誰もいないその先を目指して (セントレイズム)
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さようなら田舎、こんにちは都会
あらすじにもありましたが知識は殆どありません。ある二人の作品に感化され書いたので...もし期待して開いたのであればすいません。
いつもの夢とは違う不思議な夢
誰もいない草原で立ち尽くすウマ娘の姿が見えた
そのウマ娘は草原の中で何もしない
風を感じるように両手を広げ、ただ風を受け入れていた
だが、それは自分ではない
ずっとウマ娘の背をただ見つめていた___
∵ ∴ ∵ ∴ ∴
「起きなさぁぁいッッ!!」
古臭さが全開な古民家の天井。身体を起こし声の方向を見れば、少し開いたドアからウマの様な耳を付けた白い髪の母親が顔を出していた。
...さっきの夢を返して欲しい。
寝起きすぐに聞こえる母親の大声にそう思ってしまった自分は悪くないだろう。
「まったく、貴女はいつもぎりぎりまで寝てるんだから...今日の予定だったでしょ? トレセン学園に行くの」
全く、手間がかかるんだから。
そう言いたそうにため息をつく母親をジト目で見ながら時間を確認する。
...まだ出発まで一時間もあった。
「...あのなぁ母さん、時間があるならゆっくり寝た方がいいに決まってる」
「またそんな事を言って、そんなので東京に行って大丈夫なんだか。そもそもレースになんて「あー!あー!何も聞こえない何も聞こえない!」...ハァ、あたしは貴女がやっていけるか心配だよ」
何度目になったか分からない会話。何時もの日常ともいえるこの光景もこれからは無くなってしまうと考えると少し、ほんの少しだけ寂しくなる。
だが、それを望んだのは自分自身。母はそれに反対しながらも助けてくれた。父も最後まで自分を信じてくれた。近所の人たちにも背中を押してもらった。
「母さん。今まで色々迷惑かけたけどありがとう。
「行ってきな、じゃじゃウマっ子。アンタの目指す場所は目の前なんだ」
だから、もう戻らない。
「でもその前に着替えていきなさいよ?」
「ウグッ」
∴ ∵ ∴ ∵ ∵
ガタンゴトンと列車と身体...特に芦毛の尻尾が揺れる。
未だに慣れない尻尾という部位、人だった頃よりも優れている耳。ウマ娘という存在が優れていることは身をもって知っているが人間だった頃とは大きく違い、今でも少し戸惑ってしまう時もある。というか一番慣れないのは服装だ。ウマ娘__娘とつくだけあってその姿は人間の女性に近い。ウマ耳と尻尾が付いているという外見的な差はあれど一般的なイメージは女性となっている。
そう、女性なのだ。
故に制服はスカート、このご時世ズボンでもいいじゃないかと思うがトレセン学園という集団の規律を守るためには仕方ないのだろう。そんな感じで今自分の服装は制服、それもスカートとなっている。正直言って丈が短いから今すぐジャージを着たい。
話を戻そう。
現在の時刻は八時、列車の中は誰もいない。
東京に着くのは大体十一時頃だろう。その間乗り継ぎも必要だし、スマホで調べればいいとはいえトレセン学園への道を確認する必要もある。
「やること盛りだくさんだな」
身体を伸ばして窓を見る。
窓の外には山がある。見慣れた景色だ。
前世から何かと山に縁があった。
前世はコンビニとか徒歩一時間とかザラにある田舎、今はウマ娘だからマシになったがそれでも走って十分の場所。もはや山の神に愛されているのではないかと思う程のド田舎に合計三十年ほど暮らしていた。
だから都会での生活には少し憧れの様なものを持っていた。沢山の店が並び、夜でも明るい街中は田舎とは全く別の美しい景色がある。
そして他のウマ娘たちとの生活が一番大切だろう。母さんも近所にもウマ娘がいたから自分以外のウマ娘に会ったことが無いという訳では無いが、レースで優勝する為に切磋琢磨し合うウマ娘はいなかった。だからトレーニングも基本は一人で行っていたのだ。
それに前世において競馬というものに関わりの無かった自分はウマ娘に関する知識は殆ど無に等しい。もしかしたら理想と現実の差でポッキリと折れてしまうかもしれない。
不安が無い、と言ったら嘘になる。でもそれ以上にワクワクが上回っていた。
「頑張るぞー!おー!」
左手を天に突き上げ自分にエールを送る。
これからの未来が明るいものとなるかは分からない。でも、だからこそこれから頑張るべきなのだ。
まずはその前に
「まずは友達を作ろうっ!」
∵ ∴ ∵ ∴ ∴
「___ここ、どこだ?」
確か、電車から降りてスマホで場所を確認し、どっちに向かえばいいのかも確認した。バスもあるという話だったがそこはウマ娘、自分の足で移動した方が速いのとお金がもったいないという理由で乗らなかった。しかし迷うくらいなら素直にバスに乗れば良かったと後悔している。
現在、多分こっち、多分あっちと地図を見たから大丈夫という慢心のまま進んだ結果、川沿いの道に立っていた。
「地図は確認したはずなんだが」
何故こうなったのだろうか。
頭いっぱいの疑問符を振り払いスマホの地図を起動する。
「おかしい」
地図を見て最初に出た言葉はソレだった。
地図に映る自分の向いている方角はトレセン学園の方だ。なのに動いている方向は全く別、真逆だ。
...壊れてるわ。このスマホ。
どうりでたどり着かない筈だ。
何とも言えない脱力感に襲われ座り込んだ。
最初から確認しながら動いていたらこんな面倒な事にはならなかった、というかスマホが壊れてる事にも気づけたはずなのにね。
「これからの学園生活は大丈夫なのかなぁ...?」
初動から色々不安になって来た。
トレセン学園に入学できるという事に運を使いすぎたのか色々運が悪くなりそうな気がする。
「よし、走るか!」
両頬を叩いて気合を入れる。
頑張るといったのだから不安がっても仕方ない。
運の悪さも今度からちゃんと意識すればカバーできる。
「頑張るぞー!」
本日二回目の気合を入れて学園目指して足を進めた。
はい、自己満足に付き合わせてしまい本当にすいません。出してからも本当に良かったのかと頭を悩ませている作者です。
現在レースの描写をどうしようかと悩んでおりますが、走ってるウマ娘たちはどういった描写すればいいんですかね。他の方の小説を基に書いた方がいいのかな?
あと主人公の名前どうしよう、ウマらしい名前って言われてもあまり出てこない
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早急にダッシュ そして敗北
レースが書きたかったのに全く描写もタイミングも無く無理やり入れた感があるけどまぁヨシ!(現場猫感)
一体レースの結果はどうなるのか...(棒読み
「___な、なななッ!?」
学園に付き、新生活に心を躍らせていた自分の人生の窮地に立たされていた。
ゲートの中に立つ自分
それを眺める沢山のウマ娘 そして期待する声
そして一番の問題は__
「___多少観客がいるようだが...別に問題は無いか」
「問題しかないですよッ!?」
その横にあるゲートに立つ一人のウマ娘であった。
「ん? あぁ、多少ギャラリーが多いが何かあったのかい?」
まるで現状を気にしないと言わんばかりの雰囲気のウマ娘。
あまり運動が得意そうに見えないその姿は少し心配になるが、なぜ学園に来てすぐの自分と走ることになったのかは全く分からない。というか自分はさっさと先生方に挨拶して部屋に戻りたい。
「なんでこうなったかな...」
そう呟く自分を責められる人はここには居ないだろう。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
トレセン学園__正式名、日本ウマ娘トレーニングセンター学園
総敷地面積、約八十万㎡。二千人弱という多くのウマ娘が在学し、互いに切磋琢磨する学園が今、自分の目の前にある。
「な、長かった」
日は陰り、街の街灯に光がついて一時間。
半分くらい自業自得ではあるが、無事に学園について安堵する。
「でも、これからだ」
安堵しても終わりじゃない。
ウマ娘としての第一歩、故郷の皆への恩返しの一歩、ここからが大事だ。
ここから自分がどれくらい努力できたかで決まる世界、運だって多少は絡むがそれだって努力をしなければ同じ土俵にだって立てない世界だ。
そう思うと緊張してきた。
本当に自分がこんなすごい場所でやっていけるのか。今更ながらそんな不安が頭を抱えさせる。
「だぁぁぁッ! 違う違う! 隙あらばマイナス思考になってどうするんだ俺」
色々無理言ってここに入学させてもらったんだから、変な事を考えるよりも先に動くんだ。
もう一度頬を叩く。
鏡で見れば赤くなっているだろうなと自分に苦笑しながら、もう一度トレセン学園を見上げた。
「...よし、行くz「君が噂の新入生かい?」うひゃぁっ!?」
気合を入れ直し、学園に向け足を進めようとした瞬間に真横から声をかけられた。
驚くと同時にバランスを崩し尻餅をつき、そのまま声の主に視線を向ける。
「ふむ、反応は普通。見た目もウマ娘と変わらない__」
声の主は何かを納得するようにブツブツと話していた。
「だ、誰ですかあなたは!?」
「まぁ、今はそれよりも来たまえ」
質問を全く聞いていないと言わんばかりにスルーするそのウマ娘は自分の手を引いて何処かに連れて行く。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
そして現在に至る。
「準備は終わったかい?」
トレセン学園制服から指定のジャージに着替えた自分に確認をとるウマ娘。名前を聞こうと思ってもタイミングが合わず聞けていないがこの学園に所属するウマ娘であることは確実だろう。
