白と黒の世界は夢を見る (haru970)
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第0話 Can(Not) Retry(do)

*注*
タイトル変更と伴い若干のネタバレを含む話の投稿です。



 長い間、私は夢を見ている。

 

 それはいつものことだ。

 知的生物、特に人間の脳内構造をしているならなおさらのことだ。

 あたかも現実の経験であるかのように感じる、一連の観念や心像を『夢』として見なければ私は……

 

 いや、そもそも考えても無意味だ。

 

 それよりも今は私がすべき事は経験と見聞きしたこと、出会った者たちと彼らの辿った末路を、『次の世代に残す』ことだろう。

 

 と言ってもそれを出来るのはほぼ一瞬、『黒』が『白』に戻る刹那のごとき合間。

 今の夢が終わり、次が始まるまで。

 

 常人ならば無意識の瞬きを一つ終える前に過ぎ去る時間だが、今の私にとって造作もないことだ。

 肝にこの体は()()()()()

 

 私は色が変わるのを横目で何となく(気付き)ながら簡潔に情報を書き残す。

 

 さて、次はどうなることとやら。

 

 いつ、夢は終わりを告げてくれるのだろう?

 

 いつになれば私は終幕を迎える?

 

 それらを思い浮かべながら、私は目を閉じて終焉を静かに迎えた。

 

 密かな願いを込めて。

 

 

 


 

 

 長い夢を、『それ』は見ていた。

 

 何時眠りに入ったのかも忘れるほどの長いそれは『それ』に取っての現実。

 

 そもそも『自己』としての認識が薄い『それ』にとって夢は暇つぶし。

 

 ある日、耳元で一際大きく囁く声によって『それ』の夢が終わりを告げる。

 

『井上! ルキア! チャド(茶渡)! 石田────!』

 

 まどろみの中、夢の中で何度聞いたことのある声が────

 

『────浦原さん! 夜一さん! 恋次! 白哉! 冬獅郎────!』

 

 ────何度も名を呼ぶ。

 

 それらは、『それ』が微睡の中で見てきた人物の名ばかりでさらに意識が□□の傍へと引きずり込まれていく。

 

『誰も、誰も居ねぇのかよ?!』

 

 なんと悲痛に満ちた声なのだろう。

 

 ぼんやりとオレンジ色の陽光が目に刺さり、肌がチリチリするほど喚起した大気が口と喉を経由して肺を満たす。

 

 次第に目が慣れて来たのか、周りはさぞ立派だったはずの建造物が映る。

 

 どれもこれもがガラクタのように壊れ、声の持ち主と思わしき人物は元々オレンジ色の髪は所々土がへばりついており、身体に纏わりついた黒い着物はボロボロだった。

 

 疲労の隠せない目とクマはさぞ長い道のり(人生)を秘めているのだろうと思い、『それ』が見つめ続けると情報(記憶)が自然と染み渡っていく。

 

 純粋無垢な子供がかつて居た。

 昔に母親を理不尽にも亡くし、それを上手く整理することができずに周りに当たった。

 

 己のふがいなさに腐りかけた少年が居た。

 彼は現実に意識が向き、己がやってきた過去に振り向くはしないように生きた。

 

 少年は大きな流れに巻き込まれ、『力』を開花した。

 他者に、大切な人を無意味に亡くす経験をさせまいとがむしゃらに動いた。

 

 周りを護ろうとすればするほど、周りは巻き込まれていく。

 

 夢のような、()()のような、目くるめく冒険譚の中で目の前の者は『生』を実感していき、やがて世界を崩壊から救うほどまでに至った。

 

 伴侶を取り、子も得た彼は周りを護ることをやめなかった。

 

 長い道端で得た、同()と思える者たちと共に。

 

 なんという冒険譚なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そんな彼らでも『世界』には敵わなかった。

 

 さらに『それ』が見ると、目の前が成した子は『世界』を根底から脅かす存在と判明してしまった。

 

 かつて少年が世界を救うため、倒して敵のように。

 

 新たな戦火の火種となった子を取り巻く事態は加速化し、やがて『世界』が相手になっても少年はベストを尽くして周りを護ろうと奮闘した。

 

 だが護ろうとすればするほどに、己の子と対立が確定していく。

 

 周りの者たちとも対立していく。

 

 その末に待っていたのは『世界』か『子』か。

 二つに一つ。

 

 三つ目の選択を探そうとして、()()()()()と自覚した頃に待っていたのは選択を探した故に時間が無くなり、壊れていく世界と子がいなくなった現実。

 

 そう思いながら『それ』が目を覚ますと、『私』は居た。

 

 何もかもが妄想で組み上げられた幻想。

 

 それでも『私』は顕現した。

 

 ()()()()()()()()

 

『クソ! クソがぁぁぁぁ! 俺は……俺は一体……何の為に……』

 

 彼はとうとう泣き出し、その背後に顕現しながら問いを掛ける。

 

「それが、“悲しい”と言う、モノ?」

 

 初めて空気が『私』の声帯を通り、どこかぎごちないながらも透き通るような声が出る。

 

 目の前の者がゆっくりと振り返る。

 

「アンタは……誰だ?」

 

 初めて大気に乗った声が耳に届き、鼓膜を震わせて『声』と言う情報が直に届く。

 

「私は、歴史に存在してはな、らないモノ。 誰からも、生まれず誕生し、存在を望、まれず不定されたモ、ノ。」

 

「……はは、なんだそりゃ。 ついに俺も狂ったか。 じゃあなんだ? “悪魔だ”、とでも言いたいのか?」

 

「城家付きで、肯定する。 悪魔、が『望まれない必要悪』と定義す、るならば『私』はそれに値する。」

 

「そうかよ……」

 

「この世界は、間もなく活動停止へ、と向かいます。」

 

「そう……か……」

 

「問い。 数少ない、この時代最後の生物として、言い残すことは、ございませんか?」

 

「…………………………は。 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 目の前の青年は突然、笑い出す。

 

「ハァ~……俺も、色々と他に言う事があるはずなのになぁ~。 “戦いのない世界を目指せ”とか、“家族を大事にしろ”とか……

 なのに、“死にたくない”ってどういうことだよ、こりゃあ? ハ、ハハハハ……………………」

 

「……問い。 “死なない”と言う、定義を示してください。」

 

「そりゃあ────」

 

 その瞬間、青年から流れてくる思念等で『私』は理解する。

 

『死にたくない』。

『もっと生きたい』。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』。

 

「────承諾した。 その願い、聞き入れ、ましょう。 『()が溶けていく、剥き出しになった魂が夜見(暗闇)に怯えて震え出す────』」

 

『それ』は大気に散りばめた力をかき集める。

 人間(ヒト)風で言えば“塵も積もれば山となる”か?

 

「『────魂は弱く、脆く、衣をまとう前は誰もが等しい────』」

 

 それが例え亡くなった者たちの残留思念を含んだものだとしても、

 

「『────存在もあやふやで、何時消えるかも分からないながらも、────』」

 

 記憶を含んだとしても、

 

「『────“自分が我”、

 ただそれだけの確固たる信念(目的)をもって“ここ”に、────』」

 

「『────それは“高潔”で“儚く”、────』」

 

 強い個の人格が色無き『私』を染めるとしても、

 

「『────“終わり(始まり)始まり(終わり)”をここに。』」

 

 利用できるものは全て利用する。

 

 さぁ、終わった世界を再起動しよう。

 

 そして、今度こそ幸せにしよう。

 

 たとえそれが暗中模索ながらでも、茨の道だとしても。

 

「『未来永劫(Cosmic)輪廻の輪(Reincarnate)』。」

 

 彼は、笑顔がよく似合う(幸せになっていいはずの)類なのだから。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「……………………………………………………………………」

 

 あの時から何度同じ時を繰り返したのだろう?

 

 数を考えることもバカバカしくなってきた。

 

 また世界を再構築する間の無へと化した空間で、人間味の濃い『私』がそう思考を巡らす。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

 何度も繰り返しても、笑顔(幸せ)は最後まで続くことは無かった。

 

 かつて覚悟を決めて、この世界の秘密を共有した同士もかつて願いを聞き入れた少年を数に入れなければ、最後の一人となってしまった。

 

 その一人も、裏で何かをコソコソとしている節がある。

 

 「……………………()()()。」

 

 その一言が思わず口から出たことで、内心で燻っていた感情はたちまち油を注いだ火のように大きく心を塗り替えていく。

 

 どうせ笑顔が続かないのならば、()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ん?」

 

 無い筈の()()()()感じが『世界の外』から来て、『それ』が反応する。

 

「まさか……『来訪者』?」

 

『それ』の胸が高鳴る。

 

 終わらせない(終われない)

 

『それ』はそう思い、『来訪者』へと意識を向ける。

 

 そこでゾクリと、無いはずの体に悪寒が走る。

 

 あらゆる警報がベルを鳴らす。

 

『この者と対立するな』という警告が返ってくる。

 

「ちょうど良いわ! それぐらいの力を持っているという事は、糧にすればそれだけの利子が返ってくるという事じゃない! アハハハハハハハハハハ!」

 

 それらを絶望によって壊れていた『それ』は歓迎した。

 

「でも二体同時にいると厄介かもしれないなぁ……やっぱり一度引き離して観察するか? うん、そうしよう!」

 

『それ』と似た一体は、弱肉強食が基本の虚圏へ。

 

 よく分からないモノ(悪寒がする)は、今は乱世の尸魂界へ。

 

『それ』は熟した果物を収穫するまで待つ農夫が持つ気持ちで『来訪者』を出迎える。

 

 気長に余裕をもって『それ』は再び目を閉じる。

 

 

 たかだか数十年の時は『それ』にとっては『ついさっきの出来事』と等しかった。




次話はネタバレ含む資料話です。


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第0.5話 ネタバレ含む資料編

*注意事項*

前作と前々作を読まなくても楽しめるよう書いたつもりですが貴重な感想をもらい、以下の内容を読んでいない方たち用に作成してみました。

以下には“バカンス取ろうと誘ったからにはハッピーエンドを目指すと(自称)姉は言った”、そして"Stay, Heaven's Blade" Fate said.  “「その天の刃、待たれよ」と『運命』は言った。”のネタバレをある程度含む内容がございます。

ご了承くださいますようお願い申し上げます。

……語彙がこれで合っているかどうか不安ですが、皆さまのご参考になれば幸いです。


 前作から登場するメインオリジナルキャラ:

 

 ▼『三月』▼

 今作、そして前作の『バカンス取ろう』では自身を『三月・プレラーり』と名乗る見た目十代前半でゴス風ドレスの金髪碧眼、ハイテンションのお調子者……の見た目と性格を模範している『とある上位存在』の一部に意思が戻った個体。

 元々は気の赴くまま世界と世界を行き来しては行方を見守る、あるいは展開(世界)が崩壊するまで介入して楽しんでいたところを『その天の刃、待たれよ』の作品で死という概念に触れ、人間で言う『解離性健忘』に陥った。

 それこそ周りにの万物がおっかなびっくり、『畏怖』の対象と思えるほどに自己を失くすほど。

 後に『魔術師殺し』と呼ばれた異端の魔術師モドキである衛宮切嗣の養子となり、士郎という少年と共に育つことに。

 もし原作(Fate stay/night)の衛宮士郎が『人間になろうとするロボット』と称するなら、衛宮三月は『人間のふりをするロボットを模範にする機械』である。

『ロボットを模範にする機械』だけあってあらゆる分野の『()()()()』が得意。 

 そして洞察力にも似た『解析』がずば抜けている。 が、幼少から肉体が弱く劇薬を服用しなければいけないほどの病弱。

 義父である衛宮切嗣が亡くなってからは周りを恐れることをピタリと辞め、試行錯誤を繰り返し、状況に最適化した性格に変えていく。

 時が流れるにつれて『別人格』と呼んでもおかしくないバラバラだった性格はナリを潜め、次第に『Fate stay/night』の出来事に義兄と共に巻き込まれていく。

 次第に自分がどれだけ人間を模範しようとしても人外である自分の能力に戸惑うが、『それなら』と思い義父と義兄である衛宮切嗣と士郎の『他人の幸福こそ幸せ(正義の味方像)』を基に、『周りの者の為にならば自分を犠牲にしても良い』という、自信を蔑ろ事にする行動が平然としだす。

 それは単に『Fate stay/night』での人外はごく少数の例外を除いてすべてが人間への脅威であるから。 しかも先の『例外』も主にブラックジョークも真っ青になる『ギブアンドテイク』の関係ならば御の字ほど。

 

 後に自分が人外どころか違う世界からの来訪者を知ることとなる。

 その上自分が肉体、魂、精神の『自己』を結成している三つの物質の一つである『無色の魂』であることも以前の『自分』に近付いた『精神と肉体が融合した個体』に知らされる。

 

 その後も色々あり、世界の歯車(展開)が自分の所為で歪み、破滅へと進んでいくことに苦悩し、破滅と共に『自己』を全て消すことに専念するも『原作キャラ』の『原作にない動き』で()()を留めることに。

 

 その後、義父である『衛宮切嗣』と計上の義母となる『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』、そしてその他の者たちが笑顔になれるように『Fate/Zero』の世界へチエと呼ばれる少女と共に介入*1

 

 だが彼女はなぜか『衛宮』を名乗ろうとしていないどころか、『姓はない』と言い切るその理由とは?

 

 ▼チエ▼

 

 前作の『バカンス取ろう』から登場。 そして三月にほぼ無理やりに連れまわされている見た目十代半の黒髪赤眼、そして低いテンションと無表情。 

 いつもマイソードを持ち歩いている『如何にも侍』っぽい女性。

 三月の『バカンスとろう!』に対して『“ばかんす”とはなんだ?』と返したことで前作と今作に幕が上がることに。

 

 無自発的かつ無関心……と思いきや『子供の危機』に対して何か思いやりがあるのかすさまじい程オーバーな行動に出ることも。

 

 上記以外に前作*2で判明したことと言えば甘党、流れに身を委ねる(と言うよりは流されるがまま)、子供好き(少なくとも邪険にしない)、三月と同等(或いはそれ以上)のトンデモ技が実行可能。

 

 あと余談だが性別や美意識が皆無の割にかなりのプロポーション持ちの美女。 何時もは『戦闘に支障をきたす』と言い封印して(さらしを巻いて)いる。

 

 戦闘になると()()が無い限り相手を一切合切『排除』するのに躊躇しないが、こと日常生活に関しては全くの無知と言っていい程の世間知らず。

 

『ネギを切ればいいのか? 大きさは?』

『適当でいいよ?』

『なら1.5ミリにするぞ』

『具体的すぎ?! 適当で良いよ?! 千切りとか!』

『ならば“千”になるよう切る』

『ソレジャナイ』

 

 等々。

 

 


 

 前作(Fate)などから登場し、今作の原作に無い設定や単語など:

 

 ▼魔法▼

『奇跡』と呼べる現象を引き起こす『神秘』、あるいは『実現不可能の結果』。

 

 ▼魔術▼

 人為的に奇跡や神秘に部類する行為を再現する総称。 『なんでもあり』な魔法と違って等価交換によって発現する。

 

 ▼魔力▼

 基本的に魔術や魔法を起動する為の燃料。 BLEACHでの霊力と性質が似通っている。

 

 ▼魔術師▼

 魔術を学ぶ者達の事。 或いは魔術の探究者。

『計測できないモノ』を信じ、操り、学ぶ。

 科学をベースにした現代社会とはよほどのことがない限り相容れない存在。

 

 ▼魔術使い▼

 上記の魔術()とは違い、魔術をただ使()()者達を示す。

 

 ▼分体▼

『ドッペルゲンガー』、または『自己像幻視』……ではなく『自分』を結成している『人格』を切り離す際に精神を自律化、更に実体化させた『もう一人の自分』。 ペルソナァ!

 とはいえ『完全なるコピー』ではなく、『オリジナルのとある部分を強調したコピー』。

 

 ▼使い魔▼

 魔術師が使役する分身。 『疑似生命のお手伝いさん』や『労働力』とも。

 こちらは分体とは違い自律性が無いが前もって行動をプログラムすることは可能。

 

 ▼魔術回路▼

 魔術師が体内に持つ擬似神経。 生命力を魔力に変換する路であり、基盤となる大魔術式に繋がる路。 また、幽体と物質とを繋げる回路。

 

 ▼サーヴァント▼

 Fateの世界で『聖杯戦争』際して召喚される特殊な使()()()。 

『英雄』と後世に語り繋がられる神話や伝説に架空の物語が星の記憶に書き込まれた者たちの魂のコピーとも呼べる『霊核』を物質化し、エーテルという仮初の肉体が与えられた存在たち。 かの者たちの能力は文字通り『千変万化』。

 ゆえに『使い魔』と称されるのはあくまで形式的な意味合いでしかない。

 

 ▼マスター▼

 上記の本来その時代の存在ではない『サーヴァント』が現世に留まり続けるための時間軸への依り代と同時に存在し続ける為の魔力補給源(リソース)

 

 ▼宝具▼

 人間の幻想(物語)を骨子に魔力で作り上げられた武装。 サーヴァントの切り札、そして生前に愛用した武具、或いは逸話を奇蹟として再現したもの。

 BLEACH風に呼べば卍解、真打に近い。

 

 ▼聖杯▼

 キリスト教における『神の血を受けた杯』。 バビロンの大淫婦が持つ『黄金の杯』。 ケルト神話における『ダグザの大釜』。 アーサー王伝説でギャラハッドが発見するに至った『聖杯』。

 

 今作や前作での聖杯は『願いを叶える純粋無色で万能の願望器』の意味合いを持つ。

 ただし願いの目的(結果)を達成する為には、そこへ至る過程を使用者が(考え)る必要があり、それがなければ無限にも近い魔力を生み出す器として一応は使える。

 

 ▼聖杯の器▼

 上記で記入された『聖杯』の物理的な『器』。

 本来聖杯は魔力の塊である霊体で結成されている為、物理的干渉ができない。

 だがとある魔術師の家系が『人体』や『臓器』という器を鋳造することに成功した。

『人体』であれば『仮初の人格』を殻として備え付け、扱いしやすくするのも改造するよし。

臓器(心臓)』にすれば元来既にあるモノ()にも移植可能。

 

 ▼ホムンクルス(Fate)▼

 錬金術で作られた『嬰児』、『人造人間』。 

 人の手によって作られた『自然()の触覚』。

*1
バカンス取ろうと誘ったからにはハッピーエンドを目指すと(自称)姉は言った”

*2
『バカンス取ろう』



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Infancy - 原作開始前
第1話 変な匂いに釣られた。の巻


始めまして、またはこんにちは。 作者のharu970と申します。

慣れない作品にチャレンジですが、お付き合いいただければ幸いです。

この作品で二人はもう一つの作品“俺と僕と私と儂”に出てくるキャラの外伝っぽいストーリーで、“バカンス取ろうと誘ったからにはハッピーエンドを目指すと(自称)姉は言った”の後続作品の様なモノです。


上記を読んでいなくても楽しめますように頑張ります!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 見た目十代前半で黒い着物の刀の黒髪赤眼、低いテンションに無表情の人物は辺りを見回し、だだっ広い草原の中で、殆どが肩まで伸びた黒髪が吹く風でなびく。

 

 ただチラチラとチラつかせるヒョロンとした、膝まで届くポニーテールらしき長い髪の毛もあったが、どういう訳か()()()()()()()()()()()

 

「フム。これはまた珍妙な所に出たものだ…………」

 

 通る風の中から周りの匂いと音に集中する為に目を瞑る。

 

「……………………………ん?」

 

 ()()()()に困惑した顔をあげる。

 

 それは錆びた鉄の様な匂い。

 これは分かる。

 よく知っている()だったからだ。

 

「……………………だがこの()()()みたいなモノは何だ?」

 

 困惑しながらも、ただ匂いのする方向へと歩き始めた。

 

 歩いて半刻(一時間)ほどで、かつての日本の平安…………または江戸時代の街並みに似た場所へと出た。

 

「……………………(ここまで来て()()()()()』の姿が無いのは意外だ)」

 

 この()()というのは血の繋がりが無いからなのだが、その人物と『()』二人はかなりの時間を共に()()()()()()

 

 しかも「お姉ちゃんだから!」と言い、『()』は黒髪の人物を色々な場所や出来事、果ては『バカンス』へも連れ出していた。

 

 ご本人の意思に関係なく。

 

「(血の匂いはこちらからか)」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 黒髪の者が大道路のような開けた場所に付くと叫び声などが聞こえて来る。

 

『もう一度言ってみろ、このクソガキ!』

 

『何度でも言ってやる! 俺達の力は弱者を虐げるモノでは、ない!』

 

 ドガッ! ドスン!

 

 肉と骨が衝突する鈍い音と、地面に何かが落ちるのを境に回り角を曲がると一人の青年に複数人の大人達が囲んで、地面には殴られた跡が顔や体に残る者達が気を失って地面に横たわっていた。

 

 全員様々な状態や出所の服を着て、それは何処かアンバランスな雰囲気を出していた。

 

 ボロボロの物乞いのような服、真新しいようなスボンとシャツ、果てはスーツや着物まで、文字通り様々なデザインや状態。

 

 だが一つの共通点は全員が鞘に入った刀を所持していた事だった。

 

 それは荒い息遣いの囲まれた青年も例外ではなく、彼は吃にらみを目の前の大人達に向けていた。

 

「な~にが、『力は弱者を虐げるモノではない』だ? 力がある俺らが好きなように生きて何が悪い?」

 

「そんなものが何時まで続く?! もしお前達なんかより強い奴が出て来たらどうするつもりだ?!」

 

「ケッ! そんな奴ぁ居やしねえよ! そいつらは強くなる前に俺達がぶっ殺してやらぁ!」

 

「見せしめにしちまえ!」

 

 青年の横にいた男の拳が青年の顔を目掛けて繰り出され、そこからは大人たちがただ青年を一方的に攻める場へと変わった。

 

 最初こそ青年はカウンターを狙い、何とか撃退していたが大人達の動きは徐々に連携をとるようになった。

 

 と言うのも自分達の前に居た他の者達を無理矢理蹴ったり押したりして、青年の注意と周囲の視線を遮って隙を狙った不意打ちの蹴りやパンチが次々と青年の顔面や体に当たる。

 

 そこからみるみると青年は地面に捻じ伏せられ、数人がかりで押し付けられる。

 

「畜生ー! オレと戦え!」

 

「どうする?」

 

「決まってんだろう? もう二度と俺達の邪魔にならねえように腕か足一本切ってやらぁ」

 

 低い笑いと共に、一人の男が刀を握って、地面に押し付けられている青年が更に必死に腕や足に力を入れる。

 

 が、やはり態勢と対格差には勝てず、ただ睨むだけだった。

 

「それならオレを今ここで殺す事だな! 腕や足の一つや二つなくてもテメェらの顔は覚えてらぁ!」

 

「お前ら! しっかり押さえつk ────ッ?!?!?!」

 

 男が刀を抜き始めると同時に彼は背中に何かを押し付けられるのを感じ動きを止めた。

 

「な?!」

 

「て、テメェ何時の間にそこへ?!」

 

 男の後ろには先程まで誰も居なかった空間に、黒髪赤眼の者が自身の鞘に入れたままの刀の(かしら)を押し付けていた。

 

「これがただの喧嘩なら、私も大目に見ていただろう。 だが喧嘩にそんな物()を出すとなれば容赦はせん」

 

「…………このや────ぐぉぇ!!!」

 

 男が振り向こうとした途端、黒髪赤眼の者が彼の首に手刀を浴びせ、男はすぐさま気を失いながら、地面でビクビクと泡を出しながら痙攣していた。

 

「ん? ()()()

 

「この野郎!」

 

「ブチ殺せぇ!」

 

 大人達は青年の事などどうでも良いかのように手を離して、未だに困惑しながら自分の手を見る黒髪赤眼の者へと襲い掛かる。

 

 だが目向きもせずに大人達をあしらう姿を青年は地面に肘を立てながらボーっと見る。

 

 それは本人の退屈そうな表情とは裏腹に、言わば華麗なダンスを見ているかのような動きと流れだった。

 

 時には青年の様にカウンター、時には大人達を同士討ちに持ち込んだり、または足を払うだけで頭の打ちどころが悪い場面などで大人たちは次々と倒れて行く。

 

 そして────

 

「────■■■■■!」

 

 途端に明らかに通常の生物ではない叫びとも共に大人達はギョッとした顔をしてその場から逃げ始める。

 

「貴様らぁ! 大口叩いてそれかぁ?!」

 

 青年が更に苛ついた顔で刀を抜刀する。

 

 瞬く間にその大道路には青年と黒髪赤眼の者、そして地面に横たわって気を失っている者達が残った。

 

 そこへ白い面を被ったような異形の化物が数体、空から姿を現す。

 

「オイ、アンタ! 早くこの人達を連れて────」

 

「────伏せていろ」

 

「へ?」

 

 青年が呆気に取られている間、彼は一瞬、突然発生した眩い光に足をふらつかせて、尻餅を地面につく間、光が治まる。

 

 やがて青年の目が見えるように徐々に回復して行くと、彼が次に見たのは刀を鞘に納める黒髪赤眼の者の姿で、化け物達の姿は何処にも無かった。

 

「本当に、珍妙な場所だ」

 

「…………ぁ」

 

 僅か数秒間の出来事だが、青年は残念がったような息を吐き出す。

 

「立てるか、小僧?」

 

 何時の間にか見入っていられたようで、自身はずっと同じ体制で、黒い着物を着た黒髪赤眼の者が首の根っこを強引に持ち上げて、立たせる。

 

「………………………」

 

「どうした、ずっと私を見て?」

 

「あ! す、すみません! ありがとうございました!」

 

 青年がぺこりと頭を下げると黒髪赤眼の者が満足したように頷く。

 

「良い。 礼を受けるようなモノでも無い」

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

「さっき助けてもらったばかりで大変恐縮なのですが、この者達をここから一緒に運んでもらえませんでしょうか?!」

 

 青年は横たわっていた打撲の跡などが目立つ人物達を指さす。

 

「?」

 

「あ、えっと………このゴロツキ共に絡まれて、動けなかった人達です」

 

「……………交換だ」

 

「は?」

 

 青年は?マークを出す。

 

「私は訳あって()()()()()()。 故にこれは()()だ」

 

「!!! わ、わかりました! オレの知っている事を全てお伝えします! あ!」

 

 青年はまた何かに気付いた様な顔をする。

 

「? 今度はどうした?」

 

「な、名前………………」

 

「まずは運ぼう。 どの者達だ?」

 

「あ、はい! 先ずは────!」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 青年は2、3人の大人を担ぎながら隣をチラチラと見る。

 

「す、すごいですね」

 

「そうか?」

 

 青年の隣を歩く黒髪赤眼の者は5、6人ほど担ぎも表情を全く変えていなかった。

 

「そうか」

 

「「…………………………………………」」

 

 長い撃沈が続いて、先頭で歩く青年が口を開ける。

 

「そ、そういえばお名前がまだでしたね! オ、オレの名は重國(しげくに)です!」

 

「…………チエだ」

 

「「…………………………………………」」

 

 そしてまた撃沈の時間が再開する。

 

 青年はこれに堪らなかったのか、彼は次々と言葉を放つ。

 何とか会話を続けさせようと。

 

「つ、強いのですね!」

 

「別に」

 

「「…………………………………………」」

 

「えっと……………あなたも()()()()()()()()()()?」

 

「??? それはそうだが、どうしてだ?」

 

「やっぱり!」

 

「………………そうだな。 今は…………取り敢えず、ここは何処だ?」

 

「ここは西()()()の41地区です! あ、尸魂界(ソウル・ソサエティ)はご存じ…………………ないようですね」

 

「????」

 

 チエはただ?マークを出し続ける。

 

「ところで、今担いでいる者達は誰なのだ? お前の知り合いか?」

 

「さぁ?」

 

 今度は青年が?マークを出す。

 

「知らない者達に、お前は手を差し伸べたのか?」

 

「だって…………『力ある者達』に一方的に殴られる何の罪もない彼らを見たら、『これは何かが違う』と思ったから…………それに、あのままだったら(ホロウ)に…」

 

「そうか」

 

 青年────『重國』の顔は一瞬俯いてから黒髪赤眼の者────『チエ』の方を見る。

 

「チエさんもそのような考え方は間違っていると思いますか?」

 

「かも知れん」

 

「え」

 

 チエの答えが意外だったのか、青年の足取りは一瞬止まる。

 

「力の無い者が、力のある者と相対した時に選択肢は幾つかあるが、そのどれもが受けられるかどうかは『力ある者』の気分次第だ」

 

「で、ではどうすればいいのでしょうか? それでは『力の無い者』が延々と『力ある者』の言いなりでは無いですか?!」

 

「ならば『力の無い者』が『力』を得れば問題はない」

 

「………………そ、それは如何様に?」

 

 青年が期待の目でチエを見る。

 

「答えは色々あるが…………………………………一つの例として上げるが、生まれながらの『力ある者』は居たとしても()だ。 ならば彼らにも『力の無い者』の時代は在った筈だ」 

 

「…………………」

 

「それで? 何処へ向かうのだ?」

 

「……………………『力ある者』にも………………………………『力の無い者』であった時代が在った……………………………………………………」

 

 重國はチエを見ているようで、どこか遠いところを見ているような、集点の合っていない眼をしていた。

 

「………………おい、重國」

 

「…………………………………あ! す、すみません! こっちです! こっちに医師が居ます!アイツが本当にそうだと思いたいけど…

 

 そこからチエは重國にとある小屋の前に連れてこられ、重國は担いでいた怪我人達を地面に下ろしてから小屋の中へと。

 

「おい、右之助(うのすけ)! 起きやがれ、この無駄金遣い! 表に人がいるんだ!」

 

 ドゴン!

 

「ウゴォ?!」

 

 鈍い音と共に男性の声が中からする。

 

 出て来たのはパッとしない中年男性で、眠たげに欠伸をしながら頭をボリボリと掻きむしる。

 

「ったく。お前も物好きだよな、山坊や」

 

「うるせえよ! 誰の金でグウタラ出来ていると思っているんだ?! オラ、表に怪我人と客が来ているんだ!」

 

「ん~?」

 

 右之助が未だに怪我人を担いでいるチエを見ると、次第に目を見開いてアタフタと自分の身だしなみを雑に整える。

 

「し、失礼しやした!」

 

「…?」

 

 チエがただ彼の視線を見返している内に右之助と呼ばれた男性が小屋の中へと駆け込んで、彼と重國の怒鳴り合う声が外まで響く。

 

「オイ重國! お前、どうして貴族様が来ていると言わなかった?!」

 

「ハァ?! 貴族だろうが、誰だろうがここでは関係ないだろう?!」

 

「大ありだこのバカ!」

 

「んだと?!」

 

 ギャーギャーと騒ぐ重國と右之助の声をチエが聞き数分後、右之助は怪我人達の治療を開始する。

 

 と言っても怪我の近くで手の平から緑色の光を放つだけなのだが。

 

「(成程、アレが『()()()()』の治癒術か)」

 

「ヘ、へぇ。 お見苦しい所をお見せしました」

 

「私は別に構わん」

 

「チエさん。 そのボンクラは良いから中でお茶でもしながら知っている事をお伝えします」

 

「そうか。 右之助と言ったな?」

 

「ハ、ハイ!」

 

「ご苦労」

 

「へ?」

 

 ポカンとする右之助を置いて、チエは小屋の中へと入って、ちゃぶ台の横で座っている重國の向かい側に座る。

 

「さて…先ずはここ、『ソウル・ソサエティ』からですね────」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そこからチエに重國は色々っと喋りだし、チエは一度足らずとも目を背ける事や、興味なさそうな雰囲気を出すようなことはしなかった。

 

『尸魂界』。『死神』。『死覇装』。『斬魄刀』。

『瀞霊廷』。『(ホロウ)』。『流魂街(るこんがい)』。

 

 等等々と言ったモノを、重國はついつい喋ってしまう。

 

 何故なら彼は内心嬉しかったのだ。

 明らかに『強者』である存在が、こうして面と向かって自分の話を聞いてくれる事が。

 

 そして最後の方に重國は自分のしている事、否、したい事をチエに説明する。

 

「────成程。 つまり重國は()()()()()()()のだな。 だがお前の先程の説明では確か『特務』や貴族などがもう居るのでは?」

 

「アイツらは瀞霊廷の中に閉じ籠って、外の世界はおろか、『流魂街(るこんがい)』には全く関心を持たない! 外に出ているのはせいぜいオレみたいな例外や物好きや変人やさっきの奴らみたいに『力』で自分達の周りを良い様に従えているだけだ。 でも、オレはそれを変えたい!」

 

「ほう」

 

 チエが一言だけ言って、冷え切ったお茶を飲む姿を重國はモジモジとしながら様子を見る。

 

 まるで何かを期待しているかのように。

 

「………どうした重國?」

 

「待ってました!」と言う様な勢いで重國がチエの方を見る。

 

「チエさん! オレはこのソウル・ソサエティ全てを守りたい! だけど、今のオレは非力だ……………だから、オレは強くなりたい! どうか、オレに力を貸してくれないだろうか?!」

 

 ガバッと重國がチエに頭を下げる。

 

「いいぞ」

 

「無茶な事を頼んでいるのは承知の上でしかも会ったばかり────え?

 

「最初に言っておくが、私は何時まで()()に居られるか分からん。 だがその時までならば大丈夫だろう。 それに………………」

 

 チエが初めて言い淀む事に、重國はただジッと待った。

 

「……………いや、よそう。 それで、何時から始めたいのだ?」

 

「そうですね…………出来れば『今すぐにでも』と言いたいのですが…時間も時間ですし、オレはそろそろ帰らないといけないんです」

 

 重國の顔が俯くと、チエが声をかける。

 

「そんな顔をするな」

 

「え?」

 

「そのような申し訳なさそうな顔は、お前に似合わん」

 

「……………………………ありがとう、ございます。 明日、もう一度ここに来ますので、右之助にはオレからチエさんをここに泊められるようにオレが言っておきます」

 

「助かる」

 

 そこからチエは部屋の端で座禅を組んで、ただ静かに目を閉じる。

 

「(さて、『()()()』が来るまでの余興が出来た)」

 

 重國は小屋の外を出て、治療中の右之助に話をつける(というか無理矢理承知させた)。

 




作者:ふいー、滅茶苦茶緊張する

市丸ギン:そうやろか?

作者:うげ?! ちょ、ナンデ?! 何でここにもう既に誰かいるの?

市丸ギン:そういう作品やねん、BLEACHは

作者:えええ~~~~~~

市丸ギン:ちなみに作者はんはにわか知識とかで漫画とアニメマラソン中の休憩やったんとちゃう?

作者:ばらさないでプリーズ


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第2話 ダイアルの付いていない電話

BLEACH見直し始めたけど、やっぱり面白いな。

ちゃんとキャラ再現出来ているとか不安になって来た…


 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

 それからと言うもの、近所の周りの化け物────通称『ホロウ』────をチエは討伐しに出たり、毎日来る重國と実戦式模擬戦をしたり、彼や右之助と世論話などをする以外はただ部屋の隅で座禅を黙って組んでいるか、何もせずにただボーっとしていた。

 

 その時のチエは重國との模擬戦を思い返し、この世界の()()()()等を思い返していた。

 

 この世界(もしくは少なくとも此処)では『霊力』という物を操り、使い、様々な業を可能とした。

 

「(成程、この世界の『()()』の様なモノか。 そして『斬術』は『剣術』で、『白打(はくだ)』は『体術』。 『歩法(ほうほう)』は『縮地』の応用。 そして『鬼道』は霊力版の『()()』か)」

 

 重國との模擬戦の後、彼は決まってチエに色々な事を聞く。

 

「どうすれば強くなれる?」

「鍛錬あるのみだな。 ()()()()()()()()()

 

「チエさんはどうやって秩序を……………物事を決めているんですか?」

「自分の眼で見て、()()()()()

 

「チエさんはどうして強いのですか?」

「……………………」

「?」

「何、私は()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

 等と言ったようなやり取りを重國とチエは模擬戦等の後に日々繰り返す。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 最初の頃こそチエの周りでビクビクしていた右之助だが、それも時が過ぎ去るに釣れて普通に接し始めた。

 

『普通』と言っても、彼が起きている場合は挨拶をするだけの程度だが。

 

 それ以外の時の右之助は良く安酒を飲んだり、握り飯を買う程度(お代は重國から連れてくる怪我人達の治療代で)。

 

 ちなみにチエの場合、ホロウを退治しているその姿を見た者達から時々町の中でチエを見ては些細なモノをチエに渡していた。

 

 チエは「恩に着る」と短く言い、それ等をありがたく受け取っていた。

 

 

 そんな日々が続き、重國の腕は着々と上がって行った。

 チエは別にそれほど口頭で教授するタイプではなく実戦重視だったので、これは重國本人の才能も関係していた。

 

 これはチエの方も言える事で、上記の()()()()の扱い方が()()()()()、今では()()()()()()()()()

 

 そんな力の近い模擬戦後のある日、彼は右之助の所にご厄介になり、右之助はその日も飲みに行ったのか小屋に彼の姿はなかった。

 

「チエ殿()に相談したい事がある」

 

「どうした、畏まって?」

 

「オレは『学園』を開こうと思っている」

 

「……………………そうか」

 

「前にチエ殿が言ったように、『力無き者でも力ある者に変えられる場所』をオレは創りたい」

 

「…………………………」

 

「前にオレは話したな? 『この全てを守りたい』と」

 

「そうだな」

 

「そこでオレは思ったんだ。 ()()()()()()()()()()()と」

 

「……………」

 

「だったら力ある者がその身を自分自身ではなく、周りの他人の為に使える者達が増えたらいずれは()()()()()()。 身分差関係なく、誰もが入学でき、今の様な『死神』と言う名だけのゴロツキ共ではなく、真に統制を取れるように教育を施し、乱戦の時代を終わらせたい」

 

「……………………」

 

「そこでチエさん、オレと一緒に指南役をしてくれないか?」

 

「………………………………………………………………………すまない」

 

 ここでチエが初めて、ほんの僅かに申し訳なさそうに目を閉じる事に重國は残念がりながらどこか納得しながらも驚いていた。

 

 チエは自覚していないかもしれないが既に数10年程の時が過ぎ去って、チエの表情は()()()()()()()

 

 激しい模擬戦の後でも汗は掻くが、『苦しい』や『億劫』や『達成感』などと言ったモノを何一つ出さなかった。

 

「そう…………………か」

 

「…………」

 

「チエ殿は、オレが指南役などやって行けると思うか?」

 

「勿論だ」

 

 チエの即答に重國がポカンとする。

 

「お前の中には闘志が燃えている。 だがお前はその『力』の誘惑に負けず、私利私欲ではなく、他者の為にそれを振舞おうとしている。 それは立派な事で、()()()()()()()()()()だ」

 

「……………」

 

「『個』を持ちながらも『全』を見るとはそういう事。 だと思う………………ん、行かなくてはならない」

 

 チエが突然立ち上がって出口の方へと歩くと、重國はアタフタとしながら立ち上がってチエの後を追う。

 

「チエ殿………………で、では一つだけ!」

 

「何だ?」

 

「も、もしオレが『死神』の統制を取る為に組織を作れば、その時は入って貰えませんでしょうか?!」

 

「考えておく」

 

 チエのスタスタと歩いて行く背中姿に重國は頭を下げる。

 

「ありがとうございます、()()!」

 

 チエの歩みがピタリと止まり、重国は汗をダラダラと噴き出す。

 

 以前、チエを「師匠と呼ばせてください!」と彼が言った瞬間、顔面を鞘の入ったままの刀で強打されて意識を刈り取られた。

 

「そう私を呼んでいいのは私が『弟子』と認めた者だけだ」と目を覚ました重國にチエが言った。

 それ以来はチエをずっと『チエ殿』と呼んでいた。

 

 重國はまた強打されるのを覚悟して身構える。

 

 だが()()()()()()

 

 彼が頭をあげるとチエは片手をあげながらそれを振って、歩いていた。

 

「ではまたな、()()()

 

「ッ! あ、ありがとうございます!」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 チエの姿が見えなくなって、未だに頭を下げた重國に横の裏道から出て来た右之助が彼に気付いて声をかける。

 

「お、山坊や。 どうしたんだ?」

 

「チエ殿が旅に出た」

 

「そっか………」

 

「屋敷に戻るぞ、右之助」

 

「ちぇ、これでまた堅苦しい貴族の生活の戻るのか? ()()重國『様』?」

 

「貴族と言っても、中流貴族の新米同然だがな。 さて! 色々と忙しくなるぞ、右之助!」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 チエが草原へと出てから走って数分後に止まる。

 

「…………ここでいいだろう?」

 

『そうだネー』

 

 突然、声が辺りから響いてから一人の少女が姿をその場に表す。

 

 金髪に碧眼、小柄な体と整った顔にドレスはどこか貴族の様な雰囲気を出す。

 

「遅かったな、『三月』」

 

「あ~! やっとナチュレルにそう私を呼んでもらえて嬉しい~!」

 

「それで? 今までどうしたのだ? 音沙汰一つの無いなんて、お前らしくもないぞ」

 

『三月』と呼ばれた少女が複雑をしながら目を泳がす。

 

「い、いや~…………何か私もトラブルがあってね? ついさっきまで変な砂漠に居て化け物がうじゃうじゃ出てきてね? 必死にバッタバッタ倒していたんだけど全然数が減らなくてさぁ~? な~んか『この世界』って私と()()()()()()みたい」

 

「それで今回はどうするのだ?」

 

「…………貴方、機嫌良いわね? 何か良い事あった?」

 

「『弟子』を鍛えていた」

 

「え゛」

 

 三月が驚愕の顔をしそうになるが、それを堪えて笑顔に戻る。

 

「そ、それでその『弟子』の名前は何?」

 

「重國と言っていたな」

 

「ふぅ~ん? 名前覚えていないからどこぞのモブね、きっと

 

「三月? どうかしたのか?」

 

「ああ! ううん! な、何でもない! じゃあ張り切って()()()()()()()()()()()()()! (ま、今から向かうのは遥か未来。 ()()()()()()()()()()()()())」

 

 突然『ズゥン』と何かが唸るような、お腹にくる音と空気の歪みと共に()が三月とチエの前に現れる。

 

 その中へと消える三月の後をチエが追いそうになるが、一瞬だけ来た方向へと振り返る。

 

「(それではな、重國)」

 

 そしてチエも()の中へと歩く。

 

 ___________

 

 三月、チエ 視点

 ___________

 

 場は代わり、()()の日本の町中でもとより幼い見た目が更に幼くなってはしゃぐ三月と、同じように幼い感じになったチエの姿だった(着物姿ではなく、動きやすい短パンと半袖のシャツ姿)。

 

「ねえチーちゃん? ()()、どうにかならない? 私達は今『子供』なんだから目立ち過ぎなんだけど……」

 

 歩く三月は隣のチエが背負った、長い布に包まれた()()を見ながらそう言った。

 

「ならばわざわざ姿を『幼少期』にしなくても良いだろう?」

 

「怒っている?」

 

「…別に」

 

「あー! 今、アンタ躊躇したでしょ?!」

 

「三月、ここは?」

 

「スルーすんなし!」

 

 二人は少し古ぼけた駄菓子屋の前に来ていた。

 

「ハァ………見ての通り駄菓子屋だけど? ごめんくださ~い!」

 

 三月が「何当り前の事を」と言った顔をした直後に空いていた玄関から入り込む。

 

「いらっしゃいませ」

 

 店の奥から体の大きい、筋肉マシマシで眼鏡の男性が三つ編みの髪の毛と共にのっそりと出て来た。

 

「ブフォ?! (ナンデ?! 何で『ザビ〇ネ』の声?! あれか?! 私が『Watching You』を前に歌っていたからかッ?! それともスラ〇ダンクの『ゴリ』かッッッッッッ?!)」

 

「?」

 

 男性の声に何か色々と思う所があるのか、三月が思わず吹き出し、口から笑いを止める為に両手で覆った。

 

「(あ、それともこの場合『チ〇ズゲラ』なのかな? こう……………『おっさん枠』で)」

 

「…………」

 

 横で三月とチエの二人をジーッと一匹の黒猫が見ていたのにチエが気付き、視線を共に返す。

 

「「…………………………………………」」

 

「それで、お二人は何をご所望で?」

 

「……………あ! ごめんなさい、店主は居られますか?」

 

「今の彼は不在でして。 不肖ながら私が店番をしております」

 

「そっか………ちょっと残念」

 

「して、何をご所望で?」

 

「う~~~ん、ここはもう手っ取り早く行くか。 先に言っておくよチーちゃん? その猫、()()()()()()

 

「「ッ!!」」

 

 黒猫と眼鏡の男性が同時に一瞬だけ険しい視線を送る。

 

「……お嬢さんは妄想が激しいですな」

 

「……そこはとなく気付いて欲しかったんだけど仕方がないか。 ちなみにさっきからチラチラと見ているようだけど、その子が持っているのはただの刀で()()じゃないから、()()()()

 

 三月がとある場所へと振り向くと、何か布の様なモノを取り払う下駄と帽子、そして甚平を着た男が姿を現した。

 

「いや~、すごいッス! これでもかくれんぼには自信あったんすけどねぇ…………って、どうしました?」

 

 三月が笑いを堪える為に唇を噛んでいる姿があった。

 

「(()()()は何で『アサシ〇』の声なのよぉ?!)」

 

「それで? アタシを探していたのは何故でしょうか? 何か特注品をお探しで?」

 

「まあ、注文と言えば注文だけど…………あ、前以って言っておくけど私達は貴方達の過去に()()()()()()()

 

「ズンッ!」とするような効果音が合う重圧が三月とチエにのしかかる。

 

「そこまで言っちゃあ、もうダメダメっすねぇ。 何処の誰かは知らないけど、アタシ達を把握しているなら────」

 

「────梅昆布は何円だ?」

 

「「「は?」」」

 

「いや、小腹が空いて値段が書いていないからな。 丁度駄菓子屋でもあるし…………何ならラムネも飲みたいのだが?」

 

「「「………………………………」」」

 

 チエの呑気な問いに思わず眼鏡の男性、帽子の男と三月が気の抜けた声を出してから黙り込む。

 

「…………………ここでラムネは売っていないのか?」

 

「………………プッ。 アッハッハッハ! そこまで殺気で威嚇するでない、喜助。 こ奴らは既に儂らの事に気付いておきながら、のうのうとこうも何も対策もせずに真正面から来るようなヤツ等は余程の阿呆か間抜けか強者よ」

 

「あ、喋った。 こんちゃーす」

 

 動じないチエの挨拶に黒猫が片方の眉をあげる。

 

「………………なんじゃ、それは?」

 

「三月が何時もそう挨拶していたので」

 

「ふむ、『こんちゃーす』か。 初めて聞くな」

 

 スッと重圧が消え、帽子の男は目元を帽子に隠すようにして更に笑みを深くしながら溜息を出す。

 

「何か面倒臭い事になりそうッスね」

 

「では、私はお茶の用意を」

 

 眼鏡の男性は『握菱鉄裁(つかびしてっさい)』。

 

 黒猫は『四楓院夜一(しほういんよるいち)』。

 

 そして最後に帽子の男は『浦原喜助(うらはらきすけ)

 

 全員は『()死神で訳アリ』と三月が事前にチエに伝え、彼らと接触する事も言っていたのが幸いした。

 

「(でないとさっきの霊圧で抜刀しかねないからねぇ~)」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場所は浦原商店から少し離れたアパートの一つの部屋から来る鼻歌へと変わった。

 

「♪~」

 

「お前は何をしているのだ?」

 

「だって携帯電話よ、携帯! 確かにガラケーで霊子で出来ているけどさ

 

 三月は新しく入手した携帯電話を握りしめながらクルクルと体を嬉しさに回りながら鼻歌を歌っていた。

 

「あのね、チーちゃん? 貴方は別に良いかも知れないけど、『現代っ子』としての私はず~~~~~~っとスマホどころか、携帯なんて前の世界(Fate stay/night)でも無かったのよ?!」

 

「雁夜に頼めば良かったでは無いか?」*1

 

「いや、まあ……………アイツ、面倒臭いし。 そもそも違う『世界』に行く訳だし」

 

「ならば作ればいいだけでは無いか」

 

「それも面倒臭い…………と言うかそんなに長く居るつもりじゃなかったし、『私』は『貴方』と違ってホイホイと『力』を使う訳にも行かないの」

 

「それはそうと、何故私にも買った?」

 

「今回のバカンス、貴方には『幼少期』()経験して貰いたいと思います!」

 

「…………………………………………………………は?」

 

 チエが心底「こいつ何言っているんだ?」と言った顔でドヤ顔の三月を見る。

 

 その後、「この『けいたい』のダイアルはどうやって回すのだ?」と聞いて来たチエに大爆笑した三月だった。

 

 二人はあの後、浦原商店の者達には「自分達も霊法の外で動いている者達」と匂わせながら、「ただのご近所挨拶」に来たと伝え、自分達が居る街の『空座町』の勝手が分からないので恐らく少しお世話になると言い、()()()()()を仕入れた。

 

 勿論、上記の事をストレートにそう伝えた訳でも無いがあながち嘘でも無いので(警戒はされたが)誤解の疑念は薄まったかのように見えた。

 

「(と言ってもそう簡単に『はい、そうですか』とガードを下ろす訳でも無い輩達だし、『コレ』は仕方ないか)」

 

 三月が一瞬、目の端に塀の上で自分とチエを見ていた黒猫が、夜が落ち始める影の中へするりと入って行くのを見えたような気がした。

 

「……………さてと! ちょっと面倒臭いけど、いっちょやってみますか!」

 

「では私は料理に取り掛かるとするか」

 

 余談ではあるが、このアパートは事前の姿で購入した物である。

 

*1
作者の別作品、『バカンス』より




平子:このダイアル回すのってなんやの? ボケか? ボケなんか? あ?

作者:え゛。ちょ、なんで関西の人が多いのここ?

平子:アホ抜かせ、関西ちゃうわ

作者:でもその口調…

平子:方便や。 リップサービスっちゅう物や

作者:一言で片づけた?!

平子:つーか、勢いだけでようこんなに書きよったなぁ

作者:一応書置きのプロットがあったので…それを採用しました

平子:本音は?

作者:若さ故の完全じゃない書置きを完成まで書きたかったッッッ!

平子:よう言うた。5点や

作者:何点中?

平子:百に決まっておるがな

作者:酷いよ?!


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第3話 雨の降る六月

バンバン時間が過ぎ去っていきます。


 ___________

 

 三月、チエ 視点

 ___________

 

 そしてとある小学校の入学式にはドレス姿の三月と半袖とズボンのチエ、そして()()()()()()()の(しかも出るところは出た整ったプロポーションと髪の毛をシニヨンに束ねた)金髪女性が来ていた。

 

 そして何故か浦原喜助がそばに。

 

「いや~、本当に奇遇ですね~。 散歩の道に皆サンに会うとは。 はっはっは」

 

「何と白々しい」

 

「あ、アハハハ」

 

「まあ~、それなら仕方ないわよね~」

 

 カラカラと笑う浦原に、彼に苛つくチエ、気まずそうに笑う三月と彼女に似た成人女性。

 

「しかし、良く出来た()()()()ッスね。 何処でこのような『義魂丸』を?」

 

『義魂丸』。 丸薬の形状をしており、肉体に入った時のみ擬似人格を持つ魂魄として作用する特殊な道具。肉体から魂を強制的に抜き取るために用いられる。

 また裏技ではあるが()()宿()()()()()()()に使用した場合、その体に疑似的に魂が宿って()()()()()()()()()()()()

 

「さぁ、何処でしょうね~? (本当は義魂丸(ぎこんがん)なんかじゃないけど)」

 

 三月が受け流すような回答をして、成人女性がぺこりと浦原に頭を下げる。

 

「初めまして~。『マイ』と申しま~す、以後お見知りおきを~」

 

 おっとりと、のほほんとした『大人の余裕』で成人女性────マイが頭をあげるとそのタワワな胸が動きに『ポヨヨ~ン』と反応するのを浦原はニマァとした顔で見ていた。

 

「いえいえ。こちらこそッス、マイサン」

 

 彼の視線は勿論顔より下向けだった。

 

「お? こりゃ珍しいな」

 

 三月、チエ、そしてマイの後ろから声がして三人が振り返るとガタイの良い男性と、長い茶髪が波うっている美人の女性の二人に抱きかかれている黒髪と茶髪の女の子。

 

 そして彼らの間に立っている()()()()()()()()()()()()()()

 

「おやおや。 黒崎一家では無いですか。 ご無沙汰ッス、一心サン」

 

「浦原じゃねーか。珍しいな」

 

「(ちょ、えええぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?! 浦原喜助と黒崎一家って知り合いだっけ?! え?! ()()でそんな場面あったっけ?! と言うかどっかで聞いた声……………こう…『私の愛馬は~』なんちゃら~みたいな)」

 

 三月が無数の?マークを出して、当然のように互いに挨拶をする黒崎一心と浦原喜助を見ながら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 が、靄がかかったように上手く思い出せない事に更に?マークを出した。

 

「お久しぶりです、浦原さん」

 

「真咲サンも、お元気そうで何より」

 

「(ちょっっっっっっっと待ていぃぃぃ?! 黒崎真咲も知り合いかよ?! ええぇぇぇぇぇ?!)」

 

 更に?マークを三月が出すが、ある事を思いついた。

 

「(あれ? じゃあもしかして彼女も()()()()()()()()って事になるのかな? でもそれだと()()()()()()なんて矛盾していない? ん? ここ本当に『BLEACH』? ここに()()()()()時もなんか変だったし………………う~~~~ん? ()()()()()()?)」

 

「あ、初めまして~。 渡辺(わたなべ)マイと言います~。 この子達は三月とチエと言いま~す」

 

 マイが黒崎家族に向かってニッコリとしながら三月とチエの二人を紹介する。

 

「(ま、今考えてもしょうがないか。)初めまして、三月と言います!」

 

「………………チエだ」

 

「へぇ~、良い子達ですね」

 

 黒崎一心と真咲がチラチラとマイ達を互いに見る。

 

「…………マイさん、何か困った事があれば何時でも連絡してくださいね?」

 

「ありがとうございます、助かります~」

 

「なぁ、あのへんなぼうしがとうさんなのか?」

 

「「「ブフッ」」」

 

 少年の何気ない一言で吹き出した黒崎一心、蒲原本人(変な帽子)、そして三月。

 

「ううん、違うわよ? ()()()()()()()()()~?」

 

 マイが笑顔を絶やさずに少年に答える。

 

「君のお名前は、な~に?」

 

「あ、おれはいちごだ!」

 

「そうなの~、三月とチエ共々よろしくね~?」

 

「ああ!」

 

 ニカッとマイに向ける一護の笑顔は眩しかった。

 

「ウフフフ~」

 

「(Oh(オー)! 眩しい! これがこの世界の主人公補正効果か?!)」

 

「…………………………」

 

「あ、おまえ………めがあかいんだな?」

 

「……………………」

 

 一護がチエの珍しい眼の色に気付いてコメントすると、チエはただジーっと彼を見た。

 

「………それで?」

 

「なんかかっこいい!」

 

「そうか」

 

 さっきよりどことなく若干緩い雰囲気を出すチエだった(表情は全く変わっていなかったが)。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして小学生となった三月とチエはそれなりの日々を過ごしていった。

 

 三月は()()()()()を生かして『普通で地味』の枠を。

 チエは三月から教わっていた『物静かな子で文系を思っていたら実は武系だった』の枠を。

 

 まあ、未だに布に巻いた刀を常に持ち歩けば誰にでもその想像は付くが(ただいま竹刀と偽造中)。

 

「チエ達のかあさんもくるの、あしたのさんかん日?」

 

 そして何故か絡む一護。

 

「…………そうだ」

 

「そっか、おれのかあちゃんもきてくれるんだよ!」

 

「良かったな」

 

「うん!」

 

「(眩しい! 主人公補正マジヤバイ! と言うか何気に可愛い!)」

 

 そう内心思いながら三月は周りの子達と話しながら片目片耳で一護とチエのやり取りを見ていた。

 尚三月は偶然か意図的にか、長めの金髪を二つ編みにして伊達眼鏡をしていた。

 

 それは俗に言う、『地味な子』と言うイメージに似せていた。

 

「それはそうと、一護は何故私に逐一報告をする?」

 

「え? めいわく…だった?」

 

「いや、そうではない。 そう気落ちするな。 似合わんぞ」

 

「う~~~~~」

 

 チエが一護の頭を撫でると、彼はムッとした顔を逸らす。

 

「(何かとチエに突っかかるよね~、一護って)」

 

 そう、今まで数か月間ほどの時が経っている間、一護は持ち前の元気良さで友達が大勢出来ていたにも関わらず、何かとチエ達と話をしに来ていた。

 

 最初は三月にも良く話をしに来ていたが、この頃はチエの方に回数が増えて行ったのは気のせい…………………では無かった。

 

 だが理由まで三月は()()()()()()()

 ()()()()と思えばそうできるかも知れないが……………

 三月にはそんな()()に出るまでの事では無いと考えていた。

 

「(それに案外、彼は()()()()()()ようだし…これはこれで青春かな♪)」

 

 ちなみにチエからすれば────

 

「(────やはり子供は素直で良いな)」

 

 ────と思っていたに過ぎず、先程の行動も『前の世界(Fate/Zero)』での経験を生かしていたに過ぎなかった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「チエは何をしているの?」

 

 一護は何故か古ぼけていた駄菓子屋の中でチョコンと座布団の上で正座をしながら『浦原商店』と書いてあったエプロンを着けていたチエに問う。

 

「店番」

 

 何故チエがここに居るかと言うと、前回お店に来た際に見た品ぞろいを気に入ったチエに三月が「じゃあここでバイトしたら?」と言う提案から始まった。

 

 チエ自身、これに反対する理由もなく承諾して、交代制で店番をしていた。

 

「………………楽しいの、それ?」

 

「ああ」

 

「「…………………………」」

 

「一護~! 何ボーっと立って────って、あれ? チエ?」

 

 次に来たのは黒髪に活発そうな少女の『有沢竜貴(ありさわたつき)』だった。

 

「有沢か」

 

「や、だから竜貴で良いって」

 

 どうやってチエが竜貴と知り合ったというと、小学校からの帰り道が()()()()有沢家、黒崎家、そしてチエの順に行くとほぼ一直線となる。

 

 ちなみに竜貴は自身の名前が嫌いで、どれほどかと言うと自分で名前を書く際には常に平仮名で書いている程。

 

 ただこれもチエの何気ない「良い響きで、強そうな名では無いか」という所から徐々に認識が変わりつつあった。

 

「あ! ねえ聞いてよチエ! こいつ(一護)、もうあれから何年も空手やってんのにアタシに一度も勝った事が無いんだよ?」

 

「まあ、有s────竜貴は強いからな」

 

「強いなんてものじゃねえよ! こいつこの間、中学生の男子に勝ったんだぜ?!」

 

「中学生の男子に勝つ小学生女子か。 もはや化け物だな」

 

「おいチエ、表出ろ。 今度こそ決着つけてやる」

 

「断る。 今は店番中だ」

 

「そうだよ! 二人が本気出したら店が壊れちまうだろ?! 見た目からもう既にボロボロだし!」

 

「こんにちは~」

 

「あれ? 何でここに二人が?」

 

「あ、マイさん!」

 

「それに三月じゃん」

 

 チエを迎えに来たマイ達の登場に和む竜貴とジト目の一護。

 

「な、何?」

 

「いつも思うんだけど、三月のそのメガネ外したら良いんじゃね?」

 

「あ、アハハハ」

 

「そうだよ! そうすればアンタも空手やって、あわよくばチエも引き込んで────」

 

「────や、だから無理だって。タッちゃん(竜貴)達が居る所に、私のような子が入ったらボロボロになるって。 瞬殺だよ? 瞬殺」

 

 実はと言うと竜貴とチエは過去に数回既に手合わせをしている。

 武系の疑いが元々あった為、竜貴と一護が「一回やってみたら?」という事から始まり、チエは一護や他の男子を倒し、竜貴と手合わせする事に何回かなり、その度に引き分けと終わっている。

 

 しかもチエは竜貴と違い、道場などには積極的に通っていない事がチエ本人の証言から判明してしまったので竜貴は割と悔しかったらしく、そのストレスを一護に発散していた。

 

 マイに愚痴りに来る一護の話によるとだが。

 

 そんな風に笑い合う中、三月は迷い始めていた。

()()()()()()()()()()()()?」と。

 日付は6月の月頭で()()()()()()()()()()()

 

 つまり────

 

「(────黒崎真咲が()()()()まで二週間チョイ…か)」

 

 ────『原作』で言う、『黒崎真咲』と言う()()()()を見殺しにするか、否か。

 

 彼女が死ぬのは6月17日。

 

 一応三月には色々な考えがあったが、もし『助ける』としたら三月の『知っている物語』から物事が外れ始める恐れがある上に『世界の修正力』が更に働きかける恐れがあった。

 

 しかも『原作』での一護が何故あれだけ必死に戦えたかと言うと、過去に大事な人を失ったからこそ、「もう二度とそんな苦しみは嫌だ」と思いながら戦えた。

 

 と、三月はそう解釈していた。

 

「(メリットは黒崎一家の中心人物を失くさず、あの家族は幸せに笑い続ける事。 デメリットはもし、『物語』のまま一護がソウル・ソサエティへ行くとして藍染惣右介(あいぜんそうすけ)に相対……………いや、それ以前にあそこでの死闘で命を落とすかも知れない。 勿論彼のバックアップは怠らないつもりだけど、そこまですれば確実に『世界の修正力』が動き始める……………………もう既に動き始めている予兆があったし)」

 

 三月がチラッとチエの方を見る。

 

「(かと言ってチエに協力を仰いで無理矢理成功させたとしても、これが()()()()()()()()に伝われば、()()が本腰を入れて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()になる可能性が────)」

 

 そして悶々と考えを続ける三月であった。

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 そんな三月がある日、上機嫌になっていた。

 

「もうウルル()ちゃんかわゆいよ~~~~!!」

 

「あううう…………三月()()()()()、ちょっと苦しい」

 

 次の日、店番をしていた三月は蒲原商店で暮らす事となった紬屋雨(つむぎやうるる)を抱き締めながら()()()()()()()()()()

 

紬屋雨(つむぎやうるる)』。

 彼女は改造魂魄(かいぞうこんぱく)と言う存在で、厳密には人造人間の様なモノで戦闘に特化した個体である。

 

 彼女は『浦原喜助(元技術開発局長)』と、()()()()()()()()()を借りて生み出され、人間と同じように『自我を持ちながら成長して行く』。

 

 普通の人から見ればどこからどう見ても5歳児の少女にしか見えない上にその年相応の行動をしているが、その気になればそこら辺の電柱など鉛筆をへし折るみたいな力を所持している。

 

 ちなみに『原作』を知らない者が読んでいるかも知れないので追記して置くが、浦原喜助は紛うことなきマッドサイエンティスト(変人天才)で、かつてソウル・ソサエティの技術部のトップを務めていた。

 

 今ではただの駄菓子屋さんの店主(微少エロ変態)を務めているが。

 

「(ハァ~~~ン♡ 漫画で読んで分かっていたけど、ウルルってマジ可愛いくて暖かいよ~! しかも特典ボーナス付きで桜ちゃん(間桐桜)ボイスだしぃ~♡)」

 

 この様に遊んでいられるのには訳があった。

 

 それは浦原商店の来客が雨の日はほぼゼロとなるからである。

 普段から人気の場所とは言い難く、最近の子供達はどちらかと言うとコンビニなど空調の効いた場所へ行く。

 

 駄菓子屋に行くのは物好きな人か(本業が別の職にある為)超激安の値段設定されているお菓子目当てだけだ。

 

 どのぐらい激安かと言うと普段の6割ほどで、破格のセールプライスである。

 

「ねえお姉ちゃん────」

 

「────ハウ♡ (桜ボイスの『お姉ちゃん』呼びの破壊力高過ぎぃぃぃぃ!!!)────」

 

「────これ、どうしよ?」

 

 ウルルは手に持っていたテルテル坊主を三月におずおずと見せる。

 

「………………あー、うん。 テッ(鉄裁)さんに訊────」

 

 ウルルがシュンとするのを三月は見逃さなかった。

 

「────けなかったんだね。 良いよ、お姉ちゃんが吊るしてあげる」

 

 三月はテルテル坊主を手渡されて、浦原商店の前の通りを見渡す。

 

「(()()気配、無し。 車も、無し。 良し────)」

 

 三月はフワッと()()()()()()()()()()()()()()()、玄関のすぐ中に丁度吊るせる場所に縄を括り付ける。

 ちゃんとウルルの描いた可愛い顔が見えるように。

 

ウーちゃん(ウルル)、これで良い?」

 

「……………………」

 

 ウルルがポケ~ッとした顔でキラキラと目を光らせていた。

 

「(あ、不味い。 気が緩んでいたな、私。 つい何時もの癖で『力』使っちゃった……………微々たるモノだけど)」

 

 三月がストンと地面に降り立つ。

 

「す────」

 

「────す────?」

 

 「────凄い、凄~い!」

 

 ウルルにしては大きい声ではしゃいだので三月は唖然としていた。

 

「いまのどうやったの、ねぇ?! ……………あれ? でもお姉ちゃん、()()だったよね?」

 

「ギクッ。 あ~」

 

 ?マークを出すウルルに三月は目を泳がす。

 

「わ、私はね? 実は『()()使()()()()()

 

 苦し紛れの良い訳に近い言葉で、ウルルの問いに答えになっていなかった。

 

 しかも台詞がほぼ丸パクリであった。

 

凄い! ウルルにも出来るかな?」

 

「で、出来るんじゃないかな? (と言うかこの子、霊力で使いこなせるんじゃないかな? マジで)」

 

 そのように三月はなるべく()()()()()()()()()()()

 そして願っていた。

()()()()()()()()()()()()」と。

 

「? お姉ちゃん、どこか痛いの?」

 

「え? どうしてそう思うんだい?」

 

「だって泣いているよ?」

 

 三月は何時の間にか泣いていた事に気付き、震えながらウルルを抱き締めていた。

 

「ごめんね、ウーちゃん。 さっき浮いた時、ちょっとゴミが目に入ったみたい」

 

 それから三月はずっとウルルを静かに抱き締めた。

 




マルタ:その先は地獄よ

三月:え? ちょ、なんで?

マルタ:私も同じだったから

切嗣(バカンス体):僕のセリフ…

三月:ギク

作者:い、勢いですから! 次話は明日頃、または明後日を予定しております!


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第4話 またも匂いに釣られてギガ〇イン。の巻

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

「匂いは…………こっちからか?」

 

 その日何時もはぐらかされるのに痺れを切らしたのか、チエは(ほぼ物理的強引に)竜貴に道場へと連れて行かれ、手合わせをさせられていた。

 

 こんな事は予定に全くなかったので、チエは早々に負けて「具合が悪い」と言って道場から出た。

 

 と言うのも何故その日はこんな事をチエがしたかと言うと、以前嗅いだ事のある匂いがしたのだ。

 

 ()()()()が。

 

 空座町には時々虚は出てきていたが、『死神』が出てきて討伐しているらしいので、チエと三月は無視していた。

 

 だが今回は()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(今までの虚には無かった前例だ)」

 

 チエは雨の中をそのまま歩きながら、()()を巻いた布から取り出す。

 

 

 

「ワァ!」

 

 近くのトラックの跳ねた水が真咲にかかりそうになる。

 もっと前に出ていた一護は盛大にびっしょりとなっていた。

 

「あら、悪いトラックね。一護は大丈夫?」

 

「俺は平気だよ! 雨合羽しているから!」

 

「じゃあ、次はお母さんが道路の方を歩くわね?」

 

 一護が元気な姿を母の真咲に見せようと答えて走り出して、川沿いにあるガードレールが途切れた場所へと二人が着く。

 

「?」

 

 一護が突然立ち止まって川の方を見ると、不思議な形の外套を着た()()()()()()()()()()()()()()

 

 その子供は一護が見ている間、激しく流れる川の中絵へと歩き出すと一護は既に走り出していた。

 

「このまま川に飛び込む気なんじゃないか?」と思いながら。

 

「一護、駄目!」

 

 真咲が制止の声を上げるが一護の耳に届かなかったようなので、彼女も駆け出していた。

 

 そして、一護がおかっぱ頭の子供にあと数歩、届く直前に一つの怒鳴る声が響いた。

 

 

 「伏せろこの戯けぇ!」

 

 

 火の玉が複数走っていた真咲とイチゴでさえも追い越して、おかっぱ頭の()()()()に直撃する。

 

「ぬぅ?! これは────」

 

「────一護を抱えてここから逃げろ────」

 

「────貴方は────」

 

 一護に追いついて、彼を抱き上げた真咲と川の間に()()を持ったチエが間に入る。

 

「そこな小娘か、小僧より上手そうだ────」

 

「────ぁぁ────」

 

 そして川の中に潜んでいたであろう影が実体化して、虚が姿を現すと一護はその異形の姿で体から力が抜けた。

 

「早く行け!」

 

 チエが後ろで立ち竦んでいた真咲を空いていた手で押す。

 

「しかし不思議よのぉ? ワシの事は()()()()なのに」

 

「貴様ほど()()がきついのは初めてでな。 無視出来なかったほどだ」

 

「ほう? では貴様から頂くとするか」

 

「こい、外道!」

 

 

 

 最初、チエは不思議に思いながら川へと駆け出す一護と彼の後を追う真咲達を見ていた。

 

 それは川の中にいる()らしきものを見ても、そこから微少に漏れて来る『邪悪』な気配を感じても変わらなかった。

 

 だが一護が必死にただ()()()としていたおかっぱ頭が()と繋がっている所を見ると、チエは駆け出していた。

 

 この時点でチエはただどうやって()を斬り倒す事しか考えていなく、ほぼ反射神経のような、本能的な衝動に近かった。

 

 だがそんな一護(子供)を必死に救おうとする真咲(母親)の姿が目に焼き付かれて────

 

 

 「────伏せろこの戯けぇ!」

 

 

 ────気付けばチエは当初考えていた『不意打ちに任せた一太刀』ではなく、この世界で言う『鬼道』に()()()モノを既に放っていた。

 

 そんなチエは姿を露にした虚を見ながら内心、自分自身に内心舌打ちをして()()を構えていた。

 

 その舌打ちは当初考えていた「一撃で事を終わらせる筈の行動を何故断念して()()()虚の興味を一護達から逸らしたか?」と言う疑問の思いからだった。

 

 だがその反面、チエは何故か安堵していた自分にも不思議に思っていた。

 

「一護と、彼の母の真咲の笑いあう顔が続く」と。

 

「竜貴に勝ってやる」と息巻いていた、一護の悔しそうな顔。

 

 小学生の参観日に、「お母さんが来てくれるんだ」と嬉しそうにはにかんだ一護の笑顔。

 

 それ等に答えるように()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 その姿が、あまりにも────

 

「(────だがやってしまったモノは仕方がない。 果たして、()()()()()()()()()()()()())」

 

 チエは安堵する気持ちや考えなどを胸奥に無理矢理塞ぎ込んで、目の前の『敵』に全神経を集中して、両者は互いに微動だにしなかった。

 

「……………フン!」

 

 先に動いたのはチエで、手の平から黄色い線が虚に向かう。

 

 そして虚は余裕の笑みを絶やさず、黄色い線によって手足が拘束される。

 

「やはりな。 貴様、死神か」

 

 チエは答えずに後ろをチラ見すると真咲が足の竦んだのか、微妙な距離を取っていた。

 

「チッ」

 

 舌打ちを今度は実際に出しながらも、チエが真咲とイチゴへと駆け寄る。

 

「このまま走れ、浦原商店へ。 私の電話を使って『ミーちゃん』と言う欄へ電話をかけろ」

 

「え、あ、でも────」

 

 チエは自分の携帯電話を真咲に押し付けて、未だに恐怖で目を見開いていた一護を見る。

 

「チ、チエ────」

 

「────お前を()()()()()()()()()()()

 

 ポンッ。

 

「────ぁ」

 

 チエが表情を変えずに一護の頭を撫でて踵を虚へと返す。

 

()()()()()()()()

 

「ひひひっ、今生の別れかの?」

 

「虚け、その目と耳は節穴か?」

 

「ひひっ! そうでなくては、張り合いが無いのぅ!

 

 バキバキとするガラスが割れるような音と共に、虚の拘束が破れ始める。

 

 だがチエは間髪を入れずに新たな()()()()()()()()を更に撃って、虚の手足と、解きかかったおかっぱ頭の子供を再度拘束する。

 

「青い!」

 

「ッ」

 

 虚の体毛が凄いスピードでチエの方へと延びて、チエは足に力を入れてそれを避ける。

 

「ギリギリギリ!」という、鉄の糸を無理やり引っ張るような音がチエの耳朶に響くとほぼ同時に痛みが下半身から生じた。

 

「ヌッ。(やはり子供の体では負担がかかり過ぎるか)」

 

「やはり死神か。確か『瞬歩』と言ったかのぉ? だがそれも何時まで続けられる、かッ────!」

 

 シュバババババと伸びては襲ってくる虚の体毛をチエは体の負担限界直前の動きで間一髪避け続けるが次第に服が破れて行き、浅い切り傷などが体中に出来始める。

 

「最初の勢いはどうした、若いの?!」

 

「………………」

 

 未だに余裕で喋る虚の言葉に何も返さず、チエは周りの気配を探る。

 

「(良し、あの二人は取り敢えず離れてくれている。 今度は────)」

 

「────これから死ぬと言うのに、考え事とは甘く見られたものよぉ────!」

 

 ザシュッ!

 

「────ッ────グッ!」

 

 チエは右の肩にからの痛みで顔しかめ、虚を見ると仮面の穴から触手の様なモノが数本程ワラワラと揺れていた。

 

「ひひ、勘の鋭い奴。 もう少しで真の臓を串刺し出来たのに」

 

「………………(今のは流石に()()()())」

 

 チエが右手から傷の付いた()()を左手に持ち替える。

 

 咄嗟に虚からの攻撃を()()で逸らしたのだ。

 

「では次は左腕を貫くとしようかの」

 

「ほざけ────」

 

 今度は体毛と共に攻撃してくる触手にチエは力を入れて右手を無理矢理上げて鬼道で言う『縛道の八番・斥』の様なモノで捌き切れなかった攻撃を弾く。

 

 だが弾く度に肩の痛みがジクジクして、広がる。

 

 雨では無い液体の()()()と一緒に。

 

「クッ────!」

 

「ほれほれほれほれぇ! どうした小娘! 逃げぬのか?! それともそれさえも無駄だと悟ったか?!」

 

 確かにチエが離脱しようとすれば出来ない事は無い。

 

 だがそうすればあの二人(子と母親)を危険に晒すかも知れない。

 

 もし彼らが浦原商店に居る筈の三月と連絡を取れば、または浦原か鉄裁か夜一か他の死神に保護されていれば、離脱も選択肢の視野に入れるだろう。

 

 だが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(どうしたと言うのだ、一護達は?!)」

 

「また考え事か!」

 

「グァ!」

 

 今度は左の脇腹に深い傷をチエは負ってしまう。

 

 そして遥か上空でゴロゴロと鳴く雷雲に思わずニヤリとチエが笑みを浮かびそうになる。

 

「(まさか、()の技を借りる日が来ようとはな)」

 

「お? 観念したかえ?」

 

「いや? 大抵の肉は食える自信はあるが、『黒こげのお前はさぞ中身が外側と同じように腐っているだろうな』と思っただけだ」

 

 ここで余裕の笑顔になるチエを見た虚は激怒した。

 

「遊びで喋らせておけば、つけ上がりおって!」

 

 チエの肌がザワザワとして、毛が立つ。

 

 そして鼻に来る独自のオゾン臭でチエは初めて横の方向ではなく、()()()()()()()()()

 

「馬鹿め! 血迷ったか?! 死ねぇい!」

 

 ギギギン、ザクッ!

 

「グオァ!」

 

 ボロボロの()()の中から一つの刀が姿を現し、攻撃を右手の結界と共に捌いて行くが、最後の攻撃がチエのお腹に突き刺さる。

 

「ヒヒヒヒヒヒ! 串刺しじゃぁぁぁぁ!!」

 

 だがチエの笑みは崩れず、刀を()()()()()()()()へと掲げて、右手で虚の触手を()()()()()()()

 

「『光なき道を進む道標となれ』!『(いかずち)』よ!」

 

 ピシャッ!

 

 ドゴォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 辺りが一瞬「ピカ」っと光ると、空から落ちて来た雷が()()チエが掲げていた刀が避雷針の様に吸い寄せられてチエ経由で虚にその全てが通る。

 

 「ガギギギガガガガガガガガガギギギギギギ?!」

 

 虚は叫びにならない声をあげる。

 

 数秒後、または数分後のような時空的錯覚の後に虚は力なく倒れ始め、空中でお腹を串刺しにされたチエも地面へと落ちて行く。

 

 薄れる意識の中、チエは自分の方へと走って来る真咲と、自分を信じられないような目で見ていた一護が偶然見えた。

 

「(なぜ逃げぬ。 ()()()()()()()()()? 何故私の方へ来る?)」

 

 そこでチエの意識が戦闘の緊張感と負担などから切り離された意識はまどろみの中へと消えそうになるのを気力で繫ぎとめる。

 

 ___________

 

 黒崎真咲 視点

 ___________

 

 

 黒崎真咲と一護が何故、河原の近くまで戻って来たかと言うと、事の始まりは真咲が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 感触は確かにある。 

 が、()()()()()()

 恐らくは霊子で出来ているから。

 

 だがそんな事は()()()()()

 

「一護! ここでジッとしているのよ?! 分かった?!」

 

「………………」

 

 自分に何か起きている。

 それを真咲は頭では理解していた。

 

 だが「あの少女をホッポリ出して自分達だけ逃げる」と言う選択は眼中に無く、一護を物陰に隠してから河原へと戻った。

 

 そこでは地面を滑るかのように、高速で動き回る少女が居た。

 

 彼女の動きと竹刀の捌き方からして、相手は恐らく異形。

 

 つまりは『虚』。

 

 では何故『滅却師(クインシー)』である真咲の目にその姿が現れないのか?

 何故、その霊圧(気配)も感じ取れないのか?

 

滅却師(クインシー)』。

 それは虚と闘う為に()()()()()()()の事を示す。

 

 つまりこの世界で言う、死神ではない、虚と戦える『生身の人間』の事である。

 かつては世界中に散らばっては数もそこそこ居たが、今では数はほぼ『絶滅種』に近かった。

 

 その数少ない滅却師である真咲も勿論、虚が()()()()

 

 だが()()()()()()

 

「『光なき道を進む道標となれ』!『(いかずち)』よ!」

 

 そこで少女はお腹に攻撃を受けた瞬間、()()()()()()()で雷を落とし、自身と刀を避雷針代わりにして、虚に攻撃が当たって数秒後、虚が倒れたような振動がしてから少女が地面へと落ち始める。

 

「(いけない!)」

 

 真咲は駆け出していて、真咲は傷だらけのチエの元へ飛び込むように体を受け止めていた。

 

逃げろ…………と言った筈だ

 

「虚はどっち?!」

 

 息が絶え絶えのチエが視線だけ送ると真咲はそれとは逆の方向に向かって駆け出していた。

 

 勿論、チエを抱きかかえたままなので速度はかなり落ちていた。

 

私を置いて逃げろ────

 

「────いいから()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「ッ」

 

 真咲は気付かなかったが、チエは一瞬目を見開いて必死な真咲を見てから黙り込んで目を閉じる。

 

 何故気付かなかったというと、真咲は自分の不甲斐無さに腹が立っていた。

 

 未だに滅却師の力を使おうにも()()()()()()()()息子(一護)とあまり変わらない歳の子がこんな大怪我をしても逃げの一手。

 

 情けないのを通り越して自分自身に腹が立っていた。

 




ツキミ(天の刃体):ここか?! 関西弁の人らがおるっちゅうのは?!

作者:ゲッ

ツキミ(天の刃体):何やねんその『ゲッ』は?! 

作者:いえ、ナンデモナイデス

ツキミ(天の刃体):おい、人の目ハッキリ見て答えろや

作者:ぐえ。む、胸倉はやめて

マイ:あら~、大変そうね~

作者:のんびりお茶飲んでないでタシケテー!

マイ:あと~、読者の皆様に~ご報告~。 ストックが少しある間は投稿する予定ですが~、特に予定は決まっておりませんので~♪

作者:痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い! こ、コブラツイストはヤメテー!!!


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第5話 丸太と鉄骨、そして通りすがりのヒーロー

誤字報告と感想、貴重な時間を使って下さってありがとうございます、コミケンさん!

では本日の次話一つ目です。


 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 理解不能。

 

 黒崎真咲が何故か戻って来て、気力で繋ぎとめていたチエの意識が戻ると彼女の腕に抱き抱えられていた。

 

逃げろ…………と言った筈だ

 

 もし自分が死んでも()()()()()()()()()()()だというのに。

 

 ましてや()()

 

「虚はどっち?!」

 

 理解不能。

 

「(何故こいつはこうも必死なのだ?)」

 

 そう思いながらも、チエは無意識にビクビクと痙攣するまま、横たわっていた虚の方を見ると真咲が走り出した。

 

私を置いて逃げろ────

 

「────いいから()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「ッ」

 

『子供は大人に守られていなさい』。

 普通の日本人や、責任感の強い大人達にとっては当たり前な言葉かも知れない。

 

 だがそんな人も居れば無論、正反対の者達も居る。

 

 例えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 理解不能。

 

 そこでふと、物陰からチラチラと自分達を見る一護と目が合った。

 

「………………(姿を隠すか)」

 

 そう思いながら左手の刀を僅かに動かして()()()姿()()()()()()()()

 

「(あの虚は自身の体を餌代わりにする程、霊圧を嗅ぎ付ける『嗅覚』が鈍いと見た。 ならば姿さえ隠せば大丈夫………の筈。 ()()()()()のは案外、疲れるな)」

 

 そこでチエは自分の事を不思議に思った。

 

「(???? 何故、私は()()()としているのだ?)」

 

「きひひひひ! ワシを、怒らせたな! 小娘ぇぇぇぇぇ!

 

 のっそりと立ち上がる虚がチエには見えた。

 

奴が、立ち上がった。 私を────!

 

「────チェスト~♪」

 

 ドゴ!

 

「グアアアアアァァァァ?!」

 

 気の抜けた、のほほんとした声と、何か重い物が当たる音の後に虚の驚いた声が聞こえた。

 

「え? マイ……………さん?」

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ、『渡辺』マイ、『渡辺』三月 視点

 ___________

 

 

「こんにちは真咲さん、そのまま走って~」

 

 チエが目を向けると、何時ものニコニコ顔のマイが建築材で使うような()()()()()()()()()()()()()()

 

『長い丸太』とも言う。

 

「ぐ、ぬぬぬぬ! ふざけおって!」

 

「あら、意外とタフね~」

 

「ま、マイさん? その腕に持っているのは?」

 

「勿論、工事現場から拝借した木の柱よ? 流石に()()()()()()と思って~」

 

「下がっていて、真咲さん」

 

 マイの後ろから明らかに怒っている顔の三月が歩いてきた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「三月────」

 

「────チエ、少し黙っていて」

 

「おい! ワシを無視するでn────」

 

「────え~い♪────」

 

 ボゴンッ!

 

「────ゴハァ?!」

 

 立ち上がりそうな虚に、マイが木の柱を何某漫画で出て来る『桃白〇(タオパイ〇)投げ』で、飛んで来た木の柱に虚が押される。

 

「きさm────ギッ?!」

 

 鉄骨が数本、虚の真上から飛来して更に押さえつける。

 

「うるさい。 黙れ、()()()()()()()()()()

 

「ギギ、ワシの名を! 貴様も、死神か?!」

 

「いいえ。私は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────通りすがりの、『()()()()()』だ!」

 

 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!

 

 鉄骨達がまるで削岩機のような音を出しながらグランドフィッシャーと呼ばれた虚を間髪入れずに地面へとただ叩き続ける。

 

「ぬああああああああああ! 冗談ではないぃぃぃぃ!!!!」

 

 グランドフィッシャーが怒りの籠った叫びと共に鉄骨が無理矢理払う。

 曲がったり、その場から強制的に弾き飛ぶ鉄骨達の中から明らかにダメージを受けたグランドフィッシャーが姿を現す。

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ、小娘ェェェ!」

 

「ピューイ!♪ こっちよ!」

 

 上空から来る口笛にグランドフィッシャーが上を見ると、何時の間にか三月が真上から黒い弓に()()の中間のような形態の()を構えていた。

 

「My body is made of Lies────」

 

 三月が矢を放つとそれは流星の如く、一つの光線としてグランドフィッシャーの見上げている顔の仮面ごと頭と胴体を貫いて真っ二つにしていた。

 

「ガ…………ギギ…………バ………カ……………ナァァァァァァァ!!!」

 

()()()()()()()だ。 冥土の土産に持っていけ」

 

 グランドフィッシャーの断末魔と消えて行く体と共に三月が地面に着地────

 

 

 

 

 

 

 ツルン! ベシャ!

 

「へぶ」

 

 ────をミスして、雨でぬかるんだ歩道で足が滑って転び、手放した弓がガラスの割れる音と共に()()()()()()()()

 

 それは()()()()グランドフィッシャーを真っ二つにした矢も同じで、跡形もなく消えていった。

 

「いつつつつつ」

 

「大丈夫?」

 

あ゛-、腕がイッタイ。 多分折れている。 (そして体が()()()())」

 

 マイが痛がる三月を抱え、真咲が唖然としていた。

 

「…………倒したの?」

 

「ばっちグーです真咲さん。 チエを助けてくれてありがとうございます」

 

「い、いえ! 私は………逃げてばかりで………」

 

「はい、そうかもしれませんね~? でもでも~? もし彼女と共に時間稼ぎをしていなければ、彼女共々あなたも死んでいたかも~?」

 

「いやはや、ハラハラしてしまいましたよ」

 

 カラカラと笑うような声の方を見ると、気を失った一護を抱えていた浦原がいた。

 

「貴方────」

 

「────あ。 真咲サン、ご心配なく。 息子さんは緊張感が切れて地面に落ちそうだったのをついさっきキャッチしただけッス」

 

「…さっきのを見ていたのか?」

 

「そうッスね。 と言うか良く意識を保てていますねチエサン?」

 

「気合さえあればどうという事は無い」

 

「うーん、そんな事でどうにかなるのも不思議♪」

 

「……………浦原さん、この子達の処置はうちでやります」

 

「そうですね、距離的にそっちの方が近いですし。 ならせっかくですから私も後からお邪魔しますよ。 異論はないですね?

 

 浦原の最後の方のセリフは何時ものおちゃらけたトーンではなく、真面目な気が入っていた物だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その場に残された浦原は戦いの場であった河原などを帽子の下から見ていた。

 

「『通りすがりの、“正義の味方”』、か……………」

 

「どう思う、喜助?」

 

 そこに一匹の黒猫が彼のそばに来ていて声をかけた。

 

「あの二人………いや、()()は異常ですね」

 

「お主もそう思うか…まあ、無理もないが」

 

「夜一サンはどこで異常性をお気付きに?」

 

「異常なのは初めからじゃ。 だが()()()を感じたのはあの雷を呼ぶ()()()()()()()じゃ。 確かに電撃を物質に乗せる技などはあるが、あれは()()()()()()()()を呼び寄せおった。 あんな鬼道…………いや、技は噂程度にしか聞いておらん。 しかも()()でじゃ」

 

「それにあのもう一人の子の弓矢。 あれは滅却師の技に似ているようで、()()()()()()。 何より()()()()()()()()()()()事が不自然ッスね…………ところで夜一サンが彼らを見張っていて、気付いた事は?」

 

「奴ら、ワシの監視を気付いておった。 ()()()()()

 

「何ですって?」

 

 ここで浦原が俯く黒猫の方を両目で見る。

 

「気付いていないフリはしておったようだが、それと『真に気付いていない者』の言動は些か違うからの。 元隠密鬼道としての経験からの『勘』程度じゃが………」

 

「…いいえ。 ボクは夜一さんを信じますよ。 何せ僕を助けたのも、その勘ですから」

 

 黒猫がフッと顔を逸らす。

 

「照れる事を言うでない、馬鹿者……………して、これからどうする喜助?」

 

「……………………彼らを問いただしますよ。 もし彼らが()()()に危害を加えるような輩であった場合────

 

 

 

 

 

 

 

 ────即座に首を刎ねます」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「それで、何でここに三人共いるのですかテッサイサン?」

 

 浦原と夜一が浦原商店に帰ると、包帯グルグル巻きのチエと三月をギュ~ッと抱き着いているウルル達とマイ、そしてテッサイが居間でのんびりお茶をしていたのを浦原がジト目で見ていた。

 

「お帰りなさいませ、店長。 いえ、この者達が『話をするのならここの方が良い』と言っていたので…………後()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので」

 

「フゥー………………やれやれ…………本当に、面白い人達だ」

 

 浦原は座ると、黒猫である夜一にマイが気付く。

 

「あら、びしょ濡れじゃない? 拭いてあげるわ~」

 

「ウ、ウルル。 痛い。 苦しい。(嬉しいけど)」

 

「グスッ…」

 

「すまないウルル。だが傷口が開きそうなので、私か三月のどちらかに引っ付いてくれないか?」

 

 そう言うとウルルがパッと手を離すと、何時の間にか現れた褐色の美人がウルルをテッサイの方へと手渡していた。

 

 しかも美人は全裸だった。

 

 全裸だった。

 

 褐色の全裸美人。

 

「さて……………話してもらいましょうか?」

 

「その前に服着てくれない? ウルルの教育に悪そうだから」

 

「やはりワシをみても驚かぬのだな」

 

 キツイ眼で全裸美人は三月達を睨む。

 

「いんや、めっちゃ驚きすぎて一週回って冷静になっているだけ」

 

「どの口が…」

 

 ちなみにこの全裸褐色の美人は『四楓院夜一』である。

 あの()()である。

 

「まあまあ夜一サン、取り敢えずこれでも羽織って下さい。 テッサイサン、ウルルを頼みますよ?」

 

「承知しました」

 

「あ、待って」

 

 テッサイに別の場所に連れて行かれそうなウルルが三月とチエの両方を見る。

 

「二人とも無事で………良かった…………」

 

「ウルル……」

 

「…………」

 

 そして居間に残る浦原、夜一、三月、チエ、そしてマイだった。

 

「さてと、今度こそ()()()()()()話してもらいますよ?」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 それから数時間後、浦原商店に手を振るマイと三月、そしてテッサイから返された鞘に入れたままの刀を持ったままぺこりと頭を下げるチエを、ニヤニヤしていた浦原とジト目の黒猫状態に戻った夜一が見送っていた。

 

「…………本当に、思った以上に面白い人達だ」

 

「嬉しそうだな、お主?」

 

「そりゃあね! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()を使って()()()()()()()()()()()なんて話にボクの探求心が燃えあがらない訳が無いッスよ!」

 

 この数時間、チエ達はそういう風に浦原と夜一に説明し、「自分達は()()()()()()()()()()()()()()()()()」等と付け加えていた。

 

 つまり浦原からすれば『よく似た世界線からの外来種』となる。

 

「ほどほどにな。 あの者達にはまだ何かあるようじゃし」

 

「それはボクでもわかるッスよ」

 

 チエたちがした上記の説明は嘘ではない。

 

 が、勿論全てではない事は浦原達にも分かっていたが、今まで以上の監視と情報提供を続ける事をチエ達が承諾した事によって、今まで通りの状況を続ける事となった。

 

「じゃが色々と納得がいくのぅ」

 

「ええ。 道理でウルル(改造魂魄)等に詳しかった訳だ。 それに彼らの言っていた()()()────」

 

「────十中八九()()の事じゃな」

 

「「………………………………………………」」

 

 まだ降る雨の中を一人と一匹が曇っている空を見ていた。

 

「今は少なくとも、ワシらに敵意はないようじゃが………」

 

「願わくば…彼らがそうやって、ずっと敵対者で居なければ良いですけどね。『通りすがりの正義の味方』のままで」

 

「アレを信じておるのか、お前は?」

 

「少なくとも嘘をついているようには見えなかったので♪」

 

「お主も物好きじゃのぅ…………じゃが、奇妙なモノじゃ。 ワシとお主が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは」

 

「………………………まるで『()()』めいたもの感じるッスね」

 




作者:今回短かったから次の話、行けるかな?

アーチャー(天の刃体):私のセリフ…………

作者:ギクゥ! で、では自分は次話を書くので~

アーチャー(天の刃体):逃げるか貴様!


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第6話 爆弾、炸裂~ ●~*☆ の巻

投稿(勢いで)出来ました。

自分でもびっくりです。 イェイ。


 ___________

 

 『渡辺』家 視点

 ___________

 

 

「「…………………………」」

 

「どうしたの、二人とも?」

 

 マイが?マークを出しながら立ち往生するチエと三月を互いに見た。

 

「いや、だって……………」

 

「………………………」

 

 三人が立っていたのは()()()()の前だった。

 

 あの雨の日から数日後、学校に現れた『地味な』三月の片腕にはギプス、『平然としている』チエには腕と足が包帯でグルグル巻きにしていた事によってクラスは大騒ぎだった。

 

 だが一人の少年だけは元気のない、複雑な顔をしてクラスメイト達の様にはしゃいではいなかった。

 

 その少年に三月が近づいてそっと耳打ちをした。

 

「ねぇ一護? 学校の後から一護の家に()()()お邪魔しても良い?」

 

「えっ?」

 

 返事を待たずに三月は離れて質問攻めになって困っているチエの援護に向かった。

 

 そして学校後、校門で待っていたマイと一護達が合流してから特に会話の無いまま歩いて20分間ほど。

 

『クロサキ医院』と看板に書いてあるクリニックに着いた。

 

「俺んち来るの初めてだろ? 病院なんだ、ウチ」

 

「へ、へーソウダッタンダー」

 

「(演技力無さ過ぎ!)」

 

 棒読みのチエに三月が冷や汗を掻く。

 

「じゃあ、一護はお父さんとお母さんに私達がお邪魔していいか聞いてくれるかしら?」

 

「多分、大丈夫だと思うけど…聞いて来る」

 

 これが上記の場面までの大まかな流れだった。

 

 その間三月はチエの両肩を掴んで体をガタガタ揺らしながら小声で怒鳴っていた。

 

 「アンタ何やってんのよぉぉぉ?!」

 

「何をだ?」

 

 「一人で先走ったでしょうがぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「…不可抗力だ」

 

 「私の悩む間の過労と寝不足した分のヤケ食い代を返せ~!!!」

 

「だが結果として良いではないか? それに私の行動が無ければ手遅れだったのでは?」

 

「ウグッ…………チエにしてはまともな返し」

 

「私は事実を言っただけだが?」

 

 この数日間の間、チエは当時から気になっていた事を尋ねていた。

 

「そう言えば三月はどうしたあの場に?」

 

「ああ、それはね────」

 

 そこから三月は話した。

 悩んだ挙句、「やっぱり見捨てられない!」と息巻いて急遽マイに連絡を取ろうとした時に()()()()()()()()()()()()()()()()事を。

 

 電話を受け取ると、向こう側から来たのは携帯電話を見よう見まねで操作して、連絡履歴にあった三月に電話をかけた一護の必死な声だった。

 

「母さんとチエが死んじゃう、助けて!!!」と。

 

 一護の必死で、悲痛で、涙ぐんだ声を聞いてからは「『世界の修正力』なんて知った事か!」と言うような勢いで、ウルルに店番の代わりを申し訳なさそうに頼んだ後の三月はすぐさま民家の屋根の上に飛んで、屋根伝いで駆け出し、マイにも『同じようにする許可』を出して、二人はチエのいる方へと向かった。

 

 この時、実は別件で離れていて急遽渡辺家の監視に戻ってきた夜一もマイの飛び出すところを見て、後を追っていたのに気付いてはいたが、二人(三月とマイ)は無視していた。

 

 幸運にも、無視した事が良い方向に転じて「鬼道と滅却師と改造魂魄に似た力で虚を撃退した」場面もバッチリと夜一と、彼女に呼ばれて途中で合流した浦原に目撃され、彼ら三人の話が喜助達に説得力を持たせた要因の一つだった。

 

 ガチャリとクリニックのドアが開き、笑顔の真咲が三人に挨拶をする。

 

「こんにちは、先日はお世話になりました」

 

「いえいえ~、こちらこそ~」

 

 あの雨の日、確かにここへは立ち寄ったが、()()()()だった。

「浦原さん達と先に話してくる」と言い、包帯と傷薬だけ貰ってすぐにその場を去った。

 

「いらっしゃい、三人とも」

 

「「お邪魔しま~す!/♪」」

 

「失礼する」

 

 三月とマイが似たような仕草で上がり、チエは静かに後を着く(刀はまたも竹刀として偽造中)。

 

 テーブルのあるダイニングまで付いて行くと、真咲がジュースを皆の分をガラスに入れる。

 

「甘~い」

 

「美味しい~♪」

 

「美味だ」

 

 マイ、三月、そしてチエがジュースを飲みながら和んでいると、チエは一護が出されたジュースには手を付けずにずっと自分達を見ているのに気付いた。

 

「どうした、一護?」

 

「お、俺………遠くからチエが化け物と戦っていたところ、実は見ていたんだ………あ、ありがとうな? 俺と母ちゃんを守った時に付いた傷なんだよね、それ?」

 

 一護がチエの体に巻かれている包帯をおずおずと見る。

 

「気にするな。 結果的にお前達を守る事になっただけだ」

 

「私からも、三人に。 一護と私を守ってくれてありがとう。 チエに至っては、あれほどの傷をさせてしまって…………」

 

「だから気にするなと言っている。 全ては私の好き勝手で、結果的にそうなっただけだ」

 

「それでも、私と一護が貴方達に感謝の気持ちや謝罪したい気持ちは無くならないわ。 それらを伝えるのも、それを受け取らないのも私達とあなたの自由よ、チエ君?」

 

「…………そう…………ではあるが……」

 

 チエの今の様子に三月が真咲に感心していた。

 

「(ああ、やっぱり黒崎家は真咲を中心に回っているのには理由があったのね。 ()()チエをこんな風にタジタジさせるのは容易な事じゃないわ)」

 

「一護君?」

 

「な、何マイさん?」

 

 そこでマイが嬉しそうな笑顔を彼に向ける。

 

「こんなに素敵な母親、そうそう居ないわ。 胸を張っていいわよ?」

 

 三月の思っていた事を代弁するかのように、マイがそう一護に声をかける。

 

「マイさんこそ良いお母さんだと思うよ!」

 

「あらあら~、これは照れちゃうわ~………………ポッ」

 

「けどやっぱり俺の母ちゃんが一番!」

 

「フフ、私達も同感よ」

 

「ええ、そうね」

 

「…………………」

 

 マイと三月の言葉に一護は嬉しそうに笑みを浮かべ、チエは俯いたままだった。

 

 まるで、真咲と目を合わせ辛いかのように。

 

「だから、今度は俺が母ちゃんとお前達を守るんだ!」

 

「「Oh(おぅ)」」

 

 三月とマイが同時に感心の息を吐き出す。

 

 目の前の少年は歳が幼くても、しっかりとした決意を持ちながら真っ直ぐ自分達を見ていた。

 

 その目は歳も性別も見た目関係なく、『覚悟を決めた者の眼』だった。

 

「母ちゃんも、お前達も、チエも、俺が守るんだ!」

 

「その前に竜貴に勝て」

 

「グッ…………そ、それは………」

 

 そこにチエのド直球なツッコミが炸裂した。

 

「フ、冗談だ」

 

 僅かに()()()()チエの『冗談』に一護は顔を逸らす。

 

「それはそうと。 一護、包帯の交換を手伝ってくれないか? さっきから傷がムズムズしていてな?」

 

「じゃあ、一護は遊子と夏梨にも手伝ってもらって、代わりにお父さんを呼んで来てくれるかしら? 多分、お父さん()()二人は話がしたいと思うから」

 

「うん。二階行こうぜ、チエ」

 

「ああ」

 

 元気よく返事する一護をチエが後を追って二階へと行く。

 

「………主人の方は………………()()()()()()、真咲さん?」

 

「ええ、あの人は()()()()()()()から」

 

「あら~、それは良いわね~」

 

「(()()って…………そんなにあっさりと言う、普通?)」

 

 それから数秒後、一護とチエと入れ替わるようにガッシリとした体格の黒崎一心が降りて来た。

 

「あ、マイさんと三月ちゃんも来ていたのか!」

 

「は~い、先日ぶりです~」

 

「あ、こんにちは黒崎さん」

 

「一心で良いって、真咲も名呼びなんだろ? それに一護の奴が世話になっているみたいだな、時々? お前達の事をアイツから聞くぞ?」

 

「えぇぇ、まあ…………時々~?」

 

「(気さくな性格しているけど、確か一心さんも死神………だったっけ?)」

 

「それで、今日はどうしたんだ揃って?」

 

 一心がニコニコしながら三月とマイを互いに見ながらテーブルに座った。

 

「え~と、まず質問です。 『死神』と言う単語をどう思いますか?」

 

「あれだろ? 鎌持った奴」

 

「ではなくてですね、()()()()()()です~」

 

 一心と真咲がジッと真剣な顔でマイと三月を互いに見つめる。

 

「………もし死神や()の事を聞いているのなら()()()()()わ」

 

「(やっぱり…………でも真咲さんが知っているという事は『その類』の人という事?)」

 

「それと嬢ちゃんは()()を使ったらしいじゃねえか。 真咲みてぇだな?」

 

「私のとはちょっと違ったみたいだけど」

 

「「え? (え?)」」

 

 マイと三月が同時に引っ掛かりを感じる。

 

「あら? 私は滅却師(クインシー)よ?」

 

「ブッ」

 

「あら、意外です~」

 

 思わず飲みかけのジュースを吹き出しそうになる三月と、何時ものホワ~ンとして口調で驚くマイ。

 

「(『流石主人公』、てか?! 設定の盛り合わせが凄い…………という事は、一護や彼の妹達は混血(死神+滅却師ハーフ)って事? ウワァ…………)」

 

「やっぱり弓矢を使っていたから『知っているかな?』と思ったけど…」

 

「あ、はい。 まあ…………ちょっと、ね?」

 

「意外~」

 

「俺の自慢の妻だからな!」

 

 隣でウンウンと嬉しそうに頷く一心を三月はジト目で見ながら再度ジュースを飲み始める。

 

「(いや、説明になっていないし)」

 

「ちなみに俺は死神だ」

 

「(オイ。 何そんなあっさり正体バラしているんだこのオヤジ?! 『原作』で渋々引っ張るだけ引っ張ってようやく出したような隠し設定だった筈じゃん?! 愛馬に蹴られろ!)」

 

「それで、何番隊に居たんですか~?」

 

「ん? 十番隊隊長やっていた」

 

「「………………………………………」」

 

 一心のサラッとした答えと「隊長だった」と言う爆弾宣言の連続でフリーズす(固ま)る三月とマイだった。

 

「(え? 十番って確かあの『当たらない氷輪丸』で有名な白髪の?)」

 

「そう言えばアイツ、元気にしてっかな? 日番谷の坊主」

 

「えっと、それは誰ですか?」

 

「ん? 俺の後任の隊長だな」

 

「(まさかのまさかで『当たらない氷輪丸』の前任者って…………………………………)」

 

「あれ? でもでも~、死神と滅却師なら虚と戦えますよね~?」

 

『良く聞いてくれた、マイ!』

『“私”は“貴方”ですからね~』

 

 ちなみに今の三月とマイの会話はアイコンタクトなどではなく、所謂『()()』だった。

 

「あー、俺は事情があって()()死神の力を失っているんだ。 けど真咲は違う……筈だったんだが────」

 

「────どういう訳か、滅却師の力を失ったみたいなの。 丁度あの日から。 片桐さんも同じらしくて、今は竜ちゃんが調べているみたいなんだけど…………」

 

「(え?! じゃあ、もしグランドフィッシャーの襲撃が一日でも早かったら真咲さんは死んでいなかったかも知れないって事?! うわぁ、なんつータイミング…)」

 

「これでも真咲は強い。 多分死神だった頃の俺とどっこいどっこい…いや、俺以上だな。 俺もまさか真咲が滅却師の力を失っていると考えていなかった。 分かっていたのなら迷わず駆け付けた。 たとえ、死神でなくてもな。 だから────」

 

 一心がスッと立ち上がって頭を三月とマイに下げる。

 

「────ありがとう。 俺の家族を守ってくれて」

 

「………………………………」

 

「いいえ~、私達は別に。 感謝の言葉ならチエに言った方が良いと思います~。 だから、頭をあげて下さいな?」

 

「勿論アイツにも言うさ。 でも、真咲の言っていたようにお前達二人が虚にトドメを刺したんだろ?」

 

「それでも…………頭をあげて下さい、一心さん」

 

「……………」

 

 一心が三月の言葉で渋々、頭を上げて場に漂う気まずい雰囲気を変えようとマイが口を開ける。

 

「あのぅ? 真咲さんの言っていた『片桐さん』や『竜ちゃん』って誰ですか~?」

 

「(マイってば今日は冴えている~!)」

 

 三月が気まずい空気の中ジュースを飲んでいた所に真咲が追い打ちをかける。

 

「片桐さんは竜ちゃんの奥さんで、竜ちゃんは私の従兄妹。 あ! 竜ちゃんの名前は石田竜弦(いしだりゅうけん)って言って、私と同じ滅却師で────」

 

「ブボッ?! ゲッホ、ゲホゲホ! ウェッホ?!」

 

「お、おい? 大丈夫か?」

 

「多分、ビックリしたんじゃないかしら~?」

 

 突然咳き込む三月に心配する一成に彼女の背中を摩るマイ。

 

「ケホ! ………あ、いえ、その…気管に……ジュースが…」

 

「あらあら、ゆっくり飲まないとね?」

 

 真咲がニッコリとしている中、ジンジンする喉を癒す為にジュースを再び口に含んで固まったままの三月の頭はフルアクセル並みに考え込んでいた。

 

「(え? 石田竜弦って、()()石田雨竜(ムッツリ眼鏡)のお父さん…だよね? 滅却師って言っていたし……………あれ? と、言う事は? 一護と雨竜(眼鏡)って又従兄弟? ええぇぇぇぇ、義兄さん(士郎)も設定が盛られていたけど、比が全然比べられないわぁ)」

 

 「眼鏡眼鏡」と言う三月だが彼女自身(伊達)眼鏡をしているのを忘れるほどの内容の連続だった。

 

「黒崎家と石田家は純血の滅却師、最後の一族なのよ」

 

「という事は~? 一心さんは『黒崎』ではなかったんですか?」

 

「あー、これはあまり言いふらすなよ? 俺の旧名は『志波』だ」

 

 「ブフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ?!?!?!?!」

 

 とうとう三月がジュースを盛大に吹き出し、その勢いでコップを落としそうになるが隣のマイがそれをキャッチして、近くの布巾でテーブルを拭き始めた。

 

「ご、ご、ご、ご、ご、ごめんなさいね~?」

 

「気にしなくてもいいのに」

 

 ニコニコしている真咲と違って、一心は拗ねていた。

 

「別にそれほど驚く事でもないだろ?」

 

 口を拭いた三月が唖然としたまま、心の中の否定の言葉をそのまま一心にぶつける。

 

「いやいやいや。 だってソウル・ソサエティの五大貴族の一つですよ? 貴族ですよ、貴族? リアル貴族」

 

「まあ! 知らなかったわぁ」

 

 嬉しそうな真咲とは対照的に顔を逸らす一心。

 

「別に胸張って言う物でもないし、俺は直系じゃない上に家自体は没落して、姪っ子甥っ子しか残ってねぇ。 自慢も何もならねえよ」

 

「(道理で『志波海燕』と一護が似る訳だ。 従兄弟だからじゃない。 うっわぁ~)ハァ~~~~~」

 

 三月が頭を抱えて溜息を出す。

 

「子供のお前にそんな溜息は似合わないぞ?」

 

「その、一護の血筋考えたら誰でも出してしまいますよ」

 

「えっと~? 五大貴族の志波家出身で~、隊長をやっていた死神と~、純血の滅却師のハーフで~────」

 

 「ウワァァァァァァァァァァァァァァァァ?!?!?!」

 

 マイの始めた話のくだりを、一護の全力での叫びがそれを遮って、ドタドタとした慌てた足音が二階から聞こえたと三月達が思ったら一護本人が階段を乱暴に降りて姿を現せて来た。

 

「ど、どうした一護?!」

 

「どうしたの一護?!」

 

 慌てる一護を見た一心と真咲が、顔を真っ赤にしながら震える(一護)に駆け寄る。

 

「チチチチチチチチチチチチチチチエが! チエがッッッ!!!!

 

 一護は震える手で二階へ通じる階段を指差すと、幼い夏梨と遊子を引き連れたパンツ一丁と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()チエの姿が現れる。

 

「チエが!()()()()()()()()ぁぁぁぁぁ!!!

 

「「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?!?!」」

 

 一護の見開いた目と驚愕の表情を同じくする彼の一心と真咲(両親)だった。

 

「いや、私は自分の事を『男』と偽った覚えは一切無いのだが」

 

 チエの何気ないド直球ツッコミに一心が一護の目を手で塞ぎ、真咲が彼女(チエ)を二階へ夏梨と遊子と共にその場から連れ去った。

 

 まあ、少々無理がある訳でも無かった。

 

 今までチエの言動は男勝り…………と言う問題以前に、性別にこだわっていなかったものばかり。

 

 髪の毛も少年か少女の中間の様な、曖昧な長さでただ無関心に伸ばせていた事もあり、男子や女子が『苦手』や『向き不向き』関係なくコツコツと()く上に、身体つきは細いわりに力強く、ファッションセンスは皆無でただ『動きやすいか否か』だけ配慮した様なモノだった(なので主に男性が着る半袖やズボンばかり着ていた)。

 

 尚、パンツは三月が強制的の強い願望で今までのボクサーから変えて穿く事をつい最近了承したばかりだが、キャミソールやインナー類は反対され、何時も着けているサラシへと落ち着いた。

 

 だからこそ、竜貴や一護の空手道場では男子との手合わせを先にやらされていたし、一護も気安く話しかけていて、(照れてはいたが)チエにも頭を撫でられていてもあまり嫌がってはいなかった。*1

 

 それもこれも全てチエが同性の『男』といった()()()()があったからだった。

 

「(あー、やっぱり。 だから一護は私よりチエに色々話していたんだ…………まあ胸が完全に無かったら今のチエって完璧に中性的な見た目で、言動がどっちかと言うと男寄りだもんね~)」

 

 余談ではあるが、一護の説明により『男』と自己解釈していた真咲と一心含めて周りの人達も思い違いをしている人の数は少なくはなかった。

 

 今までチエは男として扱われる事に対して何の反応や抵抗も見せず、そのまま受けていた事も要因の一つだった。

 

 そんな事があり、チエの体にきつく巻いていた包帯に苦戦していた一護はハサミを使用。

 

 そしてチエの「この際だから()()()()()()()()()」と突然言いだし、チエが解き始めたサラシの下から膨らみかけの胸が現れ始め、チエが実は『同性』では無く『異性』と気付いた一護がパニックに陥って、上記の状況へと繋がる。

 

 そんなチエを真咲は「もっと女の子としての自覚を」云々と言う説教を(親設定の)マイと一緒に正座をさせられながら一時間ほどみっちり受ける事となる。

 

 チエはただ?マークを出すだけで、マイはショボショボとした表情を俯くながらしていた。

 

 その間、幼い夏梨と遊子はただ「ほうたいにあんなつかいかたがあるんだー」と思っていたらしい。

 

 そして一護と言えば頭を抱えて顔を未だに真っ赤にしながら混乱していた。

 

*1
第3話より




余談ですがチエを彼女や彼と表現するような文章は書いていない様にしていました。

…と思う。

……筈。


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第7話 関西、参上

申し訳ないです、今回は少し短いです

8/15/21:
誤字修正いたしました。


 ___________

 

 『渡辺』家 視点

 ___________

 

『チエが実は女の子』騒動から数週間ほど時間が経ち、今は夏。

 

 チエは袖なしシャツと(マイに進んで穿かされた)スカッツの上から『浦原商店』と書いたエプロンをして、店番をしながら自分の周りの変わり様を思い出していた。

 

 あのすぐ後の一護は三月と接する時みたいな余所余所しい態度になってしまったが、それも少し前から改善はされていた。

 

 主に一護の様子を見かねた竜貴が彼をヘッドロックをかまして 強制連行して物理的にチエと三月の居る場所へと連れて来た事から始まった。

 

「何で一護の様子がずっと変なんだ?! チエの所為か?! 一護がお前に何かしたのか?!」

 

「あ、いや、その────」

 

 一護の目が泳いでいる間にチエが何とも無い様な声で答えた。

 

「────私を『女性』とこの間気付いたらしい」

 

「「「「「………………………………………………………………」」」」」」

 

 チエの言葉に周りの子供達が全員黙り込んでチエの方を見た。

 

「??? どうした、皆?」

 

 「「「「「ええええぇぇぇぇぇぇ?!?!?!?!」」」」」」

 

 そこからは波乱の連続でチエと接する者達の豹変ぶりの仕方にはバラつきがあった。

 

「な~んだ、私と一緒じゃん」と言うような、竜貴みたいに態度を変えずに接する人達。

 

「えー、なんか変ー」、と気味悪がる子達。

 

「い、良い」、と意味不明な事を語る子達(男性&女性両組)。

 

 等等々。

 

 チエはただボ~ッと、蝉の鳴く外を聞きながら考え込むと、ガラガラガラと引き戸が開かれる音に集中を戻す。

 

「いら────」

 

「────ア゛ア゛ア゛ン?! 誰やお前?! 見た事ないクソガキやなぁ!」

 

 口の悪い関西弁の子供が来店して来てチエが黙り込む。

 

「………………………」

 

「何やクソガキ?! 文句あんのか、えぇぇ?!

 

「何かをお求めですk────?」

 

「────キッショ! 喋り方キショ! あのクソボケ思い出してまうわ、やめい! 鳥肌立つわ!」

 

「(喋り方はともかく、以前の私の無頓着な『ふぁっしょんせんす』とやらと大差がないな。 真っ赤なジャージは分からなくも無いが────)」

 

「────だからなに見とんねん、このハゲ!」

 

「バッ」と金髪ツインテール+ソバカス&関西弁少女がチエの頭を鷲掴みにしようとした腕がチエのガッシリと掴んだ手によって阻止される。

 

「ッ?!」

 

「お客様、それは困ります」

 

「客やないわ、このアホ! 手ぇ放せや!」

 

「では少々お待ち下さい。 店長を呼びに行きますので」

 

 チエが手を放すと金髪ツインテール+ソバカス&関西弁少女が恨めしそうにチエを睨む。

 

 が、チエは何処吹く風の様な涼しい顔で自分を(本人はこっそりとしているつもりの)監視していた浦原に顔を向ける。

 

「店長────」

 

「────ですからどうして私の居る場所が分かるんッスねー? 毎度毎度毎度…………気が滅入りますよ」

 

()()からな、お前は」

 

「ハハハ、ご冗談を。 これでも風呂は毎日────フゴォフ?!」

 

 金髪ツインテール+ソバカス&関西弁少女が飛び蹴りを浦原にお見舞いする。

 

「居んねんやったらとっとと早よ出てこんかい、このクソハゲェェェェ?!」

 

「店長、こちらから声が────おや、誰かと思えば。 お久しぶりですな」

 

「おう、何時も通りやな。 ボケハゲ」

 

 のっそりとチエ達が居る所に来たテッサイが金髪ツインテール+ソバカス&関西弁少女に挨拶をする。

 

 この様子にチエが頭を傾ける。

 

「知り合いですか?」

 

「この方は猿柿(さるがき)────グフッ!」

 

 「ガキ呼ぶなこのクソハゲェェェェェ!!!」

 

 金髪ツインテール+ソバカス&関西弁少女がテッサイに鳩尾パンチを食らわせると、彼は珍しく顔が一瞬歪む。

 

「いててててて…久しぶりなのに酷いッスよ、ひよ里サン?」

 

 ヨロヨロと顔面に飛び蹴りを受けた浦原が立ち上がる。

 

「ケッ! ならその蹴飛ばしたくなるような顔面をサッサと摩り下ろさんかい?!」

 

「何時にも増して理不尽ですねー、何かありました?」

 

「ッ…何も無いわ、ボケ!」

 

「店長、これをお使いになってください」

 

「ん? ああ、すみませんねチエサン」

 

 浦原にウェットティッシュの箱を持ってきたチエを『ひよ里』と呼ばれた少女は一瞬『ギッ!』と睨んだ事を浦原は見て、ニィーっと笑った。

 

「チエサン達って今日から何か予定在りましたっけ?」

 

「??? いや、特に聞いていないが?」

 

「ならちょっと遠出しません? 今の住居は丁度隣町でしたっけ、ひよ里サン?」

 

「ちょ、何勝手に他人を巻き込もうとしてんねん?!」

 

「では三月達に電話をしてくる」

 

「お前も勝手について来ようとすんなやー?!?!」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ウルル。 もう出発しないと電車に間に合わなくなる」

 

 チエがズルズルと、未だ自分の胴体に抱き着くウルルを見て声をかける。

 

 あのグランドフィッシャーとの一件のすぐ後、怪我をした三月(矢を放った際に腕を折りギブス着用)とチエの姿(体中に包帯グルグル巻き)を見たウルルはその瞬間にワァワァと大号泣し、「絶対視界から出さないッッッ!!!」と言った勢いで三月とチエを抱き締めて、『彼女達(三月&チエ)の行くところにウルルあり』のような状態が数か月間ほど過ぎた。

 

 その間は『渡辺家』に世話になるような勢いだったのを渋っていた浦原に、「では、お泊り会ですね~」と言ったマイの提案で、浦原商店に三月とチエが寝泊まる事に。

 

『ウルルが落ち着くまで』といった大義の元、実質の今より更に監視される二人+通うマイの計三人の生活が始まった。

 

 最初こそずっとピリピリした空気の監視生活が続いたが、別に何もしないそぶりを見せないどころか、ボロボロだった店を直すなどの善意バリバリの行動を自らし初めた彼らを間近に見て、次第に緊張感は感じ取れなくなっていった(監視は続いていたが)。

 

 三月が繰り出す数々の手料理が功を現したのも要因の一つであるのは浦原商店の(ウルル以外の)人達はなるべく内緒にしようとしていたが、にやける顔やおかずの減り具合からモロバレだった。

 

「グスッ…………ヤァ」

 

 ぐりぐりと頭を埋めるウルルをマイが撫でる。

 

「浦原さんは『用事は直ぐに終わる』と言うので、すぐ帰ってきますよ~」

 

「帰ってきたら、ウルルの大好きなプリンも作るからさ? ね?」

 

「……………」

 

 渋々と手を放してチエ達を見上げるウルルの目は潤んでいた。

 

「……………絶対。 約束だよ」

 

「ああ。 ()()だ」

 

 それから浦原とイライラする金髪ツインテール+ソバカス&関西弁少女────『猿柿ひよ里(さるがきひより)』、そしてもう一人の()()()()()()()()と共に電車の駅まで歩く事に。

 

「平子サンも大変ッスね~」

 

「せやで。 『同じ口調やから一緒に保護者面しろ』言われた時は久しぶりにキレそうになったわ」

 

「あ、はじめまして~。『渡辺』マイと言います~」

 

「オウ。 平子真子(ひらこしんじ)や。 よろしゅうなデカパイの姉ちゃん。 出来たら夜もよろしゅうしたいわ」

 

「あら、照れるわ~。でも、夜更かしは肌に悪いから遠慮するわ~」

 

 平子の言った意味を全くスルー…………と言うかそれ以前に理解していないっぽいマイが天然的に断る。

 

「初めまして、『渡辺』三月です」

 

「十年経ったらもっかい言って来てみ、チビ眼鏡」

 

「(うっわ。『原作』読んだからある程度予想していたけど…と言うか何でスラムダ〇クの『ヤス』の声なのよ?! 対極的な人物でしょうがぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?!)」

 

 平子は三月を一瞬だけ見て、子供のあしらい方をする。

 

「『渡辺』チエだ」

 

「……………ほぅ」

 

 布に巻かれた()()を背負ったチエを平子がジッと見て、目を細める。

 

「(こいつ…………死神か? 虚か? さっきのひよ里という者からも()()匂ったが………どういう事だ、これは?)」

 

「………………ほな行こか?」

 

 スッと平子は踵を返して、先を行っている浦原達の後を追う。

 

「(『平子真子』に『猿柿ひよ里』…………この二人は確か『仮面の軍勢(ヴァイザード)』のメンバー…………という事は彼らの()()()()()に行くって事?)」

 

 そう考えた三月は、『何故()()()()()()()()?』と考えながらも自分達へ視線を向けている平子となるべく目が合わないようにしていた。

 




作者:次話投稿、少し遅れるかもしれません…


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第8話 バケモノと北斗、そしてヒヨコエプロン

何とか投稿!


 ___________

 

 『渡辺』家 視点

 ___________

 

「…………着いたで」

 

 彼らが電車に乗って一時間弱。

 

 降りた駅から更に30分ほど歩いて、夏の暑さが弱まり始めた頃に着いた場所は()()()()()()だった。

 

 その()()()をしっかりと見ていたチエ、三月、マイを平子は横目で見ていた。

 

「どないした?」

 

「えっと…………()()()()()()()()()()?」

 

 マイがおずおずと答える。

 

「空地()視えるんやな」

 

「ハッ! その程度やっちゅう事や!」

 

「霊力の弱い者には()()()()()()()()()()のに、流石ですね♪」

 

 浦原は何かが面白いのか、ニヤニヤとしながらチエ達を褒めていた。

 

 「…多重結界か」

 

「正解。つーか、色々とおもろないな。 ドッキリのつもりやったのに」

 

 チエの一言に近くの平子が答えて空き地内へと足を踏み込むと、浦原とひよ里も先を歩いて姿()()()()

 

 チエ達も足を踏み出すと古びた建物が姿を現した。

 放置された町工場っぽいコンクリートの壁からはペンキが所々剥がれていて、屋根は錆びついていた。

 

「(この世界の結界()かなり優秀ね…………それとも()()の問題かしら?)」

 

「ほら、早よ入れやクソハゲ共」

 

 何時の間にか玄関には()()()ひよ里しかおらず、平子と浦原は既に中に入った様子だった。

 

「あら。ごめんなさいひよ里()()

 

 マイがそう言い、彼女と共にチエと三月が中に入ろうとすると、ひよ里が声をかけて来る。

 

「ちょい待ちぃや。 お前ら、何ウチを『さん付け』なんて平気にずーっとしてるんや?」

 

「「「だってひよ里さんがそうしろって言ったから?/し~?/じゃん?」」」

 

 チエ、マイ、そして三月の答えにひよ里は少しだけ目を見開いた。

 

 これは平子の紹介の後、駅前で仁王立ちする彼女が「しゃーないからウチの名前も言うとくわ! 『猿柿ひよ里(さるがきひより)』や! ちゃんと『さん付け』で呼びや、お前ら!」

 

 そこからはチエ、三月、そして大人の姿のマイでさえも彼女(ひよ里)を必ず『ひよ里さん』と呼んでいる内に、ひよ里本人の態度はタジタジして行き、最後には黙り込んだ。

 

 この様子のひよ里を見た浦原は満面の笑みを浮かべ、平子は何か摩訶不思議な事を見るかのような顔になっていた。

 

「それは…………そうやけど………何もそんな律義に………」

 

「???」

 

 マイは?マークをただ出していた。

 

「あ、もしかしてひよ里さんの見た目の事じゃないかしら?」

 

「何だ、そういう事か」

 

 そして気付いた三月と気付かされたチエの言葉にコクンと頷くひよ里。

 

()()()を背負っている時点で外見など関係ない」

 

 チエがひよ里の背中にある()を指差す。

 

「ッ…………お前ら………知っとんのか、()()?」

 

「「何を?」」

 

「…………………」

 

 そう言う三月とマイ、そして静かなチエは中へと入る。

 

 外の見た目も結界の一部だったのか、錆びついた町工場の中は普通の一軒家………より少々広く、綺麗だった。

 

 そして三人が中へ入った瞬間、九人分の視線と()()()()()が彼らを襲う。

 

 周りの犬や猫の類はその瞬間に周りから一目散に逃げ去って、上を飛んでいた鳥は気を失って地面へ落ちるほどだった。

 

「それでお前ら、何(もん)や?」

 

 座っていた人達の中で唯一立っていた平子がそう三人に問う。

 

仮面の軍勢(ヴァイザード)』。

 かなり単純化し、短縮化するが、全員が()()()()()()()()()()()()集団で、更に()()()()使()()()

 

 百年は優に生きて来た猛者達が冷たい視線と共に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 普段、のほほんとしたマイも真剣な顔をしながらも汗が出て頬を伝る程で、()()()()すぐに戦闘態勢に入るチエ。

 

 だが三月とチエは平然として、()()()()()()()

 

「聞こえへんかったみたいやな? お前らは何者やと訊いとるんや」

 

「…………初めまして、『渡辺』三月と言います」

 

「…………『渡辺』マイですぅ」

 

「……『渡辺』チエだ」

 

「「「「「…………………………」」」」」

 

 撃沈が続いて数秒、または数分とも感じ取れる時間が過ぎてからフッと殺気と霊圧が嘘のようにパッタリと止まる。

 

「ぁえ────」

 

 緊張感から解放され、足の笑い始めていたマイが倒れそうになると近くにいた三月とチエが彼女を両側から支える。

 

「ったく、ホンマに子供かいなお前ら?」

 

「当たり前でしょ? 何に見える?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 平子の言葉が合図だったかのように周りの人達の反応は様々だった。

 

「突然だったのは謝る。 だが俺達の視点からも見て欲しいと思う。 ちなみに俺は愛川羅武(あいかわらぶ)だ。 趣味はジャンプ」

 

 星型のアフロとサングラスをした男性の言葉に三月の目がカッと見開く。

 

「じゃあ敢えて使わせてもらうけど、『お前達の血は何色だァァァァァァ?!』」

 

 ギュピーンと愛川羅武のサングラスが光ったような錯覚後、彼が口を開く。

 

「『オレの名を言ってみろぉぉぉぉ!!!』」

 

「愛川羅武ぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 三月と羅武ががっしりと両手で固い握手を交わした。

 

「俺の事はラブで良い」

 

「じゃあ私もミーちゃんで良いわよ♪」

 

「『北斗〇拳』、良いな」

 

「じゃなくて『ジャ〇プ()』、でしょ?」

 

 さっそく意気投合する三月とラブ(ジ〇ンプファン達)

 

「やれやれ、ラブには困ったものだけど…僕もこれはどうかなと思うよ? 困っている女性をそっちのけで。 そこのレディ、すまないね? ボクは鳳橋楼十郎(おおとりばしろうじゅうろう)。ローズと呼んでくれたまえ」

 

 ローズがマイの方を見てウィンクを飛ばしながら、彼女に肩を貸す。

 

「あらぁ~。私は別にどちらでも良いけど、思わず『(じゅう)ちゃん』って呼びそうね~」

 

「ハウ?! 君のその言葉が、僕のハートに! 響くぅ!」

 

 そして天然でのほほんとしたマイにすっかりペースを取られる長いウェーブのかかった金髪で薄幸そうな男のローズ。

 

「お前ら、ガキの癖に肝が据わっていんじゃねーか。 っと、俺は六車拳西(むぐるまけんせい)。ローズの事は無視している方が身の為だ」

 

 筋肉でゴツい、銀髪青年がローズと共にマイを立ち上がらせる。

 

「ちょっと拳西ぃぃぃ? 今のは聞き捨てならないね~?」

 

「ありがとう。 優しいのですね、貴方は」

 

「ッ」

 

「『ケンちゃん』、と呼んでいいかしら~?」

 

「…………………好きにしろ」

 

 ニッコリと微笑んだマイから顔を逸らす拳西(ケンちゃん)

 

「じゃあじゃあ! (ましろ)の事は『シロちゃん』で良いよー!」

 

「オイ白、椅子持って来い」

 

「私を無視するなケンちゃん!」

 

「あの鬱陶しいのは久南白(くなましろ)だ」

 

「はい、よろしくお願いしますね? シロちゃん」

 

「イェーイ!」

 

 三月がジッと(シロちゃん)を見て、彼女が視線に気付く。

 

「どうしたの?」

 

「ううん、その…………『特撮ヒーロー』っぽいから」

 

 それはマシロが白色のライダースーツと、頭にゴーグルを着けていたからの感想だった。

 

 どこぞの『仮面ライ〇ー』っぽかった。

 

「あああ! 分かる?! 私も実は変sh────グエ」

 

 マシロの首に巻かれてあるマフラーが強引に後ろへと引かれる。

 

「ウチは矢胴丸(やどうまる)リサ。 アンタに質問が一つだけ。 ()()()、本物なんか?」

 

 これまたひよ里と平子みたいな関西弁に眼鏡におさげとセーラー服を着た、風紀委員を匂わせるような少女がマイの胸部装甲(たわわな胸)を指差しながら訊く。

 

「??? はい、本物ですけど~?」

 

「ホンマか? なら揉ませろや」

 

「へ?」

 

「確かめる為や、別にええやろ? 減るもんやないし」

 

「えええぇぇぇぇぇぇ?」

 

 訂正。

 

『風紀委員』とは真逆の存在のようだ。

 

「私は有昭田鉢玄(うしょうだはちげん)と言います。 以後、お見知りオキヲ」

 

 大柄で寸銅な男が出来るだけチエの目線に合わせようと膝をつくが、巨体故に彼女を見下ろす体勢のままだった。

 

「お前の姿と同じようで強そうで頼りになりそうな名だな」

 

 チエの全く悪気のない、ストレートな感想に「ハッチとお呼び下さいませお嬢サンッッッッッ!!!!」と、(少々泣きながらも)喜んで彼女の手を両手でブンブンと握手するハッチ。

 

 上記のようにそれぞれの『仮面の軍勢』のメンバー達が割と気さくな性格等でチエ達と接していた様子を、浦原と平子とひよ里の三人が少し離れた所から見ていた。

 

 そして浦原からは何時ものヘラヘラとした笑みは無かった。

 

「どう思います、平子サンにひよ里サン?」

 

「お前が言った通り、あの三人…………特に()()()()()()()()やな。 元とはいえ、隊長格の俺らの殺気と霊圧受けて()()や」

 

「腹立つけど、ウチから見ても同感や。 あれだけの殺気と霊圧に汗一つどころか、()()()()感じが特に気に食わへん」

 

「………………………皆サンが戦うとしたら、勝算は如何ほどですか?」

 

「お前達の言った事とか考えれば……………玉砕覚悟で、俺らの満身創痍での勝利…………それか、五分五分と言った所やろ。 状況次第付きやけどな。 というか俺は思わず『どうやって他の()()()()にぶつけてから全員始末しようか?』、と考えたぐらいやで?」

 

「ハゲの言った事を皆は多分、心ン中で理解しておる。 ()()()()皆あの態度をとっておるんや」

 

 ひよ里はワイワイと意気投合する他のメンバー達とチエ達の様子を見る。

 

「せめて『敵対する可能性の爆発物』ではなく、『対話出来る化け物』で居られる様に…………ですか」

 

 平子とひよ里の言葉に浦原は目線を隠すように帽子を深くかぶる。

 

「そして『もし彼女達と敵対するような事があれば、少しでも勝算を上げる為に人情を使う』…………………本当に、僕達は似た者同士ですね」

 

「ケッ。 お前と一緒くたされると思うと反吐が出そうやわ」

 

「隣のハゲと同感や」

 

「さっすが関西! 息がピッタリですね!」

 

 「「関西ちゃうわ、ボケェ!」」

 

 実に息がぴったり合った関西ツッコミだった。

 

 余談ではあるが、様々なメディアで聞いた声で懐かしむ、または『人物像が全然違う!』などと言った思考が止まらなかった三月と、()()()のセクハラ行為に困るマイ、そしてチエはこの団欒を見ながら未だに死神と虚の匂いを不思議に思ったが、()()()何も言わなかった姿がそこに在った。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 何時の間にか浦原の姿が見えず、平子に「仕事に来たんやから今は仕事中や」と言われ、手持ち無沙汰になったチエ達は各々が出来る事を探し、実行に移った。

 

 三月はラブとローズ、そしてマシロに強引に連れてこられたケンセイがジャンプやアニメ、そして特撮話題で盛り上がった。

 尚、ケンセイは三月が「ボクシングが好きそう」という考えから『始め〇一歩』を出してからも知らん振りを貫き通すも、物凄い食い気味で聞き耳を立てていた。

 

 チエはハッチと色々話し込んで、楽しそうなハッチにイライラしたひよ里に「ムズイ話ばっかやないけ?!」と怒ってハッチにきつく当たる。

 そしてチエの「そのような話をしているのだが?」と言う天然ツッコミにてナチュラルのコントが何時の間にか出来上がっていた。

 

 キッチンではマイに『裸エプロン』を(全力で)強要しようとしているリサを(困って笑いながら)マイは拒み、許可をもらっては料理を(しようと?)していた。

 

 余談ではあるが平子はこの三つのグループのやり取りを交代で見ながら浦原からの連絡を()()()()()

 

 断じて、決して、ラブ達の漫画やアニメの話を全力で立ち聞きしたり、

 ハッチ(やられ役)チエ(天然(?)ボケ)ひよ里(ツッコミ)コントの中をたまに混ざったり、

 何故か壁に上半身が埋め込まれていたリサを面白ながらからかい過ぎて浦原を忘れた訳では無い。

 

『忘れた』訳では無い。

 

「ボクの事を忘れるなんて…………グスンッ………一人寂しく延々と作業していたボクをそっちのけで皆サン楽しそうに────ぐおへはぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「めんどくさいねん、ワレェェ!」

 

 平子は『()()()』のではなく、『()()()』していたのだ!

 

 拗ねながら膝を抱え、俯きながら地面に「の」の字を指で書いていた浦原の後頭部にひよ里のドロップキックが炸裂する。

 

 ちなみにその日の夕食は豚汁、野菜炒め、魚の煮物と白米だった。

 

「いや~、渡辺家のご飯は何時食べても美味しいッス!」

 

「ちょいまちぃや、喜助。 お前んとこの料理はこいつらが仕切っとんのか?」

 

 実はと言うと、浦原商店の料理は『ウルルが絶対離れない騒動』の泊り始めた三月とチエが担当し始め、それからは交代制でご飯を作っては泊って行く事を未だに続けていた。

 

 少し考えてみて欲しい。

 

 毎日お菓子やつまみや栄養錠剤を飯代わりにする家庭を。

 

 しかもそれが朝昼晩。 たま~に近くのスーパーなどから買った弁当。

 

 それに耐えられる人間が居るだろうか?

 

 ちなみに「そこに居るの、そもそも人間じゃないだろ?!」と言うツッコミはただいま受け付けていません。

 

「流石にこれはアカンですよ!」と思った三月はチエと共に()()()()()()を作り、すぐにウルルと浦原に嬉しがられていた。

 恐らくテッサイもだが無表情の者が「ウム」と言うだけが果たして嬉しいのかどうか微妙な点である。

 

 尚、夜一に関しては「猫缶さえあれば全て良し」だったが、作っておいた彼女(夜一)の分もこっそりと何時の間にか無くなっていたのはチエ、三月、そしてマイ全員が気付いていたが敢えて何も言わなかった。

 

「うん! ケンちゃんのご飯より美味しーよ~!」

 

「だったら俺の作った飯を次からバクバク食わないって事だな、マシロ?」

 

「それとこれは別だよ~? 変なケンちゃん」

 

「変はお前だ!」

 

「味が合って良かった~♪ 実は今、()()()()()に料理を教えている所なんで、味が何時もより濃いめになっているんですよ~」

 

「「「「「ブフッ」」」」」

 

 テーブルに居た何人かが吹き出しそうになる。

 

「その…………『テッちゃん』といウノハ?」

 

 ハッチがおずおずといった様子でマイに訊く。

 

「勿論、テッサイさんの事よ~? あの人、エプロンに憧れていたんですって~。 だから私の編んだヒヨコエプロンを未だに使っているわ~」

 

 マイの言葉に数人がそれぞれの妄想で青くなっては身震いをしたり、笑いを必死に堪えたり、「テッサイxマイのテッサマイ………悪くない」というような事になっていた。

 

 最後のコメントはともかく、200㎝の長身髭マッチョ眼鏡で三つ編みの無表情中年おじさんが「ピヨピヨ」と鳴きそうなヒヨコエプロンを付けたまま『ヌンッ』とした感じで玄関で立ったまま「いらっしゃいませ」と挨拶するのを想像すれば皆の反応に納得が行くだろう。

 

 ちなみにその日、浦原商店に来店した子供達はその姿のテッサイを見た瞬間逃げていった。

 

 たまには泣いて叫びながら。

 

 これに彼はかなり落ち込んで、無表情ながらも重~~~~い空気を出しながら俯いて、トボトボとした足取りを数日間していた。

 

 どれ程の重症だったかと言うと、()()おっかなびっくりのウルルが(彼女からすれば怖い)テッサイを元気づけようとした程であって、この一連の出来事を話したマイに苦笑いを浮かべていた浦原を『仮面の軍勢』メンバー達が見てこれが嘘偽り無きの出来事と肌で感じた。

 

 だが一人だけ他の皆とは違う反応を示していた。

 

「………………ヒヨコエプロン…………良いデスネ」

 

 ハッチが何故かウンウンと納得していた。

 

「「「「「え」」」」」

 

「ではハッチさんの分も編みましょうか?」

 

「お願いできマスカ?」

 

 そして聞くマイに頼むハッチ(身長257cm、体重377kg)だった。

 

「「「「「」」」」」

 

 何とも、何時もの食卓とは違う雰囲気に内心楽しみを感じていた『仮面の軍勢』メンバー達が居た。

 

「(ホンマ、おっそろしい奴らやわ。 何時の間にか、()()()こいつらに感情移入してしまっているやんけ)」

 

 そんな平子本人も満更ではなく、楽しかったのを隠せずに笑みを浮かべていた。

 

 ひよ里は不機嫌な顔を崩さず、不気味な程黙っていたが、「触らぬ神に祟りなし」と言った方針で他のメンバー達は深く追求しなかった。

 




では、勢いがある内に次話を書いてきます。


余談ですが自分はキャラとして『仮面の軍勢』も好きです。

個性的なキャラ達なので(キャラの実力が強い、弱いは二の次で)


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第9話 目覚めのジャーマン、そしてひと時の夏

お待たせしまして! 次話です!


 ___________

 

 『渡辺』家 視点

 ___________

 

 

『仮面の軍勢』達の拠点の地下室らしい場所に浦原と一緒に一人行って2,3時間後に次の人が入るという風になり、三月とマイはお風呂へと入った。

 

 二人の長風呂好きが入っている間、チエは拠点の外に出ていて座禅を組んでいた所に声を後ろから掛けられる。

 

「おい、お前」

 

「?」

 

 チエが目を開いて後ろを振り向くとひよ里が未だに不機嫌な顔をしながら、玄関のドアから見ていた。

 

「もう一回聞くけど、お前は何や?」

 

「…………どういう意味で聞いているのだ?」

 

 チエはひよ里の手が背中の刀の柄を握っていた事にここで気付く。

 

「どうもこうもないわ、ボケ。 ウチは他の奴らとは違う経験をしておるからな」

 

 ひよ里から若干の殺気が漏れ出る。

 

「あのクソハゲの店でお前に腕を掴まれた時、ウチの()()が叫んだんや。『コイツはアカン奴や』ってな。 この百年間ほど、()()()()()()()()()()()()

 

「(『中身』? ………………成程、この混ざった匂いはそれか)」

 

「せやからもう一度聞く。 お前はなんや? 死神か? 虚か? 人間か?」

 

「そのどれでも無い────」

 

 チエは首を回し、ひよ里の方に顔を向ける。

 

 ()()()()()と共に。

 

「────()()()()()()()

 

 ひよ里がチエの言葉に唖然とする。

 

 それは別にチエが自身の事を『化け物』とサラリと称した事に対してでは無く、

 チエが笑みを浮かべていた訳でも無く、

 彼女が身も蓋も無いような言い方をしたからでもなかった。

 

 彼女の『眼』だった。

 

 彼女(チエ)の眼からは愉悦感や怒り、イラつきなどの感情が無く…

 

 ()()()()()を、────

 

 

 

 

 ────『()()』を表していた。

 

「お、お前………………」

 

 かつてのひよ里はその眼とよく似たモノを()に見た事があった。

 

 しかも()()()()()

 

 チエが前を向き直して目を閉じるとほぼ同時にひよ里の名が中にいる浦原に呼ばれて、ひよ里は中に入る前にもう一度チエの方を向いた。

 

 見事数分前に()()()()()()()の対象となっていたチエの背中はひよ里にとって、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ___________

 

 浦原喜助 視点

 ___________

 

『虚化()()()()()()8人の死神(仮面の軍勢)達の定期検診。』

 

 その為に浦原喜助自らが彼らの拠点を訪れた最大の理由()()()

 

 だが定期検診にチエ達を連れて来たのは様々な理由があったが、一番明確にしたかった事は彼女らが突然の出来事に『どう対応するか』だった。

 

 知的生命は唐突の事に対して、本能的に対処する。

 

 それはどれだけ研鑽や訓練をしたとしても変わらない事。

 

 と言うか『強者』であればある程や、相手が『脅威』であればある程、刹那の瞬間が命取りになるような状況など特に。

 

 だが気になっていた三人は警戒や逃げるような反応を示すどころか、『()()』だった。

 

 という事は少なくとも自分と『仮面の軍勢』の実力者の人数に()()()()()()()、それとも『脅威』とすら見られていないのか。

 

「(どちらにしても、ボク達では彼女達が暴走した場合に対しての『抑止力』にならない可能性が有るという事か)」

 

 さすがの浦原もこの反応は予想外だった。

 

 少なくとも身構える事はするかと思ったが、まさか普通に自己紹介をするだけかと思えば、『仮面の軍勢』のメンバー達に歩み寄ってくれるのを大人しく待ち、()()()()()()()()()()()()()()()

 

『威嚇』された事を問い詰める事ではなく、イラつくのではなく、『仮面の軍勢』の正体や詳細を訊ねようとせず、逆にまるで『威嚇されるのはしょうがない事』と納得して相手を待つような対応だった。

 

「(全くもって、面白い人達だ)」

 

 浦原は内心ウキウキ8割、ハラハラ2割の気分で作業を進めた。

 

 ___________

 

 渡辺家 視点

 ___________

 

 動く気配にチエが目をパチリと開け、居間の景色が視界に入る。

 

 そして地下へ通じる扉から上がってきた、明らかに寝不足の拳西と目が合う。

 

「んぁ?」

 

「お早うございます」

 

「お、おぅ………もしかして起こしちまったか?」

 

 拳西が隣でまだ寝息を出すマイ&三月を見る。

 

「いや? 私は()()()()()だけだ。 朝餉の用意をし始めるとするか」

 

「あー、俺も水飲んだら手伝う」

 

 拳西がキッチンに入って、チエが入りそうなタイミングでガラスの割れる音にマイと三月が同時に起きる。

 

「「ふぇ?!」」

 

「何をそのまま破片を持ち上げようとしている? 怪我をするぞ」

 

 そしてチエが寝ぼけたままの拳西を止める。

 

「これぐらいでケガする程、俺はヤワじゃねーよ」

 

「ちょちょちょちょ! 駄目ですって、()()()じゃ! マイ、ごみ箱と塵取り持ってきて」

 

「は~い」

 

 そこからチエ、マイ、そして三月の三人が分担してガラス破片を処理していく中、拳西が三月に声をかける。

 

「お前、『その体』つったよな? ……………お前が『死神モドキ』か?」

 

「まあ…………違うけど?」

 

「じゃあテメェはどっちだ?」

 

()()()()()()()()だよ? 貴方達みたいに」

 

「…………どうしてそう思う? ただの任務かもしれないぞ?」

 

「あまり詳しい事は言っていないけど、浦原さんは真っ当な組織の人っぽくないですし、鉄裁さんに至っては『元』隊長っぽいけど斬魄刀は持っていないから恐らく鬼道衆の上位辺りの人だったのでしょう。 ここまでくれば自ずと何らかの事情であっち側(ソウル・ソサエティ)に帰れないか居られれない人達…ってとこかな?」

 

「………………何故、俺達が死神と?」

 

「ひよ里さんの背負った刀と、浦原商店に置いてある品揃いが死神業専用の物と……………後は平子さんが言っていたここの『結界』と『霊力』と『見た目』の関連性を考えただけ………………………………………って何?」

 

 拳西がポカンとして目で三月を見ていた。

 

「……………お前、頭良いんだな? やっぱり見た目より歳食ってんのか?」

 

「女性に対してそれは無いと思う────わぷ?!」

 

 荒っぽい手つきで頭を撫でられて、三月がびっくりしながら身を屈ませる。

 

「わりぃ。 ひよ里や白しか長らく身近に居ねぇからな、つい。 あいつ等にも見習わせたいぜ、全く」

 

「あら~、朝から良い空気ですね~」

 

「んな?! ちげぇよ!」

 

 驚いた拳西がマイの方を睨むと、彼女はキッチンの窓を開けていた。

 

「はい~?」

 

「…………………………」

 

「違うんですか~?」

 

 黙り込む拳西と、彼を見ながら?マークをただ出すマイだった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 昨夜の浦原の仕事で最初に呼ばれた拳西だけが未だに起きていた様子で、初めて他のメンバー達の様子を見る事を出来たのは朝ごはんの用意が終わってから「皆を起こしに行ってくれ」と拳西がマイに頼んだ時だった。

 

 マイが地下に行くと、ほとんどの人達が死んだように彼方此方で倒れていた。

 

「凄いですね~」

 

「ああ、レディに見苦しい姿を見せるとは恥ずかしい」

 

 ローズは自分で起きていた、数少ないメンバーの一人だった。

 

「う~ん………………では、浦原さんは最後にしましょうか?」

 

 マイが各メンバーを順調に起こしていって(リサの寝ぼけたフリをして抱きしめて来る彼女をマイは張り手で吹き飛ばしてから)、最後は浦原となる。

 

「浦原さ~ん、起きてくださ~い」

 

 彼の体を揺するが、効果は全く見えなかった。

 

 テロップが出るゲームでなら、

 

マイ は ゆする をつかった!

『…………………………』

しかしこうかはなかったようだ……

 

 とでも流れていただろう。

 

 マイはにこりと周りの人達を見回してから浦原に声をもう一度かける。

 

「……………『目覚めよ、喜助』」

 

「「「プフッ」」」

 

 浦原が斬魄刀の様に扱われていた様子を見ていた何人かがクスクスと笑い出す。

 

「う~ん…………相変わらずしょうがないですね、これは~」

 

 マイが浦原の体を抱き起こして、立たせる。

 

 彼は微動だにせず、ただなされるがままだった。

 

「平子さ~ん? ここの地面って()()ですか~?」

 

「ん? そうやな、結構頑丈やで? 訓練とかにもつこうてるし」

 

「ではでは~、()()()ジャーマン・スープレックスで起こしまーす♪」

 

「「「「「「…………………………………え?」」」」」」

 

「せぇー、の────!」

 

「────お、起きてます! 起きていますからヤメテー?!

 

 浦原がジタバタと必死にもがき、マイが手を離す。

 

「どないやクソハゲ? 斬魄刀になった気分は?」

 

「は?」

 

 にやにやとしたひよ里に?マークを出す浦原だった。

 

 その後、『仮面の軍勢』と何人か連絡先を交換して空座町へと浦原とともに帰る前に、ひよ里がチエだけを呼び止めて少し横へと連れ出す。

 

「お、おいお前」

 

「?」

 

「あ、あ、あんま根を詰めたらアカンで?」

 

 気まずそうにひよ里がそっぽ向きながらチエにそう言葉をかける。

 

「…………………木の根を何に詰めるのだ???」

 

 尚、逆ギレしたひよ里がチエを追いかけてはとばっちりを食らう平子の姿が後に出る事となる。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 時期はまだ夏、その日の夜のマイと三月チエは浴衣姿で街を歩いていた。

 

 隣にはいつもの格好の竜貴と黒崎一心。

 

 真咲は双子達と一緒に、一足先に場所を取りに会場へと出ていた。

 

「ふあ~、いっぱい屋台が出ているねー!」

 

「そうね~」

 

「つーか、やっぱ三月って眼鏡無しの方が絶対に会うって!」

 

「そうだよ、せっかく可愛いのにさ」

 

「ま、前向きに検討します」

 

 三月はその夜、『面倒臭い』からと眼鏡を外していた(髪型はそのまま『地味』な二つ編みだが)。

 これだけで印象がかなり変わり、竜貴と一心がさっきから眼鏡着用無しの顔が良いと推していた。

 

「そうね~、何時もとは違う格好も良いかもね~」

 

「二人とも金髪なのに和服似合いすぎだろ? 反則だよそんなの、反則」

 

「それでも真咲の方が良いけどな!」

 

「ハイハイ、一心さんは相変わらずお熱いですねー。 そういうタッちゃんも似合うと思うわよ?」

 

「あー、ダメダメ。 アタシはそういうのあまり好きじゃないから……………というかマイさん大丈夫? 顔色悪いよ?」

 

 竜貴の言う通り、マイの息は何時もより浅く、汗もかなり出ていた。

 

「うん、まあ…………今はブラじゃなくてチエちゃんからサラシを借りているから~、()()()()苦しいのよね~」

 

「「え゛」」

 

 竜貴と一心がもう一度見るとやはりマイの胸は何時ものサイズではなかった。

 

「「……………何で?」」

 

「でないと着崩れしちゃうからでしょ? ………あとさっきから一護が静かなんだけど、ちゃんと付いて来ているの?」

 

 三月が周りを見ると────

 

「────だ、だから手を引っ張るなよ────!」

 

「────ならば遅く歩いているお前が悪い」

 

 ────浴衣姿のチエは、ソワソワしながら目の泳いでいる一護の手首を強引に引っ張っていた。

 

「どうしたんだ?」

 

「竜貴か。 こいつ(一護)はさっきからどう言う訳か、顔を逸らし続けて思わず迷子になりそうだったのだ」

 

 一護のソワソワする姿を見た三月が悪戯っぽく笑いながらうなじをアピールする。

 

「ふぅ~~~~~~ん? もしかしてぇ? ベタな感じで浴衣姿のうなじにドキッとしちゃったとか~?」

 

「ッ……………………………………………………悪いかよ

 

「へ」

 

「あらぁ~」

 

 一護のボソリとした声に三月は呆気にとられ、マイはニコニコしていた。

 

「ハッハッハ! いっちょ前にマセやがって!」

 

「うるさいよ、親父!」

 

 次第に赤くなっていく、照れた一護が父親を睨みつけて、一心(父親)が乱暴に一護の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

「(え。やだ、照れた子供の一護マジ可愛い。マジかわ)」

 

「………」

 

 一心と一護の様子を見ていた無言のチエはただ見ていた。

 

 

 そこから屋台を回ってその日の夕飯を確保する一護達と渡辺一家。

 

「「お待たせー!/しました~」」

 

 三月とマイの両手にはお好み焼き、唐揚げ、焼き鳥、牛串、イカ焼き、たこ焼き、鶏皮餃子、焼きそば、リンゴ飴という、正に屋台全てを回って、今にもはち切れそうな量の食物の入った袋を持っていた。

 

 ちなみにチエは上記の二人に比べたら片手で持てる程の、半分ぐらいといった微々たる量だった。

 

 ………まだ多い方だが。

 

「お、おう…お、多いな?」

 

 そこには数セットの焼き鳥と焼きそばの入った袋を持つ一護がいた。

 

「? 一心殿と竜貴は?」

 

「先に母ちゃん達のいる場所に向かった」

 

「一護君は、どこか知っているのかしら?」

 

「当たり前だ」

 

 騒がしい人混みを進みやすくする為に三月とマイが先頭に歩いて多い荷物を見せびらかすように進む。

 

 その後を追うように一護とチエが歩いては一護が突然小声で話しかける。

 

「なぁチエ」

 

「何だ?」

 

「マイさんって、本当にお前の母さんなのか?」

 

「違う」

 

「そう…………か…………」

 

「どうしたのだ、急に?」

 

 チエが?マークを頭から浮かべて一護の方を向く。

 

「いや、その……凄く仲が良いんだけど、見た目がさ………」

 

「ああ。 私の髪と瞳の事か」

 

 一護がコクンと頷く。

 

 黒髪に赤眼。

 対してマイは三月と同じく金髪碧眼。

 

 父親から受け継いだとなれば納得がいくかもしれなかったが、その線も今の答えで途切れた。

 

「じゃ、じゃあチエはマイさん達とは血は繋がっていないって事か?」

 

「そうなるな」

 

「………………」

 

「何、気にする事でもない」

 

 一護は自分が疑問に思っていた話題がどれだけの物か今気付いたらしく、表情が真っ暗になっていった。

 

「ごめん……変な事聞いて………」

 

「別に。 大丈夫だ」

 

「?」

 

 歩みを止めた一護にチエが振り返って、空いていた手で彼の頭を撫でる。

 

「お、おい!」

 

「私は()()()()()()()()からな。 お前が気にするような事でも無い」

 

「ぇ────」

 

 スッとチエの手が頭から離れてまたカラコロと進みなおす。

 立ったままだった一護は急いで彼女の背中を追う姿をチエが横目でチラ見する。

 

「(そんな所は気にするのに、()()()()のだな? ()()()()()()()())」

 

 チエが思っていた事は数か月前の(グランドフィッシャー)の一件だった。

 

 アレの出来事の(少なくとも一部)を観た筈の一護は一度もチエ達に触れてはこなかった。

 

 チエが三月に「()()()()()()()()()?」と聞いてみたが、彼女は「()()()()()()()よ」と答えた。

 

 チエは知る余地もないが、実はというと一護は以前より更に空手の鍛錬と基礎体力や体作りに熱を注ぎ込んでいて、未だに竜貴には勝てないものの、良い勝負まで持ち込む事は出来ていた。

 

 

「実はというと会場まで来て花火を見るのは初めてなの~」

 

「あら、意外ねぇ」

 

 のほほんとした二人(マイと真咲)とも互いに遊子と夏梨を抱きかかえながら話す。

 

「バクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバク!」

 

「よーし! 勝負だ!」

 

「望む所!」

 

 一心と竜貴がバクバクと食べる三月に感化されたのか、どちらが多く食べられるのか競争を始めた。

 

「パク……パク……パク……パク……パク」

 

 延々と静かに食べるチエと、暴食化した三月を互いに見る一護の顔が引きつく。

 

「す…凄い食うんだな、お前ら」

 

「まあね~」

 

「そうか?」

 

 一瞬だけ割橋の動きを止めてニカッと一護に笑う三月と何時もの無表情なチエ。

 

 ヒュルルルルルルルルルルルルルルルルルル~!

 

 ドォォォォン!

 

 お腹に響く音に会場の人達は全員空を仰ぐ。

 

 そこには次々と夜空に打ち上げられる花火の景色があった。

 

「………………」

 

 チエは無表情のまま空を見上げて数秒後、目を閉じた。

 

「(()()()()()()()……………()()()()()()()……………そして()()()()()……………か)」

 

 彼女は視線を感じ、目を開いて視線の方向の()を見る。

 

「どうした、一護?」

 

「ぁ…………う、ううん…………何でも…………ない」

 

「?」

 

 プイッと一護がチエから顔を夜空へと戻す。

 




作者:気ままに書くと楽ですね~

ひよ里:おいお前!

作者:だから何で関西の人多いのここ?!

ひよ里:関西ちゃうわ、ハゲ! 菓子と茶貰っとくで!

作者:………………………フ、計画通り。 ワサビ味の物を置いていてよかった。 本当はライダー(バカンス体)辺りの対策だったけど────

平子:『────ななな何やねん、これぇぇぇぇぇぇぇ?!?!?!?!?』

ハッチ:『かかかかか辛いデスー!!!』

ひよ里:『あのクソハゲぇぇぇぇ!!!』

作者:………………逃げよ


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第10話 ガ〇ダム………ではなく、「改造魂魄MkII」

少し長めです!

楽しんで頂けたら幸いです!


 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

 時は少し戻り、丁度三月とマイの二人がアメフトのオフェンスセンターよろしく、人混みを突き進んでいる時間に戻る。

 

 あの変なバケモノ()の一件に対しての疑問、勿論一護は無数にあった。

 だが自分の両親に問いただそうにも、ハッキリとした答えは返って来なかった。

 

 恐らくは『自分の為』と親は気遣っていたのだろう。

 そんな彼らに強く出る事も出来ず、一護は出来るだけ自分に出来る事をしていたつもりで、最近は竜貴も徐々に本気を出す事も時々あるようになった。

 

 だがそれでも一つの疑問は続き、今のこの()()()()()()の状況をこれ幸いにと思い、一護は思い切って訊いてみた。

 

「なぁチエ」

 

「何だ?」

 

 チエの何時もの素っ気ないような、興味の無さそうな声が返ってくる。

 

「マイさんって、本当にお前の母さんなのか?」

 

「ついに聞いてしまった」感が強まり、一護の心臓の鼓動は早くなっていた。

 

「……………違う」

 

 チエは数秒後の沈黙の後、そうハッキリと何時もの無表情な態度で答えた。

 

「そう…………か…………」

 

 少し一護は期待していた。

 

 チエからもうちょっと話題を引き出せるのを。

 

「どうしたのだ、急に?」

 

「(う。 考えていなかった……ええい! もうここまで来たんだ! 訊くだけ訊こう!)いや、その……凄く仲が良いんだけど、見た目がさ……… (って何訊いてんだよ、俺は?!)」

 

「ああ。 私の髪と瞳の事か」

 

「(あ、あれ?)」

 

 一護はてっきり素っ気ない答えが返って来るのを覚悟したが、思いのほかにチエはスッと返事をした。

 

 チエの赤眼がジッと一護を見て、彼………………『彼女』のストレートに直された黒髪と浴衣がこれ以上ない程マッチしていて、その姿はどこか彼女にしては()()()()()()()()な恰好だった。

 

「何、気にする事でもない」

 

 まるで「それが?」と言いたそうな、気にしていないような声だった。

 

「じゃ、じゃあチエはマイさんと三月とは血は繋がっていないって事か?」

 

「そうなるな」

 

「………………(でもそれって…………じゃあチエの本当の家族は?)」

 

 一護は自分が疑問に思っていた話題がどれだけの物か今気付いたらしく、表情が真っ暗になっていくのを、彼にしては珍しい深い考えによって無意識な行動だった。

 

「ごめん……変な事聞いてさ?」

 

 そう自然と一護の口から出た。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「別に大丈夫だ」

 

「?」

 

 だがそれも違い、思わず足を一護は止めた。

 が、チエがこれに気付いて振り返り、空いていた手で彼の頭を撫でる。

 

「お、おい! (ちょ、ちょっと何なんだよ?!)」

 

「私は独りに慣れているからな。 お前が気にするような事でも無い」

 

「ぇ────」

 

『独りに慣れている』。

 それは一護にとっては考えられも出来ない事だった。

 この間、もし母を亡くしたとしたら……………

 そう思うだけで胸が裂けそうになる。

 

 それなのに、自分と歳があまり変わらない少女は『独りに慣れている』と言った。

 そんな少女の背中を一護は見ながらこう思った。

 

「どんな事が起きればそう思っても、()()()()()()()()()?」、と。

 

 これにより、チエ達の摩訶不思議な力の疑問など一護の頭から吹っ飛んでいた。

 

 そして場所をとっていた母やと双子の妹たち。

 

 バクバクと凄い量を食べ始める三月とチエ。

 

 それに感化され、競争を始める父親と親友。

 

 延々と食べるチエと三月を互いに見る一護は自身の顔が引きつくのを感じた。

 

「す…凄い食うんだな、お前ら」

 

「まあね~」

 

「そうか?」

 

 ニカッと一護に笑う三月と何時もの無表情なチエ。

 

 まるで自分達の余裕を示すような態度だった。

 

 ヒュルルルルルルルルルルルルルルルルルル~!

 

 ドォォォォン!

 

 お腹に響く音に会場の人達は全員空を仰ぐ。

 

 そこには次々と夜空に打ち上げられる花火の景色があった。

 

「………………」

 

 だが一護は隣にいる、目を閉じた彼女(チエ)が空を見上げて無表情のまま、目を閉じていたのを見る。

 

 その表情はどこか切なく、()()()()ような、初めて見る表情で────

 

 

 

 

 

 

 ────どこか幻想的だった。

 

 そして急に彼女は目を開き、自分(一護)を見る。

 

「どうした、一護?」

 

「ぁ…………う、ううん…………何でも…………ない」

 

「?」

 

 一護がチエから視線と顔を夜空へと戻す。

 

 まさか「絵になっていた」と言える訳も無く、一護はこの時の周りの場面を脳に焼き付けた。

 

 笑いあう母親(真咲)とマイさんと妹たち。

 

 食べ過ぎで苦しそうに猫背になりながら首を曲げて上を必死に見る父親(一心)親友(竜貴)

 

 そばにいる同年代の()()()()()()()()()()()()と彼女の()()()

 

 皆、自分なりに今この時を楽しんでいたかのように、一護には見えた。

 

 ___________

 

 『渡辺』家 視点

 ___________

 

 あの夏の日から数年後、時期は春。

 

 中学校帰りのチエの姿は徐々にだが以前より女性の様になっていった。

 

 主に伸ばした髪の毛で、しかもそのスタイルが以前の様に頭の後ろの一部をヒョロンとしたポニーテールの様に今は腰に届くほど伸ばし、その他の髪の毛は肩までの長さになるまで伸ばしていた。

 

 後は胸をサラシで潰すのが小学生だった頃より少し億劫になり始めたぐらいか?

 

 ただし制服は未だに男性の物を自分で選択して着用していた。

 

 余談ではあるが、彼女の性格と見た目から他の女子達の間で「双竜の王子」の二つ名が密着しつつあった。

 

 これはもちろんチエと竜貴の事を示していた。

 

 情に熱く、腕っぷしも良く、下手な男子より男らしい竜貴。

 気薄に見えてその実は芯の通った、裏表も無く、性別にこだわらずに自分の性格を変えないチエ。

 

 男性、女性と両陣から興味を何かと引く二人だった。

 

「うわ~ん!」

 

「待てウルル! 俺の新必殺技がまだ終わっていない────うげ?!」

 

「ジン太、そこまでにしろ」

 

 チエが自分へと逃げてきたウルルを守るように前に出て、『ジン太』と呼んだ少年を片手で頭を鷲掴みにして、上にあげる。

 

「あいでででででで! 卑怯だぞウルル! チーの姉貴を盾にするなんて!」

 

「だ、だって…………」

 

 少年の名は『花刈(はなかり)ジン()』。

 ウルルと同じく改造魂魄で、彼女(ウルル)と違ってわんぱく怖いもの知らずの少年だった。

 これは『設定ミス』などではなく、「ウルルがあまりにもおとなしくて内気だから次は正反対のモノを造ってバランスを取りましょう!♪」と楽しみながら作業を浦原は進めた結果がジン太だった。

 

「ジン太。 店番中はやめろと言った筈だ。 それに技を使いたいのなら、私に使えと何時も言っているだろう?」

 

「だって姉貴に使っても全然効いているかどうか分かんないじゃん?!」

 

「なら研鑽する事だな」

 

「そんな面倒くせぇ事できっかよ────あいででででででで?!」

 

「ギリギリギリギリギリ!」、とするような勢いでチエがさらに握る力を入れて、ジン太がジタバタと痛がりながら暴れる。

 

「そのようなセリフは一人前になってから言え」

 

 ウルルがおずおずとした様子でチエの背後からジン太を見る。

 

 「や、やーい」

 

「ウルル、テメェ! 後でジン太すぺsh────ああああああああぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?!」

 

 ウルルにしてはジン太に強気に出ると、彼が怒ると同時に万力の様にチエの手に力を更に入る。

 

「チエ殿。 店長から()()が来ております」

 

「またか。 多いな、最近」

 

「空座町はその特性故に、よく虚が出没しますからな」

 

「て、テッサイさん…………こ、今度は危険なの?」

 

 ウルルがそうテッサイに聞くと、彼の顔はムズムズとしながら答えた。

 

「いいえ、ウルル。 ですが特徴が霊力遮断に長けているようですので、この町に配属されている死神では少々苦戦するでしょう。 そしてその虚は昼行性でもあるので()()()同行出来ません」

 

 これを聞き、ウルルがシュンと明らかに落ち込み、テッサイの顔が更にムズムズとする。

 

「テッサイさん、笑顔になっていません」

 

「む。 これでも駄目ですか」

 

 この所、ジン太を浦原が造ったのは単なる興味本位のみではなかった。

 それは空座町が以前より増して虚が出てくるようになって来たのも理由の一つだった。

 

 そして彼は街に配属されている死神が手こずる、または発見しにくいタイプなどが出てきたのならチエ達にウルルかジン太に実戦経験を積めるように秘密裏に同行して処理して欲しいと依頼をし始めた。

 

 二人(ウルルとジン太)は元々、虚を前提にして戦う改造魂魄をベースにした(浦原曰く)、『スペシャル改造魂魄MkII』。

 

 らしい。

 

 思わず三月が「もしかして新素材の研究が進まなかったから、装甲やフレームに旧来の『チタン合金セラミック複合材』を使っている?」と、かなりマニアックな横槍を入れていた。

 

 だが幾ら力があっても、それをフルに活躍できる経験がなければ本番で躓くかも知れない。

 そうならないように、チエ達に「ソウル・ソサエティーに感知されにくい虚相手に経験を積めさせたい」という名目で彼女たちに依頼をした────

 

 

 

 

 

 

 

 ────という理由は半分本当で、もう半分は彼女達を更に分析する為と、ソウル・ソサエティーに自分達(浦原達)の存在に気付かせない事でもある。

 

 そして結果、どんな虚でも感知出来る彼女達のずば抜けた索敵能力、遠距離攻撃が出来る三月、相手を抑え込むマイ、そして()()()()()戦い方をするチエ。

 

 この三人の中ではよくチエと三月が指名される。

 

 チエはウルルとジン太の接近戦の模範として。

 三月はその攻撃手段で援護射撃を。

 

 勿論、これらは無料でしている事ではなくちゃんと対価を浦原から貰っていた。

 

 それはテッサイに鬼道を、そして夜一には歩法と白打を教えて貰っていた(チエ達の三人ともが)。

 

 チエはさっさと浦原にもらった黒い着物、黒い袴、白い足袋、そして草履に着替えてから浦原商店を後にする前にテッサイ達に一度視てもらう。

 

「うむ。 どこからどう視ても立派な()()()()()

 

 チエが今着ている装備は浦原特製の物で、霊圧や姿に気配等を疑似的に『死神』と偽装する物ばかりだった。

 

「き、気を付けてねチー姉ちゃん?」

 

「……………………………帰ったら新しい技に付き合ってくれ」

 

「ああ」

 

 チエが嬉しがるウルルと素っ気ないジン太の頭を撫で、また顔をムズムズと動かすテッサイを見る。

 

「まだ笑顔ではないな」

 

「難しいものですな…ではいってらっしゃいませ」

 

「ああ」

 

 そしてチエはまた空座町へと出る。

 

 もし配属の死神が空座町の異様さに気付く、または虚に手こずるとしたらソウル・ソサエティーは調査をし始めかねない。

 

 なら「裏で厄介な虚は始末して、『普通の町』と情報を偽った方が有利」と思っていた浦原の策の一つでもあった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「(あー、どうしよう)」

 

 チエと同じく中学生になった三月はこの頃モノ凄く悩んでいた。

 

『何が“地毛なんです!”だ?! 新入生のくせに生意気なんだよぉ!』

 

『おら! 染めているんだろ?! バケツの水で洗い流してやるよぉ!』

 

『というかヅラじゃね? 取ってやろうぜ! 頭だけロッカーの中から出せよ、こらぁ!』

 

 ガシャガシャガシャガシャガシャ!!!

 

『や、やめて! い、痛い!』

 

 三月は女子トイレから聞こえてくる声と、中で恐らく起こっている出来事に悩んでいた。

 

 だが悩んでいたのはこの事を『無視するか否か』ではなく『どうやって()()()()()()()()()()()()()()()()』だった。

 

 ()()なら竜貴がもうそろそろ助けに入ってもおかしくない時期なのだが、彼女がこの出来事に気付いた節はまだ見えなかった。

 

 そしてもし、女子トイレの中の人物が助けられていないままイジメを受け続けるとしたら、何時かは学校に登校拒否をする状態も考えられる。 

 

 ()()()()の状態を考えれば容易に想像できた。

 

 だがそんな事になれば()()()()の行動が違って来るのかも知れない。

 そんな事になれば恐らく『原作本来の流れ』から大幅に違ってくる。

 

 最悪、修復不可能に。

 それ程の中核を担っている人物なのだ。

 

『黒崎真咲』とは今回、色々と訳が違う。

 何故なら()()が目覚める筈の能力は正真正銘、『()()()()()()()』の『因果逆転』という『大技』。

 

 つまり『この世界の修正力』の対象外となる『魔法』であり、これは三月の知りえる限り、『()()()()』で()()()()()()()()()

 

「………………よし」

 

 三月は周りに人がいないかどうか確認してから、()()()()()()()()()()()()()()()()後、女子トイレの中へと特攻する。

 

「ほら、他の奴らはロッカーを開けろ! バケツに水を汲んでk────ぐへ!」

 

 バケツを持った上級生の首に手刀を食らわせ意識を刈り取り、落ちそう人あったバケツの中身を振り向こうとする他の上級生に浴びさせた。

 

「ぐあ?! つめてぇ?!」

 

「な、誰d────ゴハァ?!」

 

「────ぐぇ」

 

 三月が怯んだ一人のお腹を蹴って彼女をもう一人の上級生とともに壁へと飛んで衝撃から二人が気を失う。

 

「ふざけんなよ、この()()────グヒィィィ?!」

 

『チビ』は余計だ!

 

 三月が最後の一人の捨てセリフに思わず鳩尾にパンチを食らわせながら反論する。

 

 これは前の世界(Fate stay/night)の所為か、身長が小学6年生の頃から成長をあまりしなくなった。*1

 

 一応その気になれば無理矢理『成長させる』事も可能だが………………

 

 そんなごり押しはメリット(自身のプライドと見栄)よりデメリット(世界の修正力反動)が大きいので、成長は()()()、かつ微々たる具合に施していた。

 

 それでも基準よりは小さいが。

 

 さっき無意識にとは言え、声を出してしまった事に一瞬三月が後悔したが、今は何時もとは違う見た目の上にいつもとは違う口調と声のトーン。

 

 ()()()()()()()

 

 そう思った三月は早々にその場を立ち去ろうと、踵を返し────

 

「────だ、誰?」

 

 ────トイレのロッカーの中から苛められていた()()の声に三月が思わず足を止めた。

 

「………………」

 

「えっと……助けてくれて…………………ありがとうございます」

 

「ッ……………………」

 

 口を一瞬開き、何かを言いそうになる三月だったが、すぐに口を閉じてそのままトイレを後にしながら髪の毛を現在の『ウェーブの掛かったっぽい金髪』から元の二つ編みに戻してから眼鏡をかけ直した。

 

「(次は、()()()()か)」

 

 三月はその日から早速()()()()()()()()()を『死んだ』から『重体』へと変えるように情報と作戦を練り始める。

 

 彼女の名は『井上織姫(いのうえおりひめ)』。

 

『原作』の『ヒロイン』で、能力の名は『盾舜六花(しゅんしゅんりっか)』。

 主にサポート役に特化した高い防御力と()()()()に特化した力。

 特にこの()()()()が『原作』の要と言っても過言では無い筈。

 

 そしてこれらは彼女の性格と、()()()()()()()()()により覚醒する能力。

 

「(だが真咲さんの例もある。 一護が『何かを護る』といった信念を、覚悟を持てたみたいに何とかなる筈。 要するに、彼女の兄が死なずに『誰にも怪我をさせたくない、護りたい』と彼女を強く思わせば救える……………筈)」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 三月の『クラーク・ケ〇ト』介入の数週間後、チエは珍しく三月に気遣っているような言葉をかける。

 

「本当に休まなくていいのか? 酷い有様だぞ?」

 

 隣の三月は化粧で寝不足や青白い肌を何とか隠していたが、酷くやつれていた。

 

大丈夫…………ちょっと()()しただけ

 

 そして何時もはハキハキと喋る彼女はか細い声で返した。

 

 チエと三月が周り角を曲がって、見上げた三月の体がビクリとして歩みを止める。

 

「?」

 

 チエが彼女の視線の方向を追う先には三月以上にやつれた胡桃色の髪の毛をした女性がフラフラと廊下を歩いていた。

 

 井上織姫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、彼女の兄である井上昊(いのうえそら)は死んでしまった。

 

『原作』で彼が交通事故で亡くなった事は知っていたが、詳しい事は覚えていなかった。

 

 と言うか『描かれた』様子が無かった。

 

 故に、彼が通勤しているルートをマイか自分のどちらかが夜一達に監視されていない時に調べ、事故に合いそうな交差点や歩道と道の境目が狭い場所などを重点的に隠れながら待機した。

 

 だが彼は自分達の尾行に感づいたのかある日、何時もとは違うルートを取り、彼を必死に探している間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()様子に出くわした。

 

 井上織姫の兄、井上昊は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかもその日は三月が仮病を使った日で、彼の遺体が救急車に運ばれる瞬間、顔を覆った布がめくれて彼の生気の無くなった目が、三月を訴えるかのように見ていた気がした。

 

 その事を思い出しだけでも、三月は嘔吐した感覚を未だに喉で感じながら思った。

 

「これは恐らく『世界の修正力』だ」と。

 

 思い返せば、三月の身の回りだけでも既に『原作』とは違う場面や状況などが見られた。

 

 黒崎真咲は未だに健在。

 一護は未だに空手を続けている。

 ウルルは『原作』ほど気弱ではなく、ジン太と共に虚と会っても我を失わずに戦う事が出来るようになった。

 テッサイは『笑う』事と、家事を学習しようと努力していた。

『仮面の軍勢』がちょくちょくと空座町(と言うか浦原商店と渡辺家のアパート)に来ては泊まっていった。 そして三月達も泊りがけで休日には向こうに行く事もしばしば。

 後、以前ウルルの前で猫から人に変身した夜一のおかげで『夜一=黒猫』とウルルとジン太が知っていて、彼女に懐いている。

 

 等々など。

 

 ………………こうやって記すと、『力』をそう使わずとも『原作』からかなり離れた『背景』が出来上がっていた。

 

 そしていざ三月が手を直接加えようとしたら()()()()である。

 

「(つまり『表舞台』に修正がかかり始めている?)」

 

 そう必死に思いながら、申し訳ない気持ちと共に三月は数日間を過ごした。

 

 尚、心配する周りの人達やクラスメートには新しいダイエットに挑戦していたが過激過ぎてやつれたと笑いながら説明した。

 

 それでも彼女はめげずに頑張る事を決めていた。

 

 皆が出来るだけ幸せになれるように。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

*1
別作品、「天の刃」より




作者:やっと次話から原作スタート! ……………かも

ツキミ(天の刃体):なんやねん最後の煮え切らへん一言は?!

ひよ里:せや! シャキッとせんかい?!

平子:ここまでくるともうここが関西でええんとちゃう?

作者:あああ、めっさ緊張してまう!

リサ:………そうに見えへんけど?

作者:なんなら胸に耳当てて聞く? 心臓の鼓動

リサ:巨乳になってからもっかい来てみ?

作者:うううう……………次話遅くなるかも知れませんが、頑張ります!

市丸ギン:いや~、めっちゃ渋滞やったわ~

作者:え? 今頃来たん? もう後書きコント終るで?

市丸ギン:………………………………射殺せ、「神鎗」

作者:ダンスはあまり得意じゃないんやけどー?! ギャース?!?!?!


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Early Childhood - 原作開始、『死神代行篇』
第11話 同居人、参上


お待たせしました!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場所は夜空の下の空座町の民家の一つ。

 

「何だこれは?」

 

 その民家の屋根の上で独り言を上げる黒い着物に身を纏った黒髪で紫色の目をした少女は辺りを見回していた。

 

「虚の気配は確かにある…………だが()()()()()()()()とはどういう事だ?」

 

 この少女の名は『朽木ルキア』。

 

 ソウル・ソサエティから派遣され、前任の死神から継いで担当地区が空座町になった現世駐在任務の為に来たばかりの新米ペーペー同然の死神。

 少なくとも現世(人間世界)での活動は。

 

「(だが私も来たばかり。 『教本通りではない事など日常茶飯事』とは良く言ったものだ)」

 

 ルキアは一人で自身を納得させ、虚の霊圧の強さを頼りに屋根を蹴って宙を舞って霊圧の強い一つの民家に降り立った。

 

「(ここには(プラス)が住み着いているのか? ならばここに虚が現れるやもしれん)」

 

(プラス)』。

 通常の霊魂、いわゆる『幽霊』だが何かに強い未練がある場合で成仏せずに現世に留まる魂の事で虚にとっては格好の餌食。

 

「近い!」

 

 ルキアは虚の気配が強まって行くのを感じ、隣の部屋を横切ろうと────

 

「────『近い!』、じゃあるかボケェ!!」

 

 ドゴン!

 

 ルキアは後ろから蹴飛ばされていた。

 

 ___________

 

 ルキア 視点

 ___________

 

「……? ?? ???

 

 後ろから突然蹴飛ばされたルキアは、来た衝撃によって何が何だか分からなくて目を白黒させた。

 

 そして彼女の前にはオレンジ色という、派手な色の髪の毛の()()が腕を組みながら見下ろしていた。

 

 実はと言うと、ルキアにこの少年は眼中に無かった。

 人間の存在など、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「不法侵入って言葉知ってっかコラ? 説明してやろうか? あ?」

 

 そしてその()()はルキアを呆れたような表情で見下ろしていた。

 

「(あ、ありえんが…まさか────)」

 

「────ったく……何でわざわざ()()()()()()()()()()? ビックリすんだろうが。 来るなら普通に玄関から来いよ」

 

「ッ?! き、貴様……やはり私の姿が視えるのか? て、て、て、ていうか今、蹴り……蹴りを────」

 

 ────ありえん。

 

 この人間の少年は、どこからどう見てもただの人間の筈。

 ならば何故、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ? 何当たり前の事を言ってんだ?」

 

 そこでドタドタとした足音と共に中年の男が少年たちのいる部屋に入って来る。

 

「うるせえぞ、一護! 何時だと思っている?! 二階でバタバタすんな、近所迷惑────ゴフェ!!」

 

「やかましい! これがバタバタせずにいられるか!! 見ろよコイツ────あ、そうか。親父には視えなかったんだったな」

 

「(やはり父親か。 しかし、実の父親の顔を蹴るとは……)」

 

「畜生! また幽霊かッ?! 自慢なのかっ?! 自慢なんだなッ────痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」

 

 実の父親をゲシゲシと蹴り始め部屋から追い出す一護。

 

「近所迷惑なのはテメェだ、へっぽこ医者!」

 

「(やはり異常だ。 この少年……死神である自分に触れ、話しかけるだけではなく『常人には視えないもの』として認識している)」

 

 ルキアは黙りこくって親子のやり取りを眺め、少年の父親が部屋から出ていって(追い出されて)から、ルキアは口を開いた。

 

「貴様、死神の存在を知っておるのか?」

 

「死神ぃ? あれか? 鎌を持ってて、命を奪うっていうアレか?」

 

「(人間は死神という存在を誤認していると霊術院で教わったが………それは今の時代でも健在か)」

 

「まあ、お前の言う『死神』ってのがお前みたいな着物着て、刀を差して、()()()()()()()()を使うっていうのなら時々街で見かけるぜ?」

 

「(………………何という事だ)」

 

 ルキアは唖然としていた。

 

 前任者からの報告では『この町(空座町)は割と普通で、穏やかで、楽な 良い街だ』と書いてあった。

 

 だが目の前の少年のような異常事例がよりにもよって新人の 経験の浅い自分が出くわすとは。

 

「(だがそれ以前に、前任者がこの少年に気付かなかったのが悪い! 何をしておったのだ? 間抜けか、あ奴は?!)」

 

 丁度その時、()()()サボリがちになった一人の死神が瀞霊廷で盛大なクシャミを出した。

 

 

 ___________

 

 三月、チエ 視点

 ___________

 

「本当にこれで良かったのか?」

 

 死神化した一護が初めて斬魄刀を振るって虚を倒し、力尽きたように倒れ伏した一連の出来事をチエと三月の二人が隠れながら見ていた。

 

「うん、予定通りよ。(ここまでは『原作』通り………まあ、一護が突然現れたルキアに対してギャアギャア騒がなかった事は仕方ない事として────)」

 

 ────三月が見ている先では、白装束を血で染めた朽木ルキアが途方に暮れたように座り込んでいた。

 

「……………どうすれば良いのだ、私は?」

 

「お困りのようっスねぇ」

 

 そこに浦原の声と共に彼の下駄が聞こえて、ルキアが身構える。

 

「……何者だ、貴様」

 

「(あー、成程ね。 こういう接触があったのか)」

 

 三月の知っている情報(原作知識)彼女(ルキア)と浦原は知り合いっぽいところなどが描かれていたが、ルキアは彼の事を知らな過ぎた場面もあったので漫画を読んで 情報収集を行っていた時に感じていた疑問が今一つ解消された。

 

 ちなみに今の二人(三月とチエ)は文字通り透けていて、存在自体が消えるか消えないかぐらいの瀬戸際にいた。

 

 これは勿論、一連の出来事が『原作』通りに進むか否か確かめる為の確認である。

 

「(というかこれやっぱりキッツイわ、これ!)」

 

 三月は汗を大量に体中から噴き出していた。

 これは別に気温が暑いからではなく()()()()()を無理矢理使用しているからである。

 

この世界(BLEACH)』でも同じような術や技や技能があり、それらを使えば自己負担はかなり軽減されるが、それでは頭脳明晰な彼(浦原喜助)に感知される可能性が高い。

 

「さてと」

 

 浦原が軽い出血止めの回道を気の失ったルキアと一護に施して、携帯電話を出す。

 

「(これで浦原商店の人達に連絡して、ルキアの()()義骸を────)」

 

 ────そして突然三月の隣から何故かマナーモードの携帯電話特有の振動が鳴り出した。

 

「む? 誰だ、この時間、私に電話をして来るのは?」

 

「………………え、何で?」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「いやー、流石『死神モドキ』! さっきのは何なんスカ? 『曲光』じゃないッスよね?」

 

「………『曲光』を()()()()()()()奴よ」

 

「へぇ~? それはそれで興味をそそるッスねぇ」

 

 結局電話の相手はやはり浦原で、ルキアを浦原商店に連れ戻す『依頼』を受けた二人(チエと三月)だった。

 その間、浦原は虚との戦いの後始末を受け負った筈だが………何故か三月達と一緒に浦原商店へと帰って来て『さっきの事』を聞いて来ていた。

 

「浦原さんの方はもう大丈夫なの?」

 

「ええ、もう終わりましたよ?」

 

「(図ったな、シャ────じゃなくて、『浦原』!)」

 

 浦原商店でルキアはテッサイによる治療を受け、目を覚ました彼女は大層混乱していた。

 が、浦原の説明により遥か以前から『窮地に陥った死神が本部に知られたくない時、御用になる商人』と自己紹介をした。

 

「成程、闇商人という奴か」

 

「いやいや、アタシは自分の事をそんな風に思った事は一度も無いッスよ? ただあちら側(ソウル・ソサエティ)が勝手にそう決めつけているだけですよ。 はっはっは」

 

 あまりよろしくない顔をするルキアにあっけらかんと笑いながら答える浦原。

 

 そしてその隣には何故かチエと三月の姿があり、ルキアはその二人を見ていた。

 

「…………彼女達が気になりますか?」

 

「無論だ」

 

「アタシのじょs────」

 

「────雇われの身です」

 

「いえいえ、アタシの助手────」

 

 「────雇われの身です!」

 

「そ、そうか」

 

 ムキになりそうな三月と浦原にルキアは顔を引きつかせ、彼女の視線は自然とチエの横に置いてある何時も持ち歩いている布に巻かれた()()へと移る。

 

「………前もって伝えるが、()()ではないぞ」

 

「ッ」

 

 ルキアがサッと目を別の場所へと移す。

 

「さて。 本題に入りましょうか?」

 

「?」

 

 そこから浦原はルキアに霊力をほぼ全て失っている事を確認し、支給されている護廷の義骸では回復する見込みがないと説明をし始める。

 

 勿論初対面の浦原を信用する訳でも無いのだが、今のルキアの思考はかなりごちゃごちゃになっていた。

 

 彼女は死神の力である霊力を失った事にガッカリしていた半面、過去の出来事からホッとしながらどこか受け入れていた。

 後者は無意識ながらで、自覚は全く無かったが。

 

「そこでです。 通常とは違う機能の良い義骸、お貸ししましょうか? お代は………そうですね、魂魄の回収やその後始末、虚の対処で手を打ちましょうか?」

 

「それ…………は…………」

 

 今浦原の提案した『お代の代わり』は死神の『現世駐在任務』と大差無いものだった。

 

 つまりルキアが何とか任務さえ続行すれば()()()()()()を無料で借りられるという事。

 

「それにいざとなれば雇われの身の二人も仕事のサポートを致しますよ? 勿論、極秘でしかもアナタの任意で」

 

「ちょっと待って、何で私達まで勝手に巻き込むの?」

 

「「駄目?/か?」」

 

 浦原とチエが同時に頭を傾ける。

 

「……………何で(三月)が悪い奴みたいになっているのよ?」

 

「…………………」

 

 それは今の状態のルキアにとって、あまりにも甘い誘惑だった。

 

「(うっわ。 ちょっと分かっていた事だけど、浦原ってエグイわねー)」

 

 三月がジト目でニヤつく浦原と複雑な顔のルキアの二人を互いに見る。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「朽木ルキアだ。 よろしく」

 

 次の日、ルキアは無事に空座第一(からくらだいいち)高等学校1年への転入生となり、クラスに挨拶をしていた。

 

「気になっている奴も多いだろうが、朽木は渡辺姉妹の遠縁の親戚だそうだ。 苗字が違うのは別々に暮らしていて………まぁ、あれだ。質問ある奴は休み時間にでも本人にでも聞いとけ」

 

『原作開始』から一夜、三月とチエは義骸に入ったルキアと共にマイに見送られ、渡辺家のアパートから高校に向かった。

 

 最初同居する事に異を示したルキアだが新米 現世での浅い経験の彼女は無一文の身。頼れるところが胡散臭い闇商人の元か、(少なくとも)他人同然の彼女達(チエ達)か………………

 

「じゃあ野宿しまスカ?」と尋ねた浦原にほぼ即答でルキアは「渡辺家で良い!」と答え、取り敢えず一夜を過ごした。

 

 次の日、登校する際一護の近所は避けて、高校の職員達は浦原の偽造行為を信じ込んでいて、転入手続きも済んでいた。

 

 ちゃっかり「緊急料金は別に取りますので♪」というメモもアパートのポストに入っていたのを発見しては紙飛行機を作り、三月が飛ばした。

 

 そんな事をせずとも携帯には既に仕事の依頼メッセージが届いていたので尚更だった。

 

 先生の緩く、明らかに説明を面倒臭がった言葉でホームルームは締められ、チエと三月とルキアは興味を煽られたクラスメイト達に質問攻めにされた。

 

「へー! チエと同じで黒髪なんだ~」

 

「でも目が紫色…………良いわ~」

 

「『姉妹』って、チエって本当に女子だったんだね」

 

「だから何故私を男と思う者が居るのだ?」

 

「朽木さんの喋り方、どことなくチエに似ているな?」

 

「「む。 駄目か?」」

 

「「「「ハモったー!」」」」

 

 ワイワイと騒ぐクラスメイト達の一人が三月に声をかける。

 

「でもでもー、朽木さんってどちらかと言うと体型が三月ちゃんに似ているねー」

 

「グッ」

 

 三月が俯いて、なるべく顔を合わせないようにしていた。

 

「織姫の言うとおりだな…………ちなみにどっちの方の背が高いのかな?」

 

「無論、私だ」

 

「フフン」とちょっと(?)ドヤ顔をしながら、(ない)胸をルキアが張る。

 これはルキアの分の制服を三月が貸そうとして判明した事である。

 

 元々空座第一高校女子制服のスカートの丈は長くない方だが、ルキア(144cm)三月(140㎝)のを着ると、超ミニスカと化してしまったのだ。

 

 たった4cmといえど4㎝(物理的壁)に三月は項垂れた。

 顔文字風に表すと「○/ ̄乙」である。

 

 なので、ルキアは今チエの予備を着用している(スカートの方)。

 

「へー。まるでチエと三月を足して、2で割ったような感じだねー」

 

 等々の事が起きてルキアはどちらかと言うとクラスに割とあっさり溶け込めた、『原作』と違って。

 

 三月の痛む胃と悩み事からの頭痛を配慮しなければ。

 

 何せルキアは現世での義務教育を受けていない。 せいぜいが簿記のようなもの。

 数学や文法に頼る授業は何とか凌いだが、英語などはもう破滅的だった。

 

 必死に念話を飛ばさず、メモにローマ字で発音などを書いたので授業どころではなかった。

 




作者:ふい~、取り敢えず一話投稿

マイ:はい、プレッツです~

作者:ああ、やっぱ駄菓子良いな~

ルキア:おい、ここはどこだ?

作者:ういぃぃぃぃ?! ナンデココニ?!

ルキア:いや、開いていた扉から声が────

作者:────マイさん、ルキアがお帰りになります!

マイ:は~い

ルキア:な?!ちょっと待て?! 私を離せ! おろさんか、戯け?!

マイ:小っちゃくて扱いやすいわ~

ルキア:『ちんちくりん』は余計だ!

作者:誰も言ってねーし…………


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第12話 眼鏡と、初めての仕事

次話です! Foooooo!


 ___________

 

 三月、チエ 視点

 ___________

 

「一護の奴の心配か、織姫?」

 

「ふぇ?! 竜貴ちゃん、もしかしてエスパー?!」

 

「んな事ないっての。 織姫の顔に出ていたよ? 『アイツ(一護)の事を考えていましたー』って」

 

「そ、そうかな……えへへ~」

 

「(うーん、原作通りでこれはこれで良いのかな?)」

 

 三月は織姫と竜貴の話をそれとなく聞いていた。

 

 織姫は(イジメ)の日以来、特に自ら接する事などしなかったし、声もなるべく当時のとは違うように三月はしていた。

 

 それが功を表したのか、彼女は竜貴と仲良くなり、ずっと一護一筋を示していた。

 

 だがそれよりも────

 

「────おはようございます、井上さん」

 

「あ、石田君おはようー」

 

 ()()()()()()()()に「ビクゥ!」と体が跳ねるのを、三月はグッと堪えて顔を俯けていた。

 

「珍しいね、石田君が遅れるなんてー」

 

「ああ、昨日ちょっと夜更かしをしてね」

 

 三月は汗がダラダラと出ながら顔が赤くなっていくのを感じ、横を石田と呼ばれたクラスメイトの少年が横通るのを待った。

 

「? 渡辺さん、大丈夫ですか?」

 

 三月の具合に気付いた彼の気に掛ける声で更に赤くなっていく。

 

「ア.ハイ。ダイジョウブ。デス。ハイ」

 

「?」

 

 この様子の三月と石田のやり取りに竜貴がニヤニヤとする。

 

 この少年の名は『石田雨竜(いしだうりゅう)』。

 

 彼は黒崎真咲のように数少ない『滅却師』の一人であり、空座高校の手芸部部長でもある。

 

「ねえ竜貴ちゃん? 何で三月ちゃんって、石田君の周りだとああいう風になるのかな?」

 

「さぁ? もしかして青春かもね~」

 

「???」

 

 未だにニヤニヤする竜貴の楽しそうな答えに対して織姫はただ?マークを出していた。

 

 実はと言うと、織姫の所為で三月と雨竜は面識があるのだが………

 

 この話は少し後に続けるとしよう。

 

「あれ? 織姫達聞いていないの? 何か一護ン家、トラックが突っ込んだらしいよ?」

 

「うぃえ?! な、なんだってぇ?! じゃ、じゃあ何?! 一護の奴、死ん────?!」

 

「────でねえよ」

 

 慌てる竜貴に一護の声と共にカバンがぶつけられ、青くなっていた織姫の顔がパァッと輝き出しながら赤くなっていった。

 

「くくくく黒崎君! お、お、お、お、おはよう!」

 

「お、おう? 今日も────い゛?!」

 

 席について座ろうとした一護がそこで固まり、彼の視線を辿った竜貴が察する。

 

「あぁ…」

 

「遅かったな、黒崎一護」

 

「おまっ?! なっ?! へ?!」

 

「(あー、これは『あの』流れね………これ位は変えても良いかも知れないか────)」

 

『────チエ、聞こえる?』

『三月か、何だ?』

『一護を校舎裏に誘って。 私はルキアを誘うから』

『分かった』

 

 そこで突然立ち上がったチエが一護の席へと歩いて、彼の動揺する言動を無理矢理遮る。

 

「おい一護、少し顔を貸せ」

 

「ちょ、おま、どこの不良だよ?! そもそも────!」

 

 ドンッ!

 

 チエが一護の机を手できつく叩き、彼のしどろもどろする顔に自身の顔を急接近させながらもう一つの手で彼の顔を無理矢理自分へクイッと向けさせる。

 

 一護の眼は泳ぎ続けて、決してチエと合わせないようにしていたが。

 

 そして今の二人の鼻と鼻の距離、僅か数センチ。

 

 「良いから黙って来い」

 

「……………………………………………………………………………………………ハイ」

 

 未だにチエに強く出られず、畏まる一護だった。

 

 この一連の出来事を見ていた周りの女子達は「キャーキャー」と黄色い声を上げ、その中でも数人は鼻を両手で押さえながら妄想を膨らませていた。

 

 そして数人の男子は恨めしそうに一護を睨んでいたか、涙を堪えながらハンカチを噛んでいた。

 

 尚チエは未だに男性の制服を着用していたが、周りの人達が中学の頃からの知り合いなどが多かったので小学生時代のように彼女の性別を間違える者はかなり少なかった。

 

 だがやはり彼女の性別関係ない言動は未だに健在で、そんな彼女がこんな風に誰に対しても強く出られる事が未だに『双竜の王子』と呼ばれる要因の一つだった。

 

「ルキア、ちょっと学園を案内するけど興味ないかしら?」

 

「ん?」

 

 ルキアは声をかけて来た三月を見て、チエに半場引っ張られていく一護の様子を見る。

 

「成程。 そうだな、少し歩き回りたいな」

 

「って、一護達に続いてあんた達二人はどこ行くの?」

 

 ガタッと立ち上がるルキアと三月に竜貴が声をかける。

 

「や、だからルキアに学園の案内」

 

「今から?」

 

「今から」

 

 竜貴がジト目を一瞬向けて、諦めた様に溜め息を出す。

 

「ハァ~………………理由、どうする?」

 

「……………………腹痛?」

 

「了解っと。 ()()()弁当箱三つで受け持つわ」

 

「交渉成立ね。 何時もありがと、竜貴」

 

「ん。 おかずを期待にしているよ」

 

 スタスタと歩く三月と?マークを出しながら後を追うルキアが教室から出ていく。

 

「さっきのあれは何だったのだ?」

 

「ああ、あれ? 取引」

 

「???」

 

 ルキアは昨日の今日で渡辺家の朝ごはんしか経験していないが、子供の頃からの付き合いがある竜貴や黒崎一家に渡辺家の全員が料理を割と得意にしていたのを知っていた。

 

 そしてその中でも竜貴は弁当箱やおかずの代わりに頼み事を聞くようになっていて、今回の様に『用事』がある時などチエや三月の代わりに先生への言い訳をしてくれていた。

 

 ぶっちゃけ、サボリの共犯者である。

 金ではなく、食物に買収された共犯ではあるが。

 

 二人が校舎裏へと向かう途中、授業のチャイムが鳴ったが、それを無視して進んだ先に、無理矢理連れてこられた一護は不機嫌の中でも超不機嫌で、どれ位かと言うとチエの目を見ながら睨む程。

 

 そんな彼がルキアと三月を見て、自分の不機嫌さを露わにしながら口を開けた。

 

「で? ここに俺を連れて来て、どうするってんだ?」

 

「だから説明をするの。色々と。 と言うかルキアからのきつい、毎回意識を取るようなパンチとかを回避させたんだから感謝して欲しいわよ

 

「「???」」

 

 三月の最後の方の声は小声での独り言で、一護とルキアには聞こえていなかった。

 

「…………大事な事か?」

 

 一護がそう他の三人に問う。

 

「うん。 大事だよ?」

 

「………………ったく、しょうがねぇなぁ」

 

 一護は自らの頭をガシガシと掻いた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ルキアをメインに、一護に話した内容は死神とソウル・ソサエティ、虚の事と今のルキアには死神の力が無く、その代わりに力を受け取った一護に死神の仕事を手伝って貰わなければならないような状況の事を。

 

「今の私に戦う力が無い以上、私はこの仮の体で過ごさなければならない。 虚退治にこの二人も手伝ってはくれるが、あくまで手伝いだ。 担当外の者にすべてを任せる訳にもいかぬ」

 

「その線で行くと、俺も『担当外』って枠に入るんじゃ────?」

 

「────何を言うか、戯け! この町の担当である私の力を受けた時点で私の仕事は貴様の仕事同然なのだ!」

 

「んなっ?! そ、そんな屁理屈………」

 

「(ごもっとである。 と言うか今のルキアのセリフ、何気に最古のガキ大将(ギルガメッシュ)に似ていたわね~。 こう、『貴様の物は、我の物!』的な)」

 

 完璧に余談だが、別の世界で盛大にくしゃみを出した金髪青年がカソックをした神父と孤児の子供達に気を使われていた気が三月にしたが………………彼女はそれを無視する事にした。

 

「(さて、『原作』では渋々、仕方なく仕事を徐々に受ける一護、今はどうなるとやら? やっぱり『やってらんねーよ!』って突っぱねるのかな?)」

 

 考え込む一護を見ながら三月はそう思っていた。

 

 だが────

 

「────いいぜ。 死神の仕事、受けてやろうじゃねえか」

 

「(うんうん、やっぱり断るよn────)────え゛

 

「ほう? 意外だな。 なかなか話の分かる奴ではないか?」

 

 一護の顔は何時か見た、『覚悟を決めた者の眼』をしながらチエと三月を互いに見ていた。*1

 

「……………恐く、ないのか?」

 

 ここでチエが自ら喋り出して、意外そうに一護が彼女を見てから再度言葉を出す。

 

「そうだな、怖えさ。 だけどこの力が手に入った途端、こんな風に色々と俺にここまで話してくれたって事は、子供の頃に見た化け物の事も俺が聞いていいって事じゃねえか?」

 

「???」

 

 ルキアがチエと三月を互いに見る。「何の事だ?」と言いたげな表情で。

 

「そうだね」

 

「あー、安心した! やっぱあれは夢じゃなかったんだな!」

 

「だから何の事だ?」

 

「………ルキアにも話しておこう。 あれは数年前、私が────」

 

 そこからチエはルキアと一護に、以前のグランドフィッシャーの出来事を一から話し始めた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「そんな事があったのか…………」

 

「…………やっぱり、お袋と俺を襲ったのはそのホロウって奴で間違いないのか」

 

「そうだ」

 

「…………ありがとう、チエ。 そしてすまない、俺が………俺が頼りなくて、力が無いが為に怪我をさせちまって」

 

「気にするな。 頭を上げろ。 虚は視えても、どうにか出来るモノではない。 故に他者や、自分を責めるな」

 

「……………やっぱり、その口調からすると………親父もおふくろも知ってはいるんだな? あの時襲った化け物の正体を知っていて、俺に『二度とあんな様な奴に近づくな』って言って、お前達二人にも聞くなって耳にタコが出来るぐらい言われていたからな…………」

 

 そこで一護がニカッと笑った。

 

「けど、力を手に入れた! これで俺も()()()()()()! 怖えけど、同時に俺は嬉しいんだ!」

 

「…………そうか」

 

 一護が声を出したチエの方を向くと、ギョッとした。

 

 それは彼に釣られてチエを見た三月も同じだった。

 

 彼らの目線の先では()()()()をしていたチエがいた。

 

「よかったな、一護。(悔しかったのだろう、『力が無い』と言うだけで知る事も出来ずにただ周りに保護される事が。 『一護』と言う名に恥じぬ度胸だ)」

 

「………………………………………………」

 

「か、カメラカメラカメラカメラカメラカメラ!」

 

 一護がポカーンとして、三月が慌てて携帯電話のカメラ機能でこの表情を撮ろうとするが、時はすでに遅し。

 

「??? どうしたのだ、二人とも?」

 

 チエの顔は何時もの眠たそうな、興味の無いような表情へと戻っていた。

 

 そこで突然、ピーピーとルキアの伝令神機の音が鳴った。

 

「ッ! 一護、さっそく仕事だ!」

 

「え? あ────」

 

 ルキアが悟魂手甲(ごこんてっこう)を手に装着して呆けていた一護に使うと、死神姿の彼が現れる。

 

「どう? 私達の手伝い、いるかしら?」

 

「……………………いや、私達だけで対処しよう」

 

「分かったわ。 電話、何時でもしてね?」

 

「行くぞ、一護!」

 

「あ。お、おう────」

 

「────一護」

 

「ん?」

 

 チエが駆け出しそうになる一護に声をかけ、彼は足を止めて彼女に振り返る。

 

()()()()()()

 

「……………ああ!」

 

 そこから一護は笑みを上げながらルキアと共に空座町へと走っていった。

 

「………行ったな」

 

「行ったわね」

 

「「………………………」」

 

「して、これからどうするのだ?」

 

「しょうがないからこのままサボろうか?」

 

「………………は?」

 

*1
第6話より



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第13話 レテロゲームと改造魂魄、そしてMIB。 の巻き

 ___________

 

 三月、チエ 視点

 ___________

 

 魂の抜けた一護の体を隠して、三月は空を見上げては隣で目を閉じて座禅をするチエに対して溜息を出した。

 

「(やる事が無い!)」

 

 最初の一時間ほどチエと何気ない話をしていたが、ほぼ毎日の夜にしているような会話なので話題はすぐに尽きた。

 

「………練習しよ」

 

 そこから三月はテッサイから習っていた鬼道の一つ、正に『曲光』を使って姿を隠してから()()()()()()鬼道を使って()()()()()

 

 その姿が見える第三者が居れば、懐かしきゲームを思い出すだろう。

『ギ〇ラガ』や『パックマ〇』に『ミサイルコマ〇ド』などを鬼道で再現をしていた場面を見れば。

 

「ほう、かなり良い『曲光』じゃのぉ」

 

「ぎゃあああああああ?!」

 

 突然横からくる声に三月がびっくりしてボス・ギャラ〇にプレイヤー機が撃墜される。

 

「まったく見た目に釣り合わぬ声じゃ」

 

「『夜一に言われたくない』、と三月なら言うだろう」

 

 チエが目を閉じたままそう言う。

 

「そうよ! 夜一さんに言われたくないわよ!」

 

 三月が声の方を見ると欠伸を出していた黒猫がいた。

 

「余程夢中になっておったのだな、()()()()()

 

「…………え? 見えていたの? 『曲光』かけているのに?」

 

「見える訳なかろう。 じゃが『曲光』の霊圧がダダ漏れで、お主の悔しがる独り言と変な『ぴこぴこ』音が聞こえてきたからの。 想像はつくわい。 器用に鬼道をそのように使っているとはさっきまで信じられなかったがな」

 

「(ピ、ピコピコって表現……歳臭────)────ㇶ」

 

 夜一の目が一瞬にして「キッ」と細くなり、三月を睨む。

 

「それで、夜一殿は何故ここに?」

 

「ん? 何、あのルキアという娘と一護が気になっての? ちょっと()()()()()()()()()()()じゃ」

 

「私達のアパートからここまでわざわざ来るほどのモノか?」

 

「ちょ、チーちゃん────?!」

 

 チエの何気ない、夜一に対しての「尾行バレていますよ?」宣言に三月がアタフタする。

 

「────何じゃ、やはりワシがお前達の事に気付いておったのも知っておったか」

 

「確信はついさっきだが、な」

 

「……………え? もしかして、私達の事に気付いていたの?」

 

 三月が恐る恐る夜一の方を向く。

 

「喜助にもこれは言ったが、真に監視に気付いておる者と気付いていない者は雰囲気がいささか違うのじゃ。 これは長年のワシの経験という奴じゃな。 だから気落ちする事はないぞ?」

 

 からからと夜一が笑い、三月は苦笑いをする。

 

 そして丁度終業のチャイムが鳴ってから数分後、校舎からゾロゾロと生徒達が出てきてチエ達の前を通る。

 

 だが誰も見向きもしなかった。

 

 かたや姿を隠す『曲光』に包まれたチエ達と、()()()黒猫が一匹。

 

 彼ら彼女らが過ぎ去って、誰もいなくなったタイミングでチエが口を開ける。

 

「………………そろそろ仕事を終えた二人が帰ってくるぞ」

 

「本当にお主は不思議じゃの…ワシも今し方気付いたと言うのに

 

()()()()()だからな」

 

「そうか。 じゃあ、ワシは先に帰るとするかの。 今夜は唐揚げの気分じゃ」

 

「はいはい、カリカリ感が強めの方が好きだったっけ?」

 

「いやどちらかと言うと味の付くタレを────コホン! そ、それじゃあの」

 

「夜一殿は、一護達に挨拶はしないのか?」

 

 チエの言葉に夜一は一瞬動きを止める。

 

 黒猫の姿でとはいえ、一護は浦原商店の皆に面識があった。

 と言っても駄菓子屋の客としてだが。

 

「いずれは正体を明かさなければならぬやも知れん。 じゃが今はその時ではない」

 

 それを最後に夜一は学校の塀をヒョイッと飛び越えて姿を消す。

 

「(ハイ、これで全裸の夜一に出くわして慌てる一護イベントほぼ確定ッと)」

 

 夜一が去ってから更に数分後、死神業を終えた一護とルキアが戻って来た。

 

「あれ? …………………俺の体どこだ?」

 

 一護がキョロキョロと周りを探す。

 

「(……………あれ? 一護って霊圧探知能力無かったっけ? あのひらひらした短冊みたいな奴…………それともそれはもうちょっと後の話だっけ?)」

 

「おいおいおいおい! 冗談じゃねえぞ?!」

 

「私に力が使えれば、霊圧探知で……………そうだ! 一護、奴らの霊圧を探れ!」

 

「ちょっと待てルキア。 俺、昨日の今日で死神になったばかりだぞ? どうするんだよ?」

 

 三月が未だに黙ったままこの二人のコントを見続ける。

 

「ん? だからこう『グッ』として、『バァー!』と出てきて、『こっちだ!』と────」

 

「────良し分かった」

 

「お! 中々やるな、一護!」

 

「ああ。 お前の『説明の仕方が絵を描く程ド下手くそだ』ってな!」

 

「何を騒いでいる二人とも?」

 

「え?! チエ?! ど、どこだ?」

 

「………………まさか、『曲光』か?」

 

「当たり~♪ ハンドベルがあったら『カランカラン』と鳴らしているところだけどね?」

 

 三月が『曲光』を解除すると明らかにホッとする一護だった。

 

「これが先ほど私が言っていた鬼道の一種だ、一護。 死神はこういう術も漸術と共に使って初めて『死神』と見られる」

 

「……………時間がある時、私と手合わせをするか一護?」

 

「い゛?! チ、チエとか?!」

 

 嫌~~~~~~な顔をする一護は自分の体の中へと戻る。

 

「どうした? 不満か?」

 

「そうだぞ一護? 正体はともかく、経験がある者からの誘いだぞ?」

 

「ルキアはチエのなぶり殺s────じゃなくて『特訓』! 『特訓』を知らないからそんなに呑気に言えるんだ!」

 

「何を貴様はそんなに必死になっているのだ?」

 

「う゛」

 

 顔色が青くなり始める一護が何かに気付いたのか、一気に顔色が良くなる。

 

「あ~、ここにいたんですね皆さん~」

 

 そこにマイが皆のカバンを持ちながら校舎から来ていたのだ。

 

「あ、マイさん。 ちわッス!」

 

「はい~、一護君もこんにちは~。 皆も学校サボるのはまあ…………保護者的にNGだけど気持ちは分からなくもないわ~。 あ! そうそう、今夜ね~? 真咲さん達がお好み焼きを振舞ってくれるんですって~」

 

「おふくろが? 良かったなルキア!」

 

「お、おう?」

 

「彼女の料理は旨いからな」

 

「うんうん、凄い参考になるわ!」

 

 その晩、ルキアも黒崎家にチエ達とお邪魔して結局皆の中で一番食べて、「な、なかなかに悪くなかったぞ…………ゲップ」と帰り道中マイに寄りかかるルキアの姿があった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「………………………………………」

 

 明らかに何時もより仏頂面のチエが「負」の空気を発していた。

 

「ご、ごめんって! でもこれらは全て一護が一人かルキアと共に解決しないと行けない出来事なの! 決定事項なの!」

 

 そして隣にいる三月が必死に謝っていた。

 

 ついさっき、クラスメイトの茶渡泰虎(さどやすとら)(通称『チャド』)が学校に持ってきた()()()()()事件が終わった。

 

 その前は虚と化した織姫の兄との戦いで、三月は敢えて手を出さずにいた。

 それどころか、()()()()()事件では一触即発状態を覚悟に三月が決死の覚悟でチエを止めていた。

 

 と言うか()()()()()()()()()()()()から本気(マジ)でシャレにならなかった。

 

 渡辺家のアパートでそんなかつてないほど不機嫌なチエを横に、三月は料理をしていた。

 マイは居間でぬいぐるみとハッチ専用のエプロンを編んでいて、ルキアはゆっくり入浴中。

 

 最初はソワソワピリピリしていたルキアだが時間が経つにつれて肩の力が抜け始めていた。

 これはまあ、渡辺家の毎日を経験すれば仕方のない事かもしれない。

 

 朝起きれば旨い飯、昼も朝餉に負けない弁当(尚ルキアの弁当箱やおかずはウサギモチーフのモノが多かった)、そして夜も美味しい晩御飯。

 その上、チエに頼めば義骸での活動の視野を広げる為の基礎訓練に付き合ってくれるし甘味も食べ放題。

 

『原作』の暮らしと比べれば、何不自由ない環境どころか、贅沢三味だった。

 特に『原作』では黒崎家の居候の立場どころか、狭い一護のクローゼットに隠れての生活の事を考えれば。

 

 尚、ルキアはマイの事を三月同様『虚や死神が視えて、ある程度戦える人間』と言った認識で、主にチエが戦闘を担当……………

 

 と思っているらしい。

 

 そんなルキアが次の日に限って、「少し用事がある」と下手な嘘をついて別行動を取った。

 

 現世に他に知り合いや義骸にいる彼女が用事があるとは思えなかったが、誰も気に留めていず、普通に学校へ登校していた。

 

「インコが好きなのか?」

 

「だって可愛いじゃん」

 

「そうだな」

 

 三月はそのような事を思い返している間、チャドと他愛ない受け答えをしながら、喋る事が少なくなったインコを撫でていた。

 

「今日、朽木さん遅いね~。 三月ちゃんは何か知っている?」

 

「…………………ウン。 ソウダネー。シラナイヨー。(だから何で毎回私に絡むの?)」

 

 何故か近くに来た織姫に三月が棒読みで返事する。

 三月の気のせいかもしれないが、織姫は同じクラスになって竜貴と仲良くなって間もない頃、何故か事あるごとに三月にアプローチをかけていた。

 

「あれ? 朽木さんって渡辺さん達と住んでいるんじゃないの?」 

 

「彼女の家の人達の居る所と、私達の家を行き来しているだけよ」

 

「複雑なんだね」

 

「まあね~」

 

 もう一人のクラスメイトの水色に三月が答えると、織姫の目が一瞬泳いだ気が三月には気がしたが、断固として目を合わせたくなかった。

 

 以前のイジメの事もあるし、何より自分(三月)()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 考え込まない様に、三月は別の事で頭を整理する。

 

「(さて、織姫の事件も、チャドの事件も終わって、ルキアが遅刻してくるとなると……………………次は……………え~~~~っと…………改造魂魄のコン騒動だっけ? となると今回は浦原商店と直接関わる事になるか)」

 

 ルキアに引きずられて教室を出る一護を目で追っていた織姫とチャドを三月は見ていた。

 

「(今日の店番に私とチーちゃんは店番しないように動かないと………………それに────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────チャドがこのインコに入っていた魂のユウイチ君にソウル・ソサエティの流魂街で会えていた。 という事は織姫のお兄ちゃんにも会える筈…………今度こそ………今度こそ、彼女達を合わせる。 ()()()()()()()()()()()()())」

 

 インコに甘噛みされる三月はそう考えるのであった。

 

 そして相変わらずクラスメイトである浅野啓吾(あさのけいご)のアプローチをあしらって、織姫に寄りすぎて竜貴に撃沈された本匠千鶴(ほんしょうちづる)は次にチエへと寄る。

 

 二人(啓吾と千鶴)とも今更だが小島水色(こじまみずいろ)と共に良く三月とチエに話をしてくる(と言っても主にチエ相手で、三月はおまけ程度だが)。

 

 だがルキアが加わった際に三月にももっと頻繁に声がかかるようになった。

 恐らくは彼女(三月)経由でルキアと仲良くなりたいのだろう。

 

 そしてその時、()()()()()一護の声が聞こえてきた。

 

「ここ、1年3組で合っているよな?」

 

 クラスの教室に悲鳴が行き渡り、チエは思わず()()を取り出すところを三月がインコの入った檻をチャドに渡しながら御した。

 

「あ、あ、あ、あんた?! 今ど、ど、どうやって上がって来たのよ?!」

 

 竜貴の叫びにすぐ答えずに一護(の体を使っている改造魂魄)が窓の外から教室の中へと入ってくる。

 

「よっと…『どうやって』? え? 今、見てたろ? 跳び上がって来たんだよ」

 

 自分に注目しているクラスにウキウキしていたのか一護(の体を使っている改造魂魄)が無邪気に笑う。

 

「なぁ、すげえか? ビックリしたか? なあ♪」

 

 ザワザワとする中、改造魂魄がクラスを見渡してから特盛女子(織姫)へとロックオンして手の甲に口付けをするところだった。

 

「(一護か? いや違う…………これは別の魂か?)」

 

 チエがそう思っている間に隣の三月がゴソゴソと手に持っていた携帯電話のカメラレンズを向けていた。

 

「初めまして、美しいお嬢さん。 僕にお名前を教えて下さいな…………チュ」

 

 隣で三月は携帯電話の『ろくが』をしていたが、チエにとっては些細な事だった。

 それは周りで黄色い声を上げる女子たちの事も同じ。

 

「「「「「キャー!♡」」」」」

 

「い、い、い、い、い、一護ぉぉぉぉぉ?! あ、あ、あ、あ、あ、あんた自分が何してるか、分かってんのかぁぁぁぁ?!」

 

 赤くなりながら竜貴が一護(の体を使っている改造魂魄)を羽交い締めにするが、彼は器用に竜貴の方へと顔を向けた。

 

「お前も近くで見ると可愛いなぁ」

 

「へ?」

 

「チュ」

 

 一護(の体を使っている改造魂魄)が竜貴の頬にキスをして、本日二つ目の叫びがクラス中から上がった。

 

 「「「「「ギャアァァァァァァァァァァ?!」」」」」

 

 今度は『恐怖で』だが。

 

 だがそれとはお構いなしに三月は『ろくが』を続けていた。

 

 そして────

 

 「────ブチコロス!!!」

 

 修羅と化した竜貴が怒りの形相で近くの机を一護(の体を使っている改造魂魄)目掛けて次から次へと投げ、中にあった教科書や文房具が教室の中を飛び散っていく。

 

「「「「ヒィィィィィィ?!」」」」

 

 今の竜貴に恐がる女子達(そして男子達数人)が悲鳴を上げる間、一人が竜貴の肩に手を置く。

 

「冷静になれ、竜貴」

 

 それは()()、いや『勇気ある者』の行動だった!

 

 「ア゛ア゛ア゛ア゛?!」

 

 人を射殺せるようなガンを飛ばす竜貴にチエは怯まず言葉を続ける。

 

「そのように闇雲に机を投げるな。 まずは狙いを定めて、相手の避ける方向に波状攻撃を────」

 

「────ちょ?! チーちゃん待って! 事態を更にややこしくしないで?!」

 

 これには流石に三月がチエを呼び止め、丁度その時に教室のドアが勢いよく開く。

 

「そこまでだ!」

 

「ゲッ、ヤッベェ────」

 

 ルキアを見た一護(の体を使っている改造魂魄)は回れ右をするかのように窓の方へと逃げる。

 

 そこに現れた死神姿の一護が捕えようとするが、横をするりと抜けて窓から一護(の体を使っている改造魂魄)が飛び降りる。

 

「ぬわぁ?! 待てやこらぁ! 誰の体だと思ってんだぁぁぁぁ?!」

 

 ルキアが二階から無事に飛び降りた一護(の体を使っている改造魂魄)を見て、ようやく確信がついたらしい。

 

「間違いない。 奴は………改造魂魄(モッドソウル)だ!」

 

 すぐさま入って来たように出ていくルキアと自分の体を追う一護。

 

『チーちゃん! 君に決めた!』

『了解』

 

 チエが先ほどの改造魂魄の様に開いている窓から飛び降りて、勢いを無くさずに地面を転がるように着地してから走り去っていく(現代でいうパルクール並みの動き)。

 

 その間、三月はサングラスを着用してからペン状の記換神機(きかんしんき)を取り出す。

 

「(あとは黒いスーツさえあれば完璧なんだけど…………まあ、いっか。) は~い! 皆さん注目~~~~~!!!」

 

 そう三月が叫んで、クラスが彼女の方を見るとまばゆい光がペンから発されて、皆がチカチカとする目を瞬きさせる。

 

記換神機(きかんしんき)』。

 霊力を持たない、あるいは低い、人間から先ほどの出来事を記憶から消し去って、違う記憶を差し込む道具────

 

 

 

 

 

 

 ────を三月が完璧に()()()『メ〇・イン・ブラ〇ク』風に魔改造した。

 

『チーちゃん、こっちはあと少しで済むわ。 場所と方角を教えて?』

『分かった、方角は────』




作者:今考えたらギャ〇ガとかってもう40年前の代物なんですね…………ハァ~

チエ:たった40年ではないか

作者:まあ…………ウン、これ以上はよそう

ライダー(バカンス体):邪魔するぞ! ってなんだなんだー? ロンドン並みに辛気臭くなっとるではないか?!

作者:うっわ~、面倒臭いのが来た~


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第14話 モラトリアムと改造魂魄(達?)

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

 三月にチエが一通り伝え終わるとほぼ同時に彼女は先行していた一護達に追いついた。

 

「ああ! 畜生! 見失っちまったじゃねぇかあいつを! …………じゃなくて俺を!」

 

「「モラトリアムだな」」

 

「おわぁ?!」

 

 一護と(自分と言葉がハモった)ルキアが突然現れたチエに二人ともびっくりする。

 

「どうした? そのままの事ではないのか?」

 

「あ、いや………そりゃそうなんだけどさ」

 

「学園の方はどうだ?」

 

「三月が対処して、後で合流する手筈だ。 抜かりはない」

 

「…………本当にチエ達ってこういうのに慣れているんだな」

 

「ああ。 だから心配するな一護。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 チエが表情を崩さずに親指をグッと立てながらそう言った。

 これは彼女なりに何とか当世の風習を組み込んでの行為だったのだが…………

 

 逆効果らしく、一護は見る見ると赤くなっていきながら頭を抱えた。

 

 「ぬわぁぁぁぁあぁぁ!? 最悪じゃねえかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 もう今にでも地面に穴を掘って潜り込みたい一護をルキアは不思議そうに見ていた。

 

「たかが接吻ではないか。 いや、当世では『キッス』と────」

 

 「────言うなボケ! 恥ずかしい!!!」

 

「そういうルキアは経験ありなのか?」

 

「ぅ…………チエ殿は?」

 

 一瞬にて気まずそうになるルキアがカウンター気味にチエに訊き返す。

 

「ないな」

 

 チエがいとも簡単に答えたのが予想外だったらしく、ルキアはポカンとして、一護は冷静(?)な様子に戻った。

 

「そ、そうか」

 

「(何故一護はホッとしているのだ? 冷静になった事は褒めるが………) ルキア、移動しながら一護に説明をしてくれないか? 奴がここに戻ってくる可能性は低い」

 

「あ、ああ。 改造魂魄は────」

 

 そこからルキアは『尖兵(スピアヘッド)計画』に関して一護に説明をし始める。

 

『スピアヘッド計画』。

 それは改造魂魄であるウルルやジン太の原点となった計画で、戦闘に特化した疑似人格を含んだ義魂丸を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言ったものだった。

 

「だが計画の非道さから中止になり、施策の改造魂魄の全てに破棄命令が下ったのだ………まさか、まだ残っていたとは……」

 

「って事はアイツは……………………ソウル・ソサエティの都合で作られて、同じ都合で()()()()って事か?」

 

 一護が不愉快な顔しながらルキアに問う。

 

「そうだ……そういう事になるな」

 

「それでお前は納得してんのかよ?!」

 

 少し怒り気味の一護をルキア顔は伏せる。

 

「ソウル・ソサエティの決定だ………そしてその決定は貴様ら人間の魂を守る為に定められている。 納得するかしないかの問題ではないのだ……」

 

「……………………」

 

 チエは後ろから沈んでいく一護の顔を見ながら走る速度を合わせていた。

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 三月は歩きながら電話をかけていた。

 

『珍しいっすね! 貴方からアタシに電話をかけるなんて! でも今はちょっと取り込んでいて────』

 

「────()()()()()()()()()()()()()わ。 アイツ、丁度私のクラスに来てね? 今対処中なの」

 

『…………へぇ~、そりゃまた災難ッスね』

 

「そこで、私から提案があるのだけれど────」

 

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

「(何故三月はこの二人にこうも全てを任せたがるのだ?)」

 

 実はと言うと、チエはさっきからウズウズしていた。

 

 何故なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 だが三月の頼みもあって、ついさっきルキアの伝令神機が近くの虚に反応を示した先に改造魂魄の匂いもあったのが幸いだった。

 

 その行き先は────

 

「────って、夏梨や遊子の学校じゃねえか?!」

 

「何だと? その二人は確か一護の妹君────」

 

「────一護! 学校の屋上だ!」

 

 チエの指摘に一護の身体に入った改造魂魄が、虚に向き合っている様子が見えた。

 

「あれはもしや────」

 

「────ッ! あんのボケェ────!!!」

 

「────一護?!」

 

 プッツンマジギレ直前の形相で一護が全力で駆け出して、瞬く間にルキアとチエの二人から離れていく。

 

「ルキア、少し失礼するぞ────」

 

「え────ひゃぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 チエが()()を背中に刺して、ルキアをお姫様抱っこで抱え上げると彼女は真っ赤になって彼女らしくない声(というよりも悲鳴)を上げる。

 

 が、チエは気にするどころかそのまま地面を蹴って、宙をもう一度蹴るとちょうど一護(改造魂魄)が消滅していく虚を蹴り上げるところを目撃する。

 

 屋上に降り立つと────

 

「────ケガしてんじゃねぇかテメェ!! 誰の身体だと思ってんだ、コラァ?! こんな雑魚にそんなにされる位なら戦おうとかすんじゃねぇよ、タコ!!」

 

「うるせえよ! あんたがさっさと来ねえから、俺が戦ってたんだろうが?!」

 

 今にも取っ組み合いになりそうな一護(達)が叫びあう。

 

「その割には最後の方、仮面の割られた虚を蹴り上げたじゃねえか? あいつらはその状態でほっとけば消えるんだよ! それも知らねえのか、テメェは?!」

 

「俺は…………俺は()()()()()()()()!」

 

「お、お前。 何を言っ────?」

 

 一護が今にも泣きそうな改造魂魄の顔と言葉に戸惑う。

 その姿を見ていたチエは固まって自分の服をぎゅっと掴んでいたルキアをそっと立たせる。

 

「一護。 虚が落ちそうだった所を見ろ」

 

「あ? …………別に何もね────」

 

「────よく見ろ、この阿呆。 そこには確かな『命』があるぞ?」

 

 一護、そしてルキアの両方が良く目を凝らすと、アリの行列がそこにあった。

 

「ま、まさか奴は……その為だけに………わざわざ虚を最後、蹴飛ばしたというのか?」

 

 ルキアが目を見開いている内に改造魂魄がコクリと頷いて肯定してから、自分の過去を語り始める。

 

「俺が作られてすぐに、ソウル・ソサエティは改造魂魄の廃棄命令を出したんだ。 つまり……………俺は作られた次の日には、死ぬ日が決まったって事だ」

 

「「……………」」

 

 一護とルキアが黙って悲痛な顔をしながらぽつぽつと話を続ける改造魂魄を見ていた。

 

「俺はあの丸薬の中で毎日、怯えていたよ。 周りの奴らが一日ごとに減っていくのを見ながら…『俺の番はいつだろう?』って。 だけど運よく他の丸薬に紛れて、倉庫から抜け出せた後もビクビクとしていたさ。 見つかって、即廃棄されるんじゃないかと………その間ずっと考えていた。 『どうして俺の命が他人に決められちまうのか?』ってな…………なあ、教えてくれよ?」

 

 改造魂魄は一護、ルキア、チエを互いに見ながらそう問う。

 

「どうして自分じゃ決められねえんだよ? どうしてなんだよ? 生きるのだって………死ぬのだって……………虫でも人でも犬でも猫でも何でもかんでも、そいつ(自分)だけのモノだろうが?! だから…………だから俺は殺さねえし、誰も死ぬところなんて…………見たくないんだ。 見たくないんだよッ!!! だから、俺は殺さねえんだ!」

 

 とうとう改造魂魄の目から涙がポロポロと落ち始める。

 

 それを見たチエは────

 

「「「………………え?」」」

 

 ポスン。

 

「よしよし」

 

 ────改造魂魄の隣に行って、頭を撫でていた。

 

 まるで、泣く子供をあやすかのような行為だった。

 

「辛かったのだな? 生殺与奪を他人に握られ、自分は自らの意思で動く事もままならない状態の事が」

 

 チエの行動に周りは呆気にとられていた。

 それは改造魂魄も例外ではなく、彼女の顔をただ見上げていた。

 

「そんな思いをしながらもお前は死神達に復讐しようなど、何の疑いもなく当然のように生を享受する人間達が妬ましいから皆殺しにしようなど、そういう方向に思考が向かなかった事は立派だ。 故に誇れ。 下手な人間や死神達などよりよっぽどお前の方が『強い』」

 

「う……………ううううぅぅぅぅぅぅ────!!!」

 

 改造魂魄は更に泣き始める。

 

 恐らくは生を受けて初の『気遣い』に。

 

「…………お前は約束を…()()を出来るか? 今までの様に、復讐などに走らない事を?」

 

「グス…………な、何を────?」

 

「────出来ると言うのならば、()()()()()。 ()()()()()()()

 

「「「?!」」」

 

 チエの言葉を聞いた一護、ルキア、そして改造魂魄が息を呑んだ。

 彼女は約束さえ守れば『改造魂魄を護る』と言ったのだ。

 

 一護にとっては『あの雨の日』の事を思い出させ、それがどのような事を意味するかに息を呑んだ。

 

 ルキアはソウル・ソサエティの事をチエは知っておきながら()()()()()()という事は、『ソウル・ソサエティを敵に回しても良い』と言う風に聞こえていた。

 

 改造魂魄には『初めての気遣い』より更に上位の、初めての『庇護の誘い』に戸惑っていた。

 

「それで? どうなのだ?」

 

 チエの言葉に改造魂魄はビクリとして数秒後、口を開ける。

 

「…約束する。 俺は迷惑なんてかけたくねえし……さっきも言ったように誰も殺したくねえし、死なせたくもねえ。 復讐なんて、言われるまで俺は考えちゃいなかったよ」

 

「そうか」

 

 チエがポンポンと頭を再度撫でる。

 

「おやおや。 やっと見つけたと思ったらボロボロじゃないッスか?」

 

「「え?」」

 

 一護とルキアが突然聞こえてきた声の方向を振り向いて、チエは立ち上がる。

 

「やっほー皆♪」

 

「回収完了っと」

 

 浦原が呆気に取られている一護、ルキア、そして改造魂魄をそっちのけで義魂丸を一護の体から抜き取り、拾い上げようと────

 

「────何してるんスか、チエサン?」

 

 チエがコンクリートの上から転がった小さな玉を浦原より先に拾い上げていた。

 

「悪いが、この者とは()()をしていてな? ()()()()でくれるか?」

 

「そこは何時も通りに『店長』って呼んで欲しいッスね。 それに()()()()の間違いでは?」

 

()()()()()()()()()

 

「まあ、そう言わずに。 アタシに渡して()()()()()()()()()()()

 

「断る」

 

 空気が少しピリピリし始めたその時、意外な事に一護が口を開けた。

 

「なあ、そこのあんた。 えっと……浦原さんだっけ?」

 

「ん?」

 

 浦原が何か物珍しいものを見るかのように一護を見ている中、一護は続けた。

 

「そいつを殺さないでくれるか? 悪い奴じゃないんだ。 頼む!」

 

「私からも頼む、浦原」

 

 バッと頭を下げる一護にルキアが続いた。

 

「う~~~~~ん、アタシとしては、面倒事は回避したいのですが────」

 

 そこで渋る浦原に三月が次の言葉をはさむ。

 

「────リサから貰っている『フ〇イデー』雑誌等は二階の本棚の下の二重になった畳の────」

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 浦原が慌ててすぐに周りを見渡す。

 

()()()()よ、浦原さん♪」

 

「夜一は近くにいないよん♪」、と浦原には三月の言葉の続きは聞こえていただろう。

 

 実はと言うと彼と彼女は気配と姿を消して、改造魂魄とチエの言っていた話は聞いていたし、事情も理解していた。

 

 チエは彼らの気配には気付いてはいたが、何かしらの考えがあると思って何もしなかった。

 ()()浦原はわざと『あくまで粗悪品を回収する強欲商人』の役割を、そして三月が『一護側のダメ押し助っ人』の役割と担当していた。

 

『譲歩しているように見えて実はすべて掌の上』。

 何ともまあ、事前に電話越しで少々の打ち合わせはしていたとしても、ぶっつけ本番リハーサル無しのアドリブなのに息の合った二人(浦原と三月)であった。

 

 一つだけ誤算だったのは、浦原秘蔵の『書類の隠し場所』がバレていた事ぐらいだ。

 

「と、言う訳よチーちゃん♪」

 

「そうか。 ルキアか一護、誰に渡そうか?」

 

「………取り敢えずは私が預かろう」

 

 ちなみに浦原は頭を抱えながらブツブツと新しい隠し場所の事を悶々と考え込みながらその場を去り、ルキアに改造魂魄をチエが渡している間、三月が傷付いた一護の体に回道をかける。

 

「へえ…それも『鬼道』って奴の一種か?」

 

「まあね。 とあるゲーム風に言うと『白魔法』って奴かな?」 

 

「あれだろ? 『ホ〇ミ』って奴」

 

「(一瞬『ケア〇』って言うのかと思った。)っで、制服どうする? 直そっか?」

 

「あ、ああ」

 

 一護が見ている間に傷はみるみると見ている内に塞がっていき、一護は自分の体に戻った。

 

「ん~、ここからだとウチの家が近いわね。 どうする、一護?」

 

「あー…………そうだな。 邪魔するか……ってその前にそいつの事を先に片付けてぇ」

 

 一護はルキアの手の中にある改造魂魄を見ながらそう言い、チエ達はそのまま改造魂魄の件を先に処理する事に…………

 

 ___________

 

 浦原喜助 視点

 ___________

 

 浦原はすぐ家に帰り、秘蔵の書類(エロ雑誌その他)の新しい隠し場所を作成していた。

 

 もちろん夜一が不在なタイミングなのを見計らってから。

 

「(本当に不思議ですね、あの者達はやはり)」

 

 彼は同時にチエ達の事を考えていた。

 

 なんて事はない。

 

 平行作業&思考など(浦原)にとっては手慣れた特技の一つ。

 それを使って、彼は三月との電話を思い出していた。

 

『少し一護の訓練に地下室を使いたいけど、何時が良い?』

 

『え? いや今は粗悪品の対処を────』

 

『────あ、()()()()()。 ()()()()()()()? うん。 まずは様子を見てから判断した方が良いかも────』

 

 そこから三月の観た改造魂魄の様子から当初、暴れだす可能性から浦原商店にいるテッサイやウルルやジン太に連絡するのを浦原はやめて、逆に三月の言葉に疑問を抱いた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(それに今考えるとマイサンも()()()()で、今はルキアサンも同居している…………まさか彼女はこれも見越していた? ………いや、それはあり得ない。 今回は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 そう自分を納得させようにも、疑問のモヤモヤは消えずにずっと彼の胸の中に留まっていた。

 

 ___________

 

 渡辺家 視点

 ___________

 

「コンはねえだろうが、コンはぁぁぁぁぁ!!!」

 

 改造魂魄────コンは無事(?)『原作』通りにライオンのぬいぐるみの体へと移植されて未だに自分の名前の事で抗議を渡辺家で上げていた。

 

「そこはせめて『カイ』にしろよ?!」

 

「何かカッコいいからムカつく。却下だ」

 

「あらあら~、元気いっぱいね~。 私はマイ。 よろしくね、コンちゃん?」

 

 丁度黒崎家との電話を終えたマイがアパートの居間にいるコンに挨拶をする。

 

「…と…と…特盛ッッ!!! よ、よろしくっす! 改造魂魄のコンですッ!!!」

 

 ズビシッと敬礼をするコンにマイは微笑んだ。

 

「あら~、礼儀正しくて良いわ~。 ご褒美にギュウ~~~♪」

 

「グヘ、グヘヘヘヘヘヘ」

 

 マイがコンを抱きかかえて、コンがゲスな 欲望に塗れた表情と声を表す。

 

「やっぱりマイさんも知っていたのか…………ったく、知らなかったのは俺だけかよ?」

 

「不貞腐らないの、一護」

 

「そうだな。 それに今だからこそお前にこうやって話せるようになったのだ」

 

 渡辺家へ道中、疑問を持った一護がマイの事を聞いた。

「改造魂魄とかの事は大丈夫か?」と。

 

 その際、彼にマイも関係者だとチエが告げて、マイに確認を取った一護がブッスーと不服そうな顔をしていた。

 

「と言う訳でマイ────」

 

「────あら、そうね。 じゃあ改めて自己紹介をするわ~。 ンンッ……()()()()()マイで~す」

 

「「「んなッ?!」」」

 

 これに一護、ルキア、そしてコンでさえも驚愕した。

 

「そ、そうだったのか?!」

 

「だ、だがおま────いや、あなたは…………その………」

 

()()()()()()()()()()?」

 

「あ、ああ………」

 

 気まずそうなルキアにマイはただ微笑む。

 

「ルーちゃんの言う事は仕方がないわ。 ()は…………まあ言うなれば()()()()()だからコンちゃんとは更に事情が違うわね」

 

「え? お、俺とは違うって、どういう事だ?」

 

「んふふ~、どうでしょう~?」

 

 マイがコンの疑問をはぐらかす様子を一護とルキアは複雑な気持ちで見ていた。

 

 まさかいつもニコニコとおふくろ(黒崎真咲)のような人物がコンのような過去を持っていると微塵も感じさせない事に片方(一護)は信じられず、もう片方(ルキア)は上記のように彼女(マイ)がまさか()()()()とはとても信じられず、どこからどう見ても『人間』だった故のショックを受けていた。

 

「お、俺はマイさんの子になる!」

 

「…………う~~~ん、私は構わないのだけどコンちゃんは一護君の死神業のお手伝いをする為、彼と一緒にいた方が良いと思うのだけど?」

 

「それじゃあ、一護! お前がここ(渡辺家)の子になれ!」

 

「「え」」

 

 コンの言葉に一護と三月が唖然とする。

 

「あらあら、じゃあ一護はどちらに婚姻届をするのかしら~?」

 

「おお、それは名案だな! そうすれば一護はここに住む事が出来るし、私の仕事もしやすくなる!」

 

 マイがのほほんと彼女なりのジョークを言い、自分の都合優先 良く分かっていないルキアが「それだ!」と言わんばかりの食い気味になる。

 

「アホかコン?! 俺はまだ15────じゃなくて! そんな軽いノリでそんな話題振るな!」

 

 結局コンは渋々一護と共に黒崎家でお世話になる事となった。

 

 マイが一護の制服を直している間も口論はず~~~っと続いたが。

 

 尚ルキアは最初の頃の様にマイの周りではそわそわしていたが、次第に彼女(マイ)の変わらない様子に徐々にだが以前の調子を取り戻していった。




ちょっとストック切れた&休みをかねて次の投稿は明後日頃を目指します。


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第15話 Smells Like Bad Spirits My Boy!

お待たせしました、次話です!


 ___________

 

 渡辺家 視点

 ___________

 

 時期は梅雨時の6月。

 

 詳しく記すと、6月17日。

 

 だが『原作』とは違い、黒崎真咲は生きているので黒崎家は平常運転。

 違いがあると言えばその日、黒崎クリニックにマイのシフトが入っていた事か?

 

 これは以前の『喋るインコ』事件で傷付いたチャドを見かねて、近くの黒崎クリニックで応急処置を手伝った事から始まり、臨時バイトのナースとしてマイは雇われた。

 

 黒崎真咲も了承していたので一心の他意は無い筈。

 

 恐らく。

 

「あのぅ、制服のサイズが少し…………キツイ気がするんですけど~?」

 

「いえいえ、マイさん! グッドでs────」

 

 「────あなた? 少しお話があるのですけれど?」

 

「あ」

 

 ………………多分。

 

 そんなジメジメとする日の中、一護、ルキア、チエ、そして三月は浦原商店に足を運ばせていた。

 

「らっしゃい────って姉貴達じゃねえか」

 

「い、いらっしゃいお姉ちゃん達」

 

「こんにちはジン太にウルル! 浦原さん、起きている?」

 

 三月に頭を撫でられて嬉しがるウルルと不服そうな(素直じゃない)ジン太の後ろから大きな影が姿を現す。

 

「店長なら今は()()()()()です」

 

 ヌッとお店の奥からテッサイがヒヨコエプロンを着けながらニカッと、明らかに作った(力んだ)笑い顔をする。

 

「テッさん? もうちょっと顔の筋肉を緩くして?」

 

「むぅ、まだ駄目ですか」

 

「後マイは今日バイト入っているから遅く来るかも知れないよ?」

 

「分かりました。 して、本日の用件は()()ですかな?」

 

「流石テッサイ殿だな、話が早い」

 

「恐縮です、チエ殿」

 

 そこに浦原の姿が現れる。

 

「いや~、お待たせしました! 地下の準備、出来たッス!」

 

「お、おい地下で間違いないのか? 今日はお手本を見せるんじゃなかったのか? あの()()って奴の?」

 

「『鬼道』だ、一護」

 

「そう、それ」

 

 この日、前に『一護と手合わせする』と言っていたチエの申し出を最初は反対していた一護だったが、この頃の虚との戦いがあまりにも白兵戦のみという事にルキアは不安を感じていた(あと口にはしなかったが一護本人も感じていた事である)。*1

 

 そこで前にテッサイと夜一に鬼道、歩法、そして白打を教わっていた頃、浦原商店の地下にある訓練場を浦原に使えるかどうかチエが尋ねると────

 

「────大歓迎っす♪」

 

 ────と言った勢いで即オーケーが出た。

 

 と言うのも未だにチエと三月がたまに()()()()()()()()を使うのを観察(分析)するのが今では蒲原の一種の楽しみと化していた。

 

 女性陣が先に地下へと通じる梯子を降りた後から男性陣達が続いた。

 

 最初一護は何故このような順番で梯子を降りるのか分からなかったが、

 

「ハァ? あんたバカァ?」と三月がジト目で言い放ち、

「察せ、この戯け!」とルキアが続いて、

 決め手である浦原の愉快そうな「皆お年頃ッスね~」でやっと気付いた模様で若干赤くなっていた。

 

 そしてただいまだだっ広い訓練場へと立ちながらポカ~ンとする一護とルキア、そしてひょっこりと頭を一護のカバンから出していたコンだった。

 

「アッハッハッハ! そのびっくりしている顔に大満足ですよ僕は! しかしこれだけではないですよ? 見てください、この閉塞感を無くす為の空の風景を表す天然素材から作ったペイントから溢れ出る微弱な回道に────!!!」

 

「────いや、そのような事を────」

 

「────心に潤いを与える為の自然からもぎ取った木々と岩! このボクの配慮の現れが更に────!!!」

 

「────浦原は人の話を無視しながら話を進める奴なのか?」

 

 延々と胸を張りながら自作品を自慢し続ける浦原(発明家)を無視してルキアがチエ達に聞く。

 

「「うん/ああ」」

 

 三月とチエが同時にコクリと頭を頷きながらルキアに即答する。

 

 こんなナリ(駄菓子屋の店長)でもかつてはソウル・ソサエティの開発部のトップを務めていた正真正銘の天才。

 

「ルキア」

 

「何だ、チエ?」

 

「『天才は奇人なり』と言うコトワザを知っているか?」

 

 ちなみに渡辺家とルキアは今ではかなりフランクな名呼び同士になっている。

 

「ああ、成程。 その類(変人)か」

 

「そ。 その類(奇人)よ」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 あれからずっと喋る続ける浦原を無理矢理三月が止めて(今回の止める材料は秘かに浦原が進めていたとある女性(人型の夜一)の入浴場覗き作戦)、一護の体に入ったコンとルキア、浦原と三月が向き合うチエと死神化した一護を見る。

 

 そこでチエは鬼道の基礎を一通り一護に説明していた(ほぼテッサイの受け売りだが)。

 

「へぇー、凄いんだな鬼道って」

 

「さて一護、説明を終えた今の私は鬼道()()()お前に対して攻撃しない。 霊圧の変化などを感じ取れ」

 

「うわ。もう始めるのか、チエ?!」

 

「これでも説明した後なのだが?」

 

「いやそれでもさ────!」

 

「────『縛道の一・塞』」

 

 一護の手足が縛れて、彼はバランスを崩して倒れる。

 

「のわぁ?! ぬぎぎぎぎぎぎぎ!」

 

「『破道の一・衝』」

 

「ゴフ?!」

 

 丁度一護のお腹に衝撃波のようなものが当たる。

 

「ゴホッ! ちょま、まっ────」

 

「────『破道の一・衝』、『破道の一・衝』、『破道の一・衝』、『破道の一・衝』、『破道の一・衝』────」

 

 無表情のままチエの続けるなぶり殺しを 『訓練』を観戦していたコンが青くなっていく。

 

「な、なあ三月さん? あれって飛ばしすぎじゃね?」

 

「何言ってんスか? あれでも緩いッスよ?」

 

 浦原がニカニカと笑いながらコンに答える。

 

「う~ん、コンの言う事も分からなくも無いんだけど、チエは実戦式の手合わせしかしないからね~………もしこれが実戦だったら一護の体に穴が開いているよ?」

 

「うえ゛」

 

 「ふんがぁぁぁぁぁぁぁ!!! こなクソォォォォォ!!!」

 

 一護が体を跳ねさせてチエの鬼道を避けながら力ずくで縛道を破る。

 

「どうだ?!」

 

「『縛道の四・這縄』」

 

「ぐあ?! マジか!」

 

 そこから一護はチエの破道を避けては縛道を破るといった事を10回ほど繰り返してはチエが手を止めて鬼道を解除する。

 

「これで破道と縛道については理解出来たか?」

 

「何時にも増して滅茶苦茶だな、オイ?!」

 

「だが本番(実戦時)よりはマシだろう?」

 

「…………」

 

「虚の中でもこのような術や策を使う()()()()()()()()()()。 その時も踏まえての事だ。 では最後に回道だな」

 

 チエが近づいて一護が気を張るが、彼女の手からは優しい光が彼の体の擦り傷や打撲の痛みが引いていくのを感じた。

 

「す、すげぇな…マジで()()だな、おい」

 

「………ルキアから聞いたかもしれないが、死神は基本的にこのような術を100程知っている。 しかも一つ一つに独自のアレンジなど施せるので多様性もある」

 

「…ありがとう」

 

「ああ。 ちなみに規模は今の小技みたいなモノから…………そうだな、当世での『()()()()()()()()』っぽいモノもあるぞ、『飛竜撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)』とか…………………見るか?」

 

 「全力で遠慮しておく」

 

「今のは冗談のつもりだったのだが………」

 

「「「「「真顔で冗談を言うな!」」」」」

 

 観戦者&一護が全力でツッコむ。

 

「チエよ、一つ聞きたい」

 

「ん?」

 

「それ等の鬼道、誰に教えられたのだ?」

 

「(ああ、まあうん。 そうなっちゃうね)」

 

「どういう事だルキア?」

 

「一護も感じた様に、鬼道は使い手によっては脅威だ。 故に本来の死神達が統学院で習うのは基本的に6、70番台の物までだ。 それ以上となると、自らの限界を知らずに使って身を滅ぼす者も出て来るからな」

 

 ルキアはチラリと浦原の方を見てから続ける。

 

「つまりそれ以上の鬼道は『師』が無くては習えぬモノばかり。 隊長や副隊長の様な者だ。 チエは()()()()()()()()戦い方を出来るが…………そのような状態で80番台の『飛竜撃賊震天雷砲』を知っている者を私は護廷十三隊で噂も聞いた事が無い。 ()()()()()()()()()()()()私が覚えている限りは」

 

「ルキア?」

 

 一護が険しい顔をするルキアの様子に?マークを出す。

 

「一護。 ソウル・ソサエティに現世への『永久追放』という罪科がある。 それはソウル・ソサエティ全体に害を及ばす()()()()に下される()()だ。 前から怪しいとは思っていたが……浦原、貴様もテッサイもチエ達もそうなのだろう?」

 

「「……………」」

 

 ルキアの問いに対して黙っていた事を彼女は肯定とみなしたのか、言葉を続ける。

 

「とすれば貴様らは犯罪者、またはソウル・ソサエティの()────」

 

「────じゃあ聞くけど、危険だからと言って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かしら?」

 

 ここで三月の発した言葉に僅かにだが浦原の目がピクリと反応する。

 

「な、何を────」

 

「────或いは、『持ち得る力を仲間の命を救う為に振舞ったのが罪』、とか」

 

「「「……………………」」」

 

 皆それぞれ思う所があったのか、沈黙が辺りを支配していた。

 

 そして数秒後、それが破られる事となる。

 意外な人物に。

 

「ルキア」

 

 一護だった。

 

「ソウル・ソサエティの事だから、俺が言うのもなんだが…………確かにチエ達は変な奴らだよ?」

 

「え、ちょっと待って。 それって(三月)も入っているの? 割と『普通』だとおm────」

 

「────素はかw────『スゲェ』のに、学校や家の外ではわざと徹底的な芝居掛かった見た目と性格している奴のどこが『普通』なんだ?」

 

「う」

 

「まあ、変だけど悪い奴らじゃない」

 

「………何が貴様にそう言わせる? 根拠は?」

 

「俺はソウル・ソサエティの事なんかさっぱり分からねえ。  けど少なくともチエと三月とマイさんの三人の事はそれなりに分かっているつもりだ、三人とはガキの頃からの付き合いだからな」

 

 そこから一護は自分の知っている三人を語り始める。

 

 例えばマイは真咲の様に分け隔てなく皆に優しいし気配り上手だが、どこか抜けていてたまに危なっかしい。

 三月は先程も彼が言ったように『色々とスゲェ奴』のくせにワザと目立たない芝居をするが、いざ周りの人達に助けが必要な時は全力を出す。

 チエはぶっきらぼうでたまに何考えているか分からないが裏表のない、真っ直ぐで誰もが付き合いやすい奴。

 

 等々。

 

 それは聞いている三月が「え? そこまで見ていたの?」的な内容に────

 

「────いやぁ、若いって良いっスねぇ!」

 

「「「「……………」」」」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる浦原の広げていた扇子には『青春』の二文字。

 

「友の助言に過ちを認め、胸奥にしまっていたモノを告白して相互理解を深める! 正に若さゆえの素晴らしい一場面! それで、次は殴り合いですか? それとも────?」

 

「────新しい隠し場所は一階の廊下の壁と壁の間────」

 

「────ファ?!」

 

 三月がまたも浦原の言葉を遮る。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

『ボハハハハー!!』

 

「ボハハハハー!!」

 

「ボ…………ボハハハ…………」

 

 テレビから出た声にジン太、そしてウルルが続いて反応する。

 

「はて? どこかで聞いたような声。 ボリボリボリボリ」

 

 三月が?マークを出しながらちゃぶ台の上にあった近くの袋からおかきを取って食べる。

 

「ああ! アタシのおかきが?!」

 

 訂正、浦原のであった。

 

「え? でもそうやってちゃぶ台の上に広げていたら皆の分じゃない?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「ねぇ~ジン太君?」

 

「あ?」

 

 マイがテレビのコマーシャル中にジン太に声をかける。

 

「この、『ドン・観音寺』ってそんなに面白いのかしら?」

 

「マーの姉貴は女だから分からねえんだよ」

 

「で、でもジン太君。 私────」

 

「────ウルルはノーカン! とにかくカッコいいんだよ! 『スメルズ ライク バッドスピリッツ』ってな!」

 

 マイと三月の両方が全力で英語の発音に関してツッコみたい気持ちをグッと堪える。

 

『ドン・観音寺(かんおんじ)』、本名を『観音寺美幸雄(みさお)』という暴力的にまで個性的な芸能人で霊能力者。

 

「ぶらり霊場、突撃の旅」という視聴率25%を超えてそれをキープする超人気テレビ番組で『除霊』を行う、ある一種のスターで性別や歳に関係ない人気者。

 

「テッさん?」

 

「ハイ、なんでしょう三月殿?」

 

「私の見間違いじゃなければあの人────」

 

「────ええ、地区担当の死神の苦労が目に浮かびます」

 

 そこでテッサイはニカッと笑いながらサムズアップをする。

 

「(怖っ?! 普通に怖い?!) な、何でサムズアップ?」

 

「ん? チエ殿の真似────」

 

「────帰ったら彼女と話をするわ」

 

 テレビのテロップには次回の生放送は空座町の廃病院がロケになる事が示される。

 

Oh(オウ) noooooooooooo(ノー!)!!!」

 

「アッハッハッハ! ご愁傷さまです!」

 

 明らかに嫌な顔をする三月に浦原がケラケラと笑う。

 ちなみに広げた扇子には『残念賞』の文字が書かれてあった。

 

 そして数日後、空座町担当の死神(達?)が苦労する事となるのを知らずに空座高校は祭り騒ぎ状態だった。

 

 少なくとも一護のクラスはだが。

 

「ボハハハハー!!」

 

「…………」

 

「三月ちゃんも観た?!」

 

「(無視していたのに何で話を続けるの?!)うん。観た」

 

「反応薄いぞ!  ボハハハハー!!」

 

「ごめんね三月? 織姫も悪気はないんだと思う」

 

 竜貴の手によって三月から引き剥がされた織姫はめげずに話す。

 

「ほら、竜貴ちゃんと三月ちゃんも一緒に!  ボハハハハー!!」

 

「アタシはそういうの興味ないから」

 

「左と同じく」

 

 そして一護の隣で────

 

「────ボハハハハー」

 

「ボハハハハー!!」

 

 棒読みのチエとルキアがいた。

 

「お前達………それ、楽しいか?」

 

「さぁ?」

 

「ノリが悪いぞ、チエ! 悪くないだろう?!」

 

「おお! 朽木さんもチエちゃんに分からせるとはやりますなー!」

 

 チエを見事巻き込んだのが意外だったのか織姫の言葉にクラスのドン・観音寺ファンが群がる。

 

「でかした朽木さん! それでチエさんも生放送いくの?」

 

「分からん。 その日は少し用事があってな」

 

 啓吾の顔が少し落ち込む。

 

 そして少し後にドン・観音寺に『一番弟子』呼ばわりを盛大に渡辺家にお邪魔して愚痴る一護の姿があった。

 

 なお、アパートだが住み込んだ際に()()手を加えて壁、床、天井の防音機能は上昇していたので近所迷惑になる事は無かった。

 

「よしよし、一護君も頑張ったわね~」

 

「マ、マ、マイさんッ?!」

 

「一護テメェこの野郎! 俺と変わりやがれ!」

 

 マイが天然で一護を子ども扱いして頭をギュ~っとするのを見たコンが怒った。

 

 「……………ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 突然三月が料理中に素っ頓狂な声を上げ、皆の視線を浴びる。

 

「あ、ごめん。 その、買い出しの買い忘れを思い出して。 ア、アハハハハ~。(そうだよ! ドン・観音寺の声ってばそのまま『桑原〇真』じゃん?! …………エセ英語使うから全然結びつかなかったわ~)」

 

 そしてその夜『微笑みの爆弾』を入浴中、鼻歌で懐かしみながら歌う三月だったが────

 

「────待てよ? 確かあの世界でも霊力って────」

 

 尚三月がお風呂でのぼせるまで凡そ1920秒。

 

 そして心配したマイがバスルームのドアを蝶番ごと取り除くまで2082秒であった。

*1
第13話より




作者:防音あってよかったね!

マイ:そうですね~

三月:これを修理するこっちの身になってみてよ?!

チエ:のぼせるお前が悪い

作者:なおただいまもう一度読み直し中ですが誤字以外変わらない筈……………です。


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第16話 「兄」と呼ばれたメガネ

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 場は変わり、夜の空座町で言い合う一護とルキアの姿に近づく人影が挨拶をするところから始まる。

 

「こんばんは、黒崎君に朽木さん」

 

「だ、誰だお前? 何で、俺等の名前────?」

 

「────君は霊が見えるんだよね?」

 

「「なッ?!」」

 

 少年の────『石田雨竜』の言葉に動揺する一護とルキア。

 

 この三人の姿とやり取りを見ていた第三者がいた。

 

 またも姿()()()()()()()()()()()()()

 

「(『石田雨竜』………か)」

 

 三月は近くの電柱柱の上から、石田雨竜が夜の空座町を彷徨っている一護達接触しているのを見ながら彼と初めて出会った日を思い出していた。

 

 

 

 場所と時はもう一度一転し、空座高校に入学して間もない頃へと戻る。

 

「渡辺三月ちゃんだよね?! 私、井上織姫! よろしくねー!」

 

 突然急接近して来て、満面の笑顔になりながら大人しく読書をしていた三月に自己紹介をして来た織姫を三月は見上げながら戸惑っていた。

 

「……………??? (え? 『井上織姫』? な、なんで? い、いやここは取り敢えず挨拶を返し────)────あれ? 私の名前────?」

 

「────わりぃ三月、織姫に伝えたらこの子すぐすっ飛んで行ったからさ」

 

 織姫の後を追った様に竜貴が続く。

 

「……えっと────?」

 

「────あのさ、あのさ! 三月ちゃんはさ、手が器用なんだって?!」

 

「え? なんで────」

 

「前に暖房器具直していたって竜貴ちゃんが言ってたんだ! 凄いね~!」

 

「………………………………………………………」

 

「ア、アハハハハ」

 

 三月がジト目で竜貴を見て、彼女は目を逸らしながら乾いた笑いを出す。

 

 実はと言うと、前回一護がルキアに説明していたように三月は『スゲェ奴』で、学校内や近所で壊れた小物や機械類で困っていた人を見ては直す事などをしていた。

 

 昔からよく一護と共にチエを道場に誘ったり、渡辺家とつるんでいたからこそ外では『地味な子』演出する三月にこのような特技があるのを竜貴も知っていたが………

 

 まさか高校生活が始まって数日以内に何故か三月をジーっと見ていた織姫が彼女の名を竜貴に聞いて上記の状況になるとは思わなかった。

 

「ねえ竜貴ちゃん? あの子、誰か知っている?」

 

「ん? ああ、あの子? 渡辺だよ」

 

「竜貴ちゃんは知っているの? あれ? 渡辺って…渡辺チエと────?」

 

「うん、姉妹なんだあの二人。 あっちの金髪は渡辺三月で、ちょっと地味っぽいけど実は凄い奴なんだ。 こう、『能ある鷹は爪を隠す』的な?」

 

「へー、そうなんだ」

 

「そうだよ? 子供の頃からの付き合いだけど、アイツ色々知っている上に()()()()()で────って織姫?!」

 

 これが一連の出来事で、織姫は即机から立ち上がってはピューッと三月の居る所に行っては猛烈(?) な自己紹介をしていた。

 

「へー…………()()、後で話があるからヨロ~♡」

 

「い゛?!」

 

 実にニッコリとした、良い笑顔で()()()()()三月に竜貴は青くなる。

 

 が、織姫はそんなことをお構いなしに────

 

「────三月ちゃんってさ、手芸部に興味ないかな?!」

 

「えっと、わt────」

 

「────今日の午後丁度部活の日なんだ! 一緒に行かない?!」

 

「だk────」

 

「────じゃあ決まりね! ♪~」

 

 そして愉快な笑顔で鼻歌を歌っていた織姫は嵐の様に突然来ては去った。

 

 困惑した三月を置いていきながら。

 

「……………………………………………………………()()()()?」

 

 どうやら無視されて人の話を聞かないといった行為の『受ける側』は慣れていなかった模様の三月であった。

 

 

 その日の午後、離脱逃走撤退……すぐに帰ろうとした三月の手首をがっしりと織姫に掴み取られ、彼女に連行 物理的に引っ張られていった。

 

「石田k────じゃなくて、『部長』~~! 新入部員連れて来ました~~~!」

 

「お、お、織姫さん? 私はまだ────」

 

 二人が入っていった手芸部の中には眼鏡を掛けた黒髪の少年が一人刺繍をしていた。

 

 困惑&困っていた三月が抗議を上げ始めるが、新たに聞こえて来た少年の声にピタリとやめる。

 

「────あれ? 井上さん? こんなに早く来るとは珍しいですね、それに僕を『部長』呼ばわりs────」

 

 「────()()()()()?」

 

「「え?」」

 

 この発言に少年と織姫が同時に声の持ち主を見る。

 

 それは今どきの年齢に反して珍しい言い方からなどではなく、純粋に声のトーンからだった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………………ハッ?! ムグッ」

 

 今更自分が何を言ったのを気付いたのか、三月はハッとしながら両手で口を塞ぎながら次第に耳までカァ~ッと真っ赤になっていく。

 

 「(えええぇぇぇぇぇぇ?!?!?!?! 嘘やろぉぉぉぉぉぉ?! ナ、ナ、ナンデ? 何でよりにもよって石田雨竜(ムッツリ眼鏡)()()()()の声なのよぉぉぉぉぉ?!)」

 

 三月はとても何時もの調子や余裕など既に無かったどころか内心パニックにさっそく陥っていた。

 

「どういうこっちゃ」や「どないしよ」や「何やねんこれぇぇぇぇ?!」や「えらいこっちゃ」と言うような内心状態である。

 

「あれ? 君は確か、同じクラスの────」

 

「────渡辺三月です、部長!」

 

 織姫の(物凄く)元気のいい紹介に一瞬たじろぐ少年────石田雨竜。

 

「あ、ああ。 ありがとう井上さん。 僕は石田雨竜────あれ、大丈夫ですか?」

 

 雨竜がさらに赤くなっていく三月の安否を案じているのか、地面へと俯いた彼女の顔を下から覗き込む。

 

「ひぅ?! はにゃぁwせdrft~~~」

 

 変なテンションになっていた上に緊張感マックスだった三月にこの最後の行為がダメ押しだったようで、彼女は目をグルグルと回し、意味不明な声を出しながらその場で倒れた。

 

「「渡辺さん?!/三月ちゃん?!」」

 

 その日気を失った三月の看病で手芸部どころでは無くなかった。

 

 尚、三月の「クドクド説教」を覚悟していた竜貴は彼女の姿が見えなかった事にホッとしながらやっと空手の手合わせ試合に本腰を入れられるようになって相手を瞬殺した。

 

 そして保健室にて気が付いた三月に雨竜が謝り、織姫の表情は何時もの笑顔ではなく複雑だった。

 

()()()()()』。

 

 三月が確かに()()()()でそう言った事に何か思っていたみたいで、次の日から何かと三月を手芸部に誘って(連行して)は絡んでくる事となった。

 

 ちなみに雨竜を『()()()()()』呼ばわりしたのを知っているのは雨竜本人、その場にいた織姫、そして竜貴だけだった。

 

 何故竜貴も知っているかと言うと、織姫が三月の『お兄ちゃん』呼びの事を竜貴に尋ねてみたのだが、竜貴にも渡辺姉妹に『兄』がいる事は初耳みたいでビックリしていた。

 

 もしこれが子供の頃ならかつての一護みたいに躊躇なく直接本人に訊いていただろうが、もう高校生にもなる年頃で『空気が読める』事が出来、三月本人がその話題に触れない事から『何かの事情がある』と察した三人達(雨竜、織姫、竜貴)だったので詳しい事は分からず終い。

 

 最初は部活に気乗りではなかった三月だが、他の部員の針と糸の使い方や素材の選び方が雑だったのが気になり、口を挟んでいく内に手芸部に馴染んでいった。

 

 ただやはりは雨竜と目が合わせにくく、彼が周りにいると赤くなりながら未だに緊張して言動がギクシャクとしていた。

 

 これを聞いて、実際に見学に来た竜貴の開口一番は────

 

「────ま、まさか………これが噂に聞く『惚の字』?!」

 

 これが以前に記入した三月と『石田雨竜』の面識である。*1

 

 

 

 そして余談ではあるが期末テストの結果は()()『原作』通りであった。

 女子の方で織姫は堂々の3位。

 チエは26位で三月は25位。

 

 男子では石田雨竜が1位、チャドが11位、そして一護が2()7()()だった。

『原作』よりも成績が低くなった一護。

 その原因は────

 

「(────これって多分、私達の所為よね~)」

 

()()』なら黒崎真咲は死んでいて、グレては徘徊する街のチンピラや不良、果ては学校の先生にまでオレンジ色の頭で絡まれる一護は一時期家に籠っては勉強に没頭していた。

 

 だが黒崎真咲は生きているどころか、『()()』無かった()()()()()()()()にも時間を割いていたので勉強する時間が少なくなっていたので成績は落ちていた。

 

「シッ!」

 

 雨竜が霊子兵装(れいしへいそう)の弓矢を構えては矢を放ち、遠くの虚を撃墜する様子に三月の意識は記憶の中から現在へと戻る。

 

「(おっとっと、もう少しで見落とす所だったよ…………よし、『()()』完了)」

 

「僕は石田雨竜。 滅却師。 そして僕は死神を……………君を、『黒崎一護』を憎む」

 

「(お兄────じゃなくて、石田さん…………………)」

 

 三月は憎しみの籠った視線を送る雨竜を見て、彼が何故これだけ一護を…………と言うよりは『死神』に憎悪を感じていたのか『()()()()』として理解はしていた。

 

 以前に記したとおり、石田雨竜は黒崎真咲と同じ数少ない『滅却師』。

 

 そして彼の師であると同時に祖父の石田宗弦(そうけん)がその昔大量の虚に襲われ、死神達に救助要請を出したにもかかわらず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかもこれらは必死に気配と自信の霊力を消していた雨竜は事の一部始終を子供の頃に実際に見ていた。

 

 そんな幼くも賢明な彼にこの出来事はあまりにもショックで、一種のトラウマ(呪い)になりかけていた程。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 翌日の日、手芸部での雨竜はそんなそぶりは見せずにただ読書をしていた。

 

 と言うよりはチラチラと目線を時たま別の部員達と話す三月を見ていた。

 単純に気になっていたからだ。

 

 彼は滅却師でも霊圧の探知に長けていて、一護が()()()()()から死神へと変化した事も霊圧の違いによって分かっていた。

 

 そんな彼が何故三月に注目していたかと言うと、初めて会った時()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

この世界(BLEACH)』ではどんな存在でも微弱ながらに霊圧を持っている。

 それは小さな虫でさえも例外ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()の物が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 今でこそ彼女から霊圧は周りの人達と大差ない程が漏れ出していたが、意識を失って逆に霊圧が無くなる事は雨竜にとって今までになかった前例だったので、気になってはいた。

 

「(何で雨竜(眼鏡)はこっちを見ているのよ~~~~?!)」

 

 このチラ見に気付かない筈の三月は必死に『普通』を演じながら内心ハラハラしていて、逆にドアから覗き込む一護と織姫に気付かなかった。

 

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

 チエはその日浦原商店の店番をウルルとジン太でしていて、奥では浦原とテッサイがルキアに『滅却師』の事を説明していた。

 

「────彼ら滅却師は死神と違い、徹底的に虚を殺す事に拘った。 至極、『人間的』な判断でしてね。 虚は人間の魂を喰らい、仲間や身内を傷つけた。 そんな奴らを『なんで安らかにソウル・ソサエティなんぞに送ってやらにゃならんのか?』と彼らにしてみりゃ当然な思い。 だから彼ら『滅却師』は頑なに虚を徹底的に殺そうとした。 『同胞の仇を討つ』という信念を持ってね?」

 

「………………」

 

「だけどその信念ゆえに彼らは滅ぶ事になったんス」

 

 浦原が説明を続けてチエが聞き耳を時々立たせていたが、彼女は突然箒を落として鼻を両手で押さえ、俯く。

 

「チ、チーの姉貴?!」

 

「チー姉ちゃん?!」

 

 これを見たジン太とウルルが佇むチエの様子に心配する声を出す。

 

「く、()()! 鼻がもげるッッッ?! (何だ?! 何なのだ、この()()は?!)」

 

 その後ろではルキアの伝令神機が虚探知の音を出しては反応が消えてはまた鳴り出していたりと忙しく、彼女は様子のおかしい空座町へと駆け出して行った。

 

「何だこれは、一体何が────?!」

 

『チーちゃん聞こえる?!』

『くぁwせdrftgyふじこlp』

 

 三月の声が頭の中で響いていたが、今のチエに答える余裕はなかった。

 

 読者達にも分かりやすく記入すると、今の彼女の鼻を襲っていた匂いは長らく洗濯していないお年寄りの靴下をスポンジ代わりに便器を拭いた布をマスク代わりに顔に着けているようなものである(合掌)。

 

「さて…ウルルにジン太、戦闘準備を。 テッサイさんも。 皆さん、出陣です」

 

 浦原が立ち上がって、何時もの調子ではなく、真剣な表情を浮かべていた。

 

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

『チーちゃん、返事はしなくても良いから()()()()()()()()! 絶対に()()()空座高校と公園に行っちゃ駄目よ!』

 

 三月は身を浦原特製の霊圧遮断外套のフード付きローブを身に纏いながら忙しく()()()()()()()を引いて一護と雨竜の射程距離外の虚を攻撃しながら念話を飛ばしていた。

 

『マイ! 黒崎家はどういう状況?!』

『今のところ大丈夫よ! でも、夏梨がまだ帰って来なくて────!』

『────何ですって?!』

 

 三月は一瞬焦って夏梨の霊圧を探る。

 

「…………これは…チャド? そういえばそんな場面も────」

 

 僅かにだがチャドが虚から逃げて公園で夏梨と会って、彼女を守ろうとした事で能力を開花した場面を思い出す。

 

「■■■■■!」

 

「────ええい、鬱陶しい!」

 

 新たに表れる虚の咆哮に三月はイライラしながら矢を乱れ射る。

 

 何故今回はドン・観音寺や以前の出来事の様に三月は観戦していないかと言うと範囲の問題で、『有り得るかも知れない被害』を抑える為だった。

 

 確かに(プラス)や人が犠牲になる描写はマンガなどには無いが、石田雨竜の撒き餌は()()空座町と言う『特殊な地域』と共鳴して雨竜本人の予想をはるかに超えた数の虚が()()()()()()()()()()()()()

 

「何が『虚は僕が全部倒す』よ! あんのムッツリ眼鏡、義兄さんの声で良く────ッ?!」

 

 突然空座町内で爆発的に増大した霊圧に三月はびっくりする。

 

 だがその霊圧の元がチャドと織姫の二人と分かり、顔が緩む。

 

「(よし、『原作』通りね。 第一関門クリア!)」

 

 本当なら裏方仕事のように動きたくはないが、直接介入して身の回りの皆になるべく怪我を負わないように事を進めたかったが、そのせいで以前の織姫の兄の様に『世界の修正力』が働けば今後の出来事がどう変わるか計り知れない。

 

 とはいえ、チャドを追う虚を最初の一体の『バルバスG』だけに限定して彼ら(チャドと夏梨)に気付いた他の虚を撃墜したり、織姫達がいる空座高校は原作通りで直接の殺傷能力が平均的に低い『ナムシャンデリア』のみに対して()()()()()()()、誘導したりと忙しかった。

 

 それも彼女がイライラする理由の一つ。

 

 だが最大のイラつきの理由は────

 

あああ、もう! あのムッツリ眼鏡ぇぇぇぇぇぇ!!!!!

 

 ────別にあった。

 

 

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

「……………………」

 

 「なあ井上、チエってこんなに静かだったか?」

 

 「う、うん。 そうだよ? 茶渡君はあまり話した事ないの?」

 

 「ああ、あまり無いな。どちらかと話すと言うと、もう一人(三月)の方だ」

 

 チエ、チャド、そして織姫の三人は少し離れた場所から巨大な虚、『大虚(メノスグランデ)』が歩いていたのを歩道橋の上から眺めていた。

 

 チエは未だにヒリヒリと痛む鼻を我慢しながら二人(チャドと織姫)の護衛を浦原に頼まれた事で、彼らと一緒に居た。

 

「……………『私達の歩む道』、か…………」

 

「井上……」

 

 先程浦原に言われた事を二人は考えていた。

 彼は二人に死神や虚の事、そして彼らの能力が虚相手に有効だと言う事を簡易的に説明していた。

 

「……渡辺は、虚や死神の事を何時知ったんだ?」

 

 そこでチャドが少しでも第三者の意見を聞く為に先程浦原から聞いた、オカルトめいた話題を振る。

 

()()()()()()()

 

「「え?」」

 

 チエの即答に織姫とチャドが両方目を見開いて、無表情の彼女を見る。

 

「ず、『ずっと前』って?」

 

「言葉通りの意味だ。 そうだな…………かれこれ()()()ぐらいか? (この世界単位で言えば)」

 

「「……………………」」

 

 これに何とも言えない顔になる織姫と、そしてあのチャドでさえも黙り込む。

 

「……ねえチエちゃん、聞いていいかな?」

 

「何だ、織姫?」

 

「その………三月ちゃんが前に石田君の事を『お兄ちゃん』って呼んだんだけど……あ! 答えにくい事なら別に────」

 

「────構わない。 だが少し意外だ、アイツが人前でそんな事を言うのは」

 

「あ…………やっぱり…………事情があるの?」

 

「ああ、()()()

 

「そう、なのか」

 

 これを聞いたチャドの表情は変わっていなかったが、内心かなりびっくりしていた。

 

 と言うのも、彼は巨体(190cm)の割に可愛いものに目が無く、手芸部に入ったと耳にしてから三月と話し始めると二人はかなり馬が合い、『喋るインコ事件』からは特に話し合うような仲になった。

 

 逆にチエは物静かで話す事自体あまりないが、他のクラスメイト達から聞いた話からの印象は悪くなく、ただどう接すれば良いのか分からなかっただけだった(挨拶などは交わすが)。

 

 そんな彼女達に『兄』がいる事は初耳で、『事情がある』と聞いたチャドは一瞬自分の事を重ねた。

 

茶渡泰虎(さどやすとら)』、通称『チャド』(一護命名)。

 彼は黒崎一護のクラスメイトで、中学生時代からの親友で、メキシコ人の祖父を持つクォーターの浅黒い肌男。

 そんな彼は幼い頃に両親を亡くし、それ故の反動からか幼い頃はとにかく乱暴だった。

『気に入らない』と言うだけで彼は暴力を振るい、周りからは『悪ガキ』とレッテルを張られた。

 祖父に諭されて以来『自分の為の暴力』は無くなったが。

 

「………………込み入った事情なのか?」

 

「ふむ……………(珍しいな、三月が()の事を人前で出すのは。 だが出したからには、『ある程度話しても良い』という事の筈。 更にその事を私に『言っていない』という事は自己の判断で決めて良いという事の筈)」

 

 もし三月がこの事を知っていたのなら全力でやめさせていただろう。

 

「ちゃうねん! ものすっご忘れてただけやねん!」と言うような、変な言葉使いへと崩れながら。

 

 だが生憎彼女はいなかったのでチエは話を続けた。

 

「………良いだろう。 詳しい事は話せないが────」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そこからチエは詳細を省いた『三月の義理の兄』の事を織姫とチャドに話している間、メノスグランデが撤退して行った。

 

「「……………………………………」」

 

「…………………どうした二人とも、黙り込んだまま────」

 

 チエが横を見ると体がビクッと跳ねた。

 

 何故ならそこにはポロポロと涙で泣き崩れていた織姫と、表情を全く変えずに同じくポロポロと目から雫を流していたチャドがいた。

 

「お、おい────」

 

 「────三月ちゃん、何て健気な子なのー?! うわーん!」

 

「……………………………ああ」

 

 泣く二人にチエが珍しくオロオロしていた(二人は泣いていた事によりチエの様子に気付かなかった)。

 

「ん? あれは三月?」

 

「「グスッ…え?」」

 

 チエの指摘に織姫とチャドが見ると地面に座り込んだ石田雨竜に近づいていく三月似の人が────

 

 

 

 

 

 

 

 ────どこから出したのか、巨大なハリセンで雨竜の頭を思いっきり叩いていた。

 

「「「痛そう」」」

 

 これにチエ、チャド、織姫の三人が同時にコメントをする。

*1
第12話より




リカ(天の刃体):ほう、これは興味深いですね

作者:Oh、またもめんどくさい奴が来たよ

リカ(天の刃体):失敬な。ボクは探求心が強いだけです

作者:自覚持っているじゃねえか?! Σ(゚□゚;)

市丸ギン:なんや、またおもろそうな子が来よったやないか?

作者:Oh my God! Nooooooooo!!!

リカ(天の刃体):む。あなたは……………………『13kmや』の人

市丸ギン:『市丸ギン』や。 何やねんそのR-18っぽいあだ名は?!

リカ(天の刃体):お詫びにこの干し芋を────

市丸ギン:いらんわ、そないなもん!

作者:(あの市丸ギンが手玉に取られている?)

ツキミ(天の刃体):で?いつまでそのコント続くねん?

リカ(天の刃体):あ、わかりました?

市丸ギン:なんやノリの悪い奴やなぁ

ツキミ(天の刃体):ツッコみ担当やからな

作者:演技だったんかい…


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第17話 『ヒーロー』と恋バナ。そして『孫』

少し長めです!


 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 メノスグランデを退かせ、ほとんど力が入らず地面に横たわる一護が雨竜の顔を見て愚痴を零す。

 

「そんな顔している人間、殴れるかよ────って三月?」

 

 顔を横にした一護が()()()()()()に気付いて顔をすぐに逸らせる。

 

 理由は『一護は地面に横たわっていて、三月は空座高校の制服姿(スカート)で歩いて来た』で察して下さい。

 

 バシィィィィィン!!!

 

 そしてどこから取り出したのか、大きなハリセンで雨竜の頭を叩いて盛大な音が出る。

 

「いった?! わ、渡辺s────?!」

 

 「────()()()で! 駄々っ子のような浅はかな考えで、周りを巻き込むような無責任な行動を取るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 三月の叫びは辺りの木を鼓動させるほどで、「そんな小さなナリの何処にこんな音量の出る肺活量が?」と一護達に思わせるぐらいだった。

 

「つーかお前、石田に何の恨みがあんだよ?」

 

 体を起こしあげた一護が聞く。

 

「延々と出てくる虚の退治、つまり尻拭い」

 

「………………え? お前も戦えたの? チエとマイさんだけじゃなくて?」

 

 これも一護からすれば仕方の無い事で、彼が主に戦っている人を見たのはチエだけ。 

 マイは()()()()と聞いたのでコンと同じようなモノと認識していた。

 

 だが三月に関しては回道のみを使用していたのを見ていて、子供の頃のグランドフィッシャー戦で一護は雨の中だった為、三月が戦った所を良く見えていなかった。

 

 なので彼はてっきり三月は『補助役』と思い込んでいた。

 

「な、ちょ、ちょっと待ってくれ渡辺さん! ま、まさか君も────?!」

 

「────あー、こんな事をするつもりは全く無かったんだけど…………まぁ、良いか。 初めまして石田雨竜さん。 『()()()()()()』の渡辺三月です。 以後お見知りおきを」

 

 三月がスカートの橋を掴んで一礼をしながらぺこりと頭を少し下げる。

 

「毎回思うんだけど、三月って時々『お嬢様』っぽいな」

 

「そして毎回言うけど、一護は別に間違っていないよ? あ! あと私、『()()()()()』やっています♪」

 

「?????????」

 

 未だに頭が付いて行っていない雨竜はただ?マークを出して三月と一護を互い見る事数秒間。

 

 そこで彼は理解が追いついたのか、目を見開く。

 

「ク、ク、滅却師ィィィィ?! わ、わ、わ、渡辺さんが?!」

 

「いや~、良い物を見れたッス!」

 

 カランコロンとする下駄の音で一護、雨竜、三月が見ると浦原がチエ、チャド、そして織姫を引き連れていた。

 

「浦原さんもお疲れ~」

 

「いえいえ。 アタシは別に何も? 優秀な店員達と助手達が────」

 

 「────や・と・わ・れ・の・身ッ!」

 

「そんなに照れなくても良いじゃないッスか三月サン~?」

 

 ___________

 

 井上織姫 視点

 ___________

 

『渡辺三月』と言う少女は織姫にとって、恩人である。

 

 と言うのも最初の出会いは織姫にとっては最悪の日で、未だに実の両親から兄と共に受けていた虐待で傷ついた精神の中、織姫の胡桃色の髪の毛に目を付けた不良の女子達に女子トイレへと追い込まれ、ロッカーの中に無理矢理入れられた所から始まり、便器の水の入ったバケツを掛けられる所からだった。

 

≪ほら、他の奴らはロッカーを開けろ! バケツに水を汲んでk────ぐへ!≫

 

 泣きながら恐怖に体を震わせて、思わず目を瞑った織姫が次に聞こえたのはロッカーの開く音ではなく、不良達が痛みや怒りで叫ぶ声だった。

 

「(え? な、何?)」

 

 織姫が恐る恐る目を開けて、ロッカーのスリットの間から外の様子を窺おうとした。

 

 バシャァン!

 

≪ぐあ?! つめてぇ?!≫

≪な、誰d────ゴハァ?!≫

≪────ぐぇ≫

 

 ほぼ一瞬だった。

 動作と共に流れるような金色の髪をした少女が、まるで燃えさかる炎のような勢いで不良達を次々と倒していく。

 

 それは織姫にとって、テレビなどでよく見る悪役をバッタバッタと倒していく『ヒーロー』の様子だった。

 

≪ふざけんなよ、この()()────グヒィィィ?!≫

『チビ』は余計だ!

 

 最後の一人を倒し、織姫は『ヒーロー』のウェーブの掛かった、腰まで届く金髪とグツグツと煮えるマグマのような静かな怒りの横顔をチラッと見た。

 その少女は何も言わずにトイレから出ようとすると、それまで見とれていた織姫が勇気を振り絞って取り敢えず名前だけでも聞こうと口を開けた。

 

≪だ、誰?≫

 

 だが『ヒーロー』は何も言わずにただ場を去ろうとする所を見て、織姫はカラカラになりそうな喉から声で胸の奥に感じているものを出す。

 

≪えっと……助けてくれて…………………ありがとうございます≫

 

『ヒーロー』はそれを最後に織姫の視界から完璧に消えていく。

 そして『ヒーロー』の背中姿が織姫の脳裏に焼き付かれていた。

 

 そこから少し後にまたも絡まれた織姫は竜貴と出会い、『ヒーロー』の様に自分を守ってくれる『騎士(親友)』を見つけ、次に『ヒーロー』を見かける事となるのは数年後の空座高校へ入学した頃となる。

 

 読書をしていた彼女(ヒーロー)はパっと見ただけではとても同じ人物とは考えられなかった。

 

 もう一度再会した彼女(ヒーロー)は髪の毛を二つ編みにしながら束ねていたのか、髪の毛は肩までしか長さは無く、その顔にあまり似つかわしくない眼鏡をしていて当時感じていた、炎の様な勢いは見当たらなかった。

 

 どんな感じかと言うとよく彼女を見なければ『地味過ぎて見落としそうな子』だった。

 

 そんな彼女が織姫の見た『ヒーロー』と同一人物…………と、他の人なら容易に結びつかないだろう。

 

 こんな『地味で物静か』な子が『ヒーロー』めいた行動をするなど。

 

 だが織姫には分かった。

 

 学校での姿は()()姿()で『ヒーロー』が()()()姿()と。

 

 何故なら()()()()()()()姿()()()()()()()から。

 

 そして織姫にはそんな彼女を放っておけなかった。

 

≪ねえ竜貴ちゃん? あの子、誰か知っている?」

≪ん? ああ、あの子? 渡辺だよ≫

≪竜貴ちゃんは知っているの? あれ? 渡辺って…渡辺チエと────?≫

≪うん、姉妹なんだあの二人。 あっちの金髪は渡辺三月で、ちょっと地味っぽいけど実は凄い奴なんだ。 こう、『能ある鷹は爪を隠す』的な?≫

≪へー、そうなんだ≫

≪そうだよ? 子供の頃からの付き合いだけど、アイツ色々知っている上に()()()()()で────って織姫?!≫

≪渡辺三月だよね?! 私、井上織姫! よろしくねー!≫

 

 そこから織姫は『ヒーロー』が作ってくれたきっかけで得た明るさで幾度となく三月(ヒーロー)と仲良くなろうとした。

 

 その結果────

 

 ≪────()()()()()?≫

 

≪≪え?≫≫

 

 手芸部に連れて来た三月は石田雨竜(手芸部長)を『兄』と呼んだ。

 

 それは最愛の兄を亡くした織姫にとって、とても意味深いものに聞こえて、彼女(三月)の事情を更に聞いた織姫は────

 

 

 

 

 

 ────兄を亡くした頃の様に胸が酷くズキズキと痛んだ。

 

 最初、織姫は自分に対しては素っ気ない態度を取る三月に嫌われているのかと思ったが、もしそうだとしても自分と彼女の接点はあのトイレの一件しかない。

 

 それに嫌う相手をわざわざ姿を変えてまで助けるだろうか?

 

 他に接点があるとすれば有沢竜貴だが…………

 彼女(竜貴)と知り合ったのはあの一件の後で、どう表現すればいいかと言うと三月()織姫と親しくなるのを避けようとしていたかのように思えた。

 

 そしてその理由が織姫には分からない。

 

 分からないが……………

 

 もしかして。

 もしかしてだが────

 

 

 

 

 

 

 ────『()』が関係しているのではないか?

 

 そう織姫が目の前の場面を見ながら思っていた。

 

 目の前にはカラコロト下駄を鳴らしながら歩く『浦原喜助』と自己紹介した怪しい男、織姫の想い人である黒崎一護、そして手芸部長の石田雨竜。

 

「さっすが『()()()()()()』ッスね。 ()()倒しましたか?」

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

『そんなの一々数えていない』。

 それはつまり『数えるのも馬鹿馬鹿しい数』とも織姫には聞こえた。

 

 織姫は必死に、がむしゃらになってやっと一体倒した化け物()を、『そんなの数えていない』くらい自分より小柄な三月は倒したらしい。

 

「(本当に……『ヒーロー』みたいだ……)」

 

 

 ___________

 

 チエ、三月 視点

 ___________

 

 汚臭(大量の虚)が襲った翌日の日、三月はどこか上の空状態だった。

 

『大丈夫か、三月?』

「『ふひゃっへ?!」』

 

 急に頭に響いたチエの声に三月は(物理)(精神)同時に慌てて思わず持っていたカバンを落としそうになる。

 

 登校中素っ頓狂な声を出した彼女を見ていた人達に、三月は苦笑いをして誤魔化す。

 

『だ、大丈夫よ。 オホホホホ』

『そうか』

 

 その日、珍しく遅い登校をして来た雨竜は両腕に包帯でグルグル巻きの状態でクラスの話題になっていた。

 

『(クソ)真面目で秀才な石田雨竜が両腕に怪我をして遅い登校』で教室はざわついていた。

 

 その中で上の空状態だった一護、ルキア、織姫、チャド、竜貴、そして三月はボ~ッとしていた。

 

 この状態はお昼休みまで続いて、織姫は周りの人達を一緒に飯に誘っていた。

 

「ねえチエちゃん、三月ちゃん? 朽木さんが何処にいるか知っている?」

 

「そうだな…………………………人気のない場所」

 

「例えば木の上とか? (『原作』でもそうだったし)」

 

 

 

 そして案の定木の上の枝で黄昏ていたルキアを発見。

 

「ルーちゃ~~~ん、ごーはーんだよ~」

 

「ん? 三月達か────」

 

 ルキアは木の枝の上から身軽に飛び降りて、織姫達が拍手をする。

 

「「「「おおお!!」」」」

 

 この動作に竜貴がウンウンと納得する。

 

「うんうん、この運動神経はもう遺伝子だねやっぱり!」

 

「? どういう事、竜貴ちゃん? チエちゃんも運動神経良いけど────」

 

「────ちょ、タッちゃん────」

 

「────ところがどっこい! ミーちゃん(三月)だってこのぐらいの高さ飛び降りられるんだよね! しかも余裕で」

 

「「「「……………………………」」」」

 

 織姫達全員がせっせと弁当の用意を黙々と準備(&冷や汗を)する三月を見る。

 

「で、でも竜貴ぃ? 『三月』よ?」

 

 千鶴がおずおずと竜貴に確認を取る。

 

「そ、そうだよ。 私も言うのもなんだけど……………さっきの『ヤッカー』でも何も無い場所で転んだよ?」

 

 みちるが付け足す。

 

『ヤッカー』。 それは井上織姫が考えた新たなスポーツで、『野球』と『サッカー』を融合したものだった。

 

 そして三月はそこで盛大に走ってこけた、何も無いところで。

 そして彼女は体育がある度に擦り傷などが絶えない程、『学園認知の運動音痴』。

 

 保健室の人達が「ああ、またか」と言った具合で溜息を出して何時三月が連れて来られるのか賭けをするほど。

 

「ああ、あれ? 運動音痴振っていんのよ、この子」

 

「た、タッちゃん」

 

「この子ってばチエやアタシと同等かそれ以上な神経と体なくせして、運動できないフリしてんの。 ()()()()()()()()()()()からってそこまでするかな、普通?」

 

 女子三人(みちる、千鶴、真花)がポカンとした半面、陸上部の短距離走担当の国枝鈴(くにえだりょう)がジッと三月を見る。

 

「竜貴達と同等の運動神経…………チエ、あなたは前回の100mは12秒50()()()()だったわよね?」

 

「ああ、確かそうだが?」

 

「三月、あなたは?」

 

 まるで警察の尋問の様に(りょう)がグイーっと近付ける顔から背ける三月。

 尚近くにいた千鶴(生粋のレズビアン)なら普通、このシチュエーションに興奮しながらコメントをしているかも知れなかったが────

 

「────ハァ、ハァ、ハァ、良い」

 

 ────ただ鼻血を流しながら荒い息と共に()()()妄想をしていた。

 

 え? どんな妄想かって?

 ……………………察してくださいお願いします。

 でないと確実にR-18指定の百合モノになってしまいます。

 

「(怖いッッッ!!!! (りょう)ちゃんと千鶴の目が別々の意味で怖いよ?!) さ、さぁ~?」

 

「よし、じゃあ今走ろうか?」

 

 (りょう)が三月の首根っこを掴んで無理矢理三月の体を持ち上げ、彼女の足がぷら~ンと地面から離れてぶら下がる。

 

「ぎゃあああああああ!!! おーろーせー!」

 

「思ったより軽いね、三月」

 

 「誰が『思ったよりチビ』やねんゴラァァァァ?!

 

 三月が半ギレのままジタバタすると、そのはずみで興奮していた千鶴の顔を蹴ってしまう。

 

「あ。 ご、ごめん千鶴────」

 

 「────グリーンの縞パ────!!!」

 

 千鶴が更に興奮(鼻血を流)しながらグッとサムズアップをする。

 

「────フンッ!」

 

 ゴスッ

 

「ンガハッ」

 

 三月の踵落としが千鶴の脳天に炸裂して彼女は沈黙する。

 

「ほう。 今のが『()()()』という奴か?」

 

「ど、どうかな?」

 

 チエのドライな一言にみちるが疑問を問う。

 

「さて、邪魔者もいなくなったし走ろう」

 

 「いーやー!!!」

 

 今度は上半身のみで暴れる三月を他の皆が苦笑いを浮かべている間、ルキアはずっと黙っていた。

 

「うわ、6段弁当箱?! 凄いお弁当ねチエちゃん! 」

 

「いや。2段は私のだが、後の4段は三月のだ」

 

「一体その量はどこに消えているんだろう? モグモグモグ」

 

 不思議がる織姫がカステラに洋館を挟んだ()()()()()()をモグモグ食べながら訊くが、逆に他の皆は「(織姫の食べた分はどこに────と言うか胸か)」と言う風に自己回答をした。

 

「ところでさ。朽木さんって、黒崎の事好きなの? どういう関係?」

 

「ブフ……………はい?」

 

 真花のド直球な質問にルキアは盛大にジュースを噴き出した。

 

「うっわ、真花ストレート過ぎ!」

 

「そうだぞ。 そこはもっと他の者にシレッと話題を振って断れない流れを────」

 

「────ンガ」

 

 みちると(りょう)が真花にツッコみを入れ、(りょう)は三月を手放す。

 

 チエがハンカチをルキアに差し出して、ルキアは顔を拭き、その間に三月はさっさと弁当を頬張り始める。

 

「バクバクバクバクバクバクバクバクバクバク」

 

「ルキア」

 

「う、うむ………」

 

「大丈夫! 皆の純白は私がもr────守る!」

 

「……………千鶴、あなた今『貰う』って言いそうだったでしょ?」

 

「サ、サァ。 ドウダッタンデショー」

 

「モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ」

 

「黒崎は…………奴は友人だ」

 

 ルキアが曖昧な笑顔で答える。

 

「え? それって付き合って────?」

 

「────ただの友人だ」

 

「恋愛感情無いの?」

 

「ない」

 

「全然?」

 

「あぁ、全然無いな」

 

「ハムハムハムハムハムハムハムハムハム」

 

 恋バナっぽいものに転じなかった事に女子は残念そうだった(千鶴は「いよっしゃー!!!」とガッツポーズを決めていたので例外とみなす)。

 

 チエは何時もの表情で静かに弁当を食べていて、三月はさっきまで叫んでいたので喉を潤う為にジュースを飲む。

 

「(うーん………一護xルキアか~…………まあ、ありかも知れないけど────)」

 

「────じゃあチエと三月はどうなのよ?」

 

「────ん?」

 

「────ングブボッ?!」

 

 チエが?マークを出し、今度は三月がジュースを噴き出しそうになる。

 

「私はむしろ、こっちの二人のどっちかが本命だと思うのよねー」

 

「ちょ、ちょっと真花ってば!」

 

 ニヤニヤと笑う真花にみちるがオロオロするが、他の皆(少なくとも大半)は興味があるようで織姫や竜貴もジッと二人(チエと三月)を見ていた。

 

「??? 『本命』とはどういう事だ?」

 

「え? チエ達知らないの?」

 

「な、何を?」

 

 チエと三月に対して真花が「マジか?」と言いたげな顔をし、竜貴が溜息交じりに言い放つ。

 

「ハァ~。 この際だから言うけど、ウチのクラスは大体あんた達のどっちが一護の本命で賭けているみたいだよ?」

 

「何?」

 

What(ワット)?」

 

「え?! チエちゃん達()黒崎君の事が好きだったの?!」

 

 竜貴の言葉に困惑するチエと三月、そして驚く織姫。

 

「私にとって、この事は初耳だな」

 

「わ、私も」

 

「いや、だって子供の頃から…………そうだね、小学生辺りから噂はあったよ? 一護があんた達のどっちかにくっ付くのか結構話題になっていたよ? 気付かなかった?」

 

「え?! なにそれ?!」

 

「竜貴! も、もっと詳しく!」

 

「早く言ってよ、そんな面白い事を!」

 

 真花たちが目をキラキラとさせながら食い気味になる。

 

「まあ、あんた達と一護ってば距離近いからねー。 どうして誰もあんた達二人に告白してこなかったか不思議に思わなかった?」

 

「???」

 

「え、いやだって私って地味だからさ────」

 

「「「「どこが地味だ?!」」」」

 

「────ひゃう?!」

 

「三月、あんた自分の見た目と性格舐めていんの? それらがどれだけ庇護欲とかその他モロモロの感情を引き立たせると思ってんのよ? チエも裏表の無いさっぱりした性格とその見た目のギャップ。 これで一人の男も寄って来ないなんてあり得ないでしょうが?!」

 

「「そうか?/そうかなぁ?」」

 

「「「「そうだよ!!!」」」」

 

 チエと三月が同時に頭を傾げる。

 

「……………その様子じゃ自覚無かったんだね二人とも」

 

「(う、うーん…………『地味な子』の枠に上手く入っていたと思ったんだけどなー)」

 

「………………………………」

 

「ちなみに今話す事は一護にぜっっっっっっっっったい内緒だよ? 実はアイツ宛に、あんた達を『賭けた』果たし状とかデスレターを隠れて対処する愚痴をしょっちゅうアタシとマイさんにして来てるんだよねー」

 

「え゛。 ナニソレ? (……………帰ったらマイに聞いておこうかな?)」

 

「ほう。 だから一護はよく怪我などをしていたのか」

 

「え?! チーちゃんこの事知っていたの?!」

 

 三月が驚いてチエの方を見る。

 

「よく怪我をしていたところを隠そうとしていたのに気付いていただけだ。 ただ私達には何も言って来なかったから敢えて指摘しなかっただけだが?」

 

「「ひゃー♡」」

 

 何故かみちると千鶴がチエの言葉に黄色い声を出す。

 

「お? という事は一護にも自覚アリって事か、これって? って、織姫もいる前でこれは流石に駄目か」

 

「え? アタシが居ちゃ駄目なの?」

 

「あー、分かんないなら気にしなくいいよ織姫」

 

「竜貴ちゃん???????」

 

 織姫の頭をグリグリと撫でる竜貴。

 

「それで、どうなの二人とも?」

 

「あー、一護は…………そうだね、()みたいな存在かな?」

 

「あ、アイツ(一護)が『姉弟』ぃぃぃ?」

 

 真花の問い(驚愕の訊き返し?)にチエが答える。

 

「そうだな。 直接の血の繋がりは無いが、そう表現するのが一番しっくりくるだろう。 もしくは『孫』か?」

 

「「「「「ま、『孫』ぉぉぉぉぉ?」」」」」

 

「あ! それも丁度良い表現ね。 ナイスよチエ!」

 

 竜貴達全員が一護を『孫』呼ばわりにしたチエと、うんうんと頷く三月を互いに見た。

 

「今思い出せば…世話の掛かる『孫』だったな、一護は」

 

「そうだね~」

 

 同時にお茶&ジュースを「ズズズ」と飲んでからホッと和むチエと三月の姿は『幼い孫の昔話をするお婆ちゃん達』の姿&空気そのものだった。

 

「そっかぁ、でも残念。 朽木さんもチエちゃんと三月ちゃんも黒崎君の事が好きなら4対1で私達の完全勝利だったのになぁ~」

 

「この子はまた訳の分からない事を────」

 

「────確かに戦では数の勝る方が有利だが────」

 

「────前言撤回。 この()()はまた訳の分からない事を────」

 

 竜貴に続いて、その場にいた大半の者は織姫とチエの発言に呆れているその間、三月はずっとルキアの様子を見て確信した。

 

 恐らくは()()()()が空座町に来るか来ている所だろうと思いながら。

 

「(そして次は『()()』の一護の特訓の筈────)」

 

「────それにアタシ自身、三月はどっちかと言うと()()に気があると思うのよねー────」

 

 「────ングォゲハ?! ゴホッゴホッゴホッゴホッ?!?!?!?!」

 

 ニヤニヤとする竜貴に三月が弁当のおかずにむせて咳を盛大にする。

 

「「「「………………………えええええええぇぇぇぇ?!」」」」

 

 そして更に質問攻めになる三月と詳しい事を竜貴に聞こうとする女子達であった。

 

 結局その場の返答や詳細は濁す事に成功した三月だが、この後から三月と雨竜は教室内と手芸部両方に新たな視線と気配を感じる事となる。

 

 「(な・ん・で・さッッッ?!)」

 

「渡辺さん、今日は様子が────」

 

「────アタシはダイジョウブデス。 ハイ」

 

 しかもタイミングが悪い事に、メノスグランデが撤退した日から三月を『()()()()()()』と知った雨竜は以前より三月を気にかけるようになっていた。

 

 その代わりとして竜貴は2時間みっちりの説教を三月から受ける事となる。

 

 学校後、正座で。

 

 足がビリビリしている間、三月は追加として『足裏コショバシの刑』を竜貴に対して実行した。

 

ンギャアァァァァァァァァ?!?!?!?!?!?!」

 

 竜貴の悲鳴は空しく空座町の空へと響くのだった。

 




作者:婆臭

三月:うっさいよ?!

チエ:そうか

カリン(天の刃体):反応うっす?!

チエ:珍しいな?

カリン(天の刃体):だってつまんねえもん、今の『あっち』ってさぁ!

作者:スミマセン………


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Middle Childhood - 『尸魂界篇』
第18話 レッスン、初め!


 ___________

 

 チエ、三月 視点

 ___________

 

 浦原商店の前に来た相手にほぼ反射的に挨拶をし始めるジン太とウルルが見たのはニコニコしていたチエと三月だった。

 

「おう、らっしゃ────ってまた姉貴達か」

 

「あ、えと。 お、おかえ────い、いらっしゃい」

 

 肌のツヤツヤした三月とチエが店番中のジン太とウルルに挨拶をされる。

 

「ん~、もうここまでくると『ただいま』でもいいんじゃないかな? もう一つの家族的な?」

 

「こんちゃーす」 ←棒読み

 

 チエへ三月がバッと顔を向け、掛けていた眼鏡がずり落ちそうになる。

 

「あ、あんたまだそのネタ引っ張るの?」

 

「「こんちゃーす」」

 

「しかもしっかりウルル&ジン太に行き渡っているし?!」

 

「なあ、ミーの姉貴。 何が起こってるんだ?」

 

「て、店長達…凄いピリピリしているの」

 

「そうか」

 

 チエがウルルとジン太の頭を撫でて、三月がウルル達の横に座る。

 

「うん、()()()()()()ソウル・ソサエティ絡みだと思う」

 

「それは何となく分かるんだがな~?」

 

「も、もしかして私達を────?」

 

「────分からない。 だから大人たちはそれを調べているんじゃないかな?」

 

「それにもしそうだとして、お前たちに危害を加えるような事があれば誰であろうと────

 

 

 

 

 ────斬る」

 

「「おお~~~~~」」

 

 チエの本気(マジ)な顔に目をキラキラと光らせるウルルとジン太を見て、三月は内心和む。

 

「(う~ん、チエがこれほどまで影響受けるなんて…ちょっと予想外かな? この二人(ウルルとジン太)もだけど。) 私も、二人に何かをしようって言う奴らが居るならあなた達を助けるわよ? 全力で。 マイも勿論、同じ意見の筈」

 

「お、そいつぁ心強ぇぇ!」

 

「う、うん。 安心する、よ」

 

「………………あああ、もう~~~!!! 二人とも可愛すぎ~~~~♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

 

「うわ?! ミーの姉貴がまた壊れたぁぁぁぁぁ?!」

 

「えへへへへ~♡」

 

 ジン太とウルルを抱きしめ、頬をグリグリする三月だった。

 

「あら~、皆元気そうで何よりね~」

 

「「マイさん!」」

 

 テッサイに家事を教えることがマイの日課になりつつある中、ウルルとジン太の『母』的存在になって来たマイを二人は大歓迎していた。

 

 

 

 

 

 

 その夜、ルキアの私物は渡辺家から無くなり、一護の部屋に下手な絵と共に置手紙が一通置いてあった。

 

 そこには短く文章が書かれていた。

 

世話になった。 すまぬ

 

 その夜を最後に、『朽木ルキア』と言う人物は空座町から姿と共に多くの人の記憶から消え去った。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 夏休み前の終業式後、チエはピリピリしながらも三月と一緒に浦原商店へと向かっていた。

 

「おやおや? お二人さんがバイトのシフトも入っていないのに夏休みに来るなんて、もしかしてアタシが恋しかったとか?」

 

「「それはない」」

 

「あ、お姉ちゃん達だー!」

 

「お! ほんとだ」

 

 浦原がチエと三月の即答にガックリと項垂れて、ウルルが嬉しがりながら三月に抱き着いて来て、ジン太がチエにドロップキックをお見舞いしようとするが空中で両足を掴まれてしまう。

 

「ぐわぁぁぁぁぁ! 惜しい!」

 

「そうだな。 だがまだまだ攻撃の気配を早く出しすぎだ」

 

「お主達も無事だったか」

 

「あ、夜一さんお久~」

 

 黒猫状態の夜一が店の奥から姿を現す。

 

「うむ、今度は『こんちゃーす』とは違うのかえ?」

 

「うん。 今度は『お久しぶり』の略」

 

「まったく、当世も変な語を流行らせおってからに」

 

「夜一殿はこれからお出かけか?」

 

 夜一がチエの横を通る。

 

「あの茶渡と織姫とかいう二人に少し話をつけに、な」

 

「そうか。 時間があれば私達も手伝おうか?」

 

「まあ………まずはあ奴らの返答次第じゃ」

 

 夜一はそのまま歩道へと出ると、浦原が広げた扇子の奥から真剣な顔を向ける。

 

「それでお二人さんは()()()()なのですか?」

 

 それは彼からすれば当然の質問だった。

 

 何せ丁度ソウル・ソサエティから()()()の死神が二人空座町に出現した日にチエ、三月、マイの三人は()()にも浦原商店へ寝泊まった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 或いは()()()()()()()()()()

 

「勿論、私達は()()()()味方よ?」

 

「そして昨日は()()として当然の事をしただけだ」

 

「へぇー? ………………お?」

 

 浦原が顔を傾けてチエ達の後ろを見る。

 

 そこには一護が歩いて来ていた。

 

「……………来てやったぜ、浦原さん」

 

「お早い到着ですね黒崎サン」

 

「ウジウジしても何も始まらねえ。 それにここにチエ達がいるって事は────」

 

「────ルキアの事なら忘れていないぞ」

 

 チエの返答に一護がホッとする。

 

「井上がアイツの事を覚えていたから『もしかして』と思っていたが…………と言うか意外と冷静なんだな二人とも?」

 

冷静………ですって?」

 

 三月がウルルを抱きしめるのをやめて一護の方へと振り向く。

 

「ハ、まさか。 冷静を通り越してルキアにキッッッッッッッッッッッツイハリセンの一撃を食らわせないと気が済まないわ♪」

 

 口だけ笑っていた三月の様子に一護の顔が引きついた。

 

「それじゃ、地下へ参りましょうか!」

 

 浦原がパチンと広げていた扇子を閉じて立ち上がる。

 

「♪~」

 

 三月が()()()に歌っていたのには理由があった。

 それはルキアの置手紙だった。

 

『原作』通り、彼女(ルキア)は一護の部屋に「自分は訳があって出ていく、探すな」が書かれていた。

 

 だが一護の部屋とは少し違い、手紙を書くうちに文章の()()が酷くなっていった。

 

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それだけならば、書くのが辛くなったと断言は出来なかっただろう。

 

 ただし、()()()()()()()()()()()の話だが。

 

「♪~(絶対にキツイハリセンの一発を食らわせちゃる!!!)」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 一護はルキアをソウル・ソサエティに連れ戻しに来た死神の一人、朽木白哉に魄睡(はくすい)鎖結(さけつ)を再生する為に浦原商店へと来た。

 

魄睡(はくすい)』は霊力の発生源で、別の世界(Fate)風で言うところの魔力生成をする魔力炉心。

 

 そして鎖結(さけつ)は『魄睡(はくすい)』のブースターの役割を補っている(またも別の世界(Fate)風で言う『魔術刻印』か、魔力を備蓄した遠坂凛の宝石魔術と言ったところか?)

 

「あ、あの…よろしくお願いします」

 

 頭を下げて二人分のグローブとヘッドギアをウルルが持ってくる。

 

「ではレッスン1. 彼女を倒しちゃってください♪」

 

「って、あんな子供殴れるかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「えと、ちゃんと着けてくださいね────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────でないと死にますから」

 

 一護が返事をするよりも早く、ウルルの姿がブレて、爆音と共に丁度一護が居たところが爆発して砂埃が舞う。

 

「…………………そろそろか────」

 

「────ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 一護は煙の中から飛び出て、ウルルへと向かい、彼女をスルーした。

 

「おおっと挑戦者の一護選手、ミニマム級チャンピオンのウルルへと向かったと思いきや素通りしましたー!」

 

「何だそれは、三月?」

 

 チエが見ると、三月が何処から出したのかアナウンサー風のマイクとサングラスを着用していた。

 

「え? 試合のノリを作ってんの」

 

「そうか」

 

「楽しんでますね、三月サン?」

 

「まぁね~♪ (出ないとブチギレたままになるし~)」

 

「おい?! どうやって着けんだよ、これ!?」

 

「「黒崎サン!/一護!」」

 

 全力で走って逃げる一護がヘッドギアを拾って着けるのに苦戦する姿と声に浦原と三月が同時に叫ぶ。

 

 二人は互いを見てほぼ一瞬の沈黙の後、「ニィー」っと静かに笑みを浮かべて一護へと開き直る。

 

「おでこにこうやってくっ付けて、思いっきり叫ぶんス!」

 

「そうそう! 叫ぶ合言葉は『受けてみよ、正義の力! 正義の装甲、ジャスティスハチマキ』────!!」

 

「「────装・着ッッッ!!!」」

 

「そ、そうか! こうやっておでこにくっつけて────って出来るかぁぁぁぁぁ!」

 

 ドゴォン!

 

 ウルルの追撃を間一髪で一護が躱して、彼は例の詠唱を赤くなりながらする。

 

「う、う、『受けてみよ、正義の力! 正義の装甲ジャスティスハチマキ!! 装着ぅぅぅぅぅ!!!』」

 

「プークスクス……ホントにやっちゃったよ、この人ぉ~?」

 

「ねぇ~?」

 

 テメェらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「「イェーイ♪」」

 

 浦原と三月がハイタッチを交わす。

 

「ところで浦原、これは何時まで続けるのだ?」

 

「ん~、最初の一撃を躱したところで良かったんスけどね? 面白そうですからもうちょっとだけ────♪」

 

「────て、店長! あれを!」

 

 テッサイが慌てる様子に浦原達が一護達の様子を見る。

 

「何ですかテッサイサン、そんなに慌て………………ん? んんんんんんんんんんッ?!」

 

 その間一護はヘッドギアとグローブを装着して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事に浦原の目が見開く。

 

「ア、アレレレレレレレ?!」

 

「え?! な、何よこれ?!」

 

 かなり予想外だったのか浦原と三月が両方珍しく困惑の声を出す。

 前から受けていたチエ達の指導に『原作』より強い筈のウルル。

 

 その彼女相手に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふむ、やはりフットワークが疎かになっているな。 奴の悪い癖だ」

 

「「「「え」」」」

 

 浦原、三月、ジン太、テッサイの四人がチエを見る。

 

「ど、どう言う事っスかチエサン?」

 

「チ、チーちゃん?! あんた、まさか────?!」

 

「────伊達に幼少の頃から『手合わせ』をしている訳ではない」

 

「(えええええぇぇぇぇ? マジかぁぁぁぁぁ?!)」

 

 三月が見上げ、ウルル相手に()()()()()()を見た。

 

『原作』からほど遠い、()()()()()()()()()()()()()を彼はしていて、自身とウルルの身長差がハンデどころかそれを理解して、手と肘は主にガードする為に使い、膝や足の長さを活かしたカウンターキックなどを繰り出していく。

 

「奴に『命の危機』以外の場合は徹底して使用禁止令を守らせていたからな」

 

(非常に)若干得意げに説明するチエを唖然とした顔で三月が見る。

 

「あ、アンタ何やってんの……………………」

 

 そしてカウンターキック等のおかげでノーマークになっていた一護の繰り出した拳のグローブがウルルのヘッドギアを掠って、バランスを崩した彼女を一護は体格差を利用して押さえ込む。

 

「あ、あのツンツン頭…………ウルル相手に………か、勝っちまったよ」

 

 何と、一護がウルルに勝ってしまったのだ。

 

 しかも傷を負わせずに。

 

「(ええええええぇぇぇ。 こんなのアリなの? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぃぃぃぃぃ?)」

 

 そう。 実はと言うとウルル(とジン太)の暴走するのを未然に防ぐ為にも二人(ウルルとジン太)の戦闘の師範&教育係を買って出たのだ(『三月が』だが)。

 

「いよっしゃあぁぁぁ! わりぃな、大丈夫か?」

 

「あ…………大丈夫です」

 

 浦原は目が点になっていた。

 

「……………チエサン? 彼の使っているのは何かの武術ですか?」

 

「そうだ」

 

「にしては流派などが僕にはさっぱりなのですが、何処(いずこ)のか教え貰えませんでしょうか?」

 

「(あ、動転しすぎて本来の口調に戻っている)」

 

「……………………………………私の()()()()()だ」

 

「え」

 

 これには三月がびっくりした。

 

 何せチエは心底()()()()()だからだ。

 これでも()()()()()()()()()の仕方だが。

 

「どんなもんだ、チエ!」

 

 一護が得意げにウルルと戻ってくる。

 

「足の動きが鈍い。 躊躇し過ぎだ。 それに改善すべき点はまだまだ山ほどある」

 

「え、マジかチエ────」

 

 一護の顔がチエの指摘に引きつき始める。

 

「────だが『()()()()()()()()』とだけ言っておこう。『及第点』という奴だ」

 

「ッ?! チ、チエが()()()?!」

 

「何だその言い草は、三月?」

 

 一護は無言で両手を天井へと上げて達成感を噛み締めていた。

 

 閉じた目と口がプルプルと震えていたので、人前でなければ盛大に泣いていただろう。

 

 ちなみにグランドフィッシャー戦後、一護は空手を辞めず、ずっとチエや竜貴と手合わせを続けた。

 その中で「空手だけでは足りない」と思った一護はチエに更なるお願いをしていた。

 

「俺に武術を教えてくれ!」と。

 

 そしてチエは真っ先に条件を出した。

『命の危機が無い限りは他の人前で必ず使用しない事』。

 特訓は実戦式で「技や技術は自分なりに考えて私から盗め」と突き出されていた。

 

 一護はこれ等を了承して最初の数年は数秒間しか持たなかった。

 が、徐々にチエに食い下がって行き、今では()()()持つ事が出来るようになった。

 その努力の影響があったのか、空手()()を使っても、竜貴と良い勝負が出来るどころか、その気になれば思わず()()()()()()ようにまでになり、勿論そんな事になれば竜貴はいじけるかも知れないし、空手の道場や親達が変な期待を寄せて来るかも知れない。

 

 故に一護は『手加減』さえも知らずの内に会得していた。

 

「浦原さん! これで十分か? 俺にこんな子をまだ『殴れ』って言うんなら、次はあんたを殴るぜ!」

 

「……………あ、ああ! 大丈夫ッス! 間違いなく黒崎サンの勝ちですよ! 次のレッスンは今のよりかなりきついッスよ?」

 

「上等だこらぁ!」

 

「では────」

 

 何時の間にか近づいたテッサイが斧を使って、プラス状態の一護の胸から出ていた因果の鎖を断ち切った。

 

「んな?!」

 

「────レッスン2、開始です♪」

 

「(あ、これ絶対さっきのどんでん返しの仕返しも兼ねているな)」

 

 落ち込むウルルを慰めていた三月が『原作』より酷い、地面に突然現れた穴の中への落ち方をする一護を横目で見ながらそう思った。

 




三月:ゲスな貴族にお茶会?!   

弥生(天の刃体):揺れる巨乳と棍棒?!

マルタ(バカンス体):そして仕事から逃げる上司?!

三月/弥生/マルタ:次回、第19話 『ソウル・ソサエティと鬼道の機密事項』! お楽しみに♪

作者:ふがー!

チエ:………………何故作者が縛られて猿轡をされているのだ? それに今のは何だ?

三月/弥生/マルタ:アニメ風の次回予告。

チエ:そうか

作者:んがー! (納得するなー!)


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第19話 『ソウル・ソサエティと鬼道の機密事項』(前編)

キャラの口調が合っているかどうか心配です (汗

性格は………………まぁ、変わっています (汗汗汗汗汗汗汗汗


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 

 場所は一気に変わり、ソウル・ソサエティの中核をなす都市「瀞霊廷」の更に中枢にある、とある薄暗い部屋の中へと納まる。

 

『中央四十六室』。

 ソウル・ソサエティ全土から集められた40人の賢者と、6人の裁判官によって結成されている最高司法機関で、ソウル・ソサエティと現世両方で死神が犯した罪咎は全てここで裁かれ、必要であれば隠密機動、鬼道衆、そして護廷十三隊の各実行部隊に指令を下す事が出来て、一度下った裁定は絶対である。

 

 だが皮肉な事に、上記のような『賢者』と『裁判官』は代を重ねるごとに身も精神も腐っていき、今では私利私欲と保身の為ならば手段を問わない傲慢な集団と成り下がっていた。

 

 中央四十六室を誇りに思っている者など余程の世間知らずか、中央四十六室のメンバー自身達か、彼らの親族ぐらいだろう。

 

 一人の男がそんな思いに浸っていると、部屋の中で響く裁判官の声で集中を戻す。

 

「────第一級重禍罪・朽木ルキアを極囚とし、これより二十五日の後に真央刑庭(しんおうけいてい)にて極刑に処す!」

 

「…………………………」

 

 胸の奥に何とも言えない『不愉快さ』を気合で押し込む。

 それは別に処罰が早まった事からではない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()である為に、裁定の場に居る事を許された身。

 そして現在の中央四十六室の現状を良く知っている。

 

 だから、『()()()()』は理解していた。

 

 朽木家当主であると同時に護廷十三隊の六番隊隊長でもある自分でさえ、ルキアの決定を覆す事はほぼ不可能であるという事を。

 

「……発言を……………許しては頂けぬだろうか?」

 

 それでも、白哉は握っていた拳を更にきつく握り締めながら言わずには居られなかった。

 

()()不可能』。つまり可能性は『(ゼロ)』ではない。

 

「極僅かな可能性が有るのならば」という『希望』から白哉は口を開いた。

 

「発言を許可する」

 

「感謝します」

 

 本当に形だけの礼を述べ、白哉は一歩前へ出る。

 

「此度の義妹の仕出かした事は、赦されるものではない。 極刑を処される事に当然、疑問など無い」

 

「「「「「………………………?」」」」」

 

 四十六室が「何を?」と言う疑問からヒソヒソとする人の声が聞こえ始めた。

 

「だが義妹のした事が無ければ義妹の命はおろか、周囲の人間達にまで被害が及ぶのもまた事実」

 

 四十六室のヒソヒソ話がざわつき始め、床に片膝をついた白哉にざわつきがピタリと止まる。

 

『朽木白哉』。

 ()()()()の一つ、朽木家の第28代目当主。

 そして護廷十三隊の隊長の一人。

 

「結果、義妹の愚かな行為で救われた命もある。その事も御考慮頂ければと、存じあげます」

 

 そのような大物が頭を下げるなど、そうそう無い事。

 つまり片膝を付く事はこれ以上ない、最大限の礼の尽くし方である。

 

「…………貴様は我ら中央四十六室の判定に異を唱えると言うか?!」

 

「誰に向かってモノを言っておるのだ、小僧?!」

 

「立場を弁えよ!」

 

 次々と出る、明らかに隠そうともしない自分を見下すセリフに白哉は必死にグツグツと煮えかえるような不快な心情を表に出さないよう努力した。

 

 息継ぎの為か、彼への罵倒の勢いが収まったところで白哉はまた言葉を発する。

 

「私は、情けなくも義妹の減刑を乞うているのだ………………どうか────」

 

「────貴様、自分が何を言っているのか分かっているのか?」

 

「これが大貴族とは────」

 

「恥晒しめ────」

 

 見下される言葉を遮るかのように、同じ貴族である筈の中央四十六室の裁判官達に声を再度かける。

 

「────我ら貴族が掟を守る事は誇り。 しかし、護るべき者達を護る事も、我らの責務で誇りであるのは変わらぬ筈」

 

「……………それが『朽木ルキア』と言いたいのか貴様は?」

 

「その通りだ」

 

 周りのざわつきが嘲笑へと変わる。

 

「ならん、我等の裁定に間違いはない。 よって極刑は覆らぬ」

 

「(やはり駄目か)」

 

「これにて、閉廷とする」

 

 ガツンと言う音が部屋に響いて、白哉は踵を返して部屋を出る。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ルキアのいる留置場に場は変わり、思いに耽っていた彼女は後ろから感じる霊圧に椅子から立ち上がって、扉の方を向く。

 

 看守を務める死神の横に義兄の朽木白哉と、イライラしている事を隠さなかった幼馴染の六番対副隊長である阿散井恋次が立っていた。

 

「白哉兄様……恋次…………」

 

 白哉は懐から書類を取り出して、広げる。

 

「…………中央四十六室の判定により、第一級重禍罪・朽木ルキアを極囚とし、これより二十五日の後に真央刑庭にて極刑に処す」

 

「な?! た、隊長?!」

 

 イラつきを隠せなかった恋次が驚愕の表情へと変わる。

 

 恐らくは判定結果を聞かされていなかったのだろう。

 

 しかし彼とは違い、ルキアは顔色を変えていなかった。

 

「以上が、ソウル・ソサエティの最終決定だ」

 

 恋次は冷たい仮面の様な涼しい顔をした白哉を見る。

 今の白夜の顔は、これから義妹を失うというような者の顔ではなかった。

 

「覚悟はしておりました。 このような場所にまで来て頂き、ありがとうございました」

 

 ルキアは丁重に礼を述べながら頭を下げる。

 

 そしてまるで他人事みたいな振舞いをする義兄妹達の受け答えを見た恋次は「信じられない」と言いたげな表情をして、ルキアと白哉を互いに見る。

 

 お供をした看守達が先に留置所から出ていき、白哉はクルリと反転して外へ続く扉をくぐる直前に口を動かす。

 

 「…………………済まない、ルキア」

 

「…………………………白哉兄様?」

 

「ガァン」、と分厚い鉄製の扉が閉まる音にルキアの言葉がかき消される。

 

 一瞬ルキアは聞き間違えたと思ったが、恐らく今の自分と同じ表情をしている恋次を見るとそうとても思えなかった。

 

 恋次があんぐりと開けていた口で喋る。

 

「た、隊長…………まさかあんた…………四十六室の奴らに────」

 

「────恋次」

 

「ルキア?」

 

 恋次がルキアの方を見ると、彼女は今にも泣きそうな顔をしていた事にギョッとする。

 

「私は……………ただ、緋真姉様の代わりではないのか?」

 

「……………朽木隊長の謝罪の言葉、お前も聞こえただろうが?」

 

「やはり…………あれは私の利き間違いでは無かったのだな」

 

「ああ、口数の少ない隊長の事だ。 多分あれは………『力になれなくて済まない』じゃねえか? 多分、減刑を────」

 

「────フ。 白哉兄様がか?」

 

「当たり前だ。 お前と共に育った俺が憧れた隊長()だぞ? やる時ゃやるさ……………………だから()()()()なんて思うな、この野郎。 絶対に()()()()()()()()。 そりゃあ、どうやってその『何とか』は俺にゃ分からねえがよ」

 

 照れている顔を隠して、頬を描く恋次の声が段々と小さくなっていく。

 

「ふ…………ふふふ」

 

「な、何だよルキア? 急に笑って────」

 

「────いや、『副隊長』になろうとも変わらなかったのだな」

 

「あ?」

 

 ルキアが『副隊長』と強調した事に恋次は?マークを出す。

 

「私の知らぬ間に昇進しおって! よ、副隊長! 凄いぞ!」

 

「おい────」

 

「────カッコいいぞ副隊長!」 

 

「だ、だからやめろって────」

 

「────変な眉毛だぞ副隊長!」

 

「サラッとツッコミを入れるな! 変な眉毛は余計────!」

 

「────副隊長、私は……………」

 

 ルキアの声は先程の『カラ元気』から一転してか細い声と変わり、彼女の顔は俯く。

 

「…ルキア?」

 

「私には…………………やはり、()()()()()はあるのだろうか?」

 

「ルキア、テメェ………………」

 

 ビックリする恋次に見上げたルキアの笑っていた唇はプルプルと震え、目には大粒の涙を留め、今にでも泣きそうな顔して────

 

 

 

 

 

 ────幼馴染(恋次)でも初めて見る、悲痛と気弱な(表情)だった。

 

 

 

 

 

 

 朽木白哉は一人でズカズカと瀞霊廷内を歩き、彼の眼前に立っていた死神達は何時も以上に無表情な彼の気配を感じては道を開けていった。

 

 イライラと不愉快さと言った、様々な『負』の感情にきつく蓋をしていたために一段と彼からは冷たい雰囲気が発されていた。

 

 そんな「触らぬ神に祟りなし」状態の彼に一つの老いた声が掛けられる。

 

「朽木隊長よ」

 

「ッ」

 

 白哉は声の持ち主を知っている。

 知っているからこそ歩みを止めて、振り返る。

 

 そこには一人の、禿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が立っていた。

 

 そして白哉と同じ、護廷十三隊隊長特有の白い装束を羽織っていた。

 

「朽木隊長よ、良い天気じゃ。 少し茶でもせぬか?」

 

「…………いえ、私は────」

 

「────何、茶の一杯なぞ数分で終わる」

 

「………………………()()()がそう仰るのであれば」

 

 このお爺さんこそ、護廷十三隊の『一番隊隊長』であると同時に『護廷十三隊総隊長』の『山本元柳斎(げんりゅうさい)』。

 

 ちなみに全ての死神や鬼道衆に隠密機動が通う教育機関の真央霊術院(しんおうれいじゅついん)の創立者でもある。

 

 それこそ白哉が『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()『先生』でもある。

 

 言い変えるならば、白哉は自分と同僚全員の師匠であると同時に自分の上司から「お茶でも飲まないか?」と言う誘いをロクな挨拶もせずに突っ撥ねる程、心が乱れていたとも言えた。

 

 

 

「急に呼び止めて済まぬのぉ」

 

「いえ」

 

 白哉が連れてこられた場所は普段、山本元柳斎が月に一度は開く茶会の部屋で、一つのちゃぶ台を挟んで、向かい合いながら座っていた。

 

 目の前には一人分ずつのお茶の入った湯飲み。

 

「「…………………………………」」

 

 先に動いたのは山本元柳斎だった。

 

「義妹の件。 真に申し訳ない」

 

「ッ?! 総隊長?!」

 

 山本元柳斎がなんと、白哉に頭を下げたのだ。

 

 先程の例をまた使うのなら、自分の義妹が犯した罪に極刑の判定が下された事を、上司(先生)が頭を下げながら謝る様なもの。

 

「あ、頭を上げてください!」

 

「ワシが不甲斐ない故、中央四十六室には頑固者が跋扈するようになってもうた。 済まぬ」

 

「総隊長、お願いです! 頭を上げてください!」

 

 ()()白哉がアタフタするのを、頭を上げて見た山本元柳斎が笑う。

 

「フォ、フォ、フォ。 ワシが頭を下げて少しでもお主の気が楽になれば安い物じゃ。 それに、ここは茶会の場。 今のワシは『総隊長』ではなく、ただの『山本元柳斎』じゃよ。 それに対して、お主は朽木家当主の『朽木白哉』じゃ。 立派な『大貴族』じゃよ?」

 

 「…………………………………………………何が、貴族なものか」

 

 白哉が思わず小声で愚痴を零す。

 

「ん? 何か言ったかえ?」

 

「いえ、何も」

 

「そうかの? ワシももう歳でのぉ? よく耳が遠くなったり、在らぬ声を聞こえたり、独り言が多くなるんじゃよ。 フォ、フォ、フォ」

 

「…………………………」

 

「じゃが伊達に歳は食っておらん。 今のお主は、『身内一人守れなくて何が貴族だ』と叫んでおるようでのぉ?」

 

「ッ……………いえ、そのような事は────」

 

「────皆少し忘れがちじゃが、ワシも一応は貴族の端くれ。 肩身の狭さなどにどれだけ若い頃に苦労した事か………………」

 

 山本元柳斎がお茶を啜る。

 

「その所為で、ワシは良く流魂街へ出ては巡回を自らしていてのぉ? 勿論、『貴族』として()()()()()()()()()()()

 

 白哉の目が一瞬泳ぐ。

 

「総隊長、何を────?」

 

「────じゃから今のワシは『山本元柳斎』じゃって。 そこでワシは一人の死神に出会ったのじゃ。 その者は(のち)にワシが『師匠』と呼ぶ者でな?」

 

 これに白哉の眉毛が僅かにピクリと反応する。

 

 ()()『総隊長』に師がいた事など生産の中で、噂話など含めても初めて聞いたからだ。

 

「今のワシがこうして居られるのもその者のおかげじゃ。 そこでワシはその者に尋ねては、面白い答えが返って来るのが楽しくてのぉ? 色々と話したもんじゃ…………………………………」

 

 山本元柳斎の目線が僅かに白哉から外れ、白哉からすれば山本元柳斎は思いを懐かしむようで、これまでの動作が新鮮だった。

 

「歳かの? この頃あの時間を思い出すようになったのでな? そしてその時間の中でワシは問うた、『秩序をどうやって決めているのじゃ?』とな」

 

 山本元柳斎が僅かに閉じていた瞼を開けて白哉を見る。

 

「どう答えたと思う、()()()()よ?」

 

 少し様子の変わった山本元柳斎に白哉は少し考えこんで、先程の会話を思い返してから答える。

 

「…………………やはり、掟や仕来りを────」

 

「────『自身の眼で見て、定めておる』。 そう答えたのじゃ」

 

「………………………」

 

「確かに掟や仕来りは必要じゃよ? じゃが()()()()()()()()()()()()()()()()。 ま、要するに『自分で見て考えろ』という事じゃな────」

 

『────山本隊長―! どこですかー! 』

 

 部屋の外から来る声に白哉は入口の方へと振り返り、山本元柳斎はお茶を吹き出しそうになる。

 

「あの声は雀部副隊長────?」

 

「────ングッ?! もう見つかってもうたか?!」

 

 山本元柳斎の声に白哉が彼の方を見ると、彼は開いた窓から飛ぶ所だった。

 

「ワシはここには来なかった! お主は一人で茶を飲んでいた! よいな?! これは総隊長命r────」

 

『────山本隊長! この部屋にいるのは分かっているのです! 隊長の署名や目通しを待っている書類が待っていますよー!』

 

「ではまたの、白哉よ!」

 

 茶会の襖が開く直前に山本元柳斎は窓から脱出し、銀髪で口ひげに白いマントを羽織った男性が入って茶会室を見渡す。

 

「ん? 朽木隊長ではありませんか。 山本隊長を見ませんでしたか?」

 

「…………………………いや。 (けい)の隊長は見ておらぬ」

 

「お二人分のお茶が出されているのに…………ですか? お相手は誰でしょうか?」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 白哉が何時もの表情を何とかキープしていたが、内心(&表で)冷や汗をダラダラと出していた。

 

「…………………こ、これは────」

 

 白哉がそれ以上何かを言う前に、外から複数の声と共に山本元柳斎の声がした。

 

『『『『『『『確保ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』』』』』』』

 

『ぬわぁぁぁぁぁ! 一日中書類を見るのはもう嫌じゃぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

「ん、失礼した白哉隊長。 隊長が見つかりましたので、私はこれにて失礼致します」

 

 ピシャリと襖が閉じて、ホッと緊張から止めていた息を出すと白哉が初めて気付く。

 

 自分の心の不愉快さ等が幾分か収まったのを。

 

「……………やはり総隊長には敵わぬか」

 

 尚、後に一番隊副隊長である『雀部長次郎(ささきべちょうじろう)』がヒィヒィと言う山本元柳斎を付きっきりで見張り、その日のノルマを何とか終えさせたとか。

 




ちなみに作者の自分もヒィヒィ言いながら只今次話を書いています (汗


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第20話 『ソウル・ソサエティと鬼道の機密事項』(後編)

若干長めです!

そして多少の勢いで書きました (汗


 ___________

 

 渡辺家 視点

 ___________

 

「え~い♪」

 

 ぽよよ~ん。

 

 ドゴォン!!!

 

「たぁ~♪」

 

 ぽよよ~ん。

 

 ドゴォン!!!

 

 マイの気の抜けた掛け声とともに揺れる胸部装甲(たわわな胸)

 

 そして空気をビリビリと響かせる重い音と爆風。

 

 これをコンは────

 

「────ぎゃあああああああ! し、死ぬぅぅぅぅぅ?!」

 

 ────必死に一護(コン)の胴体目掛けてマイの振り回わす巨大な棍棒を避けていた。

 

「おお! あの改造魂魄、マーの姉貴相手に粘るじゃん?!」

 

 場所は浦原商店の地下の訓練場。

 マイが『手合わせ』に誘われて飛び出てきたコンは一護の体に入り、マイはジン太の得物(無敵鉄棍)を借りてコンは逃げの一手を続けていた。

 

 それはもう、マイの揺れる胸部装甲()を見る余裕なんかまったく無かった程に。

 

 想像してみて欲しい。

 プロポーション抜群の女性がただ満面の笑みを浮かべながら、身の丈程の(鉄製の)棍棒を片手で振り回しながら悠々と自分を追ってくるのを。

 そして岩陰や木に身を隠せば笑いを上げな、その障害物 遮蔽物ごと粉砕する状況を。

 

 それはもう一種のホラー映画の領域である。

 

「でも逃げるだけじゃダメ。 逃げちゃダメ」

 

「(う、う~ん………ウルル(桜ボイス)から()()()()()()()を聞くとは………せめてワカメ(慎二)なら名前繋がりで良かったけど)」

 

 ちなみにプラス状態の一護は今、ウルル&ジン太が掘った穴の底でもがき苦しんでいた。

 

「では続いて良いですかな、三月殿?」

 

 そして『原作』と少し違い、テッサイと浦原、ウルルとジン太達が()()()一護を見張っていた。

 

「え? ああ、うん。 ごめんなさい」

 

「では────」

 

 テッサイは地面に絵を描きながら説明をする。

 

 彼と三月が今話しているのはこの世界の霊力の()()()()だった。

 それは三月が先日、()()()()に疑問を持ったからだった。

 

「────そして最後、三月殿もご存じの通り死神には魄睡(はくすい)、及び鎖結(さけつ)という二つの機関が正常に発動しているからこそ霊力を戦闘用に扱える事が出来ます」

 

「ふぅん……………じゃあテッサイさん、質問。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 テッサイの視線が一瞬泳いだだけで、彼の発する無表情の顔は彼が今感じている内心状態について何も教えてくれなかった。

 

「どう、とは?」

 

「だって斬魄刀に『解号』があるように、()()()()()()()()()()()()()()? (この世界じゃ考えにくいけど『霊気』に対しての『妖気』とか)」

 

 テッサイは答えずにジッと三月を見る。

 

「えっと…………………何、テッさん?」

 

「………………………三月殿の世界で使()()()()()()()()()などございましたか?」

 

「え? うん、在るよ。 ()()()()とか」

 

 今度はテッサイの眉毛がピクリと反応し、三月はそれを見逃さなかった。

 

「あとは………()()とか」

 

 ピクピクピクとテッサイの髭が反応する。

 

「(あ。何か可愛い)」

 

「………………………して、三月殿はそれらを使えるのですかな?」

 

「うん? まあ、似たような物かな? ()()使()()()()けど。 ()()()()()し」

 

「ッ!」

 

 テッサイの眼鏡が「カッ」と光った!

 

 …………ような錯覚がした。

 

「三月殿!」

 

 テッサイが仏頂面のままガシッと三月の両肩を掴む。

 

ぴゃい?!

 

「決して! 決して今後、そのような術を使ってはなりませぬぞ?!」

 

 テッサイの慌てる姿を初めて見て三月は固まっていた。

 

「あ、ハイ?」

 

 困惑する三月に本気(マジ)の表情を上げるテッサイが覗き込む。

 

「それらは『禁術』! ()()()()()ものです!」

 

「???」

 

 テッサイが今の自分に戸惑っている三月から手を離し、溜息を出す。

 

「し、失礼…………ただ……………まさか、その歳であなた()その領域に達していたとは……………しかも生身でとは

 

「(今のって褒めているのかな?) えっと、そんなに危ない技なの?」

 

「……………さっきの続きをします。 死神には二つの機関があって、それらのおかげで戦闘に使える程の霊力を蓄えると私は言いましたな?」

 

「うん」

 

「………………」

 

 テッサイの開いた口が閉まり、今更になって自分が言いそうだった事に躊躇する様子が見えた。

 

 だがやがて観念したのか、言葉を続ける。

 

「………………今からお伝えする事は鬼道衆……………いえ、ソウル・ソサエティでも極秘中の極秘事項。 これを知っているのは元来、その現役の鬼道衆総帥本人。 そして護廷十三隊総隊長の()()()()です」

 

 テッサイは地面に描いた二つの丸にもう一つ、丸を付け足す。

 

「実はと言うと、死神達には()()の機関が存在し、その全てが正常に動いて霊力を自らの体内にて留めて備蓄し、扱える事が出来、そして…………………己が器子(きし)宿()()()()()()()()()()()()()()を可能とする『鬼解門(きかいもん)』です」

 

「え? (何それ? 聞いた事ない────)」

 

「────この最後の鬼解門(きかいもん)こそ、三月殿の仰っていた『禁術』の類などの連続使用を可能としているのです。 そうですね…………当世風に言うのであれば……………お店のトラックを例として使用しましょう」

 

「え。(あ、あのトラックって飾りじゃないんだ)」

 

「ちなみにあのトラックは飾りではありません。使う事は稀ですが」

 

「ギクリッ」

 

「では例えると、魄睡(はくすい)は自動車の発動機(エンジン)。 鎖結(さけつ)(ガソリン)。 通常の作動ならばこの二つでトラックは動く事が出来ましょう」

 

「…………(意外。 テッサイさんがこんな風に現世に馴染んでいたなんて。 漫画では浦原商店の数少ない常識人……………いや、()()常識人の印象があったけど…………)」

 

「ですが(ガソリン)がなくなった場合、トラックは新たな(ガソリン)を注入するまで止まってしまいます。 そしてこれが通常の死神達の状態。 鬼解門(きかいもん)は言うなれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………………え? それって、トラックに『ガソリンスタンドごと乗せる』って事?」

 

「それとは少々違いますな。 要するに、()()()()()()()()()()()()になるのです」

 

 三月はポカンとしていた。

 

 もしテッサイが言っている事が事実であれば、彼が言った事は『永久機関』、つまりFate(他の世界)でいう『第三魔法(天の杯)』と酷似していた。

 

「そして()()()事に、この鬼解門は()()()()()()使()()()()()所です。 俗に言う『火事場の馬鹿力』みたいに、己の限界を超えた鬼道や霊力の使用で稀に一瞬だけこじ開けられる事などがあります」

 

「へぇー…………あれ? でもテッさん、さっき鬼解門は『器子(きし)に宿している霊子の声等との対話を可能』って────」

 

「────良くお気付きになりましたな。 実は霊子には『意識』があるのです」

 

「ッ?!」

 

「と言っても私や三月殿の様な明確なものではなく、漠然としたモノですが」

 

「(それって、まさか────)」

 

「────この『意識』との対話を続け、『彼の者』に認識され、開いた鬼解門を通して『彼の者』の霊力を上乗せし、自身だけの霊力では行使できない鬼道や技などを連発する事が可能となります。 言うなれば、鬼道における『卍解』版……………『鬼解』とでも呼んでいます」

 

 三月が自身の心臓の鼓動が早くなっていくのを直に感じる。

 

「そ、その『彼の者』は────?」

 

「────先程申したように明確な『意思』などないので、我々は『無形の霊力』と呼称しています」

 

「…………………………(ホ。 びっくりした、まだそこまで()()()()()()()と言う事ね)」

 

「ですがこの霊力は自身本来のモノではないので、それなりの代償があります。 それは直接、自身の魂魄への負担と繋がっています。 この私の様に」

 

「え?」

 

 そこからテッサイは詳細を省き、簡単に浦原と共に『仮面の軍勢(ヴァイザード)』となる死神達の救出の際に使った『禁術』の連続、そして『禁術』を使った罪によりソウル・ソサエティの地下特別監理棟へと連行される前にテッサイに()()()()()()

 

「処置?」

 

 三月の問いにテッサイがコクリと頷く。

 

「元鬼道衆総帥である私は()()()()()()()()鬼解門を無理矢理閉じられました。 ですが一度鬼解門が開かれた事によって『禁術』などが使()()()()()()()だったのです。 そして鬼解門は卍解と違い、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」 

 

「(成程。 自転車を乗り回すような、『コツ』みたいなものも担っているのね…………ただし、一度『1、2、3…ポカン!』するともう二度と使えない力か)」

 

「そして現世に亡命する際に、禁術を更に使った事により、私の魂魄はボロボロの状態なのです。 事実、私のこの義骸は店長の特製品。 強固な個体であると同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………………え?」

 

 三月の目が見開かれる。

 

 目の前のテッサイは確かに義骸に入ったまま虚を撃退出来、その義骸に入ったまま90番台の鬼道をも使える。

 

 そんな彼が『この世界(BLEACH)』の表舞台で活躍していた描写が漫画ではほぼなかった事に、こんな理由(設定)があったとは彼女も予想外だったらしい。

 

「そ、それじゃあ…………もし、その義骸が壊れたりしたら────」

 

「────私は本当の意味で死に(消滅し)ますでしょうな────」

 

 『────■■■■■!!!』

 

『テッサイサン! 卍禁(ばんきん)を────!』

 

「────む! 失礼します三月殿────!」

 

 一護のような、別の何かの様な叫び声と共に浦原がテッサイの名を叫び、テッサイは躊躇なく穴の中へと飛び込む。

 

 これを聞いたマイはコンを追いかけるのをやめて、三月のところへと走ってくる。

 

「う~ん、これは虚の気配?」

 

「あ、ありゃあ一護か?!」

 

「…………(やっぱりチエが今ここに居なくて良かった)」

 

 尚、チエは夜一に付き添って能力の修行をする事に決めたチャドと織姫達に現在付き合っていた。

 まあ、これは三月が『今の状態の一護』にチエを会わせるのは()()と判断してからの『表側の理由』なのだが。

 

 そして『原作』とは違い、ウルルとジン太は地下には居ず、飯の用意の為に地上にある浦原商店に居たからこそ、テッサイは上記の『鬼解門』の事を喋ったのかも知れない。

 

 それと三月が『時空操作』と『転移』が痛みと共に使える事も要因だったのだろう。

 

「(やっぱりテッさんは優しい人ね。 極秘情報でも、他の人の気遣いの為に喋ってくれるのだから)」

 

 穴の中から飛び出て降り立つ浦原とテッサイに続いて虚の仮面を付けながら死神の黒い着物(死装束)を纏った一護が姿を現す。

 

「(これが一護の虚化、か)」

 

 そこから一護は自身の顔についていた仮面を砕いてから取り外す。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 あの後、『月牙天衝』を放って浦原の帽子を外した一護はほぼ丸々一日眠っていた。

 

 剣に寄りかかっているとはいえ、立ちながら。

 

 それは無理もない事。 72時間ずっと命の危機に瀕していて、最後は存在が変わろうとしていた上に大技を撃ったのだから。

 

 そんな目覚めた彼に、浦原は笑顔を浮かべながら────

 

「────では次は三月サンと戦って下さい♪」

 

「なッ?! あんたと戦うんじゃねーのかよ?!」

 

「勿論、アタシとも戦ってもらいますよ? ですがまずは彼女から…………あ! もしかしてチエサンと『()()()()』でしょうか?」

 

「どっちもやりづれぇよ!」

 

「出来ないんですかぁ? その程度の覚悟で────」

 

「────出来ねえとは言ってねえだろうが、この『下駄帽子』! け、けどよ…………………」

 

 一護がチラチラと動きやすいジャージ姿になって、長い髪の毛を束ねて、バレッタで上げてからストレッチをする三月を見て言い淀んだ。

 

 一護にとっては幼少から育った幼馴染の一人。

 

 その上女の子。

 

 そのような相手に自身の新しい大刀の斬魄刀────『斬月(ざんげつ)』を向けるのに抵抗が一護にはあった。

 

「ん~、私だって抵抗はあるよ? 小学からの付き合いだし」

 

 ストレッチを終えた三月の言葉に一護の顔が明るくなる。

 

「だ、だろ?! それに────!」

 

「────そうだね。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………………………………………………………は?」

 

 固まった一護の様子が面白かったのか、浦原が笑いを堪えながら口を開ける。

 

「プププ……………おやおや~? 黒崎サン、聞いてなかったんスか? あなたの戦う相手をチエサンから三月サンに変えさせたのは他ならない、お二人ご本人達ですよ? せっかく死神の力が戻ったのに、()()()()殺してしまっては元も子もないでしょう?」

 

「………………………………………………………………………

 

 固まったまま一護が首だけを回して、顔をニヤニヤしている浦原の方へと向ける。

 

「大丈夫だよ一護! チーちゃんと違って、私は手加減するのって上手い方だから! それに浦原さんみたいにドSじゃないし

 

「失礼ですね三月サン。 アタシは────」

 

「────新しい隠し場所は────」

 

 あああああああああああ!!!!!」

 

 三月の言葉の続きを自らの叫び声でかき消す浦原。

 

 その間に一護は衝撃的な事実に気付いた様な、それでいてドン引きしたような様子でおずおずと、首を『ギギギッ』と言う効果音が出そうな言動で三月の方を再度向く。

 

「………………も、もしかして…だけどよ?」

 

「うん?」

 

「…………………………危ねえのって………俺だけか?」

 

「うん♪」

 

 三月の笑顔(余裕)&即答に、一護の顔から血の気がサァーッと引き始める。

 そしてさっきウルル、ジン太、そしてテッサイを地下から非難させた事も実は一護の緊張を解す為の口実ではなく────

 

 

 

 

 

 

 

 ────「本当に危ないからではないだろうか?」との思いが一護の脳裏を駆け巡った。

 

「………………………………マジか………………………………おい、マジかよ。 相手がチエじゃないとはいえ────」

 

「────『霊剣(れいけん)』!」

 

 三月の構えた両手の中に「ブゥン」とする音と共に、光で出来た様な剣が現れる。

 

「(よっしゃ! 思った通り! 言いたくないけど………ありがとう、桑b────じゃなくてドン・観音寺!)」

 

 丁度その時、ドン・観音寺は寒気がして素っ頓狂な声で生中継(オンエア)中に「ぬぬぬ?! 感じる! 感じますぞぉ! スメルズ ライク バッドスピリッツゥゥゥゥ!!!」と言いだしてそのインタビューチャンネルの視聴率が急激に上がったのはまた、別の話である。

 

「ほぅ」

 

「んな?! 何じゃそりゃあ?!

 

 浦原が感心したような声と、驚愕する一護の声が放たれた。

 

「ん? 『霊子兵装(れいしへいそう)』だよ? おn────『石田部長』が使う弓矢と同じ原理。 さ、構えて一護────

 

 

 

 

 

 

 

 ────行くわよ♪」

 

 ビュン!

 

 三月が足裏に力と霊力を込めて一歩踏み出したと一護が思った次の瞬間、彼女は既に一護の前にいて光る剣を振りかぶっていた。

 

「────っぶね!」

 

 一護が『斬月』で受け止めて、「バチバチバチ!」と火花のような、あるいは金属が互いに擦れる様な音が出る。

 

「うん、やっぱりこの位が()()()()()()かな? ちなみに今のは死神の『瞬歩』って呼ばれている歩法だよ♪」

 

「ヌッ! グゥゥゥ!」

 

 三月に直接答えない一護の頭に汗が出始める。

 

 今まで死神として本格的に斬魄刀を使った『対人戦』を行ったのは先日、ルキアを連れ戻しに来た朽木白哉と阿散井恋次が初めてだった。

 

 ましてや、その時に感じたような霊圧(プレッシャー)を一護はまた浴びていて、気を張り詰めなければ足が笑ってしまう程だった。

 

「(ちょっと可哀そうだけど────)」

 

「────おわ?!」

 

 三月が突然押す力を緩め、一護がよろけている間に彼女は横へと行き、光の剣を横薙ぎに振るう。

 

 そしてまたも火花が散る音が響く。

 

「やっぱり一護の動体視力は良いね」

 

「そりゃ、どうもッ!」

 

 汗を掻きながらも一護がニヤッと笑みを返す。

 

 徐々に腕力の使い方を会得する一護に、三月は反撃の受け流し始め、ヒット&アウェイの攻撃へと戦法を変えて攻め続ける。

 

「(成程、一護の『闘争本能(バトルセンス)』は凄いわね。 斬魄刀を持って半年ぐらいしか経っていない上に、一日前に始解をしたばかりでここまでの腕とは…………通りで主人公の訳ね)」

 

 三月は笑みを浮かべたまま徐々に一護が反応してくる事にウキウキとしていた。

 

 まるで()()()()と手合わせしていた頃に戻ったみたいで────

 

「────ねえ一護?」

 

「んだよ?!」

 

()()()()本気出すから、よろしく」

 

 浦原の顔がピクリと反応して三月は一護から少し距離を取る。

 彼女の手にあった光の剣が弾けて消え、代わりに彼女の手には()()()()が現れ────

 

「────ってそれどっかから出した?!」

 

「ここから」

 

 一護のヤケ気味のツッコミに、三月は空中から消えていく歪みを指指しながら平然と返答する。

 

「さて────」

 

 三月が何時の間にか刀達から鞘を取り外して、真上へと投げる。

 

「────()()()()()()()()

 

 表情が「スン」と死んだような三月に一護の背筋が氷漬けにされたように冷たくなる。

 

「刀が……()()()()()…………だと?!」

 

 三月の周辺をくるくると刀達が宙を回りながら舞う。

 

 それは、かつて対グランドフィッシャー戦での光景を呼び起こせた。*1

 

「(来る?!)」

 

 一護はほぼ本能的に『殺気』を感じ、その場から後ろへと飛ぶと刀の一本が『ザクッ!』と地面へ突き刺さる。

 

 ヒュンッ!

 

「右?!」

 

 空気を切る音が聞こえてきて、彼は『斬月』で二本目の刀を弾いている間に一本目がまた襲い掛かる。

 

「(『空飛ぶ刀』なんて出鱈目過ぎるだろうが?!)」

 

「『────』」

 

 一護が連携の取る二振りの刀を弾く間、横目で三月が片腕を上にあげながら口を動かしているのを見たが、それは自分に対しての言葉か何らかの()()()詠唱だったのかまでは判別できなかった。

 

「────っらぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 遂に襲ってくる二振りが丁度『斬月』の斬撃一つで薙ぎ払えるタイミングを一護は逃さずに斬魄刀を振るう。

 

「(よし、今の内に────)────ッ」

 

 一護が笑みを浮かべている三月を見て、初めて地面に浮かんでいる陰に気付いて上を見上げると────

 

 

「────なん……だよ、そりゃあ?」

 

 

 ────そこには数十本の刀が浮いていた。

 

「『────天鬼雨(てんきあめ)!』」

 

 そして彼女の言葉を最後に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「う────」

 

 これに背筋が凍るどころか、思考が固まった。

 

 ()()()()()()()()

 

「────うああああああああああああああああああ!!!」

*1
第5話より




三月:ハイ、と言う訳で『桑ちゃん』の技でした!

リカ(天の刃体):そして思いっきり『他世界』の技も使っていますね

三月:べ、別にいいじゃん!

市丸ギン:そうか、最後の奴はそれやったんかいな。 って作者はんは何処や?

リカ(天の刃体):前回のワサビ味のお返しに平子さん達にボコボコにされているところです

マイ:ではでは~、次話で読者の皆さんに会いましょう~。 ストックがとうとう切れて疲れ気味らしいので~、投稿予定は未だに決まっていません~

三月:最後に作者の書き置きから! 「沢山の人に読んでもらえて嬉しいです! 誠に、ありがとうございます!」 です! ありがとうございます!


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第21話 嘘は言っていない…一応

何とか次話投稿、お待たせしました!

仕事がががががががが


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「────うああああああああああああああああああ!!!」

 

 視界を埋め尽くす刀達が一護の眼前まで来ると、彼は無駄だと思いながらも『斬月』を盾にしながら瞼をギュッと閉じ、飛んで来る己の死(痛み)に身構える。

 

 刀達の刀身が次々と地面に突き刺さり、暴風にも似た風が周りの響きと共に連打する。

 

 それが続く事数秒。 

 

 一護にとっては数分とも感じられる出来事が突然止まった。

 

「……………………………………………………………………………………?」

 

 恐る恐る目を開け────

 

「────てい♪」

 

 バシィン!

 

 ────ようとした一護の頭に(正確にはおでこに)強い衝撃が生じ、彼は目をチカチカと星が散りながらも後ろへとよろける。

 

「……………いっっっっっっってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?!?!?!?!」

 

 彼は(おでこ)を両手で覆いながらデコボコになった地面の上を転がる。

 

「一護、あんたねぇ……………普通、生死を掛けた戦いで目を瞑る?」

 

 腰に両手を当てながら呆れる三月を一護が睨む。

 

「マジで死んだと思ったんだぞ、コラァ?!」

 

「それでも、()()()()事は大事ッスよ黒崎サン」

 

「浦原………」

 

 浦原が顔を半分『経・験』の文字を書かれた扇子で隠しながらカラコロとする下駄で二人に近づく。

 

「黒崎サン、彼女(三月)が今使った技………どう思いましたか?」

 

「どう、って…………」

 

 浦原の持っていた扇子が「パシン」と閉じられ、彼の真剣な表情を見て一護は息を呑む。

 

「彼女の使った技は突然の事ですが……………ハッキリと言います。 ソウル・ソサエティの死神達、()()ほぼ全ての隊長格が全員あれ()()のような事を平然と行えます…………何も大技はあなただけの特権では無いのですよ、黒崎サン?」

 

 一護は周りを見る。

 

 岩々などがポツポツと痩せやつれた木々と共にあった地下の訓練場は空のペンキと以外は平らで殺風景な景色だったのが、今は地面が至る所で衝突によって形成された小さなクレーターで埋め尽くされていた。

 

 それはさながら()()()()()()()へと変わった。

 

「ただし三月サンとは違い、彼らは確実に侵入者である貴方を殺しにかかってきます。 手加減や寸止め無しで」

 

 浦原、一護、三月の三人が居る場所を中心に丁度()()1()()()()()程の場所は無傷だった。

 

「………………さて、続けてください」

 

「は?」

 

「一護……………私の技を少し考えてみて、口に出してくれる? ()()それで良いから」

 

「……………………」

 

 一護は出来る限り思い出しながら考える。

 彼もさっきの浦原と三月の態度で察したからだ。

 

 これはルキアを取り戻す為に、これからソウル・ソサエティに乗り込む『演習』。

 そしてこれは『戦いの最中に初見の相手の能力をどう見抜くか』の場と機会を()()()()作ってくれたのだ。

 

「………………………なぁ、さっきの『れいけん』っつー技は石田の奴と同じなんだな?」

 

「うん、そうだよ?」

 

「(つう事は、『霊子の剣』………ってところか)」

 

 だがさっき三月が放った技の刀達は宙を舞い、一護を攻撃した()()()()()()()()()

 

「(つまりさっきの刀と『霊子の剣』────もうこの際『霊剣』で良いや────は別モノ)」

 

 しかも刀は気付いた頃には突然三月の手の中にあり、次に気付けば()()()()頭上から────

 

「────まさか、()()()()()?」

 

「おお~」

 

 三月がパチパチと拍手をする。

 

「(へぇ、黒崎サンも若いと思いましたが……案外順応していますね、結構結構)」

 

 実はこれ、数年手加減が()()()()()()()()()チエと手合わせしていたから一護の頭が回っていた部分もある。

 

 なにせ、何が起こったのか一護が説明出来るまで延々と同じ技や動作でチエにコテンパンにされるのだから。

 

「まぁ、な。 最初の二、三本から急に60や70本が雨の様に降ってくる間の時間はそう無かった。 つまり、あの最初の襲ってきた刀は『時間稼ぎ』ってところか?」

 

「あとは『意識を逸らす』って意味も有ったかな?」

 

 反応の薄い、三月の答えに一護が半笑いする。

 

「不正解かよ」

 

「合っているよ?」

 

「その顔は俺が『不正解』の答えを出した時する奴じゃねえか」

 

「じゃあさ、刀が増える前に()()()()()()()()?」

 

「何って、そりゃあ────」

 

 そこでハッと(一護)は気が付く。

 あまりにも突然の事だったので、完璧に意識の外に出ていた事に。

 

「(って、そこだけじゃねえだろうが?! 馬鹿か俺は?! どうやって刀が突然現れて、何で()()()()()?!)」

 

 また考え込む一護を見ては三月がクスリと思わず笑った。

 

「(ほんと、世話の掛かる『弟』………ううん、『孫』みたいね)」

 

 浦原はと言うとずっとこの様子の彼女を見ていた。

 

「(末恐ろしい。 さっきのは『卍解』にも引けを取らない技の筈なのにこうもたやすくボクの前に晒した上に、黒崎サンに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………恐らくは────)」

 

「────ギブする?」

 

「もうちょっと待ってくれ!」

 

「技の名前くらい聞いてもバチは当たらないわよ?」

 

「いや、それは良い。 確か『てんきあめ』…………だったよな?」

 

「おお~。 一護にさらに5ポイント追加。 他は? 他は~?」

 

 何処となくウキウキする三月は見た目相応な空気を出していた。

 

 だが結局一護は後悔しながらギブアップを宣言した。

 

「…………すまん、分からねえ!」

 

「では『店長』の解析、お願いします!」

 

「う~ん、そこでアタシに振りますか。 そうですね………黒崎サンは必死に刀を弾いていたので気付いていないみたいなので…………まず、微小ですが刀から三月サンの霊圧が感じ取れましたので、恐らくは遠隔操作系の能力を使ったのでしょう」

 

「うんうん」

 

「そして次にその刀達を巧みに操っている間に恐らくは『()()』と共に詠唱を開始。 そして徐々に()()が上昇すると共に刀の()が実体化を次々にしました」

 

「うんうん♪」

 

「最後に、黒崎サンの張りつめた意識…………つまりは緊張感に()()()逃げ道を作り、誘導し、その隙を突いた……………と言った所でしょうかね?」

 

「はい、合格です『店長』! 浦原選手に70点!」

 

「え? 70点だけッスか? 90は行くかと思ったのですが………………厳しくないですか?」

 

「フフン、今ので90点いっちゃったらこれからどうすんのよ? まだまだ有りますですよ?」

 

 三月が伊達眼鏡をクイッと、まるで教師の様に直す。

 

「それもそうッスね! はっはっは!」

 

「と言う訳で、後でマイの写真集を────」

 

「────いえ、そんなモノより夜一さんのを────」

 

 一護は意気投合し始める二人(三月と浦原)を唖然とした表情で見る。

 

 確かに浦原は第三者として先の出来事を見ていた。

 だが先程の説明を戦いの中で出来るような人物とも、『斬月』を手に入れる前に折れていた斬魄刀の解説などで理解していた。

 

 そして自分(一護)のレベルにワザと合わせたであろう三月も惜しみなく()()に自分に付き合ってくれている。

 

「…………強く…ならねえとな、俺」

 

「そだね~、でないと()()の事護れないもんね~?」

 

「あぁ、だから少し待ってくれ。 直ぐにお前達全員を護れるくらい強くなって見せてやるよ」

 

「はひゃ?!」

 

 一護をからかうつもりで放った言葉に彼の真面目な顔と答えが返ってきた事に思わず変な声を三月が出す。

 

「おやおや、スミに置けませんねぇ黒崎()()

 

「次にリサがブツを置くデッド・ドロップ場所は外の軽トラックのガスタンク────ムギュ」

 

 浦原は瞬歩を使って三月の口を閉ざす。

 

「ささ! ウォームアップ(準備運動)はこれくらいにして、次は僕と戦ってもらいます!」

 

 必死になりながら冷や汗をダラダラと流す浦原の手を剥がしてから一護に注意の言葉を三月が掛ける。

 

「ああ、一護。 これから私、チエを呼びに行くから戻るまで死なないでね♡」

 

「お、おう?」

 

「いやいやいや、それほどでも~」

 

 あっけらかんと笑う浦原を三月が指差す。

 

「この人、本気で一護の事を殺そうとすると思うから。 チーちゃんよりマシかも知れないけど…………………………気を抜くと死ぬわよ?」

 

「ま、彼には先に『奥が知れない敵と戦う厳しさ』に慣れてもらった方が早く強くなれますからねぇ」

 

 悠々と本人のいる前でどれほど酷い目に合うかもしれない事を喋る 教官達を前に、一護の顔が引きつく。

 

「お、お手柔らかに────」

 

「────申し訳ありませんが、只今当店にそのような品は置いてありませんッス♪」

 

 浦原が笑みを浮かべながら杖を斬魄刀へと形を変えさせる。

 

「じゃ、30分間粘ってね一護♪」

 

「え? 一時間じゃないんッスか? アタシ結構ストr────じゃなくて『教える事』があるのですが────」

 

「────じゃあ45分で」

 

「ハイ分かりました」

 

「…………………きゅ、休憩は?」

 

「「勿論実戦にはそんなモノはナシですので♪」」

 

 またも気が合う二人(浦原&三月)

 

 

 尚、きっかり45分後に地下へと戻って来た三月は一護同様疲れた顔をしていた。

 

「あれ? お早いお帰りで♪」

 

 一護は体中から汗を流し、荒い息遣いをする自分と疲れている様子が重なる三月を見ながら口を開けた。

 

「そ、そっちは…………どうしたんだ?」

 

「ああ。 うん。 ちょっとね」

 

「何かあったのか?」

 

 チエを三月がジト目で見る。

 

『あんたの所為でしょうが?!』

『どういう事だ?』

『あんた、あの二人に有る事無い事伝えたじゃん?!』

()()()()()()()()()?』

 

 これに三月は頭を抱える。

 そして浦原と一護からすれば突然の頭痛で顔をしかめるような動作だった。

 

 簡潔に説明すれば、チエが織姫とチャドに前回伝えた事は────

 

 ────家の事情があり幼少に家族達はバラバラに引き裂かれ、当時に経験した大火災や悲劇によって三月は『解離性障害』に会い記憶等を全て失い、書類と遺体確認の手違いなどから別の家に孤児となったもう一人の子供と共に引き取られ、これが後に()()となる。

 

 そんな()()()()()()()()(義兄)が必死に『人間(ヒト)』として生きていこうとする姿を見て、三月は彼の為になろうと必死になり、やがて二人は惹かれあい始める。

 

 (義兄)何もかも(全て)失った(忘れてしまった)彼女(義妹)の為に。

 

 彼女(義妹)は壊れかけた(義兄)の為に。

 

 だがこの思いが通じ合ったかどうかのタイミングの矢先で三月はまたも実家の事情で(義兄)を護る為に()()()()()()()()()()()()()()()()。 そして『石田雨竜』の声が義兄と()()()だった。

 

 その所為か織姫は────

 

「────三月ちゃんはこの頃悩み事とか無い? 泣きたい時とか話し相手が欲しいなら胸を何時でも貸すから連絡してね────?」

 

 ────という勢いで迫り、両手で三月の手をギュッと掴みながら涙目になり、チャドは────

 

「────………………何時でも話したい時は()()()話して来てくれ────」

 

 ────と普段から言葉数が少ないチャドが自分から『話して来て良い』と言って来た。

 

「??????????

 

 三月はただ?マークを出して、

「ど、どういう事なのこれぇ?」

 と最後に二人(織姫とチャド)に会ってからの豹変ぶりに困惑しながらチエを見ると案の定、彼女は────

 

()()()()()()()()()()()?』

 『アンタ何やってんのよぉぉぉ?!』

 

 そこから三月はガミガミとチエに説教(愚痴)を(念話で)零していたが、チエは無反応だった。

 

 逆にチエは一護の具合などを聞き返して、彼が「自分は強くなる」と言った事に「ほぅ」と感心した。

 

 …………様な気がした。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 時はルキア奪還(救出)に向かう十日ほど前で、この時期に毎年開かれる夏祭りに一護達は出かけていた。

 

 ちなみに一護は無事に浦原との訓練を終え、見たところ『原作』より幾分か実力がマシになったのも良好だった。

 

 そして一護の鍛錬に他の人が付き合っていたその分、浦原はせっせと作業を進められたのも吉報だった。

 

「三月達、遅いな」

 

 両親に「渡辺家を案内して」と言われた一護がキョロキョロと見渡す。

 

「一兄はせっかち過ぎ」

 

 一護の(双子の)妹の夏梨が呆れたように兄を見る。

 

「そうだよお兄ちゃん!! 女の子は男子と違って時間かかるんだから!」

 

 もう一人の(双子の)妹の遊子が続く。

 

「………ま、そりゃそうか。 お前達も準備に時間かかったもんな」

 

 実を言うと双子達も『原作』より少し浴衣の着方に気を付けていた。

 

「そ、そりゃあ………………」

 

 ただ意外な事に夏梨がモジモジとして一護から顔を逸らす。

 

「ん? どうした夏梨? トイレか?」

 

「いっぺん死ね! 一兄はデリカシー無さ過ぎ! チエ姉ちゃんに嫌われるよ?!」

 

「何でそこでチエの名が出てくる────」

 

『『────お待たせ~!』』

 

「あ! こっちこっち!」

 

 遊子が手をぶんぶんと近づいてくる渡辺家に振り返す。

 

「遅いぞお前r────」

 

 渡辺家の声に振り向く一護が固まる。

 

「────ちょっとね~」

 

「────ごめん、ごめん! ちょっとおめかしに手間取っちゃって!」

 

「……………」

 

「あー! やっぱり凄~い!!」

 

「「えっへん!」」

 

 マイと三月が(同時に)得意げに胸を張る姿は『親子』と言うより『姉妹』だった。

 

 それに対してチエは────

 

「────髪を下すのと化粧をするのに何か意味があるのか?」

 

「「………………………」」

 

 夏梨と遊子…………と言うか黒崎家はこの数年共に祭り事等に一緒に出て来ているので彼女達の浴衣姿は何も初めてでは無い。

 

 無いのだが────

 

「────どうした、三人ともハトが豆鉄砲に撃たれたような顔をして?」

 

 ────今回のチエは()()…………と言うかかなり着飾っていた。

 

 以前の中性的な顔はうまい具合の化粧と、何時もきつく束ねている後ろ髪が解かれて下ろされた長髪の髪型で『和風美人』、または『大和撫子』の文字が似合うような麗しい見た目と変化していた。

 

 何時も動きやすい服()装ばかりしているだけに、今とのギャップ感が半端なかった。

 

「す、すげぇ………敵いっこねぇや……」

 

「皆の髪、サラサラで綺麗~!!!」

 

 余談だが今回のマイと三月の二人はおそろいのストレートのサイドテールだった(いつもは団子等の髪の上げたスタイル)。

 

「………………」

 

「それで~、真咲さん達は~?」

 

「あ、ああ。 おふくろ達ならこっちだ」

 

 マイの声にやっと反応し、未だに直視しない一護がズカズカと先に進む。

 

「? 一護はどこか調子が悪いのか?」

 

「お兄ちゃん、きっと照れてるんだよ」

 

「照れている??????」

 

 遊子が真咲に似たニコニコ顔で答える。

 が、チエはまだ困惑していた。

 

「あー! 三月ちゃん達だ! こっちこっちー!」

 

 織姫の元気いっぱいの声が良く通り、黒崎両親が確保したスペースでピョンピョンと飛び跳ねながら両手をブンブンと振る。

 

 勿論この動きに合わせて織姫の胸部装甲(お胸)が揺れている姿を凝視する周囲の男子達を睨み(殺意)の利かせたガンを飛ばす。

 

「わぁ! 三人とも綺麗~!」

 

「な? スゲェ奴らだろ?」

 

「あら~、初めましてかしら~? 渡辺マイと言います~」

 

「井上織姫です!」

 

 マイと織姫が挨拶を交わしている間、チエは竜貴の腕に巻かれたギプスに注目する。

 

「折ったのか?」

 

「ん? まぁねぇ。 決勝戦前に車に轢かれてさ。 おかげでインハイは準優勝止まりだったよ」

 

「(腕折って準優勝ってどれだけ…)」

 

 三月が再度、「竜貴は普通の人間なのにバケモノじみているなー」と思った所で彼女が声をかける。

 

「さっき聞いたんだけど…………織姫って夏休みはずっと忙しんだって?」

 

「へ? そうなんだ?」

 

 平然とシラを三月が切る。

 

「あんた達はどうなの?」

 

「少し込み入った事情があって、な」

 

「………大丈夫なの?」

 

 竜貴の声のトーンが何時ものあっけらかんとは違うモノへと変わり、困ったように二人(チエと三月)を互いに見る。

 

「……………」

 

「何が?」

 

「アタシは織姫が心配なのは勿論の事だけど………あんた達も心配なんだよ」

 

「「…………………」」

 

「昔からの付き合いなのに、()()になって初めて色々聞いた様な気がするし…………こう…………何て言うのかな? 『()()()()()()()()()()()()()』感じがするんだ。 しかもそれは嫌味とかじゃなくて純粋な善意から」

 

「(へぇー、『有沢竜貴』って脳筋じゃなかったんだ)」

 

「だからさ…………()()()()()()居なくなったら、アタシどんな事になろうとも一発殴るまで止まらないからね?」

 

「………そっか。 ありがとうタッちゃん♪」

 

 三月が笑顔に戻り、竜貴は明るさを取り戻そうと笑みを返した。

 

 三月はそれから周りを見渡す。

 

 マイと楽しそうに話す黒崎家の親(一心と真咲)()()()()()

 

 ジン太が彼にしては珍しく余所余所しい言動で(ウルルを中間に入れつつも)遊子と話す姿とこの事に苦笑いを浮かべながら楽しむウルル。

 

 夏梨とチャドの二人が屋台から買った食物を食べながら少ない言葉数で隣通しに座って話す姿。

 

 織姫は無表情のチエと慌てる一護の腕を掴んで二人を巻き込みながら祭りのアレコレを話す。

 

「………(うん、()()()()()。これで────)────きゃ?!」

 

 三月の眼鏡が突然顔から取られると同時に髪の毛を束ねていた紐も解かれ、彼女の腰まで届く金色の長い髪が姿を現す。

 

「────よっしゃあ!」

 

「────やりぃ!」

 

 一心と竜貴の声に三月が見ると、二人はハイタッチを交わしていた。

 

 一心の手には紐が握られ、竜貴は(伊達)眼鏡を自らの顔にかけていた。

 

「きゅ、急に何するのよ二人とも?!」

 

「「「「「「………………………………………………」」」」」」

 

 周りの知人達がポカンとした目で三月を見ていた。

 それは初となる彼女の素顔と、おめかしをしたチエの二人を互いに見ていた視線だった。

 

「何だ? 皆して私達を────」

 

「「「お人形さんみたいー!」」」

 

 ウルル、遊子、そして織姫が同時に純粋な感想を出す。

 

「…………………凄いな」

 

「だろうな。 あれで目立ちたくないんだとさ」

 

「んなの無理だっつーの」

 

 チャドと夏梨とジン太が自身の感想を続けて────

 

「こりゃあ、凄いッスねー」

 

 ────浦原が愉快そうにカラカラと笑うような感じで場を見ていた。

 

「う、うぅぅぅぅぅ────うぶ?!」

 

 三月が頭を抱え────

 

「小っちゃくて可愛い~ね~♡」

 

 ────る前に織姫が抱きしめ、息が出来なくなった三月がバタバタと手をバタつかせ、逃げようとする。 が、織姫の装甲(マシュマロ胸)に彼女の手が弾力によって押し返され、徐々に三月の肌色が酸欠から更に青白くなっていく。

 

「ね? 私の言った通りでしょ一護? …………………………一護?」

 

 ドヤ顔の竜貴が固まった一護の方を見る。

 

「………………こいつ、立ったまま気絶しているぞ?」

 

え゛

 

「ブハッ! 今度こそ『普通で地味』に居られると思ったのに~!」

 

「「「「いやいや、それ無理だから」」」」

 

 危うく窒息しそうな状況から復活した、涙目になる三月と彼女にツッコミを入れる他の皆だった。

 

 そんなハチャメチャなゴタゴタとした出来事で夜は過ぎ去って行ったのだった。

 




マルタ(バカンス体):『普通』は難しかったよ作者ラッシュ

作者:目を瞑るなー!

三月:え? な、何何何何?

リカ(天の刃体):そもそも『普通』の定義があやふやですので、返って目立つのがオチです

クルミ(天の刃体):面倒臭いですね

ライダー(天の刃体):切ないですね

作者:Oh…………この部屋のあられとお茶が…………


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第22話 いざ、初めての尸魂界へ! え? もう来た事ある?

勢いで書きました!

後、投稿ペース少し落ちるかも知れません、申し訳ないです…………


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 時は空座町の夜中。

 場所は浦原商店の前。

 そこには目を見開いた一護が居た。

 

 彼の前には私服姿の織姫とチャド、滅却師装束の雨竜、()()()()のチエ、三月は(彼女にしては珍しく)青いジーンズとシャツの上から赤い外套&(伊達)眼鏡、そして背中に巨大な登山用バックパック。

 

 最後に────

 

「────小僧は案外飲み込みの悪い奴じゃのぅ。 この知り合い達はお前が死神の力を取り戻すべく修業を積んでいる間、この者達もまた修業を積んでおったのだ。 四の五の言わずに感謝の言葉を────」

 

 「────猫が喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 ────織姫に抱かれた黒猫(夜一)が一護に語り掛けていた。

 

「猫じゃないよ。 夜一さんだよ黒崎君?」

 

「そうだぞ一護。 何を驚く必要がある?」

 

 織姫とチエが平然と一護に答える。

 

「どうした茶渡?」

 

「渡辺……………『黒の渡辺』も死神だったんだなと思っただけだ」

 

 チャドが死神の装束に身を纏ったチエを見ながらコメントをする。

 

「待て。 『黒の渡辺』とはどういう事だ?」

 

「あ、もしかして私とチーちゃんが被るからサドッツ(茶渡)なりのあだ名?」

 

 バックパックを背負った三月がチャドに尋ねる。

 

「駄目か?」

 

「チエで良い」

 

「私もミーちゃんで良いよ♪」

 

「分かった、チエにミーちゃん」

 

「そ、そんなに軽く喋る猫の事をスルーするとは…………もしかして、僕と黒崎のリアクションが一般的ではないのか?

 

「俺が、石田と一緒…………だと?」

 

「黒崎も何故そこでショックを受ける?!」

 

「はいはーい! 皆サン、お店の奥まで来て下さいねー!」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場がまた変わり、浦原商店の地下にびっくりしているチャド、織姫、そして雨竜のリアクションを楽しんでいる浦原に一護が訊く。

 

「あんたも来るのか?」

 

「少々事情がありまして♪ と言う訳で皆サン再び注目ぅぅぅぅ!」

 

 浦原が指を鳴らすと大量の結合符で覆われた四本の柱が飛び出した。

 

「これにびっくりしていて結構結構。 製作者としてこれ以上ないご褒美です♪ ではではこの『穿界門(せんかいもん)』を()()()()()()()()()()()()()()()説明します」

 

穿界門(せんかいもん)』。

 現世とソウル・ソサエティを繋ぐ門で、くぐった先は断界(だんかい)という通路(世界の狭間)へと通じている。

 

「────そしてここを本来、安全に通る事が出来るのは『地獄蝶』を持つ死神です」

 

 そこで浦原が一護達に説明をしている間、抱えた夜一をモフモフしながら三月はアレコレと考え、情報を整理する。

 

 尚夜一は渡されたマタタビに只今夢中であった。

 

「(情報(漫画)によれば、こっち(旅禍)側に回ってくれるのは確か………八番隊、四番隊、六番隊の恋次、十番隊の『当たらない氷輪丸』と副隊長、十一番隊、そして十三番隊………………………でも────)」

 

 ────()()()()

 

 これだけの隊長格や死神達が居ても、藍染率いる反逆組+完全催眠能力の前には赤子同然の様に同士討ちを始めていた(筈)。

 

 五番隊隊長(惣右介藍染)の『完全催眠』。

 斬魄刀の能力解放の瞬間を一度でも見た相手の五感と霊感等を支配し、対象を誤認させる事が出来る()()

 

「(もっとも、私に『完全催眠』は()()()()()し、対策も()()()()。 だけどこれはあくまで『能力』。 つまり────)」

 

 ────()()()()()()

 

 そんな未知数の相手を安全に、どう対処すれば良いのか?

 

 それは────

 

「────さて、問題は『時間』です。 我々が『穿界門』を開いてソウル・ソサエティへと繋いでいられる時間は、もって()()!」

 

 浦原の真剣な声のトーンに三月は現在へと意識を引き戻された。

 

「4、4分だぁ?! 間に合うのかよ?!」

 

「普通なら無理ッス」

 

「「「「?!」」」」

 

 一護達が息を呑むのを見て、浦原はウキウキする心を無理矢理胸奥に深く沈ませた。

 

「この4分を過ぎればあなた達は現世とソウル・ソサエティの狭間で永久に閉じ込められる事となります!(本当はもっと長く開ける事が出来るんですけどネ~)」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 これは()()()()()

 だが開けていられるのは4()()ではなくその倍の8分。

 

 これは万が一の事を考えてその半分の時間を浦原は皆に伝えていた。

 

「(それに、()()()()()()()()()()()()())」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 前へ。

 ひたすらに前へ。

 前進あるのみ。

 文字通り必死に前へと進まなければ()()()()()()()

 

 なのに────

 

 「────走れ、走れ、走れぇぇぇぇ!」

 

 「遅いぞ、この戯け共!」

 

 怒って怒鳴る夜一を先頭に続いてチエを横に一護達は必死に走っていた。

 

 殿を務めていた(足幅が一番短い)三月は────

 

「────うぎゃああああああああ?! キタキタキタキタキタキタァァァァァァァ?!」

 

 全然いつもの彼女らしくない叫び声を出して、追ってくる()()()()()()から逃げていた。

 

「この馬鹿者! その荷物を捨てろ!」

 

「死活問題に関わるから無理ッ!」

 

「ほ、本当に壁が迫って────って何だあれは?!」

 

 三月の前を走っていた雨竜が目を見開く。

 

「煙の列車────うわぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「うひゃあ?!」

 

 ペースの落ち始めた雨竜と三月(&彼女のバックパックごと)をチャドが肩に担いで走る。

 

「お、おろしてくれ茶渡くん!」

 

「あ、ありがと」

 

「ん」

 

「あれは拘流(こうりゅう)()()()、『拘突(こうとつ)』じゃ! 今日出るとは間の悪い────うにゃ?!」

 

「しっかり摑まっていろ」

 

 夜一をチエがすくい上げて自分の頭に乗せる。

 

「「おわぁ?!/きゃ?!」」

 

 次に彼女は一護と織姫を肩に担ぐ。

 

「お前達も摑まっておけ────」

 

「────チャドに()()! しっかり口を閉じていて、舌を噛むわよ!」

 

「何をするつもりじゃおn────ッ?!」

 

 夜一が後ろを見てギョッとする。

 チャドに担がれた三月は手を銃の形にして、人差し指の先に巨大な青い球を宿らせていた。

 

「(何じゃあれは?! 霊子の塊のようじゃが、大きさと密度が桁外れじゃ!)」

 

「渡辺s────?!」

 

 「『霊丸(れいがん)』!!!」

 

「「おわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 急な加速と共に足が地面から離れるチャドと雨竜が叫ぶ。

 

「「ぎゃああああああ!/きゃああああああ!」」

 

 上記の男性二人と同じく加速する一護と織姫が叫ぶ。

 

「ヌググググググッ!!!」

 

 そして夜一が(猫の)歯を食いしばる。

 

 その勢いのまま六人と一匹(七人?)は出口の門から()()()()()()()()

 

「「ぬ、これは落ちるな。/あ、これは落ちるわね」」

 

 チエと三月が状況を見て平然として態度で言う事がトリガーのように一護達が一斉に叫ぶ。

 

「「「「「あああああああああああ?!?!」」」」」

 

 そのまま皆が自由落下していき、いずれ墜落しては盛大な土煙が舞い上がる。

 

「うむ。皆無事に生きているな」

 

 服と顔、そして頭が土塗れになったチエがムクリと起き上がって何時ものペースで確認を取る。

 

「「「無事じゃねえよ!/ないわい!/じゃないぞ!」」」

 

 そしてすぐに苛立ったツッコミを入れる一護、夜一に雨竜。

 

「お、重い」

 

「ちょっと! 失礼ね、サドッツ?!」

 

「違う。リュックが」

 

「あ、ごめん」

 

 チャドの上からそそくさとリュックと共に退く三月。

 

「まあ……………結果的に生きておるから良かったわい」

 

「渡辺さん、最後のあれは何だったんですか? 何か凄い霊子の塊のようだったけど」

 

 雨竜がボロボロになっていた滅却師マントを持って来た予備に着替えながら三月に訊く。

 

「ん? 腕自体を霊子圧縮発射装置の媒体にして撃っただけだけど?」

 

「……………………………………」

 

 もう何処からどう言葉を続けたら良いのか分からなくなった雨竜であった。

 

「珍しいな、石田が黙り込むなんて」

 

「僕は黒崎くんが羨ましいよ。 頭が単細胞で

 

「んだと?!」

 

 このやり取りを夜一は見ながら考えを練っていた。

 

「(こ奴………あっけらかんとモノを言ったが他の者達は気付いておらんようじゃな。 『腕を媒体に霊子を撃った』と言ったが、あれ程の霊子……………腕が吹っ飛んでもおかしくなかったと言うのに…………………()()()()()()()()()()()()()()()?)」

 

「チエちゃん凄く速くなったね! あれも死神の技なの?」

 

「…『()()』と呼ばれている」

 

 三月が立ち上がるタイミングでチエも立ち上がる。

 二人が自身達についた土などを払い落とし、バックパックを背負い直すと────

 

「────んじゃ、また後で!」

 

「死ぬなよ」

 

「「「「え?」」」」

 

 一護達が素っ頓狂な声を出して、チエ達がその場を離れようとすると────

 

「────お前らはどうするんだ?」

 

 ────一護がそう尋ねる。

 

「別行動。 ちょいと『暗躍』してくる」

 

「何を企んでいるんだ?」

 

「違うってば。 『暗躍』って言ったじゃん」

 

「同じ事じゃないのか? それに、ここは敵地だ。 二人だけで大丈夫なのか?」

 

 これに雨竜も混ざる。

 

「この際じゃから言うが、お主らの中でこの二人は別格。 ()()ワシ等と集団行動するよりは別々に動いた方が敵の注意を分散してくれるじゃろ」

 

「そういう事♪ 私達は静かに『黒子役』をしてくるわ」

 

「気を付けろよ、二人とも」

 

「一護もだ」

 

 それを最後にチエと三月は走り去って、角を曲がると気配が途絶える。

 

 ___________

 

 チエ、三月 視点

 ___________

 

 二人は一護達の視界から出るなり、浦原特製の外套を羽織って、姿を消しながら流魂街を屋根伝いで駆ける。

 

 至る所では死者の魂────『魂魄』がそこら中から気配がした。

 そして皆、先程の墜落音で一時的に建物の中に避難したらしく、墜落場から離れていくと徐々に活気がある街中へと変わっていく。

 

「(ま、無理もないか。 彼らからすれば私達は空から降って来た不審者……っと、まずは────)」

 

 三月がゴソゴソとポケットからインカムを取り出して耳に装着する。

 

『────あー、テステスー。 本日のソウル・ソサエティは晴天なりー』

『何スかそれ?』

『良し、成功。 今どこですか、()()?』

()()()()()()の一つッス』

『オーケーです。 ご武運を』

『礼は帰ってからする主義ですので、アタシは♪』

 

 三月は耳のインカムから来る浦原の声に笑みを浮かべた。

 

 実はと言うと、一護との訓練を交代制にしてから浦原は『穿界門』の制作と改良に全力を入れられる状態だった。

 

 そして『原作』とは違い、ソウル・ソサエティへと()()()()()()()。 

 己の目的を果たす為に。

 

「(目的は()()。 そして一護達とは他に二つのグループが別行動している。 流石の藍染も私達全員を把握して対策を練りながら四十六室やその他諸々の幻覚を維持するのは流石に無理があるでしょ)」

 

「む。 三月、少し寄りたい所があるのだが良いか?」

 

「え? う、うん。 (珍しいわね)」

 

 チエが自分から何かをしたいというのは珍しかったので、三月はその行為を尊重────

 

「ふむ、街並みは変わっていないな。 ()()()()()()()()()()

 

「────ってアンタここ(流魂街)に住んだ事があるの?!」

 

「前に()()()()()()()私はここに放り込まれたのだが?」

 

「ウグッ。 (チーちゃんの本気のジト目威力半端無い!)」

 

「何か弁解はあるか?」

 

「大アリ! あれは私の所為じゃない!」

 

「……………………」

 

 チエ一瞬三月をジッと見て、前を見直す。

 

「な、何よ?」

 

「…………………」

 

「何か言いなさいよ、ねえ?」

 

「…………………」

 

 そしてズゥーンと落ち込んで地味に傷つく彼女(三月)だった。

 

 

 

 チエが向かって降り立ったのは西流魂街にある小屋の場所。

 かつて世話になった所。

 

 だがそこに二人が着くと空き地だった。

 

「えっと……………何も無いわね?」

 

「そうか。 では近くの者に訊こう」

 

「え?」

 

 チエが姿を現して近くの民家の中に入る。

 

「「「わぁ?!」」」

 

「失礼する。 この隣に住んでいた『右之助(うのすけ)』の事を知らぬだろうか?」

 

 バシィン!

 

「アンタ何やってんのよ?!」

 

 後ろから同じく姿を現した三月がハリセンでチエの頭を叩く。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 多少の行き違いがあったが、チエが(無理矢理)訪問した民家の中の家族は死神装束の彼女がその昔、ここの流魂街地区担当だった事を三月が言うと中年男性が元気よく答えてくれた。

 

「ああ! 死神さんは右之助爺さんの知り合いだったのか!」

 

「そうだ。 ちなみに奴の酒飲み癖は治ったか?」

 

「そ、そんなに昔の事を────」

 

「────はい、お茶をどうぞ死神()

 

 中年男性の妻らしき女性がお盆に人数分のお茶を持ってくる。

 

「ごめんなさいね? 突然入って来た上にお茶まで────って死神『様』?」

 

 三月が?マークを飛ばす。

 これは『原作』の中で、インコに宿っていたシバタユウイチと再会を果たした茶渡の描写では『死神は基本、流魂街に無関心』と言う印象が強く残っていたからだった。

 

「ええ、死神様達のおかげで私達は死後でも再会出来たのですから」

 

 民家の家族の奥方がニコニコと嬉しそうに中年男性と子供を互いに見る。

 

「………………………え?」

 

流魂街(るこんがい)』。

 瀞霊廷をぐるりと取り囲む下町、いわゆる『貧民街』である。

 死後の魂魄は基本、流魂街に辿り着いては1から80まである地区のどれかに()()()()()現れて、生前の知り合いや親族、恋人の魂と一緒に居られるのは基本運次第。

 

『原作』の中でもシバタユウイチは自分の母を独自に探し日々を送る描写と、彼の涙ぐむ姿が強く三月に残っていた。

 

「えと…………失礼を承知で聞きますが、あなた達は────?」

 

「オイラ達、正真正銘の家族なんだ!」

 

 子供がニカッと笑う。

 

「ああ、俺は昭和18(1943)年に戦死した。 女房と子供は昭和20(1945)年で空爆に会ってな?」

 

「そうか、辛い事を聞いて済まない」

 

 チエが頭を下げると民家の者達がギョッとする。

 

「あ、頭を上げてくだせぇ!」

 

「そうですよ! 死神様達が居なければ、私達は未だにバラバラに離れているかも知れなかったのですから!」

 

「????????」

 

 三月が更に?マークを出し、詳しい事を聞く。

 

 死神達は担当地区の流魂街の巡回中、新しい魂魄達をなるべく生前の知り合いや家族に引き会わせる話などを聞いて、彼女は唖然とする。

 

 やり方や熱意やそれをやる気はピンからキリまであり、隊や隊員個人によってはそれぞれらしいが。

 

「私達が会った死神様達は良い方達で、こうやって私は死後もう一度巡り合えましたの」

 

「それは良かったな。 それで、右之助の事だが────」

 

「────ああ、昔の担当の死神さんなら知らないか。 右之助爺さんは今瀞霊廷で住んでいるんだ」

 

「今でもちょくちょく流魂街に来ては怪我の治療などをしに来るけど、もうお年頃だしねぇ」

 

「でもオイラ前に見た事あるぜ? お忍びで近くの酒屋さんに来ているの」

 

「そうか、感謝する」

 

「ええ、お茶美味しかったわ」

 

 チエと三月が立ちあがって民家を出ると中から家族三人が声をかける。

 

「右之助爺さんに会ったら宜しくな!」

 

 三月はこの新しい情報に困惑し、チエと一緒に走りながらその場を後にする。




作者:いよいよか

市丸ギン:ほんま長かったわ。 僕、待ちくたびれたで

作者:……………………ああ、そう言えばお前の初登場シーン間近か

市丸ギン:おいちょっと待てや。 何やその薄い反応?

作者:さて、じわじわと、コツコツと次話を書きましょうかね~

市丸ギン:おい、こっち向けや。 目を逸らすなや


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第23話 助っ人(ウー)マン、召喚。の巻き

何時も読んでくれている方達に感謝を!

少し短めですが、楽しんで頂けると幸いです!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

『大丈夫か、三月?』

 

 チエの気遣う念話に頬の汗を拭き取る三月はただサムズアップで彼女に返答しながら目の前の出来事を見直した。

 

 瀞霊廷と流魂街を区切る殺気石(せっきせき)には東西南北に四つの門があり、その一つの白道門(はくとうもん)の守護者の兕丹坊(じだんぼう)の声が辺りに響く。

 

「腰抜がすなよぉ、一気に行ぐどぉぉぉ!!!」

 

 そう言い、兕丹坊は白道門を一護達の為に一息に()()()()()()()()()

 

『あの門番は失格だな』

『チーちゃん、何時にも増してド直球過ぎ!』

『明らかな害意がない一護達だが、現代風に言うと“警備の者が勝手に不審者達の為にドアを開ける”と言う無責任な行為を奴は取ったのだぞ?』

『まぁ……それはそうなんだけどさぁ………』

 

 チエの指摘はごもっとである。

 そう感心している間、彼女と三月は姿と気配を消しながら開いた門を潜り、瀞霊廷の中へと一気に駆け抜ける。

 

「あぁ、こらあかん。 あかんわ」

 

 そして二人の前に白髪で糸目の京都弁を喋る男の声が聞こえた瞬間物陰へと潜む。

 

「門番は門を開ける為に居てんのとちゃうやろ? ましてや旅禍相手に」

 

「さ、三番隊隊長……い、市丸────」

 

 兕丹坊の前に立った糸目の三番隊隊長────『市丸ギン』の霊圧がほんの一瞬だけ膨れ上がり、何か重い物が地面に落ちると共に痛みに叫ぶ兕丹坊の声が響く。

 

「兕丹坊?! テメェ、何しやがる!」

 

 一護の声に市丸ギンが片眼を開けて彼をよく見てからニィーっと笑う。

 

「…………何って、門番が『負ける』っちゅう事は『死ぬ』意味やぞ?」

 

『流石に極端過ぎだと思う』

『そうか?』

『そうだよ』

 

 近くの物陰で潜む三月の言葉にチエが天然ツッコミで返す。

死神(多種)』と『人間(多種)』の価値観の違いに一護は怒っていた。

 

「ざけんなよ、テメェ!」

 

「へぇ、おもろい子や。 ボクが怖か無いんか?」

 

 「全ッッッッ然!!!」

 

「一護、よせ!」

 

 ギンに突っかかる(啖呵を切る)一護を夜一が怒鳴り、彼の名前を知ったギンの笑みが更に深くなる。

 

「尚更、君を通す訳には行かへんなぁ」

 

 ギンがゆったりとした足取りで一護から遠ざかるように歩くと、チエと三月は近くから物音がして見ると────

 

「(成程、こういう事があったのね。 何が『未確認情報』だ)」

 

 ────そこにはひっそりと阿散井恋次(六番隊副隊長)が立っていた。

 

 漫画にも彼がルキアの反応を見る為に、『未確認情報だが巨大な斬魄刀を持ったオレンジ色の髪をした旅禍が侵入した』という描写はあった。

 

 が、流石に本人がすぐそこにいるとは三月にも予想外────

 

『────凄い眉毛だな』

「『────フハ?!」』

 

「ッ!」

 

 チエの念話に三月が思わず外と内側両方で吹き出し、恋次は腰の斬魄刀をすぐ握ってチエ達のいる方向の物陰を睨む。

 

『何をやっているのだ、お前は?』

『今のは完っっっっっ璧にチーちゃんが悪い!』

『???』

『そこでボケるな────!』

 

「────誰だ?」

 

 チエと自分の口を手で塞いだ三月は忍び足で(チエも後を付き)その場から離れると────

 

「────『射殺せ、神槍』」

 

 ギンの始解と共に一護と兕丹坊が瀞霊廷内から流魂街に弾き出され、勢いよく閉まる門の向こう側からギンはヒラヒラと手を振りながら、別れの言葉を一護に掛けた。

 

 白道門が重い音で閉まり、ギンは踵を返してその場を去る。

 

 恋次は横目でこれを見ながらも手にかけた刀を動かさず、警戒すること数分。

 

「(この人は確か『原作』ではルキアの馴染みで、彼女を助けたいと思っている筈。 上手くやれば仲間に………いえ、やっぱり()()駄目ね)」

 

 確かに彼に上手く事情を話せばルキアを助ける為()()なら、一人でいる今が絶好のチャンスかも知れなかった。

 

 だが『原作』での彼の性格などを考えれば、良くも悪くも隠し事が苦手(出来ない)

 恐らくはイノシシの様に後先考えずにズカズカと例え一人でも行動を起こすだろう。

 

「(だから話しかけるのは『今』じゃない)」

 

 恋次が周りをキョロキョロと見てから警戒を解き、その場から離れ始める。

 

『……奴に話しかけないのか?』

 

 チエからの念話に三月が頭を横に振る。

 

 ソウル・ソサエティに乗り込む、浦原商店で集合する前に三月はチエに一通りの事を話し、方針を伝えていた。

 

『彼に接触するのはタイミングが肝心、“今”じゃないわ』

『分かった』

 

 そこで立ち去ろうとして瞬間、三月のインカムから浦原の声がした。

 

『もしもし、こちら“店長”。 “助手№2”、応答願います』

『帰ったらフ〇イデー等の入った異空間を消去するわ』

『ヤメテ、お願い! っと、冗談はここまでにしてそちらはどうですか?』

『上手く潜入出来たわ』

『了解ッス。 ではまた後で』

 

 さて、ここまで記入すれば既に察せると思うが浦原は一護御一行が『穿界門』に飛び込んだ直後に『曲光』と霊圧遮断型外套で自身を隠して追って来た。

 

 ちなみに三月の背負っていたデカイリュックも一種のカモフラージュの役割だった。

 

 (浦原)がソウル・ソサエティに来ている事はチエ達と、夜一、そして『穿界門』を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 目立つ一護達が表でバタバタしている間に、浦原は夜一と共に思う存分に暗躍をする気満々。

 まるでチエと三月()の様に。

 

()()? こちら()()()。 井上昊を発見した』

『でかした!』

『“井上織姫”の居る所まで誘導して欲しいか?』

『出来ればそのまま彼の居場所と周辺を調べていて。 もし危機に落ちそうなら介入許可するわ』

『了』

 

「(良し! これで事が終わった後に井上兄弟を引き合わせられる!)」

 

 三月がグッとガッツポーズをする。

 

 先程念話を交わしたモノの名は『クルミ・()()()()()』。

 

 別の世界では三月の()()として振舞っている、彼女(三月)自身の別側面(人格)を具現化した()()*1

 

 先程の民家から白道門へと向かう間、三月が『この世界(BLEACH)』へのいわゆる『異世界渡航』して()()()()()()()()で過ごした年月から『魔力の代わりに霊子を代用する』実験を(誤作動しつつも)繰り返していた結果、ついに到達した結果の『産物』の一つ。

 

 これにより『この世界(BLEACH)』にはない『魔法』をある程度『修正力』の影響を軽減して行使できるようになった(先程から頻繁に使っていた念話もその一つの例)。

 

 当然、『改造魂魄』と称しているマイもクルミと似たようなものだが、あちら(マイ)は『この世界(BLEACH)』で浦原から入手した義骸にさらに手を加えてから別側面(人格)を注入した、『異世界同士』の『技』と『概念』の交ぜ合わせられた『互換品』に対して、クルミはいわゆる『純正品』であった。

 

 と言ってもまだまだ荒削りも良いところで、行使の際に霊子から魔力、そして偽装の為の逆方向への変換率は未だに試作段階の領域を出ていないのだが……

 

 まあ、変換しないよりは『負担』が遥かにマシなので彼女はこれで良しとして先程から力を蓄え直していた。

 

 何せ『鬼道』に加え、『魔法』や『魔術』が使えれば行動と作戦の範囲が広がるだけでなく、有利に事を進められる。

 

 筈。

 

『さて……………チーちゃん、周りの気配索敵頼んだわよ』

『分かった』

 

 チエ達が建物の陰に入ると三月は霊圧遮断外套を身に纏った姿を現し、右手に自ら傷を負わす。

 地面に血が滴るのを確認してから、彼女は目を瞑って()()を始める。

 

「『()に銀と鉄。 ()に石と契約の大公────』」

 

 三月の周りにそよ風が噴き出し、地面には『この世界(BLEACH)』で()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その間も三月の詠唱は続いて、滴る血が地面と混ざり合い始め、蠢く。

 

「『────降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路(さんさろ)は循環せよ。

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる(とき)を破却する

 ――――告げる。

 汝()の身は我が下に、我が命運は汝()の剣に。

 ()()の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!

 誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者────』」

 

 眩い光が発しようとした瞬間、三月は奥歯を「ギリッ」と噛み締めながら血の出ている右手で拳を作り、光は輝度を徐々に下げていき三月の体がブレ、地面から出ていた光子が人の形を作り始める。

 

「────ッ…………『汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手()よ――――!』」

 

 やがて光子が数人分の真っ白の人影から()姿()()()()()()()()()()()

 

「………………あれ? 何処やねんここ?」

 

 ?マークを出し、八重歯の見える口で関西弁を喋る、活発そうな少女が周りを見渡す。

 

「あー……………雰囲気からしてまたメンドクセェ事じゃねぇの、『ツキミ』?」

 

 同じ少女をまるで青年化した、ボサボサのラフな恰好をした者が周りを見ながら頭をガリガリと掻きながら先程の関西弁少女────『ツキミ』に声をかける。

 

「成程、ボク達がこうやってほぼ勢揃い居るという事は『カリン』の言う通りかもしれませんね」

 

 ぬぼ~っと、ダルイ感じの顔とハネッ毛が目立つ少女が眼鏡を掛け直す。

 

「せや、『リカ』の言う通りや」

 

「皆、来てくれてありがとう。 取り敢えず、記憶を備え付け(インストールす)るから」

 

 そこで三月は新たに現れた三人(カリン、ツキミ、リカ)に背負っていたリュックから予備の霊圧遮断外套を羽織らせ、情報を直接脳内へと送る。

 

 三人(カリン、ツキミ、リカ)の意識に色んな景色や記録が意識を通って、終わると────

 

「ま、急にオレ等を『召喚』したのはこういう事か」

 

「『ソウル・ソサエティ』に『死神』に『虚』………興味深いですね、これは是非………フフ……

 

「へぇー! ホンマに時代劇みたいな所やないか!」

 

『カリン』が納得したように笑みを浮かべ、

『リカ』が眼鏡をキラリと光らせながら意味深で低い笑いを出し、

『ツキミ』が興味津々で、目をキラキラとさせながら近くの建物を触り────

 

『────さっきの霊圧は何だ?!』

『────こっちからだったぞ!』

『────まさか旅禍か?!』

 

 ────ドタドタとした足取りで次から次へと近くにいた死神達の声が聞こえてきて、チエが戻って来る。

 

「三月、今のは一体────……………おいなんだこの者達は?」

 

「「「「姉妹?」」」」

 

 チエのジト目問いに三月達が頭を傾げながら(疑問形で)答える。

 

「……………まずはここから離れるとしよう」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場は更に変わり、()()()()の隊舎裏でジト目のチエと苦笑いをする三月()の間に気まずい空気が流れていた。

 

『それで? どういう事だ、これは?』

 

 チエの少しトゲのある問いに三月が返答(弁解)する。

 

『瀞霊廷って広いでしょ? 私とあなたの二人だけじゃカバーしきれないと思ってさ?』

『だからと言って、チエ氏に何も言わずにボク達を呼ぶのは流石に駄目だと思います』

『“リカ”の言う通りや。 何や()()が珍しく僕等を呼んだ思ったら“霊界”でしかも土壇場やないか』

『ま、オレは別に構わねぇけどよ? 要するにオレ等はなるべくこの一連が“原作”よりこの“藍染”っつうド腐れ○○○(ピィー)野郎を弱体化しつつ、ベリー野郎達側を有利にするって事だろ?』

『“カリン”、その…………………“ベリー野郎”って誰?』

『あ? あのヒマワリ頭に決まってんだろ? オレンジ色の』

『『『…………………』』』

 

 カリンの言った事が概ねの方針に的を射ていたので三月は話を先に進めてカリン、リカ、ツキミの三人がその場から姿を消しながら別方向へと散る。

 

『しかしこの隊は妙だな。 “隊”と言うよりは“ゴロツキ”の集まりの雰囲気がする』

『あ、あながち間違っていないよ?』

 

 チエの視線に釣られ、隊舎の壁に大きく書いてある『十一』を見上げる。

 

『十一番隊』。

 何度斬られても絶対に倒れない『剣八』率いる『戦闘専門(戦闘狂)部隊』で『自称十三番隊最強』。

 そして以外にも斬術、及び白打、と言った物理的戦闘手段であれば上記の自称は伊達ではない程の実力を持つ者達が大勢いる。

 

 物理的戦闘手段のみに限定すればだが。

 

 何せ姿を曲光、そして霊圧を遮断しているだけで目の前の隊舎の中にいる者達はすぐ外で微小に漏れている霊圧に違和感も持たない程()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 そう思っている矢先に隊舎の屋根から誰かがチエ達のすぐそこに降り立つ。

 

「ん~? おっかしいな~」

 

「(え゛。 嘘)」

 

「(ほう、この小娘…………)」

 

 降り立った小柄でピンク色の髪の毛をした死神の少女はキョロキョロと見ながらその場をくるくると歩く。

 

 少女の後ろには補助輪的なモノが付いている斬魄刀を引きずっていた。

 

「どうした、やちる?」

 

「あ! 剣ちゃん!」

 

 更に出てきたのは髪の毛に鈴を取り付け、右目に眼帯と顔の左側には大きな傷を負った長身の男だった。

 

 この二人の男女こそ『十一番隊』の隊長と副隊長である。

 

 少女は『草鹿(くさじし)やちる』と言い、十一番隊副隊長の座を持つ程の実力者。

 

 そして男は『更木()()』、通称『剣ちゃん』(副隊長命名)。

 言わずとも十一番隊隊長である。

 

「あのね剣ちゃん、ここに誰かいるような気がするの」

 

「あぁ? 何処に?」

 

「そこ」

 

 やちるが周りを見る剣八に対して「ズビシッ!」と()()正確に存在自体を薄くして潜伏しているチエ達を指差す。

 

「(うおい?! 何でバレているのよぉぉぉぉぉ?!)」

 

「へぇー? やちる、ちょいとしゃがんでいろ────」

 

 ニィーッと笑みを浮かべる剣八に巨大な霊圧がビリビリと辺りに響く。

 

『────三月、飛ぶぞ!』

『言われなくても────!』

 

 ___________

 

 ツキミ 視点

 ___________

 

 場はまたも変わり、時も三月が『召喚』した者達が丁度散り散りになった直後まで遡る。

 

 その部屋の中にはとある人物が恋次にルキアの話をしていた。

 

「────重罪ではあるが、問題は事の運び方だ。 義骸の即時返却、破棄命令、通常の猶予期間が35日から25日への短縮、隊長格以外の死神への『双極(そうきょく)』の使用決断…………どれも異例のモノばかりだ」

 

 柔和な風貌で眼鏡をしている護廷十三隊隊長の白い羽織をした青年が恋次にそう語る。

 

「僕には、これが全て一つの意志によって動いているような気がしてならない」

 

 「(そらお前やろがぁ?!)」

 

 近くで存在を潜めていたツキミが思わず出しそうなツッコミをグッと堪え、心の中のみで全力で叫ぶ。

 

 ツキミはリカと同様に瀞霊廷内部を散策している内に恋次に話しかける藍染を見かけて尾行していた。

 

「待ってくれよ、藍染隊長! それって………どう言う────?」

 

 ドゴォン!

 

 少し離れた場所で爆音に恋次と藍染が同時に音の下方向を見る。

 

「この、霊圧は────」

 

「────やれやれ、十一番隊が闘志を抑えきれなかったかな?」

 

『隊長各位に通達! 只今より、緊急隊首会を召集!』

 

「(あっちの方角はチエと本体の行った場所………大丈夫やろか?)」

 

*1
作者の別作品、『天の刃待たれよ』より




マイ:あら~、他の皆も来てくれて嬉しいわ~

リカ:そうですね

カリン:やっと出番かよ! 待ちくたびれたぜ!

作者:Oh………これから騒がしくなる予感が………

チエ:もう手遅れだと思うが?

作者:心の友よ────グヘ?!

チエ:貴様の友になった覚えはない



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第24話 ガクガクブルブル顔真っ青。の巻き

次話です!

短いですけど(汗


 ___________

 

 チエ、三月 視点

 ___________

 

「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ…………………………………ま、マジで死ぬかと思ったわ」

 

 息を切らしていた三月の髪の毛を纏めていたバレッタから外れたのか、地面に項垂れていた彼女の髪は乱れていた。

 

「フム、あの者とは一度手合わせを願いたいな」

 

お願いだからやめて?! 瀞霊廷が滅茶苦茶になっちゃうから!

 

「だがあの者は『まだまだこれから』という発展途上にいるにもかかわらずあれだけの斬撃を────」

 

()()ヤメテPLEASE(プリーズ)!

 

「分かった」

 

「じゃなくて! この騒動が終わった後で! 全部終わってから!」

 

「…分かった」

 

「い、今一瞬だけ躊躇しなかったチーちゃん?」

 

「…気の所為だ」

 

「今また躊躇したわよね?!」

 

 二人は剣八に斬られる寸前、全力でその場を離脱した為方角や位置などを特に決めていなかった。

 

 そして全力で緊急脱出をした為、三月の体中から汗が噴き出し、彼女は筋肉痛状態でもあった。

 チエも珍しく汗を掻いていたが、これが冷や汗か別の理由かまでは分からなかった。

 

「それにしても、一体ここは何処だ?」

 

 チエが周りを見渡すと、二人が着陸したのはどこかの和風屋敷の中庭だった。

 

「何この屋敷? ()()を思い出すんだけど?」

 

「私もさっぱりだ」

 

「もしかして、これが噂に聞く『四大貴族』の一つの屋敷なのかな?」

 

 周りは塀に囲まれた、木造平屋の純和風建築の屋敷。

 現代の日本では場所によってはさほど珍しい光景ではない。

 

 瀞霊廷でなければ。

 

「ん? これは────」

 

「────チ、チーちゃん? って、うおいぃぃぃぃぃ?!」

 

 チエがズカズカと近くにある屋敷へ近づくと、戸が開かれて中から()()()()()()()()()()()()()()をした女性の姿があった。

 

「貴方達は何者ですか?」

 

 しかも護廷十三番隊隊長特有の白い羽織をした人物。

 

「(Oh(オゥ)? 本当に聴診器みたい。 と言うかまさかの『水野〇美』ボイスとは……………あれ? でもこの人、貴族じゃなかった筈────)」

 

「────勝手に上がったのは詫びよう。 だが少々手違いがあってな────」

 

『────どうした(れつ)よ? 客人かえ?』

 

 チエが弁明している間、『烈』と呼ばれた女性の後からひょっこりとかなりの年配の男性が杖に頼りながら出て、姿を現す。

 

 彼はサングラスをして、ほぼ禿げている かなり髪の毛が薄くなっていた頭でいわゆる『バーコード風』に髪がとかされていた。

 

「はて? 今日は患者の予定が無かったような気が────」

 

「────()()()様、中にお戻り────」

 

「────右之助か?」

 

「ッ?!」

 

 チエの声を聞いた瞬間、老人のサングラスの裏にある糸目が「カッ」と見開くのが見えて、彼の口があんぐりと開く。

 

「ぬあ?! あ、あ、あああああなたは────?!」

 

 彼はプルプルと震える手でチエを指差す。

 これに対してチエは困惑した顔をする。

 

「────少し見ない内に随分と老けたな、右之助?」

 

「右之助様のお知り合い合いですか────?」

 

 老人が前へと倒れる瞬間、『烈』が彼の体を受け止める。

 

「────右之助様?!」

 

「え? どういう事、コレ?」

 

 三月は突然の出来事と、思いも寄らなかった人物(達?)との接触にただ?マークを出し続けていた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「前回の小屋から随分と立派になったものだな、右之助?」

 

「へ、へぇ…………チ、チエ殿もお変わりなく…と言うか全然変わっておりませんね?」

 

 場は屋敷内にある居間へと変わり、チエの向かいに座っている老人────『右之助』がヘコヘコと低い腰で、しかも敬語で彼女(チエ)に対応していた。

 

「まさか右之助様の旧知の方に会うとは…………人生、どんな出会いがあるか分かりませんねぇ?」

 

「ソ、ソ、ソウデスネー。 ハ、ハハハハハハハハ」

 

 その彼の隣にニコニコとしていた女性に対して、三月は乾いた半笑いを上げる。

 

 目の前の落ち着いた容姿で、言動共に静かで穏やかな女性の名は『烈』────フルネームを『卯ノ花(うのはな)烈』。

 

 彼女は護廷十三隊の()()()()()で、『原作』にではその()()()()()で藍染の『完全催眠』で偽装した死体を独自で見破った張本人で、彼の陰謀に一早く気付いた隊長の一人。

 

 その人と共に、気を失った右之助を看病し、気が付いた彼が真っ先に呼び出した家の者に「客人をもてなす準備をしろ!」と言い、居間で(出来るだけ)ゆっくりし始めた卯ノ花と三月に右之助がチエとの出会いを聞かれ、彼はチエの事を「古い、良き友人」と紹介した。

 

 その後に右之助が三月の事を訪ね、チエは詳しい事は省き、「三月は自分の姉だ」と渋々説明した。

 

 尚、ドヤ顔をした(三月)をなるべく見ない様にチエはしていて、次に右之助と卯ノ花の関係を三月が尋ねた。

 

 そして唖然とする。

 

 二人は師弟のような関係で、右之助は昔から様々な回道の使い方を研究していては『回道の仙人』と呼ばれる存在となっていた。

 

「(え? こんな人物、『原作(漫画)』に居たっけ?)」

 

 無理もなかった。

 三月が覚えている限り、『原作』では回復手段が卯ノ花より上の存在となると()()()()()()()()()()()()()

 

「しっかし………チエ殿はあの頃から()()()姿()()()()()()()()()のぉ…………羨ましい限りじゃ」

 

「そうか?」

 

「そうじゃよ…………ワシなんかもうヨボヨボの爺ちゃんじゃわい」

 

「私には、あの頃の気楽に生を楽しむ男のままだが?」

 

「フホッホ! 世辞はよしてくれ。 こんな老いたワシを褒めても何もならぬぞ?」

 

「それにしては右之助様は女性の裸をのぞ………失礼、『()()』する事に対しての力添えが衰えていない様ですが?」

 

「何を言うておるか、烈! あれは運動代わりの散歩じゃ! ()()()()女子(おなご)の湯の近くを通っただけじゃって!」

 

 半ギレ気味で右之助が抗議するが、次にチエが言う言葉でその態度が一転する。

 

「それに最近聞いたが、酒を飲む癖が抜けきっていないらしいな?」

 

「ンなッ?! チエ殿はそ、そ、それをどこで?! ……………ハッ?!」

 

 チエの何ともない発言に慌てる右之助の横から黒い、漂う空気に彼は恐る恐る首を回すと実に良い笑顔のまま無言で右之助を見ていた卯ノ花がいた。

 

「(うわ。 こっわ。 マイとどっこいどっこいだわ)」

 

チエさん。 後でその話を詳しく。 ッと、その前に」

 

 卯ノ花はドス黒い空気を引っ込めて、チエと三月の二人をキリッとした顔で見る。

 

「先日、瀞霊廷に『旅禍』が侵入しようとした噂が出回っているのですが────」

 

「────な、なんじゃと?! チエ殿達が……『旅禍』?!」

 

 卯ノ花の真剣な顔と言葉に戸惑う右之助。

 

 これにチエは────

 

「────私はただ、ソウル・ソサエティを見に来ただけだが? 後は知人が居れば、挨拶をするといった方針だ」

 

「…………………」

 

 気まずい空気になりつつある場に右之助が口を開ける。

 

「のぅ、烈よ。 この者達はワシが責任を持って視ておく。 じゃからワシに免じて黙っていてくれないかのぅ?」

 

「右之助様…………………」

 

 頭を下げる右之助に卯ノ花が黙り込んだと思ったら、次は疑惑のジト目を彼に向ける。

 

「貴方もしや、彼女達の様な────」

 

 ────断じて違う!

 

「???」

 

「うわぁ」

 

 頭を傾げるチエと、(物理的に)引く三月を右之助が見て更に慌てる。

 

「ち、違うからの?! そもそもワシの好みはネムちゃんの様なダイナマイトスタイルに際どい────」

 

「────あー、うん。 分かったから演説はやめてネ?♡」

 

 力強く抗議する右之助が長~い話になりそうな雰囲気を三月が素早く遮る。

 

「どうした三月?」

 

「ん? 何が?」

 

「いや、苛立っているような気が────」

 

「────ううん? 全然♡」

 

「だが────」

 

全然♪」

 

「そうか」

 

 引きつく笑顔の三月でチエが察した………………

 

 のではなく、本当に天然で納得したらしい。

 

「………………右之助様、私は護廷十三番隊の隊長ですよ?」

 

「承知の上じゃ、それに────」

 

 右之助がちょいちょいと卯ノ花を手で呼び、彼女は耳を貸す。

 

 彼が何か卯ノ花の耳元で、容易に聞こえない程の小声で何かを伝えると、彼女の目が驚愕に一瞬見開いてから笑みを浮かべる顔へと戻る。

 

「そうだったのですか」

 

「うむ。 言うなれば『サプライズ』、という奴じゃよ」

 

「良いでしょう…………ですが命が下された場合は『護廷十三隊』の者として動きます」

 

「十分じゃ。 と、言う訳で宜しくな二人共?」

 

「感謝する/ありがとう!」

 

 右之助がニカッと笑い、チエと三月が同時に感謝する。

 

「ちなみにワシの事は『お爺ちゃん』か『お爺様』、或いは────」

 

「「『ジジイ』で十分だろ?/でしょ?」」

 

「ガクッ」

 

 チエと三月の返答に項垂れる右之助。

 

 そして────

 

「────さて、お話が纏まった所で先程の『酒癖』を────」

 

「────い゛?! か、勘弁しておくれ烈! 『酒は百薬の長』と言うではないか?!」

 

「右之助様の場合は毒です! 担当の医者である私の言う事は────!」

 

 ___________

 

 カリン 視点

 ___________

 

 

 カリンはイライラしながら崖の中腹辺りにある洞窟内で身を潜めていた。

 

『彼女』は本来、このように『暗躍』や『黒子役』活動などに適していない。

 寧ろその逆で、活発に動くような事柄を好む。

 

 とはいえ、必要があれば出来ない事も無いが………ストレスが半端ない程高まり続けてしまう。

 

 そんな()()()()とした態度で胡坐をかいて待つ事数時間、やっと入り口付近の草木がガサガサと音を出す。

 

「あれ? 夜一サンすか?」

 

 入って来た下駄と帽子をかぶった男性を確認したカリンはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ちげぇよ、オレぁ────」

 

「────ッ」

 

 ほぼ一瞬にしてカリンの背後に男は回り込み、彼女は自分の首筋に冷たい刃の感覚を感じる。

 

「誰ですか、あなた?」

 

「ハァ~…さっきも言いかけた通り、オレは『カリン』。 よろしくな、浦原商店の『店長』? ほ────()()の三月から色々()()()()()ぜ?」

 

「………………」

 

 下駄帽子の浦原は神妙な顔のまま動かずにいると、入り口から別の声が聞こえる。

 

「ぬ? 何じゃ喜助、もう来おったのか────って誰じゃ、お主?」

 

 その場に現れた黒猫の夜一が目を細め、カリンを見る。

 

「ったく、毎度これじゃあな………オレは姉貴の……………マイの姉貴の『()()』の『カリン』だ。 宜しくなお二人さん?」

 

 カリンが未だに自身の首に当てられている斬魄刀が無いような、落ち着いた振る舞いで『ニッ』と笑顔を浮かべる。

 

「…………あなたもマイサンと()()ですか?」

 

「んー、ちっと違うな。 オレは────」

 

 

 ___________

 

 ツキミ 視点

 ___________

 

「…………………………」

 

 ツキミは黙ったまま、またも偶然にも見かけた藍染を尾行しながら瀞霊廷内構造を覚えていった。

 

 そしてとても目の前の常に笑みを絶やさない穏やかな性格、誰にでも分け隔てなく接する人柄、そして他の皆に慕われている青年がまさか『この世界(BLEACH)』の黒幕とはとても思えなかった。

 

 それは、三月(本体)からの情報(原作知識)提供などがあったとしても考えにくいほど。

 

「(ホンマ、出来過ぎて怖いぐらいやわ。 本性を観ていなかったら『天然ボケキャラ』として誘っている所やわ)」

 

 彼の周りに慕われている姿はかつての()()を思いださせていた。

 

 ()()()されてまだ間もない、()()で────

 

「(────ダメや。 今は現在に集中せなアカン時や)」

 

 ツキミは頭を振って、余計な考えを断ち切る。

 そして角を曲がって行った藍染の後を追うと────

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

 

 「────ッ~~~~~~~~~~~?!?!?!?!?

 

 両手で思わず叫びそうな口を無理矢理覆った。

 

 完全に無表情で、感情が全く籠っていない藍染惣右介が彼女の顔を覗き込むようにジッと視線を下ろしていた。

 

 ツキミはこれに気付き、血の気が引いていくのと込み上げる悲鳴の衝動を必死に抑え込み、耳朶でうるさく脈を打つ心臓の音に集中した。

 

「(何で? 何でやねん?! ()()()()消しているんやで、ボク?!)」

 

「……………………………………」

 

「(ヒッ?!)」

 

 藍染が手を彼女の顔目掛けてバッと素早く動かした事に思わず尻餅をつく。

 

 これにより彼女はギリギリで手を躱すが、腰が抜けていたのか足が上手く言う事を聞かずにツキミは藍染を見上げる形になる。

 

「「……………………………………………………………………」」

 

 沈黙が続く事数秒間、ツキミはある事に気付く。

 

「(何で周りの奴らは反応せえへんの?!)」

 

 そう、周りの死神達は第三者からすれば奇妙な極まりない行動を()()()起こしていたように見える筈。

 

 だが誰一人として()()()()()()()

 

「……………………………気の所為か

 

「?!」

 

 さっきまで穏やかな好青年の声ではなく、ただ悠々と事務的な声のトーンで独り言のように呟いた声にツキミは驚いて、藍染はクルリと踵を返しながらその場を去る。

 

「(今のが…………『鏡花水月』の『完全催眠』……………なんか?)」

 

 未だに小刻みに震える体が更に震え始め、ツキミは自分の体をギュッと抱き締める。

 

「(なんちゅう奴や。 アイツは今、()だけでボクに気付いた! ()()()()()を変えている自分を! 本体、お前……………なんちゅう奴を相手にしているんや?!)」

 

 ツキミは()()()()()()真の意味で『恐怖』を感じた事に身を数分間震わせてから立ち上がって瀞霊廷内の構造散策を続行しながら定期報告を念話で飛ばしていた。




作者:ストック切れました&仕事の都合で投稿が明後日以降になるかも知れないです

ツキミ:((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

マイ:大丈夫~?

作者:顔真っ青で大丈夫じゃ無いと思う

マイ:そうね~、この頃冷えて来たからね~?

作者:だ、暖房の問題じゃないと思う……………藍染ってマジで怖い奴だから、好きだけど(キャラが)

マイ:え?

ツキミ:え?

作者:ん? ちょ、何で引いているの二人とも?


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第25話 バイキンマ〇とスネー〇とロラ〇登場。の巻き

作者:お待たせしました! 少し長めです!

チエ:キリが良いところまで書いただけだろ?

作者:グハァ?! ド直球?!


 ___________

 

 阿散井恋次 視点

 ___________

 

「うりゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

 大きな雄叫びと共に恋次は斬魄刀を模擬した木刀を仮想相手に振るう。

 

 場所は第六番隊舎……………での本来は、()()()()()()()の庭。

 

 護廷十三番隊の隊舎にはそれぞれ敷地内に平隊員の宿舎や事務所の他に、隊長が住み込める、個人用の平屋の戸建てが分け与えられる。

 

 だが白哉は屋敷暮らし&通いなので使用の権利者は次に偉い副隊長である恋次になる。

 そして流魂街出身である彼はこれを譲り受けるのを断った。

 

「スゲェ嬉しいけど、オレはそんなタマじゃねえから他の奴らにくれてやれ」

 

 そこで次々と席持ちの死神達にオファーが下ったが、先の恋次の言葉で「良し、貰った!」と誰も言えずに結局は訓練場と化した。

 

 場所は(ほぼ)恋次専用と成っていたが。

 

「せい! ハァ!」

 

 十一番隊に居た頃の癖なのか、彼はよくここ(訓練場)で仮想相手を脳内で描きながら素振りなどをしていた。

 

 そして今の恋次は先日見た一護を相手に思い出しながら動いていた。

 一瞬とはいえ、正規の死神ではない彼相手が自分(恋次)を凌駕したなど────

 

「(────ルキアの()()()()、初めて見たぜ)」

 

 実はルキアを白哉と共にソウル・ソサエティに連れ戻す際に一護は『原作』と違い、初っ端からかなり善戦していた。

 

 と言うのも斬術では敵わないと悟った瞬間、一護は()()をメインに戦い始め、恋次の『蛇尾丸(始解)』とはすこぶる相性が悪かった。

 

 恋次の『蛇尾丸(始解)』はいわゆる幅広の蛇腹剣で、刀身を伸ばす事が出来る。

 普通なら本能で突然追って来る蛇腹剣のリーチから逃れようとするが、一護は怯むどころか恋次の懐に入り込み、彼の腹にキツイ一発を食らわせた。

 

 その時の朽木兄妹の顔は(義兄妹とは言え)、全く同じように目が点となっていた。

 余談ではあるがその場にいた雨竜も目が点になり、彼の眼鏡はずり落ちそうだった。

 

 そこから恋次は一護より圧倒的戦闘経験で彼を追い込むが、一護の実力が突然飛躍的に上昇してまたも苦戦しそうなところで白哉が『原作』と同じように一護の鎖結と魄睡を貫き、戦いは終わった。

 

 そして先日、ルキアに『()()()()()』の事を伝えると、彼女は「あの戯けめ!」と怒りながらも、()()()()()()()()()

 

「うらぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 恋次はモヤモヤし始めた胸の中の気持ちごと斬るかのような勢いで素振りを再開する。

 

「あの何時も強気で気丈で何処か人をおちょくるのが楽しむルキアが人前で泣くほどの者なのか?」と思い始めた恋次は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────心底悔しかった。

 

「おりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 バキキキキッ!

 

「あ」

 

 恋次の全力のスイングに強化された木刀が軋んで砕き始める。

 

「…………………チッ!」

 

 彼は手で握っていた壊れた木刀を見て舌打ちをしながら壊れた木刀をごみ箱に入れて、新しい木刀を手に取ると、後ろから声が掛けられる。

 

「荒れていますね~、副隊長~」

 

「あぁ?」

 

 恋次は初めて聞く()()の声に振り向く。

 

 基本、ここ(訓練場)は六番隊なら誰でも使用できる事になっているので出入りも自由であった。

 

 それが末端(新人)の死神であっても。

 

「おめぇ、新入りか?」

 

 恋次は目の前の、ルキアと殆んど大差が無い、死神の死装束を纏った()()()()に聞く。

 何せパッと見ても()()()()()

 

「はーい、そうでーす」

 

 何処か眠そうな、ダルそうな声と表情と、昼寝から起きて間もないのかハネッ毛が目立つ少女はトテトテと恋次へと走────

 

 コテン。 

 バタン!

「へぶ」

 

 ────りだした瞬間、何もない所で盛大に足を引っかけ、こけて顔面を地面に打つ。

 

「オ、オイ? 大丈夫か?」

 

 少女がムクリと何も無かった様に立ち上がり、土を払い落としてから恋次へと小走りに走る。

 

「それよりですねー────」

 

「────スルーするなよ────」

 

「────副隊長にお一つ聞きたいのですがぁ────」

 

「────無視するな────」

 

「────あの『旅禍』達、朽木隊長の妹さんを助けようとしているみたいですねー?」

 

「テメェ、誰だ?」

 

 恋次が霊圧と殺気を同時に放つ。

 

「おおー、良い反応ですねー。 木刀、僕も握────?」

 

「────らせるかよ!」

 

 恋次が今の状態で瞬発的に可能な全力の踏み込みと一太刀を少女に振るう。

 

 普段なら様子見でもするのだがストレスと心の心境とで気が荒れていた恋次に彼女の言った事のタイミングと内容が不味かった。

 

 

 だが少女は身構える事や表情を変えずに、体を僅か動かしてギリギリの所で躱す。

 

「ッ?!」

 

「せっかちですねー。 まぁ、ボク()彼女を助けたい一員なんですけど」

 

「……………詳しく話せ」

 

 気が付くと、恋次自身が驚くほど頭がかつてない程クリアになりながら表情がイラついたモノから真剣な顔へと変わって行くのを感じた。

 

 普通ならこの見た事の無い隊員の素性を問いただす所だが、()()()()()()()()()()()()()()()と判断していた。

 

 何せ相手は()()()()()()()()()()()()()()()()なのだから。

 

 これに少女も意外だったらしく、感心したような息を出す。

 

「ほぅ。 んー…………『詳しい』とは行きませんが────」

 

 ちなみに少女の内心を覗き込める者がいれば、以下の様に見えているだろう。

 

「(アブナイ危ないあぶない死ぬかと思ったこいつ本当に副隊長なの今のが普通の一太刀のスピードとパワーなのさっき頭打った時で体がフラつかなかったら脳天凹んでたんですけど────)」

 

 ___________

 

 リカ 視点

 ___________

 

 結局少女は────死神装束を纏ったリカは────は詳しい事は何も言わず、ただルキアを助ける為に旅禍の者達がソウル・ソサエティに乗り込んで、()()()()()()()と恋次に説明していた。

 

 ちなみに心の中のテンパりも落ち着いていた。

 

「へぇ……………で?」

 

「ん?」

 

「俺に何をして欲しいんだ?」

 

「え?」

 

 恋次が腕を組みながらリカを見る。

 

「俺にそんな事を言う為にわざわざここまで忍び込んだ訳じゃねえ筈だ。言ってみな」

 

「(意外ですね。 旅禍である僕を捕まえようとせずに()()()事を捉えるとは────)────やはり()()()ですね

 

「あ? 何か言ったか?」

 

「いえ、何も。 僕が伝えるべき事はそれだけでしたので。 後はこの事を()()()()()に伝えてくれれば問題ないです」

 

 そう言い残し、踵を返そうとするリカに恋次が眉毛を片方上げながら聞く。

 

「『()()()()()?』」

 

「あ、()()()の事です。 ではでは────」

 

 それを最後にリカは踵を返して、(またも何も無い所でこけてから)(訓練場)を後にする。

 恋次は内心驚きながらも笑みを浮かべ、出かける用意をし始めるのを、姿と霊圧を消したリカが見ていた。

 

「(良し、計画通り。恐らくこれで彼は『ルーちゃん』のあだ名についてルキアに面会を申し込む筈。 そして今の間に────)」

 

 リカは屋根伝いで六番隊の宿舎から近い、()()()の隊舎へと向かった。

 

 ツキミによると、藍染は丁度今隊首会に向かっていて、五番隊隊舎では五番隊副隊長が一人だった。

 

「(居ました、()()()()()())」

 

 リカが見下ろす宿舎では戸締りのチェックなどを小柄な体であっちこっちへと忙しく周り、黒い髪はシニヨンで纏め、茶色の瞳と太めの眉をした少女がいた。

 

 そして左腕には『五』と書かれた副官章を巻いていた。

 

 彼女の名は『雛森桃(ひなもりもも)』。

 雛森はその昔、まだ死神見習いだった時期に同期だった恋次達と共に五番隊隊長の藍染と当時副隊長であった市丸ギンに、巨大虚の襲撃から命を救われた────

 

 

 

 

 

 

 ────と言う、襲撃の原因の源である藍染本人の自作自演により、藍染に深く敬愛して()()()()()()()()()()()()()

 

 現に彼女は藍染率いる五番隊を一途に入隊希望を狙い澄まし、一気に副隊長の座まで登り詰めていた。

 

「戸締り良し。 副官章良し。 後は藍染隊長と道すがら話を…………………それでなくても……挨拶だけでも……」

 

 笑顔だった彼女は最近、自分を避けている様な藍染の事を思っては一気に落ち込む。

 

 その彼女の背後にリカが静かに降り立ち────

 

「────? 誰?」

 

 雛森は何かに気付いたかのように後ろを向く。

 

 が、()()()()()()()()()()ので数秒後は自分の気の所為と思い、隊舎を後にする。

 

 自分のシニヨンに()()()()()()が絡んでは自身の黒髪に潜り込むのを全く気が付かずに。

 

『本体、成功です』

『良し、次は────』

 

 何処かウキウキするリカに、同じくウキウキしている三月の返信が聞こえた。

 

 ___________

 

 ツキミ 視点

 ___________

 

 場は変わり、護廷十三番隊がほとんど勢揃いで立っている部屋に市丸ギンが最後に入ってきて、他愛ない様子で隊長たちが喋り出す。

 

 そこには勿論十一番隊の剣八もいて、市丸ギンが「自分だけ旅禍とやりあいながらも見逃した」といちゃもんを付けていた。

 

「あら? 死んでへんかってんねや。 いやあ、てっきり死んだ思うててんけどな? ………僕の勘も鈍ったかな?」

 

 そこに『十二』と書かれている隊長の羽織をした、面妖な黒い化粧と仮面をした異相の男が口を開けた。

 

「ククク…猿芝居はやめたまえヨ」

 

「(これで『ハァヒフヘホー!』とか『俺様、天才!』って今言うたら、百パーの確率で思わず爆笑する自信めっちゃあるわ)」

 

 十二番隊隊長の『(くろつち)マユリ』の声に対してツキミが声に出さずにツッコミ、秘かに隊首会(たいしゅかい)が行われている部屋の様子を屋根近くの出格子窓から伺っていた。

 

 もしその様子が見える者が居たのなら、どこぞのエセ英語を喋る者が「Oh!ニンジャガール!」とでも叫んでいただろう。

 

「我々隊長クラスの者が、相手の魄道(はくどう)の有無など察知出来ない筈は無いダロ?」

 

「(黒いアンテナ付いた帽子でセリフ言うてくれへんかな~? ………無理やろな~…………………………………………………………多分)」

 

「ハァ…始まったよ。 馬鹿オヤジ共の馬鹿喧嘩が」

 

『十』と書かれた白い隊長羽織をした白髪の少年が溜息交じりに愚痴を零す。

 

日番谷冬獅郎(ひつがやとうしろう)』。 

 別名『当たらない氷輪丸』(三月命名)。

 史上最年少で隊長に就任し、神童と呼ばれる『天才児』。

 

 そして背丈が十一番隊副隊長のやちるの次に低身長(チビ)

 

「(ん? ちょい待ち。 今の声どっかで聞いた様な…………………う~ん? 何処やろ?)」

 

 隊長同士の口論がヒートアップする隊首会の部屋の中で一つのお腹に響く音で止まる。

 

 ドンッ。

 

 総隊長の杖が地面に力強く、突かれたのだ。

 

 総隊長の山本元柳斎からはその地位に相応しい、威厳たっぷりな重苦しい空気を言い争っていた剣八とマユリ、そして市丸達に対して放ち、即座に黙らせていた。

 

「…………………三番隊隊長市丸ギンよ。 此度の失態に対し、申し開きはあるか?」

 

 この様子の山本元柳斎に、一人の男は静かに内心畏怖と尊敬を同時に感じていた。

 

 その男は『第八番隊隊長』で名は『京楽春水(きょうらくしゅんすい)』。

 

 またの名を『京楽次郎総蔵佐春水(きょうらくじろうさくらのすけしゅんすい)』と言った、大層なフルネームを持つ上級貴族の次男。

 

 そして上級貴族の京楽家の次男でありながら、かなり()()()な見た目を好んでいた。

 護廷十三番隊隊長の羽織の上に更に女物の着物を羽織り、女物の長い帯を袴の帯として使っては足袋を履かない、等々。

 

 まだまだ例は出るが、それは後の話で追記するとしよう。

 

 そんな京楽は総隊長からでも一目置かれる様な人物であると同時に総隊長に対してタメ口や、『山じい』とあだ名を付けられる数少ない人が、畏怖と尊敬を山本元柳斎に感じるのは無理もなかった。

 

 以前記入したように、山本元柳斎は『オフ』ではかなり気さくで『もの凄く愉快なお爺ちゃん』*1である反面、『仕事』となるとこれ以上ない程の冷静で的確、そしてシビアな結果主義者と化す。

 

 余談ではあるが京楽自身ともう一人の、この場に居ない隊長も少なからずこの二面性をしっかりと引き継いでいた。

 

 そして市丸ギンはそんな彼に対して────

 

「ボクの凡ミスですわ。 弁明なんて、ありませんよ」

 

 ────シレッと答えを返す。

 隊長の何名かが「こいつ、ふざけているのか?」という態度を露わにする。

 

 ただし山本元柳斎は他の隊長とは違い、動じるどころか静かに片目だけを開けて市丸の顔を無言で窺う。

 

「市丸、少し良いかい? 君に────」

 

 藍染の言葉を遮るかのように木の叩く音が響く。

 

『────緊急警報! 緊急警報!瀞霊廷内に 侵入者あり! 各隊────』

 

 ツキミが空を見ると、そこには大きな()()()()()()()()()()()()()が瀞霊廷へと向かっているのを見た。

 

 

 ___________

 

 カリン 視点

 ___________

 

「来たぜ」

 

 洞窟の壁に座りながら寄りかかっていたカリンが目を開けて、小休憩中(カップ麺を食べている途中)の浦原にそう言う。

 

「ズズズ……………ううれすは(もうですか)? ゴックン……プハッ! やれやれ、それじゃあアタシはもうひとっ走りして来ますよ」

 

「おう、またな」

 

 浦原が洞窟から外に出て、カリンが長~い溜息を出す。

 

「………オレも早く暴れてぇなぁ………」

 

 実はと言うと浦原は先程隠れ家のある洞窟に帰って来てカップ麺が出来上がったばかり。

 そして上記の様に()()()()()()()と並行で更に動く事となる。

 

 カリンは簡単に自分が『マイと似たような存在』と告げ、彼女が隠れ家に居たのは()()()の為と伝えていた。

 

 有り体に言うと、伝令神機の代わりになった()()()()()()()である。

 

 当初、隠れ家に突然居た彼女を警戒していた浦原と夜一にカリンは「自分は浦原達に協力するように仰せつかっていて、『力』も貸す事も出来る」と伝えた。

 

 最初こそ警戒していたが、『念話』の便利さを知ってからは浦原と夜一が設置した多重結界内であれば敵対はしないと言う交渉の元で二人は暗躍を続けた。

 そして何故一護達が瀞霊廷に来てもいないのに夜一が既に居たかと言うと、浦原の『実験』が成功したからである。

 

 それは長年、テッサイと共に研究していた禁術の『転移』の疑似的応用化だった。

 

 媒体となるオブジェを、浦原は一護達の後から来ていた時に西流魂街の古い隠れ家に設置し、先にチエ達と共に兕丹坊(じだんぼう)に持ち上げられた白道門(はくとうもん)で瀞霊廷内へと侵入。*2

 

 そして一護達と一時的に別行動をした夜一はオブジェを使い、穿界門(せんかいもん)を開き、断界(だんかい)へと入り込むと同時に穿界門の出口を展開、対となるオブジェが展開して断界を出る。

 

この世界(BLEACH)』での『どこで〇ドア』(仮)的な物の出来上がりである。

 

 と言っても試作段階なので難点も山ほどあるのだが実用化出来る所まで()()()()()()()が頑張った結果だった。

 

 余談ではあるが、実は浦原が一護を手合わせ(と言う名のなぶり殺し)中に、鬼道を教えていたテッサイを通じて三月がかなり助言をしたのだが。

 

 しかもそれが「『キメラ〇翼』みたいな『転移道具』が使えばなー」と彼女の独り言を聞いたテッサイ(200㎝)三月(140㎝)に詳しい事を聞く為に迫ったからである。

 

 それはもう、もの凄い無表情な形相のドアップ迫力マシマシ顔で。

 

 そこから浦原が禁術の『転移』をそのまま再現するのではなく、『使い捨ての対となる媒体と断界を中点として使う』と言った、完璧に違う方向での研究や実験などを現世で(血反吐を吐くほど)試験運用し、(拘突(こうとつ)から逃げながら)断界内部を調査してやっと出来た。

 

 ちなみに上記に記入したように荒削りの試作段階なので色々と難点はある。

 例えば通るモノの想定にオブジェに込める霊力と印、そしてオブジェ自体の大きさが変動する。

 一度使えば穿界門を通過した時点で媒体が崩れるので基本的に()()()()が通れる。

 高確率で拘突と出会う(浦原本人が立証済み)。

 対となるオブジェが傷を、または破壊された場合に残ったオブジェを使えば断界に入る事は出来るが、理論的に出口が無い。 又は出口がランダムの座標になってしまう(流石のコレは浦原でも試すのを戸惑ったので確証は無い)。

 

 等々。

 

 カリンは洞窟の中から外で四方に散らばる流星の様な光を見ていた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、早く終わんねぇかなー」

 

 ___________

 

 斑目一角 視点

 ___________

 

「うりゃあ!」

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 金属と金属がぶつかり合う音が辺りに響く。

 だが一角の耳朶には自分の脈の打つ心臓の音しか入っていなかった。

 

「(こいつ、強ぇぇ!)」

 

 このスキンヘッドで三白眼の強面の男の名は『斑目一角(まだらめいっかく)』。 十一番隊の三席で、()()()に強い。

 

 そんな彼はよく一緒につるむ五席の『綾瀬川弓親(あやせがわゆみちか)』と共に旅禍らしき流星が墜落した地点へ辿り着くと一護ともう一人の男を相方で分けて、相手をしていた。

 

 そんな一角が一護と少し小競り合いをしただけで、彼が『かなり出来る』と判断し、師が誰なのか問うと一角の度肝を抜くかのような名が出た。

 

「あ? 数日間程教わっただけだから『師』と呼べるかどうかは分かんねえけど、一応『浦原喜助』────」

 

 一護が何処か嬉しそうになりながら言葉を続けていたが、そんな彼の様子は一角の眼中には無かった。

 

『浦原喜助』。

 長年死神をしていた一角はその名だけは知っていた。

 護廷十三隊の十二番隊の『元隊長』であると同時に『技術開発局』の創設者にして『初代局長』。

 

 そんな人物が一護の『師』と聞いた瞬間、一角は()()を出すのに躊躇しなくなった。

 

 そして『原作』通り、初解で一護のに傷を負わせるも、急激に彼が一角を押し始める。

 

 それは『原作』よりも速い展開で、『()()()()』を出すかどうか一角を迷わせる程だった。

 

 その迷っている間に一角は倒され、地面で動けない状態で先の戦いを思い出しながらボーッと空を見ていた。

 

「流石は…………『浦原喜助』の弟子か………」

 

「あ? お前、さっきの俺の言った事聞いてなかったのかよ?」

 

「聞いていたさ。 たった数日間の師だったんだろ? それでも納得がいくぜ」

 

「やっぱり聞いていなかったじゃねえか、このビー玉頭」

 

 「ビー玉頭言うな! 『スキンヘッド』だテメェ! 間違えんな!」

 

「浦原さんは数日間だけ俺の相手をしたから、俺は師とは呼んでいねえよ。 師と呼ぶ奴なら『アイツ』しかいねえからな」

 

「『アイツ』だぁ? 誰だよ、そりゃあ?」

 

 一角が?マークを出しながら、一護の顔に視線を移す。

 

 太陽の光をバックに一護の誇らしい、実に良い笑顔が一角に向けられる。

 

「小せえ頃からの馴染みの、『渡辺チエ』だよ。 後はまあ、強いて言うのなら『渡辺姉妹』の二人か?」

 

 そこは『戦士』ではなく、ただの『少年』の姿があった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして一角は次に気が付くと、四番隊の綜合救護詰所で目を覚ました。

 

「……………俺は……ん?」

 

 横から四番隊の死装束を着た金髪少女がトテトテと、サングラスを付けてヨタヨタと杖に寄りかかる老人と共に近付く。

 

「はーい、点滴の交換時間でーす!」

 

「ホッホ。 『班目一角』だったね、君は?」

 

「こ、これは右之助さん?! ま、まさかわざわざ俺に────ッ?!」

 

「わわわ! 駄目ですよ急に動いちゃ?!」

 

 驚く一角がス割上がろうとして痛みに顔をしかめ、金髪お団子の看護婦が点滴を交換する前に一角を寝付かせる。

 

「随分、派手にやられたの? しかもワシの血止め薬を全て使うとは………」

 

 右之助が近くの壁に立てかけていた一角の斬魄刀の柄を横目で見る。

 

「スミマセン、貴重な薬を………」

 

 一角にしてはかなり腰の低さには訳があり、彼の血止め薬は右之助の手作りを分けて貰っていた事も要因の一つだった。

 

 右之助は四番隊所属────

 

 

 

 

 

 

 ────ではなく、瀞霊廷では数少ない異例のフリーの医師であり、自ら進んで十一番隊の『専用医者』っぽいポジションに就いていた。

 

 と言うのも、戦闘集団である十一番隊からすれば救護や補給専門の四番隊は『腰抜けで腑抜けの根性無し』の集まり。

 対して四番隊からすれば、十一番隊は『脳筋ゴロツキのチャンバラ集団』の認識だった。

 

 そんな犬猿の仲で誰が進んで互いの隊の面倒を見るのだろうか?

 

 勿論、義務である為四番隊は治療などを行うが世辞にも良い外務ケアをするとは言い難かった。

 そんな中でも右之助はよく薬などを十一番隊に提供していた。

 

「何、薬は人の為にある物。 使わなければ、ただの粘土と大差ないわい────」

 

「────邪魔するヨ、班目三席」

 

 そこに涅マユリと、彼の後ろに『十二』と書いてある副官章をした、寡黙で無表情の黒髪の女性が病室に入って来た。

 

「おや、これは右之助殿ではないカ」

 

「……………」

 

「涅隊長…………何故ここに?」

 

「少し班目三席に訊きたい事があってネ」

 

「病室にまで来るとは、何用かな?」

 

 マユリが一角の近くまで歩いている間、黒髪の女性がジーッと苦笑いをしながら固まった金髪の四番隊員を見ていた。

 

「して、班目三席。 旅禍の事を教えて貰えないだろうカ?」

 

「…………………」

 

「涅隊長。ここは病棟で、彼は怪我人じゃぞ?」

 

「百も承知だヨ、右之助殿。 だがこの騒動の旅禍には『何かある』と私は小耳にはさんでネ」

 

 横目で右之助をマユリは見る。

 

 二人の間にピリピリとした空気が流れ、これを見た一角が口を開ける。

 

「マユリ隊長、俺は知らないんですよ」

 

「何だト? 君は旅禍と直接戦闘しておきながら、何の情報も得られぬままただやられて

 帰ってきた…………そう言いたい訳かネ?」

 

「ついでに言うと俺は敵の顔も見てないし声も聞いていません。 だから貴方にお伝え出来る事は何一つありません」

 

 敬語で喋りながらもマユリをディスる一角の態度と言葉にマユリはこめかみに青筋を上げる。

 

「グッ!!! 君は余程────!」

 

「────あ? 何でここに涅と右之助のジジイが居るんだ?」

 

「更木隊長?」

 

「チッ。 邪魔したヨ、班目三席。 来い、ネム」

 

「ハイ、マユリ様」

 

 更木剣八の声によりマユリは舌打ちをし、興味を失くしたかのように病室を黒髪の女性────『ネム』と共に出る。

 

 そこから一角は更木に一護の事を話し始め、部屋を出ようとした右之助の後を付いて行こうとしたお団子金髪の死神をやちるが呼び止める。

 

「ねぇねぇ! どこかで会った事なーい?」

 

「うぃぇ?! え、えーと? ナイトオモウケドー? オホホホホ」

 

「ふぅーん?」

 

 気まずい笑いを出しながら退出していく二人をやちるがジーッと見ていた。

 

 その後ろでは更木が一護に自分を警戒させる事を言った一角を褒めていた。

 

「じゃあ、俺はそろそろ行くぜ一角────」

 

「────待って下さい、隊長。 あともう一つ、耳に入れておきたい情報があります」

 

「あ?」

 

 一角がニィーッと笑う顔に、更木が困惑した顔をする。

 

「その『黒崎一護』が『師』と呼んでいる者が、瀞霊廷に来ている可能性があります」

 

「へぇー? そいつの名は?」

 

 更木が更に深く、愉快な笑顔をする事に一角の心臓の鼓動は嬉しさで早くなっていた。

 

「『渡辺姉妹』で、一人は『渡辺チエ』と言っていました」

 

*1
19話感想のコミケンさんより、ありがとうございます!

*2
第22話より




余談ですが今までの声優関連ネタは、自分が初めてBLEACHのアニメ見た頃のモノも混ぜています(基本漫画の方しか読んでいなかったので)。


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第26話 炭酸飲料と脳筋と膝枕。の巻き

時話です! 何とか投稿FOOOOOOO!!!


 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

 一護は志波岩鷲(しばがんじゅ)と無事(?)合流し、四番隊の班からはぐれた『山田花太郎(やまだはなたろう)』を先頭に、瀞霊廷の地下水道を使ってルキアの居る『懺罪宮(せんざいきゅう)』を目指していた途中で、花太郎が二人に自分とルキアの出会いと会話の内容を聞かされていた。

 

 これは死神である花太郎が何故、旅禍である一護達に彼が協力しているかを尋ねた事から始まった。

 

 花太郎はルキアが懺罪宮に移されるまでは自分が六番隊の隊舎牢の清掃係だった事と、最初は貴族である朽木家の令嬢(ルキア)の事を怖がっていたが、交流を深める間に彼女と話す事が楽しみになっていた事を話す。

 

 そこから花太郎は自分の行った事が無い『現世』の事をルキアに色々訊く事は、概ね『原作通り』と言えよう。

 

 だが若干の違いはあったようだ。

 

 例えば────

 

「────ルキアさん! 向こう(現世)ってどんな食物があるんですか?」

 

「そうだな…………『かみぱっく』の『じゅーす』や、口の中で泡が弾ける『()()()』と言う飲料に、『わくど』と言う料亭みたいな場所などもあったな」

 

 これ等は『原作』の様に一護の部屋の押し入れで隠れる生活ではなく、渡辺家で世話になっている事から堂々と空座町へと出かけていた経験から、人生初となる『ペプラ(炭酸飲料)』で舌がヒリヒリして涙目になったり(あと可愛くゲップを出してしまったり)、ファストフードチェーン店の『ワクドナルド』などへ入ってはモキュモキュとハンバーガーをワクワクしながら頬張り、実に幸せそうな顔で外食などしていた。

 

「へぇ~、なんか凄そうな物ばかりですねー!」

 

「そうだぞ? ()()が私を連れて行ってくれたり、教えたのだ」

 

 その次の日、ルキアに尋ねたのは現世での『変わった出来事』だった。

 

「改造魂魄が、『人間』より人間らしく生きておったな。 後は、ぬいぐるみに改造魂魄を入れられる事とか、かな?」

 

「『人間』より人間らしい改造魂魄…………ですか?」

 

「ああ。 何せ、()()がそう言うまで私には全く見分けが付かなかった程だ」

 

「ええええええぇぇぇぇ?! も、改造魂魄(モッド・ソウル)をですか?!」

 

 これは渡辺家でのマイがルキアの為に色々と世話をした事からで、ルキアに姉の緋真……………と言うよりは『家族』と言う家庭を時々連想させていた。

 

 それはかつて、流魂街で暮らしていた時からも長らく感じていなかった気持ちだった。

 

 そして寝ぼけていたある朝、マイを『母上』と誤って呼んでしまい、それに気付いては赤面し、恥ずかしさで顔を両手で覆った出来事も。

 

 だが当の本人(マイ)は嫌がるどころか────

 

「────あら~、嬉しいわ~♡。 『母上』でも『お母さま』でも『ママ』でも『お母さん』と呼んでも良いのよルキアちゃん~?♡♡♡」

 

 ────と言う具合で、凄く嬉しそうに返答された。

 

 マイの事を『母』と呼ぶ事はそれきりで、二度は無かったが。

 

「そうだぞ? それにぬいぐるみに入れると、動いて喋れる事も出来る。 今思えば、チャッピーのぬいぐるみを買ってもらってそれに……………いや、コンの性格では駄目だ」

 

「『ぬいぐるみが動く』? た、確か綿とかで出来てる奴ですよね? 何と無茶な…」

 

「だろ?」

 

 そこから花太郎は色々と喋り、ついにルキアに訊く事にする。

 この極刑の原因となった、死神の力を渡した人物の事を。

 そして、よく話に出てくる『彼等』の事を。

 

「私が力を渡したのは、『黒崎一護』と言う男だ。 そして『彼等』は『渡辺家』と言う家庭だ。 

 奴らとは二月程しか行動や寝所を共にしなかったが……………不思議と一緒に居る事が心地良かったな。 

 黒崎一護は私が運命を捻じ曲げて、酷く傷つけてしまい…………

 渡辺家の()()にはロクな別れや礼も告げずに姿を消した……

 私は……私は何をしても、奴らに償いきれぬ」

 

 花太郎が見たルキアは今にも泣きそうな顔をしていた事を告げると、『死神嫌い』の岩鷲が戸惑いながら一護や花太郎を見る。

 

「何かそいつ………変わっているな? 死神のくせに」

 

「ああ、だから助けに行くんだ」

 

 一護は自分の顔が強張るのを感じながら立ち上がり、早足で歩いている間にルキアの事を思い出していた。

 

 最初こそムッツリな仮面をした彼女を『頑固で、いけ好かねえ奴』と思っていたが、空座町で住んでいる内に様々な側面を見る事で、「ああ、こいつは不器用だけなんだな」と一護の認識は変わっていった。

 

 そんな彼女の話を花太郎から聞いた一護は────

 

「(────あのバカ野郎が! 泣きそうになるぐらいなら、俺達に一言相談しろってんだ! 何一人で悩んで背負い込もうとするんだ、あのチンチクリン!)」

 

 一護、岩鷲、花太郎の三人が地下水道から懺罪宮へと通じる階段を上ろうとしたところで男性の声が掛けられる。

 

「よう、久しぶりだな?」

 

「テメェは阿散井恋次!」

 

「へぇ? 俺の事を覚えていたか?」

 

「忘れたくても、そのヅラは忘れられねえよ」

 

「な?! あ、あの方は! 六番隊副隊長の────?!」

 

「────な、何だって?! 副隊長ぉぉ?!」

 

 驚愕する花太郎の言葉に岩鷲が目を見開く。

 

「正直驚いたぜ。テメェは朽木隊長の攻撃で死んだと思っていたからな、大した奴だ」

 

「通らせてもらうぜ」

 

「やれるもんなら────

 

 

 

 

 ────やってみろよ!!」

 

 恋次と一護が同時に抜刀して、耳をつんざく様な音で刀同士がぶつかり合う。

 

「俺と()()実力でいい気になるなよ、黒崎一護! 他にも隊長格は二十人以上は居るんだぜ?!」

 

「そう言う事なら、全員ぶっ倒せば良いだけの事だろうがよ?!」

 

 一護が力を完全に入れる前に恋次が一護の一太刀を受け流し、二人は少し互いに距離を取る。

 

「なら俺を倒して証明して見せろ! ()()()()()()()()()()()()を、俺に!! 黒崎一護ぉぉぉぉぉ!!!」

 

「ッ?! 上等だコラァ!」

 

 一護は自分が「ルキアを助ける」と一言も言っていないのに恋次が知っていた事に気が一瞬散ったがすぐに眼前の『脅威』に集中し直し、()を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 チエ、三月 視点

 ___________

 

 

「ねえ、一護? 阿散井さん?」

「「言うな」」

「この際だから────」

「「────だから言うなよ────」」

「────言わせて貰うけど────」

「「────人の話聞けよ────」」

 

「────アンタ達、馬鹿なの?」

 

「「だから『言うな』って言ってんだろうが」」

 

 死神────に偽装したお団子金髪の三月が呆れながら、地面に倒れながら辛うじて意識を保っている一護と恋次を花太郎とチエ達と共に治療していく。

 

「(『当たらない氷輪丸』と『故に侘助』達にも()()()()()()()()()仕込みも上々…………と思った矢先に『コレ』か)」

 

 彼女は『救護班』&『連絡係』である四番隊の立場を利用して行動範囲が広くなった事で暗躍し、『原作』で味方になりそうな人物達に(直接、または間接的に)接触し回っていた。

 

 そこで同じ『救護班』と思われた花太郎に呼ばれてその場へ連れ込まれると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 尚、『四番隊』の装備を着用していた彼女(と付き添ったチエ)は『救護班』と称して一護と恋次の居る場へと駆けつけて一護達をコッソリと地下水道へと連れ込んだところで花太郎がチエ達は四番隊ではない事に気付いて慌てたが無視された。

 

 あと、傷ついて倒れていた一護と恋次を見た三月は思わず「何やっとんねんお前らぁ?!」とその場でツッコんでいた。

 

 そして一先ず他の死神達が駆けつける前に地下水道へと非難して、今に至る。

 

 もし一護と恋次が『原作』通り何も互いの事を知らなかったのならこれほど彼女は呆れていなかったかも知れない。

 

 だがこれを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の恋次に、しかも彼が一人になったタイミングで接触させて事情を軽く説明したと言うのにこの体たらく。

 

 その上一護は恋次も自分と同じように「ルキアを助けたい」と思っていたのを知りながら、死力を尽くしていた。

 

 もはや怒りを通り越して、呆れになっていた。

 

「別に戦いで語り合うのは良い────?」

 

「────チーちゃんは黙って」

 

「互いに戦う理由があれば────」

 

 花太郎と共に『四番隊』に偽装したチエが恋次を治療しながら「男同士の戦い」論を言い始め、三月が言葉を遮った。

 

────これだから脳筋は────

 

「────何だ、それは?」

 

う、ううん?! な、何も無いよぉ? オホホホホ~」

 

 三月の独り言を聞いたチエに、彼女は冷や汗を流す。

 

「(で『コレ』どうしよう?)」

 

 三月は治療を受けている恋次を見る。

 

『本来』なら三番隊副隊長(『故に侘助』)の『吉良(きら)イヅル』達に発見され、後に勝手に単独行動を起こした事に朽木隊長の命令によって牢屋に入れられる流れだった。

 

 そしてこの事を市丸ギンが使い、(白哉に対して)不和の言葉を恋次の同期達(雛森とイヅル)にかけ、()()()()()()()()()当たらない氷輪丸(日番谷冬獅郎)』に揺さぶりをする。

 

 そして案の定、『当たらない氷輪丸(日番谷冬獅郎)』はまんまと策に引っ掛かり、善意で雛森に「三番隊(市丸ギン)に気を付けろ」と忠告をした筈の『当たらない氷輪丸(日番谷冬獅郎)』は逆に自らの言葉と行動で不信感を雛森とイヅルに持たれ、あとに雛森に攻撃される事となる。

 

 しかもこの策の種まきが、隊首会で藍染と市丸ギンが()()()当たらない氷輪丸(日番谷冬獅郎)』が目撃するように仕向けられていた事から始まっていた物だった。

 

「(『故に“当たらない(空回りする)氷輪丸”』ってね。 ってヒナモ(雛森)ちゃんにした仕掛け、半分ぐらい意味失くしちゃったんだけど~?)…………ハァ~。 まぁ、いっか?」

 

 実を言うと、彼女にとって『雛森桃』と言う人物は『原作』では藍染の操り人形の役割を果たしてしまい、自分が依存していた元隊長(藍染)の裏切りと策略で人生と信念と精神をズタズタにされる悲運と悲劇のヒロイン────

 

 

 

 

 

 ────ではあるが、()()()()()全体の対局(原作)の中での小さな一部分でしかない。

 

 そんな雛森を、何故三月が気にかけていたかと言うと彼女は死神達の中でも『真の平和主義者』でありながら、圧倒的恐怖()に立ち向かう勇気を持つ者だったからだ。

 

 もっとも、この事を藍染にとことん熟知され良い様に弄ばれる要因になったのだが。

 

 だが、今のそれは別に置いて────

 

「────それで何で『味方』と分かりながら、一護は恋次の挑発に応戦した訳?」

 

 ────目の前のバカ共単細胞 二人の事である。

 

「恋次に聞いてくれ」

 

「ズルいぞ一護」

 

「んだと? テメェが先に斬りかかったんじゃねえか────」

 

「────ちょ、ちょっと二人とも────」

 

「────テメェが軟弱そうに見える事が────」

 

「────ええと────」

 

────二人とも黙れ。花太郎が困っているではないか

 

 口論し始める一護と恋次にオロオロと困る花太郎を助ける(?)為にチエが割り込む。

 

「「スミマセンでした」」

 

「よろしい」

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「気にするな。 回道が上手なお前が困っては治療が捗らない」

 

 無表情なチエに、花太郎が嬉しそうな顔を向ける。

 その間、岩鷲が眠たそうな一護に声をかける。

 

「な、なぁ? お前の知り合い達か?」

 

「聞こえているわよ、『紅〇ルベウス』」

 

 岩鷲に三月がジト目で見ながら口を開ける。

 

「誰だ、それ?」

 

「『セーラームー〇R』のキャラ」

 

「????????」

 

 三月に対して、岩鷲はただ?マークを出し続ける。

 

「ふわぁ…………ああ。 紹介………するよ、岩鷲」

 

「寝ておきなさい一護、連戦だったんでしょ? 私の名前は『渡辺三月』。 あっちは『渡辺チエ』」

 

「ん」

 

 緊張の糸が切れたのか、既に眠りについていた恋次の治療からチエが岩鷲に向かってサムズアップをする。

 

「お、おう。 俺は志波岩鷲(しばがんじゅ)

 

「ぼ、僕は山田花太郎(やまだはなたろう)です」

 

「二人とも良い名だな」

 

「後、私達は敵じゃないから♪」

 

「だろうな。 でなきゃこいつ(一護)が呑気に眠気なんかに負ける筈がねぇ」

 

「僕も………一護さんが信用出来るのなら、二人を信じます」

 

「ありがと、二人とも」

 

 三月がニッコリと笑顔を向ける(営業スマイルする)と、岩鷲と花太郎が両方若干赤くなりながら顔を逸らす。

 

「(おっと、思わず何時もの(前の世界)の癖が出ちゃった)」

 

 余談ではあるが、今の彼女は動きやすくなる為に伊達眼鏡を外して素顔をさらけ出していた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「じゃ、また後でね♪」

 

「お前達、また別行動かよ」

 

 あれから半日ほど寝た一護がチエと三月同様に支度をしながら聞く。

 

「あ? この二人、一護の知り合いかよ? と言うかテメェ、前に隊舎で会った『新入り』だよな?」

 

「うーん、『当たりながらも不正解』ってところかな?」

 

 ついさっき一護と同じく起きた恋次の問いに三月が答える。

 

「んだよそりゃ?」

 

「取り敢えず、私達は別の行く所があるから♪」

 

「そうかよ…………おいお前」

 

「ん? どうした?」

 

 恋次がチエの腰にさしてある刀を見る。

 

「お前、一護と同じようなモノか?」

 

「………………『中らずと雖も遠からず』と言うところだ」

 

「何か俺、久しぶりにお前ら二人が姉妹らしいところを見せたような気がする」

 

「「気の所為よ/だ」」

 

 そして去り際に三月が悪戯っぽく笑いながら一護の方を見る。

 

「あ! それと一護? 後で請求書送るから♪」

 

「は? まさか治療代かよ────」

 

「────()()()♡」

 

「……………………………は?」

 

 呆気に取られる一護をチエ達が後にする事数秒後、恋次が一護を睨む。

 

「一護、テメェ…………まさか()()()()()()か?!」

 

「へ?」

 

 岩鷲がジト目で一護を見る。

 

「一護、おめぇ………幸せそうに爆睡してたもんな~」

 

「は?!」

 

 そして最後に花太郎がとどめを刺す。

 

「あの………いくら親しい仲でも……頬擦りは流石に良くないと思います」

 

「はっ?! へ?! なぁぁぁ?!」

 

 頭が耳まで真っ赤になる一護()だった。

 




ライダー(バカンス体):おっそいのー

作者:ぷ、プロットが……仕事が……

ライダー(バカンス体):こんなに良い美酒を────

作者:────ぬああああああああああ?! とって置いたマッカラン1946がぁぁぁぁぁぁぁぁ?! 何してんのぉぉぉぉぉ?!

京楽:邪魔するよぉ? 良いお酒の匂いに釣られてね~

作者:OH NOOOOOOOO!!! またも面倒臭い奴が?!

ライダー(バカンス体):ほう、これはまた珍妙な…

京楽:君に言われたくないね~

作者:スネェェェェェェェェェェェェェェェク?!?!?!?!?!


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第27話 ムヒョウジョウ オトコ コワイ。の巻き

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「きゃあああああああ!!」

 

 場は変わり、悲鳴が聞こえた瀞霊廷内の広場へと移る。

 

 その中で一つの真っ白い外壁には似つかわしくない、赤い液体が重力に従って地面へと流れ落ちていた。

 

 その液体の出所は胸に刀を突き刺され、壁に貼り付けられた死神の死体から滴る物だった。

 

 これを目撃して悲鳴を上げたのは雛森で、悲鳴を聞いて駆け付けた副隊長達が唖然とする。

 

「あ、()()()()?!」

 

「(え?)」

 

「ど、どうして藍染隊長が?!」

 

「?????」

 

 雛森が目を見開いたまま周りの人達の驚愕している顔を見る。

 

 何故なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 確かに死体は()()()()()()()()()が、長年彼の元で副隊長をしていた雛森が見間違う筈が無かった。

 

「(よし、取り敢えず成功…………と言うか何も()()()()()なんてまで用意しなくても……藍染、エグイわね)」

 

 これ等を潜んで見ていた三月が別の意味でびっくりしている雛森と、外壁に貼り付け状態の死体を互いに見る。

 

「きゅ、救護班を呼ばないと────」

 

「────あら、これは凄い事になっとるなー。 一大事やね」

 

 雛森の言葉を遮り、その場に似合わない態度で市丸が彼女に近づいてくる。

 

「へ、あ、え────」

 

 混乱している雛森に彼の笑みに何処か『違和感』を感じていた。

 

「可哀そうに、早よ降ろさなあかんな?」

 

「(不味い!)」

 

 三月が雛森に近づく市丸の言動に冷や汗を掻いて、()()()()()()()()()()

 

「あ────」

 

 雛森が貧血を起こしたかのように突然気を失い、倒れる。

 

「────雛森!」

 

 そこに日番谷が彼女の体が地面に落ちる前に受け止めて、これを面白そうに市丸が何時ものニヤニヤとした表情のまま見ていた。

 

「あらら、気を失ってもうたんか」

 

 誰かが呼んで駆け付けた救護班が外壁の死体と気を失った雛森の具合を診る為に二手に分かれる。

 

 そして市丸と日番谷の周りに誰もいなくなると、日番谷が市丸に近づいて睨む。

 

「市丸…テメエ、今雛森を殺そうとしたな?」

 

「ん~?」

 

「今の内に言っとくぜ? 雛森に血ぃ流させたら、テメエを殺す

 

「おー、怖い怖い────」

 

 そこから日番谷と市丸の間に一触即発の雰囲気が『原作』のように一瞬漂うのを確認してから二人その場を後にし、その間に三月はチエに念話を送る。

 

『先に()()()()()()()()()チーちゃん』

『もう良いのか?』

『当初とは違う速度と人手が足されたからね、次の出来事に備えたいわ』

『回収した後は?』

『持っておいて、後で“証拠品”として使えるかもしれないから』

『分かった』

 

 チエがスピードを更に上げて瞬く間に三月の視界から消える。

 

「(よし、市丸は『原作』の様に隊長格達の攪乱(かくらん)と根回しに回っていて…………………藍染は四十六室の設備を使って一護の監視と対戦相手の調整………………あとは────)────ッ?!」

 

 考えに浸っていた三月はお腹周辺に鋭い痛みが生じるのを感じ、顔をしかめる。

 

「見つけたぞ────」

 

「(────な────?!)」

 

 そして頭を声のした方向へ振り向くと自分を追っていた藍染の仲間である()()()の姿が見えた。

 

「(────()()()()()! こいつもマークするべきだった!)」

 

 三月はジワジワと血が出る傷を片手で押さえ、回道を使いながら取り敢えず傷口だけでも塞ぎ、追って来るコーンロウと褐色の肌をしたバイザーをした()()の男を悔しそうに見ていた。

 

東仙要(とうせんかなめ)』。 

 九番隊隊長であると同時に瀞霊廷通信編集長である彼は『原作』でも、最後の最後で藍染の仲間と判明した描写があったのを思い出した。

 

 ()()()()()()()と三月の考えは至り、次にする事へと思考をすぐに移した。

 

 余談ではあるが、もし彼女が平常心を保ちながら東仙の声を聴いていたのなら「スラムダン〇の『水戸洋〇』?」と言っているところだが……

 

 今はそんな場合ではなかったそんな事は微塵も考えていなかった。

 

「(そもそも存在を限りなく消しているのに、どうやって私を見つけた?)」

 

「私には()()()()()()()()()

 

「……チッ」

 

 まるで彼女の考えている事を読んだ言葉に舌打ちをする。

 

「(こいつ、まさか私達の衣擦れ、息遣い、心拍音と言った、極僅かな『音』で場所を特定して攻撃をしたの?)」

 

 それは東仙からすれば至極単純な判断だった。

 

 彼からすれば霊圧や()()をわざわざ隠し、コソコソと人目に触れないような行動をするなど後ろめたい事をしていると自覚している人物か、噂の『旅禍』の二択しかないのだから。

 

 どちらにせよ、『斬っても間違いは無い』部類。

 

「(仕方ない、()()()()でどこまでやれるか────)」

 

 そう思い彼女が降り立ち、運動量方程式によって「ズサササー!」と足が地面の上をすべりながら刀を宙に浮かんだ歪みから取り出して、鞘をやりの様に東仙の頭部へと投げつける。

 

 だが彼はこれをいとも簡単に首だけ曲げて躱す。

 

「ほぅ、思い切りの良い者だ。 潔いな」

 

「…………」

 

「黙っていても無駄だ。 それとも、()()()()()()()()()()()()()()のか?」

 

「(こいつ……)」

 

 お腹の傷が()()()塞がり、三月は黙り込んだまま刀を構える。

 

「(さて、どうするか……『接続(アクセス)』、『検索(サーチ)』……『導入(インプット)』────)」

 

 彼女は眼を瞑り、次に開けると何時もとは違う()()()()()を浮かべていた。

 

「ん? 貴様、()()()()?」

 

 姿形に変化がなく、僅かに漏れた霊圧と相手の纏う()()の変化に東仙は感じて疑問を抱いていた。

 

 そして次に三月が口を開けると、東仙の仏頂面が驚愕へと移る。

 

ふむ。 今度の場は面白い所よな

 

「なッ?! 馬鹿な! 貴様は、()()()()?!」

 

 三月の口からは彼女に似つかわしくない、()()()()()()だった。

 

さて、時は止まってくれぬ故続けるとするか。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「貴様、ふざけているのか?!」

 

 イラつく東仙に三月(?)はニヒルな笑みを返す。

 

何、先に申した通り()()()()()。 そして立ち合い故に名乗ったまでよ。 構えよ────

 

 

 

 

 

 ────さもなくば死ぬぞ

 

「ッ」

 

 東仙は自分の背がゾクリとすると同時に三月(?) が背を向けるかのように立ちながら、刀を構える。

 

『秘剣────』

 

「(これは()()────?!)」

 

『────燕返し(つばめがえし)』!

 

 気が付けば、もう目の前まで三月(?)は接近しており、東仙は()()()()()()()()()三つの斬撃を回避する為、瞬時に後方へと動く。

 

「……………ッ?! 奴は、どこに?」

 

 東仙は先程まで聞こえていた音が()()()()()()()()事に驚いていた。

 

 何せ相手はつい先ほどまで()()()強く解放していた。

 

 そして『瞬歩』といった技などの高速移動手段は()()霊力を使ったもの。

 如何に遠くや早く動いたとしてもその際に使った霊圧の残滓や、『音』が生じる筈。

 

 だが()()()()()()

 

「ッ。 この霊圧、今度は更木か」

 

 パキ、パリンッ!

 

 東仙が何かに気付いたかのように頭を動かすと、彼の着けていたゴーグルの()()が更に大きくなり、割れて地面へと落ちる。

 

「……………覚えておこう、『()()()()()()』とやら」

 

 

 ___________

 

 右之助 視点

 ___________

 

「ズズズ……フイー。 チエ殿、遅いのぉ。 ついでにあの異国の者

 

 右之助は屋敷で待ちくたびれていた。

 

 チエと彼女の(自称)姉が突然来た事により練っていた覗き作戦 スケジュールを急遽キャンセルしたものの、戦時特例宣言の所為でロクに瀞霊廷を自由に歩けなくなった。

 

 そんな中、チエと彼女の(自称)姉が『救護班の手伝いをしたい!』と言い、二人は出かけた。

 

 すぐに帰ってくると思いきや、一日ほどずっと出たまま。

 

「じゃが、チエ殿が一緒にいれば安全じゃろうて────」

 

 ヒュルルルルルルルルルルルルルルルルル────

 ────ドゴォン!!!

 

「────ブハ?! な、なんじゃああ?!」

 

 中庭から来た衝撃音で右之助がびっくりしてそこへ向かうと、三月が大の字で地面に埋もれていた。

 

 お腹からは再び開いた傷口から真っ赤な血が滲み出ていた。

 

「お、お主…大丈夫かえ?」

 

「ぁ……………か………………」

 

 体中痛むのか微動だにせず、三月はただ言語にならない()を出していた。

 

 元から三月に(東仙)を『殺す』と言う選択は除外していた。

 

 なので初めに投げた鞘に工夫を施し、タイミングを見計らって蒲原が開発した『簡易転移装置』の更に即席版を急造して、右之助の屋敷の上空へと鞘が出たところで東仙に威嚇の攻撃をして、転移を使い即離脱。

 

 と言う、()()()()()()()が彼女にやっと追いついていた。

 

「(全身の筋肉が痛い! これって権と筋肉が破れているわ絶対! あのへっぽこ農民、人の体になんて無茶をさせるのよ?!)」

お主が私に依頼して来たのだぞ?

「(うるさい、このNOUMIN!)」

はっはっは

「(笑って誤魔化すな!)」

ハッハッハ

「(キャス子の気持ち、今なら痛いほど分かる! 実際痛いし!)」

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 時は丁度、『原作』の様に一護が十一番隊隊長の更木との一騎打ちがクライマックスに入ろうとした頃。

 

 ルキアが捕らえられている懺罪宮に岩鷲と花太郎、そして()()が辿り着いていた。

 

「さて、この扉だけか────」

 

「────あ、やべ。 今は鍵持っていねぇんだった」

 

「────はぁ?!」

 

 岩鷲が「鍵が要る」と言った恋次に呆れる。

 

「じゃあどうすんだよ、ここまで来て?!」

 

「そりゃ始解して何度も斬りつけりゃあ何とかなるだろ」

 

 「アホかテメェ?!」

 

 ゴリ押しで事を進めようとする恋次(脳筋)に対して、流石の岩鷲も信じられない様子で叫ぶ。

 

「あ、大丈夫です。 僕、地下水道の牢錠保管庫から予備の鍵を拝借して来ましたから」

 

「お、おい大丈夫かよお前? そんな事して?」

 

「大丈夫な訳ねぇだろうが。 三級犯罪ぐらい行くだろうよ」

 

「それでも……僕はルキアさんを助けたいです」

 

「花太郎………お前………」

 

「へ! よく言ったぜ四番隊の! 度胸あるじゃねえかよ!」

 

 今までの花太郎とは思えない言葉に岩鷲と恋次が彼の見方を(ほんの)少しだけ変えた。

 

 鍵が開けられ、重い音を立てながら扉が開くと同時に恋次が元気よく声をかける。

 

「ルキアー、居るかー?」

 

「れ、恋次?! な、何故またここに?! 面会は、断られた筈では────?!」

 

 前回、リカが言った『ルーちゃん』呼ばわりについて面会を申し込んだ恋次だが断られ、彼の怒鳴る声が建物の中にいたルキアの居る所まで響いていた。

 

「────『面会』じゃねえよ、今回はお前を助けに来たんだよ」

 

「こ、この戯け! これではただの『脱獄』ではないか?!」

 

「でもお前を助ける事が出来るだろ?」

 

「胸を張りながら言うモノでは無い、この馬鹿者!」

 

「ルキアさん! ………あれ? 岩鷲さん?」

 

 ルキアを見て嬉しがる花太郎が、岩鷲の変わった様子に戸惑う。

 

「て、テメェは────」

 

 岩鷲に気付いたルキアが目を見開く。

 

「ッ! その服の紋様、墜天の崩れ渦潮…………まさか、志波家の者か?」

 

「あ? 志波家だぁぁぁぁ?!」

 

 恋次も同じくびっくりする。

 

 何せ没落したとは言え、かつては大貴族の家柄の志波家を今まで呼び捨てで『岩鷲』や『お前』や『テメェ』と呼んでいた。

 

「やっぱり…テメェかよ! 死神ぃぃぃ!」

 

「あ? おいちょっと待て岩鷲、何────」

 

「────そいつは! 俺の兄貴を殺した張本人だ!」

 

「ッ! お前の兄貴って、まさか────!」

 

「────やはり、海燕殿の………………お前になら、私は殺されても文句は言うまい────」

 

「────何弱気になっていやがるんだル────?!」

 

 そこに『ズンッ!』と、重い霊圧が場を支配して、皆の体から汗が噴き出す。

 

「こ、この霊圧は────!」

 

「あ……そ、そんな………まさか…………」

 

 花太郎が震える声で唖然と外の橋を見る。

 

 彼に釣られて見た者は全員、そのまま固まった。

 

「そこで何をしているのだ、恋次?」

 

 橋の上に立っていたのは朽木白哉だった。

 

「に、義兄様」

 

「隊…………長…………」

 

「あいつが………朽木白哉」

 

「し、知っているんですか? 岩鷲さん」

 

「大貴族の朽木家、現当主。 今の護廷十三隊隊長の中で恐らく一番有名な奴だ」

 

「私は『何をしているのだ』……と聞いたのだぞ、恋次」

 

 白哉には恋次とルキアしか眼中になかったような振る舞いだった。

 

 恋次はゴクリと喉を鳴らし────

 

「────お、俺は………見ての通り、ルキアを助けに来ました」

 

「法に触れた者を救うに、同じく法に触れてか?」

 

「そ、それでも……自分なりに考えて、出した答えです! だから………だから────!」

 

 「────だから何だと言うのだ?」

 

 有無をこれ以上言わせない、白哉の言葉と威圧感に恋次が口を開けては閉じたりとパクパクとする。

 

 これを白哉は無表情のまま、無言で見ていながら()()()()()()()()()

 

「容赦はせぬ。 『散れ、せ────』」

 

 そこに更に別の男の声が聞こえた。

 

「────良かった! まだ戦っていないんだな!」

 

 白哉の後ろに白い髪をした長身の男性が立っていた。

 

「浮竹か」

「浮竹…隊長…」

 

 朽木義兄妹が時間差でこの新たに現れた男、『浮竹十四郎(うきたけじゅうしろう)』、に反応する。

 この男は下級貴族の出身ではあるが白哉や京楽と同じで十三番隊隊長であり、ルキア直属の上官。

 

「隊首会にも顔を出せなかった程(けい)の体調が、この短期間で良くなったとは」

 

「先に言っておくが、こんな所で斬魄刀の解放なんて一級禁止条項だぞ。 いくら相手が恋次や旅禍とは言え────」

 

「────戦時特例により、斬魄刀の解放は許可されている」

 

 これに浮竹が驚く。

 

「戦時特例?! そこまで状況は悪化していたのか?!」

 

 実はというと白哉が指摘したように、浮竹は隊首会に出ていなかったのは幼少の頃より肺病を患っていたからだった。

 なので時折血を吐く事もあり、体がままならないほど動けずに寝込む事もあった。

 

 そのことも絡んでおり、彼は瀞霊廷の現状況について疎かった。

 

 そんな彼でも『藍染の死』のニュースは流石に聞いてはいたが、先ほど分かったばかりの『戦時特例』宣言で、「旅禍が藍染の事件に関係しているかも知れない」という考えが頭を過ぎった時に、新たな霊圧を空から白哉たちと同じタイミングで感じた。

 

「な、なんだ、この霊圧は?! 明らかに、隊長クラスだが()()()()()?!」

 

 戸惑う浮竹とは違い、ルキア、岩鷲、花太郎、恋次、白哉の五人が別々の反応をする。

 

「この霊圧、まさか────!」

 

「ったく、心配させやがって────!」

 

「す、凄い! 生きている────!」

 

「あの馬鹿、カッコつけやがって────!」

 

「………(来たか────)」

 

 橋に降り立ったのは独自のオレンジ色をした髪の毛に、背丈ほどの斬魄刀を背負い、腕には変な鳥の髑髏と羽を合体させた籠手をした一護だった。

 




平子:なんやねんこれ?

作者:………………と、取り敢えず書いたものを投稿しようと思いましてハイ────

三月:────それじゃないと思う

作者:あり? 何でお前も正座?

平子:決まっとるやろ? あのワサビの菓子と茶や

作者:………………え? まだ根に持っているの?

平子:当たり前や! ハッチなんかは未だにおかきの前でビクビクしとんねんで?! どんだけ辛かった思うてるん?!

三月:まあ、タバスコソースも上乗せしたから………

作者:エグッ?!

平子:せやからお前ら二人は当分正座や


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第28話 瞬歩とお姫様。の巻き

少し遅れ気味の投稿です!
楽しんでいただければ幸いです! いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます!


 ___________

 

 夜一 視点

 ___________

 

 時間は少しだけ遡り、更木との勝負(殺し合い)を終えて怪我をした一護を隠れ家に連れて帰ろうとした所にチエが既に一護を抱えていた。

 

「ん? 夜一殿か」

 

「お主……よほど『たいみんぐ』が良いのぉ?」

 

 夜一は更木がやちるに連れて行かれるのを感じてから一護の保護する為の行動を開始した。

 

 だがチエは彼女が言ったように()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何、あの二人……特に小さいのはあの猛者を優先すると思っただけだ」

 

「なる程のぉ……一護をどうするつもりだ?」

 

 夜一の目が細められて、チエを見る。

 

「……………?????」

 

 が、チエはただ頭をかしげながら?マークを頭から出して夜一を見返す。

 

「まさかお主………………何も考えておらんかったのか?」

 

「夜一殿が動いたから私も動いたのだが?」

 

「ガクッ…………ま、まあ良い。 ワシに続け、隠れ家へと一護を運ぶぞ。 このままでは死んでしまう」

 

「分かった」

 

 そこから夜一とチエ、そしてチエに抱えられた一護はカリンがいる隠れ家へと移動する。

 

 チエを見たカリンは二カッと笑いながら挨拶をする。

 

「お! よ、チエ!」

 

「??? …………………………ああ、お前か」

 

「やっぱり、互いを知っておったか。 だが先ずはこ奴(一護)じゃ。 お主、カリンと言ったか? 回道を使って────」

 

「────あ? オレはンなもん使()()()()よ」

 

「…………良いじゃろう────」

 

 夜一が一護の治療に取り掛かるとチエがカリンに話しかける。

 

「所で……『カリン』」

 

「んあ?」

 

「この『びぃーほるだー』と言うものは良いな」

 

「だろ! オレも()()()は愛用してるんだぜ────?!」

 

「────と言うかお前経由で知った代物だが────」

 

「────動きやすくなるし邪魔にならねえし男共が変な視線送らねえし────!」

 

「(……この『カリン』とか言う者は相変わらず鬱陶しいのぅ)」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そこから酷い熱や苦しむ声を上げるも一護は一命を取り留め、一時間ほどで目を覚ました所に夜一が声を彼にかける。

 

「……俺……」

 

「目が覚めたようじゃの、一護」

 

「夜一…さん……助けて……くれたのか?」

 

 寝ぼけているのか、一護の目の焦点は合っておらず、ただボーっと宙を見ていた。

 

「まあ、結果的にそうなっただけじゃが……己のずば抜けた生命力に感謝するんじゃな。でなければ、ワシ等が駆けつけるまで事切れていてもおかしくない深手じゃったからの」

 

「そうか……」

 

 さっきの戦いで一護は『原作』より早い段階で更木に傷を負わせていた。

 これが更木を更に興奮させ、文字通り『出し惜しみ』をしない戦いを始めからする事となり、幸か不幸か一護が怖気ずいて追い込まれ、『斬月のおっさん』との対話、つまり『()()()との会話』イベントが無事に発生し、更木と相打ちに終わらせたカギとなった。

 

 それを思い出し始めた一護は、茶渡の霊圧が消え────

 

「────ッ! そうだ、チャドが────グッ?!」

 

「落ち着け一護」

 

 一気に意識が覚醒した一護が起き上がろうとするとチエが彼の両肩を掴んで押し返し、彼の傷に巻かれた包帯等がジワリと赤く滲む。

 

「おい! せっかく傷口が閉じたってのに、何すんだよこの野郎?!」

 

「……誰だ?」

 

 聞き慣れていない女性の声で一護がそっちに顔を向けようとして気付く。

 

 チエに膝枕をされていた事に。

 

「なっ?! ち、チエ! お、お、お、おま、おま、お前────」

 

 赤くなって行く一護を見て()()()()()夜一が面白そうにニヤニヤする。

 

「なんじゃ? お主を抱えてここまで運んだのは他でもないチエじゃぞ? 感謝の言葉ぐらい言ったらどうじゃ? え?」

 

「あ、か、抱え? え────?」

 

 混乱する一護を楽しそうに見ながら夜一は言葉を続ける。

 

「ま、それもワシの元の姿ならば造作もない事じゃが────」

 

「────も、もと、え? 元の姿────?」

 

 一護が見ている前で夜一という黒猫がみるみると目の前で褐色の美人へと姿を変える。

 

 またも褐色の()()美人、参上である。

 

「お、お、お、お、お、お、お、おん────?」

 

 更に混乱して真っ赤になっていく一護に、愉快な気分になっていく夜一。

 

「────どうやら、相当驚いておるようじゃな♪ フフフ、こうして真の正体を明かし、驚愕させるというのは爽快な気分じゃ! 例外達を除いて阿呆のように驚くばかりじゃからのぅ♪」

 

 夜一の頭を過ぎったのはとある大雨の日で会った『例外達』だった。*1

 

「ま、大方お主もワシの言葉遣いだけで『男』と思い込んだクチじゃ────おぶ?!」

 

「────服を着ろ馬鹿野郎!」

 

 腕を組んでいた夜一の上半身に「ズボッ」と自分が着ていた半袖セーターを一護のように真っ赤になった顔をしたカリンが無理矢理彼女に着させながら文句を言っていた。

 

「お、お、お、お、女が男の前で、は、は、は、裸で出るんじゃねえよ!」

 

「??????

 

 ちなみにセーターを脱いだカリン自身白レースのチューブトップブラ姿になっていて、これを見た一護はただ?マークを無数に出していた。

 

「あ。 見、見るな! 馬鹿!」

 

 一護の視線に気付いたカリンが怒鳴って、彼は自らの目を手で反射的に覆う。

 

「……フハハハハハ!」

 

「な、何笑ってんだよテメェは?!」

 

「いやいやいや、これが笑われずにおれるか? まさか()()()が見かけによらずに意外と 初心(うぶ)じゃったからのぅ。 フハハハハハ!」

 

 夜一は耳まで真っ赤になっていたカリンと一護を見ながらセーターの袖に腕を通していた。

 

 実に、実に愉快な表情を浮かべながら。

 

「女子の肌を見るのは初めてか、一護? ん?  良いのかぁ? こ~んなピチピチの女の肌、今見ておかんとお主の一生で見れぬかも────?」

 

「────う、うるせえよ!」

 

「────お、女が男に肌を見せ過ぎるとなぁ?! ()()()()()()()()()()()! し、知らねえのかよ?!

 

「「え?」」

 

(ただいまタオルを羽織り中で)真っ赤なカリンの言葉に、夜一と一護が思わずポカンとした顔と声を上げてみる。

 

 夜一は一護をからかうのを忘れる程で、一護は(彼からすれば)性的な話題で顔を覆っていた手を退かせる程。

 

「な、何だよ? お、オレに文句でもあんのかテメェら?!」

 

 カリンが自分をジト目でジーっと見ている一護と夜一に半ギレの態度で問う。

 

 そこに一つの声が更に事態に追い打ちをかける事となる。

 

「何を言っている夜一殿? ()()()()()()()()()()()

 

「「「…………………………………………………………………は?」」」

 

「?????????」

 

 夜一、一護、そしてカリンの三人が困惑たっぷりの視線で自分(チエ)を見る事に、彼女も?マークを出す。

 

「…………………と、取り敢えず……………………………一護、お主の懐にあった()()の事じゃが────」

 

 夜一はボロボロの白い仮面を取り出して、一護にその仮面のおかげでもっと深い傷を負っていなかった事を説明し、一護は逆にどうやって手元に戻ってきたのか独り言を零す。

 

 何せ恋次と花太郎の二人が気味悪がって地下水道で一護から無理矢理とって捨てられた物。

 

「────そう、俺は思っていたんだが……」

 

「(まさかとは思うが)…………一護、これはワシが預かろう」

 

「え? だって────」

 

「────良・い・な? (用心するに越した事は無いか)」

 

「ア、ハイ」

 

「あと、茶渡っていう野郎は無事だぜ? 大怪我はしているけどな」

 

「そ、そうか?! それは良かった……………てかお前、誰?」

 

 カリンの言葉に明らかにホッとする&疑問の一護。

 

「あ? あー、そういや自己紹介まだだったな。 オレは『カリン・プレラーリ』。 ()()()()()だ。 一応。 マイの姉貴共々、よろしくな?」

 

「あ、ああ……よろしく」

 

「つーかオレ、夜一の『コレ』を使ってみてぇんだけど────」

 

 カリンが変な鳥の髑髏と羽を合体させた籠手を手に取ってしみじみと口を尖らせながら言う。

 

「────使わせる訳が無かろう? それはソウル・ソサエティに二つと無い、貴重な()()()()為の道具じゃぞ?」

 

「だから使いてぇんだよ!」

 

「駄目に決まっているじゃろうが────?!」

 

『ズンッ!』と、重い霊圧がその場にいた者達を襲う。

 

「こ…この霊圧は────」

 

 一護の脳裏には一人の男が過ぎった。

 

「────懺罪宮の方か?!」

 

 一護は「ガバ!」っと一気に起き上がってカリンの手にあった籠手を取る。

 

「あ! おい────?!」

 

「────借りるぜ────!」

 

「────待て一護! 今のお主が行って何が出来ると言うのだ?!」

 

 一護が籠手を手に握って夜一に答える。

 

「懺罪宮には恋次に岩鷲に花太郎達が向かっていた! 俺が行かねえで誰があいつ等を助けるんだ?!」

 

 籠手が変形して、一護を隠れ家の外へと引きずり出して彼は飛んでいく。

 

「あの馬鹿者めが!」

 

「追うぞ、夜一殿────」

 

「────言われなくとも────!」

 

 チエと夜一が隠れ家のある洞窟から勢いよく走って出る。

 

 空中を数回蹴り、近くの森の中を二人が駆け抜けている間、チエの独り言に夜一が思わず吹き出しそうになる。

 

「全く、世話の焼ける『孫』だ」

 

「ブフッ?! ま、全くその通りじゃわい! (なんとまあ、あ奴にぴったりな表現じゃ!『孫』とはな!)」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 それが、一護が颯爽とルキア達がいる橋に到着するまでの出来事だった。

 

 夜一とチエは丁度白哉が一護に対して瞬歩を使い、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「「「「ッ?!」」」」」」

 

 これには白哉自信と、夜一に岩鷲、ルキア、恋次、花太郎、浮竹が目を見開いていた。

 

「それがテメェの『瞬歩』か?! ()()()()より遅ぇぜ、朽木白哉!」

 

「(なんと! 一護の奴、何時の間に『瞬歩』を見切れるようになったのだ?!)」

 

 実は夜一が織姫と茶渡の二人の訓練に付き添っている間に浦原が『穿界門』の制作作業を終えて新たに『転移装置』の研究中、一護の手合わせをしていた三月やチエが嫌と言うほど(あと物理的に一護が血反吐を吐くまで)『瞬歩』を使用していた。

 

 これにより、自身は使えなくても『瞬歩』の長短、いわゆる『有効さ』などを痛感していた。

 

「どうだい、朽木さんよぉ!」

 

「『まぐれ』………ではなさそうだな。 思ったより腕を上げてはいるようだ────」

 

「(────いかん! 『アレ』は不味い!)」

 

 白哉が再び刀を構えると、夜一は瞬時に動いて彼の始解を防ぐ。

 

「なッ?! 貴様は────?!」

 

 さっきより更にビックリしている白哉に夜一は思わず心が高鳴っていた。

 

「────久しぶりじゃのぉ、()()()?」

 

「……四楓院夜一か」

 

「その名前、聞き覚えが────」

 

 ルキアが驚愕の表情と声で夜一に驚く。

 

 以前は詳しく記入していなかったのでここでもう一度、『四楓院夜一』という人物に関して追記をするとしよう(主にルキアと白哉の言った言葉を借りるのだが)。

 

『四楓院夜一』。

 元護廷十三隊二番隊隊長で、隠密機動総司令官及び同第一分隊「刑軍」総括軍団長であり四大貴族の一つである四楓院家の22代目当主。

 

「な……夜一……さん」

 

 「少々の間、眠って頭を冷やせ。この馬鹿者が」

 

 そんな彼女は白哉と満身創痍のまま戦う気満々の一護の意識を無理矢理刈り取って、倒れる彼を肩に担げる。

 

「夜一……彼を、どうする気だ?」

 

「………………」

 

「浮竹、白哉坊……()()()じゃ! 三日間で、ワシはこの小僧がお主達にも負けぬ実力者に仕立て上げよう。 勝手じゃが、それまで一時休戦じゃ」

 

「ほぅ? 今の私相手に出来るのか?」

 

「白哉坊がワシに鬼事で一度でも勝った事があるかのぅ?」

 

 そこから白哉は一護を抱えたままの夜一に瞬歩で一気に距離を────

 

「「「────ッ」」」

 

「────『休戦』が聞こえなかったか?」

 

「ちょ?! お、おま! おろせ、馬鹿野郎!」

 

 ────詰めようとした所で、今度は何時の間にか突然()()()()()()()()が道中に立った事で白哉は逆方向の瞬歩の使用で移動を無理矢理中断させる。

 

「………………」

 

「(今のは『瞬歩』か?! いや、こ奴からは()()()()()()()()()()()!)」

 

 無言と無表情の白哉と表情を変えない夜一がチエを注目…………と言うかその場の皆が注目した。

 

「……貴様の名は?」

 

「(白哉坊が、『名を訪ねる』程じゃと?)」

 

「『渡辺チエ』だ」

 

「……成程、貴様が黒崎一護に対して『瞬歩』を使っていた者だな」

 

「如何にも」

 

「「…………………………」」

 

 白哉とチエ(無表情の二人)が無言で互いを見る。

 

 勿論チエに抱えられた恋次はたまったものではないが、時間は数秒間にも満たないほどで、白哉とチエが同時に踵を返して歩き出す。

 

「行くぞ、夜一殿────」

 

「────ぁ────」

 

 ルキアは突然の出来事の連続で麻痺していた思考がやっと動き始め、チエを見る。

 

 そして彼女もルキアを見た。

 

「────ルキア。 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 それを最後に夜一とチエは姿を消し、白哉は振り返らずにただその場を後にしようと、浮竹の横を通り過ぎる。

 

………………『渡辺チエ』、か

 

「お、おい白哉────って、いつまで経っても勝手だな……………」

 

 浮竹は角を曲がって姿を消す白哉と、橋に残された者達を見ながら頭をかいていた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「下ろせってテメェ! 自分で走れる!」

 

「私たちの移動速度に付いてこれるか?」

 

「け、けど────」

 

「────お前は牢に入れられるのと強くなるのとどちらが良い?」

 

「………………」

 

 恋次が黙り込み、道中に夜一はチエに話してかけていた。

 正確には『念話』だが。

 

『お主』

『ん?』

『先程の動きは何だ?』

『ただ“早く動いただけ”だが?』

『つまり“話す気は無い”と言う事じゃな?』

『話すも何も……()()()()()()()()()()なのだが…』

『……………もうよい』

『そうか』

 

 夜一は色々と考えさせられていた。

 

 もし本当にチエが正直に答えているとなると、()()()()でチエは瞬歩と同等の速度を一瞬出した事になってしまう。

 

「(じゃが、()()()()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()? ………喜助にも相談しておくか)」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 時間は少し後になり、隠れ家に連れて来られた一護が『転神体(てんしんたい)』を用いた卍解会得の特訓に励んでいた。

 

 ()()()()()()()()

 

 掻い摘んで記入するが、『転神体(てんしんたい)』とは元々隠密機動の最重要特殊霊具の一つである人形で、かつてソウル・ソサエティの技術部初代局長であった浦原喜助が隠密機動を率いていた夜一の為に作った発明品の一つ。

 

 ただ夜一の場合、斬魄刀を用いた『漸術』より自らの肉体を使った『白打』の方がはるかに強い事が判明していたので、他の隠密機動隊員が使う事となった。

 

 だがここでまたも浦原の(意図的?)『ウッカリミス』が絡み、『転神体(てんしんたい)』の使用は自分自身を基準にしていて、浦原以外の成功例は未だに無かった。

 

 と、()()()()()話していた夜一が脳裏で考えていた。

 

 勿論、隠れ家に帰ってきて浦原が居た事に意識が戻った一護と『遊び場』をキョロキョロ見ていた恋次の二人がビックリしていたのは言うまでも無い。

 

 ちなみにカラカラと笑いながら二人の反応を楽しんでいた浦原の扇子には『ドッキリ・成功!』と書いてあった。

 

 そんな中浦原が夜一の様子に気付いて、彼にしては珍しく人払いをしていた。

 イライラカリカリしていたカリンの『短期間外出OK』とチエが彼女の護衛をするという事で。

 

 それを確認して、一護と恋次の特訓が始まって数分後に夜一は喜助に色々と話していた。

 

「……成程、夜一サンも感じましたか」

 

「ああ……喜助が以前から『霊力以外のモノ』を始めて痛感した気分じゃ…して、そちらの仕込みは?」

 

「上々ッス♪ 後は────ん?」

 

 喜助が『遊び場』へと通じる梯子の方へとみるタイミングで恋次も同時に視線を動かす。

 

「? この霊圧は────」

 

 『────ひゃあああああああああああああ?!』

 

 梯子が下ろされている穴から叫ぶ誰かを抱えたチエがそのまま大きな音と共に『遊び場』へと着地する。

 

『おいチエ! テメェ、なんて無茶しやがるんだ?! それにこっちは怪我人背負っているんだぞ?!』

 

 カリンの声と、彼女自身が梯子を使って降りる姿と声が響く。

 

 彼女の背中には包帯ぐるぐる巻きにされて、グッタリとしている人物がロープのようなもので括り付けられていた。

 

「大丈夫か?」

 

 チエは自分の両手の中で小さくなっている少女に声をかける。

 

「…………………………………」

 

 だが少女は何も答えずただチエの顔を────

 

「────って、お前! やっぱり雛森か?!」

 

 『驚愕』の表情と声が恋次から見れ&出ていた。

 

 チエに『お姫様抱っこ』をされていたのは『雛森桃』だった。

 

「やれやれ…ほんっとうに面白い人達ッスね」

 

 浦原が複雑な顔をして、帽子を深くかぶる。

 

*1
第5話より




作者:お前何やってんの?!

チエ:…………………???

作者:後ろを見るな! お前だよ、お前!

チエ:いや、存外この『びーほるだー』の具合が良くてな────?

作者:────『そっち』じゃねえ!

雛森:あ、あのぅ────

作者:あ、雛森ちゃんはゆっくり寛いで居てね?

三月:何この温度差?

アサシン(天の刃体):当世でいう、『差別』であろう?

作者:うわ、めんどくさいのがまた増えたよ

雛森:あ、あの取り敢えずお茶を────

作者:あー、やっぱええ子やわー……ズズズ……え? ちょい待ち。 このお茶葉────

雛森:────あ、棚の奥に入っていた物ですけど────

作者:OHHH NOOOOOOOOO?!?!?!?!?! 高級羊羹と食べる高級な奴じゃねえかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?! おかきと食べちまったよぉぉぉぉぉ?!

雁夜(バカンス体):へぇー、通りで美味い訳だ

桜(バカンス体):ねぇー!♪

作者:……………………寝よ……


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第29話 「雛森ィィィィィィィィィィィィ!!!」の巻き

お待たせしました! 次話です!

いつも読んでくれて誠に、ありがとうございます!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 時は丁度浦原から『外出OK』を貰い、ソウル・ソサエティへと駆け出したカリンとチエが右之助の屋敷へと着いた頃へと戻る。

 

 四番隊の綜合救護詰所の病室の一つの部屋で目が覚めた雛森は、近くの吉良(『故に侘助』)に今までの出来事と旅禍の被害の事もあって『戦時特例』宣言を伝えていた。

 

 彼女を気遣うようになるべく『藍染隊長』に関連する単語や話題などを吉良は避けていたが、この行為が逆に雛森を意識させていた。

 

 何せ()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その上『()()()()』。

 

 そして旅禍の侵入のタイミング。

 

 最後に『偽藍染の死』以来、姿を見せない藍染隊長(五番隊隊長)

 

 雛森は漠然としない心境の所為で考え(黙り)込んでいたのを、吉良は誤解したのかそれを最後に「ゆっくり休んでくれ」と彼女に言い、病室を後にするとほぼ入れ代わりに日番谷が入室した。

 

「こ、これは日番谷隊長?!」

 

「おう。 お疲れ様、吉良副隊長。 行っていいぞ」

 

「は、はい」

 

 吉良がそそくさと出て、ここでやっと日番谷の入室に気付いた雛森は複雑な笑顔を彼に向けながら挨拶をする。

 

「あ、シr────()()()()

 

「大丈夫か、雛森?」

 

「…………」

 

「雛森?」

 

 雛森の俯いていた顔を覗き込む日番谷を彼女は見て、口をおずおずと開ける。

 

「日番谷君……………藍染隊長は……」

 

 気まずそうにそっぽを日番谷は向きながら答える。

 

「ああ、()()()。 ()()()()()()()。 あの遺体は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……そう…………(やっぱり、()()()()()())」

 

「書類業務は今の所、俺等(十番隊)が引き受けている。 雛森は安心して休め────」

 

「────待って、()()()()()!」

 

 日番谷が退室しようとするところで、雛森が彼を呼び止める。

 

「だからそれ止めろって────雛森?」

 

 最初こそ苛ついていた日番谷だが、どこか思い詰めていた雛森の表情に何かを感じていた。

 

「どうかしたのか?」

 

「…………………う、ううん。 何でも無いの! ありがとうね、日番谷君!」

 

「……ああ」

 

「(あの人なら、何か分かるかも………振る舞いも、()()()()()藍染隊長が『亡くなっていない』かの様だった!)」

 

 

 

 日番谷の面会を最後に、五番隊副隊長の『雛森桃』が病室から無断退院(姿を消)した事が発覚し、『瀞霊廷内の旅禍の索敵続行及び、行方を晦ませた五番隊副隊長(雛森桃)の検索を並行で行うように』との指令が出た。

 

 

 

 その夜、丁度ボロボロだった三月を右之助の屋敷からチエとカリンが身柄を引き取った後へと変わる。

 

 右之助はやっとチエが返ってきたと思った矢先、今度は重体の怪我人を『別の場所へと移す』行為に反対していたが、「右之助に迷惑をかけたくない」との事で彼は渋々了承した。

 

 後でもう一度世話になる事をチエと約束を取り付けてからだが。

 

 そんな三人が瀞霊廷を(カリンが行動制限に不満を隠さずに)気配と霊圧を消しながら移動していると────

 

 『────止まって!』

 

「あいたぁ?!」

 

「ッ」

 

『キィーン』と耳鳴り(脳内鳴り?)する程のきつさで、三月の声らしきモノがチエとカリンの中で響いて、二人が顔を同時にしかめた。

 

『んだよ()()?! 急に叫びやがって!』

『あそこを見て!』

『どこだ? 指を指せ』

()()()()っつーの! ああ、もう! トリの方向!』

『トリか────』

『“トリ”って、どっちだ?』

 

 チエが左を見て、カリンが?マークを出しながら問う。

 

『9時の方向! この『チャド()』!』

『なんだとテメェ?!』

 

 チエと三月(そして時差でカリン)が見ていた視線の先では、『原作』に似た場面があった。

 

 市丸ギンと吉良イヅルが日番谷冬獅郎と対峙していた。

 

 日番谷が()()()()()()()()を守りながら。

 

 これは『原作』とは違う理由で藍染隊長と()()()()()()()()の事を、元五番隊副隊長であった人物(市丸ギン)を探し出した結果だった。

 

 何故なら彼の言動は他の隊員達と違い、まるであの遺体が『偽藍染』と()()()()()ような振る舞いや言動だったからだ。

 

 そこで元五番隊副隊長(市丸ギン)に話しかけようとしていた雛森を見かけた日番谷は、こっそりと接触を図ってみた雛森を見た市丸から僅かな殺気が漏れていた事でその場に突入し、抜刀をした。

 

 この行動は、日番谷に接触した三月の所為でもあった。

 

 実は雛森が気を失った日、彼女の病室の外でソワソワとしながら、部屋のドアの前を行ったり来たりしていた日番谷に(四番隊に偽装中の)三月が病人である彼女の様子を見に来たのを口実に接触。

 

 その際に気が()()弱っていた日番谷に「元五番隊副隊長の市丸隊長は藍染隊長の死をどう思っているのでしょうねぇ?」と『元五番隊』を強調しながら世間話をした。*1

 

 これにより、日番谷に『市丸はもともと藍染の下で五番隊に居た』という事実を意識させる事に成功させた。

 

 成功させたのだが、日番谷にとって意外だったのが、自分から市丸に接触した雛森をほぼ初見で()()()()()()()()とは思わなかった。

 

 勿論これは市丸がワザと『気を張り詰めながら自分を尾行していた誰か(日番谷)』を誘い出す為の動きだったのを、冷静になっていれば日番谷は気付いていたかも知れない。

 

「日番谷隊長?!/日番谷君?!」

 

「へぇ~」

 

 突然の登場に吉良と雛森はビックリしていた事に対し、市丸は感心する(予想していたかの)ような息と声を出していた。

 

「市丸テメェ! 雛森に何する気だ?!」

 

「別になんもあれへん。 彼女が僕になんか話したい言うて来たんで?」

 

「だったらその()()はどう説明するんだ、市丸?」

 

「んー……じゃあ雛森ちゃん。 ()()()()()()()()()?」

 

『藍染隊長の手紙』。

 これは『この世界(BLEACH)』で雛森桃だけでなく、藍染を慕っていた多くの死神の人生を狂わせる事となるトリガーアイテム(引き金)と言っても過言では無い。

 

 そしてその()()()()()()()()()

 

 偽藍染が殺される日の明け方までは在った筈の書類が、遺体の発見とほぼ同時に部屋の中をいくら隊員達に探せたとしても出てこなかった。

 

 この行為は明らかに『()()()()()()()()』。

 そしてタイミングからして()()()()()()()()()()()()

 

 ならば────

 

「え────?」

 

 目を僅かに見開(キョトンとして)いた雛森に対して、市丸が隊長格全力の霊圧を周りにぶつける。

 

 それは少し離れていた吉良にも効果覿面で、彼と雛森の二人は膝を地面へと付きそうになりながら、汗を体中から噴出させていた。

 

 「市丸ぅぅぅ!!!」

 

 これがきっかけ(引き金)となり、日番谷は市丸に襲い掛かる。

 

 抜き出しの斬魄刀で。

 

 バリバリの殺気で斬りかかって来る彼を面白(満足)そうに市丸の笑みが深くなる。

 

「あぁ、あかん。 こないな事で斬りかかって来るんなら、僕も()()()()()()()()()()わなぁ」

 

 二人の護廷十三番隊隊長が激しい攻防を繰り広げ、遂に始解の解放と打ち合いへとヒートアップする中、日番谷は追い込んだ市丸の奇襲攻撃を()()()()()()()

 

「あーあ。 避けてもうたやないか────」

 

「────何────?!」

 

 市丸の浮かべる薄ら笑いが更に深いものへと変わる。

 

「────自分が誰の為に前出た思とるん?」

 

「────雛森ィィィィィィィィィィィィ!!!」

 

 日番谷が市丸の二重策に気付き、自分の後ろで混乱と困惑で固まっていた雛森の名を叫び、雛森は自分に迫ってくる市丸の『神鎗』の刃をただ唖然と見ていた。

 

 世界がスローモーションに動いているような錯覚に彼女は陥って、脳裏には様々な記憶が素早く過ぎった。

 

 始めは白い髪の毛をした少年(幼い頃の日番谷)との出会いや学院生活、吉良イヅルや阿散井恋次と過ごした死神見習いの日々。

 

 そして藍染隊長に救われたあの現世での出来事。

 

 彼の周りにいると落ち着く自分────

 

「(────ああ、これが死ぬ直前の走馬灯なのね)」

 

 今まで何がどうなっているのか理解の追い付いていなかった雛森だが、途端にそう何処か冷静な自分の声が聞こえた気がして、彼女は目を瞑る。

 

 そこで彼女の鼻をフワッとくすぐったのは、い草の香りだった。

 

「(あ、コレ……藍染隊長に似て────)────え?」

 

 彼女は自分の体が浮くような浮遊感で目を開けると、月が出始めていた空をバックドロップに、中世的な見た目をした黒髪赤眼の人物の顔を雛森は見上げていた。

 

 流れる時の速度は通常に戻り、市丸ギンは見開いた目で新たに現れた者を日番谷と吉良同様に注目をしていた。

 

「(こいつ、『神槍』を避けながらあの子(雛森)を……しかも霊力無しでやと────?)」

 

「ッ! だ、誰だお前は?!」

 

「ひ、雛森君!」

 

「………………────」

 

「────え────?」

 

 黒髪赤眼の者が口を動かして雛森を抱えたまま、その場に居る者達が反応出来る前に姿を消す。

 

「────隊長! 隊長の霊圧────市丸隊長? 吉良君まで? これは一体────?」

 

 その時、日番谷の副官である『松本乱菊(まつもとらんぎく)』が入れ代わりで駆け付ける。

 

『原作』から一連を外そうとする影響(ズレ)だった。

 

バタフライエフェクト(予期せぬ行動の結果)』とも言う。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「フゥム、そんな事が瀞霊廷内で……」

 

『遊び場』の地面の上に引かれたブルーシートで胡坐をかく浦原が、一連の事を畏まりながら説明する雛森&彼女が気を失っている間や他の情報を付け足す休憩中の恋次が居た。

 

 そこには同じく胡坐をかくカリン、正座しているチエが居て、ボロボロの三月は裏手にある温泉に一人で浸かっていた。

 

『原作』での『浸かるだけで回復する温泉』である。

 

「……………あ、あの!」

 

「ん?」

 

「私……私はどうなるんでしょうか?」

 

 浦原が雛森を見て、彼女はチラチラと周りの人達を見る。

 

「………………」

 

 浦原が彼女の視線を辿ると────

 

「(────おや、まあ……)」

 

 訂正、視線は()()()()()()()()()()

 

 これに気付いた浦原の笑みは更に大きくなる。

 

「………んー、早い話が『交渉材料』ッスかね~?」

 

「『人質』の間違いじゃねえのかよ?」

 

 浦原の疑問形の答えに恋次が『ム』っとして、少々苛つきながら()()()()をした。

 

「いえいえ、滅相もありません。 別に彼女を軟禁や拘束するつもりはないッスよ?」

 

 浦原がニヤニヤしながら何故か()()を見ながらそう言う。

 

「??? どうしたのだ浦原?」

 

「いやいやいや! チエさん隅に置けませんねー! はッはッは!」

 

「「?????????」」

 

 チエと同様に?マークを出す恋次。

 

 向かいの浦原の開いた扇子にはまたもや『青・春』の二文字。

 

 そして視線をチラチラと横目でチエを見る雛森。

 

「(やっぱ若いって良いッスね~♪)」

 

 余談ではあるが、少し後で意識がはっきりとなって傷が癒えた三月が雛森の事を聞いては素っ頓狂な声を上げた()()()

 

アンタ何やってんのよぉぉぉ?!

 

 訂正。

 

 辺りの小石がカタカタと震える程の音量で、素っ頓狂な叫びを上げ()()()

 

「あのチビ(140㎝)の肺活量、半端ねえな」

 

「あ、阿散井君(188㎝)? 身長と声の大きさは関係無いと思うよ?」

 

「あー、そういや日番谷(133㎝)隊長と雛森(151㎝)の声も結構おっきいもんなー」

 

阿散井君?!

 

 結局話し合いの末にチエと恋次が雛森の世話を見る事(監視)を条件に、彼女までも『遊び場』に滞在する事になってしまった。

 

「ま。ぶっちゃけ彼女を拘束するにも人手が足りませんし、彼女を持って帰って来た人と馴染みがいれば大丈夫でしょうと判断したまでですよ」

 

「そう……ですか……」

 

 この事に雛森は不安どころか、かなり久しぶりに安堵を感じていた。

 

「? どうした雛森殿?」

 

 雛森の視線にチエが気付き、卍解会得の特訓をしていた一護と恋次から視線を外して彼女を見返す。

 

 その際に雛森は目線をサッと外す。

 

「ッ! い、いえ何でも無いんです! そ、それに私の事は気軽に呼んで下さい!」

 

「そうか。 なら……『()()()()()()』はどうだ?」

 

ファ?!

 

 雛森は両手で口を覆い、赤くなって行く彼女の豹変ぶりに困惑するチエから顔を逸らす。

 

「??? どうした、顔が赤いぞ? 熱か?」

 

大丈夫れす!」

 

 チエの何気ない気遣いの言葉に噛む雛森を見ていた三月は複雑な顔をしていた。

 

「(うわー、私のあだ名をそのまま使うなんて無いわー。 そりゃ無いわー。) あ! 私、『渡辺三月』と言います!」

 

「あ、はい。 初めまして。 五番隊副隊長、『雛森桃』です」

 

 互いにぺこりと頭を下げながら自己紹介をする三月と雛森。

 尚、チエとは『遊び場』に向かっている途中で雛森がチエの名を訪ねていたので彼女は勿論チエの苗字を────

 

「────へ? 『渡辺』って────?」

 

 雛森が『渡辺チエ』の方を見る。

 

「ああ、私の姉だ(自称の)」

 

「へ?!」

 

 雛森がパチクリと瞬きをしながらチエ(約160㎝)三月(140㎝)を見比べる。

 

「……………何だ、()()()()()()?」

 

?!」

 

「あー、そこまでにした方が良いわよ?」

 

「そうか。 では『雛森』と────」

 

「────『桃』と呼んでください!」

 

「分かった、桃」

 

?!」

 

 最初はチエと恋次の周り以外ではオロオロとしていた雛森だが、神経が図太いのかかなりの速さで場の空気に馴染んで行った。

 

 その姿はマイのようで、別名『天然』とも呼ぶ。

 

 少々後になり、一羽の()()()が隠れ家の入り口付近にいたカリンの近くに降りる。

 

 ()()()の足には一通の紙に、朽木ルキアの処刑時刻が早まったとの事が書かれていた。

 

「────と、言う事なんだよ」

 

 暇そうなカリンが同じく何ともない声のトーンで事を伝える。

 

「(ったく、自作自演なんてメンドクセー)」

 

「「そうか」」

 

「んあ?」

 

 カリンは予想していたのと違い、ルキアのニュースを聞いた一護と恋次はそのまま卍解の修行へと戻った。

 

「……何だあいつ等?」

 

「あ、あのカリンさん…ですよね?」

 

「あ? あー、そうだけどよ? 『カリン』だけで良いぜ『メロンパン』」

 

「め、『めろんぱん』???」

 

 雛森がタジタジになり、カリンは彼女の(シニヨン)を顎で指す。

 

「オメェの頭、メロンパンに似てんだよ」

 

「……『めろんぱん』とは何ですか?」

 

「な?! 知らねえのかよテメェ?! コンビニぐらい行った事あるだろうが?!」

 

「『こんびに』? ……ああ! 雑貨屋みたいな所でしょうか?」

 

「マジか……良し、決めた。 メロンパン野郎、お前はオレ達と一緒に空座町に連れてってやるよ。 んで先ずはコンビニに行って街を歩く所だな」

 

「え? でも私、副隊長義m────」

 

「────んなこたぁ知るか! 決定事項だ!」

 

 上記のように雛森(良い子)に絡むカリン(不良)だった。

 

「んで、三月サンはどうやってあんなにボロボロになっていたんスカ?」

 

「隊長に襲われた」

 

「「「……………え」」」

 

 その場に居た雛森、浦原、夜一が一瞬固まってから三月の方を見た。

 

「……えーと、スミマセン。 もう一回良いスカ? 今『隊長に襲われた』と────」

 

「────うん。 九番隊の」

 

「………それってもしかして、東仙隊長ですか?!」

 

「えーと………うん」

 

 雛森は自分より幼い(と自分が思っている)子が隊長格と戦って、ボロボロになりながらも生きて帰還した事に心底驚いていた。

 

 驚いていたのは彼女だけでなく、浦原と夜一も同一だった。

 

『違う理由で』だが。

 

「あそこまでボロボロになるとは、意外じゃな」

 

「まあね。 後ろから『グサリ』と不意打ち食らっちゃったし」

 

「(フム?)」

 

「グ、『グサリ』って────」

 

「────ああ、うん。 斬魄刀でお腹貫かれた」

 

「………よく生きていますね三月サン?」

 

「アハハ~」

 

「わ、笑い事じゃないんですけど~?!」

 

「アハハハハハ~」

 

 雛森の言葉に、乾いた笑いを続ける三月。

 

 そして表情を変えずに考えに浸る浦原だった。

 

「何、お腹を貫かれた()()で死ぬタマではない」

 

「わ、渡辺(チエ)さん?」

 

「少なくとも首をh────」

 

「────本人が居る前で物騒な話しないでよ?!

 

 最後にチエに怒る三月だった。

*1
第26話より




作者:いや、マジでお前どうしてくれてんの?

チエ:????????

三月:いくら何でもフリーダム過ぎる……

作者:と言うか雛ちゃんどうすんの?

チエ:フム………………三月、何かいい手はないか?

作者:逃げんなよ!?

三月:しかもそこで私に振るか普通?!

チエ:いや、気ままに────

三月:────あ、うん。 これアンタが悪いわ

作者:何でよ?! おいちょっと待て?!


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第30話 「……愛のコスモゾー〇?」の巻き

お待たせしました、次話です!

……ハイ、サブタイトルの元ネタが古いのは承知しています (汗


 ___________

 

 朽木白哉 視点

 ___________

 

 時はルキアの処刑当日。

 

 白哉は朽木家の屋敷の中とはいえ、障子を閉め切った部屋の中に一人でポツンといた。

 

 壁沿いに配置された祭壇、お供え物、そして『朽木緋真(朽木ルキアの実の姉)』の遺影だった。

 

「……白哉様、お時間で御座います。 『双殛』へ出立のご用意を」

 

「…………分かった」

 

 白哉は家の使いの者の気配が周りにいない事を確認してから考えにもう一度入る。

 

 脳裏に浮かぶのはこの数日間の出来事の、総隊長とのお茶の時間。

 

≪『自身の眼で見て、定めておる』。 そう答えたのじゃ。 ま、要するに『自分で見て考えろ』という事じゃな≫*1

 

 私情を入れずに考えるとルキアの処刑は不可解な例外……

 と言うか異例ばかり。

 

 そして先日の旅禍の侵入と藍染隊長の殺人事件。

 

 その侵入者の中心に居た人物はルキアが死神の力を譲歩した人間、『黒崎一護』。

 

≪それがテメェの『瞬歩』か?! ()()()()より遅ぇぜ、朽木白哉!≫ *2

 

 そのような人間が僅か二か月ほどの時、死神の力を持っただけで副隊長の恋次に引けを取らないほどの戦闘技術を身に付けていた。

 

 しかも当時の彼の言葉から感じ取れたのは、彼に『師』が居る事は予想出来る。

 

 藍染隊長の殺人事件に『戦時特例』宣言。

 

 そして先日出会った()()()使()()()()『瞬歩』並みの移動をする、あの人物。

 

≪『渡辺チエ』だ≫

 

 次に突然、姿を消した五番隊副隊長の『雛森桃』。

 

「……(この一連の出来事、余りにも……)」

 

 それ等は白哉に激しい『違和感』を持たせていた。

 

 まるでこれら全ての出来事が繋がっている様な、全くの別の事なのかと言う漠然とした違和k────

 

「────くだらん」

 

 気付いた時には白夜は声に出していた。

 

「(そうだ、総隊長も言っていた事ではないか。 『自身の眼で見て、定めている』と。 ならば────)────行ってくる…緋真」

 

 白哉は立ち上がり、部屋を後にする。

 

 

 ___________

 

 更木剣八 視点

 ___________

 

 更木は捕獲された旅禍────茶渡、岩鷲、雨竜達を織姫、やちる、弓親、そして一角たちと共に留置場から連れ出してルキアの処刑場へと移動していた。

 

 その間、彼は『面白い事』を耳にした。

 

 きっかけは織姫の何気ない独り言に反応した一角と始まる二人の会話。

 

「そういえば『ヒーロー』さん、大丈夫かなぁ?」

 

「あ? 『ヒーロー』だぁ? 一護の事か?」

 

「あれ? 声に出しちゃった? うーん、黒崎君とは違うよ班目さん! 小柄なボディでこの前、大群の虚をギッタンバッタンと一人で倒したんだよ!」

 

「ふ~ん? その『ヒーロー』ってのは、もしかして『渡辺チエ』の事か?」

 

「あれ? 班目さん()()()の渡辺さんを知っていたの?」

 

「ああ、一護の野郎が『師匠』と呼んでいたからな」

 

「ふーん? 私が言っていたのはもう一人の、『渡辺三月』の方だよ」

 

「へぇー、()妹揃って凄いんだな」

 

「そうだよ! 二人とも凄いんだよ!」

 

 更木はこの時に出た、『ヒーロー(渡辺三月)』がどれ程のモノか興味が少し沸いた。

 

 何せ自分が『強くなりたい』と思わせた黒崎一護の師の兄妹で、井上織姫に『ヒーロー』と呼ばせる程。

 

「(早く斬り合いてぇなぁ)」

 

「あ! 剣ちゃんすっごく嬉しい顔してるぅ!」

 

 

 ___________

 

 朽木ルキア 視点

 ___________

 

 懺罪宮へと繋がっている一本の橋の上を、ルキアは多くの護衛に囲まれ、極刑の罪人として拘束されながら歩いていた。

 

 双極の丘(処刑場)へと。

 

 だと言うのにルキアの行動は落ち着いていた。

 それはまるでこれから処刑される者では無かった。

 

『原作』では心底自分が罰される事を受け入れていたルキアだが、『現在』は違う。

 

 義兄が減刑を申し入れた。

 幼馴染が上司相手でも自分の為に引かなかった。

 現世で知り合って間もないのに、自分を助けにわざわざ瀞霊廷へ侵入してくれた知人達。

 そして何より────

 

 

 

 

 ────自分の所為で巻き込んでしまった黒崎一護と…………今では『第二の親族』となった(渡辺)家が助けに来てくれている事。

 

 こんな大勢の人達が自分を助けようとしているのに「自分が罰されて当然」など考えるのがおこがましい。

 

 ならばと思い、ルキアは堂々の振る舞いをしていた。

 

 胸の奥で燻ぶる(助からないかも知れない)不安を押し殺すように。

 

「おはよう、ご機嫌いかが? ルキアちゃん」

 

「ッ」

 

 そしてその不安がたった一人の、悠々と歩いて来た男の登場で蘇り始める。

 

「どないしたん? そんな顔をして?」

 

 その常に笑みを浮かべる様は全身にまとわりついて、今にも喉元を食らい千切られるような事態を理解した獲物を楽しむかのような()

 

 そんな事をルキアに思わせるような男なのだ、『市丸ギン』と言う男は。

 

「市丸……ギン……」

 

「……あかんなぁ、隊長を呼び捨てにするなんて」

 

 罪人とはいえ、護廷十三番隊の一人であるルキアは謝罪をしてから市丸に問う。

 

「市丸隊長は、なぜここに?」

 

 別段、この二人(ルキアと市丸)に共通点は無く、過去に義兄の白哉と他愛ない話をする時に数回ルキアは居合わせていただけ。

 

「大した用事はない。 散歩がてらに()()()()意地悪しに来ただけや」

 

 そう言い、市丸は妖しい笑みを浮かべた。

 

「実はな? 君を助けようとどうやったかは知らんけど、旅禍の一人が十一番隊の更木に頼んで他の旅禍を脱獄させて暴れまわっとるみたいやねん」

 

「……?」

 

 十一番隊の更木と言えば、荒い性格の気分屋。 

 と呼ぶよりは『狂犬』という文字が似合う人物。

 

「そんな男が何故旅禍(知り合い)と行動を?」という疑問がルキアの頭に浮かんだ所で、市丸は言葉を続ける。

 

「せやから、隊長格が数名鎮圧に直接向かっとると小耳に挟んでんや。 『生死不問』付きの指令で」

 

「ッ」

 

『生死不問』の指令とはいえ、もし噂話が本当の事なら『更木剣八』という者は強い。

 

 だがそれでも────

 

「────ああ、それとな? なんやコソコソしとった()()()()()を東仙隊長が見つけて、後ろから体をこう……一突きにしてな?」

 

『小柄の旅禍』と聞いたルキアの心臓の鼓動が早くなり、耳朶には自身の心拍音が五月蠅くなって言った。

 

「まさか、そんな筈は無い」と思いながら。

 

「東仙隊長って真面目なの、知っているやろ?」

 

…黙れ

 

「せやから瀞霊廷内でコソコソしていたのが旅禍や知った時にそのまま────」

 

────黙れ────!

 

「────可哀そうになぁ、皆ルキアちゃんが『死にたくない』なんて思うてるからや────」

 

「────黙れぇぇぇぇ!

 

「ポン」と市丸の右手が怒る(怖がる)ルキアの頭に置かれる。

 

「……()()、あかんで?」

 

 ルキアが必死になって隠していた恐怖を引きずり出した事に満足する市丸ギンのその姿は、細く伸びた舌で獲物を絡め取るかのような蛇そのものだと、場にいた護衛達を錯覚させる程だった。

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

『双極の丘』。

 瀞霊廷内の護廷十三隊の敷地内でも、一際高い崖の上。

 

 そんな所で処刑の準備が粛々と進められ、本来ならこれを見届ける筈の隊長格総勢二十名強の内から半分程度の姿が見えなかった。

 

 が、処刑の時刻は予定通りに実地される様子をぼんやりと考えていたルキアの視線の中に義兄である白哉が入り、一瞬だけ目線が合い、白哉は所定の位置に付いた。

 

 ()()()()()()を。

 

「……それではこれより、術式を開始する。 何か言い遺しておく事はあるかの、朽木ルキア?」

 

 総隊長である山本元柳斎が静かに訊ねる。

 

 その様子は末端の死神である筈のルキアに朽木家の令嬢から敬意を表……

 ではなく、単純に義務的に訪ねている様子だった。

 

「はい、一つだけ」

 

「申してみよ」

 

 ルキアは周りをもう一度見てから山本元柳斎へと開き直る。

 

「………ここから先、旅禍が何をしようとも…それら全ての咎は自分にあります。 ですので、罰するのであれば()()()()()()()()()()

 

 ルキアの言葉に隊長格の何人かが不思議そうな表情へと変わる、「その為の処刑だろうが?」とでも言うように。

 

 白哉の表情は変わらず、ただひたすらに落ちついていて義妹が危機に陥っている様な者には決して見えなかった様子。

 

 これらを見て、山本元柳斎は片目を開いてルキアの顔を数秒間見る。

 

「……良かろう。 双殛を解放せよ」

 

 封印が解かれ、宙に浮かぶルキアの前に『槍』の形状をしていた双殛がみるみると疼く炎へと姿形を変え、最後には大きな炎の鳥の形へと落ち着く。

 

燬鷇王(きこうおう)』。 封印を解かれた『双極』の矛先が、処刑の際に現す真の姿である。

 

「初めて見る者もおるか。 燬鷇王の()で貫かれた魂魄は、塵も残さず消滅し、それにて殛刑は終わる」

 

 山本元柳斎は驚いている隊長格達に機械的に、『さもありなん』と言うような雰囲気で説明をする。

 

 燬鷇王が羽ばたきを始め、その巨大過ぎる迫力と霊圧は正に『斬魄刀百万本に値する』と言う知識が真の事なのだと感じさせた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()()()()()

 

 ルキアはそう思いながら、目を瞑る。

 決して恐怖からではない。

 

 そして前から来る衝撃と爆音で目を開くと────

 

「────よ。 前に見た時より元気そうじゃねえか」

 

「遅いぞ────

 

 

 

 

 

 ────、この馬鹿者(一護)

 

 ルキアの前には空中に立っていた黒崎一護が燬鷇王の嘴を受け止めていた。

 

「勝算は、あるのだろうな? 今回は義兄様だけでは無いのだぞ?」

 

 彼女の心境は意外と冷静になっていた。

 

『原作』とは違い、多少前向きな方向で。

 

「あ? 『勝算』? そんな物いるかよ」

 

「なッ?!」

 

 ルキアと一護が場の割に呑気に話し合っている間、二番隊隊長の『砕蜂(ソイフォン)』が驚きに口を開ける。

 

「ば… 馬鹿な?! 『双極』を止めたというのか?! 斬魄刀、一つで?!」

 

「成程ねぇ、彼が旅禍の『黒崎一護』か」

 

 京楽が何時もの笑みを浮かべながら一護から視線を横へと移すと、その先には極僅かにホッとした様な白哉が上がりかかっていた腕を下す姿を捉えた。

 

 刑を阻まれた燬鷇王が第二の執行の為に距離を取ると、首に黒い縄の様なものが巻き付かれる。

 

「よう、この色男! 随分と待たせてくれるじゃないの!」

 

 京楽が黒い縄の先にある、盾の様な物を持っていた男の横に移動し、声をかける。

 

「すまん、解放に手間取った────!」

 

「────いかん! 奴等は双殛を破壊する気だ────!」

 

 砕蜂が一早く浮竹と京楽の思惑に気付いて叫ぶが、あっという間に燬鷇王に流し込まれた霊力によって爆散する。

 

 辺りに炎が降る直後に磔架(処刑台)が一護の急激に増幅した霊圧と共に爆発。

 

「ひゃあ────?!」

 

「────よっと」

 

 そして煙が晴れると────

 

 

 

 

 

 ────磔架の残骸の上にいた一護の隣で恋次がルキアを無造作に抱き抱えられていた。

 

「れ、恋次────?」

 

「────ルキアも『ひゃあ!』って言うんだな」

 

「ななななななな?! わ、忘れろこの戯け! と言うかこの大勢の前でどうやって消えるつもりだお前達?!」

 

「「とにかく逃げる」」

 

 一護と恋次の『何当たり前の事を?』と困惑しつつ答える表情に対し、ルキアはポカンとした。

 

「………………………」

 

「ま、逃げられなきゃ────」

 

 ────一護が『斬月』を持ち直し────

 

「────全員ブッ倒すまでだ────」

 

 ────恋次が『蛇尾丸』を器用に空いていた右手で抜いて────

 

「────良いからさっさとあっち行け、この脳筋共────!」

 

 ────布に巻かれた、長い棒の様な物を背中に差したカリンが脳筋二人(一護と恋次)の首根っこを掴み、磔架の上から崖方面に放り投げた。

 

「「────どわぁぁぁぁぁぁぁ?!」」

 

「────ああああああああああああ?!」

 

 一護と恋次(そして恋次に抱えられたルキア)の叫びと同時に白哉が消えて、突然の出来事に死神達の注意が引かれている間に市丸もその場から消えた。

 

 死神達は連続で突然の出来事に、呆気に取られていたまま。

 

「追え! 副隊長全員で奴らを追────ッ?!」

 

 否、一人だけが叫んでいた。

 

 砕蜂が叫び、次の瞬間に副隊長たちが一斉に動き出すと同時に顔に布を巻いた()()に砕蜂はその場から連れて行かれ、謀反に近い行為をした浮竹と京楽の二人を山本元柳齋が互いに見ていた。

 

 瞬歩を使って一護達が逃げ(投げられ)た方向へ向かう雀部(ささきべ)、大前田、虎徹、そして『原作』と違い、牢に入れられていない吉良の副隊長達の前にカリンが立ち塞がる。

 

「テメェらに追わせるかよ────」

 

「────そこをどけ!」

 

「やなこった」

 

 大前田の言葉にカリンが拒否の答えと共に笑みを浮かべる。

 

「今までさんざん留守をしてたんだ、()()()()()()にお前らを使わせてもらうぜ────!」

 

 そして冷や汗を掻く浮竹と京楽とは対照的に涼しい、何時もの表情を浮かべる山本元柳齋。

 

「……お主等二人揃って何をするかと思えば…………天賜兵装(てんしへいそう)の封印を解いて、双極を壊すとはのぉ」

 

「………………あー、山じいってば本気で怒っていらっしゃる?」

 

「まあ、怒っているだろうな京楽────」

 

「────ちなみにワシが怒っておるのは、別にルキアの処刑を止めた事ではない、────

 

 

 

 

 

 

 ────その方法じゃよ

 

 その瞬間、燃え盛る炎の様な霊圧が沸々と山本元柳齋を包む。

 

「何も『双極』が発動するまで待ち、壊す必要は無かったような気がするのはワシだけかえ?」

 

 汗が浮竹と京楽の頬を伝う。

 

「…………少し、場所を移そうかの?」

 

「「……」」

 

 浮竹と京楽と京楽の副官らしき女性が無言で瞬歩を使って移動し、山本元柳齋も同じくその場から消える。

 

 丘の上では残った副隊長達とカリンが対峙していた。

 

「(さーて、どうすっかなぁ?)」

 

 ウキウキしながら背中に差した棒から布をはぎ取る。

 

「ッ! 穿(うが)て! 『厳霊丸(ごんりょうまる)』!」

 

()っ潰せ、『五形頭(げげつぶり)』!」

 

(はし)れ、『凍雲(いてぐも)』!」

 

(おもて)を上げろ、『侘助(わびすけ)』!」

 

 カリンの取り出した()()()()()()()に雀部が反応して始解し、続いて戸惑っていた大前田、虎徹、吉良も始解し身構える。

 

「♪~」

 

 その間もカリンはご機嫌そうに鼻歌をしながら片手で槍を器用に振り回してから構える。

 

 この姿は副隊長四人を前にしても『余裕』と取り、イライラしていた大前田が先に仕掛けた。

 

「ヌンッ!」

 

 彼の投げたモーニングスター状の斬魄刀の攻撃に乗じて雀部が電撃をレイピア状へと変わった斬魄刀の刀身から飛ばす。

 

「ッ?!」

 

 だがここで雀部が目を見開く。

 

 何故なら彼が放った電撃の軌道が途中で意図せずカリンから逸れたからである。

 

「ワリィな。 飛び道具は通じねぇんだ、よ!」

 

「うお?!」

 

 大前田のモーニングスターの鉄球部分をカリンは次に躱し、槍の先端部分で鎖を引き寄せ、前のめりに倒れ始める彼の体に動作の流れのまま肘打ちを食らわせる。

 

「え?! きゃ!」

 

 丁度虎徹の方へと大前田の巨体が吹き飛ばされて彼女に当たり、彼女は気を失った大前田の巨体の下敷きになる。

 

 最後に吉良の迫ってくる『侘助』の斬り込みを数回カリンが槍で防ぎ、この事に吉良は内心安心したが次の瞬間、カリンが()()()

 

「(彼女は、どこに────)────?!」

 

 頭上の影に吉良が気付き、()()()()()()を躱した────

 

 ドンッ! ボキボキボキ!

 

「────ガッ?!

 

 ────と思いきや、いつの間にか接近したカリンに右腕を掴まれて彼の脇にキツイ一発()が骨の砕ける音と共にめり込んで、吉良も気を失う。

 

「(これで三人────)────うおおお?!」

 

 カリンは自分と同じように何時の間にか接近した雀部の突きを回避し、後ろへと距離を取る。

 

「逃がさん!」

 

 否、正確には距離を取ろうとしたが雀部はそれを許さず、斬魄刀での猛攻を素手のカリンに続けた。

 

「チィ!」

 

「(この小娘、只者では無い! このまま一気に────!)」

 

「『来い』!」

 

 後方へとし続けるカリンの叫びに応じるかのように赤い槍が地面から跳ね上がって飛ぶ。

 

 その出来事は丁度カリンを槍から遠ざける雀部を後ろから追う猟犬の様だった。

 

「クッ────」

 

 雀部は明確な敵に背を向ける事無く槍を躱し、槍はスッポリと前に出したカリンの手に収まる。

 

 正に猟犬のように。

 

 大事なので二回追記するとしよう。

 

「(いや、『猟犬』じゃなくて『忠犬』の方が合っているか?)」

うるせえよカリン! ブッ飛ばすぞテメェ! いい加減“犬”から離れろや!

 

 カリンは笑いながら槍を構え直す。

 

「(ワリィワリィ、やっと暴れるのがつい、楽しくてな)」

あー、その気持ち分かるぜ。 で? 勝算あんのか? コイツ(雀部)、マジで強えぞ?

「(やりようはある…と思いたい)」

“槍”だけにかよ?

「(うっせー、オレもどうかと思ってんだよ……けど────)────『()()()()()()()』ってな!」

 

 カリンの笑みを浮かべる顔と突進する様は『戦闘狂』……

 

 と言うよりは『()』に近かった。

 

*1
第19話より

*2
第28話より




市丸ギン:なんやねん、『愛のコ〇モゾーン』って?

作者:いや、だってこれ自分が初めてBLEACH見た時に思った第一感想で────

平子:────ネタ古いわアホ。 一体読者の何人が知っとる思うとるん?

作者:え。 だって火〇鳥シリーズだよ?

京楽:渋い趣味しているね~

作者:……よく考えたら80年代ものじゃん、あの映画?!

平子:だから古い言うとるやないか、このドアホ

作者:二回言った?!


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第31話 切なく散る花はいとをかし? の巻き

勢いで書きました。

割と書けた事にびっくりしています。

……やはり誰もが休憩が必要という事か。 by作者


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場所は一護と恋次、そしてルキア達が逃げていた荒野の様な大地の上。

 

 そこでは一護達は追って来て斬魄刀を抜刀していた隊長を驚いた顔で見ていた。

 

「そこどいてくれへん?」

 

「断る」

 

 彼らが驚いていたのは市丸ギンにでは無く、彼と対峙していた()()()()()()()姿()

 

「た、隊長────」

 

「白哉、お前────」

 

「────()()()()()()()()?」

 

「ッ! 行くぞ、一護!」

 

「お、おう?!」

 

 白哉の言葉でハッとした恋次は一護の体を揺すり、共に逃走を再開する。

 

 斬魄刀を抜いた白哉に対して、市丸は微動だにせずただ何時もの笑みを浮かべていた。

 

「へぇー、意外やな。 そこまで義妹思いやなんて」

 

「…………………」

 

「『罪人』やで、あの子?」

 

「奴はソウル・ソサエティの法で裁かれる事となった。 故に、我々隊長格が()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「別にあの子は死ぬんやから、僕達が殺しても問題あらへんと思うけど?」

 

「ならん」

 

 白哉の答えが意外だったのか、市丸は笑いながらも糸目を開ける。

 

「……あかんなぁ。 それ、()()やで?」

 

 実はと言うと白哉は当初、一護がどれ程夜一の下で腕をたったの三日間で上げたのか気になっていて、果たして彼が()()()()()()()()()()()()足りる者か見定めるつもりで後を追った。

 

 それ故に白哉はギリギリの所まで一護の到着を待ち、彼が間に合いそうになければ自らが『双極』を止めるつもりであったが、結局一護は間に合い、その直後に予期せぬ『双極の破壊』が浮竹と京楽によって行われた。

 

 そして一護によって破壊された処刑場と、見知らぬ女性(カリン)に逃がされた一護達を白哉が追う中、突然後から来た市丸の『神槍』がルキアの捕縛というより『殺す』と言った攻撃を白哉が防いだ。

 

 白哉自身、意図していなかった介入だったが……

 

 不思議と悪い感じはしなかった。

 

 それに────

 

「────法の番人として『双極による処刑をされる罪人(朽木ルキア)』を、私情で罰する者を私は止めているに過ぎない」

 

 ────白哉には()()()()があった。

 

「なんや、素直やないなぁ」

 

「貴様に言われたくはない」

 

 ご尤もである。 By作者(キートン山田さんボイス)

 

 市丸の笑みが深くなる。

 

「どう思います、()()?」

 

「ッ?!」

 

 白哉は気付けば()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 自分の体を貫いていた刀身へと視線を移すと共にジワリと広がり始める痛みで冷静になりつつあった白夜の思考に()()()()()声が聞こえてきて、彼は自分の耳を疑った。

 

「どうでも良い事だよ、市丸」

 

「バカ…な。 (けい)は────」

 

 

 ___________

 

 一護、恋次、ルキア 視点

 ___________

 

 

 一護達は荒野の上を()()()()()走っていた。

 

「東仙隊長? どうして、ここに────まさか?!」

 

 東仙要が彼らの前に立ち塞がるまでは。

 

 一護達が双極の丘から瀞霊廷の外へと向かった方向は更木剣八とは反対の方角。

 

 そして彼の鎮圧に東仙は友人であると同時に七番隊隊長の『狛村左陣(こまむらさじん)』と、二人の副官の計四人で出向いていた筈。

 

 つまり意図していなければ()()()()()に出る事は無い。

 

 そこまで考えが辿った恋次が警戒する瞬間、周りが布のような物で覆われたと思えば次に見渡す景色は双極の丘の上だった。

 

「な?! ここは双極の丘?!」

 

「一瞬で、ここに戻ったというのか?!」

 

 急な出来事で驚く恋次と一護、そしてルキアの頭の中で勇音の声が響く。

 

『護廷十三隊各隊隊長、及び副隊長副隊長代理各位…そして旅禍の皆さん。 こちらは四番隊副隊長の虎徹勇音(こてついさね)です! 重症である日番谷隊長を治療中の卯ノ花隊長に代わり、これからお伝えする事は全て真実の事です!』

 

 そこから一護達の脳に直接情報が叩き込まれる。

 

 それらは護廷十三隊員達には信じがたい内容だった。

 

 四十六室全員の殺害と、彼らの()()を傀儡としていながら自分が死んだと偽装していた謀反者の『藍染隊長』、そして────

 

 

 

 

 ────彼の同胞である『市丸ギン』と『東仙要』。

 

 これを聞いた瞬間、恋次と共に一護が構えて彼らの横から声がする。

 

「朽木ルキアを置いて去りたまえ、阿散井君」

 

 それは恋次のかつての上司、藍染惣右介が何時もの()()()()()を浮かべながら歩いてくる姿だった。

 

 今では恐怖の対象の他ならなかったのだが。

 

「藍染……隊長……やはり生きて────一護、ルキアを頼む!」

 

 恋次が呆けている一護にルキアを託すとほぼ同時に()()()()()()の斬魄刀を防ぐ。

 

「な?! ()()()()()────?!」

 

「────ボーっとしていただけかよ恋次?! 何で()()()()()()()()()()『敵』に無反応なんだ────?!」

 

「────邪魔だよ、阿散井君」

 

 またも何時の間にか横を素通りする藍染に振り向かおうとした恋次。

 

 だがこの衝動で()()()()()()()体から血が吹き出して、彼の体が力無く地面へと倒れる。

 

「れ、恋次?!」

 

「バカ野郎! 前に出るんじゃねえ!」

 

 地面に伏せた恋次へと駆け出しそうになったルキアを、一護が彼女の首根っこを掴んで止める。

 

「黒崎一護君。 聞き入れてもらう事は無いと思うが……朽木ルキアを置いて、去りたまえ」

 

「ルキア、離れていろ────」

 

「────一護?」

 

 一護からは目視出来るほどの霊圧が膨れ上がるのを藍染と市丸は面白そうに眺めていた。

 

 不安になっていくルキアの前の一護はそのまま『斬月』を藍染達に向ける。

 

「『卍解』!」

 

卍解(ばんかい)』。

 それは死神として、頂点を極めた者のみに許される斬魄刀戦術の最終奥義とされている。

 そこに至る事が出来る者は数世代に一人と例えられて、彼ら彼女らは例外も無くソウル・ソサエティの歴史にその名を刻まれると言われている。

 

 一護の卍解開放の霊圧余波が藍染達を襲い、土煙が晴れると同時に一護は内心舌打ちを打つ。

 

「ほんま、恐ろしい子やわぁ」

 

「だが()()()()()()だよ」

 

 目の前の藍染達は鬼道で作られた壁の様な物で、一護の初撃を余裕で防いでいた。

 

 一護は卍型の鍔に柄頭に鎖の付いた漆黒の斬魄刀────『天鎖斬月(てんさざんげつ)』を構えると同時に、渾身の一太刀を藍染に目掛けて振るう。

 

「「なッ?!」」

 

 一護とルキアが驚愕する。

 

 藍染が文字通り『指一本』で一護の一撃を防いだと、彼とルキアが認識すると同時に一護の体から斬られた跡の血が吹き出す。

 

「うぅ────?!」

 

「おや、真っ二つにしたつもりだが────」

 

「────い、一護! 恋次!」

 

 ルキアが恋次同様、地面へと落ちていく一護を見て叫び、心の中に冷たい感じが広がって行く。

 

 これを見たのか気付いたのか、ルキアを見ていた市丸の顔はもがき苦しむ獲物を見る蛇の様な物だった。

 

「ああ。 それと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()────」

 

 カラン。

 

「────受け取ってくれるかな?」

 

 地面へと落ちて乾いた音を発する物を、ルキアは緊張と霊圧のあまりに満足に動けない体故、目線だけをそちらへと落とした。

 

義兄……様?

 

 ルキアの見ていた先は純白()()()髪留め。

 ()()()()にのみ着用を許された物、名を『牽星箝(けんせいかん)』と呼ぶ。

 

 それが今、()()()()()塗れて無造作に地面へと落ちていた。

 

「あ、ああ────」

 

 ルキアの心が暗い感情に塗り潰されて行きながらも、フラフラと無我夢中に歩み寄り始めた。

 

 目的の場所へとたどり着いたルキアは髪留めを手に取ると、市丸が口を開ける。

 

「言うた筈やで? 『()()()()()()』って。 ル・キ・アちゃん♪」

 

 虚ろな目のルキアが市丸を見上げる。

 

「せやから、周りの人等が()()()()亡くなるんやで?」

 

「ッ……」

 

「………ざ……けんな……」

 

「ん?」

 

 市丸と藍染が必死に立ち上がろうとしている一護の方を見る。

 

「ああ。 そう言えば、君には実力にそぐわぬ生命力があるんだったね。 でも、()()()()()()()()()()()()()()()。 もう休みたまえ」

 

「や、役目……だと?」

 

 困惑する一護を面白そうに見ている藍染が太陽の出ている空を見上げる。

 

「そうだね……()()話しておこうか────」

 

 そこから藍染は()()どころか、かなりの内容を話した。

 

 一護達が西流魂街に侵入してくる事は分かりきっていたので常にその近辺に注意を払い、部下である市丸が出向かえるように、各隊の配置に手を回していた事。

 

 自動防衛システムの瀞霊壁が下って一度旅禍に侵入されそうになった事により、内側に隊長格が警戒している所に侵入する方法は遮魂膜の強行突破。

 つまり流魂街に残された花火師、『志波空鶴』の花鶴大砲しかない事。

 

 この侵入方法の変更により、一護達は当初より派手な侵入と共に『隊長格が取り逃がす程の者』と言う認識で、瀞霊廷内の殆んどの死神達の注意が『実力者の旅禍達侵入』に集中する事。

 

 そしてそのお陰で隊長が()()()()()()()()としても、取り敢えずは旅禍の対処を優先されるので更に裏で動きやすくなった事。

 

 だがここで一護が疑問を藍染にぶつける。

 

「何で……俺たちが西流魂街から来るって、断言────?」

 

「────決まっているだろう? 西流魂街はかつて、浦原喜助の拠点だったからだよ。 故に彼の作る穿界門で、処刑の猶予時間内に侵入出来るのは西流魂街に自ずとなる」

 

「なん……だと?」

 

 藍染は笑みを崩さずに一護を見る。

 

「そうか。 ()()()()()()()()()()のか。 ならば教えよう────」

 

 藍染は呆けているルキアを無理矢理立たせて、彼女を破壊された双極の磔架の方へと歩かせながら説明を続ける。

 

「死神という種には『斬術』、『白打』、『歩法』、そして『鬼道』の戦闘方法がある。 だがそのどれもに『限界強度』というものが存在する。 どの能力もいずれは魂魄の『壁』に突き当り、成長が止まってしまう。 その『壁』が死神の『限界強度』だ」

 

 藍染は空から視線を一護に戻す。

 

「ならば『この “限界強度”を超える方法は無いのか?』というと、あるんだよ。 その()()()()()が死神の虚化だ────」

 

 一護の脳裏に浮かんだのは、自身が追い込まれた時に『斬月のおっさん』と共に出てきた『白い自分(一護)』だった。

 

 実はと言うと、『原作』と違って白哉と対峙していない一護はそれ以前より更木剣八と初めて相対して追い込まれた時に斬魄刀の始解に精神世界へと潜り込んでいた時に『白い自分(一護)』は『表』に出ていた。

 

 精神世界とは言え、現実世界の時間通過が『ゼロ』になる訳ではないので『白い自分(一護)』が出ていたのはほんの一瞬だけだが。

 

「この一つの仮説に行き届いた僕は色々と試したよ。 

 例えば虚に死神の力を関与したり、自らの霊圧を消す事が出来る虚。 

 触れるだけで斬魄刀を消す事ができ、死神と融合する能力を持つ虚。 

 等々という『失敗作』を次々とね」

 

 藍染のお眼鏡に叶わなかったのか、過去の実験を『失敗作』と彼は断言した。

 

「だがここで、ソウル・ソサエティの常識を超えた物質が話に出てくる。 その名も『崩玉』。 そして()()()()()()()()

 

 知り合いである『浦原喜助』と、先程の『実験内容』を聞いたルキアの意識がはっきりし始めた。

 

「(『触れるだけで斬魄刀を消す事ができ、死神と融合する能力を持つ虚』? それは……まるで、海燕殿の……)」

 

 何故なら『浦原喜助』ですら自らの作品を危険のあまりに破棄しようとしても出来なかった様な物が自分(ルキア)に埋め込まれていたからと藍染が言った。

 

「さて、そろそろ()()だ────」

 

 その時、力を温存していた一護がまたも愛染に飛び掛かる。

 

「『破道の────』」

 

 藍染が鬼道の術名を唱え終わる前に、新たな声がその場に響いた。

 

「『縛道の八十一・断空()』」

 

 藍染の鬼道を閉じ込めるように、白が掛かった半透明な壁が数枚出現し、突進していく一護を守る様に藍染の鬼道を防いだ。

 

「いで?!」

 

 あと一護は盛大に現れた壁に顔面を打った。

 

「流石は元十二番隊隊長、浦原喜助。 九十番台(黒棺)の鬼道を八十番台(断空)で止めるとは」

 

「いえいえ、正確には『断空』をベースに魔改造を施した『別の何か』ッス。 ウチには優秀な鬼道の天才と閃き(インスピレーション)を与えてくれる人材がいますから」

 

「君がこのタイミングで出てくるという事は、()()という事だろうな────」

 

「────あ────」

 

 藍染がルキアの体に腕を入れたと思った次の瞬間、彼の手の中には小さな玉が握られていて、尻餅をついたルキアの体には傷一つなかった様子だった。

 

「さて────ん?」

 

 藍染が手に中にある崩玉からルキアへと視線を戻すと、彼女の呆けた姿はそこにはもう無かった。

 

「怪我は………無いか?」

 

「────ぁ」

 

「ほぅ、まだそこまで動ける体だったとは意外だ」

 

 ルキアを抱えていたのはボロ雑巾のように満身創痍の白哉だった。

 

「ガフッ!」

 

「義兄様!」

 

 白哉が吐血し、ガクガクと笑っていた膝を遂に地面へとつけてしまう。

 

「だけど今ので精一杯の様だね、朽木白哉────」

 

 白哉の方へと歩き始める藍染の斬魄刀に手が添えられ、彼の首に斬魄刀が構えられる。

 

「────そこまでじゃ、藍染」

 

「筋一つ動かせば、即首を刎ねる」

 

 夜一と砕蜂が先程の『藍染謀反』報告を聞き、すぐに双極の丘へと()()された。

 

「成程。 懐かしい顔だね、四楓院夜一」

 

 そこで多少負傷しながらも護廷十三隊の隊長格が次々と現れ始め、藍染の部下の首にも斬魄刀が構えられた。

 

 東仙要は自身の副官である檜佐木修兵に。

 

「東仙! 何か弁明でもあるなら言ってみろ!」

 

「……」

 

 狛村の問いに東仙は何も答えなかった。

 

 市丸ギンは幼馴染の松本乱菊に。

 

「動かないで、ギン」

 

「ありゃりゃ、僕────」

 

「────お願い」

 

「……」

 

 乱菊の多少震える声に市丸も黙り込んだ。

 

「終わりじゃ、藍染」

 

「……………ふ」

 

 そこで藍染が場違いにも笑みを浮かべながら目を瞑り、鼻で笑った。

 

「…? 何が可笑しい」

 

「いや何────」

 

「「────ッ────」」

 

 スッと感情が全く籠っていない目を開けた藍染に対し、夜一と砕蜂が不可解な気持ちで身震いをする。

 

「────まったくもって、『()()()()調()()』と思っただけさ」

 

「ッ! 奴らから離れろ!」

 

 夜一が叫ぶと同時に砕蜂も間一髪で空から降って来た光の柱に藍染、市丸、東仙の三人が包まれた。

 

 光の柱の正体は虚の『反膜(ネガシオン)』。

 正確には大虚(メノスグランデ)が使う技で、光の中は外とは隔絶された異空間となる。

 

 そして異空間故に()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう山本元柳斎が藍染達の捕縛を再度試みる死神達に説明する。

 

「降りてこい、東仙! 答えよ! 貴公は亡き友の為に……『正義』を貫く為に死神になったのではないのか?! 貴公の『正義』は何処に消えて失せたのだ?!」

 

 怒りを持ったまま、狛村が東仙へと叫ぶ。

 

「狛村。 私のこの眼に映るのは今も昔も同じ事。 ()()()()()()()()()()()()だ。 そして『正義』は常にそこに在り、私の歩む道こそが『正義』だ!」

 

「ッ! 東仙ッッッ!!!」

 

 狛村が東仙を睨むながら歯をむき出しにして、怒りを露わにする。

 

「藍染! 大虚(メノスグランデ)と手を組むとは、地にまで堕ちたか?!」

 

 浮竹が『信じられない』と言った様子で藍染に問う。

 

「『()()()()()()()』、だと?」

 

「「「「ッ」」」」

 

 ここで初めて藍染の表情が変わった事に、その場に居た死神達が息を吸い込む。

 

 藍染の顔が一瞬『怒り』に変わったと思いきや、次は『憂鬱』に似た物へと変わる。

 

「それは傲りが過ぎると言う物だぞ、浮竹。 始めから、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうか」

 

「「「「ッ?!」」」」

 

 ここで新たな声に死神達がビックリする。

 

 一護とルキア以外。

 

「「チエさん?!/チエ?!」」

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 藍染はこの新しい来訪者と()()()()に目を細める。

 

「ほぅ」

 

「嘘……ですよね? 悪い冗談ですよね?」

 

 光の柱に包まれた藍染におぼつかない足取りでチエと共に歩く。

 

「何か言って下さい! 藍染()()!」

 

 目を見開きながら涙を流す雛森と、無表情のチエが十歩程の所で歩みを止める。

 

 カランッ。

 

 少し離れた場所では乾いた音と共に地面に落ちる杖に視線を釣られた雀部が、両目を大きく見開き、口をポカンとしていた山本元柳斎にびっくりした。

 

 雀部が()()()見る表情だったからだ。

 

「ば、馬鹿な」

 

「え、丿字斎(えいじさい)先生?」

 

 どれ程ビックリしていたかと言うと、山本元柳斎をかつてのあだ名で雀部が呼ぶほど動揺させるモノだった。

 

「雛森君か。 悪いが、君の今見ているのも『私』だよ」

 

「そ、そんな! だって、藍染隊長は……藍染隊長は────!」

 

「────君の知る『藍染惣右介』など、()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ!」

 

 雛森が息を飲み込み、両手で口を覆って静かに涙を流しながら体が震え出す。

 

 そんな様子の彼女に藍染は言葉を続ける。

 

「『憧れ』など曖昧な物で、不確かな感情に過ぎない。 故に『憧れ』は『理解』から最も遠い感情だよ、()()()

 

 そこでチエは自身の持っていた刀を鞘から抜き、水平に構える。

 

「何処の誰か分からないが、無駄だよ」

 

()()()()()()()()()()()()

 

 次の瞬間、風を切るような音と共に地面が爆発する。

 

「「ッ?!」」

 

 東仙が仏頂面から驚いた表情になり、市丸は両目を開けながら真剣な顔になる程の事が起きた。

 

「成程────」

 

 藍染は余裕の笑みのまま、自分の()()()眼鏡を手で取り、眼鏡をギリギリで斬った刀身を……と言うか刀の持ち主を見る。

 

「────『やってみなければ分からん』……か」

 

「………………」

 

 突き破った光の柱からチエが静かに刀を抜きとって、藍染とチエが互いを無言で見つめ合う。

 

「「………………………」」

 

 この沈黙を破ったのは藍染。

 彼は立っていた地面ごと浮き始めた事により、双極の丘に残された者達を見下ろす形へとなる。

 

「では宣言しよう、死神と旅禍の諸君。 これからは────」

 

 藍染が手で下ろした髪の毛をオールバックスタイルへと変える。

 

「────私()が天に立つ」

 

 藍染達が空間の裂け目に消えて行くのをチエと雛森以外の者達が見届ける。

 

「う……うああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「………………」

 

 泣きじゃくる雛森を、チエはただ無言で傍に歩き、自身の胸に抱き寄せていた。

 

 そんな中、一護は自分の傷の痛みを忘れるほど見入っていた。

 

 それは至極単純、チエに。

 

 明らかに異質な『()』に臆する事無く、立ち向かうその姿はかつての雨の日を彼に思い出させていた。

 

 そんな凄い奴を『小学生(幼少)の頃から知り合いである』という事を誇らしく思うと同時に、『()()()()()()()で何も出来なかった自分』を情けないと思った。

 

 夜一と浦原はチエを更に危険視した。

 大虚の『ネガシオン』は自分達が知りえる限り、誰一人として破った事の無い『完全離脱』の類。

 

「そんな物をいとも簡単に破った彼女は何者だ?」と夜一達だけでなく、過去に大虚と対峙した死神達は思った。

 

 等と言った感情や思惑が渦巻く中、場違いな陽気な態度の声が響く。

 

「いや~、おっつー!」




浦原:いや~、やっと出番ッス!

作者:……………

浦原:おやおや~? アタシが出た事に怒っていらっしゃる?

夜一:いや、こ奴は単純に寝不足で気を失っとるだけじゃ

浦原:目を開けながら?

夜一:お主もそうなる時あるじゃろう?


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A [Brief] Respite
第32話 「師弟、再会」 の巻き


お待たせしました、次話です!

後、勢いで書いたので少々(と言うかかなり)カオスです、ご了承くださいませ。 (汗


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 お通夜のような状態の丘で、場違いな陽気な態度の声が響く。

 

「いや~、おっつー!」

 

「三月サン達もご無事でしたか、流石です」

 

「三月()か。 遅かったな」

 

 浦原とチエが何時の間にか現れた三月、カリン、リカ、そしてツキミへと開き直る。

 

「……お前達、ボロボロではないか?」

 

「い、いや~……流石に鬼道集と隠密機動の連携した襲撃はきつかった」

 

「(『きつかった』、の一言とはね……)」

 

「『きつかった』の一言で片づけるな! メッサしんどいわ!」

 

「お疲れ様ですツキミ」

 

「お前に言われても嫌味にしか聞こえへんで『救護班』!」

 

 ツキミがニヤニヤするリカに抗議を上げる。

 

 だが更に場がカオスへと変わる。

 

「チエ殿……なのか?」

 

 山本元柳斎が(斬魄刀)を持たずにフラフラとチエの居る所へと、まるで信じられないものを見ているかのような半信半疑の表情のまま歩いて来た。

 

「ん? …………何だ、()()か」

 

「「「「「「え」」」」」」

 

 山本元柳斎を知っている誰もが目が点になり、ポカンとする。

 

 総隊長を『()()()呼び捨てにする』と言った行為に。

 

 これにはルキアと重症の白哉も入っていた。

 

「少し見ない間に老けたか?」

 

「チチチチチチチチチチエ殿なのですね?! わ、わ、わ、ワシは……夢でも見ておらんだろうか?!」

 

「とっておきの()()()()がある────」

 

 チエがほかの人達同様唖然とした雛森から抱擁を離して、しどろもどろな山本元柳斎の前に立つ。

 

「────歯を食いしばれ────」

 

 バシィン!

 

「────オブゥ?!」

 

「「「「「「え”」」」」」」

 

 何と、チエが山本元柳斎にビンタ(気付け薬)をお見舞いしたのだった。

 

 しかも────

 

「この平手打ち! まごうことなき()()じゃ!」

 

 ────山本元柳斎は怒るどころか、嬉しそうな顔をしていた。

 

 絵柄的にはお世辞にも………………………

 

 まあぶっちゃげるとある種の『変()』なのだが、()()()()

 

 「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇ?!」」」」」」

 

 その時、その場に居たもの全員が(可能な限り)驚愕の叫びを出来る限り上げた。

 

「うむ、やはり桜直伝のビンタ(気付け薬)は良い効き目だな。 やはりコツは手首と肘か」

 

 「「「「アンタ何やってんのよぉぉぉ?!」」」」

 

 この叫びに三月()も例外無く加わったのであった。

 

 その直後に現れた巨大なエイ────卯ノ花の始解、『肉雫唼(みなづき)』の背中に卯ノ花本人と右之助が登場した。

 

「すぐに治療が必要な怪我人は『肉雫唼(みなづき)』の中へ────右之助様?!」

 

 老体の見た目に反し、身軽に『ピョン』と『肉雫唼(みなづき)』の背中から飛び降りた右之助がポカンとした山本元柳斎とチエの居る場所にまで走って来た。

 

 その表情はどう見ても悪戯が成功した『子供』の様子だった。

 

「どうじゃ?! ビックリじゃろ山坊?!」

 

 山本元柳斎の開いていた目と呆気に取られていた顔がスッと、何時もの()()()のモノへと変わる。

 

「……………………右之助。 お主、知っておったのか?」

 

「勿論じゃ。 何を今更────ん?! 山坊、お前まさかワシの文を────」

 

「────フンッ!」

 

 山本元柳斎が右之助の両肩を掴んで────

 

 ゴスッ。

 

 ────彼の顔面に頭突きを食らわせる。

 

 何も言わずに地面へ倒れる右之助を見た京楽と浮竹が冷や汗とは別の汗を掻く。

 

「うっわ……俺、久しぶりに見たぞ京楽?」

 

「出たねぇ、山じいの『(×)突き』。 最後に見たのは二か月前だよ────僕が食らった時にね」

 

「京楽……お前いい加減、女性の後をホイホイ付いて行こうとするのをやめろよ?」

 

「んふふふふふ~♪」

 

 意味ありげな笑いをする京楽に対して、ただ疲れた溜息を出す浮竹。

 

 そして文字通り、地面へ沈黙する右之助を見下ろす「フンスッ!」とした山本元柳斎の頭(正確には額の十字傷)が「ピカーン」と一瞬光った様な気が、その場に居た皆にはしたらしい。

 

 

 

 双極の丘で卯ノ花の到着により、重症だった者達は奇跡的に全員助かった。

 勿論、織姫の能力があれば問題は無かったのだが彼女は『旅禍(余所者)』。

 

 卯ノ花の推薦(圧力)で渋々死神達は織姫からもやっと治療を受け始めた(貴重な隊長格は全員、丁重に断ったが)。

 

 この時治療を卯ノ花に施されていた白哉は『原作』同様、かつての妻の緋真がルキアの実の姉と彼女に暴露。 

 家の者達の反対を押し切って、彼女を朽木家に入れたのも緋真の遺した約束のモノだと。

 

 ただ一つの違いとすればチエと三月()がその場に居合わせた事。

 余談ではあるが無事の三月を見たルキアがフラつきながらも、彼女の安否を静かに祝った。

 

 そして────

 

「────最後に、礼を言うぞ。 渡辺家の者達……現世ではルキアが世話になった」

 

「え?! 義兄様は、どうしてその事を────?」

 

「────留置所の……看守達が言っていたぞ? お前が花太郎とやらに話す時、お前の様子は子供のように無じゃk────」

 

────わ、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 恥ずかしさからか、ルキアは耳まで赤くなっていった。

 

 それが決して夕陽からではない事を三月()邪悪な 『小悪魔』的な笑みを浮かべてニヤニヤとしていた事に、ルキアが逆ギレしたのは言うまでもない。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 さて、「三月達は何をしていたんだろう?」と言う疑問があるかも知れない者達に対し、彼女たちの活躍を少々掻い摘んで話すとしよう。

 

 先ず、出来るだけ『原作』通りに事が流れるような調整と悲運を出来るだけ減少の為に彼女達は動き、重要人物達を誘導などした。

 

 卯ノ花が死体に違和感を持ち続ける為に()()()()()()()を彼女の部屋に置き、彼女自身と彼女の隊が出来るだけ怪我人を前線から避難出来るように誘導。

 まあ、流石に『死体はフェイク(偽物) ☾(ˊᗜˋ)』と言う意味不明()で怪しさ100%な文を見れば誰もが違和感を持つだろう。

 

 そしてこれ同様に、日番谷宛に『裏切者()に気をつけろ』で、『敵』が決して怪しい言動の市丸一人ではない事を意識させた。

 遠回りな言い方だが、実は『市丸同様の実力者達に警戒しろ』という意味合いもあり、これにより日番谷は『相手は隊長格数人の可能性』も配慮して行動。

 とは言え、四十六室の移住区で『藍染』と言う化け物と対峙した事により『原作』同様に重症を負ってしまったが。

 

 吉良イヅルには『市丸ギンには()()()()()()()』と言う文を。

 勿論こんな怪しい手紙を信じる事は無いが、これにより『原作』より『何か大きな事が起きている』と冷静に物事をとらえ、本来には無い『不信感』を彼に抱かせる事は出来た。

 更に雛森桃を市丸が軽々と危険に晒したのも、市丸の不可解な動きに気付かせるのに効果抜群だった。

 故にいざ市丸ギンが謀反を起こしたと知っても、驚く事はしたが動揺はしなかった。

 双極の丘ではあばらをカリンの腹いせに数本折られたが。

 

 余談ではあるが、双極の丘で気を失った隊員達と、カリンに倒された雀部含めた副隊長達は卯ノ花とリカが密かに回収して治療した。

 

 等と言った、『表』では『原作』とあまり変わらなかった。

 

 ただし『裏』では上記で示したように、少々違う事も起きていた。

 

 先ず、浦原の『隠れ家』に接近してきた隠密機動隊の数十名を遠ざける為にカリンが志願して囮役を買って出るも、彼らと連携した鬼道集達の仕掛けた罠にハマり、拘束された。

 カリンを奪還する為に一番近かったチエ……は雛森のお守り役があったので、ツキミが代わりに出陣。

 

 そこで藍染の霊圧を感じた雛森桃は脱走を試みて、彼女を無傷で止める事にチエ達は対話を試みる。

 

 読者達は既にご存じかも知れないが、『原作』での雛森は力尽くで十番隊の留置所を強引に脱獄する行動力の持ち主。 

 

 ()()()()()()()があったのは言うまでもない。

 

 結果的に彼女の使用する鬼道に対して反対の鬼道、『反鬼相殺(はんきそうさい)』の攻防へと変わる。

 

反鬼相殺(はんきそうさい)』とはその名の通り、同質&同量の逆回転の鬼道を放ち、相手の鬼道を相殺する事。

 

 ただし『雛森桃』は()()()()()()()で副隊長の座にまで伸し上がった、正しく『鬼道の天才』である。 

 あの浦原喜助の『断空改』の開発にも絡んでいた程。

 

 そして『鬼道の天才』である雛森のレパートリーが従来の物に加え、彼女独自が改造したものも入って優に数百を超える数。

 終いには彼女に対して、『魔法』を鬼道と共に使用する羽目に。

 

 それが功を表し、何とか藍染が『ネガシオン』で離脱する直前まで釘付けする事に成功。

 

「────とまあ、すんごい事になっていたんだけどね? 決してグウタラしていた訳じゃないよ?」

 

 三月が自分の居る部屋の天井を見ながら言う。

 

「お前、誰に喋っているんだ?」

 

「あー、カリンは別に無視していいよ」

 

「フム、恐らくですが『次元の違うモノ』に『モノローグ』をしているのでは?」

 

「なんやその『次元の違うモノ』は?」

 

「さあ、何の事でしょうか♪」

 

 リカが悪戯っぽく唇に人差し指を付けてツキミを嘲笑う。

 

 彼女達が寛いで居たのは隊首会が行われる部屋の近くの客間の一つ。

 

 そして時は『藍染謀反』騒動から少々時間が経ち、当初の瀞霊廷内のドタバタは落ち着きを見せ始めていた。

 

『藍染謀反騒動』に関するドタバタだけに限定すれば、だが。

 

 後、、『原作』では詳しく描写されていなかったがルキアは無罪放免となった。

 

 なにせその判決を下した四十六室が藍染による幻覚で、元々ルキアが一護に死神の力を譲歩するのも彼の策略の一部に過ぎなかった。

 

 ドゴォォォン!!!

 

『おああぁぁぁぁぁぁ~~~~!!!』

 

『待ちやがれ一護テメェ! オレと勝負しろぉぉぉぉぉ!!!』

 

 大きな爆音と崩れる建物の音の次に聞こえてきたのは一護と更木の叫び。

 

『そうだよイッチー! でないと剣ちゃんがムッツン(チエ)と勝負出来ないじゃん!』

 

『知るか! そんな理由で俺は死にたくねぇよ!』

 

 三月達が何時もの事にお茶をすする。

 

 上記の状況は更木がチエを発見した時に勝負(殺し合い)を申し込んだ事から始まった。

 

『勝負だコラァ!』

 

『断る』

 

『んだとテメェ?!』

 

『まずは弟子から倒せ』

 

『うむ、ワシ────』

 

『────ああ? ()()の野郎を先にだぁ?!』

 

『そうだ』

 

 余談ではあるがチエの言葉に、誇らしかった山本元柳斎の顔がショボショボとしたモノへとその時変わった。

 

 所謂『項垂れた(いじけた)梅干し状態』とも言う。

 

 ただまあ、この事により更木は(病み上がりとは言え)元気になった一護に勝負(殺し合い)を申し込むようになった。

 

「と言うか意外でしたね。 眼鏡(雨竜)にこんな才能があったなんて」

 

 リカが自分と他の皆の身に纏っていた服を見ながらシミジミと言葉を漏らす。

 

 何を隠そう、傷が回復した雨竜は『現世組』の服を(織姫が物理的に引きずり出した)三月と共に編んだだけでなく、アレンジを追加していた。

 しかもそのどれもがファッションデザイナー顔負けのモノばかり。

 

 女性の衣類に限定するが。

 

 何故なら男性服となると、デザインが()()()()になる。

 これは三月と(以外にも)カリンが直した。

 カリン曰く、『破れた服をそのままにすると遠坂の野郎がギャアギャアうるせえから』だとの事。

 

「しかしここのお茶と茶菓子はおいしいですね」

 

「ですね」

 

 隣に座っていたクルミにリカが同意する。

 

「クルミ……全然反省していないでしょ?」

 

「いえ、していますよ?」

 

「ハァ~」

 

 三月が長い溜息を出す。

 

 今頃井上兄妹(昊と織姫)は護衛の死神付きとは言え親子……ではなく、『兄妹』水入らずの時間を過ごしている筈と思いながら。

 

『藍染謀反騒動』の少し後、遮断膜を突き破って瀞霊廷内にいた織姫の前に()()に乗ったクルミと、彼女にしがみつきながらガクガクと生前も死後も初の『天馬乗り』にショックを受けていた井上昊の姿があった。

 

 だが(織姫)との再会が恐怖を容易く覆し、井上兄妹(昊と織姫)は戸惑いなく互いを抱きしめながら号泣した。

 

 これを見た三月は呆気に取られながら「クルミも何やってんのよ?」とツッコムも、クルミはただブイサインを返すだけ。

 

 しかも『リアル天馬』の出現に、瀞霊廷と流魂街全土に噂話が広がった事は言うまでも無く、コレのおかげでクルミ(そして彼女に容姿が瓜二つか似た姿の三月達)はほぼ毎日質問攻め。

 

 そんなこんなドタバタの中、三月は頭を更に抱える事を先日知った。

 

『チーちゃん……あ、貴方の言っていた弟子の『重國』って────?』

 

『────ああ。 私もさっき分かったのだが“ふるねーむ”が“山本元柳斎()()”と言うらしいな……どうした三月?』

 

『まさかのまさかでチーちゃんの“弟子”がモブどころか、よりにもよってあの“山本総隊長”とは……』

 

 そう、チエがかつて流魂街で世話になった(なられた?)『重國』が実は『山本元柳斎』で、右之助は彼の付き人。*1

 

「まさか『原作』との違いが既にあったとは思わなかったわ~」

 

 三月に独り言に他の者達がうんうんと頷く。

 

 そんな彼女達の居た部屋に、山本元柳斎に呼び出されたチエと雛森が帰って来た。

 

「あ、お帰りチーちゃん。 で、結局何で呼び出されたか────

 

「どうし────

 

「ん~? ………………なんと」

 

「…………………これ、何の冗談や? ドッキリか? ドッキリなんか?」

 

 三月がチエを見ると固まり、他の者達も視線を辿ると言葉を発するのを止めて固まった。

 

 

 

 何故かチエは死神の師装束の上から()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「「「………………………」」」」」

 

 無言で互いを見る事数分間、オドオドとした雛森が思い切って口を開ける。

 

「こ、こ、こ、この度は! ()()五番隊隊長代理に任命された────」

 

 「「「────やっとんじゃお前ぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」」」

 

 頭を抱える三月、カリン、ツキミの叫びが響く。

 

「「Oh(オー) s〇it(シ〇ト)」」

 

 そしてリカとクルミがマイペースながらも驚きの声と共に顔を両手で覆いながら俯く。

 

「うむ、やはり師しょ────ゲフン、『チエ殿』の言った通りに皆驚いているようじゃの、ホッホッホ」

 

 チエの後ろから部屋に山本元柳斎と(何時もよりムスッと(仏頂面を)した)雀部と共に入って来た。

 

「あれ? 山お爺ちゃん、右之助さんは?」

 

「ああ、あの阿呆ならワシが『双極破壊』の事後処理を押し付けたわい。 今頃はヒィヒィしておるかのぅ?」

 

 またも余談だが山本元柳斎に三月達はあだ名を付け、それを彼は大層気に入ったそうな。

 

「重國もたまには彼を労うと良いと思う。 私達が世話になったのは事実だからな」

 

 尚、チエはかつての呼び名である『重國』のままの模様。

 

 山本元柳斎が部屋の中のちゃぶ台の周りにあった座布団の上の一つに座り、三月達も静かになりながら背筋を真っ直ぐにして座る。

 

 彼の隣にはチエと雛森が同じく黙って座った。

 

 そこにはもう『山お爺ちゃん』ではなく、『総隊長』が居たからだ。

 

「さて、少々急な事であるが……先の『藍染の謀反』により隊長が数名欠落しておる。 言わずとも分かっておるかも知れぬが市丸ギンの三番隊、東仙要の九番隊……そして藍染惣右介の五番隊じゃ」

 

『藍染惣右介』の名を聞いた瞬間、雛森は自分の股の上に置いていた手をギュッと握り、唇を噛みながら顔を更に俯かせた。

 

「無論、本来なら副隊長が次期隊長の任命まで、又は副隊長を隊長へと任命するのじゃが状況が状況だけに早急な戦力調達が必要とみなし、昔交わした約束(誘い)通りチエ殿を護廷十三隊に誘い、チエ殿が事を理解した上で了承した。なので前からチエ殿の為の『総隊長特権』を行使して『臨時の隊長』として招いたのじゃ」*2

 

「(いや、『なので』って……そんな軽いノリで?!)」

 

 三月が呆気と驚愕の心境を察したのか、雀部が横から口を開けて説明を付け加える。

 

「この『総隊長特権』は山本隊長が護廷十三隊設立の際に組み込んだ『特権』だ」

 

「それに、四十六室の不在であるソウルソサエティ。 その間に少しでも良い時代を築けたいのも、ワシの我儘じゃよ。 ホッホッホ……どうしたチエ殿?」

 

 何処か空気か雰囲気が何時もと違うチエの様子に、山本元柳斎が声をかける。

 

「……私に務まるだろうか?」

 

「チエ殿は()()()()()でいれば大丈夫じゃよ」

 

「…そうか」

 

「だ、大丈夫ですよ! きっと!」

 

「桃?」

 

「ハゥ?!」

 

「ああ、公衆の場では『雛森』か」

 

「……わ、私が精一杯頑張って業務をしますし……ち、近くで仕えますし! だ、だから! ……だから…………」

 

「そうか。 それは心強いな」

 

「ハヒャ?!」

 

 チエが無表情のまま、雛森の頭を撫でると彼女が赤くなるまたも意味不明な声を出す。

 

「ホッホッホ、微笑ましいのぅ」

 

「??? 何の事だ、重國?」

 

「いやいや、こっちの話じゃよ。 のぅ?」

 

「うぅ」

 

 山本元柳斎のウィンクにモジモジする雛森。

 

「コホン! 山本隊長、『オフ』になっていますが?」

 

「ムムッ。 それはすまんかった……何せ右之助以外の旧知との再会でのぅ? それにワシが『師』と呼ぶ────」

 

「────それとこれは別の事です」

 

「……あ、雀部副隊長ってばもしかして嫉妬している?」

 

「んな?!」

 

 クルミの何気ない問いに雀部が驚く。

 

「あ~、これまで憧れていた総隊長が『他者に取られた』という感じですかね~?」

 

 リカが続く。

 

「まあ、それはさておき。 チエ殿と幾つか互いに条件を出しての? その一つがお主等の協力じゃ」

 

「「「「………………」」」」

 

「他の者から報告は受けいるぞ? 『槍術』に『天馬』に『鬼道の達人』……など」

 

 山本元柳斎が目を開けながらそっぽを向くカリン、ジーっと視線を見返すクルミとリカを見る。

 

「……」

 

 何も言わない彼女達に山本元柳斎が暫しの間を開けてから付け足す。

 

「お主等も感づいているかも知れぬが、瀞霊廷……と言うよりはソウルソサエティに住む者達は人間と比べはるかに長い(とき)を生きておる。 それ故か価値観や考えは一般的に長期的な物……ワシも人の事を言えんが、ようするに『頭の固い(頑固)者』ばかりが実権を握っておった」

 

 山本元柳斎の説明で様々な事を三月が脳内で想定する。

 

「(成程、つまり私達は停滞している『社会(尸魂界)』への『劇薬』の役割を求めている………『原作』ではあんなに堅物だった山本総隊長がこんなに変わっているなんて……)」

 

 実は山本元柳斎にはこれ等の上に、おとなしく牢に入れられた浦原の言葉が気になり、色々と手を回してでも急遽この機に物事を進める必要性を感じたからでもあった。

 

()()()。 僕から一つだけ忠告を。 チエさんもですが、()()()()()()()()()()()()()()()。 あの子からは()()()()()()()がします。 そして二人とも実力的に“不可解”としか言い様の無い所も』

 

 ()()浦原喜助が真顔で自分を『総隊長』と呼ばせ、上記の事を言わせる二人(特に『三月』と言う子)は何者だ?

 

 そんな疑問等が山本元柳斎の中にあった。

 

 その三月が少し考え込むような仕草をしてから山本元柳斎の顔を見る。

 

「分かりました、では────」

*1
第1と2話より

*2
第2話より




平子:……なんやねん、これ?

作者:……(汗汗

平子:おい、お前に聞いてるんやで? こっち向けや

作者:……(汗汗汗汗

平子:俺のポジション奪っとるやないけ?!

作者:そっちぃぃぃ?!?!?!?!

平子:アホ! それ以外に何ある思うとるんや?!

作者:えっと……色々? 右之助への合掌とか?

平子:今更やないか、このボケ

作者:相変わらず酷いよ?!


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第33話 “OBJECTION!”

お待たせしました!

サブタイトルは「異議あり!」と言う意味です。 『リーゼントポフポフ』で分かる人、いますでしょうか?

あと、なんとなくで『草』を入れてみました。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場所は本来、四十六室がいる筈の裁判廷。

 その中では隊長と出て来れない隊長の代理で来た副隊長達、及び『関係者』の姿があった。

 

『関係者』と言っても三月とチエ以外の『現世組』とルキアの姿は無かったが。

 

 そして部屋の中央に手枷をした浦原は光に照らされながら皆の前に立っていた。

 

「浦原喜助」

 

「はい」

 

「お主は朽木ルキアに対し、非人道的な人体実験を行った。 これは事実と相違ないか?」

 

「いいえ、その通りです」

 

「であれば、相応の懲罰を受ける事に異論はないという事か?」

 

「はい、ありません」

 

 これに数少ない人達の間でひそひそ声が聞こえて来たと同時に、三月は見逃さなかった。

 

 横目で自分の姿を捉えた瞬間、浦原の口角が若干吊り上がった事に。

 

「(あのへっぽこNOUMINモドキ野郎!!! こっち見てワザと弁解していないな? ほら、山お爺ちゃんもサプライズ(驚き)で片目開けちゃっているよ!!!)」

 

「カァン!」と、山本元柳斎が杖を床に突いて部屋を静かにさせる。

 

「これに対し、意見のある者はいないか?」

 

「「「「………………」」」」

 

 静けさの中で、一人の少女の声が辺りに透き通った。

 

「……はい、ここに御座います」

 

 声を聞いた浦原の目が満足そうに細められたのも一瞬で、次の瞬間に彼の顔は引きつっていた。

 

 意見があると言い出した少女の口以外が全く笑っておらず、()()()()()()()()()からだ。

 

 ___________

 

 三月、浦原喜助 視点

 ___________

 

 三月(少女)は感情を押し殺したまま、山本元柳斎と他の隊長達の前へと出る。

 

 否。 

 実際には『感情を押し殺した』のではなく、単純に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけの事。

 

 そんな三月が浦原を庇う様に、彼の前に立ったのは単なる偶然。

 山本元柳斎と、他の隊長達全員を見るにはその場所しかなかったからである。

 

「護廷十三隊の山本総隊長、そして隊長と副隊長の皆様方。 お初にお目にかかります。 私は三月・プレラーリ・渡辺と申します」

 

 紫色の背広風トップに白いスカートを着ていた三月はスカートの端を持ち上げて、頭を少し下げてから一礼する。

 

「(何でこんな日にイーちゃん(イリヤ)の服装を着る事にしたんだろ……まあ良いけど)」

 

 その堂々とした姿と行動は普段の彼女を知っている者からすれば「誰やねんお前?!」、と言うツッコミが今の状況下であっても可笑しくは無かったほど。

 

 完璧に『令嬢』の振る舞いだった。 

『西洋の』という免責条項付きではあるが。

 

「朽木ルキアに崩玉を埋め込み、知人達を騙した浦原喜助には私も後ほど個人の刑を執行する前提として────」

 

「────え、ちょ────ッ」

 

 何かを言い始めた浦原に三月は彼に振り返ると、浦原が黙り込む。

 

 余程恐ろしい顔を見たのだろうと、青ざめていく浦原の顔を見た数人はそう思った。

 

 三月は変わりない様子で隊長達に振り返る。

 

「そして同時に今現在、このような才を持つ者を牢に閉じ込めてしまうのは少々惜しいかと申し上げます」

 

「まさか貴様は奴を『無罪放免にしろ』とでも言いたいのか?!」

 

 声と体を席から浮かせた砕蜂を山本元柳斎が視線を送り、彼女がおずおずと座り直す。

 

「……どうかの、三月・プレラーリ・渡辺よ?」

 

「いいえ、それこそまさかで御座います。 相応の罰を受けるべきだと思っています────」

 

「────え、でも三ts────」

 

「────罰金や、現世永久追放や、それこそ霊力剥奪でも。 その罰が()()()()()()のであれば、その判定に異を唱えるつもりは毛頭御座いません」

 

 復活し直す浦原の言葉を三月が遮った。

 

「ですが状況が状況だけに、その刑罰に『執行猶予』などは如何でしょうか?」

 

「「「?!」」」

 

 隊長の数人が『執行猶予』と言う言葉にギョッとする。

 或いはニヤニヤと、三月の思惑を悟った者達。

 または?マークを出す者。

 

 ちなみに山本元柳斎は上から二番目のニヤニヤしそうな一人である。

 

「『執行猶予』…とな? して、期間はどのようにする?」

 

「はい。 猶予期間は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』で────」

 

 これを聞いた浦原本人は、笑顔を浮かべる。

 

「────その後は……そうですね、確か砕蜂隊長は現隠密機動の長。 ですので、彼女にお任せいたします。 浦原喜助を煮るなり焼くなり拷問なり、ご自由に♡」

 

「え」

 

 否。 浮かべそうなところで、浦原の顔が固まった。

 

 顔文字風で表すと、「(♪⌒▽⌒)」が途中で止まって「(!゜▽゜)」と成ったところ。

 

 言わずもがな、浦原は大量に汗を流した。

 

「では話を続けますが確か……皆さんが、()()()()()()()()()()()()をご存じの前提で────」

 

『魂魄消失事件』。

 その単語を聞いた瞬間、へらへらとしていた隊長は真剣な表情になる者もいれば、「何の事だ?」や「何故そんな事を今?」と疑問に思う者も居た。

 

 ただ頭の切れる者達は目の前の()()が『百年ほど前』と言った事に疑問を感じていた。

 

 浦原も、その一人の様子。

 

 何せ彼は今の今まで、三月を『滅却師モドキ』と認識していた。

 

 実際、彼女とチエの戦い方は『滅却師モドキ』と『死神モドキ』と呼ぶには理に適っていたのだからそう決めつけていたのに無理は無かった。

 

「────少し、良いか総隊長?」

 

「砕蜂隊長、発言を許可する」

 

「その……貴様は何故、『魂魄消失事件』を今話す?」

 

 三月は満面の笑顔を内心にだけ留めていた。

 

「その件に関しましては、もう一人の方、『四楓院夜一』も無関係ではありません。 何せその事件の所為で姿を消したのですから」

 

「何だと?! それは一体────?!」

 

────砕蜂隊長

 

「ッ」

 

「(あ。 何かお爺ちゃんに飼い慣らされた猫みたい)」

 

 山本元柳斎の言葉で砕蜂はまた黙り、その様子を三月は内心面白がっていた。

 

「(猫耳と尻尾付けてくれないかな~? ……先に夜一を説得しないと行けないわね。 今度マイに頼んで猫耳パーカー縫って貰おうかしら?)」

 

「……続けよ」

 

「(おっと、今は集中集中っと。) ありがとうございます。 百年前の『魂魄消失事件』では、当時の五番隊副隊長であった藍染惣右介の策略により強制的に虚化させられた隊長格十名を『処分』から救い出したのはここに居る元十二番隊隊長の浦原喜助。 元隠密鬼道集の四楓院夜一。 そして元鬼道衆総帥・大鬼道長の握菱鉄裁(つかびしてっさい)の三人」

 

「つまり、その三人は────」

 

「────はい。 冤罪でございます」

 

 これには流石の山本元柳斎も他の隊長達と共に動揺した。

 

 それはそうだろう。

 護廷十三隊から隊長格の実力を持つ者が一気に十三人ほど欠落した、今の現隊長である誰もが事件の名前だけでも知っているような大事件。

 そこで下された四十六室の判決が、実は冤罪だった。

 

 だが動揺はそこで止まらなかった。

 

「以上の三人、及び十人は冤罪を掛けられながらも()()()()()()、今も尚浦原喜助は彼らが存命するよう、研究を行っています」

 

 ここで一気に室内が「ワッ」となる。

 

「まさか、全員生きているのか────ウッ?! ゴホッゴホッゲホッ!」

 

 浮竹が身を乗り出しそうな勢いで叫び、咳き込む。

 

「はい、皆さん出来るだけ元気にしています」

 

「成程ねぇ~……あれも藍染の仕業だったと言うのかい?」

 

 目元がピクリと一瞬だけ動いた京楽が独り言のように問いかける。

 

「ええ。 双極の丘で彼がそう高らかに説明していましたと聞き及んでいます。 後()()()()()()()()()、京楽隊長」

 

 三月の言葉に京楽以外の殆どの者が?マークを出す。

「さっき、消えた隊長達は元気と言ったばかりなのに?」と言う風に。

 

 だが京楽の表情はスンと、彼が決して他人には見せない無表情な物へと変わった。

 

「…………………そいつぁ…………良かった……………本当に」

 

 京楽は俯いて、被っていた竹帽子の後ろに顔が隠れる。

 

 だがその後ろで一瞬光った、頬を伝う雫を三月は見た。

 

「(良かった。 リサちゃんの事、余程大事にしていたんだよね京楽さん。 『原作』でもその様な描写は確かあったと思うし……()()()()()()()()けど)」

 

 このような京楽を見た浮竹と山本元柳斎の二人もそう思った。

 

『元気に生きている』と知っただけで、死闘の中でも何時もの様子の京楽をここまで動揺させるのはかなりの異例の事である。

 

「先程申し上げました十三名は全員、必ず何時か謀反を起こすであろう藍染惣右介の行動に備えてきました。 その者達に百年前下された判決は冤罪。 そしてここに居る浦原喜助は『処分』される筈の被害者達を救い、あの藍染惣右介にですら一目置いている人物ですが────

 

 

 

 

 ────それでもまだ『実刑判決を下す』と事を急ぎますか?

 

 何時の間にか浦原の前に立っていたのは『少女』と言う言葉が似つかわしくない存在と、その時に誰もが感じた。

 

 その様はまるで、山本元柳斎のように二千年もの間生きて来た────否、()()()()()()()を生きて来た者の重みを持っていた。

 

「(全くもって、この子……いや、この者は恐ろしいですね。 以前、黒崎サンに『奥の知れない敵が一番怖い』と僕自身が言いましたが……いやはや、どうしてこんなにも()()()のだろうか?)」

 

 山本元柳斎の開けた口によって、沈黙がやっと破られる。

 

「……お主の言葉が真実と言う証拠は?」

 

()()御座いません。 ですが────」

 

 この時、浦原は見た。

 三月の口の笑みが若干深くなった事を。

 

 それはまるで()()()()()()()()()()()()()()()の様だった。

 

「────もし、万が一にも……億が一にも今、私が申し上げた話が本当であるのならば────

 

 

 

 

 ────ソウルソサエティのみならず、現世も滅びます」

 

 ここで意外な者が口を挟む。

 

「……三月・プレラーリ・渡辺と言ったか? 貴公は我々、護廷十三隊を見くびっているのではないか?」

 

 口を挟んだのは七番隊隊長の『狛村左陣(こまむらさじん)』。

 彼は人狼であり、以前はその姿を隠す為に虚無僧のような鉄笠や手甲を着用して顔や手を隠していたが藍染の謀反以来はやめた。

 

 そしてその昔、異形の容姿の所為で周りからは避けられていた。

 唯一の例外は狛村の初の親友となり、盲目でもある東仙要。

 そして東仙要にも『正義』がある様に、狛村にも『義』があった。

 

 それは孤独だった自分を、死神として拾ってくれた山本元柳斎への『恩義』。

 

 その山本元柳斎が設立した護廷十三隊が『浦原喜助無しでは藍染に勝てない』と、三月が遠回りに言った事に少なくない侮辱を感じていた。

 

 この事に腹を立てていたのは何も狛村だけではない。

 ただ先に口走ったのが彼だっただけだった。

 

「如何に強大な力を用いても、たかが元隊長三人。 我々が勝てぬ通りが無かろう」

 

「勝てませんよ、今の()()()()()()()()()()()では────」

 

「────な────?!」

 

 ────なんだと。

 

 そう狛村は言いたかったのだろう。

 

「────じゃあ聞くけど……誰か、()()()()()()かしら?」

 

 その場に居た皆が次に気付けば、三月は浦原の隣から狛村の背後に立ちながら()()()()()()()()を彼の首に射る寸前だった。

 

「ねえ? 誰でも良いから()()()か言ってみて?」

 

「私もその『誰でも』と言う枠に入るのであれば────」

 

「────入らないに決まっているじゃないチーちゃん♪ 彼らからすれば、貴方はまだ新参(部外)者なんだから」

 

「そうか」

 

「「「「「…………………」」」」」」

 

 そこに居たチエ以外の他の隊長達が全員黙り込んでいる中、三月はトテトテとした軽い足取りで浦原の傍へと戻っていった。

 

「(やはり()()()()であの動き……何かのカラクリがありますね、これは)」

 

 浦原が思っていたように、三月の今の動きに誰もが()()()一切感じ取れなかった。

 

 熟練の死神であればある程、『()()()()を戦闘中に瞬時に出来なければ行動が後手となり負ける』というのが『()()』。

 

「ほらね? こーんな()()()()がその気になれば貴方、死んでいたわよ? 『固定観念』が強いから」

 

 そこに居た死神達は紛れもなく、全員が場数を踏んできた熟練者。

 

 それ故に『急変化には滅法弱い』という事を三月は今、小さな例ながら隊長達に見せつけた。

 

「どう? 浦原喜助?」

 

「……やはり()()ですね。 ()()僕では残影を捉えるのがやっとですよ」

 

「まぁ、私が出来る事なんて藍染惣右介に比べれば微々足るもの。 それに彼は()()()()で貴方達、護廷十三隊を意のままに操って翻弄したのをお忘れですか?」

 

「『始解だけ』で……だと?」

 

 そう呟いたのは誰だろうか?

 それ以前に誰が信じられるだろうか?

 

 無理もない。 

 もしそれが本当の事だと言うのなら、『藍染惣右介は四十六室を完全に再現しうる幻覚』という能力を、卍解ですらない状態で持つ事を事実として認める事となってしまう。

 

 だがここで意外な人物達がその事実を肯定した。

 

「その者の言う事は事実だ。 現に私は既に体を奴に刺されていても、藍染が術を解くまで()()()()()()()()()。 奴自身にも、奴に攻撃されたのも」

 

「……俺もだ。 『清浄塔居林(せいじょうとうきょりん)』で発見して、アイツと対峙した時だ。 俺は確かに藍染を『()()()()()()()()()』。 そう思った次の瞬間、気付いたら俺は攻撃をしたどころか地面に伏せながら既に死にかけていた」

 

「そして私と勇音がその時に駆けつけた際にも、その術の片鱗を実際に藍染は高らかに説明していました。 その能力は『完全催眠』。 『五感と霊圧すべてを支配し、敵に誤認させる事が出来るというモノだ』と」

 

 重症とは言え、無理を言って浦原の裁判に参加した白哉と日番谷、そして彼らの容体が悪化しないように医者として付き添った卯ノ花が自分達の実体験を話す。

 

 冗談をこんな時に絶対言わない堅物の隊長三名の証言は重かった。

 

「ならば、それさえ知っておれば────!」

 

「────無駄な事です、狛村隊長。 彼の創り出した死体を皆さんはもうお忘れですか?」

 

「ぬ、ぬぅぅ……」

 

 狛村だけでなく、藍染の能力を疑っていた皆が黙る。

 

 何せ彼ら全員が『目の前の死体は確かに藍染隊長だ』と認め合っただけに、この事実のインパクトも大きかった。

 

『藍染の能力は知っていても現段階での護廷十三隊には対抗策が全く無い』。

 

 その()()に誰もが痛感した事に三月は内心、ほくそ笑んでいた。

 

「……(計画通り)」と言わんばかりの様な、何某漫画の主人公のように。

 

 後は手に黒尽くめのノートさえ持っていれば……

 

 いや、体型があまりにも違うので無理があるだろう。

 

「浦原喜助。 何か付け加える事はありませんか────?」

 

 ────例えば崩玉の事とか♪

 

 三月がにっこりとした笑顔(営業スマイル)を浦原に向けると、最後の方を空耳のように聞こえた気が浦原にはした。

 

「……はぇ……あ、ハイ」

 

「………浦原喜助、発言権をお主に与える。 申せ」

 

「ハイ。 此度の藍染の行動、『崩玉』という物の奪取です。 これには『死神と虚の境界を崩す玉』と言う意味合いで『崩玉』と、僕は呼んでいました────」

 

 ────崩玉の事と、それに纏わる事件や出来事などを浦原は説明していった。

 




作者:ハァ~……やっぱ慣れない事はやらない方が良いのかな? ……まあ駄文とかはこれでも気を付けているけど慣れない作品と原作知識だしブツブツブツブツ……

ライダー(バカンス体):何なのだ、これは?

作者:ああ、いやその……この辺のプロットを書いていた時の自分って『逆転裁判』と言うゲームに凝っていまして、ハイ

ライダー(バカンス体):ほ~ん……バリバリバリバリ

作者:ああ……お煎餅がポテチのように減っていく~

ライダー(バカンス体):余もやってみるか!

作者:え? 『アドミラブル大戦略』とは違うジャンルですよ?

雁夜(バカンス体):まあつまり『面倒くさい』ってか?

桜(バカンス体):ふ~ん……つまんないの

雁夜(バカンス体):だよね~、桜ちゃん♪ ほら、こっちに羊羹が────

作者:────あ! それはとら〇の! てか切り方が雑で分厚い! 子供には硬いからやめとけって! と言うか高いものを明らかに狙って食い荒らすんじゃねぇぇぇぇぇ!


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第34話 お約束のHARISEN

少々短い話ですが、キリが良かったので……


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 結果的に、浦原喜助は『一時釈放』。 

 彼と四楓院夜一の両名、そしてこの場に今は居ない鉄裁(テッサイ)の百年前の罪も完全に冤罪であったと認められた。

 

 まあ四十六室(五月蠅いアホ共)が不在というか機能すらしていないので、あの演説の少し後にとんとん拍子に進んだ事もある。

 

 更に付け加えれば三月と浦原の二人が語った話が合理的、かつ整合性も備えていた物だったから。

 

 偽りの語りだったにしては手が込み過ぎていて、他の者達の話や報告を総合すると信じない方が難しくなっていった事もある。

 

「これにて、隊首会を終了とする!」

 

 山本元柳斎の宣言で、裁判は終わりを告げた。

 

 隊長達がぞろぞろと出る中、京楽に浮竹が小声で話しかける。

 

「どう思う、京楽?」

 

「ありゃあ、山じいも一枚噛んでいるね。 でなきゃ、あれ程場が滑る様に流れる事は無いさ」

 

「やはりお前もそう思うか………だが何も悪い(きな臭い)事ばかりではない」

 

「そうだね。 少なくとも『得体の知れない者』が()()訳だし」

 

「……………()()の事か」

 

 京楽と浮竹が見ている先では、無表情のチエに山本元柳斎が話しかける場面があった。

 

「…………本当に山じいの師匠とその()()なのかね~? だとしても────」

 

「────ああ。 奴等の行動()()、注意せねばあるまい」

 

「ま……僕達以外に彼らを注目しているのは山じい以外にもう一人、居るんだけれどね」

 

 丁度その『もう一人』がそそくさとその場を離れようとした三月をネムに捕獲さ(首根っこを掴ま)れた。

 

「捕獲、成功」

 

「うわわわわわ?! な、な、何よ?! (デジャヴ感、半端ないよこれ?!)」

 

「少し良いかネ?」

 

 ここで今までずっと黙っていた涅マユリが初めて口を開けた。

 

「いや『少し良いかネ』も何も、こんな状態で────」

 

「────君は()()かネ? さっきの霊子で出来た弓矢といい、異常な移動方法といい……明らかに『滅却師』に似た技だが、決定的に違うようだガ?」

 

「(Oh。 超々々々々面倒臭い奴にも目を付けられちゃったよ……私の頭、アンパンで出来ている訳じゃないけどさ)」

 

 マユリがニィーっと目を細め、満面の笑顔になる。

 

()()()ね、キミ。 実に()()()────」

 

「────あー、そこまでにしてもらえますか涅サン? 彼女は僕の大事な助手なので」

 

 明らかに聞こえる歯ぎしりをマユリがしながら後ろから来る声の持ち主、浦原に振り向く。

 

「ほう? 浦原喜助の『()()』とはネ。 私に少しばかりの間、『コレ』を貸して貰えないカ? 丁度────」

 

「────彼女が同意すれば、ですが♪」

 

「おい貴様────……………………………ネム? 奴をどこへやっタ? と言うか()()()は何処から出したのだネ?」

 

 マユリが再度振り向いて見た光景はモグモグと口を動かしながら、両手でお皿に乗った苺ショートケーキをフォークで食べていたネムの姿。

 

 そして彼女の頭の上にはもう一セット(ケーキとフォーク)

 

「あの子が『どうぞ』と言い、私にお皿とフォークを二セット程渡されました」

 

「……………………………はイ?」

 

 実をいうと、浦原はこれを面白ながら見ていた。

 自分がマユリの注意を引いている間に、三月が()()()()()からケーキのお皿二つを取り出していたのを。

 

「………………ネムよ。 君は一体、今何をやっているのかネ?」

 

「ケーキを食べています、マユリ様」

 

 マユリのこめかみに青筋と血管が浮き出る。

 

「そうではn────ムグッ?!」

 

 ネムがほぼ無理矢理にマユリの口にケーキの一切れを入れ、彼は衝動的にそれを飲み込む。

 

「………………………」

 

 暫しの撃沈後、マユリの両目が『カッ!』と力強く見開く。

 

…………………………あらやだ美味しいよこレ

 

「頭の上はマユリ様の分だそうです」

 

「………………………………………………………………ふん」

 

 マユリは鼻で笑いながら軽蔑する表情を浮かべるも、彼の手はネムの頭の上でバランスを保っていたお皿のケーキを取り、彼がそれを食べ始める。

 

「モグ────これで────モグ────逃すと────モグ────思うとは────モグ────笑止! フゥ~ごちそうサマ……ネム! 奴を追うゾ!」

 

「マユリ様、頬っぺたにクリームが付いております」

 

「(ほんと……なんと言う者だよ)」

 

 浦原が込み上げる笑いを堪えながらプルプルと体を震わせて、お腹を押さえる。

 

 彼の前では()()何時もと違う様子のマユリの頬をナプキンで拭くネムの姿だった。

 

 

 

 その頃、元四十六室用の敷地外へと出た白哉に付き添っていた恋次の二人を迎えに来たルキアの肩は後ろから掴まれた。

 

「ル~キ~ア、ちゃん♡」

 

「んあ? オメェは────い゛い゛い゛?!」

 

 ルキアの後ろから聞こえた()()()声で声の持ち主を見た恋次が青ざめ、歩みを止める。

 そしてその彼女は振り向くのを躊躇した。

 

 声が余りにも『陽気』だったのと、恋次の反応の所為である。

 

 だが肩が掴まれたままなので振り向かない訳にもいかず、とうとう後ろを見ると目だけ笑っている三月が眼前に居た。

 

 怒りの青筋を無数に浮かべながら。

 

「ヒィ?!」

 

 右手には巨大なハリセンを。

 左手にはルキアが()()()()()()()を。

 

「『これ』を忘れたとは言わせないわよ~?♡」

 

 無数の汗がルキアの体中に吹き出してダラダラと流れ、これを見た恋次&白哉は?マークを出す。

 

「??? (何だぁ? あの手紙???)」

 

「何だ、その文は?」

 

「そ、それは! まさか────!」

 

「────えー、コホン。 世話になった。 すまぬ────」

 

「────あわわわわわわわわわわ────」

 

 焦るルキアを無視して三月が声に出して読み始める。

 

「『────訳あって(ルキア)は出ていく────』

 

 それはルキアがソウルソサエティに連れ戻される日、渡辺家に置いてきた手紙だった。*1

 

 手紙の内容は謝罪と、ちゃんとした別れを言えない後悔と、楽しくて暖かい日々を現世で送れた事への感謝。

 

 等々と言った、ルキアからすればかなり恥ずかしい内容ばかり。

 

 その彼女がみるみると恥ずかしさのあまりに真っ赤になるのをいい気に、三月はルキアの声や口調を真似し始める。

 最後の方の文章までなるとルキアは顔を両手で覆ってただ叫びながら地面をゴロゴロと回った。

 

あああぁぁぁぁぁ!いやあああぁぁぁぁぁ!────」

 

「────すまぬ。 誠にすまぬ。 出来ればこのような形で────」

 

「────きゃああぁぁぁぁぁ!!!あああぁぁぁぁぁ!

 

「────…………………」

 

「────プ……ク…クククク」

 

 情に流されるこの様なルキアを見た事も、聞いた事もない白哉は唖然としている隣で、恋次がお腹を押えながら笑いを堪えていた。

 

『朽ち木家の令嬢にあるまじき姿』という思考が、両名の頭から抜け落ちる程の出来事。

 

 遂に手紙を読み終わった三月が最後には頭を抱えて思考放棄をしていたルキアを立たせる。

 

「よーし! 歯を食いしばって♡」

 

「はへ────?」

 

 バシィン

 

 握られていたハリセンがルキアを真上から彼女の頭部に直撃する。

 

「────お゛お゛お゛お゛お゛お゛?!」

 

 今度は痛みに彼女は頭を抱え、唸り声を上げる。

 

「今のは私達と、一護達の分よ!」

 

「……い、いやその…本当にすまぬと────」

 

「────はい! 謝るのをやめる! さっきので終わりよ! 以上!

 

「何時に増しても強引だなお前は?!」

 

「いや~それ程でも~」

 

「褒めておらん!」

 

 このコントに耐えられなかったのか、恋次は遂に笑いを声に出し始める。

 

「ギャハハハハハハ────!」

 

「────恋次もそう大きく口を開けて笑うでない!」

 

 ゴンッ!

 

 ルキアがジャンプで段差を付けて、拳骨を未だに笑う恋次の頭にお見舞いする。

 

「イデェェェェェ?! 俺は病み上がりだぞルキア?!」

 

「知るか!」

 

 そしてそのお陰で恋次の頭から血が再度出始めたのに気付き、手でそれを押さえる。

 

「あ、やべ」

 

「少しは血抜きをして落ち着け、この馬鹿者!」

 

「ホー、痛そうね~」

 

「「誰の所為だと思っている?!」」

 

「……………」

 

 白哉はただ静かに見ている事しか出来なかった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「それでお前、白哉と恋次達の前でルキアの置き手紙を声に出しながら読んだ挙句にハリセンで一発叩いたってのかよ?」

 

「うん♪」

 

「鬼かテメェは?!」

 

「エヘヘヘ~♪」

 

「これで夏梨()の性格に納得いくぜ……お前から見習っていたのかよ?!」

 

「……え? そ、そうかな~?」

 

 上記の後、三月は何とか更木から逃げおおせた一護、休んでいた茶渡、破れた滅却師の装束や現世組の衣類の修理をしていた雨竜にざっと事の説明を右之助の屋敷でしていた。

 

 最初はどの隊の詰め所に泊まればいいのか迷ったが、ちょうど右之助が居たので彼に面倒事 無関係で信用できる彼の所に一護達は泊る事に。

 

 織姫と言えば相変わらず兄の昊とクルミの三人で出かけていた。

 

「……容赦ないな、ミーちゃんは」

 

 茶渡がどう声をかけていいのか迷った挙句の第一の声が上記の一言。

 

「……と言うか……その………渡辺さんの家族も来ていたんですね?」

 

 雨竜が遠慮がちに茶渡の言葉に便上する。

 

 彼らにはカリン、リカ、ツキミ、クルミの事も三月は説明していた。

 手助けに来た『()()』として。

 

「もうここまで来ると、お前の家族全員が化け物じゃねえの? お前自身もだけど」

 

「普通は十年間かかると言われる卍解をたった三日間で会得した一護に言われたくない」

 

 意趣返しでそう言った三月に二カッと一護が明る(嬉し)く笑う。

 

「じゃあ化け物同士だな、俺達って!」

 

「はへ。(ま、眩しい! 無邪気な顔が眩しい! 義兄さんに似ている!)」

 

「……というかチエはどうしたんだ?」

 

 茶渡の質問に他の皆が同じ疑問を浮かべ、三月の顔が引きつく。

 

「あ、ああ……チーちゃんは『臨時隊長代理』に────」

 

 「「「はぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?!?!」」」

 

 三月の説明にその場に居た男三人が驚愕の声で叫び、四番隊の総合詰め所の看護婦達が何かあったと思い、慌てて部屋に入ったら気を失いそうな男性三人に苦笑いを浮かべている少女が一人、居ただけだった。

 

 何ともシュールな場面なのは言うまでもない。

 

*1
第18話より




マイケル:短いなオイ?!

作者:だって……キリが良かったから。 と言うか久しぶりだね?

マイケル:お前の所為だろうが?!

作者:いや、このまま『俺と僕と私と儂』を続けるのかリメイクするのか迷っていて────

マイケル:────リメイクする気あるのかよ?!

作者:まあ……処女作出しプロット自体、かなり若い頃に作ったものをそのまま使ったわけだし……


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第35話 Wake Up Call

キリが良かった所まで書いたので連日投稿です!

勢いがある内にとは言ってない ←今言った(汗

……疲れかな?


 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

 三月がチエの事を右之助の屋敷にて説明している間、当の本人は五番隊舎にいた。

 

「この度、『臨時五番隊隊長()()』として任命された『渡辺チエ』だ。 よろしく」

 

「お前、少しは愛想良く挨拶出来ねえのかよ?」

 

「???」

 

「か、カリンさんもですけど────」

 

「────うっせ、『メロンパン』」

 

 副隊長の雛森に隊員たちが五番隊の隊舎広場に集められた前で白い隊長の羽織をしたチエが悠々と、ポカンとする隊員たちに何気ない口調のトーンで自己紹介をして、雛森とは反対側に居たカリンが何時もの様子(平常運転)のチエに声をかける。

 

「「「「………………………」」」」

 

『シーン』と言う効果音通りに静かなまま、五番隊員達の視線が雛森と彼女の隣に居る部外者(カリン)へと移る。

 

「あ、えと…………皆は色々あったのを知っているよね? それで空いた隊長と────」

 

「────あの、雛森副隊長? これって何かの冗談ですか? でしたら悪趣味ですけど」

 

 一人の隊員が困惑した表情で問う。

 

「いや? 冗談を言ったつもりは無いが?」

 

 チエの答えに他の者達がザワザワし始める。

 

「えっと、確か、山本総隊長からの書状が……あった!」

 

 雛森が懐から出した物には山本総隊長のお墨付きで現状況の戦力低下を補う為と()()()()()()()()()()()臨時派遣された山本総隊長の『古き良き友人とその知人』としての紹介等が書いてあった。

 

「「「「隊の活動向上?!」」」」

 

「ああ、ちなみにオレはカリン・プレラーリ。 (いくさ)の顧問────」

 

「────で、ですが我々はちゃんと流魂街の見回りに取り組んでいるぞ────!」

 

「────そうですよ! それに、ちゃんとどんな状況にも応じられるように三、四人一組で常に任務に出ていて────!」

 

 ワイヤワイヤと五番隊員達が一斉に驚きと抗議で騒ぎ出して、カリンを遮る。

 

「み、皆落ち着いて────!」

 

 雛森の声が明らかに不満を持って騒ぐ者達に掻き消される。

 

 そして────

 

「────何処の馬の骨とも知らない奴に隊を任せるなんて、総隊長や副隊長は何を考えt────?!」

 

 ────ドンッ!

 

 そして更に大きい衝撃音で皆が黙る。

 見るとチエが鞘に入ったままの刀を地面に()()()()()

 

『突いただけ』と言っても、鞘に入った刀が地面に亀裂を入れる事無くめり込んでいたが。

 

 どこぞの弟子(総隊長)の様だった。

 

「……私は『ここに居る者達の言の葉を理解出来る』等と言うつもりは無い。 『何処の馬の骨』とやらも不定はしない。 実質、我々は会って間もない間柄だからな。 だが────

 

 

 

 

 ────『重國』や『雛森』に対する侮辱は断じて許さん

 

「「「「………………………???」」」」

 

「あ。 皆知らないかも知れないけど、今のは山本総隊長の名前です」

 

「「「「………………………ッ?!」」」」

 

 雛森の説明に五番隊の皆が息を飲み込んで、チエを疑惑の目で見る。

 

 ()()山本総隊長を下の名前で呼ぶ。

 しかも呼び捨てでとは一体────?

 

「────付け加えると、私にそう呼んでくれと頼んだのは他でもない奴だ。 『共に知らない仲ではないから昔の様に呼んでくれ』、とな」

 

「「「「………………………」」」」

 

 困惑している五番隊の中で一人、手を上げる男性の死神が居た。

 

「何だ?」

 

「あ、えっと……その……あー」

 

 男性はしどろもどろになりながら目が泳ぎ、何かを察したのかチエが口を開ける。

 

「……『渡辺チエ』だ」

 

「カリンだ」

 

「あ、ありがとうございます。 渡辺()()達は山本総隊長の知り合いか何かですか?」

 

「ッ?!」

 

 この言葉遣いに五番隊全員がザワッとして、雛森は「信じられない」と目を見開きながら息を素早く吸い込む。

 

 護廷十三隊の中で五番隊は瀞霊廷の他の隊、及び流魂街の住民達の間では『穏やかな雰囲気の隊風で、常に隊士仲が良くて所属隊士の能力が高い』と認知されている。

 

 十一番隊のようにゴロツキの集まりでも、六番隊や二番隊の様に軍隊染みた厳しさでも、変人や個性的な集団の十二番隊のどれとも違う五番隊の空気はどちらかというと『アットホーム』的な、十三番隊の様な『友の集会』に近かった。

 

 そんな隊の雛森からすれば急とは言え、山本総隊長から直に『臨時隊長代理』に指名された隊長(チエ)に対して表上だけでも端から全く敬意を払おうともしない言動に、彼女の心はかなり揺さぶられていた。

 

「ああ。 ()()()()()()()()()()()()()な」

 

 チエは態度も口調もトーンも何も変えずにただ答えた。

 まるで『気にしない』とで言いたいように。

 

「………………は?」

 

 誰が先にそう言ったのかはわからない。

 取り敢えずはあんぐりと口を開けていた隊員の内の誰かだろう。

 これを見ていたカリンの顔はニヤニヤと、面白おかしい笑顔になっていた。

 

「えっと……渡辺()()山本総隊長弟子ですよね?」

 

 さっきとは違う隊員が今度は手を上げずにただ聞く。

 

「いや? 今ほど老けていない頃、奴に私が教えていたが?」

 

「「「「………………………え」」」」

 

 ショックに今更ながら考えが追いついたのか、今彼らの目の前に居る者は確かに『自分が山本総隊長の指南役をしていた』と言ったのだ。

 

「だが今はそんな事よりここに居る全員、今から私に斬りかかって来い」

 

「ヒュー♪ かなりの思い切りだなオイ」

 

「だがこれが一番手っ取り早いだろう?」

 

「だな♪」

 

「え?! ちょ、チエさ────じゃなくて渡辺隊長にカリンさん────?!」

 

「何時も通り『チエさん』で良いぞ雛森副隊長。 無理はするな。 彼女を頼む、カリン」

 

「あいよ。 んじゃ、『メロンパン(雛森)』はこっちへ────」

 

「────へ? あ────」

 

 チエが優しく雛森の肩に手を添えて、カリンが雛森を離れさせてからチエは呆気に取られている五番隊員達を見渡す。

 

「……どうした? 誰も来ないのか?」

 

「え、いや……だって────」

 

「────ああ。 ()()()()()()()()()()()()が、別にお前たちが私を殺すつもりで掛かって来ても良いぞ。

 

 

 

 

 どうせ腑抜けているお前達では()()()()だろうからな。 良くて『攻撃が当たった』程度……と言ったところか?」

 

 チエの声のトーンも表情は今までずっと変わらず、どちらかと言うと『格下を見る』と言った余裕の表しと間違えられるほどの上に、こうも()()され続ければ二百人弱の隊員達の内、一人や二人ぐらいは『イラッ』とするだろう。

 

 そしてそのイラついた者達でも、行動に出たのが男性ニ名と女性が一人。

 

 その三人の中で一番体格の良い、ショートの黒髪黒目の男性が喋り出す。

 

「あー、渡辺()()だっけ? オレは三席の平塚正吾(ひらずかしょうご)。 アンタが隊長代理に決められる程強いとして、俺達全員の攻撃が『()()』って言うのは流石に失礼じゃないか?」

 

「何を言うかと思えば……私は事実を言ったまでだが?」

 

 またも()()され、平塚の後ろに居たボブカット茶髪の髪と目の色をした女性がムスッとする。

 

「……私達が────!」

 

「────良いからさっさとかかって来い」

 

「後悔するなよ! 叫べ、『怒木(いかりぎ)』!」

 

 チエの言葉に遂に始解をする平塚に続く他の二人。

 

「禁じよ、『禁門(きんもん)』!」

 

「遅れろ、『往時(おうじ)』!」

 

 ボブカット茶髪の髪と目の色の女性と、青のかかった髪の毛と目の色の男性が声を上げ、それぞれの斬魄刀の刀身が形状を変える。

 

 そこでチエが何かに気付いたかのように口を開ける。

 

「ああ。 先にそこの二人の名を聞こうか?」

 

「……櫃宮佐奈(ひつみやさな)。 四席よ」

 

「僕は田沼時宗(たぬまときむね)、五席です」

 

 平塚に続いたのは同じ席官である『櫃宮佐奈(ひつみやさな)』四席と、『田沼時宗(たぬまときむね)』五席だった。

 

 

怒木(いかりぎ)』は陽炎のように揺らめき始め、『禁門(きんもん)』の刀身はカギの先端部分みたいにギザギザの(あるいは欠落した)形になり、『往時(おうじ)』は大きな針を思わせる形状に。

 

「……(成程。 ()()()()()か)」

 

 そんな様子のチエを未だに『余裕』と取った三人は素早く櫃宮、田沼、そして最後に平塚の順に、『一瞬』とも呼べる連携攻撃を仕掛ける。

 

 その姿は誰もが見ても長年、共に生きて来た呼吸の合ったモノだった。

 

「「「なッ?!」」」

 

 そんな三人の目が見開かれる。

 

「悪くは無い動きだ」

 

 チエは三人の斬魄刀を避けるどころか、櫃宮の斬り込みを受けて他の二人の刀身を()()()掴んでいた。

 

「霊力を乱す『禁門』に、体感を遅れさせる『往時』、そして感情を取り込んで能力を上昇させる『怒木』。 確かに良い連携の波状攻撃。 だが────」

 

 チエが消えたと思った次の瞬間、彼女は平塚と田沼の背後に回って二人の後頭部を鷲掴みにして、互いの頭をぶつけさせて意識を刈り取る。

 

 ゴリッ。

 

「「────ガッ?!/グァ?!」」

 

「『感情』に迷いが生じればその瞬間に効力は極端に落ちる。 体感が遅くなればその分、()()()()()()()()の事」

 

「平塚君、田沼君?! このぉぉぉぉぉ!」

 

 櫃宮が倒れる二人に多少ショックを受けながらも、斬魄刀を再度チエに振るう。

 

「えっ?!」

 

 だがチエは避けずに、今度は彼女の斬魄刀の刀身を平塚と田沼同様に素手で受け止める。

 

「お前の斬魄刀は『斬る』というより『叩く』、あるいは『破る』と言うような形状に適している。 ならば変に動かず、正面から受け止めればいい。 見たところ、今のお前の腕力は知れているからな。 それに霊力を乱されても()()()()()()相手にさほど意味は無い────」

 

 ドン。

 

「────カッ?!」

 

 斬魄刀ごと櫃宮を強引に引き寄せ、彼女のお腹にチエの拳が強打すると櫃宮も意識を失う。

 

 ちなみにこの三人、連携戦術を中心としている五番隊の中でも強者と認定されていた者達。

 

 そんな彼らが一瞬で返り討ちに会った。

 得物(武器)も使われず、素手の相手に。

 

「この様に、どれだけ良い連携をしても敵わない相手に、お前たちには『決定打』が無い。 それに状況の急変化に滅法弱い。 これで多少、自覚は出たか?」

 

「「「「………………………」」」」

 

 五番隊は確かに護廷十三隊の中でも十三番隊のように隊士仲が良くて所属隊士の能力が高いと言われ、死神業も隊全体がちゃんとしているのも事実である。

 

 だが()()()()『取り柄』と言う物が無いのもまた事実。

 

 しかも『所属隊士の能力が高い』と言うのは上記での『連携』を前提での事を指していた。

 つまり、個々の能力は『平凡』で、突出した明らかな『強みが無い』隊士が殆ど。

 

 そんな彼ら彼女らを率いていた者が『藍染』だったからこその影響でもあった。

()()()()()()()()()()()()()()()』という事で。

 その中でも副隊長の雛森の鬼道が異例であるほどだった。

 

「お前たちの個々の能力は()()。 実践などをこなしているだけ、『四番隊より上』と言うところだ」

 

 チエの隠そうともしない、明け透けで酷い指摘に五番隊は唖然とした。

 

 余りにも彼ら彼女らが知っているどの『隊長』とは違い、ズケズケとした物言いだった。

 

「『流魂街の見回りに取り組んでいる』? 

『ちゃんとどんな状況にも応じられるように三、四人一組で任務に出ている』? 

 大いに結構。 

 だが()()()()()()()? 

 当たり前の……『義務』である事を、誇らしく思いながらそれを高らかに声に出す者は『自分達は他に何も出来ない』と言う事実から目を背けている、自己満足者の戯言だ」

 

「「「ッ」」」

 

 この言葉には雛森でさえも他の隊員達同様に息を吸い込む。

 

「雛森」

 

「ッ?! は、はい?!」

 

「四番隊の救護班を私は呼びに行く。 三人に怪我は無い筈だが一応念の為に、な。 後────」

 

 チエが周りの死神達を見渡す。

 

 呆気に取られている者。

 困惑している者。

 不満を抱えている者。

 

 等等々と言った眼を見返す。

 

「────私は一応『臨時の隊長代理』だが、称号で呼ばれなくとも別段構わない。 だが隊を任されたからには任を全うしようと思っている。 なので、先ずはお前達全員を『強くする』事から始めようと思っている。 カリン、引き続きを頼む」

 

「あいよ。 よし! お前らの名前と特技か好きな物────!」

 

 それを最後に、チエがその場から隊舎の出る方向へと歩くと自然と隊員たちが道を開けていった。

 

 外に出たチエは隊舎の入り口付近の壁に背を預けていた日番谷の横を通る。

 だが彼に声が掛けられる事でその歩みを止める。

 

「……おい」

 

「何か、日番谷隊長?」

 

「少しやり方が過激だったんじゃねえか、渡辺隊長代理?」

 

「……『半端な強さなど無いに等しい』と、私なりに伝えたつもりだが?」

 

 チエが歩き出すと、日番谷は溜息交じりに頭を掻きながら口を開ける。

 

「お前、もう少しやり方を変えていたら────?」

 

「────今のままでは必ず死人が出る、遅かれ早かれな。 もし奴らがこれで私を『悪』と見なし、強くなるのなら私は進んで『悪』と言う肩書きを背おう。 隊長()()だからな」

 

「……お前……」

 

 日番谷はただ歩くチエの背中姿を見送り、見えなくなった頃に自分の手を見る。

 

「『半端な強さなど無いに等しい』……か」

 

 日番谷は当初、五番隊の立ち直りの手伝いに来た────

 

 

 

 

 

 ────と言うのは建前上で、本当は五番隊(雛森)の事が気になっていた。

 

 何せ総隊長の無理通しがあったとは言え、『謀反者が率いていた隊』という所為で腫れものを見ているかのような目で、五番隊の隊員達は見られていた。

 

 瀞霊廷でも、流魂街でも。

 

 これは流魂街の見回り中、少なくとも謀反者の主犯らしき藍染が率いていた五番隊全員の事情聴取が行われている間に彼らの管轄業務を一時受け持った死神達の愚痴を盗み聞きした内容が、流魂街の住民達の間で噂は瞬く間に広がっていった。

 

 この事もあり、五番隊の者達は肩身の狭い思いをしていた。

 同じ謀反者が隊長であった三番隊と八番隊以上に。

 

 だが隊長代理(チエ)はそんな彼らを慰めるどころか、裏表の無い指摘をして五番隊全員の集中が自分達へと行くように、嫌われ者の役を取った。

 

 そして部外者である顧問(カリン)は隊士全員の名と特技や好物等に一言。

 

 そんな打算が二人に有ったのか無いのかは不明だが、日番谷はこれを『飴と鞭』の様に取っていた。

 

 護廷十三隊で最も歴が新しい彼は、尊敬できる存ざ────

 

「あれ? 日番谷君?」

 

「……雛森、お前の()()……凄いな」

 

「うん、そうだね」

 

「……………ち、やっぱ気に食わねぇ」

 

 ────訂正。 『尊敬』では無く、別の何かに変わった。

 

 ほんのりと紅くなった頬に手を添えて何処かウットリとする雛森の顔を見て、日番谷は舌打ちをしてこめかみに青筋を浮かべながら苛ついた。

 

 

 そんなチエが一人で四番隊の総合詰め所まで来たのが珍しかったのか、最初は本人かどうか疑われていたが、その場に居合わせた(ゲッソリとした)右之助のおかげで疑いは晴れた。

 

 救護班が出るのを見届けたチエに、右之助が傷薬を手渡す。

 

「ほれ、お前さんの分じゃ」

 

「……私は────」

 

「────()()()()でなくとも、小さな傷が悪化するのはよくある事。 持って行け」

 

「すまんな。 重國には私から言っておく。 事後処理が大変なのだろう?」

 

「いや、それは大丈夫じゃ。 何せ貴族達への謝罪訪問を山坊に押し付けたからのぅ、フハハハハハ! あんなクソ面倒臭い連中への訪問より、書類方面を担当する方がよっぽど楽じゃからの!」

 

「本音は?」

 

「所謂、『面倒事(書類)を勝手に押し付けて様あ見ろ』じゃ!」

 

 右之助がその日の()()を京楽と共に終えて(と言うか副官の七緒に強制終了されて)、屋敷へと帰った瞬間にストレスがピークに達していた山本元柳斎に右之助が殴られるまで約16,076秒。

 

 そしてそのまま殴り合いに発展した二人を見てオロオロとした家の者達と一護達の前で、彼と山本元柳斎を『近所迷惑だ、戯けども』と言う言葉と共に二人を沈黙化さ(に拳骨を食らわ)せるチエまで約16,391秒だった。

 




作者:あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、菓子パン食べたい~

ツキミ: だったら買ったらええがな

作者:面倒臭いしこの頃運動不足でふにゃっとして────

平子:────『ふにゃ』ってなんやねん。 気持ちわる

作者:ガリガリの平子さんに言われたくない

リカ:BLEACHの小説出ていたの知っています? そこに五番隊の三席が────

作者:いやまあ、超最近に聞いた事がある程度だけど……読んでいないし、今更読んでプロットの急変化やシナリオを影響されてもなぁ~……

平子:本音は?

作者:買って今から読むのが面倒くさい

ツキミ:アホくさ

石和厳兒(小説):出番が……


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第36話 The Newbie

お待たせしました、次話です!

今更ですが、独自解釈やご都合主義などが増えます。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 時は丁度チエが自分を自己紹介した後、チエが五番隊の者達を煽って攻撃してきた複数の席官を返り討ちにしたという噂が瀞霊廷で広まり始めた頃。

 

 と言っても、噂が瀞霊廷内中に広がるのにさほど時間は掛からなかったが。

 

 場所は一番隊の隊長室で数々の書類を処理する作業に一段落して頭に包帯を巻いた山本総隊長と雀部の居る所に、同じ『休憩中』(実はサボりなのだが毎度の事)の京楽がお邪魔していた。

 

「珍しいのぅ、右之助が不在な時にお主が自分でここに来るなぞ。 しかも副官()を連れておらずに」

 

「まぁね~……時々あの子も一人にさせたいからね。 そういえば山じいはもう聞いたかい? アンタが推薦したあの子達、結構やらかしちゃっているよぉ~? 何せこの僕にまで噂は届いちゃっているんだから」

 

「ホッホッホ、()()()()で何よりじゃわい」

 

「山本隊長……私は未だに不安を感じます。 奴等の得体は余りにも知らな過ぎます」

 

「雀部よ、お主の気持ちも分かるが……他の者はともかく、チエ殿の事をワシは知っておるつもりじゃ」

 

「そういえば、山じいの『師匠』なんだってね? 凄く昔の事でしょ? 同じ人物なのか、僕には────」

 

「────()()じゃよ。 ワシの名に賭けても良い」

 

 京楽が山本元柳齋を面白そうな目で見る。

 

「そこまで断言しちゃうとは、かなりの自信だねぇ? それに本当だとすると、()()()()()だね? だって右之助さんも回道さまさまで『アレ(老体)』なんでしょ?」

 

「……何が言いたい、京楽?」

 

 京楽の顔を山本元柳齋が見ると、彼の目は笑っていなかった。

 

「あの子、()()なんだい?」

 

「………………」

 

 これには雀部も静かに思っていた疑問。

 というか隊長格の誰もが思っていた疑い。

 

 何せ前回の隊首会の招集があった日、誰もが『恐らくは今の護廷十三隊と、藍染と、黒崎一護と、これからの事だろう』と想像していた。

 

 そして概ね皆の想像通りではあった。

 

 ただ一つだけ違うと言えば、突然双極の丘で見た死神っぽい誰か(チエ)と、五番隊の副隊長である雛森が居座っていた事か?

 

 山本元柳齋が今後の方針などを決めた後、一度として彼が指摘しなかったチエと雛森の事が最後の最後で話題として出て来た。

 

 それが以前記入した、チエの『臨時隊長代理』と彼女の知人(カリン達)の件である。

 

「何……奴らは『敵対者』では無い。 無いが────」

 

 山本元柳齋の顔見ていた京楽の背中にゾクリと寒気が走る。

 

「────利用出来るのならば、利用するべきではないかのぅ?」

 

 今彼が浮かべている笑みは、『先生』と呼べるモノから程遠かった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場所は五番隊舎の中へと少し入った敷地内。

 

 その更に奥では先端の刃を潰すかのように布でグルグル巻きにした槍を持ったカリンが訓練をしている五番隊の隊士達を見張っていた。

 

 そして隊士達全員は各々の斬魄刀を型どり、刃を潰した物を持って互いを対峙していた。

 

「チエ、お前……何やってんだ?」

 

「『臨時隊長代理』という物だ」

 

 上記の場から入口寄りの方向に居た一護、茶渡と雨竜、そして只今金髪を黒へと変装中の三月とツキミが居た。

 

「ほ、本当だったんだ」

 

「ね? だから言ったじゃん? で、どう?」

 

「どうと聞かれてもな。 戦い方が教本染みている」

 

「……じゃあ先ずは『独り立ちから』っていう事?」

 

「ああ」

 

 チエの場所と現在の処遇を三月から聞いた一護達は彼女と一緒に五番隊の隊舎に来ていた。

 

「その白い羽織、かっこいいな」

 

「茶渡もそう思うのか?」

 

「ああ」

 

「相変わらずマイペースな二人やな~」

 

 茶渡の隣に居る黒髪&ベレー帽子のツキミが呆れて愚痴を零す。

 

「んで? どうなんだ、チエ? 『臨時隊長代理』ってのは」

 

「まあまあだな」

 

 あれからチエはカリンと共に五番隊の個々の戦闘力方面を鍛えていった。

 

 と言っても、初日の出来事があまりにも衝撃的だったのでチエは反感を買ってはいたが…

『とある』来訪達と出来事が絡む事により、その反感もナリを取り敢えずは潜んでいった。

 

「……黒崎一護達か」

 

 お隣さんである六番隊長(朽木白夜)が以前よりも、良く五番隊舎んい出入りしていた事が一つ。

 

「「朽木隊長か/白哉じゃねえか」」

 

「………………………」

 

 白哉がジーっとチエと一護を互いに見る。

 

「「何だ、朽木隊長?/何だよ、白哉?」」

 

「…………こうも差があるのか……時間通りに来たか

 

「「ん?」」

 

「お~い! チエとカリン殿~! そろそろ昼────って、やはり義兄様だったか。 恋次の言った通りだな」

 

「だから言ったじゃねえかルキア。 お前まだ本調子じゃないくせに、俺を疑うんじゃねぇよ」

 

 もう一つの出来事は決まった時間帯に風呂敷に包まれた弁当箱を持った朽木家の令嬢(ルキア)六番隊副隊長(恋次)が良くご飯を食べに五番隊舎へ────

 

 

 ────というより、この二人が一緒にほぼ毎日チエ達と一緒に飯を食べに来る事がもう一つの理由。

 

 特に理由もないのにこの二人が来る(イコール)休み時間&無表情のチエがその場から離れる事を意味する。

 

 そして(殆んど)決まってこのタイミングで来訪者(厄介者)の露払いをしてくれる。

 

「もう我慢出来ねえ! 今日こそ勝負だこの野郎! 朽木、恋次! そこをどきやがれ!」

 

()()お前か、更木隊長」

 

「また貴様か、更木剣八」

 

「更木隊長……またッスか?」

 

 対照的に一護達は嫌~な表情になる。

 

「うげっ。 最ッッッ悪じゃねえか!」

 

 五番隊の隊舎入り口から怒りに狂いそうな、体中に包帯を巻いた更木がズカズカと入ってくるなり一護とチエ、そして三月達が居た事に笑う。

 

「フハーハハハハハハハ! コイツぁツイてるぜ! チエの野郎に一護に良くわからねえ野郎どもが全員、勢揃いとはなぁ!」

 

 更木が既に抜刀していた斬魄刀をチエに向ける。

 

「けど今はテメェだ! さあ、抜けこの野郎!」

 

「断る」

 

「何ぃ────?!」

 

 ゴッ。

 

「────ガハァ?!」

 

 気が付くと、更木の横にしゃがみこんだチエが刀を鞘に入ったまま更木の後頭部に振るって、容赦なく当てていた。

 

 この拍子で更木はグワングワンとする意識を何とか踏みとどませて、背後に居るチエに開き直る為に振り向く。

 

「てm────」

 

 ボグッ。

 

「────先ずは『弟子からだ』と言った筈だ────」

 

「────ガッ?!」

 

 そして更木が振り向くと同時に、チエの(鞘に入ったままの)刀の突きが彼の額に直撃する拍子で彼は白目を剥きながら仰向けに倒れる。

 

「か……かカカか────」

 

 そのまま更木は痙攣しながら白目を剥き、()()完全に治っていない縫い跡が開いて、体に巻かれた包帯が血で赤く滲む。

 

 これを見た一護達は心配そうな顔をしていたが────

 

「────そろそろ懲りて欲しい」

 

「こんな奴に言っても馬の耳に念仏だろう、渡辺隊長()()?」

 

「確かに、朽木隊長の言うとおりだな」

 

「あ、相変わらず隊長達は容赦のねぇこった」

 

「ハ、ハハハ」

 

 かなり冷えた態度で受け答えをするチエと白哉に、苦笑いをする恋次とルキアに一護が問いかける。

 

「な、なあルキアに恋次?」

 

「「何だ、一護?」」

 

 一護と茶渡と雨竜が呆れた二人を見て、隊舎内でカリンに注意されて訓練を続ける五番隊を見て察した。

 

『ああ、これって結構頻繁な出来事なんだな』と。

 

「な、何でもない……ってそう言えば、白哉は何でここに?」

 

「瀞霊廷内に、隊長が居るのがそんなに珍しいか? それよりよもや貴様、私をこのまま呼び捨てにするつもりか?」

 

「え? だって────」

 

「────義兄様はこの頃よく、この時間帯に五番隊の様子を見に来ては助言などをしてくれているのだ! 流石は義兄様だな!」

 

 まるで自分の事のように(ほぼ無い)胸を張って、一護にドヤ顔をするルキア。

 

 以前は苦手意識があった義兄に対しての豹変(ブラコン)ぶり。

 間違いなく双極の丘での出来事の影響だった。

 

 あとは現世で経験した出来事等により前向きに成った事も関係していたかも知れない。

 

「いや、だからそれって絶対お前(ルキア)の心p────」

 

 ギッ!

 

「────ングッ」

 

 恋次が物凄い『圧力』を含めた視線を白哉から向けられるのを感じ、口を紡ぐ。

 

 そして何一つ変わらぬ表情で、白哉が眼だけで恋次に語っていた。

 

余計な事を口にするな』と、恋次には白哉の声が聞こえるような錯覚までさせる視線だった。

 

「??? どうしたのだ、恋次? 熱いのか?」

 

 だがそんな事を露とも気付かずにルキアが?マークを出して冷や汗を掻く恋次を見る。

 

「い、いや……な、何でもねぇよ」

 

 白哉からの圧がフッと消えても、恋次は冷や汗を掻き続けた。

 

「あれ? 朽木隊長に阿散井君にルキアさんに黒崎さん達???」

 

「も────『雛森』か」

 

 パタパタと五番隊舎の中から雛森が駆け寄って来て白哉、恋次とルキア、地面に横たわっている更木、そして何を言ったらいいのか分からない一護と茶渡と雨竜とツキミを互いに見る。

 

「……またですか……」

 

「ああ、今日も邪魔するぞ雛森副隊長!」

 

 どこかシュンとする雛森に対し、ルキアが元気いっぱいで彼女に笑顔を向けながら答える。

 

「天然やっぱ怖いわー」

 

「『天然』って、何の事だ? えっと……ツキミだっけ?」

 

「……ハ」

 

「な、何だよ???」

 

 ツキミの独り言に一護が問うと、彼女はただ憂鬱な笑みを浮かべ、一護が?マークを出す。

 

「……お邪魔したかよ、雛森隊長?」

 

 この様子を見る恋次が悪戯っぽい笑みを浮かべながら雛森に聞くと、彼女の顔は『ボッ』とする効果音が出るほど一瞬で赤くなった。

 

「も、もう! 阿散井君!」

 

「??? 顔が赤いぞ雛森副隊長、熱でもあるのか?」

 

「な、何でもありませんッッ!!! と言うか何で朽木さん(ルキア)は毎日、わざわざ十三番隊舎からここ(五番隊舎)に来るんですか?!」

 

「??? いや、現世でチエ達にお世話になったのが身に付いてしまったのか────」

 

「────そもそも隊長を呼び捨てなんて────!」

 

「────だからチエ自身、それで良いと言っておるではないか────?」

 

 何故か赤くなりながら騒ぐ雛森と、当たり前のように流れる受け答えをしながら?マーク出すルキア。

 

 これを見てニヤニヤと笑う恋次はチエの隣にへと静かに移動して膝を当てるような仕草をしながら小声で耳打ちする。

 

ヒュ~、この! 罪作りな野郎だぜ! 吉良の野郎にゃ気の毒だが……

 

「何の話だ???」

 

けど俺は諦めねえからな! 覚悟しろよお前!

 

「挑戦か? ならば何時でも受けて立つぞ」

 

 何故かニヤニヤしながらチエと(噛み合っていない)話しをする恋次。 そして白哉の後ろからもう一人の声が彼に聞こえて来た。

 

「……気に食わねぇ────」

 

「────日番谷か────」

 

「────だから日番谷()()だっての」

 

 後ろから来た日番谷に白哉が声をかけ、日番谷が彼の言葉に訂正を付け加える。

 

「十番隊舎は確かここから反対方向……何故ここに?」

 

「何故も何も、俺は総隊長から『五番隊の面倒を見るのを手伝ってやれ』との命令だから来ただけだ」

 

 これは別に嘘偽りでも何でなかった。

 

「ほう? それにしては、隊長自らが出張る事か? しかもほぼ毎日とくれば怪しいが?」

 

 白哉の指摘はご尤もだが、日番谷からしてみれば五番隊(雛森)の様子を直に見る絶好の口実。

 

 しかも都合が良い(?)事に、自分の副官である『松本乱菊』はお世辞にも業務が出来るとは言えない性格は他の隊でも有名な話。

 

 全く交流の無い、サボりがちの前隊長(志波一心)に似すぎた結果か、日番谷はそれを補う為に隊長業務の実力はピカイチ。 (*注*『隊長業務』であって『戦闘』とは言っていない。)

 

「そう言うお前(白哉)もほぼ毎日、ここ(五番隊舎)に来ているのにか?」

 

「「………………………………………」」

 

「何だ、あの二人?」

 

「あ、イッチー!」

 

「んあ? お前は……えーと……」

 

「ごめんね、剣ちゃんどうしてもワクワクして押えられないみたいで────!」

 

 お互いが五番隊に居るのがイラついたのか、何故か無言になる白哉と日番谷を見ていた一護が?マークを無数に出し、静かにやちるが更木をまた四番隊総合詰め所に連れ戻す姿に冷や汗を掻く。

 

 そんな彼の後ろではヒソヒソと話し合う雨竜、茶渡、三月とカリン。

 

なぁ? これってもしかして────?

 

────ああ、こいつら気付いていないみたいだな

 

無理もないわよ。 チーちゃんは()()()()()に疎いし、否定もしないタイプだから

 

と言うかもう『無関心』とちゃう、この場合?

 

「……誰が行く?」

 

「「「「…………………」」」」

 

 雨竜の問いを最後に黙り込む四人。

 

 雨竜本人は言い出した本人とは言え、そういう類の話をよくも知らない相手……と言うか他人に説明しても何故か相手が理解しない事が多かったので自分は遠慮していた。

 余談だが雨竜の説明は早口、もしくは無言での行動の上、無愛想な表情もあってよく他人を誤解などさせていた。

 現に手芸部の部長なのに、織姫以外の部員は彼に対しては『触らぬ神に祟りなし』といったスタンスを取る程。

 

 茶渡はそもそも口数が少なく、お世辞にもコミュ力が高いとは言えなかった。

 と言うか更に誤解を生むかも知れないという想像から黙っていた。

 

 三月とツキミは意外(?)に自分達を立候補しなかった。

 それは生き生きとした雛森の様子を見ていたから。

 

 生きた死体の様な『原作』からは正反対の状態。

 そんな彼女に()()な事はしたくなかったし、同性のチエなら最悪でも大丈夫と楽観的に思っていた。

 

 後に()()()()()()に繋がるのは、この時誰も予想していなかった。

 

「へぇ~? こりゃ、珍しい詰め合わせだねぇ~」

 

「「京楽隊長?」」

 

「京楽隊長か」

 

「ちょっくら、邪魔するよ~?」

 

 そこに京楽と、彼の副官である眼鏡(真面目な監視役の)の『伊勢七緒(いせななお)』も来ていた。

 

『テメェら地面に倒れたままでいんじゃねぇ! 敵は倒れようが何だろうが止まらねぇぞ!』

 

「……随分とまあ……しごかれているねぇ?」

 

 京楽の言っていることはカリンが今、槍の棒の部分で殴られた隊員だけでなく、五番隊の皆だった。

 

 三、四人一組で与えられた任で動く組み合わせは急遽変更された。

 

 本当は一人にする筈だったのを、流石に猛反対の声と雛森の押しで取り敢えずは二人一組に変えられ、得手不得手に構わず毎回ランダムな組み合わせになった。

 

 そして実戦式訓練中、気や手を抜けばチエかカリン(あるいは両方)が乱入して骨の髄ギリギリまで翻弄される。

 

 普通なら苦情や待遇に対しての文を送っても不思議ではない状況だが……

 

 このチエと言う人物があまりにも五番隊の知っている人柄からかけ離れていた。

 

 苦情や文句を副隊長である雛森に言おうとするなら、何処からか駆けつけたチエが割り込んで「言いたい事があるのなら本人に直接しろ」と言い、黙らせた。

 

 それでいざ、勇気を出してチエに文句などを隊員が言えば逆上はおろか、一度も声を荒げずに真剣に取り合ってくれて、チエは自分の考えを丁重に説明したりと、「あれ? なんか第一印象と違うな?」と言う声もポツポツと五番隊の中でも出始めていた。

 

 これを裏付けたのは他でもない、三席の平塚、四席の櫃宮、そして五席の田沼の三人だった。

 

 そう、チエが挨拶をした初日に所謂『ワンパン』をされた三人だった。




平子:ホンマ今更やな

作者:“ヤス”の声に言われたくない

平子:だから誰やねんそれ?!

愛川:『スラムダン〇』の『安田〇春』

平子:え? 知っとんのか羅武?

愛川:だから昔から言ってるだろ平子? 『ジ〇ンプは良い』と

平子:同じ本を読むねんやったらリサのを借りるわ

作者:『本』って……ジャンルが違うじゃん

平子:うっさいわアホ


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第37話 (Mis)Understanding (前編)

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 三席の平塚、四席の櫃宮、そして五席の田沼の三人が返り討ちに会った次の日の明朝、三人の容態は当初思われていたより軽傷な打撲だけだったらしく、朝一で退院出来た三人は平塚を先頭に、五番隊舎へと重い足取りで歩いていた。

 

「「……」」

 

 そこで自分達を見ては視線を逸らすか、嫌な物を見る目の他人の態度を横目で見ていた。

 人影が少なくなったところで三人の中で一番ガタイの良い平塚が口を開く。

 

「……なぁ、櫃宮に田沼……俺達って、何してんだろうな?」

 

「どういう事?」

 

 櫃宮は頭を傾げ、今度は田沼が喋る。

 

「単純な事だよ櫃宮さん。 僕達五番隊は、藍染隊ちょ────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 とすれば『彼に最も近かった者達も謀反者か?』、もしくは『彼の事を疑わなかったのか?』という疑惑の眼で僕達は見られる────」

 

「────でも私達(五番隊)は無関係だって、それに…他の皆だって────!」

 

「────人は自分達の非を認めたがらない生き物なんだよ、櫃宮さん。 だから自分達より他人の、しかも言い返しにくい人物達を批判した方がずっと楽で簡単なんだ」

 

 田沼の説明で嫌な考えが櫃宮の頭を過ぎて、彼女は歩みを止める。

 

「そんな……そんな事って………」

 

「だから言ったろ? 『俺達って何してんだろうな?』って」

 

 この三人、実はルキアや阿散井や松本に市丸のように、流魂街で孤児同士が互いに身を寄せて空き家を転々と住んでいた頃からの付き合いだった。

 

 長い付き合いの櫃宮と田沼からすれば、憂鬱(弱気)な顔をしながら空を見る平塚はこれでたったの二度目。

 

 三人は物心がついた時から居た場所は北流魂街の70地区。

 お世辞にも良い所とも言えず、『原作』より幾分かマシな流魂街で、治安や死後の親族同士を引き合わせる死神もいればその逆も然り。

 死神の気配が全く無い流魂街の地区もある。 

 

 つまりは『原作通り』の地区もあれば、それ以上(以下)もある。

 

 そんな場所で子供三人。 

 生きる事が難しい環境で、小さい頃から既にガタイが良くて怖いもの知らずな平塚が二人を率いて、中でも頭の切れが良い田沼が参謀役で補佐、数年経つ頃には孤児グループのリーダー格になり、櫃宮は所謂幼少組の束ねる(姉御)役となった。

 

 平塚達の居た孤児グループが子供達のみで結成した割に大きくなり、日頃の行いやその地区では珍しい作物を育てるなどして目立ち過ぎた頃。

 彼らを良く思わなかった大人や青年グループ達が珍しく団結し、平塚達の空き家をある深夜に襲撃。

 見張りは交代直前に黙ら()され、出入口は全て外から封鎖した後に火が点けられた。

 

 結果、最初のパニックで窓から出ようとして者達から亡くなっ(撲殺され)て行き、田沼の掛け声で残った者達は一斉に一つのドアを無理矢理突き破り、蜘蛛の子を散らすように各々が逃げて行った。

 

 平塚達が息を切らして周りを見ると別の地区にまで逃げていたらしく、三人の周りには自分達以外誰もいなかった。

 

 その時、平塚は初めて先程のように憂鬱な表情で夜空を見ていたのが一度目。

 

 櫃宮と田沼はここで初めて、体格は一回り大きくて一度も泣く事や弱音を吐かなかった平塚が、まだ自分達とさほど変わらない年齢と、痩せ我慢してしまう精神を持っている事に気付く。

 

 最も、このような話は(地区にもよるが)流魂街では珍しくない、()()()()()()()である。

 

 そこから三人は死神を共に目指す事になり、幸か不幸か三人は何時も一緒に居る事が出来た。

 

 流魂街育ちの彼らも見習い時代は苦労したが、後に彼らは五番隊に無事苦労の末に入隊し、普段は死神業としてはオマケ程度の流魂街の見回りや住民である魂魄の面倒等を良く見たり解決する事で『良い死神達』と認知されて多少の有名人となる。

 

 そんな彼らが所属する五番隊の隊長は『謀反者』と認定。

 

 瀞霊廷ではまた昔の見習い時代のように軽蔑するような視線と噂話。

 そして新しく来た『臨時隊長代理』に挑発されて、得意としている筈の連携が効かないどころか瞬く間にコテンパンにやられた。

 

「「「(どのような面をして隊に戻ればいいのだ?)」」」

 

 そんな思いをしながら朝、隊舎に帰って来る彼らを入り口で待っていたのは────

 

 

 

 ────雛森副隊長と、『臨時隊長代理』のチエの二人だった。

 

 平塚が二人の前で止まり、口を開けて櫃宮が彼に続く。

 

「……何ですか?」

 

「あの……私達に何か────?」

 

「────今日からお前達に雛森副隊長の補佐を頼もうと思ってな」

 

「「…………………????」」

 

 平塚と櫃宮がチエに言葉に困惑する顔をして、田沼は罰が悪そうに地面へと視線を下す。

 

「………成程。 そういう事ですか」

 

「どういう事だ、田沼?」

 

「簡単な事だよ平塚君。 この人(渡辺さん)は隊長代理に就いて間もない。 なら普通は雛森副隊長から引き継ぎなどをするけど、今の五番隊にそんな余裕はハッキリ言ってない。 だったら五番隊で長く居た僕達も巻き込めば良い。 だけどすんなりとそれを受け入れる訳が無いから、僕達を『他の隊員達の前で完膚なきまでに叩き潰せば』…………要するに脅迫だよ────」

 

「────??? お前は何の事を言っているだ?」

 

 チエが?マークを出すのに田沼はニヒルな笑みを浮かべる。

 

「今更知らん振りですか?」

 

「確かにお前達三人は長らく隊に居た事もあるから頼み事をしたが、それだけでは無いぞ?」

 

「「「え?」」」

 

 田沼の皮肉たっぷりの言葉に帰って来たのは意外な、()()()()()()()だった。

 

「お前達三人だけ昨日、私に対して勇気を持って立ち向かう志が良かったからな。 ()()()()()()()()()()()()()()()()。 雛森副隊長と私を、手伝ってくれはしないか?」

 

「「ッ?!」」

 

 平塚と田沼が驚いている間、櫃宮は呆けている様な顔をして、雛森が口を開ける。

 

「その……三人が宜しければで良いのですけれど────」

 

「────良いですよ。 ね? 平塚君に田沼君?」

 

「え? あ、ああ……櫃宮が、それでいいのなら……」

 

「………」

 

 平塚が呆気に取られ、田沼は黙り込む。

 

「そうか。 詳しい話は隊首室でしよう」

 

 チエが踵を返して歩き、雛森がぺこりと頭を三人に下げてチエの後を追う。

 

「……………ねえ平塚君に田沼君? あの『臨時隊長代理』、仕草や表情は全然似ていないけど────」

 

「────うん、どことなく藍染()()に似ているね」

 

 それはかつて、藍染が三人に言った言葉だった。

 

「……俺達を『高く評価している』……か」

 

 先にも書いたように、三人は流魂街出身。

 

 彼らを見下さず、ちゃんと一人一人を個々と視ながら言葉にして初めて認めた死神は藍染隊長だった。

 

 そこから席官の三人は雛森がするような連絡や報告係に、隊長の補佐をする事となる。

 だがそれでも自分達を造作もなく倒した本人には苦手意識があり、他の五番隊の皆のように誰一人として出来れば顔を合わせたくは無かった人物であった。

 

 櫃宮が()()()()()()緊張(ビクビク)しながら五番隊の定時報告で隊首室の前に来ていた。

 

「渡辺さ────渡辺隊長()()はいらっしゃいますか?!」

 

 余りの緊張から平塚のように『渡辺さん』と呼びそうになるのを呼び直して、「(うわぁ、とうとうやっちゃった~!!!)」とテンパる櫃宮。

 

「櫃宮三席か、入れ」

 

 だが彼女の予想とは違い、帰ってくる声は何時ものチエだった。

 

「し、失礼します!」

 

 櫃宮がギクシャクした動きで扉を開けてから一度礼をして入ると、中には別々の束に纏められていた書類のを前にしたチエが一人だけいた。

 

「て、定時報告等を持って参りました!」

 

「そうか。 そこに置いてくれ」

 

 チエが部屋の中のローテーブルを指差して、櫃宮はガチガチのまま書類を置いて、興味本位からチエの読んでいた書類を見る。

 

「(あれは……五番隊の報告書や皆が見習い時代の書類? もしかして、これ全部私達────?)」

 

「────お前は」

 

 櫃宮の体がビクリとする。

 

 一瞬自分が盗み見していたのがバレたのかと思ったが……それとはまったく違うモノだった。

 

「お前は……私が怖いのか?」

 

「ッ」

 

 櫃宮が素早く息を吸い込み、冷や汗を掻く。

 

 だが彼女は未だに俯いたままで、目を合わせなかった。

 

 チエも書類から目を離していなかったので、気付かなかった。

 

「私が雛森以外の、五番隊の皆に怖がられているのは知っている。 敬遠されている事も……()()()()()()()()

 

 パサリと、書類の紙が動く乾いた音とチエの言葉が櫃宮の耳に届く。

 

「これで皆の能力が上昇するのならば私は構わなかったが、逆に低下するのであれば…………私としては………………………改善すべきだと、思う」

 

「ぇ」

 

 櫃宮が思わず顔を上げてチエの方を見ると、無表情なチエがいつの間にかしっかりと自分の顔見ていた事で先程の言葉が幻惑でも何でもなかった事に今更気付く。

 

 櫃宮からすれば、その姿のチエからは『恐い』と言うよりも、『迷い』に近い何かを感じた。

 

 昔、流魂街で大勢の子供の世話をした名残からの『直感』めいたものだった。

 確証も根拠も何ないものだったが……

 

「………………」

 

 自分をジッと見るチエに櫃宮は賭けに出て、思い切った事を言う。

 

「えっと……隊長()()は副隊長の事を『雛森』、と呼んでいますよね?」

 

「そうだ。 彼女が頼んだ事だからな」

 

「でしたら、隊の者達を名前で呼んでみたらどうですか? 『さん』付けや『君』付けなどして?」

 

「成程……定時報告ご苦労、()()()()────」

 

「────ぁ」

 

 チエが何とも無い様に言った事はそこにいた櫃宮からすれば、チエが素直に自分の提案を受け入れて即採用したのが意外だった。

 

 そこからチエは以前の書き写した様に五番隊の者達を全員間違える事無く名前で呼び始め、話を聞いたりしては考えを伝えたり、労いの一言を言ったり等をしていた。

 

 臨時隊長代理になって数日間だけではあるが、その変化は決して小さいものではなく、これ等が「あれ? なんか第一印象と違うな?」と言う思いに繋がる事となる。

 

 そして現在、そんなチエだからこそ無茶な訓練等に対して愚痴っても、五番隊の者達は悪口などを言う事を殆んどしなくなった。

 

「徹底しているねぇ~」

 

 京楽が面白可笑しく笑みを浮かべる。

 

「当たり前だ。 前にも言ったように、『任を任されたからには出来る事はやる』と」

 

……うちの隊長にも身習わせたいですね

 

「ちょ、七緒ちゃん?! 冗談はヨシコちゃんね?!」

 

 副官の言葉にギョッとする京楽。

 

「そうか。 なら今度、重國に話しておこうか?」

 

「ええ、是非お願いします」

 

「や、やめてくれよ二人共ぉ~? ねぇ~?」

 

 いよいよ山じい(重國)の名が出て来て、本気で冷や汗を流す京楽だった。

 

「あの京楽隊長を……さすが渡辺隊長です……」

 

「(うーん……やっぱりヒナモちゃんの笑顔良いな~)」

 

 最後は笑顔の雛森に対して、内心和む三月だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「………………」

 

「わ、渡辺隊長は迷惑でしたか?」

 

「何の事だ?」

 

「雛森副隊長は分かっていないな、チエは迷惑であればズバっと言うのだぞ? …………躊躇も無くな」

 

 時は上記とまだ同じ日で、場所は瀞霊廷内でもお店が並んでいる大道路をチエとルキア、そして雛森の()()が横並びで歩いていた。

 

 そう、()()()副隊長である雛森も一緒に居た。

 

「……そういえば朽木さんは渡辺隊長を、『隊長』と呼ばないんですね? 名前で……しかも呼び捨てなんですね?」

 

「ん? ああ、そうだな。  『現世での呼び方のままで良い』と、チエが言ったのでな」

 

 何処か刺々しい言い方をする雛森に、サラッと答えるルキア。

 

「……私も、出来れば名前で────」

 

「────どうした雛森?」

 

「ひゃ?! う、ううん! 何でもない!」

 

 何故この三人が共に歩いているかと言うと、ルキアは三月やチエ達に恩返しをしたかったのだが、皆の時間が合わない上にチエがあまりにも忙しかったので上手く言い出せなかった(ちなみに三月は時々不意打ちや奇襲して来るマユリやネムから逃げたりなどで忙しかった)。

 

 だが一護達と京楽達が来た事と、何より()()サボり魔である京楽が珍しく自分から『五番隊の面倒は僕()が見るから出かけてきなよぉ?』と申し出をしたのだ。

 

 これには副官である伊勢の眼鏡が顔からズリ落ちそうになる程の出来事で、彼女が思わず近くに居た一護達に『絶対に何か企んでいる隊長(京楽)を私と共に見張ってください』と頼み込むほど。

 

 余談ではあるが、このような事を他人同然である一護達にお願いする伊勢の行動に対して、決して少なくはないショックを京楽は受けていた模様。

 

『そんなに驚く事じゃないでしょ七緒ちゃん? 僕ってそんなに信用できないのかぁ?』

 

『ええ、出来ません』

 

『……………………そ、それに渡辺隊長()()ってロクに瀞霊廷内を出歩いていないんだろぉ? 周りを見に行っておいでよぉ?』

 

 即答の伊勢に顔を引きつかせる京楽がその流れのままチエに提案した。

 

『で、では! 不肖、自分(雛森)が志願しますッッ!』

 

『そうだな、では礼ついでに私も行くか』

 

『え』

 

 全力で嬉しくなりながら言う雛森と、元々案内をする気だったルキアもチエと行く事に固まる雛森。

 

『じゃ、じゃあ俺も────』

 

『────僕は阿散井君に手伝って貰いたいんだけどねぇ~?

 

『う゛』

 

 尚恋次も行きたがっていたのだが、生憎と彼は京楽に強く言わ(脅迫さ)れて五番隊舎に残る事に。

 

「(そう言えば去り際の奴の、『青春、青春。 良きかな良きかな~』はどういう事なのだろう?)」

 

 そんな事を思い出すチエの意識が雛森の言葉で現在()へと戻る。

 

「あ! 渡辺隊長、あそこにケーキ屋さんがありますよ!」

 

「ほう。 雛森も、甘いものが好きなのか?」

 

「『も』って……渡辺隊長も好きなんですか?」

 

「ああ。 それと私は名呼びでも構わんぞ?」

 

「え?! じゃ、じゃあその……チ……チ……『渡辺さん』で────」

 

「────おお! チエ、あそこに限定版白玉がまだ販売────!」

 

 グッ。

 

「ではあのケーキ屋さんに────!」

 

 グッ。

 

「「ん?/え?」」

 

 ルキアががっしりとチエの腕を掴んでそちらへと誘導しようとした同じ瞬間、雛森も同じくチエの腕を掴んで反対方向へと誘導しようとした。

 

「……ちょっと朽木さん?」

 

「雛森副隊長?」

 

 キョトンとするルキアに対して、ニッコリとする雛森の笑顔をチエが見ては思う。

 

「(何故だろう? 雛森の笑顔を全く『笑顔』として感じとれん)」

 

「先に近いケーキ屋さんから寄っても、白玉は逃げませんよ?」

 

 これに対してルキアはムッとする。

 

「何を言うか。 あの店の白玉ぜんざいは毎日二百個限定での販売で、何時もはこの時間帯までには売り切れる────!」

 

「(────と言うか、二人の引っ張る力が段々と強まっていくのは気のせいか?)」

 

 チエはかなりマイペースな態度で左右に引っ張られる腕&現在の状況を平然と受けていた。

 




作者:短くてすみません……良いキリの所だったので……

平子:この『チエ』って子、やっぱ色んな意味で怖いわー

ライダー(バカンス体):やはりお主もそう思うか!

平子:……何やこのゴツイおっさんは? 京楽の声まで似おってからに

作者:では次話を書きますのでまたお会いしましょう!

ひよ里:ちょっとまていこのクソ髭! 何勝手に人の菓子食べとんねん?!

作者:………………この部屋の費用が……………


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第38話 (Mis)Understanding (中編)

お待たせしました! いや、気が付いたら一週間後でした (汗

ここにてお詫び申し上げます…………

仕事ががががががが。

ですが、今回は少々長めです! 楽しんで頂ければ幸いです!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 ジャンケンの末にルキアが勝ち(どや顔+ブイサイン(チョキ))、彼女が行きたかった和菓子をメインとしたお店(カフェ)にウキウキと入店するルキア、相変わらず無表情のチエ、そして何処かショボショボとした雛森が(開いたままの手(パー)を見ながら)入店していく。

 

 サングラスをかけた死神がこれを物陰から見ていた。

 

「(────こんな店の物が良いのか、ルキアは?)」

 

 訂正。 

 サングラスをかけただけの白哉が、三人の入って行ったお店の看板を物陰から移動し、見上げてから自分も入店する。

 

 流石に隊首羽織は外していたが、彼独自の髪形は変わっておらず、牽星箝(けんせいかん)も着けたまま。

 

 明らかに上位貴族なのは誰から見ても直ぐわかるが、敢えて見て見ぬ振りを皆はしていた。

 

「いらっしゃいませ! お一人────サマぁぁぁ?! ムグ?!」

 

 無論、中の店員が白哉の牽星箝を見た瞬間に目を見開き、声が上がっていったが白哉が「静かに」と言うジェスチャーをして自身の口を無理矢理閉じる。

 

「訳あってこの様に来ている。 出来れば、あの席に座りたいのだが────」

 

 そこで白哉が指定した席は丁度チエ、ルキア、雛森の三人が座っている場所からは少し発見されにくい、花々を挟んだ二人席のテーブルだった。

 

「……」

 

 そこで彼は今まで見た事も無い、生き生きとしたルキアの顔を見ては自分の胸の内が嬉しく思うと同時に、モヤモヤとし────

 

「────あ、あのぅ~? 大変申し上げにくいのですが、こちらのお客様と相席で宜しいでしょうか~?」

 

 店員が物凄く気まずい様子で白哉に問いかける。

 

 勿論貴族である彼に対して、このような事が起きる筈がない。

 

 ()()()()の頼みならば。

 

 何せ、そんな店員の横には白哉の見知っている顔が────

 

「────日番谷……なのか?」

 

 彼が見たのは黒いスーツとニット帽子を着込んだ日番谷だった。

 

 顔はそのまま丸出しだったが、服装と髪の毛が帽子に隠れていたので一瞬白哉が見違えるほど普段の日番谷とは違った。

 

「『日番谷()()だ』って、さっき言ったばっかじゃねぇか」

 

 これは最近、時折落ち込んでいた筈の雛森が急に元気(張り切るよう)になったからであった。

 

 その原因は日番谷には一つ……いや()()ほど原因が浮かんだ。

 

 そう心配した所で彼女(雛森)とチエ、そしてルキアを尾行してお店に入って自分の身を明かしてから席を指名すると、そこには白夜が既に座っていたという訳である。

 

 かたや『貴族の死神』に、『最少年の死神隊長』。

 

 白哉が隊首羽織を着ていたら少し違ったのかも知れないが、今となっては後の祭りである。

 

 余談だが、日番谷の服装は松本が()()()読んでいる本から参考にしたモノで、その書の内容も丁度登場人物が尾行の為に着替えた後のワンシーンだった。

 

「「………………………………………………」」

 

 互いを無言で見る、今までは特に接点が無かった白哉と日番谷。

 

 サングラスと隊首羽織無しの普段からあまりスタイルを変えていない白哉と、スーツと帽子で顔丸出しの日番谷。

 

「……何故、貴様が()()()いる?」

 

 先に口を開けたのは白哉だった。

 

「松本が以前、ここの事が人気なのを俺に喋っていたからな。 そういうお前は?」

 

「何時もとは違う場所での、()()()()()だ」

 

 全く答えになっていない返事をする二人。

 

「「………………………………………………」」

 

 近くに居た店員が冷や汗を掻きながら、なんとか笑顔をキープする。

 

「(う~、怖いよ~! おっかないよ~!) よ、良かったぁ! お二人が()()()()()()で何よりですぅ~!」

 

「「ただの同僚だ」」

 

「(ヒィィィィ?!) で、で、ではどうぞごゆっくりッッ!!!」

 

 店員が文字通り逃げるように『ピュー』っとその場から去っ(逃げ)ていく。

 

「……

 

 日番谷が静かに舌打ちをしてから白哉の向こう側に座る。

 

 体ごと、横向きでだが。

 

「……………何か?」

 

「お前の所為で店員に怖がられて逃げちまったじゃねえか」

 

「貴様の目つきの所為では無いのか?」

 

「「………………………………………………」」

 

 お互いがまた無言になる。

 

 目は互いを見ている筈だが、意識が明らかに他の方向へと集中していた。

 

「(……雛森の奴、元気で何よりだが……そんな出所不明の分からない()()の何が良いんだ────?)」

 

「(……ルキア、余程現世ではその者(チエ)に世話になったのだな……朽木家では決して見せなかった顔を、よもやこの様な状況下で見るとは……義兄としては嬉しい限りだが────)」

 

 そんな所の二人に別の(事情を先輩に聞いた)後輩店員がビクビクしながら注文を取りに来た。

 

「────あ、あの……ご注文は────?」

 

「「────珈琲(コーヒー)を/────お茶を」」

 

「………………ええと、コーヒーにお茶ですね? コーヒーにミルクと砂糖は────?」

 

「要らねぇ」

 

「は、ハイ! で、ではブラックでお持ちしますね!」

 

 日番谷と白哉がほぼ同時に注文を出し、この店員もそそくさとその場を去る。

 

「…………………………………こんな店にまで来て『お茶』とはな」

 

「そういう貴様も『珈琲(コーヒー)』とはな」

 

「文句あんのかよ?」

 

「いや?」

 

「「………………………………………」」

 

 それ以上の会話は無く、更に互いの意識が目の前ではなく他のどこかに向いていたのは明白だったが、お互いに追求はしなかった。

 

 数分後、二人の飲み物が持って来られた頃に状況は動き出す。

 

『それで()()()()()()は何が────』

 

 驚愕する日番谷が「バッ!」とチエ達の方へ視線を頭ごと動かす。

 

「(『()()()()()()……だと? 何勝手に可愛いあだ名を付けてんだよテメェは?! しかも雛森の奴……満更でもねえ顔しやがって────!!!)」

 

「────フッ」

 

 ここで静かに白哉がにやけるの(鼻で笑った事)に気付く日番谷はいつも以上にムスッとする。

 

「…………何が面白い?」

 

「いや、貴様は何時も不満そうな顔をしているが……『今の表情は見た事が無い』と思っただけだが?」

 

「……………………」

 

 舌打ちをしそうな日番谷が顔を白哉から逸らし、届いたお茶を白哉が啜る。

 

()()()()()はこの、“あんみつ白玉”というものが好きそうだな────』

 

「────ブッ?!

 

 何かを吹き出したような音が聞こえて日番谷が見ると、目を見開いた白哉が固まっていた。

 

「(ルキアに……あだ名???? しかも『()()()()()』……だと?)」

 

 完全に何時もの冷静沈着な白哉が心底ビックリしている事に、日番谷は思わずニヤニヤし始めて自分のコーヒーを飲む。

 

「……どうした? らしくねぇな?」

 

 白哉は丁重に顔を拭きながら、日番谷に対応した。

 

「……そう言う貴様こそな」

 

「「………………………………………」」

 

売り言葉に買い言葉(子供の張り合い)』で、無言に戻る白哉と日番谷。

 

「(あの二人はいったい、何をしているのだ?)」

 

 チエはと言うと、ちゃっかり白哉と日番谷に気付いていたが、二人が隠れていたので敢えて気付いていない振りをしていた。

 

ほうひたのだ、ひえ(どうしたのだ、チエ)?」

 

 注文した白玉を頬張りながらルキアの問いに、チエが意識をその場へと戻す。

 

「…………いや、いつもながら『ルーちゃんは好物を食べる時はまるでハムスターの様だな』と思っていただけだ」

 

「むぐ」

 

 ルキアが気まずそうになりながら、赤くなる。

 彼女の脳裏に浮かぶのは現世での(モキュモキュする)日々。

 

 渡辺家では朝、昼、晩、そしてデザートをモキュモキュ。

 

 休日では外食でモキュモキュ&舌ヒリヒリ(炭酸飲料)

 

 等々。

 

「無理もないか。 ここの白玉は確かに美味いからな────」

 

「「────あ」」

 

 チエがヒョイとルキアの前に在ったあんみつの掛かった白玉を一つ取っては食べる。

 

「……うむ、美味いな」

 

「だろう!」

 

 ズズズ、とお茶を飲むチエに嬉しがるルキア。

 

「ヒナモちゃんの浮島も旨そうだな────」

 

「────え」

 

 俯く始めた雛森がチエを見る。

 

「一切れ貰って良いか?」

 

「あ……はい、どうぞ!」

 

「……ふむ、やはり甘味は何時食べても旨いな」

 

「フフ、そうですね!」

 

「(雛森副隊長は藍染の事があったのでどうなるかと思っていたが……元気で何よりだ)」

 

 同じ『藍染の策略の被害者』と言う事で、ルキアは雛森を気にかけていたが……

 笑みを浮かべる雛森を見て、ルキアは上記のように思っていた。

 

 逆に雛森はと言うと────

 

「(────ぜっっっっっっっっっっっっったい負けない!)」

 

 ────なぜか対抗心を滾らせていた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その後、他愛ない話をしながら三人(チエ、雛森、ルキア)は瀞霊廷内の店を周ってから五番隊舎へと戻ると────

 

「────これはどういう事だ?」

 

「「す、凄い事になっているな?/ね?」」

 

 五番隊舎は小規模なパーティーの雰囲気に満ちていた。

 

「お? お前ら良い所に帰って来たな!」

 

「カリン? これは────?」

 

「────いやぁ~、凄いねぇ渡辺隊長代理~」

 

 明らかに酔った様な京楽が後ろからチエの肩に腕を回す。

 

「京楽隊長? (酒臭いな……どことなく、かのライダー(アレキサンダー)を思い出す)」

 

 チエの脳裏に蘇るは意の向くまま行動するフリーダム王。

 豪快に酒を飲む所といい、声といい、それらがどこか似通っていた。

 

 そして余談ではあるが、どこぞの赤髪赤ひげで巨男がゲーセン内で盛大にクシャミを出し、対戦ゲームの操作ミスで敗北をしたらしい。

『征服王』ならず、『ゲーム王』の初敗北に、とある家の酒の在庫が無くなるのは別のお話である。

 

『クシャミなぞにッッッ! 余が負けるとは、不覚ッッッ!』

『勝手に人の酒飲むなぁぁぁぁぁ!!!』

『しかもこれ、“山崎18年”じゃない?』

F〇〇K(フ〇〇ク)! 次回の楽しみに取って置いたやつがっっっ!』

『雁夜が“それ”言うのに、ハンパ無い違和感持つんだけど私』

『マルタ殿も飲むか?』

『へんなにお~い。 けほけほ』

『桜ちゃん?! 飲んじゃダメだからね、絶対!』

『ほれ! 少し飲んで余の話を────』

『ちょ?! ま、待って、幾等なんでも瓶ごとは────ガボガボガボガボッッッッ?!?!?!』

『マルタお姉ちゃん、いいな~』

『ダメだからね桜ちゃん?!』

 

 …………………色々な意味で(人に)合掌である。

 

 

 

 さて、少々長くなるが五番隊舎で何が起きたのか順を追って説明してみようと思う。

 

 時はチエ達が出かけた後、五番隊舎に来た織姫と彼女の兄の昊と髪を紫色に変装中のクルミの三人が来て、現世に帰る前に一護達を瀞霊廷のお店等へと連れて行かれた。

 

 これによって助っ人(一護達)が居なくなり、最初はサボり魔(京楽)を警戒していた伊勢だったが思いの他、京楽と恋次が五番隊の調子を直に見たいという事で模擬戦をし始めた様子が真面目そのものだったので逆に不気味がっていた(特に京楽に対して)。

 

 すると京楽、恋次、そしてその場に居合わせていた伊勢でさえも驚く程五番隊の者達の腕は上がっていた。

 

 最初は五番隊の十八番であった複数の隊士との手合わせを恋次が『軽い運動』程度に思っていたしていたのだが────

 

「(────こいつら、本当に平隊員かよ?! 席官の間違いじゃねえのか?!)」

 

 ────と、恋次はすぐに本気を出してこれを見た京楽はこう思った。

 

「(へぇ~? 前は一人一人の能力が地味だったから主に『数』で勝負をしていたのに…………今は個々の実力の上昇によって、連携に磨きがかかっているね……『少し面白い』どころか、『怖い』ねぇ~)」

 

 結果的に恋次は何とか勝ったが、彼の相手をしていた隊士達は互いを慰める事や褒めるのではなく、考えに浸っていた事で京楽が声をかけた。

 

「(ん? 結構善戦していたのに……妙だね。) どうしたんだい、君達?」

 

「あ、京楽隊長……その……」

 

「何だか……阿散井副隊長が余りにも()()()()()ので……」

 

「……う~ん?(……こりゃあ、もうちょっと様子を見るか)」

 

 そこから遠慮(拒否)する恋次に代わり、京楽が五番隊同士の手合わせを視る事になり、彼は内心で少し冷や汗を掻いた。

 

「(『優しかった』()()五番隊が、こうも化けるとはねぇ……)」

 

 以前、藍染が隊長だった頃の五番隊は確かに優秀な隊士達揃い。

 だが彼ら彼女らは()()()()()

 

 戦い方も基本は『相手の息の根を止める(を殺す)』というよりは、『相手を無力化する』方針だった。

 

 これは五番隊が『相手への共感が強くて優しい藍染』を目標や憧れにしていた事が主な原因だったが……

 

 今、京楽の前で繰り広げられる『死闘』直前の打ち合いをしている姿はどうだ?

 

 さっきまで仲良しに話し合っていた隊士が闘気を放ち、お互いを相手に()()()戦っていた。

 

『ビビってんじゃねぇよオラァ!』

 

 京楽が視線を更に横へと動かすと、そこではカリンが戸惑う五番隊の隊士達を相手にしていた。

 

「仕方ねぇから数人同時に相手しているのに、何打つのに躊躇ってるんだコラァ!?」

 

「で、でも────」

 

「────デモもストもねぇよ。 もう降参か? 尻尾巻いて家に帰って泣き寝入りするのかよ? ……ああ、テメェらは違うな。 家帰って先ずは家族に泣きつくんだよな? 『自分達は死神じゃなくて気弱な負け犬でした』ってな────」

 

「────ッ! ガァァァァァ!」

 

 一人の隊士が怒りからか、カリンの額目掛けて木刀を振るう。

 

 ゴッ

 

 カリンは避けるどころか、鈍い音と共に真正面から攻撃を受け止めていた。

 

 狙われた額で。

 

「(あーりゃりゃ。 痛そうだね~)」

 

 これを見ていた京楽は陽気にそう思ったが、次の瞬間に変わった。

 

……………オイ。 どういう事だテメェ?

 

 それは肝が冷えるような、カリンの怒りの籠っていた言葉と目の所為だった。

 

「真っ向から当てて『コレ』かよ。 あ? テメェの腕は飾りかよ? 舐めてんのかオイ?」

 

 最後の一言と共にカリンが睨みを飛ばし、攻撃した隊士がビクリと反応する。

 

「おーおーお~? スゲェ分かりやすくビビっちまって……そのまま泣きながら逃げるか? テメェの覚悟はそんなもんか?」

 

「ち、違────グハッ!」

 

 カリンがそのまま頭突きを木刀に食らわせ、持ち主が自分の持っていた木刀を顔で受け止める。

 

 「だったら力込んで打って来い、爺の○○○(ビィー)みたいにヒィヒィ言いやがって?! それでもテメェらは『戦士』か?! オレに根性を証明して見せろ、この○○○○(ピィー)××××(プー)△△△△(パー)共がぁぁぁ!!!」

 

 カリンの姿はまるっきり新兵をしごく(鬼)教官だった。

 

「ああやって五番隊の皆に戦いの感覚を体に染み込ませているのか……凄いですね京楽隊長」

 

 恋次が汗をタオルで拭きとりながら京楽の近くで独り言のようにそう言う。

 

「ん~……どうもそれだけじゃないねぇ」

 

「??? 隊長は、どうお考えで?」

 

「ん~? 珍しいねぇ、七緒ちゃんが僕の考えを聞きたいなんてね~。 叔父さん、嬉しいねぇ」

 

 伊勢が珍しく、純粋に自分の考えを聞きたがっていたのが面白いのか、いつも以上に笑顔になっていた事に伊勢がイラっと来た。

 

()()が言いたくないのなら私は別に────」

 

「────そう拗ねないでよ、七緒ちゃん」

 

 そこで恋次と伊勢が真面目な顔をする京楽にゴクリと喉を鳴らした。

 

「要するにね、彼ら(五番隊)に不足していたのは『多大なストレスのかかる戦闘状況』と『どんな相手でも全力で戦える』という事。 そしてまさしく今、それらに彼らを慣れさせているのさ」

 

「??? そんな事でこんなにも強くなれるんですか、隊長?」

 

「うーん……掘り起こしたくはない出来事なんだけど……七緒ちゃんは以前、山じいに睨まれた時に心が折れそうだったよね?」

 

 それは双極の丘で、山本総隊長と京楽と浮竹に付いて行った伊勢に起こった出来事。

 当時の彼女は山本総隊長の圧力に当てられただけで体が膠着し、息も出来なかったほどの霊圧(プレッシャー)に潰されそうだった。

 

「ッ」

 

「本当にごめんね、嫌な事を思い出させて。 でも例えると、『躊躇』や『戸惑い』に『迷い』などの感情や疑惑が自分を束縛するんだよね。 だから『己の本気』を出せなくなるんだ。 本人が例えそう願っていてもね?」

 

「成程……つまりは『本来持ちうる能力の全てを出せる状態にした』と言うのですね、京楽隊長? 通りで短期間に強くなった訳だぜ。 (俺が『浦原喜助の所で訓練した時みたい』ってか)」

 

 京楽の説明で納得をする恋次に、京楽が笑みを浮かべる。

 

「ンフフ~、阿散井君も心当たりがあるみたいだねぇ? さて! 七緒ちゃん? すこ~し僕から()()があるんだけれど、こぉんなにも頑張っている隊士達に────!」

 

「────隊長『全額持ち』なら」

 

 伊勢の即答に京楽が苦笑いする。

 

「い、何時に増しても容赦ないね、七緒ちゃん?」

 

「前に申した通り、私は貴方の後を追うだけですので」

 

 

 

 そこから上記に書いた些細なパーティー(費用は京楽持ち)が開かれて、チエ達が戻った現在()になる。

 

 パーティーの名目上は『京楽隊長の気まぐれ』という事で誰もが参加して良い形だった。

 

 ただ開催場所が五番隊舎だったのが影響したのか、参加者は殆ど決まっていたようなモノだった。

 

 一か所の場所では酒を次々と飲む松本と、彼女に巻き込まれて早々ダウンした修兵と吉良、そして松本と飲み比べをしていた一角とサングラスをかけた七番隊副隊長の射場鉄左衛門(いばてつざえもん)と愉快に笑う京楽の姿。

 

 もう一方では現世組の一護、茶渡、雨竜、織姫、昊と更にクルミ、カリンと彼女に無理やりに巻き込まされた平塚、櫃宮、そして田沼の席官三名達の姿。

 

 他にもチラホラと人だかりはあり、皆が取り敢えずの平穏を噛み締めていた。

 

 そして────

 

「お前は何をしているのだ重國?」

 

「人違いです。 ワシ────()はただの通りすがりの死神じゃ────です」

 

 チエが話しかけたのはこっそり(?)と端っこで酒を飲んで、隊首羽織無しでほっかむりをしていた()()()()()()()()()

 

 しかもほっかむりの色はどこぞの『がんばれゴ〇モン』シリーズに出てくるエビス〇ブルー。

 

「……………………えーと」

 

「……………………何をしているのですか、そうt────もが?!」

 

 何を言ったら良いのか分からない雛森に、困惑するルキアの口をチエが覆う。

 

「そうか。 分かった、『名も知らぬ死神』よ」

 

「うむ。 感謝するぞ、『隊長代理』殿」

 

 その間、各々の者達は表面上楽しみながらも先の事を考えていた。

 

 松本、吉良は自分達の知人/隊長だった市丸の事を。

 

 修兵は上記の吉良のように自分の隊長と、その日に会った狛村隊長との『東仙を取り戻す』会話を。

 

 雨竜は、失った滅却師の力をどこまで周りの者たち相手に隠せるか。

 他者から心配されるなど、彼のプライドがそれを許さなかった。

 

 織姫は最愛の兄()との再会と、自分の非力さと、()()()()()()()()事を。

 

 最も、悩んでいる事を言えば一護もそうだった。

 

 何せ自分の実力の無さの上に、『もう一人の(白い)一護』がその事を毎日うるさく、今現在も尚ずっと指摘していたから。

 




リカ:あの二人、尾行が下手ですね

作者:ま、まあ……一人はお坊ちゃんで、もう一人は……あれ? よく考えたら二人ともお坊ちゃんじゃん?

カリン:ある意味な

三月:がぁぁぁぁぁぁぁ?! アイツしつッッッッッッこい! バイキンマ〇よりしつこいッッッッ!!!

作者:おっつー

三月:じゃああかましいわい! 羊羹のヤケ食いよ! ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ!!!

作者:ああああああああああああああああ?! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!

マイ:体重、大丈夫かしら~?

作者:そもそもお前らにそんなモノ意味無いじゃん?!


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第39話 (Mis)Understanding (後編の前編)

マユリ:『ピンポンパンポーン。 皆様お待たせしました。 作者からの注意事項でございます。 “そのままの勢いでかなり書いてしまって只今読み直しているところです。 ここからは、更に独自解釈やご都合主義などが増えてきますが、楽しんでいただければ幸いです”との事です。 ピンポンパンポーン』

リカ:お~、流石ですねぇ~

マユリ:フン、これしきの事で感動して欲しくないネ。 私ほどの天才となると声帯でアナウンス等を再現するのは造作もない事だヨ。 では! 次は君の番だゾ?!

作者:ゴメン三月…恨むのなら若い頃に書いたプロットの自分を恨んでくれ……

リカ:ではボクは一足先に行ってきますね?


 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 その夜、チエは珍しく卯之助の屋敷から()()()出歩いていた。

 

 着替えやタオル等を入った小さなカゴを腕に抱えながら。

 

 実はと言うと、チエは風呂……というか近くの銭湯に向かっていた。

 ()()()

 

 本来なら右之助の屋敷にある風呂を使うのだが、水道局が何か改装か工事をしているらしくて『水の調子がおかしくなった』、と右之助の家の者が申し訳なさそうに言い、近くの銭湯への行き方を説明した。

 

 その様な事があってチエは勧められた銭湯の入り口をくぐり、カラカラと音を出す女湯の扉を躊躇無く開ける。

 

「「「」」」

 

「……ん?」

 

 ___________

 

 櫃宮佐那、雛森桃 視点

 ___________

 

 何時もは隊舎のお風呂場を使う櫃宮と雛森達だが、こちらも上記の通りお水の調子がおかしくなっていたので、近くの銭湯へと来ていた。

 

「何だか変な気分ですね、雛森副隊長とお風呂に行くなんて」

 

「え? そ、そうかな?」

 

 そこで意外な組み合わせと二人はバッタリと会う。

 

「あれ? あんた達の所も水がおかしいワケ?」

 

「松本副隊長に、伊勢副隊長?」

 

 櫃宮と雛森が道で会ったのは松本と伊勢だった。

 

「さっきも言いかけたのだけれども…先の戦いで瀞霊廷のあちこちに在ったガタをこの際、見直すらしくて────」

 

 伊勢が眼鏡を直しながら会話を始め、四人はそのまま一緒に銭湯へと入る。

 

 更衣室で衣類を脱ぎ始めた頃に、松本が雛森と櫃宮に話しかけた所で二人が固まる。

 

「で、どうなの? あんた達の所に入った新しい『隊長代理』って奴は?」

 

「へ? ど、どうって聞かれても……ねぇ、雛森副隊長?」

 

 櫃宮が雛森へと振る。

 

「え? わ、私は…………………………………『凄い人』だと思うけど……………」

 

「………………………ふぅ~ん? 『凄い』って、どういう風に?」

 

「ふぇ?! え、えっと…………………」

 

 アタフタとする雛森を、松本が面白そうな(悪戯っぽい)笑みを浮かべながら見る。

 

「もしかして…………『好み』、とか? アイツ、前の(藍染)とは違って『クール系』だしねぇ~? それに両方とも細い体格で~?」

 

「チ、()()()()はそんなんじゃないです! ………………………あ?!」

 

 雛森がチエを『さん付け』で呼んだ事に、松本が更にニヤニヤする。

 

「『()()()()』、ねぇ~?」

 

 尚櫃宮は今の松本の性格(モード)を知っていたのか、自分一人だけ我先にと風呂場に入っていた。

 

 対する伊勢は興味があるのか、『隊長代理』のことが気になっていた模様で、雛森からの視点を黙りながら聞き耳を立てていた。

 

「へぇ~? ふぅ~ん? やっぱり()()()()()()()が好きなのねぇ~?」

 

 因みに伊勢からすれば今の松本はからかう京楽の『アレ』(エロオヤジ顔)であった。

 

「そ、そういうのじゃありませんから!」

 

「で? 雛森ちゃんにはどういう所が『凄い』の?」

 

 雛森の抗議をスルー(無視)する松本。

 

「その……藍染()()と似ている所、とか」

 

 そしてそのまま流される雛森であった。

 

「「へ?」」

 

 これには松本と伊勢、両方が驚いた。

 

 何せ二人(藍染とチエ)は見た目も性格も似た要素が松本と伊勢には思い浮かべられなかったからだ。

 

『体格が細い』という所以外。

 

「どんなところが似ているのですか?」

 

 ここで伊勢が自分の持っていた疑問をそのまま思わず口に出す程で、松本がウンウンと()()()コクコクと頷いて詳しい事を聞きたい程。

 

「その……チエさんは顔に出ないんですけど、凄く()()()()()()()()()なんです────」

 

 そこから雛森は様々な事を松本と伊勢に聞かせる。

 

 例えば、五番隊の者が他の死神に絡まれた場合、チエが何時の間にかその場に居合わせ、決して贔屓などせずに双方の言い分を聞いて、仲介人の様な役割を果たしていたり。

 

 時間さえあれば流魂街に一人で出向いて魂魄達の声に耳を貸したり、管轄の隊士を注意や助けをしたりなど。

 

 殆ど『何時寝ているの?』という疑問が自然と出てくるような働き(無茶)ぶり。

 

 特に席官である平塚、櫃宮、田沼の三人の事を高く評価していて、隊長業務の手伝いや連絡係、つまりは『隊長及び副隊長の補佐』をさせたり等────

 

「────ちょっと待って雛森ちゃん。 その三人って、着任の初日にその『隊長代理』にコテンパンにされた奴らでしょ? あれは『見せしめ』じゃなかったの?」

 

「あ……えっと……そう取っても無理もないですけど、あれって実は藍染()()の事があってからなので『誰がまだ心を強く持っているのか?』という振るい分けが目的だったらしいですよ?」

 

「……………………はぁ?」

 

 伊勢の顔がふざけている時の京楽へ向ける時以上のジト目へと変わる。

 

「……………………ゴメン、えーと…それじゃあ、何? あんたの所の『隊長代理』は『心が折れていない隊士』を見つける為にワザと挑発した訳?」

 

「まぁ……極端に言えばそうなるかも? あ! でも、チエさんは『挑発したつもりはなかった』って、私達(五番隊)に後でちゃんと説明しましたよ?」

 

 呆れる松本&伊勢に、雛森がワタワタと手を振りながら言う。

 

「その! 良く勘違いされる方達もいるんですけど! チエさんは裏表が無いだけなんです! 全くと言って良いほど! だ、だから物事をそのまま直接言ったり、他人からすれば遠慮の無い行動などを平気でしたりするんです! ………………………それに……」

 

「「『それに』?」」

 

「チエさんは…………()()()んです。 藍染()()や、他の人とは違うんです。 こう……どうすれば上手く表現出来るかな? …………………うん。 『家族思い』、かな?」

 

 雛森のほんのりと赤くなった頬に手を添えながらはにかむ姿は何処の誰がどう見ても『大切な人を想う少女』そのものだった。

 

「………………そっか。 雛森ちゃんが元気で何より────」

 

 ────カラカラカラ。

 

 満足そうに笑う松本の言葉を、女性更衣室の扉がカラカラと乾いた音に遮られ、全裸状態の松本、下着姿の伊勢と雛森が扉の方を見ると────

 

「「「」」」

 

「……ん?」

 

 ────チエが立っていた。

 

「「「………………………………………」」」

 

 松本、伊勢、雛森は一瞬固まった。

 

「ど────?」

 

 ヒュン!

 バコーン!

 

「────ブ?!」

 

 ?マークを出すチエの声が引き金だったかのように、殆んど反射神経で松本の投げた桶が顔面に直撃して、チエは後ろへとよろける。

 

 ガラガラガラガラガラガラガラ、バシィン

 

 チエがそのまま女性更衣室から出ていると、真っ赤になった伊勢が無言で勢いよく扉を閉める。

 

 女性更衣室内では(下した髪に胸が隠れた)トップ&ボトムレス()の松本、下着(シームレスブラ&パンツ)姿の伊勢、そして自身の胸を抱きしめながら床にうずくまったボトムオンリー(パンツだけ)の雛森達は赤くなりながらプルプルと小刻みに震えていた。

 

 「…………………アイツ信じられないッッッ!!! 正面から来るか、普通?!」

 

 「全くです! 隊長(京楽)()()少しは恥じらいながら隠れて覗こうとするのに!」

 

 それなりの爆弾宣言をした伊勢に対してツッコむ余裕がある者など、今その場には居なかった。

 尚、櫃宮はただ『松本副隊長が何かしたのかな?』と思っていただけ。

 

 半ギレになる松本と伊勢とは違い、雛森の目からはハイライトが消えては涙目のままブツブツと独り言を延々と小さな声で言い続けていた。

 

見られた見られた見られたチエさんに見られた見られちゃったどうしようどうしようどうしよう下着も地味な物だしでもそれは別に良いとしてブラも着けていない状態を────

 

 こちらにもツッコむ者はその場に居なかったのは言うまでも無い。

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

「……??? ???? ??????????

 

 チエはそのまま桶を食らった勢いで女性更衣室の入り口の反対側にある壁に背を預けて無数の?マークをただ出していた。

 

 読者達にも思い出して欲しいが、チエは『ただ湯に浸かる為』に銭湯へと来ていた。

 

 だと言うのに、案内図に『女湯』と書いてあった筈の場所から問答無用で追い出されていた。

 

「…………………………まさか違ったのか??????」

 

「渡辺()()か? そこで何してんだ?」

 

 そこに近くを通りかかった日番谷が立っていたチエを見て、声をかけた。

 

「日番谷隊長か。 私は『隊長代理』だぞ?」

 

「…………で? そこで何してんだ?」

 

「入ろうとしたら追い出された」

 

 無言で日番谷はチエの訂正をスルーし、チエはそのままの出来事を彼に言うと日番谷の顔が驚愕に変わる。

 

「な?! お、おま、お、おま、お前ッ?! 正気かよッッ?!?!

 

「何を言う? 入口だろう?」

 

「て、テメェはッ! ………………………話がある、こっちに来い!」

 

 赤くなりつつも日番谷が別の方向へと向かい、チエの胸倉を掴んで無理矢理引いて連れて行く。

 

裏表が無さ過ぎというか正直過ぎるだろうがコイツは?!

 

「??? (ん? こっちは違ったような気が────?)」

 

 そこで日番谷に連れて来られたのは()()更衣室に入ると、京楽が既にいた。

 

「ん~? こりゃ珍しい組み合わせだねぇ~? どうしたんだい?」

 

 これを見てチエは『とある』結論に辿り着いて自己納得する。

 

「(ああ、成程。 先ほどは()()()()の更衣室で、こっちが()()()だったか)」

 

 勿論そんな事は全く無いのだが、チエの考えを訂正する者も、チエが未だに性別に無頓着なのも説明出来る人達は誰も周りにいなかった。

 

「いや……俺がこいつ(チエ)()があっただけだ」

 

「へぇ~?」

 

「そういう京楽隊長も銭湯なんて、珍しい事もあるんだな?」

 

 日番谷が衣類を脱ぎ始めて、京楽に問うように話す。

 

「まぁ、今日()()()()()()()お酒を飲んでいてねぇ~? 酒の匂いがするまま帰ったら、キンキン五月蠅い人達が待っているんだよねぇ~」

 

「??? どういう意味だ?」

 

 チエも同じく()()()()()

 

「僕ってこう見えても貴族なもんだから、家の者が五月蠅いんだよね~。 やれ『見た目を直せ』だの、『酒は控えろ』だの、『世間体を気にしろ』だの────って、変わったデザインの()()をしているね隊長()()?」

 

 京楽が上着を脱いでBホルダーを見てチエと話す。

 

「ああ。 これは『びーほるだー』と言うものらしくてな────」

 

 一瞬動きを止めたチエだが、説明になっていない答えをした後、脱ぐのを再開する。

 

 カラカラカラ。

 

 乾いた音と共に更衣室の扉が開かれて一角と恋次が入ってくる。

 

「ったく、なんで水道局の都合でわざわざここまで来なきゃなんねぇんだ────」

 

「────たまにはいいじゃないっすか、一角さん────」

 

「────??? お前達、()()()()()()()()いないか?」

 

「「あ?」」

 

 ?マークを出しながら問うチエに、同じく?マークを出す一角と恋次。

 

「おい一角に恋次、そこに突っ立っていないで────い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛?!

 

 彼らの背後から一護が来て、Bホルダーを脱ぎ始めたチエを見た瞬間に素っ頓狂な声を上げる。

 

お、おま、お前ぇぇぇぇぇぇ?! 何で()()()にぃぃぃぃぃ?!

 

「しかも一護も()()()()か。 いや、()()()()()()を追い出されてな────?」

 

 そのままチエはBホルダーのファスナーを下ろして、サラシに巻かれた胸が────

 

 「おわぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!」

 

 ────出る前に、真っ赤になっていく一護が自分のタオルをチエに無理やり羽織らせて上半身を隠す。

 

「??? どうした一護? 顔が赤いぞ、熱か? ならば風呂はやめ────」

 

「────バ、バカヤローがッ! ()のお前が何で()()更衣室に平然といて脱いでいるんだよッッッッ?!」

 

「??????? ()()()では()()()()()()()()()()()に分かれているのではなk────?」

 

「「「「────え゛────」」」」

 

 「────そんな訳あるかボケェェェェェ!」

 

 余談ではあるが、今も昔も()()チエは自分自身から銭湯等に行く事はなく、何時もは誰かに(大抵の場合)無理矢理連れていかれるか、誘われるかの流れでお風呂等に入っていた。

 

 後は一人で入る、など。

 

 なので未だに良く『性別での仕切り』を理解していなかった。

『関心が無い』というのもあったのかも知れない。

 

 だがそんな事を知らずに、その場に居た男性達には相当な(当たり前の)ショックだった。

 

 「お、お、お、『女』だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 赤くなりながら叫ぶ恋次。

 

……ハ?

 

 驚愕して固まる日番谷。

 

「う、う~ん……これは流石に……ちょっとねぇ~?」

 

 少し困ったようで、内心はビックリしていた京楽。

 

「だから『姉妹』って俺言ったじゃ────あ」

 

 そして顔を逸らしながら気付く一角。

 彼は『渡辺姉妹』と伝えていたのはそんな物に関心のない人達(更木剣八とやちる)だけだった事に。*1

 

「?????? だから何故皆、私を『男』と思うのだ────?」

 

「────良いから胸とブラを隠せッッッ!!!」

 

 チエの肩からズレ始めるタオルを一護が直す。

 

「胸は出ていないし、これはサラシだぞ? お前の時みt────」

 

「────?! そんな事は良いからッッッ!!!」

 

 一護がチエの手を取り、小走りで二人が更衣室を出る。

 

 余程動揺していたのか、目を見開いていた白哉の横を素通った事に一護は気付かなかった。

 

「………………………………………………………」

 

 そして、男性更衣室の中と付近では様々な考えをしていた男達が残される事となる。

 

「(あいつ(渡辺チエ)……女だったのか……)」と、思いながら昔のルキアを連想する恋次。

 

「(全然女の子らしくない性格だねぇ……ちょっと勿体ないなぁ~)」と、びっくりし過ぎて一周回ってマイペースな考えになる京楽。

 

「(………………俺が女に()()()……だと?)」と、方向違いな事を考える日番谷。

 

 だがこれらよりも比が全く異なる事を考える者が更に居た。

 

(────何という事だまさかルキアがそのようないやそれでもルキアにはルキアなりの考えがある筈と言うかどうすれば家の者達から隠し通すいやそれ以前にルキアに話をするかいやそれも駄目だだがどうやって()()()()()()()()()()()────?)

 

 それは全くと言っていい程、物凄く、飛躍した勘違いをしていた白哉(シスコン)だった。

 

 ちなみに何故、貴族で自分の屋敷がある白哉が銭湯に来ているかと言うと、チエが日番谷に『話がある』と言われて引っ張られていく様を見て、白哉は『(ルキアと山本総隊長に)チエと内密に話せるチャンス』と思い、『瞬歩』を使ってわざわざ屋敷に戻って支度を済ませてからまたも『瞬歩』を使って男性更衣室にラッシュで来ていた。

 

 この上ない、全くもって歩法(瞬歩)の無駄使いである。

 

 しかもその末に盛大な勘違い(自己完結)をしてしまった。

*1
第25話後半より




ひよ里:なんやねんこいつ?! ふざけてんのか?!

作者:いやまぁ、サラシだけでもかなり胸は減りますよ? そこで更にBホルダーを付けるともうほんとに胸が無くなって、男子と大差ないほど────ブェ?!

ひよ里:そないな事聞いとらんわこのハゲ! こいつ、性別の違いとか分からんのか?!

作者:え? 書いた通り、『関心が無い』って────あいたぁ?! ひ、肘はダメでしょう?!

ひよ里:次の話はこれか?! これなんか?!

作者:あああ困ります! 勝手に読まないで下さい!

ひよ里:ごちゃごちゃ言わんと早よ次書かんかい?!

蒲原:素直じゃ無いっすネェ~?

ひよ里:うっさいわクソハゲ?!


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第40話 (Mis)Understanding (後編の後編)

連続投稿、GO!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 男湯から一護とチエが向かっていた女湯では水の液体音以外、ただ静かな沈黙が支配していた。

 

ど、どうする?

 

わ、私に聞かれても……櫃宮四席は?

 

そうよ、同じ五番隊でしょ────

 

────無茶な事言わないでくださいよッッッ!!!

 

 否。

 小声で会話はあるものの、その場にいた一人の人物によってこのお通や状態の空気は生まれていた。

 

「…………………………………………………………………」

 

 それは湯の中で死んだ目と、いつの間にかやつれた顔で体育座りをしながら股を抱え、肌が青を通り越して土色になった雛森だった。

 

 この変わりぶりは同じ湯に浸かっていた松本、伊勢、櫃宮が距離を出来るだけ自身達を遠ざかせる程。

 

 単純に雛森の近くに行くと、()()()温度が数度下がったような錯覚になるから。

 

 余程(ほぼ)裸の姿を『隊長代理』に見られたのがショックだったのだろう。

 彼女のその様子は『原作』より遥かに酷かった。

 

「「「(ど、どうしよう?)」」」

 

 性格が違う三人(松本、伊勢、櫃宮)はこの時だけ同じぐらい雛森の心配をしていた。

 

 カラカラカラ。

 

「成程。 やはりこっちが女湯だったか」

 

「「「……え」」」

 

 そこで現在、雛森の様子の元凶とも言える人物の声が入り口の開く音と共に響く。

 

 松本、伊勢、櫃宮が見ると、やはり全裸のチエだった。

 

「「「い────ッ?!?!?!」」」

 

 叫びそうになる三人が途中で止まり、その間にチエは体を淡々と洗い始める。

 

 ちなみに三人の考えは以下の通りである。

 

「(え? え? え? む、胸がある? 小さいけど……)」

 

「(髪の毛が長い男性ではない???)」

 

「(『()』があって、『()』が無い……だと?)」

 

 上から櫃宮、伊勢、松本。

 唖然としている間にチエが湯に浸かる。

 

「…………………どうした三人とも? のぼせたのなら────」

 

 「「「────アンタ、『女』だったのぉぉぉぉぉぉぉぉ?!」」」

 

『キィーン』と耳鳴りがするほど三人が叫び、雛森がここで初めて反応する。

 

「チエさん!」

 

「ん?」

 

 ザバザバザバと湯の中を走る雛森が焦点のあっていない、グルグル暗黒な何かが中で回る目をしたままチエに迫る。

 

「せ、()()()()()()()()()!!!」

 

 「「「え」」」

 

「ああ、良いぞ」

 

 「「「え゛」」」

 

 雛森の言葉と、それに即答するチエにただ反応するしかない松本、伊勢、櫃宮が互いを見る。

 

「……………………………………………………ポペ」

 

 立て続けの衝撃の連鎖でとうとうパンクしたかのように、雛森が意味不明な言語と共にの意識が遠くなり彼女は横に湯の中へと倒れ、湯の中をうつ伏せのままブクブクと泡を出す。

 

「雛森ちゃん?!/雛森?!/副隊長?!」

 

「……やはりのぼせていたか」

 

 チエが雛森を抱えて女湯から出ようとする。

 

『あああぁぁぁぁぁ、もう嫌! なんなのアイツ?! バイ〇ンマンより質が悪いッッ!』

 

『悪趣味なストーカーのほうがまだマシですね』

 

『ストーカーでも常識は持ち合わせていますよホント……』

 

『先にお前らがアイツを挑発するような事したからじゃねえの?』

 

『いや、トイレにまで乗り込んで張り込むのは流石にあかんとちゃう?』

 

 カラカラカラとまたも開く入り口から入ってきたのはゲッソリとした(眼鏡無しの)三月、眼鏡をしているリカとクルミ、そして(頭以外)体全体に擦り傷が見えるカリンと、八重歯がある以外は三月とそっくりのツキミだった。

 

「みんな仲が良いんだね♪」

 

 一つ訂正。

 

 彼女達の後ろに織姫も居た。

 

「「「「「(何でこいつ(織姫)()と居ない時以外は私達に付きまとうの?/付きまとうんだ?/付きまとうんや?)」」」」」

 

 何時も通り(平常運転)の織姫は三月たちが風呂に入ると聞き、「じゃあみんなに一緒に入ろう!」と聞く耳持たずに付いて来たのだった。

 

「あれ? チーちゃん?」

 

「あん? なんで『メロンパン』が気ぃ失ってんだ?」

 

「ああ。 のぼせたらしくてな」

 

「というかチエ氏はあまり浸かっていないと推測しますが?」

 

「別にいい。 体はもう洗った後だからな」

 

 リカの問いで外に出始めるチエ(&抱えられた雛森)に今度はツキミが声をかける。

 

「なんや、というか帰りは一緒に帰らへんか?」

 

「そうだな。 そこまで時間が経てば、流石に雛森も目が覚めるだろう」

 

 それを最後にチエと雛森は湯場から出て、入れ代わりに三月達が入る。

 

彼女(カリン)以外の皆さんは髪が長いのですね」

 

 隣で体を洗っていたネムがジーッと三月達を見ながら言う。

 

「ん? まぁね。 でもケアが大h────え゛?

 

 三月が隣から聞こえた()()()の声を聞いて固まる。

 

「…………………………………………何か?」

 

 ネムが(物理的に)後ずさる(引いていく)三月とクルミを?マークを出しながら見る。

 

「な、なんでここ────へぶ」

 

あの子(チエ)の事、詳しく説明しなさいよ?!」

 

 三月がやっと再起動した松本に後ろから掴まれて、後頭部を柔らかい物(たわわな胸)に強打する。

 

「そうです! あの隊長代理の『()』ですよね、貴方達?!」

 

 今度はクルミが伊勢に掴まれる。

 

「いえ、ボク達が『()』ですけど?」

 

「え?! あんた達が?! すらごと()?!」

 

 そしてリカの『シレ』っとした、何気ない答えに櫃宮の地の方言が思わず出る。

 

「なんや、文句あるんか?!」

 

 そしてお約束の関西 ツキミのツッコミ。

 

 そして顔を洗う為に外した眼鏡をかけ直すリカ。

 

「あ、先程ぶりですネムさん」

 

「あら、貴方はマユリ様と────」

 

「「「────え?」」」

 

 三月達の視線が平然と挨拶をするリカへと移る。

 

「ん? ボク、言いませんでしたっけ────?」

 

 

 ___________

 

 右之助、山本元柳斎 視点

 ___________

 

「あ~、暇じゃ~。 烈の奴め~、酒屋に片っ端から『ワシには禁酒じゃ』と伝えおって」

 

 右之助はその同じ日の夜、どこかの隊長室内のソファーの上にて項垂れていた。

 

「お主が悪い。 あれ程『酒は控えよ』と言われておるのに、よりにもよって卯ノ花本人にバレおって」

 

 その間、山本元柳斎が座っていた机からは『トン、シュル、パサ。トン、シュル、パサ。トン、シュル、パサ』っと、リズムの良い音を出していた。

 

「いや、ワシもまさかチエ殿が帰って来るとは思わなんだ。 長生きはしてみるものじゃのぅ、山坊? フホッホ」

 

「いい加減『山坊』はやめて欲しいのじゃが。 ワシら二人とも爺じゃし」

 

 山本元柳斎は書類に()()()を押しては次の書類をめくる作業を止めずに続ける間、右之助が立ち上がってヨボヨボと近くの掛け軸を横へと逸らして後ろの人がぎりぎり通れるような穴の中を見る。

 

「ワシにとっては何時まで経っても『山坊』じゃよ────ってお主。 ここに隠しておいた秘蔵の酒を動かしたな?」

 

「フォ、フォ、フォ。 ワシじゃないわい。 雀部(副隊長)じゃ」

 

 ジト目で自分を見る右之助に、山本元柳斎が愉快そうに笑う。

 

「大方、ワシの酒とでも思い込んだのじゃろう」

 

「あの小僧……まぁ良い。 お主の抜け道に壁が出来ておるからな」

 

 山本元柳斎がここで初めて作業を止めて、目を二つとも『カッ』と見開く。

 

「な、なんじゃと?! (まこと)か?」

 

 山本元柳斎がせっせと掛け軸の裏にある穴の中を確認すると、今度は右之助がニヤニヤと愉快に笑っていた。

 

「く、くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! お、おのれい! ワシの、ワシの一か月の歳月をかけた抜け穴がッッ!!!」

 

「山坊、その書類の処理……手伝うぞい?」

 

「ヌ……グッ……見、見返りはなんじゃ? 今度はどこの酒じゃ?」

 

「交渉成立じゃな」

 

 余談ではあるが、作業の効率化の為に署名の代わりに『ハンコ』が導入されつつあった。

 

 それだけではなく、瀞霊廷に無くて『現世』にある数々の物が導入される目途が立っていた。

 

 それもこれも涅マユリ(現技術部局長)と、蒲原喜助(元技術部局長)の二人のおかげでもあり、頑なに古い方法などを重視していた頑固頭……もとい、四十六室が不在なのも大きく関係していた。

 

 いや、厳密には『現世』()()無い物や試作品(プロトタイプ)段階でしか存在しない物の『()()()』等も()()()導入されていたのだが。

 

 更に余談となるが、後に山本元柳斎が右之助の手助け(署名のハンコ押し代わり)を求めたのが後で災いする事となるが………

 

 それはもう少し先の話になる。

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「う……うーん……」

 

 横になっていた雛森はボーっと目を半開きにして、まどろむ意識のまま呻き声を上げていた。

 

「大丈夫か?」

 

 そしてそんな生半可な意識の中だった為に殆ど本能的な行動を取っていた。

 

「変な夢を見たんです」

 

「ほぅ。 どんな夢だ?」

 

 勿論、丁度良い温もりに極上の枕に頭を休めている様な感覚、心が安らかになる声などが関係していたのも不定出来なかった。

 

「チエさんが……『責任を取ってくれる』っていう……幸せな夢を……」

 

「別に夢ではないぞ?」

 

「……………………………………………………」

 

 この最後の『夢である否定』宣言に雛森の意識が覚醒すると同時に目を完全に開けて目の前のオブジェをちゃんと目視する。

 

「どうした?」

 

 そして目の前にはかなりのドアップでチエが覗き込む顔と、自身の頭が乗せられた彼女の膝が後頭部の感覚────

 

 「────?!」

 

 ゴリッ!!!

 

 ビックリした雛森が急に起き上がり、互いの頭が衝突して鈍い音がする。

 

 別名『頭突き』とも言う。

 

「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛?!」

 

「……………………………………………………………」

 

 女性更衣室の休憩所のベンチの上で痛みに自分の頭を抱える雛森と、目をパチクリとしてチカチカと星が散っている景色が収まるのを待つチエ。

 

 数秒後、雛森は()()()()()()

 

「え?! チエさん?! な、何でここ(女性更衣室)に?! と、というか胸がある……それにひ……膝まk────」

 

「────ああ、何か勘違いをしているみたいだが私は自分を『()』と偽った覚えはないぞ。 あと胸は邪魔なので以前はサラシだけ巻いていたのだが、この『びぃほるだー』もつけると胸を気にしなくても良い様になってな────?」

 

「────え? は? へ?

 

 頭が追い付かない雛森は彼女と同じように浴衣姿のチエを見る。

 因みに今はサラシ+Bホルダーを両方とも着用していたので胸は完璧に隠れていた。

 

「えっと……『女の人』……という事ですか?」

 

「そうなるな。 疑うのなら、見せても────」

 

「────い、良いです! 結構です! 大丈夫ですッッ!!!

 

「ん、そうか」

 

 浴衣を解いて脱ぎ始めたチエが帯を締め直して、雛森は気まずいように体をモジモジとする。

 

「……どうした?」

 

「う……チエさんは……その……」

 

「ん?」

 

 雛森の声が徐々に消え入りそうなモノへと変わる。

 

…………さっきの……その……………えっと────

 

 顔を俯かせた雛森がおずおずとチエを見上げると、チエが何かに気付いた様に手を『ポン』と置く。

 

「────ああ。 先程の『責任』か。 ()()()()ぞ、『()()』もして良いぞ?」

 

「え」

 

 ビクリとする雛森は(何時も通り無表情な)チエの顔を見上げ、目が合う。

 

 そしてジーッと視線を外さない自分を見るチエに、雛森は段々と自分の顔が熱くなるのを感じて戸惑う。

 

「(え、え、え?! な、なんで? だって……え? 『責任を取る』って……え? でも……チエさんは同じ『女性』で……『同姓』で…………ルキアさんは………………えぇぇぇぇぇぇぇぇ?)」

 

 チエはというと顔の両側を自分の手で覆って座りながらタジタジクネクネする雛森を見て、とある玩具(フラワーロック)が頭を過ぎっていた。

 

「(確か三月がウルルの為に買って、ウルルが大層気に入っていたな……蒲原に魔改造されて虚に反応するようになったと知っては私に泣き付いて、三月が夜一殿に『ふらいでー』という所の隠し場所をバラしたな)」

 

 ボーっと表情を変えずのチエの意識が、雛森が頭を下げる動作によって現在へと引き戻される。

 

「で、で、で、では……不束者ですが……よろしく……お願い……します

 

「??? ああ、こちらこそ」

 

 良く分かっていないまま、チエも礼儀に沿って頭を下げる。

 

 

 

 一方、男湯では文字通り『生きた屍』状態の日番谷と白哉がいた。

 

 互いに無言で俯き、ただひたすらに沈んだ顔と空気を出していた。

 

「(よっぽどチエが『女』だったのがショックだったんだな)」、と恋次は横目で二人の様子を見ながらかなり軽い考えをしていた。

 と言うのも、その事実を考えれば自然と落ち着いたからだ。 

 

 主にルキア関連事情でと言うのは本人(恋次)でさえも気付いてはいなかったが。

 

「(昔の俺を思い出すなぁ……分かるぜ、その気持ち)」、と同じく横目で一護が頭を洗いながら思う。

 

 ただ当時の子供の頃に見た事が頭を過ぎったのか、一護は急に冷た~い水の蛇口を捻っては頭を流れる水の中へと乱暴に突っ込んだ。*1

 

「(つか隊長の言ったように、『強さ』に男も女も関係ねえなやっぱ)」、と考える一角。

 

 そして悶々とする日番谷と白哉。

 

『触らぬ神に祟りなし』状態の二人から距離を取っていた他の者達は『何故上級貴族である筈の白哉がここに?』という疑問を抱いても聞く勇気が出なかった。

 

「日番谷君に朽木君がそこまで落ち込むとは、尋常じゃないねぇ~?」

 

 否、一人(京楽)だけそこに居た。

 

「「………………………」」

 

 だが普段一つや二つの返しをする二人(日番谷と朽木)は黙りこんだまま。

 

「あ、あれれれれ?」

 

 これは流石の京楽にも意外だったようで、困惑する。

 何かの反応を期待していたのに、全くの無反応。

 

 ツッコミ風に言うと『全然受けていない』状態。

 

 この後京楽は何とか場を明るくしようと努力するが変化が全然見当たらず、彼が居る場としては珍しく静かな時がただ過ぎ去っていった。

 

*1
第6話より




作者:不安だ…… (゚ω゚;)

マユリ:フフ……フヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒひ

リカ:変質感が増しましたね

マユリ:ようやくダ。 ようやくだヨ! 準備は整っタ! 次話よこイィィィィィィィィィィィ!!!! ←期待に酔っていてリカの指摘に全く気付いていない

ひよ里:…………………… ←次話のラフを読んで周りの出来事に全く気が付いていない

作者:……………………………別の意味で不安だ…… (=◇=;)


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第41話 扉の向こうは

い、勢いが止まらなかったッッッ!!!!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「「ぎゃあああああああ!」」

 

「えええい、足を止めないかネ?! 君達()ただ話を(解剖)したいだけだというのニ!」

 

 その少し後、三月とクルミは全力疾走でマユリとネムから逃げていた。

 

 

 

 時は少し遡り、女湯を堪能した三月達がチエと雛森達と共に女性更衣室の入り口を出るとまたもや扉があった事に違和感を若干持っていたが、そのまま二つ目の扉を開けると────

 

 「────やぁ、いらっしゃイ♪ 私の研究室へようこソ! 私は君達を大歓迎するヨ!」

 

 ────そこはマユリの研究室へと繋がっていて、これ以上かつてない程のニッコリ(歪んだ)笑顔のマユリが立っていた。

 歯と目がキラキラと光っているような勢いだった。

 

 だが彼女達(三月とクルミ)にとってもう完璧にジャンルがホラー以外のなんでもない。

 

「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」」

 

 最近、彼にしつこく追われていた三月と通常は落ち着いている様子が特徴のクルミでさえも『恐怖対象』に相対するかのように叫んだ。

 

「おー、先日ぶりですねぇ」

 

「ちょ、リカ?! お前、こんな奴と会っていたんか?!」

 

 驚愕するツキミにリカが答える。

 

「何を言っているのですツキミ。 彼ほどの理解者は稀ですよ?」

 

「マジかテメェ」

 

「『本気』と書いて『本気(マジ)』です。 ブイ」

 

 カリンの問いに対して、リカにしては珍しいジョークの混じった返事と(ブカブカの袖の中から)手でブイサインをしながら返した。

 

「……えーと……私達は、どう────?」

 

「────大丈夫です雛森副隊長。 ()()マユリ様はあの二人(三月とクルミ)にしか興味は御座いませんから」

 

「そうか」

 

 ネムの淡々とした説明に納得するチエの前ではマユリがずんずんと三月とクルミの二人に迫っていた。

 

「さァ! 私に見せたまエ────!」

 

 マユリがググイーッと迫る。

 

「────何も無い所から物を出す術ヲ! 滅却師に似た技ヲ! (ちまた)で噂になっている『天馬』とやらヲ!」

 

 マユリが一行ごとに大量の冷や汗を掻く二人(三月とクルミ)にどんどん迫る。

 

さァ(今すぐ) さァ(今すぐ)!! さァ(今すぐ)!!!

 

 今度の迫り具合で普段は化粧で隠れているマユリの眉毛と地毛が見えるほど。

 

 子供が無邪気に玩具売り場に放たれた様子そのものである。

 

 そして二人(三月とクルミ)はさっきお風呂から出たばかりにも関わらず、既に汗だく状態。

 

「「あ、いや、え~~~~~~~~~と」」

 

 何時もより狂気に満ちた表情と目をするマユリの迫力にしどろもどろになる金髪少女二人(三月とクルミ)

 

「何、時間はたっぷりとあるサ! ささ、何も躊躇する事は無いヨ♪ 私の研究室へ────

 

「「────フンッ────!」」

 

ドゴガシャン!

 

 

「────あ! 待て、逃げるな貴様ラッ! 来い、ネム!」

 

 三月&クルミは横にある更衣室の壁を文字通り突き破り、上記に記した通りに全力疾走でマユリと彼に続くネムから逃げていった。

 

「……………あんなに嬉しそうな涅隊長、私初めて見たわ」

 

「私もです……」

 

 ポカンとする松本に、目を見開いた伊勢が一言の感想を上げる。

 

「もう…ストーカーじゃね、『アレ』?」

 

「鳥肌が立ってんねんけど、僕。(バイキンマンの真似、頼まなくてホンマ正解やったわぁ~)」

 

 呆れるカリンに今度はツキミが続く。

 

「うーん、ボクと喋っている時よりも生き生きと楽しそうにしていますねぇー。 (流石()()()()()』)」

 

「え、えーと────?」

 

「────気にするだけ無駄だ、雛森」

 

 リカの一言に困る雛森、そして平然と『無事』を伝える(?)チエ。

 

 因みにチエの脳裏に浮かぶのは別の変人(蒲原)の姿だった。

 

「うーん、やっぱ『姉妹』と言われても……しっくり来ないわねぇ?」

 

 松本がチエを横目で見ながら問いかける。

 

「まぁ、()()()()()()()()()からな」

 

「ふぅーん……やっぱさっき、風呂場で三月ちゃんが言っていたように『()()()()』なの?」

 

「そうだ」

 

「………………」

 

『事情持ち』と聞いて一瞬織姫の目がチラッとチエの方を見る。

 

 ここでの説明はチエが以前、自分なりの考えと解釈などで茶渡や織姫にしたようなものをアレンジしたモノだった。

 

『義兄』の事は省いていたが。*1

 

「あ、私はこっちですので」

 

「あ。 じゃあまたね、『()()()()()』!」

 

 元気よく別れを告げる織姫に伊勢の顔が引きつる。

 

「あの……………出来れば……別の────」

 

「────あ、そっか! またね、『伊勢ちゃん』!」

 

「………………………………ハァ~…………はい、また」

 

 夜なのに眩しい太陽の様な織姫の満面の笑顔に、伊勢は諦めた溜息を出してから別方向へと歩き、松本が織姫に抱き着く。

 

「やるじゃん貴方、あんな堅物相手に押し勝つなんて?! 気に入ったわ!」

 

「え? えへへへへ~」

 

「……あかん。 こいつら見てたらマイの事を思い出してまうわ」

 

「ああ。 同感だぜツキミ」

 

「「もげろ」」

 

 ツキミとカリン(滑走路組)はじゃれる松本と織姫(ボインボイン組)をジト目で見ながら歩く。

 

 

 

 京楽は銭湯から出ては帰り道を一人で歩く中、鼻歌を歌っていた。

 

「♪~」

 

「隊長!」

 

「ん~? って、七緒ちゃんか」

 

 後ろから同じく銭湯から出て来たらしい伊勢が京楽に追い付く。

 

「隊長、あの『隊長代理』────!」

 

「────女の子なんでしょ? 知っているよぉ? 何せ男性更衣室で脱ぎ始めて、偶然来た黒崎一護のおかげで間一髪のところで分かった事だからね。 いや~、皆の慌てようは傑作だったよぉ? 若いねぇ~」

 

「…………………」

 

「ん? どうしたんだい七緒ちゃん?」

 

「……()()()()、最低です」

 

「…ハハハ、これは手厳しいね。 でも大丈夫だよ、七緒ちゃんが考えているような事は無いさ」

 

 伊勢の本気で軽蔑する視線に対し京楽は乾いた笑いを上げ、弁解する。

 

「………………隊長、何かありました?」

 

「ん~? どうしてそう思うんだい?」

 

「隊長がそのように笑う時は『何かあった時だけ』ですので」

 

 伊勢の脳裏に浮かぶのはおぼろげに覚えている『何時か(100年前)の京楽』と、読書仲間(前副隊長)が消えた昔の出来事だった。

 

「…………ん~、ちょっと思う所があっただけさ。 さてと! 家の者達相手に話を僕と合わせてくれるかな、七緒ちゃん? 今日、僕は飲んでもいないし、珍しく隊長っぽい事をしていただけ────」

 

「────その前に、隊長の耳に入れておきたい事があります」

 

「……何だい、七緒ちゃん?」

 

「あの金髪の者達と、噂の『隊長代理』との関係についてです」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「摩訶不思議ちゃん達や~イ? どぉこぉかぁナァァァァァ(出ておいデェェェェェェ)~?」

 

(スイーツに釣られた)ネムと逸れたマユリは皿のように見開いた目で周りを見ながら、夜の静けさに埋まっている瀞霊廷内で先の『藍染惣右介の謀反』騒動で最も被害が多かった区の中を彷徨っていた。

 

 カツーン。

 

 耳をつんざくような、極小音がマユリの真後ろからして、彼は『グリン』と、首()()を180度回す。

 

 顔の昇天しそうな顔がこの現象と共に更に『ホラー感』を上昇させていた。

 

 もう化け物である。

 

 否。 既にある意味『化け物』だったので、『()()』になるか?

 

ふひゃはははははははははははははハ(見つけたミツケタミつけタミツケた見つけタ)!」

 

 マユリは体制をそのままで瞬歩を使い、(体の向きから見て)後方へと瞬く間に消えていく。

 

 マユリの歓喜(狂気)に満ちた笑い声がその場から去って数分後、瓦礫に埋もれた所で場違いな錆びたドラム缶とオレンジが入っていたようなデザインの段ボール箱へと景色が変わる。

 

「「…………………………………………………………………………フゥ~~~~」」

 

 先程のドラム缶と段ボールの中から、三月とクルミが安息の溜息を出しながら姿を現す。

 

「災難だったな」

 

 「「ぎゃ────ムグゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ?!」」

 

 いつの間にか近くの瓦礫に腰を下ろしていたチエの声に叫びそうになるのを必死に二人は我慢する。

 

「どうした二人とも?」

 

 「もおぉぉぉぉぉぉぉ!!! 居るなら『居る』って一言先に行ってよぉぉぉぉ?!」

 

 「危うく心臓発作が起きるところでした」

 

 小声でチエに怒る三月と、何時もの調子が戻りつつあるクルミにチエが困惑の目を向ける。

 

「なぜ小声なのだ?」

 

 「「あいつ(マユリ)に聞こえたら嫌じゃん」」

 

 チエが目を閉じる。

 

「……心配しなくても、奴は今日のところは諦めたみたいだぞ? ……この方角は右之助の屋敷だな」

 

「げ、最悪」

 

「右之助さんが戻っていれば良いけど────ってチエは何をやっているのです?」

 

 クルミの指摘と視線に三月が釣られて見ると、チエは宙を手探りで何を探しているかのように手を振っていた。

 

 第三者からすると『頭がおかしい人』の動作である。

 

「いや……()()()()()()()のだが────」

 

「────え? そう? でも私────」

 

 ビリッ

 

 紙が破れるような音と共に空中に歪みが生じる。

 

「「え」」

 

「あった」

 

 ビィィィィィィィィィィッ!!!

 

 今度は紙が破れる音というよりも、薄いプラスチック、又はキャンバスシーツが引き裂かれる音が鳴り、丁度人が通れる大きさになるまでチエが()()引っ張る。

 

「これは……『空間隙(くうかんげき)』? 三月、『この世界(BLEACH)』にもこのようなモノが有るとは聞いてな────」

 

「────()()()()

 

「ん?」

 

 チエが三月を見ると、呆気に取られたような表情になっていた。

 

「私は、()()()()

 

「……『本体』、どうします? ()()()()ようですが、()()()()()()()

 

「……そうね、ここは慎重に────って、ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 三月が迷っている内にチエはさっさと『穴』の中へズカズカと歩いて行く。

 

「クルミは何かあった時の為にここで待機! 私との『パス』に異常を感知したらプランBに移行していて!」

 

「了」

 

 それを最後に三月がチエの後を追い、穴の中へと入る。

*1
第21話




マユリ:貴様! 話が違うではないカ?!

作者:く、首ぃぃぃぃ! こ、呼吸がッッッ!

ネム:このお茶と菓子美味しいですね

作者:ギブギブギブギブギブギブギブギブギブ! 和んでないで助けて!

ネム:無理ですね

マユリ:せめてこの奇妙な空間の解析をさせロ!

作者:ダメ!

マユリ:ならばあの二人の空間に同行させロ!

作者:ぜっっっっっっっっっっっっっっっっったいにアカン!!!

マユリ:……………………ここに丁度試作中の超人薬があるのだが非検体がなかなか集まらなくてネ。 志願者がここにいて良かったヨ

作者:……

マユリ:おや、だんまりかイ?

リカ:恐らくは『NOだ!』と言いたいのですけれど、マユちゃん相手だから躊躇っているのでは?

マユリ:ふむ。 やはりリックンもそう思うかイ?

作者:ちょ、あだ名呼び同士────というかお前、どっちの味方やねん?!

リカ:今も昔も『自分の』味方ですが?

作者:Sh〇t。


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第42話 Beyond the Tunnel

どうも、作者のharu970です。

まずは何時も読んで下さる方たちに感謝の言葉を先に言いたいと思います。
何時も読んでくれて、誠にありがとうございます。

投稿中止とかの前書きではありません。

ただ注意事項を先に言いたかっただけです。

猛烈にご都合主義や独自解釈が更に炸裂します。

後ユーハバッハが酷い仕打ちを受けてしまいます、ご了承くださいますようお願い申し上げます。

では、本編の続きへと舞いりましょう。


 は~い。

 皆さん、久しぶりー元気ー?

 三月でーす。

 

 こんな風に『モノローグする』のって懐かしいような感じがするけど……

 ウザかったらゴメンねー?

 

 えー、何で『これ(モノローグ)』をしているかというと……

 穴の先に在った景色の所為なんだよねぇー……

 

 もう真っ白。

 

 一面真っ白。

 

 ホワイトアウト状態。

 

 あ、映画の事じゃないよ?

 そのままの意味だよ?

 

 え? 『捻りも何もないやんけ』?

 

 ……

 

 ス、ストーリーを続ける前に、言っておきたいッッ! 

 私は今、あ…ありのまま、今起こった事を話すわよ?!

 

『私は“BLEACH”の瀞霊廷内に存在するのを知らなかった空間隙(くうかんげき)のトンネルを抜けた先は雪国のような景色だった。』

 

 な、何を言っているのか分からないと思うけど頭が……

 

 というよりは眼がどうにかなりそうだった…

閃光弾(フラッシュバング)を喰らった』とか……

『太陽を直視した』とか、そんなチャチなモノじゃない……

 

 あ、あと……私の髪形は別に電柱風じゃないけど────

 

 

 

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ、『渡辺』三月 視点

 ___________

 

 

「────お前はさっきから何をブツブツと言っているのだ?」

 

 チエがジト目で『ポルナレ〇ゴゴゴゴゴゴ』シーンとポーズを再現していた三月を見る。

 

「あ、うん。 ちょっとトリップ(現実逃避)しそうだっただけ」

 

「ふざけるのは止せ」

 

「いやいやいやいやいやいや?! この真っ白な雪国シーン(場面)に『城』ってどう考えてもおかしいわよね?! 私だけじゃないわよね、こんな反応するの?! 『普通』よね?! ……………………………………………『普通』よね?

 

 テクテクと歩くチエに、置いて行かれそうになる三月が小走りについていく。

 

「こんなに白かったら常人ならとっくに気が狂いそうになっているわよ?!」

 

「なら良かったな。 ここにいるのが『人間(ヒト)』ではなくて」

 

「いやまぁ……………そりゃあそうなんだけども────ってポイントはそことちゃうやろがぁぁぁぁぁ?!

 

 二人はそのまま真っ直ぐ歩くと、大きな門のような扉へと着く。

 その間、三月はずっと拭えない『違和感』を胸の奥に持ち続けていた。

 

「ふむ、これは奇妙だな」

 

「ね、ねぇチーちゃん? 引き返さない?」

 

 チエはそのまま歩みを止めずに、扉を開けて奥に行くと男性の声が辺りに響いた。

 

「……誰だ、私の眠りを妨げるのは?」

 

 その部屋は皇帝や中世の王の城内にある『謁見の間』を思わせるような作りで、王座に座っていた男がまた口を開けて先程の声の持ち主と同一人物なのを知らせる。

 

「ほぅ? これはまた奇妙な侵入者達だ、それにこのタイミング────」

 

 この男の言葉に対してチエはただ黙り、三月は素直な第一感想を上げていた。

 

「────凄い髭とモミアゲ」

 

 これに王座に座っていた黒髪黒髭の男性の笑みが深くなる処か、急に笑い出す。

 

「ふ……フハッハッハッハッハッハ! 数多ある第一印象を、私は聞いて来た筈だが『凄い髭とモミアゲ』は流石に初めて聞いたぞ? フハッハッハッハッハッハ! ……私を楽しめさせた褒美に少々の時間をくれてやろうではないか、名乗れ」

 

「(あ、こいつ金ピカ(ギルガメッシュ)と同類のタイプだわ)」

 

()()『渡辺チエ』で通っている。 五番隊隊長()()だ」

 

「(あー、うん。そうなるわよね。) 私は『渡辺三月』よ。 (()()ね。)」

 

 王座に座っている男が愉快そうに笑みを深くさせる。

 

「意外だ。 素直に応じるとは余程の度量を持っているか、或いは…………まあ良い。 戯れだ、私も名乗っておこうではないか」

 

 男は王座に座り直す。

『王』。 

 あるいは『皇帝』。

 いずれにしても『支配者』の雰囲気を発していた。

 

「私の名は『ユーハバッハ』。 『滅却師の皇帝』を務めている」

 

 男の名乗りに三月は違和感を覚える。

 

「(『滅却師の皇帝』??? ……………………()()()()()()()()? というかこの『ユーハバッハ』…………なんだか『他人』と感じられないのは何故────?)」

 

「────しかし『隊長()()』とはな……そんな者に侵入を許してしまうとは……後で調査をしなければならぬ。 礼を言うぞ?」

 

「そうか。 なら礼代わりに『()()()()()』?」

 

「『ここ』は『Wandenreich(ヴァンデンライヒ))』。 純血統滅却師(エヒト・クインシー)達が集い、私が納める『国』だ」

 

「(『エヒト(Echt)』? ……『検索』………あった。 ってドイツ語で『純血』? ……成程。 眼鏡(雨竜)のお父さんかお母さん、そして真咲さん(一護の母)のような滅却師と何が違うのかしら?)」

 

「流暢に喋るのだな?」

 

 黙って考え込む三月と違い、チエが喋る。

 

 何時もとは逆の立ち回りだった。

 

「たかが『隊長代理』に『小娘』が一人ずつ。 教えたとしても、その情報を持ち帰られなければ何も問題は無い」

 

「ほぅ────?」

 

「────待ってチエ」

 

 チエが前に歩き出す寸前に三月が『待った』をかける。

 

「ん?」

 

 三月はスカートの端をチョンと持ち、頭を下げて一礼をする。

 

「お初にお目にかかります、陛下。 御身が皇帝の身とは知らず、我々の先程の数々の無礼をお許しください」

 

 ユーハバッハは片方の眉毛を上げる。

 

「……成程。 何処(いずこ)の貴族の出の者か」

 

「私の本名は『三月・()()・プレラーリ』と申します。 こちらの『渡辺チエ』は()()()()です」

 

『おい三月。 どういう事だ?』

『いいから、今は私に合わせていてチーちゃん。 情報が欲しい』

『分かった』

 

 ここでチエも三月のように頭を下げる。

 

「成程……面を上げろ」

 

「滅相もございません。 御身のような方を前に、頭を上げるなど恐れ多く、とても出来ません」

 

 かつてない程の笑みにユーハバッハはなり、また笑い出す。

 

「フハッハッハッハッハッハッハ! これが『()()()()』とは笑わせる! まったく、山本重国もとうとう老いたか! 衰えたか! いや『甘くなった』というべきか! 愉快愉快! フハッハッハ!」

 

 一瞬だけ三月の体がゾクリと寒気に反応して内心慌てる。

 

『チーちゃんステイ! 気持ちは分からないでもないけどス・テ・イッッッ!

『ッ』

 

「クククク……」

 

「……発言しても宜しいでしょうか?」

 

「私は今、かつて無いほど気分が良い。 話せ」

 

「ありがとうございます。 先程陛下が仰った『純血統滅却師(エヒト・クインシー)』と、()()()滅却師は違うのですか? 無知な我々にご教授頂けると────」

 

 ここで初めてユーハバッハの笑みが少し崩れる。

 

「────フンッ。 『混血統滅却師(ゲミシュト・クインシー)』の事か。 奴らなど、『純血統滅却師(エヒト・クインシー)』に比べれば所詮は『雑種』。 まぁ……有象無象な奴らでも僅かにだが役には立った────

 

 

 

 

 

 ────私の()としてな。 そこでどうだ、そこな『隊長代理』と『小娘』よ? 私の()()となり、ソウル・ソサエティの最期を見届け────?」

 

 ────ブチ。

 

「「(真咲さんを殺したのはこいつか(この戯けめ、我のモノに手を出そうとは))」」

 

 何かが無理矢理力尽くで引き千切られる音が聞こえるような錯覚と共に、三月が立ち上がって()()()を開け、()()()()()()()()()()()()()()が不敵な笑みを浮かべる。

 

「「(────万死に値する!(────ブチ殺す!))」」

 

 全くもって、()()()似合わない表情だった。

 

「────ほう。 貴様、面白い冗談を言うのだな?

「(え? あれれれれれれ?!)」

 

 言葉使い、表情、声、そして()()()()でさえまでもが変わった事にユーハバッハの目が細められる。

 

「……貴様、()()?」

 

ハッ! この王たる()を知らぬとは……『皇帝』と聞いて片腹痛いわ!

「(ちょ、ちょっと待ってよ?!)」

 

 この豹変ぶりにユーハバッハは立ち上がり、三月を見下ろす形になる。

 

 否、そう思った途端に彼女の体は宙へと上がって逆にユーハバッハが見上げる形へと変わる。

 

我を差し置いて『王』を称する不埒者が、誰の許しを得て我を見あげる?

「(これってもしかしてもしかしたらもしかする?)」

 

「貴様も王たる者ならば名乗りを上げてみてはどうだ? よもや己の威名を憚りはすまい?」

 

問いを投げるか? 小物風情が、王たるこの我に向けて?」

「(()()()だぁぁぁぁぁぁぁ?!)」

 

 三月(金ピカ)が明らかに不機嫌な表情をしながら、赤い線が入り込んだ自らの手足と体を見る。

 

まぁ、我の姿形は()()……否。 我が拝謁の栄に浴して尚、不敬なその態度……そんな蒙昧(もうまい)は生かしておく価値すらないと知れ!」

 

 ユーハバッハの周りの宙に無数の歪みから様々な武器が姿を現しながら、彼へと射出される。

 

 ガキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキンッ!!!

 

 金属と金属が衝突するような音の次に聞こえて来たのは────

 

「────フッフッフ……………ハッハッハッハッハッハ!」

 

「────チッ

「(────ええええ? 嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉ?!)」

 

 三月(金ピカ)が舌打ちを打ち、笑っているユーハバッハが土煙の中で悠々と直立していた。

 

 攻撃を躱した、または防いだと思いきや、彼の足元の床や後ろの王座は傷ついて、粉々になっていた。

 

()()()()()?! 全くもって面白い、面白いぞ貴様は! フハッハッハッハ! 愉快だ! 気に入ったぞ、私の下に下れ!」

 

『ビキキキキ』、とするような音の歯ぎしりと共に三月(金ピカ)の目つきは更に鋭くなり、さっきより遥かに不機嫌なもとへと変わる。

 

痴れ者が……………………その不敬は万死に値する! 否! 貴様は未来永劫の(とき)を苦しむが良いわ!

 

 そこで一つの歪みに三月(金ピカ)は手を入れて、()()()()()()()()()()を取り出す。

 

 その槍に何か異様なモノを感じたのか、ユーハバッハの顔が冷めたモノへと変わる。

 

「何だ、『ソレ』は?」

 

 ここで先程のように三月(金ピカ)が笑みを浮かべる。

 

問答無用、()くと()

 

 槍がユーハバッハへと飛ぶ様を、彼はただ見ていた。

 

 否。

 

「(体が、()()()()()……だと?!)」

 

 体が膠着したかのように身動き一つ取れないまま、槍が彼の胸と接触した瞬間に何か冷たいモノが広がるのを感じた。

 

「(こ…れは?!)」

 

 これも正確では無い。

 何故ならこの感覚は()()()()()()()()()()()()()()()に過ぎず、彼は既に声帯で声を発する事の出来る状態ではなくなっていた。

 

「(私の…………計画が! 999年の計画がッ!!! こんな…()()()()()()()()()にッッッ!!! こんなところで────!!!)」

 

 ユーハバッハが消えて槍が床に突き刺さり、三月(金ピカ)が床へと降り立つと同時に()()()()()()()()()()()

 

ふむ……『固有時制御(タイム・アルター)』とやら。 中々に使える『固有結界』ではないか。 流石はあの贋作者(フェイカー)()()と言ったところか。  勿論、我が使い手となればどんなみすぼらしいモノでも────」

 

「────お前は……」

 

 チエが立ち上がり、三月(金ピカ)が彼女に振り向く。

 

確か『チエ』と言ったな? 他世界の我がお前に興味を持っていたのは……成程、()()()()()

 

「その口調に『神代回帰(しんだいかいき)』の模様……やはり『()()()()()()()』か」

 

固有時制御(タイム・アルター)』。

『固有結界』。

神代回帰(しんだいかいき)』。

『ギルガメッシュ』。

 

 それらは全て『BLEACH』という世界には存在しない────否。 今まで()()()()()()()もの等。

 

 それらは別の世界での術や人物の名称である。

 

 簡単に説明すれば、『固有結界』とは『自己の心象風景を現実に具現化する』という()()の類である。

 

 そして『固有時制御(タイム・アルター)』は『固有結界』の中でも、()()()()()によって本来は大掛かりな準備などを前以て必要とする大技(秘奥)を、戦闘向きに縮小されたモノ。

 

 最後に『ギルガメッシュ』という人物と『神代回帰(しんだいかいき)』なのだが…………………………

 説明しようにも文章が長くなり過ぎるので詳細は型月のFATEシリーズ作品、又は作者の前作に位置する『天の刃』か『バカンス』を参照してください。

 

 敢えて一言で片づけるのならば『チートガン積みキャラ』。

 

如何にも。 丁度、こ奴の怒りと我の怒りが合ったからな。 ()()()()()()()()()()()()()という所だ

 

 三月(ギルガメッシュ)がチエに近づき、彼女の頬に手を添えて自分と同じ赤い目をしたチエを覗き込む。

 

姿形は小娘に変わったが、我にとっては些細な事。 どうだ? ()()()()、我のモノになってはみないか?

 

 この場にとあるタイプの人物達(千鶴や浅野)などが居合わせていれば、担架で病院へと急行されているだろう。

 

 主に貧血状態で。

 

「断る」

 

 チエは顔色一つ変えずに何時もの調子で三月(ギルガメッシュ)の誘いに拒否の言葉を返す。

 

フ、やはり『もう一人の我』も────ん?

 

「ああ、数人来ているな」

 

 困惑する三月(ギルガメッシュ)に続いて、チエの言葉が合図だったかのように二人がいた謁見の間の扉の向こう側からドタドタとする足音と声が聞こえて来る。

 

『ユーハバッハ様の霊圧が消え────!?』

 

『あり得ん! ここに侵入者など────!』

 

『急げ────!』

 

ほう?

 

 三月(ギルガメッシュ)が笑顔になる。

 

 主に悪戯をこれからするような、純粋無垢な子供のようなモノへと変わる。

 

 そのまま彼女はボロボロになった王座に歩き(そしてチエがその後ろを歩いて)、上から新たに黄金の王座を宙の歪みから降ろす。

 

 ドォン!

 

 黄金の王座がボロボロの白い王座を粉砕させる音と同時にその部屋の入口が乱暴に開けられて、軍服をモチーフにしたような白い服装の者達が数十名程雪崩れ込む。

 

「陛下、御無事で────ッ!?」

 

 長い金髪が見たのは丁度黄金の座に座って、踏ん反り返る三月(ギルガメッシュ)とその横で白い王座だった瓦礫の上に立っていたチエだった。

 

 チエの死神装束を見た、眼鏡をかけた白髭の中年男性は驚愕し、彼の隣にいた双子らしき男達が叫ぶ。

 

「死神だと────?!」

「────何故ここへ────?!」

「────いやそもそも────」

「「────どうやって辿り着いた?!」」

 

戯け。 ()は『死神』などではない

「(いぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!? 私の体を返してぇぇぇぇぇぇぇぇ?!)」

「(フン。 勝手に我の宝物庫に手を出した報いだ。 ()()()()()()無に帰さないだけありがたく思え)」

 

 三月(ギルガメッシュ)が王座にいる事が当然の様に振舞いながら、楽しそうに来客達を見下す。

 

「お前! 陛下をどこに────!」

 

「────消した

 

「「「「「………………………………は?」」」」」

 

まるで効果音で『ムッフー』とするようなドヤ顔に似た表情で三月(ギルガメッシュ)が言葉を放つ。




三月:いやぁぁぁぁぁ?! 鈴鹿えもん、助けて~?!

鈴鹿:それ、チョ~ハードル高いんですけどー? というか無理言うなし

三月:……どうしてくれてんのよ?!

作者:いや、その、これ……昔、自分が書いたプロットに基づいた────

ギルガメッシュ(天の刃体):────これしきの事で騒ぐな、戯け!

作者/三月:ぎゃああああああああああああ?!

ギルガメッシュ(天の刃体):フハハハハハ! 『バカンス』でも、『天の刃』でも我の扱いが余りにも酷────否、『面白くなかった』のでな。 少しばかり遊ぶぞ?

三月:え

作者:ああああああ困ります! それは困ります王様! R-18指定になってしまいます!

ギルガメッシュ(天の刃体):騒ぐなと言ったはずだ、雑種! それにR-18、大いに結構ではないか?!

作者:えーと、自分がどうにかなっちゃいそうですのでお止め下さい。 というかハズみから死ねる自信アリですので

ギルガメッシュ(天の刃体):……………今までの仕打ちの鬱憤、『ここ』で晴らせても良いのだぞ?

作者:どうぞ彼女の体をお使いになって下さい

三月:冗談ではない!

作者:良いかな? この世に偶然なんて無いさ。あるのは必然、それだけだ。

三月:……………………………………鳩尾パンチ!

作者:ゴハァオブエェェェェェ?!

鈴鹿:汚な?! もうマジ最悪なんですけどー?!


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第43話 AUO、はっちゃける。 そして餌付け

前回の続きです。

慣れない作品元で拙い文字や表現などありますが、楽しんで頂けたら幸いです!

……岸辺露伴先生の『読んでもらう為』の気持ちがちょっと分かるような気が……………

ご感想などを書いている方達や読んでくれている方達へ、
ありがとうございます! By作者


 ___________

 

 『渡辺』チエ、『渡辺』三月 視点

 ___________

 

「────消した

 

「「「「「………………………………は?」」」」」

 

 白い軍服っぽい服装の者たちが三月(ギルガメッシュ)の言葉に全員、ポカンとした顔をする。

 

その耳は飾りか、この間抜け共が。 『消した』、と我は言ったのだ。 三度も言わせるなよ────」

 

 三月(ギルガメッシュ)の態度にイラついたのか、単純に怒りからか、数人が弓矢に剣、銃などの武器を手に取ると、飛来して来る様々な武具が彼らの武器()()を射抜いた。

 

チッ。 胴を狙ったのだがな……我の邪魔をしおって

「(いくら何でも、こんな状況で一方的な虐殺は私()()嫌よ!)」

「(…………………………………チッ)」

「(まだ聞こえているわよ、この我儘王!)」

「(よし。 『そろそろ眠りに付こうか』、と思っていたがもう少し起きていようではないか? ついでにもう少し()()()としよう! フハハハハハ!)」

「(ぎゃああああああ?! いやぁぁぁぁぁ?!)」

 

さて。 貴様らは何だ?

 

 今の三月(ギルガメッシュ)の黄金の王座に座る様と言葉使いは何処ぞの『女王様』を連想させるようなものであった。

 

 王族的な意味でも、()()()()でも。

 

「………………私はロバート・アキュトロンと言います」

 

 そこで先程の眼鏡の中年男性が()()をする。

 

「アキュトロン、おま────!!」

 

「────私はユーグラム・ハッシュヴァルト。 見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)皇帝補佐、及び星十字騎士団最高位(シュテルンリッター・グランドマスター)を務めて()()()()

 

 ロバートに続き、『次期皇帝』と他の皆から呼ばれていたハッシュヴァルトが胸に手を添えて頭を下げたことにその場の者たちの『怒り』が『驚愕』へと移る。

 

 さて、少し遅くなったが、この軍服を着ている者達は()()()()が『滅却師(人間)』である。

 

 遥か昔、死神達によって『種の絶滅』を迎えていたものの、ソウル・ソサエティ内の瀞霊廷、つまりは自分達を絶滅寸前まで追いやった死神達の本拠地内にある『影』に異空間を作り、その中へと避難していた。

 

 これがおよそ千年前の出来事で、この『影』に辿り着けなかった滅却師達は死神達によって狩られて行った。

 

 現世でも、ソウル・ソサエティでも。

 

 つまりこの別空間である『Wandenreich(ヴァンデンライヒ))』(ドイツ語で『見えざる帝国』)は、『BLEACH』の世界では滅却師の『隠れ里』という位置となる。

 

 そして更に先程の二人の紹介をしようと思う。

 

 まずは『ロバート・アキュトロン』。

 眼鏡をかけた中年男性で、見た目通りの性格である老紳士。

 彼は『Wandenreich(ヴァンデンライヒ))』の『星十字騎士団(シュテルンリッター)』、所謂『滅却師の護廷十三隊版』の中でも古参の人物。

 

 そして何時如何なる時も紳士的な態度を崩さずに冷静で、協調性もあり、比較的に良識的な意見を提案するなどと言った、『補佐の鏡』とも言える男。

 

 彼は古参者である為、ユーハバッハに対しては絶対的な忠誠を誓った反面、いとも容易く部下を切り捨てるユーハバッハの冷酷さ等に心底恐怖を感じていて必死に『陛下(ユーハバッハ)に取って必要な存在』になろうとしていた。

 

『何時自分の()なのか?』と、恐怖に震えて続く毎日を強人的な精神のみで、今日まで捻じ伏せていた。

 

 そんな彼だからこそ、目の前の二人(三月とチエ)の言動と、ボロボロの王座。

 そして見当たらないユーハバッハの姿。

 

 これ等をロバートは今まで上手く立ち回わる為の洞察力と頭脳を使い、瞬時に解析して即行動へと移った。

 

 その結果が────

 

「(────この二人………特に小柄の少女の方は陛下(ユーハバッハ)とは違い、『真っ当に敬意を表し、仕えれば少なくとも命は理不尽に刈られる事は無い』)」

 

 ────と思い、(こうべ)を躊躇なく垂れた。

 

 次に『次期皇帝』と呼ばれている『ユーグラム・ハッシュヴァルト』。

 

 西洋の騎士のような風貌を持ち、長い金髪と異様に長い睫毛を持つ彼は基本的に感情を表に出さず、例え相手が同じ滅却師であろうが、星十字騎士団であろうが、かつての親友であろうが理由さえ出来ればすぐに、斬り捨てられる事が出来る、ある意味『原作』の朽木白哉の様に公私を切り離せられる人物で、滅却師としては珍しく『弓術』ではなく『剣技』を得意としている。

 

 この『剣技』はその昔、他でも無いユーハバッハ率いる軍隊の遠征に住処を焼き払われ、彼に復讐する為に鍛錬を行った際に得たもの。

 

 そして先の『剣技を得意としている』理由は至極単純。

 

 ハッシュヴァルトは、滅却師の基本的能力である筈の『霊子を吸収して自らの(戦う)力とする』事が出来なかった。

 つまり『霊子兵装』に頼れなかった状態で戦おうとした時期があった。

 

 ただし、彼は自分の能力が実は『他者に力を分け与える』モノと後に気付かされる(しかも復讐対象であるユーハバッハに)。

 

 某ゲーム風で言うと『他者バフ能力に極振りした100%純度(自身は対象外の)バッファー』だった。

 

 自己の能力(特徴)をユーハバッハに気付かされた同じ時期に連れていた傘下の滅却師達とハッシュヴァルト本人の前で『(ハッシュヴァルト)自分(ユーハバッハ)の側近にする』と高らかに宣言された。

 

 その時ずっと劣等感に苛まれていた、自らの価値や才能を知ったハッシュヴァルトはすぐに復讐心を捨てて、ユーハバッハと同行する事を決めて彼に付いて行く事となった。

 

 良く言えば、『一度主と認められ続ければ反逆など主の不利になるような事はしない優秀な部下』。

 悪く言えば、『主として見限られればすぐに別の者に新しく鞍替えする事に躊躇しない』と言ったところ。

 

 つまりは極端な話、ハッシュヴァルトは『主に己ファーストだが従えれば全力を惜しまない補佐(部下)』である。

 

 だがそんな心情や背景情報を知らない二人(ロバートとハッシュヴァルト)の側にいる者達からすれば、『星十字騎士団(シュテルンリッター)で古参の人物』と期待されていた『次期皇帝』が『(こうべ)を垂れた』という事実が、心に揺さぶりをかけていた。

 

良くぞ言った! そこな二名以外は散りざまで我を興じさせよ────!」

 

 三月(ギルガメッシュ)が片手を上げると先程のように武具が宙の歪みから現れる。

 

 が、射出される前に一人が前に出る。

 

おい、貴様。 これは何の真似だ?」

 

 見るとチエが何故か三月(ギルガメッシュ)星十字騎士団(シュテルンリッター)との間に入っていた。

 

 しかも彼女(死神)が背を彼ら(滅却師)に向けて、三月(ギルガメッシュ)を正面にしていた事がかなりのショックだったのか、誰もが無言のまま二人の会話に見入っていた。

 

「今の私には『義務』があってな。 この者達を『殺そう』とするのなら、私がそれを『止める』」

 

『“死神”が“滅却師”を庇う』。

 

 滅却師達の視線は自然とチエ(死神)へと注がられた。

 

そうか────」

 

「────全員動くな」

 

 武具が数十個、宙の歪みの中から射出されて宙を飛ぶ間にチエは刀を抜刀し、けたたましい金属音と共にロバートとハッシュヴァルト以外の滅却師を狙った武具を次から次へと打ちそらす。

 

 部屋の中で火花が散り、跳躍する素早さと入れた力により白い床に亀裂が入り、焦げる鋼の匂いが漂う。

 

 これが数秒間続き、『通り雨』かのように突然始まったと思う矢先に止まる。

 

「………………フン、興覚めだ。 我は()()。 (後は任せたぞ)

「(え? ちょっと待ってそんな急に────)」

 

 赤い目を閉じると同時に顔の線模様も引いて行き、王座が光の残滓となって消える。

 

「────ふぎゃ?! いった~い?!

 

 そして尻餅をついた三月が気の抜けるような声を出すと共に、床にぶつけたお尻を擦りながら立ち上がる。

 

 だが彼女に注目していた者は極僅かで、殆どは(死神)である筈のチエを見ていた。

 滅却師である(護る理由が無い筈の)自分達を護った者を。

 

「…………………何故、我々を?」

 

 そう問いかけたのは誰だろうか?

 もしくは一人だけだったのか?

 それとも全員か?

 

 定かではないが、チエの答えに皆がビックリする事となる。

 

「何を言っている??? ()()()()()()()()()()()()だ。 ()()()()()人間(ヒト)()()()()()()()()()()()()?」

 

「「「「「……………………………………」」」」」

 

 まるで『当たり前の事をした』ような口調と返しに、驚愕する滅却師達。

 

「(……()()チーちゃんが…………お姉ちゃん、心がホロリとしてしまうがな)」

 

 胸が『ジィ~ン』と感動する三月。

 

「(()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()────)────それに、『死神』として時期が浅い私より、遥か前から居るお前達には……そうだな、どちらかというと『誇り』や『感謝』を感じている」

 

 そして(内心は)何時も通り(平常運転)のチエだった。

 

「「「「「ッ」」」」」

 

『誇り』、そして『感謝』。

 それらは長らく滅却師に向けられていなかった言葉や感情。

 

 昔『見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)』がまだ旧名の『光の帝国(リヒト・ライヒ)』と呼ばれていた千年前、滅却師の文明が現在の『現世』と引けを取らないほど栄えていた頃………………より、更に前の時代。

 

 常人には見えない、又は抗う術を持たない(化け物)に対して唯一戦える滅却師達は最初、『英雄』や『戦士』として何処へ行っても持て囃され、歓迎されていた。

 

 だが時が経つに釣れて、何時しか『人類(力の無い者)』は『虚』という脅威から自分達を護ってくれる事に慣れ、『滅却師(力の有る者)に守られて当然』と認識を変えていった。

 

 そうやって変わる社会認識の中、滅却師達は力を手に入れたばかりの頃の思想や誇りが徐々に歪んで行った。

 何時しか『他者を護る能力』を『他者を虐げる能力』とすげ違えてしまい、その頃には初心に感じていたモノも分からなくなる程に変わってしまった。

 

 これは別に『滅却師』だけに当て嵌まる事ではなく、『死神』、及び『人間(ヒト)』にも言える現象。

 

 そんな彼ら(滅却師達)に『誇り』を持ち、『感謝』すると、かつての旧敵である筈の『()()』一人が言った。

 

 しかも戦う事が難しくなり、矛を向けられた彼らの為に躊躇なく刃を手に取って護ってくれたのだ。

 

 憎まれや嫌悪や見下される事はされても、ある意味『滅却師達の行いを認め(感謝す)る』とストレートに言われたのは、そこにいた誰にとっても新鮮だった。

 

 しかもこれまでは『弱い者は、強気者の糧となる(弱肉強食)』のルール(ユーハバッハ)の下で長らく生きて来た滅却師達。

 

 上記にも示した通り、今は武装(霊子)壊された(乱された)状態で、満足に戦えない状態なので目の前の二人がその気になれば、少なくとも文字通り『再起不能』までに追い込むのは容易い筈。

 

「……ほれ、饅頭だ」

 

「……は?」

 

「お前のお腹、先程から『くぅくぅ』鳴っていたぞ?」

 

 チエが懐から、おやつ用に取っておいた饅頭を出しては小柄な滅却師にそれを手渡す。

 

「………………………」

 

「他の者は大丈夫か? 生憎、饅頭は切らしているが大福ならまだあるぞ?」

 

「あ。 それじゃあ、お茶は私が出そうか────?」

 

 三月が動くと星十字騎士団(シュテルンリッター)が皆『ビクリ』と反応して、彼女がその事に苦笑いを浮かべる。

 

「あ、アハハ……さっきは()()()()モミアゲ髭のおっさん(ユーハバッハ)』にイラついていただけだから。 もう大丈夫だから、緊張しなくていいよ?」

 

「「「「「(陛下(ユーハバッハ様)を『モミアゲ髭のおっさん』呼び……)」」」」」

 

 上記の者より内心、困惑しているロバートが静かに問おうとする。

 

「(さっきの者とは()()?)…………それで……我々は────?」

 

「────ああゴメン、ゴメン! 頭を上げて! 別に()()貴方達に怒っていないし、ここに来たのは()()()()()()()()んだし……というかよく考えたら不法侵入者だし。 どっちが頭を下げないとなると貴方達じゃないでしょ、普通?」

 

 三月がトテトテとロバートとハッシュヴァルトに小走りで近づいて、二人を立たせようとする。

 

「「…………………………」」

 

 絵面だけを見て考えると、完璧に戸惑う伯父か兄を引っ張ろうとする姪か妹の景色で、三人ともが金髪なのがそう見えるような要因に入っていた。

 

 星十字騎士団(シュテルンリッター)達はこの突如として現れた侵入者二人に、絶対的な存在(ユーハバッハ)を消す、或いは無力化、出来るほどの実力者に彼同様に消されるか又は隷属される等を覚悟していた。

 

 だがそんな事が起きる気配があるどころか、意味不明な行動(気遣い)をされている今。

 

 こんなユーハバッハ(独裁者)や『死神(復讐対象)』に『(宿敵)』とは明らかに違う接し方をされるのは誰にとってもまたも新鮮な出来事で、そこに居た滅却師達の思考がやっと追いついたのか、彼らは様々な反応を示した。

 

 ボーっと気の抜けたような、『ハッ』と何かに気付いたような顔をする者達。

 

 自らの手を見て、何かを思う者達。

 

 困惑に頭を傾げて考えに浸る者達。

 

 憧れ(?)で目をキラキラさせてチエ達を見る者達。

 

 感動で静かに目から涙を流す者達。

 

 等々等。

 

『三月』

『グスン……あのチーちゃんが…………へ? な、何?』

 

 三月は感動していたので目の前の出来事を彼女自身、よく見てはいなかった。

 

『帰るぞ────』

 

 チエは(表面上)無言でそのまま、スタスタと謁見の間だった部屋を出ようとする。

 

『────え、待ってよ?!』

 

 三月も(表面上)無言でチエの後を追う。

 

「ま、待ってください~! ヾ(・ω・`;)ノ」

 

「ん?」

 

 その場を去ろうとするチエ達に声を掛けたのはおっとりしたような見た目と、ピンク色の髪の毛をした巨乳の ()()()()()()の滅却師だった。

 

「あの……また……来てくれますか?」

 

「……………………………」

 

『三月』

『ん?』

『どうしよう?』

『んぃえ?! そ、そこで私に振るの? ……ま、別に良いんじゃないかな? (と言うか私、マジでこいつらが何者か知りたいから丁度良いや)』

『そうか』

 

 チエが『ポン』っと、手を滅却師の頭に乗せて撫でる。

 

 何時も彼女がウルルやジン太や花梨や遊子(そして時々一護)にやっている事だった。

 

「ああ。 良いぞ」

 

「あ………………え、えへへへへへへへ (*´∀`*)」

 

 ピンク色の髪の毛の滅却師は一瞬呆気に取られていたが、撫でられていく内に『ポヘ~』っと、和んだ表情に変わる。

 

「「「「「……………………………………………」」」」」

 

 このやり取りを無言で他の者は見ていたが、その沈黙もロバートによって割られる。

 

「その……………お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「ん? そういえば名乗っていなかったな。 私は『渡辺チエ』だ」

 

「私は『渡辺三月』だよ! じゃね~」

 

「……またな」

 

 それを最後に今度こそ、チエが三月と共に場を後にする。

 それこそ瞬歩を使って『外』で待っている筈のクルミが心配から何かをする前に。

 

 尚二人の後方はかなり騒いでいたらしいが、既に彼女達に聞こえる距離ではなかった。

 

 その騒ぎの一片を記入しよう。

 

『ミニーずるい!』

『えへ、えへへへ……うひへへへへへへへ (*´ω`*♡)』

『チ. 甘えられたら誰でも良いのかよ、テメェは?』

『“感謝”……か』

 

 そして最後に一人が口を開ける。

 

『我々も、共に話し合う必要がありますね』

 

 

 

 チエと三月が急いで外へと出ると、クルミが背を自分達に向けていて()()()喋っていた。

 

 「どうですかポイちゃん?」

 

「キュイ♪」

 

 そして彼女に答えるかのように聞こえて来たのは何かの鳴き声。

 

 「ふふ、そうですか。 それは何よりd────」

 

「「────何をしているの?/だ?」」

 

 チエと三月に声を掛けられて長い髪の毛と体ごと『ビクゥ!』と、今にも飛び上がりそうな勢いでクルミが反応する。

 

「ピュイィィィィィ?!」

 

 そして何かの鳴き声もビックリした。

 

「……………随分と早かったですね」

 

 クルミが自分の後ろにその()()()隠すかのように、その場でクルリと振りかえる。

 

「??? 30分は経っているぞ?」

 

「いえ、せいぜいが数分くらいなのですが?」

 

「(もしかして時間の流れが違う?) というかクルミ……何を隠そうとしているの?」

 

 三月が一歩前に足を踏み出すとクルミが二歩下がる。

 

「いえ、何も」

 

「「…………………………………………」」

 

 数秒間互いに無言になってチエと三月が同時に動く。

 

 二人は左右からクルミの背後に着くと────

 

「────ピ?!」

 

「────雛鳥か?」

 

「────いや~ん♡ もこもこしてて可愛い~~~~~♡」

 

 三月とチエがクルミの両手の中で見たのは赤い翼をした、プルプル震えてつぶらな瞳で視線を返す小さな雛鳥だった。

 




という訳でチエ達が色々とやらかしちゃいました。 (汗

うまく滅却師達側の事情や内心などを書けたかどうか不安ですが……

これほど文才の無さを恨んだ事は、『天の刃待たれよ』以来ですね。

以前の『仮面の軍勢』のように、自分はキャラとして『シュテルンリッター』も大好きです、とにかく個性的で癖のあるキャラ達ばかりなので。

ただ千年血戦篇は物語としては個人的にあまり好きになれなかったです。


大体の理由としては恐らく、滅却師の殆どがユーハバッハを中心に動いたりしていたのに彼の聖別やほんっっっとうに気まぐれ程度の事で同士討ちしたりで亡くなっていったり、あれだけの技術力がありながら……

………………………………言い出しても主な理由が『これ』とピンポイントできないですね(汗汗汗汗汗

と、取り敢えず昔に書いたプロットをちゃんと最後まで完成させたいと思っています!

ではまた次話会いましょう!


平子/ひよ里/リサ/ツキミ:クッソ長い後書き

作者:良いんだよ! ここぐらい自分の心の内をそのまま書いてもええやろが?!

市丸:まぁそうそうカッカするもんちゃいますやん、白髪増えるで?

作者:ンぐ……………気にしている事をズケズケと………


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第44話 The Chick and Old(en) People

お待たせしました、次話です!

活動報告にも記入した通り、昔作成したままのツイッターアカウントが生きていたので「使ってみようかな?」と(上手く使えるかどうかはさておき)気ままにログインしてみました。

『今更?』と思う方達もいらっしゃると思いますが、良ければフォローなどお願いします。
https://twitter.com/haru9702


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 クルミが雛鳥を自分の頭の上に『ポス』っと乗せて、三人が暗い夜道の中(右之助の)屋敷へと戻っている途中で簡単に説明する。

 

「────井上昊(織姫の兄)を天馬で瀞霊廷に送り届けた際に怪我をしたこの子を見つけて手当をした後、その場を去ろうとしたらピィピィと鳴き付かれてしまいましたのでこっそりと世話をしていました因みにお風呂場では髪の毛の中に隠していたので────」

 

 普段の彼女には似つかわしくない早口になりながら。

 

「────成程。 母鳥と思われたのかも知れないな」

 

 そんな中、三月はポイちゃんをとにかく撫でまくる。

 

「ピ。ピピ、ピピピ♪」

 

「可愛い~~~~~♡ 小っちゃくてぇ~、温かくて毛もサラサラでフサフサしてるぅ~♡」

 

「良かったですねポイちゃん」

 

「ピィ♪」

 

「…………………(『ポイちゃん』って今考えたんだけど……『ポイ捨て』から取った『ポイ』の事かしら?)」

 

「ピ?」

 

 三月が雛鳥をナデナデしていると、雛鳥が彼女の指にハムハムと甘噛みをしてくる。

 

「(むぅ~、超可愛いんだけど~)」

 「(マジ可愛い! マジかわ! マ! 鬼ヤバ! ハァ~マジ癒される~セルフィー(自撮り)撮らせてぇ~ん☆)」

 

『キィーン』、と耳(脳内?)鳴りが収まったところで三月がイラつきながらも雛鳥────『ポイちゃん』の体を洗う為、彼女はクルミと共にまだ屋敷のすぐ外にいた。

 

「(鈴鹿、急に叫ぶのはやめてね? マジで大声は勘弁して)」

「(メンゴ~。 いやその子可愛くない? 超可愛くない? もうぎゃんかわ♪ この子の目見てきゅんきゅん来ないったら有り得ないでしょ♡)」

「(メ、『メンゴ』? 『ぎゃんかわ』? 『きゅんきゅん』は何となく分かるけど────)」

「(────草生える(www)―。 ミッ(三月)チャンってば結構頑張ってるけどさ、これぐらい分からなきゃテニ王(まだまだだ)ねー☆ そんなミッチャンも好きピだけどさぁー)」

「(???????)」

「(────そもそも髪型もストレート過ぎて捻りが無いから今度は巻いて────」

「(??????????????????)」

「(────あとマジ『普通』は似合わないというかさぁ、アタシもどうかと思うのよ。 それに普段のメイクも雑で────」

「(?????????????????????????????)」

 

 脳裏にペラペラととめどなく、機関銃のように浮かんで来る言葉(聞こえて来る声)に対して、三月はただ困惑に満ちた?マークを出す。

 

「(────あ、さっきから『意味不』の感じぃ? とりま時々アタシを呼び出してよ! 『その気あるある』なら秒で立派なJKに仕立てあげるわよー?)」

「(………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ま、前向きに考えておきます)」

 

 長~い沈黙の後に三月がおずおずと返事をする。

 

「(かしま~)」

 

 静かになったところで三月は溜息を出しながら近くの屋敷の塀にぐったりと寄り掛かる。

 

「……………………ハァ~……鈴鹿と会話、滅茶苦茶疲れる。 たまに()()()()()()を口走って来るし……助かってはいるけど………………どうしたものか……ハァ~

 

 彼女(三月)にしては珍しく、悩みの愚痴を独りでに零していた。

 

「ではチエ、まずポイちゃんから土とか払うので先に入っていてください」

 

「そうする」

 

 チエが先に屋敷に戻っていると、少し疲れた様子の右之助と(最近までは)またも珍しく雀部無しで来ていた山本元柳斎が居間で一休みしていた所に出くわす。

 

「おおおお! チエ殿、湯加減はどうじゃった?」

 

「まぁまぁだな」

 

「ホッホッホ。 お眼鏡に適わなかったかの?」

 

「いや。 湯は良かったのだが、顔面に桶を投げつけられた」

 

 山本元柳斎の両目が『カッ』と見開いて、立ち上がる彼の後ろの空気が炎になる寸前の蜃気楼状態のように、霊圧で所々歪む。

 

 逆に右之助はニヤニヤと笑顔になっていた。

 

「どこのモノじゃ? ワシが折か────直に『()』をして来ようではないか」

 

「ああ、気にするな重国。 どうやら奴らは私を『男』と勘違いしていただけだからな」

 

「……………………………………………………………………はぇ?」

 

 山本元柳斎が呆気に取られて彼らしくない声を出し、遂に右之助から笑いの予兆が漏れ出す。

 

「プ…………プププ………………」

 

「どうした重国?」

 

「……………………チエ殿は……………『男』では?」

 

「????? ああ、()()()か。 私は『男』と偽ったつもりはないのだが────って、どうした?」

 

 山本元柳斎がここで腰を下ろして頭を両手で抱える。

 

「……………………」

 

「ブワハハハハハ! 山坊のその顔! その顔じゃ! 『サプライズ』は大成功じゃ~! ぎゃはははははは! 烈の奴にも見せたかったわい! うははははははは!」*1

 

 バキッ!

 

 山本元柳斎が爆笑する右之助を殴る。

 

「うげ?!」

 

 そして右之助の胸倉を掴む。

 

「右之助! 貴様、ずっと前から知っておったな?! 何故ワシに言わなかった、この阿呆?!」

 

「アホはそっちじゃ! チエが女だと気付かんお前の方が悪い、この修行馬鹿(脳筋)!」

 

「『強い』に『男』と『女』など関係ない!」

 

「矛盾しておるぞこの耄碌爺が!」

 

「何をぉぉぉぉぉぉぉぉ?! 杖があっても歩けないぐらい殴ってやるッ!」

 

あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛?! うるせえよ、山坊! 酒の無いワシの楽しみと言っては気軽に出来るのはこれぐらいの些細なもんじゃ! それにガキのテメェにやられるほど、ワシはまだ老いぼれていないわい!」

 

「言うか貴様! そもそも()()おかげで良い思いをしているクセに────!」

 

「────それこそ言い出したら()()おかげで何度死に体からお前が復活出来たと────?!」

 

 どんどんヒートアップしていく内に昔の口調に戻り始める山本元柳斎と右之助の言い合いを、チエはただ見ていた。

 

「(う~む……この『びーほるだー』はサラシより胸を潰すのに便利なのだが如何せん、他人が良く勘違いをしてしまうな)」

 

 それだけではないと思う。 By作者(with山田キートンさんボイス)

 

 山本元柳斎と右之助が遂に殴り合いを始め、そのカオスの中に三月とクルミが居間に入ってきて、場が更にカオスと化すまでおよそ5秒。

 

「「ただいま~────あ」」

 

 三月とクルミがボロボロになりかけの山本元柳斎と右之助を見る。

 

 山本元柳斎と右之助が二人をガン見して固まっていた。

 

 というより、クルミの手の中でスゥスゥと可愛い寝息を立てている雛鳥を見ては『ギョ』っと、目玉が飛び出る勢いで(更に)目を見開く。

 

 「「()()()じゃとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!」」

 

「ピピピピュイィィィィィィィィィィ?!」

 

 ポイちゃん(燬鷇王)がびっくりしてパタパタと翼を動かし、クルミの両手の中で寝起きながらも暴れ、三月が動じないクルミに振り返る。

 

「…………………………………………え。 何ソレ?」

 

「ですからポイニクス(フェニックス)からとって『ポイちゃん』と僕は名前を付けたつもりなんですけど」

 

 

 あたかも『当然』の言うかのようにクルミが平然と自分の付けた『ポイちゃん』という名前の由来を説明(?)する。

 

 固まる爺二人に、?マークを出す少女二人に、びっくりしてピィピィと鳴き続ける雛鳥一匹。

 

「(う~む、だがこの『びぃほるだー』だけを付けるというのも────)」

 

 そして無反応(関心)のチエだった。

 

 尚、『何時もの喧嘩』が始まって右之助の家の者達は近くで救急箱&担架で待機していた。

 ただ『何時もの喧嘩』の音が急に止まる事はあっても、小鳥のピィピィと鳴き続ける音は流石に不思議に思ったので居間に入ると上記の、駆け付けた彼らにとっては摩訶不思議な光景を目の辺りにした。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 翌日、瀞霊廷中に新たな噂が飛び散ったのは言うまでもない。

 

燬鷇王(双極)が生きていた』、と。

 

 2000年の時を生きて来た山本元柳斎と右之助だからこそ、その昔に閲覧した書物に幼い燬鷇王の見た目を見た事があるから『ポイちゃんが実は燬鷇王(の雛鳥)』と分かった。

 

 さて、『どうして双極(燬鷇王)が京楽と浮竹によって散り散りに破壊(爆散)された筈なのに健在なのか?』、というと以下の通りとなる。

 

 双極(燬鷇王)())は『斬魄刀百万本に値する破壊力を秘めている』。

 

 つまり二人(京楽と浮竹)によって『斬魄刀百万本と同等のモノが散り散りになった』。

 

 ただ流石に『天賜兵装(てんしへいそう)』という、最終兵器じみた代物を食らって平気な訳が無く、散り散りになった(本能)レベルの知能しか持ち合わせていない双極(燬鷇王)の欠片がそう長く、自力で持ち堪えられる筈が無い。

 

 勿論『藍染謀反騒動後』のゴタゴタが()()()()()()()()鬼道集と隠密鬼道が必死に『生きている個体』を探す為、瀞霊廷内をくまなく探していたが発見した時は既に遅かった。

 

 悪かったのはタイミング、つまりは『藍染謀反騒動()()』に検索しなかった事。

 

 思い出して欲しいが、クルミは殆どのタイムラグ無しで藍染が去った後、織姫に兄である昊を会わせる為に彼を流魂街から(遮魂膜を破って)瀞霊廷に(無理矢理)連れて来ていた。*2

 

 ただ幸か不幸か、クルミが使役していた天馬は()()()()()での『神の時代』という時から存在する個体で、言わばポイニクス(フェニックス)と同じ『幻想種』。

 

 そしてかなり弱体化しているとはいえ、天馬が同じ『幻想種』に興味を持つのは無理もなかった。

 そこでクルミは弱っていて餓死寸前だった燬鷇王(双極)のまだ生命活動を何とか続けていた欠片を保護した。

 

 これが丁度藍染騒動の終編、クルミが井上昊を織姫に送り届けた直後の出来事である。

 

 尚、ポイちゃん(燬鷇王)(クルミ命名)は瀞霊廷で新たな『双極』として育成する為に様々な要員や職人が来てはクルミから離れさせようとしたが────

 

 ────ピィィィィィィィィ!!!

 

「「────グワァァァァァァ?!」」

「「────イデデデデデデデデ!」」

「「────アチチチチチチチチ?!」」

 

 ────小さな(斬魄刀数本並の)嘴でクルミの元へ戻されるまで追い込まれた獣の如くに暴れ出して、ひたすら其処ら中を無差別に突か(斬りつか)れるか、ボヤ騒ぎになるほどの炎を体全体から常に出すかの状態などが続いた。

 

「うーん……ここはやはり、(クルミ)が世話をし続けるのが道理では?」

 

「ピィ♡」

 

「ですが燬鷇王はそもそも瀞霊廷に所有権が────」

 

 ────ポイちゃん(燬鷇王)がここでそっぽを役員に向ける。

 

「そちらにはこの子を扱える者がいるのですか?」

 

「「「………………………」」」

 

 そして(瀞霊廷の役人達が)あまり納得は出来なかったが、結局はクルミが主に『燬鷇王(ポイちゃん)』の世話を看る事となった。

 

 これによって更なる書類申請と、貴族達への説明を山本元柳斎と雀部(そして以前の事で関係者になってしまい、無理矢理巻き込まれた右之助)が急遽する事に。

 

 そして 『天馬』を操る『天女』は、『“燬鷇王”も自由自在に使役が出来る御方』とかなんとか。

 

「ふぅーん。 災難ですね」

 

「ピィー?」

 

 お前らが言うな。 By作者(キートン山田さんボイス)

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

『燬鷇王、健在』発覚事件から数日後、チエと三月はまたも真っ白な雪国っぽい場所へと来ていて、固まっていた。

 

 別に二人が氷漬けにされたなどという訳では無い。

 ただ単に動きを止めていた。

 

『…………………………………………』

『三月』

『言わないで』

『どうするのだ?』

『だから! なんで私に振るのよッ?!』

『お前の所為ではないのか?』

『違う! と、言いたいけれど心当たりが有り過ぎて断言出来ないぃぃぃッッ!!!』

 

 三月とチエの前には立ち並ぶ滅却師達。

 しかも全員が敬礼をしていた。

 

 これは翌日、クルミが(仕方なく)『ポイちゃん』の世話係役(の説明)の為に山本元柳斎が緊急隊首会を行った同じ日に『見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)』へと戻って来ていた。

 

 以前見た、真っ白な景色に城が見えて来たと思うと、何人かの滅却師が二人に近づき、()()()()()()()()

 

「お疲れ様です! 不肖、我々がお二人を丁重にご案内するよう、ハッシュヴァルト様達から聞かされております! このような身に余る光栄────!」

 

 ガスマスクをした滅却師が延々と膝を地面に付いたまま喋る。

 

 これにチエは無反応だったが、三月は若干引いていた。                         

 

「(え? ちょ、え? き、聞き間違いじゃないわよね?)」

「(アハハハハ! 何こいつマジウケるんですけどー? あたおかー♪)」

 

 そのまま二人は中へと案内されたまま入ると右左に『ビシッ!』、と効果音が出るような敬礼をする滅却師達がいた。

 

「(ど、どういうことなのぉ?)」

 

 そしてユーハバッハの王座があった部屋に入る。

 

「「「「お待ちしておりました」」」」

 

 修理された謁見の間に、(昨日より数はかなり減ってはいたが)星十字騎士団(シュテルンリッター)達と滅却師達がいた。

 

 それが二人(+一人?)の上記の()話までの流れである。

 

『だからどうするのだ、三月』

『分かんないわよ……………』

「(ミッチャンがパニクってる所おもしろ~☆ というかヤバくね?)」

 

 ハッシュヴァルトが前に出て喋り始める。

 

「我々からはまず、感謝の言葉を贈りたいと思います。 渡辺殿達のおかげで今この場にいる者達は『初心』に帰ろうと思っている者や、未だに『自ら他者に害を成そう』と思っていない者達のみ居ります」

 

「………………………………………へ?」

 

「??????????」

 

 三月がチエを見て、同時にチエが三月を見返しながら?マークを出す。

 

「「????????????????????????????????」」

 

 そして共に?マークを無数に出す。

 

「まず、我々は『瀞霊廷putsch(クーデター)計画』を────」

 

「────ブフ────?! (そんなヤバいモノを企んでいたの、こいつら────?!)」

「(────しかも外のすぐそこなんでしょここ(ヴァンデンライヒ)って────)」

 

「(────ヤッベェェェェェェェェェェェェ)」

「(────ヤッベェェェェェェェェェェェェ)」

 

 三月(達)がハッシュヴァルトの言った事で同時に内心がハモリ、肝を冷やす。

 

「???」

 

 チエはただ?マークを出し、ハッシュヴァルトは言葉を続ける。

 

「────この事に賛同しかねない者達はいますが……陛下無き今、実行へと動くのは現時点で、『無謀』としか言えません。 それと…………我々は自身を見つめ直す事にしました。 そこで渡辺殿達に、これからの我々の事に関して────」

 

 先日会った時のように腰の低い(?)ハッシュヴァルトとロバートを見ながら三月は困惑していた所にチエが話しかけ(念話を送っ)た。

 

『…………………どうする?』

F.U.〇.K(ファ〇ク)!!!』

『流石の私でもここで〇〇〇〇(自主規制)は────』

『────違うからボケないで!

『??? お前のほうが年上では────?』

 

 『────くぁwせdrftgyふじこlp!!!』

*1
第24話より

*2
第32話より




もう少しで『破面篇(?)』突入です。

ストックや書き置きが全くない状態ですが。 (汗汗汗汗汗汗

…………………………『自分に出来るかな?』という不安を持ちながらも、頑張って行きたいと思います。


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第45話 The Soldiers With(out) Purpose

お待たせしました、次話です!

更にご都合主義や独自解釈はありますし、少々長くなってしまいました (汗

…………た、楽しんで頂ければ幸いです!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場所は謁見の間ではなく、大きな客間へと移る。

 

 一つのテーブルでは、三月から向かい合わせにハッシュヴァルトが座っていて、彼とロバートが現在の状況を説明していた。

 

「えーと……じゃあ何? 貴方達は『改心した』、と言いたい訳?」

 

「かなり短縮化していますが……敢えて言うのであれば、そうなりますね」

 

 三月の問いにハッシュヴァルトが答える。

 

 と言うのも『見えざる帝国』の滅却師達は現在、先日の騒動で大まかに三つの派閥に分かれたという事。

 

 一つは過去の出来事を遺恨のままにせず、『過去』より『現在()を』と望んでいる所謂『穏健派寄り』で、主にハッシュヴァルト率いる滅却師達や星十字騎士団(シュテルンリッター)に加入してから日が浅い者達で殆ど結成している。

 

 もう一つは滅却師としての誇りを捨てずに虚と対抗し、人間を護り、自分達の居場所()設立(建国)を目標とする『中立派寄り』。

 これにはロバートと彼のように滅却師として長い間活動している者達や、好戦的かつ死神殺しではなくでも良い者達が部類された。

 

 最後に、やはり過去の事の因縁や『光の帝国(リヒト・ライヒ)』の栄光時代と誇りを忘れられずに『過去の再現』(またはそれ以上)を望む『タカ派寄り』で、殆どが過去の遺恨を大義名分に『軍事力による革命』を強行する、所謂『戦いが全て(戦闘狂)』や和平などを全く望まない者達。

 

 そして現在の『見えざる帝国』では最も数も多いのが『タカ派寄り』だという事。

 

「ふぅ~ん……って、何で()()こんな事を? 言ってくれるのは嬉しいのだけれど」

 

「渡n────()()殿()の……()()である三月殿の方が『このような事柄に慣れている』と、チエ殿がここに来る途中に言って来ましたので────」

 

「(────私に丸投げしたな?! と言うか『私が妹』って勘違いは正さないのね……)」

 

 三月が横目でチエが座っていた、近くのテーブルを見る。

 

「ハイ、あ~ん♡ (´ω`*)」

 

「自分で食べられると言っているだろう、マカロン?」

 

「だから『ミニーニャ』、又は『ミニー』と気軽に呼んでくださいな♪ (。→∀←。)」

 

 先日見たピンクの髪の毛をした巨乳 『良い身体つき』の女性────『ミニーニャ・マカロン』は(未だに)無表情のチエに菓子を食べさせようとしていた。

 

 多少無理やりチエの頬っぺたを菓子でムニムニと突いて。

 

「ミニー! アンタいい加減にしなさい! ここは『バンビーズ』のリーダーたる私が他の皆の紹介を────!」

 

「────え? いやぁよぉ。 そんな事したらバンビーに取られちゃうじゃない (・3・)♪~」

 

「何を言っているまk────『ミニー』とやら? 菓子はまだまだそこにあるぞ?」

 

()()()じゃないですよ? (・ω・)」

 

 ミニー二ャは(自称)『バンビーズ』のリーダーを名乗っている、小柄で艶のある黒髪ロングでミニスカ風の軍服を着用した『バンビー』────本名を『バンビエッタ・バスターバイン』にぶうたれながら断りを入れる。

 

「チッ。 モグモグモグモグモグ。 このクソビッチに続いてミニーもかよ。 洒落になんねーぞコラ。 因みにオレは『リルトット・ランパード』だ。 モグモグモグモグモグ」

 

 客間の菓子などが乗せられているテーブルの横でひたすらヒョイヒョイと菓子をお皿に乗せてはパクパクと食べていた小柄なおかっぱ金髪少女────『リルトット・ランパード』が幼い見た目に反して、かなりの毒舌を披露する。

 

 どこぞの誰か(達)に似ているとは言わない約束です。

 

「おめぇら程々にしろよ?! こっちは『これから』の、大事な話をしてんだからよ?!」

 

「「「だからキャンディがそこにいるんじゃない?」」」

 

 ミニーニャやチエの周りにいる者達がほぼ同時に反論する。

 

「テメェら……こんな時だけ急に息が合いやがって────」

 

「────苦労を掛けるな、キャンディス」

 

 チエが労いの言葉を三月やハッシュヴァルト達から少し離れた椅子に座っている巨乳 良い発育の体で露出の多い格好をしたギャル風で髪や眉毛などを、稲妻(いなづま)を模したような形にセットをした女性────『キャンディス・キャットニップ』にかける。

 

 先程ハッシュヴァルトやロバートの説明に居合わせる前にチエには自己紹介を済ませていた一人である。

 

「バッ?! バッッッッカじゃねーのオメェは?! ほ、褒められてもアタシは嬉しかねえぞコラァ?!」

 

 何故か顔が若干赤くなるキャンディスがハッシュヴァルトや三月達に視線を戻す。

 

「お前もやはりビッチだキャンディ」

 

「リル! テメェ、もういっぺん言ってみろよ?!」

 

「訂正だ。 ビッチはビッチでもアバズレビッ────」

 

 ────キャンディスは椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がり、逃げながら器用に食べ続けるリルトットを追い掛け回す。

 そして彼女と入れ替わるかのように、別の者が椅子を立たせて三月やハッシュヴァルト達の近くに場所を移してから座り直す。

 

「アハハ……いやぁ、騒がしくしてゴメンねぇ? ボク達ってば騎士団(リッター)の中でも結構新参者で、こう……纏まり感があまり強くないと言うかぁ、喧嘩っ早いて言うかぁ、ヤリたい時にヤルっていうかぁ~」

 

「そ、そうなのね? (纏まりが無いのはみれば分かるわよ………………最後の方、なんか違和感があったような、無いような………気のせいかな?)」

 

 小さな軍帽を被り、触角を思わせるような長髪の黒髪の者へと三月はニッコリとした笑顔(営業スマイル)を向ける。

 

「あ! ボクの名は『ジゼル・ジュエル』、『ジジ』って呼んでねぇ?」

 

 ジゼル・ジュエル────『ジジ』がニッコリと愛想良く三月に笑顔を返す。

 

「ええ、よろしくねジジさん? (あー、良かった。 ()()()()()()()()()()()が居て)」

 

「ほら渡辺さん、口が閉じたままですよ? あ~ん♡ (*´∀`*)」

 

「私は別にもういいミニー。 菓子が欲しくないのなら、ランパードにあげてくれ」

 

「あん♪ 優しいのですねぇ~? でもそれも又良いわぁ~ (。・ω・。♡)」

 

「何だ、いらないのかミニー。 じゃあもらっとくぜ────」

 

 何時の間にかキャンディスから逃げていたリルトットがミニーニャの持っていたお皿を自分の空になった皿ごと取りかえる。

 

「────ちょっとリルちゃんヒドイよ! お皿ごと取る事は無いでしょう?!」

 

「ゼェ、ゼェ、ゼェ……あ、相変わらずチビ(短足)のクセに早ぇぇ……」

 

「モグモグモグモグ」

 

 和んだ(?)空気の横で三月が苦笑いを浮かべながらハッシュヴァルト達に顔を向ける。

 

「…………………………………………………は、話を続けてくれるかしらハッシュヴァルトさん?」

 

「ええ、そうですね。 ではアキュトロン────」

 

「────ハッ。 では僭越ながら、ここからは私が現状の説明をいたします。 まず、数の少ない我々中立派と穏健派に対し、タカ派からは『軍門に下れ、さもなければ力尽くで強要する』という要求が来ました」

 

「ブッ?!」

 

 三月は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになるが何とか踏み止まり、口元をナプキンで拭く。

 

「………………それって、かなりヤバい状態じゃないの?」

 

「ええ、当世の言語を借りるのならば確かに『や()い』ですね」

 

「はい、『やば()』です」

 

 言い慣れていないのか、ロバートとアキュトロンの少し変わったインタネーションを三月は無視し、話を続けた。

 

「……………つまり何ですか? モミ────貴方達の統率者(首領)が居なくなった事によってえっと……星十字騎士団(シュテルンリッター)達は『内部崩壊』、と言うか『暴走寸前』って事?」

 

「そうですね/そうなりますね」

 

「……………………………………(大丈夫かな、この人達?)」

 

 ロバートとハッシュヴァルトの平然とした様子と返事に、三月が冷や汗を流しながらジゼルの方を見る。

 

「でもでも、アキュトロンには考えがあるんだよ?」

 

「(ホ。 そうなんだ良かった────)」

 

「────ええ。 この城の建築士、随分と昔の話ですが()()変わった────いえ、『特殊』な方でしてな。 設計と建築の段階で『自爆装置』を組み込みまして────」

 

 「────Why(ワイ)? ナンデ?」

 

「彼曰く、『自爆装置は男のロマンじゃ!』と高らかに演説していましたな────」

 

 「────どこのR(あーる)のマッドサイエンティストなのよ。 馬鹿じゃないのそいつ?」

 

「そうですね。 変人ではありましたが、腕も確かな彼は当時の滅却師達の中でも建造に関しては指折りの者でした。 ただ彼の自爆装置が実質的に『解除不能』と知り、怒った陛下にその場で即処刑されましたが」

 

「…………………(ま、まぁそうなるわよね)」

 

「陛下と言うぜった────『強者』がいたので、城を自爆させるような事態は無いと思い、今までは放置されていました。 今現在、当時のこの出来事を知っているのはおそらく私だけでしょう……そして自爆装置は未だに生きています」

 

「(『絶対的強者』を『強者』に言い換えたわね、今。)…成程。 アキュトロンさんがその自爆装置を使ってタカ派達を止めているのね?」

 

「ロバートとお呼びくださいませ、お嬢様────」

 

「────え。 そんな、悪いよ。 (と言うか『お嬢様』って………何かくすぐったい。 イーちゃん(イリヤ)もこんな気分だったのかな? ……無いわね。 あっちは生粋の貴族令嬢なんだし)」

 

 老紳士の姿のロバートを、呼び捨てする事に遠慮を感じる三月(元一般市民(?))

 

「────それに、私達はまだタカ派に装置の存在を明らかにしていません。 彼らに伝えたのはただ『我々の身に何かがあれば先日来た渡辺兄妹の報復が来るぞ』と言った脅しを────」

 

 「────オイちょっと待てやコラロバート。 何がどうこうなればそうなる?」

 

 そして自分等が知らずの内に滅却師達の内乱揉めに巻き込まれた事を聞かされ、あっさりとロバートを呼び捨てにしながらツッコむ三月だった。

 

「おこがましいようですが我々は陛下を……()()()()()()様を()()()程の実力者の二人の庇護、又は配下に入る所存でありましたので」

 

 「────What(ワッツ)

 

 三月が一言だけ言い、ジト目でロバートとハッシュヴァルトを互いに見る。

 

「それって、『穏健派』と『中立派』の、双方の総意なのかしら?」

 

「少なくとも『穏健派』として、我々は敵対するつもりは御座いません。 ですが()()()()()『タカ派』を()()()()()()()のは困難を極みますね」

 

「そして『中立派』としては『タカ派』の()()をみすみす()()()()()()()()()()()

 

「………………………………(この人、何か企んでいるっぽいわね)」

 

 三月は表情を変えずに、先程の会話を脳裏に浮かばせて比較する。

 

 ハッシュヴァルトは、『我々だけで“タカ派”を大人しくさせるのは困難』。

 

 対してロバートは、『“タカ派”の行為を見逃す訳にはいかない』。

 

 両方とも『“タカ派”を止める』という事に違いないのだが…

『裏の意味』、所謂『本質』が大きく異なる。

 

「(ハッシュドポテ────『ハッシュヴァルト』達は元々、『自分達だけでタカ派を止める気』だったのに対して、『中立派』は初めから他人(私とチーちゃん)を巻き込む気でいたわね……多分)」

 

 そう、先程ハッシュヴァルトはハッキリと自分達『穏健派』だけを指していた。

 

 だがロバートは『行為を見逃せない』という、共通の大義名分(動機)になり得るように状況を繰り出した。

 

「(見た目はお爺ちゃんなのにちゃっかりしているわねぇ~……とすると、あそこにいる子達にここにいる『ジジ』も、彼の差し金と言う事?)」

 

 さて、『ロバート・アキュトロン』の所属している『中立派』の最終目的を覚えているだろうか?

