 そうなると当然、高額な報酬を支払う前提の依頼になってしまう、これが騎士団にすら手が余る案件だったら迷う事もなく依頼を出すだろうが。

 

 「たかが」Cランクダンジョンに高額の報酬は無駄遣い、と言う事なのだろう。

 

 ダンジョン自体、まだまだ不明な点が多いのだ、何かが起こるか分からない状況、確かに一冒険者が請け負うには役不足かもしれない。

 

「まぁ、俺らが気にすることでも無いだろう、それよりも明日からバンバン依頼受けてくからな?」

 

「そうですね、何だか楽しみになってきました」

 

「···········」

 

 レイグの言葉にダリアだけが返し、カーラは強い眼差しで頷いた。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 ストルの街に戻ってきたレイグ達はギルドに行く前に昼食を食べようと言う話になった、確かに時刻は既に3時を過ぎて射手座、意識したからか空腹感がレイグ達を襲った。

 

 三人は「沈む太陽」に戻り、宿屋の入口がある小路ではなく、大通り側にある食処の店を開けた、カランカランと鈴の音が中に響き渡り、その音に反応した店主、ダインが出迎えてくれた。

 

「ん?レイグ達じゃないか、珍しいな」

 

「今日は早めに終わったんですけど、まだ昼飯を食ってなくて···」

 

「もう倒れそうです····」

 

「············」

 

 空腹に喘ぎながら言うレイグ達、ダリアは今にも倒れそうだし、カーラに関しては俯いて何かを呟いている。レイグが耳を澄まし「冒険者」と単語が聞こえた瞬間、問題なしと頷いてダインに向き直った。

 

 ダインは三人に対して優しく笑い「カウンター空いてるから座って舞ってなさい」と言って、厨房に戻っていった。

 

 先に座ったダリアとカーラに続いてレイグも店内を見ながらカウンター席に座った。店内は賑わっており。確かに空いている席がカウンターしかなかった。

 

 意外にも人気なんだな、とかなり失礼な事を思いつつ感心していると。

 

「なぁ、聞いたか「ヴァリエン最強の勇者パーティー」の話」

 

「あぁ、半年以上も前に「勇者」「剣聖」「聖女」「賢者」の希少スキルの持ち主で結成されたパーティーだろう?」

 

「ちがうちがう、そう言うんじゃ無くてだな」

 

 そんな気になる会話が聞こえたので思わず耳を傾けるレイグ、カーラも気になったのか「う"う"·····」と言う呻き声を封じて幾らか隣にいるダリアへカウンターに伏せたままにじりよった。ダリアはそんな二人に気が付いてカーラの真似をして同じく伏せた状態で隣にいるレイグにさりげなくしなだれかかるような感じで体を傾けた、中々強かな女である。

 

 回りから「ドミノ倒し?」「ってか坊主そこ代われ」などと聞こえるが、レイグ達は一切無視である。

 

「とうとう、魔人の手掛かりを見つけたって専らの噂でな」

 

「マジで?朗報じゃないか」

 

 潜めた声でそう言った男に、もう片方が驚いたように声を出した。

 

「しかも、その場所が「カサブの街」近くの洞窟らしくて、一昨日からカサブに滞在してるってよ」

 

「こっちにも来てくれねぇかな?」

 

「あり得るんじゃねぇか?確か「賢者」様の故郷がストルとカサブの中間にあるんだとよ」

 

「見てみたいよな、勇者様以外、皆かなりの美女って言うらしいじゃないか」

 

 やっぱりそう言う話になるのね。と思わずガックリするレイグ、不意にダリアがレイグの腕の服を摘まんだ。

 

 レイグは確かに美人だったな、と前の世界で絡まれた時の面子を思い出した。しかし性格がくそだったので、レイグとしては論外である。

 

「しかも3人共勇者様にお熱って噂なんだろう?」

 

 

 

 

 

「は?」

 

 思わず、殺気が漏れた周囲がそれに当てられたのか、びくっとなっていたが、レイグはそれどころじゃなかった。

 

「(俺は今、怒ったのか?)」

 

 それは怒りではなく、困惑だった。

 

 レイグ本人としては、自分の思い人であるアリスとこの世界にいるアリスは全く別の存在だと割りきっている。

 

 そう言えば、とダンジョンでの一幕が頭を過る。

 

 憲兵が話していた内容、「勇者パーティーに「アリス」がいると言うこと」にレイグは確かに「苛立ち」を覚えた。レイグ本人の意思とは関係無しに、である。

 

 分かっている筈なのに分からないような、そんなやり場のない感情がレイグを支配した。

 

「レイグ様」

 

「レイグさん?」

 

 すぐ傍から、心配するような声を出すダリアに、「どした?」と疑問符を浮かべたカーラに自然とやり場のない感情が吹き飛んだ。

 

「悪いダリア、殴ってくれ」

 

「殴る···ですか?」

 

 2人には伝わらないかも、と思いながらも胸中を明かした。仲間にそんな顔をさせた自分に対して、そして訳が分からない感情に一瞬でも振り回された自分に対して罰が欲しいとレイグはダリアに言った。カーラはレイグにもそう言う所があるんだと珍しげに言っていた。  

 

 

「──分かりました」

 

 レイグに頼られた事が嬉しいのかダリアは笑顔で頷いた。カーラは「ダリアさんふぁいと~」と未だ伏せたまま応援した。立ち上がったレイグとダリアに店内がざわつく。受け入れ体制のレイグに拳を構えるダリアを見て、変な邪推を始めながら盛り上がる店内、呆気に取られているダイン。

 

 「いきます」短くそう言って、レイグの傍まで行ったダリアが拳を引く「あ、グーなんだ」と僅かに顔が轢き吊るレイグ。

 

 意外にも重い拳に感じていた空腹も相まって、倒れ込むレイグは。

 

「(一回は会った方が良いかもな)」

 

 何にとは言わないが、どこか安らかな顔でそんな事を考えながらレイグは倒れたのだった。

 




カンカンカンカアァァァァン!


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32話的な話



#前回のあらすじ


秘密の情報を持ち出すと、カーラが凄いことになるんだって(小声


 

「カーラ!そっちに行ったぞ!」

 

「ん」

 

 周りが岩場だらけの殺風景な景色、強靭な四つ足に竜にどこか似通った赤い体躯のモンスター、「レッドリザード」が俺から少し離れたところで戦っているカーラの元へと走っていくのを見て、俺はカーラに声をかけた。

 

 カーラは短く言葉を返して、目の前のレッドリザードの横っ面にパルチザンの穂の部分を腰の回転を僅かに入れて叩き、怯ませた。

 

 「グルオォオオオ!」とくぐもったような声で叫び声を上げて、後ろから迫るレッドリザードを肩越しに一瞥して、目の前で脳を揺さぶられているレッドリザードの鼻を思いっきり踏み台にして、宙返りをした。

 

『グルゥオ!?』

 

『ガアアア!?』

 

 レッドリザードは見た目大型犬を一回り大きくしたような、蜥蜴に似たような見た目をしている、それでいて頭は大して宜しくない、「ボア(猪)系モンスター」と同じく突進してしまう残念なモンスターだ

 

 当然、急にカーラが視界から居なくなって、仲間であるレッドリザードが急に現れようが停止出来る訳が無かった、当然ぶつかる。

 

 しっかしカーラの槍術も凄いが、その戦闘センスはずば抜けていた。何と空中で身を捻り、勢いを付け、刺突

を繰り出したのだ。

 

『ガヒュ』

 

 突っ込まれた方が吹き飛び、突っ込んだ方は衝撃と味方を吹き飛ばした動揺で立ち往生しているところにその鋭利な穂先に強襲された。

 

 驚く暇もなしに、喉元を何の抵抗も無く貫かれたレッドリザードは、確実に絶命してその体から力を抜いた。

 

 そのまま油断せずに、自分に近づいてくるレッドリザードに対峙していくカーラを見て、内心「お見事」と称賛しつつ、俺は横から噛み砕こうと大きな口を開き飛びかかって来たレッドリザードの顎を下から打ち上げた。

 

「おら"よっと」

 

 ガチンッ!!と大きな音を立てて、顔ごと上に打ち上げられたレッドリザード。

 

 僅かに体を浮かしたレッドリザードが見せている腹を鋭い呼気を吐くと同時に魔力ブーストで強化した足で蹴り飛ばした、すかさずそっちの方向に手を翳す。

 

「雷鳴よ、刺し殺せ」

 

 バヂヂヂヂ!!と、けたたましい音が響き渡り、俺の頭上に2本の魔力で作られた雷のような剣が魔方陣より現れた。

 

 ──中級魔法「ライトニングソード」

 

 作り出してほぼノータイムで射出されたそれらは、吹っ飛ばされたレッドリザードが巻き込んだレッドリザードもろとも刺さり、魔力によってその体を焼き殺した。

 

 カーラも片付けたのか、俺の方に小走りでやって来た。

 

「こっちは終わった」

 

「俺も今終わった······所でダリアは?「やりたいことあるから少し離れますね」って言ったっきり戻ってないが·····」

 

 今この場にいないもう一人のパーティーメンバーの名前を口にしながら、「一時休憩」と言って、近くの岩に腰を降ろした。

 

 まぁ、ダリアなら心配は要らないな。

 

「········」

 

「何だよカーラ、まだ怒ってんのかよ?」

 

 カーラも俺に倣って近くの岩場を背凭れにして、座り込んで休み始めたが、その顔は徐々に分かりづらくではあるが確かに「怒り」を窺わせた。

 

 カーラは俺の少し呆れたような質問に答えず、体育座りに似た体勢で、俺から顔を背けた。

 

 別にカーラが気にするようなことではないはずなんだがなぁ·····と、昨日の事を思い出しながら。

 

 俺は「ストルの山、中腹地点」で山道から見える景色を眺めた。

 

  

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 昨日の「沈む太陽」にて「チャンピオン」と言う不名誉な渾名を付けられてしまったダリアと俺達はダインさんに軽く怒られて、昼食(というには些か遅いが)を済ませてそのままギルドへと直行した。

 

『どうする?出発は明日にして、依頼だけ受けとくか?』

 

 依頼受注するだけったら、期日を守れば自己責任ではあるが、先に受けることは可能である。

 

 ダリアは「カーラさんに任せます」と言って、カーラは「ありがとう」と言って。とてとてと、依頼掲示板《クエストボード》 の方に歩いていった。

 

『カーラさん、張り切ってますね!』

 

『今から受けるわけでは無いんだがな』

 

 ダリアの言葉に頷いた俺は、顔を唸らせてクエストボードを睨んでいるカーラを見た。

 

 あの顔が、冒険者を辞める状況になって歪ませるのだけはしたくないなと思う。同じことを考えていたのか同じくカーラを見つめていたダリアとふと目があって笑い合った。

 

 その時、クエストボードがあるところから馬鹿にするような大声で嘲笑するような声が聞こえて俺とダリアは「何事!?」とばかりに視線を戻した。

 

 受ける依頼用紙を持ったカーラに、4人の男が絡んでいる所だった。

 

『おいカーラ!お前血迷ったのかよ!それは EランクでもDランクのクエストじゃなくてBランクのしかも至急印付きかよ』

 

『········貴方には関係無い』

 

『だから言ってるじゃねぇか、俺達のパーティーに入れてやるってよ!』

 

 そう言った男の顔は善意の欠片も無く、極上の獲物にありつけた!とばかりに欲望を付け足したような喜色に溢れた笑みを浮かべていた。

 

 カーラは一瞬震えたが、それでも冷たい目で睨み返していた。

 

 「おーこわいー」などとほざいたそいつは、「まぁ細かい事はあっちで話そうや」と言ってカーラの腕を捕まえようとした。

 

 

 

 

『────触るな!』

 

 カーラはその腕をパシンッと振り払い、ギルド内全体に響くような声で怒鳴り返し、俺達の元に戻って来た。だがやはり、怖かったのだろうか俺とダリアの服を掴んだまま離そうとしなかった。

 

『この2人が私のパーティーメンバーだ!』

 

 ざわついたギルド内にいる人達が、咎めるような視線を男達に向ける。

 

 動揺した様子の男は、逆に周りに睨み返し俺に気付くとニヤニヤしながら子分のような男達を引き連れて来て、俺の前までやって来た。

 

 威圧的な態度で俺を睨み付けていた男は舌打ちすると、俺の胸倉を掴んだ。

 

『おい落ちこぼれ、何でお前みたいなクソガキがこんな上玉·····オホッ!あと一人いやがる!』

 

 男は、ダリアに気付いたのか、上機嫌になり笑い始めた。多分このギルドでも腕利きの部類なのだろう、周りがどんな目で見ようが全く気にしていなかった。

 

 胸倉を掴まれているのに、抵抗も何もしない俺を男はつまらなそうに笑って、ドスの聞いた声で口を開いた。

 

 

『落ちこぼれ、どうせビビって口も聞けねぇだろうから、頷くだけで良いぜ?お前のパーティーメンバー貰うから』

 

 嗜虐的な目で俺を見下すその目を見て、俺は深い溜め息を吐いた、男の顔が苛立たしげになる。つーか息臭いんだよ、寄んな気持ち悪い。

 

 俺は胸倉を掴んでいる男の手を振り払って、体の自由を取り戻す。

 

『何だ?お前、その反抗的な目』

 

『あー、アイツ死んだな』

 

『リーダー怒ったら止まらねぇからな』

 

『大人しく女達を譲れば良かったのによぉ』

 

 

 

 

『どうせギルドの中じゃ、違反とかにビビって何も出来ねぇ糞どもが何をいってんだ?』

 

 俺がそう言うと、ニタニタ笑っていた男達はポカンとした後、分かりやすく顔を真っ赤にした。

 

 分かりやすいなおい

 

 流石に、俺が言い返すどころか煽り返すとは思ってなかったのだろう。周りはギョッとしてる奴ら半分、面白そうに見てる奴ら半分に別れた。

 

『てめぇら何してんだ』

 

 一触即発の空気の中、上から降りてきたギルマスが気だるそうに声をかけてきた。そんな声でも目の前の男達にはかなり効いたようで、冷や汗を分かりやすく浮かべながら、気まずそうにギルマスへ顔を向けた。

 

『ぎ、ギルマス····』

 

『何だ?お前ら、とうとうギルドで揉め事か?』

 

 圧を飛ばしながら言うギルマスに男達は顔面を蒼白にしながらも媚びへつらうように下手くそな笑みを浮かべて弁明しようとしたが。

 

 ギルマスが先に口を開いた、この時、何か嫌な予感はしたんだよな·····

 

 だって何か楽しそうに笑ってるし、視線が俺達と男達を言ったり来たりしてるし、カーラが持っている依頼用紙を見ては笑ってるし。

 

『おいレイグ、訳を話せ』

 

 などと大勢冒険者がいるなか、一冒険者である俺を名指しで呼んだのだ。さすがに顔が轢き吊るのを止められなかった。周りを見るとポカンとして、ギルマスを見ている。ギルドマスターと言う大きな肩書きを持つ奴が一冒険者に親しげに話しかける事の意味をギルマスが知らないわけがない。

 

 いや、マジふざけんなよこのジジイ!、この〇〇〇野郎!〇〇〇〇!〇〇〇が〇〇〇〇〇の〇〇野郎!!〇〇!!!

 

 考えうる悪口を頭の中でぶちまけたわ。流石に何か考えあっての物だろうと思い、俺はカーラやダリアに合わせて貰いつつ事細かに事情を話した。何度か男達のグループが口を挟もうとしたが、ギルマスが一睨みするだけで他人の家に預けられた猫みたいに大人しくなった。

 

 俺が事情を話し終えると、ギルマスは一つ頷き「明日の夕飯はカレーにするか?」と言わんばかりの軽さで

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあ、レイグ達が受けるクエストをお前らも受けろ、勝負で白黒付けりゃ良いじゃねぇか』

 

 と言ったのだ

 

 

 はぁ?






武士の情けって言葉を知ってるかい?


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33話的な話


#前回のあらすじ


定期的に口が悪くなるレイグ君


 

『クエストで勝負·······?』

 

『どういうこと?』

 

 目の前のギルマスが放った言葉が、混乱や動揺を産み一度は収まった筈のざわめきやら騒々しさがまた甦った。

 

 流石に訳が分からなく、視線で問うと、ギルマスはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら続けた。

 

『何、簡単だ、おい小娘、その依頼用紙に付いている至急印はレッドリザードの討伐、そして希望要件ではあるが「クイーンリザード」の調査、又は撃退っつう内容だろ?』

 

 至急印と言うのは文字通り緊急性が強いクエストだ、例題を挙げると、依頼主が「金は積む、だからこの内容を3日以内に完遂してくれ」などといった此方の事情を一切無視したクエストの証である。

 

 難易度に応じての依頼報酬に加えこの至急印を付けるのに掛かった金額がプラスとして加算されるのだ。

 

 「なぜ分かった」と驚くカーラにギルマスは意味ありげにフッと笑った。カーラ、分かった理由は多分至急印付きのクエストがそれしか無いからだよ。

 

『俺はな、別にギルド内や表で問題さえ起こさなければ、引き抜き活動だって何だってしていいと思ってる

、だがさっきみたいに相手を馬鹿にして、半ば強引に引き抜き活動をするってのが見ててウザかったからこうして提案したわけだ』

 

 どこか説得するような口調で語りかけるギルマスに男達が幾らかたじろいだ。

 

『だからこうして公平になるよう提案してるわけさ、「このクエストの討伐数やクイーンの調査、又は撃退の報告」で勝ち負けを決める、勿論勝者はクエスト報酬を貰えるし、相手の可能な範囲で敗者への命令件をやる』

 

 さらっと息を吐くように職権乱用発言をしたギルマスに頭痛を覚えた、俺達のステータスを見せた時の仕返しだろうか。

 

 まぁ、丸く収めるにはこれしか無かったのか?これだったら勝者は美味しいだけだし、ギルドだって「至急印付き」何て厄介なクエストを処理できる。

 

 暫く呆けていたが、ギルマスが言った事を理解したのか喜色を浮かべる男達、あからさまに俺に嗜虐的な笑みを向け、ダリアやカーラには無遠慮な視線を向け始めた。

 

『ギルマスも話が分かってらぁ!おい落ちこぼれ、分かってるよなぁ?』

 

 ニタニタ気色悪い笑みでこっちを見てきたので「あーハイハイ」と手で、しっしっと振ってやったら見事に顔を真っ赤にした。

 

 ダリアやカーラも問題ないと言わんとばかりに頷いた。その間にカーラから預かった依頼用紙を確認していたギルマスが口を開いた。

 

『期限が今日含めて4日か····よし、明日出発にして二パーティーは別々なルートで山に入る、2日後の昼頃までがタイムリミットだ、後言っとくが不正なんて出来ると思うなよ?俺が現地で監視してるからな』

 

 ギルマスはそう言って「俺が受注処理しといてやっから」と言ってカウンターの方に歩いていった。

 

 不正は出来ないと聞いてなのかは分からないが、面白くなさそうに舌打ちをした男達は話しかけようとしてきたが、用も無かった俺達は揃って出口に向かった。

 

 「おいてめぇ!」など罵声が飛んで来るが全て無視して、出口に向かってると、カーラが申し訳なさそうに俺とダリアを見ていた。俺はカーラが何か言う前に口を開いた。

 

『よく言ってくれたな』

 

『え?』

 

『私達2人をパーティーメンバーって言ってくれた事ですよ、カーラさん』

 

 カーラは自分の言った事を思い出したのか顔を真っ赤にして、両手で顔を覆ってプルプル震え始めた。

 

 その後は「沈む太陽」で事の顛末を話したら大変だった、ミランダさんは「ギルドにカチコミすっか」っと言って無表情で包丁片手に店を出ていこうとしたので、皆で全力で止めた。

 

ーーーーーーーー

 

「···············」

 

「·······レイグさん、ちょっと良い?」

 

「ん?」

 

 

 山に入って今の時刻は大体午後4時ぐらいか?と予想を付けながら討伐部位の爪を数えた。大体37匹って所か····。

 

 その爪を見ながら考えていると、カーラが話しかけてきた。カーラもレッドリザードの事について考えていたのか俺が持ってきた肩に担ぐ用の布袋の中身を覗き込みながら話しかけてきた。

 

「·······レッドリザードの数が異常」

 

「······だよなやっぱり」

 

 確かに多い、レッドリザード自体、ゴブリンリーダーと同じくらいの強さを持ち合わせている。

 

 しかもだ、大した知能もない筈のレッドリザードが俺達を集団で襲い、真っ先に狙ったのはダリアだった。ここで魔法で対応したダリアが「やりたい事があるから」と言って戦線離脱した。

 

 普通、レッドリザードがここまで群れて現れる何てのはまず無い、精々が3~4体程度である。一度の襲撃で10体以上で襲ってくるってのは考えられない。

 

 一瞬、前の世界とは生態系が違うのか、と思ったが、たった今カーラの発言でその線は覆された。

 

 今も山全体の気配を読もうとしてるが、数が多すぎるのだ、明らかに前のフォレストウルフの軍団よりもだ。

 

 しかも全部レッドリザード。

 

 山の生態系どころの話じゃない、レッドリザードに支配されている、そう言えばリデア村でのフォレストウルフの時も·······一体···

 

「レイグさん」

 

「んぶぅ?」

 

 「うん?」って返そうとしたら、両の頬を柔らかい手で挟まれて変な声が出た。ホントに柔らかい···じゃなくて

 

「ぃきゅなりゅらりすりゅ?(いきなり何する?)」

 

「怖い顔してた」

 

「········」

 

「大丈夫、レイグさんには私とダリアさんが、私にはダリアさんとレイグさんが、ダリアさんには、私とレイグさんがいる、これで怖いもの無し、死角何て存在しないし、誰も失わない」

 

「─────」

 

 

 本当はそこまで難しい事なんて何も考えていない、只目の前にいてジットリとした目で睨んでくるカーラと、今も俺の力になろうとしてくれているダリアが、こんな訳も分からないが状況のせいで何かあったらって恐れていただけだ。

 

 頭に籠っていたであろう熱が冷めていくのが分かる。

 

 俺の目を見ていたダリアが和らぎ、俺の顔を解放してくれる。

 

「·····悪かった」

 

「ん」

 

 気にすんな、とばかりに薄く笑ったカーラは俺が立ち上がったのを見て「そろそろ行く?」と言ってきた、勿論ダリアを探しにだ。

 

 勿論心配はしているが信頼もしているのだが、もう少しで薄暗くなり始める。

 

 幸いにもレッドリザードは夜も活動をしないことは無いが、それでも昼行性寄りのモンスターだ。だが山や自然は違う、四六時中その猛威を奮うだろう。

 

 今日の休む場所を探しながら、少し平坦な道を歩いていく。

 

「休む場所はここで決まりだな」

 

「ん、遮蔽物も無いし襲撃に対応しやすい」

 

 正解、と言ってやると鼻息が少し荒くなり「当然」と言った。

 

 取り敢えず、カーラに荷物等を見ていて貰い。気配を探るともう少し進んだ辺りに少し広い場所があり、そこにダリアの気配を感じたのでホッと息を吐いて足を運ぼうとして、ダリアを囲むような気配で8体程、レッドリザードがいるのが分かった。

 

 直ぐ駆け出す俺、大きな岩を避けて、広場へと出ていった。

 

「ダリア!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「シャラアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「」

 

 あちこちで、死んではいないが瀕死になって気絶しているレッドリザードと、襲い掛かってきたレッドリザードの突進を慣れた動作で横に回避して、直後にその横っ腹に山全体に響き渡りそうな裂帛の声が上がり、魔力が籠った拳を突き刺した。

 

 めり込んだ横っ腹から聞こえる鈍い音、レッドリザードのけたたましい悲鳴、それなりの量の魔力を注ぎ込んだのかダリアの魔力が可視化しているのか、白いオーラみたいな物を纏っていた。

 

 ダリアに殴り飛ばされたレッドリザードは口から血を吐き出しながら錐揉み回転をして周りを囲んでいる内の一体にぶち当たり纏めて後ろの岩に叩きつけた。

 

「うん!うん!いい感じです!レイグ様に教えて頂いたブースト、思ったより魔力の消費も少ないですし!」

 

「」

 

 嬉しそうに笑うダリア、俺もダリアが喜んでいるのを見て心がぽわぽわするんだ、いやすんません嘘です!普通に怖かったです。

 

 レッドリザードの血が飛び散ったのか、ダリアの頬に少量付いていて、勿論右腕の拳部分はベッタリと赤い血でコーティングされていた。

 

 俺はこれ以上血で汚れるダリアを見たくない思いの一心で、残存魔力も考えないでダンジョンの時「ワイトマージ」を一掃した時に使った多重魔法《デュアルマジック》を使った。

 

 魔力を生きているレッドリザード全てに均等になるように飛ばす、それぞれの位置に飛ばした魔力を固定させながらその場に魔方陣を構築する、イメージとしては頭にくくりつけた長い棒の先端から垂らした物を右手と左手同時にスケッチをするような感じ。

 

「雷よ」

 

 言葉による引き金を引いて、構築された全ての魔方陣から同時に雷が落ちてレッドリザード達の体に止めを刺していく。

 

 俺に気付いたダリアが笑顔で駆け寄ってくる、良かったよダリア、そしてレッドリザードよ、安らかに眠ってくれ·····

 

 モンスター達の冥福を祈った俺は、魔力が空っぽになった時に起きる、倦怠感や脱力感に襲われ倒れた。

 

 

 

 

ーーーーその日の晩

 

「······脳筋」

 

「はう!?」

 

「チャンピオンダリア」

 

「れ、レイグ様ぁぁ····」

 

 火を囲む俺達、カーラがダリアを弄り倒していたが、俺は顔を逸らすしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ダリア虐って需要ある?


ダリア「は?おい」

え?あ、ちょ─────


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『三人で──』



サブタイトルは別に変な意味ではありませんのでm(_ _)m


 

 ······はぁ···

 

 横になってから、何度目になるか分からない溜め息が出る、でも、絶対引かれた····レイグ様にあんな姿見られて·····

 

 前から試してみたかった物理攻撃の特訓、ダンジョンやリデル村に向かう時、今までのモンスターとの戦闘は私が魔法詠唱を終えるまでの時間稼ぎや戦闘を引き受けてくれたレイグ様のお蔭で成り立ってきた。

 

 勿論、適材適所な上での仕方ないポジションだと思っている。でもレイグ様は魔法も使えてしまうのだ、しかも扱い方は私よりも巧い

 

 レイグ様は気にするなって言ってくれるかもしれないけど、でもせめて自分の身は自分で守れるようにしたかった、レイグ様が私の事を気にせず戦闘に集中出来るように。

 

 もしこれからの旅、もし魔王陣営と事を構える何て事になったら間違いなく、間違いなく私は足手まといになる。簡単に人質になるかもしれないし、件の勇者パーティーと関わる可能性だってあるし、下手すれば対立もするかもしれない。

 

 だから、レイグ様達から見えない位置で修行をしたかった、少しでも自分の事を気にしなくていいように。

 

 特訓、魔力ブーストによる身体強化での接近戦、レイグ様からやり方は教えて貰っていたから。最初は少し躓いたけど、割りとすんなりと出来た。それどころか肌に合っていたのか少しするとレッドリザード程の重量があるモンスターすら吹っ飛ばせるようになっていた。

 

 私が使っていたのは「一撃型」の魔力ブースト、単に攻撃する部分に魔力を溜め込み、ぶつける瞬間その魔力を爆発させる。簡単そうだけど最初は割りと手こずった。ちゃんと一定のラインで止めておかないと、どんどん溜め込んじゃって魔力持っていかれるし、逆に魔力が戻って来ちゃってあんまし貯まらなくなる事もあった。

 

 それで調子づいちゃったのか、時間を忘れるぐらいにはのめり込んだと思う。

 

 いきなり20匹はいたであろうレッドリザード達の図上に魔法陣が描かれ、雷がレッドリザード達に止めを刺した。間違いなくレイグ様がダンジョンで使った魔法だ

 

 特訓が上手く行ったのと、レイグ様が助けてくれた事に受かれてしまったのだろう、レッドリザードの返り血を浴びた状態でおおはしゃぎしてレイグ様に駆け寄ってしまったのだ!

 

 私なら殴り飛ばす絶対

 

 そのあと、魔力の枯渇による弊害で倒れてしまったレイグ様を口をあんぐりと開いたカーラさんと共に休憩地点まで運んで、野営の準備をした。

 

 レイグ様が火の番をやると言って、私達は簡易式のテントを立て「疲れたら声をかけてください」と言うとレイグ様は苦笑を溢した。

 

「はぁ···」

 

 思い出していたらまた溜め息を吐いてしまった。明日に向けてちゃんと寝ないと。

 

「ダリアさん、溜め息ばかり吐くの、駄目」

 

「ご、ごめんなさいカーラ五月蝿かったよね?」

 

「あと、その言葉遣い、何か距離を感じるからやだ」

 

 とことんマイナスになってる私が見ていられなかったのか、カーラさんが咎めてきた、流石に悪いなと思い謝罪を述べようと口を開いたら、まさかのダメ出し

 

 どこか固い声音だったので、やはりさっきの事を怒っているのか申し訳ない気持ちになる。

 

「······じゃあカーラ」

 

「ん」

 

 「私もダリアって呼ぶ」と言ったカーラ、同年代の女の子を呼び捨てにするとか何か変な感じ、そう言えば私の村に同年代の女の子って居なかったかも

 

 私が呼び方を言い直すとカーラは満足そうに頷いた。カーラは私の方に顔を向けた。綺麗な紫の瞳─菖蒲(あやめ)色っていうのかな?─が私の目を見つめてきた。どこかその表情は怒っている。

 

「私達では駄目だった?」

 

「え······」

 

 その声音はいつもの淡々とした口調では無く、どこか苛立たしげで、悔しげでもあった。つまり「私達では安心して魔法が撃てないから、自分の身は自分で守る」って取られてるって事?それは──

 

 違うって咄嗟に言えなかった。いや違うって否定は出来る、でも私はそれを言葉にしてない、ならそう取られてもおかしく無いってこと·····だよね···

 

 つまり私はカーラどころか、レイグ様の事も····

 

「····うん、分かってる、意地悪してごめんね」

 

 

 明らかに狼狽えている私にカーラは抱きついてきた、お互いプレート越しなのに温もりが伝わってくる。

 

「ちゃんと分かってる、貴女が私達の為に前衛もしようとしてくれてる事も分かってるよ、まだ短い付き合いだけど、分かる」

 

 よく見てくれてる、素直にそう思った。どこか穏やかなカーラは更に続ける。

 

「確かにこれから先ダリアにカバーが間に合わない事もあるかもしれない、レイグさんの旅の目的を考えると、余計にね」

 

「····そう、だから足を引っ張る何て絶対に嫌、私が傷付く事でレイグ様や、カーラが傷付くなんてもっと嫌よ」

 

 それだけは死んでもごめんだった、レイグ様にはちゃんと目的を果たして欲しいし。カーラは大物冒険者になって実家を見返して欲しい。そんな2人の足枷になんかなりたくない。

 

 レイグ様は気付いてないかもしれないけど、まれにどこか遠くを見るときがある、切望するかのような表情で。

 

 カーラだって憧れの冒険者を目指すと言う、「沈む太陽」のレイグ様の部屋の中、日陰に包み込まれた部屋での告白を成就して欲しい。

 

 私だって、陳腐な言葉かもしれないけど「レイグ様と一緒にいるため」って言う言葉は本気だし、それをどこの誰とも知らないモンスターや勇者パーティーや魔王陣営なんかに邪魔されたくない。それこそ「幼馴染み」にだって。

 

 だから·····

 

「それでも私とレイグさんに貴女を守らせて?

 

 

 

 

そして、貴女も私とレイグさんを守って?」

 

「え?」

 

 守る?私が?

