同盟上院議事録中間星域外伝~双頭の鷲は宇宙に舞う~ (SPQR/ロロナ)
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ガラティエ共和国とは

「『ローマ』とはなんなのだ?【交戦星域】にはよくわからぬ政党があると聞くし、【中間星域】には彼らの総本山たる国家がある。
そして彼らは多様性を護らんとしている。
更にこれらの起源は宇宙歴以前に存在した帝国にあると言うのだ!
銀河帝国と異なる正義の帝国がかつての世界にあった、というべきなのだろうか!」(とある同盟下院議員の発言)


ガラティエ共和国。

 

そう呼称される同盟構成国はマル・アデッタ星域に程近い場所にあった。

この国は古い構成国の一つにあたり、途中で長征に『耐えきれなくなった』面々により建国され、後に自由惑星同盟に合流した、という経緯がある。

 

故にハイネセンへの忠誠をある種問われ続ける立場にあった。

そんな彼らも民主主義国家である自由惑星同盟の構成国であるため、民主的な国家運営をしていた。

が、それは我々の想像しうる民主主義国家の構造とは少し異なるものであった――

 

 

この共和国は、マル・アデッタ星域に近い場所にあるのは先程書いたが、では何故そこにあるのか、というのはとても鮮明に記録に残っている。

 

 

 

ハイネセンが中心となって行われた長征一万光年、一部の者の言う『再発見』の際に共に立ち上がった『異教徒』である。

この『異教徒』は帝国の国教であるオーディンを主神とする北欧神話系と異なる神話――ローマ神話の系譜を崇拝する者であった。

彼らは地球時代より世界各地で細々と信仰し続け、銀河連邦の時代に至って尚もその信仰を古い形のまま保ち続けた集団であった。

が、帝国により弾圧され次々と収容所送りにされるも、その一団がたまたまハイネセンと出会った――というものであった。

 

そんな彼らは一つの船に集まって長征についていった。

神話にちなんで『ユピテル』と名付けられたその船の艦長を務めた男は『ガラティエのカエサル』という呼び名だけが残されている。

 

そんな『ユピテル』の中には少数のキリスト教徒とイスラム教徒がいたが、過酷ともいえる旅で彼らとのいざこざを起こす余裕もなく、彼らは他の船と共にマル・アデッタ星域と近いエリアまでやってきた。

その時ガラティエのカエサルはこう船内に告げたとされる。

 

「声が聞こえた。このあたりの惑星に着陸する」と。

 

その言葉に対し何故か反発はなく、彼らは事故を装って惑星に降り立ち、その惑星を『ガラティエ』と名付けた。

そしてガラティエ暫定政府が建てられ、そのトップにガラティエのカエサルが就くことになった。

ガラティエのカエサルは独裁官を名乗り強権的に振る舞うも、ガス抜きか、或いは神の意思か、それに対抗しうる護民官と民会を設けた。

こうした独裁官と護民官による体制はガラティエに安定と秩序とある種の原始的な共和制をもたらした。

そしてガラティエのカエサルは後継者を指名せずに没し、ガラティエは護民官を首班とした『完全な』共和国になったころ、ハイネセンより船団が訪れ、交渉の末にガラティエ共和国は自由惑星同盟の加盟国となった――というのがガラティエ共和国の建国物語である。

 

この『ガラティエのカエサル』はガラティエ共和国の国父として、アーレ・ハイネセンやイオン・ファセガスと同列の存在として語られているが、バーラトでは『独裁者』として片付けられている。

 

が、この建国物語は実のところ、意図的に記されていないことがあるのは有名である。

それは、『船団』は実際のところ艦隊であり、自由惑星同盟の交渉団は艦隊司令官とその参謀、そして交渉も脅しによるものだった――というものである。

 

が、ガラティエ共和国側もバーラト側も「仕方なかった」としてこの事実を受け入れているのがこの問題で揉めない理由であるが、今尚これに対し「謝罪と賠償」を求める極右勢力や、「脅迫による加盟は無効ではないか」とし、独立を求める勢力も放置されている。

 

 

さて、そんなガラティエ共和国の経済は、様々な産業を内包している。

まず有名なのは【中間星域の美術館】と呼ばれる芸術文化だろう。

絵画や彫刻、更には(なぜか)アニメーションまで内包するこのガラティエ文化は、自由惑星同盟が銀河帝国に対し圧倒的に優越している証拠、とも称される。

こうなった背景は、ガラティエ共和国がローマ神話を崇拝する関係上、神像の再建が必要になったからとも、或いは『ガラティエのカエサル』が芸術好きだったからともされている。

が、結局のところ国内の富裕層が芸術好きであり、共和国政府から芸術家や漫画家等に交付金が配られ、ガラティエ人が表現の自由という物に理解を示しているから、とされている。

 

しかしながら、こういった第三次産業のみで国家は成り立たない。

当然ながら、この国には他にも産業がある。

その一つは第一次産業のうちの農水業である。

ガラティエ共和国の主要な生産物としては麦、ブドウ、オリーブ、トマトやバジル、非常に少数ながらも米といった作物、牛や豚といった家畜、内海を持つ大陸の構造を活かした海産物の養殖、これらの加工が盛んである。

 

特に酒類の生産は有名で、ビール、ウォッカ、ウィスキー、コルン、ジン、ワインにブランデーと作られており、『ジョージ・パームの愛した星』、『Planetes Bacchi(酒神の惑星)』と呼ばれる程に多種多様な酒を造っている。

 

特にガラティエワインは自由惑星同盟でもかなりの高級ワインとして扱われ、様々な人物がガラティエワインをこよなく愛してきた。

特に、年代物のガラティエワインは数百万の値段がつくことも少なくない。

 

かといってガラティエ共和国が農業惑星である、という訳ではない。

それは、今でこそ戦略的価値こそ低けれど、決してなくて困るものではない鉄やボーキサイト、クロムといった様々な金属が採掘されているのだ。

そして、それらを加工する工業地帯も惑星内に備わっており、多角的な産業を持つ。

 

そんなガラティエ共和国は軍需産業に関して言えば他国に遅れを取っている。が、これについては軍備と共に説明する。

 

ガラティエ共和国軍は、地上軍と近衛軍の二つに分けられる。

まず、地上軍についてはおおよそ常備軍として28万人規模の戦闘可能な兵員がおり、更に輜重兵等が存在する。

地上軍は伝統的に火力主義であり、多連装ミサイル車やレーザー自走砲といった火力投射に優れた車両を多数配備しており、特にレーザー自走砲については艦艇用のレーザー砲を車両に乗せただけであるが、それでも地上戦においては有効であると考えられている。

 

携行火力についても、通常のビームライフルより出力を上げた物が使われている。

が、その分エネルギー消費量が一般的な物より多いデメリットがあるのは周知されている。

 

そしてガラティエ共和国のもう一つの軍が近衛軍である。

近衛軍は、ガラティエ共和国の元首である主席護民官直属という肩書きが与えられており、儀仗用兼白兵戦用の炭素クリスタル製の槍が装備として与えられている他、携行可能な装甲としての盾が配備されている。

 

また、近衛軍は三個師団全てが地上軍と比較して精鋭部隊であるが、特に近衛第一師団に関しては最精鋭として尊敬と畏怖を集める存在である。

そして、近衛軍内部の小隊の隊長等からガラティエ共和国の議員となり、そのまま国防相になるケースも過去にあるなど、近衛軍とはガラティエ共和国のあり方と密接に関係しているのだ。

 

さて、ガラティエ共和国の軍需産業はその軍の規模に対して小さいと言わざるをえない。

まず、国内に戦艦を建造可能な設備はなく、自由惑星同盟全体レベルの軍事産業を取り扱う企業もない。

具体的には、近衛軍の主装備の一つである炭素クリスタル製の槍や盾、自由惑星同盟軍の儀仗用短剣等を製造している、国営エディルネ工廠が国内で一番大きい軍需工場だと言えばわかるだろうか。

 

だが、「特段の問題はなく、下手に傾注するのは国家経済にとって危険である」とガラティエ政府は認識しているため、軍需産業への積極的投資は行われていない。

 

 

 

ここでガラティエ共和国の政治体制について説明する。

 

ガラティエ共和国は、他構成国で言うところの上院にあたる終身制の元老院と下院にあたる六年制の民会の二院制議会と、民会の指名によって任命される行政府の長である護民官、司法権を有する国家法務院と法務官(プラエトル)によって運営される。

ここで重要なのは護民官である。

 

護民官は首席護民官と共同護民官の二つが存在し、その両方が巨大な権限を有するが、基本的に共同護民官はガラティエ共和国外にいて、ガラティエ共和国本土が帝国軍他、自由惑星同盟に敵対する組織に占拠されていない場合はその職権を振るうことが禁止されている。

これは、後程説明する共同護民官のもう一つの職務との兼ね合いもある。

 

護民官は二名指名され、このうち首席護民官が組閣を行い、行政を運営する権限がある。

そして共同護民官が同盟首席弁務官を兼任しバーラトへと向かうことになっている。

いわば、国家のNo.2が同盟弁務官を兼任するのだ。

また、弁務官の定数三名のうち二名は公選で選ばれ、首席弁務官を補佐、或いは亡命政府の中核を成す役割もある。

 

この独自のシステムの形成経緯は建国物語に記されている通りであり、ガラティエ共和国の政界の理解を混乱させる一因であるともされる。

 