 

 もう一度ここで記入するが、最終目標は『滅却師達の居場所()設立(建国)』である。

 

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)』に元々居た滅却師達はどちらかと言うと軍事国家(ぶっちゃけるとユーハバッハによる独裁制)で、上官としての権限は基本的に戦闘力をメインに配慮されているのが暗黙のルール。

 

 弱肉強食である。

 

 例外は存在するが。

 

 因みにロバートとしてはユーハバッハ無き今、自分が新しい国のトップの補佐官になり得るチャンスと目論見、今までの経験や他の滅却師達とのコネクションを使って水面下では既に色々と策を練り始めていた、様々な布石を打っていた。

 

 その一つが『ハッシュヴァルト』という、『元次期皇帝』と呼ばれていた青年。

 

 彼を慕う滅却師達は決して少なくはなく、ハッシュヴァルトと彼が率いる『穏健派』はどちらかと言うと『中立派』より戦闘力だけなら上回っている。

 

 つまり上手く扱う事さえ出来れば、優秀な遊撃隊にもなり得る集団。

 

 そして更に突如現れた陛下(ユーハバッハ)と同等(もしくはそれ以上)の二名を使わない(利用しない)手はない。

 それこそ上手くすれば、『穏健派』のように『中立派』がそのうち実行する『国家建国』の『(つるぎ)』として使える。

 

 見た目通り、()()自分の思惑のある(腹黒な)老紳士であった。

 

「(先ずはこの二人の()()の方に『バンビーズ(女性騎士団員)』達を宛がわせる。 先日接触した際、あの子達の反応は『憧れ』、又は『興味を抱く乙女』達だった。 そして出来ればこちらの()()にはハッシュヴァルトを────)」

 

 強者(チエと三月)達にその気がない分、一度滅却師の国を立ち上げてその際に『皇帝』か『女帝』として担ぎ上げられて周りに認知されれば────

 

「(────そして行く行くは(ロバート)補佐官(宰相)を務められれば実質のトップに────)」

 

 そんな事を脳内で考え、一切表情の変わらないロバートは話を続けていた。

 

「そこでお二人に申し出があるのですが、よろしいでしょうか?」

 

「何でしょうか? (この眼鏡オヤジ……私情を使おうとしているかも知れないけど………………ま、これはこれで良いかな?)」

 

 ロバートを『眼鏡オヤジ』呼びした三月は、十年の時で得たクセで自分の伊達メガネを無為意識に掛け直す。

 

我々(穏健派&中立派)と共にタカ派の壊滅を────」

 

「────待って。 そこでStop(ストップ) please(プリーズ)ね。 未だに攻撃的な彼らを止めるのは分かるわ。 でも『壊滅』ってやり過ぎじゃない? と言うか瀞霊廷への攻撃は『無謀』と言ったでしょ? なら────」

 

「────あの者達は殆どが『死んだ方がマシ』に近い信念を持っている故、『無謀』であっても強行しかねますね」

 

 ハッシュヴァルトの説明により、三月が頭を抱えそうになる。

 

こっちも脳筋だらけかよ

 

変人やならず者ばかりだからねぇ~

 

 三月の小声にジゼルが反応する。

 

「(マジでノリの良い()が居て良かったッ!!!)」

 

「先ほども言いかけましたが、この銀架城(ジルバーン)の自爆にタカ派を巻き込んで壊滅し、跡地に我々の新たな居場所(拠点)を作ろうと思っています」

 

 ここで三月が一つの違和感に気付く。

 

「……あれ? でも貴方達は滅却師……というか『人間』でしょ? 何でここ(瀞霊廷の影)に居る事に固執するの? 『現世』に行けば良いじゃない」

 

 三月の疑問にハッシュヴァルトとロバートが互いを見て迷うような表情をし、ジゼルが苦笑いをする。

 

「え? 何? 変なこと言った、私?」

 

「こいつら戸惑っているんだろ。 モグモグモグ。 お前が急にオレらを『人間』呼ばわりしたからな。 モグモグモグ」

 

「わきゃ?! ど、どういう事? (というかこの子、実力が半端ないわね)」

 

 三月が気配を消して後ろに立っていたリルトットにビックリするも、更なる疑問を口にする。

 

 尚、菓子を食べる彼女(リルトット)を追っていたキャンディスは汗だくでチエ達のいる近くのソファーにて横たわりながら息を切らせていたのに対し、リルトットは汗一つ掻いていなかった。

 

「オレらは滅却師だが長年、尸魂界(ソウル・ソサエティ)の影に居たからな。 生質が若干変わっちまっているんだよ。 モグモグモグ」

 

「ええ、今の我々は『人間』と『魂魄』の狭間で存在しています。 ですから『影の領域(シャッテン・ベライヒ)』の外では実質的な活動の制限時間が課せられます」

 

「(どこの光の巨人集団なのよ)」

 

 この時三月の脳裏に一瞬浮かんだのは『ジュワッ!』という掛け声と共に、空にある星々へと飛ぶ巨人のシルエットだった。

 

「ええと……その制限時間を過ぎたらどうなるの?」

 

「外部からの霊子の供給が無いまま時間が過ぎれば魂魄の形を結成する霊子が不安定になって行き、霊圧と霊力と共に魂魄()が弱体化していきます」

 

「ふむふむ」

 

「次第には姿形を保てずに魂魄自体が拡散し、文字通り溶けるかのように死に至ります」

 

「ええええぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 ハッシュヴァルトの捻りも何もない、激突で短い説明とも呼べないような言葉に三月はジト目&呆れ顔へと変わる。

 

 因みにこれが理由で『見えざる帝国』と瀞霊廷(もっと規模を拡大化すると『影の領域』と尸魂界)を並べて比べると、建物などの建造物が圧倒的に少ない。

 

 これは建造物に回していない分の霊子をそのまま、『見えざる帝国』の滅却師達は自分達の存在維持に使っていたからだ。

 

「じゃあ何? ここ……えっと、『影の領域(シャッテン・ベライヒ)』の外へと行くと『海から出たイルカ』状態になる訳?」

 

「もしその『海』が『霊子の海』であればピッタリな例えだね」

 

 ここでジゼルが呑気なトーンで話に割り込む。

 

「成程ね。 要するに、大気中の霊子濃度が低ければダメって事ね? (と言うかイルカわかるんだ……)」

 

「ご理解出来ましたでしょうか?」

 

 ここで一息を入れるように皆が紅茶か茶菓子を手に取って食べる。

 

「う~ん。(これって要するに外部の霊子濃度が低いからダメなんだよね? そうすると、他の方法はないかしら?)」

 

 三月は考え込み、『この世界(BLEACH)』だけでなく『前の世界(他世界)達』の技術なども視野に入れる。

 

「(…………………………………あ。 これ、意外と行けるかも知れないわ)」

 

 これが漫画であれば、ポリポリとクッキーをかじっていた三月の頭上にメタな電球が光っているだろう。

 

 後『その仕草が未だに小動物のようだ』とは書かない約束だが、敢えて記入しよう。*1

 

「意外とどうにかなるかも知れないぞ?」

 

「「「え」」」

 

 ロバート、ハッシュヴァルト、そしてジゼルが近くからしたチエの声に反応する。

 

 そこにはチエの首に抱き着いたミニーニャを引きずるかのような立ち上がり、そのまま歩いて来た姿があった。

 

 また余談ではあるが後ろではチエに頼まれたのか、未だに汗だくでだらけるキャンディスの頭をバンビエッタが団扇で冷やしていた。

 

「『どうにかなるかも知れない』って、どういう事?」

 

 ジゼルの動かした頭に触角 髪の毛が反応する。

 

「周りの霊子濃度が低くてここ(影の領域)を出られないのであれば、出られるようにすれば良いだけではないか?」

 

「それが出来ねえから困ってんじゃねぇか、バーカ………………………………………………………………あ」

 

 リルトットが何時もの癖から毒舌かつ荒い口調でチエに反応すると、そこに居た他の(滅却師)達同様に目を見開きながら、血の気が引いていった。

 

 場と気が多少緩んでいたとはいえ、本来の『原作』の『星十字騎士団(シュテルンリッター)』であればこのような些細な事でも即処刑、又は何らかの制裁の対象である。

 

 だが────

 

「────是非もなしか」

 

 チエは『さもありなん』と言うかのようにリルトットの言葉を流した。

 

「うん……それで行こう!」

 

 三月が『ポン』っと掌を拳の底で叩く。

 

「私に良い考えがあるわ。 だけれど────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────()()()()()()()は、皆にあるかしら?」

 

*1
作者の別作品『天の刃』より




凛(天の刃体):まーたこの子が何かやらかすのね

作者:そこは慣れてちょ

三月:失敬な! 私はただチエの後始末をしているだけよ?!

チエ:私が何かしたのか????????

凛(天の刃体):こ、この子……信じられないけど三月以上だわ

チエ:確かに比べると今の私の方が身長が高いが────

凛(天の刃体):────うん、三月以上ね

チエ:?????????


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第46話 更なるGO・KA・I

楽しんで頂ければ幸いです!

いつも読んでくださる方たちに感謝を!

………………前もっての土下座ぁぁぁぁぁ!!! m(。≧Д≦。)m

6/25/21 10:24 追記:読み直し&若干の修正をしました


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 夏休みが始まる寸前に起きた『ルキア消失』から始まり、『藍染惣右介の謀反』へと繋がった騒動からそろそろ夏休みが終わる日が、目前へと迫りつつあった。

 

『現世組』は色々と準備、そしてソウル・ソサエティから帰還する支度を各々がしていた。

 

 織姫は兄の昊とはしばしの別れを惜しむかのように、他の知人達を良くガッチリ腕を掴んで(ホールド)強制連行 誘っては一日中出かけていた。

 大抵の場合は三月やクルミ(&ポイちゃん)が高確率で巻き込まれていた。

 

 一護は剣八や一角に追われながらも瀞霊廷や流魂街を満喫…………とまでは行かないが、まぁそれなりに地理などには詳しくなり、五番隊の隊舎で剣八達から隠れる日々を送っている内に五番隊の席官三人衆(平塚、櫃宮、田沼)と知り合い同士になったり。

 

 あと、カリンに見つかって彼女流の鍛錬に付き合わされてボコボコヘトヘトにされたり。

 

 茶渡は上記の一護のように五番隊の隊舎によく出入りしていた。

 単純に訓練を良く行っている隊士達に「俺も混ぜてはくれないか?」と、頭を下げて共に鍛錬をしたり。

 

 あと彼もカリンに文字通りボコボコにやられたり。

 

 夜一は監視と言う大義名分の下に砕蜂に軟禁 保護されるところで、彼女と隠密機動の包囲網を容易く突破し、瀞霊廷と流魂街双方で見かけられたという情報が上がったり、いざ調査すればガセネタだったりで隠密機動(というか主に砕蜂)が翻弄されたり。

 

 夜一が取り敢えずは久しぶりのソウル・ソサエティを気ままに満喫していたのは言わなくとも容易に想像が出来るような事柄だった。

 

 浦原はマユリのネチネチとした異論などで技術開発部の局長の座は決して譲らないスタンスを取り、自分の研究室に籠った。

 

 十二番隊の隊首羽織と共に。

 

 結局は浦原の『一時釈放』事情も関係してくるので、当面は瀞霊廷の『外部専門家』のようなポジションに彼は取り敢えず任命された。

 

 そのような事になっているのを知ったマユリはストレス発散の為、更に研究に没頭し、誰もが彼を呼びに行っても門前払い。

 

『出る事はそうそう無いだろう』と周りから思われていたが……………

 

 例外が()()いた。

 

「マユリ様────モグモグモグ────客人で御座います────モグモグモグ」

 

 そして今日()菓子(今回はマフィン)を頬張るネムはその例外(少女)と一緒にマユリの研究室の扉の前に来ていた。

 

「マーユーちゃーん、あーそーびまーしょう~」

 

 例外である少女の、何時ものモノトーン(棒読み)ボイスが響いた瞬間扉がガチガチグネグネバキバキと意味不明な音を発して数分後に開いて、中からマユリが冴えないジト目で少女を見る。

 

「リッ君かい。 ()()は、持って来ているのかネ?」

 

 因みに少女は『リカ』だった。

 

「抜かりなく、ここにありますよー」

 

 リカが手に持っている、ケーキ屋などで良く見る箱に似た物を彼女が半分長袖の中に隠れた両手で持ち上げて見せると、リカとマユリが共に『ニィー』っと、()()()似たような笑みを浮かべる。

 

 その時に限って、十二番隊では長らく聞いていなかったマユリの大笑いを扉越しに聞こえる日となっていた

 

『ウッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!』

 

 

 その日の夜道では────

 

「────フフ…………フヒヒヒクヒ……………ヒヒヒヒヒヒ────」

 

 ────リカは大満足したような笑みで気味悪く、低い笑いを帰り道中ずっとしていた。

 

「キッショ」

 

 それは彼女を迎えに来たツキミが気味悪がるほど。

 

 眼n────雨竜は現世組の服などを裁縫し終えたと思えば織姫に無理矢理出かけさせられたり、服を()()()程余分に依頼(作ら)されていた。

 因みに依頼者は三月であり、彼が承諾する条件は『共に裁縫をする事』。

 

「なんでさ?!」

 

と三月は即反応したらしく、たまたま近くにいたツキミがハリセンで、彼女の頭を叩きながら「僕の役を取るなや?!」と逆にツッコまれた。

 

 と言うのも、雨竜は彼女(三月)()()()()()と見込んで、()()()()()を他の者に内緒で聞きたかっただけなのだが。

 

「渡辺さんは滅却師最終形態(クインシー・レットシュティール)と言うのを知っていますか?」

 

滅却師最終形態(クインシー・レットシュティール)』。

 それは雨竜の祖父と同時に尊敬の対象であった石田宗弦が滅却師の戦闘形態として完成させた技の()()で、現段階で最大の力を引き出す代物。

 

散霊手套(さんれいしゅとう)』と呼ばれる特殊な手袋をつけた状態で七日七夜弓を成す事が出来れば、『滅却師の高みに限りなく近づく事が出来る』とされて、外すと上記の『滅却師最終形態(クインシー・レットシュティール)』状態になり、戦闘能力が爆発的に高まる。

 

 先の『ルキア奪還』の際に、十二番隊長のマユリを一撃で倒せるほど。

 

 だが人間が到底使用出来るレベルの力ではない為、あまりの負担に『滅却師の力を失ってしまう』というデメリットが存在し、雨竜が力を無くした理由であり、()()()()()である三月なら『何か知っているかも知れない』と思い、聞く事に。

 

「(それって確か眼鏡(雨竜)のお爺ちゃんが練り上げた技だよね? そっか、そう言えば眼鏡(雨竜)って今戦えないんだっけ?)」

 

 後の『原作』を知っている者達に説明は必要ないと思うが、実は『滅却師最終形態(クインシー・レットシュティール)』で失った力は厳密に言うと取り戻す事が出来る。

 

 何故なら、これはまた単純にあまりの爆発的な上昇した能力で体がビックリし、本能的に負担を和らげようとした反動からだった。

 

 つまりその気になれば、()()事も不可能ではない。

 

 難しいのは難しいが。

 

 不可能ではないが────

 

「う~ん、ごめんなさいね? ()()()()()()()()()()()()

 

「ッ………………そっか…………そうだよね。 すまない渡辺さん、今のは忘れてくれ」

 

 ────三月は()()()『知らないフリ』をした。

 

「(ごめんね眼鏡(雨竜)。 でもこれがきっかけで、あなたは色々と自分のお父さん(実家)の事がわかるようになるから全部が全部、悪い事ばかりじゃないわ)」

 

 そんな事を悶々と裁縫(ノルマ)を終え、彼女は()()()()をしながら考えごとを続ける。

 

「???? それは何ですか渡辺さん? ()()()()()()に似ているけど」

 

「んー……ヒ・ミ・ツ♪」

 

 疑問の問いをした雨竜に三月はお茶目なウィンクを返す。

 

 その時チエは────

 

「「…………………………………………………………」」

 

 シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ。

 

 ────無言でお茶を点てていた。

 

 場所は朽木家の屋敷で、母屋から少し離れた小座敷の中。

 

 簡素で暖かいながらも静かで落ち着ける部屋の中に、彼女と白哉の()()()()が居て、ただ静かな時間が過ぎ去って行った。

 

 実はその日、突然朽木家の使いの者が五番隊舎まで来て白哉がチエ()()を招待していた事を伝えに来た。

 そして不思議に思いながらも朽木家の屋敷まで足を運ぶと上記の小座敷まで案内されて点前の準備がされていた部屋の中に白哉が一人だけいた。

 

 状況を察して、チエはそのまま点前の作法に入って現在の状況へと至る。

 

 部屋の中で聞こえて来るのはチエが点前の作法音と、外から来る風と鳥の鳴く音のみ。

 

 一つ一つの動きが落ちついて、丁重な動作だった。

 

 それから数分後、白哉の前には一つのお茶の入ったお茶碗が置かれた。

 

「頂戴いたします」

 

 白哉はお茶碗を両手で持ちあげ、少し回した後にゆっくりと飲む。

 

 どちらも()()()()動作そのものだった。

 

「………………美味だ」

 

「ありがとうございます」

 

 白哉の褒めに、チエは礼を────

 

 ドタドタドタドタドタドタ!!!

 

『────キャハハハハハハ! もう一匹捕まえたぁ~!』

 

 ドタドタドタドタドタドタドタドタドタ!!!

 

 ピンク色の髪の毛をした()()()、ビチビチと暴れる鯉を両手に持ちながら窓の外を騒がしく走り去る。

 

「??? 今のは────」

 

「────気のせいだ」

 

 チエの言葉を、白哉が遮る。

 

「いや、だが今の声と人相は確かに草鹿副t────」

 

「────だから気のせいだと言っている

 

 チエが白哉の方を見ると、普段より更にムッとした白哉がいた。

 

「……………鯉はどうするのだ?」

 

「恐らく今週辺りに、浮竹が『池に鯉が増えた』とでも言ってくるだろう」

 

「………………………不服ではないのか?」

 

「………………………………………………………………………………言っても無駄だろう」

 

「そういうものか」

 

「そういうものだ」

 

「「………………………………………………………………………」」

 

 何処か似た二人がそれを最後に黙り込む。

 

 静けさを朽木家が取り戻した数分後に、白哉が口を開ける。

 

「……貴女は」

 

「ん?」

 

「貴女は……()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……??????」

 

 白哉の質問にチエが?マークを出す。

 

 まるで質問の意味が分からないとでも言うかのように(その通りなのだが)。

 

「だからルキアの事をどう思っているのだ、と聞いている」

 

 察したかのように白哉が再度聞く。

 

「どう…………とは?」

 

 それでも白哉の聞いている意味が分からず、チエはただ聞き返す。

 

「言葉通りの意味だ」

 

「………………………………………………………………」

 

 白哉の全く説明になっていない答えでチエは考え込む。

 

「(『ルキアをどう思う』、か…………三月によれば、義兄である『朽木白哉』は確か『掟』や『法』に『貴族の義務』などを重視していた筈。 なら聞いているのは『ルキアを護廷の者としてどう思っている』と言った所か)」

 

 因みに白哉の内心事情を見えるように記入すると、以下のように映るだろう。

 

 「(不純な気配などがすれば即首を斬り落とし、私も後を追うとしよう)」

 

 何とも妄想の自己完結の末に暴走寸前の義妹思い(シスコン振り)であった。

 

「……………………『朽木ルキア』は」

 

 白哉がピクリと、極僅かにだが右手(利き手)を動かす。

 

「彼女は男勝りで気が強く────」

 

 チエが気にしていれば、今の白哉の背後には何某漫画で出てくる『ゴゴゴゴゴゴ』効果音がしっくりくる程の霊圧が漏れ始めていた。

 

「────冷静で生真面目な性格を持つ、気難しい奴────」

 

 白哉の背が少し前のめりになる。

 

 まるでスタートダッシュをつけるような短距離走者みたいに。

 

「────だがその反面自分より他者を気遣う事が出来、優しくて繊細な性格の持ち主だ」

 

 今までの白哉の無言のプレッシャーが嘘だったかのように、それらが全てスッと一瞬で消え、姿勢は以前のモノに戻り、彼の表情は何処か憂鬱な空気を出していた。

 

「そう……………か………(こ奴、しっかりとルキアの事を────いやまだだ。 まだ()()()が残っているではないか。) して、雛森副隊長の事はどう思っているのだ?」

 

「もm────雛森か」

 

 チエが危うく雛森を(『桃』と)呼び捨てになりそうなところで、白哉の霊圧がさっきより更に険しいモノへと一気にぶり返す。

 

「(こ奴め呼び捨てだとふざけるなやはり玉砕覚悟で斬り捨てて私も────)」

 

「奴は……………………………………………………………………」

 

「(────ん?)」

 

 またも暴走しそうな白哉だったが、何時もはハキハキと物事を言うチエにしては歯切れが悪い今に疑問を感じる。

 

「………………………………………………………………………………………………」

 

 そしてチエの沈黙と彼女の泳ぐ目に、白哉の妄想はあらぬ方向へと焦り始める。

 

「奴は、何なのだ? (ま、まさかこ奴は雛森副隊長とは既にもう手遅れな事態(関係)へ────)」

 

「────『妹』────」

 

「(────何という事だ色男ならず色女とは────)────ん?」

 

 どんどんと妄想が加速していった白哉は、チエのボソリとした声で現在に引き戻された。

 

「………………………そうだな、うむ。 『妹』、がしっくりくるか」

 

「(…………………………………………)…………………………………………」

 

 白哉は思考と共に体も固まった。

 

「奴は気丈に振舞っているが、内面的にはまだかなり参っている。 『放っておけない気弱な妹』、だな」

 

「(…………………………………………)…………………………………………」

 

「立ち直るまで、私に『頼りたい』と思っているのであれば私は()()()()立ち直るその時まで────」

 

 目の泳いでいたチエがダンマリとした白哉を見上げると体を『ビクッ?!』とさせる。

 

 何故なら変わらぬ(無)表情で、()()白哉の目線がただ静かに涙で潤んでいたからだ。

 

「(何と……………私は…………私は何という愚かで浅はかな者なのだ)」

 

「く、朽木隊長?」

 

「(目の前の者は不埒者であるどころか、自身を蔑ろにしてでも他者の為になる事を自ら進んで………………更にそれだけではなく────)」

 

 白哉の脳内に流れるのはチエの、日が浅い割に数々の噂と所業と『隊長代理』としての仕事ぶりがグルグルと回っていた。

 

「朽木隊長?」

 

 白哉がハッと気付くと、無表情のチエの顔が自分の目と鼻の先寸前まで近くなっていたのに気付き、更に彼女は手を白哉のおでこに添える。

 

熱中症(ねっチュウしょう)では無いな」

 

 「んなッ?!」

 

 白哉が更にびっくりして後ろ向きに倒れてチエがそれを阻止しようとするも、体格差(180㎝対160㎝)により、自身も白哉を覆いかぶせるかのように倒れそうになる所を丁度、白哉の肩近くの畳に伸ばした手をついて止まる。

 

 尚、普段ならこういう事は起きないのだが急な事と、体勢も要因であり、チエのきつく縛った細いポニーテールっぽい髪の毛が畳の上へと落ちる。

 

「(…………………………………………)…………………………………………」

 

「無事か、朽木隊長?」

 

 先程のように(無表情で)目を見開いたままフリーズする白哉に(こちらも無表情で)心配するチエが聞く。

 

「(…………………………………………)…………………………………………」

 

「朽木隊長?」

 

 数分、あるいは数秒後に白哉は黙ったままチエの肩を優しく押し返し、自身も座り上がった。

 

「……………………………………………………………………私は大丈夫だ」

 

「そうか」

 

 チエが座り直したところで白哉が口を開く。

 

「…………………………………これからも」

 

「?」

 

「これからも………………()()()()()()

 

「…………………(成程、()()()()()()()()()()()か。) ああ、私は()()()()()()()()()()()()()だ。 だが……………」

 

「…………?」

 

 白哉が見上げると、自分をジッと見ていたチエ(赤い目)と目が合う。

 

「ルキアは今まで()()()()()()育てられた毛がある。 少しは身近な者達と、自身とも向き合う必要があると思うのだが?」

 

「………………

 

「?」

 

 かなりド直球なチエの意見に対し、白哉が思わず笑みを浮かべそうになる。

 

「(さすがは総隊長の師と言う事か。 こ奴ならば……………………)…………()()()()()()()()()()

 

 白哉が若干()()()()()

 

「こちらこそ()()()()お願いする」

 

 これに対し、チエも敬意に乗っ取って()()()()()

 

 双方の意味合いがすれ違っ(ズレ)てはいたが。

 

 そこから白哉はチエともう少し話をしている間、二人がいた小座敷から少し離れた母屋の周り角に景色が移ると、赤くなりながら目を見開き、口を両手で覆うルキアの姿があった。

 

「(どどどどどどどどどうするのだ私?! まままままさか、にににににににににににに義兄様と、チチチチチチチチチチチチエが………………………………………キ…………………キ…………………キ…………………!!!)」 

 

 ルキアが朽木家令嬢(真っ赤になった顔を)にあるまじき行為を(両手で覆いながら畳の上をゴロゴロ)する。

 

 実はと言うと、チエが屋敷に到着して間もない頃にルキアは家の者が、『白哉が誰かを招待した』という、珍しい事を耳に入れた。

 興味を持ちながら屋敷内を歩いていると、通りかかったやちる(鯉泥棒)から詳細を(聞かれてなくとも)聞いた。

 

びゃっくん(白哉)はなんかムッツン(チエ)と美味しくない、苦―いお茶を一緒に飲んでいるよー」

 

「お茶は紅茶でなければ苦いと思うが……」

 

「違う違う! 凄く面倒臭い、苦~いお茶だよ! シャカシャカ、シャカシャカするのー!」

 

「(成程、点前か)」

 

 当たりをつけたルキアはやちるに感謝の言葉を言い、義兄様とチエが恐らく居ると思われる小座敷の方へと歩き、丁度周り角を曲がった所で固まった。

 

 チエが(ルキアから見れば)白哉を押し倒し、(落ちかけた髪の毛が邪魔して(遮って)定かではないが)二人はその勢いのまま────。

 

「(────!!! 今なら一護の気持ちが解った様な気がしないでもないぃぃぃぃぃ!)」

 

 ルキアの脳内に蘇るのは先程の景色(+予想(妄想))。

 

 ルキアは朽木家令嬢(真っ赤になった頭を)にあるまじき行為を(両手で抱えながら畳の上をゴロゴロ)を未だに続けながら考え込む。

 

「(『たかが接吻ではないか』と(一護)に平然と言っていた過去の私を殴りたい! これは確かに何とも言えない気持ちだぁぁぁぁぁ!!!)」

 

 今のルキアはかつて自分が取っていた軽率な言動を恨めしく思っていた。*1

 

「(ま、まさかそのような事が………………と言うか何時………………懺罪宮(せんざいきゅう)の橋の上で会うのが初めてらしいが…………もしやこれが俗に言う、『一目惚れ』というものか?  だがこれで納得が出来るぞ! 何故義兄様と良く五番隊舎で会うのかが!)」*2

 

 ここで決意を新たに決めたように、ルキアがムクリと座り上がる。

 

「(しかも義兄様は嫌がるどころか…………………双方が()()()()()()()()()だとは………………………………………)」

 

『全くの外れである』、と言ってくれる存在は周りにいなかった。

 

「(……………………だが知ってしまったからには『知らぬ存ぜぬ』で通す訳にはいかぬ! 義兄様の為にも!  だが義兄様とチエが隠れてあ………………あ………………………………………………………………あ………………………………………………………………………………………………)」

 

 ここでルキアの頭全体が更に真っ赤になる。

 茹蛸(ゆでだこ)みたいに。

 

「(…………………………………………………………………………………………………………………………()()()()……………………………………………………………………………………をするような関係と知れば! この朽木ルキア、 全身全霊で義兄様達の応援を……………応援を…………………………はて? 待てよ? ここで二人を応援すれば、行く行くは………………チエは『義姉様』、と言う事に?)」

 

 どんどんと、どこぞの義兄(シスコン)のように妄想(自己回答)が加速していくルキア(義妹)の脳内妄想は協会の鐘の音…………………ではなくて白無垢に身を包んだチエの姿が現れた。

 

「(だが何故、義兄様は……………………確かにチエはどことなーく話に聞く緋真(ひさな)姉様に似て……………似て………………………………………………………………………………()()()()()()()()が…………………チエが『義姉様』………………うーむ、意外と容易に想像出来てしまうぞ?)」

 

 ルキアが頭を抱えながら悶々と考え込むながら思い出してくるのは『現世』で世話になっていた日々。

 

 ここまでくれば二人(白哉とルキア)は義兄妹どころか、『こいつら本物(マジ)の兄妹ではないのか?』と悩ませさせる程に似ていた。

 

 そして『原作』風にいうと『全くの大外れ(勘違い)』というテロップが二人のコマに浮き出ているところだろう。

 

*1
第14話より

*2
第27話、及び36話より




平子:なんやねんこれ? あ?

作者:…………………い、勢いです!

ひよ里:阿保ぬかせハゲェ! ここに証拠は上がってんねんで?! メッチャ前に書き上げたッつー証拠がなー!

ラブ:牛丼、食うか?

作者:…………………………何これ?

ラブ:吉野○のだ。 食いたくなかったら次話、書くか?

ローズ:発見したよぉ、ここに次話────のわぁぁぁぁぁぁ?!

平子/ひよ里/ラブ:こっちに貸せ!

作者:ああああああああ!ヤメテぇぇぇぇぇぇ!!!! イヤァァァァァァ!!!!


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第47話 『堅物』と『子弟』の一時

お待たせしました、次話です!

6/28/21 12:52追記:誤字報告ありがとうございますコミケンさん!
何時も読んでくださって、誠にありがとうございます!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場所はもう一度変わり、隊首会の部屋へと変わる。

 

 中では先の『藍染惣右介の謀反』騒動で低下した戦力で、瀞霊廷での防衛線……………

 

 の、『議論中』だった。

 

 何せ藍染は少なくとも数体の大虚(メノス・グランデ)()()()として付いているのが、『反膜(ネガシオン)』で離脱した際に見えた。

 

 そしてそれから浦原喜助の裁判時に突き出された『今の護廷十三隊は固定観念が強(石頭)過ぎる』という()()

 

 もう一度現在の状況見直しの一つが、『この“シミュレーション(議論会)”で、考え方や意見を共に出し、柔軟性を身に着けよう』という意気込みの提案だった。

 

 主なメンバー達は他の者達の模範となる()()()()と決められ、任意での参加だった。

 

 だが────

 

「────先ずは近くの隊士達を正面に配置。 そして敵を鬼道衆達で左右から挟み込んで────」

 

「────敵は虚ではないぞ、こんな見え透いた戦術に掛かるとは思えん────」

 

「────まずは鬼道衆がこちらの要請に答えられるのか? それにこのような混成団の隊士達が思い通りに動けるのかという心配も────」

 

 そこには一応『隊長代理』としてのチエもいた。

 あくまで『観察者として』だが。

 

 これは別に彼女が「参加したい」と言ったからではなく、山本元柳斎が「久しぶりに茶でも飲まないか?」と誘い、連れて来られたのはお茶の間などではなく、今の『シミュレーション』と言う名だけの議論会の部屋。

 

 そして今は『当たらない氷輪丸(日番谷)』が以前言った『馬鹿オヤジ共の馬鹿喧嘩(口論)』真っ最中。

 

 一人は女性(砕蜂)とはツッコまない約束。

 

 そこで特に何も考えずに天井をボーっと見上げていたチエに声が掛かる。

 

「渡辺隊長代理! 貴女は何か、別の考えがあるのか?!」

 

 声をかけたのはイラつきが頂点に立とうとしていた狛村だった。

 

 何せ総隊長とは旧知の仲とはいえ、いきなりの隊長代理への任命、狛村は()()のおかげで先の浦原喜助裁判の場で恥をかかされ、最後には呼ばれてもいないのに『シミュレーション』に来ては早々天井を興味をなさそうな表情で見上げる余所者。

 

 それを彼は良く思っていなかった。

 

 余談だが、普段の狛村はこのように他人に突っかかったり、ずっとイライラしている訳ではない。

 

 普段はどちらかと言うと、『情に熱く、頼れる漢』と言うのがしっくりくるような性格()の持ち主なのだが……

 上記の事柄と共に親友だった筈の東仙の反逆行為や、彼や藍染を止められなかった自分の愚かさの気持ちもあり、それ等が元々短気である彼の性格に災いしていた。

 

「……ん? もう終わったのか?」

 

「終わってなどおらぬ! よほど貴女は余裕と見ては声をかけただけだ!」

 

 天井に向けていた視線をチエが周りを見渡すと、視線が自分に集まっていたのに気付く。

 

「そうか。 では()()()終わったのか」

 

「茶番……だと? 『茶番』と申すのか、お前は?!」

 

「ハァー、全くだヨ。 リッ君の都合が合わ────じゃなくて『新しいモノ』を見られると思い、気紛れに来てみれば私を含めてたったの数人の集まりでしかも『何も変わっていない』とはネ。 不愉快も良い所だヨ」

 

 マユリは心底この集まりを嫌がっているような、それこそ今にでも吐きそうな顔をしていた。

 

「涅、貴様────!」

 

 そう、この『会議』に参加していたのはマユリの言ったように数人で、殆どが()()()()()()だった。

 

 山本元柳斎、狛村、マユリ、チエ、京楽、砕蜂、そして白哉のみの参加者達。

 

 他の者たちは自身の業務(隊長不在)で忙しいか、参加出来なかった(優れない体調)か。

 

 もしくは参加したくなかっ(面倒臭がっ)たか。

 

 ここで砕蜂がマユリからチエの方へと視線を移す。

 

「涅はともかく、貴様はどうなのだ?」

 

「……???? 質問の意味が解らない」

 

「ッ」

 

 砕蜂は狛村と同様にイラついた。

 

 それもそうだ。

 何せ夜一(様)に再会したと思えば自分の事ではなく、目の前のよくわからない者達(旅禍)や現世の事を話すばかり。

 

 手作り料理が絶品だったとか、味付けがちょうどよかったとか。

 ()()()楽しかったとか。

 

 決して夜一(様)が話題として出す事に嫉妬していた訳ではない。

 

「とぼけるな。 貴様はこの会議の意味を知っているのかと、私は────!」

 

「────ああ。 それならば隊長達のみではなく、副隊長達と……そうだな、()()()()参加するべきだな。 あと鬼道衆達も宛てにしているのなら、彼らも呼んで参加させるべきだ」

 

「「………………は?」」

 

 チエがテーブルの上の瀞霊廷と、周りの流魂街を図面として書かれた紙を指差す。

 

「これは『戦争』、言わば『集団戦』の作戦を想定する会なのだろう? なら隊長達と、彼らを補佐する副隊長は勿論の事だが、急遽部隊長になり得る席官達も参加させ、連携が取れるように顔合わせをするべきだと私は思うが? でなければただの足の引っ張り合いへと転じやすい」

 

「貴様────」

 

「────それに何故敵と味方の戦力が『互角』なのだ?」

 

 これには流石に他の(京楽以外の)隊長が反応する。

 

「渡辺隊長代理よ、それはどう────?」

 

「────わざわざ口にして言わなければいけないかこの阿呆(重国)? ならば言ってやろう。 最初にこの『しみゅれーしょん』とやらは『()()()()()』を全く想定していない」

 

 それはそうだろう。

 今まで護廷十三隊は常時、用意周到に情報収集などに力を入れて『決して後手にならない』スタンスが長く続いた事で四十六室は勿論の事、護廷十三隊もそのような考えかたを『前提』として思考を巡らしていた。

 

 だがそんな事は露知らず、チエは様々なことを指摘し始めた。

 

「『戦力は互角』、場所は『地の利のある瀞霊廷内』、天候や想定外や『突拍子もない出来事』なども何もなく、全ては『自分達がいずれ勝つ前提』の議論に『茶番劇』以外の何の言葉があるというのだ?」

 

「「な」」

 

 狛村と砕蜂が驚愕に目を見開く。

 

「ヒュー♪ 言っちゃってくれるじゃないのぉ~?」

 

「ほう。 単細胞達の中でも()()頭が回る部類だね、君ハ」

 

 京楽とマユリが面白そうにニヤける。

 

「…………………」

 

 相変わらず黙っている白哉。

 

 そして────

 

「それはお主が大口を叩けるだけの内容を、思いつける事が出来るから言っておるのか? ならば申してみよ、渡辺隊長代理よ

 

 ────山本元柳斎がイラつき(又は怒り)の空気(雰囲気)を隠そうともせずに、開いた険しい両目でチエを見る。

 

 流石の彼も、彼女のズケズケとした(ド直球の)言葉には怒りを覚えるようだった。

 

 もしくはさっき『阿保』呼ばわりされた事か?

 

 何せ会って間もない二千年前ほどの彼は確かに視野が狭くて、不器用で、『当時の貴族の中では腫物扱い』。

 だが流石に二千年ほどの時が経てば少しは知識も布石を打つ事も出来る筈。

 そう山本元柳斎は思っていた。

 

 だがチエはそんな事をてんで気にもしていない動作で、顎に手を添えて以下の想定を繰り出す。

 

「そうだな……では流魂街で魂魄が虚へと次々に急変化していき、見回りや休暇中の死神達を襲い、彼らの特徴や技量を吸収。 

 そして『瀞霊壁(せいれいへい)』は作動しない状況の中、四大瀞霊門の門番達は流魂街から襲ってくる先の虚達の撃退を独断で瀞霊廷を死守し始め、その騒動の間に瀞霊廷にメノス・グランデが数体接近し始める。 

 それを見た流魂街の魂魄と取り残された死神達も独断で暴動の鎮圧、又は安全地帯を求めて瀞霊廷への侵入と非難をそれぞれ試みる。 

 そして虚達との数の差は…………現護廷十三隊の約10倍、というのはどうだ?」

 

「「「「「……………………………………は?」」」」」

 

 チエが何時もとは違い、かなり流暢に喋り出した事にポカンとする者達、もしくは彼女の出した想定があまりにも普段考えているモノよりも飛躍していて、放心しかけた者達。

 

「あ、ありえん事だ! それこそ世迷言の……空論の域ではないか?!」

 

 狛村が反論し、チエは変わらない様子のまま問い返す。

 

「狛村隊長はそのような事態を…相手をあの『藍染』と想定して『在り得ない』と断言出来るのか?」

 

「ぬ……ぬぅぅぅ……」

 

 痛い所を突かれた狛村が狼狽えた所で、チエが絶えずに『想定』を続ける。

 

「状況は躊躇している間にも悪化していく一方だぞ? 虚達だけでなく、保身に走る魂魄や死神達も更に数を増していく。 どうするのだ?」

 

「「「「「……………………………………………………………………」」」」」

 

 この問いに、その場にいた隊長が全員黙る。

 

 こういう時こそ何か言いそうなマユリはさっきの表情から一転し、心の底から笑いが今にも飛び出そうなほどウキウキしながら、周りの隊長達の反応を見て喜んで(観察して)いた。

 

 京楽は一瞬口を開けたが、先に他の誰かの言葉によって遮られる。

 

「…………………………………………ならば()()殿()はどうする?」

 

 ここで山本元柳斎が、彼にしては他者の前では珍しい言葉使いでチエに逆に問う。

 

「私なら瀞霊廷内に残っている死神達、鬼道衆、及び隠密鬼道の全員に『天挺空羅(てんていくうら)』で次の事を通達する。 

『死神達はすぐに近くの者達と部隊を結成し、全力で瀞霊廷を襲ってくる虚達相手に臨機応変に戦いつつ内部へと後退。』 

 次は『隠密機動と鬼道衆で混成部隊を結成し、“空間転移”等の禁術を使って流魂街に取り残された瀞霊廷側の死神と魂魄の確保と避難、及び逆賊のかく乱行為。 その間に技術開発部は即瀞霊廷中に破壊力の高い罠を仕掛けよ。』

 そして地下水道を使い瀞霊廷内の避難と同時進行で敵の被害が最も多くなるタイミングで瀞霊廷に設置した罠を作動し、瀞霊廷に誘った敵、虚や寝返った死神や魂魄もろともを一網打尽……とまでは行かないかも知れんがかなりの打撃を与える事は出来るだろう」

 

「き、禁術まで使っ────」

 

「────この切羽詰まった状況で使える物の全てを使わずにどうする?」

 

「それに瀞霊廷にワザと敵を誘き寄せて丸ごと罠に使えばどれだけの地が────!」

 

「それだけで済むのなら、良いに越した事は無いと思うが?」

 

「「「「「……………………………………………………………………」」」」」

 

 山本元柳斎を含む隊長達は黙りこんだ。

 

 一人の例外を除いて。

 

 「うひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっヒャ! 素晴らしイ! 素晴らしいヨ! 実に素晴らしいよ、君ィ! いいヨ! いいネ! 愉快ダ! 愉快だヨ! いやはやこれだけでも参加した甲斐があったというモノだヨ!」

 

 マユリはかつてない程の満面な笑顔をしながらチエを()()()

 

「そうか。 今の想定も、対策も()()()言っただけなので完璧とは程遠いだがな」

 

「ふン。 『完璧』などこの世に存在して良いモノなどではなイ。 忌み慎むべくモノだよ、それハ」

 

 マユリが一瞬だけ憂鬱な顔をして目を逸らすが、すぐに笑みに戻ってチエを見る。

 

「それはそうと、中々に刺激的だネ。 流石はリッ君(リカ)の親族と言ったところカ? とはいえ、『隊長代理(新参者)』にしては怖気づいていないネ?」

 

「私は仮にとはいえ、このソウル・ソサエティと現世を担う『護廷十三隊』の一員だ。 怖気づいてどうする?」

 

 京楽が横目で山本元柳斎を見ると、彼はさっきの怒っ(イラつい)ていた様子から変わっていて随分とご機嫌な雰囲気になっていた。

 

「(山じい、アンタの思惑通りに彼女たちは良い劇薬の役割を果たしているさ。 アンタも含めてね。 現に堅物の白哉や日番谷君達も少なからず影響を受けているし、今回の件で別の意味での頑固者達(狛村や砕蜂)も変わるだろうさ)」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 上記の『シミュレーション議論』はほぼあの直後に一時解散され、チエは今度こそ山本元柳斎にお茶の間へと連れて来られた。

 

「いや~! すまんのぉ、チエ殿!」

 

 山本元柳斎のさっきまでのギスギスとした空気が嘘のように愉快なものへとガラリと変わり、彼は愉快な笑いを出しながらお茶を飲む。

 

「ごめんねぇ渡辺ちゃん、急に付き合わせちゃって。 でも山じいも人が悪いねぇ~?」

 

 そしてそこには一緒に茶菓子を食べて寛いでいた京楽の姿もあった。

 

「な~にを言うておるか京楽?! あの二人(狛村と砕蜂)の時間が同時に空く等、そうそう無い事じゃぞ? 特に砕蜂の奴は夜一が生きて帰ってきたと知った瞬間、更にわんぱくさに拍車が掛かって────」

 

「────成程、さっきの『しみゅれーしょん』の会はあの二人の為だったのか」

 

 山本元柳斎がジト目(の空気)を出して京楽に顔を向ける。

 

「………………………………京楽。 ワシ、まだ話の途中じゃったんじゃが」

 

「だって山じいのあの様子じゃ、世間話から転々と他の話題に移りそうだったじゃないの! もう、長いったらありゃしないよぉ」

 

「別に良いではないか、この老いぼれの話ぐらい────!」

 

「────でも山じいの話って大体日の出が変わる頃まで続く長い奴じゃん! 女の子の話ならとも────おっと、これはチエちゃんの前では駄目だったね」

 

「???? 何故私の前では駄目なのだ?」

 

 チエの素直な疑問と表情に京楽は調子が崩される。

 

「あ。 いや。 その…………………………」

 

 京楽が目を泳がせ、山本元柳斎の方を向く。

 

「ねぇ、山じい? …………………あれ?」

 

 京楽が見たのは湯呑を口に着ける所で固まっていて冷や汗を流す山本元柳斎の姿。

 

「………………………………………お~い、山じい~や~い?」

 

 京楽が声をかけながら手を山本元柳斎の前で振る。

 が、彼は微動だに反応しなかった。

 

「まさか死ん────?」

 

 「────でおらんわこの馬鹿者! 勝手にワシを殺すでないわ! それにそのような話をチエ殿の前でするなこの戯けが!」

 

 山本元柳斎がの両目が『クワッ!』と見開きながら京楽に叫ぶ。

 

「?????????」

 

 チエはただ?マークを出す。

 

「いや、すまなかったよ山じい。 何せここに何時もの天然(浮竹)役が居なくてねぇ? それであの『議論会』の事だったんだけど、あれっきりなのかい?」

 

「いや? あれはこれからもする気じゃ。 何せ意外と面白かったからのぅ♪ 良い刺激だったわい♪」

 

「ほぅ。 この茶、美味いな」

 

「そうじゃろうて、そうじゃろうて♪ 何せワシがさっき直々に点てた奴じゃからのぉ♪」

 

「(これだけ心底嬉しい山じいは久しく見ていないねぇ~……………一緒に皆で業務をサボって卯ノ花に内緒で飲みに行った時以来だよ。) でも流石は渡辺隊長代理だねぇ~…………さっきは本当に『師匠』らしかったよ?」

 

「そうじゃろう、そうじゃろう!」

 

 山本元柳斎が誇らしい笑顔で頷きながらチエと同じようにお茶をすする。

 

「そうだねぇ、まるで『(弟子)を叱る姉御(師匠)』だったよぉ」

 

 「ブホッ?!」

 

 山本元柳斎の顔が吹き出したお茶塗れになる。

 

「そうか? (私は今まで『自分が()()()価値観を持っていれば』と想定して行動して来たつもりだが……)」

 

「そうだよぉ~? しかも『叱られて嬉しがる弟』と言う風に見えなくも────」

 

「────なななななななーにを急に言い出しておるか京楽?! 滅多な事を言うではないわ!」

 

「確かに重国は昔『世話のかかる弟』だったな────」

 

「────チエ殿まで?!」

 

「アッハッハッハ! 僕が山じいに敵わないみたいに、山じいも渡辺(師匠)ちゃんには敵わないか! で、どういう所がそうだったんだい?」

 

「やめぬか、京楽!」

 

「例えば握り飯(おにぎり)を作っておいただけだと言うのに、童のように無邪気に嬉しがりながら頬張る重国は────」

 

 「────

 

 そしてまったり(?)とした団欒が自然と何時の間にか出来上がり、後に事を京楽から聞いた浮竹は心底羨ま()しがったそうな。

 

「次は俺も何が何でも参加するぞ京楽! 先生の昔話を聞けるなら意識が朦朧としていようが、血反吐を吐いていようが安いものだ!」

 

「いやいや、流石にそれは駄目でしょ。 まぁ、それぐらいの価値はあるかもだけどさ?」

 

 

 余談ではあるがこの時開かれた議論会を境に、狛村の発する空気が柔らかくなったとされ、七番隊で彼の『威厳』は少し落ちた。

 

『畏怖の威厳』だが。

 

 だが狛村は見た目()と本来の熱い漢ぶりの上に、実はかなりノリの良い人物だと周りに発覚し、失くした『畏怖の威厳』とは別に人望と隊士個人との友情などが更に増え出したらしい。

 

 副隊長である射場(広島弁のグラサン)は何故かその頃、苦悩や悩みなどからか頭痛が引っ切り無しに彼を襲っていたとか。

 

 そして砕蜂は…………………………………

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 ………………………………………まぁ、相も変わらず夜一一途(一択)なのは変わらずだが、以前の纏っていた慢心した言動はどこにも見当たらず、自己鍛錬などに一層励む姿を他の者達は良く見かけたそうな。

 

 もしくは自分から逃げ続ける夜一を追いかけて捕まえる為に修行をしていただけかもしれないが。

 

 尚この少し後の話だがこの『シミュレーション議論会』への参加者は徐々に数を増して行き、それまではギクシャクしていた三番隊と九番隊の副隊長達(吉良と檜佐木)はそれぞれの席官達とのわだかまりや不安などが徐々に減っていき、自然と共に支えあうようになっていった。

 

『原作』とは違う、上記で記入したように、色々な(ハプニング)が起きてはいたのだが、それはまた何時か別の機会、または今後に記入しようかと思う。




作者:次から破面篇突入です!

ひよ里/平子/リサ:クッソ遅いわボケェ!

作者:ぴえん

白:さすが関西、息ぴったり!

ローズ:ふむ、やっと僕が輝けるんだね。 ってラブ、君は何で段ボール箱の中に隠れているんだい?

ラブ:……ショータイムだ!

拳西:ネタが早すぎるぞラブ

ハッチ:と言うかここは不思議な場所ですネ

作者:部屋が……缶詰状態に……タシケテ

白:面白い顔~!


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Adolescence - 『破面篇(?)』
第48話 The New Semester


お待たせしました、遂に破面篇突入です!

誤字報告、誠にありがとうございますコミケンさん!

何時も読んでくださってありがとうございます!

これからも頑張って書き続けたいと思います!


 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

 

 瀞霊廷にかなりのドタバタや業務の効率化や設備近代化などの、ある種の『革命騒ぎ』と言っても過言ではない事が続いて時間は過ぎて行き、現在は『現世』で夏休みが終わる頃。

 

 つまり一護達の『新学期』が始まる寸前の時で、ついにソウル・ソサエティとの別れの時が来た。

 

 現世組の一護、織姫、佐渡、雨竜は勿論、蒲原と夜一も『双極の丘』の上に現れた瀞霊廷の正式な穿界門(せんかいもん)の前に立っていた。

 

「浦原さん達も一緒なのかよ?」

 

 一護はジト目でニヤニヤと開いた扇子の裏で笑っている浦原を見る。

 

「ま、アタシ達は向こう(現世)に居て長いッスからねぇ。 テッサイさんに事情を説明しないといけませんし……もしかして寂しがり屋ですか?」

 

「お前相手にそれはねえな」

 

「あら、それは少し残念」

 

 一護は浦原の冗談を一刀両断したあと後ろを向き、自分達を()()()()()()者達を見る。

 

 そこには護廷十三隊の隊長と副隊長がほぼ全員来ていて、席官達も何名かいた。

 

 その中には勿論()()()の姿もあった。

 

「……なぁ。 また、会えるか?」

 

 一護は幼少の頃からの知り合いの女性二人に声をかける。

 

 一人は()()()『普通』に固執しながらも、学校や世間体などの公の場でなければ何時もニコニコと笑顔の絶えず、多才で一護から見ても整った金髪碧眼の少女。 

 

 そして最近知ったが()()()()()を『三月・プレラーリ・渡辺』というらしい。

 

 やはりどこかの貴族っぽい名と()()()()()()()()雰囲気で、初めて会った幼少の頃の第一印象は「どこかのお姫様かな?」だった。*1

 

 今では慣れたが。

 

「そりゃあね。 今生の別れとかじゃないし」

 

「と言うか一護氏は泣くのでしょうか?」

 

「リカは黙っとき」

 

「そうそう、別に茶々を入れる時じゃないぜ?」

 

「え? お茶あるのですか? どこ? 喉乾きました」

 

 そして三月の、『プレラーリ家』の()()()()

 

 背丈と見た目は『ヌボ~』と冴えない表情と、着やすい(ブカブカの)服を好むリカ。

 八重歯(と関西弁)が特徴のツキミ。

 何時の時も表情が落ち着いたクルミ。

 そして活発で(かなり)男勝りで()()のカリン。

 

「三月も言ったように、しばしの別れだ」

 

「ッ……………そう…………だよな」

 

 今度は黒髪赤目の女性に対して、一護はバツが悪いような顔をして目を逸らす。

 

 名を『渡辺チエ』と言い、一護の母である黒崎美咲の命の恩人でもある。

 

 自分とあまり変わらない歳と体で、女性なのに性別の事に対して無関心とも言え、話す相手が男だろう女だろうが大人だろうが間合いが悪いだろうが関係なく、ズバズバと()()()()()()をストレートに言う()()()

 

 そして小学生の頃に、自らの命を張ってボロボロになりながらも虚と戦い、自分と母を守ってくれた馴染み。*2

 

 最初に会った彼…………彼女の目を見たとき、ルビーのように赤い目が印象的だったのを今でも鮮明に覚えている。*3

 

 その所為で、無神経な事を子供の頃に尋ねた事も。*4

 

「どうした一護?」

 

「あ、いや……何でも、ねえよ」

 

 チエの問いに答えを濁す一護。 

 

 そして彼女達と彼のやり取りを聞いた茶渡は何処となく気まずそうな顔をした。

 織姫と雨竜の表情は変わらなかったが、織姫は恐らく何の事か分からなかった。

 雨竜に関しては、気持ちを胸奥に仕舞い込んだだけかも知れない。

 

「お前らがそう言うんなら、俺もとやかく言わねえけど……竜貴達にはせめて、近い頃に話をしろよ?」

 

「…………………………………」

 

 三月が一瞬ポカンとした顔するが、すぐにニヤニヤし始める。

 

「な、なんだよ? その邪悪な笑みは?」

 

 この笑顔を一護は知っている。

 

「べっつに~♪」

 

 彼女のこの顔は一護が何かに気付いていない時にする、()()()な顔だった。

 

「…………………………」

 

 そしてチエのジト目顔は『まだ分からないのか、この馬鹿が』と言いたそうな表情だった。

 子供の頃から長年一緒に育ったから、チエの微妙な表情の変化に彼は気付けた。

 

 だがそれらに気付いた所で、一護には理由まで思い至らなかった。

 

「??? (俺は……何かを見落としているのか?)」

 

「一護君!」

 

「浮竹さん?」

 

 集まった隊長達には浮竹の姿もあり、一護の手にドクロを描いたような絵馬を手渡される。

 

 浮竹曰く、その物体は『死神代行戦闘許可証』(通称『代行証』)はソウル・ソサエティの死神代行に対応した法律で、ソウル・ソサエティに有益だと判断された場合に渡される代物らしい。

 

「…………………じゃあな、ルキア」

 

「……ああ」

 

 尚、朽木ルキアは『原作』とは違った体験をして来たが、やはり『原作』同様にソウル・ソサエティに残る事になった。

 

 色々な事があり、それらと向き合うつもりだそうだ。

 

 穿界門(せんかいもん)が開くと同時に強い風が辺りにまき散らされる。

 

「では皆サン! ()()()()()()()()()()へと突入しますよ!」

 

 浦原が勢いよく穿界門(せんかいもん)に入ると同時に夜一や雨竜に織姫、そして茶渡が飛び込む。

 

 最後に、一人になった一護は自身も飛び込む前にもう一度後ろを見る。

 

 さっきまでしていた元気な顔は何処に行ったのか、彼の表情は今にでも泣きそうで切ないモノだった。

 

 このような気持ちになったのはかつての雨の日で必死に助けてを求めた以来で、自分がどれほど無力な存在と感じた時以来。*5

 

 一瞬一護は口を開き、迷うが、数秒後に口を閉じる。

 

『お前らも来ないのか?』

 

 そう彼は言いたかったが今声を出したらみっともない声が出てしまうと、彼が感じたから躊躇して止めた。

 

 数秒後、彼は無言で前へと向き直して穿界門(せんかいもん)へと飛び込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ~」

 

 一護はトボトボとした足取りで、黒崎家へと空座町の暗い道を歩いていた。

 

 これはさっきまで断界の中をまたもや拘突に追われて全力疾走した体で気分がだるく感じていた事も理由に入っていたが、それよりも────

 

「────柚子と花梨にタツキ達やマイさんにあの二人(チエと三月)の事をどう説明っすかなぁ~」

 

 そう、一護が悩んでいたのはソウル・ソサエティにかなり溶け込んで残った三月とチエの事である。

 

 何せ一人は『隊長代理』に任命され、もう一人は家族の活躍で有名人になった上に、『多才』と言う事が知れ渡った『()()』。

 

 一護は現世の知人たちにどう説明すればいいのか迷った。

 

 しかも今回はルキアが連れ戻された時のように記憶を弄られてはいないので、彼女の場合と違って皆はまだ覚えている筈だ。

 

『まぁ……マイさんならある程度事情を又もや知っているかもしれないが、以前のように』、と一護は道端にあった小石を蹴りながらそう思ったが。*6

 

「よっと」

 

 一護は久しぶりとさえ感じとれるマイホーム(黒崎クリニック)の二階、自分の部屋の窓にまで上がって中で寝ている(自分の体に入った)コンを起こす為に窓にノックを────

 

いじご(一護)ぉぉ~……はやぐがえってぎでぐれ(早く帰って来てくれ)ぇぇ~

 

 ────ノックをしようとして、部屋の中からコンに全く似合わない、気弱な声が聞こえてきたので、一護は窓を開ける。

 

 入ると俯せにベッドに伏せていた(一護の体に入った)コンの姿が見えた。

 

「と言うか窓のカギ開けっ放しにするなよ、不用心だな」

 

あ゛あ゛あ゛、ヤベェ~。 いじご(一護)の幻聴が()()聞こえてきたぜ~……

 

「コン……お前、大丈夫か?」

 

 ここまで気の滅入ったコンを、一護は初めて見て本気で心配をし始める。

 

 何せルキアを連れ戻しにソウル・ソサエティへと旅立つ日までは『ヒャッホウー! 人間の体を堪能するぜベイビー! マイさんのシフトは何時かな~♡』と息巻いていたのだから。

 

 そして体を起こし上げたコンの顔を見て一護は『ギョッ』とする。

 

 コンの顔は真っ青で、疲労の影が抜けきっていなかった様子で、虚ろな目で一護を見ていた。

 

「おお~、一護がいる幻覚だぁ~」

 

「お、おい。 お前どうし────」

 

「────次は~、姐さん(ルキア)と井上さんの悩殺サンドイッチの夢ぇ────ブェ?!」

 

 どこかゲス やらしい顔をしたコンに、とうとうイラついた一護が顔に蹴りを入れる。

 

 ここでコンの意識が覚醒したのか、痛む鼻を抑えながらやっと焦点の合った目で一護を再度見る。

 

「一護?! と言う事は姐さん────!」

 

 コンが辺りを見渡し、ルキアがいない事に?マークを出す。

 

「あれ? 姐さんは?」

 

向こう(ソウル・ソサエティ)に残った。 何かケジメを付けたいとよ」

 

「……そうか…………………う…………うううぅぅぅぅ」

 

 コンが突然泣き始めた事に一護がまたもびっくりする。

 

「お、おい────おわぁ?!」

 

 一護にコンが抱き着いて涙と鼻水でグショグショになった顔で頬擦りをする。

 

「────俺死ぬかと思ったんだぞ一護この野郎?! 良く帰って来たな!」

 

「泣いたまま抱き着くな! 鼻水も擦りつけるな! ていうかあれだけイキがっていたのにどうしたんだ?! マイさんと会えて嬉し────い゛?!」

 

 マイの名を聞いた瞬間、コンは『スッ』とハイライトの消える目と重~い空気を出しながら一護を見上げた。

 

 何時もチャラチャラしているコンとは程遠い様子だった。

 

ぼくまいさんのしゅぎょうもうやだ

 

 ついに言語が幼稚化したコンで、色々と察する一護だった。

 

 主に昔、チエに『武術の教え』と言う名の『なぶり殺し』の日々がフラッシュバック風に一護の脳裏を過ったと言えば伝わるだろうか?

 

「…………お前も苦労したんだな。 分かるぜ、その気持ち」

 

 そして泣きじゃくるコンをあやしてから彼の体を探し出すと、コンが元々入っていたライオンのぬいぐるみはボロボロだった。

 

 どれ程かと言うと、コンが動き出した瞬間に綿がポロポロと零れ落ち、プラスチックの目が糸一本でどうにか繋がっていたその様子は一護に、何某『生きる屍達の晩』と言う映画を連想させた。

 

 ぶっちゃけると一護が思わず無言でドン引きするほど。

 

「引くなよテメェ!」

 

「いや、すまん……というか、どうしたんだそれ?」

 

 そしてコン曰く、何故かぬいぐるみが浦原商店のジン太が持っていて、頑なに手放したくなく、()()改造魂魄同士のケンカに発展したらしい。

 

 その説明の間にも綿はドンドンと漏れ出していき、ライオンのぬいぐるみフォルムが崩れていく。

 

「マイさんに修行をさせられていて、初めて『良かった』と俺は思ったぜ。 でなきゃやられていたな────って、まだ引くのかよテメェは?!」

 

 コンは部屋の隅まで引いていった一護に叫ぶ。

 

「いや……何言っていいか分かんねぇから……………後で石田かマイさんに────うおあぁ?!」

 

 一護がまたも『マイ』と言った瞬間に生気(?)が更にコンから抜けていくのを一護が見て慌て、一体どんな事が起きればこんなコンになるのか地味に気になった一護だった。

 

 何とかコンをなだめて就寝しようとしたその夜、彼はボーっとしながら久しぶりのベッドの感触を背中に感じながら天井を見上げて────

 

『(────ったく、情けねぇヤツだなテメェはよ?!)』

 

「ッ!」

 

 一護の目が見開いて、彼は寝返りを打ち、枕をヘルメットのように、又は心の中から来た声を遮る為に耳を力強く塞いで目を閉じる。

 

『(────ギャハハハハガキみたいにこわがってやんの!)』

 

「(き、消えろ!)」

 

『(────声がドモっているぜぇ一護ぉ~?)』

 

「(消えろ! 消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろぉぉぉぉぉ!)」

 

『(ギャハハハハハハハハハハ!)』

 

 そう強く一護が念じている間に、体や精神的疲れがやっと追いついたかのように、彼の意識は微睡みの中へと消えていく。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 新しい新学期が始まった次の日、一護が気の抜けたまま学校へ登校する。

 

 かつての日常へと戻った事に、実感が未だに湧かずに。

 

「イーチー────ゴッフゥ?!」

 

「おう」

 

 反射的に一護は猛烈な朝の挨拶をしてくるクラスメート(浅野)にラリアットを食らわせて、彼をKO(ノックアウト)する。

 

「おはよう、一護」

 

「おーす、水色」

 

「おっはよう、黒崎君!」

 

「……………………ん」

 

「おう。 おはよう、井上にチャド」

 

「相変わらず能天気な髪形で何よりだ」

 

 一護はただ雨竜を無言で睨み、復活した浅野がギャアギャアと騒ぐ。

 

「なんで?! 何何何何何?! 何なのお前ら?! 急に距離が近くなっていない?!」

 

 一護は浅野を無視した事によって、浅野は更にギャアギャアと騒ぐ。

 

 モニュン。

 

「グッモーニングヒ────!」

 

 モニュン、モニュン。

 

「ひゃあ?!」

 

 ゴス。

 

「────メ゛?!」

 

 後ろから織姫の胸部を鷲掴みにした千鶴を、竜貴が文字通り彼女を蹴飛ばす。

 

「あんたは一年中サカリっ放しね」

 

「オフコース!」

 

「千鶴、鼻血を拭きな」

 

「ぁ」

 

 一護が竜貴を見て、少し気まずく目を泳がせる。

 

「おす一護、()()()元気そうだな? マイさんの付けた訓練スケジュール、そんなにハードだった? アタシも()()()()()()()()()()()()()けどさ、三日もありゃあ慣れたよ?」

 

 竜貴と言う『人間(ヒト)』としては規格外の言葉で、コンの状況を更に察した一護が珍しく彼に内心同情した。

 

「(コン……………お前……………ほんっっっっっとうに苦労したんだな)」

 

「てかさ、あんた達聞いた?」

 

「あ? 何を────?」

 

「────おはよう、竜貴」

 

「おはよう、タっちゃん!」

 

「おう! ()()()()は今日も元気だな! それで()()()()はどうだった────って、一護?」

 

 一護は後ろから聞こえた声へと振り向く。

 

 胸がよくわからない気持ちいっぱいになりながら。

 

 そこにはこんなにも早く再開するとは思わなかった馴染みの二人(チエと三月)が立っていた。

 

 彼は自分がどんな顔をしていたのかも分からなかったし、今は気にもしていなかった。

 

「お、お前ら……何で『ここ(現世)』に?」

 

「ん? 何の話だ?」

 

 一護の思わず出た問いに、チエが反応する。

 

「だって……お前ら……残って……」

 

 そこで一護は悪戯っぽくニヤニヤしていた小悪魔(三月)に気付き、顔が恥ずかしさで真っ赤になっていく。

 

「て、テメェ三月…………知っていたな?!」

 

「えー? ミッちゃん、何の事か分っかんなーい☆」

 

 三月のおちゃらけた(あざとい)返事に一護がマジギレ寸前になる。

 

「とぼけんなよ?! 海に突き落とすぞテメェ!

 

「ヤメテ、ソレダケハカンベンシテオネガイシマス」

 

 まるで一護に処刑宣言をされたかのように、三月は青ざめながら言葉が片言(カタコト)になる。

 

 彼女にしてはかなりの豹変ぶりで、同じく幼少からの付き合いがあった竜貴がびっくりする程。

 

「ちょっと一護、今のは────?」

 

 このタイミングで教室のドアが開き、担任の越智先生が入って来た事によって生徒達は自分の席へと移動する。

 

 その間、竜貴はチラッと席に座り時に横目で一護のズボンポケットからはみ出ていた()()()を気味悪がっていた。

 

「おーし! 皆揃って居るなー?! 今日はそんなお前らに素敵なお知らせだ! 転入生()を紹介するぞー!」

 

 ビビビビビビビビビビビ!

 

 ホロウ! ホロウ! ホロウ!

 

「ぬお?!」

 

 またもタイミングを計らうかのようにけたたましい音が一護のポケットの中にあった代行証から発されて彼、織姫、茶渡、そして雨竜がそれぞれ反応する。

 

「よーし、じゃあ一人ずつ────」

 

「────越智せんせーい。 クモを発見したので、窓を開けて逃がして良いですかー?」

 

「ん? ああ、小さい方の渡辺(三月)か────」

 

「────だから『成長中』です────!」

 

「────ああ、ハイハイそうね。 窓くらい開けなー」

 

「はーい」

 

 三月が立って近くの窓を開けると同時に()()()が外から吹き出す。

 

 これによってクラスメイトの殆ど、及び担任は本能的に目を一瞬だけ瞑る。

 

 その間に三月は片手を銃の形にして狙いを澄まし、霊子の塊(霊丸)を数発ほど窓の外へと素早く撃ち放った後、窓を閉める。

 

「いや~凄い風だったなー。 良し。 じゃあ一人目、入って来てくれ!」

 

「あ、あのぉ……他の方達も今、来ましたけど────」

 

「────お! そいつぁ良かった!」

 

「で、ですがその間にお一人、何処かに行っちゃいました……」

 

 教室の外から担任の誘いに帰って来たのは、何処か遠慮している少女の声だった。

 

「え………………取り敢えず、一人目入って挨拶をしてくれ」

 

 明らかに何処か行った転入生を探す気のない担任の声で、恐らくは先程の声の持ち主がおずおずと入って来る。

 

「「「「ッ?!」」」」

 

 この入って来た()()()人物の姿を見て一護、織姫、茶渡、そして雨竜がギョッと目を見開いた。

 

*1
第3話より

*2
第4話より

*3
第3話より

*4
第9話より

*5
第6話より

*6
第14話より




ジン太:そういやマーの姉貴がつけたこの『訓練』って何だろうな?

ウルル:わ、分からないよ

ジン太:俺も頼もうかな?! そうすりゃ、今より────!

テッサイ:────骨は拾いますぞ

ジン太/ウルル:え

テッサイ:私があと50年若ければお供したというのに……悲しい事です

ウルル:…………………………や、やめたほうがいいと思うよジン太

ジン太:…………………………だ、だな


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第49話 『本匠千鶴(15)』の新学期

千鶴:むっふっふー! この話はこの私、『本匠千鶴』がジャックしたわ!

作者:むぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐー?! むががががががががががー?! (なんでまた縛られなきゃいけないんだ?! 試すだけの筈なのに?!)

千鶴:ンフフフ、私の縄縛りスキルを甘く見ないで欲しいわね?♡

作者:むがががが、ごががががががう! (番外編っぽくて短いですが、本編も少々関わっています!)

千鶴:ん~? 『もっと踏んづけて下さいませ』ですって~? 亀甲縛りの上に~? この変態♪

作者:むっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう! (ちっがぁぁぁぁぁぁぁぁう!)


 ___________

 

 本匠千鶴 視点

 ___________

 

 私の名は本匠千鶴、15歳。 

 職業、『全ての美(女)を愛撫でる者(レズビアン)』である。

 

 生きがいは眼前の美女で妄想する事。

 ()()()タッチ(鷲掴み)有り。

 

 この純粋で溢れる気持ちをどう発さn────ゲフンゲフン、『表現』しているかと言うと、普段はあまり気にしていない(嫌とは言えない)織姫(盛姫)で発散しています。

 

 ですがこの頃、織姫のガード(竜貴)が更に固くなって困っています。

 

 そして近くの『王子系』である『渡辺チエ』は反応が薄くて面白みが私てきに()()ので物足りません。

 

 そこでもう一人の渡辺、最近発掘(発見)したタイプ(標的)の出番と、そろそろ思っているところです。

 

 それは同じ同級生で、金髪碧眼&色白の『渡辺三月』。

 

 大人しく、内気で運動音痴(のフリ)でよく静かに読書など表立った行動はしていなかったので最近までノーマークだったんだけど……

 以前、たつきに注目されてからよく見ると彼女は()()()()()みたいに小さくて可愛くて小柄で物静かで目がクリクリしてて髪もサラサラで良い匂いがしてきて思わずクンカクンカしてしまうぐらいで細くて思わず頬擦りしたくなって頬っぺたがプニプニと柔らかそうでお腹がよくクゥクゥ鳴って減ってモキュモキュと小っちゃい口を動かす所とかの仕草の一つ一つが小動物っぽくて今までは見ているだけで幸せな時間が過ぎさっていって────

 

 *注*このまま彼女の脳内思いが割と続くので、少し早送り致します。 By作者

 

 ────かわいい。 かわいいよ。 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。 愛撫したいペロペロしたい○○○○(自主規制)したいお持ち帰りしたいよぉぉぉぉぉ。 かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい────

 

 *注2*まだもう少しかかりそうなので、再度早送り致します。 By作者

 

 ────ハ?! いけないいけない、息が荒くなっていたわ。

 

 あとヨダレが。

 

 ……ズズズズー。

 

 申し訳ありません、今どこでしたっけ?

 

 ああ。 新学期の日でしたね。

 

 ひょんな所で新学期早々に転入生達の紹介が先生委から始まり、その頃の私は『あー、可愛い子達ならばいいな~』と外からの声を聞いて軽~く思っていました。

 

 ちなみ先程の三月ちゃんが窓を開けた際、無事に()は見えましたと報告しておきましょう。

 

 グレー(灰色)でした。

 タイプはリンパショーツ。

 ちょっと私的には地味でお子ちゃまっぽいけど寧ろそれが良い。

 

 垣間見た幸せの瞬間を脳内記憶に焼き付けている間、やる気のない担任の声で入って来たのは小柄で可憐な少女で、今時にしては珍しい黒髪のお団子頭。

 

 少女は頑張って爪先で立ち、黒板のなるべく高い位置に自分の名前を書き、遠慮がちな態度のまま自己紹介をする。

 

 書いた名は『渡辺桃』。

 綺麗な書き方だなぁー。

 ちょっと自信無さげに若干小さく書くのは勿体無い気がする。

 

「あ、あの……ひ、ひな────『()()桃』と言います……よ、よろしくお願いします」

 

 これにクラスがドヨドヨと騒ぎ始めた。

 

 無理も無い、目の前の少女はチエ&三月の『渡辺姉妹』と()()()()を名乗って来たのだから────。

 

「────あー、お前らも既に察しているかも知れないが、彼女は渡辺姉妹の遠縁で────」

 

 ────だがそれが────

 

 「────イイ」

 

 気付けば私、『本匠千鶴』(15歳)は感想を口にしていて、隣の席が「またか」とため息交じりに言う。

 

 だが構うものか、本心を私は言っただけだ。

 

 しかしこの子、見た目はチエちゃん寄りなのに性格がどことなく三月ちゃん似ね。

 

 …………………………いい。イイわ。

 

「ひゃう?!」

 

渡辺桃(和風可憐系小動物)』が何かにびっくりするかのように反応して周りをきょろきょろと見渡す。

 

「ん? どうしたお団子の渡辺?」

 

「い、いえその………()()()()()()()()()()()が────」

 

 ────おっと、この()はかなり()()ね。

 

 と言うかさっそく越智(先生)があだ名を付けたよ。

 そしてこの子、それをスルーしちゃったよ。

 

 そしてそれが良い。

 

 大事だからもう一度言ったわ。

 

 でも取り敢えず脳内妄想は後にしましょうかしらね?

 

「んー、席は従姉妹(いとこ)の~……んー、黒髪の渡辺(チエ)の後ろの席で良いk────?」

 

ハイ! 喜んで!

 

 キィーンと耳鳴りがする程、『お団子渡辺』が今まで聞いた事の無い程の音量で喜びながら、目にも止まらない速さで『渡辺チエ』の後ろの席に座る。

 

 そこに座れたのがよっぽど嬉しかったのか、さっきのおずおずとした感じから一転し、ニコニコとした笑顔になっていた。

 

「良かったな、桃」

 

「ハイ、チエさん!♡」

 

 あ、これは『アレ』だわ。

 

 (千鶴)に似たような雰囲気を感じるような、感じないような。

 

(恐らく)同類じゃないけど。

 

「あー、それじゃあ次ぃ…………って、もうこの際だから良いや。 おーい! お前達()()入って来―い!」

 

 ここでゾロゾロと入って来たのは────

 

「「「「「キャー! イケメーン!」」」」」

 

「「「「「より取り見取りの美少女達キタぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」

 

 ────数人の()()()()らしい美男美女達が勢揃い。

 

 計6人。

 

 順にいくと、一人目は長い金髪に睫毛、そして愛想良い笑みを浮かべていたクール系青年。

 敢えて一言で済ますのなら『騎士』と言う単語がしっくりと来る。

 

 次は女性が五人。

 

 二人目は小柄で長い黒髪、ドヤ顔、そして胸の前で腕を組んでいた如何にも強気そうな少女。

 あ、この子着痩せするタイプね。

 ぶっちゃけると隠れ巨乳ね。

 と言うかあのプライドの高そうな顔を屈服させt────ゴホン! 失礼、妄想(欲望)が。

 

 三人目は先程より小柄な体型の金髪ボブ少女。

 …………三月ちゃんを見ていたから特に何も感じないわね(髪型以外)。

 強いて言うのなら、何故かクラス内だと言うのに大きなパウンドケーキらしき物を『モッモッモ』と頬張っていた。

 ハムスターっぽくて可愛い。

 

 四人目はピンク色という珍しい髪の毛と、特盛姫(織姫)ともドッコイドッコイの巨乳の持ち主。

 ……………………………………………………うん。

 吸いたい。

 しゃぶりたい。

 と言うか蹂躙したい。

 

 具体的には────

 

 *注3*R-18指定になってしまうのでここの千鶴妄想(欲望)は以下略化します。 By作者

 

 ふぅ。

 お腹一杯になりそうだけど、最後の二人を見てみようかしら。

 

 五人目は背が高く、こちらも珍しいライム色の長い髪の毛でどこかイライラしてそうな────

 ────あ、こいつは駄目だ。

 全然ダメ。

 勘だけど『男の味』を既に知ってしまっている。

 

 ハイ次。

 

 六人目は長い黒髪でアホ毛が二つあって割と整った顔で…………………………

 …………………………………………………エ、ナニコレ?

 頭文字G(ゴッキー)

 ………………………………何だろう?

 まるでピッカピッカに磨き終えたキッチンでカサカサと動く『アレ』を突然見るかのように背中……と言うか体中がゾワゾワする。

 一言で片付けるのなら、アカン奴

 

「はい、皆静かにー! ほら、皆黒板に名前を書いて自己紹介をしていって」

 

 越智先生の声が合図だったかのように、それぞれの者達が一斉に黒板に名を書き────

 

「ちょっとミニー! 何勝手に一番上の方に書こうとしているのよ?!」

「え~? ここは~、背の高い者順に書いた方が良いと思うの~」

「それだったアタシが先だろ?」

「アハッ! ここでもボク達張り合っちゃうんだ!」

「ビッチに『アホ』を頭に付け加えるとしようかテメェら? 騒がし過ぎるんだよ」

 

 ────訂正。 書き出す前に誰が一番上に自分の名前を書くのか女群が言い争い始めた。

 

「「「「「………………………………………」」」」」

 

 そしてかなり猛烈な個性 独自の性格の暴露にクラスが黙り込んだ。

 

「申し訳ありません越智教官、この者達は()()わんぱくでして」

 

「「「ヒャ~♡」」」

 

 そして愛想笑いのまま、優しく先生に声をかける金髪青年。

 

「名前を『聖文字』順に書けばどうだろうか?」と彼の提案で書かれた名前は以下の通り。

 

 ……………………『聖文字』とは何ぞや?

 

Jugram(ユーグラム) Haschwalth(ハッシュヴァルト)

「ユーグラム・ハッシュヴァルトと申します。 以後お見知りおきを」

 

 青年────『ユーグラム・ハッシュヴァルト』が愛想良い笑みを浮かべたまま胸に手を添えながら頭を下げる。

 正に『騎士』と言わんばかりの雰囲気(オーラ)にクラスの女子(&少数の男性)達の目がハートマークに変わっていくのが容易想像出来た。

 

Bambietta(バンビエッタ) Basterbine(バスターバイン)

「アタシは『バンビエッタ・バスターバイン』!」

 

 どや顔で『フフン!』と強気に、以上で事足りるような挨拶をする着痩せする小柄の黒髪────『バンビエッタ・バスターバイン』。

 やはり堕ち(屈服)させたくなるわ。

 

 Liltotto(リルトット) Lamperd(ランパード)

「オレは『リルトット・ランパード』。 モグモグモグ。 取り敢えずコレ(パウンドケーキ)食っとくから次だ、次」

 

 モグモグモグと小さい口でただひたすら食べ続ける金髪ボブ────『リルトット・ランパード』が見た目とのギャップ(毒舌)をもう一度披露する。

 ……………………………こう見れば威嚇する小動物っぽく見えなくもない。

 

 「「「養いたい」」」

 

 そうボソリと呟く女子と男子が数人。

 その気持ち、分からなくもない。

 

Meninas(ミニーニャ) McAllon(マカロン)

「は~い。 私は~、『ミニーニャ・マカロン』ですぅ~ (・ω・ ) 」

 

 ピンクの髪の織姫サイズ(巨乳)────『ミニーニャ・マカロン』が、おっとりマイペースな口調でペコリと頭を下げる動作に連動────

 

 ────フオォォォォォォォォ! こっちは『盛姫』じゃぁぁぁぁぁ!

 ………………ハッ?! いや、私は盛ひ────じゃなくて(織姫)一択の筈!

 グヌヌヌヌヌ、胸部の誘惑! 恐るべし!

 

Candice(キャンディス) Catnipp(キャットニップ)

「アタシは『キャンディス・キャットニップ』。 つーかこの制服キッツイったらありゃしねぇ!」

 

 背が高くてライム色の長い髪の毛────『キャンディス・キャットニップ』はイライラしながら制服のブラウスを第二ボタン辺りまで外して、(かなり)デカイ胸の谷間が見えてくる。

 

 うん、()は立派だけど(○○)は────(以下略化します By作者

 

Giselle(ジゼル) Gewelle(ジュエル)

「ボクは『ジゼル・ジュエル』! 気軽に『ジジ』って呼んでね、皆!♪」

 

 最後にGの触覚っぽいアホ毛持ちの『ジゼル・ジュエル』が陽気な挨拶をしながらウィンクする。

 

「…………………ハァ~」

 

 「どうしたの?」

 

「最後の二人以外は良きかな」

 

 「って、ちょっと千鶴! 鼻血! 鼻血!」

 

「へ?」

 

 今更だが何かの液体の感覚が頬と顎辺りに感じとれた。

 

 以上、本匠千鶴(15)の新学期初日の始まりであった。

 




作者:…………………………………

チエ:どうしたのだ、アイツは? 

三月:あああ、まあ……うん。 色々あるからね

チエ:変な格好で縛られて、靴跡を体中につけるのがか? ん? 頭を抱えだしたぞ?

作者: _l ̄l●lll

三月:もうHPがゼロの状態だからもうやめてあげてチーちゃん

チエ:そのような世界だと思わなかったが? それに、奴が変態でも────

作者: ────ンぐ

三月:ま、読者達が楽しんでいるならば良いんじゃない?

チエ:だからその『どくしゃ』とは誰なのだ?


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第50話 The Princess and His(Her?) Highness

お待たせしました!

少し短いですが、キリが良い所だったので……


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 新学期スタート直後(に一護たちのクラス)に来た転入生達。

 

 1年3組の皆は様々な反応をしていたが、周りの殆どのクラスメイト達は良好的……

 

 というか興味をそそられた者達。

 

 ただここで、『とある呼び名』でその興味が更に他者へと飛び散る事となる。

 

「越智教官────」

 

「────やだなぁハッシュヴァルト君、『越智先生』で良いって!」

 

 越智先生は彼女にしてはかなり珍しく、照れた顔をしながらハッシュヴァルトに答える。

 

「では越智先生。 私の席なのですが、出来れば『()()』の近くを頼みたいのだが────」

 

「「「「「ッ?!」」」」」

 

 ハッシュヴァルトの言葉にクラスがどよめき、女子達は互いを見た。

 

「ブッ?!」

 

「は? 『姫様』?」

 

 ()()だけが吹き出して顔を教科書で隠しては体が畏まり、越智先生はポカンと呆気にとられた顔でオウム返し気味に問い返す。

 

「ええ。 そうですね、出来ればあそこの席など丁度良いかと」

 

 ハッシュヴァルトが指差した席はさっきの吹き出した()()の後ろの空席。

 

 因みにその()()は指定されては出来るだけ更に身を小さくさせようとしていた。

 

「………………あ……へ?」

 

「よろしいですね? では────」

 

 ハッシュヴァルトは越智先生の返事を待たずにツカツカと席に着く。

 

「────()()()()()よろしくお願いします、()()

 

 ハッシュヴァルトが人当たりの良い、ニコリとした笑顔のまま席に座り、『姫』と呼ばれた者は自分に視線が集まっていくのを文字通り肌で感じ始めた。

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

『姫』と呼ばれたその人物は体を小刻みに震わせながら冷や汗を大量に流した末に、以下の通りを一言だけ放心気味に脳内、及び口から出す。

 

なんでさ((なんでさ))

 

 そしてこのハッシュヴァルトの行動を見たバンビエッタとジジはほぼ同時に走り、同じ席の取り合いへと移る。

 

「手を離しなさいジジ!」

 

「やだよ。バンビちゃんこそ一昨日来なさい♡」

 

「う~ん…どうしよっか、リル?」

 

「モグモグモグ、あの二人はほっとけ。 オレ等も適当な席に着くぞ」

 

「言いたかねぇねぇけど、同感だな。 とっとと座ろうぜ」

 

 ミニーニャ、リルトット、キャンディスの三人は適当な席に座る。

 

 落ち込んだ越智先生を残して。

 

「………………………私、全然要らない子じゃん」

 

「頑張れ越智先生!」

 

「負けるな越智さん!」

 

「うぅぅぅぅ……生徒に慰められる日が来るなんて……」

 

 自業自得(やる気が無い所為)だったかも知れないが、存在感が空気同然となりつつあった越智先生を生徒達が励ます。

 

 尚この騒動で茶渡、雨竜、織姫、一護の思考を言語化すると以下の通りになる。

 

「(……………オレはそんな奴と気軽に可愛いモノの話をしていたのか)」

 

「(『姫様』って……やはり只者じゃなかったか。 僕の『違和感』の正体は()()だったのか? それとも、ただの呼称か?)」

 

「(凄~い! やっぱり、凄い子だったんだ~! 流石は『ヒーロー』!)」

 

「(アイツ等、そんな身分だったのかよ………………)」

 

 相変わらずの四人というか、何というか。

 

 その四人はプルプルと気まずそう~に震えている上にぐるぐる目、そして今すぐ穴にでも潜りたい『姫様(三月)』と、何時もの調子(無表情)のチエを互いに見た。

 

 否、一護は珍しく()()()()としていたチエを見ていた。

 

早く座れ

 

「「は~い」」

 

 ジゼルが彼女の隣の席に座り、バンビエッタが後ろの席へと落ち着いた。

 

 ()()()余談ではあるが同時刻、空座町のとある公園(弓沢児童公園)の木々の一つの上では、空座一校の制服を着た黄色のおかっぱ頭の青年が足を引っかけたのか、木の枝からぶら下がっていた。

 

 ほぼ()()()の状態で、制服と体が同様にボロボロに()()()なっていた。

 まるで()()したかのような様子で。

 

「ままー。 あのへんなひと、どうしたのー?」

 

「シッ! 見ちゃ駄目よ、あっちへ行きましょう!」

 

 近くを通った幼子が、母親に手を掴まれてさっさとその場を離れる。

 

「………………………………………………………………………………………………………何で俺がこないな目に会わなあかんねん?」

 

 それは先程、虚の出現を感知して一足先に対処するであろう『死神代行』を一目見ようとした者の、空しい独り言だった。

 

「ウッサイねん、そこ!」

 

 合掌。

 

「せやからウッサイちゅうてるやろが?!」

 

 ………

 ……

 …

 

 言わずともその日の空座一校はかなり騒がしかった。

 具体的に言うと1年3組(一護の)クラス辺りが。

 

 何せ転入生が一気に七人でそのどれもが美男と美女の上に、校内では『双竜の王子』の一人であるチエの知り合い。

 

 そして『若干地味気』な三月を『姫様』と呼んだイケメンの転入生。

 

 三月&チエは転入生達同様に質問攻めで、暇があれば隣のクラスの者達も来てしまう程。

 

「へぇー、三月ちゃんってやっぱり貴族だったんだね! 前からそんな節は有ったけど────」

 

「────。 …………ちなみにどこが? (上手く『普通』を演じていたと思ったけど……タッちゃんとか一護達や身近な人以外の他人にも分かるほどバレていたの?)」

 

「例えばこう、纏っているオーラ?っていうの? それが普通の人とは違うし、たまに仕草が『上級者の気品』っぽいのよねー」

 

「うぃえ? そ、そう? (マジか。 ………………何時?)」

 

 彼女自身気づいてはいないが、『前の世界(FATE)』での癖や仕草が抜けきっていないので、常に気を付けていないと模範(貴族の令嬢)達の影響がそのまま出ていた。

 

 しかも気を付けたとしても、『良い教育を受けてきた』という印象を彼女は周りに与えていた。

 どれだけ『地味』を演じたとしても、その『地味』が『貴族にしては地味』レベルだったので。

 

「流石です、姫様。 御身のご学友達にも伝わって────」

 

「────ちょっと待って、色々と聞き(ツッコミ)たいけど誤解だから」

 

「何を言います、姫様?」

 

「まず『姫』呼ばわりヤメロ」

 

「ではやはり、『()()殿()()』と────」

 

 「────それはもっとヤダ

 

 と、上記のような二人(ハッシュヴァルトと三月)のやり取りを見に来る野次馬や、転入生達の出所や皆の関係等を根掘り葉掘り聞かれるドタバタした一日だった。

 

 掻い摘んで話すが、大まかに以下の様な流れだった。

 

団子渡辺(雛森)は彼女達とはどのようなご関係ですか?」

「ひゃう?! え、えっと……理由(ワケ)があって今は『渡辺』を名乗っていますが……先生の言った通りに()()()です♪」

「迷惑ではないか?」

「滅相もありませんチエさん♪」

「そうか?」

「ハイ♡」

「そうか」

「(あー、昔の『(三月)』を殴りたいわー)」

 

 三月はほのぼのとした様子で現実逃避をしながらチエから離れない雛森を見ていた。

 

「他の皆さん(六人)の関係は?」

「『お嬢様(陛下)』とのですか? 『騎士(護衛)』です」

「「「キャ~!」」」

「「「『お嬢様(陛下)』ってマジか」」」

 

 この時の『陛下』呼ばわりのおかげで、『“双竜の王子”が本物(マジ)の“王子”?!』と()った者達は少なくは無かったそうな。

 

 そして昼の休憩時間────

 

「────ほらチエさん、『学生食堂』とやらへ行きましょう────♡」

 

「────やぁねぇバンビちゃん。 ()()をそんな()()()()()に連れて行きたいなんて、脳ミソまで底辺────」

 

「────私達には弁当があるではないか?」

 

「そうそう♪ だから()()はこのジジが食べさせてア・ゲ・ル♡」

 

(チエ)はジジの助けは別に要らないが……」

 

「僕の我が儘です♪」

 

「ああああ、メンドクセェ~」

 

「でもでもキャンディちゃん~? これはこれでミニーは『アリ』と思うの~」

 

「チッ、このクソビッチ共が……だがこの飯、クソ美味かったな

 

 三月とほぼドッコイドッコイの()()()()()を、一人で平らげたリルトットはそのまま彼女(三月)と同じように菓子パンを頬張っていた。

 

 ………

 ……

 …

 

 そして下校時間、更なる波乱が待っていた。

 

 三月(達)を校門で待っていたかのように立っていたのは()()()()()に身を包んでいた、ロバート・アキュトロン。

 

「お待ちしておりました『()()()』」

 

 危うし()助けて、只今ライブで大ピンチ

 

 彼の姿(挨拶)見た(聞いた)瞬間、感情が抜けた顔と声で三月が訳の分からない言葉を口走った。

 

 何処からどう見ても英国老紳士の彼が三月を見ながら『お嬢様』と呼ぶその姿が更に転入生達と、彼女とチエ達の噂話を飛躍させ、ヒソヒソとする話し声が周りから上がった。

 

「……………アキュトロンさん。 もう……………迎えに来なくて良いです」

 

「左様で御座いますかお嬢様」

 

 ロバートは冷や汗を流す三月に対して、ただニッコリとした笑みを向け続けた。

 

「あと……………『お嬢様』呼びは止めて下さい」

 

「それは承諾出来かねます、お嬢様」

 

 ロバートは更に冷や汗を流す三月に対して、ただニッコリとした笑みを向け、三月は思わず頭を抱えながら叫ぶ。

 

 なんでさぁ~?!」

 

(身長の低い)彼女に似合わない咆哮で周りの生徒達の注目を集めた。

 

「三月はどうしたというのだ?」

 

「あ、あはははは」

 

 チエの純粋な質問に雛森が乾いた笑いを出す。




平子:おいお前!

作者:ア。ハイ

平子:なんやねんこの仕打ちは?! 俺に恨みでもあるんか?!

作者:(どの口が)

ひよ里:うっひゃっひゃっひゃっひゃ! 傑作やこれは!

平子:あああ?! 何ゆうたこのアホ?!

ひよ里:なんやこのクソハゲ?!

作者:さてと、次書きましょうかね

平子&ひよ里:逃げんなや!

作者:(・д・)チッ


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第51話 Operation Primrose

昨日の話の続きです!

勢いのまま書いたら少しアンバランスな長さに……

うぅぅぅ……文才の無さが怖いぃぃぃ……


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 殆ど同時刻、場所は『影の領域』でかつて『銀架城(ジルバーン)』が建っていた()()

 

 その変わりぶりはまるで、大きなロードローラーが過ぎ通った様。

 或いは()()()が器用に消された様子。

 

 その近くではテントや小屋等が見え、『穏健派』でも『中立派』でもない、『タカ派』の所謂『集落』。

 

 そこから少し離れた場所で外に立っていた一人の()()()()()×()()()()()()()()()()()()を持った上にどこぞのウェスタン劇の帽子(テンギャロンハット)をした青年はキツイ表情で『平地(元銀架城)』を睨んでいた。

 

「……あの狸オヤジが」

 

 青年の脳裏に浮かぶのは『謀反』の原因であると思われる、『星十字騎士団』では()()()()()()()であるロバートの顔。

 

 この青年の名は『リジェ・バロ』。

 数ある『星十字騎士団』の中でも上位者で陛下(ユーハバッハ)親衛隊(シュッツシュタッフェル)の一人。

 

 彼は先日、『銀架城(ジルバーン)』が突然鼓動しだした事を異変と察知し、自分の部下である聖兵(ソルダート)達を使って直ぐに同じ考え方の同志(タカ派)達に避難する通達を出した。

 

 その間に『タカ派(自分達)とは違う道を行く』と宣言していたロバートやハッシュヴァルト達寄りの者達がこの頃『銀架城(ジルバーン)』の地下周辺を彷徨いていた事を思い出し、そこへ向かうと────

 

「────何だ、この門は?」

 

 リジェが地下で見たのは大きな石で出来た様な、門らしきモノと周りに倒れている仲間(タカ派)の兵士達。

 

「はいはい~皆~、こっちですよ~」

「ミニー、そんな『トロ~ン』とした言い方じゃ誰も急がねぇぞ! オラ! 早く飛び込めテメェら! でないとリルに食わせるぞ!」

「おい、オレはキャンディと違って見境無しじゃねぇぞコラ。 だが早く門の中に入れ。 でないとジジにさせるぞ」

「いやだなぁリルちゃん! ボク、バンビちゃんみたいにビッチじゃないし、他の皆と違って()()()()()()()()()()するしぃ~」

「ジジの場合はアタシ達と()()()()でしょうが?!」

 

 そしてその門の中へと走りこむ滅却師、または『バンビーズ』に誘導されて入っていく負傷者らしき者達。

 

 この意味不明で激突な場面にリジェの思考は一瞬止まり、その隙を突かれた。

 

「ッ」

 

 そこで自身に銃口が向けられていたのをリジェは察知して滅却師版の瞬歩に似た『飛廉脚(ひれんきゃく)』を使って銃撃を回避。

 

「ッ?!」

 

 リジェが回避した先には剣を既に構えていたハッシュヴァルトに斬りかかれ、リジェは愛用のライフルで受け止める。

 

「ウゲッ、もう来やがった!」

「しかもリジェじゃん、最悪~ ヽ(´・ω・`;ヽ)」

「良いからオレ達も行くぞ────」

「────ちょ?! リル、どこ引っ張ってんのよ?! スカート破れるじゃない?!」

「────お前みたいなビッチにスカートは邪魔だろ?」

「────いや~ん。 ボク、リルに食われちゃう~」

「────じゃあ()()()()()()()()噛み千切ってやろうか?」

「────ゴメンナサイスミマセンデシタ」

 

 地下に来たのがリジェと知った『バンビーズ』達はその場に集まった『穏健派』と『中立派』の滅却師達が門の中に入ったのを確認すると自分達も門をくぐる。

 

「あの門の出先を────!」

 

「────させませんよ、リジェ」

 

「────ロバートの言う通りです。 貴方はここで止めます」

 

「ッ! やってみろ、この裏切り者共が!」

 

 そこからは問答無用の、二対一による激しい攻防が繰り広がれた。

 

 当初は不意打ち同然に攻撃された上に、自分の得意な間合いから外れていたこともあり、リジェは苦戦していたが仮にも『親衛隊(シュッツシュタッフェル)』。

 

 徐々にだが崩れ始める『銀架城(ジルバーン)』の中で、彼がロバートとハッシュヴァルトを押し始めた頃に『タカ派』の滅却師達が地下に到着する。

 

「頃合いです、ハッシュヴァルト」

 

「ええ」

 

「援護に来たぞ、リジェ────!」

 

「────ジェラルド! 皆をここから早く────!!」

 

 そこから『銀架城(ジルバーン)』が崩れ始めたと思った頃に、地下を中心に周りの物が吸い込み始められる。

 

「「「「グアアアアアアアア?!」」」」

 

「ヌゥゥゥゥゥン?!」

 

 その景色と出来事はさながら突如、城の地下に生まれたブラックホールだった。

 

「せめて一人だけでも────!」

 

 そう思い、リジェはライフルを構えて門の中へと数発撃ち────

 

「────ご報告に参りました、リジェ・バロ」

 

 

 

 記憶に浸り始めたリジェは聞こえて来た声によって考えが遮られ、彼は目を開けて後ろを見る。

 

 白い軍服に身を包み、特徴的なおかっぱ頭&サングラス風丸眼鏡をしている男を。

 

「キルゲか。 首尾はどうだ?」

 

 この特徴的な見た目をした男は『キルゲ・オピー』。

 

「かなりの痛手です。 『銀架城(ジルバーン)』の武器庫(ワッフェンキャメール)、及び装備品(アウスルステュング)等の類は私の()()()()以外はほぼ全て全滅。 残されたのは旧式(アルトモゥディシュ)プロトタイプ(プロトティップ)と予備の物」

 

「ワッハッハッハ! かなりの損失だ、リジェ! だがキルゲ達が無事だったのが幸いだ!」

「……」

「相変わラずウルさい人ダネ」

 

「ジェラルド、ペルニダ、エス・ノトか」

「恐縮です、ジェラルド」

 

 キルゲの後ろから更に筋骨隆々の、ローマの戦士を思わせる装束を纏った大男────名を『ジェラルド・ヴァルキリー』と、白いローブをした者と、口元をマスクで隠して痩せた長髪(明らかにヤバい感じ)の三人が新たに姿を現す。

 

「私達、『遠征隊』はただ運が良かっただけです」

 

「謙遜するなキルゲ! 運も実力の内だ!」

「……」

「ペルニダも『そうだ』と言っているぞ!」

 

 ジェラルドの言葉通りにキルゲは運良く遠征に出ていて、自分の部隊が先日の『穏健派』と『中立派』が起こした騒動の後に帰って来て、その後始末や確認を遠征に出ていた自分の隊員達にやらせていた。

 

 ジェラルドの豪快な性格と言動と違い、キルゲの報告を聞いたリジェは湧き上がる怒りを無理矢理押し込み、平常心を表側だけでも保つ。

 

「そうか。 『計画』への支障は?」

 

「『銀架城(ジルバーン)』と備品の損失、及び謀反者の離脱やこちら側の死傷者等により戦力と人手は大きく低下。 そして以上の事により『瀞霊廷』への侵攻は正面(遮魂膜外)になるでしょう」

 

「………………クソ。 『計画』は一からやり直しか」

 

「それがどうした、馬鹿者! 今の我々はかつてとは違い、『知識(ウィッセン)』がある! ならば『奇跡(ヴンダー)』を起こし────!」

 

「────ほぅ。 随分と好き勝手にされたな」

 

 リジェは遂に愚痴を零し、聞き慣れない声にその場にいたリジェ、ジェラルド、ペルニダ、キルゲの全員声がした方向へと戦闘態勢をとる。

 

 

「「「「ッ?!」」」」

 

 そしてその聞き慣れない声の持ち主を四人が見た瞬間各々が攻撃を仕掛けた。

 

 リジェは構えたライフルを撃ち、

 ジェラルドは腰の剣を振るい、

 ペルニダからは何か蜃気楼のようなモノが飛び出て、

 エス・ノトは針のような物を飛ばし、

 キルゲは霊子兵装のレイピアの様な物を構える。

 

 だが────

 

「何?!」

「なんとぉ?!」

「「ッ?!」」

 

 リジェ、ジェラルド、ペルニダ、エス・ノトの四人が驚愕の顔と声(又は雰囲気)を出す。

 

「フム。 存外、大した事は無いな」

 

 四人は目の前のあり得ない出来事で言葉が見つからなかった。

 

「貴様ニ……『恐怖』は無いノか?」

 

 否、一人(エス・ノト)だけが自分に言い聞かせるように問いを投げた。

 

「『恐怖』? 君はおかしい事を聞くのだね。 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ここでキルゲが構えていたレイピア(霊子兵装)から霊子の玉の様なものを撃ち、目の前の人物を包み込む。

 

「かかりましたね! 私が陛下(ユーハバッハ)より授かった文字()は『監獄(ザ・ジェイル)』! 余程の強者と貴方を見受けますが、()()()()()()()に────!」

 

 ────ボトッ。

 

「…………………………………………は?」

 

 高らかに言葉を発していたキルゲは喪失感に似た違和感と前に出していた筈の腕が無くなったことに気の抜けた声を出す。

 

 そして彼は()()()()()()()()()()が地面に落ちているのを見て、血がボタボタと落ちる音と、真っ白だった地面が赤くなって数秒後にやっと()()に気付く。

 

「あ……………あ………………わ、私のぉぉぉ! 私の腕がぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「確かに強固な『檻』だ」

 

 キルゲは痛みの走る肩を抑えながら目の前の大きな青い球状の『檻』の中にいる人物に叫ぶ。

 

「き、き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 楽に死ねると思うなぁぁぁぁぁ!!! 『檻』の外から貴様を────!」

 

 バリィン!

 

「────は?」

 

 ガラスが割れる音に似た効果音と共に、キルゲがまた呆気に取られている間にさっきの人物が歩き出す足音が聞こえてくる。

 

 その足幅は焦っても、怒りも、何も不愉快さを感じさせない、落ち着いたものだった。

 

「この程度で私を止められるとは、少し君達の……………『情報(ダーテン)』? と呼ぶモノが『古い』のが手に取るように分かる」

 

「………貴様、何者だ? (こいつ……本当に陛下が仰っていた『特記戦力』の奴か?)」

 

 リジェは地面に痙攣しながら横たわるジェラルドを横目で見ながら目の前の者に聞く。

 

「ああ。 そう言えば名乗るのが少々遅れたね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()、『()()()()()』。 ()()()()()()()()()()




続きの次話、書きに行きます。

文章の長さは通常通りの物に戻ります。







ウェイバー(バカンス体):あれ? 誰もいない?

リカ:おおおお。 『もやし』じゃないですか~

ウェイバー(バカンス体):おわぁ?! だ、誰だお前?!

リカ:ほう。 『原作』とは随分かけ離れていますね~。 ペタペタペタ~

ウェイバー(バカンス体):うわ?! な、なんだよお前?! 勝手に人の胸とか腕とか背中を触────?!

チエ: ……………………………

ウェイバー(バカンス体):チチチチチチエさん?! こ、これは違いますからね?!

チエ: ……………………………ウェイバー

ウェイバー(バカンス体):は、はい!

チエ: 私は別にそういう趣味を否定するつもりはないからな?

ウェイバー(バカンス体):チエさーん?!

リカ:うひひひひひひ。 やっぱり面白いですねぇ~


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第52話 Unternehmen Panzerfaust

三日連続投稿ぉぉぉぉぉぉ!

楽しんで頂ければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 さて。

 少々長くなる過去の話だが、チエ&三月側がどうやって『現世』に戻っていたのを説明する為には時間を少し巻き戻そう。

 

 場所と時は『双極の丘』の上で、一護達が穿界門(せんかいもん)を通った直後。*1

 

 そして穿界門(せんかいもん)()()()()()()()状態。

 

「「「「「…………………???」」」」」

 

 本来なら穿界門(せんかいもん)は異常や例外が無い限り、長く開いている事など無い。

 

 全く閉まる気配の無い門を不思議に思っていた隊長達と山本総隊長をそっちのけで、雀部がチエに近づき、何かの袋を渡す。

 

「ではこれを『あちら』へお持ちになって行って下さい」

 

「うむ。 苦労を掛けるな、雀部副隊長」

 

「いえ」

 

「じゃ、()()()()?」

 

「おう! しっかり掴まっていろよ『メロンパン(雛森)』!」

 

「へ?」

 

 三月の掛け声でカリンがキョトンとしていた雛森を担ぎ────

 

 

 

「「「「「んな?!」」」」」

 

 

 

 ────三月達と担がれた雛森がそのまま一気に穿界門(せんかいもん)の中へと飛び込んで、隊長達とルキアがビックリする。

 

「隊長ぉー! 現世からのお土産お待ちしていまーす!」

 

「私もお菓子(お土産)を待っていまーす!」

 

「僕は別にお土産は要りませんが、良い土産話をお待ちしています」

 

 五番隊の席官三人衆(平塚、櫃宮、田沼)にチエが一瞬振り返った。

 

「そうか。 ではまたな、重国」

 

 二千年前の最後に聞いたようなセリフを言い、チエが穿界門(せんかいもん)に飛び込んでところで門が閉じる。*2

 

 さっきまで吹いていた風が収まった瞬間、辺りは皮膚がチリチリとする程に空気から湿気が無くなっていった。

 

 この異様な現象の発生源は、体に纏った霊圧が炎の如く渦巻いていた山本元柳斎だった。

 

「「(これは少々不味いな/ね)」」

 

 今の山本元柳斎の感じが、浮竹と京楽の二人を同時に少し前の『双極破壊』後の怒り具合を連想させていた。

 

 「雀部長次郎副隊長よ、何か弁明はあるかの?」

 

 そこには『激怒』状態の山本総隊長がいた。

 額の十字傷が青筋のように浮かんで。

 

 だがそんな姿の総隊長に臆する事無く、雀部は一つの文を出した。

 

「ここの許可証に、山本隊長の判子が御座いますが?」

 

「許可証じゃと? 貸せ

 

 山本元柳斎が許可証を受け(ぶん)取って、それを読み始める。

 そして判子は確かに山本元柳斎の物だったが、書類は見た覚えの無い物だった。

 

「???? (はて? 『()()()()()()()()』等という重要な届出書をワシが覚えていないほど老いて────)」

 

 彼が少し考えに浸ると、とある一つの出来事が脳裏に浮かんだ。

 いつもなら他人に助けなど頼まない彼だからこそすぐ思い出せて、すぐに自分のやった事に気付く。*3

 

「…………………………………………………………………のぅ、ささk────?」

 

「────駄目です」

 

 さっきの様子とは180度一転した、弱弱しい山本元柳斎の言葉を雀部が(一刀両断す)る。

 

「あの……………ワシ、まだ何も言っておらんのじゃが────?」

 

「────駄目です」

 

 ピシャリと取り付く島もない雀部だが、山本元柳斎は諦めなかった。

 

「ワシ、ちゃんとノルマ越して来たじゃろ?」

 

「そうですね」

 

「頑張ったじゃろ?」

 

「ええ、確かに」

 

「じゃあワシ、ちょっと視察に────」

 

「────駄目です

 

「いや、じゃからあくまで偵察────」

 

「────総隊長自らが、しなくても良い任かと存じ上げますが?

 

 ここでそろそろ冷や汗を無数に流し始める山本元柳斎。

 

「(ニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤ)」

「え? え? え? ここでか? ()()でも見れるのか?」

 

 そしてとうとう他人(他の死神達)の前で『オフ』状態の『山じい(元柳斎先生)』を見ながら裏表共々笠帽子の下からニヤニヤし始める京楽と、戸惑いながら秘かに喜ぶ浮竹。

 

 ここでメタな電球が……………

 

 ではなくロウソク型電球に光が『ジジジ!』という効果音と共に彼の頭の上で灯る。

 

「そう言えばチエ殿の姉妹である……『クルミ』と言ったかのぉ? あ奴から譲り受けた紅茶が茶の間に────」

 

「────ええ、大変良いブレンドですね。 美味()()()

 

 山本元柳斎の頭の上にあったメタ的なロウソク型電球の光が雀部の言葉によって『フッ』と消える。

 

「「…………………………………………………………………………」」

 

 シュバッ!

 バチバチバチバチバチバチ

 

 長い沈黙の後、山本元柳斎が瞬歩を使う際とほぼ同時に雀部が空に向かって雷を撃つ。

 

 そして数秒後に未だに『双極の丘』でポカンとしていた隊長達、及び他の死神達に以下の()がギリギリ聞こえて来た。

 

 『『『『『『『確保ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』』』』』』』

 

 『し、しもたぁぁぁぁぁぁ?! 偽の穿界門(せんかいもん)に気を取られるとは不覚────は、離せぇぇぇぇぇ!!!』

 

 これにより雀部以外の死神達は、各々が別のリアクションをとる。

 

 何せ殆どの者が初めて見る&聞こえる山本元柳斎の言動が、余りにも何時もの様子からかけ離れた『愉快なお爺ちゃん』になっていたからだ。

 

「ぷ……ぷぷ……げ、元柳斎先生……」

 

「元柳斎殿……」

 

「そ、総隊長が……」

 

「ンフフフ~♪ ()()()だからねぇ~。 でも山じい、穿界門(せんかいもん)の正偽が見破られない程、あの娘の後を追いたかったのかい?ま、気持ちは分からないでも無いけどさ

 

 かつての処刑場だった丘の上に、ルキア奪還時に感じていたピリピリとする空気はどこにも見当たらなかった。

 

 

 

 同時刻で場は断界内へと変わり、走っているのは一護達ではなく先程のチエ達だった。

 

「おおおお?! スゲェ所だな、オイ?!」

 

「時間があればもっとゆっくり────へぶ?!」

 

 ベシャ!

 

 リカが何も無い所でコケて、顔面を打つ。

 

「ほら。背中に乗ってください、リカ」

「ピピピ♪」

 

「恩に着ます、クルミにポイちゃん。 でも意外ですね、貴方が他人の心配をするなんて」

 

「いえ、このままだとあの煙の列車(拘突)に追いつかれてしまいますから。 というか何を背中に『正に』と言わんばかりに飛び乗るんです?」

「ピッ!」

 

 クルミが平然と答えた事に対し、彼女の頭の上に乗っていたポイちゃん(燬鷇王の雛鳥)が『ドヤァ』とふんぞり返る。

 

 ただ雛鳥ゆえにその姿は『威厳』というよりも『威嚇』に近かった。

 

 この愛らしいしぐさをカリンはジッと走りながら横目で見ていた。

 

「え? ちょっとカリンさん?! わ、わた、私には業務が! と言うかチエさんも────?!」

 

「────()()()()()()()()()()

 

「…………………………………………………………………はへ?」

 

 雛森は流石に山本総隊長の名が出てくるのを想像もしていなかったのか、頭が一瞬真っ白になった。

 

 というかまたも変な気の抜けた声が出た。*4

 

「抜けるぞ!」

 

 ここでチエと三月の二人が走るのをやめて、クルミ、クルミに背負われたリカ(&乗っていたポイちゃん)、ツキミ、そしてカリンと彼女に担がれていた雛森が横を通る。

 

「皆! 先に行っていて!」

 

「私も三月もすぐに追いつく」

 

「────ぁ」

 

 雛森が何かを言いたそうな顔をするが、カリンが出口に飛び込む事でその場から消える。

 

「三月、早くしろ」

 

「無茶言わないで! リハ無しぶっちゃげ本番なんだからね?!」

 

 三月が宙の歪から様々な物体を出しては戻していった。

 

「あれでもないこれでもないそれでもない────もの多すぎよ、金ピカの奴!」

 

 三月がブツブツと言っている間にチエは何かに気付く。

 

「来たぞ、三月!」

 

「あった! 『Engage(エンゲージ) Portal(ポータル)』!」

 

 三月が何かの杖を取り出し、断界の地面(?)を叩く。

 

 そうすると地面が抉られたかのように凹み、飛び上がった『地面だったモノ』が『門らしきモノ』へと形を変える。

 

「『Gate open(ゲート オープン)』!」

 

 三月の掛け声と共に『門らしきモノ』が開き、強く流れる風と小石などの小さな物が()共に中から飛び出す。

 

 それから数秒後、()()()()()()()()()が次々と出て来ては断界の中を不思議に見渡す────

 

「────早く出ろこの阿呆共────」

 

「「「────のわぁぁぁぁぁ────?!」」」

 

 ────見渡す前にチエに無理矢理出口へと投げ出される。

 

 そして拘突が三月にも目視出来るほど近くに来た距離で、少々傷ついたロバートと彼に肩を貸しているハッシュヴァルトの姿が門の中から現れる。

 

「これにて全員です、『皇女殿下』────」

 

 「────そんなんええから早よ出ろやお前ら!」

 

 三月の切羽詰まっ(イラつい)た声と方便と拘突の光でロバートに肩を貸したハッシュヴァルトの二人が三月に押されて出口を出る。

 

「『Gate close(ゲート クローズ)』!」

 

 三月が杖を地面から無理矢理引き離し、門が崩れ始めるのを確認してから出口に振り返る。

 

 だが門が完璧に崩れる前に()()が門を通過して、出口へと飛び出る三月に着弾────

 

「────ガハッ────?!」

 

 ────訂正しよう。

 三月は夜の空座町の宙に出て落ちていきながら、自分の()()()()()()脇腹を見る。

 

「(今のは『何』? 『必中』? 『防御無視』? おじさんの『起源弾(魔術礼装)』に似ていたけど違────)────ぶえ?!」

 

「どこまで落ちる気だ、戯け」

 

 そのまま空座町の地面と情熱的なキス(にロープ無しのバンジージャンプ)をしそうな三月をチエが首根っこを掴んで止める。

 

「って、何で皆して私の首根っこを掴むのよ?!」*5

 

「??? 猫の親はそうしているぞ?」

 

「私は猫じゃないわよ?!」

 

「…………………では(大河)の────」

 

 フシャアァァァァァ!!!」

 

 三月が自身の治療中に反論(威嚇?)をチエは無視しながら地上へと降り立ち、場所は夜の空座町。

 

 一護や竜貴の家から空須(からす)川を挟んだ、椿台(つばきだい)公園の木々の中で『見えざる帝国』の滅却師達は先に現世に出ていたカリン、クルミ、ツキミ、リカ(+キョトンとしてウロウロしている雛森)が彼らに何かを渡しながら現状&現世の説明をしていた。

 

 その間、持っていた拳銃と剣をしまい、木々の中から夜の空座町を見ていたロバートとハッシュヴァルトにチエと三月が降り立つ。

 

「どうだ、現世は?」

 

「………………我々の知っている時代より、()()変わってますね」

 

「ええ。 それにこの『外部霊子収集圧縮装置』は目を見張るべき物ですね」

 

 ハッシュヴァルト達がチエに答えながら、掌の中にあった()()()()()()らしきオブジェをしみじみとみる。

 

『外部霊子収集圧縮装置』とはその名の通り、外部にある霊子を収集し続けるという代物。

 

 三月が眼鏡(雨竜)との共同作業中に創っていたモノで、かつての試作(魔術礼装)のアイデアをベースにしていた。*6

 

 ただしこちらは『()()()()()()()()()()』という機能ではなく、『外部にある原子(霊子)を収集する』という所謂、正反対の機能を持つ物だった。

 

「そうよ! 創った私でも、結構良い出来だと思うもの!」

 

 三月が誇らしく「フフン!」とドヤ顔+(未だにほぼ無い)胸を張る。

 尚脇腹の治療は終えたが破けた服はそのままだったので、彼女の雪のように白い脇腹が露出していた。

 

「(この娘、やはり利用価値がありますね)」

 

 ロバートが眼鏡についた土を出したハンカチで取り払いながらそう思った。

 

「…………………………………………」

 

 対してハッシュヴァルトは目を逸らした。

 

 頭を空っぽにして。

 

 その間、『穏健派』及び『中立派』の滅却師達に空座町の事をチエ達(というかまたも丸投げされた三月達)がする。

 

 その間、雛森はチエのそばを一切離れずに、何かを聞きたそうな視線を送っては逸らすという行動(ループ)を続ける。

 

「何だ、桃?」

 

「ハワ?! ………………えっと、総隊長の任とは────?」

 

「『現世での駐屯地、及び拠点の確保と下調べ』だ」

 

「そ、そうですか? それと…………この人達は何ですか? チエさん達のお知り合いか────?」

 

「────『滅却師』だ」

 

 雛森の目が見開く。

 

「く、く、く、『滅却師』?! で、で、でも! 彼らは確か、二百年前に────?!」

 

「(ほぅ。 雛森はやはり博識だな)」

 

「────あ? 誰だこいつは? なーんか冴えねえ野郎だな」

 

 目を白黒していた雛森達に近づいてきたのはキャンディス。

 

「フーン……地味ね」

「でもミニーは~、頭のお団子は可愛いと思うの~」

「オレはキャンディと同感で『冴えねえ野郎』と思う」

「でもボクの直感が言っているよ? 『この子はちょっと着飾ったら化ける』って」

 

 次々と来る『バンビーズ』(バンビエッタ、ミニーニャ、リルトット、そしてジゼル)に囲まれて五人の感想にタジタジとする雛森は、出来るだけ近くに居たチエの背中に隠れようとする。

 

「ああ、それには私も同意だ」

 

「はぇ?!」

 

 チエの何気ない一言で雛森が本日二回目の変な声を出す。

 

「「「「「…………………」」」」」

 

「お~い! さっさと移動するぞテメェら!」

 

「行くぞ────」

 

「────ぁ」

 

 呆けそうになった雛森の手をチエが引く。

 

「……あの二人の関係なんだろう?」

「『兄妹』、とかと思うけど~? (。´・ω・) ?」

「それにしちゃあ、小さい方は余所余所しかったな」

「別に何でも良いじゃねえか」

「そうだね♪ キャンディなら三人でも四人でもイケるものね♪」

「あ″?! やんのかジジ、テメェ?!」

「嫌よ、こっちから願い下げだもんねぇー」

 

 バンビエッタ、ミニーニャ、リルトット、そしてケンカ腰になるキャンディスとジジのやり取りから前方で歩いている三月、ロバート、ハッシュヴァルトの三人に景色が変わる。

 

「それで、『こっち』に来た滅却師達は合計何人ほどいますか?」

 

「我々も入れて総勢数十名ほどです。例のモノと服も十分足りていますのでご安心を」

 

「……………それで何人亡くなりましたか?

 

 三月が後ろを見て、傷の負った滅却師がボロボロになった負傷者の手当てをしている様子を見ながら小声で聞く。

 

「深い傷を負った者や、負傷者などは出ましたが『皇女殿下』達の采配で少なくとも()()()死者は出ていません」

 

「…………………そ。 (良かった)」

 

 ロバートの言葉に三月がホッと胸を撫でおろし、彼の呼び方に未だ気付いていなかった。

 

 三月が立てた計画は一護達が『現世』に帰る時のドタバタを利用する事で、先ずは出来るだけ護廷十三隊が独自の戦力底上げを出来るように色々と企画。

 

 だがそれには自分とチエ()()では限界があると思い、『クルミ』と言う成功例があったので()()()()を呼ぶ事にした。*7

 

 何せ自分の知っている『原作』を、より良い結果にする事に『二人』はあまりにも少なかった。

 

 特に相手が『藍染』という、用心の上に用心しても尚用意周到な人物(化け物)で、目的の為ならば容易に数百年の時間と、数千────否、下手すれば()()の『命』を平気で自身の野望の為に使()()()と言う様な化け物(人物)相手では。

 

 その過程で()()()予期せぬ出来事や、予想していたより大きな変化などは在ったが。

 

 例えば『雛森』とか。

『阿散井恋次』とか。

『朽木白哉』とか。

『右之助』とか。

『ポイちゃん』とか。

『山本元柳斎』とか。

 とかとかとか。*8

 

「(と言うか最後のヤツを一番予期していなかったわよ?!)」

 

 三月が内心愚痴るが、頭を振って次の段階へと考えを移す。

 

 取り敢えず、上記の事と並行し『見えざる帝国』の(今の所)協力的な『穏健派』と『中立派』の滅却師達を『現世』に連れて来る為に『金ピカ(ギルガメッシュ)』の蔵から道具を借りて(拝借して)、滅却師の居る『影の領域』から直接『断界』を経由して『現世』へと避難させた。

 

 尚、『現世』にいるマイに頼んで滅却師達の住居は確保済みと確認が取れている前提での作戦だった。

 

 この際に開いた転移門を合図に、『穏健派』と『中立派』が『銀架城』の自爆装置を起動し、急遽非難する。

 

 といっても、『影の領域』とソウル・ソサエティの間には時間差があるのでぶっつけ本番の上に全員が避難出来るまで転移門を守る必要があった。

 何せ追手が門を通過すれば避難先がソウル・ソサエティではなく『現世』と悟られてしまうからだ。

 

 二つの協力的な派閥の中で実力者であるハッシュヴァルトが盾役に、そして「敏捷に自信がある」と言ったロバートがかく乱役へと二人が志願した。

 

 ちなみにこの移動方法については浦原の転移装置がインスピレーションの元となっていたのを三月は認めたくはなかったが、状況的にやむを得なかった。

 

 そして概ね想定通りに事が進んだ事で『タカ派』を無理矢理全滅せずに、かつ穏健派と中立派は『現世』へと避難出来た。

 

 その上『瀞霊廷クーデター計画』の為に築き上げた『銀架城』という拠点を失う事により『タカ派』は瀞霊廷に攻め込みたくとも()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ですが宜しいのですか?」

 

「ん? 何が?」

 

 ハッシュヴァルトの問いに三月が?マークを出す。

 

「我々の住居の事です『皇女殿下』」

 

「ああ、それなら私達のいるアパート────って、『()()殿()()』?」

 

 三月は自分に指し、ロバートが『さもありなん感』たっぷりで頷く。

 

「…………………………なんでさ?」

 

「いえ、次なる『滅却師達の国』のトップであれば────」

 

「────え。 パス」

 

「左様ですか。 残念です、貴方様ほどの実力者ならばと思ったのですが────」

 

「────あら~、凄い団体さんね~」

 

 やっとアパートの近くに着くとマイペースでおっとりなマイの声にチエ達は彼女の姿がはっきりと見えた。

 

 そこには何某メディアでよく出てくる(出ていた?)『アパートの管理人(割烹着エプロン)(竹箒無しバージョン)』姿をしたマイだった。

 

「少々見ないうちに『ふぁっしょん』を変えたか、マイ?」

 

「……え? その姿は?」

 

 平常運転のチエと疑問に満ちていく三月。

 

「……ふむ、私の名はロバート・アキュトロンと言います」

 

「ユーグラム・ハッシュヴァルトです」

 

「あら~、礼儀正しくて嬉しいわ~。 私は『マイ・プレラーリ・渡辺』よ~」

 

「……なんかぁ~、『イラ』っとするわねぇ~ (#^ω^)」

 

「「「「お前が言うな」」」」

 

 ミニーニャの言葉に周りのバンビーズがツッコんだ。

 

「よ!」

 

「あ~、カリンちゃん達も来ていたのね~♪ 久しぶり~」

 

()()()()()()()そうなりますね」

 

「そやな~」

 

「えっと……住居は確保しているって言ったわよね? 夜遅いけど、今からでも住み込む事は出来る?」

 

「ええ、問題ないわ~。 何せ()()()()()()()()()()()もの~。 書類も()()()()のを作っておいたわ~」

 

「流石マイですね」

「ピィ」

 

「え、ちょっと待って。 『書名済み』って……その姿で『まさか』と思ったけど────」

 

「────ええ、(マイ)がここのアパートの『管理人代理』を務めているわ~」

 

「え」

 

「だからみ~んな()()()住めるわよ~?」

 

「え」

 

「食材足りるかしら~?」

 

 

*1
第48話より

*2
第2話より

*3
第40話より

*4
第40話より

*5
作者の他作品より

*6
作者の別作品、『天の刃待たれよ』より

*7
第23話より

*8
第23から40話より




作者:余談ですが前の話とこの話の題名は実際に起こった第二次世界大戦の作戦名です

平子:そんなんええから早よ俺等の話に行かんかい?!

作者:だから頑張っているでしょうが?! 仕事とかリアルとか説明不足が大変なんだよ!

ひよ里:さいですかー

作者:クッ……お前ら、覚えていろよ

平子/ひよ里:……………………………………え


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第53話 初めてのコンビニ、そして爆弾またもや炸裂

回想はこの話で終わって『破面編(?)』に本格的に戻ります。




 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 少々の混乱の後、滅却師達がアパートの部屋割りを決めている間にチエ達の部屋にはマイやチエに三月は勿論の事、カリン、クルミ(&ポイちゃん)、カリン、リカ、ツキミ達がマイからはなされ、雛森その場にいた。

 

 マイ曰く、チエ達がソウル・ソサエティに出かけている間に、自分たちの住んでいるアパートのおばあちゃん(管理人)の手伝いを何時も通りにしていたがある日、おばあちゃんがギックリ腰になった。

 

 そしてその流れのまま、10年間も付き合いのある&時々世話になって(修理作業などして)いるマイを急遽『管理人代理』に任命した。*1

 

 尚、竜貴とコンの走り込み(修行)にマイがもう居なくなった事に竜貴とコンはガッカリ(嬉し泣きを)したとか。

 

 それから少し後に三月からの大勢の『住居の依頼(念話)』が来たので、『渡りに船』とマイは思い、長らく新しい住人が来なかったアパートの受け入れ準備に励んだ。

 

 元々管理人であるおばあちゃんは子供に恵まれず、夫や親族達が少し前に他界してからはアパートの現状維持に精一杯だったので、新しい居住者が来る事をあまり想定していなかった。

 

 なので『修行の一環』と称し、竜貴とコンも巻き込んでアパートの掃除及びに傷んだ部分のオーバーホール作業を三人係でした。

 

 因みにこの時の竜貴は違和感ありまくりの一護(の体を借りていたコン、略して『一コン』)を更に何か珍しいモノを見るかのような、疑惑の目で見ていた。

 

 まぁ、普段の一護を知っている者からすれば、陽気に鼻歌を(一コンが)しながら工具箱を片手に『スラスラ~』と器用にアパートの屋根へと登って修理したり、休み時間の間マイに(全力で)甘え(甘やかされ)たり。

 

「(いくら何時ものスケジュールよりハードじゃないからって……一護(一コン)ってば、()()()()()()()()()()はしゃいじゃって……こう見れば意外とアイツ、かw────)」

 

『可愛い(かも)。』

 

 その一言を考えた瞬間、竜貴の脳裏に浮かぶのは子供の頃から一緒に時間を共に過ごした馴染みの純粋な(子供っぽい)笑顔。

 

 ボッ!

 

 そして(かお)が爆発しそうな勢いで一気に耳まで赤くなり、(あたま)を抱えて空へと衝動的に叫ぶ。

 

 「────ってアタシは何を考えているんだぁぁぁぁぁぁぁぁ?!

 

「??? どうしたんだ、アイツ?」

 

「さぁ~?」

 

 竜貴の様子を見て、互いに頭を傾げる二人だった(マイ&コン)

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 それ等の出来事を思い出しながら、マイは皆に説明していった。

 

「────それで~、『管理人代理』をおばあちゃんに頼まれたからには双方がWinWin()する準備をあれからしたのよ~」

 

「成程。 だからアパートがところどころ、新しくなっているのか」

 

「そうなのよ~! ()()()()()、頑張っちゃったわ♪ エッヘン!♪」

 

 ボヨン。

 

 マイが得意気に胸を張る動きと連動し、彼女の(巨乳)が揺れる。

 

 「「チッ。 この駄肉持ちが」」

 

 カリンとツキミが恨めしそうに舌打ちをし、ジト目で反応する。

 

 ここでずっと今まで畏まっていた雛森が口を開ける。

 

「えっと……………この方は────?」

 

「────あらあら~♪ 貴方が雛森ちゃんね~? 可愛いわ~、()()()()()()()()()────ムギュ

 

 危うく口を滑らすマイを近くにいたカリンが口を塞ぐ。

 

「へ? よ、『()()()()()』────?」

 

「────あ、あああああ! ひひひひひひひ雛森さんッ! じじじじ事前報告の事! ですッッッ!!! あとさっきの滅却師達なんだけどね私の()()達で偶然連絡を取って見たら皆芋づる式に来ちゃったのよぉぉ~~!!!」

 

 三月が大量の冷や汗を出しながら、苦し紛れ気味に話題を変えながら勢いでまたも苦し紛れな説明を雛森に迫りながらする。

 

「ハ、ハァ………………三月()()()は、滅却師なんですか?」

 

「え。 あ。 うん。 (本当の事じゃないけど真っ赤な嘘じゃないし……というか『ちゃん付け』はやっぱりやめない訳ね。 ちょっと当たらない氷輪丸(日番谷冬獅郎)の気持ちが解るかも)」

 

 余談ではあるが、雛森は三月がチエの『姉』と知っても彼女の事を未だに『ちゃん付け』で呼んでいた。

 

「そうなんですか! ですが凄い数の()()()でしたね! てっきり文献通り、滅却師達は滅亡したのかと思っていましたよ!」

 

「ま、まぁ全員が親族って訳じゃないんだけど………………アハ……アハハハハハハハハハハ」

 

「は、はぁ……複雑なんですね?」

 

「ウン。 フクザツデスヨー」

 

 乾いた笑いを出しながら三月の目が遠くなるのを、雛森が見て色々と察する。

 

「それと桃の事なのだが、『現世』に滞在している間は『渡辺』と名乗って欲しい」

 

「「「「「え」」」」」

 

 チエの激突な言葉にその場にいたマイ以外の皆がポカンとする。

 

「はい……………………………はい?」

 

 そして雛森は思わず聞き返した。

 

「あら~♪」

 

「え? え? え? そ、それって────?!」

 

「────何故赤くなる、桃?」

 

「う。 だ、だって……(それって、『家族になれ』って────!)」

 

「────嫌か?」

 

「ふえ?! い、嫌とかじゃなくてですねッ?! (心の準備がぁぁぁぁぁぁぁ!!!)」

 

 アタフタする雛森を見てカリンが不思議に思い、近くのクルミに小声で話しかける。

 

 「おおぅ……なぁ、クルミ? 『メロンパン』、なんかおかしくねぇか?」

 

 「フゥム? 確かに。 と言うか『メロンパン』は安直過ぎかと」

 

 「文句ならじいさん(切嗣)に言え」

 

 「あれは恐らく────」

 

 「────知ってるんか、リカ?」

 

 「まぁ、殆ど確証はないのですが、ある種の『好意』を彼女はチエに持っているのでは?」

 

「「「ハァ?」」」

 

 リカの感想にカリン、クルミ、ツキミが呆気に取られている間にも話は進んでいた。

 

「なら異論は無いな? 雛森は私と『()()()()調()()』を行い、その際に『渡辺』と────どうした、そんなに顔を歪め(ニヤケ)て?」

 

「あ、その、えと……嬉しくて、つい」

 

「そうか。 (余程嬉しいのだな、

 

 

 

 

 

 

()()』という(てい)で任に就くのが)」

 

「えへ、えへへへへ。 (チエさんと同じ苗字を……仮にとはいえ名乗れる事が、こんなにも胸が温かくなって、『嬉しい』と思うなんて……やっぱり、『これ』って────)」

 

 実はと言うと、これ(渡辺苗字)は三月の提案で、チエがそれを喋り出しただけだった。

 

 しかも本当の目的は、出来るだけ藍染が『原作』に基づいて動いたとしても、彼女(雛森)身代わり(鏡花水月の餌食)にされない為と、後は彼女が『現世』に来ている事を出来るだけ秘匿する為。

 

 あとは『鬼道の天才である彼女(雛森)の手を借りたい』と()()()()()に思っていたぐらい。

 

 きっかけは浦原の他愛ない独り言(愚痴)から始まり、僅か数日間で()()浦原が目を見開く程の改良スピードで雛森は『断空』を『断空改』へと変えた日。

 

 そしてそれは『鬼道の()()』である筈の、『同じ条件下での下位縛道は上位破道により破られる』を根底から覆した代物であった。*2

 

「うし! 大体の話は終わったし、行くか『メロンパン』?!」

 

「へ? ど、どこへ?」

 

 

 ___________

 

 カリン、雛森 視点

 ___________

 

 そこから話に一段落ついた瞬間、雛森はカリンに人生初のコンビニへと夜の空座町に連れ出されていた。

 

 かつての宣言通りに。*3

 

 服などはチエの物を二人は借りていき、雛森の義骸は事前にマユちゃん(マユリ)経由でリカが入手していたので、浦原に頼る必要(追加依頼料金)はなかった。

 

「♪~」

 

「ご機嫌だな、『メロンパン(雛森)』? そんなにアイツ(チエ)の服が気に入ったか?」

 

「へ?!」

 

 雛森が本日三度目の変な声を出して、自分の着ていたジャージ服(芋ジャージ)の上げていた袖から視線を横に居たカリンに移した。

 

 カリンの服装は普段と変わらずの半袖セーターとジーンズにスニーカーという、ラフなもの。

 

「え……うん。 その……近くにチエさんがいるような感じで────」

 

「────ぅお」

 

 カリンは照れながら微笑む雛森を見ていただけで自分の胸が一杯になりそうだったのを、赤くなっていく顔をそらして隠す。

 

「よ、良かったな?」

 

「ハイ♪」

 

 そして空座町内で空いているコンビニの手動ドアを開けると、中からは外部とは明らかに違った空調の効いた空気と店員の挨拶や中の品物の数などに雛森が目をキラキラと輝かせる。

 

「いらっしゃいませ~!」

 

「ふわぁ~」

 

 中に入りキョロキョロとするその動作は、今風に言うと『(超)ド田舎の娘が数年越しに現代の都市文化に触れる』と言ったモノだった。

 

「わぁ! 凄ぉーい!」

 

 次に雛森が目を付けたのは入り口から反対側にある米飯(弁当)握り飯(おにぎり)が並んであるケースに目を見開く。

 

「どうだ?」

 

 子供のように、純粋に明るくなる雛森をカリンが心底愉快そうに声をかける。

 

「凄いです!」

 

「だろう?!」

 

 カリンがニカっと笑う。

 

「こんなに複雑な袋に綺麗に沢山の握り飯(おにぎり)を入れられるなんて!」

 

「ガクッ」

 

 自分が思っていた(雛森の)感動の対象と違った事に、カリンが肩を落とす。

 

 だが雛森はそんな事に気付かず、隣の冷凍食品ケース、そして飲料などの入った冷蔵庫の前で止まる。

 

「ジー」

 

「(ん? アイツ、何を見ていんだ?)」

 

 てっきり雛森は自分のあだ名である『メロンパン』(カリン命名)を探すと思っていたカリンは彼女の視線を辿る。

 

「…………………『ペプラ』?」

 

 それはルキアがある日、『現世』での暮らしを語る中で出てきた『泡が弾ける飲み物(炭酸飲料)』。

 

「あ。 はい。 朽木さん(ルキア)の話でよく話題に出ていたので、つい」

 

「ふぅ~ん? ま、良いんじゃね?」

 

 カリンがカゴを手に取り、次々と駄菓子や炭酸モノを入れ始める。

 

「今夜はオールで駄菓子パーティだぜ! 付き合え、『メロンパン(雛森)』!」

 

「え? 『おーる』?」

 

「『今夜中』っつー意味だ」

 

「ええええええ?! そんなの無理です!」

 

「言葉の綾だっつーの!」

 

 その時に雛森は初めて『メロンパン』を目にした。

 

「あ。 これが『めろんぱん』ですか?」

 

「オウ! どうだ? お前の髪形と似ているだろ?」

 

 「………………私は髪の手入れはちゃんとしていますッ! こんなに傷んで(凸凹して)いませんッ!

 

 そこじゃねぇだろうがぁぁぁぁぁぁ?!?!」

 

 この時ニコニコと営業スマイルをしていた店員は「(この二人、ウッゼー)」と考えていたそうな。

 

 そしてその夜、初めて口にする現代の駄菓子で何とも言えない高揚感を感じながら、炭酸飲料を飲んだ雛森はルキア同様に慣れない口の痛みに涙目になり、ゲップが収まらなかった事でゲラゲラと笑うカリンからそっぽを向きながら赤面した。

 

 後、いざ就寝しようと思っても目が覚めていて眠れなかった。

 

 これは別に新しい場所での緊張やストレスなどからではなく、所謂シュガーハイ(糖分による興奮状態)と、初めてのカフェイン摂取で眠気がスッキリ吹き飛んでいただけ。

 

 決して同じ部屋にチエ+他の者がいたからではない(と彼女(雛森)は思いたい)。

 

「(………………………………………………眠れない)」

 

 雛森はゆっくりと首を回し、隣を見る。

 

「んがー……」

 

 そこにはラフな寝間着で、カリンが豪快に口を開けながらイビキしていた姿。

 

「…………………眠れないのか、桃?」

 

「ひゃッ?! チエさん?! (へ?! お、起きて────?)」

 

 雛森が反対方向に顔を向けると、隣で静かに目を閉じていたチエを見る。

 

「どうした? ……ああ、そういえばお前も初めて『ぺぷら』を飲んだのだな」

 

「はい……もしかして、朽木さんも同じように眠れなかったのですか?」

 

「いや? 奴は普通に寝ていたぞ?」

 

「え。 (わ、私だけ眠れないの?)」

 

 チエは言わなかったが、ルキアが『現世』に来てからぺプラを飲んだ当初は────

「────ゲップが抑えられぬ飲み物など不良品以外何でもない────!」

 ────と言っていた割にはほぼ毎日飲んではスヤスヤとグッスリ、眠りについていた。

 

 ゲップを出しながら。

 

「それでどうだ、『現世』は?」

 

「あ、凄いですチエさん! 見た事も聞いた事も無いものばかりで────!」

 

「────()()()()()()()()()()

 

「ッ」

 

 雛森がビクリとして息を素早く飲み込む。

 

 図星だったからだ。

 

「…………………チエさんは…………どうしてそう思いに?」

 

「お前は『表面上』は笑っていても、『内心』はそうでなかったからだ」

 

 ザワザワし始めた胸を気合で雛森が押し殺す。

 

「……私は、別に────」

 

「────なら何故焦る」

 

「………」

 

「やはり図星か」

 

 今度の雛森は胸の中にある気持ちと共に感じていた事を口にする。

 

「私…………これからどうなるのだろう」

 

「…………」

 

「せっかく『()()()』から『あの人(藍染)の為になる』って決めてから副隊長になるまで毎日勉強して、頑張って、成って……………」

 

「…………」

 

 次第に雛森の声は小さくなっていき、震える。

 

でも、……………『それでもと思って頑張って来たのに……私は……『これからどうすれば良いの』?」

 

 雛森は答えを求めるかのように、涙目のままチエをどこか期待している目で見た。

 

「………………かつて、重国(山本元柳斎)も私に同じような問いをして来た」

 

「………………………………………………………………………………え?」

 

「あの時の重国はかなり強気で、やんちゃで、わんぱく者で、世間(ソウル・ソサエティ)全体の事を考えるのは良かったが如何せん、『方法』や『方針』などと言った、『目指すべき目的』が無くてな?」

 

「(()()総隊長が?)」

 

 雛森の頭上に『ホワ~ン』とした効果音と共に、漫画風の吹き出しが出る。

 その中では、厳しいイメージしか持っていない山本元柳斎を雛森がゆるキャラ化しようとし、想像のデッサンがごちゃごちゃになっていく。

 

「………………………………………………少し、想像し辛いですね?」

 

「そうか? まぁ、私からすれば()()()()()なのだが。 ある日、私に聞いて来たのだ。 『どうやって物事を決めている?』、とな」*4

 

 チエの脳内に浮かぶのは髭も無く、頭も剥げているどころかフッサフサの黒髪をチョンマゲにくくり、良くニカニカと笑いながらも短気で喧嘩っ早い、()()()()()山本元柳斎。

 

「そ、それでチエさんは何て答えたんですか?! (これが……『ヒント』になるかも知れない!)」

 

 雛森は期待を寄したまま、チエの次の言葉を待つ。

 

「『自分の(まなこ)で見て、定めている』。 そう言ったのだ」

 

「……………………え?」

 

 思っていたような言葉(アドバイス)ではない事に、雛森はポカンとした。

 

「??? どうした?」

 

「あ、いえ、その……思っていたより────」

 

「────何だ?」

 

『思っていたより()()』。

 

 そう雛森は言いかけたが、自分を御した。

 

「……………いえ、ありがとうございます」

 

「そうか」

 

 それから無言になるチエをよそに、雛森はまた考え込む。

 

 チエの言った、『自分の(まなこ)で見て、定めている』の()()()()()

 

 何せあの山本元柳斎が『師』と呼ぶような人物()

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして彼女(雛森)が辿り着いたのは────

 

「(────そうか。 そういう事ですね! 『人間(ヒト)は目の前の事を()()()()()()()だ』と言いたいんですね! 流石です!)」

 

 そう思って先ほどの『会話の意味』が腑に落ちた事とほぼ同時に眠気が雛森を襲い、彼女はやっと就寝した。

 

 余談ではあるが、隣の部屋では三月とクルミが眠りながらも苦しむ声を上げていた。

 

「「う…………う~~~~ん………う~~~~~~~~~ん………」」

 

 「リカ」

 

 「何ですかツキミ」

 

 「お前、えげつないな」

 

 「フヒ、それほどでも♪」

 

 「褒めたつもりは無いんやけど…………」

 

 苦しそうな声を上げる三月とクルミの枕元には何某長寿アニメに出てくる、独特の笑い声を持ったマスコットキャラクター(悪役兼準主人公的存在)のぬいぐるみが二つ置いてあった。

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 二人(三月&クルミ)が『ハァヒィフゥヘェホォー』と低音を出す巨大マユリメカに追い掛け回されている(悪夢)で次の朝目を開けると、頭の横にバ〇キンマンぬいぐるみがいた事に絶叫する。

 

 『『ぎゃあああああああ~~~~~?!』』

 

『フヒ、大成────』

 

 バコォン!

 

『────ゴゥ?!』

 

 これを聞いた雛森が隣で着替えていたチエを見る。

 

「何ですか、今の?」

 

「恐らく、リカが阿呆な事をしでかしたのだろう」

 

「あれ? 今日は『()()』を付けないんですか?」

 

「ああ。 少し洗いに出したほうが良いとカリンに言われたからな」

 

「じゃ。 オレは先に出ていくぜ────」

 

「────あ! カリンさん!」

 

「んあ?」

 

 カリンがドアを開けてその場を去る寸前に雛森が彼女を呼び止める。

 

「昨日はありがとうございます!」

 

「……ん」

 

 雛森がペコリと頭を下げ、カリンが顔を合わさずにただヒラヒラと手を振りながら先に出る。

 

 二人(雛森とチエ)が丁度出て来た所に、どういう訳か滅却師五人衆(『バンビーズ』)とバッタリ出会う。

 

「「ん?」」

「お」

「あれぇ~?」

「おい、マジか」

 

「「???」」

 

 チエと雛森が?マークを出し、リルトットが問う。

 

「どういう事だお前ら?」

 

「二人とも、今同じ部屋から出ましたね?」

 

()()()()()()()?」

 

「ふえ?!」

 

「??? そうだが?」

 

 キャンディスの言葉の裏(ニュアンス)をいち早く察した雛森が驚愕しながら赤面し、チエは純粋な疑問形で答える。

 

「てかお前…………………それ…………………胸………………なのか?」

 

 リルトットがチエの変化(Bホルダー無し)に気付く。

 

「??? ああ、お前達もか。 私は自分を『男』と偽ったつもりは無い」

 

「「……………………………………」」 

 

 チエの告白(?)に固まる『バンビーズ』。

 

「……どうしたんだ? 鼻の調子がおかしいのか?」

 

 チエは鼻から赤い液体を流し、心底嬉しそうにしている()()()()()に声をかけた。

 

 そのタイミングで隣の部屋から着替えた三月が溜息をしながら出てくる。

 

「ハァ~。 おはようみん────あれ? ジジにバンビエッタさん? どうしたの? 具合、わる────?」

 

 「「────イイ」」

 

「「「え」」」

「?」

「うぅぅぅぅ」

「…………ま、そういう事だろうとは思ったぜ」

 

 三月、雛森、キャンディスが興奮しながら鼻血を垂れ流すジゼルとバンビエッタの言葉にポカンとし、チエは?マークを出し、ミニーニャは顔を俯かせて唸り(?)、リルトットは諦め気味に口を開ける。

 

 それが空座第一高等学校の新学期初日の朝の出来事で、転入騒動へと繋がる。*5

 

*1
第15話の『防音機能』などの施し

*2
第32話より

*3
第29話より

*4
第2話より

*5
第48から50話より




作者:これにて回想は終わり、本編へと戻ります

鈴鹿:チョー長! 草ー

作者:あれ? 平子は?

鈴鹿:ガキンチョと、とっと出たわよ?

作者:……………よし。 いつも読んでくれている方達に感謝を! ありがとうございます! Bホルダー無しの発想ありがとうございます、コミケンさん!!

鈴鹿:これからも皆ヨロ~♪


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第54話 関西、眼鏡、そして一コン

お待たせしました、次話です。

あと、気になるところなどがありますのでアンケートを出しています。 ご協力をお願いします。


 ___________

 

 ボブ金髪(リルトット) 視点

 ___________

 

 リルトットが最近(前話)の出来事を思い出しながらテンションダウンしたミニーニャと興奮するジゼル&バンビエッタを見る。

 

 相変わらず口をモグモグと動かしてバターと、マーマレードがたっぷりと塗られたライ麦パンを頬張りながら。

 

「(『代謝障害』ってのも、案外と『上手い言い訳』を考えたものだな。 おかげでいつでもどこでも食べていても、文句を言われなくて済むぜ)」

 

『代謝障害』とは『正常な代謝の過程が乱れている状態』の事で、何故リルトットがところ構わずに物を食べられるかを、周りからの質問に理由(設定)としていた。

 

 しかしこれはあながち『嘘』ではなく、彼女の『滅却師としての力』とは別の『能力』から由来するデメリットで、それは『常時お腹が空く』状態。

 

 勿論、この『能力』の事をチエ達に伝えた訳ではないのだが、『現世』に来た夜の晩餐の際に彼女が自分と同じ体型である三月と同等(もしくはそれ以上の量)のお代わりをリルトットが食していたので、体の調子を聞かれた。

 

 何せ彼女も他の滅却師達と同じ『外部霊子収集圧縮装置』を持っている筈なので、霊視濃度の薄い『現世』に来た事により滅却師としての能力は()()弱体化しているとは言え、()()()()()()()()()()()()三月と同じ量を食べるのは異常以外のなんでもない。

 

 その時、リルトットはただ────

 

「………………()()()()()()()()()なんだよ、オレは」

 

 ────とだけ短く、ぶっきらぼうに答えた。

 

「(チッ、オレの能力の嫌な所だぜ。)」

 

 彼女は更に事情を追及される事を予想し、多少身構えたが────

 

「────あ、そうなんだ。 うーん、どうやって言い訳しよう────?」

 

「────『代謝障害』。 という『設定』はどうでしょう?」

 

「あ、それ良いわねリカ! というかすぐに出たわね?」

 

「まぁ、『()()』の事もありましたから。」

 

「……ああ、なーるへーろそー。」

 

 余談ではあるが三月の脳裏に浮かんだのは今もなお存在する『以前の世界(天の刃待たれ)』で身についた、『小柄な体型にしては暴力的な食欲あり』の自分。

 

 そしてそのままの流れで食卓はせっせと進んでいった。

 

 まるで気にも留めていない事に、リルトットは不思議な感じのままその夜を過ごし、次の日『チエが男ではない』事に気落ちするミニーニャを慰め、()()()()()興奮するジゼルとバンビエッタを宥めようとした(効果はあまり見られなかったが)。

 

なんか……変な気分だな。

 

「へ? 何か言ったリルちゃん?」

 

「別に。 なんでもねえよ。」

 

 リルトットのボソリとした独り言に気付いたミニーニャの質問に対し、彼女はそっぽを向いた。

 

 ___________

 

 『渡辺』三月、『渡辺』チエ、『渡辺(雛森)』桃、『穏健&中立派』滅却師組 視点

 ___________

 

ンゲッ。(わ、忘れてたぁぁぁぁぁぁ! ()()ハプニングがまだあったんやぁぁぁぁぁぁぁ!!!)」

 

「お?」

 

「???」

 

 場所は一護の1年3組の教室。

 そして黒板には『二真平子(じんしこらひ)』と書かれた名前。

 つまりは()()()()()である。

 

「助平の『平』に~、小野妹子(おののいもこ)の『子』ぉ~、真正包茎(しんせいほうけい)の『真』に~、辛子明太子(からしめんたいこ)の『子』で~、『平子真二』でぃーす」

 

 平子は『原作』と違い、頭と首に包帯をしていた。

 先日()()()()()()時に出来た傷である。

 

「うおーい。 平子君、文字が逆だよ逆ぅー。」

 

「「「「「(ツッコミ所がそこだけじゃないと思う越智サン(先生)。)」」」」」

 

 頭を下げながらサラリと下ネタっぽい平子の自己紹介に、彼の逆に書いた名前に対してだけ担任の越智先生がコメントした事に、クラスが内心ツッコむ。

 

「(フム。 まさか平子の奴が転入してくるとはな。)」

 

 平子が自己紹介を続ける中、平常運転のチエが彼の視線を辿る。

 

「(………………そして井上の胸を見るか。 変わらないな、奴も。)」

 

 その間、浮かない顔と共にボーっと遠い目をする一護を三月は互いに横目でチラッと見た。

 

「(うーん、取り敢えず平子達(仮面の軍勢)が来たのは一旦置いとくとして………あの調子じゃ、一護は眼鏡(雨竜)の事を織姫に言われてから確認して、気負いしているみたいね。 全部が全部、自分(一護)の所為じゃないのに。)」

 

「よろしゅうな、黒崎くん♪」

 

「(あれ? あの人……今、こっちを見てもっと笑った?)」

 

 平子は座る際、横目で同じクラスのチエと三月、そして雛森を見ては笑みが深くなった事に疑問を持つ雛森。

 

 一護の隣に座る平子に対し、滅却師組が第一感想を思う。

 

「(チャラ男。)」

「(多少のファッションセンスはあるようだけど、自己紹介と髪型が『アレ』じゃあね~。)」

「「(陛下(チエ)に色目使ったらブッチKill(キル)ッッッ。)」」

「(あー、早く終わんねぇかなぁー。 ()()()()()ー。)」

「(ほぅ。 この男もマークすべきですね。)」

 

 上から(今度はカツサンドをハムハムと食する)リルトット、ミニーニャ、上がってくる暴力的衝動を押し込むジゼルとバンビエッタ、()()()()()()()を考えるキャンディス、そして平子を警戒するハッシュヴァルトだった。

 

「(恐らく今夜辺りに一護と接触するつもりね、『仮面の軍勢(ヴァイザード)』は。 と、言う事は…)」

 

 『()()』が()()()()へと入る事に、三月は考え込む。

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 その夜、一護は何時も通りに死神代行証の探知した虚を討伐して空座町に()()()()()()ルキアより前の地区担当でアフロをした死神、『車谷善之助(くるまだにぜんのすけ)』に絡まれていた。

 

「ったく、俺は黒崎一護! 死神代行! ほら、代行証!」

 

「……『代行証』ぉぉ? そんなもの見た事も聞いた事もないわ!」

 

「ハァ? (っかしいな。 浮竹さんが言っていたように、死神化以外に全ッッッ然役に立たねえじゃねえかコレ?)」

 

「あんまり騒ぐなや、()()()()♪」

 

「ッ!? な────?!」

 

 一護が後ろを向くと、空中に立っていた平子が()()()を手にしている姿を見る。

 

「ひ、平子?! それにそれ……斬魄刀なのか?!」

 

「シィー。 一護、お前のその霊圧を先にどうにかせえ。 ()()()、されるで?」

 

 昼に会った時とは全然違う『圧』を持った平子の言葉に、一護は冷や汗を流す。

 

「ぎゃ、『逆探知』って……誰にだ? 誰がだ?!」

 

「………………ホンマ、鈍い奴やっちゃなぁー。」

 

 この二人を見ていた善之助は心底、あまりにも自分が居た(ルキアが来る前の)頃と町の様子が変わった事に、空座町担当へと『戻った』事を後悔していた。

 

「……チッ、さっそくお出ましかいな────」

 

 平子が舌打ちをしながらげんなりと一護から視線を外す。

 

「────平子……テメェ、何者だ?!」

 

「『何者』って………………んじゃあ、解かりやすくここで質も~ん。 『()()』、なーんや?」

 

 そこで平子が()()()から出したのは白い、()()()()だった。

 

 これを見ては様々な事が一護の脳裏を駆け巡り、彼の喉がカラカラになる。

 

「お前、俺を今、『何者』やと聞いたやろ? つまりはこういう事。 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()♪」

 

 

 ___________

 

 石田雨竜 視点

 ___________

 

 雨竜はその夜、コンビニで買った安売り(期限間近)の弁当を買って、夜道を歩いていた。

 

「……………………ッ!」

 

 そして僅かな違和感を感知し、真後ろから来た攻撃を避ける。

 

「やはり虚!」

 

 回避した際に振り向いた雨竜は空間を裂いて現れた、ベロらしき物が長い虚に驚愕する。

 

「空間を割ってきた? 大虚(メノスグランデ)か!」

 

 雨竜はさっそく安売り(期限間近)弁当を捨てて現れた虚の攻撃を躱しながら近くの公園内へと逃げる。

 

「(こいつの霊圧、やはり大虚(メノスグランデ)の類? ……良いだろう! 滅却師の能力を失くした今を、僕は想定していなかった訳じゃない!)」

 

 雨竜は懐から小さな銀色のカプセルのような物を取り出して虚へと投げつけ、()()し始める。

 

「『|大気の戦陣を杯に受けよ《レンゼ・フォルメル・ヴェント・イ・グラール》』、 『聖噬(ハイゼン)』!」

 

 小さなカプセルが『霊子の柱』を宙で作成し、彼を追っていた虚の腕を()()()()()()する。

 

「(能力を失う前に霊力を流し込んでおいた『銀筒(ぎんとう)』を使えば────)────『超速再生(ちょうそくさいせい)』か?!」

 

 驚きながら肝が冷えていく雨竜は目の前の虚の腕が新たに生えてくるのを見ては、次の策を練る。

 

 近くの木々を行き来して、糸を張り巡りさせる。

 

「(これで、その巨体が仇に────)────上半身が消えた、だと?」

 

 虚の下半身だけがあった事に雨竜の思考が一瞬止まるが、彼は後ろから来る霊圧で瞬時に理解する。

 

「(分離、いや元々()()────)────しま────!」

 

 そこでちょうど()()()()が、雨竜を襲っていた虚の伸びていた『舌』を打ち抜く。

 

 雨竜は矢野北方向を見て、予想してもいなかった人物に顔が驚愕へと変わる。

 

「────無様だな、雨竜」

 

「あ、あんたは……竜弦(りゅうけん)?!」

 

 雨竜の視界に現れたのは白い髪に白いスーツに眼鏡の『石田竜弦』。

 

 黒崎真咲が以前、『竜ちゃん』と呼んでいた眼鏡(雨竜)の実父である。*1

 

「実の父親を呼び捨て……か。 相変わら────」

 

「────■■■■■!」

 

 虚が自分の撃ち抜かれた舌に対して雄叫びをあげ、竜弦が険しい表情で虚を睨む。

 

「うる────」

 

「────うっさいよお前!」

 

「「え」」

 

 竜弦が弓を構えたと思った瞬間、その場に似つかわしくない()()のイラついた声がして、虚は縦に()()()()()()()で一刀両断され、石田親子は二人とも呆気にとられる。

 

「■■■■■!」

 

「お前もや! 家族(親子)の再会に茶々を! 入れるなぁぁぁぁ!」

 

 次に下半身のフリをしていた虚を、少女はもう片方の指の先から撃ち出した()()()()()で撃ち抜く。

 

「……ハ?! 私は、何を?!」

 

 少女は自分のやった事を後悔しているかのように、頭を抱えながら地面に(うずまく)る。

 

 ここで口がポカンと開いていた雨竜が少女の名を口にする。

 

「……()()さん?」

 

 竜弦はズレた眼鏡を掛け直す。

 

「ほぅ。 君が()()()()()『渡辺』とやらか?」

 

「え? う、『噂に聞いた』って誰から?」

 

 頭を抱えていた『渡辺三月』が、竜弦の言葉に彼を見上げた。

 

真咲(一護の母)から()()と、な。」

 

え″。」

 

「だが君の事は後だ。 まずはバカ息子(雨竜)からだ。 半端な滅却師の能力を持って、慢心して、その能力を失った愚息からな。」

 

「……何故あんたが、あんなに毛嫌いしていた滅却師の能力を────?!」

 

「────だからお前は馬鹿なのだ。 私が『興味が無い』と言ったのは別に、『私にその能力が無い』という訳では無い。 その点、お前(雨竜)には『才能が無い』。 この違いが分かるか?」

 

「僕を見下す為にわざわざ来たと言うのか?」

 

「愚か者が。 お前の失った能力、元に戻せると言いに来たのだ。」

 

「な────?!」

 

「────嘘だと思うか? 事実だ、『コレ』にかけてな。」

 

 竜弦が銀で出来た、五角形のペンダントを取り出す。

 

滅却十字(クインシー・クロス)?! それに……それは先生の────?!」

 

「そうだ。 お前の祖父、そして私の先代だった『石田宗弦』から全ての力と技術を継承し、『石田家、最後の滅却師』と名乗る事を許されたのがこの私(石田竜弦)だ。」

 

「……能力を戻す条件は何だ?」

 

「お前にしては話が早いな。 滅却師の能力を取り戻したければ、死神に関わらないと誓え。 そして────」

 

 

 ___________

 

 一コン 視点

 ___________

 

 さて、『原作』では死神化して間もない一護から逃げ延びたグランドフィッシャーが新たな力を手に入れ、一護に逆恨みをした挙句(一護の体に入った)コンをこのタイミングで追いかけまわしていた。

 

 だがとある『()()()()()()()』によりグランドフィッシャーは撃退され、消滅している。*2

 

 ならばコンは怯える事無く、夜の空座町をエンジョイ出来るかと言うと────

 

「うおあああぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 ────『そうでも無かった』、と付け加えよう。

 

 一コンは全力で空座町の市街地を駆け出していた。

 

 ビルとビルの屋根たちを飛んで。

 

「なんだよなんだよ、なんなんだよ?! 俺が何かしたってのかよ?!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()、グランドフィッシャーとは違う、斬魄刀らしき物体を背負い、仮面が半分外れた虚が一コン(一護の体に入ったコン)を追っていた。

 

 そして逃げの一手の一コンを見ては虚が笑いながら後を追う。

 

「フハハハハハ! 逃げろ逃げろ、()()()()! さもなくば食うぞぉ?!」

 

「うおおおおおおおお! 俺はぁぁぁぁぁぁ! 一護じゃ、ねぇぇぇぇぇ!!!」

 

 一コンが生死のかけた鬼ごっこを始めて数分、虚は()()()()()

 

 何せ今の場所は人間がいる市街地ではなく()()

 

 まわりにあるのは水と、川沿いにある道路、。 して民家だけ。

 

「終わりとするかの。 ん?」

 

 そう虚が言った瞬間、前方に立ち止まった一コンの姿が見えた。

 

「観念したかぁぁぁぁ────!」

 

 キィン

 

「────ぁえ?」

 

 耳を劈く様な、或いは薄い金属製の鈴が鳴るような音と共に、虚の視界がズレ始める。

 

「あ″あああ″あ″あ″あ″?! オデの顔がぁぁぁぁぁ?!」

 

「うるさい、黙れ────」

 

「────チエさん!」

 

 一コンが自分を通り過ぎた死神の姿をしたチエに振り向き終わり、彼女のそばには消えてゆく虚の姿があった。

 

「無事か、コン?」

 

「もうそりゃ、チエさんのおかげで!」

 

「すまなかったな。 桃が手放してくれてなかったので、『()()()』を用意するのに手間取った」

 

「『代わり』?」

 

 場が一瞬チエの居た部屋に戻ると、『絶対に離さないッッッ!』という勢いで誰かの胴体を力一杯に抱きながら寝る雛森の姿。

 

 ちなみにその『誰か』は、顔が青色に変わっていくカリンだった。

 

「いや~、相変わらず凄い斬術ッスねぇ~。 さすが現役♪」

 

「『さすが現役♪』って、俺あての嫌味か浦原?」

 

「滅相もありません! 『ロートル』だと一言も────♪」

 

「────本音漏れてんぞコラ。」

 

 コンが聞こえてきた浦原の声と、()()()()()()()()()()にびっくりする。

 

「え? な? へ? な、なんでアンタが『その格好』をしてんだよ?!」

 

「あ? 『なんで』って、そりゃあ…なぁ、浦原?」

 

「いえいえ、そこでアタシに振られても♪」

 

 暗い空座町でコン達が見たのは浦原喜助と、()()姿()の黒崎一心だった。

 

「あ、アンタ……死神────?」

 

「──── 一心殿か。」

 

「へ。」

 

 呆けるコンを横に、一心がチエに対してムッとする。

 

「だから『一心』で言いつってんだろ? ガキの頃から見た目だけ変わりやがって」*3

 

「そうか………………どうした? 私をジーっと見て?」

 

 一心がボリボリと首を掻く。

 

「あー、お前が『()()()()』なんて羽織っているからチョイとな?」

 

「真咲に言いつけるぞ。 それに私は『代理』だ。」

 

 「だからなんでお前らは真咲に逐一報告するんだよ?! 俺が何をしたって言うんだよ?!」

 

「マイとの一件後、真咲に頼まれたからな。 自分に聞くしかあるまい。」*4

 

「ウグッ……過去の浅はかな俺を殴りたいッ!!!」

 

「ハッハッハ! 相変わらず真咲さん()に尻を敷かれていますねぇ、一心サン♪」

 

「だってアイツ(マイ)、真咲の性格と雰囲気をそのまま金髪ロングにして更に巨乳なんだぞ?! 男なら誰でもチョイといたずらしたくなるじゃん?! 不可抗力だッ!!!」

 

 浦原に逆切れする一心に対し、浦原はただ目を逸らす。

 

「二人して何故ここに来た?」

 

 チエの指摘に浦原と一心は黙り、一コンは互いの者達を見ている間に空気がピリピリしていくのを感じる。

 

 やがてその緊張感を保つのが疲れたのか、一心が頭を横に振ると場が和らぐ。

 

「チ……ヤメだ、ヤメ。 これで貸し借り一つなしだぞ、浦原?」

 

「ガクッ。 そこはもう少し粘ってくださいよ、一心サン!」

 

「無茶言うなこの野郎! 20年ぶりに死神化したんだぞ?! 戦闘ならともかくよぉ────」

 

「────私に、何か話があるのか?」

 

 ワイワイし始める二人(浦原&一心)をピシャリとチエが止める。

 

「相変わらずド直球な奴だな…」

 

「ま、そこまで察しているのなら手っ取り早く済ませましょうか♪」

 

 そこで浦原は一心の補足もあり、『破面(アランカル)』の話をし始める。

 

破面(アランカル)』。 それは『虚の上位種』とも呼べる存在で、普通の虚と違って『斬魄刀』を持つ虚。

 

 そして浦原と一心によれば、破面(アランカル)になっていく自然発症の存在()は長らく瀞霊廷でも確認されていたが、さっきの個体の『()()()』で二人はある確信をした。

 

「────恐らく()は、破面(アランカル)()()()から『真の破面(アランカル)』を創り出そうとしているんだろう。」

 

「『奴』?」

 

「……『藍染惣右介』っス。 アタシの見立てでは恐らく、『()()()()も絡んでいるでしょう。 でなければ虚が自然にあそこまで()()()()()()()()()()()()()()っス。」

 

「つまりは……なんだ?」

 

 浦原と一心を見ながらチエが聞く。

 

「……皆が、動き出しますよ?」

 

「み……『皆』って?」

 

 ここで空気同然になっていた一コンが思わず声を出し、視線を集める。

 

「……『仮面の軍勢(ヴァイザード)』、アタシ達、そしてソウル・ソサエティ。

 

 

 

 

 

 

 

 つまりは『()()()』ですよ。」

 

 浦原がその言葉を言い放ち、チラッとギリギリ視界の外側で見えた月光の反射で何かが『チカッ』と光った方角を、珍しいモノを見るかのように目を細めた。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場は同時刻、浦原が見た光の反射の本元。

 

 そこには迷彩柄の軍服を着た滅却師が数人、双眼鏡を構えて耳にインカムをしていた。

 

「はい、アキュトロン様の予測通りです……ええ、情報(ダーテン)にあった『人工破面モドキ』でした。 いえ、我々聖兵(ゾルダート)だけでも対処できますが……それと、やはりあの()()()()()侮れません……はい、では撤収致します。」

 

*1
第6話

*2
第5話より

*3
第6話より

*4
第15話より




活動報告も恐らくこれから利用すると思います。


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第55話 The Quincy(?) and (Pale) Rider

アンケートへのご協力ありがとうございます。
この話も対象になりますのでご協力お願いします。

そしてお待たせしました、次話です。


 ___________

 

 一護、雨竜、『渡辺』三月 視点

 ___________

 

 次の日、一護は前日より更にボーっと気が抜けていた。

 

 彼が思い返していたのは前日聞いた、平子の言葉。

 

≪“何者”やと聞いたやろ? ()()()()()()。≫

 

 平子が出した虚の仮面を一護が見た瞬間から、『白い自分(一護)』が更に騒ぐようになっていて昨夜もかなり一護は苦しみ、寝不足だった。

 

 同じ時期とクラス内では、雨竜も父親の取引(言葉)を思い出していた。

 

≪滅却師の能力を取り戻したければ、死神に関わらないと誓え。 そして────≫

 

 雨竜は自分をジッと見ていたハッシュヴァルトに気付き、考えを中断してイラつきながら視線を返す。

 

「何ですか、ハッシュヴァルト君?」

 

「いえ。 私からは何も。」

 

「そうか。」

 

「「……………………………」」

 

 何故か急に二人の周りの温度が下がったような感じがして、近くの者達が無意識に体を震わせた。

 

「大丈夫か、三月?」

 

「他人の心配も出来るなんて……流石です♡」

「プププー。 バンビちゃん、最後にハートマークなんて似合わないよ~?♪」

「うっさいわよジジ!」

 

「えっと……大丈夫ですか三月ちゃん? 腹痛のお薬、必要ですか?」

 

 チエと雛森が声をかけたのは机に顔を俯せにくっつける三月だった。

 

「ううぅぅぅ~~~~……ヒナモちゃん、マジ天使。 でも腹痛薬だけじゃなくて、頭痛薬もあるなら私ほちぃ~。」

 

「……えっと────?」

 

「────おっはよう黒崎君!」

 

「おはようさん、いち────」

 

 ガタッ!

 

 織姫に続いてクラスに入って来る平子が挨拶をし始めると、一護が立ち上がって彼の胸ぐらを掴み、無言のまま教室から連れ出す。

 

「────ご? お、おぉぉぉぉぉ?」

 

 これを見たチエが未だに微動だにしない三月に念話を送る。

 

『三月、平子が一護に連れ出されたぞ。 追わなくていいのか?』

『お掛けになった電話番号の持ち主は只今────』

『────ふざけるな。 事が起きるのは“()()()()”なのだろう?』

『ごめん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 私は()()()()予期せぬ事に巻き込まれたから……ハァ~…』

『……そうか。』

 

 ___________

 

 雨竜 視点

 ___________

 

 同じ日の放課後、雨竜は『もう二度と来る事は無いだろう』と思っていたビルを見上げる。

 

 張り付けられた、大きな看板には『空座総合病院(からくらそうごうびょういん)』。

 

 空座町唯一の総合病院ながらも、その事実で慢心や傲慢な態度などせずに良心的な値段とケアで有名な場所。

 

 値段は常に患者が許せるギリギリの値段なので、『良心的』かどうかは誰に聞くかによるが。

 

 溜息を出しながら雨竜は躊躇もないまま扉をくぐり、ほぼ顔パスと学生手帳での身分証明を出しては一つの部屋の中へと入る。

 

 部屋の上には『院長室(いんちょうしつ)』と書かれたドアプレート。

 

 そして中で書類に目を通していた竜弦(院長)が雨龍へと視線を上げる。

 

「来たか。 答えを聞かせてもらおうか、雨竜?」

 

「僕は能力()を………………取り戻したい。」

 

「それで?」

 

「……僕は誓う。 二度と、死神とも、その仲間とも関わらない。」

 

「よろしい……で、()()は?」

 

「ッ……()()()入りたくなさそうだったから、外で待っている。」

 

「『()()()入りたくない』、だと? 何故だ?」

 

「それぐらい自分で聞け。」

 

「…そうか。 良いだろう、丁度休憩に入ろうと思っていた所だ。」

 

 竜弦が立ち上がり、懐からタバコを出しながら病院の外へと足を運ぶ。

 

 病院の自動ドアが開くモーター音と共に竜弦が外に出ると────

 

「────君は何処へ行こうとしているんだね?」

 

はぴゃあ?!」

 

 ソロリソロリとその場を今から去ろうとしていた少女に竜弦が声をかけ、少女は今の事を全く予想していなかったのか体ごと驚きから跳ね上がる。

 

「ア、イエ。 ベツニ?」

 

 少女は首が錆びついたような、ぎごちない動作で冷や汗を流し、そしてひきつる笑顔を竜弦に向ける。

 

「なら何故病院に入りたがらない、()()くん?」

 

「病院は……色々と、思い出がある場所ですから」*1

 

 どこか儚げで困った顔と苦笑いをしながら答える金髪碧眼少女(三月)を見た竜弦は、かつて石田家の世話になっていた『昔の真咲(マーちゃん)』を一瞬だけ連想させた。

 

「ッ……話の続きは、『院長室』でするとしよう。」

 

 吸う気が失せたのか、竜弦はタバコをしまう。

 

「そ、そう? でも私、部外者(よそ者)────」

 

「────『滅却師()()()』で『異質』な君をこのまま帰すわけにもいかない。」

 

「…訴えるわよ?」

 

「こちらには金も弁護士も報道局も取りそろえている。」

 

「ア。ハイ。ワカリマシタ。」

 

 社会的処刑を三月は悟り、おずおずとしながら病院の中へと竜弦と共に入っていった。

 

 ………

 ……

 …

 

 院長室の中では三月は気まずそうに眼を泳がせながら体をモジモジとさせる。

 

「「……」」

 

 部屋の中では彼女も含めてほか二人がいても、ただ静かな時が過ぎる。

 

 これに耐えられなかったのか、三月が口を開けて沈黙を破る。

 

「えっとぉ……真咲さんに『()()()()()()()』って、例えばどういう事ですかぁ~?」

 

「例えば先ほども呼んだように、『君は()()()()()()だ』や、『マイ』というお前の母親が『()()()()()()()()()』、など。」

 

「……」

 

「否定はしないのなら『肯定』、として取るが?」

 

「ア、アハハハハ~。」

 

「(やっぱり…)」

 

 竜弦の指摘に三月はただ乾いた笑いを上げ、雨竜は自身が持っていた違和感が間違っていなかった事に腑が落ちた。

 

「さて。 愚息とは言え、一応は血の繋がりのある者だ。 彼が世話になったな。」

 

「へ?」

 

 竜弦が淡々と雨竜の事で感謝を上げたことに『ポカーン』とする三月に、彼はそのまま言葉を続けた。

 

「聞けば同じクラスに…確か手芸部だったな?」

 

「ちょっと待て竜弦! 何故そんな事を知っている?!」

 

「そうよ! 眼鏡(雨竜)の言う通りよ!」

 

「「………………………………」」

 

「何よ?」

 

 三月の言ったあだ名(眼鏡)で雨竜と竜弦は互いを見てから、同じく眼鏡を掛けている彼女(三月)を見る。

 

「まぁ、些細な事はどうでも良いとして────」

 

「────スルーすんなし────」

 

「────この愚息が能力を取り戻すのに、『君が協力する』というのが私の出した条件の一つだ。 協力するのかどうか、答えを聞かせてもらおうか。」

 

 

 なんでさ。」

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場所はチエ達が住居としているアパート、時は同じ時刻の放課後。

 

 学校はもうとっくに終わり、定時勤務も終えて住居に帰る生徒たちやサラリーマンの姿などがチラホラと空座町内で姿を見かけられる頃。

 

 ロバートはアパート敷地内にある庭で設置されたパティオテーブルの近くに、椅子に腰を掛けながら紅茶を優雅に────

 

「ム?」

 

 ────口をつけようとした紅茶のコップの動きが止まり、近くに座っていたマイが彼を見る。

 

「??? 大丈夫ですかぁ~? 紅茶、淹れるの頑張ったんですけど~?」

 

「いえマダム、大変素晴らしい出来です。 ただ……」

 

「ただ~?」

 

「何か()()()()()()が来ていますね。」

 

 ロバートは立ち上がり、アパートの中に居た滅却師達はドア開けては出かける用意をし始める。

 

「あら~。 皆さん、お出かけかしら~?」

 

「ええ、我々は『()()』を守る義務が御座いますので。」

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 その時、空座町東部に隕石が落ちたかのようなクレーターの中から、顎に仮面の下部分をつけた一人の巨漢と角が生えた名残を残した左頭部に仮面を被り、黒髪に真っ白な肌を持つ痩身の男の二人が出てきていた。

 

 『斬魄刀』らしきモノを腰に差しながら。

 

「ぶはぁ~~~~! 相変わらずここ(現世)はつまんねぇところだなぁ! 霊子が薄過ぎて息もしずれぇしよ?!」

 

「文句を垂れるな。 俺一人でも十分なのに無理矢理付いて来たのはお前だぞ、ヤミー。」

 

 巨漢の名は『ヤミー・リヤルゴ』、そしてもう一人の痩身の男は『ウルキオラ・シファー』。

 

 まごう事なき『破面(アランカル)』である。

 

「い、隕石か?」

「でも()()ねぇぞ?」

「近付いて大丈夫かな?」

 

 だがそんな事を知らずに(というか視える事も出来ずに)野次馬(人間)達が集まり始める。

 

「ああ? こいつら何で俺をジロジロ見てんだよ? ……吸うぞコラ。」

 

 ヤミーが息を深く吸い込むような動作をし始めると、周りの人間達から魂魄が無理やり抜き取られていく。

 

「がっ?!」

「あ、ああああ?!」

「あぅあ!!」

 

 そしてヤミーが動作をやめる頃には周りの人間達は誰一人として悲鳴を出す人も立っている者はヤミーとウルキオラ以外いなかった。

 

「ブッハー! ウゲッ、クソ不味いな!」

 

「当たり前だ、ゴミに何を期待している?」

 

「けどこんなにウジャウジャいるのに()()()()()るってのは、めんどくせぇな!」

 

「ん? 生き残りか?」

 

「何?!」

 

 ヤミーがウルキオラの見ている方角に視線を移すと、空座第一高等の空手部の部員達が()()苦しむ声を出しながら地面に横たわっていた。

 

「う……うぅぅ…」

「な……にが?」

 

 その中でも、()()()()()()()は息が絶え絶えになりながらも何とか、上半身を持ち上げていた。

 

『有沢竜貴』だった。

 

「う……何が……宮原……工藤さん……皆……ッ?!」

 

 竜貴が気付くと、目の前に巨漢(ヤミー)が立っていて自分を見下ろしていた。

 

「(何、これ? か、体が……うごか────?)」

 

「────オレの『魂吸(ゴンズイ)』で魂が抜けねえって事は……ウルキオラ! こいつかぁ?!」

 

「バカが。 よく見ろ、ゴミだ。」

 

「そうか。」

 

 ヤミーが蹴り上げるのを、竜貴は動かない体でただ見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 ドゴンッ!

 

 

 

「…あ? なんだテメェら?」

 

 間一髪と言う所で右腕が変質した茶渡がヤミーの蹴りを止め、動けない竜貴を無理やり後ろにずらした織姫達をヤミーが物珍しそうに見る。

 

「……井上、頼む。」

 

「……うん。」

 

 茶渡は織姫に、この場へと走っている間に一つだけ織姫に頼んだ(約束させた)事があった。

 

 それは吸い込まれていく魂魄の元に生き残りがいれば織姫がその人を連れてさがり、その間は茶渡が時間稼ぎをする、と。

 

 これを思い出しながら織姫は戸惑いながらも、竜貴に肩を貸してその場から離れようと歩き出す。

 

「ウルキオラァァァ?!」

 

「『調査神経(ペスキス)』ぐらい、面倒臭がらずに使えヤミー。 

 

 

 

 

 

 

 そいつもゴミだ

 

 ドォン!

 

 ウルキオラの言葉をきっかけに、織姫は巨大な霊圧のぶつかりを背中で感じた。

 

 バシャッ!

 

 ()()()()液体(血しぶき)と共に。

 

「え?」

 

 反射神経で後ろを織姫が向く。

 

 

 

「────」

 

 

 

 すると右腕が文字通り、皮一枚で胴体に繋がった状態で気を失い、無言のまま地面に落ちていく茶渡の姿が見えた。

 

 

 

 茶渡くん!!!

 

 

 

 ___________

 

 織姫 視点

 ___________

 

 

 

 織姫は地面に落ちた茶渡の元へと戻り、さっき彼に頼まれた(約束された)ことが脳裏に浮かぶ。

 

≪井上、戦いたいのは分かる。 だが俺にケガ人は治せない。 その人達を助けられるのはお前しかいない。 だから、頼む。≫

 

「ウルキオラ、この女もゴミかぁ?!」

 

「(茶渡くん、分かっていたんだ……この人達が私達より強いって……だから…私達をかばって……)」

 

「ああ。 ゴミだ。」

 

「そうかよ!」

 

 ヤミーが織姫の額を貫く勢いで指を突き出す。

 

「…『三天結盾(さんてんけっしゅん)』。」

 

 三角形の『()』らしきモノがヤミーの手を()()()

 

「あ?! なんだ、こりゃあ?!」

 

 勢いが止められた反動に、ヤミーは後ろへとさがる。

 

「……『双天帰盾(そうてんきしゅん)』。」

 

 次に茶渡の右腕は動画が巻き戻しされるように()()()いく。

 

「(どうにか……何とかして、ここは私が持ちこたえなきゃ……せめて、黒崎くんか渡辺ちゃん達が────)」

 

≪────そんなの一々数えていないわよ。≫*2

 

 織姫の脳内には以前、空座町中に大量の虚が出てきた際に三月が言った言葉と共に、『ルキア奪還』の際に殆ど何も出来なかった自分の姿が織姫の頭を過った。

 

「(────ダメ。 どうして私はすぐに他人に頼ろうとするの? ……今、私に出来る事と言えば────)」

 

 織姫が両手を前に構え、ヤミーが眉毛を片方上げる。

 

「────あ────?」

 

「(────この人達を()()()()事!) 椿鬼(つばき)! 『孤天斬盾(こてんざんしゅん)』! 私は……『()()する』!」

 

 織姫は覚悟を決め、己が()()持ちうる攻撃手段をヤミーに向けて放つ。

 

 パァン!

 

 だがヤミーが片手でそれを受け止め、椿鬼(つばき)がバラバラになっていく。

 

「?! そ、そんな?!」

 

「何だぁ、今の? ハエか?」

 

 ヤミーは手に付いたゴミを振り払うように動かしながら織姫に近づく。

 

「(やっぱり、私じゃダメ……なの?)」

 

「おいウルキオラ。 こいつ、妙な術を使うけどよ? 四肢をもいで、藍染様に持って帰るか?」

 

「……必要ない。」

 

「(……誰か……)」

 

「そうか。 あばよ、女────!」

 

「────ぁ。 (誰か────!)」

 

 ヤミーは織姫を握りつぶす為に右手を突き出す。

 

 

 

 

 

 ドォン! 

 

「────あぁぁぁ?! 次から次へと何なんだよ、ったくよぉ?!」

 

 ヤミーは弾き返された右手を左手で掴みながら、更にイラついた声を出す。

 

「……あ…あぁぁぁぁぁ────」

 

『────来てくれた』。

 

 織姫は緊張感の抜けた(安心した)体が地面に『ペタン』と座り込む間、そう考えることしか出来なかった。

 

()()()()()。 ()()()()()()()、井上さん。」

 

 織姫は目の前で見たこともない()()()()()()()()()()()()を両手に構え、見慣れない()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をした小柄の少女の名を呼ぶ。

 

()()ちゃん!」

 

 口調は()()いつものモノと違ってはいたが、()()()()()()()()()()()()、『ヒーロー(正義の味方)』だった。

 

 

 ___________

 

 クルミ・プレラーリ、織姫 視点

 ___________

 

「いえ、ボクは────」

 

 とある世界(Fate stay/night)の制服+黒タイツ姿のまま現れたクルミは思わず織姫の言葉を訂正しようとしたが、織姫の純粋無垢で希望に満ちた顔を見てはやめた。

 

「────…まぁ良いでしょう。」

 

 冷めた反応と言葉使いで織姫は『ハッ』とする。

 

「あ…ご、ごめん! その髪型(ロングストレート)と口調はクルミちゃんだよね?! アハ、アハハハハ~。 二人とも、あまりにも()()()()からさ?」

 

「(『似ている』というか『()()()()()別側面(人格)』ですけど…そんなことは今どうでもいいです。)」

 

 織姫が照れながら言いなおすが、クルミは彼女に対して無愛想だった。

 

 それは別に織姫の所為ではなく、ただ単に目の前の脅威の二人へほぼ全神経を集中していたに過ぎなかったから。

 

「(少し『力』を借りるわ、アネット(ライダー(天の刃体))。)」

『(クルミ姉様の頼みとあれば、何時でも。)』

「(ありがとう。)」

 

 クルミが腰と上半身の態勢を前のめりに倒れるかのように、まるで()()()()()()()()のように体ごと低くして、両手に持っていた短剣()を構えると繋がっていた鎖がジャラジャラとこすれる金属の音を出す。

 

「……(さて、どうしたものか。)」

 

 クルミが考え込んでいる間に、ヤミーが目を彼女から離さずにウルキオラに問いかける。

 

「ウルキオラァ! こいつはどうだぁ?!」

 

「……分からん。」

 

「…あ?」

 

 ウルキオラから返ってきた『分からない』という返事に、気がとられたヤミーが一瞬首を後ろへとふり向かせ、視線をクルミから離した。

 

「(好機。) フッ────!」

 

「────ッ! ヤミー!」

 

 クルミは自分から注意が逸れた一瞬のうちに消え、ウルキオラの声でヤミーが前をもう一度見ると、彼女は既に手が届く範囲まで迫っていた。

 

「うお?!」

 

 ヤミーが右の拳を突き出し、クルミはそれを手で受け流すかのように体ごと回転させて遠心力と、ヤミー本人の勢いを利用したカウンターの肘打ちをヤミーの顔面に食らわせる。

 

「ぶあ?!」

 

 鼻血と共にヤミーの上半身が完璧に引く前に、クルミは更に右手で第二撃の掌底(しょうてい)打ちを胸に食らわせ、それが深く食い込む。

 

「がはッ?!」

 

 だがヤミーはその見た目通りのタフさで、体が後ろへ後退りながらも踏ん張る。

 

「ッぬあぁぁぁぁぁ! ふざけんな、このチビがぁぁぁぁぁ!

 

「チビは余計です。 (やはり見た目通りのタフさですね。 それに────)」

 

 クルミはチラリと、さっきから動いていないウルキオラを見る。

 

「(────やはり()()動きませんか。)」

 

 さて、何故クルミがさっきの勢いのままヤミーに攻撃を畳み掛けなかったと言うと、ウルキオラと織姫の事もあったからだ。

 

 もし自分(クルミ)()()を出せば『原作(事前情報)』から順序が大きくそれる心配がある。

 

 そして織姫を『今』、人質に取られてしまう可能性がある。

 

 故に自分が一瞬で織姫のそばに移動できる範囲内でのみ、行動をしぼっていた。

 

「(面倒くさいですね、やはり……おっとやっと来ましたか。 多少は遅かったですが、これなら()()()()()でしょう。)」

 

 クルミは突然戦闘(前のめり)態勢を解いて、背筋を真っすぐにして立つといつの間にか彼女が手にしていた釘のような短剣が消える。

 

「……あ? どうしたテメェ! もう終わりか?!」

 

「ええ。」

 

 さっきから『三月』とは違う言動をするクルミ。

 

 もしこの場で気にする者がいれば「お前、本当に『姉妹』か??」と聞いていたかもしれない。

 

 気にする者と言えば織姫だろうが、生憎今の彼女は()()()()()()()を見て、何とも言えない高揚感を胸の中で感じていた。

 

「(ああ、()()()()()()()()()は三月ちゃんだったんだ!)」

 

 今の織姫には、クルミの武勇と凛々しい行動は自分が虐められていた時に駆け付けた三月の姿を連想させていた。*3

 

「(さすがは()()! 凄ぉ~い!)」

 

「テメェ、ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ヤミーはイラつきを隠そうともせずに、平手を突き出す。

 今度はクルミのカウンターを警戒しながら。

 

 だがクルミは動こうともせずにただヤミーを見ていた。

 

「クルミちゃん! 『三天結(さんてんけっ)────』!」

 

 ドォン!

 

 力の付いた勢いが突然止まる音にヤミーがまたも叫ぶ。

 

「クソ! 次から次へと、何なんだよ?! 今度はなんだ?!」

 

「遅かったですね。」

 

 クルミは目の前に立っていた『死神の死覇装』を着た人物に声をかける。

 

「ったく、身構えるぐらいしろよ。」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()から。」

 

「お前…三月と違って『ドライ』と思わせて、割と叙情的(じょじょうてき)だな?」

 

「なかなか難しい言葉を知っていますね、このタンポポ頭は。」

 

「いや今、髪の毛────というか俺は国語が得意……ハァ、お前らを(姉妹共々)相手にすると調子狂うぜ。」

 

「失礼ですね……ヒマワリ頭のくせに。」

 

だから髪の毛は今関係ねぇだろうが?!

 

「ではタンポポと────」

 

「────だから戻すな! というか髪から離れろ!」

 

 織姫が新たに現れた人物の名を口にする。

 

「黒崎…くん。」

*1
作者の多作品、『天の刃待たれ』の第1話などより

*2
第17話

*3
第10話より




作者: ……さて、書き続けるか。

ポイちゃん:ピ。

作者:……隣にすくす〇白澤のぬいぐるみを置いたら────

ポイちゃん:────ピ!

作者:チョコボ〇ック……だと?

ポイちゃん:(フンス!)


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第56話 “WRRRRY”じゃない人

お待たせしました! 次話です!

アンケートにご協力、ありがとうございました。


 ___________

 

 クルミ・プレラーリ、織姫、一護 視点

 ___________

 

『原作』より少し遅く登場した一護。

 

 それは単純に『瞬歩』を本格的に使ったのが『斬月のオッサン』との死闘、つまりは卍解会得時と、藍染と対峙した二つの場合(ぶっつけ本番)のみで、白哉と戦っていない一護は『瞬歩』を使った経験が多少同じ時点の『原作』より少なかった。*1

 

 故に()()()

 

 このような事態(ズレ)の可能性を配慮して『万が一』にと、いざとなれば時間稼ぎの保険に三月は織姫をクルミに尾行させていた(自分(三月)が別の事に巻き込まれたので。)

 

 それ等の事情を知らない一護は、周りの惨状を見渡して静かな怒りがこみ上げる。

 

「(竜貴……茶渡……井上────)」

 

「────ゴメンね、二人とも……私が……私が弱いから────」

 

「────謝んねぇでくれ、井上。」

 

「そうですね。 貴方(織姫)が居たから助かる命もある事を、お忘れなく。」

 

「ああ。 それに……俺がこいつらを倒して終わりだ! 『卍解』!」

 

 その瞬間、一護を中心に霊圧の柱に似た物の中から『卍解(天鎖斬月)』を解放して黒ずくめの姿で現れる。

 

「(……一護の様子がやはりおかしいですね。 『原作』より…『()()()()』しているように見えますね。)」

 

「(これが……黒崎くんの卍解? 霊圧が荒々しくて、ザラザラして、イライラして、濃くて息が詰まりそう。 まるで、()()()()()()()()みたい────)」

 

「────離れていてくれ、二人とも。」

 

 僅かに気ダルさとイラつきが混じった一護の言葉に、織姫は自分の違和感に確信を持つ。

 

「(やっぱり、何かが違う。)」

 

「………………おいウルキオラ。 こいつ────」

 

「────ああ。 オレンジ色の髪に黒い卍解。 アレが標的(ターゲット)だ。」

 

Suerte(ラッキー)! 手間が省け────!」

 

 ヒュッ!

 

 ドサッ。

 

「────な?! お、俺の腕ぇぇぇぇ?!」

 

 風を切る音に気付くと同時に、一護がいつの間にかヤミーの右腕を切り落としていた。

 

チャド(茶渡)の右腕の借り、返したぜ────!」

 

 そこから短期戦を挑む一護にヤミーは『原作通り』、徐々に翻弄されていく。

 

 一護に比べて動きが鈍足なヤミーは相手を砕く勢いの攻撃を繰り出す。

 だが一護のスピードに追い付けず、逆に一護はそのスピードを使って相手のスキを突く、『ヒット&アウェイ』攻撃を繰り返していた。

 

 一撃一撃が浅い代わりに確実なダメージを負うヤミー。

 

「ぐああああああ! もう我慢ならねぇ!」

 

 表面上だけ見れば満身創痍の彼はついに腰に掛けていた斬魄刀を、無事な左手で抜き始める。

 

「ヤミー、斬魄刀を使うのか?」

 

 ウルキオラの言葉に一護は先日平子に言われた言葉を思い出す。

 

「(やっぱり斬魄刀だったのか? それに『割れた虚の仮面』に『胸の穴』と『妙な霊圧』……こいつら、『同類』か?! 平子や────

 

 

 

 

 ────オレと)」

 

 ドクン

 

 ()()()そう思った瞬間、胸の奥から広がるざわめきと共に頭から体中に文字通り響き始める感覚()に苦しみだす。

 

「あ……く……」

「(いいかげんにオレとカワレイチゴォォォォォ────!)」

 

 それは、体の芯に氷を突き刺されて無理やり内臓などがえぐられる感覚に近かった。

 

「ガッ…あ……ッ?! (クソ、来やがったか?! 今はだめだ、消えろ!) グォ?!」

 

 急に様子がおかしくなった一護に間髪入れずヤミーが斬魄刀をしまい、素手での一方的な攻撃(なぶり殺し)をし始め、これを見た織姫は思わず彼の元へと駆け出す。

 

「黒崎くん────!」

 

「────井上さん?!」

 

「く…来るな、井上!」

 

 バキィ!

 

 近くに来た井上と彼女を止める為により前に出たクルミごと、ヤミーが殴る。

 

「────きゃ?!」

 

「────グッ?! (左半身、がッ!!!)」

 

「井上! クルミ────!」

 

「────ゴチャゴチャうるせえよ!」

 

 ドッ!

 

「グハァ?!」

 

 ヤミーが一護を殴り、今までやられていた鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように、彼をまた殺す一歩手前の力加減で殴り始める。

 

「(クソ、こんな時に…体が言う事を聞かねえ! 俺が……俺がテメェを拒否したら、今度はテメェが俺の邪魔をするって訳か!)」

 

「潰れろ、クソガキィ!」

 

「(俺は……()()何も出来ないのかよ……畜生…)」

 

 ギィン!

 

 意識がもうろうとし始めた一護へと、ヤミーが振り下ろす腕を赤い壁のようなものが止めた。

 

「どうも~、遅くなりましたぁ。♡」

 

「うら………はら………………………さん?」

 

「ワシも一応いるぞ。」

 

 ボロボロの一護の前に立っていたのは斬魄刀を構えた浦原喜助と、四楓院夜一の二人だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 二人の登場から『原作』と同じように、()()()()を使った夜一にまたも翻弄されるヤミーと、いまだに動かないウルキオラ。

 

 かいつまんで話すと、夜一は殴られたクルミと彼女が庇った織姫の二人を介抱……………

 ではなく、織姫の介抱をしていた。

 

 見るからにしてクルミがほとんどのダメージを肩代わりして、織姫より酷い怪我をしていたクルミが「織姫を先に」と頑なに夜一に頼んだからだ。

 

 あたかも自分の怪我を気にもしていないかのように。

 

 その間、ヤミーは至近距離の『虚閃(セロ)』を撃ち、浦原が自分の斬魄刀────『紅姫』を使ってそれを相殺する。

 

 そして浦原がこれ見よがしに飛ばし返した斬撃を、今になって動いたウルキオラが素手であしらい、ヤミーを連れてそのまま空間を割って身を退き始める。

 

 これに対し最後の一言、または嫌味を言うかのように夜一がウルキオラに声をかける。

 

「逃げる気か?」

 

「らしくない挑発だ、四楓院夜一。 貴様ら二人が死にぞこない共を庇いながら俺と戦うなど、どちらに分があるか分からんでもないだろう? それに任務は終えた。 藍染様には『貴方が目を付けた“()()()()()”は殺すに足りぬゴミでした』、と報告しておく。」

 

 ウルキオラがその場から消える際、彼は空座町の方角を一瞬だけ見る。

 

 それはヤミーの『魂吸(ゴンズイ)』から感じていた『違和感』からだった。 

 

魂吸(ゴンズイ)』は広範囲な技で、使えば霊圧の弱い生物などから無理やり魂魄をもぎ取るモノ。

 だがヤミーの吸った魂魄の数がどこか低かったようにウルキオラは感じていた。

 

「……考え過ぎか。

 

 だが任務も終わり、あとは藍染に報告するだけ、そしてそれまでは『現世』に全く関心を持たなかった彼はヤミーと共に空間の中へと消えた。

 

 ………

 ……

 …

 

 時を同じくして、場は白い軍服を着たハッシュヴァルトがどこかのビルの上から空座町を見下ろす景色に変わり、彼の背後に新たな男性が姿を見せる。

 

「どうだ、ナックルヴァール?」

 

 新たに表れた男の名は『アスキン・ナックルヴァール』と言い、見た目が某の奇妙な冒険に出てくる吸血鬼(WRRRRRY)(の黒髪版)にどことなく似ていた。

 

 彼はハッシュヴァルトや『バンビーズ』と同じく、『星十字騎士団』の一人でかなりの『()()()』。

 

 ちなみにマイが初めて彼を見た第一印象(感想)は────

 

「……『最高にハイってやつ』かしら~?」

 

 ────だった。

 

 これをアスキンは『ヤク中毒者?』と取ったらしく、初対面のマイ(女性)にそんなことを言われたのがかなり応えたのか、彼はその日から身だしなみにいつも以上に気を付けるようになっていた。

 

 よって『原作』と違い、彼のくせ毛(外ハネ)は何処にも見当たらず、髪の毛は整っていた。 

 彼の顔の前に垂れるアホ毛は健在だったが。

 

「おっとぉ。 陛下(ユーハバッハ)にどんどんと似ていくな、ハッシュヴァルト?」

 

「戯言は良い。 町の様子は?」

 

 アスキンは頬を掻きながら、溜息交じりにハッシュヴァルトの問いに答える。

 

「ハァ…流石に急に()()()を覆う結界は作れなかったからな。 あの虚達の現れた周りは無理だった。 が、『その他』は致命的になる前に何とか()()間に合わせたぜ。」

 

「そうか……………それで、()()調()()()()()()?」

 

 アスキンがニヒルな笑みを浮かべ、困ったように肩をすくめながら手を上げる。

 

「『ここ』じゃあ、良くて『全盛期の()()』…ってところさ。」

 

「……そこらのザコ()に遅れは取らないが、成体の『破面(アランカル)』相手では分が()()悪いか。」

 

「ま、場合によっちゃあ『致命的』というこった。」

 

 アスキンがさっきとは違って真剣な顔をする。

 

「もし『“あっち”に攻めこんで()()をブン捕ってくる』ってなら話は────」

 

「────駄目だ。 可能性はかなり低いと思われるが最悪、()()()()()の気に障る可能性がある。」

 

『次期女帝達』と言うハッシュヴァルトに、アスキンが真剣な表情から先ほどより更にニヒルな笑みと疑惑の目を向ける。

 

「『次期女帝達』、ねぇ?」

 

ナックルヴァール。 言い分があるなら申せ。

 

 学校では決して見せることも聞くこともない冷たいハッシュヴァルトに、アスキンの笑みが若干崩れる。

 

「…いや、お前があの嬢ちゃん達を『次期女帝』呼ばわりするのは勝手だがよ? ロバートも色々と頑張っているけどさ? ……あいつら、()()()()()みたいだぜ?」

 

 アスキンはハッシュヴァルトの反応をうかがうように一度そこで言葉を止め、彼の様子を見る。

 だがハッシュヴァルトは相変わらず冷めた表情で空座町を見下すだけだった。

 

「……てかよぉ? 今考えてみたんだけど…ロバートはともかく、()()()アイツらに()()感じているワケ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()。 他の皆にも『隠密行動を徹底せよ』、と伝えろ。」

 

「……あいよ。 担当地区のカラス野郎(死神)はどうする?」

 

「放っておけ、あんな小物。 いや……町の虚を出来るだけ奴に引き合わせろと皆に伝えておけ。」

 

「ハハハ! 『どうせいるのなら利用しよう』ってか?! アイツ(小物)にとっては致命的になるんじゃねぇの、それ?!」

 

 その時、車谷(小物)は寒気を感じると同時に盛大なクシャミを出したそうな。

 あと、その日から車谷は異様な数の虚に鉢合わせ始めて、以前身についてしまったサボり癖が抜き始めた。*2

 

 ___________

 

 カリン 視点

 ___________

 

「おっせーな、クルミの野郎。」

 

「ピ。」

 

「アイツ、やられたんじゃね?」

 

 ピ!

 

 ドスッ!

 

「あイで?!」

 

 ポイちゃんは乗っていたカリンの頭を思いっきり突いた。

 

 カリンはポイちゃんをクルミから預けられ、コンビニの外で雛森とチエが出てくるのを待ちながら、近くの電柱に背中を預けていた。 

 

 尚、今日の彼女はパンクファッション風のラフ服装。

 

「(急にアイツ(三月)に『今日は結界を張ってあいつら二人(チエと雛森)をコンビニに連れて行け』つったからそうしたが……) ハァ~、性に合わねえよ。 『子守り』なんて────」

 

「────誰の『子守』だ、カリン?」

 

「だからお────オワァ?!」

 

 カリンが上の空のまま愚痴を口にしていると、いつの間にかコンビニから出たチエの問いに思わず答えそうになる。

 

「お、おま?! ンンンッ…もう買うモノ、買ったのか?」

 

「??? ああ。」

 

 急に態度を変えたカリンを不思議に思いながらも、チエはこんもりとしたコンビニのバッグ(カロリーオバケ)を見せる。

 

「お待たせしましたカリンさん!」 

 

 支払いを終えてコンビニから出た雛森(こちらの手にもぎっしりと中身の詰まった袋)がカリンとポイちゃんに話しかける。

 

「ポイちゃんもいい子にしていましたか?」

 

 雛森のひらいた手の上に飛び移るポイちゃんはつぶらな瞳をキリっとし、胸を張る。 

 

「ピィ!」

 

「フフ、そうですか♪」

 

 だが雛森(と周りの通行人達)にとっては愛らしい小動物の仕草だけだった。

 

「(うーん…ガラじゃねえけど……絵になるな。 『ひな鳥(ポイちゃん)を、手のひらに乗せる、メロンパン(雛森)。』)」

 

 この微笑ましい場面を見ていたカリンはただ純粋にそう思った。

 

 ちゃんとした()になっていないとは言わない約束である。

 

「うるせえ! 書いてんじゃねぇかテメェ?!」

 

「誰に叫んでいるのだ、カリン?」

 

 

 ___________

 

 一護、織姫、浦原商店組、クルミ・プレラーリ 視点

 ___________

 

 腕の殆んどが千切られて意識のない茶渡と、ヤミーにボコボコにやられてボーっとする一護の二人を浦原が介抱していた。

 

 周りではウルル、ジン太、テッサイの三人がヤミーの『魂吸』を生き残った人たちと、亡くなった人たちの処理を進めていた。

 

 そして織姫は────

 

「待ってクルミちゃん!」

 

 ────その場をヨタヨタとおぼつかない足取りで、場を去ろうとしていたクルミを呼び止めていた。

 

「ッ……いえ。 ボクには…お構いなく。」

 

「この馬鹿者が。 せめて貴様が()()()()()()ぐらいに治してから行け。」

 

 夜一がからかい文句無しの(彼女らしくない)言葉をかけ、織姫がクルミの右腕を掴む。

 

「そ、そうだよ! 夜一さんの言う通りだよ! 腕も……足もそんなに曲げて、大丈夫なわけがないよ!」

 

「目の……錯覚です。 『ピサの斜塔』です。」

 

 クルミの左腕は肘が二つ通常とは逆方向に曲げていたかのようにいびつで、足に至ってほぼ全ての体重を無事な右半身に乗せていた。

 

 見えようによっては『ピサの斜塔』のように傾いていると見えなくもない。

 

『ピサの斜塔』の地盤の土が極めて不均質で実際に傾いているので、そちらも『錯覚』ではないが。

 

「…『双天(そうてん)』────!」

 

「────駄目です井上。 それは茶渡に続けてください。 彼は右腕をほとんど失くした状態です。」

 

 クルミはやっと出血が止まった茶渡を横目で見る。

 

「でも……でも!」

 

 織姫の悲痛に満ちた声に夜一が頭をガシガシと掻く。

 

「ならばどうすればいい? こ奴はお主の事が心配で、恐らくじゃがお主の容態の安否を確認するまで手を離さぬぞ?」

 

「(仕方ありませんね。) ……では()()()()()()。」

 

「「え。」」

 

 予想だにしなかったクルミの要求に夜一と織姫が目をパチクリとする。

 

「聞こえませんでしたか? 『血をください』、と言ったのです。 (これで諦めてくれれば────)────な?!」

 

 だが今度はクルミが驚愕する事となった。

 

「織姫! バカなことはよせ────!」

 

 夜一もいつもの冷静さはどこに行ったのか、かなり焦った声と共に風を切る音がした。

 

 だが上記の二人がした反応も仕方のない事。

 

 いつの間にかクルミの腕を離した織姫は、近くの地面に落ちていた石の破片で自分の手首を刺そうとして、ほぼ同時に夜一とクルミがそれを止めていた。

 

アホですか?! バカなのですか、貴方は?!

「(まったくです!)」

 

 クルミは『()()』と『()()』共々、織姫に怒った(呆れた)

 

「でもでも、これでクルミちゃんを助けられるのなら────!」

 

「────デモもストもスモモもありませんよ?!」

「(その通りです!)」

 

 クルミが使った言葉は以前のカリンが言ったモノと酷似していた。*3

 

「……えへ。」

 

 なぜか涙目になりながらの笑顔になる織姫に、苛立ちを更に感じるクルミ。

 

そこで笑いますか普通? あなた(織姫)、『アレ』ですか? 頭がお花畑なんですか? 

「(もうハッキリ言ってマイと同じね。)」

「(()()()()のアレは『あれ』でいいんです。 周りに桜やまったくもって不本意ですが海藻(慎二)もいますから。)」

 

「えへへ。 『こうやって叱られるの、()()()()()()()だなぁ~』、って。」

 

((ッ))

 

 涙ぐんだまま、はにかむ織姫に対し、クルミ(ライダー(バカンス体))は一瞬言葉を失った。

 

 彼女(織姫)の言った『お兄ちゃん以来』。

 

 それは別に『危険なモノから守る人(竜貴に一護)』や、『危ないものを注意する人(周囲の友人)』の事を示すのではなく、

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』の事だった。

 

 

 

 そんなことを知らない周りの人たち(クルミと夜一)や、事の成り行きを静観していた人や(浦原喜助)、遠くで作業をしていて騒ぎの原因をよく知らない者たち(ウルル、ジン太、テッサイ)

 

「ぇ。」

 

 だがそんな織姫を見て、()()()はただ優しく彼女を抱きしめ、聞きなれない声で喋る。

 

あまり自分を責めないでください。 アナタのその心は誰よりも清らかで美しく、()()()()()()()()()()()

 

「(クルミちゃん……じゃない? ()?)」

 

 クルミはそのままの足取りで場を去る。

 

 普通の織姫ならば追いかけているだろうが、今の彼女の頭にはクルミの言ったことでいっぱいだった。

 

 「……喜助────」

 

 「────大丈夫です夜一サン。 彼女のサンプル()は採取しておきました。」

 

 「これで『奴ら』の事がはっきりすると幸いじゃがな…」

 

 「まぁ、流石のボクも彼女たちの影響が『普通の人間』にまで及んだのは盲点だったッス。 黒崎サンの例があったとしてもね。」

 

 浦原はチラリと見たのは気を失った竜貴を含めた()()()()()()

 

『原作』では亡くなってしまった彼らは竜貴同様、ヤミーの『魂吸』を受けても衰弱しながら一命をとどめていた。

 

 理由は彼女(竜貴)と似た境遇に浦原は予測をつけ、とある『モドキ』達が脳裏をよぎり、『改造魂魄騒動』から持っていた違和感が強まった。*4

 

 「今はそれよりも……問題は、黒崎サンッスね」

 

 介抱されていた一護はあやふやな意識を持ったまま、ブツブツと何かを繰り返していた。

 

 

 

 

 

 

『ゴメン、すまない、弱くてゴメン、すまない』というループをただ延々と。

*1
第31話より

*2
第11話より

*3
第38話より

*4
第14話




作者:次の話、少し遅れるかもしれません。

一護: ……

作者:仕事ががががががが…


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第57話 チビは2㎝でもチビ

大変お待たせしました、少し短いですが次話です。

皆さんも、外出する際や体にはお気をつけてください。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 次の朝、一護のクラス内に千鶴の絶叫が響いた。

 

 ?!?!?!?!?! 織姫ちゃんの! 頭がぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 千鶴は頭に包帯、目には眼帯をした織姫を前に、アタフタと騒い(叫ん)でいた。

 

「ったく、ギャーギャー叫びやがって。」

「そうよ、頭に響くわ。」

「ま、()()キャンディちゃんやバンビちゃんに比べたら微々たるものだけどぉ?」

「気持ちは~、分からなくもないけど~。 ( ´•ω•` )」

「ふあぁぁぁぁ……クッソ眠いし、ダルいし、今日に限って()()()()揃って休みを取りやがるし……次からはサボるか。」

「そん時はアタシも誘え、リル」

「テメェは()()から却下だ、キャンディ」

「あ″?」

「それならぁ~、今度は皆でピックニックにしましょうよ~?」

「それならボク達も行くぅ~!」

「ま、まぁあの『マイ』って奴の料理は美味いからね。」

「「「「『マイ』だけに『ウ()()』って、バンビ/バンビちゃん/クソビッチサイテー。」」」」

 

「……なんでこんな時だけ気が合うのよアンタたち?」

 

 平常運転の(イライラする)キャンディス、バンビエッタ、二人を茶化すジゼルと同意するミニーニャ、そして盛大に欠伸と愚痴を出すリルトットの『サボり予定』でバンビエッタ以外の『バンビーズ』が全員、リーダー(自称)の彼女(バンビエッタ)に対して辛辣になる。

 

 その間、織姫は気まずそうに頬を掻きながら千鶴に言い訳をする。

 

「ア、アハハハハ~。 ちょ、ちょ~っと転んじゃって────♪」

 

「────『ちょ~っと転んじゃって♪』、じゃ?! ないわよぉぉぉ?!」

 

 その間、一護は(織姫と同じように)包帯をしながらも静かに周りを見渡した。

 

 休みを取ったチャド(茶渡)の空席。

 疲れ気味でボーっとして窓の外を見る竜貴。

 乾いた笑いをあげて必死に明るく友人をごまかそうとする織姫。

 

 休みを取っている石田(雨竜)(と珍しく渡辺姉妹達)はともかく、上記の三人は()()()()()()死にかけた友人たち。

 

 一護が自分の不甲斐無さに思い浸っていた時、彼の教室のドアが勢いよく開かれる。

 

 ガラガラガラガラ!

 

 入ってきたのは()()()()()()()()

 

「誰アイツ?」

「また転入生?」

「でもそんなの誰も聞いていないわよね?」

 

 クラスの皆が不思議がっている間にも彼女は入って来るなり、ズカズカと座っていた一護へ一直線に歩いて彼の首根っこを無理やり上に引きずって立たせる。

 

「ヌワッ?! 誰だ?!」

 

「オイ、なんだそのフヌケ顔は?」 

 

「んな?! て、テメェは────?!」

 

「────面を貸せ、一護!」

 

「だからどこの不良だ────ってシャツを引っ張んなよ?! なんで()()()ここに────?!」

 

 ガラガラガラガラ、ピシャン

 

 嵐のように来ては去った少女が一護を連れだして、クラスのドアが閉まる。

 

「…あの子、誰だ?」

「というか黒崎の反応からして二人とも顔見知りぽかったな? まさか……アイツの彼女か?!」

「な~んか()()()渡辺になんとなく似ていたような……」

「それにウチの学校の制服を着ていたということは────?」

 

 クラスがザワザワとする中、織姫は少女の名を思い浮かべていた。

 

「(今のは…………朽木さん? こっち(現世)に来ていたの?)」

 

「お、おい! 校門を見ろよ?!」

 

 クラスの男子の声により1年3組が窓際へと移動すると、学校のグラウンドで何かギャアギャアと騒ぐ一護と黒髪少女(朽木ルキア)が校門で待っていた人たちのところまで連れて行くと、一護が固まるのが見えた。

 

「お、おいアレ…やばくね?」

「あの赤髪と木刀を持ってるハゲは誰だ?」

「黒崎の知り合い…にしては一護あまり、はしゃいでいないな?」

「ハゲ…」

「金髪巨乳……イイ」

「ハゲだ。」

「あの小学生、頭を染めているのか?!」

「金髪巨乳……」

「しかも銀髪って……」

「巨乳……」

 

「(あれは…)」

 

 他の生徒たちや織姫と違い、『滅却師組』が面倒くさそうに小声で互いに愚痴る。

 

「チッ。 ハッシュヴァルト、これがテメェの言ってたことかよ?」

「道理でぇ~、今日の朝みんなピリピリしていたわけねぇ~? ( ̄- ̄;) 」

「ええ。 ですから皆さん、()便()()行動しましょう。」

「ん? あれは……陛下?」

 

「「「「「「え。」」」」」」

 

 尚、ミニーニャの場合は顔が Σ ( : ౦ ロ ౦ : ) と変わっただけ。

 

『バンビーズ』&ハッシュヴァルト達が窓のほうを見ると丁度チエらしき人物がビンタを一護にお見舞いしていたところだった。

 

「「「「「滅茶苦茶イタソー。」」」」」

 

 ………

 ……

 …

 

「呆けるな一護。」

 

 バシィン!

 

「ブホォ?!」

 

 猛烈な痛みを左の頬で感じながら急な衝撃で回る視界でチエと、彼女の周りに人達をもう一度見る。

 

「れ、恋次?! 一角に、弓親に、乱菊さん?!」

 

「テメェ、乱菊にだけ『さん付け』かよ────」

 

「────それに()()()?! 何でお前らがここに?!」

 

「日番谷隊長だ。」

 

「シ、シロch────」

 

「────雛森はすこし黙っていろ。」

 

 イラつくシロちゃん…日番谷を落ちつかせようとする雛森の言葉を、彼が遮る。

 

「????????????」

 

 一護が無数に?マークを出して日番谷をジロジロと見る。

 

「……なんだよ。 なにか言う事でもあんのか?」

 

 平衡感覚が戻った一護は立ちあがり、日番谷をより更によく見る。

 

「おまえ、本当に冬獅郎か? まえ会った時よりなんか…()()ような……」

 

 そして日番谷が前みた時より僅かに()()()()()()()()ことに気付く。

 

「あ、そうか! お前、少しデカくなったのか!」

 

 本来なら日番谷にとってデリケートな話題だが、一護が気付いたことにどこか満足するのかブチ切れずに …怒らずにただそっぽを向く。

 

「……俺だって、(藍染)の事件のあと何もしなかったワケじゃねぇ────って、今はそんな事より『破面(アランカル)』の事だ。」

 

「アラン……なんだそれ?」

 

 一護の疑問に死神たちが呆れ、彼との付き合いが他より少々(微妙に?)長い恋次が一早くリカバーする。

 

「お前がボコボコにやられた野郎()どもの事だよ!」

 

「それで上からの命令が出てな。 『現世の駐屯地組、ならびに死神代行組と合流せよ』、と。」

 

「そこで『渡辺()()』と『死神代行』を訪ねてテメェのところに来たってワケだ、一護。」

 

「恋次、ルキア、一角……けど……俺────」

 

「────よし、来い一護。」

 

 タジタジとする一護にルキアが何かを思ったのか、彼女がまた彼を無理やりどこかへ引きずり出す。

 

「あ! ちょ?! マジで破れる! 破れるって!」

 

「その時はマイにでも縫ってもらえ。 チエも来てくれ。」

 

「そういう問題じゃねぇぇぇぇ!」

 

「ああ、分かった。」

 

「そこ、即答すんな! 断れよ! 隊長だろ?!」

 

「『隊長()()』だ。」

 

「だ、そうだ一護。 いいから来い!」

 

「だ、だから────どわぁぁ?!」

 

 一護が正論(言い訳)を言い出すと、チエが急に彼を体ごと肩に担ぎ上げる。

 

「────うるさいぞ一護。これで文句はないだろ?」

 

「お、お、お、大いにアリだ! こ、こ、こ、このバカヤロウ! お、おろせぇ────アァァァァァ?!」

 

 ルキアの後をチエが追い、恥ずかしい体勢のまま移動したことに一護が悲鳴を上げながら文字通り拉致される。

 

「……やっぱこうなったな。」

「あんだけフヌケた(ツラ)すりゃあ、誰でもそうなるだろうぜ。」

「僕はノーコメント。 面白くもなさそうだからね。」

 

 恋次、一角、弓親がタメ息混じりに彼らなりの愚痴を出す。

 

「……少し見ないうちに大きくなったね、日番谷君?」

 

 雛森(151㎝)日番谷(約135㎝)に微笑む。

 

「…日番谷隊長だ、雛森。 さっき黒崎の野郎にも言ったが、何もしないワケにはいかねぇからな。 それに……」

 

「??? どうしたの?」

 

 珍しく(?)言いよどんでそっぽを向ける日番谷に、声をかける雛森を周りの者たちが面白そうに息を潜める。

 

「その……『このままじゃダメだ』っと思ってな? これじゃあ、いつまで経ってもゴニョニョ護れねぇからな。」

 

「……でも、日番谷君はやっぱりすごいよ。 …………………私なんて……」

 

「ウオ?! あ、いや、オレは別に雛森を困らせたいワケじゃ?! そ、そ、そ、そうだ! げ、『現世』はどうだ雛森?!」

 

 シュンと顔を俯いて表情が暗くなり始めた雛森を前に、日番谷が慌てて話題を無理やり変える。

 

「あ! そうだ、日番谷君達にも『こんびに』の良さを────!」

 

 そこからは殆ど雛森の独壇場で、その場に残った死神たちの中で唯一彼女の話についていけたのが乱菊だった。

 

 

 ___________

 

 一護、チエ、ルキア 視点

 ___________

 

 場所は空座町の空中に変わり、悟魂手甲(ごこんてっこう)で死神化した一護の背中にルキア、二人の後を一護の体を背負ったチエが空座町を民家の屋根伝いで駆ける(曲光済み)。

 

「おいルキア! 急に何なんだよ────!」

 

「うるさい貴様、黙れ! ……そこだ!」

 

 ルキアが携帯から目を離して指をさし、一護がそれをたどるとちょうど出現したてなのかキョロキョロしている虚が見えた。

 

「(ほ、虚────!)」

 

「────よし、行って来い。」

 

 ゴッ!

 

「ウオ?!」

 

 ちょうど前もって話し合っていたのか、タイミングの合う動きでルキアが一護の背中から飛び、チエが彼の背中を蹴る。

 

 ズドン!

 

「いでででで…背骨にヒビ────おおう?!」

 

 空き地の平地に一護が着地して、虚が攻撃をする。

 

「チッ! 相変わらず人使いの荒い────!」

 

 一護が思わず、背中の『斬月』を手に取ろうとするがその動きが止まる。

 

「────ッチィ!」

 

「何をしている一護?! 斬魄刀を抜け!」

 

「言われなくても────!」

 

 ルキアの叫びに一護がイラついたまま、また『斬月』の柄を手にする。

 

 だが彼の脳裏に浮かんだのは『白い一護』で、その戸惑いに彼は虚の攻撃をまともに受ける。

 

「グァ?!」

 

「どうした一護?! お前はそんな男なのか?! 話を聞いたぞ! 貴様、茶渡がやられて、井上たちがやられてただひたすらに謝っていたそうだな?!」

 

「(あんの下駄帽子(浦原)!)」

 

「そんなにも恐ろしいのか?! 『敗北』や、『護れなかった』ことや────

 

 

 

 

 

 

 ────『()()()()』の事が?!」

 

 ルキアの言葉に一護の目が見開いて虚の攻撃中だとしても視線を彼女へとむける。

 

 ギィン!

 

「ぁ…」

 

「修行が足りないな一護。 戦いの最中に目を敵から離すとはな。」

 

 後ろからくる衝突の音で一護は振り向き、いつも持ち歩いている竹刀(に偽装した刀)で虚の爪を受け止めていたチエを見る。

 

 尚、一護の体は空き地の横に放置されていた。

 

「一護! 敗北が、仲間を守れなかったことが恐ろしければ強くなると誓えればいい。(今の……いや、()()()()私のように。)」

 

 ルキアの頭をよぎったのはいつかの、尊敬していた『志波海燕(しばかいえん)』を()()()()()()()()()()出来事。

 

 それは彼女自身のトラウマの源である事件で、彼女が以前、『志波岩鷲に殺されても文句はない』と言わせるほどのモノだった。*1

 

「……もしお前(一護)をほかの誰が信じなくとも……お前自身が自分を信じなくとも……その恐怖すら叩きのめせ! 胸を張りながら、それを成し遂げて見せろ! 私()信じ(知ってい)る『黒崎一護』は、そういう男だった筈だ!」

 

「……ワリィな、チエ。 選手交代だ!」

 

 一護は斬魄刀を抜き、チエが横へと移動した際に虚と彼が対面する形になる。

 

「(まさかこうも他人に指摘されるまで知らんフリしていたとは情けねぇな!)」

 

「(そうだ。 お前はそうだったはずだ、黒崎一護。)」

 

「(……やはりルキアに相談したのは正解だったか。)」

 

 三人がそれぞれの思いをしている内に虚を一護は撃退した。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「スンマセンでしたぁぁぁぁぁ!」

 

 場は空座第一高等学校にある一つの渡り廊下に移り、ルキア&チエに無理やり織姫に向かって土下座を強いられている一護。

 

「えっと……」

 

 織姫は目をパチクリとしながら困ったように一護、ルキア、チエ、一護の順に目を移す。

 

「井上……俺は、強くなる……()()()()強くなって、()()()()()()()。」

 

 そして困る織姫に一護は誓った。

 

 その姿は以前の子供の頃とルキア奪還時の誓いに再度、気合を入れる様だった。*2

 

 これを初めて聞いた織姫が明らかに心するのが見えて、涙ぐみながら()()()答える。

 

「……うん。 ありがとう黒崎くん……朽木さん……おかえりなさい!」

 

 ルキアは照れたのか、頬を掻きながらそっぽを笑顔の織姫に向けた。

*1
第27話より

*2
第6話、第21話より



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第58話 尸魂界からこんにちは

お待たせしました、次話です。


 ___________

 

 一護、チエ、ルキア 視点

 ___________

 

 「ね、(ねぇ)さ~~~~~~~~~~~ん!!!」

 

 一護の部屋にルキアが入った瞬間、コン(ぬいぐるみの体)が彼女の胸部装甲(ほぼ平坦な胸)へと飛ぶ。

 

 が、ルキアは彼の平べったい頭を空中で鷲掴みにし、床へと叩きつけてから足で踏みつける。

 

「お前も相変わらずだな、コン。」

 

「グヘ、グヘへへ。 (ねぇ)さんのこの迷いのない踏みつけ、久しぶりだ~……」

 

 どこか危ない領域(変態ゾーン)に入りそうな(入っている?)コンを無視して、ルキアが部屋の中を物珍しそうに見る。

 

 その間にコンをチエが抱き上げて、彼を自分の頭の上に乗せる。

 

「フ~ム。 こうしてはっきりと見るこの部屋も久しぶりだ! 『()()()』以来か?」

 

 ここでルキアの言う『()()()』とはもちろん、ルキアが一護に死神の力を譲歩した夜の事だった。*1

 

「変な言い方するなよ。」

 

 ただし聞き方次第では意味深な事に聞こえなくもない。

 

「このベッドも中々良いな。」

 

「人の部屋に入ってすぐ勝手に人のベッドに座んなよ。」

 

「お! この押入れがよさそうだな!」

 

 彼女が次に目を付けていたのは『原作』では大変お世話になった場所(押し入れ)

 

「無視すんなよ。 というか『よさそう』って、何にだ?」

 

「??? もちろん、私の寝床にだが?」

 

「……」

 

 そして普通ならここで何かを言う一護だが、彼はドア越しからでも聞こえてくる声達に気を取られ、そっちに聞き耳を立てていた。

 

『あの子とお兄ちゃん、どういう関係なのかな、お父さん?』

『よくぞ聞いた遊子! 聞こえた内容によるとそれは勿論、男と女の────』

『────ンフフフ~。 一護もお年頃だからしょうがないとして、お父さん(一心)は…………………………ねぇ~?』

『どああああああ! 今の無し! 無しだから母さん(真咲)その怖い笑顔を向けるのをやめてくれたまえぇぇぇぇ?!』

『お前ら二人に母さんもそろって、一兄の部屋の前で何しているの?』

『あら夏梨ちゃん、おかえりなさい。 一護がね? チエちゃん達とは違う女の子を連れ帰ってきたのよぉ?』

 

「(夏梨も居るのかよ。)」

 

 自分(一護)以外の、『家族のマジメ役(まともな奴)』が来たことにより一護は「事態は早く収束するだろう」と思いながら安心した。

 

『女の子なら小学ん時とかに連れ帰った時ことあったじゃん。』 

『なんだと?! お父さん、そんな話は聞いたことが無いぞ?!』

『だから、たつきちゃんとか、三月姉ちゃんとか。 というか遊子まで何を…』

『その二人とは違うの、夏梨ちゃん! お兄ちゃんとすごく親しいのは親しいんだけど、こう……………………もっと………………『()()()()()()()女の子っぽいの!』

 

 遊子の言葉で一護の頭の中で蘇りそうになったのは、いつかのケガをしたチエが(少なくとも当時は)『包帯』と思っていたサラシをほどく姿。

 

 一護は上記の雑念を手で払いながらドアへとズンズン向かう。

 

『その線で行くとたつきちゃんもチエ姉ちゃんも高校入ってからエロい体になって来てるよ? 後者はよく隠しているけど。』

『マジで?! か、夏梨! そ、その話を詳しくお父さんに聞かせ────!』

 『────?』

ヒィィィィィィ?! ぼ、墓穴を掘っちまったぁぁぁぁ?!』

『バカオヤジが。』

 

 ついに一護は我慢できずにドアを勢いよく開けて、すぐ部屋の外にいた一心()遊子()真咲()の三人に怒鳴る。

 

 「そういう話は、本人が聞けねえところで勝手にやれぇぇぇぇ!」

 

「きゃあああ! ごめんなさい、お兄ちゃ~ん!」

 

「あらあら、ごめんなさいねぇ一護? ちょっと家の裏に行ってくるから()()来ないでね?」

 

「い、一護! 夏梨に遊子、頼む! お父さんの事務所の引き出しの中身を出して燃やし────?!」

 

 ドタドタと逃げる遊子、そしてどこか笑顔なのに笑顔ではない(激おこプンプンの)真咲に引きずられて、悲願する一心を一護達は見送った。

 

「…はぁ~…」

 

「相変わらずスゴイ家族だな! …………………………特にお前の母君の真咲が。」

 

「おふくろはともかく、他の奴らもか?」

 

「そうだぞ一護?」

 

「そっか……って、それは良いからとっとと『破面(アランカル)』ってのを教えろ。」

 

「それは────」

「「────(アタシ)たちが────」」

「────教えてやろう。」

 

 一護の部屋の電球カバーを外して彼の天井からひょっこりと弓親、乱菊、一角、恋次が姿を現す。

 

「うおい、ちょっと待てい! 人の部屋に何してんだ?!」

 

「いや、せっかくだから『電球(ツルツル頭)』とカケたのよ♡」

 

何をだ。」

 

 乱菊に対し、一角がこめかみと頭に青筋を浮かべる。

 

 新たに登場した乱菊(金髪碧眼巨乳)に、コンは────

 

ぼくまいさんのしゅぎょうもうやだ。」

 

 ────以前、空座町に帰還した一護に見せた幼稚化した言語で、ブルブルと震えながら自分の乗っているチエの頭の後ろに隠れて、『原作』とは大幅に違った行動をとっていた。*2

 

「(よほどマイにしごかれたな。)」

 

 そこで『原作』同様にルキアたちが『破面(アランカル)』の事を一護に説明した。

 

「つまり仮面を外した虚が『死神』の力を、前もって有った虚の力を同時に手に入れたのが『破面』だ。 今までは数も少なく『未完成』だったが、『崩玉』を持った藍染により『成体』、つまりは『完全体』が生まれてこの間お前が対峙した二体がその例だそうだ。 解かるか?」

 

 いつもの美的感性がズレた(ヘタクソな)絵をスケッチに書いたモノを一護にルキアが誇らしく見せる。

 

 そこにはタヌキかウサギなのかデフォルメ化した『なにか』が書かれていた。

 

「相変わらず下手くそな絵で、それさえ無けりゃ俺はもっと分かると思うけどな。」

 

 バシン!

 

 ルキアがスケッチブックを一護の顔面に放り投げると同時に、恋次が言葉を付け加える。

 

「当初、ソウル・ソサエティは藍染対策準備を進めていたんだ。 俺たち(護廷隊)もバタバタしていたし、瀞霊廷もガタがついていたからな。 だが予想外に『成体の破面』が『現世』に来たことが早かったんで急遽、俺たちが送り込まれたんだ。 援軍としてな。」

 

「……私にそういう報せは来なかったのはなぜだ?」

 

 チエの問いに気まずい空気が流れ、恋次が頭を掻きながら答える。

 

「……あー、山本総隊長がよ? 『じゃ、ワシも現世に行くぞい!』って興奮しだして、雀部副隊長とのケンカになってな? やっと落ち着いたところで折り合いの為についたのが先遣隊として、お前らをよく知っているルキアが選ばれて────」

 

「────ち、違うぞ!  実力で選ばれたのだ────!」

 

「────で、動ける奴らの中でルキアと近しい(恋次)が選ばれて、今度は俺が一番信頼できる奴を選べって言われたから一角さんを指名したんだ。」

 

「…………………………………それで他の者は?」

 

 チエがキョロキョロと一護の部屋を物珍しそうに見ていた弓親と乱菊を指さす。

 

「まぁ、『一角が行くなら僕も!』って弓親さんが言って、乱菊さんが『私もー!』って言い出して、日番谷隊長が引率として仕方なく来た感じだ。」

 

「「まるで遠足気分だな。」」

 

 チエと一護が同じジト目&トーン&言葉&タイミングでツッコむ。

 

「ともかくだ。」

 

 そこで乱菊の開けた窓から日番谷が入ってくる。

 ちなみに窓の位置は一護の家の真正面、二階である。

 

「「普通にドアから入れ。」」

 

 そしてまたもハモる一護&チエ。

 

 一護は義骸にい(普通の人からも見え)る死神たちが不審者として通報されるのを恐れ、チエは単なる『社会の常識』から言った。

 

「お前は藍染に狙われている、黒崎一護。」

 

「あ。 一人だけ天井裏に潜むのを断固拒否した、乗りの悪い日番谷隊長だ。」

 

 日番谷を『隊長』呼ばわりしながら彼をディスる乱菊(副隊長)

 

「窓が開くまでずっと外だったんすか? それ駄目っすよ、『銀髪小学生』なんて超目立つ────」

 

「────乱菊、阿散井……これが終わったら二人とも覚えておけよ?」

 

 怒りで爆発寸前の日番谷が深呼吸をして、一護達に現状の説明を続ける。

 

「ただそんじょそこらの虚の仮面を剥がしただけじゃあ大したものは出来ねぇ。 本気で戦争を吹っかけてくるのなら以前、お前が追い払った大虚(メノス)以上を破面(アランカル)化する筈だ。」

 

「その言い分じゃ、まるで大虚(メノス)の上の虚がいるという言い方に────?」

 

「────そうだ。 大虚(メノス)は更に三つの部類に分けられる。 一護、お前が追い払ったのは『ギリアン』というやつでこの三つの中では雑兵に値する。 特徴は数が多くて、共通している姿だ。」

 

「な?! アレが雑兵なのか?!」

 

 余談だがチエの頭上には以前、三月に無理やり一緒に見た(見せられた?)何某アニメ映画の登場人物(カオ〇シ)を思い浮かべていた。

 

 その間にも日番谷は、そのギリアンより上の『アジューカス』、ギリアンより上位種で知能が高く、いわゆる『ギリアンのまとめ役』の説明を簡単にした。

 

 そして最後に『ヴァストローデ』。

『最上級の大虚(メノス)』と言われ、で特徴は()()()()()()()()()()()()()()

 数は虚の生息地である虚圏(ウェコムンド)中でも数体だけで、一つ一つの()()()()()()()()()()()()()()

 

 それを聞いた一護は静かに汗を流す。

 もし本当にそうだとしたら、藍染はとんでもない化け物たちを()()()として共に襲ってくる想像が容易にできたからだ。

 

 更に完璧に余談ではあるが今クロサキ医院のダイニングでは畏まりながら根掘り葉掘り、一護との関係を聞かれてもはぐらかす雛森(現世の常識人)の姿があった。

 

 

 場面は一護の部屋に戻り、恋次や乱菊がそこら辺のモノを漁っていた。

 

「オイ、お前らいつ帰るんだ?」

 

「あ? なに言ってんだお前? 帰らねぇぞ? 少なくとも破面との戦いが終わるまでな。」

 

「『終わるまで』って……寝るとことかはどうするつもりなんだ?」

 

 一護の問いに恋次、乱菊、一角、そして弓親が()()ジーっと見る。

 

「そんな目で見ても俺のとこは無理だかんな、こんな大人数。」

 

「いや、俺らが見てんのは『隊長代理』の方だからな?」

 

「ん?」

 

 ここでコンを慰めていたチエが注目されていたのに気付く。

 

「?????」

 

「いやいや、アンタ…こっち(現世)で『拠点建設』の任に出ていただろうが?」

 

 チエの?マークに恋次が疑問気味に聞く。

 

 これも無理もなかった。 なにせそれはチエ自身が企画していたことではなく、三月たちが裏から手を回していたからにすぎなかった。

 

 もしあのまま瀞霊廷に居続けるとしたら、これから起きうるであろう襲撃などの()()()()が現世組を襲うときに身動きが取れなくなる。

 

 …………………あとはマユリ(解剖したがる人物)から逃げる為だったのは三月とクルミ、二人だけの秘密である。

 

「………………………………そう言えばそうだったな。 少し待っていろ。」

 

 長い沈黙の後、チエは全く慣れていない動作で出した携帯をいじり始めた。

 

「チエ、さかさまだぞ。」

 

「ん。 悪いなルキア。 何せ使い慣れていないものだからな。」

 

「私に貸せ。 どうせ三月を呼ぶのだろう?」

 

「ああ。 任せる。」

 

 そのやり取りは『機械に不慣れなお婆ちゃんを見ているのを我慢出来なかった孫に機械を譲る』シーンそのものだった。

 

「…………出ないぞ?」

 

「ではマイに電話をかけてくれ。」

 

 チエの携帯で今度はマイにルキアが掛ける。

 

「……もしもし、私だ。 いや詐欺ではないぞ? ……いやチエが不慣れだったので電話を借り────…………………?」

 

 ここでルキアが固まり、顔が『カァー』っと赤くなる。

 

「いや……忘れたわけでは……だが、答えなければならないか? どうしてもか? ……わ、分かった! だから最初の質問でいい! ……そ、そ、そ、その日はお前をか……か……か……『母様』と呼んだ日だ。」

 

「「「ブフ?!」」」

 

 もう今にでも爆発しそうな真っ赤になりモジモジとするルキアの言葉に、周りの何人かが吹き出す。

 

「こ、これでいいか?! よし! 良いな?! 実は現世に、私と数名が派遣されて住居に少し困っているのだ! …数?」

 

 ルキアがニマニマとして自分を見ている人たちを見渡す。

 

「い、今のは忘れろ! というか何人、世話になる?!」

 

「場所はどこ~?」

 

「アパートだ!」

 

「んじゃ、私は織姫んとこに泊めてもらうわ!」

 

「『もらうわ!』って、井上にはもう聞いたのかよ?」

 

「まだだけどあの子ならイヤって言わないでしょ♡」

 

 乱菊の答えに一護が違和感を持って質問すると案の定、彼の思っていた理不尽な答えが返ってくる。

 

「日番谷隊長はどうします?」

 

「勝手にやってるから気にすんな。」

 

「恋次たちはどうするのだ?」

 

「俺はちょっと浦原のとこに行ってくる。 ちょいと聞きたいこともあるしな。」

 

「???」

 

 恋次がジッとルキアを見て、ルキアは?マークを逆に飛ばす。

 

「僕達も日番谷隊長に見習って、自分たちで探すとするよ。」

 

「ああ、元より俺らは知り合いの世話になる気はねぇ。てめぇ(自分)の寝床ぐらい、てめぇ(自分)で探すさ。」

 

「……という訳で恐らくゼロだ……む、そうか? わかった。」

 

 ルキアが電話を切ってチエに携帯を渡すと────

 

「『母様』だってぇ~?」

「『母様』との電話はどうだったぁ~?」

 

 「────だから忘れろ!」

 

 ────やっと落ち着いたと思った矢先に、乱菊と恋次がまたも赤くなりつつあるルキアをからかう。

 

「なぁ、今思ったんだけどよ? 電話越しで信じてもらえなかったら、そのまま直接会いに行けば良かったんじゃねえか?」

 

「……………………………………………………あ。」

 

 一護の指摘(正論)にルキアはとうとう頭を抱える。

 

 そうしている内に死神たちは各々が空座町へと出かける。

 

 見送る一護とルキアとチエとやっと質問攻めから解放された雛森を残して。

 

「……ルキア。 そう言えばお前はどこで泊まる気だ?」

 

「??? 無論、ここ(一護の家)だが?」

 

「アホかテメェは?!」

 

「何故だ?!」

 

「(今晩の献立は何だろう?)」

 

 騒ぐ一護とルキアをそばに、チエが夕日暮れの、オレンジ色に染まりつつある空を見上げながらマイペースにそう思っていた。

 

「えっと…あの二人は止めなくていいんですかチエさん?」

 

「……ん? ああ、あの二人のじゃれあい方だ。 気にするな。」

 

「ハァ、そうですか…」

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場所はどこかの謁見の間の部屋に移り、片膝を床についていたウルキオラとヤミーを見下ろしていた一人の男が悠然と椅子に腰かけていた。

 

 その男の手前では様々な人影。

 

「おかえり、ウルキオラ。 見せてくれ。 『現世』で見聞き、そして感じた事を。」

 

「はい、藍染様。」

 

 他者を自然と垂れ流しの霊圧のみで周りを黙らせる圧を与えていたのは白い服装に変え、椅子に座っていた藍染惣右介だった。

 

 ウルキオラはそのまま自分の左目を自らの手でくりぬいて、それを砕く。

 

 チリと化した目が風に乗ったようにそこら中に散漫して、その場にいた者たちにウルキオラとヤミーが一護達と相対した景色などが直接、頭の中に流れこんでくる。

 

「……………………クク。」

 

 そこにお通や状態のような静けさが目立つ部屋の中で、誰かがほくそ笑む。

 

「ク……ククク……………ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 

 否。

 それは愉快な笑いへと化す。

 

 藍染がいる場でそんな事をすれば、誰であっても制裁の対象になりかねないというのに。

 

 笑いの元がその()()()()でなければだが。

 

 ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 

 まるで()()()()()()()()()()()()

 

 圧倒的強者の余裕の笑みを何時も浮かべている藍染が『()()()()()()()()()()』。

 

 この事実はその場に居合わせたどの人物にとっても奇怪なこと、または『圧倒的な畏怖』と感じることしか出来なかった。

 

 誰もが息を潜みながら動揺する中、やがて藍染の笑いが少しずつ収まっていく。

 

「クックック……成程。 『黒崎一護は我々の妨げ(さまたげ)にならない』と判断したのか。」

 

「はい。」

 

「は! (ぬる)いな、ウルキオラ!」

 

 そこで声を出して突っかかってきたのは端正な顔立ちに、水色のリーゼント風の髪をした『破面』の男性。

 

 どこからどう見ても(言動を含めて)一昔前の不良の格好をした彼の名は『グリムジョー・ジャガージャック』。

 

「それにヤミー! そんなにボロボロにやられても『殺しませんでした』が、『殺せませんでした』にしか聞こえねぇぜ、オイ?!」

 

「……グリムジョー、テメェ今のをちゃんと視ていなかったのかよ? 俺がやられたのはゲタと黒い女と金髪チビだ。」

 

「もっとストレートに言わなきゃ分かんねえか? 俺ならそいつらまとめて殺すっつってんだよ!」

 

 グリムジョーと闇の間にバチバチと火花が飛ぶどころか、ピリピリとした空気と殺気が飛び散って充満する。

 

 そこにウルキオラが言と物理的に体を挟む。

 

「グリムジョー。 藍染様が警戒されていたのは(黒崎一護)の『成長率』。 だが奴自身が非常に不安定で、放っておけば自滅かあるいは我々の手駒にできる可能性がある。」

 

「それを俺は『温い』って言ってんだよ! このままそいつが、俺らに盾ついたら────?!」

 

「────その時は俺が殺す。 文句はあるか?」

 

 珍しく言葉使いがきつくなったウルキオラに対して、グリムジョーが黙り込む。

 

「それで構わないよ、ウルキオラ。 ()()()()()()()()()()。」

 

「ありがとうございます。」

 

 ウルキオラが藍染に首を垂れる。

 

 ………

 ……

 …

 

「さっきはぎょうさん笑っていましたねぇ、藍染隊長?」

 

「聞こえていたのかい、ギン?」

 

 部屋で崩玉を眺めていた藍染の後ろからきたギンの声に彼が反応する。

 

「そりゃあ、あれだけ(わろ)てたら嫌でも噂が飛び散るわ……何か、あったんですか?」

 

「いや?」

 

 そこで藍染がクルリとギンに振り向き、ギンの心は体と共に冷たくなってギョッとするのを抑えて、いつもの様子(薄笑い)を表面上だけでも保とうと必死だった。

 

「どうしたんだい、ギン?」

 

「いや……藍染隊長がそこまで()()なとこ、初めて見たんで。」

 

 ギンが見た藍染の笑顔が『おぞましい』、というだけでは済まされなかったモノだった。

 

 それは『狂気』、『愉悦』、『快楽』というようなモノ達がすべて、コンクリートミキサーにブチ込まれてじっくりと混ぜられてから数年越しに出てきたような、この世とは思えない表情と目をしていた。

 

 実際、藍染のそばに付いてからかなりの年数も居て、藍染の数々のしでかした業を直に見てきたギンでさえも『純粋な畏怖』から身震いを止められなかったほどである。

 

「そうかい? 私が笑うことにそんなにも驚くことか? ……クククククク……」

 

 何時も冷静沈着な藍染がこれほど感じていた感情をそのまま外に出すのはギンにもとっては初めてだった。

 

 故に聞かれずにはいられなかった。

 

「そこまで愉快になったんは何なんですか?」

 

「いやなに、何てことはないさギン。 ああ、それとグリムジョーには後で私の部屋に来てくれと伝えてくれるかな? ククククク………………」

 

 グリムジョーが部屋を訪れるまで藍染はただただクツクツとした笑いをその日、続けた。

*1
第11話

*2
第48話より




いつも読んでくれている方たちに感謝を、誠にありがとうございます。


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第59話 毒舌のチビ VS キツイ口調のチビ

次話です。

楽しんでいただけると幸いです。


 ___________

 

 一護、ルキア 視点

 ___________

 

「────そんなこんなで私は………住む場所もお金もなくしたのです。 シクシクシク…」

 

 ルキアは一護の家族を前に、『原作』でも使っていた作り話&ウソ泣きを使って泊まろうとしていた。

 

 もちろん彼女としては贅沢三味ができるチエたちのアパートに泊まりたかったのだが、『総隊長命令』もあったので一護(監視対象)の近くに居なければならなかった。

 

 そこで思いついたのが一護の部屋の押し入れだった。

 

 なんともまぁ、発想が彼女(ルキア)らしいと言えばそこまでなのだが。

 

「「泊めてあげてお父さん/一心!」」

 

「よく言った遊子&母さん(真咲)! 丁度お父さんもそう思っていたところだ! 好きなだけウチに泊まりなさい、ルキアちゃんッ!」

 

 頭と左の耳に包帯を巻いていた父の一心、母の真咲、妹の遊子を『マジかこいつら?』と見ていた一護に、どや顔のルキアが親指をグッと立てていた。

 

「演技だってバレるぞ、ルキア。」

 

 黒崎家が(ジト目の夏梨を除いて)騒ぐなか、チエは先日あった時の一心の頼みを思い出していた。

 

 それは一コンが虚に追いかけられた夜、彼に約束された事だった。

 

「(『自分から正体や事情を話すまで、一護達やソウル・ソサエティの皆には何も言わないでくれ』、か…)」

 

 

 そして少々の話し合いの末、ルキアがあてがわれたのは遊子と夏梨たちの部屋だった。

 

「どうしてこうなるのだ?」

 

 だがルキアには不満だったらしく、彼女は自分の持ってきた工具や小物を名誉惜しそうに見る。

 

「ま、こうなるのが普通だな。 てか何持って来たんだ?」

 

「貴様の小汚い押し入れを、より快適に過ごせるように持ってきた品だ!」

 

「没収。」

 

「ああ! 何をする貴様?!」

 

「小型照明に小窓に呼び鈴にあんま機に……おまえ、本格的だな? というか、なんで呼び鈴?」

 

「お前を呼ぶためにだ。」

 

「オレは召使かよ?!」

 

「意外と心が狭いな一護! マイ達は潔く受け取っていたぞ!」

 

「尚更────ん? マイ()?」

 

 一護がルキアの言葉に違和感を持ってチエのほうに振り向く。

 

「ん? ああ、その事か。 マイと三月がな、『召使(めいど)ごっこ』足るモノを始めて────?」

 

「────なん……だと?

 

 

 ___________

 

 マイ 視点

 ___________

 

「へぷち。」

 

「おや、かわいいクシャミですね。」

 

「あら~、照れちゃうわ~。 ああ、それから商店街の藤宮さんのお店では────」

 

 マイがアパートのゴミの分別や、近所の説明を(暇を持て余していた)滅却師の何人かに教え終わった頃に雛森と日番谷の二人がちょうど歩いてきていた。

 

「ただいま、マイさん。」

 

「あらぁ~? おかえりなさい雛森ちゃん~。」

 

「お前が『マイ』って野郎か。」

 

「う~ん、性別的には女性だから『野郎』はちょっと合わないわね~? というかこの子誰~? 雛森ちゃんの弟かしら~?」

 

 何時もの『のほほん』、または『ホワ~ン』としたマイが日番谷の頭を撫でながら日番谷の事を雛森に聞くと、彼がその手を乱暴に払う。

 

「日番谷冬獅郎、十番隊の隊長だ。」

 

「日、日番谷くん?! ごめんなさいマイさん、いつもはこんなんじゃないんですけどちょっと照れちゃっているみたいで────!」

 

 日番谷の顔がブッス~と不貞腐れ、雛森が慌てる。

 

「────あらあらあら~、じゃあ『シロちゃん』と呼ぶわね~?」

 

「なんでそうなる! 日番谷! 隊長d────」

 

「────えい♡」

 

 ポヨン♪

 

「んぶ?!」

 

 マイが急に怒り出す日番谷を抱きしめ、彼の頭が文字通りに彼女の胸に埋もれた。

 

「え? え?! え?! ま、マイさん?!」

 

「んー! んー!!!

 

「ンフフフ~、やっぱり似ているわ~。 抱き心地が。 (特にシン(慎二)ちゃんと♡)」

 

 マイが『とある世界(『天の刃よ待たれ』)』で世話を見てい()義兄妹の片割れ(間桐慎二)を思い出しながら、もがく日番谷の頭をそのまま撫でる。

 

「……」

 

「ブハァ! は、離せ! 俺は子供じゃねぇっての!」

 

 何とか力尽くで、マイの抱擁から顔だけ出す日番谷が抗議の声を上げる。

 

「あん♡ そんなに強く押さないで~?」

 

 だがマシュマロ部分()を押し返した力が強かったのか、マイが()()()を出し、雛森が赤くなりながら顔を不機嫌に逸らす。

 

「シロちゃんのエッチ!」

 

「んな?!」 

 

 日番谷は明らかに今まで一番のショックを受けて、赤らめた頬が青くなる。

 

 漫画で言うのなら『ガァーン』効果音がまさしく出ていただろう。

 

「なんでだよ?! 俺、何もしてねえじゃねえか?!」

 

「ンンンンッ♡ そんなにモゾモゾしながら触ると────」

 

「────いい加減に俺を離せぇぇぇぇ!」

 

 パシャ。

 

 カメラのシャッター音に三人が音のした方向を見る。

 

()()()()()場面、撮ったりぃですぅー。」

 

 そこには(クルミが着ていた制服と同じデザイン(穂群原学園)の)制服を着たリカが(彼女には本来似合わない筈の)妖艶な笑みを浮かべていた。

 

 長い袖の中から珍しく手を出して、携帯を握りながら。

 

「……えっとぉ~? リカはその写真をどうするつもりなのですか~?」

 

「もちろん、先生()ワカメ(慎二)に見せま────」

 

 ────ヒュン!

 ガシ! バキバキバキバキバキバキバキ!

 

 気付けばマイがいつの間にかリカの近くに移動し、彼女の携帯を取り上げて()()()握り潰していた。

 

「駄目よぉリカ~?

 

 

 

 

 貴方も握り潰しちゃうゾ☆」

 

 笑いながらマイがグイグイとリカの顔に迫る。

 

「…………………………………………ぜ、ぜ、ぜ、善処します。」

 

 珍しくリカの表情をいつものダルそうな物から目を見開きながら苦笑いする顔へと変えて、冷や汗を大量に流す。

 

 その間、呆けていた日番谷が顔を両手で覆って愚痴をこぼす。

 

ゴニョニョ(雛森)様子を見に来ただけなのにどうしてこうなった……………誰か俺とこの位置を変わってくれ……」

 

当たらない氷輪丸(日番谷)氏、それは無理があるというものですよ」

 

「うるせぇ! なんだそのネーミングは?!」

 

 尚、日番谷は雛森が住んでいるアパートと見える範囲以内の住人やマイの事情を聞き始めた。

 

「で? お前らは誰だ? 雛森とはどういう関係なんだ?」

 

「ん~? 私はマイ・プレラーリ・渡辺です~。 このアパートの『管理人代理』でぇ~、ヒナモちゃん達のサポートをしていま~す♪」

 

「ボクは────」

 

「────テメェはいい。 科学バカオヤジ()がイヤというほど喋るからな。」

 

「おや? マユちゃん(マユリ)が? ……………フーム…」

 

 そこでリカが新たな携帯をポケットから出してポチポチといじる。

 

 ピロン♪

 

「『送信』、と。」

 

 は~ひふ~へほ~!

 

 似合わない(?)高笑いをするマユリの声がリカの携帯からする。

 

「お、返事早いですね、さすがマユちゃん(マユリ)────」

 

「────ちょ、ちょっと待ってリカ。 今の、なに?」

 

 いつもと違う口調のマイが純粋に困惑する。

 

マユちゃん(マユリ)に頼んで、録音しました。」

 

「「「………………………」」」

 

「彼からのメッセージ着メロです。」

 

『さもありなん』というかのように答えたリカに対して雛森、日番谷、マイの三人が唖然とする。

 

「お~いマイ、ちっと話をしても────ん?」

 

 そこで姿を現したのは棒付きキャンディを口にくわえたリルトットで、日番谷に気付くと彼をジロジロと見る。

 

「んー……」

 

「んだよ、テメェは?」

 

変な髪の色(銀髪)のマセたチビのくせに生意気な口だなテメェ。」

 

 リルトットが(毒舌のチビ)日番谷(キツイ口調のチビ)にいつもの荒い口調を披露すると、アニメで俗に言う大きな怒りマークが日番谷の頭に現れて彼がワナワナと震えだす。

 

「あ?! テメェこそチビじゃねえか、このクソチビ!

 

 今度は日番谷(約135㎝)リルトット(ほぼ同じ身長)に言い返す。

 

「あんだと? オレはテメェほどチビじゃねえよ。 ブチこr────!」

 

 ガシッ!

 

 どんどんヒートアップする二人の頭をマイが鷲掴みにし、二人を地面から持ち上げる。

 

「「いででででででで! 抜ける抜ける抜ける首が抜けるぅぅぅぅ!!!」」

 

 当然この行為が痛くないワケでもなく、日番谷とリルトットがマイの腕を掴んで暴れる。

 

 喧嘩は両成敗でいいわよね? ♡」

 

 その場にいた雛森は背中越しとは言え、マイから黒いモヤのようなモノと異様な『圧』を感じて肝を冷やし、それを直に正面から受けた小柄な二人(日番谷&リルトット)は目が点になりながら青ざめ、謝罪の言葉を同時に出す。

 

「「スミマセンデシタ。」」

 

 ちなみにリルトットの様子を見に、顔を出した『バンビーズ(滅却師五人衆)』はこの一連の出来事を見た途端そっとドアを閉めてい(彼女を見捨て)た。

 

 下ろされた後、リルトットはそそくさとアパートの部屋の中に入り────

 

 ドガシャァン

 

 『テメェら! よくもオレを見捨てやがったなこのクソどもがぁぁぁ?!』

 

『────』

 

 『うるせぇぇぇぇぇ!』

 

 バリン!  

 バキバキバキバキバキバキ

 

 ────部屋の中からはモノが投げられたり、割れたりする音と、抗議であろう声がリルトットの叫びにかき消される。

 

「う~ん、壁に防音機能を追加しているのに流石ね~?」*1

 

「完璧に外から聞くとDVモノですね。」

 

「あの、リカちゃん? 『でぃーぶぃー』って?」

 

 

 

 やっと落ちつきを取り戻した日番谷は『乱菊を見てくる』と言い、織姫のアパートの方向へと歩きだすとマイが彼に声をかける。

 

「あ! ちょっと待って~!」

 

あ″?」

 

 明らかに嫌がる顔を露わにする日番谷にマイが部屋の中の冷蔵庫から袋を出して、それを日番谷の居たところに持っていく。

 

「これ、おにぎりとデザートです♪」 

 

「あ、ああ?」

 

 マイの変わらない態度に少し毒気を抜かれた日番谷が、袋を疑問の顔をしたまま素直に受け取る。

 

「居場所が見つからなかったら、いつでも戻って来ても良いからねぇ~?」

 

「行かねぇよ。 余計なお世話だ。」

 

「フフッ♪」

 

「……チッ!」

 

 マイに調子がずっと狂われる日番谷であった。

 

 

 ___________

 

 織姫 視点

 ___________

 

「……」

 

 ピンポーン。

 

 時間は夕方、落ち込んでいた織姫のアパートの呼び鈴が鳴る。

 

「あ……はーい! (誰だろう?)」

 

 ピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポーン!

 

 呼び鈴が立て続けに鳴らされ、織姫がドアを開けると乱菊と(彼女に首根っこを掴まれて持ち上げられた)クルミの二人がいた。

 

「織姫、ちょっとここに私を泊まらせて────!」

「────もういいですからボクから手を放してくださいというかなぜ皆こうするのです────?」

「────泊まりたいって、うちにですか乱菊さん────?」

「────ええ! いいでしょ織姫────?」

「────ボクを無視しないでください────」

「────別にいいですけど?」

 

「ありがとう織姫!」

「「ヘブ?!」」

 

 首根っこを離されたクルミが地面に落ちて乱菊に抱きしめられた織姫の二人が同時に変な声を出す。

 

「助かる~! お風呂貸して~! もう、すごい汗掻いちゃってさぁ! 谷間が気持ち悪いのよ!」

 

「あの、なんでクルミちゃんもここに?」

 

「理由は特に無いd────」

 

「────ああ! この子ったらアンタのアパートの前でウロウロしていたから多分、話があったんじゃないの?」

 

「え? そうなの?」

 

「…………………………………………忘れてください。」

 

 クルミはそのまま立ち上がり、ホコリを払ってからその場を後にする。

 

「……何だったんだろうね、織姫?」

 

「えっと……私に聞かれても……」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

『フハァ~、生き返る~!』

 

「お湯加減、どうですか?」

 

 脱衣室のドア越しに織姫が中にいる乱菊に聞く。

 

『もう最高! ……ねぇ織姫? 何で今日はそんなに元気が無いの?』

 

「……」

 

 織姫は体をビクリとさせる。

 

『相談しなさい、聞いたげるから。』

 

「……その……………『朽木さん()はすごいなぁ』って。 

 ぶっきらぼうでも優しくて……

 強くて……

 頼りになって……

 きれいで……

 私がどれだけ考えても、上手く言葉が見つからなかったのに…すぐ黒崎くんを元気にして……

 私は、『黒崎くんが元気になればいいや』って思ってたの。

 でも……」

 

 そこで織姫の涙ぐんだ目からポロポロと雫が落ちて、体育座りの彼女は自分の膝を抱きながらその膝に顔を埋める。

 

「………………私…嫉妬しちゃってるの……」

 

 それは織姫の人生でおそらく初の、自分の気持ちがハッキリと分かったことが耐えられず体の外へと内心が漏れ出した瞬間。

 

「私……みんなの事が大好きな筈なのに……学校ではそんなことは思わないのに……独りになるとそれだけしか考えられない、いやらしい子で……かっこ悪い子になっちゃうの……」

 

 何時もの彼女ならよくわからないまま気持ちが薄れていく、または長く続かない。

 

 だがどういう訳か今回の気持ちは薄くなるどころか強まり、元気になった一護を見た瞬間に理解し、苦悩していた。

 

 ガチャ!

 

「え?」

 

 乱菊は全裸のまま風呂場から出て、床にうずくまりながら泣いている織姫を抱きしめる。

 

「何言ってんのよ。 バカね、一護はまだ自分一人では立てない子供よ? 今のあの子にはアンタや、朽木達が必要なのよ。」

 

「でも……私がいても黒崎くんは……」

 

「それにね?  あんたはそんな自分を受けとめようとしているじゃない。

 それってほとんどの人が出来ない、立派な事よ?

 だからアタシからすれば充分、織姫はカッコいいわよ?」

 

「……乱菊……さん……う……うえぇぇぇぇぇぇ…」

 

「よーしよしよしよし! 泣いちゃいな! アタシの胸でいいなら受け止めてやるから!」

 

 ついに泣き出す織姫が乱菊の胸の中に顔を埋めて、乱菊は彼女の頭をわしゃわしゃと優しく掻く。

 

 場面はちょうど織姫の部屋の上にある、アパートビルの屋上に移り、動いた人影から月光によってその人物の金色の髪が一瞬キラッと反射したところで日番谷の声が聞こえる。

 

「もういいのか?」

 

「ええ。 そう言うアナタは?」

 

「……部下がここにいるからな。 変なことをしでかさないように、見張っているさ。」

 

「そうですか。」

 

 それを最後に、日番谷は夜の空座町に溶け込むクルミを見届けた。

 

「……意外と早いな、アイツ。 『天女』は伊達じゃねぇってか?」

 

 ………

 ……

 …

 

「うんまーい! 織姫の料理、おいしい~!」

 

 乱菊が風呂から出た後、織姫のゲテモノ 手料理に感心の言葉を出す。

 

「ほ、本当?! よかった~! いくら作っても、誰も食べてくれないから…もしかしたら『私の舌が変なのかな?』って思ってたの!」

 

「まぁ……見た目は()()だったけど、味()良かったわよ?」

 

 余談だが、本日の織姫が晩ご飯として出したのは冷凍チャーハンの上に納豆、冷凍から揚げ、ウィンナーを盛り合わせた一品だった。

 

 書いているだけでお腹に来ます。

 

「あ! そうだ! 乱菊さん、アイス食べますか?!」

 

「食べるー!」

 

 そこで出たのはハーゲ〇ダッツのクッキー&クリームのアイス。

 

 500mlカップサイズ。

 

 ………………こちらもゴチです。

 

「「うま~~~~い!!!」」

 

 カロリーや栄養の事を考えなくてもいい女性(織姫)と、考えることを放棄した女性(乱菊)二人の暴食の夜が続くのだった。

 

 余談だがその夜、日番谷はマイに渡された袋の中にあったシャケマヨおにぎりとたくあんを美味しく頂いたそうな。

 

 ちゃっかり保冷(ほれい)の効いたプリンも。

 

 この時のプリンが冷蔵庫から無くなった事にその夜、マイのアパート部屋で声を荒げる少女が一人いたのを日番谷は知らない。

 

「なに勝手にウチの(もん)を他人にあげとんねん?!」

 

「だって~、あの子(日番谷)ったらアナタみたいに捻くれているから~────」

 

 「────ウチのどこが捻くれてんねん?! リサと組んでもげるまで揉むでコラァ?!」

 

「安心しぃ、ウチは自分の分はもう食うたから。」

 

「ぜんっぜん気休めやないわリサァ! その親指へし折って天ぷらにするで?!」

 

「あと揉む時はいつにする?」

 

「えええい! どいつもこいつも!」

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「チッ! どういう事だこりゃあ?」

 

 その夜、空座町のビルの上で座っていたグリムジョーが舌打ちを打った。

 

 彼は藍染が気になっていた者たちに対し、自分も興味を持ち自分の部下五人と現世の空座町に来ていた。

 

「ウルキオラとの情報と一致しない。」

 

 始めに喋ったのは落ち着いた細いお下げにこけた頬を持つ男────『シャウロン・クーファン』。

 

調査神経(ペスキス)をここに来るまで使いましたが、霊圧の高い人数が増えています。」

 

 次はおかっぱで太った男の『ナキーム・グリンディーナ』がシャウロンの言葉に付け加える。

 

「……尸魂界(ソウル・ソサエティ)から援軍を呼んだか……めんどくせぇ事になったな。」

 

 グリムジョーが他のソワソワしている部下たちを見渡す。

 

「ディ・ロイ、エドラド、イールフォルト。 シャウロンにナキームもだ、行くぞ────」

 

 グリムジョーが立ち上がる。

 

「────蹂躙の時間だ。」

 

 彼の言葉が引き金だったかのように、それぞれの破面が急激なスピードを出して別方向へと飛び散る。

*1
第15話より




ひよ里:お前のプリン頂くで?! ……って冷蔵庫の中身しょうもな!

作者:あー、買い出しに出るの忘れてた

ひよ里:しょうがないから炭酸で見逃したるわ! ……炭酸も無いやんけ?!

作者:カロリーが……

ひよ里:買ってこい、ハゲ!

作者:いつも思うけどよく大声で叫んでられるね?

平子:こいつ生意気にボイストレーニングしてんねん。 浦原にずぅぅぅぅぅぅぅっと叫んでられるように

ひよ里:ネタバレすんなクソ真子!


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第60話 破面の襲撃、第一波

お待たせしました次話です!

拙い部分などあるかもしれませんが、楽しんでいただけると幸いです!

あと、外出する際には皆さん充分にお気をつけてください。

8/1/2021 10:25
誤字修正しました。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「ッ! これは────?!」

 

 雛森が破面達の霊圧を感じたのか、急に立ち上がる。

 

「あー、来てもうたか。」

 

「……ま、いいんじゃね? 今、おもろいトコロなんやし。 番組の。」

 

 同じ部屋の中にはあぐらを掻きながらテレビを見ていたひよ里。

 そして布団の上で片手に雑誌、もう片方の手でポテトチップスを食べながらくつろいでいたリサ。

 

 その二人をよそに雛森が義魂丸を服用して、死神化する。

 

「お、お二人は何をしているんですか?!」

 

「テレビ見とる。」

くつろいでい(エロ雑誌よんど)る。」

 

 全く動く気配のない先輩方二人の反応を見て、雛森はびっくりする。

 

 なお雛森はひよ里とリサの二人が110年前に藍染の策略で、ソウル・ソサエティを去った元死神たちだというのは説明を受けていた。

 

『会った事後に』だが。

 

 少し時間をさかのばせるが、彼女(雛森)がウキウキと先日、チエとカリンと共にコンビニへの買い出しから帰ってきた放課後と戻る。*1

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「フンフンフフ~ン♪」

 

「うれしそうだな、メロンパン?」

 

「で、ですから私の名は────」

 

「(ん? この匂いは────)」

 

 三人が玄関をくぐると、開口一番に強烈な挨拶(威嚇?)の叫び声が響く。

 

 「────クッソ遅いねんお前らぁ!」

 

「ひゃ?!」

 

 びっくりする雛森が近くのチエの後ろにサッと隠れ、カリンがイラつきを現す。

 

「あ?  んだとこの()()────」

 

「『(さる)(がき)』やこのクソハゲ! そこ間違え────って何ウチに言わせとんじゃいこのボケェ?!

 

 ひよ里が足を蹴り上げたことによって、顔面に飛んできたビーチサンダルをカリンが頭を横に動かしてかわす。

 

「ハ! 外れ────?!」

 

 だが元々ひよ里は躱されることを最初から想定していたのか、サンダルを上げる動作のまま、上げた踵をカリンのアゴに飛び蹴りを直撃させる。

 

「────ブハァ?!」

 

「カリンさん?!」

 

「その菓子は遅くなった罰として没収や!」

 

「あ?!」

 

「相変わらずキンキンとうるさいねん、ひよ里。」

 

「久しぶりだな、矢胴丸。」

 

「せやからウチの事は『リサ』でええっちゅうてんのに……ん?」

 

 コンビニの袋をひよ里にひったくられ、アワアワとする雛森にリサが気付き、同時に自分を見ていたリサに雛森が視線をオドオドしながら返す。

 

「…………………」

 

「な、なんですか?」

 

()乳。」

 

「へ?」

 

 リサの意味不明()な言葉に、雛森が呆気に取られる。

 

「C……いやBやな。」

 

 リサの眼鏡がキラリと光を反射して、雛森はさっき()()対してコメントしていたのか解かったのか、頬を赤く染めて胸を腕で隠す。

 

「し、失礼な方ですね?! Cです!

 

「ウソ言わんとき。 ()()、Cに近いBと言ったところやろ? パッドつけてようやっとCになるほどの?」

 

え?! な、なんでそれを?! というかスケベな人ですね、アナタは?!」

 

 「スケベやないわ! 興味津々な()()や!」

 

 ゴッ。

 

「それを世間では『スケベ』と呼ぶらしいのよ~?」

 

 新しくその場に出てきたのはマイだった。

 

 そして彼女の後ろには、いつの間にか大きなタンコブを頭にして、うつぶせに地面にひれ伏して沈黙したカリンとひよ里の二人。

 

「相変わらず容赦ないゲンコツやわ。」

 

「リサちゃんのおかげでね~?」

 

 マイはにっこりとした笑顔を向けながら右の拳をアゴ近くに上げ、左手を腰まで上げてユラユラと動かす。

 

 それはボクシング界で『ヒットマンスタイル』と呼ばれるモノに酷似していた。

 

()()()()()、がんばっちゃった♡♪♡♪」

 

「最初は相撲(ハリ手)で今はボクシングかいな……ますます拳西(けんせい)に似てきよったな?」

 

「ウフフフフフフフフフ~♪」

 

 そこから雛森は『仮面の軍勢(ヴァイザード)』の簡単な状況を聞かされ、ひよ里とリサに雛森は自身の事情(五番隊副隊長)も説明し始める。

 

 藍染の脅威が去るまで『仮面の軍勢』の事をソウル・ソサエティは静観し、総隊長の任で自分(雛森)は現世に来ていたこと、そして────

 

「────ですので、()()()にはチエさん()()よろしくお願いします。」

 

「「……???」」

 

 ぺこりと頭を下げる雛森に対して、ひよ里とリサが?マークを出す。

 

「その……『チエ共々』って、なんの事や?」

 

 ガチャリ。

 

「ファ~……今帰ったで~。」

 

 そこで新たに(未だに包帯を巻いている)平子が気だるそうに入ってくる。

 

 そのトーンと見た目は気が進まないまま出張帰りの『オッサン』そのものだった。

 

「そこオッサン言うな!」

 

「あ! アナタはクラスの人?!」

 

「ん? おう、『仮面の軍勢』の平子や。 やっぱりここやったか。」

 

 平子はカバンを無造作に置いてから皆がいるちゃぶ台に座って自分用にジュースを入れる。

 

「で、何の話をしとるん?」

 

「ああ、矢胴丸と『ひよ里さん』にも────」

 

「────いつまでその(さん付け)ネタ引っ張る気やお前────?!」*2

 

「────説明していたのだが、(チエ)と桃が()()の任で現世に来ていることと────」

 

「────ちょい待ち。 ()()?」

 

「ああ、駄目ですよチエさん。 『()()()』と呼ばないと、誰も下の名前を────」

 

 「「「────ブフゥゥゥゥゥゥゥゥゥ?!」」」

 

『重国=総隊長の下の名』と結びつかせた平子、ひよ里、リサが全員飲んでいたお茶(&ジュース)を吹き出す。

 

「だが桃、『“重国”と昔のように呼んでほしい』と言って来たのは本人だぞ?」

 

「「「(どういうワケやねん?!)」」」

 

 関西トリオの平子、リサ、ひよ里が顔に密着したお茶(&ジュース)を拭き取ってからおかきを食べながら事の成り行き(雛森とチエのやり取り)を見守る。

 

「でもチエさんが総隊長を下の名で呼ぶのはともかく……ご自身の立場も言わなければ────」

 

「────ああ、なるほど。 そういえばそうだな。 それだったら私が『()()()()』と言わなければ────」

 

 「「「────ング?! ゴホッゴホッゴホ?!」」」

 

『仮面の軍勢』の三人は今度食べていたおかきを喉に詰まらせて、咳をするのだった。

 

 「「「いったいどういう事やねん?!」」」

 

「そういえば、奴から手渡された文があったな。」

 

 そこでチエは近くのタンスから、一つの文を出してそれを平子に渡す。

 

「ん? なになに~?」

 

「「……………………」」

 

「………………ハァ?! 『山本元柳斎重國、総隊長特別権限で以下の者を隊長に任命』だぁ────ゴフ?!」

 

「貸せ、このクソハゲ真子!」

 

 平子の顔を殴って文をひよ里が横から取り、自分も読み上げる。

 

「………………お前、あのヒゲのハゲ(総隊長)とどんな関係や?!」

 

「師弟だが?」

 

 ひよ里の質問にチエが即答し、鼻血を手で抑える平子が問いかける。

 

「あ、あのじいさんが真央霊術院の先生として現役やったの、浮竹や京楽が最後で……………確か三百年ぐらい前やろ? どんだけ歳食うてんの、お前? (というかここ十年、近くで見た限り()()()成長してたやんけ。 どういうこっちゃ?)」

 

「『先生』? ()()をそう呼んだのは、奴が髪の毛をなくす前だったぞ?」

 

「「「……………………………………………………は?」」」

 

「今のヒゲも立派なものだが、奴のチョンマゲも捨てがたかったな。」

 

 「「「は?」」」

 

 ………

 ……

 …

 

 「ぬ?!」

 

 上記と同時刻、ソウル・ソサエティの一番隊の隊長部屋で山本元柳斎が両目を大きく見開きながら、背筋をまっすぐ伸ばして立ち上がる。

 

「今、チエ殿がワシの事を口にした気配がしおった!」

 

「お前の悪い癖とか若いころを話しておるんじゃろ、たぶん。」

 

 山本元柳斎が部屋の中のソファーで寝転がりながら漫画を読む右之助を一瞬睨むが、すぐに視線を外す。

 

「………………ワシ、褒められているかのぉ? んでお主の酒と女癖がどれだけ酷いものか言っておるかのぉ?」

 

「『山坊やがハゲた』とでも言っているんじゃろうよ。 それに京楽の事をワシに擦り付けるな、奴が勝手にワシについて来ただけじゃよ? 『山坊やの不甲斐なさ』は自分(山坊や)の所為以外、なんでもないわい。」

 

 バキ!

 

 山本元柳斎が腰と背中のひねり具合を効かせたパンチで茶化す右之助の顔面を殴るとほぼ同時に、右之助がカウンター気味のコークスクリューパンチを山本元柳斎の顔に当てた。

 

「やるか、脳筋(力馬鹿)?!」

「こい、モウロクハゲ(じじい)!」

「ハゲなのはお主もじゃわい!」

 

「ハァ……」

 

 これを見た雀部は溜息を出し、他の一番隊の隊士と共に二人の喧嘩を止めに入る。

 

 つまりはいつも通り(平常運転)である。

 

「「ぬわぁぁぁぁ! 離せお前たちぃぃぃぃぃ!!!」」

 

「(だがこの元気の良さは、若い頃の先生()()に逆戻りしたみたいだ。)」

 

 それでも思うところがあったのか、雀部は総隊長がまだ『丿字斎』と呼ばれ、右之助がまだ回道の教えをしていた頃を思い出す。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場はマイ達が住んでいるアパート、そして時間を現在に戻すと、破面が現れたというのに一向に死神化し(戦闘態勢に入ら)ない『仮面の軍勢』達を(すでに死神化した)雛森が見ていた。

 

「……えっと────?」

 

「────ウチらに()()期待しとるん?」

 

「え?」

 

「ここに派遣された後輩(現役)たちがおんねんやろ?」

 

 未だにグウタラとくつろぐひよ里とリサを前に、雛森は困惑する。

 

「で、ですが! ………………まさか、()()()()というのですか?」

 

あっち(瀞霊廷)がウチ等を『試す(静観)』ように、ウチらも今のあっちがどれ程のもんか試す権利はある。」

 

「それにこの程度の奴らにやられるんやったら、うち等が手を組む理由(必要)が無い。」

 

 ひよ里とリサが彼女に答え、ただテレビと菓子を食べ続ける。

 

「何をしている? 行くぞ、桃。」

 

 死覇装に()()()()チエがドアを開け、一足先に夜の空座町へと駆け出す前に平子が彼女を見る。

 

「へぇー? 様になってるやないか────ってちょっと待てい! それ()()隊長羽織やんけ?!

 

 平子の言葉を最後まで聞かずにチエと雛森が夜の街へと飛び出る。

 

「…………………なんの悪い冗談()やねん、これ?」

 

 うなだれる平子(元五番隊隊長)を後にして。

 

 

 ___________

 

 現世組、死神組 視点

 ___________

 

 ルキアが伝令神機をいじって、画面の索敵範囲を広げる。

 

「これは……六体か?! しかもこの動き……見境なしに霊圧の高い存在を襲う気か?!」

 

「石田とチャドと井上たちに向かっている奴はいるか?!」

 

 代行証で一護が死神化しながらルキアに友人たちの状況を聞く。

 

「井上の所には日番谷隊長と松本副隊長たちがいる筈……茶渡は………………1体向かって────って一護?!」

 

 脱兎のごとく、一護は空須川(からすがわ)を超えた南のアパートに住んでいる茶渡の方向へと空中を駆け出す。

 

 ………

 ……

 …

 

 茶渡は自分のアパートの部屋で、織姫の双天帰盾(そうてんきしゅん)でやっと治った右腕の調子をうかがうかのように手を握ったり等をしていた。

 

「…………よし。」

 

 そう言って、茶渡の右腕が『巨人の一撃(エル・ディレクト)』へと変化する。

 

「駄目だよ茶渡くん! 君はまだ治ったばかりだ、戦いなんて無茶だよ!」

 

 織姫の双天帰盾の一部である妖精らしい小人の男性────舜桜(しゅんおう)が心配から声を上げる。

 

「(こくこくこく。)」

 

 彼の隣に同じ妖精らしい小人の女性────あやめが声を出さずに頭を縦に振って肯定する。

 

「ありがとう。 だが一護が戦っているのに、俺だけ何もしないという訳にはいかない。 井上のところに戻ってくれ。 お前たち二人がいなければ、アイツも治療ができない。」

 

 ドゴォン!

 

 その瞬間、茶渡のアパートの壁が粉砕されて人影が煙の中からおぼろげに見えた。

 

「なんでぇ、死神じゃねえのかよ────」

 

 ドゴ!

 

「────あ?」

 

 人影が「死神」と言った瞬間に茶渡は右腕を前にした十字ブロックで、自分の心臓を狙ったグリムジョーの部下であるディ・ロイの貫手(ぬきて)を受ける。

 

「(防御できた! ……アパートの壁の修理代、どうしよう?)」

 

「テメェ……人間のくせに生意気だな?」

 

「そういうお前の突きは軽いな。」

 

「この、人間風情が!」

 

 茶渡の挑発に、ディ・ロイが青筋を浮かべて睨む。

 

「俺の攻撃、どこまで防げれるかな?!」

 

 ディ・ロイがまたも消えるかのようなスピードで次々と繰り出す貫手(ぬきて)で頑なに茶渡の心臓を狙い続け、茶渡はそれをガードし続ける。

 

「(やはり睨んだ通り、こいつは『熱くなると自分を過信する直進タイプ』のようだな…………………カリン達の特訓に混ぜてもらって、良かった。)」

 

 上記の達人のような動きや、敵を挑発するような『誘いの言葉』は『原作』では微塵も見当たらなかった茶渡。

 

 それはひとえに、彼が(五番隊を鍛え直す)カリンにしごかれて得た、貴重な教訓などからとったモノ等だった。*3

 

「人間のクセにしぶてぇ!」

 

「(あの以前の大男(ヤミー)のような圧倒的パワー(腕力)を、目の前の奴が無くて良かった。 これで時間を稼いで、敵の一人を俺に釘付ける。)」

 

 そう思っている間にアパートの外に移動した茶渡に、一護の声が聞こえてきた。

 

「チャド、無事だったか?!」

 

「ああ。 (よし、作戦通りだ。)」

 

 一護を見たディ・ロイがほくそ笑む。

 

「やっと『アタリ』が来たか!」

 

「…………チャド、行けるか?」

 

「!!! ああ、俺が奴を引き付ける。 背中は任せた。」

 

 一護の言葉に、内心嬉しくなる茶渡が右腕を構える。

 

「わかった。 んじゃ、俺がいつも通りお前を攻撃する敵を────」

 

「────下がれ、二人とも。」

 

「「朽木?/ルキア?」」

 

 茶渡と一護が後ろから来たルキアの声に振り向くと、彼女は義魂丸を使って死神化する。

 

「ここは()()である私に任せろ。」

 

「ルキア、お前…………死神の力を────?」

 

「そう驚くこともないだろう? 浦原の義骸の所為で霊力が戻らなかっただけで、力が完全に消えた訳ではないからな。」

 

 ルキアが自分の義骸を横目で見る。

 

「という訳で二人を下がらせろ。」

 

「はいピョン!」

 

 義骸が『ズビシィ!』と敬礼をして一護と佐渡を両方同時に拘束する。

 

 プロレスラー顔負けほど自身と相手の手足を器用に使()って。

 

「どわぁ?! なんだこいつはぁぁぁぁぁ?!」

 

「す、すごい……力だ。」

 

 腕力もプロレスラー顔負けほどであるのをここで追記しよう。

 

「女性死神の中で一番人気の高い『チャッピー』だ。 以前、そいつの代わりに浦原の手違いで手に入ったのがコンだ。」

 

「言いたかねぇけど俺はコンでよか────ぐあぁぁぁ?! つ、潰()るぅぅぅぅ…」

 

 一護の体の上に拘束された茶渡+ルキアの義骸の体重が重なり、一護は呼吸が困難になっていく。

 

「さて、私は十三番隊────」

 

 ギィン!

 

 ルキアの自己紹介中にディ・ロイが攻撃をする。

 

「名なんか要らねえよ。 どうせ皆殺しなんだからなぁ!」

 

 そこからはディ・ロイの貫手やキック、ガードをルキアは全て自分の斬魄刀で受けては斬り返す。

 

「あぁ、でも殺される相手ぐらいは知っておきたいか? 俺は破面№16(アランカル・ディエシセイス)のディ・ロイだ。」

 

「そうか。 ならば私の刀の名だけでも覚えておけ。 舞え、『袖白雪(そでのしらゆき)』。」

 

 ルキアの斬魄刀の全てが純白の色に変化したうえに、柄頭に先の長い帯が現れる。

 

「初めの舞、『月白(つきしろ)』。」

 

 ディ・ロイが気付くとルキアは自分を素通りしたのか、一瞬で自分の背後にいた。

 

「な?! 足が!」

 

 だがそんな事よりも地面から来る、冷たい感覚と共に足が氷漬けになり始める。

 

「クソがぁァァァ!」

 

 ディ・ロイは完璧に凍る前に自分の足を攻撃して真上へと逃げる。

 

()()()凍らせる能力か! 確かに脅威かもしれねぇが、上からの攻撃は対応出来ねえだろ?! 死ね!」

 

 ディ・ロイの右目が赤く光り始めたと思えば、彼を含めて地面から数百メートルほど高さのある氷の柱が一瞬で出来上がる。

 

「すまないな、ディ・ロイとやら。 私の『袖白雪(そでのしらゆき)』は()()だけでなく、領域内の天地のすべてを凍らせる。」

 

「……スゴイ。」

 

 意図的かもしれない、カッコを付けたルキアに賞賛する声が届いて彼女は内心スカッとして必死にいつもの衝動(どや顔)を抑える。

 

 なにせ今まで良いところをあまり見せられなかった為に、見栄を()()張ったのだ。

 さっきのディ・ロイとの戦いのように。

 

「(フフン! どうだ一護! 私もやれば出来る奴なのだぞ!)」

 

 だが声の持ち主はルキアの思っていたように一護ではなく、立っていた茶渡だった。

 

「…………………………ん? 一護はどうした?」

 

「まだ暴れていたので、ルキアの体にアームロックされている。」

 

「いででででででで! 腕が折れる! 折れるって!」

 

「うーでーが『ピョン(ポキン)』と鳴ーる♪」

 

 ギギギギギギギギギギギギッ!

 

「ギョエエエェェェェェェ?!」

 

 不吉な音で一護の腕がさらに曲がっていき、彼が痛みで叫ぶ。

 

「何をしているのだ、この戯けども。」

 

「あ! ルキア! お前、無事なのか?! さっきの奴は倒したのか?!」

 

「ガクッ…………………よりにもよって私の活躍を一番見せたかった奴が見ていなかったとは…………」

 

「もう一度言うが、すごかったぞ朽木。」

 

「そ、そうか。 ありがとう、茶渡。」

 

「てか、ルキアの斬魄刀………真っ白なんだな?」

 

「ルキア様の持つ『袖白雪(そでのしらゆき)』は評決系の斬魄刀で、現在のソウル・ソサエティで『最も美しい』と言われている、ピョン。」

 

「最後ので台無しだよ。」

 

「…………朽木は強いんだな。」

 

「もともとルキア様は席官クラスの実力者。 だがヒラ隊員に比べれば席官たちに任せられる任務の危険度が増す。 今までルキア様が席官に上進されていなかったのはある方の根回しのおかげです────」

 

「────ある────?」

「────方?」

 

 一護と近くにいた茶渡がルキアの義骸に問いかける。

 

「朽木白哉(びゃくや)様。」

 

「「…………………………」」

 

 ここで一護と茶渡は『朽木白哉』の人物像を思い直す────

 

「だピョン。」

 

 ────矢先に、その場の空気が台無しにされた。

 

「また台無しだよ。 つか、いい加減俺の上から降りろ!」

 

 「うーでーがー『ピョン(ポキン)』と鳴ーるー♪」

 

 メリメリメリメリメリメリメリッ!

 

アンギャアァァァァァ?!

 

「何時までふざけているのだお前た────ッ?!」

 

 その場にいたルキア、一護、茶渡の三人が新たな霊圧を感じて、上を見上げる。

 

「ディ・ロイがやられたか! んじゃ、俺がまとめてぶっ殺すしかねぇなぁ!」

 

 三人が見たのは宙から降り立つグリムジョーだった。

 

「破面№6、グリムジョーだ。 ヨロシク、()()()諸君。」

*1
56話より

*2
8話より

*3
46話より




作者:という訳でグリムジョー登場です。 リーゼントです。

アーチャー(天の刃体):なぜ私を見る? ……やらんぞ?

作者:でも髪の毛を立ち上げたリーゼントってかっこよくない?

アーチャー(天の刃体):知らん。

弥生(天の刃体):私は見てみたい気、あるけどなー。

アーチャー(天の刃体):ポマードはどこだ?

作者:手の平返し、早や?! 『さすがは愛』ってか?

弥生(天の刃体):でもってスカジャンを羽織ってぇ~、歩くと『カシャンカシャン鳴る』靴を履いてぇ~

作者:それって『スペースダ〇ディ』じゃん……

アーチャー(天の刃体):♪~ ←全く気付いていないまま頭をリーゼントにしている


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第61話 力VS力、そしてホバー機能を得る

若干長めです。


 ___________

 

 現世組、死神組 視点

 ___________

 

 ルキアは大量に汗をかいていた。

 

 それは決して夜なのに夏の残り火のような蒸す暑さのせいではなく、目の前で余裕の笑みを浮かべたグリムジョーの放つ霊圧からだった。

 

「(なんだ、こ奴は?! 破面(アランカル)…………にしては、さっきの奴(ディ・ロイ)とはケタ違いだ! 本当に同じ種族か?!)」

 

「ッ?! 朽木────!」

 

 急に茶渡が自分を押し退けたとルキアが思えば、素早く動いたグリムジョーの貫手が茶渡の右腕を()()していた。

 

「────ぐああああああ?!」

 

「雑魚は引っ込んでろ。」

 

「茶渡?!/チャド?!」

 

 グリムジョーが腕を振るい、茶渡が近くの塀に叩きつけられる前にルキアが移動────

 

「グッ、ふ…かく…………(こ奴の速さと実力……次元が違う…)」

 

 ────する前に、またも高スピードで動いたグリムジョーの腕が近くのルキアのお腹をえぐっていた。

 

「へ。 テメェも()()な。」

 

「ルキア?! テメェェェェェェェ!!!」

 

 一護が怒りをあらわにし、グリムジョーは逆に笑みを浮かべたままだった。

 

 ガシッ!

 

「なッ?! だ、誰だ?!」

 

 一護の肩を、誰かががっしりと掴んで彼がびっくりする。

 

「熱くなるな、一護。 (特にお前は動きが単調になりやすいからな。)」

 

「チエ────?!」

 

「────よそ見するたぁ、いい度胸だなぁ?!」

 

 背後に現れたチエに一護が動揺して、一瞬固まった隙をもちろんグリムジョーが見逃す訳もなく、一護達に襲い掛かる。

 

(はじ)け、『飛梅(とびうめ)』!」

 

「なに?!」

 

 グリムジョーは横からくる、雛森の『飛梅』が撃ちだした()()()()()()サイズの火の玉を左手で受け止める。

 

 ジュワッ!

 

「ガッ?! チィ!」

 

 グリムジョーの顔が一瞬不愉快さから歪んで彼は火の玉を振り払い、未だに熱気が抜けないのか、手を閉じたり開いたりする。

 

 まるで()()()確かめるかのように。

 

「テメェ……」

 

 斬魄刀の刀身が七支刀みたいに変わって、久々の死闘に体が強張る雛森をグリムジョーが静かに睨む。

 

「(できた! 三月ちゃんの提案した、『限りなく縮小した火の玉』!)」

 

 これは三月たちがまだ現世に帰ってくる直前の日、雛森に尋ねたことがきっかけだった。

 

「『飛梅』が鬼道系の斬魄刀ならば、『範囲』や『質』に『大きさ』は調整できないか?」と。

 

 それをもとに試行錯誤を雛森は始め、先ほどの『接触している間、敵を焼き続ける火の玉』攻撃が辿り着いた一つの例である。

 

 グリムジョーの姿が消え、雛森も彼を見失う。

 

 なお破面達が使っているのは死神の『瞬歩』と違い、霊圧探知が困難な技。

 何せ『瞬歩』は術者が自身の霊圧を一瞬で急激に高め、それによって爆上げした脚力を使ってそのまま移動する術に対し、破面が使っているのは『響転(ソニード)』というモノ。

 

 これは足元に霊圧を集め、それを『弾く』ことで高速移動をする術。

 故に霊圧探知で術の始めに『霊圧が弾ける瞬間』は察知できても、『移動先の特定』が困難である。

 

 ガシッ!

 

「「「ッ?!」」」

 

「手癖の悪い(やから)だ。」

 

 ただし、『移動先の特定が困難』となるのは現在の瀞霊廷の死神たちのように、『霊圧探知』のみに頼り過ぎた場合。

 

 基礎の動体視力が優れていれば反応できない事は無く、実際にグリムジョーの腕をチエが今ガッシリと掴んでいた。

 

 驚愕からか、グリムジョーの目が大きく見開き、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この行動に対してチエは彼の腕を離し、鞘に入った刀を半分ほど抜いて受け止め、弾き返す。

 

 ガキィン!

 

「雛森、ルキアたちを頼む。 一護。」

 

「オウよ!」

 

 グリムジョーとチエが空中で後退り、その間に一護が卍解して(天鎖斬月を使って)戦いに加わる。

 

「(さて…『リーゼントの不良姿』に『ほっぺに仮面』ということは、こいつが『じーじぇいじぇいじぇい(グリムジョー・ジャガージャック)』とやらか。)」

 

 ………

 ……

 …

 

 同時刻、他の死神たちはそれぞれの破面を相手にしていた。

 

()()()()()

 

 シャウロン(冷静沈着)は日番谷と。

 イールフォルト(キザなナルシスト)は恋次と。

 ナキーム(おかっぱデブ)は乱菊と。

 

 そして────

 

「うお?! ま、また地鳴りか?!」

 

 ────浅野圭吾(あさのけいご)は姉のみづ穂にパシられていた。

 

 彼はビクビクしながらも周りに警戒して夜道を進む。

 

 また()()()()と出くわさないように。

 

 ビュン!

 

「やってられるかぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 その浅野を風のように全力で走り去ったのは涙目で叫ぶアフロの死神(車谷)

 

「わ?! あのオッサン…確か()()()怪獣とアクションしている────?」

 

 ドォン!

 

「どわぁぁぁぁぁぁ?! なななな、なんだぁぁぁ?!」

 

 近くの塀が木っ端みじんに粉砕されて、血を流す一角が立ち上がる。

 

「あ、あ、あ、アンタは昼間学校の校門前で見たハゲ────」

 

 ────あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″?!

 

「ヒィィィィィィ?! 違いました人違いですぅぅぅ! で、で、で、ですがなぜ木刀ではなく日本刀をお持ちにぃぃぃぃ?!」

 

「テメェ、俺が視え────グハァ?!」

 

 一角が顔面にビンタじみた攻撃を、アシンメトリーな髪型が印象的なラテン男の破面(エドラド)から受けて浅野の足元に吹き飛ばされる。

 

「ブハハハハハハ! 大したことねぇなぁ、死神ぃぃぃ?!」

 

「は? へ?! し、シニガミ?! へ?! ど、ドッキリ?!」

 

 一角がムクリと起き上がって、ドクドクと血が出ているのにも浅野に迫って話しかけ始める。

 

「オイ小僧。 ()()()があんだけどよ、乗るよな?」

 

「は?! そ、その話の内容によりますケド?」

 

「実は俺たち、寝所がねぇんだ。 そしてテメェは今戦いに巻き込まれて死にそうだろ? そこで────」

 

「────いやどちらかと言うとアチラさんは貴方を────」

 

「────そ・こ・で! 俺がテメェを助けるからしばらくテメェの家に泊まらせろ! 良いな?!」

 

「え。」

 

 浅野の気の抜けた返答(?)に一角がブチ切れ寸前の血走った目で浅野のむなぐらをつかんで、至近距離で殺意のこもったガンを飛ばしながら浅野の顔に叫ぶ。

 

 「────しばらくテメェの家に泊まらせろ?! 良いな!

 

「は、は()ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 浅野が体から僅かなアンモニア臭と共に言葉を発する。

 

 匂いのもとはご想像にお任せします。

 

「よし! おいデカいの、名は何だ?」

 

 浅野を遠ざけて一角がエドラドともう一度相対する。

 

「今更かよ。 オレは№13(アランカル・トレッセ)、エドラド・リオネスだ。」

 

「更木隊、第三席の『班目一角』だ。

 

 

 

 

 

 テメェを殺す男の名だ!

 

 そこから一角とエドラドの攻防が再開するのを浅野は茫然と見ていた。

 

「な、なんだよ。 なんなんだこいつら?! カメラどこ?!」

 

 浅野は尻餅を地面についたまま、目の前のトンデモバトルに困惑する。

 

「彼は更木隊第三席の『班目一角』。 ソウル・ソサエティ()()の十一番隊で、二番目に強い男だ。」

 

 浅野の背後からくる声に、浅野エドラドと一角の戦う姿を見て平然としていた弓親に振り向く。

 

「そ、『そうるそさえてぃー』? 『じゅういちばんたい』? 意味わかんねぇよ?!」

 

 エドラドが一角の機転により、顔に深い切り傷を受ける。

 

「………………やるな、お前。」

 

「あてゃり────ん? ……プッ!」

 

 カラカラカラカラ。

 

 一角は口の中に何か入っていたのか、言葉がうまく出せなかったことを不思議に思い、口をモゴモゴと動かし、その異物等(数本の歯)を吐き捨てる。

 

「テメェのその『霊圧ビンタ』も底が知れた。 それじゃあ俺は殺せねぇ。 とっとと斬魄刀を解放しな。」

 

 一角が楽しむ笑みを浮かべながら、エドラドを更に挑発する。

 

「そうだな、そうしよう。 ()きろ、『火山獣(ボルカニカ)』。」

 

 エドラドの鼻の周辺にあった仮面が消えて両耳の付近に仮面のようなものが形成され、肩の関節から両腕にかけての部分が鎧に覆われたように巨大化する。

 

「ヒュー♪ 斬魄刀の解放は解放でも、俺たち(死神)とは違うんだな?」

 

「……破面の斬魄刀は『力の核』を、『刀の姿』に封じたモノだ。 死神のそれとは全くの別物。」

 

 エドラドが拳を一角から離れた場所から放ち、大きな火炎を噴射して一角がそれに包まれる。

 

「クッ……」

 

「驚いたな、まだ立っていられるのか。」

 

 エドラドは火炎が収まり、ボロボロになりながらも原形をとどめている一角に感心する。

 

「だがこれで分かったはずだ。 俺たち破面が斬魄刀を解放すれば、能力は数倍に跳ね上がる。」

 

「………………弓親ァァァァ! ()()()()はどうだ?!」

 

「苦戦しているみたいだよ、一角。」

 

 弓親の答えに一角が歓喜から微笑む。

 

「よし、予定変更だ。 テメェ相手に使う気はサラサラ無かったが……そこまでテメェが出し惜しみしないって漢気(おとこぎ)を見せられちゃあ、俺も相応の対応をしなきゃな? 卍解!」

 

 大きな竜巻らしきものが一角を中心に出現し、班目より三つの巨大な刃物を鎖で一連に繋いだ特殊な形状をした武具を手にしていた一角が現れる。

 

「『龍紋鬼灯丸(りゅうもんほうずきまる)』ッ!!!」

 

「……それがお前の卍解、すげぇな。」

 

「世辞はよせよ。」

 

「そうかよ────!」

 

 そこからが合図だったみたいに、一角とエドラドが同時に互いへと突進し、互いを傷つける。

 

 エドラドは両腕を。

 一角は己の武器を。

 

 まさに力と力の対決()()()

 

 なぜ過去形かというと、時間が経つにつれて一角が持っていた三つのうち真ん中の刃の側面に、彫られた龍の紋が赤く染まっていく度に彼の力が増していった。

 

 そこで突然、一角が距離を取って龍の紋が彫られた刃を手に取る。

 

「俺の卍解は、俺と違ってのんびり屋でな? 敵を攻撃して、攻撃を受けて()()()()()んだ。 で、今が最大出力ってところだ……ここらで()()、出せよ。」

 

「……オウ。」

 

 エドラドが一角の言葉に行動で答えるかのように拳を振り、一角は突進する。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 一角の意識が戻って次に自覚したことは自分が地面に仰向けになっていて、空座町の夜空を見上げていた。

 

「(チッ。 ()()は昼で、今回は夜かよ。)」

 

 今の状況は彼が以前、一護と戦い敗北したのと似ていた。*1

 

「(ま、今回は『勝ち』なだけマシってところか。)」

 

 彼が言うように()()()勝ちで仰向けに倒れていたが。

 

「目が覚めたかい、一角?」

 

 一角の視界に、愉快そうな弓親の顔が現れる。

 

「弓親か……状況は?」

 

「さっき、ちょうど『限定解除』の申請許可が下りたみたいだよ。 つまり、君が卍解するのも『時間の問題』だったというワケさ。」

 

『限定解除』。 これは本来、『現世』への()()()()()を及ぼさぬよう、体の一部に霊圧を本来の2割程度に抑える『限定霊印(げんていれいいん)』を打たれた隊長、および副隊長たちが『本来の力を振るって良し』という許可を示す。

 

 つまりもし破面達と互角、または苦戦していたとすれば『限定解除』の許可が下りればほぼ逆転できる。

 

 力を抑えられた状態で互角であれば圧勝。

 苦戦しているのであれば、爆発的に上がった力に相手が動揺した隙を狙えばいい。

 

「そうか……この襲撃、俺()()の『勝ち』か。」

 

「一応はね。 でも…………」

 

『………もしそもそも『限定霊印(げんていれいいん)』をされた状態で、同じ人数の破面達に苦戦するようであれば、これからの戦いは苦労を強いざれるを得ない。』

 

 そう一角は弓親の言葉の続きを解釈し、それは他の場所で戦っていた死神たちも同じ考えだった。

 

 ………

 ……

 …

 

「クソ…『限定解除』の動揺で隙を突いたから良かったものの、最初から全力で戦ってたら………」

 

 恋次は血まみれの自分とボロボロになった己の卍解、『狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)』を息切れしたまま先のイールフォルトとの戦いを思い返していた。

 

「あの、大丈夫……ですか?」

 

 恋次の近くに救急箱を持ったウルルが心配からか、オドオドしながらも声をかける。

 

 彼女は浦原商店の近くで戦闘を感知してはひっそりと隠れて観戦していた。

 

本来(原作)』では異常にまで強い気配の破面()を前に、彼女は無謀にも『改造魂魄』としての本能(プログラム)を刺激され、イールフォルトを攻撃して瀕死の傷を負わされていた。

 

 が、以前からチエたちの手伝いをしていたのが功を現して彼女は我を失わずにいた。*2

 

 ………

 ……

 …

 

「…………乱菊、後は頼む。」

 

 シャウロンに決して浅くはない傷を負って、それを自分の氷結能力で無理やり止血していた日番谷は意識を失い、体中から血が吹き出しながら倒れる。

 

「織姫! こっちに来てちょうだい!」

 

 乱菊は幸い、ほとんど逃げに徹していたので無傷だったが、日番谷の傷の出血をし始めて彼女の死覇装が赤黒く染まる。

 

 ………

 ……

 …

 

「しゃらくせぇ!」

 

「チィ!」

 

 グリムジョーが鬱陶しそうな顔で一護の天鎖斬月の刀身を手で掴み、一護を投げてはチエの斬りかかりを自分の斬魄刀でそらして彼女をガードの上から蹴飛ばす。

 

「クソ!」

 

 天鎖斬月によってスピードが上昇した一護がそのままグリムジョーを攻撃する。

 

()()()()邪魔だ!」

 

「グッ?!」

 

 今度は一護を投げるのではなく、グリムジョーは彼の顔面を蹴る。

 

 グリムジョーに蹴られた勢いのまま、一護が地面へと叩き落されるのを見たチエが攻め込む。

 

 ガキィン!

 

 またも刀と斬魄刀がぶつかり、耳をつんざくような音が周りをビリビリと響かせる。

 

「(やはり『()()()』は難しいな。)」

 

「テメェは()()()?!」

 

「『月牙(げつが)────』」

 

 チエとの膠着状態だったグリムジョーの意識が一護の声に一瞬そらされ、チエはこれを好機と見て彼のアゴを蹴って後ろへと飛ぶ。

 

「『────天衝(てんしょう)』!」

 

 一護の刀身から黒い斬撃そのモノがよろめくグリムジョーへと飛び、迫る攻撃に気付いた彼はそれを避ける暇もないのを本能で悟ったのか、考えもせずに両腕を上げて防御し、これを直に受け止める。

 

「…………こんな隠し玉を持っているたぁな。」

 

 戦闘が始まって以来、グリムジョーの両腕と左肩から右の腰あたりまで傷を負って血がジワリとにじみ出る。

 

「は。 どうだよ、破面(アランカル)? (クソ! モロに直撃したってのに、あんな浅い傷だけかよ?!)」

 

 一護は笑みを浮かべていたが、内心かなり焦っていた。

 

 もともと『白い一護(内なる虚)』の技である『月牙天衝』を使ったことにより、彼の叫び(誘う)声がより一層強くなったことに。

 

「(あと2、3発ぐらいってところか……()()()()、俺は────!)」

 

「────無事か、一護。 顔色がわr────」

 

「────ッ?! だ、大丈夫だ!」

 

 隣にチエが来たことに一護はびっくりした────

 

 

 

 

 

 

 

 ────だけではなく、『白い一護(内なる虚)』の叫びとソレにそって流れてくる感情が変わったことに驚愕していた。

 

 それは────

 

「────テメェらまとめてぶっ殺す!」

 

「「ッ」」

 

 一護達が見上げると、グリムジョーが自分の手に傷を負わせ、その手を自分達に向けていた。

 

「くらえ! 『王虚(グラン)────』!」

 

「────そこまでだ、グリムジョー。」

 

 その場違いな冷静そのものを声にした口調に背後から名を呼ばれたグリムジョーの体がびくりと跳ねる。

 

「テ、テメェ…なんでだ?!」

 

 そしてルキアと茶渡の治療をしながら見ていた夷守がポツリと新たに現れた人物の名を口にする。

 

東仙(とうせん)()()?!」

 

「(東仙が来たか。)」

 

「『何故』?()()だからだ、グリムジョー。」

 

「ハァ?! どういうこった! オレはまだ戦え────!」

 

 東仙の言葉にグリムジョーがいやな顔と荒ぶる声を隠さずに抗議を上げる。

 

「────藍染様の命令を()()()()()()のか?」

 

「………………」

 

 だが返ってきた東仙の言でグリムジョーは口を慎む。

 

「行くぞ。」

 

「……解かったよ。」

 

 宙が避けたみたいな空間に、東仙とグリムジョーの二人が入る。

 

「待ってください! どこに行くんですか?!」

 

 雛森の叫びにグリムジョーが彼女を見る。

 

「うるせぇチビだな。 帰んだよ、虚圏(ウェコムンド)に。」

 

「ふざけんなよ?! 勝手に来て、勝手に帰るだぁ?! まだ()との勝負はついてねぇだろうが?!」

 

 一護の掛ける声にグリムジョーが彼を睨む。

 

「『勝負』だぁ? ふざけんなよ、勝負がつかなくて命を拾ったのはテメェのほうだぜ?! さっきの技はテメェにもダメージを当てえているってことは見りゃわかる。 せいぜいあと数発ぐらい撃てるってところだろ? けどそれを無限に撃てたとしても、俺の『解放状態』は倒せねぇよ。」

 

「(『解放状態』? アイツら(破面達)の斬魄刀の『始解』か『卍解』のことか?!)」

 

「(そんな…まさか虚が……破面(アランカル)がそこまで)」

 

 ここで一護と雛森はほかの死神たち同様に、破面達がまだ強くなる能力がある疑惑が確信へと変わる。

 

「俺の名は『グリムジョー・ジャガージャック』! テメェ()を殺す奴の名だ!」

 

 それを最後に、宙の裂け目が閉じからチエは刀を鞘に収める。

 

「(何とか乗り切ったか…………さて、三月()()にも報告しておくか。)」

 

 ………

 ……

 …

 

 場は別の場所に変わり、夜というのに明るく照らされたどこかの白い部屋の中で雨竜は息を切らしていた。

 

「(外からの霊圧の震えが止まった、ということは、敵は去っ────)────うわ?!」

 

 雨竜はその場から素早く飛んで、()()()()()()()を躱す。

 

「クッ!」

 

 次に追い打ちをかける霊圧の矢をも雨竜は横に身を投げて間一髪のところで避ける。

 

「考え事か雨竜?」

 

「外の事が気になるみたいねー。 別にそこは責めないけどー?」

 

 体中が汗でべっとりとしている雨竜に関して、弓を手にしている竜弦が雨龍に問いを掛けて、霊剣を手にする三月がコメントを付け加える。

 

「ああ、『本当にこんなやり方で僕の能力(ちから)が戻るか?』ってな。 霊化銀(れいかぎん)と、霊化ガラスでできたこの部屋でアンタ(竜弦)と渡辺さんの攻撃を延々と躱し続けることで?!」

 

 竜弦と三月が横眼で互いを見て、三月が滑るように床を高速移動しながら霊剣を持っていない手で霊丸(れいがん)を撃つ。

 

「ウァ?!」

 

 雨竜が攻撃を躱すことに専念し始め、竜弦が矢を構える。

 

「(やはりこの娘も呼んでよかった。 このような技術、見たことも聞いたこともない。 『世界は広い』、と言う事か。)」

 

 三月の()()()()を見て、竜弦は感心した。

 

 それに対する三月は────

 

「(来て正解だったわ~! 『飛廉脚(ひれんきゃく)』って思ったより応用が効くし、何より『リ〇ク・ディアス』の真似が楽しい~!!!)」

 

 ────今この瞬間を思いのほか、楽しんでいた。

 

飛廉脚(ひれんきゃく)』。  これは死神の『瞬歩』、そして破面の『響転(ソニード)』と似て非なるモノ。

『足元に()()()霊子の流れに乗り、高速移動する』といったモノで、死神とも破面とも違う、滅却師の高等歩法。

 

 その応用で、三月はアイススケートの上を文字通りほぼ自由自在に滑るかのように動き、霊剣と霊丸を使って上記の『リック・デ〇アス』並みの機動戦を繰り広げていた。

 

 あと完全に余談ではあるが、彼女が使用している武器が霊剣と霊丸の二つだけなので正確には『リック・ディ〇ス』よりはその機体のベースとなった『ド〇』のほうが近い。

 

「(………………クルミやリカ達に教えれば『ジェットストリ〇ムアタック』の再現をできたりして。)」

 

 訂正。

 三月もそのように考えていた模様である。

 

「(でも先ずは『破面編』を切り抜けないと。 この『空間凍結(くうかんとうけつ)』ってのは思ったより厄介だわ。 まるで人為的な『固有結界(こゆうけっかい)』ね。)」

*1
25話より

*2
10話より




ギン:なんや凄いことになってんなー

作者:これからさらにスゴイ事になると思う

士郎(天の刃体):へー、BLEACHにも『固有結界』があるんだな?

ギン:誰? この赤白毛?

作者:あー、ついに来たかー

士郎(天の刃体):そういう糸目のお前はなんだよ?

ギン:まぁまぁ座って話そうや。 ほい、梅昆布茶。

士郎(天の刃体):いらねぇよ!

作者:しかもピンポイントで相手の嫌なものを出すとかマジで嫌がらせの天才か、『市丸ギン』は?

追記:

瞬歩やソニードなどの設定(+霊圧探知不可能)とかに関しては自己解釈などが入っています。


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第62話 団らんの侵略者たち

お待たせしました、次話です。

そしてやっと彼らの再登場です。


 ___________

 

 現世組、死神組 視点

 ___________

 

 戦いが終わったことにより尸魂界の『空間凍結』が解除され、ルキアの傷が恋次の目の前で(重症だった日番谷の治療を終えて移動した)織姫の『双天帰盾』によりみるみると癒えていく。

 

「お、おお………」

 

 ちなみに『空間凍結(くうかんとうけつ)』とは名の通り空間の壁を作り、小規模な空間の内部での出来事と外部の現世を一時的にかつ人工的に切り離すことであり、できるだけ霊圧のぶつかり合いや戦いの余波などからの影響を抑える処置でもある。

 

 三月が前話で考えていて、出てきた『固有結界』は上記の『空間凍結』とは似て非なる、別の世界での空間系の術ではあるが……

 

 今は詳細を省き、()()()()物語を進めるとしよう。

 

「………む?」

 

 ルキアは目を覚まし、傷が無くなった自分のお腹を復元した死覇装の上から擦る。

 

「こ、これで大丈夫だと思う。」

 

 頬に出た汗を織姫が腕で拭きながら微笑む。

 

「やはり井上の術か。 信じがたい、四番隊顔負けの速さだな……」

 

「や、やっぱりもう治ったのか?! スゲェなオイ?!」

 

「え、えへへ~。 そ、そんなことないよ~、私なんてまだまだですよ~!」

 

 ルキアと恋次の二人に織姫が褒められて、彼女が照れながら畏まる。

 

 それを離れた場所から一護が気まずい顔で見ていたところに、チエの言葉で彼が驚愕する事となる。

 

「『()()()()』がそんなにも厄介か、一護?」

 

「なっ?! し、知っていたのか、チエ?!」

 

「知るも何も、()()ぞ?」

 

「え。」

 

「そっちの()()ではない。」

 

 一護は自分の腕の匂いを嗅ごうとして、チエがそれを事前に止める。

 

「(『そっちの匂いじゃない』って……いや、それは今いいや。) チエはもしかして、『抑える』方法を知っているのか?」

 

()()抑えるすべか? 知らん。」

 

「(……だよな。)」

 

 一瞬、期待を寄せた一護だったがチエの答えにまた考え込む。

 

「だが、()()()()が無いこともない。」

 

「そ、そうか?! 頼む、そいつらのところに今すぐ俺を連れ────!」

 

 ボコンッ!

 

「────あいで?!」

 

 チエのデコピンに、一護の額が鈍い音を出す。

 

「早まるな一護。 もう夜も遅い。 明日だ、この戯け。」

 

 この二人のやり取りを横目で見ていた織姫は、自分の胸奥に発生したモヤモヤを感じるのを無視しようとしたがすればするほど、その気持ちは更に増加していったのに戸惑った。

 

 そしてそれを見ていた雛森も同じだった。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「おかえり、グリムジョー。」

 

 場は以前ウルキオラとヤミーが期間報告をした部屋へと戻り*1、藍染の前には東仙と仏頂面をしていたグリムジョーの二人だけだった。

 

「どうした、グリムジョー? 謝罪の言葉があるだろう? 現世で危うく『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』を許可なく撃とうとしたことを。」

 

「………………」

 

 だがグリムジョーは東仙の言葉を聞いているどころか、無視(ウンザリ)したような感じで静かだった。

 

「貴様、グリムジョー! いい加減に────!」

 

「────いいんだ、(かなめ)。 私()怒ってなどいない。 どちらかというと()()()を覚えている。」

 

「………………?」

 

「藍染様?! ですが、こいつは────!」

 

「そうだね。 確かに『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』を()()()撃とうとしたことは事実だが、彼の行動は御しがたいほど私への忠誠心と思っている。 そうだろう、グリムジョー?」

 

 藍染は彼を…………

 

 というよりは、一護がグリムジョーにつけた傷を見ていた。

 

「…………………そうです。」

 

「藍染様。 『統括管(とうかつかん)』として、この者の処刑の許可を。 調和を乱す者は許すべきではない存在です!」

 

「は。 要するに、テメェが俺を気に食わないだけだろうが? 組織の為ならいざ知らず、私情を持ち込むなよ。 『統括管()』?」

 

 藍染に許された事で、調子が戻りつつあるグリムジョーが皮肉たっぷりの言葉を東仙に言い返す。

 

「私情ではない。 藍染様の為だ。」

 

「大義を掲げるのが上手なこった。」

 

 スパッ!

 

()()()()の命令違反と、『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』の件はこれで許そう。 『破道の五十四・灰炎(はいえん)』。」

 

 ボッ!

 

 「な、がああああああああ?!」

 

 東仙が瞬く間の内にグリムジョーの左腕を斬り落とし、鬼道でその右腕を灰も残さず焼却する。

 

くそ! くそ! くそ くそがぁぁぁぁ

 

 グリムジョーがそこで左腕の有った場所に右手をつけてから血まみれにさせて、その手を東仙に向ける。

 

 やめろ、グリムジョー。

 

 ズン!

 

「ッ?! が……」

 

 藍染の声と共に霊圧がグリムジョーを襲い、彼はピタリと行動を止めて汗を出す。

 

「そこでお前が(かなめ)を攻撃すれば、私はお前を断罪しなければならなくなる。」

 

 グリムジョーは奥歯を『ギリッ』と強く噛みしめて、踵を返して部屋を無言で出る。

 

「すみません、藍染様。」

 

「いいよ、要。 引き続き、ここを頼むよ。」

 

「ハッ。」

 

 東仙が部屋を出て、藍染は笑みを深くさせる。

 

「フ……フフフフフフ……」

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 一護は唖然としていた。

 

「クソハゲ真子(シンジ)! なに勝手に人の(もん)食べとんねん?!」

「うっさいわひよ里! 初めからお前の物やないわ、ボケェ! これはデカ()イにもろた、俺のイチゴタルトや!」

「お、おふたりサン。 声がデカいデス、近所迷惑に────」

「「────引っ込んでろ、ハッチ!」」

「そ、そンナ…」

「フゥー……いつも騒がしくてすまないね、レディ?」

「いいえ~。 相変わらず皆が元気で逆に私は楽しいわ、(じゅう)ちゃん~。」

「Oh! やはり、君のスマイルは良い!」

「ローズ、バカやってないで皿さっさと拭けよ。」

「せや、次のが控えているからな。」

「あー、『ツキミ』つったっけ? 皿洗い、早いな?」

「せやろー?」

「ケンちゃんケンちゃん! 近くの商店街でケーキが安売りしているよー!」

「それは良いですね。 私たち二人で行きましょうかマシロシロ?」

「そうだねクルクル(クルミ)ちゃん! ケンちゃんの財布持ってくるねー!」

 おいちょっと待てテメェらコラァ?!

「アホばっか………ラブ、ジャンプまだなんか~?」

「今いいところなんだ、リサ。 先月のがあっただろ?」

「もう何回も読んでんねん。 アタシの脳内で登場キャラ全員にフィルター被せても飽きてん。」

「ならリサ氏、こちらにR-18の無修正(モザイク無し)グラビア写真集を一緒に拝見しましょう。」

 「でかしたでリカの姉貴ぃぃぃ!」

「いえいえ、それほどでも。」

 

 もう一度書き足すが、一護は唖然と()()()()

 

 その日、珍しく学校を休んで(サボって)一護がチエに言われたまま彼女の後をつけると────

 

「着いたぞ。 ここに心当たりの奴らがいる。」

 

 「テメェん()じゃねえか?!」

 

 ────連れてこられた場所は一護からすればどことなくリニューアルした、渡辺家が住んでいる見知った(10年間見てきた)アパートだった。

 

「まぁ、取り敢えず上がれ。」

 

 そしてアパートの大きいコモンスペースに入ると、上記のように『仮面の軍勢』のメンバーたちとマイ達を含めた大きな団らんが彼らを迎えていた。

 

「ん?」

 

 そこで平子が一護に気付き、彼に声をかける。

 

「なんや、一護やないか。」

 

「やっぱり平子か?! それに、そいつらは────?」

 

「────良いから立っていないで入れ、一護。」

 

 ゴスッ。

 

「どわぁ?!」

 

 チエが一護の背中を蹴って、転ぶ彼が顔を打つ。

 

「ブフ?! そこで蹴飛ばす奴がいるか?!」

 

「??? ここにいるではないか?」

 

そういう事じゃねぇぇぇぇぇ?!

 

 平子が立ち上がって、いやな顔をしながら靴を履き直す。

 

「うし。 一護が来たから場所移すで、みんな?」

 

「ん? ここで話さないのか平子?」

 

「アホ。 ここで話せるワケ無いやろが。」

 

「「「「「えー?!」」」」」

 

 平子の言葉に異を唱える数々の『仮面の軍勢』メンバーたちに、平子が青筋をこめかみに浮かべる。

 

 『えー』、やないわぁ! 荒事になったらどないすんねん?! 俺かて嫌やで、ここから動くの?!」

 

「そうよ~? シン(真子)ちゃんの言う通りよ~? それに私達は私達ですることもあるしぃ~?」

 

 そして異を唱えたリカ、ツキミ、クルミにマイが言い聞かせ、せっせと片づけを始める者たちを見てはワナワナと怒りに震える一護だった。

 

 「結局オレだけ蹴られ損かよ?!」

 

「…すまんな、一護。」

 

 ナデナデナデナデナデナデナデナデ。

 

「ぐ……だからそれ……やめろよ…」

 

 頭をチエに撫でられることに、一護が気まずそうにそっぽを向けながら頬を赤らめ、声がどんどんと小さくなっていった。

 

 

 ___________

 

 一護、『仮面の軍勢』組、『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 

「それで一護、俺らに何の用や?」

 

 移動した先はどこかの倉庫街だった場所なのか、周りの建物はさびれていた上、無造作に半壊した瓦礫やガラス破片などが目立っていた。

 

 そこで一護(とチエ)は『仮面の軍勢』達と話していた。

 

「俺の中の虚を抑える方法を教えろ。」

 

「……………なんやと?」

 

 一護の『お願い』とも呼べない『要求』に直接彼と話していた平子だけでなく、他の『仮面の軍勢』たちもピリピリとした空気を出し始める。

 

「なめられたモンやなぁ? 俺らがなんでお前に教えなあかんねん?」

 

「ハッチ、結界張っとき。」

 

「もう張っていマス。」

 

 ひよ里とハッチ(鉢玄)の短い会話の間に、一護は死神化してチエに体を預けた後、平子に斬りかかる。

 

「(相変わらず一護はせっかちだな……一心殿に似たのだろうか? いやこの場合、三月か。)」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「どりゃあ!」

 

 ガシャン!

 

「まだまだや!」

 

 ギャン! ガガガガ!

 

「うらぁ!」

 

「グッ!」

 

 数分続く平子と一護の戦いをテニスの試合よろしく、『仮面の軍勢』達がゆったりとした態度で観戦する。

 

 女性のメンバーであるマシロ、ひよ里、リサの三人以外。

 

 三人はというと、アパートを出るときに見たチエと一護のやり取りによって興味が非常にそそられていた様子でチエに迫っていた。

 

「そ、それでそれでベリたんとチーちゃんってどういう関係なの?!」

 

 マシロがキラキラとした目で(魂魄の抜けた一護の体に膝枕をしていた)チエを見てウキウキしたまま尋ねる。

 

 新しい玩具を得た子供の動作そのものである。

 

「『どういう関係』だと? そうだな………(一護)が幼少だった頃からの()()()()だ。」

 

「へ、へぇー。 お、お前にも()()()()がで、出るんやなぁー? ……………ウチはぜ、全ッッッ然気にしてへんねんけど…………あくまで参考程度に聞いてるだけやで? ……………………アイツ(一護)の事、どう思ってるん?」

 

 顔を引きつりながら、貧乏ゆすりをするひよ里が今度は尋ねる。

 

「『どう思っている』、か……(ここは以前、真花たちと話していた時みたいに答えるか。*2) 強いて言うのなら『孫』か………『弟』?」

 

「ひゃー!♡ これはベリたんにもぜひ、聞いてみないとー!♡」

「なんやねん、これ? ………ウチだって………ウチかてなぁ…………」

 

 キラキラした目から星が出ているマシロと、何故か地面にうなだれながら『ドヨ~ン』とした重い空気を出すひよ里。

 

「で? ()()()()行っとるん、二人は?」

「……?????」

 

 ()()()()なリサの質問の意味(意図)をよくわかっていないチエがただ?マークを出す。

 

「A? B? もしかしてCなら、どっちから先に攻め────?」

 

「「────うりゃあああ!」」

 

 ドゴォン!

 

「────って、まだやっとるんかいあの二人?」

 

 未だに戦う平子と一護の雄叫びにリサの注意が逸れて、ひよ里が立ち上がる。

 

「ハッチ、結界もう5枚張り。 チマチマした『アレ』、もう見てられへんわ。」

 

「一護、お前やっぱりビビ────」

 

 スパァン!

 

 平子が一護に話しかけたところで、ひよ里がスリッパで彼の顔をはたく。

 

「────ぷあ?!」

 

「チェンジや、ボケ真子。」

 

 バリン!

 ドガ! 

 ガシャアン、ガラガラガラガラ!

 

 平子の体はそのままハッチの結界を突き破り、倉庫の外へと吹き飛ばされていく。

 

「ハッチ! もう5枚張れって言うたやないか?!」

 

「む、無理でスヨ! 急に言われて間に合わないデス!」

 

「お、お前は────」

 

「────『猿柿(さるがき)ひよ里』や。 ちゃんと『さん付け』で呼びや? このビビり。」

 

 ひよ里の顔の横に虚の仮面が現れる。

 

「それとウチ、アホ真子(シンジ)とは違って甘まないからな?」

 

「(虚化(ほろうか)?! やっぱり、こいつらは────!)」

 

「ウチらは面もっとるから『仮面の軍勢(ヴァイザード)』や。 せやからさっさと虚化しぃ、一護。」

 

 ひよ里が虚の面をかぶって、一護に襲い掛かる。

 

「でないと死ぬで?」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そこからは素手のひよ里によって一護の一方的ななぶり殺しに近い『死合』となる筈だった。

 

 だが────

 

「(こいつ、素手のほうが断然に強いやないか?!)」

 

 ────ひよ里は早々に一護の白打が得意なことに気付き、己の斬魄刀を抜いて漸術の戦闘を一護に強いていた。

 

 こうして『内なる虚』を極力出したくない一護と、もう片方は躊躇なく彼を襲うひよ里が戦う。

 

「もうええわ。 はよ全開でかかれや、一護。」

 

「(考えろ! よく観察して考えて、モノにするんだ!)」

 

 ひよ里が斬魄刀をの斬り返しをする中、一護の脳はひよ里の顔に虚の面の顔が現れてからずっとフル回転状態だった。

 

 それはかつて、『ルキア奪還』前に稽古をつけられていた時に習った教訓を生かそうとしていた一護がいた。*3

 

「(どうやって目の前のこいつは虚化しても正気でいられる?! どうやって仮面を自由に取り外しできる?!)」

 

 一護は必死にひよ里の斬撃をいなしながら考え続ける。

 

「(でないと、()()()が────)────グフ?!」

 

 一瞬だけ一護は視線をひよ里から外し、その隙に深い傷を負って虚の仮面が独りでに現れてしまう。

 

あああアアあああア!!!」

 

「なんやて?!」

 

 一護の顔の半分が虚の仮面に覆われたまま、彼は()()()()()()とひたすらに暴れる。

 

「ぬ?! これはまずいデス!」

 

 ハッチが厳しい顔になり、壊れていく結界の上にさらに結界を重ねていくと汗が額に出る。

 

「(『コレ』は聞いていないな。 三月から聞いた情報と一致しない。)」

 

 チエが静かに一護の体を横の地面に置きながら考え、刀を手にする。

 

 彼女が思い返していたのは三月が別件で身動きが取れなくなる前に、彼女から伝えられた『事前(原作)情報』。

 

 そしてその中には『虚化(暴走)した一護がひよ里を襲い、彼女を殺しかける』といったモノがあった。

 

 だが目の前の出来事はハッチが新しい結界を張るたびにそれを次々と壊す一護の姿。

 

ガあああアアあああア!!!」

 

 しかも気の所為かどうか、虚の一護は自分(チエ)をずっと見ていたような気がした。

 

 とうとうハッチの結界が間に合わないと思えば、『仮面の軍勢』メンバー全員が一護を力ずくで抑え、平子が一護の顔にあった仮面を砕く。

 

「ぁ………俺……」

 

「合格やろ、ひよ里? 少なくとも虚を抑える方法、教えても損はないと思うで?」

 

「…………………ああ、そうやな。」

 

「これで分かったか一護? 虚は、頭や体ン中で考えたぐらいで抑え込めるような代物やないって事が。」

 

「…………ああ。」

 

「今日はここまでや。 デカパイ………やなかった、デカ()イのところに行って、飯食って、()う寝てからまた明日に続けるで。」

 

「平子、言い直せていないぞ?」

 

「一々うっさいわ、この天然ボケ。」

 

 チエのド直球なツッコみに、平子が半ギレ気味に言い返す。

 

『隊首羽織が関係しているのでは?』と聞かれれば、平子の答えは恐らく『大有りに決まっとるがな!』と叫び返しているだろう。

 

 

 ___________

 

 カリン、茶渡、雛森 視点

 ___________

 

「ぬあ?!」

 

「おらぁぁぁぁ! そのままぶっ倒れてるんじゃねぇぞチャド! いや、テメェは『お茶っぱ』でいいや!」

 

「………茶渡だ!」

 

「オレに一本入れれば考えなおすぜ?!」

 

 茶渡とカリンは浦原商店の地下にある訓練場にて、激しい攻防を繰り広げていた。

 

「遠慮なしで行くぜ、雛森! ()えろ、『蛇尾丸(ざびまる)』!」

 

(はじ)け、『飛梅』! (私も、出来ることをしないと!)」

 

 そして訓練場の別の場所では恋次と雛森が始解同士で相対していた。

 

「うーん、いつ見ても若者たちのじゃれあいは良いっスねぇ~。」

 

 そしてすっかり見物人となった浦原が『青・春』と書かれた扇子で自分をあおぐ。

 

「あ、あの喜助さん……お昼ご飯、できた。」

 

「あ、そうですか! ではみなさ~ん! ごはんですよー!」

 

 浦原が片手に扇子、もう片手にはガラス瓶に入った『江戸〇らさき』の『ご〇んですよ』の両手を振った。

 

 が、戦っている四人は気付かないまま。

 

「あらら、皆さん熱心になっちゃっていますねぇー。」

 

「ど、どうしよう喜助さん?」

 

「ま、いいでしょう! ウルルのあったか~いご飯が食べれないのは残念かもしれませんけどそのウチ、腹を空かしてぶっ倒れるか食べに上がるでしょう♪ ですので、今日のおかずは何スカ?」

 

「えっと……三月お姉ちゃん特性の鶏肉ハンバーグとソースに、マイさんのポテトサラダ。」

 

「ウォッホー!♪ アタシの好物たち! えらいですねぇウルル~?」

 

「ううん、三月お姉ちゃんとマイさんのおかげだから……」

 

 浦原に頭を撫でられ、はにかむウルル。

 

「(さて、平子さん達と黒崎さんが接触したとなると……『藍染惣右介』も準備ができ次第に動き出しますね、これは。 僕もウカウカしていられませんね。)」

 

 そして決して考えることをやめない浦原が内心、次の手を考える。

*1
58話より

*2
17話より

*3
21話より




作者:早くバリケードを立てないと! トンカチ良し! 釘良し! 木の板は………………木の板は?!

リサ:ほい。

作者:ああ、ありがとう。

リサ:別に

作者: …………………………………………………

平子:なにボサッとたっとんねん。

ラブ:そうだぞ、早くバリケードとやらを立てないか?

ハッチ:あの……せまいデス

ローズ:そりゃあ、そんなにデカい体をすれば当然だと思うよ?

作者: …………………………………………………

拳西:おい、こいつ立ったまま失神してるぞ?

ラブ:どこのエジプト人だ

マシロ:なにそれラブちん?

ラブ:だからその呼び名やめろよ


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第63話 BLACK & WHITE

お待たせしました、次話です!

読んでくれてありがとうございます!


 ___________

 

 一護、『仮面の軍勢』組、『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 次の日、一護達は倉庫街へと戻っていた。

 

 詳しくはその内一つの中にある『倉庫の地下室』で、そこは浦原商店の地下にある訓練場に似ていた場所だった。

 

「で、どうすんだよ平子?」

 

 始めは珍しがっていた一護だったが、事が事だけに彼は気分が急かされながら目の前の平子に問いかける。

 

 内なる虚の制御の仕方を。

 

「で? どうやるんだ平子?」

 

「良いか一護? これからお前は()()()虚化し始める。」

 

「ハァ?! そ、そんな事になったら…俺は────!」

 

 一護の脳裏に蘇るのはかつて、浦原によって死神の力を取り戻すためにプラスのまま、因果の鎖を断ち切られた記憶とあの時感じた痛み。*1

 

「────ええから最後まで聞けや。 お前は虚に食われ始めるが、()()そいつを食い尽くすんや。」

 

「『逆に食い尽くす』って…………どうやって?」

 

「ま、強いて言うねんやったら『斬魄刀の屈伏みたいにやれ』て言うたらわかるか?」

 

「え? それって────?」

 

 ────平子の手が一護の顔近くまで来て、一護はフッと意識を失くす。

 

「……ハッチ、二重断層結界(にじゅうだんそうけっかい)や。 それと、一護の体も封印。」

 

「…………はいデス。 

 鉄砂(てっさ)の壁、僧形(そうぎょう)の塔。 

 灼鉄熒熒(しゃくてつけいけい)湛然(たんぜん)として(つい)音無(おとな)し。 

『縛道の七十五・五柱鉄貫(ごちゅうてっかん)』!」

 

 皆がいる地下室だけでなく倉庫全体をハッチの結界が覆い、一護の手足と頭そして胴体に大きな石の柱と彼を押し込めるような結界が現われる。

 

「さすがは鉢玄殿だな。 こうも結界をたやすく重ねて張るとは。」

 

「ですからワタシの事は『ハッチ』とお呼びくださいませ、お嬢サマ。」

 

「私の事もチエで良いと言っただろ?」

 

「お前ら、いつまでそのネタ引っ張るん?」*2

 

「気に入らないか、『ひよ里さん』?」

 

「せやから『ひよ里』でええってなんべん言わせ────?!」

 

 ────ドグン!

 

 ひよ里の言葉を遮るかのように一護の体が跳ねて、石の柱にヒビが生じ、結界の地面ごと地鳴りのような揺れが広がる。

 

()おったでお前ら! 戦闘態勢に入っとけ!」

 

「ベリたんの反応スゴイね?!」

 

「マシロ、黙っといてくれ。」

 

 拳西の声で『仮面の軍勢』の各々が激しく痙攣する一護の体に注目していた。

 

「(虚の()()()()()()()()?)」

 

 チエそう思うと石の柱がついに粉々になり、虚化した一護が周り見渡す。

 

「ハッチ、あたしが入るから結界のここ開けぇや。」

 

「殺さんときや、リサ。」

 

「あたしが死ねへんかったらね。」

 

 リサが斬魄刀を手にして結界の近くまで歩くと、四角い()が結界に生じる。

 

 シャアァァァ!」

 

「んなッ?!」

 

 だが虚化した一護はこれを予想したのか、素早く己の斬魄刀を手にして一気に結界の外へと出る。

 

 驚いて構えるリサを無理やり素通りして。

 

「(んなアホな?! 今のは破面の高等歩法(ソニード)やないか?! いや、今はそんな事はどうでもええ、()()()()()()()()!) あかん、そっちに行くで?! ハッチ、早う新しい結界や!」

 

「ッ。 (来るか、一護の虚。)」

 

アァァアアアアァァァァ!!!」

 

 虚化した一護は雄叫びを上げながら、一直線にチエのもとへと向かって彼女に襲い掛かり、彼女は鞘に入れたままの刀で迫る斬魄刀を受け流し始める。

 

「……(こいつは────)」

 

 チエの目がいつもの眠そうな半開きから目を完全に開き、表情がキリッとする。

 

「(あの仏頂面の表情(カオ)()()()()やと?) 予定変更や。 ハッチ、あの二人の周りに重度の結界を張れ。」

 

「えぇぇぇぇ?」

 

「『えぇぇぇぇ』、やないわ。 早よしぃハッチ。」

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 一護が気付くと以前、『()()()オッサン』と初めて出会った場所にいた。

 

 それはどこかの都心部で、高層ビルが並んでいる大通りを思わせるような場所。

 その中で、一つの高層ビルの()()の上に一護は立っていた。

 まるで重力が通常とは垂直になったかのような景色だった。

 

 始めにその場所へと来たとき、一護は焦ったが今ではこれを『常識』と捉えていた。

 

『よう、久しぶりだなぁ?』

 

 そして一護の前には『白い一護(内なる虚)』も高層ビルの側面の上で自分と向かい合わせるかのように立っていた。

 

 だがいつもは『白い一護(内なる虚)』と共にいる筈の『()()()オッサン』はどこにも見当たらなかった。

 

 これは一護にとっては初めての事で、あまり考えもせずに目の前の人物に居場所を問いかけるほどのモノだった。

 

「『()()()オッサン』はどこだ?」

 

 白い一護(内なる虚)が何とも言えない顔浮かべ、口を開ける。

 

『“斬月”ってのはテメェが背負っているソイツか? それとも、俺が持っている()()か?』

 

 相手の言葉で、一護が白い一護(内なる虚)が手にしていたのは色が反転した『斬月』。

 

「ふざけている場合じゃねぇんだ。」

 

『ふざける? それじゃあヤメにしようか……お前の言う“斬月”は()だよ。』

 

「テメェは違うだろ? 『()()()オッサン』は────?」

 

 ギィン!

 

『“オッサン”、“オッサン”ってうるせぇよ、一護! 俺と“斬月”はもともと一つ! オレはテメェが“斬月”の力を引き出せばするほど、テメェの“(たましい)”を支配できるってワケをいい加減に理解しろよ?!』

 

「じゃあ要するに、テメェを俺がぶっ倒せば結果オーライってワケだな?! わかりやすいぜ!」

 

『分かるように言ったんだよ。 それにテメェが俺を()()だと? そりゃあ無理だね。』

 

「『卍解!』」

 

 一護と白い一護が互いに向けて武器を構えて卍解をして、黒白の色が反転している以外、同じ姿と服装の二人が互いに向けて剣を振るう。

 

「テメェも卍解が使えるとはな!」

 

『何てことはねぇよ。 お前が使えるからオレも使えるってだけだ!』

 

 深い斬り込みが衝突した事で二人は強制的に引き離され、距離がひらいては同じ構えをする。

 

「『月牙────!』」

『────“天衝”!』

 

 互いの放った月牙天衝の余波で高層ビルの窓ガラスが割れ、ついにはコンクリートビル自体が崩壊して飛ばされた攻撃が相殺しあう。

 

「グッ………(同じ『月牙天衝』だってのに…)」

 

 否。 土煙が晴れると、一護だけが大きな傷を負っていた。

 

『もう忘れたのかよ? オレが最初に“月牙天衝”を使ったんだぜ? テメェはオレの物真似をしているだけって事だぜ────』

 

 一護の顔面に『白い一護』の手が迫っては掴んで、彼をそのまま後方へと投げる。

 

『──── 一護。』

 

「(は、早えええ?!)」

 

 一護はそのまま別の高層ビルに叩きつけられる。

 

「グハァ?!」

 

 ガラガラと音の立てる瓦礫から、傷口から血を流す一護に『白い一護』が問いかける。

 

『なぁ、一護?』

 

「………?」

 

『白い一護』の攻撃が来ないのを疑問に思いながら、この隙の間に息を整える。

 

『“モノマネ”っつったらよぉ? ()()()()、テメェが模倣(もほう)している奴がいたよな? 確か…………“ちえ”っつったっけ?』

 

「な、なんで………一体、なにを────?」

 

『白い一護』から予想していなかった名が出てきて、一護は困惑する。

 

『────悪いことは言わねぇ。 ()()()()()()()。』

 

「…………………は?」

 

『アイツの所為で、()()()()()()。 だから────

 

 

 

 

 

 

 

 ────()ええテメェに変わって、()()()()()()()()よ。』

 

 

 ___________

 

 『仮面の軍勢』、『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 ギィン!

 

 火花が散る。

 

 ガガガガガガガガガガガガ!

 

 地面が抉れる。

 

□□□□□!」

 

 ヒトではない『なにか』の雄叫びが空気をビリビリと響かせる。

 

「(『コレ』も情報にないが………………『後の事』を考えると『殺す』のはやはりマズイか。)」

 

 虚化した上に卍解姿に変わった一護と、とうとう鞘から刀を抜刀したチエが何十枚にも重ねた結界の中で激しく動き回りながら互いを牽制している中、チエは反射的に一護へ繰り出そうとする攻撃を無理やり途中で止めてはその『躊躇の隙』を虚化した一護が逆手に取ろうとした攻撃を大げさに躱す。

 

 結界の外にいた平子が腕時計を見ていた拳西に声をかける。

 

「始まって何分経った、拳西?」

 

「………10分をついさっき切った。」

 

「アイツ、やっぱ『()()()()』やわ。」

 

「「「「「…………」」」」」

 

 他のひよ里、ラブ、ローズ、マシロ、そして結界に集中していたハッチが無言のまま虚化した一護と相対する、つい先ほど()()()()()()()チエを見る。

 

 虚の一護は、観戦している彼らからしてもかなり強い部類に入る。

 

 元来なら殆んど本能のみで行動するのが普通なのだが、どういう訳か虚の一護は荒削りだが()をベースにした動きを取っていた。

 

 それはさながら『戦闘訓練を受けた猛犬』と、『暴れる野良犬』の違い()

 

 そんな相手に、ただの体術と漸術で彼の攻撃をいなしていたチエの姿は十年前、『仮面の軍勢』等が初めて彼女()()に会った日を思い出させていた。*3

 

「アイツの持っとるアレ、ホンマに()()()やろか?」

 

「さっきから僕も見ているけど、()()()()みたいにも見えるね……それにしてはかなり()()ね。」

 

「というかぁ、体術だけならマシロと同じー? 感じがするー。」

 

「……………ガキの頃にも思ったが、これほどとは……」

 

「虚化制御の『内在闘争』の一番長かった時間って、誰だ?」

 

 ラブが他のメンバーにそう問いかけると、ひよ里が口を開ける。

 

「ウチの69分2秒や。」

 

「…………アイツのあんな顔、誰か見たことあるか?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

『仮面の軍勢』が全員、汗を頬から流す平子を見る。

 

「よう見ろ。 今の状況を()()()()()で?」

 

 ドカ! ガキィン!

 

シャアアああああアア!!!」

 

「フッ!」

 

 バキィ!

 

 斬魄刀を弾いた後、まだ何とかぎりぎりで人型にとどまっている虚化した一護が漸術から肉弾戦と刀を同時に使う戦い方に移行して、チエがそれに合わせて応戦する。

 

 僅かな笑みを汗と共に浮かべながら。

 

「(本能で戦っているとはいえ、一護の戦い方はちゃんと教えていた型に基づいている。 だが『遠慮』が無い分無駄が少なくて正確な動きだ。)」

 

 チエは自覚していなかった様子だが、彼女は確かに胸の中から高ぶる()()()からか、僅かな笑みが出てきていた。

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 

『だから()ええテメェに変わって()()()()()()()()よ。』

 

「…………………………は?」

 

 一護がポカンとしたことに、『白い一護』は呆れる。

 

『お前、相変わらずトロイな~。 だからあの“ちえ”ってヤローを殺s────』

 

 一護は手に持っていた『斬月』を『白い一護』の顔に目掛けて投げる。

 

『────って普通、戦いの最中に武器を投げる奴がいる────?!』

 

『白い一護』が反射的に上半身を横に動かして躱し、前をもう一度見ると無表情の一護は深い踏み込みで距離を詰めていて、『白い一護』のお腹に掌打を食い込ませる。

 

 ドッ!!!

 

『────カハァ?!』

 

『白い一護』の目が驚愕に見開くと同時に体をくの字に曲げて、肺に入っていた空気が全て体から抜け出す。

 

「せいや!」

 

 一護は初手の動きの流れのまま、『白い一護』が色の反転した『斬月』を持った腕を掴んで、一本背負い並みに地面(高層ビル側面)に叩きつける。

 

『~~~~~~?!』

 

 空気を吸い込む暇が与えられずに背中を強打した『白い一護』が声にならない悲鳴を上げる。

 

「フッ!」

 

 ゴッ!

 

 そんな彼の顔面に一護の振り下ろした拳が鈍い音を出して当たる。

 

 ゴッ!

 

 一護はすかさず反対の手を拳にして殴る。

 

 ゴッ!

 

 殴る。

 

 ゴッ!

 

 殴る。

 

 殴る、殴る、殴る。

 

 一護は感情の消えた表情のまま、ただひたすら『白い一護』の顔、首、胸を中心的に殴り続け、高層ビルの壁やガラス窓などがひび割れていく。

 

 それをお構いなしに一護は殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。

 

 息をするのも忘れて一護は殴っていく。

 

 拳の皮がめくれても、血がにじみ出てきたとしても、手の感覚が痛みを通り越してマヒしても彼はただ無心にただ殴る。

 

 「…………………ブハァ!」

 

 胸が苦しくなり、息をするのをやめたと一護が自覚して大きく息を吸い込み、脈が速くなっていたのを、こめかみの浮き出ている感覚で理解する。

 

『………………ゲハ…………………ゴホ…………()めぇも……“ろうそう(闘争)本能”()()っていらは(やが)った()。』

 

 顔中はボロボロで、片目の眼球がつぶれかけていた。

 もう片方の目が腫れあがって、ほとんど開けていられない状態の『白い一護』がろれつの回らない口で一護に語り掛ける。

 

「…………………(俺は、いったい何を?)」

 

 無言で自分の傷ついた手を見ながら、自分がやったことを考え込む一護を見て、『白い一護』が言葉を続ける。

 

ほんはい(今回)()めぇの()ちだ。 さは(だが)あいふ(アイツ)には()すへ(つけ)な。 そひてひぬんひゃねほ、(そして死ぬんじゃねぇぞ、)イヒホ(一護)。』

 

 

 ___________

 

 『仮面の軍勢』、『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

「ッ!」

 

 チエは虚化した一護の腕の付け根を狙い……………いや、チエが思わず反撃で斬り落とした四肢が超速再生(ちょうそくさいせい)によって新たに変質しながら生えて、殆んど虚になりつつある一護の斬魄刀や爪を避ける。

 

 ビリィ!

 

 服が破れる音と、服装の一部が地面に落ちる。

 よく見れば、チエの顔や体には無数の擦り傷と汗が混じってまさに『傷口に塩』状態。

 

「……………(マズイな。 先ほどから『死神』より『虚』の匂いが増してきている。)」

 

 だがそんな体中にしみるような感覚は気にもせず、ただ目の前の一護の事を思っていた。

 

 一護は一応人型だが、腕も『ヒト』というよりは『異形』となり、顔の大部分も虚の面に覆われて『ヒト』には似つかわしくない尾と虚の体つきをしていた。

 

 結界の外にいたラブとローズにリサと拳西が話し合う。

 

「ラブ、あのgirl(ガール)の白打、見たことあるかい?」

 

「いや、どっちかというと現世にある武術を混ぜたようなモノに似てると思っていたが…よく見りゃ、それとはまた別モノだ。」

 

「拳西、今の時間は?」

 

「…今69分を切った。」

 

「そうか。」

 

 虚の一護はシビレを切らしたのか、何某アニメの『ドドン〇』、または『スペシャルビー〇キャノン(魔貫〇殺砲)』に似た構えで上げた片手に光の玉が集まり始める。

 

「ッ」

 

 チエは刀を前に構え直し、これを見たひよ里が思わずイラつきながら彼女に叫ぶ。

 

虚閃(セロ)や、なにしとんねんこのドアホ?!」

 

「………………」

 

 だがチエはひよ里の言葉には反応せず、ただ静かに虚閃を撃つ準備をする虚の一護を見る。

 

「チーちゃん、何してんの?!」

 

「これは()()()()マズイね。 あの子、虚閃を真っ向から相手にする気だ。」

 

 平子はただ斬魄刀を抜く用意をする。

 

「(まだこれでも本性を出せへんのか? 死神でも、俺ら(仮面の軍勢)のようでも、人間でもないモノが? 意味わからへんわ。 浦原の奴にも話さな────)」

 

 ────バキィ!

 

「「「「「ッ!」」」」」

 

 虚の一護からまるで分厚い卵の殻が割れるような音が発して、手に集まっていた光の玉がフッと拡散して消える。

 

「! お嬢さン、中から出てくだサイ!」

 

「だからチエで良い!」

 

 ハッチの声とともに、結界に空いた穴からチエが出ると霊圧の爆発が起きる。

 

 そして中から出てきたのは虚の面をしながら死覇装に身を包んだ一護の姿。

 

 力尽きたのか、彼の体が前のめりに地面に落ちたはずみで虚の面が顔から独りでに剥がれる。

 

「一護、気分はどうや?」

 

 「…………────」

 

「あ?」

 

 一護がボソボソと何かを口にするのを平子が見る。

 

「なんやて?」

 

 平子がしゃがんで、耳に手を付けて一護の小声を拾い上げようとする。

 

 「────」

 

「……………………………ハァ。」

 

 平子がものすごくイヤ~な顔とジト目で、地面に寝転がる一護を見ながら頭をボリボリと掻く。

 

「平子、奴はなんて?」

 

「メッッッッッッッッッッチャ、アホ臭い独り言や。 おいお前ら、デカ()イのところからごはん、分けてもらうで。 んで()()()一護の世話しとき。」

 

「ああ、分かった。」

 

 平子はそのまま倉庫をほかの『仮面の軍勢』メンバーたちと出て、チエに意識の失った一護の世話をするよう言い聞かせる。

 

「なぁ、真子。 最後にあのヒマワリ頭、なんて言ってたん?」

 

 歩いている間、ひよ里が珍しく大きな態度を出さずに平子に問う。

 

「せやからさっきも言ったようにアホ臭い、他愛のない独り言や。」

 

 そうぶっきらぼうに平子は答えたが彼自身、朦朧としていた一護が意識を失う前の言葉を思い出す。

 

「(なーにが『今度こそ(まも)ってみせる』だぁ? 青臭いヒヨッコのビビりガキのクセに見栄はって、イッチョ前の男の言葉を使いよってからに。) ……………はぁ~。 せいぜい、胸張れるぐらいは鍛えなあかんか。 難儀なやっちゃ。

 

「? なんか言うたか真子?」

 

「いんや、なんもあらへんわ………」

 

 その頃、ひよ里はかつてチエの先ほど見せていた微笑を過去に見覚えがあった。

 

 それはひよ里がした、チエの本質の問いに返って来た時と似ていた。

 

≪そのどれでも無い()()()()()()()。≫

 

「(『死神』でも、『虚』でも、『人間』でもないって……せやったら他に何があるっていうねん、あのボケ……)」

 

「ひよりん変な顔ー! お祭りのお面みたいー。」

 

「うっさいわマシロォォ!」

*1
20話より

*2
8話より

*3
8話より




余談ですが田舎にある友人のところに一晩だけこの週末、戻っていましたが………

野生のシカ、メッチャ多くなった(笑)。

あと人と家も。

え?  「そんなんええから」?

……………

次回、Not岸辺〇伴(登場の予定)です!

他メディアでは『シマム〇ジョー』や『枢木ス〇ク』や『クラ〇ド』や『〇ーリン』など。

作者:………………え? マーリ〇ってマジ?

何某花の魔術師(天の刃体):そうだとも! 君の物語の中で間接的にひどい扱いを受けた、(ちょっと)お気楽なお兄さんさ!

作者: Oh……


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第64話 Imitation ゆるふわ

お待たせしました、次話です!

少し長くなりましたが、キリが良いところまで書きました(と思います)。

更にご都合主義や独自解釈などがこれからも多発します、ご了承ください。 (汗汗汗

8/11/21 9:33
誤字と一部の修正いたしました。


 ___________

 

 織姫、雛森 視点

 ___________

 

「ふぅ………」

 

 織姫はいつもの調子が出ないまま空座町を歩きながら、彼女には似合わない息を吐いていた。

 

「またタメ息ですか、井上さん?」

 

 そして彼女の隣には雛森がいた。

 

 先日のグリムジョー達が襲撃した夜、『日番谷隊長が重症の傷を負った、大至急“井上織姫”の治療が必要』と聞いた雛森は脱兎のごとく、日番谷の安否を確かめる為と言いながら行動をしていた。

 

 その時に織姫と話すこともあって互いに馬が合い、今では『他者の心配をする者』同士で仲良くなっていた。

 

 なお余談だが、この二人の仲(むつ)まじい場を学校で見た千鶴は『織姫を取られた』という対抗意識より、「ターゲット集まっタァァァァァァァァァァァ!!」という意味不明な叫びをしていた。

 

「結局、今日も黒崎くんも渡辺ちゃんも、転入生の何人かも学校に来なかったね。」

 

 上記で織姫がいう『転入生』とは滅却師達の事を示していた。

 

「……………はい……ですが、黒崎一護と隊長の霊圧は感じるんですね?」

 

「う、うん。 なんとかね?」

 

 織姫は立ち止まり、目をつぶる。

 

 目の前に広がるのは暗いまぶたの裏。

 

 だがそれも最初の目をつぶった瞬間だけで、織姫が意識を集中するとその暗闇の中で広がった景色は数多の星の光に似た場面。

 

 その中を駆け抜けるかのように、景色は素早く動き、やがて()()()()()()()()()()()()()になれる光を放つ星を見つけ出す。

 

「……うん、黒崎くんの周りには他の人たちも少ないみたいだから……まだ町から離れたところにいるみたい。」

 

「やはり、井上さんはすごいです。 私なんか、どれだけ集中しても感じ取れませんから。 というか得意な鬼道を使ってようやく生きているかどうか分かるだけなのに、生身でそれを直に感じ取れるなんて…」

 

 雛森が過去の(イジメられていた)織姫以上にゲンナリとして、重い空気が彼女から漂う。

 

「わわわわわ?! そ、そんなに気にすることないってば雛森ちゃん! 私が変なだけで、黒崎くんたちの事だからきっと修行とかこっそりとしているだけだと思うし!」

 

 この雛森の様子を見て、織姫は慌てて彼女を元気づけようとする。

 

「そうですね。 その通りですね。 副隊長である私には何も告げずにフラリと消える程だし阿散井君とどれだけ試合をしても漸術は上達しないし卍解の糸口も見当たらない私なんて────」

 

『ズモモモモモモ』という効果音と共に出てきそうな更に重~い空気を雛森は出しながら、目の焦点が外れながら死んでいってブツブツと早口になる様を織姫は見てさらにアタフタする。

 

「────はわわわわわわ?! ()()ちゃん、()()ちゃん! 暗い! 暗いよ?! そ、そうだ! こんな時こそ『パフェ丼』を一緒に食べようよ?!」

 

 織姫は自分のアパートの近くに来たことにより、新たなゲテモノ ()()作を食べる誘いをする。

 

 雛森の目には光が戻り、彼女が織姫の部屋の方向を見上げる。

 

「あ……この霊圧はシロちゃん?」

 

「え?」

 

 ………

 ……

 …

 

 織姫の部屋の中では大型の通信機を設置した様子の日番谷と乱菊の二人がいた。

 

「あ、日番谷君に乱菊さん!」

 

「うわぁ、カッコいい…………じゃなくて! 冬獅郎君、なにこれ?!」

 

「あー、間の悪い奴d────」

 

「(────織姫ちゃんの時は言い直さないのね隊長────)」

 

「────()()()()()()()、だって? 井上さん?」

 

「ん? なんだ、雛森も一緒k────うおおおぉぉぉぉ?!」

 

 振り返った日番谷が見たのは目が完全に死に、瞳孔の中で渦のようなモノを宿わせた雛森の姿。

 

「ひ、雛……森?」

 

 このような豹変ぶりに、流石の日番谷も動揺を隠せずに戸惑っていた。

 

ふーん。 『トウシロウクンなんだ。」

 

「……………へ?! いやちょっと待て?! 何を考えているのか知らないが、全くの誤解だ!」

 

 キョどる日番谷が珍しかったのか、乱菊が雛森の様子に気付かないままからかう。

 

 が、その行為が火に更に油を注ぐこととなる事を予想していなかった。

 

「あら隊長、水臭いですよ? ()()()()()()()()()()じゃないですか?」

 

乱菊ぅぅ! おまえぇぇぇぇ?! 誤解を招くような言い方をするな、『未遂』だこの野郎!」

 

へぇー?」

 

 日番谷はよくわからない不安が胸から広がるのを感じ、後ろの大型の伝令神機から通信が入ってくる。

 

『おお、繋がったか。 さすがは日番谷隊長、仕事が早いのぅ。』

 

「へ? そ、総隊長さん?」

 

 大型モニターに映ったのは織姫がつぶやいた通り、山本元柳斎だった。

 そして通信から来た声と、織姫のつぶやきに雛森がハッとする。

 

「ハッ?! わ、私は何を?! へ?! そそそそ、総隊長?! お、お久しぶりです!」

 

『うむ、雛森副隊長も元気そうで何よりじゃ。 さて、今回早急に回線を用意してもろうたのは他でもない、『藍染惣右介の狙い』と思われしきモノが判明したからじゃ。』

 

「『藍染()()の、狙い』ですか?」

 

 雛森が思わず出した言葉に山本元柳斎の眉毛がピクリと反応する。

 

「えっと、なんか重要な話っぽいから私は席を外し────」

 

『────奴の狙いはお主ら人間にも直結する話じゃ。 聞いていきなさい────』

 

『────いま“織姫”の声が聞こえたのじゃが山坊や?!』

 

『フン!』

 

 ドガ!

 

『グハァ! 無、無念…』

 

 バタリ。

 

 ズルズルズルズルズルズル。

 

 右之助の声がオフスクリーンから聞こえてきたかと思えば、山本元柳斎が(斬魄刀)を声の方向に投げて、()()が力なく倒れては引きずられていく音が聞こえてくる。

 

『いつもすまんの、雀部。』

 

『いえ、お構いなく。』

 

 これを見て聞いていた日番谷、雛森、そして乱菊と織姫でさえ冷や汗を出しながら苦笑いをするのを必死に我慢していた。

 

『さて、藍染が消えてから奴への捜査が続いておるのは知っておろうな? その中でも大霊書回廊(だいれいしょかいろう)の調査を担当しておった浮竹が妙な痕跡を発見した。』

 

「(『大霊書回廊』って、何だろう?)」

 

 そう織姫は思っていたが真剣な場の空気に戻っただけに訊き辛く、黙っていた。

 

『その中でも“崩玉”と、それに付随(ふずい)する研究資料。 及びに“王鍵(おうけん)”の書物に既読記録がついておった。』

 

「「「ッ?!」」」

 

 これに対して日番谷、雛森、乱菊の三人が目を見開く。

 

「あ、あのぅ…………『王鍵(おうけん)』ってなんですか?」

 

 とうとう聞かずにはいられなくなった織姫に、乱菊が答える。

 

「『王家の(かぎ)』、通称『王鍵(おうけん)』。 ソウル・ソサエティにも一応、王族がいるのよ。 四十六室に任せっきりだから、殆んど実感はないけどね? 実際にアタシたちは直接見たことは一度もないぐらい、()()()というか………なんというか………」

 

然様(さよう)。 名を“霊王(れいおう)”と言い、ソウル・ソサエティにとっては()()()()()()()()()。 そして“王鍵(おうけん)”とはソウル・ソサエティとは更に別の空間にある王宮へと導く通路を開く鍵じゃ。』

 

「それを…藍染()()は────」

 

「(────あの藍染に『さん付け』────)」

「(────『藍染さん』って────)」

「(────()()を『さん付け』────)」

 

 上から日番谷、乱菊、雛森の順で考えていたのが上記の事である。

 

「────その王様と会って……何を?」

 

『おそらく“殺す”じゃろう。 じゃが問題はそれ以前の事、“王鍵(おうけん)創生法(そうせいほう)”と…………その“材料”じゃ。』

 

「材料?」

 

 一瞬、山本元柳斎は戸惑ったかのように見えた。

 織姫に答えるべきか、黙り通すのかを。

 

『……必要なのは“10万の()()”と()()()()()の“重霊地”。 そしてその“重霊地”というのが幸か不幸か、今宵(こよい)の時代では“空座町”なのじゃ。』

 

「そ、そんな………じゃあ────?!」

 

『────うむ。 王鍵(おうけん)の創生がされれば、空座町の大地と人が世界から消されてしまうじゃろう。』

 

 力が抜けていく織姫の体がふらつき、乱菊と雛森が彼女を支える。

 

「止め、止めないと……藍染さんを止める手立ては、あるんですか?!」

 

『無くとも無理やりにでも阻止する。 その為にワシが設立したのが、護廷十三隊じゃ。』

 

「(そんな…………でも……………)」

 

 不安になる織姫を山本元柳斎が見る。

 

『確かに“ワシらを信じろ”と言っただけでは難しいかもしれん。 じゃからこの通信の内容を伝えるかどうかも、最初は迷った。 

 じゃが……………藍染は()()()()()()()()()。 

 それと十二番隊の技術局と浦原顧問からの報告によると、封印状態だった“崩玉”の封印が解かれていても『睡眠状態』であり、()()()()()()でも完全覚醒には最低でも()()()()()()()と言っておる。

 つまり、奴が本格的に動くのは冬という事じゃ…………………“井上織姫”。』

 

「はひゃい?!」

 

 山本元柳斎に直接、名呼びされたことに緊張し、彼が自分をジッと見ていたのを織姫が感じる。

 

『今の言葉と我々の方針、現世にいる其方(そなた)の知人たちや黒崎一護にししょ────“渡辺隊長()()”にもそう伝えてくれるかの?』

 

「ッ! はい!」

 

「フォッフォ、良い面構えじゃ。」

 

 織姫が元気よく返事したことに山本元柳斎は満足そうに笑みを浮かべる。

 

 これを見た日番谷、乱菊、雛森が画面越しからでも総隊長としての『威厳』を感じとれ────

 

『もうそこまで言い直すのであればいい加減、彼女を“師匠”と呼んでもいいのではないですか?』

 

『いやでも……ワシにも()()“威厳”というものがあってのぅ?』

 

『通信、開いたままですよ隊長?』

 

『へ。』

 

 ────訂正。

 

『威厳』を感じ取れる前に、雀部との会話で『オフ状態』となった山本元柳斎のやり取りを見て、彼らは暖かく和むのであった。

 

 織姫はそのまま外へと出かけ、乱菊も一角と弓親に伝えるためにその場を去る。

 

「じゃ、じゃあ…私も井上さんと────」

 

『────少々待ちなさい、雛森副隊長に日番谷隊長。』

 

「ッ」

 

『お主らに“話がしたい”とさっきから部屋の外の通路でウジウジしていた者がおるんじゃ。 ほれ、お主の気になる者がおるぞい?』

 

『そ、総隊長殿?!』

 

『フォッフォッ。』

 

「「???」」

 

 そこで日番谷と雛森の前にモニター越しで現れたのは────

 

『やぁ。 二人とも、元気そうだね?』

 

「「吉良副隊長?!/吉良君?!」」

 

 ────かなりやつれていて、目の下のクマが目立ってはいたが、三番隊の副隊長である(カリンにアバラを折られた)吉良イヅルだった。

 

「お前、アバラはもう大丈夫なのか?」

 

「そうだよ! カリンさんに折られたって聞いたよ?!」

 

『ははは、恥ずかしい限りだよ。 でもこの通り! 右之助さんに診て貰って、ボクは元気いっぱ────!』

 

 ポキッ。

 

『────い″い″い″い″い″い″いいイイいヒヒヒヒぃィィぃぃ?!』

 

 ()()腰や上半身を元気よくひねった吉良が、不吉な音と共に動きが急に止まっては顔がさらに青くなる。

 

「き、吉良君? 無茶は……だめだよ?」

 

『ヒヒヒ?! な、何を言っているのかな雛森くんん″んん″ン″ン″?』

 

 「見栄張ってるからそういう失態を犯すんだよ、この馬鹿野郎。」

 

 吉良の気持ちと言動の理由を分からなくもない日番谷が小声で独り言のようにツッコむ。

 

『そ、それと二人に僕からお願いがあるんだ。』

 

「「ん?/え?」」

 

 吉良が真剣な顔をする。

 体は固まって、顔も青いままだが。

 

『市丸隊長と、東仙隊長をできれば殺さないでくれ。』

 

「「…………………」」

 

『無理難題を君たちに押し付けている自覚はある。 

 でも話を聞いたところによると、僕には二人が藍染惣右介が持っている“崩玉”にひれ伏しているんじゃないかって思えてしまうんだ。 

 本人たちがそう思っても自覚していなくてもね。』

 

「吉良君………」

 

「吉良、お前………」

 

 雛森と日番谷は何とも言えない顔になる。

 

 それは『原作』ではいまだに藍染のしたことの真実より、己が描いた『藍染隊長』に依存していた雛森が日番谷に『藍染隊長にも理由がある』と言い切り、『無理強いされている藍染隊長を助けて』と懇願する場面だった。

 

 だが『原作』とは違う流れのおかげで雛森は現世に来ていて、代わりに隊長が裏切っても冷静で理性を保った吉良が代わりに通信越しにいて、似たようなお願いをしていた。

 

「…………やれるかどうかわかんねぇけどな。」

 

「シロちゃん…」

 

「日番谷()()だ。」

 

「あ! ご、ごめん日番谷君!」

 

「だから『日番谷隊長』だっての。」

 

『アハハハハ。 二人は変わらないね…………正直、元気でうらやましいよ。』

 

「え? 吉良君、今なんて言ったの? ごめんなさい、聞きづらくて────」

 

『────あ、あああ! いいんだ! “雛森君が元気そうで良かった”って言っただけさ! ところで現世はどうだい?! 渡辺隊長代理とは上手くやっているかい?!』

 

 顔が青から赤く変わって慌てる吉良が無理やり話題を変える。

 

「あ、そういえば言い忘れていた! 私も今は渡辺隊長と一緒に学校に通っているんだよ?」

 

『うん、君のその服装を見ればわかるよ。 可愛くて、よく似合っているよ。』

 

 ビキビキビキ。

 

 雛森のスカート(&ニーハイソックスの間)からわずかに露出した太もも(絶対領域)に鼻の下が伸びた吉良に、日番谷のこめかみに青筋が浮かび上がる。

 

「ありがとう! でも未だに『()()桃』って他人から呼ばれるのは慣れていなくて────」

 

 「『『なにっぬ?!』』」

 

 雛森の言葉に日番谷、山本元柳斎、吉良の三人が目を全開に見開きながら驚愕して、変な声を出す。

 

 というか日番谷に至っては足がガクガクと笑い、もともと白い肌が土色へと変色する。

 

「(『苗字を変えた』……………だと? ま、まさか…………そんな…………)」

 

「あ! そうだ! 今度みんなで『こんびに』にいきましょう! もう凄いお店で、見たことも聞いたこともない品がずらりと並んであって────!」

 

 ウットリとした顔の頬を両手で包んで体をモジモジとする雛森を、吉良は既に見てはいなかった。

 

 やつれた顔と目の下のクマは、吉良が顔を俯かせたことにより更に影が深くなり、ブツブツとアブナイヒト(狂人)のように独り言を繰り返していた。

 

『雛森』君が…『渡辺』君に…『雛森』君が…『渡辺』君に…

 

 そして山本元柳斎は────

 

いいなぁ~、ワシも現世に行きたいのぉ……………………“おじいちゃん”枠でどうにかならんもんかのぉ。

 

 ────いじけ(うらやましがっ)ていた。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 その間にも、茶渡と恋次は浦原商店の地下にある訓練場にてカリンにしごかれていた。

 

 茶渡は自前の巨体をベースにした耐久力を、恋次は一角譲りの荒削りな戦い方をより良いものにするために。

 

 恋次は最初、浦原にルキアと崩玉に関して色々と聞こうとしていたが、のらりくらりと質問などが避けられ、仕舞にはカリンに茶渡と共に修行を付けられることに。

 

「ハァ?! なんで俺が?!」

 

「いやね? 今の茶渡サンを鍛えるには卍解、またはそれに類する技が最も効果的らしくてですね────?」

 

「────だったらアンタ(浦原)だって出来ることじゃねえか? 『元十二番隊隊長』、および『元技術局長』さんよぉ?」

 

「…………アタシの卍解は『人を鍛える』とか『人に力を貸す』のに向いてないんっスヨ。」

 

「………」

 

 浦原にしては珍しく思いつめたような表情に、恋次は言葉もイラつきと共に削がれる。

 

「んじゃ、こういう事などどうでしょう? 阿散井さんが三か月、ウチ(浦原商店)で『お手伝い』をすれば()()()質問にも答えましょう♪」

 

「………………良いぜ、乗った。」

 

『お~い! まだかぁ、浦原―?!』

 

 地下から来るカリンの声に、阿散井がさっさと立ち上がる。

 

「ニヒヒヒヒ、無料の助手ゲットです♪ (あとついでにカリンさんたちの事も横から探れる要員も♫)」

 

『譲歩しているように見えて、実はすべて掌の上』をまたも披露する浦原だった。*1

 

 ………

 ……

 …

 

「………………あそこ?」

 

「え?」

 

 織姫が雛森と共に倉庫街に来ていた。

 

 だが織姫は真っすぐ『とある倉庫』を見ていたことに対し、雛森はキョロキョロと()()()()の場所を見渡す。

 

 これを見た織姫が、周りの生物を見て確信する。

 

「(そっか。 ほかの皆は『近づけない』どころか、そこに至る『考え』自体が思い浮かばないんだ。)」

 

 織姫が見ていた倉庫は力強い結界に()()()()()()()()()()()()()()、周りの猫や鳥やアリでさえも認識していない奇妙な動きをしていた。

 

 織姫は近付こうとするどころか、離れようとする雛森の手を無理やり引っ張って結界を彼女と一緒に通る。

 

「え? え? え────?!」

 

「(私の『盾舜六花(しゅんしゅんりっか)』と感じが()()()()────)」

 

「────なるほど、良い結界ですね。」

 

「「うひゃあ?!」」

 

 雛森と織姫が急に聞こえた声に小さな悲鳴を上げる。

 

「ク、ク、クルミちゃん?! どうしてここに?!」

 

「それにその大きなリュックは…………何?」

 

「貴方たちの後を付けました。 あと背負っている『コレ』は調理器具と食材です。」

 

 二人の指摘に即答するクルミ。

 

「「答えになっていないよ?!」」

 

 答えになっているようで、なっていないのは気のせいではなかったらしい。

 

「………………マイが『長丁場になる平子たちにご飯を~』と言っていたのでボクが出向くことになりました。」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 倉庫の地下室、もとい『訓練場』では一護が虚化状態の保持訓練をひよ里相手にしていた。

 

「せやから虚化を解くのが早すぎんねんお前はぁ?!」

「ああぁぁ?! 今のはヤバかったんだぞ、オイ?!」

「このハゲ! なんべん言うたらわかんねん?! 『ヤバくなる』のが修行やねん、このアホンダラぁ!」

「何をぉぉぉ?! このチビ助!」

「タンポポ頭!」

「チビィ!!!」

「タンポポォォ!!!」

 

 していたというか…………しながら叫びあっていた。

 

「仲がいいな、あの二人。」

 

「と言ってもなかなか()びないですね、保持時間。」

 

「拳西、今までの最高時間は?」

 

「4秒。」

 

「「「「はやっ。」」」」

 

「ふーん、おかしいなぁ。 アタシと全然違うね!」

 

「いや、マシロお前…しょっぱなから15時間をキープするのは俺もどうかと思うぞ?」

 

「えー?! ラブちんヒドーイ!」

 

「そう呼ぶなつってんだろ?!」

 

「15時間か。 そこまで長く戦えるのか、マシロは…すごいな。」

 

「でしょう?! エッヘン♪」

 

 マシロがチエの言に対し、どや顔と胸を得意気に張る。

 

「いや、今やからゆうけど虚の面かぶって()()()()()のもどうかと思うで?」

 

「ブーブー! リサリサってばヒドーイ! アタシ動き回っていたじゃん?!」

 

「『逃げてただけ』の言い間違いや。 せやから手っ取り早く、もっと長くするように()()()()()()あないして、実戦訓練つけとるやないか。」

 

「ッ?!」

 

 ハッチの巨体がびくりと跳ねる。

 

「……何者かが、ワタシの結界をすり抜けマシタ。」

 

 これを聞いた平子、拳西、ラブ、ローズ、リサがびっくりする。

 

「…相手は何だ? 死神か?」

 

「おそらくは数人…ですがこの『八爻双崖(はちぎょうそうがい)』は私が破面化(ヴァイザードか)してから独自に編み出したものデス。 

 死神()鬼道で解くのは、全盛期であるテッサイサンでも解けるかどうかと言ったところ…………しかも『壊す』のではなく、『すり抜けた』ことにびっくりしてイマス。」

 

 コツ、コツ………コツツン、コツツン。

 

「「「「「「?!」」」」」」

 

 地上へと繋がっている階段の先から数人分の足音が聞こえてくる。

 

「(誰なんだ?)」

 

「(ハッチの結界を通るなんて、どこぞの化け物が来たんか?)」

 

 ………

 ……

 …

 

「へぷち。」

 

「風邪か、渡辺くん?」

 

 別の場所で雨竜を竜弦と共に追い詰めていた三月がクシャミを出していた。

 

「いえ、そうではないんですけど…(誰か私の事を喋っているのかな? ………お義兄ちゃんだったりして。)」

 

 余談だがこれによって別の世界にて、赤と白が混ざった髪の毛をした少年が(彼にしては珍しく)盛大なクシャミを急に出して周りから心配されることとなるが……………

 

 その話は別の時にしようと思う。

 

 ………

 ……

 …

 

 全く予期していない侵入者の出現にピリピリとした『仮面の軍勢』達。

 

 彼らが見たのはミニスカートから露出した美脚の生の太もも三人分 ────コホン、失礼。

 

 彼らが見たのは人間(織姫)死神(雛森)、そして大きな登山用リュックを背負った良くわからないモノに似た姉妹(クルミ)

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

『ジー』っと注目、または唖然の視線を浴びることが気まずくなったのか、織姫がおちゃらける。

 

「す、すみませんおトイレどこですか~? ………な、なーんちゃって…」

 

「井上さん、それはボクでも無理があると思います。」

 

「あ! アナタは私のカップサイズを間違えた人!」*2

 

「「「「ブフゥ?!」」」」

 

「間違えてへんわ! 人聞きの悪いやっちゃ! せやったらその胸が縮むまでもいだるわ!」

 

 雛森がリサを見て、思わず最初に会ったときの事を口にし、『仮面の軍勢』の男性メンバーたちが吹き出して、リサが逆ギレする。

 

「あ、黒崎くん!」

 

「い、井上? どうしてここに?」

 

()か、どうしたここまで来て?」

 

「「「?!」」」

 

 チエが雛森の事を呼び捨てにしたことにギョッとする。

 

「ひゃ?! チ、チエさん?!」

 

「ん? ああ、他の者たちの前だったな。 すまんな、雛森。」

 

 ナデナデナデナデ。

 

「あうぅぅぅぅ…全然わかってないですぅぅぅ…」

 

 織姫が一護に山本元柳斎から聞いたことを伝え始め、歩いて近づいたチエに頭を撫でられた雛森がチエと『仮面の軍勢』に説明し始める。

 

 その間、クルミは登山用リュックの中から次々と物を出しては設置し始める。

 

「「「「「「(『何時もゆるふわな寮のオカン』とその『マジメな娘』。)」」」」」」

 

 マイの姿が『仮面の軍勢』達の脳内に浮かび上がり、そう思いながらクルミを見る。

*1
14話より

*2
60話より




作者:更に破面編を書いてきます。

ウェイバー(バカンス体):この『イチゴ』って奴、ボクは嫌いだな。

ライダー(バカンス体):それはチエ殿だからか?

ウェイバー(バカンス体):ば、バカ言うなライダー!

マルタ(バカンス体):同族嫌悪でしょ。

ウェイバー(バカンス体):お前もだ! くらえ、雁夜直伝の技!

マルタ(バカンス体):ぎゃあああああ! やめろバカァァァァァ!!!

作者:誰かこの部屋のセキュリティーをしてくれ……………


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第65話 Slipping Away, Halcyon Days

お待たせしました、次話です!
少し空いてしまいました、申し訳ありません (汗

拙い作品ですが、まだまだ頑張りたいと思っています!

8/16/21:
誤字を見つけたので修正いたしました。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「じゃ、じゃあ私は茶渡くんたちに伝えに行くね?!」

 

「あ、私も阿散井君に言わないと! 行ってきますね、チエ隊長!」

 

「(だから『代理』だと言っているのに。)……………………ああ。」

 

 嵐のように突然来ては去っていく織姫と雛森を、一護とチエと『仮面の軍勢』達が見送る。

 

「…………あの二人、言いたいことだけ言って帰ってまったな。」

 

「死神の子はともかく、もう一人は一護君の友達みたいだねぇ?」

 

「あの()は織姫ちゃん。 俺の…初恋の人や。」

 

真子(しんじ)、それカワイイ()の全員に言うてる奴やん。 前にアタシにも言うてきたやないか。」

 

 リサの言ったことに、ひよ里がたそがれ(想像す)る平子の背中姿を睨む。

 

あ″?! 『クソハゲ真子(シンジ)はカワイイ()には全員言う』だぁ?! おっかしいなぁ、ウチには一度も言われた覚えが無いでぇ?!」

 

「お前には言わへんわボケ。 そないやったら()()金髪チビに先、そう言うてるわ。」

 

あ"あ"あ"あ"あ"?! なんやてハゲェェ?!

 

ポン。

 

 怒り狂うひよ里の肩にチエが手を置く。

 

「落ち着け、『ひよ里さん』。」

 

ぬぎゃああああ?! なななななな、なんやねん?! もももももも文句あんのかコラァァァ?!

 

 威嚇(ビクビク)しながら距離を置くひよ里に対して、チエが鉄裁にも直接伝え授けた『サムズアップ』をする。*1

 

 こちらは向こう(鉄裁)と違って無表情のままだが。

 

「大丈夫だ『ひよ里さん』。 私も言われたことが無い。」

 

 「オシャレ度ゼロのお前と比べるなァァァァァ!」

 

 未だに赤ジャージにスリッパ姿のひよ里(133cm)が、スウェットにジーンズ&スニーカー姿のチエ(160㎝)に叫ぶ。

 

 ぼさぼさ金髪ツインテ対(後ろ髪の一部以外は)肩の上まで大雑把に切り揃えたサラサラ黒髪。

 

 その勝敗(比べ)は如何に?

 

「ひよ里、僕から見れば君の負けだよ?」

「だな。 俺もローズと同じだ。」

「アタシも年がら年中、ジャージはどうかと思う。」

「でもでもー、それがヒヨリンのいいところなんだよー? リサリサの制服姿みたいにさー。」

「なぁ、マシロ? 前から言おうとしていたんだが、その『リサリサ』ってのはやめてくれないか?」

「えー?! 何でぇ~?」

「いや、その……」

 

 口ごもるラブを見て、クルミが横から口をはさむ。

 

「『自分のマイナスを逆に利用するなど、抜け目のない奴!』、と似ているからですか?」*2

 

 ラブのサングラスが一瞬光る。

 

まさしくその通りだ。 お前も姉妹(三月)のように、ジ〇ンプ好きなのか?」

 

「………………読書が趣味ですから。」

 

「だーかーらー! なんでなんでなんで~?!」

 

 クルミとラブが一瞬だけ視線を交わす。

 

「これは『アレ』ですね。」

「ああ、『アレ』だ。」

 

「「『雲ゆえの気まぐれよ』。」」

 

「雲とリサリサを『リサリサ』って呼んじゃダメなのがどう関係するのさぁ~?!」

 

 読書&ジャン〇好きの言葉に、マシロがじたばたと地団駄を踏む。

 

 ………………勝敗(比べ)はもう察しているかもしれないが、ひよ里の圧倒的不利な状況であった。

 

「お前らはウチの魅力に気付いてh────!」

 

「────よそ見してんじゃねぇ!」

 

 ドゴォン!

 

「ぬわっ?! 危なぁ?!」

 

 一護がソロリソロリとひよ里の背後に移動しては奇襲をかけて攻撃をひよ里が躱し、平子がクルミの準備していたモノを見る。

 

「なんやこれ? ……バーベキュー用の鉄板?」

 

「よくわかりましたね。 マイからの『焼肉』などの差し入れです。」

 

 ガタガタガタガタ!

 

「「「手伝おう。」」」

 

 久しぶりの焼肉にありつけると聞いた拳西、リサ、ローズが立ち上がり、無言でせっせとクルミの作業を自主的に手伝い始める。

 

 

 その間、ラブは未だに顔色の悪いハッチに声をかける。

 

「ハッチ、さっきの子が気になるか?」

 

「ええ。 『ここ』を探知するだけでなく、中に入ってこれまシタ。」

 

「……アンタの結界をオレが疑う要素は見当たらねぇ。 ハッチから見て、どう思う?」

 

「……………あの織姫という者が説明している間に霊圧を探りましたが、ワタシと()()結界能力をお持ちと感じまシタ。」

 

「…………そいつぁ────」

 

「────ええ。 彼女は()()()()()、そのような能力を持っていると言うことになりマス。 それに…………」

 

 ハッチが浮かない表情のまま、言いよどむ。

 

「なんだ? まだ他にもあるのか?」

 

「ええ。 もう一人の死神の子からは()()()感覚を感じマシタ。 それも、()()()()()()ものデス。」

 

 

 ………

 ……

 …

 

 上記と同じ頃、織姫は雛森と共に地上へ出ると(珍しく)人型の夜一と出くわす。

 

 尚、今回はちゃんと服は着用していた模様。

 

「あ! 夜一さんだ! 久しぶりです!」

 

「あ、四楓院さん……」

 

「井上に、五番隊の副隊長か…ちょうど良い、喜助が()()()()に話があると言ってきてな? 少しばかり、時間を取らせるぞ?」

 

 夜一は真っすぐ、織姫たちだけを見てそう言い、織姫と雛森は自分の後ろに誰もいないことを確認してから自分たちを指さす。

 

「「????????」」

 

「ああ、おぬしら『二人に』じゃ。 五番隊の副隊長は井上を担げ、店へ行くぞ?」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 夜一に織姫と雛森が連れてこられたのは、カリンに修行させられていた茶渡と恋次たちがいた地下の訓練場。

 

「ハッキリ申し上げましょう、井上サンに雛森副隊長。 アナタたちには今回の戦線から外れてもらいます。」

 

「「………………………………………………………………え?」」

 

 そこで織姫と雛森の二人は『戦力外通達』を真顔の浦原から伝えられていた。

 

 

 ___________

 

 織姫、雛森、恋次、茶渡、カリン 視点

 ___________

 

 織姫と雛森だけでなく、浦原の表情に注目していた恋次と茶渡までもがカリン(特訓)の事を忘れ、ただ唖然とした顔で浦原を見る。

 

 浦原は自分が周りから注目されているのに構わず、折りたたまれた扇子で織姫の頭で先日から()()()()()()花柄のヘアピンを差す。

 

「破面達が初めて襲撃したときから、修復できていないそうッスね?」

 

 それは戦う決意をした織姫がヤミーに向けて『孤天斬盾(こてんざんしゅん)』を放った時、粉々になった『椿』の事だった。*3

 

「………………」

 

「今のあなたには()()()()()()()。 そんな者がノコノコと戦場に出てこられると護衛対象に回す人出が増えるだけです。 

 それに今の段階の『三天結盾(さんてんけっしゅん)』の防御力は知れています。 

 回復も、今回は来る予定である筈の()()()()()()()()()()()()()()四番隊が出てくるでしょう。」

 

「でも、私は────!」

 

「────次に貴方です。」

 

 なにかを言いたげな織姫の言葉を真剣な浦原は、まるで『もう話す事は無い』といったようなそっけない態度で話し相手を雛森に変えて、指定されたことにビクリと雛森の肩が跳ねる。

 

「貴方は長年、藍染のそばにいました。 つまり、彼からすれば『扱いやすい駒』か『誘導できる人物』。 少なくともアナタのことを熟知しているハズ。 

 どちらにせよ、我々の戦いを『不利なモノ』へと変える可能性を宿しています。

 ここで『そんな事は無い』と断言しても、あの藍染があなたを自覚なしで操ることも可能でしょう。

 そんな不確定要素、井上さん同様に戦場には()()()()()。 ()()なだけです。」

 

 ドグンッ!

 

『要らない』。

『邪魔』。

 

 それらの単語を聞いた織姫は胸の中でザラつく感じが広がり、鋭い痛みが頭を襲って思わず身体がよろめく。

 

 その間にも、雛森は抗議する(自分の意見を出す)

 

「ですが……私はそれでも護廷の者です! それに、そのような言葉は貴方からではなく────!」

 

「────この事に総隊長サンも同意はしていますよ? 言い方はアタシと少し違ってオブラートですが、『井上織姫とともに後方支援に徹しよ』と言っているので。」

 

「…………………え?」

 

『後方支援に徹しよ』。

 それは本来、四番隊や負傷者などの『()()()()()()()()』に向けられる指示だった。

 

「何なら通信、開けましょうか? ちなみに先ほど彼が言っていないのは君の知り合い達である日番谷隊長と吉良副隊長がその場に居たからの配慮だそうです。」

 

「「…………………」」

 

 思い詰めたような顔を織姫と雛森がして、これを見ていられなかった茶渡が口を開ける。

 

「ま、待ってくれ浦原さん! 本人たちにその気があるのに、『必要ない』と言われるのは────!」

 

「────では、ここでハッキリと言いましょうか? 

()()()()()()』ほど、『()()()()()』なモノはないッスよ。 

 その様な者たちのおかげで『()()』もザラにあることッスからね。」

 

「……………………あり…がとうございます。 ハッキリ…言ってくれて、浦原さん。」

 

「井上………さん?」

 

 思い詰めていた織姫の顔は今にも涙が流れそうな表情から無理やり笑顔のモノへと変わり、それを雛森が見る。

 

「失礼……しますね?」

 

 織姫はそこで踵を返し、その場を走り去る。

 

「雛森。」

 

「ぁ………阿散井くん?」

 

 残された雛森に、恋次が近付いて話しかける。

 

「浦原さんや総隊長は、ああは言っている。 

 が、井上は能力があるとはいえ、元はただの人間で……根はお前と同じで優しい。 

 だから内心はこう思っているはずだ、『お前(雛森)と井上の性分は元来(がんらい)殺生(せっしょう)向けじゃない』ってな。 違うか、浦原さん?」

 

「いいえ? アタシのさっき言ったことは()()本心ですが?」

 

「浦原、お前────!」

 

 恋次が今にも浦原に飛び掛かりそうになり、雛森が彼の服を掴んで制止する。

 

「────阿散井君。 いいの。」

 

「けどよ────!」

 

「────多分……あの人の言う通りだから。 ね?」

 

 恋次は目の前にいる人物が学院時代の同期である『雛森桃』とは信じがたいほど弱弱しく見えていた。

 

「雛森…………お前────」

 

「────私、井上さんを追いかけてくるね。」

 

 恋次を置いて、雛森は逃げるかのように織姫の後を追う。

 

「(アイツ、ひょっとして────)」

 

 ────『()()()()()()になってきているんじゃないか?』

 

 そう恋次でさえも思えるぐらい、いつもの元気な雛森はみじんも感じられず、先ほどの浦原のキツイ言葉もどこか納得してしまうほどの様子だった。

 

 今までの恋次みたいに、周りの殆どの者たちはてっきり雛森は気持ちを切り替えたと思っていたのかもしれない。

 だがそれはただ慌ただしい毎日や、新しいモノに没頭することで騒動の頃から感じていた気持ちをただ押し殺していたに過ぎなかった。

 

『現実逃避』とも言う。

 

 最初は業務や書類などを新しく補佐役になった席官たちの教育などを企画していたが、ほぼ無理やりに現世へと連れてこられたことで、副隊長業務から解放された。

 

 ならばと思い、今度は隊長代理(チエ)やカリンなどと一緒にいようと思っていたが二人は(きた)(いくさ)の為に他人の面倒を見ていた。

 

 次に雛森は『自分も強くなれば』と思い、同期の恋次と手合わせをするも手応えが無く、『自分に何かできる事は無いか?』などと思っているところに浦原の『戦力的に邪魔』宣言を受けた。

 

 恋次は決してモノを深く考えるような輩ではないが、他人の気持ちを察することぐらいは出来る。

 

 故に自分なりに浦原の言葉を『より良い解釈』を彼女に言ったのだが、上記のように浦原は肯定や黙らずに『本心です』という不定を返した。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「あの下駄帽子闇商人(浦原)め、許せん!」

 

 月光の差す空座町の公園のベンチでルキアが浦原に対しての文句を吐き捨てる。

 

「二人はそう思わぬのか?!」

 

「「えっと……」」

 

 ちなみに今の状況に至る経路は織姫が泣きながら浦原商店を出て丁度入ろうとしたルキアにぶつかり、そこへ同じように泣きそうだった雛森の姿も見えたことでルキアは場所を移して事情を聞くことにした。

 

 そして二人から聞いた浦原に明らかな激怒を示すルキア相手に織姫と雛森は言いよどんでいた。

 

「??? まさか二人とも、『浦原の言う通りだ』とでも思ってはいまいな?」

 

「「ギクッ。 ソ、ソンナコトナイヨー。」」

 

 「ウソをつくな、この下手くそども!」

 

 気まずく目を泳がせながら、棒読みの織姫と雛森(似た者同士)にルキアが怒鳴る。

 ちなみに『お前が言うな!』とルキアに対して言ってくれる人物は周りにいなかった。

 

「いいか? 『足手まとい』というのはな? 『覚悟のない者』、と私は考えている。」

 

「(覚悟の────)」

「(────無い者。)」

 

 ルキアの言ったことにどこか共感を織姫と雛森が覚える。

 

「つまり覚悟さえあり、出来ることを探せばおのずと『足手まとい』にならぬ。 であれば────」

 

 ドゴォン!

 

「「────きゃ?!」」

「────うぉ?!」

 

「────ちょいとこの二人、借りて行くで。」

 

 文字通り、空から降ってきたひよ里が織姫と雛森の首根っこを掴んでは宙へと蹴り飛んでいく。

 

「「ヒャアアアアアアアアアア!」」

 

 まさに一瞬の出来事だった。

 

「…………………………い、いったい何なのだ? いや、それよりも後を追わなければ!」

 

 

 ___________

 

 『渡辺』三月 視点

 ___________

 

「(そろそろ眼鏡(雨竜)の限界が来たようね。)」

 

 三月は目の前で息を荒くしながら、大量の汗を流す雨竜を見ていた。

 

「(全く『原作通り』とはいかなかったからビックリしたけど……というかどれだけ? 汗が気持ち悪い、あったか~い長風呂に今すぐダイブしたい。)」

 

 そして彼女自身も、汗を流していた。

 着ていたジャージはべっとりと体に張り付き、ところどころのボディラインが分かるほどに服が肌に密着していた。

 

 雨竜の父である竜弦と交代で雨竜を追い詰めていたが予想以上に雨竜が粘り、彼らがいた部屋は『原作』同様にハチの巣状態と、斬撃の跡もそこら中に目立っていた。

 

「随分と用心深いな、雨竜。」

 

「……臆病……者の……いい間違い……じゃないのか?」

 

 息遣いが荒く、途切れ途切れに嫌味を返す雨竜に竜弦が弓矢を構える。

 

「そうか、そこまでまだ意識が回るのなら────」

 

「────クッ────!」

 

「────さらに攻撃するだけだ。」

 

 新たに攻撃をする竜弦の矢を、雨竜はほとんど体重任せに回避する。

 

「ッ?!」

 

 彼の行く方向に先回りした三月が霊丸を撃って、雨竜は残り少ない銀筒(ぎんとう)でそれを身近で防ぎ、霊圧と霊圧のぶつかる反動で三月の伊達メガネに亀裂が入っては割れる。

 

 ピキピキ、パリンッ!

 

「キャッ?!」

 

 動きを止めて、急なことで目をつむる三月から雨竜を中心にしての正反対側では、角を曲がる竜弦がいた。

 

 その竜弦に対して、先ほどの反動を利用した雨竜が眼前にまで近づいていたことに初めて表情を驚愕に変え、雨竜は新たな銀筒を投げて詠唱をした。

 

「『銀鞭下りて(ツィエルトクリーク・フォン)五手石床に堕つ(キーツ・ハルト・フィエルト)』! 『五架縛(グリッツ)』!」

 

 五つの帯の形をした霊圧が現れて竜弦を包んだことに、雨竜の緊張が少しだけ和らいで倒れそうになる。

 

「よし!」

 

 だが霊圧の帯に亀裂が入り、崩れ去ると中から既に弓矢の狙いを雨竜に定めていた竜弦の姿で雨竜が唖然とする。

 

「ッ」

 

「残念だ。」

 

 ドン!

 

 雨竜の心臓()()に霊圧の矢が直撃して、彼は悔しい思いをしながら迫る痛みと喪失感で意識を手放す。

 

 ポスッ。

 

「はい、お疲れさま♪」

 

 そんな倒れる雨竜を三月は後ろから抱きかかえる。

 

「おっと────って重いぃぃぃ?! フンガァァァ!」

 

 もちろん、体重差(55㎏対30㎏)体格(171㎝対140㎝)の違いで三月は一瞬ヨロっとするが、なんとか踏ん張って彼を優しく寝かせる。

 

 しかも片手でガラス部分が壊れた眼鏡を持っていたので倒れる態勢の流れのまま、もう片方の手で頭を支える形へと落ち着く。

 

「フイ~~~。 (うーん……最初は『声だけ』かと思ったけれど…『努力家』なのも、ピンチに陥ると活路を開こうとするのも、どことなく義兄さん(士郎)に似ているなぁ~。)」

 

 やっと一息をつけるように竜弦はタバコを胸ポケットから出し、口にくわえて火をつけて一服する。

 

「フゥー……全く、反吐が出る。 私を『拘束(グリッツ)』するのではなく『殺す(ハイゼン)』つもりでいたのならまだしも……」

 

「えぇぇぇ? そこは『黙るのが吉』じゃないの、石田()()さん?」

 

「……………」

 

 竜弦は雨竜と自分を優しい眼で見ながらニコニコ笑う三月を見て、過去に自分へ同じような視線を送っていた真咲を連想する。

 

「??? な~に?」

 

 三月が?マークを出しながら頭を傾げ、竜弦はそっぽを向く。

 

「いや……………少しの間、愚息を診てやってくれ。」

 

「ほいほーい♪」

 

「ッ………」

 

 三月の気楽な返事で竜弦は思わず気が緩みそうなのを無理やり引き締めて、部屋を後にする。

 

「(これで雨竜は滅却師としての力を取り戻すはず。 起きたら、()()()()お節介するとしようかしら? 具体的に親子関係を。 というか()()()()眼鏡、壊れちゃったな……汗も気持ち悪いし、群れるから髪を解こっと。)」

 

 そう思いながら三月は壊れた眼鏡を床に置いて、雨竜の頭を自分の膝の上に乗せてから髪の毛と同じ色の黄色い髪留め(クリップ)()を解き始める。

 

 パチ、パチ、パチ────

 

 ただ静かな部屋の中で次々と外されるクリップの音が続くこと数秒間。

 

 ファサ、ファサ、ファサ、ファサ────

 

「あ~涼しぃ~。」

 

 髪の留め方の所為か、今はウェーブのかかった長い金髪を三月が手でかきあげて風を入れる動作でピョンピョン跳ねているかのように動く。

 

「うっわ、『ムワ』ってする……最悪。」

 

 やっと汗の気持ち悪さが去り始めたのか、三月は部屋の窓の外を見る。

 

「(『外』はどうなっているのかな?)」

 

 実はというと、三月は雨竜が滅却師として能力()を取り戻す隠し部屋の中に入ってから、念話を受け取るのも外に飛ばすことも出来なくなっていた。

 

 始めはこの『陸の孤島』状態は興味深かったが、『原作』でいう『破面編』のターニングポイントが間近に来ていたのに自由に動けない、外部との連絡も取れない状態にもどかしさを感じていた。

 

「(それでも『万が一』の為の説明とか、人員とか、布石もしておいたから……まぁ何とかなるでしょ。)」

 

 ギィ。

 

 部屋のドアが開いて竜弦が部屋に戻ってきたことにより、三月は考えを中断する。

 

「おかえり~。 ねぇ、そろそろ外に出たいんだけど────」

 

「────長い髪の毛だな。 ケアが大変そうだな。」

 

「あ、うん。 そうねぇ~。 それで外に────」

 

「────部屋の横にある個室にベッドとお風呂場、 それに手洗いなんかもある。」

 

「いやだから────」

 

「────食べ物は病院の口の堅い職員たちが部屋の入り口に置き、私が持ってくるとしよう。」

 

「「……………………………」」

 

 無言で三月(気まずい笑い)竜弦(仏頂面)が互いを黙って見る。

 

「…………私が外に出られるのは、いつ頃?」

 

「愚息と一緒のタイミングだな。」

 

「……………訴えるわよ?」

 

「すでに君の保護者とは話をつけている。 彼女いわく『いいわよぉ~』だとさ。」

 

Goddamnit(ガッダミット) (それって浦原が『次元の狭間』というか『転移通路・仮』でこの部屋に来るタイミングじゃないの?! マイの奴めぇぇぇぇ~!!! 本気(マジ)で説明と布石をしておいて良かったわ!)」

 

 次に彼女が外の状況を聞くのは『井上織姫、および五番隊副隊長の雛森桃の以上二名が断界(だんがい)にて行方不明』という、文字通り肝が冷えるような事態となる。

 

*1
15話より

*2
何某冒険の波紋先生より

*3
55話より




雁夜(バカンス体):三月お前、最後のほうで割と『地』が出ていたよな?

三月:ギク

ライダー(バカンス体):十年以上も想い続けたものを連想したのだ、無理もなかろう。

三月:ギクギク

チエ:というか此奴に『地』など在るものか。 何せ────

作者:────あああああ! お客様それは前日譚のネタバレというか何というか!

アイリスフィール(バカンス体):どちらにしても、『困る』というわけねぇ~?

三月:あ、お義母さんだ♪

マルティウス(バカンス体):厳密にいうと『私の』だけれど。

作者:FUCK!

マイ:こぉら、悪い言葉を使っちゃダメだからね? 『メッ』よ?

作者:ヒェッ


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第66話 Attack of Arrancar、2nd Wave

 ___________

 

 織姫、雛森、『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 半笑いのまま、織姫と雛森は冷や汗を流しながら体をのけ反っていた。

 

 ひよ里に二人が連れてこられたのは一護が特訓している倉庫街の『地下訓練場』。

 

 「初めましてお嬢さんがた、ワタシは『有昭田鉢玄(うしょうだはちげん)』と申シマス。」

 

「は、はじめましてデス。」

ど、どうもデス。

 

 そして眼前にはハッチ(2.5m以上、体重377kg)の巨大な顔。

 

 巨体の彼を(文字通り)目の前にした織姫はタジタジになり、声が小さくなった雛森は今にでもすぐに気を失いたい衝動を抑え込む。

 

「そこまでにしてくれ、鉢玄殿。」

 

「「あ、チエちゃん!/チエさん!」」

 

 そこで一護との特訓相手の交代に入ったのか、チエが顔から汗を拭きながら近づく。

 

「ですから『ハッチ』と呼んでくだサイ、お嬢サン。」

 

「私を『チエ』と呼べたらな。」

 

「えっと……二人は知り合いですか?」

 

「ん?」

 

 チエが織姫たちを見る。

 

「…………………………………………………………………………そうだ。」

 

「「「(今の間って説明するかどうか迷っていたの?/イタ?/いたのかな?)」」」

 

 雛森、ハッチ、織姫の三人がいつにも増して無表情のチエを見ながらそう思った。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そこからハッチは自分と能力が近い織姫の『盾舜六花(しゅんしゅんりっか)』の欠けた一部である『椿(つばき)』が復元され、彼女にもハッチが『戦いに向いていない』と告げるも織姫は戦う意思を示す。

 

「ハイ、それでも(織姫)は戦います!」

 

「(妙だな、『コレ』は三月の情報通りだな。)」

 

 そう思いながら、チエは横目 で自分の裾を掴む雛森をチラッと見る。

 

「(だがそうすると、なぜ『雛森』までここにいるのだ?)」

 

「次にお嬢さん────いえ、お話に聞くと『雛森サン』とお呼びしまショウカ。」

 

「は、はい?」

 

 チエの後ろに隠れようかどうか迷う雛森に今度はハッチがジッと見る。

 

「…………フムゥ、あなたは本当に『護廷の隊士』なのデスネ? 『鬼道衆』などではナク?」

 

「は、はい。 学院卒業前に、担任の人たちから同じくそう薦められましたが…私は既に護廷に入隊する事を心に決めていましたので。」

 

「見たところ、アナタの才は鬼道に長けてイマス。 それにアナタからも織姫サン同様、『戦いには向いていない』と印象を受け付けマス。」

 

「………………」

 

「アナタは、どうありたいのデスカ? 」

 

「『どうありたいか』、ですか? (そんなの……………)」

 

「織姫サンに雛森サン。 アナタたちの気持ちは痛いほどワタシには分かります。 そしてどうしても戦いに力を振るうのであれば、『どうしたいか』ではなく『どうありたいか』という考えを胸に留めてくダサイ。」

 

「(『どうありたい』、か。)」

 

 チエは珍しく、何かを思ったのか自分の手の平を上げてそれをジッと見る。

 

 そしてこれを見た雛森は────

 

「────井上さん、瀞霊廷はどうでしょうか? あそこならば、周りを気にせずに訓練を行えますよ?」

 

「雛森ちゃん? ……………うん、そうだね! じゃあ、朽木さんか乱菊さんか誰かに頼んで行くとするよ! ありがとうございます、ハッチさん!」

 

 織姫はニッコリとするハッチに感謝を告げて、最後に一護の方向を見てから倉庫を後にする。

 

「ありがとうございます、有昭田(うしょうだ)さん────」

 

「────雛森。」

 

「??? チエさん?」

 

()()()()()。」

 

「ッ……はい。 もちろんです、頼まれました! (ああ、やっぱり…………私は……)」

 

 そして雛森も織姫の後を追うかのように倉庫を出る。

 

「…………どうした、ハッチ?」

 

 「いえ、大声では言いにくいのデスガ………確かチエさんはテッサイ殿と仲が良いのですね?」

 

「ああ、それがどうかしたのか?」

 

 「…………『鬼解(きかい)』という単語をお聞きに、または聞き覚えがありでショウカ?」

 

「ああ。 確か、『己が器子(きし)に宿────』────ムギュ。」

 

 チエが少し前にテッサイ…………というか三月経由で聞いた説明*1を言い出すと大量の汗を流すハッチに無理やり口を(というかハッチの巨大な手によって顔が)閉じられる。

 

 「そこまでで大丈夫ですそれ以上は言わないでください…………テッサイ殿がそれほど信頼しているのであれば良いですが……」

 

 チエの顔からハッチの手が退けられる。

 

「??? どうした、歯切れが悪いぞ?」

 

 「あの娘に『鬼解門(きかいもん)』が()()()()()()()予兆が見えマス。」

 

 ハッチがいつにも増して、真面目な表情でチエに自分の感じていたことを話す。

 

「…………」

 

 「アナタにも『()()』が御有りのようですが、彼女(雛森)からアナタに向けられている信頼と、アナタの()()()()を思っての事でワタシは────」

 

「────『現役の鬼道衆総帥本人』と『重国(総隊長)』の二人しかわからない事をよく知っているな?」

 

「それはワタシなりに考えてからたどり着いた結論……いえ、ですからそこが大事な所ではなくてデスネ────」

 

「────そうか。」

 

「………………では、確かにお伝えしまシタヨ?」

 

『ハッチ! 新しい結界や! 一護のドアホがまぁた突き破って────!』

『────テメェが力任せに斬魄刀を振るうからだろうが?!』

『『あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″?!』』

 

「ヤレヤレ、仲が良いのも考えモノデスネ……今行きマスヨ!」

 

 ハッチが立ち上がり、ドスドスとした重い足取りでその場から離れて一人になったチエはもう一度、自分の手を見る。

 

「(『どうありたい』、か)…………………………………………………………………()()()()。」

 

 そう小さく独り言を言い、チエは一護達のところへ戻る。

 

 気配と姿を消しながら自分を素通りしたクルミを無視して。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 掻い摘んで書き写すと、時は上記から約一か月後になろうとしていた頃。

 

 その間にも各々の者たちは藍染との決戦準備に取り掛かっていた。

 

 織姫はハッチによって全機能が戻った『盾舜六花(しゅんしゅんりっか)』を、ルキアと()()()()()雛森と共に実戦式訓練を。

 

 現世に派遣された護廷の死神たちは卍解会得、または己の斬魄刀との意思疎通をよりよくするために『刃禅』や自己鍛錬を。

 

 そしてその間、空座町には夜な夜な『()()()()()()()()』などを町中のいたるところで視野の外側で見たとか見ていないとかと言う()()()()()()噂も空座町の住民たちは度々、耳にしていた。

 

 皆が来たる(戦争)へ向けての準備をしていたところで、事態はたった一日でがらりと急変する。

 

 

 ___________

 

 浮竹十四郎(うきたけじゅうしろう) 視点

 ___________

 

 景色は瀞霊廷内の、十三番隊の隊舎裏にある訓練場。

 正確には、『隊長用の一軒家を取り壊して元あった訓練場を更に広くした平地』を見下ろせる崖の上。

 

 忘れている者がいるかもしれないが、浮竹は下級貴族の出身。

 なので白夜同様に屋敷暮らし&通いなので『こんなに大きい一軒家は要らないから、離れだけを残して隊士たちが活用できる土地にしてくれ』という願いで出来た場所だった。

 

 そしてその平地の上では十三番隊である朽木ルキアと、以前『旅禍』としてきた人間の井上織姫、そして()()藍染の副隊長を務めていた雛森を浮竹は考えながら近くのお盆の上に乗っていたお茶をすする。

 

「(凄いなこれは。)」

 

 浮竹は純粋に感心していた。

 以前に『チャッピー』*2が言っていたようにルキアは現世に来る前は席官と同等の実力者。

 

 だが彼女は目を見違えるほどぐんぐんと力を伸ばしていた。

 それはさながら身長がここ最近にきて、成長していた日番谷を浮竹に思い出させていた。

 

「(よく見たら、朽木だけじゃない。 他の二人も凄まじい成長速度だ。 どうなっている? やはり、()()()()()通りなのか? 