「お、終わりました」
若干震えた声を抑えながら返事をする。
何故こうなったのかは分からないでも___
__負けたくないッ!
ゲートが開いた。
身体の体勢を低くして一気に速度を出す。
普通の走り方では全身に風を受けて速度は上がりづらくなる。
故に考え出した走り方。前傾姿勢を取り頭と足のみが風を感じる、最大限空気抵抗を減らすように考えた槍の様なフォーム。
だが、距離は開かない。
後ろを覗くがその間は一バ身にも満たない。
「ふふっ、闘志もウマ娘と同じようだ。という事はやはり人間とウマ娘の差は精神以上に肉体的差が___」
それに彼女はまだまだ余裕があるようにブツブツと言いながら走っている。
こっちは話す余裕なんて無いのにだ。
「ふざ、けるなッ!」
残り、二百メートル
足の回転を速く、歩幅を小さく。
スタミナをすべて使う勢いで速度を上げてスパートをかける。
なのに__
__距離が開かない!?
それどころか距離はどんどん縮まっていく。
先ほどまで一バ身近くあった差は気が付けばクビ辺りまで詰められ
「あ」
呆気なく...抜かされた。
先ほどまでプロペラの様に回っていた足が重くなった。
まだレースの結果が決まった訳でも無いのに、頭では諦めていないのに、身体はまだ走れるのに、何処かで勝てないと思ってしまった。
膝をつきそうになり身体がバランスを崩す。
言葉が出てこない。
地元では足が速いと言われていた。
だから、ここでもその足を活かせると考えていた。
「___クッ」
その考え、重いの全てが甘かった。
全員が努力して勝とうとしているこの世界で、ただ足が速いというだけで勝てる筈がない。
速めに気づけたのが幸いというべきだろう。
目の前のウマ娘は、まだゴールしていない。ゴールしていないというならまだ諦めない。
「アアアアァァァァァッッ!!」
膝が腹に当たりそうなほど態勢で前のめりになる。
倒れそうな身体を倒れさせないために足に全力をかけ、回転数を上げた。
残り五十メートル
人間にとって五十メートルは長い、だがウマ娘にとっては一瞬だ。
もう勝てる確率など全くない。それこそゼロに等しいだろう。
でも諦める訳にはいかない。俺が彼女たちに勝つ方法なんてそれしかないのだから。
差が縮まる。
五バ身程あった差は四、三バ身と縮まり___
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
「ハァ...ハァ...ハァ...」
倒れこむようにゴールに寝転がる。
結果は二バ身差、二着。負けだ。
それでもやり切った。
負けたが得るものは多かった。
「お疲れさま」
そう言いながら涼しい顔で労いの言葉を言ってくるウマ娘。
「ハァ...そんな、に涼しい顔で言われても...悔しいだけ、ハァ...す」
息をいらしながら皮肉を言う。
「ふむ、やはり君はウマ娘だ」
「? 俺、ちゃんとウマ娘ですよ」
そう不思議なことを言いながら手を差し出すウマ娘。
先ほどまでレースとしていた二人のその姿に、周りからは拍手の音が響いていた。
「__アグネスタキオン、スィルスワロー、一体何をしている?」
唐突にスピーカーから響く凛々しい声に二人ともレース以上に汗を流していた。
いきなり勝てる程甘い訳もなく。結構いいとこ行ったと思いますが負けました。
二人だけのレース(というか併走)なので普通に実力不足という感じです。まぁ初期ステータスみたいな状態でよくやった方かなぁと。
主人公の名前に関しては二つ案があって、今回使った【スィルスワロー】と【セントレイズム】の二択がありました。二つともしっかり意味を持った名前でしたが、今回はスィルスワローの方が意味があるのでこちらに。いつか【セントレイズム】の方も使ってみたいですが...タイミングあるかなぁ。
ちょこっと:説明 主人公【スィルスワロー】
葦毛のウマ娘。瞳は紫で、背丈は普通。胸はない。
現状の走り方は《逃げ》。しかし変わる可能性が高い。
元ネタは(多分)存在しない。
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宣戦布告
「さて、いきなり呼び出してすまなかった」
目の前に座る威圧感の凄いウマ娘。
レース...という名の併走後に連れられてきた場所は大きく【生徒会室】と書かれた部屋。一緒にここまで来たアグネスタキオンと呼ばれたウマ娘は楽しさ半分、嬉しそうな半分な表情をしながら隣に座っていた。
「彼女の意思を確認しただけさ。それに彼に関しての興味は私もあったからね」
アグネスタキオンはこちらを見ながら悪びれる様子もなく平然とした態度で答える。
先ほどまで冷や汗をかいていたとは思えない程の態度だが何かあったのだろう、というより。
「彼、ですか?」
「あぁ、君は私たちとは違う少し特殊なウマ娘だ。何かあれば大きな問題になり得る。すまないが今回の併走は君の意思を確認するためのモノでもあったんだ」
疑問に答えるように威圧感の凄いウマ娘が答える。
要約すると、あの併走はこの学園に入る際の意思の確認であり、あのような呼び出しになった理由は観客が多くなりすぎたからと...なるほど、つまり人間だったウマ娘がおかしなことを起こさないか不安だから併走で確認を___ん?
「あ、あれ? という事は二人とも、俺の事知ってるんですか...?」
「「あぁ」」
二人そろって同時に肯定した。
「お、終わった」
【「ふむ、やはり君はウマ娘だ」】
あの時のアグネスタキオンの言った言葉の意味が分かった。
クラッと来る頭を押さえながら小声で呟く。
やっぱりトレセン学園に入学できる時点で運を使いきっていたのだ。
「あぁ、きっと自分はこれからウマ娘社会に干され、週刊誌にはきっと
〈(自称)元男ウマ娘、ウマ娘目当てで入学か!?〉
なんて見出しであることないこと書かれ「いや、そのようなことにはならないのだが」__へ?」
彼女は言葉を続ける。
「君のアグネスタキオンとの併走は私も見ていた」
「えっ」
全力を出したのに自分が負けてしまったあの併走。
恐らく彼女は責任者でもあるのだろうから当たり前かもしれないが、アレを見られていたと思うと少し恥ずかしくなる。
「あはは...負けちゃいましたけどね」
「君は悔しかったか?」
「はいッ!めっっっっちゃ悔しかったですッ!」
少し食い気味に答える。
そんな光景に少し笑いながらこちらを見てくる二人は何処か嬉しそうに見えた。
「__“
「...どういう意味ですか?」
「本校が掲げるスクール・モットーだ」
「意味は分かるか?」そう言葉を繋げる彼女の言葉にはどこか期待のようなものを感じた。だが、何を求めているのかそれを自分は知らない。
「すいません。自分には分からないです」
「そうか。まぁ「でも」...なに?」
でも、これだけは伝えたい。
彼女が何を求めているか分からないし、何を言えば正解なのかも、自分の目指す場所もまだ分からないけど俺はこの人たちに勝ちたい。勝って、故郷の皆に笑顔で自慢してやりたい!
「__勝ちます!」
「っ!」
「俺、アグネスタキオンさんと走って分かったんです。
俺はどんなレースでも負けたくない。 アグネスタキオンさんにもッ! 貴女にも負けたくないんですッ!」
「...へぇ」
彼女の驚いた表情、アグネスタキオンの興味深そうな表情を見て、ふと冷静になった。
俺は今、何を口走った?