 

 困惑する私を抱き締める力が僅かに強まった気がした。

 

「レイグさん、今日怖い顔してたんだ」

 

「怖い顔?」

 

 カーラは頷いて今日の事を話してくれた、レッドリザードの数が異常に多い事や、山の生態系が狂っている事など、カーラの見解だけど、レイグ様はただ、予測不能な事が起きてカーラや私を失うことが怖かっただけだと言う。

 

 ──大丈夫、レイグさんには私とダリアさんが、私にはダリアさんとレイグさんが、ダリアさんには、私とレイグさんがいる、これで怖いもの無し、死角何て存在しないし、誰も失わない

 

 そうレイグ様に言ったらしい。

 

「私が2人を····」

 

「うん、私の槍とレイグさんの直剣で邪魔な敵を退けてダリアを守って、ダリアの魔法で敵を一掃して私達を守る、そしたら最強」

 

 気付けば何時もの淡々としていた口調に戻っているけど、どこか楽しそうな言い回しだった。

 

 いつもと変わらない戦法、なのに私には

 

「凄く、強そうだね」

 

「だって強いもん」

 

 とても頼もしく思えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

──同時刻、ストルの山「中央エリア」

 

 

グルルルルルルルゥゥ··········· 

 

 

 

 

 まるで地を這うような唸り声が岩や岩壁に囲まれたどこか暗澹(あんたん)な雰囲気を放つ通路の中に鳴り響く。

 

 

 

 一匹の竜がいた。

 

 否、竜「擬き」と言ったところか、レッドリザードより3倍程の大きさ、赤黒く染まった鱗、口元は裂けて馬ぐらいなら余裕で丸飲み出来そうだ。

 

 そして、その背中には折り畳まれた翼、みたいなものが這えていた。まだ未発達なのか翼膜はどこかスカスカだし翼を型どる役目を持つ骨はところどころ歪んでいた。

 

 その足下には、二匹の母体、「クイーンリザード」が寄り添うように眠っていた。

 

 その様子を見た竜擬き「キングリザード」は周囲を警戒して自らも眠りに付いた。

 

 

 

 

 

「な、なんだよ······あれ······」

 

「あ、あんなん聞いてねぇよ····」

 

 少し離れた場所にある大きな岩影からその様子を見ていたレイグ達に絡んだ男達はその状況に恐怖していた。腐ってもBランク冒険者なのか、パニックにはならず、必死に目に見える情報を頭で噛み砕こうとする。

 

 そもそもがおかしい、本来ならレッドリザードは雄と雌で一組の番、と言うのが基本だし、常識だ。

 

 そして一番常識を壊しているのは、雄である竜擬きだった。キングリザードの単体の強さがB級上位が基本だが男達が見ているキングリザードは明らかにその強さから逸脱していた。

 

「あ、明日一番に、俺達は山を降りる、良いな?」

 

 リーダー格である男が冷や汗を拭いながらそう呟き周

りの誰もが何の文句も言わずにそれに頷き、静かに4人はその場を離れた。

 

 クエスト失敗扱いになってしまうが命には変えられない、それ以前にこんなの依頼内容の詐称で慰謝料を取れるんじゃないか?

 

 等と一時の恐怖を紛らわすためにそんな下衆な会話をし始めた彼等は本人にとっての最適解を示した筈だった

が、ひとつのミスを犯した。

 

単純なミスで、この上ない残酷なミス

 

『・・・・・・・・・・・・・』

 

 遠ざかる「食い物」にニィっと裂ける口

 

 

 

 

 

 彼等は「奴」までもただのレッドリザードだと思い込んでしまった。

 

 

 





to be continued·······


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34話的な話


#後書きにて、現在のレイグ達のステータスを開示していきまふ。




 

「おいおい、なんだよこいつぁ····!」

 

 ストルの街、住民達がその日の苦労を労り、労れ、又、明日に希望を持って眠りに着くなか、ギルド内のギルド長執務室の中でギルマスは焦燥に駆られるように、動揺を口にした。

 

 現在、ギルマスはストルの山上空にて浮遊し続ける複数の記録マジックアイテムを媒介にストルの山の様子を見ている。

 

 流石にずっと監視はしていられないため、他の仕事や資料を見る合間にではあるが、ストルのギルドの最高責任者である以上しょうがないであろう。

 

 実はというと、ギルマスはストルの山の現状を知ってはいた。定期報告でストルの山の生態系が崩れて来ている、程度の物だが。

 

 大量発生の報告を受け、どう調査していたものかと悩んでいたギルマスからすれば「クエスト対決」と「至急印付き」は良いタイミングだった。片や評判や素行はかなり悪いが歴としたBランクパーティーではあるし、もう片方に関してもギルマスは問題ないと思っているし、何ならその実力を見せて貰おうと息巻いていた。

 

 実際はそれどころじゃなかった、レイグ達が山に登った時点で先回りで山の様子を見る為、マジックアイテムを先に飛ばして気付いた。

 

 

────レッドリザード以外のモンスターがいない?

 

 

 全体を見た感じレッドリザードの数は200を越えたくらいだろう。ハッキリ言って数だけなら前の定期報告から聞いていた数とあんまり変わってないだろう。

 

 明らかに異常だ、レッドリザードがストルの山を支配すると言うこともそうだが、レッドリザードが他のモンスターを倒したのか、追い出したのか、それが異常だった。

 

 ストルの山にレッドリザードより強いモンスターはいる、あまり活動はしていないはずだがモンスター種最強格である竜種までいたはずなのだから。

 

 他にもSランクモンスター迄は居なくても、Aランクモンスターならば数種確認はされていたはずだ。だがその謎も、解けた、解けてしまった。

 

 

 山脈地帯の中央に位置する、岩壁に挟まれた自然の通路、そこにいたのは「不器用な友人」の娘が持っていた依頼用紙に記載されていた通り、母体であるクイーンがいた、それも2匹

 

レッドリザードは決して縄張り意識が強くはないモンスターだ、かと行って温厚ではないが。ギルマスは過去に一回見たことがある、人間にもたまにある浮気現場って奴だ。

 

 雄を巡って殺し合う、温厚な筈のレッドリザードが殺意に目を血走らせ、当たり前のように相手の喉笛を食い破る場面なんか未だに背筋に来るものがある。雄は止めるでもなく、ただ見ているだけだ、力は強いがレッドリザード内のヒエラルキーはクイーンが頂点のようだ、と当時ギルマスは本当に驚いた。

 

 

 だから有り得ないのだ、殺し合うべき雌同士が同じ雄に寄り添って寝ていることは、そしてその雄であるキングリザードの大きさが常軌を脱していることは

 

 遠目でも分かる存在感、レッドリザードの様な真っ赤な鱗では無く、赤黒い鱗、太く長い尻尾、そして不完全ながらもその体躯にあった翼、もはやギルマスが知っているレッドリザードではなかった。

 

「コイツが、「喰った」のか·····!」

 

 じゃなければ説明が着かない、竜種を喰らったからレッドリザードは進化した、そしてこの山の頂点に降り立ったのだろう。

 

 安易な考えで、このクエストを依頼掲示板に貼った自分を恨むギルマスだが、そんなことをしている場合ではない、最早Bランク冒険者が手を出して良い領域を越えてしまっている。

 

 本当はこの勝負を通して、「未来の英雄パーティー」に動きやすい環境を提示したかったがそうも言ってられない。召集をかけようと、街全体に非常時用の警報がなる仕組みであるマジックアイテムに手を伸ばし。

 

 

 

 

 

 

 

「まぁまぁ、落ち着きなさいって、ストルのギルマスさん?」

 

「───」

 

「ぅおっと!」

 

 自分以外誰も居なかった筈の空間、それも自分の背後から聞こえてきた声に、ギルマスは裏拳を突き出していたのに対し、壮年のそれには思えないほどの速さと鋭さを纏った拳を声の発生源である人物は顔を後ろにそらすだけで避けてみせた。

 

 発生した風圧で部屋の中の置物が落ちたり窓ガラスが割れる寸前まで軋むが全く動じず、寧ろ喜色の笑みを浮かべている背後の人物の相貌を見て、ギルマスは驚愕を覚えるが、おくびに出さずに静かに「そいつ」に話しかけた。

 

「なにもんだ?」

 

「····へぇ、君は強いな、強者の匂いがプンプンする、それに言わなくても分かるだろう?」

 

「·····魔人か」

 

 満足そうに頷いた魔人はゆっくり離れて部屋の中央まで歩いていった。民族衣裳ねような服から見える黒い肌の腕、顔を再度確認したギルマスは内心不安になった。

 

 コイツぐらいの強さを持つ魔人があちらにはゴロゴロいるのか?と

 

 その不安を読み取ったのか、魔人はカラカラと笑った。

 

「流石にそれはないかな、ちょっと前に勇者パーティーに見つかったっていう馬鹿な魔人が居たって聞くけど、大体の魔人ってのはそんくらいの強さかな、あ、あくまでも兵の話だから」

 

「············」

 

 さりげなく、衝撃的な事を口走る魔人、あくまでも兵の話?それではまるで

 

「そうだね、こっちの人間達と同じ暮らしをしている魔人もいるね」

 

 心を読まれたのか、と戦慄するギルマスに対して、「そんなことより」と続ける魔人、気付けば陽気な雰囲気は消え去り、いつの間にか部屋の中を冷たい空気が満たしていた。

 

 魔人は殺気を放っても意識と理性を保ち、気丈に睨み続けるギルマスに内心、称賛の嵐だった、心の中で「いつか殺し合いをしたい奴」リストにギルマスの存在を叩き込み、今はそうじゃないと自粛する。 

 

 折角、「仕込んだ」物を本来ならば勇者に当てようとしていた奴を使うんだ邪魔はさせない、魔人は荒々しい空気になる。

 

 

 

 

 

 

 「余計な事はしないでくれ」

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 

『!?』

 

 明朝、時間的には4時頃であろう速い時間帯に突如として離れた場所からでもハッキリと伝わる絶叫がダリアとカーラの目覚ましとなった。

 

 急いで外に出る二人に既に出発の準備が出来ていたレイグは言った「ヤバそうなのがいる」と。

 

 簡易テント等を片している余裕など無かったため、そのまま駆けて山を登っていくレイグ達。

 

「中途半端、ですか?」

 

「あぁ、一斉に周囲のレッドリザードが中央に向かって集まり始めた、さっき言ったヤバそうな奴の所にな、ただのレッドリザードじゃない、別のなにかが入り込んだような、そんな気配だ」

 

「だから」

 

 カーラがレイグの話を聞いた上で、周りを見渡しながら呟いた、辺りには名にもない、ポツポツと立っている枯木だ。

 

 逆にそれしかなかった。

 

 何も無さすぎるのだ、レッドリザードは昼行性、流石に明朝の時間帯でもあまり動くことはない。睡眠しているレッドリザードが居てもおかしくないのだ。

 

 やがて中央エリアに差し掛かった辺りでレイグ達はあるものを見つけた。

 

「──っ!」

 

「··········」

 

「遅かったか······」

 

 息を呑むカーラ、思わず目をそらしたダリア、顔をしかめて言うレイグ、その視線の先にはかなりの数のレッドリザードの死骸に、致死量であろう血で出来たような水溜まり。

 

 良く見ると恐らく3人分の足跡が中央エリアへと続いている、何でまた中央に?と疑問に思ったれだったが、はっとしてすぐに二人に向き直る。

 

『···········』

 

 ここまでの惨状など見たこと無かったのだろう、顔を青褪めさせて、幾らか体を震わせているダリアとカーラの両手を掴む。

 

「悪い、精神的にキツイのは分かる、けど、まだ我慢してくれ」

 

 荒療治に近いが、精神安定の回復を試みながらレイグは強く手を握りしめる。

 

「───···大丈夫、とは言えないけど大丈夫」

 

「すいませんレイグ様、大丈夫です」

 

 幾らか顔色が悪いが持ち直して「速く行こう」とばかりに中央へと目を向ける二人にレイグは申し訳なさを押し殺し頷いた。

 

 本当は嫌だろう、ダリアはトラウマを彷彿とさせるような視線を貰ってるし、カーラに至っては前に一悶着あったような感じがした絡まれ方だった、ましてやこんな惨状をモロに見たあとだ、生きている可能性があるからって助けに行くって言うのは本心が拒絶している筈だ。

 

 レイグは短く礼を言って、二人と共に奥に進んだ。

 

 山脈地帯に入ると景色も変わってくる、だがレイグ達にその景色を堪能している時間なんて無かった。

 

「この唸り声····」

 

 岩壁に挟まった通路の奥から無数のレッドリザードの唸り声が反響してくるのだ。中に混じって人間の叫び声がある事から、まだ生きている可能性があった。

 

 レイグはレイグでこの奥にかなりの広場があり、そこに凄まじい数のレッドリザード、レッドリザードより強い気配を持った存在が2匹、更にはそれより遥かに強い気配を感じ、それどころでは無かった。

 

「······(この気配、竜種?、いやいや、レッドリザードと竜種が交じったってのか?や、違う「喰った」のか?レッドリザードが?トラゴンを?)」

 

 そもそも、ドラゴンがこの山にいるなら、少なくともレッドリザードが山の生態系を崩す何て事は有り得ない、ドラゴンがそれを許さないからだ。

 

 竜種とは生物としての頂点だ、他の追随を許さない強者だ、「何度も打ち破った」レイグをして言わせる言葉。

 

 何度も消えては浮かんで来る可能性をまた否定するレイグ、やがてその顔は覚悟を決めた顔つきになっていく。横に並んでいた二人もそんなレイグの顔を見て頷いた。 

 

 

 

 

 そして、三人はたどり着いた。

 

 処刑場に

 

 




レイグ·アーバス16Lv19



功 970(+1600)

 

防 800(+1600)

 

早 900(+1600)

 

魔功 850(+1600)

 

魔防 850(+1600)

 

知 700(+1600)



skill


大成の器(異界の英雄レイグ·アーバス)

 

#常時発動しています。 

補正、レベルアップ時、全ステータスに+100



????(new

#上記スキルの派生スキル(スキル所持者の任意発動 



翻訳

#現存する言葉全てを翻訳可能

 

無詠唱❬中❭

#中級魔法迄なら詠唱を破棄。

(スキル効果の成長可)



ブースト

#瞬間的なステータス向上

 

ーーーーーーーー

 

ダリア·ミルス 17 Lv21

 



 

功 570

 

防 500

 

早 450

 

魔功 2100(+1000)new

 

魔防 1400

 

知 600



skill

 
黒魔導(上)new
 

#魔法攻撃力に常時+1000、成長補正:中(下記スキルと連動) 

#魔法防御力に成長補正(下記スキルと連動)


 

大成のお墨付き

 

#呪い、状態異常等のバットステータスを反転する

 

#全ステータスに成長補正(弱)



ーーーーーー
 

カーラ·ヴァネスティラ16Lv17

 



 

功 1160

 

防 1000

 

早 720

 

魔功 240

 

魔防 240

 

知 500
 

skill

 

〇〇の槍術士(随時変更可能)

・所有者に槍の扱い方の共有


《解放された心得》

 仲間思い

 所有者の仲間が居る限り、レベルアップ時、ステータスアップ補正

 

《未解放の心得》

 

・〇〇

 ??????

 

・〇〇

 ??????

 


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35話的な話

#前回のあらすじ


岩壁に挟まれた通路の先に見た者とは····?


 

処刑場

 

 正にそう呼ぶに相応しい光景だった、岩壁に挟まれた通路を越えた先に広がる広場、中央にゴミの様に転がっている泣き喚く「3人」の男、そしてその三人を取り囲むかのように、5m程の距離を保っている。

 

『クゥアアアア!』

 

『グゥゥウウウウ!』

 

『グラァウッ!!』

 

 まるで「殺せ」と、そう叫ぶようなレッドリザードの鳴き声があちらこちらから響くその光景は狂気を感じた。

 

 更に何処からともなくレッドリザードが増えていく。この場に居るだけでも、100匹は居るだろう。レイグ達は岩壁に挟まれた通路からその光景を見て顔を引き攣らせた。

 

 何故逃げないのか、幾らC級ランクのモンスターの大群と言っても、動き自体はそこまでもない、寧ろ速さだけならフォレストウルフの方が倍は速いだろう。

 

 そうレイグが思った事は事実だった、遅くもないが別段速くもないレッドリザードから逃れるのはそこまで困難ではない筈、だが遠目ながら3人を注意深く見ると、全員両足がグチャグチャになっていた。

 

 そんなことを逆に冷静に観察してしまうほどに、レイグの顔は苦渋に満ちた顔をしていた、ダリアとカーラも目を見開いて口元を手で塞いでいた、声を挙げないためだ。

 

 レイグ達の視線は、広場の奥へと向いていた。

 

 レッドリザード達が立ち並ぶ中、明らかにレッドリザードの数倍はあるであろう体躯、赤黒い鱗、裂けた口元、目はレッドリザードにはあまり持ち得ない理性的な光を見せつつ、どこか冷たい光を含ませている、レッドリザードには有り得ない太く長い尻尾に。極めつけはその背に生えた、不完全な翼だった。

 

 ここまでの情報に対して、現実逃避を決める程馬鹿ではないレイグは生唾を呑み込み、考えたくもない予想が当たってしまった事に舌を打ちたくなったが、我慢した。

 

 「喰らった」のだ、レイグの予想通りレッドリザードが竜種を、この事実を認めるということは、もう一つの最悪な仮定を認めることになる。

 

 数十mは離れていて、なるべく気配も消して身を潜めていたレイグ達に「ソイツ」その眼をギョロリと目を向けた、瞬間に背筋に冷たいものが走り、ダリアとカーラは知らずの内に一歩引いてしまった。

 

 今までの疑問が全て吹き飛んだ、何で未だに男達は生きていて、しかも逃げられないように足を壊されているのも、何故キングである「ソイツ」が両脇にクイーンを2体侍らせているのも。

 

 何でこの場にいる「ソイツ」以外のレッドリザードが怯えているのかも。

 

 

「(そりゃそうだよな、竜種よりも強い奴がボスだったら怖いわそりゃ)」

 

 もう一つの仮定、それは竜種を喰らったキングリザードが、「元々竜種よりも強かったこと」だ。

 

「(おいおい、こりゃ詐欺だぞ依頼主さん·····これはBランクどころかSランク以上の案件だぞ····)」

 

 しかしレイグは怯みはしてもパニックになるような事は無かった。寧ろ上等、とばかりに「ソイツ」を睨み返した。どのみち「ソイツ」に認識されている時点で今の自分達では逃げ切る事は不可能に近いと思っているレイグ。

 

 ダリアとカーラにもこの瞬間凄まじいプレッシャーや殺気がぶつけられているだろう、青い顔をしながらもレイグに並び立つ様を見て。「何でコイツら勇者じゃないんだろうな」と苦笑して思ったレイグ。

 

 

──大丈夫、レイグさんには私とダリアさんが、私にはダリアさんとレイグさんが、ダリアさんには、私とレイグさんがいる、これで怖いもの無し、死角何て存在しないし、誰も失わない

 

「ダリア、カーラ、行くぞ」

 

「勿論」

 

「やってやりましょう!」

 

 「逃げろ」でも「行けるか?」でもなく放たれた言葉に込められた信頼の意にダリアとカーラは笑みを持って返して、3人揃って通路から姿を現した。

 

 突然出てきた、レイグ達に殺気立つレッドリザード達、しかし突然ビクッとしたらジリジリと下がっていく、それは一体に限っての話では無かった。

 

 中央に向かって開けていくレッドリザードによって作られた道、いつの間にか静まっている空気に何処か寒々しい何かを感じた。

 

 これには3人揃ってびっくりして、おっかなビックリでその道を進み、やがて中央に辿り着き男達は絶叫も泣き叫ぶのも辞めて、ポカンとした様子でレイグ達を見ていた。

 

 レイグは男達が何かを言う前に、雷の初級魔法で男達を気絶させた。

 

 ギョッとするダリアとカーラに周囲のレッドリザード、「ソイツ」からも何処か困惑したような様子を感じた。レイグは「別に仲間って訳でもないしな」とおどけて見せた。

 

 

 

 

 

『オマエが、「大成」カ?』

 

 「ソイツ」から発せられた言葉によって、直ぐ様悠々とした態度は崩されたが。

 

 レッドリザード達が左右に分かれ、空いた道を王の如き雰囲気で重々しく歩く「ソイツ」、やはりでかい、体高3mに全長8mと言った所か。

 

「しゃ、しゃべっ!?」

 

「·····レッドリザードが喋るっていうのは聞いたことがない、竜種だって同じ」

 

「·······誰に教わった?」

 

 レイグ達の前に辿り着いた「ソイツ」は愉快そうに裂けた口を歪ませた。友達を作ったときのような嬉しそうな雰囲気で、何処か小馬鹿にするような雰囲気で。

 

 それは「自分に敵対する意思を見せた者に」対してであり又、「質問に質問で返すな」ていう、意思表示でもあった。

 

「····お前らの言う「大成」に当てはまるかは知らないが、確かに俺は「大成」を持っている」

 

『·····ナラバ、ワレは「アノ方」に恩をカエス為、オマエと合間見えよう』

 

 「ソイツ」がそう言うと、空気が途端に変わった。濃密な殺意が「ソイツ」から叩きつけられる。と同時に「ガギィン!」と広場に金属同士がぶつかるような音が反響した。

 

 周囲のレッドリザード達が耳鳴りがするような不快感に苛まれ、ざわめいた、音の発生源は「ソイツ」の尻尾が3人を襲おうとして、カーラがパルチザンならではの刃と柄の近い部分に左右に広がる突起のような刃の部分で上から押さえつけていた。

 

 レイグは更にその上から足を重ねる様にしてブーストして踏みつけ、辛うじて止めることに成功した。

 

「いきなりかよ!」

 

『タタカイに合図なんてアルノカ?』

 

 内心違いないと返しながら、レイグは鱗に覆われた尻尾を登り始めた。瞬時に周りを見渡す。

 

 唐突に始まった戦闘に、動揺はしているレッドリザードだが、いずれも、クイーンですらも参加しようとはしていなかった。どうやら目の前のキングリザードであろう「ソイツ」は変わった事にレイグ達と一人でやりあうつもりらしい。

 

「っぶな!?」

 

 思考したのは一秒にも満たなかった筈なのに、戻したら目の前に凶爪による斬擊が待ち構えていた。慌ててそれをしゃがんでかわし背中に到達しようとして。

 

 即座に飛び降りた、そしてレイグが先程まで進んでいた位置に何かが通りすぎた。

 

 その何かはそのまま地面に刺さり動かなくなった。それは魔法によって作り上げた人の半分程の大きさの針だった。

 

 地面に降り立ったレイグに再び尻尾による薙ぎ払いが繰り出された、がそれはレイグに届く前にカーラによってそらされた。

 

「っぐぅ·····」

 

 完璧なタイミングで反らした筈の攻撃なのに、それでも手に感じる凄まじい痺れ。離してなるものかと槍を握り締め「ソイツ」を睨み付ける。

 

 仕方無いと言う言葉を使いたくはないが、ステータス等の差が、3人と「ソイツ」にはありすぎたのだ。

 

「すまん、カーラ!助かった!」

 

「気を付けて、凄い膂力、後魔法も使えるみたい」

 

「だな」

 

 直後、二人に「離れて!」と叫びが届く、レイグとカーラは「ソイツ」が繰り出した前足による叩き付けを回避すると同時にそのままダリアの所まで戻ってきた。

 

 

 

 

「─氷河に包まれ、悠久なる時間の旅路へ誘わん─

 

アイス·エッジ·ストライク!!」

 

 足下に広大な白い魔方陣を構築して、ダリアは魔方陣を起動した。瞬間、ダリアの足下から前方扇型に凄まじい勢いで巨大な氷柱が連なっていく。

 

『───』

 

 いきなりの上級魔法に流石の「ソイツ」も一瞬、体が怯んだ。が頭を振ることで持ち直し、後ろに大きく跳躍、後ろに避難していたレッドリザードギリギリの所で停止して腹に力をいれる。

 

 「ソイツ」の喉に集まっていく魔力。

 

 レイグが「ブレスだ!」と叫ぶのと、同時に「ソイツ」の顔の下部分に魔方陣を構築する。

 

 「ソイツ」が眼前まで視界を埋め尽くさんばかりの氷柱に対して。「ボッボッ」と閉じられた口から漏れ出す炎を吐き出さんばかりに鎌首をもたげ、振り下ろし。

 

 

 ゴッ!!!!

 

 

『~~~ッ!?!?』

 

 レイグが発動した魔法、岩の玉が魔方陣から勢い良く飛び足し、「ソイツ」の顎に当たった。意識外からの攻撃故に完全に油断していたソイツは完全、とまでは行かないが、僅かに顔を反らされ。

 

『──────』

 

 氷が殺到し、凄まじい衝突音が鳴り響き、煙が待った

 

 

 




『うちらのボスマジ怖くね?』

『マジそれな、てか奥さん2人とか裏山』

『えー、でもハーレムって柄じゃなかったよね』

『まぁ、所詮ボスも雄ってことやな』

『でもまぁ、確かに見た目としてはうん····ちょっと怖いね』

『でけぇし、口裂けてんもんなぁ───っやべ、ボスきた』



『『『『『おつかりゃりゃーっす!!!』』』』』



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36話的な話

#前回のあらすじ


竜種モドキに上級魔法をもろに喰らわせたダリア、果たして


「(入った!)」

 

 氷柱の大波を叩き込んだダリアは、感じた手応えに拳をギュッと握った。「ソイツ」がどうなったかは分からないが。左右にいるレッドリザードは防ぐ事も出来ず氷柱に串刺しにされていた。

 

 少し気だるさを感じるが、まだ余裕はあると気を持ち直し、油断なく「ソイツ」を注視する、がやはり自分の本気が「ソイツ」に当たった事で少し浮き足立っていた、カーラも少し気が緩んでいたのか構えていた体勢を若干崩した。

 

 その一方でレイグの表情は険しいままだった。確かにダリアの上級魔法は凄まじい威力を持っていたし、威力だけだったら今のレイグの全力をも凌ぐレベルだった。

 

「──え?」

 

 ダリアの呆然とした声が聞こえる、カーラも、「まさか」と顔を驚愕に染めていた、今回ばかりは「ソイツ」が一枚上手だった。 

 

 

 やがてそこら一体を包み込む煙が薄れていく、そこから現れたのは、虹色に薄く輝く膜の様なものを左右10m程に展開して、守られたレッドリザード達の群れ、クイーン、そして奴の存在だった。

 

 「ソイツ」は、少し霜が体の表面に降りていただけで、無傷だった、ただどこか焦った様子だったが次第にそれは怒りの表情に変わっていった。

 

 「憎悪」「殺意」、まるで全ての悪感情を詰め込んだように震えていて、目は血走り、顔を反らされた状態からもう一度鎌首をもたげた。

 

 口元から未だに漏れている「炎」を見てレイグは背筋に嫌な汗をかき、咄嗟にダリアとカーラを少しでも遠くへと力を込めて突き飛ばした。

 

「!?」

 

「!?レイグ様!」

 

 驚いた表情を浮かべるダリアとカーラをその目に収める事無く、レイグは気絶させた三人の男達の元へ駆けつていた。

 

 「ソイツ」は既にレイグをロックオンしているのか、突き飛ばされてレイグから離れている二人に等全く気にせずレイグに向けて顔を振り下ろした。

 

 一切の気遣い無用とばかりにレイグは両手で3人の襟首を掴み上げ、そのまま体を捻ってダリアとカーラがいる方にぶん投げた。

 

 同時に振り下ろした顔の恐ろしくガパァ!と開かれた口から吐き出された獄炎の炎が恐ろしい速さでレイグへと放たれた。まるで全てを飲み込まんとばかりに放たれたブレスは一撃でストルのギルドを半焼出来てしまうと確信が持てるとばかりに破壊的だった。

 

 既にレイグまでの距離を5mまで詰めてしまったブレスはまるで死神の息吹に感じた。

 

 ──パアアアアアアアアンッ!!

 

「っぐぅ」

 

 まるで、何かが破裂したような音が広場に響き渡り、レイグが何かに弾き飛ばされたみたいにダリア達とは反対方向に吹き飛び、ブレスの射程範囲から逃れた。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 突き飛ばされたダリア達は痛みに顔をしかめつつも、すぐに起き上がる、同時に気絶した男達が、ずさぁ!っと転がりながらダリア達の近くで止まった。

 

 一体何が、とレイグに突き飛ばされた場所に視線を寄越すと広大な範囲の地面を焼き付くしながらダリア達の視界を遮るブレスがそのままレイグ達が来たルートを焼いていた。

 

『グルゥアアアアアアア!!!』

 

「ダリア!カーラ!二人はその馬鹿を頼む!」

 

 「ソイツ」が咆哮を上げながら、ブレスをダリア達とは反対咆哮に動かしていく。2人はレイグの安否が分かりホッとするも、聞こえてきたレイグの言葉に答えずにダリアとカーラは男達の側に立つ。

 

 カーラは少し前までの自分を叱咤し、パルチザンを構え、ダリアは「ソイツ」の意図かは分からないが分断された状況に歯噛みする、しかし頭を振り攻めてきたレッドリザード達の相手をするため、魔力を練った。

 

ーーーーーーー

 

「(分断されたな)」

 

 痛む右腕に回復魔法をゆっくり掛けながら、レイグは後ろから未だに迫ってくるブレスを鬱陶しく思った。

 

 レイグが先程取った行動は、ダリアが少し前にストルの街中でやった信号弾に使った物と同じ、ただ魔力を瞬時に練り上げ、その塊を側に配置、可視化できる状態になったら、魔力を爆発させる。

 

 方法は簡単だが、痛みは相当あるためレイグ自身も好んでやろうとは思わない。

 

 たが、本当に鬱陶しいのは、と走りながらレイグは「ソイツ」─仮に「クリムゾンリザード」と名付ける─が先程まで展開していた虹色に輝く膜を思い出していた。

 

 レイグが立てた最悪の仮説はまだあった。

 

 

 反魔法吸収障壁《アンチマジックフィールド》

 

 竜種と言うのは、強靭な肉体の 、知能も当然優れていて、そして魔法をも使う、その中でも厄介なのがこの膜である。

 

 何せ所有者が許容する範囲で無条件に魔法を吸収してしまうのだ、際限無くである。しかもその性質は「吸収」、「反射」そして「変換」である。つまり吸収した魔法をそのまま返したり、魔力に変換し、自分に使うことも出来る。

 

 竜種を喰らったなら、持っていてもおかしくないと思っていたが実際に持ってると、かなり厄介だ。唯一の救いはこの障壁は任意発動ってだけだろう。

 

 どちにせよ、このままでは埒が明かない、そう思ったレイグは、攻めに転じることにした。

 

 直剣を構え、速度を上げ、後ろから追ってくるブレスに対してクリムゾンリザードに向かって走り距離を詰めていく、ブレスを30秒近くも吐き続けていたせいか。大分魔力を費やしたのか、最初程の勢いも威力も無かった。

 

 レイグは、残り数メートルと言う所で一気に踏み込んだ、更には魔力で強化された足で地面を蹴る

 

『!?』

 

 ダァン!と擬音が付きそうな勢いで瞬く間にクリムゾンリザードとの距離を0にしたレイグは、迷いの無い動作でその身を守る鱗の下に入れ込むように直剣を振るった。

 

 すかさずレイグ目掛けて、岩で出来た針を魔法で数本飛ばすクリムゾンリザード、後少しで全てがレイグに刺さる、と言うところで。

 

「身に纏え」

 

 刺さるであろう全ての位置に小さい魔方陣が構成され、そこから直径30cm程の氷の礫を作り出し、レイグの身を守ったのだ。

 

『──ハ?』

 

 人間技では無いそれに一瞬呆けるクリムゾンリザード、だが刃物が自分の体を通す感触で我に帰り、もう片側の足で薙ぎ払おうとした。

 

 レイグは鋭い目でその動作を視認し、舌打ちした後に直ぐ様直剣を抜いて、一歩下がり振り払われた足の間合いから逃れた。

 

 そのまま一歩二歩と後退し、一旦状況を整理する。

 

「(コイツの周りにいたレッドリザードはダリア達を狙いに行った、周りを固めるのはクイーンリザードのみ····コイツの鱗を絶ち斬るのは難しいかもだが、「魔力を付与」した剣だったら行けそうだな、まぁそんな暇も、魔力も無いが···)」

 

 最初は100体以上は確実にいたレッドリザードも、ダリアが放った上級魔法で半分近くは倒せた、今もダリアとカーラのコンビで順調に数を減らしている。

 

 そう観察しているレイグに、クリムゾンリザードがその巨体に見合わぬスピードで迫る。思わず目を見開いたレイグはそれでも慌てず、その動きを見切りその場で跳躍し、突進を避けた。

 

 前にでも、後ろにでも無くただその場合で跳躍したレイグの行動に、クリムゾンリザードは疑問を覚える。

 

 が自分の真上にいるレイグを見て直ぐ様、反魔法吸収障壁を展開する、レイグはその両手に魔法行使によるスパークを身に纏っていたのだ。そして

 

 

────カッ!