 だけどこれで………いや、先生(山本元柳斎)の言ったように彼女たちを此度の戦に参加させるのは────)」

 

「────浮竹隊長。 今日も朽木たちの修行見物スか?」

 

 浮竹が後ろからくる声に振り向くと、右目の傷跡に左目の下に「69」という刺青が特徴的な檜佐木修兵が様子を見に来ていた。

 

「お疲れ様、檜佐木君。 君も毎日様子を見に来ているじゃないか。」

 

 浮竹と檜佐木の二人、または他の護廷の者が少なくとも一人は必ず三人の修行を見に来ていた。

 

「今日の俺は、今月分の『瀞霊廷通信』と『通販目録』を届けに来ただけですよ。 長居はしません。」

 

 それは以前、謀反前の九番隊の東仙要が瀞霊廷の雑誌/新聞社の編集長だった時に出していたモノ。

 

「そうか。 君たち(九番隊)も、頑張っているんだな。」

 

「ええ、『隊長義務がこんなに忙しかったなんて知らなかった』って、このあいだ吉良に愚痴ったら『僕はずっとやっているけど?』って真顔で返されたからな……………それとなんていうか、『修行』にしちゃ三人とも顔が楽しそうスね?」

 

 普通(の男性死神)なら激しい動きから汗ばみながら笑う(少なくとも見た目は)若い女性三人の()()()などを見るだろう。

 

 檜佐木も最初は()()だったが、今では純粋に三人の技術や様子などを評価していた。

 

 …………………………未だに上記の女性三人を見に来る男性の死神たちがいるのは今、別に置いておくとしよう。

 

「『楽しそう』、か。 確かにそうだね。 昔から朽木家は友達を作るのが下手だったからね、養子のルキアもそうなるのは不思議じゃなかった。 だから、俺は『良かったな』と思うよ。」

 

 一瞬だけ浮竹が懐かしそうに目を細めて、脳裏に今とは(表向きは)正反対の性格を持っていた幼い白哉が浮かぶ。

 わんぱく者で、短気で、気が早い故に動転していた毎日を。

 

 ………………(おも)に彼をワザと茶化す朽木家の先々代当主の銀嶺(ぎんれい)と四楓院家の夜一にだが。

 

「……それが『人間でも』、ですか?」

 

 檜佐木の指摘にはいろいろな意味が含まれていた。

 

 忘れがちだが『人間』と『死神』は見た目が同じ人型でも『種族』としての違い、いわゆる『壁』が存在する。

 

 それは至極簡単に言えば『生きる(とき)』が違う。

 

『死神』は(個人差はあれど)かなりの長命種で、外的要因などの瀕死の傷や不治の病を負わなければ数百年は容易に生きられる。

 

 逆に『人間』はどう頑張っても()()()()()そこそこ。

 

 それに寿命の違いから、価値観などでさえも違いが出てくる。

 

 このような事があるので、現世に来たばかりのルキアには『人間』など眼中になかった*3

 愛着が沸けば沸くほど、()()来る別れが辛くなるだけなのだから。

 

 そのような考えも含めて檜佐木は言ったのだが、浮竹はただ半笑いを彼に向ける。

 

「ああ、『人間でも』だよ。 『良い友が居れば、相手がどのような種族だろうと良い』、と俺は思っている。 それに────」

 

 そこで浮竹の声は近くを飛んでいた地獄蝶からの通信によって遮られる。

 

『────技術局からの緊急伝令! 空座(からくら)北部に十刃(エスパーダ)と思わしき『上位成体破面』の反応複数アリとの報告! 限定解除許可済みの、日番谷先遣隊が交戦状態に入りました!』

 

「「「「?!」」」」

 

 その報告に浮竹、檜佐木と、動きを止めたルキアと織姫が目を見開く。

 

「バカな、冬までまだ三か月はあるぞ?!」

 

 浮竹から出た言葉は、その場にいた全員の言いたい事を代表していた。

 

十刃(エスパーダ)』。 それは破面の中でも、特に戦闘能力に優れた成体破面の『上位種』を示すと以前のグリムジョーの部下から日番谷の報告書に沿って新たに取り込んだ情報だった。

 

『冬の決戦にこの“十刃(エスパーダ)”とやらが主力としてくるだろう』とタカをくくっていた瀞霊廷はグリムジョーの霊圧をベースにして、『十刃(エスパーダ)』専用の探知もしていた。

 

 だが以前の襲撃からわずか一か月。

 

『崩玉の覚醒』からは程遠い時期の筈なのに、『十刃(エスパーダ)の反応が複数』。

 

 それは、様々な思惑などを瀞霊廷にいた護廷十三隊の全員にさせた。

 

 

 ___________

 

 日番谷先遣隊 視点

 ___________

 

 日番谷、乱菊、弓親、そして一角が突如として空中に現れた破面たちを見上げる。

 

「お?! 霊圧の高そうな野郎たちがいるぜぇ?!」

 

「ん? あー、6番さんが言っていた死神だよねアレ?」

 

 口を開けたヤミーに、脇腹が空いた長袖の服を着た中性的な容姿で小柄な男が喋りかける。

 

「あ、ごめーん。 『』6番さんだっけー?」

 

「るせぇよ、ルピ。」

 

 小柄な男────フルネームを『ルピ・アンテノール(現在の6番)』が、後ろで面白なさそうにしていたグリムジョー(元6番)に話しかける。

 

「グリムジョー。」

 

「……あぁ。」

 

 そこでグリムジョーは自分に話しかけた別の破面と共に、その場を消えるように動く。

 

「ちぇ! 俺もぶっ殺したい奴はここにいねぇってのによ!」

 

「まぁまぁヤミー、彼らは別命で動いているからさ。 それに君が殺したいのは腕をぶった切った奴? ボコボコにされた奴? それとも君の虚閃をはじき返した奴?」

 

「全────」

 

 ガィンッ!

 

 ヤミーの言葉が斬りかかった日番谷によって中断される。

 

「────へ! 血の気が多い野郎が居て良かったぜ!」

 

「十番隊隊長の日番谷冬獅郎だ!」

 

破面№10(アランカル・ディエス)、ヤミーだ! 同じ10のよしみで殺してやらぁ!」

*1
20話より

*2
60話より

*3
11話より




ギン:う~ん、あっちはあっちで楽しそうやねぇ~。

東仙:虚圏で私の手伝いをすれば暇にならずに済むぞ?

ギン:パス。 僕、『調和を守る』タイプやないし。 どっちかというと茶化す側。

東仙&ギン:……………………………………………………………………………………

東仙:出番、ないな。

ギン:無いねぇ……

作者:(この二人にセキュリティー役を頼んだの、間違いかな?)

ギン:茶もまぁまぁな奴やし、茶菓子はしょーもないモノだけしか残っとらんし……

東仙:葬式状態だな。

ライダー(バカンス体):邪魔するぞ! ってなんだこのロンドンに似た空気は?

東仙:この声、京楽か?!

ギン:ブァハハハ! でも見た目が全然ちゃう奴や!

作者:Oh……


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第67話 『“要求”? これは“命令”だよ。』

連日投稿です!

サブタイトルの元ネタ、読者の何人が分かるでしょうか (´・ω・`?)


 ___________

 

 隊長代理『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 場所は一護に訓練を『仮面の軍勢』たちに付けられていた地下室へと変わる。

 

 そこでは出かける用意をする一護とチエの姿があり、彼らに平子が話す。

 

「おいお前ら、マジで『行く』言うねんか?」

 

「ああ。 こんな時の為に俺は修行をしていたんだ。」

 

「あと、私はこれでも一応『隊長代理』だからな。」

 

オレ宛てのイヤミのつもりなんか?!

 

「??????? (なぜそこでイラつくのだ、平子は?」

 

 ただ?マークを出すチエを前に、平子は徐々に毒気を抜かれていく。

 

「グッ………反応、いつに増しても薄………アホくさ…もうええ、早よぅ行けや。」

 

「そうか。」

 

 ………

 ……

 …

 

 一護とチエの二人は空座町の建物の屋根よりさらに上の上空を駆ける。

 

「もう立派に霊子で足場を作れるようになったな、一護。」

 

「へ、へへ。 俺だって、その気になりゃ────」

 

 パリン!

 

 照れる一護の気が逸れると、ガラスの割れる音と共に足場をなくした一護が空中を落ち始めて慌てる。

 

「────どぅわわわわわ?!」

 

 ガシッ。

 

「ウゲ。」

 

 落ちる一護をチエが移動するスピードを落とし、首根っこを掴んで無理やり引いていく。

 

「まったく、何をやっているのだ?」

 

「す、すまん……」

 

 一護が足場をもう一度作って、二人の移動スピードが以前のモノへと戻っていく。

 

「(この方角は……)…なるほど、破面たちは日番谷たちを直接狙っているみたいだな。」

 

「なら俺たちも────」

 

「────行かせねぇよ、『黒崎一護』。」

 

 急に二人の前に現れたのは片腕を失ったグリムジョーだった。

 

「グリムジョー?!」

 

「(はて? どこかで聞いたような声だな?)」

 

 一護が卍解姿に変わり、チエはグリムジョーの無くなった腕を見る。

 

「??? その腕はどうした?」

 

「捨てて来た。 黒崎一護を殺すのに、『腕二本』は余計(オーバーキル)と感じただけだ。」

 

「そうk────」

 

 カチリ。

 

「────ッ?!」

 

 チエは横から来た微かな金属音によってそっちに目を移すと、中途半端なロングヘアーと眼帯をした中年男性が手にしていた拳銃らしきモノの引き金を既に引いていた。

 

「(マズイ、この位置は────)」

 

 眩い光が発生して近づくのをチエが見ると同時に、彼女は近くの一護を刀の鞘の先端で彼の腰を突いて無理やり彼の身体ごと動かせる。

 

「(────これが、三月の言っていた『()()』というヤツか?)」

 

 眩い光に熱い感覚、そして()()と共にチエの身体は包み込まれていく。

 

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

 一瞬だった。

 

 卍解を解放した次の瞬間、腰に鋭い痛みと近くですごい熱気が近づくのを感じて、アニメや漫画でよく見るような『ビーム』(青色)が馴染み(チエ)に直撃していくのを見た。

 

 その瞬間、腰の痛みより彼女の安否を俺は心配した。

 

 これまでも、化け物染みた男女(おとこおんな)であるチエは近くで見ていたが……

 それでも心配はした。

 

 彼女のなぶり殺し 特訓でよく聞いた声が頭をよぎるまでは。

 

『敵から目を離すな、戯け。』

 

「ッ?! うわっと!」

 

「よそ見してんじゃねぇよ!」

 

 意識を前に戻すと、愉快そうに迫っていたグリムジョーの攻撃を紙一重で躱して、俺はすかさず虚化する。

 

「な、なんだその力は?!」

 

 一瞬だけ、グリムジョーの驚愕した声と表情に胸が躍った。

 

 不思議と今まで以上に、思考がクリアになっていくような気がしないでもない。

 もう一人の金髪チビ……じゃあ、ひよ里の野郎と被っちまうから『馴染み』も付け加えるか。

 アイツ(三月)が(たまに)俺に貸すマンガで言うと『アレ』だ。

 

「悪りぃな。 説明する暇は()ぇし、テメェは俺を怒らせた。 それだけだ。」

 

 ヒュッ! ドンッッッ!

 

「グッ!」

 

「『月牙天衝』。」

 

 ドォンッッッ!

 

 素早く斬り込んでそれが抜刀したグリムジョーに塞がれると同時に『月牙天衝』をゼロ距離状態で放つ。

 

 グリムジョーが虚化した力を上乗せされた斬撃に飲み込まれる。

 いつもの俺ならここで気を緩ませただろう。

 

「くそがぁぁぁぁ!」

 

 ボロボロになったグリムジョーが俺を睨む。

 

『ワケが分からない』といった畏怖を込めて。

 

「『月牙天衝』。」

 

 またも心が躍るような感覚の中、『月牙天衝』を再度奴に向かって放つ。

 

「舐めるなぁぁぁぁ!」

 

 だが至近距離ではなかった為、グリムジョーはそれを交わして赤い虚閃を撃つ。

 

 以前の俺ならば躱していただろう。

 

「グオォォォォォォ!」

 

 だが今の俺は『こいつ(グリムジョー)に仕切り直す暇など与えたくない』といった思いから、虚閃を真っ向から斬月(斬魄刀)で受けて無理やり拡散させる。

 

「ば、ばかな……オレの、虚閃を?!」

 

 見開いたグリムジョーの顔に胸の鼓動が高まる。

 

 そうだ。

 恐怖しろ。

 ()()()()()()()()

 

 アイツを攻撃した野郎が待っているんだ。

 ()()に興味はねぇ。

 

「ここで終わりだ、グリムj────」

 

 バリン!

 

 そこで喪失感と共に、虚の面が俺の顔の上で割れる。

 

 

 

 ___________

 

 隊長代理『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 青い光に包まれて次に意識を集中できたのは、自分が上空から落下中だった。

 

 空と町が逆さまで浮遊感があったからな、すぐに理解できた。

 

 だがそんなことよりも、先ほど自分を撃った眼帯中年男性が拳銃を自分にまた向けていた。

 

 ……これはマズイな。

 いま、我々の下は住宅街だ。 

 避ければ直撃して、魂魄が巻き添えを受けてしまう。

 ()()()()()()

 

 ならば────

 

 バチィン!

 

「ッ?!」

 

 ────弾くまでだ。

 

 私が刀で()()()()()()のにびっくりしたのか、中年の破面の目がわずかに見開く。

 そんな彼にすかさず瞬歩を使って接近し、斬り込む。

 

 ギィン!

 

 刀を拳銃で彼は塞ぎ、ここで私たちの目が初めて合う。

 見たことのある目を、奴はしていた。

 

 なるほど、『()()』か。

 

 ならばと思って踏み込みを深くしようと下半身に力を入れ始めると、中年の破面がもう片方の手に持った拳銃を至近距離で撃つ。

 

 

 ___________

 

 井上織姫、雛森桃 視点

 ___________

 

「お通りください井上織姫様、雛森副隊長!」

 

「ありがとうございます!」

「ありがとう!」

 

 断界界壁固定(だんがいかいへきこてい)を終えたローブの人達(鬼道衆)に織姫と雛森の二人が感謝をして穿界門(せんかいもん)の中へ飛び込む。

 

「お供します!」

 

「「ええぇぇぇぇ?!」」

 

「井上様は旅禍ではなく客人! そして雛森副隊長は井上様の供を命じられている身。 ですので、客人の往来には地獄蝶を外した無指名の死神が同行するのが習わし! お二人ともご容赦ください!」

 

 本来なら雛森は死神なので同行する必要はないのだが、『隊長代理』と山本元柳斎の命令もあって、彼女は『織姫のお供』という風な扱いになっていたらしい。

 

 尚、この同行する死神たちが両方とも男性で、『動機に下心がない』と言えば完璧なウソになってしまうが今はさらなる追求などは止すとしよう。

 

 断界の中を四人が走っていると、急に背後からの違和感に織姫が振り返ると同時に、聞こえたことのある声に背中がゾクリとする。

 

「存外、ソウル・ソサエティも無能ばかりだな。 護衛や搬送の中で最も危険が高まるのは移動時だ。」

 

 背後に空間が裂けたような場所から現れたのはウルキオラだった。

 

 

 ___________

 

 井上織姫 視点

 ___________

 

 後ろから聞こえてくる筈の無い声が聞こえて来て、私は思わず祈った。

 

『どうか、間違いであってほしい』と。

 

「何者だ?!」

「破面か?!」

 

 だけど自分の聞き間違いじゃなかった。

 目の前には少し前に大男と一緒に来た緑色の目をした破面が一人。

 

 浦原さんの攻撃を素手であしらった破面だった。

 確か、『ウルキオラ』ってあの大きい破面(ヤミー)が呼んでいた。

 

 同行していた死神さんの二人が刀を構えて、私と雛森ちゃんが同時に叫ぶ。

 

「「待って────!」」

 

 ババン!

 

 鋭い音が鳴って、死神さんたちの上半身が半分ほどゴッソリと()()()()

 

「────あ、あああぁぁぁ────」

「────ッ! 『双天帰盾(そうてんきしゅん)』!」

 

 隣で雛森ちゃんが真っ青になっていく。

 けど『今は負傷者を助けなくちゃ!』という思いから、私は『双天帰盾』で回復を施す。

 

「それも回復できるのか、大した────」

 

 「────アアアァァァ!」

 

 雛森ちゃんが、心の奥から叫ぶ(乱心した)まま、斬魄刀を抜いてウルキオラに斬りかかる。

 

「雛森ちゃん、待って!」

 

『無茶だ。 殺される。』

 

 そう思ったけど足がすくんだのか、(織姫)は動けなかった。

 

 ガシッ。

 

「「?!」」

 

 だが最悪の事態はおろか、ウルキオラは斬魄刀を素手で止める。

 

「少し大人しくしていろ。」

 

 ドッ!

 

「カハッ?!」

 

 雛森ちゃんのお腹をそのまま拳で殴って、空気と共に胃の中を吐き出しながら、身体がくの字になって、自分の近くまで雛森ちゃんが吹き飛ばされる。

 

「ほう、俺が直接殴っても穴が開かないとはな。 見た目より丈夫な死神だ。」

 

 カランッ。

 

 ウルキオラは雛森ちゃんの斬魄刀を後ろに投げ捨てて、乾いた音が響く。

 

「────ッ! ────ッ?!」

 

「雛森ちゃん!」

 

 舜桜とあやめ(双天帰盾)をさっきの死神の二人組に使っていたので、私自身が雛森ちゃんの様子を見る。

 

 目を白黒させて、まだ吐いてしまいたいような勢いの真っ青な顔で震えながら声にならない、短くて浅い息を口にしていた。

 

 余程ウルキオラの打撃が効いたのだと思う。

 

「さて。 俺と来い、女()()。」

 

「「ッ」」

 

 雛森ちゃんも答えはできないものの、私と一緒で疑惑の視線を送る。

 

「言葉は『は────」

 

 ジャラジャラジャラッ!

 

「────い″』?!」

 

 ドォン!

 

 金属がこする音がしたと思ったら、破面は固定された断界の壁に叩き付けられていた。

 

「今のうちに雛森を連れて逃げなさい、()()!」

 

 目の前に、腰を低くしながら釘のような短剣を構えたクルミちゃんが立っていた。

 

 いや、それよりも────

 

「────クルミちゃんが私の名前を呼んだぁー!」

 

 どことなく余所余所しい態度でずっと私向けにしていてかたくなに苗字でしか呼ばなかったクルミちゃんが、下の名前で自分を呼んだのがどこか(ほんのちょっとだけ)嬉しかった。

 

 そんな私に怒るように、クルミちゃんが睨む。

 

「バカなことを言ってないで、はやく────ッ!!」

 

 バン!

 

「…………………え?」

 

 自分の身体に衝撃が来たと思ったらクルミちゃんが私をかばうかのように体当たりをして、私は横に退けられていた。

 

 そして私がいた場所にクルミちゃんが移動していて、右腕を二の腕の先から失くしていた。

 

「グッ……」

 

「あ……ク、クル────!」

 

 ガシ!

 

「少し寝ていろ。」

 

 ドン!

 

「グァ?!」

 

 頭に傷をつけた破面がクルミちゃんの顔を掴んで、地面に無理やりねじ伏せる音と、メキメキとした音が微かに聞こえてくる。

 

 その間にも『彼女や雛森ちゃんは眼中にない』と言うかのように、ずっとウルキオラは私だけを見ていた。

 

「俺が聞く言葉は『はい』だ。 それ以外を口にすれば殺す。 

『お前たちを』ではない、『お前たちの仲間を』だ。」

 

 破面の後ろに窓のようなものが複数見えて、中ではボロボロで満身創痍になった黒崎君たちの姿がゾロゾロと見えた。

 

「お前にあらゆる権利はない。 今、お前が握っているのは仲間全員の首に添えられたギロチンの紐だ。」

 

「「………………」」

 

「これは『交渉』ではない。 『命令だ』、藍染様のな。」

 

「ッ」

 

 藍染さんの?

 

「藍染様はお前の能力に興味があり、()()()無傷で連れ帰れという使命がある。 ほかの者も『彼ら次第だ』とも仰せつかっている。 俺と来い。」

 

 私は………………




ウェイバー&雁夜(バカンス体):チエさぁぁぁぁぁぁん?!

ギルガメッシュ(バカンス体):雑種ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!

作者:あわわわわわ?! (汗

チエ:なぜあの三人はああも荒れているのだ、マルテウス?

マルテウス(バカンス体):え。 そこで私に振るのチーちゃん?


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第68話 (まだ)当たらない氷輪丸

どれだけ続くか分かりませんが、またまた投稿できそうなのでアップしました。

読んでくれて誠にありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。

独自解釈や、ご都合主義が更に増加し続けます。 (汗


 ___________

 

 日番谷先遣隊 視点

 ___________

 

 日番谷は斬魄刀を解放したルピの『蔦嬢(トレパドーラ)』によって倒されていた。

 

「(クソ! どういうことだ、こりゃあ?!)」

 

 意識は辛うじてあるモノの、日番谷は身動き一つとっても体が痛むほどのダメージを負っていた。

 

 だが彼の中では『悔しさ』ではなく、『疑問』だけが浮かんでいた。

 

「(俺は確かに強くなったのに、『()()()()()()』ってのかよ?!)」

 

 それは同じ時点の『原作』より強くなったはずの日番谷が『倒されていた』。

 なんてことはなかった。

『斬魄刀の解放』をしたルピに、日番谷の『不完全な卍解』が防ぎきられなかっただけ。

 

 その間にもルピは一角、乱菊、弓親たちを翻弄していた。

 

「ッあ!」

「うわ!」

「松本! 弓親! グァ?!」

 

 そしてとうとう三人はルピの背中から生えた触手(?)っぽいモノに拘束される。

 

「う~~~ん、この際だからエロいおねえさんから穴だらけにしよっか♪」

 

 先端を剣山のようにした触手が乱菊に迫る。

 R-18(触手)モノかと思ったら、R-18G(グロ)モノへと変わろうとしていた。

 

 ザン!

 

「いやぁ~、間に合いましたねぇ~。」

 

「……誰だ、オマエ?」

 

 乱菊を拘束していた触手が赤い斬撃に斬られ、ルピが面白くない顔で新たに姿を見せるR-18G案件を防いだ 胡散臭い下駄帽子に問いかける。

 

「あ! ご挨拶が遅れました! 蒲原商店という、しがない駄菓子屋の店主の『浦原喜助』です。 以後、お見知りおき────を?!」

 

 浦原は背後からくるわずかな違和感に振り返ると、今まで動きもしなかった金髪、虚ろ目、そばかす、出っ歯が特徴的な破面が、彼をめがけて『何か』の攻撃を繰り出す。

 

 ドォン!

 

「いやはや、びっくりするじゃない────」

 

 ドドドドドドドドォン!

 

 さらに背後から新たな衝撃たちが襲い、浦原の身体が地面へと落下していることに笑うヤミーが居た。

 

「ぐははははははは! テメェを待っていたぜ、このヤロウ! 今のは『虚弾(バラ)』ってんだ! 虚閃に似ちゃいるが、20倍の速度だ! 食らいやがれ!」

 

 ドドドドドドドド!

 

 ヤミーがさらに攻撃を出している間、ルピが巨大な氷の塊の中に閉じ込められて、ヤミーの手が止まる。

 

 それは練りに練った、身体が動けなかった日番谷の罠系の技である『千年氷牢(せんねんひょうろう)』がさく裂した瞬間。

 

「な?! なんだぁ?! ルピの野郎がやられただと?! このままじゃ────!」

 

「────『藍染様に顔が合わせられなーい♪』、で良いしょうか? ああ、()()風に言うのであれば確かこの場合は『次にアナタが言うのは~』だったんでしたっけ?」

 

 それはある日の事、浦原が次に言うことを当てた三月のことだった(とあるジャ〇プ作品に影響されて)。

 

 地面でボコボコに殴っていたはずの人物の声が背後から来たことに、ヤミーが降り向かって()()()()無傷の浦原に驚愕する。

 

「は、はぁぁぁぁぁぁ?! な、なんで────?!」

 

「────『なんで生きてんだ?!』、でしょうか?」

 

 そこで浦原が出したのは小さな黒い玉。

 どこか義魂丸に似たそれに、浦原が思いっきり空気を吹き込むと風船のように大きくなって次第に『浦原の身体』となる。

 

「名付けて、『携帯用義骸(けいたいようぎがい)』~~~! ス♪」

 

 何某ネコ型ロボット風に、浦原が愉快に新作品をヤミー相手に披露する。

 

「な、なんじゃそりゃあああ?!!」

 

「アッハッハッハ! 破面もそんな驚き方をするんッスね!」

 

「んなモノ、聞いたことも見たことねぇぞオイ?!」

 

「当たり前ッスよ。 アタシ、コレ作ってからまだ誰にも見せてないモン♪」

 

 実に愉快な気持ちと態度で浦原は携帯用義骸を消す。

 

「試しに作ってみたは良いんですが、扱いがこれまた難しい品になっちゃいまして♪。 ああ、あとさっきの技ですけど()()()()()()()()()。 お疲れ様です♪」

 

「テメェ!」

 

 ヤミーが虚弾を繰り出そうと拳を出す同じタイミングで浦原が斬魄刀で霊圧の塊を消滅させる。

 

「『解析は終了しました』って言ったばっかじゃないですか~? その耳、お飾りっすかぁ~?」

 

 そこでヤミーは空から降って来た光の柱に包まれる。

 

「ち、もう終わったか!」

 

「これは反膜(ネガシオン)?!」

 

 これを見た浦原はさっきまでの『オレ、余裕』態度はどこに行ったのか、驚愕に目を見開いて周りを見る。

 

 そして周りの破面たちもヤミー同様に『反膜』の光に包まれていた。

 

「このタイミングの上に、()()()()……まさか?!

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

 時は少し前に戻る。

 それはちょうど一護の虚化が独りでに解けた直後で、グリムジョーに蹴り飛ばされて卍解時の斬魄刀を右腕の手首を骨と(けん)ごと相手の斬魄刀に貫かれていた。

 

「グアァァァァァ! (う、腕が! 冗談じゃねえ、右手が使い物にならねぇような傷を────!)」

 

『────敵が自分に慈悲を与える通りが何処にある?』

 

 それは脳内の手加減待った無しの師匠(チエ)の声。

 そしてグリムジョーがそのままニヤケながら手を(一護)の顔に向けて、『正しくその通りだ』と俺が痛感した瞬間だった。

 

「クソ、俺は……まだ!」

 

「この距離の虚閃(セロ)だ。 吹き飛べ────!」

 

「────次の舞、『白蓮(はくれん)』。」

 

 キィン。

 

 横から来た、カッコつけようとするチビ(ルキア)の声とともに、驚いたグリムジョーは氷の塊の中に包まれる。

 

 こんな時、()()()なら助けてくれたことに感謝をしているところだろう。

 

 近づいてくるルキアに、俺は痛みを忘れようとしながら顔を向ける。

 

「ス、スゲェな────」

 

「────喋るな、今その刀を抜いて治療を……厄介だな、骨と(けん)ごと────」

 

 ボコォ!

 

 俺と同じように、驚いたルキアの顔をまだ生きていたグリムジョーに鷲掴みにされる。

 

 「甘いな、死神ィィィィ!」

 

「ルキア!」

 

 俺が叫んで、グリムジョーの手が虚閃を撃つための霊圧をため込んでいたのを感じてさらに焦る。

 

「クッソがぁぁぁぁぁぁ!」

 

 立ち上がろうとして、右腕が文字通り地面に釘付けにされていたので、ズキズキとしてくる痛みを直に感じる。

 

 だがこんな時に、()()()()()()()()?!

 (ダチ)のピンチだってのに戸惑ってられるか!!!

 

「うおぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ギチギチギチィィィィ!

 

 鋭い痛み────という表現が合っていないような感覚と共に『何か』が千切れていくのを耳にする。

 

 ドガン!

 

 横からセメントブロックが飛んできて、グリムジョーの手をルキアの頭から無理やり放させる。

 

「誰だテメェ?!」

 

 セメントブロックが飛んできた方向にグリムジョーが叫んで、聞き覚えのある関西弁の声がした。

 

「誰でもええねん、ボケ。 俺はただの付き添いや。」

 

「付き添いだぁ? こいつらの仲間か?!」

 

「ハァ……アンタ、強そうやから加減はナシや。」

 

 平子(関西弁)が虚化して、グリムジョーに迫る。

 

「チィ────!」

 

 ボッ!

 

「────ガッ?!」

 

 グリムジョーが無理やり地面と腕に突き刺さった斬魄刀を乱暴に引き抜いて、意識を手放しそうになるような痛みが俺を襲う。

 

 いや、一瞬だけ意識を失っていたらしい。 次に目にしたのは平子がグリムジョーを空中へ吹き飛ばして、虚閃を撃って今度はグリムジョーが赤い閃光に包まれて爆発音が響く。

 

「ブハッ! クソッ! クソクソクソクソクソォォォォ!」

 

 土煙の中から更に血だらけのグリムジョーが怒り狂う声を、血と共に口から吐き出す。

 

「しぶとい奴やっちゃなぁ……」

 

(きし)れ────!」

 

「「ッ────?!」」

 

 グリムジョーが斬魄刀を手にして解号(かいごう)らしきことを口走って俺は平子と同じように身構える。

 

「────任務完了だ、グリムジョー。」

 

 彼の腕を制していたのは、どこからか現れたウルキオラだった。

 

 そして丁度その時、二人は反膜(ネガシオン)の光に包まれる。

 

「さらばだ、死神と『破面()()()』共。 貴様らになす(すべ)最早(もはや)ないと知れ。」

 

 ズゥン。

 

 お腹に来るような音と共に、二人はその場から消えていく。

 

 

 ___________

 

 猿柿ひよ里 視点

 ___________

 

 ウチは『死神』が嫌いや。

 理由は散々あるけど、『死神』は嫌いや。

 

『人間』も嫌いや。

 

『虚』はもっと嫌いや。

 

「なんやねん……これ?」

 

 そして目の前では自称、『そのどれでもない』*1ヤツがウチから見ても『トンデモバトル』をしておった。

 

 ウチは贔屓なしで『強い』部類になると思う。

 他の『仮面の軍勢(ヴァイザード)』より()()()()気後れするかも知れへんけど……

 少なくとも()()護廷のハゲ(アホ)ども(の副隊長たち)よりは強い。

 

 それなのに────

 

「────()()()()()()()()()()()()()。」

 

 思わずそう口に出してしもうた。

 

 ホンマは今の住処にしとる倉庫街の近くでタンポポのハゲ(一護)と『自称バケモン(チエ)』の二人が『戦って(ドンパチして)イマス』ってハッチから聞いてイライラ(ウズウズ)しとったところに、真子のハゲが『様子見に行くわ』言うたからウチは付き添っただけや。

 

 決して真子のアホが言っていた『いてもいられない気持ちで貧乏揺すりやめぇ』が原因なワケやない。

 

 ……………それを自分一人に言い聞かせるほど現実逃避したくなるぐらい、『自称バケモン(チエ)』と、相手をしていた中年の破面がドンパチやっとった。

 

 あっちに『バッ!』と行ってはもう消えて、今度は拳銃かなんかで撃った虚閃の弾道を刀で変えてから斬りかかるか蹴り飛ばすかして、さっきの変えた虚閃の弾道に無理やり相手を動かして……………

 

 もうそんなんばっかや。

 ラブで言うところの『ありのまま、今起こった事を話す』って奴や。

 ()()()()見えへんウチには無理やけど。

 

 しかも『自称バケモン(チエ)』と相手をしている(やっこ)さん、二人とも薄気味悪ぅなる、()()()()()をしとる。

 ウチの『内なる虚』の恐怖も、今なら何となく分かってまうぐらいの不気味さや。

 

 それでも二人はダンスか何かをしているかのようで、ウチも思わず魅入ってしまうほど、『綺麗』なモノやった。

 

 一歩間違えば相手に重傷負わせてもおかしくない、『死のダンス』やけど。

 

 乱入とか、加勢とか、もうそんな考えは浮かんでこうへんかった。

 まるで、『二人だけの世界にウチなんかが入ったらアカン』ような……

 

 そんなような錯覚に陥ってどれだけの時間が経ったやろか?

 5分?

 1分?

 あるいは何秒か?

 

 そんな長くも短くもよう分からへん時間が、空から降って来た『反膜(ネガシオン)』によって無理やり中断された。

 

「「…………」」

 

 二人はただ無言で、互いを見る。

 きっとウチの事も、空間固定の結界を突き破ったことも、周りにも同時に突然現れた『反膜』も多分、眼中に無いんや。

 

「名は何という?」

 

 先に沈黙を破ったのは意外なことに『自称バケモン(チエ)』やった。

 けど相手の中年破面は何も言わずに、ただ片方の手袋を取って、手の甲を見せただけやった。

 

 何を見たのか分からへんが、『自称バケモン(チエ)』はただ一言だけいう。

 

「そうか」、と。

 

 そして中年破面は消えていった。

 

 笑みを浮かべながら。

 

 ………………って、何ウチが感心しとんねん?! らしくあらへんわ!

 

「おい、ハゲェ!」

 

 ウチの叫びを無視して、『自称バケモン(チエ)』が空をただ見上げ続けていた。

 

「おい、無視すんなや────ッ?!」

 

 イラついて、ウチが近くに行くと最初に気付いたのは『()()の匂い』やった。

 

 いや、言い換えるわ。

『肉が焦げ焼ける』匂いや。

 

 かつて、あの青い髪のハゲ(マユリ)が薬品の配合を誤って自分の腕を骨まで溶かしてしまったような匂い。

 

「お、おいハゲ! こっち向かんかい?!」

 

 胸の奥に広がる不愉快さを無視して、近づいたまま叫ぶとやっと反応する。

 

「ああ、『ひよ里さん』か。」

 

「ッ。 あ、アンタ────」

 

 ────こっち向いた『自称バケモン(チエ)』はズタボロの状態やった。

 特に虚閃かなんかをモロに受けたのか、左半身が酷かった。

 

 そんなひどい有様やのに────

 

「────すまないな、先ほどから耳がよく聞こえない。 おそらく鼓膜がやられているのだろう────」

 

 ────せやのに────

 

「────あと鉢玄(はちげん)……ハッチ殿を呼んでもらえるか? 多分、一護は治療が必要だろうからな────」

 

 ────せやのに、なんでそんなに()()()()()()()

 

 

 そう思いながらも、ひよ里の身体は二人の闘争を見た時(最初)からずっと震え続けていた。

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 襲撃の結果は、現世にいた者たちの『惨敗』に近かった。

 

 日番谷先遣隊は浦原の乱入のおかげで酷い手傷はないものの、敵の『十刃(エスパーダ)』が予想以上に強く、多対戦に長けていた個体一つに副隊長や席官が複数いてやっと相手になるような出来事や、敵に大きな手傷が負えなかったことに少なくないショックを受けていた。

 

 しかも『十刃』というからには、()()()()()同等の種が少なくとも10ある筈。

 

 瀞霊廷から駆け付けたルキアも酷い外傷はないものの、黒崎一護は利き手に深刻なダメージを負っていて、すぐにでも井上織姫の治療が必要だった。

 

 近い性質をもったハッチの『空間回帰(くうかんかいき)』である程度は治ったが、一護の傷は本人と破面の霊圧が直接混ざり合ったような不安定な状態。

 

 つまり『虚に近い霊圧』を持つハッチでは最悪、傷の悪化もあり得る可能性を踏まえて現世の死神たちは織姫に連絡を取ろうとするが上手く通信が通らなかった。

 

 そして瀞霊廷は必死に霊派障害(れいはしょうがい)、いわゆる『通信妨害』状態の除去に取り掛かっていた。

 

『井上織姫、および五番隊副隊長の雛森桃の以上二名が断界(だんがい)にて行方不明』という状況を伝えるために。

 

 

 

 ___________

 

 井上織姫 視点

 ___________

 

「よしっと、これぐらいかなぁ?」

 

 織姫は無人になった自分のアパートの自室で書置きをしていた。

 

 無人でなくとも、彼女の『存在の認識』事態が困難になっていたので他人が気付く可能性は破面以外のモノには『ゼロ』に近くなるが。

 

 というのも、彼女はウルキオラから特殊なブレスレットを手渡されて、12時間の猶予の間に()()()()()()()別れを告げること許された。

 

『相手に気付かれずに、さもなくばクルミと雛森の命も目の前で消す』という条件付きだが。

 

 なので織姫はアパートをこれからも使うであろう日番谷と乱菊宛てに書置きをして、次の目的地に向かっていった。

 

 ウルキオラから渡されたブレスレットには物質の透過も可能とする能力があり、織姫は今『幽霊の気持ち』になっていた。

 

「ふわぁ~、本当に壁とかすり抜けちゃうんだぁ~。」

 

 彼女が向かったのは────

 

「お、お邪魔しま~す……な、な~んちゃって。」

 

 ────チエ達のアパートの部屋だった。

 

 隣の部屋の三月を見に来たのだが生憎、どこか出かけていたのか姿は見当たらず、逆に変なぬいぐるみ(バイキ〇マン)が置かれていてそれが薄気味悪かったので今度はチエの部屋へ移動していた。

 

 彼女は布団に寝かされ、左半身を重点的に『ミイラ女』状態のように包帯が頭、腕、足などに巻かれていた。

 

「やっぱり、酷い傷。」

 

 別に『別れを言いに来た』のではなく、ただ『傷を治療しに来た』だけだったのでぎりぎりセーフと織姫は思った。

 

 だが────

 

「え? ……ウソ……な、んで?」

 

 ────織姫が見たのはチエの頭の横にあった、拙い文字が書かれた書置き。

 

一護のほうを先に頼む。』

 

 それはまるで()()()()()()()()()()()()()ような文で、彼女を後押ししているようだった。

 

「……………」

 

 織姫は何も言わずにその部屋を後にする。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「えへへへ、やっぱり別れを言うのなら黒崎君だよね。」

 

 次に織姫が立ち寄ったのは一護の部屋。

 

 中では久しく見ていない兄が酷いケガをして寂しい思いをしていた双子の妹、夏梨と遊子が彼のベッド近くで毛布にくるまって寝息を兄同様に出している姿。

 

「うん……やっぱり二人も寂しかったんだよね……ハッ?! そういえば黒崎君の部屋って何気に始めてだ、私!」

 

 織姫は部屋をジロジロと見てから、名誉惜しそうに一護を見る。

 

「…………ホントは、もっとちゃんとした場所で……したかったんだけど────」

 

 織姫は寝息を立てる一護の顔に近づき、自分の髪の毛を手でかき上げる。

 

「────良いよね? ()()だもの。」

 

 そのまま鼓動が早くなり、顔が紅色に染まる織姫は自分の唇を一護の唇に近づけて────

 

 

 

 

 

 チュ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………アハハハ。」

 

 ──── 一護の額に唇を軽くあてたキスをして、笑いながら惨めな気持ちになったのか突然泣き出す。

 

「ダメだなぁ、私って。 カッコ悪いや。 

 ()()()()勇気を出しちゃったこんな時でも、自分をまだ『嫌な子』と思っちゃうし、本当なら今のも()()()()しているのに……………人生が一回だけなんて、やだなぁ。」

 

 織姫は制服のブレザーの袖で自分の目をこすって、涙を拭いてから独り言を続ける。

 

「私ってば色んなモノになりたかったんだよ、黒崎くん? 

 宇宙飛行士になって宇宙人さんと握手したり、ケーキ屋さんになってでっかーい羊羹バームクーヘンケーキを焼いたり、ミスドやサーティーワンやワック(ワクドナルド)に行って『メニューにあるの全部ください!』って言ったり────」

 

 織姫はそのまま数々の願望を言う。

 多少のメルヘンチックな妄想も混じっていたが、現実に基づいていたモノばかり。

 

 そして最後に────

 

「────んで、そのどの人生でも別々の町に生まれても、違うものをお腹いっぱいに食べたとしても、違うバイトとかしたとしても────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────それでも()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 ────織姫は実に良い面構えで、寝ている一護を優しく見て、脳内に焼き付けてから部屋を出る。

*1
9話より




イリヤ(天の刃体):このイチゴって子の傷、痛そうね?

士郎(天の刃体):ああ。 つーか、気を失わないなんて結構スゲェ奴だよ。

イリヤ(天の刃体):私は心臓をえぐられたから勝っているけどね♪

士郎(天の刃体):『勝っているけどね♪』って、そんな軽く言うものじゃねぇと思うけど (汗

リカ:別の世界の士郎氏はもっと酷い事になりますけどね

士郎(天の刃体):え゛

イリヤ(天の刃体):なになにリカちゃん?! 面白そう、もっと詳しく!

士郎(天の刃体):…………なんでそこで目をキラキラするのイリヤ? (汗汗汗

作者:えー……では皆さん、次話で会いましょう

リカ:そうですね、例えば腕を肩から失くしてですね?

士郎(天の刃体):え?


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第69話 Toward the End of Adolescence

お待たせしました、次話です。

活動報告でも書きこみましたが、今でも試行錯誤中で小説の書き方スタイルが不安定な作者ですがいつもお読み頂き、ありがとうございます。

活動報告でも書きこみましたがこれからもより良い作品を書きたいと思っていますので、良ければ返信やコメント、感想や評価や誤字の指摘などをお願いします。

今後ともよろしくお願いします。


 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

 変な夢を見た。

 

 とまぁ、今に始まったことじゃないけどな。

 俺は()()()良く解らない、変な夢は見ているが今回のはいつもと違って景色が少しだけ鮮明だった。

 

 ……ような気がする。

 

 何せ夢の中の俺が空座町のどこかに立っていたと自覚できたのは、周りに見覚えがあったからだ。

 少し違うといえば人気(ひとけ)が全然ない事と、至る所では瓦礫や斬撃や爆発の後。

 

 明らかに大きな戦いの跡が目立っていた。

 

『井上! ルキア! チャド(茶渡)! 石田!』

 

 まるでこの街には俺しか居ないような、込み上げる不安を押し潰すかのように夢の中の俺は皆の名前を呼びながら、人が居なくなった空座町を走る。

 

『蒲原さん! 夜一さん! 恋次! 白哉! 冬獅郎!』

 

 息が上がり始めても、汗がびっしりと身体中から出ていて気持ち悪くなっても、走ることは止めずにただただ皆の名前を呼ぶ。

 

『一角! 浮竹さん! 京楽さん! 乱菊さん! 弓親! 狛村さん! 剣八! 卯ノ花さん! じいさん! 砕蜂!』

 

 知人の名前を俺は呼ぶが、返事は帰ってこなかった。

 まるで、この街には俺しか居ないような……

 

 『誰か! 誰か返事をしてくれ! 頼む!

 

 それは俺が普段、意識して出さないようにしている声のトーンで、

 まるで子供が親に悲願するようなモノだった。

 

 カラン。

 

 俺は後ろから来た物音に振り向くと────

 

 

 

 

 

 

 ゴスッ!

 

 

 

 

 

 

「いで?!」

 

 ────頭を盛大に、部屋の床に打った。

 

「いっで~……マジか。」

 

 いや、『夢にうなされてベッドから床に転び落ちる』ってどれだけベタだよ?

 漫画のキャラか、俺は?

 

 ……というか何の夢だっただろう?

 

 そう思いながら、俺は()()()()()()()()目に浮かんでいた涙を右手でこすり取る。

 

「………………え?」

 

 右手を見ると、昨日付けられていた筈の傷が跡形も無くなくなっていた。

 

 俺はすぐに霊圧探知を使うと、やはり思った通りに『優しく包み込む』様な霊圧を感じる。

 

 …………………やっぱり、これは────

 

「────気が付いたか一護。」

 

 部屋の窓を見ると恋次がそこにいた。

 

 だから普通にドアから来いっつーの。

 

「オレと今すぐ来い、緊急事態だ。」

 

 恋次の本気(マジ)な顔を見て、さっきから感じていた不安を頭の端に置いて気持ちを切り替える。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 俺が案内されたのは井上のアパートの部屋の中。

 そこでは一角、弓親、ルキア、そして真っ青を通り越して自分の髪の毛以上に真っ白な顔になった冬獅郎が乱菊さんに身体を預けていた。

 

 部屋の中の大きなテレビ(モニター?)に移っていたのは真顔の浮竹さん。

 

『黒崎君か。』

 

「どういう事だよ、浮竹さん? 一体────?」

 

『────いいかい? 君も心して聞いてくれ。 井上織姫と雛森副隊長が現世に向かっったんだが、二人とも行方不明状態なんだ。』

 

「……………………………は?」

 

 そこから浮竹さんは色々と簡単に説明してくれた。

 井上は強くなるために瀞霊廷で団子頭(雛森)とルキアの二人と一緒に修行して、昨日の襲撃の際に断界(だんがい)を通って空座町に向かっていたのを。

 

 そして護衛として付いていた死神たちの証言によれば『緑目をした肌白い破面』によって『拉致』、または『生死不明』の状態────

 

 「────ふざけんな!」

 

「「「「「『?!』」」」」」

 

 俺は思わず叫んでいて、周りの奴らと通信越しの浮竹さんでさえも驚かせていた。

 

 だが気にするかそんなもの。

 

ウルキオラ(緑目をした肌白い破面)と遭遇して、井上が死んでいるかもしれない(生死不明)』だと?

 

「証拠もねえのに、勝手なことを言うなよ! 俺のこの手首を見てくれ! 昨日、俺は酷いケガを負って、現世(こっち)組に『治療は困難』と言われていたんだ!

 そして今日の朝起きたら、跡形も無く治っていた! これは井上にしかできない事だ!

 だから、井上はきっと────!」

 

『────そうか。 ここからはワシが変わろうか、浮竹。』

 

『先生…』

 

 モニター越しの人物が浮竹さんからじいさん(山本元柳斎)に変わる。

 

『残念じゃよ、(まこと)に。』

 

「じいさん?」

 

()()総隊長じゃ、“死神代行”。 井上織姫がお主のケガを癒したというのなら、その後に自らの足で破面たち……つまり藍染の元へ向かったという事を意味する。 

 もし拉致などされていたら、そのような余裕などない筈じゃ。 

 仮に脅迫されていたとしても、彼女には藍染の目的………“王鍵”の事を既に伝えておる。 じゃが、それよりも“藍染の元へ行くこと”を選んだ。 

 

 

 

 

 つまりは“自分の意思であちら側に行った”、という事。』

 

「ど、どういう意味だ?」

 

『組する陣を鞍替えする者など、他に言い方があろうか?』

 

『裏切り』という単語が頭に浮かんだ。

 

 恋次もそう思ったのか、俺が反論するよりも早く言葉を出す。

 

「お話は分かりました、総隊長。 ではこれより六番隊副隊長阿散井恋次(あばらいれんじ)、反逆の()である井上織姫の目を覚ませるため虚圏(ウェコムンド)へ向かいます! 

 ……()()はこれでナシだぜ、一護。」

 

 胸の奥が思わず温かくなる。

 

「恋次……」

 

 だがそれもじいさん(山本元柳斎)の声で冷める。

 

『ならぬ。 藍染や破面たちの戦闘準備が整った上、こちらの事情を知っている雛森副隊長も奴らの手に渡ったとなれば瀞霊廷の守護を優先せねばならぬ。 

 日番谷先遣隊は全員、現時点を持って速やかに()()()()()()()()。』

 

「「「「「?!」」」」」

 

 俺も含めて部屋の中にいた全員が、唖然とする。

 

 じいさんが今言ったのは、つまり────

 

「────総隊長殿、それはつまり……()()()()()()()()という事ですか?」

 

 ルキアが恐らく、今みんなが思っていたことを口にして代弁する。

 

『………………もっと視野広く物事を見よ、朽木ルキア。』

 

 じいさん(山本元柳斎)はルキアの問いを否定せずに、ただそう告げる。

 

「……恐れながら、その命令には……従いかねます、総隊長殿。」

 

 ゴォォォォォン!

 

 お腹に来るような、低い音と一緒に『穿界門(せんかいもん)』が部屋の横で開いて、向こう側には気乗りしてなさそうな剣八と白哉が立っていた。

 

 しかもビリビリとした(戦闘態勢の)霊圧を出しながら。

 

「というワケだテメェら、さっさと戻って来い。」

「『力ずくでも帰還させよ』と、我らは命を受けている。」

 

 恋次とルキアが迷うのを俺は見て、決心する。

 

「なら、せめて……虚圏の行き方を俺に教えてくれ。 井上は、俺が迎えに行く。」

 

「一護……」

 

 そう俺を見ないでくれルキア。

 やっと藍染の策略やら、疑いが晴れたってのに……

 

「一護……すまねぇ」

 

 謝る事はねぇよ恋次。

 元々………お前には関係ねえ。

 さっきの言葉、嬉しかったぜ?

 

『…………………………』

 

「頼む! ()()()()()()()()()()()()()()()殿!」

 

 俺は出来るだけの誠意と敬意を声に出して頭を下げて、じいさんをフルネームで呼ぶ。

 周りから短く息を呑む音が聞こえる。

 顔も多分…………まぁ、びっくりしているだろうよ。

 

 俺はこんな風に頼み事をするような奴じゃねぇからな。

 

『黒崎一護。』

 

「ッ! は、はい!」

 

 長い撃沈の後に聞こえて来たじいさんの声で、俺は少し期待を持って目だけを上にあげる。

 

 そして見たのは両目を開いて自分をじっと見ていた本気(マジ)のじいさんで、思わず汗が身体中から噴き出す。

 

『本日今この時より、お主を“死神代行”の任は一時停止じゃ。 

 代行証の機能も凍結。 次の命があるまで、以上を破れば『()()()()』として扱わねばならぬ。』

 

「……………………………………」

 

 それって、つまり………

 

 そう考えている間に、日番谷たちは穿界門の中へと消えていった。

 

「………………………フゥー……」

 

 俺は自分一人になった井上の部屋の中で深呼吸をして落ち着きを取り戻していく。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「よし。」

 

『死神代行』から外されて次の日、俺は平子たちにもらった包帯を洗ってから、アイツらが居るはずの倉庫の外に置いてきて、久しぶりに高校に登校した。

 

 「く~ろ~さ~き~?」

 

 そして激おこの担任の越智サンが青筋をこめかみに浮かべながら笑っていた。

 

「あたしはてっきり、アンタが進級したくないと思ったぞコラ? 『病院に行ってました』、なんてのもウソなんでs────?」

 

 ガラガラガラ。

 

「────お久しぶりです、越智先生。」

 

「ほぉ~? 今度は『黒の渡辺』か? お前も病────い゛い゛い゛い゛?!

 

 そこで俺と同じく久しぶりに学校に来た、ミイラ女(チエ)を見て驚愕する。

 無理もないか。

 というか治さなかったのか?

 

「な、ちょ、ちょっと大丈夫なの?! 何があったの?!」

 

「…………………………………鉄骨が落ちてきた。」

 

 いやお前、それは無理があるだろうが?

 

 チャドじゃあるまいし。

 

「まぁたあの工事現場かよ?! 先生も抗議をあげるとするかしら?! ……なるほど、黒崎はあんたの見舞いに病院行っていた訳ね。 ま、席に座んな。」

 

「って良いのかよ?!」

 

 あ、やべ。

 思わず口が出た。

 

「良いも何も、生きてんだから良いじゃない?」

 

 …………………………もしかして俺が間違っているのか?

 俺が変なのか?

 井上たちにも前、言われたし。*1

 

 久しぶりの学校にも、心配する友人や知人は居た。

 

 だけど、一人だけは違った。

 そいつは通路を歩いていた俺に話しかけてきた。

 

「一護、アンタに話がある。」

 

 イラついたたつき(友人)が俺をにらむ。

 

 やっぱ来ちまったか。

 

「織姫が……いないんだ、どこにも。 アンタなら、知ってる筈だ。」

 

 けど悪い、たつき。

 お前に話しても、多分────

 

「────ずっと()()()()()あの子の感覚が無いんだよ、()()()にも。」

 

『あっち』?

 それって……

 

「なぁ、この間の夏から、アタシはアンタたちが変な連中と戦ってるの……アタシ────」

 

 たつき…………

 

「────お前には、関係ねえよ…」

 

 このまま馴染みに全てを打ち解けたい衝動を飲み込んで、俺は彼女を突き放すようなセリフをワザと意識して言う。

 

 たつきが『信じられない』といった目で俺を見る。

 

 悪いな。

 でも巻き込むワケには行かねぇんだ。

 

 ガッ!

 

 ドン!

 

 たつきが俺の胸倉を掴んで、近くの窓に叩き付けてから思いっきり空いていた腕を振りかぶって、俺は目を瞑る。

 

「ッ」

 

 「一護ォォォ!!! 歯ァ食いしばれぇぇぇぇ!!!」

 

「…………………………………………………………………………?」

 

 だがいくら待っても、予想していた鉄拳の衝撃が来なかったので目を開けると、チエが(包帯を巻いていない方の手で)たつき(竜貴)の腕を掴んでいた。

 

「何するんだよ、チエ?! 放せよ!」

 

「阿保か竜貴。」

 

「チ、チエ。 お前────」

 

 ホッとしたのも束の間、チエは急にたつき(竜貴)の腕を放して、俺を窓から遠ざける。

 

「────さっきのままでは学校の備品が巻き添えになる。」

 

 え。

 「え?」

 え。

 

 外側と内心的に俺は呆けながら間抜けな声を出して、たつきがニヤリと笑みを浮かべたと思えば衝撃と痛みが顔(というか鼻)を襲う。

 

 ドッ!

 

 ドシャッ!

 

 クラクラする頭で、床の上で大の字になっていたのに俺が気付くのは、たつきが(よく考えもせずに)腕を組みながら俺を見下ろしていたからだ。

 

「言っとくけど、まだ殴り足りないからね!」

 

「そこまでにしておけ、竜貴。」

 

「けどねぇ?! 一護が何度も過去に困っていたところで、何回も助けたアタシには一言も言えないのは何でだ?! お前も知っている口か、チエ?!」

 

 俺は鼻から出る血を手で(ぬぐ)いながら口を開ける。

 

「だ、だからお前には関係────」

 

 ドン!

 

「────ブフ?!」

 

 今度は顔面を手の上から蹴られる。

 

 いやそれよりもコイツ(たつき)、さっきから自分がスカートを履いているのを忘れていないか?

 

「関係あるとか無いとかは、アタシが決める事だ! いいからさっさと────!」

 

 チエがここで俺とたつきの間に入る。

 

「────すまない、竜貴。」

 

 ナデナデナデナデ。

 

「んな?!」

 

()()()()、説明する。」

 

 チエが()()たつきを撫でるという光景に、一気に周りの奴らの注目は俺から赤くなっていくたつきへと変える。

 

「な、お、あ、え?」

 

「行くぞ、一護。」

 

 そのままチエはくるりと踵を返して歩き、俺も後をついていくと後ろからたつきが叫ぶ。

 

弁当箱! 一年分だかんなぁぁぁぁぁぁ?!

 

 それに対し、チエはただ右手を静かに上げる。

 

 そしてたつきの事が何となく気になった俺は振り向いた。

 が、すぐに後悔した。

 

 そこで見たのはいつも気丈なたつきではなく、ただ悔しそうな顔をしながら唇を嚙んで、静かに震えながら『泣いている女の子』の姿があった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そのまま俺たちは校門を出て、俺は気になることを前に歩いていたチエに尋ねる。

 

「そういえば、お前はあっち(尸魂界)に行かなくていいのか? 『隊長』なんだろ?」

 

「お前もか。 私は『()()()()』だと言っているのに、どいつもこいつも『隊長』と勝手に呼ぶ。」

 

「「……………………………………………………………………………………………」」

 

「いやそれ、答えになってねぇんだけど?」

 

「もう少し頭を使え、この戯け。」 

 

 いやいやいやいやいや。

 いつに増しても意味不明だぞオイこら。

 

 考えていたことが顔に出ていたのか、チエがタメ息を出す。

 タメ息を出したいのはこっちだぞ?

 

「…………『帰っていく者たちに隊首羽織(たいしゅばおり)()()()』、と言っているのだ。」

 

「……………………………………………………………え?」

 

 

 ___________

 

 春水京楽、伊勢七緒 視点

 ___________

 

「♪~」

 

 京楽お気に入りの日向ぼっこスポットである、隊舎の屋根の上で彼は寝ころびながら鼻歌を歌い、何かの紙切れを読んでいた。

 

「かなりご機嫌ですね、隊長?」

 

「ん~? そりゃあ、()()()山じいを見た後じゃあねぇ?」

 

 伊勢が汗マークを出しながら眼鏡をかけ直す。

 

「ま、まぁ…………あのような総隊長の容姿は、私も含めて殆どの者が見た事が無かったと思うので。」

 

「ンフフフフフフ~♪ 七緒ちゃんの鉄の仮面も思わずはがれるぐらいだったからねぇ~?」

 

 ドシィ!

 

 伊勢がいつも持ち歩いている分厚い本を京楽の顔に叩き付ける。

 

「グハッ?! い、痛いじゃないの七緒ちゃ────?」

 

「────いいから忘れてくださいッッッ!!!」

 

「アッハッハッハ。」

 

 そこで二人の頭上に、多少デフォルメ化した漫画風の吹き出しが出てきては隊首会(たいしゅかい)と思われる場面が出てくる。

 

 中ではキョロキョロと見渡す山本元柳斎に、白哉が五番隊の隊首羽織と文を彼に渡す。

 

 そして文の内容を山本元柳斎が読み始めたと思えば、彼は次第に空気が抜けていく風船のごとく、最後には『何某ショボショボする黄色い毛皮のマスコットネズミ風』と似た立ち位置へと変わっていった。

 

 更に彼の上に吹き出しが出ては

わちちょっとよこになる。』

 と言い、そのままドンヨリとした空気を出しながら隊首会を後にしようとして、何人かの隊長たち(と雀部)はオロオロする、といった場面が流れる。

 

 さらに、この様子のまま副隊長たちが待機している部屋の中に入っては座布団を敷いて、横になろうとしたのを伊勢含む、複数の副隊長たちが目撃したので威厳もへったくれも無い哀れな姿を総隊長(山本元柳斎)が出したことがその日一番のニュースになったそうな。

 

 …………………『ショボショボ山爺』フィギュアが(のち)に出ては大ヒットするのはまた、別のお話である。

 

*1
22話より




マユリ:おい貴様。 これは一体どうことかネ?

作者:えええっと、今度は何のことでしょうか?

マユリ:とぼけるなよ、何故あのジジイのフィギュアが出回るのかネ?! 私とリックンの開発した『サイキンマン』はどうしタ?!

作者:……なに勝手に作っちゃってんの?!

リカ:ふむぅ、てっきり『アンタ何やってんの?!』というかと思いましたが。


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第70話 『サンダーバード、出撃せよ!』

お待たせしました、次話d────え? サブタイの元ネタが古い?

………………………ウン、フルイデスネー。


 ___________

 

 石田雨竜 視点

 ___________

 

 滅却師の能力(チカラ)を取り戻して、三週間ちょっと。

 

 来る日も来る日も、竜弦と渡辺さん(三月)との模擬戦の毎日だった。

 心身ともに疲労しては次の日まで意識を失うことなど、ザラにあった。

 

 一つ救いがあるとすれば、渡辺さん(三月)がどういう訳かガラリと僕や竜弦との接し方を変えた。

 

 まるで僕と奴の仲を取り合うかのような………

 

『いや、考えすぎか?』とも思ったのだが、気のせいではなく竜弦も度々指摘していた。

 彼女はのらりくらりと明確な答えをせずにいたが。

 

 訳が分からない。

 

 そんな事をボーっと横たわりながら考えていると、ファスナーを開ける時と似ている音が僕と渡辺さん(三月)の耳に届く(尚、竜弦はタバコを吸いに部屋の外に出ていたので現在は不在)。

 

 カチリ。 ジジジジジジジジー。

 

「どうも~、夜分恐れ入ります~♪」

 

「まだ夕方だけどね。」

 

「そこは見逃して欲しいッス。」

 

「ほんとの事じゃん。」

 

「それでもです。」

 

 現れたのは蒲原商店の店主(浦原喜助)で、彼の言葉に渡辺さん(三月)が間髪入れずにツッコみを入れて、二人は他愛ない言葉のキャッチボールをする。

 

「さてと、アナタ(雨竜)のお父さんがいらっしゃらない間に少々、今の状況を説明しましょうか? 井上サンと雛森さんが破面によって、藍染のいる虚圏へ拉致されました。」

 

「な?!」

 

 ハ?

 

 びっくりする僕以上に渡辺さん(三月)が驚愕して、目を見開く。

 

 あんな顔は初めて見た。

 

 怪しい店主(浦原)もそう思ったのか、ポカンとした顔から何時ものおちゃらけた調子を取り戻す。

 

「…おや、三月サンもそんな顔が出来るんッスね♪ それだけでも来た甲斐があったというモノッスよ。 

 まぁ……正確には『藍染惣右介の命令を受けた虚圏の破面たちに』っスけど、『()()()()()()()()()()の黒崎サンは恐らく一人で助けに行きますでしょう。 そこで────?」

 

「────少し準備する時間をください。」

 

 怪しい店主(浦原)が喋り終わり前に、僕は状況を理解して井上さん救出の行動(準備)に移る。

 

「おや、流石ですね。 頭の回転が速い♪」

 

 やっぱり僕の気のせいじゃなかったか、この腹黒め。

 

 ニヤニヤとする腹黒闇商人(浦原喜助)を僕は無視して、部屋につながっている保管庫のモノを漁って拝借 必要なモノを借りていく。

 

 

 ___________

 

 『渡辺』三月 視点

 ___________

 

織姫(井上)と雛森ちゃん(さん)が破面に拉致されました』って一体どういうこと???

 しかも『“死神代行”()()()()()()一護(黒崎)』ですって????

 なんでさ?

 

 そう思いながら、私は軽く体の汗をお風呂場で流していた。

 

 ……いやこれ必要な事だよ?

 

 眼鏡(雨竜)も『準備に時間がかかる』ってさっき言ってたし。

 

 というかお風呂がすぐそこにあるのに、汗にべったり濡れたまま出かけるなんて私には無理。

 

「♪~」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「お待たせ~、スッキリしたぁ~♪」

 

「「風呂が長いよ?!/ッスよ?!」」

 

 私の髪の毛がまだホカホカと湿っている状態で風呂場から出てくると眼鏡(雨竜)と浦原の開口一番が上のそれだった。

 

「え? そうかな?」

 

『普通』だと思うけど……

 

 そう思いながら頭をかしげると眼鏡(雨竜)がため息交じりに口を開ける。

 

「相変わらず君はマイペースというか、天然というか……」

 

「ん? どったの石田さん?」

 

「いやね? アタシが言うのもなんですが、ちょっと落ち着き過ぎじゃありません?」

 

「なんでさ。」

 

 そうでもないけどね。

 正直に言ってまだショック中ダカラね?

 …………………………とあるスポドリ(DAKA〇A)じゃないよ?

 

「それに焦ったってどうにもなんないっしょ? 『急がば回れ』っていうし。」

 

 と言うか今すぐにでも虚圏(ウェコムンド)突入し(殴り込み)たい。

 だけどそれは極力避けたいわ、直接の『()舞台の活躍』は控えないと本気で何がこれから起きるか分からなくなる。

 

 井上昊とか、グランドフィッシャーとか、山本元柳斎とか、ポイちゃん(双極)とか、その他モロモロの例もあるし。

 

 いまだに『原作通り』ってのが奇跡的ね。

 

「ま、それもそうッスね。 ではでは、お二人様こちらへとご案な~い♪」

 

 眼鏡(雨竜)と共に浦原の作った『転移通路・仮』を通って、実に久しぶりの『念話』がやっと機能する。

 

 そしたら出るわ出るわ、数多の情報と報告などが一気に頭に。

 まるで長期間の休暇から帰ってきて、留守電マシンの再生ボタンを押したみたいだよ。

 

 地味に頭が痛い……

 精神的にも、物理的にも。

 

 え? 『留守電マシン』の例えが古くさいって?

 ……………………………………………

 

 (わる)ぅござんしたね?!

 こちとらいまだに2004年(Fate stay/night)が『現在()』感覚なのよ!

 気持ちが抜けきっていないのよ!

 

『おハロー、みんな元気~? 私はやっと眼鏡(雨竜)たちの訓練部屋から出てこられたよ~?』

 

 私の飛ばした念話に、他のみんなが答え始める。

 

『やっとかよ?! つーことは、今こっち(浦原商店の地下)に向かっているって事だな? オレぁもうここにトリ公(ポイちゃん)と居るからな?!』

『わかったわカリン。 ありがとうね?』

『わかりゃあ良いんだよ!』

 

 と言うか何で双極(ポイちゃん)がカリンと一緒にいるの?

 

 ……それは別に置いといて、カリンは無事に行動できたという事ね。

 よし、good(グッド)

 

『もしもし? ボクや、いま店のほうにマイと一緒に向かっとるところや。』

『オーケーよ、ツキミ。』

 

 ツキミも時間通りね。

 よしよし。

 

『あらぁ~、ひさしb────』

 

 『マイ。 後でお話がございます。』

 

 私は拘束される理由(行動できなかった原因)に、怒り全開MAX気味の言葉を送る。

 

『────Oh(オウ)。』

 

 この、ゆるふわポヤッとした子と来たらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!

 Oh(オウ)』の一言で済ませる気かぁぁぁぁぁぁ!

 私の苦労も過労も何も知らないでぇぇぇぇぇぇぇ?!

 

Oh(オウ)” じゃないよ、マイ?! 誰のせいで私が今まで身動きを取れなかったと思うのよ?! 何が、“いいわよぉ~”*1じゃ?!

『だ、だってぇ~────』

 

 そこで新たにリカの声が聞こえてくる。

 

『────あ、繋がりました。 こちらリカです。 キンキンと騒いでいるところ失礼します、まずお耳に届けたいことが一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クルミも『井上織姫』と『雛森桃』同様に拉致されていますので、()()欠けています。』

 

『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………なんでさ?

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 空座町の夜道、死神代行証ではなく久しぶりにコンを使った死神姿の一護はチエと共に浦原商店へと足を運ばせていた。

 

 さて、これが山本元柳斎の命令に反していないかというと、『死神代行証を使っていないので』というのが一護の理由だそうだ。

 

 屁理屈以外の何でもない『言い訳』だが。

 

「なぁチエ、本当に大丈夫か?」

 

 一護は静かな決心の中でも心配から、巻かれていた包帯を次々と解いていくチエに声をかける。

 

「問題ない。 心配は無用だ、一護。」

 

 確かにパッと見た感じでは傷は跡も見えないし、動きも学校でしていた“ケガしたフリ”とは違ってしっかりとした足取りだった。

 

「(けどなんだろうな……『本調子じゃない』ってのが何となくわかるっつーか……)」

 

 浦原商店の外では、浦原本人はまるで上記の二人が来ることを予想していたかのように店の前でキセルを楽しんでいた。

 

「いらっしゃい、黒崎サンにチエさん。 お店は閉店していますが、どうぞ中へ。」

 

「……俺らが来るのを知っていたのか?」

 

 一護の質問に浦原はいつもの笑み(営業スマイル)を浮かべる。

 

「いくつかアナタの行動パターンを想定しただけですよ。 今回のは()()()()()同様に、『アタシ(浦原)が虚圏に行ける方法を知っているかも知れない』という奴で、その考えはご名答っス。 準備は既にできていますよ?」

 

 お店の中へ三人が入っていき、ここで一護が問いを更に掛ける。

 

「アンタ、意外と手際が良いんだな?」

 

「……アタシは常にあれこれ想定する(タチ)ですから。 

 それに実はと言うと、井上さんの能力が藍染の目にとどまって狙われるのを防ごうとしたのが…………

 まぁ…()()()私情が入ってしまって行動が遅くなったのが今回、裏目に出ただけッス。」

 

「良いのか浦原さん? 『俺を手伝う』という事は、少しだけあっち(尸魂界)に認められたのが────」

 

「────アタシは彼らからすれば『闇商人』らしいッスから、それぐらい今更ですよ。」

 

 一護たちが地下に着くと────

 

「あのぉ~? 足がシビレ────」

 「────だまらっしゃいマイ! アンタのせいでどれだけ苦労したのかわかってんの?!」

「でもでもぉ~、つたえ────」

 「────SHUT UP AND LISTEN TO ME, OKAY(黙って私のいう事を聞け、オーケー)?!」

 

「あー、始まったよ。 本────『三月』の口うるさい説教が。」

「ピッ。」

「まぁ…口が酸っぱくなるまで言うのが『説教』らしいですから、大河(藤姉)氏によると。 ズビビビー。」

「これってあれなん? 『敢えてツッコまへんほうがええ案件』なん? なぁ?」

 

 ────カオスが待ち受けていた。

 

 マイは困りながら三月に正座を強制させられて、カリン(&肩の上のポイちゃん)はウンザリしていた。

 リカは巨大な『ぺプラ』のボトルを手に持っていて、ツキミは迷っていた。

 プレラーリ家、(ほとんど)総動員である。

 

 しかも全員が何らかの装備(?) をしていた、あるいは様子がいつもと違った。

 

 成人のマイの服装はいまだに『アパートの管理人』っぽかったが、布で覆われた巨大な筒を背負っていた。 

 

 スリムなカリンはいつもの赤い槍を肩に置いていたが、服装がいつも以上に動きやすいものとなっていた(ジーンズの半袖短パン、またはレザー系にブーツのパンクスタイル)。

 

 他の三月によく似た者たちは以前見た何処か(穂群原)の制服を着ていたが、多少のバリエーションが一人一人にあった。

 

 八重歯(&関西弁)が目立つツキミは右腕を損傷したのか、包帯を拳から二の腕まで巻いていた。

 

 眼鏡&寝起きぼさぼさ風の髪をしたリカはボトルからぺプラをグビグビと飲んでいて、リュックと何か杖のようなものが布にまかれたものを背負っていた(なおポイちゃんにポテトチップスをあげていた)。

 

「????????」

 

 この場面を見てただ?マークを出す一護に、聞き慣れた声が近くから聞こえてくる。

 

「いつも以上に間抜け顔だな、黒崎?」

 

 それは近くの岩の上に座っていた雨竜だった。

 

「い、石田? なんでお前がここに?」

 

「茶渡くんと同じだよ。」

 

「チャド?」

 

 一護はもう一度周りを見ると、確かに岩陰から出てきた茶渡がリカの近くまで歩いていた。

 

「俺もぺプラを少しもらっていいか?」

 

「はい、どうぞ。」

 

 そのまま自分が飲んでいたボトルを茶渡にリカが渡そうとする。

 

「……出来る事なら、お前が飲んでいるのとは違うのが欲しい。」

 

「ん~? ………………サドッツ(茶渡)、もしかして『間接キッス』と思って照れています?」

 

「…………………………………………………いや?」

 

「今の間、ふっつう~に気になりますねぇ~? フフフフフフフフフフフ♪」

 

 躊躇する茶渡にリカがいたずらっぽく笑う。

 

「「……????」」

 

 一護は何も言わずに、同じく困惑した顔で肩をすくめる雨竜を見る。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 浦原が虚圏への門を開けている間、一護はシンプルな質問をプレラーリ家にしていた。

『なぜここに皆がいるのか?』と。

 

 そして答えを得た一護は────

 

「────つまりは……なんだ? ()()()()で、井上()()()助けに行くってか?」

 

「「「「「うん/ええ~♪/そうですよ/ああ/せやでー。」」」」」

 

 三月、マイ、リカ、カリン、そしてツキミの各々が一護の簡易化された復唱に返事をする。

 少し離れている場所では、茶渡が(寝ていたポイちゃんをカリンから受け取っていて)チエに話しかけていた。

 

「……渡辺家、総動員か。 すごいな、チエの家族は。」

 

 横目で一護が彼女を見る。

 

「血は繋がっていないがな。」

 

「え?」

 

 だが彼女(チエ)は顔色一つ変えずにそのまま浦原の開けた宙の穴の方向へと歩き出す。

 

 宙の穴の名称は『黒腔(ガルガンタ)』。 (ホロウ)破面(アランカル)たちが『現世』と『虚圏』を行き来する際に開ける『次元の壁の穴』────

 

「────中は断界(だんがい)ように、『地面』や『壁』などの固定物はありません。 霊子の乱気流が渦巻いているだけです。 

 ですので皆サンが霊子で足場を作って、()()()()方向にひたすら進んで行けば虚圏の筈です。」

 

「おい浦原さん、いま『虚圏()()』って言ったよな?」

 

「アッハッハッハ♪」

 

「……………………………?」

 

 一護が浦原の説明にツッコんでいる間、何かに気付いたチエはテクテクと近くの岩の裏側へと移動する。

 

『うわ?! バレた?! 逃げるぞ!』

『来た来た来た!』

『逃げるってどこへだよ?!』

 

『何をしている、お前たち?』 

 

『『『あ、いえ。 俺/僕/アタシたちにお構いなく。』』』

 

 チエにこたえる声は、その場にいた一護、茶渡、そして雨竜でさえも聞き覚えのある声が返ってきた。

 

『良いから出て来い────』

 

『『『────どわぁぁぁぁぁぁ?!』』』

 

 そこで文字通り、岩の裏から啓吾(けいご)水色(みずいろ)、そして竜貴(たつき)の三人が一護たちの前に投げ出される。

 

「ってお前ら?! な、なんでここに…てか俺のこと見えるのかよ?!」

 

「い、いや~……一護の様子がおかしかったと思ったらさ? 夜中にどっか行く有沢の後を付けた。 いろいろ見えてきたのはちょっと前からだ。」

 

「いやそれって、いくらなんでも見苦しいよケイゴ(啓吾)? 僕も彼と同じ時期ぐらいかな?」

 

「ていうか、アンタら二人が夜中にウロウロ一護ン()の周りを歩いていたんでしょうが?! なに全部、アタシの所為にしようとする訳?!」

 

「……要するに三人は『黒崎の事が心配だった』という事か。」

 

「一護……」

 

 雨竜が眼鏡をかけ直し、茶渡が一護を意味ありげに視線を送る。

 

「え、いや……でも────うお?!」

 

 カリンが急に一護の頭を掴んで無理やり下げさせる。

 

「ったく、ウダウダしてんじゃねぇよ! こういう時は『スマン』の一言で良いんだよ! 学校の事はチャドの野郎から聞いたぜ?!」

 

「いや、だから俺は『茶渡(さど)』────」

 

 一護が若干赤くなって、カリンの手を振り払って叫び返す。

 

「────うっせぇよ! 知ってんだよオラァ?!

 

「ちなみにアレ(一護)は言いたいことを先に他人に言われて照れているだけだから気にしないで♪」

 

そこ!  三月テメェ! バラしてんじゃねぇぇぇぇぇぇ!

 

「アッハッハッハ。」

 

「……次回は本気(マジ)で海に突き落とす。」

 

「え。」

 

 啓吾、水色、竜貴の三人に愉快そうにニコニコしていたところで固まる三月の説明(通訳)に一護がさらに赤くなって彼女を脅す。

 

「ふぅ~ん、小さい方の渡辺さんの地が『ソレ』なんだ。」

 

「んな?! ち、小さい………小島(水色)だって背は小さいくせに……154㎝で私より大きいけど……

 

 水色の悪気の無い(?)言葉に、三月が明らかなショックを受ける。

 

「な、なんか………眼鏡の無い、小さい渡辺って……こうやってよく見ると、何気にカワイイな………」

 

「え。」

 

 眼鏡が壊れた為に素顔になり、そして動きやすくなる為に長い髪を束ねてからバレッタで上げている三月を、浅野がポーっと熱が籠った目で見る。

 

「そうなんだよ! アタシも昔っからそう言ってんのに、この子ったら『地味』になぜか固執するんだ! 髪型も今までのおさげじゃなくて、今みたいに動きやすく上げただけでも反則的に似合うってのに。」

 

 余談だが彼女の服装は以前、雨竜によって空座総合病院に連れて来られた時に来ていた空座一校の制服だった*2(ジャージは保険の為、体操服とは別にカバンの中に持ち歩いていた)。

 

「ちょっと何よ、浅野さん?」

 

「………………………」

 

 浅野は答えずに次にマイを見て────

 

 「おっぱい。」

 

 ────目を見開いて興奮しながら、無意識に左手を振っていた。

 

 正に顔文字の ( ゚_゚)o彡゚ 状態である。

 

 バシィン!

 

「アホか浅野ぉぉぉぉぉ?!」

 

 ツキミに手渡されたハリセンで、竜貴は思いっきり浅野の頭を(はた)いていた。

 

「「お、おおう?」」

 

 何を言ったら良いのかわからない一護と雨竜が意味不明な声を出す。

 

ほら! 何ボサッとしてんのよあんた達! 早く織姫を迎えに行けよオラァァァ?!

 

「「「「「ハ、ハイィィィィィ!」」」」」

 

 今まで(少なくとも一護たちが)見た事のない、ブチギレ状態の竜貴に気圧されて彼ら彼女らが一斉に『黒腔(ガルガンタ)』の中へと飛び込む。

 

「ったく、ドイツもコイツもッ!」

 

「…………アイツも?」

 

 ギッ!

 

 茶々を入れる浦原を竜貴が殺気とイラつきを籠った目でそのまま彼をにらんで見事、(かしこ)ませる。

 

「(ななななな何気に彼女、キレた夜一サンに似ていますねぇ~……)」

 

 竜貴の殺気立つ険しい目と上がった髪の毛、そして『フゥフゥ』とした荒い息遣いはどことなく怒り狂う猫そのものだった。

*1
65話より

*2
55話より




浅野:この地下室、何気にでけぇな?

水色:『秘密基地』を連想するね? ほら、子供の頃の奴さ。 ジィー

たつき:なんでアタシをそこでみんだよ、水色?

水色:いや有沢っていまだにこういうの持ってそうだからさ。

たつき:……アタシがガキっぽいって言いたいのか? あ?

浦原:小野瀬川にありましたよネ、確か?

たつき:なんでアンタが知ってのよ?

浦原:乾パン、美味しかったです♪

たつき:ああああああああああ?! 食ったの、アンタかぁぁぁぁぁぁぁ?!

浅野/水色:(ガチの『秘密基地』っぽいじゃん……)


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第71話 生きる屍の夜

お待たせしました、次話です。

楽しんで頂ければ幸いです。


*注*そろそろストックギレとなります (汗

8/27/21 8:20
誤字修正しました


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場は以前、藍染と彼が率いる破面たちがいた王座のある部屋へと移る。

 

「ようこそ、『虚夜宮(ラス・ノーチェス)』へ。」

 

 そこではイライラしているルピ、平然としているウルキオラ、仏頂面&片腕のグリムジョー、そしてつまらなさそうにしているヤミーの四人に藍染が声をかけた────

 

「ッ」

 

 ────のではなく、破面の四人が連れてきた織姫をジッと見ながら歓迎の言葉をかける。

 

 それはまるで()()()をするかのような冷たい視線で、織姫は思わず背筋が凍りつくような感覚と、心拍数が独りでに上がっていくのを耳朶から聞こえる血管の鼓動音と胸から伝わる感覚で自覚する。

 

「さて、『井上織姫』。 君の能力でグリムジョーの腕を()()()()()。」

 

「……ハッ。」

 

 ここでルピの顔が不機嫌なモノから、愉快なモノへと変わりながら鼻で笑う。

 

 彼は自分たちが任された依頼がこの『人間(織姫)』と、『死神(雛森)』を連れ去るための『陽動』だったという事に不満を抱いていた。 しかも『女』。

 とある同僚ほどの『女嫌い』ではないが、『十刃』の新入りであるルピの初の出陣が『陽動』のことに彼は納得できなかった。

 

「藍染様、元6番(グリムジョー)の腕は灰にされた。 ()でもなければ、無い物をどうやって────ッ?!」

 

『藍染に人間が無理難題を押し付けられた』と思いながら嫌味を言うルピは驚愕する事となる。

 

 目の前で、グリムジョーの腕が『双天帰盾』によって()()()()()()()かのように元通りになる。

 

 これにはルピ、ヤミー、そして腕が戻ったグリムジョー本人でさえ言葉を失くす。

 

「驚くのも無理はない。 ウルキオラはこの力を『時間回帰(じかんかいき)』、あるいは『空間回帰(くうかんかいき)』の(たぐい)と見ていたが……

 いま皆が見たのはそのどちらでもない。 『()()()()()』だ。」

 

「『事象(じしょう)の』……『拒絶(きょぜつ)』……」

 

 織姫はハッチと会ってから、今まで感じていた()()()の正体が今わかったような気がした。

 

「そう。 彼女の能力は対象の事象を……()()が定めた事象を『事前の状態に戻す』。 それは神の領域を侵す能力に等しい。」

 

「おい女、これ(背中)も治せ。」

 

 グリムジョーに『背中の焼け跡を治せ』と言われた織姫は藍染を見る前に、部屋のドアを一瞬だけ見る。

 

「君と一緒に連れてこられた者達は別の部屋にいる。 ()()()()()()()()()()()()。」

 

「……は?」

 

 ルピは目を驚愕に見開いて、藍染を見る。

 彼が織姫に、『グリムジョーの背にある番号を診てくれ』と言ったことに。

 それはつまり────

 

 ガシィ!

 

 ルピの頭が、横から移動してきたグリムジョーの赤く光っている右手によって鷲掴みにされる。

 

「────じゃあな。 『元』6番さんよぉ~?」

 

「グ、グリムj────!」

 

 ────ボッ!

 

 ルピは上半身ごとグリムジョーの虚閃に吹き飛ばされ、グリムジョーはただ己を満たす歓喜に身をゆだねて、狂ったように笑う。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 織姫を含めて王座の間を出ていく破面たちは、すれ違うように一人の黒髪の中年男と片目が面で隠れた少女が横を通る。

 

「(え? 子供?)」

 

 織姫はびっくりしたのか、一瞬だけ足を止める。

 

「あ?! なんだよデカ胸人間?! アタシに文句でもあんのかよ?!」

 

「リリネット。」

 

「……チ。」

 

「女、貴様もだ。」

 

「あ……はい……」

 

 中年男が少女────『リリネット』をなだめるかのように名前を呼び、ウルキオラが織姫の注意を戻す。

 

 ドォン。

 

 重く、分厚いドアが閉まる。

 音が静まってから藍染と中年男、そしてイラつきからか腕を組みながら左足を小刻みに床に叩くリリネットだけがいた。

 

「ただいま戻りました、藍染様。」

 

「お帰り、スターク。 どうだった……はリリネットを見れば、聞くまでもないね。」

 

 中年男────名を藍染に『スターク』と呼ばれた彼はチラリと横でイライラしていたリリネットを見てため息をする。

 

「リリネッ────グハァ?!」

 

 スタークは彼の顔面を狙ったドロップキックをリリネットから受けて盛大に床を転ぶ。

 

「うるさいバカスターク! アンタは()()()()()()()?!」

 

 リリネットの言葉に藍染は僅かに笑みを浮かべ、スタークをムクリと起き上がる。

 片方の頬っぺたが赤く腫れあがりながら。

 

「『悔しい』? 馬鹿を言え、リリネット。」

 

「ッ」

 

 スタークが目を開けて、リリネットを見ると彼女は口を閉じる。

 

「俺が『悔しい』のは()()()()()()だろ?」

 

「スターク……お前……()()()?」

 

 リリネットは珍しいものを見るかのような視線でホコリを自分の服から払うスタークを見る。

 

「『本気』……だと?」

 

 藍染はスタークが腰に差した斬魄刀を力強く握り潰すかのように手袋が軋むのが聞こえた。

 

「そんな事あるか。 俺が悔しいのは『()()()()()()()()()事』だ。」

 

「スターク……」

 

 リリネットは唖然とした顔で今まで()()()()()()スタークを見た。

 

 そして藍染の笑みは、ごく僅かに深くなった。

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「……」

 

 織姫が連れてこられた部屋の中では右腕を失くし、ウルキオラの攻撃で意識が朦朧としながら、大量の汗を掻いて荒い息をしていたクルミがいた。

 

「待たせてごめんね、クルミちゃん。 今、治すから。」

 

 織姫が気休めの言葉をかけながら、『双天帰盾』をクルミの無くなった右腕に展開する。

 

「(腕を失くしたのに()()()()()()()()()()ことは引っかかるけど……)」

 

 織姫はクルミが来ていた制服の茶色のベストを包帯代わりに巻いていた右腕を見る。

 

 そこでは多少出血した後と思われる赤いシミが出来てはいたが、とても腕を切り落とされたと思えないほど少量だった。

 

(ヒト)であれば』という前提で考えればだが。

 

 最初は動転のあまりに織姫は急いで応急処置を断界で施したが(ウルキオラにクルミと雛森が一足先に連れていかれる寸前)、少し落ち着きを取り戻した今なら目の前がいかに異質────

 

「────ううん、私は……私は何か出来るのなら、それをやらないと」

 

 だが彼女は深く考えるのをやめて、頭を横に振るだけだった。

 

 そして『双天帰盾』を本格的に発動した時に、異変は起きた。

 

「え?!」

 

「ぐ……あ、?!」

 

 クルミは半開きになっていた目を開けて苦しみ始め、薄い赤がかかった包帯がジワリと一気に赤黒くなっていく。

 

 それは織姫の思っていた事とは逆で、まるで()()()()()()()()()ようだった。

 

「ど、どうして?! なんで?!」

 

 これを見た織姫は急遽『双天帰盾』を消し、クルミはくぐもった声を出しながら出血する右腕を無事な左手で押さえる。

 

「ァ……グッ……」

 

「ご、ごめんクルミちゃん! 私……私────!」

 

「────だい……じょうぶです、『井上織姫』。 アナタは知らなかっただけです。」

 

 取り乱し始める織姫を『クルミ』が痛みに奥歯を噛みしめながらも彼女を遮る。

 

 

 ___________

 

 『クルミ』 視点

 ___________

 

 痛い。

 

 その一言だけが脳に浮かび続けて思考を支配する。

 おそらくは井上が善意で『双天帰盾』を切り落とされた右腕に使ったのだろう。

 

 ボクが身体の主導力を血液から()()()()に変換したことを知らなかったから、無理もない。

 

『ボク』が痛みの()()に取り掛かっている間、身体を『彼女』に託す。

 

 ちょうどその時、『井上織姫』が謝ったような気がした。

 

クルミ姉様、ここは気休めの言葉をしたほうが得策かと思います。』

『 “アネット”に任せるわ。 今のボクは()()状態ですから。』

 

 いま身体を任している『アネット』からの提案に私は『任せる』との一言を送る。

人間(ヒト)』との共同生活をしている彼女なら、少しの間だけ任せられるでしょう。

 

わかりました。 ではそのように。

 

 この判断を見誤ったとボクが気付くのは、次に意識を()()()()に向けた頃となる。

 

 

 ___________

 

 井上織姫 視点

 ___________

 

 苦しむクルミちゃんを見ながら考えた。

 

『私はどうすれば良い?』と。

『双天帰盾』はなぜか効かない、というかケガが悪化する。

 今は本当に()()()()()()()()()()の?

 

 そんなことを考えている間、クルミちゃんは小声で何かをボソッと言う。

 

────足りません

 

「え?」

 

 言ったことを上手く聞き取れなかったので私がしゃがむと────

 

 カプ。

 

「────ぁ。」

 

 突然クルミちゃんに抱きしめられたと思ったら、()()()()()()()()を感じる。

 

「(あ。 これ……()()()()()()()()()()?)」

 

 

 それは織姫からすれば人生の中で()()、感じたことのある感覚。

 

 一度目は虚と変わって、現世にて自分を襲った『アシッドワイヤー(井上昊)』。

 その時は虚としての本能などで感情が歪んだ結果、彼女の兄である昊は織姫の命を狙って自分と同等の存在にさせ、己の欠陥(寂しさ)を埋める為に彼女を殺すつもりで襲いかかった。

 

「……ん…」

 

 だが(二度目)は襲われるどころか、首から()()()()()()()()感触があったとしても、クルミからは『害意』が感じられなかった。

 

「(血が吸われているのに、なんか変な感じ……まるでお兄ちゃん()に抱きしめられているように落ち着く……)」

ごめんなさい。

 

『申し訳なさ』と他に言いようがない言葉が織姫の頭の中へと流れ込んでくるような、奇妙な感覚に織姫は少し戸惑いつつも、クルミを抱き返す。

 

 

 ___________

 

 市丸ギン 視点

 ___________

 

 

 時は上記の織姫達の出来事より少し前に戻り、場所は『虚夜宮』内でもかなり特殊な場所へと移る。

 

 そこは『玉座の間』と呼ばれ、時には藍染と彼の配下である破面たちの会議室、時には新しい破面の建造に藍染が(限定的覚醒をした)崩玉を使う部屋。

 

「「…………………」」

 

 その部屋の中の椅子には一つの人影と、出入口のドア付近では市丸が壁に背中を預けながら立っていた。

 

 彼は人影を────()()()を見ていた。

 

「(やれやれ。 こないな子を『見張れ』言われても意味無いんとちゃうか? あの子、ここ来てから『生きてる(しかばね)状態』やで?)」

 

 雛森桃は目が死んで、生気が全く感じられず、霊圧も気配も集中しなければ気付かないほど気薄だった。

 

 ギィィィ。

 

 ドアが開き、コツコツとした足音が部屋の中で響く。

 

「彼女はどうだい、市丸?」

 

「隊長、この子、『()()()』とちゃいます? ボクが見張ってから全然、動きも何も────」

 

「────あ、藍染()()。 お帰りなさい、今お茶を入れますね。」

 

 ヒドイ顔色は相変わらずだが、雛森は藍染の声を聞こえた瞬間に愛想笑いだけを作って彼のほうを向く。

 

「やぁ、雛森桃。 座ってままでいい、お茶は私が淹れるとしよう。」

 

「……ホンマに良いんですかい、隊長? 積もる話もあるやろうし、ボクが淹れましょうか?」

 

「構わないさこれぐらい。 君もどうだい、ギン?」

 

「あー、ボクはパス。」

 

 藍染がテキパキと紅茶を二人分入れてから彼は雛森の前にコップを置いてから彼女の向かいにある席に座る。

 

「……………少々変わったね。」

 

「あ、気付いちゃいました? えへへ……昨夜、()()()()が忙しくて────」

 

「………(なるほど。 この子、()()()()()やないか。)」

 

 市丸はそう思った。

 

 まるで自分と藍染が部下と上司であるかのように、そして場所が虚圏ではなくて瀞霊廷であるかのように振舞っていた彼女を見ながら。

 

 雛森を藍染はただ無言で、延々としゃべり続ける彼女を見ていた。

 

「────それでですね! 今度の五番隊の皆さんからもらった提案書が────あ、あれ? どこに置いたっけ……」

 

 それが続くこと数分、藍染がやっと口を開ける。

 

「…………雛森桃。」

 

「は、はい?!」

 

「良いことを教えてやろうか?」

 

 雛森が死んだ目のまま、どこか期待の(悲願する)目を藍染に向ける。

 

「君は状況がよく解かっていないようだね? ここがどこなのか……自分がどういう状況か……誰が敵か味方とも。 そんな君に、私がアドバイスをしよう。」

 

 藍染がジッと雛森と目を合わせる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 だけど君はそれを()()()()()()()()ようだね? ()()()()のかな────?」

 

「(……なんや、これ?)」

 

 市丸は不可解な気持ちを感じ、胸の奥にそれをしまい込む。

 藍染の言葉はまるで、自分(市丸)の────

 

「(────アカン。 ()()余計なことを考えたらアカン。)」

 

 市丸はその考えをさらに奥へ奥へと仕舞う。

 

 その間にも藍染は雛森に語り掛けていた。

 

「────『()()()()()()()。』 『()()()()()()()()。』 そう思いながら行動するんだ。」

 

 ここでいつの間にか立ち上がっていた藍染が雛森に近づく。

 

「そうすれば、おのずと()()()()()()()ものだ。」

 

「付いて……来る……」

 

 雛森は虚ろな(死んだ)目のまま、自分にほほ笑む藍染の視線を返す。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 雛森は市丸とともに通路を歩き、彼に連れられて来たのはウルキオラが立っていたとある部屋のドア。

 

「ほな。 こン中、はいろか雛森ちゃん?」

 

 市丸がドア付近に近づくと、雛森は彼を自分とウルキオラの間に入るようにサッと動く。

 

「あらら。 ウルキオラ、彼女は君が苦手みたいやね?」

 

「…………………」

 

 ウルキオラは市丸に対して何も言わずにただ道を開けて、市丸は彼のそっけない態度に頭を掻く。

 

「釣れないなぁ。 だぁれも、ボクと仲()うしてくれへんわー。 ルピは居なくなったし……はぁ。 ま、ええわ。 雛森ちゃんもここに居ることになったから、皆で仲()うしてなぁー?」

 

 市丸は軽口をたたきながら部屋の中を雛森と一緒に入ろうとする。

 

「俺は何も聞いていない。」

 

 ウルキオラがここで初めて自分から市丸に話しかける。

 

「ん? ん~……ウルキオラは隊長から『井上織姫の世話しろ』と言われとってんな? せやったらこの際やからこの子ら全員の面倒、見てくれへん?」

 

「ふざけるな。 俺が忠義を誓ったのは藍染様で、貴様などではない。」

 

「まぁまぁ、そう言わずに。」

 

 ズン。

 

 その瞬間、その場にいた者たち全員が力強い霊圧を肌で感じる。

 

「(()おったか。)」

 

 市丸は片目を開けて、霊圧が来た方向を見る。

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 景色は一護たちが『黒腔(ガルガンタ)』から『虚夜宮(ラス・ノーチェス)』にある『22号地底路(ちていろ)』に変わる。

 

 その名の通り、数ある『虚夜宮』と現世が繋がっている出入口の一つ。

 

 ここでは『ルキア奪還』から強くなった茶渡と雨竜が自分たちの成長を初めて一護に披露する場。

 

 だった。

 

 過去形である。

 

 まず侵入者である一護たちとバッタリ通路にて出会った巨体の破面であるデモウラは現れたと思った瞬間、マイが何時もの表情で背負ったモノから布をはぎ取りながらデモウラの顔にソレを向ける。

 

「オ?」

 

 ガション。

 

「バンカ~♪」

 

 ドゴォン!

 

 マイが布から取り出したのは槍と小型の大砲を無理やり合体させたモノに見える『なにか』。

 

 そしてその『なにか』は大砲のように爆撃音と共にデモウラの首から上が吹き飛ぶ。

 

 その時、爆音を聞いて鳥のような仮面をした男が『響転(ソニード)』を使って角を曲がってくる。

 

「チィ。 デモウラめ、デカい図体のクセにあっさりとやられ────!」

 

「『────その心臓、貰い受ける!』」

 

 鳥のような仮面をした男は横から来た声に反応して目を移すと、禍々しい赤い風のようなものを放つ槍を手にしたカリンがすぐそこにいた。

 

「バカな?!」

 

 カリンは狙った獲物を眼前にしたような獣に似た笑顔で槍を突きだす。

 

「このアイスリンガーに、人間風情が付いて来られるとでも────?!」

 

────『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』!!!

 

 鳥のような仮面をした男────アイスリンガーが新たに『響転』で動き出そうとしたところで、カリンの赤い槍がまるで()()()()()()()()()()()()()()アイスリンガーの胸を刺してそのまま壁に串刺しにされ、彼は吐血する。

 

「ガハァ?! 今のは……なんだ……クソ…貴様、本当に人間か……」

 

バァカ、俺ぁ『戦士』だ。 そこに人間もクソも()ぇよ、カラス野郎。」

 

 アイスリンガーの頭がガクリと項垂れ、カリンは槍を引き抜いて彼の体が床へと落ちる。

 

 上記のことは『黒腔』から出て僅か数秒間の出来事で、後ろではポカンとした一護、雨竜、茶渡の姿があった。

 

「「イェーイ/♪」」

 

「何を三人とも呆けている? 行くぞ。」

 

 カリンとマイがハイタッチをしている間チエが皆を急かし、歩き出す。

 

「いやいやいやいや! どうなったんだ、今?!」

 

「あ? だからオレは単純に相手を()()()()()だぜ?」

 

「それでぇ~、私はリカの新しい武器を()()()()()よぉ~?」

 

「槍に銃をくっ付けてみました。 それも名付けて『ガンラ〇ス』です。 ロマン武器です、エッヘン。」

 

 一護の問いに、『さもありなん』という態度で答えになっていない返しをカリン、ポワッとするマイ、そして表情の変わらないドヤ顔+胸を張るリカ達がする。

 

「…………………………………………………なるほど。 モンハ〇か。」

 

「お~、サドッツ(茶渡)よく分かりましたねー。」

 

 リカは長い袖に入ったままの手で拍手をする。

 

「さ、茶渡くん……順応性が意外と高いというか、よく知っているね?」

 

「……………………………………………ああ。」

 

 ショックを通り越して平然とする茶渡に、雨竜がずり落ちそうな眼鏡をかけ直す。

 

「一護。」

 

「な、なんだよチエ?」

 

「気にするな。」

 

 むり。

 

 その時、一護たちの周りが地震のような地鳴りに囲まれる。

 

「な、なんだ?!」

 

「あ、これはお決まりの自爆というか『崩れていく秘密基地』っぽいね。」

 

「「「…………………………………………………え。」」」




作者:やっとこの局面まで来たよ……

ランサー(天の刃体):なぁ? 最後のどうしたんだよ?

作者:お、クフちゃんじゃん。

ランサー(天の刃体):その呼び名、マジでやめてくれ……

作者:で、『最後の』って?

ライダー(天の刃体):バイオ〇ザードからの連想だと思いますがクフちゃん?

ランサー(天の刃体):テメェもかよライダー?!

作者:ライダーは何で知っているの?

ライダー(天の刃体):新作をサクラがワカメに買わせていましたので、プレイしているところを少し見ただけです。

作者:でも自爆は最後の最後だよ?

ライダー(天の刃体):………………………………忘れてください。

作者&ランサー(天の刃体):(こいつ興味持って密かにプレイしたな。)


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第72話 『魔力補給』と『パス』

大変お待たせしました、次話です!

まさかパソコンの一部分がイカれるとは予想していなかったです、申し訳ありません……

急遽初のスマホ投稿です……(汗汗汗汗汗


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 とある白い砂漠のような場所に、ポツリと周りの景色にそぐわない階段に場面が移る。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 

 そして段々と音量が大きくなる地鳴りと共に、階段のそばにある砂がまるでアリ地獄のようにべっこりとへこんで、階段から数多の砂が爆風で吐き出される。

 

 階段の中から転がり出る一護たちと一緒に。

 

「「「ぶはああああああ?!」」」

 

 一護、茶渡、雨竜の口から砂が滝のように吐き出される。

 

「「「ブフゥゥゥゥ?! 最ッ! 悪ゥー!」」」

 

 三月、リカ、ツキミが砂まみれになったことに文句を言う。

 

「ペッ! ペッ!

 

 カリンは口の中に入った砂を吐き捨てる。

 

「ケホッ……あらあらぁ~、これならタオルか何か持ってくれば良かったわぁ~。」

 

 マイは砂まみれになっていながらも『母性』からかズレたことを言う。

 

「こちらにございます。」

「「「「「ありがとう~/すまない/すまねぇ/感謝します/サンキュー/感謝する。」」」」」

 

 ハッシュヴァルトが人数分のタオルを配り、ほかの皆が彼に感謝しながら砂を取り払う。

 

「「「「「「「…………………………………」」」」」」」

 

 数秒後に皆の動きが同時にピタリと止まり、全員がハッシュヴァルトに視線を向けた。

 気にせずに自分の体から砂を取るチエ以外の全員が。

 

「??? いかがなさいましたか?」

 

 学校で見せる、何時もの愛想笑いが無表情へと変わっていたハッシュヴァルトが?マークを出しながら頭をかしげる。

 

「「「て、テメェは?!/君は?!/お前は────?」」」

 

 一護、雨竜、茶渡が何かを言う前にマイが彼らの言葉を遮る。

 

「何時もありがとうねぇ~。」

 

 「「何でここに居るの?」」

 

「あ? 別にいいじゃねぇか?」

 

 三月とツキミが同時にごもっともなことを言い、カリンがあっけらかんとした態度を示す。

 

「これは『予想(原作)外』ですねぇー。」

 

「少なくとも敵じゃねぇだけマシだろうが、リカ?」

 

「カリンが今言ったこともごもっともなんですけどぉ……」

 

 リカも驚いたのかどうか、いつもの動じない口調でコメントをする。

 

「てかハッシュ()()()、お前はここ(虚圏)に居て大丈夫なのかよ?!」

 

 「ハッシュ()()()()です。」

 

 一護の言い間違え(名覚えの悪さ)にハッシュポテトヴァルトが無表情ながらも名前を言い直す。

 

「……君の服装のそれは、『滅却師』か何かへの当て付けかい?」

 

 雨竜が険しい視線とともに、ハッシュヴァルトが着ていた滅却師風の軍服と背負った盾、そして腰に差した鞘の中にある両刃の剣を睨む。

 

 今の雨竜の見た目(中世風)装備(遠距離型)とは対照的だった。

 

「なるほど。 情報(ダーテン)にあった通り、君は『石田宗弦』を師としていたのか。

 

 

 

 

 

 どうりで()()なモノを彼のように未だ使うワケだ。」

 

 雨竜はこの最後の言葉に弓矢をハッシュヴァルトに向け、ハッシュヴァルトも両刃の剣を抜く体勢に入る。

 

「先生の悪口はこの僕が許さん! 撤回しろ!」

 

「あの老いぼれを、そこまでそんk────」

 

 バシシィン!

 

「「今は争っている場合じゃないでしょうがぁぁぁぁ?!/やろがぁぁぁぁ?!」」

 

 三月とツキミが同時にハッシュヴァルトと雨竜の両名の頭を後ろからハリセンで思いっきり叩く。

 

 ドシャア!

 

「「ブッ?!」」

 

 どれ程のキツさかというと、体格差のある筈の男性二人が前のめりに倒れ、そのまま顔面が地面の砂に叩きつけられる程である。

 

「な、何をする渡辺(三月)さん?! こいつは────!」

「そうです、これは姫様を思ってのこうd────!」

 

 「二人とも黙らっしゃい。」

 

「「ハイ。」」

 

 ハリセンを片手に腕を組んで、青筋を頭に浮かべた三月が雨竜とハッシュヴァルトの二人に有無を言わさずの不機嫌な雰囲気を出し、男子二人が気圧される。

 

「一護……『ミーちゃん(三月)』って怒ると、あんな風になるのか?」

 

 茶渡がヒソヒソと、子供の頃からの付き合いがある一護に尋ねる。

 

アイツ(三月)のマジギレはあんな(もん)じゃねぇ……もっと怖えよ。」

 

「え。 『アレ』よりもか?」

 

「ああ。」

 

 思わず正座をする雨竜とハッシュヴァルトを見て茶渡は三月をなるべく怒らせないよう、彼は自分に誓った。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 上記の出来事から数分後、ハッシュヴァルトは(三月の()()もあって)渋々と自身の素性を簡単に説明した。

 自身が雨竜と同じように『滅却師』であり、長い間『現世』や『尸魂界』とは別に隔離された場所で育ったことも。

 

 そして自分は雨竜の師匠である、『石田宗弦』とも顔見知りで、ほかの滅却師たちとは意見が違ったので他の者たちと仲違(なかたが)いをし、『追放』されたという事も。

 

 このことに雨竜が少なくないショックを受けながらも、自前の冷静さを保って話を自分なりに分析する。

 

「────そして私は『姫』の護衛を任された身ですので、別の移動手段を使い────」

 

「────なぁ、えっと『ハッシュ』? ちょっと聞いていいか?」

 

「「「「(一護が更に名を短縮したぁ────?!)」」」」

 

「────今の話を聞いて思ったんだけど、何でお前は『()()』の事を『()』って呼ぶんだ?」

 

 一護が三月を指さす。

 

「『コレ』呼ばわりすんなし。」

 

「もしお前の話が本当なら、『現世』に来たのは結構最近の筈だろ? 石田の先生が亡くなったのはかなり前の事みてぇだし。」

 

「(お、頭の回転が意外なところで早いわね一護。)」

 

 密かに感心して、一護に無視されたことを流す三月。

 

「何故と問われましても……それは私()()頭領(とうりょう)が彼女に()()()()からです。」

 

 雨竜がここでピクリと反応する。

 

「えっと、ハッシュヴァルトくん? 『()()()()』とは一体どういうことだ?」

 

「ですから文字通りに姫様が────」

 

「だから『姫』呼びヤメロ。」

 

「────頭領(とうりょう)()()()のです。 そして現在の我々は、強者である彼女()()に従っているだけに過ぎません。

 

「「「……………………………」」」

 

「ウ……ウハハハハハハハ~~~~~~。」

 

 一護、茶渡、雨竜の三人から向けられた視線に、三月は目を泳がして乾いた笑いを出す。

 

「……へぇ~? 三月、お前マジで貴族だったんだな?」

 

「グッ……(多少とはいえ、ある程度本当のことだから『NO(ノー)!』と言えないのが痛い……)」

 

 何時もとは違う立場になったことに一護がニヤニヤと三月を茶化す。

 

「なるほど……じゃあ、()()()()()()が君たちの新たなリーダーという事で良いんだね?」

 

「我々()()()の頭領は────」

 

「────この僕が『滅却師』だ。 君たちが『同じ』だと認めたくないね。」

 

「たかが旧世代の装備を進化させただけで────!」

 

「────だぁぁぁぁぁ?! だから! 何で貴方たち二人はそうもケンカ腰なの?!」

 

 雨竜とハッシュヴァルトの間にまたもピリピリとした一触即発の雰囲気になり、三月が焦る。

 

『原作』で後の出来事を知っている者であればこの二人の因縁は想像できるかもしれないが……

 今はその話の詳細を省くとしよう。

 

「……フン。」

「ハッシュヴァルト君、君は今僕を鼻で笑ったかい?」

「チッ。」

 

 「なに、互いを嫌悪する理由があるワケ?」

 

 三月がスッとハリセンを持ち上げる。

 

「「滅相もございません/ない。」」

 

 ここで黙っていたチエがようやく口をはさむ。

 

「……とりあえず、ハッシュヴァルトは我々の味方と認識して良いのだな?」

 

「勿論です、陛下。 命とあれば、自身の身も投げ出しましょう。」

 

「そうか。」

 

「「「(チエ/チエさん/チーちゃんが『陛下』って……)」」」

 

 一護、雨竜、茶渡がチエとハッシュヴァルトのやり取りを見て更に色々と察する。

 

「それより、虚圏は初めてでしょうか? せんえつながら、私がこの場所の説明をいたしますが?」

 

『ふむ、やるなハッシュヴァルト。』

『いや、これってどっちかというとチーちゃん寄りの天然だからね?』

『そうか?』

『そうよ。』

 

 そこから黙り込む皆(+外では聞こえない念話を飛ばしあうチエと三月)を肯定と取ったのか、ハッシュヴァルトが虚圏の事を話す。

 

虚圏(ウェコムンド)』。 その名から察せる通り虚が住処とする世界であり、地形と物質のほとんどが『砂』で出来た砂漠。

 だが『砂の形だけ』という訳でもなく、霊力を工夫すればこの砂を石英(せきえい)のような物質に変える事も出来、さらに上手く出来れば建物なども建造できる。

 

 まれに強い霊圧をもった虚達などの戦いの余波で木や岩に似たものなども出来るが、それもすべてはただ形が似ただけの石英である。

 

 ただし、不思議なことに霊力操作が巧みな(上手い)者はこの同じ『砂』から『水』などのモノに変質さえ出来てしまう。

 

「────そう聞き及んでいます。」

 

「(それって『なんでもアリ粘土』みたいね。)」

 

 ハッシュヴァルトの説明が終わり、三月が最初に思ったことがそれだった。

 

「なんか……そう聞いても、周りを見ると()()()ところだな。」

 

 一護は周りを見て、思ったことをそのまま口に出しながら夜空に浮かぶ月を見る。

 

「(けど、()()でも『月』はちゃんとあるんだな。)」

 

「お、おい一護に石田にプレ(なべ)家たち────!」

 

「「「「一緒くたにするな/しないで欲しいです。/しないでくれる?」」」」

 

 何かに驚き、『プレラーリ』と『渡辺』を合体する茶渡に対してチエ、リカ、三月が口をはさむが、茶渡は言葉を続けながら指をさす。

 

「先ほどの『プレ辺家』には私も入っているのでしょうか?」

「入っているワケ無いやろが。」

 

 ハッシュヴァルトの疑問にツキミが『ビシッ!』と手を上げながらツッコみ、彼の周りの空気がどことなく重くなった。

 

 様な気がツキミにはした。

 

「────『アレ』を見ろ!」

 

 茶渡が『アレ』と言い、見ていた方向には巨大な建造物が建っていた。

 

 それは視野の中に入っている部分だけでも、空座町のどの高層ビルなどよりも大きく、距離感がおかしくなっても不思議ではないほどな物だった。

 

「…………」

 

「(あそこが『虚夜宮』ね……ならあの中に織姫ちゃんたちがいる筈────)」

 

 チエが静かに目の前の建物を見ている間、三月は念話をクルミ宛てに飛ばし始める。

 

『もっしもしー? クルミー? 生きているなら返事し────?』

 

『────え?! 何これ?! 頭の中に声が聞こえる?! こ、これが“電波受信”??? すごぉ~い!』

 

「『………………………………ナニコレ?」』

 

 三月は思わず脳内と同時に思ったことを口にも出し、周りにいた一護たちは彼女がてっきり『虚夜宮』に対して言った事と取ったことが幸いだった。

 

 でなければ今の彼女の表情と急に言ったことは『変人』以外、何でもなかった。

 

「(クルミに送った念話の筈なのに、『()()()()の声』が帰って来た??? どゆことなの?)」

 

『……………失礼しました“本体”。 クルミです。』

『あ、良かった。 生きているのね? というか何で織姫と一緒に囚われているの? って、なんでヒナモちゃん(雛森)もそこにいるの?! 私が身動き取れなかった一か月間に何が起きたのよ?! EXPLAIN PLEASE(説明して)!』

 

『落ち着いてください“本体”。 まず私が損失した右腕に対して“身体”の主導力を“血液”から“魔力”に変換しました。 

 これによりボクは“人間”より“英霊”に近い状態になりましたが井上はこれを知らずに“双天帰盾”を使い、ボクは“英霊”から“人間”に戻り始め、一気に右腕の痛みなどが襲ってきました。

 “本体”から今の局面がいかに大事なのかを聞いていましたので意識を失わずに行動できるよう急遽、身体の主導権をアネットに任せたところ彼女は血液も魔力も足りない状態の修正に井上から吸血を試みたところ、“パス”が繋がりました。』

 

『………………………………………………………………………』

 

『……………“本体”?』

 

 三月はただ固まり、返事が来ないことにクルミが呼ぶ。

 

『……………………………あーね(ああ、なるほどね)。』

 

 尚、三月の目が死んでいたのは余談である。

 

『パス』、『英霊』、そして『吸血』。

 そのどれもが『他世界』では使われる単語で、通常とは意味違いがある。

 

『英霊』。 それは『英雄』や『偉人』などの、『人類』に神のごとき業をなした者たちが死後、信仰などによって『精霊』と呼ばれる上位存在の領域にまで昇華された者たちを示す。

 

 その際、業が善悪だったのかは関係ない。

 

『吸血』。 これはその言葉の通り他者から血を吸い、栄養素をとる行為ではあるが『とある世界』では物理的栄養素だけではないものも得られる行為。

 

 最後に『パス』。 これは本来、上記で記した『とある世界』では『サーヴァント』と呼ばれる『英霊の使い魔』とそれらを『世界に留まるための要石』の役割をするのが『マスター』と呼ばれる存在であり、『サーヴァント』と『マスター』、あるいは『()()』を扱うもの同士の繋がりを『パス』とも示す。

 

 そしてクルミの体を使った『アネット』が『吸血』を織姫に使った結果、『パス』ができてしまったらしい。

 

 三月からしても唖然とする結果である。

 頭が痛くなる案件である。

 思わず思考フリーズ(停止)するほどに。

 

「……………………………………………………────? ────!」

 

 バシィン!

 

 強烈な衝撃と音に、三月はハッとしながら急激に東部を襲う痛みに頭を抱え、思わずその場でうずまくる。

 

 「あ痛ぁぁぁぁぁ?!」

 

「ボサッととすんなや! シャキッとせぇ!」

 

「はえ?」

 

 三月が気の抜けた声を出しながら周りを見ると一護、雨竜、茶渡の三人は既に周りにいなく、三月は砂丘と砂丘の間にある低い部分にいた。

 

 「────たわけ!」

 

「……ん?」

 

 三月が微かに聞いたのは自分のいる砂丘の反対側から来たルキアの声。

 

「……あれ? どのぐらい私ボーっとしてた?」

 

「おおよそあの三人が破面の子供とその『親族』を保護し、砂の破面が氷漬けにされてから数分ですね。」

 

 近くにいたハッシュヴァルトが答える。

 

「あ~、な~る。 (つまりルキアと恋次に先走った一護が殴られるところね~。)」

 

「姫様はいかがなされますか? 陛下はあちらと行動を共にしていますが?」

 

「…………………………………ま、いっか。」

 

 自分を見ていたハッシュヴァルトを三月はジト目で見ていたが、肩をすくめて戦力が(予想外とはいえ)あることに次の行動方針を練り始める。




雨竜:ところで来たのはアンタだけなのか?

ハッシュヴァルト:ツーン

雨竜:一々腹が立つ言動をするな君は?! クラスでも部活でも何かと僕に突っかかってくるし!

リカ:まさか、これが噂に聞くBL?

雨竜/ハッシュヴァルト:え?

作者:……えー、あっちは無視して進めます。 パソコンの部品オーダーは入れましたので明日届く予定ですが、投稿スピードが遅くなるかもしれません。 大変申し訳ございません m(_ _ )m 

ですが頑張ろうと思っていますのでこの話を読み返し、何か変更する部分などがございましたらこの話の前書きと次話の前書きに記入します。 これからも宜しくお願い致します。  m(_ _ )m


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第73話 『ドМ』

お、お待たせしました次話です!

少し短いですが……(汗

パソコンはまだ部品交換中です、申し訳ございません……

前話は今のところ、誤字修正のみしました。

9/1/21 8:26
こちらの話も誤字修正しました。 


 ___________

 

 瀞霊廷内の死神たち 視点

 ___________

 

 場は急遽決戦準備が進められていた瀞霊廷のいたるところで連絡に隠密鬼道の者たちが各々の隊長に伝えていくタイミングへと代わる。

 

 その内容とは────

 

「申し上げます! 六番隊副隊長の阿散井恋次! 及びに十三番隊の朽木ルキアの二人が隊舎から消えました!」

 

 ────恋次とルキアが『独断でどこかへ消えた』という事。

 

 二人がこの時、一護の元へと向かったのは言わずとも読者たちには分かるだろう。

 

 これを聞いた隊長とその側近はというと様々なリアクションをとった。

 

 ある者は『あのバカ者どもめ!』とイラつき、ある者は『ああ、俺も暴れてぇ~』と(なげい)いたそうな。

 

 そして────

 

「おい白哉、聞いたか?!」

 

 ────ニュースを聞いた浮竹(十三番の隊長)は慌てながら平然としていた白哉(ルキアの義兄)のいる隊長室に駆けこんでいた。

 

「ああ。」

 

 白哉はただ静かに書類業務を続け、浮竹は困惑していた。

 

「…………………………」

 

「なんだ、浮竹?」

 

「い、いや『ルキアがいなくなったのに冷静だな』って……お前?! まさか知っていたのか?!」

 

「…何のことだ?」

 

 少しの間を置いてから白哉が答えたことに浮竹が気付き、彼は笑みを浮かべる。

 

「なぜそう私を見る?」

 

「いや? 白哉は相変わらず、(子供の頃)から『一見して冷静沈着に見えて実際は感情を正当化して行動をするタイプだなぁ』って────」

 

「────黙れ。」

 

 浮竹はただニヤニヤとして、いつも以上の仏頂面な白哉を見る。

 

「邪魔するぞい。」

 

「せ、先生?!」

 

 そこで(あらた)に入ってきたのは山本元柳斎で、手には小さな包みを持っていた。

 

「総隊長殿か。」

()()も元気そうじゃの。」

「…何用でしょうか?」

「なに、お主の好きな『激辛マーボー入り菓子パン』が手に入ってのぉ?」

「ありがとうございます。 では私はお茶を淹れてきます。」

「ホッホ、いつもすまんの白哉。」

「雀部副隊長は?」

()いて来た。 この老眼に、書類はやはり苦しくて敵わん!」

「眼鏡などはどうでしょうか? 恋次がよく行く店は眼鏡も取り扱っていると聞いたのですが────」

 

 浮竹は二人のやり取りをポカンとした顔で見ていた。

 

 ちなみに余談ではあるが、上記の『激辛マーボー』は『とある世界』の激辛物好き神父のアイデアを流用したものを使ってあり、白哉のような辛い物好きや()()好きの者たちを瞬く間に虜にしていったのだった。

 

「美味しぃ~!」

 

「櫃宮……お前よくこういうモノを食べれるな? 田沼なんかは気絶しながら痙攣しているぞ?」

 

「ブクブクブクブクブク……」

 

 それは五番隊舎にいた席官三人衆(平塚、櫃宮、田沼)も例外では無かったらしい。

 

 発案者と思われる『とある人物』はこのアイデアの出所を頑なに漏らさず、ただ『イチコロだヨ♡』と言葉を(愉快そうに)口にするだけだった。

 

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ、ルキア、恋次 視点

 ___________

 

 景色は一護たちがいる虚圏(ウェコムンド)に戻り、時は恋次とルキアがちょうど彼に怒った(を殴った)後となる。

 

「久しいな二人とも。」

 

「お、おう……」

 

 恋次はどもりながらチエに返事をし、ルキアが何か文のようなものをニヤニヤとしながらチエに渡す。

 

「そしてこれは義兄様からだ。 こっちに来て会うことがあれば、チエに渡すよう言われてな?」

 

「「ッ?!」」

 

「んな?! じゃ、じゃあお前らを虚圏(こっち)に送ったのって…白哉かよ?!」

 

 雨竜と茶渡が何とも言えない、複雑な顔をして一護は皆が想像していたことを代弁するかのように驚愕しながら二人に問う。

 

 またも白哉を呼び捨てにしながら。

 

「隊長は俺たちを現世に送って、そっからは浦原さんの『黒腔(ガルガンタ)』で来たんだけどな。」

 

「あとこのマントもだ! 『虚圏は砂埃(すなぼこり)が酷いと聞いている』と言ってくださったのだ!」

 

「そうか。 では行くぞ────」

 

 ルキアが『フフン!』といつもの調子(ブラコンぶり)で胸を張り、虚夜宮(ラス・ノーチェス)に向けて出発しようとするチエを一護が彼女の肩を引っ張って止める。

 

「────ちょっと待てよチエ、おかしいだろうが?! な、なぁルキア? アイツ(白哉)はお前たちを連れ戻した一人の張本人だろ?」

 

「そこまで話さなければいけないか一護? 察しの悪い奴だ、おそらくは『連れ戻せと(うけたまわ)った(めい)は完了した。 その後どうしろというモノまでは受けていない』とでも言ったのだろう。」

 

「お? 流石チエ殿だ! 義兄様をよく分かっているな!」

 

 ルキアはさらにニカッとした笑顔をチエに向ける。

 

「(さすが義兄様が好意を向けるだけはある!)」

 

 盛大な勘違いとともに。

 

「へぇー、あの朽木白哉がねぇー…………」

 

 一護は感心を示すようなことを口にし、恋次が付け足す。

 

「ああ、あと『あの小僧(一護)が一人で来ても虚圏側は不愉快だろう』とも隊長が言っていたぜ。」

 

よし、呼び捨て決定だ。

 

 その時近くで(たたず)んでいた、ヒビが入った骸骨型の仮面を被った緑色の髪の毛をした小柄な少女がショックと恐怖から一早く回復して叫んだ。

 

「あわわわわ! わ、ワルモノがもっといっぱいダスゥー?!」

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 上記の小柄な少女である『破面』の名は『ネル・トゥ』と言う。

 

 なぜ一護たちが彼女のもとへと移動したかというと、クワガタ虫を模したような仮面の破面の『ペッシェ・ガティーシェ』、巨大な頭をした異形の『ドンドチャッカ・ビルスタン』、そして大きなムカデっぽい『バワバワ』たちにネルが追いかけられていたからである。

 

 彼女(ネル)の悲鳴を聞いて一護たちは割り込んだものの、実は全員が兄妹(きょうだい)(?)(そしてバワバワはペット)と自称し、ただ『無限追跡ごっこ』を楽しんでいただけらしい。

 

 尚、この自己紹介時に一護がネルの出していた『本気の悲鳴と涙』について追求すると────

 

『ネルはドМだもんで、ちょっと泣くぐらいじゃないと楽スくねえンす!♪』

 

 ────と彼女があっけらかんと答え、一護は兄妹(きょうだい)(?)を自称するペッシェとドンドチャッカを問答無用で殴ったそうな。

 

 幼女らしき幼体のネルを見て、彼女が『ドМ』と似つかわしくない言葉を使ったことに注意すれば分からなくもないが。

 

「────というわけで全員虚……というか破面だ。」

 

「い、いや『というわけで』と言われても困る。」

 

「……多分。」

 

「多分かよ?!」

 

 バワバワの背中に一護たち(+恋次とルキア)に乗りながら移動している間に、死神の二人(恋次とルキア)に今までのことをチエが説明していた。

 

「よっと………んじゃ、ぶち抜くか────」

 

 ドゴォォォォン!!!

 

 そして前では一足先に飛び降りた一護が力ずくで虚夜宮の壁に穴をあける。

 

「────よし、貫通したか。」

 

 ヒュオォォォォォ~。

 

 一護に答えるかのように大気の空気が穴の中へ吸い込まれるのを恋次が感じ取る。

 

「らしいな、風が抜けている。」

 

 これを見たネルが慌てて手をバタつかせる。

 

「なななな何をするスか?! 正門なら三日歩いた先にあるスよ?!」

 

「アホか。 友達(ダチ)の家に行くワケでもあるまいし、正面から入らねぇよ。」

 

「それに三日も歩けるかってんだ。」

 

 バシ!

 

「「いで?!」」

 

「子供相手にムキになるな、この阿呆ども。」

 

 チエが一護と恋次の頭を同時にはたく。

 

「……ハァ、わかったよ。 ありがとな、ネル。」

 

「はぇ?」

 

 自分に微笑む一護を見て、ネルの目が点になる。

 

「これ以上俺たちとかかわると、本格的にお前とお前の()()が『裏切り者』として藍染たちに見られちまう。 だからここでお別れだ。」

 

「行くぞ、お前たち────」

 

 ルキアのかけ声で一護たちが暗闇の中へ駆ける。

 

「ま、待つっス!」

 

「「ああっ! ネル!」」

 

「ネルたつはルヌガンガ(番人)様に見つかった時点で裏切者っス! もし藍染様がお許し(無視)したとしても十刃(エスパーダ)に殺されるだけっス!」

 

 ネルは小さな体で一護たちを必死に追いかけ、ペッシェとドンドチャッカもドタドタと走る。

 

「ネルも連れてってくんなきゃ……泣くっスよ?!」

 

「……どうする?」

 

「無視だ無視。 ほっときゃ別行動している三月たちが何とかするだろう。」

 

 ちなみに三月たちとはぐれた事に彼(+他の者たち)は前例(尸魂界』)があったので心配していなかった。

 

 違いがあるとすれば、チエが今回一緒に同行していたことだろう。

 

「い、一護のアホ~! ハゲ~! うんこたれ~!」

 

 聞こえないフリをする一護たちを見てネルは泣きながら次々と言葉を叫び、流石の一護も気まずくなったのか彼は足を止めて後ろのネルに振り向いた。

 

「うるせえ! 分かったから泣くな!」

 

「インポ~!」

 

「インポじゃねえ!」

 

「『いんぽ』とはなんだ、恋次?」

 

「うげ?! お、俺に聞くのかチエさん?!」

 

「別に石田でも茶渡でもいいが────」

 

「────童貞(どうてい)~~~~!!! ぶええええええええええ!」

 

 だからうるせえってんだろうがッ?!

 

「れん────?」

 

 「「「俺/僕たちに聞かないでくれ。」」」

 

 チエが聞こうとしたことを恋次、雨竜、そして茶渡たちが気まずい表情を浮かべて遮る。

 

「しっかし暗いな?」

 

「へ、これだから素人は……俺に任せろ一護!」

 

「あ? なんか手があるのか恋次?」

 

「おうよ! 『破道(はどう)の三十一・赤火砲(しゃっかほう)!』」

 

 ポン!

 

 恋次の手の中に小さなピンポン玉サイズの火の玉が現れる。

 

「へぇ、小さな明かりだね。 君がそんな控えめな奴だとは思わなかったよ。」

 

 雨竜がどこかトゲトゲしい、遠回りな嫌味を恋次に放つ。

 以前、ルキアを力ずくで尸魂界に連れ戻そうとして恋次にやられた時のイザコザは今、関係無い(と思いたい)。

 

「このたわけ。 お世辞にも鬼道が使えないクセにかっこつけようと詠唱破棄などするからだ。」

 

 ルキアがアホ(不器用)馴染み(恋次)に呆れ、その気はルキアには無かったのだが、どうやら彼女の言ったことは図星だったようで恋次が明らかなショックを受ける。

 

「気にするな恋次。 お前の髪に反射して、少しは明るくなった。」

 

 チエが悪意ゼロの気休めを言って慰めようとして、恋次がワナワナと肩を震わせる。

 

「ほら、よく言うじゃねぇか恋次。 『真っ赤なお鼻のトナカイさんは皆のわr────』♪」

 

 「────!」

 

 恋次は顔ごと真っ赤になりながら歌い始める一護の言葉をかき消すかのように叫ぶ。

 

 少ししてから一護たちはとある部屋に着き、周りの松明に火がついて明かりが五つの道を照らす。

 

「………………五つ同時に別々の道を行くとしよう。」

 

「そうだな、チエの言うとおりだ。」

 

「待てよ、相手は『十刃』だぜ?! 戦力を分散────」

 

「────アホか一護。 効率を考えろ。 私たちは何も『敵を殲滅しよう』と思っているわけではない。 なら『敵の各個撃破』より『探索に使う時間の短縮』を考えろ。」

 

 一護が効率論を前に、唖然とする。

 

「け、けどよ────」

 

「────では聞くが、一護は()()()()ここ(虚夜宮)に来た?」

 

「………………わかったよ。」

 

 ルキアの指摘に、一護は渋々再確認をする。

 

「んじゃ、一つ『まじない』をやろうぜ。」

 

「恋次、まさか『()()』か?」

 

「「「『アレ』?」」」

 

 一護、雨竜、茶渡がルキアの目線に釣られて恋次を見る。

 

「おう、大きな戦いを前にやる『護廷の儀式』っつーか……(すた)れちまって今じゃもう、やってる隊なんてほぼいねぇが……」

 

「意味があるのか?」

 

「取り敢えず、統一感と士気を上げる掛け声みてぇなもんだ! ほら! 手を重ねろ!」

 

 恋次の手の上にルキア、一護、雨竜、茶渡が自身の手を出す。

 

 そこで皆は微動だにしなかったチエを見て、恋次が口を開ける。

 

「ほら、アンタもだ。」

 

「…………………意味が分からん。」

 

「だぁぁぁぁぁぁ! いいから、ほら?!」

 

 一護がしびれを切らしたのかチエの手を無理やり掴んで重ねさせる。

 

「よし……『我ら、今こそ決戦の地へ!

 信じろ、我らの刃は(くだ)けぬ!

 信じろ、我らの心は折れぬ!

 たとえ歩みは離れても、(こころざし)は共にある!

 (ちか)え! 我ら、血肉が()けようとも!

 再び、共に!』」

 

 そこで一護、茶渡、ルキア、雨竜、恋次は手を振り下ろして各自が別の扉へと駆け込む。

 

「行っちまったでヤンス、ペッシェ……」

 

「行ってしまったな。 私らはどうする、ドンドチャッカ?」

 

 そこでネルは突然走り出してペッシェが彼女を呼ぶ。

 

「あ! ま、待てネル! ど、どこへ行く?!」

 

「一護を追っかけるっス! 一緒にいて楽スかったっス!」

 

「ネル! お、おい死神!」

 

 ペッシェが見ると、チエはただ自分の手をジッと見ていた。

 

「えーい、ドンドチャッカ! 私たちも────!」

「────行くでヤンス!」

 

 ペッシェとドンドチャッカもネルみたいに駆けだす。

 

 別々の扉の中へと。

 

 その間にもチエは何かを思っているのか、ただ手を見ていた。

 

 ___________

 

 クルミ・プレラーリ 視点

 ___________

 

 時は同じ頃、クルミは織姫と夷守がいた部屋の中で形が戻ってきた右腕を握ったりなどをして調子を見る。

 

「(フム、意外と使えますね『吸血』。)」

 

 クルミの脳内に一瞬だけ蘇りそうになったのは織姫の血を吸った時に感じた、この世とは思えない『歓喜の(かたまり)』を体の芯に直接注入されたような何とも言えない感覚。

 

 己が満たされていくような────

 

「(────っと、思い出に浸るのは後ですね。 まずは現状の把握と()()()()()()()()に取り掛かるとしましょう。)」

 

 クルミは横目で死人のような雛森に声をかけ続ける織姫を見る。

 と言っても織姫自身も無理をしているのは明らかだったが。

 

『ほんt────』

 

「────ふぁわ?!」

 

 織姫がビックリしながら変な声を出し、雛森がびくりと肩を跳ねさせる。

 

『…………………あー、今は無視してください井上さん。』

『あ……う、うん。』

 

 クルミはため息を出しながら念話に少し工夫を加える。

 何某風に言うと『周波数を変えた』。

 

『……こちらクルミです。』

『うん、良好よ。 そっちはどう?』

『雛森の様子は一向に変わりません。 強いて言うのなら“原作”より酷いですね。 簡単な行動以外はアウトです。 そもそも斬魄刀も持っていませんし。』

『なら井上さんとヒナモちゃんを守りながらの強行突破は無理っぽいわね……よし! じゃあ、アナタは現状維持を優先して。 必要とあれば独自行動もいいわ、こっちのだれかでフォローするわ。』

『了。』




雁夜(バカンス体):幼女が『ドМ』って……

桜(バカンス体):いっちゃだめなの?

作者:そういえばそっちのイリヤも『雁夜はおそらくМだ』って言ってたな?

雁夜(バカンス体):そのネタ、忘れてくれ……

桜(バカンス体):じゃあ、さくらは『えす』になるね!

雁夜(バカンス体):ダメだよ桜ちゃん?! あ、でも桜ちゃんになら……………………………ね、ねぇ桜ちゃん? おじさんの背中を踏んで『マッサージ』をしてくれるかい?

桜(バカンス体):うん! たのしそう!

作者:……何も言わんとこ……


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第74話 The [Ten Blades] Fallen Arrancars

大変お待たせしました、次話です!

パソコンの修理が一段落できるところまでしましたのですこ~し長くなってしまいましたが…… (汗

ですが、楽しんで頂ければ幸いです!

キャラ崩壊あり(かも?)ですが…… (汗汗


 ___________

 

 ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオ 視点

 ___________

 

 吾輩の名は『ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオ』である。

 

 今は破面№103の『3ケタ(トレス・シフラス)』、つまりは『十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)』だ。

 

 だが、吾輩もかつては十刃の№3。 

 その誇りは……高みの眺めは堪らなく心地よかったのを今でも鮮明に覚えていて、その為に全身全霊をかけることに抵抗はなかった。

 

 十刃に戻るのが言うなれば()()()()だ。

 

 そしてそのチャンスが来たと吾輩は思い、坊や(ニーニョ)と出会い一目でわかった。

 

『こいつは吾輩よりも強い』、と。

 

 だが悲しいことに坊や(ニーニョ)はその見た目通りに精神的に幼く、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だからと思い、吾輩は荒療治と分かっていながらも『冷徹非道』を演じた。

 

 無論、吾輩も坊や(ニーニョ)を勝たせるほどお人よしではない。

 吾輩は本気をだして坊や(ニーニョ)の本気とぶつかるつもりだった。

 

 結果は完敗。

 しかもあろうことか坊や(ニーニョ)は敵であった筈の吾輩を治療した。

 

 まったく、糖分アリアリのチョコラテのような甘さだよ。

 

「ようこそ、葬討部隊(エクセキアス)の諸君。」

 

 そして眼前には『葬討部隊』、即ち『破面の処刑部隊』が殺気を隠そうともせず、戦闘態勢に既に入っていた。

 

 その反面、今の吾輩は坊や(ニーニョ)と戦い、(外的の傷は治ってはいるが)満身創痍。

 その上、甘さを見せた坊や(ニーニョ)に活を入れようとして斬魄刀も折られている。

 

 恐らくは坊や(ニーニョ)に追い打ちをかける気なのだろう。

 

「『()()()追悼(ついとう)せよ』との命令です。」

 

 ……やはりな。

 吾輩標的であるか。

 

「ここを通りたいかね、小僧共(ホベスエロ)?」

 

 させぬ。

 

 衰えた吾輩のワガママに付き合い、卍解の上に自らを急激に消耗する『虚化』をして吾輩を倒した坊や(ニーニョ)にせめてもの礼だ。

 

 吾輩が構えると、小僧共(ホベスエロ)がついに斬魄刀を抜いて突進してくる。

 

 ざっと見たところ15…………いや、20体か。

 

 今の吾輩では、持って数分ほどか?

 

 十分だ(ブエノ)

 

 ギギギギッギギギギギギッギィィィン!!!

 

 吾輩の折れた斬魄刀と奴らの斬魄刀たち、そして吾輩自慢の蹴り技が互いを弾くけたたましい音が部屋の中に響く。

 

 ワガママに答えてくれた坊や(ニーニョ)に負け、清々しい吾輩の胸の中にそれらが溶け込む。

 

 だがやはり無理があったようだ。

 

 吾輩の体は徐々に内側が軋む音を上げ始め、技のキレも落ちていく。

 生傷も増え、吾輩の特注品である服が血で赤く染み始める。

 

 息がとうとう追いつかなくなり、荒い上に深くなっていく。

 

「良くそのような御身体(おからだ)で我々とここまで戦えました。 お覚悟を。」

 

 ぬぅ。

 認めたくはないが、吾輩もここまでか。

 

 悔いはない。

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 いや、すまぬ。

 吾輩、今嘘をつきました。

 

 吾輩の夢である、『十刃へと返り咲く』のは、吾輩の『()()()』に近づく手段のである。

 

 吾輩、ぶっちゃげるとモテたい

 

 周りに女性に囲まれて(物理的にも)甘えたい。

 

 え? 『なに馬鹿なことを言っているの?』だと?

敗者(ベルデェドル)のクセに思い上がるな』だと?

 

 敗者(ベルデェドル)だからこそ言って良いのではないかね?!

 

従属官(フラシオン)』に女性破面を持ち、チヤホヤ(もみくちゃに)されたいと言う願望の何が悪いと言うのかね?!

 

 え? 『変態』だと?

 ……………………フッ、悲しいかな。

 

 これは男の性なのだ。

 

 そう思いながらもうろうとする意識を手放そうとする吾輩の前に、大きな大砲(槍?)を持った女神が降臨する。

 

「てりゃ~♪」

 

 ボボボボボボボォン!

 

 気の抜けた掛け声と共に激しく、かつ連続で撃たれる砲弾(散弾?)たちが吾輩にとどめを刺そうとする『葬討部隊』の体達を焼きながら一掃(グチャグチャに)する。

 

 ちなみに普通の者なら爆風で見えなかっただろう。

 

 だが吾輩はしかと見た。

 

 振動で揺れる魅惑の双子果実をッッッ!!!

 

 大変(ムイ)! 素晴らしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ(ブエノォォォォォォォォォォ)!!!!!

 

 気が付くと吾輩の意識は一気に覚醒し、肺に残った全てを吐き出すかのように(吾輩に)優しく微笑む女神(女性)感謝(咆哮)捧げて(叫んで)いた。

 

「あらあらぁ~、元気いっぱいねぇ~?」

 

 ああ、良い!

 非常に良い!

 

 その身長と腰まで長く伸ばした黄金(オロ)の如きサイドテール! 

 その細い手首とすらっとした指!

 の大きさと形!

 白い(ニエヴェ)のような肌に身体のいたるフォルム!

 そして胸焼けするほど甘~いチョコラテのような可憐で穏やかな声が胸の中へスルリと溶け込む……………

 

 その全てが理想的だ! 

 まさに我の女神(ドィオス・ミオ)に相応しいぃぃぃぃぃ!!!!

 

「ああ! 吾輩の女神さま(ドィオス・ミオ)!」

 

 女神は笑顔を一瞬たりとも止めずに口を開ける。

 

「……今のセリフ、どこぞの長寿漫画を思い出させるわねぇ~?」

 

『まんが』とは確か『現世』の文献(ぶんけん)だったな?

 

 ……………吾輩のような紳士がよく登場しているのか?

 

 だが今はそんなことは良い!

 

「ぜひ、アナタの! アナタのお名前を吾輩に教えくださいぃぃ!」

 

「????  ……あ~、そういえば名乗っていなかったわねぇ~? 私は~、『マイ・プレラーリ』と言いま~す♪」

 

 女神(ディオス)だ。

 

 

 ドルドーニは思わず颯爽と急に現れたマイを前に膝をつき、感動から涙を流しそうになる。

 

 それはまるで拝めていた女神本人を前にした信者のようで、これが元エスパーダ№3のドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオのたどる筈の運命が決定的に変えられた時でもあった。

 

 

 ___________

 

 チルッチ・サンダーウィッチ 視点

 ___________

 

「(あー、最悪。)」

 

 あたしは『チルッチ・サンダーウィッチ』。 

 今は破面№105の『十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)』だけど、あたしを呼ぶときは『様』をつけなさい。

 

 ………………って誰に話してんだか、あたし。

 

 あの『滅却師(雨竜)』相手に『帰刃(レスレクシオン)』もして、後戻りできない開放状態の姿も変えたってのに……惨敗なんて……

 

 一族を死神に滅ぼされた哀れな種族のクセに舐めた真似をしやがって。

 

「チルッチ・サンダーウィッチ様、()()()()上がりました。」

 

 あー、畜生。

 葬討部隊が『ここに来た』ってことは『そういうこと(処刑)』か。

 

 クソ。

 あの生意気なクソ眼鏡(石田雨竜)に『心臓(霊力発生装置)』が撃ち抜かれて、満足に動くことも出来ない。

 

『生き恥』ならず、『死に()く恥』ってヤツね。

 

 ……クソ。

 クソクソクソクソクソクソクソ。

 

 破面は兵士。

 そして十刃はそれらを統一する頭領(リーダー)

 眼前の敵を殺し、勝つ為だけに生まれた存在。

(ゆる)された敗北』なんて無い。

 

 シャリッ。

 

 葬討部隊の一体が斬魄刀を鞘から抜く。

 

「ご静粛(せいしゅく)に、お願いします。」

 

 「……………ない……」

 

(ゆる)された敗北』なんて無い筈なのに…………

 

 なのに……………

 

 「………たくない……」

 

 なのに、なんでこんなにも…………

 

 「…()()()()()()……」

 

 こんなにも()()()()()()なのよ?

 

 ザン!

 

 葬討部隊の一体が斬魄刀をあたしの首を狙いながら振り下ろし、あたしが瞼を閉じると斬魄刀とは違う重さの刃が空気を切る音が聞こえてきて、変な浮遊感にあたしは目を開けた。

 

「少々手荒な事になります。 それにしてもなんで僕が……

 

 目の前には長い金髪と眉毛に翠眼(すいがん)が特徴的な青年に抱えら(お姫様抱っこさ)れて、葬討部隊から逃げていた。

 

「ちょっと……あんた、何勝手に…あたしに触れている……ワケ?」

 

 過労などから途切れ途切れに問いかけるあたしを、金髪眉毛は興味なさそうな顔のまま無視する。

 

 畜生、体がだるい。

 今にでも意識を手放したい。

 その前にこのロン毛の眉毛を引っこ抜いて、反応が見たい。

 

「…………今です!」

 

 青年がそう叫ぶと、少女の叫びが答えるかのように響く。

 

「めっちゃハズイけどしょうがない奴や! 『ゴニョゴニョ黒龍波』ぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ

 

 大きな獣か何かの雄叫びが聞こえたと思ったら、()()()()鹿()()()()()()()()()()()()が葬討部隊を嵐のように襲い始める。

 

 なに言ってるかわからないかも知れないけど、そうとしか表現できない。

 

 金髪眉毛もあたしみたいに驚き、つまらなさそうな目が見開く。

 

 あらやだ、こうしてちゃんと見るといいカオしてるじゃん。

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 ってあたしは何を考えているんだ?!

 

 それにこいつってば、よく見たらあのクソ生意気な眼鏡(石田雨竜)と似た服着ているじゃないの?!

 

 こいつも『滅却師』ったヤツ?!

 

 暴風と獣の咆哮が静まると金髪眉毛は雑にあたしを地面に下ろす。

 

「いだ?! ちょっと! もうちょっと優しく下ろしなさいよ?!」

 

 金髪眉毛はあたしを無視して、こっちに歩いてくる別の金髪(今度のは碧眼)の人間に声をかける。

 

「右腕が痛むのですか?」

 

 少女は左腕で口に咥えていた包帯を巻いていた右腕をよく見ると、ひどい火傷をしたかのように所々が黒く変質していた。

 

「『痛む』言うより、『ごっつ痛い』って感じやなこれは。  なんや、僕の心配か、“ポテト”?」

 

「ですから『ハッシュヴァルト』です、『関西』さん。」

 

 「『関西』やないわボケェ! ちゃんと『ツキミ』いう名前があるさかいな?!」

 

「ですがそのしゃべり方は────」

 

「────せやからただの『方便』やっちゅうねん! まったく、どいつもこいつも!」

 

 あたしをそっちのけで二人────『ハッシュヴァルト』と『ツキミ』が言い争い始める。

 

「……で? あんた達、あたしをどうするワケ?」

 

 あたしが終わらなさそうな二人のやり取りをスパッと遮って、『本題』へと強引に入らせる。

 

 この二人があのクソ眼鏡(雨竜)の仲間ってんならお人好しで話も違ってくるんだろうけど……

 

 あたしの直感が『警戒しろ』ってビンビン叫んでいるのよねぇー。

 と来れば、何か用でもあって葬討部隊からあたしを『守っ(横取りし)た』という事になるわ。

 

「『何故』と仰られましても……『姫様のご命令』としか。」

 

 あたしの問いに、ハッシュヴァルトはただツキミを見ながらそう言う。

 

「と言うか『姫』って誰よ? 意味わかんないわよ。 もしかしてその『関西』────」

 

「────せやから『関西』ちゃうわ────!」

 

 「────これだから()()()()は────」

 

 ブチ。

 

「────あ゛? 何か言ったか、この『もやし』?」

 

 うん、この根暗は『もやし』で十分ね。

 

 男のクセにヒョロヒョロしてそうだし。

 

 というか今ので意識がハッキリしたわ。

 ……礼は言わないけど。

 

「そもそも姫様のご命令でなければ、貴方のような者は目にもとどめませんね────」

 

「────いうじゃないこのロン毛────」

 

「────痴話ケンカは他所(よそ)でしてなぁ~?」

 

「「痴話ケンカじゃないわよ!/では御座いません。」」

 

 チッ、根暗もやし(ハッシュヴァルト)とハモっちまったじゃない。

 やっぱりこいつ嫌い。

 

「………………………………めんどくさ。」

 

 何こいつら。

 意味わかんない。

 

 

 いつも勝ち気で気丈なチルッチは『己』という個を自覚した時からの()生初めて、純粋に戸惑っていた。

 

 

 ___________

 

 茶渡、ガンテンバイン 視点

 ___________

 

「ハッ! ()ええクセに頑張るなよ!」

 

 吊り上がった目に眼帯をした長髪で長身痩躯の男が、手に持った鎌みたいな輪を繋げた槍(?)で攻撃を繰り出し、茶渡は先の戦闘で新しく成長した『巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)』で受け止めようとせずに同じく先ほどの戦闘で身に着けた響転(ソニード)と同様の敏捷を利用して攻撃を避けていた。

 

「(やはりこいつ、強い! ガンテンバインより遥か上の上位者。 ()()()でも避けるのがやっとだ。)」

 

 ここで茶渡が出した『ガンテンバイン』(フルネーム『ガンテンバイン・モスケーダ』)とは、彼がさっきまで戦っていた破面№107。

 上記のドルドーニやチルッチと同じ『刃落ち(プリバロン・エスパーダ)』で、茶渡の力がさらに成長するきっかけを作ったある意味、彼の『恩師』とも言えなくもない破面である(皮肉にも敵ではあったが結果的にそうなったのも事実)。

 

 現在は地面に横たわりながらも呆然と茶渡と長身痩躯の男の交戦する姿を見ていた。

 

「(馬鹿な、アイツ……ノイトラの野郎と戦って『()()()()()』だと?!)」

 

 茶渡と交戦している男の名は『ノイトラ・ギルガ』。

 現破面№5で、『十刃最強』を自称している自信家。

 

 否。 『十刃最強』を自称するだけあって実力もかなり上位になる破面で、『原作』では成長した茶渡を奇襲してほぼ圧倒していた────

 

「オラオラオラオラオラァァァァ!」

 

「クッ!」

 

 ────していたのだが、茶渡は一目見て『相手が自分より格上』という、ある種の『観察眼』を身につけていたので彼は『原作』のように場の力押しをせずに、力量を計らいながら『ヒット&アウェイ(ゲリラ戦)』を挑んでいた。

 

「(しかし、いつまで持つか……)」

 

 いや、『()()()()()』のではなく『()()()()()()()』と言ったほうが的を射ているか?

 

 何せノイトラがその気になれば、茶渡の防御など容易く破れる攻撃力はあるが、逆に敏捷さでは逃げに徹した茶渡が簡単に捕まらない程度の差。

 

 その上、近くでノイトラの従属官らしき者の気配を茶渡が微かに察知し、『ノイトラに背中を見せるのは悪手』と考えから今の膠着維持状態を茶渡は命がけで作っていた。

 

「(ここで俺がこいつらの注意を引けば、それだけ他の連中も俺に注目する。 そうすれば、一護や朽木たちも動きやすくなる筈。)」

 

 確かにそうだろう。

 現に、他の手持ち無沙汰の十刃たちは己の待機場所である自宮(じきゅう)から観戦する者たちも居た。

 

 それでも普通ならばこのジリ貧以外、何でもない戦い方を茶渡はとらない筈。

 

 ()()ならば。

 

「ッ?! 誰だ?!」

 

 ノイトラが急に茶渡から距離を置き、ガンテンバインが吹き飛ばされたビルの方向をにらむ。

 

 ザッザッザ。

 

「『マサカ~リかついだ~、カ~リンが~♪』ってな?」

 

 ビルの中からガンテンバインの横を通って現れたのは赤い槍を担いだカリンだった。

 

「(やっぱり……チーちゃん(チエ)の言っていた通りだな。)」

 

 茶渡が思い浮かべるのはネルと彼女の家族と会う直前、いつの間にか消えたプレラーリ一家とハッシュヴァルトに気付いた一護たちにチエが言ったこと。

 

『おそらく、“裏方”から突入する我々とは別行動か援護をする気なのだろう』。

 

 以前の『ルキア奪還時』も同じようなことを三月はしていたので、今回も同じようなことをしているのだろうという、チエの言葉に一護たちは納得し、茶渡は今実感していた。

 

 ノイトラは明らかに不機嫌な顔でカリンをジッと見る。

 

「テメェ、『女』か。」

 

「あ? お前もそのタイプの口か? ったく、戦場に『男』も『女』も関係ねえのによぉ。」

 

 カリンが槍を構え、戦闘態勢に入る。

 

「構えな、カマキリ野郎。 棒立ちしたままやられるのは嫌だろ?」

 

 ビキビキビキッ!

 

 まるでノイトラの怒りを示すように無数の血管が彼のこめかみに浮かび上がる。

 

「『大いにアリ』だぜ、クソ女。 テメェは(じか)(しつ)けてやる。」

 

『(気ぃつけろよ、カリン。 (やっこ)さんからは俺と()()匂いがプンプンして来るぜ。)』

『(なるほど、クフちゃんとか。)』

『(ここ(別世界)”でもそのあだ名変えねぇのな? ったく……それさえ無けりゃ、可愛いってのによ?)』

『(うううううううううるせぇよ、馬鹿! 今の状況でそれを言うか普通?!)』

『(そもそも“普通”の基準が違うけどな? どうよ、肩の力抜けたかカリン?)』

『(……おう。 あんがとな、“相棒”。)』

 

 カリンと相対するノイトラの両名は動かず、互いをジッと見る。

 

 まるで品定め、あるいは同じ強者同士が持ち前の洞察力で互いの行動を脳内で想像しているかのようだった。

 

 それでもその場の緊張感は高まっていく一方であり、戦闘になっていないのにも茶渡は汗を掻き続けていた。

 

 汗の雫の一つが茶渡の頬を伝い、アゴから離れると同時に状況は一転する。

 

 ヒュ!

 

 先に動いたのはカリン。

 彼女は前に飛び出した際に発生する爆音がその場に居た者の耳に届くとほぼ同時にノイトラ付近にまで近づいていた。

 

 ギギィィィン!

 

 ズサァァァァァ!

 

「へ! ()てぇな。」

 

 カリンがノイトラの横を通る際に突き出した槍はノイトラの皮膚を硬質化させる能力である『鋼皮(イエロ)』によって防げられ、この時にノイトラが同じくカウンター気味に振り下ろした鎌っぽい武器はカリンの服を多少破いたが皮膚に直撃しては()()()()

 

 その感覚はまるで、同じ『鋼皮(イエロ)』を使用していた破面の皮膚を攻撃したかのようにノイトラは痺れる右手で感じさせていた。

 

「テメェ……本当に人間か?」

 

 ノイトラはまだ少し痺れる右手を無視して、自分に愉快そうな笑顔を向けるカリンを睨む。

 

「まさか未確認の破面とかじゃねぇだろうな、女。」

 

 右手に感覚が戻らないことに、ノイトラはイラつきながらも茶渡の近くにいたカリンに問いを投げる。

 

 これに対し、カリンはニヤリと笑みを深くして、ノイトラは更に怒ることとなる。

 

 彼女が浮かべた笑みは、相手をあざ笑うかのモノだったからだ。

 

「……………さぁ、どうだかな? 人間、死神、虚、いや……もしや幻覚と言う事もあるかも知んねぇぞ?」

 

 カリンの言った言葉は、『とある世界』での人物が言い放ったものに酷似していた。

 

『(ブワッハッハッハッハッハ! 良く言ったぜカリン! これで相手がセイバーだったら何も文句はねぇんだが、これはこれで傑作だぜ!)』*1

 

 そしてそれはしっかりとカリンが意識して上記のセリフを言った者に伝わったらしい。

 

 ガシッ!

 

「あ?」

 

「か、カリンさん?」

 

 カリンが茶渡の腕をつかむタイミングで、ノイトラは後ろから新たに感じた気配に目を移す。

 

「な……だ、誰────?」

 

「────『Need not know yet(まだ知る必要のない事)』です、アフロさん。」

 

 ノイトラが見たのは茶渡のように驚いていたガンテンバインに、肩を貸して片手に杖らしきオブジェを持った小柄な金髪少女(リカ)

 

「歯ァ食いしばれ、チャド────!」

 

「────アフロさんもです! 『Ὀκυπέτη(オキュペテー)』!」

 

 リカの叫ぶ言葉にカリンと彼女の足元に歪みが現れ、その中に吸い込まれるかのように彼女たち+茶渡とガンテンバインの四人がその場から消える。

 

「……………………」

 

 ノイトラが見たのはスゥっと消えていく、何かの陣のような光だった。

 

 物陰から現れた黄土色の髪と右目に眼帯を着用した男がノイトラに話しかける。

 

「ノイトラ様、あの四名は文字通り消えました。」

 

「ンなことは分かってんだよテスラ!」

 

 現れたのは茶渡が感じていた伏兵でノイトラの従属官である、『テスラ・リンドクルツ』だった。

 

「……チィ!」

 

 ドゴォン!

 

 イラつきが激怒に変わったノイトラは力任せに武器を地面にぶつけ、砂埃を舞い上がらせる。

 

「あのクソ生意気なメス……ぜってぇ屈服させる!」

 

 砂埃が落ち着く頃にはノイトラとテスラの両名は姿を消していた。

*1
作者の他作品、『天の刃、待たれよ』の6話より




はい、という訳で『十刃落ち』が一護たちと戦闘した後まで来ました。

尚、以前にも書き込みましたが自分は実力などよりも一人一人のキャラが持つ個性が大好きです。

『仮面の軍勢』や、『十刃落ち』など。

特に最初読んだときのドン・パニーニならず『ドルドーニ』が笑える実力者だったのは今でも印象的でした。 (笑

あとチルッチ戦での雨竜とペッシェのやり取りなんかも。(笑笑

ちなみにアニメを見て最初に爆笑しながら思ったのは「なんでペッシェに〇安さんなの?!」でした。 (笑&汗

ではでは、次話で会いましょう!

ガンテンバイン:…………………………俺は?


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第75話 The Vaccine Virus

次話です!

ここからさらに独自解釈&ご都合主義がドンドンと増えていきます (汗

あと、『天の刃、待たれよ』からの設定などが更に絡んできますが読まずとも楽しめるように書こうと努力します!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場所は22番地底路付近、いまだに砂まみれになっている階段近くで重症の十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)などを見ていた茶渡が、近くにあった岩の上に座って休んでいた場へと変わる。

 

「……どうなっているんだ、これは?」

 

 彼は目の前が真っ暗になったと思いきや、虚圏へ最初に来た砂漠の中にいた。

 

「はぁ~い、染みるわよぉ~?」

 

女神(ディオス)の施しなら吾輩、どんなことでも耐えましょうz────」

 

 ナース服(黒崎クリニック仕様)のマイを前に鼻の下が伸びながらニマァ~と笑みを浮かべるドルドーニ。

 

 ジュワッ!

 

 そしてマイが傷を消毒する際に、あってはならない音と共に感じる痛みで一気に彼の顔がゆがむ。

 

────あいだだだだだだだ?! いいいいいい今『ジュワッ』って言いましたぞ?!

 

「ん~? 私は光の〇人じゃないけどぉ~?」

 

「誰なのだそれは?!」

 

「っけ、やっぱまだ残念系じゃん。 それに『女神』って何よ。」

 

「って動くなや、包帯巻きにくいやろが。」

 

『(変態)紳士』から『ただ痛がるラテン系おっさん』の豹変ぶりにチルッチが上記の言葉を吐き捨てる(体に包帯をツキミに巻かれながら)。

 

 茶渡が困惑するのは当たり前。

 

 何せ気が付けば自分は虚夜宮(ラス・ノーチェス)に侵入し、成長してガンテンバインに勝ったと思って『外』へと出れば夜空ではなく青い空に太陽の光に出て、ノイトラに襲われてカリンが来た。

 

 そして『地面の中へ落ちた』と思えば自分と一護たちが虚圏に来た22番地底路の近くに戻っていた。

 

茶渡泰虎(さどやすとら)。」

 

 考えることをやめようとした茶渡の近くに(額と胴体に包帯を着用した)ガンテンバインが近くまで歩いて来て、腰を下ろした。

 

「早いな、アンタ。」

 

「当たり前だ、俺は『十刃落ち』でも『復帰』には自信があるほうだ……お前(茶渡)と似たようなもんさ。」

 

「……そうか。」

 

「うーん。」

 

「「?」」

 

 リカがどこか冴えない声でうなりながらガンテンバインと茶渡を見ているのを、二人が気づく。

 

「「……どうした?」」

 

「いえ、このままテレビにでも出演したら『ルチャドール(メキシコ流プロレスラー)タッグチーム』みたいですねぇー?」

 

「リカ、馬鹿言ってねぇで早く説明しろよ。」

 

 カリンのイラついた声でリカはハッとする。

 

「ああ、そう言えばそうでしたね。 茶渡氏とガンテンバイン氏たちに()()()がありまして……というかここにいる皆さんにですね────?」

 

 ___________

 

 ルキア 視点

 ___________

 

「オレの名はアーロニーロ。 第9十刃(スペーノ・エスパーダ)、『アーロニーロ・アルルエリ』。」

 

 ……………なんだこれは。

 

 何がいったい、どうなっているのだ?

 

 建物の外へ出たと思えば夜空ではなく日中で、突然声をかけられて破面らしき人物を塔の中へ追いかけたと思えば────

 

「よ、久しぶり。 元気そうだな、朽木。」

 

 ────その見た目で私の思考は停止した。

 

 いや、正確には真っ白になったと言えばいいのか?

 分からぬ。

 まったく持って理解できぬ。

 

 この目の前の男が放つ、陽だまりのような温かさは……

 

「あ? なんつー顔してんだよ? みんな大好き()()()()()が生きて目の前にいんだよ、嬉しくねぇのか?」

 

 このノリは……

 

「……おい、ツッコむところだぞ今のは? 流されたら俺、ただのアホなヤツじゃん。」

 

 海燕殿だ……

 

 

 目に涙を浮かべているルキアの前の男はかつての上司、護廷十三番隊副隊長の『志波海燕(しばかいえん)』。

 

 朽木家の養女として、学院より護廷へ引き抜けられた事で更に周囲から浮いていたルキアにもほかの部下同様に分け隔てなく接していた数少ない心のオアシスで、護廷の者でも他の隊でも人気者だったのは火を見るより明らかな男だった。

 

 さらに彼は貴族の志波家直系の長男で、志波空鶴(くうかく)岩鷲(がんじゅ)の実の兄でもある。

 つまりは一心を叔父に持ち、一護や遊子や夏梨とは従兄弟。

 

 そして『志波家が没落していくキッカケ』となった男で、ルキアの抱える『トラウマの元』でもある。

 

 まぁ、(上司)を刺し殺したのが他でも無いルキア(部下)なので、トラウマになったのは無理もないが。

 

「ま、座れや朽木。 色々と話してぇんだ。」

 

 そこから彼はルキアに語り始める。

 それは過去に、得体のしれない虚に死神が次々と殺されていく事件。

 

 虚の名は『メタスタシア』。

 そして藍染の実験体の虚だった。

 

 その虚は海燕の精神を文字通り取り込む形で霊体と融合し、ルキアが迫ってきた彼を思わず刺し殺してしまった。

 

 これにより、やむを得ない状況下だとしてもルキアは周りから孤立していた自分を救い出した存在を、自らの手にかけた事となる。

 

 よって、以前の彼女は『(岩鷲に)殺されても文句はない』と言ったのはこれが理由だった。*1

 

「────あの戦いの後、お前(ルキア)に別れを告げて霊体は虚圏に飛ばされた。 破壊されるとあの虚は自動的に虚圏に飛ばされて再構成される仕組みだったらしくてな?

 俺と融合した所為か再構成すると俺の姿になり、霊体を支配していたのは()()精神だった。」

 

「……ハァ。」

 

 ポツンと暗い塔の中で、座布団に正座で座っていたルキアが気の抜けた声を出す。

 

「……ま、まぁ要するにオレの(はがね)の精神力が藍染たちの計算を上回っていたんだ!」

 

 多分さっきから私は呆れた顔をしていたのだろう。

 

「……海燕殿、今は真面目な話の最中だったのでは?」

 

 茶化そうとした海燕殿に私がジト目で答えると彼が困った表情を浮かべる。

 

「いやだってお前の反応が薄いというか……なんというか……とりあえず、外が青空だったのを見ただろ? あれは虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋の内側に()()()()()()偽りの空、()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「それは……」

 

 海燕が立ち上がる。

 

「こっちへ来い朽木、今から話す作戦はお前以外の奴には出来ねぇ────」

 

「────は、はい!」

 

 久しぶりに会った海燕殿と話してから心が幾分か軽くなった私が走り出そうとするその瞬間────

 

 

 

 

 

 ────目の前には海燕殿の斬魄刀が今にも私の目を貫きそうな位置にあった。

 

「ッ!」

 

 赤い液体が僅かに切られた頬を伝ってと床にポタリと落ちて()くが、()()()()()()()()()()()()()

 

「へぇー? かなり腕を上げたなクチキ(朽木)。」

 

 海燕殿が私に刃を向けた?

 

 何故だ?

 

 分からん。

 

「嬉しいぜ。 昔のお前なら、今ので頭を貫かれて死んでた筈だ。 ま、さすがに『()()()()』ってのは予想外だったけどな。」

 

「……ど……ど……」

 

 上手く言葉が見つからない。

 あったかい体が急激に冷たくなっていく。

 

 まるで血を氷に変えたようだ。

 

「『()()()()()()()』。 そんな表情(カオ)をすんな、朽木。 ()()だよ。 それに俺がお前を殺そうとする事がおかしいか? 

 なぁ、俺をその手で刺し殺した女の『朽木ルキア』?」

 

 確かにその通りだ。

 私は海燕殿を殺した。

 

 その事実はどれだけ時が経っても動かぬ、『私の罪』だ。

 

「おい、俺に殺される覚悟はあるか?」

 

「…………………」

 

「おい、訊いているんだよ。 『自分が殺した男に償いとして命を差し出す覚悟はあるのか?』ってな。」

 

「あります。」

 

 考えるよりも言葉が口から出ていた。

 

 嫌な汗がじっとりと顔と背中に出るまま、私は言葉を並べた。

 

「ありますが、今はまだそれは出来ません。 私を切ることで、海燕殿の気持ちが少しでも晴れるのなら、喜んでこの命を差し出しましょう。」

 

 それは嘘偽りのない、()()からの言葉だ。

 

「ですが! 私がここに(さん)じたのは仲間を……『友人(とも)』を救う為です。 それまでは、海燕殿がなんと申されようともこの命を差し出すわけには参りません!」

 

 私は本心のままそう言うと、海燕殿のピリピリとした殺気がガラリと変わる。

 

「……はぁ、冗談だよ。 試して悪かったな、朽木。」

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?

 

「え?」

 

「いったろ、朽木? 『今から話す作戦はお前以外の奴には出来ねぇ』って?」

 

「そ、れは……」

 

 海燕殿が笑みを浮かべたまま次の言を並べる。

 

「お前の仲間たちの首を全員分、持って来い。」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 今の私がどんな表情()をしていたのだろう?

 

 恐らく『周りに誰も(知人が)いなくて良かった』と、あとになってから思うヤツだろう。

 

「………『自分を見逃す代わりに仲間を差し出せ』と、仰るのですか?」

 

「……?」

 

「そんなこと……『冗談』などでも言うはずがない……」

 

「朽木?」

 

 ああ。

 

 これほどの感情の荒れ様は実に……久方ぶりだ。

 

黙れ。 海燕殿をそれ以上侮辱するな!

 

「なに言ってんだよ! 俺はk────!」

 

 私が目の前の下郎を言葉のみでかき消すような勢いで叫ぶ。

 

 「────海燕殿は!!! 仲間と、自分を天秤にかけるような言葉を吐くワケがない!!! 私が! 十三番隊の誰もが心から敬愛した海燕殿は断じて! 断じて! そんな方ではない!」

 

「ま、待てよ朽木────?」

 

 「黙れ! それ以上その姿で息をするな! 舞え、『袖白雪(そでのしらゆき)』!」

 

 ドゴォォォン!

 

 私が斬魄刀の解放をするタイミングで、塔の壁が爆発する。

 

 ぽっかりと壁に空いた穴から大量の()の光が一気に塔内に差し込み、海燕殿の姿形をした者が苦しむ叫びをする。

 

「グ、おおおおおオオオオおおおおおおおあああアアあああア?!」

 

 瞬く間に海燕殿の姿形をした者は、首から上が赤い養液らしき液体で満たされたガラスの入れ物にボールのようなモノが2つ浮いているという奇妙な形へと変わる。

 

「良く言ったわ、ルーちゃん!」

 

 塔の壁にできた穴に降り立ち、得意気に腕を組みながら見下ろしていたのは井上とは違う、今でも()()()()()()()()()()知人だった。

 

誰だ、おまエ!

 

 異形の姿になった海燕殿に変化していた奴が知人を見て叫ぶ。

 

「『誰』と聞かれちゃあ、こう答えるしかないわね!

 

 

 

 

 

 私はたった今まさにご存じになった、()に生きる美少女の『正義の味方』!」

 

 知人が何かの『あにめ』からのポーズの構えをする。

 

 「月に代わって! お仕置きよ!」

 

 …………………………………………………今のはダジャレのつもりか?

 

 

 

 ………………………………………………………………外に月が無いだけに。

 

 

 

 ………………………………………………………………三だけに。

 

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 ……ムフ。

 

 ムフフ。

 

 ムフフのフン。

 

 言った。

 

 言っちゃった。

 

 言ってやったわ~!

 

『人生に一回は本気(マジ)の場面で言いたい』セリフ&ポーズの一つを!

 

 こっち(セーラームー〇)ノリ〇(ガンバス〇ー)ポーズ(&セリフ)にするか迷ったけど、いつも夜の虚圏ならこっちのほうが良いわよね!

 

 ……………なんかルーちゃん(ルキア)が冷た~い目でこっちを見ているけど無視

 

 ビュウゥゥゥ!

 

「ひゃうん?!」

 

 急に穴が開いて風通しが良くなったのか、強い風で一瞬制服のスカートがフワリとするのを、手で押さえて止める。

 

 あっぶな。

 

 あのままスカートがめくれたら『パンチラのア〇カ』だったわ。

 

 スカートは白くないけど。

 

 というか短すぎなのよ、空座高校の制服!

 絶対にこんなハプニングを狙ってミニスカに指定したわよねこれって?!

 

 ……今は見せパンに穿き替えたから(あんまり)困らないけど。

 

「貴様は何をやっているのだ、このたわけが。」

 

「うっさいわね!」

 

 流石に今のは辛いわルキア。

 

「……ち、ショウガナイナ。改めて自己紹介をしようじゃないか。僕ラガ第9エスパーダ(スペーノ・エスパーダ)アーロニーロ・アルルエリだ!!!」

 

 うへぇー。

 漫画で読んだ時も思ったけど、マジであの球体二つが互いに喋っている。

 

 アーロニーロが日の当たらない場所に移動して姿がグニョグニョと変わっていく。

 

失敗したなコムスメ。 今のでオレ攻撃すれば手傷グライハ負わせられただろうにな。」

 

 アーロニーロが海燕らしき男性の姿を完全にとり────って一護じゃん?!

 

 いやいやいや、似すぎでしょ? 

 一護を黒髪にしただけじゃん?!

 

 あ、下の眉毛はこっちのほうが長いっぽいけど紅のルべウ〇(岩鷲)みたいに。

 道理で漫画の中で浮竹やルキアが間違えそうになるわけね。

 

「オイ、何か言ってみたらどうなんだ?」

 

 っとと、アーロニーロに話しかけられてたんだっけ。

 

「うーん……話を聞いていた限り、『あなたは疑似的な太陽の光の下は嫌いだからあなたの能力に関することかなぁー?』って思っただけよ。 だからダメージは考えてなんかいないわ。 それにそうだとしたら、彼女(ルキア)も動きやすいでしょ?」

 

「まるで俺をいつでも倒せるかのような口ぶりだな。」

 

「そうだけど?」

 

「……舐められたものだ。 これは俺が『下級大虚(ギリアン)』だと周りに知られた時以来だ。」

 

 お? ちょっとカチンと来た?

 こいつ、煽り耐性ゼロ?

 

 ……もっと言ってやろう。

 

 私は空いた穴から降り立って、塔の中に飛び入る。

 

 もちろん、スカートは抑えたままで。

 

「へぇ~? そんな小物でよく、『十刃』なんかに入れたわね?」

 

「……知りたいか?」

 

 アーロニーロが海燕の斬魄刀である槍(というか(もり)?)を構える。

 

「それはオレがすべての破面の中で()()()()()()()()()破面だからだ!

 この能力は志波海燕と戦った『メタスタシア(藍染の実験体)』の霊体能力を、俺が()()()()()()()()()!」

 

 ルキアがピクリと反応する。

 

「『喰らった』? では………その姿は────!」

 

「────そうさ! オレは志波海燕の体で、虚圏に帰ってきたこいつを喰ってその体、経験、記憶の()()()()()()()()()手に入れた! オレはそれを読み取って行動していただけに過ぎない!」

 

 ………………うわぁー。

 こいつ(アーロニーロ)本気(マジ)であっちからベラベラ喋ったよ。

 

「オレの能力は『喰虚(グロトネリア)』! 死した虚を喰らってその能力と霊圧を我が物とする能力だ! 喰い尽くせ、『喰虚』!」

 

 アーロニーロの下半身が爆発したかのように膨れ上がって容姿が触手を束ねたような紫のタコになる。

 

 …………………………………キモい。

 

「今までオレが喰らった虚の数は33650体! ここからはその数の虚を同時に相手をすることを理解させてやる!」

 

 高らかに演説(説明)をするアーロニーロを無視して、私はルーちゃんの近くまで移動してから小声で語り掛ける。

 

「ルーちゃん。 アイツの気を私から完全に逸らして。」

 

「……分かった。」

 

 そこからルーちゃんが突撃して行って、二人の戦いが始まる。

 いや、始めさせる。

 

 だから出来るだけ思い出して、ルキア。

 

 あなたの知っている筈の志波海燕は、()()()()()()から。

 

 私は浦原特製の外套を羽織ってアーロニーロの死角に足音を立てずに移動して待つ。

 

 数々の触手や、海燕の水を操る能力でルキアは徐々に追い込まれていく間に私は準備を続ける。

 

「『投影(トレース)開始(オン)』。」

 

 久しぶりの詠唱で脳内にて、あらゆる武具が過ぎ去って身体と脳が圧迫される感覚に陥る。

 

 やっぱり『二重魔術(ダブル・ソーサリー)』は行けるけど……キツイ!

 

 ルキアが白哉にもらったマントが破れて、死神の死覇装が露わになって(もり)が彼女の胴体を狙って突き出される。

 

 タイミングは今!

 

「『工程完了(ロールアウト)全投影連続層写(バレルオープン!)』!!!」

 

 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュゥン!

 

 周りに様々な武具が空中に実体化して次々と飛んでいく。

 

 狙いは一つ、いや()()

 

「ぬ?!」

 

 アーロニーロがこっちに今気付いたみたいだけどもう遅いわ!

 

 ギィン、ギィギィギィギィギィン!

 

「馬鹿な! どこからこんな多くの武器を用意────?!」

 

 アーロニーロが飛んでくる武具を払い落とし始めている間に私は横の死角から飛ぶ。

 

「────そういえばあのチビの姿が────!」

 

 「────チビじゃないわよ!」

 

 思わず私は叫び返して彼に捕捉されるが、既に遅い。

 私はアーロニーロが使っていた志波海燕の腕を掴んで、もう片方の手を頭にズブリと埋め込む。

 

「がぁ?!」

 

 さて。

 ここからが博打で、それに勝った後からが本当の勝負よ。

 

 相手になってやろうじゃん!

 

 33650体の虚がなんぼのもんじゃーい!

 

『頼むわよ、力を貸して!』

 

 私の念話に皆の声が響く。

 

『はぁ~い♡』

『おう!』

『いつでも良いで!』

『さて、虚の内部世界……とても興味深いですね。』

 

 最後にリカがちょっとズレた事を言ったような気がするけど……

 

 ……別に良いか。

 

 

 

 ___________

 

 アーロニーロ脳内(?) 視点

 ___________

 

 僕の授けられた名は『アーロニーロ・アルルエリ』。

 

 藍染様の第一期破面、最後の十刃。

 

 僕の能力は喰らった虚の能力を任意で発動させる『喰虚(グロトネリア)』。

 

 これでオレは味方に情報を伝える『認識同期』、そしてメタスタシアを喰らってからは死神である『志波海燕』の能力も手に入れた。

 

 記憶や経験も手に入るのは嬉しい誤算だった。

 

 そんな僕はフヨフヨと真っ暗闇の中を漂っていた。

 

 ……なんだこれは?

 これでは、まるで藍染様に会う前に『孤独で苦しむ』オレの精神世界ではないか?

 

 いや、おかしいぞ。

 ここには僕が食らったはずの虚などが保管されている筈。

 僕一人だけがいる筈が無い。

 

 『ようこそアーロニーロ・アルルエリ。』

 

「ダレだ!」

 

 (オレ)は周りをキョロキョロと見て、脳に直接叩き込まれるような声に戸惑う。

 

 『そしてさようなら。 その弱さ、孤独、痛み、辛さ、虚ろさなどに()()()()()()()()()()()。』

 

 ゾワリと体と胸の奥が不愉快さと本能的な()()に埋め尽くされてオレ()はただ叫ぶ。

 

「藍染様!

 

 

 

 

 

 こいつは()()()()ダ!」

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場と時間はアーロニーロの頭に、三月が手を埋め込む瞬間に戻る。

 

 彼の動きが急にぴたりと止まって、体と顔中に生傷が出来ていたルキアは肩で息をしていた。

 

 数秒後、アーロニーロが突然叫びだす。

 

 オギャアあああアアあ!!! 助けて! 助ケテ藍染様! こいつは! こいつは()()だ! こいつはぁぁぁぁぁぁイヤダァァァァァァァ!!!」

 

 ルキアの目の前で大きなタコらしき下半身がブルブルと震えながら汚臭を放ち、ドロドロに溶けていく。

 

 次第に志波海燕の体だけが残り、アーロニーロの叫びがどんどんと弱弱しくなっていき、志波海燕の体が股をつく。

 

あああアアァァぁ……嫌だ。 ()()イヤだ助けて。 助ケテ。 助ケケケケケケケケけけけけけケケケケケケケケけ────」

 

 グルンと白目を剥きながら、糸が切れた人形のように志波海燕の体が崩れ、三月は盛大なほどの汗を掻きながら深く息をしていた。

 

「ブハァァァァ! ハァ、ハァ、ハァ、ハァ………………ムグハァァァァァ! ……『伊達に33650体は喰らってはいない』ってか……『鈴鹿御前(すずかごぜん)』がいなかったら出来なかったわ。」

 

「貴様、いったい何をした?」

 

 ルキアは斬魄刀を構えたまま、汗を拭く三月を睨む。

 

「んあ? このアーロニーロが喰らった33650体の虚と、アーロニーロを()()()。 『志波海燕』はそのままで。」

 

「…………………………………………………………………は?」

 

 ルキアは予想もしていなかった返答に呆然とした。

*1
27話より




市丸:これ、どないな事?

作者:あー、『天の刃、待たれよ』設定などが絡んでいます。

市丸:ふーん…………………………ルキアちゃん、よかったね♪

作者:(複雑な心境……)


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第76話 Rukia's Confession

次話です!

若干(?)の勢いで書きましたが、楽しんで頂ければ幸いです!

9/7/21 8:47
誤字修正しました。
9/7/21 9:47
更に誤字修正しました(汗


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「グァ……キッツ……」

「う……ううぅぅぅ……」

「人使い……荒いっちゅうねん……」

「ブラッ〇サンダーを馬鹿食いしたくなります。」

 

「「「リカに同感。」」」

 

 場はドルドーニ、チルッチ、ガンテンバイン、茶渡、そしてハッシュヴァルトが輪を作って周りを警戒している中心に地面に横たわっていたカリン、マイ、ツキミ、リカの四人が体中から汗を出しながら、うめき声をあげていた。

 

「……上手くいったのか?」

 

「「「「多分。」」」」

 

 茶渡の声に座り上がるマイ、カリン、ツキミ、リカが答える。

 

『上手くいった?』と彼が聞いたのは、上記の四人+三月の計五人が『約3万と少しの虚を相手にした』こと。

 

 茶渡もハッシュヴァルトや『十刃落ち』の三人のように『簡単な説明をされた』が、訳が分からなかった。

 

 ただ『ちょっと(精神内での)“大量殺戮”を行いますので周りの警戒をお願いします』と言われ、気付けばマイ、カリン、ツキミ、リカの四名は体が抜け殻になったかのようにボーっと焦点の合わない目でただ前を見て数分間。

 

 その数分間後に、上記の状況へと繋がった。

 

女神(ディオス)よ、吾輩のハンカチを使ってくれ。」

 

「あらぁ~、『ドニーちゃん』は気が利くわぁ~♪」

 

 尚、マイはドルドーニを『ドニー』というあだ名をつけていて、彼は『まぁ……坊や(ニーニョ)の“パニーニ”呼ばわりよりはマシか』と納得していた。

 

「ハウ?! 実に良い……」

 

 ドルドーニは感心して、ジト目のチルッチを横目で見る。

 

「……なによ?」

 

 チルッチを見て、ドルドーニがどこか遠い目をする。

 

「…………………………………フッ、吾輩の(まなこ)も曇っていた時期があったのだな。」

 

あ゛? んだとこの『変態』────」

 

 「────だから『あれは違う』と言っているだろう、この年増が?!」

 

 「と、年増ァァァぁ?! アンタに言われたか無いわよ!」

 

 「なにをぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 ドルドーニとチルッチがガミガミとした言い争い、茶渡が口を開ける。

 

「なぁ、ガンテンバイン? あの二人、どうしたんだ?」

 

「……ま、十刃の現役時代に()()とあってな。」

 

「フム? 『色々』ですか?」

 

 茶渡の問いに答えをガンテンバインは濁し、リカが興味を示す。

 

 実はこの三名は同じ時期に十刃になっていた、いわゆる『同期』なのだ。

 

 そしてその時、最初は『ラテン系紳士(ジェントルマン)』のように振舞っていたドルドーニは(オス)(破面)として虚夜宮(ラス・ノーチェス)内で周りから珍しがられていたのだが……

 

 次第に『(ドルドーニ)が虚夜宮内の雑用係、“特に(メス)”を積極的に従属官として集めていた』という噂が出回り始めた。

 

 さて。

 なぜここで『性別』を示す単語が出てくるかというと、虚にも見た目だけでなく『性別』が存在する。

 

 もちろん、人間の魂魄を基準にしているのだから死神同様に虚にも性別はある。

 特に人型を取りやすい破面などは。

 

 ただ虚の場合、『メスの虚は、オスの虚に襲われやすい』というのが()()()()

 

 つまり単純化はある程度しているが、『警察などの保安が存在しない世紀末的な男性が女性にアレする』案件である。

 虚なので、己を強化する『捕食』も兼ねている行為だが。

 

 だが当時のドルドーニは『十刃』。

 つまり藍染、または虚圏統括官の東仙にしか罰せない存在。

 尚、市丸はそんな事に興味はないので論外である。

 

 何せ噂の被害者たちは虚夜宮の雑用係、藍染が崩玉を使った初期の実験で『本来、自然進化することのない虚を無理やり人型にする』と言った経歴を持つ副産物たち。

 

 戦力にもならない『物』であるそれらに、気を使う者は『十刃』にも殆んどいなかった。

 

 一人を例外に。

 

 その一人とはお察しの通り、チルッチ・サンダ-ウィッチ。

 ドルドーニと(当時では)同じ『十刃』であった。

 

 というのも、彼女は虚夜宮の雑用係を通して現世のファッションや化粧など、『己の美』の追求に使える()手が減ることを嫌っていただけ。

 

 そんな彼女が怒りながらガンテンバインと共にドルドーニのいる自宮に殴りこんだ。

 

 何故ガンテンバインもその場に居たかと言うと、彼はチルッチのツテを頼って現世の『強い者の見た目』を検索していた。

 故にチルッチはガンテンバインをほぼ脅した状態で連れて来ただけのことである。

 

 そこで二人は出くわした。

 

「ンフ、ンフフフフフフフフフン♡ 吾輩、超が・ん・ぷ・く♡。」

 

 ドルドーニがデロッデロの顔をしながら『メスの虚に現世のフレンチメイド服を着させて(はべ)らしていた』という、普段の『紳士的な(ドルドーニ)』とは真逆の言動をしていた場面に。

 

「「…………………」」

 

「あああ! どこに行くのだねお嬢ちゃん(ベベ)たち?!」

 

 そしてチルッチたちがドアを開けた瞬間にそそくさと逃げる女雑用係たちを呼び戻そうと、冷めた視線を送っていたチルッチとガンテンバインをドルドーニが見て猛烈に慌て始める。

 

「「…………………」」

「ち、違うのだ!」

「「…………………」」

「わ、吾輩はただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「「…………………」」

「男の性だ!」 

「「…………………」」

「ガンテンバイン! 同じ男のお前にも分かるであろう?!」

「いや、分かんねぇよ。」

「…………………」

 

 その日、『ラテン系紳士のドルドーニ』は『従属官に女の破面が欲しい』と明らかに異性を意識する男破面らしい思考をした、『残念系お調子者のドルドーニ』と虚夜宮内での認識が変わった日でもある。

 

 あと、完璧に余談ではあるがこの日を境に東仙は『虚夜宮の雑用係は許可が無い私物化は禁止』。

 並びに『新たな破面を従属官として迎え入れたい場合、現十刃の任意参加制の議会をして決める』という集会を立ち上げたそうな。

 

 更なる余談だが、新たな破面がメスだった場合の集会には必ずドルドーニが参加し、積極的に他の者たちに『吾輩が新しい破面を従属官に迎え入れたい!』と言うことをアピールしていった。

 

 それは、『十刃落ち』になるまでずっとだった。

 

 

 

「………………………………(今思えば、あの頃の『十刃』には『笑顔』があったな。 苦笑いや諦めた笑いも入るとはいえ。)」

 

 そんな事を思い出していたガンテンバインは、黙り込んだ自分を茶渡とリカの二人がさっきからじっと見ていたのに気付く。

 

「コホン……ま、まぁアレだ。 俺たち三人は、人間で言うところの『腐れ縁』って奴だ。」

 

「ほぅ、それは興味深いですねアフロさん。」

 

 いまだにガミガミと言い争うドルドーニとチルッチを背景に、リカが興味を示す。

 

「……俺は『ガンテンバイン』だ。」

 

「まぁまぁ、良いじゃないですか。 あちらの『山崎竜〇(KO〇)』や『フレ〇(SEE〇)』とは違って、アナタは『地味』なんですから。」

 

「じ、地味……だと……」

 

 ガクッ。

 

 リカの悪気の無い(?)言葉にガンテンバインが明らかなショックに肩を落とす。

 

「まだ……『足りない』ってのか……」

 

 余談だが上記の影の薄(派手の無)さは彼自身自覚もしており、これの打破の為にチルッチ経由で現世での『流行(派手)』を使って他の者に気後れしないよう頑張っていた。

 

 ヘアスタイル(オレンジ色のアフロ)然り、星形の模様のついたサングラス然り。

 

 ポン。

 

「……?」

 

 落ち込むガンテンバインの肩に誰かの手が置かれ、彼が頭を上げて見るとそこにはサムズアップをした茶渡がいた。

 

「ドンマイだ、『アフロさん』。」

 

「………………………………………………………………………」

 

 茶渡の言葉に、ガンテンバインが更に落ち込んだのは言うまでもないだろう。

 

 

 ___________

 

 織姫、クルミ 視点

 ___________

 

「ッ」

 

 クルミは()()()()()右腕の調子を確かめながら、相変わらず生きているのか死んでいるかわからない雛森を看病していた織姫が素早く息を呑み込んで青ざめていく様を見る。

 

「……死んでいませんよ。」

 

「……ぇ?」

 

 織姫が今にも泣きそうな顔のまま、クルミを見る。

 

「死んでいません、信じてください。」

 

「………………うん。」

 

 一応口では納得したものの、織姫は浮かない表情だった。

 

「……(今のはおそらく、井上さんを精神的に攻める為に『朽木ルキアが重症状態』を『認識同期(にんしきどうき)』経由で情報でも送られたのでしょう……という事は、次は『一護対ウルキオラ、第一弾』と『あの二人』がここに乱入する筈。)」

 

 クルミは来たるべき騒動まで体力と、策を練っていった。

 

 その間、彼女の長い髪の毛は更に長くなっていて、まるで生きているかのようにウゾウゾとうごめいていた。

 

 そして部屋の窓の外では赤い羽が一つ、ゆらりと舞い降りていた。

 

 

 ___________

 

 ルキア、三月 視点

 ___________

 

「────というわけなのルーちゃん。」

 

 正座をさせられた三月は事の簡略化された説明を不機嫌&腕を組んだルキアにしていた。

 

「つまり、お前はあのアーロニーロとかいう破面が、『大虚(メノス・グランデ)とは違う形式の“虚の集合体”』と睨んだと?」

 

「うん。」

 

「そしてその中でも海燕殿が一番強く、『表面』に出ている間にアーロニーロを含めた33651体の虚の精神を滅したと?」

 

「まぁ、簡単に言えば。」

 

「なるほど。」

 

「あ、分かってくれた?」

 

 ルキアがウンウンと頭を縦に振るい、三月の表情はパァッと明るくなっていった。

 

 

 

 などと納得できるかこのたわけがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ですよねぇー?!」

 

 ルキアの気迫に三月は思わず圧倒されそうになり、同意するような言葉を口にする。

 

 「貴様、私をバカにしているのか?!」

 

「滅相もございません!」

 

 「なぜ他人行儀なのだ?!」

 

「ルキアが怒っているからなんとなく!」

 

 「怒るに決まっているだろうがこの阿呆め。」

 

 激怒したルキア(144㎝)三月(140㎝)の胸倉を掴んで持ち上げると、三月の足が宙ぶらりんする。

 

「くびくびくびくびくびくびくびくび────!」

 

「────ふざけているのか貴様は?! お前の言う所業は『他人が刃禅(じんぜん)中に、横から割り込む行為』に等しいのだぞ?! そんなこと噂にも聞いたこと無いわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 ルキアがこめかみに青筋を追加させ、三月の体を更に上へとあげた。

 

「~~~~~~~~~!!!」

 

 三月は声にならない叫びと共に顔が青くなっていき、彼女は片手で『ギブアップ』を示すかのように、自分を持ち上げていたルキアの腕をペシペシと軽く叩く。

 

 やがてルキアはため息をしてから三月の体から手を放す。

 

 ドサッ。

 

「うげ。 いつつつつ…」

 

「それで? 話してもらおうか?」

 

「んえ?」

 

 三月は痛めた腰を擦りながら、ルキアを見上げる。

 

「なんだ、その『この子、なに言っちゃってんの?』と言いたいような顔は? もちろん、お主自身やお主の『家族』に対しての質問だ。」

 

「………………」

 

 ルキアは先ほどのギャグっぽい怒り方から一変して、真面目な顔をしていた。

 

「浦原の店で初めて出会った時といい*1、一護が死神として活動を始めた時といい*2、瀞霊廷の出来事などといい*3……貴様はあまりにも不可解な存在だ。」

 

「(あー、うん。 流石に無理があるわねぇー。)」

 

()()()()()ではないのは初めから分かっていた。 最初は石田の反応や、周りの者の証言から『滅却師』と思っていたがあまりも私が聞いた『滅却師』とはかけ離れていた。 お前とお前の家族は瀞霊廷に多大な利益をもたらしたので黙認している者たちはいるようだが……」

 

 ルキアが斬魄刀を抜き、その刃を地面に座り込んだ三月に向ける。

 

「今この際、はっきりと聞こう。 ()()()()()()?」

 

「…………………」

 

 三月は静かに立ち上がり、ルキアが斬魄刀を自分に向けたままでも近づく。

 

「おい! 私の質問に────!」

 

 ズブリ。

 

 ルキアの斬魄刀の刀身が三月のお腹に刺されていく。

 

「────()()()()よ。」

 

 三月は半笑いを上げたまま、ルキアの視線を返す。

 

「それを信じるのも、信じないのも貴方の自由よ。 でも私は()()で、『()()()()()()()()』。 これは、揺るがない私の本心からの言葉よ。」

 

 三月が刺されたところはジワリと赤くなっていき、刀身を伝った血が薄暗いアーロニーロの塔の床に落ちていく。

 

 その時間は数秒か数分、あるいは数時間とも錯覚できるような、ただただ静かな時間だけが過ぎていった。

 

 この静けさの中で先に動いたのはルキア。

 

「…………………………………ハァ~。」

 

 彼女は長く、疲れた溜息を出して斬魄刀を抜いて、密着した血を振るい落としてから鞘に納める。

 

「お前に対しての疑いや不安はまだあるが、今はこんな問答をしている場合ではないし……お前に対しての恩もある。」

 

「(ホッ。)」

 

「だが井上たちを助けた後は、この話の続きをするぞ?」

 

「え。」

 

 三月の驚きに出した声に、ルキアがジト目を返す。

 

「何だその驚きは? もしかして今話を全てして、スッキリさせたいのか?」

 

「あ、イエ。 ナンデモナイデス。」

 

「うむ。 ではこの『海燕』殿の体だが────」

 

 ここで寝ているかのように床に横たわっていたアーロニーロが唯一、原型を残した『志波海燕』が唸りながら目を覚ます。

 

「────う、う~ん…………………………あれ? 朽木? なんで俺、まだ生きてんだ?」

 

「…………………………」

 

 ?マークを出す彼に対し、ルキアは黙ったまま彼の出方を覗う。

 

「あ、『志波海燕』ですか?」

 

「ん? 誰だこの金髪チビは────?」

 

 「────チビじゃないわよ!」

 

「……………あー、そうか。 (わり)ぃな。」

 

「…コホン。 えーと、志波さんは『最後に何を覚えています』か?」

 

「『最後に』って……」

 

「ッ」

 

 三月の問いに、ルキアが後ろめたそうな顔になる。

 

「……うお?!」

 

『志波海燕』の目が見開いてルキアを見る。

 

「朽木! ()はどうした?! ()()()じゃなかったか?!」

 

「……………………………」

 

「てかこの変な服、なんだよ?!」

 

『志波海燕』はただ?マークを出しながら明らかに困惑していた。

 

「って考えてみりゃ俺、朽木に刺されてなかったっけ? え? なんだこれ? 死ぬ間際に見る『走馬灯(そうまとう)』って奴か? …………………ん?」

 

『志波海燕』がさっきから黙っていたルキアを見る。

 

「どうした朽木? お前、ヒデェ(ツラ)してんぞ?」

 

「………………………」

 

 ここで『志波海燕』がハッとして、気まずそうに頭を掻く。

 

「あー……俺を刺したのを気にしてんのか。」

 

「まぁ、今まで貴方は『戦死』していましたから。」

 

「『今まで』? …………………そっか。 あー、すまなかったな朽木?」

 

「(違う。)」

 

「色々と大変で、苦労したんだろ? えっと、俺が言うのもなんだが……ご苦労さん。」

 

「(違うのだ。 私は……)」

 

「……お~い? 朽木?」

 

「私は……」

 

「ん?」

 

 ここでルキアはワナワナと震えだし、ポツリポツリと言葉を、心の赴くまま出す。

 

「私はそんなことを言われる資格は無いのだ……」

 

「んだよ、『資格』って? お前、立派に護廷の義務を果たしていたじゃねぇか?」

 

「私はただ逃げただけだ。」

 

「あー……ありゃ、浮竹隊長に言われたからだろ?」

 

「私は戦うのが怖かったのだ……」

 

「……じゃあ、なんであの時そのままトンズラせずに戻ってきた?」

 

「私は……私はただ、一人助かろうと逃げた自分が恐ろしかったからだ。」

 

「………………最後に。 『志波海燕』を刺したのはなんでだ?」

 

「……………………尊敬し、憧れた者が苦しむのを見ていることに……耐えられなかったからだ。」

 

「……」

 

「私はただ……救ったのはそんな醜い、己自身だ。 護廷や、死神などその視野に無く……ただ保身の為にだ。」

 

 ルキアのその姿はまるで、罪の懺悔をする者のようで、『志波海燕』はそれを聞く神父のようだった。

 

『志波海燕』は静かに優しい笑みを浮かべ、手を上げて────

 

 

 

 

 

 

 

 ベシッ!

 

 ────ルキアの頭を叩いた。

 

「痛ぁ?!」

 

 ルキアは痛そうに頭を抱えてよろけ、ムカムカし始める。

 

「な、何なのだ今のは?!」

 

「うし。 これで()()()()()()()ルキアだな。」

 

「………………………は?」

 

「俺が置いて行った心は、これで俺に()()()。 以上!」

 

 ルキアが呆けながら海燕を見る。

 

「……いや、そう見られても困るぞ? 何せ俺なんてさっき気が付いたばっかなんだからよ。 で? 金髪のお前からなんかあるんだろうな?」

 

 ルキアは海燕に釣られて三月のほうを見る。

 

「うん。 (()()オーケー、()()()()()。)」

 

 ムスっとした海燕と、まだ呆けるルキアを三月が互いに見ていると塔の中に陣のようなものが浮かび上がってその光と伴い、何かの杖を持ったリカが文字通り現れる。

 

「こんちゃーす。」

 

「うおおおおおおお────?!」

「ななななななななな────?!」

 

「────ピース。」

 

 腰が抜けそうな海燕とルキアに、リカがいつもの様子(平常運転)で長袖の中からピースサインの手を出す。

 

「「どこから出てきた?!」」

 

「ここから。」

 

「答えになってねぇ!/いないぞ?!」

 

「じゃあ、リカ。 頼んだわよ。」

 

「合点承知のスケでーす。」

 

「「無視するな。 というか何がどうなっている?」」

 

「偽情報通りの『偽装』をこれからするだけよ?」

 

「「???????????」」

 

 ルキアと海燕に三月が答え、答えになっていない答えに?マークを出す二人をよそにリカは塔の中を()()()()()

*1
11話より

*2
14話より

*3
32話から40話など




市丸:いやー、ホンマによかってねぇルキアちゃん。

作者:スッゲー複雑。

東仙:私たちの出番はまだか?

作者:では次話で会いましょう!

市丸/東仙:オイ。


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第77話 お茶と300秒

皆さんこんにちは、作者のHaru970です。

いつも作品を呼んで頂き、ありがとうございます。

最近、体の具合が悪いので少し短い話となってしまった上にいつもより拙い文章などが出て来るかもしれませんが、楽しんで頂ければ幸いです。 (汗

これからもよろしくお願いします。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場面はとある破面の自宮内へと変わる。

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

 そこでは、チエとスタークの二人がテーブルを挟んで、お茶を飲んでいたかのような景色。

 

 そしてイライラしていたリリネットがスタークの座っていた椅子の背もたれに寄りかかっていた。

 

「アーロニーロが死んだ。」

 

「そうか……同胞か?」

 

「まぁな。」

 

「そうか。」

 

 二人の当たり障りのないやり取りに、リリネットの不機嫌さが明らかに増す。

 

「(藍染様の()()とは言え、いつまで『これ』を『私たち』が維持しなくちゃいけないの?!)」

 

 実は一護たちが虚夜宮(ラス・ノーチェス)に侵入して別れた後*1、チエのいた場所に『葬討部隊(エクセキアス)』の一員と思われる者が姿を現した時まで、時間は少々戻る。

 

 普通なら即座に切り伏せられている者だが斬魄刀はどこにも無く、同時に戦意や悪意が明白に無かった者を殺す道理はチエには無かった。

 

「ようこそ、虚夜宮へ。 貴方を()()()()()()()()()()。」

 

 逆に歓迎されていたようで誘われるまま、『葬討部隊』の一体にチエがついて行く。

 

「なぜ、私を案内する?」

 

「そう命を受けております。」

 

「誰のだ?」

 

「『申せません』……っと『普段』なら答えていますが、事前に『質問に答える許可』は得ております。 藍染様です。」

 

「なぜ?」

 

「存じておりません────」

 

 ここでチエは歩みを止め、ちょうどそのタイミングを見計らったかのように『葬討部隊』の言葉の続きで歩みを再開した。

 

「────ですが『()()()()()()()()()()()()()()()()』との事です。」

 

「……そうか。」

 

 そこで連れてこられたのは一つの塔で、中ではゴロゴロしていたスタークが(入ってきたチエを見た)リリネットに蹴られる場面。

 

「おい起きろ、バカスターク! 客だ!」

 

 ドゴッ!

 

「グエ?! おおおおおぉぉぉぉぉぉ………………」

 

 蹴られた()()()を両手で覆いながら床の上で痙攣するスタークを無視して、チエは口を開ける。

 

「……………私はこの茶番に付き合わせられる為に、連れて来られたのか?」

 

「あ? んなワケ無いじゃんか!」

 

「……少しお前と『話したい』と思った。」

 

 痛みが引いたのか、スタークは起き上がってチエを真正面から見る。

 

「お前からは、俺()()()()()()がする。」

 

「……」

 

 黙ったままのチエを見て、スタークは手袋を外す。

 

 そして露わになった手の甲には番号のタトゥー。

 

「そういえば正式な自己紹介がまだだったな。 俺は『コヨーテ・スターク』。 

 一応、『第一十刃(プリメーラ・エスパーダ)』の座を授けられている。 んで、あっちのうるさいのは『リリネット』だ。」

 

「そうか。 邪魔したな────」

 

 チエは踵を返し、出ていこうとするとスタークが口を開ける。

 

「────そのままお前が出ていったら()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 その言葉に、チエはピタリと歩くのを止めた。

 

「それはお前にとっても、()()()()()んじゃねぇか?」

 

「……何が目的だ?」

 

「俺が頼まれたのは『然るべき時までの足止め』だ。 聞くところ、アンタのお仲間たちはまだ虚夜宮に居るんだろう? ここで俺と『今』、ドンパチやるのはアンタも不本意だろう?」

 

「……その『然るべき時』とは、何時の事だ?」

 

 チエが再び振り返ると、スタークはどこからか出したテーブルと椅子に座って、リリネットが渋々とお茶などを出していた。

 

「『()()()()()()()()()()()()()』だ。 それと、アンタ宛に伝言もある。 『()()()()()をしなければ、()()()()()()()()()()()()()()』との事だ。」

 

「……そうか。」

 

 スタークは上記のことを何とも無いように言い、チエも何とも無いような事みたいに答えた。

 

 この平和な(?)膠着状態が続くのは、あともう少しの事である。

 

 頑張れ短気の従属官(リリネット)

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 景色と時間はもう一度移り、ちょうど一護(と未だに引っ付いて来たネル)が走っている通路の中で、立っていたウルキオラと鉢合わせていた。

 

 そこで一護は先ほど()()()()()()()()()()()()()()()()()で心配していたところに、ウルキオラは『彼女(ルキア)は死んだ』ことを一護に告げる。

 

 ただ一護はこの言葉に激怒せず、一護はすかさず『先手必勝』の『短期決戦』に卍解の上にすぐさま虚化し、『月牙天衝(げつがてんしょう)』をウルキオラに放った。

 

 ウルキオラは一護の変化とパワーアップに戸惑いながら、両手を使って『月牙天衝』を受け止めていた。

 

 ここまでの展開は『原作通り』と言えるだろう。

 

「(両手を使っても止められなかったとはな。 それに霊圧はまるで、俺達(破面)と同じ────)」

 

『月牙天衝』からの余波で、舞い上がった砂煙の中で上記のことを考えていたウルキオラに、追い打ちをかけるかのように一護がウルキオラの眼前に迫って彼の身体の中心点めがけて拳を放つ。

 

 ドッ!

 ミシミシミシミシッ!

 

「────ッ!」

 

 鈍い音と、かすかに目を見開いたウルキオラの耳朶に何かが崩れようとした音が響いて、彼は更に虚夜宮の壁に吹き飛ばされる。

 

 バリィン!

 

 ザクッ。

 

「はっ…はっ…はっ…はっ………」

 

 虚の仮面がひび割れて、その中から疲労による大量の汗を出し、肺の要求に追いつかない息遣いをしていた一護が股をつきそうになるのを、彼は黒い斬魄刀を床に突き刺して寄りかかる。

 

 今のが現在の一護の、正真正銘の『全力』。

 

 卍解に虚化した上で『月牙天衝』を使って敵のガードを貫通(もしくは油断を誘う)、そして防御したことによって巻き上がった煙などで視界が遮られている間にチエから教わった『白打』による渾身の追撃。

 

「い゛じご~~~~~~~!」

 

 ネルが泣きべそをかきながら一護の名を呼び、彼の立っていた場所へトテトテと走り出す。

 

「ッ?! ネル!」

 

 カッ!

 

 一護は一瞬だけ気を緩めたが、まるでその時を待っていたかのように緑色の光線が一護に迫る。

 

「(クソ、『虚閃』か! しかもネルを狙いやがって!)」

 

 射線上の関係で彼とネルを同時に狙ったそれを、一護は痛む体に鞭を打ってさらに虚の仮面を被る。

 

 一時的なブーストにより一護は右腕にネルを担ぎ上げ、背中と体の左半身が『虚閃』に焼けながらも虚夜宮の外へと半ば吹き飛ばされることを利用してその場を離脱しようと砂漠の上を駆ける。

 

「ネル! 返事をしろ!」

 

 一護は走って、腕の中でぐったりとしたネルの心配を────

 

「────他人の心配とは、余裕だな『死神』。」

 

「ッ!」

 

 ドン!

 

 両方の腕を少々損傷したウルキオラが一護の真横に現れ、彼を虚夜宮の方向へと蹴り飛ばす。

 

 ネルを体で庇ったため、一護は受け身を取れずにそのまま建物の壁を突き破って落ちる瓦礫の中を転ぶ。

 

 表情を変えないウルキオラがケガをした一護のそばまで一気に距離を詰める。

 

「……さっきの『仮面』。 ()()()一瞬で砕けたな。」

 

 ドスッ。

 

 ウルキオラは人間でいう、『心臓』部分に突き立てられた一護の斬魄刀を横目で見る。

 

「……なぜ諦めない?」

 

「……ハッ。 『諦める』…だぁ?」

 

 一護はさっき蹴られて回る視界を無理やり無視して、不敵な笑みを浮かべてウルキオラを見る。

 

「ここまで来て……諦められるかよ。 『()()()()()()』のテメェを倒せば、この戦い……勝っt────」

 

 ガッ。

 ビリビリビリビリ。

 

 ウルキオラが斬魄刀を掴んで、自分から外したはずみで彼の胸に刻まれた番号を見て一護は唖然とする。

 

「『4』……だと?!」

 

「期待外れか? 生憎、俺は『№1(プリメーラ)』では無い。 第4十刃(クアトロ・エスパーダ)の『ウルキオラ・シファー』。 それが俺の名だ、『()()()()』。」

 

 初めてこの二人が相対した時以来に、ウルキオラは一護を名呼びにした。

 

 ドッ!

 

 一護の胸に手刀を、彼が埋め込みながら。

 

「……ガフッ?!」

 

 一瞬のショックの後、一護は自分の口内に喉の奥から登り上がる()の味がするのを遠ざかる意識で感じた。

 

「(クソ、こんなに……あっけなく……)」

 

「残念だったな。」

 

 ___________

 

 クルミ、織姫、雛 視点

 ___________

 

「ッ?!」

 

 織姫の体が『ビクリ』と跳ね、それにビックリしたのか目の死んだままの雛森の肩が跳ねる。

 

「……黒崎……くん?」

 

 クルミは見ているもの、または肌で感じているものが信じられないような顔の織姫を見て部屋のドアを見る。

 

 ガチャガチャッ!

 

 ドアの取っ手(内側には無いが)が捻られる音がする。

 

『あ? メノリ! 鍵まだかかってんじゃん?!』

『っかしーな、これで開く筈なんだけど……』

『中から鍵をかけているとか?』

『囚人部屋に内側からかけられる鍵なんてあるワケないでしょ、ロリ?』

 

 ガチャガチャガチャッ!

 

「(やはり来ましたか。)」

 

 部屋の外から聞こえた声の主たちは「藍染の側近(自称)」の『ロリ・アイヴァーン』と『メノリ・マリア』。

 

 この二人はメスの波面で、自分たちが崇拝している藍染(様)が織姫たちを『特別扱い』にしていたことが気に入らず、ウルキオラやいつもいる筈の『葬討部隊』がいないことを知った上で『お邪魔』しに来ていた。

 

 もちろん、()()()妬みである。

 

 ドンドンドン!

 

『おい! ここを開けろテメェら!』

 

「え? え? え? 部屋に鍵……出来たっけ?」

 

 誰か(おそらく嫉妬深いほうのアイヴァーン)が部屋のドアを叩いて、織姫はオロオロする。

 

 その間クルミは涼しい顔で窓の近くで刃物とも呼べない、申し訳程度の刃が付いた果物ナイフでリンゴっぽい物の皮を削いでいた。

 

「「(開けるワケないじゃないですか、バカなのですか(バァカ))」」

 

 そこで新たな声がドアの向こう側から聞こえた。

 

『どけ。』

『誰────?!』

『グ、グリ────?!』

 

 ────ドォォォン!

 

「キャッ?!」

 

「ッ。」

 

「(こちらも来ましたか……意外とこれ、しょっぱいですね。)」

 

 大きな爆発が織姫たちのいる部屋のドアを粉砕する。

 

 織姫が飛び散る破片から顔を守り、雛森は体をビクリとしてからゆったりとした動きで爆発の方向を見て、クルミは果物ナイフを部屋のテーブルの上に置いてから距離を置く。

 

 尚リンゴと思われる物は見当たらず、クルミは口をモグモグと動かしていたので食べたと推測出来た。

 

 ドアがあった向こうにはポカンとしながら腰を抜かせたアイヴァーンと、驚愕のメノリ。

 

「よぉ、邪魔するぜぇ。」

 

 そして────

 

 何故よりにもよって次郎(アーチャー)なのですか。*2

 

 ────一護に付けられた胸の傷を残したグリムジョーの声を聴いたクルミはどこぞのニヒルな弓兵(アーチャー)を思い浮かべていた。

 

「あ? 誰だ、それ?」

 

いえ。 ()にお構いなく。

 

 ここで破面のアイヴァーンが口を開ける。

 

「グリムジョー! あんた、何しにこ────ごッ?!」

 

 彼女はグリムジョーのヤクザキックで腹を蹴られ、これにメノリが激怒して両手に籠手みたいなものを装着して彼に殴りかかる。

 

「グリムジョー! てm────?!」

 

 ガシッ!

 ドゥ!

 

「────『どけ』ってんだろうが。」

 

 グリムジョーがメノリの拳を掴んだと思えば、彼女は赤い虚閃で頭を含めた右半身が吹き飛ぶ。

 

「グ、グリムジョー……アンタ、こんな事を私たちにして…藍染様が黙って────?!」

 

 ガッ。

 

「────え?」

 

 足を掴まれ、メリメリとした音と激痛がアイヴァーンを襲い、これから起こるであろう出来事に彼女の血の気が引いていった。

 

「ちょ、ちょっと! や、やめ────!」

 

 ブチッ。

 

 アイヴァーンが痛みと怒りと畏怖のこもった叫び声をあげている中、グリムジョーは彼女の足を横に放り捨ててから彼女の頭を蹴る。

 

「け、てめぇら如きに藍染様が動くかよ。 オイ。」

 

 グリムジョーは織姫をまっすぐ見る。

 

「文句は言わせねぇ、俺の用事に付き合え。 そこの女どもも来たけりゃ、勝手について来い。」

 

「ど、どこへ?」

 

 そのまま部屋を出ようとしたグリムジョーに織姫が問い、彼はぴたりと止まってイラつきを隠そうともせずに彼女へ振り向く。

 

「『黒崎一護』ンとこだ。」

 

 織姫は立ち上がって、意識を手放しそうなアイヴァーンの足を物理的にくっつけて『双天帰盾』を使う。

 

「……チッ。 テメェ(自分)をなぶりに来たこいつらを、普通に治すヤツがいるか?」

 

 アイヴァーンに続き、今度は瀕死状態のメノリも()()()()()

 

 これにいつもは高圧的な態度のアイヴァーンも言葉をなかった。

 

 そしてグリムジョー達が出ていく際、誰も気づかなかったがテーブルの上にあった筈の果物ナイフがどこにも見当たらなかった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「黒崎君!」

 

 織姫は地面に横たわっていた一護に駆け寄り、壊れた柱の後ろでビクビクしていたネルがドカッと近くに座るグリムジョーに怯えていた。

 

 織姫が一護の傷を治し始め、これを見たネルが彼女に悲願し始める。

 

「ぜ、ぜんぶネルの所為なんス! 一護を助けてほしいっス~!」

 

 どうやら恐怖に申し訳なさが勝ったようだ。

 

黙ってろガキ。 黙ってても治るから見てろ。

 

「は、はひぃぃぃ?!」

 

 テクテクとぎくしゃくな足取りでネルは近くのクルミの後ろに隠れそうになるが、最後の最後でゾンビのような雛森の後ろに隠れる。

 

「…………………ぅ。」

 

 一護の指がピクリと動き、彼の死んでいた眼に生気が宿り戻す。

 

「黒崎君?!」

 

「うるせぇぞ! 早く治せ!」

 

 グリムジョーを見て一護がびっくりする。

 

「お、お前はグリムジョー?! なんでテメェがと井上たちと────?!」

 

「────テメェも黙って治されてろ! 俺は獲物のテメェと無傷の状態でケリをつける為に謀反スレスレの行為をしてんだ!」

 

「お前────ッ!」

 

 一護がグリムジョーの後ろを見て目を見開く。

 

 雛森はサッとクルミの後ろに隠れる。

 

 グリムジョーの頬を、湧き出た汗が伝う。

 

「何をしている、グリムジョー。」

 

 そこに現れたのはウルキオラだった。

 

「聞こえていないのか? ()()()()()()()を治すほかに、藍染様から預かっている女も連れだして?」

 

「……へ! どうしたウルキオラ? テメェ、今日は随分とお喋りじゃねぇか?」

 

「…………………」

 

「ダンマリかよ! 知っているんだぜ俺は! テメェは俺とつぶし合うのが()()ぇんだ!」

 

 そこからグリムジョーはウルキオラに襲い掛かり、両者は激しい攻防と『虚閃』の撃ち合いを始める。

 

 そしてグリムジョーが小さな紫色の『箱』のような物体をウルキオラの『虚の孔』に入れるとウルキオラは『黒腔(ガルガンタ)』のようなものの中へ消える。

 

「……これで少しは時間を稼いだ。 早く一護を治せ。」

 

 グリムジョーが使ったのは『反逆の匪(カハ・ネガシオン)』という道具で、『十刃』が部下の波面などを処罰する為に藍染が支給したもの。

 

 だがもともと『十刃』相手に使用を想定していない代物なので、ウルキオラはいずれ力ずくで戻ってくる前にグリムジョーは全快した一護との決着をつけるつもりだった。

 

 だが織姫は動かなかったことに、グリムジョーに睨まれる。

 

「何をしている? 早く『治せ』ってんだよ。」

 

「……い────」

 

『嫌です』。

 

 織姫はそう言おうとしたが、先に一護が横から口を挟む。

 

「────治してくれ井上。 そして俺の治療が終わったらグリムジョーもだ。」

 

 グリムジョーが先ほどウルキオラとの交戦で受けたケガを一護は見ながらそういった。

 

「あ? テメェに情を掛けられるほど────」

 

「────『()()()()()』での試合と行こうじゃねぇか、グリムジョー。 それとも、負けた時の言い訳に傷を取っておくか?」

 

「……………………ハッ!」

 

 グリムジョーが愉快そうに、昂った獣のような笑顔になる。

 

「言うじゃねぇか、一護。」

 

 一護とグリムジョーの二人の()合が始まるまで、約300秒。

 

 そしてリカは何故か頭を抱えていた。

 

「う、うーん。 (この二人の声と状況……金髪と青髪……う、頭が……)」

*1
73話より

*2
作者の他作品、『天の刃待たれよ』より




作者:寝る。

市丸:……は? それだけなん? ってホンマに布団引いて寝よった?! ……どないすんねん今回の後書きコント?

アーチャー(天の刃待たれよ体):む? なんだね君は?

市丸:なんやこれ?! グリムジョーと同じ声やさかいな! 面白いなぁ~。

アーチャー(天の刃待たれよ体):……『爬虫類』で言えば、君は『葉柱ル〇』だな。

市丸:誰、それ?

アーチャー(天の刃待たれよ体):アイ〇ールド21の『カメレオンズ』の主将だ。

市丸:?????????


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第78話 勝ち負けと『独り』

お待たせしました、次話です。

少し短いですが、キリが良いところだったので許してもらえますと助かります。 (汗

楽しんでいただければ幸いです!




何気に体の調子がまだ悪いのは(あまり)関係ありません (汗汗

9/13/21 8:19
誤字修正しました。


 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 ドォォン!

 ギギギギィン!

 ガガガガガッ!

 

 全治した一護とグリムジョー(強者たち)

 

 二人の攻防の余波は遠くにいて『三天結盾』を展開しても尚、聞こえる地鳴りや感じ取れる空気の響きなどが織姫たちにどれほど激しい戦いか容易に想像させていた。

 

 全身が黒い服に、白い面をした一護。

 斬魄刀解放をして、猛獣の鬣を思わせる長髪になった青髪と体が獣人のように変化したグリムジョー。

 

 ()()()()全力の一護とグリムジョーの一撃一撃が、純粋な腕力のぶつかり合いのみで二人の周りにあった砂漠の地形が徐々に変わっていく。

 

「ははははははは! 良いぜ良いぜ良いぜ、黒崎一護ぉぉぉぉぉ! 『()()()()』と思っていたのが俺の思い違いで良かったぜぇぇぇぇぇ!」

 

「………………………」

 

 歓喜に狂ったように笑いながら襲い掛かる猛獣(グリムジョー)を前に、経験のあるトレーロ(マタドール)のように一護は黙り込んだまま、斬魄刀の小刀版を思わせるグリムジョーの黒くて鋭い爪からの攻撃を自身の斬魄刀で受け流し続ける。

 

本来(原作)』とは少々違う()()が、そこにあった。

 

 黒崎一護は『優しい』。

 いかに強力な力や能力に目覚めても、彼は極力『相手を気遣う』趣向がある。

 

 例えば、虚を呼び寄せる『撒き餌』を使って周囲を脅威に晒すという、非常に危険な行為で『雨竜を殴る』と言っても結局は共闘(利害の一致)の末に元凶(雨竜)を殴らなかった。

 

 ルキアを助ける為に、瀞霊廷に乗り込んだ時に放って置けば死ぬほど重傷の傷を負った一角の治療や、彼の『相手を退ける』ことに特化した戦闘スタイル。

 

 自分やネルの命を狙ったドン・パニーニ ドルドーニを死闘の末、彼を治療したりなど。

 

 ()()()『原作』のままだった。

 

 一つ違いがあるとすれば、彼は幼少の時から『全力を出せば相手を()()()()()()()()()()()()()()()()()』といった、無意識的な『手加減』という()を彼は心の中でしていた。*1

 

『現時点』での一護は実力的に見れば()()

 

 それは彼が初めて一角(人型)と戦った時に(始解の『本気』とはいえ)、『本業の死神』をほぼ一方的に圧倒出来たことや(子供の頃とは言え)、()()有沢たつきに『空手で勝てる』自信があったなどでお分かりになるだろうか?

 

 だが、彼はもともと普通の人間、()()()15歳の少年。

『優しい』本質の上に、比較的『平和な現世(日本)』で育っただけに『殺生モノ』には疎い。

 

 そんな彼がなぜ今、グリムジョー相手に『本気を出せる』かというと理由は実に単純。

 

 グリムジョーが『6』で、(一護が手負いとはいえ)強烈な一撃を喰らっても深手にならなかったウルキオラが『4』という事が彼の中で判明したからであった。

 

 つまりは『()()()()()()()()()()()()()()()()』。 

 イコール、『自分がどこまでの力を出せるか』という好奇心と、『試合(戦い)の礼儀』を身につけていた一護の心構えが重ね合った結果だった。

 

(グリムジョー)が自分と対等な(全力の)勝負を挑む為に治療をした(井上を連れて来た)』。

 

 ならば、(グリムジョー)が望むような戦いをするのが『せめてモノ礼儀』と一護は考えていた。

 

『そうしなければ、相手を侮辱することなる』と彼は以前、『師』と自分が(心の中で)呼ぶ者から聞いたことがあった。

 

 だが────

 

「(ヤベェ、()()()が見えねぇ。 『仮面』の方もそろそろヤバイ、か…)」

 

 ────解放状態のグリムジョーに『勝つ』ビジョン(想像)が、一護には見えなかった。

 

 力も、技術も、能力も()()対等なのは今までの攻防で分かった。

 

『なら、差はどこで決められる?』、と一護は焦りながら考えていた。

 

 そこに背後からの声と言葉に一護は死闘の真っ最中というのに、思わず呆けて(グリムジョー)から目を離した。

 

 ()()()()()、黒崎君!」

 

 織姫の声だった。

 

 先ほどからネルも何かを叫んでいたが、一護はそれに耳を傾ける余裕はなかった。

 

 が、織姫の声だけは不思議と心まで響いたのを一護は感じた。

 

勝たなくていい………無理をしなくていい………

 

 

 

 

 でも………()()()()()!」

 

「(…なんだ。 『勝ち筋』、()()()()()()()()。)」

 

「よそ見してんじゃねぇぇぇぇぇ!」

 

「(『死なないで』、か……)」

 

 ガシィ!

 

 一護は迫ってくるグリムジョーの腕を掴んで、無理やり止める。

 

「あー……()りぃな、グリムジョー。 俺、勘違いをしていた────!」

 

 ザシュゥ!!!

 

 一護は一瞬だけひねり出せる、体のすべての霊力を卍解状態の『斬月』に集めてグリムジョーに、前回につけた傷よりさらに深い傷を負わせる。

 

「────ガッ?! 俺を! なめるなよ、一護ぉぉぉ!!!」

 

 ザクゥゥ!!!

 

 グリムジョーも負けずと、一護に掴まれていないもう片方の手を一護の脇腹に深く埋め込む。

 

「グ、グリムジョー!」

 

 「俺は! 『王』だ!」

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 さて、ここで少し『虚の生態系』と『グリムジョー』自身に関してのおさらいと補足をしようと思う。

 

 少し長くなるかもしれないが、付き合って欲しい。

 

 数多の魂を喰らって成長した虚は『大虚(メノス)』、正確にはその中でも最下級兵の『ギリアン』になる。

 

 つまり『ギリアン』は多くの魂の集合体なのだが、まれに『個』を持ったままの『ギリアン』が生まれ、それらは更に他の『ギリアン』を喰らう。

 

 その過程でさらに進化する形態が『アジューカス』、次なる『大虚の進化段階』。

 

 が、その情報には()()誤りがあった。

 

『アジューカス』は『中級大虚』とされているが、実際は『進化できる可能性を持った最下級大虚(ギリアン)』で、見た目が『ギリアン』とは大きく違うので方便上『アジューカス』と呼んでいるだけの事。

 

 このように、『アジューカス』は『個』を得たまま他の『ギリアン』を喰らって姿を変えたが『魂の捕食』は止まるわけではない。

 どちらかというと、逆に『加速』する。

 

 何せ彼ら『アジューカス』は『進化』、または『現状(アジューカス)維持』の為に、更にほかの『アジューカス』を喰うことを強いられる。

 

 喰わなければたちまち『退()()』が始まってしまうからだ。

 

『退化』が起きれば良くて『永久に進化することが出来ないギリアン』。

 悪くて『個』を持った()()()虚。

 最悪で『個』を失った『ギリアン』という、『退化』の名を借りただけの実質的な『個の死』。

 

 そんな環境の中、グリムジョーや他の破面は長い(とき)を過ごしていた。

 

 ほとんどは群れを作って生活をするが、まれに強い個体がでて彼ら彼女らは単身での生活が多い。

 

 そしてその中でも圧倒的な強さを見せたグリムジョーは、周りにいた『進化する見込みのない』または『退化』が始まった『アジューカス』達に『(リーダー)』と勝手に祭り上げられていた。

 

 以前、空座町に姿を見せたグリムジョーの従属官だったシャウロン・クーファン、エドラド・リオネス、ナキーム・グリンディーナ、イールフォルト・グランツ、ディ・ロイ・リンカーたちもこれに含まれる。*2

 

 それまでグリムジョーは『己』にしか関心は持たなかったが、周りから期待されることに対して気が悪くならなく、それを受け入れた。

 

 そこから彼の虚圏での生活に、『刺激』が続いた。

 

 彼の噂を知った他の『アジューカス』が襲ってくる、またはグリムジョーが襲う『闘争』の日々。

 その中でもグリムジョーが嬉しく思ったのは『己の生を実感させる獲物(強敵)』の登場。

 

 だから彼は、自分が久しく認めていなかった獲物(一護)が『本気を出して戦う』ことを、嬉しく思っていた。

 

 

 そんな一護(強敵)が『勘違いした』と言いながら、()()()()()()()ことにグリムジョーが激怒することは不思議でもなんでも無い。

 

 相手にその気がなく、『一護は“勝つこと”より“生きること”を選んだだけ』と言っても信じないだろう。

 

 ある意味『似た者同士』の二人だが、その方向性が少し違っていた為に『同族嫌悪』に似た無自覚の動機が一護とグリムジョーたちを動かしていた。

 

 

 ___________

 

 一護、グリムジョー 視点

 ___________

 

「『豹王の爪(デスガロン)』!」

 

 二人は距離をとったと思えば、今度はグリムジョーが空中に霊圧の刃のようなものを十本結成した。

 

「こいつぁ、俺の最大の技だ! 俺を()()()ことを後悔させてやるぜ、一護!」

 

 バキッ!

 

「(クソ! こんな、仮面が割れ初めている時にッ!)」

 

 一護は無視できないほどに悲鳴を上げ始めた身体で、グリムジョーの操る霊圧の刃を『斬月』で受け止める。

 

「俺は! 俺『王』なんだ! ()()()()()()()!」

 

 グリムジョーの攻撃に後退(あとずさ)っていた一護は踏ん張りを利かせようにも、足がズルズルと後方へ押されていく────

 

 ガリガリガリガリガリガリ!

 

「ぬ、グゥゥゥオオォォォォォ!」

 

「な、バカな?!」

 

 ────筈だった。

 

 後ろに下がるどころか、一護は()()していた。

 

 一護は足の裏に霊圧を込めて、彼は『瞬歩』のときに『体を強化する』という過程の技術を応用してゴリ押し気味に真っ向からグリムジョーへ近付いていった。

 

 バキッ!

 

 その時、グリムジョーが飛ばしていた『豹王の爪』に亀裂が現れる。

 

「俺は! ()()んだ!」

 

「一護! テメェ────!」

 

「────俺を! 『俺たちの帰り』を待っている奴らがいるんだ!」

 

 一護の脳裏に浮かんだのは空座町の住人達と、瀞霊廷で知り合った知人たち。

 

「その俺が! お前ひとりに()けるワケにはいかねぇんだ、グリムジョー!」

 

 バキン!

 

 ついに『爪』が割れてグリムジョーの胸に一護の斬魄刀が深く突き刺さる。

 

「(クソッ……タレが……)」

 

 グリムジョーが追いついた傷や体の負担に意識を委ねようとした時に、彼の腕が一護に掴まれて優しく地面に置かれた。

 

「(グリムジョー…………サンキューな。)」

 

 一護は心の中で、『勝ち』という定義に対しての思い違いを気付かせたグリムジョーに感謝をする。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「よ、井上。」

 

 一護は出来るだけ『いつもの調子』を出して織姫たちのいた場所に戻っていた。

 

「皆、ケガしていねぇか?」

 

「う、ううん! 私たちは大丈夫………だよ?」

 

 織姫が一瞬気まずい間を入れ、一護はチラリと彼女の後ろに隠れていた雛森を見た。

 

「………あー、成程な。 通りでチエの奴が珍しく()()()来たがっていたワケだ。」

 

「…………………………え?」

 

 チエの名前を聞いてわずかに雛森の死んだ目にハイライトが戻り、彼女が初めて顔を上げた。

 

()()……………が、ここに……ですか?」

 

「ッ?! あ、ああ。 その筈だぜ?」

 

 ここで初めて雛森の酷い様子に一護が思わずドン引きしそうになったが、何とか踏みとどまった。

 

「あと渡辺の遠縁の奴らとかも。」

 

「そう…ですか。」

 

 以前の自分が知っている彼女から今の豹変ぶりに一護は『本当に同一人物か?』と思わせたが、先ほど幼馴染の生エアが出て反応したのを考えながら彼はその方針で話を続ける。

 

「よっぽどチエに思われているんだな、アンタ?」

 

「………そんな、私なんて…」

 

「アイツ、仏頂面でぶっきらぼうで言葉が少ないってのも引けるぐらい無口だけどよ? 『自分から何かする』ってのは、かなり珍しいことなんだぜ? 何せ、10年間一緒にいた俺でも片手で数えられるほどだ。」

 

「「え?」」

 

「(ほう。)」

 

 このことに雛森と織姫が声を出して(そして近くのクルミも内心で)興味を示した。

 

「???」

 

 なお、ネルは『誰のことだべ?』と言いたいような表情でただ?マークを出していた。

 

「ああ。 大方、アンタに『井上のことを任せる』とでも言って、これ全部に巻き込まれたんだろ? それは言い換えれば『私の代わりに任せた』と言ったようなもんだぜ?」

 

「そ、そんな………私なんかに、()()がそんな期待を────」

 

「────じゃあ、今度聞いてみたらどうだ? よっと。」

 

 ドサ。

 

 一護が織姫を肩に担ぐ。

 

「え、ええええええ?! ちょ、ちょっと黒崎君?!」

 

「な、何してるだ一護?!」

 

「え? 何って、こっから降りるんだよ。」

 

 一護は織姫たちがいた、ボロボロになりつつあった塔の屋上を見ながら織姫とネルに答える。

 

「で、でも────!」

 

「────そうっス! 担ぎ方ってモノがあるんs────!」

 

「────私、重くない?!」

 

「………………」

 

 ネルは自分が思っていたことと違うことを指摘した織姫を何とも言えない、『ホゲ~』とした顔で見る。

 

「ん? 思ったほどじゃねぇよ────」

 

 ゴズン!

 バシィ!

 

「ゴハ?!」

 

 ネルが一護の股間近くにキツイ一発を食らわせ、クルミが彼の頭をはたく。

 

「て………テメェら……」

 

「レデーになんて失礼ことを言うっスか?!」

 

「そうです。 そこはかとなく『軽いぜ。 フッ。 (キラッ✨!)』とでもカッコつければ良いんです。」

 

「ええええ────?」

 

「────そうだス! たとえ本当に重くても『軽い』とでも答えるべきっス!」

 

「えっと────」

 

「そうです。 たとえ重くても、です。」

 

「…………なんか悲しくなってきた……」

 

 ネルとクルミの悪気ゼロ(???)のレディー正論に、織姫は無数の冷や汗を出す。

 

 そのハプニングの後、ネルと織姫を担いだ一護と(どこか気まずい)雛森を担いだクルミが塔の上から砂漠の上に降り立つと荒い息をしていたグリムジョーが待っていた。

 

「い…………一、護…」

 

 バシュゥゥゥゥゥ!

 

 霊圧が底をついたのか、グリムジョーの解放状態が独りでに解除して、彼はいつものリーゼント不良の見た目へと戻る。

 

「ま、まだだ。 俺は…まだ────!」

 

「────もうやめろ、グリムジョー。」

 

「あ?」

 

「テメェが『王』だがなんだか知らねぇが、そうやって片っ端から周りの『気に食わない奴ら』を潰して…()()()()()()()()()()()()になって何になるんだ?」

 

「……うるせぇよ……」

 

「俺は理解できねぇかも知れねぇが、()()()()()()()()ってんなら何回でも戦ってやるよ…………だから、今は────」

 

「────ざけんなよ! テメェは────!」

 

 ザクッ!

 

「────グッ…」

 

 その時、大きな鎌のような武器がグリムジョーの体に食い込む。

 

「────なに敵に情を掛けられて話し込んでんだ、グリムジョー?」

 

「グ、グリムジョー?!」

 

 一護が鎌の先を見ると、その先は細身のノイトラが立っていた。

 

「あ、あぁ……うぅぅぅ……」

 

 そしてどこか恐怖と痛みが混ざり合ったようなうめき声をネルが頭を抱えながら出す。

*1
18話などより

*2
59、60話より




作者:寝る。

アーチャー(天の刃体):またかね?!

弥生(天の刃体):ご飯できたよ~♪ 

作者:Zzz…

弥生(天の刃体):ってありゃ、寝ちゃってるよ。

アーチャー(天の刃体):はるばるここまで君を来させてな。

弥生(天の刃体):……………

アーチャー(天の刃体):何だね、その邪悪な笑みは?

弥生(天の刃体):二人きりだね♡

アーチャー(天の刃体):…………………

弥生(天の刃体):あ、赤くなった! 面白~い!

アーチャー(天の刃体):クッ、女難の相が!


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第79話 The [Opportunistic] Vulture

次話です、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 衝撃で地面に力なく倒れたグリムジョーが、新たな破面に何時もの覇気が無くなった睨みを送る。

 

「ノイ、トラ………」

 

 ノイトラは何時もの薄笑いではなく、ただイラついた顔でグリムジョーを見下す。

 

「グリムジョー、十刃の中でも『俺と似た奴』ということで少しは買っていたが……思い違いだった────」

 

 ジャラジャラ、ガキィン!

 

 鎖の音とともに鉄と鉄がぶつかる、耳をつんざくような音がノイトラの近くに現れたクルミの(短剣)をノイトラが防いだことによって発生する。

 

「───チィ、()()()女か!」

 

 器用な動きで距離を置き、腰を低くして構えるクルミをノイトラが睨む。

 

「テメェ…()()()と似てんな。」

 

「……………井上を頼みます、一護───」

 

「───ぁ───」

 

 ヒュッ!

 ドォォォォン!!!

 

 ノイトラが消えるかのように大きな鎌……………ではなく、ついた鎖の方でフェイントを入れた後、クルミは迫りくる鎌を短剣で受け止めて大きな衝撃音と砂が舞い上がる。

 

「───クッ! (やはり中々の腕力ですね!)」

 

「テメェ、女のクセに生意気なんだよ! あの()使()()のようになぁ!」

 

 ギ、ギギギギギギギ!

 

 ノイトラがさらに力を入れるとクルミも同じことをしたのか、武器が軋むような音を出す。

 

「『槍使い』? …………なるほど、『カリン』のことですか───」

 

「───!!! テスラァァァ!」

 

 ノイトラの目が見開き、彼の叫びに従属官のテスラが織姫たちに背後から急激な速度で迫る。

 

 ギィィン!

 

「させっかよ! 井上、そこから動くんじゃねえぞ! 『三天結盾(さんてんけっしゅん)』も張ったままにしろ!」

 

 手負いの一護がテスラを退(しりぞ)け、その間にも鎖付き鎌、そして鎖付き短剣を使うノイトラとクルミはどこか似たような動きで互いを攻撃する。

 

「やっぱりな! テメェ、アイツ(カリン)の知り合いか?!」

 

「姉妹ですが? (設定上の。)」

 

「そうかよ!」

 

 愉快な笑みを浮かべ、襲ってくるノイトラを見ながらクルミは考え込む。

 

「(クルミ姉さま、相手も『強襲型』のようです。)」

「(ええ、どうしようかしら?)」

「(やはりここは『アレ』が覚醒するまで粘るのが良いのでは?)」

「(…………………だったら()()痛い思いをするかもしれないけど、アネットはそれでも良いかしら?)」

私は元々、『ここ』では()()のような身ですので。

「(そう。 ならその方針で行動するわ。)」

 

 そこからノイトラとクルミの攻防に少しずつだが、変化が生じる。

 

 クルミは()()()気を取られていたのか、彼女の防御が崩れ始め、彼女の服と体に生傷が段々と増えていった。

 

 その間一護のほうもグリムジョーとの戦いのすぐ後だったので、彼も凡ミスなどからクルミと同じく傷だらけになっていく。

 

 そしてこれを見ていたネルが更に苦しむような息遣いをしていく。

 

「…………気になるかよ?」

 

 戦いの真っ最中というのに、視線を時々ネルへと向けるクルミを見たノイトラは、笑みを浮かべながら彼女を挑発する。

 

「……………」

 

「『ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク』、アイツが『()()()()()頃の名前だ。」

 

 ガシッ!

 

 気を取られ、ついにクルミの腕がノイトラに捕まると、彼女は短剣をもう一つの手で突き出す。

 

 ガッ!

 

 だが刃は食い込まず、鈍い音を出してノイトラの皮膚で止まる。

 

「け、この程度かよ。 避けて損、したぜ───!

 

 ボギッ!

 

「───ぁ?!」

 

 ノイトラが力を入れると鈍い音と、クルミが胸奥で押し殺そうとした、小さな叫びが口から漏れる。

 

 ゴッ!

 

「が?!」

 

 ノイトラがクルミを引き寄せて、頭突きを食らわせる。

 

 ゴッ!

 

「ぐ?!」

 

 頭突きを食らわせる。

 

 ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ!

 

 食らわせる、食らわせる、食らわせる、食らわせる。

 

「クルミちゃん!」

 

 その行為は、まるで痛がる獲物をワザといたぶりながら楽しむ猫のようなもので、とても見るままでいられなかった織姫がクルミの名を無意識に叫ぶほど。

 

「どれだけの奴らかと思えば、とんだお人よしの集団だな! 『元十刃』のネルを引き連れて! いや……こいつに騙されて、『あわよくば俺を弱らせよう』って魂胆かぁ?」

 

「「え?」」

 

 ノイトラの言ったことに織姫と一護が思わず頭を抱えながら震える少女を見る。

 

「う、うそっス。 ネルが……『十刃』だなんて…」

 

「……………はぁー。」

 

 ノイトラがぐったりとしたクルミを投げ捨てて、彼女の体が地面に落ちる前に素早く織姫たちがいた場所に移動して、大鎌で織姫の結界を容易く割る。

 

 バリィン!

 

「きゃ?!」

 

「…………」

 

「だったら頭を()()()()割って、思い出させてやらぁ!」

 

 ボンッ!

 

 ひるんだ織姫と、無反応の雛森の前に出ていたネルをノイトラが蹴ろうとして、テスラと戦っていた一護が彼の足を受け止めていた。

 

「ハハハ! 『騙された』ってのに庇うのかよ?!」

 

「い、一護…し、信じてほしいっス! ネルは……ネルは騙してなんか────!」

 

 ネルは悲願するかのような声を絞り出す。

 

「────当たり前だ。 お前が俺たちをだ────」

 

 一護がネルたちの不安を下げようと軽い笑いを向けようとする。

 

 ゴッ!

 

「────ガッ?!」

 

 だがノイトラはそのまま一護が受け止めていたはずの足に、力を更に入れて彼のガードごと一護を横へ蹴り飛ばす。

 

「「一護!/黒崎君!」」

 

 ネルと織姫が一護のそばに駆け寄ろうとして、織姫はテスラに拘束する為に動く。

 

「…………何のつもりですか?」

 

 だが彼の前には虚ろな目をしたままブツブツと何かを言う雛森が立ちはだかった。

 

 織姫たちがいた部屋の粗末な果物ナイフを構えて。

 

「雛森ちゃん?!」

 

「んじゃ、()()()にするぜ死神。」

 

 ノイトラは地面で荒い息をする一護の右腕をつかんで力を入れる。

 

 メキメキメキメキメキメキッ!

 

「ぐ、ああああああああああ?!」

 

 「一護ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 ネルは叫びながら、周りの者たちの動きが一瞬止まるほどの霊圧を放つ。

 

「やっと戻ったか、()()()()!」

 

 小さなネルが、大人になった姿へと変わっていた。

 

 ガバッ!

 

「スキ()()です。」

 

「な?!」

 

 そしてテスラの背後にあった砂漠の砂の中からは、いつの間にか地面へと潜っていたクルミが現れて、彼女の()()()が彼の体に巻き付いてそのまま近くのまだ立っていた壁へと叩きつける。

 

 ドォォン!

 

「(それを言うのならば『スキ()()』なのではクルミ姉様?)」

「(あ。)」

「(クルミ姉様もやはり素は『上姉様』なのですね、フフフ。)」

「(う……)」

 

「ク、クルミちゃん?」

 

 織姫はただキョトンとしながら、シュルシュルとうごめきながら()()()()へと戻るクルミの髪を見た。

 

「何ですか、井上さん?」

 

「えっと……髪の毛が……」

 

「ええ、何か?」

 

「……………………」

 

 そして彼女は何事も無かったように振舞い、織姫は次の言葉を探そうとしていた。

 

 少女、『ネル・トゥ』。

 フルネームを『ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク』と言い、本来の姿に戻った『元第3十刃(トレス・エスパーダ)』。

 

 身長176cm、体重63kgでかなりのナイスバディの持ち主の上に布切れしかまとってないという目のやり場に非常に困る────コホン、失礼。

 

 ともかく。

 

 彼女は現役だった頃、当時の第8十刃(オクターバ・エスパーダ)だったノイトラ・ジルガを圧倒するほどの実力者だった。

 

 だがネリエルは実力の割に『戦士の戦いや殺生には明確にした“理由”が必要』という、ある意味虚圏(ウェコムンド)では『珍しい』を通り越しての『奇怪』な『理性的()()』を好んだ性格の持ち主。

 

 逆にノイトラは『敵は倒せる時に倒しておく』、『弱っている敵を狙う』といった行動主義者。

 

 そんな二人は会った時からの関係は悪かった。

 

 というか根本的な部分で『()()()()()』だった。

 

 毎日、ノイトラがワザと彼女を挑発して突っかかるほどに。

 

 その行動は、ノイトラがネリエルを()()()()()()していただけだとしても。

 

 そんな中、ネリエルはノイトラに歩み寄ろうとして彼の行動をたしなめたり、下手をすれば死にかねない状況になったら助けたりと、彼からすれば上から目線の言動でしかないのを知らずに動いたのがネリエル(女性)で、『メスが戦場でオスの上に立つな!』というノイトラの概念を作った張本人が彼女だったとしても。

 

 まぁ、()()()()と『()()』だった。

 

 そんな日々が続く中、最後にはノイトラが渋々と『十刃落ち』だった『変態マッドサイエンティスト』と手を組んで、ネリエルの従属官だったドンドチャッカとペッシェを瀕死の状態になるまでなぶってネリエルの動揺を誘い、ネリエルを罠に陥れてから彼女を背後から仮面ごと頭を割るほどの行動に出させた。

 

 そして頭と仮面を割られて、漏れ出した霊圧を出来るだけとどめる為に体が子供へと変わり、それが『ネル・トゥ』という少女が生まれた瞬間だった。

 

 その少女が今、『追い詰められていく一護たちを守りたい』という強い気持ちから本来の姿に覚醒し、以前の『第3十刃』としての力と記憶を取り戻してノイトラと対峙する。

 

『一護たちを守る』という、『戦う理由』を(かか)げて。

 

 そんな彼女は『第3十刃』らしく、一護からノイトラを無理やり引き剥がす。

 

「ブァ?!」

 

 そのムチムチな脚線美でノイトラの顔を真横から蹴って。

 

 その間にもネル(大人)は一護をノイトラから遠ざけ、彼を安心させる為に背中にある『3』の入れ墨を見せる。

 

「ネル、お前……その背中の番号────?」

 

「────少しじっとしてて一護。 

 

 

 

 

 

 ()()()()()から。」

 

 そこからネリエル(ネル)はノイトラを一方的に攻める。

 そんな中、ノイトラは舌を口から突きだして虚閃を撃つ。

 

 迫りくる虚閃を、彼女は避けるそぶりもなく片手で受け止めてそのまま口を大きく開いて、()()()()()()()()

 

『チュルン』とする効果音がよく合う、フルーツゼリーの如く。

 

「「「え゛。」」」

 

 織姫、雛森、クルミの三人がポカンと驚愕する。

 虚閃とは即ち『光線状に縮小した霊圧の塊』。

 それを『飲み込む』ということは『霊圧の爆弾』を口の中に含むと同じだった。

 

 無論、上記は雛森ととクルミはそう理解していたが織姫に至っては普通に『ビームを飲み込んだ』とだけ取っていた。

 

 がぁぁぁぁぁ!!!」

 

 次の瞬間何某怪獣のような、おおよそ女性が決して出してはいけない声と共に巨大な虚閃がネリエルの口から吐き出されてノイトラに直撃する。

 

 ドウッ!

 

「……………ネルって、こんなにスゲェ奴だったのか。」

 

 一護の口から思わず感想が出る。

 

「(成程、面白い()ですね。)」

 「(絶対にマネしないわよ?)」

 

 ネリエルがクルリと一護たちの方向へと振り向くその姿は可憐ながらも大人びた女性────

 

「いちごぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 ムニュン。

 

ほぎゃあぁぁむぐぅぅぅうう?!」

 

 ────から一転して、ネリエルは泣きそうな顔をしながら一護にタックルらしいハグをする。

 

 なお一護の顔は彼女の成長した姿に相応しい胸部装甲(デカパイ)に埋もれて彼は頭全体を真っ赤にさせながら押し殺された叫びを出す。

 

「一護ぉぉぉぉ! 良かったよぉぉぉぉ! うわ~~~~~~~ん!」

 

 さっきまでの様子はどこに行ったのか、天真爛漫な子供のように一護の周りに手をまわし、力の限りギュっとする。

 

 メキメキメキメキメキメキメキメキメキッ!

 

 無論、全盛期に近いネリエル(第3十刃)の力を入れた抱擁に一護が無事なわけもなく、不穏な音が彼の体から出始める。

 

「ね、ネルちゃん────じゃなくてネルさん?! 黒崎君が死んじゃうよ?!」

 

 この新しい出来事に一護の頭は健康的な(?)『赤』から完全にどう見ても不健康な『青』へと変わり始めたことに織姫が慌て出す。

 

 ガラガラガラガラ!

 

「そういや、テメェは『重奏虚閃(セロ・ドーブル)』が使えるんだった。 ()()()()()()()から忘れてたぜ。」

 

 瓦礫の中からそれほどダメージを受けていないノイトラを見ながら戸惑いが目立つネリエルに対し、彼は実にいい笑顔を向けながら言う。

 

「『相手の虚閃を吸収して、自分の虚閃を上乗せして飛ばし返す。』 確かに脅威だが……今の俺には効かねぇ!」

 

 ノイトラは自分の得物である鎌を肩に担ぎなおす。

 

「今度はテメェの脳天だけじゃなく、今では意味のねぇその背中の数字を剥ぎ取ってやる!」

 

 ネリエルは立ち上がり、斬魄刀を自分体の前で水平に構える。

 

「……謳え(うたえ)、『羚騎士(ガミューサ)』。」

 

 巨大な霊圧の壁がネリエルの周りを包囲して、中から出たのは半人半獣のケンタウロスを連想させるようなネリエルだった。

 

 更に斬魄刀がランスに代わっていたので、その姿はある意味文字通りの『人馬一体の騎乗兵』がしっくりと来るような見た目だった。

 

 ネリエルが斬魄刀解放────『帰刃(レスレクシオン)』をした彼女に対し、ノイトラの笑みは深くなる。

 

「いいぜ、ネリエル! とことん()ろうじゃねぇか!」

 

「ええ、終わりにしましょうノイトラ────」

 

 ポンッ。

 

「────うぶ?!」

 

 シャボン玉、または風船がギャグマンガの中で割れるような効果音が出るとネリエルが『ネル』へと戻って虚圏の地面に落ちる。

 

「あ、あれ? ネル……どうスて────?」

 

 

 キョロキョロと周りを見るネルに影が落ちる。

 

「────つまんねえな。」

 

 イラつきを隠さないノイトラがネルを見下ろしながら鎌を振り下ろす。

 

「「ネ、ネル!/ネルちゃん!」」

 

 一護と織姫が彼女の名を叫ぶ。

 

 「……()()()()()()()か。」

 

「え?」

 

 クルミの小さなに独り言に雛森はキョトンとする。

 

 「ドラッシャアァァァァァァイ!!!」

 

 ガイィィン!!!

 

「ッ?!」

 

「イデェェェェェ?!」

 

 ノイトラが振り下ろす武器の軌道に、何かの掛け声のようなものと、()()()()()()()()()が横から投げ出されて武器が当たる。

 

 だがノイトラの武器は食い込まず、鈍い音で弾き返された。

 

 「いよっしゃあー!」

 

 「イェーイ!」

 

 少し距離の空いた場所ではガッツポーズをするカリン。

 

 そして彼女の頭に乗っていた()()()()()()をした()()()()()が楽しそうな声を満面の笑みをしながら出す。

 

「おい! 何が『いよっしゃあー!』だ、この野郎?! オレを投げるたぁどういう了見だ?! ()()()もいつの間にかオレの背中からノコノコと脱出しやがって!」

 

「あ? 聞いても断っているだろ、お前?」

 

「ねー♪」

 

 「当たり前だコラァァァァァ!」

 

 ノイトラの武器が当たった背中をさすりながら大男は全く反省の色が無いカリンを怒鳴る。

 

「な……な……な……」

 

 一護が呆然とする。

 

「ん? よぉ女、久しぶりだな!」

 

「え、あ、ハイ。」

 

 声をかけられた織姫が思わず返事をする。

 

「ざ、更木隊長?」

 

 雛森が更木剣八(眼帯筋肉大男)を見て彼を名称で呼ぶ。

 

「ああ? おう、テメェは……………………えっと………………」

 

「『ヒナヒナ』だよ剣ちゃん!」

 

 更木は雛森を見て珍しく考えるが、すぐにやちるが答えを出す。

 

「ああ、五番隊の……うし、これで後は破面(アランカル)どもをぶっ殺せば完了だな。」

 

 更木はネルを持ち上げて織姫へと投げ渡す。

 

「どわぁ! レ、レデーになんてことするっスか?!」

 

「うるせぇよ、ガキ。 一護たちの知り合いっぽいから斬り捨ててねぇだけだ。」

 

「ま、まてよ剣八?! ソウル・ソサエティは……『防衛戦』をするんじゃなかったのかよ?」

 

「…………………」

 

 ボロボロの一護を更木が横眼で見てから答える。

 

総隊長(ジジイ)は浦原の野郎にいくつか指令を出していてな。 その一つが『隊長格でも安定した“黒腔(ガルガンタ)”で通行可能にしろ』ってよ。」

 

「???????????」

 

 更木の答えになっていない説明に一護は?マークを出す。

 

「ったく、頭()りぃなテメェは────」

 

「────なん……だと────?」

 

 更木の言ったことにショックを一護は受けるが、更木は彼のその様子を無視して説明を続けた。

 

「────曰く、『血の()が多い者を防衛戦に参加させても腐らせるだけじゃろ』とさ。 だから穴ぐら(ガルガンタ)が安定した今、オレ()()が送られたんだ。」

 

「そだよぅー!」

 

「えっと……やちる副隊長は?」

 

「『剣ちゃんがいるところにやっちーあり』だよヒナヒナ!」

 

 雛森の問いに、近くまでカリンと一緒に移動したやちるが答え、ここで一護が更木の言った何かに違和感を覚えた。

 

「……ん? 『オレ()()』?」




マユリ:いいネ! 実にいイ! あの筋肉だるまをもっと苦しませてくレ!

作者:Zzz……

マユリ:この私を前に眠るとは大した度胸だネ。

ネム:マユリ様、彼は熟睡している様子です。

マユリ:………………………………

ネム:マユリ様?

マユリ:なんでも無い、行くぞネム!

ネム:どこへですか?

マユリ:『科学者』と自称する愚か者のところだヨ。


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第80話 The Mad People

……………………(汗汗汗

お、お待たせしました! 次話です!

勢いで書きました! 楽しんで頂ければ幸いですぅぅぅ! (汗汗汗汗汗汗汗汗汗

あと、サブタイの"mad"は『怒り』と『狂った』のダジャレっぽいモノです。

9/17/21 8:43
誤字修正いたしました。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 放り投げられた筋肉だるま式の『盾』(更木剣八)がノイトラの攻撃を防いだ時とほぼ同時刻、アーロニーロの宮では耳には髑髏のピアスをした坊主頭で黒人風の一人の(破面)()()()になっていた床の上で()()()()()()()()()()()()という惨状を見ていた。

 

「これで、『第一期十刃』の生き残りも我ら(十刃)の元を去ったか。」

 

 男は斬魄刀を抜きながら僅かにだが()()()()()()()()()()()()()()()()()へと近づく。

 

「そして『第一期十刃』の皆さんのように()()()()()。 『生きてはいまい。 死んだ筈だ』と思いこみ、首をもぎ取らずに放置する。 それ以外の『確実な死』などないというのに。」

 

 ここで男はクルリと新たに姿を現す人影へと振り向く。

 

「そう思いませんか、侵入者よ?」

 

 新たに表れた者は、護廷十三隊の隊長特有の羽織をしていた。

 

「私は第7十刃(セプティマ・エスパーダ)、『ゾマリ・ルルー』。 さぁ、貴方も名乗りなさい。」

 

「答えるまでも無い、私は兄等(けいら)『破面』の敵だ。 私も問おう、()()と戦ったのは(けい)か?」

 

 ゾマリから視線を外して、朽木白哉がルキアを見る。

 

「いいえ。 ですがこれからとどめを刺すところでしたが?」

 

そうか。」

 

 いつもよりキツイ口調に白哉はなりながら、『瞬歩』でゾマリの背後に────

 

「中々のスピードです。」

 

「ッ!」

 

 ────移動したかと白哉が思えば、()()()()()()()()声をかけながら斬魄刀を白哉の胴体へと振るう。

 

 ギィィィン!!!

 

 鉄と鉄がぶつかる音が鳴り、ゾマリの斬撃を弾いた白哉が()()()()()()を見る。

 

「『なんだそれは?』と聞きたいような顔ですね。 これは『双児響転(ヘメロス・ソニード)』と言います。」 

 

「…………………………」

 

「私は『()()()()()』。 ですがそれだけだと流石に『地味』ですので、こういった『遊び』でも考えなければ『退屈』────」

 

「────(けい)が独り言を喋るのは()()からか、『十刃』?」

 

 ギィィン!

 

『自称十刃中最速』と『現護廷十三隊でも上位の速度持ち』の二人はスピードを重視した、高機動戦を繰り広げる。

 

 ゾマリは先ほどと同じような『分身』を数体使い、白哉は自分の体より一回り大きいサイズの隊首羽織を逆手にとって背後に回ったゾマリに、死角からの奇襲を試みる。

 

「破道の四、『白雷(びゃくらい)』。」

 

 ジッ!

 

 一条の光線が白哉の隊首羽織の内側から撃たれ、ゾマリの胸を貫く。

 

「「「「残念です。」」」」

 

 白哉の攻撃が当たったゾマリ(分身)が消えて、三体の分身と本体が白哉を各方向から串刺しにする。

 

隠密歩法(おんみつほほう)、『空蝉(うつせみ)』。」

 

「ッ?!」

 

 今度はゾマリが目を見開いて、自分が串刺しにした隊首羽織(白哉)を見る。

 

「『遊び』というのならば私にもできるぞ、『十刃』────」

 

 「────『草子(そうし)(まくら)紐解(ひもと)けば、音に聞こえし大通連(だいとうれん)』────」

 

 白哉は僅かにだが聞こえてくる声にピクリと眉毛が動く。

 

「────ッ。 (これは……()からか。)」

 

 音量が小さかったとは言え、方向がちょうど彼が『警戒していた方向』と『聞き覚えのあるモノ』が重ね合わせたので、『白哉が何とか聞き拾えた』と言ったところ。

 

「どうやら、貴方は『敵を見下す』と言った趣向が()()おありのようですね。」

 

 現にゾマリは声に気付いた様子がなく、彼は悠長に斬魄刀を胸の前に浮かせて解放の構えをする。

 

 「『(いらか)(ごと)八雲立(やくもた)ち、(むら)がる悪鬼(あっき)雀刺(すずめざ)し』────」

 

「────(しず)まれ、『呪眼僧伽(ブルヘリア)』。」

 

 段々と『()()()()()()()()()()()』が大きくなり、ゾマリの体が変わっていく間に白哉は霊圧を急激に高めてから一気に引っ込めた瞬間に『瞬歩』を使って『霊圧の分身』をその場に残す。

 

 このように『文字』にすれば簡単だが、実はかなりの霊圧コントロールを必要とする高等歩法が『空蝉』の原理である。

 

 ゾマリからすれば、『自分を警戒するような仕草』に過ぎなかった。

 だがそれが『己の思い込み』と次の瞬間に知らされる事となる。

 

「『文殊智剣大神通(もんじゅちけんだいしんとう)────』!」

 

「ヌッ?! 上からですと?!」

 

 ゾマリは目の前の白哉が分身と気付き、()から来た()()()()を聞くと共に異様な空気を感じながら上を見た。

 

「なん……だと?」

 

 ゾマリが見たのは虚夜宮の天蓋内で映された偽りの空を背景に、()()()()が宙を踊るかのように舞っていた景色。

 

 そして上にあったバルコニーらしき崖からゾマリを見下ろすかのように立っていたのは野獣(やじゅう)が如くの眼をした()()()()()()()

 

 「────『恋愛発破(れんあいはっぱ)、 “天鬼雨(てんきあめ)”』!」

 

 そして彼女の掛け声で舞っていた刀たちが一瞬で全て、その切っ先をゾマリ目掛けて飛来する。

 

「おのれ、こんなもの! その斬魄刀たち、我が全身全霊の『(アモール)』で支配してくれよう!」

 

 ゾマリの『呪眼僧伽(ブルヘリア)』は、『目で見つめたモノの支配権を奪う』といった能力。

 支配権を奪われた対象は自身の意思とは関係なく、ゾマリに操られてしまう。

 

 それが無機物であっても『意思』さえあれば斬魄刀も推測上可能であり、『通常』ならば脅威でしかない。

 

 上記で書き示したように、『通常』という前提だが。

 

「バカな、()()()()()()などあり得んことだ!」

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

 

 ゾマリは文字通り『刀の豪雨』の中へ呑み込まれていく中、ありったけの音量で叫ぶ。

 

 「藍染様万歳!!!」

 

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

「♪~。 (いや~、久しぶりにマジでスカッとしたわ!)」

「(あ、うん。 良かったね鈴鹿。)」

「(これってば貴方にJKたる何かを教えてた日々以来かも!♡)」

「(うん。 ありがとうね、()鹿()()()。)」

「(これで()()()()()穿()()()()()()()()最の高なんだけどなぁ~?)」

 「(それだけはやめてPLEASE(プリーズ)。 と言うかやらないよ?! 何言っちゃってんの?!)」

「(アハハハハハ! ミッチャンてば堅物すぎ、草生え~。 ホイ、()()ねぇ~?♪)」

 

 三月は最後にホッとしながら、アーロニーロの塔の二階だったバルコニーに座って偽の空を見上げる。

 

(けい)は……………まさか………」

 

「お? 朽木(あに)か。 あー、『久しぶり』って言えばいいのか?」

 

「……………………………………」

 

「なんか言えよ?! なに『可哀想な奴』を見る目でコッチ見てんだよ?! こっちも気まずいんだよ!」

 

「………………………………………………………………………………フッ。」

 

「お、おま?! 鼻で笑いやがったな、お前?! ここは『海燕……なのか?』とか、『(けい)が生きているのならば浮竹も喜ぶだろう』とかいう場面だろうが?」

 

「相変わらず騒がしい奴だ。」

 

 「ホントおまえ人の斜め上を行くな、朽木隊長?!」

 

「『“変人貴族”と言われる志波家らしい』とでも言えばよかったか?」

 

「…………なーんか俺への風当たり、以前に増して強くなっていねぇか? ……………なんか不愉快な事でもあったか?」

 

「…………………………………………………………気のせいだ。」

 

 「いま躊躇しただろ、朽木隊長?!」

 

「相変わらず騒がしい変人だ。」

 

 「また言われた?! というか『変人』も付け加えられた?!」

 

 三月は出来るだけ後ろから聞こえて来る騒動を無視する努力をした。

 だが────

 

「三月、お主も呆けてないで義兄様にも説明しろ! いや、してくださいッッッ!!!!

 

 ガクガクガクガクガクガクガクガクガク!

 

「あがががががが?!」

 

 ────流石に短時間でこの混沌と化した状況に泣きそうな涙目になっていたルキアが三月の肩を掴んで体をゆする。

 

 白哉の明らかな『日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らす』空気を直で感じ、この理不尽な風当たりにイライラする海燕の二人の状況に彼女は三月に助けを求める。

 

 無論、志波海燕が白哉を呼び捨てにする『どこかの誰か(黒崎一護)』とそっくりなのが『関係する理由、大いにアリ』なのは言うまでもない。

 

「やはりお前か、小娘。」

 

ここここぉんんんんちちちちゃーすすすすぅぅぅぅぅ?」

 

 いまだに体をルキアに激しくゆすられながら、三月は挨拶を白哉にする。

 

すぐに説明しろ。

 

「あ、ハイ。」

 

 白哉の不機嫌な気持ちが自分にロックオンされたことを悟った三月はできるだけ丁寧かつ簡潔に事の流れを説明し────

 

「あの、正座するのに床が固いんですけど────?」

 

 「────疾く申せ。」

 

「………ハイ。」

 

 ────三月が正座を固いバルコニーの上で強いられながら不機嫌な白哉を前に説明し始める。

 

『朽木隊長~~~?! どこですかぁ~~~~~?!』

 

 そしてゾマリがいた塔の遥か下では『瞬歩』が使えない山田花太郎が息を切らせながらもキョロキョロと、いつの間にか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()などは、ゾマリだったモノ(の死骸)以外すべての痕跡が消えていた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「────と言うワケなのです。 ハイ。」

 

 そろそろ三月の膝と足の感覚が無くなってきた頃に、彼女は白哉への説明をし終える。

 

 説明したことはルキアにも言ったような内容で、アーロニーロという『魂魄の集合体』の中の『志波海燕』以外、全ての虚の魂魄を殺した事。

 

 そして先ほどの『敵と相打ちになったルキア餓死状態景色』は来るであろう破面を罠にはめる為の『幻覚』だとも。

 

「へぇー、スゲェなチビ助。」

 

「チビ言うな────ああああああああ?! 足、足、足がぁぁぁぁぁぁ?!

 

 まるで『へぇー、ほーん』と言いながら、まるで軽い出来事を目撃したように振る舞う当事者(海燕)の一言に三月が立ち上がろうとして、足の感覚神経の血行が回復したことでビリビリしたしびれを感じて叫ぶ。

 

「か、海燕殿…かなり冷静ですね?」

 

 流石に二度聞いても、信じられないルキア。

 

 そして白哉は────

 

 「成程、貴様の墓石には『世迷言を言った為に斬り捨てられた』と言うことで良いのだな。」

 

 ────これ以上ないほどにブチ切れていた。

 

 シュラン。

 

『ゴゴゴゴゴゴ』と怒る修羅(しゅら)のような空気を出しながら、斬魄刀を白哉は鞘から抜く。

 

ぎゃああああああああ! 待って待って待って待って! 流石に『足ビリビリ』と『ブチギレた人』の同時相手は無理というか斬らないでぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~?!」

 

 「そこにもう一度直れ。 疾く刎ねて見せよう。」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ! 打ち首イヤヤァァァァァァァァァ!!!」

 

 三月が珍しく、余裕のない必死な命乞いをする。

 

「ルキア助けてッ!」

 

「さらばだ、三月。 良き友人であった。 シクシクシク。」

 

 ハンカチを出し、ルキアがワザとらしい下手くそなお世辞にも上手ではない『泣く』演技をし出す。

 

「カイチャン!」

 

誰が『カイチャン』だコラ。

 

 海燕はさっきの白哉とのやり取りが不味かったのか、不機嫌だった。

 いつものルキアの知っている彼ならば殆ど初見の彼女の一方的な『打ち首宣言』に異を唱えていた……………………かもしれない。

 

 だが今では『呆れてジト目黒髪一護バージョン』の表情である。

 

「言いたい事はそれで終わりか?」

 

 そして目がマジ(本気)の白哉。

 

 「い~~~~や~~~~~~~~~~?!」

 

 余談ではあるが、白哉がこれ程までに怒っていたのは他でも無いルキアの無残な姿(餓死状態)に彼の心が酷く動揺した為である。

 

 

 

 ___________

 

 リカ 視点

 ___________

 

 ども皆さん、呼称『リカ・プレラーリ』です。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

「ガフ……」

「マユリ様……リカリカ……」

 

 ただいまマユちゃん(マユリ)とネムネム達と仲良く血反吐(ちへど)を吐いていまーす。

 

「クハハハハハハ! 無様だな、死神の隊長格と新たな希少種ども!」

 

 立っていたピンク色の髪をして、首から下がドレスのような服と背中に四本の羽っぽい『何か』が生えた男が笑う。

 

 彼は『ザエルアポロ・グランツ』、自称『破面の天才科学者』。

 

 え? そんな事より『どうして血反吐を吐いているんだ?!』ですって?

 

 フム、これは『察してください』ではダメですか?

 

 ……ダメ?

 ムゥゥゥゥ……

 

 仕方ないですね、では簡略化した出来事をHow-To(ハウツー)ステップっぽく示しましょうか。

 

1.パイナップル『阿散井恋次』がソロモンをやらせない軍人ドンドチャッカと共に『ザエルアポロ・グランツ』の研究所(オペルーム)に到着。 (ちなみにこれは以前『阿散井恋次』と遭遇した際*1に忍ばせた監視用の使い魔経由で確認済み。)

 

2.石田雨竜『眼鏡』と月光帳を呼べないギ〇ガナムが『ザエルアポロ』に苦戦していた『阿散井恋次』と合流、そして『ザエルアポロ』に翻弄

 

 

3.『眼鏡』と『パイナップル』、共闘の末に『ザエルアポロ』に深手を負わせるが彼はすぐに回復

 

4.その場を離脱しようと試みる『眼鏡』、『パイナップル』、『ソロモン』、『ギ〇ガナム』。 だけど結局は『ザエルアポロ』の掌の上で結局また彼と対峙

 

 

5.帰刃(レスレクシオン)した『ザエルアポロ』が上記四名のクローンを作って楽しもうとしても、空気が読めない『パイナップル』の卍解によって物理的に研究所(オペルーム)が崩される。

 

6.イラっと来た『ザエルアポロ』はクローンによる劇を強制終了させて今度は『眼鏡』と『パイナップル』たちの人形を作る。

6a.悔しいが、何とかその『可愛い』と思った人形たちを確保できないか別思考に並行で考えさせる。

 

7.ドラえ〇んの『呪〇のカメラ』よろしく、人形の中にあったパーツを破壊して本人たちにダメージを与えていく。

7a.ここで虚圏に到着したマユちゃんたちを発見。 彼も私を発見して合流したのちに軽~いコントをネムネムと三人でしながら()()()をする。

7ai.そしてここで『ソロモンやらせんぞマン』と『ギ〇ガナム』も参戦

 

8.()()()が終わって、マユちゃんとネムネム+ボクたち三人がザエルアポロの前に出る。

8a.マユちゃんは否定していたけどこのタイミングは更木の登場と合わせていた模様。 『誰があんな筋肉ダルマのことを意識するというのかネ?!』と言っていたけど。

 

9.ザエルアポロとマユちゃんが互いに軽い()()を交わす。

9a.パイナップルと眼鏡が何か叫んでいたけどもちろん無視。

9b.ちなみに自分のことは『滅却師(笑)』と名乗りました。

 

 

10.ここでマユちゃんとネムネム(あとついでにボク)があえてザエルアポロに人形を作らせる。

10a.さっきの別思考に『マユちゃんの人形確保』を提案

10ai.帰ってきた答えの『石田と阿散井の奴で満足しろ!』にちょっとがっかり

 

 そしてやっと『(現在)』へと繋がります。

 

 へ? 『その前にザエルアポロは誰だ』って?

 

第8十刃(オクターバ・エスパーダ)』です。 

 ハイ次。

 

 え~と、どこでしたっけ?

 

「残念だよ、隊長格と言えども所詮はこの程度か。」

 

 バキン!

 

「ゴハァ!」

 

 あ、ザエルアポロが()()マユちゃんの内臓を潰しました。

 

 そしてその吐血がボクのスカートに。

 

「あ。」

 

「ん?」

 

 ()()()()()()にザエルアポロが頭を傾げ、ボクは立ち上がって制服のスカートを指さす。

 

「マユちゃん、ボクの服に吐血しましたね。」

 

 マユちゃんがボクと同様にむくりと立ち上がる。

 

「おや、ほんとだネ。 いやはや済まないリッ君。」

 

「これ取る薬品持ち合わせていない?」

 

「君は私をなにかと勘違いしていないかイ?」

 

「え? 『世紀の天才科学者涅マユリ』では?」

 

「その通りだヨ! もちろんあるとも。 ネム!」

 

「はい、マユリ様。」

 

 次々と立ち上がる人たちに困惑するザエルアポロ。

 

 マユちゃんがそんなザエルアポロに『ニチャア~』とした笑みを浮かべる。

 

 あ、()()面白がっていたんだ。

 マズイことしちゃったですね。

 

「こうも簡単に相手が喜ぶと、つい遊び心が湧いてくるんだヨ♪」

 

「あー、うん。 ごめんマユちゃん。 やっぱり『子供』っぽいね、(ザエルアポロ)。」

 

「分かっているじゃないカ、リッ君♪」

 

「マユちゃんも。」

 

「こちらハンカチです。」

 

「おー、ありがとうネムネム。 フキフキフキ~。」

 

 ザエルアポロが驚愕に目を見開いたまま、ボクとマユちゃんの背中にゾクゾクと歓喜が走る。

 

「なぜだ……なぜお前たちは立てるんだ?!」

 

 バキ! バキバキバキバキッ!

 

「ぶへ!」

「ごふぅ!」

「かはッ!」

 

 ザエルアポロがボクたち三人(リカ、マユリ、ネム)の人形から次々と内臓部分のパーツを取り出して壊していき、その度にボクたちが吐血する。

 

「止めたまえヨ。」

 

「そうです。 見苦しいですよ。」

 

「クソ!」

 

 ガシャン!

 

「クソ! クソ! クソ!」

 

 ガッ! ガッ! ガッ!

 

 ザエルアポロがボクたちの人形を地面に叩きつけて踏み出す。

 

 「ああああああああ?! 可愛かったのにぃぃぃ?!」

 

「石田…………お前の知り合い………ズレてんな。」

 

「……………君みたいにね。」

 

 うっさいよ、パイナップル(恋次)眼鏡(雨竜)

 貴方たちも十分『変』です。

 

「なぜだ?! 貴様らの内臓や腱を()()潰した! なのにどうして()()()()()?!」

 

 マユちゃんがボクを見て、ボクもマユちゃんを見てアイコンタクトをとる。

 

 あ、やっぱりボクみたいに呆れている。

 

「うるさい奴だネ。 何の不思議でもないヨ。」

 

「そうですよ。 少し考えれば分かることじゃないですか。」

 

 ビキビキビキ。

 

「なん……だと?!」

 

 おー、怒った怒ったオーコッタ~♪。

 小さい小さい、『人間(心の余裕)』小さーい♪

 

「私は用心深いのでネ、一度戦った相手には監視用の(きん)を感染させるのだヨ。」

 

「な……まさか……僕の────がは?!」

 

「あー、ムキにならないほうが良いですよ『眼鏡』。 貴方の内臓、ボロボロなんですから。」

 

「君だって眼鏡じゃないk────ガフ?!」

 

「まぁ、要するに彼を通して君たちの戦いは私たちに筒抜けだったということだヨ。 だからなんてことはない、もし腱と臓器を破壊できるのなら『その全てのスペア』を揃えればいいだけだからネ。」

 

「バカな! 僕がこの能力を彼らに見せてまだ一時間も経っていないんだぞ?! ()()()()()()()!」

 

 またマユちゃんとアイコンタクト。

 

『このバカにリッ君が言うかネ?』

『“バカ”を通り越してこの“アホ”にどや顔をするのならマユちゃんが適任かと。』

『ならこちらも“共同作”と行こうじゃないかネ。』

『アイ分かった。』

 

 彼とのアイコンタクト会話終了。

 

「それが『出来る』から────」

「────私たちは()()()()()のだガ?」

 

 フ、決まりました。

 エッヘン。

*1
25話より




リカ:……(ドヤァ

作者:お客様、無い胸張っても────

リカ:────ムムムムムムンッッッ!!!

作者:あ、ウン。 その手があったね。

ネム:……バター。 パシャリ。(カメラシャッター音

作者:……何でここに君も出るの? しかも畳の下から?

マユリ:世の中聞かないほうが良いモノもあるのだヨ♪

作者:お前が言うと普通に怖いよ?!

マユリ:褒められてもせいぜい出るのはりんご飴だヨ♡

作者:要らねぇ~~~~~……


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第81話 The Children's Tantrum

お待たせしました! 少し長くなってしまいましたが楽しんで頂ければ幸いです!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 自分の『人形芝居(テアトロ・デ・ティテレ)』の能力が短時間で完封されたことに、ザエルアポロは奥歯で苦虫を噛み締めたような顔をする。

 

「ま、待て(くろつち)!」

 

「ハァ、なんだねまったク。 うるさい(滅却師)だヨ。」

 

「僕は()()一言しか喋っていないだろ?!」

 

「(そこは『まだ』という自覚があるんですね眼鏡(雨竜)。)」

 

 雨竜がマユリに異を唱え始め、リカは内心で彼にツッコミを入れ、ネムはリカに小声で話しかける。

 

「止めなくて良いのですか?」

 

「ただの()()()()()だから。 マユちゃん()()いい刺激だし。」

 

「成程。 確かに以前、マユリ様は彼と話した後はいつもとは違う『生き生き』とした様子になりましたね。」

 

 余談だがネムがここで言う『以前』とはルキア奪還時に瀞霊廷に乗り込んだ際のこと。

 

 そして二人は『石田&マユリコント』を静かに観察する。

 

「いつの間に監視用の菌を付けたんだ?! 僕は何も聞いていないぞ!

 どの程度が見えているんだ?! ま、まさか『普段の生活』もか?! それだと『どこまで』だ?! 人権侵害だぞ、分かっているのか?!

 大体お前は自分勝手過ぎ────!」

 

 「────うるさい外道。」

 

 パチパチパチパチパチパチ。

 

「おー流石マユちゃん。 『さすマユ』です。」

「『さすマユ様』。」

 

 一言で全てを片付けたマユリに、リカとネムが拍手を送る。

 

「僕か?! 僕が変なのか?! それに外道はお前だr────ウオエッホゲホッゴホッ?!?!

 

こいつ(石田)の内臓、本当につぶれているのか?』と疑いたくなるほど大声を出していた雨竜が、そのことに思い出したかのようにここでやっと咳き込む。

 

「む、『Κελαινώ(ケライノー)』。」

 

 ゴバッ!

 

 ネムの足元からザエルアポロの羽の一部らしきものが飛び出る直前、リカの着ていたローブはハンググライダーの翼部分みたいに広がって彼女は空中へと離脱する。

 

「油断したな隊長格どもぉ!」

 

 ザエルアポロが勝ち誇ったような顔をする。

 

「……あの、私を捕らえても『人質』には成りえませんが?」

 

「うるさい! 黙れお前! 良いかこの()()()()()────!」

 

 「────卍解、『金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)』。」

 

金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)』。 護廷の十二番隊隊長、涅マユリの卍解であり、その姿は巨大な芋虫を下半身にした黄色い赤子。

 致死性の毒を周囲にまき散らす能力と、胸部から刃を生やす機能、さらに巨体を用いて押しつぶすような攻撃も出来ると言った、数多の機能を備え持った()()()()()()

 

 ゴバァ!

 

「な────?!」

 

 ────バクンッ。

 

 ザエルアポロは急に現れた『金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)』に驚愕しながらその卍解に丸呑みされる。

 

 重傷の恋次と雨竜が呆れた目で、この出来事をただ上半身を地面から浮かせて眺めていた。

 

「……喰われたぞ、アイツ(ザエルアポロ)。」

「喰われたね、阿散井君。」

 

「ぐぁ?!」

 

 そこで急に未だに『金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)』の口から伸びていたザエルアポロの羽に掴まれたネムは苦しむような声と共に、お腹が急激に膨れ上がる。

 

「あ! あぁぁぁぁぁ?! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 やがて彼女の皮膚と体は水分や栄養素が抜かれていくみたいにしぼんで行き、彼女の口からザエルアポロがズルズルと這い出てくる。

 

「フゥー、では自己紹介からやり直そうか()()()()。」

 

「…………………ホウ?」

 

 二人が相対して、初めてザエルアポロがマユリを名前で呼ぶ。

 

「何が起こったのか理解できているか? 僕はこうやって敵に自分自身を孕ませ、()()()を搾り取ってから常に新たな存在へと生まれ変わり続けることができる。

 曰く、『不死鳥(ポイニックス)』は老いると自ら炎の中に身を投げて新たな生命として生まれ変わる。

 つまり! 『不死』とは! 『()()』とはそういうことだ!

 死を『超越(ちょうえつ)』するのではなく、『死を自らの生命循環(せいめいじゅんかん)に取り込む』!

 僕こそが、『()()()()()』だ!」

 

「大丈夫ですー。 生きていますよー。」

 

 ザエルアポロの高らかな演説の空気をぶち壊すように、ネムの近くに降りたリカの声がする。

 

「あと、『申し訳ありません、マユリ様』ですってー。」

 

 リカの言葉を聞いたマユリはいつも以上に深い、不気味な笑みをザエルアポロへと浮かべる。

 

「ご説明どうモ、破面(アランカル)。 面白い能力ダ、実に興味をそそられるが……………………」

 

 ここで彼がいったん言葉をそこで区切ると、ザエルアポロがまた困惑するような顔をする。

 

「?????」

 

「まさか、『それだけ』とでも言いたいのかネ? 『完璧な生命』と自称するぐらいだ、まだ何かあるのだろう? エ?」

 

 ガバァ!

 

金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)』が急に起き上がり、挑発していたマユリを呑み込もうとする。

 

「クハハハハハハ! 僕の肉体は生物に食われると融解し、あらゆる神経に侵入する! そいつ(卍解)はこれで、僕の意のままだ!」

 

 バァン!

 

「んな?! ()()()()だと?!」

 

金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)』が風船のように割れたことに、ザエルアポロがまたもびっくりする。

 

 さっきからびっくりされ続けられるザエルアポロである。

 

 その間にもマユリはつまらなそうに彼を見て言を並べる。

 

「まったく、道具が主人に盾付こうなど愚かしイ。」

 

 ここで急にザエルアポロの様子が豹変する。

 

「な、なんだこ れは ?」

 

 見た目では何も変わっていないだけに、彼も含めて雨竜と恋次が困惑の表情をする。

 

 いや、厳密にはザエルアポロの口調がところどころ躊躇しているかのように遅くなっていた。

 

「おや、やっと効き目が出ましたか。」

 

「『これ』を知っていたのかねリッ君?」

 

「予想はしていました。 で、()()()何の薬ですか?」

 

「ま わ り  が  お  そ  い  だ       と?」

 

 段々と動き、とうとう口調までもが遅くなるザエルアポロをそっちのけでリカとマユリが喋り始める。

 

「クックック……名付けて『超人薬』だヨ! これは『感覚を極限まで研ぎ澄まされた時に起きる、時間が止まって見える』と言った現象を強制的に引き起こすものでネ────!」

 

「────あ、彼はその原液を()()()()()んですね。 お気の毒に。 南無。」

 

「いやいや! 間違えないでほしいリッ君! 彼は今、『超人』になっているのだヨ?! さぞかし、『常人』である我々の言動全てが緩慢(かんまん)で退屈なモノだろうサ!」

 

「でも『感覚』が研ぎ澄まされても、『肉体』は置いてけぼりじゃないですか。 と言う訳で南無~。」

 

「それは言わない約束という奴サ。」

 

「あ、そうなんだ?」

 

 さっきから呆れた目、びっくりして目を見開く、そしてまた呆れると、ケガ人の割に忙しい恋次と雨竜がいた。

 

「石田……お前の周りは変人ばかりか?」

「………………………………………………………………ゴフッ!」

「うわ馬鹿野郎! 俺に向いて吐くなよ、(きた)ねぇ!」

 

 そこでマユリは刀へと戻した斬魄刀をザエルアポロの胸を目掛けてゆっくりと突き出す。

 

 そして同じく()()()()と動くザエルアポロの手が刀を止めるように上がって行くが、マユリはそれごとザエルアポロを貫いていく。

 

「『超人薬』のおかげで彼は私の刀を辛うじてこのように手で止めようが、その『痛みの感覚』を彼が知るのは体感でおよそ百年後。 更に私のこの『刃が心臓を貫く感覚』まで()()()()となることやラ。」

 

 話している間にも、マユリの刀身がズブズブと動きが鈍くなったザエルアポロの胸に埋め込まれる。

 

「さようなら。 そして御機嫌よウ。」

 

 リカはコソコソとしゃがみながら何かをしていた。

 

「………………『完璧な生命』、か。 フン、『()()()()()()()()()。 それに『何の意味』があル?

『完璧』の先には何もない。 『創造』も、『知恵』も、『才能』も、何もかもが立ち入るスキがなイ。

 ゆえに私は『完璧』を『嫌悪』すル。

 特に我々『科学者』にとって『完璧』とは『絶望』の他ならないのだヨ。」

 

 バキンッ!

 

 マユリがザエルアポロの胸に突き刺さっていた斬魄刀を折る。

 

 刀身をザエルアポロに胸に入れたまま。

 

「『今まで存在したモノより素晴らしきあれ、しかし決して完璧である(なか)れ。』 

『科学者』は常にその二律背反(にりつはいはん)に苦しみ続けながら、そこに『快楽』を見出せなければいけない。 

 いや、()()()()()()()()()()()()()()

 つまりだね、『()()()()()()()()()()』。」

 

 マユリがここで初めてザエルアポロをフルネームで呼びながら軽蔑するような目で未だに微動にしない、胸に刃が突き刺さった彼を見る。

 

「『完璧な生物』などと頓狂(とんきょう)な自称をした瞬間、君はすでに私に敗北したのだヨ。

 君を『科学者と認定すれば』、という話ならネ。」

 

 パチパチパチパチパチパチ。

 

 マユリの演説が終わり、一つの拍手がして彼はリカを見る。

 

「『さすマユ』ですー。」

 

「フン。 この成り損ないを見て、柄にも無いことを言ってしまったヨ────」

 

「────一つ、ボクからも良いですか?」

 

「???」

 

 マユリがリカを見て頭を傾げる。

 

「『完璧』とくれば、マユちゃんが言ったことも当てはまります。 ですがあえて付け加えると『完璧とは良くて“停滞”。 

 普通で“退化”。 

 最悪で、“あらゆる意味でのリンボ(辺獄)”』です。

 まぁ、つまり『()()()()』、『退屈』と言う事なのでマユちゃんの言ったことを復唱するような形になりますが。」

 

「…………………ほウ。 流石はリッ君ダ。」

 

 リカがここで頭を横に振り、彼女の長い髪の毛がその動きに沿って揺れる。

 

「いえ、残念ながら今のは()()()()()じゃありません。」

 

「誰のだネ?」

 

「ごめん、マユちゃん()()言えません。」

 

 そこで数秒ほどの沈黙が場を支配する。

 

「お、おい。 大丈夫か? 斬魄刀を折って?」

 

 と思えば雨竜がマユリの折れた斬魄刀にコメントをした。

 

「フン、逆らったこいつ(斬魄刀)には一度折るくらいがちょうどいいお仕置きだヨ。」

 

 マユリが未だに搾り取られたネムへと近づく。

 

「まったく、手間のかかる奴だヨ────」

 

 そこからの描写はマンガには無いのだが、生憎とそのような()()()()()()では通じない。

 

 と言う訳で以下略化するとしよう。

 

 ────ボジュ!

「うっ♡」

 ボジュ。 

 「ア゛♡」

 ジュブ。 

「ぅぐ♡」

 プチュ。

「あはっ♡」

 ブシャアアアアアアアア。

 「うあ……ああああああああ!♡」

 

 ネムの喘ぎ声&効果音はサービスです。

 

 …………………………………これでギリギリR-18案件に認定されない筈。(汗汗汗汗汗汗汗

 

 「「な、治っただとぉぉぉぉぉ?!」」

 

『酷い重症状態でなければ鼻血が確実に出ているだろう』の恋次と雨竜は、驚愕の声で肌の(うるお)いがツヤツヤとしながら復活したネムを見てお腹の底から出すような音量で叫んだ。

 

「おおおおおおおお~~~~~~~~~~~。」

 

 そして正に目をキラキラと星を出す勢いで、関心を持ったリカが居た。

 

「な、なんでだ?! ()()『どこ』で治した?!」

 

 雨竜の疑問にマユリが鬱陶しそうな横目を寄越す。

 

「…………………その程度、見てわからんのかネ。」

 

「分かる訳ないだろ?! 今、R-15じゃ書けないことをしてただけじゃないか?!」

 

 おいばかやめろ。

 

「石田……お前、何を言っているか知らねぇが興奮するな。 俺たちは内臓潰れてんだぞ。」

 

「グッ……」

 

 恋次が苦しそうに雨竜を収めようとする。

 

「ネム。」

 

「はい、マユリ様。」

 

 ネムががっしりと雨竜を仰向けに拘束する。

 

「ああああああああああ?! やめろぉぉぉぉぉ! 何をするぅぅぅぅ?!」

 

 雨竜はジタバタと暴れようにも、ボロボロの状態では身じろぎすらままならなかった状態。

 

「は、放せぇぇぇぇぇ!」

 

「ダメー。」

 

 そして恋次は雨竜と同じようにリカに拘束されていた。

 

「それも説明しなくてはならないのかね? これだから凡人どもは………………これから改造()すんだヨ。」

 

 「「字が言っている事と違ぁぁぁぁぁぁぁぁう!!!」」

 

 おいばかやめろって

 

「暴れないでください。」

 

 ポヨン。

 

「わぁぁぁぁぁぁ! 近い、近い近ぁぁぁぁぁぁい?!

 

 拘束の仕方で、ネムのたわわな胸部が雨竜の眼前に迫る。

 

「…………………」

 

 そしてこれをじっと見ている恋次にリカが声をかける。

 

「ボクも黒髪になって男のような古風な言葉遣いで話しましょうか? 『ジッとしていろこのたわけ!』とか?」

 

 「何がどうしたらそうなる。」

 

「………………対抗意識? の模範?」

 

「……………何で疑問形なんだ?」

 

 その間にもマユリたちの治療が進行する。

 

ムグゥゥゥゥ?!」

 

「良しいいぞネム。 そのまま窒息死させてしまエ。」

 

「涅隊長……俺から……俺から治療してください! 他の皆が────!」

 

「────ルキアなら無事ですよ?」

 

「え?」

 

 恋次の言葉をリカが遮って、彼はポカンとする。

 

「と言う事ダ。 まだダラダラと戦っているのは黒崎一護のところに向かった()()()()だヨ。」

 

「は?」

 

 恋次が豆鉄砲を食らったニワトリハトのような顔をする。

 

「…………………」

 

 雨竜はさっきから隙間もないほど顔が覆われ、酸欠によって肌が青くなっていく。

 

 

 ___________

 

 ノイトラ 視点

 ___________

 

 ノイトラはさっきから昔のことを思い出していた。

 

 十刃になり、『虚圏に生息している最上大虚(ヴァストローデ)を探し出せ』という藍染の命令で出かけてその先にあった虚のコミュニティの住人を()()()()()()したうっ憤を晴らすために皆殺しにした。

 

『どうして?』

 

 それが彼についてきた元凶(ネリエル)の言葉だった。

 

 更に心の中がむしゃくしゃしたノイトラは、彼なりの理由を彼女に並べた。

 

 まさか『テメェの所為だ』と言う訳にもいかないので。

 

『ノイトラ、私たちはただの虚から()()()()()しただけよ。』

 

『気に食わねぇ。』

 

 思っていたことを口に出すと、元凶(ネリエル)()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『呆れた。 ()()()()()()()()()()()()。』

 

 未だに『子供』の扱いをノイトラは受けていた。

 

 それは『十刃』になる前から、何かとネリエルに付きまとわれていた頃から変わらなかった。

 

 ノイトラにとって、彼女の存在は『ウザい』以外何でもなかった。

 

 そしてある日、彼は()()()自分が敵わない虚の群れにケンカを売って意識を失う。

 

 だが不思議なことに彼は目覚め、その場を見渡すと自分がケンカを売った虚たちは倒されていた。

 

 誰が彼らを倒したのかは考えるまでもなく、片手で読者をしながら余裕平然としたネリエル。

 

『なぜ助けた。』

 

 実はノイトラは自ら望んで『強者』なったわけではない。

 彼は()()()進化しただけで、その所為で周りから絡まれていた。

 

 ひっそりと生きようとしても他のアジューカスが彼を食い物にしようとする。

 

 そして返り討ちにすればその彼の噂や強さに更に群がる。

 

 故に、彼は『自分が納得できる死に場所』を求めていた。

 

 その意味合いも含めてノイトラはネリエルに問う。

 

 そして帰ってきた返答は────

 

()()()()()()()()()()()()。』

 

 ────屈辱以外、何でもなかった。

 

 死に場所を求めていたのに、『(ネリエルより)弱い』から()()()()()()()()()()

 

「(なら、俺は『強く』なってやる!)」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ある日、ノイトラがまたもネリエルに決闘を挑んで彼女にとどめを刺されなかった日常の中でノイトラはネリエルに聞いたことがあった。

 

『なぜ本気を出さない?』と。

 

あなた(ノイトラ)の目的が分からないから戦いたくないのよ。』

 

 ついに我慢できなくなったノイトラはこれ以上ないぐらい、彼女にはっきりと言う。

 

 いや、言ったつもり()()()

 

「俺は死にてぇからだ。 (お前(ネリエル)との)戦いの中で死にてぇからだ。」

 

『分からないわね。 なら()()()()()()()()()とするの?』

 

「強くなれば戦いを(お前(ネリエル)に)引き寄せられる。 そうすれば常に(本気の)戦いの中で『呼吸()』が出来る。」

 

 そうすれば、何時かは『本気の彼女(ネリエル)に殺される日が来る』。

 

 だから────

 

「────斬れねぇって言ってんだ、この馬鹿死神がぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 ___________

 

 ノイトラ、更木 視点

 ___________

 

 

 ノイトラは性懲りもなく自分を切れない斬魄刀を振り回す更木(以前のノイトラのような眼帯野郎)にイライラしながらも戦った。

 

 勿論これは『前座』で、『本命』がまた目覚めるまでの余興のつもりだった。

 

 だが時間が経つにつれ、段々と更木の斬魄刀に傷が負わされる。

 

 バリ!

 

 そんな中、彼は更木の眼帯を誤って外したことで状況が一転した。

 

 更木の霊圧が格段に上がり、自分が誇っていた『鋼皮(イエロ)』はいとも容易く崩された。

 

「あーあ、眼帯外したから()()()が出来ねぇようになったじゃねぇか。」

 

「(ふざけるな。)」

 

 ノイトラの中に、不愉快さが急激に高まっていく。

 

「で? テメェは生きてんのか? それとも、『ただ死に損ねただけ』か?」

 

 ビキッ。

 

「バカが……」

 

「あ?」

 

 片方の眉毛を上げる更木に、ノイトラはこの戦いが始まって以来、自分のイラつきを声に出していた。

 

「俺が……俺がテメェ如きの(ネリエルじゃない)攻撃で! 死んでたまるか! 祈れ、『聖哭螳蜋(サンタテレサ)』!」

 

 ノイトラは本命(ネリエル)の為にとっておいた帰刃(レスレクシオン)をして、さらに傷を更木に負わせる。

 

 六本に増えた腕と大鎌が更木に数々の、浅くはない傷をつけるがが更木は怯むどころか、更に敵意をむき出しにして攻撃し返した。

 

「(怯えろ。 怯えろ、怯えろ、怯えろ! 怯えて()()()()()()()!)」

 

『昔の自分』を連想させる更木を攻撃しながら、ノイトラはそう心の中で叫んでいた。

 

「うし、まずは一本だ。」

 

 だがそれも次の瞬間、更木がノイトラの腕の一つを斬り落としたことによって変わっていった。

 

「『まずは一本』だぁ? 違うな! 『最初で最後の一本』だろうがぁぁぁぁぁ!」

 

 ノイトラは斬られた腕を生え戻して、更木に襲い掛かる。

 

「それはテメェ(昔の自分)が! (ネリエル)より弱いからだ死神ぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 だがノイトラは知らない。

 これが更木を喜ばせることになるとは。

 

「ハハハハハ! 良いぜ、良いぜ、良いぜぇぇぇぇぇ! 最高だぁぁぁぁぁ!」

 

 更木の頭からはすでにカリンに投げられたことは四つ以上の技を覚えた生物の如く、『ポカン』と落とされていた。

 

 今の彼は『どれだけ戦いを楽しむか』しか考えていなかった。

 

 逆に今のノイトラは『どうやってこいつをいたぶって“ネル”を“ネリエル”に戻すか』を考えていた。

 

 その心構えの違いが明確に二人の攻防に差を出させた。

 

「チッ、このままじゃあ死んじまうか。 んじゃ、総隊長(ジジイ)の『剣道』ってのをやってみるか。」

 

 尚もしこの場に山本元柳斎本人が居れば、『じゃから“剣術”と言っておるだろうがこの馬鹿不良弟子がぁぁぁ!』とプンプン怒りながら頭を杖で叩いていただろう。

 

「おう、知ってっか? 剣ってなぁ、()()()振ったほうが()えぇんだとよ。」

 

 ビキビキビキッ。

 

「そんなもん……分かりきってんだろうが!」

 

 更にバカにされたことによってノイトラは更木に突進していく。

 

 そして()()()()剣道(剣術)によってノイトラは死に体と一瞬で変わる。

 

「呆れたぜ、頑丈(タフ)な野郎だ。 じゃあな。」

 

 更木がクルリと()()()()()()()()()()

 

「ま、待ちやがれ! どこへ行く! 俺は……俺は────!」

 

「────あああ?! 今ので『(しま)い』に決まってんだろうが?! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「……………………(ああ、()()()()()か。)」

 

 ここでノイトラはようやく自分の思い違いに気付かされて、彼は笑みを浮かべながら立ち上がる。

 

「だったら……尚更だぜ! 俺は……()()()()()!」

 

 ノイトラは残った右腕二本で更木に襲い掛かって、更木二の一振りで返り討ちにされる中、彼は少女の姿で背に壁を預けながら目を閉じていたネル(ネリエル)を見る。

 

「(チッ。 まさかこの俺が、今の今まで気付かなかったとはとんだ失態だぜ。)」

 

 ノイトラが膝を虚圏の地面に着き、ネルの瞼が開いて彼を見る。

 

「(俺は『死にたかった』んじゃねぇ。 ()()()()()()()()だけだったんだ。)」

 

「ノイ……トラ?」

 

「(……ハ。 最後の最後まで憎たらしい()()()()だったぜ。)」

 

 それを最後に、ノイトラは襲ってきた喪失感に身をゆだねて意識を手放す。

 

 ドサァ!

 

 地面にノイトラの体が落ちていくのを見ていた更木の顔は生き生き無邪気な子供のようにしていた。

 

「スゲェ(たの)しかったぜ、()()()()。」

 

 惜しくもノイトラは、己を『対等の強者』として認めた更木の言葉を聞くことなく生き途絶えた。

 

「ノイトラ……ゴフッ!」

 

 テスラが血を口から咳をして出す。

 

 ダラダラと落ちる液体が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「悪りぃな。 オレはテメェみたいな奴は嫌いじゃないが……横から入るのは野暮ってモノだ。」

 

 彼の胸に赤い槍を突き刺せていたカリンがそう言いながら、更に槍を食いこませてテスラを絶命させた。

 




作者:余談ですが、ノイトラの内心などは独自解釈などから来ています。

更木:んなもん、今更じゃねぇかオイ?

作者:うおおおおおおおおお?! ナンデ?! ナンデ更木がココにぃぃぃぃぃ?!

やちる:変な部屋ぁー! でもお菓子いっぱいあるー! ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ!!!

作者:ぎゃああああああ?! 秘蔵のブルボ〇たちが一瞬でぇぇぇぇぇぇ?!

やちる:ブル〇ンも良いけど、次は明〇も揃えてねぇー!

作者:帰れ! なお次話投稿が遅くなるかもしれません! ご了承ください!

更木:お? 酒があるじゃねぇか!

作者:帰れ! 警備員は何をしていた?!

やちる:キツネさんたちは剣ちゃん見た瞬間に逃げたよー?

作者:FU〇K!


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第82話 死神と破面、そして『偽・空座町』

作者:せ、セーフぅぅぅぅぅぅぅ!

市丸:でも『すとっく』ちゅうもんがもう無いねんやろ?

作者:グハァ?!


 ___________

 

 マイ 視点

 ___________

 

「(うーん……どうしようかしら、()()?)」

 

 マイは珍しく困っていた。

 

「ああ、その背丈。 (うるわ)しい表情。 吾輩に名を教えてくれないかね?」

 

「えええええええええ?! そそそそそそんな……わわわ私なんて────」

 

 場所は黒崎一護たちと『血の気の多い死神たち』の負傷者を治療するために四番隊が虚圏で立ち上げた野戦病院……

 

 と言うか簡易トリアージ。

 

 マイは『ドルちゃん(ドルドーニ)』たち、『十刃落ち』と共に卯ノ花と勇音たちのいるトリアージに移動していた。

 

 そして勇音を見た瞬間、ドルドーニが彼女に言い寄っていた。

 

「────何を自信無さ気に自分を言うのかね?! 自分を(さげす)むことはないのだよお嬢ちゃん(ベベ)よ!」

 

『ナンパ』とも言う。

 

「お、『お嬢ちゃん』……(ポッ)。」

 

 勇音は面と向かって言われたことのない言葉に困りながら頬を赤らめさせた。

 

虎徹勇音(こてついさね)』。 以前、あまり込み入った彼女の情報を明かしていなかったので、ここで簡単にしよう。

 

 体重およそ70㎏、身長187㎝の長身で優男風だが、優柔不断な性格の上にかなりの怖がり。

 

 そしてそんな自分の身長にコンプレックスを持つ彼女は『三食朝昼晩おかゆでいいです……これ以上成長したら嫌なので』というほどである。

 

 そんなしおらしい性格を持った彼女に男性の興味が集まるのは不思議ではない。

 

 無いのだが、『ヒョロヒョロとしたもやし』という強いイメージを持った四番隊の中でも彼女はある意味『変わり種』で、『野原に咲いた、敢えて触らない花』のような扱いを他の隊からされていた。

 

 知らずにこれが彼女の『他人が自分を怖がる身長コンプレックス』をこじらせたことも知らないで。

 

 なのでドルドーニのような、ド直球な褒め言葉やグイグイ来る『押し』にはめっぽう弱かった。

 

 と言うか免疫が無かった。

 

 相手が破面と言えど、ヒト型にかなり近い見た目と服の上に『自分より長身(190㎝)の異性』という事も関係していた。

 

 何せドルドーニは真面目(その気)であれば、見た目も振る舞いも『ラテン系紳士』そのものなのだから。

 

 余談だが勇音より身長の高い護廷の者となると、現在では288㎝の狛村、210㎝の大前田、202㎝の更木、192㎝の京楽、188㎝の恋次、そして同じ背丈の浮竹。

 

 他は230㎝程、またはそれ以上の瀞霊廷の門番(兕丹坊)たち。

 

 ……………………とてもではないが、勇音を異性として意識してなお『彼女が押しに弱いこと』を配慮せずにグイグイと迫る異性たちは上記にはいない。

 

 京楽は女性の扱いに長けている(?)が、勇音は彼のような男性(遊び人)は苦手であるので除外する。

 

「オイ、長身の死神。 こいつ(ドルドーニ)は変態だから惑わされるなよ?」

 

「な、なにをぉぉぉぉぉぉ?! なんと言う言い草だチルッチぃぃぃぃぃ?! 『あの時は誤解である』と吾輩、お前たちに説明されたではないかぁぁぁぁぁぁぁ?!」 ←裏声&キョドる声

 

「え? え? え?」

 

 重体のチルッチが簡易ベッドの上から横から入り、ドルドーニが急変したことに勇音は戸惑いを示す。

 

「あとウザくなったら何時でも私を呼びな、あしらい方と苦手な事を教えてやる。」

 

「は、はぁ……」

 

Noooooooooo(ノォォォォォォ)?!」

 

 これを見ていた卯ノ花微笑ましいモノを見るかのようにニコニコしていた。

 

「うむぅ……あの勇音がああやって頬を赤らめるのが『死神』ではなく『破面』とは、人生とは本当に何が起こるか分からないものよのぅ?」

 

 そして彼女の隣では右之助が複雑な顔をしていた。

 

「右之助様はあの破面の少女に『あぷろーち』はされないのですか? 貴方の好みかと思われましたが?」

 

 卯ノ花はドルドーニとガミガミ言い争うチルッチを見ていた。

 が、右之助は手を拒否的に振るう。

 

「いや、無理じゃ。 ああ言う気の強い女子(おなご)はダメじゃ。」

 

 ここでピクリとドルドーニの耳が反応して、彼は右之助へと振り向く。

 

「フ. そこな老人(ヴィエホ)よ、良く分かっているではないか。」

 

「そうかの? まぁ、ワシはどちらかと言うとそこのマイちゃんが目の保養になっておるからいいのじゃが。」

 

 右之助はいまだに黒崎クリニック(超ミニスカ風)のナース服を着ていたマイを横目で見る。

 

「あらぁ~、そう言われると恥ずかしいわぁ~………………………(ポッ)」

 

 ガシッ!

 

 マイが照れながら頬を僅かに赤らめ、ドルドーニが右之助の手を両手で掴む。

 

 同志(コンパニェーロ)よ!」

 

 「うむ!」

 

 ここに新たな(男の)友情(同盟)が出来上がった瞬間である。

 

 「お二人には節度は守って欲しいですね。」

 

「「ハイ。」」

 

 卯ノ花の静かな笑顔(威圧)に右之助とドルドーニが畏まり、その場にいたガンテンバインが複雑な顔をしていたことに茶渡が声をかける。

 

「大丈夫か?」

 

「あ? あ、ああ。 ただ……ちょっと、な。」

 

 ガンテンバインが戸惑うのも無理はない。

 

『死神が(破面)()()()()()()()()()()()。』

 

 死神からすれば現世に現れた虚は即座に斬る、『討伐対象』。

 

 だが逆に虚からすれば、死神は『恐怖』でしかない。

 特に隊長格ともなれば。

 

 ドルドーニは破面の中でも『変わり者』だとしても虚の一つ。

 

 それがこのように、(仲介人のような人物がいるとはいえ)()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 と言うのも、彼ら『十刃落ち』たちは運が良かった。

 

 出会ったのが比較的に平和を好む四番隊であったことと彼らを連れてきたのがマイたちで、ドルドーニ達が『話すことの出来る破面』であったこと。

 

 もしこれが他の隊であれば即座に捕縛、拘束、もしくは斬り捨てられていただろう。

 それこそ『戦争の敗者』らしく。

 

「(でも良かったわ~。)」

 

 実はこれがマイの狙い(役割)だったのは言わない約束である。

 

 そこに新たな者たちが現れた、いや『送還』した。

 

「や、山田七席! た、ただいま朽木隊長()()と戻りました!」

 

「ええ、お疲れ様で────え。」

「な、なんと?!」

 

 山田花太郎の声に反応した卯ノ花が珍しく呆気にとられるような声につられて右之助もびっくりする声を出し、注目を更に集める。

 

「(あらぁ~?)」

 

 マイも黙り込んだ四番隊の皆の視線を辿る先で、()()()()()()()()()()()が気まずそうに頬を掻いていたのを見る。

 

「あー、久しぶり?」

 

「と、と、と、と言う訳だ皆の者! 詳しい事は純を追って話す!」

 

 そして彼の隣ではそのままスルーさせたい意気を明らかにした、冷や汗をダラダラと流すルキア。

 

「ううぅぅぅぅぅ、頭が未だに痛いよぉ~。」

 

「文句を言うのか? 一発で済ませたではないか?」

 

「その一発が『斬魄刀の峰内』だから痛いのよ!」

 

 更に頭にアニメ風タンコブが出来ていた三月が『フシャァァァ!』と怒りを露わにする猫気味に、ボロボロになった隊首羽織を羽織っていた白哉に絡んでいた。

 

 ゴツン!

 

「ふぎゃ?!」

 

 ルキアがジャンプを入れたゲンコツを三月の頭にお見舞いさせる。

 

「このたわけ! 義兄様の優しさがまだ分からないのか?!」

 

 「い、痛い?! ほ、星が! 星が見えたスタァァァ!!!」

 

「『星が見えた』? この天蓋内で何を言っているのだ?」

 

 目を白黒させる三月が意味不明なことを口走ってルキアがツッコむ。

 

 そのタイミングで、四番隊の誰かが口を開けた。

 

「海燕……副隊長?」

 

「ん? ああ、そうだけど?」

 

 黒髪の一護(志波海燕)が平然と答え、その場がざわざわし始める。

 

 その間、右之助は白哉のそばにコソコソと近寄り、白哉は彼を横目で見ていた。

 

「………………………何だ?」

 

「…………その羽織、そのままだと山坊に叱られるぞ?」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 白哉の目が僅かに目を見開いて彼自身は固まり、汗が『ブワッ!』と噴き出してはダラダラと流れ始める。

 

 

 ___________

 

 一護、更木、織姫、カリン 視点

 ___________

 

 ビリビリビリビリビリ!

 

 更木がボロボロになった隊首羽織を無理やり己の体から剥ぎ取って地面へ投げ捨てる。

 

「うし。 テメェらの仕事は終いだ、さっさと帰れ。」

 

「は、はぁぁぁぁ?! なに言ってんだ?! ここまで来たんだ、俺は────!」

 

「────今のテメェは『ただ死神の力を持ったガキ』だろうが?」

 

 更木が一護と織姫を見ながら『帰れ宣言』をしたことに一護は反論するが、更木が彼にしては珍しい正論で一護を黙らせる。

 

「死神代行でも()ぇお前がいると戦場を楽しm────()()()()なんだよ。 それにお前の目的は『殴り込み』じゃなくて『そこの女(井上)を助ける』だろうが。 間違えんじゃねぇよ。」

 

『やぁ、侵入者諸君。』

 

「「「ッ?!」」」

 

 突然直接頭の中で聞こえてきた藍染の声で、その場にいた皆がびっくりして固まった。

 

「(始まったか、『偽・空座町戦』。)」

 

 カリンだけは事の進み具合から予想していたらしく、面白なさそうな顔をしていた。

 

『ここまで十刃たちを陥落(かんらく)させた君たちに敬意を表して伝えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 これより私たちは()()()()()()()()()()()()と。』

 

 

 ___________

 

 雨竜、マユリ、リカ 視点

 ___________

 

 藍染の宣言を聞いた雨竜は驚愕していた。

 

「ば、バカな?! 崩玉の覚醒まで時間はある筈じゃなかったのか?!」

 

「ネム────」

 

「────マユリ様、『黒腔(ガルガンタ)』が展開しません。 この場一帯の霊圧濃度も変動している模様です。」

 

「チッ。 (一杯やられた様だね、これハ。 ま、私では無く『浦原喜助が』、だがネ。)」

 

「(始まりますか。)」

 

『井上織姫の“盾舜六花(しゅんしゅんりっか)”は大変素晴らしい。 “()()()()()”は正しく“神の領域”を侵しているだろう。 

 ソウル・ソサエティの上層部は彼女の重要性を配慮し、彼女の拉致が判明しては現世ではなくソウル・ソサエティの守りを重視させた。

 その上、彼女は見事“死神代行”を含む“旅禍”と彼らに加勢しに来た者たちをこの虚圏に()()することを可能とした。』

 

 ___________

 

 白哉、ルキア、三月 視点

 ___________

 

「義兄様────!」

 

「────霊圧が変動している、『瞬歩』も使えん。」

 

「卯ノ花隊長! やはり『黒腔(ガルガンタ)』が封鎖されています!」

 

『それでは、侵入者諸君。 御機嫌よう。』

 

「(頼むわよ、()()()()()!)」

 

「お、おい! 空座町が────!」

 

「────大丈夫じゃ、色黒の。」

 

 慌てだす茶渡に右之助が声をかける。

 

「大丈夫じゃ。 山坊たちもこれは想定していたこと。 ()()()()皆が展開(戦闘準備)を終えた頃じゃろうて。」

 

「…………展開? まさか、『空座町で戦闘』?! 廃墟になってしまうぞ!」

 

「心配には及びませんよ、泰虎茶渡。 『転界結柱(てんかいけっちゅう)』で空座町全体を()()()()()()います。」

 

「………………………………『転界結柱(てんかいけっちゅう)』?」

 

 ここで?マークを出していた茶渡に代わってルキアが卯ノ花に問う。

 

 恐らくは、他の皆も同じように困惑や質問などをしているだろう。

 

転界結柱(てんかいけっちゅう)』。

 それは空座町全体を『戦闘可能』な状態に()()()()()ための下準備で、巨大な範囲に展開した『穿界門(せんかいもん)』を使い、十二番隊の技術局が流魂街(流魂街)の外れに作った『偽・空座町』と入れ替えた。

 

 そしてこれによって『真・空座町』は眠らされた住民たちと一緒にソウル・ソサエティに送られ、現世では『偽・空座町』に展開した隊長格が来るであろう藍染たちを待ち受けるという、かなり大胆な作戦を可能とした。

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「フム。 あまり驚いていないようだな、藍染よ?」

 

 砕蜂、大前田、浮竹、京楽、狛村と彼の副官である鉄左衛門、日番谷、乱菊、雀部たちの前に立っていた山本元柳斎が面白なさそうに同じく面白く無さそうな藍染に問う。

 

「驚く? 本物の空座町をレプリカと入れ替えるなど()()()()()()だよ。」

 

 ゴアァァァァァァ!

 

 お腹に来る音と共に、『黒腔(ガルガンタ)』が藍染の背後に現れて破面たちが次々と現れる。

 

「空座町がソウル・ソサエティにあるというのなら、君たちを殲滅した後に行くだけのことだよ。」

 

「ほぉ?」

 

 山本元柳斎の顔がニヤリとして、彼は両目を開けながら藍染を見る。

 

「言うようになったの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (わっぱ)。」

 

「強くモノを言わない方が良いぞ?

 

 

 

 

 

 

 弱く見えるからな。

 

 正に瀞霊廷と藍染たちが、互いの主戦力を集めた総力戦が始まる前に空気はピリピリとした一発触発に似ていた。

 

「ば、バケモンみてぇな霊圧ばかりだぜ────」

 

「────ならさっさと逃げろ、この腰抜け。」

 

 タジタジとする大前田に砕蜂が何時ものように彼にキツク当たる。

 

「隊長、ここはやはり敵の大将から叩くんですかい?」

 

「藍染の能力は厄介極まりない。 周りの者たちを倒さねば背後を撃たれかねん。」

 

 鉄左衛門の問いに狛村が藍染、市丸、そして東仙の周りの破面たちを出来るだけ観察して倒す順序を自分なりに付けていた。

 

「一番強いの、誰かなぁ~? あの女性の中の一人……だったりしてねぇ~?」

 

「見ただけでは何も言えんな。」

 

 京楽の何時もの『のほほん』とした口調とは裏腹に、彼の体はいつでも戦闘態勢に入れるような緊張が見え、浮竹が真面目に受け答えをする。

 

「………………………乱菊、十刃との戦闘中でも藍染に気を配っておけ。」

 

「ですね。」

 

 いつも以上に眉間にシワを寄せる日番谷に真面目な表情をした乱菊が周りの空気と大差ないキビキビとした雰囲気で自分の隊長に同意を示す。

 

「奴は()()()に任せよ────!」

 

 ボッ!

 チャキッ!

 

「────『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』、『城郭炎上(じょうかくえんじょう)』!」

 

 荒れ狂う、強大な炎の嵐が山本元柳斎の周りに現れたと思えば彼は炎の元である刀を振るい、瞬く間に藍染、東仙、市丸の三人を炎の壁が包みこんだ。

 

「どわっちっちっち?! あっちー?!」

 

「フン、少しは貴様の無駄な脂肪も焼かれてこい。」

 

「いやいやいやいやいや! 無理! 死ぬっすよ?!」

 

「ヒュー♪ 初っ端から荒いねぇ、山じい。」

 

「まぁ、それだけに相手が厄介と言う事だな。」

 

「そういう事♪」

 

 場は炎の渦の中にいる藍染たちへと移る。

 

「ひゃあ、あっついわー。 無茶しはるねぇ、総隊長サン……どないしますー、藍染隊長?」

 

「流石にこれは────」

 

「────構わないよ、市丸に要くん。 フフフ、()()()()だ。」

 

 市丸と東仙に、余裕の笑みを藍染は浮かばせていた。

 

「さぁて、どうしたもんかのぉ。 ボスがあのザマでは────」

 

「────口が過ぎるぞ、バラガン。」

 

 傲慢な態度の隻眼の老人に、立派なモチをおもちな金髪で褐色の女性破面が注意するような言葉を出す。

 

「小娘がワシに口答えするか。 まぁ良い。 ボスが身動き取れん以上、ワシは()()()()()()()()。」

 

 この老人の名は『バラガン・ルイゼンバーン』。

(自称とはいえ)かつて自らを『虚圏の王』と称し、数多の虚たちを部下として従わせた破面の中でも強者の部類の上にかなりの洞察力の持ち主。

 

 藍染の言った、『空座町を入れ替える』と言うわずかな情報から恐らくは町一帯を何らかの結界に似たものを発生させる媒体が東西南北にあることを察し、彼は自分の部下たちを出陣させる。

 

 そして彼は更にダメ押しに彼の親衛隊である四名にも指令を出す。

 

 屈強な体格を持つ『シャルロッテ・クールホーン』。

 どこかの部族の戦士みたいな風貌の『アビラマ・レッダー』。

 顔のほとんどを仮面で覆われた長髪の男、『フィンドール・キャリアス』。

 そして虚ろな表情をした大男、『チーノン・ポウ』。

 

 上記四名がバラガンの予測通り、偽・空座町の東西南北に立っていた柱に着くと先に出陣した破面たちは一角、綾瀬川、吉良、檜佐木四人に返り討ちにされた場へと各々が到着していた。

 

「お! 今度はやけにデカい野郎が来たな! テメェが見掛け倒しじゃねぇってことを祈るぜ!」

 

「……………貴様ら死神に祈る神などがあるのか?」

 

「あ? あー、そういやそうだった…祈る相手いねぇじゃねぇか……」

 

 ポウの正論的ツッコミに一角が珍しく困った顔をしながら考え込む。

 

「貴様は何者で、何席だ?」

 

「檜佐木修兵。 九番隊の副隊長だ。」

 

「ほう、()()()()()()()()()としよう。」

 

「????」

 

 フィンドールの意味不明な言葉に檜佐木は?マークを浮かばせる。

 

「ちゅうも~~~~く! この私! バラガン陛下の第一の従属官、『シャルロッテ・クールホーン』が貴方を────ってなんで目を閉じているの?」

 

 綾瀬川は塩辛~い梅干しを丸ごと食べたような顔をしていた。

 

「僕は醜いものは見ない主義────」

 

 バチィン!

 

 クールホーンが綾瀬川にビンタをする。

 

「────へぶぅ?! ききききききき貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!! 僕に何しやがんだこの野郎ぉぉぉぉぉ!?」

 

「こっちのセリフよ?! 初対面の相手に『醜い』なんて言葉を使うなんて! 良い?! 真に『醜い』ってのはね、貴方のように人を見ためで判断する人のことよ?!」

 

 クールホーンがまたも綾瀬川を見る。

 だが彼は無言で目を手で覆っていた。

 

「何よそれ?」

 

「目が腐り落ちると嫌だから。」

 

 ビキ!

 

 「良い事を言ってんだから顔ぐらい見なさいよ、このブサイクゥゥゥゥ!」

 

 ビキビキビキ!

 

 「あああああ?! 良いことも大したことも言って無いだろ?! ブサイクはお前だぁぁぁぁぁぁ!」

 

 「何をぉぉぉぉぉぉ?!」

 「なんだぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 ある意味、似たもの(ナルシスト)同士が体の底から浮き出る、純粋な『同族嫌悪』で互いに荒げた叫びをする。

 

「うおおおおおおおお! オレはァァァァァァ! やるぜぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

「……君は何をやってるんだ?」

 

 一人で何某黒髪が金髪に代わる漫画のキャラみたいに叫ぶアビラマに呆れ(シラケ)た視線で吉良がジト目で見ていた。

 

「儀式だよ! 『互いをぶちのめしてやる』って気持ちを叫びに込めて、互いを鼓舞(こぶ)する戦いの儀式だ! さぁ、テメェもやれ!」

 

「(こいつ、一角さん以上に意味不明でウザいな。) やらないよ? そんな後ろ向きな物に乗っかる筋合いはない。」

 

うるせぇ! テメェのほうが後ろ向きな(ツラ)してるクセに言われたくねぇ! ちぇ、とんだ腑抜け野郎に当たったぜ……せめて自己紹介ぐらいしろや。 オレはバラガン陛下の従属官の『アビラマ・レッダー』だ。」

 

「三番隊副隊長、『吉良イヅル』。」

 

 アビラマが初めて笑顔を浮かべる。

 

「……へぇー? ()()()()()()()()か。 と言う事は~? ウルキオラの()()()になった、あの()()()()()()()の────ッ?!」

 

 ズゥオオオォォォォォ!!!

 

 吉良から何とも言えない『圧』がアビラマを襲い、彼は口を思わず閉じる。

 

「それ以上言うな。 言えば君をなぶり殺す。」

 

 アビラマは()()()()ほどの殺気に、深い笑みを浮かべながら身震いをする。

 

「へぇー? 出来るじゃねぇか、そんな顔もよぉー?」

 

 吉良はかつてない程、『冷たい怒り』を顔に出しながらアビラマを睨んでいた。

 

「良いぜ! 『戦いの(ツラ)』も出たことだし、殺し合おうじゃねか死神ぃぃぃぃ!!!」

 




東仙:………………あっけない登場だったな、私たち。

市丸:それは言わん約束さかいな。

作者:うおおおおおお! 次話を書くぞぉぉぉぉぉぉぉ!

東仙:仕事が忙しくなっているんじゃなかったのか?

作者:グァァァァ?!

市丸:ほな皆さん、次話でまた会いましょうや♪

東仙:ん? …………『拙い文章の作品をいつも読んで頂き、ありがとうございます』…………ダイイングメッセージなら他にも書くことがある筈と言うのに…………


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第83話 The [Wolves] Howling

大変長らくお待たせいたしました、次話です!

勢いのまま書きましたのですごく不安ですが楽しんで頂ければ凄く幸いですというか読んでくださってありがとうございますぅぅぅぅぅ! (汗汗汗汗汗汗&必死の血走った目



*注*独自設定や独自解釈にご都合主義などが満載しています


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 ドォォォォン!

 

「さて。 指示通りにいくぞ、ヤミー。」

 

 上記と同時刻ほどの虚圏では、『反膜の匪(カハ・ネガシオン)』から力で無理やり脱獄したウルキオラが、タイミングを合わせたかのように着地したヤミーと一緒に一護たちを見ていた。

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリ!

 

「ゲェ~ップ! 待ちくたびれたぜ!」

 

 ヤミーは食べていたポテチ(っぽいモノ)の袋を投げ捨てて、盛大なゲップを出しながら口を袖で拭く。

 

「おい一護、オレぁあのデカブツを取るぜ。」

 

「剣八?」

 

「そうだね! ()()()()()()()()()だもん♪」

 

「お? やちるもそう思うか?」

 

 いつの間にか更木の背中に乗っかったやちるの言葉に、ヤミーがニヤリとする。

 

「ほぉ? 分かってんじゃねぇーか、トゲ頭にチビ。」

 

「場所を移すぜ。 ここに居たんじゃ、()()()本気で殺し合えねぇだろ?」

 

 更木とヤミー(と更木の背中のやちる)がその場から消え、一護とウルキオラが静かに対面する。

 

「「「「………………」」」」

 

 これにその場にいた織姫、雛森、クルミ、ネル、地面に横たわっていたグリムジョーたちは黙りながら各々が別々の表情を浮かべていた。

 

 織姫は悲しむような、どこか複雑な顔を。

 雛森はやつれた見た目のまま、怯えるような顔を。

 クルミは無表情、または無愛想の顔を。

 

「???????????????????」

 

 ネルは状況に付いていけずにただ?マークを無数に出し、グリムジョーは冷や汗を流しながら悔しそうな目で一護とウルキオラを見ていた。

 

「成程。 『恐怖』と言っても、様々な表現の仕方があるのだな。」

 

 沈黙を先に破ったのはウルキオラだった。

 

「……あ?」

 

「俺が貴様らの胸や頭蓋の中を視れば、『心』と呼ばれているモノがそこにあるのか?」

 

「何を……言っているんだ、お前?」

 

「いや、不必要な問いだ、答えなくていい。」

 

 一護は思いもしなかったウルキオラの言葉に純粋な疑問を持った。

 

 それもそうかもしれない。 

 何せウルキオラはそのようなことに、関心を見せた素振りなど一度もなかった。

 

 これは一護たちにだけでなく、他の破面たちや藍染を除いた皆の前でもそうだった。

 

 今までの登場した破面たちは多少の違いはあれど、『感情(動機)』と似た何かを全員持っていた。

 それは『ただの虚』から『破面』、ネリエル風に言うと『獣から進化した』際に得た『(理性)』。

 

 だがウルキオラにはそれが無かった。

 

 その特性故に彼が『破面』、そして後に『十刃』となっても周りからは浮いていた存在だった。

 

 片方で『藍染(様)の飼い犬(忠実な部下)』と認識されている彼だが、それは藍染が彼に『動機(使命感)』を与えていたからである。

 

 ただやはり『使命感』は『感情』ではないので周りからは嫌悪、あるいは邪険にされていた。

 

 そんなウルキオラが織姫を虚圏に連れ去った後に、()()()()()で藍染に質問をした。

 

『心とは何ですか?』と。

 

 それは彼が、織姫が『自分より他人を優先する行動』や、人質として取った雛森を慰めようとしたクルミに『何をしているのか』と言った問いにクルミの答えが上記の疑問の引き金となった。

 

彼女は怖がっています。 ()()()()()()()()()この唐変木が。

 

 ウルキオラは基本的に、人間で言うところの『極端なリアリスト』のように『黙認できないモノは存在しない』という考えを元に、それまでは行動をしていた。

 

 だが織姫の不可解な行動も、クルミの言葉がまるで心は『()()()()()』と言うようなモノが彼の頭の中で引っかかっていた。

 

 それ故に、『虚ではない(藍染)』に彼は上記の質問をした。

 

 その時、質問をされた藍染はウルキオラが見たことも、噂でも聞いたことがない程に目を見開いてから落ち着きを取り戻し、ウルキオラにこう答えた。

 

『心を知りたいのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』、と。

 

「……………」

 

 ウルキオラが無言で、少なくとも一護を前に、初めて腰の刀を抜く。

 

「井上たちには近づかせねぇよ。」

 

「く、黒崎くん────」

 

「────井上、皆をちょっと下がらせろ。 結界も忘れるな。」

 

「でも……ケガが────」

 

「────そうも言ってられねぇし、ウルキオラはそれ(回復)を待っちゃくれねぇタイプだろうよ。」

 

 グリムジョー、そしてカリンがとどめを刺すまでテスラを相手にしていた一護は満身創痍のまま『斬月』を構える。

 

「そうか。 ならば貴様から胸と頭をえぐってやろう────」

 

 ギィィィン!!!

 

「────だから『させねぇ』って言ってんだろうが?!」

 

 一護とウルキオラの刀が互いにぶつかり、耳をつんざくような音があたり一帯に響く。

 

 ギィン!

 ヒュッ!

 ガッ!

 

 双方が斬術と蹴り技を含めた激しい攻防が始まる。

 

『────井上さん、黒崎さんの治療をお願いします────』

「────え────?」

 

 ゴォォォォォォォォォォォ!!!

 

「「「「「────ッ?!」」」」」

 

 クルミの念話に織姫が驚いたその瞬間、辺りの空気が急に重苦しくなるような霊圧にその場にいたウルキオラを含めた皆が一気に同じ方向を向く。

 

「な、なんだ……これ?」

 

「…………………あ。」

 

 雛森が何かに気付いたかのように息を出す。

 

()()?」

 

 すると皆が見ていた方向にある、少し離れた塔から青い閃光がびりびりと電が通った後のように、大気そのものを歪めながら虚夜宮の天蓋の外へと飛び出る。

 

 チャリ、チャリチャリチャリ。

 

「……?」

 

 これを見ながらウルキオラは自分の()()()()を横目で見た。

 

「(……………砂の上にいる俺を小刻みに動かすとは、よほど強い衝撃だな。 と言うことは……『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』か?」

 

 そして彼は塔の中から放たれた閃光による一帯の地鳴りと手の震えを結びつけた。

 

 ___________

 

 恋次、ルキア、リカ 視点

 ___________

 

「な、なんだありゃぁ?!」

 

 上記と同時刻、別の場所では恋次と彼のそばに駆け付けたルキアがザエルアポロの研究所に駆け付けた葬討部隊(エクセキアス)の隊員たちと戦っていたが、一護たちと同様にその場にいた皆が思わず内側から塔を半壊した青白い閃光と巨大な霊圧に当てられていた。

 

「(この霊圧……一瞬だけだが、この一帯の乱れる霊圧濃度を上書きした……誰だ? 誰と誰が戦っているのだ?)」

 

「藍染様の()()か。」

 

 そして葬討部隊隊長の『ルドボーン・チェルート』は警戒を怠らず、『髑髏樹(アルボラ)』を使って、皆が気を取られている間に新たな兵士の『髑髏兵団(カラベラス)』を作って恋次とルキアに撃破された数を補充していった。

 

 その間、観戦することに徹していたマユリ、ネム、そしてリカがその塔を見ていた。

 

「素晴らしイ! 実に! やはり虚圏は『新しい発見』の泉だヨ! フハハハハハ!」

 

「(フゥム、これは『原作』にはない流れですね……あれは十刃の、誰の塔でしょうか?)」

 

 ___________

 

 白哉 視点

 ___________

 

「……………」

 

 白哉は他の者たちと違い、例の塔が爆発したことを気にもかけずにただ虚夜宮の地面を走っていた。

 

 ガイン!

 

「クソ(かて)ぇなテメェ!」

 

 ガッ!

 

「そういうお前こそな!」

 

 そして彼が向かった先では更木とヤミーも気にせず、自分たち(戦闘狂)の世界に入り込んで互いを攻撃していた。

 

「あ! ビャッ君!」

 

「…………………」

 

 白哉は静かに更木を見守った。

 

「ビャッ君もバナナ食べるぅ~?」

 

「もらおう。」

 

 そして今度はやちるを無視せずに、モグモグと手渡されたバナナを彼女と共に食べる。

 

 ___________

 

 チエ、スターク 視点

 ___________

 

 時は丁度、ほとんどの者が注目した塔が爆発する少し前へと戻る。

 

 場所はいまだにテーブルをはさみながら椅子に座っていたチエとスターク、そしてスタークの椅子の背もたれに寄りかかっていたリリネットの場。

 

「…………………………そろそろ時間だ。」

 

「そうか。」

 

 沈黙をスタークが破り、チエが同意する。

 

 カチャリ。

 

 スタークが紅茶のコップを置き皿から離し、セラミックがこする独自の音が鳴る。

 

 同時にチエも出された紅茶を静かに飲む。

 

 そして最後の一滴が互いのコップの中から無くなると、二人が同時に動いた。

 

 コップからチエが手を放し、スタークは間にあったテーブルの上面を彼女の胴体目掛けて蹴り上げながら、自分もコップから手を放す。

 

 キィン。

 

 チエが()()()()()()()()()するモーションのまま、自分へ迫ってくるテーブルを斜め状に斬る。

 

「ッ」

 

 そしてテーブルが真っ二つに割れ始めると同時に、その向こう側から青い閃光がテーブルを消滅させながらチエに襲い掛かる。

 

「(虚閃か? いや、()()が違う。)」

 

 チエは上半身を襲ってくる虚弾(バラ)を、体を横にわずかにずらして避ける。

 

 が、もう少し割れたテーブルの向こう側にスタークの姿はなかった。

 

 チッ。

 

 僅かな金属音にチエは視線を横へと動かし、横で拳銃を構えたガンマンスタイルのスタークが引き金にかかった指を動かす。

 

 ゴォォォォォォォォォォォ!!!

 

 先ほど二人が手を放したコップが床に落ちる前にスタークの放った虚閃がそれらを消滅させ、塔が半壊した。

 

「……………あのヤロウ。」

 

 仏頂面のままスタークは塔から外へと飛び出て、虚夜宮の地面へと降り立つ。

 

 ドォン! ドォンドォン!

 ガラガラガラガラ!

 

 地面に落ちた瓦礫の何個かが崩れる音の中、スタークの顔は強まった。

 

「テメェ、どういうことだ?」

 

「………………」

 

 彼の前には虚閃を避けきれなかったのか、左肩と二の腕の服装が破れて下の露出した肌は火傷のような傷を負ったチエが無言で立っていた。

 

()()()()()()()()()のに『ここに来た』ってのは、どういう了見だ? ()()()()戦いを侮辱しているのか?」

 

「………………………いや? 再戦が待ち(どお)しくて、私は来ただけだが?」

 

 ギリリ。

 

 スタークの手が拳銃を力強く握る。

 

『イタタタタタタ?! ちょっとバカスターク! 私の扱いをもうちょっと考えろよ?!』

 

 握られた拳銃から響いたのはリリネットの抗議する『声』。

 

 だがスタークはそれを無視してチエに言を投げる。

 

「言うじゃねぇか、()()()()()()()()が。」

 

 チエが刀を両手で構える。

 

「こい、()()。」

 

 ヒュッ!

 

 二人が動いて、周りの時間が急激に遅くなったような現象に二人の思考が入る。

 

 蹴り上げられて、飛び散り始めた砂がスローモーションで宙に巻き上がる中でスタークは左手の拳銃をチエに向けて乱射する。

 

 ドウドウドウドウドウドウドウ!

 

 バチ! バチ、バチ、バチィィィ!

 

 遅くなった時間の中でも高スピードで一直線にくる虚閃を、チエは刀の切っ先で軌道を自分に当たらない、最低限の角度に変えて行きながらスタークに近づく。

 

 ヒュン!

 

 チエは眼前までに近くなったスタークに刀を突きだす。

 

「ッ。」

 

 が、刀が刺さっても抵抗が無いことに彼女は目の前の画像が残像と気付いたころに、実体のスタークが右手で握った拳銃ではなく、()()()()()()()()刀をチエの横左方面から振っていた。

 

 バチィン!

 

 チエは刀の返しの切り込みでそれを弾きながらスタークに再度斬りかかるが、彼は弾かれた勢いを利用して、彼女のそばから後ろに飛んで距離を取る。

 

 バサァ!

 

 ここで時間が追い付いたのか、初歩の段階で飛び上がった砂が地面に落ちる。

 

「(やはり近接戦闘もこなせるか。)」

 

「(やっぱり飛び道具相手は慣れているか。)」

 

「「(さて、『どうするか』など(なんて)決まっている。)」」

 

 チエ(スターク)(拳銃)を構えなおしながら、お互いが思考を巡らせる。

 

「(策を練って────)」

「(────相手の隙を突く。)」

 

 二人がまたも互いへと再度突進…………………

 

 するのではなく、横に高速で動いて相手の出方をうかがうような動きに変わる。

 

 そしていつの間にか一護とウルキオラとの戦闘にカリンとクルミが参加していた場面に出くわす。

 

「「「「「チエ?!/チエちゃん?!/隊長?!/やはりコヨーテか。/誰だスか?」」」」」

 

 彼女を見て一護、カリン、クルミ、織姫、そして雛森は共に驚いた声を上げ、ウルキオラは納得したような独り言を上げ、ネルがポカンとした顔で疑問を口にする。

 

 だが二人が周りの声や存在に気付いた様子はなく、スタークは新たな虚閃を右の拳銃で撃ちだす。

 

「(やはり先ほどの虚閃……………空座町で初めて撃った虚閃か。*1)」

 

 チエは思わずそれを避けるモーションに入る為に足に力を入れ始めると、スタークがここで問いを投げる。

 

()()()()?」

 

「ッ。 『双蓮蒼火墜(そうれんそうかつい)』!」

 

 ボォォォ!

 

 チエが()()を使って襲ってくる虚閃の軌道を無理やり変える。

 

 その彼女に無言でスタークが位置を変え、更に虚閃を撃ちだす。

 

「虚閃。」

 

「ッ。 破道の八十八、『飛竜撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)』!」

 

 ズゥオォォォ!

 

 チエは更に大きな(メガ粒子砲に似た)鬼道を使い、彼女の撃ち出した光線はスタークの虚閃を飲み込んでそのまま上空へと飛んで虚夜宮の天蓋を突き破る。

 

「………………()()()本気を出したか?」

 

「………………」

 

 彼女の鬼道を躱したスタークはチラッとチエの後ろにいた織姫たち……

 

 いや、正確にはチエの()()()()()()雛森を見た。

 

「成程。 テメェが『ここ(虚圏)』に来たのはそいつ(雛森)の為か。」

 

「………………」

 

 チエは何も言わずにただスターク、そしてウルキオラの両者から目を離さなかった。

 

「スターク────」

 

「────少し黙っていろ、ウルキオラ。」

 

 チエは何も言わずにいると、不安になりだした雛森が何かを察したように口を開ける。

 

「……え? まさか……本当に?」

 

「………………」

 

 それでもダンマリとするチエを見た一護とカリンがため息交じりに互いの言葉を付け足していく。

 

「あー、この場合『察せ』はダメだぞチエ?」

 

「そうだぜ? 一言で言いからなんか答えろよ。」

 

「ああ。」

 

「「「「「(本当に一言で済ませたぁぁぁぁ?!)」」」」」

 

 文字通り一言だけ言ったチエに一護たちが内心でツッコミを入れる。

 

「……なぁ、アンタ。 ここを離れたら()()()()()()()()()か?」

 

「お前次第だ。」

 

 スタークに出来るだけ簡潔にチエが答えると、スタークは頭を空いた手で掻く。

 

「そうか……よ!」

 

 スタークが拳銃を構えるとほぼ同じタイミングでチエは横へと移動を開始していた。

 

「────」

 

「………………………………え?」

 

 口をパクパクとしたチエに、雛森がポカンと口を開ける。

 

 ゴォォォォォォ!

 

 その時、チエは空間ごと捻じれるような虚閃を避けて、塔で放たれた初期の虚閃で空いた天蓋の穴から虚圏の夜空へと出る。

 

「ん。」

 

 スタークも空いた穴へと出ると、わずかな違和感を覚えたのか彼は急に移動の向きを変えた。

 

 ボボボボボボボボン!

 

「(移動しながら『鬼道の組み合わせ』か、やるな。)」

 

 スタークは自分の肩から徐々に消えていく、蜘蛛の糸のような霊圧を見る。

 

「(『蜘蛛の糸』に引っかかった獲物を襲う『火の玉』か。 それに『それらを隠す鬼道』ってところか。)」

 

 彼は暗い虚圏で姿が見えないチエを探していた────

 

「(なんてな。 居る場所は分かってんだよ。)」

 

 ────否、()()()()をしていた。

 

「(あの『蜘蛛の糸』霊圧の張り具合で分かるぜ────)────『無限装弾虚閃(セロ・メトラジェッタ)』。」

 

 ドウ!

 

 スタークは左手の銃で一発と聞き間違えるほどの連射速度で、一気に視野を埋め尽くすほど数えるのもバカバカしくなる数の虚閃を撃つ。

 

 ギィィィン!

 

『イタァァァァァァァ?! バカスターク! 私は剣じゃないぞバカ!』

「(少し我慢しろリリネット。)」

 

 その虚閃が着弾する前に、スタークは後ろから斬りかかるチエの刀を拳銃で受け止める。

 

「罠をかけて、相手が広範囲の技の霊圧を利用して一気に首を狙うたぁ………悪くない、()()の基本の一つだ。」

 

「……ヌゥン!」

 

 チエが力むような声を出し、スタークを無理やりそのまま押し返す。

 

 キィン。

 

 スタークは後方に飛ばされると思えば、彼の体を帯状の光が胴を囲うように突き刺さる。

 

「(()()()()の罠か────)」

 

「────『斬華輪(ざんげりん)・改』。」

 

 返しの刃で、チエは刀から霊圧の波のようなものをスタークに放つ。

 見た目だけで言えば黄色い、『プチ月牙天衝』に似ていた。

 

 ドォォォォ!

 バリィン!

 

 だがスタークはノーモーションの虚閃でそれを掻き消し、拘束する帯状の霊圧もガラスが割れるような音と一緒に消える。

 

「こんなものか、()()?」

 

 スタークが挑発的な言葉を、彼を見るチエに投げる。

 

「『紅蓮の炎よ、(ほとばし)り、我の敵を穿(うが)て────』」

 

「(────後ろ────?)」

 

「『────刀剣火葬(とうけんかそう)』。」

 

 スタークが目の前のチエが霊圧の残像(『空蝉』)と気付くのは、チエの()()を後ろから聞いた瞬間。

 

 そして彼は背後に振り向くと同時に、燃え盛る刀状の炎に呑み込まれた。

*1
67話




市丸:なんやこの子、やれば鬼道もできるやないか

作者:ちなみに使った『刀剣火葬』はオリジナルです。

市丸:へぇ~、炎系なんて総隊長に似とんなぁ~

作者:鬼道じゃないけどね。

市丸:え?

ライダー(バカンス体):邪魔するぞ若いの! いい酒が手に入ってな!

市丸:え? 何この京楽はんの声でごつごつした暑苦しい大男は?

作者:ぎゃあああああ?! キタァァァァァ!  警備員、こいつを────!

ライダー(バカンス体):────ん~? 酒のつまみがないではないか────!

市丸:────ほなちょっと買い出しにいってくるわ────

作者:────オイィィィィィィィィィ?!


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第84話 [The] Monsters Under the Moonlight

お待たせしました、次話です!

いつも読んで頂き、ありがとうございます!


 ___________

 

 一護、カリン、クルミ、ウルキオラ 視点

 ___________

 

 チエとスタークの双方が互いに()()()見せたことのない攻防を虚夜宮の外で繰り広げている間、天蓋の中で焦る一護は織姫に治療されている途中だった。

 

「井上、俺が満足に動けるだけでいい────!」

 

 ガンガァン!

 

「────どけ、女ども。」

 

 ギリギリギリギリギリ。

 

「どかせろよ、泣き目野郎!」

 

 ウルキオラの刀とカリンの持っていた赤い槍が激しくぶつかり合って火花が二人の周りを散る。

 

 ジャラジャラジャラ!

 

 ウルキオラの左腕に鎖が絡まり、鎖の持ち手であるクルミが一気に引っ張って無理やり彼の左手を握っていた刀から引き離す。

 

「甘いな。」

 

 ウルキオラの左手の人差し指が緑色に光るとほぼ同時に、彼は手が引っ張られることを逆手にとって虚閃を自らへと射線を動かしたクルミへ撃つ。

 

「(クルミ姉さま、離脱してください!)」

 

 ゴォォォ!!!

 

 クルミは素早く鎖の拘束をウルキオラから解いて、紙一重で虚閃を躱す。

 

「貴様もだ────」

 

 ザク。

 ガシィ!

 

「────え、ちょ、待っ────?!」

「(────槍から手を離せ、カリン────!)」

 

 ────今度は刀を地面に突き刺し、右手でカリンの槍の(つか)部分を掴んで力強く引く。

 

 これに槍を持っていたカリンが引き寄せられ、ウルキオラは引き込むモーションを所のまま肘打ちを彼女の顔に食らわせて地面に突き立てた刀を掴み取る。

 

 ドシッ!

 

「────グァ?! (マジ痛てぇぇぇぇぇぇ?! 『ルーンの守り』があって『これ(高ダメージ)』かよ?!)」

 

 ヒュッ!

 ドパァ!

 

「ッ?!」

「(クルミ姉さま?!)」

「(大丈夫、()()()()だけよ。)」

「(内臓がやられているではないですか?!)」

「(そうね。)」

 

 そして彼が背後から近づいたクルミに刀を振るい、後ろへと飛ぶ際に彼女の腹部に浅くない傷から血がドロリと飛び出る。

 

「ッ。 井上、もう良い! 『双天帰盾(そうてんきしゅん)』を解除してくれ────!」

 

「────っの野郎ぉぉぉぉぉ! Daeg(ダガズ)

「(おい、胴体狙えよ?!)」

 

 カリンは空いていた手で素早く文字のようなモノを書くと、指先の光から文字が空中で作られて()()()()が放たれた。

 

「「「「『()()』?!」」」」

 

 その場にいた織姫、雛森、ネルやグリムジョー達が驚愕する。

 

 ジッ!

 

 ウルキオラは頭部を狙ったこれを、首をまげて避ける。

 

 が、一部が彼の皮膚と接触して何かが焼ける音がする。

 

「ッ。 (虚閃とは違うな、これは()()()高熱線だ。 ()()という奴か?)」

 

「チィ! (視野がブレて上手く狙いが出来ねぇ!)」

「(だから言ったじゃねぇか? 頭フラフラなのに、胴体より小さい()に当たる訳ねぇだろうが?)」

「(うっせーよ、『ランサー』。 今、ちょいとムカついていただけだ。)」

「(バァカ。 大した結果も出せていねぇのに、焦って新しい手の内を敵に明かしやがって。 (やっこ)さんを警戒させただけじゃねぇか。)」

「(うっせーつってんだろ、『クフちゃん』。)」

 「(だからその呼び名ヤメロって?!)」

 

 「ウラァァァァ!」

 

 ガァン!

 

「待たせたな、ウルキオラ────!」

 

「────待ってなどいない。」

 

 外傷のほとんどが無くなった一護がウルキオラと対峙する間、カリンは素早く負傷したクルミを脇の下に担いで、織姫達が退避している場所へと転がり込む。

 

「「ぶぇ。」」

 

 そして地面に倒れるカリンと落とされたクルミが同時に潰れたカエルが出すような声を出す。

 

「(なんつーらしくねぇ声。)」

「(姉様たちはやはり何をやっても可愛いですね♡)」

 

「「(ほっとけ。)」」

 

 そして二人(カリンとクルミ)の中では皮肉とズレた声が響いた。

 

「雛森ちゃん、カリンさんを回復して! 私はクルミちゃんを!」

 

「あ、はい!」

 

 雛森の顔色は変わっていなかったが、何かやることを与えられた上にチエが虚圏に来た理由を聞いた彼女はテキパキと自分ができることをやっていた。

 

 織姫が一護の治療をしている間に四角すいを逆さにした形の周囲から中が見えない霊圧の結界である『倒山晶(とうざんしょう)』を使ったり、『回道』で一護を大雑把に治療したりなどしていた。

 

「悪いな、メロンp────」

 

 ドン!

 

「────一護が、ウルキオラ様を斬ったスよ?!」

 

 ネルの驚いた声に織姫たちが釣られて見ると、確かにウルキオラの胸の服が破けてわずかにだが血が切り口から流れていた。

 

鋼皮(イエロ)って奴か、殆ど斬れていねぇな。」

 

「………………何故だ。 ()()()()()()()()()()()()?」

 

 ここでウルキオラが恐らく彼の()生で二度目の、『自らの疑問の問い』をする。

 

「……別に。 お前みたいな『無口な奴』の相手は初めてじゃない、だから()()()()()()()()さ。 けど、俺の体が付いて来られなかったんだ。」

 

「何だと?」

 

「それに『()()()』なら『何となく出来る』って感じるんだ。」

 

「(グリムジョー達との戦闘か。 あるいは虚の面と関係しているのか? だが成長スピードが明らかに異常だ……まさか、藍染様が目につけていたのはこの事か?)」

 

 ズアッ!

 

 一護の斬月を、黒い影のようなものが(まと)う。

 

「『月牙(げつが)』か────ッ?!」

 

 ウルキオラが『斬月』から一護へと目線を戻すと、一護はその間に虚化(ほろうか)を既に済ませていた。

 

 ガッ!

 バギン!

 

 ウルキオラは防御すると、彼の斬魄刀が刃こぼれし始める。

 

「────『月牙』を纏わせた『斬月』と『虚化』なら、やっぱり斬れるみてぇだな。」

 

 ガィン!

 

 ウルキオラは己の刀が完全に斬られる前に、一護の『斬月』を払ってから近くの建物を駆け上がる。

 

「野郎、逃げる気か?!」

 

「黒崎君!」

 

 一護がウルキオラを追いかける為に同じく塔を登り始めると、織姫が声を彼にかける。

 

 彼が見ると織姫は不安、または彼の身を心配して案じるような、複雑な表情を浮かべていた。

 

「………………………」

 

 一護は何も言わずにただウルキオラの後を追いかけると、二人は虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋を突き破る。

 

「ここは……虚夜宮の外────?」

 

「────そうだ。 (とざ)せ『黒翼大魔(ムルシエラゴ)』。」

 

 ドッ!

 ザァァァァァァ。

 

 ウルキオラが立っていた場所から、黒い液体のような霊圧が一気に崩壊したダムが水を放出する場面、あるいはゲリラ雨のように一護と彼の周りに降り注ぐ。

 

「ッ。」

 

 黒い波の中から出た人影に、一護は短く息を吸い込む。

 

『悪魔』。

 

 その単語が自然と頭に浮かぶほどに、ウルキオラの容姿が変わっていた。

 

 特に黒い翼が背中から生えたとなれば。

 

第4十刃(クアトロ)以上の『十刃(エスパーダ)』は特例を除いて『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』の使用、そして『刀剣解放』を禁じられている。 ()()()()()()()()()────?」

 

 次の瞬間、一護の意識(認識)が追いついた頃にはウルキオラは手の中で作成した、黄色い霊子の刃で彼の首を斬り落とす動きへと既に入っていた。

 

「────(()────?!)」

 

 バァン!

 

 再び厚いゴムの風船が破裂するような音と霊圧の衝撃がその場で拡散する。

 

 戦いが始まって以来────否。 ()()()()()()()()()、一護が膝をついてボタボタと彼の赤い血が虚夜宮の天蓋に零れ落ちる。

 

「……俺の見当違いか。」

 

 ウルキオラはそう言いながら面を四分の一ほど欠けて、顔の斬り口から血を流す一護を見る。

 

 そして当の本人の一護は────

 

 「(ヤバイ。)」

 

 ────内心これ以上ないほどに焦っていた。

 

「(嘘だ、『速い』なんてもんじゃねぇ。 『虚化しても全く見えない』なんて有りえ────)」

 

『“有り得ない”ということ自体有り得ないのだ、一護。 ()()()()()()()()()。 ()()だ。』

 

 上記の(師の)言葉が一護の脳内をよぎるが、彼は珍しくそれに同意せずに抗議をあげた。

 

「(────いやいやいやいや。 『見えないモノ』にどうやって対処すればいいんだ? それ以前に『反応出来ない』ぞ────?)」

 

 ────ドォン、ドォンドォンドォンドォォォン!

 

 大気が巨大な音にびりびりと震え、虚夜宮が衝撃で揺れる。

 一護は横目で彼方でギリギリ見える範囲の戦闘らしき場面を横目でちらりと見る。

 

 本来なら彼は敵から目を離していないだろう。

 

 だが彼は思わず逃避、あるいは別の何かに没頭したいほどに疲労していた。

 

「(誰だ? 誰が戦って────?)」

 

「────そんな余裕があるのか? 俺だけを見ろ、黒崎一護。」

 

 一護の目が見開き、ウルキオラの冷たい言葉が彼を現在()へと強引に引き戻す。

 

「(クソ! どうすりゃあ良いんだ?!)」

 

 一護はすかさず霊圧を高め、虚の面を修復する。

 

『顔のガードが無いよりはマシ』という考えから。

 

「『月牙天衝』!」

 

 ドォォォォ!

 

 一護の虚化した状態で打った黒い波が黄色い槍状(ウルキオラ)の霊圧に相殺される。

 

「やはり似ているな。 『黒虚閃(セロ・オスキュラス)』。」

 

 ウルキオラが『()()()()()()()()()()()を一護へと打ち出す。

 

「(マジかよ?!)」

 

 一護は黒い虚閃に呑み込まれ、その高圧的な勢いに体が押され、虚の面が完全に砕け散る。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「井上さん!」

 

 上記と同じ時、雨竜の声が織姫たちのいる場所に響き通る。

 

「あ、石田君!」

 

「お、眼鏡だ。」

「眼鏡じゃないですか?」

「『石田メガネ』という名前なんて、残念な人スねぇ!」

 

 違う。 断じて違うから君たちまでそう僕を呼ばないでくれ。

 

 カリンとリカの言ったことを真に受けたネルに、雨竜がブチ切れ寸前の表情と声を彼女たちへ向けて出す。

 

 虚圏に来てから怒りんぼの雨竜。

 

 ストレスばかり貯める雨竜である。

 

「石田君、あたしを……上に運ぶ事って出来る?」

 

 ちょうど雨竜が天蓋の穴を見上げたころに織姫が訊く。

 

「……『上』っていうと、黒崎君の霊圧がするあそこからかい?」

 

 織姫がコクリとうなずく。

 

「井上さん……」

 

 織姫を見て、雛森がどこか理解するような表情をする。

 

「私もお願いします!」

 

「……普通なら余計なことを言わずに『いいよ』と言うんだけど、さっきからの霊圧濃度の変動でうまく長時間に霊圧を固められないんだ。」

 

「なんだよ眼鏡、使えねえな。」

「役立たずの眼鏡ですね。」

「石田メガネー!」

 

 「良いから黙ってくれないかな君たち?」

 

「井上。 『行く』っていうのならオレ達が動けるようになるまで待ってくれ。」

 

「カリンさん?」

 

 さらに怒りが露になる雨竜を無視して雛森に治療を受けていたクルミの近くにいたカリンがそう言い、上にいるであろう一護の方向を見る。

 

「石田も感じるだろ? 上から来る霊圧が尋常じゃないってこと?」

 

「………………」

 

「オレとクルミなら、石田とメロンパン(雛森)と井上ぐらい何とか担げる。 だから治してくれ。」

 

「ネルたつは?!」

 

「「留守番でもしてろ(してください)。」」

 

 カリンとクルミの言葉にネルがショックを受けてガクリと項垂れる。

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 ドゴォン!

 

「グァァァァァ!」

 

 一護が落下中にウルキオラに蹴られて天蓋の外にある建物へと吹き飛ばされる。

 

「(やべぇ、今の蹴りで『意識を戻す』なんて────!)」

 

 ガラガラと彼の周りのがれきが音を出す中、彼は立ち上がって前にいるウルキオラを見る。

 

「────死神の力と、虚を真似ることで満足したか?」

 

 もはや過労とありとあらゆる筋肉や骨が悲鳴を上げて震える体の中、一護は『斬月』を構える。

 

「無駄だ。 無駄なのだ、黒崎一護。」

 

「『月……牙────』」

 

 ドッ!

 ドォン!

 

 ウルキオラが一護の顔を蹴り上げて、建物の屋上を突き破る彼の体をウルキオラが胸倉を掴んで無理やり飛ばされるのを止める。

 

「何故だ? なぜ貴様()諦めない? これだけの差を……世の理を知ってなお……()()貴様を動かしている?」

 

「……………………(『何が』、か。)」

 

 一護が考え込むよりも先にウルキオラが彼から手を放す。

 

「さらなる絶望を与えれば、いくら貴様でも諦めるだろう────」

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 ガッガッガッガッガッガッガッガッガッガ!

 

「『上へ参りまーす』ってか?」

 

 先ほどの『メガネ』呼ばわりの仕返しか、雨竜が軽口をたたく。

 

嫌なら降りてもいいんだぜ?

 

 カリンがきつく言い返し、彼を雛森と織姫を担いだクルミとともに上へと連れて行く途中だった。

 

 カリンは槍を器用に何某ゲーム風(ゲッティングオーヴァ○○ット)に片手で登る。

 

「お、重くないかなクルミちゃん?」

 

「……………『軽いぜ。 フッ。 キラッ』。*1

 

「さ、最後のは口に出さないと思いますけど……」

 

 クルミは背中に雛森、両腕に織姫、そして釘状の短剣を髪の毛を使って登っていた。

 

 最初は雨竜もこのことに驚愕していたが、恋次の言った『お前の周りは変人ばっかだな?』宣言を意識していたのか黙認していた。

 

「うるさい店員だな?」

 

オレはエレベーターガールでも店員でもねぇけど?

 

竜弦店長(石田パパ)に言いつけますよ?」

 

 ビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキ!

 

 無言になる雨竜の頭の至る場所に、怒りを示す青筋が浮かび上がる。

 

「あ、あの……その……気を確かに?」

 

 ウジウジとする雛森が慰めの言葉を雨竜にかけたのがせめてもの救いだった。

 

 ッ。

 

「「「「「ッ。」」」」」

 

 その瞬間体中の重みが増すような威圧感が天蓋の穴から漏れ出して、雨竜達の体から汗がブワッと噴き出す。

 

「ぁ。」

 

 雛森が思わず腰を抜かせたのか、腕に入っていた力が緩んでクルミは片手を織姫から離して、彼女が落ちるのを阻止した。

 

「ブクブクブクブクブクブク……」

「マジかよ……………」

 

 はるか遠くにある地面のネルに至っては白目になりながら地面に倒れて泡を口から出し、(織姫たちの治療を断った)重傷のグリムジョーも冷や汗を大量に掻いて頬と首に汗が浮き出る。

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 さて。

 以前のウルキオラの姿が『悪魔』だったと認定すれば、今一護の目の前にある姿はどうだろうか?

 

 ウルキオラの翼はより異質な形へ。

 手足も黒く変わり、『人』というよりは『獣』と形状が変わり、長い尾も生えて頭の角もさらに長くなった。

 

『大悪魔の降臨だ!』と言っても、その時の一護は有無を考えずに納得していたかもしれない。

 

「『刀剣解放第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)』。 『十刃』の中でも、おそらく俺だけがこの二段階解放状態を会得している。」

 

「…………………」

 

「この姿は藍染様にもお見せしていない。 光栄に思え、黒崎一護。」

 

 一護は本能的『恐怖』から思考がマヒしていた。 

 

 だが体は彼の心の奥底にある意思を読み取ったのか、ウルキオラを迎え撃つ構えをとる。

 

 たとえ体の震えが止まらなかったとしても。

 

「………………いいだろう。 なら貴様の体にも直接叩き込むとしよう────」

 

 ウルキオラの姿が消え、そこからは一方的な暴力が一護を襲った。

 

 自分が上か下を向いていたのかよりも、右へ左へと様々な方向へただウルキオラの攻撃に流され、平衡感覚はすでに狂っていた。

 

 自分が生きているのか、死んでいるのかも認識が追いつかない、不安定な状態へと一護は陥って彼はそれをただ受け入れるだけしかなかった。

 

 自分に起きていた出来事で颯爽、彼は『考えること』を余儀なく無理やり手放されていた。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 雨竜たちが天蓋の上に着くと、雛森を担いでクルミは一目散に遠くで起きている戦闘らしき場所へと駆け出す。

 

「雛森ちゃ────!」

 

「────井上さん、彼女たちの事は後だ! 黒崎の霊圧が────!」

 

「────ッ! あそこだ!」

 

 カリンの指摘に、彼らは虚夜宮の上に更に立っていた柱の上を見る。

 

 ギリリリ。

 

 カリンの槍を握る手から軋む音が鳴る。

 

「ッ! 井上さん、見ちゃダメだ!」

 

 顔が真っ青になりつつある雨竜が織姫へ振り向いて口を開けるが、逆効果だった。

 

「…………………………………………………………………………ぇ。」

 

 織姫が────

 

 

 

「遅かったな、女────」

 

 

 

 見たのは────

 

 

 

「────やはり()()()『心』は無かったぞ。」

 

 

 

 両手を真っ赤に血で染めたウルキオラと────

 

 

 

 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 ────心臓が抉り出されただけでなく、おそらくは『何か()』を探そうとしたウルキオラによってぐちゃぐちゃに掻きまわされた胸部を持った、一護の哀れな成り果てた姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 織姫 視点

 ___________

 

 おちてくるあれはなに?くろさきくんのわけがない。

 

 うん。 あれがくろさきくんであるはずがない。

 

 だってくろさきくんはいつもみけんにしわをよせながらつよがるけどまわりのひとをまもるためならばいつでもかつんだもん。

 

 だからくろさきくんじゃない。

 

 くろさきくんじゃない。

 くろさきくんじゃない。

 くろさきくんじゃない。

 くろさきくんじゃない。

 くろさきくんじゃない。

 ろさきくんじゃない。

 くろさきくんじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ。」

 

 くろさきくんだった。

 

 

 くろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくんくろさきくん。

 

 どうしよう。

 

 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。

 

 めがやだしんでいる。

 いきもやだしていない。

 

 おにいちゃんやだのときとやだおなじやだやだ

 

 あ   た   ま   が

 う   ま   く

 か   ん   が   え   ら   れ   な   い。

 

 ドシャァ!

 

「────」

 

 いしだくんがなにかいっている。

 

 うでがやだなくなってやだすごくやだつらそう。

 

 ドッ!

 

「────」

 

 こんどはかりんちゃんだ。

 

 あしがやだなくやだなってやだいるやだ

 

 ま わ り が ぎ ん ぎ ん と う る さ い。

 

 お と が と ま っ た。

 

「だ────」

 

 くろさきくん。

 

「だれか────」

 

 いしだくん。

 

「誰か────!」

 

 かりんさん。

 

 「『()()()()()』!」

 

 

 織姫は特定の誰に向かって叫んだのではなく、ただ混乱する中で()()()()して助けを乞う。

 

 ドグン。

 

 キィィィィン!

 

 泣きじゃくる彼女の前で、無意識のうちに展開した『三天結盾(さんてんけっしゅん)』内の一護の心臓のない体が脈を打ったかのように大きく跳ねると同時に、ピッチの高い音と地面に何かの陣のようなものが光って()()()()()()()()()()()()が織姫を守るかのように表れる。

 

 余談だが背丈はカリンと同じぐらいで顔つきも同じだが、パッと見ただけで明確な違いと言えば異様な長さの金髪と、かなりの胸を持っていたことか?

 

 

 ___________

 

 カリン視点

 ___________

 

 足がウルキオラの蹴りによって千切れたカリンは負ったケガに怒りを────

 

 ────ではなく、()()()()()()に怒りを覚えながら()()()()()()()()()()()を急遽刻んでいた。

 

「(どういうことだ?! 『アイツ』はどこで油を売ってんだ?! 『これ』を避ける為に別行動をするんじゃなかったのかよ?! それに目の前のクルミ………『ライダー』に一気に近づいてんじゃねぇか?!)」

 

「クルミ……ちゃん? 黒崎……くん?」

 

 織姫は自分の前で立ち上がった、異質な空気と虚の面をした一護の体と、急に表れたクルミに似た青年女性を驚きながら互いを見ていた。

 

 その間、ウルキオラは一護の体を見て()()していた。

 

「バカな。 貴様は、()()()()()()だ。 心臓も、肺も、腸も、腹も抉り出したのに何故……」

 

 !!!」

 

『黒崎一護』だったモノが、この世とも思えない咆哮を虚圏の月に向かって出す。

*1
78話より




作者:そろそろ『天の刃待たれよ』の設定などの説明(または知っている方たちへのおさらいもかねている)などを近いうちにしようと思っているかもです……

アーチャー(天の刃体):やめないか弥生君?!

弥生:え~? 『あ~ん』するだけじゃん、『次郎』のケチー。

アーチャー(天の刃体):せ、世間体というモノがあってだな────?!

弥生:────ここにいるの、私たちとへっぽこ作者さんだけじゃない?

作者:おい待てやこらこのイチャコラバカップルども。

アーチャー(天の刃体):ち、違う!

弥生:……え。 ち、ヒック……がうの? ヒグ……

アーチャー(天の刃体):わ! わ! わ?! な、泣かないでくれ! そういう意味で言ったわけではないのだ!

作者:なーかした~♪

アーチャー(天の刃体):貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!


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第85話 Dancing Under the Sunlight

お待たせしました、次話です!

キーボード入力が止まらなかったで少々長くなっています……

10/2/21 6:05
誤字報告、誠にありがとうございます昨日の翌日さん!


 ___________

 

 み つ き(?) 視点

 ___________

 

 さて。

 ここで前話でカリンが『アイツ』と呼びながら怒っていた対象へ話を戻すとしよう。

 

ぎえぇぇぇぇぇぇぇあああああがっがっがぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 虚夜宮の天蓋の中にある地面で『ソレ』は苦しみながら、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

あがあぁっぁぁぁっぁぁぁぁっあ?!ぎ、ぎぎぎぎっぎっぎっぎ?!」

 

 長く、可憐な金色の髪が砂まみれになりながらも『ソレ』は引き裂かれるような感じがする頭をぐしゃぐしゃに手で荒く掻いたのか、赤い血が混じっていた。

 

い……………たい?! いたい! いたい! いたい! いたい! いたい! いたい!」

 

 感じてくる訳の分からないまま、理不尽にも思える痛みで『ソレ(三月)』は顔というべき部分を歪ませながら『痛み』をどうにかしようと、とにかく必死だった。

 

『ソレ』を方便上『三月』と今も呼んで、時間も少々巻き戻すとしよう。

 

 時はちょうど藍染が『空座町侵略宣言』をした直後、『三月』は四番隊の簡易トリアージからすぐに移動して*1、後に一護とウルキオラが到達するはずの『虚夜宮の天蓋の屋上』へと向かった。

 

 だが時間が経つにつれ、彼女の視野は急にグラグラと揺らぎ始めた。

 

 最初こそ地震か何かを思ったものの束の間、今度は猛烈な吐き気も襲い掛かったここで『三月』は自らの異変に気付く。

 

 だが時はすでに遅かったようで、次に感じたのは突然の体の芯から広がった喪失感とともに気を失ったのか、顔面が地面に衝突する鋭い痛み。

 

 普通なら『いったーい!』などと軽口を言いながら鼻をさすって移動を再開していただろう。

 

…………か、かかっ?!」

 

 だが逆に『三月』は文字通り、体が四方に無理やり引き裂かれるような感覚の中でただ悶えた。

 

「(ママママズイ……早くくくくくく……イチゴたたたたたたたたちより……さささきききまわり……しししししししししないといけけけけけけけけないと……)」

 

 そして悶える間にも、『精神』が『支離滅裂(しりめつれつ)』していくようなことを必死に『魂』が阻止することに専念する為に体の制御を『肉体』へ急遽移した。

 

ぐあぎゃあああああああ?! ガギギギギギギィィィィィィィィエェェェェェェ?!」

 

 その間にも『肉体』は純粋に己を襲ってくる感覚(痛み)に顔を歪ませながら目を白黒させ、ただ苦しむ。

 

さて。

 詳細などは後で付け加える予定として、今現在の状態を簡易的に説明すると『三月』は『精神』、『肉体』、そして『魂』という、『三つの要素』に分けられるモノで()()()()()

 

 過去の出来事によって元々は一つだったこの三つが『個体』として成り立ったことがあり、()()()()()()()も起きた。

 

 が、今ではほとんどが『魂』が主導権を握り、かつての『三月』という『個』に()()させていた。

 

 だが時にイタズラ好き、可憐、あるいはマセた『三月』はどこにも見当たらず、『ただ苦しむ(狂う)何か』がそこにあった。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 

 ザッザッザッザ!

 

 雛森とクルミは高スピードで大きな戦闘の跡や空間の歪みが残る地形を移動していた。

 

 前者は『瞬歩』を、後者は()()()()()()()ことでぐんぐんと虚夜宮の天蓋内を遥かに上回る速度で。

 

「『瞬歩』が使えるようになって良かったですね雛森さん。」

 

「うん、本当に不思議。 あの天蓋を出た瞬間に()()()()()()()()()なんて。」

 

「…………………………それで?」

 

「え?」

 

 雛森はクルミの問いに目をパチクリとする。

 

「とぼけないでください。 このまま行けば、いずれはチエと彼女が戦っている敵と遭遇します。」 

 

「………………」

 

「何か考えがあっての行動ですか?」

 

「………………分かりません。

 

 雛森は黙り込んだと思えば、『クルミに答える』というよりは『自分自身への疑問』を小声で言う。

 

 彼女がなぜ移動したのかは彼女自身も不思議に思っていた。

 

 気付けば『()()()()()()()()()()()()()』と言った、『小さな心の声』のようなものが彼女を動かしていた。

 

『戦いを見届ける』、あるいは『()()()()()()()()()()()()()()()』。

 または『井上織姫の安全を知れば敵を倒して、黒崎一護の援護に回れる』とそう自分に言い聞かせ、雛森は移動していた。

 

「ッ。 雛森さん、気を付けてください! ボクはここまでのようです────!」

 

「────え?!」

 

 キィィィィン!

 

 クルミが突然そういうと、彼女の体が光に包まれて消える。

 

「ええええええええ?!」

 

 やっと『雛森』らしい驚きの声を、彼女があげた。

 

 無理もない。

 何せ()が突然、光に包まれて消えたのだ。

 

 鬼道の禁術でもある『空間転移(くうかんてんい)』という単語が彼女の頭の中に浮かび上が────

 

 ────ズゥゥゥン!!!

 

「きゃあああああ?!」

 

 雛森の考えを、物理的な消音と衝撃が強引に遮る。

 

 前方から襲い掛かる爆風から顔を腕で覆い、彼女は必死にその向こう側を見ようと────

 

 ドスン。

 

「グッ。」

 

「きゃ?!」

 

 ────誰かがくぐもった声を出しながら、雛森にぶつかって来る。

 

 ドッ。

 

 そんな雛森たちの前に、ところどころに深い傷跡や生傷などが見えるスタークが上空から降りてくる。

 

「ん? テメェは────」

 

 グッ。

 

 雛森にぶつかって来た人がグッと彼女を後ろへと押す。

 

「────下がっていろ()。」

 

 ヌル。

 ベチャ。

 

「……え。」

 

 ヌルっとした、生暖かい感触と破ける音に雛森は戸惑いながら押された自分の胸を見る。

 

「え……これ……血────?」

 

 彼女が見たのはべっとりと血で手の跡と、死滅した皮膚の跡が付いた自分の死覇装。

 

 ドッ。ドッ。ドッ。ドッ。

 

『自分の心臓が飛び出るのではないか?』というほどに耳朶が心拍音で包まれ、雛森は見上げる。

 

「────あ、あああ……」

 

 チエの顔は酷い火傷のように黒く変質していて、左目の眼球が白く(にご)っていた。

 ボロボロの服装からところどころ露出した左半身の皮膚は赤黒く変色し、筋や筋肉がむき出しになっていた部分も見えた。

 

「気にするな桃。」

 

「でも……そんな()()()────!」

 

 雛森の言葉にチエの目が見開いて、ここで初めて感情らしい表情(驚き)で雛森に振り向いた。

 

「────まさか……()()()()()のか?」

 

()()()()じゃないですか?!」

 

「そう、か…………………気に病むな。 この目の前の若造(スターク)がワザと左半身を集中的に攻撃しているだけだ。」

 

「そんな────?!」

 

「────敵の弱った部分を攻撃するのは殺し合いの常識だぜ、嬢ちゃん? 文句は言わせねぇよ。」

 

「そういう訳だ。 下がっていろ────」

 

「────ああ。 別段、俺は構わないぜ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()。」

 

 スタークが右の拳銃を撃ち、チエは一瞬だけ避ける為に足に力を入れるが躊躇して、雛森の手を強引に引っ張って彼女を虚閃の射線上から遠ざけてからチエも避ける。

 

 ジュッ!

 

「ッ。」

 

 虚閃の大部分を避けるが、ダメージを負ったらしい左足が体全体の動きに付いて来れず、スタークの攻撃がかすって彼女はくぐもった声をまた出す。

 

「虚閃。」

 

 だがスタークはすかさず虚閃を右の拳銃で更に打ち込む。

 

 そして射線上にはチエは勿論、驚きの顔をしたままの雛森も巻き込むような形だった。

 

 ガバッ!

 

「え、あ────」

「────我慢してくれ。」

 

 チエは桃を庇って、スタークの撃った『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』に押され、二人が戦っていた場所に残る空間の歪みの中へとなだれ込む。

 

「ったく。 今のところの有効打撃が『コレだけ』ってのは面倒くさいぜ────」

 

 スタークの『グータラ部分()』が思わず出て、彼も後を追うように空間の歪みの中へ駆け込む。

 

 するとどうだろうか?

 

「なんだ……こりゃあ?」

 

 スタークが思わず一瞬だけ、自分が戦っていたことを忘れさせるほどの景色が彼の目の前に広がっていた。

 

 そこは虚が虚圏から出る為の『黒腔(ガルガンタ)』を通る際に抜けるドス黒い霊圧がうごめく空間でも、死神が使う『断界(だんがい)』のようなジメジメとした煙だらけの空間でもなかった。

 

 彼の周りの無数の『歪み』などがあり、その向こう側では様々な景色がある空間に出ていた。

 

 正直に言うと『スターク(生物)の想像の範疇を超えていた』と言っても過言ではなく、彼もまさか『王虚の閃光』で作られた歪みの向こう側に、こんな場所が存在するとは思いもしていなかった。

 

「いや、今はそんなことはどうでもいい。 奴らはどこだ?」

 

 そして彼は見た。

 飛ばされていくチエと、彼女の腕の中の雛森はその一つの歪みへと落ちていくのを。

 

 ………

 ……

 …

 

 ギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギンギン!

 ガガガガガガガガガガガガガガ!

 

 金属と金属が激しくぶつかり合う音が響く。

 

「「折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろぉぉぉぉ!!!」」

 

 二人の似た者同士の男(ナルシスト)たちの叫びも響く。

 

「「(鼻の骨)と一緒に折れなさい(ちゃえ)!」」

 

 ギィン!

 

 綾瀬川とクールホーンが互いを押し返し、二人は大きく息を吸い込む。

 

 「なんだよ?! 『心と折れろ』って?! 吉良君以上に陰険だな、このブサイクゥゥゥゥゥゥ!

 

 「はぁぁぁぁ?! 誰よそれ?! あんたなんか『鼻の骨と一緒に折れろ』なんて表現が具体的でムカつくのよ、このブサイクゥゥゥゥゥ?!

 

 ギィン!

 

 「「誰がブサイクだこらぁぁぁぁぁ?!」」

 

 さっきからこの二人、この調子のやりとりである。

 

「さっきから『ブサイク』って連打しているあなたのほうがブサイクなんですよぉぉぉぉ?!」

 

「それなら君のほうが3回も『ブサイク』って多く言っているから君のほうがその分ブサイクだぁぁぁぁぁ!」

 

 バリィン!

 

「「?!」」

 

 綾瀬川とクールホーンの近くでガラスの割れるような音に、二人はそちらを向くと────

 

「ちょ、ええええええええ?! ななななななんで『虚圏(ホーム)』にいる筈の『第1十刃(プリメーラ)』がここにぃぃぃぃ?!」

 

「あれは確か……『隊長代理』と…………………雛森君か?!」

 

 互いのどうでもいい 重大な問題を棚に上げて、同じようにこの突然の出来事に注目する。

 

 やはり似た者同士である。

 

 ………

 ……

 …

 

 吉良は上を見上げ、『鳥人』と姿を変えたアビラマ見上げていた。

 

「ハハハハハ! 俺の『空戦鷲(アギラ)』の前では手も足も出ねぇだろ、吉良イヅル?!」

 

 吉良は苦戦していた。

 

『人』である彼に、『空を飛ぶ』という選択は取れない。

 

 霊力で足場を作って強引に空中戦へ持ち込んだとしても、恐らくはアビラマのほうが経験豊かなので一方的な戦いに成りえる。

 

『ならばどうする?』と彼は考えていた。

 

「破道の五十八、『闐嵐(てんらん)』。」

 

 吉良の構えから竜巻が誕生して、アビラマに襲い掛かる。

 

「効くか、こんなもの! 『餓翼連砲(デボラル・プルーマ)』!」

 

 彼は巨大な翼をはためかせて竜巻を消し、ビルの屋上から姿を消した吉良をあぶりだすために大量の羽を建物に乱れ撃つ。

 

 バリィン!

 

「そこかぁぁぁぁぁ!」

 

 吉良がビルの窓を割りながら飛び出たところにアビラマは胸に描かれた仮面紋に爪を突き立てて、羽を二枚から四枚に増やして吉良に特攻をかける。

 

 ビルの最上階が崩壊する中、アビラマは自分の羽を()()()()()()()()()()()で受け止めていたのを見て、ニヤリと笑みを浮かばせた。

 

「なんだぁ? 逃げられなかったのかよ? そんなに早く飛んだ覚えは────」

 

 ズン!

 

「────ぬわぁ?! な、なんだ?! 羽が……急に()()なりやがった?!」

 

「感謝するよ。 君の遠距離攻撃は、僕の刀の能力とはすこぶる相性が悪いからね。 僕は()()()()()()()()()()()()()()ずっと迷っていたところなんだ。 体から離れたモノを切っても()()()()()からね。」

 

「な……何をした、陰険野郎?!」

 

「『斬りつけたモノの重さを倍にする』。 僕の『侘助』の能力だ、すごく単純だろ?」

 

 吉良の言葉にアビラマが己の羽の重さが変化した理由が吉良の所為と結びつけて、()()()()()()()()()()()()()()()ことに怒りをあらわにする。

 

「て、テメェ……俺に小細工しやがって! それが『戦士の戦い方』かよ?!」

 

 アビラマの叫びに吉良が首をかしげる。

『よくわからない』と言いたいような仕草だった。

 

「『小細工』? 君は何か勘違いしているようだね。 『戦士の振る舞い(戦い方)』なんて、僕の理解の外だよ? 僕の隊ではこういう言葉が存在する。」

 

 吉良は一歩一歩、アビラマの近くへとゆったりとした動きで近づく。

 

 その姿は身動きが取れないアビラマにとって正しく、『鎌を持った死神』に見えた。

 

「『戦いは英雄的でも、爽快なものであってはならない。

 戦いは絶望で、陰惨なものでなくてはならない。

 それでこそ、人は戦いを恐れて避ける道を選択する。』」

 

 吉良が7の数字のような形状の刀の刃をアビラマの首にかける。

 

「僕の斬魄刀の『侘助』は斬りつけたモノの重さを増やし続けて、相手は必ず(こうべ)を差し出すかのような姿勢になる。 

 故に侘助』。」

 

「ま、待ってくれ!」

 

 アビラマ(死刑者)の命乞いに、吉良(処刑人)はただ冷たい視線を向けたまま、刀を強く引きながらとある『暑苦しい脳筋隊』たちを思い浮かべる。

 

「本当に『戦士』と自称するのなら、『命乞い』なんてするものじゃないよ。」

 

 ザッ!

 ドシャアァァァァ!

 

 血が噴水のように、アビラマの切断された首から噴き出す。

 

 ビュン!

 

 吉良は『侘助』に密着した血を払い落とす。

 

 ドウン!!!

 

 そこに何かが空から降って来たかのように、アビラマの特攻によって半壊したビルの屋上に落下する。

 

「グッ!」

 

「た、()()────!」

 

「────雛森君?! それに君は────?!」

 

「────ッ?! き、吉良君?!」

 

 落ちてきたのは痛みに目をつぶるチエと、どこか焦っているような雛森だった。

 

「ど、どうしたんだい?! いや、それよりも無事で良k────」

 

「────吉良君! ()()()()()()!」

 

「え?」

 

 さっきアビラマと対峙した冷たい吉良は跡形も消えて、いつもの『冴えないかつ雛森の前でドキドキする吉良』に戻っていた彼に、雛森は涙目になりながら必死の声で助けを乞う。

 

「ど、どういうことだい雛森君? い、いやそもそも彼女は────」

 

「────問題、ない。」

 

 チエが立ち上がって、その場を後にしようとする。

 

「ぬ。」

 

 だが彼女はふらついて雛森が支える。

 

「………………」

 

 吉良と言えば混乱していた。

 

 彼は別にチエとは面識が特にある訳でも無い。

 せいぜい『同じ隊長代理で総隊長(山本元柳斎)の知人』という認識だった。

 後は『雛森(君)がよく付き人とする人』ぐらいだった。

 

 彼女が『隊長代理』を辞任した時までは。*2

 

 そこから彼はチエの事を『身勝手な、周りを振り回す奴』と、現在の五番隊を見るまでは思っていた。

 

 五番隊は『隊長代理』や副隊長がいなくとも、席官たちである平塚、櫃宮、田沼たちが隊長各業務を、他の隊士たちは隊の通常業務を円滑にこなしていた。

 

 吉良が所属している三番隊よりは遥かにマシな統率力がそこにあった。

 気になった吉良は平塚達にコツを聞きに行くとカリンとチエが短時間で成した所業の数々を直に聞いて、認識を改めていて『隊長代理』からの辞任の理由を彼はふと思い浮かべたそうな。

 

『もしかして防衛線を決め込んだ護廷に所属したまま雛森君を救出しに行ったら隊や特権まで使ってまで彼女を急遽“隊長代理”へ就かせた総隊長に迷惑がかかるからではないか?』と。

 

「…………………」

 

『周りの負担にならないよう、前もって行動を自ら起こす』。

 

 そんな彼女(チエ)に、吉良はどこか親近感(しんきんかん)を多少持った。

 

「まさか、()()か何かの類を使っているのか?」

 

「………………」

 

 吉良の言葉にチエは一瞬だけちらりと彼と雛森を見て、この行為が吉良には肯定するかのように感じ取る。

 

「ッ! 縛道の二十六、『曲光(きょっこう)・改』! 縛道の七十三、『倒山晶(とうざんしょう)』!」

 

 雛森は上空に何かを見たのか、素早く二つの鬼道を発動させて姿と鬼道維持の為の()()()()()

 

「ひ、雛森君?! これはいったい────?!」

 

 ズッ。

 

「────ッ!!! (な、なんだこの……重苦しい霊圧はッッッ?!)」

 

 吉良が二重にかけた鬼道とその()()()に気を取られていたが、急に上から襲い掛かる霊圧に黙り込む。

 

 ジワリと体中からにじみ出る汗の中、彼は霊圧の出どころ先を見上げると奇妙な男が周りを見渡していた。

 

 男は『暑苦しい脳筋隊たちの(かしら)』を思いさせるような眼帯と、首の周りや腕と足に毛皮を巻いたような、奇妙な服装をしていた。

 

狩人(かりうど)』、または西洋式で『ハンター』と呼ばれる者のイメージを、男は吉良に思わせていた。

 

「雛────ング?! (え? これは……雛森君の手、柔らか────)」

 

 吉良は自分の口を、雛森の柔らかい手が無理やり塞いだことに目を白黒させたが、雛森は恐怖の形相のまま空中で周りを見渡す男をジッと見ていた。

 

 吉良と同じく、自分の口も防ぎながら。

 

 ズズゥゥゥゥゥン…

 

「ん?」

 

 男は地鳴りの方向を見て、吉良もつられて見ると偽・空座町の西側に立っていた筈の『転界結柱(てんかいけっちゅう)』の一柱が崩れていくのを目撃する。

 

「(────あっちは一角の担当していた柱、やられたのか?!)」

 

「…………なるほど、そういう────」

 

 ギィィィィィィン!

 

「────ことか。」

 

 (スターク)がどこか納得したような顔と言葉を出しながら、突然背後に現れた京楽の攻撃を拳銃でいなす。

 

「いやー、やるねぇ♪」

 

「アンタも『強者』か?」

 

「さぁてね────」

 

「────じゃあ邪魔するな────」

 

 ドウ!

 

 急にスタークがもう一つの拳銃で虚閃を京楽に向けて撃つ。

 

「────って掛け声無しかい?!」

 

 ヒュッ!

 

「フー、危ない危ない。 着物を汚すところだったよぉ。」

 

「……………………………面倒くせぇ。」

 

 そして今のわずかなやり取りでスタークは神経を集中することに変えた。

 

 ほぼゼロ距離の近距離虚閃を躱した京楽に。

 

 そして少しすると巨大な鎧武者らしきモノが遠く表れて、破面らしきノッポをその巨大な刀で粉砕する。

 

「(あれは狛村隊長の『黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)』? なら大丈夫かな、一応。)」

 

 まるで狛村が動いたことが合図だったように、周りが一気に本格的な前面衝突の戦いが残った破面たちと護廷の隊長各たちの間で起き始める。

 

『合図』と言っても、バラガンが連れてきた精鋭隊の従属官たちが倒されたので実質的には衝突は起きていたが。

 

「そこを退いてくれねぇか? 俺はアンタと戦うつもりはねぇ。」

 

 スタークの問いに京楽が苦笑いを浮かべる。

 

「う~~~~~~ん……オジサン、普通なら同意するんだけどねぇ~? あっちの怖~い()()に釘刺されちゃってんの。 だから僕の提案なんだけど、このまま二人で戦いが終わるのを仲良く見てちゃダメかなぁ~? ……なんて。」

 

()()()()()()だ。 ハナっからそのつもりが()ぇくせに────」

 

「「────ッ────!!!」」

 

「────こうして俺の気を引こうってしてる時点で丸わかりなんだよ。」

 

 ドウゥゥゥゥ!

 

 スタークはさらに背後に忍び寄っていた浮竹の方向に虚閃を撃つ。

 

 が、やはり浮竹も京楽のようにこれを避けて二人は視線をスタークに向けたまま互いに話しかける。

 

「やはり総隊長の言ったとおりだな。」

 

「ねぇ~。 山じいってばヨボヨボのフリしてる割にカンが超~鋭いのよ。 そのせいでなんど熱湯を学院時代で飲まされたか。」

 

「いや、それはお前が右之助殿と一緒に床に鏡やら『まじっくみらー』というモノを仕掛け────」

 

「────今は仕事中だよん、浮竹♪」

 

 「お前がこの話を振って来たんじゃないか?!」

 

「『今日は空が青―いー♪』」

 

「クッ! 今日の分の胃薬を飲んだ今を狙って!」

 

 それを最後に、三人はほぼ同時にその場から場所を移す。

 

 始めはスタークが動き、それにつられて京楽と浮竹が彼を追うかのように。

 

「「………………………………ブハァー!!! スゥゥゥゥゥ!」」

 

 その間も、雛森と吉良は止めていた息を出して大きく新鮮な酸素を取り込む。

 

「でもさすがは雛森君だ。 こんな組み合わせに鬼道の改造なんて────」

 

「────二人ともに、()()()()事がある。」

 

「「え。」」

 

 ずっと黙っていたチエがここで口を開けて、彼女の言葉に雛森と吉良が呆然とする。

 

「私を────」

 

 そしてチエの頼みに二人が困惑する事となる。

*1
82話

*2
69話より




作者:う、うーん……文章プレビューが上手く働いていないぞ? フォントが反映されていないっぽい?

アーチャー(天の刃待たれ体):何をいまさら。 だからこうやって何度も読んでは誤字修正しているではないか?

作者:でも読者たちの迷惑になるんじゃ────?

アーチャー(天の刃待たれ体): ────『やろう』と『実際にやる』のとは違うからな?

作者:あらやだカッコイイ。

弥生(天の刃待たれ体): 当たり前じゃない! 私の次郎なんだから! (ドヤァ

アーチャー(天の刃待たれ体):………………………………………………………………………………………………………………………………………………

作者:お、服と同じ赤だ。

弥生(天の刃待たれ体):というかこっちの私って大変ねぇ~

作者:と、無意識にフラグを立てる弥生なのだった

弥生(天の刃待たれ体): え?! ちょい待って?!


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第86話 Fake Karakura Town Fight I

誤字報告、誠にありがとうございます昨日の翌日さん!

そしてお待たせしました、次話です!

拙い作品かもしれませんが、いつも読んで頂きありがとうございます!

あと何気に短くなってしまいました。 (汗


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 日番谷はティア・ハリベルを相手にしていた。

 

「乱菊、()()()()()()。」

 

「ッ。 ()()()()()()。」

 

 近くには乱菊がいた。

 

「アパッチ、ミラ・ローズ、スンスン。 加減無しで行くぞ。」

 

「「「承知しました、ハリベル様!」」」

 

 そしてハリベルは三人の従属官(女性)を引き連れていた。

 

 オッドアイの『エミルー・アパッチ』。

 高身長かつ筋肉質でかなり露出の高い服を着た『フランチェスカ・ミラ・ローズ』。

 そしてどこかの民族衣装(アオザイ)っぽい、袖の長い服を着て緑がかった黒い長髪の『シィアン・スンスン』。

 

 先に動いたのは死神側。

 

唸れ(うなれ)、『灰猫』!」

 

 乱菊が抜刀と同じ時に斬魄刀を解放すると、刀身がサラサラと灰と化してそれが前に出ていたアパッチたちの周りを舞う。

 

「あ?! なんだこの────」

 

 ガシィ!

 

「────むやみに触るな、アパッチ。」

 

 イラついた(攻撃的な)アパッチが(けむ)たい『灰猫』を振り払おうとした腕をハリベルが掴んで制止させる。

 

「……ここは任せてください、隊長。」

 

 乱菊の言葉に、日番谷は意外そうに眉毛を片方あげる。

 

「いいのか?」

 

()()()()()()()()()()が無ければ隊長は()()を出せるでしょう? そうしてあの破面(ハリベル)を倒して、私の援護に来ればいいだけの話じゃないですか?」

 

 乱菊の遠回りに自分たちをディスる言葉に、ハリベルの眉毛がピクリと反応する。

 

「あああああ?! んだとこの牛乳女(うしちちおんな)がぁぁぁ?!」

「あたしら三人はともかく、そこのガキが『ハリベル様に勝つ』だぁぁぁぁ?! 寝言とは寝てから言えっつーの!」

「二人の言葉遣いはともかく、私も同感ですね。 寝言は死んでから言ってください。」

 

 そしてハリベルの従属官たちはそれぞれの反応を示す。

 

「……………そこの破面、ちょいと場所を移さねぇか?」

 

「……油断するなよ三人とも。 ()()()()。」

 

 ヒュヒュン!

 

 ギィン!!!

 

 日番谷とハリベルがその場を後にして、二人は動きを止めずに斬魄刀を互いに抜刀して斬りかかる。

 

「(こいつの刃、変な形しているな…能力関連か、それとも…)」

 

 ズゥゥゥゥゥン。

 

 そして突然、乱菊を置いてきた場所に鹿の角とヒヅメ、ライオンのタテガミ、大蛇の尾を生やした巨大な獣人っぽい『バケモノ』が現れたことに一瞬日番谷は気を取られる。

 

「(乱菊……死ぬなよ。)」

 

 ギィン!!!

 

「霊圧が乱れたな。」

 

「さて、なんのことだか。 (この霊圧は……檜佐木たちか?)」

 

 ハリベルの軽い挑発に日番谷は冷静にとぼける。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 上記のバケモノの名は『アヨン』。

 アパッチ、ミラ・ローズ、スンスンが帰刃した状態で左腕を媒体にして『混獣神(キメラ・パルカ)』という能力で、創り出された生物である。

 

「……(図体がデカいだけ……な訳ないか。 ここは『灰猫』で一気にカタを付ける!)」

 

 アパッチたちの周りの灰が全てアヨンを取り囲んだ瞬間、乱菊は柄だけになった斬魄刀を振るう。

 

 ザザザザザザザザザザザザザザ!!!

 

 すると無数とも言える、()()切り口がアヨンの体中に現れる。

 

「(浅い! ()()()振ってもこれ?!)」

 

灰猫(はいねこ)』。

 乱菊の斬魄刀の能力は『刀身を灰と化し、柄を振ることで“灰が降りかかった場所”を切断する』と言ったもの。

 

 そしてそれを使用したアヨンには掠り傷程度が現れただけだった。

 

「あーあ。 ()()()()()()()()。」

 

「ハ────?」

 

 ガシ!

 

 帰刃したアパッチのバカにするような言葉を乱菊が理解する直前に、彼女は気付けばアヨンの手で体を握られていた。

 

「────『敵認定』されちまったな────」

 

「(────は、はや────)」

 

 ベキベキボキボキボキ!

 

「────あ?! ガッ?!」

 

 そして骨が潰されていく音と一緒に、乱菊の肺から苦しむ声と空気がアヨンによって無理やり握り出されていく。

 

 ブン!

 

 何を思ったのか、アヨンが乱菊を横へ放り投げる。

 

 それはまるで『()~きた』とでもいうような仕草だった。

 

「縛道の三十七、『吊星(つりぼし)』!」

 

 すると飛ばされていく乱菊を優しく受け止めるかのように、霊圧の床が出現する。

 

「遅くなってすみません乱菊さん。」

 

「吉……r────ゴホッゴホッゴホ!」

 

 乱菊が『吊星』の使用者らしき吉良の名を呼ぼうとして咳をし、自分のあばらが刺さった肺から吐血する。

 

「吉良、乱菊さんを頼む。」

 

 その場に駆け付けたであろう檜佐木修兵が解放した鎖鎌状になった斬魄刀、『風死(かぜしに)』を構える。

 

「……………僕で良いんですか?」

 

「『適材適所』と言う奴だ。 俺よか、()()()()のお前のほうが『回道』得意だろうが。 違うか、『仙人(せんにん)の卵』さんよぉ?」

 

 吉良が冗談めいた軽口に、檜佐木が真顔で返す。

 

「……()()()そう思うんですね。」

 

右之助(うのすけ)さん直々の『回道』頼むぜ、吉良。 それに、()()じゃねぇ。」

 

「……そうしましょう。 縛道の七十三、『倒山晶(とうざんしょう)』」

 

 吉良がその場から乱菊と自分の姿を消してから回道を文字通り、虫の息になりつつある乱菊に使う。

 

 檜佐木は鎖鎌の『風死(かぜしに)』と、鬼道を使った中距離戦闘をアヨンに仕掛ける。

 

「破道の十一、『綴雷電(つづりらいでん)』。」

 

 ズズゥゥン!

 

 アヨンに絡ませた鎖を電撃が伝って直撃している間に、檜佐木は力いっぱいに鎖を引くとアヨンはあっさりと前のめりに倒れる。

 

「効いている? 今のうちに────!」

 

 グリン。

 

「────ぬお?! 気色(わり)ぃ?!」

 

 アヨンが首を1()8()0()()回して檜佐木めがけて裏拳を振るい、檜佐木は距離をとる。

 

 ググググ、ドォン!

 

 ブチン!

 

 アヨンは不気味かつ不自然な動きで立ち上がりながら、絡まった鎖を引き千切る。

 

 動きは()()()()()()()()()()を無視した動きだった。

 

「……バケモノが、間接とかどうなっているんだこいつ? それに鎖を簡単に千切りやがって。 『いつでも出来っぞ』、てか?」

 

 檜佐木が自分の目に入った汗の所為で瞬きをした一瞬、次に檜佐木が気付けばアヨンは眼前まで近づいていた。

 

「んぅおわ?!」

 

 そしてこれを好機と取ったのか、鉄左衛門が解放したらしい斬魄刀を手に一気にアヨンの後頭部にまで近づいて斬りかかる寸前だった。

 

「(もろうたぞ!)」

 

 ギョロ!

 カッ!

 

 だがアヨンの目らしきものが見開いて、赤い虚閃が鉄左衛門を吹き飛ばす。

 

「射場さ────!」

 

 ガシ!

 

「────しまった?!」

 

 檜佐木は先ほどの乱菊のようにアヨンの手に捕まる。

 

 ヒュドォン!

 

 だが乱菊と違い、アヨンは檜佐木をそのまま握らず地面へとたたきつける。

 

「ガッ?!」

 

 これを見ていた吉良が驚愕したまま、乱菊の治療を進めていた。

 

「そ、そんな……檜佐木君たちが……一撃で────」

 

「────ゴホッガハ!」

 

「ッ?! クソ!」

 

 一瞬だけ気が散ったことにより回道の出力が下がって、乱菊が咳とともに血を吐き出す。

 

 ドン!

 

「……………………………………………?」

 

 アヨンは一瞬『はてな?』という風に頭をかしげて、己の胸に空いた大きな穴を見つめる。

 

「やれやれ。 固まった足を動かすだけのつもりが、()()を道から除けなければならぬとは。」

 

「こ、この声は山本総隊長?!」

 

 山本元柳斎が吉良と乱菊、そしてアヨンの間に立っていた。

 

 彼の(斬魄刀)にはおそらくはアヨンのものと思われる僅かな血の跡が密着していたことに彼が気付く。

 

「む。 ()()()()()かの? ……チエ殿が見ていなくて良か────」

 

 「────■□■□■□■□■□■□!!!」

 

 アヨンが始めて、言葉にもならない雄たけびを出して、山本元柳斎の言葉を遮った。

 

「フゥー。 やれやれ、躾のなっておらん奴じゃの……『撫斬(なでぎり)』。」

 

 ズ。

 ズズズズズズズズズ。

 

 アヨンの体に亀裂が入り、次第にそこから切断したアヨンの体がズレ始める。

 

「ぬ……ほんに鈍ったようじゃな────」

 

 山本元柳斎がもう一度斬魄刀に変えた杖を振ると、立ち上がろうとしたアヨンの体を燃やし尽くす炎の嵐が出現する。

 

「────今の一度目で()()()()斬った筈なんじゃが。」

 

 振り返らずに彼が話しかけたのは、斬られた様子の腹部と激怒した様子のまま襲ってきたアパッチ、ミラ・ローズとスンスンの三人。

 

「ま、()腕でワシに挑んだ意気に免じて火傷程度で済ましておいてやるわい。」

 

 ゴォォォォォォ!

 

 いつの間に三度目を振ったのか、山本元柳斎の斬魄刀の向きが既に変わっており、アパッチ、ミラ・ローズ、スンスンたちもアヨンのように炎に包まれて沈黙する。

 

「ガッ……」

「バケモノが………」

「ハリベル…様…」

 

「(さ、流石は山本総隊長だ。)」

 

 三人の体が地面へ落ちる中、山本元柳斎はコキコキと肩を鳴らす。

 

「うーむ、歳は食いたくないモノよのぉ……」

 

「総隊長殿、ここはワシが残ります。 藍染たちを。」

 

「すまんの、狛村。」

 

 そこに狛村が現れて、彼と交代するかのように山本元柳斎が消える。

 

「(………………後で肩こりに効く薬を右之助さんからもらってプレゼントしよう。 それはそうと────)」

 

 吉良はとある方向を横目で見る。

 

「(────雛森君に何かあったのなら……僕は────)」

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

「ッ。」

 

「動きが止まったぞ、破面。」

 

 一瞬、ハリベルの動きが硬直したことに日番谷は先ほどの仕返しとばかりに『やりとり』を再現させる。

 

「気のせいだ。 ()て、『皇鮫后ティブロン』。」

 

 巨大な水で出来た羽のようなものがハリベルを包み込み、中から現れたハリベルからは顔の仮面が消え、下半身は細いプレート状のスカート、上半身は際どい水着っぽいモノ、そして右腕は鮫を模した大剣を持っていた。

 

 ぶっちゃけると『鮫状の大剣を持ったビキニアーマーの褐色金髪巨乳美人』の誕生である。

 

 だがそれがいい────コホン。

 

「卍解、『大紅蓮氷輪丸(だいぐれんひょうりんまる)』!」

 

 日番谷は冷静にハリベルの『帰刃(レスレクシオン)』に対抗して卍解する。

 

 ザン!

 

 ハリベルの大剣から放たれた高圧水流の(つるぎ)が日番谷の体を半分に────

 

「ッ。」

 

 ヒュン!

 

 ────斬る前に()()()()()()が真横からハリベルに斬りかかって、びっくりしながらも彼女はそれを紙一重で避ける。

 

 ビキビキビキ、バリィン!

 

「────焦んなよ破面。 ()()()()()だぜ?」

 

 ハリベルに斬られた、日番谷の『氷分身』が砕け散る。

 

「…………………」

 

「ッ。 (この霊圧……雛森か?!)」

 

 胸から飛び出そうな心臓の心拍を感じながらも、日番谷は十八番の『氷のような鉄仮面』表情を維持する。

 

 そこから二人はそれぞれの得意分野らしい力で攻防を繰り出す。

 

 ハリベルは己の『水を操る』能力を使うが、日番谷はそれを逆手に取って水を冷やし、『氷を操る』能力で対抗する。

 

 それはまるで、隙を狙っているかのようなやり取り。

 または『膠着状態』とも言う。

 

「(こいつはその事に気付いている筈だ。 だったら────)」

 

「────『断瀑(カスケーダ)』。」

 

 上記のように考える日番谷に、ハリベルは高圧水を氷に叩きつけて、氷が溶けたことによってさらに水量を増した激流が日番谷を襲う。

 

「(やっぱな。)」

 

 日番谷はさらに分厚い氷の壁を作成してハリベルの攻撃を受け止める。

 

「(似た能力同士、考えることも似てるか。) なぁ。 アンタ多分、『この戦域に水気が満ちる』のを待っていねぇか?」

 

「………………………」

 

 ハリベルは日番谷の問いに何も返さなかったことで、日番谷は確信した。

 

「なら残念だ。 俺はアンタと違って(好機)()()()()はねぇからな。」

 

 ハリベルがはっとしたような顔に変わり、彼女は()()()()()()()()()

 

「俺の『氷輪丸』の能力の基本は『天相蹂躙(てんそうじゅうりん)』。 場所を移してくれて感謝するぜ『十刃』……名を訊いておこう。」

 

「……………………第3十刃(トレス・エスパーダ)、『ティア・ハリベル』だ。」

 

「十番隊隊長、『日番谷十四郎』。 護廷の中でも()()()()()()だ。」

 

「なんだと?」

 

 ハリベルがどこか不愉快そうな表情をして、日番谷は話を続ける。

 

「俺は自分の能力を御しきる()()()()()()()。 けどこれぐらい他の皆から離れていれば、心おきなく()()()使()()()。」

 

 曇っていた空から巨大な氷のような物体が降りてきたことに、ハリベルは大剣を構える。

 

 バン!

 

「ッ?! なんだ、これは?!」

 

 だが氷の物体より先に舞い降りた()が密着した場所から『氷の華』のようなものが次第に彼女の体を覆い始める。

 

「『氷天百華葬(ひょうてんひゃっかそう)』。 触れたものを瞬時に華のように凍りつかせる雪を降らせる技だ……ハァ……」

 

 日番谷は自分を襲ってくる疲労感に溜息を出しながら自分の未熟さを再確認し、来るべき『藍染との決着』の為に霊力を温存しながら宙を走りだす。

 

 ゴォォォォォォ!

 

 バリィン!

 

 だが数分後に、お腹に来るような地鳴りと巨大な『黒腔(ガルガンタ)』が出現すると同時に、日番谷の『氷天百華葬(ひょうてんひゃっかそう)』が割れてハリベルが彼の前に立ちはだかる。

 

「どこへ行く、()()()()()の日番谷?」

 

「……チ。 そう簡単には、やられねぇか。」




ライダー(バカンス体):なんじゃこの『DEATH』とは?

作者/ウェイバー(バカンス体):『悪魔城ド〇キュラ』。

チエ:ああ、あのけったいな『はいどろすと-む』を叫ぶ男の『げぇーむ』か。

ウェイバー(バカンス体):あ、チエさんも知っているのか?!

チエ:叫びが連呼していたからな。

三月:うっさいわね! あの技チート、過ぎて『使うな』という方がおかしいのよ!

慎二(天の刃待たれ体):そうだそうだ! 賭けで『ノーダメノーセーブ縛りプレイ』をした身にもなれ!

三月:え? 慎二君、マジでやったの? 冗談だったのに……………

慎二(天の刃待たれ体):うるさい! 金出せ!

ライダー(バカンス体):うーん………………余にはよくわからんが賭け事なら余も加わるぞ!


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第87話 Fake Karakura Town Fight II

今朝の話が短く、読者の皆さんに対して申し訳ないと感じて次話投稿を頑張りました!

また短いですが、許していただけると幸いです…………(汗

そしていつも読んで頂き、誠にありがとうございます!

あと『DEATH(笑)』の登場です。

ライダー(バカンス体):おおお! やっとか!

ネタバレは今後避けてくださいイスカンダルさん…

ライダー(バカンス体):善処しよう! ガッハッハッハ!

……………………(汗汗汗汗汗


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 

 同時刻かつ別の場所では部下を失ったバラガンが、二番隊隊長(砕蜂)副隊長(大前田)の二人を同時に相手に取っていた。

 

 ズドゥウン!