宣戦布告とも取れる、いや宣戦布告としか取れない言葉を口走った。
それも初めて会った人物に偉そうな感じで行ってしまったのだ。
「あ、あぁぁぁ...っ」
身体が震え、声がうまく出てこない。きっと鏡で見れば今俺は顔が真っ赤で、それなのに真っ青な色という意味の分からない表情をしているだろう。
「す、すいませんでしたぁぁっ!!」
そう叫ぶと同時に併走時よりも速いのではないかという速度で部屋から駆け出していた。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
「まったく、あれじゃあ風の妖精と言っても台風だね」
出て行った彼のあとを眺めながらアグネスタキオンは呟く。
「その台風がこの学園に良い風を与えてくれればよいが...アグネスタキオン、君は彼はどう見る?」
「肉体は勿論、精神的な部分もウマ娘と遜色ないだろう。強いて言えば、彼はまだ自分を人間だと認識している部分が多いのだろうね。だから最後の末脚は速度が足りなかった」
「ほう、君がそこまで評価するのは珍しいな?」
驚いた表情をする。
だがそれも無理も無いだろう。アグネスタキオン、彼女のウマ娘に対する知識は下手な研究者よりも多く、それ故に自分にも他人にも正しい評価を与えていた。
そんな彼女が評価した彼はどちらかと言えば【良い】方の評価。その事実に驚きを隠す必要は無かった。
「ウマ娘の身体に人間の精神、それがこれからのレースにどんな影響を与えるかは分からないが、彼の特異性は私の研究のモルモ__手助けになるかもしれないからね」
「彼もウマ娘だ。私たちとは違う部分もあるだろうがそれだけは同じ。無理はさせるなよ」
「ふっ、そういう君だって彼に賭けているだろう? シンボリルドルフ」
ドアに手をかけるアグネスタキオン。
「行くのか?」
「あぁ、ようやく研究が進みそうだからね」
ガチャリ、そう音を立てて閉まる扉。
外は廊下、授業中故に誰も通ってはいないが__
「ふふ...ハハハ! 彼の最後のスパートの動きはウマ娘というよりも人間の時のソレだった。つまり彼がウマ娘と同じ動きが出来るようになれば恐ろしい能力を持ったウマ娘に成りえるという事を意味している」
その先を見て笑う彼女の瞳に映るモノは一体何なのか、それはまだ誰にも分からない。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
「___俺はどうしてあんなことを」
像のある広場でポツンと一人でしゃがみ込んでいた。
学園に行くので迷って三時間くらいランニング&ウォーキング。次はいきなり走ることになるし、その後は休憩する暇もなく生徒会長室への連行。そして最後に宣戦布告。
これでは頭のおかしいウマ娘という烙印を押されてしまうのは目に見えていた。
「でも、いずれはあの人たちとも走るのか」
あの人たちだけじゃない。
この学園にいるウマ娘全員と走るんだ。
生徒会室での宣戦布告。
それが若気の至りではないと証明するためにも
「...頑張らなきゃな」
俺は、みんなの、俺の夢を叶える為に走る。
全員が仲間であり、ライバルであり、友であるこの学園で
「母さん、父さん、皆。絶対に有名になるから待っててくれ」
トラックを目指し、足を進めた。
アグネスタキオンに負けたせいか火が付いたんですかねこの
まぁそれはさておき、第三話終了です。一話から流し見で確認して思ったのですが、主人公同じこと言いすぎかなぁと
あと個人的な用事なのですが、引っ越しやそれに伴う掃除が発生したため今後投稿が遅れるかもしれません。というか遅れます
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悲報、友達出来る様子無し
三話書いてた時に思ったんですよ。
指は進むのは良いんですけどね。いざ読み直すとこれどうやって進めればいいんだろうと分からなくなっているという事に...
何度も自問自答を繰り返した内容だ
俺がトレセン学園に入学しようと思った理由
それは
名誉のため?
勝利のため?
別に走ることが好きなわけじゃない
でも
昔から風は好きだ
風はいつも自由で
自分たちを後押ししてくれる
だから
誰かにとって俺にとっての風
夢を目指して後押しできる存在になりたいと思った
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
トラックをライトが照らす夜。
走り始めてからどれくらいが経っただろうか。宣戦布告をしてすぐ、現実逃避がてらにウッドチップのコースを走っていた。
「ハァ___ハァ__ハァ__!」
いつも通りの槍のフォーム。
風を受けない前衛姿勢で走るが何処まで行っても風にはなれない。
「___ッ」
速度を上げる。
まるで重量が半分になったかと錯覚するほど軽く、プロペラの様に回る足も調子がいい。
だが、まだ風には遠い。
それどころかアグネスタキオンと走った時のような速度にも程遠い。
___ならもっと速度を出すのみ!
そう意気込み、足の回転数を上げようとした瞬間。
「誰か見てる...?」
誰かが自分を見ているような気がして足を止めた。
周りを見渡すがそれらしき人影は見えない。
近くにはウマ娘たちが多くいるが、彼女たちが自分を見る視線とも何かが違うし彼女たちが自分に話しかける様子もない。
一人孤立した状態。
それ以外には言い表せないこの状況に、入学前に立てた友達を作ろうという目標が入学前に困難になったという現実を実感して少しへこみたくなる。
「...はぁ」
ため息が漏れる。
一体何が原因だろうか。
現にこの学園に在学している結果を残した多くの生徒たちは
ならば何故話しかけられないのだろうか?
アグネスタキオンとの併走で自分の強さはしっかりと表したはず。
それなのに誰も自分に声をかけない。
なら自分から話しかければいいだろう。って?
いやいやいや、それは出来ない。自分は元男だぞ。
ウマ娘という存在になって早十数年、いい加減慣れてきてもいいのではないかと思うかもしれないが生まれ変わっても中身が男であることは変わらない。故郷にいたウマ娘たちにも自分から話しかけることは一度も無かった。
コミュ症...とまではいかないが少なくとも自分から声をかけることは苦手な部類なのだ自分は。
「...はぁ」
もう一度ため息が漏れる。
彼女たちから感じるその視線は興味なのだろう。
ヒソヒソと会話しながらこちらを見るその姿は人間の女子高生たちと何ら変わりない。
こんな時期に入ってくる転校生。
それもいきなり併走を在学生とすると考えれば興味を持つのも無理はないのだろうが、興味を持つくらいなら話しかけて欲しいと思ってしまう自分は求めすぎなのだろうか。
「帰るか」
学園の寮は二人一部屋と聞いた。
もしかしたらその子なら自分に話しかけてくれる、なんて淡い希望を持つくらいは許されるだろう。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
トラックから出て少し歩けば寮が見えた。
大きな二つの建物。
トレセン学園と道を挟んで立っている寮は栗東寮と美浦寮に分かれている。
小さい方が美浦寮、大きい方が栗東寮とのことだが...
「どっちがどっちだか分からないな」
遠くから見ても近づいてみてもその大きさはぱっと見全然分からない。
両方大きいし、施設の古さは中に入らないと調べられないだろう。
「むぅ」
周辺を見渡す。
幸い近くには話を聞けそうなウマ娘や従業員の方々がいるが...話を聞くにも自分から話しかけなければならない。
一回寮に入って確認するという方法もあるが、それは他のウマ娘たちから変な目で見られるというマイナスが強い。
「__あっ」
良い事を思いついた。
それは他の人たちの視界をこちらに釘付けにしつつ、運が良ければ話しかけてもらえるという唯一無二の方法。
大体の荷物は宅急便で送ったが、使うものや大事なものは手持ちのバッグに入れていたのが救いだった。
取り出したるはバッグから少し出ている獅子舞で使う
その口に【助けて】と書いた紙を貼れば完成。
それを被り正座をして道端に座れば誰かが話しかけてくれるという隙のない完全なフォーメーション。
「完璧だぁ」
我ながら完璧な方法と言っていいだろう。
正座をしながら誰かが声をかけてくれるのを待つ。
これなら多くの人たちの目に留まり、自分が困っていることを知らせられる。そうすれば優しい誰かが声をかけてくれるだろう。
...
..
.
「___おかしい」
おかしい
何故誰も声をかけてくれないのだろうか?
音的に結構な数の足音が聞こえたから誰か声をかけてくれてもいい筈なのに誰も声をかけてくれない。それどころか「え、なにこれ」や「ひえぇぇ」なんて言いながら逃げるように駆けていくウマ娘もいた。
失敗だったか。
そう思い獅子舞の頭を外してスマホで時間を確認する。
「...八時」
春であるに関わらず少し肌寒い。そんな風が部屋に戻れと言わんばかりに吹く。
自分だって部屋に行けるなら行きたいというのに酷なモノだろう。
「はぁ...」
何回目だろうか?数えるのも馬鹿らしくなってきたため息。
「何やってんだろうな「そりゃウマ娘だろ」うひゃっ!」
返事なんて帰って来ないだろうと漏らした独り言に返事が返って来た。
「だ、誰ですか!?」
本日二回目だからか、アグネスタキオンの時と比べれば冷静に聞けただろう。
獅子舞の頭を被りながら少し自画自賛する。
「おぉ、いいねぇ反応」
そういう声の主の方へ目を向ければ、段ボールから自分と同じ葦毛の耳を出している変質者がいた。
段ボールを頭にかぶった変質者ウマ娘VS
ところで引っ越しはまだですが、引っ越し先にWi-Fiが無い為パソコンが使えないんですよね。えっ?スマホがあるだろうって?ハッハッハッ、自分パソコン以外じゃ書けないんですよ。
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謎の美少女芦毛ウマ娘のパワフルお散歩
途中からスマホで書いた為変になってるかもしれませんが、それもゴールドシップって奴の仕業なんだ。
新たな挑戦
人々からの期待
それらは全て常に不安が募るモノである
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
___そりゃウマ娘だろ
そう言ったウマ娘は、耳を出している謎のダンボールを頭にかぶりながらこちらを見ていた。
どういう状況だろう?