そんなガラティエ共和国の上院である元老院は伝統的に終身制であるが、その中身は特段民会と変わらない。

利益団体より推薦された議員や各省庁の元幹部、大学教授にガラティエ版の長征名家であるパトリキが中心となって構成されており、そのうちの少なくない数が何かしらの政党に所属している。

中には、元同盟下院議員の元老院議員もいる。

 

そのようなガラティエ共和国元老院はそれ自体が『ガラティエの上流層の意見代行』とされている。

 

ガラティエ共和国民会については、他加盟国の議会と差は軽微である。

予算審議権、条約締結の承認その他、立法府としての権限が認められている。

これについてはガラティエ共和国が自由惑星同盟に『加盟』した時の条約においての必須事項であり、ガラティエ共和国を完全な民主共和制国家として同盟憲章に則った形にするものであった。

勿論、(当時としては)こんな価値のない国だけに特権を与えれば、それこそ【サジタリウス準州】時代からある諸国の不満が出るのは当然というのもあるが……

 

ともあれ、ガラティエ共和国はその成立過程で同盟政府程ではないにしろ、巨大な権限を持つ護民官を中心とした事実上の大統領制を取っている。

が、その大統領が他構成国で言うところの下院の任命で選ばれる、というのがやや特殊なシステムである。

 

が、ガラティエ共和国が非民主的と言うわけでは決してない。

 

最後に、ガラティエ共和国の主張する、この国の、ガラティエ共和国政府以外では用いられない正式な国名を記して終わる。

 

『ローマ共和国の最も偉大で清らかなる属州、ガラティエ属州』



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UC796年(或いはAUC4349年)ガラティエ共和国民会

銀河ローマ主義とは古代地球の民主主義国家で見られた、キリスト教民主主義との関連が見られると言われる。
その理由としてはどちらも己の教義に従っている、というものだ。
故に、銀河ローマ主義政党はそれぞれ違った側面を有するが、自らの寛容さゆえに破綻しない。
銀河ローマ主義は、自由主義と民主主義を結び付ける為の、彼らなりの最適解であったのかもしれない。
――にしても、何故元帝国貴族すらもこの価値観を共有しえたのだろうか?

とある政治学者の日誌


ガラティエ共和国。

 

そう呼称される同盟構成国はマル・アデッタ星域に程近い場所にあった。

この国は古い構成国の一つにあたり、途中で長征に『耐えきれなくなった』面々により建国され、後に自由惑星同盟に合流した、という経緯がある。

 

故にハイネセンへの忠誠をある種問われ続ける立場にあった。

そんな彼らも民主主義国家である自由惑星同盟の構成国であるため、民主的な国家運営をしていた。

が、それは我々の想像しうる民主主義国家の構造とは少し異なるものであった――

 

 

ガラティエ共和国首都、ルーム。

その中心に位置する両会共同議事堂の民会議場では定例議会が始まらんとしていた。

 

その演壇に立つ、齢70近くの髭を蓄えた、礼服として紫の糸が織り込まれた緋色のマントを羽織ったトルコ系の男。

彼がこの国の『偉大なるガラティエ属州人民の首席護民官、凱旋将軍、命令権保持者』、ロマン・テュルクであった。

 

「ローマ共和国の最も偉大で清らかなる属州、ガラティエ属州のローマ市民諸君。民会議員たるローマ市民諸君。

此度も共に有りてここに圧政への抵抗、専制君主への反抗、ローマ市民としての民主主義の護持、それを成さんと思いここに元老院の開会を告げる。

諸君らの理性的な判断に基づき、ここにより素晴らしき国家を形成し、いつの日か理想郷(ローマ)へと至らんことを願う。

して、昨今はアスターテ……そう、あの地域だ。

で、会戦が起きている。即ち、船団に住まう彼等に今だ安全はない、ということだ。

私が思うに自由惑星同盟第一の課題は、全構成国の本土の維持であると私は考えている。

 

我が国は彼等を手伝えていないが、他の地には土地を追われて見知らぬ土地で暮らし、そしてそこで産まれたものばかりの構成国の同胞も存在するのだ。

そんな彼等も平和的に祖国の地で暮らせるようにする、そのためには何らかの方法でイゼルローン要塞に栓をせねばならない。

故にだ。仮にバーラトの自由惑星同盟政府がイゼルローンを奪取せんと動くのなら、今度こそは我々も大規模に支援せねばならぬということだ。

 

それが、我々と同胞らを結ぶ在り方だろう!

 

そして、我々は同胞らに支援を惜しむべきではなく、我々は自由のためにその富を使うべきであろう!

 

自由惑星同盟万歳!『ローマ共和国の最も偉大で清らかなる属州、ガラティエ属州』万歳!全自由惑星同盟構成国に安寧あれ!

 

では、『共同護民官にして同盟首席弁務官』であるクローディア弁務官にここを変わろう。

クローディア首席弁務官」

 

そして檀上に来たのは銀髪の女性、クローディア・コーネリアス。

このガラティエ共和国におけるNo.2――同盟首席弁務官である。

 

彼女はバーラトで政治学を学び帰星、ガラティエ共和国民会議員を二期、同盟下院議員を一期務めたのちに同盟弁務官――といってもこの国では首席弁務官の補佐としての地位も混じるのだが――となり、その後与党幹部より「民会に戻って護民官をやらないか」と言われ、今や首席弁務官にまで登り詰めた、比較的若手の議員である。

――相方の老人が70過ぎなのもあり、容姿以上に若く見られるのだが。

 

「ローマ共和国の最も偉大で清らかなる属州、ガラティエ属州のローマ市民諸君。元老院議員たるローマ市民諸君。

我々ガラティエ共和国は自由惑星同盟の古い一員として彼等と共にある。だが、我々は我々らしく、自由と平等と立憲主義に基づいてあらねばならない。

我々はハイネセンの一団と同じ由来を以ってここに存在するのだから。

きっかけを作ったイオン・ファセガスに万歳を、皆を導いたアーレ・ハイネセンに万歳を、我々の『独裁官(ディクタートル)』たるガラティエのカエサルに万歳を。

 

『ガラティエ属州』万歳、自由惑星同盟万歳」

 

簡素な定型文を述べ壇を降りる。あくまで彼女の役割はこの後にあるのだから。

 

 

 

こうきて、多様性に満ちたガラティエ共和国民会が始まるのであった。

 

 

「ではこれより、民会の本会議へと移る。

まず議長を選ばんと思う。

だが、あくまで我々護民官は議長その他との兼任が許されぬためこれに投票された場合無効票となるが……まあ諸君なら理解しているであろう。であれば開票の結果、議長は――マルケルス・バズナ議員。彼が議長となる」

 

議場を埋める「異議なし」の一言。

このマルケルス・バズナ議長は与党である立憲ローマ同盟の主流派議員の一人であり、元警察官僚で清廉潔白なことで有名な人物であるが説明は省略する。

そして議長が席につき、予算審議が始まろうとしていた。

 

「であれば、財務大臣より今年度予算の割り当てについての説明をしてもらったのち、審議に移りたいと思う。シャヒーン財務大臣」

 

そうバズナ議長に呼ばれて立ったのは、鷹のような鋭い目に黒い髪に浅黒い肌の、40ばかりの男性――アイザック・シャヒーン財務大臣であった。

彼はその見た目の割に穏健左派として知られ、このロマン・テュルク政権の要とも言うべき人物であった。

 

「本年度予算案については以下の通りです。

まず防衛費は昨年度と同額とし、設備修繕や装備の更新、兵卒の待遇改善を中心としており、新規部隊の編制等は行わない、となっております。

これについては首席護民官殿に直接説明していただくとして、内閣としてはガラティエにまでそう簡単に帝国軍は来ないだろう、というのは一致しています。

 

続いて、社会保障予算ですが昨年度予算比で公共事業を削減してそれを割り当てる予定です。

 

また、教育についても同様で、公共事業を削減して割り当てる予定です。

……数年前より行われていた全国規模のインフラの改修が終了したので、そちらを社会保障と教育に割り当てる、と言うべきでしょうか。

 

また、内債についても昨年度より増加しておりますが、我が国の経済成長率を踏まえた上での増加であり、問題はありません。

 

他、国家公務員の給料についても昨年より増加、地方交付金についても同様ですが、これも先のものと同様ですので問題はないと考えております。

 

以上で、本年度予算案について説明を終わります」

 

そう言い、席に座るシャヒーン財務大臣。その座る姿は、誇り高き鷹を思わせるものだった。

 

「では、質疑応答を始める」

 

そうして、ガラティエ共和国最左翼のガラティエ労働者運動の議員、ルカ・ギュルセルという声と体の大きい、目立つ金髪の男が質問をする。

 

「一つよろしいだろうか。何故政府は公共事業予算を削らんとするのか!

確かに社会保障の拡充は喜ばしいことである!が、それはそれとして公共事業予算をそこまで削る、というのはやや早計というものであろう!