 

 彼の持った巨大な斧が砕蜂と大前田がいた場所を粉砕する。

 

「(鈍足な攻撃だ。 その頭、貰い受ける!)」

 

 風のごとく動いた砕蜂は一気にバラガンの背後に回り、彼女の動きの拍子で飛んだ風がまだ追いついていない頃に、彼女はバラガンの後頭部めがけて鋭い蹴りを繰り出す。

 

「ッ。 (なんだこれは、急激に()()()()()()()だと?!)」

 

 だが砕蜂の足が急激にその勢いを失って、バラガンが砕蜂の足を掴み取る前に彼女は彼から距離をとる。

 

「フン。 確かに『遊ぶ』度量を超えてはいるが、『本気』を出すまでもない。 隊長各と言えど、この程度か。」

 

「なんだと貴様────」

 

 怒りんぼの砕蜂が眉間にシワを寄せる。

 

 ポン。

 

「────ワシの司る死の形は『老い』。」

 

「ッ。」

 

 砕蜂が()()()()でもしたかのようなバラガンの手が自分の肩に置かれたと認識した直後に距離を更にとる。

 

 ボギュギュギュ。

 

「ば、馬鹿な?!」

 

 そしてその反動で、彼女の左腕の骨が独りでに折れる。

 

「ワシら『十刃』にはそれぞれ、『死』を連想させる二つ名を与えられる。 朽ちろ、『髑髏大帝(アロガンテ)』。」

 

 バラガンの斧から黒い靄のようなものが彼を包み込み、中から王冠、金の装飾、そして黒いマントを纏った骸骨の姿へと変える。

 

 後は大鎌さえ持っていれば何某吸血鬼ハンターゲームで出てくる『DEATH(デス)』である。

 

 そしてその姿になったバラガンの周りにある様々な無機物が変質して崩れていく。

 

 いや、正確には時間が加速したかのように朽ちていく。

 

「な、なんだ?! 奴の周りが────?!」

 

「────じゃからさっき言っただろう? ワシの司る死は『老い』。 つまりは『時間』だ、なんとも頭の固い………………()()()()()()()()()か。」

 

 ビキ。

 

 カルシュウム不足の砕蜂のこめかみに青筋が浮かび上がるが、バラガンが次にする行動でそれが冷や汗へと変わる。

 

「『死の息吹(レスピラ)』。」

 

 バラガンから急激に青黒い空間が広がって砕蜂は腰を抜かせそうになっていた大前田へ叫ぶ。

 

 「逃げろ、大前田!」

 

 それは砕蜂にしては珍しく、部下(大前田)を気遣うような叫びだった。

 

「へ。」

 

 もちろん大前田もこんなことは砕蜂の部下になってからも稀な出来事なので唖然としてしまい、砕蜂が彼のそばに飛んでから蹴って無理やり襲い掛かる青黒い空間から退避させる。

 

 ズゥ!

 

 だがそのおかげで砕蜂の左手が空間に呑み込まれ、みるみると白骨化していく。

 

「グオアァァァァァァ?!」

 

 ズルズルと白骨化が手から腕へと広がっていき、大前田へ珍しく焦る砕蜂が叫ぶ。

 

 「大前田! 腕を切り落とせ!」

 

「隊────」

 

 「────私を殺したいのか、お前は?!」

 

 ザン!

 

 大前田は一瞬だけ私情を切り離し、己の上司(砕蜂)の腕を斬魄刀で切り落とす。

 

 斬り落とされた腕はその場でサラサラとチリへと化す。

 

「滑稽だな。 『死神』が『死を恐れる』など。」

 

 その時の大前田は押し潰した私情が一気にぶり返して、彼の思考を動揺が乗っ取っていた。

 

「(ヤベェ。 ヤベェよ。 近づくことも、触ることも、攻撃すること以前に…………………砕蜂隊長が片腕を失った! どどどどどうすれば────)」

 

「────大前田。 お前、()()()()。」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 

 まるで一昔前の、インターネットへ繋ぐ為の56Kbpsモデムを使ってやっとウェブサイトがロードしたように、思考が止まってから気の抜けた声を大前田が出す。

 

「いやいやいやいやいや! なに言ってんすか隊長?! ここはいつもみたく『無駄な脂肪を無くすいい機会だ』とか────?!」

 

「────右手だけは守れ、骨になった部分を切り落とせるようにな。」

 

 ヒュン。

 

 焦りだす大前田に砕蜂はいつも以上に冷たい言葉をかけて彼を黙らせて、『瞬歩』でその場から離脱する。

 

 「たたたたたたたたたた隊長ぉぉぉぉぉぉぉ────?!」

 

「────()んのならこっちから行くぞ────?」

 

 「────おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 大前田の『地獄の鬼ごっこマラソン』が開始した瞬間である。

 

「(氷の華? 日番谷隊長の技かよ?! スゲェ────)────って見とれている場合かよ俺ぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

 そんな中、巨大な氷の華が遠くで出現した事によって気を取られた大前田にバラガンが追い付きそうになる。

 

「フハハハハハ! 無様よな、『死神』! いや、『肉の塊』!」

 

「うるせぇぇぇぇぇぇぇ! これは『ふくよか』だぁぁぁぁぁぁぁ! この『骨だけ野郎』がぁぁぁぁぁぁ!」

 

 なぶることを楽しむバラガンに、完璧に負け犬っぽいことを大前田が言い返す。

 

「興覚めじゃ。 死ね────」

 

「────卍解、『雀蜂雷公鞭(じゃくほうらいこうべん)』。」

 

 バラガンの後ろに、残った右腕に巨大なミサイル状なモノと、顔部分を守る盾のような装備をした上に『銀条反(ぎんじょうたん)』という、瀞霊廷で鎧の下地などに使われる鋼鉄の帯を体中に巻いた砕蜂が現れた。

 

 その姿はさっそう彼女が所属しながら、誇らしく思う『隠密機動』からはほど遠い装備だった。

 

「できればこの卍解、使いたくは無かった。 『隠密機動』としての矜持に反するものだからな────」

 

 ────ドッ!!!

 

 砕蜂はミサイル状の────否。 ()()()()()()()()をバラガン目掛けて撃つ。

 

 カッ! 

 ドォォォォォォォォォォォォォ!!!  

 

 その巨大なMOBA(大規模爆風爆弾兵器)並みの爆風に巨体の大前田、そして己をワザと重くした砕蜂までもが嵐の中の葉っぱのように軽々と吹き飛ばされる。

 

「これが……私が……嫌う…………」

 

 ビリ! ビリビリビリビリビリビリビリビリバチン!

 

 実戦で、しかも既に消耗した状態で初めて卍解を使った砕蜂は疲労感と喪失感に言葉をつづけられず、高層ビルに巻き付けていた鋼鉄の帯が引きちぎられたことに気付かないまま意識を手放す。

 

 ゴドォン!

 

 ぶへぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

「………………………………ん。」

 

 砕蜂が思ったより柔らかい衝撃で気が付くと、大前田(汗臭い部下)が彼女を受け止めていた。

 

「や、や、や、やりましたぜ。 たいc────」

 

「────放せ…………………油臭い。」

 

「え、えええええ?! そりゃ無い────?!」

 

「────流石のワシも、今ので肝を冷やしたぞ。」

 

 爆風が収まり、中から()()()バラガンが煙の中から姿を現せる。

 

「ええええええええ?!」

 

「……………………………クソ。」

 

 更にびっくりする大前田と、冷や汗を流す砕蜂だった。

 

 ………

 ……

 …

 

「ひゃー、派手にやるねぇ~♪。」

 

 別の場所で日番谷の『氷天百華葬(ひょうてんひゃっかそう)』と砕蜂の『雀蜂雷公鞭(じゃくほうらいこうべん)』が発動した時、着物と(かさ)を既に脱ぎ捨てていて『花天狂骨(かてんきょうこつ)』を両手に持っていた京楽は思わず、戦いの真っ最中というのに気を逸らしていた。

 

 それほどまでに(スターク)は強く、浮竹と一緒に戦っても負ける事は無いが()()()()()()()()()()()()()

 

 京楽の『花天狂骨(かてんきょうこつ)』は『使用者含め、使用者の霊圧領域内にいる者たちに童の遊びを現実化する』と言ったもの。

 

 例えば『高い高度の方が勝ち』というルールの『嶄鬼(たかおに)』では勝者の攻撃力が上がる。

『影を踏んだ方が勝ち』の『影鬼(かげおに)』では影を踏んだ相手の影の中へ潜ったり、影から攻撃を発生させることが可能となる。

『相手と交互に色を口にし、その色の着いている場所を攻撃できる』という『艶鬼(いろおに)』や『だるまさんがころんだ』まで実戦用に再現可能となる。

 

 だがスタークは京楽が使用した『嶄鬼(たかおに)』と背後へ一瞬で回る『だるまさんがころんだ』でこの能力を看破し、対策も瞬時に実行へ移った。

 

 そんな中、浮竹が『嶄鬼(たかおに)のルールで勝った』スタークが撃った虚閃を、斬魄刀の解放をした『双魚理(そうぎょのことわり)』で撃ち返す。

 

 浮竹の『双魚理(そうぎょのことわり)』は京楽と同じく二刀流の斬魄刀で、能力は『片方の刃で相手の放出系の攻撃を吸収し、双剣を繋ぐ縄を通して、逆側の刃から跳ね返す』。

 

 しかも縄についた札が、『攻撃を返された相手が躱すタイミングを誤るように圧力や速度をほんの僅かに変えることが出来る』という、意外とシンプルなもの。

 

 だがスタークのように『放出系メイン』の攻撃をする相手にはすこぶる相性がいい。

 

 そう思った矢先、スタークは浮竹が『撃ち返せる許容範囲外』である、特大の『無限装弾虚閃虚閃(セロ・メテラジェッタ)』を撃ちまくる戦闘方法に変えた。

 

 ゴォォォォォォ!

 

 そこでまたもお腹に来るような地鳴りで巨大な『黒腔(ガルガンタ)』が出現した(現在)へと追いつく。

 

「あー、もう良いんじゃないのー? これ以上、破面が増えたらパーティーどころか宴会────」

 

「────ガハッ?!」

 

 京楽の軽口(現実逃避)っぽい言葉に、浮竹は吐血したことに京楽の顔から表情が消える。

 

 別に病弱である浮竹が吐血することは別段、珍しいことでも何でもない。

 

 破面らしき少年の腕が彼の胸を貫いていなければ。

 

 京楽の頭から『戦術』や『戦略』は消え、『親友(浮竹)を攻撃した破面をただ滅する』ことに変わる。

 

()りぃ、時間のようだ。」

 

 ドウ!

 

 スタークが京楽を背後から撃ち落とし、巨大な『黒腔(ガルガンタ)』の中から出てきた異形の化け物が息を吹いて藍染たちを包んでいた炎を()()

 

「いやぁ~。 やっぱ僕この『フーラー』の吐息の匂い、苦手やわぁ~。」

 

「すまないね市丸、だがそこは我慢して欲しいかな?」

 

 炎の渦が消えて、中から藍染たちが姿を現したことに護廷の者たちの注目が一気に集まる。

 

「よぉ。 久しぶりやんけ藍染。」

 

 否、皆が注目したのは新たに姿を現した人たちだった。

 

「久しぶりですね。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()。」

 

仮面の軍勢(ヴァイーザード)』と、藍染たちが相対していた。




作者:次話を書きに行きます。

平子/リサ:やっと出番やぁー!

ひよ理:遅すぎねんワレェェェェェェ!!!

作者:ちゃうねん?! 仕事がめっさ忙しいねん! この頃、仕事の合間や休憩時間に話を書いているだけでも大変やねん!

平子/ひよ理:ほ~ん。 そないなもんか? (鼻ホジホジ

ハッチ:では次話で会いまショウ (ニッコリ


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第88話 Intermission of 110 Years Ago

お待たせしました、次話です!

長くなりましたが、一応簡略化してこれですのでお許しください (汗

楽しんで頂けると幸いです!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 激突だが、ここで瀞霊廷を揺るがしたおよそ百年前の出来事の詳細を書き写そうと思う。

 

 それは一気に護廷十三隊の隊長格の約半数が行方を消失したことであり、詳細など省いてもかなり長くなるので付き合ってほしい。

 

 ある日のこと、当時の隊長たちは召集されては一番隊舎に集まっていた。

 

 それは十二番隊の前隊長である『曳舟桐生(ひきふねきりお)』の『昇進』と、新たな『隊長新任』宣言の為だった。

 

 一番隊の『山本元柳斎』と『雀部』。

 当時、二番隊隊長の『四楓院夜一』。

 三番隊隊長の『鳳橋楼十郎(ローズ)』。

 五番隊隊長の『平子真子』。

 六番隊隊長の『朽木銀嶺(ぎんれい)』。

 七番隊隊長の『愛川羅武(ラブ)』。

 九番隊隊長の『六車拳西』。

 

 そして当時から隊長を務めていた『京楽』、『浮竹』、『卯ノ花』もいた。

 

 当時、十二番隊副隊長の『猿柿ひよ里』も。

 

 尚、十番隊の『志波一心』は『面倒くさがって別件で立ち会う事が出来ない』と報告が上がり、十一番隊の『鬼厳城剣八(きがんじょうけんぱち)』に至っては集まりを真っ向から突っぱねていた。

 

「え、え~~~~と……お、お、遅くなってすみませ~ん?」

 

 そして新しく十二番隊隊長に新任した『浦原喜助』がオドオドした態度でへこへこしながら現れた。

 

 現在の彼からは程遠い当時の彼に、平子は『不安』を感じていた。

 

「……なんーかユッルい奴やなぁ。」

「人の事言えんの、平子?」

「うっさいわローズ。」

 

 「胸を張れ喜助! お前は隊長なのじゃぞ?!」

 

「そ、そ、そんなこと言われても────」

 

 「────早う入ってこんかい。

 

 「ア、ハイ。」

 

 なお余談だが山本元柳斎はとっとと隊長新任の儀を早く終わらせたい気分満々………………

 

 隊長という自覚をもてい(へこへこするな)!」

 

ヒャイ?!」

 

 ではなく、喜助のヘコヘコした態度が気にいらなかったらしいのか、夜一と同じくらいにイライラしていた。

 

 というのも山本元柳斎は教壇に上ることはもう無くなったが、浦原喜助は学院時代からよく様々な噂を愚痴る教師や夜一から聞いていた。

 

『学院では優秀』、『頭脳明晰』、『あの四楓院夜一が仕事以外でよく付き合う者』とよく聞くが、いざ権力や地位を持った他人や目上(師範)などの前に出ると極端な消極的性格へと変わる。

 

 夜一の推薦から始まって隊首試験(たいしゅしけん)を開こうにも、当の本人である浦原は時間に来ず、夜一が無理やり(物理的に)連れてきたり、嘘を付こうとして夜一に頭を叩かれ(殴られ)たりなどと、軽い雰囲気の()()()()ばかりの隊首試験(たいしゅしけん)だった。

 

 ぶっちゃげると、浦原の認識は『超が付くほど面倒くさくて扱いにくい天才児』だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「うちは認めへんでこの隠密機動(人殺し)ごときが『隊長』なんて! ほかのお前らもこないなへらへらしたぽっと出のフヌケに従いたくないやろが?! あ?!」

 

 その日、十二番隊の隊舎ではむしゃくしゃする気持ちでブチギレていたひよ里の叫び声が良~く響いていたそうな。

 

 それは前隊長の曳舟を母親のように慕っていた彼女の精一杯の『抗議』という名の駄々っ子ぶりだった。

 

 そしてこれでも尚ナヨナヨヘラヘラする浦原に、平子が『先輩隊長』として珍しく、真面目な助言をしたそうな。

 

『上に立つ者は下の者の気持ちは汲んでも顔色は(うかが)うな。 器があり、好きにすればおのずと人は付いて来る。』

 

 ある意味、『未来の隊長代理』などがやっていた好き勝手の前例と『浦原喜助(新任隊長)』はどこか似ていたかも知れない。

 

「ってお前は何勝手に覗いてんねん、()()。」

 

 ビィィィィ!

 

 その助言を残した後に、平子が一人になったと思えば、彼は空間を引き破って姿を隠していた『五番隊副隊長の藍染惣右介』の姿が現れた。

 

「……さすが隊長です。 いつからお気づきに?」

 

「お前が()()()()()()()()()からや。」

 

「そうですか。」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 それから間もなく、浦原は盛大にやらかした。

 

 十二番隊の隊舎は研究所に変わり(魔改造され)、浦原は以前所属していた隠密機動が看守を務める『蛆虫の巣』の存在を(嫌がる)ひよ里に明かして彼女を連れていた。

 

 極秘事項だが、護廷十三隊に『休隊(きゅうたい)』や長期渡って復帰できなかった場合の『除籍(じょせき)』、そして任務中の『戦死』以外に『()()』というモノがある。

 

 この最後の『脱隊』を通告された隊士は全員、二番隊隊舎敷地内、(はば)三十間(およそ55メートル)の巨大な(ほり)のさらに奥にある『地下特別管理棟』へと()()()()される。

 

 早い話、『脱隊』とは実質上の『死ぬまで軟禁状態維持』を意味する。

 

 瀞霊廷(四十六室)にとっての『不適合者』、『危険分子』、『都合の悪い者』などが集められて隔離される場所。

 またの名を、『蛆虫の巣』。

 

 その中でも当時、浦原が隊長に成りたての頃で一人だけ『囚人』扱いされて牢屋に閉じ込められていた人物がいた。

 

「何の用だネ? 浦原喜助。」

 

 それは後に十二番隊隊長、技術開発局二代目局長となる『涅マユリ』だった。

 

 そして隊長と同時に局長である浦原と、()()()のひよ里と、()()()()()のマユリで『技術開発局』が創立された。

 

 ちなみにひよ里とのマユリの関係は会った直後から犬猿の仲だった。

 ……………………………………『せやかて名前にもう“猿”があるやんけ?!』とは言わない約束です。

 

「うっさいわアホォォォォォ!!!」

 

 ひよ里は母親と慕っていた『死神』に()()()()()だけでなく、『瀞霊廷』の裏事情の一片を知らされて『死神社会』にも失望した。

 

 そして『職場は違えど、志を同じくした仲間(同僚)』と思っていた者たちにでさえ『裏切られる(失望する)』まで、あと少しのことである。

 

 ………

 ……

 …

 

「ま、参った! 参ったから────!」

 

 ザシュ!

 シュパァァァァァァ!

 

「────それでも『戦士』やろ? 『戦士』が『負ける』言うたら『死ぬ』ことやで?」

 

 夜空の下で、とある隊舎では京都弁を喋る少年が命乞いをする隊士の首を跳ねた返り血の中で薄い笑みを糸目と共に浮かべていた。

 

 この()合の立会人らしき藍染が感心するような表情で満月が目立つ夜の下、この少年に話しかけた。

 

「素晴らしい。 『市丸ギン』、と言ったね? うち(五番隊)の三席はどうだった?」

 

「あかんわ、話にならへん過ぎて欠伸が思わず出そうやったわ。」

 

「そうか。」

 

 そんなドタバタとした日々から数年後、妙な噂が瀞霊廷内を出回り始める。

 

 

『流魂街の住人(魂魄)()()()()()()()()()()()』という、奇妙なモノだった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「『原因不明』ってな~に~? ねぇ~、拳西ってば~!」

 

 当時の九番隊副隊長の『久南白(マシロ)』が興味本意のみ持った子供のように付きまとう。

 

「『原因不明』は『わからねぇ』ってことだ、マシロ。」

 

 流魂街の異変に九番隊の先遣隊が出た次の日、定時連絡が無かった為に隊長自らが出かけていた。

 

 ちなみにマシロ(副隊長)はただ勝手に付いてきた様子で、拳西は彼女をあしらっていた。

 

「それなら先遣隊の子たちを待てばいいじゃない、拳西のバカバカせっかちなバァ~カ。」

 

 ビキビキビキ!

 

「「「おおおおおお落ち着いてください隊長!」」」

「そうです! ()()()()()ではないですか?!」

 

 暴れそうな形相になる拳西(脳筋)を彼の部下が数人がかりで彼を止めて、ガスマスクを付けたアフロの男がなだめる言葉をかける。

 

 このアフロ男は当時の九番隊の五席、名を『東仙要』という。

 

「「「うわぁぁぁぁぁ!」」」

 

「ゴアァァァ!」

 

 そこに流魂街の住人らしきの叫び声と、虚の雄たけびが聞こえてきたことに拳西の部下たちは胸を撫で下ろす。

 

「お、虚か。」

 

「「「「(隊長が単純でよかった。)」」」」

 

 密かに上司(拳西)をディスる(?)部下たちが彼に続いて虚をサクッと片付ける。

 

 その時、その場に居合わせた流魂街のとある子供の目に、拳西の『69』の刺青が焼き付けられる。

 

 その子供の名は『檜佐木修兵』と言い、この出来事をきっかけに彼は護廷を目指すことになったとか。

 

 なお更に余談だが『九番隊の六車拳西』から『九』と『六』を取って『96』の筈だったのだが、刺青を彫る者にマシロが『“69”だよ!』と注文して、そうなってしまったのだとか。

 

 というか『何故よりにもよって彼女(副隊長)に頼んだ?』と部下たちはそう思いながら全く反省の色が見えないマシロに、説教をする拳西を呆れた目で見ていたとか。

 

「けんせーい! 先遣隊の子たち、死覇装脱いじゃったみたいだよ~! 酔っちゃったのかなぁ~?」

 

 マシロが見つけてきたのは、まるで『服だけを残しながら体が溶けたようすの死覇装』たちの有様だった。

 

 そんな拳西たちは『流魂街の住人』たちだけでなく、『死神』でさえも事件が巻き込んだことを中央に即報告。

 

 そして九番隊の憶測だが、その場にあった()()()()()()()()()()()発見したので文字通り、『魂魄が分解された』可能性のことも含め、技術局員の派遣要請を出した。

 

「というわけでひよ里さんお願いします♪」

「なんでや?!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんスよ。 お願いします。」

「あ……か……ああああああ! くそったれ行ってやるわい! 必要経費、覚悟しぃや?!

「ハイハイ。」

 

 ニッコリとした浦原の、裏の無い言葉にひよ里は(頼ら)れて渋々(?)、出かける支度をせっせとする。

 

 これが浦原とひよ里の二人が『()()()()()()()、最後に交わす会話となりえることはチラチラと脳裏で『予想』をしていたとしても、まさかこうも急に訪れるとは浦原でさえも思っていなかった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

『緊急招集! 緊急招集! ()()()に異常事態! 九番隊の隊長及び副隊長の霊圧が消失!』

 

「ひよ里さんは?!」

「え? あ、もうずいぶん前に出かけ────局長?!」

 

 寝ていた浦原はすぐに近くの者にひよ里が既に出かけたことを聞いた瞬間、必要最低限のものを羽織って、技術局を脱兎のごとく飛び出た。

 

 ………

 ……

 …

 

 上記とほぼ同時刻、山本元柳斎は召集した隊長たちの中から現地派遣を命じた。

 

「三番隊の鳳橋楼十郎、五番隊の平子真子、そして七番隊の愛川羅武は現地へ向かえ!

 二番隊の四楓院夜一は別命があるまで待機! 

 六番隊の朽木銀嶺、八番隊の京楽春水、十三番隊の浮竹十四郎は瀞霊廷の守護! 

 四番隊は卯ノ花烈を含め、負傷者搬入に備えよ!」

 

「ボ、ボクも現地へ行かせてください!」

 

 息を切らせた浦原を見た山本元柳斎は彼の部下であるひよ里が現場へ向かったことは報告として受けていたので、心中を察していたが敢えて『総隊長』としての命令を出した。

 

「浦原喜助、別命あるまで『待機』じゃ。」

 

「そ、そんな────?!」

 

 ────ギィィィ。

 

 重苦しいドアが開き、向こう側には当時の鬼道衆総帥の握菱鉄裁(つかびしてっさい)と副鬼道長の有昭田鉢玄(うしょうだはちげん)が入ってくる。

 

「この二人にも現地へ向かってもらい────」

 

「────あー、それなんだけどね山じい? 鬼道衆のトップである二人を同時に向かわせるのはまずくないかな?」

 

「……………………フムゥ?」

 

「そこで僕から提案なんだけど、代わりにうちの副隊長を送るってのはどうかな?」

 

「え? 京楽、今から呼ぶのかい?」

 

「そだよ浮竹。 お~い! クシャミはしてないけど、ジャジャジャ~ン! リサちゃんおいで~!」

 

 そこにおさげっぽい髪形に眼鏡とミニスカタイプの死覇装を着た『矢胴丸リサ』が呆れた顔で『ヌッ』と隊首会(たいしゅかい)をのぞき込む。

 

「どれだけ古いねん。 というかそれ、どこから取ったん?」

 

 またもエセ英語を喋る『自称除霊師』が目撃したならばまたも『Oh! セクシーニンジャガール!』と叫んでいただろう。*1

 

『もしこの時に“自称除霊師”生まれていればの話』なのではツッコミはご遠慮ください。

 え? 『セクシーにはツッコめよ』?

 …………………………うん、気持ちはわかるとも。

 

「まぁまぁ。 で? 話はどこまで聞いた?」

「全部。」

「頼める?」

「当たり前。」

「じゃ、よろしく。」

 

 リサが『ビッ!』と無言のサムズアップをして、その場から消える。

 おそらくは現地へ向かったのだろう。

 

 京楽と『死神としてのリサ』、最後の会話である。

 

「……………………」

 

 悶々と考え込む浦原に京楽が小声で話しける。

 

「大丈夫、ひよ里ちゃんやリサちゃん……『部下を信じて待つ』ってのも隊長の仕事だよ。」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その午後、京楽は()()に出ていた。

 

「(んー、僕の気の所為かな。 藍染副隊長も()()()()隊舎にいたし────)」

 

「────あの!」

 

 京楽の前には幼く、小柄なメガネを掛けた少女が自分の胴体ほど大きくて分厚い本を持ちながら京楽を見上げていた。

 

「おや、どうしたんだい七緒ちゃん?」

 

「『伊勢七緒』、ですよ?! 子供扱いはしないでください!」

 

「うんうん、そうだね。 で、どうしたんだい七緒ちゃん?」

 

「ですから『伊勢七緒』と言っていますのに……」

 

 京楽は伊勢が抱えていた本を見ると察しをする。

 

「もしかして、リサちゃんを探しているのかい?」

 

「は、はい……今日も矢銅丸副隊長と一緒に本を読む約束をしていましたから。」

 

「……そっか。 リサちゃん、今はちょっと()()()()で出かけていてね?」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 伊勢が明らかにしょんぼりとする。

 

「ああ?! だ、大丈夫だよ! ()()()()()()()()だろうからさ! きっとだ!」

 

 京楽はにこりと作り笑いをしながら伊勢の頭をなで、彼女は若干不服そうな、あるいは恥ずかしそうな顔をする。

 

 この時の京楽は確かにそう考えていたし、事が収まるまで待つ覚悟もしていた。

 

 だがまさか、次に再会できるまで百年以上経つとは想定していなかっただろう、いくら長命種である死神だったとしても。

 

 その二日後、『面会拒絶』を出した京楽が何か隠していると思い、リサに教えてもらった抜け道を使って、伊勢は声を殺しながら一人寂しく隊長室で鼻歌をしながら儚い笑みを浮かべてボ~っとする京楽の姿を目撃することとなる*2

 

 この日から伊勢は幼いながらもしっかり者と変わって副隊長になるべく研鑽をしたとか、していないとか。

 

「ただの偶然です! 確固たる証拠もないのに変な憶測はやめて頂けませんか?!」

 

 ソウイウコトニシテオキマショウ。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「どういう……ことやねん?!」

 

 真っ先に現地に駆け付けた平子はボロボロになって逃げていたひよ里を()から庇った際に、拳西特有の『69』の刺青が目に入った。

 

「仮面も霊圧も、虚そのものじゃあないか?!」

 

 次に駆け付けたローズやラブにリサも平子と同じように唖然としていた。

 

 そんな彼らに平子は注意をしながら(ひよ里を左手で抱えているために)片手で構えた刀を再度前に出す。

 

「俺にもわからん。 けど刀を抜け。 さっき感じた殺気はマジやったから、相手は()る気やで────って後ろやこのアホォォォォ!!!!」

 

 そんな三人に背後から襲ってきたのは虚化したマシロだった。

 

「縛道の九十九、『禁』!」

 

 突然の襲撃に平子たちは戸惑ったが、ハッチが急遽高度の鬼道で何とか拘束することに成功する。

 

「九十番台の詠唱破棄……さすが副鬼道長やな。」

 

 ボロボロで汗と荒い息遣いの平子が同じ状態のハッチに軽口を叩く。

 

()()()()無理してマス。」

 

「う?! ゴホッゴホッ!」

 

「んあ? なんやひよ里、風邪か?」

 

 ひよ里がせきをし始めたことに、緊張状態から解放されていく平子が軽口を続ける。

 

「ハッチぃ、このアホから治してくれ────?」

 

「────ンジ! あたを……はせ!」

 

 ザン!

 

 一瞬、何が起きたのか理解が追い付かないハッチ、ローズ、リサ、ラブの前でひよ里が()()()平子を切り裂いた。

 

 「■□■□■□■□!!!」

 

 耳をつんざくような、獣の雄たけびを『虚の仮面をつけたひよ里だったモノ』がその場で出す。

 

 それがきっかけだったように、皆の周りが急に暗闇に落ちる。

 

「な、なんだ?!」

「どうなっているんだ?!」

「「こんなアホなことがあるかぁぁぁぁぁ?!」」

 

 その中で()()()()()()が自由に動き回ってリサ、ローズ、ハッチ、ラブに深い傷を負わせてから暗闇が消えていく。

 

 そんな中、辛うじて()()()だけを頼りに意識を失う重傷を免れた平子がその男をにらむ。

 

「なんでや……なんでや?! 自分とこの隊長を裏切ったんか、()()!」

 

 これが東仙の()()()()()卍解、『清虫終式・(すずむしついしき・)閻魔蟋蟀(えんまこおろぎ)』だった。

 

「『裏切る』? いいえ、彼は忠実に従っていますよ?」

 

 後ろからくる声に平子が振り返ると藍染と、五番隊に新任した市丸ギンの姿があった。

 

「藍……染! やっぱし、お前か!」

 

「さすがは()()()()といったところですか。 ()を深い疑い()()から、自らの目が届く副隊長に任命しただけの事はある。」

 

「気付い……とったんか?」

 

「勿論。 だから逆に一定の距離を開けて監視した貴方を騙すのは容易かった。 

 それにお忘れですか? 隊長が『副隊長任命権(ふくたいちょうにんめいけん)』を行使する際、任命された隊士には『着任拒否権(ちゃくにんきょひけん)』があります。 

 もちろん、行使されるのは滅多にないので忘れがちなのは認めますが……ここで一つ、質問です。」

 

「……?」

 

 平子は混乱しそうになる思考に無理やり蓋をして制御しようと試みている間に、藍染の真意に当たりをつける為に考えを張り巡らす。

 

 だがその前に、考えがさらに藍染によって乱される。

 

「『何故こうもべらべら喋っているのだ?』と、考えたことありませんか?」

 

「?!」

 

 この『話し合い』が既に藍染の策略(時間稼ぎ)と平子が気付いた頃には彼の顔に虚の仮面が現れ、周りの倒れた者たちにも同じく虚の仮面が出現する。

 

「ぐあああああああああああああああああ?!」

 

「…し…………………ンジ。」

 

 苦しみの叫びを平子が上げ、虚化したひよ里が彼の名をかすかにだが呼ぶ。

 

「ほう? 虚化してもなお、理性を奥底に宿すとは……余程()()()()()()のだな────」

 

 ギィィィン!!!

 

 藍染は背後から来た僅かな()()()を感知して、斬りかかって来た浦原の刀を弾く。

 

「───流石は『元隠密機動』。 気配を消すのが()()ですね。」

 

「き……?」

 

「悪趣味な仮面スねぇ……『虚化』なんて、やるもんじゃないッスよ?」

 

 浦原は藍染から目を離さずにそう言うと、藍染が纏う空気がごく僅かに揺らぐ。

 

「フ…………フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ───」

 

 藍染の場違いな、心の底から来るような()()()乾いた笑いにその場にいた誰もが肝を冷やした。

 

「───破道の八十八、『飛竜撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)』!」

 

 そのあまりの異様さに、蒲原と同行していた鉄裁は詠唱破棄の特大鬼道を放つ。

 

「縛道の八十一、『断空』。」

 

 だがそれも藍染の詠唱破棄した()()()()によって塞がれ、藍染たちは姿を消す。

 

 いまだに苦しむ平子たちを助けようと浦原は『研究所ならばあるいは』と言い、鉄裁が禁術である『時間停止』と『空間転移』を使って()()()()()()()()()()()()()で場所を十二番隊の隊長室へ移す。

 

 そこで浦原は開発した『崩玉(ほうぎょく)』を使い、平子たちのさらなる虚化の解除を試みるために数時間ほどを費やす。

 

 だがその結果、解除はおろか、平子たちは殆ど虚の状態になったが辛うじて『()()()()()()()()()()()()』の保持にだけ()()し、一命を留めた。

 

 否、『彼らの命は留めた』と言って良いのだろうか?

 

『肉体』は『虚』。

『精神』は『死神』。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()浦原はこれを『失敗』と呼んで自分に失望した。

 

 そして彼の研究所に憲兵隊が雪崩込み、浦原と鉄裁は捕縛され、四十六室に容疑を言い渡される。

 

 容疑は『虚化の実験』。

 

 抗議をあげようにも発言許可は出されず、『十二番隊舎から虚化の痕跡(平子たち)発見』の報告が来たことにより事態は一気に悪化した。

 

 鉄裁は『禁術の行使』によりその『地位』と『特権』を剥奪(はくだつ)、即投獄。

 

 浦原は『禁忌事象研究と行使』で、霊力剥奪の上に現世への永久追放罪。

 

 上記を言い渡された後、『浦原の邪悪な実験の犠牲となった()()は即座に処理』と宣言された。

 

 鉄裁は即座に『特権の剥奪(鬼解門が閉じられる)』処置を受けとてもではないが鬼道が使えない状態()となった。

 

 そして二人がそれぞれの処置の為の搬入に入ると夜一が二人を救出し、そのまま彼らと夜一が既に連れ出した平子たちと共に現世へ逃げ果せた。

 

 これら全てが、『仮面の軍勢(ヴァイザード)』の誕生と、浦原達が現世に逃げるまで一通りの出来事である。

 

()きんかいクソハゲ真子ィィィィ!」

 

 バシィ!

 

「イデェェェェェェ?!」

 

 平子は顔にスリッパが当たった衝撃で瞬時に起きる。

 

「なに呑気に寝てんだ? 『これから』って時によぉ?」

 

 拳西の言葉で平子は周りの『仮面の軍勢(ヴァイザード)』たちを見渡す。

 

「…………………」

 

「どうかしたのか、真子?」

 

「あー、いや。 なんもあらへんわ。 ()()()()()()()を見とっただけや……いくで。」

 

 平子が立ち上がると、ほかの『仮面の軍勢(ヴァイザード)』たちが先に倉庫街を出る。

 

 その間、平子は自分の手を不思議そうに見てから、床に散らばったガラスの破片に反射した自分の姿を見る。

 

「………………なんやったんや、今の? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ……それとも、『虚』やから他の皆の記憶が共用する現象? ………………………………………………………………アホくさ。 浦原に世話ンなりすぎて深くものを考え過ぎになっとるわ、自分。」

 

 そう自分に言い聞かせながら、平子は倉庫を後にし、彼らは藍染たちの前に立ちはだかる。

*1
25話より

*2
41話と同じ仕草



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第89話 Fake Karakura Town Fight, Side Blinded Justice

お待たせしました、次話です!

拙い作品をいつも読んで頂き、ありがとうございます!

ここからオリジナル展開などなどが急接近&ジャンジャンと急増化していきます(汗汗汗汗

10/8/21 8:13
若干のフォント修正をいたしました。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 

「よぉ。 久しぶりやんけ藍染。」

 

「久しぶりですね。 ()()()()。」

 

「アホ、誰かサンの所為でもう隊長やないわ……んで? ほかの皆は久しぶりのご対面で、挨拶ぐらいしたい相手はおるか?」

 

 意識のある護廷の者たちが『仮面の軍勢(ヴァイザード)』に注目する中、平子が他の者たちにそう問い、それぞれが互いを見る。

 

 ヒュ!

 

 平子の問いに、リサ一人が颯爽とその場から無言で姿を消す。

 

「あー……ま、そうなるわな。 ほな俺も総隊長に挨拶してくるわ。」

 

 ………

 ……

 …

 

「どれだけやられてんねん、どアホ。」

 

 京楽が意識を戻すと、ちょうどリサが彼を起き上がらせてホコリなどをはらっていた。

 

「こんなに死覇装をボロボロにしおってぇ。 あとでどやされても────」

 

 ガバ!

 

 そんなテキパキと動くリサを京楽は目一杯、躊躇のないハグをした。

 

 ギュ。

 

 リサは目を白黒させながら慌てて急にいつも以上な早口になる。

 

「────ちょちょちょちょちょちょおぉぉぉぉ?! 京楽お前何急に人に抱きついとんねん真昼間のうちにというかそういうキャラちゃうやんけぇぇぇ────?!」

 

 「────お帰り、リサちゃん。」

 

「…………………………………………………」

 

 真面目&裏表のない、まっすぐかつ小声になった京楽の言葉に、リサは黙り込んでからハグをし返す。

 

 ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。

 

「ただいま、京楽………………結構、やられとんな?」

「なぁに、ちょいと()()()()()をしていただけさ。」 

「気ぃ、失っとったやん。」

「……………『(やっこ)さんの隙を窺っての逆転狙い』もあったかな?」

()()()()()()()()()()()()()()()()なんか?」

「ああ、卍解も視野に入れようかなぁ~……………………な~んてねぇ。」

アホ。 ここでアンタが卍解なんかしたら、敵味方関係なく『迷惑』かかるやろが……」

「そうなんだよねぇ~、難儀なモンだよねぇ~、どうしたもんかねぇ~。」

 

「「…………………………………………………」」

 

 互いに言葉をなくしたと思えば、リサが口を開けた。

 

「七緒……元気か?」

 

「ああ。 君が無事だって知ったときは平常心を必死に保っていたけど後でコソコソと一人でワァワァ泣いていたから、どう止めようか困ったよ。」

 

「そうか……部屋、覗いたんか?」

 

「結局は後で羊羹を差し入れしたんだ。」

 

「スルーとは変わらへんなぁ。 んじゃ、行って来るから頑張りぃ。」

 

「……うん、行ってらっしゃい。 さらに綺麗になったリサちゃんに抱擁してもらったから僕は元気百倍だよ♪」

 

「………………………………………………ヒゲ、剃り忘れとるからさっきは痛かったわこのアホォ。」

 

 立ち上がって振り向いたリサの背中姿に、京楽は微笑む。

 

 正確には『彼女の背中姿に』ではなく、『ほんのりと赤くなった彼女の耳を見て』だが。

 

 ………

 ……

 …

 

「平子真子、変わっておらんの。 髪……切ったのかえ?」

 

「総隊長さんも、お変わり無いツルッツルの頭で。」

 

「ほっとけ……随分と遅かったの。」

 

「んー、『様子見』。 さすがに庭でドンパチおっぱじめたら誰でも戸惑うがな。 けど予想外に()()()()がチンタラしとったから来た。」

 

「そうか……」

 

「それと俺への()()()()、見たで? なんやねん、よりにもよって自分ンとこの先生を俺が居た隊の『隊長代理』にするなんて?!」

 

「全くもって偶然じゃ。 それにそうだとしてもお主が残した()()、利子無しでどれぐらいじゃったと思う? え?

 

「ング……しゃ、しゃーないやろが?! 返せる前に藍染のアレコレが起きてんやから? というか相変わらず性悪やなぁ?!」

 

「ホッホ。 自分が()()()()分と、現世から取り寄せた特注品ぐらい自分で払えば良いのに、『隊長経費』で落とそうとしたお主の所為じゃ。 

 四十六室を相手に説明しなければならなったワシの身になれ……さて、続きは全てが終わった後の為に、取ろうでは無いか。」

 

 山本元柳斎の出す空気が少しドンヨリとしたことに、平子は()()引いた。

 

「……………………………………せ、せやな。 ほな、俺らは俺らで勝手に動くから。」

 

「うむ。」

 

 ここに護廷、そして元護廷の『仮面の軍勢』たちが共闘することで戦闘がさらに激化していくこととなる。

 

「マシロキィ~ック!」

 

 ドパァァァァァァァァ!

 

 マシロは見た目そのままの何某ライダーのように、自分の名が入っただけの技を繰り出して、藍染たちを山本総隊長の炎から解放した巨大虚の『フーラー』をぶちのめす。

 

「ああああああああ?!」

 

 少し前に浮竹の胸を貫いた後、戦いに興味を無くした破面の少年が意味不明な叫びをしながらマシロに襲い掛かる。

 

「そこからの~! マシロスーパーかかと落とし~!」

 

 ドガッ!

 

「ぐあぁ?!」

 

 マシロは蹴り上げた足をそのまま下して、突進してきた破面の少年に食らわせて彼を地面へと吹き飛ばす。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

「やぁ、浮竹。 久しぶりに会ったけど随分なやられようだね?」

 

「君の……………声を聞いて………………少しは元気が出たよ……………鳳橋(おおとりばし)。」

 

「昔から言っているだろう? 『エレガントな僕の事はローズでいいよ』、と? すぐに戻るから、楽になっていてくれ。」

 

 ローズが吉良や駆け付けた鉄左衛門に治療されている浮竹の近くへ寄ってから、彼はラブがスタークを警戒していた場へと移動する。

 

「チッ、次から次へと……」

 

「…………………あー、ローズ?」

 

「なんだい、ラヴ?」

 

「来て早々なんだけどよ……俺ら、()()()を引いちまったかも知れねぇ。」

 

「それは…………………うん、()()()()困ったね。 んじゃ────」

 

「────おう!」

 

 ラブとローズは長年、共にした連携でスタークを翻弄………………しようとした。

 

「打ち砕け、『天狗丸(てんぐまる)』!」

 

 スカ。

 

「ハァ~、やってられねぇぜ。」

 

「「(どれだけ嫌なんだよ?!)」」

 

 ラブの巨大なトゲ付き棍棒になった斬魄刀の『天狗丸(てんぐまる)』で殴る攻撃を、スタークは素早く避けたモーションのまま離脱しようとする。

 

「アンタたちと遊んでいる時間はない────」

 

「────そうかい。 でも残念ながら、僕たちの用事は終わっていないんだ。 (かな)でろ、『金沙羅(きんしゃら)』!」

 

 ローズの鞭のような『金沙羅(きんしゃら)』は複雑な動きをしながら、スタークをあらゆる方向から包囲を試みる。

 

「チ、しょうが────ッ?!」

 

 彼が何かに気を取られたかのように別方向を見ると、ローズの鞭がスタークを捕まえることに成功して、彼を地面にたたき落とす。

 

「今だよラヴ!」

 

 「おう! 『火吹(ひふき)小槌(こづち)』!」

 

 ズドォォォ!!!

 

 虚化した状態のラブが、『天狗丸』に炎が纏わってスタークを中心に広範囲な火の海が出来上がる。

 

「まだだぜロ────ッ?!」

 

 ここでラブが先ほどのスタークのように、別方向を仮面の下で見開いた眼で見る。

 

「……? あっちに何かあるのかい?」

 

「(ローズが感じていねぇって事は、『虚化』と関係してんのか? なんだ、この……『底なし谷の中を覗いている』ような感覚は?!)」

 

 ガラガラガラ!

 

 ラブたちの下でスタークが瓦礫の中から姿を現す。

 

「クソ、『()()()()()()』。 とでも言いたいのかよ、あのイケ好かねぇ野郎は。」

 

「(虚化ラヴの『火吹の小槌』受けてノーダメかい? ……タフだね。)」

 

「(だが攻撃は当たって────)────ッ?!」

 

 ボボボボボボボボボ!

 

「『孤独な狼の咆哮(ソラ・ルプス・ルジェット)』。 テメェらはこいつらとでも遊んでな。」

 

 スタークの周りに何十匹という、青白い炎で出来た狼らしいものが出現して、彼はその場から姿を消す。

 

「ま────!」

 

『待て』。

 

 そう恐らくは誰かが言いたかったのだろうが、『瞬歩』に劣るとも言えない『響転(そにーど)』の速度で狼たちはラブとローズに襲い掛かる。

 

「────俺は犬好きだがこういうのはノーサンキューだ! ローズ、ギターかなんか引いてこいつらを静めろよ?!」

 

「僕は獣臭くなるから嫌だよ?!」

 

「だったら風の〇クトを使え! Cスティックを上、左、右だ!」

 

「無茶言わないでよ?! というか何の話だよ?!」

 

 それだと『風向き』を変えるだけなので、オカリ〇で『嵐』を呼べば良いのでは?

 

 ………

 ……

 …

 

 平子は藍染たちの前に戻ると同時に、東仙が彼に斬りかかった。

 

「どわぁ?! なんやねんお前ぇぇぇぇ?!」

 

 ガガガッ!

 

 その東仙の刃を、腕に身に着けていた手甲で狛村が弾く。

 

「狛村?!」

 

「そのおかっぱ金髪に方言、そして藍染との因縁らしき言葉……かつての五番隊隊長の『平子真子』とお見受けする。 話は総隊長などから聞いている。 助太刀するぞ!」

 

 「うっわ、色々な意味で総隊長以上に暑苦しいわぁ……」

 

「狛村。」

 

「東仙、貴公は────」

 

 ジャラジャラジャラジャラジャラ!

 

 東仙の刀に鎖が巻き付いて、その場にいた皆が持ち手を見る。

 

「すみません狛村隊長。 この戦い、俺も立ち会います!」

 

「檜佐木!」

 

 狛村は独自の洞察力でここに駆け付けた彼が無理をしていることを瞬時に分かった。

 

「(新血が滲み出る匂い、浅い息、そして僅かな動きで大量の汗────)」

 

「────お久しぶりです、東仙()()。」

 

「皮肉か、檜佐木?」

 

「いいえ、今までのご教示の礼と……ソウル・ソサエティへと連れ戻す覚悟の示しもかねています。」

 

「そうか。 『鈴虫』。」

 

 ジ、ジジジ!

 

 東仙の斬魄刀が振動し始め、久木の鎖をスルリと刀が抜ける。

 

「檜佐木、私はかつて言ったはずだ。 『恐怖を知らぬものに戦いを挑む資格はない』、と。 今のお前からは『恐怖』が感じられん……………………ん?」

 

 東仙がとある方向を見て、若干驚くような声を出す。

 

「……………………これは……なるほど。 スタークが『本気になる』ワケだ。」

 

「どこに集中しておる東仙! ワシらを見ぬか!」

 

「ほな俺、先に藍染を牽制しに行っとくわ。 ここはヨロ。」

 

「な?!」

 

ヒュッ!

 

 平子が『瞬歩』でその場を後にする。

 

「さて、そろそろ藍染様が前に出る頃か。」

 

 東仙は左手を顔の前まで上げる。

 

 その仕草は先ほど出てきた()()()()()()()()()と似ていた。

 

「東仙! 貴様、まさか?!」

 

 ズウオォォォ!

 

 一瞬だけ荒れ狂う霊圧が東仙から発して、頭全体を覆うような仮面をした姿になる。

 

「虚の仮面? ……それは『虚化』ですか、東仙隊長?!」

 

 檜佐木が『訳が分からないよ!』というような顔とトーンで叫ぶ。

 

 ズッ!

 

「そうだ。」

 

 『瞬歩』ではなく、『響転(ソニード)』を使って東仙は一気に距離を詰めてから、檜佐木のお腹に斬魄刀を刺していた。

 

「ッ。 『天譴(てんけん)』!」

 

 狛村の背後から巨大な腕が持っていた刀を振るう。

 

天譴(てんけん)』とは狛村の卍解、『黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)』を限定的に出現させる始解。

 

 彼の卍解である『黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)』は狛村自身と状態などが連携しているので、卍解が斬りつけられば狛村も同様に傷を負ってしまう。

 

 なのでこの『天譴(てんけん)』のほうが『己が傷つくデメリットがないので、卍解のメリットより大きいんじゃないの?』と聞かれると、そうでもない。

 

天譴(てんけん)』が出現できるのは『攻撃』、あるいは『防御』をするその刹那だけ。

 

 つまりタイミングを見誤れば、卍解以上に狛村本体が傷を負うリスクもありえた。

 

 ガン!

 

「ぬっ?! (こ奴、『天譴(てんけん)』を『()()()()()』だと?!)」

 

 東仙は狛村の攻撃を避けたり受け流したりせず真っ向からそれを受け止めて、彼の回し蹴りで狛村はハッとして腕の手甲で東仙の蹴りを受け止める。

 

 ドッ!

 

「ヌゥゥゥゥゥン!!! (この凄まじい力! 『破面』の力か?!)」

 

 受け身を取った狛村を東仙を睨む。

 

「ほぅ。 死神のままで、以前より少しは出来るようになったな狛村?」

 

「藍染の謀反後、このワシの目から鱗がはがれて以来ワシは一から更に己を磨いた! その結果だ!*1

 

 素直に『ひとえに部外者のおかげ』とは言いにくかった狛村。

 無理もないかもしれない。

 

 彼からすれば『年端も幼い“滅却師の少女”に背後を取られた』など恥以外のなんとも思えないだろう……………

 

 と思いきや、彼は『ワシの自己慢心を鍛え直さねばぁぁぁぁぁぁぁ!!!』と叫びながら自分を鍛え直す活力へと狛村は解釈していた。

 

 良くも悪くも、『()()()』だった。

 

「それに引き換え貴公(きこう)は死神として十分な実力を持ちながら、自らその道を踏み外すとはどういうことだ?! ただの()()ではないか!」

 

「堕落…この力を、『堕落』と呼ぶか。」

 

「ワシが言いたいのは貴公を慕っていた仲間、友、部下を裏切ってまでその過ぎた力を手にしようとしたこと自体が『堕落』なのだ!」

 

 ジャラジャラジャラジャラジャラ!

 

 ドォン!

 

 檜佐木の『風死』の鎖が東仙に絡まって、彼を無理やり地上へと叩きつける。

 

「踏み込みが甘かったか。」

 

「違います、貴方の教えの賜物(たまもの)です! 『剣を抜いて立つときは常に半歩で躱せるように構えよ』! 

 戦いを……副隊長を怖がった俺を、勇気づけたアンタの教えだ! 『戦いを恐れている心を持っているからこそ、同じく戦いを恐れる者たちの為に戦える戦士になれる』と!」

 

「檜佐木────」

 

「────今の東仙隊長は、()()()()()()()()()()んですか?!」

 

 グサッ。

 

 東仙が戸惑う檜佐木をまたも刺して、彼を自分の上から蹴り押す。

 

「私が今も百年前も恐れているのは変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 貴様たち『死神』と同化して死ぬことだ。」

 

 東仙の冷たい言葉に反応したかのように、狛村が熱のこもった叫びをする。

 

「卍解、『黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)』!」

 

 それを最後に、狛村と東仙が攻防を繰り広げ始める。

 

 殆どは巨体の『黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)』が、小さくて素早い東仙に切り刻まれていく様だが。

 

「不便な卍解を持ったな、狛村!」

 

 次々と狛村の体に浅い生傷が増えていく。

 

「卍解が傷を負えば、術者も傷を負うとは滑稽だな。 『黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)』は。」

 

 偽・空座町で東仙は憐れみを帯びた言葉を狛村に投げる。

 

「ワシが代わりに傷を負えば、他者のケガが減る! それならば不便で結構!」

 

「私のこの力を『堕落』と呼んだが……逆に問おう、狛村。

『復讐』の為に組織に入った者が、その中で安寧たる暮らしに身を委ねて目的を忘れ、迎合する事をまさに『堕落』と呼ぶべきではないのかと?!」

 

 ここで狛村はいつも以上に険しい表情をする。

 

 今目の前で『親友が復讐の為に憎い組織(護廷十三隊)へ入隊した』と宣言したので無理もなかった。

 

「まさか……貴公は、『復讐』の為()()に────?!」

 

 「そうだ! 何よりも大切な友を殺された者が、殺した敵と同じ職場に入る事に疑問を感じなかったのか?!」

 

「……………ワシは、『正義』の為と……亡き友の果たせなかった『正義を果たす』と言った、貴公を信じた。」

 

「なら『正義』とはなんだ、狛村?」

 

「……」

 

「それは愛した友を殺した者を許すことか? それは確かに『善』と言えるし、『美しい』と感じることもできよう。 だが『善』や『美しい』ことが『正義』なのか?

 否! 亡き者の無念を晴らさずに、安寧の内に生き永らえる事は確固たる『悪』!

 ならば私は『正義』を実行するまでだ!」

 

「……ならばワシは、『ソウル・ソサエティの敵』である貴公を斬らねばならぬ。 ワシの心は、貴公のその言の葉(本心)を聞いて既に(ゆる)している。」

 

「『()()()()()()()』、か……フ、フハハハハハ! 度し難い! 滑稽だ! 神のようなその口ぶりはまさに傲慢! 『瀞霊廷の飼い犬(護廷)』に相応しい! 

 ……清蟲百式(すずむしひゃくしき)、『狂枷蟋蟀(グリジャル・グリージョ)』。」

 

 ドパァ!

 

 バラガンとは違う、真っ暗なドロ(霊圧)が東仙を包み込んで、異形の形へとみるみる変わっていく。

 

 次第に姿を見せたのは土偶のような目を持つ、巨大な昆虫。

 

 その昆虫(東仙)()()()()、狂喜に満ちた声を出す。

 

「フ…………………フハハハハハ!視える! 視えるぞぉぉぉ! これが()()か! 狛村、貴様を含めてなんとも醜いものだ! フハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

 

「…………………東仙。」

 

ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

 

 狛村が自分の名を呼んだことに気付かない東仙に、狛村は言葉を続けた。

 

「東仙。 貴公は以前、『亡き友が愛した世界から“正義”を消したくない』と言ったときから…実はワシはある日気付いたのだ。 

 貴公が一度も『自分が愛する世界』などと言ったことがないのことに。 『ああ、この男は本当に、それほどまでに世界が憎いのだな』、と。」

 

ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

 

「ワシもこの姿故に苦しみ、憎んだこともある。

 だからこそ、ワシは……『ワシだけでも貴公の真の友』となりその悲しみを受け止め、道を間違えれば叱ったり、誰かに頼りたいと思った時などの()(どころ)となり……

 いずれ、『世界を愛せるように』と願いを込めた……

黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)』!!!」

 

 狛村の巨大な卍解がその大きな刀を東仙に目掛けて振り落とされる。

 

「フン、『九相輪殺(ロス・ヌウェベ・アスペクトス)』。」

 

「グ、ヌァァァァ!」

 

 本来、人間の耳では聞こえない周波の音波が狛村の耳を襲い、彼の『黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)』を一撃で吹き飛ばす。

 

 ズッ!

 

「グッ?!」

 

 その瞬間、檜佐木の『風死』が上空から東仙の喉を刺していた。

 

 意識ももうろうとし、口から血が出ていた檜佐木は失望、あるいは観念した複雑な表情を上げる。

 

「やはり………東仙隊長でも油断するんですね……虚化しているとはいえ……自分の目が見えた時から、貴方はその目に頼った。 

 今の俺のこの攻撃……ご自分の聴覚を自ら封じるような、大きな攻撃をしていなければすぐに気付けた筈です。」

 

 バァン!

 

 風船が破裂するような音がして、東仙は昆虫からヒト型へと戻り、地面へと落ちる。

 

 喉は檜佐木の『風死』につけられた傷から赤い血が流れ出ていた。

 

「……………こ……むら…………ひ………ぎ────ゴフッ! ゴホッ!」

 

 気が付いた彼を、狛村と檜佐木が膝をつきながら見ていた。

 

「喋るな、東仙。 虚とはいえ、喉が裂けているのだ………………東仙、『正義とはなんだ』と問うたな。」

 

「………………………」

 

「ワシが思うには、『正義』とは『言葉では語れぬ物』。 

 同じ『正義』でも相容(あいい)れぬ『正義』がぶつかれば、相手の『正義』は『悪』へと転じる。

 ゆえにワシはお前を憎んでおらん。

 ワシはお前に『憎むのはやめろ』や『恨むな』などとも言わん。

 ()として、『己を(ないがし)ろにする復讐はやめろ』、それだけだ。

 貴公が亡き友を失って穴が開いてしまったように、少なくともここには同じように心に穴が開いてしまう二人が()るのだからな。」

 

 東仙は狛村の言葉に、ただ涙を流し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血しぶきへと変わり、彼の右腕が宙を舞う。

 

「………………………………ぇ。」

 

 檜佐木はショックにポカンとし、狛村は瞬時に感じた霊圧の持ち主を睨んで、今までかつて無いほどの殺気を放つ。

 

 「藍染! 貴様ぁぁぁぁぁぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ん。」

 

 とある路地裏へと場は移り、影を落とす民家の塀に背中を預けて、さっきまで気を失っていた男の近くにもう一つの人影がせっせと応急処置を施していく。

 

「……………わ………………たし………………は?」

 

 男は未だにフラフラとする意識の中、(まばゆ)いほどの黄金色の何かが眼前でユラユラと動き、それは滑らかなシルクがそよ風の中できらきらと光っているかのようだった。

 

 色違いとはいえ、それはどこかかつて男が愛した女性の髪を連想させ、彼は思わず撫でようとした腕に力が入らないことに気付く。

 

「(私の……………腕が………………()()?)」

 

 男が動かそうとした右腕をちらりと見ると、肩から先が無くなっていて、ジワリと赤い血がまかれた即席の包帯に滲み出ていた。

 

「お? 気が付いたんか。 右腕は許してな? いくらボクが『敏捷A』と『気配遮断A++』持ちでも、藍染や他の皆の目を盗んで他人の身一つまるごと()()のは無理やから。 ま、あとは井上のボイン(織姫)に治療させれば何とかなるやろ。 多分。」

 

「……………………………ギン………か?」

 

 男は思わず自分がよく知っている京都弁の男の名を口にすると、()()()激しい返しが待っていた。

 

 「同じ関西でも、ボクをあの蛇男と間違えやんといてくれる?! 差別で訴えるでこのモジャモジャ褐色男!

 

 ここでモジャモジャ褐色の男はその者の僅かな気配と仕草に聞き覚えがあることを気付く。

 

「……………………君は…………かつて私が…………刺した────?」

 

「────あー。 まぁ、刺したのは刺したけどボクじゃ────」

 

「────『アサシンのサーヴァントの“佐々木小次郎”』*2?」

 

 「ちゃうがな?!」

*1
33話より

*2
27話より




『敏捷A』:卓越した敏捷性を意味するAランクは神速のごとき動きや移動を可能とさせる。

『気配遮断A++』:自身の気配を消す能力。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。 ここまでくるとスキルの使用者を真昼間で直視していても、認識の誤認が働いて発見が難しくなる。 

以上、最後に飛び出てきた単語の簡略化した説明でした。

あと時空的に、この話は次の話とほぼ並行っぽく動いています。


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第90話 Fake Karakura Town Fight, Side Age & Fear

お待たせしました、次話です! (必死

オリジナル展開や独自解釈などが満載し始めます! (スイミング目

楽しんで頂ければ幸いです! (血走った目

10/11/2021 8:05
誤字修正いたしました。



 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 

 前話の最後より少し時は戻り、日番谷に襲い掛かるハリベルがその場に駆け付けたひよ里とリサの攻撃をやりすまし、ハリベルは三人を同時に相手にとる心構えをする。

 

「お前は……………『矢銅丸リサ』か?」

 

「お、よう知ってんな?」

 

「京楽が言っていた見た目通りだからな。」

 

「………………………………」

 

 ひよ里が不服そうに、自分へのコメントをしない日番谷をジィ~っと見る。

 

「んでお前は………『ひよ里』か?」

 

 「『猿柿(さるがき)ひよ里』や! なに呼び捨てにしてんねん?! …………ってガキ言うなやクソチビィィィ!」

 

 「こうなるから言ってねぇだけだろうが?! わかれよ?! それにテメェが勝手に自分で言ったんだろうが?! それにチビはテメェもだ!

 

「お、おおおう?」

 

 ひよ里は珍しく、自分の啖呵に食らいつく人物(日番谷)に一瞬ビビる。

 

 が、それも束の間だけで彼女のこめかみにさらなる青筋が浮かぶ。

 

 「な、なんやとクソガキィィィィ?! やんのかコラァ?! そのケンカ買ったるわボケェェェェ!」

 「アホかテメェ?! 今はそれどころじゃねぇだろうがよ?! それにケンカ売ってきたのはテメェだぁぁぁぁ!」

 

 「「あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″ん?!

 

「めんどくさ────」

 

 ギィン!!!

 

 見た目も言う事も『子供のケンカ』そのものにリサは呆れながらハリベルに斬りかかる。

 

「────なんだ。 てっきり三人とも私にかかってくると思ったぞ。」

 

「ウチもや。 (つぶ)せ、『鉄漿蜻蛉(はぐろとんぼ)』!」

 

「抜け駆けなしやリサ! ぶっ手切れ、『馘大蛇(くびきりおろち)』!」

 

 リサの斬魄刀が端に刃が付いている巨大な棍の様な槍に代わり、ひよ里のは巨大なノコギリ状に代わる。

 

 ハリベルは二人の攻撃を受け────

 

「「「────?!」」」

 

 ────とめる前に、彼女とリサとひよ里たちがピタリと急に動きを止めて、同時に同じ方向を向く。

 

「な、なんや……これ?」

 

「お、おい! どうしたんだよ?!」

 

 日番谷は急に態度が変わった三人に何かの異常を感じ、見ている方向を探るが()()()()()()()()

 

「(なんだよ、何もねぇじゃねぇか……いやちょっと待て?! この方向は砕蜂たちの筈だろ?! ならなんで『()()()()()()()()()()()』んだ?!)」

 

 ひよ里だけは見知ったらしいようにこの異変に当たりを内心つけていたらしく、汗がじっとりと彼女の体中から出る。

 

「(この感覚は『アイツ』や! 間違いない! やっぱり、『アカン奴』や!)」

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

「お久しぶりデス、砕蜂サン。」

 

 砕蜂と大前田がいる場にハッチが挨拶を送る。

 

「ちょ、ええええ?! 誰ですかこのデカ男は?!」

 

()()()。 ()()()なぞいちいち覚える気はない。」

 

「ま、まぁそういうのも砕蜂サン(隠密機動)らしいと言えばそうデスけど……」

 

「くだらん。 どれだけ虫が群がろうと────」

 

 ガァン!

 

 バラガンの四方に強固そうな結界がハッチによって張り巡らされる。

 

「────なるほど。 『直接触れなけれ良い』とはいい考えだが……『鬼道に老いが無い』とでも思ったか?」

 

 バリィン!

 

 ハッチの結界をバラガンから発する靄が内側から無理やり浸食して、強度が保てない結界が崩壊する。

 

「『老い』とは平等に『死』が存在する、この世の()()に存在する。 ()()()()()()()()()()。」

 

 バラガンの襲ってくる靄に対してハッチが独自で編み出した結界を重ね続ける。

 

老い()』で朽ちていく結界に新しい結界を張り続けるその所業は、『元副鬼道長』の肩書に相応しかっただろう。

 

「砕蜂サン! 貴方の卍解が必要です、協力してくだサイ!」

 

「………………チ、私の卍解まで………あの男(浦原)め、つくづく不愉快な奴だ。」

 

 動く気配がない砕蜂に、ハッチが『とあること』を提案する。

 

「ならばその『不愉快な男を拘束する』というのはどうデショウ?」

 

 その条件を飲もう。 『一年間で』、だ。

 

 砕蜂の即答と、かなりの長期間を申し出た彼女に、ハッチは口をあんぐりとしながら目が点となり、無数の冷や汗が流れ出す。

 

え゛。 えっと……そこマデしたらワタシ死にますので、『一か月』でどうデショウ?」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いいだろう。」

 

「「(間が長いなオイ?!(デスネ……))」」

 

 内心びっくり&唖然とする大前田とハッチ。

 

 だがハッチは大前田と違い、放心する心を入れ替えて新たなオリジナル鬼道の()()をし始める。

 

軍相八寸(ぐんそうはっすん)、退くに(あた)わず! 青き(かんぬき) 、白き(かんぬき) 、黒き(かんぬき) 、赤き(かんぬき) ! 相贖(あいあがな)いて大海に沈む! 竜尾の城門! 虎咬(ここう)の城門! 亀鎧(きがい)の城門! 鳳翼(ほうよく)の城門! 『四獣塞門(しじゅうさいもん)』!!!」

 

 バラガンは今まで見たことのない、強固な結界を前にただ笑う。

 

「フ……フハハハハハ! 滑稽! まさに滑稽よな! 『倒せる事が出来ないのならば封じる』! なんと浅はかな考えよ!」

 

「『封じる』? 封じるのは合っていますが、貴方ではありませんネ。 『爆発の原理』を知っていマスか?」

 

「……なんだと?」

 

「爆発などは()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「……まさか────?!」

 

 その時、一つの城門型の結界がわずかに開く。

 

「────そのまさかだ。 くらえ、『雀蜂雷公鞭(じゃくほうらいこうべん)』!」

 

 わずかに開いた城門の向こうから大好きな夜一様から受け継いだ悪戯っ子のような邪悪な笑みを浮かべた砕蜂が今日で()()()の卍解を使用する。

 

 ズン!

 バキバキバキバキバキバキバキ!

 

 重苦しい音が結界内から外へと響き、結界には無数のヒビが現れた。

 

「『三日に一度』の制限がある筈の卍解を、気力で無理やり撃つほどあの男(浦原)を嫌いマスカ……」

 

 ハッチがしみじみと気を失って地面へと落ちる砕蜂を見ながら、浦原に一瞬だけ同情して結界を消す。

 

 「代償は……しっかりと……」

 

 虫の息になりつつある砕蜂が大前田に受け止められても、ハッチへ念を押すような言葉を出す。

 

「(俺以上に嫌われるなんて……同情するぜ。)」

 

 「……………………………………………………………許さん。」

 

 その時ハッチ、大前田、そして襲ってくる脱力感に身を委ねそうな砕蜂でさえも聞こえてきた声に目を見開いた。

 

 許さんぞぉぉぉぉ! 大帝であるこのワシにぃぃぃ! ()()()()であるワシに背いたことを! チリとなって償えぇぇぇぇぇ!

 

 ズゥゥオオオォォォォォォ!

 

 結界が消えたことによって晴れた煙の中から、確かにダメージを負いながらも激怒するバラガン(骸骨)が姿を現すと同時に『死の息吹(レスピラ)』を全方位に広がっていく。

 

「ぬぉあぁぁぁぁ?! 黒い靄がぁぁぁぁぁ?!」

 

「これはマズいデス!」

 

「チッ! ()()()、避けろよ?!」

 

 バラガンから急激に広がる『老い』の靄が広がり、大前田が砕蜂を抱えながら必死に逃げ、砕蜂が知らないフヌケ(ハッチ)を名字で呼ぶ。

 

 このアリ共がぁぁぁぁ! 逃げろ逃げろ逃げろぉぉぉぉぉ! 逃げまどえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

 

 そこに意外な二人がフラフラァ~と物陰から出てくる。

 

「ん────?」

「(アレは────)」

うえええええ────?!」

「いちいち喚くな、騒がしい。 (だが気持ちはわかる。 ()()()()()いるのだ────?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その意外な二人とは、チエと彼女に肩を貸していた雛森だった。

 

「────下がってくれ、桃。」

 

「…………………で、ですが……本当に────?」

 

「────ああ。 ()()()()()のだ。」

 

 どこか不安そうな雛森に、チエが()()()()()言葉をかけて自らの足で雛森から離れ、フラフラのままバラガンへと近づく。

 

「ば、馬鹿野郎! なに近づいてんだ?! ()()()?!」

 

 ()()()()()()()な。」

 

 注意する大前田に、チエが独り言のような小声で別段誰にも向けていない答えをする。

 

「なんじゃ貴様は? もしかして神であるワシに裁かれに来たのか? ……よかろう! その意気や良しぃぃぃぃぃぃ!」

 

 バラガンの『死の息吹(レスピラ)』が全て、チエに集中して襲い掛かる。

 

()()()()()!」

 

 サラサラサラ。

 ギ、ギギギギギ!

 バキ。 バキバキバキバキバキ、バリン。

 ガラガラガラガラガラ!

 

 そして道のアスファルトに書かれた文字、歩道と信号機、止まっていた車、アスファルトの車道などが全て音を出し、みるみると急老化していく。

 

 ジ……ジジジ。

 

 チエの着ていた服も布がほつれていって薄くなってはところどころボロボロになっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがチエは()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 

 そう言ったのは誰だろう?

 

 種が『死神』である誰か?

 それともハッチか?

 見た目が死神であるバラガンか?

 

 それとも()()か?

 

 チエはそのまま空中にいるバラガンへ近づく度に心なしか、足取りが()()()()()していく。

 

 

 ___________

 

 バラガン 視点

 ___________

 

 なんだ。

 何が起きている?

 どういう事なのだこれは?

 

 ワシは……夢でも見ておるのか?

 

()()()()()()()()()()()()()()!』と、そうワシは自分に言い聞かせる。

 

 そうだ。

『老い』とは生死の(ことわり)

 絶対的な概念。

 

 その筈だ。

 

 その通りだ。

 

 だが……

 

 

 

 

『なら目の前の“アレ”はなんだ?』、という小さな声がささやく。

 

 確かにワシの技は当たっている。

 

 現に、近づいてくる小娘の周りの物と奴が着ている服は老化していっている。

 

 ならなぜ()()()()()()

 

 なぜ()()()

 

 なぜ?

 なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ?

 

 小娘が手の届くところまで近づいた時に『それ(異変)』が起きた。

 

 

 

 

 

 

 『死』。

 

 

 

 

 その一文字だけが能を占拠するかのように、全ての思考と五感を冷たく塗り潰していく。

 

 『絶対的な

 

 

 ()られる前に()

 

 

 こ・ろ・せ

 

 

 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ

 

 

 

 

 上記の文字と、恐ろしいまでの寒気がワシの心身ともに広がっていく。

 

 うおおおおおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 気付けばワシは持っていた『滅亡の斧(グラン・カイーダ)』で、渾身の一撃を一心不乱に小娘の頭蓋骨にめがけて振っていた。

 

 小娘は顔の表情を変えずに、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 バァン!

 

滅亡の斧(グラン・カイーダ)』が砕け散る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 ────『恐怖』……だと?

 

 これが『恐怖』だというのか?!

 

 ありえん!

 このワシが、()()()恐怖するなどと!

『老い』を支配するこの、ワシがッッッ!!!!!

 

 ()()()()()()()()()

 

 断じて認めん!

 

 認めんぞ!

 

 小娘ごときがワシをワシをワシをワシをワシをワシワシワシワシワシワワワワワワワワワワワワ────

 

 「────!!!」

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 本能であるかのように、あるいは獣のように、得物を失ったバラガンがチエに襲い掛かる。

 

 ()()の叫びをあげながら。

 

「『バラガン・ルイゼンバーン』。」 

 

 ザクッ。

 

 チエの持っていた刀が、バラガンの胸に突き刺される。

 

「恐怖に陥ってもなお立ち向かうその姿、意気や良し。 ()()()()。」

 

 バラガンの体が刺された場所から塵となり、サラサラと偽・空座町のそよ風に乗って静かに消えていく。

 

「「「………………………………………………………………………………」」」

 

 バラガンと先ほどまで戦っていたハッチ、砕蜂、大前田は言葉を無くしてただ呆然とする。

 

 否。

 

 ハッチだけは必死に湧き上がってくる、()()()()()()に体を震わせていた。

 

「………………………凄い。」

 

 雛森だけは少し違った。

 

 今の彼女が見ていたのは『恐怖』や『畏怖』などの対象ではなく、少なくとも外傷が()()()()チエの姿だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 ()()()()()()()()()()。』

 

 それが、彼女が雛森と吉良に頼んだことだった*1

 

 最初こそ雛森は戸惑っていたものの、吉良の『出来る治療はやっておく』という押しに彼女は折れた。

 

 そして彼女が改造した『曲光(きょっこう)』を使用した上で、周りで行われている戦いやその余波で発見される可能性を警戒したため更に遠回りに移動をしていた。

 

 やっとの思いで、砕蜂たちがいる場所へ着いたと思えば二発目の『雀蜂雷公鞭(じゃくほうらいこうべん)』で二人は吹き飛ばされそうになったが、チエが機転を利かせて刀を地面に刺し、トレッキングポール代わりに使って辛うじてその場に留まることが出来た。

 

 それが二人の今までの行動で、まさに慎重に慎重を重ねたものだった。

 

「「「……………………」」」

 

 辺りの場は沈黙化し、小石一つの音も聞き逃せなかったほどに静かだった。

 

 そんな背景音以外静かになる景色の中、無表情のスタークが音もなくチエの横に現れ、拳銃の引き金を引いていた。

 

「(悪く思うなよ。)」

 

「な────」

「だr────」

「はや────」

 ()()────!」

 

 ガッ!

 ドシュウゥゥゥゥゥゥ!!!

 

「「「「────ッ?!」」」」

 

 チエは拳銃の銃口を片手で握り、撃ち出される虚閃が彼女の手の中で拡散しながら周りの場に小さく歪んだ空間が無数に表れる。

 

 ドッ!

 

「グホォ?!」

 

 そしてもう片方の手で、彼女はスタークの顔を()()()

 

「「「「な、殴っ()~~~~?!」」」」

 

 

『ハイ。 殴りましたが、何か?』というかのように、チエの表情は変わらなかった。

 

 

 ドゴォン!

 ガラガラガラガラガラ!

 

 スタークは近くの建物に吹き飛ばされて衝突した弾みで建物内からガラガラとした音が鳴る。

 

「立て、『コヨーテ・スターク』。 まさかこれで終わらせる気か?」

 

 ガラガラガラガラガラ。

 

 今度は自分に落ちてきた瓦礫を除ける音と共に、スタークが姿を現す。

 

「ったく、言ってくれるじゃねぇの────」

 

「────()()()()()。」

*1
85話より




作者:よし、次話へと行こう。

バラガン:あの、ワシの扱い……雑じゃない?

作者:うおおおお?! 何でここに?

バラガン:そうワシに聞かれても……気付いたらここにおったし。

作者:『ハイドロ、ストォォォォォーム』!

バラガン:なんじゃその水は?! やめぬか貴様?! って溶けるぅぅぅぅぅ?!


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第91話 Monsters Under the Moonlight, Once Again

お待たせしました、次話です!

ほぼオリジナル展開や独自解釈の話です、ご了承くださるとありがたいです(汗

そしてうまく表現できたか不安している自分がいます (汗汗

ですが楽しんで頂けると、嬉しいです! (汗汗汗

10/13/2021 9:34
若干の誤字修正しました。 (汗


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

()()()()()。」

 

「「「「はぇ?」」」」

 

 チエの言ったことに雛森、ハッチ、大前田、砕蜂の四人がらしくない、気の抜けた声を思わず出す。

 

 それはあまりにも、挑発とも呼べない『要求』……いや、『交渉』?

 あるいは『取引』のようだった。

 

「桃。」

 

「……あ、はい?!」

 

()()()()────」

 

「────え?」

 

「ま、ここまでくりゃあ……それ以外にねぇみてぇだ────なッ!」

 

 ドドドウゥゥゥゥゥ!

 

 スタークは観念するかのように溜息交じりに、自分の左目を覆う眼帯へと左手を伸ばして、それを取りながら右手の拳銃を素早く撃つ。

 

 ギギギィィィン!

 

 西洋での『クイックドロウ』らしき動きで放たれた虚閃をチエが刀で弾いている間に、スタークは拳銃を仕舞って彼女の肩を両手で掴み、無理やり出現した歪みの中へと後退させる。

 

「────やはり────」

 

 チエはスタークの顔見て、彼がとった眼帯の下には()()()()()()()のようなモノがあるのを目撃した。

 

「────アンタと空間を通ったことでここ(現世)に着いたなら、逆も然り! アッチ(虚圏)でアンタとの()()をつけさせて貰うぜ!」

 

 ゴォォォォォォ!!

 

 スタークは霊力の塊に包まれながらも、彼とチエが互いを掴みながら『攻撃をしては防御し、カウンターを試みる』という密着状態のゼロ距離接近戦闘が繰り広がれる。

 

 その時虚や破面、もしくは性質の似た者たちの誰もが()()()()()()()()()に、自分たちを()()()()()に引っ張られるのを感じた瞬間だった。

 

 それは空気も同じらしく、まるでぽっかりと真空になった部分を満たそうと、風は暴風になっては流れ出す。

 

 ドガッ! バキッ! ガッガッガッ!

 

 青白い霊圧の炎に包まれたままスタークは拳銃や虚閃を乱れ撃ち、チエは刀とスタークのノーモーション虚閃、そして拳銃を時には掴んで無理やり銃口の向きを変えながら、重力や平衡感覚を無視した『変な空間』の中で二人は互いを攻撃する。

 

 決して相手を放さない、見失わないようにただ戦い、夜空に青白い月が目立つ砂漠の上へと両名は吐き出される。

 

 ゴアアアアァァァァ!!

 

 やっと地面に戻り、二人が間を取るとスタークから霊圧の炎が完全に消えて、中からはさっきまで見ていた『中年男の姿』ではなくなった。

 

 ガンマンっぽい服装なのに変わりなかったが、中性的な顔と体つきと肩より長い緑色の髪を持った『青年』だった。

 

「フゥー……やぁ、待たせたね。」

 

 声もスタークのようなものではなく、見た目通りに中性的なもの。

 

『少年』、あるいは『少女』と思えるようなものだった。

『子供が大人へと変わる間際なもの』といえばしっくりくるだろうか?

 

「それが『お前』か。」

 

「うん? うん、そうだね。」

 

 サラサラサラサラサラサラサラサラ。

 

 チエは横目で風も出てないのに、目の前の青年へと波のように動く砂などを見た。

 

「…………名は何というのだ? (これは、()()()()()()()()? いや……『呼吸』をしているだけか。)」

 

 チエが青年に名を問うと、(彼女)は困ったような顔をする。

 

「名前。 名前かぁ~…………………うーん……………どうなんだろうね? よく覚えていないや。 そもそもあったっけ? …………………あ、そうだ! 『Solitarius(ソレタリアス)』、なんてのはどうかな?」

 

 ニコニコとする青年の言葉に、チエはどこか呆れたような薄い笑みを浮かべる。

 

「『ソレタリアス(孤独)』か……三月のように、酷く安直な名付け方だな。」

 

 三月がこれを聞いていれば、『ほっといてよ! それは私じゃなくておじさんの所為なんだから!』と、プンプン怒りながらツッコんでいただろう。*1

 

「さて、()()()()()()終わらせようか? 残念ながら、()()()()()()()()()()()()()。 ()()()()し、ね?」

 

『息苦しい』。

 

『これはどこかで聞いたような?』と思っている方たちは覚えているだろうか?

 破面たちが初めて空座町に来た時を思い出してほしい。

 

 正確にはその時のヤミーの言葉(セリフ)を。*2

 

 その時、彼が言った事と略化すると『相変わらずここ(現世)はつまんない。 霊子が薄過ぎて息もし辛い。』

 

 そしてその場しのぎの為に、彼は『魂吸(ゴンズイ)』を使って織姫と茶渡が駆け付けたことを。

 

「……そうか。 ()()()場所を変えたのか?」

 

 チエはこの時、雛森初のコンビニショッピングに付き合っていたので知る余地もない筈だが、現世と虚の住む虚圏での『霊圧濃度の違い』は理解したらしい。

 

 

「……うん、君は()()()な! やっぱり()()()()()()()()()()()()()()よ!」

 

「そうか。 ならば、いざ……」

 

 カッ!

 

 チエとソレタリアスが何の前触れもなく、同時に互いへ向けて駆け出す。

 

 二人が認識する『時間』が遅くなっていくような現象に、両名は(おちい)った。

 

 蹴り上げられた砂が遅く舞い上がる中、砂は更に遅く動く。

 

 遅く。 

 もっと遅く。 

 

 ただ遅く。

 

 蹴った地面の小石が、重力によって奇麗な円にそって、高さのピークに達したところで止まる。

 

 そんな時間が止まったような中、()()()()()()()()

 

 二人に纏わりついていた衣類と下の肌はチリチリと摩擦熱に耐え、若干リーチが長いソレタリアスがチエの顔面を殴る。

 

 ガッ!

 

 その動作はまるで『スタークだった頃の仕返しぃぃ!』と言わんばかりに。

 

 チエの顔と体が衝撃のわりに大きく回転していったと思えば、彼女は自分が殴られたことを自身の遠心力の加速装置替わりに使い、ソレタリアスのお腹に回し蹴りを食らわせる。

 

 ドォン!

 

「「(やはり面白い(強い)────!)」」

 

 ズサァァァァァ!

 

「「(────これならば、あるいは────!)」」

 

 二人が互いの攻撃で引き離されそうになるが、二人共は足をしっかりと地面につけて後ずさるのが止まったところで、ソレタリアスが口を大きく開ける。

 

「────ガァァァ!」

 

 だがそれは蹴られたことに対して息を吐き出すことや言葉などではなく、新たな黒い虚閃(黒虚閃)の為だった。

 

 ドウ!

 

 遅く感じる時の中でも素早いそれ(虚閃)は、チエの斬り込み(ガード)で割れていき、ソレタリアスが彼女の斬りかかる攻撃をまるで何かのダンスをしているかのように次々と避ける。

 

 ヒュンヒュヒュン、ヒュン!

 

 ザッ! ザザザッザ!

 

 躱す、躱す、躱す。

 

 その姿は今までの『スターク』としてや、見てきたどの破面とも違った戦闘スタイル。

 

 それはまるで、西洋の『ワルツ』……

 

 否。

 

 ラテン系の『ジャイブ』というものを、夜空の砂漠の下で躍っているかだった。

 

 命を懸けた『死のダンス』ではあったが、観客がいたとすればそのやり取りは幻想的に見えていただろう。

 

 長い斬りかかりと、それを躱すやり取りが続いた。

 

 ヒュン!

 

 ズサァ!

 

 最後の突きで、ソレタリアスが砂の上を膝が地面の砂につきながら、回転のついたスライドをする。

 

 ヒュヒュヒュヒュン!

 

 ギギギギィン!

 

 その中でソレタリアスはどこから取り出したのか、短剣のようなものを数個チエの胴体を狙っては投げて、チエは一太刀でそのほぼ全てを斬り落としている間にソレタリアスが『ムクリ』とスムーズなモーションで立ち上がる。

 

 ソレタリアスの戦い方ははもう、『ウェスタンガンマン』というよりは『どこかの舞踊(ぶよう)を取り組んだ戦闘技術』だった。

 

 チエの下から上の二連斬りをソレタリアスは横へ躱しながらさっきの短剣を今度は体の回転で遠心力の加速もつけて、ほぼゼロ距離射程でそれらを一斉に投げた。

 

 ビュン!

 

 ギギギン、ザクザクッ!

 

 鋭い刃物が宙を切る音と、肉にそれが減り込む音が出る。

 

「ッ。 (何個か、払い落し損ねたか。)」

 

「(フフ、戸惑っているね君。 何も()は『虚閃だけ』を専門にしているワケじゃないよ────)────?!」

 

 ビュン!

 

 サッ!

 

 ソレタリアスはチエのやったことに目を若干見開いて、首をかしげて『ソレ』を躱す。

 

 チエが刀を(彼女)の顔面に目掛けて()()()()のだ。

 

「(────()()()()()()()()()()だと?!)」

 

 グサッ!

 

「ウ?!」

 

 次に投げられた刀が後方で砂漠に埋まったと音がすると思えば、ソレタリアスをチエが襲い掛かって刺した。

 

 

 チエは自らの体に刺さっていたソレタリアスの短剣を引き抜いて、それらを両手に持ちながら。

 

 

 ザクザクザクザクザクザクッ!

 

 (ふところ)まで一気に攻めよったチエも戦法を急に変えたことに驚愕していたソレタリアスを、彼女が両手の刃物を互いに素早く使って(彼女)を何度も刺す。

 

 グッ。

 

「ッ。」

 

 急に刺した短剣が引き抜けなかったことにチエが一瞬戸惑い、ソレタリアスが新たな剣を手にして彼女を攻撃する。

 

 ギンギィン、ギギィン!

 

 いまだに無表情なチエが持っていた短剣で剣を受け流し、彼女とは対照的に笑みを浮かべるソレタリアスは己の胸に突き刺さった刃物を無視したような攻撃を続ける。

 

 ザク!

 

 グッ。

 

 今度は抜けない刃物にチエは戸惑うことなく距離を取り、ソレタリアスは笑いながら突き刺さったダガーたちを体に押し込んでそれらが()()()()

 

「フ、フフフフフフ。」

 

「(やはり奴の『体の一部』か。 だがダメージが残っているということは……『変質させた霊圧』と言ったところか。)」

 

「(いい、凄く良いよ。 これほど僕とやりあう相手は()()()だ。)」

 

 ザッ!

 

 チエの後ずさるルート中に、彼女の地面に突き刺さった刀が通りかかった持ち主の手の中へと戻り、ソレタリアスは腰にあった拳銃で虚閃を撃つ。

 

 ドォウゥゥゥゥ!

 

 ヒュッ!

 

 チエがこれを躱すと、彼女の移動した先に投擲された短剣たちが彼女を待ち受けていた。

 

 ギギィン、ザク!

 

 一つが彼女に突き刺さり、彼女はそれを抜き取ってから拳銃をホルスターに戻すソレタリアスに斬りかかる。

 

 右手に刀を、左手に(彼女)の短剣を。

 

 またも二人が何かの舞踊をしているかのような『死の踊り』を再開する。

 

 チエの刀と短剣の二刀流に、ソレタリアスは左手の剣で受け流しながら右手の拳銃で牽制する。

 

 ヒュッ! ヒュッヒュッヒュッ、ギィン! ドウゥ! バチィ!

 

 ドッ。 ドッドッドッ!

 

 ミシミシ。 ミシッミシッミシミシミシ。

 

 その余波が二人は今でも無視し続ける虚夜宮(ラス・ノーチェス)の外壁へと飛ぶ度に、亀裂が走る。

 

「(『六輪(ろくりん)』。)」

 

 チエは上から刀でソレタリアスを串刺しにするかのように地面とは直角に振るって、(彼女)はこれを異様なステップで後ずさることで避ける。

 

 ヒュン、ザク! ヒュン、ザク! ヒュン、ザク!

 

「ッ。」

 

 だがチエの猛攻はそこで止まらず、彼女は地面に突き刺す刀を()替わりに短剣と両足でコマのように空中で回転しながら、ソレタリアスを短剣、刀、そして両足からの蹴りで攻める。

 

『武器を使った全身武装カポエラ』のような技術をチエが使ったことで『死のダンス』は過激さを増した。

 

 ヒュヒュン!

 キィン!

 

 ソレタリアスが新たな短剣を投げ、チエも左手に持っていた『短剣を返す』と言わんばかりに投擲して、それらがぶつかり合う。

 

 ガシッ。

 ビュン!

 

 このぶつかり合って回転する短剣を、ソレタリアスが両手につかみ取りチエへ急接近して、近接戦闘が二人の間でまたも繰り広がれる。

 

 ガキン!

 

「(刀の動きが?)」

 

 カァン!

 

 火花が飛ぶその中で、初めて聞くような音が周りへと響く。

 

「(なるほど、この為に接近戦を自分から挑んだのか。)」

 

 ソレタリアスがいつの間にか刀身にぽっかりと空いた短剣で刀を引っ掛けて、彼女の手からそれを無理やり引き離したのだ。

 

 今のチエは素手で、己の刀は宙で戦う二人の間を舞っていた。

 対してソレタリアスは手に刃物と、短剣を消した手で腰から拳銃を抜く。

 

 普通ならチエの、圧倒的に不利な状況なのだが────

 

「(『刀剣乱舞(とうけんらんぶ)』。)」

 

 ガガガガ!

 

「(君は本当に面白い(強い)よ!)」

 

 ────チエは臆することなく己の刀の峰を拳で殴り、その拍子でさらに回転速度が上がった上に飛ぶ方向を変えた刀はソレタリアスを襲う。

 

 (彼女)がこれを短剣で払い除けようとするが、チエは自分へ飛んでくる刀の柄を手に取らず、さらに蹴りを峰の部分に入れる。

 

 車のタイヤや飛行機のタービン以上に回る刀は二人の間で、ある種の『壁』となった。

 

 一本だけの刀、だが。

 

 ギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!

 

 ドドドドドドドドドウ!

 

 チエは手足を使い、ソレタリアスは拳銃からの『虚弾(バラ)』と短剣を器用に使う。

 

虚弾(バラ)』は今まで使っていたどの虚閃よりも低威力で致命傷どころか、大した戦果は望めないが……

 

 今の状況下では『威力』より『速度』を(彼女)は重視した。

 

 ガッ、ジュン!

 

 そこでチエは摩擦熱で周りの空気が歪むほど熱くなっていた刀を手に取るとともに、皮膚が焼ける音が刀の振るわれる音をかき消す。

 

 この大きい一太刀の一瞬を好機とソレタリアスが取って、チエの背後に全力の『響転(ソニード)』で回る。

 

「(取った。)」

 

 ソレタリアスに拳銃に最大出力の『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』の光が集まると同時に、(彼女)は奇妙な物を目にした。

 

 ザシュ!

 

「ガッ?!」

 

 ソレタリアスの喉を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(こいつ……自分の体を『死角』として使った?!)」

 

 ブ、ザァァァァァ!

 

 ソレタリアスは持っていた剣を落として出血する顔の下の喉を抑えるが、刀は完全に喉を貫いていた為に背後の傷口から血が噴き出す。

 

 ザン!

 

「ゴホッ! ……今までの戦いで、貴様が背後から攻撃する『()()』があるのは分かっていた。」

 

 チエは刀を体から抜き取っては振り返り様にソレタリアスに深い傷を負わせ、彼女も自分の気管に入ってきた血を吐き出しながら短く、上記を口にする。

 

 二人が虚圏に来て、戦いを行ってからチエは初めて言葉をかける。

 

 いや、今までも声を出していたが『言語』ではなかった。

 

 それに、『深い傷』というのは過少化しているだろう。

 

 ソレタリアスは腹部と胸部の中間あたりから、上半身と下半身に別れていった。

 

 

「(この一瞬を………………僕が『狩りのクセ』を出すこの瞬間を狙う為に……今までの戦い方をして、僕の意識を逸らし続けていたってワケか…………………)」

 

 ドウ!

 

 ドガァ!

 

 ソレタリアスがあおむけに倒れた拍子で、(彼女)の不完全な『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』が握っていた拳銃から放出され、虚夜宮の外壁に当たる。

 

「ゴホッ……………ゴボッ!」

 

 ソレタリアスからは自らの血で溺れるような音が出る。

 

 そんな(彼女)にチエは刀を鞘に納めてから寄り添い、頭部を優しく上げる。

 

「ガハァ! ………………どういう……つもりだ?」

 

 喉に残った血を吐き出したソレタリアスはガラガラの声で、ヒューヒューとした息遣いの間に、自分の吐き出した血が付いたチエに問いを投げる。

 

「せめてここまで戦ってくれたお前が苦しむことなく、()()()()のを見届けるだけだ。」

 

 ビキ! ガラガラガラガラガラガラ!

 

 虚夜宮の外壁がついに大きなヒビを入れて、一部が崩れ落ちていく。

 

「……………………もし。」

 

「ん?」

 

「もし僕が藍染より……君と先に出会っていたのなら……()()()()になっていたかもな。」

 

「恐らくは最後にはこうして、殺しあっていただろう。」

 

「ガフッ! ……そうだね。 今でも襲い掛かりたいぐらいの()()()()ぶりだよ……………………」

 

「いいや。 お前はまごうこと無き『()()』だ、誇れ。」

 

 チエの無表情のおかげで皮肉か本音かわからない言葉に、ソレタリアスは半笑いを浮かべ、目が虚ろになっていく。

 

「………………………そろそろ…………………………………………時間だ。」

 

「そうか。 ならばその胸の高鳴りと共に、『先』へと逝け『ソレタリアス』とやら。」

 

 ソレタリアスはゆっくりと瞼を閉じ、チリへと化した部位が虚圏の大気に乗ってサラサラと消えていく。

 

「……………………」

 

 チエは何かを思ったのか、口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カッ!

 

 ドウゥゥゥゥン!

 

 そこへ紫色の虚閃が突然、上空から直撃した。

 

 !!!」

 

 大きな咆哮が虚圏の大気をさらに震えさせて。

*1
作者の別作品、『天の刃待たれよ』より

*2
55話より




作者:はい、という訳でオリジナルの『ソレタリアスくんちゃん』でした! あとチエ、オリジナルの技が更に披露されました。

ソレタリアス:へぇー。 ところでここは拍手するところなのかい?

作者:Oh...なんで君もここに?

ソレタリアス:さぁ? ………………ところで、僕は男性なのかい? それとも女性?

作者:…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ゴソウゾウニオマカセシマス。

ソレタリアス:それと、最後のこれは誰だい?

作者:時空的に84話の直後です。

ソレタリアス:『はちじゅうよんわ』?


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第92話 Monsters, Beasts, Humans Under Moonlight Sonata

お待たせしました、次話です!

楽しんで頂ければ幸いです!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 

 ここで時間を少しだけ巻き戻そうと思う。

 

 それは丁度、虚夜宮の天蓋の屋上で織姫が助けを求めた時。*1

 

 !!!」

 

『黒崎一護』だったモノが、この世とも思えない咆哮を虚圏の月に向かって出し、ウルキオラは即座に『黒虚閃(セロ・オスキュラス)』を撃ちだす。

 

 ズン!

 

 すると対抗するかのように『黒崎一護』が紫色の虚閃を出して、それが『黒虚閃(セロ・オスキュラス)』を呑み込んでその勢いのままウルキオラを襲う。

 

 ドゴォ!

 

 爆風の中から体中にケガを負ったウルキオラが飛び出てくる。

 

「バカな、今のは紛れもない『虚閃』。 いくら似せたところで────」

 

 ヒュッ!

 

 ウルキオラは背後へと回った『黒崎一護』に振り返ろうとして────

 

 ガシッ。

 ブッツン。

 

「────あり、えん!」

 

 ────腕を『黒崎一護』に力ずくでもぎ取られた。

 

「────。 ────。」

 

「……………あれが、黒崎……………くん?」

 

マスター(井上)、決して私のそばから離れないように。

 

「え? (あれ? 今、何か聞こえたような…どこから?)」

 

 その場にいた織姫、雨竜、ウルキオラ、そしてクルミらしい青年女性が空中で立っていた『黒崎一護』を見上げる。

 

 ウルキオラに抉られた胸からは仮面紋が伸びていて、手足はウルキオラのように細長く、獣を思わせ、肌も雪のように真っ白、そして髪の毛が腰まで長く伸びていた。

 

 虚の仮面もしていたのは言うまでもないが、今まで見た仮面のデザインではない上に、角も二つ生えていた。

 

 ズズズズズズ!

 

 ウルキオラが失った腕がみるみると生え直す。

 

 巨大虚などでよく見る特徴の『超速再生』である。

 ただし、『破面』になると引き換えに大半の者たちはこの機能を完全に失う。

 

 現に今の藍染の下にいる破面の中でもウルキオラ()()がこの特徴を残し、『脳と臓器以外なら再生できる』といった『本来の超速再生の下位版』。

 

 ズアァァァ!

 

 ウルキオラの両手の間に、黄色い槍のようなものが作成される。

 

「『雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)』。 出来ればこれは使いたく────」

 

「────■■■■■!」

 

 バシュゥゥゥ!

 ザン!

 

 矢を投擲する構えにウルキオラが入り、『黒崎一護』が一瞬で眼前に近づいて矢じりを握りつぶしながら、一太刀を入れる。

 

「今……のは………響転(ソニード)……」

 

 今まで有効な攻撃が入らなかったウルキオラの外皮(鋼皮)を、まるで熱を帯びたナイフがバターをスライスするようにスーッと通る。

 

 深手を負ったウルキオラはそのまま下へと落ちて天蓋の屋上に衝突した後、身動き一つしなかった。

 

「た、倒した? ……あいつ(ウルキオラ)を?」

 

 ドン。

 キィィィィィィィィィ!!!

 

 ウルキオラの顔を踏みながら、特大の虚閃の霊圧が『黒崎一護』の角の間に溜め込まれる。

 

「────。 ────。」

 

「(まただ……これは……黒崎君?)」

 

「なるほど、『容赦なし』か。 なんとも()()()()な。」

 

 織姫が困惑する間、ウルキオラは納得したようなことを口にする。

 

 ドッッッッ!!!

 

『黒崎一護』の巨大な虚閃はそのまま虚夜宮の天蓋を突き破り、中でいまだに戦っていた者たちや負傷者の治療をしていた四番隊、『破面落ち』、強いては観戦に飽きてザエルアポロの研究所を漁っていたマユリたちでさえも(一瞬だけとはいえ)注目の的となった。

 

 巻き起こった土煙の中、左腕と下半身すべてを失ったウルキオラが織姫たちの近くをゴロゴロと転び飛んでくる。

 

「すごい……圧倒的じゃないか────ってやめろ黒崎君! 彼はもう戦えない!」

 

 雨竜が思わず見とれていた中、『黒崎一護』は『斬月』で上記の状態のウルキオラの顔面へと突き出す。

 

 そのあまりにも無慈悲な行動に出たことに、あの常時冷静沈着である雨竜が慌てて制止の声を出すほど。

 

 ドッ。

 

 その瞬間『黒崎一護』の動きは止まり、織姫たちの背中に氷が落とされたような冷たい感覚が体の中から湧き出る。

 

「な……んだ、これは?」

「(これは……なんです?)」

「な、なに? なにこれ?」

 

 嫌な汗が噴き出すクルミらしい青年女性と雨竜、そして体が震え始める織姫。

 

 いや。 

 震えているのは震えていたが、()()()()()()()()()

 かすかな地鳴りが響きながら、虚夜宮が。

 

「────。 ────。」

 

 キィィィィィィィィィィン!

 ドウ!!!

 

『黒崎一護』は間髪入れずに、特大の虚閃をとある方向へ撃ち出してから咆哮をまた出す。

 

 !!!」

 

 そして彼はその場から消えた。

 

 向かったのは地鳴りがしていた方向、先ほどの虚閃を撃った場所。

 

「「「……え?」」」

 

「おい、お前たち────」

 

「────うおおぉぉぉぉぉぉぉ?!」

「────うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

「────あっちゃばがぁぁぁ?!」

 

 雨竜たちはポカンとしていたが、『死体状態のフリ』をしていたウルキオラの声にびっくりする。

 

「何を呆けている? 追うぞ。」

 

「お、『追う』って────」

 

「────奴の向かった先には()()()()()。 その様子で『それを感じない』とは言わせんぞ。」

 

「ああ、何かあるな。」

 

 足が生え戻ったカリンが近くに来てウルキオラを担ぐ。

 

「うし、行くぞお前ら。」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 織姫たちは瀕死のウルキオラと一緒に『そこ』へと到着した。

 

 キィン!

 

 火花が散る。

 

 ガガガガ!

 ズサァァァァァ。

 

 砂で出来た地面が揺れて、死神や破面に滅却師よりも素早い跳躍を、二つの影が交差しながら衝突していた。

 

「────。 ────。」

「ハァァァァ!」

 

 先ほどウルキオラを一方的に蹂躙していた『黒崎一護』が、ボロボロの服を着たチエと交戦していた。

 

 だが二人は織姫たちがその場に居合わせたことに気付いた様子はなく、ただ互いを攻撃する。

 

「…………………あの女、ただモノではないな。」

 

「「え?」」

 

 ウルキオラの言ったことに雨竜と織姫が彼を見て、視線をチエへと辿る。

 

 その間、かすかな声を織姫は拾う。

 

 ま モる。 おレが タ すける。」

 

 それを小さな声で、マントラかのように『黒崎一護』が先ほどからずっと言っていることに、織姫が今更ながらに気付いた。

 

「ぁ……(私の……所為なの? 私が『助けて』なんて言ったから……頼っちゃったから……)」

 

 グサァ!

 

「クッ!」

 

 チエのお腹に『黒崎一護』の斬魄刀が突き刺さる。

 

 グッ!

 

 チエが自分に突き刺さった『斬月』を手で掴んだ。

 

「ッ?!」

 

 キィィィィィィィィィィ!

 

『黒崎一護』は抜けなくなった『斬月』に対し、角の間に霊圧が集まる。

 

「またあの虚閃だ!」

「ッ! く、黒崎君待って!」

「カリン!」

「オウよ!」

 

 ガシッ!

 

()()()()。」

 

「「「「「?!」」」」」

 

()()()()()()()。 今、解き放つ。 ヌンッ!!!」

 

 チエがなんと霊圧を集めていた角を両手で直に掴んで、(りき)むような顔と声を出す。

 

 ガァァァァァァ!」

 「オォォォォォォォ!!!」

 

 バキン!

 

 ボォン!!!

 

 何かが割れる音の直後に、『黒崎一護』が溜め込んでいた虚閃の暴発に戦っていた二人が包まれる。

 

「「黒崎!/君!」」

 

 織姫たちの方向に吹き飛ばされた『黒崎一護』は頭から仮面が完全に取れていて、気を失いながらクルミらしい青年女性が受け止める。

 

意外と重いですね。

 

 ボン!

 

 ギュゴォォォォォォ!!!

 

 一護の体が真っ白な『虚っぽいモノ』から『人間の肌色』へと戻り、胸の(あな)や体のケガが急速に塞がっていく。

 

「『超速再生』……か。」

 

 ガバァ!

 

 ウルキオラの言葉に反応したかのように、混乱した一護が起き上がって自分の体を見下ろす。

 

「ぬぉ?! お、俺……胸を抉られたハズ……生きている? なんで? え?」

 

「黒崎君!」

 

「い、いの────?」

 

 ポヨン。

 

「────ぶえ?!」

 

 織姫は一護の頭をギュ~っと力いっぱいに抱く。

 

 ギュウゥゥゥゥゥ。

 

 これによって泣き始める彼女の胸部が彼の顔半分を覆い、一護は変な声を出した。

 

「ふ、ふぇ~~~~~~~~~~ん!」

 

「ようやく目が覚めたんだね、黒崎。」

 

 一護が呆れたような目をした雨竜を見る。

 

 片腕が無くなった雨竜を。

 

「石田?! お前、その腕────?!」

 

「────鎮痛剤と止血剤はもう打ってあるから死にはしないさ。 あとは井上さんに治して貰えば元通りだ。」

 

うわぁ~~~~~~~~ん!」

 

「そ、そうか……って井上! いい加減に俺を放せ!」

 

 気まずい一護は赤くなりながらも抗議を上げる。

 

 まさかそのまま織姫を押し退けることを彼がするわけにもいかないので。

 

 いやだぁ~~~~~!」

 

「ようやくか。 今も昔も世話が焼けるな一護は。」

 

 収まり始める土煙の中から、チエの声と()()()()とした足音がしてくる。

 

「お、おおう。 チエ────かっ?!

 

「ん? どうしたんだいくろ────ろぉぉぉぉ?!

 

 一護の素っ頓狂になった声と真っ赤になった顔の視線を雨竜がたどると、彼も同じように真っ赤になりながら変な声を出して固まる。

 

「ひぐ……えぐ……どうしたの二人────へ?

 

 ついに織姫も見ては、彼女も目が点となって固まる。

 

「井上、そこまでに…………………ん? 固まってどうした、皆?」

 

 ここで爆発によって巻き上がった砂煙が晴れ始め、チエの全裸らしい影が露わになり始めたことが判明した。

 

 これはもちろん今までの戦いや、バラガンの『死の息吹(レスピラ)』などで彼女の服装が無事なワケがなく、さっきの虚閃の暴発でついに吹き飛んだだけのこと。

 

 なお余談(かも)だがチエのBホルダーとサラシにパンツも例外なく吹き飛んでいたので文字通り、全裸だった(『黒崎一護』や『ソレスタリアス』や自ら付けられた傷からの流れ出る血以外)。

 

「???? 私の顔に、何かついているのか?」

 

「人間は妙だな。 別に()()()()()()()()()などでいちいち動揺────」

 

 「「「────するわボケェェェェェェ!!!」」」

 

「ぬ?」

 

 耳まで真っ赤になったカリン、雨竜、一護がウルキオラにツッコむ。

 

 「「「────ぅぅぅぅぅ!!!」」」

 

「むぐ。」

 

 上記と同じく真っ赤になった織姫とクルミがそれぞれの余った(脱いでも構わない?)服を脱いで、チエに無理やりそれらを素早く着させた。

 

「えっと、治療してから私のブラウスにスカート……は恥ずかしいから────」

 

「────くるm────()()シャツとパンツならば────」

 

「────斬魄刀を取れ、黒崎一護。」

 

「「「「ッ?!」」」」

 

 ウルキオラはみるみると一護たちの前で、なくした腕と下半身を生え戻して自らの足で立ち上がる。

 

「お前……でも────」

 

「────決着はまだついていない。 それに『見た目が(もろ)い』などとほざくな。 ()()()()()。」

 

 ウルキオラの新しく生えた部位は確かに細く、今にでも折れそうな枯れた木の枝みたいに貧相なものだった。

 

「戦ってやれ、一護。」

 

「チ────ッ。」

 

 一護がチエのほうを見ると彼女からすぐに目を離す。

 

 空座高校の茶色いブラウス、白のワイシャツ、そして黒の下着(セクシーレースパンツ)をしたチエから。

 

「……アンタ(ウルキオラ)の左腕と下半身をやったのは、俺か?」

 

「知ったことか。」

 

 一護は黙り、左腕はだらりと下したまま『斬月』を()()()()()()()()

 

「貴様、どういうことだ?」

 

「対等じゃねえ奴に、俺が全力を出すワケにもいかねぇだろ。 今でもフェアじゃねえけどよ、『左足と腕を斬り落とせ』なんていったら後で何を言われるか分かんねぇからやめているだけだ。」

 

 一護が一瞬チラッと未だに織姫と急成長したクルミ(?)、そしてカリンまでもがどうやってチエの服を整えるか苦戦していたのを横目で見る。

 

 一護の目線先を察した雨竜が、ため息交じりに頭を掻く。

 

「本当に面倒くさいな、黒崎君は。」

 

「ほっとけ石田、お前ほどじゃねぇし。」

 

 何か言いたげな雨竜だったが、ぐっと彼は我慢した。

 

「……なるほど。 ではいくぞ、『黒崎一護』。」

 

「来い、『ウルキオラ・シファー』。」

 

 ピリピリとした緊張感が一気にその場を支配して、織姫たちもがジッと固まって、息を潜めた。

 

 ゴッ!

 

「「…………………………………………………………………」」

 

『一瞬』。

 

 文字通りに『一瞬の出来事』だった。

 

 ウルキオラは『響転(ソニード)』を使い、一気に自分と一護の距離を縮めては細めの『雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)』を手に構えながら手を上げた。

 

 これに一護は『斬月』を、殆ど直感で前へと突き出す。

 

 ウルキオラと一護の得物が互いに掠っては相手に抉り込む。

 

「グォォ!」

「ヌグゥゥ!」

 

『斬月』はウルキオラの胸に。

雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)』は一護の()()

 

「…………クソ。 腕が……」

「ウルキオラ……やっぱり、テメェ……」

 

 ウルキオラの名誉惜しそうな独り言に一護が確信する。

 

『ウルキオラはもうじき底をつく生命力や気力を使ってまで、体を再生して自分に挑んだ』ことに。

 

 腕は『()()()()()()()()』のではなく、『()()()()()()()()()()』。

 

 そこまでの力でさえも失っていたのだ。

 

「分からねぇ……分からねぇよ! なんでだ、ウルキオラ?!」

 

 一護は、サラサラと体から砂のようなものが落ちていくウルキオラに叫ぶ。

 

「貴様の知ったことか……敢えて言うのならば、()()()だったからだ……クソ。」

 

『“心”というものが知りたかっただけ』と、()()()()感じていたウルキオラは言えなかった。

 

「それって……………もしかして『悔しさ』じゃない?」

 

 織姫の言葉に、ウルキオラは目を見開いて彼女を見る。

 

「……………………なんだと? どういうことだ、女?」

 

「だって……あなたはそんな体になってまで、自分の『不愉快さ』の為だけに命を使ってまで、黒崎君に挑んだから………………」

 

 ウルキオラは自分の手を興味津々にマジマジと見ながら、それを自分のぽっかりと空いた(あな)の上に置く。

 

「………………なるほど、『悔しい』………か。 そうか、これが────」

 

 サァァァァァ。

 

 ついにウルキオラの残った身体がチリになって、虚圏の風に乗りながら散った。

 

「「「「「………………………………」」」」」

 

 そこにいた誰もが言葉をなくし、沈黙が支配する。

 

「……◆◆◆◆◆。」

 

 いや。

 チエだけは何かを言ったらしいが、そこにいた誰もが聞き慣れない、または聞こえない言語のような不思議なモノだった。

 

 『私! ふっかーつ!』

 

 そしてそのしんみりとした空気は遠くから聞こえた元気かつ陽気な声でぶち壊された。

 

 ………

 ……

 …

 

 上記から少し時間は遡り、戦闘の観戦に飽きてきたマユリたちは、ザエルアポロの研究所から戦利品(無断拝借)(決め)私物化マーキングをする動きを止めた。

 

「ン?」

 

「どうかしたのですかマユちゃん?」

 

 ガッシャガッシャガッシャガッシャガッシャガッシャガッシャ。

 

 後ろではマユリが指定(マーキング)した物を外へと運び出すネム。

 

 ちなみに『涅印ステッカー』で指定されていないモノはマユリがまだ移動していなところだけだった。

 

「いやネ、少々()()()()を見つけてネ?」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ。

 

 マユリが『ソレ』を押し込むと隠し扉が本棚の後ろから現れる。

 

「ほほぉ、『隠し研究所』の中でさらに『隠し通路』ですか。 いよいよバイオハザー〇ですねぇー。」

 

「なんだね、それハ?」

 

「『スイートホー〇』をベースにしたプレス〇ゲーム。」

 

「………………私が言うのもなんだが、リックンはたまにワケの分からないことを口にするネ────」

 

 「「────だがそれがいい!」」

 

 同時に同じことを言った二人は実に良い(二チャッとした)笑顔を互いへ向けてから、開いた通路の中へと入る。

 

「「ほう。」」

 

 二人がたどり着いたのはまるで脈を打っているかのような、()()()()()()部屋だった。

 

 部屋の中心には、青く光る『光の(かたまり)』がフワフワと浮いていて、その光で揺らめく影がさらに景色の不気味さを増加していた。

 

 常人ならばその部屋を不気味がっていたかも知れないが、リカとマユリはただ目を光らせていた。

 

「「ほうほうほう。」」

 

 新しいおもちゃ屋に入店した子供の表情そのものだった。

 

「例えると、『心臓部の中』かネ?」

 

「うーん……もしくは『エンジン』……とか?」

 

「どちらにせよ、持ち帰るものだネ♪」

 

「ですよねー。 こっちに配線ありまーす。」

 

「よし、()レ。」

 

「あいさー。」

 

 リカは長い袖をぶんぶんとマユリに振るうと、マユリが『首を斬れ!』ジェスチャーをして、リカは形だけの敬礼をしてから無理やり杖を使って配線を引き抜く。

 

 次第に部屋の壁が脈を打つのが遅くなっていき、光の塊はその場から飛来して天井をすり抜ける。

 

「「ア?!」」

 

 マユリとリカがイタズラを目撃された子供のような、『落胆』と『驚愕』が混ざったような顔をする。

 

「…………飛んだね。」

 

「うーん、やはりこの部屋をそのままにして解析すればよかったかもしれン。」

 

「……戻ろっかマユちゃん?」

 

「そうだね、『黒腔(ガルガンタ)』もあるしネ。」

 

 

 

 上記の(かたまり)は地中の中をものすごいスピードで移動して、地面に横たわる人物の中へと()()()()()()()

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ぶはぁ?! ウェッホエホ、ゴホォォォォォォ!! スーハー、スーハー、スーハー……

 

 ハイライトの消えかかった目に生気が戻り、呼吸が止まっていた肺の中の淀んだ空気に入れ替えるように息を吐いては吸う。

 

 ムクリとその人物は起き上がり、ぺたぺたと自分の顔や頭、体を確認するかのようにくまなく触った後に、ガッツポーズを取りながら叫ぶ。

 

 「私! ふっかーつ!」

 

『三月』、復活である。

*1
84話より




作者:次話書いてきます。

リカ:少し早いペースですね?

作者:頑張っているけど不安だから勢いで。

リカ:なるほど、わかりませんね。

作者:お前が聞いたんやろが?!


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第93話 『三月』、復活

お待たせしました、次話です。

楽しんで頂ければ幸いです。


 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 FOOOOOOOOO(ふぉぉぉぉぉぉぉぉ)

 

『生きてる』って素晴らスィィィ!

 空気がネクタルのように甘く感じるゥゥゥゥゥ!

 

 まさに、『最高にハイ!』って奴よぉぉぉぉぉ!

 

「ウッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 

 グリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリ。

 

「あイダダダダダダダ。」

 

 うん。

 何も『こめかみグリグリ』まで再現しなくても良かったわね、今のは。

 

 でも本気(マジ)でやばかったよ。

 

『本当に()()』かと思った。

 

『今のは何だったんだろう?』と思いながらも、そのとき目の前を一枚の紅葉(もみじ)っぽい葉がヒラヒラと宙を舞ってはサラサラと消えていく。

 

「………………………そっか。 ありがと。」

 

 思わぬところで手助けされちゃったな…………………

 

 私は小さな感謝の言葉を、相手が返事は出来ないと理解しながらも捧げた。

 

 ……さてさて!

 

 しんみりしちゃったら()()にドヤされそうだから気持ちを入れ替えるとしよう!

 一応『最悪の状況』を想定して、布石などは打っておいたけど……

 

 どうかな?

 

『もっしもしー、わt────』

 

 私が念話を(今度は織姫を除いて)皆に送ると同時に、様々な情報(報告)が脳の中へと自動(オート)で入ってくる。

 

 幽体離脱に有するその時間、わずか0.3秒!

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………うん、ごめんなさい。

 

 ちょっと訳の分からないことを言ったよ、トホホのホ。

 

 いやだって訳が分からないわよ?!

 

 他の『十刃落ち』とかは予想範囲内だけど、『チエがボロボロ』で、『一護がウルキオラとタイマンした』ってどういうことよ?!

 

 Explain please(説明プリ-ズ)、誰か?!

 

 うおおおぉぉぉぉ……

 

『井上織姫の能力は素晴らしい宣言』と『“黒腔(ガルガンタ)”封鎖』は予想通りだから良いわ。

 

『霊圧変動』とさっきまでの『生命としての活動停止』は予想外。

『ヤミーとウルキオラが塔の外で、剣八と一護を迎え撃つ』のも予想外。

『ウルキオラが心に興味を早い段階で持った』?

『チエが“()()()スターク”とやり(殺し)あった?』

 

 しかも『彼女(チエ)の動機がヒナモちゃん(雛森)由来』?

 

 そしてその『ヒナモちゃん(雛森)がチエとスタークの闘争に巻き込まれて一時は行方をくらましたけだチーちゃんだけはほぼ時間差無しで虚圏に帰ってきた』ですって?

 

 カリンも『ルーン魔術』を披露するし、クルミはアネット(ライダー)とさらに同調するし(というか後者に至っては織姫ちゃんと『パス』を繋いじゃったからか『令呪』らしき物も発動しちゃうし)一護も一度殺されかけて『完全暴走の虚化』しちゃうしで────

 

「────どういうこっちゃやねん。」

 

 ぐおおおぉぉぉ……

 

 み、右腕が疼k────

 

「────じゃなくて頭痛がするぅぅぅぅぅぅ……誰か助けてただいま頭抱えて理解不能中ぅぅぅぅ。

 

 

 上記のように三月は錯乱(?)しながら意味不明なことを口に出すも、悶々と数人分の思考を張り巡らせて『最善』を探す。

 

 検索(探す)検索(探す)検索(探す)

 

【『真・空座町に進行する藍染』の為にまずは『原作組』と合流を推薦。】

 

「…………………よし、まずは一護たちと合流しよう。」

 

 上記の得た『最善』を胸に、三月はホバーモード飛廉脚(ひれんきゃく)でMS-09〇ム気分を味わいながら一護たちのいる場所に移動し、半壊した虚夜宮の外壁を通って出た。

 

 そして合流後、彼女の開口一番の言葉は以下の通りとなる。

 

 アンタやってんのよぉぉぉ?!」

 

 ツギハギの借りた服装の上に生傷が絶えないチエに絶叫した。

 

「服を着せられながら治療されている。」

 

「見りゃわかるわよ?! 私が言いたいのは────ってああぁぁぁぁぁぁもうぅぅぅぅぅ!

 

 バシィ!

 

「来て早々うるせぇぞ三月!」

 

 そして耳にキンキンとくる声に一護がイラついて、三月の頭を叩く。

 

 「痛い! 今、星が散ったよバカ一護?!」

 

 「今はそれどころじゃねぇんだよ!」

 

 アンタに言われたかないわよ?!

 

 ギャーギャーと騒ぐ一護と三月を見て、彼らの周りの知人たちが全員(チエを抜いて)キョトンとしていた。

 

「(朽木さんだけじゃないんだ、黒崎君がああなるのは。)」

「(仲が良いんだな、ミーちゃんと一護は。)」

「(喧嘩するほど仲が良いっていうけど……敵地なのをすっかり忘れていないか?)」

 

 カリンとクルミ(?)も例外ではなく、互いに小声で話していた。

 

「なんだかワカメ(慎二)を思い出すな。」

「不満ながらもそうですね。」

「で? ()()姿()ってことは、今は『クルミ』じゃなくて『アネット』なんだろ? ……やっぱり胸デカの嬢ちゃん(織姫)の所為か?」

「………………おそらくは。」

 

 ドゴォォォォン!

 

 大きな地鳴りと、巨体になったヤミーが天蓋内で現れたことでその場の空気はまた緊張感が広がる。

 

「って、こんなやり取りをしている場合じゃないわね。」

 

「さっきからそう言おうとしてんじゃねぇか。 そういう三月は今まで何をしていたんだ?」

 

「んー、『()()』♪」

 

「またかよ……」

 

『ハッキリと答えたくない』感に一護が呆れたような顔を浮かべてから、ヤミーらしき巨体を見る。

 

「んじゃ、行ってサクッと────」

 

「────その必要はないヨ、『黒崎一護』。」

 

「「んげ。」」

 

 新たに聞こえてきた声に、三月とアネット(クルミ)が奥底から襲う嫌~な寒気と同時に変な声を出す。

 

 彼女たちと一護が声の発生した方向を見ると、いつも以上の笑顔になっていたマユリがいた。

 

 後ろには『原作』以上に巨大な荷車をネムが引き、そのこんもりとした布の上にリカがチョコンと座っていた。

 

「今あそこで戦っているのは戦闘に飢えていた(更木)ダ。 今行ったところで君ごと敵と一緒に噛み千切られるのがオチだヨ。 君たちには先に空座町へ()()()()()()。」

 

「「「「………………………は?」」」」

 

「まったく、やかましい(滅却師)はともかく……私が言いたいのは『黒腔(ガルガンタ)機構(きこう)解析が済んだから“被検体”となれ』と言っているのだヨ。」

 

 その間にもネムはリカの命令に従い、着々と何かの準備を進めていた。

 

「ちょ、今からか?! 俺はまだここでやること────!」

 

「────『被検体』が口答えをするんじゃあないヨ。 君たちにはあらゆる権利はない、黙って『私の黒腔(ガルガンタ)』を無料で使えることを光栄に思いながら帰レ。 そもそも君はいまや『死神代行』でも何でもない『部外者』だ。 ちょろちょろと動き回られて鬱陶しいんだヨ。」

 

『シッシッ』と犬や猫などを追い払うような動作のマユリを横切って、リカがトテトテと一護の近くまで走る。

 

「一護氏、一護氏。」

 

「あ?」

 

「マユちゃんは恥ずかしがり屋だから要するに『帰って邪魔な藍染を倒せ』って言ってるんですよ。」

 

 「憶測でモノを言うんじゃないよリッッッッックンッッッッ?!」

 

「違うんですかマユちゃん? 卯ノ花さんたちも来ているのに。」

 

 近くに移動して来たのは卯ノ花だけでなく、白哉やルキアもいた。

 

「卯ノ花さんに白哉にルキア?!」

 

「ええ、移動中に私が黒崎さんの治療を行います。」

 

「………………………………………」

 

「???? ……な?! チエは何という格好をしているのだ?!」

 

 白哉が顔を逸らしたことを不思議に思ったルキアはその場を見渡して、ツギハギの服装(いまだに下半身は下着のみ)をしたチエを見て、慌てて駆け寄る。

 

 その間、無言で白哉は後ろに隠れていた海燕を無理やり前へと出す。

 

「どわぁ?! く、朽木隊長! こ、『心の準備』って奴が────!」

 

「────な?!」

 

 自分とほとんど瓜二つの海燕を見た一護は驚愕する。

 

 と言っても、雨竜、織姫、カリン、クルミ(アネット)たちも例外ではなかったが、彼らはただ茫然と無言でこの出来事を見ていた。

 

「あ。 あー……なるほどなぁ。」

 

(精神上では)大人だった海燕が先に回復し、一護をまじまじと見る。

 

 その仕草と言葉遣いは一護に似ていた。

 

 眉間にシワを寄せた表情なども含めて。

 

「(うわぁ。 予想していたけど、なんちゅう『ストーリー崩壊』シーン。)」

 

 そしてこのような出来事を間引いた張本人が、躍る胸と共に感()していた。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「な、なぁ────」

 

 ズゥゥオオ。

 

「────さあ、『私の黒腔(ガルガンタ)』を通ってくれたまエ。」

 

 ジロジロと自分を見る海燕に対し、一護は口を開けるがお腹に来る低い響きと共にマユリとネムが『黒腔(ガルガンタ)』を開く。

 

「あー、訊きたいことは戦いが終わってからでいいか? 取り敢えずは見送るぜ? 体も動かしたいからよ。」

 

「あ、ああ?」

 

「「……………………………………」」

 

 もの凄く気まずいまま、一護と海燕と卯ノ花は先に『黒腔(ガルガンタ)』へ飛び込む。

 

「朽木隊長。」

「なんだ?」

「ルキアを頼む。」

「無論だ。」

 

「「「(似たもの同士。)」」」

 

 チエ(ツギハギの服装にルキアのハカマ追加)と白哉のやり取りを見ていた織姫、彼女に治療されていた雨竜、そしてクルミ(アネット)

 

「(おおお、流石はお二人! 意思疎通も息と同時にぴったりだ!)」

 

 体育座りで下半身を上着で覆っていたルキアは目をキラキラとさせながらいまだに勘違いをしていた*1

 

「(やはり白哉は頼りになるな。)」

 

 素直にそう思ったチエ。

 

「(やはりここは義兄上として私を頼るか。)」

 

 未だに変な解釈をし続ける白哉。*2

 

「んじゃ、もうひと踏ん張り行くわよ!」

 

「オウ!」

 

「そうだな。」

 

「行ってらっしゃい。」

 

 それを最後に、チエと三月にカリンが一護たちの後を追うかのように『黒腔(ガルガンタ)』の中へと飛び込む。

 

 クルミ(アネット)とリカは見送っていたが。

 

「…………………あれ? クルミはお留守番ですか?」

 

「そう言うリカこそ。」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

黒腔(ガルガンタ)』の中では一護を先頭に、走っていた卯ノ花が彼と海燕に藍染の『鏡花水月』の能力を伝える。

 

 そして、『恐らくは黒崎一護たちだけが藍染と、まともに対抗できる戦力』であることを。

 

「そうか……だから藍染たいch────()()はあんなにも自分の『始解(しかい)』を、新人や他の隊士たちの前で『斬魄刀の説明』と称して披露していったワケだ。 『見せる事』自体が術の発動条件とは厄介な物だぜ。」

 

 海燕は藍染を『隊長』と呼びそうになった自分の言葉を言い直し、吐き捨てるかのように『鏡花水月』の厄介さを理解する。

 

「そうか。 じゃあつまり、特大の『月牙天衝』で藍染の野郎を『一撃でぶった切る』ってことだな。」

 

「(『月牙天衝』、か。 やっぱな────)────よっと。」

 

 そして一護が霊圧を集めて作ったボロボロの橋を、何某赤帽子を乗せたヒゲよろしく彼は飛び移りながら確信する。

 

『月牙天衝』という技は、『志波海燕の叔父』に当たる人のモノ。

 

 当然、何らかの整形かよほどイメチェンが無ければ、目の前の少年はその叔父本人ではない。

 

 つまり、自ずと答えは限られてくる。

 

「(ったく、あの人は何処で何やってんだか……)」

 

 そんなことを考えている海燕を、一護は時々チラチラと見ていたことに海燕が呆れた目をしながら聞く。

 

「どうした? なんか言いたいことでもあんのか?」

 

「いや……『どうしてこうも似ているんだ?』ってちょっとな。」

 

「(なるほど。 『あの人から何も聞いちゃいねぇ』ってところか。) ……………しっかしお前、霊圧操作がヘタクソだな。 それでも死神かよ?」

 

「うっせぇな。 俺は死神になってから()()()()()()()()()()()()。」

 

 海燕は未だに一護が制作したボロボロの霊圧の橋を見ながらそう言うと、一護が愚痴る。

 

 だが海燕は呆けそうになる体を無理やり意識しながら走り続けた。

 

「(『一年経っていない』……だと? マジかこいつ。 霊圧は隊長格とほぼ同じ量じゃねぇか。) ったく、しゃあねぇな! この俺、『志波海燕』様の霊圧操作を見習えヒヨッコ!」

 

 海燕が一護の横にまで追いついて、どや顔を親切心(?)から一護の前を走る。

 

 ボロボロボロボロボロボロ。

 

 出来たのはボロボロかつ一護よりしっかりとした橋。

 

「ぬぉ?! す、スゲェェェェ……」

 

『フフン』とドヤ顔をする海燕にイラつくことなく、純粋に感心から一護の声が漏れだす。

 

 この二人のやり取りを見て、卯ノ花はただニコニコとしていた。

 

「「ウェーイ。」」

 

 そして彼らの横を、虚圏へ来るときの雨竜みたいに霊圧のサーフボードっぽいモノを乗った三月たちが追いつく。

 

「あ! ズルいぞテメェら?!」

 

「(何かスッゲェデジャヴを感じる。 そういや俺も虚圏に来た時、石田に同じこと叫んだっけ。)」

 

 海燕が言ったセリフは、一護が雨竜に言ったものと同じだった。

 

「フフーン♪」

 

 三月の悪戯っ子っぽい笑みに海燕は食らいつく。

 

「俺の霊圧は万全状態じゃねぇんだぞ! 全開すりゃもうちょいイケる! な、なぁ一護?!」

 

「お、おう! 俺もだ!」

 

「いや、それは()ぇわ。」

 

アンタ(海燕)はどっちの味方だよ?!」

 

「お二人のケガは癒えているようですし、恐らくは生来の霊圧がのせいでしょう。」

 

 卯ノ花はニコニコしながらも悪気のない(?)言葉をかける。

 

「ング。」

 

 彼女の言葉は海燕に刺さる。

 

 元来の彼は『天才』ではあるが、『直感系の天才』であるが故に殆どの事は肌などで感じて、ゴリ押しをしていた。

 

 雑なのは雑であるが、彼の才能はそれを補うほど高かった。

 

「いやいやいやいや! 俺の服を見てくれよ! 右袖しかねぇだろ? 俺の卍解は死覇装も変化して、()()()()()()()()なんだ! ……ハッ?!」

 

 一護がハッとして、そこで今更ながら自分が知人の女子たちの前で上半身がほとんどヌード状態でいたことに気付く。

 

 彼は頭を抱えそうになるのを、顔をただ俯かせることに留める。

 

 ちなみに三月と言えば────

 

柳洞(りゅうどう)さんと比べるとちょ~っと劣るなぁ。)*3

 

 ────と考えていたらしい。

 

「……つまり……お前が言いたいことは何だ?」

 

 自分とは違う言い訳を言い出した一護に、海燕が問う。

 

「つまりはだ。 俺の霊圧は卍解時、『この死覇装で表されている』ってことが最近分かったんだ。 井上曰く、彼女は霊圧も回復できんだけど傷のほうが早いんだってよ。 だから外傷だけ治させてもらった状態なんだ、今の俺は。」

 

「『井上』って誰だ?」

 

「あー、むn────『胡桃色の髪』をした奴だ。」

 

「ああ、あのデケェ胸をした。」

 

 やはり親戚同士、一護と海燕の発想は似ていた。

 

「……黒崎さん、ではこれから私があなたの霊圧を回復させます。 本来、鬼道による回復は先に霊圧を回復させますので操作もありません。 海燕殿はこのまま現世へと道を作ってください。」

 

「「ドワァァァァァァ?!」」

 

 ここで三月たちが何らかのトラブルに陥ったのか、彼女たちの乗っていた『霊子ボード』が急にグラグラと不安定になっていく。

 

「何してんだよお前?!」

「わかんないわよ! 急に眩暈が────!」

 

「────む。 一護、卯ノ花隊長、そして黒髪一護(海燕)。 先に行ってくれ。」

 

 チエがどんどんと不安定になっていきながら速度が遅くなって走っている一護たちから離れていく『霊子ボード』からそう言いかける。

 

「『黒髪一護』って……」

 

「そこまで似てるか? 俺たち?」

 

「「…………………………………………………………」」

 

「(ニコニコニコニコニコニコニコニコ。)」

 

 ジト目で互いを見る一護と海燕を前に、卯ノ花はただニコニコしていた。

 

 ………

 ……

 …

 

 

 上記と時を同じくして、藍染がここで口を開けた。

 

 目の前では山本元柳斎。

 

 そして藍染と山本元柳斎の二人を丁度を挟んで、平子が市丸と斬り合っていた場面。

 

「……………そろそろだ、ギン。」

 

「もうですか? 今やっとおもろいことになって来たのに?」

 

「なんやと?」

 

 

 

 ハリベルは無理やり戦っていた日番谷、リサ、ひよ里の三人を自分から力んだ斬り込みで引き離す。

 

「フンっ!」

 

 ズゥゥオオ!

 

 するとハリベルの近くで『黒腔(ガルガンタ)』が開く。

 

「逃げるんか、お前?!」

 

黒腔(ガルガンタ)』の中へと後ずさるハリベルに、ひよ里が叫ぶ。

 

()()()()だ、破面モドキ。」

 

 それを最後にハリベルはその場から姿を消す。

 

 

 

「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁぁぁぁぁ!」

 

 マシロは先ほどから破面の少年をタコ殴り(&蹴り)にしていた。

 

「マシロ、時間切れになるぞ! 俺と変われ!」

 

「拳西ってば忘れてるぅー! あたしの虚化は15時間だもんねぇー!」

 

「忘れているのはお前だ! ()()()()()()を考えろ、バカ野郎!」

 

 バキッ!

 

「あ。 やば。」

 

 マシロの仮面に亀裂が入り、破面の少年が────

 

「ああああああああ!」

 

 ヒュン!

 

 ────マシロや拳西を無視してその場から『響転(ソニード)』で消える。

 

 ギィン!

 

「他の者ならいざ知らず、わざわざワシのところへ来るとはの。 怖いもの知らずの(わっぱ)じゃ。」

 

 否。

 破面の少年は山本元柳斎へと移動して、襲い掛かっていた。

 

「六車拳西と久南白、お主らは平子たちを手伝え。 ワシはこ奴の面倒を見よう。」

 

「……………いいんですかい?」

 

「なに、ワシをご指名のようじゃからの。 大丈夫じゃ、()()()()折檻するだけじゃ。」

*1
46話より

*2
ルキアと同じく46話より

*3
作者の別作品、『天の刃待たれよ』より




作者:うおおおぉぉぉぉ、ヤッベェェェ………………ストックあって良かったよ…

ひよ里:ほ~ん? で、この『柳洞』ってのは誰や?

チエ:三月の義兄に丸裸にされた男だ。

平子:………………………そんな趣味を持っとるんやな?

三月:ちがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!

リサ:ああ、安心しぃ。 あんたがB〇好きなのはせめへんから。

三月:違うよ?! 断じて違うからね?! というかアレは何時ものお兄ちゃんの暴走だからね?!

ひよ里: 『何時のも暴走』って……………

作者:それはそれと、52話のあとがきでの仕返しを実行します。

平子/ひよ里:……………………………………え

作者:ですのでお覚悟を。

平子/ひよ里:ちょい待ちぃぃぃぃぃぃぃぃ!


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第94話 Wing Clipped Eagle

次話です、少々長くなってしまいましたが楽しんで頂けると幸いです。

アンケートにご協力してくださる方たちに感謝を。

今なおも、目は通しております。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 護廷、そして『仮面の軍勢(ヴァイザード)』たちが再度、藍染の前に集結していた。

 

 この場で彼の最後の味方の市丸の姿はどこにも見えず、さきほどの藍染の『そろそろ時間だ』と言う言葉でその場から身を消していた。

 

「皆、気ぃ付けや。 相手は藍染、()()()()()()()()()()()や。」

 

「さすがは()()()()。 だが『警戒』をしようがしまいが、同じことだよ。

 

 

 

 

 

 

 現に、()()()()()()()()()()()()ではないですか?」

 

 藍染が丁度その時、周りを見渡してはひよ里を見て、彼女は彼の笑みがごく僅かに深くなったことを見逃さなかった。

 

 くすぶっていた怒りはすぐさま限界を突破し、彼女は虚化した上で自身の斬魄刀の『馘大蛇(くびきりおろち)』を、眼前にまで自ら近付いた藍染へと振るう。

 

 彼女の耳朶には自分のたぎる心拍音しか聞こえておらず、未だに()()()()()()()藍染を心底から憎んでいた。

 

「(もろたで藍染! 死ねぇぇぇ!!! )」

 

 彼女の『馘大蛇(くびきりおろち)』はそのノコギリのような見た目同様に『物を切る』のではなく、『斬りつけた物を強引に引き裂く』能力。

 

 それはある種の『世の(ことわり)』のように働き、『()()()()()()()()()()()()()』。

 

 ただし、能力を発動させるためには相手に直接触れなければ行けない上に、能力解放の形状では敵の攻撃を受け流すことなどの高等技術は出来ないので()()()リスクを負う。

 

「ッ。 ひよ里このアホンダラァァァ!」

 

 ブシャアァァァァァ!

 

 平子の怒鳴りと同時にひよ里が腕を振るうと、血が出る音が辺りに響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血しぶきは、呆けるひよ里の肘から先を切り落とされた腕から出続けた。

 

「ぁ…………………………………………………は?」

 

 ひよ里の背後では、斬り落とされた自身の両腕と解放された斬魄刀が地上へと落ちていく。

 

「短気なのは()()()()()()()()()ね、猿柿『()』副隊長?」

 

「ッ。 ああああああああああ!

 

 未だに見下すような笑みをする藍染に背筋が凍るような感覚の中、ひよ里はとっさに蹴りを繰り出そうとして足も腕と同様に胴体から離れていくのを見る。

 

「ひよ里! (んなアホな?! ()()斬り落とされた?! ()()()『鏡花水月』か?!)」

 

 自分の四肢が欠損した事実に、脳がやっと追いついたかのような喪失感が襲ったひよ里が地上へと落ちていくのを、平子が彼女を抱きかかえてハッチのところへと移動する。

 

「し、シン────」

 

「────何も言うなひよ里、体力温存しぃ。 ハッチ、一護たちが戻れば織姫ちゃんの能力で何とかなるか? (この腕の中の感覚にひよ里の息遣い。 これは()()の類やない、ホンマもんのケガや。)」

 

「……ハイ。」

 

「じゃあそれ(一護が来る)まで彼女を頼む。」

 

「………………………ハイ。」

 

 ハッチがひよ里を平子から受け継いで、その場から彼らが離れてから藍染が口を開ける。

 

「いいのか? 有昭田(うしょうだ)鉢玄(はちげん)をここから離れさせて?」

 

「理解でけへんか、『信じる』ってことが? まぁしゃーないわな、仲間にすら見捨てられたお前にはのォ?」

 

()()()()()()? それは違うな。 彼らは忠実に私の指令に従っているだけだ。」

 

「なんや、『虚の王様気分』やっただけかいな。」

 

「そういう君こそ、『黒崎一護』たちに頼っているね?」

 

「アホ、『頼る』と『信じる』は違うことや。」

 

「違わないさ。 全ての生物は、より優れたモノを(信じ)る。 弱者は強者を頼り、強者さらなる強者を頼る。 

 そしてその頂点にいる者こそを『()』と()()()()()()()()()()()。」

 

「倒れろ、『逆撫(さかなで)』。」

 

 平子の斬魄刀は柄の先にリング状の持ち手が付き、刀身に穴が空いた形状へと変わる。

 

 その瞬間甘い霧状の何かがその場に充満して、藍染の認識する上下左右前後の方向と感覚が『逆さま』になる。

 

「相手の精神を支配する能力が自分だけの十八番(特権)と思っとったら大間違いやで、藍染。」

 

「なるほど、上下左右前後を『逆さま』にする能力か。 とすると────」

 

 ガィィィン!!!

 

「ッ?!」

 

 藍染が()()()()斬りかかった平子の左薙(ひだりなぎ)を、右薙(みぎなぎ)として防いでいた。

 

「『受ける攻撃も逆』、と言ったところかね?」

 

「不可能や! 上下左右前後、受けるダメージでさえもが逆さまになるのを瞬時に脳内で切り替えるなんて、強い奴ほど本能で対処────!」

 

 ザシュ!

 

 平子の背中に切口らしきものが現れてから、対なる痛みが平子を襲う。

 

「────グッ!」

 

「要するに『錯覚』だよ、君の能力は。 『五感と霊圧、全てを支配する』といった、私の能力からは程遠い。 ()()ればどうと言うことはない。」

 

 平子の背後へと移動していた藍染の前で、血しぶきらしきものが地上から見える。

 

 「藍染! 貴様ぁぁぁぁぁぁ!

 

 バリィン!

 

 遠くから狛村の怒り狂う叫びが聞こえると同時に、藍染の背後の空間が割れる。

 

 「『月牙天衝』!」

 

 割れた空間から現れたのは虚化しながら、藍染の背後(正確には首)を狙って己の技を放つ黒崎一護だった。

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 ズドゥゥゥゥ!!!

 

 藍染の背後に『月牙天衝』が当たる瞬間、緑色の結界らしきものが斬撃を弾いて(藍染)がニヤリとする。

 

「ッ。 (『月牙天衝』を塞がれた?!)」

 

「良い斬撃だ。 虚化したことも称賛に値する。 だが『狙い』が良くない。 『背後』、特に『背後の首位置』は生物にとって最大の自然的『死角』の一つ。 そんな場所に、何の対策も(ほどこ)さないと思ったかい?」

 

 ……確かにそうだ。

 

 クソ。 

 今更ながらに『通常の死角は強者であるほど死角では無い』と、昔言われた事を痛感するとは情けねぇ。

 

 

 尚その時の一護はまだ子供だった頃で、いつも一方的にチエにやられることにムカついたとある日の事。

 彼は登った木からチエを奇襲しようとし、見事な返り討ちにあったので上記を言われたときの一護の意識は朦朧としていたのでしっかりと覚えていなかったのは無理もなかったのを追記しよう。

 

 

「黒崎一護。 君は『何の為に』、私と戦う? 理由はもう無い筈だ。」

 

「なん……だと?」

 

「君が虚圏に出て来たのは『井上織姫を救う為』の筈。 そんな君がここにいるということは、彼女の無事は確保したのだろう────?」

 

 ガシ。

 

「────耳を貸すな、黒崎一護。」

 

 その場にいつの間にか着いたチエが俺の肩に手を置き、彼女の近くでは藍染をやつれた顔の雛森の二人が互いを無言で見ていた。

 

「………………………」

「(やっぱり帰ってきた……でも、チエさんが本当に()()()()()()()のはちょっと意外だな。 服装もいつの間にか変わっているし……)」

 

「今は強敵との戦いの最中(さなか)。 理由がどうであろうと、奴がお前の大切にするものを脅かしている存在に害を成そうとしているのは変わらない。」

 

 ザッ。

 

「その通りだ、少年よ。」

 

「狛村さん!」

 

「挑発や言葉で惑わすなどは口先達者な、(藍染)の専売特許。 呑み込まれてしまえば、気付かぬまま命さえも落としかねん。」

 

 ザッザッザッザッザッ!

 

 ここで『仮面の軍勢(ヴァイザード)』や護廷十三隊の隊長たちが次々と現れた。

 

「ワシたちは決して貴公に、奴の初解を見させはせぬ。」

 

「そうだ、俺たちがテメェを護る。 だからキツイのをかませろよ黒崎一護。」

 

「冬獅郎?!」

 

だから! 日番谷隊ch────」

 

「────頼むで、一護。」

 

 平子の言葉がきっかけとなり、日番谷が先に藍染に斬りかかる。

 

「はぁ~、せやかてなんで織姫ちゃんを連れてこなかってん一護? 彼女なら、多分俺らを全快状態にすぐ出来たのに。」

 

「あ、いや……その……」

 

 タジタジになる一護を平子が面白そうに見る。

 

「代わりに卯ノ花が付いて来たではないか?」

 

 そして彼の代わりにチエが答えた。

 

「ま、そうやな。 戦いの場に慣れとる卯ノ花さんを連れてきたのは正解や。 織姫ちゃんは優秀でええ子やけど、多分こないな場に慣れてへんからな。 ほな、俺ら(ヴァイザード)は先に行くで。」

 

 隊長たちに続いて、平子たちが藍染の方向で行われている攻防に突入する。

 

「気後れをするなよ、黒崎一護。」 

 

「砕蜂? ってかお前…その腕────」

 

「────我々は『死ぬ為』ではなく、『生きるため』に戦うのだ。 藍染の隙は『一瞬の一回だけ』と思えよ。」

 

 片腕を無くしたままの砕蜂がそう言い残し、一瞬チエの後ろに畏まる雛森を睨んでから目の前の戦いに加わる。

 

 

 このことに一護の胸にはわずかだが、『希望』が芽生え始めていた。

 

 

 

「ウソ、だろ。」

「そん、な…」

 

 

 だが時が経つに釣れて、徐々に変わる気持ちと連動しているかのような、嫌な汗が頬を伝った。

 

 冬獅郎が卍解をして藍染を狛村さんとラブさんの攻撃に挟み撃ちさせたと思いきや、藍染はデカい刀と棍棒を粉砕して、狛村さんの背後に出た大きな鎧侍を狛村さんごと斬った。

 

 それから間もなく、背後から攻撃したローズさんとラブさんを返り討ちにした。

 

 この一連は一瞬で、離れた場所から見ても一方的な圧倒で…………………言葉が出なかった。

 

 ___________

 

 市丸ギン 視点

 ___________

 

「あかん。 あかんわ。 お前たち全員、藍染隊長の事を()()()しとるわ。」

 

 市丸は少し離れた建物の屋上から、藍染が次々と護廷の隊長たちと『仮面の軍勢』たちを無力化していくのを、テレビのドキュメンタリーを見ているかのような『第三者』のように独り言を言い出す。

 

「あの人が『怖い』理由は『鏡花水月』があるからやない。 確かに恐ろしい能力やけど、それだけやったら『死んでも従わへん』そうな『破面』たちが何で『十刃』なんていう、一つの集団に成しえたと思てるん?」

 

 今度はリサの『鉄漿蜻蛉(はぐろとんぼ)』を片手で受け止め、藍染はそれごとリサを振り回して拳西とマシロを吹き飛ばす。

 

「(そないなバカな?! 『鉄漿蜻蛉(はぐろとんぼ)』を『片手で受け止めた』なんて?!)」

 

 リサの『鉄漿蜻蛉(はぐろとんぼ)』は『相手が能力使用者より隠している部分があればあるほど威力が増す』という、なんともリサらしい能力だった。

 

 一見すると虚相手などするには物足りなく感じるかもしれないが、この『能力使用者より隠している部分』と言うのはリサ本人が指定出来るものである。

 

 例えば『自分(リサ)より肌を隠している』や、『自分(リサ)が知らないことを知っている』と、かなり応用が効くもの。

 

 だがもちろん制限(弱点)はあるのだが、それはまた別の時に追記しようと思う。

 

「ガッ?!」

 

 そして『鉄漿蜻蛉(はぐろとんぼ)』の持ち主であるリサを藍染が無力化する。

 

「藍染サンが『怖い』のはひとえに『圧倒的な力』や。 

『警戒』? 

『用心』? 

 小さい。 考えのスケールが小さいわ。

『空が落ちてくる』とか、『大地が避ける』というような『不運と立ち向かう覚悟』をして()()()()()()と言ったところや。」

 

 ここで市丸の笑顔が大きくなる。

 

「ほぉら見てみぃ。 藍染()()も呆れすぎて()()()()やないか? ♪」

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 

 狛村、ラブ、ローズ、マシロ、拳西、リサたちが倒されたところから、一護たちの前で奇妙な場が出来上がり、戦いは更に混沌化していった。

 

「死ね、()()!」

 

「離れていろ、桃に一護!」

 

 ドン!

 

「きゃ?!」

 

「待てよ! あんたら、何やってんだよ?!」

 

 味方同士が突然、一護たちの目の前で刃や技を交え始めた。

 

 ()()()()()()()()

 

 どんなに叫ぼうとも、誰も一護たちの声に気付いた様子はなく、ただ殺しあいを始めた。

 

 このような状況、一護や雛森か他の第三者からとしても『恐怖』か『悪夢』の対象でしかないだろう。

 

()()、覚悟!」

 

 ギィン!

 

「なんで、どうして?! どうしてなのシロちゃん?! やめてよ?!」

 

「邪魔だ、()()────!」

「────やめて────!」

 「────()()!!!」

 

 砕蜂が突然分身を出し、チエに襲い掛かった隙を狙った日番谷を雛森が斬魄刀代わりにありったけの霊圧を込めた果物ナイフで何とか防いでいた。

 

 彼女(雛森)を『()()』と呼びながら。

 

「桃、私から離れていろ────!」

 

「────分身を『見世物』と呼ぶか! ならばその『見世物』とやらで止めを刺してやろう! 『弐撃決殺(にげきけっさつ)』!」

 

 ガシ!

 

「ッ!」

 

「(今は攻撃を止めるしかないか。)」

 

 砕蜂が突然バカにされたような返しを口にして、チエは『雀蜂(すずめばち)』を装着した彼女の腕を右手で掴んで無理やり攻撃を阻止する。

 

 パキパキパキパキパキ!

 

 チエの下半身が雛森をあしらった日番谷によって氷漬けにされていく。

 

「ぬ?! (これは日番谷の────?)」

 

「────シロちゃん! みんな!」

 

 ガシ!

 ズ、ズズ。

 

「来るな、桃────!」

 

 今度は背後から来た『花天狂骨(かてんきょうこつ)』を左手でつかみ、その際抉り斬られた手の平から血が刃を滴る。

 

「────迂闊だねぇ~、氷に影が出来ちゃっているよぉ~?」

 

「京楽さん?! 皆────?!」

 

「────これで終わりだ、()()────!」

 

────やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!

 

 雛森は両手と下半身を塞がれたチエに突撃していく日番谷の前に出る。

 

 だが────

 

 ドスドスドスッ!

 

「グッ!」

 

「え?! どうして?! なんで?!

 

 ────雛森は横へと退けられて、刃が次々とめり込む音がする。

 

 一護は少し離れた場所で、隊長や地上の副隊長や『仮面の軍勢』たちに次々と深手を負わせる藍染を警戒して動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やった!」

「やりおった! 隊長たちがやりおった!」

「ついに()()()やった!」

 

「フゥー。 一時はどうなるか思ったけど……あとは市丸だけや。」

 

 周りから歓声と、重症で出血する平子がホッとする声は一護と雛森に聞こえてくる。

 

 いまだに呆気に取られていた彼らからすれば、それらは『喜び叫ぶ、狂人たち』としか受け取れなかった。

 

「あ……あ……ああああああ────」

 

 みるみると顔色がひどくなっていく雛森の声に、一護の張りつめていた心に『怒り』が一気に膨らんで、『激怒』へと変わる。

 

 テメェらは! 一体なにをしてんだよぉぉぉぉぉぉぉ?!

 

 「────()()ぉぉぉぉ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 一護の怒りの大声と雛森の悲痛にも満ちた叫びに、その場にいた護廷の隊長たちと『仮面の軍勢(ヴァイザード)』がハッとする。

 

「な?! なんで、渡辺の野郎が?! それに雛森も?! い、市丸の野郎はどこに────?!」

 

 「────なんで?! シロちゃん、みんな! ねぇどうして?! 答えてよぉぉぉぉぉ!!!」

 

 「ち、違う! 俺は確かに、藍染を……………………市丸と────!」

 

「────気に……病むな……日番谷。」

 

 雛森の泣き叫ぶ姿と、自分を力の入っていない手で叩く彼女に日番谷は混乱していて、チエの小さな声に誰も気づかなかった。

 

「バカな?! 私は確かに、藍染の気を逸らせて────!」

「こ、これがまさか、『鏡花水月』────?!」

 

 ザァァァァァ!

 

 そしてその時、ほぼ一瞬で日番谷、砕蜂、京楽たちが、自分等の状態に気付いたかのように力なく地上へと落ちていく。

 

()()()()()、藍染?! ()()()()()()()()()使()()()()()んや?!」

 

 周りの者たちの状態を見て、平子が叫ぶ。

 

()()()()? なんとも滑稽な質問だよ。 逆の発想は君たちには無かったのかい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()?」

 

 藍染のこの言葉と、彼の更に深くなった笑み。

 

 この二つの事だけで、その場でまだ戦う気力と立っていた者たちの動揺を剥き出しに、あるいは強引に藍染は引き出していた。

 

 彼らからすれば今現在だけでなく、過去に起こったことの全てが『果たして真か嘘なのか?』という動揺を走らせ、ほとんどは自身たちの成し遂げた事でさえも疑うような(一瞬だけとはいえ)『疑心暗鬼』へ変えさせた。

 

 ザッ!

 

 そしてその『一瞬だけ』が、藍染には十分過ぎた。

 

 彼は雛森を除いて残った護廷や『仮面の軍勢(ヴァイザード)』たちを更に斬って、戦闘続行不可の状態へと陥る。

 

()()()()()()。 君たちはそこで悔いながら、地べたを這いつくばっていればいい。」

 

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

 離れたその場所からでも感じる熱気を放つ炎の柱が空高く舞い上がる。

 

 ドゴッ!

 

「グッ………………フッ……………」

 

 衝撃音と共に、黒い塊が藍染の近くの地上に落ちて、苦しむような音を出す。

 

「ほぉ。 さすがは護廷十三隊の総隊長。 ()()()()()の被害を、こうも抑えるとは。」

 

 その黒い塊は、重傷を負った山本元柳斎だった。

 

 

 ___________

 

 山本元柳斎重國 視点

 ___________

 

 時は丁度、山本元柳斎が破面の少年相手をマシロと拳西から引き継いだ時期に戻る。

 

「ああああああああ?」

 

「(『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』の炎が消えたじゃと? いや、こ奴が()()()のか。) フンっ!!!」

 

 ドゴッ!

 

「アグッ?!」

 

 そこでは、『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』の炎が突然消えたことによって一瞬動きが止まった山本元柳斎に襲い掛かろうとした破面の少年が顔面に、掌底打(しょうてう)ちがめり込む。

 

「アグラァァァァァァァァ…………」

 

「フォッフォ、ワシの隙を突こうなど…あと千年は出直してこい。」

 

 彼が相手を(地面で痛がりながらゴロゴロと)していた破面の少年は『ワンダーワイス・マルジェラ』。

 

 彼は藍染が山本元柳斎の『流刃若火』を()()()ためだけに、新たに生み出した『人口破面』。

 

『流刃若火』が通用しないと悟った山本元柳斎はすぐに白打に戦法を変えると、ワンダーワイスはあらかじめ用意していかのように『滅火皇子(エスティンギル)』に帰刃する。

 

「ほぉ、『れすれくしおん(帰刃)』と言う奴かえ────?」

 

 ドゴン!

 

「────グァ?!」

 

 伊達に二千年も生きている彼はワンダーワイスに反撃もさせず、ただひたすらに子供のような破面を即座に()す。

 

 老人の彼は子供とはいえ、敵対者(それも殺しにかかってきた相手)であれば容赦なく粉砕するのが今の『山本元柳斎重國』。

 

『原作』とは()()()()違う彼は、ここでワンダーワイスの遺体に異変が起きたのを感づいた。

 

「(ぬ? 奴の体が膨らんできただと? それにこの熱気………………………………………まさか────!)」

 

 どんな能力であっても『()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは鬼道であっても、斬魄刀の能力であっても、『世の理』が周知の事実。

 ならワンダーワイスの『消した』炎はどこへ行ったのか?

 

 ここで山本元柳斎が考えたのは『炎を封じる』だけの能力ではなく、『炎を溜め込む』という可能性。

 

 つまり、今のワンダーワイスは暴発寸前。

 

 そして『爆薬』は山本元柳斎が今まで使った『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』の恐らく()()

 

 かつて、山本元柳斎は『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』を全力で使ったことがある。

 それは千年も前の話で、滅却師たちとの戦争だった。

 

 その時、彼は若さゆえの過ちでその場一帯全てを()()()させてしまったことがある。

 

 敵味方の区別なく死神も、滅却師も、霊圧の余波で来ていた虚も巻き込まれ、灰も残さなかったほどの威力だった。

 

 バッ!

 

 それを思い出した山本元柳斎は自らの体でワンダーワイスの死骸を覆うかのように身を投げ出す。

 

 ────ズッ!

 

 巨大な炎の柱がその時天高く舞い、黒焦げ&重症の山本元柳斎が藍染たちがいる場へと転び出された現在()に至る。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「グッ………………フッ……………」

 

「ほぉ。 さすがは護廷十三隊の総隊長。 ()()()()()の被害を、こうも抑えるとは。」

 

 黒い塊である、重傷の山本元柳斎は浅い息をしながら自分を見下ろしていた藍染を見上げていた。

 

 両腕だけでなく、体の前半部分の皮膚は血がにじんだ場所は赤黒く焼けていた。 

 もしくは皮膚がボロボロと剥がれて行き、未だにムキムキである筋肉の表面が露出していた。

 

 もともと長かったヒゲは焼けて、どこかサングラスを取った亀〇人にも似てはなくもなかった。

 

 ドラ〇ンボー〇がもし『残酷な描写を明確に見せていれば』の話だが。

 

「貴方がその身を挺して抑え込んでいなければ、君たちの張った結界などを消し飛ばすだけどころか、この町にいる貴方の部下や友人たちを含めた数倍モノの規模の大地が灰か砂へと化していたでしょう。」

 

「………………………」

 

 それはつまり『(藍染の)予想通り』とでも言いたいことに、山本元柳斎は黙り込んだ。

 

 ザッザッザッザッ。

 

「貴方だけは今この場で、止めを刺しましょう。」

 

 シュラン。

 ガシィ!

 

 藍染が刀を抜くと同時に、山本元柳斎が近付いた彼の足を痛々しい手で力強く掴んで笑みを浮かべる。

 

 以前京楽に見せた、『利用出来るモノは全て利用する』と言った時の腹黒い物だった。*1

 

「待っておったぞ。 貴様がその手自らでワシに止めを刺そうとするこの瞬間を。 破道の九十六、『一刀火葬(いっとうかそう)』!」

 

 その瞬間、山本元柳斎の腕を媒体に打刀の切っ先から物打までの部分のように見える巨大な炎が空高く舞う。

 

 それはどこか、チエがスターク相手に使った『刀剣火葬(とうけんかそう)』の巨大版に似ていた。*2

 

「……く! (まさか、敵の術中で焼け焦げた体を逆手にとって禁術の媒体に使うとは────)」

 

 その中から、初めて()()()()()飛び出た藍染が山本元柳斎の事を侮っていたことを若干後悔していた。

 

 「『月牙────』」

 

 そんな彼の頭上から、虚化した一護が『斬月』を間髪入れずに振るう。

 

 「『────天衝』!!!」

 

 ズッ!

 

 藍染の体に一護の刃が通り、血が更に藍染から飛び出た。

*1
36話より

*2
83話より




作者:次話書きに行きます。

一角:テメェ、最近そればっかだな。

作者:リアルでいろいろとありまして若干テンション低めなだけです

弓親:『テンション低めなだけ』って……そこは美しく『アンニュイな気分』と言ったほうが良いんじゃないかな?

作者:うるさいよルルーシュ

一角/弓親:…………………………………………誰それ?

作者:それかルカと呼べばいいのか?

一角:だから誰だよそれ?

弓親:この僕の事だ。 よほど美しい方たちだろうね?

作者:独裁者ナルシストに女っぽい男。

一角:ぶわっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!

弓親:……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………咲き狂え、『瑠璃色孔雀』。


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第95話 13km

お待たせしました、次話です!

読んで頂きありがとうございます!

近頃リアルが忙しいですが、頑張ろうと思っています。 (汗

10/21/21 9:04
大きな修正をいたしました!

まさかタグのつけ方を間違っていたとは....一生の不覚でした!

大変皆様にご迷惑をおかけしました申し訳ございませんッ!!!!


 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

「(よし! 攻撃が通った! 傷を負わせられた!)」

 

 一護は内心、藍染に傷を負わせられたことに『希望』をもう一度持った。

 

 いや。

 持たなければ、先ほど隊長三人に攻撃されたチエの状態を思い出してしまうからだ。

 

()()は私に任せてください! 黒崎一護さんは()()を頼みます!』

 

 そう言って泣きながらチエの治療に専念し始めた雛森の姿を思い出すのをやめて、今は眼前の敵に一護は『天鎖斬月』を再度構える。

 

 もしこの時、護廷の者で雛森に親しい者が彼女の言葉を聞いていれば藍染の事を呼び捨てにしたことに驚いていただろう。

 

 だが護廷だけでなく、『仮面の軍勢(ヴァイザード)』、そして出血多量によって青白くなり、瞼をつむっていたチエのように皆は気を失っていたか余裕がなかった。

 

 パキパキパキパキパキパキ。

 

 だがなんの悪い冗談なのか、一護の目の前で藍染の傷は独りでに塞がっていった。

 

「(『超速再生』か?!)」

 

「言っておくが、『超速再生』などではないよ?」

 

 そこで藍染は、自身の胸に埋め込んだ『崩玉(ほうぎょく)』を一護に見せた。

 

「(『崩玉(ほうぎょく)』を体に埋めた……だと?)」

 

「そう言えば、礼を言うのを忘れていたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「………………どういうことだ?」

 

 先ほどチエに『戦いの最中に言葉の場所はない』と言われた彼だが、あまりにもピンポイントな指摘を藍染にされて思わず疑問を口にした。

 

()()()()()()()だよ。 

 君は朽木ルキアと出会い、死神の世界に入り込んだ。

 石田雨竜と競争、そして戦いから死神としての力を完全に目覚めさせた。

 阿散井恋次(あばらいれんじ)と戦って己の斬魄刀の能力を知り、更木剣八では卍解と虚化のヒントを掴んだ。

 次に君はグリムジョーとの戦いで虚化をモノとし、ウルキオラの『刀剣解放第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)』で()()()()()()()()()()()()()。」

 

「(こいつ……ウルキオラの事まで?)」

 

『この姿は藍染様にもお見せしていない。 光栄に思え、黒崎一護。』*1

 

 ウルキオラが一護に言った言葉が、彼の脳内を過ぎる。

 

「何が言いたいんだ?」

 

「君の『朽木ルキアから出会ってから今までの戦いは全て私の手の上だ』、と。」

 

「……………………………………」

 

 自分の脈を打つ心臓が耳朶に響く。

 言葉が見つからなかったので、余計にうるさく響いた。

 

「そんなに驚くことはない。 君は私の探究(たんきゅう)に最適な素材ゆえに、君の成長を手助けした。 一度も君はおかしいとは思わなかったのかい?」

 

『そんな筈がねぇ。』

 

 そう思いながらルキアとあってからこの八か月ちょっと、今までの出来事が藍染の言葉によってぽつりぽつりと蘇る。

 

「その見開いた眼……そんなに信じられないかね? 考えてみるといいさ。

 君はその短い十年そこそこの人生で、虚なんてモノは滅多に目にしなかった。 それが突然、朽木ルキアと出会ったその同じ晩に君と君の家族は虚に襲われて君は『死神の力』を譲歩された。」*2

 

「(確かに……………)」

 

「次に、滅却師が虚の大量滅却(めっきゃく)などに使う低能な撒き餌に、大虚(メノス・グランデ)が現れて君の霊圧が比較的高いことが判明した。」*3

 

「(そういや、石田の野郎も驚いていた。 『そんな馬鹿な、大虚(メノス・グランデ)だと?』とかって……)」

 

「そんな君が『いっぱしの死神業務』に慣れ始めて、それまでずっとソウル・ソサエティに捕捉されなかった朽木ルキアが()()()()発見されて連れ戻された。」*4

 

「…………………」

 

 息が詰まりそうな空気と時間が止まったような感覚の中で、思わず虚化が解けても俺はそれに気付かなかった。

 

「そこから君は『三席の班目一角』。*5 

『副隊長の阿散井恋次』。*6 

『隊長の更木剣八』。*7 

『破面落ちのドルドーニ』*8、などと戦った。

 それらの者が全て、まるで君の『成長』と競うかのように、君が戦う相手の実力がまるで誘導されているかのように────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────そう()()()()()()()()()()()()()()()のかい?」

 

 思考が真っ白になる。

 

『何言ってんだ』とか、『待ってくれ』とか言いたくは無かったと言うか、その時の俺はとにかく頭の中がグチャグチャだった。

 

「………………筋が通らねぇ。」

 

 気付いたころには、俺はそんなことを口にしていた。

 

「『事実』だが?」

 

「今までの戦いがお前の手の上? 誰が信じられるかよ?!」

 

「なるほど。 私は『事実』と言ったのに、君は『信じられない』と言ったね?

 それはこの世界に存在するモノすべては自分に都合が良い『事実』を皆、『真実』と誤認するからだ。

 そこで君に質問だが、君は()()()()()()()()()()()のかね?」

 

「…………………………」

 

「知らないのならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()。」

 

「…………………………なんでだ。 なんでアンタは……俺がアンタの『探究(たんきゅう)に最適な素材』となるって……どうやって……いつ、何を根拠に確信した?」

 

「『いつ』と問われれば、()()()()だ。」

 

「適当なことを言ってんじゃ────!」

 

「────私が『初めから』と言っているのは、『君が君の母親の子宮に存在した時から』だ。 なぜなら君は『人間』と────」

 

 ドン!

 

「────っと、そこから先は家族事情だぜ? 藍染。」

 

 藍染から一護を護るかのように、死神化した一心(一護パパ)が上空から現れた。

 

「……………………………………………………………………………………お、親父────?」

 

 ガッ!

 ヒュッ!

 

「────グェ?!」

 

 一心は一護の胸倉を掴んで『瞬歩(しゅんぽ)』で一気に距離を藍染から取り、藍染はただ薄い笑みを浮かべたまま彼らを追う動作などはしなかった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「見間違いじゃねぇぞ。」

 

 一心が彼にしては珍しい真面目な顔で自分と一護(海燕)を互いに見る海燕(一護)にきっぱりとそう伝える。

 

「俺も聞きてぇことは山ほどある。」

 

 一心はそう言いながら海燕をジト目で見る。

 

「こっちにも事情がアンだよ。」

 

「見りゃわかる。」

 

「あー……………一つだけ聞かせろ親父。」

 

「(あ、やっぱ親父なんだ。 マジでこの人何やってんだか。)」

 

「なんだ、一護? 見ての通り、俺は死神────」

 

「────こいつは親父の()()()かなんかか?」

 

「「ブ?!」」

 

 一護が海燕を指さしながら一心を軽蔑するような目で質問し、それに対して一心と海燕が同時に噴き出す。

 

「おふくろが知ったら悲しむぞ。つーか、多分半殺しにされっぞ?」

 

「どう見たって親族だろうが?! お前の目は節穴かよ?!」

 

「あぁ?!」

 

 だんだんとヒートアップする似た者同士(一護と海燕)の言葉に一心は頭を抱えた。

 

 そこで海燕は言い返すのを一旦やめて、一護に問う。

 

「おい、お前。 『月牙天衝』以外に、何か使えるのか? 鬼道とかよ?」

 

「え? ………………………いや、ねぇけど?」

 

「えっ、もしかしてそれ(月牙天衝)だけか?」

 

「悪かったな、これ(月牙天衝)だけで。」

 

 海燕が一心にジト目ながらもアイコンタクトを取る。

 

『お前、こいつにちゃんと死神の事を教える気あんの?』

『そもそも俺は遺伝子以外ほぼ無関係だ!』

『アンタ、マジで何やってんだ?』

『50年前に死んだはずのお前のほうに俺が訊きてぇよ!』

『てか、このガキ…意外と聞くポイントが違ったな。』

『おう! “さすがはおれの子”ってな!』

 

 そんな二人は意外と『一護が今聞きたいのはそれだけか?』というような考えに陥ったのを察したかのように、一護が口を開ける。

 

「……今まで話さなかったのには理由があったんだろ? だから、俺は待つよ。 親父たちが話したい時まで。」

 

「(へぇ? 意外とガキじゃねぇところもあるじゃねぇか。)」

 

「いっぱしの口、利くようになったじゃねぇか一護。」

 

 海燕と一心は純粋に感心した。

 

「ま、こういうのって初めてじゃねぇし*9……それに、今聞いたところで事情が大きく変わるってんなら話は別だがよ……で? 作戦か何かあんのか、親父?」

 

「え? あんのか? 勝算?」

 

「いや、だってそうだろ? 出なきゃ『今更ながら出てくる』ってのタイミングがおかしかねぇか?」

 

「確かに…」

 

「「ジー。」」

 

 一護と海燕が一心を見ると、彼は高らかに胸を張って宣言した。

 

 ()ぇ!」

 

 ゴスッ!

 

 一心の清々しいほどまでの開き直りにキレかかった一護と海燕が同時に一心の顔面を殴る。

 

 「「テメェに期待した俺がバカだったぜ!」」

 

 一心はただ震えながら顔を覆い、声を出す。

 

「しょ、『勝算』や『作戦』っつーか…… 『今の藍染は“崩玉(ほうぎょく)”を体内に埋め込んだ状態。 つまりはどうなるか分からないから、様子を見てから行動するっス♪』、との事だ。」

 

「……あー、俺らってもしかして『噛ませ犬役』か?」

 

「??????????」

 

 口調で一護は察した。

 

 そして海燕はただ?マークを出す。

 

「ま、そういうこった。 そこで一護。 お前にはここにいる、藍染の最後の仲間である()()()の相手を頼みてぇ。」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「やぁ、ギン。 長い見物だったね?」

 

「いややなぁ、人聞きの悪い。 藍染隊長の巻き添えを食らいたくないだけですわ。」

 

「そうか。 なら、()を頼んでもいいかな?」

 

 ギィン!

 

 ザバァン!

 

 市丸は後ろから斬りかかってきた一護に対応する間、藍染のいる場所が下から大きな水の波が突き破って、彼に襲い掛かる。

 

 これを藍染が飛んで躱すとそこに現れた一心が彼に斬りかかって、無理やり一護たちのいる場所から距離を取らせた。

 

「これはこれは、随分と久しく見ていない顔ぶれだ。」

 

 藍染の前に一心、そして槍のような(もり)の『捩花(ねじばな)』を独自的な構えをした海燕がいた。

 

「んじゃ、いっちょ肩慣らしと行こうじゃないの海燕。」

 

「全部終わったら俺と一緒に空鶴(くうかく)岩鷲(がんじゅ)たちに顔を合わせに来てもらうぜ。」

 

んげ………………………あー……やっぱ、しないといけねぇか?」

 

「うし。 『あいつらが生きている』ってことをアンタが知っているのは今ので分かった。」

 

「おい、誘導尋問なんて汚ねぇぞ海燕?!」

 

「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 一心の抗議を合図に二人が藍染に襲い掛かる。

 

 

 ___________

 

 一護、市丸ギン 視点

 ___________

 

 市丸の脇差っぽい斬魄刀と一護の『天鎖斬月』が持ち主たちの力みによってギリギリと音を立てる。

 

「いやー、こうやって君とやりあうのは随分と久しぶりやねぇ~?」

 

「……分からねぇ。」

 

「うーん、僕の事を『覚えていない』? 挑発のつもりやったら、もっとこう────」

 

「────そうじゃねぇ。 俺はアンタの剣から伝わる……『“心”と“考え”が分かんねぇ』って、言ってんだ。」

 

「…………………」

 

 一護は幼少から武術を習っていた者が無表情ゆえか、『原作』より多少は相対する相手の『思考』と『心構え』が()()()()()感じ取れることが出来た。

 

 とはいえ戦いの最中などの間に気を配れるわけも無く、ほとんどの場合はその時その場で直感のように体と脳がそれらを受け取り、一護は相応の行動を無意識に取っていた。

 

 なので彼が相手の『思考』と『心構え』に関してゆっくりと思い出せる時と言えば戦いの後。

 そしてよほど『強い思い』や『印象深い相手』でなければ一護は覚えていなかった。

 

 そして一護が市丸と一瞬だけ瀞霊廷の正門でのやり取りで感じたことと言えば『()()()()()』。

 

『市丸は呼吸をするかのように、己の事を無に()していた』。

 そんな市丸が強く内心に持っていたことは一護に強い印象を与えていた。

 

「アンタは()()()()()()()()まで、()()()()()んだ?」

 

 ズッ。

 

 一護を、一気に膨れ上がった市丸の霊圧が襲う。

 

「なんや、『おもろい子』と思っとったけど……『気味の悪い子』に変えるわ。」

 

 市丸の笑みが深くなり、一護は汗を流す。

 

 ギィン!

 

 市丸は一護を無理やり自分から遠ざけるが、追撃はしなかった。

 

「そういえば、僕の『神鎗(しんそう)』がどのくらい伸びるか説明してなかったなぁ~。 ざっと『刀百本分』、昔は『百本刺し』呼ばれたなぁ。 懐かしいわぁ~。」

 

「いや訊いてねぇし。」

 

「そこで質問や。 僕の卍解、どれくらい伸びるでしょうか♪」

 

「俺はクイズ大会をしに来たわけじゃねぇぞ。」

 

「釣れないなぁ~。 おおよそ、3.3()や。 君ら人間でいうところの………………」

 

 市丸が『ニィー』っと笑う。

 

 「13㎞や。」

 

「……(13㎞って……えーっと……どれぐらいだ?)」

 

「ピンとけえへんやろ? 見せたほうが早いかもな。 卍解、『神殺鎗(かみしにのやり)』。」

 

 市丸は両目を開いて卍解の解号をしてグルリと回る。

 

 すると周りのビルや障害物が巨大な草刈り機にでも刈られたかのような広範囲に、『スパッ!』っと音もなく斬られていく。

 

 ギィン!

 ザッ!

 

 そんな中、一護は市丸の『神殺鎗(かみしにのやり)』を受け流し、カウンター気味に『月牙天衝』を打ち込んで市丸に傷を負わせる。

 

「うん。 やっぱり、『気味の悪い子』認定や。 怖い怖い♪」

 

 市丸がカラカラと笑いをするような口調に一護はとある異変に気付く。

 

 市丸の手にしていた斬魄刀がさっきまでは地平の彼方まで刀身が長くなっていたのに、今では元の脇差サイズになっていたことに。

 

「(()()だ? ()()小さくなった? 俺はあいつから目を……まさか?!)」

 

 一護が『とある推測』に考えが辿り着いた頃に、市丸が純粋な斬術の戦いを一護に挑む。

 

 二人の斬魄刀での攻防……………と言うよりは、市丸の一方的な『攻め』に一護は必死に『防御』をしていた。

 

「ひゃー、ホンマに怖いわぁ♪」

 

 そこで市丸は自分の斬魄刀を自らの胸の前で持つ。

 

「怖くておっかなくて、()()()()()()()()()()()()()わぁ。」

 

 ビュッ!

 

 市丸の刀身を一護が紙一重で避けたことに、市丸は珍しく笑みを崩して目を開ける。

 

「やっぱりな。 アンタの卍解の怖いところは『長さ』じゃねぇ。 『速度』だ。」

 

「……………………ホンマにおっかないわ、君。」

 

 パァン!

 

 市丸が手を拍手するかのように叩く。

 

「ご名答や。 ちなみに速度は()()()()()や。」

 

『音速の五百倍』。

 それはマッハ500。

 

 およそ秒速約17、0145(メートル)の距離。

 

 ちなみに比較すると、『最速のジェット旅客機』であったコンコルドは約マッハ2.02。

 自衛隊が使用しているF-2は最高速度マッハ1.7、そしてF-15Jはマッハ2.5。

 

 市丸の言葉が『真実』と仮定すれば、どれほどの速さか一護でも今回は理解はした。

 

 だが彼はあきらめず、市丸と対峙し続けた。

 

 ()()()()のだから。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「『死神としての限界』だぁ?」

 

 傷を負った一心と肩で息をする海燕に、藍染の言ったことを一心が復唱していた。

 

「そうだ。 ようやく、『崩玉(ほうぎょく)』が私の意志と同調し始めたのでね。」

 

「『意思の同調』、ね? まるで『崩玉が生きている』とでも言っているようにしか聞こえねぇなぁ。」

 

「(さすがは一心、俺の事(時間稼ぎ)も含めて藍染から情報を聞き出すとは。)」

 

 思い出して欲しいが、海燕は50年ぶりに()()()()()()()()()()()()()()()

 だと言うのに藍染と言うバケモノの(一心と一緒だったとはいえ)相手をされていた。

 

「その通りだよ、志波……いや、今は『黒崎一心』と名乗っていたか?」

 

「『その通り』って言われても、寝言にしか聞こえねぇよ。」

 

「君や、創造者である浦原喜助が知らないのも無理はない。 

 さらに言えば『崩玉(ほうぎょく)』の能力は『相反(あいはん)するものの境界(きょうかい)を支配する』モノなどではなく、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()能力』だ。」

 

 ここで一心の表情が強張り、海燕が驚愕する。

 

「前例を挙げると、今までの黒崎一護、朽木ルキア、浦原喜助の周りで起きた数々の『()()』がそうだ。 ただそれぞれの者の、『自らの望みが叶った』ことで誤認、あるいはさっきの『奇跡』としてそれらの出来事を片付けた。」

 

「何を────?」

 

「────無論、『崩玉』()限度はある。 周囲の対象人物が元来、その願いを具現化し得る力を有していなければ具現化はできない。 そういう意味で、『“崩玉”は望む方向へ導く力』とも言えよう。 そしてありがとう。」

 

「「?」」

 

 藍染に感謝をされた一心と海燕は?マークを出す。

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 ズン。

 

『崩玉』を中心に、白い膜のようなものが藍染を包み込む。

 

 ズドォン!

 

 その瞬間、両手両足に鉄甲(てっこう)をはめた夜一が上空から藍染を殴り倒した。

 

 おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!

 

 ズドドドドドドドドドドドドドドドッ!

 

 そのまま彼女は雄たけびを上げながら、藍染を全力マシマシの連打を撃ち続けて一心たちの近くに浦原が現れた。

 

「遅くなってスミマセン!」

 

「『勝算』は?!」

 

「『出たトコ勝負』っス! でもこれ以上は時間を────夜一さん! 避けてください!」

 

 夜一は浦原の声でその場からすぐに離脱する。

 

 バキン!

 

「チィ!」

 

 その瞬間、彼女の片足に装着していた鉄甲が割れる。

 

「さすがは元隠密鬼道の長、『瞬神(しゅんしん)の四楓院夜一』。 他の者ならば鉄甲ごと、足を失くしていただろう。」

 

「相手を褒めるとは、随分な余裕ぶりだのぉ?」

 

「うーん、対破面用に作った特製の鉄甲がこうもあっさりと壊されるとは────」

 

「────おい喜助、今の『ワシの所為じゃ』の言い方はなんじゃ?」

 

「いやいやいやいや、滅相もありませンよ。」

 

 ゴッ!

 

「痛い! 鼻が?! ナンデ?!」

 

「念の為じゃ。」

 

「ひどいよ?!」

 

「なぁ、一心。」

 

「なんだ、海燕。」

 

「あの二人、今でも変わんねぇのな?」

 

「……ああ。」

 

 呆れ顔をする海燕と一心は、未だにガミガミと老夫婦のように騒ぐ浦原と夜一を見ながらそう互いに言う。

 

「さて、どれだけの策を練ったのか見ものだ。 かかってこい。 黒崎一心、四楓院夜一、志波海燕に浦原喜助。」

*1
84話

*2
11話より

*3
16話と17話より

*4
18話より

*5
25話より

*6
26話より

*7
27話より

*8
74話より

*9
12話より




作者:ついに出ましたね

リカ:13セン────キロメートルが。

作者:…………………………………………

リカ:なんですか?

作者:君が言うと、別の意図を感じるんだけど?

リカ:なお近いうちに新たなアンケートを出す予定のようですので、何卒ご協力お願いしますとの事らしいです。

作者:自分のセリフゥゥゥゥゥ?!

リカ:何気にこの先の展開などが変わるらしいですので、前もって言っておかないとダメじゃないですか?

作者:いや、まあ……それはそうなんだけども……

リカ:ちなみに『13㎝』と言えばよかったですか?

作者:やっぱりソッチ系のことじゃないですか? ナンデ?

リカ:マユちゃんとネムネム────

作者:────GODAM〇IT。


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第96話 Spirit and Time Room

お待たせしました、次話です!

サブタイはとある部屋の英語版です。

楽しんで頂ければ幸いです!

あと次の何話かが長くなるかもしれません。


 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 

 一護はこの藍染が黒崎一心、四楓院夜一、志波海燕、浦原喜助の四人をいとも簡単に圧倒していくのを、思わず呆けて見ていた。

 

「いいの? 自分が背後を僕に取られても?」

 

 自分が市丸と戦っていたのを忘れるほどに。

 

「ッ! (やられる?!)」

 

 一護が市丸に振り向くと同時に、最悪の事態(自分が串刺しにされる事)を想定した。

 

「よっこらっせっと。」

 

 だが予想と反して市丸は不意打ちを一護に背後から食らわすどころか、彼は瓦礫の上に腰を乗せていた。

 

「もう無理や。 藍染()()と長いあいだ()るけど、『アレ』は初めて見るわ。」

 

 市丸がここで『アレ』と称していたのは策も戦術もへったくれも何も無く、ただ眼前の敵を『純粋な力のみ』でなぎ払う(ゴリ押しする)藍染の姿。

 

「見たらわかるやろ? もうどうもでけへんよ。 あの人たちも、君も殺されて『(しま)い』や。」

 

「させねぇよ。」

 

「ま、君ならそう言うわな。」

 

「それに、()()()()()()アンタだってどうなるか分からないぞ?」

 

 ここで市丸は片目を開けて、何か面白そうなものを見る目で一護を見た。

 

「あらら? こりゃ意外。 君の言い方やと、『みんなが死ぬ』っていう前提に聞こえるけど?」

 

「ッ。」

 

 一護はバツが悪そうな、気まずい気持ちへとなりながらそれを内心だけに留めていた。

 

「君……もしかして、()()()()()()()んとちゃう?」

 

 自身の胸が更にドキリとしたことに、一護は自己嫌悪からか『認めたくない苦しみ』と『怒り』が混ざったような顔をとうとう出す。

 

「はぁ~……()()、黒崎君。」

 

「……は?」

 

『やれやれだね』と何某テニスの誰かのように、市丸が肩をすくめる。

 

「今の君は『戦士』でも、『死神』でも、『虚』でも、『人』でもない。 そんな中途半端な君が、あそこの四人が負けるような相手に『勝てる』と思うの?」

 

「…………………」

 

「だって君、()()()()()()()()()()んやろ? 」

 

 「『月牙天衝』ォォォォォ!」

 

 ズゥゥゥゥゥン!

 

 一護は背後から聞こえてきた技の名と一心の叫びで、藍染たちがいる方向へとまた顔を向けた。

 

「お、親父(おやじ)……………浦原さん…………夜一さんに、黒髪の奴(海燕)…………」

 

「ほぉら、言うたやないか?」

 

 一護が見たのはぐったりと横たわる一心、浦原、夜一、海燕の四人。

 

 タッ。 タッ。 タッ。 タッ。

 

 そしてそれらを無視して、体中の白い膜のようなものにヒビが入った藍染が一護のいる場所へと一歩一歩、余裕の足取りで近づく。

 

「ッ!」

 

 一護は反射的に『天鎖斬月』を震える手で構えた。

 

 そして藍染はその『天鎖斬月』を────

 

 ブン!

 

「うわ?!」

 

 ────指先で摘まんで、一護ごと横へと動かす。

 

 その動作はまるで、『我行く道先の小石を除ける』同然の態度だった。

 

「ギン、ソウル・ソサエティの空座町へ行くぞ。」

 

「ま、待て!」

 

 バキ! バラバラバラバラバラバラ。

 

 一護が制止の言葉を叫ぶと藍染を覆っていた白い表面が割れて、卵の抜け殻のようにポロポロとはがれていく。

 

 中から出てきたのは以前よりさらに長髪になり、異様な雰囲気を出す藍染の姿。

 

 そのまま彼は市丸の開いた『穿界門(せんかいもん)』を通って、その場から市丸と共に消えた。

 上記に要した時間、ざっと数十秒間ほど。

 

 その間、藍染は一度として一護を見ることはなく、彼の眼中にさえ無かった事に一護は股を着きそうになる。

 

 ガシ!

 

「呆けている時間などないよ()()。 一心さん、『穿界門(せんかいもん)』を開いてください。」

 

 力が抜けそうになった一護に肩を貸したのは横たわっていた筈の浦原だった。

 

「あいあい。 くぁぁぁぁぁ! でもきつかったぜぇぇぇぇ!」

 

 一心は眠りから覚めたばかりのような口調で起き上がって『穿界門(せんかいもん)』を開ける用意に入る。

 

「え? 浦原さん? え? 親父?」

 

「んー、奇妙な()()じゃのぉ。」

 

「いや~、私もそう思うよ~。 アッハッハッハ~。」

 

 同じく夜一が起き上がり、()()がカラカラと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()

 

「え? へ? な? え?」

 

 パン!

 

 ポカンとしている一護の前で風船が割れるような音と一緒に、()()の体が膨れ上がって破裂すると中から三月が現れた。

 

「いや~、この『携帯用義骸(けいたいようぎがい)』意外と使えるわねぇ、とっつぁん?」*1

 

 そして何某長寿シリーズの怪盗の口調で夜一に話しかけた。

 

「いや、そこまで完璧に使いこなせるのは恐らく発明者である喜助本人とお主だけじゃぞ? それに『とっつぁん(中年男性呼び名)』とはなんじゃ?!」

 

「…………………………………………………」

 

 一護はパクパクと口を金魚のように開けたり閉じたりして、ワナワナと震える指で三月を刺す。

 

「ん? んっふっふぅー!」 

 

 三月はここで奇妙な立ち方をした。

 

「『そこで貴方が次に言うのは! “なんじゃそりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ?!”、だ!』ってね♪」

 

なんじゃそりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ?! …………………………………………………………………………………………………………ハ?!」

 

 ジョジ〇立ちをした三月に一護が前もって宣言されたことを言い、彼は間を挟んでから息を呑んだことに彼女は明らかに楽しんでいた。

 

「イェーイ♪」

 

「おーい、海え~ん。 生きておるかー? 『演技』はもう良いぞぉ?」

 

「あー……カイちゃんは素の実力が違う上につい最近目が覚めたばかりだから()()()()()じゃない?」

 

「だ、だれが『カイちゃん』だテメェ……いつか一回(しめ)てやる……」

 

 他の三人とは違い海燕は死に物狂いで戦っていたらしく、自身を突く夜一には無反応のまま三月に対して嫌味を放つ。

 

 ………

 ……

 …

 

 藍染と市丸は『断崖(だんがい)』の中を歩く。

 

「いやー、なんか懐かしいわぁ。」

 

「ああ、そうだね。」

 

 コォォォォォ!!!

 

 遠くから空気の機関車のような音が聞こえ、二人がそっちを向くと『拘突(こうとつ)』が近づいていた。

 

「うっわ。 あかんあかん、行きましょ藍染隊長。 あれは霊圧とかやなくて『()()()()』の『拘突(こうとつ)』やないですか。 霊圧とかでどうこう出来るモンやないですよ?」

 

「………………………」

 

 キィィィィィィィィィィ!!!

 

拘突(こうとつ)』が更に近づき、微動だにしない藍染の一歩前まで来ると流石の市丸も焦りだすような顔をしたその時────

 

 止まれ。

 

 ギギギィィィィィィィィィィィィィ!!!

 

 ────藍染の一言で『拘突(こうとつ)』が急ブレーキをかけたような音を出して文字通り、その場で静止した。

 

「藍染隊長……これは────?」

 

「────さぁ、行こうかギン。」

 

 二人は止まった『拘突(こうとつ)』から離れて、『穿界門(せんかいもん)』の出口をくぐる。

 

「ふむ。 空座町から少しそれたようだが────?」

 

「────僕の所為みたいに言わんといてくれます? 藍染隊長が────」

 

「────いや、責めている訳ではないよギン。 少し散歩したい気分だったからちょうど良いよ。」

 

「さよですかぁ。」

 

 そのまま二人はソウル・ソサエティの森の中を歩いた。

 

 ………

 ……

 …

 

「「「…………………………」」」

 

 一護、一心、そして気力で無理やり自分を復活させた海燕が口をあんぐりと開けながら、止まった『拘突(こうとつ)』を見ていた。

 

「ナニコレ?」

 

 三月も同じく止まった『拘突(こうとつ)』を見ながら誰にも向けていない疑問形の言葉を出す。

 

「止まった『拘突(こうとつ)』ではないか?」

「だな。」

 

 そして三月の『〇ョジョ立ち』が披露された後に合流したカリンと(ボロボロの)チエが、あっけらかんとそのままの事を口に出す。

 

「いやいやいやいやいやありえねぇ事だろうが?!」

「ああ、本来なら死神がどうこうできる代物じゃねぇぞこれは?!」

 

 一護と海燕が目の前の惨状に対し、平然とする二人にツッコむ。

 

「だが今は好都合だ。」

 

「は?」

「あ、ああー。 なるほどなー。」

 

 一心の言葉で一護は更に呆けそうになり、海燕は逆に頭の上で電球が光りだしたように閃いた表情をしだす。

 

「どういうことだ、親父?」

 

「……まずは『断崖(だんがい)』について話すぞ、一護。」

 

 そこでとある特徴を一護に、一心が説明する。

 

 その特徴とは、『()()()()()()()()()()()()()』と言うこと。

 そして一心によれば『断崖(だんがい)の中』で流れる時間は、『外』より遥かに遅いという事も。

 

 その時間差はざっと2000倍。

 

 つまり、『断崖(だんがい)』の中で2000日経っても、外ではわずか一日が過ぎるだけ。

 

「「それってまるっきり『精神と時の〇屋』じゃん。」」

 

「「「何だそれ?」」」

 

 カリンと三月がジト目でツッコみ、一心と海燕が一護と同じように?マークを出す。

 

「あ。 うん。 ごめん、こっちの話。」

「♪~」

「……………………」

 

 半笑いをする三月と明らかに場違いな口笛をしだすカリンをジト目で見るチエたちを横に、一心が話を続ける。

 

「……………………ま、まぁ取り敢えずアレだ。 一護、『最後の月牙天衝』を斬魄刀から教えてもらえ。」

 

「は?」

 

「一心。 『界境固定(かいきょうこてい)』、手伝うぜ?」

 

「悪いな、海燕。 体が本調子じゃねぇのによ。」

 

「『界境固定(かいきょうこてい)』?」

 

「あー、『断崖(だんがい)』の『拘流(こうりゅう)』を壁みたいに固定化する作業だ。 通常は平の隊士が数人でやることなんだが────」

 

「────私も手伝うぞ。」

 

 一心が手を上げて、チエを止める。

 

「いや、アンタは力を温存してくれ。 お前も本調子じゃないんだろ?」 

 

「……」

 

「それに見たところ、()()()()()()()()()だ。」

 

「えっと、『最後の月牙天衝』を教えてもらうって……どうやって? 親父からか?」

 

「アホかテメェは? マジで死神の事、なんも知らねぇんだな?」

 

「何も知らねぇことはもう分かったよ、黒髪野郎(海燕)! だからどうやってだ?!」

 

「斬魄刀に訊くんだよ。 斬魄刀との対話の形、刀を膝に置いて座禅を組む『刃禅(じんぜん)』でだ。」

 

「……………………………………………………は?」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「う……………うう………いててて……俺………なんでこんなところで寝てんだ?」

 

 急に意識を失ってそのまま倒れたような人たちの中で、一護のクラスメイトと友人である浅野は()()()()で目を覚ました。

 

 彼はキョロキョロと周りを見ては混乱した。

 

「な、なんだぁ? なんでみんな道端(みちばた)で倒れてんだ? 車も信号も止まっているし、携帯は圏外だし……」

 

 気味悪がって、浅野は自分のアパート方面へと駆け出す。

 

「なんだよ…………何なんだよこの『世界が終わりましター』的な光景は────ゴフゥ?!」

 

 走る浅野の腹にラリアットがめり込む。

 

「おう、アンタも気が付いたか。」

 

 ラリアットを浅野に食らわせたのはクラスメイトであるたつき(竜貴)だった。

 

「あ、あ、あ、有沢(ありさわ)~~~~~!!! たとえお前()()、起きてる人が居てよかったぜぇ~!」

 

「ちょっと引っかかるような言い方だけど…まぁいいや。 みちると千鶴を運ぶのを手伝って。」

 

 そこで浅野と竜貴は気を失ったままの二人を背負い、空座高校を目指すことにした。

 

「チャンスだからって尻触んなよ、浅野。」

 

「わぁってるよ! …………でもよ、逆に俺は驚いたぜ。」

 

「何に? あの下駄帽子(浦原)に浅野も聞いた筈だろ?」

 

「いや、『本匠(千鶴)って割と胸ある方なんだな』って────」

 

 ゴス。

 

「────おグッ?!」

 

 浅野の顔面に竜貴がきついパンチを食らわせた。

 

「バカ。 とりあえずあのうさん臭い店長(浦原)の言ったことよね、これって多分。」

 

 竜貴たちは一護が虚圏へ旅立つとき、大まかな事情と『これから起きるであろう』推測を浦原から聞いていた。*2

 

「や、やっぱそうか………………は、ははは。 あまりにも非現実的で、『本当』とは今でも信じがたいけどな。」

 

「さっき街はずれまで歩いて行ったら何かの境線のように町がブッツリと切れてて周りは森と山だったから間違いないと思うよ? 浅野も後で見に行く?」

 

「いや、いいよ。 俺は有沢みたいに怪物j────」

 

 「────゛?」

 

「ナンデモナイデス……………………一護、大丈夫かな?」

 

「あったりまえじゃん! ()()()()()()()()()()()()()()()()だよ?!」

 

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 一護は死にかけていた。

 

「………………………………………………………ごボぉ?!」

 

 気付けば、彼はいつの間にか水没して廃墟になった空座町の水中内だった。

 

「ガばごボぼぼぼ────?!」

 

「────いやいや、これってまるっきりLC────じゃなくて『液体呼吸(えきたいこきゅう)』じゃん。」

 

 手足をバタつかせる一護の近くでは、平然としながら周りを見渡す三月がいた。

 

 「ってなんでお前がここに居るんだ?!」

 

 そして一護が間髪入れずにツッコむ。

 

「あははは~。」

 

 「笑って誤魔化そうとするな!」

 

「誰だ、貴様。」

 

 水中の中でもう一人、少年らしき人物が三月に声をかける。

 黒髪はユラユラと水の中で漂い、少年の碧眼が彼女を睨んでいた。

 

「んー、『見届け人』? 的な友人? 邪魔はしないわよ。」

 

「そうか。」

 

 この少年を見て、一護は周りをキョロキョロと他の誰かを探すかのように見る。

 

「あれ? ()()()()()()()は? って、それは?!」

 

 少年の手に握られている『天鎖斬月(てんさざんげつ)』を見て、一護は驚愕する。

 

「『()()』?!」

 

「いやいやいや。 出刃包丁みたいなのが『斬月』でしょ、一護? あんたバカぁ~?」

 

 三月が馬鹿にするような、ニヤニヤとする顔で一護を見る。

 

「う、うるせぇよ。 つーかお前、()()()()泳げんのかよ?」

 

「『()()()()()』、だからね。」

 

「んだよそりゃ?」

 

「ムフフフフ~~~ン♪」

 

 一護と三月のコントを無視して、少年は話をする。

 

「そうだ、私は『斬月』ではない。 『天鎖斬月』だ。」

 

 少年────『天鎖斬月』は一護へと斬りかかり、一護は己の腰にあった『天鎖斬月』でそれを受け止める。

 

「ま、待ってくれ! 俺はただ『最後の月牙天衝』を訊きに来ただけだ!」

 

「それは何故だ?」

 

()()護る為にだ!」

 

「そこがすでに()()()()()()。」

 

「……どういう事だよ?」

 

「この世界はそこの女が言ったように貴様の『精神』を現す。 

 天を()かんばかりの摩天楼(高層ビル)の群れは、貴様が思う小さな町へと()()()()()()

 そしてこの水没し、廃墟と化した景色。 

 それは絶望に満ちた、貴様自身が生み出したモノだ。

『皆を護る』と申すのなら、何故こうもガラリと場は変わったのだ?」

 

 ガシ。

 

 三月が一護を羽交い締めにする。

 

「え────」

「ちょっと我慢してねぇ────?」

 

 ズブリ。

 

「────ウッ?! なにを────」

「────その絶望の根源、今ここで対面させよう。」

 

『天鎖斬月』が手を一護の胸を抉り、そこから()()を無理やり引き出す。

 

「よう、久しぶりだなぁ。」

 

「その声は……テメェ、消えたんじゃなかったのか?!」

 

 新たに現れたのは一護とは白黒の色が反転した、以前に『完全暴走虚化』した時の姿。

 

 そして声は『白い一護』のもの。

 

「前回言ったじゃなぇか? 『()()()テメェの勝ち』ってな?*3 『次回がねぇ』とは言った覚えは無いぜ?」

 

「これが貴様の恐れているモノの象徴だ。 

 この姿になったお前はウルキオラを圧倒し、友人や知人の手足を躊躇なくもぎ取り、戦えないモノたちに止めを刺そうとした。

 貴様は己の破壊衝動を恐れて護る対象の視野が小さくなり、自らを()()()させ、今まさに『()()道』を選ぼうとしている!」

 

「という訳だ、一護。 今のテメェじゃ『最後の月牙天衝』なんてモノを、()()()()()()()()()()()()()。」

 

 ヒュゴォォォォォォ!

 

『天鎖斬月』と『白い一護』の周りに霊圧の柱が現れて二人を包み込んで、一護は顔を空いていた手で多少覆いながらも警戒をする。

 

「な、なんだ?!」

 

「(んー、こうしてみるとアレだわ。 『フュー〇ョン』。)」

 

 新たに表れたのは『天鎖斬月』と『白い一護』が混ざり合ったような人物だった。

 

「……そっか。 要するに、テメェから『力ずく』で『最後の月牙天衝』ってのを聞き出せばいいのか?」

 

「……………………………」

 

『白い天鎖斬月』は無言で一護のように構える。

 

 無言でお互いを見ること数秒間。

 そこから同時に斬りかかっていくのを三月は横から見ていた。

 

「(『最後の月牙天衝』……『原作』を読んでいて予想はしていたけど、こう直に見ると……一護と似て、()()()()()のね。)」

 

『天鎖斬月』と『白い一護』の言動は一護より更にぶっきらぼうな物だが、互いに『黒崎一護』を思っての行動を取っていたと彼女は考えていた。

 

『白い一護』は弱い一護のメンタル(精神)を荒療治でその土壇場を切り開き、『斬月』は物理的『力』で一護がくじけそうな場面で新たに戦う希望()を与え、『天鎖斬月』は『()()()()』を思っての試練を繰り出していた。

 

「(無理もないかな。 今の一護の心が弱ったまま『最後の月牙天衝』なんて使ったら…………………死────)」

 

 三月は『あり得る結末』を想像して身震いをするが、すぐに考えを切り替えた。

 

「(────ううん、外では空座町のみんなが藍染に狙われている筈。 機を見て、私もここから出て次の手(時間稼ぎ)を打たないと。)」

*1
68話より

*2
70話より

*3
63話より




平子:ヘッタクソな口笛

カリン:うるせぇぇぇ!

マイ:あらぁ~、でもでもぉ? 前に聞いた時よりは良いわよぉ~?

平子:あれでか?!

マイ:だって耳が痛くならない程度になったしぃ~?

平子:どれだけやねん?!

作者:さて自分はせっせと次話とアンケートの分を書きに行きますか

ラブ:やはりジャン〇は良いな

カリン:ああ! ありゃあ衝撃やナイフに対して良い仕込みだったぜ!

ローズ:おたくどういう使い方をしたの?

カリン:まぁ、ランサーの野郎とちょいと藤原組の敵を殲滅を、な?

平子/ラブ/ローズ:え


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第97話 The Cat and Snake

次話です。

オリジナル展開や独自解釈、独自都合などをうまく表現出来ているかどうか不安の上に長くなりましたが、楽しんでいただければ幸いです。

10/27/21 8:00
誤字修正しました!


 ___________

 

 真・空座町組 視点

 ___________

 

 浅野と竜貴はさっきから一人も住人が見当たらない空座町の中を、未だに意識の戻らない千鶴とみちるを背負いながら歩き続けた。

 

「そういや浅野は小島(水色)の事はいいの? 電話とかさ? って、圏外だっけ。」

 

 竜貴が聞いていたのは一護が虚圏へ行った日からひっそりと誰とも極力関わらずに、学校と自分のアパートを行き来し始めた水色の事だった。

 

「あー……昔に何あったか知らねぇけど、あいつは人見知りと言うか『壁』を作るんだよ。 『距離感』っての? アイツがあれほど自分から懐いたのって一護()()が初めてなんだよなぁ~。」

 

「………………(そっか、浅野はアイツ(水色)の家庭事情を知らないのか。)」

 

 浅野は知る余地もなかったが、水色の家は現在彼と母親のみが住んでいる。

 

()()()()()』だが。

 

 父親は他の男たちと不倫ばかりをする母親に嫌気がさし、母親が『他人の赤子(水色)で妊娠した』と聞いた直後からはほぼ絶縁状態となり、激しい口論(ケンカ)後に『離婚』する事に収まった。

 

 水色がわずか3歳の時である。

 

 深い事情や状況を呑み込むには幼かったが、『己の所為だ』と理解するには十分すぎる年代だった。

 

 そんな水色に関心をほとんど持たず、父親が出て更に色々な男を作って遊ぶ母と水色の仲は『良好ではない』どころか、もう顔もほとんど合わせないことを竜貴は一護たち経由で知った。

 

 彼が高校に入るまで、他人と深く接することは無かったがある日、関係を持った女性の元彼氏が自分に背後から襲い掛かり、一護とチエが半ば無理やりに横槍を入れた。

 

 特に『なぜ見知らぬ自分を助けた?』という問いに一護の『別に? 後ろから殴り掛かれて(チエが)イライラしていただけだ』と言う返答の何が面白かったのか、水色はあまりのお人好しに笑い、同じ学校の生徒と知ってからは徐々に懐いていった。

 

 中学から付き合いのある浅野でさえも、水色からは今でもかなり雑な扱いを受けていた。

 

 ちなみに竜貴がこの事(家庭事情)を一護から知ったことに、水色はただ『ま、一護が“話しても良い”って判断したんなら良いんじゃない?』と、どれだけ水色が一護に気を許しているのかが分かるだろうか?

 

 そこから竜貴は水色本人から自分の手癖………………というか何十人との女性と『関係』を持っているかの、(ただ)れたノロケ話を何時間と聞かされることとなり、竜貴の(おそらく)『人生初の本気(マジ)ドン引き』をしたのは全くの余談である。

 

 ある意味水色の『年上(女性)キラー』や、ハリウッドスター並みの(女性との)交流の深さは母親譲りなのかもしれない。

 

「うん……あいつ(水色)も、色々と大変なんだよ。」

 

「そうかぁ? 俺からすりゃ、アイツがどことなく雰囲気が軽くなったのって高校入ってからだけど……思いつくのって一護だけなんだよなぁ~……」

 

「でもなんか分かるよ、そういうの。」

 

 竜貴の脳内を過ぎるのは幼少から何かと赤の他人でもズケズケと無理やり馴染むことが得意なオレンジ色の少年。

 博識で変わり種に小柄ないたずら好きな子(金髪少女)

 そして裏表もなくズバズバと言いにくいモノをありのままでいう()()()な黒髪少女の三人たちに毎日を引っ掻き回される日々だった。

 

「なんか意外だ。 有沢がそういう、『女の子っぽい顔』をすんの────」

 

 「────殴るよ、浅野?

 

 ズッ。

 

 その時、巨大な重しが急に乗りかかるような感覚に二人の股が笑い始める。

 

「な、んだよ……これ?!」

 

「この感覚……あの褐色の、時と?!」

 

 竜貴は息が詰まるような感じの中、少し前に会ったヤミーとウルキオラたちを思い出す。*1

 

「ウルキオラの情報にあった、黒崎一護の友人たちか。」

 

 横からくる声に、浅野と竜貴が歩いてくる藍染と市丸を見る。

 

「へぇー、藍染隊長の霊圧を感じても体が壊れるどころか、気ぃ失わへんとはすごいなぁ。」

 

「ぁ……」

 

 浅野は思わず力が抜けたのか、股がとうとう崩れた。

 

「く……浅野! 立て!」

 

 竜貴は気力でよろけながらも後ろへと下がっていったことに、藍染が感心するような声を出す。

 

「そこまで動き回れるとは……たいしたものだ。 悪いが、私の為に────」

 

 藍染が手に持っていた刀の切っ先を上げながら竜貴たちのいる場所へと歩いたその瞬間、頭上から少女の声が響いた。

 

 「『────炎殺黒龍波(えんさつこくりゅうは)』ぁぁぁぁぁ!」

 

 ゴォアァァァァァァァァァァァァ!!!

 

「ギン!」

「ッ!」

 

 巨大な暗黒の靄で出来たような竜らしきものが藍染を押しつぶすかのように頭上から襲い、横から乱菊が現れて動きが一瞬止まったギンを掴んで無理やりその場から移動させていた。

 

ヌグォォォォォ………………二発目は、さすがにキッツイわぁぁぁぁ。」

 

 竜貴たちの前に荒れ狂う黒い渦と、上から着地してきたツキミが苦しむ声を出しながら火傷を負ったように皮膚が変質した右腕を包帯巻きにされた左手で掴んだ。

 

「す、スッゲェ……」

 

 竜貴の口から、純粋にこの光景への感想が漏れ出していた。

 

「う、ウサギ柄……」

 

 浅野の鼻から、血が流れ出ていた。

 

「ッ! ギャアァァァァァ?! こ、このドアホ! なに人のパンツに注目してんねん?!」

 

 浅野の言葉を聞き、一気に耳までツキミは赤くなりながら頭を抱えそうになってから彼に罵倒を浴びせた。

 

「というかさっさと走れ、このアホ! 観音寺(かんおんじ)()よぉ出て来て手伝わんかい?!」

 

 ドン・観音寺がまるでその言葉を待っていたかのように颯爽と横道から出てくる。

 そして勢い余ったのか、自分の衣装に足を引っかけそうになる。

 

「どわっととと! だから私の事は『グレートスーパー除霊師のドン・観音寺』と呼びたまえ、ガール! または────!」

 

 「────じゃかましいわ『観音寺美幸雄(みさお)』!」

 

 人の本名を大通りで叫ぶばないでくれたまえ?!」

 

 ツキミは左手で竜貴の手を掴んで無理やりその場から走り、『GT〇』ならず、『GTDK』を自称するドン・観音寺(美幸雄(みさお))が浅野を無理やり立たせて、ツキミの後を追うように逃げだす。

 

「だが凄いなガール! 今の竜は呪術か何かの類かね?!」

 

「思ったよりやかましい桑原(くわばら)声やわ! お前の『観音寺弾(キャノンボール)』と()()()()や!」

 

「なんと! やはりガールはボーイ(一護)と同じく、私の弟子であったか!」

 

 プッツン

 

 ケツの穴に腕をツッコんで内臓全部引きずり出したあと通りかかる町中の人から『うわぁ、凄くリアルかつブサイクなドン・観音寺にそっくりなクチパク人形ですねぇ』って言わせるで?

 

 「スミマセンデシタ。」

 

 ツキミの全く感情のこもっていない、ハイライトの消えた目と無表情の顔を向けられて脅されたドン・観音寺は彼にしては珍しくシュンと弱気になりながら謝る場面に、浅野がポカンとした。

 

「うわぁ。 八重歯以外三月と外見そっくりだけど、口調と性格が似てねぇ~。 と言うか半端無くおっかねぇ~。」

 

「あー、三月も似ているかもだよ浅野? 今だから言うけどあの子、猫かぶりがアイドルとか俳優顔負けぐらい徹底しているから。」

 

マジですか?!

 

「学校とかでは『内気で目立ちたくない子』を演じているけど、実は────」

 

「────聞こえてるでそこぉ! 口を開けるより走らんかい?! あ、ちなみにボクは『ツキミ・プレラーリ』や、二人ともよろしゅうな?」

 

「「(ボクっ子関西三月。)」」

 

 竜貴と浅野はこの切羽詰まった状況でも、『本匠(千鶴)が起きていれば荒い息を出しているかもなぁ~』と同時に思ったそうな。

 

 ………

 ……

 …

 

 別の場所では、フラフラで息のあがっていた乱菊がビルの屋上でニヤニヤと笑っていたギンと相対していた。

 

 「気持ち悪いわ…」

 

「ええ~? 久しぶりやのに第一の声がそれぇ~?」

 

()()気持ち悪いわ。」

 

「フラフラなのに無茶しよるからそんなに汗かいてんやろ? おおかた、『“穿界門(せんかいもん)”を無理やり開けてさっきの子と僕ら(藍染たち)の先回りをした』いうところやろうけど…………………()()()僕だけをここに離れさせたん?」

 

「……………そんなの、アンタの所為に決まっているじゃない。」

 

「ん?」

 

「あの時、ネガシオンが出てくる直前になんで『ごめん』なんて言ったの?」*2

 

 ここで市丸のいつもの笑みが消え、彼は『スン』と表情が消える。

 

 あの時、市丸をほぼ密着状態で拘束した乱菊でさえも『聞き間違えかな?』と一瞬疑問に思うような、小いさな声で市丸は謝っていた。

 

「あれは……あの言葉にはどういう意味があったなの?」

 

 それを疑問に思っていた彼女は何に対して謝っていたのかを訊いていた。

 

『松本乱菊』と『市丸ギン』はいわゆる『幼馴染』。

 かつて霊力を持っていたことを知らずに流魂街の道端で『魂魄状態なのに空腹』という状況に苦しんで、倒れていた乱菊に食べ物をあげたのが他でもない市丸だった。

 

 そこから二人は奇妙な『友人以上(?)恋人未満(?)』的な曖昧な関係となり、それは二人が死神になっても長らく続いていた。

 

 藍染の謀反直後までは。

 

「ねぇ、どうして信じていた皆を……()()裏切ったの?!」

 

 それが何よりも乱菊には理解できなかった。

 

 ある意味、『藍染に裏切られた雛森』の状況と似ていたかも知れない。

 

「乱菊。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()。」

 

 ドッ。

 

「ウ゛?! ギ……ン……?」

 

 市丸がお腹にきつい一撃を乱菊に食らわせ、彼女はそのまま気を失う。

 

「(もうすぐや。 もうすぐ()()()なんよ、乱菊。)」

 

 そう思いながら市丸はその場を後にした。

 

 乱菊の周りに結界を張ってから。

 

 ………

 ……

 …

 

「あ。 お~い! 渡辺さんに有沢に観音寺さんとついでに浅野~!」

 

 別の場所では水色がいつも通りの調子で走っていたツキミ達にビルの陰から手を振っていた。

 

 拳銃(リボルバー)をもう片方の手にしながら。

 

「あー、ボクは()()()()で名前は『ツキミ・プレラーリ』いうねん。」

 

「ふぅん、そっかー。 あ、コンビニから()ってきた食料とかあるから。」

 

「めっちゃ助かるわ! モグモグモグモグモグモグモグモグ。」

 

 ツキミは水色の手に握られていた拳銃を無視していたかのように手当たり次第におにぎりなどを頬張ってからグビグビとスポーツドリンクをグビグビとラッパ飲みする間、彼が竜貴たちへと振り向く。

 

「これってやっぱりあの『浦原』っていう人の言っていた事なのかな?」

 

「「………………………………………」」

 

 浅野と竜貴は未だに平然としていた水色の握っていた拳銃をガン見していた。

 

「う、う~ん……」

「あれ……私……寝ていた?」

 

 背中の千鶴とみちるもさすがに今の騒動で起き始め、ドン・観音寺が場の空気を軽くさせようとした。

 

「う~ん、私が言うのもなんだが……ボーイとガールの知り合いたちは個性的だね?」

 

「アッハッハッハ。 観音寺さんにだけは僕、言われたくないなぁー。 あ、もしかしてこれ(拳銃)のこと? いいでしょ?」

 

「いや……お前………よく物騒なものを見つけたな?」

 

「起きなかった警官たちが悪いよ。」

 

「「「本物を盗んだのかよ/かい?!」」」

 

 浅野、竜貴、ドン・観音寺が驚愕する。

 

「ハムハムハムハムハムハム。」

 

 ツキミは幸せそうに大福餅を頬張り始めた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 気が付いた千鶴とみちるに竜貴たちが説明し終わる間、ツキミは次から次へとすぐに食べられる食物をできるだけ口に入れては即食べ終わらせるという、暴食家(ぼうしょくか)顔負けの速度であらゆる食べ物や飲み物を完食していった。

 

「フゥー、ごちそうさん。」

 

「し、信じられない。」

「ね、ねぇ?」

 

「ま、あの子が大食いなら家族も大食いなのは不思議じゃないでしょ?」

 

 呆れる竜貴にみちると千鶴はボーっと放心していた。

 

「ん? どうした二人とも?」

 

「い、いや多分私と同じでみちるは放心しているっていうか……なんでアンタたちはそんなに今の状況に順応しているワケ?!」

 

 竜貴、浅野、水色が互いを見る。

 

「いや、だって……命の危機だから?」

「そうそう。 命が狙われているっぽいし。」

「だから一周まわって浅野でも冷静なんだね?」

「水色……ここでも俺に対しては辛辣なんだな?」

「「え?」」

「いやいやいやいや! 小島(水色)はともかく、なんで有沢(竜貴)まで『え? コイツなに言ってんの?』というようなリアクションなの?!」

 

「「訳が分からないよ!?」」

 

 竜貴、浅野、水色のコントに千鶴とみちるがツッコむ。

 

「要するに、『お前たちの命が狙われている』っちゅうことや。」

 

「「だから誰に────?!」」

 

 ズッ。

 

 またも重しのような圧力がその場にいた皆を襲い、藍染が刀を手にしながら現れた。

 

 それはさながらスリラー映画……いや、ホラー映画で登場する『異界のバケモノとご対面今後ともヨロシク♪』的な場面だった。

 

「「き、来たぁぁぁぁぁ!」」

 

 浅野と竜貴はそれ相応の反応をした。

 

「逃げるで!」

 

 パパパパパーン!!!

 

 そしてツキミの言葉に答えるかのように、水色が躊躇なくニューナンブM60(拳銃)を連射する。

 

 だが実弾の弾が藍染に届くわけなく、それらは彼の圧倒的霊圧の膜に触れる瞬間、灰へと化す。

 

「うわ、個人バリア持ちなんて。 本当にどチート野郎だ。」

 

しゃあないけどゴニョゴニョ王炎殺黒龍波(おうえんさつこくりゅうは)』ぁぁぁぁ!」

 

 ツキミが両手を合わせ、本日何度目かの黒い竜が藍染を襲う。

 

「グ……ク……(やっぱり『痛覚遮断』は効けへんか。)」

 

 ツキミの顔はまたも苦しみに歪みながらプルプルと震える、黒く皮膚が変質した両手に一瞬目線を送ってから走り出す。

 

 そこには唖然とし、腰が抜けたらしい千鶴を引きずってでも逃げようと苦戦する浅野と、みちるを無理やり担いでから浅野に手を貸す竜貴を見た。

 

「だから逃げろや?!」

 

 ガァァァァァァ!!!

 

 走るツキミたちの背後で、断末魔のような音がして黒い竜が消えていく。

 

「やれやれ。 ()()()()も飽きてきた────」

 

「────ただいま、藍染隊長。 ()()()()()()()()。」

 

 そこに市丸が現れて藍染が歩みを止める。

 

「……確かに、彼女(乱菊)の霊圧が消えている。 流石は『蛇』を自称することはある。」

 

 それは百年前、市丸が五番隊に入隊したある夜の彼が藍染の『君は自分をどう見ている?』という問いに返した言葉。

 

『蛇の肌は冷たい。 ()はなく、舌先で獲物を探し気に入ったモノを丸呑みにする。』

 

 ある意味、ルキア関連騒動の時に彼女の搬送をしていた者たちが見たような幻覚は彼の自己認識と合っていた。*3

 

「あの子らを殺した後はどないするんですか?」

 

「見晴らしのいい場所に死体を吊るそうか、あるいは亡き骸をどうにかしようと決めかねている。」

 

 ここで市丸は藍染の上がっていた刀を、撫でるかのようにそっとおろす。

 

「せやったら、僕があの子らやりますわ────」

 

 ズッ!

 

 市丸の上げた腕の袖の向こう側から何かが藍染の胸を貫いていた。

 それは、いつか日番谷とのやり取りで見せたような動作だった。*4

 

「────なぁんちゃって♪。」

 

「……ギン────」

 

「────『“鏡花水月”の能力から逃れる()すべは“初解”を見ない事と、完全催眠の発動前に刀に触れておくこと』。 その言葉を聞くために80年近くかかった。」

 

「知っていたさ。 だからわざと『鏡花水月』の弱点を君に言って、それを君がどう使うのかに興味があった。」

 

 藍染は自分の胸に刺さっていた市丸の刀を無視するかのように、涼しい顔で話していた。

 

「昔、僕の卍解能力を説明した思いますけど……すんません、アレ嘘です。

 

 言うたほど長く伸びません。

 

 言うたほど(はや)く伸びません。

 

 伸びるときは一瞬だけチリ()になります。

 

 そして刃の中に細胞を溶かす猛毒があります。」

 

 市丸の刀がいつの間にか脇差へと変化していて、藍染の胸にあった傷の上に市丸が手を置いてから『神殺鎗(かみしにのやり)』の『二段階目の解号』をする。

 

(ころ)せ、『神殺鎗(かみしにのやり)』。」

 

 ボンッ。

 

 小さな破裂音がその場で響き、血らしき赤い液体がボタボタと空座町の黒いアスファルトへと滴る。

 

 ソウル・ソサエティを照らす太陽の中、人影がよろける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 市丸が両目を開けながら、自分の抉られた脇から零れ落ちる血を止めようと、手を置きながら自分の後ろにいた藍染を見る。

 

「…………………何時から、ですか?」

 

()()? まさか君もそう言うとは純粋に驚いたよ。」

 

 市丸の汗ばむ顔にはいつもの笑みは無く、彼は痛みを伴う浅い息と、()()が失敗した今出来るだけの()()()()をしていた。

 

()()()()使()()()()()()と思った?」

 

 だがそれも藍染の振るった刀であっけなく終わるだろう。

 

 そんなことを思いながら、市丸は小さく息を吐きながら小声で愚痴を零した。

 

はぁ~。 ()()()()()()

 

 そこで市丸の意識は途切れ、とある思い出たちが目の前を過ぎった。

 

 いわゆる走馬灯(そうまとう)と市丸は判断し、身をそれに委ねた。

 

 

 ___________

 

 市丸ギン 視点

 ___________

 

 場所はとある流魂街の林。

 百年前よりさらに前らしき時代の中、子供の容体である市丸ギンらしき者はその夜を過ごす焚火の為の枝などを拾い、(あさ)っていた。

 

「(もう夜も遅いわぁ。 こりゃあ乱菊、カンカンに怒っとるわなぁ。)」

 

 この時の市丸は、自分と同じく『お腹が減る』乱菊と一緒に住んでいた。

 

 彼らが付いた流魂街の地区は担当の死神たちの関心がない、無法地帯に近く、身寄りもほかの子供もすでにカモにされて見当たらない様な場所だった。

 

 だからかも知れない。

 

「(ん? あれは……死神?)」

 

 ()()()()()()()()

 

 幼い市丸は身を隠し、『こんな場所で見ることはない』と思った死神たちを観察することにした。

 

 これがもし他の『やる気のある死神』や『流魂街の住人と仲が良い死神』の地区であってのならば、市丸は警戒心を立てることなく死神たちの前に出てしまい、彼の物語はここで終わっていただろう。

 

「(珍しいなぁ、こんなところでコソコソと……何してるんやろ?)」

 

 そこで彼らの後を追って目撃したのは死神たちが、近くの集落に入っては次から次へと流魂街の住人を眠らせて、魂魄を無理やり引きずり出してそれを集める場面。

 

 市丸は走った。

 

 ただ夢中になって集めていた枝などを落としていき、自分の着ていたお粗末な服が引っかかった枝などを走る勢いで引き離し、ただ可能な限りの速度で走った。

 

 彼の脳内にはたった一つだけ────否、()()()()()()()だった。

 

 彼が目的地である集落へと着くと、すぐに集落の外れにある小屋へと一目散に向かった。

 通りかかる皆は衰弱していたからか、()()()汗を掻きながら寝ていた。

 

 それは、小屋の外で彼が抱き上げた少女も同じ状態だった。

 

 「…………………………乱菊。」

 

 その次の日、少女(乱菊)に前日の夜の事を市丸が問いただしても彼女は記憶がなく、『ただダルイから今日はもう少し寝るからよろしく』と言った。

 

 このことに疑問を感じた市丸は幼いながらも聡明かつ行動力があり、すぐに『流魂街の魂魄を集めていた死神たちに賄賂を渡す藍染』という場面を発見した。

 

 そこで彼は子供とはいえ、ある決意を心にした。

 

「(あいつ(藍染)は絶対にボクが殺す。 乱菊の盗られたモンを取り返す。 絶対にや。)」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「な、なんで────ガッ?!」

 

 グサッ!

 

 命を乞う死神に、市丸は尖った木の棒で止めを震える手で荒い息をしながら刺した。

 

「……アカン。 全然あかんわ。」

 

 市丸は初めて(死神)を手にかけた自分へ上記の『自己評価』を、明らかに動揺していた自分に向けて『失望』の言葉を放った。

 

 目の前には藍染の為に魂魄を集めていた死神の一人が相応分以上の飲酒をし、フラフラに酔っ払って流魂街の娼婦と()()()()()のところを、市丸が奇襲をかけて殺めた亡き骸。

 

 覚悟はあの時に決め、何度も脳内で数々のシミュレーションもし、藍染に魂魄をささげていた死神たちの行動なども理解し、これ以上はないチャンスが巡りあって、彼は行動に出た。

 

 だというのに市丸の心臓は今にも飛び出そうなほどうるさく鼓動し、体は未だに震えていて足もガクガクとなり、フラフラになって内側のものを吐き出したい頭で気合を入れなければ今にでも倒れそうな状態だった。

 

「(アカン。 ()()()を殺すにはまず、()()()()()()()()()わ。)」

 

 そう考えた市丸はかつて無いほど、あらゆる方面で()()をした。

 

 無い才能や知識を、血反吐を吐くような思いと努力で乗り越えながら彼は『自分個人』を殺し続けた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして、その日はついにやってきた。

 

「ま、参っ────!」

 

 ザクッ。

 

「────それでも『戦士』やろ? 『戦士』が『負ける』言うたら『死ぬ』ことやで?」

 

 夜空の下の五番隊舎で、市丸は殺した隊士の返り血の中で薄い笑みを糸目と共に浮かべていた。

 

「素晴らしい。 『市丸ギン』、と言ったね? うちの五番隊の三席はどうだった?」

 

「あかんわ、話にならへん過ぎて欠伸が思わず出そうやったわ。」

 

 そう言いながら市丸は別思考で己の状態を確認していた。

 

 なんてことはない、自分を『無の表』と『裏の自分』とわければ造作もないこと。

 

「(声も、手も、体も震えていない。 心臓の心拍数も変わっていない。 それに()()()()()()()()()。)」

 

 そうやって市丸は時には暴走しそうな『裏の自分』を『無の表』が殺して生きてきた。

 

 だが一人だけを前に、己の制御が上手くいかないモノが未だに居た。

 

 全ては────

 

「(────乱菊を泣かせへんように、行動してたんけど…………………最後はボクの為に泣くんやろか? …………………多分するやろうなぁ、ぎょうさん泣いて。)」

 

 かすんでボヤける意識の中、亡くなった自分の上でワァワァと泣く乱菊を市丸は容易に想像できた。

 

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………謝っといて、()かったわ。

 

 でも最後に、顔をはたかれても伝えたかったなぁ………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポタ。 ポタポタポタ。

 

 ……あれ?

 

 ポタポタポタポタ。

 

 なんや、ソウル・ソサエティで雨かいな。

 

 ロマンチストやったら……『ボクの内心を()()が表している』、てか?

 

 …………………………なんか、『死』って思ってたよりだいぶんちゃうなぁ。

 目ぇ開けたらさっきの妄想が見えたりして。

 

 ほぉら、目ぇ開けたらぎょうさん泣いている乱菊がボクの上で────

 

 「────ギン! 意識が戻ったのね!」

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?

 

 なんで泣いている乱菊が、目ぇ開いたボクを見て嬉しがってんの?

 夢にしたら────

 

「────ゴホォ?!」

 

「ギン! まだ喋らないで!」

 

「そうだよぉ~? 脇腹をぼっこり取られていたからねぇ~?」

 

 このジンジンとする脇と喉の痛み。

 それに乱菊の安心する声。

 

 ……ああ、そっか。

 

 なんや。 

 

 ボク、生きてんのか。

 

 

 実に百年ぶりに市丸の頬を一粒の涙が伝い、彼は自分の胸が温かくなるのを感じた。

*1
55話より

*2
31話より

*3
30話より

*4
29話より




ツキミ:……ええ話がな。 ズビィィィィィ……

作者:ほい、ティッシュ。 なお次話あたりでアンケートを出す予定です。 ではまた次話で会いましょう。


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第98話 To Me, She is

お待たせしました、次話です!

そしてやはり長くなってしまいました。 (汗

今後の展開&etc.に多大な影響を与えるアンケートを出しました!

お手数おかけ致しますが投票にご協力の程、何卒よろしくお願い申し上げます! m(_ _)m

勢いのまま書きましたが、一連の出来事や詳細などはアンケート期間内に書くつもりです。

楽しんで頂ければ幸いです! 楽しんで頂ければ幸いです! (胸ドキドキ&汗ダラダラ :(;゙゚'ω゚'):

10/29/21 7:53
誤字修正しました(汗

10/29/21 21:01
尚アンケートに投票できない方たちも感想欄にての感想投票できるようにしております! 先に入れてなくて申し訳ないです、次話の前がきにも入れます。 (;´・ω・`)


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場と時間は市丸が背後を藍染に取られ、脇腹を抉られた瞬間。

 

 ヒュッ!

 

 ズドォン!

 

 市丸は消えるかのようにその場からいなくなり、高層ビルを半分にもぎ取ったような破片が丸ごと藍染を頭上から落ちてきた。

 

「ではジュエル殿、彼の治療をお願いします。 彼は死神の筈ですので、そのおつもりで。」

 

「ギン!」

 

「はいは~い♪ ってわお、大胆な死神ぃ~♪」

 

「……………あ、貴方たちは誰?!」

 

 そこに気が付いた乱菊がその場に現れて、未だに放心する竜貴たちを代弁するかのように目の前にいる人物たちに、正体を問いかけた。

 

「ん? ああ。 心配ございませんよ、女性の死神譲。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』。 ()()の命にて、ここへ馳せ参じいたしました。」

 

 乱菊と竜貴たちの目の前に次々と現れたのは、白い軍服のようなものを着た集団。

 

「またこの服を着る羽目になるとはな。 メンドクセェぜ。」

「そうか? アタシはストレス発散の良い機会だと思うぜ?」

「あれぇ~? でもぉ、キャンディーは確か『裏稼業』をしていなかったっけ~? (´・ω・`)?」

「皆さん静粛に。 敵の眼前ですよ?」

 

 多少のバリエーションはあるものの、ほぼ統一された服装の中で竜貴たちは見覚えのある顔ぶれに驚愕した。

 

「え?! ハッシュヴァルトくん?!」

 

「おや。 これは少々お久しぶりですね小川(おがわ)さん。」

 

「あう?! (ポッ)」

 

 ハッシュヴァルトが両刃剣と盾のようなものを持ちながら、にっこりとした笑みをみちる(小川)に向けると彼女が赤面する。

 

「おうおうおうおう! なに堂々と浮気してんだユーグラム! テメェはあのちっこいのを狙ってたんじゃなかったのかよ?!」

 

「失敬な。 私はキャンディスと違い、浮気性はございませんよ? ああ失礼、君の場合は『飽き(くせ)』と言うべきかな?」

 

「おおおお? 意外だ。 いくら引き篭もりなハッシュヴァルトでも、クソビッチ(キャンディス)のビッチさが分かるか。」

 

「きゃ、キャットニップにランパードさん?!」

 

「んあ? テメェは…………ええと…………『おツル』だっけ?」

 

「『(つる)』なのはそうですけど『千鶴(ちづる)』です……」

 

「同じcrane()じゃねぇか。」

 

 千鶴はシュンとしながら訂正を付け加えたが、リルトットは反省するどころかそれを気にかけていないような毒舌を披露した。

 

「よぉーし! バンビーズ勢揃いの出陣! やるわよ、皆!」

 

「えっと~、ミニーはもう補強化したビルを敵さんに落としたので、それでもう良いかなぁ~……なーんて思っていたりぃ~?」

 

「「バンビが居ると乗り気にならねぇ~。」」

 

「ちょっと皆ぁぁぁぁぁ?!」

 

「はいはーい! あっちの死神さんの出血は終わったよ~! ……あれ? もうバンビちゃんをイジメる時間なの?」

 

「なんでそうなるのよ?!」

 

 ドヤ顔のリ-ダー(気分)なバンビエッタの高らかな宣言にミニーニャ、リルトット、キャンディスの各々が愚痴り、バンビエッタは駄々っ子のように声を上げながら地団駄を踏む。

 

「皆さん。 乗り気では無いにしても我々には『義務』がございますのをお忘れずに。」

 

「って、アンタは確か……ミーちゃん(三月)()()────?」

 

「────ええ。 『ロバート・アキュトロン』でございます、可憐なお嬢様。」

 

「か、かれッ?!」

 

 ハッシュヴァルトに負けない、ロバートの愛想よい笑みと言葉に竜貴が珍しく顔を真っ赤にして慌てふためく。

 

 ガラガラガラガラガラガラガラ!

 

 そのとき、落ちてきた瓦礫の中から無傷の藍染が出てきた。

 

 正確には、彼の周りの物がまるでバラガンの『死の息吹(レスピラ)』にあてられたかのように崩れていく。

 

「なるほど、『滅却師』か。 だが今のは『飛廉脚(ひれんきゃく)』とは少し違うようだね?」

 

「…………………(なるほど。 霊子圧縮装置の応用で強化した建物をミニーニャの全力で食らってもダメージが全く無い上に、私の『神の歩み(グリマニエル)』と『飛廉脚(ひれんきゃく)』が違うことを一目で看破するとは……『“前陛下(ユーハバッハ)”と同等』、とはよく言ったものですな。)」

 

 ロバートはさっきの『老紳士』が嘘のような、キリっとした真剣な表情になりながら藍染を見ていた。

 

 藍染が姿を見せるに釣られて『ザッザッザ』と靴やブーツがアスファルトの上でリズミカルな(訓練された)足音が鳴る。

 まさに『軍人』と言った、訓練された統一感のある動きと服装で隊列のようなものが出来上がる。

 

 その集団の少し後ろに三月が上空から静かに舞い降りて、カリンが竜貴たちを護る結界のようなものを展開する。

 

「おう、死にたくなかったらむやみに動くなよお前ら?」

 

「あ、ああ……」

 

 竜貴たちの誰が声を出したのは定かではなかったが、それは重要ではなかった。

 彼女たちはただ、目の前の出来事に全員が放心していたことを示したいと思う。

 

「……………さて皆さん。 目の前の(藍染)は、主戦力の死神たちが束になっても阻止出来なかった『脅威』です。 そんな彼らに、『この世に貴方がたのような者が未だに必要だ』と思い知らせる時が来ました────」

 

 三月は深く息を吸い込んでから、気迫の乗った声で怒鳴る。

 

 それは子供からの付き合いのある竜貴でさえも初めて聞くような声だった。

 

 「────Was seid ihr(汝らは何ぞや)?!

 

 「「「「「『Wir sind die Quincy(我らは滅却師)! Ein Wächter der menschlichen Welt sein(人の世を守護する者たちなり)!』」」」」」

 

『(フハハハハハハハハハハハハハハハ! よもや人形ごときが、かように人間を統括するとは大した道化ぶりよな! フハハハハハハハ!)』

『(うるさいよ金ぴか(ギルガメッシュ)?!)』

 

『(そうだよ! ミッチャンってマジ努力してんだかんね?!)』

『(フン、思いあがるなよ貴様ら。 どれだけ“人”を真似ようともしょせん、本質は“人形”や“獣”よ。 “()()”や“()”と我が呼ばないだけ光栄に思え。)』

 

「(あー、マジ金ぴか(ギルガメッシュ)ってばムカつく……)さて皆さん。 覚悟は、よろしくて?」

 

「「「「「Ja(イエス)! Eure(ユア) Majestät(マジェスティ)!」」」」」

 

 ここで三月が素早く息を大目に吸い込んでから一言叫ぶ。

 

「スゥー……Überlaufen(蹂躙せよ)

 

『(フハハハハハハハハハハハハハハハ! 今のはもしや、イスカンダル(ライダー)のセリフをパクったのではあるまいな木偶人形?!)』

『(いつかこの金ぴかに“ギャフン”って言わせちゃる。)』

『(その時はアタシも呼んで。 アタシもマジむかつく)』

『(ハッハッハ! その時は遠慮なく私も見学しようではないか!)』

『『(へっぽこ農民は引っ込んでいて(へっぽこ農民は引っ込んでいて)!)』』

『(Ha(はっ), ha(はっ), ha())』

 

 三月の掛け声で元星十字騎士団(シュテルンリッター)たちが未だに余裕の笑みを浮かべる藍染へ一斉に襲い掛かる。

 

『原作』には全くなかった流れが今、繰り出されようとしていた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ここで少しだけ、上記の一連の流れを簡単に追記しよう。

 

 三月は一護や『拘流(こうりゅう)』を固定していた一心や海燕より一足先に、ソウル・ソサエティにある空座町へと『断界(だんがい)』をカリンと一緒に出ていたのはもちろんの事だが、ちょうど藍染たちの行く道先で気が付いた住民を誘導、または藍染の霊圧に中てられて瀕死の傷を負った人たちの治療をするために身柄をジゼルのもとへと住人たちを連れていた聖兵(ソルダート)を彼女たちは後をつけて、ロバートたちのいる場所へと着いた。

 

 そこでは、虚圏から先行してさらに先に真・空座町へ戻っていたハッシュヴァルトとツキミがロバートたちと話し合っていた。

 

 話の内容は『死神の事情に、いま介入するか否』か。

 つまりは『話し合い』と言うよりは『議論』だった。

 

 ハッシュヴァルトを含めた約半数は『被害がこれ以上“現世”に広がる前に介入すべき』と主張をする反面、ロバートたちは『介入はこの新しい敵が瀞霊廷の残存戦力と全面衝突して、弱ったところを狙うべき』という二虎競食(にこきょうしょく)の策を提案していた。

 

 ハッシュヴァルトたちはすでに瀞霊廷から出ていた隊長格のほとんどがすでに敗れ去ったことを説明するも、ロバートたちは『王宮』に残った者たちを挙げたところで、三月が念話経由でツキミに時間を稼ぐ指示を出し、ツキミから上記のやり取りを念話で取り込んだ情報をベースにその場へと着いた瞬間、ハッシュヴァルトやロバートたちが話しかける前に満面の笑顔でこう言い放った。

 

『“死神たちが止められなかった敵を止められた”という“実績”を示すいい機会の到来よ♪』、と。

 

 ハッシュヴァルトたちは内心『ああ、姫ならやはりそう言うのですね』と安心に似た感情を感じた。

 

 そして口には出していないが、それでも乗り気ではないロバートたちを見て彼女が次に言ったことでその考えが一転する。

 

『それと、()()()()()()()()()()()()()()()()()わ。 それほど貴方たちの“前陛下”と同じくらい()()()()だもの。 』

 

『“前陛下(ユーハバッハ)を消した”と言った者が前線に出る(共に戦う)』というのは、いろいろな意味でロバートたちには魅力的な宣言だった。

 もちろん彼女はそれが狙いだったのだが。

 

 それが三月と彼女に現世へと付いて来た『元星十字騎士団(シュテルンリッター)』たちが藍染と相対する、少し前から現在へと至るおおまかな流れである。

 

 

 ___________

 

 『元星十字騎士団(シュテルンリッター)』 視点

 ___________

 

「「「「「(視える。)」」」」」

 

 滅却師たちはどこぞの何某メカパイロットの口癖を考えながら互いの聴覚と視覚を()()し、それらの情報を元に(藍染)が次にどう動くかような薄透明な幻覚がAR表示のように見えていた。

 

 普通ならばこのような現象に混乱、または脳へと直接入っていく情報の増加に頭がパンクしても不思議ではないのだが、どういう訳か彼ら彼女らは瞬時にこれを()()して活用できていた。

 

「(凄い。 姫様(三月)は、ボクやユーハバッハ様とは違う意味での『突然変異体』だったのですね。)」

「(ひゃー! すっごい戦いやすいー! バックダン、バックダン、バックダンサ~!♪)」

「(オレたちの能力は同士討ちしやすいモノがあるから、こういうのはありがたいな……ちょびっとだけ、あのガキを見直したぜ。)」

「(思いっきり全力を手加減なしで振り回せてミニー、か・い・か・ん♡ (≧▽≦))」

「(うっわ。 ミニーの野郎、完璧にメスの顔してやがるぜ。 ま、アタシも今を()()()と感じているんだから無理もねぇけどな!)」

「(ヒョー! アパートの管理人代理(マイさん)を見て予想はしていたが……あの嬢ちゃん、将来はやっぱり致命的な大物になるなこりゃあ!)」

 

 ハッシュヴァルトたちはそう思いながら藍染とは近づかず離れずの距離を保つ、ヒット&アウェイの攻撃を各々の『聖文字(シュリフト)』の応用や武器でしながら様々な関心をしていた。

 

「(なるほど。 あの小娘、『前陛下』やハッシュヴァルトの『力を分け与える』と言った能力の一種を持っていたか。 これはこれで、利用価値が更に出てくるな。 Very(ヴェリー) good(グッド)。)」

 

 ロバート(腹黒紳士)は別の意味で感心していた。

 

 上記の『聖文字(シュリフト)』が何なのか一言で説明すると、それは『ユーハバッハから一人一人に与えられた固有能力』の事。

 

 これは死神の『始解』のようなもので、各々が違うものを持っている。

 例えば先ほどのロバートが使用した『神の歩み(グリマニエル)』は、『一瞬だけ自身の敏捷を動く物体としての極限』まで高めた上でそれに付いて来られる反射神経を()()()()()()()()()()()()とする。

 

 切り(もぎ)取った高層ビルを持ち運びさせることが出来るミニーニャは『任意での腕力/筋力の調整』。

 

 先ほどから藍染が小手調べなのかどうか、詠唱破棄で放っていた鬼道を()()()()変質して巨大化した口で次々と防ぐ(丸呑みする)リルトットは(その動作から文字通り)『何でも食らい尽くすことが出来る』。

 

 藍染の周りの『あらゆる物質を爆弾に変質』させ、小規模な爆発で彼の不意を突いたりバランスを崩すバンビエッタの能力もその一つである。

 

 そしてロバートに頼まれて重傷の傷を負った空座町の人たちや、市丸の治療を頼まれたジゼルは厳密には『治療』では無いのだが、『治療の応用が出来る』といったモノ。

 

 詳しい詳細は後に表示する予定だが、今はこれでどれだけのことが現世組の竜貴たちや、市丸と乱菊たちの前で行われているか想像が付くと思う。

 

「………………………………」

 

 この止まない雨のような攻撃等を、藍染は未だに薄い笑みを浮かべながら己の頭と胸にあった崩玉は防御し、その他の攻撃を無視していた。

 

 その行動はまるで、攻撃していた『元星十字騎士団(シュテルンリッター)』の一人一人を観察していたようなもので、このことを脳の隅で気付いていた滅却師達も全力は出していなかった。

 

 幸か不幸か、互いが互いを観察する行動と滅却師達の持っていた『外部霊子収集圧縮装置』が藍染の漏れ出す霊圧を集め、各々の能力をさらに底上げしていたのがこの膠着状態を可能させていた。

 

 あとは『原作』では『共闘』どころか、『実績の為の引っ張り合い』を今この場にいる『元星十字騎士団(シュテルンリッター)』がしなかったのも幸いだった。

 

『総員、視野に表示された火線上から退()け!』

 

 頭に直接聞こえて来る少女(三月)の声に従うように、ハッシュヴァルトたちが一斉に左右へと動く。

 

 その先には、竜貴たちの前で黒い弓のようなものと螺旋(らせん)状の短槍らしきモノを矢代わりに構えていた三月がいた。

 

 彼女の周りにはバチバチと赤い色の何かが宙で弾けていて、異様な空気の歪みと共にどこからともなく彼女の周りを風が吹いていた。

 

 表情はいつもの幼い見た目相応の元気な、または陽気なモノとは程遠い真剣なもので、()()()()()()()()()

 

 一言で済ませようとすると、『凶暴な獲物を眼前にした()()』のようなモノとも言えた。

 

I am the bone of my sword(我が骨子は捻れ狂う)偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』!!!

 

 ズッ!!!

 ボギュッ。

 ゴオオォォォォォ!!!

 

 弓から『槍らしき矢』が解き放たれたと思った次の瞬間、青い光線が藍染に直撃して巨大な振動音と砕蜂が撃った卍解、『雀蜂雷公鞭(じゃくほうらいこうべん)』にも負けない規模の爆発が藍染と彼の周りを呑み込む。

 

「………………」

 

 それを『真剣な表情(かお)』でジッと見ていた三月と先ほどからの行動や言動は、長年彼女を知っていた筈の竜貴からでさえも、『自分が知っている知人』からあまりにもかけ離れていたことに放心していた。

 

 さっき()()()()()()()()()()()()()()り、()()()()()()()()()()()()()()()()り、()()()()()()()()()()()()()()()()()り、()()()()()()()()()()()()りなどの出来事は言うまでもなく、竜貴をひどく混乱させていた。

 

「あ、アンタ……本当に『三月』、なの?」

 

 ゆえに彼女は自分や浅野たちを護るかのように立っていた夏梨の後ろから思わず、驚愕と放心したまま上記の問いを出していた。

 

 そんな竜貴に三月が向けた表情は複雑そうな、『大人の事情的な物を持った者の気まずい半笑い』だった。

 

「……うん、そうだよ? 驚かせてごめんね、タッちゃん(竜貴)。 あとで()()、話すから。」

 

「って渡辺さん! 腕! 腕ぇぇぇぇ?!

 

 ハッとして浅野が注目したのは服の袖も含めてボロボロになり、いびつな方向へと曲がり痛々しい見た目に変わった三月の右腕だった。

 

「あぁ、これ? んー、()()()()()だよ?」

 

 その三月の近くに、ロバートたちが降り立つ。

 

「さすがは姫様。 このような奥の手をお持ちとは感服です。」

「スゲェなクソチビ、あれがお前の『神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)』か────?」

 

「────油断しないで。 アレで倒せたなら苦労はしないし、皆に迷惑はかけていないわ。 (少なくとも、動きが止まっていれば────)」

 

「────なるほど。 『久しぶりに“恐怖”を味わせてくれてありがとう』、とここは言うべきかな?」

 

 まるでタイミングを計らっていたかのように、巻き起こった土煙の中から歩いて出てきた藍染は所々から血を流し、左胸から指先までの部分がぽっかりと無くなっていた。

 

 彼が『崩玉』を己に埋め込んで、初の『流血』と『大ケガ』となるにもかかわらず、彼の足取りは態度同様にゆったりとしていた。

 

「(……………いやいやいやいや。 即席の『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』だったとしても、()()バーサーカー(ヘラクレス)は一回ぐらい殺せるほどの攻撃が直撃して『()()()()()()()()』ってどんだけよ?)」

 

 三月は決して表情を崩さなかったが、冷や汗が彼女の頬を伝って彼女の内心で感じた『焦り』を示していた。

 

「さて、なかなかの威力だったが……次の策はなんだ? どうする? 今度はどんな手段を取る?」

 

「(やっぱり、私が言うのもなんだけど藍染は()()()()ね。) でも、目的は果たせたわ。

 

 スタッ。

 

 三月の零した独り言と同じタイミングで藍染の背後に一心を担いだ髪の伸びた一護と、一心と同じようにぐったりとした海燕を担いだ()()()()()()()()()()()が降り立った。

 

「ん? 黒崎一護と……ネガシオンを貫いた者か。」

 

 チエは海燕を下して、一心を一護から預かる間、一護は周りを見渡していた。

 

「……やたらと軍服を着た奴らが多いな?」

 

「ハッシュヴァルトとロバートたちの手回しだろう。 あそこに二人もいる。」

 

「知っているのか? つーかこの感じ……全員、滅却師なのか?」

 

「ああ。 それに一応、私は彼らの『陛下』だからな。」

 

「………………………き、聞きてぇ事が一気に増えたけど……石田がこのことを聞いたら卒倒するぜ? 色々な意味で。」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。」

 

「お前が言うのならそうなのだろう。」

 

 次に一護が見たのは周りの人たちだった。

 

「たつき、啓吾(けいご)、水色、本匠、小川、観音寺のおっさんと……………………………………………………」

 

 一護がハッシュヴァルトたちを見て、いったん言葉を止めた。

 

「…………………………ハッシュドポテト(ハッシュヴァルト)ディズニー(バンビエッタ)ロバのおっさん(ロバート)チャラ男(アスキン)────」

 

 「「「「「────違うから! 分からないならそうとハッキリ言え!/言えよ?!/言ってくれたまえ?!」」」」」

 

「黒崎一護とその友人……………場所を移そうか?」

 

「……ああ。」

 

  ヒュッ!

 藍染の提案に乗った一護、そしてチエがその場から消えると今までの緊張感を息で示すかのように、三月は息と声を吐き出す。

 

「……………………………………ブハァ~~~~~~~~~~~! ああああああ!!! 疲れた~!」

 

「……姫様、これでよろしいのでしょうか?」

 

 一番近くにいたハッシュヴァルトが声をかけ、ニコニコし始めた三月が答える。

 

「ん? うん。 あの二人なら、()()()()()()()()()()()()()()。 (『浦原喜助』も前もってここに来させたし、彼の術が発動して()()()…の筈。)」

 

「「「「「………………………………………………………………………」」」」」

 

 未だにニコニコとする三月以外、その場にいた者たちは言葉を失くしたか、困惑するか、呆気に取られるかのどれかをした。

 

 またはその全てが混ざり合わさったようなモノになった。

 

 ドォォォォォォ!!!

 

 町外れより更に遠い距離とはいえ、地鳴りを鳴らせる炎の柱が天へと高く舞い上がった。

 

「(今のは、『原作』で藍染が一護を襲ったやつね。 と言うことは、次はあれかな? 『俺が月牙(げつが)になることだ』の奴……)」

 

 ────!!!

 

 次にさっきより巨大な『黒い膜』のようなものが見え、『耳の鼓膜が破れた』と錯覚するほどの音量で現れる。

 

「一護……なの、今のって?」

 

「うん。 そうだよタッちゃん(竜貴)。 (確か『無月(むげつ)』、って呼んでいた技かな? ………………私にとっては縁が悪いネーミングだけど、実物は凄いなぁ~。)」

 

 カッ!!!

 

 更にここで『原作』には無かった、新たな光と波動に三月も周りの皆のように驚愕する顔となる。

 

「(今のは……………もしかして()()()()()?)」

 

 

 ___________

 

 浦原喜助 視点

 ___________

 

 目の前の封印された藍染を、ボクは見上げていた。

 すぐそこでは息を切らした『黒崎一護』が『渡辺チエ』に肩を貸されていた。

 

 ここまで自分が練った計画は()()に、予想通りに事が運んだ。

 

 ……いや、『完璧すぎた順序』と言ったほうがいいだろうか?

 

 偽・空座町で限られた時間内で、出来るだけ身を隠しながら崩玉と合体した藍染の観察と対策を練っていたボクを三月さんたちが『黒腔(ガルガンタ)』から出てきてすぐに見つけて来たのにビックリしましたが………………

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まず三月サンが『携帯用義骸(けいたいようぎがい)』でボクになりすまし、その間にボクを前もっていずれ藍染が移動するであろう、ソウル・ソサエティの荒野に『藍染封印型の鬼道』を数個、各場所に設置。

 

 そしてそれらが終わると同時に『藍染惣右介』、『黒崎一護』、そして『渡辺チエ』の三名が本当にそこへと着いた。

 

 焦ったボクは自分特製の霊圧遮断外套を思わず落としそうになり、一連の出来事を見守り、驚愕した。

 

 あの『黒崎一護』が崩玉と融合した『藍染惣右介』を圧倒したことに。

 

 見たところ霊圧、そして純粋な腕力は軽く藍染を凌駕していた。

 

 最後には『無月』と言う技で藍染を真っ二つにして、そこから急激に『黒崎一護』が弱り始めた瞬間に藍染は動いた。

 

 己の体が再生中なのを無視するように黒崎サンに襲い掛かりながら、『貴様さえ死ねば!』と叫びながら。

 

 初めて聞く、『必死な藍染の声』だった。

 

 その時点で、『渡辺チエ』が動いた。

 

「『壱ノ型・龍閃(りゅうせん)』!」

 

 素早く黒崎サンと藍染の間に入り、ほとんど右半身を失った藍染の右わき腹から左肩まで逆袈裟(さかげさ)でさらに斬ると、『無月』とは違う輝きと共に藍染の体はさらにバッサリと斬られて胴体と頭だけの状態となった彼を『渡辺チエ』が左手で殴った。

 

おのれ! ワタシのジャマをスルな! クロサキいちごがシニさえすれば────!」

 

 そこでやっとボクの術が完全に起動して、藍染が封印された『現在()』となる。

 

「お疲れ様っス、黒崎サンにチエさん。」

 

「浦原さん……」

「浦原か。」

 

 ボクの声に、黒崎さんが何か言いたげな顔を────

 

「────ああ、『なんでここに居るのか』ですか? そりゃ勿論、見ての通りっス。 アタシが見たところ、『崩玉と融合した藍染を殺すのは不可能』と判断しただけっス。 だから『封印』に方針を変えて、新たに開発していた鬼道を使用しました。」

 

「…………………」

 

「ああ、お疲れのようでしたら友人たちへの説明はアタシが────」

 

「────いや、いい。 もう隠すのはヤメだ。 俺の口から直接伝えるよ。」

 

「私も付き合うぞ、一護。」

 

「そうっすか……………」

 

 黒崎さんは、何とも言えない顔で藍染が封印された『封印架(ふういんか)』を見上げる。

 

「時期に瀞霊廷に運ばれて、四六室に彼の処遇が決定されるでしょう。 ……皆さんの命や、この世界を藍染から護ったんスよ? もっと胸を張ってください。」

 

「…………………………なぁ、浦原さん。」

 

「ん?」

 

「俺……藍染と戦って、アイツの刀に触れたとき……流れ込んできたのは『()()()』だけだったんだ。」

 

「……なんですって?」

 

アイツ(藍染)は……もしかして────」

 

「────らしくないぞ。 胸を張れ、一護。」

 

『渡辺チエ』がピシャリと、黒崎サンの言葉を遮って、彼は驚いたような顔を彼女に向けた。

 

「けど、俺だけの────」

 

「────奴は胸に戦火(せんか)を持ち、お前に挑んだ。 それを、お前が()()()()()で打ち取った。 弱ったお前を奴は玉砕覚悟で葬ろうとしたのを私が止めたとしても……ここでの『勝者』はお前なのだ、一護。 もし後ろめたい心が残っているのなら、(藍染)の心をお前が預かって、先を行け。 それが……『勝者の責任』だ。」

 

 あらら。

 これは驚きですね。

 

 彼女、黒崎サンの前では彼を気遣うような言葉だけではなく、こんなにも多弁になるんすね?

 

 ……………………フム。

 彼も、どこか満更でもない表情っスねぇ?

 

「そう────ガッ?!

 

 急に黒崎さんの顔が青ざめて、ひどい痛みに苦しむかのようにゆがんだ。

 

「一護?!」

 

 

 

 ここで浦原は思わず驚愕した。

 

 今までは『この子、表情筋(ひょうじょうきん)がマヒしてるんじゃないっスかねぇ~?』と思っていた彼の前で、チエが目を大きく見開いたことに。

 

 ___________

 

 ■崎15 視点

 ___________

 

 目を開けると、『そこ』は暗かった。

 真っ暗闇の中、俺は浮いていた。

 

 いや、そう思っただけかも知れない。

 

 なにせ平衡感覚自体があやふやで、どこが上下なのか、右も左もわからない状態だった。

 

 そんな暗闇の中を俺は歩いた。 もしくはそう錯覚しただけかも知れない。

 

 ……アイツ風に言うと『フラッシュ無しでトンネルを移動した』ことになるのか?

 俺には無理だけど。

 

 そんな中、遠くで蛍の光のようなモノが見えて俺の足取りは自然と早くなった。

 近くまでくればそれらは海の中で漂う泡のように浮いていて、数も多かった。

 

 シャボン玉のように小さく、数多いそれらの中を見ようとすると俺の記憶だということが分かった。

 

 まるで昔、学校の社会科見学で経験したプラネタリウムのように目の前でそれらが広がって映し出される。

 

 ……………ああ、これはガキの頃だな。

 遊子も夏梨も小さいし、俺の視点も低い。

 空手の道場にも頻繁にまだ行っているし。

 

 けど不思議なことにそれらを見ていく中、俺はある違和感に気付いた。

 

『チエや三月が居ない』。

 

 ………………変だな。

 同じ空座町の景色とかだけど、あの二人がいないだけでなんか……違うな。

 

 悪戯好きで口うるさいアイツは別として、チエがいないのは……()()()()()()

 

 だって、アイツは……

 

 俺にとって────



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第99話 Thereafter Arrancar Arc

お待たせしました、次話です!

アンケートへの投票は受けいますのでご協力の程、何卒よろしくお願い申し上げます!

前話の前書きと活動報告にも記入しましたが、アンケートに直接投票できない方たちも感想欄にての感想投票ができます! よろしくお願いします! 

最後に楽しんで頂けると幸いです! m(_ _)m

追記:
この話に限定の『外伝(?)アンケート』も出しています。 お手数おかけ致しますが何卒よろしくお願いします!
こちらも感想欄にて投票可能です。

ただアンケートを同時に二つも出したことがないので、この後の展開アンケートと同時に表示されるかどうか不安を感じていますので、被るようでしたら今週の水曜日当たりまでの結果で『外伝(?)』を次に出すかどうか決めます。 (;´・ω・`)

余談ですが次に出さなくても、後に出す予定は一応ございます。 

11/1/2021 8:05
二つのアンケートが同時に出ないのが判明しましたので、活動報告にて『外伝(?)』のアンケートを取りたいと思います、申し訳ございません! お手数かけますがご協力をお願い申しあげます!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 さて。

 前話でチエが日番谷達につけられた傷などが、雛森の回道によって治療を施されていた*1筈なのになぜ治療が終わっていない一連(理由)をざっと説明したいと思う。

 

 時は藍染が護廷と『仮面の軍勢』たちを戦闘不能にさせてから、市丸に『穿界門(せんかいもん)』を開けさせてソウル・ソサエティへと旅立った後。

 

「う、うううぅぅぅぅ…………」

 

 雛森は泣いていた。

 

 泣きながら、チエの治療を行っていた。

 

 それは悔しさでもあり情けなさ、あるいは治療が上手くいかない故のイラ立ち。

 そんな様々な感情が彼女の内心でうごめいていた。

 

「(『原作情報』の元に、バラガンの技をあらかじめ食らって良かった。)」

 

 そう思いながらチエは傷より霊力の回復がされていたことに気付いたのか、無理やり体を起こした。

 

「桃。」

 

 雛森は名を呼ばれて、彼女の体が反射的にビクリと跳ねた。

 

「私はもう良い。 ()()()()()()()()()()()()()。 心配しているのだろう?」

 

「……ぇ?」

 

 チエの言った言葉があまりにも予想の範囲外……………というよりはズバリと的中していたので、雛森は戸惑った。

 

 そんな彼女に、チエは以下の事を訊いた。

 

「奴はお前の()()()なのだろう? 私はこのように動け────」

 

「────お、おおおおお想い人だなんてそんな! ()()()()()()()()()()()()()で! それに、私は────!」

 

「────()()()()だな、桃は。」

 

「嘘なんかじゃありません、私は……私は────」

 

「────お前の目は、()()()()()などに向けるものだ。」

 

 そう言いながら、チエが思い浮かべたのは黒崎家で見る遊子や夏梨が一護に向ける視線や言動。

 それらが最近の雛森とどこか酷似していて、上記を連想させていた。

 

「でも、そんな、だって────!」

 

「────日番谷に『自分の事をどう思うのか』を訪ね、返答を聞き、自分の胸に耳を傾けろ。 ()()()()()()()()()()()()。」

 

 それを最後にチエはその場から消えて、一心たちがいる場所へと移動し、開かれた『穿界門(せんかいもん)』をくぐった。

 

 その間、雛森は困惑しながらとりあえずは言われたとおりに日番谷がいる場所へと移動し、彼を治療しながら悶々と考え込んでいた。

 

「(そんな。 急に言われても……わかんないよ……)」

 

 考え込む間、彼女は今までチエと過ごした時間を思い出し────

 

「────ウッ……雛、森か? (何で……俺を?)」

 

 気を失っていた日番谷が目を覚ましたことが嬉しかったのか、雛森は満面の笑みを思わず浮かべながら()()()()安楽した気分となった。

 

「シロちゃん?! よかったぁ~。」

 

 雛森の笑顔に、日番谷は自分の顔が熱くなっていくのを必死に抑え込んで『イラつき』で誤魔化そうとした。

 

「(こいつのこの顔、やっぱ慣れねぇし……ヤベェ。) …………隊長……だって言って……それに、顔が(ちけ)ぇよ────」

 

「────ぁ。」

 

「……?」

 

 ここで雛森はとあることに気付いたように声が漏れ、日番谷の困惑する顔に気が付いた様子は無かった。

 

「(これって……よく考えると、チエさんたちや……(藍染)と感じていたモノとは()()?)」

 

 確かに彼女はチエたちにある種の好意は持っていただろう。

 何せ彼ら彼女らの周りにいると『()()()()()()()』ことは間違いなかった。

 

 だが先ほどチエに指摘されて今感じている、この『心の安楽』というのは決まって日番谷関連の場面しかないことに気付いて不思議に思った。

 

「(近ぇよ近ぇよ近ぇよ近ぇよ近ぇよ近ぇよ近ぇよ近ぇよ近ぇよ近ぇよ?!)」

 

 この間にも、ほとんど顔を至近距離でポカンとした表情で固まった雛森に、頬を赤くし始める日番谷が回復した気合も含めて怒鳴る。

 

「(ジー)」

 

 「だ、だから! (ちけ)ぇって────!」

 

「────ねぇ、シ────日番谷君。」

 

「お、おう????????????? (きゅ、急になんだ?)」

 

「後で、()()()()()()()()()の。」

 

「お、おう…………(話したいこと???? 雛森が、俺にか? 珍しいな。)」

 

 キリっとした雛森の顔にドギマギし、目をそらしながらモジモジする日番谷を乱菊が見ていれば『きゃー! 照れる隊長ってばキャワイー!♡』とでも叫んでいただろう。

 

 余談ではあるが、このとき他の隊長や隊士たちが気を失っていたのは、日番谷たちにとって不幸中の幸いだったのかもしれない。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そのまま傷を完治せずにチエは一心、そして海燕と共に『断界(だんがい)』の中で一護の刃禅(じんぜん)が終わるのを待った。

 

 三月はすでにカリンと共に真・空座町へと出ていたらしく、チエは汗を大量に流す一心と海燕のようにただ瞑想するかのように目をつむって静かに座っていたところ、一護が突然目を開けた。

 

「……………………………チエ。」

 

「起きたか、一護。 『最後の月牙天衝』は会得したのか?」

 

「……………………ああ。」

 

 余り覇気がない一護にチエが目を開けて視線を彼へと向けると、一護は複雑な顔をしていた。

 

 それはどこか『寂しい』、または『切なさ』や『虚しさ』を感じさせるようなもので、彼女が自分を見ていることに気付いた一護が口を開ける。

 

「なぁ、チエ?」

 

「なんだ?」

 

「俺……………………」

 

 そこで一護は口をつぐみ、眉間にシワをさらに寄せる。

 

使()()()()()()のか?」

 

 チエの言葉に、一護の目が見開いて彼女を見る。

 

「ど────?」

 

「────お前がそのような表情(カオ)になるのは、決まって何か言いにくいものに困っている時だ。」

 

「……………………」

 

 一護が黙り込む、立ち上がる。

 

「いや、忘れてくれ。」

 

「そうか。」

 

 そこから気を失ったまま倒れこむように落ちる一心と海燕の体を二人が担いで、真・空座町へと出て『偽・螺旋剣(カラドボルグII)』を目印に藍染の背後に降り立つまでの出来事だった。

 

 そこからはご存じの通り、一護が『最後の月牙天衝』を放ち、弱った彼を藍染が襲い、チエが『壱ノ型・龍閃(りゅうせん)』を使い、弱った藍染に浦原の設置した鬼道が発動した事で封印され、『一護が気を失う』までの一連の出来事である。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場所は瀞霊廷の中、詳しくは四十六室の中央地下議事堂(ちゅうおうちかぎじどう)

 

 以前の『浦原裁判』も本来はここで行われるはずだったが、藍染が四十六室を皆殺しにした後拠点としていた為、本格的な調査が行われていたのでその時は一番隊の隊舎の隣にあった旧議事堂がその際には使われていた。

 

 言うなれば、初の『本来の四十六室の活動』とも言えた。

 

 「元三番隊隊長、市丸ギン! そして元九番隊隊長、東仙要! 前へ!」 

 

 大きな声で、四十六室の裁判官長らしく者の叫びが大きな部屋の中で力強く響いた。

 

 部屋の中央には手枷をされた市丸が以前の調子を戻したのか、薄笑いを浮かべて裁判官長を見上げていた。

 

 彼の隣では右腕を失くした状態のまま、同じく拘束された東仙が立たされていた。

 

 周りは四十六室の者たちと、隠密機動が数人だけ。

 

 「貴様らの判明した今までの行いは未来永劫許される事はないと、常に心に留めよ!」

 

 そしてここで裁判官長は急に気まずくなったのか、いったん言葉を区切っては奥歯で苦虫を噛みつぶしたような表情をして彼の歯が『ギリッ』と音を鳴らす。

 

「………しかし…………他者の報告や証言などにより、『情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)の余地あり』との判断である。 ありがたく思え! 故に、貴様らに()()()()()()()を与えよう!」

 

 裁判官長の宣言に四十六室はどよめき、あるいは驚愕に息を素早く飲み込む音などが部屋を行き渡る。

 

 これに市丸も例外ではなく、笑いながらも両目を開けてこめかみに青筋を浮かべていた裁判官長を見る。

 

 東仙は口をポカンとした様子のまま、『今までの人生で頼りにしてきた聴覚がついに壊れてしまったのか?』、と思ったそうな。

 

「市丸ギン、そして東仙要! 地下監獄最下層第八監獄、『無間』にて五百年の投獄刑! もしくは、()退()かを選べ!」

 

「「…」」

 

 市丸が呆気にとられたのが一瞬だけ明らかになるが、彼はニマニマとした笑みへと戻る。

 

「ひゃぁ~、太っ腹やなぁ~。 そないなもんでええですの────?」

 

 「────口を慎め貴様ぁぁぁぁ! 前者か後者! 『無間』か『脱退』のみ口にせよ!」

 

「それでしたら、護廷を抜けさせてもらいますわぁ。 要もそれでええやろ?」

 

「え?! わ、私は────!」

 

 カァン!

 

 木と木がぶつかり合う音とともに裁判官長が判決を下し始める。

 

 「────判決を言い(わた)ぁす! 元三番隊隊長、市丸ギン! そして元九番隊隊長、東仙要! 貴様らは護廷に相応しくない人材たちである! よって隊長の座をはく奪する! 及び『蛆虫の巣』に即連行、永久収監(しゅうかん)(しょ)す!」

 

 カァン!カァン!

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 市丸と東仙が再び拘束されてから移送される中、とある人物たちに気が付いた二人は違うリアクションを取っていた。

 

「なんや吉良、ここまで見送りに来たんかいな? ご苦労さん♪」

 

「………………乱菊さんには、『言った』んですね?」

 

 ここで市丸は珍しく、半笑いを浮かべた。

 

「……………そう言えばそうやな。 吉良、ごめんな? いつも苦労かけて?」

 

「…………………………それは『三番隊の皆に言っている』と、受けて良いんですか?」

 

 市丸は両目を開けて、じっと吉良を見た。

 

「なんや、やっぱ吉良は『出来る子』やわぁ。 『副隊長が君で、本当に()かった』って、ボクに思わせるほどに♪」

 

「市丸隊ch────」

 

「────ああ。 そういえば隊長室の裏庭にある離れの中に作っといた干し柿があるから、皆で仲良(なかよ)う分けてくれる?」

 

「…………………………わかりました。」

 

 東仙の前に立っていたのは狛村だった。

 

「狛村────」

 

「────檜佐木は重傷でここへは来れんかった。 だから奴の代わりにワシがここにおる。」

 

 狛村は東仙の右腕があるはずの場所をチラリと見たのを、東仙は感づいて嫌味のこもった笑みを浮かべる。

 

「……この姿、酷く醜いものだろう? 目が見えるようになった今、隻腕(せきわん)の身になったとは……笑えるだろうよ。」

 

「なぁに。 お前とワシ、醜い者同()になっただけではないか?」

 

「………………フ、そうだな。 その通りだ。」

 

 そう言い残し、四人は離れた。

 

 ………

 ……

 …

 

 その間、上記の市丸と東仙の後に来た『本命』とも言える主犯格の声が四十六室たちをあざ笑うかのような声で喋っていた。

 

「君たちごときが、この私に『判決』とは滑稽極まりないな。」

 

「んぐ!」

「大逆人が! 『死ねぬ』と図に乗りおって!」

「その口と眼にも拘束をかけろ!」

 

 「問答無用の判決を言い渡す! 元五番隊隊長、藍染惣右介! 地下監獄最下層第八監獄『無間』にて二万年の投獄刑に処す!」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「お前たち、ワシを過労死させたいのか? え?」

 

 その間、一番隊の隊長室では京楽、浮竹、白哉、そして更木が山本元柳斎の静かな怒りを前にして殆どの者たちが冷や汗をひっきりなしに掻いていた。

 

「隊長羽織が傷つくのはともかく、『無くした』とはどういう了見じゃ? お?」

 

 ここで再度、上記の者たちがいつ隊長羽織に傷、または無くした状況を示そうと思う。

 

 浮竹はワンダーワイスの奇襲により、穴をあけていた。

 

 白哉は『自称十刃最速』のゾマリとの戦闘で、隊長羽織はボロボロになっていた(『“空蝉(うつせみ)”の犠牲になった』とは言い訳にしか聞こえないので彼は報告していなかった。)。

 

 更木はノイトラとの戦闘でボロボロになった隊長羽織を自ら破り捨てていた(そして完全覚醒したヤミーとの戦闘の余波でかけらも残らず灰へと化した)。

 

 京楽は浮竹に隊長羽織を預けていて、藍染との騒動などが起きて最終的に見つからず、『えへ☆ 無くしちゃったよん山じい♪』と言ってさっき頭をはたかれたばかりだった。

 

 余談ではあるが、京楽の隊長羽織は山本元柳斎の『一刀火葬(いっとうかそう)』に巻き込まれて燃え去ったのは誰もが知る余地はなかっただろう。

 

「ま、まぁまぁ先生? 俺たちも『この前の戦闘は余裕がなかった』のは誰もが経験し、反省したと思います。 これを教訓にしてみてはどうかなと俺はおm────?」

 

「────そうか? 俺ぁ邪魔だったから脱ぎす────」

 

 ドゴッ!

 

「────デダガハァ?!」

 

 浮竹の言葉を更木が本音で遮ろうとしたとき、彼の両側に立っていた浮竹と京楽が息の合った肘打ちを更木に同時に食らわせて(物理的に)黙らせていた。

 

 効果てきめんだったらしく、更木はヒューヒューと息を出している間に白哉が口を開ける。

 

「総隊長殿。 浮竹の言ったことは決して外れてはいないと、私は思う。 隊長羽織の代ならば、朽木家が出そう。」

 

「それより、四十六室への被害届や説明をワシと誰か代わる、または付き添ってくれぬかのぅ?」

 

 ドヨ~ンとした山本元柳斎を前に、浮竹、京楽、白哉、更木がお互いを一瞬だけ見た。

 

「────ああいけない今日は卯ノ花隊長(四番隊)に体の調子を診てもらう日だったんだ────!」

「────僕は平子君たちやリサちゃんや七緒ちゃんなどを待たせているから────!」

「────緋真の命日なので、ルキアとの待ち合わせの時間が迫っております故────」

 

 浮竹、京楽、白哉はさっさと隊長室を後にした。

 

 ボリボリと頭を掻く更木を残して。

 

「……………ああー、横に立っとけば(威圧すれば)良いんだろ? 相変わらずメンドクセェなぁ。」

 

 山本元柳斎はがっしりと彼の空いていた手を()()()がっしりと掴んで、静かに感激の涙を流した。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「さテ。 詳しい話を聞こうではないかネ?」

 

 何某刑事ドラマで出てくるような薄暗い取り調べ室の中で、マユリは両肘を机の上に立てて両手を口元で組んでいた。

 

「うーん……貴方が『碇ゲン〇ウポーズ』をやるより、浦原さんのほうが合っていると思うけど?」

 

「茶化さないでくださいよ。」

 

 ここで薄暗い取り調べ室を照らしていたランプの中に浦原がいつものチャラチャラした顔ではなく、真剣な表情を浮かべて座っていた三月を見ていた。

 

「今度こそ、洗いざらい吐いてもらいますよ?」

 

「話を聞いてそれらを照合すると君は『死神』、『滅却師』、『虚』の性質を()()持っているそうだネ?」

 

「………………………」

 

「最初、貴方はご自分を『滅却師モドキ』と説明していましたね? なのに貴方は周囲の霊子を取り込んでは何度か、『()()()()()()』を使っていましたね?*2

 

「そして君が『正規の人間ではない』ということも判明していル。 君のその体はどこか『義骸』に近イ。 忌々しいがネ。」

 

「へぇー? 涅サンもそこまで辿り着いていたとは感心です。」

 

「私ほどになると、見ただけでいろいろと解かるのだヨ。」

 

「ネムさんの────おっと失礼っス。」

 

 ネムの名前が浦原の口から出た瞬間、マユリのこめかみには無数の青筋が浮かび上がったことに、浦原は言葉を慎んでから三月に話しかけた。

 

「話を戻しますが、貴方の使う『霊剣(れいけん)*3や『霊丸(れいがん)*4。 あれらは『滅却師の技術』というよりは『虚』、詳しくは『虚閃(せろ)』の応用っスね?」

 

 実は上記の事は浦原本人だけではなく、雨竜の能力(チカラ)を取り戻すための訓練中に雨竜の父、竜弦(りゅうけん)が浦原と分析して双方が行き着いた結論だった。

 ここで浦原はチラリと横にいた(イヤ~な目で浦原を見て)マユリで横眼を見てから以下の事を言い出す。

 

「次にウルルやジン太に、『涅ネム』たち『改造魂魄(かいぞうこんぱく)』の事です。 貴方の『母』を自称しているマイさんも恐らくは似たようなものと貴方は説明していましたが、彼女はあまりにも()()()()()()()()()()。」

 

 ピクリとマユリの眉毛が反応する。

 

「『特化した疑似的な魂と人工の身体』を持ったウルルたちと同じの筈、ですが彼女はどちらか『自然な存在』寄りっすね? それに貴方の助言などで、ウルルやジン太の成長には眼を見張るものがありました。

 まるで()()()()()()()()()()かのような、『経験者』の指導の仕方でした。*5

 まだまだいくつか例などはありますが、まだ喋る気にはなりませんか?」

 

()()、ね。」

 

 ここで取り調べ室の扉にノックオンがする。

 

「おや?」

 

 浦原が扉を少しだけ開けて外の者と何かボソボソとした小声でやり取りを数秒間した後、扉は占められて、浦原は三月に振り向く。

 

「たった今、市丸ギンと東仙要の処罰が発表されました。 『護廷からの脱退』だそうです。」

 

「そう……よかった────」

 

 胸を撫で下ろす三月に対し、イラついていたマユリが言を挟む。

 

「────それデ? まさかここで()()()()()()()()()()()()()などとは言うまい? いや、いっそ言ってくれたまエ。 そうすれば私は君を合法的に解剖────」

 

「────私は『()()()』よ。」

 

 部屋の中にいる浦原とマユリの目が細められる。

 

「ほお? まさか数週間前に感知されていた、特大の『叫谷(きょうごく)』と君が関係していたとはネ。」

 

思念珠(しねんじゅ)』。 そして『叫谷(きょうごく)』。

 

 それらは自然現象としてソウル・ソサエティに認知されているもので、『思念珠(しねんじゅ)』とは『輪廻の輪』から外れた魂魄がエネルギーと記憶に分かれた際、記憶が互いを引力のように呼びつけさせた、いわば『()()()()()()』の事である。

 

 この『思念珠(しねんじゅ)』はよく現世に様々な形の生物で現れるとソウル・ソサエティでは()()()()()()

 なぜ『()()()()()()』と曖昧なのかは『叫谷(きょうごく)』などの説明をしてから示そう。

 

 記憶から離れたエネルギーは『欠魂(ブランク)』と呼ばれる存在となり、『輪廻の輪』から『断界(だんがい)』へと落ちては彷徨い、上記の記憶のように集まっていずれ『叫谷(きょうごく)』という亜空間を作り出す。

 

 尚この出来事は先ほど言ったように自然現象であり、本来は時間と共に『思念珠(しねんじゅ)』は徐々にエネルギーを失って消えた際には『叫谷(きょうごく)』へと記憶らが融合し、記憶とエネルギーが戻った魂魄たちは再び『輪廻の輪』へと戻る。

 

 そしてこの動作の副作用によって、『思念珠(しねんじゅ)』という『記憶』は()()()

 もともとは『無い筈の記憶集合体』という存在。

 

 消えれば記憶には残らない。

 

 だが『()()』に現象自体は残る。

 

 故に『“思念珠(しねんじゅ)”は様々な形の生物で現れると()()()()()()』。

 

 

 浦原とマユリの興味がそそる中、三月はとある日々を思い出す。

 

 それはちょうど、木々の紅葉が目立ち始める時期だった。

*1
94話より

*2
5話などより

*3
20話より

*4
22話

*5
10話より




平子:おい見たか、このアンケートの投票する選択肢?

作者:え? えーと……なにか?

平子:『すきやき』ってなんやねん?!

作者:えっと、近頃急に冬なりましたし────?

平子:────冗談が寒すぎるわ、ボケ!

作者:……………………………………………冬だけに?

茜雫:じゃあ皆、次話で会おうねぇ~!

平子:……誰やねん、お前?

作者:アア、ウン。 ソウナリマスヨネー

茜雫:ふみゃ~……コタツの温かさが染みる~

作者:リアルでコタツがあったらなぁ~


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第100話 Black+White=Grey

お待たせしました、次話です!

外伝っぽい(?)回想の続きは後に出す予定となりました!

98話から始めたアンケートの期間は次話までと予定しております!

あと何気にアンケートの投票具合にちょっとびっくりしています。

ご協力してくださった形に感謝を! 誠にありがとうございます! 
m(_ _)m 

まだ直接アンケートに投票、または感想にて投票していない方にもお手数おかけ致しますが投票にご協力の程、何卒よろしくお願い申し上げます!

*注* オリジナル展開などが更にここから爆裂します。 ご了承くださいますよう、お願い申し上げます。

11/3/2021 8:24
誤字修正いたしました。


 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 ギィィィィィィ~~~~!!!

 

「☆〇■♪  (´゚д゚`)~~~~~~~~~?!?!?!?!」

 

 思い出に浸ろうとした瞬間、三月の聴覚を意味不な音が襲って彼女は言語化できない悲鳴を上げる。

 

 向かい側にいたマユリは手にもっていた黒板をひっかいたようで、彼の近くにいた浦原は何か耳栓のようなものをしながらも顔がヒクついていた。

 

「(いいいいいいい今のなんじゃあああああい?! メチャクチャモロ本気(マジ)()()んだけど?!)」

 

「随分と()()だろう? 私の爪が発するのはチャチな『音波』だけなどではなく、『魂』そのものに響かせる『超音波』も可能ダ。 さぞかし、魂魄の塊(記憶集合体)である『思念珠(しねんじゅ)』である君には効果てきめんダロウ?」

 

 目が回りながらクラクラとする様子の三月を無視して、マユリが話を続ける。

 

「それデ? 『思念珠(しねんじゅ)』がここに居るということは『叫谷(きょうごく)』、もしくは『欠魂(ブランク)』の増加が感知されているはずだが一向にそのような報告は来ていなイ。 これを君はどう説明すル?」

 

 三月はチラリと耳栓を外す浦原を見てから、視野がブレるまま答えた。

 

「あ~……浦原さんに説明したんだけど、私は()()()()()()()()』なの。 だから────」

 

 ここでマユリが『ズズイ~!』っと顔笑顔にしながら近づかせ、彼女は座ったままできるだけ顔を後ろへと動かす。

 

「────おおおおおおおおおおおおおお?!」

 

 「ほゥ、ますます興味深いね? どうだろう、このままさっそく私のところ(研究室)へ────?」

 

 「────全力でお断りしていただきます。」

 

「ではでは、『自称()()()()()()()』サンは何をしにここへ来たというのでしょうか?」

 

 マユリが舌打ちを打っている間、浦原は脱線しそうな会話を本題へと戻すと、その部屋の中の空気がピリピリとしたものに豹変する。

 

 警戒、あるいは殺気と言っても過言ではないそれは思わず部屋の外と隣の部屋にいた者たちにまでしっかり伝わっていた。

 

「えっと……『()()()()()()()()』っていうのは本音だよ?」

 

「「え。」」

 

 キョトンとする三月に浦原とマユリはまるで『それでいいのか?』と問うような顔をしながら呆気にとられた、この顔を見た三月は笑うのをこらえて『完璧な嘘ではない(偽りの中に事実を混ぜた)事実』を言い続ける。

 

「ん~……()()()では()()()()があって()()()()()()()()()()()()ものの()()()()()()しちゃって()()()()()()()()()()()()()()()の。」

 

 余談ではあるが彼女は()()()()()()()()

 

 だが()()()()()()ではない。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 更に時は進んだ同じ日。

 

「フォッフォ、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 のぉ? ()()()()()()よ。」

 

「死神の護廷、しかも総隊長との記憶に残っていては。 ()()()()()()()()でしたので()()()()()()()()()()()()()()()です。」

 

「「ハッハッハ。」」

 

 上記の二人の近くには一人、まったく飲む気になれないまますでに冷え冷えに冷めていた紅茶のコップと湯呑が一つずつ置かれた少女が一人。

 

 「(危うし私の()、タシケテ誰か。

 ただいま予定無しライブで超マジピンチ。)」

 

 三月は胃に穴が開きそうな勢いの日や汗を掻きながらで山本元柳斎と、ロバート(腹黒オヤジ共)に挟まれていた。

 

 というのも二人は『単なるお茶会♡』と称した『政治抗争』へ真っ先に突入してすでに繰り広げていた。

 

 上記のやり取りもその一つで、(三月を通した)通訳をルビに表せれば以下の文章と変わる。

 

フォッフォ(ハッ)“滅却師”とは懐かしいのぉ(ロートルが何を今更)昔を思い出すわい(事がほぼ終わってからいけしゃあしゃあと)。 のぉ(そうだろ)? そこな老紳士よ(のおいぼれジジイが)。』

 

死神の護廷(日和った集団)、しかも総隊長との記憶に残っていては(私よりの歳食ったおいぼれが)。 随分な変わりようでしたので(その丁寧にそろえた残りヒゲ)私の心配が憂鬱に終わって何よりです(を剃りおろしぞテメェ)。』

 

『『ハッハッハ(チ、このくそジジイが)。』』

 

 そのことを頭に留めておけば、それから何時間と延々部屋の中にいる彼女(+雀部&ハッシュヴァルト)のハラハラする内心が目に浮かぶだろうか?

 

 ここに実質上、死神のトップと現滅却師代表人たちがいるのは他でもない、互いの組織についての縄張り シマ 勢力圏と潰し合いやり合い 昔の怨恨が続くかどうか。

 

 まさに、この『時代の変革期』と言ってもいい『お茶会♡(政界議論)』に()()()三月が居合わせていた。

 

 ………………………………………………………まぁ、理由は単純に彼女が『姫』とロバートたちに呼ばれて急遽尋問部屋取り調べ室に隠密機動が乱入して彼女を『お茶会♡』に連行されて来ただけである。

 

 なお余談だがとある二番隊の誰かは(右之助から入手(没収)した)幻の『♡夜一のと・く・し・ゅ・う♡』を山本元柳斎から渡されてあまりの嬉しさに()()()、『あの娘を即、確保しホぉ!』と指令を出した後に倒れそうだったそうな。

『最後に噛んだ』と、ここで追記しよう。

 

 ロバートと山本元柳斎のオブラートに包まれた口論が続く中────

 

「(あ。 このお菓子美味(びみ)ぃ~♡)」

 

 ────三月は全力で現実逃避をしながら羊羹を挟んだビスケットをモグモグと食べて和んでいた。

 

「────姫様は何か意見など御座いますでしょうか(も何か言ってくれよ)?」

 

「おお、そうじゃな! 何か無いかの(何か言えよテメェ)?」

 

 「ングオホッ?!」

 

 ニッコリとした笑みを向けられた三月は盛大に菓子を吹き出すのを必死に我慢した。

 

「(えええええええええ。 ここで私に振るのぉぉぉぉぉぉ?)」

 

 ぎょっとした目でロバートを見てはキリっとした目で見返され、ニコニコする山本元柳斎を見ては『圧』と書いて『プレッシャー』と読むものが彼女を襲った。

 

「(なんでさ?) え、えええええっと?」

 

 必死に思い返す彼女の頭の至近に誰かいたのならば『()ィーン』と、一昔前(もしくは現在)によく聞いたパソコンが熱を帯びたときの冷却ファンの回転音が聞こえただろう。

 

 そしてさっきまで食べていた菓子の糖分も盛大に消化していたのも彼女の周りの温度差で分かっただろう。

 

 彼女が今何をしているかというと、腹黒ジジイたちロバートと山本元柳斎の会話を片()(?)間で聞いていた内容を処理して(要らない部分を省いて)いた。

 

「(えーと、詰まるところ『今の時代に滅却師に必要性はあるのか?』が山おじちゃんの主張で? 『昔と比べるまでもない今の弱い護廷に空座町は任せられないから渡せ』がロバのおっさん(一護命名)の主張ね。)」

 

 フムフムと顎に手を添えて、頭を動かしたのは一瞬だった。

 

「(どないしよコレ?)」

 

 そして一気に内心がテンパった。

 

「(そ、そうだ! 早田(そうだ)村の村長が死んだそうだ────ってちゃうがな?!)」

 

 彼女は一つの奥の手を出すことに躊躇をしなかった。

 

「ここにチーちゃんがいないけど、私が勝手に決めてもいいのかなぁ────?」

 

「────『チーちゃん』……じゃと?」

 

 山本元柳斎が?マークを出している間、ロバートがゴソゴソと上着のポケットを漁って、手紙のようなものを三月に手渡す。

 

「なにこれ?」

 

「姫様が『チーちゃん』と呼んでいる()()()()()()()()()()()()です。」

 

「ぬわに?」

 

 両目をばっくりと見開いている山本元柳斎に築くより渡された手紙を三月が開けると以下の事が書かれていた。

 

拝啓(はいけい)、三月へ

 黒崎一護の容体が(かんば)しくないので私は一足先に現世へと戻る。

 ロバートやハッシュヴァルトたち滅却師と、瀞霊廷との間であるだろう交渉は全てお前に一任する。

 チエより

 

 三月の手紙を持った手はワナワナと震えだし、彼女は放心しながら口を開けた。

 

 「……………………………………なんでさ?

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 

 その頃、ボロボロになった取り調べ室を後にして歩いていた浦原とマユリがおもちゃを取り上げられた子供のようにいじけながら尸魂界の夜道を歩いていた。

 

 本来ならケンカ(威張り合い)にでも発展しそうな二人は互いに『研究者』だけあって、同じものに興味を持って思考を張り巡らせていた今だけは互いを『同僚』と接していた。

 

「「……………………………………」」

 

 とはいえ文章に出すだけでも勇気がいるが、似た者同士────

 

 「「()゛?」」

 

 ────イエナンデモナイデス、スミマセンデシタ。

 

『研究者』たちは無言で夜道を再度、無言で歩き始めた。

 

「「………………………」」

 

 時折互いに視線は送るものの、やはり言語は無く………………

 

 いや、『言語化は不要』と言ったコミュニケーションを二人は目線のみで取っていた。

 

 内容はもちろん、三月の話題の延長で先日()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 藍染の封印直後、滅却師達と真・空座町に駆け付けた死神たちの一触即発状態が一気に出来上がった。

 

 滅却師達は昔に絶滅されかけた記憶や遺恨が蘇り、死神たちは『鏡花水月』の始解を見ていない(が効かない)と言え藍染(バケモノ)と対峙してほぼ損傷のない目の前の者たちへの警戒を露わにしていた。

 

 そしてここに藍染が封印されたことによって虚圏からの行き来をできるようになった者たちもいた。

 

 主に虚圏に残された茶渡、雨竜、織姫、クルミやリカなども来ていた。

 

 このにらみ合いが始まって数分後に、事態は急変した。

 

「お?」

「ん?」

 

 カリンとリカの身体が僅かに光りだす。

 

「ありゃ、もう時間か。」

 

 それは出血多量で気を失った東仙を担いでいたツキミも同じだった。

 

「え? え? え? わ?! か、カリンさん?!」

 

 その場に駆け付けた雛森の頭を姿が薄くなっていくカリンが撫でまわす。

 

「おう、()()だ。 だから一旦の別れだメロンパン(雛森)!」

 

「ムッ。 だから髪は痛んでいませんから!」

 

 別の場所では薄くなっていくリカをマユリとネムが見ていた。

 

「おー、『退()()』ってこんな風なんですねぇー。」

 

「なるほど、通りでリっ君は()()()()と思ったわけダ。」

 

「消えてしまうのですか?」

 

あっちのゴリラ(カリン)も言いましたけど、一時の別れですよマユちゃんにネムネム。」

 

 興味深そうにリカのあちこちを触るマユリに、リカはただニカッとした笑みで見る。

 

「誰がゴリラだコラァ?! そりゃマイの姉貴だろうが?!」

 

「いえ、彼女に言いますと殺されるので遠慮します。」

 

 初めてリカの顔がここで思い出したかの世に青ざめてガタガタと震えだしたことに、カリンは無言で引いた。

 

フム、私も同じのようですね。」

 

「え~~~~?! ヤダヤダヤダァ~~~~! せっかく知り合ったばかりなのにぃ~~~~~!!!」

 

……フフ。 貴方がサクラ(間桐桜)と似ているのはやはり外見だけでは無いようですね?

 

「ふぇ?」

 

ああ、いえ。 こちらの話です。

 

 同じように光に包まれたクルミ(アネット)を見てはグズリ始める織姫を彼女は頭を撫でた。

 

「(う~ん、やっぱり『限定召喚』は負担が比較的に少ないけど『小回り』効かないし『強制退去(たいきょ)』もされちゃうし……まだまだ『改良の余地あり』ね。)」

 

 次第に()()は光りの因子になってそれらが散ると跡形もなく消えた。

 

 それは死神や魂魄の体が崩れて、霊子に戻る出来事に似ていた。

 ただし、上記の物とは明らかな違いがあった。

 

 場の霊子が濃くなるどころか、()()()()()()()()()

 

 そこに居合わせた(方便上の)人たちも混乱はしたが、取りあえずはこの一触即発状態をどうにかすることを優先した。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そんなことを思い出していた浦原に、マユリはニヤニヤと勝ち誇った笑みを向けていた。

 

「考え事にふけって理解不能カイ? 浦原喜助ともあろう者ガ?」

 

「そういうマユリさんは良い笑顔をしていますね?」

 

 マユリの笑顔はさらにニチャ~としたものになる。

 

「伊達にリっ君の周りに居たわけでは無いということだけを宣言しようじゃないカ────」

 

「────ま、僕の見たところ彼女たちはあの『姫』と滅却師達に担がれている者の()()()()()()()()()()と睨んでいますけどね? 『思念珠(しねんじゅ)』であれば、記憶は豊富にあるはずですし♪ 『記憶を注入された欠魂(ブランク)』みたいなものと仮説を立てています♬」

 

 一気にマユリの笑顔の表情が反転したことに今度は浦原がカラカラと笑い、先ほどの意趣返しのような言葉を口にした。

 

「伊達に十年間、彼女の周りに居たわけでは無いということだけを宣言しましょう♪」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 瀞霊廷に、奇妙な場面がその次の日から多発していた。

 

「む。 貴公は先日の滅却師?」

 

「フゥン、やっぱり大きなワンコちゃんね!」

 

 七番隊の隊舎に来たバンビエッタが狛村を見た第一感想が上記であった。

 

 「この小娘が。 漢の中の漢である隊長に何を変な────!」

 

 勿論近くで聞いた副隊長である射場が黙っているわけがなかったが────

 

「────お手。」

 

「ワフン!」

 

 ポス。

 

 たたたたた隊長ぉぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 オーバーリアクションな射場もであったが、律儀にバンビエッタに反応する狛村も狛村である。

 

 思わず写真を撮った隊士をもとに、『ショボショボ“ワチ寝る” 山本元柳斎』、『“私、天才!”マユリ』人形などに人気度がのちに並ぶこととなる『お手するワンちゃん(狛村)』ぬいぐるみが販売されることとなるのは、今はまだ誰も知らない。

 

 ………

 ……

 …

 

「やぁ、何人か見知った顔もいると思うけど自己紹介をしよう。 僕は三番隊隊長に復帰することになった『鳳橋楼十郎(おおとりばしろうじゅうろう)』。 気軽に『ローズ隊長』とでも呼んでくれ。」

 

「んで、アタシはキャンディス。 ふわぁ~。」

 

 ニヒルな表情を浮かべたローズに反し、キャンディスは『ぶっきらぼうかつ興味ゼロ』の態度を露わにしていた。

 

「うーん、ほかの人のファッションに横槍は入れたくないだけどレディならもうちょっとエレガントに────」

 

「────ヒョロヒョロもやしナルシスト野郎に言われる筋合いはねぇよ。」

 

「「……………………………………………………………」」

 

 静かに上記の二人の間にバチバチと火花が激しく飛び散る幻覚のようなものを、冷や汗を静かに流す隊士たちと共に見た吉良(副隊長)の胃はキリキリと痛み出したそうな。

 

 ………

 ……

 …

 

「ボクは『ジゼル・ジュエル』って言うんだ! よろしくねみんな~! ♡」

 

 漫画なら語尾のハートマークがそのまま背後から出てきそうな笑顔と共にジゼルは四番隊の者たちに自己紹介をしていた。

 

 「……い、イケる。」

 「お、俺も。」

 「ク、滅却師の女性って皆ああなのか?」

 

「ふわぁ。」

 

 男性の隊士とは違う感動の息を勇音は出していた。

 

 ………

 ……

 …

 

「『リルトット・ランパード』。 以上。」

 

「「「「………………………………………?」」」」

 

 十番隊の隊士たちは『え? それだけ?』という空気を出す中、日番谷が説明を付け加える。

 

「本日から『滅却師の顧問』が各隊の『見学』、および『死神と滅却師の互いの理解を深める』ことを目的にした新しい隊の結成だ。」

 

「あ、一応付け足すが俺らはテメェらに合わせる気はねぇからそのつもりで。」

 

 ビキ。

 

「あ? チビのくせに生意気だな?」

 

 ビキ。

 

「お? ちょっとデカくなったのは図体だけで内心はガキのままか?」

 

『ゴゴゴゴゴゴゴ』と重~い空気を出しながら相手にキツイ睨みを向け(ガキの張り合いをす)る二人。

 

「ま、まぁまぁ二人とも? ここは仲良く……とまでは行かないけどせめてみんなの前ではケンカ(張り合い)は無しにしようよ? ね?」

 

「「……チッ!」」

 

 そして二人に注意する雛森(五番隊副隊長)がなぜか十番隊の隊舎に居た。

 

「……雛森は良いのかよ? あの新しい……つーか、復帰した五番隊の奴の補佐しなくていいのかよ?」

 

 ここで雛森の笑顔はさらに気まずい者へと変わった。

 

「ふ、普通ならそうするんだけど……ウチの子たちが()()()()優秀すぎて……ア、アハハハ~。 (シ、シロちゃんに言えないよ~!)」

 

「んだそりゃ?」

 

 雛森の苦笑いを疑問に思う日番谷の視線から逃げるように、彼女の目は泳ぎ続けた。

 

「(ま、まさか()()()()()()()()()()()()なんて~!)」

 

 ………

 ……

 …

 

「平子隊長~、この書類に目を通してハンコを────」

「────あ、平塚(ひらずか)くんここ間違っているよ────?」

「────サンキュー櫃宮(ひつみや)────!」

「────ところで流魂街の報告書はもう受け取った────?」

「────まだだよ田沼(たぬま)君、近木(こぎ)さんたちは今日住人たちと────」

 

 改装して広くなった隊長室(事務所)の中でテキパキと時計の歯車みたいに働く席官三人たち。

 

 そしてポツンと一人静かに座る平子(五番隊長)の前にはほとんど完璧な状態で提出された書類。

 最初こそ五番隊に復帰した平子は『席官が隊長や副隊長のする業務をする』という前代未聞の事に放心していたが、雛森のお墨付きで彼は席官たちの作業を一つ一つ丁寧に観察していった。

 

 だが何度も見直しをしている間に、ほとんどの書類がもう『ハンコを押すだけ』状態の事にさらに平子は放心した。

 

 これを『久しぶりの業務復帰の疲れ』と誰かがとったのか、お茶と菓子やお煎餅などが彼の前にいつの間にか現れた。

 

「(俺、完ッッッッッッッッッッ璧に空気やん。 通りで雛森ちゃんが安心して馴染みの(トコ)に行けるわけや。)」

 

 平子は次に窓外を見て隊舎の敷地内で鍛錬をする隊士たちを見る。

 

「(それに練度がふッッッッッつうに平の隊士を超えてるやんけ。 『バケモノ(藍染)が居た隊』だけに『隊士もバケモノ』かいな。)」

 

 まさかこれがチエとカリンの『愛の鞭♡(?)(スパルタ教育)』の産物と知るのは、少し後の事である。

 

 「俺は要らん子やないけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

 平子の空しい叫びの後に、『ガーガー』と通りかかるカラスの鳴き声が響いた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 真央地下大監獄の最下層、『無間』。

 

 それは瀞霊廷……

 否。 尸魂界中でも異質な場所のそこは『別の場所』であると同時に『どこでもない』といういわゆる『異空間』。

 

 広さは無限らしく、中に音も自然な光源もなく、唯一の出入り口は真央地下大監獄塔の最下層のドア一つ。

 

 その昔、瀞霊廷が現在の『都市』として機能する前に、もしくは現社会が設立する以前の時代に『その場から取れた“殺気石(せっきせき)”をさらに採掘せよ』と当時の領主が部下に命じて偶然発見したのが後に『無間』と呼ばれる空間だった。

 

 何十人、何百人と人を中に送り込んでも戻ってくるのは一握りだけのもので、全員が発狂状態だった。

 

 それから『無間』は『出入り口が一つしかない巨大な収納空間』と認識されて、極悪非道の者たちの監獄と化した。

 

 少し脱線してしまったが、瀞霊廷の現在では四十六室の許可が無ければ何人たりとも出入り口を見ることはできないほど厳重に封鎖されていた。

 

 護廷の総隊長であっても大変に特別な理由がなければ見ることさえ叶わない、言わば『陸の孤島に2万年間の島流しの刑』を藍染は強いられていた。

 

「……………………………………………………」

 

 そんな彼は黒い椅子に拘束され、『視覚』、『聴覚』、『触覚』、『味覚』、『嗅覚』の五感だけではなく、さまざまな感覚などをがんじがらめにされた彼の状態を他人が数時間でも経験すれば既に発狂していただろう。

 

 コツ、コツ、コツ、コツ。

 

 そんな『無間』の中で、足音が響(あり得ない事が起き)ていた。

 

『パチン』と、誰かが指を鳴らすと藍染の拘束が次々と独りでに解除されていった。

 

 ついにすべての拘束が外れた藍染は立ち上がって自身の体の様子を確認した後、目の前にいる人物に(ひざまず)いて頭を下げる。

 

「やぁ。 ご苦労だったね、大変だったろうに。」

 

「いえ。 身に余る光栄に存じます、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()。」
















(((((((( ;゚Д゚))))))))ガクガクブルブルガタガタブルブル


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第101話 Operation Unternehmen Margarethe

大変お待たせしました、次話です!

楽しんで頂ければ幸いです!

そしてアンケートの投票と感想投票してくださって、誠にありがとうございます! m(_ _)m

今作での結果は『姉の認識』とでましたので、その方針をもとに書いていきます!

……………なおこれは『今作』なので『変わらない』とは言っていませんが、それは未来の自分や感想、リクエスト、etc. 次第です。 (汗汗汗汗

あと、何話か前に言ったおさらいがこの話と次話に出てきます、遅れて大変申し訳ございませんでした。 m( _ _;)m


 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 右之助の屋敷内にて、三月は居間の中で差布団の上に座りながらちゃぶ台に額を乗せるようにグッタリとしていた。

 

 漫画であるならば、耳から湯気か煙などが出ている場面だろう。

 もしくはゲッソリとしたお餅顔。

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。 めっさ疲れたわぁ~~~~~~~。」

 

「まぁまぁ、終わった事なんじゃからきっぱりと忘れたほうがいいぞい?」

 

 近くでのほほんと羊羹を頬張る右之助に三月が恨めしそうな目つきで睨む。

 

「だって聞いてよ?! 山おじちゃんってばこう言ったのよ?! 『流石チエ殿の……姉じゃな。フォ、フォ。』っていうのよ?! 絶っっっっっっっっっっ対に間の中に『自称』とか入れているでしょう、あれって?!」

 

 三月は盛大に愚痴っていた。

 

 彼女からすれば、(自分なりに)頑張ったのだが、それに見合ったお礼どころではなかった。

 

「まぁまぁまぁ。 ………(自称(笑))姉なのじゃからもう少し落ち着きを────」

 

 「────おいちょっと待てやこのジジイ。」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場所は一番隊、時は前日。

 

 ちょうど三月がチエからの文を受け取った後、彼女はフル回転に脳を動かしていた。

 

 そして『原作情報』も一から(読み)直して何かに気付く。

 

「……そう言えば前回、滅却師達が滅ぼされかけたのって虚を狩りすぎたからでしょ? 『魂魄のバランスが~』で?」

 

「ええ、そう先代から聞いております(それが?)。」

 

「そしてバランスが崩れば世界の境界も崩れる(自業自得で全部が滅茶苦茶になる)ということもな。」

 

 またも互いへの嫌悪をオブラートに包んだ胃が痛くなるような(裏の意味を持った言い合い)会話が戻る前に、三月は慌てながら早口でそれを遮る。

 

「それって要するに互いの理解が乏しかったから起きた災いじゃないのかなって思ってさだって死神は『魂葬(こんそう)』することで虚に成りえる事案を未然に防いでいて、滅却師は虚になった事案を即時に探知できて狩っていたから二つのグループが手を取り合えばより多くの事件を未然に防げるんじゃないかな?!」

 

『どうよ、このアドリブマシンガントークの威力はぁぁぁぁぁ!』と杉田〇和さんの声(少なくとも内心では)で言い放ったかのような、三月が焦りながら出す。

 

「…………………つまりは石田宗弦(いしだそうけん)のように『死神たちが駆け付けるまで滅却師が時間を稼ぐ』という案でしょうか?」

 

「(ちょっと待てズラ。 今のはもしかしてもしかするともしかしなくても石田祖父(そふ)が昔こいつらと同じ組織に身を置いていたということかズラ? オーノーだズラ。 

 ……というか超微妙に違うから言い方を変えよう。) 

 えええと、私が言っているのは『滅却師のより優れた探知能力を使って、死神の魂葬(こんそう)作業の効率化』デスケド……」

 

「「……ん?」」

 

 ここで初めてロバートと山本元柳斎の表情(仮面)が少しだけ崩れた。

 

「(脈あり! ここだぁぁぁぁぁ!!!) 例えば現世の現世駐在の死神たちって、瀞霊廷の指令所経由で探知した虚の報告が伝令神機(でんれいしんき)に伝わってから行動に移るでしょう? 

 それって私からすればかなり回りくどいやり方なのよ。

 逆に滅却師って虚だけじゃなくて普通の霊にも敏感だから、虚に成る前の魂魄を独自に発見はできるけど魂葬(こんそう)は出来ないから虚を魂魄ごと完全消滅させるすべしかない。

 だったら『滅却師の探知能力』と『死神の魂葬(こんそう)』を最大限に引き出すのが()()()じゃない?」

 

「「「「「…………………………………………」」」」」

 

「(あれ? 何でみんな黙り込んだの? ……私なりに辿り着いたモノけどこかでまずったかなぁ?)」

 

 彼女が口にしたのはロバートが先ほど言った石田宗弦(そうけん)の『滅却師が初動要員(絆創膏役)、死神が魂葬(治療)』という、ある意味上下関係が自然に発生してしまうようなモノではなく、あくまで『対等かつ合理的に双方の長所を生かす効率化』なのだが……

 そこにいた者たちにとって、彼女の言ったことはかなり斜め上を行く提案だった。

 

 ある者にとっては目から鱗、関心を、または呆気にとられたまま場はさらに動く。

 

「後、少し本音を言うと瀞霊廷って最近まで平穏すぎ(何も変わらなかっ)たでしょ? 『鎖国』的な意味で。

 だったら『温室育ちの人』には『外の世界』を紹介するいい機会じゃないかしら?」

 

「「「「「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」」」」」

 

「(ちょっと誰か何か言ってよ。 )」

 

 気まずい空気の中、三月は汗を掻くこと数秒間。

 

「護廷の総隊長として、今の提案はどうか?」

 

「うむ、ワシに異言は無いが────」

 

 事態はそこからいい方向と、柔らかい空気へと変わったことに三月はホッとしたのも束の間だけだった。

 

「じゃ、じゃあ後は上の人たち同士────」

 

 ガシッ。

 

「────そう言わずにもうちょっと話をせぬか?」

 

「そうですよ姫様? 先ほどの提案者ならば、『最後まで見届ける』のが礼儀というモノですぞ?」

 

「「さぁ、お座りなさい。」」

 

 立ち上がりそうになった三月の肩を腹黒ジジイ(ロバートと山本元柳斎)たちがガッシリと掴んで無理やり座らせ直させた。

 

「…………………………………………………なんでさ?」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「────そこから正座を何時間強要されたと思うの右之助さん?! 5時間よ、5時間! もう足が痺れるわ、お茶か紅茶を飲む度に二人の顔色は変わるわでもう嫌ンなっちゃう────!」

 

 ガミガミと言い続ける三月に、今度はぐったりとする右之助の姿が見えた。

 

「いや、それ、お前の自業自得じゃないかえ?」

 

「んグッ…………………………………ハァ~~~~~~。」

 

 三月はまたもぐったりとして、今度はちゃぶ台に額をぶつける。

 

「………………………………………………………………………………………帰ろ。」

 

「見送るぞい?」

 

「あんがと……………」

 

「素直に感謝をされた……じゃと?」

 

「何よ。 何か文句あるの?」

 

「い、いや……意外じゃったから。」

 

「貴方は私を何だと思っているの?」

 

「居候を平然と続ける背伸びしがちなガキ────」

 

 「────藤姉呼ばわりされた?!」

 

「…………………………………………………………誰の事じゃ?」

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「ただいまぁ~。」

 

「お帰りなさ~い。」

 

 現世のアパートにやっと帰ってこられたフラフラの三月に()()がニコニコした笑顔を向ける。

 

「ああ、マイが『退去』されてなくて良かったわ~。」

 

「実験は一応成功みたいねぇ~?」

 

「マイの場合、体はこの世界の『義骸』が元だからね。」

 

 さて。 ここで二人が話している『退去』とは無論、消えたカリンたちの現象を示している。

 

 この『退去』を説明できる前に、彼女たちの立ち位置をおさらいしようと思う。

 

 三月が自身を『思念珠(記憶の集合体)』と言ったのはあながち嘘でもなく、浦原の『記憶を注入した欠魂(ブランク)』説も間違ってはいない。

 

 だがカリンたちは『欠魂(ブランク)』に『記憶を入れた』存在などではなく、『とある世界』の概念を元にした術……を基礎にした更なる()()()だった。

 

 その『とある世界』では『魔法みたいな鬼道』ではなく、実際に『魔法』や『魔術』などが存在し、中でも『使()()()()使()()()()術』などと言ったようなモノまである。

 

『霊力』も存在せず、代わりに地、水、火、風の四大元素に続いて『エーテル』という五つ目の元素が基礎として存在する世界。

 

 そしてその『エーテル』こそが、カリンたちの肉体を結成していた。

 

 尚『使い魔を使役する』と上記では記入したが、『ではカリンたちは使い魔だったのか?』と問われると、厳密にはそうでもない。

 

 余談ではあるがそれらしいヒントなどがあったとはいえ、ほぼ自力で『中らずと雖も遠からずの仮説』にたどり着いた探究者(浦原)が『半端ではない』、とだけ話を続ける前にここに書き記そう。

 

 以前、彼女たちが初登場した時もサラリと説明したが*1、実は彼女たちは多少の()()をして、本来の『使い魔の召喚』という儀式に便()()した、『とある者の別側面の人格たち』を主人格として表現した結果が()()()()()()()である。

 

 以前、クルミ(アネット)が織姫に『吸血』を行い、『パス』という繋がりを持ったことを覚えているだろうか?*2

 

 その時に示した『英霊』と呼ばれているものを『使い魔として召喚する』行為はそのままの『英霊召喚』であり、カリンたちはそれらで呼び出される『本来の英霊』たちの上に表現(現界)していた。

 

 そして『英霊』の身体は『エーテル』という、『BLEACH』の世界では未知の素材で出来ていても概念上の関係で元が霊体なので()()()()()をして『霊力』を『魔力』にさえ変換すれば『表現可能』、とクルミが単独で長時間の行動の末に『井上(そら)』を自力で見つけられたことが証明してくれた。

 

 場所は織姫のアパートで、二人ともパジャマに着替えていて(頭の上にポイちゃんを乗せた)アネットが自分の事を()()()説明していた。

 

「────ですがまだまだ発展途上の儀式であった上に、『もとより存在しないモノ』を『この世界の(ことわり)に似せたモノ』ですから『問題』や『制限』などもあります………………ここまでの説明はよろしいでしょうか、マスター?」

 

 束ねていても床の上で広がる長さの金髪を持つアネットは眼鏡をしながらスケッチブックに少女マンガっぽく描かれた絵と共に説明をしていたが、目が点になりながら頭からプスプスと蒸気を発する織姫に心配の声をかけていた。

 

「…………………………………………マスター(井上)?」

「ピィー?」

 

「あひゃい?! ……ご、ごめんなさい()()()()ちゃんにポイちゃん! ……ちょ、ちょ~~~~っといろいろな情報が一気に押し寄せてきて混乱しちゃったみたい~。 あ、あは、あははは~。」

 

 実はカリンたちが消えた後、在り方が『改造魂魄』に似ていたマイは勿論のことその場に残った。

 

 だが誰にしても誤算だったのは以前の出来事で、『使い魔』を世界に留ませる為の要石である『マスター』という存在と『パス』が出来てしまったアネットは()()()()()()

 

 最初は『自ら瀞霊廷に単身で行って、自身の事を説明する代わりに市丸や東仙の処罰を軽くしてほしい』という三月の隣に居たいことをアネットは示したが、彼女は逆に『井上さんたちに自分の事を説明して』と眼鏡を渡されながら頼まれて一足先に現世に戻っていた。

 

「え、えっと………………つまりアネットちゃんやマイさんに三月ちゃんたちは『他の世界から来た』っていう事かな?!」

 

「…………………………………………………そうでね。」

 

「ふわぁ~~~~~~~~!!!」

 

 キラキラと目を光らせながら身が迫る織姫にアネットは無愛想を装うままドライな返事をすると織姫のテンションが更にアップした。

 

「すご~い! やっぱりすごいよー!」

 

「(サクラ(間桐桜)とは全然違いますね。)」

 

「じゃあ『正義の味方』の上に『異世界』の『魔法使い』なんだー! わはぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「(……………どちらかというとタイガ(藤村大河)似ですね。)」

 

「あれ? でも私にこんなことを話してもいいの?」

 

()()()の頼みでしたから。 後に他の友人たちにも説明はするつもりですが、夜分遅いので別の日にしようかと。」

 

「あ、だからウチに来たの?」

 

「そのほうが説明しやすいと思ったからです。」

 

「あと『上姉様』って三月ちゃんの事?」

 

「ええ。 何か?」

 

「ううん、『大きな家族を持ってるんだなぁ~』って!」

 

「……………………………………………………………………………………急で申し訳ありませんが少々の時間の間、ここに私が泊っていてもよろしいでしょうか?」

 

「うん、いいよー。」

 

「……………………」

 

「ん? どうしたの?」

 

「ああ、いえ。 なにぶん、上姉様(三月)に似ていたもので。」

 

「あ、素はやっぱりそうなんだ!」

 

「(この小娘に上姉様の猫かぶりはバレバレだったようですね。)」

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

『これでよろしいのでしょうか、上姉様?』

『いいと思う。 藍染が封印されたあとは()()()()()()だし。』

 

 疲れた体を芯から癒すように長~い風呂から出ていた三月は寝る用意をしながらアネットと念話を交わしていた。

 

『あとこの“井上織姫”ですが、サクラと似ているのは外見と少し前の心細い心境だけですね。』

『迷惑だった、アネット? 私なりの配慮だったんだけど────』

 

『────いえ。 むしろ新鮮で楽しいです。 ただ敵であった筈の者たちにまで治療を施すとはかなり……いえ、私がそれに対して何かを言う権利はありません。 では夜も遅いので、明日に備えるとします。』

 

『うん、じゃあお休み。』

 

 念話を切ると三月は大きなため息を出して自分のガランとした部屋を見る。

 

「(でも以外。 あのチーちゃんが黒崎家に泊まるなんて。)」

 

 マイに聞いたところチエはあの日から黒崎家で泊まり掛けを続けていたらしく、いま彼女のアパートは三月だけが居た。

 

 マイはお風呂に入る前に『虚圏にいるドルドーニと会う用事がある』と言い、すでに出かけていた。

 

 そして彼女は実に珍しくかつ久しぶりに、布団の中へとひとりで潜り込む。

 

「はぁ~……」

 

 どこか憂鬱なため息を出して、独り言を零す。

 

「久しぶりに()()かしら? ………………()()わよね、これって多分……」

 

 そう言いながら、三月は若干重くなった信教のまま瞼を閉じた。

 

「(やだなぁ~~~~~。)」

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場は変わり、夜空が照らす巨大な砂漠のど真ん中にある山のようなものへと移る。

 

 その中にある洞窟らしき場所で焚火の前に座っていたのは『十刃』の生き残りであるハリベルと彼女の従属官(ふらしおん)の一人であるスンスンが座っていた。

 

 洞窟の入り口らしき場所にはミラ・ローズとアパッチが立っていた。

 

「……………………」

 

「ハリベル様、何度も聞くことに申し訳なさを感じますが……本当に場所はここであっているのでしょうか?」

 

 スンスンの問いに、ハリベルも共感を持ち始めていた。

 

 ハリベルは偽・空座町から離脱した後*3、スンスン、アパッチ、ミラ・ローズの三人が織姫の治療が施されて動けるようになると、礼も言わずに同じくその場から急遽離脱し、虚圏にて合流していた。

 

 そこから指定された場所であるこの洞窟に根を下ろして怪我を癒すこと数日間。

 

 無論、虚圏とはいえ野良の破面や追手がないとも限らないので交代制で見張りをしていたが全くと言っていいほど、何も起こらなかった日々が過ぎていった。

 

「あー、野良の虚でもぶっ殺してぇー。」

「ミラ・ローズ、少しは自重しな。 今暴れて追手やほかの勢力に感づかれたらどうする。」

 

 もともとジッと出来る従属官ではないミラ・ローズとアパッチはともかく、何も聞いていないスンスンも再度確認を取るほどに緊張感が抜けていった。

 

「おやおや、夜である場所でのんびりカモフラージュも何もない焚火とは感心しませんねぇ。」

 

 そんな時、ミラ・ローズとアパッチの近くで男性の声がした小鬼二人は即座に警戒態勢を取り、奥に居たハリベルとスンスンも立ち上がった。

 

「誰だテメェ!」

「姿をみせろ!」

 

 二人の声に男性はさらにため息を出し、肩をすくめながら焚火が出す光の中へとゆったりとした足取りでその容姿が見えた。

 

「人間……だと?」

 

「全く、これだから野蛮な破面は困る────」

 

「「────ンだと?!」」

 

「貴様が『Q・O』とやらか。」

 

 奥からスンスンと共に出てきたハリベルの問いに、男の口が吊り上がる。

 

「ええ。 そういう貴方は『T・H(ティア・ハリベル)』ですね?」

 

「ハリベル様、この男は?」

 

「やれやれ、上官の許可なく発言とは。 『野蛮』だけでなく、『低能』でしたか。」

 

「てm────!」

 

やめろ、ミラ・ローズ、アパッチ、スンスン。」

 

 一瞬だけ霊圧が膨らんだ従属官たち三人をハリベルは一言で制したことに男は拍手をした。

 

「ですがしっかりとした上下関係ですねぇ、そこは褒めてあげましょう。」

 

「『ティア・ハリベル』だ。」

 

「ああ、失礼。 名もまだ交わしていませんでした。」

 

 男は夜だというのに、かけていたサングラスのような眼鏡を取る。

 

「私は『キルゲ・オピー』。 『Kaiserreich(カイザァリッヒ)』の『Landwehrkorps(ランデュエヘール部隊)』の者です。」

 

 カチャ。

 

「「「ッ?!」」」

 

 金属音がして、ハリベルと彼女の従属官たちはいつの間にか包囲されていることに気付く。

 

「どういうことだ、キルゲとやら。 貴様は藍染様の命でここに来たのではないのか?!」

 

 ハリベルの大きくなっていく声の音量にキルゲはただレンズを拭き終わった眼鏡をかけ直す。

 

「ええ、()()()()ですよ?」

 

 彼のこの言葉に、ハリベルがの目が見開く。

 

「我々を殺す気か?! だが何故だ?!」

 

「『()()』? やはり貴方も低能ですね。 発想が極端だ、そこらへんの獣と同じです。 お忘れですか? 貴方たちのその力は藍染様から承ったもの。 故に貴方たちは藍染様の所有物です。

『所有物』をどうこう扱おうが『所有者』の自由なのは当然でしょう?」

 

 ハリベルが怒りを露わにして、奥歯を噛み締めてから斬魄刀を抜いてキルゲに襲い掛かり、同時に彼女の従属官たちも包囲していた者たちに襲い掛かる。

 

 「貴様ァァァァァァァァァァァ!!!」

 

「では獣らしく、『ハンティング(狩り)』へ移行します。」

 

 ハリベルのそれは、何に対しての咆哮だっただろうか?

 

 自分(破面)たちを物扱いしたキルゲだろうか?

 

 裏切った藍染だろうか?

 

 それともこんな事態を見抜けなかった、己の過ちにだろうか?

*1
24話より

*2
72話より

*3
93話より




市丸:イヤ~、人生どないなるか分かれへんモノやなぁ~

作者:出て行けへっぽこ警備。 干し芋投げるぞこら。 それはそうと、『ここ好き』機能がある事につい最近気付いた自分です。 機能を自分の作品に使っていだたき、誠にありがとうございます!


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Early Adulthood - To The Lost, Substitute ■■
第102話 静かな(独りの)眠り


お待たせしました次話です。

楽しんで頂ければ幸いです。

11/8/21 8:00
誤字修正いたしました。 (汗


 ___________

 

 とあるしょうじょ 視点

 ___________

 

 気付くとほのお()の中にいた。

 

 くず()れ落ちるたてもの(建物)

 火まみれに焼けこげていくナニカ(人型)

 

 どれだけみわた(見渡)しても、まわり(風景)ぜんぶ(赤色一面)の焼け野原。

 大きな火事が起きたのだろう。

 

 いいえ、起き続けている。

 一面が廃墟、あるいは映画で見る『戦場跡』のようだった。

 

 様々なモノが大きなおと(叫び)を出しては静かになる。

 

 たてもの(建物)のほとんどが崩れ落ちた頃には、()()に原形をとどめていたのは自分だけ。

 

 周りのナニカ(人型)は黒焦げで、ここにいるのは『自分』だけ。

 

()()()()()()()』。

 

 なにも判らない『自分()』でも、わか(理解でき)るほどの圧倒的で絶対的な■■(地獄)の中を歩き、次第に周りのくうき(酸素)が薄くなっていたのに気付かなかったのか、息継ぎができない頃に『それ』が見えた。

 

 フラフラとうつろな(死んだ)目で歩く、幼い少年の姿。

 

 その直後、彼は力尽きたのかそのまま前のめりに倒れて、釣れるように自分()()()()()()()()()

 

 マヒした(機能していない)感覚。 衝撃で揺さぶる視野が、地面に体が衝突したことをおしえた(伝えた)

 

 やはり痛み(痛覚)は無かった。

 

 まわりは黒こげになって、ずいぶんと縮んでしまったナニカの姿がゴロゴロあった。

 

 その中、今では理解できることが全神経を支配していた。

 

く る し い』。

 

 ただその一言が体を結成しているかのような思いから逃げるように、そのまま目を瞑って意識を手放した。

 

 

 もう疲れた。

 

 

 

 それでも。

 

 

 私には

 

 

 

 

 

 

 

 

 元から

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

「……………………」

 

 嫌な気分のまま目が覚めた。

 

「はぁ……」

 

 胸の中に鉛がつまっているような感覚を、強く意識した深呼吸で新鮮な酸素が肺に出入りする感覚で無理やり塗りつぶそうとする。

 

 まぶしい朝の光にかざした手を額に付けると、もうじき冬だと言うのにひどく汗を掻いていた。

 

 最ッッッッッ悪。」

 

 素直に今日の目覚め具合を口にして息をもう一度吐き出す。

 

 さきほどは長らく思い出す事がなかった、『過去の記憶』の一つ。

 

 独りで寝ると、決まって見る『(記憶)』。

 

 私が『(三月)』として、()()()()当時の記憶。

 

 いわば私が『私』として『認知』した、最初の記憶でもある。

 

 そんな考えをしながらボ~っと朝の支度を済ませながら耳を澄ませると、『トントントン』と包丁が切るリズミカルな音が聞こえ、鼻には朝の食卓の匂いが漂ってくる。

 

 今日はさすがに学校に行かなければいけない筈なので穂群原(ほむらはら)……ではなく空座町の制服にそでを通し、冷え性+冷たくなった風対策のためタイツを着用する。

 

 着替えて朝食をとる為に、ダイニングの扉をあk────

 

「────おお、目が覚めたかべべ(お嬢さん)よ! お早い目覚めで吾輩、感心で────!」

 

 ────バン!

 

「?????

 

 ……………………まだ寝ぼけているのかな?

 

 なんかダイニングに、優雅に朝食を取ろうとするどこぞのヒゲエセラテン紳士系おっさんがここ(現世)に居たような気が────

 

 ────ガチャ!

 

「人の顔を見て血相を変えながら扉を無言で閉めるとは何事かね?!」

 

 「夢じゃなかったぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「朝から大声とは近所迷惑だぞべべ(お嬢さん)よ!」

 

 「なんで『()()()()』がここに居るのぉぉぉぉ?!」

 

 「『ドルドーニ』だ! いい加減吾輩をうまそうな名呼び────!」

 

 ガシッ。

 

「────二人とも? 近所迷惑(成敗するわ)よ?

 

「「ア、ハイ。 スミマセンデシタ。」」

 

 頭を鷲掴みにされてそのまま二人の体を持ち上げてにっこりと笑うマイに、ドルドーニと三月は青ざめた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ではディオス(女神)よ、次の機会まで!」

 

「はぁ~い♪」

 

「あふん♡ ……………その穢れを知らない笑顔が、吾輩に無限の活力を与えてくれるッッッ!!!」

 

 手を元気よく振るドルドーニをマイが見送り、彼は『黒腔(ガルガンタ)』の中へと消えていく。

 

 ドルドーニは昨日、虚圏に行ったマイを現世に見送りに来ていただけのようで、長居はしなかった。

 

 尚、マイが虚圏に向かったのは『十刃』の生き残りや、藍染に与していた者たちの警戒と監視の頼みを全快した『十刃落ち』やネルたちにする為だった。

 

 『井上織姫』の能力、さまさまね。

 

「チエは?」

 

「まだ黒崎家に居るわよ~?」

 

「ふーん。 珍しいね?」

 

「そうねぇ~。」

 

 四段弁当箱をマイから受け取って、実に久しぶりの登校をする。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

わ~~~た~~~な~~~べ~~~。 随分と久しぶりだな、ん?

 

「お、お、お、お、お久しぶりです越智(おち)先生。」

 

「あらあら、やっぱり礼儀正しくて感心感心。 どこぞのオレンジ頭よりは。 一か月も急に休むなんて、真面目な貴方らしくないから家に連絡を取ったら『自国の事情で急遽留守にしています~』と聞いたから良かったものの、黒髪の方(チエ)はどうした? どうせ聞いた『入院』なんて嘘だろ?」

 

「えっと……入院しているのは一護であって、彼女はその見舞いに────」

 

「────あ、そうなんだ。 まぁ、座れ。」

 

 「(軽?! それでいいの?! ……いいか。)」

 

 三月は自分をジッと見ていた浅野や水色、千鶴やみちるに竜貴たちを見て『放課後に!』と口を動かし、ウィンクをしてから席に座る。

 

 浅野は胸が痛くなったのか自身の胸に手を置いたが、三月はそれを無視した。

 

「あー、それと今日は皆に紹介したい転入生が居るんだ! おし、入れ!」

 

 入ってきたのは体付きが織姫にも劣るとも言えない金髪碧眼のクールビューティー(160㎝)だった。

 

「アネット・プレラーリです。 上姉様と共によろしくお願いします。」

 

 「なんでさ?!」

 

 クラスがざわめく前に叫んだため、またもや注目を三月は浴びたそうな(無理もないが)。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 放課後、空座高校の屋上にてスペアの学園のテーブルや椅子に浅野、水色、千鶴、みちる、竜貴、茶渡、雨竜、織姫が輪を作るかのように座っていた。

 

 三月と言えば後ろからアネットに抱えられるように、股の上にチョコンと座らされていた。

 

 はたから見ると『姉が妹を抱きかかえている』場面なのだが……

 三月は後頭部から伝わる柔らかい、大きな存在感()の感触を無視して、死神の事などを茶渡や織姫と一緒に話した。

 

 本来、一般人である彼ら彼女らならば信じないどころかただの冗談と笑い飛ばしていたかも知れないが、先日目撃したトンデモバトルと藍染を見ただけでなく、肌で感じた後は信じるしかなかった。

 

 そこから今度は雨竜と一緒に『滅却師』の事を話し始めた。

 

 これも『元星十字騎士団(シュテルンリッター)』と、雨竜が皆の目の前で作り出した霊子の弓矢で皆は納得した。

 

「さすが上姉様ですね♡」

 

「ふーん……で? 三月やチエはその滅却師や死神なの?」

 

 ここで雨竜、茶渡、竜貴たちが注目をするだけでなく、自分たちが持った疑問を問う。

 

「ハッシュヴァルトくんたちが『滅却師』なのも驚いたけど、あれだけの者たちに『姫』と呼ばれている君はどういう身分の者だい? 『ただの滅却師』だけじゃないんだろう?」

 

「えっと────」

 

「────それは俺も同じ思いだな。」

 

「ということはさ、マイさんも貴族的な身分なの?」

 

「その────」

 

 そして最後に織姫がとんでもないことを口にした。

 

「────ていうかこの間見た三月ちゃん、すっっっっっっっごく可愛かったねぇ~?! 眼鏡を外して髪の毛も下ろしただけなのに、()()()()()()()()で!」

 

「「「「「確かに。」」」」」

 

 その場にいたほとんどの者が同意し、竜貴がウンウンと頷く。

 

「当たり前です、上姉様ですよ?」

 

 まるで自分が褒められたかのようにどや顔をアネットがしては三月の眼鏡をとって、それをかけた。

 

 Oh(オー) nooooooo(ノー)! 見られたぁぁぁぁぁ?!」

 

 そこで彼女は頭を抱えて(学友たちの前では初めて)盛大に取り乱した。

 

「『地味』が! 私の『普通の学生生活計画』がぁぁぁぁぁ?!」

 

「「「「「「いやいやいやいや、無理が有りすぎ。」」」」」」

 

「(しまった、声に出していたぁぁぁぁぁ?!)」

 

「そういうお二人は、どういうお関係で? 従妹(いとこ)────?」

 

「────姉妹(しまい)です。」

 

 先ほどから織姫とさほど変わらない(ドッコイドッコイの)体をしたアネットに浅野が問うと、アネットがはっきりと上記を宣言した。

 

「ああ、三月ちゃんの(あね)────」

 

「────私は妹です。」

 

「え゛。」

 

 みちるの言葉をアネットが力強く遮った。

 

「妹です。」

 

「それは……ちょっと無理が────?」

 

「────い・も・う・とです。

 

「……………………………ハイ。」

 

「んじゃ! ちょっと長くなるかもしれない話だから始めるね?」

 

 そこから彼女は以前、チエが織姫たちにしたような()()()()()()()()()()()()を話し始めた。*1

 

 少し違うことと言えば、以前は『非現実的なこと』と思われる部分を(鬼道や霊力に変えて)付け加えたことか?

 

 成り行きで『滅却師』の頭領を倒してしまった辺りとか。

 

 あと個人的な恋愛事情や『他世界の放浪者』などは省いていた。

 織姫にはアネットが『他言はしないでほしい』という頼みをしていたらしく、彼女は深く追及せずにいた。

 

「────なぁ、三月?」

 

「ん? なにタッチャン(竜貴)?」

 

「あたしと一護に出会ったのって、確か小学の頃だよね? 何か貴方のその話を聞くかぎり、年齢的に合わないような気がするけど違うかな?」

 

「(来たか。)」

 

 他の皆が納得するほど、竜貴の疑問はごもっともであった。

 

 彼女たちが最初に会った頃は小学生になったばかり。

 歳でいうと5,6ほどの頃の筈。

 だというのに三月の話し方ではまるで、空座町に来る前まではそれなりの長い時間を過ごしたかのようなものだった。

 

「(ま、隠してもしょうがないか。 この世界(BLEACH)でも見た目に反して長生きしている存在はあるし。)」

 

 脳裏に蘇ったのはこの10年、年末の恒例になっていたとある二人組(浦原と夜一)の誕生日をメインにした、『年越しパーティ』。

 

「もしかして気になる? こう見えて私、二十歳(ハタチ)だよ?」

 

生まれた(自己認識した)世界』の10年。

 後に『正義の味方』の試行錯誤を行った『前の世界』に1年弱。

 そして『この世界』での10年間を合計にすると確かに20歳は超えていた。

 

 彼女は()()()()()()()()

 

「「「「年上……」」」」

 

 ここで茶渡、雨竜、織姫、みちるがそう言い零す。

 それぞれが別の思惑をして。

 

「あ、でもでも! 精神的にはみんなと同じ十代だから! そこんとこヨロピク~♪」

 

 「「合法。」」

 

「え。」

 

 そして()()()浅野と千鶴は互いに荒い息遣いになり始めて上記の意味不明(深い)なことを口走った。

 

「ちょっと待って二人とも。 それ、どういういm────ぐぇ。」

 

 三月は?マークを出し始めた瞬間、彼女を抱えるアネットの腕に力が更に入って変な声が出る。

 

「上姉様は私の(物)です!」

 

 スゥハァスゥハァスゥハァスゥハァ!

 

「え?! アネットもなに息を荒くして匂いを嗅ぐの?!」

 

「いえ、単純にこのシャンプーの匂いが新鮮で堪能したいだけです。」

 

「えっと……それに対して私はどう反応しろと?」

 

「上姉様はそのままで良いです♡」

 

「そ、そうかな?」

 

「あ、私もなんとなくその気持ちわかる。 というか代わってよ。

 

「(ニッコリ。)お断りします。

 

「「…………………………」」

 

 ここでアネットと千鶴が互いの眼を見て、双方の体に稲妻が走る。

 

 目に見えない(同族嫌悪の)火花と共に。

 

 だがこの事に気付いた様子のない竜貴はその質問を続けた。

 

「じゃあさ……三月ってば()()()()()()の? 『死神』とか『虚』────」

 

「────『()()』、だよ?」

 

「「「「「え。」」」」」

 

「『()()』だよ、うん。 (そう、()()()()よ。)」

 

「「「「……………………………」」」」

 

 そこで三月は今まで誰にも見せたことのない表情と苦笑いを竜貴たちに向けた。

 

 どこか寂しいような、『悲哀』を感じさせる『大人の表情』だった。

 

 そんな気まずい空気を作ったことに責任を感じたのか、竜貴が話題を変えようとした。

 

「そ、それじゃあさ! 苗字は『渡辺』なの? それとも、『プレラーリ』ってのが本名? どっち?」

 

「どっちも……違うよ?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 またもその場にいた者たちに、意外な返答が来る。

 

「違うけど……私にはまだ、それを()()()()()()()()()()……」

 

「「「「「……………………………………………………………」」」」」

 

 さっきより三月が神妙な表情になったことでさらに空気が重くなり、その場にいた者たちは言葉を失くす。

 

 だがそんな思い空気を自ら払うように三月がニヤニヤとし出し、水色を見る。

 

「で、『年上狙い』としてはどうよ?」

 

 話しかけられた水色は眉毛を一瞬だけ上げたが、すぐに対応へと移った。

 彼女の考え(気づかい)を彼なりに受け取って。

 

「ああ! 確かに年上好きだけど……僕的に君は『無い』ね! スタイルがこの中で一番幼いから『守備範囲外』だし。」

 

 水色が満面の笑みでそう断言する。

 

「んが?! し、失礼しちゃうわね! せ、『成長中』なんだからね!」

 

「うん。 応援しているよ? (154㎝)より小さい(140㎝)けど頑張れ頑張れ~♪」

 

「そういえば水色ってこういう奴だった……」

 

「気にしないでください上姉様。」

 

「アネット?」

 

「上姉様の魅力はわかる者にはわかるのです!」

 

「ええと……ありがとう?」

 

 

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 藍染の封印後、あれから意識を失って一護の苦しむ声を聴いてからの直後の事はよく覚えていない。

 

 取り敢えずは『医師のいるところに連れて行かなければ』と思い、彼を抱えたまま黒崎家に直行したのはボンヤリと覚えている。

 

 だが()()()()()()()()()()()()()

 

 理解不能。

 

 周りの者たち曰く、私は血相を変えて突然黒崎家に駆け込んだそうだ。

 

 思い出そうにも、()()()()()()()()()()今が悔やまれる。

 

 ……三月から以前聞いた『日記』というものを書くか。

 

 遊子か夏梨に聞いて、筆記帳(ひっきちょう)を譲ってもらおう。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 あれから数日経った。

 

 三月はいまだに瀞霊廷にいるようで、まだ連絡はつかない。

 

「ねぇチエ姉ちゃん? 私にどんな髪型がいいと思う?」

 

「??? 急にどうした遊子? 私に髪形を問うより適任者たちがいるだろう?」

 

「う~ん、お兄ちゃんを驚かそうとしているんだけど……お母さんってうっかり口を滑らしちゃいそうだから。 夏梨ちゃんはそういうのに興味なさそうだし。」

 

「おいちょっと待て遊子、今のは取り消せ。 まだ勉強中なんだよ。」

 

 なるほど、(一心)は論外と。

 

「好きかどうかは知らないが、二つ結びなどはどうだ?」

 

「……それって三月姉ちゃんがよくやっているやつでしょ?」

 

 鋭いな遊子は。

 

 やはり血は争えんということか。

 

「そうだが?」

 

「う、う~ん……子供っぽくないかな?」

「遊子にぴったりじゃん。」

 

 夏梨の言葉に遊子がうなだれる。

 

「遊子にきっと似合うぞ。」

 

「え? そ、そうかな? …………じゃあ、やってみようかな?

 

「その価値はあると思うぞ。」

 

「相変わらずチー姉ちゃんって地獄耳だな。」

 

「悪いか、夏梨?」

 

「ううん、それが面白いんだし?」

 

「……なにがだ????」

 

 よくわからないが、なぜか夏梨がにやにやしながら私を見る。

 

 場所は黒崎家の居間。

 

 黒崎一護の妹たちと共に、今日はテレビを見ていた。

 

「ふ~~~~~~~ん? 叔父に三児もの子供がいるなんてな~?」

 

「あ、アハハハ~~~~~。」

 

「はい、志波さん。 お茶です。」

 

「あ、どうもっす。」

 

 ちなみにどういう訳か、海燕もいた。

 

 今でこそ黒崎家はある程度受け入れられたが、当初彼が現れた時は一心の隠れ子か何かと真咲や夏梨が思い、大変だった。

 

 遊子に至っては珍しく呆けていたな。

 

 いや、あれは風邪か熱があったからか?

 

 頬も少し赤くなっていたような気がしたが、後で聞くとそうでもなかったらしく、ブンブンと手を振って慌てふためくった。

 

 

 

 当時の出来事を簡単に説明すると、流れは以下のようなものだった。

 

 藍染封印後、空座町の住人たちの記憶操作や戦闘のダメージなどを消した後に二つの空座町は入れ替わった。

 

 そして目が覚めていた黒崎家に一護を紺の入っていた体にチエが戻してベッドに寝かせた次の日、黒崎家は騒いだ。

 急に一護が寝たきりになっていたこともだが、チエの服装がチグハグだったことも含めて(なお、霊視で出来ている服は霊力が弱い者には見えない)。

 

 それから数日ほどして、玄関が再び騒がしくなった。

 

「へぇ~、叔父さんの家族か?」

 

「なんでお前は我が物顔で人ん()に入ってくんの?! 『外で待ってくれ』って言ったじゃねぇか?!」

 

「この義骸に慣れるには動き回った方が良いんだとさ。 特注品だからな。」

 

「「「……………………………………………………………………………………」」」

 

「うお?! 母さん待ってくれ! 夏梨もそんな目で父さんを見ないでくれ!」

 

 そこにチエが顔を出すと、自らの実父(一心)軽蔑する(最低のゴミを見る)ような目で夏梨は見ていて、真咲は背後に鬼の形相をした何かが浮かぶかのような、静かに『負』の気を出して一心の胸倉を掴んで彼の体を持ち上げていた。

 

「ん? どうした嬢ちゃん? 俺の顔になんかついてるか?」

 

 遊子と言えば海燕『ポケ~』と見ていたところに、チエが声をかける。

 

「遊子、熱でもあるのか?」

 

「うひゃあ?! ちちちちち違うよ! 違うってば!」

 

「????」

 

 何ともカオスな修羅場と黒崎家は一気に変わった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 それから真咲達に海燕の事を(理不尽にも一方的に半殺しにされた)一心がボロボロのまま何とか伝えて、わだかまりは徐々にだが収まっていった。

 

 最近までは。

 

 「いやだぁぁぁぁぁぁ! やだよぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 一心は壁に爪を立ててまで、自分を無理やり引きずる海燕に抗おうとしていた。

 

「いい加減に観念しろよテメェ!」

 

 「どの(ツラ)下げて空鶴たちに自ら出向いて半殺しにされなくちゃいけねぇんだぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 「テメェが勝手に『現世』に留まったからだろうが?!」

 

 「母さん、遊子、夏梨! お父さんを助けてくれぇぇぇぇぇぇ!」

 

「遊子、保険証を持ってきてくれるかしら? 確か生命保険があったと思うけど、念のために確認しなくちゃ。」

「はぁーい。」

「骨が残ったら拾ってお骨にするから心配するなオヤジ。」

 

 「死刑宣告いやだぁぁぁぁぁぁ!」

 

 黒崎家全員が『一心が処刑される』の前提だったことに、一心は血涙を出していた。

 

「(一階が一段と騒がしいな。)」

 

 チエは一護の容態が安定したことでそう思いながら、出かける用意をした。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

げぇぇぇぇぇ?! なななななななんでここに来たんやオマエェェェ?!」

 

「久しぶりだな、ひよ里()()。」

 

ていうかいつまでその『さん付けネタ』引っ張っとんねんワレェ?!

 

「……お前がそう私に頼んだのでは????」

 

「正論ボケすんな!」

 

 場所は現世に残った『仮面の軍勢(ヴァイザード)』たちの新しい隠れ家。

 

「というか毎度毎度私たちを発見して結界を破るの、やめてくれまセンか? 砕蜂サンとの約束で浦原サンを拘束していますので……正直きついデス……」

 

 ハッチはハッチで瀞霊廷から帰ってき(連行され)た浦原を砕蜂の前で拘束する結果い維持をしていたらしく、かなりのお疲れの様だった。

 

「ハッチ殿、ここに例の地下室はあるだろうか?」

 

「オイ、まだ話は終わっとらんで?!」

 

「ええ、在りますトモ。 拳西たちが居なくとも、いつもの癖で作られています。 何かと便利デスし。」

 

「そうか。 少し借りるぞ。」

 

「スルーすんな、ボケェ!」

 

「ええ、いいですとも。」

 

 ギャーギャーと距離を取りながら騒ぐひよ里の横を巨大なバッグを背負ったチエが通ろうとする。

 

()()()。」

 

「お、おう? な、なんや?」

 

 珍しく名呼びするチエにキョドリながらも聞き返す。

 

「地下に籠ってくる。 少々長い時間、居ると思うが心配は無用だ。 あと────」

 

「「────お邪魔しまーす!」」

 

「来たか。」

 

 入口から聞こえたのは織姫と三月の声だった。

 

「あの、ワタシそろそろ泣いていいデスか? シクシクシクシクシクシクシク……」

 

 どこかの花系魔術師が『良いとも!』、と元気よく答えたかのようにハッチは静かに泣きだし(いじけ)た。

 

 ………

 ……

 …

 

「えっと……いいのよね、チーちゃん?」

 

くどい。

 

 いつもより今に限って面倒くさいな、こいつ(三月)は。

 

「……分かったわよ、貴方がそう言うのならもう反対はしないわ。」

 

「ああ。」

 

「『投影(トレース)』、『開始(オン)』。」

 

 目の前で様々な構造物が光の因子の中で生み出されていく。

 

 いつも持ち歩いている刀を鞘から抜き出して、私は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

「…………………………」

 

 目が覚めて、見知った天井をボーっと見ていた。

 

「…………………………」

 

 いやそれよりも『妹』とか『すきやき』って……

 

 何を考えてんだよ、俺は?

 

 アイツは────

 

「────ん? おーい! 一護の目が覚めたぞ!」

 

 ドタドタと足音がして、部屋のドアがすごい勢いで開かれると見知った人たちが部屋の中に入ってきた。

 

 ……何気に普通にドアから部屋に入ってくる団体なんて久しぶりに見たような気がする。

 

「黒崎君!」

 

「おう、井上にチャドにルキアか…………あと石田な。」

 

「おまけ程度に僕を付け加えるとは、随分と落ち着きを取り戻したね?」

 

一月(ひとつき)もすれば、自然とそうなるだろう。」

 

一月(ひとつき)……一ヶ月も俺は寝ていたのかよ?! それに、俺の力は?!」

 

 霊圧探知を俺は焦って使う。

 

 ()()

 

 いや、()()()()()と言った方が合っているのかこれは?

 

 井上にチャド、石田たちはまだ何とか感じるが……

 

 近くにいる筈のルキアはどんどんと気配が薄くなっていっていくのが感じた。

 

「俺……」

 

「その様子だと、感づいているようだな。 浦原の見積もりでは『死神の力を失った一護(お前)は意識を失っている間に“断界(だんがい)”での時間経過が逆流するだろう』と言っていた。 お前が感じた激痛は、その逆流の表れらしい。」

 

「……そうかよ。 で、残った霊力もやっぱ消えていくのか?」

 

 一護のかなり冷静な様子にルキアたちがポカンとする。

 

「お、お主かなり平然としておるな?」

 

「さっきからそんな気がしてたからな……………霊の気配を全然感じねぇんだ。」

 

「そうか……」

 

「不思議な気分だ。 小さい頃から周りにウジャウジャいたようなモノが、今じゃ空気が澄んだような感じだ。」

 

「そうか……まぁ、なんだ。 そう寂しそうな顔をするとは意外だぞ? 何せ貴様に見えていなくとも、私からは見えているのだからな?」

 

「それこそ正にプライベートの侵害じゃねぇか、訴えるぞ? それに寂しそうな顔もしてねぇよ……あっちの皆に、よろしく伝えてくれるか?」

 

「ああ。」

 

「……じゃあな、ルキア。」

 

「ああ、お別れだ。」

 

「……ありがとう。」

 

 ルキアの姿はもう見えなくなった。

 

 気配も……霊圧探知も()()しない。

 いや、使()()()()と言った方が当てはまるだろう。

 

 とうとう、ゲーム風に言うと職業が『死神代行』から『()()()()()()』に変わったか。

 

 …………………クソ。

 

『表』は『寂しい』空気を出さないように頑張った分、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『内側』はその気分でいっぱいだった。

*1
21話より




とうとう次話から死神代行消失篇へと繋ぐ『草』に突入です! まさか不慣れな作品をここまで書けるとは、純粋に自分にびっくりしていますです……ハイ……

いつも読んでくださって、誠にありがとうございます! 
m(_ _)m

頑張ります! ╭( ・ㅂ・)و ̑̑


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第103話 That [Kansai] Word

お待たせしました、次話です!

仕事やリアルで急に寒くなって体調はイマイチですが頑張ります!

少し長くなってしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 一護が霊を見えなくなった次の日、三月が他の皆に遅れて彼の見舞いに来ていた。

 

 体の痛みやダルさはないものの、ほとんど寝たきり状態が続いていたので念には念を入れて数日間、様子を見ることとなっていた。

 

 そこで三月は自分が遠くの場所から来たことも、見た目と年齢が合わないことも話した。

 

「ふーん、やっぱお前も見た目とは年齢が違うんだな?」

 

「ありゃ? 思ったよりけっこう冷静ね、一護?」

 

「そりゃあ……お前らのことを十年間、子供のころから見てたからな。 お前はガキっぽいところあるけど、『ここぞ』って時には急に大人びていたし、俺らの『引率者』って言ったらお前だし。 

 ってちょっと待て。 そういやお前、子供のころから体は成長していっているよな? そりゃどういう仕組みだ? 義骸ってそういうもんか?」

 

「う~~~~~ん、ちょっと違うし生物学の分野に突入するけど……いい?」

 

「じゃあやめておく。 そういう顔のお前は延々としゃべるからな……それで、アンタは? マイさんに似てっけど、ちょっと違うよな?」

 

「私はアネットです。 上姉様の妹です。」

 

「う、『うえあねさま』……だと?」

 

「アハハハ~。」

 

 一護が疑問たっぷりの視線を三月に送るが、彼女はただ目を泳がせてそっぽを向き、半笑いをする。

 

「お前、何人姉妹なんだよ。」

 

「え、言ってない? ()()()()だよ? (設定上は。*1)」

 

「………………………………………………………………………………………………ツッコんでいいのか、馬鹿らしくなってきた。」

 

 ピンポーン♪

 

「っと、誰か来たな。 ちょっと出てくる。」

 

「お茶とかの用意しておこうか?」

 

「おう……」

 

 黒崎家のドアのチャイムが鳴り、他のものが出かけている為に出た一護が見たのは布にまかれた棒状の何かを二本、背負ったチエだった。

 

「あ……チエ────」

 

「────一護か、もう体は大丈夫なのか? 立っていていいのか? 体の具合はどうだ?」

 

「お、おおおおおおおう?」

 

 いつもとは違い、どこかグイグイと迫る彼女に一護はびっくりしながら気の抜けた声を出す。

 

「む。 すまん。 長らく外の空気を吸っていなかったものでな?」

 

「そ、そうか?」

 

「今日はこれをお前に渡しに来た。」

 

「お、おう────っておっも?!」

 

 そう言いながら彼女が背中から一護に渡したのは、ずっしりと重みのあるものだった。

 

 思わず軽い場の流れでそれを片手で受け取ろうとした一護はその重みに驚いて、体が思わず前に倒れそうになるのを、チエが彼の肩を使って受け止めた。

 

「すまん、言うのを忘れていた。 大丈夫か?」

 

「あ、ああ……」

 

 チエが手を放し、一護が手に持っていたオブジェからチエへと目線を動かす。

 

「えっと……こりゃなんだ?」

 

「私なりに考えて、お前に必要であろう物だ。」

 

 一護は手に持っていた物の形と重さが、『とあるもの』を彼に思い出させていた。

 

「(これは、まさか……いや、いくらチエでもそれは無いだろう。 立派な犯罪にな────)」

 

 シュルシュルと一護が布を解いていくと、中からは立派な刀────

 

 「────おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?! まさかのまさかだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 一護は素っ頓狂な叫びをあげながら、手にしていた物に布を再度かぶせてチエを家の中に引いて、周りの道に誰もいなかったことを見開いた眼で確認してから玄関を乱暴に閉めて、鍵をかけた。

 

「お、お、お、お、お、お、おま、お前! お前ぇぇぇぇぇぇぇ?! これ、立派な犯罪じゃねぇか?!」

 

「そうなのか?」

 

 「立派な『銃刀法違反(じゅうとうほういはん)』だこらぁぁぁぁぁ!」

 

「???? 私は持ち歩いていても、別に今まで問題はなかったが?」

 

「いやいや、チーちゃんのは今まで竹刀として偽装させていたからでしょ? でないと大変だったから。」

 

「なるほど、そういう理由だったのか。」

 

「どう思ったのよ? あ、ううん、どうせ何も思ってなかったでしょ?」

 

「よくわかったな。」

 

 一護はその間家のカーテンが全て閉まっていたのを確認してから持っていた物を居間のちゃぶ台にゆっくりと置いて、そろ~りとさっきからドキドキと心臓の鼓動が体中に広がっていく中、布を解いていく。

 

「なに爆弾処理班みたいに慎重に動いているのよ一護?」

 

こんなもの誰でも慎重になるだろうがオイ。」

 

「死神の時は割と普通にしていたじゃない?」

 

「大抵の奴には見えないだろうが?!」

 

「世間体は気にするんだ?」

 

「当たり前だ!」

 

「その髪の毛で?」

 

「こ……これは地毛だ! 知ってるだろうが?!」

 

「何のことかさっぱりだが…ナマクラといえ、()()()()()()()()()()。」

 

「……え?」

 

 そこで一護がピタリと動きを止めて、チエと手に持ったものを互いに見る。

 

「チエ、お前……まさか────?」

 

「────とはいえ、()()()()()打ったので保証は出来ない。 だから不自然なところや、気に入らなければ()()()()()────」

 

 ボゴッ。

 

「────いって~~~~~?!」

 

 一護はデコピンをチエに食らわせようとした指を逆に痛めていた。

 

「??? 何をやっているのだ、お前は?」

 

「あ、相変わらずの石頭だぜ…………」

 

「だから何を────?」

 

 ────ドゴン!

 

 今度はいつかの彼女にやられたように、鞘に入ったままの刀で一護はチエの額を突いた。

 

 低い打撃音に見合った衝撃だったのか、チエは目を白黒させながら珍しく後ろへとよろけた。

 赤くなる額を手で押さえて、?マークをただ飛ばしながら怒る一護を見る。

 

「?????????????」

 

「バカかお前は! お前が俺のために作ったものを、ホイホイと捨てられるワケねぇだろうが! バカ!」

 

「む。 『バカ』とは何だ、この阿呆が。 それに所詮は『物』だ。 今だろうが、後で捨てられようがさほど変わらないだろう?」

 

「大いにありというかお前……あまりにも極端だぞ?」

 

「(そういえば三月にもそういわれたな。*2)」

 

「まぁ、物騒な贈り物だけどよ……サンキュな?」

 

「??? 礼を言われる所なのか?」

 

「んあ? そりゃそうだろうが?」

 

「そうか。」

 

 ナデナデナデナデナデナデナデ。

 

 「だからそれやめろって!」

 

 チエが一護の頭をなでて、それを照れながらも嫌がる一護のやり取りを見ていた三月とアネットは、小声で話し合っていた。

 

「上姉様、あの二人は想いを寄せあっている身同士なのですか?」

 

「うーん…………………………どうだろう? 前の時は『孫』か『弟』って話していたけど*3……」

 

「そうなのですか?」

 

「けどそう聞かれると、確かにチーちゃんって一護のことになると珍しいぐらいの行動力出すからねぇ。」

 

「……その気持ちは分からなくもないですね。」

 

 だが以外にアネットにはわかったようで、三月はキョトンとした顔を向けた。

 

「え? どゆこと?」

 

「………………いえ、黙秘します。 (これは部外者が言うべき事ではないでしょうから。)」

 

 今度は?マークを出す三月だったが、彼女の疑問にアネットは答えてはくれなかった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 上記から少しだけ時は立ち、一護が空座高校に登校した初日に彼は担任の越智先生に頭を下げていた。

 

 背中にはチエのように竹刀を背負って。

 

「ありがとうございます、越智先生。」

 

「ちょ、ちょっと黒崎────」

 

 それだけでも珍しい場面だったが、彼の隣には同じく頭を下げていたチエの姿もあった。

 

「────いえ、先生に迷惑をかけたのは事実ですので。」

 

「黒崎はともかく、黒い渡辺までかよ?!」

 

 二人がこのように(特に一護)が反省の色を素直に出していたのが功を現したのか、一護の留年問題は『とりあえずこれからもちゃんと出席すれば無し』と越智先生から。

 そしていまだに『孫にワシの生徒がテレビに出ていたぞ』と自慢する校長たちの了承を得た。

 

 「おい一護テメェ! 『空手をやめる』たぁ、どういうことだよ?!」

 

 それから一護は空手を辞めた。

 

 いや、厳密には『道場に通うことをやめる』と、校舎裏で会った竜貴にそう言った。

 

「言葉通りのことだよ、たつき。」

 

 無論、同じ道場に通っている竜貴が黙っているわけがなく、このことを聞いた瞬間に彼女は一護に鬼の形相をしながら迫って彼の胸倉を掴もうとした。

 

 その瞬間、竜貴が気付いた頃には一護はするりと手を躱しただけでなく、彼女の腕を持ち上げて、捻りのついた拘束をしていた。

 

 しかもそれは生半可なモノではなく、互いのどちらかが力を入れるだけで脱臼(だっきゅう)、最悪の場合は脱骨もあり得るような絶妙なものだった。

 

「い、一護……アンタ────」

 

「すまねぇ、たつき。 けど道場(空手)()()もう、俺は行かないほうが良いと思うんだ。」

 

『空手では限界があるから』。

 

 そう竜貴に、腕を放した一護の続きが聞こえた。

 

 その時、彼の申し訳なさそうな表情が竜貴にこの10年間、一度として自分に勝てなかった一護が実は『手加減していた』ことを直感で感じた。

 

『勝てなかった』のでなく、『勝たせていた』。

 

 そのことに気が付いたことがかなりの精神的なダメージを竜貴に与えていたのか、彼女の体は思わずよろけた。

 

 普段の彼女なら逆ギレしてもおかしくはなかったが…

 ある意味、一護の『裏の言葉の動機』を藍染との遭遇や死神関連の話を聞いた後では容易に想像できた。

 

ルールに則った試合(空手)では限界があるから』。

 

 そこに考えがたどり着いた彼女は怒りよりも、歯がゆさと自分に対しての情けなさが(まさ)っていた。

 

「……一護……アタシさ……師範代代理の話、頼まれているんだよね。」

 

「……ああ、ありそうだな。」

 

「アタシ、()()()()()よ。」

 

「そうか、たつきなら師範代ぐらい────。」

 

 口をあんぐりと開けた一護が見たのはピクピクとこめかみに無数の青筋と笑みを浮かべた修羅(竜貴)

 

 何某長寿漫画であれば、『』とでも効果音が出ていたのかもしれない。

 

「え、でもお前……え???」

 

「アンタだけ()()()()させる訳にはいかないよ?」

 

「で、でもよ────?」

 

「────アンタ、アタシにまたぶん殴られたいワケ? お?*4

 

「一護、諦めろ。」

 

「「おわあぁぁぁぁぁぁ?!」」

 

 どこからか降り立ったチエに一護と竜貴が明らかに驚いた声を出すが、それを無視して彼女は話を進めた。

 

「竜貴の眼は、覚悟がある程度ついている者がするモノだ。 ここで遠ざけようとしても逆効果だぞ?」

 

「てかお前どっか湧いて出てきた?!」

 

「そうだよ! 『上から来た』ってんなら校舎の三階の窓くらいなもんだよ?!」

 

「たった三階ではないか……………………………どうした、その目は?」

 

 チエを見ていた一護と竜貴は『あ、そういえばこいつこういう(突拍子にもないことをする)奴だった』と、内心思いながらジト目を向けていた。

 

「ま、まぁとりあえずさ? 二人とも竹刀を持っているということは、剣道部にでも入部するつもりか? ……それは無いか、『道場に通うのやめる』ってさっき言ったばっかだし……ということは一つだけしかないよね?」

 

 竜貴の言葉に一護が頷いた。

 

「ああ。 だから────」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場所はチエたちが住んでいるアパートに移り、部屋の中には様々な表情をした者がいた。

 

 マイはおっとりとニコニコしてい(平常運転だっ)た。

 チエもいつもの無表情(平常運転)だった。

 一護と竜貴は神妙な顔をしていた。

 

 三月は────

 

 あんたマジなにやってんのよ。」

 

 ────放心しかけていた。

 

 その理由としてはひどく単純なモノだった。

 

「いや、たいていの場合お前に話すと上手く事が済むからな。 一護はともかく、竜貴はどうすればいい?」

 

「(次は確か、『()()』が相手だった筈よね? なら別にいいか。 フォローすればいいし。) 別にタッちゃんが一護の鍛錬に付き合うってのは別にいいと思うけど……チーちゃんってば、私を青い猫型ロボットか何かと勘違いしていない? 『の〇太くん』と呼び始めたほうが良い?」

 

「「ブフ。」」

 

 一護と竜貴が吹き出し、チエはムッとする。

 

「名前は別にどうでもいいが、『あおいねこがたろぼっと』とはどういう意味だ?」

 

「……『私を便利屋か何かと思っているの?』、という意味よ。」

 

「違うのか?」

 

違うよ?!

 

「????」

 

「ハァ……私のことをどう見ていたのかよぉ~~~~~~く分かったわ!」

 

「そうか、良かったな。」

 

 「良くないよ?!」

 

「なにがだ?」

 

「そこでボケないでよ?!」

 

「心外だ。 ボケるのなら、『姉』であるお前のほうが先だろう?」

 

「んな?! ぬわんですってぇ~~~~~~~?!」

 

 三月とチエのコント(?)を前に、一護はため息を出す。

 

「ま~た始まったよ。」

 

「今度はどのくらいか賭ける?」

 

「お前はもう手作り弁当一年分もらっただろうが?!*5

 

「じゃあ他のことで賭けようよ。 ちょっと耳貸して。」

 

 竜貴が何か面白そうに一護に小声で話しかけた。

 

「え、え~~~~~~? それは────」

 

「────なんだよ、一護は興味ないのかよ?」

 

「まぁ、『無い』とは言えねぇけどよ?」

 

「……いつもアイツに弄られていることの仕返しと思えば────」

 

「────乗った。」

 

「ねぇ~? もう遅くなりそうだし、二人も晩御飯をご一緒するぅ~?」

 

「お! ラッキ~♪」

「よっしゃ! 」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「時間が合うのなら今週中でもいいか?」

 

「まぁ……アタシは別にに良いけど? 合わせるよ。」

 

 夕食の(前の日から煮込んだ)おでんを堪能している食卓でチエは『グッ』と親指を一護たちにあげた。

 

「「ダサッ。」」

 

「そうか? 泰虎(茶渡)がしていたが……」

 

「アイツは年上の奴らとつるむから動作が古いんだよ。」

 

「そうか。」

 

 大根をハフハフと頬張る三月にタイミングを計らった竜貴が話しかける。

 

「ねぇ、三月? ちょっと賭けをしてみない?」

 

「賭け? なんの?」

 

「チエに女装……って女だから、『正装』になるのかな? ま、細かいことは良いや。 チエに『女性の服装』を着せれたら、『アンタ(三月)を高校卒業まで着飾れる』ってやつ。」

 

「……………………………なんでさ?」

 

 竜貴の突拍子もない賭けの内容に、呆気に取られていた。

 

「でも面白そうね。」

 

 だが内容が内容だけに、自分とマイが長年苦戦していたことだったので乗ることのような空気を出していた。

 

「それで? 賭けの期間は? 負けた場合は?」

 

「期間は……そうだね、新学期が始まるまで。 今が12月だから、一か月ちょい。 負けた場合は………………『アタシ(竜貴)が高校卒業まで着飾る』ってことで。」

 

「………………へぇ~?」

 

 三月は面白そうに目を細めた。

 

『有沢竜貴』という少女は『強気で男勝りな性格』の持ち主。

 好きな四字熟語は『一撃必殺』で、カーゴパンツなどの男性モノを好んで着る。

 

 つまりは『チエと似ていた』とも言える。

 

「(チーちゃんに『女性物を着せる』というこの自信……何かあるわね。) いいわ。 その賭け受けて立つわ!」

 

 本来なら彼女はもっと警戒をすべきすべきだろう。

 

 だが『でもタッちゃんが着飾ったところが見たい!』という好奇心が勝り、賭けの勝敗に関わらず空座高校に波乱が来るのは時間の問題となった。

 

 

 

 ___________

 

 一護、竜貴、チエ 視点

 ___________

 

「断る。」

 

 竜貴がチエにさっそく『女性物を着てみない?』のアプローチをかけてみたが、見事に一刀両断された。

 

「「(だよな~。)」」

 

 竜貴もさっそく一護の鍛錬(日課)に付き合い始め、三人ともは冬だというのに季節的に軽装な動きやすい服装で一護は大の字のまま背中を地面に預け、大粒の汗を流しながら空を見ていた。

 

 汗は描いていたが竜貴は一護ほど消耗している様子はなく、背中を近くの木に預けていた。

 

「でもさ、アタシが言うのもなんだけどたまにオシャレとかに興味が湧かない?」

 

「オメェが言うとスゲェ違和感ある。」

 

「うっさいよ一護。 で? どうなの?」

 

「そもそもお前の言う『おしゃれ』に何の意味があるのだ?」

 

「え、『意味』って────」

 

「────『おしゃれ』というのは『番候補探(つがいこうほさが)し』の為に、異性からの興味を引くおめかしのことだろう?」

 

「つ、『番』って────」

「お、『おめかし』って────」

 

「────私には()()()()()モノだ。」

 

「「…………………」」

 

 チエの変わらない表情の上に、断言性をも持った声のトーンに一護と竜貴は一瞬、言葉をなくした。

 

「……俺もそういうの、あんま気にしねぇけどよ────」

 

「「────シャツに語呂合わせの『(いち)()』や部屋のプレートに『(いち)()』があるじゃん/あるではないか?」」

 

 「俺の趣味じゃねぇよ! 俺ってそういう語呂合わせみたいなの嫌いだって知ってておふくろ(家族)たちがワザと買って来るんだよ!」

 

「良いことではないのか?」

 

「……まぁそうなんだけどよ……とりあえず、俺もそういうの興味ねぇけどよ? そういう変化を経験するのも新鮮と思わねぇか? 今までのお前ってずっと男性モノ着てただろ?

 

「……そうか?」

 

「あとよ、今だから言うけど一応お前の制服って校則違反なんだぜ?」

 

「…………………そうなのか?」

 

「ああ。 けど俺らの担任と校長が割とアバウトだからいいけど、苦情とか出たらそうも行かなくなるだろ。 多分。

 

「………………」

 

 何か思うところがあったのか、チエはアゴに手を添えてから考え込むように視線を一護たちから目の前の地面へと移した。

 

 時間にして数秒間ほど後に彼女は口を開ける。

 

「………………………一護に…」

 

「ん?」

 

「一護に、迷惑は掛かるだろうか?」

 

「………………あー、どっちk────」

 

 ドシ。

 

「────ゴホォ?!」

 

『どっちかというとマイさんたちに掛かる』と言おうとした瞬間、竜貴の音速にも迫るような手刀が一護の喉に直撃して、彼の言葉を遮った。

 

「うん! ちょ~~~~~~う困る!」

 

「そうか。」

 

 一護と言えば抗議をあげるどころか、自分の喉を両手で掴み、痙攣しながらヒューヒューと音を立てて何とか息をしようと頑張っていた。

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 次の日、三月は珍しく一人で登校していた。

 

 その朝、珍しくチエが寝坊したのか『先に行っていてくれ』と言ったのだ。

 

「(まぁ、そういう日もアリか。)」

 

 そうやって呑気に、日の当たる自分の席に座りながらポカポカする太陽(日向ぼっこ)を味わっていた。

 

 ガラッ。

 

「「「「「………………………………………………………………………………」」」」」

 

「(あれ? 急に静かになった?)」

 

 学校のチャイムが鳴るか鳴らないかの時間にドアが開き、異様な静けさがクラスに広がったことに気付くまでは。

 

「(どうしたんだろう?)」

 

 三月の半開きの瞼はドアのほうへと視線を動かすと大きく開いた。

 

「???」

 

 そこにはチエを傾げて立っていた。

 

 空座高校の灰色のブレザーにセーター。

 

 これに問題はない、いつも通りである。

 

 だが下半身の、太ももの途中までしかないスカートから出ていた生足はいつも通りではなかった。

 

 「「「「「チエが! ()()()()』だとぉぉぉぉぉぉぉぉ?!」」」」」

 

 固まっていたクラスの叫び声が周りのエリアに力強く響いた。

 

 叫ばなかった男女たちは様々なリアクションをとっていた。

 

 生足に視線が釘付けになっていた者もいれば、今にでも昇天しそうな者もいた。

 

「し、死んでいる?!」

「ちょっと千鶴?! 起きてよ?!」

 

 千鶴は昇天どころか、『我が生涯に思い残すことは無い』とでも言いたいような、穏やかな表情をあげて床に横になりながら、手を胸の前に組んで魂が抜けかけていた(かもしれない)様子。

 

 意外そうな顔をしながらも、ニヤニヤとした笑みを三月に三月の横眼に映っていたがそれに気付く余裕はなかった。

 

「なんでさ……………なんでか………………なんで……なんで…………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんでやん。」

*1
作者の他作品、『天の刃待たれよ』より

*2
23話より

*3
17話より

*4
70話より

*5
69話より




平子:ついに出たよ

リサ:アレが

作者:余談ですが何気に今までの描いた作品中、『なんでやん』と書いたのはこの話で初です。

ひよ里:いやいやいやいやいやいや。 それはあんまりやろ?

ラブ:いや、冗談じゃねぇよ。 マジだこいつ。

ローズ:まさかと思うけど……もしかしてこの時のために意識してその方言を使わなかったのかい?

作者:どれだけ必死やったと思うねん! この苦労がわかるかぁぁぁぁ?!

平子/リサ/ひよ里:アホくさ

市丸:意地はっとらんで使えばよかったんとちゃいます?

作者:帰れ!

リサ:アイツもとうとう、隠すのをやめたんやな

ラブ:お前が言うとなんかエロイ想像になるな

作者:だから帰れよ?! 気持ちは分からないでもないけどさ?! 歩く18禁だからさ?!

リサ:ほめてもエロ本、出ぇへんで?

作者:F〇CK! なお余談ですが息抜きに『バカンス』か『天の刃』の次話を書くかどうか迷っている途中です。 いつも読んでくださって、誠にありがとうございます!


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第104話 Pieris japonica

投稿が遅れて申し訳ございません!

拙い作品を読んでくださって、誠にありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです! (汗汗汗汗

11/11/2021 8:45
誤字修正いたしました。


 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 ドン!

 

「さぁ、観念しな。」

 

「くッ!」

 

 今この世界に来てから最大の危機、到来である。

 

 次郎(アーチャー)にされて以来の『壁ドン』で退路の片道がふさがれた*1

 

 恐らくは予想された退路の誘導だろう。

 

 ならば取るべき行動はそれ以外!

(多少バレたけど)ここまで来て私の存在感をデカくすることは防ぐ!

 

「ま……」

 

「『ま』?」

 

「まだだ、まだ終わらんよ! 私服! 私服じゃないからまだノーカンよ!

 

「ハァ?」

 

 どこぞの袖なし軍服サングラスのような言葉を言い訳抗議後に言い放つと、竜貴が呆れたような顔をする。

 

 ……ちょっと苦しかったかな?

 

「……三月ってばファッションとか詳しい?」

 

 え。

 なにこの激突な質問は?

 

「えっと……それなりに? ()()……かな?」

 

「じゃあさ、アタシにはどういう服装が似合うと思う?」

 

……なんで?」

 

「そりゃあ……負けた時のためにアンタが納得するような服があるかとか、無い時に調達する値段とか貯金と相談して考えないと。」

 

「意外だ……タッちゃんってそんなことまで考えるんだ────」

 

「────頭にゲンコツ食らわせようか?

 

「やめて! 身長が伸びなくなっちゃうよ?!」

 

 怒る竜貴を前に血の気が引いていく中、必死に回避を試みる。

 

「そういうけどアンタ、中学に上がってからずっとそのままじゃん。」

 

「イワナイデクダサイ。」

 

 でも竜貴に似合う服装かぁ~……

 

 フム。

 

 

 三月がジロジロと彼女をつま先から頭上まで見る。

 

 

『基本情報』、『外見』の『解明』。

 竜貴は………

 

「ほう。 フムフムフムフム。」

 

 ズバリ!

 

「身長155㎝、体重41㎏────」

「────へ……あ、ちょ、ま、待って────」

 

 三月の言い出したことが的中していたのか、竜貴は一瞬だけ呆気に取られてから周りに人がいることに慌て始める。

 

「────バスト76、アンダー62、ウェスト56、ヒップ83────」

 「────なななななな────?!」

 

 ゴッ!

 

「────アグラァァァァ?! ほ、星が?! 銀河が! 銀河が飛んだよギャラクティカ?!

 

 鈍い音ともに視界がゆがみ、強烈な痛みがじんじんと頭上から体中に伝わり、足から力が抜けそうに────あ、ガクガク笑っている。

 

 「あ、あああああああああアンタねぇ?! 身長と体重はともかく、他のやつは余計だ!」

 

「(あ、体重は良いのにスリーサイズはダメなんだ?) いやいやいやいや、服を決めるのに採寸は必要だよ?」

 

 朦朧と拡散していきそうな意識をとどめて情報をかき集める。

 なんてことは無い。

前の世界(Fate/stay night)』でやったことを、今度は他人にすればいい。

 

 よし。 

 相手は竜貴だし、()()()()()()

 

「ボートネックと斜めがけのドロップショルダーポーチで胸の強調に、見せ用のインナーブラで女子力上昇。 寒い風対策として上からテーラードジャケットを羽織って、下はワイドパンツでも良いけど贅肉無いぶんスレンダーな足が隠れちゃうからミニスカートにロングベルト着用してそれを垂らしてニーハイかサイハイブーツにタイツかサイハイソックス。 髪の毛のケアは意外となっているようだから後ろはそのままで前髪はヘアピンで横にそろえるか、キャスケットをかぶって────ってどうしたの、タッちゃん?」

 

 竜貴はポカンとまるで目の前の三月を始めてみるかのような目と、マンガなどで見る『耳から蒸気が出ている』かのような状態だった。

 

 三月が周りを見渡すと、周りにいた女子たちも同じような目をして彼女を見ていた。

 男子たちに至っては『有沢って、結構(胸が)大きいんだ』と思っていたそうな。

 

「……………………………………………えっと。 ごめん三月、今なんて? ていうか何語?」

 

「え? だからタッちゃんに似合いそうな服装だよ?」

 

「…………………………………………ごめん、書いてくれるかな? 『髪の毛』と『ヘアピン』はなんとか聞き取れたけど、その他は外国語────」

 

「────すごい渡辺ちゃん────!」

「────かなりの物知りだな────」

「────三月ちゃんから見た私は?! 私には────?!」

 

 「「────うおおおおおおお?!」」

 

 近くにいた(体型のせいでいまだに子ども扱いする)みちる、国枝、真花が三月に(そして結果的に竜貴も)顔を間近まで迫った。

 

 余談だがこの日を境に空座町1-3組を中心に、徐々にだが女子生徒たちの身だしなみが一段とグレードアップしていくのだが、それはまたの話である。

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「一護、ついてこい。」

 

「だからどこの不良だよ。」

 

 一護は性別と合う制服をしたチエを見たその日の態度はよそよそしかった。

 

「目ぐらい、合わせんか。」

 

「………………」

 

 どれほどかと言うと一日中ずっと(以前より更に)目を合わせないほどだった。

 

 だがそれもチエによって意図的にか、恣意的(しいてき)にか変えられる。

 

「しかし()せんな。 下半身がスゥスゥするというのは。」

 

 チエはスカートの橋をヒラヒラさせながら持ち上げると、すでに短かった空座高校のミニスカートが超ミニスカートへと変わり彼女の生足が更に露出した。

 

「うわ?! バ、バカ野郎! 持ち上げんじゃねぇよ!」

 

 これを見て一護はチエのスカート(と彼女の手)を掴んで無理やりおろした。

 

 「「「「「チッ。」」」」」

 

 丁度何かを床に落とし物をしたのかしゃがんだ男子生徒たちから一斉に舌打ちが聞こえてきたが、次の声でそれどころではなかった。

 

 「「「「黒崎って大胆!」」」」

 

「んな?! ち、ちげぇよ!」

 

「『大胆』? 何にだ? あからさまに視線を他の者のように私の足に向けてはいないが?」

 

 クラスの女子に一護が不定の言葉を示し、チエは?マークを出しながら頭を傾げた。

 

「ひ、姫しっかりして~~~~~?!」

 

「息をしていませんね。 ここは人工呼吸で────」

 

「────どさくさに紛れて何をやってるのプレ(プレラーリ)さん?! 人工呼吸なら私が先約だからね?!」

 

 ハイライトの消えた目と青ざめた織姫の体を右側にアネット、左側に千鶴が彼女の処置で言い争っていた。

 

 まさかこのようなことになるとは(約一名を除いて)誰も予想していなかった。

 

「なんでじゃ?! なんでチーちゃんがを着る気分になるのかしら?! いつや?! なんででしょう?! どこじぇ?!」

 

「校則違反と知ったからな。」

 

「そ、そげなこつ(んなこと)で? …………………………………………………………………わ、私の10年間の苦労がッッッッッ?!」

 

 悔しがりながら三月は涙を流すのを、その時必死にこらえたそうな。

 

 方言がメチャクチャになったのは大目に見ようと思う。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 時は移ろい、季節はちょうど冬がとうとう空座町に訪れていた。

 

 吐けば白い息が普通に出るほどの気温の中で、一護と竜貴は────

 

「────せい!」

「うお?!」

 

 ────組み手をしていた。

 

 無論これは本気のものなどではなく、鍛錬の一環。

 そしてどちらかというと竜貴が意外と一護を相手に優勢していた。

 

 竜貴も一護と共にチエとの鍛錬に付き合い始めた頃は一護にコテンパンにやられていた。

 

 模擬戦とはいえ、『相手を殺さない、かつ(物理的な)後遺症の残らない』ルール以外に決まっていない接近戦を10年近く続けていた一護の肉体と、死神代行として鍛えられた反射神経と実戦経験の差の賜物である。

 

 だが皆には思い出してほしい。

 

『有沢竜貴』は片腕を折ってなお、インターハイで準優勝を見事に成した『人間のバケモノ』だというのを。

 

 となると、彼女と一護の差はつまるところ後者の『反射神経』と『実戦経験』だけ。

 しかも反射神経に至っては『ルールほぼ無用』という状況にさえ慣れてしまえばどうとでもなる。

 

 そして『実戦経験が無い』というハンデを『有沢竜貴』は補うほどの実力を持っていたので、瞬く間に兄弟子である筈の一護が押され始めるのに、そう長くは掛からなかった。

 

「ぬぅん!」

「な?! 嘘だr────ガハッ?!」

 

 現に先ほどの竜貴が繰り出した回し蹴りを彼が首をわずかに傾げて回避したところ、彼女は軸にしていた足のつま先に力を入れてけりによって体が回り始めた動作を無理やり中断させ、けりを今度は反対方向に力を入れて一護の頭を曲げた膝の裏で押し、そのまま足で地面を踏みつぶすような勢いで驚愕した一護の頭と上半身が地面に叩きつけられた。

 

よっしゃー! どんなもんでい!

 

「おお、今のは良い機転だな。 やはりバケモノだな。」

 

「……アンタに言われるといろいろ複雑だよ。」

 

 普通ならチエに決着を申し込んでいるところだが、一護たちと組み手を始めたころの結果を思い出しながら冷静に竜貴は言葉を返した。

 

「いてててて、たつき……お前が本当に人間か疑いたくなるぜ! なんだよ今の『格ゲー』っぽいキャンセル技は?! 普通は無理だかんな今の?!」

 

「足先の筋肉を鍛えれば誰でも出来る筈だぞ一護?」

 

「そうだよ一護。 負け惜しみなんてらしくないよ~?」

 

「く……お、お前ぇぇぇぇぇ……」

 

 チエの正論はともかく、ニマニマした竜貴に一護は腹が立った対抗心を燃やした。

 

「しかし流石は竜貴だな。 昔から私の予想から外れるのが得意だ。」

 

「え。 そ、そう?」

 

「なんだその煮え切らない返事は? 普通、人はそう言うと嬉しがると聞いたが?」

 

「いやだってアンタ、昔から表情がぜんッッぜん変わんないじゃん。 どれだけ子供のころからアンタ相手に苦労したと思うの? 動作の対処は見てからの反応で遅れるし、こっちの攻撃が効いているのかも分かんないし、体力の消耗配分とかも狂わされるし。」

 

 竜貴の言葉に、意外な人物が口を出す。

 

「え? そうか?」

 

 一護だった。

 

「一護、口からでまかせを言うんじゃないよ?」

 

「いや、そうじゃなくて……俺は結構なんとなくだがわかると思うぞ?」

 

「え。」

 

「(む。 意外だな。 相手の気に対し、それほどまでに()()になっていたのか。)」

 

「たとえば今のチエは『少しだけ驚いている』、とか。」

 

「おお、当たりだ。」

 

「え。」

 

「あとは卑怯な手で相手を一方的な攻撃を見たりすると普通にイライラしたり────」

 

「────へぇ~? 一護、アンタってチエのことを()()見ているんだね?」

 

「は? 当たり前だろ?」

 

 またもニヤニヤし出した竜貴が意表を突かれてギョッとする。

 

「うエ?! い、一護…アンタまさかチエが『本命』ってわけ?!」

 

「………………………………は?」

 

「『本命』? いや、『ばれんたいん』の甘未はすべて『義理』で出しているはずだが?」

 

「「違う違う違う違う違う違う違う。」」

 

『そもそも十二月ですよお嬢さん?』、とは言えない二人だったが、『バレンタイン』と聞いて先ほどの『本命』がどのようなことを示していたか一護は感づいたらしく、彼は一気に困った顔と頬を赤らめた。

 

「そ、それも違うぞたつき! てかなに本人の前で言い出すんだよお前はぁぁぁぁぁ?!」

 

「あ、やべ。」

 

 一護が秘密にしていた*2筈のことをサラッと、場の流れで本人たちの前で暴露してしまった竜貴。

 

 そんな二人はチエを見るが────

 

「?????????????」

 

 ────相変わらず疎いのか、そういう話題に鈍感なのか、ただ?マークを頭から発信していた。

 

 平常運転の彼女を見て一護と竜貴はホッと胸をなでおろした。

 

 ちなみに三月と言えば、彼女に加えてアネットが織姫の『手芸部への入部』を受けて『喜んでッ!!!!』の一言で同意し、ほぼ毎日三月を独り占め────独占しようと放課後は(抱いて無理やり)彼女と部活行動に励んでいた。

 

 いや、バタバタと手足を(主に手を)バタつかせて三月が暴れていたことから『励んでいた』というより『連行された』と言ったほうが合っているか?

 

「……………………………………………………………………………………………………」

「バカですかこの眼鏡は。 そのような生地よりこちら────」

「────そっちは無理だ。 部活の予算が年末までに持たない。 だから────」

「────ですが安布を使ったところで────」

「────安布でも見栄えが良いものを作るのが腕の見せ所────」

 

「────あぁぁぁんまりだぁぁあぁ~~~~~~~。」

 

 三月は放心しかけ、口からエクトプラズム的ななにか(魂(?))が抜けていくかのような様子だった。

 

「えっと……三月ちゃん、チョコボー〇ケーキ食べる?」

 

 グゥゥゥ~~~~~。

 

喜んで!

 

 目をキラキラと光らせながら、織姫の見た目は独創的ではあるが味は非常に良いデザートを幸せそうに三月はモキュモキュと楽しみ、いつものやり取り(小動物の餌付け)に(彼女の食べる量が外見とのギャップも含めて)手芸部員はホッコリと和んだ。

 

 ちなみにこのやり取りは織姫たちが虚圏から帰って来てから始まったそうな。

 

『上姉様の好きな物ですか? 食物ですね。

 

 上記のような、眼鏡をかけなおした瞬間にキラリと光を反射させてからゲン〇ウポーズをとって織姫に色々と吹き込んだ、どこぞの誰かの所為ではない。

 

 …………………彼女の所為であったとしても、善意からでの行為なので良しとしたい。

 

「いちいち(声が似ていて)うるさいですねこの眼鏡。」

「君も眼鏡じゃないか?!」

「それに(声が似ていて)ケチケチしているのですね? そこは(声が似ていて)技量の見せ所ではないのですか?」

「…………………………………………新参者なのに堂々と部長である僕にそこまではっきりモノを言うのは君ぐらいだよ。」

「それはよろしくない名誉ですね。 それは(声が似ているだけで)貴方自身の人付き合い方の所為では?」

「「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ。」」

 

「「「「あわわわわわわわわわわわわ。」」」」

 

 急に眼鏡から反射する光によって目が見えなくなった時に不気味な笑いを出し始める雨竜とアネットの周りの気温が一段と急降下していき、周りの部員たちは寒気から(?) 青ざめながら震えだした。

 

 ともかくあちらはあちらで盛り上がっていたらしい。

 

 そんなことを知らない一護たちは日々を過ごした。

 

 一時の平穏を満喫していったのである。

 

「(う~ん…本当は次回に備えをしたいんだけど既に色々としたし、次は『能力』を持っているとはいえ『()()』が相手の筈だから大丈夫かな?)」

 

 三月でも例外ではなく、浮かれていた。

 

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

「うーん、思ったよりチエってば竜貴に似ているなぁ~。」

 

「さすがは『双竜』……てか制服もそろったから余計にだね?」

 

「うーん……色白だし、色的に白と黒メインに────」

 

「────私は────」

 

「「────そこにいて! 服は選んでおくから!」」

 

「サイズを測るのは私に任せなさい!」

 

 何なのだ一体?

 

 先日の竜貴といい、今度は同じクラスの者たちまで私を近くの服屋に引きずって互いに意見を出し始めた。

 

 ………………………なぜだ?

 

 この10年、口うるさい『自称姉』(マイとかいう個体も入れれば姉()())から同じように進められていたがそうする意味を見出せなかった。

 

 なのに一護に迷惑がかかると思った瞬間────

 

「────ちょっと渡辺さん? ()()は何?」

 

 本匠が『びーほるだー』を奇怪なものを見るかのような目で見ていた。

 

「これか? 動くときに胸が邪魔でな? 最初はサラシを使っていたのだが胸が残ったのだ。 そこからこの『びーほるだー』のことを聞いて使ってみると胸が無くなったのだ。」

 

「………………ちょっとそれ取ってくれるかしら?」

 

「ああ。」

 

『びーほるだー』のジッパ(ファスナ)ーを下して取り、シュルシュルとサラシを解いていくとジワジワと圧迫感の解放とともに、体の重心が胴体から胸部に少々分散されるのを感じていく。

 

「フゥー。」

 

 やはり邪魔だな、コレ()は。

 

 「ブハァァァァァァァ?!」

 

 いつ損傷したのか知らないが、本匠(千鶴)は鼻から血を勢いよく噴き出しながら倒れた。

 

「び……び……美乳……」

 

「「「…………………………………」」」

 

 ほかの知人たちである国枝()夏井(真花)有沢(竜貴)がこっちを見る。

 

「意外とデカい……」

「着痩せするタイプだったんだね……」

「何カップ?」

 

「『かっぷ』? 私が使うのは確か『まぐかっぷ』というものだが?」

 

「「「違う違う違う違う違う違う違う違う。」」」

 

 どういうことだ?

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 皆にいろいろと触れられて『めじゃー』というもので測った後、私は『でぃー』というものらしい。

 

「ま、まさかチエがアタシより大きいなんて……」

 

 竜貴が頭を抱えたので、訪ねることにした。

 

「それは良くないことなのか、竜貴?」

 

「あー、あれはただショックを受けているだけだよ。」

 

 モニュモニュモニュモニュモニュモニュ。

 

「そうなのか? それはそうと、なぜ先ほどからずっと胸を揉んでいるのだ夏井(真花)?」

 

「なんか自然と。 丁度いい形とサイズだし。」

 

「そうか。」

 

 ちなみに先ほどから本匠(千鶴)は出血多量で気を失っていた。

 

「チエ、これに着替えてみて。」

 

 国枝()が持ってきたのは女性物の下着と服。

 

「断る。」

 

「服までほとんど脱いでそれは無いんじゃないかな?」

 

 こういう時のアイツ(三月)はどうしていたのか……

 

 確か手を上げて────

 

「────だが断る。」

 

「一護のびっくりして慌てる顔を見たくない?」

 

「別に?」

 

 今日見たので良しとしよう。

 

「じゃあ、真咲さんに褒められるのは?」

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 それは意外と……悪くないな。

 

「…………………………………………………………いいだろう。」

 

「よっしゃ!」

 

 だが何故そこでまるで勝ったように有沢(竜貴)は嬉しがるのだ?

 

 理解不能。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 

 夜空の中を、人口の光が力強く照らしていた場所へと移る。

 

 そこは空座町の西に近隣する『鳴木(なるき)市』、前者と比べてしまうとまごうことなき『都会』である。

 

 ここはその昔、藍染の実験場として多くの死神たちが次々と原因不明の殺され方をされて恐れられた場所。

 

 偶然にも当時は『志波家』と名乗っていた一心が、黒崎真咲と初めて会って恋仲になった場所でもあり、イチゴの友人たちである浅野や水色もこの市の出身者。

 その鳴木(なるき)市の中、長身の二人の男が()()()()()道を歩いていた。

 

 一人は肩までそろえた黒髪で、どこかワイルドさを示すような服装を。

 もう一人はも同じ黒髪と長さだがウェーブがかかっていたスーツにサスペンダーと、どこか知的さの服装をしていた。

 

 この対照的な二人の行き着いた先には厳重そうな扉。

 その横にカード認証の機械に、一人の男がカードを入れると鍵が解除されたのか重たい音が響く。

 

 中に入ろうとして────

 

「やぁ。」

 

 ────既に中にいた人物に、サスペンダーを着た男は本の栞をなぜか出して、もう一人は首にかけた十字架のネックレスを手に取る。

 

「私は君たちが武器を出すことを問題に感じていないが、攻撃するのはお勧めしない。」

 

「テメェ、いつの間に……」

 

 中にいた人物が口を開けた……のではなく、背後から来た声に振り向くと中に居たはずの人物が予想通り立っていた。

 

「君たちは確か……『銀城(ぎんじょう)空吾(くうご)』と、『月島秀九郎(つきしましゅうくろう)』だね?」

 

「僕たちの名前まで……まさか、死神か?!」

 

 サスペンダーの男────『月島秀九郎(つきしましゅうくろう)』が持っていた本の栞が刀に代わる。

 

「『死神』? ああ、そういえば『銀城(ぎんじょう)空吾(くうご)』は彼らと敵対していたね。 私は『元死神』だ。」

 

「月島、武器を下せ。」

 

銀城(ぎんじょう)?」

 

 ワイルドな服装の男────『銀城(ぎんじょう)空吾(くうご)』は必死に動揺や噴き出る汗を気力だけで押しとどめていた。

 

「こいつの霊圧を()()()()()()()()()()。」

 

「だから何だというんだ銀城(ぎんじょう)?!」

 

「つまり、目の前のこいつは余程の弱い存在か────」

 

「────ご明察。 私の霊圧は同等かそれに近いレベルの者でないと感知できないほどのモノだ。」

 

「それで? ここに来たってことは、尸魂界の命令で俺を殺すってか?」

 

「誤解しているようだね、『完現術者(フルブリンガー)』の諸君? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 銀城(ぎんじょう)は思わず自分を見ながらはっきりと蒸気を断言した人物を前に思わず喉をゴクリと音を鳴らせた。

 

「…………………」

 

「なに、私は君たちをどうこうするつもりはない。 助言と、わずかばかりの気遣いさ。」

 

「何が目的だ?」

 

 月島(つきしま)の問いに、人物はただ笑みをわずかに深くさせた。

 

「『“尸魂界への復讐”は私の目的の利害に一致している』と言えば分かるだろうか? もちろん私は君たちが何をしようが干渉はしないし、邪魔もしないよ?」

 

「へ! 『ギブ&テイク』って奴か! アンタほどの奴がか?! 笑えねぇ冗談だぜ!」

 

「そうだね。 でもそれは冗談ではないからだよ?」

 

「あー、ハイハイそういう御託は良い。 いいぜ、『情報をくれる』ってんなら聞こうじゃねぇか!」

 

「そうか、なら────」

 

「────けどよ? 名前も知らない相手から『ハイそうですか』と受け取るのは気味が悪くてしょうがねぇ。 名前くらい言ってもバチはねぇだろう?」

 

 前代未聞の存在を前に、銀城(ぎんじょう)は強気に出てできるだけ相手の情報を取り出しながら時間稼ぎをしていた。

 

「そうか。 名前なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬酔木(あせび)の者』とでも呼んでくれたまえ。」

 

 ()()()()()()()()は薄い笑みのまま、そう名乗った。

*1
作者の他作品、『天の刃待たれよ』より

*2
17話より




馬酔木:
ツツジ科アセビ属に属する常緑性の低木であり、観賞用に植栽もされる場合もある。 『あしび』、『あせぼ』とも呼ばれている。


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第105話 『月の天使』、再降臨(?)

大変お待たせしました、次話です!

もう少しの間だけゆったりとした空間が続きます。

80年代の曲はやっぱり良いですねぇ~ (*´ω`*)
『RAINY DAYS』とか『CLOUDS』とか『私たちを信じていて』とかetc.

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 年の末に近づき、太陽が沈むのがさらに早くなったある日のことだった。

 

「急にどうしたのだ一護?」

 

「………………………………………………………うるせぇよ。」

 

 不貞腐れる一護にチエは訊いていた。

 最近、彼はとある日に限って彼女と目を合わせるどころか接触を避けようとしていた。

 

 竜貴と言えば未だに道場から師範代理の件を頼まれていたことを片付ける為に今日はおらず、少し前まで普通にしていた組み手を二人はする筈だった。

 

 だが、一護がどういうわけか上記の『とある日』によって『竜貴はOK』で『チエはダメ』と言うことにチエは疑問を持ち、無理やり彼を引っ張り出して理由を尋ねたが生返事しか返ってこなかった。

 

 近くでは珍しく膝を抱えながら座っている三月の姿があり、彼女は爪をガジガジと噛みながら恨めしそうな表情と独り言をブツブツ続けていた。

 

 「前(の世界)も見て思ったけど遠坂さんよりは大きくて桜よりは小さくて藤姉と同じぐらいだと思ったけどまさか着痩せするタイプでしかもDとかで胸が邪魔だからずっとサラシと少し前からBホルダーをつけて更に意図的に潰すとかどれだけ贅沢なのよこちとら増えるのは食欲だけだっつーのに────」

 

「────お前がそういう風になるのって久しぶりに見たぜ。 てか『遠坂』や『桜』って誰だ? (『藤姉』って相性つけるぐらいだから『義理の姉』っぽいけど。)」

 

 ただ食っちゃ寝を無断で繰り返している居候の英語担任教師です、少年よ。

 

 あ。 誰でもない!」

 

 三月はハッと一瞬慌ててから、自分を見下ろして落ち込む。

 

「……ハァァァァ~。」

 

 そして盛大にため息を出しては、『チエが一護に尋ねて彼が視線を合わせずに生返事をする』コントを見続ける。

 

 いや、正確には月に一回ほど女性モノを着るようになったチエを見た。

 

「(さすが『Dの意志を継ぐ』────ってそれは違うジャンプシリーズか。)」

 

 それも正確ではなかったようで、彼女のその日によってより女性らしく出たチエの部分を見ていたそうな。

 

「そういえばお前、最近たつきたちと付き合いが悪いんだって? 井上から聞いたぞ? 『私たちの事避けている~』って。」

 

ウッ。

 

 一護の問いと視線に三月は目をそらす。

 

 何を隠そう、チエが女性モノを私服で着たことは瞬く間にある日を境に広がった。

 

 少々時を戻すとしよう。

 

 ………

 ……

 …

 

「「………………………………………………………………」」

 

 場所は黒崎家……の玄関を入ったところ。

 

 そこでは一護の妹たちが目を丸くさせながら、ポカンと口を開けて突っ立っていた。

 

「よぉ、久しぶりだな黒崎妹(くろさきいもうと)たち! 元気だったかー?」

 

「「………………………………………………………………」」

 

「竜貴、先ほどから二人が私だけを見ているのは気のせいか?」

 

「うん? そりゃアンタが────」

 

 ここで真咲がずっと居間に帰ってこない遊子と夏梨を探しに来た。

 

「────どうしたの二人とも………………………………………あらあらまぁー?!

 

 そして双子同様にチエと竜貴を見ては固まったがすぐにニコリと笑顔になって嬉しがるような声を出す。

 

「やっと着飾るようになったのねぇ~、偉いわぁ~。」

 

 真咲はまるで我が子のようにチエを抱き寄せて彼女の頭をおもむろに撫でまわす。

 

 その時、竜貴は見た。

 

 遊子と夏梨がワナワナと両手を胸の前で震わせていたことを。

 

 そして聞こえてしまった。

 

「「胸…おっきい。」」

 

 姿も性格も似ても似つかない双子が珍しく波長の合う言動をしていた。

 

 チエと言えばいつもの無表情のまま、真咲にいろいろと写真を本来は一心が家庭用に買ったカメラで撮っていた。

 

「次はこうして、こうして、こうよ!」

 

「こうか?」

 

 そして真咲に言われるがままに、いろいろなポーズを律儀にとるチエであった。

 

「真咲さん、後でアタシにも写真みせてよ?」

 

「ええ! ええ! もちろんよぉ~~~!

 

「ただいま~……って、誰のブーツだ? こっちのは、確かたつき────」

 

 一護は学校が終わってからそのままどこか寄り道をしていたのか今になって帰ってきて、居間に立ち入ろうとして完全に体が固まった。

 

「ああ、戻ったか一護。」

 

 チエはポーズをとったまま挨拶をすると彼の指から力が抜けたせいでカバンがドサリと床に落ちて、中身が床にばら撒かれた。

 

「見て見て一護! あのチエちゃんがね?! 『スカート』をしているのよ~!」

 

「あとブラもな、ブラ。」

 

 真咲と竜貴の言葉を聞き、一護は無言で顔を両手で覆って部屋に上がっていった。

 

 その日から遊子と夏梨はキャミソールの下に、いつか見たサラシを(真咲の手伝いもあって)なぜか巻き始めたそうな*1

 

 ………

 ……

 …

 

 上記の出来事を真咲→マイ→自分の経歴で三月も知った今、彼女はある意味納得していた。

 

「(通りでタッちゃんが珍しく私に自分に似合いそうな服を聞いてくるわけだ。 二人とも体格が似ているもんね……胸以外。)」

 

 三月はそう思いながら、自分の提案したコーデのショルダーポーチの代わりに竹刀をしたチエを見ていると、上の気がガサガサと音を出してはアネットが突然飛び降りて、彼女を羽交い締めにする。

 

「グェ。」

「確保。」

「あ! 三月ちゃんいた!」

 「ぎゃあああああああああああああああ?!見つかってもうたぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 上記の出来事を思い出していた一護を、アネットと織姫の声、そして見た目に似合わない素っ頓狂な叫び声を出す三月に遮られた。

 

 見ると彼女は織姫、みちる、そしてアネットと千鶴にがっしりと両手両足+胴体をホールドされて移動し(連行され)ていた。

 

 「は、放せぇぇぇぇぇ! 放さんかいぃぃぃぃぃ?!」

 

「仕事に戻される重国のような叫びだな。」

「へ?」

「いや、覗きを発見された右之助か?」

「ブフ?! あの二人、いい歳して何やってんだよ?!」

 

 一護はチエからジタバタと(体格差のおかげで)むなしい抵抗をする三月に視線を動かし、山本元柳斎(重國)と右之助を想像して思わず噴き出した。

 

「ようやく調子が戻ったか。」

 

「え?」

 

 一護は自分の顔を覗き込んだチエを見返して、パチクリとした。

 

「やはり私にこのような服は、見るに堪えないほど似合わんのだろう?」

 

「えっと……」

 

 一護の頭は真っ白になり、先ほどの言葉が彼女なりの気遣いと思いついた彼はニカっとした笑みを向けて勇気を出(カッコつけようと)した。

 

「な……なぁに自信なさげになってんだよ?! らしくねぇよ! 似合いすぎて、直視できなかっただけだ。」

 

 ちなみに今の彼の内心を言語化することは無理で、『ただキザで恥ずかしい』とだけの表現まみれとだけ記入しよう。

 

 今にでも顔を覆いながら言葉になら叫びとともに地面をゴロゴロとしたい衝動をぐっとこらえると────

 

「そうか。」

 

 「うっお…………………………………………………………」

 

 ────チエが以前見せた温かい目をしたことに*2一護から思わず声が漏れ出していた。

 

 以前は男子生徒用の制服の上にサラシ+Bホルダー(卍解)だったのに対し、今はブラジャー(浅打状態)を着用していたので『異性』ということを強調した見た目だったのが破壊力をさらに上げていた。*3

 

 そんな場面を織姫は首を横に回して見ていて、胸がモヤモヤしたのが少し顔に出ていた他の者たちには気付かれていなかった。

 

 ………

 ……

 …

 

 ポス。

 

「ぶぇ。」

 

 三月が連れてこられたのは織姫のアパート。

 

 そして部屋の中ではいろいろな衣類を手にもって彼女による知人たち。

 

「ぬっふっふー、観念しなさい。」

「そして着替えなさい。」

「(上姉様ってお変わらずにいつも通り()()ですね。)」

「あ、えと、ふ…服より先に眼鏡と髪形と顔を先に整えてもいいかな────ヒッ?!」

 

 意外(?)とみちるが消極的な提案をしたことに、ほかの者たちがギロリとした目を向けたことにその場唯一の『良心』が撃沈する。

 

「あのたつきが自分を賭けるほどの素質を隠し持っているのはちょっと信じがたいけど……」

 

「あ、でもでも中学の時に素顔と髪の毛を下した姿見たよ? すっっっっっっっごく可愛かったよ!」

 

ウゲッ。

 

 「「「ぬわにっぬ?!」」」

 

 織姫は(今でもだが)若き頃に起きたハプニングを思い出して呑気にそういうと知人たちと三月本人が反応する。

 

「うん! 腰まで届く、透き通ってサラサラした金髪でぇ~、眼鏡のない顔も整ってぇ~、目もキラキラしててぇ~、目立ちたくは無いけど人を助けるのに躊躇しないで周りの人たちにそれとなく気付かせたりしてぇ~────」

 

「────はわわわわわわわわ?! (ヤ、ヤメテェ~! ハズイ!!)」

 

 そこで色々と素の姿を(あること無いことも含めて)暴露されていく三月の目の瞳孔は次第にグルグルしていく。

 

 というか何気に彼女を一人でよく見ただけで、ここまで思い至った織姫は浦原レベルの洞察力を持っていたかもしれない。

 

 たとえ浦原と違って三月からほとんど『ノーガード(無警戒)』だったことを除いたとしても。

 

『アネットから聞いたのでは?』と思うかもしれないが、アネットはやはり『上姉様(三月)』の許可無しに個人のプライベート情報と思ったことは口に出さなかった。

 

 せいぜいが好物などの彼女の喜びそうな『物理的な物』程度である。

 

 次々と織姫(のお古)などを手にもってワイワイと騒ぐクラスメート+アネットたちに囲まれて三月の瞳孔はさらにグルグルと加速をつけて回っていく。

 

 プッツン。

 

 そして何かが切れたような音とともに、三月が狂人の目をしながら声を出し、周りの者たちがそれ尋ねるような声で復唱する。

 

「しゃ……」

 

「「「「「『しゃ』?」」」」」

 

 「しゃーんなろー! やぁぁぁぁぁってやるぜ!!!