 

『ぐぅア!?』

 

 レイグによって放たれた「閃光」魔法によって、強烈な光に目をやられた。すかさずレイグによって魔力ブースト込みの蹴りがクリムゾンリザードの顎に叩き込まれる。駄目押しと言わんばかりに空中で身を翻し、グラリと傾く巨体、その脳天目掛けて踵落としを決めた。

 

 ズドン!と横に倒れる巨体、体の作りは基本レッドリザードと同じだからと言って、鱗に覆われていない腹部が露になる。

 

 レイグは着地と同時に、直剣を振りかぶった。

 

「──!」

 

 振り下ろそうとした時、背後から迫ってくる殺意を感じ、レイグは横に一歩移動しその際に、直剣を構え直し。

 

 迫ってきた奴がクイーンリザードだったことに驚いた、何故ならクイーンリザードは番と共にいる場合は、決して戦闘には参加しない、基本、巣で胎児を暖めたり、子供であるレッドリザードを育てるからだ、そうじゃなくても番であるキングリザードがクイーンリザードを休ませている。

 

「·············」

 

しかし次には目を細めて、その首筋目掛けて振り下ろした

 

 雄のレッドリザードとは比べて、極端に鱗が少ない雌であるクイーンリザードのただ厚い皮膚で覆われているだけの首は容易く直剣の刃を受け入れ

 

 

『ギャッ!?』

 

 あっさりと首を落とした。

 

『グルゥアアア!!!!』

 

「············」

 

 もう一匹のクイーンリザードが襲ってくるも、クリムゾンリザードに比べれば、何の驚異でも無いその動きレイグは再び、クイーンリザードの首を落とした。

 

 どこか悲しげな顔をしているレイグは「すぐにお前らの旦那も送り届けてやる」とボソリと呟き、クリムゾンリザードに振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『············ナ···········エ·····?』

 

 その光景を、視力と脳震盪が治ったクリムゾンリザードが呆然と呟いた。





愛は凶刃の前に伏せました、ならばもう片方の愛は?


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37話的な話


レッドリザード=赤蜥蜴

クイーンリザード=蜥蜴王妃

キングリザード=蜥蜴王

クリムゾンリザード=紅黒蜥蜴


横文字の漢字表記って難しいですね


 

 頭が良いレッドリザードがいた、頭が良いと言っても、脳の発達器官が他の個体よりも優れている、と言う程度。

 

 しかしそれでもその蜥蜴は、同胞の中で注目を浴びる存在だった。順調に育ち「王」の名を冠する程に強くなり、更に普通のレッドリザードには持ち得ない、狡猾さ、執拗さに長けたスタイルを持って、狂熊《クレイジーベア》や、暴鬼《オーガ》等の明らかな格上を単独で倒してしまう程だった。

 

 やがて群れの蜥蜴達は、蜥蜴王を唯一無二の存在として、従えた。

 

 外敵から群れを守り、時には仲間と共に敵を殺し、順調に山での生活圏を着々と広げていた。

 

 そんな蜥蜴王に気になる雌が「二匹」出来た。本来なら番は雌雄一体ずつ、しかし蜥蜴王は他の浮気事情等、何のその、本気で二匹を欲しがった。

 

 発狂し、暴れた雌蜥蜴二匹に、どれだけ打ちのめされようとも、噛み砕かれようとも、踏みつけられても、そんな日々が続いても、蜥蜴王は何もせずに求愛の声を贈っていた。

 

 やがて認められ、結ばれた蜥蜴王と王妃の名を冠する二匹の雌蜥蜴、この時にはもう山で蜥蜴王に敵うものはいなかった。

 

 並みの蜥蜴王とは全く違う強さに、周辺の並みの冒険者ではてんで相手にならなかったのも大きい、蜥蜴王は調子に乗っていた。

 

 

──本当の山の主が帰ってきた。

 

 圧倒的存在、目があっただけで「死」を明確に感じさせる圧迫感、蜥蜴王の3倍近くはある体躯に初めて恐怖を覚えた。

 

 「様々な助け」が入り、蜥蜴王は山の主である最強種を喰い殺してしまった。何度も吐きながら、最強種を平らげた蜥蜴王は、全てではないもののその力を得てしまった。

 

 凶刃な体

 

 膨大な魔力

 

 上がった思考能力

 

 特殊な技能 

 

 

 

 

 

 

 ───これでみんなをまもれる

 

 仲間や、愛した番からはその存在感、圧迫感によって恐怖に怯えられてしまい。胸の内を締め付けられるような苦しみを感じたが、「この力さえあれば」と自分に着いていれば絶対に死なせない。そんな自信さえ溢れていた。

 

 ある時、「恩人」に頼み事をされた、「いずれくる大成者を倒してほしい」そう言われた蜥蜴王 、何を聞き返すでも無く只頷いた。

 

 

 

 

 ──何が起きている。

 

 最初は順調だった、何の警戒もなく蜥蜴王達のテリトリーへと近づいてきた4人の人間、一度は逃がして、レッドリザードに奇襲させた。その時に手下のレッドリザードが殺されてしまったが、計画通り一人を殺し、残りを誘き寄せる為の餌として広場へと誘導させた。

 

 その後にやって来た人間の雄1匹に雌2匹、雄が纏っている空気が違うが分かった。

 

 ──この時から、何かがおかしくなった。

 

 新たに来た3人の人間は今までの人間より強かった、蜥蜴王の攻撃に一歩も引かず、それどころか放たれた魔法の威力が高く、ブレスで相殺をしようとした時には妨害を受けた、そのせいで魔法を吸収する障壁の展開には間に合ったものの、庇いきれ無かった仲間達が串刺しにされた

 

 蜥蜴王─紅黒蜥蜴は、何が何でもと人間の雄を殺さなければ、と殺意や怒りに任せた。

 

 ──何だこれは。

 

 その雄は普通の人間の雄とはまるで違った、ブレスを叩き付けられても、逃げるどころかこちらに立ち向かう始末。

 

 気付けば懐に潜っていた、瞬発力と速さ、鱗と鱗の間に迷い無く刃を入れる冷酷なまでの精密さ、殆んど死角から打ち込んだ魔法にも人間なら言葉を発する必要があるはずの魔法を発動して、相殺された。

 

 そして魔法を吸収する障壁を逆に利用され、紅黒蜥蜴は視界を奪われ、更には脳を揺さぶられ、脳天を内据えられた。

 

 気付けば、狩る側と狩られる側が入れ替わっていた。

 

 仲間は次々に、人間の雄の仲間により葬られた。

 

 最初から本気を出せば、何て言い訳すら出来ない、揺れる意識の中仲間に謝罪を詫びて。せめて、せめて愛した伴侶だけは逃げてほしい、そう思い今も自身に凶刃を振るおうとしている人間の雄に目を向け。

 

 

 ──ヤメロ

 

 蜥蜴王が紅黒蜥蜴に変貌してから、恐怖を浮かべるようになった眼を、必死さを浮かべた眼に変えて。

 

 ──ヤメロヤメロヤメロ

 

 人間の雄の背後から食らいつこうとしている伴侶が見えた。更にその後ろにもう片方の伴侶も追随している。

 

 ──ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ

 

 人間の雄は簡単にその襲撃を回避して、軽やかにその手に持つ凶刃を構え直し。

 

 ──ヤメ──

 

 その首を落とした。流れるような動作でもう片方の伴侶をも屠る人間の雄。

 

 体に力が入らず、ただ紅黒蜥蜴は呆然と唖然とそれを見届けることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 ただ、絶望が紅黒蜥蜴の心を飲み込む寸前、紅黒蜥蜴には二匹の蜥蜴王妃が恐怖でも、人間に対する憤怒でも無く。まるで紅黒蜥蜴に「逃げて」と訴えるように必死な形相を浮かべた。

 

 人間の雄が再びこちらに振り返る、その顔を見た瞬間、力が全身に漲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──殺す

 

 

 紅黒蜥蜴の殺意に、敵意に、悲壮にまみれた叫びが大気を震わせた。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

 

 「!?」

 

 大気を揺るがす程の咆哮が、レイグの脳内が警鐘を激しく打ち鳴らす。ビリビリ体に響く咆哮に冷や汗を流し、一旦後退する。

 

 咆哮を上げ続け、ジタバタと暴れる紅黒蜥蜴を見つつ、レイグはダリア達の元まで下がった。ダリア達が相手をしていた赤蜥蜴達は紅黒蜥蜴の咆哮に恐怖心が振りきれたのか一斉に逃げ出してしまっていた。

 

 疲弊した様子が強く見えるが、別段怪我等はしていなかったようでレイグはホッと息を吐いた。

 

 戻ってきたレイグを2人が出迎えた。

 

 

「レイグ様!大丈夫ですか!?」

 

「ああ、悪いな心配かけて」

 

「良かった····それよりも····」

 

 安心した様子を見せたダリアとしてカーラは、険しい顔になり、今も立ち上がろうともがく紅黒蜥蜴へと目を向けた。

 

 肢体を力の限り地面に叩き付け、地震のような揺れを起こし続け、紅黒蜥蜴の周りは地が砕かれ、その部分だけ陥没している。

 

「ダリア、魔力は大丈夫か?」

 

「はい、調達しておいた魔力回復用のポーションがあるのでまだ行けます」

 

「私も、まだ行ける」

 

 ダリアは自分のポーチから取り出した試験管のような器を取り出して言った。カーラも顔に疲労を滲ませながらも強く言った。

 

 レイグは「無理だけはすんな」と、堅い口調で言うが、どこか意固地な2人に苦笑を溢していた。

 

 やがて紅黒蜥蜴はゆっくりと立ち上がり、レイグ達へとその視線を向けた。

 

 殺意が入り乱れる、濁った眼でレイグを睨み付ける紅黒蜥蜴、さっきまで大暴れしていたとは思えない程に静かたが、重苦しい空気にレイグは冷や汗を垂らし、ダリアは口を結び睨み返し、カーラも深呼吸をして再び構えた。

 

 レイグはその瞳の中に、一握りだが悲しみの色を宿している事に気付き、自分が殺した二匹の蜥蜴王妃の事を思い出し、わずかばかりに複雑な顔を浮かべる。

 

『殺す』

 

「(悪いな、同情はしない)」

 

 レイグは内心詫びを入れ、駆け出した、遅れてカーラも続く。同時に紅黒蜥蜴も走り出す、瞬く間に距離が近くになり直剣を振りかざす。

 

 先程同様鱗と鱗の間に直剣を入れようと狙いを定める、しかし足下に魔力が収集されるのを察知した瞬間「カーラ!」と叫び、横に跳ぶ。

 

「───!」

 

 カーラも聞き返す事などせずに、感じた危険に体を任せレイグとは反対方向に跳び、直後人を2~3人は飲み込むような火柱が立った。

 

 カーラは着地と同時に体を地面深く伏せる、直後自身の上を何かが通り過ぎ「ブゥオン!」と音がなる。

 

 急いで立ち上がりながら、通り過ぎた物を見ると尻尾だと言うのが分かった。

 

「カーラ!!!」

 

「───」

 

 今までとは違う、本当に焦った声カーラは咄嗟に手に持つパルチザンを力の限り前に突き入れた。

 

 ガギィン!!と鈍い音が響き、カーラの手に痛みを生じた衝撃と凄まじい痺れが襲いかかる

 

 衝撃の強さに肩が持って行かれそうになるが。何とか踏みとどまる。

 

「ぐぅ····あ····」

 

 衝撃の余韻が強すぎて、そのまま棒立ちになってしまうカーラ、寧ろその程度ですんだだけで驚愕に値した、急斜面の道を100m程転がり落ちた等身大の鉄球の衝撃を受け止めているのと一緒である。カーラの衝撃の逃がし方か上手いことの証明だ。

 

 しかしここは戦場、その棒立ちは致命的なまでに隙を紅黒蜥蜴に与えていた。

 

 ガギン!背後からレイグが斬りかかるが、後ろ足による蹴り上げに防がれてしまう。魔力ブーストによる筋力の底上げによりそのまま斬り結ぶが魔法に防がれてしまう。

 

 再度振るわれた尻尾がカーラの顔を狙った。

 

「あ」

 

「風よ!!」

 

 刹那の差で、ダリアが発動した風魔法により吹き飛ばされ、地面に打ち付けられるが尻尾による薙ぎ払いを回避したカーラ

 

 「今は集中しなさい!」と礼を言おうとしたカーラにダリアが声を荒げる。

 

 レイグはダリアに内心感謝しながらも今度は落ち着いて、後ろ足の膝の裏側を狙った。

 

 ザシュッと肉を切り裂く音が聞こえ、次いで呻き声をあげる紅黒蜥蜴。しかし構うことなく、カーラに向けて凄まじい速度で駆け出す。

 

「───っくそがぁ!」

 

 紅黒蜥蜴の「復讐」の意図が分かってしまったレイグは顔を青くして焦燥感にまみれた顔を晒し、魔力によってブーストして紅黒蜥蜴を追いかけた。

 

 そして、紅黒蜥蜴の口元がガパァっと僅かに、開き嗤っているのを見た。

 

 しまったと思った時には、目の前を駆ける紅黒蜥蜴の後ろ足の片方が持ち上がり

 

 

「───あ」

 

 

 深々と足の凶爪がレイグの腹部に突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

      『つぎはオマエのばンダ』





目には目を、歯には歯を


by紅黒蜥蜴


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『最高の仲間』


ちょっと不安な投稿

後一話あれば終わりそうかな?戦闘シーン



一回でいいから甘々なの書いてみたい


 

 

「カハッ」

 

 恩人が、レイグさんが凶爪にお腹を貫かれて、血を吐き、激痛に喘ぎ震える体で刺さったままの凶爪を掴んだ。

 

「あ·····あ···」

 

 明らかに致命傷だった。今も血が溢れてレイグさんの足下に赤い染みを作ってゆく、助けなければ、そう思っても恐怖に体が怯んでしまい動けなかった。

 

 足がガクガク震え、今にも叫んでしまいたくなる衝動に駆られる。

 

 ダリアが叫びながら、魔法を放っても、あの虹色の膜に吸収されてしまった、紅黒蜥蜴の視線がダリアを射ぬいたのが見て取れた。

 

 レイグさんが掠れる声で「逃げろ」って言ったのが聞こえた。

 

「あ·····」

 

 

 それでも私の中に渦巻く恐怖が私から言語を奪い取っていた。このまま行けば私も、レイグさんもダリアも殺されてしまう。

 

 そう思っても体に力が入らない、「大切」な存在が無くなってしまう恐怖心。

 

 必死に耐えているレイグさんを裂けた口角を上げ嗤う紅黒蜥蜴は無慈悲にもその体に突き刺さった爪を振るい地面に振り落とす。

 

「アガッ!?」

 

 地面に叩き付けられ、倒れたままのレイグさんはピクリとも動かず、小さい血溜まりを作っている。

 

 

 ──どうしよう!このままじゃ!

 

 なのに私は動けない、「あのレイグさん」が勝てない敵に勝てる筈が無い。震えて動けない自分を叱咤するも私は体を動かさない。

 

 

 

 

 ──貴女は何もしなくていいわ

 

「────」

 

 ふと、お姉様の声が聞こえた、まるで幻聴のようにお姉様の冷たい言葉が脳内に響く。

 

 ──貴女が不甲斐ないから、彼は負う必要も無かった大怪我を負った。

 

 ──何もせずに、大人しく屋敷で暮らしていれば良かったのよ。そうすればお父様も貴女に無茶を言うことも無かった、今貴女達がこうして危険に晒される事も無かった。

 

 ──貴女もこんな怖い目に会わずに済んだ筈だし、彼だって自分の目的の為に旅を続けられた、彼女だって彼に最後まで添い遂げられていたでしょうね。

 

「───」

 

 お姉様が言う言葉は、全部私の思い、心の中のどこかで思っていた事。

 

 ダリアがこっちを見て必死な形相て何かを叫んでいる。紅黒蜥蜴が此方にゆっくりと処刑人のように歩を進める。

 

 ──貴方、まさかたった一度「認めて貰えただけで」万能感を感じていたの?浅ましいわね、そんなの彼等の気遣いに決まっているじゃない。

 

 容赦ない言葉が心を抉る、そして同時に納得もしてしまった。

 

 あのダンジョンでのレイグさんとダリアの評価、「あの2人」から貰った高評価に私は図に乗った、しかしその日の晩、小さな不安が拭えていなかったのは事実だった。あの評価は私を哀れに思った、色眼鏡による評価だったのかと

 

 ──2人とも本当は迷惑だったんじゃないかしら?少なくとも貴女は自分で分かっていたでしょう?だって2人に少しでも縋り付かなければ貴女はあの家から逃げられないのだから。

 

優しい2人を利用しようとして、貴女が原因で死ななきゃ行けないなんて·····最悪ね

 

「─────」

 

 体に残った僅かな力が抜けていくのが自分で分かった、私は間違えたんだ。

 

 大人しく屋敷で過ごし、いずれ訪れる見合いの話を受けて「カーラ·ヴァネスティラ」として生きていけば良かったんだ。

 

 不相応な夢、所詮作り物の物語に夢を見いだしてしまった末路がこれだ。

 

 お父様もお母様もメイドや使用人、執事·····そしてお姉様は最初から分かっていたんだ。

 

 

「─────」

 

 目の前までやって来た紅黒蜥蜴が前足を振り上げる。

私はそれをぼんやりと見ていた、凶悪な爪は私を容易く冥界送りにしてくれるだろう。

 

 私が何を言うわけでもなく爪が振り下ろされ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何····で·····」

 

「は?そりゃこっちの台詞だよ」

 

 ギィン!と金属が弾き会うような音が響き、小さく地面に雫が落ちて弾けたような音が耳に入る。苦悶の唸り声が目の前で私に向かって背を向けている瀕死の筈のレイグさんがいた。

 

 片膝を着いていて、もう片方は変な方向に曲がっていた。僅かに見える顔は青褪めていて不機嫌そうな声も震えているのが分かった。

 

 その僅かな間にも貫かれた腹部からは止めどなく紅い液体が地面へと落ちている。

 

 それでもレイグさんが力をぬくことは、無かった。

 

 

「レイグさん!血が!」

 

 

『オマ──ぐア!?』

 

 嗜虐的な光を孕んだ目を血ばらせた紅黒蜥蜴は忌々しく言葉を出そうとして、次の瞬間ダリアが不意打ちで放った氷塊が顔に直撃して、かなりの距離を吹き飛んだ。

 

 ダリアは全身から汗を垂れ流し四つん這いになって荒い息を吐いていた、何で·····!

 

 レイグさんは紅黒蜥蜴が吹き飛ぶの同時に前に倒れ込んでしまう。目の焦点も合ってなくて。今にもその目を閉じてしまいそうだ。

 

 良く見ると、ほのかに蒼い光がレイグさんの腹部や足に灯っている。回復魔法の光だと分かるとホッとする私がいた。

 

 何で······何で私なんかを······私に助ける価値なんて

 

 今貴方が死にかけているのは私のせいなのよ?ダリアだって、あそこまで魔力を使わなくて疲労困憊にならずに、済んだ筈だし。私が貴方達に寄生しなければ2人は旅を続けていた筈だったんだよ!?

 

 

 

「ビビってんなよ」

 

「────」

 

 未だに苦しそうに目を細めながらもレイグの双眸はカーラを射抜いていた。

 

 紅黒蜥蜴が立て直す姿を背景に気軽に続ける。

 

 

 

「見返すんだろ?お前の家族を、凄い冒険者になってさ、だったらさ──

 

そこに手頃な竜擬きがいるぜ?奴さん倒して自慢してやろうぜ?」

 

 弱々しく笑ってレイグさんは殺意に唸っている紅黒蜥蜴を指差した。

 

 で、でも·····やっぱり

 

「怖いよ·····」

 

 一度刻まれた恐怖に、私自身への失望感のせいでどうしても尻込みしてしまう。

 

「おいおい、お前が俺達に教えてくれたんだぞ」

 

「全く、あれ程偉そうな口を叩いてその様ですか」

 

 呆れたように言うレイグさんに続いて、いつの間にか来ていたダリアまでもがよろけながらも憎まれ口を叩いてきた。

 

 冗談っぽくではなく、本気で呆れているような口調に俯いてしまう。

 

 レイグさんとダリアさんはそんな様子の私に怒りを浮かべるでも無く、呆れた顔を晒すわけでも無く、只優しく笑った。

 

 

 

 

 

「俺達が支え合ったら、最強だろうがよ」

 

「全く、自分で言った事忘れないで下さい、説教まで垂れたんですから」

 

 口調とは裏腹に優しく聞かせるような言葉に視界が滲んだ。

 

 

 

 回復魔法を施し終えたのか、血の流し過ぎで貧血気味ではあるが、しっかりと立ち上がり、手から落ちた直剣を拾い上げ、構えた。

 

 ダリアも、「体力は無いですけど、魔力とやる気ならありますよ」と言ってレイグさんの横に人一人分開けて並び立った。

 

「まだ、自信が付かねぇならしゃあない、先にやってるかんな?奴さんも待ちきれない感じだな。」

 

「何時でも入ってきて良いですからね!」

 

 

 そう言って、私の前から振り返らずに2人は紅黒蜥蜴のもとに走っていった。

 

「·········」

 

 これだけの醜態を晒した私に、勝手に恐怖して勝手に自分に失望して、勝手に崩れた私に···

 

 

 

 

 

「(──立たなきゃ)」

 

 なら戦うべきだ、ギリッと歯を食い縛る。力が抜けた筈の体には、何時も通りの力が入るように戻っていた。

 

 最高の仲間を、あんな竜擬きの手で失うわけには行かない、レイグさんを殺しかけた相手だと思うと、殺意が湧いてきた。

 

 ダリアもレイグさんも、あんな竜擬きなんかに殺させない、アイツは私が「殺す」

 

 今思えば、初めて生き物相手に明確な殺意を持ったかもしれない。

 

 「何故か」膨れ上がっていく殺意に便乗して、私の体に力がどこからともなく溢れてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───必要な条件「純粋な殺意」を満たしました。

 

───「竜殺し」の心得を取得しました。

 

───「絆」の槍術士から「竜殺し」の槍術士《ゲオルギウス》へチェンジします。

 

 

 

 

 

 

「テメエ!!なりぞこない風情がぁ!イキッてんじゃねぇぞごらああああ!?」

 

 

 

 





あらお嬢さん、言葉が汚くってよ?オホホホ



ここはこう表現すると良いよ、等の指摘等があればよろしくです


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38話的な話


#前回のあらすじ


実はカーラの癖のある覚醒回


 

 

「え?」

 

「へ?」

 

 紅黒蜥蜴へと駆けていたレイグとダリアの耳に、カーラの罵声が入った。あまりの衝撃に紅黒蜥蜴が近くにいるのも関わらず2人揃ってカーラの方に振り向いてしまう。

 

 先程までの弱りきった姿では無く、怒りと殺意の籠った顔付きで、およそ同年代の少女がして良い顔では無く、雰囲気もかなり違っていた。

 

 鮮やかな赤いオーラのような物を纏い、荒々しさを感じさせる雰囲気とは裏腹に「絶対に殺す」と言っているかのように、冷酷さを感じ思わずレイグは息を飲んだ。ダリアも目を見開き驚愕を顕にしている。

 

 微かに震える声でカーラが続けた。

 

「ムカつくムカつくムカつくムカつく」

 

 留まる事を知らない怒りが力となり、時限的にだが彼女を強くしていく。普段の彼女からは考えられない怒りと殺意でカーラ自身も、その感情を持て余しどう処理して良いか分からず、それが更に怒りを覚える原因になっていた。

 

 全てがムカつく、紅黒蜥蜴も、簡単に絶望して折れた自分自身も、自分の負の感情に屈した事も、そして屈した事が負の感情を肯定するか達になったことが。ここまでされてようやく腰を上げた自分自身が。

 

 

 

 

 そしてこんな自分なんかの為に、また危ない橋を簡単には渡ろうとしているレイグも、ダリア(大切な人)も。

 

 

「───ああああムカつく!」

 

 次の瞬間、カーラの姿がぶれるように消えた。

 

 「え?」と呆けたダリアを余所に、レイグは驚いた表情で後ろに振り返った。次いで鈍く響く打撃音。

 

 一瞬で10m以上の距離を0にしたカーラの足が、紅黒蜥蜴の腹を下から蹴り上げていた。ミシミシと嫌な音を出して、カーラは紅黒蜥蜴を僅かだが浮かした。

 

『が·········!?』

 

 突然体を襲う、激痛、嘔吐感、浮遊感に脳内がごちゃごちゃになる紅黒蜥蜴。

 

 凄まじい殺意を感じ、そちらに目を向ける紅黒蜥蜴は、ようやく自分を蹴り上げるカーラの存在を視認した。

 

 先程の、只絶望して死を待っていた少女とは思えない姿に紅黒蜥蜴は困惑を禁じ得ない。

 

 しかし、その困惑は直ぐ様焦燥へと変わった、良く分からない焦燥感、この人間の雌は駄目だ、そう謎の生存本能が働く紅黒蜥蜴

 

 かくいうカーラも、何故か分からないが「目の前の竜種を確実」に殺せる自信があった。それが原因で更に苛つきを増加させるが。

 

 

 

 

 

 「竜種限定」の超特効スキル、竜殺しの槍術士(ゲオルギウス)文字通り竜種限定で付け替える事が出来る派生スキルである。

 

 その効能は限定的ではあるものの、物理ステータスに10000+α(怒りが加算される都度)プラスされると言うとんでもない物だ。

 

 

「っらああ!」

 

『───!?』

 

 続いて、紅黒蜥蜴の体に容赦なく「光る槍」を突き刺そうとしてくるカーラ、いつの間に?等の疑問を感じる前に紅黒蜥蜴は魔力で障壁を張り、更にはカーラ目掛けて数十本の炎の矢がカーラの周りに出現し射出された。

 

 だがしかし、炎の矢は突然カーラの周りを囲む水の壁にアッサリと阻まれた。

 

 驚愕に目を見開く紅黒蜥蜴は、カーラの背後で魔法を発動したダリアの姿を見つけた。忌々しく歯を食い縛るが。紅黒蜥蜴はそれどころでは無いと。更に障壁を重ね張りをした。

 

「ウッザイ!」

 

 まるで窓ガラスを思いっきり地面に叩き付けたような、そんな砕け散る音が紅黒蜥蜴を震わせた。障壁二枚を力付くで壊したカーラはその堅さに舌を打ちつつ、一度身を引き、紅黒蜥蜴も同様に退いた。

 

 伴侶を手にかけた人間の雄を殺したい、そうは思っても目の前の障害がそれを許してくれるとは思えない。ここは一度逃げ──

 

『───』

 

 そんな事を考える暇などありはしなかった。明らかに動きは悪いがしっかりした足取りで、下がった紅黒蜥蜴の背後に回り込んでいたレイグが両手で構えた直剣を振りかぶった。

 

『ギッ!?』

 

 血の気が引いた顔をしながらも、レイグの顔が凶悪に歪み、口を開く、「お返しだ」と。次いでズプリ、と体内に異物が入ってくる異物感、不快感、身を焼くような激痛。

 

 しかし、力が入らないレイグでは差し込む事ぐらいしか出来なかった。回復魔法を施しはしたが、傷は塞がってないのだ。現に服に隠れて見えないが刺された箇所の周りは内出血で青紫に染まっていた。しかしその顔は不敵に染まっていた

 

「悪いな、仇は討たれてやれないんだ」

 

『··········』

 

 汗を垂れ流しながら、無理した様子でそう告げられた紅黒蜥蜴は不意に感じた魔力を感じ、自分の頭上を見た。

 

 直径5mはある巨大な火玉が浮かんでいる、ダリアの方を見ると試験管が何本か転がっている。魔力の過剰使用で相当に脳が負担を負っているとわかるほどに苦痛にまみれた顔で紅黒蜥蜴を睨み続けていた。

 

 明らかに紅黒蜥蜴が扱う反魔法吸収障壁の許容範囲を越えている、吸収しようとすれば自分があの火玉に包まれる事は明白だった。

 

「やられたらやり返すさ、お前が俺にやろうとしたように、お前の敵討ちに何ざやられてたまるか」

 

『···········』

 

 レイグの言葉を聞いた紅黒蜥蜴は目を瞑り、カーラへと顔を向けた。

 

 カーラは相変わらず凶悪な顔を浮かべていて、苛立たしげに大股で紅黒蜥蜴の元へ「光る槍」を手に構え歩いてきた。

 

 やがてカーラが紅黒蜥蜴を睨み付ける。

 

『───やれ』

 

「死ね」 

 

 気付けば目の前まで歩いてきていた、カーラは視認すら許さない速度で突きを放った。

 

 紅黒蜥蜴は自分の鱗ごと打ち砕きながら、体内に突き入ってくる異物に、自分の中の何かが消される感覚を覚えた。

 

 出血する訳でもなく痛みを感じるわけでもなく、自分が取り込んだ「何かが」スゥー、と無くなっていく感覚。

 

『──これ···は』

 

 「何かが」無くなっていった影響は直ぐに現れた。体に漲った力が抜け落ち、膨大な魔力が今は水溜まり程しか無く、思考にもやが掛かったような状態になり、考えが纏まらなくなった。

 

 爪は短くなり、鱗の色は紅黒い色から、鮮やかな赤色へと変色した。

 

 体躯もみるみる縮み、最終的に普通の蜥蜴王よりは一回りは大きいが、それでも紅黒蜥蜴の時の半分近くの大きさまで縮んでいた。

 

 文字通り「竜」を殺したのである。

 

 「ドラゴンスレイヤー」、竜殺しの槍術士限定で会得できる技法である。その能力は至って単純明快。

 

 「使用すると竜は死ぬ」である。

 

『··············』

 

 喋る事が出来なくなった蜥蜴王は、ゆっくりとした動作で、俺達から視線を逸らした。その視線の先にいるのは番となった2匹の蜥蜴王妃。

 

 カーラは怒りの対象の竜が消えたせいか、呆然と立ち竦んでいた。ダリアはまるで敵意を感じなくなってしまった蜥蜴王に困惑しつつも、突き刺した剣を抜いたレイグが静かに下がるのを見て、自分も放つ準備をしていた上級魔法を消す。

 

 酷使した筋肉、使用した魔力、以前ならば考えられなかった思考が、本来の能力を持つ蜥蜴王にフィードバックされて我慢できる筈が無かった。

 

 ビキビキ、と悲鳴を上げる全身、鳴り響く狂いたくなる程の頭痛、使えない筈の魔法を放った事による拒絶反応が本体にフィードバックされた。

 

『···········』

 

 そのまま倒れ、息を引き取ってもおかしくないのに、逃げるでもなくレイグによって事切れた蜥蜴王妃の所まで悲鳴を上げること無く辿り着き、そのまま側で伏せて

 

『───』

 

 息絶えた。時を刻むのを忘れたような緊張がその場を包み込む。

 

 

 10秒程経ちレイグとダリアが息を大きく吐きながら、その場で倒れた。カーラがその様子を見て我に帰り、慌てて2人に寄った。

 

「レイグさん、ダリア」

 

「あぁ、俺は何とか、ダリアは···気絶してるな·····」

 