ここは国債を少しばかり増やしてでも前年比8割に留めていただきたい!」

 

左翼側の方すらにわかに騒ぎ出す。

 

「秘書官、彼の立場は?」

 

そっと、ロマン・テュルクは秘書官に耳打ちする。

秘書官はいくらかページをめくると「彼は労働者運動の中でも最左派の一員とのこと」と返す。

どおりで、今回の予算案に概ね賛同していた党主流派とやや離れた動きをするわけである。そう思いながら再び議場に耳を向ける。

 

「シャヒーン財務大臣」

 

「はい。今年度予算案の公共事業予算の比率は、インフラ整備計画以前のソレとほぼ同等であり、むしろ数年の予算の規模を考えれば、間違いなく増えております。

そして、予備費をいくらか削るにしてもどうしても7割に届かないと思われます。

それ以上となれば、それこそ社会保障政策に手を付ける、ということになりかねません。

どうか、再度ご自身の党内で検討し直すように願います」

 

そう言われて尚ギュルセル議員は引かぬ姿勢を見せたものの、流石に主流派の議員らに窘められて席につかざるを得なかった。

 

次いで、立憲ローマ同盟の護民派――社会保障等で民衆を護っていこうと考え、同時に社会的矛盾の解決を目指す、立憲ローマ同盟内の最左翼派閥だ――のパトリック・ルルーシュ議員がこう質問した。

 

「して、大臣殿。私が思うに国防予算はまだ削減の余地があると思うのだが。

特に、兵士の待遇については毎年良くなり続けているし、装備についても更新と称して増強され続けている。

これを許すというのは重要な問題ではないか?」

 

「ロマン・テュルク護民官」

 

「国防大臣は不在の為、首席護民官である私が答弁しよう。

まず、装備更新については極力民生に影響を与えぬように、優先度を決めて行っている。

これを無くすということは、他構成国との比較におけるガラティエの軍事力低下を招く。

ただでさえ宇宙軍について我々は輸送艦隊を保有するのみであり、そこで他構成国と大きな差があるのは言うまでもない。

次いで、兵士の待遇についてだが……貴公は彼らを国民であると認識していないのか?」

 

彼の鋭い目は、一人の議員に向けられていた。

 

「い、いえ、軍人も一介の国民であるが、それはそれとして公務員であると……」

 

「左様。つまり労働運動について制限があるわけだ。

故にこれを政府が行うことにより、彼らが訓練に集中できるようにする。

異論は?」

 

「いえ……」

 

半ば恫喝のような具合に、質問は退けられた。

 

そして、キリスト教民主主義を掲げる、ガラティエキリスト教民主党の議員、カルロ・コペルティーニという新米議員がこのようなことを言い出した。

 

「ひとつよろしいでしょうか。我々キリスト教民主党は、共同体であるガラティエ市民と他の自由惑星同盟の同胞の為に徴兵法の年数を一年増やすために国防予算の拡充を求めます。

これは、ルーム・ガラティエの承認も得ております」

 

「そうだ!」と右翼側より声が上がる。

 

ロマン・テュルクが目をやればそこで騒いでいたのはルーム・ガラティエ――ガラティエ共和国の独立と帝政移行を考える極右政党である。

と、よりにもよって立憲ローマ同盟の最右派である帝冠派、アルレスハイムをモデルとした帝冠を元首とする『帝冠共和国』論を唱える派閥が声を同じにしていた。

そして、それに対し護民派が「裏切り者」と叫ぶ。

 

(――裏切り、か。一応左派である護民派と労働者運動の方はこちらに味方するのは確定だろう。となると、懸念材料は保守党と……更なる造反、か)

 

そう思いながら、ロマン・テュルクはパイプを咥えて更に考える。

 

(極論、次回選挙であれば少しばかり予算を調整することで軍拡は可能だろう。だが、彼らはそこまで待つ必要もなく、議会工作でこの『徴兵制拡大』を訴え続けるだろう。

かといって、健全な若者を次々送り出すのはリスクが高い。で、あれば他の方法で彼らの要求を満たしつつ左派を納得させなければならぬ。

今年は厄介な年になりそうだ)

 

そして、彼は隣にいるコーネリアス共同護民官に声をかける。

 

「共同弁務官。来年度の我々の軍事費を増やすための予算を、『魔窟』から持ってこれるか?」

 

「首席護民官。それがお望みなら私はそれをするために努力しましょう。

……この混乱を終わらせるためにも」

 

「なら任せた、共同護民官」

 

そう、ロマン・テュルクが言った後に彼の秘書官がバズナ議長に耳打ちする。

そして議長が

 

「諸君、静粛に!議場は皆が籠に詰められたカナリアのように囀る場所ではないことを留意して欲しい!」

 

そして、議場を見渡してこう続けた。

 

「クローディア共同護民官。何か言いたいことがあると聞いたのだが」

 

「はい。今年度予算案についてはこれ以上国防予算の拡充は出来ない、と考えております」

 

議場がどよめく。

それを無視し、彼女はさらに続ける。

 

「ですが、私はこの混乱が鎮まれば、下院議員らと協力して何らかの更なる軍事的増強に対し中央政府の財布から引き出すことが可能である、と考えています。

で、あるからして、貴君らが本予算案に賛同してくれることを願います」

 

そう言って締めくくったそれの後、議長が採決をすることを宣言した。

 

特筆すべきことのない投票の後、特に問題なく予算案は可決された。

 

 

 

ガラティエ共和国護民官官邸、通称『アルバ王の城』。

 

この建物は石造りの宮殿風の建物で、かつて『ガラティエのカエサル』が、自らの資金で建てた城である。

が、ガラティエのカエサルが家族を残さずに亡くなったため、死後この建物は護民官の官邸として扱われていた。

 

その一室、『独裁官(ディクタートル)の部屋』――ガラティエのカエサルの居室として使われていた部屋に、ロマン・テュルクとクローディア・コーネリアスはいた。

 

「まさか、この部屋を簡単に開けていいとは思いませんでした。首席護民官、いえ、ロマン翁」

 

「ん、この部屋が一番盗聴機等の危険がないのでな。――ああ、備品には触れぬように。部屋のソファーとその横のテーブル、カーペット以外は保存するように」

 

「なぜそれらは問題ないのでしょう?」

 

「これらは必ず使うため、だろうな」

 

「つまり」

 

「会談のため、という訳だ」

 

そう言いながら、当時のガラティエでは最高級であっただろうソファーにロマン・テュルクは座った。

 

「クローディア、向かいに座るといい。質はそこそこだが――座る分には充分だ」

 

そう言われ、クローディアもソファーに座る。

その感触は『比較的』良い椅子であったと彼女は思った。

 

「なるほど、こういう具合ですか」

 

「うむ。確かに座るには問題ないが」

 

「「質はそこそこ」」

 

二つの声が重なり、部屋に響く。

そして、一呼吸置いてからロマン・テュルクが話し出す。

 

「して、クローディア。中央はどうなっている?」

 

「はい。【縦深】はいつも通り、といった感じです。タケミナカタ含めて」

 

「なるほど。で、あればあのよくわからん国から切り離すために更なる投資が必要やもしれんな。

そのためにも民間企業にタケミナカタへの出資を求めるべきか。設備投資は国が負担すると説明して……

インフラのために我が国自体から送る分もある、か……」

 

そう言いながら自らの髭を触り、指でそれを縒り合わせる。

 

「しかし、それをするとデルメルと間違いなく関係が悪くなりますが」

 

「わかっている。だが、他の【交戦星域】の国もデルメルをよく思っていないのだ。

極論、安全な後ろから売り付ける商人と、何故か家が焼かれぬ商人なら前者が好かれるだろう。

つまり、タケミナカタの権益闘争に我々が更に力をいれても関係が悪くなるのはせいぜいティアマトくらいだろう。

それに、ヴァンフリートやエル・ファシルにも無償の支援を行い、『同盟全体の連帯』を強調する、ということも行おう。

そして、だ。今のデルメルの弁務官には、アエミリウス卿の親族がいたな?彼を介してデルメルを宥めよう」

 

「はい。セウェルス氏やアエミリウス卿も我々を無下にはできないと思いますので……いけるかもしれません。

あとは、大夏の羅馬万民自由同盟からも圧力をかけさせる他、タケミナカタの『同胞』であるマゴメザワ党首より支援を求められた、という口実も使います」

 

「うむ。『銀河ローマ主義』の連帯を盾として我々の権益を得るのは少し心が痛むが、これでガラティエとタケミナカタの距離が縮まるのなら双方が得をする。

頼んだぞ、クローディア」

 

「お任せください。それが私の仕事ですから」

 

「よし任せた。その為の予算は特に指摘なく通っている。ルームの連中ですら特に何も言わず通すくらい他構成国との関係は大事というのは皆わかっている。

……ああ、一つ大事なことを忘れていた。少し待っててくれ」

 

そう言いながらロマン・テュルクは部屋を出た。

クローディアは、ようやく部屋を見回す機会を得、それを実行に移した。

 

何やら土台に金属板がついたラテン系の男性の胸像と、壁に貼られた肖像画。

数百年前の日付が記された資料と、つくのか怪しいくらい古いランプ。

そんな、埃のない部屋をぼんやり見渡すと、そういえば『ガラティエのカエサル』の絵や写真が教科書にないのを思い出した。

 

となると、あの肖像画の人物が彼なら、自分はようやく国父の顔を見たことになる。

なら、何故?