片方は段ボール頭、もう片方は
その二人が夜の広場で互いに無言で見合っているこの状況をどう表せばいいか。自分には考えもつかない。
「え、えぇっと...どなたですか?」
無難な質問。
失礼にならないように、驚きを抑えるように聞いた言葉は
「お前、昼にアグネスタキオンと走ってたやつだろ?」
全く聞いて貰えなかった。
「えっ、え。その、確かにそうですけど。貴女はい「そうかそうか、やっぱりお前だったんだな。ウィナーズサークル」...ん?」
誰と間違っているのか分からないが、とりあえず獅子舞の頭を外して人違いだという事を証明する。
「って、誰ですか? そのウィナーズサークルさんって」
「ん、お前こそ誰だ?」
「ええぇ...」
なんなんだこの人。
そう言いたくなる口を閉じて少し距離を取る。
この目の前にいるウマ娘。紙袋で顔は分からないが間違いなくスタイルはいい。日本人離れしたそのスタイルは海外の有名人と言われても信じてしましそうなほどである。しかし紙袋。
葦毛なのは尻尾で辛うじて理解できる。そして服装は学園指定の制服である事からこの学園に在学している生徒であることも分かる。しかし会話の流れが理解できない。
「俺、部屋に戻らないとなので...さよならぁ」
自分の部屋を聞く最大のチャンスなのは理解しているが、それ以上にこの人と関わるのは面倒くさいという思考が勝った。深く考える前に口は別れの言葉を使い、紙袋のウマ娘に背を向けた。
「まぁ待てって」
そう言いながら自分の肩に手をのせて捕まえてきた。
「...何ですか」
少し不機嫌そうに問う。
不機嫌な理由は一つ。目の前のウマ娘との背丈の差だ。
差はおそらく頭一つくらいだろう。
少なくとも目の前のウマ娘は自分よりも背が高く、威圧感を覚えるその背丈の差に少し悔しくなる。俺だって昔はそれくらいの背丈があったというのに今世では155㎝。色々変わっている分仕方のないことなのかもしれないが、それでも悔しいものは悔しいのだ。
「そう機嫌悪くすんなよ。 自分の部屋が何処か分からなくて困ってたんだろ?」
「えっ、何でそれを」
「ゴルシちゃんアイを甘く見たら行かんぜよ」
目の前のウマ娘__ゴルシと言うらしいウマ娘は、ちょっかいを出しに来ただけではなかったらしい。
だが、少し面倒くさい人だが、誰の助けも受けないで部屋を見つけるのは苦労しそうだったから助けてもらえるのは素直にありがたい。
「なら俺の「おっと少し待ってくれ」え」
そう思い自分の部屋の場所について聞こうと思えば言葉を遮られる。
「確かここをこうして___」
何処から出したのだろうか?
知らぬ間に置いてあったライトの電源を付けながら何やら目の前で準備を始めている。
「な、なにしてるんですか?」
「まぁそんな急がせんなって...やっぱやりずらいなこの紙袋」
「おい待て」
予想外の出来事に、つい敬語を忘れる。
なんか隠すためにしてたんじゃないのかその紙袋。
そう言いたくなるほど自然に紙袋を取りやがったよこのウマ。
紙袋の中から出てきた整った嬉しそうな顔。
スタイルも良く美人であるその姿は、天からの授かりものといっていいほどのモノだった。まぁ、その行動で色々台無しにしている気がするが...
「おっし準備完了!」
「...準備?」
「おう、ちょっとそこで待ってな」
そう言うゴルシは、返答する前に何処かに走っていく。
また、ポツンと一人。
あるのは先ほどまで弄られていたライト一つ。
何が起こるのだろうか?
期待よりも不安の方が強いこの気持ちを抑えながら言うとおりに待つ。
...
..
.
良い予感と悪い予感。
直感というものはなぜ悪い方が良く当たるのだろうか。
「さぁ、このゴルシちゃんに貴女の悩みを言ってみるのです」
「...」
絶句、なんか頭が痛くなってきた。
下からライトで照らされ神々しい感じで出てきた上から吊るされて出てきたゴルシを見てそう思った自分は、きっと悪くないだろう。
「...はぁ、俺の部屋の場所を教えてくれ」
もうこの状況ではノリに乗るしかないだろう。
そう諦めながら微笑むゴルシを見て観念した。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
「えー、こちらが〜」
ノリノリで室内を案内するゴルシを見て頭痛が再来した。
一体自分はいつまでこのテンションの奴と一緒に居なければならないのだろうか。
そう考えると頭痛はより強まる。
「___んでこっちが食堂な。学園内にもあるから、昼はそっちで食べる。学費に食費が入ってるからいくら食べても大丈夫だ」
夕飯時は過ぎているのでガラガラな食堂を見ながらそう言うゴルシ。
自分はそんなに食べないが、人と比べて多く飯を食べるウマ娘にとって食べ放題と言うのはありがたい。
「うっし、じゃあ次行こうぜ!」
その声とともに浮遊感が身体を襲う。
風呂場から責任者の部屋。裏口など自分の手を引っ張るゴルシへの抵抗虚しくどんどん場所を回っていく。
途中、引っ張られる自分を可愛そうな目で見る芦毛のウマ娘がいたがゴルシが近づく前に逃げてしまった。
.
..
...
そしてようやく___
「ここがお前の部屋だ」
ゴルシが手を離し降ろした場所は扉の前。
やっと休めると思うとどっと疲れが押し寄せてくる。
「えっと、ゴルシさん? 色々教えてくれてありがとうございました」
冷静になったからかゴルシとのパワフルお散歩が終わるからか何なのか、思い出したように敬語を使ってゴルシに感謝をする。
「ま、何かあればこのルームメイト。ゴルシ様に何でも頼むがいいでゴルシ」
...???
「は?」
母さん。まだ一日経っていませんがお元気でしょうか?
貴女の娘はもう無理そうです。家が恋しい、あの静かな世界がとても恋しいです。
なんで書いたって?
なんかめっちゃお気に入りが増えてて...それに書かないと忘れられそうな気がしたんだよね...
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その男、トレーナー
タイトルにちょっと書いてありますが、トレーナーの話です。
男が一人、扉の前でため息をつく。
時刻は五時。
太陽も沈み、場所によってはトラックをライトが照らし始める時間。
「また、誰も来なかったな...」
泣きそうな声で男は呟く。
何を隠そう、この男はトレーナーである。
だが、男の周りにはウマ娘は一人もいない。
有力そうなウマ娘は全員有力なトレーナーのもとに行ってしまうし、他のウマ娘たちも強いチームに所属、自分が注目していたウマ娘も他のトレーナーのもとに行ってしまった。
無理もない、彼女たちは自分の夢を叶える為に一生懸命。有力なトレーナーのもとに行くのは理解できるのだが、自分のところに誰も来ないとは思ってもみなかった。
「新人だからってこの仕打ちはなぁ」
中央のトレーナーになってようやく
「何が悪かったのかね」
チームの勧誘はしてたし、一部のウマ娘とは飯を一緒にするくらいは仲良くもなっていた。だが蓋を開いてみれば誰も担当が付かないという現実が現在進行形で襲ってきている。
正直何が悪かったのか理解できないのが本音だ。
“あっちで新入生とアグネスタキオン先輩が併走するんだって!”
今日も収穫無し。
そう結論付けて帰ろうとした自分の耳にそんな言葉が聞こえた。
「新入生...?」
そう言えば同期のトレーナーがそんな事を言っていた気がする。
あの時は誰も担当が付かない事に絶望し話半分にしか聞けていなかったが、もしかしたら...
「まだ、夢を諦めるには早いのか...?」
靴ひもを結び直してトラックに足を動かした。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
トラックに到着して最初に目に入ったのは、アグネスタキオンの姿だった。
アグネスタキオン。
トレーナーと組むことなく授業にも出ないその生徒はこの学園において問題児の烙印を押されているウマ娘だったはずだ。
何故そんなウマ娘が新入生との併走をするのだろうか?