 疲れた顔をしてはいるがあっけらかんとした顔で言うレイグにカーラは暗い顔をしていた。その顔はカーラが暴行されそうになって助けた時に浮かべている顔にどこか似ていた。

 

「どうよ、擬きでも竜を倒した気分は?」

 

「····レイグさん」

 

「ん?」

 

 軽い感じに聞いたレイグは、重い声音で尋ねられ何と無しにカーラを見た。

 

 カーラは暗い顔をしているが、悲観的、と言うわけでも無かった。どちらかと言うと「戸惑い」が強く、かなり躊躇っている様子が分かった。 

 

「私、今凄く怒ってるの」

 

「うん······うん?」

 

 表情が明らかに怒りのそれとは違うため、思わず目を点にするレイグ。ダリアは不安そうにしながらもその胸中を語りだした。

 

 

 





安らかに眠ってください




#竜殺しの心得(変化可)

 竜種に対してのみ発動、発動中使用者が怒りに弱くなる。

 物理ステータス(功、防、早)+10000+α(増加する怒りに反して変動)


 特殊技法「ドラゴンスレイヤー」

 使うと竜は死ぬ



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39話的な話


#前回のあらすじ


どうやら怒ってるんだって(ボソッ


 

「本当に勝っちまった····」

 

 その光景を媒介を通して見ていたギルマスがドカッと自分の椅子に座り込む。いつの間にか魔人は姿を消していて、ギルド長執務室の中に彼の呟きに応える者はいない。

 

 ギルマスは構わずに昂る気持ちを抑えようとする、勝った、たった3人の低ランク冒険者が擬きとは言え竜種に。

 

 今もギルマスの脳内では、先程見た光景がリプレイされていた、傷付きながらもカーラを助けたレイグが剣を後ろから紅黒蜥蜴に突き付け、ダリアが紅黒蜥蜴の頭上に上級魔法を待機させて、光る槍を持ち紅黒蜥蜴と向かい合うカーラ。

 

 正に冒険譚にでも出てきそうな一幕だった。

 

 今は、レイグとカーラが何かを話しているようだが、流石に音声までは拾えないので会話の盗聴を諦めたギルマス名残惜しそうではあるがマジックアイテムとの接続を切る。

 

「···········」

 

 少し冷静になると、同時に思い出す無力感、たった一人の魔人相手に圧され、ただ3人を見守ることしか出来なかった事に歯噛みする。

 

 室内の壁に飾られている、鞘入りの剣を眺めた。立派な装飾もなく無骨なまでの作りの剣を見て、フッと息を吐き、この依頼の後処理どうするかを考え始めた。

 

 

ーーーーーーー

 

「·····怒ってるって言うのは、「さっき」のも関係あるのか?」

 

 カーラから突然過ぎる事を言われたレイグは、数秒の間困惑してから尋ねるように口を開いた。

 

 確かにさっきのカーラは「色々」凄かった、とレイグは様子が激変したカーラを思い出した。

 

 突然の激昂もそうだが、気迫も凄く、身体能力の向上も凄まじかった。一瞬といえどレイグはカーラを見失ったのだ。

 

「(そしてあの光る槍)」

 

 カーラが持っているどこにでもあるパルチザン、何らかのスキルで光っていたのは明白だがそれが何なのかレイグには見当も付かない。

 

 だけどレイグにも、ダリアにも、恐らくカーラにもそれが通常とは計り知れない何かがあることは分かっていた。

 

 そんな異常な力を手に入れたカーラの突然の豹変、今は浮かない顔をしてはいるが落ち着いてはいる雰囲気だけど何かしら精神面で悪影響が?と心配しての言葉だったが、カーラはゆっくり首を左右に振った。

 

「違う···レイグさんが爪で刺された時に私固まっちゃって、その時に幻聴が聞こえたんだ」

 

 カーラは浮かない顔をしながらも、ゆっくり語った、自分が感じた負の感情、責め立てる幻聴、中にはレイグ達を今も心のどこかで疑っていると言う内容があり、レイグも眉を少し上げた。

 

 幻聴を言い訳に、レイグ達を巻き込んで危険な目に合わせた罪悪感を自分を責め立てて、勝手に折れた自分に怒り

 

「あの時レイグさんに助けられて、私多分安心したの「助かった」って「後はこの人に任せよう」って」

 

 そんなカーラをレイグは軽く叱咤した、ダリアと共にカーラを鼓舞してくれた、あれがなければカーラは本当に折れていただろう。

 

 そんな不甲斐ない自分に怒り、そんな下らない自分の為に命を張る2人に怒りが沸いた。あのただただ、怒りと殺意しか沸かない変なスキルは収まり、幾らか頭が冷えたが、それでもこの苛つきと罪悪感が消えることは無かった。

 

「だ、だから私もう2人とは·····」

 

 目から雫を滲ませ嗚咽混じりの声を続けるカーラ、レイグには続く言葉が分かった。更には既視感まで感じ始めて深い溜め息を吐いた。

 

 「呆れた」そう冷たくも取れるレイグの溜め息にカーラは肩を震わせた。

 

「───もう自分の我が儘のせいで俺達に迷惑かけたくないから、自分は大人しく実家に引きこもりますってか」

 

 図星を突かれたのか、ギクッと体を硬直させるカーラにレイグは寝転がったまま再び溜め息を吐いて顔を伏せてしまった。

 

 そのまま喋らなくなった、レイグにオロオロしてしまうカーラ。次第に震え出すレイグの体にカーラは悪感情を忘れてレイグに「大丈夫か?」と声をかけようとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんなよ」

 

 

まるで深い闇を漂わせるような暗い声が、カーラの体に悪寒を這わせた、一瞬頭が真っ白になったカーラが再びレイグを見て、「ひっ」と情けない声を出した。

 

 レイグの顔は今まで見たこと無いぐらいに冷たい顔をしていた。

 

 

「そんなの端からこっちは承知の上なんだよ」

 

 顔を轢き吊らせるカーラを全く気にせず、レイグは切り込んでいく、我慢できなかったのだ。

 

 レイグとダリアはとっくにカーラを仲間と迎え入れている気でいた、カーラのしたい事も分かっているし勿論「利用」されたって構わなかった、疑われる理由だって分かる、そもそもカーラがパーティーに入ってまだ数日、元々の友達でも親友でも何でもない他人なのだ。

 

 幾ら気軽に接しようと、信用どころか信頼を得ることすら出来ていないことは分かっていた。

 

 レイグは別に「実力の有無可、容姿の美醜」でパーティーに入れている訳ではない、カーラがあの宿屋の一室で涙ながらに語った本音があったから一緒に冒険したいと思ったのだ。それで自分の目的が遠回りになるとしても。

 

 だから、幾らでも仲間のために身を削るし、本気でしたいことを応援もするし可能ならば手助けもしてやりたいと思っていた。

 

 だからカーラの一方的に自分から離れて行こうとする優しさがレイグには癇に触った。

 

「それを言うなら、俺だって思いっきり旅に巻き込んでる、魔王陣営だって関わる可能性があるし、もしかして勇者パーティーとも対立関係なんて事もあるかもしれない、もしそうなったら色んな所が敵にまわる、カーラの事情より余程危険が多いんだよ」

 

 怯えような顔が、いつの間にかポカンとした顔に変わっているカーラに構わず続けるレイグ。

 

「お前が最低な奴なら、俺はそれ以上の屑だぞ」

 

 レイグの突然の自虐にむっとするカーラ。

 

「っそれは違う、それなら私は糞女」

 

「だったら俺はダリアの気持ちを知ってながらも逃げてるクッソ優柔不断野郎だぞ!」

 

「私だって、変なスキルって思っときながら、罪悪感だって感じてるのに、ちょっと内心で「ちょっとやばいスキルキター!」って喜んじゃってるどうしようもない女なの!」

 

「そしたら俺なんかどうなるんだよ!憑依なんかしちまってぶっちゃけ内心「物語みたい」ってワクワクしてた事だってあったんだぞ!」

 

「私なんか、冒険者になりたいからって一時期本当に「売ろう」としたことがあるの!つまり〇ッ〇!分かる?〇〇〇〇なの!」

 

「はぁ!?だったら俺は」

 

 

「さっきからなに言ってるんですか!?」 

 

 

 

 自分の罵りあいから始まり、実は途中から起きていたダリアがヤバイ罵り合いになる前に止めにかかった。

 

 「私なんて、他の奴隷仲間の安否なんて分からないのに今こうしてレイグ様とカーラと一緒にいて幸せを感じてる最低な女なんですよ······」

 

 止めに入っていなかった、暗い雰囲気でダリアが爆弾を投下した結果、静かになった。レイグとカーラは気まずそうに目線を逸らしボソッと謝った。

 

 乾いた笑いが少しばかり響いた後、ダリアはカーラに向き直った。

 

「で、どうでした?」

 

「え?」

 

 「え?じゃないですよ」と僅かに怒ったような声でダリアはカーラを睨んだ。

 

「さっきの罵り合い、レイグ様もカーラも本音を言い合った筈です、お互いにあんまし言えない内容ですが、貴女よりもレイグ様が必死に「自分の方が最低アピール」をしたのを見て、どう思ったんですか?」

 

 ダリアが何を言っているのか分からなかったカーラだが、それが「本音を言え」というのが分かった。

 

 ダリアとレイグはこう言いたいのだ、「お前が俺達(私達)から離れたい理由は消した、その上でお前はどうしたい?」と。

 

 レイグが「自分の方が最低アピール」と言う言葉に苦虫を食い潰したような顔をするが、気を取り直して続ける。

 

「言っとくけど、俺達の恥ずかしい本音を聞いちまったんだ、逃がしはしねぇからな?それに俺とダリアだけになっちまったら「最強」になれないし

 

 

何より、カーラの夢が叶わないってのは我慢ならねぇ」

 

「────」

 

 

 

 

 

 

 

 暫くの沈黙があったが、やがて啜り泣く声と共に、カーラは俯いて「よろしく·····お願いします」と言う声が広場に溶けていった。

 

 

 

 





レイグ君に質問です

レイグ「んだよ(キレ気味」

··········Q

「はぁ!?だったら俺は」→この続きは?

レイグ「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」

↑ちょっと黒歴史


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『その後』


#前回のあらすじ


ダリアの地雷を踏み抜いた。


 

「·····勝つのは予想外だったな······」

 

 黒い肌を持つ男、先程までストルのギルドにいた魔人の男が自身の「居城」の自室でボソリと呟いた。

 

 ギルドにいたときとは違い、飄々とした口調は僅かに呆然とした口調になっていた。

 

 予想外とは言ったが、それはレイグに言ったわけではない、「パーティーに対して」言ったものだった。レイグに対しては予想通り、というか予想以上の動きをしていた。

 

 あそこで、「契約獣」である紅黒蜥蜴の怒りによるパワーアップがなければ、レイグは確実に単体で倒せていた。故の予想外

 

 レイグを監視するに当たって勿論、パーティーメンバーであるダリアとカーラにも一応目を向けてはいた。

 

 確かに二人とも強い、同レベルの冒険者とは段違いに、だがあくまでその程度の認識だった。

 

「───く·····く········」

 

 カーラは迫り来る危機を乗り越え、自身ですら把握できない埒外のスキル(ゲオルギウス)を取得し、ダリアは自身の限界を越え「使用難易度S」である、上級魔法を発動した。

 

 男は歓喜に震えた、少し前まで注目していた勇者パーティーなど最早頭にすら無かった、「賢者」だけは他の勇者パーティーと比べたら別格だったが、そんなことすらどうでも良いと思ってしまっていた。

 

 今日は良いこと尽くめである。

 

「っくくく───はぁっははははははははははは!!」

 

「今日は随分とご機嫌ね、仕事も忘れて」

 

「どぉわああああああああ!?」

 

 

 座っている男の脇にいつの間にかいたのか一人の少女がいた、10歳前後の少女で黒色の髪を背中まで伸ばし、赤いドレスのような服を来ている、顔立ちが整っていて一般的にも美少女と言われる部類だった。

 

 少女は腕を組んで絶叫を上げた男を下から冷たいじっとりとした目で見上げ「うるさいわね」と苦言を呈していた。

 

「お、お前はまた·····いつもノックをしろって言ってるだろ?テーシー」

 

「あら、いつもノックをしてるじゃない、貴方が毎回自己陶酔絶頂顔晒してるから、私は空気を読んで収まるのを待って上げてるんじゃない、感謝しなさい?サイラス」

 

「え?待って?何その悪意たっぷり顔面表現、マジで?俺そんな顔してたの?」

 

「サイラス黙りなさい、本題に入れないじゃない」

 

「あ······すいません·····」

 

 テーシーと呼ばれた少女がピシャリとサイラスと呼ばれた男に言って、理不尽と嘆きながらも、速く本題を終わらせて「この同輩」にはおかえり頂こうと、サイラスは口を開いた。

 

「で?用件は何だ」

 

「さっきも言ったでしょ?仕事も忘れてって?」

 

 疲れた様にテーシーから紡がれた言葉にサイラスは「うげ」と低い声でうめいた。心当たりがある、というか有りすぎた。

 

 何のことは無い、ただ勇者パーティーの動向を探る事である、ここ数日間の間だけだが定期報告をしなかった故の目の前にいる同輩が来たのだろう。

 

 確かに「大成者に「だけ」注意を払え」とは言ってない。

 

「あー、気を付けます」

 

「────で?」

 

「ん?」

 

「貴方がお熱の「大成者」とやらはどうなの?」

 

 どうやら本題は違うみたいだ、と苦笑したサイラスはテーシーを見下ろした。冷静な顔をしてはいるがどこか食い気味な様子を隠せていない同輩。

 

 無理もない、とサイラスは思った、「あの方」は知らないが自分とテーシーの「願望」は一緒なのだ、特にテーシーは「体質上」、不確定要素に興味を持つのは仕方ないだろう。

 

 彼らなら、きっと彼らなら。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、彼等ならきっと「       」」

 

 サイラスの言葉に、同じく黒い肌を持つ同輩は「だと良いけど」と嘆息した。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 あの至急印クエスト対決から、一週間が過ぎた。

 

 あのあと?大変だったぞ?またカーラは泣き始めてしまったし、俺とダリアは暫く動けなかったし、途中から気絶から立ち直った男達が激痛とパニックで喚き散らかすし、カーラの泣き声と男達の泣き声を同時に聞いて精神力がゴリゴリ削られるし。

 

 そのあと、男達の足を治してやって下山した。

 

 あと一応、殺された男達の仲間、パーティーリーダーだったらしいあの男の遺品を回収してやった。

 

 何でも4人はストルで結成したパーティーらしく、リーダーである男の存在のお蔭で、自分達はBランクまでのしあがる事が出来たと涙ながらに語っていた。

 

 回収した遺品は、ストルの街郊外にある共同墓地に埋葬摩するらしい。

 

 で、改まって謝罪を貰った、ダリアとカーラは何とも言えない顔をしていたが、最後に笑って許した。その整った顔立ちにおける笑みと対応に男達は何を思ったのか「姐御」と敬うようになった。

 

 で、帰って一旦着替えてからギルドに戻ると、アンナさんを筆頭に職員全員に謝罪を受けた。

 

 どうやら、ギルマスが俺達の監視用に放っていた視界共有のマジックアイテムを使って映像を職員に提供したらしく、顔を真っ青にしながら頭を下げていた。

 

 勿論、俺達は許した、今回の一件でレベルも上がっただろうし、紅黒蜥蜴を通して割と本音をさらけ出せたし得るものは大きかった。

 

 男達はリーダーが死んだことに思う事があったのだろう、暫く難しい顔をしていて結局謝罪を受け入れる事は無かったが「前向きに考える」とは言っていたから大丈夫だろ。

 

 そのあとアンナさんに抱き付かれあっちこっち触られた、変な所?あのなぁ、アンナさんは俺を「そういう」目で見てはいねえよ(エッチなのはいけないと思います!)

 

だからダリアさんとカーラさん、そんな目で見ないでくれませんかね?ぞくぞくしちゃうの······

 

 そのあと、事情を知らない冒険者達からもの凄い数の視線を貰いながら俺達パーティーと男達はギルド長執務室へと通された。

 

 労いの言葉、そして謝罪の言葉をギルマスから貰った、男達はギルマスのそんな姿に口をあんぐりと空けていたが。ギルマス以外にも商人風な男がいた、依頼主だ。

 

 依頼の後処理だが、依頼主の情報詐欺と言うかかなりグレーな依頼問題はあっさりと解決した、依頼内容は赤蜥蜴の討伐に出来れば蜥蜴王妃の撃退としか無かったからである。実際に紅黒蜥蜴が出てきた映像を提供したことで顔を真っ青にした依頼主が謝罪し、報酬額の改訂にペナルティ料金、更には慰謝料を上乗せすると誠意と謝意を示した事で事は収まった。

 

 あまりに必死な謝罪過ぎて、毒気を抜かれた男達は、渋々ではあるものの謝罪を受け入れた。

 

 「この金で、野郎の墓を豪華にしてやるんだ」と息巻いていた男達を見て少し微笑ましく思ったのは内緒だ。

 

 更にギルド側からも、慰謝料が払われた。依頼報酬額混み全額で大金貨1枚に、金貨20枚と言う大金である。流石の多さに俺も動揺したし、お嬢様であるカーラも驚愕していた。何よりダリアが白目を向いて倒れたのがある意味一番の驚愕だ。

 

 後、ランクアップに関しても俺がDランク、ダリアがBランク、カーラがCランクに上がった。本当はギルマスも「2段階は最低でも上げたかった」と言っていたが。流石にギルドの規定により、許可出来ないとの事だった。

 

 そのあと、俺達は「沈む太陽」に帰り体の疲れを癒すように眠りに着いた。

 

 そのあとは、一日休みにして、次の日からまた依頼を請けはじめた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

「ダリア!」

 

「はい!」

 

 木々が生い茂る中、木の上に立ち下で魔方陣を構築したダリアがまるで何かに狙いを定めるように人差し指を標的に向けていた。

 

 次第にズンッと地響きが、俺達にも届いてきた、やがて現れたのは、全身血に染まったような紅い肌、二足歩行で歩き筋骨隆々な体躯は、俺達の2倍近くはあるだろう、手には血に塗れた戦斧を持ち浅く低い呼吸を繰り返しながら俺達に向かって歩いてくる。

 

 暴鬼(オーガ)、ランクAのモンスターだ、しかも2体である。

 

 圧倒的有利な状況故に余裕そうにゲラゲラ笑いながらゆっくり恐怖を刻むように歩いてくる。

 

 つか······

 

「おい糞鬼ども!さっきからちんたらあるってんじゃねえぞごらあ!こちとらてめぇら殺すためにわざわざこんな森深くまで来てんだぞ!?」

 

『!?』

 

『!?』

 

 怒鳴り込まれた困惑からかたたらを踏む暴鬼たちは、動揺した様子がありはしたが、自分より弱い筈の人間に怒鳴られた事が怒りに繋がったらしく。

 

 「グオオオオ!」と喚きながら、ドスドスッと地面を揺ら迫る2体の暴鬼は恐怖を煽る光景だろう。

 

「──滅びの雷よ、天より駆け冥界へと導きたまえ──

 

サンダー・ブラスト」

 

 この場にいる二人が普通の冒険者ならばではあるが。詠唱を終えたダリアから放たれたのは一閃する極太の雷の本流、容易く暴鬼達を飲み込む様は正に「天災」に近かった。

 

 ダリアが「調整」したお蔭で姿を保ったまま生き絶えた暴鬼を見てダリアとタッチした。

 

「カーラは大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫だろ」

 

 「別の個体」の元に向かった仲間を思ったダリアの言葉にそう返す。

 

 噂をすればなんとやら、だろうか。

 

 カーラが俺達の後ろ側から、上機嫌に鼻唄を歌いながら歩いてきた。どうやら上手くいったみたいだな。俺とダリアは笑いあって振り返り。

 

 暴鬼の生首の角の部分を掴み、笑顔を浮かべているカーラを見た。

 

「二人とも終わった?」

 

「あ、あぁ」

 

「·············」

 

「私も終わった♪」

 

「あ、あぁ」

 

「撫でて?」

 

「あ、あぁ」

 

「··············」

 

 ポカンとした俺は言われるがままに頭を撫でる、ダリアも同じくポカンとしているが、段々とじっとりとした目を向けたダリアにカーラは「にゅふ♪」と上機嫌に返した。

 

 この一週間で一番変わったのはカーラだった。 

 

  

 





ダリア「カーラ・・・?」


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『カーラ』


 
難しかった······


「今日も撫でて貰えた······」

 

 今日も「AAランク」クエストを終え、夕食をおえて宿屋「沈む太陽」の自室で眠りに付く準備をする。寝間着に着替えて、ベッドに横になる。

 

 ふとレイグさんの手の感触が残っているような気がする、私の水色の髪を手で解かすように触れる。

 

 目を閉じると、まるで数刻前に起きた事のように思いだせる。

 

 傷付きながらも、私を守ってくれたレイグさんの背中、お腹に穴が空いていて、身体は震え、今にも倒れそうな身体はそれでも鋼の意思を持って紅黒蜥蜴(クリムゾンリザード)の攻撃を前に退くことをしなかった。

 

 ──ビビッてんなよ。

 

 恐怖に、後悔に、悲壮に飲み込まれていた私を一瞬でも引っ張り上げたあの言葉。

 

 ダリアと共に鼓舞してくれた事に感じた、申し訳なさと安心と歓喜。

 

 あの時、私に振り返らず紅黒蜥蜴へ並んで立ち向かうために駆け出した「2人」へのちょっと感じた嫉妬、今なら分かる。

 

 

 

 

 私は2人が好きなんだ、レイグさんが好きすぎて真っ直ぐなダリアも。

 

 心を開いていなかった私でさえ受け入れ、対等に接してくて守ってくれるレイグさんが好きなんだ。

 

 これが恋愛感情なのか親愛からくる感情なのかは分からないけど、今もレイグさんに撫でて貰ったのを思い出すだけで心のそこからポカポカするような感覚が私を包む。

 

「──何でだろ····」

 

 もう何回か頭を撫でて貰ってるのに、未だに慣れない、それどころか段々とポカポカが強くなっている気がする。

 

 仮にダリアとレイグさんが手を繋いで、恋人みたいな雰囲気で歩いている姿を想像してみた、別にモヤモヤもしないし、何なら凄くしっくりきた。

 

 次に私がレイグさんと手を繋いで歩いている姿を想像してみる。······うん、何か恥ずかしくなってきたからもう辞めよう、ニヤニヤが止まらない。

 

 

──トントン

 

 静かに響くノックの音、思わず体が驚いて跳ねる、宿の中だと言うのに意味もなく身構えてしまう。

 

『カーラ?寝ちまったのかい?』

 

 突然の来訪者は、宿屋の女将であるミランダさんだった、私は慌ててミランダさんを中に招き入れた。

 

 椅子を差し出すと、ミランダさんは「ありがとね」と勝ち気に笑って座る。·····沈黙

 

 ど、どうしよう、今までちゃんと話したことなんて無いし、面と向かって話すなんて初めて····そういえばどうして私の所に····?

 

「急に悪いね?レイグ達が少しあんたの様子を気にしてる感じがしたからね、あ、別にアンタに何か聞いてくれって言われてる訳じゃないからね」

 

「レイグさん達が?」

 

「まぁ、気にしてると言うか、何か戸惑ってる感じだったけど、何かあったのかい?」

 

 何か····って言うと、確かに私何も言わずにいきなりレイグさんに頭を撫でるの要求してたかも···あれ?私って端から見たらおかしい女?ど、どうしよう引かれてたら!?ダリアから見ても面白い感じじゃ無いよね!?

 

 内心パニックになってる私にミランダさんは、苦笑して、私の頭を撫でて「落ち着きな」と言ってくれた。

 

 すると不思議な感覚がした、波立っていた水面が、一瞬で揺らぐことすらない水面へと落ち着くような、違和感すら感じさせない。

 

 レイグさんに撫でて貰った時のような、心が火照るのでは無く、暖かい何かに包み込まれるようなそんな感覚、どこかで私はこの感覚を········

 

「カーラ?」

 

「っひゃい!?」

 

「ははっ、何だいそんな驚いて、何時もの冷静なアンタは何処に言ったんだい」

 

 変な返事を返してしまった私を嘲るのでも、怪しむ訳でも無く、見守るような目で見つめるミランダさん、その包容力?とでも言うのだろうか、自然と私は今抱えているものをさらけ出した。

 

 馬鹿にするわけでもなく、からかうような仕草も見せず、ただ静かに微笑んで話を聞くミランダさんに既視感を感じつつ、話した。

 

 話を聞き終えたミランダさんは、苦笑いを溢していた。

 

「アンタも、難儀なもん抱えてるねぇ」

 

「難儀······ですか?」

 

「そうさ、アンタのその想いは大切な人と大切な人(レイグとダリア)が板挟みになってるんだろ?」

 

「それは·····」

 

 そうだ、どっちも大切だし、そのどちらかに優先順位なんてものは存在しない。でも私が抱えている物が、大切な人達を惑わせてしまう可能性が高い。

 

 この想いは大切にしなければならないと思う。でも····でもそれが私達に歪みを生じてしまうような物なら私は·······

 

「はいストップ」

 

「んゆ」

 

 頬っぺたを柔らかい手で挟まれて空気が洩れだすのと一緒に変な声が一緒に洩れた。思わず恨めしげな目でミランダさんを見てしまう。

 

 ミランダさんは「悪い悪い」と、全く悪びれていないような顔で苦笑していた。

 

「でもね?アンタがその想いにケリを付けるのは、まだ速いんだよ」

 

「え?」

 

「まずその感情の有無を決める前にさ、その感情に向き合わなきゃいけないんだ」

 

 感情に向き合う?私がそう思ったのが分かったのか、ミランダさんは「そう」て言って続けた。

 

「その感情をむける相手はアンタにとって何だい?」

 

「大切な人」

 

 間髪いれずに答えた。

 

 2人は私にとって恩人だし、何にも変えがたい人達だ、私はそんな2人と一緒にいて幸せを感じてるし、もし許されるのなら、何時までも一緒に居たいと思う。

 

 でも、そうするにはこの想いは····

 

「何だい、分かっているじゃないか」

 

「え?」

 

 ミランダさんは呆ける私に話し出した。

 

 ミランダさんも若い頃、幼馴染みの料理人見習いと冒険者と3人てストルに田舎からやって来たのだと言う。

 

 ミランダさんは宿屋の看板娘、見習い料理人さんは当時、ストルで有名だった定食屋に弟子入り、冒険者の人は当時Aランクと言う実力者だったらしい。

 

 ミランダさんは2人に同じ気持ちを抱いていたらしい、そして私と同じそれが恋慕なのか、親愛なのか分からず、悩んだらしい。

 

 一度は、関係が壊れるのを嫌って「そういうのを抜きで」過ごした事があったらしく、返って悪化したと言っていた。

 

 私はそれを聞いて、凄く不安に駆られた。それじゃ、どのみちこの想いは私達の関係に牙を向くんじゃ······

 

「だから、私はそれが何なのか、突き止めるまで一緒にいた。喧嘩しても、トラブルがあっても一緒にいたんだ」

 

「え?·····」

 

「だって私は2人の事が好きだったからね、どっちの方が好きだったのか突き止めるまで大分かかっちまったよ」

 

「その分アンタは分かりやすいじゃないか、片方が女でもう片方が男だ、それが恋慕でも親愛でも何でも、分かってからどうするかを考えた方が良いと私は思うがね」

 

 喋り過ぎた、とばかりに頬を人差し指でポリポリと掻きながら、視線をそらすミランダ。

 

 ───分かってから、どうするかを

 

 私にとって、ダリアもレイグさんどっちも大切、どっちかを優先何て考えたくもない。

 

 もし、もしも私がこの想いを封じてまともに2人に接する事が出来るか?どこか超人的に人の機敏に鋭い2人の事だ、絶対気付く。

 

 私が仮にそれをされたって、多分気付くと思う、ダリアもレイグさんも分かりやすい所がある。

 

 ───────

 

 

 

 

「やっぱり分からないです」

 

「そうかい」

 

「でも、分かるまで、分かってからどうすれば良いのか、それが分かるまで私は2人と一緒に居続けようと思います」

 

 私がそう言うと、ミランダさをは、一瞬の無言の後どこか優しく「そうかい」と呟いた。

 

 ミランダさんにお礼を言うと、ミランダは何も言わずに私の頭を撫でて「頑張んな」と言って部屋を出ていった。

 

「私はレイグさんが好き、ダリアも好き」

 

 でも、この二つの好きは同じではない、取り敢えずそれが分かるよう明日からもレイグさんに撫でて貰おう。頑張るぞ

 

「··········おー」

 

 

 かなり恥ずかしかった。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

「さて、どうだったい?盗み聞きして聞けた話しは」

 

「······あー、アンナトコロデダインサンガオンナボウケンシャニナンパサレテル、タスケニイカナキャー」

 

「大丈夫、後であたしが処すから、つか逃げるな」

 

 カーラの部屋から出たミランダは、閉めてそのまま自室に、ではなくダリアの部屋を開けて壁に魔方陣を描きそこに耳を付けているいかにも怪しすぎるダリアに声をかけた。

 

 ギクッと硬直したダリアはミランダの後ろを覗き見るようにして、片言でそう言うと、ミランダの脇を通ろうとして掴まった(アイアンクローされた)

 

「全く·····」

 

「····あの、やっぱりカーラは?」

 

「そりゃカーラにしか分からないさ、あたし達が勝手に決めつけて良い感情じゃない、それはアンタが一番分かっているんじゃないか?」

 

 どこか窺うようなダリアの質問にそう返すミランダ。

 

 その返しにダリアは言葉がつまってしまう。

 

「アンタもカーラが好きなんだね」

 

 葛藤を脳内で繰り広げているような、そんな悩んだ顔をするダリアに、確信を持った言葉でミランダは尋ねた。

 

 ダリアは、少し悩む素振りを見せ、コクリと頷いた。

 

「ならアンタも分かるだろう?あのこが何に向かい合おうとしているのか、あの娘が好きなアンタなら

 

───何時までも一緒にいる努力ぐらいアンタもしてみな」

 

「─────」

 

 そう言って、ミランダはダリアの頭にポンと手を置き部屋から出ていった。

 

 ダリアはその後ろ姿を見ながら、今言われた言葉を考えていた、カーラがレイグに対して持っているそれが「それ」ならば····でもダリアはカーラが好きだ、勿論親愛ではあるが、一度は迷いかけた自分を抱き締めて導いてくれた恩人でもある。

 

 そして、聞き間違いじゃなければカーラもダリアが好きと言っていた。

 

 「ある未来」が頭をよぎり、頬を染めるダリア

 

「(───でも、レイグ様は)」

 

 いずれくるであろう未来に、悲しげに眉を潜めてしまうダリア、しかし

 

 もしも、一緒に入れたらどれだけ幸せだろうか。

 

 ──何時までも一緒にいる努力ぐらいアンタもしてみな。

 

 ミランダの言葉がダリアの頭に過る。

 

 暫しの沈黙の後、ダリアの顔にあった迷いは完全に無くなった訳では無いが、それでも何かを見据えようとしている顔をしていた。

 

 まずは、その何かを少しでも「形」にするために、ダリアは親友(ライバル)の部屋へと突入した。

 

 

 

 

 

 

 





ミランダ「アンタ」

ダイン「あ、ミランダ、さっきこの人が───ちょ!?」


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40話的な話


#前回のあらすじ


ミランダ母ちゃんから感じる強かな母性、ばぶ~


作者がログアウトしました。


 

「────ふぅ」

 

 今日も日課の明朝鍛練を終え、濡れたタオルで体を拭いて、いつもの装備を身に纏う。

 

 直剣を研いで、ポーチの中身を確認し、足りないものをタンスから引っ張りだし補充する、と言っても回復は俺自身が補えるし、魔力の回復ポーションが入った試験管を数本入れるぐらいだ。

 

 準備が終わり、まだ時間があることを確認して、ベッドに仰向けになり、息を少量吐いた。

 

「──魔人か」

 

 昨日、暴鬼(オーガ)の討伐依頼を終わらせ、ギルドに帰ってきた俺達は、妙にざわついていたギルドのホール内にて囁かれていた言葉を思い出した。

 

 勇者パーティーがとうとう悪しき魔王の手先を倒したとの事。

 

 吉報と言えば吉報と言える情報に中々に盛り上がっていたホール内、そして「至急印クエスト対決」後日、改めてギルマスに呼び出された時に聞いた「魔人」の話。

 

 どうやら、ギルマスはあの紅黒蜥蜴(クリムゾンリザード)媒介(マジックアイテム)越しに確認した時点で応援要請を試そうとしたらしいが、そこに件の魔人が現れ、何も出来なかった事を謝罪された。

 

 そしてその魔人が言っていたらしい、勇者達が倒したとされる魔人が魔王陣営での平均的な戦闘能力だとも。

 

 少なくとも、ギルマスが対峙したと言っていた魔人の強さは底がまるで見えないと言っていた。

 

 ──可能性としての域を出ないが、前にお前さんが言っていた「リデル村」での一件に出てきた「傀儡召喚とやら」を使ったと言う奴も怪しくないか?