 

 とうとうパンク(壊れた)のか、頭から湯気が出そうなほど顔を真っ赤にさせて、ごちゃ混ぜでわけの分からないことを口走った。

 

「(どうせ次の『フルなんちゃら』なんて3年生に起きることだし! それで()()()の筈だし?! ここはもうええわド畜生めぇぇぇぇぇ!)」

 

 ……………………果たしてそれで良いのですかお嬢様?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 時はさらに進み、空座町の木に葉っぱが戻った今は4月。

 

「一護ぉ~? 起きているの~? 今日から二年生でしょう~?」

 

「ふわぁ……もう、か。」

 

 おふくろ(真咲)の声をBGMに、あくびを出しながらも朝日の入ってくる窓の外を見る。

 

「……うん、今日も()()()()な。」

 

 霊が見えないことに()()しながら、支度をして一階に降りると────

 

「寝癖がついているぞ一護、鏡で見てみろ。」

 

「一兄はツンツン頭だから誤魔化しが出来るんだよ。 はい、お醤油。」

 

「そうなのか? すまないな夏梨。」

 

「当然ながらのことみたいにサラッと人ん()で朝ごはん食べているんじゃねぇよチエ。」

 

 ────小学生からの馴染みであるチエが(女子制服を着て)パクパクと朝ご飯を食べていた。

 

 なおいつもの竹刀は流石に背負っておらず、近くの壁に俺のと一緒に立てていた。

 

「あら、そんな意地悪なことを言っちゃって良いのかしら一護?」

 

「どういう意味だ?」

 

「今日の朝ごはん、チー姉ちゃんが半分作ったんだよ?」

 

「あれ? 今日は()()()と一緒じゃないのか?」

 

()()()』とは勿論、チエの姉を自称する、もう一人の馴染みである小(柄)悪魔系の三月だ。

 

「『今日は先に行ってくれ』とマイに言われたのでな。 ならばと思って真咲の手伝いに来たのだが意外と一心が夜遅くまで泣きついていたのか中々二人とも起きて────ムグ。」

 

 「オホホホホホホホホホホホホ。」

 

 チエの口をおふくろが意味ありげな笑いとともに塞ぐ。

 

 ああ、親父(おやじ)ってまだ尸魂界と行き来しているのか。

 

 まぁ…もとは言え、貴族だったのは相変わらず面倒くさいし精神的にストレスがかかるらしい。

 

 藍染の騒動後から少し経って、いろいろと簡単にだけ聞いた。

 

 あの黒髪の野郎が『志波海燕』と言い、あの岩鷲や空鶴の実兄だったことと『志波家の当主だった』とか。

 あと元十三番隊の副隊長だったとか。

 

 ……あれ? ということは、アイツは浮竹さんやルキアと知り合いか?

 

 まぁ、今は良いや。

 

 そして志波家は昔、あの白哉の朽木家と並ぶほどの大貴族だったこととか。

 今は没落しているらしいけど。

 

 んで、親父(おやじ)はその志波家の関係者だったとか、遠縁だったとかなんとかで尸魂界に良く行っては帰ってきておふくろに泣きつく。

 

 最初はバイトでたまに来ていたマイさんに泣きつこうとしたらしいけど、その場面にちゃっかり出会ったおふくろに親父(おやじ)はこっぴどく叱られた。

 

 そんな場面を見ていると、ある男の言葉が俺の脳内を過ぎる。

 

≪私が『初めから』と言っているのは、『君が君の母親の子宮に存在した時から』だ。 なぜなら君は『人間』と────≫

 

 あの時、突然現れた親父によって藍染の言葉の続きは聞こえなかった。*4

 

『人間』って言うならば当然、おふくろ(真咲)の事の筈だ。

 けどアイツの言葉は『人間(真咲)』と『死神(一心)』の事を指しているようには聞こえなかった。

 

 そんなことを考えていると、横からイライラする空気を感じてみると、やはりチエが若干苛ついていた。

 

「どうしたチエ?」

 

 無表情でぶっきらぼうだが、なんとなくわかるって前にたつきに言ったのは嘘じゃない……と思いたい。

 

「いや、あれから腰布一枚になると視線を感じるのだ。 大概の者は別に悪意はないのだが、たまに邪な気を持った視線を胸部と足部に感じるのだ。 特に男どもから。」

 

「こ、腰布って……」

 

 俺はちらりと女子の制服を着たチエの腰にあるスカート(腰布一枚)を見る。

 

 ……たつきので見慣れたと思ったけど、やっぱ着る人によって違うな。

 

 ………

 ……

 …

 

「い~~~~~ちごに~~~~~ち────!」

 

 ドッ。

 

「────エゴフゥ?!

 

「「おーす。」」

 

 朝一から俺たちに抱き着こうとする浅野に恒例の挨拶(の腹に一発かま)して、彼は自分の腹を抱きながら床で痙攣していると、水色も恒例の挨拶をす(浅野の頭に乗)る。

 

「おはようケイゴ、朝から元気だね。」

「いつかぜってぇー殺す……」

 

『お、おいあれ……』

『うわ、ホントだ。』

 

 そんな中、後ろで廊下がざわめいたことに、なんとなく頭を振りむくと────

 

「あ! 黒崎く~~~ん、おはよう~~~~!」

「織姫さん。 そんなにピョンピョン跳ねると肩に負担がかかって、肩がさらにこりますよ?」

「そんなアネちゃんも手を振ると横に体が動いちゃうよ?」

 

 ────井上とアネットが歩いていた。

 

 井上はいつもの天真爛漫な笑顔をすると周りを自然と明るくさせるような……強いて言うのなら『太陽』みたいな奴だ。

 

 アネットは三月の妹らしいが、彼女と違って女子にしては平均的な身体……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 いや、『平均的』と呼べるのかあの二人は?

 

 まぁ。

 とりあえず似ているのは体だけであって、性格はぜんぜん似ていない。

 

『クールビューティー』っていう奴になるのか、アネットは?

 

 ……いや、マジで俺でも『綺麗』って思える二人だからな。 それに今は一緒のアパートに住んでいるらしいし、同時に登校するのは別段珍しくもない。

 

 学校じゃたつきたちのようなあだ名が広まっているぐらいだ(浅野いわく)。

 主に男子たちの間で、『Hot(ホット)&Cool(クール)』だっけ?

 

『井上先輩とアネット先輩だ。』

『スゲェ、本当にアイドルみたいだ。』

『俺この高校入って良かった、て思ったもんな。』

『この間井上先輩が笑っている顔、写メに撮ったぜ?』

『『送れソレ、頼む。』』

『俺は眼鏡を外して、冷た~いジト目でこっちを見下すアネット先輩ならあるぜ。』

『『え。』』

『あ、わかるそれ。 ゾクゾクするんだよなぁ♡』

 

 一年生たちの言葉を聞く限り、また話題になるな井上の奴。

 いや、今度は初めからアネットもいるから倍増するか。

 

『あれ、あの子誰だろう?』

『アネット先輩の妹じゃね?』

 

「…………………」

 

『つーか姉妹揃って髪の毛長いな。』

『天使? 妖精? 妖精か?』

『あ……俺、なんかこっちのほうが良いかも♡』

『『え。』』

『お持ち帰りしたい。』

『『『分かる。』』』

 

 井上とアネットの間には()()()()()がいた。

 

 金髪とサファイアのような青い瞳。

 小柄で分け隔てなく周りに向ける表情はどこか無邪気さも混じっている笑顔(営業スマイル)

 髪もその長さを生かしたロングストレートと、整えられた顔は似合わない眼鏡を外していた。

 

「って誰だよテメェは?!」

 

「あ。 一護にチーちゃんヤッホー! 私だよ私、三月だよ。」

 

 「別人だ別人!」

 

 にぱっとした笑顔と手を振ってくるこの少女が、()()三月なんて認めれるか!

 

「え、え~~~~? そこまで言う一護? だから三月だって────」

 

 「────別人だ! 完全に化けやがって! ソバカスとかも含めて野暮ったい感じが全部無くなってどこの技術だよ?! 三月をどこにやった?! マジで誰だよ?!」

 

「落ち着け一護。」

 

 チエが俺の肩の手を乗せて、少しだけだが冷静になる。

 

「あ、さすがチーちゃん。」

 

「まだ慌てるような時間ではない。」

 

「「どこぞの陵南のエースだ/なの。」」

 

 クソ、思わず『自称三月』とハモっちまったじゃねぇか!

 

「おー、やってるやってる。」

 

「お、いいところに来たなたつき。 こいつを職員室に連れてってくれねぇか? 自分を三月と偽って迷子────」

 

 ここでたつきがまるで『可哀そうな子』を見るような、半分諦めたような目で俺を見る。

 

「────悪いけど、ソレ三月だから。」

 

「『ソレ』呼びすんなしタッちゃん。」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 イチゴ は めのまえが まっしろに なった!

 

「え? ちょ、ちょっと一護?!」

 

 せいしんてきに つかれて うごけなくなった イチゴを かばいながら ちえ は いそいで ほけんしつに つれていく のであった。

*1
6話より

*2
12話より

*3
以前いただいたコミケンさんのご感想を採用しました、ありがとうございます!

*4
95話より




リサ:へぇー、Dカップなんてけったいな身体しとんなー

チエ:そうか? 矢動丸も良い身体つきではないか?

作者:ま、まさかのGL?!

リサ:あほ! どアブノーマルや!

平子:ぜんぜん不定してへんやんけ?!

作者:なおリアルで急に寒くなってきていますので皆さん、外出する際には気を付けてください!

ひよ里:それお前ントコの仕事がメッサ忙しなっているから言うてるのか?

作者:……黙秘シマス


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第106話 かつてのData

お待たせしました、次話です!

またも長めです……(汗

『天の刃待たれよ』関連のネタが絡んでいますが読んでいなくても理解できるように努力しました!

楽しんで頂ければ幸いです!


 ___________

 

 『渡辺』三月 視点

 ___________

 

「(圧倒的じゃないか、我が本気は?!)」

 

 立ったまま放心した一護を、チーちゃんに担がれていくのを見届けた私は内心興奮しまくっていた。

 

 フハハハハハ! よし、このまま皆の腰を抜かせよう────

「────って、二人はいつ私の手を放すのかしら?」

 

 

 よく見ると右側に織姫(157㎝)、左側にアネット(157㎝)が私の両手を持ち上げていたので、二人の移動に引きずられていた。

 

 いや、『ズルズルと歩かされていた』とも見えなくもない図面だった。

 

 

「もちろん、クラスに着くまでだよ!」

「ええ、皆様に上姉様の魅力を見せつけましょう♪」

 

 え゛。

 あの、このままですと『アレ』ですよ?

『どこぞのシークレットエージェントに両腕を掴まれた宇宙人の写真』そのままですよ~?!

 

 

 そんな彼女の内なる叫びを聞く者はいなかったとだけ記入しよう。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『圧倒的じゃないか、我が本気は!』と、私は今朝ほざいたな?

 

 撤回しよう。

 

 つ、疲れた。

 

 精神的に疲れた私は昼休みになってやっと周りにできた囲いから抜け出して、屋上へと避難してやっと一息ついていた。

 

「さささ! 迷わず私の胸に埋も────『胸を借りて』もいいのよ?! ハァハァハァハァハァ。

 

「なんか千鶴には別の動機がありそう(下心アリアリ)だから却下。」

 

チッ……あ。 でもこれもなんか良いかも♡

 

 屋上の端で知人たちと共に六段弁当箱を食べていた三月は千鶴の誘いを一刀両断し、後から着終えてきた小声でさらに千鶴を警戒することにした。

 

「いや~、年末にも見て思ったけど…アンタってば化けるわね。」

 

「真花が化粧をするのが得意だったからよ? (そのおかげでわざとらしいソバカスとかしなくていいから手間も省けたけど。)」

 

「うんうん! 私も、三月ちゃんの()()が楽しみだよ!」

 

「……それってどゆこと、みちるさん?」

 

「と、と、と、と、と、と、ところでチエさんも綺麗になったね?!」

 

 みちるはただ半笑いを上げて話題先を変えた。

 

 ……逃げたな。

 

「そうか? 服装を変えただけだぞ?」

 

「うん、本当にそうだけどね? どこかの姉妹と違って……(いろいろデカい)から。」

 

(りょう)さん、こっち見ながらそう言うのはヤメテチョ。 じみ~に傷つくチョ。」

 

「神経図太いアンタが? 冗談はよしこさん。」

 

 そんな他愛ない会話をして笑っていると、今の見た目も影響していたのかふと過ぎ去りし時間を思い出しそうになり、胸が少し傷んだ。

 

 それが顔に出たのか、織姫が急に突拍子もないことを言い出した。

 

「そ、そういえばさ! 『ファーストキスはレモン味』って話、本当かな?」

 

 「「「「「ブフゥゥゥゥゥ?!」」」」」

 

 その場にいた皆が一斉に様々なモノを噴き出した。

 

 チーちゃんは相変わらずにモグモグと弁当を食べ続けていたが。

 

「お、お、お、お、織姫?! なにを急に言い出すの?!」

「そうだよ! というかなんで?!」

「ま、まさかもう誰かと?!」

 

「(もしかしてあの時(コン騒動)の影響?*1)」

 

「え? だ、だってそう言われているからさ? 『本当にそうなのかなぁ~』って。」

 

 いやぁ~、『井上織姫』ってやっぱり天真爛漫、純粋無垢ですなぁ~♡。

 青春ですねぇ~。

 若いなぁ~。

 

 ズズズズズ。

 あ、お茶うま~。

 

「フム……それは興味深いな。」

 

「「「「「うぃえ?!」」」」」

 

FUO(ふお)?!」

 

 おおおおおう?!

 意外とチーちゃんが食いついたぁぁぁぁ?!

 

「え、なになになになに?! 大きいほうの渡辺もさすがに『コレ』には興味を出す?!」

 

「ああ。」

 

 周りから『おお~』という息が出る。

 

 うん、皆の気持ちは分からなくも無い。

 長年一緒にいた私にとっても意外だったし。

 

「(というか『大きいほう』って失礼しちゃう!)」

 

 「プックリ饅頭顔の上姉様……ウェヒヒヒヒヒヒヒヒ……」

 

 ……うん。

 今のは聞かなかったことにしよう。

 

「で? この中でキスの経験ある人、答えられる?」

 

「「「「「………………………………」」」」」

 

 真花がゴクリと生唾を飲み込みながら周りを見渡すと辺りが静かになって、皆が互いを見始める。

 

 

 一人だけはマイペースにも和みながらパクパクと弁当を食べ続けていた。

 

 

「モグモグモグモグモグモグモグモグ。」

 

 ま、そうなるわなぁ~。

 キスした事があるなら黙っているか、ノロケ話しているかの二択だし。

 「それにキスしたならばレモン味じゃないのは分かるし~。」

 モグモグモグモグモグモグモグモグ。

 

「「「「「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」」」」」

 

 ん?

 気の所為かな?

 なんか皆がギョッとして、こっちを見ているっぽいけど────

 

 「「「「「────キスした事あるのアンタ?!」」」」」

 

 

 アネットは半分呆れた、半分は頭痛のしたような顔をした。

 

 

 「………………………………………あ゛。

 

 あれれれれれれ?

 

「……………もしかしてもしかすると私…声に出していた?」

 

「「「「「うん。」」」」」

 

 もしかしていた。

 …………………

 

 Oh my God(オーマイゴッド)

 し、しまったぁぁぁぁ?!

 

「それで相手は誰だったの────?!」

「というか馴れ合いは────?!」

「相手は年上?! 年下────?!」

「男子、それともまさか変化球で女子────?!」

 

 うおおおおおおおおおおおおおおおおお?!

 

 思春期女子こっわ。 グイグイと攻めらっしゃる。

 

 血走った目と興奮した皆の顔が苦笑いを浮かべた三月に近寄りながら様々な質問を投げかけて彼女は内心、多少(?)焦っていた。

 

 竜貴と織姫も断然、興味を示していた。

 何せ彼女たちは他の者たちと違い、三月に関した少し込み入った事情を知っていた。

 

「それで? 味は?」

 

うぃぇ?! (あ、変な声が出ちゃった。)」

 

 気の抜けた声を出した三月の様子に周りの者たちは新たな玩具発見にさらに興奮した。

 

 今までの彼女は『愛想笑いの聞き役で出来るだけ野暮ったく、目立たたない子』に徹していたのだが、このように慌てることなどは幼い子供の頃を含めて一度もなかった。

 

 よく言えば『余裕のある背伸びするお姉さん』。

 

 悪く言えば『近所の人の良いおばあちゃん』だった。

 

「あ、えと、その、あの。」

 

「「「「「(小動物みたいに可愛い~~~。)」」」」」

 

 そう周りの皆は考えながら和んでいた。

 

 「それで、キスってどんな味なの?!」

 

 タッちゃんまで怖いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!

 

「う、う~~~ん……」

 

 どうしよう? えらいこっちゃ。

 どうしようどうしようどうしようマジどうしようえらいこっちゃえらいこっちゃえらいこっちゃえらいこっちゃ(以下略

 

 ……………………ええい、ままよ!

 

接続(アクセス)』……『検索(サーチ)』。

 キーワードは『ブレスレット』、『冬木市』、『新都』。

 そして『()()』、と。

 

 ……………………………………記録の候補を発見。 『()()()()導入(インプット)』を行いますか?

 

 Yes(はい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 『()()三月』 視点

 ___________

 

()()()()()()()わ。」

 

「「「「「へ?」」」」」

 

『三月』の言ったことに、皆は呆気にとられたが『彼女』は気にせず、目を閉じて『当時の記録』を思いだしながら感じたままに身をゆだねて言葉を続ける。

 

「こう…………なんていうのかな? 

 好きな人を前にして唇を重ねると、胸の奥から暖かいモノで満たされて、それがあふれ出すような気持ちが体中に…『広がる』って言うの? 

 言葉にすると難しいけど……とにかく『幸せな気持ち』でいっぱいになるの。」

 

 その時、目を開けて周りの知人たちの顔を一人一人見ていくと無意識的にいつの間にか手を胸の前で組んでいたことに気付く。

 

「だから、『味』とかはよくわからないわ。 そんなことを考える『余裕』なんて無いもの。」

 

 竜貴、真花、みちる、鈴たちだけでなく、その時たまたま彼女たちの会話を見聞きった他の生徒たちが男女関係なく惚けて息をわずかに飲み込んで、『彼女』に見惚れているような顔を浮かべていた。

 

 それほどまでにキラキラと今にでも光りだすような彼女の表情は、今までの中でほとんど他者の前で()()()()()()()()、『自然と愛する者の微笑み』だったのだ。

 

 千鶴とアネットと言えば────

 

 「「ブハァァァ?! ンギャワイイイイイッ!!! 無理! 無理!」」

 

 ────盛大に血が噴き出る鼻を両手で押さえながら、足をバタバタと興奮気味に動かして意味不明なことを嘆いていた。

 

 この奇怪な行動によって竜貴は回復したのか、いつもの調子を装いつつからかうように口を開けた。

 

「……へ、へぇ~? アンタにもそう思わせる相手がいるんだね? そ、そ、そ、そ、そんなに好きなんだ?」

 

 ドギマギした口調でだが。

 

「うん!♡ 世界で……ううん。 ()()()一番、大好き!♡

 

「「「「「ハウ?!♡」」」」」

 

『三月』のド直球な返しと、更に輝く笑顔に皆がハートを射抜かれたような状態へと陥ったのか直視できなくなったのか、顔を両手で覆いながら顔を真っ赤にして、以下と似たようなものを内心同時に思いながら、必死にその場でゴロゴロと寝転びたい衝動を抑え込んでいた。

 

「「「「「(うわぁぁぁぁ! 何?! 何なのこの尊い生き物?! 天使?! 妖精?! 神か大精霊が(アタシ)たちに遣わしたのッッッッ?!)」」」」」

 

 余談ではあるが、その時おなじく屋上に居合わせていた浅野は襲い掛かる衝動を我慢せずにゴロゴロしながら以上を声に出していた。

 

 そんな中、一人だけは未だに呆気に取られていたようで、目を少しだけ見開いたまま微動だにしていなかった。

 

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 チエは先ほど聞いたことを脳内に浮かべながら珍しく考え込んだ。

 尚、三月はあのあと貧血を起こしたのか、だいぶ疲れた様子で保健室へと連れて行かれた。

 

 

『胸の奥から暖かいモノで満たされてそれがあふれ出すような気持ちが体中に“広がる”』……か。

 

 果たして、私にもそんな奴が現れるのか?

 いや、そもそもそのように事を感じ取られるのだろうか?

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 何をいまさら。

 

 だが……

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「織姫、竜貴。 少し訊いて良いか?」

 

「ん? なぁに?」

「珍しいな、アンタから質問ってのは。」

 

「『好意』とはどういうものなのだ? お前たちは好きな人とかは居るのか?」

 

 私相手の組み手で息が上がった一護と別れ、竜貴と帰り道を歩いている間に一人だった井上と出会い、ふと思ったことを二人に訊くと彼女らは驚愕の目を向ける。

 

「……………………………えっと?」

「うわ。 アンタもそんなこと考えるんだ?」

 

「どうなのだ?」

 

 

 チエの問いに竜貴と織姫は互いを見る。

 まるで『お先にどうぞ♪』とでも言いたいような視線を飛ばして。

 先に口を開けたのは竜貴だった。

 

 

「う~~~~~ん、アタシは今……特にいないかな? こう、『ビビッ!』って来るものだと思う。 『あ、こいつだ』的な、閃きのような。」

 

 腕を組んで考えた竜貴の答えは彼女らしく、『直感』に例えられていた。

 間が少しあったような気がしたが……別にいいだろう。

 

「井上はどうだ?」

 

「へ?! あ、えーと……」

 

 

 竜貴の答え後間髪入れずに話題を振ったチエに彼女は困ったのか、自らのクルミ色の髪をいじり始めて明らかにソワソワしだす。

 

 

「えっと────」

「────いやいやいや、この子は一護に一途だから。 というか前に話したの、覚えていないの? *2

 

「た、たつきちゃん?!」

 

「すまん、そうだったか?」

「そうだよ。」

 

「ううううぅぅぅぅぅ……」

 

 

 竜貴は助け舟を出したつもりが、織姫はさらに困ったような様子にチエは気付かずただ考え込む。

 

 

『一護』、か…………………

 

「井上は一護の何が好きなのだ?」

 

「うっわ、久しぶりにチエの遠慮無しド直球の問いが炸裂したよ。」

 

「え、何がって……えーっと…きゅ、急に聞かれても……」

 

「思ったことで良い。」

 

 井上はモジモジしながらさらに困ったようで、チラチラと私と竜貴を互いに見ること数分後に言を並べ始めた。

 

「えっと、黒崎君ってね? いつも眉にしわを寄せたり、ぶっきらぼうな言葉を使ったりするけどね? 根は優しくて背伸びしがちなんだ。 

 それに他人が困っていると、手を平然と差し伸べるの。 助けた相手から見返りを期待していないっていうか……すごく『自分を通す』って感じがして、初めは憧れだったんだと思う。」

 

 ここで織姫がいつにもなくキッと、真剣な顔をチエに向ける。

 

「そんな黒崎君に私は憧れて、勇気をおすそ分けしてもらったの。 

 だからもし黒崎君が黒崎君じゃなくなったら、私は私でいられない。 黒崎君はきっとそれぐらい、私にとってかけがえのない存在。 

 ううん、それだけじゃない。

 周りのたつきちゃんや千鶴ちゃん、チエさんや三月ちゃん、茶渡くんや石田君たちが私の()()()()()()()()()()()()なんだと思う。」

 

 そこで織姫は限界に達したのか、キャーキャーと言いながら保温両手を当てて身をよじって照れだす。

 

「織姫、アンタ……ってチエ?」

 

 

 竜貴は胸にジィ~ンと感じる中、チエがいつもの雰囲気ではないことに気が付いて声をかけた。

 

 

「…………………『()()()()()()()()()()()()』、か………………」

 

 ここでチエはどこか諦めたような、アンニュイな雰囲気になったことで竜貴がヒュッと息を素早く飲む。

 

「井上、竜貴。」

 

 だがその次の瞬間チエはいつもの様子に戻り、不意に織姫たちの名を呼んだ。

 

「へ?」

「ん?」

 

「この先……」

 

 チエの様子がいつもとはどこか違うことに、織姫と竜貴の二人が神妙な心構えになる。

 

「この先も……()()()()()()()()()()()()?」

 

「「……………………」」

 

 最後にチエは『奴は芯が強いが、時に背負い込みすぎる節があるからな』と言ったが、果たしてそれが二人に聞こえたのかは微妙なところである。

 

 何せチエの言い方は二人にとってはまるで、『遺言』か何かに聞こえていたのだから。

 

「あ、当たり前だよ! ね、たつきちゃん?!」

「お、おう! アイツが犯罪者になったら真っ先に穴倉から引きずってでも出頭させるぐらいな!」

 

「そうか。」

 

「「…………………………………………………………………………………………………」」

 

 その場に漂った空気を吹き飛ばそうとした二人のカラ元気にも似た勢いのついた返事に、チエはなんの変化を見せずにただ歩き続けた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「というわけで、『好意』とはどういうものなのだ三月?」

 

「流れがちょっと見えないというか急すぎないかしら?」

 

 アパート本来の管理人の調子が良くなったことで話をしに行ったマイの代わりに、その晩と次の日の食の仕込みをしていたところで聞いてみたところ上記の場面へと行き着いた。

 

「お前は『恋愛』というモノを既に経験したのだろう?」

 

 そう尋ねると、彼女は複雑そうな顔をしながら視線をそらした。

 

「い、いや~、その……『既に経験した』というか……『いまだに経験中』というか、なんというか~。」

 

「煮え切らないな、どっちなのだ?」

 

 「チーちゃんってば極端すぎだってばよ?!」

 

「???????」

 

 良く分からないことを言った後、三月はため息を吐き出しながら煮込むポテトの皮をむき始めながら口を開ける。

 

「そうね、チーちゃんってばそもそも『好き』が知らないからねぇ~……」

 

「そういうお前も『分からない』とか言っていたではないか?」

 

「う~ん………………………………………そもそも『好き』という定義って要するに『個人の定義』で変動しちゃうと思うの。」

 

「????? どういう意味だ?」

 

「こう…例えば告白されてから初めて『相手が自分のことが好き』って意識するときとか、その逆もあるでしょ?」

 

「そうなのか?」

 

「……………今はそう取っといてよ。 

 んでそれらを前提に続けるけど、相手から告白されてから『自分はどうだ?』って見つめ直すと、『あ、そういえば一緒にいるときは気を使わないな』とか、『無意識に目で追っているなぁ~』とか、『時間が余っていたら相手と一緒にいることを妄想するなぁ~』とか、『相手がいないと寂しいなぁ~』って感じるの。 

 こう……まさに『目から鱗が落ちる』っていう風に、相手のことをドンドンと考えこんじゃうってのもある……と思う。」

 

「…………………………」

 

 チエが『よくわからん』とでも言いたいような視線と傾げ始めた頭に、三月はさらに考えを捻りだそうと努力をする。

 

 彼女自身『好意』を深く良く分かっていなくとも、極稀で貴重な『妹からの問い』に応えようと。

 

「うーんとね……つまり『誰かを好きなろう』っていう過程自体も、『好意』って呼べるんじゃないかな?」

 

「……………………………」

 

「わ、分かるかな? ()自身、そんなに『経験豊か』って訳でも無いし……『手探り状態』のようなものだし……『記録』だし……」

 

 三月がここで珍しくボソボソし始め、他に人がいれば『あ、見た目の歳相応のしぐさだ』とでも考えていただろう。

 

「なるほど。 『相手からの好意を知って尚、その者と接し続ければこれから好意を持てる場合もあり得る』ということか。」

 

「何気に頭が鋭いときあるよね、チーちゃんって。 やっぱり脳筋じゃないんだ。

 

「だからその『脳筋』とは何だ?」

 

 三月は答えずにただ気まずい笑いを出しながら支度をとんとん拍子に続ける中、代わりにチエにさらなるアドバイスをした。

 

「チーちゃん、()()()()()。 貴方は()()()()()()()()()()()よ。 だから、貴方にかかわろうとする人たちを怖がらないで。」

 

 理解不能。

 

 何を言っているのかわからん。

 

『恐れ』など、()()()()()()()()

 

 ………………『日記』とやらに一応、書いておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 ■■ 視点

 ___________

 

 

 …

 

 

 

『敵』が来る。

 

 ころせ

 

『強い敵』が向かって来る。

 

 ころせ ころせ

 

 大勢の■■がやってくる。

 

 殺せ 殺せ 殺せ

 

 彼らを薙ぎ払う。

 

 殺せ

 

 さらに大勢の■■がやってくる。

 ■を■■だ■だと吐き捨てて、■を討ちに来る。

 

 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ

 

 来る。 ■■に来る。 皆、■■に。

 

 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ

 

 軍勢が来る。 ■■に来る。

 ■を。

 

 問題は無い。

 ■はそのように在る。

 在り続ける。

 

 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ

 

 ■は止まらない。

 ■は止められない。

 

 世界がそうと定めている(ことわり)だ。

 

 滅する。

 

 滅。

 

 滅、滅、滅、滅、滅、滅、滅、滅、滅。

 

 ■は何であろうとも滅する(殺す)

 

 残らずこの世すべての■を。

 

 そうだ。

 

 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ

 

 もとより、それがオマエの役目。

 

 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ

 

 次の

 

 

 

 

 

 

 

 ■■が繁栄する為の

 

 

 

 

 

 

 

 ■■。

 

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

「……………………………」

 

 久しぶりに()()()()()()か。

 

 

 

 さて。

 

 

 

 

『日記』とやらを見て、昨日まではどうしていたか。

 

*1
13話より

*2
17話より




雁夜(バカンス体):年臭いな、今回のお前

三月:アンタに言われたきゃ無いわよ?! ってもやしは?

雁夜(バカンス体):アイツなら青臭いガキらしく、鼻血出して『ディー』を繰り返して倒れている

三月:Oh……

雁夜(バカンス体):つかこの話、なんか変なところを読んだ気が────

三月:────では次話で会いましょう皆さんッッッ!!! (必死


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第107話 The Reason to Fight

お待たせしました、次話です。

いつも読んでいただき、誠にありがとうございます。




 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

「え? 俺が戦う理由……だと?」

 

 一護は私の問いに少し困ったような顔をする。

 

 空座高校の屋上の昼休み、三月たちとは離れて柵に寄りかかっていた一護はそう答えた。

 

 浅野は私が『一護に話がある』といった瞬間、何を思ったのかニヤニヤしだして『んじゃ、あとは若者二人で~!』とか言いながらひらひらと手を振ってその場から離れた。

 

 気が利くな、浅野は。

 

「う、うーん……なんか藍染の野郎にも同じようなことを前に訊かれたな。」

 

「藍染にか?」

 

 少し意外な名前が出てきたことに、チエが復唱するかのように訊き返した。

 

「ああ、『何のために戦う』ってな。 あの時、『虚圏に行ったのは井上を取り返すためだろう?』ってアイツが言ってきてな? んで後で『天鎖斬月』にも聞かれたよ。」

 

「『天鎖斬月』に? どういうことだ?」

 

「あ? ああ……『最後の月牙天衝』を得るときに斬魄刀との対話をしたときに言われたよ、『俺の視野が狭くなった』ってな。 

 多分だけど俺は余裕がなくなってきて、前は多くの人を守りたかったのにいつの間にか周りの身近な人たちだけを守ることに固執しちまった。」

 

「………………………今は、どうなのだ?」

 

「んあ? 今は……………………」

 

 一護はまたも困ったような表情を浮かべて口に含んだジュースパックのストローを上下に揺らした。

 

「んー…………………どうなんだろうな? 死神の力も無くなって、幽霊も見えねぇ俺にそんな『守る力』なんて────」

 

 そこで一護はガシガシと頭を乱暴に掻く。

 

「────ああああヤメだ! ヤメ! んなこと考えてもしょうがねぇし、俺は()()()()()『普通の生活』になったんだ!」

 

「竹刀を背負ってか?」

 

「そりゃお前もだろうが。」

 

「「…………………………………」」

 

 ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ。

 

「おま?! だからやめろって! なんでそこでナデるんだよ?!」

 

「………………………なんとなく?」

 

 未だに自分の頭を撫で続けるチエを一護はジト目で見て、覇気のない文句を言う。

 

「……へいへーい、俺ぁどうせチエにしたら『子供』ですよ~だ。」

 

「どちらかというと『弟』か『孫』だな。」

 

「歳臭ぇ言い方だなオイ?! ……けど……そうかよ。」

 

 一護は冴えない顔のまま空座町に目を向け、チエは彼の制服のポケットからはみ出ていた代行証をちらりと視線を移した。

 

 …………………()()()()()()()()()()()()

 

「一護。」

 

「んだよ、さっきから?」

 

「『()()()』に興味はないか────ってなんだ、その顔は?」

 

 一護は嫌そ~~~~~~~うな心をそのまま表す顔をチエに向けていた。

 

 それはもう梅干や苦虫を噛んだ比ではなく、内なる魂が『NO(ノー)!』と咆哮を上げているようなモノだった。

 

「滅却師っつーたら石田の野郎や『ポテト』や『ディズニー』の奴らみたいな事だろ?」

 

 余談ではあるがその時手芸部では雨竜、尸魂界でのハッシュヴァルトやバンビエッタたちが同時にクシャミを出したそうな。

 

「そうだ。」

 

 そして一護の言い間違えた名前らを訂正せずに、話を続けるチエもチエである。

 

「……んなもの、誰にでも成れる筈ねぇだろうが? それこそ、石田の野郎みたいなのが『最後の滅却師だ』って言うわけねぇし。 実質、ほかの奴らが現れるまでアイツは『自分が最後』って信じていたんだし。」

 

「十分に素質はあると思うぞ?」

 

 そろそろ一護はこの話題を続けたくなかったのか、口調が少し荒くなった。

 

「何を根拠に言ってんだよ? 大体、俺に()()()()()んだぞ? こちとら真っ当な一般人だ────」

 

「────お前こそ何を言っているのだ? ()()()()()()()のか?」

 

 チエの予想だにしなかった言葉に、一護はピクリと反応して彼女を見る。

 望む薄だが、『彼女なりの冗談』と思いながら。

 

「へ、気休めでもありがとよ。」

 

「『気休め』???」

 

 だが幸か不幸か彼女は本気だったらしく、一護の心臓の鼓動は早くなっていった。

 

「どういう……事だよ? だって、俺は────」

 

 その時学校のチャイムが響き渡り、チエは踵を返すようにいまだに和んだ気持ちでモキュモキュと菓子パンを頬張っていた暴食家(三月)を見ていたせいで自分たちの昼ご飯を食べ損なって慌てる織姫たちの元へと向かった。

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

『であるからにして────』

 

≪お前こそ何を言っているのだ? 気付いていないのか?≫

 

 クラスの教師の言葉より、昼にアイツが言った言葉がグルグルと頭の中を回る。

 

『そして────』

 

『気付いていない』?

 何にだ?

 

 アイツ(チエ)は三月と違って、意味もなくそんなことを言うような奴じゃねぇ。

 

 …………………………………いや、三月は三月で結局は意味が二重三重にも深すぎて後になって『ああ、このことか』って大抵の場合なるけどよ?

 

 だけどチエの場合は、『目の前に見えている』ようなものだ。

 ならば俺も気付く筈だ。

 

 思い出せよ、俺!

 なにを見落としている?

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 キーンコーンカーンコーン♪。

 

 最後のチャイムが鳴って、周りの奴らは浮かれ気分になり辺りが騒がしくなる。

 

 そして俺はいまだに悶々と考えこんでいた。

 

 あれからずーっとアイツとの10年間を思い返していたけど、いまだに『気付いていない』モノに目星はつけてねぇ。

 

 ……『気付いていない』から当たり前か。

 なら学校の終わった今なら順序を追って考えるだろう、クラス中は教師たちの投げる問題やチョークをよけるのに気が散っていたからな。

 

 まず、アイツは俺の『戦う理由』を訊いてきた。

 んで、俺は藍染の話を出して……

 

『守る力』うんたらかんたらで、頭をなd────

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 ────い、いやそこは飛ばそう。

 うん。

 

 でもそこからなんだよなぁ、『滅却師に興味はないか?』って訊かれたのは。

 

 つーことは『滅却師』関連の事だ、当たり前だけど。

 けど俺と『滅却師』の接点なんて()()()しか思い浮かべねぇぞ?

 

 ………………………………………………………………あんま気が乗らねぇけど、訊いてみるか。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

 一護はその目立つ地毛(オレンジ頭)の所為で、本人が何もしなくても他校の不良やならず者たちに目はつけられていてはちょっかいを出されていた。

 

 だが『原作』と違い、一護は中途半端な撃退などせず、徹底的に敵を粉砕してきていた。

 

『再起不能』になるまで。

 

 ちなみにどれほどかと言うと、普段は温厚でも『やるときはやる』茶渡でも止めに入るほど。

 これによって一護に絡むのは余程の馬鹿か腕試しの馬鹿たちだけになったのだが……………その話は追々、するかもしれない。

 

「石田。 ちょっと顔貸してくんねぇか?」

 

 そんな見た目不良の『黒崎一護』が空座高校で堅物(そう)な雨竜を名指しで呼び出していたことに手芸部の部室の中でどよめきが走る。

 

「断る。 僕は君と何も話すことはない。」

 

 既に前から延々と自分の事をしていた『触らぬ神に祟りなし』状態であった雨竜の表情が眼鏡をかけ直しながら一層固くなったことにより、さらにどよめきは走る。

 

「お前が俺に話すことは無くても、俺がお前に用があんだよ。」

 

 ピリピリと緊張感がさらに増していく中、急に雨竜は体ごと制服の上着から持ち上げられる。

 

「おわ────?!」

「────面倒くさい(声だけ似た)眼鏡ですね。 そこは意地にならずに(いさぎよ)く付いて行ってみたらどうですか?」

「あ、アネットさん?! おろしてくれ!」

 

 足がプラプラとする雨竜を、アネットが片手で持ち上げていたことに周りの男女は純粋に感心するような声を出していた。

 

「「「おおおおおおお。」」」

 

 一人だけは別の意味で感心していた。

 

 「さすが『怪力B』保持者。」

 

「ほら、貴方も行きますよ────」

「────え。」

 

 そこでアネットがもう一つの空いた手で一護を持ち上げて、さっそうとそのまま手芸部から連れだして行った。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「「…………………………………………………………………………………」」

 

 校舎裏ではブッスーと、大変不服そうな顔と腕を組みながら互いを視界にいれないように一護と雨竜が立っていた。

 

「面倒くさいところ()似ていますね、貴方たち。」

 

 「「誰が『似ている』だ?! ……………………チッ!」」

 

 自分たちを『面倒くさくて似ている』と呼んだアネットにほぼ同時に突っ込んだことに一護と雨竜が舌打ちをする。

 

「ハァ……サクラやワカメやリンやイリヤスフィールやシロウ達のいない時に上姉様を独占できるチャンスなのに何故私がこのようなことを……」

 

 そしてアネットはため息交じりに額に手を添えてから『ビシッ!』と効果音が出るような人差し指で一護と雨竜を差した。

 

「いいですか? 貴方たちは変な意地を貫いているようですが理由がまるっきり子供です! 一人は純粋に嫌々ながらも頼り方が雑すぎて、もう一人は『こんな時に頼られるのはお門違いだ』と言いそうな態度がさらに事態をこじらせています! さぁ、吐いちゃいなさい!」

 

 アネットは間を挟んでから長い三つ編みポニーテールの髪をなびかせ、照れたのかわざとらしい咳払いをして普段の様子に戻る。

 

「コホン……………………………………っと、『上姉様』なら言っているでしょうねきっと。 では私はこれで。」

 

「あ、おい?!」

 

「なんです?」

 

 アネットがくるりと180度回ってその場を後にしようとしたとき、不意に一護から声がかかったことで彼女は首だけを回して面倒くさそうに一護を見た。

 

「あ、いやその……ありがとう。」

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………別に。」

 

 アネットはそれだけを言うと今度こそ速足で歩きだし、一護と雨竜だけがその場に取り残された。

 

 二人の容姿は似ていないが、気まずい静けさの中でソワソワするその様子は似ていた………………とも言えなくはなかった。

 

「……あー、それで? 黒崎は何を僕に尋ねに来たんだ?」

 

 その沈黙を先に破ったのは雨竜だった。

 

「え?」

 

「『え?』、じゃないだろ? 君が僕のいるところに来ることはかなりの異例だからな。 アネットさんの言った通り、少し気が立っていたんだ。 要件は何だ────ってなんだ、その顔は?」

 

 雨竜が見ると、一護の顔が『マジか?』と疑惑に似たものを浮かべていた。

 

「いや、お前って『こういう素直なキャラだったか?』って────」

 

「────君の中で僕はどういう立ち位置か全く興味はないけれど絶対にろくでもないものだと今ので想像がついたよ。」

 

 雨竜のこめかみがピクピクとし始めたことに一護が慌てながらもなんとか彼をなだめようと言葉を続ける。

 

「ああ、なんかスマン。 実は────」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 一護が簡単にチエに言われた『気付いていないのか?』までのいきさつを雨竜に話した。

 

 それは一護も雨竜からしても、これだけ互いが話したことは出会って以来、初めてだった。

 

 せいぜいが以前、雨竜が『虚退治』が本業に近いはずの死神代行であった一護を勝負で打ち負かすために、滅却師と死神の因縁を延々と一方的に話した時。

 

 だが今では少なからず互いを『敵』とではなく、『共に利害が一致して死地を潜った者同士』という奇妙な意識をしていた。

 

 あと一護に幸いしたのは、『石田雨竜』と言う一種の『ひたすら努力する天才』はその気になればどんな人物を前にしても考えを切り替えて事を考えられる、同年代より数段大人びた精神を持ったことか。

 

 これが何十年、何百年と生きてきたはずの死神たちの何人かと比べると……………………………………………………………………

 

「ぶえっくし?!」

「どうした恋次?」

「いや、なんか寒気が……風邪か?」

「ハッハッハッ! 面白い冗談だ! お前に限って風邪はないだろう!」

「オイどういう意味だルキアテメェこら。 あ?」

 

 ……

 …

 

「はい平子隊長、隊長のハンコが必要な次の書類です。」

「………………………いや、俺マジで『ハンコ押すだけマシン』になってる気分やねんけど?」

「き、き、気のせいですよ平子隊長。」

「ハァ~、桃ちゃんマジええ子やわぁ~……あのけったいな奴にはもったいなすぎやわ────」

 ンんんんンンンンンンんん?

「────ヒェッ?!」

 

 ……

 …

 

「イッキシ?!」

「お。 なんだひよ里、風邪か?」

「誰かがウチの事を話しとる奴やで?」

「ああ、『チビ、ガサツ、女子力と胸無し』ってな。」

 「その星形の頭、ホンマもんの夜空に飾ったるわクソハゲェェェェェ!!!」

 

 ……

 …

 

 

 …………………………………………………………いや、比べるまでもなく悲しい対決になるだろう。

 

 場を現世の空座高校の校舎裏へと戻すと、ちょうど一護が話をし終わったところなのか、またも二人の間に無言の時間が過ぎていく。

 

 明らかに深く考え事をしている雨竜を見ながら一護はイライラしていたのか貧乏ゆすりを必死に意識して止めていた。

 

 そんなところに、雨竜がやっと口を開けた。

 

「………………これは僕の想像だけど、聞くかい?」

 

「でなきゃこれだけ待って()ぇだろうが。」

 

 辺りはもうすでにあらゆる部活活動が終わっている時間帯。

 未だに学校にいるのはスポーツや陸上部などの、学校のグラウンドや設備を使わざるを得ない生徒たちしか残されていなかった。

 

「黒崎君の家族はいたって()()なんだよね? ……おい、こっちを見ないか。 なぜ目をそらすんだ? 君が話を振ってきたんだろうが。」

 

 無数の冷や汗をダラダラと流しながら目を泳がす一護を、雨竜はフツフツと再度湧き始めた苛立ちが混ざった視線を送る。

 

「ああー……………………アレ(親父)以外か?」

 

「そうだね。 アレ(一心)以外でだね。」

 

 実の父親である一心を『アレ』呼ばわりする一護も一護だが、それを一発で誰を指していたのか分かった雨竜も雨竜であった。

 

「そうだなぁ………………う~~~~~ん……」

 

 一護が手を組んで考えこむその仕草で雨竜は(口には出さなかったが)沸騰し始めるヤカンを連想したそうな。

 

 記憶に浸った一護の脳裏に一瞬だけ浮かんだのは幼い日の、いつか見た真咲の表情(カオ)

 その日は梅雨時の雨で、彼女は珍しく顔を笑顔ではなく、別の何かに歪ませていた。

 

 子供の頃は何なのか分からなかったが……

 成長した今で言うのならば強いて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『情けなさ』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはまるで

 

 

 

 

 

 

 

 毎朝起きて

 

 

 

 

 

 

 

 洗顔して

 

 

 

 

 

 

 

 鏡の中で自分をm────

 

「────ッ。」

 

 突然胃の中からこみ上げてくる感覚に一護は口を覆い、歯をギシリと直に聞こえるほど鳴らせる力強さで噛み締めた。

 

「……別に何もないようだね。」

 

 急に表情が強ばった一護に気付かない筈の雨竜だが、彼は見て見ぬふりをした。

 

「何もないのなら、僕は失礼するよ。 君と違って、僕は暇じゃないんだ。」

 

 それどころか、雨竜は今すぐにでも一護との話を終わらせたいような言葉を出して、その場から離れようとしたことに一護は慌てるように口を開けた。

 

「あ……………石田、サ────」

 

「────君の間抜け(ずら)も見たことだし、今日の手数料として取っておくよ。」

 

「…………………………………………………」

 

 そのまま歩く雨竜の後姿を目の敵を見るような目でにらんだ一護は────

 

 「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! やっぱアイツの事が気にくわねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 ────大声でフラストレーションを吐き出すように叫びながら、グシャグシャに髪の毛を掻いていた。

 

 「一瞬でもアイツに頼ろうとした俺がバカだったぜ! その上、日課の組み手もすっぽかしてチエから説教モノだよチクショウめぇぇぇぇぇぇ!」

 

 一護の叫びに応えるものは(今回はカラスも含めて)何もなかった。

 




次話の投稿が少々遅れるかもしれません、申し訳ございません。

あとエタるのを防ぐために息抜き作品を投稿しました。

『バカンス』や『天の刃待たれよ』のネタもあるのですが、三月やチエを含むので別の作品を書きました。

ご興味のある方たちにリンクをここに入れておきます。
https://syosetu.org/novel/273903/


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第108話 Crumbling Shattered Days

ゲリラ投稿です!

……冗談めいた言葉は抜くと一旦書き始めたら止まらず、月曜日は投稿が難しいかもしれませんので少し短めですが投稿してみました。

勢いのついた投稿&文章ですが、楽しんでいただけると幸いです。


 ___________

 

 雨竜 視点

 ___________

 

 雨竜は速足で暗くなっていく空座町の夜道をほぼ自動的に歩いていた。

 

 目的地はいつも寄っている手芸用品や生地専門店ではなく、()()()()()()()()場所だった。

 

 彼は裏口を────

 

「何の用だ、コソコソと泥棒のように裏口から入ろうとする愚息が。」

 

「オヤj────竜弦か。」

 

 ────雨竜が目指していた裏口のすぐ横で、一服していた実父(竜弦)を彼が見ては『オヤジ』と呼びそうになって緊張する。

 

 そして雨竜を見ては通常(原作)以上に辛辣な言葉を投げかける竜弦。

 

 こうなったのは他でもないどこかのお節介さんの所為なのだが……今は現在の話を続けよう。

 

「昔みたいに『父さん』と────」

 

 「────断る。」

 

「フゥ~……全く、誰に似て捻くれたんだ?

 

 竜弦がため息と共にタバコの煙を吐いてから携帯灰皿に入れながら独り言を誰にも聞こえないような小声で言う。

 

 もし聞こえていたのなら『お前に言われたくない!』と、雨竜でさえもツッコんでいただろう。

 

「竜弦。 僕たちの…『()()()()()()()』を見せて欲しい。」

 

 雨竜の言葉に、竜弦の雰囲気がいつにも増して冷たくなった。

 

「…………なぜだ? 今更────」

 

「────アンタの事だから、僕たち以外の滅却師がいたのは既に知っているだろう? 確かめたいことがあるんだ。」

 

「そんな理由でか? 相変わらずの愚息ぶりだよ、雨竜。 奴らは『人間』と言うより『亡霊』に近い存在だ。 そんなものを────」

 

「────『黒崎』や『渡辺』、に関してだ。」

 

 ここで『黒崎』という単語を聞いた竜弦の目がわずかにだけ揺らいだ。

 

 それはごく小さな変化で、近くで見ていた雨竜でも『目に何か入った時の瞬き』程度の認証だった。

 

「それこそ『()()』だ。 話はそれだけなら中に入る、人を待たせているからな。」

 

 まるで『話は終わりだ』とでも言いたい、取り付く島もない素っ気ない態度のまま竜弦は総合病院の裏口を潜った。

 

 「まったく、誰の入れ知恵か。」

 

 だが裏口を潜る寸前、小声で愚痴る竜弦の言葉は確かに聞こえていた。

 

「(やっぱり、『黒崎』って言葉に反応した? それとも『渡辺』か? 何とか目を盗んで家系図を閲覧できないだろうか……僕の考えていることが正しければ、もしかすると……………)…………………いやいやいやいやいやいや無い無い無い無い無い無い無い無い無い。 百歩譲っても『黒崎』じゃなくて、『渡辺』のほうだろ。」

 

 

 

 

 ___________

 

 一護、『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

「すみませーん!」

 

 一護(+チエ)が来ていたのは外に『ただいまバイト募集中!』と看板が出ていた事務所内。

 

 彼の声を聞いて事務所の奥から活発でかなりのナイスバディなスタイルをした女性が顔を出して元気よく愛想のよい挨拶をする。

 

「ヘイ毎度! 安い、早い、安心のうなぎ屋です! ……ってガキかよ。」

 

 だが学生の二人を見た瞬間、その顔は一瞬で曇った。

 

「あー、アンタらの要件は何だい? 依頼かい? 猫か犬探しかい?」

 

「えっと……俺ら外の看板見て────」

「────『あるばいと募集中』の看板を見たのだ。」

 

 「……チッ。」

 

 息の合った二人のどこかが気にくわなかったのか、女性は小さな舌打ちをする。

 

「………まぁいいや。 あたしの名は『うなぎ()育美(いくみ)』だ。 ここ代々続いている何でも屋、『うなぎ屋』の店長だ。」

 

 一護は『これからどうするか』を考えた末に彼自身が行き着いたのは『とにかく何かをする』と言う、ある意味『とにかく何かをする(竜貴)』みたいな者が考えそうな行動をとった。

 

「『うなぎ屋』が名字で店名かよ。」

「『特上三人前』など聞かれないか?」

 

「しょっちゅうだよ。」

 

「「なら店の名前変えたほうが良いぞ。」」

 

「代々続いた名前を変えろってか?! 却下だね!」

 

 一護とチエの正論染みた突っ込みに育美は興奮しながら逆ギレ気味になりそうなのに気付いたのか、咳払いをする。

 

「コホン……んで? バイト募集見て、ここに来たってことは働きたいってことだよな? 見たところ学生だけどいいのか? ヤワな奴や、チャラい出来心はごめんだからな。 何でも屋って言うと結構体力を使う仕事が多いからな。」

 

「……一応『面接』ってことでいいんだよな? 俺は『黒崎一護』だ。 空座高校2年だ。」

 

「私は────」

『────ママー?』

 

「やっべ。」

 

 事務所のさらに奥から若い少年の声がすると、育美がギョッとして今までの怠惰が嘘のように高速で動き、身だしなみを整えた。

 

 どこぞのスーパーな、もしくはバイクに騎乗する男顔負けの変身である。

 

「ふわぁ~。」

「あらぁ~(かおる)ちゃん、ママたちの声で起こしちゃったかしらぁ~?」

「ブフ。」

 

 奥のドアが開いて小学生ほどの少年が出てきたところで育美は『あざとく優しい母親』へと転じた事に一護が噴き出しそうになる。

 

「『(かおる)』と言うのか。 良いなだな。」

 

 育美の息子────『うなぎ屋(かおる)』が寝起きなのか目をゴシゴシしながら自分の母親からチエへと視線を動かす。

 

「お姉さん、誰? 依頼に来たの?」

 

「『渡辺チエ』だ。 『ばいと募集』と書いてあったので来たのだ。」

 

「ふぅ~ん?」

 

(かおる)ちゃん、『事務所来るときはスリッパを使いなさい』って言っているでしょ?」

 

「だって面倒くさいんだもん。」

 

 チエが立ち上がり、あくびを出す(かおる)の近くにまで来て目線を合わせるように膝をつく。

 

「うなぎ屋さんの言うとおりだぞ。 もし彼女が仕事で床に落ちた備品や部品などでお前の素足が傷つけば彼女は悲しむぞ?」

 

「う、うなぎ屋()()────」

「────うわ、姉ちゃんって胸デカいね!」

「「ファ?!」」

 

 (かおる)の一言に一護と育美が同時に変な声を出す。

 

「……うなぎ屋さんほどではないと思うが。」

 

「だな! ママは世界で一番の美人なんだぞ!」

 

 (かおる)ちゃん……」

 

 育美が信号のように表情をコロコロ変わらせる姿に一護はなんとか笑うことを頬の内側を噛む痛みで乗り越えようとしていた。

 

「お前の言うとおりだな。 もしや寝起きか(かおる)とやら? 目ヤニがついているぞ。」

 

「か、(かおる)ちゃん? ママもすぐ行くからあっち行ってなさい?」

 

「はぁ~い。 じゃな、ママに()()()()()()()!」

 

「ああ。」

 

 馨が事務所の奥へと戻ると、育美はチエに見て高らかに一言だけいう。

 

「採用。」

 

「………………………………………………………………………………………?」

 

「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 チエが?マークを出しながら頭を傾げ、一護が納得のいかない声を出すと育美は気まずそうに頬を掻く。

 

「いや、まぁ……今のは半分冗談で、半分本気だ。 うちの息子って()()()()変わってて、ちょいと人見知りなんだ。 だから初対面のアンタとあれだけ話せたのはある意味、凄いことなんだよ?」

 

「……なるほど?」

 

「チエお前、ぜってぇ分かってねぇだろ?」

 

「良く分かったな一護。」

 

「何年お前と付き合ってると思うんだよ?」

 

「10年と少しだが?」

 

「いつにも増して真面目すぎる……」

 

 一護とチエのやり取りに、横を見ながら嫌そうな顔を育美は浮かべた。

 

 「ケッ、リア充かよ。」

 

「『りあじゅう』? なんだそれは?」

 

「ぬあ?! ち、ちげぇよ! 俺とこいつは────?!」

「────あー、ハイハイ。 お熱いこった。」

 

「どこがだ?」

 

「話をややこしくするな!」

 

「冬なのに熱いことが気にならんのか一護は?」

 

「「そっちの意味じゃねぇぇぇぇ!」」

 

「??????????????」

 

 

 

 ___________

 

 『渡辺』三月 視点

 ___________

 

 高校二年生になってから早数か月、一護は何でも屋のバイトに励んでいる。

 意外だったのはチエも何でも屋をし始めたぐらいかな?

 

「♪~」

 

 でも良きかな良きかな~。 関心、関心~ってね。

 今回は某探偵モノの『もう一度の出会い』を鼻歌で歌いながら。

 ちなみに今回はドイツ風なモノじゃなくて普通に肉じゃがの予定です。*1

 

 やっぱり1()0()()()()()()()()ねぇ~。

 経験通りね……………私が言うのも違和感アリアリだけど。

 

 さてと、これで3年生モノが整ったかな?

 

『黒崎一護が何でも屋のうなぎ屋のバイトを始めた』。

 ……………チーちゃんもバイトだけど。 

 

 少し遅れたけど『有沢竜貴が師範代理』。

 ……………パワーアップしてだけど。

 

『井上織姫がパン屋でバイト』。

 ……………パンをおすそ分けしてきて大変食費代助かっているけど(主に菓子パン類で)。

 

ムッツリ眼鏡(石田雨竜)が次期生徒会長のため副会長に選ばれた』。

 ………………………………………なぜかアネットが書記だけど。

 

 そしてアパートの管理人の調子もよくなったから、じきにマイも前みたいに浦原商店と黒崎クリニックの行き来(バイト活動)もできる。

 

 これならばフォローも────

 

 ゴキン。

 

 ────帰り道すがら手にぶら下げた買い物の袋を確認したその時だった。

 

「あぇ、これ、、たな?」

 

 胸のほうを見ると、刀が生えるかのように突き出ていたきえる みんな が

 

「へぇー。 君、やっぱり()()()ね。」

 

 この刀、口癖、まさか

 いやだいやだいやだ

 ()()()()()()()

 

 わたし

 おれ

 ぼく

 きえちゃう

 いやだいやだいやだ

 きえちゃう きえちゃう きえちゃう みんな きえちゃう

 

 みんな が きえ

 

 

 

 

 ドサ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お に い ち ゃ ん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 三月の体が膝をつく頃には、彼女の目は死んでいた。

 目はどこともなく見ていないように焦点が合わず、表情ものっぺりとしていた。

 

 身体が崩れ落ちた際に彼女の持っていた買い物袋の中身がばら撒けたが彼女も近くの月島も気を一瞬でもそちらに移さなかった。

 

 否。

 三月はそれどころか膝を地面につけたままボーっと、まるで()()()になったように身動き一つどころか、()()()()()()()()()()様子だった。

 

「奴の言った通り、か────ッ。」

 

「あと少しでも体を動けば、アンタを躊躇なく撃つ。」

 

 月島がわずかに身動ぎすると、彼の背後から霊子の弓矢を構えた雨竜が固い口調で警告を出したことに口を閉じる。

 

「質問だけに答えろ。 アンタは何者で、彼女(渡辺さん)に何をした?」

 

「……ふ。」

 

「っ。 何がおかしい!」

 

「遅かったな。」

 

「なんだt────?!」

 

 月島のあおるような口調と言葉に雨竜の言葉が遮られる。

 

 ザン。

 

「────ぐ?! (しまった、こいつ……一人じゃなかったのか?!)」

 

 自分の胸を後ろから貫く両手剣を薄くなっていく意識で見ながらそう思い、すでに体を襲う喪失感と脱力感に体が動かないとしても、意識を手放しそうなのを必死に彼は強固な意地で抗った。

 

 少しでも情報を得るために。

 

「ああ、君に言ったわけじゃないよ『石田雨竜』くん。」

 

「ったく、何ヘマこいてんだよ月島?」

 

 何も見えずとも、まどろむ意識の中で聞こえてくる声に全神経を集中しながら雨竜は考えを張った。

 

「(『月島』? 敵の名前……それに霊子の変動を感知できなかった。)」

 

「あーあ。 こっちはともかく、()()()()()()()()()()()()()()()()だろ?」

 

「(この気配、人間か? いや、話を聞く限り彼らの標的は渡辺さんだったのか? それよりも普通の人間が気配を察知されずに、僕を刺すなんてできっこない。 どういう仕組みだ?)」

 

「それに、僕の『完現術(フルブリング)』で斬ったほうが良くなかったか?」

 

「いいんだよ。 ()()()の話によると、こいつら二人は仲間の中でも頭が回る。 先に潰しといておけば俺たちが有利だ。 それに『出来レース』ってのは性に合わねぇからよ、少しでも相手に『勝ち目』ってやらを残さねぇと『勝ち目しかない勝負』なんてスリルが無いだろ?」

 

「(『アイツ』? 誰だ。 誰の事だ? 協力者なのはわかるが……クソ、もうそろそろ意識が……)」

 

「でも驚いたよ。 この子、『()()』なんだってさ。」

 

「あ? 何の悪い冗談だよ……『頭の痛い奴』ってか?」

 

「(『神様』? どういう……ことだ……………………)」

 

「それに、()()()()()()()()()()()()()()()みたいだよ? 必死に最後は何かしようとしていたよ。 この在り様じゃ遅かったようだけど。」

 

「……気味が悪いなますます……で? 記憶は使えそうか?」

 

「いや。 情報が莫大(ばくだい)過ぎてパンクする前にとっとと『改善』だけして『繋がり』を遮断したよ……やっぱり、やるんだね。」

 

「おう、さっさと斬れよ。 これで俺とお前は『かつて裏切られた敵同士』だ。」

 

「(何が一体……………………どう………………………………)」

 

 雨竜の意識はそこでついに途絶えた。

 

 ………

 ……

 …

 

 ほぼ同時刻ごろ、一護はその日のバイトなどを終えて自室で寝ころんでいた。

 手に取っていたのは死神代行として渡された代行証。

 

 藍染を相手に『無月』を使った反動で、自分が気を失ったドタバタで返し損ねた瀞霊廷の備品だが、死神の力を失ってからは視覚防壁や虚の警報などの機能がカットされた状態で、今では変な形をした木の板になり下がった物。

 

 今となっては一護が死神だった唯一の『物理的な証』で、何気にずっとカバンの中にしまっていた。

 

 そしてその日、彼はバイトの帰り道で川に捨てようと思ったのだが……

 何故か捨てきれずにずっと持っていた。

 

「……未練なんて、俺らしくもねぇや。 ん?」

 

 丁度その時、彼は外から救急車用のサイレンを聞いて思わず反射神経のように部屋の窓を開けて身を乗り出したところで動きを止めた。

 

「……今更どうしようってんだ、俺は……」

 

『一護、ちょっと来て!』

 

「え? おふくろ?」

 

 珍しく声を荒げる真咲に一護が体を起こしたところで慌てていた彼女がノックもせずに部屋のドアを破る勢いのまま入ってきたことに、一護は尋常じゃないことに唖然とした。

 

 が、真咲の次の言葉で彼はさらに呆気に取られることとなる。

 

「電話が! 三月ちゃんたちが! 病院に運ばれたって!」

 

「…………………………………………………………………なん……だと?」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「竜ちゃん、大丈夫なの────?!」

 

「────落ち着け真咲。 あと、今の俺は石田先生と呼べ。」

 

 場所は空座総合病院内。

 さらに詳しくすると手術室の外で、慌てて迫ってくる真咲をなだめようとしていた竜弦が珍しくどこかよそよそしい態度を取っていた。

 

「あ、黒崎君……」

 

「井上、チャドたちには連絡行っているか?」

 

 その場には俯いていた織姫が一護に気付いて、問いかけられていた。

 

「茶渡には繋がらないが、竜貴はこちらに向かっているそうだ。」

 

 チエがいつもの調子で、織姫の代わりに一護に答えていた。

 織姫がコクコクと頭をうなずけているところを見れば、おそらく携帯電話で連絡をしたのは彼女だったらしい。

 

 彼らが全員病院に来た理由とは『道で石田が刺されて大量に出血しているところを発見、近くには放心状態の少女が両名入院した』と言う連絡を受けたからだ。

 

「幸い、三月とやらに外傷は無い。 だが雨竜の怪我が深刻で、今手術を受けている。」

 

 延々と一護に説明する知恵の言葉に、織姫は気まずく唇を噛んだ。

 

「私がすぐそばで……駆けつれられたなら────」

「────自分を責めるな井上。 もし、お前がその場の近くにいたら巻き添えを食らっていたかも知れねぇだろ?」

 

「ぁ………………うん。」

 

「一護の言うとおりだ、井上。 気負いすることはないぞ。」

 

「………………………………うん。」

 

 そのまま三人は竜貴が息を切らして着くと更なる衝撃が皆を襲う。

 

「オイお前ら! マイさんも入院しているのなら言えよな?!」

 

「「「え?!」」」

「なんだと?」

 

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

「あらあらぁ~……皆、私の為に来たのかしら~?」

 

「(どうなっているのだ、いったい?)」

 

 とある病室ではどこか弱弱しくもいつもの口調で返そうとするマイと彼女の心配をする知人たちの後ろで、チエはひどく混乱していた。

 

 これらの一連の出来事は『原作』にないことにもだが、まさか三月たちが一方的に何らかの術に対応できなかったことに混乱していた。

 

「(少なくとも念話か何かを寄越して来る筈だしな。)」

 

 そう思いながら彼女はアネットを見ると、彼女が何か聞きたいことを察したのか口を開ける。

 

「一緒にマイ姉さまと商店街を歩いていたら急に苦しみだして、胸を掴みながら倒れたのです。 すぐそこの人が救急車を呼んだらしく、その間も周りを警戒していましたが不審な人や行動をとる者は見当たりませんでした。」

 

「となると、ミツキ関連か。」

 

 アネットは一瞬、奇怪そうなものを急に聞いたかのように眉毛を上げそうになったが、話を続けた。

 

「おそらくは……」

 

「奴の様子ハ?」

 

「……………………………………………………」

 

 アネットが黙り込み、数秒後に口を再度開ける。

 

「わかりません。 強いて言うのでしたら『無気力』と呼んでいますね。」

 

 アネットは何か『無気力』と言う単語に対して悪い思い入れがあったのか表情がさらに硬くなり、手を握り締めた。

 

「ごめんなさいね皆、この頃ず~~~っと動き回っていたものだから少し……疲れていたのかもしれないわぁ~。」

 

 マイは彼女なりに笑いながら心配する周りと、やるせない目をする者たちに気遣いの言葉を投げたが、誰も笑っていなかった。

*1
他作品『天の刃待たれよ』の4話より

















???:いつからゆったりとした空間が続くと錯覚した?


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第109話 The Greed of Imbeciles

………………………(汗
た、大変お待たせ致しました! 次話です!

少し切りのいい部分までですのでかなり短くなってしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです! (汗汗汗汗汗汗

このままいくと明日も投稿できそうです! が、短くても毎日投稿か少し長めで一日おき+土日以外の投稿……どちらのほうが良いか少し迷いますね。 今更感アリアリですが……

追記:
アンケート実地中の文章が抜けていました、お恥ずかしい限りです……
お手数おかけ致しますが投票にご協力の程、何卒よろしくお願い申し上げます! m(_ _)m


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 次の日、雨竜が一命を取り止めた知らせに織姫は泣き出した。

 

 「よがっだよぉ~~~~! ふゎぁぁぁ~~~ん!

 

「ほらほら織姫、鼻チィーンしなさい。」

 

 「びぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 またも病院に戻ったチエたちは今度、昨日はゴタゴタして診に来れなかった三月が居る病室の外にいた。

 

 病室と言っても、いわゆる集中治療室の中に彼女はいて、周りの機械は生命維持装置だらけの中で虚ろな目をした彼女は様々な機械に繋がっていただけの部屋だが。

 

「それで竜ちゃん先生、彼女の容態は?」

 

「だから、俺の………………………もういい。 渡辺……『小さいほうの渡辺』に目立った外傷は見当たらない。 せいぜいが膝をすりむけた程度だ。 が、()()()()()()()()と言うのが現状だ。」

 

「どういう……ことだよ?」

 

 竜弦はちらりと嫌なものを見るかのように一護を見てから言葉を続けた。

 

「……ようするに、彼女の容態は『脳死』と似ている。 呼吸、心臓、目の瞳孔など、あらゆる自発運動が機能していない。 『似ている』と言ったのは、ごく稀にだが外部の刺激に反応を示す節があったからだ。 非医学的だが、『半脳死状態』とでも名付けようか。」

 

「三月ちゃん……」

 

「「……………………」」

 

 通路から窓の向こう側にいる知人を、織姫は見ているだけの事がもどかしかった。

 彼女の『盾舜六花』で『外傷の巻き戻し』は既に実績で証明されている。

 

『だが“精神”の病や状態はどうだろうか?』

 

 そんな考えが織姫の頭を────

 

「────やめときな、井上。」

 

「え? く、黒崎君?」

 

 少し意外そうに織姫はまるで自分の考えていたことを分かって止めるような言葉を放った一護をキョトンと見る。

 

「『もしこれが敵の術ならば、お前の能力も計算済みカモしれない』、だろ? イチ護。」

 

 ここでチエがカタコト発音になったことにびっくりしたのか、一護と織姫は一瞬キョトンとする。

 

「どうかしタか?」

 

「あ、ああその通りだ。 それにもしお前の能力が精神にも通用するのなら、ちょいと怖いな。」

 

「え?」

 

「だって考えても見ろよ。 もし加減を間違えたらそのまま頭の中だけが幼児化した三月に『お姉ちゃん』とか『お兄ちゃん』呼びされる俺たちをよ?」

 

「………………………………………………な、なんか良いかも。 (ポッ)」

 

え゛………………………………………………いやいやいやいやいやいや、無ぇよ。」

 

 織姫は頬を赤らめさせながら顔を両手で包む姿に反し、一護は遊子や夏梨の代わりに三月を入れようとした想像を断ち切った。

 

「(さて。 どうするか……アネットに話して、手伝わしてみるか。)」

 

 そう考えているうちに面会時間が終わり、病院を出て各々が各自の家やアパートに戻っていく。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その日の深夜、空座総合病院の()()()()()()()()人影があった。

 

 人影はそのまま頂上まで走り、屋上のドアの前で二人が止まる。

 

「アネット、コレを開けれるか?」

 

「私は『ライダー(騎乗兵)』であって『アサシン』ではないのですが……やってみます。」

「ピィ。」

 

 そこでアネットの()()()がウゾウゾと、まるで生きているかのようにひとりでに動き出し、ドアと壁の隙間から中へと侵入するとポイちゃんが今度はチエの方へと移る。

 

「大きくなったナ。」

「ピィ♪」

マスター(井上)の手料理は見た目()()が玉にキズですので。」

 

 少し前まで雛鳥だったポイちゃんは今では本当に見た目以外は栄養満点である織姫の手料理(のまかない)ですくすく育ち、今では鷲サイズ。

 

 流石にここまで大きくなると人前で放し飼いなどは無理があるので、こっそりと空座町の夜空へと出すとご機嫌のまま様々なモノを持って帰って来ては織姫に感動されていた。

 

 10円玉や50円玉のような硬貨や、時たま織姫が学校で忘れ物をした文房具や手芸部での小物など。

 

 余談だがネズミなどのナマモノは織姫が見る前にアネットが秘密裏に処理していた。

 

 カチ。

 

「開きました。」

 

「ありがとウ。 ここからは一人デやる。」

 

「さようですか。 ではマスター(織姫)に勘付かれる前に帰りますよ、ポイちゃん。」

「ピ!」

 

 鍵を解除したドアをアネットが開けるとチエはそこから病院の中へと侵入する。

 羽で敬礼をするポイちゃんを一撫でしてから。

 

 なぜこうも犯罪寄りな手段を取っているかと言うと、病院に入院している雨竜、三月、マイの三人の中で唯一会話ができるマイと『これからの話』がしたいのだが、面会時間内だと必ず誰かが立ち会ってしまうからだ。

 

 なのでいろいろな意味での『込み入った話』が出来なかった。

 

 つまり理由は単純に『マイならば何か知っているかもしれない』、という動機からである。

 

「(それに私が話すとき、周りの者の視線が変わっているということは、()()にでも影響が出てき始めたか。)」

 

 彼女は素早く、かつ物音を立てないように移動しながら病院内を駆ける。

 

 ついにマイがいる筈の病室へと着き、中へ入って────

「────やっぱここたか。」

 

 病室の中では呆れたような顔をする一護と、少し眠たそうな竜貴がいた。

 

「?????????? なんで、こコに、お前たチが?」

 

「ふわぁ…アンタがアネットと話していたのを見たからさ、聞いたんだよ。 彼女はボカシていたけど、織姫から『寝るフリをしたら急に病院の方角へすっ飛んだ』っていうからさ? 『もしかしたら』と思って石田先生に頼んだんだ。」

 

「(『井上織姫』の()()か、侮れないな。)……よく許可したナ?」

 

「そこは俺のおふくろが『カタギリって言えば良い』って言ったんだ。」

 

「(………………?) ッ。」

 

 チエが急にドアの外に視線と頭を向けて注目する。

 

「……………一護、竜貴。 動くな、身を潜メ────」

 

 彼女が言葉を言い終える前にフッと病院内の照明が落ちる。

 

「────て、停電?」

「いや……なんかおかしいぞ? 周りの建物の電気は生きているっぽいし────ってなんだありゃ???」

 

 一護が外を見るために窓へと寄ると、病院の周りを囲むかのよう装甲車が数台停めてあったのを見る。

 

「どうした一護?」

「んー、なんかゴツイ車が病院の周りにとまっている。 なんか事件でも────?」

「────シッ! 二人とモ静かニしろ。」

 

 チエの顔が真剣なものとなり、纏う空気がピリピリなったことに一護と竜貴が口をつぐむ。

 

「………………くル。」

 

「「???」」

 

「(この足音、数、慌てだしさ……攻めてきているな。 そして今ここで戦えるのは私だけ……か。)」

 

 チャキ。

 

 チエが背負っていた竹刀から刀を抜刀するとやつれたマイが上半身を起き上がらせようとするが、数センチほど浮かべたところでただ震えるだけに終わる。

 

「チエ、ちゃん……」

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 ザッザッザッザッザッザ!

 

 統制の取れた特殊部隊の走る音が静まり返った病院の中へと続いていく。

 

「離せ貴様ら! いったい誰の許可を得て────グハァ?!」

 

 他の医師や看護師と一緒に追い出されたのか無理やり連れだされた様子の竜弦が特殊部隊の上官らしき者に問い詰めると、問答無用に顔からメガネがはがれるような衝撃でM4カービンのストックが顔面にぶつけられた。

 

 場面は一回り大きめの装甲車内部へと変わると、中には特殊部隊の高官たちが場の緊張とは違う原因の汗を掻いていた。

 本来なら彼らはこれだけ現場の近くではなく、もっと離れた場所にいるはずなのだが()()があって現場で指揮をとっていた。

 

「狙撃手、突入隊、配置完了しました。」

 

()()()()情報は行き渡っているのかね?」

 

「ハッ。 偽装工作で一般の警察官たちには周りの閉鎖、および裏部隊が既に内部の患者と従業員を数名()()しました。」

 

「万が一、やじ馬(報道局)どもが感づいて来た場合は?」

 

「『武装したテロリストが従業員と患者数名を無差別に殺害し、十数名を人質に立てこもっているゆえの即解決の必要性アリ』と。」

 

「……すこし弱いな。 『逃走用の移動手段と身代金も要求している』と付け加えろ。 実行部隊にはどう伝えている?」

 

「『テロリストは火器および刃物にて武装し、人を既に数名殺している。 ゆえに一刻の猶予は無用、突入を開始し即刻射殺せよ』……で、よろしいのですね?」

 

 通信と高官の者たちは装甲車の中に居る、白い軍服を着た者たちに確認を仰ぐかのように問いかけた。

 

 何を隠そう、この者たちが原因で高官たちはここにいた。

 

 一人は口の左部分に切り傷があるアジア風の顔立ちの男はちらりと声をかけた彼らを見ては、無視するかのように素気無い態度をする。

 

「イヤァ、すまないねぇ諸君! こちらの『蒼都(ツァン・トゥ)』は恥ずかしがりやで無口なのさ!」

 

 もう一人の独特のヘアースタイルに、顔の上半分をゴーグルで覆った細身の男が代わりに答えた。

 

「ま。 老いも病にも怯える事はないステージにお前らが上がってきたいのなら? 『頑張り』は必要だぜ~?」

 

「「「「……………………………………」」」」

 

『こちら、突入部隊チャーリー。 テロリストがいると思われしきフロアに到達! 最終確認、お願いします!』

 

「……………」

 

 通信の者が高官たちを見ると、彼らは一瞬戸惑って、互いを見てからうなずく。

 

「と、突入! 突入開始! 一刻の猶予は無用! 突入を開始し、即刻射殺せよ! 繰り返す、拘束無用! 即刻射殺せよ!」

 

 これを聞いた独特のヘアースタイルを持った男が『ニィー』っと、ご機嫌よく笑顔になると彼のオセロ歯が目立った。

 

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「こちら、突入部隊C(チャーリー)。 テロリストがいると思われしきフロアに到達! 最終確認お願いします!」

 

『と、突入! 突入開始! 一刻の猶予は無用! 突入を開始し即刻射殺せよ! 繰り返す、拘束無用! 即刻射殺せよ!』

 

 それを合図に、各隊員はM4カービンのセーフティーを外しながら一斉に走り出す。

 

 キィィィィィィィン。

 

 耳鳴りのような、高い音がそのとき辺りに響いた。

 聞こえ慣れした人なら()()()()()の音と分かったのかも知れなかった。

 

「な────?!」

「ばk────?!」

「出てk────?!」

 

 ズシャアアアア!!!

 

 ドアが内側から斬られると同時に人影が出ては近くにいた隊員たちがスッパリと綺麗に、バラバラになった部位から血しぶきがそこら中に噴き出る。

 

 と言うのも特殊部隊の防護スーツ、下腹部を保護するプレートが装着された防弾ベストや防弾バイザーを装着した防弾ヘルメットなどの装備はすべて『相手が銃を使う』という前提の装備ばかり。

 

 決して『防刃』では無かった。

 

「グヮ?!」

「ギッ?!」

「う、撃て! うt────!」

 

『防刃』だとしても、この場合の相手に通用するかは正直『微妙』というか、『通用すれば多少マシ』とも言えるのだが。

 

「子供────?!」

 

 部屋から出てきて最初の数名を斬り伏せたのは、特殊部隊たちが予想していた大男や重装備をしたテロリストではなく、『華奢』寄りのしっかりした体と中世的な顔をした、おおよそ『少年』か『少女』の年齢の者だった。

 

「かまうな、撃────!」

 

 そしてその姿に戸惑った隊員が次々と斬られていき、ショックから回復した者たちがトリガーを引くと銃撃音が鳴り始めた。

 

 さて、少し余談だがM4カービンの5.56㎜弾の発射と銃口速度をご存じだろうか?

 

 発射速度は使用者、銃器の設定などで約700~900発毎分のズレがあるものの、銃口速度は毎秒905mである。

 

 そして音速は温度の変化ごとにまたズレが生じるものの、速度は毎秒331mほど。

 

 つまりどういうことかと言うと『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』。

 

「銃弾を斬りおt────?!」

 

 そしてそれが病院に突入した隊員たちの前で起きていた。

 冷たい現実をこれでもかと見せつけるかのように。

 

「ば、バカな! バ、バ、バババケモノォォォォォォ!」

 

 最後となった隊員は空になったM4カービンの弾倉を再装填するよりも震える手で、タクティカルベストのホルスターからサイドアームであるグロック19を、目の前の非現実的な(バケ)モノへと向けながら怯えた声で叫ぶ。

 

 彼の周りには既に重傷で絶滅した同僚たちの手や首や両断されて下半身を失くした上半身などが散らばっていた。

 

 純白だった床は血と内臓で赤黒く変わり、恐怖と絶望で人間が漏らす糞尿などの、ツンとするアンモニア臭が病院内独自の消毒薬の匂いをかき消していた。

 

 彼の前には返り血と飛び散った血肉が、まるでリアル感を追求し過ぎた趣味の悪いSFXメイクのように、顔と体中にこびりついていたチエが震えた彼へと容赦なく歩いていた。

 

「そうダ。 ()()()()だ。」

 

 体の震えに隊員の歯がガチガチと音を鳴らし、彼はトリガーをひたすらに引いていく。

 

 それは意識しての行動か、反射神経の動作か、あるいか震える指の所為か定かではなかった。

 

 チエは自分に到底当たらない弾丸をそのまま無視し、体の近くを通るような9㎜弾を刀で払い落としながら、最後には腕と手首の一捻りで隊員の首が胴体から外れた。

 

「チ、チエ────ウッ?! オエェェェェェェェェ?!」

 

 彼の首がゴロゴロと床を転がると同時に、発砲音がもう鳴らなくなったことでオドオドしながら廊下の惨状を見た竜貴が戸惑いなく胃の中を戻す。

 

「チ、チエ……お前……」

 

 彼女と一緒に部屋から出てきた一護だけはクラクラする頭で、初めて()()を犯した幼馴染の名をただ呼んだ。

 

「一護、竜貴。 ここにいろ。 片づけてくル。」

 

「いや、でも、こいつら……『人間』……なんだろ?」

 

 一護はやっと言葉を見つけたかのように、彼女に話しかける。

 

「ああ、そウだ。」

 

 チエが()()()()()()で、一護に『それで?』と問うような態度で振り向いた。

 

「に、『人間』なんだぞ?! 分かっているのか?!」

 

「だから何だ? こいつラはお前たち含め、皆殺しにしよウとした『敵』だ。」

 

「けど……けどよ────」

「────『滅する』……『敵を滅ぼす』と言う志を胸に持ち、(いくさ)に挑むことで命を落とスノに『人間』や『物の怪』に違いはなイ。 相手を滅して良いと思えば、逆もしカリダ。」

 

 竜貴は唖然として、自分を疑った。

『チエは極端』と、彼女は前々からは思っていた。

 だがこうもあっさりと人の命を刈り取ることに躊躇がない、『敵ならば殺していい』と言うのは、『果たして本当に目の前の彼女は自分たちが10年も一緒にいた奴か?』と疑うほどだった。

 

 そんな視線をする竜貴からチエは背を向けて、ただ歩き出した。












???:アリを潰さないような足取りは思うより力の加減が難しいものだよ


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第110話 The Greed of Imbeciles II

次話です! 楽しんでいただければ幸いです!

アンケート実地中です! ご協力お願いします!

なお自己解釈や独自設定など相変わらず入っています。

あと最近久しぶりに観たアニメで度肝を抜かれました。

11/25/2021 8:15
誤字修正しました。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 チエは斬る。

 

「(そうだ。)」

 

 ただひたすらに斬っていく。

 

「(これでいいのだ。)」

 

 立ち向かう者、向かっていた者、向かっては逃げていく者全員を。

 

「(私は────)」

 

 気付けば、病院のロビーにまで出てきては外から眩しいほどの大型照明器具に照らされていた。

 

 竜弦や他のスタッフたちはどこかに避難させられたのか姿が見当たらず、残された特殊部隊は狙撃手たちと、外で待機していたわずか一握りだけだった。

 

 そんな包囲網から、二人の男が彼女に向かって歩き出した。

 

「……」

「一方的な容赦なしの惨殺かよ。 さすがは『()()()』と立ち向かって生きているだけの事はあるぜ。」

 

「(『前陛下』?) ……お前ラ、『滅却師』か?」

 

「おう、俺は『ナナナ・ナジャークープ』。 こっちは『蒼都(ツァン・トゥ)』ってんだ。」

 

「(『前陛下』は、確か……) 『敵討(かたきう)チ』か?」

 

「アハハハハハ! そう見えるかい?」

 

「……先の者たちをケシカけたのもお前たチか?」

 

「まぁな。 ここにいるお偉いさん方に、俺たちが『何百年も生きていること』プラス『強靭な力の持ち主』を証明したら急に『同じにしてくれ』だとさ。」

 

「そうそう良いモノでモ、容易いモノでもナイが?」

 

「その通りだ。 が、そんな奴らでもチョビっとだけ助かったぜ? 何せ、()()()()()()()()()()んだからな!」

 

「(視線の正体はこいつか。) ッ。」

 

 ナジャークープの浮かべていた笑みが深くなると同時に、急に重しが圧し掛かったようにチエの体がガクンとなる。

 

「アンタは封じ────!」

 

 ガン!

 

「────迂闊だぞ、ナジャークープ。」

 

 次の瞬間、鉄がぶつかり合う音がナジャークープの前で発生し、今まで一元もしゃべらなかった蒼都がチエの繰り出した素早い斬り込みを変色した肌の両腕で刀を掴んでいた。

 

 ドォォォン!!!

 

「「「「うわぁぁぁぁぁぁ?!」」」」

 

 彼らの後ろにいた特殊部隊たちは突如発生した斬術の余波によってヨロめくか、踏ん張りが効かずに吹き飛ばされていた。

 

 ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!

 

 けたたましい音が鳴り響くと同時に、チエの居た場所に雨あられのように銃弾が着弾して、大きな土煙を発生させる。

 

 煙が晴れていく間、上空から腕にガトリングガンを装着し、全身を甲冑と鎧を纏った姿の者が降り立つ。

 

ナジャークープの『モーフィーン・パターン』を受けてなおその身体能力、非常に興味深い。

 

「おいおいおいおい、BG9(ベーゲーナイン)気をつけろよ! 今のは結構近かったゼェ?」

 

君たちが今ので死んでいれば、それまでのことだったのでは?

 

 蒼都(ツァン・トゥ)はつかんでいた刀を地面に突き刺す。

 (つば)より先まで無理やり地中深く、蹴りも応用して埋めて容易に抜け出せなくさせた。

 

 滅却師三人の前にところどころに銃弾が着弾したのか、()()()()()()()チエが観察するかのように彼らを見返していた。

 

「(刀は埋められ、この世界の力(霊力)も封じられた。 そしてこちらには()()()()()()()()……さてどうしたものか。)」

 

それじゃあ────

「────手筈通りに────」

「────行くゼェ!」

 

 BG9のガトリングガンが一瞬のモーター音を出してから乱射をし始め、チエは素早く横へと飛んでくる銃弾や、そのあとに自分を襲ってくる霊子の矢などを躱す。

 

「うわぁ────!?」

「ぎゃああああ────?!」

「な、なんで────?!」

 

 彼女が躱す矢先では残った特殊部隊たちが次々と余波に巻き込まれていくが、滅却師や彼らと対峙していたチエに、彼らの事は既に眼中にはなかった。

 

────ふむ。 これならばどうだ?

 

 BG9は体中からミサイルをも発射し、発砲音に爆音が混じり始める。

 

「(距離を取って攻撃し続けるか……用心しているな。)」

 

 

 

 一回り大きい装甲車両内では、特殊部隊の高官たちが慌てていた。

 

「ば、バカな?! 『Kaiserreich(カイザァリッヒ)』たち()()が交戦しに出て行っただと────?!」

「────我々との取引はどうなるのだ────?!」

「────もう構うものか! 車を出せ! こ、ここにいては我々も巻き添えに────!」

 

 ガシャ!

 

「「「「────うわぁ?!」」」」

 

 ギギギギギギギギギギギギギギギ!

 

 装甲車両が酷く揺れたと、中にいた者たちが思った次の瞬間、無理やり金属が曲げられていく音が響き渡ってまたも揺れだした。

 

 

 

「うっそだろオイ?!」

 

 ナジャークープが見上げていたのは、近くに停まっていた装甲車を()()()持ち上げて自分たちに振り落とそうとするチエの姿だった。

 

 !!!

 

 大きな咆哮がチエのさらに真上から聞こえてきて、空気の衝撃波が彼女の持ち上げていた装甲車に襲い掛かる。

 

「うお、あっぶね!」

 

 ナジャークープと近くにいた蒼都(ツァン・トゥ)は勢いを増してチエを下敷きにしながら落ちてくる装甲車を飛廉脚(ひれんきゃく)でその場を間一髪で躱す。

 

 ズドォン

 

 大きな響きとヒシャ曲げる金属音や割れるガラスと共に装甲車が全く想定されていない着地状況で鉄くずへと変わり、モクモクと漏れ出したガソリンに電気の配線で引火した炎が広がり始める。

 

 新たに表れたのはナジャークープたちと同じような白い軍服を身に着けていた、大きな猿のような男だった。

 

「やったか────ぬお?!」

 

 舞い上がった炎と煙の中から、血まみれのチエが飛び出しては手刀をフラグを言った大猿男の胸めがけて繰り出す。

 

 「『テメェは“今”の“衝撃”で“意識がフラついていないのか”ぁ?!』」

 

 新たな少年の叫びと共に一瞬だけ、チエの動きが鈍くなったところをBG9の武器が火を噴く。

 

「ッ!」

 

 またもチエは姿を消したと思えば、彼女は空座総合病院の側面を駆け上がっていた。

 

「ヒュー♪ 危なかったぜベレニケ!」

 

「どうせ感謝されるなら、ジェロームよりは女のほうが良かったぜ。」

 

「追うぞ、時間を稼いでナジャークープの能力解除を狙っている。」

 

 先ほど叫んだ者と思わしき、右半分の髪が黒、左半分が金に近い色をした青年が数ある装甲車(の残骸)の陰から出てきて、五人はチエの後を追うように宙を飛ぶ。

 

「あのガキ、今のをどうやって生き延びたんだ?」

 

今記録映像を再生している……ジェロームの『咆哮(ロア)』が響いた瞬間、車体の床にある非常ハッチをこじ開けて衝撃が若干和らげられる内部に乗り込んだようだ。

 

「へぇ? やるなアイツ! 殺さなきゃなんねぇのが惜しいぐらいだ!」

 

「しかし腑に落ちない弱さだな……やはり()()の言ったとおり、『()()』を先に送ったのと関係あるのか?」

 

 

 ……

 …

 

 

 景色は総合病院の屋上へと移ると、膝と手をついたチエからぼたぼたと血が流れ出ては周りに血だまりが出来始めていた。

 

「(血が止まらん……やはり、先の戦闘は『これ』が狙いか? だが誰が……いや、今は目の前のことに集中せねば────)────是非も…なし!

 

 足に力を入れて無理やり立ち上がりながら振り返ると、丁度彼女を追っていた滅却師たちが屋上に着地していた。

 

「どうだい()()()()? 観念したかね?」

 

 そう問いかけるベレニケに、チエはただ夜空に視線を寄越しながら小声で自分に話しかけるかのように声を出した。

 

「……『■■■■■■(今日は死ぬには)■■■■■■■(いい日かも知れない)』……」

 

 聞きなれない言語でも彼女の動作を『観念した』と滅却師たちは取ったのか、ゆったりとした足取りで彼女に近づいたときに屋上から病院内へと通じるドアが内側から荒々しく開けられた。

 

 バァン!

 

「チエ────!」

「────イチゴ?! (それにあれは────)」

 

 その時チエは何かを見たのか、すぐに視線を一護の登場によって一気に迫ってくる滅却師たちへと戻した。

 

「────いいところに邪魔が入った! アイツを巻き込むようにすればこの殺し、死んだチキンの足を捥ぐよりラクショーだぜ!」

 

 そんなことを言っていた彼らの間に日光を遮る影が落ちたに蒼都(ツァン・トゥ)が見上げると、宙を舞っていたアネットがもぎ取った様子の屋上に置いてあった大きな空調機を両手と()()()で数台持っていたのを投げたところを目撃した。

 

「ラいダーか────!」

「────小癪な真似を────!」

「────ポイニクス!」

 

 「ピ!」

 

 BG9のガトリングガンがこれらを造作もなく撃ち落としている間、アネットが叫ぶと彼女の背後にいたと思われる鳥が横へと飛びだして一気に巨大化する。

 

 「■■■■!!!」

 

 その姿はまさに『不死鳥』と呼ぶに相応しく、逞しいモノへと変わったポイちゃん(双極)は巨大な火の玉を吐き出す。

 

 ナァメェェルゥゥゥ!!!」

 

 ドォォォォン!

 

 ジェロームがまたも咆哮を上げ、その衝撃波が巨大な火の玉と相殺したかと思えば予想以上の大きな爆発が起き、衝撃波で滅却師たちはバラバラに互いから引きはがされる。

 

「クソ!」

「目くらましか?!」

「落ち着け! こうなれば奥の手だ、陣を組め!」

 

 滅却師たちは気付くと、辺りに空調機などの瓦礫や含まれたガスなども混じって視界は悪くなっていた。

 

 バリバリバリバリ! バキバキバキバキバキバキ!!!

 

ガァァァァ?! や、やめろ! やめろやめろやめろやめろやめろぉぉぉぉぉぉ?!

 

 そんな中、放電する電気とBG9の悲痛にも似た叫び声が他の滅却師たちにも聞こえてきた。

 

「チィ! しゃらくさい真似を────ぐぁ?!」

「ベレニケか?!」

 

 滅却師たちは煙の中、次々と怒鳴る声などがうめき声や叫びに代わっていくのを一護は傍まで来たアネットの後ろで見ていた。

 

 その景色は何某映画風にいうと、『森の中で次々と人が消えていく』シーンに近かった。

 

「お、おい────!」

「────動かないでください、巻き添えを食らいます。」

 

 煙が晴れて、最後に残ったと思われらしき蒼都(ツァン・トゥ)は全身を硬貨させて、襲い掛かるチエの両腕をがっしりと掴んで動きを止めていた。

 

「(霊力はまだ封じられているはずなのにこの力! バケモノか?!)」

 

 だが拘束したつもりの蒼都(ツァン・トゥ)の腕をチエは逆につかんでから蹴りを彼の右肩に食らわせて無理やり()()()()()()()()()()()()()

 

「ぬぐぉおおおおおあああああああ────ガッ?!?!?!

 

 目の前で引き裂かれた腕の損失と襲い掛かる痛みで叫びだす蒼都(ツァン・トゥ)の顔を片手でつかみ、そのまま屋上の地面へと押しつぶすかのようにぶつけた。

 

「貴様は殺サん、吐いテもら────」

 

 ────ガッ。

 

 その時、チエは僅かな音が蒼都(ツァン・トゥ)の腰辺りから発生したのを聞いた。

 

 セラミックがコンクリートにえぐり込むようなもので、周りの倒れた滅却師たちをよく見ると、各々が柄から霊子で出来た刃を屋上に刺していた。

 

 その瞬間、蒼都(ツァン・トゥ)を中心に屋上の端で倒れていた滅却師たちを結んだ形をした陣が屋上全体に現れる。

 

 上空から見ると、それは滅却師十字(クインシー・クロス)と酷似していた。

 

「(これはまさか────)」

 

 チエは知識とだけこの状況を知っていた。

 それは『原作』でいうところの『破面編』。

 

 詳しくは石田雨竜(滅却師)死神(阿散井恋次)()()しざるを得ない場面で、あの『完璧生命体』を自称し、二人の霊圧を封じたザエルアポロに重傷を負わせる術だった。

 

 物音からここまでの思考を巡らせるのに一秒未満。

 だが戦いの最中ではその僅かな時間が命取りで、並大抵の強者や戦慣れしているならば本能に従って己を最優先にして離脱していただろう。

 

 ()()!」

 

 チエの掛け声でアネット無我夢中に一護を抱き上げて屋上から文字通り飛ぶと、巨大な霊子の柱と音をかき消すほどの爆発が辺り一面と上空を照らした。

 

 

 

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

 

「…………………………………………?」

 

「起きましたか。」

 

 ベッドの上で横たわっていた重体のチエが窓から入ってくる朝日に目を覚ますと、近くにいたアネットが読んでいた本から声をかけた。

 

「……?」

 

「ほら、起きてください。」

 

「ンガ?! いててててて……」

 

 何かを聞きたそうなチエの視線を見て、アネットは椅子に座ってグースカ寝ていた一護の脇を肘で突いてから読書に戻った。

 

 彼女は決して面倒くさがった訳では無い。

 ……と思いたい。

 

「???」

 

「おお、目が覚めたかチエ! ここは俺ん家だ。 病院は今ちょっと直しているところで、大体の手当ては井上が終わらしているが中々治らなかった手足は包帯────」

 

「■■■■■■■■■?」

 

「「え?」」

 

 チエがボーッとした顔で、聞いたことのない言語で話し始めたことに一護とアネットの両名は?マークと気の抜けた声を出した。

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 

 あの訳の分からない日から二週間ほどが経った。

 

 簡単に説明をすると、あのポテト(ハッシュヴァルト)たちと同じ滅却師の生き残りが病院を襲ったらしい。

 

 狙いは俺か、竜貴か、自称『最後の滅却師』の石田か分からない。

 

 あの軍人っぽい野郎どもは後で知ったんだが、警察特殊部隊の上の奴らが勝手に色々やらかしたらしく、直轄の隊員や何も知らされていない警官たちを勝手に出動させた挙句、ほとんどが死亡したので近くの警察署で残されて何も知らされていなかった奴らは面子丸つぶれになったことに頭を抱えて腰が低くなっていた。

 

 らしい。

 

 なんで『らしい』っていうと石田のオヤジらしい院長が顔の手当てと愚痴をするために家に来ていたからだ。

 

『相変わらず一心は肝心な時にいない』とか、『なぜこんな面倒くさいことが空座町で起きる』とかおふくろに言っていた辺り、知り合いっぽかった。

 

 今考えれば石田のオヤジの事も『竜ちゃん先生』とか言っていたし。

 

 ただ、俺や他の奴らにも『子供だから』と言うような理由で詳しいことは聞かされていない。

 一つだけ、確実に言えることは────

 

「────それでな。 今日学校で────」

「………………………」

 

 ────俺は日課になっていた組み手の代わりに、未だに()()()()であるチエに今までの出来事や今日身の回りであったことを話すようになった。

 

 あの後、井上が治療してから目が覚めた彼女に何度か話してみて、反応を見たんだがそもそも違う言語でこっちに話しかけてはいるが、理解はできるらしい。

 

 なので身ぶりやジェスチャー、『はい、いいえ』の質問をしていくと自分や、俺、俺の家族や学校の知人、その他の事を覚えていないらしい。

 

 ゆえに『記憶喪失』。

 

 しかも他の奴らの話では以前からわかりにくかった感情や表情が、さらに分かりにくくなったとか。

 

 相変わらず分かりにくいのは同意するが、それほどか?

 

 それに、たつきやはあの夜見た惨状でよそよそしくなっちまったし、他の奴らもどこか近寄りがたいというか……

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「んじゃ、俺は先に帰る。」

 

「ちょっと一護!」

 

 井上に外傷を治療されてチエの目が覚めたあとのある日、学校から帰ろうとして校門を出ようとしたとき、たつきが俺の肩をつかんで止めた。

 

「あ、アンタよく平気だよな?」

 

「んあ? んなことあるかよ。 今だって夢に出てくるぐらいだ。」

 

 あの夜、死体などを見た所為か死神の力を得た後から稀に見ていた『悪夢』を頻繁に見るようになったし。

 

「………そっちじゃ、ねぇよ。」

 

 一護が?マークを出すと、竜貴は真剣な顔になる。

 

「だって()()()……『人を殺した』んだよ? そりゃあ、相手だって銃なんか持っていたけどさ……()()()ぐらいの奴だったら無力化するのってどうってことないはずだろ? そんな奴を……家に置くなんて……」

 

「たつき……まぁ、確かに霊的な奴は無理だけど普通の奴ぐらいなら俺でも────」

 「────だからそっちじゃ無いんだってば!」

 

 

 竜貴の叫びに周りの下校中だった生徒たちさえもビクリと身体を跳ねさせたことに、彼女は小声で一護に話しかけ続けた。

 

 「……アタシは、そんな奴と関わるのが……()()。」

 

「たつき……」

 

 「そりゃあ、昔から少し変な奴だったけど……ありゃぁおかしいよ、どう見ても。 どうやったら()()()()()()()んだ?」

 

「……………………俺たちの、所為だ。」

 

「え?」

 

 一護は『原作』で、真咲を失くした時に見せるような『迷子の顔』になっていた。

 

 彼は、竜貴とは少々違う見解をしていた。

 

 竜貴の『チエが人を殺した』と言う、見た目通りの事ではなく、彼が思ったのは『足手まといの自分たちを守るために殺した』。

 

「だってよ。 もしあれだけの数を確実に無力化するとしても、それを俺たちや身動きの取れない石田たちを守りながら一人でやる『余裕』はなかったんじゃないのか?」

 

「……あのバケモノのような奴なら────」

「────アイツは焦っていた。」

 

「……分かるのか?」

 

「俺にはな。」

 

 竜貴が何を言いたげに口を一瞬開けたが、歯ぎしりをするかのように口を閉じて一護の顔を見て諦めたかのように最後に言葉を吐き捨てた後にその場を去った。

 

「……………………気を付けなよ、一護。 本気だぞ?」

 

「ああ。」

 

「……アタシは織姫ンところに行ってくる。」

 

「…………………ああ。 マイさんや三月たちによろしくな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 景色は移ろい、どこか夜空の下にある砂漠に代わっていた。

 

「『ナナナ・ナジャークープ』。 霊圧を計測、観察し封じる『無防備(ジ・アンダーベリー)』。

『ベレニケ・ガブリエリ』。 『状況』、『出来事』などの条件内で限定的にだが『異議』として『起こりえた結果』を引き起こす『異議(ジ・クエスチョン)』。

『ジェローム・ギズバット』。 己の肺を霊子圧縮装置に転換し、声に霊圧を乗せる『咆哮(ザ・ロア)』。

蒼都(ツァン・トゥ)』。 身体を硬化させ、精神状態に左右されることはあるが物理的攻撃を無力化できる『鋼鉄(ジ・アイアン)』。

BG9(ベーゲーナイン)』。 かつての国、『光の帝国(リヒト・ライヒ)』の『技術の結晶』と呼ばれた『創られた人工の自律型滅却師』、『殺戮兵器(ザ・キリングマシン)』。」

 

 そこでは、一人の人物が様々な人物の名前とその者たちの能力らしきことを言いながら指を上げた。

 

「申し訳ありません陛下。 あの者たちではやはり、かの者を殺すことはできませんでした。」

 

 そして後ろでは丸の中にXの書かれた眼帯をした男が申し訳なさそう声を出した。

 

「いや、上々の成果だ。 彼らの働きは『()()()()』と言ってもいい。」

 

「『予定』……ですか?」

 

「ああ、すまないね。 『予想』と言ったつもりだ。

 

 さて。 せいぜい私を楽しませてくれたまえ、『初代死神代行』。 いや……復讐鬼の完現術(フルブリンガー)、『銀城空吾』とやら。」




とあるメカパイロット:へぇ~! この黒崎ってやつ、意外に鋭いじゃないの! 女の子の行動には大抵の場合、『裏の裏』ってやつがあるってオルソン言っていたもんなぁ~

???:誰だね君は?

とあるオーガスパイロット:な、なんだお前?! なんで俺と同じ声なんだ?

???:君のような者と私が同じなど、断じて認めない。

とあるメカパイロット:そりゃこっちのセリフだロン毛野郎!


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第111話 Unto Forwards Time

大変お待たせ致しました、次話です!

活動報告にも載せましたが最近体調を崩してしまい、寝込んでいましたが書けるときには書いていたので、何とか金曜日の分を遅ればせながら投稿できました!

楽しんでいただければ幸いです!

なおここから時空が少しの間だけRTA気味に飛びます。


 ___________

 

 チエ(?) 視点

 ___________

 

 ここの者たちは良くしてくれている。

 

 茶髪の子供と女性。 黒髪の子供。 

 黒髪の少女と赤髪の少年。 

 

 たまに窓から見ている真っ黒の四本足。

 

「チエの姐さ~~~ん! 特盛持ちとはこの俺、感服っす────ぐぇ!」

 

 動くぬいぐるみ。

 

 そして────

 

「ちょっと黙ってろ、コン。 んでそこで浅野のバカ、何をしたか知っているか? 馬鹿正直に『寝てました!』って答えるんだよ! ありえねぇよな、『チエ』?!」

 

 ────派手なオレンジ色の髪をし、毎日欠かさずに話してくる少年。

 

 他の者たちと違い、この目の前の少年は本当に毎日部屋に来ては延々と話しかけてくる。

 

 そして『チエ』と呼ぶ。

 

 ()()()()()

 

 だが背中に背負っているモノはなんとなく、近くの壁に立てかけているモノに似ている感じがする……

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「よぉ『チエ』! 今日はマイさんに訊いて、()()を持ってきたんだ!」

 

 オレンジ色の少年は今日、書物を手にしてきた。

 

「ま、まぁ勝手にお前の部屋に入ったのは許してくれ────」

 

『許す』?

 

 ()()()()()()

 

「────けどすごい部屋だな? 本棚にびっしりと妙な文字で書かれた本ばっかりだったぜ! どっかの古本屋から取り寄せていたのか? って、答えれるわけないか……」

 

 渡された書物は確かに今まで見た字とは少々違った。

 

 だが問題なく()()()

 

 オレンジ色の少年がいつもの様子で話してくる間、ページを開く。

 

「(これは手書きか?)」

 

 そこには、以下のようなものが書かれていた。

 

1.日記を細かく、その日で思い出せる限りのことを書け

 2.迷いあれば日記を読み返せ

 3.不用な行動は控えろ────』

 

「?????」

 

 なんだこれは?

 誰か宛の文のようだが。

 

「チエ? 俺の話、面白くなかったか?」

 

 おっと、オレンジ色の少年が話しかけていたんだった。

 

 読むのは後でにしよう。

 

 それに少年の話を聞くと、どことなく胸が暖かくなるような気がしないでもないしな。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「チーch────上のほうの渡辺さん、久しぶりだ。」

 

 デカイ。

 

 なんだこの……………………『見た目だけが大人』な少年は?

 

「うわ、チエも『ポカン』とするんだ。 ちょっと得したな、チャド! レアモノの表情だぜ!」

 

『チャド』?

 チャドと言うのかこの少年は。

 

「あ、『アレ』でか? 俺には全然、表情の区別が……というか変わっていないような気がするんだが……」

 

「そうかぁ?」

 

 そんな話をする二人は、どこかぼんやりとだが()()()()をしていた。

 

「けど一護、この頃早く家に帰っていると思ったらこういう理由があったのか……」

 

『チャド』がどこか、見た目に似合わない『怯え』を覚えるような目を向ける。

 

「……一護、有沢の言っていたのは本当か?」

 

『アリサワ』?

 誰だ?

 

「ああ。 でも、だからこそ『早く力を取り戻したい』って俺は言ったんだ。」

 

「一護……だが今日みたいなのはあまりにも無茶だ! そこら辺の普通の人間であるヤクザなどはともかく……それにジャッキーさんだけじゃない。

 口にしてはいないがユキオ(雪緒)やリルカも心配している。 ギンジョウ(銀城)も言っていただろう? 『本来フルブリングは生まれた時からあるもので、育って行くウチに少しずつ慣れていくものだ』って。」

 

「けどよ、チャド? 突然能力を得たお前や井上と言う前例があるんだ。 ちょっとぐらい無茶を────」

「────イチゴ(一護)、それでもだ。 お前が倒れたら、元も子も────!」

 「────俺のせいなんだよ、チャド! 何もかもが!」

 

『イチゴ』がたまに見せる表情で叫び、『チャド』が黙る。

 

「俺の……()()()()()()で……こいつは人を殺したんだ。 俺たちが……()()()()()()()()()()()()()だったから……こいつは…………………」

 

「イチゴ……」

 

「「……………………………………………」」

 

 ……なんとなく。

 

 なんとなくだが……

 

 何かが胸の中が()()()()()ような気がした。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 なるほど。

 書物を読むと少年────『黒崎一護』が『チエ』と呼ぶのは『わたしの仮名』らしい。

 

 そして私の世話をしに来る少女たちは────

 

「────クロサキ・ユズ……と、クロサキ・カリン、か────ぐべ。」

 

 試しに名を呼んだら二人が一瞬だけ固まってから、大粒の涙を流しながら『わたし』を抱きしめた。

 

 クロサキ・カリンはともかく、クロサキ・ユズのアバラ骨は『痛む』。

 

 それに書物を読む限り、『わたし』は『黒崎一護』に()()()()()()()があったみたいだな。

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 

 チエが遊子と夏梨の名を『日本語で』呼んだ。

 

 それだけ聞いたら何とも言えない気持ちになって、彼女のいる部屋に直行していた。

 

「クロサキ……イチゴ。」

 

 そしてカタコトとだが俺の名を呼んだ時、足の力が抜けたのか思わず尻モチをついていた。

 

「は……ははは……」

 

 ムギュ。

 

 ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ。

 

 何か柔らかいものが俺の額に圧し掛かると同時に、実に久しぶりの感触が頭に感じ取れた。

 

「……ここまで来て撫でるか、普通?」

 

「■■。」

 

 これは……『気にするな』って言っている感じだな。

 

「……ああ……そうだな。」

 

「■■。」

 

 相変わらず分からない言葉だが────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギュ。

 

 ────今はそれでいい。

 

 それでいいんだ。

 

 俺も少しずつだけど、『()』を得ているんだ。

 

 それさえ手にいれば、今度は……

 

 

 

 

 

 

 今度こそは、俺がまも────

 

「────えぇぇぇぇぇ?! イィィヤァァァァァァァ?!」

 

「さすがチー姉ちゃんと一兄って付き合っていたんだな。 でも堂々と人ん()で抱き合う仲とは予想外だな。」

 

「うぃえ?! か、夏梨に遊子?!」

 

「あらあらぁ~、婚姻届けはいつにする~?」

 

「お、おふくろまで?!」

 

「『コン』……『イン』?」

 

「だぁぁぁぁぁぁぁ?! 違うっつーの! しかも変な言葉覚えさせるんじゃねぇぇぇぇ!!!

 

 

 ニヨニヨする夏梨。

 兄が元気になった嬉しさと同時に、兄を取られる悲痛さに頭を抱える遊子。

 そしてニコニコとしながらも、のほほんとした『冗談に聞こえない冗談』をその場に落とす真咲。

 

 

 

 そして『コンイン(婚姻)』と言う単語を、頭の隅に置いて読書を続けるチエだった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ピンポーン♪

 

「へい、毎度! って、なんだ一護か。」

 

 うなぎ(なんでも)屋の店長が元気よく声を出し始め、来客が一護と知った瞬間に表情を変えたことに一護はジト目で育美を見る。

 

「一目見て明らかにがっかりしないでくれるか、育美さん?」

 

「ハァ~、渡辺が来ていた頃はもっと依頼が殺到していたんだよ? あの子、アンタと違ってやることやってすぐにトンズラせずに、客のちょっとした追加依頼をサービスでやりこなしていたんだから。」

 

「いや、まぁ……その……」

 

 一護は彼女の正論にたじろいでいた。

 普通なら『アンタがやる筈だった古い依頼が押し付けられただけだろうが?!』と逆にツッコんでいたかもしれなかったが、次に頼みたいことがことだけに言い辛かった。

 

「んで? ここで話もナンだから入りな。」

 

「いや、だから……」

 

「ほらほら、冷えるから入んなって。 依頼が溜まって────」

 

「────しばらく、休みたいんだ。」

 

 一護の言ったことに、育美は固まった。

 

 「………………………ハァ?!」

 

 育美の叫びはごもっともである。

 何せ一護は気乗りしていなかったからか、はたまた他の理由でそれ程うなぎ屋の仕事に身を入れていなかった。

 

 普通ならクビにされてもおかしくはないほどであった。

 

「それじゃあ……俺はこれで────」

 「────ちょっと待ちな!」

 

 ここでその場を去ろうとした一護の胸倉をつかんで無理やり止める。

 

「アンタ、あたしに気ぃ使ってんじゃないよ?」

 

 だが、育美は一護が(自分と同じ怠惰な点を除くと)基本的に性格が良いことを理解していた。

 

 それはどんな依頼でも受けるチエとは違い嫌々言いながらも、真に人助けに繋がるような依頼を優先的にとる一護と、依頼主から彼に関して圧倒的に褒める言葉しか聞いていなかったことも関係していた。

 

「忘れんじゃないよ! アンタは……アンタ()()はさぁ?! 『子供』だろ?!」

 

『アンタ()()』。

 

 そう確かに言った育美に、一護は少しだけびっくりしていた。

 それは自分以外の者も入っているということだから。

 

「アンタたちぐらいの16歳はさぁ? 無邪気に笑って、バカやって、たくさんの思い出作って、困ったら近くの大人に頼っていい年頃なんだよ!」

 

「…………………ありがとう、育美さん。」

 

 

 

 

 ___________

 

 雨竜 視点

 ___________

 

 

 意識を取り戻した僕は、急いで井上さんを呼んでケガを治してもらいながら、今までの状況を彼女から一通り聞いた。

 

 圧倒的に情報不足で、今から自分で得るよりは彼女に聞くほうが早い。

 

 そこで分かったのは黒崎が何らかの方法で『死神』とは違う力を得ようと、茶渡君の紹介で必死に修行をし、その成果で少し前から霊圧を発していたこと。

 

「(なるほど。 雰囲気は違うけどやっぱり黒崎の霊圧だったか。)」

 

 そして彼女に傷を癒すのを頼んだのは、もう一つの理由があった。

 

 その黒崎と思わしき霊圧が今日、自分を斬った者の霊圧と接触したからだ。

 

「井上さんも感じただろ?」

 

「う、うん……でも黒崎君がいつもより必死なのが分かって、何も話してくれないからなんとなく……行くのが気まずかったんだ。」

 

 井上さん……

 君はこんな状況でも、彼の身を案じるんだね?

 

「それに……黒崎君と一緒にいたあの感じが石田君を斬った人なら……()()()()()()()()()()()()()。」

 

 自分がおそらく黒崎の所為で斬ら────

 

「────え?」

 

 おかしい。

 それはおかしいぞ?

 

「でも、井上さんに外傷は無かったんだよね?」

 

「う、うん……」

 

「……僕と井上さんでは受けたダメージが……そもそも能力が違うのか?」

 

「あ! その人は刀の事を、『フルブリング』って呼んでいた!」

 

「??? 『斬魄刀』とは違うのか?」

 

 考え込んだ僕の顔を思ってか、井上さんはチラチラと自分の様子をうかがうような視線を時折寄越していた。

 

「ああ、すまない井上さん。 困らせるつもりは無いんだ、今のはただの独り言と思ってくれ。」

 

「あ! そういえばね、さっき黒崎君から連絡あったんだ! チエさんが少しだけど()()()って! でも……()()()()()()……まだ────」

「────井上さん!」

 

「ひゃい?!」

 

 いつもの僕ならこれほど興奮していないし、びっくりした彼女に気遣いの一言も言っていただろう。

 

 だが彼女の表情と言葉で襲ってくるこの不安感に、そんな考えはすっかり飛んでいった。

 

「その話を詳しく聞かせてくれ! 小さいほうの渡辺さんがどうかしたのか?!」

 

「あ、うん……石田君が襲われてから『脳死状態』って────」

 

 ()()()()()()()

 

「────石田、気がついたのか────って井上もいたのか?」

 

「あ、茶渡君────」

 

「────ちょうど良かった。 茶渡君にも話を聞きたかったんだ。」

 

 

 

 そこで雨竜、そして織姫も茶渡を加えて話し合った結果に得た情報量は莫大だった。

 

完現術(フルブリング)』。

 それは『物質に宿った魂を引き出し、使役する能力』。

 

 それがおそらく茶渡の『巨人の右腕』と『悪魔の左腕』、そして織姫の『盾舜六花』の能力たちが部類されるであろう『総称』ということも。

 

「…………………………………………………………」

 

「その……俺が単純にそう理解しているだけかもしれないが────」

 

「────ああ、すまない茶渡君! なにも不愉快に思っていることは無いんだ!」

 

「そ、そうか? 険しい表情になっていたから、何か気を悪くするようなことを言ってしまったのかと思った。」

 

「(まさか茶渡君にもそう思われるとは心外だ。)」

 

「ただ、今日の出来事で黒崎は今よりもっと修行のペースを上げたいと言っていた。 だから井上、お前の能力が必要になる。 おそらくは怪我をするだろう。」

 

「『今日の出来事』? どういうことだい茶渡君?」

 

「………………『完現術者(フルブリンガー)』たちのアジトが()()に襲われた。 おそらくは黒崎の力を見たかったのだろう。」

 

「(『月島』……だと?)」

 

「え?! そ、それじゃあ────?!」

 

「────黒崎は無事だ。 銀城たちがとりあえずは撃退して、今は別のアジトで修業を急遽再開している。」

 

「(もしかして、その月島は?!) ねぇ茶渡君、その『月島』って奴に関して何か情報とかはないか?!」

 

「え? 情報と言っても、俺も『XCUTION(エクスキューション)』に入ってあまり時間が経っていないからな……他のメンバーからの話や憶測や受け売りも入るが、いいか石田?」

 

「ああ。 頼む。」

 

月島(つきしま)秀九郎(しゅうくろう)』。

完現術者(フルブリンガー)』だけで結成されていた『XCUTION(エクスキューション)』の元リーダーで、『完現術(フルブリング)』を取り除いて『普通の人間』に戻れる可能性を発見した男。

 

 その取り除く方法とは『死神と人間の能力を同時に持っている“死神代行”に力を受け渡すこと』。

 

 そして協力的だった死神代行に仲間たちが数名『完現術(フルブリング)』を受け渡して『普通の人間』に戻ったところで、その『元完現術者(フルブリンガー)』たちと死神代行を殺し、姿を消した。

 

 そんな彼の能力は『ブック・オブ・ジ・エンド』。 攻撃能力が極端に高い、()()()()()()()()

 

「そして銀城いわく、『特殊能力は他に無い』と言っていたが────」

 

「────でも、井上さんは斬られても()()()()()()。 僕と違って……能力が変わったということか?」

 

「それは俺も思って銀城に訊いたが、『完現術(フルブリング)』に変化は無いらしい。 俺のように力のすべてを引き出せていない場合は、本来の姿や能力が出てきていないだけに過ぎなかったが。」

 

「…………………それとね石田君? 茶渡君にも言ったんだけど私は斬られた後……実は『違和感』を持ったの。」

 

「『違和感』、だって?」

 

「私が斬られて茶渡君と黒崎君が駆けつけてくれた時、一瞬……本当に一瞬だけだけどね? その『月島』って人を『友達』と()()()んだ。」

 

「……なんだって?」

 

「ええとね? 私も良く分からないから、ありのままに事を話すんだけど……

 その人を『友達』と()()()()()の。

 別に『友達の誰かと見間違えた』とか、『勘違いだった』とかじゃなくてもっと別の……何かかな?

 とにかく、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』ような……」

 

「「…………………………」」

 

「ご、ごめんね! 私自身、何を言っているのかわからないのに石田君に分かるわけないよね! あ、あははは~……」

 

「……これでいいか、石田? 月島から自分の身を守るために、俺たちに負担をかけないように一護が望んで挑むハイペースな特訓に、井上の治療は欠かせないんだ。」

 

「……あ、ああ! 引きとどめてすまない! ありがとう、凄く参考になったよ! あ! それで、さっき井上さんが言ったことなんだけど────!」

 

 そこから雨竜は、自分が大けがを負った日から三月が『脳死状態』に似た状況下と、同時にマイがずっと入院していることを知る。




時は、動き出す。


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第112話 Magic and AK〇RA

月曜日の投稿です!

楽しんでいただければ幸いです!


 ___________

 

 雨竜 視点

 ___________

 

「あらぁ~……今日は来客が多いわねぇ~?」

 

 織姫や茶渡を見送った後、雨竜はマイの病室に来ていた。

 

「見舞いに来たついでに眼鏡も回復していったのですか井上さん(マスター)は。」

 

 そしてその部屋にはそっけない言葉を雨竜に投げかけるアネットの姿もあった。

 

「冷たい態度は相変わらずだね、アネットさん。」

 

 雨竜がにっこりと愛想笑い(営業スマイル)を向けると、アネットは読書に戻る。

 

 副生徒会長と、生徒会の書記になったことで二人は以前より顔を合わせるようになり、雨竜はなんとなく彼女がドライな態度や無愛想な仕草を取ることが実は『単に面倒くさがり屋だった』からと察していた。

 

 本当に『なんとなく』だが、思いのほか正解だったことに雨竜は満足していた。

 

『同族嫌悪』とは1ミクロも彼は考えもしなかったことをついでとしてここに追記しよう。

 

「マイさん、少し話をしてもいいかな?」

 

「いいわよぉ~?」

 

「マイさん、渡辺さん……()()()()()()()()()()()()()?」

 

 最後の言葉を雨竜が言い出した瞬間、読んでいた本をアネットが閉じて、彼に冷たい目線を送ると同時に部屋の温度が少し下がったような気がした。

 

「以前に空座高校の屋上で聞いたものと、井上さんと茶渡君たちの話を照らし合わせると君たちは外見年齢より長い時間を生きて『世界を旅している』と言っていた。 だけど、それだけじゃないと思う。」

 

「……どうして、そう思うのかしら?」

 

「まず、君たちの話があまりにもかみ合わない。 と言うか()()()()()()()()()()()。 それらを見ると、明らかに前もって合わせた作り話だ。」

 

 ジャラジャラ!

 

 こすれる鎖の音とともに、次の瞬間雨竜の喉元に釘のような短剣を()()()()突き出したアネットが居た。

 

「アネット────」

「────マイ姉さま、やはりこいつは(声が似ているだけに)危険です。」

 

 ここで意外と落ち着いた口調で雨竜が話す。

 

「ありがとう。 やっぱり今ので確信に変わったよ。 ()()()()()()()()()()()()()使()()()()()んだね?」

 

「「……………………………」」

 

「今の動きと、急に何もないところから出した武器にも霊子の変動は無かった。 と言うことは、おそらくは『()()()宿()()()()()()()()()使()()()()()()』に由来する力か類するモノだろ?」

 

 雨竜の言ったことが図星だったのか、アネットの目が少し見開いた。

 

「貴方にはやはり、いますぐ石に変えて────!」

「────アネット。 おやめなさい。 武器も下ろしなさい。」

 

 とうとう殺意が出てきたアネットに、マイが今まで聞いたことのない口調で彼女を制止していた。

 

 渋々と短剣をアネットがおろしてからマイがホッコリとした笑顔を雨竜に向ける。

 

「…やはり、()()()()わね。」

 

「ああ、『お兄ちゃん』とやらに……だろ?」

 

「ふぇ?! ちょ、?! ()()()()?!」

 

「ん?」

 

 マイが裏返った声を出し、雨竜が見ると彼女は耳まで真っ赤になりながら心の底からびっくりしていた。

 

 その表情はいつものマイの様子からはかけ離れていた、()()を残したモノだった。

 

「(あれ? 少しだけカマをかけてみたのに凄い反応……と言うかアネットさんが『姉』と呼んでいるから、やはり彼女と小柄の渡辺さん(三月)()()なんだな。)」

 

 雨竜の様子にマイは咳払いをして、さっきの雰囲気に戻そうとしたのか真剣な表情をしていた。

 

「コホン……驚いたわ、純粋に。 やはり頭脳派は伊達ではないのね。

 

「それで、話してもらえるかな?」

 

 雨竜の質問に、マイはただにっこりと笑ってからアネットを見る。

 

「アネット。 石田さんと手分けして『()()()』を描いてもらえないかしら?」

 

「……は?」

 

 雨竜は予想もしていない単語が出てきたことに、目を丸くした。

 

『豆鉄砲を食らったハト』そのものである。

 

「マイ姉さま、それは────」

「────陣を掻く水銀の調合は時間がかかるから、()()()()()()()()()()()()()()()()に手伝ってもらえばかなり早い作業になると思うわ。」

 

 マイが部屋の扉のほうを見ると、ため息交じりに鼻に絆創膏をした竜弦が姿を現せた。

 

「おやj────竜弦!」

 

「やれやれ……まさか俺の事も気付かれているとは……」

 

「ご息子の到来を利用して隠れたところまでは良かったのだけれど、アネットが武器を出して彼を脅迫したその一瞬だけ殺気が漏れ出したから♪ あと、同じ陣を三月の方にもお願いね♡」

 

「しかし、ここにきて『魔法陣』と言う単語を聞くとはな。」

 

「あら、『滅却師』がそんなことを言うのかしら?  霊子を使用しているけど、『滅却印(クインシーツァイヒェン)』もれっきとした『魔法陣』ではなくて?」

 

 竜弦の嫌味も多少こもった言葉に、マイはただ笑顔を向けながら答える。

 

「……ひとつ伺いしたい、『マイ』とやら。 俺の気のせいかも知れんが、体調がすぐれないのなら事前にそうと教えてほしい。 今の君はどんな形であれ『患者』だ。 訳の分からないモノに手を出すより、『医師』としての務めがある。」

 

「あら、何を根拠にそう言えるのかしら?」

 

「君の具合が一向に好転しないのがそもそもの証拠だ。 普通の人ならば状態は安定するが、君は違う。」

 

 今度は竜弦の正論の含んだカマに、マイは()()()()()()()()()()()()()()()を浮かべた。

 

「フフ、ごめんなさい。 少し魔がさしてしまったわ。 別に隠してどうこうするつもりは無かったのだけれど……手を、出してくれるかしら?」

 

 一瞬の戸惑いがあったものの、竜弦はつかつかとマイに近づいて出された手を取ると目を見開いて、真剣な顔をしたマイを見る。

 

「ごめんなさい、私ったら『()()()』だということを言い忘れていたわ。 少し冷たいけれど我慢して……それと今から私は精一杯の力で、貴方の手を握るわね? いいかしら?」

 

「……あ、ああ。 いいぞ。」

 

 そこで力を入れた所為か、プルプルと震える手でマイは竜弦の手を握る。

 

 すると竜弦の表情がより険しいモノへと変わっていく。

 

「これは────」

「────私は別にふざけているワケではないの。 ()()私に出せる力はこれだけ。 指先の握力(あくりょく)も最大限に使って引っかけたりするのがせいぜい。 これで握ったり、物を摘んだりするのはとても無理よ。 最近考えこんじゃうのよねぇ、『ああ、これが年寄りの気分なのか』ってね。」

 

 竜弦が自分の手に少しだけ力を加えて引くといとも簡単にマイの手を振りほどいたことに、内心では驚愕していても鉄の仮面で冷静な表情を保つ。

 

「君は……」

 

 だがそれでも言葉がうまく見つからないモノなのは変わらないようで、マイはにっこりと愛想笑い(営業スマイル)を向ける。

 

「今は『触覚遮断』()適用しているの。 これで何とか漏れ出す『()()』を出来るだけ抑えているのだけれど、今までの話を聞く限り『()』が自然回復する見込みは無いみたいだから。」

 

「……マイ姉さま……よろしいのですか?」

 

「よろしいも何も、今は非常にマズイ状況よ。 それに…ちゃんと説明すれば、この二人ならいろいろと知恵も力も貸してくれると思うから。」

 

「……失礼を承知の上で尋ねるが、君は本当に『マイ』なのかね?」

 

 竜弦の疑問はごもっともである。

 今のマイは普段とは違い、緩いかつのほほ~んとしたいつもの調子ではなく、()()()()()()の態度そのものだった。

 

 まるで()()()()()()ように。

 

「よろしくね? ()()()()だと思うの。」

 

 だがマイはただニコニコとした笑顔を向けるだけだった。

 

「……何がだ?」

 

「『黒崎一護』の()が近いうちに狙われるわ。」

 

「なッ?!」

「どういうことだ?」

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 織姫が茶渡に連れてこられた場所は『完現術者(フルブリンガー)』である『雪緒(ゆきお)・ハンス・フォラルルベルナ』が作り出した空間の中。

 

 彼の能力、『インヴェイダーズ・マスト・ダイ』はモバイルゲーム機を媒体にした『標的を電脳空間の中に閉じ込めて、ゲーム感覚で空間をコントロールする能力』。

 

 まさに自ら作り出した『小さな亜空間の神』である。

 

 その空間の中で一護と銀城が全力で斬りあっていた。

 

 一護は死神代行証を媒体に発動した『完現術(フルブリング)』を身に纏いながらも頑なに外さなかった竹刀を背負ったまま、十字架のネックレスを媒体にした大剣に変化した『クロス・オブ・スキャッフォルド』を装備した銀城へと斬りかかっていたのを織姫はジッと距離を取って見ていた。

 

「邪魔するわよ。」

 

「あ、えっと……リルカちゃん!」

 

 雪緒の空間内に入ってきたのは濃いピンク色(と言うか赤に近い色)のツインテールが特徴的なミニスカートの少女────『毒ヶ峰(どくがみね)リルカ』だった。

 

「ジー。」

 

 そして織姫は彼女が手に持っていた『ミセズ・ドーナッツ』の箱に注目していた。

 

「…何よ。 やらないわよ? 自分で買ってきなさい。」

 

「うん。」

 

「……どれだけ見てもやらないからね?」

 

 「うん。」

 

「…………………………よだれ、滅茶苦茶出ているわよ?」

 

 うん。」

 

「………………雪緒! テーブルとイスを出しなさい!」

 

『……………………………………………………』

 

「あ、あの! 私からもお願いします!」

 

『いいよ。』

 

 雪緒ぉぉ!!!」

 

 織姫のお願いに即答した雪緒に向けた叫びは何某映画に登場する『テツ〇ォォ!!!』と叫びながらレーザー銃の照準を合わせるキャラに似ていたが、少々ネタが古すぎたのか誰もそれを連想していなかった。

 

 平子がここにいて、この連想の事を知ったら『ネタ古いわボケ』とでもツッコんでいただろう。

 

 話を戻すと、雪緒の亜空間に現れた家具に二人が座ると同時にリルカの差し出したドーナッツを織姫は一口で完食して次のドーナッツに手を出す。

 

「ちょっと! さっきの一個だけよ?! って分かった! 分かったからそんな泣き出しそうな顔をしないでよ?!

 

 織姫の『捨てられた子犬』の顔が次の瞬間、モグモグと美味なモノを幸せそうに頬張る小動物っぽいものへと変わる。

 

「ったく、アンタの親の顔が見たいわよ!」

 

「ご、ごめんね? 両親の写真、実は無いんだ。」

 

「……は?」

 

「えっと、二人ともすごく暴力をふるう人たちでね? お兄ちゃんが私を連れ出して逃げたの。」

 

「……………じゃ、じゃあ! アンタのお兄ちゃんの顔が見たいわ!」

 

「う~~~~~ん、流魂街に行けたらね! もう死んじゃっているから。」

 

「…………アンタ生活費とか、どうしてんのよ?」

 

「遠い親戚のおばさんが出してくれているけど、贅沢できないから最近はバイトもしてるんだ! 成績が落ちちゃうとお金が切られちゃうし。」

 

「……………………………………………………よくへらへら笑えるわね?」

 

「うん。 私がこうして話せるのは黒崎君と、三月ちゃんたちのおかげだから。」

 

「……誰よそれ?」

 

 「よくぞ聞きました!」

 

「うおぉぉぉぉ?!」

 

 リルカの問いに、織姫がキラキラ光りだす目と共に顔をグイグイと迫まりながら『聞いて! 聞くよね?! 聞いてよ!!!』空気を発したことにリルカは物理的に仰け反った。

 

 「三月ちゃんはね! 『正義の味方』なの!」

 

「……………は、はぁ?! 『正義の味方』なんてバッカじゃないの?!

 

「三月ちゃんはね! 小っちゃくて可愛くて小柄で物静かで────」

「────それのどこが────」

「────目がクリクリしてて髪も長くてサラサラでお腹がよくクゥクゥ鳴って減ってはモキュモキュと────!!!」

「────だから────」

「────んで悪いことを見ると目立たないように裏で────!!!」

 

 織姫の一方的な演説にリルカは『あ、これって駄目なスイッチね』と思ったそうだが……

 

 完全に余談(惚気(?))なので、一護たちへと移そう。

 

 金属と金属がぶつかり合う音……

 のではなく、雷が落ちるときの放電の効果音が二人の間で響きあっていた。

 

 バチバチバチバチバチバチィ!

 

 全身を死神の死覇装のように包む黒い霊圧姿の一護が、右手に固定された()()()()で銀城に斬りかかる。

 

「その背中の竹刀も使ってみたらどうだ?! そうすりゃ二刀流で手数も増やせる筈だぜ!」

 

 バチィ!

 

 銀城の言葉に聞く耳を持たなかったように攻撃を続けた一護に、銀城はどこかホッとしていた。

 

「(へぇ? やっぱりこいつは『戦い』と言うものを熟知していやがる。 本当に16のガキかよ?)」

 

「(確かに、『手数は増える』。 『隙』と同時にな。)」

 

 逆に一護は16歳とは思えないほど冷静だった。

 

『二刀流』。

 武器を扱うものならば、一度は憧れる武器の使い方だろう。

 

『人には腕が二本ある、ならもう一つの腕を使えば有利になるのでは?』

 

 理論的にはそうかも知れない。

 

 ()()()()()

 

 だが『己の肉体』ではなく、『外付けの一部』とも言える『武器』ではそうもいかない。

 

『武器』には扱う『修練』と『慣れ』が必要で、それを理解したうえで一護は今までの戦闘スタイルに基づいた動きを続けていた。

 

【────】

 

「(なんだ、今のは?)」

 

 そんな時、一護は何か声のようなものが聞こえたと思ったと同時に、まるで『体内の何か』が弾けるような感覚が自分を襲った。

 

 そしてそれは、以前の『あの夜』と似た感じだった。

 

『あの夜』とは壁をすり抜けて、その者を『不法侵入者』と呼んで蹴りを入れた夜だった。*1

 

 ドゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 巨大な風が一護から発生し、距離を取っていたリルカや織姫にまで届いていた。

 

「うわ?! これって、もしかして────!」

「────え? なになになになになになに?! 『三月ちゃんのいいところ百科事典』の一割も言い終わっていないのに?!」

「あれで一割未満なの?!」

 

 「ヌオオオオオオォォォォォォ!!!」

 

 自分の胸からあふれる感覚に戸惑いながら一護がよく見ると、姿が今まで死神の死覇装に似たモノが一気に虚や破面の『帰刃形態(レスレクシオン)』により近くなり、銀城が傷つきながらも荒れ狂う風の元であるらしい刃を抑えつけていた。

 

 次第に嵐のような風が収まっていき、一護は()()()()()()()()()()()に気付いた。

 

「……銀城、もしかして────」

 

「────まったく、お前の成長が予想の斜め上に行くのを嬉しく感じるべきなのか、なんなのか良く分からない気持ちだぜ。 どういう思いをすればお前はこんなに頑張るんだ?」

 

「…………………………前にほかの奴にも言ったんだけどよ? 俺は山ほどの人を守りてぇんだ。」

 

「……なんだそりゃ? スーパーマンのつもりかよ?」

 

「そんな大層なことじゃねぇよ。 俺はただ、周りにいる他の奴らを守りてぇだけだ。 そのために、力を得たいんだ。 これが『完現術(フルブリング)』なのか、銀城?」

 

「そうだ、それがお前の完成した『完現術(フルブリング)』のようだな。」

 

 ここでの銀城は『原作』より格段に早い一護の変化ぶりは目を見張るモノで、純粋に嬉しさか恐怖か分からない内心を持っていた。

 

「世辞でもうれしいぜ、銀城。」

 

「世辞なもんか。 『完現術(フルブリング)』は死神の力と違い、()()()扱う能力だ。 本来はバカみたいに使う体力を得るために、バカみたいな基礎的な腕立てとかをしてから初めて扱えるんだが……一護、『霊圧探知』を使ってみろよ。 予想が正しけりゃ、『使える』筈だ。」

 

「え? でも、俺────」

 

「────霊圧ってのはな? ()()()()()()()()()()()らしい。 俺たちの知った死神代行の受け売りだが、『魄睡(はくすい)』と『鎖結(さけつ)』ってのが無事な場合で霊圧を激しく消耗した死神は、体のそこら中に『霊圧の残り火』みたいなのを残すそうだ。」

 

「???」

 

「んで、体はぽっかりと空いた凹みに水が自然に溜まるように霊圧が霊圧を呼んで、一か所に集まる。 どんな生きているモノでも、多少の霊圧は必然だからな。 

 俺たち『完現術者(フルブリンガー)』は、媒体から流れる霊圧を生身の体に通して能力を使う。

 けど、『死神』の力をかつて持ったお前が『完現術(フルブリング)』によって同じようにすれば、『残った死神の霊圧を刺激して無理やり目覚めさせられる』って考えだ。」

 

 一護が目を閉じて、かつての『霊圧探知』と同じ感覚を呼び起こす。

 

 すると今度は短冊では無く、人型をした霊圧を直に見ているかのような景色が周りに広がっていく。

 

 一護は目を開けて、手の中で刃と柄を出現させた代行証を同じく出現した背中の鞘に納めると代行証の刀と竹刀が背中でX印のように交差するような形になっていた。

 

 「……マジで『XCUTION』の『X(エックス)』だな。」

 

「あ?」

 

「いや、なんでもねぇ。 一護、いったんこの空間から出るぞ。 リルカたちもだ。 そろそろ雪緒のバッテリーが切れそうな頃だと思うからな。」

 

「切れたらどうなるんだ、俺たち?」

 

「コンセントを急に抜かれたゲーム機のキャラみたいに消えるだろうよ、ゲーム機の中にある世界に居るんだからよ。」

 

「こっわ?!」

*1
11話より




イチゴ は レベルアップ しました!

■■ の ジョブ をえマシた。

■■ の スキル をエました。


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第113話 Strawberry In the Rain

いつも読んでくださって誠にありがとうございます! m(_ _)m


そしてアンケートへのご協力ありがとうございます! (´;ω;`)

かなり長めになってしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです!

12/1/21 7:50
誤字修正いたしました


 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 結局、雪緒の空間の中で過ごした時間は『断界(だんがい)』のように外の時間とかみ合っていなかった。

 

『プチ断界』と言ったところか。

 

 「た、ただいまぁ~。」

 

「あらおかえりなさい一護!」

 

 それでも太陽がとっくに沈んだ時間だったので、小声で(俺からすれば)久しぶりに家に帰ってきたらおふくろが笑顔で玄関に出迎えに来ていた。

 

「ちょうどよかったわ、さっき懐かしいお客さんが来たのよ~!」

 

『懐かしいお客さん』と聞いて、俺は竹刀を壁に立てた。

 誰だか知らないが、不良と思われるのは御免だしな。

 

 ……派手な髪の事は言うな。

 

「懐かしい客? 誰だよ?」

 

「ヤダわ一護、玄関の靴を見てわからないかしら────?」

「────だから誰だよ?」

 

 そこで一護が居間の中を見ると、思わず息をするのを止めるほどの衝撃的な場が彼を待ち受けていた。

 

「ッ。」

 

 左目の上の古傷が特徴的なスーツにサスペンダー姿の()()がお茶を飲んで寛いでいた。

 

「やぁ、一護。 久しぶりだね。」

 

「(なんだ、これは?)」

 

「────今日の夕方に来てね、近くに居たから寄ってきたんだって────!」

「────連絡無しで急に来るのって()()そろって昔からだよなぁ一兄────」

「────でもうれしいわぁ~。 少し前まで病院にいたんでしょ────?」

「────はは、()が未だに世話になってすみませんね真咲さん。」

 

「なんだよ……これ?」

 

「ん?」

 

 ガッ!

 

 月島が。

 月島の。

 (月島)の面白おかしくモノを見る目と笑みに怒りを覚えた。

 

「テメェ! ここで、()()()()()?!

 

「お兄ちゃん?!」

「一兄?!」

「一護?!」

 

「『何』って…『お茶を飲んでいる』意外にかい?」

 

 月島に迫り、襟を掴んで無理やり立たせると目を見開いて遊子と夏梨だけじゃなく、おふくろまでもが俺を引きはがそうとする。

 

「何しているの?!」

「どうしたんだよ?! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろ?!」

「そうよ一護! それに二階のチエちゃんは今寝ているんだから、少しは気遣いをしなさい!」

 

「こいつはチエの兄貴なもんか! 姉ちゃんは三月だろうが?!」

 

 そんな家族を無視して、月島に問い詰める。

 チエと()()()が『兄妹』だと?

 

 趣味の悪い悪夢としか────

 

「────『三月』?」

()()()?」

「えっと……()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 足が笑い始める。

 

 喉がカラカラになる。

 

 身体の震えを『恐怖』から『怒り』に変えようとしても、『恐怖』が波のようにとめどなく押し寄せてくる。

 

「月島、お前……まさか……()()()────?!」

「────『まさか』…なんだい、一護?」

 

 ピンポーン♪

 

「あら、誰かしら?」

 

「ああ。 多分()()()()()だよ、真咲さん。」

 

「……………………………………………………………………………」

 

「久しぶりだし、皆に会いたくて連絡をしたんだ。 ()()()()()()()()?」

 

「……………………………………………………………………………」

 

「そう怖い顔するなよ。 明日は皆の休日だから、別にいいだろ?」

 

 玄関から様々な人たちが入ってくる。

 

「おお、本当だ! (しゅう)さんじゃん!」

「やぁ、ケイゴ。 久しぶり。」

 

「へぇー、今度はどこの国から帰ってきたの(しゅう)さん?」

「それはちょっと言えないかな、水色。 あれ? たつきは?」

 

「ああ、なんか具合が悪いって言って……そのぅ……外で────」

「────ああ、そうか。 ()()()()だね。 いいよ、()()()()()()()()()()()し、彼女は()()()極端なところがあるから。」

 

「……………………………………………………………………………」

 

 月島が一護を見て、笑みを更に深くさせた。

 

()()()()()()がどこにいるのか、誰か電話をして────?」

 

 ────ドッ! ガシャーン!

 

「きゃあ?!」

「な、なんだ?!」

「「秀さん?!」」

「「月島さん?!」」

 

「一護! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?!」

 

 一護が気付いた時には、既に月島を吹き飛ばして叫んでいた。

 

 「テメェがアイツの兄貴なんて馬鹿な話があるか! そりゃ小さいけど姉の三月だろうが?!」

 

「一護! すぐに謝りなさい────!」

「────お、おふくろ────」

 

「────そうだよ一兄! さっきからわけの分からないことを言って────!」

「────夏梨────」

 

「────久しぶりに会ってイライラしていてもこれはどうかと────」

「────浅野────」

 

「────ああ、()()()()()()()。 ()ともども、僕たちは頑丈だから────」

 

「────謝れよ、一護。」

 

 最後の水色の言葉が、冷たい氷のように胸の中へスルリと入っていった。

 

「そうだよ、謝れよ一護。」

「お兄ちゃん、おかしいよ。」

「そうだよ一兄。 どうしちまったんだよ?」

 

 一護はそのまま玄関から外へと出ていくと、黒崎家の前でオロオロとしていた竜貴とばったり出会って彼女の肩を掴んだ。

 

「たつき!」

 

「うお?! 一護?! どうしたんだよ、靴も履かないで?!」

 

「一護! 早く秀さんに謝りなさい!」

 

「真咲さん? 一護、お前……月島()()に何を────?」

 

「────たつき! お前……お前なら三月の事を当然知っているよな?!」

 

 後ろからくる真咲の声に竜貴が何かを察したのか、一護に問いかけようとして逆に彼から疑問を投げかけらた。

 

「ハァ? …………………………()()()()()?」

 

「……………………………………………………………………………」

 

 一護はクラクラする頭と眩暈の中、必死に声を絞り出す。

 

「『渡辺三月』だよ! 『ちっさい』って呼ぶと逆ギレする生意気で、見た目以上に食い気が目立って『普通』を必死に演じる自称『渡辺チエの姉』だ!」

 

 それは疑問と言うより、何かにすがりたい子供の声に近かった。

 

「一護こそなに言ってんだよ? 『姉』じゃなくて『兄』だろ? それに『渡辺』じゃなくて『月島』だろうが────って一護?! 裸足でどこ行くんだよ?!」

 

 一護は夜の空座町を走っていった。

 

 冬ではないにしろ、太陽が沈んだ街の空気と地面は冷たく、小石などが一護の足の裏をチクチクとする痛みを感じさせた。

 

 だがそれ以上に、彼は自分だけが別の世界に孤立されたような感じをがむしゃらな行動で塗りつぶそうとしていた。

 

「(何が、どうなっている?! これが月島の能力なのか?! 周りの連中が月島の事を『()()()()()』ような、それでいて三月の野郎を『()()()()』だと?!)」

 

 ただただ走った。

 

「何が……どうすれば……どうなっているんだよぉ?!」

 

 それはまるでどうしたらいいか分からない、迷子の子供のようだった。

 

 

 

 ___________

 

 チエ(?) 視点

 ___________

 

「(何やら下の階が騒がしいな。)」

 

 そう思いながら彼女はひっそりと『日記』を閉じてからベッドを起き上がり、外の夜空を見ながら読み終わった情報を頭の中で整理していく。

 

「(『空座町』。 『死神』。 『黒崎家』。 そして『黒崎一護』か。)」

 

 下の階が数分ほどゴタゴタと物音が続いたが、それもやがて静まり返った時期にチエ(?)は外から叫び声が聞こえてきた。

 

『────たつき! お前……お前なら三月の事を知っているよな?』

 

『ハァ? …………………………誰だよそれ?』

 

「(『三月』が『誰』……だと?)」

 

 ベッドから出て、彼女は自分の衣類らしきものへと着替える。

 

『“渡辺三月”だよ! “ちっさい”って呼ぶと逆ギレする生意気で、見た目以上に食い気が目立って“普通”を必死に演じる自称“渡辺チエの姉”だ!』

 

『一護こそなに言ってんだよ? “姉”じゃなくて“兄”だろ? それに“渡辺”じゃなくて“月島”だろうが────って一護?! 裸足でどこ行くんだよ?!』

 

 チエ(?)が近くの壁に立てかけあった竹刀を手に取りながら頭から?マークが出る。

 

「(『月島』? 『渡辺』ではなく? それに『兄』だと?)」

 

 以上の疑問を胸にしながら、彼女が下の階へと降りると一護が壁に立てかけたままの竹刀が目に入った。

 

「あれ? チエの姐さん? どこ行くんすか? って姐さん?!」

 

 

 コンがそのまま玄関を出ていくチエ(?)の後を追うために、一護の部屋から飛び降りてトテトテと走る。

 

 これを見たチエは(?)彼を拾い上げてから自分の頭に乗せてから走り出す。

 

「うわっぷ?! ちょ、どこ行くんすか?」

 

「■■。」

 

「……え?」

 

 知らない言語に、コンは目を丸くしながらパチクリとした。

 

 

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 空座町で、黒崎家から少し遠い距離ではとある事務所のドアが乱暴に開けられた。

 

 バァン!

 

「一護?!」

 

 一護は育美の叫びを無視し、うなぎ屋の事務所をそのまま血相を変えて再び夜の街へと飛び出た。

 

 彼の酷い有様と尋常ではない顔色を見て育美は事務所に連れ戻すと、月島が事務所内で育美の息子である(かおる)と寛いでいたのだ。

 

「(誰か、誰か()()()な奴はいないのか?!)」

 

「一護! 俺だ、銀城だ!」

 

 ほとんど休息をしていない一護の息が上がりそうなところで、銀城が同じように焦った様子で叫んだ。

 

「やられた!」

 

「やられただと?!」

 

「リルカも、沓澤(くつざわ)も、雪緒も、ジャッキーも皆、月島()やられていた!」

 

「なん……だと?」

 

 一護はただ立ちすくみ、手放しそうな意識を一方的に弱まっていく気力でなんとか引きとどめた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 上記よりさらに別の場所では、浦原と一心が『穿界門(せんかいもん)』を通って空座町をビルの上から広く見渡していた。

 

「やっぱり、『予定』より早く帰って来て良かったっスね。 さすがは『父親の感』♪」

 

「つっても爺たちを説得するのに時間がかかり過ぎた。 『こいつ』もちゃんと効くかどうか……」

 

「アッハッハッハ! 少し荒療治にはなるのは間違いないっスね!」

 

 一心が『こいつ』と呼びながら見たのは手で握りしめていた、霊子で出来たような刀だった。

 

「全く、度し難いですね。」

 

 新しい声の言葉に、一心はムッとする。

 

「それもこれも、アンタたちが爺との交渉で粘った所為だろうが?」

 

 後ろに立っていたものが、上記を言いながら眼鏡をかけ直す。

 

「ええ。 ですがこうでもしないと、我々の悲願への第一歩は達成されなかったでしょう?」

 

「全く……『()()()()()()()()()()()()()()()』なんて無茶が本気(マジ)で通るとは俺でもぶったまげたぜ。」

 

「その代わりとして、我々()ここに来ているではないですか。」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

 一護は銀城と共に新たなアジトらしき廃ビルで銀城に突っかかっていた。

 

 ダァン!

 

「お前の所為だぞ銀城! お前が! 俺を巻き込んだから!」

 

「……すまん。」

 

 銀城があっさりと誤ったことに、一護の顔はさらに歪む。

 

「……クソ! 頭では知ってんだよ! お前らが……………お前らは俺が『力を取り戻したい』ってことで、俺に『力を貸していただけだ』ってことぐらい!」

 

 ドッ! 

 

 一護は溜まっていたストレスを物理的に出したい衝動から、逃げ込んだ廃ビルの壁を殴る。

 

「誰の所為でもねぇよ。 お前も……お前自身を責めるな、一護。 今の状況があるから、月島の能力について俺なりの推測を言わせてくれ。 

 俺はチャドの話から俺はてっきり月島の能力は『記憶を混乱させる』と思っていた。

 だが俺に襲い掛かった雪緒たちはむしろ『混乱していた』と言うより、『記憶が鮮明になった』ような口ぶりだった。」

 

「……?」

 

「おそらく、月島の能力は『()()()操作』だ。」

 

「それは……」

 

「月島の能力の媒体は『本のしおり』だ。 もし、これが俺たちが知らなかった新たな能力とすると媒体の形態にも符合する。 奴は……月島は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』んだ。 おそらくな。」

 

「………………そんなことが……可能なのか?」

 

「さっきも言ったように、ただの推測だ。 

 だが『月島側』になった奴らの言葉を聞いたろう? アイツらは『信じている』、『信じていない』というレベルじゃなかった。

 アイツらにとって、『月島』と言う野郎は『()()()()()()()』で、『()()()()()()()()()()()()』なんだ。

 つまりは『()()()()()』なんだ。 逆に『月島を知らない』と言った()()()()()()()()()()()()()()んだ。」

 

「…………………………………………」

 

 一護は固まった。

 

『固まった』というよりは、『体が強張った』と呼んだほうが的確だった。

 

 そしてきつく握りしめ過ぎたのか、拳の内側からにじみ出た血が指の間を滴り床へと落ちていく中、彼は意を決したかのように口を開けた。

 

「銀城……『完現術(フルブリング)』の能力は……()()()()()()()()()()()()()?」

 

「いち────ッ。」

 

 銀城が驚いて一護を見ると、彼は口を(つぐ)んだ。

 

 一護の顔は、少し……否、かなり険しいモノだった。

 

 それは銀城に、今すぐにでも一護の視線を自分から別の対象に向けさせたい衝動から『そうだ』と思わず言わせたくなるほどのものだった。

 

「…………………………………………………………………………………分からない。 殺したとしても、戻る確証はない。」

 

 だが長い沈黙の後、銀城は一護と自分の為にもあえて自分の考えを正直に口にした。

 

「物騒だね、二人とも。」

 

「「ッ?!」」

 

 廃ビルの部屋に、雪緒がどこ吹く風のような足取りで現れた。

 

「どうして……ここが?! ここは誰にも伝えていないアジトだ!」

 

()()()()()()()()()()()()んだね、空吾(くうご)。 さ、行こうか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ。」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 一護と銀城が連れてこられたのは森の中でひっそりと建っていた屋敷だった。

 

「やぁ、待っていたよ。」

 

「月……島!」

 

「一護、焦るな。 俺の推測通りなら一度だけでも奴に斬られたら終わりだ。」

 

「僕は君たちと話したいだけだよ? 丸腰だし、君たちを殺したいのなら雪緒ごと消すような罠を森で仕掛けているよ。」

 

「「…………………………………………」」

 

 パパパパパァン!

 

「「「「「おかえりー!」」」」」

 

 一護たちが入ると知人たちが勢ぞろいでクラッカー音と満面の笑みをしながら歓迎していた。

 

 学校の浅野、水色、みちる、千鶴、竜貴。

 家族の真咲、遊子、夏梨。

 うなぎ屋の育美に馨たちもいた。

 

()()()()()()()()()()! ()()()()()()()()()って!」

「………………………」

「そうだぞ! ()()()()な一護!」

「………………………」

「秀さん、()()()()()()()()()()な一護!」

「………………………」

 

 一護の知人たちの言葉は気遣うものや善意から来るモノばかりだが、一護からすれば狂気の沙汰としか思えなかった。

 

 それも次の出来事で感じが強まっていった。

 

()()()()()()()()()()()()()、一護。」

「………………………」

 

 一護からすれば、上記はさらに知人たちを『狂気』から『狂人』へと定義づける言葉へと変わっていた。

 

「そうだ。」

「ちゃんと謝れ。」

「謝っときな、一護。」

「謝りなさい。」

「謝れ。」

「謝れ。」

「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」「謝れ。」

 

 これを見た銀城は、冷や汗を掻きながら一護に注意をする。

 

「一護、こいつらは月島を仲間と思っているが……お前の事も仲m────」

 

 ────ヒュッ!

 ボッ!

 

 銀城の言葉を遮るかのように、一護は『完現術(フルブリング)』を発動すると同時に月島の利き腕と思われる右腕を瞬時に切り落とした。

 

「きゃあああああ?!」

「秀さんの腕が?!」

「い、一護?! アンタやっぱりおかしいよ!」

「血が! 血がぁぁぁぁぁ?!」

 

 周りの知人たちは突然の出来事に()()混乱する。

 

「なんだよ一護、その気味悪い姿は?!」

()()()()()()()()()()()()のか?!」

 

 そんな叫びなどが飛び知る中、月島は痛みに抗いながら『良き親友』を演じ続けようとした。

 

「一護! 怒────」

 

「────場所移すぜ、月島。」

 

 ドォォォン!

 

 だが一護は彼らを無視し、月島の首根っこをつかんでは無慈悲に彼を屋敷の天井へと放り投げ、月島が投げられたことによって空いた穴から二階へと飛びこんだ。

 

「グッ……ここまで……『完現術(フルブリング)』をここまで使いこなすとは────ッ!」

 

 月島が感心に浸っていたため、彼が一護に気付いたのは、己の首を狙って刀を振るっているところだった。

 

「(殺す! ()()()()! ()()()()()()────!)」

 

 ────ギィン!

 

「『三天結盾』。」

「井上?!」

 

「『巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)』!」

「チャド?!」

 

 だが一護の攻撃を織姫が防ぎ、茶渡が彼を負傷した月島から遠ざける。

 

「『双天帰盾』。」

 

 そして一護の目の前で、織姫の能力で月島の右腕がみるみると戻る。

 

「やめろ、やめろよ二人とも!」

 

「うん、さすがだね織姫。」

 

「ありがとう!」

 

「ッ。」

 

 月島が褒めた織姫は笑顔で彼に返事をする。

 

 その場に一護は何とも言えない、嫌な感じで心がドロドロになっていく。

 

「チャド……お前も……お前たちも同じかよ?!」

 

「一護。 お前の言う『同じ』が分からない。 そしてお前がどうしてこんなことをしているかもだ!」

 

「な、何を────」

 

「────忘れちゃったの黒崎君? 今まで月島さんに助けてもらっていたじゃない?! 私も、お兄ちゃんに会えたのは月島さんが探してくれたからじゃない?!」

「ッ。」

 

「そうだぞ一護。 母親の時も、朽木も、藍染も倒すことができたのは全部! 月島さんが居たからじゃないか?!」

「…………………………ち、ちが────!」

 

 ギィン!

 

「────ガッ?!」

 

 月島が一護に斬りかかり、一護は半ば無意識にそれを自分の刀で受けた。

 一護はその勢いを防ぎきれずに壁に衝突して、次の部屋まで貫通したところで何とか踏ん張りがついた瞬間、月島が彼と同じ部屋に入って話しかけた。

 

「SF小説や映画の中で、タイムマシンって奴で過去に戻って『未来が変わる』って話などを聞いたことをあるかい? 

 それは時間が『過去』から『未来』へと流れているとされているからだ。 僕の『ブック・オブ・ジ・エンド』は『()()()()()()()()()()()()()』。」

 

「……やっぱり、銀城の推測通りか……」

 

「へぇー……()()だ。 でも大丈夫だよ、()()君だけが『誤った過去を歩んでいる』けど……それも『()()()()()()』に変えてあげるよ。」

 

 月島ァァァァァァァ!!!

 

 そこに織姫の結界が一護を止めて、茶渡のパンチを左手で一護が受け止める。

 

「どうしてだ一護?! 俺は……俺はお前を殴るために強くなったんじゃない!」

 

「お、俺だってだチャド! けど月島は! そいつだけは殺────!」

 「────『悪魔の左腕(ブラソ・イスキエルダ・デル・ディアブロ)』!」

 

 巨大な爆発音とともに、一護は屋敷街へと吹き飛ばされた。

 

「クソ!」

 

 いや、正確には吹き飛ばされることを利用してその場から離脱していた。

 

「クソ! クソ! クソ! 何でこんなことに! 俺は……俺はせめて! ()()()()()()()────!」

 

 そんな一護の前に、月島が先回りしたように現れる。

 

 「────月島ァァァァァァァ!!!」

 

 ギギギギギギ!

 

 二人の刀から火花が散る。

 

「怒りのあまりに言葉────ガッ?!」

 

 「『月牙天衝』ぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 一護は問答無用に月島の脇を蹴った直後に、黄色い『月牙天衝』を繰り出す。

 

 ()()と共に。

 

 月島はこれを見ては痛みに歪んだ表情が笑みが戻り、避けながら独り言をこぼす。

 

 「まいったな。 もう()()()()()んじゃないか?」

 

「一護!」

「黒崎君!」

 

「チャド! 井上?! 来ないでくれ!」

 

 ドッ!

 

 一護が飛び出てきた茶渡と織姫に気を取られた瞬間、月島が死角から一護へと斬りかかる

 

「グッ……」

 

 その攻撃を銀城が代わりに受け、地面へと落ちていく。

 

「銀城!」

 

 一護はすかさず銀城のもとへと急ぎ、この場で唯一の味方である彼の体をゆする。

 

「銀城! おい! 大丈夫か?!」

 

「お、俺に気を取られてんじゃねぇよ! ()()()()()()()()()()()()って言っただろ、()()?!」

 

 ギィン!

 

 一護は追撃してきた月島の攻撃を流し、銀城は体をダルそうに起こす。

 

 スタッ。

 

 そんなところに雨竜が上空から背後に着地し、一護は振り返りながら警戒を()()()新参者に対し最大限にする。

 

「い、石田? (どっちだ? どっちの味方なんだ?)」

 

 彼の姿を見た瞬間、疑心暗鬼になった一護の思考はグルグルと悪循環を始めた。

 

「(こいつに重傷の傷が無いところを見ると、月島に斬られた井上に治されたという事か? もし井上が月島を『仲間』と思っていたのなら、石田を月島の『戦力(仲間)』として治したことになる!)」

 

 無言で霊子の弓矢を石田が構えると、一護は苦虫を噛みつぶしたような苦しいモノへと顔を歪ませる。

 

「やっぱり……やっぱり()()()か、石田!」

 

「黒崎。 ()()()()()────!」

「(誰にだ?! やっぱり月島か?!)」

「────()()()()だ、黒崎! だから()()()()退()()────!」

 

 ザシュ!

 

「────グァ?!」

「────チィ!」

 

 一護は痛みに声を出し、雨竜は舌打ちも込めた声を出した。

 

 一護は背後に居た銀城に、雨竜は背後に移動した月島の攻撃を躱した先で銀城に斬られていた。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 銀城が狂ったような、歓喜に満ちた笑いを出しながら死神代行証を取り出して自身の大剣である『クロス・オブ・スキャッフォルド』に()()()()()

 

「君の芝居はあまりにもお粗末だな、銀城。」

 

「そう言うなって、月島。」

 

 一護は膝を地面につけたままこのやり取りを見て、呆然とする。

 

銀城、やっぱり、月島に?

 

 笑う銀城に驚愕の顔を向けながら一護が途切れ途切れに問うと、銀城は心の底から嬉しがる笑みを向ける。

 

「あ? 確かに月島に斬られたぜ? ()()()()()()()()()()()んだ。」

 

「………………………………………………」

 

 ザクッ!

 

 一護が放心している間、銀城の大剣が彼の胸を貫くと急激に力が無くなっていく感覚が一護を襲う。

 

「そういう事だよ、『黒崎一護』。 僕の『ブック・オブ・ジ・エンド』は二度相手を斬ると元に戻る。 僕を殺さなくて良かったね?」

 

 カラン。

 

 ついに一護の体を纏っていた鎧が無くなると、普通の木の板に戻った代行証が虚しく地面へと落ちた。

 

 さっきまで体をめぐっていた霊力や、感じていた霊圧の感覚が無くなっていたことに、一護は自分の震える手を見る。

 

う……うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 一護はついに実感した喪失感に頭を抱えて、額を地面にこするかのようにぶつけ、降り始めた雨の中でただ叫んだ。

 

「グッ……黒崎……」

 

 雨竜はただ泣きだして苦しむ一護を、何とか起こしあげた上半身で見ながら自分の『言葉の無さ』を呪った。

 

「あーあ。 ついに泣かせたじゃないか、銀城。」

 

「好きに泣かせろ。 そいつはもう搾りカスだ、用はねぇ。」

 

 ガシッ。

 

「あ?」

 

 ついに本格的に雨が降り出し、その場から離れようとした銀城の足に一護がしがみついた。

 

 その様子の一護は、『死神の黒崎一護』ではなく。

 

『気丈に振る舞う黒崎一護』でもなく。

 

『16歳の黒崎一護』でもなく。

 

 かつての『泣き虫の()()』の姿だった。

 

 「……返せ。 返せよ、銀城。 俺の……俺の力────」

 

「────なに言ってんだテメェ?」

 

 そんな子供のような一護に、銀城は冷徹な言葉を返す。

 

「コレは元々俺のお陰で得た力だろうが? 俺が貰って何が悪い? それに女ならともかく、野郎は趣味じゃねぇんだ!」

 

 ガッ!

 

 銀城は一護から足を引き離してから彼を蹴り飛ばす。

 

 降る雨の中、一護は痛みからか冷たい雨からか、身を丸めてただ泣きだす。

 

「……チッ! 用済みのクセに命も取らないでいるのに『これ』かよ────」

「────ッ?! 銀城!

 

 ガキン!

 

 月島の焦るような声を出すと共に動いた瞬間、金属にヒビが入るような音が響いた。

 

「テメェは…………()()()テメェがここにいるんだよ?!」

 

 今起こったことに呆気に取られた銀城の声が、次第に怒りへと代わる。

 

 月島と言えば声を出す余裕もないのか、雨とは違う液体(冷や汗)が体から噴き出しさせ、目の前の刀の先を睨んでいた。

 

「渡辺……さん?」

 

 その場に現れたのは右手に抜刀した刀と、左手に鞘に入ったもう一刀の刀を持ったチエだった。




作者:や、やっと自分の部屋に戻れたよ……

竜弦:熱は下がってめまいも無くなったようだが薬は飲み続けて、睡眠をよくとるように心がけろ。

作者:ウイーっす…………………………前者はともかく、後者はきついかも。

竜弦:請求書はこれだ。

作者:金とんの?! てかなんでここに?!

竜弦:では次話でまた会おう

作者:しかもちゃっかり仕切っているし?!


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第114話 Strawberry In the Rain 2

アンケートへのご協力、誠にありがとうございます! m(_ _)m

次話です! 楽しんでいただければ幸いです!

12/4/21 3:35
マイナーな誤字修正いたしました。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 ガキン!

 ギィン!

 ガチッ!

 

 ザァーザァーと降る雨の中で、金属同士がぶつかる音が鳴り響く。

 

 降り続く雨の所為でピッタリと体に服が張り付く中で、チエの斬りかかりとそれを受け止める月島との攻防の均衡は月島の手によって崩される。

 

「(なるほど、()()()したままここに来たのか。 なら僕たちでも、やりようはある。)」

 

 彼はわざと力を抜き、バランスを崩されて前方に倒れそうになるチエの胴体に蹴りを入れる。

 

 ドッ!

 

「ッ。」

 

 ガチャ。

 

 この蹴りに後ろへと後ずさり、チエはもう一つの手で持っていた刀を一護の近くに置いてから構えをもう一度とる。

 

「……?」

 

 呆然としていた一護はこの音に反応し、見上げるとチエは彼を横目で静かに見ていた。

 

「……チエ? ど、どうして? もしかして、お前は月島の────?」

 

 「────な、クナ。」

 

「……………………………………………え?」

 

 ギィン!

 

 ガガガガ!

 

 チエはチカチカと『完現光(ブリンガーライト)』を足元に発生させながら高速移動してきた月島、そして銀城の二人からの攻撃を器用に受け止めた。

 

「なんだぁ? テメェ、()()な?」

 

「銀城。 このまま一気に────」

 

 パリッ。

 

「────うお?!」

「こいつ、まさか『完現術(フルブリング)』を?!」

 

 チエの足元に『完現光(ブリンガーライト)』が生じ、彼女は銀城と月島たちを一振りで押し返せる距離から攻撃をしてその場から二人を強引に引き離した。

 

「お前……どうして────?」

 

「────コ…が、ナ…くナ。」

 

 それを最後に、チエは銀城と月島の両方に突進していくのを一護は見ながらさっきの言葉を思い返す。

 

『子が泣くな。』

 

 それはどことなく、昔から何かと自分を撫でる彼女の内心に聞こえた。

 

「(まさか……いや、やっぱり……アイツは…アイツは────!)」

 

 ザクッ。

 

「────え?」

 

 場違いにも考えこむ一護は己の体を、青白い刀のようなものが深く貫くのを見てハッととしながら後ろを見ると、背後には長らく姿を見なかった一心と浦原が居た。

 

「親父……浦原さん……アンタたちまで……『そう』なのかよ?!」

 

 ドゴン!

 

「もっとよく見ろこのたわけが!」

 

「……? ?? ???

 

「久しぶりに様子を見に来たと思えば、メソメソと子供のように泣きおって!」

 

 突然背中を蹴飛ばされた一護は来た衝撃と聞こえてきた声もあってか、目を白黒させながら?マークを出す。

 

 そこで一護を見たのは────

 

「────ルキア?」

 

 小柄な外見で、黒髪と紫色の目が特徴的で、腕を組んでなぜかドヤ顔をした朽木ルキアだった。

 

「なんだ一護? 少し見ぬ間にボケたか、(よわい)16のクセに? ほかに言うことは無いのか?」

 

 そこでルキアは『フフン!』と、腕に巻いていた『十三』と書かれた副官章をこれ見よがしに腕を多少ゆすった。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………髪、切ったか? 『イメチェン』って────?」

 

 ドシッ!

 

「────違うわこのたわけぇぇぇぇぇ!」

 

 こめかみに青筋を浮かばせて一護の顔をルキアが蹴ると同時に竜巻のような風が一護を包み込む。

 

 ズシャァァァァ!

 

 チエは久しぶりの戦闘からなのか、病み上がりだったのか月島と銀城に押されていたらしく、踏ん張りが効かない雨の中で地面を滑る。

 

「な、バカな?!」

 

 だがその近くで起こった竜巻に二人の気が逸れた。

 

「この感じ……死神か?!」

 

 二人が見た先には、死神の死覇装に身を包んだ一護がいた。

 

 彼自身自分を物珍しく見ながら、近くで隠れていたコンが『久しぶりに体を得たぁぁぁぁぁぁ!!!』とガッツポーズを取ったことに驚きのままルキアをもう一度見る。

 

「これは……けど、どうやって────?」

 

「────そこはアタシが説明しましょうか、黒崎さん?」

 

「え────」

 

「────それは何と! 『死神の力』を楽に譲渡可能にする『霊圧ラクラク譲渡機(じょうとき)』っス!」

 

ダッサ?! ネーミングセンスが三月以上にダッサ?!

 

 安直なネーミングに一護がツッコむ。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………そ、そんなにヒドイっスか?」

 

 一護のツッコみにカラカラと先ほどまで笑っていた浦原の顔がピタリと固まり、汗をダラダラと流しながら尋ねかえす。

 

「「ああ。」」

 

 そしてかなりのショックである様子の浦原に、一護とルキアが即答すると彼の笑みがさらにひきつった。

 

「……チ、退くぞ月sh────」

 

 「────ってさせるか! 『月牙天衝』!」

 

完現術(フルブリング)』でその場を離脱しようとした宙を飛んだ銀城と月島に一護が以前より威力の増した『月牙天衝』を放ち、二人は姿を消した。

 

「やったか?」

 

「あれ位でやられるような奴らじゃねぇよ。」

 

「だろうな。 勘は鈍っていないようだな。」

 

 ルキアがウンウンとうなずいている間、一護は自分の手を見る。

 

「……これは……」

 

 一護が感じたのはルキアが力を譲渡したときに似た感じだったが、前回と違って様々な人たちの霊圧が混ざっていた。

 

「(ルキアだけじゃない。 恋次、剣八、白哉、冬獅郎、一角、平子、乱菊さん、卯ノ花さん、花太郎、浦原さん、夜一さん、親父、市丸に総隊長のジイさんまで────)」

 

 それは、今まで彼が関わりのあった死神たちの霊圧。

 

「(────それに、これは────?)」

 

「────ふむ、今やっと我々に気付きましたか。」

 

 否、『死神』だけではなく、()()()も入っていた。

 

「アンタたちか!」

 

 一心たちの後ろに現れたのは元『星十字騎士団(シュテルンリッター)』。

 

「ロバのオッサンに、ポテトに、ディズニーじゃねぇか?!」

 

「「ガクッ。」」

 

「「「「「ブフ。」」」」」

 

 未だに名前をちゃんと覚えられていないロバートとハッシュヴァルトが思わずこけそうになり、他の者たちの何人かが吹き出すか笑いをこらえていた。

 

『ディズニー』こと『バンビエッタ』は体中に生傷が絶えないチエの看病役を、ジゼルと取り合っていた。

 

 他意は無い。

 

「ちょっとジジ、私にさせなさい!」

「え? やだよ。 バンビちゃんの目線が陛下の胸にいってるのが丸わかりだもんね。」

「そういうあなたはさっきから興奮しまくりじゃないの?!」

「だって様子がいつもみたいにギラギラしていないんだもん。」

「……………陛下はどっちがいいの?!」

「……………………………………………………????」

 

 ……他意は無いと思いたい。

 

 ズアァァァァァァァ!

 

 お腹に来る低い響きとともに、『穿界門(せんかいもん)』が開いて恋次、白哉、日番谷、剣八、そして一角が姿を現せた。

 

「恋次!」

「よ、一護! 久しぶりだな!」

 

「剣八!」

「あ? んだよ?」

 

「ビー玉頭の一角!」

 (ちげ)ぇっつーの! スキンヘッドだっつーの! いい加減に呼び名変えろっつーの!」

 

 一護を訂正するハゲスキンヘッド。

 

「それに白哉に冬獅郎!」

「「隊長だ。/! ……チッ。」」

 

 そしてツッコミがハモッた二人は舌打ちをする。

 またもハモリながら。

 

「……あれ? そっちのロバとポテトたちはともかく────」

「「────ロバート(ハッシュヴァルト)です────」」

「────『人間への力の譲渡』は重罪じゃなかったのか────?」

「「────無視しないでください。」」

 

「『総隊長命令』を経由した『恩返し』だとよ。 仕方ねぇじゃねぇか?」

 

「……そっか。 それじゃあ仕方ねぇな! 喜んで受け取るぜ!」

 

 その間、ルキアがジゼルとバンビエッタの居た場所……と言うよりチエのいるところに移動していた。

 

「オイお前たち! いつまでチエ殿をこのままにしておくつもりだ? さっさと軟膏を────!」

 

 ヒュッ!

 

「「────ああああああああ?!」」

 

 次の瞬間、白哉が瞬歩を使ってチエとルキアをバンビエッタとジゼルから引き離していた。

 

「ルキア、こ奴を頼む。」

 

「は、はい!」

 

「あとこの包帯も使え。」

 

 このやり取りを見た一護を含む(ほとんど)の男性死神たちが目を丸くしていた。

 

「ハァ~、メンドクセェ~。」

 

 日番谷だけは頭を抱えそうなため息を出したことにより、その所為で注目を浴びた。

 

「な、なぁ日番谷隊長……白哉隊長に限っては『無い』と思いたいが…あれってもしかして────?」

「(────ん? 何だこいつら?)」

 

 何せ白哉は『自分が無駄と思っている行動をしない』と言うような堅物。

 そんな彼が行動をとったことに意味が必ずあると踏んで先ほどの白哉の行動について、何か知っていそうな日番谷に説明を求めるような目を向けていた。

 

「……なんだお前ら? あれは『()()()()()()()()()()()』に決まっているだろうが?」

 

 「「「「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!」」」」

 

 日番谷は内心ほくそ笑みながら、誤解を招くような言い方をワザとした。

 

 これが原因で彼は後に地獄を見る事となるのだが……それは別の時に話すとしよう。

 

 ちなみに当の本人たちである、白夜とルキアの内心を描写すると以下のようとなる。

 

「(ふむ。 やはりルキアがあのように私以外で他人を心配する姿は初めて見るな……『同性愛者』と言う異端でも、ルキアが幸せであれば私同様に緋真(ひさな)は喜んでいただろう……同じく、複雑な内心になっていたとしても。)」

 

「(さすが義兄さまだ! 貴族ゆえに、直接の行動に出ることなく気遣いの根回しをするとは!)」

 

 未だに猛烈な誤解(勘違い)をこじらせた義兄妹である。

 

 ゴオォォォォォォォォォ!!!

 

 少し離れたところで、緑色の霊圧の柱が立ち上がるのを一護は見た。

 

「あれは────」

 

「────お前に霊圧を戻した理由は恩を返すだけじゃねぇ。 もう一つの理由が『アレ』の()()だ。 お前の前より昔に現れ、死神を数人殺害してから姿を消した『初代死神代行』の銀城空吾だ。」

 

 

 

 ___________

 

 茶渡、織姫 視点

 ___________

 

 

 場は地面を走っていた織姫と茶渡の二人に集中する。

 

 二人は混乱しながらも、()()()()であるはずの一護と月島の戦いを止めようと移動していた。

 

 二人は先ほど一護の泣き声を聞いてから居ても立っても居られなかった。

 

 織姫からすれば月島は兄である昊が他界した後に自分の世話を見てくれた人だけでなく、初めて尸魂界に着いた際に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 茶渡からすれば、暴れん坊だった自分が()()()()()()()()を作るだけでなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だが二人の胸は()()()苦しかった。

 

 ()()()()()()()()()のがどうにも腑に落ちないというよりは、『何かを見落としている』と言った────

 

 ドッ!

 ドサッ。

 ポス。

 

「────保護、完了です。」

 

 混乱がピークに達する前に、アネットと浦原が織姫と茶渡の意識を刈り取って体を抱き上げる。

 

 ドサッ。

 

「あらら、先を越されちゃいましたねぇ~。」

 

 浦原は茶渡を受け止めず、そのまま体を地面に落ちていくのを見越しながらアネットを見てヘラヘラと笑う。

 

「貴方は行かなくていいのですか? 仮にも弟子だったでしょう?」

 

「いやいやいや、アタシはどちらかと言うと彼を『利用しよう』とした者っスよ♪」

 

「その割には殆どメリットのないところに気をかけますね?」

 

 アネットの言葉に、浦原はバツが悪そうな苦笑い…………ではなく、口しか笑っていない笑みをひらいた扇子の向こう側に浮かべた。

 

「…………『()()()()()()()()()』。 っと、言葉を返しますよ?」

 

 扇子には『外・堀』と文字が書いてあった。

 

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 一護の『完現術(フルブリング)』を銀城が吸収し、他の『XCUTION』のメンバーたちが受け取ると雪緒のさらに力がバージョンアップされた『画面外の侵入者(デジタル・ラジアル・インヴェイダーズ)』で亜空間をゲーム機の外まで能力を表現できることにより、彼らの後を追った一護や死神たちに滅却師たちをそれぞれの固有空間に閉じ込めた。

 

 それは、MMORPG感覚で言えば『一つのサーバー内に分けられたインスタンス』。

 

 昔のRPG風に言うと『イベント』や『ボス部屋』に小分けされた状態だった。

 

 ここからさらに第三者が目撃したなら、空座町のはずれにある森の中で『黒い箱』が突然できた不思議な景色を見ていただろう。

 

「チッ。 やっぱ物足りねぇ。」

 

「ねぇねぇねぇねぇ! この死体貰っていい?」

 

「好きにしろ。」

 

 そしてさらにその箱の中から剣八の姿と、一刀両断された『沓澤(くつざわ)ギリコ』の死体をキラキラと嬉しそうに目を光らせるジゼルが出てきた。

 

沓澤(くつざわ)ギリコ』の能力は『タイム・テルズ・ノー・ライズ』。

 生物無生物問わず、『契約』によって戦闘能力の付加等や様々な制約を対象に設けるといったモノが『己自身の肉体』にも適用できるようになっていた。

 

 これによって『契約』を通した策略的な戦闘から直接的なモノにも応じられる幅広い戦術などを取れるようになり、先ほど彼は『在り得た未来の可能性』から『己を極限まで鍛えぬいた体』を『前借り』していた。

 

 だが愚かにも彼はそれを『更木剣八(脳筋のバケモノ)』と『ジゼル(死体好きの変態)』に対し使い、文字通り瞬殺されていた。

 

 合掌。

 

「ンフフフフ~♡」

 

「ねぇねぇ! G(ジィ)ちゃんは今度は何するの?!」

 

 剣八の背中から再(?)登場し髪型をおろしたショートに変えたやちるがピョンと飛び出てG(ジゼル)ちゃんの傍へと駆けつけた。

 

 なおこの二人、意外と気が合うのか十一番隊の顧問にジゼルが着任したほぼ直後に良くつるんでいた。

 

 剣八は以前よりさらに良く笑うやちるにどこか思ったようで、『カッタりー』とボヤキながらも静かに近くの期に背中を預けて腰を下ろし、うたた寝をし始めた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ドドォン!

 

「空飛ぶなんて卑怯だぞこらぁぁぁぁぁぁ! 勝負しろテメェらぁぁぁぁぁ!!!」

 

 モヒカン頭をし、いかにも『チンピラ感』をだす高校生の『獅子河原(ししがわら)萌笑(もえ)』、通称『スシがわら』(織姫命名)、が空中に足場を作成して自分を見下ろす一角とハッシュヴァルトに叫んでいた。

 

 彼の後ろには倒れた数々の大木に対し、一角は思考を巡らせていた。

 

「(妙だ。 あのガキのパンチは大した事ない筈が、次々と気を折るとはどういうことだ? 舞台を用意したのがアイツの仲間だから有利なのか?)」

 

「む。」

 

 パリッ!

 

 スシがわら獅子河原の足元に『完現光(ブリンガーライト)』が発生し、ハッシュヴァルトは避けて一角の背後に獅子河原が回り、己の『完現術(フルブリング)』を一角の肩に叩き付ける。

 

 ボコッ! ミチミチミチミチミチミチミチ!

 

「お、おおおおおおおおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!

 

「なるほど。 『脳まで筋肉』。 略して『脳筋』ですか。」

 

 ゴリッ。

 

「テメェも自分だけさっさと逃げんじゃねぇよ?! 一言いいやがれ!」

 

「ですから言いましたよ? 『む』って。」

 

「……」

 

 一角の肩から不穏な音と痛みが生じ彼はすぐに距離をとり、力を入れて脱臼した肩を無理やり戻し、自分だけ助かったハッシュヴァルトに叫び、彼のどこ吹く風のような返しにジト目を送る。

 

「んな?! 筋肉で肩を戻しただと?!」

 

 逆に獅子河原はこの二人のやり取りより、一角の成した荒療治に注目していた。

 

「あぁ? ビビってんのかこら? (チッ。 (けん)が半分やられちまっていやがる。)」

 

「だ、誰が?!」

 

「ここはあなたに任せても?」

 

「おう。」

 

 びっくりする獅子河原に一角がメンチを切るかのような顔と共に煽ると、獅子河原がまたもメリケンサックを付けた拳を繰り出し、ハッシュヴァルトは距離をとった。

 

 「なめんなよスキンヘッド野郎! テメェをぶっ倒した後はロン毛だぁぁぁぁぁぁ!」

 

 「こいやぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ドッ! ゴスッ! バキ! ゴッ!

 

『ジャックポット・ナックル』。 『確率を操作し、可能性の中で能力者に有利な結果をもたらす』というある種の『因果律操作』が彼の能力(フルブリング)

 

 そんな彼と一角はどつき(殴り)あいをし始めた。

 

「ブッ! 拳でやりあうってか?! 上等だオラァ!」

 

 舌を切ったのか、獅子河原が口の中から千恵雄吐き出して満面の笑みを浮かべた一角が殴り合う。

 

 それから数分後、獅子河原は一角に様々なケガを負わせた。

 骨折に脱臼や内臓出血、等々。

 

 だが次第に満身創痍の一角ではなく、獅子河原が内心で焦りだした。

 

「(手応えが……()()()()()?!)」

 

 次第に己の打撃から通じて『当たり』と似た歓喜が、徐々にだが()()なっていったことに。

 

 上記でも記入したように『ジャックポット・ナックル』は『確率を操作する』能力。

 

 かなり使い勝手の良い能力だが『確率を操作する』ということは、ほとんどな場合が『幸運』ということを意味する。

 つまりほんの一部だけだが『不運』が混じっているダイスを何度も行動を起こす都度に振るっているようなモノ。

 

 何某TRPG風に言うと『2から20はアタリの目だが、1はハズレ』。

 

 そんな能力を、獅子河原はこんなように連発したことが無かったことが今度はそれは裏目に出始めた。

 

 ガッ!

 

「え。」

 

 獅子河原の動きが鈍った瞬間、急に一角が彼の頭を掴んだ。

 

「フッ!」

 

 ゴリッ!!!

 

 「ゴァ?!」

 

 一角の頭突きが見事に獅子河原に脳震盪レベルの打撃を与え、彼は音もなく地面へと平伏した。

 

「へ! お前の運も強かったが、俺は護廷で一番ツイている男だ!」

 

「誰に言っているのですか? 彼、気絶していますよ? 威張るのなら髪だけにしてください。」

 

「おし。 テメェはここでシメる。

 

 なお一角もさっきのやり取りで無事なわけがなく、ハッシュヴァルトに見事なカウンターを食らっては獅子河原のように沈黙化する。

 

 その景色は『不良二人の喧嘩で、漁夫の利を使った言葉が少ない陰険なインテリの介入後』というテロップが出てもおかしくはなかった。

 

「失礼ですね。 陰険ではなく『物静か』と言ってください。」

 

 ソウデスカー。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「くッ! この! おのれ!」

 

 別の場所と思わしき部屋ではルキアの叫ぶ声が聞こえた。

 

 ババババババババババババババババババババ!!!

 

 彼女の手が宙を素早く切る音と共に。

 

「こんな! こんなもので────!」

 

 ぽわわわ~~~~~~~ん。

 

「────私を篭絡できるとは思うなよぉぉぉ~~~~~~ん♡」

 

 ルキアの両手いっぱいにはぎっしりと、数々の『ポヤ』っとしたユルイぬいぐるみが抱きしめられて彼女は頬ずりをしながらデロデロに表情を緩めていた。

 

「おのれ~~~~い♪ どこに~~~~~~♬ いるのだぁ~~~~~~?♡」

 

「(…………………………………………………………………………………………………………………………………………いくら何でもチョロすぎなんだけど?)」

 

 急にメルヘンチックな言葉遣い(歌?)になりながらルンルン気分にぬいぐるみたちと手を繋いで踊るルキアを、陰に隠れながらこれを見ていたリルカが呆れていたのは言うまでもないだろう。




平子:最後のこれ、なんやねん?

作者:えっと……『オズの魔法使い』的な?

京楽:渋いねぇ~?

作者:そっちに言われたくないよ?!

京楽:だってネタが古いものばかりじゃないか?

作者:バカにして! バカにして!

ウェイバー(バカンス体):僕のセリフ……


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第115話 The Unspoken Rule

大変長らくお待たせいたしました、次話です。

遅くなってしまい、申し訳ございません。

楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「立てるか?」

 

「……………………」

 

「(一体どうしたというのだ?)」

 

 白哉はどこか覇気がないというか、以前と様子が違うチエ(?)に声をかける。

 

「へぇー、他の人より自分の心配をしてみたら?」

 

 月島や白哉たちが居た場所は獅子河原と一角が殴り合いをしていた森の中と似ていた。

 

 その中の建物の屋上に、三人は立っていた。

 

「戯言を。 それこそ(けい)も己の心配をすればどうだ? 我々は黒崎一護と違い、命を刈り取るのに『私情』は要らぬ。」

 

「随分と彼女を買っているようだけど────」

 

 キィン!

 

「────()()どうかな?」

 

 白哉たちの背後に移動した月島の攻撃を白哉は『千本桜(せんぼんざくら)』を展開して受け止めていた。

 

「(妙だ。 ()()なら、今の攻撃のすきを狙って反撃できていた筈……『過去を塗り変える』能力とやらの所為か?)」

 

 白哉は内心では不思議に思いながらも、動きがぎごちないチエ(?)を見てそう思った。

 

「そうやって僕から目を離すとは、ずいぶんな余裕ぶりだね?」

 

「私は(けい)のような者を厭悪(えんお)する。 敵の絆を奪い、同士たちを(なぶ)らせるとは卑劣の極み。

 死すべき無恥(むち)だ。

 

「殺し合いに『恥』なんて意味ないよ────」

 

「────戯けが。 これは『殺し合い』などではなく、『裁き』だ。」

 

 白哉にしては珍しい霊圧(殺気)の高まりで、場の空気がピリピリと緊張感に染められていく。

 

「こい。」

 

 ギィン!

 

 月島がイラつきからか、刀で彼らが立っていた建物に斬りつけた。

 

 ガコン!

 

 その瞬間、白哉たちが居た背後の壁が崩れたことで白哉とチエ(?)はその場から移動せざるを得なかった。

 

「ッ。 離れていろ!」

 

 ザンッ!

 

 叫ぶ白哉の懐に月島は急接近して彼を斬りつけ、白哉が刃を柄に戻して斬り返す前に月島は距離をとった。

 

「君は僕の能力を知っておきながら、()()()()()()()()()()()んだい?」

 

「ッ。」

 

「君が今、考えていることを言い当てようか? ()()、『()()()()()』よ。」

 

「?」

 

 ?マークを浮かべているチエのような者たちの為に朽木白哉の斬魄刀、『千本桜(せんぽんざくら)』の詳細を簡単に記入しよう。

 

千本桜(せんぽんざくら)』とは、『刀身が目に見えないほど細かく枝分かれし、対象を切りつける』。

 乱菊の『灰猫』のように、白哉は細かく枝分かれした刀身を自在に操ることが可能で、その際に反射する姿は『周りに桜が舞っている景色のごとき』とのこと。

 

『では上記の“灰猫”とは何が違う?』というと、あちらは『刀身が灰に変わる』に対して白哉の場合『刀身はそのままの性質を引き継ぐ』。

 

 殺傷能力や戦いにおいて有効範囲が段違いなのは言うまでもないが、弱点は確かに存在する。

 

「自身の能力に巻き込まれないよう、所持者を中心に約半径85㎝に『刃が通過しない』。 それを君は『無傷圏(むしょうけん)』と呼んでいる。」

 

「……」

 

「ああ。 卍解も、『殲景(せんけい)千本桜景厳(せんぼんざくらかげよし)』も、『吭景(ごうけい)』も、『白帝剣(はくていけん)』も通用しないよ? ()()()()()()()()()()からね。」

 

 月島は今、主に白哉があまり披露しない卍解の技名を次々とカンパしたような口ぶりで話しかける。

 

「卍解、『千本桜景厳(せんぽんざくらかげよし)』。」

 

 だが白哉は躊躇なく卍解を展開し、斬魄刀が地面の中へスルリと沈んでいくと数多のチリ状と化した刃が月島をめがけて吹雪のように舞う。

 

「(初解も、卍解も『無傷圏(むしょうけん)』の中では無力! 焦ったね、『朽木白哉』!)」

 

 ザクッ!

 

「ッ」

 

 刀が肉を裂く音が荒れ狂う刃の吹雪の中で微かにする。

 

「バ、カな────」

 

 白哉の背後に移動した月島の前に、『千本桜景厳(せんぽんざくらかげよし)』の中を移動したチエ(?)が月島の腹を貫通していた。

 

「────戯け。 「『無傷圏(むしょうけん)』が弱点を(けい)が知っているのならば自ずと立ち入る範囲に予想がつくというもの。 他の者がそれを逆に利用するのは容易い。」

 

「だが君は……そばに誰かを置いたまま、()()()()()()()()()()()筈だ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()────!」

 

「────それは貴様が()()()()()()()()()()()()だけのことだ。」

 

 これを聞いて、月島は腑に落ちないような、理解できないような顔をする。

 

「僕は『()()』で……その女は『()』の筈だ。」

 

 月島は先ほど白哉を斬りつけた際に『自分は仲間』と白哉に挟み込んで、白哉とチエが『敵対関係である』という『事実(過去)』を植え付けていた。

 

(けい)は確かに『仲間』で、こ奴は『敵』()()()。 だが貴様は『黒崎一護の敵』で、『黒崎一護』と『ルキア』はこ奴を『信頼している』と見た。 

 ならば私が(けい)の相手をするに躊躇いは無く、私を幾度となく斬れたのにそうしないこ奴を今この時この場での『味方』として見た故の行動だ。」

 

 だがそんなそぶりも見せない白哉に嫌みを言う月島に白哉は平然と答えた。

 

「(チッ。 そこまで『黒崎一護』を信じているのか『朽木白哉』。 ならば────)」

 

 ザンッ!

 

 そんな月島は『ブック・オブ・ジ・エンド』をチエ(?)に差し込み、白哉の目が珍しく見開いた。

 

「(────()()()()()()けど! この場合は仕方ないよね!)」

 

貴様────!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 月島 視点

 ___________

 

「なんだ、これは?」

 

 月島がチエ(?)に『ブック・オブ・ジ・エンド』の能力を使った瞬間、自分が妙な空間の中にいたことに戸惑うだけでなく、声を出してまでそれを表した。

 

 従来の『ブック・オブ・ジ・エンド』で『記憶』などを持った生物に使うと、大抵の場合はその斬った相手の『記憶の媒体』を通して『閲覧』や『観覧』することができ、そこに彼は手を加えてある程度の『編集』をし、それらを『正常の記憶』の代わりに埋め込む。

 

 今までの月島は『人間』や『死神』相手に使った際に多少の違いはあれど、その誰もが身近に感じた『収録媒体』の中に彼は入って能力を行使していった。

 

『収録媒体』は時に『映画館』、『ホームシアター』、『テレビ』、『図書館』、等々の形を取っていた。

 

 だが今の彼が居たのは、何もない真っ黒な空間に数多の星が周りにキラキラと眩い光を出しては消えていくような場所だった。

 

「(なんなんだこれは?)」

 

 そこは寒く。

 

 暗く。

 

 果てしなく無限に広がる『()』のようだった。

 

「(いや、ここはあの子の『記憶』の筈だ。 多少姿形が変わろうともそれに間違いない筈。 だったらさっさと『編集』をして『朽木白哉』と同士討ちに誘導する!)」

 

 月島が星の一つに集中すると、意識がそこへと急接近する。

 

「なん……だと?」

 

 何度目になるかわからない月島の疑問に答える者はいなかった。

 

 というのも、彼が『星』と思っていたのはガラスの破片が大量に集まった形の集合体で、その一つ一つでは()()()出来事が動画のように映されていた。

 

「なんだ、これは? これは本当に『こいつ』なのか?」

 

 嫌な汗と、不穏な感じが月島の中でじわじわと広がっていく。

 

「なんだこれらは?! こいつは、『こいつ』じゃない! 『誰』だ?! 『誰』の『記憶』だ?!」

 

 月島は『映像の内容』より、『映像の数と視点』に注目していた。

 

「いや、そもそもこれは不可能だ! ()()()()()()()()()()()()()いるんだ?!」

 

 時々()()()()()を、()()()()()()()()()()()ことなどの不可解なモノに気づけば、誰もが上記の月島のように叫んでいただろう。

 

「………………………………やばい。」

 

 気付けば、月島はそう呟いていた。

 

()()()()()()()()()が、()()()()()()()!」

 

 ガッ!

 

「ウ゛?!」

 

 危機感がどんどんと増していく月島の顔を、どこからか現れた()()()()()()()()

 

「(こ、これは何だ?!)」

 

()()()()中に入るな! 小僧ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 ドォォォ!!!

 

 月島がチエ(?)を刺した次の瞬間、強烈な風と共に殺気がその場に蔓延し、チエ(?)が急に彼の顔を掴んでは地面に叩き付けた。

 

 ゴッ!!!

 

「ぐ?!」

 

 月島がくぐもった声を出し、チエ(?)の腕をつかむ。

 

 ドォン!!!

 

 そしてまたも念を押すかのように、月島の頭が地面に叩き付けられた。

 

消えろ……消えろ! ワタシの前から ワタシの『記憶()』から

 

「……」

 

 近くで見ていた白哉はまたも珍しく、冷や汗を掻いて唖然としていた。

 

 彼女の変わりようが、あまりにも目を疑いたくなるような豹変ぶりだった。

 

 彼の内心をあえて言語化させると『目の前に立っている女性は()()()()()()』。

 

 いや、『女性』と呼べるかどうかは……とりあえずは方便上『女性』と呼び続けよう。

 

 彼女の髪の毛はザワ付いているかのように風も無いのに揺らみ、周りには虚でもプラスでもない、『人魂』としか呼べないような浮遊物が無数に彼女の周りを漂い、目は赤眼のままだが瞳孔の形が『()()()()()()()()』へ変わっていた。

 

 ミシミシミシミシミシ!

 

「ぐ……グク?!」

 

 ドゴォン!

 

「グゥオァ?!」

 

 月島の頭から不穏な音が出始め、彼はくぐもった声を出して周りの地面に亀裂が走る。

 

 あああああアあああアあアアアああ!!!

 

 獣のような雄たけびと共に、月島の掴んだ手が彼の頭を消しゴムのように地面に押し付けるまま移動を開始した。

 

 その後には彼の千切れた皮膚や血がノリの後のように、残されていった。

 

 きえろ消えろキエロォォォォォ!!!

 

 ドォォォン!!!

 

 そのまま二人は衝突音と共に、()()()突き破っていった。

 

「……………………あ奴は……いったい……」

 

 何とも言えない『()()』を感じる白哉を残して。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『ジャッキー・トリスタン』。 カーゴパンツを穿いているショートカットの褐色女性で、『ダーティ・ブーツ』という能力を持った『完現術者(フルブリンガー)』。

 

 能力は『己が汚れば汚れるほど、自己強化される』と言った単純かつパワフルなもので、(当時は未完成とはいえ)一護の『完現術(フルブリング)』と対等以上に渡り合ったほど。

 

 そんな彼女は『対藍染』を前提にして、血反吐を吐くほどの鍛錬をした恋次単独に手も足も出ずにやられていた。

 

 なお一緒に空間に放り込まれていたバンビエッタは最初、一気に片を付けるためにジャッキーを瞬殺する倒す気満々だったが恋次の言葉でステイ待機をさせられながらブーたれていた。

 

 殺さなくてもいい相手を殺すのは、どうやら恋次の流儀に反することをジャッキーは『自分を見下している』と取っていたが、上記で記入したように恋次にほぼ一方的にやられていたことに悔しがりながらも偽りの空を見上げていたのが幸いしたのか、自分や彼のいた空間の異変にいち早く気付いた。

 

「くそ! 雪緒のやつ、あたしとアンタ達ごとこの空間を潰すつもりだ!」

 

「あ? ……………チッ、いけすかねぇガキだぜ。」

 

 そんな二人がいた空間が折りたたんでいき、縮小し始めていた。

 

「ならここはアタシの爆発で一気に行くわよ! いいわね?! もういいわよね?!

 

「え?! おいバカやめろ!」

 

 恋次の静止を無視し不機嫌度MAXになっていたバンビエッタの周りに、ピンポン玉サイズの霊子が次々と現れては恋次の体中から本気の冷や汗が出始める。

 

「うおおおおおおお?!」

 

「な、な、なんだいこれは?!」

 

 なぜ恋次がここまで慌てるかというと、単純に彼は知っているからだ。

 

 「フハハハハハ! 吹っ飛────!」

 

 ドォォォン!!!

 

「────うお?! 今度は何だ?!」

「────どぅわ?! なになになになになになになに?!」

 

「(死神の方はともかく、『どぅわ』って……)」

 

 素でびっくりする恋次とバンビエッタにジャッキーは内心ツッコんだ。

 

 ガあアあああアあアアあアア!!!

 

 その時、巨大な爆発音と一緒に人か獣か差別のつかない声が響いてはびっくりしたバンビエッタに反応するかのように霊子の球が消える。

 

「アイツは────?」

「月島か────?!」

「陛下なの────?!」

 

 恋次たちとジャッキーが見たのは、月島の頭を掴んで荒れ狂う『何とかヒト型のバケモノ』と呼んでも違和感のない()()()だった。

 

 ドゴォォォン!!!

 

「「……………………………………」」

 

 そのまま素通りしただけでなく、空間の壁らしき境界線に穴を残してそのまま場を去ったことに、恋次とジャッキーの二人が呆然とした。

 

「………………よし、ここを脱出するぞ。」

「「ア、ウン。」」

 

 恋次は今までにも経験した『トンデモ出来事』のおかげかいち早く回復してジャッキーを担ぎ、空いた穴からその空間を出る。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 《big》「チクショウ! なんだよアイツ?!」《big》

 

 警備室のようにずらりとモニターが並ぶ部屋の中で雪緒は荒れていた。

 

 最初、彼はゲームマスターのようにふんぞり返って各々の戦況を特集感覚で観ていたり、自分と同じ(見た目の)子供である日番谷に対して自分のステージ(空間)に手を加えたりなどをしていたが、先ほどから()()()()()ことが起きていたことに癇癪を起こしていた。

 

 「反則だ! チートだ! なんだよ、()()()()()()()なんて?! めちゃくちゃだ!」

 

 ドォン!

 

「見つけたぜ、この野郎。」

 

 「うるさい! 僕は今すっっっっっっっごく不機嫌なんだ!」

 

「フム。 やはり何かの基準で我々をここに連れ込んだと思えますね。」

 

 「うるさいんだよ! 今は君たちに気をかけるところじゃないんだよ!」

 

 雪緒の後ろのドアを粉砕して入ってきた日番谷とロバートを、『余裕の歓迎』で迎える予定を雪緒は無視して自分のイラつきを彼にぶちまけながら右腕についた何某会社のパワーグローブのような物をいじる。

 

 すると日番谷たちの周りに様々な異形の怪物たちが表れて彼を攻撃し始める。

 

「ハハハハハ!!! 君たちとは遊ぶ予定だったけど気が変わった! なぶり殺しにされて僕をすっきりさせろよ!」

 

 日番谷とロバートは攻撃を次々とかわしながら雪緒の周りに円を描くように移動していく。

 

「面倒クセェ。」

「同感ですね。」

「お前に言われてもな。」

「そこは雛森嬢が言うように、当たり障りのない言葉を返せばいいところでしょう?」

「う。」

 

「何をぼそぼそと喋っているんだ?! 作戦の打ち合わせか?! 無駄だ! この一帯! いや、この世界のすべてが僕の能力の支配下だ! そしてそのモンスターたちはどこまでもお前たちを追う! 温室育ちの貴族っぽいお前たちに、僕なんかが負ける筈がないんだ!」

 

「ふむ、最後のが鍵でした。 感謝しますよ?」

「なるほど。 お前は『捨て子』か。」

 

「ッ!」

 

 ロバートと日番谷の推測が図星だったのか、雪緒の愉快な笑顔が一転して曇る。

 

「それならば私はさしずめ彼の『父親』か『叔父』の変わりでしょうか。」

「んで俺は外見からの『逆恨み』ってところか? 勘弁してほしいぜ……」

 

 ここで雪緒の歯がギシギシと音を立てるのをやめた。

 というか、彼が叫んだから結果的にそうなっただけの話だった。

 

う、うるさい! 僕は捨て子なんかじゃない! 僕があいつらを捨てたん────!」

 

 ドォン!

 

「────だゲブッ?!」

 

 ハハははハハハはははははは!!!

 

 ドォン!

 

 突然爆発が起きて、雪緒の近くの壁を粉砕した何かが彼を自動車のように跳ねてそのまま次の空間へと壁を破る。

 

「(今のは渡辺のやつ……なのか?)」

 

「(ううむ…容姿が少々変わっておりましたが、渡辺の妹君の方でしたね。 今の尋常ではない様子と力……はて、どうしたものか……)」

 

 ピクピクと気を失いそうになりながらも地面で痙攣する雪緒をそっちのけで、日番谷とロバートそれぞれ違うことを思いながら雪緒を拘束する。




ウェイバー&雁夜(バカンス体): (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

作者:えっと……二人ともどうした?

ライダー(バカンス体):この二人、チエ殿の所業を今更ながら読んだらしい

作者:ああ、病院の……ってちょい待ち! なにしれっと酒をだしてんの?!

ライダー(バカンス体):ん? ここは寛ぐための後書きではないか? (。´・ω・)

作者:いやそれはまぁそうなんだけどさぁ……って違うよ?!


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第116話 The Unspoken Stories

アンケートへのご協力、誠にありがとうございます。 <(_ _)>

次話です、かなりの勢いで書きました。 原作を読んでいない方たちの為に捕捉などは次話で書く予定です。

あと独自設定や解釈などがわんさか出ます、ご了承くださいませ。

それでも尚楽しんで頂ければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 さて、ここで過去の話をしたいと思う。

 

 対象は主に『完現術者(フルブリンガー)』達のことである。

 

 以前、銀城が茶渡や一護たちに説明した『物質に宿った魂を引き出し、使役する能力』は間違いではない。

 だが果たして『普通』の人間にそんな芸当はできるのだろうか?

 

 答えは『否』。

 

 そして彼らに共通する点は能力以外にもう一つある。

 

 それは『自分が真に欲していた能力を得た』こと。

 

 茶渡は『周りを守るため』の能力。

 織姫は『事の逆行』。

 

 それらを踏まえた上で、『XCUTION』のメンバーたちのことを簡潔に語ろう。

 

 まずは『毒ヶ峰(どくがみね)リルカ』。

 彼女はかなり裕福な家の出で、幼いころから独占欲が強かった。

 いや、『強くなった』というべきか?

 

 母親はリルカが生まれた際に『()()』に会った際に下半身の自由を奪われたことに家族や親戚たちからは近寄りがたい存在と認識されて距離を置かれ、リルカの『何かが欲しい』という欲力に拍車をかけた。

 

 唯一リルカと親しく接したのは不自由になった母親だが、ある日を境にリルカはついに家を追い出されることとなる。

 

 それは彼女が『ドールハウス』を初めて『力』と認識して使い始めたころ、家の中とまあ割の様々な()()が姿を消し始め、家の者たちは上機嫌なリルカを見てこれが彼女の所為と結びつけるのは容易だった。

 

 だがどれだけ調査をしても『モノが急に無くなる』という現象に説明はつかず、決定的な証拠も無い事と自分に責任を感じた母親の弁護もあり、リルカはさらに距離を置かれただけだった。

 

 それが急変したのはリルカが『モノ』だけでなく『人間(ヒト)』でさえも消せることが判明した時。

 彼女は近所に引っ越してきた人の中で、人助けが好きな青年に『一目惚れ』をして『ドールハウス』を使用し、実質上の『拉致監禁』を行った。

 

 だが子供のリルカはそれを理解しないまま青年が恐怖する理由を思いつかず、面白みが無くなった青年を()()()()()()()()

 

 そこからリルカの冷遇はさらに酷くなるどころか、『危険人物』へと認識は変わり、ついには母親でさえも過労からか倒れ、精神的に壊れた。

 

 リルカの生活は自室での軟禁状態へと変わり、誰一人として彼女の側に居る者もいなくなり、家も青年の情報漏洩に父親の権力と大金で何とかしのいだが、人の口には戸が立てられない。

 

 一気に出来事を起こした張本人のリルカだけでなく、家族全員が周りの者たちから腫れもの(奇人)扱いされることとなって数年、リルカは銀城と月島に見つけられるまでこのような生活を強いられた。

 

 毎日毎日『変化のない』日が彼女の唯一休め、それ以外は家の者たちから責任を押し付けられる罵詈雑言。

 

 ある意味、『井上織姫』の境遇と似ていた。

 故に彼女は織姫にはある程度、多少優しく接したのかもしれない。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 次に『雪緒・ハンス・フォラルルベルナ』。

 その大層な名前から想像できるように、彼の家柄はリルカ以上のモノというか、貴族である。

 

 そして場所が場所だけに虚の襲撃があったものの、『死神』とは別の者に虚は退けられ事無く出産を無事に終えた。

 

 だが雪緒は『神童』以上の頭脳を持って産まれたため、彼は赤ん坊の頃か意識がはっきりとしていた。

 

 彼は『言葉』や『社会』をその幼いころから理解し、自分を基準に()()()()()()()としてそれらを処理していた。

 

 なにせ彼からすればそれらは全てあまりにも『非効率な言動』。

 

 そんな彼は一言も喋らず、親は様々な医者やスペシャリストなどを呼んで彼の具合などを探った。

 

 それはそうだろう。

 とくに貴族の唯一の跡取り息子の状態を『異常』と感じれば。

 

 だが彼に何も問題は発見されないどころか、ブツブツと独り言をしている声が家の使用人経由で親たちは知ることとなる。

 

 雪緒が何らかの精神病を持ったことを恐れ、体面を恐れた親たちは彼を使用人や親族などから遠ざけるために『生活をするには何でもある部屋』に幽閉した。

 

 雪緒はそんな環境の中で育ち、『インヴェイダーズ・マスト・ダイ』で『理想の親』を作り出して感じていた『孤独』を紛らわし、さらに性格を拗らせた彼は親から様々な権利や財産を情報操作などの暗躍をして次から次へと奪った。

 

 彼はこれを『復讐』と思いながら行ったが、実のところ彼は彼なりに『社会や体面じゃなく僕を見てくれ』とアピールしていたのかもしれない。

 

 だが結果として彼は巨額の富などを得た。

 

 両親の首吊り自殺によって。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

沓澤(くつざわ)ギリコ』は代々受け継がれた『幸運の時計』というものに魅入られた。

 

 文字通り『願えば祈りが叶う』時計で、ギリコは急死した父親から若いころにそのようなアイテムを授けられた。

 

 母親はとっくの前に衰弱死したのもここで追記し、これによって家族の所持していた様々な利権も引き継いだ。

 

 本来なら時計の使用の際に気を付けるべき詳細などを受け、自重をした上で使う時計を彼は試行錯誤というよりは『遊び』に似た感覚でギリコは次から次へと時計の能力を乱発した。

 

 その一つが『家内を殺す』と言ったもので、彼は苦しむ妻を見て初めて『後悔』をした。

 

 その瞬間、彼は妻を亡くしただけでなく己の片目でさえも失った。

 

 そればかりか、今まで時計で代々築き上げた富や名声でさえも彼は失った。

 

 まるで『契約違反』の責任を問われるかのように。

 

 まさに『タイム・テルズ(時間は)ノー・ライズ(虚偽を許さない)』ともいえよう。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『ジャッキー・トリスタン』。

 彼女は貧しい国の、さらに貧しい村で育った。

 彼女の父親はジャッキーの産まれた時から母親がいない家族を養うために決して『白』とは呼べない『ブラック』な仕事に手を貸していた。

 

 そんな彼女に、父親は高価な革ブーツをプレゼントした。

 ジャッキーは嬉しさのあまり、毎日メンテナンスを欠かさず、丁寧に履いて明らかに父親が正規のルートで手に入れていないことに目を背けていた。

 

 そしてある日、彼女が外出から帰ってくると無残な容姿に変わり果てた家族と、荒らされた家の様子に唖然とした。

 

 その時に初めて彼女のはいていたブーツは家族の血肉で汚れ、ジャッキーは事の原因を近所にいた者から聞くこととなる。

 

『(ジャッキーの)父親が商品を横流しして、(ブーツ)を予約していたクライアントが苦情をした』。

 

 彼女が『ダーティ・ブーツ』の能力に開花したのは闇商人に復讐を誓って、行い始めた直後だった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

月島秀九郎(つきしましゅうくろう)』。

 彼は雪緒と同等、またはそれ以上の聡明さで生まれた。 

 だが彼には周りや両親に期待をされた兄が居て、月島は除け者にされていた。

 

 そんな彼は読書が好きで、家の書室の本を漁っては読み、次の本を漁って読んでいった。

 巨大な知識を得た彼は、蝶よ花よと育てられた兄より優秀とその兄が知った途端、根回しや月島のあることないことを言いふらし月島を陥れた。

 

 彼はこれを機に、屋敷の外に本を持っては出かけてなるべく家にいないように行動した。

 

 その中、彼はあっちこっちに飛びながら愚痴をこぼす、死神の死覇装をした男を見ることも密かな楽しみにしていた。

 

 この死神こそ、『死神代行』だった銀城である。

 

 後に銀城は自分を見ていたこの子供に興味を持ち、二人は交流を初めて兄弟同然に互いに接していった。

 

 そんなある日、月島が家に帰ると別の家の養子にされることを告げられた。

 実質上、家からの追放だった。

 

 その時、彼は知る事となった。

 自分が家にいないことを利用し、兄が着々と外堀を偽の情報などを流していたことに。

 

 月島は抗議を上げようにも、自分が今まで家をよく留守にしたことを災いし、誰も彼を信じるどころか『彼』という人物を()()()()()()

 

 ()()()()()のは彼の『人物像』と『行動』だけ。

 

 自分を疑惑の目で見る家族や使用人たちの後ろで二チャッとした、隠れて笑っていた『してやったり』の顔をする兄を、月島は見ては『戸惑い』が『爆発する怒り』へと衝動が変わって襲い掛かっては近くの兄の取り巻きが月島を蹴飛ばす。

 

 その際、彼は叩き付けられた窓ガラスの破片によって深い傷を左目の上につけながら自分を疑う目で見る家族たちから一心不乱に逃げた。

 

 逃げた先で一人寂しく、人生で初めて泣いた。

 

 その彼を見かねた銀城は、事のあらましを月島に聞いて彼を慰めてニカっとした笑いを向けながらこう言った。

 

『そうか、じゃあ俺と一緒で『一人』だな! 一緒に来るか? そうすれば、俺たちは今日から『二人』だぜ?』

 

 月島は断る理由もなかったので、銀城を本当の兄として慕いながら共に育った。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

『銀城空吾』。 『初代死神代行』となる前の彼は幼いころに母親を亡くし、後に虚と呼ぶ異形にほかの家族や知人たちを次々と失う。

 

 一人、また一人と目の前で他の者には見えない怪物が自分の周りの者たちを食いちぎる光景は子供の彼には十分すぎるトラウマの筈だったが、逆に彼の闘争心をさらに向上させるものだった。

 

『自分だけが見えるのならば、強くなって守ろう』、と。

 

 そこからの彼はありとあらゆる鍛錬などを死に物狂いで積み、人間の身でありながらがむしゃらの霊圧放出によって虚を撃退した。

 その時に瀞霊廷から接触があり、彼は『初代死神代行』となって喜んだ。

 

『これで自分はさらに周りの人たちを守れる』、と。

 

 銀城はこれを機にひたすらに『死神代行』としての義務を全うした。

 そして彼の行動やその範囲には目を見張るものがあった。

 

 だが……

 ある日を境に、銀城は疑問を感じ始めた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()ことに。

 その地域を通った死神たちに身分証を問われ、代行証を見せても()()()()()()()ことに。

 

 そんな小さなことから、銀城は気付いた。

 

『代行証』は『監視』と『霊圧制御』を兼ねた、『首輪』だということに。

 自分が『瀞霊廷の飼い犬』だということに。

 

 いや。

 

 厳密には『危険人物』を『体よく利用していた』であって、『飼い犬』ですらなかったことに。

 

 他にも記入すべきことはあるが、過去の話から現在の話に戻すとしよう。

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「『代行証は死神代行が尸魂界にとって有益だった場合渡される』っていうのは嘘だ。 この意味が分かるか、一護?」

 

「…………………………………」

 

 銀城は一護と雨竜に『死神代行証』の真の目的について説明をしていた。

 

「(やはり僕の予測通りか。 一つの、特に護廷のような組織に一人の人物が有益、無益、有害なんてそう簡単にできるものじゃない。 そして問題なのは『有益ならば代行証を渡す』といった行為だ。)」

 

 そして雨竜はある程度、そのことに予測を前からしていた。

 

「(さらに問題なのは無益や有害だった場合は『どうするか』を、黒崎に教えていないことだ。)」

 

 最悪の事態を想定にして。

 

「いいか、一護? 代行証は『首輪』なんだよ。 『監視』と『霊力の制御』のな。」

 

「ッ。」

 

「(……マズイ。)」

 

 自分の最悪の想定が当たっていたことに、雨竜は内心焦りを感じていた。

 

 だが銀城が次に言うことでそれが増幅した。

 

「ちなみにこの発案者は、護廷でもっとも平和を愛する男の『浮竹十四郎』。 十三番隊の隊長サマだ。」

 

 銀城は一護のスンとした、唖然に似た表情に愉快さを見出していた。

 

「わかるか一護! あいつの狙いは、俺たちのような人間を手ごまとしてこき使って、反抗すれば即座に抹殺すること! 俺たちは瀞霊廷にとって『飼い犬』以下の存在なんだよ!」

 

「…………………………」

 

「(マズイ、今の黒崎の精神状態はカラ元気もいいところだ! 今の彼に耐えられるわけがない!) 黒崎────!」

 

 「────その事実を! お前以外の尸魂界の連中全員が知って! ここに駆け付けたんだ! お前が俺の話を聞いて害悪となれば即抹殺できるようになぁ!」

 

 雨竜の声を、銀城がさらに大きな声で遮った。

 

 当の本人である一護は、歯噛みをして叫んだ。

 

 「くっだらねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 一護の叫びに、雨竜は黙り込み、銀城はニタニタした笑いを受かべた。

 

「…………………『くだらねぇ』? 何がだ? 『現実』がか? お前の状況がか? それとも────?」

 

「────()()だよ。 俺は浮竹()()が言っていたことが『おかしい』とは前から思っていたよ。」

 

「……なんだと?」

 

「(黒崎…お前……)」

 

 一護の言葉に銀城は目を細め、雨竜は感心を覚えていた。

 雨竜は決してこれを口に出すことはないが。

 

「浮竹さんは、俺なんかよりずっと頭が良いし、知恵も回る。 そんな浮竹さんが本気で俺を騙すつもりってんなら、もっと絶対に俺に気付かせない手段を取れたはずなんだ。 だから、きっと浮竹さんは()()()()()()()()んだ。 その上で、俺に選ばせた。」

 

 一護は斬魄刀を構える。

 

「そして俺は選んだ。 卍解!」

 

「チッ。 交渉決裂か。 卍解!」

 

 二人は卍解を宣言した直後に互いへ斬りかかると、その余波で雪緒の用意した亜空間はいとも容易く崩壊して一護、銀城、雨竜の三人は空座町より少し離れた()()()の森に戻っていた。

 

 「これがお前の答えってか、黒崎?!」

 

 「ああ! 『みんな』と一緒に、『お前と戦う』ってな!」

 

 それを最後に『現死神代行(一護)』と『元死神代行(銀城)』が互いを攻撃し、

 

 雪緒の亜空間から既に出ていた隊長格たちは、踵を返すように背を向ける中でルキアはとある別の方向を見ていた。

 

「(チエ殿……)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 少しだけ時間を巻き戻すが、実はというと雪緒は自分を拘束し終えたロバートと日番谷に脅され即座に亜空間の解除をした。

 

 その際(一護たちを除いて)ほとんどの者たちは空座町の森に無事に出ていたが、まるで人が変わったようなチエ(?)を見ては唖然とした。

 

はははハハハはハハは!」

 

 彼女は狂人のように()()ながら、人のようなモノの顔を鷲掴みにしたまま地面に叩き付けていた。

 

コエヲかけて

 

「……チエ殿?」

 

 ルキアの声に、彼女はびくりと体を跳ねさせては動きが完全に止まった。

 

「あ……………………あああ………………」

 

 そして止まったと思いきや、チエ(?)はうめき声にも似た音を出しながらヨロヨロと立ち上がって自分の血塗られた両手を見る。

 

「ち、がう。 わ、た、しは……………………」

 

 珍しく狼狽えるような彼女はそのまま目が痛むのか、目袋を押さえながら瞼を強く閉じる。

 

グッ。

 

 ヒュッ!

 

「あ?!」

 

 そこで風を切る音と共に、チエ(?) と彼女が掴んでいた人物がその場から消えて、ルキアは声を出すが他の死神たちは最後に残った黒い箱状の亜空間を見上げていて、滅却師たちに至っては互いに話し合いをしていたので気付くのが一瞬遅れた。

 

 この直後に、雪緒が解除できないと頑なに言っていた亜空間が中から粉砕されて卍解をした一護と銀城が姿を現し、死神たちは一護の決断を見聞きすることとなる。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 キィン! ギィン!

 

 ドッ!

 

 今現在に時を戻すと、一護と銀城が盛大に斬りあっていた。

 

 最初こそ長らく卍解を相手にしていなかった一護が不慣れで銀城に押されていたものの、潜在能力か闘争本能故か、彼の能力は着々と以前の実力に戻っていった。

 

 それは、戦う相手の心理などを感じ取れることも含め、なぜ銀城が『XCUTION』を立ち上げたのかも一護は予想を付けていた。

 

 特異な能力を制御しきれず、白眼視や迫害されたりして孤独だった『完現術者』達を引率して『革命』を起こそうと銀城は考えながらも、自分の復讐にも『完現術者』を利用する魂胆だった。

 

 それを理解していきながら、一護は銀城のやろうとした『復讐』を止めていた。

 

 銀城を止めなければ彼の行動による被害は尸魂界にだけ留まることなく、現世にも影響が及ぶのは火を見るよりも明らか。

 

 ザン!

 

 そう思いながらも、一護は銀城をだんだんと追い詰めていき最後には彼の『クロス・オブ・スキャッフォルド』ごと彼を斬る。

 

 そして意外なことに、銀城は一護のように戦っている相手の感じているものを読み取ることが可能で、最初は自分の復讐に一護が正論で対抗すると思いきや、一護はそれさえせずにただある感情を銀城に向けていた。

 

『虚しさ』。

 

 それを感じ取った銀城の復讐心は消えていき、己にも感染したかのように虚しさが広がりながらも地面へと倒れていく。

 

「(くそ、後もうちょっとだったのになぁ……)」

 

 銀城は上を見上げ、一護の悲しそうな顔を見る。

 

「(俺とお前(一護)の立場が逆なら、お前も俺のようになっていただろうか?)」

 

 ヒュッ!

 

「っ?!」

 ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「月島?!」

 

 目を閉じかけた銀城を、どこからか全力で展開した『完現術』の月島に抱きかかえられてその場から姿を消した。

 

「あ奴め! まだあのように動けるとは────!」

 

「────待てよ、ルキア。」

 

 ルキアは手を斬魄刀にかけると、一護から静止の声が出る。

 

「一護?」

 

「アイツら二人とも、もう長くはない。 井上ほどの奴じゃなきゃ、もう助からない。」

 

「お主……」

 

 ここでルキアの表情が一転する。

 

「お主、まぁ~た泣くのか? ん?」

 

「……バァカ、チエを探しに行くんだよ。」

 

「奴ならあちらの方向だ。」

 

「うぉ?!」

「ぴゃ?!」

 

「どうした? 来ぬのか? 他の者たちがすでに後を追っているぞ?」

 

 急に背後から来た白哉の声に一護たちがびっくりするが、彼はそれを無視してただ歩き出す。

 

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場所は夜の森の中へと変わる。

 

 そこでは、ヨロヨロとしながら頭が強引に削り取られた様子の月島が刀を杖代わりに歩いていた。

 

 瀕死状態の銀城を背負いながら。

 

「死ぬな。 死ぬなよ銀────ゴフ!」

 

 月島が咳をしようとして吐血する。

 

「…………月島…」

 

「先に死ぬなんて、僕が許さないからな……ッ」

 

 月島が林の中を歩いていると、彼らの前に意外な人物が立っていた。

 

「月島さん……」

 

「獅子河原くん……………………」

 

 ここで『獅子河原(ししがわら)萌笑(もえ)』という『完現術者(フルブリンガー)』に関して追記しよう。

 

 彼は『XCUTION』のメンバーたちほどのような重い話が別段あるわけではない。

 

 というか『()()』である。

 

 彼は幼いころに母親を亡くし、ごくごく普通にチンピラ同然の父親とそりが合わない、いわゆる『親に構って貰えなかった不良』だった。

 

 それでも性格は親父ほど悪くなく、荒れてもいなかったのか、彼はバイトなどをして自分たちが住んでいるアパートの維持費を稼いでいた。

 

 逆に彼の父親は庁が付くほどの博打好きで、『一発逆転』を狙うタイプだった。

 

 そんな奴でも父親は父親と割り切り、獅子河原は年を偽りながらバイトと学問に没頭し、一度として他人に拳を振ることはなかった。

 

 ただ一度だけ、彼はとうとう借金取りを殴った。

 

 というのも、獅子河原の父親は彼がコツコツと貯めていた『家族緊急時のお金』を使った挙句に、借金をして借金取りにいびられていた場面に獅子河原はバイトから帰ってきた。

 

 その時、彼の見た目と言動から半分悪ふざけでかつてパートをしていた土木工事関連の同僚がプレゼントして買ったメリケンサックを手にひたすら自分の父親を泣かせた連中を殴り倒していった。

 

 他の者たちに比べると『()()()()』である。

 

「俺が右を支えますんで、月島さんは左をお願いするっす。」

 

 そんな彼を助けたのは他でもない月島だった。

 

「獅子河原くん……」

 

「……へ。 月島が何でお前を気にかけていたか分かるぜ。」

 

 そう銀城が口を開けた後、月島はとある方向へと急に視線を向ける。

 

「どうしたっすか、月島さん?」

 

「…………いや、何でも…………ないんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月島たちから少し離れた木の陰から、男性の声らしき独り言が聞こえた。

 

「さすがは『月島秀九郎』。 瀕死であっても敏感な感性をお持ちだ。 さて……()()()()か。」




平子:なぁ? この【】に入っているのは誰が喋っているんや?

作者:では次話で会いましょう!

平子:おい。


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第117話 The Unspoken (Mis)Understanding(s)

お待たせしました、次話です。

前回と同じようにかなりの勢いで書き込みましたが、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 日番谷の能力で作り出された氷の拘束が解かれた雪緒は自分の体から落ちた氷の塊を蹴りながら暗い夜道を歩いていた。

 

「足癖が悪いよ、雪緒。」

 

「……ジャッキー?」

 

 声を彼にかけたのは所々の服が破れ、ケガを負っていたジャッキー。

 

「生きていたんだ?」

 

「まぁね……あの死神、『女は死なせたくない』って言ってあたしを町外れのここまで連れてきたんだよ。」

 

「そう。 で? なんだいその汚れは?」

 

「皮肉で言っている? あたしの能力をアンタも知っているだろう? 」

 

「それもそっか……他のみんなは?」

 

「ギリコは何か洗脳されたっぽい。 筋肉ムチムチマッチョで死神の子供と別の何かに言い様に遊ばれていたよ。」

 

「ふ~ん。 強いて言うなら『バイオハザー〇3』のタイラント状態って奴?」

 

「いや、ゲームの話をされてもあたしにはわかんないよ雪緒。 他は知らないよ。」

 

「んで話を続けるけど、重症の銀城は同じく重症の月島に担がれて消えた。 あのメリケンのチンピラも、リルカも行方は分かんない。」

 

「って、そっちがもっと知っているんじゃないか。 試したね? でもそっちでもほとんど分かんないじゃないか。」

 

「そうだね。」

 

 そのまま二人が歩くこと数分、雪緒がジャッキーを横目で見る。

 

「で? 君はいつまで僕に付きまとうんだい?」

 

「この際だから、あんたンとこの会社で働こうと思って。 銀城が言っていたんだ、『バイトするなら雪緒のところが見入りが良い』って。」

 

「それならまずは面接だね。」

 

 雪緒の言ったことにジャッキーは面食らうように目を大きく見開いた。

 

 「ハァァァァ?!」

 

「当たり前じゃん。 なに驚いてんのさ? 『知り合いでも新入社員は面接』って相場は決まっているんだよ。 ああ、それとバイトの銀城とは違って雇用採用にスーツは必然だからね?」

 

「マジかい雪緒……って、アンタは冗談をいう子じゃなかったね。」

 

「……僕はほかの皆が、僕の下で働けるような会社を作ろうと思う。 ハブられた奴らでも、生きているなら職は必要だからな。」

 

 ジャッキーは立ち止まり、唖然としながら雪緒の背中姿を見る。

 

「雪緒、あんた────」

 

「────それに『社会』からハブられた知り合いとかなら、給料が()()安くても強く文句は言えないだろうしね。」

 

 撤回。 アンタはやっぱいけ好かないマセガキだわ。

 

「未来の就職先にそんなこと言っても良いのかな~?」

 

「ンぐ……」

 

「ああ! 僕のことは『社長』じゃなくて『閣下』d────!」

 

 「────なおさら絶対に言わないね!」

 

 完全に余談だが、後に本気を出した神童とも呼べる雪緒と姉御肌のジャッキーは持ち前の面倒見の良さで活躍するのだが……

 

 それはもう少し()のことである。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 空座町のはずれにあるひっそりとした森の中、(人型のままの)夜一が滅却師たちと共にぽっかりと広場のように(ひら)けた場所を、林の中から様子をうかがっていたところに白哉、一護、ルキアたちが到着した。

 

「お? 少々遅かったな、白哉坊。」

 

こ奴(一護)が探し物をしておったのでな────?」

「────だから謝ったじゃねぇか白哉。」

 

 ビキッ。

 

 またも呼び捨ての一護に白哉の頭上に、メタ的な青筋が浮かんだ。

 

「てか久しぶりだな、夜一さ────」

「────四楓院夜一、状況は?

 

 イラついていた白哉は一護の挨拶を遮る勢いで口を開け、一護は彼をジト目で見る。

 

 ちなみに余談だが、白哉がイラつく原因がまさか『自分(一護)の呼び捨てにある』とは本人は夢にも思っていなかったとだけ、ここに追記しよう。

 

「その前に皆、霊圧を抑えておるな? 良い判断じゃ……一護の阿呆以外。」

 

「いや、その……」

 

「ま、大方そこまで考えが無かったか察していなかっただけじゃろ。」

 

 今度は目を逸らす一護をジト目で見ていた夜一は、チラッと開けた方向に視線を送る。

 

「……ふむ? 妙じゃな。」

 

「何がだ、四楓院夜一?」

 

 夜一はクイッと親指と顎で、森の開けた場所を指す。

 

「ワシらが近づこうにも、霊圧を察知した瞬間にその場から颯爽と逃げるのでな? 奴を再度追っては先ほどからあそこでうつむいておるのを見ながら、どうすれば良いのか話し合っていたところだ。」

 

「『逃げる』? 奴がか?」

 

「そうじゃ。」

 

 夜一たちが視線を移し、広場のように開けた場所をもう一度見る。

 

 そこは昔、木が中途半端に栽培された跡地だったのか木の根っこや丸太が無造作に置かれていた。

 

 その中で少し距離があった一つの丸太で座りながら、頭を抱えている様子の人影がうっすらと見えた一護が口を開ける。

 

 他の者からすれば誰かははっきりとわからなかったかもしれないが、長年にわたって付き合いのある一護には人影が誰だったのか容易に当たりを付けられた。

 

「ふーん。 じゃ、ちょっくら行ってくる。」

 

「そうか、じゃあ行って来い。 しかしこうも野良猫のように逃げられ────って待たんか一護この阿呆めが?!

 

 一護は飄々とした態度でそのまま他の皆が隠れていた林からさっさと出ては迷いのない足取りで突き進んだ。

 

「よ。」

 

 そんな彼は、知人と待ち合わせをしていたかのように手を上げながら挨拶する。

 

「ぅ?」

 

 明らかにチエ(?)が小さく()を出しては彼の方を見る。

 

「ッ。」

 

 お世辞にも顔の表情筋(ひょうじょうきん)の動きが(かんば)しくない彼女にしては珍しく、『呆気』に似たようなモノを今は一護に向けていた。

 

 正確には彼が背負っていた竹刀()を見ていたが、彼からすれば自分の顔を直視するような仕草だった。

 

「……」

 

 一護はかなりの(というかほとんど見たことの無い)レアな場面(表情)に戸惑う気持ちをグッと堪えて、ニカっとした()()()()()()()()()()()()()()()を向ける。

 

「帰ろうぜ、()()。 皆が、待っているだろうしな────」

 

 「────『ティネ』。」

 

「え?」

 

 自分の記憶にある者と、今彼の前に居る者が同一人物とは思えない程な、消え入りそうな声に一護はポカンとしながら目を丸くした。

 

 それ以前に、いつもド直球の上にハキハキとした口調じゃなかったことにも驚いていた……のかもしれない。

 

「……………………え~~~っと? チ────」

 

「────『ティネ』。」

 

「「…………………………………………………………………………………………」」

 

 二人が静かに互いを見るが、この沈黙を破ったのは察した一護だった。

 

「おう。 帰ろうぜ、『ティネ』。」

 

「ん。」

 

 そこで『ティネ』が指を指したのは一護が背負った竹刀……

 

 では無く、一つの()だった。

 

 一護たちの到着が少し遅れた理由(探し物)である。

 

 それに気付いた一護は躊躇なくそれを渡すと、『ティネ』はギュッと両手で掴んでは胸の近くへと抱き寄せた。

 

「…………………」

 

 ムニュ。

 

「(やっぱデカ────)────じゃなくて! ほら、行こうぜ?」

 

「……ん。」

 

 一護が崩れそうな笑みを維持したまま手を差し出すと、『ティネ』それをおずおずと片手で取る。

 

 そのまま手を引きながら林の方へ一護たちが歩くと────

 

「ほほう~? 一護、お主もやりおるのぉ~?」

「ふむ。 小僧でも使いようはあったか。」

「ほぅ。」

「「「「「………………………………………………」」」」」

「(チエ殿が……『しおらしい』……だと?)」

「「ンンンン゛ン゛ンン゛!!!」」

 

 ────ニヨニヨとしたようなからかうオッサンの悪戯っぽい笑みを浮かべた夜一、顎に手を付ける白哉、関心を示すロバート、そして様々な表情や思惑を浮かべた者たち。

 

 尚最後の二人は胸が苦しかったのか、自らの胸倉を掴みながら唇を噛み、表情筋がこれでもかというほどに緩んでいた。

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 上記とほぼ同時刻頃、空座総合病院のとある二つの病室の中では『BLEACH』の世界からすれば異質なことが起きていた。

 

 一つは生命維持装置に繋がれた、目が死んだままの三月が居たベッドの下には魔法陣のようなモノを中心に、眩い光と優しいそよ風が部屋の中に充満していた。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ!

 

 彼女の容体がこの出来事に反応しているかのように、ベッド近くに設置されていたモニターから生体反応が活性化するように電子音が加速していく。

 

 

 別の病室では、同じような現象が起きていた。

 

 違いがあるとすれば、神々しいまでの光の中に一人の女性がまるで胸から何かに引き上げられるかのように()()()()()

 

 病衣を着ていた()()と共に、彼女の黄金のような長い髪はユラユラと宙を舞い中で両手を広げる姿は誰が見ても神秘的なモノに映っただろう。

 

「『────満たされる(とき)を破却する。

 告げる。

 汝らの身は我らの(もと)に、我らの命運は汝らの剣に。』」

 

 彼女は祈りを捧げるかのように目を閉じながら、詠唱らしきモノを口にしていくと身にまとっていた病衣が一瞬にして『何か』に上書きされるかのように形を変えていく。

 

 それは白と金色をモチーフにしたような、ミニスカ風のドレス。

 肩や(へそを含めた)お腹、ミニスカートドレスとサイハイ厚底ブーツの間に出た絶対領域(露出した太もも)その姿はどこからどう見ても『際どい』の一言では済まされない服装なのだが……

 

 その場にいた者は、『美しい』の一言だけでは物足りない表現に本来ならイラつきを感じていたかもしれなかった。

 

 だが石田竜弦は純粋に眼前の幻想的な景色に魅入られ、感動を密かに感じながら脳内の辞書を必死に検索し、より良く当てはまる言葉を探していた。

 

「『()の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えなさい。

 誓いを此処に。 私は常世総ての善と成る者、私は常世総ての悪を敷く者』。」

 

 ここでさらに光は増すが、不思議と直視できないことはなく、どちらかというと────

 

「────『()()』、か。」

 

 竜弦の口から上記の一言がぽつりと思わず零れた。

 

 恐ろしいのはある意味、彼の表現があっていたのからかもしれない

 

「『汝、三大の言霊を纏う七天。

 抑止の輪より()()()()()宿()()! 天秤の守り手達よ』!」

 

 ()()が詠唱を終えると時を同じくして光は消え、纏っていたドレスが病衣へと姿を戻し、裸足になった彼女の足がぺたりと床に着く。

 

 マイは未だに唖然とする竜弦を見てニコリとわら────

 

「ゴフッ?! ゴホッ、ゲホッ!」

 

 ────笑おうとして、むせたのか自らの口を両手で覆って咳をする。

 

「ッ?! おい!」

 

 倒れるマイの指の間から赤い液体がにじみ出たことに、竜弦は医師としてからか反射的に彼女が倒れるのを阻止した。

 

「大丈夫か?!」

 

 マイは返事の代わりに咳き込む間、竜弦は何かに気付いたかのように表情を変えさせる。

 

 彼は察知能力などに長けた『滅却師』。

 そして『雨竜の父親』で、息子に『滅却師の才能がない』、『滅却師は金にならない』という理由で滅却師としての活動を極力しなくても能力が衰えない『天然の天才』。

 

 その彼がマイに感じたこととは────

 

「────君の、()()()が────?」

 

「────ゴホッ! ……いいの。 いいのよ()()()()。 これはただの『()()』で、()()()()()()()()()()()()()()。 だから貴方が気にすることは無いわ。」

 

「ッ。」

 

 ここで顔色が悪く、やつれたマイが口を袖で拭いてから竜弦に向ける笑顔は昔の『とある女性のカラ元気』を彼に連想させ、『(多少の)恩義のある女性の血縁者』としての心配をした。

 

 その反面、別の声が竜弦の耳元でささやいた。

 

こんなエタイのシらないモノをおくのはキケン。

 

 その声に同意するかのように、竜弦自身とは違う『昔の竜弦』の声が響く。

 

『(そうだ。 デメリットが多すぎる。)』

 

キケンキケンキケンキケンキケンキケンキケン。

 

『(浦原喜助も珍しくストレートに忠告していたじゃないか? “()()()()()()()”って。 そして虚は滅却師には“毒”。 いやこの際“爆弾”を抱えるようなものだ。 そんな危ない橋を────)』

 

 黙れ。」

 

 ピシャリと『反論』するどころか『断言』を口にする竜弦に声たちは黙り、彼は気を失ったマイをお姫様抱っこする。

 

黙れ、過去の亡霊どもが。 俺は……恩義のある者に恩を返せなかった未練を引きずる自分を、明日(あす)の俺が軽蔑するのは()()()御免だ。」

 

 彼はいつも以上に硬い表情を浮かべた。

 

 「フハハハハハ! 私! 二度目のふっかーつ!」

 

 別の階から静まりかえった病院ならでは響いた、活気の良い少女の声に彼の眼鏡はなぜか独りでにズレたが。

 

「……ま、まぁ取り敢えず……()()()()()には明日、連絡を入れるか。」

 

 竜弦はズレた眼鏡をベッドに寝かしてマイが吐血してこびりついた血を拭いながら独り言を言う。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「「「「「………………………………………………」」」」」

 

 一護、『ティネ』、白哉、ルキア、夜一、そして滅却師たちは巡礼者のように、ただ静かに夜道を歩く。

 

 「く、空気が……重い……」

 「口に出すな! 気持ちが増すだろうがこの戯けが!」

 

「?????????????」

 

 一護とルキアだけはこのお通や状態にも似た息が詰まりそうな空気と自分に集中する視線は気まずかったらしく、先に根を上げそうな一護にルキアが注意をする。

 

「……手を繋ぐ必要はあるのか、黒崎一護?」

 

 そこでとうとう見かねたような態度で白哉がいまだにチエ(?)(ティネ)と手を繋いだ一護にルキアとは別の注意をする。

 

「(そのままではルキアが手を繋げないではないか。)」

 

 どうやら彼(+チエ(?)(ティネ))の近くにルキアが居たことを誤解したようで、オブラート(?)に包んだ言葉が上記のモノだったらしい。

 

「あ? 急になんだよ白哉? (てかなんで未だにこっち(現世)にいるんだ?)」

 

 だが逆効果だったらしく、一護は売り文句を買うかのような口調で返す。

 

「私は『必要性』を問いただしているだけだ。 (だからさっさとその手を放して潔くルキアと代われ。 さっきからチラチラと私を見ているのに気付かぬ阿呆が。)」

 

「に、義兄様?」

 

 ルキアとしてはいつもとは違う、突拍子もない義兄様(白哉)の言葉に戸惑いを感じていた。

 だが彼の視線を辿り、手を繋ぐ二人の様でハッとしたような、あるいは合点がいくような顔をする。

 

「(ハ?! も、もしや義兄様はチエ殿の変わり様にご心配を?! な、なるほど! 私に視線を向けるのは『何とかしろ』ということか!) 一護、その手を放すのだ!」

 

 ルキアの要求(?)に白哉は『ああ、やはりか』と内心納得したのか目を閉じた。

 

「へ? ど、どうしたんだルキア? (一体全体、どうしたんだこいつら?)」

 

 逆に一護は意味が分からなかったのかルキアにただ聞き返す。

 

「だから『早く()()()()()()()()()()』と言っておるのだ!」

 

「「「????????????????????」」」

 

「……………………ん?」

 

 ルキアは自分を見る一護とチエ(?)(ティネ)、そして意外と白哉までもが無数のはてなマークを出したことに困惑した後、口を開ける。

 

「………………ルキア、それはどういうことだ?」

 

「へ? え、えーとですね……」

 

 ルキアが物凄く気まずそうに冷や汗を出し、目を泳がせながら指をモジモジとさせる。

 

「で、ですからそのぉ…… (し、しまった! 義兄様は密かに逢引き*1をしていたのだった~! 私のバカ~!)」

 

 ここでダラダラと冷や汗を出すルキアを見た白哉は以下のことを思ったそうな。

 

「(む? 余計な口出しだったか? ああ、そういえばここには黒崎一護や他の者が居たのだった…………………………………………………………………………ハ?!)」

 

 白哉の目が『カッ!』とわずかに見開き、彼も冷や汗を出し始めた。

 

「(そ、そうだった! ルキアは()()()()だった!*2 この場に同じ女性だけ居るならばいざ知らず、黒崎一護やほかの男子もいるではないか?!)」

 

「「……………………………………………………………………………………………」」

 

 ここで『ザ・盛大な誤解のすれ違い』によって、冷や汗をだらだらと流す朽木&朽木(日番谷命名)が出来た。

 

「あ。 もしかしてただお前らが手を繋げたかっただけか?」

 

 一護は一護で場を和ませようとしたのか、様子が変な朽木兄妹に何かを感じたのかつないだ手を放した。

 

 グッ。

 

 イチゴ は 手を 放そうとした!

 だが効果はなかったようだ……

 

「……ん?」

 

 グッ。

 

 イチゴ は 手を 放そうとした!

 だが効果はなかったようだ……

 

「え?」

 

 訂正。

 

 放そうとして増していく握力に戸惑ったのか、握っ(握られ)ていた手をブンブンと振りほどこうとした。

 

 その行為が朽木&朽木の目に入ると焦り気持ちに着火したのか、イラつきのついた怒りへと変わった。

 

「「義兄様(ルキア)に見せつけるとはいい度胸だな一護(黒崎一護)!」」

 

「は?」

 

 一護がポカンとする。

 

「「え?」」

 

 朽木&朽木もポカンとして互いを見る。

 

「ッ。」

 

 チエ(?) (ティネ)がよろける。

*1
46話より

*2
39話より




日番谷:んだよ、最後のこれは?

作者:えーと……義兄妹コント?

日番谷:なんで疑問形なんだよ。

作者:黙秘シマス。

日番谷:おい。

雛森:あ。 シロちゃん見っけ♪

日番谷/作者:ヒェッ

雛森:あれ? なんで後ずさるの? ねぇ?


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第118話 Bloodlines

お待たせしました、少し短いですが勢いで書いた次話です。

楽しんでいただければ幸いです。

12/15/21 7:50
マイナーな誤字修正いたしました


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「ブワッハッハッハッハッハッハ!」

 

「夜一サン、ホンッと愉快ッスね?」

 

 場所は浦原商店。

 

 そこではケラケラと先ほどの出来事を思い出してはいまだに口を大きくあけて笑う夜一を浦原が少し引きながら見ていた。

 

「いやいやいや、お主も隠れながら笑いを必死に殺しておったではないか?」

 

「まぁ……ある意味、昔の白哉さんが垣間見られましたからね。」

 

 浦原が思い浮かべたのは町外れで起きた義兄妹が互いに思っていたことの暴露。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「「?????????????」」

 

 時は先ほどまで『ザ・カンチガイ』が行き過ぎてかみ合わない思惑に戸惑いながら互いを見ていた朽木兄妹。

 

「……義兄様が手を繋ぎたかったのでは?」

 

「???? なにを言う? それこそルキアだろう?」

 

「「……え?」」

 

 その場が二人から発された?マークに埋め尽くされ、何個かが近くの一護の顔に当たっては弾かれる。

 

「えーと、お前らは何の話をしてるんだ?」

 

「一護、お主が恋ごとに初々しいのは知っていたが鈍感とは……それはもちろん、恋仲である義兄様のことを思っての────」

 

「────ゑ?」

 

 普段、冷静沈着で動じない白哉の目が点になり、気の抜けた声を出したことにルキアでさえも思わず驚いて口を慎んだ。

 

「………………な、何を言っているのだお前は?」

 

「へ?! あ、いえ、その、ですから………ゴニョニョ。」

 

「ブホォ?!」

 

 ルキアが最後に気まずく小声を出すと夜一が吹き出した。

 

「白哉坊にも二度目の春が訪れるとはのぅ! ハッハッハッハ!」

 

「?????????????????」

 

 心底ワケの分からない顔&思考がフリーズしつつの白哉の背中を、バシバシと夜一が叩く。

 

「……………………………………………………………………………………………………………ついに耄碌した、か。 『瞬神』も歳には敵わなかったか。」

 

「皆まで言わずとも良い! しかしまさか懺罪宮(せんざいきゅう)の橋で一目惚れし、小座敷でまさか()()()()()()とはのぉ?!」

 

「よ、夜一殿ぉぉぉぉぉぉぉぉ?!」

 

「…………………………………………………………………………………………………?!」

 

 白哉が考え込み、記憶を漁りながら上記のキーワードたちを結び付け、メタ的な電球が光ってはギョッとしてはルキアの方を見てかつてないほど動揺しながら冷や汗を流していた。

 

「ち、違う! あれは断じてお前が見たようなものではない! 私は緋真以外の女性を愛することは無い! 断じて!

 

おおぉぉぉぉぉ?!

 

 両肩をがっしりと白哉に掴まれ、顔を迫られたルキアが驚愕しいつもの調子ではない義兄に対して仰け反った。

 

 「それに奴を慕っているのはルキアの方であろう?!」

 

 「…………………………………ゑ?」

 

 今度はルキアの目が点になる。

 

 顔文字で表すと『( ゜.゜)』である。

 

「でなければあれほど奴のことを自慢気に話したりするものでも当世で言う『でーと』とやらにも出かけるために隊長代理の際に五番隊舎に毎日通うことも奴と同棲することは無────」

 

「────ゑ────???????????」

 

 狂人のようにグルグル回る瞳孔に、延々と喋り出す+早口というある種の異常事態(見たことの無い白哉)に、ルキアと彼を知っている周りの者たちの目も点になる。

 

 その間にも白哉の演説(?)は続き、()()()()()にルキアは反応する。

 

「────それにお前が同性愛者と言えども()もう気にしていない。 緋真もきっと内心では俺のように戸惑うかもしれないがニッコリとした笑みを────」

 

 「────んな?!」

 

「同性愛者?!」

 

 ルキアはショックになり、今度は()()()『同性愛者』の単語にジゼルが目を光らせた。

 

「ルキア……お前……通りで女子に人気が────」

 

 ゴチン!

 

「────ぶぇ?!」

 

 そんな訳あるかぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 ルキアが溜まっていたストレスを開放するかのように一護を殴ったところで白哉は頭を抱えながら今まで己がしていた誤解に気付き始めた様子にこっそりと気配と霊圧を消していた浦原が爆笑するのを必死堪えていた。

 

 これが概ね、一通りの出来事である。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「う~ん、あんな朽木サン(白哉)を見るのは100年とちょっとぶりッスからねぇ~……」

 

 思い出に浸っていた浦原に夜一が急に真剣な顔をする。

 

「それで? 本当に滅却師たちはこの町を『半独立地域』として治めるの気なのか?」

 

 彼女に反応するかのように、浦原もキリっとした面構えをする。

 

「ええ。 すでにめぼしい場所などに、探知型の結界や地区担当の死神が不在のk状況を想定した巡回ルートなどを練っていますね。」

 

「と言ってもこの時代の重霊地は空座町。 そうやすやすとあの総隊長が同意したとは思えん。」

 

「ええ、ですから当分は僕たちを現世に居させるようですよ?」

 

 浦原がピラピラと懐から出した文を揺らす。

 

「…………………………ああ、なるほど。 じゃから藍染のいない今でも、お主がここにおれるわけじゃ。」

 

「崩玉を埋め込んである藍染惣右介は厳密には死んでいませんし、彼以外に崩玉の詳細などに詳しいのは今のところ僕ですしね。

 『涅サンに任す』ってのも今の尸魂界は改革の真っ最中ですから。 僕が手を出そうとしただけで殺しにかかりますね。」

 

「……しかし、()()()()()()()()さえも作り出すとはのぉ……どれほどの衝撃が起こるのやら。」

 

 かつての尸魂界の見た目が江戸時代を中心にしていたのは藍染が倒されるまで。

 

 今では明治に近づいたのは『マユリのおかげ』と言っても他言ではないのだが、空座町を『半独立地域』として成立させる為に滅却師たちが技術譲歩を交渉のダシにした際、マユリの愉快な笑いが流魂街まで響き渡ったそうな。

 

 その時、響き渡った『ハハハハハハハ、ハヒフヘホォー!』に誰もがびっくりしたのは言うまでもないだろう。

 

「やれやれ……本当に退屈せんわい。」

 

「僕もッス♪」

 

『もういい加減に結婚しろよお前らー! (#゚Д゚)』と言う者は案の定、そこには居なかった。

 

 浦原は腰を上げて、商店の地下へと足を運びだし始めると夜一が口を開ける。

 

「また()()()か?」

 

「ええ。 九割九分『本物』と瀞霊廷が特定しましたが、僕に任されたのは『最後の一分の確認』ですから。」

 

「……そうか。」

 

 それを最後に浦原はお店の奥へと進んだ。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その夜、『ザ・カンチガイ』に気付いた朽木兄妹や元星十字騎士団(シュテルンリッター)たちと別れた一護はいつの間にか調子が戻ったチエと空座町の夜道を歩いていた。

 

「「………………………………」」

 

 二人は別に会話を交わすこともなく、手も繋げてもいなく、ただ静かに歩いた。

 

 一護はいろいろ聞きたい衝動を抑え、チエが話すまで待つつもりらしくただ足を動かしていた。

 

「……迷惑をかけたな、一護。」

 

「全然。」

 

「そうか。」

 

 口をやっと開けたチエに一護はただぶっきらぼうに答え、チエもぶっきらぼうに返す。

 

 まるで上記で済むと言うかのように、二人は途中で分かれてそれぞれの住まいへと向かった。

 

 一護は帰ると、真咲や遊子に夏梨たちを先に家に帰した一審とばったりリビングで会う。

 

「「…………………………………」」

 

 ここでも一護と一心は互いの出方を見るためにか、黙り込んだ。

 

「一護。」

 

 そして先に動いたのは一心だった。

 

「明日だ。 学校をサボれ。」

 

「あ?」

 

「明日、具合がよくなっていれば真咲と一緒に話そうと思う。」

 

「そうかよ……遊子たちが学校に行っている間に話そうって気か?」

 

「ああ。 だからもう寝ていろ。」

 

「言われなくてもそうするよ、親父。」

 

 一護は言葉通り、自室に戻るやいな、コンを無理やり起こして自分の肉体に戻ると今までの急展開で分泌されていたアドレナリンの効果が一気に抜けるかのように深い眠りへと瞬く間に落ちた。

 

 その間、アパートに戻っていたチエは黙々と本棚にあった日記に書き込みを朝までした。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「あらおはよう一護。」

 

「おはよう、おふくろ。」

 

「話はお父さんから聞いているかしら?」

 

「ああ。」

 

 次の日、一護はサボることを伝えた知人たちにそれとなく月島のことを聞いたが誰もかれもが彼のことを忘れたかのように返事をしていた。

 

 否。

 

『忘れた』のではなく、『()()()()()()()()()()()』ように振舞っていた。

 

 それはまるですべてが元に戻ったかのようで、一護はホッとした。

 

 ピンポーン♪

 

「あらあら。 一護、玄関に出てくれるかしら? 私はお父さんを起こしてくるわ。」

 

「分かった……っていいのか?」

 

 一護の問いに真咲は一瞬キョトンとしたが、察したかのようにうなずいた。

 

「ええ、彼もいたほうが、話が進むでしょうから。」

 

「『彼』?」

 

 一護は玄関を開けると三月を見た。

 

 厳密には『竜弦に首根っこを持ち上げられて宙ぶらりんをする三月』だが。

 

「誰だアンタ?」

「あの、降ろしてください。」

 

「私は『石田竜弦』。 お前が『黒崎一護』か。」

「私を無視しないでプリーズ。」

 

「あら~、いらっしゃい久しぶりね竜ちゃん!♪ 少し遅かったわね?」

「誰か私のことタシケテ。」

 

 パタパタとスリッパで小走りに来た真咲が竜弦を迎える。

 

「『竜ちゃん』はやめてくれ、黒崎夫人。 それに遅かったのはコイツの所為だ。」

「『コイツ』呼ばわりしないで。 というかそこで私に振らないで。」

 

「んもう! 昔みたいに『マーちゃん』と呼んでもいいのよ?」

 

「ぼ────私たちはもう、子供ではないんだ真咲。」

 

「……う~ん、どうしてこんなに捻くれちゃったのかしら?」

 

「ふわぁ~……おお、早かったな!」

 

そこの寝ぼけた一心にでも聞け。」

 

「んもう、お父さんったらくしで髪の毛ぐらいとかしてから降りてきなさい!」

 

 今まさに起きたところの一心、彼を叱る真咲、そして竜弦の言動を三月は見てとんでもないことを口にした。

 

「……も、もしかしてこれが噂に聞く『NTR(エヌティアール)』?!」

 

 

 全然違いますお嬢様。

 

「「「「『エヌティアール』?」」」」

 

「ナンデモナイデス。」

 

 理解されなくて良かったね、お嬢様。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 竜弦はそのまま家に三月と共に上がった。

 

 一心はまだ顔洗っていたのか一護、三月、真咲、竜弦の四人は黒崎家のダイニングでホッとひと時の休息のように、お茶と菓子を静かに楽しむ。

 

「……して、学校での()()はどんな様子だ?」

 

「「(『()()』?)」」

 

 一護と真咲の周りに?マークが出たのを察知したかのように、三月が答えた。

 

「石田()()なら元気にしているよー(多分)。 今度出かけるときにでも誘ったら?」

 

「………………奴がこちらに誘いを持ってくれば行ってやることもやぶさかではない。」

 

「うっわ、どれだけ捻くれているの『オレンジ卿』?!」

 

「オレンジ???????? どういうことだ????」

 

 突然の『オレンジ卿』呼ばわりに今度は竜弦が?マークを出す。

 

「あ、いやこっちの話。 それで私をここに拉致した理由って何ですか?」

 

「『拉致』? 『連れてきた』の言い間違いだろう?」

 

「病み上がりの私を無理やり病室から連れ出したことのどこが『拉致じゃない』っていうの?!」

 

「君は退院したがっていたではないか。」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あーね(ああ、そうね)。」

 

 無言の(プレッシャー)を出した竜弦に、三月はジト目でお茶と菓子を再度頬張り始めた。

 

「??? なんで石田の親父(オヤジ)がここに?」

 

「ああ、それは『どこまで』もう話したのかちょっと気になって────」

 

「────まだなんも話していないっていんなら、丁度いいかもしれねぇ。」

 

 一護の問いに竜弦が答えにならない答えをし、洗顔し終わった様子の一心が言葉を付け足した。

 

 ピンポーン♪

 

「あら、今日は来客が多いわねぇ?」

 

「噂をすればなんとやらだ。 多分大きいほうの渡辺だろう。」

 

「『ちっさい』呼ぶな!」

 

「いや誰も言ってねぇし。」

 

 三月の言葉に一護がツッコんだところで、同じく学校をサボった様子のチエが入って────

 

「むほほほぉ~、が・ん・ぷ・く♪」

 あ・な・た?

「ヒッ?!」

 

「親父、最低だよ。」

「そこだけ『死〇若丸』って……」

 

 ────Bホルダー&さらし無しのチエにニマニマした一心が真咲に注意され、一護と三月からは非難する目を向けられた。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「さて。 『話』ってのは他でもない、『俺たち』に関してだ。」

 

 いつものふざけた様子の一心からは想像しにくい、真面目な表情だった。

 

 左頬に立派な紅葉(ビンタの後)が無ければ決まっていただろう。

 

「一護、俺が『死神』ってのはもう想像が────ん? なんだ?」

 

 ここで三月が手を上げる。

 

「えっと、『私たちもここにいていいのかなぁ~』なんて思っていたりするんですけど?」

 

「まぁ……お前たち二人はこっち側の情報に長けているし付き合いも長いからな。 隊長代理に滅却師モドキだし。」

 

「え? 一心さん、チーちゃんのこと知っていたの?」

 

「おう。 この間会った。」

 

「(うそーん。)」

 

「で、話を戻すが俺は『死神』……そして真咲は『()()()』だ。」

 

 一心の言葉に一護は固まった。

 

 チエと竜弦ははただ静かにお茶を飲んだ。

 

「ブホ?!」

 

 三月はこのカミングアウトに飲んでいたお茶を思わず吹き出した。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場は休業中の『浦原商店』へと移る。

 

 表には猫の姿で日向ぼっこを楽しむ夜一。

 ウルルとジン太は今日も調子の悪いマイのところへテッサイと共に見舞いに行っていた。

 

 その中でも浦原は地下の訓練場より、さらに奥にあった研究室に籠っていた。

 

 中でも、一つの容器の前に明らかに寝不足の彼は立っていた。

 その容器は本来、崩玉を封印するモノだったが、さらに己の斬魄刀の『紅姫』の結界を張った中には昨夜、夜一に見せた文とは別のをクマが目立つ目で見ていた。

 

「さぁてと……どうしたもんッスかねぇ?」

 

 浦原は半笑いを浮かべ、困ったように頬を掻きながらその文の差出人欄を見る。

 

「全く……質の悪い冗談ッス……冗談であって欲しかったッスよ。」

 

 そこにあったのは文を出したと思われる人物の名と、その筆跡。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藍染惣右介』、と。



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第119話 Bloodlines 2

お待たせしました、次話です。

少々長くなってしまいましたが楽しんでいただければ幸いです。

アンケートへのご協力といつもお目通しいただき、誠にありがとうございます。 <(_ _)>


 ___________

 

 一護、三月 視点

 ___________

 

「俺は『死神』……そして真咲は『滅却師』だ。」

 

 ガツンと頭蓋骨を通り越した衝撃に脳が揺すぶられたような感覚に、一護はただ固まった。

 

 これには彼だけでなく、いつもはどこか余裕を持っていそうな三月も同じだったようで笑みもどこか強張っていた。

 

「…………………………は?

 

 ここで長い沈黙の末にやっと一護の口から出たのは信じる信じない以前に、理解が出来ていない(もしくは理解はしたが認めたくない)気持ちが籠った一言。

 

「前に言ったよな、一護? 『話すまで待つ』*1って? 『話すなら今』って感じたから話す。 俺の旧名は『志波一心』。 かつての……瀞霊廷の五大貴族の『志波家』の者だ。」

 

 ここでやっと自分の理解する(したい)範疇に収まるの言葉が出たことに一護は違和感を持った。

 

()大貴族? ()じゃなくて?」

 

「この間、『志波海燕』ってのが居ただろ? そいつは俺の甥で、『志波家』の当主だった……いや。 この場合は『だ』、になんのか?」

 

「(ギクッ)」

 

 一心は過去形を言い直そうか悩みながらジロリと目を逸らす三月を見た。

 

「……まぁいい。 色々あって海燕はつい最近まで行方不明だったんだ。 で、志波家末端の俺が一応『当主代理』に仕立て上げられたんだが────」

 

 一心が話を進ませるのを優先したことに冷や汗を流す三月はホッとしたのだが、一護が彼の言葉を遮った。

 

「────ちょっと待った親父。 『志波家』って……………………………………………………………………………もしかしてもしかしなくても岩鷲や空鶴さんの『志波』か? (違うと言ってくれ。)」

 

 一護の脳裏に浮かんだのはかつてルキアを奪還するために一緒になった姉御肌で花火師の空鶴と紅の〇ベウス『ボニーちゃん』と呼ぶ猪に乗った岩鷲たち。

 

「おう。 海燕の弟と妹だな。 つーことで俺の甥と姪で、お前の従兄弟で遠い血縁者だぜ?」

 

 うわぁぁぁぁぁ?! マジかぁぁぁぁぁぁ?! いやだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「「そこでショックを声に出すの/のか?!」」

 

 一護は頭を抱えて盛大に声を出し、三月と一心がツッコむ。

 

「お父さん? 話を進めましょう?」

 

「お、おう……」

 

「(一護が自分は『眼鏡(雨竜)とは又従兄弟だ』って言われたらどんな反応するのかな?)」

 

 そこから一心が一護たちに話したのはかなり衝撃的な内容であった。

 

 

 一心が元は十番隊隊長で、()()サボり魔である松本乱菊とは顔見知りどころか上司と部下の関係。

 

 そして三席とはいえ、当時の部下でかなりの有能者だった()()()を時期隊長に期待していたことも────

 

 

 

「────うっわ……冬獅郎の野郎が親父の元部下かぁ~……」

 

「おう。 一護、乱菊たちと会ったんだよな? 胸、デカかっただろ?」

 

 ビキッ。

 

 一心の真面目な顔が下品なものに変わり、彼が自分の手で()()()を揉むような動きをしたことに真咲と竜弦のこめかみに青筋が浮かび、これに一護は答えるのは悪手と察して口を固く一文字風に閉じた。

 

 そんな彼が見たのは席を静かに立ち、不機嫌な二人にハリセンを渡す三月の姿。

 

「はい、どうぞ♡」

 

「え?」

 

 ババシシィィンン!!!

 

ブハァ?! ……………………………………………………………………………………………………………………話しを戻すぞ、一護。」

 

「脱線したのはオヤジじゃねぇか。」

 

 またもキリっと真面目な顔をした一心の頭上に、今度は二つのタンコブが出来上がっていた。

 

 ………

 ……

 …

 

 少し脱線したが話を戻すと、一心の十番隊が当時担当していた地域は空座町の隣にあった鳴木市(なるきし)

 そして隊長の彼に上がって来た報告書では『原因不明の隊士死亡』が時々……

 ではなく、月ごとに増えていったことに違和感を持った彼は、単独で調査をすることを即決断した。

 

 そこで彼が遭遇したのは思っていたような『特殊な虚』の予想を上回る、『()()()()』。 

 

 さて、日番谷の説明を皆は覚えているだろうか? *2

『人型の虚』は中級大虚(アジューカス)最上級大虚(ヴァストローデ)のことを示すことを?

 そしてそのレベルの虚は隊長と同格、または隊長以上の戦力だと言うことを?

 

 もちろんそんな大物が出てくるとは一心にすれば予想外の何でもなく、彼も初めから()()()()ことに全力を出した。

 

 だがさらに予想外に、その虚は()()()()()()をしたことにより徐々に十番隊の管轄である鳴木市から空座町へと無理やり押された。

 

 そこでさらに駆け付けた隊士たちもやられ、独断の単独調査に出たにも関わらず一心は始解の『剡月(えんげつ)』を使用……しようとした瞬間に()()()に背後から決して浅くはない傷をつけられた。

 

 姿も霊圧も消していたが、その太刀筋が死神の者だったことに一心は気付いたが追撃する『人型の虚』の攻撃をいなすことで精一杯になった。

 

 そこに当時、高校生だった真咲が横から介入したことで事態は急速に収束した。

 というのも、真咲は自分の体を『餌』と使ってワザと虚の攻撃を受けてから確実に一発で駆逐したのだ。

 

『人型の虚』は消滅寸前に自爆を図ったが、一心が身を挺して真咲を庇い、ここで二人は互いを『死神』、そして『滅却師』と自己紹介をしたそうな。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

「………………………………………………………」

 

 一護はニコニコ笑う真咲、そしてしかめっ面の竜弦を見る。

 

「……信じられないかもしれないが、彼女の能力(チカラ)は凄まじいものだ。 私の愚息(雨竜)など比べると雲泥、天と地の差だ。」

 

「「(辛辣なのは父親譲りか。)」」

 

 銀髪の雨竜竜弦を見てそう一護たちは思った。

 

「もう! 竜ちゃんはこういう時に限って、おだてるのが上手いんだから!」

 

「そこで今度は私と真咲のことを話そう。 いいか、一心?」

 

「ああ。 ちょっと菓子と茶、取ってくる。」

 

 今度は竜弦が主体に話したことは『石田家』、そして『黒崎家』がおそらく正真正銘の人間で()()()純血統滅却師(エヒト・クインシー)であることだった。

 

()()』と言われていたのは亡霊じみた元星十字騎士団たちや、虚の攻撃にあった『穢れた者たち』とは違い、『石田竜弦』と『黒崎真咲』の二人は血が純血のままであったから。

 

 環境や社会や時代の波にのまれていく他家とは違い、この二つは群を抜いて『異質』だった。

 

 まず、『黒崎家』は昔ながらの滅却師同様に困っている人たちがいるのならば見返りのない状態でも動くほど『正義感』にあふれていた。

 

 逆に『石田家』は忠実に滅却師の掟や仕来りをずっと守ってきた『時代遅れの老物』として有名だった。

 

 故に大量の虚が突然出現し、周りの被害を少なくしようとした正義感の強い『黒崎家』は周りの人たちを守るために奮闘した。

 

 だが当時の幼い真咲はこのような血生臭い命の取り合いは初めてだったので躊躇し、その結果に真咲一人だけが生き残った。

 その彼女を、竜弦の親が引き取って純血統滅却師(エヒト・クインシー)の血筋を続けようとした。

 

 名目上は『遠縁の真咲を養うため』だったがこれはほぼ『強制結婚』のいわゆる『政略結婚』の状況に、家族を一気に亡くした真咲は無理やり置かれたことを示した。

 

 

 

「おふくろ────」

「真咲さん────」

 

「────もう! 二人ともそんな顔しないで! 確かに強引なことだったけど、竜ちゃんは優しかったんだから! 何かと私に話しかけてきたし!」

 

 上記のことを聞いた一護と三月は何か思うところがあったのか、同時に真咲に声をかけたが逆に彼女は『気にするな』と言ってのけた。

 

 余談だがそんな『政略結婚』の対象である真咲を竜弦は心から愛してしまい、『対等の人間』として接したたかったのだが息子の雨竜のように胸に秘めた感情を表に出すのが『苦手』を通り越して『不器用』だったので、彼女を陰から気遣っていた。

 

 そんな竜弦を、幼少の頃から共に育ちながら世話係をしていた片桐叶絵(かたぎりかなえ)が支えていた。

 以前に真咲が『片桐さん』*3と呼んでいた女性である。

 

「話を続けてくれないか、真咲?」

 

「あらそうねぇ~。」

 

 ………

 ……

 …

 

 

 真咲はある日、大きな霊圧が空座町でぶつかり合い始めたことに黒崎家由来の正義感からか、その場へと急行した。

 

 霊圧の片方が滅却師の仇敵である『死神』と知りながらも。

 

 これを止めようとし、純血統滅却師(エヒト・クインシー)の仕来りを言った竜弦に、真咲はこう返した。

 

『掟とか仕来りとかにバカ正直に従って今日できることをやらないで誰かを見殺しにした今日のあたしを、明日のあたしは許せない!』、と。

 

 それはある意味、かつて家族を失う中で尻込んだ過去の自分を断ち切る信念だったかもしれない。

 

 そこからは一心が伝えた通りの話に違いは無く、真咲は自分を『滅却師』として死神の一心に自己紹介をした。

 

 最初は身構えたが、一心の気持ちいいぐらいの笑みと『滅却師』をまるで意識していないさっぱりとした言葉に真咲は家族を亡くしてから他人の顔色をうかがう『愛想笑い』ではなく、心から笑いながら『死神がこんな感じなら、他の(滅却師)も分かり合えるかもしれない』と思ったのだった。

 

 その日は雨がかなり降っていたが、カラカラと笑う二人はそれを『寒い』と感じるよりは『清々しい』の気持ちでいっぱいになっていた。

 

 そこから少し日にちが流れる中で二人は互いを意識するが、真咲が急に倒れたことで状況は加速していく。

 

 ………

 ……

 …

 

「「…………………………………………………………………………………………」」

 

 一護と三月は話されたこの一連に、何をどう言えばいいのか迷っていた。

 

 出されたお茶はすでに温くなっていて、茶菓子はさっきから手つかずのままだった。

 

 ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ。

 

 せんべいを食べるチエ意外。

 

「ちょいと延々と話しすぎじゃねぇか真咲?」

 

「そ~お?」

 

「フン。 わかっていないな貴様は。 これ等を話さなければ、私たちのことを理解できないではないか。 それともなんだ? お前のように『手抜きをしろ』とでも?」

 

「う。」

 

 竜弦の鋭くなった目に、一心は一気にタジタジになりながらも追加のお茶と菓子をいそいそとテーブルに置く。

 

「さてと……どこまで話した?」

 

「ちょうど私が倒れたところ。」

 

「そっか、なら()から話したほうがいいか。」

 

 ここで真咲が実にいい笑顔を竜弦に向けた。

 

「あっらぁ~?♪ 竜ちゃんってばやっぱり見栄を張った『私』なんかより『僕』の方が自然的でカッコいいわぁ~♡」

 

 「………………………コホン!」

 

 のほほんとした真咲に指摘された竜弦のメガネは一気に曇り、彼はわざとらしい咳払いをする。

 

「と、取り敢えず私は話を続けるぞ?」

 

「「(石田家は『僕』という一人称が定義なの/のか?)」」

 

 一護と三月は『似た者同士』の雨竜と竜弦を連想しながらそう思った。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場と時は当時の空座町、真咲がまだ高校生でセーラー服が指定だった頃。

 

 数日間前に彼女は一心を助け、石田家の者たちから聞いていた話とは違う死神との出会いに浮かれていた。

 

「ただいま竜ちゃ~ん!」

 

「あ、マーちゃん。 おk────」

「────真咲さん!

 

 そんな元気一杯に声を出した真咲に返事を返そうとした竜弦の言葉を、注意をするようなきつい口調で遮ったのはよく屋敷を不在にした石田家当主の代理をしていた竜弦の母親で、黒崎家の生き残りである真咲を引き取った本人だった。

 

「あ……た、ただいま帰りましたおばさん────じゃなくておば様!」

 

 ほぼ庶民として育った『黒崎真咲』に、上級階級者がどういう振る舞いをするべきか叩き込んだのもこの人である。

 

「(全く、肝心なところでマーちゃんは滑るな。 昔から変わらないや。)」

 

 口が滑ってびくびくする様子の真咲はどこか織姫に似ていたと言えなくも無く、竜弦を内心ではひやひやさせながらも微笑ましく思わせた。

 

 だがそれも竜弦の母が次に言った言葉で一転した。

 

「あなた、先日死神を助けるために虚と戦闘をしましたね?」

 

「「ッ?!」」

 

 竜弦と同じく、図星を言われた真咲の目が見開いた。

 

「はぇ? えっと……そ、そんなことは……して、ないですけど?」

 

「私は『確証』を得て言っているのです。 嘘は品位を下げるだけと何度注意すればご理解できるのかしら、真咲さん?」

 

「(バレた?! でも誰…………)」

 

 先日、実はというと竜弦は片桐ともにいざとなれば真咲だけでも救う準備のために戦争にでも出るかのようにフル装備をした上で戦いを陰から観戦していた。

 

 世話係の片桐と共に。

 

「(片桐か?!)」

 

 怒りと焦りから竜弦は片桐のいる方向へ走り出し、彼女に迫った。

 

 ドン!

 

 いわゆる『壁ドン』で。

 

 「片桐! なぜ母様に告げ口をした?! 俺は言ったはずだ! 『()()()()()()』と!」

 

「そ、それは違います坊ちゃま! 『()()()()()』からこそ『()()を求めた』のです!」

 

「な、なんだと?!」

 

 片桐の意外な反論に竜弦が数歩後ろに下がった。

 

「ま、真咲様は()()負いました! 虚の攻撃は我々滅却師にとっては猛毒! 旦那様か奥様の治療術式を受けなければ血が穢れるどころか体を蝕みます!! そうなれば……そうなれば滅却師の未来は終わってしまいます!」

 

 ドサッ。

 

『真咲さん?!』

 

「ッ!」

 

 竜弦は自分の母のびっくりしたことで屋敷の玄関広場まで戻ると真咲が倒れていたところまで走って彼女の体を抱き上げた。

 

「なんだ、この孔は?!」

 

 倒れた真咲の胸に虚の孔に似たものが出現したことで、動揺した竜弦は屋敷を不在にしていた父親に彼女を連れていく為に玄関を飛び出した。

 

「竜弦! 待ちなさい! 竜弦!

 

 彼は自分の母の制止の声を無視するかのように、そのまま空座町の上空へと飛んだ。

 その竜弦を追いかけるかのように竜弦の母親も屋敷を飛び出そうとして、足がもつれて転んだ。

 

 竜弦の母親は何かの後遺症なのか、屋敷から出た瞬間左の足首のあざが急激に広まっていって、これが痛むのか彼女は顔を苦痛を感じているものに変えた。

 

「いけません奥様! 虚の毒が! 結界内へお戻りください!」

 

 普通なら母親の心配で振り返る竜弦も、真咲の容体を優先した。

 

「お!」

 

 その途中で、彼は一心とばったりと出会う。

 

「ちょうど良かった────って、その嬢ちゃんの胸?!」

 

 「近づくな!」

 

 真咲の以上に気付いた一心が駆け寄ろうとした瞬間、竜弦が人生で一度だけでなく二度も声を荒げた。

 

「近づくな、死神! 真咲は……マーちゃんはアンタを助けるために傷を負って、苦しんでいる! 滅却師の掟を破ってまで……なんで……なんでマーちゃんだけが苦しまなくちゃならないんだ?!

 

「お、お前────」

 

「────やあやあ、お困りの様ッスねぇ?」

 

「「誰だ?!」」

 

 新たな声に一心と竜弦が振り向く。

 

「その子を助けるための選択肢を教えますよ?」

 

 そこにいたのは蒲原喜助だった。

 

 ぽつりぽつりと、6月の梅雨時に雨がまた落ち始めた。

 

「まずはアタシに付いて来てください。」

 

「「………………」」

 

 蒲原商店についたところで蒲原は自分の名前を一心と竜弦に明かし、真咲が虚化していることを説明する。

 

 そしてこの虚化はおそらく、本来は死神を対象にしていたのが滅却師である真咲だったために侵食が遅かったことを。

 

「これを止めるには、虚とは正反対の性質をもった死神の力が必要です。 実際、アタシは過去に虚化して者たちを救うために滅却師の矢と人間の魂魄から劇薬(ワクチン)を作ってそれを成し遂げました。 ですが……この子の場合、それでは()()()()()。」

 

 蒲原が出したのはとある義骸。

 のちに崩玉を埋め込むための試作品の一つだった。

 

「この義骸は人間の魂魄から作った特殊品です。 ここに死神が入れば、『人間と虚』である彼女とは相反(あいはん)する『死神と人間』の存在となる。

 強引に互いの霊子を繋げて虚化を抑えるだけでなく、虚の破壊衝動も抑えます。」

 

「それは……そんなの、()()()()()()()()じゃないか?!」

 

 竜弦の叫びに、浦原は純粋に感心した。

 

「もうそこまで察したとは意外です……ええ、この義骸に入れば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。」

 

「……………………」

 

「彼女が死んでも、虚はこの世に居続けます。 そして長年、滅却師であった彼女の中で虚は育つでしょう。 とてつもない脅威に。 そんな寝ずの番────」

 

「────この義骸、入り口どこだ?」

 

「「…………………………………………………………………」」

 

 一心の即答……

 というか即行動に、浦原と竜弦はデッサンがデフォルメ化したような、間抜けな顔をしていた。

 

「えっと……僕の話聞いていました?」

 

 動揺からか、浦原は思わず昔の調子に戻っていた。

 

「いい加減ダラダラとした話を聞くのは飽きた。 要するに俺が死神辞めてそいつの一生の面倒を見ろって言っているんだろ?」

 

「ま、まぁそうでスけど────」

 

「────だったらやる。 躊躇して恩人を見殺した俺を、未来の俺はきっと『ヘタレ』って呼びながら笑うからな!」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 長い時間の末に、真咲の虚化は防げられた。

 

「あ、こないだの死神さん! よかった、ちょうど会いたいと思っていたの! あの後尸魂界に帰って怒られませんでした?! ケガは大丈夫ですか?! あ、あとお名前教えてください! ……あれ?」

 

 そこで気が付いた真咲は一心を見てマシンガントークをした後にキョロキョロと周りを見渡した。

 

「……竜ちゃんは?」

 

 

 

 

 ザァザァと降る雨の中、竜弦はトボトボした足取りで夜の空座町を歩きながら空を仰いでいた。

 

「(僕は……無力だ。)」

 

 彼の目からは雨とは違う液体が頬を伝っていた。

 

「(何が『最後の滅却師』だ。 何が『純血』だ。 何が『次期当主』だ。)」

 

 そう憂鬱になっていた彼の上に誰かが傘を差した。

 

「坊ちゃま、風邪をひいてしまいます。」

 

「片桐……ッ。」

 

 竜弦が片桐を見ると、いつもは表情を何一つ変えない彼女が泣いていたことにびっくりした。

 

「坊ちゃま……()()様と片桐が初めて、お会いしたころを覚えていらっしゃるでしょうか?」

 

「……ああ。」

 

「その時、生涯の全てを竜弦様に尽くすことが片桐の務めという考えは変わっておりません。 片桐の命は竜弦様のもので、竜弦様の居場所が片桐の居場所です。 

 竜弦様が涙されれば……片桐の心も酷く痛みます……」

 

「(片桐……)」

 

「ですから……どうか……どうか……」

 

 ただ静かに涙を流す彼女の傘をさす手を竜弦は優しく握った。

 

「竜弦様?」

 

()()ぞ、片桐。」

 

「……はい。 竜弦様となら、どこでも。」

 

 傘を差した二人の距離が若干縮んでいたのは錯覚でもなく、確かに近くなっていた。

 

「(僕もバカだ。 こんなにも不器用な僕をこうも理解し、心配から行動をした彼女を……僕は……………………)」

 

 ここから簡略化するが、真咲は高校を卒業すると同時に石田家を出る。

 竜弦が自腹で彼女の身の回りがとりあえず落ち着くまでの援助をした。

 

 一心は霊術院で習った医学知識を使って黒崎クリニックを開いた。

 竜弦が裏で浦原といろいろ手をまわして。

 

 そこから名字を『志波』から『黒崎』に一心が変えて数年後に、真咲と一心の間に『黒崎一護』が生まれた。

*1
95話より

*2
58話より

*3
6話より




弥生(天の刃体):いい話ねぇ~

アーチャー(天の刃体):なぜこっちを見る?

作者:あ、じゃあ自分はちょっと出かけます。

アーチャー(天の刃体):逃げるのか?! 

弥生(天の刃体):ンフフフ~♡

アーチャー(天の刃体):弥生君も何故邪悪な笑みをするのだ?!

弥生(天の刃体):これでやっと二人きりに────

アーチャー(天の刃体):────心眼、発動! 全力で離脱!


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第120話 And so it Begins

お待たせしました、少し長めの次話です。

活動報告のほうで、皆さまのお力を借りたいことがあるので一度目を通していただけると幸いです。 

今後の展開や描写などに関係あることなのでぜひ、何卒よろしくお願い申し上げます。 <(_ _)>


 ___________

 

 一護、三月 視点

 ___________

 

 一心、真咲、竜弦たち三人の話を聞いた一護は微動だにせず、話の内容を必死に飲み込もうとしていた。

 

「おふくろと親父に……そんな過去が………………」

 

 三月は前からいろいろと疑問に思っていた違和感に合点がついて、逆に落ち着いていた。

 

「(うん、ちょっとびっくりしちゃうよね普通……でもこれで『浦原喜助』、『黒崎真咲』と『志波一心』の接点も分かったし、『黒崎一護』が何で虚の力があるのか解ったわ。)」

 

 またも場が沈黙に浸り、さっきまでボリボリとせんべいを食べていたチエがお茶を飲み干すとともに口を開けてその静けさを破る。

 

「なるほど。 石田雨竜と一護は又従兄弟か。 通りで似ているわけだ。」

 

 「フナァ?!」

 「ブフ?!」

 

 一護はさらに精神的な追い打ちをかけられ、変な声を出して三月が笑いを完全に押し殺す前にお茶を吹き出してしまう。

 

「う~ん、竜ちゃんと片桐さんの子ってどんな感じなんだろう~?」

 

「石田に似て捻くれていると思うぞ────?」

 

 シュドン!

 

 「────おおおうぁぁぁぁ?!」

 

 霊視で出来た矢が一心の頭上を掠って壁に突き刺さり、一心はブスブスと今にでも着火しそうな頭を濡らした手拭いで冷ませようとする。

 

「アチチチチ?!」

 

「すまない、()()()()()。」

 

 「嘘つけこの野郎!」

 

「そこのバカはさておき…これで君の生い立ちがかなり特殊なモノと理解したかね、黒崎一護?」

 

 一護はただ静かに特にどこも見ていない視線でボーっとしていた。

 

「(俺の虚の力に……そんな理由が……藍染はこのことを知っていた?)」

 

(藍染)が“初めから”と言っているのは、“君が君の母親の子宮に存在した時から”だ。 なぜなら君は“人間”と────≫*1

 

 かつて藍染に言われたことがまたも一護の脳裏に蘇り、これを横で見ていた三月はただ口周りを拭きながら様子を見ることにしていた。

 

「……あれ? けど、おふくろは滅却師なんだろ? なんで()()バケモノを返り討ちにしなかったんだ?」

 

 一護の疑問は子供のころからずっと抱えていたものだった。

 

 今までの話と一心の言ったことが真実ならバケモノ(グランドフィッシャー)は特殊な虚とはいえ、中級大虚(アジューカス)最上級大虚(ヴァストローデ)ほどの実力は持っていないはず。

 

 そう一護は思いながら上記の疑問をぶつけた。

 

「……6月17日のことか?」

 

「っ。 あ、ああ。 よく知っていたな? えーと……竜ちゃ────」

 

「────『石田先生』だ……その日なら良く覚えているさ。 その日、久しく真咲から連絡を受け取った日だからな……

 そして今になって思えば、片桐が衰弱死し始めた日でもある。」

 

「……え?」

 

 一護が『衰弱死』と聞き、雨竜の母親らしき人物が既に他界したことに戸惑う。

 

「私が真咲から『滅却師の能力を失くした』と連絡を受けた後、(かな)……()()と一緒に調べようと彼女の部屋を訪れたあの日、部屋の中で倒れていた。 彼女は『少し疲れている』と言い、そのまま私に付き添った。 『真咲様からの頼みならば』と言いながらも、調べ物を手伝った。

 突然、愚息が慌てて私の部屋を訪問し、『母が目を覚まさない』と言い、私が質問するとドヤら彼女は日に日に弱っていく容態を私から隠し、子育てと調べに業務に励んでいた……

 片桐はそのまま目を覚ますことはなく、9月に息を引き取った。」

 

 次第に一護は真咲と一心、そして竜弦の三人に視線を動かした後に席を立つ。

 

「悪い。 ちょっと……部屋に行ってくる。」

 

 そのままフラついた足取りで、一護は二階へと姿を消す。

 竜弦は当時のことを思い出していたのか、煙草を胸ポケットから出し、そのまま彼は火をつけて大きくニコチンを含んだ空気で肺を満たした後、ため息交じりに息を吐きだした。

 

「フゥ~……彼女を、私の無茶ぶりに巻き込むべきではなかった。 無理やりにでも、止めるべきだった。 自分を蔑ろにするのは分かっていたのに、どこか彼女に甘えすぎていた……」

 

「仕方ないわよ竜ちゃん……当時、貴方は医者になったばかりで病院内では新参者。 おまけに若手で周りから疎まれていた上にあの手この手の根回しで設備とかも自己負担。

 そんな貴方の力をなりたいって言ったのは片桐さん自身。 だから、()()()()()()()────」

 

「────それは出来ないよ、真咲……私は……私が『()()()()()()()()()()』を殺すまでは、出来ないッ!」

 

 約9年間、今までずっと蓋をしていた憎悪とともに竜弦の霊圧が一瞬だけ物理的な『小規模な地震』として表現された。

 

「……(『封じられた滅却師の王』? なにそれ?)」

 

 だが三月はそれよりも聞き覚えのない単語を聞いて、思わず尋ねるところをグッとこらえた。

 

「……でだ、君たちはこのことをどう思う?」

 

 竜弦が目を細めさせながら三月とチエを見る。

 

「はぇ?」

 

 急に話題を振られた上に、竜弦のことが()()苦手な三月は目をパチクリとした。

 

「………………………………………………………」

 

 チエといえばただ静かに三月を見て、このことに三月は()()焦った。

 

『どうする三月?』

 『私にどないせぇちゅうねん?!』

『口八丁のお前ことだ。 何かとポンポンと出すだろう?』

 『無いわよ! どこぞのネコ型ロボットよ?!』

『たまに訳の分からない事を口走るな。』

『誰の所為だと思うてんねんこの子は……』

『それこそ自業自得だろう?』

 絶対にちゃうがな?!

 

 三月は内心、大きなため息を出しながら竜弦の視線を返さず目を手で覆う。

 

「その……昔に真咲さんからある程度聞きましたけど……詳細を聞くと、いろいろと一護のことが納得できるというか……放心しちゃいそうというか思わず『どれだけやねん』ってツッコみそうになるというか……」

 

 ちなみにこれははぐらかしなどでは無く、本心である。

 

「そうか。 君は?」

 

 今度は竜弦の矛先(視線)がいまだに静かなチエに向けられた。

 

「……私か? その『封じられた滅却師の王』とやらが真咲となん関係があると聞きたいところだな。」

 

「相変わらずチーちゃんド直球?!」

 

「……滅却師には言い伝えというか、伝承がある。

『封じられし王は900年を経て鼓動を取り戻し、

 90年を経て理知を取り戻し、

 9年を経て力を取り戻す』、と。 

 もし、『封じられた滅却師の王』が稀に聞く『力の受け渡し』が可能ならば恐らく、自らの力を取り戻すために自らが『不浄(ふじょう)』とみなした滅却師の能力を奪い取ったと思われる。」

 

 これを聞いて三月はダラダラと内心で汗を流し始めた。

 

 なぜならこの『封じられた滅却師の王』に心当たりがあったからだ。

 

「(というかそれってあの『凄い髭&モミアゲ』の奴じゃない?)」

 

 それは復興中の尸魂界で、マユリからの強引な勧誘(誘い)から逃げている間にチエとともに偶然にも迷い込んだ空間で会ったユーハバッハのことだった。*2

 

 言わずとも、これがきっかけで彼女は色々と苦労することになったのだが……

 

 ポテト(ハッシュヴァルト)とかロバ(ロバート)とかディズニー(バンビーズ)たちとか。

 

 とか(x3)。

 

「(………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………うん。 思い結びつかなかったことにしよう。)」

 

 彼女にしては長い脳内での『自己問答』の末に、『放置』することを選んだ。

 

「そうか。」

 

 チエは逆に冷静だったのか、席を立ってそのまま外へと出る。

 

「(う~ん、意外。 チーちゃんが出かけるなんて。)」

 

「邪魔するぞ。」

 

 その時、日番谷が二階へと通じる階段から降りてくる。

 

「おおおおおお! 元気にしていたかh────」

 

 ドッ!

 

 日番谷に挨拶しようとした一心にほぼノータイムで強烈なドロップキックが彼の顔面にさく裂した。

 

「────アブレアアアァァァァ?!」

 

 ドゴォン

 

「うし。 まずは俺の分。」

 

 一心がそのまま吹き飛ばされたのを見届けた日番谷は腕を回しながらスタスタとまたも近づいていく。

 

「へ?! ま、待った! タンマ! 今のでチャラに────?!」

 

 ドゴ

 

「────アグラァァァァ?!」

 

「なるわけねぇだろうがこの野郎! 今のは乱菊の分だ!」

 

 顔を今度は容赦一切なしのグーで殴られた一心が痛みを紛らわそうと、顔を手で覆いながら床をゴロゴロと動く。

 

「えっと……」

 

「恐らくは死神としての知り合いだろう。」

 

 日番谷が見えない真咲は突然の出来事に目を白黒させると、横から竜弦が情報を足す。

 

「あらぁ~、これは遠路はるばるご苦労様です~。 お茶や菓子などはいかがでしょうか?」

 

 見えない相手でも客人としてもてなすことを真咲は声を出す。

 

「いや、いい。 そいつと渡辺元隊ch────もう一人の渡辺に急用なんだ。」

 

「へ? 私?」

 

 三月が自分を指さすと日番谷がうなずく。

 

「ああ。 藍染の部屋から()()()()()が見つかったんだ。」

 

「なーんか『今更感』があるんだけど? それになんで私たちに声がかかるの?」

 

「……………見つかったのは()()()だ。 そこに、妙なことが書かれてな? お前たちに声をかけることにしたんだ。 書かれたのは────」

 

 日番谷の言った言葉に、三月が初めて表に出した動揺で目を見開いて立ち上がったことにその場にいた者たち全員が驚愕した。

 

 

 

 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

 自分の生い立ちと、おふくろと親父、そして石田の親父の昔話とか聞いて蒸発しそうな頭を冷めさすために、俺は二階の部屋からコンを使って死神になり、空座町へと出ていた。

 

 ちょうど、日課でいつもの組み手をする小野瀬(おのせ)川と空須(からす)川に分裂する場所の土手にいた。

 

 別に深い意味はなく、ただ体を動かしたかっただけだ。

 

 その日はちょうど、自主トレする竜貴は居なかったから好都合だ。

 というか『あの夜』での一件以来、アイツはチエと距離をとっている。

 

 今、何しているんだろう?

 

 アイツの事だから道場は俺みたいに辞めないし、今でも頼まれているから多分なるだろ。

 師範代に。

 

 ………………………………………………アイツが師範代になって、俺がまだ通っていたら『先生』と呼んでいたかもしれん。

 

 通うの、やめてよかったぜ。

 

 一護は『竜貴先生(師範代)』の下で、『ドヤ顔をされる+こき使われる+新しい技を一方的に受けるモルモット』が容易に想像できて身震いをした。

 

「一護。」

 

 背後から声を掛けられて、振り向くとチエが立っていた。

 

「付いて来たのか?」

 

「ああ。」

 

 そこで俺はハッと、とあることを思い出す。

 

「な、なぁチエ? もしかしてだけどよ?」

 

「ん?」

 

「前にお前が言っていた『気付いていないのか?』って……………もしかして、おふくろ(滅却師)絡みのことか?」*3

 

「…ああ。」

 

 あ、口どもったな。

 しかもその一瞬だけジト目になったし。

 

「「………………………………」」

 

 川のせせらぎ、そよ風に揺らされてこすり合う草の音、そして時々近くの川沿いの道路を走る自動車の音だけが周りから聞こえた。

 

 スッ。

 

 って、ナンデソコデ背負った竹刀を構エテイルノデショウカ渡辺サン?

 Why(ホワイ)

 

「構えろ一護、せめてもの慈悲だ。」

 

「ッ?! ちょ、ちょっと待ってくれよ?!」

 

「何を慌てている? ()()竹刀の状態だぞ?」

 

 ()()が竹刀を使うとシャレにならねぇんだよ!」

 

『シャレにならない』というのは言葉通りの意味。

 何せ『竹刀』と外見を偽装していても、中身は鞘に入った真剣の刀。

 

 質の悪い鈍器にも似た威力を持っている。

 

 その場を埋めたのは既に何度も味わったモノで、間違いようがない空気(感覚)

 ドッと汗が体中から出る。

 反射的に斬魄刀……ではなく、背中の竹刀を手に取っていた。

 

「(マジかよ?!)」

 

 その感覚とは『戦場』などで感じ取れる『緊張感』。

 しかも冗談をほとんど言ったこと……いや、そもそも冗談染みたことを意図的に言ったことがない堅物が前に居た。

 

「(来る?!)」

 

 一瞬だけ空気が感覚的に緩んだ瞬間、横目でブレたチエの姿が見えて反射的に竹刀で左側の首から脇をガードする。

 

 ドッ!

 

「グッ?! (クッソ重い!)」

 

 次に右からくる危機感に視線をそっちに移らせるとローキックが既に向かってきていた。

 

 ミシッ。

 

 未だにしびれる腕を動かしたが到底間に合わず、嫌な音が耳朶に聞こえてきて『あ。 やっぱこいつマジだ』、という考えが呑気にも俺の脳裏を過ぎった。

 

 そして当たり前だけどマジ()()

 

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 

「(む? おかしい、いつもの調()()()()()だと?)」

 

 そんなことを考えていると、一護がよろけながらも左手に持った竹刀で反撃してくるのを躱して距離を取り、そのまま彼を攻撃していく。

 

 無論、なるべく死に直接繋がらない部位などを狙っている。

 

 が、違和感は上がる一方だった。

 

 何度一護を痛めつけても、()()()()()()()()ことに。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 時間はさらに過ぎていき、ここまで来ると流石の奴も身の危険を理解したようで今は真剣な顔をしていた。

 

 よほど疲労したのか、汗が滝のように流れ、肩で息をするほどだ。

 

 …………よし。

 ならば()()致命的な場所を狙うか。

 

 私が竹刀を水平に構えると、一護の目つきがさらに変わる。

 

 ()()()()か、それでこそだ。 

 

 さて。 

 今ここで一護に致命的な傷などをつければ、三月の奴に()()どやされるな。

 ……『狙い』を言うとするか。

 

「いいか、一護。 私が今から狙うのはお前の『()()()()』だ。」

 

「ッ?! ど、どういう……いや、なんで教え────?」

 

「────今から繰り出すのは()()()突きだからだ。 行くぞ────」

 

「────待っ────!」

 

「(────『弐ノ型・極点(きょくてん)』!)」

 

 

 

 チエが内心でそう自分に言い聞かせると同時に、二人の傍にあった川の流れが変わる。

 変わるといってもまるで水がゼリーのようにうごめき、よく見れば周りの景色もかなり速度を落としたかのように動いていた。

 

 そんな中、チエはスライドするかのように地面の上を力強い一つの踏み込みで移動し、その間にも一護も遅くだが反応はしていて、無理やり両腕を上げていた。

 

 が、一護の動くスピードはチエと比べるとはるかに遅かったのは彼自身も気付いていた様子で彼は必死に目をつむるのを我慢して大胸筋(だいきょうきん)を出来るだけ(きた)る衝撃に抵抗しようと筋肉を力ませていた。

 

 ドッ!

 

「カッ?!」

 

 チエの攻撃が当たった瞬間に重い、低い音が出る。

 

 例えると誰かが金槌(かなづち)で大木を思いっきり叩いたようなモノで、それ相応の痛みも伴うのは明確だったが、一護の意識は既に途絶えていた。

 

 竹刀をがっちりと手で握っていたのは最後の意地だろう。

 

 ………………………………………………多分。

 

「(これだ。 この感覚だ。)」

 

 チエは()()()腕、手首の()()、そして()()()()()()()()()の肩に注目しながら上記を考え、満足していた。

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あ。」

 

 ドボォン!

 

 ゆえに一護とチエがそのままの勢いで、空須(からす)川の中へ飛び込むことに気付いたのは事が起こった後だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ぶえっきし!」

 

 場所は太陽が沈み始めた空座町、黒崎クリニックへの帰り道と移る。

 

 そこではびしょ濡れのチエがこれまたびしょ濡れで意識が戻った一護がくしゃみを出した。

 

「チエ! テメェ、さっきのは何だったんだ?!」

 

 一護は盛大にブチ切れていた。

 

 無理もないが。

 

「気は晴れたか?」

 

 ビキ。

 

「『気は晴れたか?』、じゃ! ねぇだろうがゴラァァァァ?! 『あ、これ死んだな』と思ったぞ?!」

 

「だが死んではいないだろう?」

 

 ひ・ら・き・な・お・る・な。

 

「ちなみに私はお前の胴体を貫くつもりで突いたぞ。」

 

 「『ちなみに私はお前の胴体を貫くつもりで突いたぞ』、じゃあるかボケェェェェェ!!!」

 

 どこの誰かに似てきたのか、一護が手でチエの頭を叩くために振る。

 

 スカ。

 

 が、KY(空気が読めない)チエはこれを躱す。

 

「遅いな。」

 

「そこは素直に叩かれろよ! 空気読め!」

 

「空気を読んだからこそ避けられたのだが?」

 

 「そっちじゃない。」

 

 そうしている間に二人は黒崎クリニックに着くのだが……

 

「すまん、邪魔するぞ二人とも。」

 

 玄関先で目を丸くした夏梨と遊子に会い、次第に二人は慌て出した。

 

「「どうしたのチー(チエ)姉ちゃん?!」」

 

 勿論、夏梨に死神姿の一護は見えたがどちらかというと遊子と同じでずぶ濡れのチエに驚いていた。

 

「あら、どうしちゃったの?!」

 

 双子の慌てる声を聴いて急いでその場に出てきた真咲が事情を聞くとチエは考え込んだのか、沈黙数秒後に口を開ける。

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………川に落ちた。」

 

 この全く説明になっているようで、なっていない答えに疑問を持ったのは夏梨だけらしく、真咲や遊子は二人の体が冷え込まないようにせっせと動いた。

 

 ちなみに夏梨の疑問とは────

 

「今チー姉ちゃんって、説明を省いただろ?! だめだぞ、あの褐色のオッサンみたいになるのは!」

 

 ────という、()()ズレたものだった。

 

「『褐色のオッサン』と茶渡が聞けば『せめて褐色の兄さんと呼んでくれ』とでも言いそうだな。」

 

 ここで夏梨は何故かギョッとし、目を泳がせながら明らかに動揺し始めた。

 

「え、え、ええええ? そ、そ、そ、そんなことを言われたことは無いとも言えないけどぉ~?」

 

「「???」」

 

「な、なんだよ?!」

 

 これに姉の遊子と、母である真咲が意外そうに夏梨を見たことに彼女は声を荒げた。

 

「そうか。」

 

 そんな状況を作り出したことを全く理解していないのか、どこ吹く風のようにチエは渡されたタオルで髪の毛と体を拭いていく間、夏梨はいそいそと横を素通りしようとした一護の脇に肘打ちを食らわせる。

 

「ゴフゥ?!」

 

 「何してんのさ一兄?! チー姉ちゃんをずぶ濡れのままにするってどういうことさ?!」

 

「い、いやこれってどちらかというとアイツの所為────んぐ。」

 

 夏梨の全力ジト目に一護は口を閉じた。

 

 その間チエは居間に入り、眼鏡をかけなおしながらとある特務機関の総司令ポーズ悶々と考え込んでいた三月を見つける。

 

 いつもはおちゃらけた様子の彼女が、このように真面目な顔をして塞ぎ込むのはチエから見れば相当珍しく、彼女から先に話しかけるのを待ったほどだった。

 

 やがてチエの気配(存在)に気付いたかのように、三月は真剣な表情のまま口を開けた。

 

「チエ。 新しい情報が入った。 私はすぐに瀞霊廷に行くつもりだから。」

 

「そうか。」

 

 三月の切羽詰まったような、きつい口調にチエはただ短い返事をするが……

 彼女の次に言うことにチエでさえも僅かにだが、驚きから目を見開くこととなる。

 

 それは『藍染の部屋で発見した書類で世界のことを変な単語で言及していた』と、日番谷から聞いた内容。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『BLEACH』、と。

*1
95話より

*2
42話より

*3
107話より




ピコーン♪

平子:ん? なんや今の音は?

ラブ:『フラグ』って奴じゃね?

ひよ里:そんなん今更やないか!

作者:えっと────

ラブ:────今のはたぶんアレだ。 『ノベルゲー』での『好感度アップ』の奴だ。

ローズ:なんでそんなこと知っているんだいラヴ?

ラブ:リサに聞け。


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Middle Adulthood - 『■■□□戦■篇』
第121話 The Tide Rises


お待たせしました、風邪気味でなかなか進まなかったので短いですが次話です。

楽しんでいただければ幸いです。

そして現在と過去のアンケートともどもご協力誠にありがとうございます。 

過去の回答にも目を通しておりますので参考にしております。

12/22/21 8:25
誤字修正いたしました。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 さて。

 三月とチエが瀞霊廷に急行している今、時と視点をほんの少しだけ一時的に戻そうと思う。

 

 それはちょうど、日番谷冬獅郎が上記の行動に出させた衝撃的な報告を浦原喜助が山本元柳斎重國にしていた場だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「お待たせしました総隊長。 結果はやはり、涅サンと同じでした。」

 

 通信モニター越しの山本元柳斎が一息入れ、浦原の真剣な顔見てから言葉を続けた。

 

『……それは…いや、お主の顔を見れば真か……』

 

「この事実かもしれない情報を踏まえ、総隊長は如何なさいますか?」

 

『………………このところ目まぐるしいほどに腕が上がるとともに精神が成長しておる日番谷隊長を送る。 他の者を送っては要らぬ印象を与えるかもしれぬ。

 その間、段階的にこちらで技術局が調べた情報とお主の立てた仮説を前もって隊長たちにも公開する。

 そして、お主も()()()の時に備えよ。』

 

 浦原の眉がピクリとここで反応する。

 

『お主は昔から二手、三手以上に物事を考えて策を練るのが上手と四楓院夜一がよく言っておった。 今は違うかの?』

 

 浦原は気まずくなったのか反笑いを浮かべ、押さえるように帽子のツバが彼の眼を覆う。

 

「……ま、僕はただ()()()()()()()()ですからね。 『備えあれば患いなし』と世論は言いますが、僕は『千の備えの中、一つ使えれば上等』と思っています。」

 

『そうか……では“現世”での事と滅却師の監視、異常があれば逐一報告をせよ。』

 

「ええ、承りました。」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 日番谷冬獅郎は総隊長に呼び出され、任された大役は『藍染惣右介が書いた書類に乗っていた単語を、渡辺姉妹に伝えること。 そしてもし瀞霊廷に来たいと申せれば尸魂界まで護送せよ』だった。

 

 彼は不服ながらもこの任を遂行する次いでとして、何かと自分と会わないように立ち回った元上司(一心)に積年の恨みを晴らした後に伝えるべきことを伝えた後はさっさと戻って以前よりさらに仕事をサボるようになった乱菊の業務を、何かと十番隊舎の隊長室に来る雛森と共にしようと思っていた。

 

 何せ『BLEACH(ブリーチ)』という、日番谷にとっては意味不明な単語を聞いた彼女の顔色は一瞬で色が変わったのを『どこか交通信号みたいだな』と思ったほど、小さいほうの渡辺(三月)の反応が予想外だった上に山本元柳斎の『もしも』で言った『瀞霊廷に来たい』という頼みをほぼ即時にお願いしたことで、日番谷の興味がさらに湧いた。

 

 

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

空振り氷輪丸(日番谷)』と一緒に尸魂界へ移動している今でも、はっきりと覚えている。

 

 彼の『藍染の部屋から出てきた書類に乗っていた』と言われている単語に、私の思考が初めて完全に止まったことを。

 

前の世界(Fate/Zero)』でも、『さらに前の世界(Fate stay/night)』でもそんなことは無かった。

 

『BLEACH』。

 

()()()()』を示す言葉が、よりにもよって『藍染惣右介』という掴み処のない野心家の彼の書物から出てきたことに考えが一瞬止まり、体内で流れていた血が一気に全て冷水に変わったように凍えるような冷たさで体が満たされ、震えだすのを必死に意識して止めた。

 

「…………………ッ。」

 

 っと、いけないいけない。

 思わずこけそうになったよ。

 

 私は力が抜き始めた足を意識して足取りを戻し、眉毛を片方だけ上げてこちらをうかがう『空振り氷輪丸(日番谷)』の眼を見て確認をする。

 

「すみません日番谷隊長、本当に瀞霊廷へこのまま行ってもいいですか?」

 

「これで何度目だ? いいに決まっているだろ? でなきゃ、地獄蝶を二匹も用意していねぇよ。」

 

「……そうよね、ごめん。 ありがとう。」

 

「おう。」

 

 どこかふて腐れ気味の『日番谷冬獅郎』に、本心からの言葉を伝えながら愛想笑い(営業スマイル)をすると彼はそっぽを向く。

 

 う~ん、この『癖』は思わず炸裂するから()()別の投影(トレース)をする必要があるかな?

 

 でもあれって思っていたよりかなり()()するからデメリットが大きいけど……

 使()()()()よりはマシだからしょうがない、か。

 

 でも、本来では死神だけが使うのを許可された地獄蝶が『日番谷冬獅郎』の一匹分だけじゃないとなると……帰り道は『同行者』を想定していたということ?

 

 ……うん。

 やっぱり投影(トレース)したこの『癖』()どうにかならないかしら?

 目前からの逃避はやめようと思い、気力で。

 今は『藍染がBLEACHを知っていた』ことに考えを専念しよう。

 

 そう来ると様々な想定が浮かぶわね。

 

『いつから?』、『何を根拠に?』、『第三者の入れ知恵?』、そして『知っている』と仮定するならば『()()知っている?』。

 

 一応それとなく聞いてみるか。

 

「日番谷隊長。 その書類とは何時書かれたものかもう判別しておりますか?」

 

「いや、俺は何も聞いちゃいねぇ。 俺も総隊長に言われてこの情報を共有しているだけだからな。」

 

 日番谷のそっけなく、短い即答をもとに色々の仮説を立て始める。

 

「(なるほど……ならタイミングとしては『崩玉を手に入れた後』っぽいわね。 

 でなければもっと上手く立ち回わったり、もっと早く行動を起こしていたはず、最悪……『朽ち木ルキア』と『黒崎一護』と接触して『崩玉入りの義骸』を手にした直後とか、『尸魂界から逃げた浦原』の居場所を瀞霊廷に漏らし、二組が衝突しているどさくさに紛れて浦原商店から崩玉を盗んだり────)」

 

「────着いたぜ。」

 

 考え事は穿界門(せんかいもん)に着いたことを知らせた日番谷の言葉で一旦その部分に関しての並列思考に一時停止(ポーズ)をかけた。

 

 もし直接聞けるのならそれが一番なんだけど……

 

 山じいちゃんと頭でっかち共(四十六室)が面会の『OK』を出すのはちょっと想像できない。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ええぞい。」

 

 ああ、やっぱりそうなるわねぇ~。

 

 「って、ええんかい?!」《xbig》

 

「おお、お主はやっぱりツッコミ役じゃな。」

 

 アカン。

 めっさ右之助ジジイの愉快そうに笑う顔にチョップを食らわせたいわ。

 

 こらえろ!

 こらえるんだ!

 

 深呼吸イッチニ。

 

「実はの? ワシら護廷も藍染に訪ねたいことがあるんじゃよ。」

 

「(『訪ねたいこと』、ね。 恐らくだけど『BLEACH』に関してのことね……慎重にならないといけないわ)」

 

 そう思いながら、これからどうするべきか考えを張り巡らせた。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 山本元柳斎が立ち上がり、近くにいた雀部に地下へ行くことを伝える際に隊長室を少しの間だけ任せることを言ってから、一番隊舎の奥へと歩き出す。

 

「やぁ、山じいに三月ちゃん。 今から真央地下(しんおうちか)なら付き合うよ。」

 

 そこまで距離を歩いていないうちに京楽が二人に挨拶をする。

 

「京楽……お主()()抜け出しおったな。」

 

「えっと……なんか顔が凄いことになっているけど?」

 

 三月が言ったことは何も不思議なことではない。

 

 京楽の顔は少々やつれているように見えた。

 

「アッハッハッハ! そうなんだよねぇ~……リサちゃんってば七緒ちゃんの人気(真面目)っぷりに感化されたのか、二人とも張り合うようになってさぁ~? ()()()()困ったことになっているんだよねぇ~? いやもうホントにどうしたモノか……

 

 

 余談だが上記で彼が言っ(呟い)たように、リサ(元副隊長)七緒(現副隊長)の徹底&生真面目な仕事ぶりで隊のほとんどの業務を一人で任されていることを知り、実際に彼女に京楽が依存していたことを知る。

 リサは『馴染みに手を貸す』という体で気密性の低い業務の何割かを受け取ったのだが、どうしても後れを取ることとなる。

 

「あら。 矢動丸副隊長、大丈夫ですか? ゆっくりと休んでいいのですよ? リハビリなどをご希望ならばちょうど六番隊の敷地に立派な訓練場がありますよ?」

 

 それだけならばまだしも、どこか苦戦するリサに上記のどこか七緒のトゲトゲしい物言いにイラっと来た彼女は気持ちを新たにした。

 

「ウチを馬鹿にすると早え度胸や小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! やぁぁぁぁぁってやるでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 このこと自体、護廷としてならば良いことかも知れない……のだが、肝心の隊長でサボり魔の京楽にとっては寝耳に水。

 

「というワケでとっとと出かけるで京楽!」

 

 七緒の効率的な『業務作業』と競うかのように、リサは体を使った作業に力を入れ始めた。

 

「えええぇぇぇぇぇぇ? 急に真面目ぶってどうしちゃったの? 冗談はヨシコさん────」

 

 《x》ドッ!《/x》

 

「────ドハァ?! い、痛いじゃないのリサちゃん?!」

 

「つべこべ言わへん! とっとと広い場所いくで?!」

 

「ん~、日向ぼっこするなら敷くものと酒が欲しいなぁ~……なぁんて?」

 

「おう、心配しとかんとき。 もう手配しておる。」

 

 この場を見た隊士たちは思わず『尻に敷かれる恋人以上、夫婦未満』を連想したそうな。

 

 

「あれ? 君がここにいるのは意外だな、京楽?」

 

「ああ、浮竹かい……君の副隊長、ルキアちゃんと僕のリサちゃんか七緒ちゃんのどちらかと変えてくんないかな? このままじゃ僕の体が持たないよ。」

 

「それはある意味『自業自得』だよ、京楽……」

 

「まったくじゃ。 鍛錬をおそろかにしおって。」

 

「ガクッ。」

 

 こちらも余談なのだが海燕が瀞霊廷に戻り、検査を受けて『異常なし』のお墨付きをもらい、十三番隊にサプライズとして彼がルキアに付き添うと彼を覚えている隊士たちは驚愕……を通り越して即気絶する者たちが出た。

 

 海燕亡き後、副隊長業務などを引き継いだ三席の小椿仙太郎(こつばきせんたろう)と四席の『虎徹清音(こてつきよね)』が死んだはずの本人が戻ってきたと知った瞬間、猛烈なタックル染みたハグをかましながら号泣した。

 

 海燕からエキトプラズム的な魂魄が抜け出そうとするのを強引に戻したルキアはこのまま浮竹に『サプライズをしよう!』と息巻いていたのだが……肝心の浮竹はもうすでに白哉から聞いており、『逆サプライズ』を用意していた。

 

「よ。 浮竹隊長。」

 

「やぁ海燕、おかえり!」

 

「「「「へ。」」」」

 

 しめしめと内心で笑っていた浮竹以外の者たちに、浮竹は平然と言葉を返してことに浮竹はニコニコしながら副官章を渡す。

 

「…………………へーいルキア! イェーイ!」

 

「い、イェーイ?」

 

 変なテンションでハイタッチをしてくる海燕にルキアもハイタッチを返すために手を挙げると、海燕がそのまま副官章を彼女の手に無理やり握らせた。

 

「というワケでパス。」

 

「……………………………《xbig》ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?!」

 

 ポツンと目が点になったルキアの叫びは瀞霊廷中に響き、六番隊舎から白哉が飛んでくるほどだった。

 

「(へぇー。 なんか色々と忙しかったんだなぁ~。)」 ←原因のお前が言うな

 

 そんな話を聞いた三月は、のほほんとしながら『原因のお前が言うな』テロップを払いながら歩き続けると次第にほかの隊長たちの何人かが待っていたかのように所々で合流し始めた。

 

「(こうなると遠足みたいね。)」

 

 上記で記入した山本元柳斎、日番谷、浮竹、京楽のほかに狛村、砕蜂などもいた。

 

 構成のメンバーがメンバーだけに、『遠足』はかなり不釣り合いなグループとここで一言入れておきたい。

 

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 すでに四十六室の許可があったのか、部外者であるはずの三月だけでなくほかの隊長たちもすんなりと一番隊舎の地下にある『真央地下大監獄(しんおうちかだいかんごく)』への入場許可が看守たちから降りていた。

 

 最下層にある『無間』へと長い階段を下りていく間に、三月の胸からくる脈はどんどんと強く、早くなっていく。

 

 ドッ。 ドッ。 ドッ。 ドッ。 ドッ。 ドッ。

 

 最初こそ彼女はこれを『緊張感から』と処理していたが、次第に強くなっていき彼女の耳朶に直接響くまでなっていた。

 

「(これは『緊張感』()()じゃないわ。 この胸から徐々に体が冷たくなっていく感覚……これは……『不安』?)」

 

 ドッ! ドッ! ドッ! ドッ! ドッ!

 

 次第に冷たい感覚は体中を巡り、それとは違う吐き気が遅いはじめ、三月の息遣いは次第に浅くなり、額から出た汗が頬や首へと伝っていく。

 

「……三月ちゃん、大丈夫かい? 寒いのかい? 顔色、かなり悪いよ?」

 

 それを横目でチラッと見て声をかけた京楽に、彼女は少し無理をして笑顔を向けた。

 

「ええ。 ()()()冷え性持ちですので、こういった暗い地下へ通じる洞窟の中は()()苦手ですので。」

 

「……ふーん。」

 

 そのまま階段を下りて、『無間』へ近づく度に釣れて体中の髪の毛がゾワゾワするような感じも付け足される。

 

「(なになになになになになになになに? なんなの、『コレ』? こんなの、初めて……()()()()????)」

 

「ここじゃ。」

 

 彼女はこの感覚を、どこかで体験したような違和感に落ちては思い出そうとした瞬間に山本元柳斎の声によってその考えが遮られる。

 

 三月が顔を上げると、大きくて頑丈そうなドアからわずかに()()()()が漂ってくる。

 

 そう、それはまるで()()を水で薄めたような────

 

「(────ん? 待って。 これって?! この匂いって────?)」

 

 三月が考え込んでいる間に山本元柳斎は様々な南京錠のようなものが埋め込まれていたドアのカギを解除していて、すでに錆び始めた金属同士がこすれる音と共にドアが開き始めていた。

 

 そしてドアが開けば開くほどに、先ほどの甘ったるい匂いが急激に強くなっていく。

 

「────待って! この()()()! これは『()()』なんかじゃないわ! 早くドアを閉めて────!」

 

「────『匂い』、だと?」

 

 三月の叫びに、近くの誰かがまるで彼女の言った匂いに気付いていない言葉が漏らされるとほぼ同時に、わずかに開いたドアからドバっとドス黒い()のようなものがその場一帯を飲み込むように広がった。

 

 同時に、尸魂界全体に小さな地震が発生した。




ギルガメッシュ(バカンス体):なんだ、我が来てみれば誰もおらんではないか?!

ギルガメッシュ(天の刃体):そう荒れるな我よ。 まずは酒などどうだ?


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第122話 Operation Weserübung

お待たせしました。
前話が短かったので、今回は長めの次話になるよう頑張りました。

ここからかなりバタバタしますので、ご了承くださいますようお願いします。

別作品、『天の刃待たれよ』からのネタも多少出てきますがそちらを読んでいなくても通じるように努力をしました。

12/24/21 7:55
誤字修正いたしました


 ___________

 

 一護 視点

 ___________

 

『井上! ルキア! チャド茶渡! 石田────!』

 

 まただ。

 

『────浦原さん! 夜一さん! 恋次! 白哉! 冬獅郎────!』

 

 またこの夢だ。

 

 以前見た奴の続きみてぇだ。*1

 

 今度はハッキリと、廃墟になったような空座町が見えた。

『天鎖斬月』に、『最後の月牙天衝』を会得する俺の精神世界とはちょっと位置が違った。

 

 いや。 よく見ると空座町の高層ビルや街並み、尸魂界の山、それに虚圏の砂漠っぽいのがチラホラ見える。

 

 『誰も、誰も居ねぇのかよ?!』

 

 知人たちの名前を叫び呼んだ夢の中の俺は、息が完全に切れる前に叫んでからおぼつかない足取りを止めて、とうとう膝を地面について崩壊する涙腺に両手を当ててから、ただみっともなく泣き崩れた。

 

 ……夢の中とはいえ、ちょっと恥ずかしいな。

 

『クソ! クソがぁぁぁぁ! 俺は……俺は一体……何の為に……』

 

 視界がぼやけて、地面に雫がポタポタと落ちていく。

 

 あー、マジにハズイ。

 

『────?』

 

 そこで背後から()()が聞こえた。

 

 いや……『声』は確かに聞こえている筈なんだが、何かが妨害しているのか『言葉』は上手く聞き取れなかった。

 

 こう……

 海外の映画を見るときに出る字幕が頭の中にスルリと入りこむような……

 それであって聞きなれない言語だから理解できないような……

 

 

 ゾワッ

 

「ぬお?!」

 

 急に寒気がして俺は目が覚めた。

 

 額に残った汗を拭いながら時計を見るとちょうど午前一時を示していた。

 

「マジか……クッソ、部屋の中がムシムシするぜ。」

 

 よほどなのか、汗でからd中の寝巻がびっしりと肌にくっついていたので窓を開けた瞬間、何かが俺の顔面目掛けて飛んできたのを反射的によけた。

 

 ヒュッ!

 パァン!

 

「ぬあ?! なななな何だぁ?」

 

 部屋の壁からの衝撃音で振り向きながら強烈なデジャヴ感が俺を襲う。

 

拝啓、黒崎一護へ

 大至急浦原商店へ来られたし。

 

「やっぱり前に夜一さんと初めて会った日の『惨殺現場のダイイングメッセージ』じゃねぇか?! しかも今度はもっとグロいし! どこぞの『サイレントな丘』かよ?!

 

 ……って待てよ?

 そういや、あの時も追伸があったよな?

 

追伸────』

 

 ほらやっぱりぃぃぃぃぃ!!!

 でもさすがの浦原さんも現世のテレビゲームには疎いはずだろ?!

 ゲームするような奴じゃないし!

 

『────このメッセージを見て、

 どこぞのホラーゲームだと思った人は

 ハッキリ言ってゲームのし過ぎっす♪

 

「(ムカッ。) やっぱそういうオチかよチクショウが?!」

 

追伸その二

 これで頭が覚めたのならば上々。

 冗談は抜きにして尸魂界で異常事態が発生している模様、今すぐに来られたし。』

 

「……異常事態だと?」

 

 俺は急いで死神化してからすぐに向かった。

 

 昨日、顔を真っ白にさせていた三月が急に来ていた日番谷とそのまま尸魂界に出かけたこともあってか、嫌な予感がしまくった。

 

 何気に『初めて見る』といっても過言ではないほど、酷い(ツラ)だった。

 普段のアイツは体がちいs………………………………………………………………

 ………………()()のことも関係していたのか、見た目と不釣り合いなほど余裕を持っているというか大人ぶっていた。

 

 いや待てよ。

 アイツは確か『見た目と年齢が合わない』って言っていたよな*2……

 うーん、地味に気になるけど今は蒲原サンが言った『異常事態』が気になる。

 

「あ! そういや部屋に撃ち込まれたペンキ弾そのままだった!」

 

 慌てて出たのが仇になった……

 そうだ、親父にメッセージを打っておこう。

 

「器用だな一護は。」

 

フオォォォォ?!」

 

 背後から急に声をかけられてワタワタと落としそうになった携帯をチエが受け拾う。

 

「急に声出すなよ! 気配も消すな!」

 

「たるんでいるぞ一護。」

 

「……あー、ハイハイそうですよ! てかお前も浦原さんに呼ばれたクチか?」

 

「さすがに風呂場の窓を突き破られては髪を洗っていたとしても気付くからな。」

 

「まさかの入浴中に?! (狙ってやったのか?! 浦原さんならありえなくも……い、いや……偶然ってことも────)」

 

「────しかも的確に『トリートメント剤』がもっと合う物もすすめられていた。」

 

 「しかも確信犯かよ?!」

 

 なんとなく久しぶりのやり取りをしている間に浦原商店につくと、すでに人型になっていた夜一が俺たちを待ち構えていたように玄関先に立っていた。

 

「来たか。」

 

「『異常事態』とはどういうことだ夜一殿?」

 

 俺が口を開ける前に知恵が本題の話題を訪ね、夜一さんが似合わない神妙な顔をする。

 

「ワシも浦原から少し聞いただけ故に詳細は分からん。 じゃが『浦原ツタエール特別弾』を投げる前にチラッとだけ聞いたほどじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『瀞霊廷に藍染の霊圧が補足された』、と。」

 

「藍染の────」

「────霊圧────」

「「────が瀞霊廷に……だと?」」

 

 俺とチエの声が最後にハモり、彼女はどうか知らないが俺は放心しかけていた。

 

 

 

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

 

「(『藍染が再度、瀞霊廷に現れる』という記録は三月の『情報』には無かったな。 どういうことだ? 『完現術(フルブリング)』とやらの騒動で一護が死神の力を重国たちから託されたことで『()()()』では無かったのか?)」

 

 唖然とする一護を横目で見ながらそう思った。

 

「そ、それは────」

 

「────浦原がワシに言ったのは『瀞霊廷で藍染の霊圧補足』。 それとその場所が『()()()()()()()()』、おそらくは藍染が投獄された真央地下大監獄じゃろう。」

 

『一番隊隊舎』と聞き、わずかに焦る気持ちが思わず胸に出てきそうなのを無理やり押し込む。

 

「…そうか。」

 

 私はそう言うしか無かった。

 

 

 ___________

 

 『渡辺三月 視点

 ___________

 

 

深刻なエラー発生。 精神汚染との接触により、生体活動の一時停止。 プロトコールに準じた蘇生を行います。

 検索……検索……検索……

 仮想肉体から魂と精神の離反により生体活動の一時停止を確認。

 仮想肉体の損傷、腹部破損。 緊急度、中。 再起動と並列に修理を行います。

 魂と()()精神の接続、および同調中……

 完了しました。

 

 …………………………………………………………………………………………………………

 はて? 何が────ぐぎゃあああああああ?! 目がシパシパするぅぅぅぅぅ?!

 お腹が痛いイイィィィィィィィィィィィィィィ?!

 あああああ! これって『もしもの時の為』に仕込んでおいた自動蘇生かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 

(おそらくは)死んでいた目に光が戻り、声に出せない叫びを内心でする。

 目に映るものは黒い景色が一面。

 上、下、右、左といった方向性が無くなったような感覚。

 

 

生体活動の再起動に移ります。

 心臓部付近の細胞を筋化し、心臓マッサージを開始。

 

 ドグンッ!

 

 ぐああああああああ!

 きッッッッッッッッッッッつい!

 まるで誰かに容赦ないアバラをぶち抜く勢いの心臓マッサージぃぃぃぃぃ?!

 

 ドグンッ! ドグンッ! ドグンッ! ドグンッ! ドグンッ! ドグンッ!

 

 いだいだいだいだいだいだいだいだいだいだいだい!!!

 

 心臓マッサージが成功しているのか、次第に視覚と聴覚だけは復活し始めた。

 

『いかに真央地下────側からの攻撃に強固────所詮は────のか。』

『仕方ないさ。 何せ────想定はされて────ハズだからね。』

 

 誰かの声が聞こえるが、聴覚が復活したばかりで所々が耳鳴りによってうまく聞き取れなかった。

 

 目の前ではさっきまで頑丈そうなドアが見事内側から力ずくでこじ開けられた後と、せっかく動き始めた心臓が止まるかのような景色。

 

「(うっそやろ?! うっそやろ?! うっそやろ?!)」

 

 幸い血が循環し始めたばかりからか、声は出なかった。

 

 横たわる自分の目前先では黒い拘束衣を身にまとった藍染と、彼の後ろにはどこぞのポテト(ハッシュヴァルト)たちが身に着けていた白い軍服の人影。

 

 それも一人、二人などではなく数十人ほど。

 

『さて諸君、手筈通りに。 ()()()時間だ。』

 

 そう藍染が言うと、数人だけを残してほかの者たちは彼に付き添う。

 

 藍染が血濡れの手で何かを持っていたのを目視して────

 

五感を接続します。》】

 

 ────?! ちょ、待っ────?!

 

肺活動を再開します。》】

 

「────ゴホッ?!」

 

 むせるような咳をすると口から乾いた血と血玉が飛ぶ。

 

「ん?」

 

 ぎゃあああああああ?!

 最悪のタイミングで再起動したはずみでどこぞのウェスタン劇帽子をした眼帯褐色青年がこっちを見ながら大層な見た目の狙撃中(スナイパーライフル)を────

 

 ────っておおおおおおおおい?! 

 こんな至近距離でそんなデカい口径の銃を今ぶっ放したらヤバイわ?!

 

 どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ────?!

 

「────陛下────」

「────捨ておきなさい。」

 

 

 どうするかどうか、三月が寝起きの頭で止まりそうな思考をフル回転し始めるが藍染の一声で青年やほかの者たちは彼女を無視する画のように、藍染の後を追うように同じくゆったりとした足取りでその場から離れる。

 

「………………………………………………ゴハァァァ?!」

 

 数秒後、黒い泥の池になったような地面に横たわっていた三月は盛大に留めていた咳を一気にしてさっきまで喉の中で乾き、詰まっていた血などを破棄だしながら体を起き上げた。

 

 ズシャア!

 

「ぁ……グッ。」

 

 否。

 体を起き上げようとして、ただ一つの感覚が彼女を襲う。

 

『痛い』。

 

 彼女の肉体の様々な構成物質全てが痛めつけるべく動いているように彼女は感じた。

 

「(『痛覚遮断』、発動。)」

 

 まるでスイッチを切り替えたように彼女の体から『痛み』が引いていき、ダルさが代わりに増していく。

 

 再度彼女は体を起き上げていくと、周りの黒い泥が徐々に消えていき、代わりに先ほどの三月のように静かに寝ているかのように横たわる山本元柳斎や他の隊長たちの姿が現れた。

 

「クッ……(『痛がっている』場合でも、『過労』に浸っている場合でもないわ。)」

 

 ズシャア!

 

 彼女は歩こうとして、力の入らない足が生まれたて小鹿のようにプルプルと震え、すぐに尻餅をつく。

 

「(早く、ここにいる人たちを起こさないと! ()()()になる前に!)」

 

 彼女は無理やりほぼ上半身のみで、地面を這いずってまで他の寝ている様子の者たちに近づく。

 

 実はというと、さっきまで感じていた黒い泥の感触に似たものを『彼女』は過去に出会っている。

 と言っても、今では()()()()()()()()

『良くないモノ』と認識して良い。

 

 詳しい詳細は省くがこの『泥』とは厳密には液体ではなく、()()()()()()()()()()である。

 

『霊力』といえば『霊力』でもあり、()()()()でもある。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 三月が地下で地面を這いずっている間、瀞霊廷は急な出来事でほぼ全体が混乱に陥っていた。

 

「な、なんだ今の地震は?!」

「おい! 『真央地下大監獄』の看守たちがいないぞ?!」

「地下から何か────!」

 

 一番隊の隊舎内は蜂の巣を突いたような慌てぶりだった。

 

「静まれ皆の者! 外と内、双方の警戒を密にせよ! 技術局に連絡を取り、事態の確認せよ!」

 

 その一番隊を、いつもは一歩下がった立ち位置の雀部が彼自ら統率していた。

 

「な、なんだお前?!」

「と、止まれ!」

 

 ドォン!

 

 雀部が歩いていた先の横の通路から隊士と思われる血肉が何かに粉砕されたように飛び散るのを見て、彼は斬魄刀を抜く。

 

 「くはぁ~~~~~~~~! (よえ)え! 弱すぎるぜぇぇぇぇぇ! 『弱い』ってのは『辛い』よなぁぁぁぁぁ!!!」

 

 両手にメリケンサックと独自な顎髭をした巨男が雀部の前に姿を現す。

 

「「「さ、雀部副隊長!」」」

「他の者は下がっていろ!」

 

 巨男が雀部を見るとすでに浮かべていた笑顔をさらに大きくする。

 

「お! その銀髪に髭とマント! テメェが『雀部長次郎』か?!」

 

「ほぉ。 旅禍とはいえ、相手の名前を知っているか。」

 

 雀部は初対面の男が自分の名を初見で読んだことに動揺せず、挑発的な言葉を出す。

 

「ったりめぇだ!」

 

 ドリスコールはメリケンサックから投槍のような霊子兵装を繰り出して雀部に襲い掛かる。

 

「この力! 貴様、『滅却師』か?!」

 

「 俺は『ドリスコール・ベルチ』! 前陛下から与えられた聖文字は“O(オー)”! 能力は『大量虐殺(ジ・オーバーキル)』だ!」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「て、敵襲ぅぅぅぅ!」

 

 上記とは違う、それぞれの隊舎で死神たちは叫びをあげていた。

 

 瀞霊廷を覆う、遮魂膜(しゃこんまく)内に突然出現した賊に戸惑う者、斬魄刀を問答無用で抜刀する者、ただひたすらに叫びをあげて応援を呼ぶ者などが跋扈した。

 

 その一つが三番隊の隊舎。

 

「「「「「「破道の三十一、『赤火炮』!」」」」」」

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

 

 そこでは三番隊の隊士たちが突然前触れもなく表れた者に、集中砲火を浴びさせていた。

 

 やがて霊力の残量が少なくなったのか、単に巻き起こった土煙で視界が悪くなったからか隊士たちは鬼道を撃つのをやめた。

 

 煙の中から一つも物音はせず、太一たちの気が緩んだ瞬間にそれは起こった。

 

 ドドドドドドドドドドドドド!

 

「「「「「グアァァァァァァ?!」」」」」

 

「あーあ。 前進を止めたら『負け』だぜ、死神どもぉ~?」

 

 まるでさっきの鬼道の仕返しというばかりに、数々の鏃の黒い矢が煙の中から飛び出して隊士たちのあらゆる部位に突き刺さる。

 

 煙が晴れ始めたと思った矢先に中からさっきの黒い矢を放ったと思われる、顔の右側に斑模様のような刺青を入れたメガネの青年が面白そうに怯んだ、または傷を負って後ずさる死神たちを面白そうな見世物を見ているかのような言葉を投げた。

 

 体も服装も()()な様子で。

 

「ああ、自分を殺す奴の名前くらい知りたいだろう? 俺はシャズ・ドミノ、聖文字は『ϛ(スティグマ)』。 能力名、『生存能力(ザ・バイアビリティー)』だ。」

 

「『“ザ・バイアビリティー”? どこのジャンプキャラクターなんだよ』、ってラヴ君なら今頃言っているんだろうね。」

 

「その『ラヴ』っていう人のこと、隊長はかなり面白そうに語りますね?」

 

「吉良君とは違う意味でインスピレーションの一人さ。」

 

「「「「「鳳橋隊長! 吉良副隊長!」」」」」

 

 ドミノの前に、斬魄刀を抜いた吉良と鳳橋の登場に隊士たちは胸を撫で下ろしたような表情を浮かべた。

 

「ノンノン、皆の衆。 僕のことは『ローズ隊長』と呼んでくれといったはずだよ? もちろん、『美しいギターリストの鳳橋隊長』も今限定で受け取っているよ♪」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「「「「「ギャアアアアアアア?!」」」」」

 

 六番隊の隊舎では敵の針状の霊子に刺され、断末魔をあげる隊士の姿が絶えなかった。

 

「なんでだ?! こっちの攻撃はまるで効いていない! 敵のあのトゲトゲに刺されば死ぬ!」

 

「しかもなんで()()()()()があんなに叫び続けるんだ?!」

 

「怖イからにキマっているからだロウ?」

 

「そうだ! 正義であるワガハイたちに、恐れを成しておるのだ!」

 

 口元をマスクで隠している痩せた長髪の滅却師がニタリとマスクの下からでもわかるほどに笑みを浮かべ、彼の隣では豪快な言葉使いをするどこぞのルチャドール風の巨男の二人が声を狼狽える死神たちにかけた。

 

「ひ、退くなお前たち!」

「そ、そうだ! 護廷の使命────!」

 

 グサグサッ!

 

「「────ギャアアアアアアア?!」」

 

 狼狽えない死神たちが針状の霊子に刺されて断末魔はさらに音量を上げる。

 

「『蛇尾丸』!」

 

 ガッ!

 

「「「「阿散井副隊長!」」」」

 

 恋次の『蛇尾丸』が敵に当たり、針状の霊子が消えるとともに断末魔をあげていた死神たちが沈黙化して地面に遺体が落ちていく。

 

「(攻撃が()()()()()()だと?)」

 

 が、先ほどの死神たちが言ったように彼の斬撃は敵をよろけるどころか、何かに()()される手応えが恋次に帰ってきていた。

 

「ッ。」

 

 ザザザザザザザザザッ!

 

 長髪マスクの滅却師が初めて回避運動をし、桜のように舞う無数の小さな刃からまたも初とも呼べる外傷を受けた。

 

「様子見の前に隊士を引かせろ、恋次。」

 

「朽木隊長?!」

 

()の者どもは尸魂界、そして護廷の何等を容赦なく殲滅している賊。 こうも対策なしではむざむざやられる。 特に一団として固まっていればな。 お前たち、退け。」

 

「今のワザ……君、『朽木白哉』カイ?」

 

「…貴様に名乗った覚えはないが?」

 

「僕は『エス・ノト』。 与えられた聖文字ハ “ F(エフ) ”。 『恐怖(ザ・フィア)』。」

 

「そしてワガハイは“S(エス)”! 『英雄(ザ・スーパースター)』のマスク・ド・マスキュリン! 覚悟しろ、悪党ども!」

 

『ズビシっ!』と、特撮ヒーローのような構えをマスクが取るとさすがの白哉も呆れたようで、恋次と同じく目を点にしていた。

 

 が、次の瞬間に四人の攻撃が衝突する音が響いた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 無論、上記の四人だけでなく瀞霊廷のあらゆる場所で衝突は起きていた。

 どこか『原作』と似てはいるが、僅かに違う戦いが幕をあげている間、藍染は一番隊舎の近くにあった流魂街を歩き、全身をフードとマントで覆ったペルニダ、剣闘士風のジェラルド、褐色カウボーイのリジェ、そしてしかめっ面と紫色のモヒカンが特徴的な滅却師たちが彼の後を歩いていた。

 

「相変わらずだね、志波家は。」

 

 藍染が見上げたのは『ようこそ、志波空鶴邸家へ!』という旗を掲げたかなり芸術センスの曲がった巨大な石造。

 

「テメェに言われたくねぇぜ、藍染。」

 

 そしてその先には『捩花(ねじばな)』を展開し、構えを取った海燕の姿があった。

 彼の額と背中はビッシリと汗が滲んでいた。

 

「そこを退いてくれないかい?」

 

「こちとら正式に『死亡』していたから護廷辞めて実家でゆっくりしているところを、お前みたいな外道を土足で踏み込ませるわけには行けねぇんだよ!」

 

「そう言われても困るな。 私たちがここに来たのは『花鶴大砲(かかくたいほう)』に用があるからだ。」

 

 藍染はただゆっくりと一歩一歩、前進する。

 海燕は引き換えにジリジリと後ろへと足を引きずらせた。

 

「と、止まれ!」

 

「まぁ、そう気張らないでくれたまえ────」

 

 藍染がもう一歩地面を踏むと、別の場所から声が辺りに響いた。

 

「────『志波式石波法奥義(しばしきせっぱほうおうぎ)連環石波扇(れんかんせっぱせん)』!」

 

 物陰に身を潜んでからこの場を窺っていた岩鷲の掛け声とともに藍染と近くの滅却師たちの地面が砂に代わり地面にへこむが生じると同時に海燕が口を開けて叫んだ。

 

()()! 天水にて清めろ、『捩花水(ねじかすい)』!」

 

 海燕を中心にドプリと大きな水流が急上昇しながら、回転する度に西洋の竜へと形どっていく。

 その姿は氷を水に変えた『氷輪丸』ならぬ、『水輪丸』のようだった。

 

 完璧な余談……ではないが、自分の従兄弟である一護が夜一から浦原、浦原から一心といった経由方法で、わずかの三日間で卍解を会得したことを知ったとたん、海燕も卍解を会得するために努力をした。

 結果、数か月間ほどかかったが彼はそれを成し遂げ、それをほぼ実践状態の今使った。

 

 水でできた竜がへこんだ地面に叩きつけられ、さらに上空から空鶴がバチバチとする左腕を振りかざした。

 

「────破道の六十三、『雷吼炮(らいこうほう)』!」

 

 ドッ!

 

 普通なら藍染相手に六十台の鬼道など効くどころか、無駄に霊力を消費するだろうが海燕の水が電気をよく通す性質を持っていることを利用し、このような連携で各々のワザが最大限に引き立てられる状況を生み出していた。

 

 ドパァン!

 

「「「ッ。」」」

 

 海燕、空鶴、岩鷲がはじけ飛ぶ水を警戒しながら見ると中から全く濡れていない藍染たちの姿がへこんだ地面内から歩き出た。

 

「やれやれ……あまり強く吠えるなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弱く見えるぞ?」

*1
69話より

*2
103話より




花水:
読み、『はなみず』または『けすい』。 
仏語。仏前に花を手向けるときの水。 また、仏前に手向ける花と水のことを差す場合もある。


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第123話 The (Other) Days Gone By

投稿が遅れて大変申し訳ありません、次話です。

活動報告にも書き上げましたが仕事の急増化からの疲れ&そこから生じた体調不良で上手く書き上げるどころか、考えが上手くまとまりませんでした。

まだ少し引きずっていますが、何とか形になったものを投稿しました。


 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

「落ち着け、一護。」

「そうだぞ一護、そう歩いてもことは進まぬ。」

 

 浦原商店の地下にある訓練場にて、一護はウロウロしていた。

 

「るせぇよ。」

 

 ────そんなことは分かり切っている。

 

 そう一護の言葉の続きの幻覚を聞こえた気がした。

 それほどまでにもどかしいのだろう。

 

 無理もない。 特に先ほど浦原が見せた容姿を見た後ではな……

 

「焦る気持ちは分かる。 浦原は余程の事が無ければ必要最低限の言葉を出してから籠ったりなどせん。」

 

 

 夜一がここでチラッと見たのはポツンと、地下訓練場の端にひっそりと立っていた()()

 

 マユリの摩訶不思議系のドア*1と比べれば何の変哲もないように聞こえるが、文字通りに『ドアが立っていた』。

 

 前、後ろ、横からどう見てもただの白い室内ドア。

 どこか『どこで〇ドア』に色以外で似ているのは全くの偶然とはいい難い。

 

 そして夜一たちが地下に来た瞬間、ドアの中からどこか切羽詰まった調子の浦原が先ほど出てきてズケズケとした物言いで一方的に彼女たちに話をした。

 

「時間が惜しいので単刀直入に話します。 

 まず、藍染の霊圧が瀞霊廷に確認されると同時に一番隊舎に高い霊子濃度を数十個ほど補足。 

 一つ一つが隊長格と()()同等で出現とともに散り三番、六番、十一番などの隊舎にて隊士との交戦。

 瀞霊廷に涅さんが以前僕の監視カメラに追加したものをハッキングしてこれらの出来事の直前に総隊長、砕蜂隊長、日番谷隊長、狛村隊長、浮竹隊長、京楽隊長たちが藍染を収監していた真央地下大監獄に降りて行ったのが確認されています。

 藍染の霊圧出現から数分後、現世と尸魂界を繋げる断界(だんがい)()()()()()()()、およびそこから霊派障害(れいはしょうがい)を発する()()穿界門(せんかいもん)で直接の出入りや情報を入手することは現時点で不可能となっています。

 これにて、()はこの最後の障害に関して目下調査中でしたので────」

 

「────お、おい待てよ浦原さん!」

 

 ここでさっさと踵を返そうとする浦原を、一護が呼び止めた。

 

「……なんですか?」

 

「ッ。」

 

 いつものふざけた態度とは違う浦原の答えに戸惑う一護を見て、代わりに(チエ)が問う。

 

「三月の様子は?」

 

「……ことの直前に、総隊長たちと真央地下(しんおうちか)へ入っていくのを確認しました。 それがなにか?」

 

「「…………………………」」

 

 彼のそっけない言葉に今度はチエも黙り込み、浦原はそれを最後にどこで〇ドア研究室の扉が閉まる。

 

 パタン。

 

「……あまり気にするな二人とも。」

 

 夜一は幼馴染の行動を弁護するかのように喋りだす。

 

「奴もかなり根を詰めつつおるのだ。 この様な出来事に藍染の霊圧が補足されたとなると、ほぼ間違いなく藍染がどうにかして再度現れたと見て良い。 

 それに奴の封印や拘束には(くろつち)だけでなく、密かに浦原も(たずさ)わっておった。 それらに歪みや解かれる兆候などが何もなく看破されたことで奴の面子(プライド)……自信が揺らいでおるのじゃろ。」

 

 夜一自身、このような浦原を見たのがかなり堪えるのか一護たちだけでなく、自分を含めて安心させるように上記のじょう舌な言葉を並べた。

 

 

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 辺りに雨が降っていた。

 周りには、瓦礫化した瀞霊廷の様々な建物の残骸。

 

「力をもう使い果たしたか?」

 

 その中で、山本元柳斎は黒いマントを羽織った男の背中姿を見ていた。

 それは約千年前にも見たことのある姿。

 

「どうする、()()()()?」

 

 挑発的にその男は山本元柳斎に話しかけ、山本元柳斎には怒りというよりも冷静な『目の前の男を粉砕する』という衝動からさっき鞘におさめた斬魄刀を()()抜いた。

 

「ほざけ! 卍解、『残火(ざんか)太刀(たち)』────!」

 

 フッ。

 

「────何?!」

 

 山本元柳斎は突然自分を襲った喪失感に戸惑い、目の前の()()()()()()を見ると彼の手には滅却師クロスの掘られた円盤状の物があった。

 

「おごりが過ぎたな、山本重国? 何も貴様の卍解が特別ではない。」

 

 ザンッ!

 

 ユーハバッハの前に、霊子でできた大剣が空から降り立つ。

 

「並みの滅却師では御しきれない可能性があるだけで、貴様の卍解は例外ではない。」

 

 それを手にしてから彼は再度、山本元柳斎に問いかけた。

 

「さて……()()()()()()使()()、貴様が今まで見殺しにした部下たちを呼び起こすのも一興と思わんか、()()()()()?」

 

「きさ────!」

 

「────さらばだ。」

 

 山本元柳斎が叫び終わるより先にユーハバッハが彼の左肩から右腰にかけてざっくりと両断していた。

 

「(バカな……)」

 

 ドシャ!

 

「山本重国。 貴様、()()()()()()()()()()()?」

 

 地面に上半身が落ち、薄れる意識の中で山本元柳斎は指摘されていまだに立っている自分の体を見ると、二の腕から下が無くなっていた左腕を見る。

 

「答えてやろう。 貴様は()()()()()()()()()()()()。 以前の貴様は敵を打つ為に利するものは全て利用した。 

 他人はもとより、部下や友の命ですら敗ほどの重みも感じぬ男だったが千年前に我ら滅却師に『残火の太刀』を使って一方的な虐殺を行い、その末に安らかな尸魂界を手に入れた貴様は己の技量を過信……いや、『罪悪感』とでも呼ぼうか? そこから貴様も、護廷十三隊も衰退の一途をたどり始めた。

 貴様が誇りに思う『護廷十三隊』は千年前、貴様が絶滅寸前に追い込んだ滅却師たちと共に死んだのだ。」

 

「(そうか……ワシの慢心故か……じゃが……ただでは逃さぬぞ、ユーハバッハ!)」

 

 ガシッ!

 

 山本元柳斎は最後の力を振り絞って自分から離れようとしたユーハバッハの足を掴んだ。

 

 ザッ!

 

「『死に体でも逃さん』という意地の表示か? 昔の貴様なら藍染惣右介相手に見せた『一刀火葬(いっとうかそう)』でも仕込んでいたと思ったが……哀れだな。」

 

「(クソ……)」

 

 それを最後に、山本元柳斎は目を閉じて襲ってくる眠気に意識を手放した。

 

 バシィン!

 

 「ブオァ?!」

 

 「寝るなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 訂正。

 

 意識を手放そうとして、頬からくる衝撃(ビンタ)に彼は目を覚ました。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 雨が降り続ける中、狛村も襲ってくる喪失感に倒れて地面に横たわることに抗っていた。

 

 ()()()()上半身を持ち上げ、水溜りにしかめた()()()が反射されていた。

 

「グッ! 頼む、()ってくれ! ()()の秘術よ! ()()()()()よ! ワシはまだ、奴らの居城に……ユーハバッハを……()()()()()()()を取らねばッッッ!!!」

 

 次に狛村が倒れそうになると、()()()()を着いた。

 

「これ、は……」

 

 みるみる姿がより獣らしく目の前で変わっていく様を狛村は恐怖や怒りなどではなく、『無念』に似た感情を抱いていた。

 

 やがて以前よりさらに獣へと変わっていく狛村は己の体を容赦なく打つ雨が来る曇った空を見上げながらゆっくりと目を閉じた。

 

「(申し訳ありませぬ、山本元柳斎殿……東仙、ワシがお前に放った言葉の報いがこれか……京楽()()()たちに後をゆだねるのは歯痒いが────)」

 

 バシィン!

 

 「────キャイン?!」

 

 「だから寝るなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 目を閉じようとした狛村は急に叩かれては犬のような変な声を出しながら意識が覚醒した。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「七緒ちゃん! ()()!」

 

 京楽は雨の中、目を閉じかけていた七緒を抱き上げていた。

 悲痛な声で彼女の名を呼びながら。

 

た……ちょう……ゴフッ!」

 

 ()()()()()()()()()()()()を。

 

「喋るな、七緒! 今すぐ、四番隊の────!」

 

 「────()()()とやらが、神の使いである僕の前で『迷い』などする愚行に相応しい末路だよ! ハハハハハハハハハ!」

 

 京楽たちが潜んでいた白い建物の影……

 の、さらに向こう側では鳥の頭と翼を生やした異形の者が愉快な笑みと共に叫んでいた。

 

 だが京楽にはこの異形は眼中にはなく、ただ両手でどうにか七緒から出る量の血を抑えようとした。

 

「あ……ああぁぁぁぁぁ……(なんてことだ……僕の、所為だ。 頑なに義姉(ねえ)さんの頼みを守り通したせいで、七緒がッ!)」

 

 京楽の()()()()()から涙が出て、眼帯をした右目の傷に痛みが生じた。

 

「へぇ~? 『影鬼』って、こんな使い方もあるんだ?」

 

「ッ!? (見つかった?!)」

 

 京楽が見上げると、先ほどの異形の鳥が構えていた。

 

 目を愉快な笑みに歪めながら。

 

「この『影』ってさぁ~? 消したらどうなるんだろぉねぇ~?」

 

 カッ!

 

「しまっ────!」

 

 京楽の視界を、まばゆい光がすべてを埋め尽くす。

 

「────」

 

 その光が広がり、京楽は眼球と同様に全身が焼けるような感覚と共に意識が薄まっていくのを感じながら、腕の中の七緒の目が虚ろになっていたことに彼の高ぶっていた心は次第に穏やかになっていった。

 

「(ああ……僕は結局……兄さんの後を追うのか……それが、僕が彼女を信じられなかった報いなんだね……)」

 

 そう思いながら消えていく京楽に、思ってもいない異変が起きる。

 

「このバカ(スネーク)モドキ! 諦めるなぁぁぁぁぁ!」

 

「グェ?! (な、なんだいこりゃあ?!)」

 

 京楽は己の体を無理やり首根っこから引かれるような浮遊感と苦しさで潰れたカエルのような声を出しながら意識が戻っていく。

 

 

 

 ___________

 

 護廷十三隊、『渡辺』三月 視点

 ___________

 

 

「う……」

「一体、何が────」

 

 一人一人、半壊した真央地下で気を失っていた隊長たちが目を覚まし始める。

 

 ズズゥゥゥゥン……

 

「(この音……上ではいったい……ううん、なんで藍染が『ここで』再登場す(出てく)るの?)」

 

 三月は片手で持っていたハリセンを宙の歪みの中へと戻しながら長い、半壊した階段を見上げながら困惑しそうな思考を別方向に展開していた。

 

「(それに彼と共に出てきた奴ら……ロバ(ロバート)たちと同じ滅却師の軍服……ということはユーハバッハの元部下で、おそらくは『タカ派』の生き残り? どういうこと? なぜ────思考停止(カット)取り消し(アンドゥ)復元(リストア)再開(レズゥーム)……今は『原因』より、『対処』が最優先だわ。)」

 

「……誰か! 『天挺空羅(てんていくうら)』を展開し、各隊長に伝えろ! 『総隊長命令にて卍解使用の禁止』と!」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 三月含めて、ほかの隊長たちが何か様子が尋常ではない山本元柳斎を見る。

 

「ええと? それ────」

 

 ガシッ!

 

「────ひ?!」

 

 目が血走った山本元柳斎に両腕をつかまれた三月は小さい悲鳴を上げた。

 

 ギュウゥゥゥゥゥゥゥゥ!

 

「って痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い?!」

 

「説明はあとじゃ! 早うせんか?!」

 

 そしていつもの調子どこから焦っている彼の握力に痛がりながらも、()()()()()動作をする。

 

「(ええっと、『検索』……あった、172話のコレね。) 黒白の(あみ)、二十二の橋梁(きょうりょう)、六十六の冠帯(かんたい)足跡(そくせき)遠雷(えんらい)尖峰(せんぽう)回地(かいち)夜伏(やふく)雲海(うんかい)・蒼い隊列(たいれつ)、太円に満ちて天を挺れ!」

 

 三月は詠唱後に膝と()()()()両手を地面に着き、そこから四角い光を中心に蜘蛛の巣のような青白い線がヒビのように広がっていく。

 

「縛道の七十七、『天挺空羅(てんていくうら)』(に似せた限定版『念話』!)」

 

 そして彼女は気付かなかった。

 

 周りの隊長たちが不思議な物を見る、または興味深い『観察者』のような目を向けていたことに。

 

 

 

 

 ___________

 

 鳳橋ローズ、吉良 視点

 ___________

 

 ローズは鞭のような『金沙羅(きんしゃら)』、そして吉良は『侘助(わびすけ)』を展開してシャズの投げる黒い矢(ダガー?)を払い(斬り)落としていた。

 

 ガガガガガガガガガガッ!

 

 ただの黒い矢ならばこの二人にとってさほど問題ではない。

 

 ないのだが攻撃の数が半端なく、貫通力()()ならば詠唱破棄をした『断空(だんくう)』を容易くすり抜ける上に極限までスピードを高めた『飛廉脚(ひれんきゃく)』を駆使した四方からの止まない攻撃とくれば否が応でも応戦するしかない。

 

 そして遠距離相手に決定打を持っていないことも災いしていた。

 ローズの『金沙羅(きんしゃら)』は近、そして中距離用で主に先端を使う点の攻撃型。

 吉良の『侘助(わびすけ)』も敵から離れた物体を斬っても、本体まで能力の効果は出ない。*2

 

 極めつけはシャズがどれだけ攻撃を受けても()()だということ。

 

「う~ん、()()困ったね吉良君。」

 

「そうですね、鳳橋隊長。」

 

 そんな二人でも冷静にシャズの対処を考えている途中で『天挺空羅(てんていくうら)』と微妙に似ているような何かが彼の脳へ直接情報を送り込んでいた。

 

「……う~ん、これはちょっと予想外。」

 

「『卍解を使うな』とは、タイミングが少々悪いですね隊長。」

 

「ま、僕の卍解披露は次に取っておくとしよう……じゃあ吉良君、()()を頼むよ♪」

 

 ここでローズが顔間近に手をかざして、ペスト医師のような仮面が出現する。

 

「『金沙羅(きんしゃら)』、『セブンスコード』!」

 

「チッ!」

 

 ローズの攻撃がちょうど上空にいるシャズ目掛けて伸びていき、彼はこれを横によける。

 

()()()()だと?!」

 

金沙羅(きんしゃら)』を避けたと思ったシャズを今度は横から自分の胴体へ迫る攻撃にビックリするも黒い矢を投げて相殺を試みる。

 

 ドッ!

 

「ガッ?!」

 

金沙羅(きんしゃら)』の先端からの攻撃は防げたもの、鞭のヒモ部分が途中で曲がりシャズの体を襲った。

 

 そのままシャズは地面へ叩きつけられる前に、無言で吉良が『侘助』で斬りつけられるとシャズの落下は勢いを増す。

 

 ドォン!

 

「うん、やっぱり吉良君は頼りになるね。」

 

 虚の仮面が消えていくローズは笑みを浮かべながら、シャズが落下した場所の土煙を見た。

 

「ああああああああああ…クッソ痛てぇなぁ、オイ。」

 

 土煙の中からシャズが()()で出てきながら首を回し、コキコキと骨を鳴らす。

 

 シャキン。

 

「あ?」

 

 ここでローズは斬魄刀を鞘に戻したことに、シャズは不思議に思った。

 

「んだよ? 諦めたのか? 死神にしては潔いな?」

 

「諦める? 僕がかい? 質の悪い冗談は僕から離れてからやりたまえ。 ああ、()()()()()()()から、僕が離れようか?」

 

「テメェ、俺をなめ────!」

 

 ズッ!

 

 くるりと背中を見せながら歩くローズに、シャズが踏み出すとお腹に来るような重い音が彼の足元から発生する。

 

「な、んだ…これ、は?!」

 

 それと同時にシャズはここで自分に襲い掛かる重圧感に気付き、立つのがやっとの程だった。

 

「だから言っただろう? 『吉良君は頼りになる』と?」

 

「な、に、を────?!」

 

「────『累乗(るいじょう)』を知っているかい? 知らないのならそれでも良いさ。 何せ君は今の僕たちでは()()()()()()だからね。」

 

 次第にシャズは自分の倍々になった体重に耐え切れず、またを付きながら力んだことによって血管が浮き出始めた。

 

「隊長、一番近いのがこちらからです。」

 

「うん、それじゃあ行こうか吉良君。 アデュー(さようなら)、ファッションセンスの悪い(旅禍)。」

 

 ズン!

 

 股だけでなく、両手を地面について倒れるのを抗うシャズは身動き取れずに遠ざかっていくローズと吉良を睨んだ。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「スタァァァァァァァー! ラリアット!」

 

 マスキュリンの(普通の)ラリアットを恋次が交わすと彼の後ろの壁が風圧によってへこむ。

 

「卍────ッ。」

 

 白哉はエス・ノトを相手に初解(千本桜)だけでは決定的なダメージがつけられないことを悟り、より巨大な火力を増した卍解(千本桜景厳)を展開する直前で動きが一瞬止まった。

 

 恋次も同じく一瞬だけ固まってはイラつきからか、特に誰にも向けていない叫びをした。

 

「『卍解を使うな』だと?! それじゃあ、俺たちはこんな奴らとどうやって戦えばいいんだ?!」

 

 ベシッ!

 

「いで?!」

 

 そんな恋次の頭がどこぞの馴染み(ルキア)のように白哉に叩かれる。

 

「いらぬ情報を敵の前にして漏洩するなこの阿呆が。 ()()()()()、我々にはほかの技術がある。 少しは頭を…………………………………………………………」

 

 白哉が敵の針をよけながらチラッと恋次を見ては口をつぐんだ。

 

「???? 隊長?」

 

 余談だが、白哉の頭の上には美的センスのズレ(デフォルメ化し)た恋次が鬼道を使おうとして自爆する場面、模擬戦などで白打(はくだ)歩法(ほほう)を同時に使おうとして自爆する恋次等々が動画のように再生していた。

 

「……………………いや、なにも。」

 

 いつもなら嫌味っぽい文句を言う白哉だが、状況だけに余計なことを言わなかった。

*1
46話より

*2
85話より




凛(天の刃体):なにこの『スターラリアット』?

作者:ナンデココにイルノデスカ遠坂さん?

凛(天の刃体):あら? 私がここにいちゃ都合が悪いのかしら?

作者:黙秘シマス。

弥生(天の刃体):う、うーん……この『ローズ』ってのがまさか大前田と同じ声を出せるとはちょっと意外。

作者:なにっぬ?!


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第124話 The Outer (and Inner) Masks

少し短いですが、キリのいいところでしたので投稿しました……


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 ドォン!

 

「ハッハッハー!」

 

 ドリスコールが次から次へと投げてくる投槍を雀部がレイピア状の『厳霊丸(ごんりょうまる)』を使ってそれらを横へと軌道をズラ(パリィ)していた。

 

「す、すごい!」

「あんな猛攻を受け流すとは!」

「さすがは副隊長! 正面切ってもあの大男と渡り合っている!」

 

 あの場付近から離脱し、傍から見ていた死神たちには雀部が冷静にドリスコールの攻撃を分析しながら戦術を立てていたように見えていただろう。

 

「(……これはマズイな。)」

 

 それはあながち間違ってはいないのだが、果たしてその戦術とやらの中に『勝ち筋』があるかどうかと問われれば微妙なところである。

 

「辛いかオイ?! えぇぇぇ?!」

 

 というのも、先ほどから雀部は受け流すだけでなくドリスコールに接近して一瞬だけ攻撃をするヒット&アウェイを繰り返しているのだが彼の『厳霊丸(ごんりょうまる)』では致命的な一打が与えられない。

 

 ドリスコールはその巨体に似合う腕力と、両手に装着しているメリケンサックから繰り出される拳は物理的に脅威だが、霊力がモノを言う死神や滅却師の戦いならば話は違ってくる。

 と思いきや、ドリスコールのパンチは風圧に乗った霊圧だけでもかなりゴリゴリと雀部の霊力を(僅かにだが)乱すほどだった。

 

 ならばと今度は『厳霊丸(ごんりょうまる)』から雷撃を飛ばせばドリスコールの投槍は雷撃を相殺するどころか、そのまま雀部を襲い彼はこれをいなす。

 

 この様なやり取りをさっきから二人はしていた。

 

「(さて、どうするか。)」

 

 雀部は長らく昔、護廷十三隊の設立直後からずっと一番隊の副隊長として業務をこなしていた。

 主に書類業務で、半歩下がった位置にいた為か実戦の実績はほとんどなく、それも一つの要因で『原作』ではドリスコールの一方的な物量にモノを言わせる攻撃に、切羽詰まった雀部は焦って挽回を繰り出してそれが彼の敗因へと繋がった。

 

 現に、彼は卍解を解放しようかどうか迷っていたがさっきの『天挺空羅』から総隊長命令で卍解の使用禁止となったので雀部はどうするか迷っていた。

 

 いわゆる、『|理論的に文句はないが、実作業の経験がほとんどない《OJT》』状態。

 

 そんな考えごとを命のやり取りでするのは珍しいことではないのだが、『多少の余裕』を持ってからこそできる芸当。

 

 雀部は牽制に雷撃を飛ばし、来るであろうドリスコールの投槍に『厳霊丸(ごんりょうまる)』を構えた。

 

「どりゃああああああ!」

 

「何?!」

 

 だがドリスコールはそのまま飛廉脚(ひれんきゃく)の勢いをつけた突進をし、雷撃を真っ向から受けながらも雀部の胴体目掛けてメリケンサックのついた拳を振るった。

 

「(なんだ、奴の体に浮き出た()()は?!)」

 

 ある程度の実力者であるなら普通、このような急展開でも雀部のように、敵の観察をしても不思議ではない。

 

 だが彼は()()()()()()()考えをしてしまっていた。

 

 別にこれは『足がすくんだから』などではなく、ただ単に彼が実戦に不慣れだったから。

 

 そんな彼の目の前で不敵な笑みをするドリスコール。

 

 ドッ!

 

「ガッ?!」

 

 重苦しい音と、肺の中にあるすべての空気が無理やり出される吐息。

 

 ボキボキッ!

 ドゴォン!

 

 それに続いて骨が折れる鈍い音と壁を貫通する音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィ~、『一骨(いっこつ)』はやはり腰に来るのぉ~。」

 

「右之助殿?!」

 

 雀部の前で横からドリスコールを吹き飛ばしたのは、いつものヨボヨボで今にでも倒れそうな姿から一転してムキムキマッチョの老人(右之助)の姿。

 

 もしラブ、または三月が今の彼を見ていたら『どこのシップを張ったサングラスをかけた仙人だ?!』とツッコミを入れていたのかもしれない。

 

「その姿は……卯ノ花隊長に叱られますよ?」

 

「ホッホ! これを無事に乗り越えたらの!」

 

 「ガァァァァァァァァァ!!!」

 

 瓦礫の中から状藩士を出して獣のような叫びをするドリスコールが叫びに負けない、ブチ切れた形相で雀部と右之助を睨んだ。

 

 「テメェェェ! 」

 

「ぬ? 立ち上がるとは……はて、先の()()()()()の所為かの?」

 

「くそジジイがどうやってそいつの雷撃も防ぐ、俺の『静血装(ブルート・ヴェーネ)』を破った?!」

 

静血装(ブルート・ヴェーネ)』。

 それは血管の中に直接霊子を流し込み、防御力を向上させる滅却師の技。

 以前に蒼都が使っていた能力、『鋼鉄(ジ・アイアン)』と類するものである。

 無論、『鋼鉄(ジ・アイアン)』と違って『静血装(ブルート・ヴェーネ)』は発動の際に()()()デメリットはあるが。

 

 右之助はグルグルと肩コリを解すかのように肩を回しながらドリスコールに近づいた。

 

「なんじゃ。 お前さん、さてはあの金髪チビ助(三月)が口にする『のうきん』かえ? ああ、ちなみ『頭の中も筋肉』という意味じゃそうな……さてと、最近は山坊と喧嘩ばかりしておったから加減がイマイチわからん────」

 

 ギュ!

 ドォン!

 

 ドリスコールの投げた矢の軌道を右之助が変えた。

 

「────俺の、『神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)』を?!」

 

 ()()で。

 

「アチチチチ! もう少し年寄りをいたわらんかい!」

 

 まるで熱いものを掴んだように右之助はフゥフゥ息を掌にかけた。

 

 さて、短く右之助のことを記入しよう。

『右之助』。 フルネームを『右之助平左衛門(へいざえもん)』は山本元柳斎が子供のころから常に傍で世話を見ていた付人。

 

 と言っても、当時の山本元柳斎はかなりの腕白(わんぱく)者というか貴族階級の者にしては『腫れ物』扱い。

 

 良くて『変人』。

 

 そんな彼の『世話をしろ』と最初言われた右之助は『あ、これは厄介者同士をくっつけたな』と思いながら全く気の乗らない青臭いガキ 世間知らずの子供の世話をすることに。

 

 だが当時、瀞霊廷の世間体に嫌気を差して酒に明け暮れた右之助は現代の一般人に近い感性をもっていたことが幸いし、彼の『力は弱者を虐げるモノではなく、力無き者の為にある』という思想に興味は抱いていた。

 

 少なくとも、付人として幼い山本元柳斎の行動を静観させるほどには。

 

 少し詳細を飛ばすが、この二人は次第に行動範囲を瀞霊廷からほぼほったらかし(無政府)状態同然の流魂街へと広がる。

 無論、そこでは彼らのように少しとはいえ霊力の持っているゴロツキなども徘徊しているので喧嘩などもしょっちゅうしていた。

 

 そんな時の山本元柳斎の技量が今ほど良いワケがなく、右之助も巻き込まれることなど日常茶飯事。

 自然に回道の腕も、対人戦闘の腕も上げて右之助はその流れから()()()()()薬の調合を流魂街でする野良医師(のモノマネごと)のようなことをし始めた。

 

 これが上記の二人がチエと初めて出会う少し前の、ざっくりとした流れである。

 

「(さぁて、()()()()()前に終わらせるとするかのぉ。)」

 

 そう思いながら右之助は襲ってくるドリスコールを見て構えた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「スーパースター! がんばれぇぇぇぇ!」

 

 別の場所では似つかわしくない、眼鏡をかけたスキンヘッドの小人のような男がマスキュリンを()()()()()()

 

「フハハハハハ! いいぞぉジェイムズ! 力がみ・な・ぎ・るぅぅぅぅ!!!」

 

「チ! またかよ!」

 

 恋次は舌打ちをしながら、傷が全快したマスキュリンの攻撃を紙一重でかわす。

 

 というのも、紙一重でかわすのは本望ではなく時間が経つにつれてマスキュリンの動きがより速く、腕力がより強くなっていくような気が恋次にした。

 

「スターフラ────!」

 

 「────うるせぇぇぇぇぇ────!!!」

 

 ドゴッ!

 

「────ぐほぉ?!」

 

「ミスター?!」

 

 マスキュリンは横からこめかみの青筋を浮かべた拳西のドロップキックを頭に受けて吹き飛ばされた。

 

「大丈夫か、恋次!」

 

「六車隊長?! それに檜佐木まで?!」

 

「おう、朽木の小僧はどうした? って、見りゃ分かるか。」

 

 拳西は周りの建物のほとんどが瓦礫に変わった様子で、恋次は白哉から分断されたと察した。

 

()()()()()()()、スーパースター!」

 

 「ぬおおおおおおお!」

 

 ジェイムズの掛け声で瓦礫の中から元気よくマスキュリンが出てきたことに恋次、拳西、檜佐木たちが構える。

 

「チ. 卍解出来ればこんなチンピラ、屁でもねぇのに」

 

 「正義はぁぁぁぁ! 悪になど負けんのだぁぁぁぁぁ!」

 

 (ましろ)ドロップキィィィィィィィック!!!」

 

 ドオォン!!

 

 その時、はるか上空から飛来してきたマシロのドロップキックによってマスキュリンを中心に巨大なクレーターができ、恋次、拳西、檜佐木が吹き飛ばされそうなのを力んで無理やりその場に残った。

 

「フハハハハハ! 見たか悪党め! このスーパー副隊長のマシロの実力を!」

 

「マシロ、コノヤロー! 急に虚化全力マシマシの攻撃をするんじゃ────!」

 

 「────聞き捨てならぁぁぁぁん!」

 

 今にでもマシロに突っかかりそうな拳西の言葉を、土煙の中から来た怒鳴り声が遮った。

 

「ワガハイが『悪』だと?! ふざけるなこの小娘がぁぁぁ! ワガハイが『正義』だ!」

 

「何をぉぉぉぉぉ?! 私のほうが『正義』なんですぅぅぅぅぅぅ!」

 

「「むぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」」

 

「「「「…………………」」」」

 

 子供の言い(張り)合いに似た場面に、恋次、拳西、檜佐木そして滅却師側のジェイムズまでが唖然と見ていた。

 

 「ぬおりゃぁぁぁぁ!」

 「せぇぇぇぇぇい!」

 

 ドォォォォン!

 

 マスキュリン(ルチャドール風)マシロ(何某ライダー風)の拳が衝突し、その余波が周りの風景を変えていく。

 

 (せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)────!!!」

 「どりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ────!!!」

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド────!

 

 マスク(仮面)をした二人がどこの奇妙な冒険譚クライマックスシーンのように、互いの攻撃を相殺しながら叫ぶ。

 

「(うわ。 久南さんってマジで出来る人だったんだ。)」

 

 恋次はスーパー副隊長を自称するマシロを(少しだけ)見直した。

 

「(こういう時は妙に頼もしいんだなアイツ……普段からこうであれば副隊長復帰できたかもしれないのに。)」

 

 拳西は副隊長になることを拒否したことで『スーパー副隊長』を自称するマシロは『性格以外はマシ』だということを再度認識しなおした。

 

「(これ、なんて言うマンガのワンシーンなんだ?)」

 

 おいバカ(檜佐木)やめろ。

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「(妙だ……)」

 

 上記からそう遠くない距離では、白哉は()()()()()()()ことを不思議に思っていた。

 

「(手足の凍るような感覚……もしや奴の針には毒が仕込まれているのか?)」

 

「全力ガ出セナイ事ガソンナニモ不思議カイ? それは君が長らく感ジテイナイ、ドンナ生き物でも持ッテイル感覚だヨ? 人は……ソウだね、君も気が付イテイルと思ウケドソレハ『恐怖』ダ。」

 

「……親切なことだな。」

 

「敬意だよ。 僕の矢を紙一重で避ケルノハ得策デハナカッタけどヨクココまで耐えたことにね? 何から何まで、全ての行動や考えに至るまで『恐怖の対象』にナリ、並の者ナラバ発狂し心が壊レテ息絶エル。」

 

 白哉はエス・ノトが話を続けている間にも攻撃を続けた。

 

「(恐怖…だと? 下らん。 恐怖は戦事とは切り離せない存在。 そんなものを意識するのならばいかに敵を叩き伏せるかだけを────ッ。)」

 

 白哉の脳裏に一瞬だけだが、緋真が日に日に弱くなっていくときのもどかしい記憶が蘇り、それがルキアへと変わった。

 

「(違う! ルキアは強い! 強くなっている!)」

 

 脳内の横たわるルキアの肌は青白く、死人のようで────

 

 「────ぬあああああああああ!!!」

 

 白哉はその創造事切り伏せるかのように叫びながらエス・ノトをがむしゃらに攻撃する。

 

 ギィィィィィン

 

 白哉の繰り出した()()()斬撃がエス・ノトの静血装(ブルート・ヴェーネ)で止められ、エス・ノトの邪悪で愉快そうな笑みがさらに深くなった。

 

「ソウ。 それが『恐怖』。 生きている限り、どんな生物にも存在する本能(感覚)。 何人タリトモ抗エナイ。」

 

「ほぅ、では()()()()()()()()()()のか。 良いことを聞いたぞ?」

 

「ン?」

 

「ッ?! なぜ、ここに?!」

 

 白哉が動揺し、いつもの冷静な表情でないことに驚愕しそうなルキアが手に『袖白雪』を持ちながら、二人を近くの建物から見下ろす姿があった。




体調がすぐれないのでコントは無しです、申し訳ございません。

読んでいただき、ありがとうございます。


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第125話 Sorrowful Soldiers

お待たせしました、遅れました&短めですが次話です。

楽しんで頂けると幸いです。

後書きにてちょっとしたお知らせがございますので、読んでいただけるようお願いします。


 ___________

 

 現世組 視点

 ___________

 

「……ん?」

 

 チエが何かに気付いたとほぼ同時に夜一もピクリと片眉毛が反応し、二人が立ち上がる。

 

「え? な、なんだ二人とも?」

 

 ズズゥゥゥゥン……

 パラパラパラパラ。

 

 上からくる低い音に続き、地下訓練場の天井から()()()()()()()()()()

 

「……地震────」

 

「「────なワケ無かろう!」」

 

「言ってみただけだよ! 真に受けるな!」

 

 夜一とチエの二人は一護の言葉にツッコミ、一護も二人のようにその場から急いで地上へと出る。

 

 そこでは思わず、三人が戸惑うような景色が待ち構えていた。

 

「せりゃああああああ────!」

 

 ガッ!

 

「────ぬお?!」

 

 ジン太は持ち前の怪力と金棒の『無敵鉄棍』を思いっきり振るうも、攻撃がそらされることや避けられることもなく正面から受け止められていた。

 

「当たらなくても、牽制ぐらいには────!」

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!

 

「────弾かれた?!」

 

 そこにウルルは肩に乗せたマシンガンポッド状の『千連魄殺大砲』を乱射するも、今度は()()()それらが払い落とされる。

 

「これは────」

 

「何で…何でここにお前がいるんだよ────?!」

 

 普段は理解、そして順応が高い夜一でさえも動きを止めていたのは上記の出来事……ではなく、それらを中心にした人物で一護も思わず口を開けていた。

 

 ジン太、そしてウルルが攻撃をしていたのは黒髪に真っ白な肌をした痩身を持った人物。

 

 涙を流しているような緑色の線状の仮面紋の上にある緑の目が動くが、それ以外に感情を一切感じさせない顔が視線と共に一護たちへと向けられた。

 

「────お前、死んだはずじゃなかったのかよ?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()?!」

 

『帰刃』する前の()()()()()が浦原商店の前に立っていた。

 

 ブン!

 

「おわ?!」

 

 ジン太は持っていた金棒ごと、体を一護たちに投げられるところから事態は急激に変わる。

 

「おわっと!」

 

 一護は投げられたジン太を受け止めている間、夜一とチエが瞬時にウルキオラの左右方面から攻撃を繰り出していた。

 

 夜一は前回ヤミー(破面)たちとの教訓から、高濃度に圧縮した鬼道を両肩と背に纏う独自の技術である『瞬閧(しゅんこう)』を発動していた。

 

『白打を使った現在での最高術』と言っても過言ではないそれは、斬魄刀を使うより拳を使ったほうが強い彼女の持つ能力で全力に近かい拳をウルキオラの顔面目掛けて振るっていた。

 

 チエは刀を既に抜刀しており、それを夜一とは違う方向に斬撃をウルキオラの肩辺りを狙っていた。

 

「(『参ノ型・竜虎陣(りゅうこじん)』!)」

 

 ガガッ!

 

「「?!」」

「ッ」

 

「あ、ありえねぇ!」

 

 一護と夜一の目が見開き、ジン太は驚愕の声を出す。

 

 夜一の拳、そしてチエの刀の攻撃までもが先ほどのジン太のように()()()受け止められていた。

 

「◆◆」

 

 カッ!

 

 ウルキオラの口が初めて動き、何かを言ったのか聞き取れない言葉を口すると両手から出た虚閃がまだ攻撃で空中にいた夜一とチエの二人を包む。

 

「チエ! 夜一さん!」

 

「チーの姉貴!」 

「チーお姉ちゃん!」

 

 一護は夜一とチエの両方の名を叫び、ジン太、そして距離と位置を変えたウルルがチエの名を叫んだ。

 

「う~む、なんかお主に負けたような気がするのじゃが?」

 

「気のせいだろう。 それにさっきの攻撃で、夜一殿がたいして傷つかないことを知っているのだろう。」

 

 だが案の定、二人は攻撃を少しは食らったのか多数の火傷のような傷以外目立った外傷はなく、距離を取っていた。

 

「はて、どうしたものかのぉ~。」

 

 夜一の口調はいつも一護や三月たちをからかうようなモノだが、さっきの『瞬閧』を乗せた攻撃を防御されたことで瞬時に『敵の駆逐』の為に思考を張り巡らせていた。

 

「(ぬ?)」

 

 夜一はジワリと痛み出した手に目をそらすと、そこは赤く滲んでいた。

 

「(変じゃの。 前回の『外皮霊圧硬度(がいひれいあつこうど)』を配慮したのに()()()()()()()()が来る……どういうことじゃ?)」

 

「破道の三十二、『黄火閃(おうかせん)』!」

 

 チエが突然、前に黄色の霊圧を放つ。

 それに反応するかのようにウルキオラは一直線にチエはと走りながら自分へ放たれた鬼道をまたも素手で逸らしながら斬魄刀を抜く。

 

 ガァン

 ギギギギギギギ

 

「『炎の閃光よ、集え────!』」

 

 金属がぶつかり合う音が鳴り、今度は擦れる音が響いたと周りの物が思った矢先にチエは口を開けていた。

 

「『────光よ! 敵を射て!』」

 

 チエがいつの間にか刀から離した手から放たれた白い光線がウルキオラの胴体を()()した。

 

「ッ?! ふん!」

 

 何かに気付いたのか、チエの眉毛がピクリと反応し、彼女は無理やりウルキオラを蹴り飛ばす。

 

「……なんじゃ、あれは?」

 

「黒い……()?」

 

 夜一と一護たちが見たのはウルキオラのお腹にできた穴からは血の類の液体ではなく、ドロドロしたジェル状の()()

 

「「ウッ?!」」

 

 方便上『泥』とソレを一護は呼んだが、見ただけで明らかに『異質な物』と本能全てが訴えるかのように酷い吐き気、眩暈、頭痛が彼と夜一を襲った。

 

 ジン太やウルルに関しては白目をむき、痙攣しながらぐったりと気を失った。

 

「◆◆◆◆」

 

 またも聞き取れない言語でウルキオラが喋ると、開いた口からドプリと更に『泥』がボタボタとこぼれだし、それらが凄まじい熱気を発しているのか、彼の足元のから広がっていく泥沼は蜃気楼のように空気がユラユラと歪んでいた。

 

 「『ガルヴァノブラスト』!」

 

 バリバリバリバリバリバリ

 

 上から突然、小型の雷のような攻撃がウルキオラを含めた『泥』に直撃バチバチと辺りに放電した後に見える泥沼は先ほどより縮んでいた。

 

 その場に、六枚の霊子で出来た稲妻が翼のように背中から生やしたキャンディスが降り立ちながら、動きが極端に鈍くなったウルキオラと泥を見ながら舌打ちをする。

 

「チ、やっぱ『滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)』しても一発で仕留められねぇか────」

 

 彼女は片手を上げ、そこからはさっきとは比べ物にならないサイズの雷が纏う。

 

 バチバチバチバチバチバチバチ

 

「────ならこいつぁどうだ?! 電滅刑(エレクトロキューション)』!!!

 

 バン

 

 これを見たジャンプ好きならば『どこの“ヤハハハ”と笑う神だ?!』と言うだけで通じるような巨大な雷がその場に落ちる。

 

 その余波で静電気がその場一帯に留まり髪の毛や服などがハネあげ、電柱や電線から火花が散るか耐えられずに千切れていく、または発火した。

 

「っしゃ! ()()あがり!」

 

 ウルキオラと黒い泥がかつて『そこにあった』という証明は黒く焦げた地面を置いてなかったことにキャンディスが満足そうにガッツポーズをする。

 余談だがさっきの腕を大きく振りかぶった時も、このガッツポーズの動作でもかなり露出度が高い服装の中で彼女の胸も揺れ、ポロリとこぼれそうだったのは言うまでもない。

 

 だが彼女の言葉に何か引っかかったのか、以外にも夜一が先に問を掛けた。

 

「……あー。 お主、確か滅却師の一人だな? さっきお主は『一体』と言わなかったか?」

 

「あ? ……あー、そういうテメェは『黒猫』? だろ? おう、他の奴らや聖兵(ソルダート)共が応戦しているぜ────────って何だよロバート?!」

 

 キャンディスは急に顔しかめながら右の耳に取り付けていた通信機のようなものに手をかざしながら怒鳴る。

 

「あ?! 今陛下のところだよ! ……あのうさん臭い死神の駄菓子屋だ! ……あ゛?! 住所ならリルに聞け!」

 

 怒鳴り間に、キャンディスの背中に生えていた霊子の翼を一護たちは思わずジッと見ていた。

 

「……もしかして霊子を外部に留めた形か?」

 

「ん? あ。 そういえば陛下に見せるのは初めてだったな?」

 

 チエの言葉にキャンディスはさっきのイラついた顔から物珍しく『霊子の翼』を見る者たちの視線に気付いてはニヤニヤしながらドヤ顔を浮かべた。

 

「こいつは……まぁ言うなれば()()()()()()()()さ。」

 

 一護の脳裏に浮かぶのは、かつてルキア奪還から帰ってきた際に力を失った雨竜の姿。

 雨竜はそういう素振りを見せなかったが、霊圧の有り無しと、虚が出現した時の反応を見れば一目瞭然。

 このことを不思議に思い、浦原に聞いた一護は『滅却師最終形態(クインシーレットシュティール)』のことを知り、自分が雨竜を巻き込んだことで滅却師としての能力を失ったことに多少ながらも負い目を少し前までは感じていた。

 

 だが直接脳へと響く鉄裁(てっさい)の声で一護は思いに長く浸ることなく考え事が中断される。

 

『夜一殿、渡辺殿、黒崎一護殿、および現世駐在任務の死神たちへ! 私の名は握菱(つかびし)鉄裁! 私の冤罪を知っている、知っていない方たちもどうか私の言葉に耳を貸してくだされ!

 今現在、現世にて多数の破面が()()出現している模様! 各地区に滅却師の方たちが駆け付けますのでどうかその時まで身を守ってください! 彼らは我々死神よりはるかに優れた探知と戦闘能力をお持ちです! 連携、または共闘するようにお願いします! 最後に、敵の破面から出る泥には決して触れ────!』

『────テッちゃん────!』

 『──── “円閘扇(えんこうせん)”!』

 

 そこで鉄裁(てっさい)からの伝信は切れた。

 

「今のは、マイさん? 何が……いったい────?」

 

「────呆けるな、一護。 死神としてやることは一つだ。」

 

「ワシはジン太とウルルを地下に避難させて、ここ(浦原商店)の防御設備を起動してから後を追おう。」

 

「私たちを案内してくれ、キャンディス。」

 

「おう。 その為に、()の速いオレがここに来たんだらな。」

 

 夜一がいまだに気を失っている子供二人を抱え、キャンディスはチエに向かってニヤニヤしていた。




今年もお世話になりました!
はい、もう少しで元旦ですね。

年末間近で、ほとんどの知人たちは休みに対して基本的に自分の仕事場は休みでは無く逆に繁忙期です。

しかも本来の仕事の量の上に、一昨日の夜頃に突然前触れもなく『来年から上司変わるからワークスタイルも変わるからヨロ~☆』の軽いノリの知らせが来て、仕事場はいつもの繁忙期でてんやわんやなのに更に忙しくなる予定です。

ですので投稿の文字数が短かったり、少し遅れたりするかもしれません、等々。

ご期待に添えるか分かりませんが、努力をする所存です。

なかなか書けない時などは今までの感想などを読み、勝手ながら励み成分にしております。

追伸:
上記の軽~い知らせを見たとき、リアルで放心してから『ハァー?! なんやそれぇー?!』となってしまいました。

リモートワークの日で良かったよホントに。 いまだにテンションや頭の中がぐちゃぐちゃで……(汗汗汗


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第126話 The Sun(Visor)

お待たせしました、次話です!

楽しんで頂ければ幸いです!

1/3/2022 8:10
誤字修正いたしました。


 ___________

 

 尸魂界組 視点

 ___________

 

「ぬりゃああああ!」

「なんの!」

 

 ドォン!

 

「ぬん!」

 

 ビュッ!

 

 大男のドリスコールと右之助の拳がぶつかり、その余波を物ともせずに雀部が『厳霊丸』で突く。

 

 ギィン

 

「ハッ! 効かねぇよ!」

 

 だが先ほどからと同じように、ドリスコールの皮膚に模様みたいなものが浮かび上がっては『厳霊丸』が弾かれ、彼は数歩分の距離を退く。

 

「『厳霊丸』では傷が付けないか。」

 

「う~む、やはりワシら二人ではちぃっとばかし分が悪いの。」

 

「……体の調子はどうですか、右之助殿?」

 

 距離を取った雀部に右之助が近くまで来ると心なしか、右之助の肉体がさっきより少ししぼんでいたかのようだった。

 

「……()()抜けておらん。 が、持って数分。 ……()()()()()()()。」

 

 右之助の言葉に雀部だけでなく、ドリスコールまでもが反応する。

 

「あ゛? 耄碌したのかこのジジイが? 『次で終わらせる』だぁ~?」

 

 こめかみに青筋を無数に浮かべたドリスコールの両手に、今までの中で巨大な霊子で出来た槍が出現する。

 

 「ならやってみろよ、()()とやらをなぁぁぁ!」

 

 ドリスコールが次々と投げる槍は山砲(さんぽう)のような爆風を一つ一つが起こしながら飛来してくるこれらを雀部が『厳霊丸』で受け流し、右之助がその強靭な肉体と『瞬閧』に似たようで違う術がオーラのようにまとった両腕で弾く。

 

 ドドドドドドドドドドドドドドド────!

 

 「────オラオラオラァ!!! (とっとと『卍解』を使え!)」

 

 ドリスコールは沸騰しそうな頭に血管を浮かべながらそう強く念じ、残存霊力など配慮していないかのような猛攻を続けているうちに、霊力の消費か物理的な運動によって体が熱くなったのか次第に汗が滝のように頬や顔から出始める。

 

「今じゃ!」

 

「あ?!」

 

 そして右之助の怒鳴り声に、ドリスコールがハッとするような顔をして右之助の視線の先、つまりは()()()()()()()()()()

 

「んな?!」

 

 そこで彼が見たのは太陽にも勝るといっても過言ではない火の玉が彼に襲った。

 滅却師である彼は即座に『静血装(ブルート・ヴェーネ)』を全力で展開する。

 

 ギャアアアアアアア!!!」

 

 だが、この能力はあくまで『皮膚の硬質化で防御力を上げる』であって『急激な温度変化』に対応しているわけではない。

 

 アツイアツイアツイアツイィィィィアァァァァァァァァ?!?!?!」

 

 ドリスコールの全身が一気に包まれ、彼を襲ってきたのは疑似的な太陽に迫る熱気。

 彼の眼球は瞬時に蒸発する前に気圧で内部から破裂し、服装も地毛はもちろんのこと皮膚も一気にボタボタと体から殻のように焼け落ち、彼はともかく逃げようと必死にもがいた。

 

 だが彼を包んだ火の玉は密着しているかのように彼を逃がさず、結果彼は生きたまま火達磨状態を余儀なく維持され、叫びから肺の中から空気を全て吐き出した後も苦しみから無理やり声を出そうとして蒸発した嘔吐の臭がまき散らされる……事さえも無く、それすら熱によって浄化された。

 

 さっきまで雄雄しかったドリスコールは微塵も見当たらず、体は地面に横たわり、母の温もりを乞うように体を丸めながらいまだに焼かれる『なにか』がそこにあった。

 

「……容赦無いのぉー。」

 

「本当に彼女は変わられましたね。」

 

 その場に『飛梅』を構えた雛森が言葉を訂正しながら降り立ち、苦笑いをする右之助と雀部へと心配の顔を向ける。

 

「右之助さん! 雀部副隊長! ()()()()()は────じゃなくてお二人とも大丈夫ですか?!」

 

 奇襲とはいえ、さっきまで上記の二人を苦しめていたドリスコールを殺した張本人がこのような少女とは普段なら思い浮かばないだろう。

 

 特に『雛森桃』という人物ならの尚更の事である。

 

『原作』での彼女は玩具のように利用され、崇拝していた理想(藍染)に裏切れられ精神に多大なダメージを受け、やっと戦いに参じたのは偽・空座町での決戦時。

 

 というのも『原作』の彼女は相当無理をした状態でハリベルの部下である三獣神(トレス・ベスティア)を乱菊と応戦、そして敵たちスンスン、アパッチ、ミラ・ローズへ鬼道と『飛梅』の性質を利用した結界にて牽制するも、出現したアヨンに乱菊同様に重傷を負い戦線離脱(リタイヤ)

 

 この時を境に彼女は心身ともに傷つき、いずれは五番隊長に復帰した平子真子の元でかつての依存症の名残化、よく彼に付きまとうようになり『全快』するのに10年ほどの時間を費やすことと成った。

 

 否、()()()()()()

 

 ここでの『雛森桃』は依存する相手を他でもない山本元柳斎にて『五番隊の隊長代理』に任命された『渡辺チエ』が存在。

 本来(原作)では市丸の三番隊と東仙の九番隊同様に『裏切り者の隊』として冷遇される五番隊は残った副隊長のケアをするどころか汚名を晴らす為に奮闘……

 を出来ずに副隊長と隊士共々にズルズルとした、『特にこれ!』と言った大きな戦果を挙げることもなく活躍の場は終ぞ『原作』では無かった。

 

 だが荒療治とはいえ、『隊長代理』は五番隊の根性を叩きなおすだけでなく、やる気を出させるために自分へヘイト(怒り)稼ぎ(向けさせ)、本来では考えられない『上位席官に隊長業務の補佐』、『単独(または孤立か混雑)行動を前提にした隊士の教育方針』、『敵を倒す』のではなく『現在の脅威を取り除くことで未来の脅威を減らす』思想への変化、等々と言った改革的な変化の中でここでの『雛森桃』は大きく変化した。

 

 戦闘技術はもちろん、モノの見解や捉え方、精神的な面でも『原作』からは程遠い成長や視野の広さを持った。

 

 更に、彼女の中で燻っていた依存症を無理やりに取り払ったのが他でもない藍染だったことも大きいだろう。*1

『原作』での彼女は死んだと思われた藍染との再会にて、藍染に礼と別れをされながら胸を貫かれた。

 だが織姫とアネットと一緒に、藍染が移動していた虚圏へと攫われた彼女は彼との再会で彼から突き放されるような態度を取られる。

 

 さて、少し長くなってしまったが要するに彼女(雛森)は『原作』よりもいろいろな意味合いではるかに強くなっていた。

 

 現に彼女は突然襲ってきた、対話の暇もなく隊士を手当たり次第に殺しにかかった賊ないし『滅却師』に彼女は生温い対応ではなく徹底的な反撃を他の五番隊の者たちと一緒に行い、彼女の初解である筈の『飛梅』も他者の卍解とは引けを取らないほどの威力なっていた。

 

「雛森!」

 

「シロちゃん!」

 

 一番隊舎の真央地下大監獄から出た日番谷が雛森の霊圧を辿っては互いを見ての開口一番が上記である。

 

「だから公務では『隊長』────!」

 

 ヒュッ

 ムニュン《。

 

「────うぶ?!」

 

 もう心配させないでよバカァァァァァァァ!」

 

 そんな日番谷を見た雛森は瞬時に彼の近くまで移動しては抱きしめ、彼の脳天に鼻を埋めた。

 もちろん、日番谷も『原作』からは雛森のように違いも出ていたが、今この場で思い出してほしいことは彼の身長が伸びたこと。

 

 それでも雛森が両腕で抱きしめたのは昔からの癖か『彼の頭』で、必然的に雛森の胸に彼の顔が押し付けられる形となっていた。

 

「モガガガガガガガガガ?!」

 

 うわぁぁぁぁん!」

 

 バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ!

 

 余談ではあるがこの二人、少し前の出来事に『原作』でもたまにチラつかされていた、互いへの思いを晴れて認識したのである。

 

 主に『雛森気付かされた』のだが。

 

 少し前に、彼女は重症のチエに言われた通りに藍染との決戦後から少し時間が空いた時に日番谷と向き合った。*2

 

 その際に日番谷からある種の好意を寄せられていたことに気付かされ、戸惑いながらも以前よりさらに仲睦まじい姿があった。

 

 今では『幼馴染』という枠を超え『付き合う仲』……とまでも行かないが、少なくとも『姉弟』の間柄から進展していた。

 

「……あー、コホン……雛森副隊長? 日番谷隊長が赤を通り越して紫色になっているのだが?」

 

「へ? うきゃぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 雀部の指摘に雛森は日番谷の脳天を頬擦りするのをやめて下を見ると気を失いそうに口からエキトプラズム的なものを出していた彼の姿を見て叫んだ。

 

「……ブハッハッ────ハァァァ?!」

 

 その時、右之助は笑うのを中断されたような声を出しては体が空気の抜ける風船のように明らかに縮んで行き、以前よりさらに輪をかけたヨボヨボの姿に戻って膝を地面につける。

 

「ウェッホ、エホ、ゲホゲホゲホ、ゴッホ!」

 

 右之助は酷く咳き込みながら近くまで来ていた隊士に杖を持たされて、肩を貸されていた。

 

「やれやれ……やはり年には勝てんのぉー……あー、誰かワシを慰めてくれる心優しい女性はおらんかのぉ~? ……おい、そっぽを向くでない。 誰かこっちを見てくれぬか?」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 上記と時を同じくして、マスキュリンとマシロの攻防は続いていた。

 

(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)(せい)!!!」

「どりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」

 

 というのも二人は意地(プライド)をかけた勝負でヒートアップし続けていたところで拳西も虚化して参戦していた。

 

「うらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうら!!!」

 

 ジェイムズからの歓声を受けるマスキュリンがパワーアップする度に、マシロと拳西は虚化に費やす霊力を高めて注ぎ込んでいった。

 

 彼女は剣八ほどでは無いにしろ、かなりの霊力の持ち主であり以前の『15時間の虚化維持』は伊達ではなかったのだ。

 

 拳西に至っては見た目にそぐわない、超絶な霊力のコントロールを駆使して攻撃と防御の際にだけ霊圧を高めたり弱めたりして虚化の維持時間を引き延ばしていた。

 

 無論その場にいた恋次も何もしていないわけがなく、恋次は『蛇尾丸』で瓦礫などを使って間接的な攻撃もしていたが……

 

「がんばれぇぇぇぇ! スーパースタァァァ────ギャアアアアアアア?!」

 

 ドゴォン!

 

 ジェイムズは声援を送っている途中で恋次の投げた瓦礫の下敷きになった。

 

 恋次の『(あれ? 俺ってばこいつ(ジェイムズ)を消せばいいんじゃね?!)』という、彼にしては珍しい機転だった。

 

「ジェェェェェェェイムズ! 貴様ぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ぎゃ?!」

「うお?!」

 

 マスキュリンの怒りが上乗せされた攻撃に、マシロと拳西は驚愕の声を出しながらマスキュリンを逃してしまう。

 

「恋次!」

「赤パインちゃん!」

 

「この悪党がぁぁぁ!!!」

 

 拳西とマシロが恋次の名(あだ名?)を呼びながら恋次の近くまで一気に移動したマスキュリンを見る。

 

「破道の三十一、『赤火砲(しゃっかほう)』!!!」

 

 ドォン!

 

「ゴブァァァァァァァ?!」

 

 叫びながら拳を振るうマスキュリンは恋次の()()()()()()()()が顔面に直撃して変な声を出しながら吹き飛ばされた。

 

 思いだしてほしいが、恋次は『鬼道が下手』を通り越して馴染みであるルキアでさえも『鬼道が使えない』というレッテルを張られるほど。*3

 

「「恋次(赤パイン)が……詠唱破棄の破道で自爆しなかった……だと?」」

 

 そんな彼に拳西とマシロは素直に驚愕し、似た言葉を並べた。

 

「っしゃ! 道具に頼るのはどうかと思ったが技術局の『試作品』……中々使えるじゃねぇか。」

 

 恋次が複雑な気持ちで『蛇尾丸』を持っていない手の中で握られていたものを見る。

 そこには、一昔前のマスケット銃より一回り銃身が短くなったモノがあった。

 

 何を隠そう、これは先日滅却師たちに『空座町の半独立地域』の了承を瀞霊廷から得るために交渉材料の一つとして滅却師側が提供した『霊子兵装』を、死神でも扱えるように改良を重ねた試作品だった。

 

 これにより『死神』という動力源(霊力提供装置)、そして霊圧の出力調整や詠唱による精神的な細かい動作を『霊子兵装』という媒体で肩代わりし、比較的簡単に多少の訓練と扱い方の説明で鬼道が容易に使えるようになった。

 

 つまり恋次のように霊圧操作が下手な宝の持ち腐れを失くすような、革命的な第一歩とも言える代物が試作段階でも作られていた。

 

 ヌガァァァァァ!!!」

 

 マスキュリンは起き上がり、彼のマスクと共に顔が半分焼け落ちようとしていた。

 

「死なぬ! スターはぁぁぁぁ! ()なぁぁぁぁぬ! そう思わんかジェイムズゥゥゥゥゥ?!」

 

 「はい! その通りですミスター!」

 

「「「?!」」」

 

 恋次、拳西、マシロがガラガラと崩れる瓦礫のほうを見るとハンバーガーミンチのような肉片が蠢く中でジェイムズの口のようなものが上記の言葉を口にしていた。

 

「ミスターはスター! 希望の星! 悪党になど負ける通りが無いのです!」

 

「ぬおおおおおおおお!」

 

 みるみるとジェイムズが虚の超速再生(ちょうそくさいせい)のように蘇り、マスキュリンの体がさらに巨大化し、さらにムキムキマッチョなものへと変わった。

 

 ちなみにマスクも模様が変わっていた。

 

「フハハハハハ! 神の威光をまとう真のスーパースターであるワガハイにひれ伏せるが良いわ!」

 

 霊子で出来たマントをしたマスキュリンは一気に上空へ加速し、星形の陣を描くとそこから巨大な星形の光線が放たれた。

 

「え。」

 

 ドォォォォン!!!

 

「んな?! なんだと?!」

 

 だが光線は恋次たちに向けていたはずが、何故か()()側のジェイムズを一瞬にして灰にしていた。

 

「なぜだ?! ワガハイは確かに悪党どもを狙っていたはず?!」

 

 滅却師完聖体となった状態のマスキュリンは興奮中にも困惑していた。

 

「アホォ、どれだけイノシシやねん『自称スーパースター』?」

 

「?!」

 

 ()()()()も、ハイになった状態からだと思っていたがマスキュリンは声が聞こえた方向に向くとそこには逆さまで『逆撫(さかなで)』を展開した平子がいた。

 

「貴様! よくもワガハイのファンを!」

 

「アホかお前。 さっきの技ぶっ放したのはお前やろが?」

 

 平子のあおる言葉とやる気のなさそうな表情にビキビキとマスキュリンのこめかみに青筋が浮かんだ。

 

「ええええい! あくとか正義とかはこの際どうでもいい! ブチ殺す!」

 

 マスキュリンは動こうとして、違和感を持った。

 明らかに体の動きが()()上に、霊圧が上手く思うように操れなかったのだ。

 

「なん、だ? こ、れは?!」

 

「終いや。 やれ拳西、マシロ。」

 

 マスキュリンの頭上に拳西は卍解である『鐵拳断風(てっけんたちかぜ)』で物々しい両腕と上半身を覆う鎧姿になりながら刃の付いたメリケンサックの拳を振るい、マシロはかかと落としのモーションの最中だった。

 

 「「ぬおりゃぁぁぁぁ!」」

 

 ドォン

 

 二人の攻撃にマスキュリンが声をあげる暇もなく地面に叩きつけられた。

 

「「「虚閃。」」」

 

 カッ!

 

 そんなマスキュリンに平子、拳西、マシロの三人は虚化した上で虚閃を一斉放射した。

 

「………………………浮かれていた俺がバカだったぜ……」

 

 恋次は跡形もなく灰になったマスキュリンがいたと思われる地面から、自分の手に持っていたマスケット銃に視線を動かしながら上記の一言を喋った。

 

「『スター』いうからには燃え尽きて本望やろ?」

 

 虚の仮面を解除した平子のその言葉は、『原作』での恋次のモノと酷似していた。

*1
71話より

*2
99話より

*3
73話より




今年の初投稿!

今年もよろしくお願いします!


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第127話 Town of Empty Seat

お待たせしました、短いですが次話です。

そしてアンケートへのご協力やお気に入り、誠にありがとうございます! m(_ _)m

え? 『いまだに気にしているのか?』ですって? 