授業にも参加せず、練習をする姿もあまり見られない彼女が自分から併走をするとはとてもじゃないが思えなかった。それを思ったのは俺だけではなかったようで、周りのウマ娘や他のトレーナーたちも同様なことを話しているのが聞こえる。
「__っ」
見覚えのない少女がトラックに現れた。
まだ黒い部分の目立つ葦毛、堂々とは真逆におずおずとした雰囲気で出てくるウマ娘は周りを見ながら驚いた表情で
「問題しかないですよ!」
そう叫びながら、アグネスタキオンの肩を掴んでいる。
俺は、そのウマ娘から目を離すことが出来なかった。
【ウマ娘ってのは凄いよなぁ。だってよ、あんな速さで走れるんだぜ?】
昔、そんな事を言っていた男を思い出す。
男が今、何をしているかなんて知らない。だが何故か彼女の姿はその言葉を思い出させた。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
そんな感傷に浸っている間に、気が付けば併走が始まろうとしていた。
相手はあのアグネスタキオン。
トレーナーたちも、ウマ娘たちも、上で見ていた生徒会の面々も...ここにいる全員が新入生が彼女に勝てる筈がないと思っている。
でも、何故だろう。
勝てない。そんな絶対的な自信があるというのに、俺は何処かでその絶対的な自信を覆してしまう何かを新入生に感じてしまっている。
二人がゲートに入る。
興味を隠せない表情とおどおどした表情。
互いに併走時にする表情とは遠く離れたものだ。
〈パンっ〉
とゲートの開く音とともに並走が始まった。
距離1400m、芝コース。
一番最初にゲートから飛び出したのは新入生。
「「「おぉ!」」」
見に来ていたウマ娘、トレーナーたちから声が漏れる。
それもそうだ。初めてのゲートで出遅れなし、慣れているウマ娘でも出遅れることがあるスタートで最初から出遅れることなく走り出せるのがどれ程のアドバンテージになるか。
だが、それだけじゃない。
「お、おい! あの新入生の走り方!」
「なにあれ!? まるでオグリキャップ先輩みたいじゃない!」
そう、
普通のウマ娘なら倒れる可能性の高いあの走りを何の前情報のないウマ娘がしているのだ。
胸が熱くなる。きっとこいつならと、無理だと思っていた夢を追いかけられる気がして。
「トレーナー、彼女どう思います?」
俺の目の前で二人、ウマ娘とトレーナーの会話が聞こえた。
「...逃げを選択したのは悪くない。だがアグネスタキオンとの距離、あの様子では善戦も難しいだろうな」
「では__」
「あぁ、このレースを見る必要はない。戻って次の練習についての計画を練るぞ」
そう言い残し、二人はトラックを後にする。
冷めてやがるな。
そう心で呟いて視線をバ場に戻そうとした瞬間___
___新入生はアグネスタキオンの後ろにいた。
何があった?
目を離す前までは新入生がリードしていたはずだった。
だが気が付けばこれだ。いくらアグネスタキオンの末脚が凄いものだとしてもこれは...
「...違う」
さっきのトレーナーが言っていたじゃないか。
「距離が離せていなかったんだ」
新入生の走りに視線が行き過ぎていた。
新入生とアグネスタキオンの差は一バ身程度しか離れていなかったのだ。
そしてカーブが終わる。
残りは直線、差は3バ身。
それでも、苦虫を嚙み潰すような顔をしながら新入生を見続ける。
バランスを崩し、足の速度は落ち、前傾姿勢だった走りは普通に戻り、その表情には諦めが現れ始めているその姿を。
「駄目か...っ」
四バ身、五バ身とその差は目に見えて広がっていく。
ゴールへの距離は300、200と縮まっていく。
新入生は動かない、動けないのか。
その身体は体力が切れている言わんばかりにクタクタで今にも倒れそうなほど虚ろな表情をしているのに__
「__アアアァァァァッ!」
「っ!」
目だけは死んでいなかった。
新入生の姿勢がガクリと下がる。
スタートの時よりもより低く...いや、低すぎる。
地面と腹がほぼ平行になるほど低い姿勢、あんな姿勢じゃあゴールの後どうやって速度を緩めるというんだ。
並走の内容とは別の部分に汗が流れる。
もし、もしゴール後の減速に新入生が失敗すればそれこそ大事故になりかねない。その最悪の可能性に足が震える。
どうにかしてそれを、その可能性を回避しなくては。
思考いっぱいの考えと共に一歩踏み出そうとして、後ろにいるウマ娘に気が付いた
「その心配は必要ない」
聞きなれた声。見慣れた姿。
絶対的なそのウマ娘が後ろにいたのだ。
「シ、シンボリルドルフさん」
「彼女にもしものことがないように何人か配置させてもらった」
「...流石ですね」
確かに、よく見ればトラックの周辺に数名のウマ娘が待機しているのが分かる。
「君は、彼女をどう思う?」
「あの新入生ですか?」
「あぁ」
最後のスパートをかける新入生。その姿は今、俺の目の前にいる“皇帝”シンボリルドルフにも負けない何かがある。
「うまく言葉にできないですけど...俺は彼女に夢を感じました」
「なんか分かりづらくてすいません」そう付け足して並走に視線を戻す。
並走の結果は新入生の負け。だがそれでも、俺はあいつに夢を託したい。そう願ってしまう。
「シンボリルドルフさん、あの子の勧誘はいつからできますか」
「次の選抜レース、彼女さえよければそこに出てもらうつもりだが」
それはつまり今週末から彼女を勧誘できるということ。
「すみません。俺やることができました!」
シンボリルドルフにそう言い、走り出す。
いつか目指した夢を追い求めるために。
夜間練習中スワロー「だれか見てる?」
トレーナー「|MO)<どのタイミングで話しかけよう...」
そうそう、この前「風のシルフィード」が全巻売ってたので買ったんですよ。正直、めっちゃ面白かったです。できれば続編の方も買いたいですが、如何せん中古屋で見つからないんですよね...(´・ω・`)。
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挨拶...挨拶?
投稿遅れました。今回も何の考えもない思い付きの流れなので失敗率70%くらいの気持ちで見てくださいね。
学校初日、故郷を離れて新生活が始まる記念すべき一日目。
本来なら気合を入れて一日を過ごすはずだが__
「__ふぁぁーあ」
...眠い
昨日、色々あったせいか疲れていた。それこそ風呂とか飯とか一切考えることなく眠りたいくらいには疲れていた。
しかし、あの超自由ウマ娘と一緒の部屋という合体事故ならぬ部屋割り事故のせいでろくに寝られなかったのだ。
もちろんゴルシが何かしてきたわけではない。頭ではそれを理解し、安心して寝れると考えても身体が全力で拒否していただけだ。
あぁ、ダメだ。考えがまとまらない。
寝不足と空腹のせいで頭の回転が遅くなっているのがわかる。
「これなら今日は朝練をなくしてゆっくり寝ていればよかった」とため息。今更になって後悔が至高に押し寄せるがもう遅い。
「いや駄目だ。昨日だってここに来るから朝練サボっただろ」
時計を見れば、時刻は五時半。
流石日本屈指のウマ娘たちのトレーニング施設というべきか、こんな朝早くでも走り込みをしているウマ娘が見える。
「始めるか」
そんな彼女たちに負けるつもりはない。
両頬を叩き、対抗心を燃やしながら前へ走り出す。
故郷にいた頃からの日課である朝の走り込み。
とはいえ、そこまでハードなものにする気はなく、せいぜいジョギング程度の力加減で三十キロほど走るだけだ。
朝につらい練習をしすぎたらその後の授業がつらくなる、という理由でそうしているが、トレーナーが付いたらそこも話した方がいいだろう。
∵ ∴ ∵ ∴ ∵
「ふぅ...」
ほぼ一時間。
ジョギング程度といっていいか分からないが、走り続けてこの程度であれば走れるようになった。
でも、まだ足りない。
スタミナだけではレースは勝てないし、スピードだけでもレースには勝てない。その両方がそろってようやくスタート地点に立てるのだ。その両方がそろってなかったから俺はアグネスタキオンに負けたのだ。
俺は勝利を掴んで故郷の皆に届けたい。
目指すは三冠、勝つのはG1、目標はみんなが知ってるウマ娘。
みんなに胸を張って、あの子はここで生まれ育ったんだと言ってもらえるウマ娘になりたいんだ。
「うっし、もう一本!」
こんなところで止まってる必要はない。
誰にも邪魔をされない自由な風のように前だけに進み続ける。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
トレセン学園。
全国だけでなく、海外からも集められた優駿たちがその意思をぶつけ合う施設。
行われる行事は普通の学校と変わらない勉学から、トゥインクルシリーズで勝つことのできるウマ娘になるための基本的知識を教わる。
それだけでなく、ウマ娘を支えるためのトレーナーやスタッフになるための授業も行っており、実際の生徒数は二千人を軽く超えているだろう。
ご飯美味しかったな。そんなことを考えながら、廊下を特徴的な葦毛の尻尾を揺らして歩く。
前後左右、どこを見てもウマ娘のいるこの学園で自分がどういった道に進めるか。いくら考えても未来は分からない。
上を見上げ、深呼吸する。
目の前のドアを開ければ、これから始めるトゥインクルシリーズに出場することになるだろう。
自ら望んだことだが、それでも緊張や後悔__ここに来ないで実家の農作業を手伝っていた方が幸せだったのではと頭をよぎる。
「違う違う」
気をしっかり持て。
そう自分に言い聞かせながら両頬を叩く。
自分で決めた道なのだから、母さんに無理言って入学させてもらったのだから、自分の意志で胸を張って走っていかねば示しがつかない。
「よしっ!」
気合を入れた。目標も確認した。残るやるべきことは一つ。
ドアに手を伸ばす。
「__ゴクリ」
唾をのみ、最初の挨拶を考える。
素直におはようと挨拶すべきか、それとも何かもっと特徴的な挨拶をするべきか...