 

 

「(········傀儡召喚、か)」

 

 こちらの世界ではどうゆう扱いなのかは分からないが、ダリアに話した時の反応や、ギルマスがこの単語を出した時に嫌悪感や忌避感などといった負の感情は感じなかった、一冒険者であるダリアはともかくギルマスまでもが知らないと言うのはおかしい。

 

 あっちでは、まぁ確かに一般的に知られている訳でも無かった···が、全く知らされていない訳でもないし、扱えない訳では無かった。

 

 強制的な奴隷契約と何ら変わりない人道を大きく外した技法、確証も何も無いが、傀儡召喚を使用した奴は神からも嫌われ、異端審問に掛けられ容赦なしに粛清される、と言うのが人間側に伝わっていた。

 

「まぁ、何か手がかりや証拠があるわけでもないしな」

 

 思考を打ち切るように、俺は何気無しにテーブルの上に置かれた木の枝を手に取った、初めてC級ダンジョン「髑髏」に潜ったとき、いつの間にか俺に引っ付いていた。

 

 別に、何も感じないしどっからどう見ても只の木の枝だ、何故か気付けばポーチに入れてたし、何故か捨てる気になれなかった。ギルマスに訳を話し鑑定を掛けて貰ったりしたが、やはり只の木の枝だった。

 

 同じダンジョンに潜っていた知り合いのパーティーのリーダーであるバズさんに聞いてもやはり何も感じないとの事。

 

 やはり只のゴミなのか?と思いつつも、やはり捨てることはせず。俺はそれを再びテーブルの上に置いた。

 

 ーーーーーーー

 

「な、なぁ2人とも?」

 

「どうしました?レイグ様?」

 

「?」

 

 いつも通り、沈む太陽の食堂で朝食を取り、どこかにやけているミランダさんと、どこかボロボロのダインさんに見送られつつ。今日もギルドに向けて沈む太陽から出発した俺達。

 

 いつも通り、3人横に並ばずに妙な波線状に並び、雑談を交わしながら大通りの坂を登っていく筈だったんだが。

 

 

「近くないか?」

 

「え?そうですか?」

 

「え?もっと近く?」

 

 近いのである、物理的にも、ダリアとカーラ両方とも俺の両脇ピッタリにくっついて歩いているのだ。しかも妙な気遣いか、足が絡まないような足運びをしていて全く気にせずに歩ける。

 

 わあっ、お可愛い笑みですね?でもさっきからむさ苦しい野郎共の視線がバシバシ突き刺さっているんですよね?あ、気にするな?あ、はい分かりました。

 

 でも、手を繋ぐのは勘弁してくださいね?そう言うのは、ちゃんと俺の方の清算が終わったらで·····

 

 舌打ちしないでください。

 

 顔を見合わせて笑い合うダリアとカーラ、いつの間にか更に仲良くなった2人を疲れたような目で見つつ、どこか微笑ましく思い、口元を緩めた。

 

「レイグさん」

 

「うん?」

 

 カーラとダリアは2人揃って俺より一歩前に出て、俺に振り返りながら歩く、こら危ないからちゃんと前向いて歩きなさい。

 

 カーラとダリアは挑戦染みた顔で笑みを作り「頑張りますから」と声を揃えて言い放つと、ササーと2人揃って先に行ってしまった。

 

 僅かに見えた横顔はカーラの横顔は、赤く染まっていたように見えた。

 

 ·····こういう時、心底「そういった」事に対する機敏に疎い奴が羨ましい、2人に対する感謝や恥ずかしさ、罪悪感を感じながら、取り敢えず先に行ってしまった2人を追いかける為に駆け出そうと一歩踏み出した時。

 

「───」

 

 何だあいつ?

 

 あからさまに怪しい奴が建物の陰、俺が後ろから見えて、ダリア達は前を進んでいるから見えない位置取りで2人の後を視線で追っていた。

 

 一瞬「馬鹿な事」を考えてる奴か?と頭に浮かぶが、そいつの纏う雰囲気を見て、違うと思った、思っただけで何を考えているのかは解らないが。

 

 そいつのカーラ達····いや、正確にはカーラだけを、熱心に見ていた。

 

 しかし、やけに身綺麗な格好をしてるな、こんな街中で、白いハット帽か、一見一般的な服に見えるそれも、良く見ると上質な服を着ている。

 

 目元はサングラスをかけており、顔は確認出来ないようになっているし·····見た目だけなら超絶怪しい奴なんだがな······

 

「レイグ様ぁ!置いてっちゃいますよぉ!」

 

 やめてぇ!?大通りで叫ばないでぇ!?

 

 恥ずかしさが天元突破寸前まで登り上がり、周囲が一斉に俺を見てきた事に「今日も1日晴天でぇす!」等と意味不明な事を叫びながら誤魔化して、ダリア達の元に駆けていく。

 

「──っ」

 

 ついでにチラっと先程の怪しい奴に視線を戻すと、奴もこちらを向いていたのか、視線がバッチリ合った。

 

 途端に奴は身を翻して、小道の奥へとはしっていってしまった。

 

 俺、今警戒されてた?

 

 

ーーーーーーーーー

 

 ギルドに着いて、中に入ろうとすると、その前に先に玄関の扉が開き、中の喧騒と共に3人一組のパーティーが出てくるのが分かった。

 

 そいつらは俺達に気付くと、笑みを浮かべて3人それって整列して、腰を90度綺麗に折って挨拶をしてきた。

 

「あ、ダリアの姐御にカーラの姐御!それにレイグも!おはようございます!」

 

「「おはようございます!」」

 

 それは元気な挨拶だった。

 

 反射的にダリアが「馬鹿じゃないですか!」と顔を真っ赤にして、頭をしばくも、どうやら3人にはご褒美みたいで、何処か恍惚とした笑みでお礼を言っていた。

 

 何だろう、死ぬほど気持ち悪いのに、何処か清々しいと思えてしまうのは······!

 

「今からクエストか?」

 

「いや、最近はダンジョンに潜ってるんだ」

 

「ダンジョン?「髑髏」にか?」

 

 俺の質問に短髪のガタイがいい男「イチ」が「あぁ」と頷く、どうやら最近はダンジョンの探索依頼を受ける冒険者が多いらしい。

 

 そんな需要あったかな?と思っていると。長髪の男「ニィ」がイチの説明を繋いだ。

 

「ダンジョンが最近、様子がおかしいんだとさ」

 

「·······それはまた、穏やかじゃない情報だな」

 

「それって、ダンジョンがおかしいの?ダンジョンに出てくるモンスターがおかしいの?」

 

「どっちも、ですぜ?カーラの姐御」

 

 俺と話している時とは135度微妙な角度で反対な態度で応じるニィ、急な態度の変化に思わず顔を轢き吊らすカーラ、気持ちは分からんでも無いが諦めろ。

 

「これはAAランク冒険者がいるパーティーが持ち帰った情報何ですが地下5階で「大骨翼竜」(スカルワイバーン)が発見されたみたいでさぁ」

 

 Aランクのモンスターだ、体長4m程の巨体を持ち、地下1階に居たような骨兵(ワイト)達とは違い、その体を構成している骨の硬度もかなり高く、地上戦もこなす中々厄介なモンスターだ。

 

 ダンジョンコアを守るガーディアンじゃないのかそれ、と思ったら、違うらしい。

 

 現在確認されている階層は地下9階、まだダンジョンコアもガーディアンも見つかっていない状態らしい。

 

 かといって、地下5階からしたに高ランクモンスターが出てくるのか?と聞かれたら違うみたいだ。

 

 一番厄介なモンスターでBランクモンスターの「骨毒蛇」(スカルポイズンサーペント)らしい。

 

 それだけで、明らかに今までのダンジョンと違うし、様子がおかしいどころか、危険で不気味だ。

 

「後、何か「ダンジョン全体が生きている感じがする」って言ってましたね」

 

「········?それはどういう·····」

 

 ダンジョンが生きているのは共通認識の筈だが、何故か俺にはその言葉に違うニュアンスを感じた。

 

「それが分からないんだってさ、本人らも何か気味悪そうな顔をしていたし」

 

「すまない、通して貰っていいか?」

 

 

 いつの間にか、他の冒険者の通行を妨げていたようだ、詫びを入れて道を空ける、イチ達も「そういうこと何で姐御達も気を付けてくだせぇ」と言って去っていった。

 

「「「お勤め!御苦労様です!」」」

 そう叫びを残していきながら。

 

 俺の気持ち、分かった?ダリア

 

 そう思いをこめてダリアの肩をポンとすると、ダリアは顔を赤く染めて俺の手に自分の手を重ねた。

 

 うん伝わってないね!(照)

 

 

 






きょうもいちにちせいてんでぇす!!
\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/


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41話的な話


#前回のあらすじ


いつの間にか姐御呼ばわりされているダリアとカーラ


 

 イチ達を見送った後ギルドの中に入るレイグ達、親しげに話しかけてくる冒険者達に一言、二言返しながら依頼掲示板(クエストボード)の元へ歩いていく。

 

 レイグ達がまともに活動を初めてまだ一週間ではあるが、その活躍故に周りが興味等の視線から関心等にシフトチェンジするのは早かった。

 

 まぁ逆に早すぎて、中には未だに疑惑に溢れていたり、面白くなさそうな冒険者の方がどちらかと言うとまだまだ多い。

 

 仕方ないことだろう、B、C、Dランクが1人ずつのパーティーが、明らかにランク適正外(身の丈に合わない)クエストを選び、その日の内に帰ってくるのだ。無論不正を疑われたし、中には「ギルドとグル」などと言い出す馬鹿もいた。

 

 中には綺麗所を持っていった(ダリアとカーラを侍らせた)レイグへの嫉妬心からか、元のレイグを知っているからだろうか立て続けにレイグに圧力をかけようとしてくる者も多かった。

 

 その都度、イチ達が「止めとけ、後悔するぞ」と全力で止めにかかっている事から、その手の馬鹿はあっさり手を引いたが、イチ達がBランクパーティーというのが大きかった。

 

「あ、レイグ君、ダリアさんにカーラさんも」

 

 依頼掲示板を前にして、早速何があるのか物色しようとして、そのタイミングで最早担当受付嬢と化しているアンナから声がかかった。

 

 いつも落ち着いた様子の彼女が、珍しく何処か興奮した様子で手招きしていたので、不思議に思いながらもレイグ達は受付カウンターまで足を運んだ。

 

 赤みがかかったブラウンの肩ほどまでかかったショートヘアを僅かに揺らしながら、アンナはレイグに挨拶もそこそこに便箋を2通程、用意していた。

 

 アンナは3人に顔を寄せて、周りに聞こえないように小声で話した。

 

「3人とも、驚かないでね?ギルマスから直々にあなた達への指名依頼よ?」

 

「ええ!?うっs───」

 

 アンナから告げられた事に、カーラが叫びそうになるがレイグによって口を塞がれ、何とか事なきを得る。

 

 顔を赤く染めたカーラの抗議の視線にレイグは「わ、悪い」と言って離れる。

 

 唇を抑えたカーラの視線から逃げるようにアンナに目を向けると、アンナも肝を冷やしたのかホッと息を吐いていた。

 

 本来ならば、ギルマスから話があるそうだが、今日は大事な会合があるのだと言う。緊急性が含まれる手紙なので、日数の限定はしないがなるべく速く、確実に届けてほしいとアンナ経由でレイグ達に伝えられた。

 

 緊急性のある手紙ならば、もっと高ランクのパーティーに頼んだ方が良いのでは?って言うレイグ達の視線が伝わったのか、アンナが口を開いた。

 

「ギルマスがもう一枚の便箋を確認してくれって言っていたわ····ふふ、あなた達ギルマスに信頼されているのね」

 

 ギルド最高責任者であり、事実上のレイグ達冒険者の雇用主であるギルマスからの指名依頼では「うん」か「はい」か「YES」しか無いだろうと、アンナから向けられる喜ばしい視線と便箋から感じる圧に苦笑いして、手に取った。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 「~♪」

 

 早速「沈む太陽」に戻り、ミランダさん夫婦に訳を話して荷造りを始めた、少し値が張ったが、収納領域が広い収納箱(アイテムボックス)にレイグはダリアとカーラと共に必要な物を積めていく。

 

 見た目はただの正方形の小箱だ、小さく魔方陣が刻まれている、「拡張」と「収縮」と「固定」と「吸収」の魔方陣らしく、購入する際、所有者契約と言って、購入者(認否で他の人も可)の血を媒介に魔方陣に登録するらしい。有り体に言えば他人による悪用防止である。

 

 本来は白金貨(大金貨100枚分)が数枚必要とされるほどの超高価な物なのだが、ギルマスが「もう使わないから」と言って格安でくれたのだ、まぁその事実があるからと言うわけでも無いが、ギルマスからの指名依頼を断れなかった要因の一つではある。

 

 簡易テントや、保存食等を入れていく、大きさ問わずに近づけると、豆粒程の大きさになって中に吸い込まれていくから不思議だ。

 

 鼻歌を歌いながら、上機嫌に荷物を積み込むカーラにダリアが話しかけた。

 

「嬉しそうだね、カーラ」

 

「自分の足で領の外に行くのは初めて、後はギルマスの指名依頼が嬉しくて」

 

 ギルドマスターと言ったら、「偉業」を認められ、王国からの支持もあるだろうし、国民、市民、町民、冒険者からの信頼から成り立つ役職である。

 

 そんな人物から、直々に依頼を貰いとても喜んでいる様子だった。当然ギルドからの評価は高い。

 

 荷造りが終わり、ベッドに座っていたレイグは「あ」と何かを思い出すように呟き、先程アンナから預かった2つの便箋の内、「レイグ達へ」とだけかかれた便箋を手に取る。

 

「まだ呼んでなかったな」

 

「あ、私も見ます」

 

「私も見る」

 

 ババッと集まったダリアとカーラを苦笑で迎えつつ、両脇に2人が座ったのを確認して、糊で閉じられた部分をペリッと小気味良い音を出しながら剥がして開封し、中から文字が綴られた一枚の折り畳まれた紙を取り出した。

 

 

 

──未来の英雄パーティー諸君へ

 

 まず、この依頼を直接手渡し出来なかったことの謝罪をさせてくれ、少し用事が重なっている上に、この間の「至急印クエスト」の一件で王都に召集命令を喰らってしまってな。会合含めて5日間ぐらいは帰ってこれないと思う······とまぁこんなもんか?

 

 まあ、どうして高ランクパーティーではなくお前らなのかって言うのは、這えある未来を歩むお前達への先行投資、って言う理由もあるが、あ、これは本当だからな?

 

 後は「ギルマスに指名依頼される冒険者」って言う箔があれば、お前らも動きやすい場面も出てくるだろう。

 

 

勿論カーラにとっても悪い話じゃ無い筈だ、Bランクアップの査定だって、以前よりスムーズになるだろうぜ?

 

 

 それと、依頼内容だがこの間のお前さん達が倒した蜥蜴王(キングリザード)の事と、「カサブの街」に滞在していると言う勇者パーティーへの注意勧告だな。

 

 ここだけの話、奴ら「賢者」を除いて何処か「色々嘗めている」所が目立っているんだよ····向こうのギルマスから気に掛けといて貰おうと思ってな。

 

 ······まあ、以上だ、じゃな!

 

 

 

───お前らの雇用主より。

 

 手紙を読み終えたレイグが、その紙を足が着かないように火を灯し、燃やしつくした。灰が散らばらないように器用に風魔法で空中にただよわせて熱を飛ばしてからゴミ箱へ捨てた。

 

 「冒険者っぽい」と目を輝かせるカーラに「何でだよ」と、突っ込みを入れるが、ふと、カーラが変な顔をしていることに気付き声をかける。

 

「······何でギルマスが私の事情を知ってるの?」

 

「······自分で言った訳じゃないんだよな?」

 

「それは間違いない」

 

「まあ、カーラが領主の娘ってのはギルドも分かってるだろ?」

 

 暗に登録者の細かい所はともかく、生年月日や名前、家名などはどう足掻いてもばれてしまうだろうと言うレイグ。

 

 カーラもそれは分かっているので、そういうことでは無いと否定した、カーラが言いたいのは「何で話してもいない事情をピンポイントで知っているか?」である。

 

 勿論レイグもダリアも言い触らして何かいないし、レイグ達と出会う前に、高ランクパーティーに入れて貰えるよう打診した時に、確かに「速くランクアップがしたい」とは説明したが。一度も「Bランクになりたい」とは言ってないのだ。

 

 どこか不安そうな、カーラにレイグは大丈夫だろ、と気軽に言った。

 

「プラスに考えとけ···とは言えないけど、少なくともカーラの事情を何らかの形で知ったのだとしても、ギルマスは別に邪魔とかするでもなく寧ろ推奨してくれてるんだ、ちょっと前向きになってもいいと思う」

 

「もし、カーラの家族が約束を破る何て事が起きたら、私がカーラの家を焼き払うから大丈夫だからね」

 

「励ましにもなんにもなってないからなそれ」

 

「レイグ様?冗談ですよ?」

 

「魔力を高めながら言う台詞じゃありませんね」

 

 そんな、どこかコント染みたやり取りを見たカーラは毒気を抜かれたような表情になり、やがてクスリと笑って「ありがとう」と言った。

 

 カーラ自身も分かっている、自分の父親がそんな反則をするような人では無いことも。ギルマスが打算と善意でこの依頼を回してくれたことも。

 

 色々考える事はあるけれど、まずは「Bランクにあがってからどう家族に向き合うか」、勿論カーラ自身はレイグ達に着いていくし、もし約束を反故にするようなら問答無用で「ヴァネスティラ」の名を捨てる所存である。でも、もし向き合う事が出来たら、その時は姉に一言言ってやりたいと思った。

 

 見返したいと言う気持ちがあっても、カーラは別に自分の家族が嫌いでは無いのだ。

 

 

 

 

 ──分かってからどうするかを考えた方が良い

 

 どこかの暖かくて優しい宿屋に女将さんが教えてくれた言葉を思い出しながら。

 

 こうして一行は、ストルの街を出たのであった。

 

 

 

ーーーーーーー

 

「久しぶりだな、ギルドマスター」

 

「ええ、「領主」様もご無沙汰しております、最後にお会いしたのは一月と半月程、でしたかな?」

 

 時刻は丁度お昼前、本来ならば忙しい時間帯の「沈む太陽」の食堂、しかしこの日は珍しい事に「臨時休業」と書かれた看板が、食堂の入り口前に侵入者を立ち入れんばかりに置かれていた。

 

 中に座っているのは、いつもの黒い革スボンにシンプルな白いシャツを羽織った引き締まった体つきをしている30代ぐらいの男性───ギルマスである。

 

「·····よしてくれ、お前にそんな言葉遣いをされると、背筋が凍る」

 

「容赦ねぇなおい」

 

 苦笑いを浮かべたギルマスに対峙するように向かい側に座る男は、水色の髪を男性にしては若干伸ばしていて綺麗にオールバックに整えられている、着ている服はパッと見た感じは、そこらの一般人が着ている服と変わらないが、良く見るとかなり上質な素材を使用しているのが分かる。

 

 しかし、目元はサングラスで隠れて降り、上品な佇まいが災いしてかなり怪しい見た目になっていた。

 

 朝方レイグが見かけた男だった。ギルマスは呟いた言葉に繋げるように「カイン」と続けた。

 

 やっと「友」に名前で呼んで貰えた事に口元を緩めるカインと呼ばれた男性。少し空気が緩和したように感じるなか、呆れたような声が2人に向けて大きく降り注いだ。

 

「ったく!久しぶりっつったって、んな期間が空いた訳じゃないだろうに!カインもマックスもんな辛気臭い雰囲気出してんじゃ無いよ!」

 

 宿屋側のロビーに繋がるドアを開け放ち、申し訳なさそうに笑う夫であるダインを引き連れ食堂無いに入ってきたのは、ミランダであった。

 

 折角作った雰囲気に酔っていたのに、とばかりに溜め息を吐いたギルマス──マックスはいじけたようでどこか咎めるように。

 

「お、お前ミランダ·····」

 

「·······」

 

 相変わらずだな、と呆れたような、安心したような目でカインはマックス、ミランダ、ダインを見つめて。その目を隠していたサングラスを外した、現れた瞳の色は紫色(菖蒲色)

 

「久しぶりだな3人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここら一体を統括する領主(カイン·ヴァネスティラ)がそう言った。

 

 

 







ダリア「コオオォォォォ···········」


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42話的な話

#前回のあらすじ


不審者=領主




「リデア村?」

 

「ああ、知ってるか?」

 

 カサブの街はストルの街から北に進み、リデア村を越えて、更に半日程先にある「カルム村」と言う村を越えてから西に大きく回るように進み、約1日程進んだ所にあると言う。

 

 リデア村、以前フォレストウルフに怯えていた村、最後には村本来の活気を取り戻していたが、最初の覇気の無さや、村の活気が全く無かった事を考えると心配するわけじゃないが、気になってしまう。

 

 カーラに訊いてみた所、しょっぱいクエスト(塩漬け案件)故に、誰も全く触れないクエストの依頼元として有名だったようだ······マジであの村危なかったんだなと、実際に目にした100匹を優に超えるフォレストウルフを思い出し顔が轢き吊った。

 

 別れる際に村の皆が浮かべていた笑みに改めて良かったと思う。

 

「レン君やギョシャさん達元気にやってますかね?」

 

「どうせ今日中にカサブの街に着くわけでも無いし、少し寄ってくか······俺も気になるし」

 

 ダリアがうれしそうに「はい!」と笑顔で返すのを見て、俺も口が緩むのがわかった。

 

 まだ10日程しかたってはいない上に滞在した日数はたった1日にしか満たないが、予想以上に湧いていた情に内心苦笑いする。

 

 思わず森の一件でダリアに膝枕されていた事を思い出してしまった、柔らかかったな·····何がとは言わないが。

 

 しかし何だろうな?あの森で大事な事があった筈なんだが·····思い出せん、時折思い出そうとはしているけど、フォレストウルフを全滅させてから、ダリアに介抱されている迄の記憶がごっそり抜けているんだよな。

 

 まぁ、大抵こう言うのは前任者関連の事だし、俺が気にしたところで意味は無いんだろうが。

 

「────むぅ」

 

 横を歩いているカーラの頬が僅かにむくれているのが分かった、どうした?

 

「·····2人が私の知らない話をしてる」

 

 目尻を僅かに下げて、険のある声ではあるが物淋しさを感じさせる声で責めるように俺とダリアを見ていた、俺とダリアはキョトンとして顔を見合わせてから笑った。

 

 リデア村までの道すがら、俺とダリアが依頼を受けてから、リデア村を発つところまでの話を聞かせる事にした。

 

 リデア村に行く途中でゴブリン達に襲われたりした話、リデア村の活気の無さに覇気の無い村民の事、冒険者に強い敵意を抱いていた少年の話から始まって。

 

 最後はダリアが説き伏せた村人達の力だけで、森に潜んでいたフォレストウルフの残党全てを森から追い払い、敵討に村を飛び出した少年とも仲直りして無事村に帰還と言うところまで話してやった。

 

 俺達の話をカーラは食いついたように俺達を見ながら目を輝かせていた、こら、危ないから前を見て歩きなさいって言ってるでしょ。

 

 たった10日間とはいえ、こうして思い出すと何故か懐かしく感じてしまうな。

 

 そう感慨に耽っていると、視界に丸太を隙間余すこと無く何かを囲うように地面に打ち込まれている光景が入った、遠目でしか分からないが正面の一部が空いていて、そこから左右に広がっている感じだ。

 

 思わず俺とダリアは「おぉ!」と関心してしまった。

 

 近づいていくと、段々と細部までハッキリ見えてくる、入り口部分に先端が尖った太い木の枝が地面に刺さっていて、その棒が突き刺さっているようにフォレストウルフの死骸が引っ掛かっている。

 

 入り口だけで無く、ある程度間隔を空けて設置されている様は、モンスター避けには抜群だろうし、他の外敵にも攻撃的な印象を与える。

 

 しかも入り口に門番のような装いをした人がいるのだ。

 

 たった一週間やそこらでここまで変わるもんなのか····?

 

 唖然とした様子の俺とダリア、そして緊張した様子のカーラは村の入り口までやって来た。門番らしき男も最初はその手に持つ木の槍を構えていたが、俺とダリアの顔を見ると、同じく唖然とした様子でこちらを見ていた。

 

 と言うかこの人、あの時の御者のおっちゃんじゃねえか!御者のおっちゃんの後ろには、どこか騒がしさを感じるが活気を感じさせる騒がしさで、何か作業をしているのだろう、時折男の声が響く。

 

 震える声で御者のおっちゃんが口を開いた。

 

「レイグの兄ちゃんにダリアの嬢ちゃんか···?」

 

「久しぶりって程でも無いけど、久しぶりだなおっちゃん」

 

「久しぶりですギョシャさん」

 

 おっちゃんに返事を返すと、おっちゃんは深呼吸をし

始めた、少し落ち着いたのか笑みを浮かべて「おう!」と返してくれた。

 

 「遊びに来てくれたのか」と聞かれたので依頼による遠征だから、本当に顔出ししか出来ないと伝える。

 

 おっちゃんは残念そうにしていたが気を取り直すように頭を振った。

 

「何はともあれ、来てくれただけでも嬉しいさ、所で彼女は?」

 

「ああ、新しい仲間でおっちゃんと別れた後でパーティーに入ってくれたんだ」

 

 そこでようやくカーラに気付いたのか、カーラを見ながら尋ねてきたので、俺が先に答えてからカーラにバトンを渡す。

 

 カーラは幾らか緊張した面持ちで「カーラ·ヴァネスティラ、よろしく」と答え、よろしくな!と気持ち良く答えてくれたおっちゃんに幾らか緊張が解れたのか真一文字に結んでいた口を緩めた。

 

「随分と見違えたんじゃないか?」

 

「だろ?あんたらが帰った後さ、まず何をやるかって皆で意見出しあってさ、まぁ勿論作物作りはいつも以上に頑張って、魔物避けとか考えたりしてさ!

 

 

──っとまぁ、まずは中に入ってくれよ!」

 

 とおっちゃんの案内で俺達はリデア村に再び入った。

 

 まず目に入ったのは、農作物の手入れをしている子供や女性、老人だった。ちゃんと水やり等の管理が行き届いているのか土は水をしっかり染み込ませて変色しており、出来ている野菜の葉は瑞々しい。

 

 手入れと言ってもやることは細かい草むしりや、害虫の駆除など、地味な作業ばかりだと言うのに皆笑顔を浮かべている。

 

 以前のリデア村ならまず見られない光景だ。

 

「───あれは?」

 

 カーラが「良い雰囲気の村だね」と和やかに言っているのを聞き俺も「あぁ」と味気ない返事しか返せないでいると、ダリアが何か気になる何かを見つけたのかそちらの方を指差していた。

 

 俺とカーラも気になりそちらを見ると、村の端の方にあるスペースに生えているそこそこの大きさの木に、長い物干し棒が何本かを引っ掛けてそれを外塀に打ち込まれている受け材に載せ紐で固定してある。

 

 そしてその物干し棒には、毛皮が干されていた。見たことのある灰色の毛並みに俺は思い当たった名前を口にしていた。

 

「この毛皮、フォレストウルフの···?」

 

「そうじゃよレイグ殿、ダリア殿」

 

 まさかあの森に置き去りにした死骸全部を?なんて呆然としている俺とダリア、それに毛並みの良さを見て関心しているカーラにおっちゃんとは別の声がかかった。

 

 聞き覚えのある声に振り向くと、村長が立っていた。以前来た時とは違い、腰も曲がっておらず全てを諦めていたような目は爛々と歓迎の光を帯びていた。

 

 イキイキとしたその変わりように俺とダリアが再び固まってる間にカーラが自己紹介をして村長と握手をかわしていた。

 

 村長はそんな俺達にニヤリと悪戯を思い付いたような顔をして農作業をしている人達に向けて口元を両手で囲うような形を造り。

 

「え、ちょ───」

 

「作業は中止じゃあ!英雄御一行がおいでなすったぞぉ!!」

 

「ちょっと!?」

 

 何で俺の周りは、こうも叫ぶ奴が多いんだ!!

 

 

ーーーーーーーー

 

 その後俺達は案の定、村の人達に囲まれた、矢継ぎ早に送られてくる言葉に苦笑いを溢す、ダリアも同じような状況で目を回している。

 

「元気にしてたかい?」

 

「こっち見なって!」

 

「またかっこ良くなったんじゃない?」

 

「どう?うちの娘とか」

 

「この後、私とどうだい?」

 

「誰だ今レイグ様誘惑した奴!?」

 

 気付けば混沌と化していた状況、カーラとおっちゃんと村長は少し離れた所でこちらを助けるでも無く見ているだけだし。

 

 カーラに至ってはさっきから目を逸らされてる。

 

「ほれ、皆そう囲んで揉みくちゃにしていたら英雄殿が休めんぞ?」

 

 パンパンと小気味良く音を響かせて、一旦その場を収める村長、名残惜しそうにしながらも俺とダリアから離れていく村の人達。

 

 村長としてのカリスマを十全に発揮する村長をダリア共に睨むが、ニコニコと見返すのみ、いつの間にこんな強かになったんだこの人····

 

「ホッホ、皆、レイグ殿達は依頼のついででこの村に立ち寄ってくれたようでな、長居は出来ないそうじゃ」

 

 村長がそう言うと残念がる答えが返ってくるが、皆あっさりと引き下がっていく。

 

 その後農作業に戻っていく村の人達を見届け、その後門番の仕事に戻るおっちゃんと別れてから俺達は軽くではあるが村長に村のなかを案内して貰う事にした。

 

 基本的に建物等が変わった様子は無いし、何か新しく建っている建物も無い、森から伐採したのか均一の長さで丸太が纏まって置いてある保管場所が増えたぐらいだ、それでも大きな変化であり大きな進歩だと村長は言った。

 

 しかもつい昨日の事であるが、小規模ながら商人がこの村に興味を引かれ立ち寄ったのだと言う。

 

 そこで目を付けたのがフォレストウルフの毛皮である、綺麗に剥ぎ取られていて、血や汚れなども綺麗に洗い流されており状態も良かったらしく、その日は物々交換ではあるが剣や槍などの武器を貰ったらしい。

 

 村の男達は修練場的な広場で、思い思いに貰った武器を手に取り振るっていたり、体を鍛えたりしていた。

 

 練度は決して高いとは言えない、寧ろ元々が戦闘とは無縁の生活を送っていたからか型も何もない酷いものだった。

 

 しかし、ただ強くなりたい、その一心で武器を振るい拳を放ち、時に蹴りを飛ばす姿は拙いながらも何故か目を引くものがあった。

 

 大人の男達が鍛練するなか、何とレンが中に混じっているのを確認した、剣では無く木で造られた柄の無い剣を振るっていた。

 

 ダリアがレンに気付いたのか手を振ろうとしていたが、それを手で制す。

 

 何度も振るったのだろう、良くは見えないが剣だこは出来ているし、指の皮が向けているのか赤い染みみたいな物が木の剣に付いているし、握る手は小刻みに震えスルッと何度か手から離れかける場面があるもののその都度握り直している。

 

 一度は諦めたクソガキ(レン)が、たった10日程目を話していた間に、あれほどの気迫を出して、必死な顔をするようになったことがどうしようもなく嬉しかった。

 

 ダリアは最初どこか不満そうに俺を見ていたが俺の様子を見て何かを悟ったのだろうか、微笑みを浮かべていた、恥ずかしいからこっちを見ないでください、あ、カーラお前もか。

 

 村長も何かを悟ったように、何も言わずにその場をゆっくり離れ始めた、何かカッケェなおい。

 

 ダリアとカーラがそれに続いていく中、俺も着いていく。

 

 

 

 

 

 

 レン、次会うとき「真剣同士」、稽古を付けてやるよ

 

 

ーーーーーーーー

 

「村長、案内ありがとう」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとう」

 

「いやいや、仕方ないとは言え大したもてなしが出来なかったことが恥ずかしいわい」

 

 村を見回った俺達は再び出口まで来ていた。

 

 礼を言うも村長は申し訳なさそうに、恥ずかしそうに後頭部を掻きながら苦笑いした。

 

「寧ろ、カーラ殿には謝罪をしたい」

 

「え?」

 

 俺も謝っておこう、ごめんカーラ、別にふざけている訳ではない。

 

 元々、ここの村は閉鎖的な村だ、一度は関わった俺とダリアならともかく、初めて来たカーラに対してどういう対応をするのかは明白だった。

 

 別に彼等を責めるつもりは無い悪気は無いのだろうし、でもカーラが明らかに浮いてしまっているのは分かっていた筈だし。フォローぐらい出来る筈だった。

 

「別に気にしていないから大丈夫·····それに村の人達は私のことも気にしてくれていた」

 

 え?