もちろんすべてのアンケートに目を通していますし、影響もしっかりと繁栄しようと努力しています。 (´・ω・`)

仕事場のワークフローなどが劇的に変わったことでおかしいテンションになっているのも不定はしません。 ( ;∀;)


 ___________

 

 現世組 視点

 ___________

 

「ウィ~……あんのクソ部長めぇ~、人を勝手に個人的な歓迎会に巻き込んで自分の分だけちゃっかり金おいて逃げやがってぇ~」

 

 夜の空座町に、一人のサラリーマン風の男が夜道を歩いていた。

 頬は赤く、目も据わっており、歩き方が千鳥足だったので酔っぱらっていたのは誰から見ても明白だった。

 

 ドゴォン!

 

「ヒッ?!」

 

 そう独り言のように愚痴る彼の前で、塀が突然粉砕されて体がびくりと跳ねた節に尻餅をつき、彼の持っていたカバンが地面に落ちた。

 

 塀が粉砕されたことで上がって煙の中からムクリと出てきてのは、袖なしミニプリーツスカート風な白い軍服のようなものを着た小柄なおかっぱボブ金髪の少女。

 

「チッ、バカ(ちから)ならもうミニーで間に合ってんだよこのクソ破面(アランカル)モドキが……ん? ……プッ! ……唇切っちまったじゃねぇかこのクズが。」

 

 ◆◆◆◆◆!」

 

「……は?」

 

 そして血を口の中から吐き出しながらかなりの毒舌を披露する少女にだけでなく、大きな雄たけびのようなものを出す二メートルは優に超えている下顎を思わせる仮面の名残を着けている色黒の巨漢の登場に、サラリーマンの男性は一瞬遅れて口を開けた。

 

 特にこの巨漢の腰にぶら下がっていた()を見て。

 

「な、な、な、なんだよこれ?! なんだよの褐色デカ男は?! 刀も本物なら銃刀法違反だぞ?!」

 

「ん?」

 

 そう男性は言うしかなく、少女はやっと彼の存在に気付いたかのように振り向き、彼が自分ではなく二メートル越えの褐色大男に視線を送っていることに目を見開いた。

 

「テメェ、こいつを()()()のか?!」

 

◆◆◆◆◆!」

 

 褐色の大男がまたも言語にならない叫びをしながら一直線にサラリーマンの男性の傍へと移動し、大きな張り手で襲う。

 

 「ミニー!」

 

「はぁ~い。」

 

 ドッ!

 

 重い音と共に、横から飛来して来た鉄骨が大男の脇を襲って無理やり彼を遠ざけるどころか、別の塀をそのまま突き抜いて横たわった。

 

「う~ん、『ほーむらん』には出来なかったねぇリルぅ~? (。・ω・)」

 

 ピンク色の髪をした女性がコテンと頭をかしげながら指を唇に添えると、その動作で埋められた腕で強調された胸が揺れる。

 

「( ゚_゚)o彡°」

 

 少女が呼んだ『ミニー』らしき女性が横から出てきて、目が点になった男性は思わず左腕を上げたり下げたりしたそうな。

 

「バカ、今のは『野球』じゃなくて『槍投げ』だろうが。」

 

「じゃあ『すとらいく』、とかぁ~?」

 

「そっちはボウリング。」

 

「スポーツは苦手なのよねぇ~」

 

「……無駄な脂肪付けているからだよ。」

 

 グワッ!

 

◆◆◆◆◆!」

 

「「ッ?!」」

「ぎゃあああああああ?!」

 

 さっきの攻撃で褐色大男が沈黙したと思ったリルトットとミニーニャ、そして眼前で理解できない出来事を男性は突然起き上がりながら三人に襲い掛かった褐色大男に純粋な恐怖から叫んだ。

 

 ザンッ。

 

「油断は禁物ですよ、お二人とも。」

 

 褐色大男の首を一閃が走り、褐色大男の首が落ちるのを追うかのように体も落ちていくとさっきの落ち着いた声の持ち主らしい、両刃の長剣を手にしていた青年の姿があった。

 

「ふむ。 やはり物理的な攻撃は動きを止めるには有効ですが、大して効果は無いようですね。」

 

「……? 黒いd────オゲェェェ!!」

 

 サラリーマンの男性が青年の視線を辿って褐色大男の首からドロドロブヨブヨした黒い液体が地面に広がっていくのを見ると吐き気を抑えきられずに嘔吐する。

 

「ではリルトット、()()()()()()。」

 

「ウゲェ。 マジかハッシュヴァルト? こいつのゲロも近くにあるんだぞ?」

 

 リルトットが心底嫌そうにしかめる顔と舌を出しながら抗議をあげる。

 

「いま私たち三人の中で『処理』できるのはあなただけです。 お忘れですか?」

 

「……ハァ~、マジに融通が利かねぇ元最高位(グランドマスター)だぜ────」

 

 そう言いリルトットの口が巨大化し、歯はギザギザになっては黒い泥ごと地面をえぐるかのように文字通り一口で平らげてはそのまま飲み込んだ。

 

 ゴックン

 

「────…………………………クッソゲロマズイ。」

 

 もともと色白だったリルトットの顔は若干青くなっていく。

 

 先ほどから見ていた男の顔色のように。

 

「ア……アハハハハ……ゆ、夢だ。 酔っぱらい過ぎて、夢を見てんだ俺は。 ハハハ。」

 

 ついに彼は乾いた笑いと共に現実逃避をしながら呆けた。

 

 そんな彼の両側に、ガスマスクのようなモノを着用した聖兵(ソルダート)が彼の鵜瀬を掴んで立たせた後に肩を貸しながら歩きだす。

 

「これで何人めになる、ハッシュヴァルト?」

 

「…確認されただけでも20人めですね。」

 

「ミニーは~、流石に()()()()と思うの~。」

 

「ええ、同感です。」

 

 三人が話題に出していたのは『破面が視える』、かつ『襲われる人間』の数だった。

 

 一時間ほど前から尸魂界と現世を繋ぐ断界(だんがい)に何らかの障害が生じ、破面らしき反応が多数ほど仮の間に滅却師たちが設置した感知型の結界に引っかかった。

 

 彼らが反応を追うとその先には破面の姿を見て、畏敬の彼らに戸惑う人間たち。

 滅却師たちが駆け付けたころにはすでに絶命後、あるいは状況が掴めていない間に重症を負ったか、不器用ながらも逃げ出そうとした者たち。

 

 そして襲われた彼ら彼女らに事情の説明や成り行き、または現場の状況などを見てその誰もが共通していたのが上記の『破面が視える』、そして『破面に襲われる』。

 

 本来、虚は基本的に(プラス)や高い霊子などを好んで襲う事例はある。 

 だが破面などの進化レベルが高い存在からすれば(プラス)でも『スカスカで中身の具が入っていないサンドイッチ』程度の存在。

 

 そもそも理由も無く、破面までに進化した者が現世の人間を襲ったところで利益などほとんど無いに等しい。

 

 あるとすれば上記のように、稀に霊力の高い人間を玩具にすると言った『遊び』程度。

 

「(『偶然』として処理するには共通点がこの二点。 だが問題は漏れなく今まで襲われた人間たち全員が『破面を視ることが出来た』ことだ。)」

 

 ハッシュヴァルトの考えはあながち間違ってはいない。

 何せ黒崎家でも虚や破面などの姿をハッキリと見られるのは余程霊力の高い人間のみ。

 多少の高さでは目視はおろか、『気配』のような曖昧な感じか『意味不明な(もや)』としか認識できない。*1

 

 流石に霊的な物が集まりやすい重霊地の空座町と言えども、これほど『破面が視える人間』が出てくるのは異例中の異例である。

 

「(どちらにせよ、『何かが起きている』のは間違いない。 そして、断界(だんがい)の異常も配慮すればあちら(尸魂界)側でも異常事態が起きているのは明らかですが……今はこの町とその周辺に対応しなければ。)」

 

 ハッシュヴァルトは耳のインカムからくる次の反応へと移動しながら、夜空に浮かぶ星たちと月を見上げそう思った。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ドパパパパパパパパパパパパパゥ!

 ガァン! ガァン! ガァン!

 

 現代の日本には似つかわしくない、拳銃の発砲音が鳴り響く。

 

 と言っても、霊子で出来た拳銃型の兵装なので一般人や霊力の弱い存在には認知さえも出来ない。

 

 筈。

 

「きゃあああああ?!」

「な、なんだ今のは?!」

「花火……じゃないよな?! 今のはまさか銃声か?!」

 

「(フゥム、私の霊子兵装は他人より時代的に進んだモノだけに優秀ですが……この場合に起こる作動音は少々困りますね。)」

 

 一般人や霊力の低い者に認知さえも出来ない筈なのだが、どういうわけか以外にも発砲音を聞いてびっくりするOLや夜遅くまで街を歩き回っている者が多かったことに、ロバートは自分を追ってくる破面から距離を取りながら応戦していた。

 

 ドゥ!

 

「『神の歩み(グリマニエル)』。」

 

 フッ!

 ガァン!

 

 ロバートは自分を襲ってくる攻撃を素早く躱し、一気に敵の背後へと移動しては敵の脳天目掛けて霊子兵装を撃つ。

 

 頭の半分を吹き飛ばされた破面が力尽きたように地面に落ちるとハッシュヴァルトや一護たちが対面した破面たちのように黒い泥が溢れ出始める。

 

 カチン。

 シュボォォォォォッ!

 

 ロバートは眉毛一つ動かさずに焼夷(しょうい)手榴弾のようなものを使い、遺体と泥ごと焼き始めるのを見届けてから耳のインカムに話しかける。

 

「情報本部、注意事項を発見されたし。 つい先ほど()()()()()()()()()()を使う個体と対峙しました。 頑丈さは他の確認された個体より幾分か低いが、敏捷性と遠距離攻撃に特化している模様。 他の者たちに連絡と、焼夷(しょうい)手榴弾は処理時のみ使うことを推薦したまえ。」

 

『了解しました、アキュトロン様。 すぐに情報(ダーテン)を最新します。 次に“46の23地区”に新たな反応が感知されています。 』

 

「すぐに向かおう……ところで、()()()調()()()()()のかね?」

 

 インカムからの通信にロバートは移動を開始しながらか、何かの再確認を取る。

 

『ええ。 今のところ、“完聖体”を使用しているどの方達からも異常は確認されておりません。 やはりアキュトロン様の推測のように、霊圧濃度が何らかの理由で上昇している模様です。』

 

「ほぅ、それは素晴らしい(グッド)。 (なら温存できる今のうちに(霊力)を蓄えておくとしよう。)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「「「「ワァァァァァ!」」」」

 

 空座町の桜橋(さくらばし)区にある一つのアパートからは煙が上がり、住人たちと思われる人たちが背中にリュックやバッグなどを手に持ちながら走っていた。

 

「皆! 落ち着いて下さい!」

 

 その走る人たちを、何とか宥めようとする女性の声がする。

 

「うるせぇ! どけぇぇぇ!

 

 そんな彼女に、こんもりと大きくて今にでも張り裂けそうなダッフルバッグを両手に持っていた男が乱暴に手をあげる。

 

 ガシッ!

 

「落ち着け。」

 

「ああああ?! な────ッ?!」

 

 男が振り向くと自分よりさらにガタイの大きい茶渡が物静かに自分を見下げていたことに圧倒され、言葉が止まる。

 

「白い軍服の人たちの誘導に従えば、避難できる。」

 

 茶渡が男の手を放すと彼はそそくさと冷たい視線を浴びながらその場を後にする。

 

「大丈夫ですか、井上さん(マスター)?」

 

 男の代わりに、両手で老人を支えていたアネットが上から降りたち、老人をそっと立たせる。

 

「おお、ありがとうお若いの。」

 

「……いえ、井上さん(マスター)のお隣でしたから。」

 

 手を振りながら歩きだす老人からプイっとそっぽを向くアネットをどこか和む織姫がいた。

 

「ありがとう、茶渡君にアネットさん♪」

 

「……井上が俺のアパートの人たちを避難させていたからな。」

 

「ピィー♪」

 

「……ここの住人たちは今ので最後だそうです。」

 

 そこにポイちゃんがアネットの上げた腕に乗っては泣き声を出すと、アネットが報告のようなものをする。

 

 この様に茶渡、織姫、アネット(+ポイちゃん)は手分けして空座町に出現した破面らしき者たちの牽制と共にその場へ駆けつけた聖兵(ゾルダート)たちと協力していた。

 

 茶渡は煙の上がるアパートの破損した場所からのそりと起き上がる巨体を見る。

 

「……やはり()()な。 ()()()()()()()だけに。」

 

 巨体は先ほどハッシュヴァルトたちが対峙していた褐色大男を、茶渡は『()()()』と呼びながら完現術を発動する。

 

「ですがここにはあのもう一人の破面がいないだけにやりやすいです。」

 

 アネットはどこからか以前に見せた、釘状で鎖付きの短剣が両手に現れる。

 

「防御は任せて二人とも!」

 

 そしてこのように前衛の茶渡、遊撃のアネット、後方の織姫と、どこぞのロープレゲームのようなパーティが出来────

 

 ゾクリ

 

「「「────ッ?!」」」

 

 上記の三人と鳥は背筋に氷が入れられたような寒気がする方角へと一気に視線を動かした。

 ポイちゃんに関してはアネットの肩の上でプルプルと震えていた。

 

「これは……何だ?」

 

 茶渡が()()()()()()()()感覚に戸惑う。

 

「……黒崎……君?」

 

「え?」

 

 だが織姫には感じたことのあるようなもので、意外な人物の名を口から出すと茶渡がポカンとする。

 

「(確かに、あの時の『黒崎一護』に()()()()()ね。)」

 

 アネットが思い浮かべたのは虚圏で完全に虚化した一護の姿だった*2

*1
55話より

*2
92話より




ひよ里:みじか! なんやねんこれ?!

作者:もう寝たい……休暇取りたい……ゲームに没頭したい……

ひよ里: ∑(゜Д゜)


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第128話 Town of Empty Seat 2

*注* 残酷な描写タグ発動します。

楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 現世組 視点

 ___________

 

 時間は少し遡ること数分。

 

 場所はもちろん空座町であるが、その中でも避難所として使われている中等部の体育館の中には破面を視ては襲われた人たちだけでなく、その家族や知人たちなども一緒にいてでごった返していた。

 

 彼ら彼女らは破面が視えるワケでも、襲われたこともないのだが一緒にいた被害者が頑なに一緒に避難させてほしいと乞い、聖兵(ゾルダート)たちも仕方なく一緒の場所に避難させていた。

 

 無理やりに被害者だけを非難させてもよかったのだが、そうすれば彼ら彼女らは非協力的になるし、何より聖兵(ゾルダート)とはいえ滅却師。

 

『人間を脅威()から守る』という存在。

 

 それでも被害者からすれば『なんでバケモノに襲われたのに自分だけ助けようとする?!』という理論かも知れないが、そのバケモノ(破面)を直接見たわけではない他人からすれば『良い迷惑』か『不可解なことに巻き込まれた』という認識が強い。

 

 脅威が視えないのだから無理もないだろうが、逆に視える人たちからすれば周りの物たちがなぜ平然とできるのかが理解しづらかった。

 

 とはいえ、明らかに異質な格好にバケモノ(破面)を退ける武器()に『いやだ』とも言えずに避難させられていた。

 

「……チッ!」

 

 その視えない人の中で一人の男性が舌打ちをして体育館の出入り口の近くに立っている聖兵(ゾルダート)の横を通ろうとした。

 

「ん? 待て────」

 

 「────タバコだよ!」

 

「ですが────」

 

 「────すぐそこで吸うから吸わせろ!」

 

 亀紙に青筋を浮かべながら男性が指をさしたのは体育館の壁、ちょうど月明りからは影になる場所だった。

 

 二人の聖兵(ゾルダート)たちが互いを見て『やれやれ』とアイコンタクトで会話し、一人が男性と付き合うことになった。

 

 聖兵(ゾルダート)はぶつぶつとイラつきを全く隠そうともしない男性の取り出すタバコに百円ライターで火をつける姿を呆れた目で見ていた。

 

 一方、男のほうとしては妻がいきなり叫ぶと同時に寝室の窓ガラスが割れたことで寝起きのままフラフラと、何かに恐れる妻にされるがままにマンションから引きずり出され、急に趣味の悪いコスプレをした軍人モドキたちに感謝する妻と一緒に体育館へと非難されていたことにストレスが溜まっていた。

 

「(これじゃあ『避難』どころか『監禁』じゃあねぇか! 何が『バケモノ』だ! 『霊』だぁ? そんなのやばいカルトか何かの暗号か?!)」

 

 そう思いながら男は灰をニコチンでいっぱいに満たしてから、息をタバコの煙と一緒に吐き出す。

 

 これを数回繰り返し、新しい煙草に火を点けて繰り返すうちにやっと一息ついたのか、ユラユラとしながら上がっていく煙を追うかのように彼の視線は自然と追うようになり、夜空を見上げる。

 

 ボタ。

 

「うわ?! (なんだ? 雨?)」

 

 その時、見上げた男の頬に液体が落ちて彼は思わず顔をしかめる。

 

 ボタタタタタタ。

 

「ウッ! ペッ! ペッ!

 

 男は鉄の味に似た液体が唇に付いたことでタバコごとそれを吐き捨ててから忌々しく、上をもう一度見上げる。

 

「……はぇ?」

 

 そこには男の意表を突くようなものがあった。

 

 体育館の壁の影で最初こそは見にくかったが、タバコを捨てた今ならば夜目でうっすらとだけ『ソレ』が見えるようになった。

 

「ヒッ?!」

 

『ソレ』は目を虚ろで男を見、顔を驚愕に変えたまま固まった先ほどの二人組のうち、一人の聖兵(ゾルダート)

 

「ヒ、ヒャアアアア?!」

 

 より詳しく追記すれば、『絶命した聖兵(ゾルダート)の上半身』だった。

 

 男は死体を見るのはもちろん初めてだが、彼が恐怖を感じながら尻餅をつきながら地面を後退った理由はそれだけでは無い。

 

「か、かかかかか()()()()()────?!」

 

 男からすれば聖兵(ゾルダート)の体は支えもなく()()()()()()()

 それこそ一昔前の映画などで使用されていたワイヤーアクションの事故(手違い)のような場面だった。

 

「────いルゥプラギャ?!」

 

 男の頭が左斜め上方向から右足の付け根辺りまで一つの線が走り、叫びは途中から(世紀末的)な言語に変わる。

 

 さっき体育館の外回り巡回に出ていた聖兵(ゾルダート)たちが出入り口の警備の者がいなくなっていることに時間はさほどかからなかった。

 

「て、敵襲ぅぅぅぅぅぅ?!」

 

 彼らの一人が叫びながら霊子兵装を急遽構えた。

 

 その先には大鎌状の武器を持ち、眼帯をした長髪で長身痩躯の破面がギラギラした目で広い笑みを顔に浮かべていた。

 

 

 

「……ん。」

 

 上記から少し離れた場所では、電柱の間にある電線を利用してお手軽に乗るだけで移動するキャンディスが耳にはめてあるインカムから何か聞こえてきたのか手をかざした。

 

「どうした?」

 

「ッ」

 

 近くで宙を走る一護を横に、チエが何かに気を取られたかのようにキャンディスたちから別の方向へと急に方向転換しては姿を消す。

 

「あ、おい! ……なんだ、この感じ?」

 

 一護も何かを察知したのか、曖昧な反応を示したことにキャンディスが彼を面白そうに目を若干細めた。

 

「(へぇ~、流石は特記戦力筆頭の『黒崎一護』か。 前陛下がつけた『未知数の潜在能力』の表れか。) おい、オレンジ頭。」

 

「何だよ、露出女。」

 

 キャンディスの呼び方にカチンときたのか、一護が意趣返しのような呼び名で彼女にあだ名をつける。

 

「あっちの方向にウチの奴らが避難させた人間たちが破面に襲われている、行くぜ。」

 

「そういうことは早く言え!」

 

 一護たちがスピードを上げて彼女の後を追う。

 やがてチエの霊圧がでいると思われる空座町内の中等部に着くと、お腹に来るような重い響きと背中にどっしりと重しが乗せられるような感覚が二人を襲う。

 

 ズン!

 

貴様ァァァァ!!!

 

 獣染みた叫びとともに。

 

 

 

 ___________

 

 『渡■』チエ 視点

 ___________

 

「……」

 

「ワァァァァァ! こ、こ、殺さないで────プギャバラ?!」

「おい、お前たち何から────ぎゃあああああああ?!」

「に、逃げろぉぉぉ!!」

「『逃げろ』ってどこにだよぉぉぉぉ?!」

「さっきの奴らを見ただろ?! アイツ、()()()()()()()()()()()んだぞ?!」

 

 命乞いをする者。

 混乱し、訳が分からない者。

 腰が抜けて地面を四つ這いで必死に動きながら叫ぶ者。

 他人の叫びに逆に叫んで虚勢だけでも保とうと叫び返す者たち。

 

 その誰もが鎌を持ちながら笑顔を浮かべたバケモノにジワジワと、決して致命傷にならないケガで手足などを斬りつけて一通りに()()()()()()惨殺される人たち。

 

「お母さん怖いよぉぉぉ!!!」

「大丈夫よ志桜里(しおり)! お母さんが守るから!

 

「ッ」

 

 泣きながら母親に泣きつく子供と、母親。

 

 古いテレビのように、酷いノイズが入り混じった音とゆがむ景色に顔をしかめる。

 

「グッ」

 

 いや。

 ()()()()()

 

「お母さん! お母さん!

 

 ハッとして親子を見上げると守った親が子を逃がそうとして代わりに地面に横たわっていた。

 

 カンタンにカラダは小さきモノにユスラレテいた。

 

 カハンシンがナイので。

 

 小サキモノのウシロに、鎌ガ────

 

「────貴様ァァァァ!!!

 

 ゴスッ!

 

 

 気が付いていれば、刀を投げて鎌の軌道を無理やり曲げ、笑みが消えかかりながらこちらを見る奴の顔をつかんでそのまま地面に叩きつけていた。

 

()()()()()()()()』、だが。

 

フゥゥゥ!

 

 何せ彼女の顔は今までに見たことがないほどの剣幕で、月明かりの下で破面に馬乗りするかのようなまま顔と首それぞれに手で掴み、明らかに腕に力が入っていた。

 

「?!??!

 

 さっきの余裕の笑みはどこへ消えたのか、破面はイラつきと困惑を混ぜたような表情に変えてチエの腕を自分から振りほどこうと必死になる。

 

 ゴスッ!

 

「?!?!?!」

 

 フゥゥゥゥゥゥゥゥ!

 

 やがて息を荒くしたままのチエに対して破面は首と背中の筋肉、そしてついには両腕も力んでやっと頭を上げ始めた破面がさっきより大きくて重い力を出すためか、更に荒い息遣いをするチエによってまたもねじ伏せられる。

 

 ドゴッ!

 

 ミシッ!

 

 地面にクレーターのようなへこみが生じに釣れ、破面の顔が今度は物理的に(骨格が)

 歪み始め、血の代わりに黒い泥が今にでもあふれ出る瞬間に『ソレ』は起こった。

 

「『宇宙(ソラ)! 星! 大地よ! 世に刻まれし炎をこの手に宿し、敵を(めつ)せよ!』」

 

 チエから急に吸引力のようなものが発生し、一瞬だけ物質や霊子に関係なくすべてが引き込まれるような感覚が感じられた。

 

 果て無き埋葬(アブソリューション・グレイヴ)』!

 

 カッ!

 

 鬼道とは違う術の詠唱らしきものが終わった次の瞬間、夜だったその場はまるで急に夜と真っ昼間が反転したかのように白い輝きが発した。

 

 その輝きからは音、匂い、温度の変化、等々の、あらゆる物が感じ取れないような()()()()()()()()だった。

 

 その出来事はおそらく一秒にも満たなかったのだが、その光を目にした者たち全員からすればその光はまるで『()()()()()()()』を告げるようなモノと容易に連想させるほどだった。

 

 

 

 ___________

 

 現世組 視点

 ___________

 

「「「「「「……………………………………………」」」」」」

 

 体育館にチエが駆けつけてから上記の事直後、光が収まった今でも周りにいた誰もが言葉を失い、ただ唖然としてさっきまでの騒動が嘘だったみたいに沈黙が場を支配していた。

 

「(さっきの破面……上手く見れなかったけど、『()()()()』……に似ていたよな? どういうことだ?)」

 

 それは一護やキャンディスも例外ではなく、たださっきまで彼女が掴んでいた筈の破面が跡形もなく消えていた。

 

「……」

 

「ヒッ?!」

 

 先ほどの剣幕とは180度の様子のチエは、近くで母親の亡骸に掴みながらいまだに唖然とした子供に視線を寄越すと、子供はくぐもった悲鳴を出しながら亡くなった母親から手を即座に離し、瞼をギュッと閉じながらそらした顔を覆うかのようにただ震える両腕を上げた。

 

「……」

 

 チエが視線だけを体育館から様子を見ていた街の住人達や負傷した聖兵へ移すと誰もがビクリと体を跳ねさせたか、冷たいかつ嫌な汗を噴き出させた。

 

 チエはこれを確認してからか、一言も言わずにただ一護たちがいる場へと戻ってきていた。

 

「(ヒュ~、『陛下』ってばやっぱおっかねぇ~。)」

 

 冷や汗を体中から流しながらも内心冷えるような現場を見ていたキャンディス。

 

「(あれ?)」

 

 逆に一護はとある違和感に気付き、おそらくはその場の誰とも違うものを心に宿していた。

 

「キャンディス。 さっきの破面は滅却師たちでも感知しにくいタイプだと思われる。 ほかの者たちにも情報を提供してくれるか?」

 

「おう、お安い御用だ。」

 

「……チエ。」

 

「なんだ?」

 

「ッ」

 

 横から割るように、一護が声をかけたが、彼女が目を自分に向けた瞬間に彼は息と共に言葉を飲み込んだ。

 

 彼自身、彼女がいつもとは少し違う雰囲気だったのを今ほど近くになるまで気付かなかったほどの微妙な違和感。

 

「どうした?」

 

 彼女の頭を傾げる仕草は、いつもとは少々違うどこか見た目の年相応のあざとさの名残があった。

 

「……いや、なんでも…ねえよ。」

 

 だがそれが逆に一護のぼんやりとした違和感を、さらにモヤモヤとしたモノに変えた。

 

『あー。 テステスー、黒崎サンたち聞こえていますか~? 聞こえていなくても喋りますからご安心を~♪』

 

 そこで浦原の気の抜けそうなアナウンスにも似た声が一護の頭の中で響いた。

 

『これは鬼道の“天挺空羅”を()()()()モノなのどびっくりすることはないと思いますが、とりあえずは単刀直入に本題を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瀞霊廷との連絡が復旧しました。

 そしてどうやら藍染を含めた数人が何らかの方法で、霊王宮へと向かっているとのことで事態はかなり深刻なものです。』

 

 後者の事を告げた浦原の声は真剣な口調(トーン)だっただけに、彼の声を聴いていた大半の者たちの緊張感がさらに高まった。




???:ん? さっきから彼を突いてどうしたんだい?

???その2:いや、さっきから妙なことを言っていてな。 ちょっと見てくれ。

作者:『へんじがない、ただのしかばねのようだ』

???その2:な?

作者:リアルのおかげでテンション低めなのはご了承ください。 というわけでゴロゴロして仮眠してきます。

???:……ふむ、この間に彼の髪の毛を全て剃り落としてみてはどうかな?

???その2:…………………俺のモヒカンへのあてつけっスか?

???:………………………………………………………………………………………………………………………………


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第129話 Unternehmen Ikarus

お待たせしました、次話投稿です。

お気に入り登録、誠にありがとうございます。 歓喜の極み、うれしい限りです。 <(_ _)>

リアルでの出来事などで上手く考えがまとまらず、展開が少し急かもしれませんが、皆様が楽しんでいただければ幸いと思っています。


 ___________

 

 尸魂界組 視点

 ___________

 

 ドリスコールとマスキュリンの戦死、そしてシャズが戦闘不能にされたことで瀞霊廷では大きく、派手な戦闘は()()無くなった。

 

 目立つ戦闘区域と言えばエス・ノト辺りだろう。

 

 あとは未だに瀞霊廷内で市街戦やゲリラ戦法で徹底抗戦をする聖兵(ゾルダート)たち。

 

『原作』では滅却師たちの一度目の侵略で死神たちはなす術も無く、戦闘とも呼べないほどに一方的に蹂躙されていた。

 一人の星十字騎士団(シュテルンリッター)に、わずか182秒間で副隊長である雀部を含めた一番隊の隊士107名の命が散った。

 

 二度目の事前予告までされた侵略では星十字騎士団(シュテルンリッター)のほぼ全員が動員され、侵略開始から7分で隊士の戦死者が1000名以上出るほど。

 

 そんな彼らがなぜ犠牲を出しながらも早く侵入してきた聖兵(ゾルダート)たちの鎮圧化、または拮抗状態へと持ち込めたのは先のロバートの中立派やハッシュヴァルト率いる穏健派たちの離反、そして圧倒的な力というカリスマの塊であるユーハバッハがいない事も関係しているのは事実。

 

 だが意外と護廷(の一部)が『原作』より幾分か実力が底上げされたことや、試作品とはいえ霊子兵装が鬼道の扱いが下手な者へ支給されていたり、瀞霊廷のインフラなどが発展してことも関係していた。

 

 少し前まではマニュアル通りの業務で傲慢や慢心していた死神たちだったが、落ち目だった五番隊が目を見張るほど向上したことや、上記のロバートやハッシュヴァルトたちと一緒に離反した滅却師達が少数ながらも自分たちより圧倒的な戦闘技術などを持っていたことで危機感を覚えたり、自分たちの隊長も何らかの影響を受けて向上心を露わにしたり親しみやくなったり……

 

 等々といった違いが重なったことで、このような結果を出していた。

 

 とはいえ『全てが順調』と呼べることでもなく、やはり時代遅れな考えや頑固者は昔の定義のまま身を戦闘に身を投じて亡くなった者たちも少なくない。

 

「ざぁ、ざっざざぁー。 次の部隊はぁ~?」

 

『原作』ほどでは無いにしろ、決して無視できる数もない。

 

 この死神たちの亡くなった()原因は部類として、『滅却師』に違いないなのだが……

 

 今は一際目立つ戦闘をするエス・ノトへと戻そう。

 

 

 

「……なンダ、全然大したコトないネ。」

 

 どこか落胆していたエス・ノトが頭を傾げながら、どこぞのサスペンス映画で出てくる殺人鬼のようにその場を徘徊していた。

 

「ルキア────」

「────今は言の葉より精神に集中をしてください義兄様。」

 

 ルキアの参戦(横やり)があったものの、『恐怖』という負の感情に一時的に飲み込まれた白哉を彼女は離脱させるために事前に発動しかけた『初の舞(そめのまい)月白(つきしろ)』を使って白哉と自分はエス・ノトから無理やり距離を取っていた。

 

 その間に白哉は『恐怖』を止められないにしろ、ここで向き合おうとしていた。

 

『理由の無い恐怖』より、無理にでも『カタチある恐怖』にしたほうがずっと制御しやすい。

 

「(……情けない。 まさか『恐怖』の元がルキアで、そのルキアに駆け付けられるとは。)」

 

「……」

 

 ルキアはいつもの覇気と圧を感じさせない、大量の汗を流す白哉に視線を送らずに『(エス・ノト)の警戒』をして『見て見ぬフリ』を続けた。

 

 というかそうしなければルキア自身、『恐怖』に飲み込まれる気がしたからだ。

 

「(私は義兄様ほど心身ともに強くはない。 だが義兄様の助けぐらいは出来る筈だ。)」

 

 幸いエス・ノトが彼女が現れたことを『またも格下の死神の出現』と思い躊躇し、針状の矢を射る前に彼女の技で距離を取られた。

 

「……アア、思い出シタ。」

 

 エス・ノトが突然立ち止まっては人差し指を上げて、己の着用していたマスクにある一つのトゲを撫でる。

 

「さっきノ君、『朽木ルキア』だったヨネ?」

 

「(……義兄様の事はともかく、私の名を知っているだと?)」

 

「耳を貸すな、ルキア。」

 

 いつの間にか、立ち上がった白哉が物陰からエス・ノトを覗こうとするルキアの肩に手を置いて止めていた。

 

「義兄様────?」

 

「────奴の話術もおそらく『恐怖』をより引き出す物。 耳を貸す必要はない。」

 

「ッ。」

 

 先ほどよりかなりマシな顔色になった白哉が()()()()()()()足に力を入れていたことにルキアは気付く。

 

「それに、()()()()のならば他の物が良いだろう。」

 

「『他の物』?」

 

 白哉に指摘されてルキアが耳をすませばわずかにだが楽器のような音が風に乗って聞こえてきた。

 

『♪~』

 

「これは?」

 

 ルキアが考え込んでも、檜佐木がたまに奏でる『ぎたー』でも、現世でいた頃に三月と一緒に観た(というか観せられた)『さいほうそう』で聞いた『じぇいぽっぷ』や『あにそん』とはかなり違った。

 

「『おーけすとら』というモノらしい。」

 

「え?」

 

 白哉が西洋のモノを知っていたのがかなり珍しく、ルキアがポカンとした。

 そして彼の言っていたことは的を得ていた。

 

「……?」

 

 エス・ノトも聞こえてくるのか、彼は立ち止まって周りを見ると上空から金色の人形らしき物体が降ってくる。

 

「なンダ?!」

 

 それらの姿形はあえて言うのなら金色の紐を何重にも巻いたマネキンに、頭の代わりに金色の薔薇の花で統一され、さらに空中には同じく金色で指揮棒を持つ右手と空の左手が現れた。

 

 エス・ノトや白哉たちから少し離れた建物の屋上では、マエストロなどが使う指揮棒へと形が変わった『金沙羅(きんしゃら)』を持ったローズがいた。

 

「出来ればもっと観客が美しい僕が目に見えているところで使いたかったけど、本当は使っちゃいけない卍解を使っている訳だからねぇ~」

 

 ローズは皮肉めいた感じで独り言を言っていた。

 が、さっき言ったように今の彼は卍解を遠距離から使用していた。

 

 普通ならたとえどんな状況でも総隊長の出した『卍解の使用禁止令』を守っているところなのだが、彼が白哉たちのいた場所へと移動中に我先にと一心不乱に逃げていた死神たちに吉良とローズが強制的に尋問 ()()事情聴取を行って、エス・ノトの異常さを悟った。

 

 これにより一般の隊士たちがエス・ノトたちの周りから自然と避難していたこと、そして白哉と対峙していた様子からエス・ノトの攻撃範囲が()()()()目視の範囲内のみ。

 

 ならば誰にも目撃されることなく、()()()()()()()()()()()()()()で短期決戦を狙えばいい。

 

「僕の卍解、『金沙羅舞踏団(きんしゃらぶとうだん)』の観客が敵含めて数人程度だけど共同の演習(肩慣らし)と思えば悪くないかもね……『第一の演目、海流(シー・ドリフト)』!」

 

 ローズの宣言とともに、金色の人形たちから巨大な水でできた嵐がエス・ノトを覆う。

 

「……ミズ? ただノ水でボクが────」

 

「────(よん)の舞、『面白(つらじろ)』。」

 

 パキッ。

 

 ルキアの声がかすかにエス・ノトに聞こえたと同時に、彼と彼を覆う水がすべて氷へと変わった。

 

 それはどこか、日番谷の『千年氷牢(せんねんひょうろう)』に酷似していた。

 

 とはいえあちらは単体でなせる業に対して、こちらはローズの遠隔での卍解の補助とルキアが()()()()()()()()

 

面白(つらじろ)』とは、ルキアがほぼ強制的に海燕の卍解会得の鍛錬に突き合わされた結果で編み出した技。

 原理としては『月白』に近いがこちらは敵が何らかの物質に閉じ込められた、または包囲された場合に最大限の効力を表す。

 

「やった……か?」

 

 息を整えるルキアが物陰から巨大な氷の柱と一体化したエス・ノトを()()

 

 ゾクリ!

 

「ッ?!」

 

 ルキアは突然自分を襲ってくる()()に物影の中へと再度潜みながら『袖白雪』を胸近くで握りしめる。

 

 カタ、カタカタタタ。

 

「クッ!」

 

 振動で、手からくる金属が揺らされる音をかき消すように彼女は更なる握力で────

 

「────十分だ、ルキア────」

 

「────ぇ?」

 

 自分の横にいた白哉の言葉に目がつむりそうだったのを逆に見開いた。

 

「間に合ったようだ…()()()()()。」

 

 ヒュっ!

 

「う~ん、白哉君に褒められるのは新鮮な感じがするねぇ~? 『影鬼』。」

 

「『天譴(てんけん)』!」

 

 風を切る音と主に、『花天狂骨(かてんきょうこつ)』を持った京楽がルキアたちのそばに表れてすかさず影の中へと消えた瞬間、上空から飛来してきた腕によって氷の柱が粉砕されていき、身動きが取れないエス・ノトに迫っていく。

 

 バキバキバキバキバキバキ!

 ドゴッ!

 

 ガァァァ!!!

 

 途中で氷が内部圧迫から砕け散り、姿がさらに異様に変質したエス・ノトの手前で狛村の『天譴(てんけん)』が()()()()()()

 

「ぬ?! 何故だ?! 何故動かん?!」

 

 エス・ノトの白目を剥いた眼からは血涙のような模様が現れ、両腕が黒く変色、体の皮膚がロングスカートのように伸び、足元から喉元までを縫合痕が刻まれた姿になりながら煮たr値とした笑みを浮かべ、近くのビルから睨む狛村を向く。

 

「体がスクンデいるからダよ。 『神の怯え(タタルフォラス)』。 コレデボクを見ルと、『恐怖』が否が応にデモ捻じ込まレ────」

 

 ゴォォォォォォ!!!

 

「────どけ。」

 

「総隊長殿?!」

 

 エス・ノトが言葉を言い終える前に、周りの氷────否。 大気の湿気が一気になくなりほどの灼熱と共にその身を包まれた。

 

 上をどこまで見ても天に上るその柱は、下手をすると大気圏から宇宙へと続いていくほどの力強さを錯覚させるほどだった。

 

 そんな術を()()()初解で成した本人はただ静かに、他の隊長たち数名を率いて狛村、そしてルキアたちのいる場所を素通り────

 

「────朽木白哉。 これから霊王宮へと向かった藍染を止めに行く、同行せよ。」 朽木ルキア、ほかの副隊長たちと連絡を取り瀞霊廷の鎮圧化に励め。

 

 山本元柳斎の有無を言わせない、硬い口調に朽木兄妹はただ除くことしかできず、人の目を盗んで卍解を使用したローズは青を通り越して真っ白になった顔をしながら平子に引きずられていた。

 

「で? 何でここにお前もおんの?」

 

 平子はいつもの笑みや愛想笑いをやめて横で歩いていた三月にそう問うと、彼女は一瞬だけ横目で彼の視線を返す。

 

「……()()()()、ね。」

 

「ふぅ~ん?」

 

 これから護廷の隊長たちが勢ぞろい(+少女一人)で藍染の後を追い、その間に襲ってきた滅却師(カイザァリッヒ)の残党を副隊長たちに任す方針で行動していた。

 

 ()()にもこの時、少人数で隊士たちを葬っていった()()の行き先に先回りしたことが関係して副隊長たちだけでも今の状況に対応できるようになった。

 

 そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ___________

 

 現世組 視点

 ___________

 

 現世では姿と技能が似たかつて打ち破られた破面たちの襲撃にこそ後れを取ったものの、元星十字騎士団(シュテルンリッター)たちと彼らに従う聖兵(ゾルダート)たちと『その他の者』たちが奮闘したおかげで『破面たち関連の被害』はそう増大することもなかった。

 

『その他の者』の中に死神代行である一護はもちろんのこと、チエも入っている。

 あとは────

 

「────こっちだオラァ!」

 

 一護の体に入っていたコンは叫んで煽った破面たちから一目散に逃げた。

 

 追いつかれず、引き離さずの距離を保ち彼は走り続けた結果に数十人ほどの破面たちを引き連れていた。

 

うおおおおおおおおおおおお?! (ヒィィィィ! 何でこうなったぁぁぁ?!)」

 

 彼は走りながら泣き出しそうな顔のままそう思った。

 

 というのも、彼は町の異変に気付いて黒崎家の一階に降りようとしたところでちょうど何かが玄関のドアを突き破った音に駆け付けると────

 

「────夏梨────!」

 

「────ッ! こっちだカマキリ野郎────!」

 

 ────()()を持った破面を見ては腰を抜かして尻もちを付いた夏梨と、生身の一心が彼女のそばにいたことを見たコンは大声で叫んでは飛び蹴りを破面に食らわせ、破面が自分を追うことを確認したまま逃走した。

 

 このように行く先で破面に襲われそうな人たちをコンは見ては挑発しては逃げ、挑発しては逃げることを繰り返したことで上記の事となる。

 

「あああああああああ!」

 

 幸いにも破面たちはどういうわけか響転(ソニード)を使用してこなかった。

 たとえ改造魂魄のコンでさえも、さすがに響転(ソニード)を使われては一巻の終わりだっただろう。

 

「バカ! お人よしの俺ってバカ!」

 

 そんな近に聞きなれている声が聞こえてくる。

 

「しゃがめ、コン!」

 

 ザンッ!

 

 コンが言う通りにすると、後ろから追っていた破面たちが上半身と下半身に分離しながらも手を使って追おうとする。

 

 「死ねやクソ虚! 『電滅刑( エレクトロキューション)』!!!」

 

 ドドドドドドン!

 

 上から飛来して来た落雷はそのまま線を描くように一直線に地面を移動する間、チエがコンに肩をかs────

 

 「────チエの姐サァーン!」

 

 ムニュン。

 

「すまないな、少し遅れた。」

 

 自分を精一杯抱きしめながら頬擦りをするコンを彼女は撫でた。

 

 ナデナデナデナデナデナデナデナデナデ。

 

「グヘ♡ グエヘヒヒヒヒへハハハハハ♡」

 

「……よし、なんか腹が立つからこいつ(シメ)る。」

 

 誰がどう見ても完全に邪な考えをするコンをキャンディスが見ては再び腕に電気を溜める。

 

「気持ちはスゲェわかるけど俺の体だからやめてくんねぇかな? てかいい加減には・な・れ・ろ!

 

「グェ。」

 

 耳まで赤くなり、別の魂とはいえ自分の体なので明らかに恥ずかしがる一護がコンを引きはがすと、コンはつぶれたカエルのような声を出した。

 

「あ、じゃあそっちの特盛の姉さんで────」

 

 「────ア゛?」

 

 キャンディスの明らかに不機嫌な声にコンは口をつぐんだ。

 それもそうだろう、何せこのような状況で────

 

「金のねぇ奴に興味はねぇよ!」

 

「え。」

 

 ────訂正。

 金目のものが無いそうなコンがダメなようで、流石のコンもこれには呆気に取られた。

 

「お疲れ様っス。」

 

「「「うお?!」」」

「浦原か。」

 

「そこは『店長』で。」

「バイト中ではないのでな。」

 

 一護たちの背後からくる浦原の声に一護、キャンディス、コンはびっくりする。

 

「そこのお二人がたに、尸魂界への────」

「────ああ。」

 

 チエの即答に浦原が意外そうに眉毛を上げる。

 

「おや? 珍しい────」

「────御託はいい。 藍染が絡んでいるのだろう?」

 

「……いやいや、まったく可愛げの無い。 そう思いませんか一護サン?」

 

「なんでそこで俺に振るんだよ浦原さん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 瀞霊廷のはるか上空では、藍染と彼と一緒にいた滅却師たちは空の上を浮いている街並みの外れにある、木で出来た橋の上を歩いていた。

 

 迷いのない藍染の足取りと違い、『Kaiserreich(カイザァリッヒ)』の滅却師たちはあたりを警戒しているのかそれぞれが武器、または霊子兵装を構えながら右から左へと視線を動かした。

 

「フゥム、妙であるな。」

 

 その中で剣闘士風のジェラルドが独り言を零す。

 

 何せ彼と周りにいる滅却師たちがもっている情報(ダーテン)によれば『この場所』に到達するためには72枚の障壁を超え、さらに護廷十三隊全てより強いとされている守護隊がいるはず。

 

「ああ。 気にするな、()()()()よ。」

 

 藍染は何でもないような口調でそのまま、宮殿らしき建物へと続く橋をゆっくりと歩く。




未だにぐちゃぐちゃなテンションと思考の中でのコントは難しいです、申し訳ございません。


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第130話 交差するThen and Now

遅くなって申し訳ありません。 
短くて急展開ですが次話投稿です、楽しんでいただければ幸いです。

1/12/22 9:15
気になったところを誤字修正しました (コンと→コント)


 ___________

 

 現世組 視点

 ___________

 

「お待ちしておりましたよ、お三方。」

 

 コンをあとに駆け付けてきた聖兵(ゾルダート)と嫌々ながらも承諾するキャンディスに預け、一護たちに浦原商店の前で立っていた浦原が挨拶をする。

 

「要件を言え、喜助。 瀞霊廷は────?」

 

「────人的被害はあったものの、()()よりかなり少ない。 ですが由々しきことは藍染がどうにかして霊王宮に向かったことですね。」

 

 ここで夜一は顎に手を添え、自分なりの考えをまとめ始めたのか小声で独り言をする。

 

「到達するためには72枚の障壁をどうにか解除、または無効化しても霊気を遮断する瀞霊壁(せいれいへき)が守っておる……如何に霊力がバケモノじみた藍染でも────」

 

「────それが困ったことに彼、()()()()()()があるんスよ。」

 

「………………………………………ふにゃ?」

 

「「(……………………聞かなかったことにしよう。)」」

 

 浦原の言葉に夜一は普段見せないような顔で意味不明な声を出し、一護たちは聞かぬふりをしたのを察したのかせき払いをしてから口を再度開ける。

 

「コホン……なるほど、それはマズいの。」

 

「ええ……マズいですね。」

 

 そしてその場にいた()()()()()()()()()()が夜一の言ったことを復唱する。

 

「「「…………………………………………………………………………………」」」

 

「なぜお前たちがここにいるのだ?」

 

「「「(相も変わらずド直球。)」」」

 

 気まずい空気で静かになる中、チエが思っていた疑問を投げたことに一護、浦原、夜一が同じことを思った。

 

 というのも、コンを保護した者たちを引き連れていたのはハッシュヴァルト組でそこでコンは渋々ついて居ていくことを了承した。

 

 余談だがミニーニャに釣られたことは内緒の事みたいである。

 

「なぜと仰られましても、『陛下が行くというのなら』では駄目でしょうか?」

 

「だそうだ。」

 

「そうですか。 では────」

 

「「((────それで良いのか浦原さん(喜助)?))」」

 

 

 

 

 ___________

 

 尸魂界組 視点

 ___________

 

 山本元柳斎率いる者たちが歩いた後にはいまだに徹底抗戦を続ける『Kaiserreich(カイザァリッヒ)』の遺体。

 

 彼らが向かった先は意外にも西流魂街。

 

「む、遅かったか。」

 

 山本元柳斎が一目だけ開けながらそう言ったのはボロボロになった志波家の敷地。

 

「しかも盛大に壊されちゃっていますねぇ、総隊長サン♪」

 

 そして巨大な煙突と思われる発射台()()()()()

 その前にからからと笑う浦原と、彼の後ろでげっそりした一護とハッシュヴァルトに肩を貸すチエ&夜一。

 

 彼らがここに来たのは以前通った浦原特製の『穿界門・改(仮)』。

 以前のモノをさらに改良しつつ禁術である『転移』を基にした『転移装置』の応用で一気に断界内の距離を詰めた上にある程度の出口の移動ができるようになった*1

 

 ただその道のりは険しく、安全固定具(ベルト)なし何某ランドにある巨大ジェットコースター片道切符(命がけ)のモノだったが。

 

 その出口が志波家で、重症で身動きが取れなかった海燕、岩鷲、空鶴は夜一によって呼ばれた四番隊の救護班に医療院へとすでに運ばれた後に山本元柳斎たちがたどり着いていた。

 

「ええ、確かに()()()壊れていますね……というわけで────!」

 

 ピッカァァァァ。

 

「────その先は私から聞かせようではないカ、浦原喜助。

 

 *特別通訳*『その先は私から聞かせようではないか、浦原喜助。』

 

 ほとんど見ること自体が苦痛になるほどの光源を逆行に光っているマユリが依然浦原が使った『転移装置』と似た宙の歪みの中から姿を現した。*2

 

「「「「「…………………………………………………」」」」」

 

 その場にいたほとんどの者たちは顔を自然としかめるか、呆れるような顔をした。

 

みぎゃああああああああ?! 目が?! 目がァァァァ?!?!

 

 一人(三月)は純粋に、脳を直に襲ってくる痛みで顔を覆いながら転ぶ勢いで悶え、その間に光源が少し……ほんの少しだけ下がった。

 

 ような気がした。

 

全く騒ぐことしか能のなイ……偉大な者は自然と輝いて見える者なのだヨ!

 

 *特別通訳*『全く騒ぐことしか能のない……偉大な者は自然と輝いて見える者なのだよ!』

 

「「「「「…………………………………………………」」」」」

 

イダイよおおおぉぉぉぉぉぉぉ……」

 

「…ええそうですねマユリさん。 それで首尾は如何なものでしょうか?」

 

「「「「「(色々とスルーした?!)」」」」」

 

 間を置いてから話を続ける浦原にびっくりしたことにマユリは気付かずただ浦原を見下ろした。

 

「ふン。 言われなくても渡された物を既に私なりの改良を施しタ。」

 

「さすがマユリさん!」

 

 そう言いながらマユリのいる空間へ入る浦原を他の者たちが互いを見て後を追うと────

 

「────ナニコレ。」

 

 三月が驚愕していた。

 

「志波家にあった砲台だな。」

 

 そしてチエが見たままの物をその通りに言う。

 

「これはアタシがしゅm────『何か』の為に作っていた砲台を基に────」

 

「「「「「(今『趣味』って言いそうだったな。)」」」」」

 

「────(マユリ)が浦原喜助に代わって改良を重ねた代物だヨ。 これならばたとえ雲の先にある霊王宮といえども辿り着くのは容易! 名付けて、『天元突破レールガン(電磁砲)』だヨ!

 

 高らかにキラキラしたマユリの言ったことに、その場の誰もがさまざな反応をした。

 

「「「「「(意外と普通なネーミングだ。)」」」」」

「(うーん、ボクならば『彼方への電磁砲』と名付けていましたね。)」

「(なんちゅうギリギリのネーミング……)」

 

「「(三月よりはマシだな。)」」

 

 上記から殆どの者、浦原、三月、そして最後にチエと一護である。

 

「ちなみにコレは一発打ち上げれば崩壊するヨ。」

 

 「「一発芸か?!」」

 

 マユリの言葉に一護と三月が同時にツッコミを入れる。

 

「いやまぁ、そこは勘弁してほしいっス。 志波家の砲台は先祖代々、秘伝の技術を使った建造物。 こっちはコピー程度の試作っスから……ではでは霊王宮力の御一考皆さん、砲台の中に入ってください♪」

 

「ん? じゃが喜助、霊王宮には72枚の────?」

 

「────それは大丈夫じゃ。 実はというと、霊王宮を守っておる障壁は何かが通過すると、約6000秒ほど閉じられぬ欠点がある。」

 

 夜一の疑問を、かなりの機密事項である言葉で山本元柳斎が遮る。

 

「いいのか、重国?」

 

「なーに。 閉じられぬことを知っても、そもそも通ることが出来るのは『王鍵』を持つものか、藍染のように『()()()()()()で押し通す』の二択だけじゃ。」

 

「なるほど。」

 

 チエは砲台の中で、山本元柳斎に後ろからハグされるかのように立っていた。

 

「お前相変わらず小さいな。」

 「『成長中』だよ一護!」

「だってホントの事じゃ────」

 「────せめて『小柄』て言って!」

「それでもお前ブチ切れるじゃん……」

「ジャンプするわよ?」

「すいませんした。」

 

 三月と一護も同じように立っていた。

 というか砲台の中は色々と満員電車のようにギュウギュウ詰めだったので彼女が飛び上がれば確実に頭突きを一護にお見舞いすることになるほど。

 

 明らかに定員オーバー寸前ギリギリ状態。

 

「では皆さん、打ち上げますよぉ~?」

 

 砲台の()にいる浦原が呑気に声をかけ、()()()()ではマユリが最終的なチェックをしているのかコンピューターのキーボードを素早く打っていた。

 

「って、アンタは乗らないのかよ?!」

 

「じゃあ一護さんは抱っこする気あります? 明らかに定員オーバーになりますケド?」

 

「抱っこされる気は毛頭無い。」

 

「大丈夫だ。 遊子や夏梨ならいざ知らず、お前なら抱っこする気が沸き上がらないからな。」

 

「んな?! ぬわにを~?」

「んだよ?」

 

「こんな時でも仲がいいな。」

 

「「どこが?!」」

 

「(変だな、思ったことを言っただけなのだが……)」

 

「というわけで行ってらしゃーい♪」

 

「え、ちょ、待って────」

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場所は霊王宮へと続く、ちょうど藍染たちが歩いた場所と思われる木の橋。

 

 ヒュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!

 

 ドゴォォォォォォォン!

 

 何かが落下する音と衝突音と共に黒く、大きな鉛玉のようなものがその場へと落ちる。

 

 撒きあがった煙がまだ漂う中、鉛玉が内側からひび割れる。

 

 というか蹴られたのか、足が見えたと思えば中から真っ青になっていた一護と三月が中から同時に駆け出しては木の橋を全身で堪能するかのように大の字でうつぶせになる。

 

 「「地面だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

「大げさだぞ二人とも。」

 

「チーちゃんいつも通り過ぎ!」

「そうだぞ! 今の逆フリーフォール気分は凄かったぞ!」

 

「こういう時は妙に息が合うな。」

 

「「茶化すな!」」

 

 一護、三月(ツッコミと)、チエ(天然真面目ボケ)のコントが続く間に鉛玉の中から次々とほかの死神たちが出てくる。

 

「あいつら、中ええな。」

「『青春』って奴だねぇ~。」

「初々しいの────」

 

「────よう。」

 

「「「「「ッ?!」」」」」

 

 夜一の言葉を遮った、()()()()()()()()に誰もが前を見る。

 

 そこには、紅い髪のモヒカン青年が立っていた。

 

「おいテメェ、()()()()そこにいた?」

 

 前に出た拳西の声に、青年は興味なさそうに答える。

 

「『何時から』って……()()ずっとここにいたぜ?」

 

「……バズビーか。 何でここにいる?」

 

 ここで以外にも、口数が少なかったハッシュヴァルトが自ら口を開けて問いを投げていた。

 

()()ならこの先だ。 行きたきゃ行けよ。」

 

 ハッシュヴァルトに『バズビー』と呼ばれた青年は、後ろに続く橋の先にある宮殿を指しながらそういうと、面白そうなものを見るかのように京楽が口を開ける。

 

「ふ~ん? えらく潔いね? ()()()は何だい、若いの?」

 

「話が早くて済むぜ……この先に進んで良いのは『ハッシュヴァルト以外』だ。 そいつだけは()()だ。」

 

 何人かがハッシュヴァルトを横目で見ると、彼は何かを思ったのか瞼を一瞬閉じてから横に歩き出す。

 

「いいでしょう、他の者たちは先に行ってください。」

 

 バズビーも横の端に移動すると死神たちは一気に前進する。

 

「おい、ポテト……大丈夫か?」

 

「ええ、私に構わず行ってください。」

 

 早速一護を訂正するのも諦めた様子で、彼に上記の言葉を返す。

 

「……何かの因縁か?」

 

「そのようなモノです、陛下。」

 

「そうか。」

 

 そっけないようなやり取りを知恵とハッシュヴァルトが交わす。

 

「ハッシュヴァルトさん……」

 

「先ほど言ったように私は大丈夫です姫様────」

 

「────()()敵同士でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から。」

 

「……え?」

 

 最後に三月が過ぎ通る間に言った言葉がハッシュヴァルトに引っかかったのか、彼はわずかに目を見開いた。

 

「『姫様』、ねぇ? テメェ、女に尻尾振るのかよ?」

 

 その場に残されたハッシュヴァルトに、再び橋の中央に歩き出すバズビーが挑発的な言葉にハッシュヴァルトはただ静かに大剣と盾を構える。

 

「んじゃ、やろうぜ! ()()()()!」

 

 バズビーが人差し指を、三月が『霊丸』を使用するときの構えと似たものをする。

 

「『バーナーフィンガー1』!」

*1
22話より

*2
70話より




_(X3 」∠ )_ ←*注*作者


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第131話 交差する Then and Now 2

お待たせしました、次話です。

独自解釈などがございますが楽しんでいただければ幸いです。

お気に入り登録、誠にありがとうございます。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 

『バズビー』。

 

 ハッシュヴァルトを『ヒューゴ』と呼ぶ彼は今でこそ『Kaiserreich(カイザァリッヒ)』の一員だったが、ユーハバッハが健在だったころは『見えざる帝国』の『星十字騎士団』所属で『灼熱(ザ・ヒート)』の聖文字(シュリフト)を授かっている滅却師。

 

 それが『バズビー』と呼ばれている『現在の彼』である。

 

「『バーナーフィンガー1』!」

 

 ジィ!

 

 バズビーの指先から何某機動戦士アニメでよく出てくるビーム光線を、ハッシュヴァルトが広げたマントを焼く。

 

 ハッシュヴァルトが囮と注意を引く為に投げたマントが完全に焼ける前にバズビーの横に移動していた。

 

「『バーナーフィンガー2』!」

 

「バズビー!」

 

 バズビーもこれを予想していたのか、先ほどの光線とは違う技を人差し指と中指から出し、それを鞭のように巧に操っていた。

 

「釣れねぇな、ヒューゴ! ()のように『バズ』って呼べよ!」

 

 ここでバズビーは皮肉めいた言葉を放っては苦虫を噛み潰したように顔を怒りで歪める。

 

「それとも、今の俺たちじゃ()がありすぎるか?! え、最高位(グランドマスター)さんよ?!」

 

「やめろ、バズビー!」

 

「吠えていろ! 今のテメェは俺の上司でもなんでもねぇんだ!!」

 

「(戦うしかないのか?! ()()と?!)」

 

 さて、このまま二人の戦闘が繰り広げられている間に一昔前の話をしたいと思う。

 

 話題はもちろん、ヒューゴこと『ユーグラム・ハッシュヴァルト』と、バズビーこと本名『バザード・ブラック』。

 

 前に少しだけ記入したと思うが、ハッシュヴァルトの成り立ちを覚えているだろうか?*1

 さらに彼が滅却師の基本的能力である筈の『霊子を吸収して自らの(戦う)力とする』事が出来なかったことで、『異端視』されていたことを?

 

 そこも含めて、彼とバズビーの詳細を提示しようと思う。

 少々簡略化などもあるかも知れないが、許してほしい。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 シュッ!

 

 木の枝を削ったような矢がじっとしていたウサギを素通りする。

 

「あ……」

 

 カンッ!

 

 これを木の弓を持っていた少年が林の中から声を出したことでウサギは逃げ始めたが、横から来た霊子の矢によって射られる。

 

「何やってんだお前! へたくそだなぁ!」

 

「へ?! だ、誰?!」

 

 上から来た声に木の弓を持っていた少年が林の中から立ち上がって、そのぼさぼさした金髪頭をキョロキョロと周りを見る。

 金髪少年の身なりはお世辞にも良いとも言えず、少し……かなり貧相なものだった。

 

 高い耐久性があるはずのオーバーオールジーンズはところどころ敗れていて傷が目立ち、中に着ていたシャツも生地自体がヨレヨレ寸前で、履いていたサンダルはボロボロだった。

 

 リアルを追求しすぎた『ザ・中世西洋の農民』の姿である。

 

「ここだよ、ここ!」

 

 金髪の少年は死んだような緑の目で見上げると、どこかの『中世騎士なりきりセット』のような甲冑とマントをし、木の上で霊子のクロスボウを持った者を見る。

 

 甲冑少年は見下ろしたまま、大きな態度で怒鳴る。

 

「それにな! 名前を知りたいのならまずは自分から名乗れ! 特にこのバズ様の前ならではな、この白ネギモヤシ野郎!」

 

「あ。 『バズ』って言うんだ」

 

 この木の上から金髪少年を見下ろす子供こそ『バズ』。 

 後に『バズビー』と名乗る者である。

 

「んが?! テ、テメェ、どうやって俺様のあだ名を知った?!」

 

「僕はユーグラム。 ユーグラム・ハッシュヴァルト」

 

 「人の話きけよ?!」

 

『お前が言うな』というテロップがまさに似合うほどに『バズ』は地団駄を木の上で踏む。

 

「けどお前、見所あるぜ! このバズ様を前に怖気づかないなんてよ────って俺様をほっといてどこに行くんだよ?!」

 

「次の獲物を探しに行くんだけど?」

 

 それだけ言い、幼いハッシュヴァルトの後をトコトコと我が物顔で幼いバズビーはついて行った。

 

「……なんでついてくるの?」

 

「あ?! なんでって……お前みたいな白ネギもやしが獲物取れると思えねぇから見守っているんだよ!」

 

 ハッシュヴァルトは感情のない目と顔のまま、巧みにジト目の空気を出して音量がうるさいバズビーを見る。

 

「な、なんだよ?」

 

「ううん。 君の言う通り、僕は君みたいに神聖弓(ハイリッヒボーゲン)も作れないし弓も上手くない」

 

「……バッカだなぁ、ユーゴ!」

 

「(『ユーゴ』ってあだ名、僕は好きじゃないんだけど)」

 

 ハッシュヴァルトのジト目が顔に出始めたが、元気に喋り続けるバズビーは気付かなかった。

 

「これは俺様が天才なだけだ! 俺らの歳じゃ出来なくて当然ぐらいだ! お前の友達見ても誰もできねぇだろ?!」

 

 ここでハッシュヴァルトはジト目をバズビーからそらした。

 

「……さぁ? そういうのは分かんないかな? あと、僕の名前はユーグラムだよ」

 

「ん? じゃあ親はなんてお前を呼んでいるんだ?」

 

「親はいない……オジサンと住んでいる」

 

「ふーん……じゃあそのオジサンはお前をなんて呼んでいるんだよ?!」

 

「……別にいいだろ、そんなの。 君に教える必要ないよ」

 

 無意識にか、ハッシュヴァルトは自分の腕を掴んでこの拍子にバズビーは上がった袖の中にある肌からはみ出た青い痣を見る。

 

 それはどう見ても打撲の跡で、決して狩りや農業で得るものでは無かった。

 

「ほらよ」

 

 そんなハッシュヴァルトにバズビーはウサギの遺体を彼に手渡す。

 

「え?」

 

「『え』、じゃねぇよ! 俺様は食うために狩りをしている訳じゃねぇんだ! ()()()()()だよ!」

 

「遊び……」

 

 未だに死んだ目をするハッシュヴァルトに、バズビーが次に渡したのはマント留めのバッジ。

 

 何かの家紋を掘られたそれを見て、ハッシュヴァルトはキョトンとする。

 

「んじゃ、ヒューゴ────」

「(────またあだ名が変わっている────)」

「────お前は今日からはこの俺様、『バザード・ブラック』の子分な! 分からないことがあれば俺様に聞け! 最強の滅却師になろうぜ、ヒューゴ! もちろん、俺様が一番な!」

 

 それを最後に、バズビーは少し距離のある実家(居城)へとウキウキ気分で走っていく。

 

「(あの子……やっぱり貴族様だったんだ……)」

 

 そう思い、ハッシュヴァルトは自分の手のひらにある家紋入りのバッジを見る。

 

 「ユーゴ!」

 

 大きな怒鳴り声に、ハッシュヴァルトの体がびくりと跳ねて彼はバッジを自分で裁縫しなおした際につけた隠しポケットの中に入れた。

 

 ガサガサと森から林に姿を現したのは『ザ・中世西洋農民』でもハッシュヴァルトよりはきちんとした身なりの中年男性だった。

 

「探したぞ、この無能が!」

 

「え、あ、その────」

 

「────お?!」

 

 中年男性はウサギをハッシュヴァルトの腕から取ってはマジマジと見定めていく。

 

「ウサギか! 貴様にしちゃあ上出来だ! 今日は御馳走だな!」

 

 ……

 …

 

 

「うっめ~! やっぱ狩りの後の夕食は旨いぜ!」

 

 その日、ブラック家当主であるバズビーの父親の召使たちが見守る中でバズビーは豪華な夕食を笑顔で堪能した。

 

 ……

 …

 

「……」

 

 同じ日、別の場所に居たハッシュヴァルトは多少焦げ目が目立つウサギの耳を白湯に近い雑炊(に似たもの)に浸し、自分で自作した小屋の中で食べていた。

 近くのちゃんとした家の中からは、ウサギの肉を使ったシチューの濃厚な匂いが漂っていた。

 

 これがバズビー、そしてハッシュヴァルトが出会った日の一連と、彼らの境遇である。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 二人が出会って半年後、()()()()()の提案を拒否したことで領主であるブラック家の城と共に小さな領地の森は焼かれた。

 

 奇跡的に、今日もひっそりと城を抜けては、森で暮らしていたハッシュヴァルトと狩りや競うなどをしていたことでバズビーは奇跡的にも生き延びた。

 

「……俺はやるぜ、ヒューゴ」

 

 バズビーは焼けていく城を見て、心から溢れ出る怒りによって幼い少年がしていい表情へと歪めながらある決意を後ろに立っていたハッシュヴァルトへと『それ』を宣言する。

 

「俺はユーハバッハを……殺す

 

「……そう」

 

「ヒューゴ。 もしお前が嫌だってんなら、オジサンと途方に────」

 

「────オジサンなら()()()()()よ」

 

「……………………そうかよ」

 

 バズビーはハッシュヴァルトにしては珍しく()()()()()()()()()()()()()の彼に振り返ることなく、ただガラガラと焼け落ちていく城を目に焼き付けた。

 

「(俺様は……俺は天才なんだ! 数百年生きてきたバケモノ(ユーハバッハ)相手でもやってやるぜ!)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ブラック家の城が焼け落ちて数年、どちらから言い出すこともなくバズビーとハッシュヴァルトは一日も欠かさず己の鍛錬と修練に明け暮れていた。

 

 二人に休息はなく、ただひたすらに自分たちを磨き続けた。

 

 バズビーは着々と霊子で作った兵装の技術や戦い方はめきめきと上昇していき、ハッシュヴァルトは滅却師としての基礎が出来ないまま純粋な剣術を磨いた。

 

 ()()()()()()()()()()ハッシュヴァルトを、バズビーはほかの滅却師達のように軽蔑することなくただその事実を受け止めていたのには理由がある。

 

 幸いにも小さな領地の次代当主になるはずのバズビーはこのような異例の滅却師が生まれることを以前に聞いたことがあり、ただひたすらに自分と同じように……いや、それ以上に努力をするハッシュヴァルトを見ては『見捨てる』という選択を除外していた。

 

「ユーハバッハ様よりお達しである! ユーハバッハ様は新たな戦闘部隊の設立を宣言成された────!」

 

 そんな彼らが滞在していた街に、馬に乗ったユーハバッハの憲兵隊が書物を高らかに読み上げていた。

 

「────その部隊の名は、『星十字騎士団(シュテルンリッター)』! 尸魂界への侵攻を果たす名誉ある騎士団である! 死神たちを放置すれば、いずれ世界の脅威となるとユーハバッハ様は考えられておられる!」

 

 このことを聞いた街の住人たちはどよめき、憲兵隊の者は喋り続け、ハッシュヴァルトはいつものすました顔のままバズビーに語り掛けた。

 

「……すごいニュースだよね、バズ」

 

「よし。 行くぜ、ヒューゴ────」

「────え?」

 

 バズビーはハッシュヴァルトが制する前に駆け出し、憲兵隊の前に飛び出た。

 

 ハッシュヴァルトの手を握りながら彼を無理やり引きずる形で。

 

「……なんだ、お前たちは?」

 

「俺はバズ! んでこいつはヒューゴ! 俺たちは入隊希望者だ!」

 

 憲兵隊の先頭の兵士が二人の少年たちを見下ろすが、バズビーは気圧されることなくはきはきとした声で答え、オドオドするハッシュヴァルトはそこからすぐに逃げたい気分だった。

 

 この二人が出たことによってどよめきは町の住人だけでなく、憲兵隊の何人かにも伝染した。

 

 無理もない、若干幼さを残す少年の二人組が突然憲兵隊の前に飛び出ては臆することもなく『入隊希望だヨロシク!』、というような態度をとっていたのだから。

 

「…行くぞお前たち」

 

「「「「「ハッ!」」」」」

 

 そのまま憲兵隊たちはそのままバズビーたちを素通りする。

 

「な?! ちょっと待てよ! 入隊希望って言っただろうが?!」

「わわわ?!」

 

 いや、素通りしようとしてバズビーがまたも前に立ちはだかった(またもハッシュヴァルトを引きずって)。

 

「試験は後日、追って通達される。 貴様のような身の程知らずを通すほど緩い門ではない」

 

「だ、だってさバズ? だから、ね? 今日はもう帰ろうよ?」

 

「……チッ!」

 

 ヒュン!

 

 ナヨナヨするハッシュヴァルトの手をバズビーは引きはがして霊子の矢を憲兵隊の前に射る。

 

「……何の真似だ?」

 

「勝負だ、憲兵さん! 俺が勝ったら、アンタの座をもらっておくぜ!」

 

 ビキ!

 

「……この猿め。 死ななければ治らん精神病を持っていたか」

 

「『憲兵、猿に殺される』ってな! お前さんの仲間が今日の事をユーハバッハに伝える伝令はそうなっているだろうぜ!」

 

 売り言葉に買い言葉を放つ二人を見て、ハッシュヴァルトは最初オロオロしていたが間に割ろうとした。

 

「ま、待って────!」

 

 ズッ!

 

「────ガッ?!」

 

 バズビーだけでなく、町の住人の全員が余儀なく地面に押し付けられるかのように横たわっていた。

 

「ゆ、ユーハバッハ様!」

 

 憲兵隊の者たちが全員頭を下げ、下乗していた者たちが地面に跪く。

 

「も、申し訳ありません! かような猿と私闘を────!」

 

「────よい。 私は迎えに来たのだ、私の右腕となる者を」

 

「ッ?! (チャンスだ!)」

 

 バズビーはそう思いながら、圧し掛かった霊圧の中で必死に体を起き上げようとする。

 

「(この俺が! テメェの探している右腕だ、ユーハバッハ!)」

 

 何と過剰藩士だけ浮かばせたバズビーは腕に力を入れ続け、体の筋肉が悲鳴を上げる。

 

「(俺が! テメェの右腕になって! テメェを殺してやる! だから、俺を────)────ッ!」

 

 ついに首を上にあげることが出来たバズビーの目に映ったのは、唖然と()()()()()ハッシュヴァルトの前まで馬を移動させていたユーハバッハの場面。

 

「え? え? え?」

 

 誰もが跪いている中で、ハッシュヴァルトは立ちながら戸惑っていた。

 

「私はお前を探していた、ユーグラム・ハッシュヴァルト」

 

「……え、えっと……何のことか、よく……分かりません」

 

「理解せずとも良い。 お前は我が側近として、『星十字騎士団(シュテルンリッター)』に歓迎する」

 

 憲兵隊の全員、そして蒸気を言い渡されたハッシュヴァルト自身も驚愕に目を見開く。

 

「えっと……ど……どうしよう、バズ?」

 

 何か得体の知れないものを感じながら震え始めるハッシュヴァルトが振り向いてみたのは────

 

 

 

 

「ッ。」

 

 

 

 

 ────今にでも視線だけで相手を射殺すことが出来るのなら即死が可能な目で自分を見ていたバズビーの表情だった。

 

 そしてその見た目通り、バズビーはかつてないほどの怒りをこの()()()()()()()に激怒していた。

 

「(なんで、俺と比べて凡骨のお前が選べられた?!)」

 

 彼は出会った時から自分と比較して、大した技術の進展もないハッシュヴァルトが他でもないユーハバッハ(復讐対象)に引き入れられたことに怒った。

 

「(え? な、なんで? どうして、そんな目で僕を見るの? や、やめてよバズ……)」

 

 逆にハッシュヴァルトは困惑しながら、『オジサン』以来に畏怖の感情を胸の中で感じていた。

 

 何せ彼からすればユーハバッハ(復讐対象)に歓迎されたことで、バズビーの目的達成の可能性が一気に上がった筈……だった。

 

「(なのに何で? 何で一緒に喜んでくれないの? バズ?! 君の目的に近づいたんだよ?! そんな目で僕を見ないでくれよ、バズ!)」

 

「よし、行くぞお前たち」

 

「「「「「ハッ! ユーハバッハ様!」」」」」

 

「ま、待って!」

 

 その場から離れようとするユーハバッハたちを見て、ハッシュヴァルトは思わず制止の声を出す。

 

「あ……ぼ、僕……何かの間違いです! きっと! 僕には! 滅却師としての才能はないんです! 僕なんかより……あそこにいる、バズのほうが……へ、陛下の側近に……ずっと相応しいと、思います……」

 

 これはハッシュヴァルトなりに、バズビーを気遣った言葉なのだが……

 

「(ヒューゴ……テメェェェェェェ!)」

 

 バズビーからすれば震えるハッシュヴァルトの背中姿は笑いを堪えるようにしか見えず、『自分(バズビー)をあえて持ち上げるような言葉を言いながら実は見下した』ように聞こえていた。

 

「一つ、勘違いをしているぞユーグラム・ハッシュヴァルト。 お前の能力は、ほかの滅却師のように周りから霊子を吸収して自らの力にすることではない……『逆』なのだ」

 

「『逆』?」

 

「そこの赤毛の子供よ。 お前はユーグラムといる間に日々、自分の能力が増すのを肌で感じていた筈だ。 それはお前自らの力ではなく、この者(ハッシュヴァルト)の力。 故に感謝しろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『無力』なお前を、今まで『天才』に仕立て上げてくれた男にな」

 

 バズビーは何も言えなかった。

 それほどまでにショックだったが、そこにユーハバッハは更なる追い打ちをかけた。

 

「こい、ハッシュヴァルト。 ()()()()()()()()()

 

 ハッシュヴァルトの人生の中で初めて聞くの言葉。

 それはあまりにも誘惑が強かった。

 

 ユーハバッハァァァァァァァァ!!!!」

 

「ッ!」

 

 バシュ!

 

 ハッシュヴァルトは気付けば体が勝手に動いていた。

 

「な……俺の、矢を?!」

 

「……ぁ」

 

 渾身の力で上半身を浮かせたバズビーがユーハバッハを狙って射た矢を、ハッシュヴァルトは素手で掴み取っていた。

 

 これを見たユーハバッハは愉快そうな笑みをただ静かに浮かべ、移動を再開する。

 

「こ、これ……ち、ち、ち、違……バ────ㇶ」

 

 遠ざかっていくユーハバッハから視線を狼狽えるハッシュヴァルトがバズビーに戻すと、彼は息を素早くヒュっと飲み込み、よろけながらもユーハバッハの後を追った。

 

 バズビーの駄々洩れる殺気から逃げるかのように。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「俺と勝負しろ!」

 

 更に時は経ち、あとから『星十字騎士団(シュテルンリッター)』に新入隊員として加入したバズビーは何度も団長であるハッシュヴァルトを挑発していた。

 

「いい加減にしろ。 星十字騎士団(シュテルンリッター)同士の私闘は死罪、よって禁じられている」

 

 今では肩より長くなった金髪をなびかせながら踵を返して歩き出す、『冷静の仮面』を徹底するハッシュヴァルト。

 

「それに、()()()()()()()()()()()()()

 

 平然とする彼の一言に、バズビーは拳を力強く握った。

 

「(クソが! 俺は『用済み』、『他人』って言いたいのかよ?! ふざけるな!)」

 

 これを見ていた憲兵隊の一人が、近くを歩き通るハッシュヴァルトを見ながらニヤニヤとした笑みを向ける。

 

「何か、副団長?」

 

「今思えば、あの時の猿ではないか? どれ、入団したのだから副団長であるオレが『修正』をしても構わんだろう────?」

 

 ズッ。

 

「────やってみろ。 その日に抹消されることを承知の上でならばな

 

 圧倒的かつピンポイントの霊圧でハッシュヴァルトは冷たい表情で副団長を威圧感のみで強制的に黙らせ、副団長の目に畏怖が現れたのを確認した後にその場を去る。

 

 

 これが二人の出会いと、状況と思い違いによって拗れていく友情の始まりだった。

 

 ズレていく思いと考えで悲しいことに、幼いころから虐待を受けていた平民のハッシュヴァルトが閉ざしかけていた心を開けたのが能天気で王道貴族な我が儘バズビーならば、それを再び閉ざしたのも彼に嫉妬したバズビーだった。

 

 よってハッシュヴァルトの『主に己ファーストだが従えれば全力を惜しまない』というスタンスもこれから生じ、最後の最後までこれを貫き通した結果に彼は離反を犯したバズビーを殺した。

 

 少なくとも、『原作では』の話だが。

*1
43話より




白哉:……………………

チエ:…………………………

白哉:……………………………………………………

チエ:…………………………………………………………

白哉:安物の茶葉だな。

チエ:そうだな。

作者: _(X3 」∠ )_


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第132話 交差する Then and Now 3

お待たせしました、次話です。

上手く表現などを書けたかどうか不安ですが投稿しました。

アンケートへの御協力、またお気に入り登録など誠にありがとうございます。 すごく励みになります。

楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ユーグラム・ハッシュヴァルト 視点

 ___________

 

 全力で攻撃してくるバズビーをハッシュヴァルトは上手く攻撃を流したり、躱したりしていた。

 

「どうしたヒューゴ?! 反撃する気もでねぇか?!」

 

「(どうする?)」

 

 これがバズビーの逆鱗に触れたのか、ただ単に無表情なハッシュヴァルトが気に入らなかったのか彼は声を荒げる。

 

「いつもお前は逃げているが、今日はそうも行かねぇぜ?!」

 

「(どうすればいいんだ、僕は?)」

 

 

 出している顔とは裏腹に、ハッシュヴァルトはパニック寸前だった。

 ただし、これは別にバズビーに追い詰められていたからではない。

 

 

「(どうすればバズを、()()()()()()()()()?!)」

 

 

 ただ純粋に、未だに『友』と思っているバズビーの気遣いからの焦りだった。

 

『原作』でのハッシュヴァルトは心を閉ざしたまま、『ルキア奪還前の朽木白哉』なみに公私混同(こうしこんどう)をせず、明らかに主であるユーハバッハへと牙を剥くバズビーを彼は『敵』として出来るだけ実力差を見せてもなお向かってくるバズビーを今度は苦しめることなく一瞬で戦いを終了させていた。

 

(バズビー)を瞬殺する』という選択を取って。

 

 自分と彼のズレてしまった友情ことを理解しながらも、彼は心底後悔していたことをユーハバッハの聖別(アウスヴェーレン)の対象になってから死に間際で語っていた。

 

 だが彼は変わった。 

 ユーハバッハという逃避先がいなくなり、『滅却師』や『最高位(グランドマスター)』など関係ない、『一人の青年』として他者と触れ合ってから()()()()()()()()

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

『留学生として陛下と姫の周りを探れ』。

 

 それがロバートたちから来た提案の一つだった。

 

 僕らは瀞霊廷の(裏側)から空座町に着いて、そこが重霊地であると察した時から行動を起こしていた

 

 まずは周辺の視察や、地区に配置された死神の練度に反応速度など、瀞霊廷を刺激しないことを徹底して(おこな)った。

 この時に勿論、彼らがいずれ瀞霊廷を来るべき時として『特記戦力(未知数)』である『黒崎一護』と『浦原喜助』の調査もした。

 

 否。 この場合、『しようとした』が当てはまるだろう。

 

 他でもないユーハバッハ様(前陛下)本人が『未知数』と称し、指定した特記戦力たちの中でも浦原喜助は『手段』とそれらを活用する頭脳と実行に移す心構え。

 

 そんな(猛毒)蛇を突かずともすでに警戒されている様子に細心の注意を払いつつも鳴木市と空座町に探りを入れている間に、『同()代(少なくとも見た目は)で渡辺家の周りを取り囲む』形で観察をする方針を取った。

 

 彼女たちはあまりにも不可解なことがありすぎるが、上辺だけも取り入ったほうが後々に使えそうなのはロバートと同意見だ。

 

 そしてロバートは住居の回りを手伝う『世話役』。

 アスキンは『放浪(フラフラ)する年長者』。

 バンビーズたちは僕と共に『転入(留学)生』。

 

 などなど。

 

 皆が役割を持ち、共に行動へ移ったのは割と新鮮な気分だった。

 今までは各星十字騎士団(シュテルンリッター)は互いから孤立し、それぞれが部下である聖兵とだけ上下などの関係を築けていた。

 

 それでいうのならあの五人(バンビーズたち)があれほど互いを意識しているのは異例とも呼べるだろう。

 今ほど仲良くは無かったが。

 

 だが、分からなくもないな。

 

 現世に移りこんだあの日から少しずつ、僕は変わったのだと思う。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『『『『キャー! イケメーン!』』』』

 

「ユーグラム・ハッシュヴァルトと申します。 以後お見知りおきを」

 

『『『『ヒャ~』』』』

 

 そう僕を見て声を聴いた時から幼い人間たちは騒いだ。

 これでも周りから舐められないよう、威厳を保てるように複数の『仮面』はしっかりと使い分けているから当然のことだが。

 

 感じではかなり渡辺家は上手く溶け込んでいたようなので、ここで()()波乱を起こすか。

 

「越智教官────」

『────やだなぁハッシュヴァルト君、『越智先生』で良いって!』

 

「では越智先生。 私の席なのですが、出来れば『姫・様・』の近くを頼みたいのだが────」

『────ブッ?!』

 

 ふむ。

 金髪小柄のほうは動揺したか。

 

 後に知ったことだが、この所為で僕も注目を浴びるようになり他者が近寄るようになった。

 

「(……以外と悪い気分ではないのは僕も上手く溶け込んでいるからか。)」

 

 そう僕はその時感じていたことを片付けていた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『あっら~、お帰りなさいハッシュちゃん♡』

 

 仮の住居としているアパートに戻ると『渡辺マイ』と自称している者に満面の笑みで迎えられた。

 

「ハッシュヴァルトです。」

『ええ、だからハッシュちゃん♪』

「ハッシュヴァルトです。」

『ハッシュちゃん♪』

 

「『……………………………』」

 

「ただいま戻りました────」

『────もう、そんなに堅苦しくしなくていいのに~!』

 

 体系は似ていても、ミニーニャとは違う意味での言動だ。

 

『こう、“ただいま”だけいいのよ~?』

 

「そうですか」

 

 なるほど、『フランクに接しろ』と。

 

『あとあと~、私の事を“ママ”とか“お母さん”とか“ママン”と呼んでも────』

「────お断りします。」

 

『あら、そう~? 気が変わったらいつでもいいからねぇ~?』

 

 気付けば、そのようにきつく言葉を返していたのにも関わらず彼女はただにっこりとした笑いを返していた。

 

 得体の分からない僕たち全員を迎え入れた同じ夜に、『親睦会(しんぼくかい)』というのを開いた不思議な者だ。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ただいま」

『お帰り~』

 

 それから時間が過ぎ去っていき、帰りの挨拶をするようになった。

 

 それからだろうか?

 教育施設(学校)という場所での感じが変わったのは?

 

 いつの間にか、『接しやすい、愛想のよい青年』という仮面が密着してきたのは?

 

 いや……密着というよりは……………

 それ以前に、このように心が穏やかになるのはいつぶりだろうか……

 

「管理人代理」

 

『だから“ママ”とか“お母さん”とか“ママン”でも名前の“マイ”でもいいのに~』

 

 移住してから交代制の家事分担の一環で、その日の皿洗いを手伝っている間にそう呼ぶと案の定そんな答えが返ってきた。

 

 というか他の者たちの性格が出ているな、食べ残し。

 それにしてもランパードの皿は奇麗すぎる……『食いしんぼう(ザ・グラタン)』由来で舐め取っていないか?

 ……ないか、それならば皿ごとなくなっていてまた『渡辺マイ』に説教を受けているだろう。

 正座を強要されて。

 

「少し相談があるのだが、聞いて良いか?」

 

『いいわよ~?』

 

「……いや、やっぱり忘れてください」

 

 今はロバートたちも出かけているので好都合だと思った僕は、簡単に『自分の事』を話そうとしてそれを()()()()()()と自覚して会話を打ち切って皿洗いに意識を戻した。

 

『ハッシュちゃん』

 

 そうだ。

 ()()()()()()()()()()()

 

『ハッシュちゃん』

 

 昔からそうだ。

 行動で示せれば、自ずと────

 

『────てい♪』

 

 ムニュン♪

 

「?!」

 

 急に横から柔らかい感触が頭と右半身を包む。

 

『よしよし』

 

 ポン、ポン、ポン。

 

 彼女の片手が肩を撫でる。

 

『何か悩んでいるのね?』

 

 ……何でだ?

 

『それとも戸惑いかしら?』

 

 ()()分かった?

 

『あら? ()だって悩みの一つや二つ抱えている人がいれば分かるわよ~?』

 

「……………」

 

 ナデナデナデナデナデナ。

 

 今度は頭を撫でられながら語られる。

 

『わt────()()()()()もね? 今でこそああいう風に振舞っているけど、昔からじゃないのよ?』

 

 ……何だろう。

 変に()()()()()()()()

 

『あの子もね? 苦労はしているのよ?』

 

 ……あの天真爛漫そうで、どこか掴みどころのない少女が?

 

『他人の顔色を見て、周りの反応を窺って、それを真似て工夫したり……そんな試行錯誤を────』

「────なぜ?」

 

 思わずそんな問いを投げた。

 彼女がどんな顔をしているのかは分からない。

 

『……“解離性健忘(かいりせいけんぼう)”。 ()()()は記憶喪失者だったの。 重度の、ね? それこそ“自分”が誰なのかわからない程』

 

 それでは……まるで『僕』だ。

 

『だからなんとなくかしら? まるで今のハッシュちゃんはどこか、“自分”を偽っているような気がするのよ』

 

「……」

 

『あの子は頼れる、身近な人がそばに居たけれど……ハッシュちゃんは違うでしょ?』

 

「……何故です? なぜそこまで……いや、なぜあなたは……」

 

 言葉が上手く続かず、皿洗いの手もいつの間にか止まっていて、水道から水が流れっぱなしだった。

 

『……私はここにいる皆の“お母さん”みたいな、誰もが頼れる心の拠り所で在りたいから』

 

 それを言われた瞬間、腑に落ちた。

 

『だから、強がらなくていいの。 ()()()()()のよ?』

 

 ……既に泣いているのに、この人は何を言っているんだ?

 

「私は……()は……」

 

『言葉にしなくてもいいわ。 ここには私たち以外()()()()()から、()()しなくていいのよ』

 

 ……こんな言葉をかけられるのは、初めてだった。

 

 

 父さんも。

 

 

 母さんも。

 

 

 兄さんや姉さんも村のみんなもオジサンも。

 

 

 ユーハバッハ様でさえも。

 

 

 

 誰も僕に『弱くていいよ』とは言ってくれなかった。

 

 誰も、言ってくれなかったんだ。

 

 そんな彼女(マイ)に、バズと……昔のことを打ち明けていくときに感じた安らぎは、何にも代えがたい一時(ひととき)だった。

 

 だからかも知れない。

 

バズ(友達)を殺したくない』なんて思ったのは。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ドッ!

 

「ガッ?!」

 

 一瞬飛びそうになった意識が、バズビーと争う橋の上に体が叩きつけられたことで現在()へと強制的に戻される。

 

「『バーナーフィンガー4』!」

 

 上空からバズビーの手刀を元に、炎でできた刃を転がるように避けて大剣を振るって彼を牽制する。

 

 ガァン!

 

 だがそれもクロスボウ型の神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)から出た矢で逸らされる。

 

「戦いの最中に考え事かぁ、ヒューゴォォォォォ?!」

 

 

 バズビーは更にハッシュヴァルトを追い込むかのように攻める。

 

『今は敵同士でも、話せば分かり合えなくも無いかも知れないから。』

 

 その時、さっき気を失ったときに見た記憶が関係したのか三月が去り際に言った言葉が脳裏を遮った。

 

「(そうだ、話せば────)────バズビー! いや、バザード・ブラック! やめろ! 我々が戦っても────!」

 「────るせぇぇぇぇぇぇ!!! 今さら()()()のかよ?! 『バーニング・フル・フィンガーズ』!!!」

 

 螺旋状の特大サイズである炎が衝撃波と共にハッシュヴァルトを襲う。

 

 彼は『いまだに聖文字(本気)使っ(出し)ていないハッシュヴァルト』が自分を見下していることと結論付けていた。

『バーニング・フル・フィンガーズ』。

 バズビーが今で出せる最大の技で、ハッシュヴァルトが聖文字を使わざるを得ない状況を作ろうとした。

 

「なん……だと?!」

 

 その大技を前に、バズビーが思ってもいない行動にハッシュヴァルトは出た。

 

「うおおおおお!!!」

 

 ハッシュヴァルトは彼に似合わしくない咆哮をあげ、ただひたすらに炎の衝撃波の中で前進した。

 

 彼の持っていた逆五芒星の意匠がある盾は『身代わりの盾(フロイントシルト)』と言い、その名の通りに持ち手の外傷を肩代わりする機能を持つ。

 

 だがさすがの盾も、バズビーの攻撃を真正面から受けるのは分が悪かったのか一瞬でヒビが広がり、ところどころが焦げ始めた。

 

 それでもいまだかつてない、真剣な表情で前進してくるハッシュヴァルトにゾクリと冷たい感覚が背筋をかけたバズビーは『バーニング・フル・フィンガーズ』を両手で展開しようとしたところでハッシュヴァルトの盾が前に出していたバズビーの手を払った。

 

「な────?!」

 「────バズ!」

 

 ドッ!

 

「グァ?!」

 

 ハッシュヴァルトの大剣の刃……ではなく、柄頭(つかがしら)がバズビーの顔と衝突したことで、彼は後ずさる。

 

「ああああああああああ!」

 

 ゴッ!

 

 この勢いに身を任せたように、ハッシュヴァルトはただひたすらに盾と拳でバズビーを()()()

 

 ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ!

 

「?????????

 

 予測していなかった行動にバズビーは隠せないショックと、殴られる衝撃で混乱しついには倒れそうになって股が地面に着きそうになる。

 

 そんな彼の前に、ハッシュヴァルトは持って行った大剣で串刺しにするように振るう。

 

 ザク!

 

 大剣の刃が深く突き刺す音が鳴る。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 震えるように肩でハッシュヴァルトは深呼吸を続けながら下を見る。

 

「バズ……私は…………私は! ()、は!」

 

 息を無理やり肺から絞り出すように、口を開けた。

 

「僕は!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 泣きそうな、『悲痛』へと表情を歪めるハッシュヴァルトが見る先のバズビーは呆然としていた。

 

 彼の大剣はバズビーの体から少し手前で深く突き刺さっていて、柄からハッシュヴァルトは手をゆっくりと離すと明らかに古ぼけた()()()が埋め込まれてあった。

 

≪何やってんだお前! へたくそだなぁ!≫

 

「……これ、は」

 

 それをジッと見ていたバズビーの思考がさらに揺るがされ、彼は視線をハッシュヴァルトへと移す。

 

≪お前は今日からはこの俺様、『バザード・ブラック』の子分な!≫

 

「お前……なんで……そんな、モノを?」

 

 その埋め込まれたバッジはかつて存在したブラック家の家紋。

 

≪最強の滅却師になろうぜ、ヒューゴ!≫

 

 昔にハッシュヴァルトと出会った頃に、バズビーが渡したものだった。

 

「だって……だって────!」

 

 ハッシュヴァルトは剣から離した手で力強い拳を作る。

 

「────『友達との約束』を守る為に! 『友達を殺す』なんて! 本末転倒じゃないか?!」

 

 なりふり構わずのハッシュヴァルト……『ヒューゴ』が訴えるかのような声と涙を出しながらそう叫んだ。

 

 彼の人生で初めて、心からの咆哮だった。

 

「ヒューゴ……」

 

 

『ユーグラム・ハッシュヴァルト』、そして『バズビー』こと『バザード・ブラック』。

 すれ違う思惑のおかげで殺しあう運命にあった二人の闘争はここにて一時の終了を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「……妙だな。」

「妙って何、剣ちゃん?」

 

 上記のハッシュヴァルトやバズビーのいた場所から離れたところで、剣八とやちるの声が────

 

 「────っておまえ何時からいた?!」

 

 走っていた一護がびっくりした。

 

「んあ? 何時って……さっきからだが?」

 

「え~? 一護サン、気付かなかったんすか~?」

 

 「アンタもだよ!」

 

 今度はプークスクスと笑う浦原に叫ぶのだった。

 

「ま、一護サンをからかうのはここまでにしてアタシたちは別系統の方法で来たまでっス」

 

「その様子じゃと、『転移』の応用と見える」

 

「さすが総隊長サン♪ 以前、開発していた試作の完成度をさらに追及したものです♪」

 

「それでなぜ草鹿副隊長がここに?」

 

「『剣ちゃんある所にやちる在り』だよムッツン(チエ)!」

 

「「「「「(『ムッツン』……)」」」」」

 

「えいや!」

 

 その時、やちるが突然乗っていた剣八の背中から飛び出ては斬魄刀を振るう。

 

「とう!」

 

 今度は宙を唐突に蹴る。

 

「「「「「???」」」」」

 

 この奇怪な行動に出たやちるを、困惑した目で見ていたのが大半の者だった。

 

「やぁ。 マラソンを走る気分はどうだい?」

 

 走る速度を下げた集団の前に、そんな陽気な声がフードをした少年から出た。

 

「何じゃ、お前?」

 

 平子がこの浦原並みの純度100%の胡散臭さを出す少年に上記の問いをすると、少年は愉快そうな笑みを浮かべたまま自己紹介をする。

 

「僕? 僕はグレミィ・トゥミュー────」

 

 ゴォォォォォォ!!!

 

 トトじゃないグレミィが自己紹介を開始しようとしたところで山本元柳斎の『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』が彼を飲み込む。

 

「────『夢想家(ザ・ヴィジョナリィ)』さ」

 

「……ほぉ」

 

 だが何事もなかったように、その炎の中から愛想笑いを浮かべたままのグレミィが姿を現したことで山本元柳斎の目が開く。

 

「それにしても、すごいメンバーだね? 少しバラバラになってもらおうか────?」

 

 ビュッ!

 

「(────『弐ノ型・極点』!)」

 

 今度は目にも映らない速度のチエが突き出した刀の切っ先が()()()()

 

「うん。 物騒だから()()()()()()()()()()

 

 次に彼らが気付けば先ほどまでとは違う、別の地形のようなところにいた。

 

 それはまるで、各々が別の闘技場(コロッセオ)か観客席へと()()()()ように。

 

 

 

 

 

 

 

 カチャリ。

 

 別の場所では、セラミック製のコップとプレートが出す独自な音が広い部屋の中で小さく鳴った。

 

「『かくして役割(ロール)を持った者は演壇(えんだん)へと自らの意思で登ってくる筈』、か……全くもって、その通りだったよ……」




???:さて、次の紅茶を出そうか

作者: 0(:3 )~ =͟͟͞͞('、3)_ヽ)_


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第133話 The Visionary, Berserker, and Beast

お待たせしました、短いですが次話の投稿です。

お気に入り登録、誠にありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 シャッ!

 

「わ?!」

 

 やちるの頬が()()切れたことに彼女は戸惑いながらも不思議に地面に滴る血液を見る。

 

「ん~……なんだろ?」

 

『普通』なら周りの環境が突然変わったことに注目するのだが、彼女からすれば()()()()()()()()()

 

「なんだろ……頬っぺた、切れてる?」

 

「そうじゃよ?」

 

 やちるが見上げると頭にアクセサリー代わりにヘッドホンをつけた老人が立っていた。

 

()()()()()。 わしは『グエナエル・リー』、V(ブイ)の『消尽(ヴァニシング)』────」

「────とりゃあ!」

 

 やちるがグエナエルの顔面に鉄拳をお見舞いする。

 

「……? グェ?!」

 

 彼女はキョトンとして自分の拳を見ていると、体が蹴られたかのように吹き飛ばされる。

 

「(怯えろ死神が。 わしの力は()()じゃ。 『バージョン1』でわしの姿は目視できなくなる。 そして『バージョン2』では()()()()()。 この二つを瞬時に使ってわしは一方的に殺すことが出来る。)」

 

 ピッ。

 

「な、な────?!」

「────てい!」

 

 突然額の傷から血が出たことに声を出したグエナエル目掛けて、やちるの斬魄刀が宙を斬る。

 

「…………?」

 

「(な、なんじゃこいつ?! わしは確かに避けたぞ?! 何故()()()?!)」

 

「んー、やっぱり剣ちゃん居ないから────」

 

 やちるが突然、刀を()()()グエナエルへと振るう。

 

「────あたしが斬っても良いよね♪」

 

「は、はぁぁぁぁ?! なんじゃそりゃ?!」

 

「出ておいで、『三歩剣獣(さんぽけんじゅう)』♪」

 

 グエナエルの体が()()()と同時にやちるの刃が彼のいた場所を()()

 

「(『バージョン3』で存在を意識から消し! 『消尽滑体(バニシング・スライダー)』で緊急()()回避!)」

 

 ブシュゥゥゥ!

 

 グエナエルの肩から股までスッパリ深い切り傷が現れる。

 

「ぐああああ?! そ、そんな馬鹿な?!」

 

「……? うーん、これでも傷だけなんだ。」

 

「な、なんちゅう小娘じゃ?! 無茶苦茶すぎる!」

 

 やちるがニチャっとした笑みを浮かべる。

 それは正しく意図した悪戯に引っかかった相手を見るような、()()()()()を元にしたモノだった。

 

「そんなに褒められてもお菓子ないから上げないよー」

 

 

 ___________

 

 剣八、『渡辺』三月 視点

 ___________

 

 

 「ブわッハッハッハッハ!」

 

 上記と同じ時間、()()()()では剣八が盛大に笑いを上げていた。

 

 薄透明なやちるとグエナエルのやり取りを見て。

 

「そう思わねぇか?! ……って何青くなってんだ?」

 

 剣八が見たのは横で畏まりながら冷や汗をかく三月。

 

「い、いや~。 『草鹿さんって()()()()()スゴイ勘をしているなぁ~』って。 (通りであのとき私たちに気付いたわけだ……*1)」

 

「あ゛? 『相変わらず』だぁ~?」

 

「(ヒィィィィ?! バレた?!) いやあの前に瀞霊廷で買った『ガリスガリ君(アイスバー)』が当たりだった上に当たりくじのお菓子でも当たりでしたし『いかっちょ』の選び方もいいし────!」

 

 「────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!」

 

「ヒッ?! (マズい、なんか地雷踏んだ?!)」

 

 早口になっていた三月はすごい剣幕になる剣八に体を跳ねさせる。

 が、彼の次の言葉で『ほげ~』とした呆れ顔をしそうになった。

 

「そんな菓子を俺抜きで楽しんだのはいいとして俺の財布が軽くなったのはそういう理由か?!」

 

「え」

 

「アッハッハッハ! さすがは『更木剣八』! 僕のきいた話より幾分()()な性格だ!」

 

「ケッ、やっと姿を見せたか」

 

 さきほど自分をグレミィと名乗った少年が現れたことによって剣八たちが身構える。

 

「(何この子? 何故か親近感を覚えるんだけど?)」

 

 三月はどちらかというと、上記のグレミィからはどこかふわりとした感覚を感じたところでグレミィが腕を広げる。

 

「どうだい、この舞台? 僕たちが戦うならそれ相応のステージが必要と持ったんだ。 いい出来だろ?」

 

「こんなまじない、散々見てきたぜ────」

「────これは『まじない』なんかじゃないわ」

 

 三月が自分の言葉を遮ったのが気に食わなかったのか、剣八が口を開いたところでグレミィがまたも口を開ける。

 

「ああ、君が()()()()と呼んでいるこれは『現実』さ。 僕は『夢想家』、()()()()()()()()

 

「それは……まさか……認知創造魔法(イマジナリーマジック)』?

 

 初めて心から放心しそうになる彼女はそうつぶやいた。

 簡潔に記入すると上記の魔法は『術者の“認知”をベースに“魔法”を“創造”し、それを“行使”する』といったモノ。

 

 名前から察せるように鬼道や霊力とは別系統の術どころか、世界が違うのだが根本的な概念は(おおむ)ね似ている。

 

『グレミィが自分の言うことを正しく認識していれば』、の話だが。

 

「へぇ~?」

 

 グレミィはこのつぶやきが聞こえたかのようにニタニタした笑みを崩さずにただ面白がるような声を出す。

 

()()()()、やっぱり面白そうだね」

 

「(ポッ)お、お姉さんなんてアンタに言われてもうれしくないわよ!」

 

「そんなカオ(表情)してもなぁ」

 

 余談だが剣八が指摘していた彼女の顔はかつていない以上のドヤ顔(見栄っ張り)をさらけ出していた。

 

「ハハハ! なんだかんだ言って、君たち二人は仲がいいみたいだね!」

 

 カッ!

 

 問答無用でグレミィに剣八が斬りかかったが、彼の持っていた『野晒(のざらし)』は彼の服に食い込むことなく止められていた。

 

「(チッ。 このガキが)」

 

「だから言ったばかりじゃないか。 僕は『空想を現実にできる』────」

 

 ザンッ!

 

 飛廉脚(ひれんきゃく)の応用を使い、剣八の背後から飛び出た三月の霊剣がグレミィの左肩で止まった剣八の斬魄刀の後押しをすると彼の腕が切り離される。

 

「────ケ! 余計なお世話だぜチビっ子!」

 

 「脳筋に言われたくないわよ!」

 

 ガシ。

 

「ハハ! やっぱり仲がいいじゃないか!」

 

「ん────?」

「え────?」

 

 グレミィは右手で剣八の斬魄刀、()()で三月の霊剣を掴んで二人は少年から出るとは思えないほどの腕力で投げられる。

 

「────メンドくせぇ」

「────ごぇ

 

 剣八は無理やり力任せに斬魄刀を地面に突き刺して飛ばされる体を固定しながらもう一つの手で三月の首を掴む。

 

「ゲッホ、ゲホ! だからなんでみんなして私の首────」

「────ちっと黙ってろ。 (アイツの腕が()()()だと? あの嬢ちゃん(井上織姫)と同じか?)」

 

「ああ? この腕かい? 『斬られた腕がもう治っている』って考えただけなんだけど?」

 

 グレミィがどこか逆鱗を撫でるようにニヤニヤしながら余裕の笑みで自分をジッとt観察する剣八に丁寧な説明をする。

 

「……自信満々じゃねぇか、え?」

 

 逆に挑発し返すような剣八の言葉にグレミィは肩をすくめる。

 

「そりゃあね。 だって僕、たぶん『星十字騎士団(シュテルンリッター)』の中で()()だから……ああ、今は『Kaiserreich(カイザァリッヒ)』だっけ?」

 

 「更木さん、ここは少し提案があります。」

 

「あ?」

 

 「ここは彼の慢心を煽ってみます。 ですから────」

 「────まわりくでぇ!」

 

 グレミィが自分の所属を『星十字騎士団(シュテルンリッター)』か『Kaiserreich(カイザァリッヒ)』のどちらかをするか迷っている間にこそこそと小声で話しかける三月を無視して剣八が飛び上がって斬魄刀を振るう。

 

 「いや、だからなんでさ?! 話を聞いてよ?!」

 

 ゴポリ。

 

 剣八、そして三月までもが自分たちが水中の中だと気付いたのは周りの視界がユラユラと揺れていた上に、各々が吐く息が泡として出てきたこと。

 

「ちなみに『何時から水の中』と考えているかもしれないけど……あえて言うのなら()()水の中────」

 

 パァン!

 

 サァァァァ。

 

「────ッ」

 

 突然固定されてあった水が破裂音と共に弾け、上空から落ちる水滴が雨のようにその場を水浸しにしていく。

 

「お? やるじゃねぇかチビ!」

 

「チビから離れてplease(プリーズ)……」

 

「……これは更木剣八じゃない……君か。 今、何をしたんだい?」

 

「別に? ()()()()()()()()じゃない?」

 

 グレミィに答える前に、長い髪の毛から水を絞りだしてから器用にそれをまとめ上げた三月が意趣返し気味に上記の言葉を放つ。

 

「……へぇー? 気が変わった」

 

 グレミィはまるで新しい玩具を見つけた子供のように笑みをさらに深くさせる。

 

「君たちを()()()()()()殺すよ」

 

 グオォォォォ!

 ズン!

 

 地面が地割れし、めくりあがった砂は一気に左右から剣八と三月を飲み込んではすさまじいほどの湯気が発生する。

 

 バリン!

 ガキィン!

 

 ガラスに変わった砂を剣八が飛び出て、グレミィのそばから出てきた鉄の柱によって彼の斬魄刀は弾かれる音が鳴り響く。

 

「いいぜチビ助! そのままだ!」

 

「だからチビじゃ────じゃなくて!ああぁぁぁぁぁ、もう~! 好きに動いていいわよこの猪、こっちで勝手にフォローするから!」

 

 「上等だ!」

 

 カンッ!

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 乾いた音で鉄の柱が斬られ、なおも襲う剣八の太刀筋を躱すグレミィを横から三月が霊丸と霊剣で動きを牽制する。

 

 そんな彼らに対して無数とも呼べる、石でできた柱が地面、横、上空などのありとあらゆる側面から襲う。

 

 剣八はゴリ押し気味にそれらを敢えて急所や重症にならない場所などの攻撃は受け、それ以外は乱暴に切り落としたり、グレミィ目掛けて投げ返していた。

 

「ハハハハハ!!!」

 

 笑いながら。

 

 三月は逆に、それらを躱すどころか足場として利用しながら霊丸を撃つ。

 

「(もう! めちゃくちゃね!)」

 

 そう愚痴りながらも、彼女も胸の鼓動でドキドキしていたのか、口端が吊り上がっていた。

 

「(でもまさかのまさかで、この世界(BLEACH)で井上織姫以外に『神の所業』を行える奴がいるなんて、思わぬ収穫ね!)」

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「(何だ、こいつら?)」

 

 グレミィが様々な物理攻撃を続けながら、先ほど剣八が言った言葉を別の思考内で復唱していた。

 

「(『戦いが楽しい』? そんなこと、考えたこともないよ。)」

 

 次にグレミィがしたのは自分から半径100メートルほどを無重力空間に変え、自分を中心に衝撃波を起こして剣八と三月の両名を吹き飛ばす。

 

「(最初から僕に手を出す奴は愚か、近づく者でさえいなかった。 だって、僕が()()だってことぐらい────え?)」

 

 無重力で浮いた足の代わりに剣八は斬魄刀を地面に突き刺し、次に来る衝撃波以上の力を脚力でグレミィに接近して刀を振るうが、グレミィはこれを後ろへと飛んで躱す。

 

「(ふぅん。 聞いた話通りだな、特記戦力の更木剣八。 戦闘力がずば抜けて────ッ)」

 

 グレミィは初めてざわりとした感覚に身を任せて視線を背後へと回すと、三月がいた。

 

 一刀を空中版スケボーみたいに扱い、それに乗っていた彼女の周りには()()()が数十本ほど浮いていた。

 

 それらはグレミィが背後を見ると、すべて同時に彼へと襲い掛かる。

 

「(これが『卍解』って奴? それとも『初解』? どっちにしても無駄だよ。 ()()()()()()()()なんて、刀の材質そのものを変えればどうってこと────)」

 

【対象への干渉不可能】

 

「────は?」

 

 初めてのことに、グレミィの笑みがキョトンとした表情に三月の口から愉快な声が響く。

 

アッハッハッハ! そのカオ(表情)マジあがる!

 

 彼女の浮かべる顔は、剣八の嬉しそうな顔に負けないほど獣染みたモノだった。

*1
24話より




三月:ぎゃああああ!!! 

ギルガメッシュ(天の刃体):フハハハハハ! 無様だな、人形モドキよ!

三月:チェンジ、チェンジ、チェンジ!

ギルガメッシュ(天の刃体):なら我が次に出よう!

三月:もっと災厄────じゃなくて最悪になるから『拒否』!

佐々木小次郎(天の刃体):では私が出るとしよう────

三月:────Oh nooooooooooo!!! ヽ(; ゚д゚)ノ


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第134話 The Compulsory, X-axis, and Wind

お待たせしました、次話です。

リアルで少しバタバタしていた上に短いですが投稿しました、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「何ですかね、あれ?」

 

「挑発かネ? それとも独り言? どちらにせよ無視する方針だガ」

 

「……」

 

 浦原とマユリたちが気付いたのは凍り付いたような中世の町で、前に大道路では身に余るフード付きの衣服を被った者を見ていた。

 

 以前リジェが『ペルニダ』と呼んだ者である。*1

 

「(相も変わらずの子供の張り合い(同族嫌悪)じゃな……)」

 

「いやぁ~、中がいいな二人とも! アッハッハ────ムグッ」

 

 ボコボコボコボコッ!

 

 逆に夜一は呆れ気味にこの二人(似た者同士)を横目でちらりと見ながらそう思い、浮竹が愉快そうに笑い始めたがマユリと浦原の冷た~い目と空気を察して口をつぐみ、急にフードの頭部が異様なサイズに膨れ上がった。

 

「戦いに不向きな変化だネ? 不気味な奴だヨ」

 

「(うーん、ボクたちに言われちゃオシマイなような気がしますけどね)」

 

「(お前が思うな喜助)」

 

「(……なんだ、この胸のざわめきは?)」

 

 マユリをジト目気味の目で見る浦原に、更にジト目の夜一がそれぞれのツッコミを(内心で)入れる。

 

 そして浮竹は()()()()()()()感じに戸惑った。

 

「「という訳であれを攻撃しロ/しちゃってください♪」」

 

「…………………………………………はにゃ?」

 

「(四楓院が『はにゃ?』って……砕蜂が聞いたらどうなることやら)」

 

 バリバリバリバリバリバリッ!

 

 またも変な(猫染みた)声を夜一が出し、いつもならカラカラ笑う浦原でも布が破れるような音が出たことでそちらへ注目する。

 

「おや?」

「ホゥ」

「ッ」

 

 中から出てきたのは異様なサイズと不健康で青白い『左腕』そのモノだった。

 

「ウゲ、なんじゃあれは?」

 

「「どう見ても左腕っスね(だネ)」」

 

 「見れば分かる!」

 

「ミミハギ様────グッ?!」

 

 ここで浮竹がいつもとは違う、心臓が締め付けられるような苦しみ(感覚)に股を地面につけながら、両手で胸を押さえつける。

 

 頬、額、背中などの部位から大量の汗が出てはポタポタと地面へ落ちていく。

 

「『ミミハギ様』?」

 

「何だね、四楓院夜一ともあろう者が知らないとは────」

「────知っておる」

 

「『名前だけは』、でしょう夜一さん?」

 

「ならば私が学の無いものたちの為に説明しよう────」

 

 ────『ミミハギ』。

 それは東流魂街の外れに伝わる土着神(どちゃくしん)

 

「だそうダ……何だねその『こいつ意外とそういう迷信知っているんだな』と言いたい顔ハ?」

 

「ありがとう、四楓院……そこからは俺がつけ足そう」

 

 ミミハギは東流魂街76地区の『逆骨(さかぼね)』に『はるか遠い過去に()()()()()()()()霊王の右腕をまつったもの』、と伝えられている。

 

 浮竹の祖母は迷信深く、どの医者からも見放されて肺病で死んでいく浮竹を藁にでもすがるようにそのミミハギの祠へと運んでは浮竹の肺を捧げる祈祷(きとう)を行った。

 

 結果、浮竹は体の一部を供物として捧げて生き延びた。

 そして彼の病弱はここから由来していた。*2

 

「なるほド」

 

「ではこっちは『()()()()()』という訳っスね? って、そんなに睨んじゃ照れるっすよマユリさん!」

 

「おそらくは……俺の中にあるミミハギ様が反応しているのだろう……」

 

 バシャァァァ!

 

 数十メートルほど高さが大きくなった『()()()()()』の爪から濁った血の色をした液体が浦原、マユリ、夜一、そして彼女に肩を貸された浮竹を襲う。

 

 夜一はその場から浮竹と共に素早くそれらを躱し、マユリは緑色の生きているように脈を打つ傘を出し、浦原は似た紫色の形をした傘を出す。

 

 バキバキバキバキバキ!

 

『『イギャアアァァァァァァァ!!!』』

 

 赤い液体が傘に当たると同時に骨が折れていくような鈍い音と共に傘が断末魔を上げるが、浦原とマユリはまるで普通の雨にでもあたったように平然としていた。

 

「浦原喜助────」

「────あ! この傘っスか? 実はこれ三月さん用に作った『ド肝抜きドッキリ』アイテムの一つなんスよ!」

 

「……」

 

「あれ? ここは小さくても『癪だネ』というと思ったんですが────?」

 

「ワレ、ヒダリウデ……チガウ。 ナマエ、ペルニダ」

 

「「「「ッ?!」」」」

 

()()()()()』────ペルニダが喋ったことに浦原たちの各々が反応する。

 

「(言葉が通じるのカ? いったいどの器官で声を発しているのか興味深いネ!)」

 

「(フム? 自分を『霊王の左腕』と否定する? 部位が個として成り立っているのか?)」

 

「う……吐きそう────」

 

「────吐くなよ浮竹?! 投げ捨てるぞ?!」

 

 そして飄々としながらも、なんだかんだ言っても世話をするおばあちゃんお姉さん────

 

 「(ええええい! どいつもこいつも!)」

 

 ────である夜一は苛立ちながらも上手く立ち回っていた。

 百年と少しの間、浦原と共に育ったことは伊達ではなかった。

 

「ペルニダ? 生意気だ、発見者は私なのだから命名権は君にはない」

 

「そうっすねぇ~、せめて『ヒダリィーウデ』とかにしないと♪」

 

 「君にも言っているんだヨ?!」

 

 バガン!

 

 先ほどペルニダが出した液体を浴びた地面がめくり上がり、巨大な手として浦原とマユリに襲い掛かる。

 

「無機物を操るとは予想外────」

「────だが『想定内』っスね」

 

 二人は臆せずに上着から瓶を何個か出し、それらを投げつけるとガラスは割れて医師の手といつの間にか広がった液体に付着する。

 

 ジィ!

 

 ギャアアアア?!」

 

 何かが焼ける音がペルニダの出す悲鳴にかき消される。

 

「今ので確実だネ」

 

「ええ。 『神経』ですね」

 

「そしてさっきの液体は血だけではなく『神経を支配する媒体』と言ったところカ」

 

「『神経制御液(しんけいせいぎょえき)』とでも呼称します?」

 

「後で正式名は私が名付けるがネ」

 

「ええ、まずは目の前の問題を『解体』しましょう────」

「────『解剖』だヨ、浦原喜助。 貴様でも初歩的なミスをするものだネ」

 

「(本当にこの二人は気が向くと頼もしいの……その他は問題アリアリと置いて)」

 

 夜一は別の意味で寒気を感じ、さっきから青を通り越して顔色が土色に代わった浮竹のそばにいた。

 

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

 

 タァン!

 

 銃声と似た乾いた音が西洋の街並みに響き、建物に穴が開く。

 

「うーん、どうしよう『コレ』?」

 

 タァン!

 

 建物の影にいた京楽は顎に手を添えながら、次に来る攻撃らしきモノを躱す為に移動する。

 

「相手は遠距離タイプ……一番遠く伸ばしても中距離の僕の『金沙羅(きんしゃら)』では華麗に避けるぐらいだろうね」

 

「んで俺の『逆撫(さかなで)』も相手が近くにおらな届けへん」

 

 タァン!

 

「そうなんだよねぇ~、難儀な物だよねぇ~?」

 

「……ならば『千本桜(せんぽんざくら)』で死角を作り────」

「────瞬閧(しゅんこう)をかけた、私の『雀蜂(すずめばち)』で仕留める」

 

「うん、流石だね♪ 山じいの卍解使用禁止の中ではそれが無難だね♪」

 

「「「「「………………………………」」」」」

 

 ニコニコとする京楽は、他人の視線を集めていることを無視するかのようにただ上空の空を見上げる。

 

「「「「「………………………………………………………………」」」」」

 

 ただ流石の無言のジト目はいつもキャンキャンと吠える叱ってくる部下(七緒)元部下(リサ)とは違う気まずさがあったのか、京楽はどこ吹く風を装った。

 

「いやぁ、そんなに見られちゃ流石の僕でも照れちゃうよ♪」

 

 「ええから早よ一番手行けや京楽」

 

 平子の呆れ顔&ツッコミ文句に周りの者たちが無言で首を縦に振って同意する。

 

「デスヨネェ~……よっこらっせと」

 

 京楽が座り込んでいた腰を上げ、『花天狂骨(かてんきょうこつ)』を構えながら開けた場所へと出る。

 

「(さてと……敵さんは……)」

 

 今までの攻撃と出来た穴の角度で狙撃手がどこにいるのか大まかな推測をもとに、京楽がとある塔を見る。

 

「(そこだよね、やっぱり。) だぁるまさんがこ、ろ、ん────」

 

 チカッ!

 

 塔から一瞬だけ眩い光が生じ、京楽は胸に圧迫感を感じた瞬間に、塔から物々しい狙撃中で攻撃をしていたウェスタン風の褐色青年────リジェの背後へと回っていた。

 

「────だ────♪」

 

「────ッ。 (今のは『京楽春水』────!)」

 

 隻眼のリジェが目を開き、京楽の愉快な笑みをする顔に影が落ちると多少(?)邪悪な者のような笑みへと豹変する。

 

「────からのぉ~、『影鬼』♪」

 

 京楽自身がリジェの近くに作った影の中から斬魄刀を構えた白哉が出ると同時に彼は『千本桜』を展開してそれをリジェにぶつけ、京楽は彼の持っていた銃砲身に切りかかる。

 

「(死角と牽制、そして武器────!)」

「(────もらったよ!)」

 

 次に起こったのは誰もが予測できず、信じられない出来事。

 

「な?!」

 

 まるでリジェの周りが無傷圏かのように、直線状にリジェを襲っていた白哉の『千本桜』は彼の周りを過ぎ通った。

 

「(これは、何のカラクリだい?!)」

 

 次に京楽が振り下ろした『花天狂骨』は宙を斬り、彼はリジェを避けるかのように動いた『千本桜』を避ける為に距離を取ると丁度『雀蜂』を構えた砕蜂の姿を見て叫んだ。

 

 「砕蜂────!」

「(────ほぼ密着状態ならばどんな術と言えども届くはず!) 『弐撃決殺((にげきけっさつ)』ッ!!!」

 

 スカッ。

 

 だが砕蜂の繰り出した攻撃も空振りに終わり、リジェに当たることなく過ぎ通る。

 

「バカな?!」

 

「(私の『千本桜』や京楽の攻撃はともかく、砕蜂の攻撃までが()()()()()だと?!)」

 

「これはどこかカラクリがあるようだ……ね! 『斬華輪(ざんげりん)』!」

 

 京楽の声を合図に、白哉と砕蜂がその場から姿を消して、京楽の放った霊圧はリジェに当たる前に軌道を変えた。

 

「無駄らロー」

 

 そこで京楽が()()()()()()()のはリジェのそばにいた舌が2枚あり、どこか呂律が上手く回らない裸足の少年。

 

「ニャンゾル、不用意に声を出すなと言われたはずだ」

 

「あ。 そうらっら。 オイわすれれら、勘弁リ(ジェ)ー」

 

 リジェ・バロ。 

 先ほど記入したペルニダと同様に『かつてユーハバッハの親衛隊を詰めていた』という以前の情報*3にもう少し詳細を付け加えたいと思う。

 

 彼の授かった能力は『X』の『万物貫通(ジ・イクサクシス)』。 見た目がライフルである『ディアグラム』を通して『万物のモノを貫通する』という能力。

 

「じゃあオイら()()()らー」

 

 この意識から姿をリジェの影に消える裸足の少年のフルネームは『ニャンゾル・ワイゾル』。

 こちらは親衛隊ではないが、その能力ゆえに重宝されていた人物。

 その能力とは『W』の『紆余曲折(ザ・ワインド)』で、『本能で認識した敵の攻撃を逸らす』というある種の『()()()()』。

 

『万物のモノを貫通する』能力を持ったリジェ(攻撃役)

 そして『本能で認識した敵の攻撃を逸らす』ニャンゾルの能力。

 

 この二人が京楽達と相対していく者たちの役割である。

*1
51話より

*2
27話より

*3
51話より




リアル忙しすぎ……申し訳ないです……


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第135話 The Miracle, Champion of People

お待たせしました、短いですが次話です。

お気に入り登録や過去で出したアンケートへの御協力、誠にありがとうございます。

リアルでの仕事が忙しくなってきましたので、今週の投稿が出来るかどうかわかりません。 誠に申し訳ございません。


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 ??? 視点

 ___________

 

 「侵入者たちよ! よくぞ来た!」

 

「いや、『来た』というよりは『気が付いたら居た』というか」

「その上に『侵入者』はそちらだろう?」

 

 剣闘士風のジェラルドが高らかに胸を張りながら挨拶をし、彼と対面していた一護とチエがツッコムをする。

 

 「ここから出たければ、我を倒していくがよい!」

 

「(『スルー』かよ)」

「(『するー』というモノか)」

 

 ゴォ!

 

「ゴハァ?!」

 

 圧倒する熱気と同時に出現した巨大な爆発がジェラルドの眼前で起こり、彼はそのまま後方へと吹き飛ばされては周りを囲む闘技場(コロッセオ)の壁に衝突する。

 

「むぅ……今のを受けて吹き飛ばされるだけとは」

 

「こいつも()()ありそうだな、総隊長」

 

 斬魄刀を持った山本元柳斎、そして日番谷が平然と口上無しで入れた技は『氷輪丸』で出した一気に絶対零度で凍らせた空間に『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』の高熱を浴びせた即席の水蒸気爆発だった。

 

「何度見ても総隊長はともかく、あの真面目で堅物の日番谷も紀州とはえげつないな」

 

「だが六車、それ程までにしなければならない相手とお主も感じてはいないか?」

 

「だな!」

 

 拳西と狛村もある意味日番谷とは違う方向での堅物(情に厚い者)同士。

 

 だがそれ以上に訳も分からない間に他の者たちとはぐれただけでなく、場所でさえも霊王宮から変わったことでとっとと(ジェラルド)を倒すことには賛成らしく、互いに『天譴(てんけん)』と『断風(たちかぜ)』を展開して襲い掛かる。

 

「クッ、この我が!」

 

「(今ならいけるか?!) って、え?!」

 

 一護が今の状況を好機とみて、動き出す前にチエが彼の肩を持って物理的に制止させたことに声を出す。

 

「まだだ、一護」

 

「ハ?!」

 

 チエが見ている先で一護は立ち上がったジェラルドが不敵な笑みをしながら口元の血を拭っていたのを見て、良くわからない寒気が走った。

 

「『奇跡』とは何を示しているか知っているか、賊ども? 『奇跡』とは、敵前を前に、危機に瀕して起きるものだ!」

 

 ドシャ!

 スパッ!

 

 狛村の『天譴(てんけん)』がジェラルドの体を物量で押し潰し、次に拳西の『断風(たちかぜ)』が切り刻む。

 

 パキパキパキッ!

 ボッ!

 

 次に日番谷と山本元柳斎の能力でジェラルドだった肉片と血液に火が付き、それらが凍り付いた。

 

 その容赦のない攻撃が終わったと思い、一護は足に再度力を入れたところで事態は急変した。

 

「な────?!」

 

 ────『なに』。

 そう叫ぼうとしたのは誰だろうか?

 

 巨大な手で弾かれそうになった狛村か拳西だろうか?

 それとも巨大な足から繰り出された蹴りを間一髪で免れた日番谷だろうか?

 

 ……敢えて山本元柳斎ををここで記入していないのは彼が単純に瞼を開けて行動に移ったからである。

 

「な、なんだこりゃあ?!」

 

「だから()()()と言っただろう?」

 

 一護たちが見上げていたのは巨大化した上に、負ったダメージも全快したジェラルドの姿。

 

 「我が名は、『ジェラルド・ヴァルキリー』! 頭文字(シュリフト)は『奇跡(ザ・ミラクル)』のM! 我が力は『傷を負ったもの』を神の尺度(サイズ)」へと『交換』する!!!」

 

 ジェラルドは巨大化したにも関わらず、素早い攻撃で次々と闘技場(コロッセオ)だけでなく、その周りの街並みと地形そのものでさえも変えていく。

 

「うおあ?!」

「(なるほど、『カウンタータイプ』とやらか。) いったん離れるぞ一護」

 

 一護とチエはその闘技場内から何某怪獣映画のように暴れるジェラルドによって破壊されていく街並みの中へとほかの隊長たちと同じように身をひそめる。

 

 「……他愛ない」

 

 暴れて数分後、見事な街並みは廃墟寸前へと変わったところでジェラルドがつまらなさそうに独り言を始める。

 

 「護廷十三隊と言えど、『奇跡』の前ではあまりにも小さき存在……」

 

「ムグ」

 

『小さい』という単語に思わず突っ込みそうな日番谷は己自身の口を塞ぐ。

 

「なんつナリでー動きしてんだアイツ……」

 

「じゃが『()()()()()()()()()()()()』だけならば()()()はある。 狛村、行けるな?」

 

 山本元柳斎がこくりと頷く狛村を、開いた瞼で見る。

 

「……儂の『天譴(てんけん)』ですな?」

 

「いや……卍解を試そうと思う」

 

「よろしいのでしょうか、山本総隊長?」

 

「あんな自信家の事じゃ、ここまで来て()()()はせんじゃろうて」

 

「『ここまで来て』?」

「『小細工』?」

 

「こっちの話じゃ」

 

 日番谷と狛村の困惑する言葉に山本元柳斎ははっきりとしない、濁したような答えをする。

 

「(まさか『卍解が盗まれる感じがしていた』などと言っても……いや、狛村なら信じかねんが、その根拠が『()()()()』とはちぃ~と無理があるかの…………………………………………狛村なら信じかねんが)」

 

「?」

 

 「プフッ」

 

 何故か自分を見る山本元柳斎に狛村が(犬のように)?マークを出しながらキョトンとすると、山本元柳斎が思わずほんの一瞬だけ震えた。

 

「(山本総隊長殿が、武者震いをしておられる!)」 ←違います

 

「(総隊長のジジイ、いま狛村を見て笑いそうになったな……)」

 

 かく言う日番谷もぴょこんと横に偏る耳を見て柴犬を連想していたのだから『お前もな』、という漫画での矢印テロップが彼の頭上にあってもおかしくはなかった。

 

「ならば一番槍は儂が努めよう」

 

「日番谷隊長は狛村の援護を」

 

「了解────」

 

 日番谷が了承した次の瞬間、狛村は物陰から姿をジェラルドの前に表してさっきの彼のように声を出す。

 

「────『黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)』!」

 

 彼がジェラルドの前に出た理由は別に自分へ注意を牽こうなどと言った戦略だけではなく、単純に『黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)』狛村と直接繋がっているのは動作のみ。

 

 つまり遠隔でリモコン操作をしているようなもので、狛村が『黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)』を動かすにはどうしても目視が必要となってくる。

 

 なお余談だが三月がこれに気付いてこの場にいていれば『思い出した! まるっきり“Gファイター”だ!』と言っていたかもしれない。

 

 あるいは『“28号”や!』とか?

 

 ズズン!

 

 ジェラルドと同等の図体をした狛村の卍解である、『明王』が現れたことでタイになる巨体がその場に出現した。

 

 巨大な鎧武者の『明王』と剣闘士のジェラルド。

 

 「フハハハハハ! その意義や良し! このジェラルド、受けて立つ!」

 

「……………………………………なんか俺、マジ(モン)の『ゴ〇ラ対メカゴ〇ラ』の再放送をまたも見せられているような気がするんだが……なぁチエ?」

 

 呆けそうな一護は、少し前に『懐かしいから!』と出たばかりの新作映画に対して訳の分からない、半ば強制的にどこぞの『黄色い悪魔』(雁夜命名*1)と一緒に観た映画が脳裏に蘇りながら横を見ると忽然とチエがいなくなっていたことにここで初めて気が付いた。

 

 ドォン!

 ギィン! ギィギィン

 

 「獣の類と思えばこれほどの武人とは、恐れ入る!」《big》

 

「貴様たち旅禍に武人と呼ばれる筋合いはない!」

 

 明王とジェラルドが一歩ずつ前に動き出し、互いの持っていた得物が衝突した余波で空気がビリビリとする振動が周りに木霊(こだま)していく。

 

 《big》「ぬ?!」

 

 急に足が何かつっかえたと思ったジェラルドが視線を下に向けると膝から下が見事な氷漬けになっていたことに気付く。

 

「『皮膚の感覚』ってのは? 急な温度変化に対応できないの、知っていたかデカブツ?」

 

 「これしきの事────ガッ?!」

 

 下を向いていたジェラルドの顔を『明王』が殴って彼の言葉を遮り、その拍子で彼の足は膝から上がボッキリと折れては離れる中、殴られた頭が粉砕されて血液が赤くなった雨のように降り出す。

 

「重国も同じ考えか────」

「伊達に弟子をやっておらんかったわい────!」

 

 チエと山本元柳斎がいつの間にか飛び上がっており、山本元柳斎に至っては老人とは思えないムキムキ筋肉マシマシの上半身を露わにしていた。

 

「「────四楓院(夜一殿)の見様見真似────」」

 

 二人が同じ構えをすると同時に、拳を作った二人の手に発動寸々状態の鬼道が霊圧として覆う。

 

「「────からの『双骨(そうこつ)』!」」

 

 ズッ。

 

 二人の繰り出した白打技は頭部をなくしたジェラルドの胸を正確に狙い、低くて重い一撃でクレーターのように皮膚がへこんだ速度は肋骨が折れる音をかき消すほどで次第にクレーターは大きな穴へと極大化していく。

 

 ズズズズズズゥゥゥン。

 

「う~む、やはり歳は取りたくないのぉ。 膂力が落ちとる」

 

「……そうか?」

 

「そうじゃよ。」

 

「そうか」

 

「………………」

 

 腕をグルグルと肩を慣らすチエと山本元柳斎の仕草を一護はただあんぐりと見ていた。

 

「どうした一護?」

 

 チエが今の彼に気付いて声をかけると、彼はハッとして声を出す。

 

「あ、いや、その……お前と総隊長さんが思っていたより仲がいいから……ちょっと……」

 

「『()()』……じゃと?」

 

 一瞬だけ何かの(プレッシャー)を一護目掛けて山本元柳斎が発しようとしたが、それを潔く引っ込めて代わりに言葉を口にした。

 

「フン、当り前じゃ。 伊達に『弟子』と儂は名乗っておらんぞ、黒崎一護!」

 

 むき出しになった背中を見せつけるようにそう言った山本元柳斎から一護は視線をチエへと移す。

 

「……何だ一護?」

 

「いや『ソレ』……どういうことだ?」

 

「????? どういうことも何も、重国が言ったではないか?」

 

「へ…………………………………………………………………………………………………………………………あ」

 

 少しの間を挟んで、一護は色々な点が繋がったような、腑に落ちた息を吐く。

 

「いやちょっと待て! 更木の奴に、『(弟子)を倒した後でないと戦わない*2』って言ってなかったか?!」

 

「私はそんなことを言っていない」

 

「嘘つ────!」

 

≪勝負だコラァ!≫

≪断る≫

≪んだとテメェ?!≫

≪まずは弟子から倒せ≫

≪うむ、ワシ────≫

≪────ああ? ()()の野郎を先にだぁ?!≫

≪そうだ≫

 

 ここで蘇るのは少し前の記憶。

 主に藍染離反騒動が落ち着き始めたころ、更木が喧嘩(という名の()闘)をチエに挑んだ日。

 そして()()()『弟子』と聞いてそれを『一護』と指定した後になぜかショボショボした山本元柳斎の姿。

 

「────ま、まさか……更木の野郎の勘違い(早とちり)で俺は命狙われていたと言うのか?」

 

 一護がワナワナとした手で頭を抱えているところに、チエが彼の肩にポンと手を置く。

 

「最初は重国と言い直しても良かったのだがこれでお前の杜撰(ずさん)な足運びを直せば御の字と思ったまでだ*3

 

「…………………………あ……おま……お前……」

 

 上手く口から言葉が出せない一護の反対側の肩に、今度は山本元柳斎が手を置く。

 

 ウンウンと頷く彼のほうを一護が見ると、稲妻が走るかのように昔から『訓練』と書いて『なぶり殺し』と読む記憶の日々が過ぎ通る。

 

「「………………………………」」

 

 ガシッ!

 

 無論、何故かその場にいない筈の山本元柳斎(一護)が隣でヒィヒィとしながら付き合わされる幻影まで見たところでようやく『あ。 ここに理解者おる』と思い、それが伝わったのか互いがガッシリとした握手を交わす。

 

 ドォォォォォォン

 

 頭を失くし、胸に穴が開いていた筈のジェラルドの体が起き上がる。

 

 「ハハハハハ! 我を転ばすだけなく、一時の死を味わせるとは正しく強者! 我が『希望(ホーフヌング)』の錆となれ!」

 

 復活したジェラルドが縦の内側から両刃剣を出す。

 

「頭部と胸を破壊してなお動くか」

 

「肉片残らず滅せねばならんとは……老骨に響きそうだわい」

 

 「我が力は『奇跡(ミラクル)』! 民衆の思いを形に────!」

 

「────破道の八十九、『黒翔砲(こくしょうほう)の門』」

 

「ッ! 狛村、卍解を解け!」

 

 一瞬お腹に直接響くような音と共に、ジェラルドの頭上を中心に黒い穴のようなモノが開くとそこから一気に黒い色のした何かが巨体のジェラルドに襲い掛かる。

 

 「ぬおおおおおおお!」

 

 彼はこの攻撃を盾で受け取ろうとして、見た目と違って重みのある攻撃に左腕自体がずらされて今度は右手に持った剣で斬る。

 

 「我はぁぁぁぁぁ! 負けんッッッ!」

 

 彼はあまりある腕力で自身に襲い掛かる重みを撥ね退けたが、その拍子で持っていた剣が刃こぼれするのを見て、彼は不敵な笑みをする。

 

 「見よ! 『希望(ホーフヌング)』に傷がついた! それ即ち民衆の『希望』が傷つき、『絶望』と変わるのだ!」

 

 ガゴッ!

 

 「……黙れ」

 

 「意義や良し!」

 

 チエが静かに飛び上がり、ジェラルドを斬ろうとして彼の持っていた盾に防がれる。

 

 自分の体についた斬り傷を無視して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「なるほど、これは思わぬ収穫だった」

 

 別の静かな場所での独り言の声は広い部屋の中で響く。

 

「ここに来るまでに……」

 

 言葉の主はただ目を閉じたまま言葉を続けてから、自分の横に置いてある器具を確認する。

 

「……うん。 ちゃんと繋がっているね。 さて、見ものだね? ()()()()()()()()()()()()』」

*1
作者の他作品『バカンス取ろう』より

*2
32話より

*3
魂魄状態でウルルに勝った18話より




破道の八十九、『黒翔砲の門』: オリジナル鬼道で『黒棺』の重力を頭上から真下の標的に襲い掛かせるというモノ


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第136話 『約束された勝利の剣』

大変お待たせしました、活動報告のことがあったものの何とか書きあげたので次話投稿です。

お気に入り登録、誠にありがとうございます! すごく励みになります!

かなりの急展開などで内心ハラハラですが、楽しんでいただければ幸いです!


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 ボォン!

 

ギャアアアア!!!

 

 左手と姿形を変えたペルニダの『小指』が爆破されたことで彼の叫びが辺りに響く。

 

 バシャア!

 

「やれやれ、麻酔してから検体を取ればいいものを」

 

「そういう君こそ保護薬液を用意しているじゃないカ────何ッ?!」

 

 バキバキバキバキバキ!

 

「マユリサン!」

 

 蒲原から保護薬液を浴びてもバタバタと暴れる『小指』の近くまで移動したマユリに、小指から赤黒い『神経』が伸びては彼の左手に密着した瞬間、支配された神経が筋肉に働きかけ始めて骨と肉が異様な方向へと曲がっていく。

 

 これをマユリは誰の目にも捉えられないほど動く右手で、左腕をバラバラに分解した後にもう一度組みなおす。

 

「舐めるなよペルニダ! さすがの君の能力も神経、血管、筋肉の配置を一から組み変えた対象にはどうにも出来ないだろう?!」

 

「(……今の一瞬で自分の体をただの力技で作り変えるなんて、流石は涅サンだ。 ボクが言っても彼にしたら皮肉にしか聞こえるかもしれないけど)」

 

 ボギボギボギボギボギボギ!

 

 分断された『小指』はすぐさま別のペルニダと成る間、ペルニダは自らの人差し指と中指を親指と薬指でもぎ取る。

 

「あー、そう来ましたか」

 

()()()()()のごとく増えるとは、バラして持ち帰るというわけにはいかないカ」

 

「ならそのまま捕獲しちゃいましょう♪ 一部とはいえ、『()()』ですし」

 

 みるみると増えたペルニダが霊子の弓を構えてそれらを射る。

 

「貴殿らは忘れている。 余は滅却師である」

 

「「ッ」」

 

「! 地面じゃ二人とも!」

 

 いきなり喋り方を変えたペルニダに蒲原とマユリが違和感を覚えている時、先ほどの地面へと射られた矢から神経らしき線が周りに伸び出ていたことを夜一が叫ぶと同時に二人は飛び上がり、足元には霊子の足場が出来ていた。

 

「ソれハ……」

 

飛廉脚(ひれんきゃく)っス。 自分を滅却師と名乗っているのなら知っているっスよね?」

 

「今の説明、訂正したまエ浦原喜助。 『飛廉脚(ひれんきゃく)』は石田宗弦(そうけん)や石田雨竜が用いていた呼称だヨ」

 

「それもそうっスね」

 

 自分と同じく飛廉脚(ひれんきゃく)を使った浦原に対して若干とげのあるマユリの言葉を浦原は受け流し、夜一とアイコンタクトを一瞬取ってから浦原とマユリは移動を開始した。

 

「ここを離れるぞ、浮竹!」

 

 彼女はいまだに調子が戻ってこない浮竹に肩を貸し、さらに距離を取りながら飛廉脚(ひれんきゃく)を駆使してペルニダたちが射る矢を三次元の機動戦で躱す浦原とマユリを横目で見る。

 

 その場に広がるつつある、薄い霧状の何かも彼女が目を凝らせば見えなくもなかった。

 

「(まったく、無茶を本番でやりおる)」

 

 先ほどのアイコンタクトと一瞬で、浦原とマユリは敵の神経経由の攻撃を逆手に取るという大胆な作戦に出ていた。

 

「(やはりナ。 認めたくはないが、悪知恵は昔から利くのが蒲原喜助。 私のいま散布しているほぼ同等の超高濃度の麻酔薬)」

 

「(知っていますよマユリサン。 これぐらいならばボクたちにも少々きついでしょうが、ペルニダの矢は無力化できます)」

 

「「「「「ム. 矢ガ……なんダ、コれハ?」」」」」

 

「「(ここ(です))」」

 

 ペルニダたちが自分の矢に違和感を覚えたその時、浦原とマユリが杭のようなモノを懐から出してはペルニダの矢にそれらを打ち込むと、霊子そのものが変質していく。

 

「(『神経凝固剤(しんけいぎょうこざい)』)」

 

「(文字通り、『神経の伝達を凝固させる』モノ。 体組成(たいそせい)は不明ですが少なくとも血液は流れている。 つまり────)」

 

「「(────(ペルニダ)の血流そのものを凝固させて殺())」」

 

 ボキ!

 

 これらを見た最後のペルニダは自らの変質(凝固)し始めた指を切り落とす。

 

「こんなモノで、やられる(ペルニダ)ではない! 二人とも仲良く死ね!」

 

 再び流暢に喋りだすペルニダが動きを止めた浦原とマユリに弓を残った指で構えだす。

 

「『死ぬ』? もちろんそれはどんな生物であればいずれ訪れる終末だヨ」

 

「でも今ここで死ぬのはあなたです、ペルニダ」

 

 ドッ!

 

 ペルニダが立っている地面近くから小さな衝撃を感じて不意に底を見ると先ほどの浦原とマユリが持っていた杭を本体に打ち込んでいた夜一がいた。

 

「まさか喜助に『もしもの時』に渡されたこれをここで使う羽目になるとは、人生何が起きるか分からんのぉ?」

 

「キ────!」

 

 音もなく、本体が瞬く間に凝固されてペルニダの声は強制的に途切れる。

 

「これで────」

「────標本の出来上がりっス」

 

 二人が見上げたのは石像のように微動だにしないペルニダたち。

 

「さテ────」

 

 ボコ!

 

「「────ッ?!」」

 

 マユリが浦原に振り向きながらしゃべると、異様な音がペルニダたちから発する。

 

 ボゴ! ボゴゴゴゴゴゴ!

 

 二人が見ていると、さっきの音はペルニダたちが急に膨らんでいくのが原因だった。

 

「なんだ、これは────?」

「────ぐぎががががが?! ()……()()()……マユリィィィ!!!

 

 ボゴォン!

 

 空気を入れすぎた風船のようにペルニダが破裂し、肉片が生々しい音と共にその場一帯に散らばっていく。

 

「「……………………」」

 

 さっきまでの騒動が嘘のように、沈黙が訪れて浦原、マユリ、夜一たちはただ茫然と生きをしながらマユリを見る。

 

「なんだネ? ここにもう用はなイ────」

 

 ドシャ。

 

 マユリが歩こうとして、いつの間にかボロボロにされた足で歩みを踏み外して前のめりに倒れそうになる。

 

「────チ。 神経の残骸にやられたカ」

 

 マユリはこれらを斬魄刀で切り落とし、懐から出した注射器を股に打つと新しい足が生えていく。

 

「うーん、タコの様っスね」

 

「私の『補肉剤(ほじくざい)』に文句を言うのならば観察するんじゃあないヨ、浦原喜助」

 

「とりあえず、ここにもう用はないので他の者たちとの合流か霊王宮へ移動しましょう」

 

「浮竹、どうじゃ調子は?」

 

「ありがとう……さっきからだいぶん楽になったよ」

 

 そう言いながら、マユリ達の後を追う前に浦原がもう一度さっきまでペルニダがいた場所を見る。

 

「(マユリさんは『神経の残骸』と言いましたが……ボクが見た限り()()()()()()()()()……それに、急に膨らんだことも……いえ、今のことが最優先です)」

 

 今度こそ、浦原はマユリ達の後を追う。

 

 今の出来事にどこか引っかかる違和感を押し込んで。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 一方その頃、リジェたちと相対していた隊長たちは初解のみとはいえ京楽、ローズ、平子、白哉と言った護廷十三隊の中でもそれぞれの違う理由での強者たちを前に追い詰められていった。

 

 最初はニャンゾルの持つ『紆余曲折(ザ・ワインド)』を利用してくる攻撃をリジェは防いでいたが後にニャンゾルの能力が『本能で見つけた敵の攻撃を逸らす』という特徴を見切られ、砕蜂は彼の本能が追い付かないほど高めた瞬閧(しゅんこう)を使った『雀蜂』で彼を殺した。

 

 本来、彼女の扱う瞬閧(しゅんこう)は夜一のものに比べると見劣りするのだが、以前夜一の監視を請け負った際に逃げる夜一を追う度に自ずと技が洗礼されていった。 

 流石は夜一様(ラブ)の砕蜂である。

 

 ただ、さすがの彼女もこの速度で初解攻撃を実戦で繰り出したのは初めてでかなり消耗した彼女はかく乱要員として動いてリジェの隙を誘い、『逆撫』を使った平子に彼の正面から攻撃した京楽の『花天狂骨』がリジェの胸を貫いた。

 

「残念だね」

 

「ッ」

 

 まったく手ごたえを感じなかった京楽が距離を取り時と彼の『花天狂骨』がズルリとリジェの体から抜ける。

 

「僕は両目を開いている間、『万物貫通(ジ・イクサクシス)』の真髄(しんずい)を行使できる。 僕の攻撃はすべてを貫くことができる上に、僕の体はすべてを貫くことができる……あまりの有能さに、僕は短い間だけこの能力を使用されることを許されていた」

 

「あ、そ。 じゃあ(はよ)う目ぇとじんかい」

 

「そうも行かない。 君たちは()に最も近い僕に触れようとした。 万死に値する

 

 カッ。

 

 グッ。

 

「「「「「(体が?!)」」」」」

 

 リジェの体が光に包まれる瞬間、各々の隊長たちが動こうとしてまるでその場に釘付けにされた感覚とともに、金縛りにあったように見動きが取れないことに戸惑った。

 

 光が収まり、背後に四体の光る翼を生やしたどこぞの使徒を思わすかのように変形したリジェが姿を現す。

 

「『神の裁き(ジリエル)』」

 

 カッ。

 

 変形したリジェが翼を広げるとまたも周りに光が生じ、京楽たちの体がその瞬間何かに貫かれる。

 

「こ、こりゃ……ちょいとマズイね!」

 

「光自体が奴の武器だと?!」

 

「め、滅茶苦茶や!」

 

「光そのものが武器になるとは……僕でも敵ながら流石の言いようしかないよ!」

 

 京楽、砕蜂、平子、ローズたちは傷を負いながらも四方に散って物陰の中に身を潜める。

 

「……まいったね~。 なまじ力を持っているからこんな傷でも『すごく痛い』で片づけられちゃうんだよねぇ~」

 

 京楽は空に向かって黒い鬼道を撃つと、『花天狂骨』を地面に突き刺す構えをとる。

 

「巻き込んだらゴメンよ皆、でもこういう時こそ卍解ってモノの使いどころじゃあないのかな? ……卍解、『花天狂骨枯松心中(かてんきょうこつからまつしんじゅう)』」

 

 京楽が卍解を使いながら『花天狂骨』を地面に突き刺すと景色が一気に薄暗い空間へと豹変するにつれて寒気が全員を襲う。

 

 キュゴ!

 

「ようやく動いたと思ったら君だったか」

 

 京楽の『影鬼』のように、光を媒体に京楽の前にリジェが表れた。

 

「ハハ、ずいぶんと速い到着だね……この世界を君はどう思う?」

 

「……これが君の能力か? 世界が少しやや暗くなったこれが?」

 

「そ」

 

「……君の能力は『子供の遊びを現実にする』と聞いている」

 

「うん。 それはある意味あっているけど、今は()()()()()さ」

 

 ドドド!

 

 その時、リジェの体に京楽の受けたケガがそのまま移されたかのように表れる。

 

「な?! この僕に『傷』だと?!」

 

「『一段目、“躊躇疵分合(ためらいきずのわかちあい)』。 相手の傷がそのままそっくり分け合うように浮かび上がる。 『二段目、慚傀(ざんき)(しとね)』」

 

 ボボボボボ!

 

「ゴハァ?!」

 

 リジェの体中に黒い斑点のような模様が広がり、彼が吐血する。

 

「これは僕に傷を合わせたことによって癒えぬ病が襲う」

 

「ぬおおおおおおお!」

 

 リジェは痛みに抗いながら、京楽へと迫る。

 

「『三段目、断魚淵(だんぎょのふち)』」

 

 次の瞬間、リジェと京楽は深い水の中にいるような景色の中で霊圧が急激に吸われていく。

 

「覚悟を決めた者たちは、相手と自分の霊圧がなくなるまで水中に浸り続ける」

 

「グッ! (水面が、遠のく!)」

 

 リジェがどれだけ上へと移動しても、その分沈んでいく速度が加速していった。

 

「おいおい。 そんなに頑張りなさんな、時期に勝負はつく……と言いたいところだけど、最後で君を殺すとしよう。 『(しめ)の段、糸切鋏血染喉(いときりばさみちぞめののどぶえ)』」

 

 京楽の指から糸が出たとリジェが思えば、それが自分の首に巻き付いていたことに築くと同時にその糸がリジェの喉笛を切り裂いた。

 

「っとと」

 

 京楽は卍解を解くと、彼はよろけながら膝をつく。

 

「うーん、久しぶりに卍解を使ったけど……やっぱキッツイね、これ」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 

「おいおいおい……首を落とされてまだ動くって冗談はよしてくれよ」

 

 京楽が見たのは、首無しになったリジェの体が痙攣しながらさらに異形なものへと変わる場面。

 

たかが……死神のぉぉぉぉ! 分際でぇぇぇぇぇ! 神に近い僕を殺せると思うなぁぁぁぁ!

 

「よっこらっせ! っと……まいったね、本当に────」

 

 ピカァ!

 

「────うわっと?! なんだい、この光の柱は?!」

 

 京楽は急にリジェ全体を覆うほどの光が天高くまで続く柱が彼を包み込んだことによって反射的に距離を取りながら困惑した。

 

「な?! こ、これは……()()の『聖別(アウスヴェーレン)』?!」

 

「(反膜(ネガシオン)じゃなくて良かった……けど敵さんが焦っているのはどういうことだい?)」

 

「そ、そんな?! ()()だ?! ユーハバッハ様は────!」

 

 ゾゾゾゾ!

 

 ガラァン!

 

 リジェが話し終える前に、白骨体として京楽の前に倒れて骨がバラバラになっていく。

 

「……『ユーハバッハ』、ね。 (確か山じいが昔戦った滅却師の頭領だったっけ?)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

 

 高らかに笑いながら、イノシシのように無茶苦茶な突進してくる更木、宙を舞う刀たちの間を飛翔したりそれらを飛ばしたりなどしてありとあらゆる方向からくる三つの攻撃たちをさっきまで浮かべていた薄笑いがなくなったグレミィがひょうひょうと躱したり、壁を正に無から出現させて防いでいた。

 

【対象への干渉不可能】

 

「(やっぱりだ。 さっきから何度か試しているけど、この子の物に対して僕の『夢想家』が()()()()()……それに、『これ』はなんだ?)」

 

 彼は自分の能力で干渉ができないことで先ほど更木に『戦いが楽しい』と言われた時からのもやもやがさらに大きくなっていったことに、ここで初めて感じながらそれを意識していた。

 

「(『楽しい』なんて、考えたこともなかったな)」

 

 次に彼ら立っている場ごとがひび割れていく中、更木は笑いながらがれきからがれきを飛び移り、()()()()()グレミィを斬ろうとする。

 

「(でも……今だけは確実にこいつらを叩きのめしたい!) ハハハハハハハハハハ!」

 

 ズラァ!

 ドドドドドドドドドドド!

 

 彼の後ろから無数のありとあらゆる重火器タイプの霊子兵装が背後から表れては雨のように霊子の弾丸を撃ちだす。

 

 更木は己の目や耳などの、必要最低限の弾丸を切り落としながら走り、三月はグレミィのように急に宙に飛び出た刀数十本を使って払い落としていた。

 

 雨のような弾丸をバックドロップに、三人は激しい攻防を続けていた。

 

 ボシュゥゥゥゥゥ!

 

 ドドドドドドドドドォォォォォン!

 

 次に重火器の代わりにミサイルが出現してその場一帯に爆発が起きる。

 

 ドォン!

 

「ッ」

 

 その一つの爆発はグレミィが予想だにしていなかった出来事らしく、初めて手をポケットから出して顔を爆風から守った。

 

「おい。 テメェ……今、手ぇ出したよな?」

 

アハハハ! ザッキー無茶苦茶すぎ!

 

 さっきのミサイルは、更木がミサイルの一つを()()()つかみ取り、投げ返した結果だった。

 

「そうかぁ?」

 

でもさいっっっっこうにテンアゲな顔を皆しているからイイよ!!!

 

「そりゃ違ぇねぇ! なぁ?! えぇぇ?!

 

「(『イイ顔』? そんなの知らないけど……気分がいいのは、わかる!) ハハハハハ!

 

 笑う、笑う、笑う。

 

 ここに約三名、知性ある生物のように戦略をその時の流れに合わせ、獣のごとく本能に任せてただただ一つだけの志を抱きながら戦っていた。

 

『相手を滅する。』

 

 ただその一つが()()を動かしていた。

 

「「ッ」」

 

 更木と三月は()()()グレミィたちを見る。

 

「そっちも二人だからね」

「こっちも二人で対等に行こうじゃないか」

 

「分身? ハッ! 隠密鬼道みたいな小細工か?!」

 

うわぁ。 ()()()()()みたい。 ザッキー、悪いけどこいつら二人とも()()

 

「あ?」

 

 パチパチパチ。

 

「ご名答」

「僕は想像で『命』さえも創り出すことも出来るんだ」

 

 三月の言葉に、更木が反応したことにグレミィ達が拍手しながら説明をする。

 

「これで僕は二人に増えた」

「つまり想像力も単純に倍さ」

 

 ゴォ!

 

 空に突然、巨大な火の玉が出現しては体中を響かせる重い音がその場を支配する。

 

「なんだぁ?」

 

ちょ、(マジ)?! リアルメテオ(隕石)じゃん?!

 

「そうだよ」

「この場一帯ごと破壊できる」

「「僕たちは生き残るけどね」」

 

 落ちてくる隕石を見て、若干放心気味の三月が口を開けた。

 

………………あー、ザッキー? 『アレ』、斬れる?

 

「もっと近けりゃぁ、な」

 

だよねー。 でもそこまで待ったらアタシたちウェルダンされ(こんがりと焼かれ)ちゃうわよ

 

 グレミィたちは余裕の笑みでニヤニヤしていた。

 

「ちなみに僕たちを殺せたとしても無駄だよ。 ()()だから」

「あの隕石ははるか上空の、宇宙にあったモノを落下させたからね」

 

『ゴゴゴゴゴゴ』と、迫りくる隕石を見上げた更木は顔が引きついていた三月を見る。

 

「おいチビ。 なんかねぇか? ……おい」

 

 ボーっとしていた三月に再度声をかけると、眩暈がしたのか彼女はクラリとよろけた後に笑みを浮かべる。

 

「ッ……あー、これはちょ~っと……()()をしなくちゃダメみたいね」

 

 彼女が次にしたのは宙の歪みから、禍々しいほどの赤黒い極光に包まれた剣を一度躊躇してから手に取る。

 

 シュゴ!!!

 

 その瞬間、彼女が持ち出した西洋の両手剣から嵐そのものが顕現したかのように暴風が荒れ狂う。

 

ガッ?! ギ、ギギギ! (精神汚染がピークに達する前に!)」

 

 風の発生源である剣を片手から両手で柄を握り、大きく振るう構えをとる。

 

「(一気に、あれをフンサイ!)『卑王鉄槌(ひおうてっつい)極光は 反転、する! 光を呑め! “約束された(エクスカリバー)勝利の剣(・モルガン)”!!!』」

 

 嵐のような風の中心にいる彼女は、構えた剣を大きく振るうと『月牙天衝』にどこか()()黒く染まっった『闇』そのものを隕石めがけて解き放つ。




『約束された勝利の剣』、または『エクスカリバー・モルガン』。

とある世界で登場する、かの『アーサー王伝説』の中心人物であるアーサー王が生前所持していた聖剣、『エクスカリバー』。

聖剣の特徴である『人々の願い』を結晶化した際に生まれる『光』を変換し、集束&加速させることで運動量を増大。 “究極の斬撃”として放つのが『約束された勝利の剣』、通称『エクスカリバー』。

だが『エクスカリバー・モルガン』は、主君であるアーサー王が自ら用いる力すべてを自分の思うがままに振るうため、聖剣が放つのは『光を呑む闇』となってしまった。


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第137話 The End (of the Beginning) is Nigh

お待たせしました、仕事の合間に書いたので短いですが次話投稿です。

楽しんでいただければ幸いです。

なお、次話辺りにかなりの急展開を予想しています。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 大きな街並みにて、剣闘士のジェラルドが満身創痍になりつつある狛村の『黒縄天譴明王』の左腕を鎧ごと切り落とそうと(ホーフヌング)をふるう。

 

 「ぬおおおおおおお!」

 

 「『月牙天衝』ォォォォォ!!!」

 

 ガリィィィィィン!!!

 

 腕についた籠手で(ホフヌング)の攻撃を受け流した瞬間を狙ったかのように、一護が特大の月牙天衝で剣を持っているジェラルドの腕の肘を狙い、それが当たると固いもの同士がぶつかり合う、耳をつんざく音が浅くはない切口と共に発生する。

 

 ガガガガガガガガ!!!

 

 更に追い打ちをかけるように白哉の『千本桜』と日番谷の『大紅蓮氷輪丸(だいぐれんひょうりんまる)』が今度こそ見事にジェラルドの腕を引き千切る。

 

「『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』、および『城郭炎上(じょうかくえんじょう)』」

 

 次にジェラルドを切り落とされた腕と剣から遮断するかのように、山本元柳斎が繰り出した炎が実質上の壁となり、さらにジェラルドを焼くような業火が彼の全身をめぐりに得るような痛みで触覚と視界を奪った。

 

「今回はこれでどれだけ持つか……」

 

 彼らは先ほどから何度もジェラルドを様々な方法で倒していたことで彼の能力()が『不死』、あるいはそれに近い再生能力の上に『受けたダメージから復活する度に強化されていく』という特徴を見抜き、それからはジェラルドを『()す』のではなく『拘束する』といった方針で攻撃をしていた。

 

「(しかし、師匠でも()()()()とは少々……いや、かなり意外じゃった)」

 

 山本元柳斎が横目でチラッと見たのは、ところどころ見るだけで体中を巡る痛々しい生傷とボロボロになった服装のチエの様子。

 

 応急処置の包帯などをした彼女は今でこそおとなしくしているが、さっきまで自分の身の安否を無視しながら一心不乱にジェラルドに突っかかっていた。

 

 それこそ滅多に見せない苛立ちを顔に浮かばせながら。

 

「(それもこれも、あのジェラルドという滅却師が自慢げに喋りだしたあと……か)」

 

 そして山本元柳斎に、その原因の心当たりはジェラルドの()()にあると踏んでいた。

 

「日番谷。 (けい)は限界、卍解を解け」

 

 少し離れた建物の屋上に立っていた白哉の近くに降り立った日番谷は滝のように汗を出し、卍解を使った彼の背後に現れていた花の形をした氷の結晶がほぼすべて無くなりかけていた。

 

「朽木……何か勘違いしているようだから俺は言うけどよ……『氷の花が全部散り尽くしたら終わりだ』なんて誰にも言った覚えは()え」

 

「なに?」

 

 パキ。

 

「氷の華が全部散ってからが、『大紅蓮氷輪丸(だいぐれんひょうりんまる)』の本腰だ」

 

 パリィン

 

 日番谷が喋り終わるタイミングで彼の言うとおりに氷の華が砕けると、彼をそのまま成人化した様子の姿が氷でできた霧の中から出てくる。

 

「俺は自分の能力を未だに上手く使いこなせない反動かどうか知らないが……『大紅蓮氷輪丸(だいぐれんひょうりんまる)』の氷の華は制限時間じゃなくて()()()()()()を示す……そして俺は()()()()()

 

「おい、何だその何か言いたげな視線は?」

 

「いや?」

 

『少し老ける』と言いながら横目で自分を見る日番谷に対して白哉が反応するが、日番谷は答えを濁した。

 

「俺はこの姿はあんま好きじゃない。 後で疲れがどっと押し寄せるしな……けど────」

 

 「────ぬあああああああ! 貴様たち蛮族にぃぃぃぃぃぃ!!! 『神の権能(アシュトニグ)』を使わなければならぬとはぁぁぁぁぁ!!!」

 

 業火の炎の中から怒鳴るジェラルドが日番谷の言葉を遮り、炎の代わりに光が彼の巨体を包むかのような姿へと変わる。

 

「ちょっと待ておい?! これってまるっきり『ナウ〇カ』じゃねぇか?!」

 

「もしくは『ウルトラマ〇』か」

 

「なんじゃ、それ?」

 

『月牙天衝』を撃った後に負傷したチエの近くまで来ていた一護に続いてチエ、そして?マークを出す山本元柳斎がいた。

 

 パキィン

 

 そのジェラルドの全身が今度は光事閉じ込めるかのような氷の檻が表れて動きを封じられる。

 

「『四界氷結(しかいひょうけつ)』。 ちっとは頭を冷やしながら黙れ、頭に響く」

 

「……誰だお前?」

 

 ここで上記の技を充てるためにジェラルドの近くまで移動した際に一護たちの前に姿を現した日番谷に、一護が思わず問いを投げた。

 

「(だから『この姿は好きじゃない』って言ったんだ)」

 

「アホか一護、よく見れば一目瞭然だろう?」

 

「(お? 渡辺の野郎ならすぐにわk────)」

「────日番谷の兄に決まっているだろう」

 

 ビキ。

 

 ちょっと待てこら────」

 

「────というわけで初めましてだ日番谷の兄よ」

 

「は、初めまして?」

 

 「フ」

 

 チエと一護の挨拶に小さな声を出したと思われる白哉は日番谷が見るより前にそっぽを向く。

 

「朽木……テメェ────」

 

 ピカァ!

 

「────ぬ?!」

 

「この光はなんだ?!」

 

「『反膜(ネガシオン)』ではないが……」

 

 急に現れた光が天高くまで続く柱が氷漬けになったままのジェラルドを包み込む、そこにいた誰もが困惑で声を出す。

 

 ゾゾゾゾ!

 

 その場にいた皆が見ている前で、ジェラルドの体が表面から一枚ずつ溶けていくかのような景色に言葉を失くす。

 

 ガラガラガラガラガラガラガラガラ!

 

 皮膚、筋肉や(けん)、そしてついには骨だけが残りそれらが氷と共に地面へと落ちて行っては砕けていく。

 

「これは……一体……」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「…………なんだよ」

 

 グレミィの顔からは余裕の笑みは跡形もなく消えていた。

 

「一体なんなんだよ?!」

 

 それも無理もなかったかもしれない。

 

 ドォン! ドドォン! ドォン!

 

 グレミィたちのいる場のあちこちでは、落ちてくる予定の()()()()()()()が地面や建物などに衝突していく。

 

「へぇ~? こいつは一角の野郎も『渡辺姉妹』の言葉も間違っていなかったか*1

 

フハハハハハ!

 

 この惨事の中で、一人だけ狂ったように笑い続ける少女の声が響き、グレミィは彼女をにらみながら叫んだ。

 

「この……なんなんだよお前は!」

 

 これを聞いた少女はピタリと笑うのをやめ、彼を死んだ目で見る。

 

 ゾクリ。

 

「(なんだ? なんなんだよ、この寒気は?!)」

 

 否。 『死んだ目』と呼ぶにはあまりにも異質なほど光が死んだ眼光で、まるで架空上の地獄そのものを見てきたような目だった。

 

アハハハハハハハハハハハ!!

 

 ギィン!

 

「グッ?! (こいつの太刀筋……見た目と全然違う────!)」

 

 ザクッ!

 

「────チ!」

 

 盾になるために外相を鋼鉄かしたグレミィが斬られていくのを見てもう一体のグレミィが舌打ちをする。

 

 サァ、一体が斬られたぞ?! 今日はまだまだ始まったばかりだ! ()()なのだろう?! ならば私の前に立て! この胸の脈を止めて見せろ!

 

 「なに俺抜きで勝手に盛り上がってんだ! 俺も混ぜろ!」

 

 グレミィの胴体めがけて黒くて禍々しい剣を三月が振るい、その横から更木が乱入する。

 

 その景色は少し前までから一変し、余裕を失くした狩人が狩る対象の獣たちに追い詰められるようなものだった。

 

「ふざけるなよ! お前たちを()()()()()()()()()()!」

 

 突然現れたのは数体のグレミィたち。

 

 それぞれが更木たちにしがみつくと同時に自爆をする。

 

 ドドドドドドドドドォォォォォン!!!

 

 一つ一つのグレミィたちが起こす爆発は決して小さいものではなく、爆発がさらなる爆発を呼ぶ連鎖を作り上げていた。

 

「グッ?!」

 

 今まで表情は変えても決して汗などを掻かなかったグレミィの額と顔には大粒の汗と、目の下に出来たクマが目立つ姿は彼の疲労をそのまま物理的な表現として出ていた。

 

「(くそ、あれほど『能力を乱発するな』と言われたのはこのことか?!)」

 

 さて、ここで『グレミィ・トゥミュー』に関しての情報をもう少し足したいと思いたい。

 

 彼はある意味、癖が一つ二つあると言うかバンビーズを除いて仲間(?)意識が希薄な星十字騎士団(シュテルンリッター)の中でも異質の上に、聖文字を与えられて芽生えた能力を危険視したユーハバッハは彼を最後の最後まで『捨て駒』とするまで厳重に監禁及び隔離を徹底していた。

 

 当然、それは『原作』の流れなのだが(おおむ)ねそれはここでもとある時まで変わらなかった。

 

 その『とある時』とはユーハバッハがいなくなったこと。

 

 これにて、グレミィは他の者たちと触れ合う機会が出来たことで『原作』とは少々違う考え方や心持ちを身に着けていた。

 

「(けど……それでもしなくちゃ、こいつらは倒せない……) 本当に、()()()だよ」

 

 爆炎と肉体が飛び散ったことで巻き起こった煙の中から火傷などを負い、上半身の服装が吹き飛んだ更木と同じようだがボロボロながらもダメージが更木と比べて少しマシといった三月たちを見ながらグレミィは皮肉たっぷりの口調で上記の二人を化け物と呼んだ。

 

「あ? 俺は『化け物』じゃねぇ……『剣八』だ」

 

 更木は得意げそうに斬魄刀を肩にかける。

 

「化け物? そうとも! そうだとも! さぁ殺しあおう!さぁ互いに殺されよう! さぁ、さぁ、さぁぁぁぁぁ────!!!

 

 ────ゴリッ!!!

 

「ん?」

「え?」

 

 更木とグレミィが聞こえてきたのは皮膚だけでなく骨まで響く痛々しい打撃音だった。 二人がチラリとみると、三月が空いていた手で己の(ひたい)を殴ったと理解するまでそう時間はかからなかった。

 

 少なくとも彼女の頭と鼻から血が(したた)り落ちる前には。

 

「……カッ……ぁ……」

 

 そんなことをして無事なわけがなく、彼女は一瞬だけ気を失ったのかフラリと体がよろけるが、彼女はハッとして目の焦点がここで合うようになり、目も(少なくとも見た目では)正常なものへと戻った。

 

「……ごめん、()()()()()()

 

「ハッハッハッハァ! お前もそういうクチか! 嫌いじゃねぇぜ!」

 

 明らかにどこか様子がおかしかった三月の言い訳っぽい言葉を信じたのか、あるいは興味がなかったのか更木はカラカラと笑った。

 

 恐らくは後者だろう。

 

「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなッ!!!

 

 そう叫びながら、グレミィは初めて感じていたイラつきをとある欲の活力へと変えた。

 

「僕は、最強なんだ! ()()()()()()()()!」

 

 その新たに沸いた欲とは『勝つ願望』だった。

 

 それにつれるかのように彼の体が急激に変化していった。

 

「(そうだよ! お前らを潰すだけじゃあ足りない! 僕は! 僕は────!)」

 

 ────パァン!!!

 

 次に鳴った音は空気を入れすぎた風船のような破裂音に伴うかのように、破裂していくグレミィの体だった。

*1
25話




さて、そろそろ来る頃だね。 紅茶を入れるとしよう……それともお茶やほかの飲料水をご所望かね?

【反応がない。 ただの しかばね のようだ】


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第138話 The Voice of a Small(er) God

大変お待たせ致しました、病み上がりでダルさなどが尾を引っ張って投稿が遅くなりましたが次話です!

励ましのメッセージ、誠にありがとうございます! (シ_ _)シ

楽しんで頂ければ幸いです!

そして急展開です(ハラハラドキドキ&汗汗汗汗汗汗


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「……ち、この馬鹿野郎が」

 

 お腹から下を失くし、虫の息になりつつグレミィを更木は舌打ちをしながら見下ろす。

 

「お前のその『想像』ってのが、お前自身の限界を超えたってところか────」

「────アッチョンブリケ?」

 

 更木が今度見たのは一昔前の何某漫画で登場したキャラのような面持ちをしていた三月。

 

「……ってなんだぁ、その顔は?」

 

「いや、『十一番隊(脳筋)のはずなのによく相手を見ているなぁ~』って」

 

「……なんなんだよ、お前たち。 調子狂うなぁ」

 

「「あ?/ん?」」

 

 グレミィの一言で二人(更木と三月)は彼の方へと視線を移すと液体を満杯に入れられ、脳と思われるオブジェが入ったケースを持っていた。

 

「なんだそりゃ?」

 

「それ────」

「────だから言ったじゃないか。 『君たちを頭の中だけで殺す』って*1。 君たちが見ている体も、声帯から発されるこの声でさえも『創造の産物』なのさ。 ま、『頭』というよりは『脳』なんだけどね」

 

 言葉を続ける度に、グレミィの体と漏れ出していた血がチリになっていく。

 

「でも……想像し続けるには()()()()疲れたかな……」

 

「それでテメェの体も、血も残らずに消えるのか」

 

 更木の言葉にグレミィは反応せず次は複雑そうな顔をしていた三月の眼を見る。

 

「というわけでお姉さんのこと、()()よ────」

「────

 

 次に起きたのは百面相並みにコロコロと変わるグレミィの表情。

 

 彼の顔は呆気にとられたような、あるいは放心したようなモノからハッと何かに気付いたかのように目を見開いたと思えば、今度は初めて会った頃の笑みを浮かべて笑い出した。

 

「……アハハハハハハハ! 僕も捨てたものじゃないね! 通りで思わず『お姉さん』と呼んだワケだ! ハハハハハハハ────!」

 

 ────カチャン。

 

 とうとうグレミィの頭でさえもチリへと化して、ケースに入った脳が地面へ落ちると闘技場(コロッセオ)は消え、霊王宮へと続く橋の上にいつの間にか戻っていた。

 

「ぬ。 戻ったか」

 

「お。 イキイキしている山じい見っけ♪」

 

「……」

 

 そんな脳の入ったケースを三月は同じように橋の上に戻ってきた山本元柳斎達を無視して、ケースを持ち上げようと手を伸ばす。

 

「ぁ……」

 

 だがケース自身が既に存在していないかのように、スゥっと消えていくかのようにその場から無くなる。

 

「あー、大丈夫か?」

 

「一護?」

 

 三月が振り向くと、情報交換をしているのか話をしていると思われる山本元柳斎たちから離れ、近くまで来た一護が立っていた。

 

「顔色が悪いぞ?」

 

「……ちょっと、ね」

 

「(こいつでもこんな顔するんだな。) フード野郎の言ったことが気になるのか?」

 

「気になるって言うか、なんというか────え?」

 

「ん?」

 

「一護、もしかしてアンタさっきの……どうやって?」

 

 一護が気まずそうに頬を掻く。

 

「……あー、実はな────?」

 

「────お~い、早う行くでお前たち」

 

 平子がぞろぞろとさっそく霊王宮の内部へと移動する隊長たちの列の後方から声をかけ、それに釣られるかのように三月も立ち上がって歩き出す。

 

「お、おい────」

「────()()、話そう?」

 

「…………」

 

 話の続きをしたかった一護に対し、霊王宮にいる藍染を優先した三月はどこか()()()笑みを彼に向けていた。

 

 彼がこんな笑みをする彼女を見たのは実に久しぶりだった。

 

 

 

 

 ___________

 

 『渡辺』三月 視点

 ___________

 

「やぁ、待ちわびていたよ。 随分と時間がかかったね?」

 

 ガランと空っぽな霊王宮の最深部にある、応接間のような場所とも呼べない開けた部屋の中で淡々と椅子に座りながら近くのテーブルの上にある紅茶を飲んでいた藍染が、山本元柳斎たちに挨拶していた。

 

「藍染……」

 

「(私に効かない筈だけど、ほかの幻術や変装の類じゃなくて一護にも『そう見えている』ってことは『鏡花水月』じゃないのは確定ね……)」

 

 一護は服装が以前とは変わって黒ずくめの藍染を見て、彼の名を呼んだことで三月は目の前の藍染が本物と確信した。

 

「藍染惣右介、霊王をどこにやった?」

 

「『霊王』……山本元柳斎重國殿。 『霊王』とは何たるかを知らない者たちの為に、私が説明しても良いかい? 機密情報だからと拒んでも、するがね」

 

 藍染は紅茶のコップを下ろし、腕組をしてから口を再度開ける。

 

「『霊王』。 一般的には『尸魂界を支配する王であり、死神の頂点に立つ存在』となっているが、それはただの詭弁だ。

『王』とは呼ばれているものの、尸魂界を実際に統治しているのは四十六室。 実際に霊王に謁見した者の数はおろか、護廷十三隊の隊長格ですらその全貌を知る者は少なく、『()()()()()()()()()()()』……どこか聞き覚えがないかね?」

 

 藍染は自分(三月)を真っ直ぐに見ながら、最後の言葉を言い放つ。

 

「……(こいつ、『何』を『どこまで』知っている?)」

 

 内心ではかなり焦りながらも平常心を必死に保ち、表では何の反応もしなかった自分を数秒間見てから藍染は口を再度開ける。

 

「そして『霊王』とは『現世』、『虚圏』、そして『尸魂界』を三つの孤立した空間に分ける為の『世界の(くさび)』……の隠名(かくしな)だ」

 

「「「な?!」」」

 

 そう声に出して反応したのは隊長たち数人。

 主に狛村、拳西、日番谷の三人。

 

「「「…………」」」

 

 静かにただ言われたことを噛み締めるかのような者たちもいた。

 

「そないなことを、お前に言われても……なぁ?」

 

 平子が横にいる浮竹や、頷いている京楽に横眼で見る。

 

「(霊王が『世界の楔』? それって────)」

 

 ────カァン!

 

 様々な反応をし始める隊長たちの気を引き締めるような、乾いた音が山本元柳斎の床を突いた鞘から発される。

 

「……皆の者、口八丁が藍染惣右介の得意技だと忘れるな」

 

「さすがは山本元柳斎重國。 2000年後艇の設立から総隊長はやっていない────」

「────藍染惣右介。 もう一度問おう。 霊王をどこにやった?

 

「その問いの答えは簡単だよ。 ここに居る筈の『特務』……『(ぜろ)番隊』と────」

 

 藍染はここで笑みをわずかにだけ深め、指で()()()()()を指した。

 

「────自らを『思念珠(しねんじゅ)』と偽っている彼女と同じだよ。 ()()()()()()()

 

「(……は?)」

 

 突然ハッキリと『存在していない』と言われ、さっきから心拍数が上昇したにも関わらず体を駆け巡る血は冷たくなっていった。

 

「(とはいえ、このまま彼の言っていることは見逃さない。)……随分な言いがかりよ、藍染惣右介さん? 私はどこにでも発生する野生の『思念珠(しねんじゅ)』よ?」

 

 ここで一護が自分に向けていた視線が『どこぞのポケ〇ン風な言い訳だ?!』と言いたいようなジト目に変わった。

 

「ああ。 言い方が悪かったね。 『この世界に存在しない』と言い直そうか?」

 

 思わず目をぱちくりとさせ、必死に『記憶』を漁って思い出す。

 

「(『別の世界』を私が話したのは『浦原喜助』と『四楓院夜一』だけ*2……彼らが他人に話したとしても『握菱鉄裁(つかびしてっさい)』辺りだけのはず……ハッタリ?)

『この世界に』って……突拍子もないことを言うのね?」

 

 若干嫌味を含んだ言い返しに(藍染)は全く動じず、言を続けた。

 

「客観的に周りの者たちを『登場人物』と見ながら、自分が前もって知っている情報を意図的に隠し、それを巧みに使ってその場の結末などを有利に進めてきた君に言われると誉め言葉にしか聞こえないが? ああ、この場合『()()()』と君は呼称していたか」

 

 ドキッ。

 

 藍染の言葉に思わず一瞬だけ強く跳ねた心臓と、真っ白になりそうな頭を気力で無理やり今この場に引き戻した意識をフル回転する。

 

「(『流れ』って……それはどういう意味を含んでの言葉? 『原作』? それとも『本来』? どっちにしろ────)」

「────思ったより驚かないんだね?」

 

「ッ。 そうでもないわ。 一通り回って冷静に見えているだけ。 (彼の目的は私の動揺────?)」

「────そうかな? それにしても不定はしないんだね?」

 

 ドッ。 ドッ。 ドッ。 ドッ。 ドッ。

 

 先ほどから上がっていく心拍音が気になっていくほどに音量を上げ、次第に耳朶へと直接音を響かせる。

 

『否定』? 何を?

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 次に声を出したのは藍染ではなく、意外な人だった。

 

「……やはり、()()()()()っスか」

 

『浦原喜助』だった。

 

「浦原さん? 何が────?」

「────いやね黒崎さん? アタシも自慢をするほどじゃないっスけどある程度の情報さえかき集めて揃えば、次に起きる状況は何なのか予測できます。 それが天災であれ、人であれ、これから起きるであろう一連の出来事の大まかな予想も出来ますよ?

 例えば101年前に藍染さんのしたことや『仮面の軍勢(ヴァイザード)』、破面(アランカル)で藍染さんが『崩玉』を使って大きなことを成し遂げようとすること。

 さらに言えば、アタシを無理やり動かそうとして四十六室を使って『現世』に朽木白哉の関係者である新人同然の『朽木ルキア』を現世駐在任務に就かせながらも自分で改造した『霊圧を消す事が出来る虚』を送り込んだ上に『黒崎一護』という人材を表舞台に引きずり出す……等々と。」

 

「(え? ちょ、何を急に言い出すの浦原さん?)」

 

 今までかつてないほどに饒舌になり始める浦原に、三月は戸惑った。

 

「『渡辺三月』さん、貴方は()()()()()()()()

 

 ドドドドドドドドドドドッ。

 

 今まで耳朶の中でうるさかった心臓の脈打つ音がさらに加速していく。

 が、三月の耳にはしっかりと浦原の言葉は届いた。

 

「沈黙を『肯定』と見なして言葉を続けますけど?」

 

『違う』。

 そう言いたかった。

 

「……」

 

 だが喉に何かが詰まっているかのように、声帯がうまく動かなかったように、吐息だけが口から出ていた。

 

「昔であった時から貴方は時々どこか、()()()()()()ように()には思えたんスよ。  グランドフィッシャー*3……

 いえ、違和感が芽生え始めたのは『仮面の軍勢(ヴァイザード)』を僕がけしかけた頃*4ですかね?」 

 

「なんやて?」

「なんだと?」

「なんだって?」

 

 

 平子と拳西、そしてローズは『仮面の軍勢(ヴァイザード)をけしかけた』という言葉に反応し、浦原は彼らを納得させるための言葉を簡潔かつ的確に並べた。

 

 

「最初はただの偶然かと思ったのですが……不器用で素直なチエさんはともかく、貴方と彼らとの接し方があまりにも自然でした。 それは()()()()()()()()()()()()()()()かのようで、気付けば貴方たちの距離はいつの間にか一気に縮んでいました」

 

「「「………………」」」

 

 

 図星だったのか三月は黙り込んだままで、前からあったもののかなり思わないようにしていた違和感がやっと腑に落ちたのか平子と拳西はポカンとした。

 

 

「なに……言ってんだよ浦原さん?」

 

 一護が隣で何か言った。

 が、『浦原喜助』はただ続ける。

 

「『偶然』から(のち)に『確信』へと変わり始めた極めつけは改造魂魄のコン騒動時。

 貴方は確か、僕に連絡をしてこのようなやりとりをしましたよね? 僕の『今、浦原商店は取り込んでいる』に対して、『改造魂魄の件なら知っている』*5と?」

 

「(…………………………しまった。 そう言えばそうだった)」

 

 そう思い、気持ちが重くなりながらも蒲原さんの慈悲のない、割り込むことを指せない言葉が口から出てくる。

 

「貴方はどうして、『改造魂魄が浦原商店絡み』だとすぐに判断できたんスか? あの時は()()()()ウチに来た朽木さんに、()()()()ウルルが粗悪品の箱から改造魂魄を渡して、()()()()その同じ日に改造魂魄を使用して彼は黒崎さんの体を得ていました……あまりにも的確すぎで、不自然です」

 

「……本当、なのか?」

 

 一護が隣でまた何かを言った気がする。

 

「……ぁ」

 

 だがさっきから締め付けられるように、苦しくなっていく胸の方が気になる。

 地味に()()

 

「そこから僕は貴方のことをよく観察しました。 勿論、自然かつ遠回りにね? 何せ貴方ほどの者が、何の『目的』で、何の『理由』で行動しているのかが全く不可解でしたから……おかげでアネットさんには警戒されましたが、後の祭りという奴です*6。 さっきの藍染さんとのやり取りでやっと、『とある結論』へと至ったワケですよ」

 

 

 まったく笑っていない浦原が三月の目を合わせてジッと見る。

 

 

「貴方、『()()()』為に色々と動いているんスね?」

 

「………………………………」

 

 言葉を失った。

 私が反論する気になるよりも、(浦原)の言ったことがスルリと胸の中へと麻酔のように入り込み、体中へと麻痺感が広がった。

 

「なぁるほどな……せやからアイツの周りはおもろかってんな?」

「……見た目より歳食っているのは良いとして……それじゃあ……」

「そう考えると……色々と辻褄が合っちゃうね……」

「ワシと喜助の誕生日を、皆が忘れているのに毎年忘れずに祝ったのも……」

「夜一様、私は忘れておりません! 証拠に第二番隊隊長室の祠には────ムグッ」

「ぬぅぅぅ……」

 

「ぁ……」

 

()()()』。

 そう次々と納得していく隊長(&元隊長)たちに言いたかったのに、相変わらず吐息だけが口から出ていた。

 いや、『何とか吐息が出せた』と言った方が正しい。

 

 「うるせぇぇぇぇぇ!」

 

 さっきから胸がさらなる圧迫感に支配されていく中、一護が叫ぶ。

 

「お前ら、本気か?! 浦原さんもだ! 確かにこいつはアンタのように捕まり所のないことを平然とするけどよ、俺たちがそのおかげで得したのは事実じゃないか?!」

 

 「い、ちご……」

 

 苦しくなっていった胸がほんの僅かだけ緩まり、私はやっと声を出せるようになったのも束の間だった。

 

「随分と彼女を信じているね、黒崎一護────?」

「────当たり前だ────!」

「────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「…………………………………………………………………………は?」

 

 ドクン

 

 いやなこどうでしんぞうがびっくりする

 

 黒崎一護が目を見開いたまま、こっちを見る。 みないで

 

「ぁ……あぁぁ……」

 

 そんな不安そうにならないで一護。 さいしょはそうだったとしても

 

 ヴゥゥゥン。

 

「これはとある改造魂魄の記憶だ、黒崎一護」

 

「あ、あああああ……」

 

≪ねえお姉ちゃん────≫

≪────ハウ♡────≫

≪────これ、どうしよ?≫

 

 プロジェクターで 映し出された画面には あめのひ

 

 蒲原商店の店番をウルルでしていたじゅういちねんまえのろくがつ。

 

 その横では傘を持った黒崎真咲と、雨合羽をした黒崎一護がかわのちかくであるいていた。

 

≪………………あー、うん。 テッ鉄裁さんに訊……けなかったんだね。 良いよ、お姉ちゃんが吊るしてあげる≫

 

 そのままじゅういちねんまえのろくがつのつゆどきの中でわたしはウルルの持ってきたテルテル坊主を見えない足場を使って手の届かない場所に吊るす。

 

≪凄い、凄~い! いまのどうやったの、ねぇ?! ……………あれ? でもお姉ちゃん、『人間』だったよね?≫

 

≪わ、私はね? 実は『魔法使い』なんだ≫

 

 画面のしょうじょ(ウルル)はうれしそうにめをほうせきのようにきらきらさせる。

 

 隣の画面の『黒崎一護』が川のそばで何かに気付き、走り出したことに『黒崎真咲』が追いかける。

 

≪? お姉ちゃん、どこか痛いの?≫

≪え? どうしてそう思うんだい?≫

≪だって泣いているよ?≫

≪ごめんね、ウーちゃん(ウルル)。 さっき浮いた時、ちょっとゴミが目に入ったみたい≫

 

 画面のわたししょうじょ(ウルル)を抱き締めていた。

 

≪一護、駄目!≫

≪伏せろこの戯けぇ!≫

≪ぬぅ?! これは?!≫

 

 その時と同時に、『黒崎一護』と『黒崎真咲』を川のそばに立っていた、ヒト型の餌を出していた『グランドフィッシャー』を()()()()()()()()通りかかった『渡辺チエ』が攻撃し始める。

 

『渡辺チエ』がどんどんと傷を負いながらも必死に戦う間にも、わたししょうじょ(ウルル)を離すまいとただ抱きしめていた。

 

「どうだろう、黒崎一護君? ああ、ちなみに君の電話がきっかけで、彼女は知らぬ存ぜぬするフリを諦めていたよ?*7

 

「……………………………………」

 

 「い……………………ち、ご?」

 

『藍染惣右介』の言葉と連動するかのように、幼い『黒崎一護』の悲痛に満ちた必死の『母さんとチエが死んじゃう、助けて!』の叫びをバックドロップに、彼との目線が合う。

 

「ッ」

 

 息を短く呑み込もうとして、失敗した。

 

 わたしを見ていたかれのめは、わたしを()()()()()()()()()

 

「あ……ぁ…………………………ぁ」

 

 周りを見てもだれもわたしを信じていない。

 

 だれもわたしをわたしとしてみていない。

 

「わ、私……わたしは……わたたたたタタタた────」

 

 ────ドッ。

 

「この時を、私は待っていた」

 

……え?

 

 めのまえに『藍染惣右介』がわたしのむねに手をr────

 

「────ぁ」

 

 そのまま彼が手を出すと、そこにはキラキラと光るなにかがつかまれていた。

 

わた…………しの………………ゴフッ!」

 

 からだからがすぅっとぬけていく。

 

 だめ。

 

 体が落ちていく

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

 なんだ?

 

 何が起きている?

 

 突然藍染の野郎が次々と突拍子もないことを言ったと思えば、今度は浦原さんがアイツ(三月)を責めるかのようにドンドンと事を並べていって、今度はアイツ(三月)が実はおふくろを見捨てようとした画像を……

 

 そんなこんなで理解が追い付いていかない間に、藍染がアイツ(三月)の胸からキラキラと光る何かを抉り出した。

 

 その神々しい光に目を奪われそうになりながらも、後ろ向きに倒れるアイツ(三月)を受け止めて最初に思ったことは『大丈夫か?』とか、『早く治療を!』とかじゃなかった。

 

『軽い』。

 

 その一言だった。

 

 アイツ(三月)を目で直に見て俺の腕の中にいることは頭ではわかっているのに、存在感を忘れさせるような、異様な『軽さ』に俺は驚愕して言葉を失ったままただ茫然と見ることしか出来なかった。

 

「やっと、ここまで来たか」

 

「?!」

「馬鹿な、()()やて?!」

「ッ! 藍染!」

 

 藍染の声で我に返ったように浦原さんや、平子などが叫ぶが……藍染の関心は手の中で輝く『何か』にだけ向けられていた。

 

 というかちょっと待て。

 

 ()()……だと?

 

 それが何故、三月の中から?

 

「『崩玉』……君たちにはこれが『崩玉』に見えるのか」

 

「ッ! マズイ! 誰か奴を押さえロ!」

 

 

 

 さっきから考え込んでいたマユリが叫ぶと、地震のような揺れがその場にいた皆をフラつかせた。

 

「バカな?! 霊王宮に自信じゃと?!」

 

 珍しく慌てる夜一さんの声にもびっくりしたが、藍染の言葉にもっとびっくりした。

 

「あぁ、やっとだ。 『黒崎一勇(くろさきかずい)』を待たずに、()()が降臨する……フ、フフフフフフフフフフフフ」

 

 クツクツと笑い、足場がしっかりしていそうな藍染がやっと慌てるこちらを見て、これ見よがしに手の中で光るものを見せる。

 

「これは『崩玉』などという陳腐(ちんぷ)なモノなどではない。 ()()と呼ばれる、『()()()()()()』。 または『どんな願いを叶える大釜』」

 

「藍染! 貴様の目的はそれを使って霊王にとって代わる、『神』になることなのか?!」

 

 両目を開いた山本元柳斎の叫びに、藍染は鼻で笑うかのような、哀れに満ちた目を返す。

 

「『神になる』? そんな恐れ多いことはしないさ。 私は誰にも望まれなかった者の送還を祝おうとしているだけだ」

 

 藍染が手の中で光りだすモノを天井へと掲げると、宙が歪んで黒い穴が出来上がる。

 

 その穴から出てきたのは────

 

「────おはようございます、()()。 予定よりお早い目覚め加減はどうでしょうか?」

 

「悪くはないわね、()()()()()♪」

 

 出てきたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

*1
133話より

*2
5話より

*3
5話より

*4
8話より

*5
14話より

*6
114話より

*7
3話より




聖杯:

キリスト教における神の血を受けた杯。 
または最高位の聖遺物と称されるもの。

その起源は多くの神話などで「願いを叶える物」の中の代表的オブジェといわれている一つ。

そしてとある世界線などではあらゆる魔術の根底にあるとされる『魔法の釜』とも。



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第139話 コワレテユクSEKAI

大変お待たせ致しました!

アンケートへの投票、誠にありがとうございます! 過去の投票可能なアンケートにはいまだに目を通しています!

新しく入った上司のせいでなかなか時間がこっちに振ることが出来なくて短いですが次話の投稿です!

と言うか『休んだ分の仕事の量増加』って……

あと、予告どおりの急展開ですが楽しんでいただければ幸いで────あ゛?! ちょ! 待っ?!
………………………………………………………………………………

???:さて。 今世風にいうと、『ここから私たちのターン』……というのだったね?


 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

「ガフッ! ま、さか……」

 

 腕の中で吐血しながらも何かを言う馴染み(三月)

 

 どう言葉に説明したらいいのか分からないから、ありままの状況を思うぞ。

 

『マイさんに似た女性が出てきた黒い穴は、一瞬閉じるかと思いきやそのまま宙の歪みとして在った』。

 

 そして黒い穴からは()()()()()()()()

 

 はたから見ればこんな状況に何らかの感情が浮かぶ筈なのに、そんな考えすら無意識的に脳が拒否反応を起こす前に麻痺しているかのような状態だった。

 

 一言であえて表すと『虚無感』。

 

「なんだよ……これ?」

 

 今までどんなことが目の前に起きたとしても、感じたことなかった感覚に思わずそんな言葉が俺の口から漏れていた。

 

 ガキの頃、初めて(化け物)と出会った日でも。

 ルキア(死神)が部屋の壁を通り抜けて夜中の中に現れても。

 初めて胸を斬魄刀で貫かれて、訳のわからない力に驚きながらも。

 子供のころから付き合いのある二人が普通の人間じゃないってわかった時でも。

 

 初めての尸魂界。

 初めての瀞霊廷。

 初めての殺し合い(更木との試合)

『斬月』のおっさん。

 破面(アランカル)

仮面の軍勢(ヴァイザード)』。

 グリムジョーや()()()()たち。 ←*注*ドルドーニ

 

 月島、銀城、ウルキオラ・シファーや市丸。

 

 崩玉を入れた藍染。

 

 過去に今まで出会った強敵や、頭に残った者たちと初めて面と向かって対峙した記憶を探っても……

 

『頭では危険性を理解していても、本能が反応しない』というのは、初めてだった。

 

 ……『放心』。

 

 ふと、そんな単語が俺の脳裏を過ぎると『ああ、それならわかる』と俺はどこか納得していた。

 

「ん?」

 

『マイさんに似た女性』が面白おかしい顔で俺を見────

 

「────……ぁ……」

 

 俺を見て目が合った瞬間、ドス黒い何かが目を通して俺の体は冷たい何かを感じ、背中の上に重い何かが伸し掛かった感覚で言葉が上手く出なくなった。

 

「あらあらぁ。 ()()私でそこまで怖がられるなんて……ゾクゾクしちゃうわぁ♪」

 

『マイさんに似た女性』が妖艶な笑みを浮かべて舌なめずりをする。

 

 前言撤回。

 マイさんに姿は似ていても、その動作一つ一つが記憶にある彼女(マイ)とは程遠かった。

 

「もうよろしいでしょうか?」

 

「ああ、そうね。 お願いしようかしら♡」

 

 急に藍染が声を出したと思えば、彼はどこからか一振りの斬魄刀を手にしていた。

 

「ッ! 『鏡花水月』────!」

 

 そう俺が警戒した瞬間、藍染めの顔に浮かんでいた

 

「砕け散り、無の狭間、(ざい)(かん)、過ぎ去りし(とき)刹那(せつな)を舞い戻せ。 ()()、『鏡花水月・朝真暮偽(ちょうしんぼぎ)』」

 

 パリィィィィン

 

 ヴ……ヴヴ……ヴヴヴヴヴヴヴ────

 ────キィィィン。

 

 藍染の斬魄刀が砕けたと思えば、まるで空気自体が小刻みに震えるような音が次第に大きくなっていき、急に金属音の耳鳴りへと音は変わった。

 

「……ッはぁぁぁぁぁ。 相変わらずね、霊王宮は」

 

「ぁ……」

「う……ぁぁぁ……」

 

 後ろからうめき声が聞こえると思い、振り向こうとするといつの間にか俺は膝をついていたことに気付くと同時に、後ろにいた皆の様子も見えた。

 

「なんやねんこれ?! 藍染のアホの卍解と一緒に()()()()()誰やねん……ワレぇ?!

 

 

 隊長たちは一護と同じように膝をついていたのか、なんとか立とうと必死に腕を地面につけたり、斬魄刀の鞘を杖代わりにしていた中の一人である平子が怒鳴っていた。

 

 

「ん? ああ、そうか。 ()()()────ッ」

 

 彼女の注意が怒鳴った平子から上に移すと、さっきまで黙り込むことでノーマークになっていたローズと拳西、そして意外なことに白哉までもが瞬歩で急接近し、奇襲をかけていた。

 

 ローズは鞭状の『金沙羅(きんしゃら)』。

 拳西は卍解のメリケンサック……と呼ぶよりは上半身を守る鎧と同化したようなガントレットの『鐵拳断風(てっけんたちかぜ)』。

 白哉は()()()()()()()()()()()()()()を手にしていた。

 

「レディに手を上げるのは不本意だけど────!」

「ワケのわからねぇお前は取り敢えずぶっ潰す────!」

「『終景(しゅうけい)白帝剣(はくていけん)』────!」

 

 ────フッ。

 

「「「……?」」」

 

 それぞれ三人の、瞬時に出せる攻撃が彼女の周りを独りでに避けるかのように軌道が変わったことに、使用者たちだけでなく、一護たちもポカンとしたような空気を出す。

 

「……そう。 そっちが『そういうこと』なら()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ズッ。

 

 成人女性が言葉を言い終わると、突然何かが無理やり唸るようなお腹にくる音と宙の歪みと共に大きな穴が一護たちの背後に表れる。

 

「うおおおおおおお?!」

「なんなのだこれは?!」

「小型ブラックホールとでも呼びましょうか?!」

「チィ!」

 

 浦原が咄嗟に叫んで『小型ブラックホール』と呼んだのはあながち間違いではないと思わせるほどの吸引力で一番近くにいた隊長たちを次々と引き込んでいく。

 

 「ぬぅん!」

 

 ザクッ!

 

 「皆の者! つかまれぇぇぇい!」

 

 刀を思いっきり地面に突き刺し、引きずり込まれることに抵抗をする山本元柳斎に次々と隊長たちが手を取り合い、人間(死神)ロープ的なものが出来上がっていた。

 

 一護も最初は刀を地面に突き刺そうとしたが、腕の中で生気がどんどんと無くなっていく三月のことに腕の一つを使うことを余儀なくされていたがもう片手で山本元柳斎たちの────

 

「────ってチエ?!」

 

 彼の目の前を通ったのはさっきから唖然としていた様子のチエ。

 

 特に抵抗も何のアクションも見せずにただその場の流れに流されていた様子の彼女。

 

「黒崎一護?!」

 

 気が付けば、一護は空いていた手でチエを掴んだと思えば穴の中へと一緒に引きずり込まれていき、意識が一気に遠のく感覚に襲われた。

 

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷組 視点

 ___________

 

 瀞霊廷では、侵入した滅却師たちの残党狩りに一段落つくところだった。

 

 死神側に対し、個人個人の戦闘力が侮れない滅却師でも統制が取れない上に地の利、そして最後に数の暴力という要素の前では次々と敗れていった。

 

 無論、犠牲がないわけではないがそれでも『原作』での滅却師たちが襲撃した際の被害に比べれば微々たるものである。

 

「ふぅ~……なんとかなりそうだな」

「おう。 急に遮魂膜(しゃこんまく)内部にこいつらが現れた時は肝を冷……や…………し………………」

 

『護廷十三隊最強』と自称している十一番隊の何人かが指定された戦闘地区に確認を終えたのか、一人が斬魄刀を肩に乗せながら空を見上げると目を見開いた。

 

「あ? おいどうした? ……は?」

 

 近くに寄ってきていた一角がこのことに気付き、彼も上を見上げると同じようにポカンとした。

 

 十二番隊、別名『技術局』では天手古舞状態だった。

 

「どうなってるんだこりゃあ?!」

 

 額に角が生えている男性が、そう思わず叫ぶ。

 彼は十二番隊三席、現技術開発局副局長の『阿近(あこん)』。

 長年技術局に身を寄せた彼でも驚愕するようなことが、今起きていた。

 

阿近(あこん)! 隊長たちとの連絡がつかん! それにどの計器もイカレテいやがる!」

 

「報告、きます! 上空から瀞霊壁がこれまでとは段違いの速度で降下してきています!」

 

 「ハァァァ?!」

 

 次に叫んだのは『技術開発局通信技術研究科霊波計測研究所研究科長』という大層な肩書を持つ、フグのような男の『鵯州(ひよす)』。

 

「追加報告! 瀞霊廷内部にいる死神たちから、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』とのことです!」

 

「新たに報告! 観測部からくる伝令によると、『()()()()()()()()()()()()()()()()()』とのことです!」

 

 阿近(あこん)がこれを聞くと、昔書物で読んだ記録での『とある現象』を思い出して冷や汗が出る。

 

「まさか……『叫谷(きょうごく)』か?! だがこんなに早く、かつ観測もされていないとはありえない!」

 

 つい先ほどの静けさが嘘だったかのように、今度は地震のような地鳴りが瀞霊廷と流魂街を襲う。

 

「隊士、および鬼道と隠密の者たち全員に────!!!」

 

「────しょ、衝突します! うわぁぁぁぁぁ?!」

 

 技術局の誰かが恐怖の入り混じった声で上記を叫び終えるとほぼ同時に、今までで一番酷い揺れで誰もが足場を失い、くじ引きの箱の中にあるビー玉のように跳ねた。

 

 ズズズズズズズズゥゥゥゥゥン

 

 巨大な()()がちょうど瀞霊廷と流魂街があった場所から宙を舞う。

 

 

 ___________

 

 現世組 視点

 ___________

 

 上記と同時刻の現世では破面モドキたちが元星十字騎士団たちに狩られていたらしく、徐々に急に霊力を持ち始めて家族や知人たちと避難させられていた者たちが聖兵(ゾルダート)の護衛をつけて各々の住宅へと戻っていく景色が見えていた。

 

「いや~、姫が私たちの面倒を見るとは吉報だったわ~!」

 

「千鶴と同感なのは癪だけどね」

 

「ハハハ! やっぱり退屈しないな! ね、アネットさん?」

 

 その一組は織姫とアネットを『護衛』として夜の空座町を歩く千鶴、鈴、そして水色もいた。

 

 もともと空座町に住んでいる千鶴と鈴はともかく、なぜ水色も滞在中の鳴木市ではなく空座町にいたかと一言で片づけると『女がらみ』である。

 

 つまりは『察してほしい案件』。

 

 それを知っているのか、彼を見るアネットはジト目となっていた。

 

「面倒ごとは御免です」

 

『きゃあああああ!』

『う、うわぁぁぁ?!』

 

 そんな五人が歩いていると、急に叫び声が聞こえてくる。

 

「な、なに今の?!」

 

 千鶴は以前の藍染とばったり出会った時を思い出したのか近くの織姫に抱き着く。

 

「悲鳴、だよね?」

 

 そしていつもは困る織姫もその場を満たす緊張感に当てられたのか、千鶴の行動を気にした様子もなくすぐに『盾舜六花』を展開できるように媒体のヘアピンに手をかざした。

 

 ズ……ズ……ズ……

 

 前の周り角から、何かを引きずるような生々しい音ともに何かが近づいてきたことに織姫たちは黙った。

 

「……………………え?」

 

 曲がってきたのは服装のスーツが血肉の張り付いたボロボロになった男性だった。

 乱れた髪の毛に目は虚ろで焦点が合わず、ショックを受けている様子の彼は足を引きずりながら織姫達に助けを求めるかのように両手を伸ばしていた。

 

「あ……あ゛あああ゛……」

 

「だ、大丈夫ですか?!」

 

 折飛燕は彼を見ては飛び出そうなのを、アネットが彼女の肩をつかんで無理やり動きを止めた。

 

「え? あ、アネットさん? な────」

「────井上さん(マスター)、何かがおかしい。 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「……へ?」

 

「うわ?!」

 

 今度は水色が珍しくびっくりするような声を上げたのは横道からずるずると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()女性が、地面を腕で這いずる姿。

 

「うーん……これってもしかして『アレ』かなぁ?」

 

 次第に近づいてくる男性と女性に加え、さらに何かを引きずる音が増えていったことに千鶴とあの鈴でさえもが顔を青ざめた。

 

 恐らくは水色の言葉と、目の前で起きていることで彼女たちも予想していたのだろう。

 

「あ、あ、あ、『アレ』って?」

 

 それでも確認したかったのか、認識したくなかったのか、千鶴は水色の考えた予想が何なのか問う。

 

「『アレ』だよ、『アレ』。 『リビングデッド』さ。 だってほら? あの男性の首根っこ、()()()()()()()()()()()()()?」

 

 水色の指摘に織姫たちが見ると、彼の言った通り先ほどの男性は重傷を首に負っていた。

 

 皮膚どころか、背骨が露出したその()()の肉が無理やりえぐり取られたような傷からは乾いた血がサバゲーのペイント弾のようにびっしりとワイシャツと上着に密着していた。

 

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「諸君、夜が来た。 

宴の開幕はついに今宵、この時より開かれ、この世に蔓延(はびこ)る弱者たちは強者の糧と成り果てる。

殺戮と暴力の応酬、生殺与奪は掴み取る意志と力さえあれば誰にでもその権利が与えられよう。

()()()()()()()()()()夜へようこそ。」

 




朝真暮偽:
『ちょうしんぼぎ』。 真実と虚偽が入れ替わるという意味。
あるいは物事の真偽の判断が難しいことの喩え。


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第140話 The Bunny

お待たせしました、仕事の合間に書いたので短いですが次話です。

お気に入り登録、誠にありがとうございます。 すごく励みになります!

楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 現世 視点

 ___________

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 姉のみづ()頼み(命令)で、彼は夜食を近くのコンビニで買ったお菓子の入ったバッグが壊れても構わないぐらい両腕を激しく振っていた。

 

 これは彼がより速く走れる為である。

 

「なんだよなんだよ、なんなんだよぉぉぉ?!」

 

 浅野啓吾は全力で夜道を全力疾走していた。

 彼の人生で二度目のこと。

 一度目はもちろん少し前に藍染から逃げていた時で、『浅野を囮に使った水色絡み案件をカウントしない』と状況を限定すればだが。

 

「前の怪獣とかと全然違うじゃんかぁぁぁ?!」

 

 彼が涙目で見たのはオフィスビル内からガラス張りのフロアやドアを叩く清掃員や、ブラック業務で寝泊まりをしていたような会社員の人影。

 

 一瞬パッと見ただけではまるで外に助けを求めるような行動に見えるが、注意すると動きは鈍い上に、その誰もが何かしら大きなケガを負っていた。

 瀕死の傷を負いながらも生者を求める『何か』が出現した現象は空座町だけではなく、隣の鳴木市でもこの異常事態は発生していたらしく、とてもではないが正気の者ならケガの規模やそれらに伴う痛覚で立つことは本来不可能なほど。

 

「何ゲーだよこれ?! それにやるなら山の中の洋館かアメリカの都市と相場は決まっているだろうがぁぁぁ?!」

 

 浅野は角を曲がりそうなところを、今度は明らか異形の化け物()たちが激しく揺れる()()()()()()()らしき物を互いに取り合いながら生々しい食音を発していた

 

 そのそばではさっき見た清掃員や会社員のように生気が抜けた男性の肉体が異音を口から出しながら、浅野の方向へとおぼつかない足取りで近づいていたのを見て彼は回れ右をするかのように方向を反転して走る。

 

「そもそもこちとら今まで幽霊関連なんだよ! 信じたか無いけどな! 『動き回る死人』なんて、ジャンルが違い過ぎるだろがぁぁぁ?!

 

 藍染のこともあり、前から見えていた虚や死神たちが特撮などの類ではないことを理解しながら未だに否定的な浅野は何とか自分と姉が住んでいるアパート近くまで戻っていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……も、もうちょいで着く……」

 

 ヴゥゥゥゥゥ。 ヴゥゥゥゥゥ。

 

 見覚えのあるビルの近くまで来た彼は息切れを改善すべく、大きく息をして出来るだけ新鮮な空気を肺へと取り込もうしたところで、ポケットの中に入れていた携帯が鳴っていたのを反射的に着信の相手先を確認した。

 

『姉ちゃん』。

 

「ッ?! も、もしもし姉ちゃんか?! いま俺、アパートの近くまで────!」

 

啓吾(けいご)、早くアパートから離れな! そこは危険地帯だ!』

 

「へ?」

 

 ドォン!

 

 浅野が珍しく自分を名前で呼んだ姉の事で呆気にとられている間、彼の目前にアパートの屋上から虚が数体彼にいる場所に飛び降りていた。

 

「あ……」

 

『ちょっと啓吾?! 返事をしなさい! 啓吾?!

 

「(や、やべぇ……これ……俺、やべぇよ)」

 

 カチャン!

 

 この拍子で彼はガミガミと(これまた珍しく)心配している様子の姉の声が出てきている携帯から虚へと注意が移り、次第に今彼は自分の状況に頭が追いついたのか、彼の震える手から携帯が地面へと零れ落ち、それが引き金だったように一体の虚の拳が浅野に直撃する。

 

 ドッ!

 

「(あ、やべ。 意識が────)────え?」

 

 浅野は顔面を殴られ、頭の揺さぶりから意識を手放した。

 

 そう思った彼が次に()()()()()()()()()()()()()のは、吹き飛ばされる自分の体だった。

 

「へ?! ちょ、なにこれ?! ()()()()?! なんだよこの鎖?!」

 

 浅野は自分が地面から浮きそうなほどの身軽さと、己の胸から地面に転んでいった体へと延びていた鎖に混乱していた。

 

「どわぁぁぁぁぁ?!」

 

 さらに浅野の遠ざかる体に繋がっていた鎖に強引引っ張られる感覚とともに彼自身が前のめりに倒れると虚たちは彼の体に飛びつき、一体は浅野と浅野の体から伸びた鎖に噛みつく。

 

 ガシィン!

 

「ぐわぁ?! (いて)ぇぇぇぇ?! (いて)ぇよぉぉぉぉぉ?!」

 

 浅野は噛まれたのが自分や自分の体ではなく、繋がっていた鎖だった筈なのにまるでそれが体の一部かのように、胸が引き裂かれる痛みに苦しんだ。

 

 ドッ!

 

 「どこぞのライダーやないけど上空からのキィィィック!」

 

 次に浅野が見たのはかつて見たウサギ柄のなにか(パンツ)だった*1

 

 「またウサギ柄ぁぁぁぁ?!」

 

 「だから何で人様のパンツに注目しとんねんワレェェェェ?!

 

「おわぁぁぁぁ?!」

 

 上から虚を蹴った少女はそのまま浅野の胸ぐらを掴んでは浅野の気を失った体へと野球のピッチャーよろしく放り投げると、彼は吸い込まれるようにスッポリと体の中へと戻った。

 

「い、生きてる?! 俺、生きている?!」

 

「オラァァァァ! 死ねやクソ虚ォォォ!!!」

 

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!《i》

 

 自分の身を確かめる浅野を他所に、本能でその場から離れようとした虚たちをひよ里の『馘大蛇(くびきりおろち)』が無慈悲に切り裂いていく。

 

「ナイスタイミングや、ひよ里()()!」

 

「アホォ! まだ『さん付け』引きずるんかいこのハゲ?! というかお前なに勝手に関西弁喋っとんねん?! 当てつけかこのハゲ?!」

 

 「ハゲてへんわ、このクソガキ!」

 

「『猿柿(さるがき)』や! ……ってガキ呼ぶな、クソチビ!」

 

 未だに『さん付け』と言う、ある一種の黒歴史を掘り起こされてキレたひよ里は(ほぼ)初対面である三月に似た少女を怒鳴ると、今度はひよ里が逆切れされた。

 

 《i》ガシ!

 

「もいっぺん言ってみ! 東京湾に沈めたるわこのガキ!」

 

「なんぼでも言ってやるわこのチビ!」

 

 ゴリッ!

 

「コントはそこまでにしとけ、お前ら」

 

 互いの胸ぐらを掴んでがんを飛ばしながら顔を寄せるといった、最悪の一触即発の空気にヒートアップした関西人二人の頭がラブによって無理やりぶつけられた際に骨と骨が衝突する音が鳴る。

 

「「……」」

 

「だ、だ、大丈夫か?」

 

 ひよ里たちは頭を痛みに悶えながらも抱え、さすがの浅野も連続で起きる展開に精神的に一周回って冷静になったのか心配する言葉を送った。

 

「おう、そこのお前。 この二人に付いていけ」

 

「「ハァァァ?!」」

 

「俺は取り敢えずできるだけ数を減らしてから機を見て、こいつらから離れる」

 

 ラブの言ったことに異を唱え始めた二人の前に、ラブは『天狗丸(てんぐまる))』を肩に掲げながらドンドンと増えていく虚を顎で指す。

 

「……五分で()ぇへんかったら虚閃、打つで?」

 

「おう。 援護助かるぜ、ひよ里」

 

「って誰がハゲ(お前)の心配してる言うた?!」

 

「「「言ってねぇし」」」

 

「うっさいわ!」

 

 渋々とひよ里たちがその場を離れると、ラブは虚化をして目の前の虚たちに『天狗丸(てんぐまる)』を両手で握り、仮面の下で大きな笑みを浮かべた。

 

「さて、と……汚物は消毒だゴラァァァァァ!!!

 

 まるで何かを成し遂げたような、清々しいまでの叫びとともに彼は棍棒をふるう。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ちょちょちょちょっと! いくら何でもこの運ばれ方、恥ずかしいって!」

 

「じゃあ落とす」

 

「ウチに異議なし」

 

異議ありぃぃぃぃぃぃ!!! 落とさないでくださいぃぃぃぃぃぃ!」

 

 浅野は自分より小柄な女性の肩に担がれていたことに男性としての威勢で上記を口にしたが、帰ってきた即答にその威勢を出した時よりも素早く引っ込めた。

 

「(どう考えてもこいつ、怪しさ満点やわ)」

 

 ひよ里は命乞い(?)をする浅野をさらにいじる隣の八重歯が目立つ、三月に似たツキミを見てそう思った。

 

 鳴木市は空座町のように滅却師などいなかった為か、担当地区の死神たちだけでは虚や魂魄を亡くした肉体たちが蘇り生者を襲っていたところを、現世にとどまったひよ里、ラブ、ハッチが急遽対応に出ていた。

 

 というのもひよ里はどちらかというと非協力的で主にラブとハッチが行動していたが、とある人物が急に表れたところで状況は少し変わった。

 

「あ! ええ所におった!」

 

 そのとある人物はツキミで、彼女は空座町から鳴木市周辺に居るはずの『仮面の軍勢』のもとへ行くよう、マイに頼まれていた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 なぜ藍染封印後、撤去したはずのツキミがまたここにいるか説明するには少し時間を巻き戻し、空座町へと場を変えよう。

 

「せい!」

 

 ゴッ!

 

「え~い!」

 

 ドゴォン!

 

 鉄裁は虚を拳で殴り、前より幾分か顔色が良くなったマイは以前にドルドーニを助けるために虚圏で披露したガンランスで虚を吹き飛ばす。

 

「……ぅクッ?!」

 

 ガァン!

 

「マイ殿?!」

 

 時はちょうど霊王宮にて藍染が『聖杯』と呼んだものを三月から抜き取った直後に現世にいたマイは急に手に持っていたガンランスを落とし、胸を両手で掴んだことに彼が彼女の名を呼んだ。

 

 マイは破面モドキが出現したことに最初は病院を抜け出そうにも、竜弦が退院を承諾しなかったことに彼女は無理やり(物理的)に我儘を通し、マイが病衣から私服に着替えて周りに人の目がないことを確認してから事前の『万が一』を発動させていた*2

 

()()()()!」

 

 マイがそう叫び、地面に魔法陣らしきものが浮かんで光の因子と共にツキミが姿を現した。

 

「……んあ? なんやこれ?」

 

「ツキミ、時間がないから移動しながら話をするわ。 『()()()()』よ」

 

 何時もののほほんとしたマイの表情が真剣だったことにツキミはただ頷き、二人は浦原商店へと向かい、そこにいた鉄裁、ウルル、ジン太たちと合流した。

 

「マイ殿?!」

「マイさん!」

「マーの姉貴!」

 

「皆、大丈夫?! こっちは()のツキミよ!」

 

「よろしくな?」

 

「すぐに移動する準備をして、出来るだけ運べるものを運ぶ用意をして!」

 

 三人は久しぶりにマイを見たことに喜んだのも束の間、軽い紹介をしてからマイの言葉で浦原商店に設置してある結界や罠を作動してからウルルとジン太がお店の者を軽トラックに載せ始めた後にマイ、鉄裁、ツキミは空座町の虚と出来るだけの生者を滅却師たちと連携してなるべく空座総合病院、空座高校、たつきや一護が通っていた空手道場のある風臨会館(ふうりんかいかん)、そして馬芝(ましば)中学校などと言った避難場所へと誘導をしていた。

 

 そこで異変は空座町だけでなく、隣の鳴木市でも起きていたことが瀞霊廷に連絡を取ろうとしていた死神たちの通信を浦原商店にいたウルルたちが傍受したことで、先に鳴木市へ身軽のツキミが移動してどこかにいる『仮面の軍勢』の残りを探し出すことになった。

 

 それが簡単に現世での一連の流れをまとめたのが以上の事だったが……

 

 彼ら彼女らはまだ知らない。

 

 この惨状が空座町や鳴木市にだけ留まっておらず、日本中……否。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()、これらが起きていたことに。

*1
97話より

*2
117話より




少し逸れますが、この頃あまりにも投稿する文章量が短いことに申し訳ない気持ちがあるので上手く書き上げることが出来た&可能であれば土曜日辺りにも投稿を目指します。

ですが確実にできるかどうかは保証できかねませんので、出来ない場合は月曜日のストックに足しますのでご了承くださいますようお願い申し上げます。


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第141話 The Bygone Days(Years)

作者:土曜日に投稿したつもりが、日曜日になっていた……だと? (ゴクリ。) こ、これが『鏡花水月』……

藍染:単に君が『すまほ』とやらで投稿の設定を間違えて今更変えるのが恥ずかしかっただけのことだろう?

作者:グハァ?! ←図星の指摘に心のHPが0になった

藍染:なお、『楽しんで頂けると幸いです』とのことだ。 少々短いがね


 ___________

 

 ■崎一□ 視点

 ___________

 

 暗かった。 

 周りは見渡す限りの闇。

 何も見えない。

 

『暗い』。

 

 そう思わず口にした。

 

 ……いや、したのか?

 わからない。

 まるで声が出ていないかのように、何も聞こえなかった。

 

 耳をすませば、何も聞こえない。

 

 上も下も、右も左も、自分の手足でさえも見えないどころか体の感覚が無くて、まるで『おれ』しか存在しないような……

 

 ……あれ?

 

『おれ』って…………?

 

 いやいやいや。 そもそもこんな考え方が変だろうが?

 

15(イチゴ)』だろうが。

 

 って語呂合わせやめろやコラァ?!

 

 てかなんだよ、これ?

 

 ()

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 チュン。 チュチュン。

 

 気が付いたら小鳥のさえずりと、カーテン越しに入ってくる朝日、そして────

 

「────見たことのない天井だ」

 

 そう言うと何気に『少し違った』という気持ちがこみ上げ、自分の手を伸ばす。

 

「ん? (なんか違和感あるな)」

 

 ガチャ。

 

「あ。 黒崎君、起きた?」

 

 ドアが開く音の方向に目を移すとどこか井上に似た、エプロン姿の女性が────

 

 「────って誰だよ?!」

 

 いや、それ以外に俺に何を言えと?

 

 見た目は井上なんだがむn────体はもう美少女というよりは美人でさっきまで俺は確か霊王宮に居てどういうことやねん。

 

「ええっと? 黒崎君、もしかして寝ぼけている?」

 

 ピト。

 

「それとも熱かなぁ~?」

 

ふぉおおおおおお?! (近い近い近い近い近い近い近い!)」

 

 井上に似たネエチャンは躊躇もなくズカズカと近づいたと思ったら今度はおでこ同士をくっつけてくる。

 

「てかそのしゃべり方、やっぱ()()だろ?!」

 

「へ? 『井上』って()()? ……やっぱり寝ぼけている? ()()()()()()に『織姫』って呼んでもいいよ? 」

 

「はぇ?」

 

 第三者からすれば俺の顔はどういう風に映っていただろう?

 

 そんな俺を余所に井上(?)がブツブツと独り言を言う。

 

「昔みたいに、眉にシワを寄せている顔しているし…………もしかして昔の夢でも見ていたのかな? なら今日は『()()織姫』じゃなくて『井上織姫』────」

 

 ────ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 ガシッ。

 

 「ひゃい?!」

 

 何か今すごいことを今聞いたような気がして、息を荒くしながらガッシリと井上っぽいネエチャンの肩を掴んだ。

 

 ……もうこの際、『井上』でいいか。

 

 というか何気に顔が赤くなっていっているぞ?

 

 目も泳いでいるし。

 

「ぁ……えっと……黒、崎くん? わ、私的には別に『()()()はいつでもオーケー』なんだけど朝ごはん用意したばかりだから一勇(かずい)も待たしているっていうか今リビングで私たちのことを待っているから()()()()()は二人きりのほうがいいと思うというかせめて椿君たちと一勇(かずい)がいないところで────」

 

「────ほぁ?」

 

 どういうこっちゃ?

 

(かあ)ちゃーん! (とう)ちゃん、まだー?』

 

「ハッ?! さ、さ、さ、先に食べてて一勇(かずい)! お母さんたちもすぐそっちに行くからー!」

 

 部屋の外から子供の声がして、早口になっていた茹でタコ井上がハッとして返事をする。

 

 

 その間、一護はさっきから織姫の言った言葉の一つ一つを思い返す。

 

 

「(『黒崎織姫』……『二人目』……『一勇(かずい)』に『お母さんたち』???)」

 

 もうここまでくればキャパオーバー気味の一護を見た織姫が何かを思ったのか、手をポンと掌に打つ。

 

「あ。 もしかして黒崎君、昔の夢でも見ていた?」

 

「あ……えっと」

 

 一護はさらに眉間にシワを寄せて深く考え込んで目を覚ます前のことを思い出そうとする。

 

 が、靄がかかったようにうまく思い出せなかった。

 

「確か………………………………霊王宮? って言う……」

 

 最後に何とか頭を捻って、引っかかっていた単語を一護が口にすると、織姫が納得したような顔をする。

 

「ああ、あれから丁度()()だもんね?」

 

 「────は? 『十年』?」

 

『十年』と一護は目を見開きながら聞き返す。

 

「う~ん……あれは確かに私からでも見て、黒崎君の中でも大活躍だったからねぇ~……」

 

「……(ダメだ。 頭がこんがらってきた)」

 

『母ちゃ~ん! 父ちゃ~ん! まだー?』

 

「あ! ごめんね一勇~!」

 

「(取り敢えず、起きるか。) すまねぇ井う────お、お、お、お、()()。 先に行っててくれ、すぐ行く」

 

「ぁ……うん!」

 

 成長した織姫は一瞬呆気に取られた顔を浮かべるがすぐにニッコリと笑い、一護のいた部屋を後にする。

 

 そこから一護は洗面所へと入って鏡を見ると更に驚愕した。

 

「……これが……『俺』?」

 

 鏡の中で、驚愕の顔を浮かべながら自分を見返していたのは自分と同じ動作をすることで『自分』だと一護は理解していた。

 

 だが『信じる』ことは出来なかった。

 

 そこには少年や青年の面影はなく、どこからどう見てもれっきとした『大人』だった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「もう。 一勇ったらそんなに頬張って! ご飯は逃げないよ?」

 

「だってお腹空いてたんだもん!」

 

 放心気味になっていた一護が見慣れないアパートの中をおっかなびっくりにウロウロしているとリビングにはさっき見た織姫が、一人の子供の口をナプキンで吹いていた場面に居合わせた。

 

「………………………………」

 

 子供を見た一護はヒュッと素早く息を飲み込んで呆然とした。

 

「あ! 寝坊助の父ちゃんだ!」

 

 子供が一護に向けた笑顔は彼自身よく知っているものだった。

 何せ幾度となく、一護自身が子供の頃によく浮かべていた無邪気なものだったからだ。

 

 ただしオレンジ色の髪の毛や表情は一護似で、顔つきはどちらかというと織姫寄りである。

 

「ほらほら、そこに立っていないで早く朝ごはんを食べよう?」

 

「………………………………」

 

 一護は織姫になさがれるままテーブルの席について、機械的に朝食を食べる。

 

 織姫と『一勇』と呼ばれた少年がこの一護の様子に何か思っていたのか、会話を弾ませようと試みる。

 

「………………………………」

 

 だが一護は心ここにあらずといった状態のまま生返事や、相槌を打つだけだった。

 

「なぁ、母ちゃん……やっぱお墓参りに行くの? 今年の父ちゃん、いつもより辛そう」

 

「うん…………夏梨ちゃんや遊子ちゃんたち、他の皆と約束しているからね?」

 

 織姫がチラッと見たのは壁に掛けてあったカレンダーに赤い丸が書かれたその日の日付。

 

 

『6月17日』。

 

 

2()0()1()3()()』だった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 夢を見ているような感覚のまま、一護は織姫と一勇の後を歩く。

 

「あ! かずくーん!」

 

「遊子お姉ちゃん、くすぐったいって!」

 

 茶髪のショートヘアに、イチゴのヘアピンとして成長したと思われる遊子が一勇に抱き着いて一勇は迷惑と嬉しさ半々の反応をする。

 

「おーっす織姫。 いや、『黒崎夫人』って呼んだほうがいいか?」

 

「も~~~~~う! 夏梨ちゃんったら上手いんだから~~~~~~!」

 

 黒髪のアップヘアで現在の織姫にも負けないけしからん胸ナイスバディに成長した夏梨の言葉に織姫はまんざらでもないのか、両手を赤くなった頬に添えながらくねくねと嬉しそうに体を揺らした。

 

「あ、お義父さんは?」

 

「親父なら『石田の馬鹿に呼ばれて今日は遅れるから先に行ってろ』って」

 

「あ。 そっか。 あれでも医者だもんね!」

 

「一応免許上、な」

 

「……………………」

 

「んあ? どした一兄? 昔みたいにシワ寄せて?」

 

「いや……………………夏梨、だよな?」

 

 夏梨は一護の視線先を辿ると自分の胸部に向けられていたことに気付き、両腕で隠そうとする。

 

 「ちょっと?! どこ見てんだよ一兄のスケベ!」

 

 だが余りのサイズに胸部はカリンの腕の間から漏れ出す。

 

「お、おぉぉぉぉ────?」

 

 ギュウウゥゥゥゥゥゥ!

 

「────い゛?!

 

なに見ているの黒崎君?

 

 いつの間にか一護の背後で顔だけ笑っていた織姫が彼の背中を目一杯力の限りにつねていた。

 

「い、いや……遊子たちが大きくなっていたからさ、つい」

 

 織姫のアイアクローから解放された背中を一護はさすりながら全く他意のない返事をする。

 

 なにが大きくなっていたのかな?

 

 一護にさらなる圧力がかかり、織姫の周りを不穏な黒いオーラがにじみ出た。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「………………………………………………………………………………………………」

 

 さっきまで騒がしかったのが嘘のように、辺り一面が夏独自のセミの鳴る音以外は静かだった。

 

 一護は立ち呆けていた。

 

 彼の隣や後ろには静かに手を合わせていた遊子、夏梨、織姫に一勇たち。

 

 前から来るのは線香が出す独自の匂い。

 

 彼らがいたのはある墓石の前。

 

『黒崎家之墓』。

 

 これを見た一護はさっきから混乱していた。

 いや、考えないようにしていた。

 

『誰のお墓参りだ?』、と。

 

「一護」

 

 そこに汗を流しながらさらに現れたのは一護の父、一心だった。

 

「お、やじ……」

 

 カラカラになりつつあるのどからようやく声を絞り出した一護の肩に手をのせて、意味ありげな笑みを浮かべた一心が次に言ったことに、一護はようやく理解してしまう。

 

 誰の墓だったのかを。

 

「俺を待っていたのかこの野郎。 ほら、()()()もきっと一護の言葉を────」

 

 そこからの言葉は一護の頭に入らなかった。

 

 かわりに『キィーン』と、耳鳴りに似た音が彼の耳に残りすべての音を強引にかき消し、彼の意識はそこで真っ暗になった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「………………………………………………………………………………………………」

 

 一護は知っている天井を見上げていた。

 実家の自室の天井だった。

 

 あれから突然気を失った一護は『クロサキ医院』と書かれた実家まで一心が背負い、急遽呼ばれて彼を診た石田雨竜は────

 

『単なる急激なストレスからくる過労と貧血状態だ。 安静にしていればこの体力バカなら良くなる。 それにしても驚いたよ、バカでも病に落ちるとはね?』

 

 ────という嫌味を言い残して雨竜は部屋を後にした。

 

 それがつい先ほどの出来事で、一護はボーっとしていた。

 

「……………………おふくろが、死んでいる………………だと?」

 

 一護は部屋を見渡す。

 

 見た目は自分の知っている部屋から、女の子らしい者に様変わりしていた。

 

 それもその筈。

 今は遊子の部屋になっていたらしく、棚を見ると少女漫画やアルバムなどが置いてあった。

 

「……見て、みるか」

 

 一護は『兄を見てはダメでしょうか?』と書いてある題名の漫画の横にある『小学校の(おに)い』と書かれたアルバムを手に取って、中を見ていく。

 

 そこには彼自身、()()()を覚える写真などがあった。

 

 確かに写真は覚えているものや景色を移していたが、『何かが足りない』という気持ちを彼は覚えた。

 

 写真に激突な変化があったのは、ちょうど小学校4年生辺りに時期が入ってからだった。

 

 いつもは緩い感じにニコニコしていた一護がある日突然からブスッと、何か不満に思っているのか怒っているかのような顔をカメラに向けていた。

 

「…………………………」

 

 アルバムのページをめくる度に心臓の鼓動が緊張と不安とよく分からないグチャグチャしたもので早く、強くなっていく一護の手は震えていった。

 

 どれだけめくってもめくっても映るのは嫌々ながらも笑う遊子に引っ張られて一護のようにブスッとした夏梨とこれまた不機嫌そうな一護が写っていた。

 

 たまには遊子みたいにわらう一心が時々混ざっていくその時に、一護は『とあること』に気付く。

 

 気付けば、一護の体中には嫌な汗がベットリとついていた。

 

 写真の数が、一護の覚えている量より圧倒的に少な────

 

 ドサッ!

 

 アルバムが手の中から抜け落ちて、中の写真が床にバラ撒けられるが一護はそれらを集めるより頭を抱えた。

 

「────いや、そうじゃねぇ…………そうじゃねぇだろ?! ()()()()()()()()だろうが?!」

 

 違和感の正体に、彼が気付いた。

 

「なんでチエたちが居ないんだよ?! なんでおふくろが死んでいるんだよ?! なんで……なんで……なんでだよ?!」

 

 ペチン!

 

 「うるせぇぞ一護ォォォォ!!! 何さっきから訳の分からないこと言ってんだテメェ────どわぁ?!」

 

 一護の頭に何か柔らかいものが当たり、彼が反射的にそれを手で握ると手の中にはぷんすかと怒りながら暴れる()()()()()()()()()()が握られていた。

 

「は、はなせ一護! わ、悪かった! 俺が悪かったからぐにぐにと綿をかき混ぜるのはやめてくr────!」

 

 ポタ。 ポタポタポタ。

 

「────え」

 

「コ……ン……」

 

 仕返しを覚悟していたコンが恐る恐る目を開けると、一護の頬を涙がただ流れていたことにギョッとする。

 

「い、一護?! ま、まさか俺様の改造魂魄としての足技が上手く決まり過ぎたのか?!」

 

「コン………………俺……………………俺……………………う、うぅぅぅぅぅ」

 

 一護はただ声を殺して泣いた。

 

「???????????????????」

 

 混乱するコンを抱きしめて。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ズビィィィィィィィ。

 

「ありがとよ、コン……って、何ビクビクしてんだお前?」

 

 鼻をかんだ一護が見ると、オドオドしたコンが近くの棚の陰から一護を見ていた。

 

「いや、急に泣き出したお前にも驚いたけどよ? 素直に畏まったお前に礼を言われたと思うとどう~~~~~~~~してもお前が偽物としか思えなくて……」

 

「……………………………………あー」

 

 一護の脳裏を過ぎるのは彼やルキアたちがコンをぞんざいに扱う数々の場面。

 

「すまなかったな、コン」

 

「だからやめろっての?! プリチーな俺の体に鳥肌が立っちまうだろうが?! ……………………で? どうしたのよ? お前が『泣く』なんて只事じゃねぇだろ?」

 

「……長くなるけど、良いか?」

 

「ま、お前の妹(遊子)息子(一勇)たちがここに来ない間ならな?」

 

「信じて、貰えるか知らねぇけどよ? 実は────」

 

 そこから一護は自分自身が安心できるかのように、あるいは再確認するかのように覚えている限りのことを、コンにぽつりぽつりと話していった。

 

 自分が知っている2002年までのことを。




コン:俺様! 参! 上!

一成(天の刃体):なんだこの奇怪なぬいぐるみは?!

コン:うわ?! 何だこの眼鏡?!

一成(天の刃体):ま、まさかまたもあの女狐がらみか?! 宗一郎兄に見せなくては!

コン:や、やめろぉぉぉぉ! 俺の綿がぁぁぁぁぁ?!

一成(天の刃体):しかしこれの声を聞くと……どことなく俺自身を思い出すな……なぜだ?

クルミ:同じ声だからでは?

一成(天の刃体):ク、クルミ殿?! なぜここに?!

コン:渡辺の姐さん! オタスケェェェェ!

クルミ:チョップ

一成(天の刃体)&コン:グぇ?!

クルミ:読者の皆様、お騒がせしてすみませんでした。 本来なら作者がここで二人にツッコミを入れるところなのですが月曜日に向けての次話を書き上げようとしているらしいですので変わりにボクが沈黙化させました……『白目をむいている』? 『痙攣』に『泡を吹いている』?…………………気のせいです


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第142話 額に死生と書かれた女

アネット:次話です…………………………何ですか? それ以外に何か期待をお持ちでも? 知りません。

???:いやいやいやいや。 流石にそれはダメでしょアネット? もっとこう、『少々短いですがキリの良いところの次話です! 楽しんで頂ければ幸いです♡』とか言わないと────

アネット:────分かりました上姉様♡ 次回はそうしますね!!!♡♡♡

???:ぐお?! きょ、胸部装甲がっ?! ち、窒息死するっ!


 ___________

 

 ■崎一□ 視点

 ___________

 

「寝言は寝てから言えよ。 というか翻訳家なんか辞めてその余り溢れる妄想力を別方向に転換して生かせろよ。 小説家か作家だ、たぶん儲けられるぜ?」

 

 横になったコンは鼻をほじくりながらぶっきらぼうに、上記の言葉を無慈悲に言い放つ。

 

やっぱテメェに話した俺がバカだった

 

「いやお前、その話に無理がありまくりだろうが?」

 

 この場合、『コンに何を求めていた?』とは言わぬが吉だろう。

 そしてコンの態度に、青筋をこめかみに浮かべる一護を見て彼は焦りだした。

 

「いや、冷静に自分が言ったことを考えろよ一護?! お前が言ったことのほんの一部が本当のことでただの夢じゃないと仮定してどれだけ今まで以上のトンデモ波乱ありまくりの人生送ってんだよ?!」

 

「そこまで違うのか?」

 

 「当たり前だ! というかテメェの知っている(コン)が羨ましすぎるぞ?! 何だよ『マイさん(特盛)ギュウ(ハグ)~』挨拶って?! クインシーの野郎共も生きているって、まるっきり()()()じゃねぇか?! 名前が同じ『黒崎一護』だとしてももう別人レベルじゃねぇか?!」

 

う゛……そう言えば、その通りかもだけどよ……じゃ、じゃあ! お前の知っている、『こっちの俺』の────!」

『────黒崎君? 入るね?』

 

「「どぅわぁ?!」」

 

 次第に言い合いへとズレていく一護と紺の会話がドアの外から織姫入ってきて強制的に中断させられる。

 

 入ってきた彼女の顔は複雑で、どう内心を表現すれば良いのか分からないようなモノだった。

 

「今の……話って……」

 

「いn────()()……」

 

 勿論のことだが、コンと一護は気まずかった。

 

 「うわぁ……一番居たくねぇ空気……」

 

 何せ内容を信じていていなかったとしても、突拍子もないことを先ほど一護はコンに暴露していた。

 

「………………」

 

 そしてほぼ勢い任せとはいえ先ほどの『別人の肯定』もあってか、一護はどう声をかければいいのか分からなかった。

 

 織姫が涙を目尻に浮かばせていれば、尚更のこと。

 自分の知っている『井上織姫』とは違うといっても、女子である。

 

「そっか………………だから昔の黒崎君のままで、霊圧も何時もとは()()違ったんだ……()()()()()ね!」

 

「え?」

 

 だが意外なことに織姫から出たのは感謝の言葉だった。

 

「だって……黒崎君の話が本当なら、今目の前にいる黒崎君を知っている私はお兄ちゃん(井上昊)にまた会えたんだよね? 良かった!」

 

 彼女が浮かべていた涙は嬉しさからだったようで、ポロポロとでる粒を織姫は袖で拭いていた。

 

「お前……怒っていないのか?」

 

「だって私……最後にお兄ちゃんを見たのって虚になった時なんだよ? 黒崎君の話では流魂街で再開したっていうけど……茶渡君と一緒に時間が空いていれば、今でも探しているユウイチ君のお母さんと同じで……まだ、探せていないから……」

 

 今度は一護が『探している』と聞き、複雑な気持ちになった。

 

『今でも探している』。

 つまりは一護が知っている2002年からの十年と少しの間、目の前の織姫はずっと『井上昊を探しているが未だに見つけられていない』という事になる。

 そして会話から察して恐らくだが、茶渡も流魂街で約束したユウイチも母親も探せていない。

 

 彼の知っている織姫と昊は無事に再開して、彼の知る限り文通のやり取りは少なくともしていた。

 さっきの『黒崎真咲が死んでいる』だけでも、今の彼が置かれている世界の歴史と自分の知っている歴史が如何に噛み合わないか実感を持たせていたというのに今度は身近な人の小さな願いも未だに未達成だったのがさらにそれを実感させた。

 

「い……井、上……」

 

 気が付けば、一護は口を開けていた。

 特にいうべき言葉を見つけたわけでも、考えもなかった。

 その証拠に、この世界での彼の呼び方から何時もの呼び慣れている名前で呼んでいたほど。

 

 ギィィィアァァァァァァァァァァ?!』

 

 その時、窓の外からかすかにだが叫びが聞こえてきた。

 

「ん?」

「え?」

 

「この声……もしかして? もしかすると?」

 

 なんでやぁぁぁぁ?!』

 

「……ハハ! やっぱ()()()だ!」

 

「ッ……」

 

 自分の知っている一護のように、無邪気に笑う彼を観た織姫は少しだけチクリと胸が痛んだ。

 

「知っているの、黒崎君?」

 

「おう。 ()()知っている。 ()からな?」

 

 一護は立ち上がって、窓を開けながらポケットに入れておいたモノを出す。

 

「(相変わらず、大人になっても『俺』はこいつを大事にしてたんだな?)」

 

 彼が手に持っていたのはその日起きたベッドの横にあった台の上にあった、塗料が少しかすみ始めたドクロの描かれた『代行証』だった。

 

 

 ___________

 

 異界の根源星 視点

 ___________

 

「いひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 

 すっかり太陽が落ち始めた空座町の道を、異形のバケモノが四つん這いで移動しながら嬉しそうに笑いながら小柄な少女を追いかけていた。

 

 そんな誰もが見れば注目を引く姿の彼を、会社のサラリーマンや学生たちは気にもせずただ帰り路を歩いていた。

 

ギィィィアァァァァァァァァァァ?!」

 

 余談だが『少女にしては全く似つかわしくない叫びだった』、とだけ付け足しておこう。

 

「な・ん・で?! 現世駐在任務の死神が出てこないのよ~~~~~?! 『()()()()()でしょうがぁ~~~~~?!」

 

「幼女の魂魄ぅぅぅぅぅぅ!」

 

 「『幼女ちゃうわいこのドアホ────ぎゃ?!」

 

 思わずツッコミを入れた少女は振り向いた際に足がもつれそうになり、必死にバランスを取り戻して短い脚での全力疾走へと戻る。

 

「あああ、もう! 『見た目』とか『制限』とか『修正力』なんか気にしていられないわ! トゥ!」

 

 最後の掛け声で何を思ったのか、少女は走る体勢からそのままで宙を飛ぶ勢いをつけた体勢をする。

 

 ベシャ。

 

「グェェェェェェ」

 

 勿論()()()考えて飛ぶことはなく、少女はそのまま地面に前のめり顔面スライドする。

 

「霊力からの魔力への変換の効率、未だに悪すぎぃぃぃ?!

 

「ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! 観念しおったかぁぁぁぁぁ?!」

 

 ついに追いついた(異形の化け物)が少女目掛けて大きく地面を蹴って、大きな両手で彼女を掴むモーションに入る。

 

「ぎゃあああああ?! こ、この身も心も()()()()()に捧げるのぉぉぉぉぉ! あ。 今は『肉体』がないんだっけ」 ←何を言うんですかお嬢さん?

 

 ザンッ!

 

「ギエェェェェェェ?!」

 

 少女に襲い掛かろうとした虚が顔の仮面ごと背後から真っ二つに斬られては、断末魔のような叫びをあげては消えていく。

 

「………………………………あれ?」

 

 ギュッと目をつぶりながら自分の体を抱きしめていた少女が虚の断末魔に片目を開けると────

 

 ゴンッ!

 

 「────あ(いた)ぁぁぁぁぁ?!」

 

 彼女の(ひたい)を刀の柄尻が重い響きと共に衝突し、綺麗に『死生』という文字がクッキリと見える。

 

「あれ? 痛そうにするのは何時もの事だけど、魂葬(こんそう)しても消えないのは初めてだなぁ~?」

 

 少女の前には死神装束を着た黒崎一勇(かずい)が、不思議そうに自分の斬魄刀を見ていた。

 

「いたたたた……な、何────?」

「────えい!」

 

 ゴンッ!

 

 一勇はまたも魂葬(こんそう)をさらに力を込めて試みる。

 

 (いた)ぁぁぁぁぁ?!」

 

 だが少女は消えず、ただ痛がる様子を一勇は面白がっていたのかさらに刀の柄尻で彼女の額につける。

 

「えい♪ えい♪えい♪

 

 ゴッ!ゴッ!ゴッ!

 

「あ! ちょ?! 待って?! 痛い! 痛い言うてんねんこのガキャァァァァァァァァァァ!!!

 

「うわぁ?!」

 

 少女の反撃を予期していなかったのか、両手を掴まれた一勇は簡単にマウントを取られ、特に抵抗する様子もなかった一勇は馬乗りをした彼女に押し倒される。

 

「ぬっふっふー! さっきは大変楽しそうにしていたわよねぇ~? ん?

 

 本来なら少女のヒキつく笑みと共に、青筋が浮かんでいる筈の所には代わりにあったのは無数の『死生』の文字。

 

「おお~。 お姉ちゃん、魂魄なのに力強いね! 胸に鎖ついていないけどもしかして新種の『(プラス)』?」

 

「???????????????」

 

 ここでようやく少女は一勇の姿に気付いたのか、今まで見る余裕がなかったのか彼の顔と髪の毛の色を見た瞬間、困惑したような表情になりながら無数の?マークを出す。

 

 彼の容姿をよく見る為か、疑惑の目をしながら顔を近づかせる。

 

「若い頃の一護? でも顔は井上さん?」

 

「あ! 父ちゃんと母ちゃんの古い知り合い? もしかして死神? 破面?」

 

 『お~い!』

 

「んえ?」

 

 少女は声の下方面を見ると、ちょうどその場に()()()一護を抱えた織姫(と彼女の頭に乗っていたコン)が降り立った。

 

「やっぱ三月────………………………………おい。 お前って()()()()()()か? 水色(年上好き)と反対の?」

 

 「へ?」

 

 嬉しそうな一護の顔は、一気にジト目へと変わる。

 

「ええええええっと………………」

 

 織姫は困った顔をしながら目を泳げさせた。

 

「んんんんん?」

 

 更に?マークを出した少女は間を置いて、この状況を客観的に思い返す。

 

『少女が少年(一勇)の両手を掴んだまま馬乗りを顔を近づかせていた』という状況を。

 

「…………………………………………………………………………………………」

 

 次第に気まずい気持ちと連動しているかのように、汗が大きな粒となって少女の頭からダラダラと流れて彼女は次のことを反射的に叫んだ。

 

 ちゃうねん?!

 

「いや、お前はそう言うけどよ? はたから見たら三月がその子を押し倒している風にしか見えないぞ?」

 

 ちゃぐ(ちがう)!」

 

「最近の子供の成長は早いなぁ~? かな?」

 

 「だから違うってば!」

 

「う~~~~ん、あと十年したらスゲェ美人になる予感────」

 

 「────大きなお世話よコン! 口パク人形に魔改造してやろかぁぁぁぁ?!」

 

「あはははははは!」

 

 相変わらず見た目に反して大きな肺活量で金髪の少女(三月)は叫び、一勇は愉快そうに笑った。




一勇:あはははははは! お姉ちゃん信号みたいに変な色~!

???:危うし命タシケテ私。 只今予期せぬライブで超ピンチ

アネット:スーハー、スーハー、スーハー! あああ! やはり上姉様はいいです!♡ ←既に周りが見えていないライダー


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第143話 Dreams & Reality

お待たせしました、短くて申し訳ないですが次話です。

いつも読んでくださり、誠にありがとうございます。

若干『天の刃』作品関連の設定などが出てきます。

今後の展開に多大な影響を与えるアンケートを出しました。
期間は数話ほどと予定しております。 おそらく来週の月曜日まで程。

お手数おかけ致しますが投票にご協力の程、何卒よろしくお願い申し上げます。 m(_ _)m


 


 

 

 昔々、遥か太古のさらに昔に『宇宙』が存在する前の、そこには『光』も『闇』もなかった。

 

 そこに『在った』のは言語化できない何か。

 これを仮に■■■■と定義付けよう。

 

 ■■■■がある時に『寒い』と感じ取れば暗闇の中に火の玉が出来、『暗い』と感じれば火の玉の数はさらに増大していった。

 

 やがて『暗闇』の中に、『火の玉』と『不発に終わった玉』が近くの者の周りを回転し、時には衝突していった。

 

 長い、とてつもなく長い時が過ぎ去り、不発に終わった玉に様々な『念』が生まれ、後に生まれるモノたちの頂点(あるいは別の視点)に立ち、君臨し、統率していった。

 

 俗に言う『高次元』と『低次元』という『枠』のついた『存在』……という『概念』がこの世に発祥し(生まれ)た瞬間である。

 

 


 

 

 ___________

 

 黒崎一護、異界の根源星 視点

 ___________

 

「取り合えず、誤解は解けたかしら?」

 

 先ほどまであっけらかんと笑う一勇を横に、織姫と一護は心配をする遊子や夏梨(ついでに一心)に過労気味だった一護の状態が一休みしたことで好転したのを伝えてから彼ら彼女らは今現在織姫たちが住んでいるアパートらしきリビングに場所を変えていた。

 

 そして先ほどちょうど三月に似た少女の力強い、熱のこもった()()がちょうど終わった。

 

「おう、分かった」

 

「ホッ。 よかった」

 

「お前が政治家に向いているってことがな?」

 

 ヒュ!

 バシィン!

 

 一護のぶっきらぼうな返事に少女が安心したのも束の間、続けた言葉にどこからか宙の歪みからハリセンを出して彼の頭を叩いた。

 

全然聞いてないじゃん────へにゃ~~~~~~~」

 

 勢い良く立ち上がって急に動いた反動か、彼女は貧血になったような勢いでテーブルに前のめり気味に倒れながら、気の抜けた声を出す。

 

 ゴッ。

 

「アカン……現状維持でもキツイのに、金ぴかの『王の財宝(ゲートオブバビロン)』の『限定表現』とはいえ無断使用で今にも消えそう……」

 

「お姉ちゃん、変な力使うね?」

 

 隣でケラケラと笑う一勇は今にでも魂が抜けそうで覇気が全く感じられない三月似の少女の背中を、バシバシと無邪気に叩く。

 

「小っちゃい一護の見た目に反して井上さんの奔放な一面は反則……しかも念願の『お姉ちゃん』呼びをされても『嬉しくなる気力』も出ないし……」

 

 織姫がちらりと横で難しそうな顔をしていた一護に視線を送る。

 

「いや、俺もさっきの……えーっと、『金ぴか』も『ゲートなんちゃら』にも聞き覚えがないぞ?」

 

 が、彼は首を横に振って自分も彼女の言っていることが分からないと示す。

 

「と言うか俺の知っている三月はこんなに小さくねぇしテンションも低くねぇ」

 

「『小さい』って……呼ぶな~」←そこ不定します?

 

 一護が指摘したようによく見ると、隣でニコニコ笑っている一勇と今の彼女は殆ど大差が無いか、あるいは若干一回り一勇より小さい程に縮んだかのように見える。

 

 以前の彼女が『ギリギリ中学生(?)』だとすると、今は『学校のカバン(ランドセル)と帽子をつければ見分けが付かない』レベルほど。

 

「仕方ないよ~、私を結成している霊核……『魂』はアンタたちとは別の世界の産物なんだし~」

 

「「「え?」」」

 

 三月(幼)の言葉に一護、織姫、そして一護の影に潜んでいたコンでさえも呆気に取られた声を出す。

 

「……やっぱ、違う世界云々は本当なのか?」

 

「もうこの際だからぶっちゃけるけど~、と言うか結構やばい状態だから~」

 

 回復した一護の確認するような声に眠たそうな、または怠い態度の三月(幼)が答える。

 

「実は私ってば~…………………………長くなるけど、良い~?」

 

 三月(幼)が上目遣いで自分にジト目を返す一護を見あげ、彼は彼女のこの動作を知っているがゆえに次の言葉を口から出す。

 

「三行以内で」

 

「ヒドイ」

 

「お前のその『話が長くなる』は、校長や年寄り爺ちゃん婆ちゃん以上だからな」

 

「……私の霊基、貴方たちで言うところの『肉体』を奪取した『アレ』は()()()()()()()()()()()()()()()

 存在ごとの凍結間際に残った力を振り絞って『“黒崎一護”の人生で一番平和な時期』を前提に『精神』と『魂』を霊核ごと『強制転移』。

 元々残りカスの力を使っちゃったから存在(霊核)外郭(霊基)に引きずられて縮小して今にも消えそうで今ココ~」

 

「…………………………………………………………本当に三行で済ませやがったよコンチクショウめ! やっぱ見た目もテンションは変わっても()()かよ?!」

 

「う~は~は~は~は~は~」

 

 三月(幼)は器用にテンション低めのまま高笑い(?)を出す。

 

  「……なぁ? 俺の気のせいかもしれねぇけどよ? なーんか今、結構不穏な言葉がチラホラと出てこなかったか?」

 

 コンが聞き間違いの確認をするかのように、一護や織姫を見る。

 

 と言うのも『霊基』、『霊核』の聞きなれない単語などは別において『創造神』、『存在ごとの凍結』、『“黒崎一護”の人生で一番平和な時期』、そして『精神と魂の強制転移』。

 

「さっきも言ったけど時間が無いから続けるよ~?」

 

 

 

『霊核』。

 簡潔に説明すれば『BLEACH』でおける魂魄なのだが『魄睡(はくすい)』と『鎖結(さけつ)』などを含めた器官も備えている『生身の魂の状態』に近い。

 

『霊基』。

 神話や伝説の中で為した功績が信仰を生みだした高位の存在が『実体を持っていた』とされ、『神代(しんだい)』と呼ばれる時代が実在したとある世界で様々な存在が『記憶』として星に刻まれ、それらが肉体を生後に再び得るときの『器』の名称。

 

『転移』。

 本来なら物質が一つの場所から移動することを示すが、ここでの『転移』とは世界の物が別の世界の移動を意味している。

 

 

 

「ここまではわかった~?」

 

 上記のことを描いた三月(幼)は絵で説明の補助をする為のスケッチを一護たちに見せていた。

 

「……それってアニメか何かの絵か? ドラク〇にしては見覚えが無いんだが……」

 

『転移』の例としてスケッチに描かれたラフは跳ねまくった髪に、ファンタジー物にありがちな剣と鎧を装備した少年。

 

「え~? 『ワタル』だよ~? んじゃあ~、次これ~」

 

 次のパネルにはまたも少年の絵。

 だが今回はメカの要素を取り込んだのか何かのロボットを操縦している最中だった。

 

「流石に『ラムネ&4〇』は知っているでしょう~?」

 

「……………………………………………………………………ああそうだな」

 

『元ネタが古い』と言いそうだった一護は話を続けさえるための言葉を何とか棒読みだけは避けて放つ。

 

「んで~、何とか一護だけでも藍染と『アレ』の手から逃がそうとして無理をした今の私は『肉体』のない『精神』と『魂』なの~」

 

「『なの~』って……大丈夫なのかよ?」

 

「このままだと()()()()でいずれ消えちゃう」

 

 一護の脳裏に浮かんだのは霊王宮にて藍染が彼女の体から抉り取った『聖杯』と呼ばれていた『()()()()()()()』。

 

「ふぅ~ん……『魔力』って、よく浅野お兄ちゃんがゲームで『MPが足りねぇ! ベ〇イミがぁ! ダンジョンボスがぁ!』って叫んでいる奴?」

 

「「………………………………多分? (浅野って、この時代でもゲーム好きなんだ……)」」

 

 無邪気な一勇の言葉に一護と三月(幼)がまだ見ていない、『2013年の浅野』をイメージしてハモる。

 

「ん? 『霊力』じゃなくて、『魔力』?」

 

「お~、さすが井上さん……黒崎夫人? そこに気付くとはねぇ~。 うん。 『()』はもともと『魔力』を基準にした世界から来ているからね~。 

 例で例えるのなら普通の車を無理やりディーゼルで動かそうとするような?」

 

「「「「??????????????????」」」」

 

 運転をしていない(あるいはその記憶がない)一護たちがイマイチ良く分からない例えに頭をかしげるが、これに気付かず三月(幼)は話を続けた。

 

「だから私は今まで『霊力』を『魔力』に変換していたんだけど~……例えるなら降る小雨をザルで受け取ってかき集めて家の中でグツグツと沸かしている鍋にお水を補給する感じ~?」

 

「「「そっちのほうが分かる」」」

 

「でも今の私はそのザルも無い状態なの~。 あと存在自体が特例中の特例だから更に事情がかさばるけど。

 

「(ん?)」

 

「それで、黒崎君と……三月ちゃん? はどうするの?」

 

 三月(幼)が最後に小声かつ早口で何か言ったのに違和感を持つが織姫の声によってその引っ掛かりが遮られる。

 

「どうするもこうするも一護次第。 貴方は、どうしたい~?」

 

「え?」

 

 ここでテンション低めの三月(幼)がジッと一護を見る。

 

「一応、その意思がなかったとはいえ貴方をこんなことに巻き込んでしまった。

 本来は私たちなどと、関わりがある筈のない貴方には選択肢がある。

 一つは『このままこの世界に順応して生きる』こと」

 

「……お前は?」

 

「んで、私はどっちにしろこっちを選択するつもりだけど元いた世界……つまりは『2002年の時に遡り戻る』。 ()()()()()()()()()()

 …………………………だから貴方がそうしたいのなら、()()()()()()()()()()()()()

 

 一護は息をするのも忘れ、急に言われた選択とやらにごくりと唾を思わず飲み込んだ。

 

『自分の知らない一途を既に辿り、平和な夢に浸る(未来に残る)』か、『自分の知っている面倒ごとに戻るか』。

 

 人間、誰もが現実逃避やデイドリームでこのようなことができればと思った選択に彼は直面していた。




作者:…… ←指摘されてタイトル変えようかどうか&もし変えるとしたら何に変えようか考え中

藍染:懲りずに書くんだね? いいさ、それも一興だ


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第144話 Soul Court in the Land of Sand

お待たせしました、色々あって少々遅くなりましたが次話投稿です。

楽しんでいいただければ幸いです。

アンケートへのご協力、誠にありがとうございます。
期間は来週あたりを予想しています。

2/25/2022 1:30
あまりの疲れに眠れなかったので隠密鬼道→隠密機動の誤字修正しました。



 (とき)は経ちやがて『暗闇』は『宇宙』に。

『火の玉』や『不発』は『星』と『惑星』に。

 

 そんな中、■■■■は『自己』の『足』で『地面』に『立っていた』ことに初めて()()()()()()()()()()

 

 それらの小さな存在を■■■■はふとある時に声をかけられた。

 自身を『知性』と名乗り、■■■■を『母上』と呼ばれ、いずれは声をかける者たちは増えて『母上』を崇め、『信仰』が生まれた。

 

 


 

 

 ___________

 

 瀞霊廷組 視点

 ___________

 

「…………………………ハッ?!」

 

 冷たく、ひんやりとした地面の上と夜が落ちた中で恋次は目を覚ます。

 

「……いてててて……」

 

 体中が『痛い』と悲鳴を上げている中で彼は体を起き上がらせ、寝起き気味の頭を動かしながら夜空に浮かぶ月を見上げる。

 

「(なんで道に寝転んでんだ、俺? 確か一番隊舎に異変が起きたと通達があって? 旅禍が侵入して? ……………………………………………………だめだ、その先が思い出せねぇ)」

 

『うわぁぁぁぁぁ!!! く、くるなぁぁぁぁ!』

 

「悲鳴?!」

 

 少し距離の空いた場所から叫ぶ声を恋次が聞くと流石は元十一番隊(脳筋)よろしく、彼は取り敢えず脳より体を動かすことにした。

 

 ズルッ!

 

「うおっと?!」

 

 彼が瞬歩を使う流れのまま駆け出そうとして足を滑らせ、思わずこけるのを足首の筋肉に無理やり力を入れて()()()()()()()

 

「(寝起きでこんな初歩的なドジを踏むとはな!)」

 

 恋次が叫びのあった方向へと走りこみ、戦いの音が聞こえてきたと彼が認識すると予測通りの場へと出くわす。

 

 ()()の巨大虚相手に、死神たちが数人へっぴり腰気味に応戦していた。

 

「(瀞霊廷内に巨大虚だと?! 遮魂膜(しゃこんまく)を通り抜けたのか?! それとも旅禍の────?) チィ! 取り敢えず虚はぶっ飛ばす! 『蛇尾丸』!」

 

 恋次は不意打ちに似た攻撃で巨大虚の一体を切りつけながらもう片方の虚に手を向けて詠唱をし始める。

 

「「「阿散井副隊長!」」」

 

「『君臨者よ、血肉の仮面! 万象、羽搏き、ヒトの名を冠す者よ! 焦熱と争乱、海隔て逆巻き南へと歩を進めよ────!』」

「────あ、待ってください阿散井副隊長────!」

 「────破道の三十一、『赤火砲(しゃっかほう)』!」

 

 シ~~~~~ン。

 

「………………………………あれ? 俺、もしかして詠唱を間違えた?」

 

 元気よく恋次が叫ぶも予想と反して彼の鬼道は不発に終わるどころか、霊子が流れるの手応えもないことに恋次自身不思議に思い自分の手を見た。

 

「『Φλας στήλης(エレ・ヘカテ)』~」

 

 気の抜けた、聞き方によっては眠そうな少女の声とビームのようなモノが上空から残った巨大虚に直撃し続ける。

 

 ビィィィィィィィィィ!

 

「グオォォォォォォォォ?!」

 

 ドォンッ!

 

「は~い、じゃあ今度は斬魄刀で斬ってくださ~い」

 

 巨大虚が大きな声を出して倒れると上空からふわりと声の主と思われる眼鏡をしてはねっ毛が目立つ少女が────

 

「────ってお前かよ、自称新入り?!*1

 

「戦いの最中に敵から目を離すのってパイナップル(阿散井恋次)はおっちょこちょいですね~」

 

「パ、パ、パイナップル……だと?」

 

「「「プフ」」」

 

 以前、虚圏で見た様子のリカ(奇妙な杖+魔女のようなマント着用)の言葉に倒れた虚を斬り、彼らのもとへと近づいた隊士たちの何人かが殺した笑いをする。

 

「つかお前、今までどこに行ってた? それとこの状況の何を知っている?」

 

「う~ん……それがボクもちょ~っとさっき上に浮遊してきたんですけど意見的なことが多くて」

 

「『上に浮遊』? 霊圧も何も感じなかったが────?」

「────まぁそりゃそうですよ。 大気に満ちているのは似ていますが厳密には『霊子』じゃないですし」

 

「……は?」

 

 リカのあっけらかんとして態度と受け答えに恋次と周りで静かに成り行きを見ていた隊士たちがポカンとした。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「様々な機器にエラー表示が────!」

「何も映らねぇ────!」

「連絡途絶のままで復旧が────!」

「外の状況はどうなって────?!」

 

「手の空いている奴は出て直接連絡を取れ! エラーが出たのなら生きている器官を使うなり原因を探れ! (クソ! どうなっていやがる?!)」

 

 阿近(あこん)は指示を出しながら、幸いにも気を失っていた者たちが殆ど起きたことでかつてない以上に騒がしくなった技術開発局内を見渡す。

 

 というのも、彼らは日々どこかの|マッドサイエンティスト《鼻歌交じりに『ハァヒィフゥヘェホォ~♪』と言い始めたマユリ》のそばにいた為か、長く十二番隊に籍を入れていた者たちは早々に目を覚まし、ほかの者たちを起こしていきながら各計器などで観測と現在の状況把握、隊士たちとのコンタクトや一座標の確認などを試みていた。

 

 ボン!

 

 突然一つの端末が爆発して研究員らしき一人が怯みそうになる。

 

「うわ?! ()()()?! 『アッチ』に関する機器には気をつけろ!」

 

 彼は爆発した『虚圏』関連の計器を消火器で火を鎮圧化しながらほかの者たちに叫ぶ。

 

「が、外部にいた伝令の隠密機動隊員数名と連絡取れました!」

 

 その中、一人がうれしそうに声を上げて注目を浴びる。

 

「非常時の際にて手持ちの通伝刀(つうでんとう)を設置していた部隊のようです! 彼らの証言によると────え?!」

 

 長い前髪を無理やりくくっていた少年が報告中、急に眼を見開いて固まった。

 

「どうした、リン?」

 

 阿近は固まったままの少年────『壷府(つぼくら)リン』に声をかけるとリンははっとして気まずいまま言葉を再開する。

 

「か、彼らの証言によると……隊士たちは気を失っている者が殆どで……瀞霊廷内に巨大虚が数体、確認されています……」

 

 これに技術開発局に小さくはないどよめきが走る。

 が、リンの報告はそこで止まらなかった。

 

「さ、さらに起きて混乱している隊士たちも応戦は試みていますが霊力による走法、および鬼道が使()()()()の様子とのこと……連絡のついた隠密鬼道の人たちも、今は純粋な身体能力と最近開発された試作品の『電気』を使うにモノを使用している……と……」

 

「「「「………………………………………………………………」」」」

 

「それ以外に、何かあるか? リン?」

 

 まるで迷子の子供のようにリンは不安そうに周りを見て、沈黙がその場を支配していくと思った矢先に鵯州(ひよす)が無理やりそれをさせまいと口を開けた。

 

 リンは放心しそうになったのを問いかけられたことで耳から話しそうなヘッドフォンを再び装着する。

 

「あ………………えっと…………霊力による技は使えないものの、初解は使用可能のようです! 現に、瀞霊廷内にいる副隊長たちはそれらを使って巨大虚を駆逐しています! あと、()()()()()()()()()()()()()()()()()と視認されています!」

 

 何人かが瀞霊廷の自動防衛システムが作動したことに明らかにホッとしていたが、逆に阿近や鵯州は驚愕した。

 

「……リン。 彼らにほかの隊士たちの援護、そして出来れば()()()()()を見てくるように言ってくれ」

 

「え? 阿近さん?」

 

 ピピピ! ピピピ! ピピピ!

 

 神妙な顔をする阿近は懐にあった携帯電話を取り出して表示に出ていた名前にギョッとしながらもすぐに出た。

 

 ちなみに出ていた名前は『ネム』だった。

 

「もしもし、ネムか?! 今どこにいる?! 涅隊長は────?!」

『────おお。 さすがの()()()()()もこの状況にテンパっていますねぇ~────?』

「────切るぞ。 と言うか消えたんじゃなかったのかよ?」

 

 珍しく焦る阿近は予想外の声に思わず()()()()条件反射に嫌がる表情を浮かべる。

 

 彼の脳裏に蘇るのはマユリを『マユちゃん』やネムを『ネムネム』と軽々しくあだ名をつけて呼んだり、彼女と知り合ったことで以前から二人の奇妙な要求や行動などが一層レベルアップして頭痛薬を常時服用しない程…………

 

 だけではなく、時に彼女(リカ)がそれらを自分が引き起こしたことを知っておきながら阿近にも『アッコさん』というあだ名をつけたことも関係していた……かもしれない。

 

『ちなみに今、まっすぐイノシシ同様に頭突きをボクに食らわせたネムネムに抱き着かれたまま四番隊へパイナップル(恋次)たちと一緒に巨大虚の駆逐と移動中です~』

 

「…………それで? その為だけに連絡をした訳じゃないだろう?」

 

『うん。 これから説明しますので心得て聞いてください~。 あ。  あとあと~? 流魂街の人たちも恐らくは()()()()……じゃなかった、“カリン”の誘導で瀞霊廷のほうに避難すると思います~』

 

「なぜそうなる?」

 

『このまま巨大虚たちに力を貯えられるのを阻止するためと人手の獲得です~』

 

「????」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「う~ん、いつ食べてもここの茶菓子は美味しいですね~」

 

「では次はマユリ様特製のドリンクを────」

「────前々から進められているけど、まずはその毒々しい見た目をどうにかしてください」

 

「効力は七日間眠らなくても常時肉体と精神的なあらゆるリミッターが解除されます」

 

「反動は?」

 

「一か月ほど体中に激痛、眩暈、嘔吐、呼吸困難、意識不明────」

「────んじゃあ却下です」

 

「残念です」

 

 未だに背後からネムに抱きしめられたリカの二人はマイペースに、四番隊の綜合救護詰(そうごうきゅうごつめしょ)内にある休憩室の中でじゃれていた。

 

「「「「「………………………………………………」」」」」

 

 のほほ~んとした二人とは対照的に、瀞霊廷の中で暴れて確認できていた巨大虚を取り敢えず駆逐と混乱する隊士たちを集め、何とか動揺をなだめ終えた(十一番隊のやちるを除いた)他の副隊長たちは黙り込んでいた。

 

 それもリカから聞いた現状の予測と()()()()()が原因で唖然としていた。

 

『大気中にある霊子を使っての()()()使()()()()。』

遮魂膜(しゃこんまく)が異変の際に術式が破綻したか決壊に負担がかかりすぎたために破られたかで現在の瀞霊廷に結界は無い。』

『霊王宮で何が起きたのか詳細は不明だが()()()瀞霊壁が異変前に降りて瀞霊廷の周りを八割ほど埋めてくれて防壁の役割をしている。』

 

 これらだけでも、普段の彼らからすれば前代未聞の出来事だがその上さらにもう一つのことが彼らが唖然とする最大の要因になっていた

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 つまり上記での『異変』は『地形ごとの転移』であり、死神たちからすれば敵対勢力である虚の世界のど真ん中に本拠地ごと移動させられていたということになる。

 

 しかも()()()使()()()()状態で、『転移』の際に殆ど滅却師達と応戦していた隊士たちが気を失って無抵抗のまま巨大虚などに襲われ、気が付いた隊士たちは鬼道やあらゆる零子を使う技術が使()()()()という動揺でさらに被害は思っていたより多かった。

 

「それでも、我々のなすべきことは変わりません」

 

「卯ノ花、隊長……」

 

 勇音は唯一、霊王宮へ移動しなかった卯ノ花隊長を他の副隊長たちとすがるような眼で見る。

 

「私たちは護廷。 そして霊王宮に異変があったとしても、総隊長たちを含めた強者たちが向かった以上、我々がすることは彼らの帰る場所を守ることと世界の秩序の維持です」

 

「「「「「(おお~~~~)」」」」」

 

 四番隊は救護班や後衛などが主な仕事の為、卯ノ花のこうした『隊長らしい』振る舞いに数名の副隊長たちの心は打たれ、これを見た勇音は内心『そうでしょうともそうでしょうとも! 卯ノ花隊長は凄いんですから!』と共に表情に出てきそうな誇らしげなドヤ顔を必死にこらえた。

 

 彼女のむずむずとした顔がにやにやしていたので効果はさほどなかったが。

 

「雀部副隊長。 ここが真に虚圏であるのならば周りの地形の確保と偵察の人員配置を任せてもよろしいでしょうか? 私は右之助様とともに流魂街の住民たちの受け入れが円滑に進められるよう、そちらに行きます。 技術開発局は瀞霊廷の機能などの復旧を優先してください」

 

「わかりました」

 

「……承知しました、卯ノ花隊長」

 

「何か不満でも?」

 

「……本当に流魂街の者たちを、瀞霊廷に入れるのですか?」

 

「じゃあ見殺しにします?」

 

「「「「「………………………………………………」」」」」

 

 リカの質問に、だれもが気まずい視線を互いに送る。

 

『原作』では余程のことがなければ、死神にとって流魂街の魂魄たちは良くて『認識はしている』。 悪くて『無関心』だったことに対し、今の死神たちはある程度の感情移入はしていた。

 

「(ま、それを知っていて意地悪な質問をしたボクもボクですけど。 『最悪の状況』を想定して以前、『本体(三月)』の暗躍とマイの後押しがあってこその『再召喚』と『知識導入(インストール)』でしたけど)」

 

 それをリカは逆に利用しようという自覚を持ちながら、そうなるようにカリンにお願いし魂魄たちの保護を瀞霊廷に以前のように召喚されてからすぐに頼んだ。

 

「明らかな異論がないので話を進めますと、まずは連絡の取れている隊士たちに()()()()……ええっと、“カリン”が恐らく流魂街の人たちを瀞霊壁の近くまで引き連れて居る筈なので彼女もこき使ってください」

 

「リッ君様の姉も来ているのですか?」

 

「そうですよ、ネムネム。 あとボクは飛来……は、できないけれど浮遊ぐらいなら頑張れば出来ると思いますのでササキーの手伝いをしま~す」

 

「「「「「…………………………ササキー?」」」」」

 

 余談ではあるが、リカの『ササキー』が『雀部』と気付き、その場にいた大抵の者たちが吹き出すまでわずか二秒足らずだったとここに書き足そう。

 

「というか、テメェは霊子を使えるんだな?」

 

 十一番隊の代表としてその場に居合わせていた一角の指摘にリカがズレそうだった眼鏡をかけなおす。

 

「ボクはここの霊子を『自分の使える物質』に変換しながら術を行使しているだけで~す。 原理は後ほどネムネムから聞いてくださ~い。 この子、本当に凄いんですよ~?」

 

「マユリ様やリッ君様に比べれば私などその辺の石ころと変わりません」

 

「謙遜は『メッ』、ですよ~」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 瀞霊壁が降りてきていない、瀞霊廷と流魂街の境目には簡単な検問らしきものが五番隊の者たちによって設置されていた。

 

 そこに瀞霊廷の外を偵察に出ていく用意をしていた雀部、吉良、リカ、そして隠密鬼道数人がカリンのいたところに来ていた。

 

「ん? よぉ! 吉良に雀部副隊長たちじゃねぇか?!」

 

「あとボクも~」

 

お前(リカ)はお呼びじゃねぇ」

 

「照屋さんですねぇ~」

 

「カリン……殿。 ここは五番隊の皆に任せ、外部の状況を斥候として一緒に出てはくれんか?」

 

「良いぜ。 ジッとしているのは性に合わねぇからな! 雀部副隊長は司令官で、隠密の奴らは分かるとして、なんで吉良もここにいるんだ?」

 

「僕は元四番隊でね、足腰の運びには自信があるんだ。 あと回道も少々たしなむ程度に使える」

 

「まぁアレです。 リーダーにスカウトとヒーラーですよ」

 

「……オレは?」

 

「カリンは勿論、囮です」

 

おい

 

「大丈夫で~す。 骨を拾いながら『ランサーが死んだ~』と、ちゃんと言いますよ?」

 

 おいぃぃぃぃぃぃ?!

 

 このような状況下でホッとしたのも束の間だったのは、彼ら彼女らが知る由は無かった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 雀部たちが瀞霊廷、そして流魂街からさらに外へと足を運ぶと急に虚圏特有の砂漠へと出て数時間ほどが経った頃に

 

「ん~?」

 

 マントをハンググライダーのように幅広く広げ、空中を浮遊していた彼女は前方で何かがあるようなことを見たと思い、目を凝らした。

 

「(んー、見えない。 双眼鏡を地上部隊から借りますか。) 吉良さーん、双眼鏡貸してくださ~い」

 

 そう思いリカは地上を歩いていた吉良の近くに降り立ち、袖の中に入れたまま双眼鏡を受け取る手を出す。

 

「……君のその『術』とかで代用できないのか?」

 

 吉良が思い浮かべたのは恋次がすきを見てほかの副隊長に言っていた、リカの『鬼道みたいだけど全然違う()()()()()()()』のことだった。

 

 彼女はネムと恋次と合流した後、聞きなれない言語で詠唱をしてはリング状の帯や地面に陣のようなもので巨大虚を拘束、または光の玉のようなものを連射して援護をしたりなどしていた。

 

 その間も恋次は様々な鬼道を暴発覚悟で使っていたが赤火砲(しゃっかほう)のように全く手応えがなかった。

 

「うん? 勿論使いますよ? でも媒体があるのと無いのでは明確な違いが出ます。 というわけでgive me please(早く渡してください)

 

 双眼鏡を吉良に渡され、リカは再びカリンにお願いして彼女が持っていた槍をプールのジャンプ台のように空高く飛び立つ。

 

「(さてさて~、目に魔力を通してズーム~)」

 

 視覚を高めたうえで双眼鏡を使い、リカが『さっき何かが見えた』場所を再度見渡す。

 

「(……あれは…………………………破面? が走っている? 追われているのか?)」

 

 未だに距離が空きすぎてリカにはよく見えなかったが、砂漠の上を走っていたのはハリベルの従属官であったフランチェスカ・ミラ・ローズ、エミルー・アパッチ、シィアン・スンスンの三人。

 

 そして彼女たちを追っていたのはのっぺりとした、マネキンのような奇妙な姿形をした人型の()()達だった。

*1
25話より




作者:次話かいてきます

リカ:あとは本体と同等にネーミングセンス最悪のタイトルも~

作者:そっちはもう一応候補があるというかズバズバというなよ

リカ:そういう設定にしたのはどこの誰でしょうか? 知らない人は『天の刃待たれよ』を参照してくださ~い


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第145話 Decisions, Decisions

お待たせしました、次話です。

アンケートへのご協力、誠にありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

あと余談ですが、作品タイトルを変えるとお気にいりやしおりなどの情報がリセットされると聞いたんですが……実際どうなんでしょうね?


 上位存在、または高次元の者たちは『母上』のおかげで創られた星々を管理し始めた。

 

 時には指導者、時には導き手、時には観察者として。

 

 彼らは後に『母上』に『生き物』としての(構造)を伝授した。

 

『泥から創る』。

『血肉から創る』。

『集合体として存在する』。

 等と言った多種多様な方法があり、一つ一つ自分たちの作品()を見せていき、行く先ではありとあらゆる生物に祝福を捧げられた。

 

『楽しみ』や『娯楽』、『面白さ』の経験に魅入られた『母上』は時間が少し経ち、自らの『子』達に内緒でもう一度、降り立つことを決めた。

 

 現代でこそ俗にいう『ドッキリ』なのだが……

 

 そこで『母上』を待っていたのはとある種と触れ合うこととなる。

 

 他の、自らと同じ種を騙し、利用し、蹴落とし、虐げ、自己中心的で、時には『気に入らないから』というエゴ極まりない理由で『粛清』という大義名分の下で大量虐殺などと、今までの自然界を根底から否定する等々などといった様々な『(ごう)』を自分たちに都合のいい理由を付けて平然と行使する種。

 

 

 

 

人類(ニンゲン)』である。

 

 

 

 


 

 

 ___________

 

 ■□□■一護、異界の根源星 視点

 ___________

 

 

『のこる』? 『もどる』?

 

 俺は迫られた選択を再度聞かれたような感覚に、二つの分かれ道の交差点に立っているような想像をする。

 

 片方は果てしなく続いていてまっすぐとした上に雲り一つもない、陽光の下に整備が行き届いている平坦な道路。

 

 それは誰もが見てもきっと心地の良い、緩やかとした道のり。

 

 思わず一護は身を乗り出そうとして────

「(────さっきからぐちゃぐちゃと……誰だ、テメェ? )」

 

 一護は身を乗り出そうとして────

「(────だから誰だよ?)」

 

 身を 乗り 出そう と────

「(────俺は『戻る』ぜ?)」

 

 一護は雲行きが怪しく、暗く、『獣の道』と呼んでも他言ではない方を選択した。

 

 

 

 

「俺は……戻る」

 

 今度は口にして言い放つ。

 

 織姫はニコニコと、三月は納得するような顔を、一勇はきょとんとし、腕組をしていたコンはここで小さな口を開けた。

 

「なぁ? さっきから気にはしていたんだけどよ? お前らが『2002年から来た』ってんならこの『2013年』からどう『戻る』んだ?」

 

「う~ん、そのせんべい顔を見ると無性に揉みたくなる~」

 

「やめろよ?! 綿が出ちまうだろうが?!」

 

 自分をジッと見るコンに対して三月(幼)は手を伸ばすがすごく嫌そうで青ざめた様子のコンはテーブルの上を後ずさる。

 

「ん~、さっきの質問だけど宛はあるよ~? 一護が戻るのなら更に簡単で安価な手段。 今の『私』がパワー(出力)不足で貯えが無いとすると解決策は自ずと一つ……」

 

 三月(幼)がテーブルの上に乗せた頭を少しだけ浮かせて一護たちを見る。

 

「『補う』ことになるってこと~」

 

「……わからなくもねぇけど、そんな力どこからゲットするんだ?」

 

「う~ん、調子が良いのならいつも以上にバカ食いして『現状維持』から『行使用』に転換して上乗せするんだけど────」

「────ちょっと待った。 『いつも以上』ってお前、空座町のビュッフェからもう一人の大食いと一緒で出禁食らっただろ?」

 

「「(『ビュッフェから出禁』?!)」」

 

 コンはデフォルメ化した目の前の少女が食べ物をどこぞの『星の戦士』のように『食べる』のではなく、『吸い込む』状況を想像した。

 

 織姫は最初、『少しだけなら家で賄えるかも?』と思っていただけに『提案する前に黒崎君(一護)がビュッフェ出禁を言っていて良かった』と考えを改めた。

 

「フーン……でもそれじゃあ、お姉ちゃんはどうするの?」

 

「「「………………」」」

 

「フフフのフ~ンだ……そこは化け物染みた一護の霊圧をおすそ分けしてもらって使うのよ~ん」

 

「「「…………………………………………」」」

 

 さっきより若干長い沈黙が続いた末に一護があっけらかんとした態度で口を開いた。

 

「ああ、そうか! そうりゃあ盲点だったな! 俺からおすそ分けしてもらうのか~!」

 

「「はっはっは~」」

 

 ガシッ。

 

 三月(幼)の笑いに一護が合わせてから彼女の頭にアイアンクローをお見舞いする。

 

いだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいマジ痛い!

 

「って、さっきも俺は代行証を使おうとして死神化に失敗したんだぞ?! 生身の俺から霊圧を取る気かよ?! コイツ(生身)が死ぬわ!」

 

 一護は自分の体を親指で指しながら叫んだ。

 

 先ほど三月(幼)が虚に襲われていた時、彼は死神化した一勇を追うため代行証を使おうとした。

 

 だが彼の魂魄が肉体から離れようとした瞬間、まるで魂が直接引き裂かれるような酷い激痛が彼を襲って死神化を断念した。

 

 ゆえに彼は恥ずかしながらも(そしてプライドをグッと飲み込みながらも)、織姫に抱えられて三月(幼)と一勇の場所へと移動していた。*1 

 

「簡単簡単……ここで問いその(いち)~。 代行証は何でしょうか~?」

 

「??? 死神化する道具────

 

 一護はハッとして代行証を取り出し、()()()()の言っていたことを思い出す。

『XCUTION』という、社会からあぶれた者たちの組織の()()()()

 

≪いいか、一護? 代行証は『首輪』なんだよ。 『監視』と『()()()()()』のな≫*2

 

「(…………まさか、アイツの言っていたことがこんな風に返ってくるとはな…………)」

 

 かつて一護が利用されていたことを逆手に取ろうとし、彼を『瀞霊廷』側から『人類(ニンゲン)の弱小組』側へと寝返らそうとした『銀城(ぎんじょう)空吾(くうご)』だった。

 

「(銀城…………)」

 

「と、いうわけで~? それ()()()()()

 

「「「「え?」」」」

 

 三月(幼)は突然さっきまでの気ダルさが嘘だったかのようにぴょんと椅子から降りる。

 

「『戻る』のが、貴方の『願い』なら────」

 

 三月(幼)が何を思ったのか、外国の言葉をしゃべりながら自らの髪を抜く。

 

「────それに()()()()()()。 『Shape(形骸よ、) ist Leben(生命を宿せ)』」

 

 フォン。

 

 そして彼女の詠唱らしきもので、抜かれた髪の毛は床に落ちる前に糸状の巨大な剣へと変わりその場に浮いた。

 

これ(代行証)を壊した瞬間、恐らくだけど今までずっと制御されていた霊圧が一気に放出されるわ。 ()()()の瀞霊廷の人たちが異常に気付いてすぐに動くと思うけど、彼らが駆け付ける前にことを済ませるわ」

 

 ここで一護はふと、とあることを思った。

 

『このまま代行証を壊したら、こっちの“(一護)”や“井上(織姫)”に……“一勇”はどうなる?』と。

 

 パキン!

 

「ま────ッ」

 

 一護が何かを言い出す前に糸状の剣が代行証を割る音がすると同時に、彼女の足元に何かの陣のような模様が浮かび上がって一護は短く息を呑む。

 

 彼女の見た目が一瞬霞んだと彼が思ったころには、成人化白と金色をモチーフにしたような、肩とお腹(&へそ)を出したミニスカ風ドレスっぽい何かを身に纏っていた。

 

 冷静に第三者の視点から見れば際どい服装の上に今の彼女でも一護たちが知っている姿でもどこからどう見ても110番案件なのだが、その場にいた誰もが神々しいまでに優しい光を放つ彼女に思考が、あるいは語り掛ける本能で停止しかけていた。

 

()()』。

 

 上記の一言がぽつりと思わず零れそうになるほどのワンシーンで、感激に浸っている皆を横に三月(幼)は一護でさえも見たことない、優しい微笑みを浮かべながら特に誰にも向けていない言葉を続けた。

 

「『開きなさい、 天の(さかずき)』」

 

 彼女の胸の中から部屋を満たす光の元だと思われる何かがするりと出てくる。

 

「『幾億の小さな灯り。 望みを持つ、輝きたちよ。 どうか、無垢なる願いを聞き入れて……“天の杯(ヘヴンズ・フィール)”』」

 

 ドクン

 

「ウッ?!」

 

 一護は自分の胸の鼓動が一瞬、ひと際大きく唸りのを耳朶で聞きながら体が火照るのを感じ、胸に手を当てるとそこには見慣れた死神装束があった。

 

「……本当に、昔の黒崎君だ」

 

 気を失い、椅子からずり落ちそうだった一護の体を支える織姫が懐かしそうな視線をしに画化した一護へと向ける。

 

 彼女の腕の中の一護は『大人』に反し、今死神の姿である彼は少年の名残を残しつつ青年への成長過程のものだった。

 

「『私』が出来るのは貴方本来の『肉体』がある場所に送り返すこと……そこからは貴方の度量よ、『黒崎一護』」

 

 ここで一護は自分から三月(幼)へと視線を移すと、彼女の体が透けていたことに気付く。

 

 否。 『透けていた』のではなく、『透けていっていた』と表現するのが正しい。

 

「……三月……お前、消え────?」

「────一護。 貴方が()()()()()()()()()()()()()()()()()わ。 でも……────」

 

「────え?」

 

 一護は今までどんなジェットコースターや遊園地のアトラクションでも感じたことのない浮遊感の上に、体の筋肉や内臓などが動き回るような感覚の中で目の前は意識とともに暗くなっていった。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「本当に、良かったんですか?」

 

「何だネ? 私の判断に何か問題を感じているのかネ?」

 

「まぁ……隊長の昔からの(行動無茶ぶり無理難題)は慣れていますけど……『代行証』関連の報告と機能の変更などは本来、管轄の十三番隊と総隊長に伝えるものでは?」

 

「百も承知の上での『()()()()()()()()』だヨ? 『プライバシーコンプライアンス』というものだヨ」

 

「……………………………………………………………………………………」

 

「君の『ナニソレ胡散臭い』と癪に障りながらも鬱陶しいまでに訴える表情筋に免じていうが、私もまさか何重にも施されている結界や防御機能をいとも容易く()()()使()()()()()などと言った奇妙なモノで破るとは夢にも思わなかったヨ」

 

「マユリ様って寝るんだ?!」

 

「……眠八號(ねむりはちごう)、私の服は梯子ではないヨ? 上るのはやめたまエ。 それはそうと『寝る』のは『言葉の綾』というものサ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

「………………………………………………………………んあ?」

 

 ヒンヤリとした乾いた空気が吹く感覚と、閉じた瞼の向こう側から入って来る光源に気が付いて俺は目を覚ますと、夕焼けのように真っ赤で雲一つない空を見上げていた。

 

「気が付いたか、一護」

 

「チエ────グオォ?!」

 

 急に起き上がったせいか、体中が酷い筋肉痛だったようにズキズキと軋んで体を再び地面に寝かせた。

 

「……どこだ、ここ? (背中と首の後ろにザラザラするこの感じ……どこかの砂浜……いや、虚圏か?)」

 

「この辺り一面が砂漠と見ると、虚圏と言いたいところだが……どうだ一護? 霊圧は感じられるか?」

 

 チエが肩をすくませながらそう言うと、一護は『砂漠』と聞いてネルの顔が頭の中に浮かび上がる。

 

 彼は目を閉じて、霊圧探知を試みるが……

 

「いや……何も周りから感じない」

 

「そうか……取り敢えず、移動するぞ。 立てるか?」

 

 一護は数回息を吸ったり吐いたりしてから首を縦に振るいながら感じる痛みの中、立ち上がって背中の違和感に気付く。

 

「いつつつつつ……ん? 刀?」

 

 それは自分の斬魄刀とは別にあった、チエにもらった刀だった。

 

「どうした?」

 

「あ、ああ……なんでも。 (変だな……アイツ(三月)に死神化してもらったときは無かったのに?)」

 

「それより他の皆や、三月はどうした?」

 

「あー、ほかの奴らは知らない……お前は見ていないのか?」

 

「見ていたら、私が聞いていると思うか?」

 

「だよな……んで、アイツは……」

 

 そこから一護は簡単にチエへ、自分がここで気が付く前の一連の出来事を説明した。

 

「…………………………………………そう、か」

 

 考え込んだ様子のチエはどこか引っ掛かりを感じたらしい言葉を言い、そのまま歩き出して一護は彼女のあとを追う。

 

「チエはアイツを見ていないのか?」

 

「いや、見ていない。 山ほど聞きたいことがあるが、居なければどうにもならん」

 

「聞きたいことって?」

 

「……………………『何をしたかったのだ?』、と。 『何故お前がもう一体いる?』、と」

 

 一護の脳裏に浮かんだのは自分が2013年らしき空座町に飛ばされる前に見た女性。

 

 藍染が卍解を使用し、『母上』と呼んだ存在だった*3

 

「(そう言えば、アイツ……なんであの時、ああ言ったんだ?)」

 

 そして赤色の夕焼けに近い空を見上げながら一護はチエと再会する直前に三月(幼)の言ったことを思いながら足を動かした。

 

『一護。 貴方が次にどんな状況に陥るかは分からないわ。 でも……

 

 

 ()()()()()()から』。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「「…………………………」」

 

 二人が静かに砂漠の上を歩く度に、ザクザクと彼らの足が砂を踏む音が鳴る。

 

 そこでようやく、一護はチラチラと目の前を歩くチエを見て口を開けた。

 

「な、なぁ────?」

「────一護が起きたところで話すぞ」

 

「『話す』って────」

「────何か聞きたいことがあるような視線を送っているのでは?」

 

「(チエがどこかソワソワしている?)」

 

「どうなのだ?」

 

「……じゃあ、そうだな。 浦原さんや藍染の言っていたことに関してだ。 アイツは本当に……十年前、おふくろを見捨てるつもりだったのか?」*4

 

「………………………………」

 

 チエがわずかに首を回して一護の真剣な顔を横目で見る。

 

「まず、藍染が霊王宮で言っていたことだが……(三月)が見捨てるつもりだったのかは正直分からん。 だが、奴が相当悩んだことと時間をかけ過ぎたことに後悔していたのは私が見ていた」

 

≪貴方、『楽しむ』為に色々と動いているんスね?≫

 

 彼の脳裏をよぎったのは浦原の言った言葉。

 

 そしてその問いに対し、完璧に無表情と表情筋が変わった三月の顔だった。

 

「(分からない……俺は……アイツは……)」

*1
142話より

*2
116話より

*3
138話より

*4
138話より




『天の杯』:

現代で『魔法』が失われつつある、とある世界での『第三魔法』の亜種。

『第三魔法』:
物質界において唯一永劫不滅であり、『肉体』という『枷』に縛られた魂を単体で存続できるよう固定化する失われた『魔法』の別名。
『精神体』のまま『魂』のみで『自然界に干渉できる』という、高次元の存在を作る業。 
または『魂』そのものを『生き物』にし、存在のあり方を次段階の生命体として確立させる。


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第146話 Impending Jail

お待たせしました、遅くなってしまましたが次話です。

相変わらずの急展開などですが、楽しんでいただければ幸いです。

後余談ですが最近リアルでの出来事が大変かもしれませんが、皆で頑張りましょう…………………………

2/25/2022 1:30
あまりの疲れに眠れなかったので隠密鬼道→隠密機動の誤字修正しました。


『絞殺。』

『刺殺。』

『射殺。』

『銃殺。』

『薬殺。』

『毒殺。』

『圧殺。』

『殴殺。』

『撲殺。』

『斬殺。』

『轢殺。』

 

 などなどなど。

 

『母上』と呼ばれていた■■■■は様々な『業』を直に経験した。

 

 否、()()()()()()

 

 異変が起き始めたのは『母上』が『子』達の声に答えなくなった時、突如として各星で異常が多発していった。

 

 一つの星では『生と死の境界線が崩壊し、死者が姿を変えて蘇って生者を襲う』といった無限ループが出来ていた。

 

 もう一つでは主にあらゆる技術や法則の基礎となっていた資源だったモノが消失など。

 

 これらのような異常が全ての星に同時に起こり、『子』達は今まで通り直接関与が出来ずに混乱したものの、後にできる対処を施し、やっと『母上』が言ったのはたった一つの言葉。

 

かなしい』、と。

 

 


 

 

 

 ___________

 

 吉良イヅル、雀部長次郎 視点

 ___________

 

「ふん!」

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリ

 

 雀部が『厳霊丸』から放った電撃がマネキンのようなのっぺりとした一体に包まれて痙攣する。

 

「せい!」

 

 ドン!

 

 吉良の力んだ声と共に彼の『侘助』がのっぺりしたマネキンらしきモノに直撃して、それが地面へとひれ伏す。

 

 ザクッ!

 

「いや~、味方でよかったぜ」

 

 上記の二人を見ながら地面に倒れていたマネキンっぽいモノたちをカリンが手に持っている槍で一体一体、丁重に胸を貫いていく。

 

「確かに~。 『でんじは(厳霊丸)』で動きを止めてさらに『侘助』で地面に縫い付ける連携、いいですね~?」

 

 リカと言えば隠密機動たちとマネキン(仮名)たちから保護(という名を借りた『捕獲』)をしていた。

 

「(とはいえ、さっきの『アレ』は異常でした……まさか『この世界(BLEACH)』で魔術耐性を持っているモノがあるとは……完全に藍染が絡んでいますね)」

 

 マネキン(仮名)たちにリカは先ほど先制攻撃を与えたところ、これと言って大した効果は見えず、ただ自分たちの存在を明かしただけに終わった。

 

 その流れで雀部と吉良、そしてカリンはリカと隠密機動たちにミラ・ローズ、アパッチ、スンスンの保護(捕縛)を頼み、マネキン(仮名)たちに突撃した。

 

 案の定、『厳霊丸』と『侘助』の能力や、カリンの槍などの物理的な効果があったことでマネキン(仮名)たちは各個撃破されていった。

 

 というのもマネキン(仮名)たちは彼ら彼女らの到着に戸惑った、あるいは三人の前で動揺しているかのようにおぼつかない反撃を繰り出していた。

 

「は~い、注目~」

 

 リカが袖の中に入れたままの手を、どこか汗を出しながら息切れをしていたミラ・ローズ、アパッチ、スンスンへと振り返る。

 

「ん……だよ……ちび助? 礼は、言わねぇぞ?」

 

「うーん……やはり『のっち』に似ていますねぇ~?」

 

「しゃべり方が……なんかあのクソおかっぱに似ている」

 

「…………少女であるだけ違和感が半端無いですが」

 

 やがて三人の破面たちは息を整えつつも、いつもの覇気のようなものは無く、隠密機動へと警戒や敵意すら感じられなかったことに雀部と吉良にカリンは不思議に思った。

 

「…………貴様たちはいつかの、『十刃(エスパーダ)』の従属官たちだな?」

 

「雀部副隊長、こいつらは確か松本副隊長と相対していた三人です」

 

 雀部は視線を破面たちから外さず、吉良の肯定するような言葉にうなずく。

 

「なるほど、記憶違いではなかったか────」

「────あなたたち、もしかしてですがグリムジョー……またはネリエルか()()()()から()()を聞いてやって来たのですか?」

 

「「「(????)」」」

 

 スンスンの言ったことに雀部、吉良、カリンの三人は?マークを内心に留めた。

 

「事情と言うのは、さっきの『アレ』がらみのことと『虚圏の変化』についてでしょうか?」

 

「ちょっ?! リカ?!」

 

「ここで無意味な意地を張っても時間の無駄ですし、何よりこの三人は『私たちから逃げよう』とか『マウント(主導権)()る』という様子も見られないのは以前の彼女たちを知っていれば異常です。 ここは手っ取り早く()()()()に入ったほうが良さそうです」

 

 いきなり饒舌になったリカにカリンは呆気に取られ、吉良はため息を静かに出す雀部を横目で見て、それが合図だったかのようにリカは破面たちをもう一度見る。

 

「ちなみにボク達は瀞霊廷ごと虚圏に転移されています」

 

「「「はい?」」」

 

 今度はアパッチ、ミラ・ローズ、スンスンたちがポカンとしたような声を出す。

 

「アレです、アレ。 土地ごとの『反膜(ネガシオン)』みたいな感じで~、『ドバー』っと尸魂界から瀞霊廷が『ドズーン』っと虚圏に降り立つ? みたいな~? まぁともかく、そんな感じでボク達は周りを見ているんですよ……で、虚圏で合っていますよね? ここ?」

 

「……………………チ。 ああそうだよ、虚圏だよここは……()()な」

 

 リカの問いにアパッチが舌打ちをして渋々とした感じで答える。

 

「『一応』? それはどういうことだ、破面?」

 

「雀部副隊長、彼女の名前は『アパッチ』だと聞いています」

 

「あ゛?! なんでお前がオレの名前を知ってるんだ根暗野郎?!」

 

「それは今の情報交換に必要かい? (まさか無理やり付き合わされた松本(乱菊)さんの飲み会から得た知識がここで役立つとはね。)」

 

「ではゴリラたちを無視して話を続けましょう」

 

「ゴリラだと?! そりゃミラ・ローズじゃねぇか?!」

 

「ちょっと待て! アタシは何もしていないぞアパッチ!」

 

 急にガミガミと言い争い始める二人をスンスンは無視して、彼女は自分たちの事情を簡単に説明する前に、先ほどの『十刃や十刃落ちに事情を聴いてやって来たのか?』の意味を知ることとなる。

 

「雀部副隊長。 先ほどの異形たちが大勢、こちらに向かっています!」

 

 隠密機動の一人が突然近くに現れ、慌てようが報告の内容を物語っていた。

 

「ここまでたどり着く時間は?」

 

「……見た感じではそう遠く距離は開いていません」

 

「……だそうだ。 先に『アレ』を説明しろ。 あれらは感覚で言えばお前たち破面に近い────」

 「────あれらがアタシらなんかと同じなもんか!」

 

 雀部が破面とさっきのマネキン(仮名)を比べ始めるとミラ・ローズが抗議の言葉を上げて雀部は内心、読みが当たったことにほくそ笑む。

 

「(やはりな。 藍染戦でも思ったが、日番谷隊長の報告によれば彼の相対した十刃は『統制』と奴なりの『秩序』を重んじていた。 であれば、従属官たちもある程度それに影響される)」

 

「あんなモノ、『()()()()()』と呼ばれることさえも腹立たしい!」

 

 「ッ! 雀部副隊長!」

 

 ドッ!

 

 突然何を思ったのか、雀部の近くにいた隠密機動の一人が彼にタックルのようなものをかます。

 

「な────?!」

 

 ────ドドドドォン

 バシャア!

 

 最初の隊員が動くと同時にほかの隠密機動たちは何かに築いたかのように動いた。

 

 だがそれがあらかじめ予測されていたようにそれぞれの動く速度以上で飛来してきた霊子の矢によって串刺しにされ、血が砂漠の砂に付着していく。

 

「おや? 滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)で強化された私の神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)に気付き、身を挺して司令官を守るとは敵ながら天晴ですね」

 

 上記の言葉言いながら、まるで羽のような身軽さを感じさせる足取りで一人の男性が砂を踏んで雀部たちに近づく。

 

 頭上に光輪と猛禽類のような巨大な翼に、右手には軍刀サーベルの形をした青白い刃。

 明らかに義手のような精密機械らしき左手。

 そして背後には先ほどのマネキンらしきモノたちが静かに立っていた。

 

 その姿はまるで、『機械技術を追加した天使』が『人型の人形』を引き連れているようだった。

 

「『キルゲ・オピー』か!」

 

「来やがったか、メガネザル!」

 

「せっかく貴方たちの主が無い力を振り絞り、それに免じて()()()()というのに雑兵相手にこの体たらく……やはり所詮、獣は獣ですか」

 

「貴様! 『ハリベル様に免じてアタシたちを逃がした』だと?!」

 

 アパッチたち破面が新たに表れた男に対して敵意をむき出しにしている間、雀部たちは各々の持ち始めた疑問について考えた。

 

「(この男……服装からして滅却師のようだが、()()()()()()とはどういうことだ?)」

 

「(『何も感じない』上に、大気中にあるのは霊子ではないのにそれらしい兵装をしている……どういう理屈だ?)」

 

「(うっわ。 おかっぱにサングラスにシャッターのような形の目なんて……どれだけ悪趣味だ? それに単独でオレ達のいるところに殴り込むとは、よほどの自信がありそうだな……)」

 

「(何です? この胸のモヤモヤと、肌がざわめく感じは?)」

 

 上記から雀部、吉良、カリン、リカの思惑である。

 

「ハァ。 もういいです。 あとは死神たちを殺し、貴方たちから再度情報(ダーテン)を取り出し(ます)。 新しい陛下に感謝してほしいですね。

 貴方たち『弱者』でも『家畜(サンプル)として扱え』とお達しがあり(ます)ので」

 

 ゾボァァァァァァァァ!

 

 キルゲの頭上にある光輪から急に己が強引に引き付けられる、吸引力にも似た力がその場を襲う。

 

「ぐ……あああああああ?!」

 

「砂が?!」

 

「くッ!」

 

「……砂だけでなく、隠密機動たちの体もが吸い込まれていく?!」

 

 吸引力に地面の砂、さっきの攻撃で息途絶えそうな者たち、そして雀部たちからまでもがそれぞれ光の因子が血の代わりに流出していき、キルゲの頭上にある光輪へと吸い込まれる度に彼の肉体が徐々に大きくなっていく。

 

「『聖隷(スクラヴェライ)』。 まさに隷属するためにあるような技です────」

 

 キルゲの横からほかの皆と同じように、皮膚の露出している顔と腕から光の因子が吸い込まれていくカリンが紅い槍を突く。

 

「────『刺し穿て! “刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”』!」

 

 ザクッ!

 

「ッ」

 

 カリンの槍は突然キルゲの背後に現れたマネキンに刺さる。

 

「志願、誠にありがとうござい(ます)。 まずは貴方から殺しましょう

 

 カリンの背中にゾクリと寒気が走ってはすぐに彼から距離を取り、リカがコソコソと近くでこの急展開に戸惑っていた雀部に小声で話しかける。

 

 「今から『()()』の準備をします。 ()()()相手の気を逸らしてください」

 

「危機に(さと)い貴方も獣の類ですか。 いやはやどうしたものか……ああ! このまま人工破面たちの情報(ダーテン)サンプルにし(ます)

 

 キルゲの義手が上がると今まで距離を取っていたマネキンたちが一気に弱体化していくカリンたちに襲い────

 

 「────『厳霊丸』!」

 

 バリバリバリバリバリバリバリ!

 

 刀身から広範囲に雷を雀部が放出し、リカはトテトテと短い足で必死に走っていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()でも、オレらも黙ってやられるタチじゃねぇ! 混ぜろや!」

 

「アパッチと同じ意見なのは癪だけど同感!」

 

「ゴリラ二人は黙ってその脳ミソまで無駄に大きい筋肉をせいぜい有効活用してください!」

 

 雀部の初撃が引き金だったように、彼らとマネキンたちとの攻防は先ほどと同じように………………………………ならなかった。

 

「(こ奴らの動き────!)」

「(────さっきのと全然違う!)」

「うらぁ! (こいつら……『学習』している?! まるで()()()()じゃねぇか?!)」

 

 さっきのぎこちない動きが嘘だったかのように、マネキンたちの動きは過激だった。

 

「ヌ、グゥゥゥゥ?!」

 

「雀部副隊長!」

 

 雀部が初撃を放ったのが関係しているのか、マネキンたちの大部分は彼を束で襲い、『厳霊丸』の特性を理解しているかのように互いが感電しないように距離を開けていた。

 

 バリ! バリバリバリバリ!

 

 さっきの電気が放電するような音とは違い、今度は布が力ずくで破れていく音が聞こえてくる。

 

「「「「「きゃははハハハハハ!」」」」」

 

 次に聞こえてきたのは、ケタケタとした笑い声だった。

 

「(こいつら、()()()()()()()()?!)」

 

 カリンたちが見たのはマネキンたちの頭部の、人間で言えばちょうど『口』にあたる部分に穴が開き、そこから笑い声は来ていた。

 

 雀部、吉良、そしてカリンたちが内心驚きながらも応戦していく後ろでは、リカは危ない足取りのまま杖を引きずり、時には攻撃の余波や戦闘から距離取るようにピョンピョン飛びながら光の玉を撃ち込んでいく。

 

「どこへ行くのです?」

 

ギクリ

 

 そんな彼女の背後に静観していたキルゲが声をかけては彼女の肩が跳ねる。

 

「ふむ……前陛下と相対していた少女に似ていたと思い、警戒していましたが貴方は違うようですね?」

 

「あー、まぁー、そのー、違わないこともないのですがー」

 

 しどろもどろに答えて動かないリカの頬を汗が伝う。

 

「ではあなたもサンプルとして────」

 

「────無償のおさわりはノーサンキューです!」

 

 リカが杖を地面に打ち込むと、彼女を中心に地面が光りだす。

 

「お前ら、この上から引け!」

 

 カリンの言葉に雀部と吉良はすぐさま飛び、アパッチとミラ・ローズはカリンとスンスンに引っ張られる。

 

Ὀκυπέτη(オキュペテー)!」

 

「逃がしませんよ! あなただけでも────!」

「────Αλυσίδα φάντασμα(アラクネ)!」

 

 リカに手を伸ばしたキルゲの義手を始め、光で出来た縄のようなものが彼の体を拘束していく。

 

「「「「「ギィィィィィィィィィィィ?!」」」」」

 

「『聖隷(スクラヴェライ)』の影響を『受けつけない』……だと?!」

 

 周りを見れば、マネキンたちも同じように拘束されていって耳をつんざくような音を出す。

 

当たり前よ! こちとら伊達に『魔女』なんてやっていないわよ?! 舐めないでよこのおかっぱ!

 

 そのまま拘束されたキルゲと『人工破面』と呼ばれたマネキンたちはズブズブと沈んでいく。

 

「霊力に頼らない術など、即座に行使できるはずが────!」

「────舐めないでよこのおかっぱ! 力の変換なんて()()かかれば師匠がキュケオーンを作る前に可能よ?!」 ←何を言っているんですか? と言うか中指だけを上げるのはGAIJINだけにやめて頂きたいです

 

 そのままキルゲたちと人工破面と呼ばれた者たちが沈んでいき、次第に地面の浮かんでいた陣が輝きを失うと同時にリカは倒れる。

 

あ~~~~~。 宗一郎さまが居ない場所に呼ばれたと思えば今度は『大魔術を連続で行使してくれ』なんて無茶ぶり……はぁ~~~~~、億劫になるわ~~……よく『以前に設置した転移陣を再利用する』なんて咄嗟に思いついたわね、この子?

 

「ヌ……う……」

 

「雀部副隊長?! ケガを────?!」

「────私は良い……」

「で、ですが!」

 

 気ダルそうにリカ(?)がため息を出すと、彼女と違って雀部はくぐもった声を出して吉良が駆け寄る。

 

んで? これってどういうことかしら?

 

「あとでリカにでも聞け」

 

ああそう……ところで、『アッチ』から少し嫌な感じがするのだけれど誰か見てくれるかしら?

 

 リカ(?)が上半身だけ起き上がれて指差したのは彼女たちのグループをぐるっと囲んだ砂丘でもひときわ大きい一つの方角。

 

「んあ? どれどれ……」

 

 カリンがザクザクと砂丘の頂上を目指して歩き、吉良は持ってきた四番隊の携帯救護サックを開けて応急処置をし始める。

 

「ん~~~~?」

 

 カリンが頂上まで登り、目を細めて遠くにある『何か』を見ようとする。

 

「…………なんだ、あれ? いやまさか……おい! ()()()()()! そいつの処置終わったらこっち来てくれ! アンタたち三人もだ! 確認したいことがある!」

 

 カリンが吉良、アパッチ、ミラ・ローズ、スンスンたちに声をかけ、彼ら彼女らが砂丘の頂上に着くまでその場から動かなった。

 

「どうしたんです? というか、何急に僕を本名で呼ぶんですかカリンさん?」

 

「お前には『アレ』がどう見える?」

 

 近寄った吉良を、カリンが真剣な顔でとある方角を指す。

 

「…………クソ、ここまで広がっているのか」

 

「マズいな。 ハリベル様の言った通り、十刃や十刃落ちたちと合流せねば」

 

「(何なんだ一体?)」

 

 アパッチとミラ・ローズの言葉を横で聞いた吉良は双眼鏡を出して、それでカリンたちの視線を見ると固まった。

 

「え? なんだあれ……()()?」

 

 吉良が見えていたのは波のようにゆらゆらと蜃気楼のように揺れ動く()()()()()()()()()()

 

 虚圏の白い砂漠の上で動くそれは地平線と少しだけピントが合わないような────

 

「────ま、まさか?!」

 

「ああ、吉良のその反応で悪い予想が当たったか……」

 

 吉良たちが見ていた景色は一面を埋め尽くすほどの、異常な数の人工破面が軍隊のように地を踏んでいく場面だった。




『オキュペテー』と『アラクネ』。

とある女性の扱う、魔術の詠唱を日本語に略した発音。

本来なら何行にも渡ってしなくてはいけない詠唱をたった一言に収める彼女はまごうことなき『稀代の大魔術師』に部類されるほどの天才で、ギリシャ世界において東の果てと言われたかつてコルキス国が健在だったころの姫君。

運命を神々に弄ばれて悲運な最期を迎えたと言われ、後に『裏切りの魔女』と呼ばれることとなる。


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第147話 『戦争を終わらせる戦争』

大変お待たせいたしました、『瀞霊廷in虚圏』の続きを投稿です。

急展開や文字足らずでうまく表現できているか不安のどきどき中ですが楽しんで頂けると幸いです。

2/26/2022 00:55
誤字修正いたしました


 上位存在、または高次元の者たちは『かなしい』という理由で、自分たちの管轄下にある星の秩序が乱されたことは堪ったものでは無かった。

 ただ「悲しい」と言うだけで何百、何千、何万という時を超えて、管理をしてきた自分達の世界が滅茶苦茶になるというのが。

 

 そしてふと、『子達』は思う。

 

『もし“悲しい”で()()ならば……“失望”や“絶望”などをしてしまったらどうなるのだ?』、と。

 

 

 


 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「まさか『転移』とは」

 

 ガッ! ガッ! ガッ! ガリィン!

 

 けたたましい音とは裏腹にキルゲの冷静な声が半壊した壁に響く。

 彼が今見下ろしたのは、右手の軍刀でめった刺しにした地面。

 

 そこには以前、井上織姫を藍染から奪還するために虚圏へ一護たちと一緒に乗り込んだ際に『虚夜宮(ラス・ノーチェス)』の敷地内に刻まれた転移陣の一つだった*1

 

「いやはや、流石は『あの方』に似ているだけあって出鱈目なことをし(ます)ねぇ? ……ですが『ここ』ならばさほど問題はございません」

 

 ゴリ! ボボボボボボボボボ!

 

 キルゲが義手を上げると、彼と同じように恐らく転移させられた人工破面たち数体は血肉が力任せに潰されていく音がした後、出来上がった鞍と手綱が付いて四足歩行の馬のようなモノにキルゲは乗ってからその場に残った人工破面たちを見る。

 

「お前たち、『転移陣を残らず壊しなさい』」

 

 それを最後にキルゲは馬(?)を出させて人工破面たちの鈍器のような手によって更に壊されていく虚夜宮(ラス・ノーチェス)を後にする。

 

「さて。 『獣』には飽きてきたところですし…………瀞霊廷の者どもも、破面(アランカル)同様に()()()行きましょうか」

 

 キルゲは今まででもひと際深い、内側からこみ上げる高揚感にニチャリとした笑みをする。

 

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷組、3獣神(トレス・ベスティア) 視点

 ___________

 

「貴様は何を考えておるのだ?!」

 

「ですが彼女たちは重要な情報源、そしてここは虚の巣。 であれば────」

「────破面を瀞霊廷に招き入れるなど言語道断!」

 

「ですが弱った彼女たちに────」

 

「貴様にそのような権限は無い! 貴様は一隊長であり、あの憎たらしい総隊長の代理などではないのだ、四番隊の卯ノ花隊長!」

 

 場所は四十六室。

 

 そして中央には今瀞霊廷で唯一残った卯ノ花が自分を非難、あるいは罵倒の言葉を四方から浴びていた。

 

 彼女は戻ってきた重体の雀部に肩を貸していた吉良、そしてアパッチ、ミラ・ローズ、スンスンたちを見張っていたカリンたちが弱っていることを理由に全員流魂街の検問から一気に引き入れて治療をしながら事情を聞き、すぐに『護廷十三隊の隊長』としての義務を果たしに四十六室に報告をしに来ていた。

 

 別に彼女はこれで何かが変わるとは思わなかったが、事の内容が内容だけに『これで頑固者たち(四十六室)から総隊長の代理、あるいは権限さえ限定的に総括に瀞霊廷の守りを固めて備えることができる』という希望を少なからず持っていた。

 

「(やはり、無駄でしたか……)」

 

 卯ノ花は全く感情を見せない表情のまま、さっきからずっとソワソワして小声でヒソヒソと話し合う四十六室の様子を伺っていた。

 

「して、四十六室にお願い申し上げま────」

 「────下がれ、卯ノ花隊長!」

 

「では、そのように」

 

 卯ノ花は頭を下げ、その場から退場しようとすると最後の言葉にピタリと足を止める。

 

 「我々は瀞霊廷が次にとる行動の議論をし、すぐに追って伝える! ()()()()()()()()()()()()()!」

 

「…………承知いたしました」

 

 卯ノ花はそのまま四十六室たちの居る禁踏区域内から出たところで待っていた右之助が彼女を見てため息を出す。

 

「その様子じゃ、『()()()()』と言ったところじゃの?」

 

 卯ノ花はやっと表情をここで崩しながら口を開ける。

 

「ええ。 ()()()()()()()()()()()

 

「そうか。 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「右之助様。 ()()()()にお戻りしていますよ?」

 

「そういう烈こそ」

 

 二人はお互いに負けない程の、いつものほんわかとした笑みとは正反対の背筋が凍るような笑みを浮かべていた。

 

 だが二人は知らない。

 

 

 

 

 四十六室がどれだけの愚か者たちだったかを。

 

 

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「う、卯ノ花隊長!」

 

 被害を出しつつも遠征隊が戻ってから数時間後でも四番隊の総合詰所は先の巨大虚の襲撃のケガ人や避難の際に負った重傷の流魂街の住民などでごった返していて騒がしかったにも変わらず、四番隊ではないかの隊員の慌てようと汗まみれの顔は尋常ではなかった。

 

「なんでしょう、深山(みやま)八席?」

 

 卯ノ花は平然とした態度と愛想よい笑みを浮かべたまま、先ほど薬物などで物理的に治療していた患者から視線を深山八席に移す。

 

「さ、さっき俺、友人から聞いたんですけど……『四十六室が逃げた』っていう噂が広まっていて────!」

「(────思ったより早かったですね────)」

「────あいつら、大勢の奴らを連れだして────!」

「(────『大勢』とは少し意外でしたね────)」

「────しかも『西()()()に避難する』と宣言していました!」

 

 ガシャァン!

 

「ッ」

 

 深山八席が素早くかつ短く息を吸ったのはガラスの容器が落ちたせいではなく、

 

 

 

 

 

 

 

 卯ノ花のスンとした、冷たさを感じさせる顔に彼は思わず怯えた。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 上記の深山八席が噂を聞きつけて卯ノ花に報告する少し前に時間は遡る。

 

「ここを通せ!」

 

 瀞霊廷にある門の一つ、『青流門(しょうりゅうもん)』では四十六室と彼らの親族たちや知人、そして決して少なくは無い鬼道衆と隠密機動の隊員たちを連れていた。

 

 姿と顔を覆うようなフード付きマントを全員が着用して。

 

「で、でもオラ────」

「────我々は四十六室! そこをどけと言っているのだ、この門番風情が!」

 

 じ丹坊(だんぼう)に似た体の大きい門番はオロオロしながらも、渋々と彼らを通す。

 

 彼らは卯ノ花と右之助が予想していた行動の一つを取っていた。

『逃げる』と言う選択を。

 

 だが卯ノ花と右之助は見誤った。

 

 彼ら(四十六室)の親族たちや知人経由で行動に走る人たちの多さ、つまりは『人脈の深さ』だった。

 

 幸か不幸か、これは藍染が以前の『四十六室を皆殺しにされたのに誰も気付けなかった』と言うことを教訓として、今度の者たちは『自分たちが何かの拍子で消える、または異常事態があれば即座に他人が気付けられる』方針として幅広い他者との付き合いが許された。

 

 と言うのは建前上で、実際は『以前よりオープンに(大通りで)権力を振りかざすことができるようになった』と言うのが近い。

 

 これによって既に減っていた瀞霊廷の戦力はかなりごっそりと持っていかれた。

 

 だが覚えてほしいのは『保身に走る』と言う行動自体は罪ではなく、誰もが持つ『己の種を残す』と言った『生存本能』の一環。

 

 他の大勢の者が四十六室から情報を聞けば、同じようにするのは仕方がないかもしれない。

 

『得体の知れない異形の大軍勢が瀞霊廷に向かっている』、とあらば。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「う、卯ノ花隊長?!」

 

 突然卯ノ花が立ち上がった思えば彼女の体がふらついて深山八席は思わず駆け寄った。

 

「(今に始まったことではないが……なんと……なんと愚かな者たち……)」

 

 実のところ、『総隊長の代理、あるいは権限さえ限定的に総括に瀞霊廷の守りを固めて備えることができる』と言う希望もあったのは偽りではない。

 

 が、本命は『報告で四十六室は動かざるをえなかった』という期待の方が大きかった。

 

 何せもし瀞霊廷の現状況が安定すれば、四十六室は恐らくこの来るべき防衛戦の功労者たちを事後、『危険分子』とみなす可能性があった。

 

 そしてその所為で過去、様々な分類で優秀な者たちが次々と後を絶たずに消えて忘れられていったことを卯ノ花は危険視していた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()だけに彼女はそのことを人一倍理解していた。

 

 彼女が昔も今も、護廷十三隊に所属し続けられたのはひとえに護廷が設立された当時からの隊員としての()()()()功績と、同じく護廷の総隊長で在り続けた山本元柳斎の口添え、そして尸魂界全体の医療技術を右之助とともに向上させていたから。

 

 でなければ彼女は真っ先に『蛆虫の巣』へと軟禁されていただろう。

 

 それほどまでに彼女の『功績』はあまりにも()()()()()()

 

「深山……八席……十二番隊を除いた副隊長たち、および席官たちを含めた隠密機動と鬼道衆全員を緊急招集。 そして技術開発局には、『私が直接参る』と事前連絡をしてください」

 

「え? は、はい!」

 

「あと……緊急集合し次第、吉良副隊長と遠征隊たちに『展示良し』と言えば彼らはお分かりになります」

 

「?」

 

 最後の『これ』によって、瀞霊廷に残った死神、隠密機動、鬼道衆も四十六室に報告された内容を知ることとなり、瀞霊廷に長い夜が訪れる。

 

 

 

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷内 ()()()() 視点

 ___________

 

 場所は元々隊首会が行われている際に副隊長たちが待機する部屋と、隣の部屋へと通じるふすまを取り除いた大部屋。

 

 そこには重症の雀部や雛森、リカやネムに他の十二番隊以外の副隊長と席官たち、隠密機動と鬼道衆らしき者たち数名が唖然としていた。

 

 彼らが注目していたのはさっきまで話をしていた吉良とところどころ情報などをつけ足した、アパッチ、ミラ・ローズ、スンスンの三人。

 

 その中でも特に彼らが最初注目したのは吉良含めた遠征隊たちが3獣神(トレス・ベスティア)たちから聞いた『人工破面』に関して。

 

 その名の通り、『人工破面』は創られた存在。 以前、藍染が崩玉を使って『自然進化することのない虚を無理やり人型にする』と言う実験を覚えているだろうか?*2

 

 今回の『人工破面』は、破面の成体を人工的に作る為に上記の副産物たちやウルキオラなど崩玉を使って成体化した破面とは根底から違っていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と、神の如き所業の産物が『人工破面』だった。

 

 そして3獣神の三人、そしてハリベルは藍染の指示通りに偽・空座町から離脱し指定された合流地点で待機していると藍染の指示で元星十字騎士団(シュテルンリッター)のキルゲ・オピー率いる『Landwehrkorps(ランデュエヘール部隊)』に奇襲され、身柄を監禁されていた。*3

 

 いや。 

『監禁』と言うよりは、『人工破面の実験体』にされていた。

 それらは文字通り『命を懸けた実験』だが。

 

 彼女たちと上司であるハリベルと共に日々の実験などで帰刃(レスレクシオン)もできない程霊圧を抜かれた上に弱体化していったが、自前の信頼と連携をもとに人工破面相手などに生き残った。

 

 そんなある日、()()()キルゲが彼女たちを監禁した研究室らしき場所に居ない日が訪れた。

 ハリベルはこのことを悟い、自分の生命力を霊力に変えて帰刃(レスレクシオン)を行い、血を水代わりに使ってアパッチ、ミラ・ローズ、スンスンの三人を逃がすことに成功した。

 

 逃がして、キルゲたちや研究員らしき滅却師達が時々口走ったことを希望に。

 

『他の十刃たちの確保はまだか?』、と。

 

 つまり彼女たちが今まで生き残れた要因の一つはほかの破面たちが対抗していたからと思い、ハリベルは上記の賭けに出た。

 

 その『賭け』自体がキルゲの思惑だったのは疲労していた彼女たちには思いもよらなかったが。

 

 さらなる詳細などを省いて、彼ら彼女らが集まった副隊長や鬼道衆に隠密鬼道たちに話した内容とは────

 

 

 

 

「────『10万体以上の人工破面の大軍勢が瀞霊廷に進行中』……だと?」

 

 

 

 

 そう口に出したのは誰だろうか。

 あるいは、皆が意識していたことを思わず同時に口に出しただけか。

 

 緊張からの汗と、自分の見たものを未だに信じられないまま、ありのまま見たものを説明した吉良自身が感じていた心の声か。

 

「ああ……最初はこいつら破面が僕たちの戦力分断を狙ったホラ話かと思ったけど……実際に見たんだ」

 

「あとお前が言っていた『マネキン』はオレらの知っている『人工破面』の種類としては()()()()()()()()()奴だ」

 

 アパッチの『一番量産されていた』と言う言葉にさっきまでの静けさはより静かくなっていく。

 

 今ならパチンコ玉一つが床に落ちただけで耳が痛むだろう。

 

「頭がおかしくなりそうだったよ。 僕もあんな大群、見たことも……聞いたこともない。  それに進軍の速度から推測して……おそらく一日二日ほどでここに着く」

 

「あと補足ですが、人工破面たちは『疲れ』を知りませんのでそれより早くなる可能性も大いにあります」

 

 吉良はついにカラカラになった喉を潤すために、渡された水筒を一気飲みしている間にスンスンが口を開けたことで空気がさらにシーンと重くなる。

 

 ゴクゴクと水が吉良の喉を通る音以外、何も聞こえなかったほどに沈黙が一帯を支配したのも数秒間、一気に不安が広がっていく。

 

「どうすれば────?」

「こんな時に、隊長たちと連絡が取れないなんて────!」

「流魂街の魂魄たちを悠長に瀞霊廷内へと避難させている場合じゃないぞ────?!」

「それに気のせいか人出が少なくなっていないか────?!」

 

 不安で感染していくどよめきが次第に広がっていき、席官たちや彼らの信頼のおけるヒラの隊士たちが互いの不安や動揺がさらに負の気持ちを拡大させる。

 

 だがこれも誰かが言った一言でピタリと沈黙化する。

 

「────生き残れるのか、俺たち?」

 

「「「「「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」」」」」

 

 皆が黙り込んで、空気は最悪だった。

 

 「だらしねぇぞテメェらぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 その丸く、ツヤのあるスキンヘッドに無数の青筋を浮かばせた一角が近くにいた死神たちの鼓膜が破れるほどの音量で怒鳴る。

 

「ピィピィ、ピィピィと生まれたてのヒヨッコみてぇに何の足しにもならねぇ言葉だけを口にしてよ……テメェらそれでも天下の護廷十三隊かよぉぉぉぉぉぉ?!

 

 怒る一角に、先ほどの吉良たちの報告で気弱になっていた死神の一人が反論する。

 

「およそ一日、二日で数万体の虚が一気に攻めてくるんですよ?!」

 

「お前ら、現世駐在したらその場その場での対処を強いられていただろ? ならなんも変わんねぇよ」

 

「ででですが班目三席! 進軍してくる敵は10万────!」

 

 「100でも1000でも10万でも()に変わりは()ぇだろうがぁぁぁぁぁ?! テメェら『死神』舐めてんのかぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「「「「「………………………………………」」」」」

 

 またも黙り込む周りに、今度は鉄左衛門が言葉を出す。

 

「一角の言う通りじゃ。 わしら死神は『戦士』。 霊術院ン中入って卒業した時、わしらゃその瞬間『いつでも死ぬる覚悟』をした筈だでぇ? それともなんじゃ? 生温(なまぬる)い理由で死神になったのかよ? え?」

 

 彼がここで『いつでも死ぬ覚悟』という言葉で何人かが連想したのは、どの死神や隠密機動や鬼道衆などが入学して一日目に学ぶ言葉だった。

 

『戦いに美学を求めるな。

 死に美徳(びとく)を求めるな。

 己一人の命と思うな。

 護るべきものを護りたければ、己の命を捧げよ。』

 

「「「「「………………………………………」」」」」

 

 一角と鉄左衛門が周りを見渡し、彼らに誰かが話しかける。

 

「では、俺たちはどうすれば良いのでしょうか?」

「そうですよ、何かアイデアなどがあるんですか?」

 

 それらは藁にでもすがりたい気持ちでいっぱいの死神たち。

 

「「………………」」

 

 ここで一角と鉄左衛門が口どもって互いを横目で見る。

お前(アンタ)が言ったんだから何か答えろよ』と言うアイコンタクトを取って。

 

 ここで追記するが『班目一角』や『射場鉄左衛門』は周りの者たちが一目置く、立派な『戦士』である。

 だが彼らは『戦士』であって、『将』ではない。

 

 常に『命を賭けて敵を粉砕する』スタンスであって『他人を指令する』と言うのは論外。

 

 いや、鉄左衛門は能力的に可能かもしれないが()()()()()()()

 なぜなら彼は『元十一番隊』だけあって一角と同様に『力でゴリ押し』するのが彼自身の目に見えていたからだ。

 

 だが────

 

「────そこからは私が変わりましょうか、お二人とも────?」

 

 ────重体のまま雀部が、勇音に肩を預けながらその場に来ていた。

 

「「「「「雀部副隊長?!」」」」」

 

 恐らく護廷の中でも、古参の人物。

 山本元柳斎がまだ額の傷の形から「ノ字斎(えいじさい)」と呼ばれていた2000年以上前から護廷に身を置いた彼は普段からは『無口な洋風マニア』と認定されていた。

 

 とはいえ古参の上に総隊長の副官である彼が登場したことは、その場にいた死神たちの動揺をとりあえず安定させるには十分だった。

 

「雀部副隊長は、どうお考えに?」

 

 ヒラの隊士たちが期待(悲願)するような視線が、包帯などをまいた地肌を露わにしたままの雀部に集まる。

 

「うむ。 瀞霊廷の外壁の修理や、中央の禁踏区域内の守りを増強するように技術開発局と()()()、そして()が最も速い隠密機動には連絡係と『人工破面』の進軍を少しでも遅らせるように罠や陽動を掛けるように卯ノ花隊長が頼んでおいた。 

 私たちは瀞霊廷内に新しく開発が進んでいた機械の罠なども鬼道衆に頼んでいるから各自、その場所などを手伝いながら把握するようにしてくれ」

 

「「「「「…………………………」」」」」

 

 死神たちが唖然とするのも無理はなかった。

 

『雀部長次郎』。 一番隊の副隊長であり、彼は上記で示したように基本的に無口で()()()()()()()()

 

 つい最近まで彼を『影の薄い副隊長』、『業務だけの副隊長』と思っていた彼らでもこの歴戦の戦士みたいな姿でそんな考えは吹っ飛んでいた。

 

『将』のような指令に手を回したことも、多弁に喋ったことも、堂々としていたこともかなりのインパクトを皆に与えていた。

 

「(道理で雛森君たちを見かけていなかったワケだ)」

 

 吉良が口から流れそうになった水を袖で拭きながら雀部に感心した。

 

 密かにだが吉良が持っていた、『同じ地味な副隊長意識』が関係していなかったとは言えない。

 

 そして上記でも彼が思っていたように、瀞霊廷と周りの流魂街一帯が虚圏に飛ばされてから五番隊はいち早く回復した隊士から状況の対応に各々が独断で回っていた。

 

「後、皆には技術開発局が新たに開発した武器で武装もさせてもらいます。 阿散井副隊長のおかげで、どうにか鬼道を使えるようにできました」

 

「「「「「おおお~~~~!」」」」」

 

 死神たちはこのニュースに歓喜で震えそうになりながら照れる恋次を見る。

 

『鬼道が使えない』と言うのは彼らにすればそれほどまでの不安要素になっていた。

 

「恋次! お主いつの間にそんなことを?!」

 

 十三番隊の代表として居たルキアがキラキラとした目を恋次に向け、彼は目線をなるべく合わせないようにしていた。

 

「う……いやまぁその……なんだ? 偶然……にな」

 

 ちなみにその偶然とは巨大虚相手に詠唱までしたのに鬼道が使えなかったこと*4を恥ずかしがった彼が半ばヤケクソで次に使ったマスケット銃型の霊子兵装が()()()()()()()()()ことがきっかけとなった。

 

 彼は強制的にネムによって技術開発局に連れていかれ、再度霊子兵装を使った鬼道の発動に成功したことで『霊子兵装を使った鬼道は使用可能』と結論付けられ、技術開発局は霊子兵装量産を急いだ。

 

 これも要因の一つでネムとリカはこの場にいなかったと記入しよう。

 

「あと、流魂街から避難した魂魄たちに声をかけて、現世での(いくさ)に覚えのある者たちに技術開発局が新たに開発した霊子兵装で武装もさせます」

 

 「ブフ?!」

 

 吉良が口と鼻から水を吹き出す。

 

 「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」」」」」

 

 そして殆どの死神たちが驚愕の叫びを出す。

 

 それもそうだろう。 普通は『保護』、または『管理』する筈の魂魄を武装するなど前代未聞の状況ではあるが……

 

 実際問題、それほど切羽詰まった場合と雀部のように冷静に対局で現状を見ていた死神たちは心の奥底では理解し、その判断に納得した。

 

 彼ほど大胆な行動を考えてはいなかったが。

 

「四十六室の独断と彼らについていった者たちが抜けたことで今の我々は圧倒的に人手が足りん。 彼らに我々のような鬼道は使えないが、物理的な攻撃や『人手』くらいにはなります。 この状況下で、四の五のことを言っている場合ではありません。 卯ノ花隊長の許可も得て、彼女も『何かあれば自分が責任を取る』と言っています」

 

 これにて、尸魂界の全歴史の中でも一際大きい『戦争』に瀞霊廷は備え、身構え始めた。

 

 物量的にも数でも圧倒的に劣る死神たちと魂魄には退路はなく、援軍が来る見込みも無い、『陸の孤島』状態。

 

 正しく『背水の陣』で見る『死に物狂い』そのものだった。

*1
74話より

*2
76話より

*3
101話より

*4
144話より




作者:やっとここまで来た!

リカ:すごい遠回りでしたね。 でも以前の調子を戻せましたからよしとしましょう

作者:何気に刺々しい言い方などですが?

リカ:気のせいです。 さもなければ『リアルの忙しさでよくこんな書けますね?』と言って欲しかったですか?

作者:では次話で会いましょう!

リカ:逃げましたね


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第148話 ヒビ割れていく『Copies』

大変長らくお待たせいたしました。 大変申し訳ございません。

仕事とリアルとウクライナ関連で忙しく、全くと言って良いほど書きあげることに時間を割けられない程のスランプ染みた精神と物理的な疲れでループに思えるような数日間、ゲームなどもしたくない程の気だるさ……

何とか書き上げたものが出来たので投稿しました。 
楽しんで頂ければ幸いです。

なるべく金曜日に次話の投稿を目指します。

3/3/2022 00:30
思っていたより外国語につけたルビが読みづらかったので通訳されたセリフ付けました



 文字通り存在意義をかけた死闘の末に『子』たちは『母上』と呼ばれたものを何とか御するところまでの及第点に至った。

 

 最初は正論などで説得しようにも、『共通感』どころか根底からの『価値観』や『意義』などの論理性があまりにも違った為に『説得』は早くも断念せざるをえなかった。

 

 次には『消去』と言う手段を取ったが、自分たちの管轄下であるモノならいざ知らず、『母上』は文字通り()()()西()()()()であった。

 

 


 

 

 ___________

 

 瀞霊廷組、3獣神(トレス・ベスティア) 視点

 ___________

 

 籠城戦を決め込んだ瀞霊廷はハチの巣を突いた以上の動きと、移動する人の姿で騒がしかった。

 

 瀞霊壁が降りてこなかったひらけた場所などには以前『虚夜宮(ラス・ノーチェス)』を調査し、解明した技術の応用で虚圏の地面を使い、物理的に強固な壁などに性質を変えて徐々に空いた場所などを要塞化していき、カリンの指導やチエの刺激の結果もあってか五番隊の席官たちに、他の副隊長を筆頭に部隊の配置などの見通しなどに()()が生まれることがなく進まれた。

 

 瀞霊廷全土の死神、そして流魂街の魂魄たちも自分たちができる限りのことをしようと励んでいた。

 

 だが死神たちや、生前戦闘経験のある魂魄たちに霊子兵装を支給していた『武器支給地』は緊張感の所為か外の騒がしさとは打って変わって物静かそのもの。

 

 一通り瀞霊廷全体の確認し終えたカリンは数ある『武器支給地』の一つで、()()()()()()をしていたリカに声をかけていた。

 

「本気で行くのかよ、リカ?」

 

「ええ。 さっきの『転移』で()()もすっからかんに近いですし」

 

 なんとリカは、『ゴリラ(アパッチ)たちと虚圏に出て()()()()()』と言い出したのだ。

 

 今の瀞霊廷は未だに現世と元居た尸魂界とは切り離されている状態のまま。

 だが『場所が虚圏なら以前に見知った破面などとの接触は可能の筈だ』と言った彼女(リカ)はすぐさま行動に移っていた。

 

 今は技術開発局から提供してもらった寄せ集めのパーツを彼女なりに工夫して、帆のついたフロートボートのようなものを組み立てていた。

 

 周りからは奇怪なモノを見るような目を当然のように向けられたが、『アイツは逃げる気満々なのでは?』と言う思惑を持った視線も少なくはなかった。

 

 特に風の噂程度であるが、『禁術であるはずの“転移”を使える者』で、以前瀞霊廷と流魂街に広がった噂の下である『天馬や燬鷇王を操る天女と呼ばれた者(リカ)やカリンの姉妹』とくれば*1期待を寄せる者もいた。

 

 だがリカが破面たちと共に出ていくこの様子は、彼らからすれば期待外れもいいところだった。

『一方的な期待』だとしても、『何かにすがって不安を和らげたい』というのが人間の性。

 

「お前……本気で()破面たちが、死神たちや魂魄の助けに来てくれると思っているのか?」

 

 もうここまで話すと察したと思うが、リカの言っていた『援軍』とは見知った『元十刃たち』や『十刃落ち』だけでなく、虚圏全土で生息している他の破面や虚たちまでも示していた。

 

「分かりませんが、少なくとも彼ら彼女らも自分(破面や虚)たちが『人工破面』を率いる『Kaiserreich(カイザァリッヒ)』の『狩り』や実験の対象で終わるはずがないと気付いている筈です。

 

 でなければ()()()()()()、『完全粛清』の対象となる事に」

 

 これもアパッチたちから得た情報と、過去の滅却師達と死神の全面衝突になった理由を知っていれば容易に想像できる予測だった。

 

 何せ滅却師達からすれば『害あって一利なし』の破面や虚たちを私情や過去の遺恨などを別にしても()()()()()()()()()()

 

「…………………そう、か」

 

 歯切れの悪いカリンに、リカは一瞬だけ作業を止めた。

 

()()()()()()()()()()ですよカリン。 ()()()()()()()()()()()ですし」

 

「ッ……そ、それは……でも……それは()()()()……」

 

 リカのこの言葉に、いつもは気丈に振舞うカリンが珍しくたじろいだ。

 

「………………ハァ~」

 

 その間にも彼女たち二人の周りでは、ガヤガヤと老略男女の魂魄たちや死神たちが手渡されていく技術開発局が滅却師の武器を解析して作っていた『霊子兵装』などを()()()()()次々と受け取っていた姿をリカは横目で見ながらため息をする。

 

「それに彼らを見てくださいカリン。 ()()()()()()()()()()()。 これでは()()()()()()のは火を見るより明らかです」

 

 リカの言ったことを聞こえた者たちが次々と黙ってぴたりと動きを止め、彼女とカリンに向けられる注目がヒソヒソとした話し声で次第に広がっていく。

 

 だがカリンは目を見開かせてコブシを強く握り、リカのことを睨んでいたことで周りのこの変わりように気付いていなかった。

 

「リカ……テメェ────!」

「────何をそんなに怒るんですか? ボクは()()()()()()()()()()を言っただけですが? このままでは瀞霊廷は『袋叩き用の袋小路』へと変わってしまいます。 

 ボクはそうなる前に()()()()()()()()()()()()()()だけです」

 

 いつものマイペースさと、業務的なせっせとした動きをするリカの肩をカリンが掴んだ。

 

「テメェ! 言葉────!」

「────『(いくさ)覚え(経験)はある』と言っても、所詮流魂街の魂魄たちは死後の身で殆どが他人同士同然の関係。

 そして時々忘れがちですが、死神たちも本来の業務は『(プラス)の回収やその後始末』で、虚ともそれ程頻繁に戦っている訳では無いので彼らも正規の『兵士』ではありませんよ、リカ? 

 今でも嫌々ながら渋々と武器を受け取っている者たちはただ『他の皆がそうしているから自分もしている』からに過ぎません。 『烏合の衆』行動です」

 

「「「「「………………………………………………………………………………………………」」」」」

 

 すでに周りが静かになり、武器などを支給していた技術開発局の者たちや死神たちも黙り込んでリカとカリンの二人を見ていた。

 

 普通ならリカかカリンがこれに気付いて窘めるのだが生憎今の二人は目と目を合わせていて、このお通や状態の中で視線を集めていたことに気をかけた様子はなかった。

 

 リカは未だに眠気が取れないような、半開きの冷めきった()()()()()で。

 カリンは今にも歯ぎしりをしだすような、怒りのこもった獣のような目で。

 

 そこで二人は()()()()()()()()()で話し始めた。

 

「|nsin fiú muintir Karasui Níl ann ach ceist a bheith in ann troid?!」

 通訳:それなら烏合の衆でも、戦えるようにすれば良いだけの話だろうが?!

 

「Τότε η Karin θα πρέπει να το κάνει。 Δεν είναι η περιοχή μου」

 通訳:ならカリンがすればいい。 それはボクの領分ではありません

 

 ギリッ!

 

 とうとうカリンの口から歯ぎしりする音が響き、彼女は必死に声を荒げないようにしていた。

 

「Ní peaca é eagla!」

 通訳:怯えるのは罪じゃない!

 

 リカは飄々とした態度で言葉を続ける。

 

「Αυτό θα συνέβαινε. Συνολικά 1000、 Ο εχθρός είναι πάνω από 100.000 Επιφάνεια θραύσης」

 通訳:それもそうでしょう。 総勢1000とちょっと、対する敵は10万以上の破面

 

 リカがジッとした視線をカリンは返したまま、今まで力を入れていた開口筋を必死に緩めて答える。

 

「Ach tá dóchas ann! Dá mbeimis beirt, d’fhéadfaimis rud éigin a dhéanamh faoi! faic、|Is cuma cén treo a rachaidh an scéalGan rogha mhaith a dhéanamh────!」

 通訳:だが希望はある! オレたち二人がいれば、何とかなる! 何も、どっちの方向に事態が転がってもいい選択を取らなくても────!

 

「────カリン。 Δεν θα πω άσχημα πράγματα. Με αυτόν τον ρυθμό, όλα τα σκυλιά είναι νεκρά────?」

 通訳:カリン。 悪いことは言いません。 このままでは全員犬死にですよ────?

 

 ガッ!

 

 カリンがリカを掴んで、無理やり立たせながら今度は()()()でイラついた声と共に叫ぶ。

 

────ならオレは()()()()()()()()()ことを選ぶぜ! この()()()が!

 

 リカは冷めた目をカリンに向け続けること数秒間後にリカから手を放す。

 

「……()()()()()ですよ? あと()()()()です、間違えないでください、()()()

 

 リカはなぜか最後の『カリン』を強調しながらパッパと自分の身だしなみを整え、出口へと自分の仕上げたフロートボートを引きずりながら歩き出す。

 

 周りから注がれる、自分を軽蔑するかのような視線を無視しながら。

 

 「あの……」

 

 あああああああ?!

 

ヒィィィ!?」

 

 今まで直接しごかれた五番隊でも見たことのないカリンの剣幕で話しかけた死神が思わず尻もちをつきそうになるが、周りの者たちによって支えられた。

 

「……すまん。 ちょいとイライラしていた……どうした、ええっと……十番隊の川瀬(かわせ)?」

 

 カリンの怒鳴った死神が以前の藍染離反騒動後、()()()良く五番隊の様子を見に来ていた日番谷と一緒に修練を見学しに来ていた一人と思い出す。

 

「あ……その……さっき、妹さん(リカ)と何を言い合っていたのかわかりませんが……多分……私たちのことですよね?」

 

「……まぁ、そうだな」

 

「ありがとうございます!」

 

「はぇ?」

 

 川瀬が頭を下げて感謝を告げたことにカリンは間の抜けた声を出す。

 

「『カリンさんが居る』というだけで、私含めて貴方のことを知っている隊士たちは勇気づけられているんです!」

 

「え? あ、ちょっと……え、えぇぇぇ?」

 

 急にどうしたらいいのか分からなかったのか、カリンが()()()()()()()()のように戸惑う。

 

「カリンさんが五番隊の技術の見直しなどをしたおかげで、虚の襲撃や現地駐在任務先で亡くなる数はほぼゼロになったんです! 直接的な結果ではないですが、貴方のおかげで救われた命などがあるとだけ、その……知ってほしいです!」

 

「………………………………………………………………………………お、おう」

 

 カリンはどうしたらいいのか分からない顔のまま長い沈黙の後に短くてふてぶてしい一言を言った後、その場から颯爽と離れて行った。

 

 後ろからはカリンを知っている他の死神たちは川瀬が自分たちの考えを代弁したことに『よくやった!』と褒めたり、彼の言った話に興味を持った死神や魂魄たちが詳しい詳細を訪ねる声を後にして。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「成人、あるいは屈強な者たちの武装進行度は?」

 

「今しがた、約七割と聞いております!」

 

「遅いな……」

 

「何せ殆んど戦闘経験がある魂魄の者たちが名乗りは出たの良いことですが、戦術や生前使っていた武装とは違うなどといった食い違いがございまして……」

 

「少なくとも明日の朝までに全員、戦闘に備えさせろ」

 

 カリンが歩き出て雀部の声に気が付くと、そこは隊舎などの外壁を利用して瀞霊廷の要塞化に励んでいた一つの場だった。

 

口髭の無口(雀部)、か……」

 

「ん? カリン……か」

 

 雀部も自分を見ていたカリンに気が付き、彼女を一目じっと見てから視線を前に戻した。

 

「瀞霊壁ではない場所は避難を確認した際に潰して通過不可能にし、火をつけた流魂街からの街道と共に上から守らせ、瀞霊廷内には主な交差点などに塹壕を築き、裏道などには罠を張る。 

 門や壁の上から遠距離型の霊子兵装の扱える者たちなどで攻撃し、壁の裏沿いに近距離用の遊撃隊の部隊を配置するつもりだ」

 

「……………………良いのかよ? ()()()であるオレにそんなことを、ベラベラと喋って?」

 

 カリンは以前から雀部が自分や三月たち、そしてチエに対してあまり良い感情を持っていないことは明らかだった。

 

「……そうだな。 ほんのわずか前の私ならばな」

 

「………………?」

 

「…………以前、貴様たちを『瀞霊廷に侵入した旅禍』としてどう扱うか迷っていた。 だというのにノ字斎(えいじさい)殿はいとも容易くお前たちを瀞霊廷に招き入れ、あまつさえお前たち部外者を『隊長代理』や『戦術顧問』などと言った職に任命するなどという、前代未聞の行動に出られた……

 何もかもが前例のないモノばかりでノ字斎(えいじさい)殿は……いや、()()()()()()()()()()()()

 

 雀部が次に見るのは今の現世*2でも珍しい、電気を原動力にした自動車や重機に機械と言った、技術開発局が作った『霊力に頼らない機器』たち。

 

 これらによって死神のように霊力が無い、あるいは恋次のように霊力の扱いが下手か乏しい者たちでも活躍の場ができていた。

 

「長らく変わらなかった瀞霊廷は瞬く間に変わられた。 

 私のような者たちはこれらが気に入らなかったが……もし今の状況を、変化以前のまま迎えていたらと思うとゾッとするのだ。 故に今この時は疑念を抱いても、利害は一致している間は隠し事は無しにしようと思っている」

 

「……………………そうか……なら聞くが、外に出ている隠密機動たちが急遽呼び戻されたのはやっぱりアンタの指示か?」

 

「そうだ。 四十六室と共に出た者たちの数を考えての変更だ。 今チマチマと敵の数を減らすより守りを固めなければならない」

 

「…………『人工破面』は厄介だぞ? オレたちが戦ったのはほんの一握りの数に、量産されていたほうだ。 お前は『チマチマ数を減らす』と言っちゃいるが、その中で敵の観察と情報を得るといった思惑もあったんじゃないのか?」

 

 雀部がカリンに振り返らず、答える。

 

「幸い、奴らは大気にある()()()()()()()で足場を作ることは確認していない。 おそらくは我々と同じように霊力無しでの環境下で向かってくるだろう。

 数が数だけに敵は波のごとく瀞霊廷の壁に打ち寄せるが、()()()()それも尽きる」

 

 雀部の答えが実際に自分の質問の答えになっていないことにカリンの眉毛がピクリと反応し、彼女は思わず口を開けて以下の言葉を投げかけた。

 

「お前……これを『耐久戦』として見ていないんじゃねぇだろうな?」

 

「……………………………………」

 

 雀部の神妙な表情にやがてカリンは彼の方針に気付く。

 

 そしてそれはある意味、先ほどリカの言っていた『負け戦』そのものだった。

 

「まさか…………()()()()()()としか捉えていないのかよ? 本当に籠城戦を決め込むつもりかよ?! 奴らの狙いは恐らく、ここにいる者たちの皆殺────!」

 

 ガシッ!

 

 「────だったらどうしろと言うのだ?!」

 

 今度は逆にカリンの腕が雀部によってガッシリと掴まれ、イラつきを含めた小声で彼がカリンの言葉を遮った。

 

 「周りを見ろ! 隊士たち全体としての士気はかろうじて気丈に振舞っているが風前の灯!

 流魂街の住民たちもこの来る敵の脅威は半信半疑で、実感を持っていない!

 この状況下で暴動やパニックが起きていないこと自体が()()だ!

 ならばこれが……()()()()()()()()()というのなら、せめて……」

 

「ッ」

 

 カリンは言いたかった。

 

 安心させるような言葉を。

 

 反論を。

『士気が下がっていればどうにかして向上、またはどんな作業でもいいから自信を持てるようなものをさせろ。 “原作”でなら宴や酒を振るまうなど』、と。

 

 正論を。

『流魂街の人たちが暴動やパニックを起こしていないのは“原作”と違って彼らは死神たちと触れ合う機会がさらにあり、恩を感じている者たちが居るから』、と。

 

 だが彼女はグッとあふれ出そうな言葉を飲み込んだ。

 

『“原作”などを語ったところで、話を聞い(信じ)て貰える筈がない』、との考えから。

 

 彼女は何も言わずに、頭を少し前にかがめさせながらその場を後にする。

 

 自分たちのことでいっぱいだった者たちは、珍しく考えに老け込むような(憂い感が漂う)彼女に目をやる余裕などなかった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 バァン!

 

「クソッ!」

 

 イラついたままカリンは、今では自分が見知った五番隊隊舎のドアを蹴って強引にドアを開けた。

 

 ゴッ!

 

 今は防衛戦の為に総動員された隊舎には隊士たちがいなく、ガランとした隊舎の壁に拳をカリンが叩きつけて、額を壁につけるように寄りかかる。

 

 彼女のショートヘアと少し長めのもみあげがたれたことで目線がよく見えなくなった。

 

 だが口元が『ギリッ』と、強く噛み締めていたのが遠くからでもわかるほど力んでいた。

 

「(で? どうすんだよ、カリン? 言いたくないが、キャスター(リカ)の言うとおり、こいつぁ『負け戦』染みているぜ?)」

 

 カリンは内側から久しく来る声に口を開けた。

 

「んなこたぁ、分かってんだよ()()()()()()! けど…………けどよぉ……()じゃねぇか?!」

 

 パタ、パタタ。

 

 カリンの頬を雫が伝って地面に落ちていく。

 

「う……く……俺たちゃ、『()()』に呼ばれて! 『ここ(BLEACH)』をより良く出来事が進むかつ『()()()』に『刺激(希望)』を与える為に来たんだぜ?!」

「(……まぁ、そうだわな)」

 

 カリンは静かに泣きながらある意味の()()()()を続けた。

 

「う……うぅぅぅ……なのに……なのによ?! ()()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!)」

「(………………本当は死ぬ筈だった野郎どもが生きて、その代わりにこんな窮地に落ちたことはお前の所為じゃねぇよ)」

「そんなこと、知らねぇだろうが?! 『私が知っている』のはあくまで『()()()()()()()()()()()()()()!」

「(ならこれがアンタらで言うところの『修正力』って奴か?)」

 

『クーフー・リン』。

 ケルトやアルスター神話では『太陽神ルーの息子』と言われ、また『アイルランドの光の御子』の二つ名や『クランの猛犬』と謳われた『赤枝の騎士』。

 

 そしてとある世界では『信念』と『義』を重んじて死力を尽くした戦いを望み、こと戦闘に関してはどこまでもシビアで冷徹。

 たとえ相手が『家族』であろうが『親友』であろうが『敵』となれば躊躇なく殺し、そして自分が認めた『主』であるなら裏切る事はなく文字通り最後まで忠義を尽くす。

 

()()()やり切れねぇんだよ! こんな事って()ぇよ?!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(その前に、アンタに客だぜ)」

 

「カリンさん────」

「────ッ。」

 

 カリンは背後から来た声にびくりと肩を跳ねさせ、袖で乱暴に目を拭いてから声の主に振り向いた。

 

「…………んだよ、メロンパン(雛森)?」

 

 振り向いた先には、雛森が心配するような表情でカリンを見ていた。

 

 巡回中にカリンの様子がいつもの気さくでさっぱりした空気ではなく、どこかどんよりとしたモノだったことに気付き後を追っていた。

 

「髪型を変えた今でも『メロンパン』呼びなんですね……」

 

 今日の彼女はいつものヘアスタイルでは蒸れるからか、伸ばした髪をひとつ結びにしていた。

 

「んじゃあ、『桃』って────」

 「────シロちゃんかチエさんじゃなきゃ却下です♡」

 

 急にどこぞの四番隊の人のように、笑顔ながらも重い圧を雛森は放つ。

 

「んじゃ、『ヒナモちゃん』でいっか」

 

「『ちゃん付け』……ハァ。 まぁ、良いでしょう」

 

 雛森はため息をしてから、カリンにハンカチを渡す。

 

「袖だと目を傷めるかもしれませんよ?」

 

 ボッ!

 

 爆発するような勢いで一気にカリンの顔が赤くなっていき、完璧に色が変わる前に彼女はニッコリとする雛森からそっぽを向く。

 

「い、言うなよ?! てか目にゴミが入っただけだ!」

 

「そしてありがとうございます。」

 

「……あ?」

 

 カリンが雛森を見ると、雛森は頭を下げていた。

 

 そして顔を上げた雛森の顔は晴れ晴れとしたものに、同性のカリンは一瞬ドキリとした。

 

「カリンさんやチエさんたちが、私や他の皆を()()()()()()()()()()()でここまでこられたと思う────」

 

「────違う。 違うんだよ……()()

 

 カリンが目を逸らしたまま、憂鬱な表情を浮かべて虚圏の夜空を見上げて、出かけたリカに言われたことを思い出す。

 

()()()()()ですよ? あと()()()()です、間違えないでください、()()()。』

 

 彼女(リカ)のこの言い方、実はと言うとカリンやリカたちの『在り方』に関わっていた。

 

「オレは……そんなに大層な奴じゃない……結局は情に暴走されて、今の『現状』を作った」

 

 そこからカリンはポツリポツリと、特に誰にも向けていない言葉を募りだす。

 

「結局は、変えすぎたんだ。 『雛森桃』、『志波海燕』を含めた『志波家』、『護廷十三隊』、『黒崎一護』も…………全部、全部を変えすぎたしっぺ返しが『今』だ」

 

「………………」

 

「オレは結局、『()』の『別側面の人格』だ。 『元では何も変わらない』……か」

 

 彼女(カリン)が遠い目をし、まるで空の向こう側を見るような眼をする。

 

「『別側面の』……『人格』?」

 

 雛森がついにここで口を開けた。

 

 最初は何かの悩みをカリンが持っているとは気付いていたが、さっきから聞き覚えのない単語などに戸惑っていた。

 

「ああ、そうだ。 オレは……()は……『情』を受け持つ『人格』の側面だ────」

 

 そこからカリンの愚痴のような独り言がずるずると続いた。

 

 まるで、今まで必死に蓋をしていた感情がこじ開けられたように。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「良いのかい、嬢ちゃん?」

 

「んあ?」

 

 砂漠の上を走るフロートボートの上に乗っていたミラ・ローズが呆けていたようなリカに声をかける。

 

「貴方、()()()嫌われ役を買いましたね?」

 

 スンスンが指定していたのはリカとカリンの、ちょうどフロートボートを出す直前のいざこざのことだった。

 

「そうですね」

 

「……分かんねぇな、オレ(アパッチ)には」

 

ボク(リカ)にはカリンのように天然的なカリスマ性は備えていません。 あくまで『合理性』と『探求心』です。 

 

 

 

 

 

 そういう風に()()されているので」

 

「「「………………………………」」」

*1
44話より

*2
2002年辺り




一護:ちょっと待て! 『別側面の人格』とか『設定されている』ってどういうことだよ!? 

リカ:そのまんまの意味です。 次。

一護:答えになっていないしこえぇよ?!

マイ:なおなお~、詳細は『天の刃、待たれよ』にて書いてありますので~、大変恐縮ですがそちらを読んでいる方が居ればご理解できると思います~

茶渡:…………長いんだが

マイ:じゃあ~、近いうちにおさらいっぽいモノに入ろうかしら~? 勿論、話も進めながらねぇ~


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第149話 The Path of Evil is...

お待たせ致しました、次話です。

またもin瀞霊廷です。

楽しんで頂ければ幸いです。




『古今東西の全て』とは恐ろしいことに『概念』も例外ではなく、『子』達は自身たち共々『母上』を消滅させるのを不可能と悟った彼らは『封印』と言う手を取った。

 

 自我の基となる意識思考を刈り取り、かつて『母上』と呼ばれたものを無数に分離した上で機械化し、『子』達が管理する様々な場所の近くにある星などに移した後、『母上』と言う概念を意識することで万が一にも復活させまいと思い、自分たちにも同じ処置を施して深く、永い眠りへついた。

 

 だが時の流れは以外にも早く、『宇宙』に限りがあったとしても『共通する次元』は無数にある。

 

 今までのことは『一つの次元(世界線)』でのことで、『外宇宙』からの刺激や影響などは予想されていなかった。

 

 例えば、『宇宙』がまだ『無』だった頃のいわゆる『ビッグバン前に在った』とされている『無尽蔵なほどの力』を欲するものたちなどからすれば、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』など。

 

 無論、そんな『欲張りな生物』が『神の領域に足を土足のまま踏み入れる』ことは想定されていなかったが……

 

『母上』同様に封印された『子』達が機械化した今でも行動を起こすには『時、すでに遅し』であった。

 

 


 

 

 ___________

 

 瀞霊廷 残存兵組 視点

 ___________

 

「雀部副隊長、中央地下議事堂(ちゅうおうちかぎじどう)の作業も一通り終わりました」

 

「そうか。 それで内部はどうだった、檜佐木副隊長?」

 

「他の隊の奴らと軽くバイクで中を乗り回してみたが……相当慌てていたんだろうな、四十六室の連中は。 ほとんど手付かず、そのまま放置だったから現状の俺らで再利用できる状態だ」

 

「そうか、不幸中の幸いだな。 非戦闘員や、負傷者たちの避難所に適している……卯ノ花隊長と、右之助殿は?」

 

 副隊長待機室から急遽『総合作戦室』へと転換した部屋の中で、本来は隊長のやるべきことをしていた雀部の問いに、檜佐木は気まずく頬を掻く。

 

「未だに()()()()()()()()に、籠ったままで動きは見えていません」

 

「………………そうか。 引き続き、彼女たちが出るまで誰も決して近づかせるな」

 

 封印された藍染が瀞霊廷に上がった騒動後、一番隊舎の地下にあったはずの『無間』はまるでごっそりと空間そのものが(えぐ)られたように()()()()()

 

 卯ノ花は大体のことを確認し、隊長としての義務を雀部に引き継がせた後、『無間』があった一番隊舎に『()()()()()()』と言い、右之助と共に向かったことでこのことが判明し、『それでもこの場所は使える』と言った右之助と共に彼女たちが籠って数時間経っていた。

 

 彼らの()()を知っていた雀部はすぐに一番隊舎の周りを封鎖していた。

 

「雀部副隊長……その……失礼を承知の上でなんですが、なんで卯ノ花隊長にもっと頼らないんですか?」

 

 檜佐木が歯切れの悪そうな言葉と、さっきの話題で雀部は察した。

 

「檜佐木副隊長。 一つ聞くが、卯ノ花隊長は()()()()護廷十三隊に所属していると思う?」

 

「え?」

 

 ここで檜佐木は何時いかなる時も、愛想よい笑みを浮かべる彼女(卯ノ花)を瀞霊廷と自分が真央霊術院に通っていた頃からそこかしこで見かけたのを思い出す。

 

「え~と。 それなりに……『長く』?」

 

 久木が言いたかったのは京楽や浮竹と同じく『数百年』だが、自然と気が引けた。

 

「正解は、『護廷となる組織、初代十三隊の設立後間も無く』だ」

 

「ッ。 ……そんなに、ですか? なら尚更のこと、なんで卯ノ花隊長はもっと大きく立ち回らないんですか?」

 

 もし雀部の言っていたことが本当のことなら檜佐木や大抵の死神たちからすれば『彼女も雀部と同等の経験などがある筈』と思いつくのは仕方がない事。

 

 何せ今の死神たちの『四番隊の卯ノ花隊長』というのは『落ち着いた容姿で、言動共に静かで穏やかな医師』を絵に描いたような人物。

 

 彼女の斬魄刀の力さえもこれを強調するかのような『肉雫唼(みなづき)』も()()()()()()()

 

 あと完全に余談ではあるが、四番隊の副隊長である勇音同様に卯ノ花は意外と立派なかくれんぼ胸部装甲(隠れ巨乳)の持ち主である為、男性の死神たちは秘かに彼女と勇音を並べて『拝むべき双子タワー』とかなんとかで人気があるとか。

 

「史上最強と言われた初代十三隊の、『()()()()()()()()人』だ」

 

「じゅ、十一番隊……だと?!」

 

 檜佐木の脳裏に浮かんだのは、今より()()()()()()()○ヤ風へと服装と人相を変えた更木率いる戦闘集団(十一番隊)のイメージ。

 

 何気にタバコの代わりに飴を各メンバーが咥えていたのは恐らく、やちるの影響だろう。

 

 ちなみにこれも余談だが、当のやちるが瀞霊廷にいないことは既に確認済みで、隊員たちによると『多分(更木)隊長といるだろう』と言うことで話は済んでしまった。

 

 そんなことを思い浮かべるほど逃避したかった檜佐木の様子を見た雀部は、若干ため息交じりに話を続けた。

 

「狛村隊長の下にいるお前だからこそ話したが、本来は機密情報だ。 今言ったことは勿論本人にもだが『他言無用』……理由は、想像出来るな?」

 

「…………………………………………………………ええ、まぁ」

 

 長い沈黙の末に、顔色が少し悪くなっていた檜佐木は頷いた。

 

 と言うのも彼が先ほど浮かべた『卯ノ花烈』の人物像が、十一番隊と遠くかけ離れていたショックもある。

 が、初代十三隊の『史上最強』とは『史上最()』の隠語も含めた呼び方の所為でもあった。

 

 初代十三隊の設立当時、瀞霊廷は王宮や貴族の地区周辺を除いてほとんどが無法地帯。

 力あるものがその力を好きなように振舞い、好きなように暴れていた。

 

 そんな戦乱の世の中、山本元柳斎が立ち上げた十三隊は荒くれ者たち相手に『交渉』をし、その勢力を拡大していった。

 

 殆どが『物理にモノを言わせた鎮圧化』の末だが。

 

 しかも卯ノ花は当時の『十一番隊隊長』。

 その肩書と現十一番隊隊長である更木を知っていれば、現在の四番隊とは真逆の存在が『勘を取り戻す』と宣言しているとなると雀部が何故彼女たちの居る場所を隔離したのか誰もが理解できるだろう。

 

「あれ? じゃあ、右之助のジイサンは────?」

『────あー。 テステスー、マイクテスー』

 

「え?」

 

「なぜ、連絡用の機器から彼女の声が?」

 

 机の上に置かれていた連絡用の無線からカリンの声が聞こえてきたことに檜佐木と雀部がハテナマークを出す。

 

 今瀞霊廷の中で『霊力に頼らない機器』などと言った貴重な物は優先的にそれらを最大限、有効活用できる人員に配給されていた。

 

 そして無線などは隠密機動に配られていたがそれでも試作品だったことで元々数が少なく、率先して足の速い者たちに渡されていたので雀部を除いた他の副隊長たちはおろか、カリンにも渡されてはいない。

 

『ちょいと急なことで、言葉だけじゃ(らち)が明かねぇ様子だったから()()()見張りをしていた忍j……えっと、“隠密”の奴には眠ってもらっている────』

 

 ────ガタッ!

 

 雀部が突然目を見開いては立ち上がって駆け出して、檜佐木も彼の行動につられて後を追う。

 

「檜佐木副隊長、行くぞ!」

 

「え?! い、行くってどこにですか?!」

 

「奴の言っていたことで予測はできる! 今の隠密機動たちは主に連絡と敵の進軍妨害に出払っている! そして無線は必要性のある場所での活動を基準にしている! それらをさっきの奴の言葉に当てはめれば自ずと『居場所は二番隊の見張りが必要な場所』だ!」

 

「???」

 

 檜佐木は困惑しながらも、気を張る雀部の表情にただ事ではないことを察した。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 「オラァァァァァ!」

 

 上記とほぼ同時刻、気を失った隠密機動隊員に無線を返してからカリンは崖に埋め込まれていたゴツイ金属製のドアを無理やり持っていた紅い槍で突いた。

 

 ガイィィン

 

「硬ってぇぇぇぇぇぇ?!」

 

 カリンは弾かれた槍を持っていた手を振り、後ろにいた雛森が冷や汗を掻いていた。

 

「そ、それはそうですよ! 噂では瀞霊廷で一番物理的にも霊的にも強固な守りを施されて────!」

 

 「────『“突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)”!』」

 

 ヒュッ!

 スコォン!!

 

 カリンが紅い槍を投擲すると今度は槍がドアの鍵部分を貫通し、彼女がドアを蹴るといとも容易くドアが開いた。

 

「うし。 行くか」

 

 これを見た雛森はあんぐりと口を開けて数秒後、声を発する。

 

 「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?」

 

 まさに放心したような、呆気に取られた音だった。

 

「こっからは、オレ一人で行く」

 

 カリンは槍を手に持ち直して肩に置きながらドアの向こう側に広がる洞窟の中へと入っていくと雛森が付いてくる。

 

「いいえ、ここまで来たら一緒に────」

「────危険すぎる。 お前はここで待ってな────」

「────じゃあカリンさんがワァワァ泣いていたことを言いふらしますね?♡

 

う゛……た、頼むから忘れてくれ

 

「う~ん、どうしましょう♡」

 

 口だけが笑っている雛森の横で、カリンが思い出すのは少し前まで自分が溢れ出す感情任せに泣きながら色々と暴露した後ろめたさ満載の『ありのままの気持ち(言葉)』と()()

 

 前者も『カリン』からすれば大変恥ずかしい出来事なのだが、後者は()()()と言ってもいい。

 

 何せ『原作(BLEACH)』に関しての『情報』を彼女がどう受け取るかは不明。

 

「(最悪……全てが終わった後、問い詰められて嫌われ者になるな)」

「(まぁ、それも全部終わった後に()()()()()()()()の話だがよ)」

「(だな)」

 

 二人が中に入っていった洞窟は二番隊隊舎の敷地内、北西にある巨大な堀の向こう側。

 

 そこはかつてひよ里が瀞霊廷嫌いになるきっかけを与え、涅マユリが()()()()をされ、四十六室にとって『都合の悪い者』達などが実質、終身刑として最期まで隔離される場所。

 

 

 

 通称、『蛆虫の巣』である。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場所が場所だけに、鍵を持った隠密機動の隊員たちは四十六室の息がかかった者たちで彼らが瀞霊廷から逃げ出した時に持ったまま出ていた。

 

 無論、鍵が無いので()()()()()()()()()()()()()

 だが異変や混乱に乗じて中の者たちが暴れだす可能性が無いとも言えないと思った雀部は、逃げていない隠密機動の一人を見張り役につけていた。

 

 そしてカリンが雛森に『情報』を暴露していった結果、この場所の存在を思い出した彼女はすぐにここに来て、通す気が無かった見張り役を強行突破して今に至る。

 

「(本当に……瀞霊廷にこんな場所が……)」

 

 カリンの近くいた雛森はきょろきょろと周りを見渡していた。

 

 一見、ほとんどの者たちからすればただの洞窟に見えるが鬼道に長けた彼女だからこそ、その異常さが肌で感じられた。

 

 その洞窟が数多の罠などの痕跡があったことに。

 それら一つ一つが複雑な術式で、しかも見たことも聞いたこともないようなモノばかり。

 

「(へぇ~? こいつぁ驚いた。 師匠(スカハサ)並みのネジがぶっ飛んだ足趾級の罠ばかりだぜ。 階段から決して踏み外すなよ、カリン)」

「あんま、長居するところじゃねぇな」

 

「……」

 

 カリンの言ったことに雛森は静かにうなずく。

 洞窟に入ってから、体の芯まで貫く異様な寒さを二人はずっと感じていた。

 それはまるで体にまとわりつくような、ねっとりとしたモノ。

 

 ゾッ

 

 やがて洞窟内にまたもドアの前に立つと首に刃物が突き立てられたように、寒気が一気に増す。

 

 「雛森!」

 

 グッ!

 

「ひゃ?!」

 

 ドアの取っ手をカリンが取ろうとした瞬間、彼女は雛森の肩を無理やりつかんで地面へと伏せさせた。

 

 キィィン!

 

「ウッ?!」

 

 耳をつんざくような、鋭い刃物が大気そのものを斬るような鋭い音が聞こえると同時にカリンは苦しむような声を出す。

 

「へぇ~? 今の、イイ線いっとったと思ってんけどなぁ?」

 

 カリンたちの前にあるドアの向こう側から掴みどころのない京都弁が聞こえ、いつの間にか切り刻まれたドアがバラバラと音を立てて崩れていく。

 

「掠っただけなんて……僕の勘もかなり鈍ったねぇ」

 

 地面を裸足で踏む、ヒタヒタとした足取りで一人の男が姿を現す。

 

「あ、貴方は?!」

 

「おや? 雛森ちゃんも一緒とは……ちょっと()()()やったわ」

 

 カリンは横目で自分の肩を見る。

 

 そこには何もないように見えるが、集中してみると()()に斬られた痕跡と感覚が服装と肌からくる鋭い痛みが物語っていた。

 

「クッ……(あっぶねぇぇぇぇぇ! 今の、完全に(心臓)を狙っていたぞ?!)」

 

 カリンは目を再度ドアから出てきた男に視線を移す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()を持った、糸目の男に。

 

「市丸ギン?!」

 

「いややわ~。 そんなに見詰めやんといてくれます雛森ちゃん? 僕ぅ、照れますわぁ」

 

 簡単な昔の囚人が着るような服装をした市丸が薄笑いを浮かべ、彼の後ろには同じような服装をした様々な姿をした大勢の人たちが殺気を放ちながら彼の背後に立っていた。




どうでも良いことかもしれませんがサブタイトルは『蛇の道は……』のダジャレっぽい『悪の道は……』です。

蛇(じゃ)=悪(じゃ)みたいな?

ギン:なんやそれ。 しょうもない理由やなぁ~

ほっとけ。 干し芋投げるぞ。

ギン:後この文章量、なんなん?

切りのいいところ+ちょっと疲れが……

ギン:さよか


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第150話 毒を以て、毒を制す

お待たせしました、リアルで急遽事情が変わった知人たちの急な引っ越しを物理的にも手続き的にも手伝っていたので短めですが次話です。

お気に入り登録、誠にありがとうございます。 とても励みになります。

今回もin瀞霊廷です。

楽しんで頂けると幸いです。


 かつて、現在『地球』と呼ばれる惑星と似た環境と時間経歴の進化を辿った一つの星があった。

 

 時が経つに釣れて他でもない星に住んでいた欲物たち自身によって環境は汚染されていき、星は悲鳴を上げた。

 

 これに反応したプログラム化したかつての神々は、『無意識下の集合体』を通して介入を図った。

 

 

 


 

 

 ___________

 

 瀞霊廷 残存兵組 視点

 ___________

 

「(やばいな……)」

まさか『市丸ギン』が斬魄刀を所持していたとは。 方法はともかく、今は厄介な展開だ

 

 カリンは自分の脇を見たときに血が出ていなかったことに焦っていたが、内心の声は別の視点から現状況を指摘した。

 

「(神鎗(しんそう)』という二つ名も、『藍染』って野郎を騙そうとした『天才』ってのも伊達じゃねぇってことか)」

 

「ん? ああ、これ? 君のような子なら、僕の『神槍』の性質わかるやろ?」

 

 市丸の握っていた脇差をよく見ると鍔も柄もなく、『脇差』というよりはむき出しだった(なかご)に布を巻いた粗末な見た目をしていた

 

「僕はそれを上手く利用しただけや」

 

 「…………吉良か」

 

「え? 吉良君?」

 

 パチパチパチパチ。

 

 カリンがぼそりとこぼした名前に雛森が反応し、市丸が小さな拍手をする。

 

「ご名答♪ そこで『乱菊』って言えへんかったという事は、大方予想はついているんやろ?」

 

「……『塵も積もれば山となる』」

 

「アッハッハッハ! ええ例えや!」

 

「お前の作っておいた干し柿に、仕込んでおいたのか」

 

 以前、市丸は四十六室に判決の選択を迫られた後に不満そうな吉良に確か彼はこう言った。

 

『ああ。 そういえば隊長室の裏庭にある離れの中に作っといた干し柿があるから、皆で仲良なかよう分けてくれる?』*1、と。

 

 市丸の『神槍』の能力は乱菊の『灰猫』と同じ性質を持ち、『刀身が塵となる』。

 そして卍解能力は()()()()初解の延長線にあるため、彼の『神殺槍』の『刀身の細胞に発動式の猛毒になる』は言い換えれば、『刀身を塵にしたままでの仕込みが可能かつ能力発動するまで無害』。

 

 もし、これら刀身の細胞が仕込まれた物が『蛆虫の巣』内に差し入れ可だっとすれば?

 

 無論その様なものを見つける意識を持っていたとしても、感知が限りなく不可能なほどごく僅かな量だとすれば?

 

 まさに、『塵も積もれば山となる』。

 

「いやぁ、最初は一か八かの為に取っておいた切り札やったんけど……割と上手くいって中の人たちを()()するのに役立ったわぁ。 しかも、入り口を君たちが開けてくれて。 ホンマおおきにな?」

 

「なら提案だ、市丸ギン」

 

 ここでカリンがニヤリと笑みをする。

 

「ん?」

 

「実は────」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

『蛆虫の巣』入り口周辺に雀部、檜佐木、そして移動中に何事かと思って合流した鉄左衛門、リサが数人の隊士を連れて立っていた。

 

 七緒が地面に寝転がされていた見張り役の隠密機動の容態を見て、ただ気を失っていることを確認した。

 

「見事数発で気を失っていますね。 打撲の外傷が残っているものの、骨折や戦闘への支障をきたさない絶妙な加減さです」

 

「しっかし、ここに来るとは……人生、なにあるか分らへんな」

 

「ここに来たことがあるのか? わしらにゃあおおかた知らざるべき場所じゃったぞ?」

 

「前に浦原のアホォ経由で真子とひよ里に聞いただけや」

 

「「「(浦原のアホ)」」」

 

 リサの言葉に鉄左衛門、檜佐木、七緒の脳裏を同時にかつて裁判後に瀞霊廷内で見たケタケタとおちゃらける様子の下駄&帽子の浦原イメージが過ぎる。

 

「ッ! 来るぞ!」

 

 雀部の声にその場にいた副隊長に緊張感が走り、裸足で階段を上る数人の足音が聞こえてきたことに全員が抜刀する。

 

「ご苦労さん♪ こうも勢ぞろいでの出迎えなんて僕、感激」

 

『蛆虫の巣』から市丸に続いてぞろぞろと長い間収監(しゅうかん)されていた者たちが出てくる。

 

 ぐっと体を伸ばしたり、呆然としながら夜空を見上げたり、キョロキョロと『蛆虫の巣』内部とは違う景色に戸惑っていたりと様々な反応をする者たち。

 

「市丸ギン! 貴様、何をした?!」

 

「ん? な~んもしてへんよ、()()

 

「うっわ。 『蛇男』がこれだけ似合う奴、初めて見るわ」

 

 市丸のニィ~っとする薄笑いが蛇のように見えたリサの言葉に、彼が脇差をあげ────

 

 タッ。

 

「何してんのよ、ギン」

 

 ────る前にジト目で乱菊が潜んでいたらしい木の上から降り立った。

 

「ありゃりゃ。 もう出てくるん? もうちょい楽しんでもええやろ?」

 

 ちなみに乱菊は身を潜めてサボっていたわけではない。

 

 ()()()()()()()()でカリンたちが蛆虫の巣の中へと強行したのを見て、現場で待機していた。

 

「冗談にしては悪質すぎるわ。 アンタだけとかならまだしも、中の奴ら全員出してどうすんのよ? ()()しちゃうじゃないの?!」

 

 「「「「お疲れ様です、松本の姐御(あねご)!」」」」

 

 「だから姐御って呼ばないでよ?!」

 

 急に市丸の後ろにいた者たちが乱菊に頭を下げ、挨拶すると彼女は牙をむき出しにする猫のように抗議する。

 

「いややなぁ~。 そんなカッカしたらあかんで乱菊? 更に拍が付いてもうて『松本の姐御』呼びが密着するやないの、松本のあ・ね・ご♪」

 

 「誰の所為よ?! だ・れ・の?!」

 

 本来、『蛆虫の巣』は余程のことがなければ通常は立ち入り禁止の地区。

 その上に白打の実力がなければ近寄ることさえ叶わない。

 

 だが例外として、身内かつ護衛(監視)付きであれば市丸や乱菊などは面会を許されていた。

 

 というのも、吉良はともかく乱菊は持ち前の面倒見の良さ(姐御肌)を発現し、差し入れを市丸だけではなく『蛆虫の巣』の囚人たちや看守の隠密機動の者たちにも持ってきて配っていた。

 

 生気が抜けていた囚人たちだけでなく、無気力に見えて突然発狂して暴れだす者たちもこれらで少しは理性を取り戻していき、明らかにおとなしくなっていったので普通は罰を与える筈の四十六室や看守たちは静観していた。

 

「松本の言うとおりだ、市丸。 今は時間がない」

 

 乱菊を弄る市丸を東仙が人混みの中から出て口を開ける。

 

「(『市丸ギン』に、『要東仙』! 元隊長各が二人も?!)」

 

「雀部副隊長、私や市丸はお前たちと争う気はない」

 

「は?」

 

 人混みの中から更にカリンと雛森が横から出てくる。

 

「よ、雀部のおっさん」

 

「お、おっさんではない! カリン、これはどういうことだ?! なぜ囚人たちを────?!」

「────いま人手が足りねぇ。 ならこいつらも出さない手はないぜ?」

 

 カリンのあっけらかんとした態度と言葉の内容に、雀部たちは唖然とした。

 

 何せ場所を知っている彼らからすれば『蛆虫の巣は危険分子の収容所』としか認識していない。

 それに釣られ、最近までは場所の存在さえ知らなかった他の者たちはここ(蛆虫の巣)が普通ではない人を閉じ込めていたことを察していた。

 

 そんなところから出てきた人材を『人手』として利用する発想など思いのほかである。

 

「しょ、正気か?!」

 

「正気? 正気で今の状況のまま戦争に勝てるのならいま言ってみな」

 

 カリンの問いに、誰もが互いを見た。

 

 確かに現在の人手不足は深刻な問題で、我が是非にでも解決したい問題だった。

 そのままの意味でも、戦力的な意味でも。

 

「それでも不満があるのなら、オレがこいつらと一緒に前線にいて、指揮して、全責任を取る。 これでいいか?」

 

「ヒュゥ~、すんごい言い張りますやん!」

 

「今は黙っとけ、キツネ野郎」

 

「はいはい、トラの♪」

 

 ならず者同然である元囚人たちの行動を彼女が責任を取ると言ったカリンの宣言は魅力的だった。

 

 だが懸念は残る。

 

「それで……市丸と、東仙は?」

 

 そう。 元とはいえ、隊長である二人がこのような申し出を受けるか以前に、彼らを御しきれるのかが問題。

 

 ()()()

 

「ん? 僕は別にええよ、手伝い」

 

「私もだ」

 

「は?」

 

 そう呆気に取られたのは誰だろうか?

 

 雀部含めた副隊長たち全員かもしれない。

 

「私は、奇跡的なほどの偶然が重ねあって今生きている。 それに私が居た上で瀞霊廷が無くなりでもすれば、きっと狛村は私を殴るだろうな……(悲しんだ上で)」

 

「う~ん……僕は要とは違って『面白そう』、やから? かな?」

 

「ギン……アンタねぇ……」

 

「アッハッハッハ!」

 

 市丸がケタケタと笑う彼に乱菊は呆れ顔と共に笑みを浮かべた。

 

 殆どの者たちは知らないが、彼らなりの『じゃれ方』がこれである。

 

 本心を口にしていなかった者同士だが幼い頃から長い年月を共にした二人にとって、一度壁が砕けば割と互いのことが自ずと分かってしまうようになっていた。

 

「(ホンマ……()かった)」

 

 特に以前のように生死をかけた隠し事をしなくなっても良い市丸にとって、今の切羽詰まった状況下でもかなり居心地の良い気持ちになっていた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 人工破面たちの軍勢が到着するまで、あと少しの間まで元隊長たちを含めた『蛆虫の巣』の囚人たちが加わったことで瀞霊廷の作業は各段的に加速した。

 

 それが要塞化であれ、技術開発局関連であれ、流魂街の魂魄たちの不安を取り除くことであれ。

 

「これで……武器を持てる者全てに行き渡ったか」

 

「ああ。 配置も大体は決められたな……敵が一つの方向から来てくれているのが助かったぜ」

 

「これで包囲網なんかせんのが不思議じゃ。 自信の表れか、はたまた何か別の理由があるのか……」

 

 瀞霊壁のそばに建てた野営テントのような物の中で雀部が見ていた瀞霊廷とその周りの地形と敵の予測進行を現す地図を一角と鉄左衛門が一緒に見下ろしながら口を開ける。

 

 キラッ。

 

「多分、大規模な実験なんとちゃう?」

 

 キラッ!

 

「実験? どういうことですか、矢動丸さん?」

 

 リサが眼鏡を光らせながら掛けなおすのを真似るように、七緒も同じく眼鏡を掛けなおしながら問う。

 

「ウチの勘やけど、この『人工破面』ってのは今まで虚や破面を相手にしていたんやろ? だから戦術もくそもない数の力押しでどこまでウチらの相手出来るか試してるんとちゃう?」

 

「なるほど……『数は力』とはよく言ったものだよ」

 

「吉良、大前田たちの様子は?」

 

 吉良が頷いて、恋次は今まで姿を見せなかったデブ ふくよかな大前田や、他の四十六室に相手にされなかった下級貴族たちのことを伺う。

 

「ダメだった。 未だに自分たちの地域を固めているみたいだ……」

 

「頑固者の集まりだとは知っていたがよ……お前が言っても、か……」

 

「??? 恋次、なぜ吉良副隊長に貴族たちのことを訪ねているのだ?」

 

「う」

 

 ルキアの質問に吉良がどこか気まずそうにそっぽを向く。

 

「ああ? いやだって、オレらの知っている奴で今ここにいる貴族って言えば吉良だけだろうが?」

 

「………………………………………………ああ、そう言えばそうだったな」

 

 少しの間を置いてからルキアも吉良の家が(ほとんど没落気味とはいえ)貴族に部類されていることを思い出す。

 

 彼女自身も一応、朽木家なのだが養子に対して吉良は直径。

 

「ルキアお前、完全に忘れていただろ?」

 

「んな?! し、失礼な! 忘れてなどいないぞ?!」

 

「まぁ、気持ちは分かるがよ。 何せなんでこいつが俺たちとつるんでいたかと言うとひn────」

 「────うわぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「へ?! ど、どうしたの吉良君?! それに、阿散井君もどうして私を見るの?」

 

「どうしてだろうなぁ~?」

 

 恋次がニヤニヤしながら赤くなりながら自分を睨む吉良を無視する。

 

「恋次、どういうことだ?」

 

「うぇ?! あ、ああいやその……なんだ」

 

 そして今度はルキアに尋ねられて困る恋次だった。

 

「いや~、相変わらず凄いなぁ~」

 

「うんうん、青春よねぇ~」

 

 似た者(他人を弄るのが趣味)同士の市丸と乱菊がほんわかとした空気を出す。

 

「あっまあま過ぎて胸焼けするわ」

「同感……余所でやってもらいたいわ」

 

 これまた似た者同士(?)のリサと七緒がため息交じりに言葉を出す。

 

「「「(俺/わしも何時かは!)」」」

 

 内心で気張る檜佐木と鉄左衛門と一角。

 

「なんかオレの知っている護廷十三隊より良い空気だな、おい」

 

 そして重体ながらも出席した海燕がいた。

 

 意識が一足先に戻った海燕も、今の瀞霊廷の状況を知るや否や粉骨砕身の勢いで動いていた。

 体が元々破面だったからか、四番隊の総合詰め所で未だに動くことが出来ない空鶴と岩鷲と違って彼の回復速度は比較的に早く、今では何とか歩き回れるほどまで回復していた。

 

「海燕さんは嫌いですか?」

 

 彼に付き添った勇音がそう聞くと、海燕は笑みを浮かべて首を横に振る。

 

「いや? むしろ好きだぜ?」

 

 このワイワイとした夜空の場にカリンの姿はなく、彼女はテントの外で空を見上げていた。

 

「………………はぁ~」

 

 押し寄せるプレッシャーと負の感情と共に吐き出すようなため息を出し、どこともなく独り言のようなモノを始めた。

 

「……戦いが始まる。

 鳴り響くはずの笛や太鼓(ドラム)も何もない。

 かつての明るい日々は、山に降る雨のように流れた、

 地を渡る風のように。

 太陽の日は遠い西へ西へと去り、

 大地は陰に飲み込まれ、今は夜明け前。

 夜は明けるのか、それともこれからもずっと夜のままなのか?

 ……なぜだ? なぜこうなった?」

 

 それは独り言というより、答えが返ってくるはずのない疑問染みた独り言を交えた詩のようなものだった。

 

 彼女は目を閉じて耳を澄ませる。

 

 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。

 

 遠く離れた場所から、リズミカルな地を揺るがす程の心拍音に似た音が聞こえてきた。

 

「……来たか」

*1
99話より




次話は恐らく別組視点も混ざります。

リカ:呼びました?

まだです。

リカ:チェンジは別料金です。

……お金取るの?


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第151話 Drifting Bleached Sands

大変お待たせいたしました、相変わらず慌ただしいリアル中に次話投稿です。

楽しんで頂ければ幸いです。


『介入』は様々な現れ方をした。

 

 時には自然の災害や祝福。

 人為的傲慢からの災厄や閃きからの革新。

 

 等々など。

 

 時代や世界が変わっても、基本的に大局での『介入』は続いた。

 

 だが……

 

 もしこの『介入』が意図的に引き起こされることが判明されば、

 

 

 

 欲物たちはこの新たな解明をどう扱う?

 

 

 

 


 

 

 ___________

 

 虚圏援軍要請組 視点

 ___________

 

 場所はだだっ広い、虚圏の砂漠の中。

 月光にて照らされる砂の上には戦いの後らしき痕跡があった。

 

 折られた刀や破片に破けた衣類、そして未だに地面に吸い取られていない血痕。

 

「虚の匂いじゃないね……」

 

「死神か?」

 

「それ以外になんだと思うのです?」

 

 その中をミラ・ローズ、アパッチ、スンスン、そしてずるずるとフロートボートを引きずるリカが歩きながら見渡していた。

 

「フムフム……ちょっと()()しますね」

 

「「「え」」」

 

 リカがそう言うと否や、彼女はトテトテと近くの血痕を指で付着した砂ごと摘まんで口の中に含んだ。

 

「モゴモゴモゴモゴ」

 

「うわ?! こいつ本当に口の中に入れやがった?!」

 

「血はともかく、砂もかよ?!」

 

「……」

 

 スンスンだけは複雑な気分だった。

 

 説明しよう! (Start富〇さんボイス。)

 ヘビは舌を出すことで大気中の匂いの元となる粒子を付着させて、口の中にある『ヤコブソン器官』でその匂いを嗅ぐという仕組みを持っているのだ! (End富〇さんボイス。)

 

「……プッ! ふ~む……なんとなく『解析』できました」

 

「解析? 何をだ?」

 

 リカが袖の中から珍しく手を出して左右に両手を振る。

 

「ここで起きたことです。 

 まずこの砂の上にある足跡からして数はおよそ数百人で荷物はそこそこ重そうなのを持っていましたね。

 主に成人男性と老人に女性で、足取りからして全く長旅や戦闘に慣れていないのが過半数以上に方向はボクたちのように瀞霊廷から遠ざかっています。

 時期はボクたちがここに到着する少し前で、血痕や衣類からして()()に襲われたのは明白。

 となれば恐らく瀞霊廷から逃げ出した愚か者たちでしょう」

 

「「「………………………………………………」」」

 

 3獣神(トレス・ベスティア)の三人はポカンとしたような視線をリカへと向ける。

 

「……お前、なんでそこで『破面』って断言できるんだ?」

 

「ん? ああ、それは味ですね。 死神と破面の斬魄刀って、見た目は同じですけど根本的に違う性質を持っています。 死神のは使用者の魂を写し取っていき変形していきますが、破面は本来の力を凝縮したものですし」

 

 リカはそう言いながら、再びフロートボートに戻って風を起こして砂の上を移動し始める。

 

行き先は~♪ 破面たちの~~♪ 秘密基地へヨー~♪」

 

「「「(音痴と言うオチかよ?!)」」」

 

 リカに内心でツッコミながらミラ・ローズ、アパッチ、スンスンの三人が後を追って急いでスピードが上がっていくフロートボートに乗り込む。

 

「(これさえなければ良いのだけれど……)」

「(うるさいですキャス子さん)」

 「(ちょっと! せめて『葛木キャス子』と呼びなさいよ!)」

「(リア充)」

「(オ~ッホッホッホッホッホッホッホ!)」

 

 時はちょうど、カリンが今起こっていることに責任を感じてその重圧に耐えかねて泣き出していた時であった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

ラァ~♪ ラララァ~♪ ~♪ルルラァ~♪」

 

 あれから数時間後、ず~~~~~っと下手くそな 音痴なリカの歌をミラ・ローズは耳を手で塞ぎ、アパッチは歯ぎしりをして耳朶からかき消し、スンスンは瞑想しているかのようにただ目を閉じていた。

 

 ズサァァァァァ!

 

「「どわぁ?!」」

 

 急にフロートボートが急停止してミラ・ローズとアパッチの二人はそのはずみで飛び降りた。

 

 ドサッ!

 

 スンスンは態勢をそのまましていた故か、頭から地面に突っ込んだ。

 

「グェ……も、もう着いたのですか?」

 

「う~ん、瞑想していたと思ったら気を失っていただけですか」

 

「違います」

 

「じゃあ眠っていたということでぇ~」

 

 リカはピョンとボートから飛び降りて長袖に入れた手をそのまま両手を上げて膝を地面につける。

 

「と、いうわけで……()()をしに来ました~」

 

 彼女が見下ろしていたのは砂漠の砂に変わりはないが、よく見ればわずかにだけ不自然な表面だった。

 

 それは、()()()()()を思わせるような形。

 

『いつから気付いていた?』

 

 どことなく、周りから聞こえてきた声に澪簿があった3獣神たち。

 

「この声────!」

葬討部隊(エクセキアス)の────?」

「ルドボーンか────!」

 

「よりにもよって『ボーマ』ですか。 やっぱりそうですか。 爆弾専門家ですか」

 

 そしてリカが意味不明(?)なことを口にしている間に、不自然な地面から骸骨を頭にした人型の何かが上がってくる。

 

「誰のことは知らんが、なぜここが分かった?」

 

 この骸骨こそ、ルドボーンの帰刃 (レスレクシオン)能力から生まれた『髑髏兵団(カラベラス)』の一体。

 

「先ほどの戦いでは死神たちが襲われる前、先に『交渉しよう』というのも『解析』できまして。 となれば『秩序』をある程度保つための知能と知恵を持っている破面が相手ですので~。 (『原作』でも処刑対象だったパニーニにも語りかけていたし)」

 

「…………なぜ私が交渉にでも応じるとでも?」

 

「虚圏の『未来』がかかっているからです。 それにボクの交渉相手は破面、元十刃たちや虚の()です」

 

 後にこの『皆』の意味が明らかになるのだが……今は陰が墜ちていく瀞霊廷に戻るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷 残存兵組 視点

 ___________

 

 場所は流魂街と虚圏の狭間。

 

 そこでは人工破面の斥候らしい、四足の足で地面や建物の壁を移動する『なにか』と戦う者の姿があった。

 

ギィィィィィィ!!!

 

 糸目の男は久しく持っていない『神槍』をかわしながら人工破面の足を斬り落としていき────

 

 リィィィィィィィン!

 

ギギギギギギ?!

 

 ────隻腕の男が持っていた刀から、普通のモノには聞こえない波長を発してそれを聞いた人工破面たちは足をもつれさせる。

 

「オラァ!」

 

 ザクッ!

 

ギ?!

 

 そしてカリンが紅い槍を動きの鈍った人工破面を突いて、返り血を浴びる前に次の標的を突いていた。

 

「う~ん、最初は『死ね』言われたと思うたけど……案外行けるね?」

 

「それも敵が単調だから言えるのだ、市丸」

 

 カリンは元囚人たちを引き連れて帰還した隠密機動たちから、敵の斥候らしき敵影を聞いて流魂街に出ていた。

 と言うのも、瀞霊廷の守りをより盤石にする為の時間稼ぎ。

 

 そして瀞霊廷を出て最初は自分たちを『危険分子』として隔離した四十六室たちの後を追おうとする者たちが居たが、市丸の『アカンで?』で顔を真っ青にしたそうな。

 

 後余談だが、彼の『それにアイツらが帰ってきたボクらが勢ぞろいで“お帰り♪”言うてるのを想像してみ?』で、皆がまさしく『危険分子』と言うような表情を浮かべてその場にいた死神たちは冷や汗を掻いていたとかなんとか。

 

 これもあってか統率が取れないことを瀞霊廷の副隊長たちは懸念していた元囚人たちによる暴動が起きるどころか、強靭な遊撃隊を手に入れたことに複雑な気持ちを持っていた。

 

 ヒュルルルルルル!

 ボッ!

 

 なにかが自分たちの上空の宙を切って空高く飛んでから電球が破裂したかのような光源を放ちながらゆっくりと地面に落ちていくのを、カリンたちはは一気に撤退していく。

 

「よし、合図だ! 東仙、他の奴らに『撤退』だ!」

 

「ああ」

 

 キィー、キッキッキ、キィー……キィー、キッキッキ、キィー。

 

 東仙が斬魄刀を再び構え、今度は流魂街中にリズミカルな耳鳴りのようなものが繰り返す。

 これを聞いた元囚人たちもカリンたちのように撤退を始め、今度はカリンが何か文字のようなものを宙に指先で書いてから、それを上に投げる。

 

Ings(イングズ)!」

 

 彼女が投げた文字はさっきの信号弾の高度ほど上がらなかったが、数秒後同じように破裂した。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ《shake:1》ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 すると今度は地鳴りが響き渡って流魂街のいたるところが燃え始めるだけでなく、地面へと沈んでいく。

 

「いやぁ、志波家の奴も出来るやん」

 

「『せっぱ』と言うやつか」

 

 流魂街を焼き払うだけでなく、なんとか動けるまで復活した空鶴(そして彼女と海燕に叩き起こされた紅の〇ベウス岩鷲)が『石波(せっぱ)』の極大版である『志波式石波法奥義(しばしきせっぱほうおうぎ)連環石波扇(れんかんせっぱせん)』で流魂街の地盤を緩くさせて『泥沼』ならず、『泥砂』の(ほり)で瀞霊廷を囲んだ。

 

「ほな、皆ちゃんとボクに掴まって。 お代金は干し柿作る手伝いで」

 

 要塞化した瀞霊廷の壁を今度は市丸の『神槍』で何人かずつが上り、最後に上がったカリンが燃える流魂街を見る。

 

 

 

 

 白に覆われて(Bleached)尚燃える(and Burning)流魂街を(Drifting Spirit Town)




追伸2:

今更ですが次話も短くなるかもしれません。 

大変申し訳ございません。 ()´д`()


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第152話 Dune Sands of a Dead World

お待たせいたしました、次話です。

楽しんで頂ければ幸いです。

3/13/2022 7:00
誤字修正いたしました。


『介入』は様々な形で表れる。

 

 それが直接的なモノで形あるもの、または自然に紛れた『()()()()()』であれ、必ず影響を世界に与えていた。

 

 その都度に莫大な力を顕現(発散)させて。

 

 


 

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

 ザクッ、ザクッ、ザクッ。

 

 草履(ぞうり)の裏から相変わらず砂を踏む音だけが聞こえ、足袋(たび)の横から砂の柔らかい感覚が伝わってくる。

 

 時折、乾いた空気が微弱な風によって俺のさらされた目の付近を通って蒸れた顔に当たり、瞬きをしてから目の前で静かに歩くチエの背中姿を見る。

 

『頭を上着で覆い、出来るだけ肌の露出を避けろ』。

 

 俺が色々と聞きたがっても、チエにそう言われたきりから会話は無い。

 

 未だに後を歩いているが、あれからどれほどの時間が経ったのか分からない。

 

「(しっかし変な気温だな)」

 

 夕焼けのような空を見上げ────

「────は?」

 

 思わず声を出してしまった。

 月の形が歪? ……いや、それよりも────

「────なんだよ、こりゃ?!」

 

「あまり喋るな、一護」

 

 驚愕している俺をたしなめるように昔からの馴染が平然とした口調で話しかけるがそれでも、言わない訳にはいかない。

 

「け、けどよ────!」

「────大気に、更に搾り取られるぞ」

 

 俺はもう一度空を見上げる。

 

 

 

 空に浮かんでいた、歪で欠けた様々なサイズの()たちを。

 

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 砂漠の中にある砂丘を登りながら、ぼーっとする頭で夕焼けの空に浮かんでいたリング状な何かに覆われていた一つの星を見上げる。

 

「(あの形って……土星だよな?)」

 

 

 時々チエは立ち止まって歩き出すのを繰り返し、やがて一護は聞こえてくる音にわずかな変化があったことに気が付く。

 

「(なんだ、これ?)」

 

 最初は空耳と彼の脳が処理していたのか、『背景音』から確固たる『音』と認識した瞬間に耳鳴りが鳴り始める。

 

「(?)」

 

 やがて彼が砂丘を登り、頂上で見たのは今までどこをどう見ても続く砂漠ではなく砂に埋もれたオブジェたち。

 

 それらは砂に埋もれても尚、明らかに人工物であることを主張するようにところどころ砂の中から老化した塔のような建物が見えた。

 

 二人はそのまま歩いて近づいていくと、その建物たちでもひと際小さな一つにチエが蹴りを入れる。

 

 バキィン!

 ゴォン!