 

――そう考えたところで、また扉が開きロマン・テュルクがワインの瓶と、二つのワイングラスを持って戻ってきた。

 

「待たせてすまなかった、クローディア。ガラティエワインの最高級品を出してきた。

共にこれからのガラティエが良い方向に歩むことを願おうではないか!」

 

そう言いながら席に戻り、ワインを開けてグラスに注ぐ。

その片方をクローディアが受け取るのを見届け、彼はこう言った。

 

「ガラティエ共和国と我々の未来に栄光があらんことを願って、乾杯!」

 

「乾杯!」

 

時は、まだ流れ始めたばかり。




当該話について言及された各惑星の銀河ローマ主義政党とその所在国、所属人物については

兵部省の小役人氏
kuraisu氏
Kzhiro氏

これら全員の許可を得ております。
また、本作はあくまで個人的な三次創作に過ぎないため本家である『同盟上院議事録~あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争~』他、『同盟上院議事録外伝』、『同盟上院議事録異聞 〜周回遅れの星・タケミナカタ民主共和国〜』と矛盾する可能性があります。
その点についてもご留意ください。


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ある指導者の一日、前編

「さて、ローマ皇帝とやらは何師団保有しているのだ?」
「……陛下、かの国はローマ帝国ではございません。『ローマ共和国』です」
「……はぁ?」

――とある銀河帝国皇帝と臣下


ガラティエ共和国首都、ルーム。

その中でも両会共同議事堂(他国に当たる国会議事堂)に近い、護民官官邸に老人はいた。

――といっても、既に六年はここにいるのだが。

 

彼は、このガラティエ共和国の元首である『偉大なるガラティエ属州人民の首席護民官、凱旋将軍、命令権保持者』ロマン・テュルクその人であった。

そんな彼は、ガラティエ時間(バーラト時間と同じ)における朝五時にいつも通り起床、年老いて重い身体をほぐすべく室内を歩き始める。

それと同時に、寝てる間にどんなニュースが流れていたのかを電子端末で確認しだす。

 

「ふむ、アルレスハイムで株価の上昇、パランティア経済は好調、エル・ファシルの復興に関しても各星系資本により好調、か……しかし、だ。こう良いニュースばかり流れてきても彼らが『私漁船』に脅かされている事実は変わらない。

我が方としても駐留軍をいつまでも出すわけにはいかぬしな……せめてイゼルローン要塞でも陥落すればよいのだが」

 

そう呟きながら時間を確認すると五時三十分、「そろそろか」と思うと同時にドアがノックされる。

 

「閣下、お食事の用意が出来ました」

 

「うむ、それでは頼む」

 

「かしこまりました」

 

そうして戸が開かれ、食器類を乗せたワゴンと共に、スタッフが入ってくる。

 

「して、今日の朝食は?」

 

「ポリッジ、ミルク、鶏肉のタケミナカタ風ソテー、オレンジ、イチジクでございます」

 

「ふむ、ありがとう」

 

そう言いながら、私室に備えられたローテーブルに朝食が置かれる。

ガラティエの一般的な朝食は、先日の残りとパン、ミルクやワイン、チーズと果物であるが、彼の場合はパンより粥を好んでいた。

また、タケミナカタ風ソテーについても「タケミナカタへの外遊時」に気に入ったものであり、ほぼ毎日食べるものであった。

この『ガラティエ人の長らしくない』食事を初めて官邸付きのシェフに頼んだ際、彼の困惑した顔を思い出すと悪い笑みが出てくる。

 

しかしながらこの老政治家にとって、『長らしい食事という概念こそローマ的でない』のであり、何より貿易という観点からも必要なことであった。

 

ガラティエ共和国は、その立地から【交戦星域】とバーラト共和国、フェザーン自治領を結ぶ要地の一つである。故に、その全ての生産物が入ってくる中継地点でもある。

そのため、双方の食文化も入ってきて多様性が更に広がっている。

故に、首席護民官が【交戦星域文化】たるタケミナカタ風の料理を食べることは「ガラティエは自由貿易を容認している」というアピールにも繋がるのだ。

まあ、それはそれとしてタケミナカタ風ソテーは完全な好みなのだが。

 

そんなこんなで食事を済ませると、入れ替わりに衣装係がやってくる。

 

「閣下、本日の衣装はこちらのスーツに緋色のネクタイとなります」

 

「うむ、任せたぞ」

 

そのような会話をしながら、本日の予定に気を回す。

その体に合うよう、ガラティエ有数の仕立て屋で作られたスーツは着込むと、自然と威厳あるようにも見えてくる。

勿論威厳をもたらしうる服に着られてる、という訳でもなく、普段隠れるオーラを引き立てる、というべきか。

 

70近い老人とは思えぬ、程よく筋肉に覆われた肉体が黒いスーツを纏う。

そうして髪を鋤き、髭を少しばかり整えて身支度が終わる。

伸ばした髭は『ローマ的でない』ものではあるが、多文化国家たるガラティエにとって気にするものでもない。

かくて、忙しき公務が始まるのであった。

 

 

 

午前六時三十分、彼は護民官官邸の首席護民官執務室――昔は客室の一つだったらしい、にいた。

 

「ふ、む。フェザーンとの貿易額は黒字、か」

 

そう資料を読みながら、淡々と近くにいた秘書官に話しかける。

 

「ええ。反面、やはり資源関係で赤字の貿易もありますが全体的には黒字です」

 

ガラティエの主要な産業の一つは他星系の重要資源の加工貿易であり、【交戦星域】から運ばれた資源から民間の船舶を建造したり機械を製造し販売――というプロセスが行われている。

勿論第一次産業を疎かにはしないが。

 

「……なるほど。やはりバーラトとフェザーンが大きいな」

 

「はい、やはり我が国にとって最大の貿易先はバーラト、次いでフェザーン、その後ろに他の構成邦ですから」

 

「六年間でフェザーンとの交易額が増えてるにも関わらず、利益が少し下がってるのは不安だが」

 

そう言うとロマン・テュルクは資料をめくる。

 

「閣下、しかしながら貿易額全体で見れば六年前より儲かってます」

 

「そこはわかっている。だが、フェザーンに我が国の物資やアレコレが流れるのを考えれば……」

 

「……【交戦星域】への支援で釣り合いは取れてると思いますが」

 

「それは国民感情だ。我々が考えるべきなのは結果的にフェザーンが肥えることを阻止しなければならぬ、ということだ」

 

秘書官は少し思案してから話す。

 

「……尤も、我が国だってバーラトと【交戦星域】からしてみれば、フェザーンのように貿易航路を抑えてる邪魔な国に見える、というものでしょうが」

 

「……違いないな」

 

そう呟きながら、ロマン・テュルクは水を飲み、次の仕事へ取りかかった。

次の書類は、経済政策についてのものであった。

 

 

午前九時三十分、今日は『ロマン・テュルク政権の六年間の成果』たるアウトストラーダ大改修の落成式の予定が入っていたために、彼はリムジンに乗り込む。

 

――アウトストラーダ大改修。

その通称と違い、実際は大規模な新規道路の開通も含めたこの改修計画は、ガラティエの居住地域全てを結ぶ広範なものであった。

今までのガラティエの『継ぎ足された』高速道路の効率化、老朽化への対処、新都市開発計画の前提……様々な要素を内包したこの計画を成し遂げたことは、間違いなく成果であり、順調な進捗は政権の二期目を行うために有効に作用した。

 

兎に角、この計画は立憲ローマ同盟という政党が大衆政党として立脚していることを示していた。

 

そんな政治的意図を含む落成式は首都から少し離れた場所で行われるために、少し長めの移動時間が必要となっていた。

 

 

『ルーム競馬場第12レース、遂にガラティエ杯クアドリガ部門、銀河最強の繋駕競争馬が決まらんとしています!まず一頭立てレースのハーネスを…』

 

ガラティエで一般的に親しまれる繋駕競争――フリー・プラネッツ・カップや春のハイネセン杯、秋のグエン杯のような平地競争とは異なる、二輪馬車を用いるレース、特にガラティエ杯はその中でも最も格の高い――の実況を聞きながら移動する。

 

『ロマンローマ速いロマンローマ速い!他の馬に圧倒的大差をつけゴール!

デビューから僅か一年で頂点に登り詰めました!ガラティエ杯クアドリガ部門、ハーネスレース優勝馬はロマンローマ!ロマンローマです!』

 

車内に、今年デビューの馬がサラブレッドに勝るとも劣らぬ快速を見せつけて勝利、という実況が流れる。

恐らく血統が酷いことになるかもしれないが、その時はその時だろう、とガラティエ競馬界の未来のことに少し想いを巡らせながらも、車は落成式の会場たる『構成邦道ガラティエ1号中央アウトストラーダ』のインターチェンジへと向かっていく。

 

 

ガラティエ1号中央アウトストラーダとは、『ガラティエのカエサル』の命により建設された、ガラティエで最初の道路を基軸とした高速道路であり、早い話ガラティエの大動脈であった。

が、近年は老朽化により少しばかり危険が出てきた――となる前に手を打ったのが立憲ローマ同盟とロマン・テュルクであった。

立憲ローマ同盟内部の穏健的右派であった彼は軍事的な理由も兼ねてアウトストラーダ大改修を提言、他派閥も賛同したため、この提言が選挙のキモとなったわけである。

 

それはそれとして、リムジンは落成式会場へと辿り着いた。

赤い絨毯を踏み、他の関係者のところ――閣僚としてマリウス交通相がいるところへ向かう。

 

「交通大臣、気分はどうだ?」

 

そう話しかけると、小太り故かまだ若く見える(実際は40きっちりである。六年前に閣僚となったのを考えると確かに若い)マリウス交通大臣は

 

「……正直なところ緊張しております、首席護民官殿。6年やって慣れぬというのはお恥ずかしいものではありますが」

 

そう話すと、ふう、とため息をついた。

 

「……慣れて貰わねば困る。あと何年その席に座るか、誰にもわからぬのだからな」

 

「はい。交通大臣の席にある間、全力で国家のために働く所存であります」

 

そうマリウス交通大臣は返すと、祝辞の原稿を見返し始めた。

それを見たロマン・テュルクも満足そうに頷いたのち、来賓として席に座る。

 

 

そして式は粛々と進み、

 

「えー、この度は、アウトストラーダ大改修が遂に完遂された、ということでまことに喜ばしい日であると思い――」

 