 

「何回か目もあってるし、気まずそうに逸らされてたけど、不快感とかは感じなかったし寧ろ申し訳なさを感じた、だから気にする必要は無い

 

 

 

それに、私はレイグさんとダリアがどんなことをしたのかが知れて嬉しいの、村の人達が2人を見る目が私にとって凄く誇らしいんだ、だから礼を言うのは私」

 

 見守っていた御者のおっちゃんも俺もダリアも、村長も唖然としたようにカーラを見ていた。

 

 次第にむず痒くなってきた俺は「また来るわ」とだけ言って出口を潜っていく。

 

 その際口角を吊り上げニヤニヤしていたおっちゃんが「愛されてるね」とからかってきたのでデコピンをして沈めた俺は悪くない!

 

  





ギョシャ「ぅぐわああああああああああ!?」


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43話的な話

#前回のあらすじ


 カリスマ村長


 ──これは·······

 

 どこか既視感を感じる夢を見ている。

 

 以前にも見たことがある夢、全く知らない村の風景なのにその場に集まった人達は俺の知っている人達だった。

 

 前はまるで絵本の様にそのシーンが流れていたのに対して今回はその光景が変わることは無かった、まるで「見せつけられる」ように。

 

 その光景を見ていると、焦燥に駆られ、苛立ちは募り、寂寥感に体が震え、「誰にも分かって貰えない」辛さが増していく。

 

 まるで見に覚えの無い不快感の波に飲まれたような悪寒に苛まれている時に、ふと、見ていた光景が変わった。

 

 ──何処かの部屋の中····まぁ状況的に俺の部屋の中か·····しっかしもやしっ子みたいな部屋だなおい

 

 

 部屋の中は何も無かった、あったのは机らしき台の上にある、少し草臥れ(くたび)た題名も作者名も何も書いていない一冊の本だった。気になるが部屋の中にいる俺は一行にそっちに行こうとしないため見ることは叶わないが。

 

 部屋の中にいる俺は、今の俺とそう変わらないように見えた。

 

 ベッドにうつ伏せで寝ており、その顔はまるで虚無を表したような顔をしていた、かと思えば苦渋に喘ぐ顔をしてみたり、歯を食い縛り激情に耐えるような顔をしていた、やがて奴は口を開いた。

 

『皆には分からないんだ、アリスが知らないところに行ってしまった事に、勇者の所に行ってしまった事の意味が分からないんだ』

 

 酷く、酷い苛立ちが俺を襲い、酷い吐き気が俺を襲った、自分とは全くの別人と割り切ってるとはいえ、これ程にまで弱々しい声をしていたのか。

 

『くそっ、くそっ』

 

 苛立ち気にボフっと何度もベッドを殴り付ける奴は見ていてかなり無様で滑稽だった。

 

『だいたいアリスもアリスだ!あんな軽薄な奴と楽しそうに·····!他の女を2人も侍らせてる奴だぞ!くそっ!』

 

 ────は?

 

 俺がコイツの部屋に居ないことが酷く悔やまれた、手血が出る程強く握り混んでいて、夢の中なのに痛みすら感じた。

 

 地団駄が止まらない、今すぐコイツの顔面を原型が無くなる程に殴りたい。

 

 コイツマジで今何て言った!?

 

 段々思い出して来た、奴の断片的な過去(あのときの夢)あの糞野郎(勇者)の笑み、そして今の奴(馬鹿野郎)のこの姿。

 

 

 産まれた場所が違うとか、環境が違うとか関係無い、コイツ何もしてねぇ、小さい頃、アリスと別れた後も、数年経って勇者達が村にやって来た時も。

 

 もう手が届かないって勝手に決めた癖、諦め切れていないのに何もしない、そりゃ周りも怒り始めるさ。

 

『ふざけないでよ!』

 

『!?』

 

 ──!?

 

 部屋に響く女の子の声、次いで黒いショートヘアに黒曜石を思わせるような光を放つ黒い瞳、身内贔屓を抜いても端正なその顔立ちの女の子が扉をバンっと開けて部屋に押し入ってきた。

 

 記憶の中にある「妹」の姿を数年成長させたような姿に感動を覚えるより、やはりと言うべきか全然違う性格に複雑な想いを浮かべてしまう。

 

 

 ネア·アーバス、いつも目尻は優しげに垂れていて、俺を見守るように優しく微笑みをニコニコと浮かべていた妹が、部屋の中に入ってきた彼女は目尻を見たこと無い程にまで釣り上げ、その目に冷たさを纏わせ奴を睨んでいた。

 

『な、何だよネア!いつも勝手に部屋に入ってくるなって───』

 

『──お兄ちゃん、いつまでそうやってウジウジしてるのよ、パパとママは放っとけって言ってるけどもう我慢出来ない!家に引きこもってばかりで、生気の無いゾンビみたいな顔で一日ただ過ごして!』

 

『ね、ネアには関係無いだろ!?』

 

『そうやって心は凄く怒ってるのに、悔しがってるのに、「あの女」を言い訳にして逃げてるじゃない!格好悪いよ!?』

 

 ぐぅの音もでない奴が、起き上がりネアの近くまで駆け寄り右手を振り上げた、がどう見ても見せかけだった、まるで怯えさせて謝罪を望むかのように手を振りかぶる素振りを何回かしている。

 

 ネアはそんな奴の姿を見て、ギリッと歯を食い縛り憤怒の表情を浮かべた。

 

『そんなに悔しいなら!年下の!それも妹にここまで言われてるのよ!?こけおどし何かじゃなく叩けば良いじゃない!今のお兄ちゃんにそんなことされても腹が立つだけだわ!』

 

 奴はネアのあまりの剣幕にタジタジになり、視線を合わせないように目を逸らし始めた。

 

 ぼそぼそと「俺は悪くない」だの「お前に俺の気持ちは分からない」だの「本当は俺だって」だの言い訳染みた言葉を並べ始めた。

 

 一気に怒鳴ったからだろうか、乱れてしまった息を整えながらネアは憤怒に染め上げた顔を、悲しげに染めた、目尻には涙が溜まり決して見せないように俯いて喋り出す。

 

 

『悔しいんでしょ?大好きなあの女があんなスカした男に盗られたみたいで、仲間にも馬鹿にされて、だったら追いかけるなりすれば良いじゃない、今からでも遅くないんだよ?ちゃんと鍛えて───』

 

『──ああ、分かったよ出てってやるよ!くそっ!』

 

『な、何でそうなるのよ!?』

 

 諭すような震える口調でゆっくり話していたネアの言葉を遮るように、奴が逆ギレし始めた、引き出しから硬貨と思わしき音を鳴らす小袋を懐に入れる

 

 そして、部屋から出ようと足を運ぶ。

 

 その様子にネアはいよいよ持って焦り、入り口に立ち塞がった、話を聞いて貰う為に、奴を落ち着かせるために口を開いた。

 

『待って!ちゃんと話を聞いて!』

 

『お前が追いかけろって言ったんだろ!?要するに僕みたいなクズは出てけって事だろ!?どけよ!出てってやるから!どけよ!』

 

『──っ痛──』

 

 あろうことか、奴はネアの肩を掴み、退かそうと力を籠めたのだろう、ネアの端正な顔が痛みに歪むのが見えた。

 

 奴もやるせなさと羞恥心と怒りの感情て周りが見えていないのか、ネアのそんな様子も気にせず更に力を籠めようとして。

 

 ネアの後ろから伸びてきた拳に殴り飛ばされた。情けない悲鳴を挙げた奴は床に倒れ、殴られた頬を押さえながら呆然とネアを見上げた。

 

 ──親····父······

 

 

 正確には後ろにいた親父を、だが、どうしようもない奴を見る目で倒れた奴を見下していた、その目に親が子に向ける暖かみも何も無く、ただ冷たい目で見るだけだった。

 

 夢の中だと言うのに、胸が苦しくなった、脳内に靄がかかり煩わしさに意味もなく歯を食い縛るなどして、原因が分からない苛立ちを抑えようとする。

 

 ネアも殴られた奴と親父を交互に見ており、その目に困惑が広がっていくのと、「どうしよう」と動揺する様が分かるほど焦っていた。

 

 親父の脇には、作ったような能面顔で奴を見下ろす母さんが立っている。

 

 ──母さん····

 

 そうか、そうだよな、ネアが「そうだったんだ」、そりゃ親父も母さんも「違う」よな。

 

 親父が奴に何かを言う様も、それを聞いてネアが悲痛に顔を染める素振りを見せても、やはり母さんが能面顔で奴を見下ろしていても、奴が何かに耐えられなくなったのか、親父が懐から取り出した小袋を何の疑いもせずに奪い取り、家から出ていく様を見ても俺がそれ以上感情の波を荒たてる事は無かった。

 

 

 

 

 親父はこんなに露骨に厳しい人じゃない、普段はかなり温厚で人を殴った所なんて聞いたことが無い。しかし怒る時は笑みを浮かべて逃げ場を失くすように責めてくる。

 

 母さんがこう言った場面で大人しくしている筈がない、ああいった場面では寧ろ進んで殴り飛ばしてきた。そしてその後に慰めるように諭してくれるのだ。

 

 ──分かっていた、分かっていたさ

 

 気付けば辺りは真っ暗に染まっており、辺りは何もない、ネアも親父も母さんもいなくなっており、「一人ぼっち」の俺がそこに残った。

 

 襲いかかって来ていた、寂寥感や不快感などの悪感情は感じなくなっており、変わりに自分が産み出した感情に呑まれかけていた。

 

 この夢を見て分かった事は、奴は糞ヘタレ野郎って言う事と、俺が本当の意味で一人ぼっちだったって事だ。

 

 ──世界はこんなに広いのにな

 

 その事実と再びぶつかり、生じたのは何処かに穴がぽっかり空いたような虚無感、体が冷たくなったかのように震える体。

 

 ──え?

 

 

 その時、右手に僅かな暖かみが灯った、とても強く優しい暖かみ、それはじわじわと広がっていき。

 

 同時に意識が浮上する感覚を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忘れないで

 

 何処か懐かしく、切ない響きのある声を耳に強く残して。

 

 

ーーーーーーーー

 

「────っ!?」

 

 時刻は夜だろうか、俺は簡易テントの中で目を覚ました、先程の夢の余韻を残しつつ深呼吸を数度繰り返す。

 

 簡易テントの中から、恐らくカーラであるシルエットが焚き火の灯りによって浮かび上がり、パチッパチッと音を立てている。

 

「そっか、カルム村に辿りつくまえに暗くなったから野宿してたんだっけな」

 

 リデア村を発った俺達はその後スムーズに旅路を進め、順調にカルム村へ距離を縮めていた。

 

 しかしそこから、距離を詰める度に俺が頭痛や悪感情に苛まれると言う意味不明な状況になってしまい、進行に集中できなくなり、休みを入れてそのまま野宿、と言う話になりダリアとカーラにテントに無理矢理押し込まれたのだ。

 

「───あ····」

 

 そこで右手に暖かみを感じた、あの夢から俺を救いだしてくれた暖かみ、そちらを向くとダリアが俺の手を握ったまま、俺と並ぶように横に寝ていた。

 

 すぐ側に水と無くなりかけている氷が入った桶を見つけ、更に額には既に常温になっている折り畳まれた布に今更気付いた。

 

 「別に病人じゃないぞ」と苦笑して、ダリアの頭を撫でてしまう。

 

「──ありがとうダリア、俺を夢から助けてくれて」

 

「───あ」

 

「へぇ?」

 

 そこで目をパッチリ開けたダリアと目があい思わず間の抜けた声が漏れてしまった、あら相変わらず綺麗なオメメをしてるのね↑

 

 ダリアは頭を撫でている俺の手を見て、分かりやすい程顔を真っ赤にして、震え始めた。

 

 しまっ、離れないと──ってちょっとこの子足を俺の腰に絡ませてるんですけど!?力強いね!?後柔らかいね!?

 

 

「んに"ゃぁああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 夢の中で感じていた孤独感や虚無感は綺麗さっぱり吹き飛んでいた。

 

 

ーーーーーーー

 

 その後、テントに駆け込んで来たカーラが混ざろうとしたのを必死に抵抗して、未だに赤い顔から回復していないダリアと共に、3人で焚き火を囲った。

 

 俺は夢の内容を2人に語った。

 

 カルム村がこの体の前任者の故郷だと言うこと、アリスの事、勇者達の事、そして全く別人であるネアや両親の事、俺が孤独感を感じてしまったこと。

 

 一切話を遮らず、最期まで長々と俺の話を聞いてくれた2人は俺に怒った。

 

「レイグ様がどう思っていようと、私は貴方から離れる気はありません、何なら元の世界にだって着いていきます!」

 

「ふざけないで」

 

 あまりの怒りようにタジタジになった俺は謝り倒して、許しを得た。

 

 情けない?はっ!言ってろ!

 

 変に意地張って2人を無くすほうが俺は嫌だね!いつの間にか大きくなっている2人の存在に驚きながらも、俺は許してくれた事に胸を撫で下ろした。

 

 カーラが小枝を焚き火に放り込みながら聞いてきた。

 

「カルム村に寄るのは、止めておく?」

 

「······そう、だな···」

 

 中身が違くても、一応両親には顔を合わせて安心させてやりたいが、今合わせるのはさっきの事もあるし。どことなく気まずいのでそのまま通る事にした。

 

 ダリアとカーラら俺の様子に、薄く笑って頷いた。

 

 明日もあるので、今度は俺が火の番を名乗り出て、ダリアとカーラが休息をとることにした。

 

 気が緩んでいたのだろう、自分を慕ってくれる2人との信頼関係が深まった事が嬉しかったのだろう。

 

 近付いていた気配に全く気付けていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────お兄ちゃん?」

 

 




そろそろ主人公達のステータス載せてこうかな?


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『でもやっぱり』


#前回のあらすじ


 妹 が あ ら わ れ た!


 

 カルム村はリデア村程ではないにしても、閉鎖思考に傾いている村だ、閉鎖的といっても商人だって迎え入れるし、ある程度の外部との連携はとれる。

 

 だが村から他の村や街等に移住したり、等と考えるものは居なかった。

 

 それに今となっては、勇者パーティーに在籍している「賢者アリス」の故郷として、ヴァリエン王国からの加護のもと、騎士団の一部が村に常駐している為、尚更安全圏から出ようとするものは皆無だった。

 

 村長含め村民全員、騎士団が入れば大丈夫だと、農業をしたり、店を営んだり思い思いに過ごしている。

 

 

「ネア!重心が崩れているぞ!」

 

「っはい!」

 

 

 今や騎士団の演習場と化している、村の外れにある広場で最低限の装備を纏い、騎士団の装いをした男から振り下ろされた剣を模した木剣を同じく木剣で受け止めている少女を除けば、であるが。

 

 カァン!と木同士がぶつかったような音を響かせて、僅かに姿勢を歪ませた少女に、相手をしている騎士団の隊長格である男が叱責を送る。

 

 少女─ネア·アーバスは、押し込んでくる騎士団の木剣を苦悶の表情で耐え、相手の力が更に篭るタイミングを見て、素早い動きで後ろに下がった。

 

「お?」

 

 体重を預ける対象が居なくなり、隊長は呆けた顔で前傾姿勢になってしまう、その様子を「とった」と確信してネアは再び素早い動きで一度は引いた距離を瞬時に木剣を振りかぶった状態で詰めた。

 

 結果は当たり前の様に姿勢を戻した隊長によって木剣が振り払われ、そのまま首に突き付けられる形で終わったが。

 

 悔しそうに「降参です」と木剣を落とし、両手を上げたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

「最近のネア凄いねぇ」

 

「ありがとうございます」

 

 次の模擬演習が行われている中、ネアは用意されていた水筒を飲み、水分を補給しながら休憩していた所、他の騎士団の隊員の女性に誉められる。

 

 ネアが騎士団に入ったのが、レイグがこの村を出ていく2ヶ月程前頃であるため、8ヶ月程前である。

 

 騎士団に入隊した訳では無く、書類上の手続き?何それ状態であり、騎士学校を出ている訳でも無いので仮ではあるが、ネアはいずれ入ろうと強く願っている。

 

「一時期は暫く沈んでいたからね~」

 

「そ、その節はすいませんでした····」

 

 入って2ヶ月、急遽とは言え騎士団に仮で入れて貰えたネアは新人で戦闘経験どころか、武器を持ったことの無い素人故に未だに筋トレしかさせて貰えなかった時期があった頃、ちょうどレイグが村から出て行った時期である。

 

 自分の所為で出ていってしまったと感じた罪悪感と、寧ろ出ていくように促した両親に対する絶望感で不安定になることがあり、分かりやすく言えば引きこもったのである。

 

 何でモンスターが闊歩する外に兄を追い出したのか、兄が死んでも良いのか、その不信感が芽生えてしまったのだ。

 

 結局、一週間程経ってから見かねた父がレイグに持たせた道具袋に魔除けの草を認《したた》めていたらしく、またその効能の高さを説かれ、更にはレイグには「全て」と戦う力を身に付けて欲しいが故の追放、と頭を下げ説明されたネアはすんなりと立ち直ったのだが。

 

 

────おっせぇよ!心がぶっ壊れる一歩手前だわっ!

 

 

等と、現在村一番の美少女と名高き少女が放つとは思えない罵声に父は卒倒して、母は白目を剥いたが。

 

 

「(本当に隊長には感謝だわ)」

 

 普通の騎士団ならとっくにクビを切られているし、出来上がった関係は木っ端微塵に粉々になっていただろう、恐る恐る戻ってきたネアに「まだ休んでるかと思ったぞ?」と不敵に笑った顔を見た時は、一目憚らず泣き、隊長は暫く女性隊員から冷たい目で見られる事になった。

 

 今となっては良い思い出である。

 

 そんな感じで復帰したネアは、再び訓練に身を入れるようになり、今では他の隊員随伴ではあるが夜の警邏や外回りの巡回に参加させて貰える事が出来た。

 

 そんな日々に、一定の期間でやってくる商人がある情報を持ち込んだ、そしてその情報がネアの最近のやる気に繋がっている

 

「(お兄ちゃん······)」

 

 「ストルの街に、恐ろしく強い新人が現れた」と言う情報、詳しく聞いたところ、半年程前に冒険者登録した黒髪の少年らしく、ずっと評価の低い冒険者として有名だったが、つい最近、仲間を連れて至急印クエストで暫定Bランク難易度のクエストを見事クリアしたらしい。

 

 この話題は騎士団でも盛り上がっているらしく、ストル近くのダンジョンでの生態系の調査に派遣されている、同じく騎士団員からも似たような特徴の少年が少し前にダンジョンで凄い成果を残した、という連絡があったらしい。

 

 ──間違いなくお兄ちゃんだ!

 

 至急印クエストとか、Bランクとか田舎者であるネアにはあんまり分からなかったが、兄が認めて貰えている事実に浮き足だった。

 

 私も負けてらんない、とばかりに今まで以上に鍛練に力を入れたのである。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 辺りを漆黒が包み込み、遠くからは獣の遠吠えが薄ら聞こえ始める時間帯、ネアはとうとう一人で外の巡回を任せて貰える事が出来た。

 

 幾つかの注意事項を受けたネアは、最低限の警戒と緊張を胸に、森へと入っていった。

 

「───ふう、ここら辺は異常無し、と····」

 

 村の周りを徘徊していたゴブリン等の魔物を斬り捨て、鞘にパチンと剣を納めたネアは若干の高揚感を落ち着かせる為、浅く深呼吸をした。

 

 今日は何かが起きそうだ、そんな予感が朝からネアにはあった、良いことなのか悪いことなのかは分からない、でも嫌な予感では無いのは確かだった。

 

 お兄ちゃん、今何してるかな

 

 初めての一人での巡回、今までの成果が表れている結果に抑えきれない高揚感故に周りが見えていなかったのだろう。

 

「しまった····」

 

 気付けばネアは村から大分離れてしまった所まで来ていた。

 

 道に出て振り返っても間違いなく肉眼では見えないし、松明でしか照らせない視界の先に広がる暗闇の世界に緊張が高まる。

 

 何分棒立ちしていただろうか、緊張は不安に、そして静かすぎる周囲に感じる不気味さ、背中に走る冷たい何かを振り払うように、ネアは来ていた道を戻ろうとして。

 

「ッヒ!?」

 

 松明で照らし出した視界の端に巨大な何かを発見した。

 

 それは熊だった、普通の熊では無い、体長4m近くはある巨大な熊、ネアには分からないが「狂熊」(クレイジーベア)と呼ばれるそいつはネアには途轍もない化け物に見えた。

 

 恐怖で動けないネアは、全く動けなかったが、全く動きを見せない熊に疑問を覚えた。

 

「·······?」

 

 身動ぎひとつしない熊に怪しむ素振りを見せたネアは松明を熊全体に照らすように動かし、よく見えるように数歩近づく。

 

「!?」

 

 熊は死んでいた、恐らく心臓があるであろう場所を一突き、傷の付き方から見て明らかに刺突系統の武器だった。

 

 それも見るからに一撃である、暴れた様子も何も無い。

 

 助かった、と言う安心感より、凄い!と言う興奮が勝った、これ程の熊、騎士団でも対応できるのは体長ぐらいだろう、自分では腕を振るった風圧に吹き飛ばされて終わりそうな気がする。

 

 少し余裕が出てきたネアは、熊を観察するように見た後、再び村に戻ろうとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んに"ゃぁああああああああああああああああ!!!!!」

 

「!?」

 

 突如として、森に響き渡った悲鳴により身を強張らせた、次いで顔を険しくする。

 

 声がした方、右手の森を見る。

 

 何かが争う音も、モンスターの息遣いも聞こえてこない、あんな悲鳴が起きたとは思えない程の静けさにネアは顔つきを不安に染める。

 

 確かこの先は小川が流れていた筈····と現状の把握をしながら、そちらへと足を進めた。

 

 仮だけど自分は今は騎士団員の一人だ、危ない目にあっている人を見捨てるなんて出来ない、しかし出来るならば何も起こらないで欲しい。

 

 そんな若干尻込みしたような様子で森を進むネア、しっかり松明で前方を照らしながら、時に辺りを照らして進んでいく。

 

 悲鳴にしてはどこか間の抜けたような悲鳴だったなと思いつつ声を頼りに5分程、歩を進める

 

 やがて小さくガサッと草木を揺らして、小川がある道へと出た、辺りを見渡すと焚き火が見えて、近くにはテントが見え、3人の人影が見えた。

 

 人がいることに安心感を覚え、見たところ荒事が起きた訳でも無いと分かってホッと胸を撫で下ろした。

 

「(冒険者、かな?一応挨拶はしておこうかな、もしかしたらお兄ちゃんの事とか聞けるかも知れな───」

 

 そんな期待を持ちながら歩き、近付いていくネア、女性が2人、こちらに背を向けている男性が一人の用立て、しかもその男性の後ろ姿に見覚えがある気がした。

 

 もしかして!もしかして!

 

 段々近付いていく過程でその姿は見覚えがあるどころじゃ無いことを悟った。

 

「お兄ちゃん?」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「記憶喪失····」

 

 焚き火を囲む人数が3人から4人に増えた今日この頃、突然の妹来訪に冷静に対処したダリアとカーラと少し沈んだ様子を見せるネアを視界に収めつつレイグは

 

「(なんでぇ?何でここにいるの?今糞夜中だぞ!?何?この世界の親父と母さんって放任主義なの!?馬鹿なの!?え?てかてかネアが来ているプレートメイルって明らかにどっかの騎士団の物だよな!?何?そんな「らしい」エンブレム何か付けちゃって!危ない事はこのお兄ちゃんが許しませんよ!ええ!ネアの入団を認めた奴見つけてどつきまわしたらぁ!)」

 

 状況の判断が出来ているのか出来ていないのか分からない程に困惑していた。

 

「····本当に分からない?」

 

 以前にもミランダに向けられた視線がレイグを射抜いた。嘘を吐き、しかも性格は違えど前の世界では死に別れてしまった妹が目の前にいるのだ。複雑な感情を抱けどおくびにも出さずに「ああ」と答えた。

 

 ネアはやはり傷付いた表情をしたが、でも「変わり無いようで安心したよ!」と笑顔で言った。

 

「記憶を失う前の俺ってどんなんだったんだ?」

 

 とにかく間を持たせよう、とレイグが普段通りを装ってネアに話し掛けた。

 

 前任者の事を聞いて、辻褄合わせをしたい等の打算が含まれた質問。

 

「お兄ちゃん!」

 

「はいぃぃ!?」

 

 その質問を聞いた瞬間、クワッと目を見開いたネアがレイグに詰めより肩を握ってきた。

 

 いきなりの展開にダリアとカーラも何事!?と驚きを顕にしている。

 

 ネアはレイグの目を覗きこんで、口を開いた。

 

 

「お兄ちゃんはね、自分の事を「俺」じゃなくて「僕」って言うんだよ?ほら僕って言って?、小さい事かも知れないけど、切っ掛けになるかもしれないし、ほら言ってみよ?さんはい!」

 

「え、ちょ、ちょっと······」

 

「さんはい!」

 

 

 

 

 

 

「ぼ、ぼくぅ······レイグぅ·····」

 

 まるで蚊が鳴くようなレイグの声にネアの後ろで静かに吹き出すダリアとカーラを見てレイグは「誰か俺を殺してくれ」と死んだ目で願うのだった。

 

 ネアはそんな兄の痴態に満足したように頷き、しかしやはり変わらない様子のレイグに悲しげに眉を潜めながら、無理矢理笑って会話を繋げた。

 

 まるで、何かを埋めるように。

 

「──────」

 

 レイグにはその何かを埋めることは出来ない、してはいけない、ネアがそれを求める相手は目の前にいるレイグではないからだ。

 

 話を聞いていたダリア達も、僅かに痛ましそうな顔でネアを見つめていた。

 

「ほ、ほら、次だよお兄ちゃん、お兄ちゃん昔はね····?」

 

「ネア」

 

 嬉しそうに笑う(悲しい顔で泣く)妹の頭に手を置いてゆっくり撫でてやる、レイグが前の世界でぐずるネアにそうしてやったように。

 

 ネアはレイグの手を払うでも無く、その手に触れ呟くように「どこにも行かないで」と言った。

 

 やはり無理だと思った、自分の知っている妹じゃないにしても、他人の様に振る舞うなど出来る筈がなかった、しかも前の世界では愛しい妹が、会えないと思っていた妹が成長した姿で目の前にいるのだ。

 

「──ちゃんと、記憶を戻してやるからな」

 

 待っててくれ、絶対に、例え成仏していたとしても、地獄にでも、何処にでも行って奴の魂引きずりだしてやるから、その時はお前の知っている俺になってる筈だから

 

 そう想いを込めて言うと、ネアは一瞬の逡巡の後、「約束だよ?」と言ってレイグの小指と自分の小指を絡めた。

 

 針千本は飲みたくないな、と苦笑したレイグにネアは「その苦笑い似合わないよ」と苦言を呈した後、緊張の糸が切れたように眠りに付いてしまった。

 

 騎士団員が業務中に寝るなよ、と微笑むレイグをダリアとカーラは優しく見守っていた。

 

 

 

 





心の中のアリスさんに質問です。

アリス「··········」

Qレイグが一人称を「僕」と言うことに何か感じましたか?