人間もウマ娘も最初の挨拶が肝心だと同室のゴールドシップは言っていた。
それはつまり最初に親しみやすい挨拶をすれば、友達も出来て一緒にトレーニングしてくれる仲間ができるということ。このチャンスを逃すわけにはいかない。
「...」
自分には友達の距離感というものがイマイチ分からない。
前世から、あまり人間関係を構築することがなかったが故の弊害だったのだろう。ここに生まれ、ウマ娘としての生をなしている今でも友達と呼べる存在はいない。だから友達というのに一種のあこがれを抱いている。
一緒に街を歩き、一緒に会話し、時にはぶつかり合い助け合う。そんな友情にあこがれを抱いているのだ。
友達が欲しい。
その一心で挨拶を考える。
「___ハッ!」
思いついた。
これならば親しみやすい空気を出しながらも特徴的で、なおかつ友達ができるはずだ。
そうと決まれば善は急げ。
持ってきた風呂敷を広げ挨拶に必要なものを準備する。
まずは
そして次に取り出すは太鼓。
もやは語る必要もない、獅子舞に必要な道具の一つだ。
「完成だな」
それらを装備し回転しながら身体を見る。
少々
きっと友達出来るよな。
そう期待に胸を膨らませてドアを力強くスライドさせた。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
【バゴッ!!】
そう音を立ててドアは力強くスライドされた。
「...」
静寂。
先ほどまで和気あいあいと会話をしていた未来のクラスメイト達はまるで不審者を見るような目でこちらを見てくる。
さて、ここからどうするか。
肝心な第一印象はバッチリ脳裏に焼き付いたはずだ。
ならば___
「地方__群馬県からこちらのトレセン学園に転入してきましたスィルスワローです。気軽にスィルと呼んでください」
教卓に上がりお辞儀をする。
奇妙な格好をした人物が丁寧な自己紹介をする。そう、これがいわゆるギャップ萌えという奴だ。間違いない。
これで第二印象もしっかり記憶に残るだろう。獅子舞の頭を口を開けて周りを確認すれば彼女たちが興味ありそうな眼をしているのが確認できる。
完璧な登場、完璧な挨拶。
何処をどう切り取っても拍手喝采間違いなしのこの状況に、小さく胸を張る。
___だが
俺、この後どうすればいいんだ?
誰もがこちらを見つめるこの状況にいったん状況をまとめる。
印象に残る挨拶をした。
そう、挨拶は出来たんだ。
だが俺は、この後どうするかこのまま獅子舞の頭を外してごく普通に指定されるであろう席に座るべきなのか、それとも我が道を行く王道路線を走るために獅子舞の頭を外さないで自由行動をすべきなのか。まったくもって考えてなかった。
心底どうでもいい迷いなのはわかっている。だが、だからこそ迷いたくなるのが人間の性。そのどうでもいい悩みから多くの開発をしてきたのが人間なのだ。故に、俺がとるべき行動はただ一つ!
「__アイ」
窓が開いている。
「___キャン」
窓に近づいて、ふちに足を乗せる。
「____フラァァァイィィィィッッ!」
そして飛び降りた。
「「___あ」」
下に男性がいることに気が付いたのは、両足をふちから外した後ほんの数秒後であった。
Q:主人公はなんで飛び降りたん?
A:自分が知りたいです
そんなこんなで主人公はいつになったらレースに出れるんでしょうね?
まだチーム選抜戦もやってないのにね不思議だね。これ13話あたりまでレースに出れなそうなのが芝も生えない。....レースが書きてぇ!
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出会い
てなわけで今回も相変わらず見切り発車ですのでお読みの際はご注意を
コンクリートの上には蜃気楼
自身の周囲を囲むように聞こえる蝉の声
「...暑い」
嘆くように呟く男が一人、自室のベッドに倒れこんでいる。
その男こそ俺だ。
名前は別に名乗る必要もないだろう。
天井を見上げながらそんなことを考えつつ、温度計を見れば
「...さ、34℃」
なんて暑さだ。そりゃやる気も何も出ないだろう。
納得して、また枕に頭を乗せる。
やる気が出ない。それ以上に暑くて動こうにも動きたくないという思考がその上を行く。
熱中症ではないのだろう。思考回がショート寸前なわけでもないし、飲み物だって飲んでいる。だが、ただただ暑くて動きたくない。
「あぁぁ」
扇風機に口を近づけて声を発する。
「わぁれぇわぁれぇはぁうぅちぅゅぅうぅじぃんぅだぁ」
懐かしいネタをしたところで暑さは変わらない。雨も降っていないのに蒸し蒸ししていて、それでいて純粋な暑さも尋常なものではない。昔は29℃くらいで夏だと言っていたはずの夏は、気が付けば38℃とか出るらしい。もはや29℃なんて秋の気温だろう。
「はぁ...」
ここでため息を一握り。
扇風機から放たれる生暖かい空気を顔に受けつつ漏れたため息はそのまま顔に帰ってくる。
「暇だな」
ここに引っ越して早数か月、いまだに自分以外の人間が入ってくることは...いやあったわ。引っ越し当日の荷物の持ち運びとか色々あった。
まぁそれ以外には誰一人としてこの部屋には入る人はいない。
それもそうだろう。
一般的な若者とは少しずれているせいか、ツイッターやフェイスブックなんてものもやったことはないし、それどころか自分から他人に話しかけることもそうそうなかった。
それ以上に田舎から比較的街の方に出てきたのだから知り合いなどいる筈もない。
一体何を間違えてこうなってしまったのかと聞かれれば、きっと最初から間違っていたといえる人生だろう。
友達だってそう心から呼べる人はいないし、自身の悩みを打ち明けられる人は家族くらいだ。家族がいるだけ十分なのかもしれないが、それでも全ての悩みを話すことはできなかった。
心の中に溜まっていく悩み。
それがいつ爆発するのか分からないまま、今日も生きている。
「飯、食いに行くか」
ベッドから立ち上がると、蒸し暑い空気が体全体に当たる。
夏だな。
そう思いながら財布と携帯を持って部屋から出た。
_______
外は少し、ほんの少しだけ涼しい。
扇風機とは違う体全体を包み込んでくれる風が吹き、蒸し暑かった部屋とは違い、ただただ暑いだけの太陽がこんにちはしている程度だ。
「...暑い」
それでも熱いことには変わらないのだが、蒸していないだけでこれほど楽になるのだろうか。
「帰ったらエアコン付けるか」
時刻は11時半。
コンクリートから上がる蜃気楼と、これからもっと熱くなるであろう太陽を見上げながら意思を固めた。
メタ的な発言をしよう。
果たしてこの
ただ、何の特異性のない人間の
分からない。
きっと誰にも分からないのだろう。
今、自分が考えていることに意味があるかも分からないのに
俺、そこら中にいる一般人の一人。
脇役にもなることのできない俺の意味は、いったい何なのだろうか?
思考を続ける頭は、まるで熱中症にかかったかのように、眠りに入る一周のように霧がかかったかのように薄れていった。
_____
「こ...こは...?」
見覚えのないどこまでも続く草原に首を傾げる。
こんなに広い場所は地元にもなかった。と、いうよりは日本中どこを探しても見つかる場所ではない。そう思わせるに十分なほど不思議な場所。
不思議で、綺麗で、それなのに何処か終わってしまった___花火が終わった後の消失感というか、美しいはずなのに悲しいという感情が上を行く不思議な場所で
「君は__」
俺は理想に出会った。
昔に出会った遠い
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
「__起きたか」
目が覚めた俺を出迎えたのは一人の男だった。
「誰だアンタ」
懐かしい過去の夢を見たせいか、ウマ娘として取り繕うこともなく素の状態の言葉が出てきた。
そんな言い方に少し驚いたのかは分からないが、男は少し目を大きく開いてこちらを見る。
何か間違ったことを言っただろうか?