マリウス交通相の、至って普通の祝辞を聞きながらロマン・テュルクは「やはり実務屋を演説に使うのは微妙だ。だが、それも必要なことなのだ」と思いながら、自分の出番を待つ。

そして、交通相がその祝辞を終えた際、真っ先に拍手するのであった。

 

「それでは、ロマン・テュルク首席護民官の祝辞です」

 

そう司会が呼び、彼が立ち上がると、空気が変わる。

空気を支配するのに、緋色のマントも月桂樹の冠も、飾りの剣も不要であった。

ただ、圧倒的な『威厳』こそ空気を支配しうるのだ。

 

 

「ガラティエ人民諸君」

 

いつもより若干低い声。

 

「私は首席護民官となった後、このプロジェクトに六年の月日と多大な予算を費やしてきた。

その成果がガラティエ始まって以来の歴史の中で、比肩しうる物を探すなら『ガラティエのカエサル』とその後の三頭政治の時代に遡れる程に素晴らしいものである、というのを非常に喜ばしく思う。

 

六年前はひび割れ、一部では亀裂も入っていたアウトストラーダが見違えるほどに美しく、頑丈になったことは、さながら、元から美しかった者が化粧を覚えて更に自身の美しさを引き立てる術を覚えたようなものだ。

 

尤も、我々がローマである限り道路は避けて通れぬ――いや、そもそも道路を避けるのはダメだな、うむ。

 

兎に角、だ。我々立憲ローマ同盟はこれまでの六年の節目としてこの日を喜ぶし、これからの六年を人民のために善くするべく全力を尽くしていきたいと思っている。

 

だが、今この日は純粋に皆でアウトストラーダの改修が終わったことを喜ぶべきであり、そこに思想や文化、信仰の差異はあってはならぬ!

 

この計画を考えたマリウス交通大臣に万歳を!このアウトストラーダを構築した全ての人々に賛美を!

 

ガラティエ属州万歳!」

 

パチ、パチと小さかった拍手が徐々に大きくなり、やがて会場に響き渡る。

その中でもマリウス交通大臣が最初に拍手をしだしたのを、ロマン・テュルクは見ていた。

そうして、ゆっくりと席に戻った後も式は粛々と進み、テープカットも終わり、取材陣を避けつつリムジンに乗り込む。

 

クローディア弁務官は今頃議員らと上院での方向の擦り合わせか、と考えながらも、車は走り出すのであった。

 

 

午前十二時、或いは午後0時か正午。

 

ようやく護民官官邸に戻ってきたロマン・テュルクは、ハムやトマト、レタス等が挟まれたサンドウィッチを摂っていた。

サンドウィッチは、執務室でも食べることが出来るという意味では、ほぼ毎日誰かしらが官邸内で食べている物であった。

 

そんな軽食で腹を満たしながら、彼は来月行われる「銀河ローマ主義総会議」の参加者一覧を見ていた。

 

「ふむ。デルメルのロイヒテンベルク卿にアルレスハイムのシュラフタ、大夏の羅馬同盟、ルンビーニの万路連帯党も来る……ん?」

 

そうして、とある部分に目がつく。

そこには『タケミナカタ民主共和国、ローマ自由同盟:出席可』の文字。

 

「……これは荒れるな……」

 

そう呟いたロマン・テュルクは秘書官に、当日の警備体制を更に増強するよう伝えてから胃薬を飲んだ。

 

 

 

そもそも、『銀河ローマ主義』という概念はなかなか混沌としている。

一部の者からは『ガラティエ帝国主義』――フェザーン航路近隣の居住可能惑星により構成された、『首都たるガラティエとその属州諸邦構想』を指すこともあれば、単に共同体ハイネセン主義と労農連帯党の系譜として語られるこの思想は、『パンとサーカス』を元とした、国民を餓えさぬための社会福祉と人間らしくある為の娯楽(勿論剣闘士は非合法)を振興する政策、人種差別の完全否定とマイノリティ尊重、積極的な公共事業による雇用の創出を含めた大きな政府志向といった、やはり共同体ハイネセン主義の分派ともみられるこれは、その大半が同盟下院において労農連帯党支持を表明していることでも有名である。

 

だが、銀河ローマ主義の問題点は肝心なところはその票田である。

とある【交戦星域】で行われた選挙で善戦した銀河ローマ主義政党の、支持者の半数近くが同じ宗教を信仰していたという。

 

――オリュンポス教ローマ派、もとい単にローマ神話信仰とも称されるそれは、地球時代より連綿と信仰され続けたものであり、銀河連邦時代には彼らの建てた神殿を『町を幾つか歩けば見ないこともない』規模になっていた。

そんな彼等がルドルフの台頭により弾圧され、その生き残りはハイネセンと共に新天地を目指して旅立った果てに大国を形成したのだから運命は複雑である。

 

ともあれ、銀河ローマ主義政党の支持基盤の一つは宗教勢力であり、その点から共同体ハイネセン主義とのある種の差別化がみられるのだ。

 

また、銀河ローマ主義内部でも後発である銀河ローマ同盟の系譜と、各政党の元締め的役割の立憲ローマ同盟の対立がみられる。

その中で親デルメル国家であるタケミナカタのローマ自由同盟が訪れる、というのは【交戦星域】への影響力を一定以上保持していたいガラティエからしてみれば凶兆とも取れるのだ。

 

そんなことを考えたロマン・テュルクは、「ロイヒテンベルク卿と二人で話す機会も必要だ」と思い、どうにか会談の時間を捻出できないか見ていくのであった。

 

 

午後三時。

 

ある程度の仕事を片付けて一旦休憩を、というところでドアを叩く音がする。

 

「閣下。この時間ですのでスコーンとシロン葉の紅茶をお持ちしました」

 

「ふむ。では頼んだ」

 

やけにいいタイミングだ、とも思いながら身体を伸ばす。

 

肩を回しながら待っているとドアが開き、スコーンと美しい白磁のティーポット、それに似合うティーカップが運び込まれる。

そんなティーポットを執事が持ち、中身を注ぐとふわり、と良い香りが周囲に漂う。

ロマン・テュルクはティーカップの持ち手を掴み、口に含む。

 

そして一言「うまい」ともらし、スコーンに口をつける。

これもまた美味であり、首席護民官という立場になってよかったと思いながら休憩時間を楽しむ。

 

「やはり美味い。休憩には何かしら褒美が必要なのもあるが、にしてもこれは役得だ」

 

と呟きながらもこれを進める。

 

やがてスコーンも紅茶もなくなり、カップが下げられるとロマン・テュルクは仕事に戻る。

 

その仕事速度は、端から見れば先程より心なしか早くなっているように思えた。

 

 




遅くも更新しました。
とりあえず後編も出せるよう頑張ります。


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ある指導者の一日、後編

「大神はガラティエワインをご所望だ。なんでわかるかって?皇帝陛下が大貴族から届けられた410年物を無視して、フェザーンから届いたガラティエワインを飲んでるからだよ」――フェザーン自治領成立後のとある侍従の日記の一節



「そういや、宮中に贈られるワインの中で、何故『反徒のワイン』があるんですか?他にも美味しいワインは沢山あるのに」

「……あんまり疑問を言うと上に怒られるんだが、一つ忠告の代わりをしておこう。昔ガラティエワインを『反徒の三流ワイン』と称した貴族が居てね」

「ほほう。そして、どうなったんですか?」

「そいつは酒好きの貴族たちと皇帝陛下が『反徒の』ワインに目を丸くしている中で言ってしまったがために官職を全て失ったそうだ。「超一流のワインを三流と称すとは何語とか」とね。
まあ、『馬鹿舌と逆張りは黙っておくのが肝心』ってことだ」
――とある帝国官僚の雑談を記した手記。この後この二人は出世したとも書かれている。


午後六時。

 

ロマン・テュルクは部屋を出て、再びリムジンに――といかず、普通の車に乗り込む。

行き先はルーム市街にある『何故か個室だらけ』のイタリア料理(ガラティエ料理とも)専門店に向かう。

 

大通りを進み、その店に入ると既に一人の男が軽く、トリュフが乗ったニョッキをつまんでいた。

 

「ああ、ロマン護民官。お先に少しだけ楽しんでおりました」

 

そう話す男は50程度の、黒髪と青い目の、筋肉質な身体を持つ男であった。

 

「ユリウス国防大臣、待たせてすまなかった。だがあと何人か来るのでな。私も何かしら楽しんでおくとしよう」

 

「それはいい。だが、酒がまだ飲めないのは如何せん面倒ですな」

 

ユリウス国防大臣と話しかけられた男は、けらけらと笑いながら、メニューを見ていた。

 

このユリウス・マリネッティという男はロマン・テュルクの最側近にして、主流派の後継者として見られる男であった。

彼は、士官学校卒業から32歳まで同盟宇宙軍で働き、とある会戦で左腕をもってかれて退役すると、しれっと故郷であるガラティエの民会に「軍の代表者」面してデビュー、つい6年前に共同護民官に任命されて、今年戻ってきたばかりであった。

 

「……全くだ。ここにはとてもよい酒が揃ってるというのに、これではこれから話すことに集中出来ぬかもな」

 

「ふふっ、そりゃ残念で。でも、クローディア嬢だのあの人が来るまで二人で無言で生ハムをつまむってのは、少し厳しいものがあるでしょう?」

 

「なら、少しだけ話すか」

 

「……ですねぇ」

 

そう、ユリウスが返すと、ロマン・テュルクはそっと一つの資料を出した。

 