アリス「エグい」

レイグ「───」ガタッ


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44話的な話


#前回のあらすじ


ネアは美少女(大事ry


 

 空は未だ宵闇の名残を残してはいるが、確かに夜が明け始め、黎明なる空が支配し始める時間帯。レイグ一行は未だに目が覚めないネアを抱き抱え、カルム村の入り口まで来ていた。

 

 入り口に近付けば近付く程に、どこか物々しい雰囲気の甲冑を見に包んだ集団が入り口に集まっているのが分かった。

 

 雰囲気は重く、皆何処か焦燥を感じさせる様子で逸るような様子で、少し毛色が違う同じ甲冑を身に纏っている男性に集中している。

 

「っ!ネア!?」

 

「貴様、何者だ!?」

 

 そこに空気を読まずに騎士団の部下をレイグが抱き抱えたまま近付けば、当たり前の様に顔を憤怒に染め上げ一斉に抜刀した。

 

 流石に体が強張るダリアとカーラを尻目にレイグは隊長格と思われる男の元へと歩みを進めた。

 

 真っ直ぐ歩いてくるレイグの顔が隊長にはどう映ったのだろうか、片手を水平に掲げそれを部下達に向けた。

 

 即ち「待て」の合図。

 

 僅かに動揺した様子を見せる騎士団を尻目に隊長もレイグに歩みより、そのままネアを受け取った。

 

「妹をあんまり叱らないでやってくれ」

 

「·····もう行くのかい?」

 

「あぁ、今の俺じゃ一緒にいても無駄だからな」

 

 渡された部下とどこか似たような顔でそう言ったレイグに不動の意を汲んだ隊長は、それでもレイグの言葉に違和感を感じながらも「部下を連れてきてくれてありがとう」と言った。

 

 レイグは騎士団に謝罪を受けた事に目をパチクリさせたがふと苦笑を溢して「気にすんな」と返した。

 

 

 

 

「隊長、良いんですか?今の人、ネアの兄貴なんじゃ」

 

「まぁそうなんだが····仮に引き留めても多分止まらないよ、此方が騎士団としての圧力をかけてもな」

 

 村を通り過ぎて去っていくレイグ達の後ろ姿を見ながら動揺が抜けきらない部下の質問に思ったことを伝える隊長。

 

 今は打倒魔王という共通の敵がいるため各国共同前線を張っては要るが、前は戦場で、数える程でしか無いが見たことはある「あの目」、ある者は愛国心故に、ある者は己の正義故に、ある者は部下達を逃す為の殿を務める為に。

 

 例え、数で、実力で此方が上をいっても手強さを感じたあの目を、意味合いは違うがレイグにも感じたのだ、

それ程の慧眼を隊長は持っていた───同時に。

 

 

「(何だありゃ···冗談だろ?あれが半年前に冒険者登録したばかりの奴が出せる風格か?少なくとも今「3回」は死んだぞ)」

 

 自分と相手との実力差を計れる程の目をも持っている自信があった。今のレイグとの短いやり取り、隊長はレイグに襲い掛かるイメージをした、言葉通り三回

 

 近付いた瞬間、話している最中、此方に背を向けた瞬間、結果全滅する未来を幻視してしまった。

 

 以前聞いたことのある、レイグ·アーバスの評価に思いを馳せるが「やはり噂なんて当てにならんな」と辛口評価を下した後、部下を伴って再び村の中へと入っていった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 カサブの街にある一番有名な宿、そこに街の最高権力者であり「公爵家」の肩書きを持った貴族の善意により無償で宿泊している勇者パーティーの一員である「賢者」アリスは、まだ日が上ったばかりの時間帯に何故か食堂に一人で座っていた。

 

 その表情は何処か疲れていた。

 

 サラサラと流れるような綺麗で幼馴染みに毎日褒められていた自慢の金色の髪を掬うように持ち、再び溜め息。

 

 こんな事している場合じゃないのに······

 

 折角見つけた魔王の部下である魔人は結局口を割れずに倒してしまったし。

 

 また振り出しに戻ってしまった旅に憂鬱になってしまう。別にアリスは勇者達が嫌いな訳では無い、寧ろ人として一部以外、好感を持っている。

 

 リリアンは可愛らしく、人懐っこい性格で癒されるし、リサはちょっと真面目が強くはあるが頼りになる、

アレックスは女性である自分達に対して失礼の無いような紳士的な対応をしてくれてるし。

 

「(文句があるどころか理想的なパーティーな筈なんだけど····)」

 

 まだ全然営業開始まで時間があるのに、気を遣い女将が用意してくれたホットミルクティーを一口飲み、僅かにささくれだった心を落ち着かせる。

 

 勇者であるアレックスは3日程前から公爵家にお呼ばれしている、何でも娘がアレックスを気に入ってしまったらしく、挨拶も兼ねて、である。

 

 しかもそれにリサとリリアンも着いていってしまったのだ、2人が勇者にゾッコンなのはアリスも周りも知っている事実だ。 

 

 アレックスは来るもの拒まずな所があるのか知らないが、毎晩自分の部屋に複数人の女性を連れ込むのは辞めて欲しい、本当に

 

 「たまたま」隣の部屋になった自分を気遣って欲しいものだわ、そう内心愚痴を吐露するアリスは徐に冒険者カードを取りだし「ステータス」と呟いた。

 

 最近スキルが変化したのだ、何の効果も無く完全なお飾りスキルだったのにかなりの変貌に戸惑い、まだ周囲には言っていない。

 

 このスキルが出てきてくれたお蔭で、前まで「変に思っていた」自分の体が、かなりスッキリした状態になっている、今みたいな精神的疲労では無いが身体的な疲労や違和感が無く寧ろ好調だった。

 

 そしてこのスキルの名前を見ると何故か心が落ち着くのだ。

 

「(まぁ、変わりに変な夢も見るようになったけど)んんー!今どうしてるかな、レイグ!」

 

 近くに故郷があるのにと、若干不満に思いながらアリスは体を伸ばしながら大切な幼馴染みの名前を意味も無く口に出してみた。

 

 気付けば何時も通り落ち着いていた心にやっぱり不思議に思いながらも冒険者カードに軽く口付けを落とす。何処か艶めかしいリップ音を残しながら「今日はクエストでも受けようかな」と上機嫌になりながら。

 

 

 

アリス·ローダン 16Lv55

 

 

攻 1520

 

防 1600

 

魔攻 8000

 

魔防 6800

 

早 2000

 

知 3900

 

スキル

 

賢者の器

 

#魔攻、魔防のステータスに成長補正大

 

#現存する魔法の詠唱破棄

 

#敵対特効(敵意や害意を向けた相手に対してのみ、魔法の威力が二倍になる)

 

「器」のお墨付き(器が満たされた為、スキル名を変更、効果を追加)

 

#無し

 

 ↓

 

「大成」のお墨付き(new)

 

#呪い、状態異常等のバットステータスを反転する

 

#全ステータスに成長補正(弱)

 

 

 似たような名前のスキルを女神から貰っていた幼馴染みを再び思い出して。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「おらよっ」

 

『ブモオォォォオ!?』

 

 レイグに向けて振るわれた牛鬼(ミノタウロス)の丸太程の太さはある腕、その手に握られた乾いた血で赤く染まった戦斧が力づくでレイグを叩き割ろうと殺意に染まるが。

 

 レイグはその攻撃を半歩左にずれてかわし、お返しにその鼻っ柱を蹴り砕いた。

 

 悲鳴をあげながら鼻を押さえ、パニックになる牛鬼の首筋に今日何回目か分からない会心の一振りを見舞う。

 

『──────』

 

 呆気なく首を落としたレイグは、どさっと倒れこんだ首の無い牛鬼を尻目に剣を鞘に収めて背後に振り返った。

 

振り返ったレイグをダリアとカーラが労りの言葉を送ろうと駆け寄──

 

「いやぁ!君やっぱり凄いネ!もう全員揃ってウチで護衛やっちゃいなよぉ!」

 

「───」

 

「───」

 

 ろうとしてどこか胡散臭い装いの男がレイグの両腕を握りしめた男に思いっきり邪魔された。

 

 目から感情を失ったような無機質な目を男に送る2人だが、男は全然気にした様子も無く媚びたような笑みを、レイグやダリア達にまで向けていた。

 

 申し訳なさそうな「護衛」の視線にレイグは思わず天を仰いだ。

 

 何でこうなったんだろ、とレイグは内心深い溜め息を吐きながら目の前で笑顔で話し続ける商人の男を見るのであった。

 

 ネアを送り届けたレイグ達は、そのまま出発して森に挟まれた道を抜け、平野が続く道に出た、後は真っ直ぐ進めば「カサブの街」ヘ辿り着く筈たったのだが····

 

 そこでフォレストウルフの群れに襲われている商人の馬車が目に映ったのだ、護衛らしき人が3人程いるのだが、新米なのかチームバランスも取れておらず、完全に弄ばれていた。

 

 すかさず助太刀したレイグ達、数自体は15匹と大した数では無かったのであっさりと終わったが、商人と護衛らしき人らから感謝される際「金は払うから、カサブまで向かう予定なので、道中護衛に付いて欲しい」と言ってきた。

 

 「目的地が一緒だから構わない」と言ったレイグに喜びの表情を浮かべる商人の男。

 

 それからは、商人や護衛の人達と雑談をしながら周囲には気を配っていたレイグ達、案の定と言うべきか何回かモンスターの襲撃が合った。

 

 それを退けている内に段々とレイグ達を見る目が明らかに変わっている事に気付いていたレイグではあったが、どうせこの場限りの付き合いだろうと、高を括っていたが、とうとう先程みたいな直接的な勧誘となってしまったのだ。

 

 因みに先程から倒しているモンスターの残骸は護衛の人達が商人の指示で商人の持ち物である収納箱に入れられていた、レイグやダリアが倒したモンスターは状態が良いらしく、追加で買い取らせて欲しいと言われた。

 

 レイグはニコニコしながら、商人が操る荷馬車につまれた箱を見て、静かに眉を潜めた。

 

 

 

 実は商人はレイグ達の事を知っていた。と言っても噂で聞き齧った程度ではあるが、こうして会ったのは本当に偶然だが、その実力が本物と分かるや否や、レイグ達を欲した。

 

 護衛と言うよりは専属的な冒険者になって欲しいのだ。

 

 契約によって商会や企業専属になると、何よりも専属先の依頼を優先しなければいけない、勿論他からの指名依頼を寄越すことも出きるが、その場合は専属先の商会か企業、滅多に聞かないが個人を通す必要があるし、「紹介料」を支払わなければならない。

 

 頭角を表し始めて、割りと注目されている新人、未だにその全容を疑う者も要るが、商人の目には間違いなくレイグ達が金のなる木に見えるのだろう。

 

 商人の追求をのらりくらりかわしながら、レイグ達はとうとうカサブの街に着いた。

 

 十数mはあるだろう、石積の壁がカサブの広大な街を囲むように聳えたっていた。

 

「おや、レイグ殿達はカサブは初めてかい?」

 

「あ、あぁ····話には聴いていたけど····」

 

「はい····」

 

「私はあ─私も無い」

 

 慌ててレイグ達に合わせようと言い直すカーラに、レイグや護衛の人達が優しい笑みを送る、ダリアは唐突に姉を怒鳴り回したくなった。

 

 検問を終えて、中に入ったレイグ達、商人達に礼を言われ報酬も貰った後カサブの街を取り敢えず散策してみた。

 

 中は「ストルの街」と同じく活気に溢れていた、訪れている商人達もかなり見かける上、一般人もかなり賑わっているように見えた····見えたのだが

 

「活気があると言うより····何か浮かれているような感じだな」

 

 ストルのギルドでも似たような感じの浮かれ方をしていたような、理由は何だったか?

 

「ヴァリエンの勇者パーティーによる魔人討伐と、未だ滞在中だからですネェ、まぁそれも国からの指示という

噂ですけどネ····まぁ憧れや注目されている存在が近くにいればこうもなるでしょうネェ」

 

「貴方まだいたんですか!?」

 

 レイグの呟きに答えたのは先程まで護衛した商人の男だった、ダリアが三角眼になり威嚇して、カーラがダリアの後ろから中指を立てている。

 

 2人に苦笑を溢すレイグは、「今度は何のようだ?」と聞いた。

 

「いえ~、やっぱりウチと契約してくれないかなぁって」

 

 レイグはその言葉に微笑んで、商人に歩み寄った。何も感じさせない微笑みでどこか魅力があり、また、形容できないナニカを感じさせる笑みでもあった。

 

 レイグは商人の耳元に顔を寄せて口を開いた。

 

 

 

 

「そんなに専属契約がしたいんなら、まずはその筋から足を洗うことだな」

 

 顔を青くし、凍り付く商人を置いてレイグはダリアとカーラを連れて、カサブの冒険者ギルドヘと歩を進めるのだった。

 




レイグ·アーバス16Lv27



功 2440(+2400)

防 2000(+2400)

早 2380(+2400)

魔功 2100(+2400)

魔防 2000(+2400)

知 1500(+2400)

skill


大成の器(異界の英雄レイグ·アーバス)
 
#常時発動しています。 

#補正、レベルアップ時、全ステータスに+100


????(new

#上記スキルの派生スキル(スキル所持者の任意発動 

翻訳

#現存する言葉全てを翻訳可能

無詠唱❬中❭

#中級魔法迄なら詠唱を破棄。

(スキル効果の成長可)


ブースト

#瞬間的なステータス向上

 

ーーーーーーーー

 

ダリア·ミルス 17 Lv30



功1400

防 1300

早 950

魔功 4650(+1000)new

魔防 3300 

知 1700

skill

黒魔導(上)new
 

#魔法攻撃力に常時+1000、成長補正:中(下記スキルと連動) 

#魔法防御力に成長補正(下記スキルと連動)


大成のお墨付き

#呪い、状態異常等のバットステータスを反転する

#全ステータスに成長補正(弱)


ーーーーーー
 

カーラ·ヴァネスティラ16Lv25 

女 

功 2750

防 2300

早 2200

魔功 400

魔防 400

知 1200
 

skill


《解放された心得》

 仲間思い《絆》

 所有者の仲間が居る限り、レベルアップ時、ステータスアップ補正

#竜殺しの心得(変化可)

 竜種に対してのみ発動、発動中使用者が怒りに弱くなる。

 物理ステータス(功、防、早)+10000+α(増加する怒りに反して変動)、又、スキル所持者のステータスに若干の成長補正付与


 特殊技法「ドラゴンスレイヤー」

 使うと竜は死ぬ


《未解放の心得》

・〇〇

 ??????

 



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45話的な話


サブタイに言葉を足した方が分かりやすいですかね?


 

「「魔薬」、ですか?」

 

 「カサブの街」の中で、石造りの階段を登りながらダリアが前を歩くレイグに聞いた、頷くレイグの渋い顔と先程の商人の反応を見るにロクなモノでは無いだろうと当たりをつける。

 

  登りきった先に見えた通路を歩きながら、街の案内地図を見ながらレイグが「まぁ、普通に出回るモノではないからな」とダリアとカーラの顔を見て言った。

 

 「魔薬」、名前からして不吉極まりないがその効能も酷いものである。

 

 そしてその効果は「モンスターをおびき寄せる」と言う「際限が無い」ものだった、匂いがするわけでも、空気に晒したら奇っ怪な音を発する訳でも無い、ただそこにあるだけでモンスターを何処からともなく呼び寄せるのだ。

 

 「魔薬」の製造方は至極簡単、「テンタリオン」と言うモンスターの生き血を一定量以上溜めて、魔力を一定量以上注ぐだけだ。

 

 「テンタリオン」と言うのは、火山地帯等に生息地を持つ蟻地獄のような見た目のモンスターである。

 

 不思議な事に、このモンスターを討伐すると、その血を求めて、同じ昆虫種のモンスターや赤蜥蜴(レッドリザード)等の爬虫類種が集まって来る上に、普通に討伐した場合と、魔法で討伐した場合で集まる数が違う。

 

 と言うのがレイグが前いた世界での「魔薬」の生成方である。一般的とは言えないが、知っている奴はわりと知っていた。

 

 この世界でも同じなのかは分からないが、でもあの商人の反応と魔物か襲いかかる頻度、「必ず荷馬車を狙って」襲ってくると言う事実から、「魔薬」と似たような物を扱っている可能性は高い。

 

 「魔薬」が使われている主な用途を思いだし、関わる事は無いだろうが、用心するに越したことは無い、そうダリア達に伝えるレイグに頷いて理解を示すダリアとカーラ。

 

 口元に笑みを浮かべ、頷き返したレイグはそこで改めて街を見渡し、感心の声を上げた。

 

 ストルの街のように入り口から奥まで一本道の大通りから木の枝分かれのように小路が広がっている訳では無く、「カサブの街」は入り口から奥にかけて、登るような造りをしている、大通りはちゃんとあるのだが、真っ直ぐでは無く、所々右に曲がったり左に曲がったりしているのだ。

 

「何か面白い街ですね」

 

「面倒臭い造りではあるけどな」

 

 同じ事を思っていたダリアの言葉にレイグは苦笑して返した。

 

「地図だとそろそろ···」

 

 レイグが持つ地図を横から覗き見て、位置を確認するカーラ、カーラが見やすい様に止まり3人でもう一度見る。

 

 地図を確認した3人は目の前の階段を登り始めた。後ろから新人冒険者パーティーなのか、元気が良く、そわそわしている4人程の集団が追い越して行くのを微笑ましく感じ。

 

 階段を登りきると、だだっ広い空間が広がっており、一番奥にギルドらしき大きな建造物が建っており、冒険者らしき人が出入りしているが、時間帯も昼に差し掛かっているからかその数は少なく、広い空間には左右に立派な噴水広場があり、その周辺に冒険者がいれば、一般人だろうか、子連れの夫婦がいたり、子供同士が遊んでいたりしていた。

 

 ストルとはまた、違った活気の良さに感心するレイグ達、先程の新米冒険者達の様子と良い·····

 

「ストルとは違うだろう?」

 

「あぁ、何と言うか平和だな」

 

「皮肉にもとれる誉め言葉だね····」

 

 いつの間にか隣にいた痩身の男に声をかけられ、ダリアとカーラはギョッと痩身の男を見るが、レイグは当たり前に答えた事に男は感心とも呆れともとれる複雑な声を出した。

 

 レイグは改めて隣に立つ、長身で痩身の男を視る、荒々しい言葉では無く、寧ろ聞く人を安心させるような声音だった男はレイグの視線に寧ろ興味深そうな目を向けた。

 

 格好は如何にも「一般人です」とばかりな服装であり、身長は180後半はあり、痩身と称するように細い、しかしその優しげな声音に相反するように目は爬虫類のように細められレイグの相貌を見つめていた。

 

 不意にダリアとカーラがレイグの背後に回り込み隠れ·····たと言うより何かを守るかのような目で痩身の男を睨み付けていた。

 

 そんな様子の2人に訝しげだったレイグだが、その意図を察したのか顔を青褪めさせてバッと痩身の男を見た。

 

「違うから

 

 これ程ないじっとりとした目に、カーラが「ホモじゃないの?」と問いかけ速攻で頷いた男の態度に安心したようにダリアとアイコンタクトを取り頷き合い、再びレイグの隣に並んだ。

 

 何で絡んだこっちが疲れるんだ····と内心頭を抱えながら痩身の男──カサブのギルドマスターは目の前にいる黒髪の少年の察知能力に舌を巻いていた。

 

 カサブのギルドマスターは気配を消すスキルに秀でており、冒険者時代は珍しい暗殺タイプの冒険者で有名だったりする。

 

 ギルドマスターに任命されてからも、もともと悪戯好きという性格もあってか冒険者に絡み、一般人に絡むと言うかなり面倒臭い性格をしているが、わりと受け入れられている。

 

 そんな中、勇者パーティーの話で勢いは殺されているが、それでも噂にはなっている冒険者パーティーがカサブに来たとの連絡に彼の悪戯心が刺激され、早速見つけて尾行したのだが。

 

「(まさか、最初から気付かれているとはね)」

 

 最初に見つけ、距離を取って見始めた時から目の前の少年が時折何かを探すような仕草をしていた意味がわかったカサブのギルマスは乾いた笑いが漏れるのを自覚した。

 

「んで?わざわざ尾行していた奴が人目が在るところに、しかも監視の目があるギルドの前で姿を見せるってことは、アンタそれなりの立場の人間何だろ?何のようなんだ?」

 

「(頭もキレるらしい)」

 

 レイグの冷徹なまでの慧眼にわざとらしく両手を挙げて「降参」と言った。

 

 ギルドから感じていた視線が驚愕に変わった事にレイグは目の前の痩身の男が自分の予想通り只者では無いことに溜め息を吐いた。

 

 疲れたように溜め息を吐いたレイグを興味深い目を向けていたカサブのギルマスだがやがて、演説をするように両手を広げにこやかに笑った。

 

 

 

「ようこそ!カサブの冒険者ギルドへ!有望な冒険者である君達を我がギルド及びギルドマスターである僕「ヨウキ·ヤー」は歓迎するよ!」

 

「あー!まま!ぎるますがまたへんなことしてるよ?」

 

「あれはお仕事してるだけだから邪魔しちゃ駄目よ?」

 

「わかったー!じゃあミミおうえんするぅ!ままもいっしょ!」

 

「ふふ、しょうがないわねぇ」

 

 

 

「「がんばって~!」」

 

 全身が氷に包まれたような冷たさを体中に感じながらカサブのギルマス─ヨウキは応援してくれた親子に向かって梅干しを10個ぐらい噛み締め咀嚼したような顔で無理矢理笑顔を造り手を振り返した。

 

 ぶふっ、と何かを堪えきれずに吹き出したような声がすぐ側から聞こえて、震える顔でそちらを見るヨウキ。

 

 勿論吹き出したのはレイグであり、ダリアとカーラは生暖かい目でヨウキを見守るように見ていた。

 

 その視線が次第に周りにいる他の冒険者や家族、休憩中の商人から向けられ始めたのを感じて顔に熱が集まっていく。

 

 ヨウキが顔を隠すのとギルドに駆け込むのが同時だった。

 

 

ーーーーーーーーー

 

「マッ──ストルのギルマスからの?」

 

 ヨウキがギルドに逃げ込んだあとに、ヨウキが自らギルマスと言っていたのを思いだし、慌ててその後を追いかけたレイグ達は。不貞腐れたギルマスを宥めるという、ある意味レアな体験をした後、ギルマスに渡すよう頼まれていた便箋を懐から取り出した。

 

 頷いたレイグを尻目に「失礼」とだけ言って、便箋を開き中から一通の紙を取り出しその場で目を通し始めた。

 

「ん?」

 

「レイグ様?」

 

「あぁいや、「お帰りなすった」みたいだ」

 

「?」

 

 ヨウキが小難しい顔で手紙を黙読している中、レイグは何となく街の気配を探ってみた、勇者パーティーが滞在していると聞いた時からレイグは考えていた。

 

 この世界のアリスを見れば、何かが変わるんじゃないか?それは別にレイグ本来の目的に関係すらしていない、曖昧な感情だった。

 

 あの瞬間、最後まで想い続けた彼女がもし中身は違い性格まで違ったとしても。

 

 もし、隣にいるのが「奴」()じゃなくて違う奴だったとしても、それでアリスが幸せなら、幸せそうな顔をしていたら、「違う世界のアリス」でもあの太陽のような笑顔を見れたのなら。

 

 そう思って気配を探ったのだが、引っ掛かったのは彼女以外の勇者パーティーだった。

 

 今もこのギルドに向かって来ている辺り、何か依頼でも受けていたのだろうか、それにしても何故アリスがいないんだろうか?

 

 アリスは元気なんだろうか?

 

「────」

 

 やはり無理だ、とレイグは結論を出した。例え違う世界のアリスだとしても、その隣に「奴」がいない未来なんて考えられない。

 

 例えどれだけ愚かで滑稽で最低な「奴」でも、夢の中の「奴」がアリスに向けた感情は本物だった。

 

 ·······恋のキューピット何てガラじゃないんだが。

 

 「追加」された目的にうんざりしたレイグ、しかしその顔は僅かな苦悩の末、幾分か晴れやかだった。

 

 ふと視線が向いている事に気付き、横を見るとダリアとカーラがレイグをじぃっと見ていた。

 

 レイグが何かを吹っ切れたのを表情で悟ったのか、2人顔を見合わせて笑っている、気恥ずかしくなったレイグは2人を視界から外すように手紙に目を通すヨウキへと視線を向ける。

 

 ヨウキはどこか険がある顔付きをしていて、未だに手紙に目を通してる。

 

 ヨウキはレイグ達の視線に気付いたのか慌てて申し訳無さそうな顔で苦笑いを浮かべた。

 

「すまないね、3人とも、大したもてなしも出来ずに······そういえばこの後は?帰るのかい?」

 

「気にしないでくれ、いきなり来た身としては申し訳無くは思ってるんだ、時間も時間だしな今日は泊まって行こうって思ってる」

 

「うん、分かった僕が懇意にしている友人がやってる宿屋があってな、声を掛けとくよ、夕方頃、受付には話を通しておくから手間をかけるけどもう一度くるといい」

 

 部屋の中の壁に付けられた時計を見ながらヨウキが言った。

 

 午後の一時を短針が刺しかけている所を見ると、昼食を取っていない事を認識したからか、空腹が3人を訴えかける。

 

 ヨウキは笑って「僕は大丈夫だから行っておいで」と恥ずかしそうにしているダリアとカーラ、そしてレイグに話しかけた。

 

 ヨウキの発言を受け入れたダリア達が頷き、ヨウキに頭を下げて部屋を退出する、レイグもそれに習って低頭してダリア達を追いかけて行こうとして「レイグ」とヨウキに呼び止められた。

 

「?」

 

「───いや、すまない何でもないよ」

 

 レイグが訝しむような目になるが、笑みを崩さないヨウキの顔を見て苦笑いを溢して「分かったよ」と言ってダリア達を追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、何であのバカはヴァリエン国じゃなくて僕にこういう情報を持ってくるんだ」

 

 渡された手紙に向けて、誰も居なくなった部屋にヨウキの呟いた言葉がむなしく響いた。

 

 

 ──元気してるか?

 

 

 そんな気が抜けたようなメッセージから始まり中々な情報が書き殴られている。

 

 勇者パーティーが倒した魔人が一般兵レベル?勇者パーティーが本気じゃないにしても全滅仕掛けたって言ってたぞ?

 

 幹部らしき魔人が竜種を殺せる程の蜥蜴王(キングリザード)の強化を施した?しかもその魔人にギルドに侵入されてましてや何も出来なかった?おいおい現状勇者様より遥かに強いお前が何も出来ないって···しかも何だよ····

 

 その竜種を殺せる程の蜥蜴王を倒したのがレイグ達のパーティーで、しかもその幹部がレイグ達をターゲットにしているかも知れないから、もしそっちで何かあったら気を付けてくれって·····

 

 

 

 

 

 

 

 何なんだよ「大成の器について調べてみてくれ」って

 





憑依物語(どうでもいい)豆知識

ヨウキ·ヤー

ヨウキヤー

ようきやー

陽キャ


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46話『勇者と大成』


サブタイトルに文字を付け足してみました

どうですかね?


あと、今日は長いですm(_ _)m


「·······何かしら?」

 

 時刻は午後3時を過ぎた頃、気分良くカサブの街近隣での討伐クエストを終えたアリスは中々の上機嫌で街へと帰ってきた。

 

 鼻歌を口ずさみながら、スキップを踏むような足取りで歩いている姿は整った顔立ちに映えるような綺麗な金髪に周囲の視線を次々に集めていく。

 

 女性や少女はどこか頬を染めてアリスを視線で追いかけており、その瞳には憧憬や羨望が含まれており、男性もアリスが行く先々にいる男全てがだらしなく顔を緩めてその場に立ち止まりアリスを見つめ続けている。

 

 中には妻やら、恋人を隣に置いている男もおり脇腹をどつかれたり、靴を踏まれたり、怒鳴り散らされたりとプチ修羅場を起こしたりしていた。

 

 上機嫌な理由はアリス本人にも良く分かっていない、朝クエストに向かうために街を降りている途中に果物屋のおばちゃんからサービスに果物を貰ったからという訳でもないし、クエストが過去最速で終わったからでもない。

 

 上機嫌だけど理由は分からない、そんな彼女がギルドに向かうために街中を歩いていると、彼女の耳が僅かな騒々しさを拾った。

 

 剣呑な雰囲気は無く、どこか興奮を含んだような騒々しさはアリスが歩いた道の先の広場から伝わってきて、周囲から何名かが騒ぎの中心であるその広場に向かおうとアリスを抜き去っていく。

 

「ちょっと良い?」

 

 興味が出てきたアリスは同じく隣を抜き去ろうとしていた、女性を呼び止めた。

 

「あ、け、賢者様!?こ、こんにちは!」

 

 呼び止められた女性は訝しげな視線をアリスに向けたが、アリスだと気付くと興奮したかのように顔を真っ赤にして挨拶をした。

 

 未だに慣れない有名人扱いにアリスは苦笑いを溢し、興奮冷めやらない女性を落ち着かせようと宥めた。

 

 「この先で何があったの?」と聞くと、女性が僅かに戸惑いを浮かべ、逡巡する様子を浮かべた。気まずそうな顔をしたまま女性は「勇者様が冒険者と喧嘩をしている」と思わず吹き出しそうになる程の事を言った。

 

 

「(勘弁してよぉ·····)」

 

 その言葉を聞くや否や、突然走り出したアリスに「賢者様!?」と驚いたような声が後ろから声がかかるが、アリスに構っている余裕など無く、どこか悲鳴染みた愚痴が内心に染みていく。

 

 半年間、勇者に言い続けている「悪い癖」が分かっていても治っていない事に溜め息を吐きたくなる。

 

 「勇者が冒険者と喧嘩して、あまつさえ冒険者を撃ち据える」、世界を救うために活動している勇者パーティーとしてかなり外聞が悪いこの事態は頻繁に起きこそしないが、今現在聞いたことによりその回数を4回に増やしかけていた。

 

 原因は女性関係、良くある相手の恋人を奪った、と言うあれである、毎回相手の冒険者然り一般人然りアレックスに対して恋人を奪われた、と言って襲いかかってくる。

 

 何より厄介なのはアレックスが何もしていないのに対して、「何故か」相手側の恋人がアレックスに惚れてしまい「不貞行為」を働いてしまうと言うのが一番の原因なのである。

 

 そしてアレックスは勇者である、レベルも高くスキルの特性でレベルの上がりも早い、ステータスも高い、 そこらの冒険者が太刀打ち出来る相手では無いのである。

 

 当然返り討ちにしたアレックスは必ず、何かを相手に言って事態を収めているが、その後の相手を見ると悲惨である。

 

 当然、破局して、「世界を救うために活動をしている勇者に喧嘩を売った馬鹿野郎」として周囲から白い目で見られてしまい。こちらを糾弾する気力すら無いほどに憔悴した顔をしていた。

 

 仲間であるリサやリリアンも相手をフォローする事無く、寧ろ「恩知らず」等と追い討ちをかける始末。

 

 3人に隠れて、必死に慰めた苦い記憶がアリスの脳内を過った「逸らないでよ」と焦る気持ち、そして焦る気持ちに相反するような。

 

 ───早く、早くあの場所へ!(早く彼に合わせて)

 

 何故か胸の内に沸き立つ高鳴る鼓動と共に家や店に挟まれた大通りを駆けていく。

 

 近付くにつれ大きくなっていく喧騒、そしてアリスが

喧騒の中心である広場に出ると同時に「アレックス!」と怒鳴ろうとして。

 

「ぐわああああああああああああああああ!!!」

 

 聖剣を振り下ろした状態で呆然としているアレックス、歓声を上げる周囲の住民、惚れ惚れした上気したような赤い顔でアレックスを見つめるリサとリリアン、若干演技かかったような悲鳴を上げる相手をジトッとした目で見ている2人の整った顔をした同い年であろう少女2人に。

 

 

 

 

 

 

「───────え」

 

 叫び声を上げている相手の男──少年が大切な幼馴染みであるレイグだということにアリスは呆けたような声と共に頭が真っ白になった。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 俺は実はこの世界で重要な役割を持っているのかも知れない。

 

 

 

 

 そんな阿呆な事を思った事を許して欲しい、自己陶酔してるわけでも自意識過剰になったわけでも無いんだ、そもそもこんな事を思ったのも、たった今だからね。

 

 俺はね?そりゃあいずれは奴らとどこかで鉢合わせる事になるとは思っていたよ。

 

 現状魔族の幹部らしき奴を探す過程で、「魔王討伐」を掲げて旅してる勇者パーティーと動きが被る可能性は高いからね。

 

 でも今じゃないじゃん?ギルマスからカサブのギルマスへの依頼は終わったけど、依頼先(しかもギルマス)のお膝元で奴らと会うのは俺の精神衛生上よろしく無いわけなの。

 

 奴らの俺に対する態度は一度見ている、とるに足らない存在とでも見下げ果ててくれて、忘れてくれてれば良いが、あいつからアリスを引き離した時の勇者の嗜虐的なゲスな笑みを思い出すと覚えているだろう。

 

 だからね、カサブのギルマスの所にいて気配を拾った時にはね、余計なトラブルに成りかねないし、多分俺は勇者に「屈せない」、この世界の勇者がどの程度強いかは知らんが全力で抵抗してしまうだろう。

 

 変に暴れて勇者パーティーの評判を落としてやろう、とは思ったが。アリスにも迷惑かけたくないし、カーラの冒険者ランクの昇格を近くにして問題事は起こしたく無かった。

 

 そう思って気配が通る場所から多少離れた位置で飯屋を探して入ったというのに

 

「久しぶりだな?えっと····誰だったかな?アリスの腰巾着の·····」

 

「確かレイグ、だった筈だ、あのアリスの幼馴染みとは思えない程に腑抜けた奴だったから嫌でも覚えてしまった」

 

「私も覚えてますよ?と言うよりもアレックスさん以外の男以外覚える気もなかったのに、アリスさんをこの人から離す時のこの人の泣き顔が印象的過ぎて覚えてしまったって感じですけどね」

 

 飯を食べ終えて、店から出た俺達に当たり前のように声をかけて、息を吸うように俺の悪口を言った彼らに対して自分は「重要な役割を持っているのかもと」思ってしまうのは仕方なくないですかね?ですよね(狂

 

 周囲が勇者達の姿に沸き立つ中、ダリアとカーラが不安そうに俺の裾を掴むのが分かった、どうやら俺の心配をしてくれているようだ。

 

 2人に振り返って安心させるように小さく笑みを浮かべる。

 

「おい、貴様!アレックスが話しかけたと言うのに無視とは何だ!生意気な!」

 

 うっそぉ!?この女(多分剣聖)話し掛けて来て3秒でメンチ切ってんだけど!?おい勇者てめぇ「まぁまぁ」とか宥めてるけど口元笑ってんの見えてんだかんな?