そんな考えをしながら周囲を見渡す。
白く、清潔感のある部屋。そしてその部屋にいくつか配置されているベッドに寝かされている自分。
「__ハッ!」
そうかこれは間違いないっ!
「くっ、殺せ!」
身体にかけてあったタオルケットを寄せて女騎士のポーズをとりながら言う。
さぁ男の反応は?
そうワクワクしながら表情を見れば
___なん...だと...?
「....?」
意外!それは疑問符っ!
何を言っているんだこいつ、と言わんばかりの表情でこちらを見ているではないか!
この日、自分は初めて敗北を__いやアグネスタキオンに並走で負けてたわ俺。
はっはっはっ、そうだわ普通に負けてたわ。
...うん。落ち着こう。
パット見、男がトレセン学園の関係者であることがついているバッチから推測できるが一応確認しなければならないだろう。
「ゴホン、ところで貴方は?」
「俺はここのトレーナーなんだけど...」
困惑気味に答える男__トレーナーを見ながらなぜこの状況になったのか思い出せば納得した。
「あっ!飛び降りたときにぶっついた人か!」
思い出してみれば、一瞬しか見えなかったが落下地点にいた人の顔にそっくりだ。という多分本人だ。
「あー....ご迷惑をおかけしました」
彼の方に身体を向けて頭を下げる。
ここにいるということは自分をここまで運んでくれたのだろう。彼がトレーナーということを踏まえても迷惑をかけたことは間違いない。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
男__トレーナーは困惑していた。
それもそうだろう。どうに勧誘しようかと考えていた矢先にそのウマ娘が目の前に飛び降りてきて、気絶してたから保健室に運んでみれば、今こうして目を覚ました彼女に謝罪をされている。
文字に起こせば現状の異常さ...いや文字に起こさなくても分かるはずだ。
何なんだこの子は
そう思っても無理もない。
今までいろいろなウマ娘との交流はあったが、彼女はあまり見ないタイプのウマ娘なのだと心の中でメモを取る。
「君は、アグネスタキオンと並走していたウマ娘でいいのか?」
彼女との会話をしよう。
そう思い口から出た言葉は、彼女に対するイメージで最も大きな昨日の出来事だった。
「へっ? あ、あぁ。そうです」
まさか謝罪をした相手から聞かれるとは思ってもいなかったのだろう。
自らの表情を隠すことなく、彼女は驚いていた。
俺はあの並走の後、彼女の練習を遠目で観察していた__待って、ストーカーとか言わないで、どうしても彼女の走りで気になることがあっただけだから。
「君はあの時、何故アグネスタキオンの前を走ったんだ?」
それは並走とトレーニング、その両方を見て覚えた疑問だった。
トレーニング内容はただ走るだけ。毎日毎日ただ走り続けるだけで他には何もしていない。スタートの練習をするわけでもなければスパートの練習もしない。ジョギングのような速度で走ったり、また次の練習では全速力で走る続ける。
言ってしまえば彼女のトレーニングは、トレーニングというよりは基礎をし続けているだけなのだ。
そんな彼女が何故、あの並走でアグネスタキオンの前を走ろうと考えたのか。俺には考えても思いつかなかった。
「差し支えなければ教えてほしい。君があの時、何を思って前を走ったのか」
聞かれた彼女はばつの悪そうな表情をしていて___彼女の口から出てきた言葉に、俺は覚悟を決めた。
「え、何故ってそれは___
____前を走ってた方が気持ちいいじゃないですか」
俺がこの子にレースでの走り方を教えよう。
トレーナー(えっ、この子何も考えてなかったのか...教えなきゃ[使命感])
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決意
リアルがヤヴァイ状態だったのが何とかなり始めたため小説が書けるようになりました。(なおプロットなどないため方針不明)
「君のトレーナーにならせてくれ」
そう言いながら頭を下げる男を見ながら、俺は頭を抱えていた。
唐突だから、考えてなかったから、そもそもそれ以前にまともにレースをしたことがない俺を何故スカウトするのか。頭を抱える理由は両手でも数えきれない。
「あの模擬レース、俺も見てたんだ」
「さっきも言ったか」
そう言いながら頭を上げて頬をかく男。
何処か、何故か懐かしさを覚えるその姿に胸の高鳴りを覚える。
「君の走りに当てられたなんて言わない。素人目から見ても君の走りは粗削りだし、無駄が多かった」
突然のダメ出し。なら、何故俺をスカウトする。
「な、なら」
不安から声が震える。もやは言葉を取り繕う余裕はなかった。
「なんで、俺なんだ?」
「粗削りだからこそ一緒に完成させたくなった。君のあのガムシャラに前に行こうとする走りに夢を託したくなった。ダメか?」
瞳を輝かせる少年のような、昔見た懐かしい雰囲気を放つ男を直視できなくなくなる。
「...」
どう答えていいのかわからない。
「__少し、考えさせてくれ」
「いきなりで悪かった」
問題の後回し、それはきっと男も理解していたのだろう。
心配そうな表情をしながら男を横目に、俺は保健室から退出した。
「...俺、どうすればいいんだ」
決して俺は優秀ではない。ウイポで言うなら全部のステがCくらいしかないウマ娘だ。
地元ではまともに競う相手はおらず、初めての並走は負ける終わる。そんなウマ娘だ。いきなり夢を託されても、夢を託されそうになっても、きっと重さで潰れてしまう。
だから最初は慣らしてから徐々に、徐々に人の期待を背負えるようなウマ娘になっていこうと考えていた。
「ままならないな」
理想とする生き方と実際の生き方。
当たり前だがその差は歴然で、いくら運動しても痩せられない体重調整をイメージさせる。
「走るか」
現実逃避。
数多くある取れる行動の中でそれを選ぶ。
「あ、授業___走るか」
現実逃避しかできなくなった。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
「自由だぁぁぁぁぁぁ!!!」
何も考えないで走る。
そこに
自主練習という目的でもないダッシュは思考を停止させるには十分だった。
「ハァ___ハァ__ハァ__」
授業をさぼって走るのは楽しいか?と聞かれれば罪悪感でそれどころではないと答えたくなる。
初日から授業をさぼってトラックで走り続けるとかそれはもうただの練習狂いなのよ。そんな奴、好き好んで関わる奴いないだろ俺も関わりたくないわ__って俺だわ。
「初日から授業さぼるとかやべぇよやべぇよ」
現実を見ればもうやばい。
頭おかしい挨拶から飛び降り、そして初日授業をさぼる。もう断トツで奇行ウマ娘入り確定な感じを醸し出している現状に頭を抱えたくなる。
「...はぁ」
走りの疲労とは別の息が漏れる。
一人では会話が続かない。
メタっぽい話だが、普通こういう流れだと友達が出来てーとか色々あるはずなのだ。
だがどうだ?今の自分に友達がいるかと言われれば「いません!」と大声で言える程に自分の周りには誰もいない。
「...友達が欲しい」
ネタとかメタとか関係なく、ただただ友達が欲しい。
笑い合い、競い合い、助け合う。熱意をぶつけ合う友情を俺はいつから感じていないのだろうか。
ウマ娘になる前、それこそ俺が俺であったころでさえも友達だといえる存在はいなかった。
ウマ娘になってからも、中身の年齢の差のせいか友達は出来ず、トゥインクル・シリーズを目指す子もいなかった為に競い合うことも熱意のぶつけ合うこともなかった。
いつからだろうか?
他人との接し方が分からなくなって、自分から話しかけることができなくなったのは。
いつからだろうか?