「……『宇宙軍整備計画案』ですか。にしたって、いきなり20年以内に巡洋艦保有を目指すって……」

 

「ああ。無理だろうとシャヒーン財務大臣に話したら、「この規模であれば、今後のガラティエ経済を考えたら全然問題はないでしょう。大規模軍港の貸与や軍艦の造船により同盟政府からの収益で黒字を見込める、建設邦債の発行は問題ない」と答えてきた」

 

「……あの鷲もノリノリですか」

 

「鋭い目が、緩くなってた」

 

「おお、そりゃおっかない。で、これは3年後にぶちあげるつもりで?」

 

「……まあ、そうなるだろう」

 

ふーん、と言いながら、ユリウスが生ハムを一切れ口に放り込む。

 

「であれば、ルームのアホ連中はともかく、色々な政党がキレますよ?『今のまま』なら」

 

「ああそうだ、『今のまま』なら労働者運動はNOを突きつけてくる恐れがある。だからこの場がある」

 

「……だから、この場をねぇ」

 

ユリウスは、何かを手に取ろうとし、ふと首をかしげてそれがないことに気がついたのち、結局またニョッキを口に放り込んだ。

 

「まあ、地上軍の説得については護民官の仕事でしょう。バーラト政府からの収益云々の話は同盟弁務官たるクローディア嬢の仕事ですが、まさか私が責任もって宇宙軍の育成をしろと?」

 

「そこまでの無茶は言わん。ただ、宇宙軍士官学校の設置とその教官を探すくらいはして貰わないといかんだろうな。ほら、あるだろう、アレが」

 

「まあ、かつての戦友とかの伝手はありますけど。にしたって国防大臣が長い間国内不在とか不味いでしょう」

 

「だから三年後だ」

 

「……うわ、この三年間選考しておけと?全く無茶苦茶な人だ」

 

「その選考が可能な人材が、このガラティエにどれだけいると思ってる?」

 

ユリウスはふぅ、とため息をつくと、額に手を当てて笑いだした。

 

「こりゃやられた!確かに選考可能な奴は私くらいだ。

うちの宇宙軍なんてだいたいが兵站局の小間使いなわけだし、そりゃあそうか」

 

「……納得したか?」

 

「しなきゃならんでしょう、こんなガラティエの歴史に残る出来事に参画する機会なんて!」

 

「なら、それは良かっ……おっと」

 

そう言うが早いか、扉が開きクローディア首席弁務官が入ってくる。

 

「首席護民官と国防大臣、なんのお話でしょう?」

 

「お、クローディア弁務官、そこに座るといい」

 

そうユリウスが席を示し、クローディアがそこに座る。

それを見たロマン・テュルクが話す。

 

「有り体にいえば宇宙軍の整備計画、だな」

 

「……本気でやるおつもりですか、首席護民官」

 

「聞かされてたのか。クローディア弁務官」

 

ユリウスが意外そうな顔で他の二人を見る。

 

「ああ。彼女には上院の支持を取り付けて貰わねばならんからな。この計画には、長い期間をかけての事前の根回しがものを言うだろうから、彼女が弁務官になった時には既に話していた」

 

「……首席護民官殿は流石だ。最初から共犯者作りに余念がない。私もこうありたいものだ」

 

「……下手にやると密談も露見して大騒ぎになりますけど」

 

関心するユリウスと呆れたような声で水を飲むクローディア。

ある種対照的な二人をよそに、ロマン・テュルクは続ける。

 

「そして、だ。クローディア弁務官にはこれに関係する諸邦との交渉も任せたい」

 

「……少なくとも、ルンビーニは確定ですね。あそことの関係はフェザーン方面の安定に大事ですから」

 

「ああ。あとはいくつかの構成邦から選んだ教官を雇い入れる可能性もあるから、リストが作成でき次第その構成邦にも一言入れて欲しい」

 

「となると、バーラトは確定として……他は【中間星域】のあの国々ですか」

 

「そうなるだろうなぁ……あいつら、故郷で何してるのやら」

 

「述懐にはまだ早かろう。連れてこれるのかまだ定かでもないというのに」

 

「……まぁ、そうですが。それはそれとして、艦長クラスの育成なら構成邦宇宙軍の退役将校で賄えますけども、駆逐戦隊の司令官はどこから連れてきましょう?駆逐戦隊なんざ運用出来るところも限ら――あ」

 

「……ユリウス大臣、何か思い至ったようですが……まさか、バーラト?」

 

「そのまさかだよ、クローディア弁務官……ああ、果たしてマトモな人残ってるかなあそこ……」

 

露骨に肩を落とすユリウスと、「これはとんでもない大仕事に違いない」、と考えるクローディア。

 

そんな二人をよそに、ロマン・テュルクは最後の一人を待つ。

 

「……そろそろ、だな」

 

そう誰かが漏らすと同時にまた扉が開き、今度は小太りの中年男性が入ってくる。

 

「やあやあ首席護民官閣下、首席弁務官閣下、国防大臣閣下。此度はお招き頂きありがとうございます」

 

「遅かったじゃないか、『ガラティエ労働者の守護神』ジロー党首殿」

 

「ははは、首席護民官閣下はご冗談がお上手で。私はただのちょっとした政党の党首ですよ」

 

「なら、その政党が労働大臣の席を持ってるのはどういうことだろうね?」

 

「国防大臣閣下、そこは疲れると痛いところですからご勘弁を」

 

そう、笑みを浮かべながらジローは答える。

 

 

ジロー・アルベルデという男は、ガラティエ労働者運動――労農連帯党の系譜を主張する、組合主義者やら共産主義者、銀河ローマ主義を好まぬ連中の寄り合い所帯――の党首を務める男であり、彼自身はガラティエのような大構成邦の国政政党の党員を兼務する有力政党党首としては珍しく同盟下院議員の経験はないが、ガラティエ政界において勢力を維持しうるだけの能力でそれを補っている男である。

だが、内部統制が緩みつつあるとも言われていた、とクローディアは思い返す。

 

 

それと同時並行でロマン・テュルクが話し出す。

 

「……雑談はここまでとして、ジロー党首も来たことだし再度皆に説明をしたい。

此度の集まりの理由はこの『宇宙軍整備計画案』。素案だと20年内に巡洋艦の保有を目指すこととなる。

また、一番の敵となるだろう財務省は『予算に問題はなく、むしろ軍港や造船所の建造により、公共事業も増やして経済を活発化させるべき』と、シャヒーン財務大臣が語ったことから不都合はないとみなせる」

 

「……それで、組合をまとめられる私達をも抱き込むと」

 

「ああ。我々としては、福祉予算の削減を一切行わなず労働者保護について更なる法案の可決に協力することを確約できる」

 

そう、ロマン・テュルクが言うとジローは考え込む。

 

「……我が党としては『軍拡は抑えたい』のと『運輸業の労働者を守りたい』というのが真意ですが。その……『主流派はまとめられる』でしょう」

 

「……ふむ」

 

「閣下の提案を飲めるか飲めないか、ですな?待遇と雇用の論点で民会でこちらの質問に対し、条件を譲っていただければ、主流派は飲めるでしょう。支持層に利益をもたらせば我が党が、与党の決定に追従することに違和感はないので。

共産主義派はフォルセティのイカれを考えてこちらにつくでしょう。『間違ってもガラティエを怒らせたくない』のが真意でしょうし。

問題は先日も予算案に殴り込んだ非主流派です」

 

そう言うと一息置いてから水の入ったコップを飲み干し、更に続ける。

 

「早い話、非主流派は、現状に満足していません。

労働者共和国たるガラティエの構築を最優先で目指しています。

そんな連中にとって一番邪魔なのが主流派であり、立憲ローマ同盟です。

『邪魔だから』。そんな単純な理由で私と立憲ローマ同盟に対しNOを突きつけるべく離反、という短絡的な行動を、やるかやらないかならやるでしょうよ」

 

いつの間にか皿が増えていたフライドポテトを口に放り込んでジローの話は終わった。

 

「ふむ。ありがとう。

……こりゃ、ルーム頼りか?」

 

ルームもといルーム・ガラティエは極右で軍国主義的側面こそあるが、憂国騎士団とはやや毛色が異なる。

筋金入りの自由惑星同盟嫌いなのだ。

その意味も同盟懐疑派とは異なる。

 

『自由惑星同盟を離脱したのち』『ローマ帝国を復活させ』『自由惑星同盟と同盟を結び銀河帝国を倒す』ということを主張しているのだ。

 

そんな彼らは支持率にして7%に満たぬが、ガラティエ政界に混乱を与えるには十分な規模の連中である。

 

「にしたって、連中と手を組むのはマイナスイメージを与えますよ?保守党が三年かけて進んだ計画を取り止めない連中なのはわかってますが、それにしたってルームは危険です」

 

「……何も『公然と手を組む必要はない』のだけども、懸念はわかる。奴等の楽観論に下手な実現性を与えるのは不味い」

 

「で、あれば他政党や労働者運動の非主流派を切り崩す他ないのしょうか?