 

 うわ、こいつダリア達になんつー目向けてやがる·····

 

 俺が背後に2人を隠すように前にゆっくり立つ。

 

 勇者がそれに眉をピクリと潜めたがその前に口を開く。

 

「久しぶりですね勇者様、元気ですか?元気ですね!私も元気です!幼馴染みは居ないようですが元気ですか?元気ですね!あなた達の事は知りませんが益々の健闘を祈りますのでさっさと魔王を倒してくださいさようなら」

 

 馬鹿じゃないの俺!アホなんじゃないの俺!?何で軽い社交辞令で済ませば良いのに、こんな煽り文句いれてんの!?

 

「~~~っ」

 

「っ!───」

 

 

 ダリアとカーラはもう少し我慢して?馬鹿な事をしたのは謝るからまだ笑わないで。

 

 俺の余りにもふざけた挨拶のせいか、にやけていた勇者の端正な顔が無表情になっていた。

 

 いや、早まらないでくれ、こんな返しをしてしまったのは元と言えばお前らが俺と奴に悪印象を与えてしまったが故だと、つまり全てお前らが悪い!今ならダリア達に向けた視線の事も流してやるから、ね?

 

 

「──ふん、負け犬の遠吠えかな?まぁ安心しなよ?お前の幼馴染みとは仲良くさせて貰ってるよ」

 

「そうだな、アリスも貴様みたいな腰抜けよりも我々と共にいた方が幸せそうだ」

 

 無表情だった顔が次第に嗜虐的な笑みに歪んでいって、勝ち誇ったように俺を見ながら言ってくる。

 

 いや、ふざけた挨拶した俺が言うのも何だがお前らもマトモな挨拶できてないかんね?もっかい勉強やり直してこい、あ、俺もか。

 

 それにしても負け犬?·····いやまぁ確かにそうなるのか······?

 

「しかしその格好、もしかしてお前冒険者やってるのか?」

 

「·····えぇ、まぁ」

 

 質問されたので答えてやると、急に笑いだした。腹を抱えて勇者が笑い、赤髪の女と銀髪の女はクスクスと笑いを堪えている。

 

 すごいな、人目が在るところでこんな狂ったように笑えるなんて、周りも勇者達の変貌に困惑しているのだろう。どこか不安そうな顔をしている。

 

「そこの可愛い女の子2人、お名前を窺っても良いかな?」

 

 狂ったような笑みを引っ込めて落ち着いたのか、まるで俺は眼中に無いと言わんばかりに俺から視線をずらして、俺の後ろにいるダリアとカーラに目を合わせるようにして綺麗な笑みを浮かべて名前を聞いてきた。

 

 いや、挨拶はしないんかい

 

 思わず呆れた目を浮かべるが、慌てて無表情を作る、取り敢えずコイツらに俺達への興味を失って貰わないと。

 

 そう思って、2人の前から横にずれる、俺と同じ無表情を浮かべたダリアとカーラが俺の横に並び「ダリア·ミルス」「カーラ·ヴァネスティラ」と淡々と答えた。

 

 勇者パーティーへの態度·····強いて言えば勇者への態度が気に食わないのであろう、赤髪の女と銀髪の女は2人を睨んでいた。

 

 勇者はよっぽど自分に自信があったのだろうか、酷く驚いた、もっと言えば酷く狼狽したようすでダリア達を見ていた。

 

「あの、アレックスさんが話し掛けて下さっているのにその反応は人としてどうなんでしょうか?」

 

「そうだ、貴様らアレックスの「寵愛」を無碍にする気か?」

 

 我慢できなかったのか、苦言を呈した2人······「寵愛」?

 

 俺が赤髪の発言の意図を考えようとする暇もなく勇者パーティーの赤髪の女が鼻で笑い見下すようにダリアとカーラを見た。

 

「ハッ、そんな腰抜けの雑魚と組んで底辺冒険者で終わってるような女だ、マトモな反応を期待する方が酷かな?」

 

「まぁ、そうですね、そもそもそんな常識を求めた私達が悪かったようですね?すいません」

 

「あ?」

 

「は?」

 

「あ?」

 

 思わずそんな汚い声が漏れるが、向こうは嗤ったままだダリアとカーラが震えているのが分かる。

 

「·····まあ、俺達も魔王討伐の旅で忙しいからな、お前みたいな雑魚に、どこにでもいそうなレベルの低い女2人なんか相手にしている暇は無いんだわ」

 

 止めと言わんばかりに、「仕方ないか」と小さく呟いた勇者が常識をあの世に置いていったような発言で続いた。

 

 ───────────

 

 

 

 ────────

 

 

 決めた、コイツらここで懲らしめてやると

 

 要は表だった面倒を起こさなければ良いんだろ?最終的に「丸く」収まってれば良いんだろ?やってやるよダリアとカーラをここまで侮辱したんだ。

 

「黙れよ暇人」

 

「何?」

 

「何が「暇は無い」、だよ?魔王の手下倒したんだろ?まさか情報も得られずに只倒してノウノウとこの街に居座っている訳じゃないだろうな?しかも一週間前の話しなのに、お前勇者様なんだろ?本当に魔王討伐する気あんの?」

 

 まさか俺が口答えすると思ってもいなかったのか勇者も赤髪の女も銀髪の女も同じく呆けた顔を晒して口を半開きにしてフリーズしている。

 

 ダリアとカーラがポカンと俺を見てくるが気にせず「それにな」と更に続ける。

 

「レベルが低いとか底辺とか、ろくに自己挨拶も出来ねぇで一方的な会話しか出来ない奴が何をほざく?会話のキャッチボールってのも全く分からねえのか、一辺母ちゃんの腹の中からやり直してこいや、お?」

 

 勇者達が、ようやく自分達が責められている、と言う事実に顔を怒りに歪め震え始める。

 

 銀髪の女に魔力が集まるが、まるで何かに掻き混ぜられたかのように四散した。唖然としている顔が笑いを誘う。

 

 隣でダリアが何かをしたのか親指を立ててサムズアップしている、頼もしい限りだ。

 

「何がアリスと仲良くやってるだよ?どうせアリスに同行を断られたんだろ?何振られた事実を隠してんの?ダサいよ?あ!その整ったでキメ顔で誘ったのに断られたの?まぁ(俺の知ってる)アリスは下心見え見えの誘いには乗らないからねぇ!ごめんねぇ?素直過ぎてぇ」

 

「黙れ」

 

「黙れはこっちの台詞だよ、こちとら大切な幼馴染み騙られて、大事な仲間を侮辱されてんだよ」

 

「·······ここで斬っても良いんだぞ?」

 

 そう言って腰に差した鞘から、光を纏った剣をスラリと抜き放った勇者、その表情は図星だったのか怒りに歪みきっており聖剣を持つ手は震えていた。

 

 赤髪の女も腰の豪華な造りの鞘から剣を抜こうとしていたが、驚いたようにカーラを睨み付けていた。

 

 睨み付けられているカーラはカーラで澄まし顔で赤髪の女を見返している、ダリア、カーラ、悪いがここは俺に預けてくれ。

 

 そう思って勇者への返事として俺は直剣を勇者同様スラリと抜いた。

 

 抜いた剣を肩に担ぎ、勇者達が歩いてきた方向に繋がる広場へ歩きだす。

 

 意図を察したのか、赤髪と銀髪の女を宥めながら再び嗜虐的な笑みを浮かべて俺達の後に付いてくる。

 

 背後に突き刺さる視線を感じながら、隣に並び立つ2人にまず勝手な事をしてしまった事を謝った。

 

「ダリア、カーラ、ごめん、我慢できなかった」

 

「良いですよ謝罪は、レイグ様が怒ってなかったらあの人達の顔を人前に出れないようにしようと思ってましたから」

 

「私も、多分顔に後三つは穴を空けようかなって考えてた」

 

「あ"、ありがとう······」

 

 笑顔で間髪いれずに返ってきた2人の回答に内心「マジで良かった、俺怒って良かった!」と叫んだ。

 

 こうして騒ぎになった俺と勇者の諍いは周囲に伝染していって。

 

 カサブのギルド前にあるような広さの広場には数分後、ギャラリーが完成していた。住民や冒険者、中にはギルド職員らしき人までが集まり広場の外周に広がり中心が空くように円を作っている状態だ。

 

 どうやら民衆的には「冒険者が勇者に対する嫉妬心が暴走して勇者に一騎討ちを挑んだ」という事になっているらしい。

 

 騒がしいまでの喧騒の中、やたらと呆れたような、同情するような、励ますようなそんな視線が集まってくる訳だよな·····

 

 態々、ギャラリーが集まるまで待っていたのか、幾分か落ち着いた様子を顔に浮かべた勇者がにやけた顔で問いかけてきた。

 

「悪いが俺は怒っているからな、今更引き返せないぞ?」

 

「良いからかかってこいよ、勇者だろ?敵相手に態々そんな下らない問答してんの?そんなんで勝てる程甘いのか?」

 

「────────」

 

 本当にそんな感じ、今の勇者、前の世界の俺だったら何回切り捨てていたか。

 

 にべもなく煽り文句を挟むと勇者は目を見開いて、剣を振り上げ瞬く間に距離を詰めてきた。その速さに周囲が色めき立つ。

 

「ふむ」

 

 手に持つ直剣で聖剣とマトモに刃を合わせないようにして右にあっさりと受け流した。

 

 「え?」と固まる勇者に俺は内心がっかりしながら、どう料理してやろうと左拳に力をいれるのだった。

 

 





続きは明日出せるかどうか······


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47話『決着して·····』

 投稿間に合わんかった(涙)

 評価、誤字報告有り難うございます修正させて頂きましたm(_ _)m


#前回のあらすじ

 煽り屋レイグ君


 何秒経っただろうか、何分経っただろうか、何十分経っただろうか、最初は冷やかすような物言いが混じっていた周囲の歓声はいつの間にか熱を持っており、騒々しさに眉を潜めていた周りの家にいる住民や家持ちの冒険者は騒々しさから喧騒へと変わって行く様に感心と興味を抱いた。

 

 そんな騒ぎの中心にいる勇者は、楽しみにしていた周囲の反応を気にする事が出来なかった。

 

 簡単な話、そんな余裕が無かったのである。

 

 冒険者と言えど所詮は、半年前に登録したばかりの小物、実戦経験的にも、レベル的にも隔絶した開きに決闘開始直後にレイグの頭を打ち据えて終わり、勇者の中では最早確定事項と言って過言ではない光景が現実となって───

 

「っはああぁああああ!!!」

 

 ───いる筈だった。

 

 アレックスが放った横に薙いだ斬撃が凄まじい速さで目の前に立ちはだかる黒髪、黒目の少年、レイグの体へと吸い込まれていく。

 

 しかしアレックスが横に薙ごうと、剣を持つ方の腕を

「動かした時点で」バックステップの動作を繰り出し、その場から下がったレイグの体をアレックスの聖剣が拾うことは無かった。

 

 それどころか、防ぎ易いが明らかに「隙を突かれ」、反撃の斬撃を喰らわせようと、無駄の無い動きでアレックスの懐に入り込み飾り気の無い無骨な剣を逆袈裟で切り上げた。

 

「っ!くっ!」

 

 キィンと甲高い金属音を響かせ、次いで金属音は周囲の歓声に呆気なく飲み込まれた。

 

 この勝負、一見優勢なのはアレックスである、実際に攻め込んでいるのはアレックスばかりで、レイグは先程のような反撃は余り繰り出せずアレックスの猛攻をかわしたり、剣で受け流すしか出来ない、と言うのが周囲からの感想だ。

 

 当然レイグに打ち込んでいるアレックスは違う感想を抱いていた、いなされて、かわされて、受け流されて、たまに防がれた時押し込もうとするが、低レベル冒険者にはあり得ない程の力で押し返される。

 

 国宝級であり、途轍もなく切れ味があり、かなりの頑丈さを有し、更には「魔法剣」でもある聖剣にマトモにぶつかり合えばそこらの武器ならば破壊することも可能だと言うのに、だ。

 

 どれだけ攻めこんでも、まるで未来予知でも使っているようなレイグの先読みに、アレックスは次第に恐れを抱くようになっていた。

 

「(何だよこいつ、何だよコイツ!?)」

 

「アレックス、良いぞ!相手は尻込みしてる!畳み込むならば今だ!」

 

「やっぱり剣を振るうアレックスさんは絵になりますねぇ、それに比べて·····ぷぷっ!」

 

 

 ──お前らの目は節穴か!?

 

 

 明らかに動揺しているアレックスはいつもは気分良くなるような、リサとリリアンの黄色い声援がその時は煩わしくてしょうがない程の怒りを覚えた。

 

 更に、吹けば倒れそうな壁が、不安定ながらも安定していて倒れる気配が無い、そんなレイグへの焦れったさや、苛つき、不安が重なってしまったのか。

 

「(しまっ──!?)」

 

 大股で踏み込んでからの大上段の構えを作ってしまった。レイグの口元が三日月のように歪むのが見えたアレックスは背筋に冷たいものが走るのをしっかりと感じた。

 

 自覚した時には、既に振り下ろしに力を込めて振り下ろし始めた段階なのでブレーキが効かずに、レイグの思惑通りにレイグに吸い込まれ。

 

 

 

「ぐわああああああああああああああああ!!!」

 

「は?」

 

 剣と聖剣がぶつかり合う瞬間、やはり出来る筈か無い押し合いが僅かに発生した瞬間にレイグが弾き飛ばされたように、悲鳴をあげて後ろに吹き飛んで受け身も取れずに倒れた。

 

 思わず変な声が出た、先程の一振りよりも強い斬撃をアレックスは一、二発は前に放っており、その時はしっかりと「見せ付けるように」押し返していた筈である。

 

 だが、余りにもレイグを吹き飛ばした手応えがあった感じに追及することも忘れ、更に困惑するしか無かったのである。

 

ーーーーーーー

 

 アレックスのその様子を見たレイグは満足げに内心笑いながら自分の腕を押さえていた。

 

 レイグがしたかった事は、2つの願望の内1つ我慢した妥協案である、勇者達を痛め付けたいが、勇者パーティーの認知度や背後を考えると今は手を出しづらい

 

 ならば、と闘う場を用意してアレックス(あわよくば残り2人も一緒に)のプライドを傷付けて適当な所で敗北して、「馬鹿が調子乗りやがって」なんて空気になる前に──

 

「あ"~!やっぱり強いよ勇者様!こりゃ魔王の手下なんか余裕で倒しちゃうわ!」

 

 倒れてから10秒にいかないまでの小芝居を挟みつつ空気を読んで(ジト目ではあるが)駆け寄ってくれたダリアとカーラに起こされたレイグは実に悔しそうにそう宣った。

 

 レイグのアレックスへの称賛はいつの間にか静まっていた広場へ良く響いてゆく。

 

 アレックスの唖然としている顔が愉快だ、そう思いながら周囲からの反応をレイグは窺う。

 

「兄ちゃんも頑張ったがやっぱり勇者様には勝てねぇよ!」

 

「やっぱり勇者様は凄いな!ヴァリエン王国最強は伊達じゃねえぜ!」

 

「兄ちゃんも良く持ったよ!あたしゃ勇者様が何をしてるのか全く見えなかったよ!」

 

 1人がレイグの言葉に同意を告げて、それが周りにも広がっていく、1人、2人、3人と賞賛する声が上がっていき、それが全体に広がっていくのにそう時間はかからなかった。

 

 ある種の集団心理とも言える光景、周囲のギャラリーの反応に内心満足したレイグは、アレックスの前にへと足を運び、手を差し出し握手を求めた。

 

「俺の申し出を受けてくれてありがとう!機会があればまた手合わせしたい!」

 

───|こっちが作った空気に引き摺り込めば良いのだ。《嘘は吐いてないぜ★》

 

 今度こそアレックスの顔が盛大に引き攣った。

 

 周りを見ればギャラリー全て、なんならアレックスの元に寄ってきたリサにリリアンまで「圧倒的な実力で挑戦者を倒した勇者」を讃えている。

 

 今すぐにでも差し出された手を払い、目の前にいるレイグに問い詰めたいが、そんな事をすれば勇者パーティーのリーダーとして傷がつくかも知れない。

 

 故にアレックスは。

 

「····ああ、こちらこそ」

 

 爽やかスマイルでレイグの握手に応じるしか無かったのである、レイグは実に晴れ晴れとした笑顔でそれに応じたのである。

 

 せめてもの仕返しに少しでも痛がる素振りを見る為に力をこめるが我慢強いのかレイグの顔が痛みに歪むことは無かった。

 

 小さい舌打ちを残し、握手を解くアレックス。

 

 未だに「得体の知れない格下相手に攻めきれ無かった」事実に心の中に存在する燻る感情を消化出来ないでいると。

 

 

 

 

 

「レイグ!」

 

 勇者パーティー最後のメンバーのアリスが血相を変えて、レイグに抱き付いたのである。

 

 目尻に涙を溜めてレイグの身の心配をするアリスは血の気の無いようすでレイグの体を触る、その行為に焦った様子を見せたアレックスが口を突っ込もうとするが。

 

「あ、アリス!?」

 

「レイグ大丈夫?怪我してない?さっき勢い良く吹き飛んだけど····」

 

「あ、アリス、これはな」

 

「アレックス」

 

「は、はい···」

 

 レイグの身を案じるような声とは違い、酷く平淡な声でアレックスに返すアリス、アレックスはすっかり勢いが殺されたのか、怯えた様子でアリスの反応を窺う。

 

「後で話があるわ、先に3人で先に宿に戻っていて貰えないかしら?」

 

 業務連絡を伝えるかのように、淡々とした声音で話すアリスに気圧され、3人は悪戯がばれた子供のような気まずさを表面に出し、何回かアリスを振り返りながら歩きだすがやがてその場を去った。

 

 次いで、急な展開にざわついているギャラリーをグルリと見渡し、何かを呟くように言った後、詠唱破棄して魔方陣 を構成した。

 

 すると不思議な事にギャラリーの中から数名憲兵らしき人が出てきてその場を纏め始めた。どこか名残惜しそうに広場から1人、また1人と数を減らしていく。

 

 喧騒が小さくなった寂寥感さえ感じる広場にレイグにダリア、カーラ、そしてアリスだけが残った。

 

「むぅ!?」

 

 くぐもったような声がレイグから上がった。

 

 アリスはレイグの両頬を急に掴みその顔をマジマジと見始めたのだ、綺麗な碧眼がレイグの両目を射抜く。

 

 その眼には段々と、熱を帯びて、悲哀を帯びていて、歓喜に溢れ、恐らく何かしらの激情を抑えようとしているのだろう、綺麗に整った金色の眉がピクピク動いていた。

 

 レイグはその癖を「知っている」何なら、今のレイグはそれを見たこともある。

 

 レイグが驚愕に震える、有り得ない事が起きている、この世界のアリスは激情を抑えようとすると歯を食い縛る、小さい頃の癖だそうそう治らないだろう。

 

 

「ちょっと貴女いきなり──」

 

「え──」

 

 

 いきなりのアリスの行動に見守っていたダリアとカーラが咎めるような声を出そうとするが、途中でハッと息を飲むように声を詰まらせた。

 

 アリスが声を洩らすこと無く静かに涙を溢す。

 

 レイグが驚愕に震える理由は一つ、それが「今のレイグが知る彼女の」小さい頃からの癖だからである。

 

 そんなアリスを見つめているレイグはいつかリデル村で見た一輪の白い勿忘草(わすれなぐさ)を思い出した。

 

 

 

───忘れないで

 

「(あれは君なりのサインだったんだね)」

 

 ふとレイグは、以前アリスが白い勿忘草を嫌っていた理由を思い出した。

 

 ──忘れないでなんて希望的観測に過ぎないじゃない?だったら私は忘れられる前に会いに行くわ、どんな手を使っても、ね

 

 

 優しい微笑みを浮かべていたレイグの顔に、更に流す涙の量が増えた「アリス」はその柔らかい唇を開きながらレイグへ顔を近づけた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大好きよ、レイグ、愛してるわ」

 

 そしてレイグの唇にアリスは自分の唇を重ねた。

 




器が中身を求めた結果




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『決意と一つの疑問』


 投稿が遅れてしまいましたm(_ _)m

 お気に入り感謝です。

 誤字報告感謝です。
 気を付けてはいるんですがね(;^o^)

 難産故に変な所があるかもしれませんが、続きです


 

 今、目の前でレイグ様が私が見覚えの無い少女に愛を囁かれてキスをされていた。

 

 少女の容姿はとても可愛らしく、赤みを帯び始めた陽射しに照らされている金色の髪は、見たことは無いけど本物の黄金のような美しさと鮮やかさを醸し出し。

 

 着ている良さげなローブに隠れて分からないけど、スタイルも良さそうだった、間違いなくおっぱいは大きい方、もう盛り上がってるから分かる、何がとは言わないけど

 

 一番印象的なのはその整った顔立ちの鼻の上にある僅かなそばかす、それがこの少女の印象を作っていると言っても良いかもしれない。

 

 この人が何者なのかは分かりきっていた、レイグ様の反応が誰なのか顕著に表していた、今は驚愕に目を見開いているけど、その前に、この人に唇を奪われる前に見せた「何故ここに?」と言いたげな驚愕に震えた仕草、再会を喜ぶような歓喜に溢れた微笑み。

 

「(この人がアリスさん····)」

 

 アリスさんの表情が見えた時、思わず同性の私でさえもドキッと高鳴った気がした。

 

 隣にいるカーラも、その心中は察することは出来ないが息を飲み込んでその表情を凝視していた、それほどに、それほどまでに。

 

 アリスさんはレイグ様と口づけをしたまま、情愛に溶かされ、切なさを含んだ目でレイグ様を見つめていた、まるで今も過ぎていく時間の一秒すら惜しむように。

 

 何故だろう、愛しい人が自分以外の、それも知らない少女に唇を奪われているのに。

 

 私はこの時間が少しでも続いて欲しいと思ってしまった、嫉妬はしたし、内心ふざけるなとも思ったりもした。

 

 それでも、切なそうな目をしているのに、幸せそうでもあるアリスさんに対して邪険に扱うような気持ちいいにはなれなかった。

 

 それはもうアリスさんの心情が分かってしまうぐらいに、だ、目の前にいるアリスさんが「あっち」のアリスさんだったら、もし本当にそうならば。

 

「っ──」

 

 どういった思いで、「こっち」に来たのか、必死だった筈だ。

 

 愛しい人が、傍から消えていってしまう、想像しただけで体に震えが走った、アリスさんがこっちにどうやって来たのか分からないけど。

 

 見てしまったのだろう、魂が入っていない人形のように変貌してしまったレイグ様の姿を。

 

 だからか余計に、アリスさんとレイグ様の間に入ろうとは思わなかった。

 

 

 ───でも。

 

 

 思ってしまうのだ、そこは渡さない、渡したくないと、アリスさんとレイグ様の再会を讃えてあげたい気持ちと、そこは私の居場所なのだと声を張り上げたい独占欲に似た何かが私を縛り付ける。

 

 そんな葛藤を抱く私は、今も一方的にキスをしている

アリスさんと目があった、端正な顔に、金色の髪に良く映える碧眼が私を捉えた。

 

「──あ」

 

「───」

 

 アリスさんは、ゆっくりとレイグ様から離れ、私とカーラに体を向けた、その目にはどんな思いが含まれているかは分からない。

 

 敵意かもしれない、同じ人を愛してしまった私達に対しての、レイグ様の魂を連れてきてしまったこの世界に対しての

 

 寂寥にも感じる、まるでこれからまた別れが来るのが分かっているかのように、大切な人の傍にいることが出来ない事が分かっているかのように。

 

 ──それでも

 

「よろしくね」

 

 安心したような声で、そう呟くのが聞こえた、安心と言うには複雑な感情が入ったような声だったけど、それでも微笑んだ笑みでそう呟いた。

 

 レイグ様は、そんなアリスさんを見て、寂しげな笑みを浮かべて「またなアリス」と呟いた。

 

 レイグ様がそう言ったのが聞こえたのだろう、アリスさんは嬉しそうにレイグ様に振り返って。

 

 

 

 ボンッと聞こえて来そうな勢いで顔を真っ赤にした、唇を手で覆い隠しながら、レイグ様と私達を何度も見てわなわなと震えている。

 

 纏っていた空気がガラッと変わったのが、見て分かる程に顕著だった。

 

「あー、その、いきなり熱烈な挨拶だな」

 

「───ぃいいいやあああああああ!!!!」

 

 気を遣ったレイグ様がフォロー(になってない)をするために気軽な感じで「戻った」アリスさんに声をかけるが、逆に止めとなったのか、アリスさんは両手で顔を覆ったまま、走って逃げてしまった。

 

 「あっ·····」と言ってアリスさんが走り去っていった方向に手を伸ばしたレイグ様の姿は、何故かもの悲しかった。

 

 再び沈黙が訪れた、カーラはどう声を掛けようか迷っているし、いつも余裕のあるレイグ様も、内に溢れる感情をもて余しているように思えた。

 

 逆に私は何故だか不思議なくらいに落ち着いていた、確かに現実味の無い展開の連続に何とも言えない気持ちにもなるし、妙に浮き足立つような感覚もある、矛盾しているような感情を他所に私はレイグ様の元に歩みを進めていた。

 

 「よろしくね」、アリスさん、その言葉後悔しないでくださいね?

 

 

「レイグ様」

 

「っあぁ、悪いぼーっとして──」

 

 レイグ様が喋り出すのも構わずに、不意打ち気味にレイグ様の唇に私の唇を重ねる。

 

 流石にアリスさん程の熱いのは出来なかったけど、これは意思表明、アリスさんに対しても、カーラに対しても、レイグ様に対しても。

 

 再びレイグ様の目が驚愕に開かれた、その頬も赤く染まっているように見える。

 

 たったそれだけで、レイグ様が私を意識してくれているのが分かり歓喜が私の中で荒れ狂った。

 

 もう、アリスさんに操を立てるのは終わり、寧ろ譲歩した方です、レイグ様へのキスを邪魔すること無く見守ってあげたんだから。

 

「だ····りあ····」

 

 レイグ様も、確かに私は何時までも待つとは言いました。でも何もしないとは言ってませんよね?

 

 カーラも顔を真っ赤にしてるの可愛いけど、何もしないでいると私がレイグ様を独占しちゃうんだから。

 

 レイグ様は離れた私の様子から何かを感じ取ったのか

「マジか···」と小さく何度か呟いて、最終的に困ったような照れ臭いような笑みを浮かべて「お手柔らかにな」と懇願するように言ってきたので、思わず破顔してしまった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「(あぁもう!どうして私はあんな事を·····)」

 

 一方、レイグ達から逃げ出したアリスは、使わせて貰っている宿に向けてトボトボと歩を進めていた、足取りは重く、しかし羞恥かそれ以外の何かが原因なのか、顔は赤く染まっており、あの感触を思い出さないように、勇者達への説教の内容も考えていた。

 

 不思議な感覚だった。

 

 あの広場に入って、レイグが倒されていた事、握手するレイグと勇者の元へ駆け寄り、勇者達を追い払い、魔法による遠隔通話であの場にいた憲兵達を動かして民衆を纏めたまではアリスもハッキリ覚えている、それは勿論アリスが自分の意思で行ったからである。

 

 でもそこから不思議な事が起きた、レイグの顔をはっきり近くで見た瞬間、アリスは確かに「自分の動きを自分が見ている」ような、妙な感覚に陥ったのだ。

 

 まるで意識が中に浮いているような感覚になり、自分がレイグの唇を奪う時にも、その場面をどこか他人事に見えてしまったのだ。

 

「(······でも·····)」

 

 

 階段を登る手前でアリスは来た道を振り返った、時刻も夕方に差し掛かり、子供が友達に別れを告げ家に入っていく姿や、主婦らしき女性が籠に野菜や魚が入った籠を手にして奥に進んでいく光景が映るが、アリスは違うどこかを見ているようだった。

 

 難しい顔をしたアリスが考えているのはやはり幼馴染みであるレイグの事だった。

 

 しかしその顔に浮かぶのは羞恥でも、再会への喜びでも、折角会えたのに一言も話せなかった事にたいする寂しさでもない。

 

「(·····やっぱり違う)」

 

 ほんの小さな疑問だった。

 

 落ち着きつつある頭がアリスに一つの疑問を産み出した、そしてその疑問は広がっていく。

 

 自分の記憶にあるレイグは、あんな同年代の少年少女ではなく大人びた雰囲気を出していただろうか。

 

 ──違う、約半年と言う期間があってもあそこまで、「まるで別人のような」雰囲気は出せない····と思う。

 

 口づけをした時に、離れた時、レイグはあそこまで落ち着いていられるか?

 

 ──違う、良くも悪くもヘタレなレイグが、ちょっとのボディタッチでも顔を真っ赤にしていたレイグが、あんな優しい顔で落ち着いた表情を出せる筈がない。

 

 

 

 

 

 レイグが自分に笑い掛ける時、あんな「似合わない」大人びた苦笑いを浮かべていただろうか、記憶を掘り返しても、幾ら振り返っても浮かぶのは。

 

 

 ──ハハッ、大丈夫?アリス

 

 心配するような笑いも。

 

 ──相変わらずだなぁ、アリスは

 

 安心しているような笑いも。

 

 ──ありがとうアリス!僕大事にするね!

 

 嬉しそうな笑いも。

 

 呆れたような笑いも、照れ臭そうな笑いも、苦笑いも、くすぐった時に見せる苦し気な笑いでさえも。

 

 年相応にはにかむような、人懐こいような笑みだった筈だ。

 

「(······やっぱりあの変な夢は、只の夢じゃ····)」

 

 疑問が広がる反面、アリスは「先程の」レイグに見覚えがあった、それも最近の事である「あるスキル」が変わり始めた頃からか、アリスはある夢を見るようになった。

 

 奇妙な事にその夢に主に出てくる人物はアリスとレイグだけなのである、夢の中のレイグは自分が知っているレイグとは正に正反対だった、野性的な雰囲気に勝ち気な性格、自信に溢れた笑み、大人びたような苦笑い、先程のレイグはこの夢に出てくるレイグに似通っていた。

 

 レイグは勇者であるアレックスすら瞬殺してしまうような、冒険者最高ランク「SSSランク」の剣豪。アリスも「賢者の器」と言う似たり寄ったりの名前であるスキルを持っていて、レイグと2人だけで怪物暴走(スタンピート)を沈めたりしてしまうような破天荒ぶりを夢で発揮していた。

 

 ある時はあの最強種である竜を倒し。

 

 奴隷を解放しては、その奴隷に「ご主人様」と呼ばれ冷たい目をするアリスに頭を抱えるレイグを見て。

 

 様々な事をしながら夢に出てくるアリスとレイグは、アリス自身が羨んでしまう程に幸せそうに日々を過ごしていたのだ。

 

 でもこの夢は、毎回同じ終わりを迎える。

 

 どこかの都市、それも王都のような大都市でアリスがその日の夕飯は何にしようと悩んでいる所に、どこかの王国エンブレムを着けた騎士甲冑を着た人が慌てた様子でアリスの元に訪れる。

 

 そこで光景は変わり、病院のような場所に繋がる、病院の中は慌ただしく、アリスが走っていても誰も咎める人がいない程だった。

 

 アリスは今にも泣き出しそうな顔をしていて、その光景を見ているアリスにも不安を植え付けてくる。

 

 やがて一つの扉の前で止まり、アリスは戸惑うこと無くその名を叫びながら扉を開け放ち───

 

 気付けば真っ暗な闇に包まれた世界にアリスはポツンと立っているのだ。

 

 足下に白い花弁の、アリスが好きな花を一輪咲かせて。

 

 夢はいつもそこで醒めて、アリスは複雑な思いがありながら、反対に体の調子は良くなったのである。

 

「(──やっぱり、話さなきゃ、もうこの時間だし流石に街を出ていったりしないよね?)」

 

 そう思いながらアリスは階段を登り始めたのだった。

 





カーラ「ちょっ!?」ガタッ


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