友達が欲しいと言いながら行動しなくなったのは。
宣戦布告した自分に驚いたのは、自分の言葉で話したからだ。
自分の意志を、紛れもない自分の言葉で相手に伝えたからだ。
ウマ娘。
人と比べ闘争心が高いウマ娘だからできたのかはわからない。だが、もしかしたらこれは神様が自分にくれたチャンスなのかもしれない。
自分を取り戻すチャンス。
前世に何もできなかった男に神様がくれた大きなチャンス。自分を変えることができる最後の時間。
これが夢か現かわからなかった自分への道筋になるだろう。
レースに勝って、故郷の皆へのお土産話にする。
レースで競い合い、自分を取り戻す。
この両方が俺たちの目標なのだろう。
胸に手を当てた。
”スィルスワロー”は今も俺の中で眠っている。
いつ目を覚ますのかはわからないが、それでも確かに俺の中で彼女は眠っているのだ。
だから、いつ目を覚ますかわからない彼女のためにも俺は
誰もいないその先に消えるまで
「___よし、走るか!」
最初と同じ言葉のはずだったのに、心はとても軽かった。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
『少し、考えさせてくれ』
そう言い放ち消えてゆく葦毛の彼女を、俺は止めることができなかった。
相手が女性だったからではない。
相手がウマ娘だったからでもない。
ただ、
「なんで、あんなに辛そうな表情をするんだ...」
アグネスタキオンと走っていた時の彼女とは正反対の何かに耐える表情。
それほどトレーナーが付くのが嫌だったのか、と疑問に思うが答えはわからない。
俺は彼女を知らなすぎる。
ただ、走りを見てトレーナーになりたいと思ってここまで来た。
だから知らないのだ。何故彼女が走るのか、トレセン学園に到着してから走り続けるのか。一体何が彼女を突き動かすのか俺は全く知らないのだ。
「本人に聞くのは...やめた方がいいか」
あって間もない人間に色々聞かれるのはストレスがたまるだろう。
そういう判断で選択肢を切り替える。
別の選択肢をと思えば、たづなさんに聞くかシンボリルドルフに聞くかの二択だろうか?
彼女の過ごした場所に行くという選択肢もあるかもしれないが、ソレはもう少し仲良くなってからの方がいいはずだ。
行動しよう。
二択の選択をするまでもない。できるならば両方を取るべきだ。
『チャンスを手にするための努力は惜しんではいけない』
胸に刻んだ言葉は俺の方針となり今も生きている。
「見ててくれ、祖父ちゃん」
あの前を走ることしか考えてないウマ娘と一緒に、祖父ちゃんを超えるから。
声に出さない決意は誰にも聞かれることはない。
それでも目標は胸に刻まれた。
なんでしょうね、これ(遠い目)
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契約
「んなモアイみたいな顔してどうしたよ?」
「...へ?」
トレセン学園の寮。
その自室で天井を眺めていれば、同室になってしまったゴルシ__本名ゴールドシップが疑問をぶつけてきた。
「いえ、何というかようやくウマ娘として走りだせそうだなぁ。と思って」
「おぉ!そりゃよかったじゃねぇか!」
笑顔で背中を叩いてくるゴルシ。
痛い。片手で知恵の輪を解きながら器用に背中を叩いてくるがめっちゃ痛い。
「ま、まぁ確定じゃないですから」
そう、確定じゃない。
叩いてくる手を叩き落としてベッドに寝転ぶ。
個人的な不安はたくさんあるし、彼が自分の走りを見て契約を切る可能性だってある。だからまだ確定ではない。
「...貴女はどう思いますか?」
唐突な自分からの質問に、ゴールドシップはこちらを向いて知恵の輪を机に置いた。
「トレーナーとの出会いは唯一無二のもの。もし選択を間違えれば走りだす前にゲートにも入れない」
中身は違えど今は同じウマ娘、だからこそウマ娘としての彼女から聞きたかった。自分とは違う考えだとしても聞いてみたくなった。
「ゴールドシップさん。貴女は、今所属しているチームを何故選んだのですか」
手を握る力が強くなる。
参考になるなんて思っていない。ゴールドシップと自分は別人だ。たとえ聞いたとしてもそれと同じ道を辿れるわけもない。
それでも、自分がこの道を進んでもいいのだという安心感が欲しかった。
「んなもんピンときたから以外ねぇだろ」
「ピ、ピンと?」
考える動作なく一瞬で返された言葉に拍子抜けした。
一生モノの選択になりえるトレーナーとの契約をピンときたという直感で決めるゴールドシップに対して理解を頭が拒否する。
「だってよ。実際どうなるかなんて組んでみなきゃわからねぇじゃん?」
お前はどうなんだ?
そう言いたそうにこちらを見るゴールドシップの瞳。
...確かにそうかもしれない。決まってもいないし考えても分からない未来に何を迷う必要があるのだろうか。
だから、そうだ俺も足踏みをしているだけではいけない。
ゴールドシップの美しくも強い意志を持つ瞳は、意思は間違いなく自分にもあるはずだ。
「__ありがとうゴールドシップさん。やっとなにかが分かった気がする」
重みは減った。目の前にあったゲートへの扉は今開かれた
もっと前、彼と初めて会ったときピンと来たはずなんだ。
時刻は夜の七時、時間はある。
「ちょっと行ってきますっ!」
気をつけろよーと返事をしてくれるゴールドシップに感謝を思いつつ、彼の場所へ急いだ。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
「スィルスワロー...? どうしてここに」
お化けでも見たような彼の顔。
彼の自室とトレーナー室のどちらにいるかと不安だったが、彼はトラックで走っているウマ娘を見ていた。
「トレーナー、俺は「済まなかった」__え?」
彼への謝罪をしようとした自分に、彼は頭を下げた。
「夢を託すだなんて君の気持ちを考えないで、俺はトレーナーとして失格だ」
「待って待ってくれ! 急にそんなこと言われても反応に困る」
いきなりの謝罪に戸惑いを隠せない自分に気づいてか、彼の瞳はこちらを見ていた。
「いきなり君のトレーナーになりたいだなんて、君に不快な思いをさせてしまっただろう?」
「そ、そんなことは」
...たとえ嘘でも、ない、とは言い切れなかった。
実際彼の言葉で自分が迷ったのは事実であり、先ほどまで自分はそれで迷っていたのだから否定できなかった。
「だから謝罪の意を込めての品物なんだが」
「謝罪の品物って、ありがたいけど大丈夫なのか?」
そう言いながら恥ずかしそうな顔で箱を渡す彼にジト目になる。
分類的には女子高のようなものであるトレセン学園でこのようなものを渡すのは問題があるだろうに。
そんなことを思いながら彼を見れば...これまた不安そうな表情でこちらを見ていた。
「これは、お守りか」
「選んでみたんだがどれがいいかよくわからなくてな。知り合いのウマ娘に聞いたらこれがいいんじゃないかって」
【健康祈願】と書かれたお守りは純粋に彼が自分の心配をしているのだと実感できるものだった。
「ははっ、俺も謝りに来たのにこれじゃあな...うん、でも言わせてほしい」
貰ったお守りを握りしめて彼にただ一言いう。
「ありがとう、トレーナー。アンタの夢は背負えないかもしれないが、お守りの分を返させてくれ____アンタのウマ娘として」
「えっ」
トレーナーの目が大きく開かれた。
その瞳はライトに照らされている黒い瞳は眩しくて、そして不安に満ち溢れている。
「俺で...いいのか?」
「アンタがいいんだ。俺に可能性を見出して、そして俺がアンタに可能性を見出したから」
懐かしい目だ。
昔の自分もこんな目をしてて、皆に救われた。不安なんて考えるなら行動をすべきだと教えてもらった。
「行こう」
「ど、何処に!?」
その手を引っ張る。
春だが若干寒いこの季節、特に対策をしていなかったのであろうトレーナーの手は冷たい。
「鍋でも食べよう。この出会いとこれからの努力のために親睦を深めようじゃないか」
ここから始めよう。ここから走りだそう。ゲートはここだ、今入った。走りだすのはこれからだ。
だからずっと決めてたことを、言いたかったことを言おう。
「これからよろしく、トレーナー」
∴ ∵ ∴ ∵ ∴
その日から俺の生活は変わった。
ただ走るだけだったトレーニングはトレーナーの指示の下、きちんと考えられたトレーニングに変更された。
初日からすっぽかしてしまった授業にも参加し....たのだが
「...」
無言、ただただ毎日の授業が無言。
同じクラスになった彼女たちからしてもいきなり窓から飛び出したウマ娘と関わるのは恐ろしいらしく、挨拶してから一週間たった今でも友達のできる様子はない。
頭を抱えた。
絶望した、自分のせいと分かっているのに何の対策も立てられないで毎日をトレーニングしかできない自分に対して絶望した。
こんなことになるのであれば最初からあのような行動をするべきではなかったと過去の自分を殴りたくもなった。
...だが今更そんなことを考えても無駄でしかない。
幸いトレーナーができた。話し相手でありともに歩む仲間ができた。今はそれだけでいい、それ以上は望めない。
あとは走りで証明しよう。
『ただいまより第3選抜レースを開始します』
ゲートの外からアナウンスが聞こえる。
履きなれた靴の感覚も、踏みしめる芝の感覚もしっかりと分かる。
心臓の音は早いけど大丈夫、不安はないわけじゃないけど大丈夫。だってトレーナーが信じてくれるのだから。
<パンッ>
と、ゲートの開く音がした。
すっごい飛ばした感が否めないけど話が進んだからヨシっ!
にしてもこの手のネタも増えてきたし自分で書かなくても供給されるからそろそろ消すかな...
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