少なくとも、私はそう思いましたが」

 

「それについては同意だが、そうも上手く応じてくれるものかな」

 

ユリウスとクローディアが如何に議員票を集めるか話す。

その内容も中身の薄いものであり、それ自体がこの問題の面倒さを物語る。

 

「……まあ、その、首席護民官閣下。『労働者運動』としては党を維持するために『自主投票』も考えています」

 

自主投票、つまるところ『こちらに利益を示せば主流派や共産主義派は手伝える』というサイン。

まあ、そこが落としどころではないかというラインである。

 

「……ありがとう、わかった。判断はジロー党首の良心に任せよう。して、肝心の話は案外早く終わった訳だが……どうする?」

 

ジロー党首の『提案』を事実上肯定したロマン・テュルクは、メニューの酒類を見せながら三人を見る。

 

「生憎、これからの予定はないので、そりゃあ……ねえ?クローディア嬢はこれからの予定は?」

 

「ここに来る前に事務仕事は片付けてあるので。それよりもジローさんは?」

 

「大丈夫ですよ。明日まで予定はないので」

 

「なら決まりだな」

 

「決まったなぁ」

 

「決まりましたね」

 

「決まりですねぇ」

 

「「「「飲もう、とりあえずワインでも」」」」

 

 

――ガラティエは『ジョージ・パームの愛した星』『Planetes Bacchi(酒神の惑星)』と呼ばれる程に酒が美味しいことで有名な星である。

そして、ここはそんな惑星の料理店。そして、つまんでたものはだいたい酒の肴になり得るもの……

 

つまり皆、話をしていくうちに酒が呑みたくなったのである。

 

そうして、用件が終わった後故に皆、飲むスイッチが入ってしまっていた。

 

 

「うむ、やはり我が国の酒といえばこれしかあるまい」

 

そうロマン・テュルクが言葉を口にするのはガラティエワイン。それをゆっくりと味わうのが酒に見合った飲み方だろう。

 

「ロマン殿はわかってませんな。この国の酒は全て旨いのですから『全て我が国の酒』でしょう」

 

そう言ってるジローが手に取ってるのはスパークリングワイン。シャンパーニュという言葉が消え失せて久しいこの時代では、スパークリングワイン全てをシャンパンと呼ぶ場所も少なくはないが、この国ではちゃんとスパークリングワインと呼ぶ。

それはさておき、その黄金色の煌めきはグラスの中に黄金郷を閉じ込めたが如く輝いている。

 

「帝国人は410年物のワインを有り難がって、フェザーンに置いてある我が国の酒類を無視すると聞きますが、やはり脳が固まっておられるんでしょう。

こんなにも美味しい酒を『410年物ではないから』と呑めないんじゃ人生大損ですよ。

……いや、フェザーンだと高値で取引されるんだったかな?」

 

そう言うとユリウスは、グラスに入った白ワインを一気に飲み干す。

その頬は少し赤くなってるのが見受けられる。

 

「フェザーンとの交易品目だとやはり酒類の利益が高い方なので、『帝国貴族』は飲んでるでしょう。恐らく」

 

「だとしたら、どんな気持ちで飲んでるのやら!」

 

「……ブリテン人お手製の酒を飲むよりは理解が及びやすい心境でしょうな」

 

「アレを飲む時は何となく悔しい気持ちになるんだよ、アレは」

 

「……悔しがる気持ちもわからなくはないですが、伝統の差は埋められませんから」

 

「クローディア嬢はあいつらの肩を持つつもりか……?」

 

酔う酔わないは別としても1名危うい方向に向かってるのはともかく、皆楽しめているのだろう、とロマン・テュルクは判断し、しれっと『輸入品』に目をやる。

 

そこには、『馬乳酒(クミス)』の文字があった。

 

――基本的にガラティエでは輸入品の酒は珍しいものである。

しかしながら、この店にはその輸入品が置いてある。

即ち、この店が選ばれた理由は個室があることもそうだが、輸入品も(在庫次第で)取り扱ってくれるということだ。

 

三人がやれ財務大臣の目が怖いだの、やれあの大臣は女遊びしてそうだのという雑談をしてる最中、ことり、と馬乳酒が置かれる。

 

ウェイターに軽く会釈をし、その匂いを嗅ぐ。

どうやら、比較的発酵が進んでないようだと思いながらそれを口に含む。

すると、強い酸味が口を通るが旨い。それを味わいながら飲み干す。

そして、立ち上がるとこう三人に語りかけた。

 

「……私はもう行こう。会計はいくらか余分に出しておくが、残りは好きに使ってくれ。

 

では、よい夜を」

 

「ええ、よい夜を」

 

「……また議会で会いましょう、閣下。良い夜を」

 

「あ、もう行くのですか。ところで――」

 

しれっと話しかけてくるユリウスの声を無視し、四人分の代金を払っても余る額を置いて個室を出る。

 

車に戻ると、運転手も同じ店で食事を取っていたらしく、胸ポケットにはカードが入っていた。

そして車に乗り込み、護民官官邸へと戻るべく車は走り出した。

 

 

午後九時半。

 

帰宅したロマン・テュルクはシャワーを浴び、自室にて軽く映画を見ていた。

タイトルは『キャプテンルドルフVSアーレ・ハイネセン G7』。

バーラトで作られたZ級映画で、カルト的人気のB級映画『キャプテンルドルフVSアーレ・ハイネセン』の無許可続編である。

 

尺は90分だが、その半分近くがチープなCG、残りの三割が全く使えないお色気シーン、残った二割が名作の残骸という、ネタにしかならぬ迷作であった。

因みにガラティエどころか他星系での上映はない。

テルヌーゼンとバーラトでのみ上映された。

 

開幕全く使えぬお色気シーンが始まったところで、強い眠気と虚無感を感じて歯を磨きに立ち上がる。

 

裏ではキャプテンルドルフの放ったゲルマンゾンビがカップルを食い荒らすスプラッタとなりつつも、そんなことはお構い無しに歯を磨く。

 

やがて、シーンはハイネセンがハイネセンポリスで演説をするシーンに移行する頃、ロマン・テュルクはそのあまりにも雑な観衆のCGを見て一言。

 

「誰だったか、この映画を勧めてきた奴は」

 

と漏らして、ハイネセンの演説を繋ぎあわせた間接の向きと身体の幅のあってないバラバラ死体を背景に、流行り物の映画を観るべく、無理のない時間を探してスケジュールを調整することにした。

 

 

午後十一時。

 

結局90分丸々流された映画は、ゾンビルドルフ(何故か大昔のサラブレッドのゾンビに騎乗していた)をハイネセンがゼッフル粒子で爆破してフィニッシュとなって終わった。

それと同時に、ロマン・テュルクも二週間程のスケジュールを見返して、偶然起きていた警備担当者と話し合ってギリギリ三時間を確保し終えた。

 

そして、時間を確認してからコップ一杯の水を飲み、ベッドに入った。




『キャプテンルドルフVSアーレ・ハイネセン G7』のG7に深い意味はありません。


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信仰とロマン

ある人物が新無憂宮の前に訪れて、カイザーの批判をしようとした。
その帝国人は射殺された。

対して、バーラトの議事堂で同盟の体制の批判を行おうとした者がいた。
彼は人民防衛運動の過激派に睨まれたが死ぬことはなかった。

そして、フェザーンで領主批判をしようとした者がいた。
彼は後日、"何故か"地球教団の施設から出てきて体制支持に転じた。

どれがマシかは人によるが、間違いなく"良心的"なのは同盟だろう。


――インターネットの書き込みから抜粋


ガラティエ共和国には国教が存在する。

正確には「公的な地位を持つ宗教がある」。

 

それこそがガラティエ人がローマ人であると主張する最大の根拠、ガラティエ・ナショナリズムの根源でもある「ローマ教」とでも呼ぶべき、古代ローマの多神教信仰であった――

 

 

 

アスターテ会戦より少しして、ガラティエにとって最も大事な月が訪れる。

三月。ガラティエの民会と元老院が開かれ、宗教的にも重要な月。

 

そんな時にこそ大事は起こるものであり、それを解決するのもまた仕事であった。

 

 

ガラティエ共和国護民官官邸、その執務室の扉が慌ただしくノックされる。

部屋の主、ロマン・テュルク首席護民官はそれを聞き、軽く咳払いをしてから返答を告げる。

 

「所属は?」

 

「はっ、文化省宗教担当局の者です」

 

「……入ってよろしい」

 

「はっ」

 

そう告げて入ってきたのはまだ若い、ややくたびれたスーツの男だった。

 

「何があった?現在は両会の開会に合わせて演説を練っていたところだが」

 

「それが、首席護民官閣下。祭儀監督官(レクス・サクロルム)が危篤とのことで……」

 

首席護民官が持っていたペンを落とすのは至極当然であった。

 

 

ガラティエにおいて聖王(祭儀監督官)(レクス・サクロルム)は首席護民官が神官らの推薦において任命し、それを元老院が承認するという形式を取る。

これは、最高神祇官の職権を聖王と護民官で分割した際に取り決められたものであり、ガラティエの国父たるガラティエのカエサルが明文化したものである。

しかしながら、神官らにとって現在の首席護民官は"異教徒"であり、その異教徒からの任命を是とするか非とするかは神官らの中でも分かれる。

尤も、現在危篤の聖王(祭儀監督官)はガラティエの宗教的マイノリティとの歩み寄りを重視した人物であり、彼の後継者を任命することが多数派の神官らの望みでもあるのだが。

 

故にロマン翁のやることは簡単であり、元老院も彼の任命をすんなり受け入れることはわかりきっている。

だが、その前の"神官らの推薦"が誰になるか、そして聖王の容態が今の彼の心配であった。

 

「それで、彼の容態は?」

 

何も変わらないように、そう告げてから彼は冷めたコーヒーを一口飲む。

 

「……昨晩何人かの友人とバッカス神に肩入れをしたとのことですが、酔いすぎや中毒ではないと」

 

「ふむ。まあ彼の性格を考えればだが……となると心臓か?」

 

「いえ、脳です」

 

「……脳か、そうか。脳か……」

 

「どうかなされましたか?」

 

「いや。こちらも気を付けねばと、な」

 

「左様ですか。して、神官の代表は明日には推薦できると申しています」

 

「そうか。であれば補佐官と話していくつかの予定を修正して時間を用意する。何時訪れるかを確認してくれ」

 

「わかりました」

 

「後は……」

 

首席護民官その人の発言に、スーツの男は少し驚いた顔をするのだった。

 

 

数時間後、ルーム大学附属病院。

その集中治療室の前に立つ老人が一人、ロマン・テュルクであった。

その視点の先にはいくつかの機器を付けられ、眠る老人――聖王があった。

 

来た理由はなんてこともなく、特に彼と親しいわけでもなかったが、只、彼を見舞おうと思ったのだ。

そんな、動かぬ聖王を数分間眺めた後、翁は踵を返し帰途につくのだった。

 

 

翌日、首席護民官執務室。

ロマン護民官は執務を止め、傍らにユリウス国防大臣を控えながら待っていた。

 

そうして時計の長針がきっちり12時を指した時、扉が叩かれる。

 

「失礼します、首席護民官閣下。ユピテル神の祭司(フラメン・ディアリス)と言えばわかるでしょうか?」

 

「……ホーカー殿か、どうぞ。鍵はかけていないのでな」

 

 

フラメン・ディアリス。ローマの最高神ユピテルに仕える祭司であり、ガラティエの多神教信仰におけるNo.2、そして多大なる権威を持つ存在である。

そして、その地位にある者こそがオルソ・ホーカーという老人であり、同時に宗教保守勢力の主であり、中道政治家を称するロマン・テュルクが悩ましく思う存在でもあった。

 

「失礼します、首席護民官閣下。そして――国防大臣殿。お目にかかれて光栄です」

 

「こちらこそ。ホーカー祭司殿」

 

そうして入室してきたホーカー祭司の姿は伝統と規則に則った衣類であり、その姿は一見珍妙に見える。

が、その白い髭や独特の風格を感じ取ることが出来るならそれは威厳へと変わる。

そんな中、ユリウス国防相はホーカー祭司へとにこやかに語りかけたのだった。

 

「勿論こちらもですとも、国防大臣殿」

 

「……それで、用件はなんだったか、ホーカー殿」

 

「ああ、そうであった。まずはこちら、新たな祭儀監督官――アルトーという神官です。今の聖王の派閥ですな」

 

そう言いながらホーカー祭司は二人に資料を手渡ししてくる。

そこには彼の経歴、これまで勤めたこと等が記されていた。

 

「ふむ。それにしても、少し若い気もするが……」

 

「老人の後に老人が来るのも問題でしょう、少なくとも国防大臣殿のように健康的な50代でなければ、次の祭儀監督官もその座から降りてしまうことでしょうな」

 

「祭司殿の言う通りだ。少なくとも、ガラティエ宗教界の安定に寄与する選択でしょうな」

 

「わかっていただけたなら幸いです」

 

「……成程。ホーカー祭司殿。とても良い候補を選んでくれたことを感謝しましょう」

 

「護民官閣下も納得したようですな。それでは、私がここに来たもう一つの理由についてもお話ししましょう」

 

「……もう一つ?」

 

ユリウス国防相が問い返す。

 

「……ええ、もうひとつあるのです」

 

「……続けてくれ」

 

「勿論です、首席護民官閣下」

 

そうして、ホーカー祭司は咳払いをしてから続ける。

 

「実のところ、私が来た理由はこちらが本題なのです」

 

「と、いうと?」

 

「フェザーンを使って、地球教がサイオキシン麻薬を持ち込んだという事実です」

 

空気が凍る。先ほどまで相槌を打っていたユリウス国防相も凍り付く。

だが、ホーカー祭司は続ける。

 

「ひとまずは。これを見て欲しいのです」

 

「……ほう?」

 

「フェザーン船籍の、地球への巡礼船から押収されたサイオキシン麻薬の資料です」

 

そう言いながら、二人に紙束が渡される。

そこには、ガラティエと近い複数の構成邦にて地球教、フェザーンと関係ある船舶から押収されたサイオキシン麻薬に関する有意義なデータが記されていた。

 

「つまり、フェザーンがサイオキシン麻薬ビジネスの幇助をしていると?」

 

「やはり閣下は聡明な方だ。そうだ、そうであります。私はガラティエの安寧を脅かすのは忌々しき救世主を崇める者でも、同じ神を信ずる豚肉嫌いでもなく、地球教徒とフェザーンだと考えているのです」

 

「……これ、本物ですよ」

 

「本物、か。そこについては疑うつもりはなかったが、そうか……ところでホーカー殿、どこでこれを?」

 

ユリウス国防相が資料を確認した後、ロマン翁が問う。

 

「閣下もご存知である通り、我々の信徒、ひいては国を想う者が多数おりますので」

 

(……軍と治安組織に手の物がいる、そしてそれを零しても問題ない……か)

「成程、流石はユピテル神の祭司だ」

 

「ええ、そうでしょうな。して、私が提案したいのはフェザーン隻の艦艇に対する全面的な、無制限の臨検です」

 

「無制限の臨検?馬鹿な、そんなことをするのはガラティエの信用を捨てるに等しい!」

 

「しかし、結果を出せばそれは正当でしょう!」

 

ユリウスと軽く口論になりかけるホーカー祭司を、ロマン翁がそっと抑える。

 

「……待て。本当に”地球教徒”の犯行か?」

 

「サイオキシン麻薬が地球教徒の船に積まれていたことからも、そうでしょう」

 

「……国防大臣。帝国軍の諜報機関の線はないだろうか?」

 

「……可能性はあるかと」

 

それで臨検の相手が変わるわけでもないが、一応の可能性を提示し、続ける。

 

「仮にそうであったとしても、だ。我が国は信仰の自由を認める国家である、が」

 

「……閣下?」

 

「一先ずはガラティエの諜報部に地球教コミュニティへ探りを入れさせる、今はまだ大胆な行動は控えるべきだ。

"盟主"の顔を立てる必要もあるからな」

 

「成程、成程。確かに"同盟政治家"らしい判断ですな。

そして、閣下自らそう命ずるのであれば、私はそれを認めましょう。

しかし……私は"地球教の脅威"についてそれで払拭できるとは思えませぬ。更なる行動のご検討を願いますな」

 

「ああ。内務大臣や法務大臣、クローディア共同護民官にもこの話は伝えておこう」

 

そうロマン翁がにこやかに告げると、ホーカー祭司は満足そうな笑みを浮かべてこう言った。

 

「ありがとうございます、首席護民官閣下。何時の日か『貴方とその同胞が、また聖地へと至れるよう願っております』とも」

 

「ああ、ありがとう偉大なるユピテル神の祭司(フラメン・ディアリス)殿。貴殿方神官達のお陰でまたガラティエに平穏が訪れるだろう」

 

そうして、ホーカー祭司はちらりと執務室の時計を見た後、こう告げた。

 

「おっと、もうこんな時間ですな。それでは、私はこれから新たな聖王の任命の準備をします。

元老院の開会式の前日にはそれが執り行われるでしょう。それでは首席護民官閣下、よい一日を」

 

「……ああ。よい一日を、ホーカー祭司殿」

 

そうしてホーカー祭司が去った後、ロマン翁が深く座り、椅子がぎしりと音を立てる。

それを聞いたユリウス国防相が話しかける。

 

「なかなかの相手でしたね」

 

「……ああ。しかしあれが宗教保守派の首領であるにも関わらず、明確な"異教徒への害意"は見せないようにしているし、ガラティエのためを思ってやってきたのだ。

あくまでも彼が述べたのは、ガラティエのためにフェザーン船籍の船を臨検をしろ、ということだけだ」

 

「しかし、それをすればバーラトの顔に泥を塗ることになるし、ガラティエ自体の信用も下がる。

そうなれば、困窮するのはガラティエ国民ですからな」

 

「最初に苦しむのはガラティエ国民なのはそうだが、波及の果てに軍予算を維持できねば、苦しむのは交戦星域だ。我々もローマの民であると同時に"同盟市民"であることを忘れるな」

 

「……ガラティエはローマ人と思う方が普通でしょう。

少なくとも、大半が"ローマ人として"それを行っているかと」

 

「普通も、信仰も、人によって変わるのだ。現に私はホーカー祭司が語る神と全く別の神を信じているし、聖地への礼拝をしたいという義務を果たしたくもあるとも」

 

「そういうものですか」

 

「……そういうものだ」

 

「ふぅむ?」

 

首をかしげ、いまいちわかってない"後継者"に続けてこう告げる。

 

「納得が行かないのはわかるが、ひとまずはクローディア弁務官に連絡をすべきだ。

……サイオキシン麻薬の取り締まりをするにあたり、人的資源委員会から根回しをしていこう。ホワン・ルイにとってみればいい迷惑だろうがな」

 

そう言った後、ロマン・テュルクはすっかり冷たくなったコーヒーに口をつけ、バーラトとガラティエのこれからについて軽く思案するのであった。




お待たせしました新話です。

半年以上経ってますが、その間色々とありました。
次は半年以内に出せたら御の字だと思っております。

ともあれ、ガラティエとはローマであるがローマではないのです。
正確には「幻影を追う」国なのでしょう。
しかし、その結果より良い国家が出来るなら良いのでしょう。
突き詰めればアメリカの議会制度だってローマ的な側面がありますし。


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