 

「良し。 入るぞ────」

 「────いやお前、なにいきなりヤクザキックを躊躇なくかますんだよ?!」

 

「??? ドアがあったからだが?」

 

 一護は?マークを頭上に浮かべるチエを見て、『あ、何気にこのやり取りも久しぶりだなぁ~』と懐かしみながらも塔らしきオブジェの中へと入る。

 

「……なんかヒンヤリとするな」

 

 外部とは裏腹に、塔の内部はかなり原形を保っていただけでなく、パッと見て老化もさほど激しくはなかった。

 

 壁に書かれた()()()()()()ほどに。

 

「『20Fl Balcony』? ……えーっと? 『二十階のバルコニー』か?」

 

「良く分かったな一護?」

 

 珍しくチエが感心したことに一護がそっぽを向ける。

 

「いや、その……英語の発音とかとなると、ムキになってキーキーうるさい奴が近くに居てな?」

 

 二人の頭上に、眼鏡越しにドヤ顔と(無い胸)を張る『普通』にこだわるとある三つ編み少女が浮かぶ。

 

「………………………………ああ、『アレ』か」

 

 数秒間ほどの沈黙の末にチエが閃いたように、手をポンと打つ。

 

「(三月を『アレ』呼ばわりって……まぁ、あいつの場合それで良いか)」

 

 『(良くないわよ!)』

 

「んあ?」

 

「どうした一護?」

 

「いや、その…………空耳だと思う」

 

「そうか」

 

 原作での一護は一度、藍染離反騒動直後にリハビリをかねて試合をしていた一角に対し、『俺は国語が一番得意なんだよ!』と啖呵を切っていた*1

 

 そして案の定、原作よりはやや劣るが彼は成績も良かったこともあってか(あまり)得意ではない言語にもチャレンジはしていた。

 

 チャレンジはしたのだが……発音が悪い、または中途半端なモノだと普段はおとなしくしている三月が鬼教官のように態度が変わっては『発音などをネイティブレベルに正すまで説教する』ということが多発していた。 

 

 特に英語。

 これは彼女自身、どこぞの世界線で『弟子ゼロ号』と呼ばれた人物の元になった、生活力ゼロで姉のような(タイガー)教師の影響でもあるのだが……

 

 その話は今、別に置こう。

 

 何が言いたいかと言うと今の一護はある程度ローマ字が読めて、理解できるということ。

 

「(あまりにも説教を食らってセルフツッコミも聞こえてきたか)」

 

 一護はガシガシと上着で覆っていた頭をガシガシと掻いてできるだけ汗と砂を振り落としながら周りを珍しそうに見ている間、チエはさらに奥へと進んでいく。

 

「(と、いうことは? 外の砂漠に、ビルの二十階分ほどが埋まっているということか?!)」

 

 ビルの中は暗く、明かりはチエが先ほど力ずくで蹴り開けたドアからの光源だけだった為か、内部がほんのりとした赤いトーンに満ちていた。

 

 外部の乾いた空気とは違いある程度湿気がある所為か、気温が下がってもさほど違いを感じることは無く、二人が進んでいくと次第に一護の目が慣れていって奥に巨大な機械が見えてきた。

 

「んだこれ? 『制振装置』か?」

 

「良く知っているな?」

 

「まぁな」

 

 余談だが『制振装置』とは高層ビルが地震や風から生じる揺れを抑える装置の一つである。

 

 そして今、その巨大な機械が蹴り開けられたドアから入ってくる光を殆ど受けしまい、更に奥へと続く部屋が見えなくなってしまった。

 

「けどこうも暗くちゃ、奥が見えにくいな────」

「────なら少しだけ明かりを灯すとしようか……フゥ」

 

 チエのため息にも似た息遣いとともに、LEDランプ寄りの少し強めな光が彼女と一護の周りに現れ、より内部の全体が分かるようになった。

 

「おおお……」

 

 一護は口を開けながら周りを見ると巨大なはずの制振装置の全体が見えることに息を出していた。

 

「あ」

 

「どうした一護?」

 

「本で読んだことあるぞ。 昔の洞窟とか遺跡は長い間、空気が籠っていたせいで有毒になっていたり────」

「────『炭鉱のカナリア』的な奴か。 入口からの空気を、周りに凝縮しておいたから長居はできんが、簡単な調査と物資調達はできる」

 

「……え?」

 

 一護が唖然としたのは一瞬。

 

「いやいやいやいやいや。 順応力高すぎるだろ?」

 

「下の階で何か得るものがあればいいのだが……」

 

「俺の言葉、無視かよ」

 

 今更である。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 入っていった建物を探索できたのは、数階ほどだけだった。

 

 塔は何かの施設だったのか、オフィスビルのような作りの部屋や仮眠室らしき場所はあったものの、水や食料といった物は無かった。

 

 だが外の乾いた風と夕焼けの日光から身を守りには充分だったので、二人は入ってきた『制振装置』の部屋で腰を下ろしていた。

 

 二人は背中を『制振装置』に預けるような形でお互い、ドアの方向を向いていた。

 

「………………………………で? そろそろ話してくれるか?」

 

 一護の問いに、チエがチラリと横目で彼のほうを見る。

 

「何をだ」

 

「全部」

 

「『全部』、か……どこから始める?」

 

「じゃあ取り敢えず、『ここがどこなのか』で」

 

「……………………恐らく、()()()()()だ」

 

 ピクリと一護の眉が反応する。

 

「『死んだ世界』? ……………………あれか? 『ヒャッハー!』の世界か?」

 

 一護の脳内に、モザイクをかけられたモヒカンでトゲトゲの付いたBOSOUZOKU(暴走族)風の男が浮かぶ。

 

「『ひゃっはー』?」

 

「あー…………『胸に北斗七星の傷跡』?」

 

 今度はモザイクのかかった上半身の服を自ら破りながら『ユリアァァァァァァァァァァァ!』と叫ぶ男性が一護の脳内に浮かぶ。

 

「『胸に北斗七星の傷跡』? 誰だ?」

 

「なんでもねぇ……てかさっきからな~んかはぐらかされているような気がするんだが?」

 

「そうだな……その通りだからな」

 

「あーそうですか────え?」

 

 一護はチエを見ると、心なしか彼女が少し気弱になっているように思えた。

 

 彼の単なる気のせいかも知れないが。

 

「……ええっと? 今、俺を肯定したのか?」

 

「なんだ、その信じられない目は?」

 

「「……………………………………………………………………」」

 

 ジト目同士、互いを見ていると次第にチエが視線を先に外す。

 

「分からん。 『アレ』が何をしたかったのか、果たしてこれを狙っていたのかが……」

 

「未だにあいつを『アレ』呼ばわりかよ」

 

「『アレ』は()()()外装、『器』だからな」

 

「『器』?」

 

≪これは『崩玉』などという陳腐(ちんぷ)なモノなどではない。 聖杯と呼ばれる、『真なる願望機』。 または『どんな願いを叶える大釜』*2

 

「……藍染が『聖杯』と呼んでいたアレか?」

 

「違う」

 

『器』と聞いて、藍染の言葉を思い出した一護が問うとチエが首を横に振る。

 

「『願望機』……お前たち風に合わせると、『崩玉』はそれの亜種だな。 『アレ』は元々、今よりもっと大きなモノだったが()()前に殺されて、『願望機』を動力源代わりに『器』という皮をかぶっていた」

 

「………………………………」

 

 そばにいた一護が黙っている間、チエはそのまま言を並べていく。

 

「前は自分を『三番』と自己紹介をしていたが……突然ある日、『自分をこれからは三月と呼びなさい!』と言われた時は『ああ、いつもの気まぐれか』と思ったが……霊王宮で見た『アレ』も間違いなく『三番』だった。 

 もしそうだとすれば……私たちが知っていたのが何なのか問いただそうにも、動力源が抜かれた今、直接聞くことは出来ない」

 

 思いもよらなかった返答と内容を一護は理解をしようとして、感じた引っかかりをそのまま口にする。

 

「……あー、それで……さっき言った『大きなモノ』とは?」

 

「……()()()?」

 

「……………………………………」

 

 どこから割り込んでいいのか分からない様子だった一護に(これまた疑問形とはいえ)とんでもない返答が返ってきたことで場は黙りこんだ。

 

「チエ」

 

「なんだ一護?」

 

「……お前の冗談は、相変わらず冗談に聞こえないな?」

 

 一護は昔からの付き合いからか、冗談を言うことに慣れていないチエに忠告を兼ねた問いをする。

 

「(アイツ(三月)が『創造神』って……スケールが一気にデカくなったな? …………いやいやいやいや。 流石に冗談だろ? 場を和ませる為の)」

 

 彼自身、チエの言ったことが上段と思いたいような願いを込めて上記の言葉を言ったらしい。

 

「私は冗談を言ったつもりはないのだが?」

 

「………………………………いや、『創造神』って要するに『神様』のことだろ?」

 

「お前たちからすればそうだな」

 

「……………………………………………………だって三月だぞ?」

 

 一護が脳内に浮かべたのは見た目に反して大食いかつ目立つことを嫌うが故に目立つわんぱく器用貧乏な帰国子女風でマセた生意気な金髪少女。 ←ここぞと思っての言いたい放題

 

「そうだな」

 

「…………………………………………………………………………………………………………」

 

 一護もついに放心したのか、初めてドルドーニと出会った時より更にホゲ~っとした呆れ顔をする。

 

 同じ時期にネルが出した以上のモノと言えば伝わるだろうか?

 

「顔芸が上手くなったな、一護」

 

 「誰のせいだと思ってんだよ?!」

 

「誰のだ? けしからん奴だな」

 

 「お前だよ?!」

 

「ワケがわからん」

 

「お、おま?! ワケ?! ヌガァ~~~~~~~~~!

 

 割とシリアスな話題に切り込んだはずの一護は、悪い冗談染みた返答を真面目な(変わらない)表情で返されたことでこんがらった頭を声に出すような叫びをする。

 

 夕焼け風の空に、幸いカラスは飛んでいなかった。

 ただ時々、風が吹いているのか吹き続いていないのか分からない程度の乾いた空気の流れだけがあった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「えーっと? 話をまとめるとだな?」

 

 あれからどのぐらい時間がたったのか分からない後に、自分の問いにチエが返答した情報を一護が声に出してまとめようとした。

 

「つまり三月は『創造神』……の一部?  

 である日、彼女の様子が変わったと思えばチエを殆ど無理やりに『バカンス』とやらを体験させる為に色々な場所に連れていかれた? 

 そしてその場所は他の世界を指していると?」

 

 三行。

 たった三行だが、それだけで一護の認識や常識を根本から覆すようなインパクトを持っていた言葉だった。

 

 彼自身がつい最近、経験したのを含めても。

 

「ああ……どうした一護? 顔を両手で覆って?」

 

「………………………………………………………………………………………………」

 

 そしてそれを平然と肯定するチエの横に無言で顔を手で隠して声にならない静かな溜息をする一護。

 

「じゃあその……お前は何なんだ?」

 

 ここで彼女を『長く知っている』と思っていた一護が今にして思えば目の前の彼女がどれほど異常な存在なのかを、身を持って何らかの形で体験した彼がここで口を再度開けた。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………私は……()()()()()()だ」

 

 長い撃沈の末にチエが言った返答は、以前に似た問いをひよ里にされたときと同じだったが、彼女にしては歯切れが悪い上記の言葉が出た。*3

 

「………………」

 

 まるで彼女の撃沈、あるいは重苦しい空気が感染したかのように黙り込む。

 

 新しい環境。

 新しい情報。

 新しい認識。

 

 上記を要因たちは決して少なくはない影響(ストレス)を一護に与えていた。

*1
原作BLEACH180話より

*2
138話より

*3
9話より




疲れな抜けないので久しぶりにプレステ2のレッドデッドリデンプション作動してきます。

読者の皆様も体に気をつけてください。


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第153話 The Upcoming Battle of Dead Spirits

お待たせいたしました、次話です。

過去のアンケートへのご協力、誠にありがとうございます。

未だに目を通し、参考にしています。

楽しんで頂ければ幸いです。


 莫大な力を伴う『介入』。

 

 それがある世界でのある日、『母上』の一部に『刺激』を与えてしまった。

 

 今まで静かだった湖に葉っぱが落ちて、小さな波が出来るように。

 

 あるいは山の上で積もりに籍もった雪が、指してきた日光によってごく僅かに絶妙なバランスを崩すかのように。

 

 いずれ『刺激』は大きな変化をもたらした。

 

 

 

 

『自己認識』の再来である。

 

 

 

 


 

 

 ___________

 

 黒崎一護、『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

「「………………………………」」

 

 あれから二人の間に長い撃沈が続いた。

 

「(どうする?)」

 

 今までに聞いた情報を飲み込むために考え込んでいたらしい一護をチエが横目で見てそう思った。

 

 彼女は珍しく()()()()()

 

「(私は……()()()()()()()()()?)」

 

 何せ今までの彼女にとって、()()()()()()()()()だった。

 

 ここには自分を『姉』と自称しながら半場無理やりに連れまわす者も、

 外部からの『刺激』も、

 明確な『敵』も、何も無かった。

 

「他の皆はどうしているのか心配だ……」

 

「……………………」

 

 一護はぼんやりと上記の言葉を出し、チエはその続きを待った。

 

「なぁ、チエ? お前とアイツ(三月)って、他の世界を行き来しているんだよな?」

 

「そうだ」

 

「だったら俺の世界のことも、()()()()()のか?」

 

「………………ああ」

 

 一護がここで聞いていた『知っている』とは前情報、いわゆる『原作のことだ』とチエは思い、肯定の答えを出した。

 

「そう、か…………なら俺が見たあの『黒崎一勇』と『黒崎織姫』も知っているのか……」

 

 だがここで、意外な()()()()が生じる。

 

「……? どういう意味だ?」

 

「え? いや、2013年の俺の家族……らしい?」

 

「私は()()()()ぞ」

 

「え? ……そうか。 じゃあ、今度は俺が話す番ってワケか」

 

 そこから一護が話し始めたのは、『黒崎真咲』が死んだ後の『原作の10年後』の話だった。

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 虚圏援軍要請組 視点

 ___________

 

 リカたちがルドボーンの髑髏兵団(カラベラス)に案内されたのは大きな砂丘の一つ。

 

「それでこちらの事情はどこまで知っています、ドクロさん?」

 

「『瀞霊廷に似た土地が突然虚圏に現れた』、と。 生存者は何名いる?」

 

「う~ん、全部入れて1000と少し?」

 

「そうか」

 

 ルドボーンとリカたちの前の砂丘にはポッカリと不自然に空いた穴があり、そこを通ると彼女たちが見たのは『空洞になった砂丘の内部』だった。

 

「うお?! んだこりゃ?!」

 

 アパッチが見上げてそう言ったのは空洞になった砂丘を内側からドーム状に支えていた無数の髑髏兵団(カラベラス)たち。

 

 一体一体がまるでパズルのピースのように上手くかみ合い、文字通り体を張った『壁』となっていて内部は小さな集落の形をしていた。

 

「まるでサナギか何かですね……」

「(この場合は木の実ではなくて?)」

「(そうとも言いますね。 さすがはギリシャ)」

「(それって今、関係あるのかしら?)」

 

 「……私の『蛇殻砦(ミューダ)』に似ていますね」

 

「原理は同じようなモンだからな」

 

 スンスンの独り言のような言葉に、不満そうなグリムジョーの声がして『ソレ』は起きた。

 

 なんでよりにもよってあの生意気な弓兵(アーチャー)の声なの?!

 

「「「「え」」」」

 

 突然リカが声を出したと思えば、口調でさえもどこか大人っぽく変わっていた。

 

しかも『青い髪』って何よ?! 嫌味?! 嫌味なのね────?!

 

 ────パシン!

 

「……………………………………失礼しました」

 

 何かを言い続ける前に理科は自分の口を両手で覆ってから数秒後、いつもの様子へと戻っていた。

 

「あーっと、『弓兵』ってのはどういうことだ?」

 

「………………………………………………『あい・あむ・ざぼーん・おぶまいそーど』?」

 

「「「「???」」」」

 

 この気まずい空気をどうにかしたいミラ・ローズの問いに帰ってきた返答にその場に居た全員が頭を傾げた。

 

「ま。 それはともかく、貴方がここを仕切っているということでいいですか?」

 

 グリムジョーの口が笑みによって吊り上がる。

 

「……だったらどうする?」

 

「先ほども言ったように、『交渉』をしに来ました」

 

「『交渉』、だと? 」

 

「ええ。 このまま人工破面の軍団に、大打撃を入れませんか?」

 

「…………………………プ。 ハッハッハッハッハ!」

 

 話を続けるリカに、グリムジョーが面白おかしく笑い始めた。

 

「おかしいことを言うじゃねぇか、『()()』?」

 

「ボクは死神ではありません」

 

「んじゃあなんだ? テメェはさっきの奴らとは()()ってのか?」

 

「『さっき』?」

 

 リカは顎をそでに入れたままの手の上に乗せる。

 

「………………なるほど。 あの逃げた愚か者たちですか。 じゃあ戦った相手はあなたたちですか?」

 

「だとしたら? 仇を取るのか?」

 

「いいえ? むしろ『馬鹿どもがご迷惑をおかけしました』と言いたいほどです」

 

「ハ! よく知っているじゃねぇか。  アイツらは人工破面相手に逃げただけじゃなく、俺らにぶつけて来やがった。 とんだとばっちりだったぜ」

 

「それでさっきの話ですが────」

「────()()()

 

「「「はい?」」」

 

 笑ったまま、意外と了承するグリムジョーに3獣神とリカが目を点にさせる。

 

「勿論、『死神たちと破面モドキたちが潰しあった後に』だがな」

 

「フーン……意外と()()なんですね」

 

 ピキッ。

 

 グリムジョーのこめかみに血管が浮き出る。

 

「なんだと? もういっぺん言ってみろ

 

「『臆病』、と言ったんでs────」

 

 ────ヒュッ!

 ドォン

 

 グリムジョーの体が一瞬消え、リカは気付けば彼の右手に喉を掴まれたまま地面に押し倒されて今にでも自分の目をえぐるような構えをする、顔がスンと表情が抜けた彼を見る。

 

最後の言葉は『臆病』でいいか、チビ

 

「『敵同士が弱ったところで狩る』のは立派な狩り人としての戦略ですが、()()を全部片づける()()()()を逃がしますよ?」

 

「……『彼らを全部片づけるチャンス』だぁ?」

 

「ええ。

 

 

 

 

 

 

 人工破面の軍団と、それらを操る滅却師達の拠点を()()()()()チャンス到来です。 やってみたくはないですか?」

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷内 残存兵組 視点

 ___________

 

 周りの流魂街を天然の堀へと変えた瀞霊廷内にある人口の湖の、『最後の砦』とも呼べる四十六室の中央地下議事堂へと通じる橋の上を魂魄たちと食料や様々な器具を運んでいた死神たちで混雑していた。

 

「非戦闘員たちを早く中の居住区へ避難させろ!」

「物資を運び込むにまだ時間が────」

「────もう時間がない! 戦は今にでも始まるんだぞ?!」

 

 そこでは席官たちが籠城の物資か魂魄の避難の優先を言い争っていた。

 

「んだよアニキ?! あたしだって戦えるんだ!」

 

「ちょ、落ち着いてください志乃さん!」

 

 橋の上の一か所では、ムスッとした一角に今にでも殴りかかろうとしていた女性────『志乃』がいた。

 

 そして彼女が一角のことを『アニキ』と呼んだように、彼女の苗字は『一角』。

 

 まごうことなき一角の妹で、遺伝子が強く出て髪が薄い ピカピカのおでこと頭に乗せた、布傘のようなかんざしが目立つ彼女を翠眼に涙を浮かべそうな男性が彼女を背後から羽交い絞めで止めようとしていた。

 

 「はなせ行木(ゆき)! ただの兄妹喧嘩だ!」

 

 「『喧嘩』って言ってる時点でだめですよ志乃さん?!」

 

「それに同じ十三番隊ならいざ知らず、アニキにあたしがどこに配置されるとか言われる筋合いは()ぇ!」

 

「うるせえよ志乃。 海燕の野郎が言い出したことだ」

 

「ングッ」

 

 左耳に小指を突っ込んだままぶっきらぼうに上記の言葉を言う一角と、それを聞いて口をつぐむ志乃。

 

 今の十三番隊に隊長である浮竹は居なく、更に海燕を最後に十三番隊への副隊長任命が無かったことで自然と副隊長に、海燕は戻っ……………………………………っていなかった。

 

 何せ彼は元々『戦死』と扱われていた上に、『仮面の軍勢(ヴァイザード)』のリサやマシロと違って体は生粋の『アーロニーロ(破面)』で、その気になれば体を虚のように形を変形させることもできた。

 

 本人は気味悪がって、極力しないが。

 

 そんな彼をリサや平子やマシロたちのように『死神(?)』と部類するには当時、無理があったことと彼の護廷に復帰しなさそうな態度も関係していた。

 

 だが今の非常時にそんなことも言っておられず、今ではルキアに代わって十三番隊の『副隊長代理』を務めていた。

 

『あくまで非常時だからな?!』と言いながらイヤイヤな態度をする海燕を見た十三番隊の皆は内心、ホッとしていた。

 

 そんな二人に、同じ十三番隊所属の誰かが声をかけた。

 

「班目志乃隊士。 ここは大人しく行木龍ノ介隊士たちと一緒に配備についてくれ」

 

 混雑していた橋の人込みから出てきたのは優しそうな笑みを浮かべたメガネの青年。

 

「か、可城丸(かじょうまる)六席(ろくせき)!」

 

「………………」

 「チッ」

 

 そして彼を見た志乃は頬を若干赤らめながら緊張し、彼女の豹変ぶりに竜ノ介(りゅうのすけ)行木は呆れ顔になり、一角は小さな舌打ちを打つ。

 

 彼は『可城丸(かじょうまる)秀朝(ひでとも)』、十三番隊の第六席。

 

「で、ですがあた────自分も護廷の死神です! なのに何故非戦闘員たちのいるこの地区の警護をさせられているのですか?」

 

「……君は『どうして自分が前線へ配備されなかったのか』に不満を抱いているみたいだね。 君、現世駐在任務には就いたことあるかい?」

 

 余談だがここで補足すると、『原作』での『班目志乃』は『行木龍ノ介』と共に空座町へと車谷善之助の後任として就く筈だった。

 

「い、いえ! 自分はまだです!」

 

「だろうね。 じゃあ単刀直入に言おう。 ()()()()()()()()だ」

 

「ッ!」

 

 秀朝のズバッとした物言いに志乃は息を素早く飲み込んだ。

 

「戦で最も危険なのは『敵兵』じゃないよ。 ロクな実績も経験もない『新兵』だ。 土壇場で『何をするのか分からない』ならまだしも、『何もしない』ことのほうが恐ろしいんだ。 何せ役割を持った人手がその役割を果たしていないからね、『予測以下の戦力低下』になってしまう」

 

「……………………わかり……ました!」

 

「あ、志乃さん! 待ってください!」

 

 今にでも奥歯をかみ砕くように閉じた口から志乃が了解の言葉を発し、そのまま龍ノ介の腕を振り解いて橋の上を走っていき、龍ノ介が彼女の後を追う。

 

「おい。 可城丸六席」

 

「なんです、班目五席?」

 

「あれだけモノを言えるなら、さっさと志乃への気持ちをいい加減にハッキリさせろ。

 俺に似すぎて、男勝りな志乃が『男』として他人を意識したのはお前が初めてだからな。 付き合うにしろ、振るにしろな? だが────」

 

 

 

 一角から今までに出たことのない圧力が全て可城丸へと向けられる。

 

「────『可愛い妹を振るってんなら覚悟しろよテメェ

 

「………………班目五席。 この戦をどう思います?」

 

あ゛? 話題変えて逃げンなよコラ────」

「────僕はこの戦が終われば返事をします。 ですから班目五席も是非その場に居たいのであれば自分を蔑ろにするような戦い方は止めてください」

 

「んだと────?」

「────彼女には貴方が必要です。 もし、貴方がいなくなるようなことがあれば彼女の心は折れてしまう。 ですから、もっとご自分を大切にしてください」

 

 それを最後に、可城丸は自分の配置の場所へと歩いて見えなくなるところで一角は気付いた。

 

「あ?! 結局はぐらかされたじゃねぇか?!」

 

「君も鈍いね」

 

 近くの陰から弓親がニタニタした笑みを浮かべながら一角の横まで来る。

 

「でも、彼の言ったことに一理はあるよ? 君が大けがをしたり、亡くなるようなことがあれば大勢の人が影響される」

 

「そりゃお前も同じだろうが」

 

「僕は嫌がられているからね。 影響するといっても、君ほどじゃないよ。 人気者は辛いね?」

 

「ガラじゃねぇよ」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 瀞霊廷の外壁の上で来る敵を迎え撃つ準備は着々と進められていき、武器の点検も再度行われていたのを、カリンは確認していった。

 

 斬魄刀を持つ死神たちは恋次が以前使っていた旧式マスケット銃型に加え、ボルトアクション式なども背負い、それらの使い方を流魂街の魂魄たちと共に技術開発局の隊士に教授されていた。

 

 ここには流魂街の魂魄たちで、通常の霊子兵装が扱えない志願者たちには槍などの長物や、弾丸に特殊な処置が施された銃型の霊子兵装も同じく説明を経験のある他人から受けていた。

 

 更に外壁の中では、瀞霊壁の『四大瀞霊門番』を務めていた巨漢の一貫坂(いっかんざか)兕丹坊(じだんぼう)比鉅入道(ひごんにゅうどう)斷蔵丸(だんぞうまる)、そして嵬腕(かいわん)のそれぞれが鎧を身に着け、大きな彼ら用の得物を手に取った。

 

「あの……」

 

 これらをカリンは見渡しながら歩いていると17歳、あるいはそれ未満の子供が彼女に声をかけてきた。

 

「ん? どうした?」

 

「『これ』の使い方を教えてもらえませんか?」

 

 そこでカリンは彼の手の中で握られていたのが霊子兵装のライフルだということに気付いて、彼女の愛想笑いがピクリと動いた。

 

「……坊主、ボルトアクション銃のことは知っているか?」

 

「あ、はい。 自分は生前、少年兵でしたので物理的な銃の使い方は知っていますがこの『霊子兵装』は初めてです」

 

「………………んじゃ、全く同じだ。 違いは詠唱と()()()()が必要なだけだ」

 

「詠唱と、イメージ……ですか?」

 

「ああ。 ボルトハンドルを起こし、回転させて薬室の閉鎖を開けて後方に引くだろ? ボルトを前方に押して弾薬を薬室に装填する間に詠唱をするんだ……その銃は見たところ、『白雷(びゃくらい)タイプ』だから、『破道の四、“白雷(びゃくらい)”』で弾丸の効果を起動していつでもそれが撃てれるようになる」

 

 技術開発局がさらなる戦力補充のため霊子兵装に改良を加えたことで、低レベルの鬼道ならば普通の魂魄でも撃てるようになっていた。

 

「……ありがとうございます」

 

「良いってことだ」

 

 それこそ、カリンの前にいる元少年兵でも。

 

「……僕たち、食われるんですか?」

 

「ッ」

 

 元少年兵の言葉にカリンは息を素早く飲み込んだ。

 

「みんな、このことを『負け戦』と呼んでいます。 『望みは無い』、とも」

 

「………………………………お前、名は何という?」

 

 カリンは膝を地面につけて、目線の高さを少年と合わせる。

 

「オイラは西崎(にしざき)。 西崎武雄(たけお)です」

 

「家族は?」

 

「父ちゃんは元陸軍で、あっちで部隊長補佐をしています。 母ちゃんは先に避難しています」

 

「一つ、裏技を教えてやるぞ武雄(たけお)。 この霊子兵装、実はというと『破道の』とかは省いても弾さえ装填していれば撃てるんだ」

 

「え?」

 

「それをお前の父親にこっそりと教えてお前んとこの部隊強化に使ってくれ。 武雄────」

 

 カリンが少年の肩に手を添えて、まっすぐと彼の目を見る。

 

「────『望み』は自分が捨てない限り、ずっと共にあるもんだ。 それにオレがいる! もし信じられなくなったら、信じるオレを信じろ!」

 

 カリンがニかっと笑うと、武雄はキョトンとして釣られるかのように笑った。

 

「……ありがとうございます!」

 

 少年はその場で回転してそのまま自分の父親らしき男性がいる場所へと戻る姿をカリンは目で追い、()()()()様子を思い出す。

 

≪オイラ達、正真正銘の家族なんだ!≫*1

 

 この少年、実はというとルキア奪還時に尸魂界にチエと三月が侵入した際に、チエがかつて来た時に世話になった右之助の居場所を探していた時に二人が出会った流魂街の子供だった。

 

 あの時、父親は『自分は戦死、家族は空爆で亡くなった』と紹介したのは嘘ではなく、少年は徴兵されて基礎訓練をしているときに大規模な空爆で同じ町にいた母親と共に亡くなっていた。

 

「…………………………」

 

 これを後に知ったカリン(三月)は、何とも言えない気持ちで歩きを再開する。

 

 背中に背負った紅い槍とライフル、腰に二丁の拳銃と短剣、さらに足にナイフといった重装備を確認しながら。

*1
22話より




『あい・あむ・ざぼーん・おぶまいそーど』。
英語に略すると“I am the bone of my sword.”

または『体は剣で出来ている』とも。

とある世界線で行われている『聖杯戦争』と呼ばれている大型魔術儀式にて登場する「弓兵」の枠に部類される使い魔である『サーヴァント』の詠唱。

そして『心は硝子』。


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第154話 World's At End

お待たせいたしました、次話です。

楽しんで頂ければ幸いです。


『自己認識』が戻った『母上』の一部は生まれたての無垢な、新しい生と同然だった。

 

 周りの全てが新しく、新鮮で興味を持つには十分過ぎた。

 

 だがやはり『大きなモノ』の一部だっただけに、『普通』では無かった。

 

 


 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷内 残存兵組 視点

 ___________

 

「気味が悪いな」

 

「そうだね」

 

 瀞霊壁と虚圏の砂を応用した壁の上で一角の独り言に弓親が相槌を打つ。

 

 彼らは他の十一番隊の者たちと同じく壁沿いの接近戦用遊撃隊に組み込まれていた。

 やはり『護廷十三隊最強』と自称することだけはあり血気盛んで士気もかなり高い彼らは席官と隊士を含め、大半が全ての遊撃部隊に配置されていた。

 

 一角が『気味が悪い』といった景色は泥砂へと化した地盤の上で半壊し、急遽堀となって燃える流魂街を『白』が徐々に覆いつくす景色とそれに伴って大きくなっていく『音』だった。

 

「まるで濁りすぎた酒じゃのぉ」

 

 ギィィィィィィ! ギギギギギギギィィィィィィ!

 

「音はせせろーし(うるさ)いだけじゃし最悪の気分じゃ」

 

 一角たちと共にこの光景を見ていた鉄左衛門の言った『音』とは耳をつんざく、細い鉄パイプなどに空気を力尽くで通す様なモノで、まるで由緒ある協会などで良く見るオルガンが壊れても無理やり演奏を続けたときに聞くような音だった。

 

「(酒に例えるのはどうかと思うが……というか俺も言えねぇか)」

 

「ほほほほほら仙太郎! 威張るチャンス到来だぞ?! なななな名にビビってんだ?!」

 

「おおおおおお前こそ足ががくがく言っているではないか清音?!」

 

「ばばばばバカ言え! これは武者震いだ!」

 

「(こっちはこっちでガチガチに緊張しすぎるし)」

 

 鉄左衛門たちの近くにいた海燕は後ろの明らかに震えている清音と仙太郎を肩越しに見る。

 

「(けどそうも言っていられないな……)」

 

 なお海燕は巻いていた包帯などは極力見えないように工夫して何とか前線に立つことを四番隊の反対を無視していた。

 

 壁沿いには様々なライフル型霊子兵装を構えた魂魄と漸術より鬼道に長けていた死神たちが緊張を殺すために無表情なまま燃える流魂街を見下ろす。

 

 壁の真ん中辺りでは、吉良が自分の部隊から少し離れていた。

 

「雛森君、本当に大丈夫かい?」

 

 彼と同様に隊を任された雛森へ確認をしていた。

 彼女がいたのは激戦区と予定されていた場所故に、一番戦力が集結されていた。

 

「うん……私だって、護廷だもの。 私の出来ることをやるだけだよ」

 

「そうかい。 そう言うのなら、もう僕からは何も言わないけど……」

 

 この二人のやり取りを、後ろで見ていたとある三人組がひそひそ話をする。

 

「うわぁ~……吉良副隊長って、雛森さんと日番谷隊長がなんか良い雰囲気になっていること知らないのかな?」

 

「ん? どういうこと田沼君?」

 

「おま?! マジかよ、櫃宮(ひつみや)?」

 

 五番隊の席官三人衆である。

 

「まぁ……櫃宮だからね」

 

「そうだな」

 

「え?! どういうこと? 確かに二人ってかなり会う頻度が上がっているけど────?」

「「────そういうことだぞ櫃宮」」

 

 だもんで(だから)どういうこと?!」

 

 さらにこれを見ていた市丸は、ニヤニヤしながら口を開けていた。

 

「なんや、吉良ってば相変わらず運が無いなぁ」

 

「元隊長だったお前に言われちゃ終わりだな」

 

「まぁまぁ、そう言わんといてぇな」

 

 ジト目のカリンに、糸目の市丸がいつもの調子を出す。

 

「しかしまさか護廷十三隊がこれほど強化されていたのは意外だったな……特に五番隊が」

 

 東仙がぼやいていたのは『蛆虫の巣』から出た後、瀞霊廷の異変に臆することなくせっせと動いていた副隊長と席官たちに五番隊の隊士たち。

 

「隊長────」

「────私はもう、隊長ではないよ檜佐木くん……」

 

「そう言っても、こうやって肩を並べている間だけでも呼ばせて頂きます。 癖なもんで」

 

「……好きにしろ」

 

 吉良が戻っていった先には恋次、ルキア、そして乱菊たちがいた。

 ちょうど海燕たちから雛森を挟んで反対の場所で彼らは無言でただ目の前の燃える流魂街を見ていた。

 

「……………………燃えているな、ルキア」

 

「ああ、そうだな」

 

「………………(あまりいい思い出はないけど、高目の前で破壊されちゃあちょっとアンニュイになるわね)」

 

 前線から少し後方へと移ると七緒とリサが待機している予備隊の指揮をとっていた。

 

「……………………」

 

 そして七緒は震えそうになる手で、ギュッと分厚い本を腕で抱きしめていた。

 

「怖いか、七緒?」

 

「……」

 

 七緒は答えず、ただ眼鏡を震える手でかけ直しながらそっぽを向く。

 

「安心しぃ。 ウチも怖いわ」

 

「え?」

 

 リサの意外と素直なカミングアウトに七緒は目を丸くさせながら彼女を見る。

 

「今にでも叫びたい気分やけど……真子のアホがな? 昔言うとってん、『下の(モン)は上の奴の態度見て出せる力が比例する』ってな。 せやから怖くても、目の前の事に目ぇ離したら他の奴らも外す。 敵の前でそないなことしたら『ジ・エンド』やわ」

 

「……え? そこは『ザ・エンド』じゃないんですか?」

 

「真剣な話してんのに、どこかの生意気な金髪マセガキみたいに言わんとき」

 

「……………………本の続き、一緒に読みましょうね?」

 

「アホ。 言われなくとも続きが気になるから当たり前のことや」

 

 さらに後方では壁全体を見渡せる瀞霊廷でも高所なビルに雀部が全体の指揮と、救護班の指揮をするために勇音が無線機を持っていた。

 

「……………………………………」

 

「(凄い。 伊達に長い間一番隊の副隊長はやっていない。 こんな状況なのに汗一つ書いていない)」

 

 勇音はこの状況下でも表情を崩さず、平然とする雀部の横顔をチラチラと盗み見る。

 

「どうした、虎徹副隊長?」

 

「ヒェ?! い、いえ! ただその……ええと……『涅副隊長はどこかな~』って」

 

「彼女ならば戦力外とみなされた技術開発局総員で別件に取り掛かっている」

 

「そ、そうですか」

 

「「………………………………………………………………………………」」

 

 気まずい沈黙を、勇音がまたもや破る。

 

「そ、それで卯ノ花隊長は?」

 

「………………今は目の前のことに集中することを推薦する」

 

「は、はい!」

 

「(とはいえ、未だに音沙汰なしとは少々……いや、かなり不安だ。 そろそろ犠牲を承知の上でこちらから接触をするか?)」

 

ギギギギギギギィィィィィィ

 

「……始まるか」

 

 人工破面たちが出す、けたたましい音がさっきより大きくなったところで流魂街の魂魄たちや多数の死神たちが目に見えて動揺し始めたところで雀部が無線を通して初めての指令を出す。

 

『壁の鬼道発砲隊、総員準備! 初撃は命令あるまで待ち、その後は魂魄たちの一発に隊士たちは二発撃ちを開始!』

 

 ここで彼が言った撃ち方とは単純に『不慣れな魂魄の遅れを死神たちが補う』と言ったもので、出来るだけ攻撃にリズムをつけて一定の時間に安定した攻撃回数を行うためのモノだった。

 

『副隊長たちへ、笛の使用は任せる。 遊撃隊は近くの笛が鳴れば速やかに向かって対処をせよ』

 

 

 

 やがて燃える流魂街を数にものを言わせるかのように、人型の人工破面たちは焼けて死んでいった斥候型たちの遺体の上を前進しながら近付いていった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 『ギギギギギギギギギギ!』

 

 瀞霊廷内部、四十六室の議事堂近くにある貴族街の中では微かに聞こえてくる音に下級貴族の私兵や死神たちの何人かはゴクリと喉を鳴らす。

 

 最初は『瀞霊壁を突破した少数の敵の相手だけをする』と思っていた彼らだが吉良の説得の話を聞いた後では尋常ではない数が攻めてくることを知り、それが楽観視した考えと痛感していた。*1

 

 だが既にその時から逃げ出そうと思っても四十六室たちのように身軽ではない彼らはさらに瀞霊廷内での籠城に励んだ。

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!

 

「(クソ!)」

 

 その中に、かつてないほどイラつきながら油煎餅を頬張る大前田の姿があった。

 

 忘れがちだが彼は二番隊の副隊長であると同時に隠密機動、そして家柄は金持ちのボンボンで彼自身も『大前田宝石貴金属工場』の社長を兼任している。

 つまり彼も一応は『上流階級(貴族)』と部類され、彼と彼の家族は周りの者たちに悲願されて貴族街の守護を頼まれた。

 

 最初大前田は『ふざけんな! 俺は家族を連れて逃げる!』と思っていたが、意外なことに父親である希ノ進(まれのしん)がほかの者たちの頼みを聞き、了承していた。

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!

 

「(しかも『希千代()が指揮をとる』ってどういうこった?! 親父(おやじ)は何を考えてんだ?!)」

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!

 

 大前田は隠し切れないストレスを、油煎餅をかみ砕くことで発散しようとしていた。

 

「チッ!」

 

 だが袋が空になったことで、彼はその袋を地面へと叩きつける。

 

「おー、おー。 荒れてるねぇ~?」

 

「お、親父?!」

 

 大前田の背後から声をかけたのは同じ体系と顔、そしてパーマのかかった髪の毛の『大前田希ノ進(まれのしん)』。

 

 見た目はどこぞの悪趣味なチンピラと○ヤをミックスしたようなもので、ついさっきまで大前田が愚痴っていた父親本人である。

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

 あれからずっと喋っていた。

 

『2013年』で会った、『黒崎織姫』や『黒崎一勇』にコンたちから聞いた話などを。

 山本のじいさんの代わりに、京楽さんが総隊長になっていたこと。

 浮竹さんが死んだこと。

 

 

 1991年の6月17日に、死んだおふくろ(黒崎真咲)のことを。

 

 等々。

 

 多分、聞いて欲しかったとかじゃなくて……

 自分自身の気持ちを落ちつかせたかったんだ……

 と思う。

 

 時々チエが『そうか』という相槌をしてきているが、本当に話を聞いているのかわからない。

 

 それほど没頭していた。

 

 やがて喉は乾き、

 

 

 疲れたのか、

 

 

 

 

 目の前が真っ暗になっていき、気付けば体に力が入らなかった。

 

「……?」

 

 

 ガクッ。

 

 

 「……一護?」

 

 

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

「……一護?」

 

 名前を呼ぶも、一護は目をつぶったまま首をだらりと垂らしていた。

 

 彼女が彼の近くに寄ると首が汗だくで頬がやつれていたことにやっと気付く。

 

「……………………マズイ」

 

 チエは思わず言葉を口にしながら彼を横に寝かせる。

 

「(しまった、()()()()())」

 

 前に彼女が言ったように、彼らがいる現在地は『死んだ世界』。

 

 さて、ここで『死んだ世界』が何たるかの説明を簡略化すると『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』となる。

 

 現在の地球ではすべての生物は何らかの形で生きるため、世界に依存している。

 

 それが『酸素』や『大気』であれ、『紫外線なしの陽光』や『菌の含めた大地』であれ。

 

 

 

 

 霊体を保つ『霊力』であれ。

 

 

 

 それらが無い環境で生きていこうとすると、体は自然と持ち前のモノを代わりに取って生命活動を続けようとする。

 

 そして一護は文字通り、『生きる為に命を削っていた』。

 

「(どうすれば良いのか分からなかったのならば、今するべきことは────)」

 

 ザシュ!

 

 チエは自分の刀を鞘から出し、左手を深く斬った。

 

「(────一護をもとの世界に帰す)」

 

 その傷口から垂れだす血を横になった半開きになり、ヒューヒューと弱っていた一護の口へと持っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………………………死ぬな、一護」

*1
150話より




ピコーン♪ ←過去アンケートからのフラグ音


余談の追伸:
年度末の会計を今の今までサボって別部署の人にそれらを手伝わせようとする人たちなどはリアルでお断りしたいです。


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第155話 All Fall Down

お待たせしました、少々勢いで書いたのでドキドキ不安のまま次話の投稿です。

久しぶりだったので戸惑っていますが、楽しんでいただければ幸いです。


 さて。

 

 長い間仮説や昔に起こった()()()()()()演説に、付き合ってくれてありがとう諸君。

 

 ここからは独り言だと聞き流してもいい。

 

『運命』に定められた『異端』が『普通』となるにはどうすればいいか、考えたことはあるかね?

 

 無論、『変わる事』となるが……

 

 何も『異端』変えることだけではない。

 

()()()()()()、『()()()()()()()()()

 

 だが全てを賭けても、相手は『運命』。

 

()()()()()()』というのなら他から借りだせば良いだけのことだ。

 

 例えそれが幾億の()かけて手に入れたモノだとしても、

 それがひと晩明けて朝の鶏が鳴けば残る事無く崩れ去るとしても、

 賭場は()()

『運命』はカードを混ぜ、『配られた手札』がどれだけ優秀だとしても相手は規格外のジョーカー。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()

 

 この一度きりの、『一夜の勝負』の為に、全てを賭けよう。

 

 それでも『足りない』となったならば…………『それまでの事だった』と言うだけだ。

 

 

 

 

 …………………………………………ん?

 

『ところでお前は誰だ』って?

 

 まぁ、そう気にかけないでくれ。

 

 別に大したものではない。

 

 ()()()()()()だよ。

 

 そしてこの話の続きは、また何時かやるとしよう。

 

 今の私は、()()()()()()からね。

 

 


 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷内 残存兵組 視点

 ___________

 

『壁の鬼道発砲隊、総員準備! 初撃は命令あるまで待ち、その後は魂魄たちの一発に隊士たちは二発撃ちを開始!』

 

 ギギギギギギギギギギ!」

 

 無線機越しに聞こえてくる雀部の声は燃える流魂街の瓦礫の中から木霊する人工破面の鳴き声(?)に上書きされそうになるが、瀞霊壁沿いの死神たちが銃を構えると同時に流魂街の魂魄たちも同じようにする。

 

 何人かは地面を伝っておぞましいほどの人工破面が大地を動く鼓動に影響されたのか震えながらも、今か今かという焦りを持ちながらも、次の指令を待った。

 

 バァン

 

「ヒッ?!」

 

 バババババババァン

 

 一人の魂魄が震える手のまま引き金を引く為にかけていた指に力が入りすぎたのか誤って発砲し、これにびっくりした周りに者達も発砲した。

 

「待てぇぇぇぇぇぇい!」

 

ギィィィィ?!

 

 これを見て焦った近くの死神が静止の叫びを出し、人工破面の断末魔らしき音に瀞霊壁、そして流魂街からの音すべてがピタリと止む。

 

「「「「「………………………………………………」」」」」

 

 聞こえてくるのはパチパチとする鋭い炎の音のみと、震える銃や鞘に入ったままの刀たちがカチャカチャと出す金属音。

 

 その状態が何分、何秒続いたのかは定かではない。

 

 あるいは一秒未満だったのかもしれないが、当事者たちの時間の感覚はマヒしていた。

 

 そしてその正に『嵐の前の静けさ』と呼べる状況は一転する。

 

 ギギギギギギギギギギ

 

 今までよりけたたましく、鼓膜が破れそうになるほどの鳴き声と共に『津波』と呼んでも過言ではない数の『白』が流魂街だった瓦礫の中から瀞霊壁へと押し寄せる。

 

 ────!

 

 鳴き声に応戦するかのように壁沿いから発砲音が止め処なく、ただただ続いた。

 

 死神も、魂魄も、誰も彼もが一心不乱に鬼道を銃越しに行使し、目の前の波を近づかせない為に抗うことに必死だった。

 

 その動きは統率が取れている時よりも素早く、停止した思考によって逃げる者が出ることもなく、文字通り『死に物狂い』。

 

 宙を舞う、様々な鬼道が迫り来る敵を感電させて動きを止め、光線が穴をあけ、火の玉に当たって火だるまになったり、吹き飛ばしたりしていった。

 

 マネキンのような手が。

 腕が。

 足が。

 上半身が。

 足を失くして地面を這いずる肘が。

 

 それでも尚、人工破面たちは向かってくる。

 

 もし、この時に壁沿いの者たちが隣人を見ていれば気付いていたかも知れない。

 

 死神と魂魄、この二組で銃を発砲していた者たちが全員口を開けて叫んでいたことに。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 上記の激戦の音は貴族街に届いていた。

 

 これによって緊張感が更に高まり、戦意喪失しそうになる者たちがチラホラと出始める。

 

 実は『見えている恐怖』より『見えない』、または『知らない』恐怖は恐れる気持ちと想像で実際より増幅される趣向がある。

 

「(うおおおおおおおお! 前線にいなくてよかったぁぁぁぁぁぁ!!!)」

 

 その中で大前田(希千代)はビビると同時に安心(?)していた。

 

「よっこらっせ、っと」

 

 近くの建物に希ノ進は背中を預けてから懐から煙草を出して唇に含む。

 

「……怖いか、希千代?」

 

「は、ハァァァァァ?! ここここれは『武者震い』だっての!」

 

 デブ ふくよかな大前田(希千代)の震えは隠そうとしても出来るものではなく、彼の悪趣味なこれ見よがしに高そうな金のブレスレットがカチャカチャと小さな音を出し続けていた。

 

 これを見ていた希ノ進は煙草に火を点けず、ただ彼をじっと見ると、大前田(希千代)が視線を気まずそうに外した。

 

「てか何で俺を指名したんだよ親父?!」

 

 大前田(希千代)はもうイラつきを隠そうともせず、父親に自分の持っていた疑問を投げた。

 

 彼は決して口にはしないが彼の父親である希ノ進は夜一が現役の隊長だった頃の元二番隊副隊長で、あの砕蜂でさえも敬意を持つほどの有力者だった。

 

 護廷十三隊から身を引いて、()()した今でも。

 

『出来損ない』。

『似ているのは姿だけ』。

『蝶と蛾』。

『偽物』。

 

 などと、大前田(希千代)は前代の父親と比べられて育ってきた。

 

 ちなみに希ノ進は漸術や白打に歩法もそれなりに使えていたが、鬼道は特に達人の域に達していた。

 

 いとも簡単かつ余裕の詠唱破棄で、八十番台である『断空』を6重展開出来るほどに。

 余談だが現在の護廷十三隊でこんな芸当が出来るのは手で数えるほどの少人数。

 

 しかもこのことが出来たのは本人(希ノ進)曰く、『サボり魔の上司(夜一)を捉えるには、これぐらい朝飯前だ』とか。

 

 何をしようにも、何を遂げようとしても、必ず(夜一や浦原とはやや劣るも)『稀代の天才である父親ならばもっとできていた』という言葉を浴びた。

 

『もっと効率の良い方法をとっていた』。

 

『希ノ進なら』。

父親(希ノ進)なら』。

 

 ならならならならならならならならならなら。

 

 行動をとる度にそんな言葉だけが返ってくれば、苦手意識が芽生えるのも無理もないだろうか?

 

 そんな、ある意味潜在的なトラウマの父親が逃げ遅れた下級貴族の私兵たちの頼みに対し、『息子(希千代)が指揮をとる』といった張本人がこうも飄々としているのは大前田(希千代)にとって胃の痛くなる原因でしかない。

 

「「…………………………………………」」

 

 二人の間に言葉はなく、周りからはただ遠くから聞こえる戦闘音だけ。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

ギィィィィィィィィ!!!

 

 撃てども撃てども『(人工破面)』が『灰色(死神)』たちのいる場所に迫り来て、ついには壁に到達した。

 

「撃てぇぇぇぇぇぇ!」

「登らせるなぁぁぁぁ!」

「一斉射ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 バババババババババババババババババババァン!!!

 

 死神と魂魄たちの何割かが壁を登ろうとした人工破面を撃ち殺す。

 だがそれでも止まらない人工破面は仲間の死骸を登っては死に、次の人工破面が後を続いていく。

 

「門だ! 門の方へ行ったぞ!」

「門を守れぇぇぇぇ!!!」

 

「オラだちの出番だ!」

「ではいきますよ!」

「……(コクリ)」

「待ちわびたぜ!」

 

 この時、瀞霊壁ではなく虚圏の砂で作られた即席の門と壁を破ろうとする人工破面たちに気付いて叫ぶ死神たちに答えるかのように四大瀞霊門門番たちの四人は、近くの投擲用のオブジェを手に取る。

 

「しくじんなよテメェら! 虎の方向、投げろぉぉぉ!」

 

 ォン!!!

 

 空鶴の叫びに、門番たちは一斉にオブジェを投げてそれらが敵のいる地面に着弾すると爆発していく。

 

「もうちょい上だ! 投げろぉぉぉ!」

 

 ォン!!!

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「(敵が単調的でよかった)」

 

 この場を大局的に見ていた雀部は最初こそ内心焦っていた。

 確かに敵の人数は決して少なくないが、イノシシのようにただ真正面から攻め込んでくる人工破面たちを一方的に蹂躙できる現在に安堵を感じていた。

 

 だが次の瞬間、またも焦ることとなる。

 

『グワァァァァァァ?!』

『な、なんだこれは?!』

『クソ! こんなの聞いていないぞ?!』

 

「ぬ?! どうしたお前たち?!」

 

『こちらスーパー副隊長マシロ!』

 

 無線機から来たのは中央の、雛森から近い距離の即席壁にいたマシロの声だった。

 

『あの変なマネキンたちが槍を撃ってきたよ!』

 

「なに?!」

 

『自分の腕を千切って投げてきてる!』

 

「なん……だと?」

 

 なんと、人工破面たちが自らの腕を変化させてはもぎ取ってそれを投げていた。

 

 ……

 …

 

ぎゃああああああああああああああああああああ?!

いでぇぇぇぇ?! いでぇよぉぉぉぉぉぉ?!

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!

 

 前線の壁沿いで、敵が投げてきた槍が直撃した死神や魂魄たちは倒れては苦しむ叫びを出す。

 

 ()()()()()()()()()()

 

「し、死んでいる?!」

「な、なんで?!」

 

「君たち、こっちを見るな! 相手を撃つことに集中しろ!」

 

 これを見た魂魄たちに動揺が走るも吉良の怒鳴る声で銃を壁に近づいてくる人工破面たちの軍勢に発砲を再開し、吉良は苦しむ声を出す者たちのことを診始める。

 

「(なんだこれは?! 確かにこの人たちは死んでいる……なのに()()()()()()()()だと?)」

 

『怖イ?』

 

 吉良の脳裏に浮かんだのはとある男の言葉。

 

 だが彼はこの考えを否定するように首を横に振る。

 

「(馬鹿な! 奴は死んだはず! 確かにローズ隊長とルキアに倒されて、総隊長にとどめをされた筈だ!)」

 

 ここで吉良の脳裏を過ぎったのは『恐怖(ザ・フィア)』の『エス・ノト』。

 

「(それに相手は()()だ! 滅却師じゃない!)」

 

「き、き、吉良さん!」

 

 そこで魂魄の一人が彼の名を呼んだことで考えにふけそうになった意識が今へと戻された。

 

「あ、()()を!」

 

「(『あれ』?) ッ?! そ、そんな馬鹿な?!」

 

 吉良が魂魄の指していた方向に視線を移すと彼は声と共に驚愕の表情を浮かべて乱菊の方を見た。

 

「ッ」

 

 乱菊はズキリと一瞬痛む体を震えさせ、泥沼化した堀の上を障害なしと同様に歩いて近づいて来た巨体を睨む。

 

 姿は少し彼らが覚えているモノと違ったが、その大きさと特徴は確かに()()()だった。

 

 

 

 ___________

 

 虚圏援軍要請組 視点

 ___________

 

「なるほど~、だから警戒していたんですねぇ~」

 

「お前、何か調子狂うな」

 

「それほどでも~」

 

「……………………チッ」

 

 グリムジョーの嫌みが含められた言葉にリカのノホホンとした返答に、彼は舌打ちをする。

 

「なるほどなるほど…………あれらは君たちの『アヨン』をもとに作られたタイプだったと言うわけだね」

 

「近づくな、変態紳士」

「噛み切るぞ」

「ぺ」

 

 ドルドーニの頷きと納得する言葉に3獣神はそれぞれ雑な返しをする。

 

 さっきまでリカたちがこの隠れた集落にいた破面たちに聞いた情報は彼らが虚圏で遭遇した様々な人工破面の型のことだった。

 

 四足の斥候型。

 二足の凡庸型。

 大型の『アヨン』型など。

 

「それにしても遅いですねぇ~」

 

 リカが見たのは、自分の提案に乗るか否かを話し合う他の破面たちの姿。

 

「仕方ないんじゃない? 元十刃や十刃落ちのあたし達はともかく、あっちは藍染様の下にいなかった野良の破面たちがメインなんだし」

 

「相変わらずフレ〇(SEED)は見た目重視なんですね、ネイルなんか気にして」

 

「だから何よ、その〇レイってのは?」

 

「赤髪のビ────いえ何でないのよ?

 

「…………アンタ、声変わった?」

 

気のせいではなくて?

「(なんですか急にキャス子さん)」

「(今の状況で『ビッチ』呼ばわりはどうなのよ?!)」

「(え? ダメですか?)」

「(ダメに決まっているでしょ?!)」

 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

「……………………………………」

 

 チエのブーツがザクザクと地面の砂を踏んでいく。

 

 彼女の首越しには一護の吐息と、背中にはグッタリとした彼の体。

 

 チエが自らの血を水代わりにあげた時から彼女は塔を出て周りの建物を探索したが、食料などになる様なモノが無かったことで彼を背負い、再び砂漠へと出て遠くに見えていた人工物へと再度歩いていた。

 

 流石の彼女もこれには堪えたのか、顔には大粒の汗が噴き出ていて、切った手には破いた布を包帯代わりに巻いていた。

 

 彼女は珍しく、自ら行動を起こしていた。

 

『一護は生きて元の世界に返す』と言った思い付きから。

 

「ウッ?!」

 

 急にふらつく足がもたつき始め、彼女はぐっと力を入れ直して姿勢を戻す。

 

「────」

 

「……何か、言ったか?」

 

 一護が何か言ったと思ったチエは聞き返すが、戻ってきたのは彼の吐息だけ。

 

「………………………………」

 

 チエの目に汗が染みこんで視界がぼんやりし、彼女が瞬きをしながら歩きだすとまたも声が聞こえてきた。

 

何時まで背負う?

 

「……………………」

 

 チエに聞こえてきたのは頭に直接響く声で、()()()聞いていないものだった。

 

このままでは共倒れになるのは明白。 希望がないのになぜ助けようとする?

 

「……………………(黙れ)」

 

いいや、黙らない。 背中の者が今を生き延びたとしても、いずれ別れは来る。 それをお前は知っているはずだ

 

「(黙れ)」

 

この場を“それ”と一緒に切り抜けても、

 “それ”が生き抜いても、

 死すべき定めの辛さを味わうことになる。

 

「………………」

 

例え敵に倒れずとも、

 やがて時が過ぎれば衰え、

 それが病であれ歳であれ、

 死を迎えることとなる。

 そうなれば()()失う苦しみが続く。

 今も昔も周りが死して世界の全てが終わり、枯れゆく森や変わる大地をどれだけ歩いても尚、

 一人寂しく世の中を彷徨っていずれは星もない夜を過ごすことになる。

 

「…………………………………………………………………………」

 

 ドサッ。

 

 チエは思わず膝を地に着け、気付けば口を開けていた。

 

「…………………………………………………………………………♪~」

 

 彼女の口から出てきたのは聞きなれない言語を使った歌のような響き。

 文字に出来ない、聞く者がいれば体の芯にある心がスッキリするようなモノ。

 

そこまでするのか? “それ”の為に。 やめろ

 

 それは敢えて例えるのなら『賛美歌(さんびか)』、または『祈り』だった。

 

「♪~」

 

 チエは目を閉じながら一護を背負ったまま体をゆっくりと前後に揺らしながらただ()った。

 

 その姿はまるで、今まで宗教を()()にしていた聖職者が藁にでもすがる思いで、誠心込めて神へと祈りを捧げる者の姿だった。

 

「(誰でもいい…………何でもいい…………誰か私の声を聴いてくれ。 この背中の者だけでも救ってくれ)」

 

 チエが思い浮かべるのは空座町や、瀞霊廷で知り合った人たち。

 

「(彼を必要としている者たちがいるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()。 ()())」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その願い、聞き入れたわ。 ()()()()()()()♪」

 

「ッ」

 

 不意に聞こえてきた女性の声に、チエは息を素早く呑み込んでまどろみの中へと消えていく意識で抗おうとする。

 

「(これが狙いか。 よく………………………………………………考えたものだ)」

 

だから言ったのだ、“やめろ”と…………』




大前田の父親や関係などに関しては独自解釈や独自設定などがわんさか山盛りされています。 ←今更


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第156話 Make a Man Out of You

大変お待たせ致しました、前話の勢いのまま書いた次話です。

そして過去アンケートへのご投票、誠にありがとうございます。
未だに目を通して参考&励みにしていますので非常にありがたいです。

今更ですが独自解釈や設定にその他もろもろが続きますが、楽しんで頂ければ幸いです。


 ___________

 

 虚圏援軍要請組 視点

 ___________

 

「(お腹の減り具合からすでに数時間経っていますね…………遅いです)」

「(仕方ないわよ。 内容が内容だけに)」

「(それでも想定よりは遅いです)」

 

「「「「…………………………」」」」

 

「「どぅわぁ?!」」

 

「わ」 ←棒読み

「(アジャパ?!)」

 

 野良の破面たちが議論を始めてかなりの時間が経過したのを感覚で感じていたリカの自己問答(?)の末に、アパッチとミラ・ローズが声を出しては近くに三メートル弱の最下級大虚(ギリアン)が数体、音沙汰も無く立っていたことにリカと彼女が『キャス子』と呼んでいた者も気付いて一緒にビックリする。

 

 リカのモノトーンな『わ』に対し、キャス子は意味不明な『アジャパ』だが。

 

「ハッ。 ビックリする時も顔色一つ変えないとは表情筋、死んでいるんじゃねぇのか?」

 

「まぁ、ほぼ壊死しているのは認めますけど」

 

「「え」」

 

 グリムジョーのからかう一言をあっさりと認めたリカに、彼とさっきまで静観していたスンスンが目をパチクリとしていた。

 

 だが今度は次のことでリカも彼らと同じく目を見開くこととなる。

 

誰?

 通訳:誰?

懐かしい匂いがする

 通訳:懐かしい匂いがする

ウン

 通訳:ウン

うん

 通訳:うん

うン

 通訳:うン

 

 男女、あるいは大人か子供かも分からないような、様々な声帯が混じりあった声がリカの近くにいた最下級大虚(ギリアン)たちからしては集落からワラワラと他の最下級大虚(ギリアン)が彼女の周りに群がり始めた。

 

おおおおおおおおおおおおおお?? リアルで『荻野〇尋』の気分です~」

 

 逆に3獣神たちは最下級大虚(ギリアン)が喋ったことにポカンとしていた。

 

 以前、日番谷が一護に説明した時の言った『アジューカスはギリアンより知能が高い』は嘘ではないがここで省かれたのは『ギリアンは自我がほとんど無く、知能も低い』という情報。

 

 つまり本来最下級大虚(ギリアン)は殆んどが本能によって動く『獣』。

 もしくは『野良の動物』が虚圏や尸魂界の()()

 

「お前らも初めてか」

 

「ネルたづもびっくり! 何時ものように挨拶すたら急さ答えが返って来だ!」

 

「オレはお前(ネル)にもっとビックリしたけどな」

 

 グリムジョーがガシガシと頭を掻き、一体のカ〇ナシ 最下級大虚(ギリアン)の頭に乗ったどМ幼女 ネル(幼女)がケタケタと豪快に笑いながらやってくる。

 

 そしてグリムジョーの頭上には成人し、自分が知っているネルと今のネルの間に『≠』の絵図が浮かんだ。

 

わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 ←モノトーン

 

 リカはさらに寄ってくる数が多くなっていく最下級大虚(ギリアン)たちに待ちあげられそうになり、珍しく焦ったのか手足をバタつかせた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「で? 急に最近になって『自分たちが解った』という事でいいですか?」

 

「「「「「うん」」」」」

 通訳:うん

 

 やがて最下級大虚(ギリアン)たちの手から自分を解放したリカはいつも以上にハネっ毛&寝癖のボサボサした髪型に代わり、彼女の問いに最下級大虚(ギリアン)たちが一斉に頷きながらする。

 

「(タイミング的には丁度私たちが再召喚された時ね)」

「(みたいですね~。) それで? ギリアン(小)の貴方たちはボクの提案をどう思います?」

 

 リカの問いに彼女が命名した『ギリアン(小)』たちは互いをキョロキョロと見る。

 その仕草は世間を知らないような無垢な子供、あるいは初めて水の中へ飛び込むのを躊躇するペンギンたちのようだった。

 

「(可愛いですね~)」

「(え゛。 私的にはナイわね、これ)」

「(あれだけワキャワキャする竜牙兵を召喚した葛木キャス子に言われたくないです)」

「(あれは……………………ノーコメントで)」

 

自分たちには……無縁?

 通訳:自分たちには……無縁?

これまでずっと人間や死神の事より虚

 通訳:人間や死神の事より虚

うん

 通訳:うん

たまに来るけど全然興味ない

 通訳:たまに来るけど全然興味ない

 

「ですが今は話が違いますよね?」

 

 まるで数体が意識を共用しているかのような返事がギリアン(小)から帰ってきて、リカは少しトゲのある返しをする。

 

 またもギリアン(小)たちは互いを見てから視線をリカに戻す。

 

じゃあ決める

 通訳:じゃあ決める

決める?

 通訳:決める?

うん

 通訳:うん

 

「(やっぱり可愛いですね)」

「(……………………ノーコメント)」

 

 ワラワラとするギリアン(小)に愛着が沸いたリカに葛木キャス子は黙秘を貫いた。

 

 

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷内 残存兵組 視点

 ___________

 

「「………………………………」」

 

 瀞霊廷内の貴族街での即席であるバリケードの近くにいた大前田ーズ(希ノ進と希千代)の間にただただ長く、(少なくとも大前田(希千代)には)気まずい沈黙が続いた。

 

 瀞霊壁側から来る『激戦の背景音を除けば』の前提だが。

 

 鬼道やかすかに聞こえてくる人工破面らしき鳴き声と応戦する者たちの叫びが風に乗って大前田(希千代)の耳に入ってくる。

 

「……スゲェ音だな、おい」

 

「だろうよ」

 

 まさに『戦乱の世』と言っても誰もが思わず頷くような音の中、大前田(希千代)がぼそりと上記の言葉を漏らし、いまだに口に咥えた煙草に火を点けていない希ノ進があいづちを打つ。

 

「何せ瀞霊廷の奴ら全員入れても、敵の10万を超えることは無いんだ。 そりゃあ死に物狂いになる。 瀞霊壁が突破されれば多分、押し寄せてくる敵サンの波はもう瀞霊廷の中にいる誰にも止められねぇ」

 

「………………」

 

 希ノ進の言葉は大前田(希千代)にとって、回りくどい自分へ向けられたモノに聞こえていた。

 

「ちげぇよ」

 

 「ケッ、どうだか」

 

 これを知ってか、あるいは勘付いた希ノ進の否定を大前田(希千代)は切って捨てた。

 

「お前、護廷に入ったは理由は覚えているか?」

 

「(アンタの所為だろうが?!)」

 

 大前田(希千代)の中でリプレイするのは何をしようにも父親と比べられる数々の場面。

 

「………………その様子じゃ、忘れちまっているようだな?」

 

「あ?」

 

 ため息交じりに言った言葉に、大前田(希千代)が視線をようやく父親の方へと移すと彼はギョッとした。

 

「ん? ああ、そういや()()を見せるのはお前で三人目だな」

 

 大前田(希千代)が見たのはスーツのズボンがたくし上げたことで見えたもの。

 右の膝から下がバックリと無くなった希ノ進が、懐から出したスプレー缶で()()の関節に油を注入する姿。

 

「お、親父……その足────」

「────ん? これか? まぁ……ちょいと昔にドジッちまってな? 『もう瞬歩が満足に使えんお前は要らん』って言われて除籍された。 この足は『ついでに試作品が出来たンで僕からプレゼントです。 夜一サンに言われたからではありませんよ?』、だそうだ」

 

『あの父親(希ノ進)がドジを踏んだ』。

 

 まさかそんなことがあるとは思っていなかった大前田(希千代)は戸惑いや現状に恐怖することを忘れさせ、純粋に興味を持たせるには十分だった。

 

「俺ぁよ? 嬉しかったんだぜ? お前が護廷十三隊に入ったって聞いた日はよ? 何せ、お前はずっと前から俺に比べられて引きこもり気味だったからな」

 

 希ノ進はここでようやく咥えていた()()()()()()()()()をポリポリと食べ始めた。

 

「ま、そんときゃ希次郎三郎(まれじろうさぶ)が既に読書で引きこもって頭の良さを披露していたから家にいられなくなって工場を立ち上げてそっちに寝泊まりしていたよな?」

 

『大前田希次郎三郎(まれじろうさぶ)』。

 希千代の兄であり偏屈者であるが頭の回転と知識だけならば瀞霊廷内全てを入れても上から順に数えたほうが圧倒的に早い……が、やはり希千代のように父親に比べられるのが嫌で現在でのいわゆる『ニート生活』を徹底している。

 

 そして希千代にそのまま蝶ネクタイと丸眼鏡を着けた姿。

 

「んで希美(まれみ)は……」

 

 希千代と希ノ進の頭上に浮かんだのは白と青が混ざった着物に長い茶髪、紫のアイシャドーと赤い口紅をした希千代 希美(まれみ)

 

「「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」」

 

 母親譲りの強烈なまでの性格をした希美(まれみ)を思い出す二人は若干青ざめた。

 

「ま、まぁあれだ。 母親(希華)みたいにタフな女になった」

 

 果たして悪趣味をした女性貴族の模範とも呼べる彼女と彼女の母親が『タフ』かどうかさておき、他人の陰口など気にもしない様子は確かである。

 

「あれは……護廷十三隊に入隊したのは、別に理由なんかねぇよ。 ただ親父が推薦状なんて出したから、仕方なく────」

「────やっぱ忘れてんじゃねぇか、お前。 希代(まれよ)の為に入ったんだろうが」

 

「え?」

 

『大前田希代(まれよ)』。

 大前田家の末っ子で恐らく家族の中で唯一顔が家族とはかけ離れ、まさに将来はきっと大物の容姿になると断言できる美少女。

 

 そして良い意味での模範的な引っ込み思案な貴族令嬢の性格に口調は、誰もが『ホンマに大前田家なんかワレェ?!』と叫びたくなるような人物。

 

「確かに希美(まれみ)希次郎三郎(まれじろうさぶ)にお前は俺と比べられるがよ? 希代(まれよ)は昔からお前含めた俺ら全員に比べられていたんだ」

 

「(知っているさ。 だからアイツ(希代)はよく俺の離れや工場に来るんだ)」

 

 希代(まれよ)の容姿はどこからどう見ても遺伝子レベルで大前田家からかけ離れていただけに、周りの貴族のある事ない事の陰口が絶えず、かなり肩の狭い思いをしていた。

 

 そんなストレスを無意識的に感じたのか発散するためか、彼女は趣味や性格の合わない母親や姉や兄たちとは離れ、希千代が行く先によく付いていった。

 

 それだからか、希千代はずっと彼女の相手を良くしていて今ではすっかり『お兄様っ子』になっていた。

 

「ある日、お前はスッゲェ酔っぱらって『希千代を護りたい! だから推薦状を書いてくれオヤジ!』って頼んで来たときはどうしたものかと思ったぜ、正直」

 

「(まっっっったく身に覚えがねぇ……)」

 

 余談だがこの時、希千代は工場の取引先との交渉後という事も待ってかなりお酒が入っていて帰り道に、通りかかった人達がとあることを口にしていた。

 

『それにしても希千代が可哀想だなぁ、あんな金の亡者の家族に生まれて。 きっと相手が金さえ注ぎ込めば誰にでもオッケー出すんじゃね?』

 

 それを聞いた希千代は、その人たちをその場で半殺しにしたそうな。

 

「大変だったんだぜ? あの時お前が殴った奴らが訴えようとして……おかげで久々にコネと根回しと()()()()をしたときは歳を感じたぜ」

 

「(まっっっっっっっっっっっっったく覚えがねぇ……)」

 

 更に余談だがこのことがきっかけで希千代は無意識に泥酔することを控え始めたとか。

 しかも屋敷に帰れば、玄関へ迎えに来た希代が手と顔と服に血がついた彼を見てギャン泣きしたこともトラウマになったとか。

 

 これを聞いた希千代は恥ずかしさ半分、混乱と気まずさ半分で顔を覆った。

 

「はっはっは! 久しぶりに見たぜ! お前が照れる顔!」

 

「言うなよ?!」

 

 豪快に笑う希ノ進に希千代は怒鳴ってから数秒後、希ノ進はサングラス越しに真剣な顔をする。

 

「希千代よぉ……今の俺は、守りたくても満足に守れねぇんだ。 お前はどうだ?」

 

「………………………………俺は親父ほど────」

「────そこだよ。 俺が言いてぇのは」

 

 希ノ進がビシッと食べかけのキャンディータバコを希千代に向けた。

 

「お前、『(親父)とは違う』って昔から言っている割には、いつもお前自身が比べてから俺の所為にしているよな? 俺がさっき言った『お前はどうだ?』は『大前田希ノ進の息子』じゃなくて『大前田希千代』という『一人の男』に質問しているんだ」

 

「………………………………」

 

「お兄様~!」

 

 希千代が黙り込んでいる間、希ノ進が義足をガポッと膝に取り付けてからズボンの裾を下すとほぼ同時に横から二人に(というか希千代に)少女が声をかけながら走って寄ってくる。

 

「あ……希代(まれよ)……」

 

「お兄様、希代(まれよ)は聞きました……瀞霊廷に、かつてないほどの危機が迫っていると……お兄様は、やはり今回も行ってしまわれるのですか?」

 

 希代(まれよ)は希千代の死神装束を積みながら目に涙を浮かばせ、上目遣いで希千代を見上げる。

 

「お、俺……は……」

 

 希千代の脳裏に浮かんだのはさっき希ノ進が語った話と情報。

 

「いかないでくださいまし、お兄様。 希代(まれよ)は怖いです。 希代(まれよ)と……希代(まれよ)はもうわがままを言いませんから一緒にいてくださいまし!」

 

 そして自分(希千代)が護廷に入った理由。

 

希代(まれよ)────」

 

 希千代が膝を曲げてなるべく涙ぐむ希代(まれよ)と視線を合わせて、さっきまでのオドオド&呆けた顔が真剣なモノへと変えた。

 

「────賢い希代(まれよ)なら解るだろ? 兄様は希代(まれよ)を怖がらせる為に行くんじゃないって? 

 兄様は、希代(まれよ)を。

 三郎も、姉さまも、父上も母上も、お隣の権田原(ごんだわら)さんも金満(かねみつ)さんも護り………………

 そして瀞霊廷を護る為に、兄様は護廷十三隊に入ったんだ」

 

「お兄様────」

「────親父。 ほかの奴ら、集めてくれるか?」

 

「ん? どうするんだ希千代?」

 

「ちょいと話をするんだよ」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 一方で、瀞霊壁ではいまだに死神と魂魄の混雑部隊である『鬼道発砲隊』は銃身からの熱で陽炎が発生するほど撃ち続けていた。

 

 幸か不幸か、迫る敵の数のおかげで狙いを特に定めなくとも『何かに当たる』ことは出来るので視界が悪くなっていくのは彼らにさほど支障は無かった。

 

ギィィィ!

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ?! 来たぁぁぁ?!」

 

「そこをどけ! 遊撃隊に斬り込ませろぉぉぉぉぉ!」

 

 だが先ほど現れた『人工アヨン』に霊子兵装を通した鬼道の効きが悪く、瀞霊壁への密着を許した。

 

 腕を上に伸ばしても瀞霊壁より身長が低い『人工アヨン』の背中を斥候型が伝って体を使った梯子(ハシゴ)を更に人型の人工破面が上って壁沿いの死神や魂魄たちに襲い掛かり始めた。

 

「よっしゃ! やっと出番だぜテメェらぁぁぁ!」

 

「ここが正念場じゃ! わしらに続いて気合い入れろよ!」

 

 たじろぐ混雑部隊と違い、接近戦用の遊撃隊員は今か今かと出番を待ちわびていた血気盛んの者たち(主に十一番隊)が瀞霊壁を上ってきた人工破面たちを次々と斬っていき、傷を負った者たちを四番隊や足の速い者たちがその場から連れ出していた。

 

 一応は死神たちが善戦しているかのように見えたが……

 

『大型、もう一体きます!』

 

 無線から来たその一言で死神たちは悟った。

 

『アヨン型が一体だけではない』ことを。

 

「いくで、七緒!」

 

「え?! きゃあああああ?!」

 

 ヒュルルルルルルルルルルルルル!

 

 そこでリサは控えさせていた予備隊を動かすために自らが七緒を無理やり引きずってまで動き出し、二体目のアヨン型がへばり付いた壁へと向かったその時、場違いな『無数の矢が大気を切って飛来する』音が聞こえた。

 

「(む、あれは?!)」

 

 この屋の出所を見た雀部は驚きを顔に出し、矢はカーブを描いて瀞霊壁の向こう側にある人型とアヨン型の人工破面に突き刺さって表面がドロドロに溶けていき、周りの者たちの足を接着剤のように止めていく。

 

 そしてこの多くの矢が飛来した元では────

 

「よぉぉぉし! テメェら、決して敵に情けを掛けるんじゃねぇぞ?! かけたところで何の見返りもないどころか自分が死ぬだけだからなぁ?!」

 

 ────いまだに不安な貴族の私兵や死神たちを率いていた、大前田(希千代)の姿があった。

 

「ここから逃げれば、俺以下になることだからなぁぁぁぁ?! 弓兵は多連装矢台に装填し直してぶっ飛ばせ! 総員、抜刀! 下民共に、俺たち貴族の力を見せつけてやれぇぇぇぇ!」

 

 背水の陣という極限状態の中で覚悟を決めた男、『二番隊副隊長の大前田希千代』の誕生である。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「うおおおおおおお!」

 

 希千代の『五形頭』が人型人工破面を数体壁の上から吹き飛ばし、至るどころで彼と彼の連れてきた者たちの加勢によって前線維持はかなり楽になった。

 

 決して余裕はなく、『前線維持』で精いっぱいだったのが現状。

 

 だが籠城戦の場合、『現行維持』で有利になるのは防衛している側。

 何せ蓄えはある程度している彼らと違って人工破面は(必要かどうかは知らないが)物資など見当たらず、恐らくは瀞霊廷内のモノを当てにしている節があった。

 

「(この程度ではあるまい…………)」

 

 雀部が書く場所を見ながらそう思った。

 

 何故ならこのような大規模戦闘での拮抗状態が変わるには大きな要因が必要となるのは彼から見ても明らか。

 

 ならば敵もこれを理解して、何かを仕掛けてくるはずと彼は思った。

 

 だが、それこそ戦場を根底からひっくり返す程のものでなければ不可能という事も分かっていた。

 

「雀部副隊長!」

 

「ぬ?!」

 

 ドォォォォォン!!!

 

 近くの誰かが名を呼んだことで雀部は意識を考え事から今へと戻すと同時に、瀞霊壁の向こう側から飛来してきた流魂街の残骸が瀞霊廷内に落ちて衝突する。

 

「クッ! (まさか、()()()()()とは!)」

 

 外部からアヨン型が、流魂街の瓦礫を力任せに瀞霊廷内へと投擲してきたのだ。

 

『雀部副隊長! こ、こちら後衛組! 投げられてきた残骸の中から敵が────ぎゃあああああ?!』

 

「ッ! しまった!」

 

 瀞霊廷に訪れた長い夜は、まだ続く。




『竜牙兵』:

とある世界で竜の歯で大地に歯を蒔き、竜種の魔力と大地からの知識を得て作られた使い魔の一種。

TRPGの方たちにはお馴染みかもしれない使い捨ての雑兵。

ちなみに低レベルのまま挑むとd20でクリティカルが数回出さないと返り討ち……かもしれない。



『ギリアン(小)』:

リカ命名。 身長は三メートル弱、会話は一応可能らしい。
何らかの理由で急にサイズダウンすると同時に知能が『我』を認識できるまで上がったが、生まれたてのようで仕草一つ一つが純粋無垢。

リカ曰く『可愛い』とのこと。


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第157話 Fires of War

お待たせいたしました、短めですが次話です。

楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 瀞霊廷内 残存兵、後衛組 視点

 ___________

 

「く、来るぞぉぉぉ!」

 

 瀞霊壁から離れていたリサや七緒より更に後方のいわゆる後衛組の一人がアヨン型によって投げられた残骸を指さしながら、我先にと死神や魂魄が飛来してくるモノから逃げ出して間一髪と言ったところで避ける。

 

 ドォォォォォン!

 

「「「「うわぁぁぁぁ?!」」」」

 

「ししし志乃さん────!」

「────狼狽えるんじゃねぇよ竜ノ介! 相手もウチらと同じく投げているだけだ────!」

「────ギギギギギギギギギギギ!

 

 ガラガラガラガラガラガラ!

 

 志乃の叫びを、耳をつんざく音と瓦礫が崩れる音が遮って彼女は思わず斬魄刀を抜きながらも顔から血の気が引いていく。

 

「うわわわわわ?!」

「で、出たぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 突然の出来事に腰を抜かせるものやただ呆然と目の前の現状を見る者たちの前には、先ほどの飛んできた瓦礫の中から斥候型と人型の人工破面たちがゾロゾロと出てくる。

 

 その景色を例えるなら、アリの巣から中から兵隊たちがウジャウジャと出てくる様子だった。

 

「ひ、ヒィィィィ────?!」

「ここここ心の準備がまだ────!」

「こんなの聞いていない! 聞いていないぞぉぉぉ────?!」

 

 この『後衛組』とは本来、『万が一の時の後退』用に結成された部隊で主な役割は罠の設置や武器の点検、工事などの戦闘支援など現世でいうところの工兵たちとごく少数の護衛。

 

 一応武器の使い方の訓練は人と通り施されているが、決して前線に立てるような者たちではない。

 

 そして言い方が悪いかも知れないが、主に結成隊員は魂魄たちでも『前線や実戦では腰が引ける素質を持った者たち』の集まりだった。

 

 ザシュ!

 

「ぎゃあああああ?!」

 

「「「「「キャハハハハハハ!」」」」」

 

「いやだ! し、死にたくないぃぃぃぃ────!」

 

 ────ズパァァァァ!

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!」

 

 「「「「「キャハハハハハハ!」」」」」

 

「逃げるな貴様らぁぁぁぁぁぁ!!! ぐああああ?!」

 

 人工破面が瓦礫の中から出てきては逃げ惑う魂魄や死神たちを次々とほぼ一方的に

 

「き、鬼道衆! 総員発砲用意────!」

「────ですが魂魄たちがまだ────!」

「────構うな! 撃てぇぇぇぇぇ!」

 

 ァァァァン!

 

「「「「「ギィィィィィィ?!」」」」」

 

「「「「「ぎゃああああ?!」」」」」

「お、俺の腕がぁぁぁぁぁ?!」

「は、ははは……夢だ。 悪い夢だ……内臓がこんなピンク色なワケがない……こうやって寝れば、次……起きた時には……」

 

「あ、ああああ……………………」

 

 ついさっきまでアクビを出す余裕だった空気は一瞬にして地獄絵図へと転換し、阿鼻叫喚がそこかしこから志乃の耳へと届く。

 

 周りには逃げ惑う魂魄たちを楽しそうな笑いに似た音を出し人工破面たちが彼らを虐殺し、魂魄たちもろとも霊子兵装で一掃しようとする鬼道衆の光景に、志乃は思わず膝を地面についてしまう。

 

 だがそれも仕方がないかも知れない。

 

 前回書いたと思うが、初代護廷十三隊ならともかく、今の彼ら彼女らの多くの知っている現実は長く続いた平穏の世。

 

 たまに生存競争に敗北してあぶれた低レベルの虚が仕方なく魂魄を食事にする為に虚圏から尸魂界へと来てそれの退治が数か月間の内、一度はあるか無いか。

 

 つまりは軍隊的な組織と言うより、警察や警備会社に近い存在で隊員たち自身らもそのような認識をしていて、志乃のような反応が一般的で今瀞霊壁で戦っている者たちが異常なほど現状へと順応しているだけ。

 

 そしてその証拠に、彼女(志乃)は目の前で自分へと襲い掛かろうとする敵を前に彼女はただ唖然とただ見ているだけだった。

 

 「志乃さん!」

 

 ドッ。

 

「ぁ」

 

 ザシュ!

 

 志乃は横から聞き覚えのイライラする声(竜ノ介)が聞こえたと思いながらなぜか横に倒れ(横へと無理やり避けさせられ)、次は聞き覚えのない血生臭い(血肉が裂けられる)音が届く。

 

「……………………え」

 

 彼女の頬に生暖かい、ヌメっとした液体が付着したことで瞬きをしながら手を添え、掌を見ると()()()()()()()

 

 ドッ。 ドッ。 ドッ。 ドッ。

 

 この最後のことに気付いた時点で彼女の耳朶には己の心拍音によって支配され、視線を恐る恐る下へ下へと移していき、心臓の鼓動はより大きく聞こえてきた。

 

 ドッ。 ドッ。 ドッ。 ドッ。

 

 そこには

 

 

 

 地面には

 

 

 

 微動だにしない

 

 

 

 昔から見知った人(竜ノ介)の体が血まみれに横たわっていた。

 

 ()()ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

キャハハハハハハハ!

 

 彼女が初めて彼を名前で呼んだ瞬間でもあり、斥候型の人工破面が鋭い刃上に計上を変えた前足を振り下ろした瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガッ!

 

ギッ?!

 

ステーキ(Steak)です」

 

 ボォォォォォン!

 

 人工破面の前足が妨げられ、モノトーンな女性の声の次に聞こえたのはまるで大砲を射出する轟音と伴い、大気を飛び散る元人工破面の血肉。

 

「あ、は、へ?」

 

「あ。 ステイク(Stake)でしたか」

 

 突然の出来事にその場は静かになり、死神である女性はカンペらしき紙を左手で出して呼んでは誰にとも向けていない言葉を発する。

 

 そして右手には己の身長より一回り大きな対戦車ライフルらしきモノの銃身下部に取り付けられた大きなグレネードランチャーに似た器具。

 

 彼女には似つかわしくない、体を覆う外骨格かのような機械でできたスーツと背中には大きな軍用リュックに似せた箱。

 

「く、涅副隊長?」

 

「はい、涅です」

 

 グッタリとする竜ノ介を抱えた志乃とどこか噛み合わない返答をネム(涅副隊長)がする。

 

「「「「ギィィィィィィィィィィ!!!」」」」

 

 ついさっきまで戸惑っていた人工破面たちがこの新たな襲来者に対して一気に飛び掛かる。

 

「危ない!」

 

 ネムはライフルのストラップを首から下げてからリュックの両脇から拳銃を出し、背中のリュックから更に拳銃が取り付けられたアームが出ては周りの人工破面へと発砲していく。

 

 ダダダダダダダダダダダダ────!!!

「「「「「────ギィィィィィィィィィィ────?!」」」」」

 

 ネムの両手と背後の拳銃が火を噴き、飛び出た薬莢たちが肉片へと化していく人工破面とともに地面へと落ちていく。

 

 ────ダダダダダダダダダダダダァァァァァン!!!

 

 ネムと彼女のリュックから無慈悲に出る攻撃はやがて止まり、カラカラと薬莢の金属音と()()()()()がその辺りに充満する。

 

「「「「「…………………………………………………………」」」」」

 

「本体200kg。 追加装備込みで345kgは肩が凝りますね……リックンちゃん様とマユリ様に進言しないといけませんね」

 

 生存して周りにいた者たち全員の視線を集めているにも関わらずマイペース(?)のネムが着々と銃の点検とリュックから出たメモパッドのようなものに書き込みをしていく。

 

「ナニソレ」

 

 誰かが(恐らく)その場にいた全員の疑問を声にして代弁をした。

 

「30ミリのセミオート対巨大虚火砲、総重量70キロです」

 

「「「「「…………………………………………………………」」」」」

 

 ガシャン!

 

『それじゃない』と言いたげな周辺の視線に全く意にしないネムは上空を見上げ、さらに平してくる残骸たちをその大きなライフルで狙うと背中のリュックとスーツから鉄の棒などが地面に食い込み、ネムはリュックからジャラジャラと音がする弾帯(だんたい)を装填する。

 

「ちなみに元々はリックンちゃん様がご自分で使用する筈の『ぼくのかんがえたロマンこじんへいそう(個人兵装)』だそうです。」

 

 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!

 

 ネムが独り言のような言葉を言い終わると同時に、さっきより明らかに重い発砲音と共に上空の瓦礫などを中に潜んでいた人工破面ごと粉砕していく。

 

 さっきの鉄の棒などが何故出てきたかというと今ネムが使用している方法でライフルを連続で撃つと反動が恐ろしいモノだからである。

 

 ちなみに余談かも知れないがこれら無しで、リカがスーツのみでライフルを使用したときはマユリの研究室の重壁を何個か貫通してしまった。

 更に余談だが一つだけでも以前恋次が懺罪宮(せんざいきゅう)のドアを破る為の『始解して何度も斬りつけりゃあ何とかなるだろ』*1では傷もつかないほど。

 

「(それでもこの兵装は()()()()きついですね)」

 

 上記の事で改良に改良を重ねた日々を思い出しながらネムはひたすらライフルを撃ちながら、傷み出す肩から意識を逸らす。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 後衛組と瀞霊廷の中へと投げられていく敵がアイアン〇ン化した 重装備化したネムによって食い止められている間、瀞霊壁の戦いは更に激化していった。

 

 最初は一体のアヨン型だけが壁を超えるハシゴ代わりになっていたが、ネムの行動によって瀞霊廷内への投擲が実質無意味と悟ったらしい他のアヨン型が最初の一体のようにハシゴ代わりになった。

 

 これによって斥候型や人型が壁沿いの数か所から親友を試みていた。

 

 鬼道発砲隊と遊撃隊の区別がもう出来ないほど入り込んでいて、未だに瀞霊廷側に混乱が生じていないのが奇跡だった。

 

「おらぁぁぁ! 27ぁぁぁぁぁ!」

 

 その一か所に一角は倒した敵の数と思われる叫びと同時に鬼灯丸を振り回す。

 

「(「『蒼火墜(そうかつい)』!)」」

「(『双蓮蒼火墜(そうれんそうかつい)』!)」

 

 別の場所でルキアや吉良や雛森は声に出さずに詠唱を心の中でしながらイメージを脳裏に浮かべて鬼道でアヨン型を登る際に密集する敵を出来るだけ吹き飛ばしていた。

 

「ほなバイバイ♪」

 

「「「「「ギィィィ?!」」」」」

 

 市丸の気楽な言葉とは裏腹に、彼の『神鎗』が次々と人工破面を────

 ────グッ。

 

「ッ」

 

 市丸の笑みが一瞬固まり、彼は()()()()()『神鎗』で目を開ける。

 

 彼が見たのは体を切り避けられながらも硬質化らしき人工破面たちが銅像のように互いと瀞霊壁にへばりついて市丸の攻撃を止めた景色。

 

「なんや。 ビックリさせやんといてぇや」

 

「「「「「ギィィィ?!」」」」」

 

 笑みが戻った市丸は『神鎗』を塵状に変化させて抜けさせた後の一瞬にまた刃へと戻った『神鎗』で敵を切り伏せていった。

 

「「「「「ギギャァァァァァァァァァァ?!」」」」」

 

 またも別の場所では東仙の周りに近づいた人工破面が地面へと倒れてのたうち回りながら叫ぶ、異質な場面。

 

「姿は違っても、三半規管の波長は破面のようだな」

 

「(いつも思うけど、隊長って独り言が以前に増して多くなったな)」

 

 そんな敵にとどめを刺していく周りをよそに東仙は独り言をして、檜佐木が内心でツッコミを入れる。

 

 さっきの『アヨン型が瀞霊廷内に同胞を投げる』のは戦局を変える大きなきっかけではなかったようで、またも拮抗状態へと戻った。

 

 

 

 

 

 ___________

 

 虚圏Landwehrkorps(ランデュエヘール部隊) 視点

 ___________

 

「さて。 どうしたものですかねぇ」

 

 キルゲは月光に照らされた地図を見下ろしていた。

 

 地図には様々な色をした駒があり、それらが()()()()()

 

「(粘り(ます)ね。 まぁ、文字通り命懸けとくれば愚か者でもジタバタともがき(ます)からね……このままでも押せばいずれは勝ち(ます)()()()()()()()()()()。) …………………………やはり『アレ』を使いましょう」

 

 キルゲが義手で一つの駒を地図の上に置いて、瀞霊壁中央へそれを押す。

*1
27話より




リカ:ネムネム、先に使っちゃいましたね

マユリ:気にすることはないとモ。 すでにマークII を製造中だからね。

リカ:どこぞの私兵化した部隊のように一号めと同じチタン合金セラミック複合材を使用していますか?

マユリ:…………………………………………

リカ:『水の星へ愛をこめて~♪』 ←バリバリの音痴&タコ踊りに似た変な動き

マユリ:たまにリックンが言っていることが理解できないことを嬉しく思うよ、私ハ

作者:(お前が言うな)


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第158話 The Beasts

大変お待たせいたしました、リアルが大変でストックが相変わらずゼロのままですので短い次話です。

楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 虚圏援軍要請組 視点

 ___________

 

 ギリアン(小)たちも野良の破面たちの議論に参加してさらに時間が経ち、リカは思わず船を漕いで………………………………いなかった。

 

見知らぬ力に流されて~♪ 心がどこかへはぐれていく~♪」

 

 彼女は次から次へと同じフラットなトーンで歌らしくモノを延々と口にしていた。

 

 そして近くの(破面)たちを見ては歌の内容を変えていく。

 

「あ。 『ソロモンやらせないマン』と『不可能を可能にするマン』だ」

 

「違う。 オデ、ドンドチャッカでやんす」

 

「そして確かに私は不可能を可能にできるかも知れないがちゃんと呼ぶときはペッシェと呼んでくれたまえ」

 

「じゃあ『ヤマザキ(パトレ〇バー)』と『アオバ(エヴァンゲリ〇ン)』で」

 

「「それも違う」」

 

 そこでリカは近くで自前のアフロを整えるガンテンバインの姿を横目で見ると、脳裏に浮かぶのはモヤモヤかつ混雑したイメージ。

 

「……………………………………………………………………………………………………」

 

「ん? どうしたチビ助?」

 

「……………………………………………………………………………………………………あ、 候補見つかった。 『イワシ(ナ〇ト)』だ」

 

「あ?」

 

 彼女が自分をじっと見てひそかに『お? 俺も脱地味か?』と期待していたガンテンバインにリカが言ったことに彼はただ?マークを頭上に出しながら(いわし)を思い浮かべる。

 

決めた。

 通訳:決めた。

決めた?

 通訳:決めた?

うん

 通訳:うん

 

 ギリアン(小)たち数体がリカの近くまで来ると上記のことを口(?)にする。

 

「フムフム?」

 

「「「………………………………」」」

 

 ギリアン(小)たちはただジィ~っとリカの方を見ること数秒間ほど。

 

「それで?」

 

「「「???????」」」

 通訳: ???????

 

「何を決めたのですか?」

 

 シビレを切らしたリカに今度はギリアン(小)たちが頭を横に傾げ、彼女が珍しく話を急かすようなことを口にする。

 

決めた。

 通訳:決めた。

懐かしい匂いだけど虚とも死神でもない

 通訳:懐かしい匂いだけど虚とも死神でもない

うン

 通訳:うン

 

 ピキ。

 

「…………それだけですか? もう随分と時間が経ちますよ?」

 

「「「時間?」」」

 通訳:時間?

 

 ピキピキ。

 

「そうです。 『時間』です。 『時のへだたりの量』です。 そしてそれが()()んです。 どうするんです? 反撃のノロシは上げるのですか?」

 

「「「???????」」」

 通訳: ???????

 

 ピキピキピキピキピキピキ。

 

「どうするのですか貴方たちは?! いえ、この際ですから虚の皆さんに問います!

 

 今まで声を上げたことのないリカの荒い言葉に周りのアジューカスたちが視線を向け初めるが、彼女はそれに構わず喋り続けた。

 

「今敵は総出で瀞霊廷を落としにかかっています! 彼らの拠点と出払っている兵を一気に叩くチャンスです! 

 今さら種族意識などは別において────いえ、種族の事を気にしているのなら『種族の未来』を考えてみてはどうです?! 

 死神たちは、助けがなければこの戦争に勝てません!」

 

でも僕たち虚

 通訳:でも僕たち虚

何時も死神に虐められている

 通訳:何時も死神に虐められている

ウん。 ()()()()()()()()()()()

 通訳:ウん。 ()()()()()()()()()()()

 

 リカの顔は一瞬だけ固まり、次第に眉間にしわを寄せ始めてアジューカスを含めた野良の破面たちを見る。

 

「…………どうしてその結論になるのです?」

 

「……………………だって、これはオレたちの戦いじゃねぇし」

()()()()()

 

 そう言ったのは黙り込む、アジューカスたちや野良の破面の中の誰か。

 

 プッツン。

 

 「貴方たちも世界の一員でしょうが?!」

 

「「「「「…………………………………………………………」」」」」

 

 「違うんですか?!」

 

 その場の野良である虚たちが互いを見る。

 

 

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷内 残存兵、後衛組 視点

 ___________

 

 場は瀞霊廷へと戻る。

 

「いや~、まさか志乃さんに名前で呼ばれるなんてな~。 たまには体を張ってみるもんですよ」

 

 正確には後衛組のいる場所。

 さらに正確に言うとネムの近くにいる後衛組で龍ノ介が四番隊によって頭に出来た切り傷を包帯で出血止めをされていたところ。

 

 「バカノ介!」

 

 ドッ!

 

「ゴフゥ?!」

 

 そして怒る志乃が龍ノ介のお腹にキツイ一発をお見舞いする。

 

「イツツツツツツツツツ」

 

「張るなら胸を張りなさいよ?!」

 

「……志乃さんがそれ、言います?」

 

「どういう意味?」

 

「だって志乃さんだって張れる位の胸無い────」

 

 ────ゴスッ!

 

「「あ」」

 

 志乃が龍ノ介の顔面に容赦ない拳で殴り、彼女と四番隊員がまたも気を失いながら流血する龍ノ介を見る。

 

『壁沿いの鬼道発砲隊、あの突進するデカ物を最優先で撃て! 近づかせるなぁぁぁぁぁ!』

 

 カッ!

 ドゴォォォォォォン!

 

 無線からは珍しく慌てるような雀部の声が聞こえて来ては常時夜である筈の虚圏が昼間のように照らす光源と志乃やネムたちのいる場所にまで聞こえてくる爆発の轟音と地面を揺るがす地鳴りだった。

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷内 残存兵、前衛組 視点

 ___________

 

「ぬお?!」

 

「どうしたんだい一角? さすがの君も風邪を引くのかい?」

 

 一角は急に寒気がして体をブルっと震わせ、相方である弓親がオブラートに嫌みのようなことを口から出す。

 

「いや、何か……背筋が痒くなっただけだ」

 

「ん? あれ、なんだい?」

 

「あ?」

 

 カッ!

 

 弓親の視線を一角が辿っていくと、瀞霊壁の中央辺りから大きな爆発がその近くにいた者たちの鼓膜を破り、多くの者たちがショックなどで気を失ってしまう。

 

 特に爆発の大元である中央周辺の被害は尋常ではなく、中にはカリンや五番隊の櫃宮が精霊壁()()()瓦礫の中に半分埋められたまま気を失った姿などもあった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 時を少しだけ巻き戻すと、壁沿いの者達の戦いを拮抗状態のまま戦闘を繰り返していた。

 アヨン型を登っては近くの魂魄か死神に人工破面が襲い掛かり、これらを死神が迎撃する。

 これらを双眼鏡越しに見ていた雀部や、ほかの者たちはこう思っていた。

 

『想定していたモノより意外と善戦している』、と。

 

 あるいは『この程度だったのか?』と、若干余裕を持ち始めた。

 

「(ん?)」

 

 だがそこに、雀部が()()()アヨン型に気付く。

 

 他の大きいサイズの人工破面とは姿が違って上半身が下半身に対して異様に大きく、尖った頭部を激しく蠢いていながら精霊壁に突進するかのように走っていた。

 

『破城槌』。

 

 そのような言葉と破壊される壁のイメージが雀部に脳裏を過った。

 

「壁沿いの鬼道発砲隊、あの突進するデカ物を最優先で撃て! 近づかせるなぁぁぁぁぁ!」

 

 あり得ないと分かっていながらも、彼は既に無線に向かってそう叫んでいた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「オラァ!」

 

ギィィィィィ?!

 

 バァン!

 

 カリンが槍で人型の胸を突いて、もう一つの手に持った拳銃を撃つ。

 

「(チ、やり辛い!)」

「(ま、元々『槍兵』ってのは個人戦向きだからな。 団体行動なんてガラじゃねぇよ)」

「うるっせぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 カリンはイラつきを声に出しながら槍をふるい続けて周りを見る。

 

 周りにはチラホラとだが、動きが戦闘開始直後から徐々におぼつかなくなっていく者たちが見え始めていた。

 

「(やっぱな。 もう長い時間ぶっ通し続けて戦っていれば流石の『戦闘ハイ』も切れてくるわな)」

「(それに元々は戦士でも無い奴らだったのが、これだけ長く持ちこたえていたのはオレも意外だった)」

「(東風に言うと、『火事場のバカ力』ってぇの?)」

「(クフちゃんが言うと半端ねぇ違和感ある)」

「(やっぱ世界変わっても『ソレ(クフちゃん)』なのな?)」

 

 ピクッ。

 

 その時、カリンの視界に何か引っかかるようなものへと視線を動かすと近くの無線機からの声を聴くと同時にその引っ掛かりを見る。

 

 『壁沿いの鬼道発砲隊、あの突進するデカ物を最優先で撃て! 近づかせるなぁぁぁぁぁ!』

 

 彼女が見たのはアヨン型と同じ大きさである人工破面がアンバランスな上半身を瀞霊壁にアメフトタックルをするような勢いで走る姿。

 

「(『雷吼炮(らいこうほう)』! 『雷吼炮(らいこうほう)』! 『雷吼炮(らいこうほう)』!)」

 

 カリンはすぐに背負っていたライフルを抜いては鬼道を発砲し続けるが、彼女と同じく無線を聞いた者たちの鬼道は異形のアヨン型に大した効果が無いどころか、より一層に必死さが増したように見えた。

 

「(チッ。 持ってくれよ?!) 『千手(せんじゅ)(はて)、届かざる闇の御手(みて)、 映らざる天の射手(いて)!』」

 

 バキ! バキバキバキバキバキバキ!

 

 そこでカリンは()()をし始めると同時に、持っていたライフルに亀裂が走っていく。

 

「『光を落とす道、火種を煽る風、集いて惑うな我が指を見よ! 光弾、八身(はっしん)、九条、天経、疾宝、大輪、灰色の砲塔! 弓引く彼方、皎皎(こうこう)として消ゆ!』 破道の九十一、『千手皎天汰炮(せんじゅこうてんたいほう)』!」

 

 バキィィ!

 

「グァ?!」

 

 ライフルがついにカリンの両手の中で破裂し、長細めの三角形の光の矢が無数に突進してくるアヨン型へと飛来していく。

 

「(あ、これは()()だ)」

 

 ガッ!

 

「きゃ?! カリンさん?!」

 

 だがカリンが見ていて本能的にそう思った次の瞬間、彼女は雛森の近くまで来ては無理やり痛む手で掴んで放り投げた。

 

 カッ!

 

 まるでこの世の終わりを告げるような光と巨大な力が横から彼女の体を空気経由で無理やり押すような感覚にカリンは他の者たち同様に気を失った。

 

 それも幸運だったかも知れない。

 

 なぜなら気を失わずにいた者たちや鼓膜が破れただけで済んだ者たちが見たのは容易に『唖然』という二文字で心を支配するには足りた。

 

 

 

 

 

『瀞霊壁、亀裂が入りました!』

 

 

 

 

 

 

「「「「「ギィィィ!」」」」」

 

 ガタついた瀞霊壁に空いた隙間などから斥候型の人工破面たちが先の爆発で吹き飛ばされた遺体などを無視してするりと攻め入り、壁を抜けるとその辺りで気を失っていた魂魄たちや死神を一方的に虐殺しながら雪崩れ込み始めた。

 

『持ちこたえよ! 守り抜け!』

 

 無事だった無線から聞こえてきた指令はほとんどの耳に入らず、気を失っていない魂魄や死神たちは必死に自分たちの命を守るために押し寄せてくる猛攻に耐えるので精いっぱいだった。

 

 

 

 ___________

 

 カリン 視点

 ___________

 

 カリンは気が付くと、耳からは鈴が『リィーン』とひっきりなしに鳴り続ける音。

 

 いくら瞬きをしても世界は真っ暗のままで、口にの中には砂のジャリっとした感触。

 

「(やっべ。 顔が砂の中に埋もれている)」

 

 彼女はぼんやりとそう思いながら四肢に力を入れて具合を見ようとすると鋭い痛みが両手に走る。

 

「(これは皮膚がめくれているな……最悪、使えるかどうか……)」

 

 今度は顔を地面から遠ざけようとして筋肉に力を入れると、首に鈍い痛みが走っていく。

 

「(クソ、首もか……)」

「(『戦闘続行(A)』スキルが発動したぞ、オイ?)

「(さっきのはオレにとって致命傷だったわけか)」

 

 やがてカリンの視界はパラパラと落ちていく砂と共に広がっていき、意識と同調しているかのようにボンヤリとして景色が広がる。

 

 彼女はいつの間にか瀞霊壁の上から吹き飛ばされ、今は瀞霊廷の敷地内らしき場所から亀裂の入った瀞霊壁を見ていた。

 

 ハッキリとモノが見えない今の彼女でも、明らかに斥候型の破面が亀裂内から出てきては死神が応戦する姿が見えた。

 

 ガッ!

 

「(ぬぅお?!)」

 

「負傷者を早く奥へと運んで! 待機している部隊を前に! 壁の上に人たちも中の塹壕へと移って!」

 

 彼女はまた地震が起きたと錯覚させるようなに視界が揺す振られ、誰かに後ろへと引きずられていたことにカリンが気付いた頃には耳の調子も戻っていた。

 

 次第にクリアになっていく目で彼女が周りを見るとさっき無理やり投げた雛森だけでなく、一角や弓親、鉄左衛門に海燕、ルキア、恋次、吉良、乱菊、市丸、東仙と言った者たちが壁の上にいた遊撃隊と鬼道発砲隊を誘導して瀞霊壁の上を放棄して奥へと進みながら追ってくる敵を撃退する姿があった。

 

「鬼道発砲隊、貴族の弓兵隊は漏れてくる敵らに一斉射や!」

 

「リサさん、今前に出るのは危ないです!」

 

「アホォ! ウチがそんなヤワな訳無いやろが?!」

 

 そこで意外な声が大きく響き渡った。

 

 ()()! 天を裂けよ、『黄煌厳霊離宮(こうこうごんりょうりきゅう)』!」

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

 

 カッ!

 

 ドォォォォォォォォ!

 

 突然瀞霊廷の上空からゴロゴロとする音が聞こえ、楕円形の光が上空に現れては目を閉じていても瞼越しにさえ見えるほどの光源が瀞霊壁の向こう側に出現し、数々の落雷が一度に落ちていく。

 

 「今の内に体勢を立て直せ! 時間は稼ぐ!」

 

「「「「「(雀部副隊長って、卍解使えたんだ?!)」」」」」

 

 出てきたのは後方から壁の内側へと出た雀部。

 そして手には刀身がレイピア状からさらに無数の枝が生えたかのように変化した斬魄刀。

 

「「(あ。 俺だけじゃなかったんだ)」」

 

 不意に彼を見て、一角と恋次(卍解の使える)は場違いにもそう思った。

 

「この馬鹿野郎! 俺はどうでもいいんだよ!」

 

「だ………………て…………」

 

「櫃宮さん、喋らないで」

 

 カリンの近くで倒れていた櫃宮は同じ五番隊である平塚と田沼が肩を貸して自分で歩けない彼女を担いでいた。

 

 先ほどの形の変わったアヨン型が瀞霊廷組の籠城戦にとって、恐らくは最大の強みであった壁に亀裂を入れたことで、瀞霊廷組は実質上の撤退を始めたが……

 

「うわぁぁぁぁ?!」

「て、て、敵が来る!」

 

「「「「「キャハハハハハハ!!!」」」」」

 

 先ほどもカリンが思っていたように、魂魄だけでなく死神も元は戦士などではない為に動きが『撤退』と呼ぶよりは『敗走』に近く、人工破面たちもこれを察したのか『笑い』に似た鳴き声と共に攻め込んでくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飲み込みなさい、『皆尽(みなづき)』」

 

 更に意外な声が聞こえるとほぼ同時にドロリとしたドス黒い血のような液体が戦場を広がっていく。

 

「「「「「ギィィィィィィィィィ?!」」」」」

 

 不思議と死神や魂魄たちの足をモタつかせる以外の影響はなかったものの、同じく液体の中を進んだ人工破面たちはまるで底なし沼、あるいはアリ地獄のようにズブズブと液体の中へと埋もれていく。

 

 もがけばもがく程沈む速度と液体がネットリと引っ付いては更に動きを鈍くさせて体だけでなく体力をも吸い取っていく。

 

「さぁて、また競争と行こうかの?」

 

「歳を考えれば座って待っても良いのですよ?」

 

 この混沌とした戦場に現れたのは以前のムキムキ爺さん姿に戻った右之助と、いつもは胸を隠していたおさげを解いた卯ノ花の二人。

 

 そして二人の顔は見た目同様に豹変して、視線を集めては向けた者たちはすぐに目を逸らすほどの雰囲気を発していた。

 

 彼らを見て、雀部だけが口を開ける。

 

「お二人とも、ここは────」

「────行け、忠息(ただおき)

 

 右之助は横を通りながら雀部を名前で呼び、首を回す。

 

「ワシらは()()()()()()

 

「ッ。 総員、さらに退避せよ!」

 

 雀部がそう叫ぶと他の者たちが?マークを出しながらも走る。

 

 ガラガラガラガラガラガラガラ!

 

「壁が落ちましたね」

 

「じゃな」

 

 二人は何かが崩れる音を聞いて瀞霊壁の近くに出ると、やはり予想通りに崩れていた壁でできた穴から斥候型、人型、そしてアヨン型がゾロゾロと入ってきていた。

 

「さて────」

「────殺しましょう。 殺して殺して殺しつくしましょう」

 

「力の限りにな」




『戦闘続行(A)』:
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってもなお戦闘を可能とさせる『往生際の悪さ』を示すスキル。


……久しぶりにルーンファクトリーを遊んで一服してきます


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第159話 Convergence

お待たせしました、この続く高熱と頭痛がただの風邪と祈りながらも次話です。

かなりの急展開などから来る不安がありますが、楽しんで頂ければ幸いです。


 ___________

 

 ()()組 視点

 ___________

 

 虚圏で瀞霊廷の者たちが激闘を行っている間、現世でも波乱が起きていた。

 

 まずは突如として『砂漠』と共に異形の怪物が人の前に現れては襲い掛かり、死人となったそれらの遺体が急に立ち上がっては生者に襲い掛かるという連鎖が起きていた。

 

 以前に書き上げた通りに空座町や鳴木市だけでなく、他国などの大都市や田舎に関係なく世界中で同時多発していた。

 

 空座町や鳴木市の住人にとってはどうでいいことだが。

 

 何せ彼らは彼らで、自分たちの事で精一杯。

 

 幸い、怪物たちや動く死人たちには()()()()()()()()ので正当防衛は可能なのだが………………

 

「ヴあァ゛ぁァ゛ァ゛ァ゛ぁ」

 

 バァン、バァン、バァン!

 

「クソ、クソ、クソォ!」

「た、弾が底をつく!」

「ちゃんと狙って撃てよ!」

 

 一人の警察官が慌てながら拳銃を再装填しようとして弾丸を地面に落とし、彼は震える手でそれらを拾い上げ、前から来る()()たちを見る。

 

 無論こんな異常事態が起きて警察などの保安機関が動かないことはないが、先の『Kaiserreich(カイザァリッヒ)』に誘惑されて空座町含めて鳴木市の周辺はかなりの戦力を失っただけでなく*1、無断で出動をゴリ押しさせた主犯たちまでもが亡くなったことで責任の擦り付け合いなどのゴタゴタが続き、一応緘口令みたいなモノも当時立ててあったが人の口には戸が立てられず、周辺の市民や政府からの信用もガタ落ちだった。

 

 そんな中で狭い思いをしていた無関係の者たちの士気も低く、上記のことでできるだけ波を立てないように活発な動きを最大限しないよう組織としての機能が停止していたところにこの急変。

 無関係な彼らからすれば長く続いた平穏がガラリと変わったことでまたも指揮系統は既に無いと言っていいほどズタボロだった。

 

 その結果、各者たちが独自行動を起こしていた。

 

 その一つが『避難所に続く道の確保』である。

 

 彼らが避難所の確認をすると既に白い軍服を着た軍人らしき者たちと非難した市民たちが居たことに最初は戸惑いを隠せなかった。

 

 実際、白い軍服たちが銃を隠そうともせずに所持していたことで一悶着はあったが信じられない速さと手際で圧倒されてしまった。

 

 だが眼鏡を掛けた軍人たちの上司らしき男性がその場に駆け付けたことと、近くの()()()()からの救助派遣ということで一応は落ち着いた。

 

 勿論、平時であればこんな無茶な話を信じる方がおかしいのだが………………

 

「全員、伏せろ!」

「ッ! き、来てくれた!」

「よく狙え!」

 

 苦戦していた者たちの背後から軍服の者たちがライフルで駆けつけ、見事な手際で来る死体たちを確実に葬っていく。

 

「「「おおおお!」」」

 

人間(ヒト)』とは、獣だったころの名残か、常時自分より大きなものを趣向の『何か』にすがる習性をもっている。

 

 それが信念であれ、宗教であれ、権力や正体不明の強者であれ。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 異変が起きて()()()、避難所でも一際大きい規模である空座総合病院の中になる病室の窓から火の上がっていく街などを見ていた竜弦と看護師らしき者の姿があった。

 

「院長先生、今来た避難民たちの検査が終わりました」

 

「そうか」

 

「な? 優秀だろ、俺らの部下(聖兵)って?」

 

 同じ病室ではさっきからチラチラと看護師が横目で見る、壁に背を預けるジョジ〇じゃないアスキンの姿。

 

 だが彼の言ったことを肯定も不定もしない竜弦はただ窓を開けてはタバコを口にして火を点けようとする。

 

「……なぁ? いい加減に俺らを無視するのは辞めにしないか?」

 

 実はというと、異変が起きて竜弦は即座に周りの安全の確保を行った。

 

 というのも、息子(雨竜)の友人たちである織姫や茶渡にマイや彼女と来た鉄裁たち知人たちと共に大人数で押しかけてきたのだ。

 

 ホラーやパニック映画などでよくデパートや病院が見られるが、これには一応実質的な理由がある。

 これらの施設は大抵の場合、人が良く出入りしやすい場所などに立っていることが多く、『立て籠もるにはあらゆる物資が揃っている』という理由の他に純粋に災害時の避難所としての意識が強い。

 

 渋々ながらも利害が一致した竜弦は『勝手にしろ』と言いながらも陰から彼ら織姫たちの助けをしていると今度は元星十字騎士団たちが町の住人達を連れて来た。

 

 最初は織姫や茶渡たち空座一校組は戸惑いそうになったが、雨竜という身近な滅却師と以前覚醒した藍染の相手をするところを見たので混乱はすぐに収まった。

 

 だが────

 

『────お前たち亡霊を認めるわけにはいかない────』

 

 ────竜弦はいつにも増して冷たく元星十字騎士団たちをあしらって以来、彼らを無視するようなことをし続けていた。

 

 これが現世で起きていた、数時間ほどを簡潔に求めた一連の出来事だった。

 

「…………………………」

 

 竜弦がタバコを口にしたまま霊子の弓矢を────

 

 パシュ!

 

 ────射る前にアスキンが放った矢が彼の横を素通りしてかなり空いた距離の(異形)を消滅させた。

 

「別に無視してもいいが、せめて戦力の宛てぐらいにはしても損はない筈だぜ?」

 

「…………………………」

 

「ピィー」

 

 まどの外から鳥の鳴き声と共に、足に手紙のようなモノを巻き付けたポイちゃん(燬鷇王)が部屋の中に入ってベッドの近くにある器具の上に休む。

 

「おー、よしよし────」

 

 ベシッ!

 

「────あ痛てぇ?!」

 

 アスキンが手紙を取ろうと思って腕を伸ばすとポイちゃんがクチバシで突いて彼が痛がっている間、竜弦がポイちゃんを撫でてから手紙を取って読む。

 

「………………やはりな」

 

「何がだよ?」

 

 竜弦はアスキンに答えず、今度こそ煙草に火を点けて、ハイ一杯にニコチンを含んでから一気に外へと出す。

 

 手紙の相手はアネットで、内容は彼女から見た町と市内の様子だけでなく肌で感じたこと。

 

 その中には『一般の人間でも虚を見ることができる』ことと、『物質全てが物理と霊子が混ざったように現世が変わった』こと。

 

「(未だになぜ私を『オレンジ卿』と呼ぶのかは不明だが、優秀なことに違いはない)」

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷 残存兵組 視点

 ___________

 

「退けぇぇぇ! 退くんだぁぁぁ!」

 

 瀞霊廷の中では当初、一時退却用の塹壕に立て籠もろうとして皆が動いていたが敵の数が余りにも多かった為にゲリラ戦へと戦略を変え、塹壕を逆に足止めとして再利用していた。

 

「食らいやがれ! 『君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ』! 『赤火砲(しゃっかほう)』!」

 

 恋次が霊子兵装で少し形が変わり始めた人型の人工破面を撃つが────

 

「────チィ! (また避けやがった!)」

 

 ボォン!

 

ギィィィ?!

 

 横からさっきは避けた火の玉が当たり、今度は直撃した攻撃に鳴き声を上げる。

 

「阿散井君!」

 

「吉良?!」

 

「奴らもどうやら進化している! 詠唱破棄の攻撃が当たりやすい!」

 

 吉良の言ったことでよく見れば、最初はのっぺりとしたマネキンのようだった人型の人工破面に仮面の模様以外に『耳』みたいな部位が出来ていた。

 

 頭部と胴体に空いている、変哲もない穴を『耳』と呼べれば。

 

 ガシャ!

 

ギッ?!

 

 今度は恋次が無言で近くの石を投げると追ってきていた人型は立ち止まり、石が落ちた方向を向く。

 

「……………………ぬん!」

 

 ザン!

 

ギィィィ?!

 

 恋次が音を立てずに近寄ってから人型を斬りつけると、確かに音に反応しているかのように見えた。

 

 この情報はすぐさま瀞霊廷内の皆に通達され、壁を失ってからゲリラ戦を行う者たちに取って『壁』に代わる有利性になった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 四十六室の地区に近い貴族街では瀞霊壁が破られた今、立てたバリケードでは物足りないと悟った下級貴族たちが要塞化した四十六議事堂内へと逃げこんでいた。

 

 「早くしろ! 身一つで駆け込め!」

 

 そこでは希之進が貴族たちを誘導していた。

 

 というのも相手が音に敏感になったことを聞いては後方まで戻って、敵を待ち構える筈の死神達を使って音をベースにした罠などを張らせて動きをかく乱させていた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「「ハハハハハハハハハハハハハ!!!」」

 

 遥か前方では愉快そうに笑う右之助と卯ノ花にアヨン型がのそり、のそりと重たそうに一歩ずつ前進して行った。

 

「……………………ギギギギィィィ!

 

 バリバリバリバリバリバリ!

 

 その近くを歩いていた人工破面の一体が鳴き声を出し、震えると今度は体中に『目』らしき物がギョロギョロと周りを見始め、周りの斥候型も同じように『目』を出して横道へと飛び出す。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「うわわわわわ!」

 

「こいつら、見えているぞ?!」

 

「「「キャハハハハハハ!!!」」」

 

 やがて『目』と『耳』は斥候型だけでなく、人型までにもそれが現れてやがて罠はシンプルな獣に対してのモノから次第には知生物相手でも通じないモノになっていった。

 

『総員、退却! 中へと急げ!』

 

 無線から来るのは『退却』の二文字。

 

「ちょっと待てこの野郎! 兕丹坊(じだんぼう)たちはどうするんだ?!」

 

 無線を亡くなった者から取った空鶴がそれを手にして叫び返す。

 

「ちょ?! 姉貴!」

 

「んだよ、岩鷲?! こいつらの図体を当てにしていたのに、今はデカすぎて今更『ハイさよなら』すんのかよ?!」

 

 彼女が言った疑問はごもっともで、兕丹坊(じだんぼう)含めて門番たちはかなりの活躍をしていた。

 

 彼らは巨体を生かして敵のアヨン型のように爆弾を投擲や、広い面積の攻撃をして殿(しんがり)を務めていた。

 

 だが四十六室の議事堂の出入り口は通常サイズの者たちしか想定していない。

 

 つまり、彼らの巨体では避難が出来ない。

 

 ドォン!

 

「む。 今ので最後、対巨大虚(たいぐらんどめのす)火砲を破棄します」

 

 ガシャン!

 

 近くにまで文字通り一っ飛び(ひとっとび)で飛んできたネムが持っていたライフルの残弾数が無くなったことを確認して、ストラップを外して捨てる。

 

「お、おう? (デケェな)」

 

 岩鷲が意味深(?)なことを思い、ネムを見ると彼の視線に気付いた彼女が手を挙げて振る。

 

「『青〇(まさる)』」

 

「いや、だから何なんだよ? 『紅のル』なんちゃらとか、その『アオキ』なんとか」

 

「『あにめ』だそうです。 ところでお困りのようですね?」

 

「(俺のことをさもありなんスルー?!)」

 

「あ? …………それが?」

 

「ここにリックン様の手ちg────失礼、手で作られた『小さくナール』があるですが」

 

 「今『手違い』って言いそうだったよな?」

 

 「ああ」

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 

 現世のとあるビルの上に、人影が数人ほどあった。

 

 モッシャ、モッシャ、モッシャ、モッシャ。

 

 一人は猫缶を開けては素手でそれを頬張りながら市内の様子を見ていた。

 

「夜一さん……それ、なんスか?」

 

「ん? 猫缶以外何が見える?」

 

「…………そもそもどこから持ってきたんスか?」

 

「なんじゃ喜助、今さら猫缶が欲しいと言っても渡さんぞ。 緊急用のじゃからな」

 

 下にある道では動く死体と阿鼻叫喚。

 

 対してのほほんした上記の二人のやり取りをポカンとした一護と若干ジト目のチエが見ていた。

 

「ん? おや、お二人さんもついさっき()()ばかりスか?」

 

「あ、ああ?」

 

 何時もの調子口を開ける浦原の言った通り、気付けば一護はビルの屋上で寝転んでいた。

 起きると缶が開けられる音に釣られてみると、夜一と浦原が上記のやり取りをしていて今に至る。

 

「フン。 余程『夢』に浸っていたのだネ」

 

「うお?! く、涅マユリ?!」

 

 背後から(というか耳元から)来た声に一護はびっくりしながら声の持ち主の名を呼ぶ。

 

「マァ、他の未だに『夢』から目を覚ましていない凡人よりは少しマシだがネ」

 

「涅サンは、今の状況をどこまでご理解していますか?」

 

「少なくとも君が意外とバカなことをしたぐらいハ」

 

「(なんかよく知らないが……怒っている?)」

 

 一護はついさっき目覚めたばかりというのに、このピリピリとした空気ですぐに意識をシャキッとするのはこれまでの事の経験からか、本能で異常事態を察知したからか。

 

「…………どういう意味スか、涅サン?」

 

「どうもこうも言ったとおりだ。 現在の発端は君の所為ダ」

 

 どちらにせよ、マユリが怒っていたのは間違いではなかった様子。

 

「その言い方はちょっとアタシ、傷ついちゃいますなぁ~」

 

「そもそも君も総隊長のように、藍染の残した文に踊ろされた自覚はあるかネ? 無いのなら失望したヨ」

 

「え? どういう、意味だ?」

 

 マユリがここで口を開ける一護を横目で見る。

 

「そのままだヨ。 確か君の方には日番谷隊長が出たそうだネ? *2 

『藍染の部屋で発見した書類で世界のことを変な単語で言及していた』と言われたと思うが、書かれていたのはそれだけではない。

 たちが悪いことにリックンやそこの奴の『姉』を自称するあの小娘についても書いてあった。

 ()()()()()だとか『全てを見渡しながら他人を楽しみのために動かす』とか」

 

 マユリが再度浦原に視線を戻してから言葉を続ける。

 

「こともあろうことか、()()を混ぜられただけに浦原喜助だけでなく総隊長やほかの数人は藍染の話術に乗せられたという事だ」

 

「………………そこはまぁ、反省していますよ。 腑に落ちることばかりが書いていましたし────」

「────それこそが奴の手口だったのだヨ。 まったク……」

 

「そういう涅サンはよく、彼女を()()()()としましたね?」

 

「え?」

 

 一護の視線を感じたのか、マユリがうんざりしたようにそっぽを向く。

 

「私なりの理由があっただけダ…………さて。 他愛ない話はそこまでにしてそろそろ現状を把握できたのではないか、浦原喜助?」

 

 「早速見破られているぞ、喜助」

 

 「ま、涅サンはボクの後に凄いっすから!」

 

「な、なぁ? さっき『夢』って言ったけどどういう意味だ?」

 

「……………………ハァ~」

 

 マユリのあからさまな溜息に一護は反論を出すのをグッとこらえた。

 

「黒崎一護。 君は『夢』と聞いて何を連想する?」

 

「『何を』? う~~~~ん」

 

 一護が脳裏に浮かべる前にマユリが口を開ける。

 

「『夢』とは即ち『眠っている』状態。 『休息時間』で、心身ともに機能が低下する。 つまり、『魂が最も少量の力で活動できる状態』を示す」

 

「……なるほど」

 

 そこに、さっきまで自分の手を見ていたチエが口をはさむ。

 

「つまり、奴はお前たち全員の魂を『保存』しているという事か」

 

「え。 (俺たちの場合は違ったぞ?)」

 

「その様子ですと、お二人さんは少し違うようですね?」

 

「別の世界に飛ばされていた」

 

「「「…………………………………………………………………………」」」

 

 何かを思ったのかマユリたちが黙ってしまう。

 

「それも興味深いですが、取り敢えずはアタシの店へと向かいながら現世の現状確認をするとしますか……見た様子ですと、()()()変わっていますしね。 例えば霊圧濃度が虚圏以上な状況とか」

 

「ほう。 ならワシがとっとと周って────おおお?!」

 

 夜一が空中徒歩を兼ねた瞬歩を発動しようとして前のめりに倒れそうになる。

 

「あ。 言い忘れましたがさっきから試しているところ、鬼道系のモノは使えないっポイですから♪」

 

 「先に言え、馬鹿者!」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 異様なほど静かになっていた鳴木市の中を、五人が歩いていく。

 

「うーん、やっぱり変ですねぇ~」

「「「「…………」」」」

 

 余りの静けさに浦原の独り言がいつも以上の音量に聞こえ、その間にも周りを警戒した一護が次第に横道での異変に気付く。

 

「チエ、あれって────?」

「────頭を撃ち抜かれた死体だな」

 

 そこかしこから見えたのは、彼女が言ったように息絶えていた()()()()らしきモノ。

 

「(それにあの撃たれ方は日本の拳銃ではない……とすれば霊子兵装か)」

 

「霊子兵装だね、これハ」

 

「あらま。 もう技術開発局の方で研究しているアレですか?」

 

「……そうだね」

 

「(技術開発局で研究をしているのか? それはどう────?)」

 

 近くにいた一護が直感的に上を見ては目を見開いて横に避けた。

 

 「おそい!!!」

 

 ドッ!

 

「────グェ」

 

 頭上から聞こえてきた声と何かがチエの上に覆い被さるように、腹部から誰かがぶつかって来て彼女はつぶれたカエルのような声を出す。

 

「なんやねん、人がめっちゃ苦労してんのにのほほんとピクニックするような────」

「────ひよ里さん、こんばんは────♪」

「────ゲッ」

 

 浦原を見ては露骨に嫌そうな顔をする誰か。

 

「未だに落ち着きのない奴だネ」

 

ゲッ

 

 そしてマユリを見ては更に嫌そうな顔をするひよ里だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「おー、戻ったかひよ里」

 

 空座総合病院付近にいたラブがひよ里に気付き、後ろからついてきていた一護たちを見て黙り込む。

 

「……………………………………お前、相変わらずモノを拾ってくるのが得意だな?」

 

「心外や! 狙ってへんわ!」

 

「あ、お疲れ様っス愛川(ラブ)サン。 ことのあらましはひよ里サンから聞きました」

 

 浦原がさらりと言った『ことのあらまし』とは、現世で起きていた異変とそれに対して様々な者たちが取っていた対処方法。

 

「『ことのあらまし』で済ませおって……」

 

「大変っスね~」

 

「それで? 何かもう考えはあるのだネ?」

 

「ま、そこは()()()()確認を取らないといけないので」

 

 ドッ!

 

「グハァ?!」

 

 店長ぉぉぉぉぉ!」

 

 そしてさっきの繰り返しのように、今度は鉄裁のタックルを夜一は避けて浦原はもろにそれを受ける。

 

「あら~、テッちゃんってば過激ねぇ~?」

 

「いや……あれってアカン奴なんとちゃう?」

 

「そう~?」

 

「だってあれ、泡吹いてるやん」

*1
109、110話より

*2
120話より




『夢』:

睡眠中、あたかも現実の経験であるかのように感じる一連の観念や心像。 あるいは睡眠中に見る『幻覚』。



余談ですが、他作品のネタや(この作品含めて)ギャグ展開などが沸々と浮かんできます。

シリアスな奴もですが。


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第160話 Theory

大変お待たせ致しました、年末度関連の事情やリアルでバタバタ忙しかったので勢いのついた短めの次話です。

楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 現世組 視点

 ___________

 

「ではまとめるとこういうことかネ、黒崎一護?」

 

 とある病院の会議室では、マユリがテーブルをはさんで一護の向かい側に度の入っていない眼鏡を光らせ、両肘を上に立てて彼を見ていた。

 

 先ほどまで彼は一護から見た視点で今まで起きたことを洗いざらい聞かれ、余談だが部屋の端には『自分は天才過ぎて何か(バカ)とは紙一重』と書いてある看板を首から下げてながら正座をマイに強要されていた浦原の姿。

 

「あの、そろそろ膝がやばいのですが────?」

 「────黙っておきましょうねぇ~?」

 

 ギュウ。

 

「いだだだだだだだだだだ?!」

 

「大袈裟ねぇ~」

 

 ギュウ♪

 

「『ギュウ』に音符をつけても痛いモノは痛いです!」

 

 抗議を出そうとした浦原の言葉を遮りながら有無を言わせない圧力(物理)でマイが彼を黙らせる。

 

 さっきまでは彼も情報のすり合わせにも参加させられてしていた。

 

「(ニコニコニコニコニコニコニコニコ)」

 

「いや、あのですね? 単純に────?」

 「────(ニコニコニコニコニコニコニコニコ)」

 

 「あ、ハイ……」

 

 やっと浦原が撃沈し、目線が帽子に隠れてたところでマユリが口を開ける。

 

「おそらくだが、霊王宮で彼女(マイ)に似た女性とやらがこの世界の『三番』、あるいは『三号』である可能性が高いネ」

 

「「「ゑ?」」」

 

 その場に居合わせていたマイ、浦原、一護、そしてネコの姿になって隠れていた夜一がマユリに呆気を取られ、これを見た彼が実に良い(ニチャっとした)笑みを浮かべた。

 

 ニタァァァァァァァァァ。

 

「ほウ? 他の凡人はともかく、天才を自称する浦原喜助でさえも『知らない』と言うのかネ?」

 

「いや、まぁ……涅サンはどこでそんなことをお聞きに…………って、あの冴えなさそうな眼鏡の彼女ですか」

 

「一言余計だがそうダ」

 

「(『三号』とか『三番』って…………チエが言った『神様』だよな? 自称の)」

 「一言余計」

 

「ん?」

 

 一護は今度こそ空耳ではなく、聞こえてきた小声の出どころを探そうと周りを見る間にマユリは言葉を続けた。

 

「リッ君との時間は実に有意義で、彼女と時間を過ごす間に色々と聞いたのだヨ。 

 警戒の余りに距離をとって観察し、最悪の事態を避けようとして憶測を元にあの小娘(渡辺三月)が極限状態に陥った瞬間ではっきりさせようとした(浦原)と違ってネ」

 

「…………………………」

 

「挙句の果てに、異変続きでその取った行動に誘導されたのを一足遅く気付いた君とは違ってネ?」

 

 マユリの『ここぞ!』と言う勢いの指摘に浦原はただ半笑いを浮かべていた。

 

「涅、お主は警戒しなかったのか? 今だから言うが、得体の知れない奴らに面妖な術と不確かな生い立ち……あまりにも異質すぎてワシらだけでなく『仮面の軍勢(ヴァイザード)』の殆どが取り入れながら探ろうとして奴らじゃぞ?」

 

 さっきまでマイに抱かれるのを余裕で躱していた夜一の問いにマユリの勝ち誇ったような顔が、ウンザリしたものに豹変する。

 

「四楓院夜一。 口にするのは癪だが私は行動を起こす前に、未知のモノを警戒する前に必ずしているものはそこの浦原喜助とそれほど大差はナい。 違いがあるのは()()()()()()()()()()()()()で、浦原喜助は瀞霊廷の者たちや黒崎一護とその知人たちや長年の知り合いである四楓院夜一だけでなく、()()()()()()()()()()()

 

「……………………なんじゃと?」

「あら、そうなの~?」

「え?」

 

 夜一、マイ、そして一護が半笑いを浮かべ続けていた浦原を見る。

 

「いや~、そんなに注目されると照れちゃいます♪ 照れすぎて足の感覚がなくなったのでさえ気にならないぐらいです♪」

 

「そして君のそのわざとらしい、癖でもあるお茶らけた言動もそれを隠す一つの手段でしかなイ」

 

「……………………………………………………………………」

 

「沈黙は、今とさっきの言葉に対しての肯定と取っていいかネ?」

 

「(浦原さんが……()()()()()()()()()()()()()……だと?)」

 

「喜助。 涅の言ったことは本当か?」

 

「やだなぁ~、夜一さんは別に決まっているじゃないですか~」

 

「ちなみにその言い方の注目すべきところは『別』という単語で不定はしていないところがポイントだヨ」

 

「…………………………本当に嫌だな、そうやって責められるのは」

 

「ようやく素が出たカ。 こんな状況下で疑心暗鬼そのものになっている余裕はどこから来ているのか聞きたいが今は置いておこウ。 それより今この状況をどうするかを決めようではないカ? それとなんだね、その疑心マシマシの目ハ?」

 

「「「(涅マユリが隊長っぽく振舞っている………………)」」」

 

「失礼だね君たちハ…………さて、ここから()()()()()()()と行こうではないかネ?」

 

「「「「ゑ?」」」」

 

「何を呆けたままでいル? いいかネ? 『三番』だが『三号』だが知らんが奴が『神』とやらを自称しているのであれば少なくとも霊王に類するモノと仮定しよう」

 

 一護たちの耳に届いたマユリらしくない単語に気が一瞬引っかかったが、それもマユリの言葉でかき消される。

 

「少々のおさらいも入っているが、霊王は死神の頂点に立つ存在とされているが……実のところは全く違ウ」

 

 浦原の眉毛がピクリと反応し、マユリはそのタイミングで口を再度開ける。

 

「霊王とは『世界の(くさび)』ダ……手を挙げてなんだネ、黒崎一護?」

 

「ええと……どういう意味だ?」

 

「どういう意味でもなイ。 文字通りに『霊王無き世界は崩壊する』と言っているんだヨ。 そして現状、世界は急変したが崩壊する予兆が無いことでさっきの『三』が霊王に類するモノと仮定しただけダ」

 

「「「(呼び方が省略化された)」」」

 

「さテ、ここまで話せばいかに凡骨であれ『脅威』を察せるダロウ? ちなみに君はカウントしなイヨ、浦原喜助」

 

「では察せない人と自分の名誉挽回の為に説明をいたしましょう! …………それぐらいはいいですよね?」

 

「いいわよぉ~?」

 

「不肖、私がいつもの担当をします」

 

「(デカい図体なのに忍者みたいだな……)」

 

 そこで鉄裁がヌッと天井裏から出て来てはスケッチブックを出して浦原の言ったことを描く用意をする。

 

「『霊王は世界の(くさび)』。 これはつまり現世、虚圏、そして尸魂界の三つを示しています。 あと叫谷(きょうごく)は皆さんご存じでしょうか?」

 

 ここで浦原が見たのは一護とチエの二人。

 

「ああ、少し前にちょっとな………………」

 

「あの時は苦労したな…………主に会計が」

 

「つーか普通は食い逃げしねぇよな?!」

 

「一文無しならそれなりに皿洗いでもすれば…………………………いや、()()()の性格では無理だな」

 

「そうよねぇ~」

 

 一護、チエ、マイの三人の頭上に()()()()()のケタケタと陽気に笑う、紅葉が似合う少女の姿が浮かぶ。

 

「……それでは続けますが通常この三つの次元は断界内に漂い本来は決して接触しない、かつ決して離れすぎない距離を保っています。 この離れず付かずの距離と境界線を保っているのが霊王です」

 

「そうダ。 つまり、『サ』が────」

「「「「(────更に省略化された────?!)」」」」

「────霊王と似た機能や能力を持っているとすればこれでどれほどの脅威かわかるだろう?」

 

「(つまり……その気になれば世界を壊すことも可能なのか?)」

 

「そしてここで三月サンが度々見せた行動などを照り合わせると()()()()()()()が見えることになります。 まぁ、『未来視』の一種ですね。 これで恐らくは我々の出方をある程度予想できるので世界を壊すよりは何か利用価値からか、気まぐれなのかわかりませんが世界を崩壊させていません……()()的には後者でしょう」

 

「あとは藍染惣右介と奴の関係性ダガ……」

 

 ここでマユリがちらっと横目で見たのは夜一で、彼女はため息交じりに言を発した。

 

「そこでワシに振るのか」

 

「当たり前だヨ。 情報収集は主に隠密機動の仕事。 ならば奴が入隊した時点で調べはついていたのだロウ?」

 

「そのことは他言無用……と言っても、今では意味はないかの」

 

 夜一が?マークを出す一護とマイへと顔を向ける。

 

「護廷十三隊や隠密機動に鬼道衆はその役割などから尸魂界のありとあらゆる情報などに触れる機会が多くなる。 当然、入隊者全員の調べはされる。 それが流魂街の者であっても、貴族での者であってもの? ただし後者は他家の推薦などがあればある程度調べは軽減される。 これは隠密機動の長のみが知る情報じゃ」

 

「それで……藍染の野郎は?」

 

「『藍染惣右介』。 奴は………………『()()()没落貴族の出』としか出てこなかった」

 

「『恐らく』? 夜一サンにしては歯切れが悪いっすね?」

 

「そう言うに以外、言葉が見つからん。 奴が入隊したときに調べたが『藍染家』は確かに過去に存在はしたが『長年血縁者が見つからない』ということで没落したと思われ、過去にその家を知っていた者たちは既に亡くなっておった。 だが奴の言動や作法に知識は確かに貴族そのもので、斬魄刀も『最後の家宝として代々受け継がれていた』と言うことですでに所持しておった」

 

「注目すべきところはそこだヨ。 奴の生い立ちなどもある程度は興味がわくが、その代々受け継がれていた斬魄刀に引っ掛かりを覚えるネ」

 

「どういうことだ、涅隊長?」

 

「……………………」

 

 マユリがジッとチエの方を見る。

 

「どうした?」

 

 マユリの頭上に一瞬だけ浮かんだのはネムのイメージだが、彼はそれを消す。

 

「もし奴の『鏡花水月』の発生が奴からではなく、そしてお前たちから聞いた話を総合すると『サ』が関係しているのは捨てられない可能性だロ?」

 

「……ああ、なるほど。 つまりはですね、『藍染サンは()()()()()()んじゃないか?』と言う仮説がここで出てくるというわけですか」

 

「待て。 斬魄刀が持ち主を操るじゃと?」

 

「斬魄刀は持ち主の魂に影響されるが、何も『逆が無い』とは言い切れんだロ? そして藍染惣右介の『鏡花水月』は神経に関与する能力ダ」

 

「ワシは長年生きておるが、その類の話は聞いたことが無いぞ?」

 

「えっと、夜一サンを疑っているわけではないのですか────」

「────では聞くが、君はこの世全ての事情を知っているのかネ? 知らないのならこの仮説作りに関与しないでくれたまエ」

 

 「こういうところが似ておるのが嫌じゃ……」

 

「ですがその仮定のまま考えを進めると、どの程度、どの範囲で影響を及ぼせるのが分かりませんね」

 

「それにもしそれが出来ているとしても、『藍染一人なのカ?』と言う疑問も浮かブ………………もしかして干渉はそれほど出来ないのデハ? だから影響力の標的を強者の一人に絞ってイル?」

 

「涅サンにしては少し極端ですね。 もっと一人一人の相手に対しての変動があると見た方がいいかも知れません。

 例えば全体的には認識を察知したり、備え付けたりする程度。 これならば、ボクのケースにもある程度説明がつく」

 

「……………………なるほど。 では『サ』はある程度、特別な存在であればあるほど認識しやすく、影響が出来るのカ?」

 

「そして藍染サンの『鏡花水月』の能力を考えると多分思考だけではなく、精神状態にも影響出来るのでは?」

 

「………………………………そんなのを相手にするのか、俺たち? 藍染だけじゃなくて?」

 

「「「「………………………………………………………………」」」」

 

「問題ない。 そうだろう?」

 

「そうねぇ~。 私たちはそもそもこんなケースを想定に()()()()()訳だし~」

 

 一護がポツリと出した一言に沈黙が続くと思えばチエとマイが口を開けたことによってそれは破られる。

 

「……………………どういう意味だ?」

 

 一護の純粋な質問に、マイが相変わらずニコニコした笑みを崩さずに答える。

 

「だって私も『三月』だから~。 あ! この場合、『三月から発生した人格』と言った方が正しいのかしら~?」

 

「それで合っていると思うぞ。 こいつらに『分体』などを言っても説明をしなければならない」

 

「ハァ~イ。 と言うわけでぇ~、『元三月のマイ』で~す♪ あ、今までのマイでも良いし、取り敢えずは()()()()()を想定に()()()は存在するから~」

 

「「「「「……………………は?」」」」」

 

「あ。 最悪の事態と言うのは~、『暴走』の事ねぇ~?」

 

「「「「「………………………………………………………………」」」」」

 

 一護たちのポカンとした表情を見て、彼らの疑問と思ったことに答えたのだが…………立て続けに認知を揺るがすような話で混乱に近づいた思考では『それじゃない』、と口にできる者はいなかった。




後書きなしです。

なるべく話を進ませるよう次話を時間の合間で書こうとおもいます。


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第161話 Collision

大変長らくお待たせいたしました! 次話です!

殆ど前回の勢いのまま書いたものですが楽しんでいただければ幸いです!


 ___________

 

 現世組 視点

 ___________

 

「う~ん、こんな風に一護とお出掛けなんて小学校以来かしら~?」

 

 現世の空座町を巨大な大砲と槍を無理やり合体させた武器(ガンランス)を構えながらマイは一護たちの隣で歩いていた。

 

「……………………」

 

「ん? なぁに、一護~?」

 

「い、いや……何でも……」

 

「そぉ~?」

 

 一護の視線に気付いた彼女の問いに、彼はさっと視線を外して誤魔化すような言葉を放つ。

 

「いや~、まさかボクが何時か滅却師の世話になるとは夢にも思っていなかったっス!」

 

「ん~、そう言うのなら私だってまさか死神の隊長さんのお守をするなんて思わなかったわ~!」

 

「相変わらず君たちは鬱陶しいネ」

 

「「照れますねぇ~」」

 

 更に後方ではミニーニャと浦原(陽キャラ)に対してマユリの嫌みも効いているのかわからない返しに彼はただ歩きながらため息を出す。

 

「ハァ~……少なくとも私以外に一人は状況の複雑化を理解しようと努力しているのに……」

 

 彼が見たのは心ここにあらずと言った様子の一護。

 

 彼が思い出すのはついさっき、マイの自己紹介パート2(後半)

 以前彼女は自分を『改造魂魄の試作モデル』*1と説明していた。

 これは偽りではなかったが全てではなく、彼女は義骸と言う『肉体』をベースに『魂』と『精神』を注入された存在。

 

 おっとりで天然かつ()()ペースながら『母性の塊』とも呼べる『マイ』。

 

 それがまさか三月の『()()()()()()』とは浦原でも予測していなかったらしく、彼は珍しくさっきまで黙っていた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 時間を少しだけ戻すこととなる。

 

 場は丁度マイの『最悪の事態と言うのは~、“暴走”の事ねぇ~?』宣言直後。

 

 ようやく最初に回復したマユリが……と言うよりは新しい情報含めて、考えをまとめた彼が話を進ませた結果が(簡潔にだが)以下の通りとなる:

 

 1. 彼女は『三月』と言う少女が思考を長年の期間で並列起動させた産物に一つで、マイは『母』と言うイメージを凝縮した元に生み出された一人

 2. ここでマイが言った『暴走』とは『三月』が元々『大きなモノの一部』として覚醒し、いつかは『自分』を見失った時の抑止力として実体を与えられた

 3. 一護、浦原、夜一たちの証言から霊王宮で彼らが見たマイに似た女性は、恐らくこの世界(BLEACH)での『大きなモノの一部』が覚醒したモノ、あるいはその意識か魂が願望機を使われて肉体に移し替えられた姿

 

 頭で理解を拒否しそうになるような内容だが、直感ではそれらが正しい認識の方向を辿っていると感じたその時に一護が手を挙げた。

 

「あの、質問」

 

「ん? なぁに、一護君?」

 

「マイさんが『三月』と言うのなら……『神様の一部』ってのにも割り当てられるのか?」

 

 一護の問いに、マイはポスンと手をやさしく重ねあう。

 

「あらあらぁ~! そこに気が付くとは流石一護君ねぇ~! そうなの~、私ったら『人間』でいうところの『母神』をイメージされてこの姿にされたのだけれど、正直困るのよねぇ~」

 

「え?」

 

「私は『本体』が育った世界での、えっと……()()()()()()()()()()()()()を基に創られたのだけれど、()()()()()()()だけなのに良いことが一つもなくて~。 

 肩も凝るだけだし、異性のみならず周りの人たちの視線を集めちゃうし~……あ! でもでも~? ()()()()()()()のが別に都市伝説じゃないことは分かったわぁ~」

 

 ムニュン、ムニュン。

 

「「ブフッ?!」」

 

『神様の一部』を否定しないどころか、彼女の困る理由に一護と浦原が吹き出しす。

 

「??????」

 

「…………では、現状についての予測と方針を話してもいいかネ?」

 

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷内 残存兵 視点

 ___________

 

「た、退避だぁぁぁ!」

「中だ! 早く中に入れ!」

 

 瀞霊壁に亀裂が入って数時間後、最初は拮抗状態を保っていたがやはり数の暴力と時間が経っていく内に特性が変わる敵には抗えず、次第に彼らは奥へ奥へと攻め込まれていく。

 

「「「「「キャハハハハハハ!!!」」」」」

 

 最初はのっぺりとした人工破面たちの姿も、今では頭部の()だけでなく体の胴体と腕にはギョロギョロと瞬きもせずに周りをくまなく見渡す目らしきモノも追加されていた。

 

「自分で最後です!」

「よし、作動しろ!」

 

 ヴォン!

 

ギィィィ?!

 

 やがて四十六議事堂に最後の生存者が駆け込むと同時に斥候型が防衛機能によって結界のようなモノに弾かれる。

 

「阿近、今の作動だけで一割消化した!」

 

「想定内だ鵯州! 中の奴らに動力源に交代で供給させろ!」

 

「聞いたなリン?! ぼさっとしてないでさっさと行け!」

 

「は、はいいいい!」

 

 議事堂内では急遽十二番隊が設置した端末などを経由して議事堂本来の機能を使っていた。

 

 ここで鵯州が言った『動力源』とは電気の事はもちろん、以前マユリが虚圏に出てから『戦利品』として持ち帰ってきた、彼が『エンジン』と呼んだ一つの器具*2

 

 それは『魂魄を招集し、エネルギー源へと変換する』と言った機能を持ち、瀞霊廷の全てを起動するには出力が足りなかったが最後の砦ともいえる議事堂を作動するには十分。

 

 そして今、阿近は交代で非戦闘員たちに『エンジン』に魂魄供給を命じていた。

 

 だが外に設置されていたカメラ越しでも分かるように徐々に数が増える人工破面がひっきりなしに結界にぶつかっていく。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ゴォン……ゴゴゴォンゴォン……《xsmall》

 

 地価の空洞内に大きな柱のような建物がある『清浄塔居林』に響くのは地上の、人工破面が結界に体当たりをする音。

 

 それらが中に避難した死神や魂魄たちに事の重大さを物語り、暗い空間であったことも関係していたのかその場全員の士気を大きく低下させていた。

 

 「もう……もう駄目だ」

 

 そうポツリと口にしたのは運よく瀞霊壁が破られた付近にいて、片腕を亡くした魂魄。

 

 残った腕で頭を抱え、地面に座り込むと彼の怯え様はすぐに伝染していった。

 

 無理もない。

 

 慣れない極限状態で、彼らは体感ではすでに長い時間戦っていた。

 

 実際、彼らが戦ったのは数時間と言う生温い期間ではなく丸一日ほど。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォン……バキィン!

 

「うわ?!」

「い、今の音は?!」

「き、き、きっと結界が破られたんだ!」

「あ、あああああ……」

 

 明らかに戦意がごっそりと削がれていく彼らに、人影が近づく。

 

「あー、そこな人たちちょっとええかぁ?」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 上記の魂魄の叫びは当たっていた。

 

 彼らより地上に近い死神たちは家具などを出入り口付近にせっせと持っていき、バリケードを作っていく。

 

 「大型! 再度来ます!」

 

「われら気張れよぉぉぉぉぉ!!!」

 

 殿を務めていた鉄左衛門の声に、死神たちは悲鳴を上げる体に鞭を打って外部へと通じる議事堂内への扉にバリケードをさらに厚くさせていく。

 

 ドォン

 ミシミシ!

 

 大きな衝動と共にその場が揺れ、扉が悲鳴を上げる。

 

「早よぅせいお前ら!」

 

 額の出血を止めるために包帯を巻いていたリサも家具を七緒と共に運びながら叫び、この光景を鉄左衛門と共に殿をして肩で息をしながら見ていた大前田(希千代)は何とも言えない内心だった。

 

 「……これ、までか………………」

 

「「「「「……………………………………………………………………」」」」」

 

 弱気になった貴族の私兵の一人がそういうと、今度は死神たちに動揺と怯えが広がり始める。

 

 「だらしねぇテメェらぁぁぁぁぁ!」

 

 そこにカリンの怒りをこめた声が響き渡り、パッと見ただけでも重症の彼女が地下の『清浄塔居林』と通じる階段から上がっていた。

 

 ぱっと見える範囲だけ額と右目、首に左腕が痛々しいほどの包帯と浮かび上がる赤い色でどれだけの血が滲み出ているかが窺えた。

 

 それでも無理やり包帯を手の形に巻きなおした右手にはしっかりと槍が掴まれていて、強固な『戦う意思』を示していた。

 

「お前らの守るべき対象はまだあるだろうが?!」

 

 情熱的で義に厚い、かつまどろっこしいモノや行動を見ると()()カリとする苛立ちを隠せない、ある意味『直接的』な『カリン』。

 

「そうだ、まだだ! まだ終わっちゃいねぇ!」

 

「そうだよ。 皆、命懸けで守ったんだ」

 

「いや、『まだ命懸けで守っている』と言えるね」

 

 カリンの叫びに一角、吉良、弓親が口を開けてどんよりとし始めた空気が薄まっていく。

 

 ドォン

 ミシミシミシミシミシミシミシミシ!

 

 だがそれもさっきよりも大きな悲鳴を上げる扉によってまたも雰囲気は陰気なモノと沈んでいく。

 

「そうだ。 それに、俺たちはまだ死んでいない!」

 

「……海燕殿の言うとおりだ! まだ、我々には『何か』をすることが出来るはずだ!」

 

「……その『何か』とは何だ?」

 

「え、いやその……」

「えっと……」

 

 海燕とルキアに、その場の空気にあてられた雀部が問いを投げる。

 

「瀞霊壁は破られ、いまや隊長たちほどの実力者の安否は不明。 そして当初とは違い、進化していく敵に逃げ道のない議事堂にまで追い詰められ、結界も効力を失いつつある………………我々にどうこう出来るような事態ではなくなった。 

 もう……ここで『どう死ぬか』を決めるしかないだろう?」

 

「「「「「………………………………………………………………………………」」」」」

 

 冷たい水をかけられて夢から覚めさせられた者のように、雀部の語る冷たい現実味のある話によって皆が心と脳裏の奥底に埋めていた最期を突き立てられる。

 

「(……………………クソ……もう、ダメなのか?)」

 

 その中にはカリンもいた。

 

 理性では分かっていても、『それがどうした』と言いたいような考えが後に『()()』に繋がる事を信じて、彼女は今まで動いていた。

 

 だがそこに、意外な声が提案を上げた。

 

「…………………………打って出ましょう」

 

「「「「「ッ?!」」」」」

 

 声の持ち主の周りにいた者たちと、カリンまでもがギョッとして()()を見る。

 

「お、お前…………」

 

「何を言うかと思えば……()()副隊長、何の冗談だ?」

 

 雀部の悲観的な目線に、雛森(声の持ち主)が真剣なまなざしで見返していた。

 

「いいえ。 冗談なんかじゃありません。 立ち向かうのです」

 

「雛森……君」

 

 誰もが耳を疑い、彼女が()()雛森と信じられなかった。

 

「もし、どちらにせよ『死、あるのみ』ならば中の人たちを逃がす為に包囲を一転突破し、戦えない人たちを逃がしましょう」

 

 彼女の言った言葉の重みに、あるいはその決意の強さに充てられた恋次や一角などに海燕がニヤニヤし始める。

 

「『名誉ある死』、か」

 

「まさか十一番隊でもない雛森から聞くとはな」

 

「けど悪くないぜ、その考え。 俺は乗るぜ」

 

「いいえ、『名誉ある死』だけではありません。 瀞霊廷…………ここまで生きた人たちの為です」

 

 雛森を見ていたカリンの胸に、熱いものが込みあがる。

 

「長い夜でも……生きて入れさえすれば、『記憶』は次へと繋がります」

 

「(雛森、お前……)」

 

「それに上手くいけば外にいる卯ノ花隊長や右之助さん、逃げ遅れた人たちも見つかるかもしれません」

 

 ドォン

 ミシ! バキ!

 

 背景音を除いて、長い撃沈はやがて口を開けた雀部によって破られる。

 

「……………………そうだな。 そのような『生き方』もあるか……まだ戦う意思のある者たちを全員集めろ! 斬魄刀の能力の出し惜しみもなしだ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 さっきまでの空気が嘘だったように、皆がそれぞれ新しい目的のために動く。

 

「ぁ」

 

「よ、お疲れさん」

 

 雛森はさっきまでがくがくと笑いそうになっていた足で姿勢が弱ったのか後ろへと倒れそうになるのを、吉良と恋次が支える。

 

「見直したよ、雛森君」

 

「おう! よく言った!」

 

「え? そ、そうかな? カリンさんが言いそうなことを言っただけなんだけど……」

 

 近くまで来たカリンが雛森の頭をワシャワシャとかき回す。

 

「それでも大したモノだ……強くなったな、()()

 

「「「え?」」」

 

「っし! そうと決まればこの邪魔な包帯とかも取らなきゃな!」

 

 ここでカリンが初めて雛森を名前で呼んだことに、同期三人(吉良、雛森、恋次)がポカンと口を開けている間に、彼女は包帯を剥ぎ取っていく。

 

「なんや。 ボクたちの出番、何もなかったやん」

 

「市丸隊長?」

 

 そこに、地下からの通路から市丸が顔を出す。

 

「元やで、イヅル。 しっかし、雛森ちゃんもえらい成長したな~。 まさかボクの考えと同じやったとはねぇ~」

 

「え?」

 

「下の連中に、今の作戦で納得させたんよ。 どうせ『死ぬ』言うなら、『助かるかも知れへん』風に言った方が効果的やろ?」

 

「「「「「……………………………………」」」」」

 

「ん? どないしたん?」

 

 「吉良、今更だけど? 結果が同じでも、言い方がスゲェな?」

 「それが市丸隊長なんだよ……」

 「え、えっと……ご苦労様です?」

 「雛森君の優しさが物理的に染みるよ……」

 「え?! 何で吉良君そこで泣くの?!」

 《xsmall》「いい加減に察せよ雛森」

 「え? 今なんて、阿散井君?」

 

 久しぶりに立場などを考えない同期三人の砕けた言いたい放題である。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ドォン

 バキ!

 

 外へと通じる扉には、今にでも壊れるような亀裂が走る。

 

「斬魄刀を持っていない奴らは、霊子兵装に銃剣を装着しろ! 弾倉も確認しておけ!」

 

「要の言う通りや。 このまま出てすぐ突破できるようにな~?」

 

 ドォン

 バキバキ!

 

 中では不安ながらも、霊子兵装などをがっしりと手に持つ魂魄たちや初解をまだ会得していない隊士たち。

 

「扉が砕けると同時に鬼道型の初解を放ち、それを合図に総員出撃せよ! 出遅れるなよ?!」

 

「なぁ、恋次?」

 

「ん? どうした、ルキア?」

 

()()をする時ではないのか?」

 

「『アレ』? ……え?! おい、まさかお前…………………………マジか?」

 

 いつ扉が崩れてもおかしくない時に、ルキアがその緊張した空気に似つかわしくない笑みを浮かべる。

 

「こういう時だからこそではないかたわけ! ほら、手をを重ねろ!」

 

 ルキアが近くの人の手を無理やり掴む。

 これを見た恋次や、彼のように廃れた風習を覚えていてもおかしくない一角、鉄左衛門、志乃なども他者の手を掴んでは重ねていく。

 

「イェーイ! ほらほらナナちゃんも!」

 

「え、ええええぇぇぇぇ?!」

 

 ドォン

 バキバキバキ!

 

 ルキア、恋次、一角、鉄左衛門、マシロを筆頭にそれぞれが時を同じくして口を開ける。

 

『我ら、今こそ決戦の地へ!』

 

 それは、藍染に虚圏へと攫われた者たちを救う為に独断で乗り込んだ時にいつかの恋次が蘇らせた風習。

 統一感と士気を上がらせる『まじない』と称した行動。

 

 『信じろ、我らの刃は砕くだけぬ!

 信じろ、我らの心は折れぬ!

 たとえ歩みは離れても、(こころざし)は共にある!』

 

 ドォン

 バキバキバキバキ!

 

 (ちかえ)! 我ら、血肉が裂さけようとも!』

 

 ドォン

 バキバキィン!

 

「「「「キャハハハハハハ!!!」」」」

 

 やっと扉に大きな亀裂が入り、外から中の様子が見えた時に人工破面の笑い声が聞こえてきた。

 だが中にいた者たちはこの時、この一瞬だけは何とも言えない気持ちを胸にしていた。

 

 そこには死神や魂魄と言った種の違いが無く。

 

 

 男性、女性、成人、未成人、いわゆる老若男女(ろうにゃくなんにょ)の違いもなく。

 

 

 『再び、共に!』

 

 

『ただ護る』と言った、単純な志を共にした『同士』だけが居た。

 

 バリバリバリバリィィィィ!!!

 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ!!!

 

 「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああ────!!!」」」」」

 

 大きな音で追加のダメージに耐えられなかった扉が崩れていく。

 きっと高らかに笑っているであろう人工破面の鳴き声より、尸魂界の住人達があげる咆哮だけが聞こえそれぞれが全身で前進をし、瀞霊壁の欠けた場所へと目指す。

 

 鬼道の遠距離、中距離型の初解が唸りを上げては敵を吹き飛ばす。

 

 横から駆け寄ってくる敵を刀が斬る。

 

 銃剣が刺され、銃身を通して発砲がされその反動で銃剣が抜かれる。

 

 そのまま彼らはウジャウジャいる敵を突き切って、ボロボロな廃墟へと変わり果てた瀞霊廷を駆け抜ける。

 

 この突然攻勢に出た者たちを前に、戸惑いを隠せない人工破面たちの中を駆け抜ける。

 

 誰もが息の続く限りに叫ぶ。

 

 斬る。

 

 撃つ。

 

 敵に刺されながらも。

 

 足や腕を失っても。

 

 胴体を掴まれても。

 

 それでも誰もが叫び、出来るだけ多くの敵を道連れにしていく。

 

 

 

 まるで『我々はここにいた』と、爪痕を世界に残すかのように。

 

 

 

 総勢千人と少しの戦力も、今ではわずか数百名。

 それでもこの一体感によって、彼らは瀞霊壁が破れられた場所まで全身を続けた。

 

「ッ! リカか?!」

 

 そこに、カリンの一言が奇跡的に周りの者たちに聞こえ、死神も魂魄も人工破面もが彼女の視線を追う。

 

 砂丘の上をリカが頑張ってフロートボートを一人で引きずっているのを、彼らは見た。

 

 

 

 ___________

 

 虚圏援軍要請組 視点

 ___________

 

「んしょ、んしょ、んしょ」

 

 上記と同時刻、リカはフロートボートを一人さみしく引きずっていた。

 

「ふぅー……やっぱり肉体労働は嫌ですね~」

「(そうね、そこは同感よ)」

「やっぱり竜牙兵欲しいですねぇ~」

 

 合理的で好奇心満載、新しいモノやことに興味が尽きないかつ冷めた心持ちで物事を見定める、ある意味古典的な『探究者』の『リカ』。

 

 額の汗を袖でふき取りながら、彼女は砂丘の上から瀞霊廷の奥から一気に打って出た場面を見下ろす。

 

「う~ん、やっぱりこうやってみると独りですねぇ~。 『孤独』ですね~」

 

 

 

 

 

 

 

 

「『孤独』? 知らねぇよ」

 

 リカの背後から、グリムジョーが前へと出る。

 

「何せ『王』の俺が来てるんだ。 それごと吹き飛ばしてやるよ。 なぁ、お前ら?」

 

「誰が王よ?! 誰が?! と言うか仕切ってんじゃないわよ!」

「まぁ別にいいじゃねぇか、チルッチ」

「異議、大いにありですぞ?! 王ならば吾輩が立候補する!」

「「却下」」

「何故だ?!」

 

 彼が後ろを見るとと言った帰刃(レスレクシオン)済みの破面たちがゾロゾロと姿を現せながら前へと出てくる。

 

 チルッチ、ガンテンバイン、ドルドーニはもちろん、野良の破面たちも含めて。

 

「ですが彼の生き方は獣に寄りながらも、知性ある者の統一を成しているもまた事実。 今この時の彼を『王』とは認めなくても、『将』としてはどうかしら?」

 

 そしてネル────厳密には帰刃(レスレクシオン)済みのネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクも居た。

 

「は! どっちでもいいさ! 俺ぁクソ死神たちだけじゃなくて、破面モドキや背後でこそこそ隠れているはずの滅却師のクソッタレどもに、俺たちの力を見せれることに満足してんだ! 行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!

 

 「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお────!!!」」」」」

 

 ここでグリムジョーが手足のみを帰刃(レスレクシオン)し、大地を他の破面たちと共に駆けながら雄叫びを上げる。

 

「では、力を貸してくださいキャス子さん」

「(無事に帰ったら約束を果たしてもらうわよ?!)」

「はい~」

 

 人工破面たちは側面から近づく彼らを迎え撃つために向きを変え、二軍が衝突する寸前の時だった。

 

「『神官魔術式(ヘカティック)灰の花嫁(グライアー)』~。 ミニ改」

 

 リカはフロートボートから杖を出し、上記の詠唱を言いながらそれを頭上に構えると小さな光球が上空へと打ち上げられていく。

 

 カッ!

 

 

 光の玉は花火のように爆発をし、虚圏に一瞬だけまるで太陽が照らしたような光がその場に広がった。

 

 破面たちのグリムジョーや、瀞霊廷の者たちは反射的に突然の眩さに瞼を閉じる。

 

 「「「「ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ?!」」」」

 

 だがついさっきまで無かった『目』を表現させた人工破面たちは開かれたままのそれらでモロにこの光を受ける。

 

 もし万が一に『瞼』を表現させていたとしても、『晴天』を知らない彼らでは太陽出来ていなかったかも知れない。

 

 どちらにせよ、この怯んだ一瞬が致命的だったのは間違えようもない。

 

 人工破面たちは揃いも揃って出来るだけの『目』を腕で塞ぐか視覚からくる痛みで地面をのたうち回り、横と正面からの突撃で一方的に倒されていく。

 

「………………………………ふー」

 

 リカは長い溜息をだし、これを見ながらダルそうにフロートボートへと体を寄りかからせる。

 

「………………………………疲れ、た」

*1
14話より

*2
92話より




作者:目を開けたらもういい時間になっていた……だと? ま、まさかこれが『鏡花水月』?!

平子:アホ。 ちやうがな。

リサ:ただ単にニ徹しててアラームをまた付け忘れただけやろ?

ハッチ: 皆サン言い方がチョットきついデス


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第162話 King of Beasts, Commander of Ghosts

キリの良いところまで勢いのまま書いたので次話投稿が遅くなりました、大変申し訳ございません。

楽しんで頂ければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場所は遥か上空を浮いている()()へと変わる。

 

 それはまるで、地上の地形を抉ってはそのまま浮揚させた異質な光景。

 

「♪~」

 

 その大地の上を歩く女性は鼻歌と共にその長い髪をなびかせる。

 

「あら? ……フゥーン? 意外と気張るわねぇ~」

 

 彼女が何かに気付いたように自分の歩いていた大地を見る。

 

 否。

 

 彼女の目線は、より先を見ていたかのように思えた。

 

「流石は()()に、『自分の半身』と言わせるだけのことはあるわ」

 

「母上」

 

『母上』と呼ばれた女性の背後から来たのは落ち着きと自信を持った男の声。

 

「このまま()を放置しては、いずれ障害になると思われますが……いかがなさいます?」

 

「そうね……あ。 それなら下界を丸ごと()()()()かしら?」

 

 女性は顎に手を添え、妖艶な笑みを浮かべる。

 

「想定より早くはなったけれど……」

 

「とはいえ母上の話と、少々の違いが出ております。 これ以上の過激な変化は負担が大きいかと」

 

「それもそうねぇ……」

 

「それでしたら、()()の方を早めるのはどうでしょう?」

 

「したいのは山々なのだけれど、『()()の半身』はともかく…………ソウちゃんだって()()()がいるのは知っているでしょう?」

 

「ええ。 そう思い、様々な先手を打ったのでは?」

 

「確かに打ったけれど、()()()相手にどれだけの効果があったのか分からないわ」

 

「では僭越ながら、私が()()()()を使って直接様子を見に行って参りましょう。 その間に、母上は『()()』とやらの対処をしてください」

 

「…………やっぱりソウちゃんは優秀ね♪ 助かるわぁ~♪」

 

 女性のにっこりとした笑みに男は愛想よい笑みを返す。

 

 その笑みが『完璧な仮面』だったとしても、女性は恐らく気にも留めていなかったのだろう。

『心にもない笑みを浮かべる』行動は男が幼少のころからずっとしていた。

 

 それは『異能』とまで呼べるレベルにまで達していた。

 

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷 残存兵、虚圏破面 視点  視点

 ___________

 

 真正面から死神は魂魄、そして横からは不意一同全に虚圏で生まれた純破面たちの突撃。

 

 今まではただただ『相手を刈る取(蹂躙す)る』行為をしたことしかない人工破面たちはこの新鮮な状況に混乱し、場は乱戦へと突入する。

 

ギィィィ!

ギギギギギギ!

 

 斥候型は特化した素早さを生かす足を乱戦の中で活用できずにその足を失う。

 人型は人と似た構造ゆえと動揺したことで対処がしやすく、首や心臓などの急所を正面からだけでなく側面や背後からも突かれる。

 大きなアヨン型は唯一その図体のおかげか乱戦の影響をさほど受けずに寄ってくる死神や魂魄に純破面たちを薙ぎ払っていくが────

 

「────発砲隊、準備良し!」

「よし! 撃てぇぇぇ!」

 

 バババババババァァァン!

 

 さっきの命を共に懸けた突撃でもう一度統一感を取り戻し、遠距離攻撃を出来る者たちが乱戦の中、アヨン型の足などを狙って一斉射をしたと思えば次々と周りの元非戦闘員たちも武器を手にとっては攻撃に加わっていく。

 

 彼らは決死の突撃と共に武器を護身用に持たされ、元々は脱出だけを目指していた為に腰が引けていたが、ここが正念場と感じたのかあるいは戦場の熱気に当てられたのか持っていた武器を見よう、見真似で使用していく。

 

 巨体のアヨン型と言えども、足に集中砲火を浴びればバランスを崩すのにそれほど時間はかからなかった。

 

ガァァァァ?!

 

 ドォォォォン!

 

「『万歳兕丹打祭(ばんざいじだんだまつり)』!!!」

 

 そこへ兕丹坊を始め、体格の大きい者たちが地面に尻餅や膝をついたアヨン型に攻撃を容赦なく打ち込む。

 

ギャアアア!

 

 やがて人工破面たちはけたたましい鳴き声と共に背中を見せて走っていく。

 

 初めての『敗走』である。

 

「逃がすかよ! 『豹鉤( (ガラ・デ・ラ・パンテラ)』!!!」

 

 グリムジョーの肘からトゲ状の弾が飛び出て人工破面たちを襲う。

 

「散々好き勝手に相手を()っていたんだ! 殺される側も味わっておけよ!」

 

 彼を筆頭に、虚たちも次々と逃げ始める人工破面の背後に食いついていく。

 

「…………………………勝った?」

 

 この光景を見ていた魂魄の一人がそうポツリと呟くのを鉄左衛門が聞くと彼が口を開ける。

 

「そうだ。 勝ったぞ!」

 

()()()の……勝利だ!

 

「お…………………………おおおおお?!」

「か……勝った?!」

「勝ったんだ?!」

 

 次にこの勢いに乗った海燕が高らかに上記の言葉を発してついにその実感が湧いたのか、周りの者たちが敗走する敵を見て感動の声を出し始める。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「このまま殲滅しろ! 一匹たりとも逃がすな!」

 

「半分の者は左の丘から勢いをつけて突進! 挟み撃ちにして!」

 

「よぉし! 吾輩の武勇を見せつけるチャンスである!」

 

「ウザ! こんな時にもブレないのね?!」

 

Naturalmente(勿論だとも)!」

 

 人工破面たちの生き残りを狩り続ける、足の速いアジューカスや下半身が羚羊に代わったネリエルが上記の頼み(命令?)に脚に竜巻をまとわせて疑似的なホバー状態で移動するドルドーニと刃の翼から発する振動を上手く使って低空飛行を器用に行うチルッチが虚の約半数を先導して移動を開始していた。

 

「ぐあああああ?!」

「この、人間ふz────ガァァァァ?!」

 

 上記のように死神や魂魄たちが勝鬨(かちどき)を上げている間、逃げる人工破面とは逆方向に近づく人影があった。

 

「全く。 家畜の分際で手を噛もうなど愚か過ぎて可哀想にまで思え(ます)ねぇ。 それ私は滅却師です」

 

「そうか。 テメェがか」

 

 完聖体のキルゲに対し、グリムジョーがニヤリと牙を見せながら楽しそうに笑う。

 

「そういう貴方は『グリムジョー』とやらですね?」

 

「へぇ? 俺を知ってんのか?」

 

「ええ。 これも『過程』らしいですから」

 

「あ?」

 

「おっと、これは失言でしたね。 『多弁は銀、沈黙は金』。 ご容赦ください」

 

「別に良いぜ? なんせ俺に取っちゃ、テメェもただの過程だ。 『黒崎一護を殺せるかどうか』のな!」

 

 これを最後に、グリムジョーの率いる破面と虚たちはキルゲに襲い掛かる。

 

 

 

 

 ___________

 

 虚圏Landwehrkorps(ランデュエヘール部隊) 視点

 ___________

 

 場所はさらに変わり、どこかザエルアポロの研究所を思わせる施設内だった。

 人と獣の叫びが所々から聞こえ、壁に反射しては通路に響く。

 

「………………………………」

 

 その中を、白衣をまとった男が軍服を着た者たちを連れて歩く。

 厚い壁らしき障害を乗り越えて聞こえてくる阿鼻叫喚を気にも留めないその態度は如何に彼らがこの状況に順応しているか物語っていた。

 

グぎ…………ゴバァ…………

 

 白衣の男が扉を開けると生きているのが不思議なくらい、重傷でかろうじて人型に減刑を無理やり楔や釘などで留められた『何か』の息遣い、あるいは苦しむ声が聞こえてくる。

 

「ふむ。 流石は『女王』、か。 崩玉で進化させられた試作品とはいえ、生命力と精神がケタ違いだ。 とても超速再生を失ったとは思えん」

 

ゴぼ…………殺…………ギャボォ……

 

「ん? 一瞬だけ意識を戻すとは、いやはや驚かせるなこの個体は!」

 

「こいつは溶かさないんですか?」

 

 後ろに控えていた男の一人がそう尋ねる。

 

「陛下の『忠実だったことに免じて』のことだ」

 

「ではこの姿は────」

「────隊長の戯れだ。 『“殺すな”と命じられただけで“いたぶるな”とは言われていません』だとか」

 

 ズゥゥゥゥン……

 

 壁越しの聞こえる声たちよりわずかに音量が高い、腹に来るような重い音がどこかで鳴る。

 

「……なんだ、今の音は? 戦闘実験は無かった筈だ────?」

 ────ドゴォォォォン!

 ガラガラガラガラガラガラガラガラ!

 

 研究所の天井にヒビが割れていくガラス窓のように行き渡り、崩壊する。

 

 不意打ちに近いかつほぼ一瞬のことで、天井が崩れた地区の者たちは埋められていく。

 

 奇跡的に助かった者たちもかなりの重量を持った素材の下敷きになり絶命、あるいは助からない重傷を受ける。

 

「ハリベル様!」

 

 天井に空いた穴からするりと入ってきたのは帰刃(レスレクシオン)をして、姿がギリシャ神話などで出てくるラミアのようになったスンスン。

 

ぴゅる……ぶぎゃ……………………

 

『ハリベル』と呼ばれた物体はさっきから声なのか、ただ喉を痛めて意味不明な吐息のような音を出す。

 

「これは……体を千切って、他の虚などの一部を無理やり同化させた?! 何という事を!」

 

 先ほど外からひっきりなしに来る衝撃と破壊音をスンスンは無視しながら丁重にハリベルの体を縫い付けていた器具を取り外していく。

 普通なら、これほど姿形が変わってしまえば元に戻すのは不可能とだれもが断言できるほどだった。

 

 だが、過去に『不可能な治療を可能にした人間』がいたことをスンスンの脳裏に浮かばせていた。

 

 彼女がこの変わった虚圏のようにで、変わった現世で果たして治療してくれる余裕があるかはスンスンの知ったことではない。

 

 まぁ、『原作(BLEACH)』での織姫は負傷して生き残った死神や破面を敵味方関係なく治療していたので()()()治療を試みる可能性が高い。

 

「(それにしても、まさか我々の弱った体を治す薬物を隠し持っていたのは予想外でした……出所は聞きたくもありませんが)」

 

 上記でスンスンが思い出すのは優柔不断な波面たちに啖呵を切ったリカ。

 

 時間を少し置いてから彼女は反省するかのように、様子が以前のモノへと戻っては話題と場の空気を変えるかのように懐からアンプルを出し、それらを『ちなみにこちらは“刃返しでキール(KILL)”です。 服用すればたちまち全盛期の状態に戻れます』とだけ言って渡していた。

 

 無論、怪しさ満点のモノをホイホイと使う彼女たちではなかったのでリカがここで先に服用して何もない事を証明した。

 そして今度は虚でも何もないことを示すためにカオナ〇ギリアン(小)一号に頼ん(無断)で使ったところ、見た目が少しだけ変わった上に言葉遣いが当初の幼児並みから急激に成長し、『中級大虚(アジューカス)になられたのでは?』とルドボーンが指摘するほど。

 それもあってかまたもリカはギリアン(小)たちにもみくちゃにされそうになった。

 

 結果、虚圏に滞在するLandwehrkorps(ランデュエヘール部隊)の拠点に攻め込む大半がパワーアップした元ギリアン(小)たちだった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「おらぁぁぁぁぁぁ!」

 

 上記でスンスンがハリベルを救出している間アパッチは暴れ、ミラ・ローズはそんなことを思い出しながら横で愉快に笑うアパッチと共に自分たちが監禁されていた施設内の者たちを倒していく。

 

 中では弱った破面たちの姿がガラス越しの部屋、あるいはサイエンスフィクション映画などでよく見る医療カプセルの向こう側に見えた。

 

 半分文字通り溶けた状態の何かがカプセルの中に入っていたので、それらを間違っても『医療』と呼ぶよりは『解体』のほうが近いだろうが。

 

 

 ___________

 

 現世組 視点

 ___________

 

 現世では、一護とチエが道で出会った知人たちと話をしながら歩いていた。

 

「へぇー。 じゃあ井上とアネットたちはともかく、水色がスゲェ活躍していたんだな?」

 

『知人たち』とは、住民たちの避難誘導していたたつきと水色の二人。

 

「そうなんだよ。 こいつ、肝が据わっているというか順応力がずば抜けているというかさ?」

 

「そういう有沢もだけどさ! なんせあの歩く屍に顔面キックを食らわすなんて思いつかないよ! 普通は接近するのも躊躇するのに」

 

「いや、アタシの場合はちょっと……反射的に……」

 

「ん?」

 

 たつきの歯切れの悪い言葉と視線先を一護が辿る前に、チエがスッとその場から無言で立ち去る。

 

「え、あ、おい!」

 

 一護が後を追おうと振り向くと水色が彼の手を取って止める。

 

「ねぇ一護? 有沢に聞いたんだけどさ? 渡辺さんって人を殺したんだって?」

 

「え?」

 

「ちょ、ちょっと水色?!」

 

 水色のなんともなかったような口調とは裏腹に、あまりよろしくない内容に一護はたつきを見る。

 

「……………………ああ、そうだよ。 けど、あの時は多分だけど……俺らを守るためだと思う。 (ぶっちゃげ、守る対象はたつきだと思うけどな)」

 

「ふーん、そっか。 やっぱそうだよね」

 

 一護の答えに水色がウンウンと頷く。

 

「ちょ、ちょっと?! 何納得してんの水色?! 守ることと人と殺すのって────?!」

「────何が違うのさ? 逆に聞きたいけど、相手は一護たちを殺す気満々だったんでしょ? そんな奴らを逆に殺したのって何が悪いの?」

 

 水色の問いに、たつきは驚愕する。

 

「いや、だって……アイツ(チエ)ぐらいなら……その……」

 

「ああ。 『殺す必要は無かった』って言いたいんだ? でもそれって『相手を無力化する余裕』があって初めて出来ることだと思うよ?」

 

「「…………………………」」

 

 水色が当然のように言った言葉に一護と達樹の二人がハッとする。

 

 まるで、()()()()()()()()()()だったかのように。

 

「(なんでそう考えず、アイツを『ただの人殺し』としか思っていたんだろう?)」

 

「(そういえばそうだ…………アイツ、なんでもそつなく出来てしまうから思いがちだけど……やっぱ『一人』だもんな。 そりゃ、そこら辺の奴らよりは強いけど)」

 

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 チエは暗くなった空座町の横道を歩きながら、さっき自分へたつきが向けていた目を思い出していた。

 

『畏怖』。

『怯え』。

 それがたつきの目から取れた感情で、チエは以前に三月の言われた通りにその場を去っていった。

 

 だがその行為も、本来は彼女を弁解する者があってこその行動。

 

 それを知らずにチエはただ言われたことを忠実に従っていた。

 

「(困った。 一護を無事に帰らせたのはいいが……どうすればいいのだ?)」

 

 ここで彼女はまた自分の手を見ては拳を作ったり開いたりして、具合を見る。

 

「チーちゃん♪ ちょ~っと、いいかしら?」

 

「マイか」

 

 チエは自分に声をかけたであろう人物へ視線を自分の手から移す。

 

「手がどうかしたの?」

 

「いや、なんでもない。 ただ『どうすれば良い』とだけ考えていただけだ」

 

「………………そ、っか。 そうよね。 貴方は()()()()()だったわね」

 

 マイがチエに向けるのは、どこか悲しみを纏わせた微笑み。

 

「………………私ね? 最初は反対だったのよ、この世界に呼ばれるのを」

 

「どういうことだ?」

 

 マイの意外なくだりに、チエが内心で沸いた問いを口にする。

 

 それは単純に、『話を聞かせたい相手にそう反応すればいい』と周りの者たちを見ていて自らそれを模範していたようだった。

 

「だって一つの世界で介入が成功したからと言って、必ずしもそれが続けられると限らないから」

 

「……………………」

 

「今を見て、貴方はどう思う?」

 

「どうもこうも、かなり悪いな」

 

「ええ。 そもそもこの世界の『物語(原作)』だって元からかけ離れているかどうかわからない。 元々ここに私たちが居たからこうなったのかもしれない」

 

「そうだな」

 

「でも私たちは既にここにいて、『黒崎真咲を救った』。 それが原因で、『物語(原作)』が狂って、『今』を作ったのが私たちなら修復するのがせめてもの義務だと思わない?」

 

「そもそも私たちに()()()()

 

「そう。 貴方の言う通り『関係ない』。 関係がなかったのよ」

 

 チエの返事にマイが食いつく。

 

「空座町を冬木市(Fate stay/night)と比べて私はあまり好きではなかったわ。 何せ霊がそこら中にあるもの。 

 あまり気持ちのいいもでもないし、何より生前の施行を持って行動するのが毎日見えてしんどかったわ。

 特に嫌だったのは見えないふりをして、霊が調子に乗って私の胸やスカートを見上げたりなどをするより、虚に追い回されて食い殺されるのを私は無視してw身を浮かべ続けなければならなかった。

 それでも、商店街に行けば笑顔で私を迎える近所のおばちゃんやアパートの管理人のおばあちゃんも優しかった。

 頼んでもいないのに、『外人だから』って私を『知る人のみ知る』ようなお店や場所に連れて行ったり、延々と長話をして知り合いたちになじませようとしたり。

 それでも……………………

 彼らは『関係ない』。 関係がなかったのよ。

 死神も、虚も、破面も、歩く死人も、この惨状も何も関係がなかったのよ。

 瀞霊廷も、尸魂界も、虚圏も知ったことではなかったわ。

 でも…………今頃あの人たちはこのことを目のあたりにしておびえているのかもしれない。

 発狂しているのかもしれない。

 殺されて死んでも歩く屍になって他の人たちを襲っているのかもしれない」

 

 ドゴォン!

 《i》ドシャ!《i》

 

 マイが持っていた武器(ガンランス)を真上に発砲し、彼女を襲おうとしていてノイトラに似た破面が頭を失って地面へと落ちる。

 

「だから『そんな優しくしてくれた人たちが、私たちのせいで関係を持ってしまったのなら』と私なりに考えた結果がこれ……『守っても良いじゃない?』って」

 

 マイがニコニコとした笑みを絶やさずにチエへと向ける。

 

「……………………『守る』、か」

 

「そうやって躊躇するんだね、君は」

 

「「ッ」」

 

 二人が頭上からする声に見上げると、そこには今決して(少なくともマイにとって)会いたくない人物が近くの電柱の上から二人を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「藍染……惣右介!」




藍染:待たせたね

作者: _:(´ཀ`」∠):_


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第163話 Descent into Chaos

お待たせいたしました、次話です。

前話はスマホ投稿ゆえか、ミスをしていたのでフォーマットだけ修正いたしました。
大変申し訳ございませんでした。

楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 虚圏Landwehrkorps(ランデュエヘール部隊) 視点

 ___________

 

 ガキィン!

 

 虚圏の砂漠の上に転がってチリへと化していく虚たちの上に金属と金属がぶつかり合い、響く音を鳴らせる。

 

「人間の癖にやるじゃねぇか、えええ?!」

 

 音の発生源と思われる一人の破面が心の底からくる高揚感から、愉快な笑みをしながらキルゲを攻撃していた。

 

「(『ただの破面ではない』と知っていても厄介ですね)」

 

 キルゲが横目で見たのはさっきまでグリムジョー以外の破面たち。

 正確にはキルゲが圧勝気味に葬り、消えていく()たち。

 

 それに対し、先ほどからグリムジョーに彼の攻撃は()()()()()()()()()()()()ように見えていた。

 

『通用していない』ではなく、攻撃が絶妙に()()()いたり、虚圏の砂が沼のような部分を()()()キルゲが踏んでしまい反撃のチャンスを見逃してしまったりなどの()()()()()が多発していた。

 

 それも、グリムジョー()()に。

 

「(これもやはり、『陛下の見立て通り』ということですか。) ですが、抗せてもらい(ます)!」

 

 ビッ!

 

「グッ?!」

 

 キルゲは義手を変形させ、中から光線のような物がグリムジョーの太ももを撃ち抜く。

 

「テメェ、今のは────!」

「────アッハッハッハッハッハッハッハッハ! やはり()()()ですか! 流石は陛下といったところです!」

 

『虚閃』。

 そう虚圏の地面に思わず膝をつけたグリムジョーは叫びたかったのを、キルゲの笑いが遮る。

 

 某サイボーグ化した殺し屋の『スーパーどど〇波』ならず『スーパー(疑似)虚閃』といったそれは通常の虚閃よりさらに()()されていた。

 

「(『霊子圧縮発射装置』などと、霊子兵装への冒涜と思っていましたがいあやはや! あの方はどこまで見通しているのでしょう?!)」

 

 グリムジョーは痛みを無視し、さっきまで素早さ頼りの高機動戦を再開する。

 

「やはり強がっても、足への負担は目に見え(ます)ねぇ!」

 

「チッ!」

 

 キルゲの指摘にか、それとも調子が狂ったからかグリムジョーは舌を打つ。

 

「グリムジョー!」

 

 そこへネリエルやほかの十刃落ちたちが殲滅戦を終わらせたのか、その場へと駆けつきながら名を呼ぶ。

 

「フン、()以外は雑兵ですが……足を奪えたことですし、まぁいいでしょう」

 

 キルゲは形が変わった義手と軍刀サーベルを構える。

 

「では来なさい! 貴方たちを皆殺しにして、見せてやりましょう!」

 

 

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

 ドゴォン

 

「ッ」

 

「のわ?!」

 

 悶々と考え込む俺たちの横にある壁が向こう側から砕けて、反射的に斬魄刀を手でつかんで振り向くと何かが俺の顔面に当たる。

 

 ムニュン。

 

「ブッ?!」

 

 当たったと言うか、なんと言うか、どう言ったらいいのか分からないからありのままを話すと顔面にスゴく柔らかいかつ弾力からくる圧が顔を覆った。

 

「あらぁ~、ごめんなさいねぇ~?」

 

「ブハァ! みt────じゃなくてマイさん?!」

 

 昔からの馴染み(三月)の口癖と被ったのは癪だがもうこの際どうでもいい。

 

 何せ馴染みの母さんが…………じゃなかった。

 別のアイツ?

 ……………………………………………………うん。 

 もうその線で行こう。

 

「その傷、敵ですか?!」

 

 俺から離れたことで見えたマイさんは、戦闘していたのか傷から血を流していた。

 

「そうなの~、マズイのよ~」

 

 というかその状態でも笑顔でおっとりなのな?

 

 ズサァァァァァ!!!

 

「ッ」

 

「あ、今度は大きいほうの渡辺さんだ」

 

「小島か」

 

 水色が言ったように、今度は後ろへ飛んでいたのか地面を滑りながら後退していたチエが左手で抜刀した刀を握りながら戻ってきた。

 

「ぁ……チ、チエ……」

 

 気まずそうなたつきの声にチエがちらっと一瞬だけ視線を送り、すぐさま前を向く。

 

「おや。 流石に頑丈だ」

 

ウゲ

 

 壁が壊され、舞い上がる砂煙の中から来た人影を見てたつきが心底嫌そうな言葉を出す。

 

 気持ちはわかるけども。

 

 バババババババァン

 

 水色がほぼコンマ0秒的に拳銃を両手にとって乱射する。

 

 バチバチバチバチバチバチバチン!

 

「加工された飛び道具……霊子兵装の応用……石田竜弦かな?」

 

 だが弾丸が当たっても、せいぜいが飛ばされた輪ゴムが当たったような顔をするだけだった。

 

「あー、やっぱりこのチート野郎にはダメだったか」

 

「な、んで?」

 

 やっと乾いていた喉から出せた一言が上記。

 

 後になって考えれば、もっと別なことを言えたと思うが……その時、俺にそんな余裕はなかった。

 

「ん? その疑問は何に対してかな、黒崎一護?」

 

「なんで、アンタがここにいるんだ?!」

 

 未だに澄ました表情で俺たちを見ていた藍染が立っていた。

 

「なるほど、初歩的な方の問いだったか。 私がここにいるのは一言で済ますと、単なる()()()()だよ」

 

「「「……………………………………は?」」」

 

 余りにも予想していなかった返答に俺含めて他の奴らがほとんど呆気にとられる。

 

 ポキポキ、ポキ。

 

 そして僅かにだが何かの音がチエのほうから聞こえてきた。

 

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 

「(これで大方右手の骨は戻せた、か……あまりにも脆い。 どういうことだ?)」

 

 私は先ほどマイとともに突然現れた藍染に攻撃を加えようとして、あしわられた。

 

 その際に奴の攻撃を受け流した刀を伝って右手が痛んだどころか、()()()()()()()()()()

 

 今まで痛んだり傷が開いたことはあるが、さっきまでのような異変はこの体に起きなかった。

 

 これはどういうことだ?

 

 ……………………()()()()()()()()()

 

 

 ___________

 

 現世組 視点

 ___________

 

「(『相手を釣る作戦』、ねぇ)」

 

 近くで特製の外套をかぶり、上記のやり取りを見ていた浦原は内心で思考の一部でマユリに感心していた。

 

 マユリが以前示した『方針』とは、現世から瀞霊廷との行き来が出来る違法の穿界門(せんかいもん)がまだ健在である筈の浦原商店に向かいつつ、相手の出方を見るといったもの。

 

 マユリ曰く、『何せノコノコと移動していれば敵である“サ”がジッとしていないだろう』。

 

「(ボクが居なくなっての十二番隊は上手く回っているようだね)」

 

 実はと言うと、彼はこのような状況を作ってしまったことに少なからず責任を感じていた。

 

 以前にも書き写す下通り、他人から彼の認識は『超が付くほど面倒くさくて扱いにくい天才児』*1

 

 それも間違っていないがマユリが指摘したように、彼はその才能で辿り着いた考え故に『誰も信じなくなった』。

 

「いや、そのままでは多少の誤差があるな。 『()()()()()()()()()()()』、と言った方が合うか」

 

 ヒュッ!

 

 藍染の声に浦原は抜刀し、近くの夜一は単純な体術で瞬歩にも劣らない速度の上にダメ押しの瞬歩を重ねて飛ぶ。

 

「フッ!」

 

 夜一の動きも以前、破面(ヤミー)が初めて空座町に到来したときに霊力を纏わず殴って手足に支障をきたして以来の躊躇は微塵も感じられない程のキレを持っていた。

 

 だが藍染が予知にも似た動作で攻撃を躱し、彼女の霊子をまとわせた拳が空振りをする。

 

「やれやれ。 物騒な────」

 

 ────ドォン!

 

 藍染が言葉を言い終える前に、さらに彼が移動する位置を把握したかのように、横からビルの壁が丸ごと彼に衝突する。

 

「あ。 当たりました~! ٩(。˃▽˂ )و」

 

 壁が無理やり内側から丸ごと抜かれたビルの中には、嬉しそうにはしゃぐミニーニャの姿。

 

 ガラガラガラガラガラ。

 

「やれやれ、人の話は最後まで聞くのが礼儀だよ? よほど余裕が無いのなら話は別だが」

 

 崩れていくビルの壁の中から出てきたのは相変わらずオールバックの髪が乱れていない、涼しい顔をした藍染。

 

「敵の大将が一人で、ボクたちの前に出てくるとはね」

 

「そう驚くことはない。 これはただの()()()()と言ったはずだ────」

 

 ガァン!

 

「────火の粉は増える一方だね。 いや、これこそが狙いか」

 

 藍染の背後に急接近した誰かが手に持った銃を放つがさっき水色が撃った銃弾と違い、今度の攻撃を藍染は手で振り落とす。

 

「ミニーニャ嬢の攻撃も、私の銃弾も効果が無いとは……やはりタフだ」

 

「おい、ここから離れるぞテメェら」

 

「こっちですぅ~」

 

神の歩み(グリマニエル)』で急接近したロバートが少々不服そうに藍染を見て、その間リルトットとミニーニャがたつきと水色をその場から連れ出す。

 

「ですが()()()です」

 

 ドドドドドドドドドォォォォォン!!!

 

 藍染の周りにあった、砕かれた壁が一斉に光りだしたと思えば爆発し、藍染はそれに包み込まれる。

 

「次よ!」

 

 「くらえぇぇぇぇぇい!!!」

 

 今度は頭上から聞こえてくるバンビエッタの声が合図だったかのようにキャンディスの声と共に雷が落ちる。

 

「よし、んじゃちょっくらアイツの霊子に充てられて弱体化するか!」

 

 それまで身を潜めていたアスキンも他の元星十字騎士団たちが総攻撃をかける為に動く。

 

「前回の繰り返し……いや、あの小娘の手助けがない今の状況がそれ以下なのは理解しているはず。 となれば────」

 

 キィン!

 

「────本命が君だとぐらい、すぐに思いつく」

 

 ガシッ!

 

 巻き起こった土煙の中から来たチエの刀を藍染がまたも受け流して彼女の腕を掴む。

 

 ボキッ。

 

「ッ」

 

 鈍い、何かが割れる音にチエの顔がピクリと反応する。

 

 ダッ!

 

 彼女はそのまま蹴りで無理やり藍染から距離をとるようにし、さらに強い痛みが腕から生じる。

 

「(完全に右腕が逝ったか)」

 

「「「「あ゛、あ゛あ゛ア゛ア゛あ゛」」」」

 

 ここに来て、歩く死人たちが騒ぎを聞いて影から出始める。

 

「(これは────)」

「(────乱戦になるな!)」

 

 刀を持ち直したチエと、近くの死人を斬る一護がそう思ったとき、さらに以前対峙して死亡したはずの破面たちに姿が似た者たちも姿を現せ始める。

 

 歩く死人たちだけならともかく、破面モドキも出てきたことで滅却師たちや夜一も自衛と後々の為に応戦し、一護たちが思った通りに乱戦へと突入した。

 

「…………………………今度は君たちの出番だ」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 一護は次々と湧いて出てくるような死人たち(眼前の脅威)を斬っていく。

 

「(……なんだこれは?)」

 

 違和感を持ちながら。

 

「(体が軽い?)」

 

 彼が感じていたのは今の状況へと不信感や、死体同然の人型の『何か』を斬る後ろめたさでもなく、所謂自分の順応への戸惑いだった。

 

「(後ろ?!)」

 

 一護は背後から来る感覚に振り向きながら、迫る刀を受け流す。

 

「ッ?! つ、月島?!」

 

 一護が思わず刀の持ち主を見て名を呼ぶ。

 

「(いや違う。 似ちゃいるが、どこか()()!)」

 

 スーツにサスペンダーを着た青年は確かに月島と見違えるほど姿は似ていた。

 

 だがそのうつろな目からは生気が感じられず、無表情の顔は何の感情も見受けられなかった。

 

「ッ……………………あ、アンタもかよ」

 

 一護は月島(?)の後ろから、ゆったりとした足取りで姿を現す二人目に奥歯を噛みしめる。

 

「銀、城………………」

 

 巨大な両手剣と、骸骨を模したスーツ姿の銀城空吾。

 彼も、月島(?)と同じ様子のまま一護へと襲い掛かる。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「(誰だこいつは?)」

 

 少し距離を置き、右腕を急遽近くにあったありあわせの物で作った副子を折れた右腕の固定をしていたところに、一護が相対していた月島と同じ様子の獅子河原が立っていた。

 

 ヒュ!

 

「(遅いな)」

 

 獅子河原(?)が繰り出すパンチをチエは難なく躱すが、今度は()()()()さっきまで副子を作るために拾い集めていた小物に足を滑らせ、第二のパンチを受けてしまう。

 

 ゴッ!

 

「グ、ムグッ?!」

 

 繰り出されたパンチとは似つかわしくない、鈍い音がチエの耳朶に響き、彼女は喉にせりあがって来る液体を無理やり飲み込みなおす。

 

「(こいつ……)」

 

 チエが見た目と全然違う動作と結果を見て、自分の懐から出したノートを素早く片手でペラペラとページをめくる。

 

「(なるほど、『因果律の操作』か?)」

 

 彼女はノートを素早く戻し、獅子河原(?)と対峙する。

*1
88話より




思ったよりも蛇足展開で申し訳ない気持ちがいっぱいです……
早く休暇を取りたいのですが、今の状況だけに取りにくいし……

皆さんも外出の際、周りに気を付けましょう。


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Late Adulthood - 『文字化け篇』
第164話 Foolish Madness Dance


大変お待たせ致しました、次話です。

過去のアンケートへの投票、誠にありがとうございます。 *注*いまだに目を通し、参考にしています

混沌としていますが、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 虚圏Landwehrkorps(ランデュエヘール部隊) 視点

 ___________

 

「アッハッハッハ! アッハッハッハッハッハッハ!!!

 

 キルゲは複数の破面相手に善戦していた。

 

 無論これは彼が星十字騎士団(シュテルンリッター)の中でも虚圏で孤立同然だった遠征隊を、原作ではあのユーハバッハが一任するほどの実力者であるのも関係はしているだろう。

 

 だが果たして(負傷したとは言え)グリムジョーの上に、ドルドーニ、チルッチ、ガンテンバイン、ネリエルと言った実力者たち。

 

 しかも全員が帰刃(レスレクシオン)済みで、原作のように未知数であった滅却師たちの軍勢から不意打ちを食らったわけでもなく、数での暴力に侵略されたわけでもない。

 

 実質上の一対五。

 

『それでもあのキルゲなら』と思うかも知れないし、そこは同意しよう。

 

「(ぬぅ……こいつ、ニーニョ(坊や)並みの化け物か?! 吾輩たちの攻撃が効かぬ!)」

 

「(なんで眼鏡の奴ばかりに苦戦する羽目なのよ?!)」

 

「(いつもの調子が出ないこれは何? 藍染様の幻術でもない……東仙要のような搦め手の能力か何かなの?)」

 

 ()()()()()()()()という点を無視すれば。

 彼についた傷も、さっき足を負傷したグリムジョーがつけたモノばかり。

 

 先ほどの彼の攻撃がグリムジョーに効果があまり出なかったように、破面たちの攻撃もキルゲには当たってはいたが結果がイマイチだった。

 

「アッハッハッハッハッハッハ!!! 無駄ですよ?!」

 

「(何を言っているんだこいつ────クソ、帰刃が!)」

 

 グリムジョーは足をやられてイラつきから怒り任せの生半可な攻撃を続け、それ故の霊力不足で自分の姿が独りでに人型へと戻っていく腕を恨めしいそうに見る。

 

「グリムジョー。 私に考えがあります、協力してください────」

「────あん?」

 

 グリムジョーにネリエルが小声で声をかけ、今までキルゲの軍刀と義手を警戒して中と遠距離からの攻撃をしていた破面の輪からガンテンバインが一気にキルゲとの距離を詰める。

 

「(変な防壁とかあっても、ゼロ距離ならば────!)────『主よ我等を許し給え(ディオス・ルエゴ・ノス・ペルドーネ)』!」

 

 ゴォォォォォォ!!!

 

 両手を組んだガンテンバインはキルゲの背後、かつ至近距離からエネルギーを叩き込んだ。

 

「ですから無駄だと言ってい(ます)!」

 

「な────グハァ?!」

 

 だが先の直撃で壊れたと思われる義手や体中から流れる血を見れば明らかにダメージを受けたはずのキルゲが砂煙の中から姿を現し、軍刀でガンテンバインに深い傷を負わせた。

 

「無駄です! 無駄です! 無駄です!()()()()()()()()()s────!

 

 ────ザクッ!

 

「…………あ?」

 

 先ほどから狂ったように笑うキルゲは自分の胸から生えた物体を見下ろす。

 

 キルゲは後ろを見ると羚騎士(ガミューサ)状態のネリエルが槍で自分を背後から刺していた。

 

 ドォン

 

「気に障るんだよ、テメェの声はよォ?!」

 

 更にネリエルを騎兵のように乗っていたらしいグリムジョーが飛び掛かり気味で、キルゲを斬魄刀で()()()()()()()()()()()()()()()()

 

がはっ?! なん……だと?

 

「貴方は何故かグリムジョーだけを警戒し、彼の機動力を奪っても私の機動力を奪おうとしなかった。 いえ、()()()()()()()()。 つまり貴方が危険視していたのは彼だけ。 『ならば大打撃を当てられるのでは?』という予測は当たっていたようですね」

 

「へっ! やっぱり、()()()()()()()()()()?!」

 

「ま、まだです! 『乱装天傀(らんそうてんがい)』を使えばこれしきの────!」

 

 ────ドサッ。

 

 冷静に『知性有るもの』として喋るネリエルと高揚感で高らかに勝利を確信したグリムジョーに、諦めの悪い悪役のように吐血しながら叫ぶキルゲ(の真っ二つにされた体)が虚圏の砂漠に力尽いたように落ちる。

 

「………………あ、れ? ガフッ?!

 

 キルゲ自身、周りの破面たち同様に呆気に取られる声を出すと更に吐血する。

 

「……そう、ですか……()()()で、すか……」

 

 ぼそぼそとした独り言を言いながら、彼の表情は体と共に死んでいく。

 

「陛下の…………………………見立て………………通り…………」

 

 

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

 月光が照らす、夜の空座町。

 

 そこでは現代では考えられない激闘が繰り広がれていた。

 

 ギィィィン!

 ガギッ!

 ヒュッ!

 

 金属がぶつかり合う音、コンクリートが力ずくで抉られる鈍い音、そして正しく『風を斬る』音。

 それらが一護の耳に届いていたが、彼の思考は別の方角へと向けられていた。

 

 それは眼前で己を殺そうとする知り合いたち(月島と銀城)に似たモノたちではなく。

 建物からこの荒れた場を少し遠くから浦原や夜一たちの攻撃をいなしながら、ほくそ笑む藍染でもなく。

 予想より強くなっていた滅却師たちでもなかった。

 

「(……なんだ、これ?)」

 

 一護が意識を向けていたのは他の誰でもなく、『自分』だった。

 

「(身体が軽い?)」

 

 彼は連戦と連続の異変で疲労しているはずの自分が思っていた通り────否。 

 ()()()()()()()()()()調()の自分に戸惑いを感じていた。

 

「(それに……遅い)」

 

 彼は対峙している者たちの攻撃や動きなどが全てスローモーションのように見えていた。

 

 それはまるで死に間際や極限状態に陥った人の防衛本能がどうにかして身体を動かし、危機を回避させようと()()()()()()()()()()()ようなものと似ていた。

 

 だが上記の例たちと違い、一護は冷静そのものでこれを不思議に思いながらも来る刃を受け流しながら遠心力を使った体術で反撃をしていく。

 

 彼は切羽詰まった状態どころか、不思議に思えるほどの余裕からか考え込む。

 

「(俺がこんなに調子いいのは、何か絶対に理由があるはずだ)」

 

 だが彼が脳裏で考えても、辻褄か通りが合わなかった。

 

 もしこれが『現世に戻ったから』と仮定しても、浦原や夜一が苦戦している筈がない。

 ならば『虚の力があるからか?』と自分に問いを投げても、周りの滅却師たちと対峙する虚や破面モドキを見れば『違う』と本能が答える。*1

 

 同じ線で、『自分が滅却師だからか?』と考えた途端に違うと断言できなくなり、可能性の候補として出てくる。

 

 だがここで一つの疑問が浮かぶ。

 

「(()()()()は何だ?)」

 

 一護の質問はもっともである。

 

 以前の彼ならば勢い任せにこの力をフルに活用していただろう。

 

 だが藍染や銀城という『前例』があったからこそ、彼はこの(みなぎ)る力を不思議に思えた上に慎重に行動できていた。

 

 

 ___________

 

『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

 ドッ!

 

「グブッ?!」

 

 肉が皮膚越しにめり込むような音とくぐもった声は、いかにチエが()()していたことを物語っていた。

 

 そう、『苦戦』である。

 

 先ほどから小さな出来事が多発して、それら全てが彼女を不利な状況や態勢へと働いていた。

 

 紙一重で避けようとすれば小石で足がもつれたり。

 攻撃に転じる瞬間に目に埃か土が入って視界を一瞬閉ざさなければならなくなったりなどといった、()()()()()

 

「(だがその都度にこいつが入れる一発一発が……()())」

 

 チエはそう思いながら自分の身体の様子を伺う。

 

「(肋骨。 左の太もも。 さっきの右腕に右肩。 そして左手か)」

 

 彼女が思い浮かべた部位などは獅子河原(?)の攻撃を受けた場所。

 

「(やはり人間とは言え、『ふるぶりんぐ』は厄介だな)」

 

 目の前の獅子河原(?)がまたも猪のように突進気味で拳を振るい、チエは距離をとるかのように横へと飛ぶ。

 

 ドゴォン!

 

 彼女の背後から獅子河原(?)のパンチで建物に大きな穴が開く音がする。

 

「(やはり『因果律』……それも『運』関連────)」

 

 ────ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

 

「うわわわわわあ?!」

「あ、やばい。 崩れる」

 

「(この声は────)」

 

 重苦しい音が建物から響き渡り始め、中から彼女の()()()()()()()()()声に気を取られる。

 

 

 ___________

 

 現世組 視点

 ___________

 

「うわわわわわあ?!」

「あ、やばい。 崩れる」

 

 たつきと水色は(少なくともたつきは)慌てて崩れていく建物の中とから出口を目指す。

 

「だからここで隠れるのは反対だったんだよ!」

 

「いや~、どんまい♡」

 

「『どんまい♡』じゃ、ねぇぇぇぇ! 三月かお前は?!」

 

「あ、小さいほうの渡辺さんはやっぱりそうなんだ?」

 

 「だぁぁぁぁぁ! お前も空気たまに読めぇぇぇぇ!」

 

 この二人は先ほどまでミニーニャとリルトットが戦場から連れ出していたのだが、まさか歩く死人たちだけでなく破面モドキまでもが急に出現するとは思わなかったので応戦しに水色とたつきのそばから離れた。

 

 だが戦いが乱戦へと移行し、その規模が拡大したことで二人は近くの頑丈そうな建物内部へと駆けこんでいた。

 

 無論、どれだけ堅牢でも()()()構造ごと歪められれば大きな建物ほど重心がずれてより早く崩壊する。

 

 バキ! ガラガラガラガラガラガラ!

 

「あ、落ちてくる」

 

ギャアアアアアアアアアアアア?!」

 

 その証拠に水色があっけらかんとした口調で見上げていた天井が、ついに歪んだ形に耐え切れずにごっそりとした破片が二人の頭上に迫る。

 

「(うわ、ダメだ!)」

 

 たつきと水色は思わず両手で頭を覆い、目を瞑る。

 それが現状況で、何の意味がなさなくともしてしまったのは反射神経ゆえの防衛行動。

 

 ズズズゥゥゥン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………あれ?」

 

「僕たち、生きている?」

 

 たつきたちは少なくとも怪我をすることぐらいは覚悟していたが、重苦しい音がなった後でも予想していた痛みや押しつぶされる感覚は来なかった。

 

「ぁ」

 

 そう息を吐きだしたのは水色かたつきか。

 あるいは目を同時にあけた二人ともか。

 

「グッ……ク、ク……」

 

 ボタ。 ボタタタタ。

 

 二人ではない誰かが歯をがっしりと力強く閉じた口からくぐもった苦しい声を出し、額と頬を伝う液体の感覚を無視しながら二人に落ちそうだったがれきを頭を背中、そして無事だった左腕で持ち上げていた。

 

「な、なんで………………」

 

 水色にとっては自分が懐いている一護を弟扱いする天然で、最近ではあまり宜しくない噂を聞くようになった顔見知り。

 

 たつきにとっては昔から一護と同じほどの馴染みの一人で何かと物静かで口数が少なく、最近では『物騒な奴』と確認しそうになってその人の悪い噂を止めるどころか見逃していたのを悪いと感じていた相手。

 

 額から。

 耳と打った首から。

 吐血していたのか口から。

 

 皮膚と肉が破れ、服装の上からでもわかるほど出血をしながら文字通りに体を張って水色とたつきに落ちていた瓦礫を止めていたチエの姿があった。

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「(……キルゲが逝ったか)」

 

「ちょこまかと逃げおって!」

 

 藍染は相変わらず避けることに専念していた。

 まるでスピードを売りにした夜一あざ笑うかのように。

 

「自分と同等の速さであることが恨めしいかい、四楓院夜一?」

 

「いや、お主の傲慢さに賭けていただけよ! 今じゃ!」

 

「行くぜ、マーの姉貴!」

「はぁ~い♪」

 

 藍染の背後には巨大なこん棒(無敵鉄棍)を振るところだったジン太と、一種のロマン武器(ガンランス)で突くところだったマイがいた。

 

「ちょうどよい角度です、ウルルさん♪」

 

「うん、タイミング教えてありがと」

 

 地上にはバズーカのような千連魄殺大砲で上記の二人を打ち上げたウルルと浦原。

 

 ゴリッ!

 ザクッ!

 

 完全な不意打ちだったこん棒と槍が藍染の頭部と胴体に()()()()

 こん棒で彼の首は曲がり、胴体に刃が突き刺さる。

 

「よっしゃ! やぁりぃ!」

「(『()()』は私の方だけれど……この手応えは────)」

「────うん。 合格♪」

 

 決して藍染ではない、女性の声にマイの背筋はゾクリとした寒気が走り、彼女はジン太を蹴り飛ばした。

 

「ぐわ?! マ、マーのあn────?!」

 

 ────バシャア!

 

 急に蹴られて目を白黒させていたジン太の声を遮ったのは、彼の顔にべったりと生暖かい液体が付着した感覚。

 

「やっぱり改造していても、義骸は脆いわね♡」

 

「え?」

「やはり『似ている』と思いましたが……」

「は? え? マ、マーの姉貴が()()?」

 

 ウルル、浦原、そしてジン太は思わず口を開けてみていた光景の感想をしていた。

 

「貴方に言われると複雑な気分よ」

 

 マイはと言うと頭から真っ二つに斬られるのは逃れていたものの、二の腕から失くしていた右腕をいつもの笑みのまま左手で抑えていた。

 

「ねぇ、『()()』?」

 

 そんなマイが見ていたのは彼女とほぼ瓜二つの顔をした女性。

 

「あら? 貴方も別側面とは言え、同じ存在でしょう? え~っと……『マイ』? だっけ?」

 

「(とりあえずは、時間稼ぎね。) う~ん、一緒にされても困るわぁ~。 私は貴方とは『違う』から現に襲われているのだし~?」

 

 マイが『三号』と呼んだ女性は妖艶な笑みを面白そうに浮かべる。

 

 マイからもぎ取った右腕を持ち上げて、口づけをしながら。

 

「そうね。 今の『貴方』はロジックエラーを起こし(暴走し)ているのは明白。 ただちに初期化し、再起動しなさい。 もしくは『私』と同調しすれば楽になるわ」

 

 マイはここで初めて笑みをしていた顔がむずむずした。

 

「…………『貴方と同調すれば楽になる』、か…………確かに魅力的よねぇ~」

 

 ここで『三号』がにっこりとした、人当たりのいい笑顔をしながら握手するかのように手を出す。

 

「ええ、そうよ。 人間風に言えばギブ&テイクよ。 貴方の理論ミスは取り除かれ、私は()()を果たす」

 

 マイは左手を右腕から離す。

 

 恐る恐ると上げたそれをマイは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『三号』へ中指だけを立てた拳を向ける。

 

だが断るわ。 英語の発音を記憶し直して、出直して来なさい、このクソビッチが♪」

 

 ゴォォォォォォ!!!

 

 そこでタイミングを見計らっていたかのように黒腔(ガルガンタ)穿界門(せんかいもん)を組み合わせた歪みが彼女たちの頭上に開き、死神たちと純破面たちや虚が降り注ぐ。

 

 これを『三号』は見上げ、マイは満足そうに後方へと飛ぶ。

 

「穿て、『厳霊丸』!」

「ぶっ潰せ、『五形頭』!」

「面を上げろ、『侘助』!」

「奔れ、『凍雲』!」

「弾け、『飛梅』!」

「『狒狒王蛇尾丸』!」

「舞え、『袖白雪』!」

 

 雀部、大前田、吉良、勇音、雛森、恋次、ルキア。

 

「刈れ、『風死』!」

「唸れ、『灰猫』!」

「延びろ、『鬼灯丸』!」

「裂き狂え、『瑠璃色孔雀』!」

「『捩花水(ねじかすい)』!」

 

 檜佐木、松本、一角、弓親、海燕などといった死神たちだけではなく、帰刃したアパッチたち破面や義理案(小)もいた。

 

 文字通り雪崩のような人(?)波を前に三号の妖艶な笑みとは裏腹に彼女は『ガリッ』っと歯を持っていたマイの腕に食い込ませていた。

*1
119、120話より




『乱装天傀』:
無数の糸状に縒り合せた霊子の束を動かない箇所に接続し、己の身体を強制的に動かす、滅却師の超高等技術。
簡略化すると、『自分で自分を操り人形にする』。
使用者の霊力と、意識が続く限り。






藍染:『どこから母上は出てきた』って? では聞くがいつ、私が鏡花水月を使っていないと錯覚していた? あと何気に新しい章らしいね?

作者:………………


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第165話 Time to Back

大変お待たせ致しました、体調を崩していたので短い+相変わらずカオスですが次話です。

申し訳ないです……

楽しんでいただければ幸いです。

4/12/2022 03:00
誤字修正いたしました。


 とあるやる気を見せない態度の少女:「(ドライ)~」

 とある科学者:「(ズェい)

 上記二名:「「(アインツ)」」

 

『完璧ですマユリ様』が口癖のとある女性:「バキュ~ン」 ←棒読み

 

 上記三名:「「「なぜな()始まります(るヨ)~」」」

 

 やる気を見せない態度の少女:さてさて~? みんな集まりましたかな~? ここでどうしてこうも破面や死神も雪崩込むように現れたのか解説始まりますよ~

 

 とある科学者マユリ様:フン。 それこそ愚門だネ、私が出た瞬間分からないようなら説明する気が失せるというもノ

 

 やる気を見せない態度の少女:あ~。 マユちゃん、何勝手に上書きしているんですか~? しかも様付けで~

 

 ネム:それはそうと、この着ぐるみに何の意味があるのですかリックン様? ←棒読み

 

 やる気を見せない態度の少女妖艶でメガネが似合う美少女:わかってないですねー

 

 ネム:そうでしたね。 今はウサギでした。 スンスンスン ←棒読み

 

 マユリ様:簡潔に説明するが、浦原喜助が現世での店で開発した転移装置技術の応用ダ。 黒腔(ガルガンタ)を、穿界門(せんかいもん)式に組み替えただけだヨ。 これで虚圏に転移された駒と解剖対象ともども────ああいや失敬、愚か者たちを藍染と『サ』のいる場所に導入できたのサ

 

 妖艶でメガネが似合う美少女:へぇ~、そうなんですね~。 言っている内容はトンデモですが言い方が実にシンプル。 流石は『ばいきんま〇』です~。 天才です~

 

 マユリ様:君、勘違いをしているようだから言い直してもらおうか? 私は『サイキンマン』である! フヒョーッホッホッホ! …………………………………………これであっているのかネ、リックン?

 

 妖艶でメガネが似合う美少女ただのリカ: バッチグーですマユちゃん。 演技力も抜群ですー

 

 ネム:完璧です、()()サイキ()ンマン様

 

 リカ:ではでは~、次回があるかどうかはわかりませんが~

 

 マユリ様:バイサイキィ~ン

 

 


 

 ___________

 

 現世組 視点

 ___________

 

 人気が殆ど居なくなった空座町に、様々な音が鳴り響く。

 

 落雷独自のけたたましい音。

 物理的に重く、体に響く音。

 熱気と真逆の寒冷、そして突如として上がった湿気で肌の温度受容器感覚がマヒするほどの感覚と極小音。

 

 それら全てが一人の女性を狙い、振るわれていく攻撃から生じた音。

 

 雷が。

 金属が。

 刃が。

 (ほこ)先が。

 水が。

 氷が。

 太陽に近い炎が。

 が。

 が。

 が。

 が。

 

 それらが全て、一人の女性に命中していく。

 

 肉は避け、骨は砕かれ、肉片が飛び散っていく。

 

「……………………え?」

 

 そうぼやいたのは誰だろうか?

 

 胸を突かれた雀部や、お腹に鈍器のようなものを打ち込まれた大前田、斬り返されたり、前者同様に反撃を受けた者だろうか?

 

『三号』、または藍染に『母上』と呼ばれたモノが()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ショックを受けたのはその場全員の者たち。

 

 ありのままのことをここに書き写すと、攻撃をした者たちの目の前で『三号(母上)』からまるで複写(コピー)したように何体モノ彼女自身が現れては反撃に出ていた。

 

「さぁさぁさぁ!」

「始めましょうか!」

「一時の生!」

「一時の死!」

「凶器と商機を橋渡しするワルツを!」

 

 まるでそれぞれが彼女で、それぞれが口を開けて互いの言葉の続きを足していく。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 ゴキン!

 

 上記の異常事態が起きている一方で、別の場所では崩れた建物の外に出たたつきと水色の背後から骨が折れるような音がする。

 

「ッガ?!」

 

 それと伴い、誰かが肺の中にあった空気を無理やり吐き出されるようなくぐもった声を出す。

 

 喉をせりあがった液体と共に。

 

「チエ!」

 

 たつきは獅子河原(?)から背中でパンチを受け止めた少女の名を呼ぶ。

 

 バァバァバァバァバァン!

 

「有沢、ここを出るよ。 でないと渡辺さんが身動きをとれないよ」

 

 水色は持ち出した銃で獅子河原(?)の四肢を撃って動きを止めらせてからたつきの肩を引っ張る。

 

「(ようやく出たか。 だが流石は小島(水色)、聡いな)」

 

 グシャ!

 

 チエ自身、建物を出るために移動すると同時に持ち上げていた瓦礫を手放すとヨロヨロと立ち上がろうとしていた獅子河原(?)が下敷きになる、血生臭い音が聞こえる。

 

 ダシッ。

 

「ッ」

 

 チエは駆けだした勢いで前のめりに、膝を地面につきそうだったのを手で阻止して腕に走る痛みを堪えた。

 

「よっと。 渡辺さん、お疲れ様」

 

「……小島か」

 

「やだなぁ、『水色で良い』って」

 

 自分に肩を貸す水色を、チエは見て名を呼ぶと彼は苦笑いを浮かべた。

 

「あ……チエ……アタシ、その……」

 

 彼女は戸惑いをあまり隠せていないたつきをちらりと見ては口を開ける。

 

「怪我はないか、竜貴(たつき)?」

 

「ッ……」

 

「アハハ! こんな時でも他人の心配、渡辺さん? 見た目は全く似ていないけど姉妹なんだね!」

 

「小島、もういい。 お前たちはここから離れていろ」

 

「はいはい。 せめて出血止めぐらいさせてよ」

 

 そういいながら水色はどこからかミニ救急セットを出して包帯を巻いていく。

 

「……どこから出した、小島?」

 

「え? 『備えあれば患いなし』って言うでしょ? 僕の彼女たちって訳アリの子もいるからさ」

 

「……………………なるほど?」

 

「なんでだよ?」

 

「ん? 有沢?」

 

「どうしてそんなに、アタシたちのことを気に掛けるのさ?」

 

 淡々と行動する水色とチエに、たつきが何とも言えない表情をする。

 

「アンタぐらいの腕があるなら、さっきの奴だってすぐ倒せただろ?! なんでだよ?!」

 

「……………………」

 

 たつきの問いに、チエは何も言わずにただ自分の体の骨や関節などを戻していく。

 

「じゃあ有沢。 聞くけどもし渡辺さんがアイツの相手をして僕たちが巻き込まれたりしたらどうなっていたと思う?」

 

「え? ど、どうって────」

「────多分、死んでいただろうね。 相手に勝ってはいたけど僕たちは死んでいたか、酷いケガをしていたかもしれない。 でしょ、渡辺さん?」

 

 水色が見ていた先のチエは、相変わらずの無表情な彼女。

 

 そんな彼女は急に上空、より詳しく言うと『三号(母上)』が死神と破面たちと交戦していた方角を見ていた。

 

「…………お前たちは、近くに来ている石田たちの方へ走れ。 状況が変わるかもしれん」

 

「そういえばさ? さっきの女の人、小さいほうの渡辺さんと面影が似ているね? 知っているの?」

 

 立ち上がったチエに、水色がそれとなく質問をするとチエは振り返らずにただ一言を口にする。

 

「そうだな。 死んだ筈の、『古き神々』の一柱だ」

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「「「「アッハッハッハ!」」」」

 

三号(母上)』と呼ばれた女性たちは笑いながら多種多様な、まるで遊ぶかのように死神たちと破面たちを相手にしていた。

 

 それを現すのなら、『生かさず殺さず』といった加減だった。

 

 「『月牙────』」

 

 上記の言葉を聞いた『三号(母上)』は笑みを深め、振り返った。

 

 「『────天衝』!!!」

 

 ザンッ!

 

 彼女の一体が()()()()をした刀に両断され、ほかの個体たちは明らかに落胆するような顔をした。

 

「う~ん、そこまで露骨にガッカリすると俺でも傷つくな」

 

「同じ黒崎でも貴方はお呼びじゃないわ、『黒崎一心』」

 

 まるで『黒崎一心、参戦!』というテロップが似合いそうな一心が周りの疲労した者たちを見渡す。

 

「お? そうなのか? じゃあこっちも『お呼びじゃねぇ』ってか?」

 

 一心の視線が一瞬だけ上へと向けられ、場面が変わると頭上から黒い靄を腕にまとった少女がいた。

 

 「何某黒龍波!」

 

 ゴォォォォォォ!!!

 

 一心が見ていた先のツキミの腕から黒い竜らしきものが放たれて『三号(母上)』を数体飲み込む。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 上記からそれほど遠くない場所では腕を失ったマイをウルルとジン太が応急処置を施し、テッサイ経由でマイに呼ばれた浦原が話を聞きに行っていた。

 

「あら~、浦原さんよく来てくれたわぁ~」

 

「それで、『状況打破の話』というのは?」

 

 いつもののんべんだらりとした口調ではなく、スパッと直球的な浦原にいつもは穏やか糸目のマイが目を開けて彼を見る。

 

「これから私は『私』…………貴方たちを知っている『渡辺三月』を召喚して憑依させるわ。 だから手伝って?」

 

「手伝い……とは?」

 

 テッサイをマイが見て、にっこりとした笑みと共に口を開ける。

 

「今の私ではそんな力は出せない。 だから()()()()使()()()?」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 同時刻、空座町のとある道で一人の男は歩いていた。

 

 本来なら、このように物騒な街へと変わった夜道を一人で歩くことはないだろう。

 だがこの者に至って、それほどの脅威ではない。

 

「さて……ここだろうか?」

 

 彼が見たのは何の変哲もない道。

 誰から見ても普通の横道。

 

 だが一護、あるいはルキアか茶渡にとっては見覚えがあったかもしれない。

 そこは、『とある子供』の魂がインコに封印した虚が死後を楽しんでいた『とある殺人鬼』が最後に見られた場所。

 

「……以外だね、ここに君がいるのは。 いや、あるいは運命だろうか?」

 

 男は歩みを止めて振り返る。

 

「何せここで君は朽木ルキアと共に『シュリーカー』と対峙し、()()()()()()に足を踏み込んだ。 そうだろう、茶渡泰虎?」

 

 男が見たのは明らかに緊張をし、汗を滝のように流す大柄で浅黒い肌の茶渡。

 

「藍染………………惣右介」

 

 茶渡は目の前の男────藍染を前に構えを反射的にとっていた。



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第166話 Into the Maws

大変長らくお待たせいたしました、次話です。

アンケートへのご協力誠にありがとうございます。
期間はまだ続いています。

いつもご愛読ありがとうございます、カオスですが楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 場所はとある空座町の三宮(みつみや)区。

 

「うーん、流石ですねー」

 

 より詳しくなると浦原商店の前にリカが立っていた。

 彼女が見ていたのは衝突遠くからでも聞こえる戦闘音。

 

「本当に行ってしまわれるのですかリックン様?」

 

「うん? うーん、そうですねぇー。 率直に一言で申し上げると『メンドクセェ』ですね。 でも行かない訳にはいかないのですよ」

 

「……………………………………」

 

「今のは笑うところです、ネムネム」

 

「………………わぁー」 ←棒読み以下の感情無し声

 

「さっき店から取り出した物資などと関係あるのかネ?」

 

 マユリが店内からカチャカチャと音を鳴らせながら手足をバタつかせる竜牙兵を持ち上げながら出てきていた。

 

「あ、もうガイコツちゃん(竜牙兵)たちに会いました?」

 

「君といると面白いことがあり過ぎてつくづく困ってしまうヨ……それでさっきネムに言ったことはどういうことだネ?」

 

『行かない訳にはいかない』。

 それをマユリは指摘していた。

 

「ん~………………ま、この際ですからぶっちゃけるとあそこの人たちだけでは()()()()です。 多分」

 

『勝てない』。

 多分付きだがそうリカは言ったことにマユリは目を細める。

 

「………………根拠は?」

 

「仮説でも?」

 

「いいたまエ」

 

「『修正力』の応用。 強いて呼ぶのなら『条件防壁』?」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「じゃあテッチャン、いくわよ~?」

 

「……ええ」

 

 別の場所では、いまだに『三号(母上)』と呼ばれた者たちに苦戦する死神や破面たちを背景にとりあえず失くした腕の出血を施したマイはニッコリとした笑みをテッサイへと向ける。

 

「確認しますが、マイ殿は己の魂魄を使っていいのですな?」

 

「ええ。 そしてテッチャンの『鬼解門』をこじ開けれる筈だから~、二人の力で私の中の()()を呼び戻すの~」

 

「お身体はどうなされます?」

 

「私の遺体を使えば~?」

 

 この二人はマイの言う『本体』、つまりは三月を呼び戻そうとしていた。

 以前テッサイが教えた『鬼解門』をこじ開けて、その際に沸く莫大な力を使って*1

 

「ま、待ってくれよマーの姉貴!」

 

 のほほんとするマイの態度とはかけ離れた内容と行おうとしている行為にジン太が声を荒げる。

 

「なんであのちんちくりんが必要なんだよ?!」

 

「ん~……ジンちゃんの質問に答えると私は所詮、本体の一部を吐出した『コピー』だから『別バージョンの本体』に対抗するには力不足だから」

 

「二人とも……呼ぶ方法はないの?」

 

 そう弱く言うウルルの頭を、マイはただ無言で残った手で撫でる。

 

「そう落ち込まないで、ウルル」

 

「だって……マイさん、死んじゃうんでしょ?」

 

「ん~……私は『私』に戻るだけだから厳密には違うことになるのかしら~?」

 

 背景音がさらに騒がしくなったところでマイはジン太とウルルを自分から押し離す。

 

「二人は見ない方がいいわよ~? グロいから~」

 

「「え?」」

 

「『痛覚遮断』」

 

 がシュッ!

 

 マイの言ったことを理解する前に、彼女は残った腕で自分の胸をえぐる。

 

「「マイさん!」」

 

 マイはそのまま丁度心臓がある部分から、何か光るものを手に持ちながら取り出す。

 

「ゴホ! ……はい、テッチャン。 私の核である聖杯……『願望機』の一部よ」

 

 ニコニコとするマイの手には、神々しいまでの光を浴びる液体金属のように姿を変えていく破片だった。

 

「……では、確かに受け取りましたぞ」

 

「ええ…………ごめんなさい、テッチャン」

 

「いいえ。 謝るのは私です」

 

「……え?」

 

「『鬼解門』は確かに一度閉じられれば開くのは通常不可能。 それは変わらない事実です。 いかに願望機といえどもそれは変わりません」

 

「……? そ、れはどう────?」

 

 マイが言い終える前に、テッサイはニッコリとした、実に自然で良い笑顔を浮かべた。

 

「ですが『()()()()()』をすることは可能です」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「随分と焦っているようだね」

 

 藍染が言うように、茶渡は冷や汗を流し続けていた。

 無理もなかった。 

 ルキア奪還時でも、前回の破面騒動でも彼が藍染とちゃんと相対したのは今回が初めて。

 

 前回や前々回よりは完現術(フルブリング)が覚醒しているおかげで戦意喪失や突然の緊張状態からくる精神的錯乱に陥ることはないとは言え、歴然とした差に本能的恐怖はぬぐえない。

 

 現に、藍染が一歩踏み出そうとする気配を感じた茶渡は足に完現光(ブリンガーライト)を集めて瞬時に後退する。

 

「なるほど、()()()()()()()な。 何が君を変えた? そしてなぜここに居る?」

 

「………………俺だって、一護たちの手助けは出来るように頑張っただけだ。 後者は……()()()()だ」

 

 茶渡の言ったことは嘘偽りなどではなく、本心故にスラスラと口から出せた言葉。

 

()()、か」

 

 ドッ!

 

「かッ────」

「────だが頑張ったところで、()()()()だ」

 

 茶渡は気が付けば、藍染がいつの間にか接近して自分の腹部を殴っていた。

 

「それが君の限界だよ、茶渡泰虎」

 

「ッ」

 

 茶渡はお腹から逆流する胃酸と折れたあばらが肺に突き刺さったことで、喉をせりあがる血を飲み込みながら『悪魔の左腕』で藍染を殴る。

 

 トッ。

 

 だが藍染の時と違い、彼の当たった拳からはそれほど重くはない音が発する。

 

「少々の時間、寝ていなさい」

 

 ゴッ。

 

「ガッ?!」

 

 藍染は茶渡の顔面を掴み、茶渡の頭を地面に叩きつける。

 

 気を失いそうになりながらも、茶渡は何かを見たのか意識を気力で繋ぎ止めて自分の顔を掴んでいた藍染の腕を、逆に自ら掴む。

 

 ガシッ!

 

「俺ごと、やれ!

 

 茶渡がそう叫ぶと、頭上から近くの民家の屋根を飛び降りたコンがいた。

 両足には以前、藍染相手に夜一が使った手甲のようなものが装着されていた。

 

「うらぁぁぁぁぁ!」

 

 ここにコンが登場したのは茶渡がこの場にきていたことに関係する。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 少しだけ時間を戻すと、破面モドキたちが現れ始めた頃に彼は年上のよくつるむギター仲間たちの安否を確保していた。

 

『原作』ではインコの体に入れられたシバタユウイチを譲ってもらったのもそのギター仲間からで、破面モドキが出現したことと彼らのことで()()()()()()()から。

 

 案の定、彼らを保護して安全な場所への移動が終わると今度は黒崎家から連絡がきた。

 

 余談だが異変が起きて茶渡の安全を心配する、第一の声が『おっさん、無事か?!』。

 

 これで黒崎家のコンと一心、そして織姫、アネット、雨竜も動いていたことを知り、密に携帯で連絡を取っていた。

 

 その流れで、茶渡は別の人たちともダメもとで連絡を取ってからまたも()()()()の赴くままに黒崎家から様子を見に移動するとばったり上記のように藍染と鉢合わせてしまった。

 

 だがそれでも引くこと=自分についてきたコン()()が藍染に襲われる可能性がある。

 

『とすれば時間を稼げればいい』。

 そう茶渡は思い、藍染を前に踏みとどまっていた。

 

 彼の行為を察してか、特殊装備を()()してから近くから様子を見ていたコンは不意を突くことを決めていた。

 

 彼も、自分のように茶渡についてきていた他の者たちを案じての行動に出るのは怖かったが茶渡の行動に影響されていた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ガッ!

 

 現在へと戻ると、コンの蹴りを藍染はもう片手で受け止める。

 

「ってマジかよ?!」

 

 ハッキリ言ってコンは自分の攻撃が通じるとは思えなかったが、少なくとも藍染をよろけさせるぐらいには希望を持っていた。

 

 「コン、どけ!」

 

 更に頭上の反対側からチエが刀を力いっぱいに振るい、コンは足に力を入れて無理やり彼女の軌道上から動き、藍染は茶渡の手を振りほどいて躱す。

 

「ッ」

 

 チエは腕からくる痛みに眉毛をピクリと一瞬だけ動かし、距離をとった藍染と対峙する。

 

「流石に頑丈だね、君」

 

「貴様もそうだろう?」

 

「しかし()()()()()()、というべきかな?」

 

「……?」

 

「チエ!」

 

 チエが藍染の言ったことに?マークを出している間、横から一護の声が聞こえると藍染の横を女性がどこからともなく、藍染の近くを浮遊しながら現れる。

 

「丁度いいタイミング♪」

 

「あちらはどうなっています、『母上』?」

 

「分体に苦戦しているけど、『バグった私(マイたち)』の参戦で徐々に押され始められているわ」

 

「なるほど、()()()()()()()()ということか」

 

「こいつは……なんだ?」

 

 そう言ったのはコンで、同じく茶渡が考えていたことだった。

 それは別に『母上』と藍染が呼んだ女性に対してだけでなく、彼らの周りから次々と現れる歩く死人や破面モドキがまるで地面から生えてくるような光景に対して言った言葉だった。

 

「これは……」

 

 だがチエには見覚えがあるのか、上記のようなことを口にしていた。

 

「流石にここまでくれば分かるかしら?」

 

 女性は藍染の背後から首を抱きしめるように腕をかけ、チエを見る。

 

「『()()』か?」

 

『地獄』。

 それは『原作(BLEACH)』でもほとんど登場したことがない『設定』。

 せいぜいが一護が死神になったばかりで生前殺人鬼だった『シュリーカー』を倒した後にいつもはチリになって消えるはずの虚は突如出現した巨大な門が開いて巨大な剣で『シュリーカー』を串刺しにして門の中へと消えた程度。

 

 そしてその時驚いていた一護(死神代行)にいつもの様子とは違うことを説明をしたルキアによると『地獄は死神に監視はされているが管理下には置かれておらず、また関与を厳しく禁じられている為に地獄の詳細を知る者は少ない』と言われていた。

 

 つまり、いうなれば死神側からすれば『虚圏以上に不明点が多い場所』が『地獄』。

 

 そして『シュリーカー』の時を思い出し、今の状況と違うことを連想した一護が口を開ける。

 

「けど……俺が見た時とは違う」

 

「あら。 そういえば貴方も居たわね。 ()()()()()()()()()♪」

 

「は?」

 

 一護がそうした声を出したのは何故だろうか?

『母上』の言ったこと。

 彼女の妖艶な笑み。

 舌なめずり。

 あるいはその全てに対してか?

 

「ん? 人間風に言えば、貴方が倒したのだから礼を言うのは当然のことでしょう?」

 

「アンタ……まさか、あの時の虚を?!」

 

 一護の脳裏に、とある単語が浮かび上がる。

 

「だから『ごちそうさまでした』と言ったのだけれど?」

 

「『母上』、終わったようです」

 

「あらそう? かなり粘ったけれど、所詮は『バグのなりぞこない』ね」

 

 ゴォォォォォォ!!!

 

 藍染と女性の背後に巨大な穿()()()が現れて開く。

 

「じゃあ、行くわソウちゃん♪」

 

 そう言い、女性と藍染は踵を返して門の方向へと消えそうになる。

 

「待て!」

 

 一護はそう叫んでいた。

 

「?」

 

 女性はコテンと、振り返らせた頭を横に倒して彼を見る。

 

 一護は『待て』と叫んだが特に理由はなかった。

 あるとすれば様々な疑問だが、果たして相手が悠長にそれらを答えてくれるだろうか?

 

「お前たちはいつから手を組んでいた?」

 

「チ、チエ?」

 

 だが意外なことに、チエが口を開けていた。

 

「…………いつから? 愚問だね。 平子真子の言葉を借りるのなら『子宮に存在した時から』、となるのか?」

 

「いやん♡」

 

 それを最後に二人は門の中へと消えていく。

 

 消えない門を前に、チエは前へと歩き出すが一護に肩を掴まれる。

 

「お、おい待てよ。 お前、この先がわかるのか?」

 

「さっきも言ったように『地獄』だな、恐らく」

 

「……大丈夫なのか?」

 

 チエは一護の問いに黙り込んでいる間、彼らは久しく感じていない気配に気を取られた。

 

「あれ? これって────」

「────重国たちか?」

 

 彼らが少しの距離が開いた向こうから感じたのは様々な隊長たちだった。

*1
20話より




遅くなったことに興味がある方々に一応ここで書きます。

活動報告でもあげましたが最近体調不良で生活リズムが崩れていく副作用の無気力と脱力感に覆われ、なかなか創作意欲が浮かび上がりません。

ですが予想(予定?)では『あと少し』というところまでは来ていますので、どうか温かい目で見守ってくださると幸いです。


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第167話 Hel

お待たせ致しました、次話です。

いつもお読み頂きありがとうございます。

楽しんで頂ければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 一護たちが視線を向けている方向では死神と破面たちがいる場所。

 彼らはさっきから増えた『母上』一体一体に対して数では勝っていたことからか力量でも勝っていた。

 

 筈だった。

 

 誰もがそう直感や本能で感じていたにも関わらず、彼らの大半の攻撃は()()()()()()()()

 

 彼らの攻撃が不意打ちであれ、真正面からの全力であれ、『暖簾に腕押し』をするかのようなものに似ていた感覚だけが返ってくる。

 

 殆どの者たちが未経験の出来事に戸惑いを感じながらそれぞれ試行錯誤気味にアプローチを変えたりしていた。

 

 数名の破面たちを除いて。

 

「「「(この感覚、あのオカッパ野郎(キルゲ)に似ている?)」」」

 

 今の状況を、彼ら彼女らは虚圏の砂漠で対峙したキルゲと似ていたことに不思議がっていた。

 

「無駄よ」

「貴方たちは所詮、負けを持っている」

「例外を除いて負けもしなければ、勝ちもしない」

「何せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()♪」

 

 それぞれの『母上(三号)』の個体らが互いの言葉の続きを語りながらとある一人を盗み見る。

 

「(あの方たち……方? はさっきからなぜ私だけを?)」

 

 七緒は内心、上記の自分に向けられる視線を不思議に思いながらも次の鬼道を練り上げていく。

 

「(なんでアイツら、七緒を見てるんや? ()()()()()()()()?)」

 

 無論、彼女の近くにいたリサもこの視線に気付かない訳はない。

 というのも、『母上(三号)』の個体たちは何故かリサとの直接対峙するのを避けていたので他よりは多少とはいえ余裕があった。

 

「来たわね」

 

母上(三号)』の一体は背後から近づいたカリンを見てニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「それでも────」

「────『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』!」

 

 カリンの紅い槍が『母上(三号)』の心臓部分へと見事突き刺さり、血が双方の体から噴き出す。

 

「ガフッ! (クソ、『戦闘続行(A)』でも無理が来たか?!)」

 

 上記とほぼ同時刻、ツキミとリカも同じく各々が残る『母上(三号)個体』たちに襲い掛かっていた。

 

 上記のカリンがさしたのを『母上(三号)個体A』と方便上呼ぶとすれば『母上(三号)個体B』と『母上(三号)個体C』になるだろうか?

 

「(同じアサシンならいける筈!) 秘剣、『燕返し』!」

 

 フォン!

 

「かぱ……」

 

 斬魄刀を横取り拝借したツキミは軋む関節や悲鳴を上げる筋肉を無視し三方向から剣筋が同時に繰り出される。

 

 剣術風で言うと唐竹(からたけ)右薙(みぎなぎ)左薙(ひだりなぎ)の異なる軌跡で彼女は『母上(三号)個体B』をバラバラにする。

 

「(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。 めっさしんど)」

 

 そう内心では愚痴るツキミとは別に、未だにワチャワチャと音を出す竜牙兵に囲まれたリカはただボーっと空中を浮遊しながら攻撃をかわす『母上(三号)個体C』を見上げていた。

 

「さて、貴方は何をするつもりかしら?」

 

「う~ん。 『ルルブレ(ルールブレイカー)しようか』と思っていたんですけど、今考えてみればそもそも『この世界(BLEACH)』は霊力を基にしているので効果はあってもイマイチと思っているので今は別にそんなことをしようという気力もない上に強いていうと今までのはただの時間稼ぎです~」

 

 カツーン!

 

 リカは持っていた杖を両手で持ち上げて先端を地面にたたきつけると耳をつんざく音とおともに周りの竜牙兵は溶けるようにいなくなる。

 

「『神官魔術式(ヘカティック)灰の花嫁(グライアー)』」

 

 ここで地面に何らかの陣が浮かんでいたことに初めて気が付けたと思えば、リカの前方から何時かグリムジョーとスタークが披露した『王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)』と似たものが放出される。

 

「あら、そっちでも平行思考がでk────」

 

 ドパァン

 

 カリンが背後から刺した『母上(三号)個体A』の体が破裂し、

 

 ザシュウ!

 

 ツキミが切った『母上(三号)個体B』がバラバラになり、

 

 ゴォォォォォ!!!

 

「「どわぁぁぁぁ?!」」

「気をつけぬかこの戯けがぁぁぁぁ?!」

「あちちちちちちち?! 髪の毛が焦げるぅぅぅぅぅ?!」

「汗が一瞬で蒸発したぞこらぁぁぁぁ?!」

 

 リカのメガ粒子砲にも似た大口径のビームの余波に当たりそうになった死神たちが抗議を上げている間、宙の歪みから()()ほどが急に姿を現せる。

 

「ぬお?! なんじゃ?!」

「総隊長、こr────って落ちるぅぅぅぅ?!」

「現世だと?! さっきまで、霊王宮だった筈じゃ?!」

「う~ん、なんか二日酔いにも似ているけど嫌な方のヤツだったね~」

 

「「「「隊長!」」」」

 

 上記のように、次から次へと『母上(三号)個体』から何故か出で来る隊長たちが不可解な出来事を体験したような言葉を並べながら困惑していた。

 

「(人間マトリョーシカですね……いえ、限定的な強制憑依とでも呼びましょうか。 それにしてもマユマユから渡されたアンプルも残りわずか……ん?)」

 

 未だにヌボ~っと冴えない表情をし、アンプルの蓋を次々と片手で割り開けて栄養ドリンクのように飲み干しながらこの光景を見るリカは、困惑する隊長たちが姿を現したことで嬉しがる者たちやびっくりする者たちの輪から抜け出す雛森の姿を見かけた。

 

「(あの方向には何かあるのですか? 気にはなりますが流石に今の状態で使い魔を一から作成して飛ばすのは疲れる────)────はて?」

 

 リカが今度見たのは俯きながらおずおずと横道から出てくる少女の姿。

 

「あ、()()

 

「ッ」

 

 リカの声がかけられて羽織っていた外套ごとビクッと、『本体』と呼ばれた少女────『三月』の体が跳ねて、恐る恐ると目だけを上げていく。

 

「ぁ……」

 

 目がリカと合ってはサッと視線を外す。

 

「???? (何かおかしいですね~? 本体ってばこんなんでしたっけ? ……………………ま、とりあえずマイの布石が功を現したという事でオッケーとしましょうか)」

 

 リカがトテトテと『三月』の近くに行くと、彼女はわずかにだが戸惑いを行動に表すかのように後ずさる。

 

「??? 本体?」

 

「………………おねえちゃん、だれ?

 

 ズキュュュン!!!

 

 リカの問いかけに答えた『三月』の言葉に、巨大なメタ矢がリカの胸を射抜く。

 

「(……なるほど。 通りで『お姉ちゃん呼び』に固執するわけです。 『知的』と『合理性』が一つでもレベルが低かったら即死でした)」

 

 だが無性に止めどなく湧き上がってくる嬉しい衝動をリカはグッと抑え込む。

 それでも言語がどこぞの仮面付き彗星のように変わったが。

 

「ま、『記憶同調(メモリーシンクロ)』すれば何とかなるでしょう────」

 

 リカがズンズンと『三月』へとさらに近づくと少女は怖気づいたかのように足がもつれて尻餅をつき、震える両手でギュッと瞼を閉じた顔をそらして覆いながらプルプルと体中が震えだす。

 

「────

 

 その姿を例えるのなら、まるで世に生まれたばかりの小鹿の様子だった。

 

「────う、ぁ。 や、めて────」

「────やめません。 『接続(アクセス)』、『導入(インプット)』……『記憶同調(メモリーシンクロ)』」

 

 リカは『三月』の頭を両手で自分へと向けさせた後、閉じていた瞼を無理やり開けて二人の目は互いの目線をしっかりと合わせられる。

 

 するとまるでスイッチが入れられたように、『三月』の大きく開いていた瞳孔と表情からみるみると『怯え』が消えていく。

 

「…………はぁ~。 ありがとう()()()()、リカ」

 

 やがて三月はため息を吐き出し、頭痛がするのかこめかみに指をあてる。

 

「どういたしまして~。 (『なのだわ』?)」

 

 そしてリカは彼女の語尾に違和感を持ちながらも来た言葉に答えた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 上記から少し離れている場所では、未だに閉じる様子のない穿界門を前に立っていたチエと彼女と門、そして近くの茶渡とコンへと互いに視線を交わしていた。

 

「ん────?」

「────クソ眼鏡とマスター(織姫)、茶渡たちはこちらです」

 

「相変わらずアネットさんは僕だけに当たり強いね?!」

 

「恐縮です、クソ眼鏡」

 

 全くもって褒めていないんだが?

 

「茶渡k────!」

「おっさん、無事か────?!」

「「────って、黒崎君(一兄)渡辺さん(チー姉ちゃん)?!」」

 

 チエが何かに気付いたかのように道を見ると驚くことに、雨竜とアネットに続いて織姫と夏梨もその場に駆けつけていた。

 

「お、お前ら?! つうか何でここに夏梨まで?!」

 

「うお?!」

 

 初めて異変が起きて一護、雨竜、織姫、茶渡の四人、そして戦闘姿である彼らを見る夏梨。

 

 彼女は数秒間程皆を見てから自分の兄を見ると────

 

「────前のデケェ刀から黒い刀に変えたってことは……ペンキ塗りでもし始めた?」

 

「してねぇよ?!」

 

「そうだぞ夏梨。 得物に塗りを入れるのは武器に対しての冒涜だ」

 

「そっちも違う……」

 

「先に行っているぞ────」

「「「「────え?」」」」

 

 その場を置き去りにするかのようにチエは躊躇する様子も見せることなく穿界門の中へと一足先に入っていった。

 

 

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

「(ここは空座町か?)」

 

 自分は穿界門の中へ入ったはずだが気付けば『半壊』と呼ぶには温く、それより悪化した『廃墟』と化した空座町へと出てきていた。

 

 それに『廃墟』だけでは言葉が足りないな。 

『水没しかけた廃墟』になるのか?

 

「(それにしては……空気も違う。 あの『霊王宮』と似ているが……霊力が歪んでいる?)」

 

 どう説明すればいいのか分からないが『そう感じた』としか感想が出ない。

 そう思いながら地形関係で段差が今立っている場所より低いところでチャプチャプと音を鳴らせる水の中に手を────

 

「────ッ」

 

 違う。

 これは『水』であって水ではない。

 

 断じて。

 

「────陛、下」

 

 横から聞こえてきた弱々しい声に視線を反射的に向けると、かなり衰弱しやつれた姿のポテ────ハッシュヴァルトと彼に肩を貸した………………

 

 ………………なんだ?

 

「鳥頭?」

 

モヒカンだ

 

 私が思わず声に出した言葉に鳥頭『もひかん』が低い声を出す。

 どこかで見覚えが……

 

「良いんだ……バズ。 彼女は……そういう人なんだ」

 

良くねぇよ

 

お前(ハッシュヴァルト)はここで何をしている? ここはどこだ?」

 

「無視かよ、おい」

 

 鳥頭『もひかん』はこの際無視して明らかに弱っているハッシュヴァルトへ疑問を投げる。

 

「ここは……死神たちが『霊王宮』と呼んでいた場所……だと思われます」

 

 やはりか。

 だが見た目が以前と全く異なる。

 

 よく見ると空座町の外れにある高層ビル、それと近くにはそれらしい街並みもあるが遠くには無いはずの山、そして地面には場違いにも虚圏の砂漠っぽいのがチラホラとある。

 

 砂があるのは別に珍しくないが、それらが完全な円形でまるで突然その場に浮き出たような形は異質だ。

 

「私は…………僕はできる限り、滅却師完聖体で彼らの妨害をしていましたが…………もう、限界のようです……このままでは、世界が………………」

 

「そうか」

 

 そう言いながら、懐に忍ばせていた日記を取り出して『ハッシュヴァルト』の項目があるページを開けて早読みをする。

 

『ハッシュヴァルトの聖文字は“世界調和(ザ・バランス)”。

 ()()()起こる不運を幸運な者に分け与えることで、世界の調和を保つ。』

 

 ならば本来は個人レベルの能力を、ハッシュヴァルトはどうやら『滅却師完聖体』とやらで藍染たちの妨害をしていたのか。

 

()()()だった」

 

「「え?」」

 

 そう言うと二人は呆気に取られるような視線を私に向ける。

 何故だ?

 礼儀で労いの言葉を投げただけだぞ?

 

 まぁ良い。

 

「あとは、私が────」

 

 そう言いながら二人を横通ると、背後からさっきの二人とは違う声が聞こえてくる。

 

「────チエ!」

「────チエさん!」

 

 一護と……雛森か。

 

「うお?! 空座町か、ここ?」

「でもでもなんか違うよ拳西~」

「こりゃまたけったいな場所やのぉ」

「なんか世紀末っぽいな」

「ラヴが言うのならそうなんだろうね」

「ローズも相変わらずマイペースやな」

「平子もたいがいやけどな」

 

 そこから穿界門の中から次々と十年前から見知った者(仮面の軍勢)たちが出てき始めて周りを興味深そうに見渡す。

 

 彼らはやはり長い間現世にいたからか、突然の急変への対応が他より早かった。

 

「なんだ、ここは?」

 

 そこで彼らの後ろから意外と日番谷の声が聞こえて来たのは意外だった。

 察するに、『雛森の後を追った』と言ったところか?

 …………丁度いい。

 

「雛森、『天挺空羅(てんていくうら)』を開いてくれ」

 

「え?」

 

 私の頼みに彼女は目を白黒させる。

 突然のことだ、無理もない。

 

「『天挺空羅(てんていくうら)』だ。 出来るのか? 出来ないのか?」

 

「え、あ、はい! ほ、補足者は?」

 

 やはり瀞霊廷の者は突然のことに弱いな。

 だが今の私にとっては好都合だ。

 

「味方の死神、及び破面たち全員だ」

 

「……開きました、どうぞ!」

 

 流石は雛森、一瞬で霊力が歪んでいるのを察知して鬼道を調節してやってのけるとは鬼道の才が飛びぬけているな。

 

『……死神たち、そして破面たち。 私を知っている、知らないものでも耳を貸せ』

 

 自分の声が大気の霊力に乗るのを感じると先ほどの思惑が実感できた。

『やはり強い流れに弱い』、と。

 (三月)の情報通りだ。

 

『空座町での開いたままにある穿界門、その先に現在の元凶が居る。 

 私は今から、その元へ向かう。

 その際、総員に私から一つだけ伝えることがある。 

 この先は、文字通りの地獄だ。 圧倒的な“死”が待っている。

 よって────』

 

 一護や雛森は期待するような眼を私に向ける。

 平子たちに緊張感が増したのか体が硬直する。

 姿を現した日番谷が困惑するような顔をする。

 

 だが私のやることは変わらない。

 

『────総員、穿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………………………え?」

 

 ドッ!

 

「ひぅい?!」

 

「な?!」

 

「雛森!」

 

 ドサッ!

 

 呆然とした雛森の首に峰内を当てて昏倒させると一護が慌て、日番谷がすぐさま倒れそうになる雛森を抱きかかえる。

 

「日番谷隊長、(雛森)を頼む」

 

「おい、渡辺! 何をする気だテメェ?!」

 

「そこの穿界門は藍染、または奴が死ねば消える……筈だ」

 

「だから俺の────!」

「────少なくとも、今起きている異変は収束する。

 ここからは、()()()()()()()

 

「渡辺……お前────」

 

 ────いつも通りだ。

 

 私は、『もしもの時の為に頼ま(命令さ)れたこと』を実行するだけだ。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 (三月)がいなくとも頼まれたことさえ最後にすれば、

 

 

 

 後はどうでも良い。

 

 

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「♪~」

 

 穿界門の向こう側にある廃墟と変わった空座町を、仮に『向こうの町』と定義しよう。

 

 チエたちが出てきた『向こうの町』の場所から少し離れたところで、水浸しの瓦礫の中で孤島のように浮いていた破片の上でに女性の歌声が響く。

 

 女性────『母上(三号)』は鼻歌をしながらユラユラと腕を音楽の指揮者のように振るい、近くには静かに見ていた藍染の姿。

 

 彼が見ていたのはグルグルと回ったり、ぐにゃりと歪んだり渦まく大気そのモノ。

 

「あ。 ソウちゃん」

 

 何かを思い出したかのように『母上(三号)』は彼へと振り向いた。

 

「今()()()()()のって、どれぐらいかしら?」

 

「尸魂界東梢局瀞霊廷の死神たち、及び魂魄の残存総兵力が役2800名。

 虚圏の虚、純破面が800体。

 そして────」

 

 ジャリッ。

 

「────()()()()()()()()()()

 

 小さな物音が聞こえてくるよりも前に、藍染は『母上(三号)』の視線が動いたのを見て振り向く。

 

「やぁ、ようこそ」

 

 彼の挨拶を新しくその場に現れたチエは無言でただ藍染を見てから『母上(三号)』へと視線を動かしてから口を開ける。

 

「お前は、居てはダメだ」

 

「フフ♪ それはどうかしら?」

 

「例えお前がここの『星の意思』だとしても、関わってはならなかった」

 

『星の意思』という単語に、『母上(三号)』の面白おかしく笑う表情がスンと無表情なものへと変わる。

 

「……お前に何が分かる? 『関わってはならなかった』────? 」

 

 フッ。

 

 チエが消えたと思えば『母上(三号)』の頭上からで刀を突き出していた。

 

 ギィィィン

 

 だが彼女とほぼ同じ速度で動いた藍染が斬魄刀で攻撃を真正面から受けてから彼女ごと跳ね返す。

 

「────ならば貴方の方こそどうなの? 悪戯に好き勝手やらかしたじゃない?」

 

「だとしても、お前たちの所為で奴と奴の護りたい場所が脅かせるのならその肉、最後の一片までもを絶滅させよう」

 

「そう……どうしても敵対するのね……ソウちゃん、先へ行っていてくれるかしら?」

 

「よろしいのですか?」

 

()()()()()

 

「ではそのように」

 

 藍染が背中を見せると同時に、『母上(三号)』は手に刀を出現させてからチエへと襲い掛かる。




この勢いのまま次話を書いてきます。

尚この話で出てきた専門用語の辞書的なものが以下となります。

『ルールブレイカー』:
別名『破戒すべき全ての符』。 『裏切りの魔女』としての逸話が実体化/具現化した短剣。
切りつけた対象のありとあらゆる魔術効果を強制的に初期化するある意味名の通りのチート。
ただし対象は『魔術』。

『神官魔術式・灰の花嫁』:
本来は魔力をベースにした大口径砲。 今作ではリカが霊力を魔力の代わりに変換して使った技。 メガ粒子砲魔力バージョン。

糸状の小鳥:
とある世界では『天使の詩』、または『エンゲルリート』とも。
髪を媒介にして使い魔を作成する魔術。


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第168話 前門の顔見知り、後門の隣人

お待たせいたしました、次話です。

活動報告でも載せましたが他作品を読まなくても『ばかんすを気ままに』を楽しめるよう書いたつもりですが、流石に前作や前々作やそれらがベースにされている原作を読んでいない方たちに序盤で説明も何もないままだと敷居の高い作品という声を頂き、心に響いたので第0.5話 『ネタバレ含む資料編』投稿してみました。

前書きが長々となってしまいましたが、これで少しでも『ばかんすを気ままに』をより楽しんで頂ければ幸いです。

余談ですが久しぶりに曲を聴きながら書き上げました。

『MS IGLOO』の『ユメワダチ』、やっぱりいいですねぇ~ (*´ω`*)


 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

 ギィィィン!

 

 耳鳴りをさせる勢いのつんざく音が鼓膜を襲う。

 

 ガァァン!

 ガリガリガリガリガリガリ!

 

 刀と刀がせめぎ合うと、鍛冶でナマクラを打った時のような火花が周りに撒き散らされる。

 

 何故だ?

 何故、押し切れん?

 

 それに身体の動きにも違和感がある。

 何をされたのだ、私は?

 

「不思議そうね? 確かに貴方はまごうことなき強者よ? 

 でも……()()()()()()貴方はどうかしらね?」

 

「ッ」

 

 胸のざわつきが顔に出たのか、『三号』の顔がニヤリとしたのを見て、刀を受け流してから胴体目掛けて切っ先を突き出す。

 

「どこかで察していたんじゃないかしら?」

 

『祈りを捧げた』だと? 

 私がか?

 

 ()()()()()

 

 もしそうだとしても、私は一体()()()

 

 突き出した切っ先は相手を捉えることなく空振りに終わるが『三号』は自分の髪の毛を抜いてそれらが糸状の小鳥になって光弾を撃ち出す。

 

 カッ! カ、カカカン!

 

「(そんなことよりも今だ。 これは、魔術か? いや、魔術の術式を霊力に変えた別物か)」

 

 それらをチエは刀で払い落としていき、数が増えて払い落とせなかったものを避けながら横へと移動する。

 

 ヒュッ!

 カァァン

 

「ッ」

 

 ボッ! ボッ!

 

 その際に他より少々大きな光弾を払い落とそうとして、チエの刀が弾かれて第二、第三の光源が彼女の右腕と肩を抉る。

 

「グッ! (今のは────)」

「────『霊丸』、って呼んでいたかしら? 使いやすくて助かるわぁ~。 ()()()()アレンジをつけてみたけど、貴方を見れば効果抜群ね♪」

 

 右腕と肩の開いた傷口から血が流れ出るが、チエは伴う痛みと共にそれらを無視する。

 

「(やはり、『三号』なのか? ならば(三月)は一体────?)」

「────考え事? 余裕ね」

 

 ヒュン!

 

 気付けば耳元で(ささや)けるほど近づいた敵をチエは反射的に刀をワンテンポ遅れで振るう。

 

「アッハハハ! 私はこっちよ!」

 

 だが一瞬だけ遅れたことにより彼女の軌跡は何も捉えず、『三号』は笑いながら水の中から湧き出てくる無数の歩く死人たちの背後へと隠れる。

 

「(逃がさん!)」

 

 そう考えながらチエは一層強く、刀を握る手に力を入れる。

 

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

『ここからは、私一人で十分だ』。

 

 そう言った馴染みの背中を、俺は立ち尽くしたまま見送ることしかできなかった。

 

 動きたくとも、さっきまで軽かった足に鉛でもくっつけられたかのように重くなっていた。

 

『ガッカリしていない』、と言えばウソになるが……

 それ以上に理解が追い付かなかった。

 

 今までもアイツは……チエは突拍子もない行動に出ることはあったが、さっきのように突っぱねることなど無かった。

 

 それに、メロン……じゃなくて雛森って言ったっけ? 

 元とはいえ、彼女も部下だった筈だ。

 

 そんな彼女を使った後に、切り捨てるかのようなことも初めてだった。

 らしくなかったな、全然。

 

「あの野郎……()()一人で全部やるつもりかよ」

 

 そういえばここに冬獅郎もいたんだな?

 

日番谷だ。 何度言ったら分かるんだ黒崎?」

 

「あれ? 俺、声に出していた?」

 

「目を見りゃ分かる。」

 

「それに、さっきの『また』ってどういうことだ?」

 

 日番谷が怪訝な面持ちで俺を見る。

 

「アイツ、お前に言っていなかったのか?」

 

「だから何のことだよ?」

 

……アイツ……マジで『独り』で抱え込んだのか……よし、お前に話してもいいだろう。 アンタ達にもだ」

 

 冬獅郎がブツブツと何かいい、そこから俺と『仮面の軍勢』たちに日番谷が話したのはチエが隊長代理をし始めた直後。

 

 その内容はまぁ、一言でいうと『無茶苦茶』。

 

 何せ五番隊を急に初日で招集し、煽いだだけでなく挑発して席官を素手でぶっ飛ばしたらしい。

 しかもそれが一部だけで、根底から隊としてのやり方を一掃して変えていった。

 

 いや、アイツ……マジで何やってんだ?

 噂程度に聞いてはいたし、チエも何となく話して来たから予想してけど……

 今なら三月の気持ちがほんの少しだけ分かるような気がする。

 

「なんつー強行や……アホかアイツ?」

 

 平子も呆れているようだ。

 

「まぁ、最後まで聞けよ。 俺、アイツにそれとなく言ったんだよ『やり方が無茶苦茶だ』*1ってな?」

 

 冬獅郎がチラッと俺のほうを見てから話を続けた。

 

「アイツ、なんて返して来たか知っているか? 『半端な強さなど無いに等しい』だとさ。」

 

「それにしても過激だ。 嫌われるぞ。」

 

 ローズの言葉に内心では同意しているかのように冬獅郎は肩と手を『お手上げ』と示す。

 

「ま、その通りだけどよ? アイツ、こうも言ったんだぜ────?」 

 

『このままじゃ死人が出る。 もし五番隊の奴らがこれで私を“悪”と見なし、強くなるのなら私は進んで“悪”と言う肩書きを背おう。 隊長代理だからな。』

 

 皆が無言になったことで辺りの静けさより引き立った。

 

 それぞれが複雑な心境だったんだろう。

 それもそうだ、俺だってそうなんだから。

 

 けど……それじゃあアイツ(チエ)は、ワザと嫌われ者をして来たってのか?

 

 今思えば、点々とした小さな出来事が、俺の中で繋がっていく。

 昔からアイツの突拍子もない行動が『ワザと嫌われる』ことを前提にすれば、全部が分かるような気がした。

 

 でもそれじゃあ……アイツはまるで────

 

 「────だぁぁぁぁぁ! 何しとんねん、あのクソハゲェェ!」

 

 急にひよ里が自分の頭を掻きむしりながら叫び、一気に奇怪なものを見るような視線を集めたが彼女はそれを一向に気にせず叫び続けた。

 

 「昔からなんべんも『根詰めたらあかんで』*2ってしたくもない心配から言うてんのに、何アイツ勝手に自ら根つめとんねん! いっぺんシバけへんと気が済まんわ! 

 なぁぁぁにが『一人でええ』や?! 

 なぁぁぁにが『外に居とけ』や! 

 一匹狼を気取ってからにかっこつけやがって生意気やねん!」 

 

 鼓膜が破れそうな怨霊と見た目に反して大きい肺活量で叫び続けるひよ里は俺らを全員の顔を見渡す。

 

 「そう思いへんかお前らぁぁ?! なぁ?!」

 

「…………しゃ-ないなぁー。」

 

 面倒臭そうに先に頭を掻きながらぼそりと声を出したのは平子だった。

 

「ん? 行くのん、ヒラコン?」

 

「誰がヒラコンやねん、アホマシロ。 今のひよ里、ほっといたら自分一人でも行く気満々やろ?」

 

 「当たり前やクソハゲ真子!」

 

「ま、せやろなぁ~。 んでそれ知っといて『はいそうですか後は任せた』で結局帰ってこうへんかったら自分が凹むからな」

 

「く、クソハゲ真j────?」

「────それってチエのことだよな?」

 

「当たり前や拳西、他に誰がおんねん」

 

 ヒュッ!

 バシィン!!!

 

 若干頬を赤らませながら自分の耳を疑うような顔するひよ里の言葉を拳西が割り込んで平子が即当するとさっきよりさらに巨大な青筋をこめかみに浮かばせたひよ里はすかさず回転をつけたスリッパ蹴りを平子の後頭部にお見舞いする。

 

 「ぐほぉあ?! 何してんねんこのボケェ?! 今星が散ったで?!」

 

 「うるっさいわクソバカハゲ真子! お前に一瞬でも期待したウチがアホやったわ! ……なんやねんその目はぁぁぁぁ?!」

 

「「「「イイエ、ナンデモ」」」」

 

 ギャラリーにいた他の『仮面の軍勢』や俺と冬獅郎含む()がジト目を同時にひよ里からそらす。

 

「ホッホ。 やっぱり師匠はどこまで行っても師匠じゃよ」

 

「やはり、総隊長殿の話したような方でしたね。」

 

「って総隊長の爺さんに狛村さん?!」

 

「うーん、一匹狼か~。 ボク、嫌いやないね♪」

 

「市丸まで?!」

 

「やはり陛下と呼ぶにタフですね。 良いことです。」

 

「ロバのおっさんたち?!」

 

「ブハーハッハッハッハッハッハッハ! ろ、ロバのおっさん!」

 

「グ、グリムジョーたちまで?」

 

 さっき俺が『皆』と思ったのはやっぱり見間違いじゃなく、瀞霊廷の皆や破面に滅却師たちもいつの間にか穿界門をくぐってここに来ていた。

 

「うーん……やっぱり僕たちって、先生みたいにジッとしていられない(たち)なんだね?」

 

「それだけ似た者同士(通し)って意味じゃないの、浮竹? んで? ここに来た三月ちゃん達も僕たちを止める気がないどころか同行してくれるつもりなのかな?」

 

 京楽さんの見ていた先では、マイさんを除いた三月たちもいた。

 

「まぁ、ボク達にしたらそもそも『身内の恥』みたいなものですから~。」

 

「ここでもお前(リカ)、フワッとしたまま呑気なんだな?」

 

「じゃあパイナップル(恋次)はボクが慌てながら腰に抱き着いて上目遣いをしながら目を潤ませて『お兄ちゃん怖い! 助けてー!』と気弱な態度で言ったほうがいいですか?」

 

「……いや?」

 

 ゴチン!

 

「イデェ?!」

 

「なに一瞬迷っていたんだこの戯けが?!」

 

「して、黒崎一護。 お主はどうするつもりじゃ?」

 

 総隊長の爺さんが片目を開けながら俺を見る。

 

「え? どうするって……そりゃあ────」

 

 

 

 

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

 チエは自分を襲う攻撃を時には躱し、時には受け流していた。

 

「(まだだ、まだ────)」

 

 ────ドンドンドンドォン!

 

 チエの耳が次に聞こえてきたのは銃声に似た発砲音と、『弾丸』と思われるそれらが自分の体の数か所へと当たってえぐる感覚。

 

「グァ?! (あれは────)」

「────どう? 彼そっくりでしょう? そっくりも何も、『彼自身』なんだけれど♪」

 

『三号』が満足そうに横目で見ていたのは二丁の拳銃を構えた()()()()

 

 かつて私に対して闘争心を露わにし全力で抗い、今の私が『宿敵』と呼べた数少ないもの。

 

 そんな彼が傀儡されていることが、私には我慢ならなかった。

 

「ッ! 貴様────!」

 ────ドスッ!

 

「ガッ?!」

 

 

 これを見たチエは珍しくも声を荒げるが、今度は腹に光で出来た槍が突き刺さって言葉が遮られる。

 

「流石に()()()()貴方でも、こうも立て続けに攻撃されては手も足も出ないでしょう?」

 

 チエは左手で刀を口に咥えてから、突き刺さった槍を掴む。

 

「グ……フンッ!!!」

 

 咥えた塚ごと歯を噛み砕くように力んでからチエは槍を無理やり体から抜き出すと同時に、彼女の口からくぐもった声と血が口橋から出て顎を伝う。

 

「さぁ、どうするの? 諦める? 勝ち目はほぼないわよ?」

 

 刀を左手で再度掴むと『三号』が口を開ける。

 

「貴方の勝機はいくらかしらねぇ? 千に一つ? 万? それとも億?」

 

だが零ではない。 それは貴様も認めているだろう?」

 

「ッ」

 

『三号』の笑みに、奥歯を噛みしめるような力が顔に入っていく。

 

「貴方に何が分かる? それにその右腕、ほとんどもう使い物にならないんじゃない? ボロ雑巾のようね。」

 

「それがどうした、『古き神々の一部』よ? なぜ知り尻込む? 露骨な時間稼ぎなどみっともないぞ?」

 

「ならば来なさい! 一度で死なないのなら何度でも殺してみてあげましょう!」

 

『三号』が狂気の笑みを浮かべ、チエは彼女の前に立っていたなみなみと居る歩く死人や死んだ筈の破面たちの群れへと飛び込む。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ザシュッ!

 

 チエの一振りで相手の腕が宙を舞う。

 

「(前へ!)」

 

 ザパァ!!!

 

 今度は上半身と下半身を斬ろうとして浅かった傷から血しぶきが出てチエの顔にへばりつく。

 

 「(前へ!)」

 

 が、それでも彼女はひたすらに眼前の敵を切り伏せながら前進する。

 息を荒くしながら一振りでできるだけ多くの敵を斬り、怯まずに。

 右腕が先ほど指摘されたように、ボロ雑巾のような見た目のまま『痛み』という信号を脳へ送っても。

 

 「(前へ!)」

 

 それはまるで、将棋での前進しか能のない『香車』の駒を思わせるような突進。

 

 「(前へ! 前へ! 前へ!)」

 

 そんな彼女の前にヤミー(?)が物理的に立ちふさがる。

 

「邪魔! だぁぁぁぁぁぁ!」

 

 チエは今まで通りに刀を振るうが、胴体を完全に通過する前に彼女の腕は掴まれる。

 

 ボキボキボキ!!!

 

 腕を掴んだ手に握力がまし、鈍い音がチエの耳朶に届く。

 

 猛烈な痛みとともに。

 

 「ガ、アアアアアアアア!」

 

 今まで無理に抑え込んでいた痛みが波寄せるかのような感覚にチエは叫んだ。

 

「うん、『痛覚』もやっと戻ったみたいね。 じゃあバイバイ♪」

 

『三号』の無慈悲にも似た言葉にスターク(?)やウルキオラ(?)などの破面たちが各々の遠距離武器や投擲武器をチエへと向ける。

 

 「ヌ、グアァァァァァァ!」

 

 チエは哀しみをかき消すような叫びを出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「放てぇぇぇぇい!!!」

 

 ゴォォォォォォ!!!

 

 鬼道が。

 

 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュン!!!

 

 霊子の矢が。

 

 バンバンバンバンバンバンバンバン!!!

 

 銃弾が。

 

 それぞれが雨あられの様にチエの腕を掴んでいたヤミー(?)や歩く死人や死んだ筈の破面たちを一気に襲い掛かり、『三号』は笑みを顔に残したままさらに後退していく。

 

 チエは歯を噛みしめ、自分の出血か切り倒した敵からの血しぶきからの血かよくわからない液体まみれのまま振り向きざまに叫ぶ。

 

 「貴様らぁぁぁ! 何故来たこの戯け共がぁぁぁぁぁ?!」

 

 それはかつて幼少の頃、彼女が黒崎真咲と一護に放ったイラついた叫びに似ていた。*3

 

 無論、今度の叫びは彼女に追いついたと思われる死神、破面、滅却師たちに向けたモノだが。

 

「このまま師匠を見送ることはこの重国! 到底出来ん! 例え師匠であれともこれは譲らん!」

 

「重国!」

 

「それにテメェにはまだまだ聞きたいことがあるんだよ! 死なれちゃあ困るってんだ!」

 

「グリムジョー……」

 

「それに陛下がいなければ困るのは私たちもです。 もし死ぬのならその死を有効活用しないと文字通りの無駄死にになります。」

 

「ロバ────」

 「────ロバートです。」

 

「そうだぜ! グリムジョーの言ったように、チエにはまだまだ聞きたいことがあるんだ! 『はいそうですか』って帰れるかよ!」

 

「そうだ! そこの馬鹿の言うとおりだ!」

 

「い……ちご……ルキア………………」

 

 ここで初めていつもは無表情なチエの顔がムズムズと思わず動いてしまう。

 

 だが明確な表情を作る前に彼女は前へと向く。

 

「この……戯け共が!」

 

 チエは深呼吸をしながら左腕に力を入れて、緊張した筋肉で腕を無理やりにでも動くことを確認する。

 

「私は前へと進む! 文字通りの地獄へだ! 貴様らは……勝手にしろ!

 

 チエが前へと走り出すと、背後の者たちは一斉に動き出した。

 

 「ぐ……」

 

 これを見た『三号』の顔は一瞬だけ苦しむかのように歪むが、すぐに笑みへと戻る。

 

 「そう…………そうなの……いいわ! ()()()()()()()()()()()!」

 

 水浸しの液体の中から様々な者が浮き出て一護たちを迎え撃つ。

 

 その景色はまるでチエと一護を除いて、まるで鏡合わせのような異質なモノだった。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 そうだ。

 ()(死神)誰もか(滅却師)もが一つの目的を共通し、無数の生が血を血で洗い流し、うごめく。

 

 その動機が『憧れ』であれ、

『ライバル心』であれ、

『保身』であれ、

『平穏の為』であれ、

 

 それらは全て、『生命を続ける』という目的の糧に過ぎない。

 

 さぁ、私に見せてくれ!

 

 君たちが『生きている』という証を!

 

 私に示せ!

 

 君たちが『役割(ロール)』という鋳型を壊すのを!

*1
35話より

*2
9話

*3
4話より




この勢いのまま次話を書いてきます。


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第169話 iF and Is

お待たせいたしました、少々長めですがキリが良かったところまでの次話です。

いつもお読み頂きありがとうございます。
まだまだカオスですが、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 京楽春水 視点

 ___________

 

「これは……一体どういうことだ?」

 

 横にいる、昔からの同期である浮竹が困惑する声を上げる。

 

 その気持ちは僕にもわかるけどね。

 

「う~ん、どうしようか?」

 

 そうのほほんといった口調は僕の口から発してモノではない。

 

 相手の言ったことには僕自身、同感だけどね。

 

「困ったねぇ」

 

 僕の目の前の男はそう言いながらボリボリと頭を手に持った双剣の片割れの塚で掻く。

 

 隊長の羽織の上に派手な着物を羽織り、無精髭を生やし、長い髪を一つに束ねて簪で留めていたナイスミドル。

 

 それが僕の前に立ちはだかった男の()()

 

 ……うん、逃避するのはここまでにしようか。

 ぶっちゃけると右目を覆う眼帯と()()()()()()()()以外、僕そっくりの男が目の前にいる。

 

「なぜ……いや、これも『鏡花水月』なのか?」

 

「そうだったらどれだけ気安いことか……」

 

 ん?

 一瞬だけだが相手の、浮竹へ向けた目が泳いだ。

 どういうことだ?

 まぁ、いいか。

 ダメもとで訊いてみよう。

 

「そこ────」

「────したいのは山々なんだけどねぇ?」

 

 僕の『そこをどいてくれないかい?』という質問が終わる前に答えた、ということは……

 

「ああ、ちなみに『お花』にえぐられたわけじゃないからね? コレ。」

 

「ッ」

 

「『お花』まで知っている……だと? まさか……」

 

 眼帯を指で刺しながら放った言葉に一瞬だけ、僕そっくりの相手の言った動揺が顔に出そうになったのを浮竹の声に集中しながらグッと抑え込む。

 

『お花』ってのは僕と浮竹、あとはリサちゃんと山じいぐらいしか知らない筈。

 僕の斬魄刀に宿る魂の名前で、表に出てくるのは卍解時ぐらい。

 しかもその卍解ってのも使ったのは、あのリジェとか言う滅却師相手*1で、その時に『お花』は出てこなかった……

 

 つまり、目の前の男は────

「────ま、大方()()()()()()ってわけさ。 君は僕……ああ。 この場合、『僕は君』ってことになるのかな? それが嫌なら『君の記憶を持ったナイスミドルのそっくりさん』でもいいよぉ?」

 

 ………………………………いやはや、嫌だねぇ。

『考えていることが分かってしまう相手』ってのは?

 

 そう内心では思いながら相手────もうこの際だから『眼帯京楽』と名付けて────を見ながら次の一手を考える。

 

 雰囲気で隣の浮竹が同じようなことをしているのが分かる。

 

 やっぱり頼れる奴が近くにいるのは良いねぇ~。

 

「う~ん、こんな状況じゃなければ『静観しない?』って誘っているんだけどねぇ~」

「んで、懐に忍ばせた酒を飲みかわすのも一興だねぇ~」

「「いいねぇ~」」

 

「その時は、俺が大福を出そう!」

 

「「「はっはっは!」」」

 

 笑いと雑談を口にしただけなのはまるでお互いが分かりきっていたかのように、『花天狂骨』同士がぶつかり合い、火花を飛ばす。

 

 ガァァァン!

 

 今度は『眼帯京楽』の背後に回った筈の浮竹は『影鬼』を使って更に浮竹の背後に回った『眼帯京楽』の攻撃を『双魚理』で防ぐ。

 

「クッ! 『影鬼』まで?!」

 

「残念無念、またおいで♪」

 

 眼帯京楽の言葉を頭の片隅に置いて、浮竹とアイコンタクトをとる。

 

『まずいね、こりゃ。』

『ああ。 “お前と同じ”と仮定して動いた俺たちの攻撃がこうも簡単に読まれたということは────』

『────うん。 敵さんは僕たちより一枚、二枚上手(うわて)だってことだね』

『それにお前の記憶を持っていることを踏まえると、俺たちの動きも能力も知っている……厄介だな。』

『本当にねぇ~』

 

 それにしても、さっきから浮竹を見るのを避けているのは僕の気のせいかな?

 

ううん。 きのせいじゃないよ?

 

 だよねぇ~。

 

 ___________

 

 綾瀬川弓親 視点

 ___________

 

 ガァン!

 

 激しく、けたたましい音が『藤孔雀(ふじくじゃく)』と『藤孔雀(ふじくじゃく)』に似た相手の武器から発する。

 

 こちらでも、京楽の様に二人の弓親ーズが怒りの表情を露わにしながら対峙していた。

 

 「「ボクが一番美しいんだ!」」

 

 失敬、『怒り』ではなく『イラつき』だった。

 

「断じて認めないぞぉ! 目の周りのシワが目立つボクなんてぇぇぇぇ!」

「肌が潤い過ぎるほどにスキンケアをしているお前がボクなもんかぁぁぁぁ!」

 

 しかも『同族嫌悪』の類である。

 

 ギィンギィンギィンギィンギィンギィン!

 

 「「折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろぉぉぉぉ!!!」」

 

 完全にクールホーン対峙時より明らかな同族嫌悪丸出しの、戦術も戦略もへったくれもないただのどつきあい斬りあいである。

 

 一応己のプライドをかけた戦いだが見ていてげっそりするような内容を二人の弓親は叫びあっていた。

 

「真に美しいのはボクだけだ、この偽物が!」

「この年増ぁぁぁぁぁ!」

 

にたものどおし。

 

 「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!」」

 

 

 ___________

 

 班目一角 視点

 ___________

 

 「「おらぁぁぁぁ!」」

 

 バキッ!

 

 弓親ーズの近くでは、一角ーズが拳で互いを殴り合っていた。

 

 近くにはボロボロになり、ガラスにヒビが入ったような『龍紋鬼灯丸』が二つ。

 

「「プッ!」」

 

 互いが口の中が歯と擦ったことで出来た傷の血を吐き出す。

 

「やるじゃねぇか! 流石はオレだ!」

「テメェこそな!」

「褒め言葉と取っておくぜ!」

「良いぜ! 褒めてんだから、よ!」

 

 ドッ!

 

 二人の拳が互いの拳を相殺した今、今度は蹴りがぶつかり合う。

 

「(しっかしどうしたもんか。 こいつが『オレ』と仮定して、このままじゃ埒が明かねぇ。 斬魄刀も早々に封じたがオレのも今は使い物にならねぇ。 それに、気のせいかこいつの方がオレより少しだけ戦い慣れているような気がする。)」

 

そのとおり。 けいけんがちがう。

 

 一角が感じたように、同じビー玉頭『相手の一角』は攻撃を受ける際に体の重心を上手く使って打撃を急所からずらしていた。

 

 その所為か、この二人の喧嘩はさながら『ケンカ屋VS元ケンカ屋カウンター特化したボクサー』の様だった。

 

 

 

 ___________

 

 更木剣八 視点

 ___________

 

 「「ハァーハッハッハッハッハッハッハ!!!」」

 

 ギィン! ギィンギィン

 

 クリークとゲンドウ更木たちの狂ったような、愉快な心の奥底からくる笑いと彼らの斬魄刀が激しくぶts(以下略

 

「(チィ! 『オレ』だけあって強ぇのは期待通りだが────!)」

「────どうしたぁぁ?! そんなもんかよぉぉぉ────?!」

「(────こいつ、霊圧が半端じゃねぇ!)」

 

 …………………………………………………………いや、よく見ると一角の状況に似ていた。

 

『髪を更に伸ばした更木』が更木を僅かにだが押していた。

 

「(だが、()()()面白れぇ! つまりは()()()()()()()()()()()()()ということだ!)」

 

うん。 そう。 ぜんりょく。

 

 更木の笑みは更に深くなり、彼の攻撃は一層激しさを増したことで『髪を更に伸ばした更木』の笑みも深まっていった。

 

 それはまるで、互いの全力をぶつかり合うことができる子供の無邪気なようなものに似ていた。

 

 

 ___________

 

 雛森桃 視点

 ___________

 

「「『飛梅』!」」

 

 シュボォン!!!

 バシュン!!!

 

 極大の火の玉が互いにぶつかり合い、その余波の音が鳴る間に鬼道が反鬼相殺(はんきそうさい)する音が響く。

 

「そこをどいてください!」

「ダメです! ここは、貴方が退くべきです!」

 

 本来(原作)の雛森ならば戦闘中とはいえ、『何故』と訪ねていたかもしれない。

 

 特に自分と容姿が髪型以外瓜二つの相手ならば、そのことも含めて聞いていたかもしれない。

 

「『鎖条鎖縛(さじょうさばく)』!」

 

「ッ!」

 

そのまま。 とまどっている。

 

「(行ける! 相手が誰であろうと、邪魔をするのなら倒す!)」

 

 だが雛森は間髪入れずに、次の鬼道を詠唱破棄で行使したのは『雛森(?)』にとっては予想外だったらしく、鬼道を躱したところで次の行動に移っていた。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 チエと一護、そして山本元柳斎は走り、突然現れた者たちが背後で上記の争う衝突が起きる前に進んでいたことで、背後から衝突音が聞こえていた。

 

「後ろに控えてもよいのじゃぞ?」

 

「冗談。」

 

「この兄弟子に────」

「────チエ、これを」

「────聞けやコラ。

 

 ちょっと(?)イラつく山本元柳斎を横に、一護はチエに注射器のようなものを渡そうとしていた。

 

「マユリの野郎が治療薬だって────」

「────お前が持っておけ。」

「そっか。」

 「儂の方が長く知っておるのに……」

「ほい、爺さん。」

 

 ポイ。

 

「ぬわっとととと?! こンのバッカモンが! 急に投げるでないわ!」

 

 チエのバッサリと切って捨てるような物言いに一護は嫌悪感を覚えることなく、それを山本元柳斎に今度は渡す(投げる)

 

「二人は仲がいいのか?」

 

「「どこが。」」

 

 ドォン! ズドォン!

 

 三人が走るのは何も廃墟と化した空座町の上だけではなく、先ほどから『三号』が重力か何かを操って半分水没した瓦礫などが飛来し、彼らはそれを逆に足場にして追いつこうとしていた。

 

「陛下。」

 

「「ロバのおっさん。」」

 

「ングフ!」

 

 彼らの背後から近づいてようやく追いついたロバートの呼び方を聞いた山本元柳斎は口を手で塞ぎ、ロバートは彼らを正すような素振りを見せなかった。

 

 笑いを堪えようとする山本元柳斎を気にもしないような様子から諦めたのだろう。

 

「そういや聞けなかったんだけどよ、アンタ達────」

「────おしゃべりはそこまでせよ」

 

「な?!」

 

 山本元柳斎の両目が開かれて見た先には一人の男が前方にいて、彼を見たロバート達の誰かが上記の驚愕に満ちた声を出していた。

 

「重国。」

 

「なんでしょう、師匠?」

 

「任せる。」

 

「うむ、任された。」

 

「行くぞ、一護。」

 

 そう言うチエはそのまま走ることを辞めずに進み、一護は横目でモジャモジャのモミアゲをした男をどこかで見たような違和感から思わず通り過ぎるまで見入った。

 

 

 

 

「(なんか、『斬月のおっさん』に似ているな?)」

 

 一護はそう考えながら再度前を向いて知恵の後を走る。

 

 ___________

 

 山本元柳斎 視点

 ___________

 

 上記の様に戦っていた者たちとは少し距離の空いた場所に、背中部分に『一』と書かれた隊長羽織が遠くの戦いや衝突の爆風に沿って宙を舞う。

 

 山本元柳斎は一護たちと別れ様に隊長羽織を脱ぎ捨て、鞘から抜いた『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』を手にしながら眼前の者を開いた両眼で見ていた。

 

「千年ぶり、と言ったところじゃのぉ?」

 

「老いたな、山本重國(やまもとしげくに)。 だがその闘気は若き日にも重なって見える。」

 

「ぬかせ、()()()()()()。」

 

 山本元柳斎の前に立っていた『凄いモミアゲの男』(三月命名*2)────ユーハバッハが立っていた。

 

「な………………ぜ…………」

 

 この景色を見たロバートを含めた元星十字騎士団たちにとって、これは『驚愕』を通り越して『戦意喪失』へと直結させ彼らの進む動きを止めるに至った。

 

 何せ自分たちが『居なくなった』と思われた頭領が目の前に現れたのだから。

 

 現にスピードが売りだったハズのロバートは足の力が抜けたのか、股を地面に着けていた。

 

「(……ふむ?)」

 

 だがかつての宿敵を前にした山本元柳斎はただ冷静にユーハバッハを観察していたところで、小さな違和感に気が付く。

 

 それは────

「(────部下を軽んじる悪辣な態度から……ではないな。)」

 

 山本元柳斎は背後で様々で複雑な感情で立ち尽くした滅却師たちを見る。

 

「(こやつにはまるで()()()()()()()()()。)」

 

 このことは横を一護たちが素通りしたところから違和感を生んでいた。

 

 最初こそ『眼中にない』といった気持からの行為と山本元柳斎は思っていたが、それでも強者であればあるほど、無関心でも一瞬の警戒ぐらいは無意識にする筈。

 

 それが新手の観察や力量を図るためとはいえ。 

 そしてそれが目の前の男からは全然感じ取れなかったのだ。

 

 ユーハバッハは剣の形をした霊子兵装を手にすると、山本元柳斎は刀を両手で構えた。

 

「(じゃが関係ない。 さっさと終わらせ、藍染たちの全てを今度こそ終わらせるだけじゃ。) 卍解、『残火(ざんか)太刀(たち)』。」

 

 そう彼が言うとさっきまで蒸し暑くなっていた大気がスンと乾いていき、刀身を覆っていた炎が消えて代わりに黒く焼け焦げながら煙を出す刀身になっていた。

 

「『残火の太刀』は炎の全てを一刀に封じ込めた卍解。 一度振るったが最後、斬るもの全てを爆炎で焼き尽くす豪火(ごうか)の剣。」

 

いっきにおわらせる。

 

「何故ここにお主が出てきたのかは知らんが、一振りで終わらせるぞユーハバッハ。 現世から穿界門を通って来たここは恐らく尸魂界のどこか。 故に尸魂界も儂も燃え尽きる前に終わらせる……『残火の太刀“北” ────』」

 

 ここで山本元柳斎はハッとする。

 

「(なんじゃ、これは? 儂は……()()()()()?)」

 

 彼を襲ったのはデジャヴにも似た、本能が叫ぶ感覚。

 

 それは熟練の戦士であれば『直感』、あるいは『虫の知らせ』の類での『何かを見落としている』という警報。

 

 それを山本元柳斎は気付いたからには一度体勢を立て直す為に動こうとしてまたも違和感を持つ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()のだ。

 どれだけ力を入れようにも、腕も足もがまるで脳からの信号を拒絶するように彼は動いていた。

 

「────『天地灰尽(てんちかいじん)』。」

 

いっきに、おわった。

 

 

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

「ようやく、私の前に立ったか。」

 

 マイさんに見た目だけ似ている『三号』とやらが冷たい声で、そう俺と横にいるチエに話しかける。

 

「それで私を斬りつける気?」

 

 彼女の目線は俺の両手に構えられた天鎖斬月に向けられる。

 

 いつもの俺なら『そうだ』とか『当たり前だ』とか啖呵を切っているが、今の状況だけにただ無言でいた。

 

「終わりだ。 お前が『三号』でも、『三月』だとしてももう関係ない。 お前を、殺す。」

 

「ふぅん? ……それ、殺せないフラグを立たせているわよ? 知っている?」

 

 俺の脳裏を過ぎったのは旗……を掲げる巨大メカを操る無口な少年。

 ………………あまりのドタバタ連鎖で精神的に疲れているのか?

 それでも俺は喋っている奴から目を離さないが。

 

 

「ま、それは良いわ。 ()()()()()()()()()

 

『三号』とやらの言ったことに無意識に体に緊張が走る。

 

『やってしまえ』。

 つまり、近くに奴の味方をする奴が動くはずということ。

 あるいはブラフで注意を散漫にさせるのが目的。

 

「カッ」

 

 横のチエから珍しく何かを吐き捨てるような声が聞こえ、何事かと横目を思わずやってしまったその時だった。

 

「ぇ」

 

 吐息を吐き出す流れにそんな気の抜けた声が喉を出る。

 

 耳朶を襲う心拍音が横目で見た光景で音量を増していく。

 

『嘘だ』と言いたいが為に視線を、意識を恐る恐ると横へと向けながらも理性が『見るな!』と叫ぶ。

 

 周りの音は心臓の鼓動だけに埋め尽くされたその時、俺はもろに横を見た。

 

 パクパクと何かを言っているはずのチエ。

 

 彼女の胸に突き刺さった黒い刀。

 

『天鎖斬月』だ。

 

 そして────

 

 ────それを掴んでいた、何か青い色をした血管のような模様が浮き出た()()()()

 

 全てがシンと静まり返る。

 少なくとも、俺の耳から脳に音は伝わっていなかった。

 

 ただただ馴染みの胴体を横からさして自分の体を信じられずに見ていた。

 体感では何分にも感じたそれは、おそらく何秒間にも至っていなかっただろう。

 

「なん、だ」

 

 周りの音と時間が再開したのはようやくカラカラになった喉から俺自身が意識して出した言葉が聞こえた頃だった。

 

 何故なら丁度その時に、俺の腕が独りでに『天鎖斬月』を横へと突き刺さったまま動かした。

 

「どうなっている?! どうしてだ?!」

 

「グッ……」

 

「どうして俺は斬った?! どうして俺の腕は言うことを聞かねぇんだ?!」

 

 俺は自分の左手で『天鎖斬月』を握っていた右手を掴んだ。

 

 もうすでにチエを斬った後だというのに、これ以上勝手に動かないように。

 

「ッ」

 

 ドッ!

 

「ぐぇ────」

 

 自分の言うことを聞かない右腕を見ている間、誰かが蹴りを入れてお腹が圧迫されたことでまたも気の抜けた声が出る。

 

 その『誰か』ってのも、見慣れたブーツを見ればすぐに正体は分かった。

 

 俺は自分を蹴った馴染みへと見上げると俺の方へとを向いていたチエの近くに『三号』って奴が一気に距離を詰めていて、馴染みの横顔に手をかざしていた。

 

 見た目はマイさんに似ているとしても、あの人が決して見せないような妖艶で、邪悪で、勝ち誇ったような、歪んだ笑顔をしながら。

 

「────勝った。」

 

『三号』の奴がボソリと、ほくそ笑みながらそう言うと俺の腕は既に『天鎖斬月』を振ってチエから距離を取らせる。

 

 ガクッ。

 

「お、おい!」

 

 地面を見ると、まるで眠っているかのように瞼を閉じながら項垂れるチエに声をかけるが聞こえた反応はなく、目の前の女性に視線を戻して睨む。

 

「テメェ……何をした?!」

 

「生きているわよ、ちゃんと。 ええ、『生きている』わ。」

 

「どういうことだ?」

 

「ああ、内容については私も知らないわ。 一応は数ある多次元でも『念願成就の世界線』だもの。」

 

「(『生きている』って……まさかそのままの意味か? けど体がここにあるってことは……)」

 

「今頃彼女はどんな記憶をたどっているのかしら? 貴方たち人類の味方をするふりを維持しながら誘導しているのかしら?」

 

「(ふり……だと?)」

 

「あ! それとも復讐に世界の全てを殴殺しているところかしら! 今まで見せていた、偽善なんかよりもよっぽど自然的ね! そう貴方たちも思わない?!」

 

『三号』が俺の背後へと視線を移すと同時に、数人の気配が感じ取れた。

 

「まさかこんな形でオレ達が活用されるとは……」

「まぁ、カリンの気が重くなるのは同感です。 面倒臭いです。」

「でも……それが役目ですから……」

「「クルミの代わりに?」」

「クルミ姉様の代わりに。」

 

 知人たちの声が聞こえてわずかに頭を回してみると予想通りにカリン、リカ、そして現世で井上(織姫)と一緒にいたはずのアネットがいた。

 

「分からないわね。 貴方たちでは()()()()()()。 これは通りよ?」

 

「ええ。 貴方の言う通り『勝てない』でしょうね。 ですが────」

 

 リカが珍しく袖の中から手を出して眼鏡をかけ直す。

 

「────『相打ち』ぐらいには持っていけるでしょう?」

 

 空気がピリピリとしていく中、『三号』は笑みを浮かばせながらも自分の頭皮を髪の毛ごと掻きむしる。

 

「分からない。 理解できないわ。 なんでそこまで肩入れできるの? どうせ皆死ぬのなら同じでしょ?」

 

「そうですね。 皆、いつかは死にますけどタイミングぐらい自分で決めさせたらどうですか?」

 

「無駄よ、無駄なのよ! 無駄無駄無駄無駄無────!」

 

 フッ!

 

 どこか錯乱する狂人のような声を出し始める『三号』の頭上にいつの間にかツキミが殴るように腕を振りかぶっていた。

 

「『気配遮断(A+)』と『敏捷A』なめんなや────!」

 

 ガシッ!

 

「────って、うっそやろ?!」

 

 ゴッ!

 

 ツキミが驚愕するのは無理もない。

 人型であるが故の、完全に死角となる頭上から『三号』を襲ったはずのツキミを、『三号』の体は完全に人間の可動域を無視したように頭を上げて目を合わせ、ツキミの突き出した手刀を片手で掴んで引き込み、もう片方の手でツキミの顔を殴っていた。

 

 それが合図だったかのように、カリンたちが一気に様々な角度などから襲う。

 

アッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!

 

「一護。」

 

「っと……三月、か?」

 

 背後にチョコンとチエの顔覗き込むようにいたのは俺の知る三月────より若干若かったような気がする。

 

「お前、縮んだか?」

 

「うっさい。 出力不足なんだから勘弁してよ。」

 

 三月はペシペシと知恵の頬っぺたを叩く。

 

「ほら、チーちゃん起きて。 でないと私たち全員が危ないわ。」

 

「…………………………やっぱそうなのか?」

 

 俺もそれとなく三月の隣でしゃがむと彼女は頷く。

 

「うん。 リカの言ったように『相打ち』なら出来る……と思う。 けど被害がどれだけ出るかわからないからチーちゃんが必要になる。」

 

 先ほどから視線をずっと話さない彼女につられて、俺も寝息をするチエを見る。

 

「(一体、どんな夢を見ているんだろう?)」

 

 場違いにも、そう思っていたのは果たして俺だけだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 チュン、チュチュン。

 

「……あさ?」

 

 小鳥の囀る音を聞き、小学生ほどの幼い()()()()()()()の髪の毛をした少女が瞼を開けるとその()()()の目をパチパチと瞬きをしながら腕を上げてストレッチをする。

 

「う~~~~~~ん!」

 

 そのまま少女は布団の中から出て窓を開けると温かい日差しを入り、農村地域を思わせるような景色が広がっていた。

 

 農村と言っても現代の様に道は整備されたもので、ところどころには何か現代よりも高度な技術を使った電柱や建物などがチラホラ見えていた。

 

 そのまるで一昔前の技術と未来のモノが入り混じった景色は本来、アンバランスさを感じさせるがこの光景はどちらかというと『一体感』を感じさせていた。

 

 それはまるで文明が発展したにも関わらず自然が蔑ろにされず、そのまま歴史が進んだハーモニーのある世界。

 

「はぁ~……ん? あ!」

 

 少女は憂鬱な溜息を出したが、何かに気付いたかの声を出して笑顔になる。

 

 寝間着姿のまま少女は部屋を出て玄関を飛び出すと、丁度四枚の翼がついた絨毯のようなモノがバサバサと音を出しながら着地してはその背中から男女二人が飛び降りて、絨毯はそのまま宙へとまた戻っていく。

 

「お帰り、お父さん! お母さん! 早かったね!」

 

「ただいま、■■。」

 

 男性が名前を言ったとたん、ノイズがかかったような音が聞こえる。

 

「思ったよりも旅路がスムーズだったの。 だからこれからはずっと一緒に居れるわ、■■。」

 

 女性の声も、少女の名前らしき言葉を言うとノイズがかかる。

 

 だが少女はパァっと、一輪の花が咲いたような笑顔を浮かべる。

 

「ほんとう?! わぁ~い!」

 

 笑顔はそのまま太陽の様に、ニコニコとご機嫌なモノへと変わる。

 

 胸の温かさを感じながら。

*1
136話

*2
42話より




余談でどうでもいいかもしれませんが、最後の方の文章のイメージソングは『アルニ村 ホーム』を聞きながら書きました。


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第170話 Could Have (Not) Been

お待たせいたしました、短めですが次話です。

いつもお読み頂きありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。


「じゃあ、いってきます!」

 

「いってらっしゃい」

 

「気をつけてね?」

 

「うん!」

 

家の玄関先から少女は両親に見送られ、自転車に乗って出る。

 

シャァァァァァァァ。

 

「♪~」

 

少女はリュックを背中に背負い、ご機嫌に自転車を川沿いにある道の上を走らせていた。

 

その容姿は年相応の無邪気さ、あるいは世間をまだあまり知らない様子。

 

それもそう。

 

いつもはバタバタとして自分の周りに長らくいなかった両親の幼児が終わってのか、預けられていた遠縁の家から家族一緒になり、住み始めて数か月。

 

『はい、皆席についてー。』

『転校生?』

 

『今日は新しいお友達を紹介します。 では■■さん、みんなに挨拶を。』

『えと……よ、よろしくお願いします。』

 

『『『『『『あ、チョー可愛い。』』』』』』

 

それが少し前の事だったのだが、家族と国のゴタゴタが収まり学校への登校も()()でき、毎日が真新しかった。

 

それが少女にとっての『普通』になりつつあった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「はぁ~、だる~い。」

「ねぇ~?」

「つかマジで牛乳だよな、これ?」

「つくえン中に入れっぱなしの奴な!」

「くさった牛乳の方がはくりょくあるぜ!」

 

昔ながらの初等部らしき教室の中で子供たちは教室の床用のワックスがけに対しての素直なコメントなどを互いに投げかけている間、ライトグリーンの髪をした少女はせっせと黙々とモップを使っていた。

 

「ねぇ~、■■もそんなにだまっていないではなしぐらいしようよ~」

 

「だ、だってしないとだめだし……」

 

「まじめすぎ! 疲れるよ、そんなんじゃ?!」

 

「え? そ、そう……かな?」

 

「そうだよ!」

 

「…………そうだね!」

 

少女は自分の手に握られたモップを見て、クラスメイト達の輪を互いに見てから彼らに駆け寄ると不意に耳鳴りがなる。

 

『チーちゃん!』

 

彼女はキョトンとして周りを見渡すとクラスメイト女子の一人が声をかける。

 

「どうしたんだ、■■?」

 

一人の少年が心配するような声を少女に掛ける。

 

「ぇ、あ……ううん! なんでもない!」

 

「よ! □□! 真昼間からいいよるなんてさすがだな!」

「よ、勇者!」

 

「うるせぇぇぇぇ! そんなんじゃねぇ!」

 

「(空耳……かなぁ?)」

 

少年が他の者たちにからかわれている間、少女は?マークを飛ばしながら窓の教室から平和な街並みを見てそう思う。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

更に時は過ぎ去り、夏が近づいたころの様子で初等部の外には『自由参観日』の立て掛けがあった。

 

「見てみて、あれってアンタンとこのお母さんでしょ? チョーまるい!」

「だるまだよね、もう。」

「シィー! あれでもダイエットしている気なのよ!」

「うっわー、ヒョウ柄のジャケットに帽子って……うちのママのファッションセンス無さ過ぎ……」

「ええ~、いいじゃん全然。 てか■■のお母さんはどれ?」

 

「え? えっと、その……」

 

その中、急に話題が振られたライトグリーンの髪をした少女はと気まずくなったのかもじもじとする。

 

「まだ……きてない……」

 

少女が俯いてそういうと、教室の後ろで立っていた大人たちがザワザワし始め、子供たちの視線が自然とそちらへと向けられていく。

 

「お、おい。 あれ誰だよ?」

「うわぁ……すっごい綺麗!」

「髪、長ぇな。」

「サラサラしてそう。」

 

入ってきてのは『綺麗』を通り越し、まさに非の打ち所がない『美』を実体化させた、ニコニコとした和服姿の女性がいた。

 

「あ、お母さんだ。」

 

「「「「えええええええええ?!」」」」

 

その人物を見て、上記の言葉をあっけあらかんに言った少女は周りの者たちの驚愕したことを構わずに机から立ち上がって近づいた。

 

「……来られたの?」

 

「はぁ~い、来ちゃった♪」

 

「しごと……あったんじゃ────?」

「────抜け出してきちゃった♪」

 

女性は悪戯っぽく舌を出しながらそう言うと。少女は自分の胸が暖かくなるのを感じ、視線と表情が笑顔になっていく。

 

「……そっか!」

 

さっきまで気後れ気味の少女が母親同様にニコニコしだすと、余りの眩しさ故か場の微笑ましさに周りの者たちは瞼を優しく細めた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「「「「イェーイ!」」」」

 

更に時は移ろったのか、少女や少年だったクラスメイトたちの体は見るからに成長していた。

 

それは子供特有の、幼さの名残を残しながら発展途上の容姿。

 

彼女はほこほこした心で周りを────

 

『チーちゃん、戻ってきて!』

 

「────イ、痛い?!」

 

少女は持っていたものを落とし、突然襲ってきた頭痛に思わず頭を抱えた。

 

「あ、■■ちゃん!」

「どうしたの? ()()()()頭痛?」

「収まるまで肩、みんなで貸してあげよう。」

 

彼女の調子がすぐれなかったことに気付いた者たちの物言いから察するに、このような頭痛は時折少女に起きているようだった。

 

『チーちゃん!』

 

「(うるさい! ()()()())」

 

ただし、いつもは頭痛が自然に収まっていくのを少女は待たずに強い拒絶の意思で無理やり抑え込もうとした思いをすると、スゥっと痛みが引いていく。

 

「……ありがとう。 もう大丈夫。 平気!」

 

やがて少女は手を頭から離し、笑顔になりながら周りの知人たちに感謝の気持ちを伝えた。

 

 

 


 

 

 

___________

 

??? 視点

___________

 

「ガッ?!」

 

三月の頭は突然殴られたかのように後方へと弾き飛ばされそうになるのを、気を失ったチエを抱き上げていた腕に力を入れて反動を相殺する。

 

「大丈夫か?!」

 

「ぁ……だい、じょう────」

「────ぶな訳ねぇだろうが?!」

 

一護を安心させるような言葉を言おうとした彼女の目と耳、そして鼻から血が出ていたので『口から出まかせ』だったのは明らかだった。

 

「(頭が、クラクラする。)」

 

三月は朦朧とした意識で体から力が抜けそうになるのを気合いで無理やり意識を引きとどめながらチエを一護へと預けてからやっとここで自分の頭から流れ出ていた血が地面へと滴ることに気が付いた。

 

「(血が……これほどまでの拒絶を受けるなんて……) い、ちご。」

 

三月が拙い言葉遣いのままフラフラと立ち上がる。

 

「彼女、を……貴方が呼び戻……して。 私じゃ、多分……ダメなんだ。」

 

「え?」

 

三月はさっきから『三号』に攻撃を続けるもあしらわれるカリンたちのいる場所へとフラフラのまま、歩き出す。

 

「お、おい────」

 

「────おね、がい。 (それでも、もしも彼女が……戻らなかったらと、()()()()()()()()()……()()()()()()()……)」

 

三月自身気付いては居ないだろうが、彼女は先ほどからブツブツと独り言のように口を動かしていた。

 

「(()()()()()()()()()()()()……)」

 

まるで、何かに囚われていたかのように。

 

「(そうよ。 この状況で持ちうる全てを使わずに、いつ使うというの?)」

 

徐々にかすんでいた視界も回復していき、目の前で繰り広げられる激闘に身を投じようとしたところで足を止める。

 

「……皆、私に力を貸して。」

 

三月の小声がまるで聞こえたかのように、カリンたちの各々が『三号』と相対しているにも関わらず、ピクリと反応してから行動を再開する。

 

『(待ちくたびれたぜ。 オレはどうすりゃ良い?)』

『(カリンはそのまま粘って注意を出来るだけ引きながら最低でも大技(宝具)が使える状態を維持。)』

『(あいよ。 あとランサー(クー・フーリン)が“相変わらず人使いが荒いな嬢ちゃん!”だとさ。)』

『(言いたい放題なのだわ。)』

 

『(ボクは?)』

『(リカは極大の“圧迫(アトラス)”展開を用意して。)』

『(対象は……聞くまでもないですね。 拘束時間の推定は?)』

『(()()()()()()()。)』

『(つまりボクに“死ね”と仰るんですね?)』

『(……ごめんなさい。)』

 

『(アネット────)』

『(はい何でございましょう上姉様?!)』

 

耳鳴り(頭鳴り?)がするほど元気良い、きゃぴきゃぴとしたアネットの返事に三月はしばしの間(数秒間)言葉を失う。

 

『(………………………………………………………………………………………………………………アネット。 貴方は今、“大技(宝具)”を使える状態?)』

『(必要とあらば。)』

 

さっきまでのほわほわした態度とは打って変わって

ドライ(公私はきっちりと分ける)なアネットの声だけが返ってくる。

 

『(なら、それを全身全霊で然るべき時に使って。)』

『(…………………………………………………………………………)』

『(後で私のことを好きにしていいから。)』

『(了解しました上姉様!♡!♡!♡!♡)』

 

余りのギャップ感に三月は思わず立ち眩みしそうになるが、次の行動方針を伝えるために移る。

 

『(クルミ、マイ。)』

『(なんや? 今クソ忙しいねんけど?)』

『(そうねぇ~。 流石に片腕だと私の怪力は上手く発現できないわ~。)』

『(()()()()()()()()。)』

『(え。)』

『(はぁ~い。)』

『(マイ、軽すぎやろ?!)』

『(でもでも~、本体の事だから勝算あり気での頼み(命令)なんでしょう~?)』

『(それ言われたら同意するしかないやろが。)』

『(………………ごめんなさい。)』

 

 

 

 

 


 

 

「■■、頭痛は大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫だよ。 このところ、うんともすんとも無い。」

 

成長した■■の隣には同じく成長した□□の姿。

二人は少女と少年から青年へとさらに近づいていた。

 

「そっか。 そいつは良かった!」

 

□□がニカっとした笑いをしては■■はニコリとほほ笑む。

 

「それにしても、あれからずっと一緒ね。 すごい偶然。」

 

少女がニコニコしたままそういうと□□が気まずそうにそっぽを向く。

 

「そ、そうかぁ? ふ、普通じゃね? そ、それよりお前綺麗になったじゃねぇか。」

 

「??? ごめん、最後聞こえなかった。 今なんて?」

 

「な、なんでもねぇよ!」

 

「?????」

 

突然□□に怒鳴りつけられた■■は?マークを頭上に出しながら目を白黒させる。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「俺と付き合ってくれ!」

 

「……激突だね?」

 

「もう随分と前からそれとなく言っていたつもりなんだが?!」

 

「…………………………………………えーと?」

 

こうして時折□□が■■に対して素直ではない誉め言葉などを二人が成人間近になってまで続けていたが一向に関係の進展がなかったことにしびれを切らした様子。

 

「つまりその……『付き合う』って?」

 

「そりゃその………………一緒にいたり? 食べに行ったり? 二人でどっか行ったり?」

 

「今までやっていたことと何が違うの?」

 

「んぐ……」

 

■■の純粋な質問に□□が口をつぐんだ。

 

「だから……その……ゴニョニョとか……」

 

「ごめん、今のをもう一度────」

「────だ、だから! 俺が言いてぇのは! 結婚を前提に付き合ってくれ!」

 

「……………………………………………………………………………………あ、はい。」

 

ポカンとした■■はそのまま了承の言葉を告げる。

 

「だ、だよな~。 そんなすぐ返事────え。」

 

今度はポカンとする□□に対し、少女はもじもじしながら頬を赤らめさせる。

 

「いい……のか?」

 

「その、えと、良いとか悪いとかより嫌じゃないからというか私は何を……」

 

まさに『青春』を絵にしたような空気と様子の二人だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

ピィーピィーピィーピィーピィーピィーピィー。

 

社会人ならば、誰もが憎む電子音が暗い部屋の中でベッドスタンドから響く。

 

「う……むぅぅぅぅぅぅ。」

 

唸り声にも似た女性の声がして、バシッとベッドスタンドの上にあったアラームをたたいている間にベッドから成人した□□が出てカーテンを開ける。

 

「うお~、眩しい……」

 

「う~、灰になる~……」

 

ベッドの毛布の中で■■がもぞもぞとする。

 

「いや、吸血鬼じゃあるまいし。 ほら、起きろ。 今日はあのでかいタワーを上るんだろ?」

 

「んあー、そうだった~。 □□は今日も元気ね~。」

 

低血圧だったのか、■■は気の抜けた声と共に出かける支度をする。

 

『チエ、起きてくれ。』

 

「ああ、もう。 起きてるってば~。」

 

「あれ? 急にどうした?」

 

□□が?マークを出して■■を見る。

 

「『急に』って、『起きろ』って言ったんじゃ?」

 

「いや? 俺は何も言っていないぞ? うお?! 時間だ! すまん、先に出ている!」

 

□□を見送った後、■■は目をパチクリとさせながら困惑していた。

 

「(さっきのは何だったんだろう? なんだか、懐かしいような……でも聞いたことがない声。)」

 

『お母さーん! 起きてー!』

 

「今起きるー!」

 

部屋の外から少女の声がしては■■が答え、さっさと私服へと着替えてから部屋を後にする。

 

ベッドの近くにあるドレッサーの上には様々な写真が置いてあり、時間帯は幼い子供のころから今の成人した時までを写し、そのどれもがとある共通点を持っていた。

 

それは全ての写真が祝福(笑顔)に満ちていたこと。




知人と彼の家族がコロナにかかったとの連絡が入り、あまり筆記に時間が取れず大変申し訳ございません……


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第171話 Bypass (Could Have Been) Days

お待たせいたしました、カオスですが次話です。

あと少々のグロ描写がございます、ご了承ください。

いつもお読み頂きありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「こっちや!」

 

「ちょこまかと逃げ足だけは速いわね?!」

 

「そらおおきに!」

 

「やっぱり関西ですね。 煽り方が上手いです。」

 

 「関西もへったくれも関係ないわアネットォ!」

 

「せい!」

 

 先ほどからツキミとアネットはヒット&アウェイを繰り返す中、カリンが牽制の為に横から槍を振るう。

 

 ガシッ!

 

「うお?! 放しやがれ!」

 

 だがまるで目が頭の後ろにもあるかのように『三号』は槍を躱し、カリンの腕を掴む。

 

()()()()。」

 

 ブチブチブチブチブチ!

 

「ギ────ゴフ!?」

 

 肉と腱が千切れる生々しい音と今までに見たことのない、青白く変わったカリンの顔色を浮かべる頭に蹴りが入れられ叫びが中断される。

 

「え、ちょ、待って────グェ。」

 

 ドムッ!

 

「(アカン、こいつ『()()()かそれに近い状態』って疑うぐらい強い!)」

 

「(『相打ち』に持って行けるかどうかも怪しいですね。)」

 

 ツキミとアネットは反対側の左肩から先を失くしたカリンがリカと衝突し、二人が飛ばされるのを無視するかのようにそのまま『三号』へと攻撃を続ける。

 

「さぁ、ゆっくりと時間をかけて四肢をもいであげる────ッ!」

 

 ゴッ!

 

『三号』は上記の二人へと開き直るとカリンと選手交代するかのように、鉄筋入りコンクリートをハンマーのように両手で握った誰かがフルスイングで『三号』の体を殴る。

 

『三号』はそのままの勢いで吹き飛ばされ、近くのがれきの中へと突っ込んでいく。

 

「これで終いやったらどれだけ楽か。」

「それは言わないセリフ(フラグ)よ、ツキミ。」

「せやな。」

 

 新たに表れたのはマイを数年若くしたような女性────

 

「────私としてはちいs────()()の上姉様が好みですが、仕方ないですね。」

「スッゴイ複雑な気分。」

 

 ドゴォン!!!

 

 ゴキゴキゴキゴキゴキ。

 

アッハッハッハ! いいわ、いいわ、いいわぁぁぁぁぁ!!!

 

 瓦礫の中から未だに笑みを仮面の様に浮かべた『三号』は異質な方向へ曲がった首を両手で戻しては瓦礫を飛ばし、彼女と対峙するためにツキミとアネットは機動力を活かしたトリッキーな戦法を続ける。

 

 明らかな時間稼ぎだったのは一護にも伝わり、ダメ押しの様に三月(青年)が彼をちらりと横目で見たので彼はハッとする。

 

「(見入っている場合じゃねぇ!) おいチエ!」

 

 一護が視線を腕の中で寝息をするチエの方へ向けると意識が遠くなるような、あるいは何かに引き込まれていくような感覚に陥る。

 

「(クッ……なんだ、これは?)」

 

 だが彼は息が詰まりそうな(懐かしいような)気を失いそうな(苦しいような)気分を気合で乗り超え、そのまま彼女の名前を呼びながら体を揺する。

 

「チエ、起きてくれ!」

 

 


 

 ___________

 

 ■■ 視点

 ___________

 

「【窓】。」

 

 ベッドから立ち上がり、寝間着から着替えながら窓を開ける言霊(コマンド)をすると壁がスゥっと外の景色を見せる。

 

 外には境界線まで広がる畑で、中でも黄金色でそよ風に揺れる麦が海の波の様だった。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 外の景色に魅入られた途端、屋敷が静かに横へと数秒間だけ揺れる。

 

「何、今の? 『今の揺れ』、『報道』。」

 

 そう誰にとも向けていない疑問をしながら言霊(コマンド)を口にすると立体映像のテレビが窓の一部分に移る。

 

『────先ほどの小さな揺れに関しましては“龍脈に使う魔法の力を見誤ってしまった”との報告と謝罪の皆が皇国の魔法師団から────』

 

「(────ああ。 なんだ。)」

 

 そう思いながら服を着替え終え、一階へと出てくると────

 

「────あ! お母さん、おはよう!」

 

 そこにはテーブルに座り、足をブラブラさせる愛しい娘がニコニコしながら朝食を食べていた姿があった。

 

「ああ、ごめんね今日遅く起きて。 朝ごはん作るの大変だったでしょ?」

 

「ううん、全然! お母さんもお父さんと夜遅くまで話していたんでしょ?」

 

「……ウン、ソウダネ。」

 

 ■■は一瞬だけ硬直してからコーヒーを淹れながら上記の言葉を棒読みでいう。

 

「アハハ! 銅像みたいだ!」

 

 まさか自分の娘が言った、『弟か妹が欲しい!』の願いをかなえるために夜遅くまで起きていたと■■は言えなかった。

 

「ん? この山みたいな調理器具は……」

 

 ■■が見たのは明らかに後片付けを面倒臭がった(証拠)

 

 ギクッ。

 

「な、な、な、何のことかなぁ~?」

 

 そしてギクリとしながらそっぽを向く■■の娘。

 

 これで■■は察した。

 

()()()、朝ごはんを作ってくれたのは嬉しいけれど()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「あい、ごめんなさい……」

 

 そこで■■の娘────イチネはシュンと畏まりながら唇を尖らせた。

 

 そんなイチネを見た■■はムスッとした顔を崩し、イチネの肩に手を置いてから微笑む。

 

「そこまで落ち込むことはないわ。 ただ、『ごめん』で済まないモノがあるからそう言っただけ。 それが────」

「「────『義務』。」」

 

 ■■と声がハモリ、イチネは目をここで合わせた。

 

「いっつもお母さんが言うことだもん。 でも誕生日プレ────あ。

 

 イチネは言いかけていたことを両手で口を覆って遮り、■■は目を細める。

 

「ふぅ~ん? その続きを言ってもいいわよ? 今年は何をお父さんと企んでいるのかしら?」

 

 イチネは口を覆ったままフルフルと首を横に振るい、母親に似た長い髪の毛をなびかせる。

 

「今日の朝、お父さんはいつもより上品な服を着たわね? 明らかに仕事行きじゃないわ。 それに今の季節にしては温かいほどの厚着だったし……」

 

 ■■は自分が言い続ける度にイチネの顔と背中に汗がダラダラと流れていくのを見て、内心ホッコリするのだった。

 

「ね、ねぇお母さん?! は、早くしないと『トビウサギ』が取れなくなっちゃうよ?!」

 

「あら、本当ね。 じゃあさっさと食べて出ましょうね? 『サプライズプレゼント』の場所に♪」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「(ニコニコニコニコニコニコニコニコ。)」

 

「ううう~~~~~~。 お母さんのイジワル……

 

 翼が付いた絨毯(トビウサギ)から降りたイチネはげんなりとし、その反面気も姿である■■は肌のツヤが増していた。

 

「よ、よぉ! こんなところで二人に会うなんて奇遇だな!」

 

 □□がぎこちない、明らかな大根役者のように振舞うがぐったりと項垂れるイチネを見ると道中に母親の■■が何をしたか察したかのような気まずい顔をする。

 

「あ。 あー……もしかしてバレた?」

 

「うん……」

 

「まぁ……勘がいいからな────」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 『チエ、起きてくれ!』

 

 イチネと■■が喋っている間、辺りはまたも地震のようにゆっくりと揺れて■■は襲ってくる頭痛に瞼を閉じて痛みが引いていくのを静かに待つ。

 

「ん? どうした?」

 

「……いいえ、なんでもないわ。」

 

 ■■はただ笑顔を浮かべてから夫と娘の二人と一緒に大きな高層ビルの中へと歩き出す。

 

 


 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 ドォ!

 

「グハァ?!」

 

 ほんの一瞬だけ速度を見誤ったアネットは顔を『三号』に掴まれてそのまま地面に叩きつけられる。

 

「(アネット!)」

 

 三月はよろけながら周りを見ると原型を保ったミニバンに目を付けて走り出す。

 

「まぁだ分からないのかな? 私が恐れていたのは彼女だけ。 彼女のいない貴方たちはもう死んでいる────」

「(────ぎゃああああああああ、それを言われる相手となるのは精神的にキッツイ! 『痛覚遮断』及び『怪力』常時発動!)」

 

 三月はコンクリートが剥がれて曲がった鉄筋を投げ捨てると、近くで横に倒されたミニバンを掴んではメリメリと前後に無理やり半分に引き裂き始めた。

 

 アネットは鎖のついた杭状の短剣を投げては新たに出現させ、周りに鎖の網を展開し、ツキミもこれを使って更に『三号』のかく乱を試みる。

 

「(『筋力B』でも……硬い!)」

「(やはり今の状態ではダメですか。)」

 

 だが攻撃へと転じる際に感じた手ごたえで、二人は自分たちが純粋に決定打にかけていることを悟った。

 

 「どっせぇぇぇぇぇい!!!」

 

 ドゴッ!

 

 そこへ先ほど半分に引き千切ったミニバンをボクサーグローブの様に装着した三月が『三号』を横から殴る。

 

「もう一発!」

 

 ドゴッ!

 

『三号』が近くの建物に打ち付けられ、砂煙がまだ収まらないうちに三月が追撃する。

 

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァ!!!」

 

 ドゴッドゴッドゴッドゴッドゴッドゴッドゴッドゴッドゴッドゴッドゴッドゴッドゴッドゴッドゴッ

 

 「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 三月は全く意図せずどこぞの漫画主人公の様に叫びながらただひたすら殴り、その度にボクサーグローブ(半分に割ったミニバン)がみるみると削られていく。

 

 その様子と必死さが一護に伝えていたのは今、誰が優勢だったのか。

 

 そしてそれは決して彼女側ではない。

 

「チエ! 帰ってきてくれ!」

 

 これを見た一護はチエの体をもう一度揺すって呼び掛ける。

 

「このままじゃ、ヤバいんだ!」

 

 


 

 ___________

 

 ■■ 視点

 ___________

 

 ■■と□□、そしてイチネが入っていったビルと周りの街並みは明らかに現代より進んだ技術を用いて建造され、それを見たイチネは目を光らせていた。

 

「うわぁ! すごぉ~い! 本当にお母さんこんなところから引っ越したの?」

 

「イチネもそう思うだろ? 俺もいまだに信じられねぇよ。」

 

 イチネと□□が■■を見ると彼女は苦笑いする。

 

「別に……本当は私の両親関連の職業だったし、どっちかというと名誉的な────」

 

 ────ゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 またも景色が揺れて■■は歩みを止めて回るをキョロキョロと見る。

 

 だが彼女以外に揺れを感じた様子はなかった。

 

「今の揺れ────」

「────ああ。 今のは地震研究所が何週間も前に予測していたぜ?」

 

「あ……そう、なんだ。」

 

 ■■はそう言い、□□のイチネと一緒にビル内のエレベーターに乗る。

 

 

 


 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 ガシッ!

 

「グッ?!」

 

「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 

 ゴッゴッ

 ゴッ

 ゴッ

 ゴッ

 ゴッ

 ゴッ

 ゴッ

 

「グッ?! ガッ?! アギッ?!」

 

 三月の勢いの乗っていたタコ殴りも突然顔を掴まれたことで強制的に中断され、彼女は『三号』によって近くにあった建物に何度も叩きつけられ傷を負っていく。

 

 さっきまで彼女と戦っていたカリンやリカは明らかに戦闘続行が不可能に近い状態で、アネットにツキミも気丈に振舞っていたが限界も近かった。

 

 それに対し、『三号』は余裕の表れか笑い、傷もさほど負っていないように見えた。

 

「最初は貴方たちで、次は世界……う~ん、このセリフ言ってみたかったのよねぇ~」

 

 満身創痍の三月を『三号』が首を締めあげながらそう高らかに宣言する。

 

「(マズイ。 あいつらも限界がきている! どうすれば……どうすればいいんだ?!)」

 

 一護は視線を三月たちに戻すと『三号』がただただ、いたぶる為の攻撃を続けていた。

 

「(このままじゃ……このままじゃ……皆が……)」

 

 一護は焦り、ついに一か八かの賭けに出る。

 

「……()()()。」

 

 それは彼がいつか、月光が照らす夜空の下で聞いた名前だった*1

 

 


 

 ___________

 

 ■■ 視点

 ___________

 

「あ、お爺ちゃん!」

 

「おおお、イチネ!」

 

 イチネは白髪が目立ち始める■■の父親とハグを交わす。

 

「それに□□くんも。」

 

「えっと……ご無沙汰しています────」

「────そう硬くなるな!」

 

「い、いや。 ですが……その……」

 

「俺はもう隠居した身だ、それに娘を泣かせてはいないし君も頑張って────」

『────ティネ。』

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 どこからともなく始まる頭痛とともに聞こえてくる声が今までよりクリアに聞こえてきた■■は痛みに瞼を閉じて顔をしかめると同時になんとも言えない、モヤモヤとした心持になる。

 

 次に彼女が目を開けると、■■は不思議そうに周りを見る。

 

「………………………………」

 

 そのモヤモヤとした気持ちは長らく彼女が持っていたもので、上手く言語にできなかったモノ。

 

「どうした、■■?」

 

「あ。 お父、さん……」

 

「頭、痛いのか?」

 

「その……()()()()がして……」

 

「お母さんみたいにか? お前も知っているだろう? 昔、お母さんもそう()()()()からお父さんと一緒に皇国の人たちに話をつけて結局は何もなかったって」

 

「…………………………………………そう、だね。」

 

 ティ■がはにかむと□□、イチネ、そしてティ■の父親が話に戻る。

 

 この団欒を彼女は見ながら独り言を零す。

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………()()()()()()()。」

*1
118話より



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第172話 Not Meant to Belong Here, On the Edge of (In)Sanity

大変長らくお待たせいたしました、次話です。

なるべく視点の切り替えを抑えてみました。

いつもお読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。

追伸:
全くの余談ですが今回書きながら聞いていたイメソンはBLEACHのサントラでした。
『Never Meant to Belong』、『Number One』、『Emergence of the Haunted』などなど。


 ___________

 

 三月・『渡辺』・プレラーリ 視点

 ___________

 

 ズズゥゥゥン……

 

 半壊し、水没しかけた空座町からひっきりなしに破壊音が響いては激化していく戦闘を語らせる。

 

 その間、様々な者たちの現状が見えた。

 

 カリンは両腕を失くし、頭部の包帯をほつれさせて横たわっていた。

 リカは身体の至る所をビルのさらけ出された鉄筋が突き刺さっていた。

 アネットは肩で息をしながらツキミと共に『三号』の隙を伺うことに徹し、身を潜めていた。

 山本元柳斎はユーハバッハの『滅却聖矢』に斬られ、深い傷を負いながら膝を地面につけていた。

 京楽と浮竹は良い様に『眼帯京楽』にあしわれ、他の隊長や副隊長たちも()()()()()()()に苦戦していた。

 

『例外』を除いて。

 

 例えば狛村の相手は斬魄刀を口に咥えた狼や、吉良に似た相手は明らかに普通の死神ならば死んでいてもおかしくない風穴を横腹に開けているまま応戦するなどといった、奇妙な光景が広がっていた。

 

 奇妙と言えば必ずしも相手が()()()()()()ではないという事も。

 

 例えばだが東仙要と志波一心の相手をしていたのは『志波一心言似た誰か』、など。

 

「(あー、逃避はここまでにしようかな?)」

 

 その中でも痛めつけられるような攻撃をさっきまでは受け流していたのも今では受け身になっていた肩で息をする三月の傷具合から見ても酷かった。

 

 特に意図して狙われていたのか、どうやって立っているのかが不思議なほどに左半身の足と腕はボロボロだった。

 

「(『痛覚遮断』と前に眼鏡(雨竜)オレンジ卿(竜弦)の言っていた『乱装天傀(らんそうてんがい)』の応用で何とか立っているけど……)」

 

 対する『三号』は流血しているものの、ほぼ擦り傷程度の軽傷だった。

 

「(やっぱり端末(インターフェイス)としての性能差があり過ぎ……あっちは元々私の持っていた『聖杯』に、記憶を観る限り藍染の卍解で顕現している。 対して私には()()()()も有限……時間を稼いで、自己修復をしないと────)」

「────本当、よく頑張るわね?」

 

「(しめた、チャンス!) 当たり前よ。 ()()()()()()()が私にはないわ。」

 

『三号』のからかうような、見下すような視線にキッとにらみを返す三月が反論のようなものを口から出す。

 

「分からない。 ()らないわ。 なぜそこまで『貴方』は頑張れるの?」

 

「『なぜ』って? 見てわからないのなら、貴方も寄り添えば良かったのよ。」

 

『寄り添う』という語を聞いた『三号』の眉毛が一瞬ピクリと反応し、三月のトゲ付いた言葉の意趣返し気味に歪んだ笑みを深める。

 

「それさえすれば、貴方だって(三月)の行動原理が解かるはずよ?」

 

「何を言うかと思えば……強欲さから平気で世界(環境)を蝕み、好き勝手に増殖を繰り返しては自分たちが生きる為ならば同じ種でも殺め、自己中心的な(ヒト)の何から見直せと? 彼らはやはり()()()なのよ。」

 

「確かにそうよね、()()は。 でも、それが『人間(人類)』全てではないわ。 それに、すでに部外者である私たちがどうこう言う権利はない()()()!」

 

「『部外者』、ですって? それならば、貴方(三月)だって名前と共に人格さえも借りて、仮初の生を生きているに過ぎない部外者。 それも質の悪いことに────

 

 

 

 

 

 ────()()()()()も。」

 

 ドッ。

 

 そういわれた瞬間、三月の耳朶に心拍音が直接届いたかのような音とお腹の底に重石がズドンと落とされたような感覚に陥った。

 

「ぁ……ぇ……」

 

 いつもならここでさらに相手を煽る、または自己問答をさせるような言葉(時間稼ぎ)を続けていた。

 

「貴方から得た『聖杯』の記録を暇つぶしに観たわ。」

 

 ドッ。 ドッ。 ドッ。 ドッ。 ドッ。

 

 だが三月の喉はカラカラになっていき、呼吸をする度にヒリヒリ感が増していく。

 

「貴方、『世界創造(運命の剣)』を不完全のまま行使したでしょう? ()()()()()()()世界で?*1

 

 耳朶を襲う心拍音によって『三号』の言っている言葉はかすかにだが聞き取れ、その度に三月の体中から噴き出す汗の量が増えていく。

 

『聞きたくない』。

()()()()()()()』。

 

 その様な気持ちが彼女の中で膨れ上がるが、『三号』は言を続ける。

 

「その時に『衛宮三月』という人格は()()()にも関わらず、残った残留思念さえも漏れていく『壊れかけの容器』に『正義の味方』なんていう思想を動力に、()()()()()()前の『自分』が撒き散らしたり面白がって静観した『不幸』を変えて『罪悪感』を紛らわし、人格が消費していく度に新しいのを騙し騙しで浮上させている貴方が何よりの『部外者』ではなくて?

 ねぇ? 『端末(インターフェイス)』に戻り、周りを『作り物の物語(ストーリー)』の背景と、『役割(ロール)を持った登場人物(キャラクター)』としか()えていない『私』?」

 

「…………………………」

 

 三月は口を開けては閉めることを、何度か繰り返す。

 

『“衛宮三月”は()()()()()()()。』

『周りを“作品とその一部”としか観えていない。』

 

 そのこと等に対しての反論を言おうとしたところで『三号』は更に追い打ちをかけた。

 

「何か勘違いをしているようだけれど……前回(Fate/Zero)も、前々回(Fate stay/night)でも上手くいったのは()()()()()が合わさっただけに過ぎないわよ? それと────

 

 

 

 ────前々回(Fate stay/night)イリヤスフィール(義妹)前回(Fate/Zero)遠坂凛(幼)(ポジティブシンキング)投影(トレース)してそのまま『彼女(遠坂凛)』をメインの人格とし、この世界(BLEACH)へと引き継いだ。 『彼女(遠坂凛)』の猫かぶり(演技力)優等生(あらゆることをこなせる)を基準に。」

 

 ここで『三号』の笑みは寒気を感じさせるようなモノへと変わる。

 例を挙げれば、獲物をいたぶる猫のようなモノ。

 

「ㇶュ、ㇶュ、ㇶュ、ㇶュ。」

 

 それもあってか三月は『パンチドランク』と似た症状になっていた。

 いつの間にか過呼吸に陥っており、拍動から体は手足と共に小刻みに震え、胸は圧迫感からの痛み、視界はユラユラと揺れていた。

 

「でも、それと同時に貴方が引き継いだのは『詰めが甘く、肝心なところでミスを犯す』という欠点────」

 

 ────フッ。

 

「(ッ?! 消、消え────左?!)」

 

 ────ゴッ!

 ゴキ!

 

「グ、アアァァァァァ?!」

 

『三号』を見失ったことに三月が目の前へと意識を戻すと同時に左目の端から来た、僅かな違和感に痛む左腕を上げると鈍い音と襲う衝撃に鈍痛が増した。

 

 見る視点を変えると最初に三月が『三号』を攻撃した時のように今度は『三号』が瓦礫の中から鉄筋入りコンクリートをこん棒のように振るっていたことが見えた。

 

「(ク! 左腕をやられた! 左足(機動力)を最優先で回復!)」

 

 三月は戦いが始まって以来、平行思考の数と加速を続けていた。

 常人ならば脳が焼き切れ、廃人になってもおかしくない行為を()()()()()()彼女はしていた。

 

 全ては、目の前の『自分』を止める為。

 

「さぁ、さぁ、《/xbig》さぁ《/xbig》、さぁぁぁ! 

 次は私に何を見せてくれるのかしら?! 

 新しい機転(イベント)?! 

 新しい借り物(人格)の導入?!

 それとも、今度こそ『自分(三月)』を完全に犠牲にして何かするのかしら?!

 なにで()()()()()()()()()()のかしら?!」

 

 ブッツン。

 

「(………………………………『楽しむ』、ですって?)」

 

 三月は何かが切れたような音が聞こえたと思えば、今度は吹っ切られたような冷たい声が内心を支配する。

 

 目の前の『三号』の動作はスローモーションに変わり、今までの悩みや平行思考で行っていたシミュレーションなどがバカバカしく思えるほどに考えがクリアになっていく。

 

 「ッ! ウアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 さっきまでの状態が嘘だったように三月は叫びのような雄たけびを吐き出して右手でボロボロの左腕を掴み、これを見た『三号』がまたも即席のこん棒を両手で振るい始める。

 

「でも安心して! 貴方を殺した後、貴方の記憶(精神)と肉体と魂魄()は有効活用してあげ────なに?!」

 

 メリッ! ブチブチブチブチブチブチブチ!

 

「(『再構築』! 炭素をダイヤの構造に変換!)」

 

 ドシッ!

 

「グェ?!」

 

 生々しい音と共に、三月は右手で硬化した()()()()()()()『三号』の頭を殴る。

 

 「私は! 貴方とは違う!

 

 ドシッ! ドシッ! ドシッ! ドシッ!

 

 殴る。 殴る。 殴る。 殴る。

 

 ただひたすらに殴る。

 

 「『()』は! 『この子(衛宮三月)』の()()()()()()!」

 

 ドシッ! ドシッ! ドシッ! ドシッ! ドシッ! ドシッ! ドシッ! ドシッ!

 

 ただただ殴る。

 

 「叶えて! 『この子(衛宮三月)』を帰すんだぁぁぁぁぁ!」

 

 三月の猛攻に戸惑っていた『三号』が横からクロスカウンターのように即席こん棒を振るい、自分から無理やり距離を取らせる。

 

 リカァァァァァァ!!!」

 

 フォン。

 

「ッ。」

 

 三月が名前を叫ぶと『三号』の足元に魔法陣のようなものが浮かび、無数の鎖が彼女を拘束していく。

 

「ガフッ!」

 

『三号』がリカの方を見ると、鉄筋が身体を貫いて身動きが自由に取れないリカは片手だけ(ファッ〇ユーサイン)を吐血しながらも辛うじて向けていた。

 

「この、程度────!」

 「────『この一撃、手向けとして受け取るがいい────』!」

 

 次に動いたのはカリンで、彼女は何とか踏ん張ってから立ち上がり、フラフラのまま地面に落ちていた紅い槍を蹴り上げてから身体を回転させる。

 

 「『──── “突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)”』!!!」

 

 ドウ!!!

 

 カリンの回転のついた蹴りは紅い槍の石突(刃とは逆の先端部分)を見事捉え、紅い槍は『蹴られただけ』の範疇を圧倒的に凌駕した速度とまがまがしい紅い光を纏いながらで『三号』へと飛来する。

 

 ボッ。

 

 無論このような技を餓死寸前の状態で繰り出したカリンが無事なわけがなく、彼女の右足は反動から破裂したように飛び散り、今度こそ彼女は文字通り沈黙化した。

 

 ヒュン!

 

「だとしても!」

 

 だがその代償に『三号』は珍しく焦るような声を出しながら、動ける上半身で結界を何重にも張って自分を標的にした『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』を止めようとする。

 

 バキ! バリバリバリバリバリバリ!

 

 何重にも張った結界がガラスのようにヒビが入っては砕かれていく度に紅い槍の纏う光が弱まっていく。

 

 だが『三号』はそれに気付いた様子はなく、彼女は上空へと飛び上がった人物を見ていた。

 

「ポイちゃん!」

「ピィィィィィィィィィ!」

 

「宝具展開!」

 

 飛び上がったアネットはポイニクスの名を呼びながら、光の因子が両手に集まりやがて黄金色の手綱へと形が整う。

 

 それをアネットは自分の下まで飛んできたポイニクスに装着すると、せいぜいが全長1.5、翼開長が3メートルで大きかったポイニクスは依然見せた大きな火の鳥の姿へと変えていき、その背中にアネットは手綱を掴みながら降り立つ。

 

 以前の彼女が『天馬を操る天女』と瀞霊廷に呼ばれていたのなら、今はまさに復活した燬鷇王を操る姿はどう映るのだろうか?

 

「頼みます、ポイちゃん。」

 「キュアァァァァァァァァ!!!」

 

 アネットが燬鷇王(ポイちゃん)の首を撫でるとけたたましくも力強い鳴き声が返ってくる。

 

 「……『真名解放! “騎英の手綱(ベルレフォーン)”』!!!」

 

 アネットの言葉と連動するかのように、彼女と燬鷇王(ポイちゃん)は上空から流星のが放つ光を纏いながら『三号』へと突貫する。

 

 その速度は音速を優に超え、光速に追いつくかのような勢いのまま未だに結界の先を進んで『三号』を貫こうとしていたカリンの紅い槍の石突を後押しするかのように衝突し、蜘蛛の巣のようなヒビが『三号』が張った最後の結界と紅い槍に現れる。

 

 ドォォォン!!!

 

 音速を超えた騒動と衝突の音が混ざったような衝撃波(ソニックブーム)が生じ、あたりの水面が泡立てて瓦礫などが大気と共に震える。

 

 《vib:1》バリィン《/ vib》!!!

 

 耐え切れなかったのか、結界と紅い槍は共に砕け散り、ついに『三号』の両手がさっきの槍と同じように貫こうとする燬鷇王(ポイちゃん)の嘴を掴んで前進を阻止する。

 

「上姉様たちの覚悟! 無駄にはさせません!」

 

「こんな! 紛い物の分際! でぇぇぇぇぇ!」

 

 今までの中で苦しむような『三号』は現在、アネットの『騎英の手綱』で全盛期以上の力を発揮している『燬鷇王(双極)』と疑似的にだが『拘束』という意味で対なる『磔架』の役割をリカの展開した『圧迫(アトラス)』によって『双殛の丘での断罪』に必要な条件をクリアしていた。

 

 そのことを踏まえての叫びだったのかははっきりしないが、目に見えてわかるのは『三号』の両腕同様に燬鷇王にも限界がきていることだった。

 

「「────────────────────!!!」」

 

 声にならない叫びを双方が上げ、一護と言えばこのことを気にもせずただ呼びかけることを続けていた。

 

「皆、命がけで戦っているんだ。 戻ってきてくれ、ティネ。」

 

 これに反応するかのようにチエの瞼の裏では目が動き始めた頃に、ついに燬鷇王は以前瀞霊廷で見たように破裂して火の粉が辺りへ爆散し、アネットは爆発の余波でかろうじて立っていた建物の一部に叩きつけられて気を失う。

 

 

 


 

 

 

 ___________

 

 ティネ 視点

 ___________

 

『皆、命がけで戦っているんだ。 戻ってきてくれ、ティネ。』

 

「………………………………」

 

 ティネはどこからともなく聞こえてくる声に周りを見渡したいるところに□□が声をかける。

 

「どうした、ティネ? ボーっとして? さっき親父さんに言われたことを気にしているのか?」

 

『さっき言われたこと』と言えば、彼女が昔の母親同様に『嫌な予感』を話したことだった。

 

「あ、いや。 そうでは────」

「────ここまで来たんだ、どうせならイチネと一緒に天文台に上がって星を見ようぜ。 それにまだ『予感』ってンならまだいいだろ? イチネを怖がらせる事はないと思う。

 

「あ、ああ……そう、だな。」

 

 ティネは?マークを出しながら頭をかしげるイチネ()を見て□□に同意すると、□□が彼女の肩に手を添う。

 

「『昨日(過去)』のことに固執することはねぇよ。 『明日(未来)』を目指そうぜ?」

 

 ニカっと笑う□□を見てはティネも釣られて口角を上げ始める。

 

「そうね……その通りよ。 じゃあ天文台に行こうかしら、イチネ?」

 

「うん!♪」

 

 ティネが腰を曲げて小柄なイチネを抱き上げる。

 

「二人は先に行っててくれ、ちょっと用事を済ませてから追いつく。」

 

「ッ。」

 

 ティネは急にぼやけた□□の声にビックリして、彼の背中姿を目で追う。

 

「お母さん、どうしたの?」

 

「なん……でも、ない?」

 

 ティネは疑問形で娘の問いに答え、屋上へと続くエレベーターに乗る。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「うわー! すご~い!」

 

「…………………………」

 

 キャッキャッとはしゃぐイチネを見ていたテイネは複雑な笑みになっていた。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 またも地震のようにビルは揺れてティネはよろけながらも、近くの手すりを掴んで上半身を俯かせる。

 

「お母さん?」

「ティネ?」

 

 これに気付いたイチネと□□は心配する表情になりながらティネの近くまで来ると、彼女は二人に振り向いた。

 

「ど、どうしたの?」

「その顔……何か、あったのか?」

 

 二人が見たのは今にも泣きそうな、はにかみながらも悲痛な顔を浮かべたティネは□□の肩を掴んでまっすぐと彼の戸惑う目を見る。

 

「…………………………□□。 お前と子供のころに出会い、ともに育った時間はかけがえのないモノだ。 

 お前が初めて甘口ではないカレーを口にして泣きそうなのを『目にゴミが入った』と誤魔化す姿は気丈に振る舞いたい心が見え見えで、微笑ましい場面が数えきれないほどあるように、お前が他人思いで気さくで太陽のような性格だったのは大いに助かった。 お前に『付き合ってくれ』と言われた時も、不思議と心の中では納得して頷いた後に過ごした時間は今でも鮮明に思い出せる。」

 

 ティネの脳内に浮かんでくるのは様々な、『ありきたりな毎日』だった。

 仕事で怪我をしてはリハビリに付き合う姿。

 朝起きてボーっとした顔のまま並んで歯磨きをする姿。

 夜のテレビをザッピングでチャンネルを変え、ただ時間を共に過ごしたり自転車を二人で乗って遠乗りをしたりなどの『普通』。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 ティネがイチネと目を合わせるために膝を地面につくとさっきから続く揺れと地鳴りは次第に大きくなってくる。

 

「イチネ。 お前を宿したことを知った日は今までの人生の中で一番嬉しい知らせと言っても過言ではないが、生まれたときも同じ気持ちだった。

 初めてスヤスヤと寝ているお前の愛しい寝顔……

 お前の小さな手が私の指をギュッとした時、思わず何が何でもずっと抱いてしまいたい気分になった。」

 

「お母……さん?」

 

 ティネが両手をイチネの頬にそっと添える。

 

「お父さんと一緒にお前をずっと見守っていた。

 始めて喃語(なんご)で声を出した時。

 明らかに私とお父さんを他人から区別できたとき。

 初めての寝返り。

 初めて四つ這いで動き出し、ついには掴み立ちからヨチヨチと危なそうにも歩き出した一歩一歩……

 それらの記憶を思い出せば今でも私の心は満たされる。

 でも…………………………………………」

 

 ここでティネの視界がボヤケるが、彼女は深呼吸をして何とか次の言葉を声に出そうとし、震える声のまま放つ。

 

「でも……でもね? 私………………

 

 私……………………

 

 ああ、()()……………………

 

 

 グスッ……………………

 

 

 貴方も、

 

 

 お父さんも、

 

 

 この世界も、

 

 

 

 ()()()()()()()()()。」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

 バキバキバキバキバキバキバキバキ!!!

 

 地鳴りはついに音量を増し、周りの建物のガラス窓や壁や()()などにヒビが入っていく。

 

「そ、そんなこと言わないでお母さん。 怖いよ。」

「ティネ……」

 

 イチネは涙目になりながら力一杯にティネの腰に両手を回してギュッとする。

 

「ち、違う。 違うのだ、イチネ。 怖がらせようとしているのではないのだ。

 

 

 お前は…………

 

 

 お前たちは…………

 

 

 この世界は…………

 

 

 私が何時か夢にまで見た、『普通の人生』そのものだ。」

 

 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ!!!

 

 さっきから続く揺れからか、何か別の要素からか、とうとう周りから何かが崩れていく音が聞こえてくる。

 

「お、ヒグッ、お母さん……」

 

 ティネは泣き出すイチネの顔を見る。

 

「でも…………私にはやり残したこと(義務)がある。」

 

 ティネは同じように泣きそうな顔の□□を見上げる。

 

「だから………………行かなくてはならない。」

 

 ティネがイチネを抱いていた腕のうち一つを□□へ向けると、□□は何も言わずにティネとイチネを抱きしめる。

 

 

 

 ガラガラと音を出しながら崩れていくのは建物だけでなく、地形も底なしのような虚無を感じさせる底の中へと崩れていった。

 

 

 

 

オ、オォォォォォオオオオオオオ

 

 黒い底の中なら何かのひしめく()と共にぶよぶよした黒い液体のような物がにじみ出る。

 

 チュ。

 

「ティネ……」

 

 ティネが□□の(ほお)に口づけをする。

 彼の眼は明らかに何か言いたいが、何を言ったら分からないと訴えていた。

 

 チュ。

 

「お、お母さん……」

 

 ティネが涙ぐんだイチネの(ひたい)に口づけをする。

 少女の目が訴えていたのは『なんで?』という疑問ではなく『怖い』といった純粋な恐怖。

 

 「私は………………私は二人のことを忘れたくない!

 忘れない! 絶対だ! 約束だ!」

 

 この二人に対してティネは湧き上がってくる衝動のまま二人に告げ、顔を合わせたくないのか彼女も力の限り二人を抱きしめる。

 

 やがて残った『世界』は彼女たちのいるビルを残して半径数十メートルだけ。

 

 他の住民の姿は既に見当たらない。

 

 残ったそれさえも、みるみると崩れ去っていく。

 

 「今度こそ……今度こそだ! 絶対に離すもんか!

 私は……私は────!」

 

 

 

 

 

 

 

 ────ガクンッ。

 

 

 

 

 

 

 

 ティネは前のめりに倒れる身体を突き出した両手で止める。

 

 

 

 

 

 

「ぁ……あ………………あ、ああああ……」

 

 

 

 

 

 

 ティネは震える手を目の前まで上げる。

 

 微かな温もりと匂い。

 

 

 

「ああああ………………い…………………………………………やだ……」

 

 

 

 それらが消えていく。

 

 

 

 

「あ、あああ……ああああああ!」

 

 

 

 

 

 ティ■は消えていく〇憶を物理的に止めようと両手で頭を力の限り抑える。

 

 

 「あああああああ!」

 

 

 痛みが生じても抑え込み■■は□□と◆◆との○憶が抜け落ちていくのが、だんだんと大きくなっていく喪失感が訴える。

 

 

 

 

 

 あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛!!!」

 

 ■■の頬を伝う雫は、彼女が掻きむしりだして、引き抜いた髪の毛と共に地面へと落ちていく。

 

「────────────────────────────!!!」

 

 声にならない叫びをしながら彼女は額を地面にこすりつけるように……

 

 否、頭を割るような勢いで地面に何度も叩きつけながら、頭皮が裂けて血がにじみ出るまで両手で頭をぐしゃぐしゃにかき出した。

 

「────────────────────────────!!!」

 

 それでも彼女は叫び続けた。

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォオオオオオオオ

 

 

 やがて、世界は彼女だけになるまで。

 

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォオオオオオオオ

 

 彼女も消えるまで、その咆哮は続いた。

 

 やがて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は目を覚ます。

 

*1
他作品“「その天の刃、待たれよ」と『運命』は言った。”より




『痛覚遮断』:
文字通り人体の痛覚信号反応が発しない状態を疑似的に発生させる術。
主にホムンクルスなどの人工知生物が性能が落ちるのを防ぐために使用する。

『運命の剣』:
『世界創造』の亜種。 星の記憶を記録として読み取り、世界を初期化し記録を白紙化した星に再び備え付ける行為。 その際に矛盾が生じなければ星は新しく時間を辿る。

『突き穿つ死翔の槍』:
ケルト神話の英雄、クー・フーリンの神話を基にした大技/宝具。 『心臓を穿った結果を先に生んでから攻撃が生じる』のが『刺し穿つ死棘の槍』ならば、こちらは『破壊力と追尾を重視した投擲』。
躱し続ける度に再度標的を襲う、呪いの宝具。
防ぐのは同等、あるいはそれ以上の神秘を持った宝具でなければ防ぐのは至難の業。

『騎英の手綱』:
第五次聖杯戦争において召喚されたライダーのサーヴァントが使用する宝具。
騎乗できるものなら幻想種をも御し、更にその能力を向上させる黄金の鞭と手綱。
本来は『ペルセウスがメデューサの首を落としたとき、彼女の首から滴った血から天馬とクリューサーオールが産まれた』という神話の部分から天馬に使用するものだが『騎乗できるもの』に大きな火の鳥は含まれているらしい。

『圧迫(アトラス)』:
ギリシャ神話の女神ヘカテより神秘を教授された魔術師の術の一つ。 設置した魔法陣に踏み込んできた相手を長時間拘束する。



ピコピコピコピコーン♪ ←フラグ回収音


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第173話 The Beginning of the End

大変お待たせいたしました、読み返しているうちに寝落ちしてしまい、午後に投稿設定をし、恐らくカオスのままですが次話です。

いつもお読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 キィアァァァァァ!!!」

 

 バンッ!!!

 

 ドッ!

 

 燬鷇王は断末魔のような鳴き声を最後に火の粉へと破裂し、アネットは近くにあった建物の破片に身体が叩きつけられてから地面へと落ちる。

 

「(グッ……クルミ姉様の身体をお借りしてこの体たらく……)」

 

 アネットは何とか体を起こそうとし、鋭い痛みによって断念する。

 

「(後は……)」

 

 彼女が吹き飛ばされ、破裂した燬鷇王がいた場所の土煙が晴れていくと中から姿を現したのは全身に出来た傷口から血を垂れ流し、右腕が肩から吹き飛ばされ、二の腕辺りから左腕が千切れた『三号』の痛々しい姿。

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!」

 

 今までに見たことのないほどのダメージを負っていた彼女は浅い息を繰り返し、震え始める。

 

「……………………………………アハ。 アハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 震えはやがて笑いへと変わる頃、三月はツキミのいた場所へと移動していた。

 

「『接続(アクセス)』、『限定(リミット)』、『導入(インプット)』。」

 

 彼女はツキミの胸に手を置き、詠唱のようなものを口にするとツキミの身体から光の因子が表れ始める。

 

「ほなな、本体。 あいつを僕の代わりにぶちk────」

 

 ────ヒュン!

 

 ツキミが言葉を言い終える前に完全に光へと変わった彼女はそのまま三月へと吸収された。

 

「『同調(トレース)開始(オン)』。」

 

 三月は自分の胸に手を添えそう唱えると自ら引き千切った左腕の中から()()が出てくる。

 

 出てきたそれは、見るからに異質な『腕』だった。

 

 情人が見れば発狂するような雰囲気をまとった、異様なほどに長く、真っ赤に近いオレンジ色に発光する腕。

 

「あッ……グッ、ぁ……」

 

 一言でそれを呼ぶのなら『魔腕』がぴったりとあてはまるそれは三月の意思とは関係なく指をワキャワキャと動かし、腕が唸るように曲がる。

 

 それを表情に出すかのように、彼女の苦しむ顔の右半分には大玉の汗が浮き出ていた。

 

 そして左半分はうっすらと浮き出ていた()()()()()()()()()に覆われていた。

 

 彼女が見るのはいまだに自分へ関心を向けないまま笑う『三号』の背中。

 

「(承った。 ()け、シャイターンの腕よ。)」

 

 その背中めがけて、三月の身体は右腕を投げるようなモーションへと入り、そのまま右腕はゴムでできたように一直線に『三号』へと伸びていく。

 

『シャイターン』。 

 またの名を『魔神シャイターン』はキリスト教などで『サタン』と呼ばれている類をアラビア語に変えた呼び名。

 

 先ほどの例えである『魔腕』に恥じない動きを腕はしては『三号』の背中を撫でるように一つの指がヌルっと触ると三月の右手から神々しい光が表れる。

 

 この瞬間に『三号』はすっぽりと何かが胸から抜けたような喪失感で気付いたかのように目を見開いて自分の胸を見る。

 

「ッ?! 聖杯が?!」

 

「『妄想心音(ザバーニーヤ)』。」

 

 バリィン!!!

 

『三号』の言葉から察するに、彼女の胸から三月の右手に現れたのは『聖杯』らしく、ガラス細工の様な音を出しながら右手に力を入れた三月の身体によってそれが握りつぶされると先ほどのツキミの様に光と共に破片が三月の身体に吸収されていくのを、『三号』はギリッと奥歯を噛みしめるような顔で見る。

 

「……………………まさか、ね。」

 

「………………………………」

 

 ここで三月の目からハイライトが無くなると、異質な右腕が顔の半分を覆っていた仮面と共に消え、目が死んだままの彼女から力が抜けたように膝を地面につく様子を見た『三号』の顔に笑みが戻り始める。

 

「………………………………」

 

「まさか、『気配遮断』と今までの攻撃が私の弱体化と思わせて実は気をそらす段取りの上に、クソどマイナーな『類感呪術』で聖杯を取り返すことが本命とは思いもよらなかったわ。 本当に……()()()()()()()()()()()わ。」

 

 そのまま『三号』は力が抜けたまま動けなくなった様子の三月へと歩き出し、さっき損失した彼女の両腕はみるみると動画が逆再生されるように戻っていく。

 

「………………………………」

 

「だけど、『貴方』が()()()までの間に貴方を殺せば問題ないわ────?!」

 

『三号』の目がまたも見開き、緊張感を保ったまま別方向に顔を向けると────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────近くまでいつの間にか来ていた一護が『天鎖斬月』を振るうところだった。

 

「なんだ。 貴方だったのね。 (『天鎖斬月』で()()()()()()()。)」

 

 ガシッ!

 

 彼を見て明らかにホッとした『三号』は再生したばかりで筋肉が露出したままの右手でそれを受け止める。

 

 これを彼は予想していたのか、彼は既にもう片方の手を背中に回していた。

 

「(??? 彼は何かを取ろうとしている?)」

 

『三号』が一護の動きに違和感を覚えると、周りがスローモーションのように動く。

 

「(? 何この感じ? まるで()()()を思わせるような……でも、目の前にいるのは確かに『黒崎一護』。 しかも『()()()()』会得前の状態だから『短刀』を持ち合わせていない筈。)」

 

 一護の手が振るわれ彼女は違和感を持ったまま、彼の初撃を受け止めた手を引こうと動き始める。

 

「(何?! なんなのこのざわめきは?!)」

 

 黒い刀はそのまま彼女の手を切り裂いていく。

 一護が手に持っていたのは確かに『天鎖斬月』。

 

 だが『三号』の手を切り裂いていたのは『チエが打った刀』だった。

 

「なんで?! まさか────?!」

 

 だが『三号』の驚愕する表情と視線からすると彼女には()()()()()()()()()()()

 

 それを思わせるような言動だった。

 

「────ウオォォォォォォォォォォ!!!」

 

 彼は雄叫びを上げながら刀の斬り返しで『三号』の右腰から左肩まで斬りつける。

 

「アァァァァァァァ?! (この感覚! この感じ! 間違いない! 『黒崎一護』は()()を使用している?! 『どこ』で『いつ』手に入れた────いや、今はそんなことよりも────!)」

「────覚悟!」

 

 手を斬られた時点から身を引いていく『三号』を斬りつける為に、片手で大きく振りかぶった一護の背後からはチエが一文字切り気味に飛び出ながら刀を振るっていた。

 

 ザシュ!

 

『三号』はようやく再生した左腕を掲げるがチエの刀を止めることは出来ずにそのまま『三号』の首から股まで深く切りつける。

 

「グ?!」

 

「チエ?! どうして、ここに?!」

 

 一護はチエがここに来るのが予想外だったように彼女の名を呼んだ。

 

「お前は『弟』だからな! お前が戦うというのに、『姉』である私が戦わないのはおかしいと思っただけだ!」

 

「そうかよ!」

 

 そのまま二人は『三号』を斬る為に刀をただひたすらに振るっていく。

 

 チエはいつものマイソードを。

 一護は『原作』での『真の斬月』を連想させるような二刀流ぶりを。

 

「(振るやすいし、手に馴染む。 まるで身体の一部のように()()()()()()。)」

 

 最初は斬魄刀ではない刀を振るう+初の二刀流を使うことに多少の戸惑いを見せていた一護も、『三号に傷を与えられる』ことと上記を感覚的に感じた彼の戸惑いは薄れていく度に、彼の技術は飛躍していく。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 上記での一護とチエのやり取りを説明するには時間を少々巻き戻す必要がある。

 

 丁度三月+マイ(の怪力)+ツキミ、カリン、アネット+ポイちゃん、リカたちの猛攻が始まった直後に、チエは目を覚ましていた。

 

「……おい────」

 「────ああ゛ア゛アあ゛あ゛アあ゛あ゛アあ゛あ゛アあ゛あ゛アあ゛あ゛!!!」

 

 ボーっと焦点の合わない目でまっすぐ見ていた彼女に一護が声をかけて次に気が付くと彼はチエによって押し倒され、彼を馬乗りにし、抜いた刀を彼女は両手で握ってそれを一護の胸めがけて振るう。

 

「オレだよ、チエ。」

 

 ザクッ!

 

 普通ならこの一連の動作で気が動転、あるいは混乱しているが不思議と一護は平然とした態度で声をかける。

 

 それが功を現したのか、最後の最後で刀の切っ先は一護の首をかすり、地面を突いた。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 息を切らしたように、目を見開いたままのチエは一護を見下ろす。

 

「一護だ。 分かるか?」

 

「ぁ……」

 

 ここでチエは()()()()()、一護の上から崩れるように後ずさりながら信じられないようなものを見たかのような表情を浮かべ、やがて彼女は自分の頭を抱えて体育すわりをする。

 

 「…………………………もう、いやだ。」

 

 チエにしては珍しく、気弱な言葉と態度だった。

 

「私は…………()()()()()()()()()?」

 

「……お前がここにいるのは、狂った世界の大元を倒す為だろ?」

 

「私は………………………………私は────!」

 

 ────ポン。

 

 今にも泣きそうな声を出すチエの頭に、一護が手を添える。

 

「んじゃ、ここに居とけ。 俺が代わりに行くよ。」

 

「……()()だ?」

 

「んあ?」

 

 立ち上がって、振り向こうとする一護に問いが投げかけられる。

 

()()だ?」

 

『何故』。

 彼女の問いは何に関してなのか一護は思い浮かべようとするが、あまりにも広範囲だったので頬を掻いた後に、彼の感じていることを自分流に語り始める。

 

「……………………………………………………俺は、まだ戦えるのに戦わないことを選んで生き残ったらきっと、明日の俺は自分を軽蔑するだろうから。」

 

 その言葉は、彼の両親である『黒崎真咲』と『志波一心』がかつて言った言葉に酷似していた。

 

「あ、お前に打ってもらった刀使うぜ? もう四の五の言ってる場合じゃねぇし。」

 

 そう言い残し、一護はそのまま『三号』のところへと走り出す。

 

『まだ戦えるのに戦わないことを選んで生き残れば、明日の自分は自分を軽蔑する。』

 

「………………」

 

 言うなれば、『今やれることをやらずにいれば後悔する』という言葉がチエの耳に残り、彼女は次第に立ち上がる。

 

「(私は『何かを忘れた』。 『重大』で、『大切』なことは何となく『解かる』……だが今は『今』のことだ。)」

 

 それが、一護と『三号』が交戦し始め、チエが加勢するまでの一連である。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

「しぶといな。」

 

 息を切らす一護とチエの前には身体中を斬られて尚戦う意思を表する『三号』。

 

「ソウちゃんが言ったでしょ? これは暇つぶしよ。」

 

「(時間稼ぎということか? …………早く終わらせよう。) 一護、耳を貸せ────」

「────待つわけが無いでしょう?!」

 

 今度は『三号』が攻勢に出て両手から霊子の玉を乱射していく。

 

 最初は払い落とせる程度のサイズだったが次第に一護たちを試すかのように大きくなっていき、最終的には大砲のような大口径なものとなった。

 

「(『暇つぶし』と言った割には奴も焦っている様子……ここで仕掛ける!)」

 

 チエは一瞬だけ一護を見ると二人の視線が合い、彼女は『三号』の撃ちだす霊子の玉を最小限の数だけ払い落として一護のそばを離れ、一気に『三号』に近づく。

 

「(奴が、距離を取らないだと?)」

 

 チエは刀を一護が最初の攻撃で傷を負わせた『三号』の右方向から攻める。

 

 今までは中距離をともっていた『三号』は彼女の予想に反して立ったまま損傷した右腕を上げる。

 

 丁度チエの逆袈裟(さかげさ)の斬撃と合わせるかのように。

 

「(何故だ? 受け止められないことは奴も知っているはずだ。)」

 

「受け止められないことは百も承知。」

 

 刀は予想通り、そのまま『三号』の腕を斬っていく。

 

 ドゥ!

 

 だが完全に腕が切り落とされる前に『三号』の左手が撃ち出した霊子の玉との衝突によって、チエは刀手放してしまう。

 

「でも、()()()()()()()()()()()。」

 

『三号』はそのまま()()()()左手をチエに向ける。

 

「そして『これ』は貴方に通用する。」

 

 ドォ!

 

『三号』が繰り出したのはかつてグリムジョーやスタークが見せた王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)がチエへと襲い掛かる。

 

「ッ?!」

 

 だが驚いたことにチエはこれを真っ向からこれを受け止めるどころか、『三号』の腕を掴んだ。

 

「今だ、やれ!」

 

 ザンッ!

 

『三号』は掴まれた腕と腰までの胴体を背後から一護に斬られる。

 

「あ……なん…………ですって?」

 

『三号』はてっきり、自分を斬るのがチエだと思っていた。

 何せ彼女からすれば、一護より彼女の方が自分のような存在と対峙するのに()()()()()から。

 

「お前が私を警戒していたのはわかっている。 だから敢えて私が前に出た。」

 

「メンタル……豆腐が…………………………本命……だと?」

 

 ドドォ!

 

「グァ?!」

「?!」

 

 衝突音と共に、一護とチエが『三号』近くから吹き飛ばされる。

 

「お待たせいたしました、母上。」

 

「あ、ああ……ソウ…………ちゃん。」

 

 倒れそうになった『三号』に肩を貸し、一護たちを吹き飛ばした人物。

 

「『準備が整った』ということで、不肖ながら『私』が参上いたしました。 さぁ、行きましょう。」

 

「ええ、えぇ……早く、早く世界を創造し直さないと……………………」

 

 黒いスーツのような拘束衣をまとった藍染は『三号』に肩を貸したままその場を去ろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが数歩歩いたところで黒いスーツの藍染は歩みを止める。

 

「ご苦労だったね。」

 

「?! な、なぜ貴方がここにいるのですか?!」

 

「『なぜ』? 答えは簡単だ。 『必然』だったからだ。」

 

 そう返したのは髪をオールバックにし、白い死覇装姿の()()

 

「そうでしょう、母上?」

 

 白い死覇装姿の()()の視線は黒いスーツの藍染…………………………ではなく、笑みが深くなっていく『三号』に向けられていた。

 

「ええ。 ()()()()()()。」

 

 ガブッ。

 

「ゴハァ?! なん……だと?」

 

 どこぞの金髪チビの様に巨大化した口で右半身をえぐられた黒いスーツの藍染は吐血する。

 

「君……ああ、いや。 ()()()の能力は大いに役立ったよ、()()()()()()()。」

 

 この光景を前に、白い死覇装姿の藍染は平然とした口調で言葉を続けていた。

 

「君たちの『姿形、技術、力を真似る』と『姿形、記憶、精神を真似る』は私たちの影武者という大役を果たした。」

 

『ロイド・ロイド』。

 双子の兄弟で、あまりにも互いに似すぎていた為永久に『どちらが兄でどちらが弟か』分からなくなったという過去を持つ元星十字騎士団。

 

「元々二人だった君たちが一人になればどこまでやれるのか興味深かったが、この段階で君たちの役割(ロール)は無くなった。 最後は、母上の糧となるが良い。」

 

「そ、んな────」

 

 ────ボリッ!!!

 

 生々しい、骨が砕く音を最後に黒いスーツの藍染(ロイド・ロイド)を『三号』が平らげ、彼女の破損した部位がみるみると再生していく。

 

「さぁ、ソウちゃん。 準備が整ったのならもう行きましょう。」

 

 みるみると元気になっていく『三号』が白い死覇装姿の藍染の横を通ると彼が口を開ける。

 

「彼らはどうします?」

 

「ん? ほっといてもいいでしょ、もう。 構っている時間がないわ……でも、ダメ押しを刺してもいいかな?」

 

『三号』はどこからか刀を取り出して180度クルリと回って反転すると白い死覇装姿の藍染が彼女の刀に手をそっと添えて動きを止める。

 

「母上にはやらなければならないことがあります。 ここは私に任せて先に行ってください。」

 

「…………………………そうね。 その通りねソウちゃん。 やっぱり出来る子を先に()()()()置いて良かったわ♪」

 

『三号』はニコニコと、その場に似つかわしくない笑顔を白い死覇装姿の藍染に向ける。

 

「ありがとう────♪」

 ────ドッ。

 

『三号』は自身の身体に衝撃が走り、その原因に視線を下ろして見る。

 

「…………………………………………………………え?」

 

 そこには、藍染の上げた袖の下から刀が『三号』の胸を貫いていた。

 

 その場面は以前、市丸が藍染に反逆したシーンと酷似していた。*1

 

「カッ……な…………んで?」

 

『三号』は喉の奥にたまり始めた血を吐き出してそう藍染に問いかける。

 

「『なんで』? 答えは簡単、どのようなモノでも生物か生物を模範している限り必ず警戒が最も緩む時がある。 睡眠中や食事直後など。」

 

 グサッ。

 

『それじゃない』と言いたそうな『三号』の胸に刀がさらに深く突き刺さっていき、やがて彼女の足から力が抜けたのかだらりとする。

 

「ああ、それとも『なんで裏切った』という問いだったかな? 私は裏切ったつもりなど毛頭ない。 

 そもそも『裏切り』とは双方が互いを信頼した関係に成り立つが、私は貴方を初めから信頼していない。」

 

 ガッ!

 

「ゴフッ!」

 

 藍染が刀を『三号』から抜き、もう片方の手で彼女の胸から『何か』を引きずり出す。

 

「フム。 やはり()()だったか。」

 

「な……ん……」

 

 ヒューヒューと虫の息で、またも『三号』が問いかけるような言葉を発する。

 

「ん? まだ分からないのかい? ならば私は………………ああ、『かつての私』が言ったと思うが────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『私は常に、私を支配しようとするものを打ち砕く為にのみ動く』、だったか?」

*1
97話より




妄想心音(ザバーニーヤ):
とある世界での暗殺教団、「山の翁」の長が代々「ハサン・サッバーハ」と名乗る一人の凡人が編み出した必殺技。

彼は先代たちよりはるかに劣っていた能力などを自己改造で補い、魔神シャイターンの腕を自身に付け加えた。
本来は対象を直接触ることで、対象の心臓と対になる『鏡像の心臓』を使用者の元に作り出し、それを握りつぶすことで対象の心臓も握りつぶされるという、ある種の呪術。



余談ですが次話の投稿が遅れる可能性が大です、ご了承くださいますようお願い申し上げます。


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第174話 Repeating Memories of Everybody

大変長らくお待たせいたしました、少々長めの次話です。

なるべく何度も読み返しては書き直したりなどをしましたが、上手く内容が伝わるかどうか不安です。 (汗

これほど自分の言語力の低さを呪ったことはございません。 (泣

そしていつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 時は丁度『三号』が黒いスーツ系の拘束衣を着た藍染を文字通りに食された直後に、白い死覇装姿の藍染の不意打ちによって胸を貫かれた直後へと戻る。

 

 各地で自分と似た容姿、あるいは戦い方をする体調や副隊長、そしては後に穿界門(せんかいもん)を通ってたどり着いた現世組が彼らの戦闘する相手の姿や、半壊と水没した空座町を戸惑いからか、物珍しさからか見ていた時に事態は急変し始めた。

 

 カシャン!

 

 金属がコンクリートに落ちる独特な音が『眼帯京楽』が()()()()『花天狂骨』から響く。

 

「あーらら。 もう終わりかな、こりゃ?」

 

『眼帯京楽』は戦いの最中だというのに、つい先ほどまで対峙していた京楽と浮竹から視線を自分の両手へ向けていた。

 

「『終わり』、だって? こちとら、やっと温まってきたのに?」

 

「そうだよぉ、良かったねぇ~?」

 

「その身体……」

 

 京楽の煽るような言葉に『眼帯京楽』は肩をすくめると、浮竹が『眼帯京楽』の身体と服が徐々にチリとなって大気に乗って消えていく。

 

「う~ん……仕方ないとはいえ、いざとなると不思議な感じだね~?」

 

 その様子は死神なら誰もが見知った光景と酷似していた。

 

 破面や、虚たちが斬魄刀で倒されて消えていく景色と。

 

 ザクッ!

 

「ウォォォォォォォォォォン!!!」

 

 口に咥えていた斬魄刀を地面に突き刺してから、悲しみか憂いが混ざった遠吠えが狛村と対峙していた狼が戦場に響き渡っていく。

 

 まるでそれが合図だったかのように、各々の者たちから緊張感と戦意が引いていき、『眼帯京楽』と同じくチリとなっていく。

 

「その様子だと、分かっていたことかな?」

 

「まぁねぇ。 僕たちは所詮、オリジナルの魂を引き継いだ()()さ。」

 

「『亡霊』、ねぇ……じゃあ僕や浮竹は『幽霊』になるのかな?」

 

「君たちは『()()』だよ。」

 

 そんな『眼帯京楽』に京楽はいつものひょうひょうとした態度で出状の問いを投げると意外な答えが『眼帯京楽』から返ってくる。

 

『亡霊』と『幻影』。

 この二つは最近では一緒くたにされることが多くなっているが根本的には別物である。

 

 例えを上げると『亡霊』とは『過去には在ったモノが現在ではないモノ』。

 

 それに対し『幻影』は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』。

 

「俺たちが……幻影だと?」

 

「笑えない冗談……じゃないみたいだね、こりゃ。」

 

 浮竹はこの二つの違いを思い浮かべたのか目をわずかに見開き、京楽は『眼帯京楽』のこの返しが仕草とタイミングで()()()()()()()()()()()と察した。

 

「う~ん。 もうちょっと話したかったけど、もうそろそろだね……浮竹。」

 

『眼帯京楽』は消えていく自分の体から浮竹に視線を向ける。

 

「僕の知っている『浮竹十四郎』じゃないけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()。」

 

「ぁ……」

 

『眼帯京楽』は実に無邪気な、心の奥からのニッコリとした笑みになりながら足のつま先から頭部までがチリになり、風に沿って崩れ消えていく様を京楽と浮竹は見送った。

 

「……………………………………京楽────」

「────こいつぁ、色々と裏がありそうだ。 んじゃ、一護クンのところに行くか。」

 

「……ああ。」

 

 今さっき起こったことと、今の状況の整理をし始めながら歩きだす京楽の耳に浮竹の一言が何故か耳に残った。

 

「……やはり()の周りは、多くのことが起きるな。」

 

 その一言が耳を残しながら、京楽はガラリと変わった大気の質を不思議に思った。

 

「(何だいこれは? ()()()()()()()? ……とは違うね、こりゃ)」

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

「やはり『気を許(油断)した瞬間』と『袖下からの不意打ち』を残してよかった。」

 

「………………………………………………」

 

 なんだ? 

 何が……何が起こったんだ?

 そう口にしたかった。

 

 だがなんとなく、この静けさを壊したくないと不意に自分は思っていたのか声を出す気にはならなかった。

 

 その……起きたことをありのまま言うと、『自分とチエを蹴り飛ばした黒藍染が三号とやらに駆け付けたと思ったら白藍染が来て黒藍染が食われた直後に白藍染が()()()()()()()で三号を突き刺して崩玉を抜き取った』、てか?

 

「俺も分からねぇよ……」

 

「なぜだ────?」

「────チエ?」

 

 チエが沈黙を破る。

 さっきの『三号』のような『なぜ』と言う質問を。

 

「うん? 君の質問は、何に対してだい?」

 

「何故、()()()()()()()()()()?」

 

「え?」

 

 驚きに視線を藍染から起き上がった馴染み(チエ)に向け、ここでやっと声を喉から出せたことがきっかけでそのまま言葉を俺は続けた。

 

「どういうことだ?」

 

「藍染はずっと前から、近くにいた。」

 

 藍染が目を細め、面白そうに息を吐き出す。

 

「ほぅ……『母上(三号)』でさえ気付かないように、慎重に慎重を重ねて用心していたつもりだが……」

 

「確かに、『気配』も『存在』も見事消えてはいた。 だが、『意思』までは消せる事は出来なかったな?」

 

「なるほど、確かにそれは盲点だった。」

 

 まさかチエ、『意思を感じた』と言っているのか?

 

「藍……染!」

 

「えっらいエグイ『鏡花水月』の使い方しおってからに……」

 

「黒崎君!」

 

 後ろから声がしてとっさに振り向くと重症の傷を負ったと思われる総隊長の爺さん(山本元柳斎)に肩を貸した浮竹さんや京楽さんに瀞霊廷の護廷、『仮面の軍勢(ヴァイザード)』、果てには空座町の人たちも来ていた。

 

「山本のじいさんに、平子! 井上まで?!」

 

「やはりここにたどり着くか。 流石は『主要人物』たちだ。」

 

 そんな顔の見知った皆が勢ぞろい、集まって来たというのにチエは見向きもせずただ藍染に話かけた。

 

「もう一度聞くぞ、藍染。 なぜ私や三月、一護たちに重国たちを止めなかった? 止めようと思えば、いつでも止められたはずだ。」

 

「『止める』、だと? ()()()()()からだ。」

 

 藍染がニヤリと笑みをこぼし、刀と崩玉を握った両手を左右へと広げる。

 

「これこそが私の望んでいた『想定』だからだ。 いや……正確にいうと、『結末』と呼ぶべきかな?」

 

 藍染は自分の持っていた崩玉をジッと見る。

 その行為だけで周りの人たちから伝わる、ピリピリとした緊張感がまた高まっていくのを肌で感じる。

 

 無理もない。 以前、藍染は崩玉を取り込んで(水色の言葉を借りるが)どチート級の能力を開花させた。

 

 それでも、あの時は俺の『無月』で何とかなったが……

 もし、この二個目の崩玉を取り込んだら────

 

「「「「「「────え。」」」」」」

 

 そう口にしたのは誰だろう?

 俺か?

 それとも浦原さんか?

 山本のじいさん?

 

 いや、恐らくはその場に居合わせていた殆んどの皆かもしれない。

 

 何せ────

 

 

 

 

 

 

 ────藍染は懐から()()()()()()を取り出したからだ。

 

「バ、バカな?! その崩玉は?!」

 

 しかも浦原さんが今までに見たことのない程に動揺していた。

 

 あの出した二つ目の崩玉に何かあるのか?

 

「よく一目でわかったな。 流石は作成者である浦原喜助。 そうだ。 これは私が作り、お前の崩玉を取り込ませた品だよ。」

 

「………………………………」

 

「何か言いたそうだね、諸君? 代弁すると『取り込んだはずの崩玉がどうしてまだ健在』、と言ったところか? 答えは至極単純、『()()()()()()()()()』と答えよう────」

 

 ────ヒュッ!

 

「え?! わ?! っとととと! 投げる前に一言、言って欲しいっス!」

 

 藍染が投げた二つの崩玉を浦原さんが珍しく本気で慌ててそれらを受け止める。

 

()()()()()()()()()。」

 

「どういう、意味じゃ?」

 

 応急処置は終えたといっても傷が痛むのか、山本のじいさんが問いを掛ける。

 

「何、そのままの意味さ。 死神は尸魂界から現世へと魂魄を生物として送り出し、死した魂を尸魂界へと導くことで魂魄の総量をは把握し、バランスを調整する。 だが崩玉があれば、その必要性は無くなるだろう。」 

 

『どういう意味だ?』

 

 そんな俺の疑問を持って顔に出ていたのが他に居たのか、藍染が肩をすくめるような体勢でまた口を開ける。

 

「質問系に変えると、『なぜ死神と虚は争うのか?』

 それは『虚が現世を荒らす悪しき霊体だから』? 違う。

『虚が人間の魂、近親者や霊力の強い者の魂を求める習性がある』から? その様で、根本的には違う。

 答えは、『死神に課せられた使命故に』だ。」

 

「それは違うぞ、藍染!」

 

 いつに増しても声デケェな、狛村さん。

 

「虚は強い執着を持ち、現世に留まり続けてしまった霊! 我ら死神の魂葬が間に合わず、不手際によって生まれてくる哀れな者たちの成れの果てだ!」

 

「そこだよ。 私が言いたいのは、狛村左陣。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』 そう一人でも、君たちの中でそのような疑問を思わなかったことは無いのかい?」

 

「ぬ?」

 

 藍染の質問に誰もが黙り込んだ。

 恐らくは俺のように、『世界はそういうモノだから』と思ったのだろう。

 

「それも答えてあげよう。 それが意図的に『作られた世界の仕組み』だからだ。」

 

「それが、藍染サンの残した文の『BLEACH』と言う単語っスか?」

 

「そうだ。 その言葉は空想の書物で登場する作の題名で、この世界でのありとあらゆる事の基となった物だ。」

 

「さっきの、『闘争が終わる』と言う意味はどういう事や?」

 

「『尸魂界と現世に存在する魂魄の量を常に均等に』。 その理が『闘争』の原因だ。 死した者の魂魄を保護対象にする為死神たち自身、その魂魄量の対象となることから常に現世は死神の処理できる量を凌駕する。

 それ故に虚は絶えず生まれ、それを死神が鎮圧(事後処理)し、処理が追えずに虚は出現するといった『終わりのないイタチごっこ』が出来上がる。

 どうだい? 何か、間違っていることを言ったかね、諸君?」

 

「藍染惣右介、今ここにいる者たちは貴様の()()()()に耳は貸さん。」

 

「心外だよ、山本元柳斎重國。 

 確かに幻覚などを見せはしたが……私は何時、何処で嘘を『言った』?

 私は最初から今まで嘘は()()()言っていない。」

 

 そこから藍染は誰かが口を挟める前に、以下のことを口にし始めた。

 

「『朽木白夜が素直かどうかはどうでも良い。』 

『阿散井恋次は“順序”の邪魔だった。』

『黒崎一護が卍解を会得していた事は“想定内”だった。』

『朽木白夜から牽星箝(けんせいかん)を“預かっていた”。』

『“憧れ”など曖昧な物で、不確かな感情に過ぎず、“理解”から最も遠い。』

『浦原喜助が護廷十三隊の者たちと共に駆けつけるまでの時間を、黒崎一護たちに延々と崩玉、作成者である浦原喜助のこと、限界強度のことを語り続ける。』 

 流石に最後のこれは間に合わせる為に、私はワザと時間を見計らい、鬼道を行使したがね?*1

 

「まさか、貴方は私が『断空改』を使うのを見越していたと?」

 

「何を知れたことを、浦原喜助。 そうでなければ何故、私がわざわざ詠唱をしなければいけない? ああ、『断空』の重層展開は予想していたが、まさか改造を施すことは意外だったよ、それには敬意を表する。」

 

「まさか藍染、お主……あの時の、『全てが順調だ』という言葉は……」

 

「無論、君たちが拘束する動きと反膜(ネガシオン)のタイミングの事だよ四楓院夜一……まだまだ聞く耳を持たない者たちが居るようだね? 私はこれでも、君たちに『母上(三号)』の存在と忠告をそれとなく(ほの)めかしてきたのだが?

 例えば私が宣言した、『私()が天に立つ』や『初めから誰も()に立っていない』。 『誰も信用するな』、『世界の全てが敵だ。』*2

 これでも耳を貸さないというのなら、まだ私が嘘を言っていない例を挙げて欲しいかね?」

 

「「「「「………………」」」」」

 

 誰も、何も言えなかった。

 多分、ショックを受けていたんだと思う。

 

「沈黙は肯定とみなし、話を続けるとしよう。 とはいえ、次に話し始めるのは私が雛森君に言ったことに関係するだがね?」

 

「え? …………………………ぁ。」

 

 視線を集め始めた雛森は身をよじり、思い当たったような顔をする。

 

「そうだ。 『君の知る“藍染惣右介”など、()()()()()()()()()()()()()』。

 これも言葉通りの意味だ。」

 

「…………浮竹、僕……嫌な連想をしたんだけど?」

 

「俺もだ、京楽……」

 

 なんだ?

 浮竹さんたちの顔色が悪く────

 

「────そうだ。 ()()()()()()()()()()()()()。 私は『藍染惣右介』という役割(ロール)を課せられた存在でしかない。」

 

 藍染は周りを見渡してから言葉を続けた。

 

「そもそも、ここに居るほぼ全員がこれに値するがね。」

 

「なるほどネ。 それが『違和感』の正体だったカ。」

 

 心なしか、藍染は一瞬だけ俺に視線を送ったような気がしたが、涅マユリが言ったことで注意がそっちに向く。

 

「ん? 涅マユリ、君が感じていた『違和感』とは?」

 

「何、他愛ない事だヨ藍染惣右介。 私が感じていた違和感は()()()()()()()()()()()()()()()()()()ダ。 それをずっと私は物心ついたころから感じていたが、『もう一人の(マユリ)』と『やけに五月蠅いネム』と対峙してから、ある種の確信へと変わっタ。

 それは『()()()()()()()』という、本当に他愛のないことサ。」

 

「マユリ様、それは────」

「────ネム、黙れ。」

「……………………」

 

 ネムが何かを言いかけていたのを、マユリが彼女の名を呼んで黙らせるのを見て藍染は静かに見ていた。

 

「なるほど。 君は浦原喜助とは違う方向で、『何も信用していない』部類だったね。 ()()()も。 ショックだったかね?」

 

「まさカ。 どこぞの自称天才自信家(浦原喜助)ではあるまいし、第三者の視点から上に全てを見ているだけダ。 逆に私は逆に腑に落ちたことで安心感を覚えたヨ。 それで? さっき君が言った『望んだ結末』とはどういうことだネ?」

 

「現世、尸魂界、虚圏を含めた『三界』が、どれだけの年月を重ねてきたと思うかね? 推定や教科書では『誕生したのは今からおよそ100万年前』とされているが、実際にはせいぜい()()()()()だ。」

 

 周りの者たちは藍染の行ったことに、様々な反応を出す。

 

『ほウ?』と言いながら目を細めるマユリや浦原のような探究者たち。

『バカな!』と不定の声や表情と信じられない者たち。

『は?』、と呆ける者たち。

 

 そんな彼らを藍染は見て、空いていた左手で古ぼけた本(?)を取り出す。

 

「君たちの反応はご尤もなものだ。 安心したまえ、私ですら()()()()()()()を読んでも半信半疑だったのだから。」

 

「日記……だと? ……その『神隠し』を施したそれがか?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「『神隠し』……なるほど、君はそう『これ』を呼ぶのか。 確かにこれは伊勢家に代々受け継がれた『神剣(しんけん)八鏡剣(はっきょうけん)』の技術を応用した────」

「────どういうことか、説明してもらえないかい?

 

 

 ピリピリどころかトゲトゲしいまでの言葉を言いながら今までの比ではない圧力(プレッシャー)が京楽から発せられる。

 

「隊長? それに……伊勢家代々とは────?」

「────『神剣(しんけん)八鏡剣(はっきょうけん)』。 伊勢家が代々受け継いできた、祭事に用いる刃のない剣。 神と対峙し、神の力をその身に受け、八方へと振り撒く力があるとされている特殊な斬魄刀だ。」

 

 ギュ。

 

 京楽が力強く己の斬魄刀を拳が白くなるまで握りしめていた。

 

「藍染、君はどこからそれを聞いた?」

 

「無論、()()()()にだよ。」

 

 京楽がいつもかぶっている笑みの仮面はこれを聞き、一瞬にしてスンとした無表情なモノになり、藍染は手に持っていた古ぼけた日記をパラパラと懐かしむようにページをめくっていく。

 

「この日記は『神剣(しんけん)八鏡剣(はっきょうけん)』の刀身に施された『神の力を反射する』技術を用いて『存在』している……流石は稀代の天才たちの共同作品だ。」

 

 藍染の視線が向けられた浦原とマユリは互いを見て、自分へと指さす。

 

「とはいえ、それは私の予測の範疇に過ぎない。 少しだけ、()()をしようではないか? 簡略しつつも長くなると思うが許してほしい────」

 

 ────藍染が口にしたのはおおよそ『原作(BLEACH)』そのままの流れだった。

 

 昔虚に襲われた黒崎一護が朽木ルキアと会い、死神と虚や破面関連の出来事に巻き込まれていく物語(ストーリー)

 

 これらを一護は()の中で織姫やコンから聞いた内容とおおよそ一致していた*3

 

 そして藍染の話はユーハバッハ率いる『見えざる帝国』の滅却師軍団侵略へと続き、そのユーハバッハの最終目的が実は滅却師が返り咲くことではなく『霊王を取り込み現世、尸魂界、虚圏を分ける境界線を取り除いて全ての人間を死の恐怖から解放すること』。

 

 そのユーハバッハもやがては一護によって打倒され、残滓が消える『10年後の世界』へと至った。

 

「それのどこが『昔話』やねん?」

 

 そこにリサがジト目でドライな口調で口をはさむ。

 

「肝心なところはここからだよ、矢動丸リサ。 10年後、()()()()()はユーハバッハの残滓を取り込み、それによって世界は終わろうとしてしまった。」

 

『まさか』と思い、一護の胸はざわめく。

 

「とある少年?」

 

「死神、滅却師、虚の力を持った『黒崎一護』と、霊王の一部を取り込んで人間でありながら最も神に近い力を表現することができる『井上織姫』の間に生まれた『黒崎一勇(かずい)』だ。」

 

「はぇ?」

 

 織姫が気の抜けた声を出すが、藍染はそのまま喋っていく。

 

「より理解しやすくする為に現世、虚圏、尸魂界の『三界』は断界(だんがい)という海の中で浮かぶ島と考えてみたまえ。 そしてその『海』というのがまさに本来霊王が承る『天秤』の役割だ。 

 だが多種多様の血筋と力を受け継いだ『黒崎一勇』によってその天秤はやがて傾き、彼が望まぬとも『三界』は崩壊した。 だがこの時、『とあるモノ』が世界(箱庭)を創り直した。」

 

「あ。」

 

「どうした一護?」

 

 思わず口を開けた一護にチエが視線を移す。

 

「……………………まさか、あの()がそうなのか?」

 

 一護の脳裏に浮かんだのはかつて見た夢の内容。

 廃墟になったような空座町に、尸魂界で見た山、虚圏の砂漠らしきものが見えた夢。 *4

 

 これを見た藍染は憐れむような笑みを彼に向ける。

 

「そうか。 やはり思った通り君は私たちと違い、『コピー』ではなく『オリジナル』。 時が流れて『物語(ストーリー)の終盤』に近づけば近づくほど記憶の混在化が加速しているのか。」

 

「『オリジナル』……それは────」

「────さっきも言ったように、この世界は『BLEACH』を基にして作られた『箱庭』だ。 

『三界』は崩壊し、一度はすべてが無と帰り、やがて『三界』は完全に再現されてから物語(ストーリー)は再開される。

 それが、何度も繰り返され(ループし)ていると『前の藍染たち』はここ(日記)に書き残している。」

 

「「「「「……………………………………………………」」」」」

 

 誰もが耳を疑い、理解(或いは不定)しようと考えを巡らす。

 

「『前の藍染たち』は、その再現をしていたのが倒されて亡くなっていく者たちの霊子をある程度まで吸収し終えた『母上』……ここに横たわる女性の姿をした者だ。 それに気が付いた『前の藍染たち』は、様々なことをしてこの何度も繰り返され(ループす)る連鎖を終わらせようとしたがことごとく失敗し、『必ず無間に罰される』ことが判明する他に『物語(ストーリー)順序(イベント)』が避けて通れないモノとも残されている……………………問おう、君たちは一度も今まで起きた出来事がすんなりと解決したり、物事が自然と進んだことや都合の良い事が起きたことに疑問を感じなかったかい?」

 

「「「「「……………………………………………………」」」」」

 

「それらは『偶然』などではないよ? 例えば……」

 

 そこから藍染が次々に言ったのは以下のモノのような事例だった。

 

『黒崎一護が五歳の時に虚を見かけて、母親と共に()()襲われる』。

『両親から離れて暮らす井上昊は()()事故に会い、後に虚となって黒崎一護の前に現れる。』

『茶渡泰虎は()()ギター仲間から喋るインコを預けられ、ルキアと共にシュリーカーと対峙する。』

『石田雨竜は過去の遺恨に囚われて撒き餌を使い、井上織姫と茶渡泰虎が完現術者として()()覚醒する。』

『どれだけ強くなろうとも黒崎一護は朽木白哉と初の戦いで必ず鎖結(さけつ)魄睡(はくすい)を貫かれて()()敗れ、朽木ルキアは()()瀞霊廷に連れ戻される。』

『藍染が離反したことが判明し、護廷の隊長各が動いてもあと一歩と言うところで()()取り逃がしてしまう。』

『崩玉を取り込んだ藍染は他者を圧倒するも、“無月”を会得した黒崎一護には()()敗北する。』

 

()()』。 『()()』。 『()()』。 『()()』。 『()()』。 

 

「似つかわしくないっスよ、藍染サン。 それらの出来事をまるで、『運命(うんめい)』のように語るなんて。」

 

 藍染はまるでそれらが決定事項かのように話し続けていく中、一人の男性が異を唱える。

 

「そうだ。 これらは全て、どんなに世界が変わり、どんなに新たな生命を受け、どんな時空に存在しようとも……条件さえ合ってしまえば変えられない『宿命』だ。

かつての私(前の藍染)』は『何度も繰り返される箱庭内の物語(ストーリー)』という真実に気付き、これに抗い、敗北した。 それが、『()()の私』が記入した内容だ。」

 

「……………………どうしてそう言い切れる、藍染。」

 

「簡単なことだ、東仙要。 恐らく、『箱庭』の順序から離れ始めたのを機に目をつけて精神的に壊したかったのだろう。 その時から『藍染惣右介』としての記憶は受け継がれ、『自我』を保つために記入を再開している。

 そこから読み取れるのは『藍染惣右介』は何度も抗い、敗北し、世界は後に崩壊した。 ()()だ。

 だが、とある者たちの登場によって前例のない事が起きた。」

 

 ここで藍染はチエ、そして一護を見る。

 

「君が『虚に襲われて死ぬ運命』だった筈の黒崎真咲を『救った』ことだ。」

*1
31話より

*2
71話より

*3
141~143話より

*4
69話、122話より




『我々が知覚していることや考えていることを意識することは、我々自身の存在を意識することだ。』

-アリストテレス


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第175話 (前提条件ありの)『対等』

お待たせいたしました、上手く内容と描写が伝わるかどうか不安ですが次話です。

………………(汗

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「『虚に襲われて死ぬ運命』だった筈の黒崎真咲が『生き残った』。 これは今まで繰り返されてきた物語に書き残されていない前例だった。 つまり、今までは一つの線路(レール)を辿ることしか出来なかった列車(物語)が脱線できると分かった私は、思わず歓喜に度々発狂しそうだった。 実際、震えだして笑いを口に出したこともあった。 何せ今までは『仕方がない』、『変えることは不可能』と思い知らされてきたことが『変えることが可能な事実』として証明されたのだ、共感できないだろうか?」

 

 藍染は未だに目からハイライトが消えたまま沈黙化した三月を見る。

 

「更にそこで彼女はいい実験台(サンプル)となった。 彼女は『母上(三号)』と同等、あるいは脅かす存在だと目星をつけるのはさほど難しくなかった。 

 何せ、それを斬魄刀経由で私に語ったのは他でもない『母上(三号)』が訴えて来たからね……およそ()()()()()()()()*1。」

 

『二千年前。』

 つまりはチエが初めて尸魂界に現れ、山本元柳斎と右之助と会ったころ。*2

 

「そこから私は書き残された物語(BLEACH)内での行動を沿い、物語が変わりすぎてしまったことをなるべく『母上(三号)』に悟られないよう慎重に慎重を重ねて調整しながら『来るべきタイミング』に、『絶対に偽りの物語(BLEACH)を延々と繰り返させる黒幕(三号)()せる』よう、様々な試行錯誤を(おこな)った。

 ロイド・ロイドを影武者に仕立て、ユーハバッハを失くした滅却師達の再利用、物語が変わって『母上』が覚醒し始めた為に順序(イベント)の前倒し。

 後に『母上(三号)』に有効打を打つため、『三月』とやらが様々な形での『不運』にあったのはそれが理由、実験の過程だった。

『三月』とやらがやたら(藍染)を警戒していたことで彼女の行動範囲は読みやすく、把握しやすく、結果的に私の助けとなった。

 流石に『井上昊を生かそうとした』のは焦ったよ? 

 何せ『黒崎真咲』の場合、結果的に黒崎一護に『周りの者たちを護る』という思想は生まれたが、『井上昊』は後にアシッドワイヤー()となり井上織姫を襲い、彼女の中に眠っていた力の覚醒と方向性を決め付ける要因で替えは効かない。

 だからこそ彼の精神を不安な状態に陥れ、軽トラックの運転手に幻覚を見せて歩道と道を入れ替えて事故を意図的に起こすしかなかった。*3

 結果的に、『三月』が罪悪感からか井上昊と井上織姫を引き合わせることができるように、流魂街の巡回に手を入れて、井上昊の保護に手を回したりして。

 このように、彼女(三月)が起こそうとした変化を取り入れながら『BLEACH(原作)』の流れに調整をその都度、施した。

 彼女……いや、彼女たちが必死になり、自分たちなりに変化を最小限に抑えようとしたのも助かった。」

 

「あー、それで時々(わろ)てたんですね?*4

 

「ああ。 あの時は内心、冷や冷やしたよ市丸。 何せ私の行動は四六時中警戒されていたからね。 君や瀞霊廷、三月たち然り。」

 

 市丸は藍染の視線を真っ向から受け、半笑いを浮かべる。

 

「さて……崩玉がどう『死神と虚の闘争』を終わせるか伝える前に、今度は滅却師の話をしよう。」

 

 藍染はさっきから黙っ(呆け)て聞いていたハッシュヴァルトたちを見る。

 

「先ほどの『終わりのないイタチごっこ』自体、完全な永久機関と『形』としては整っていた。 

 だが『物語(BLEACH)』通りにある日、『突然変異体』が人間の間に生まれてくることとなる。 それら『突然変異体』は生身のまま、大気に漂う霊子を使うことが出来るだけでなく、霊体に直接関与できる攻撃方法まで編み出してしまった挙句、『終わりのないイタチごっこ』の原因である魂魄を()()()()()()()()()()()()()。」

 

「それは……まさか────?」

「────そうだ、石田雨竜。 滅却師のことだ。

『滅却師』とは、『完璧に物語(BLEACH)を再現した箱庭(偽りの世界)の存続』にとって、唯一の脅威(バグ)だ。 

 特に誰もが不自然に思わないほどの霊子を長い(とき)の中で吸収しなければ『箱庭』を再現できない『母上(三号)』にとってはね。 

 その証拠に、『今回のユーハバッハ(最大のバグ)』が早く退場するきっかけを私に作れと命じて、彼女(チエ)たちを誘導した。*5

 だが滅却師たちが虚を邪険にしていた理由(虚の毒)も、先ほど渡した崩玉があれば感染者から毒を取り除けることができる。

 その上、虚の『空腹感』や『虚無感』を取り除けば彼らは自己的に人間や魂魄を襲わない。 『理由が無い』からだ……ホワイトなどのように強者に命令されることや、『弱肉強食からくる生存競争に敗北しなければ』、だが。」

 

 ここで、藍染は長い語りに休憩を挟むかのように大きく息を吸ってから吐き出す。

 或いは、彼は時間を与えたかったのかもしれない。

 

 大量の情報を処理しようと容量オーバーになったのか目をグルグルと回している者たちに。

 

 だがその間もせいぜいが数秒間ほど続いただけだった。

 

「────。」

 

 藍染が『昔話』を中断すると、いまだに胸を刀で貫かれた上に抉られたまま地面に横たわる『三号』がパクパクと口を動かす。

 

「……さすがに丈夫だ。 到底、『生物』ではたどり着けない生命力。 前の世界から、死者の魂を表現させて使役するだけのことはある。」

 

 ザンッ!

 

「いや、『あった』というべきか? これで、本当に『夢の終わり』だよ『母上』。」

 

 藍染は『三号』が口にしたことt晴らし着物を言いながら刀で『三号』の首をはねた。

 

「…………………………死神と虚の闘争(使命)。 滅却師と虚の闘争(因縁)。 そして、『繰り返される世界(一本道の線路)』と言う、役割(ロール)を全うせざるを得ない闘争の世界(箱庭)

 それら全てからの解放、『線路(レール)からの脱線(脱出)』がついに今、成就された。 されたのだが……」

 

 藍染はチエをジッと見降ろす。

 

「今までの例外や事変などの中でも、『離反者の居た隊の隊長代理』が起きたことは一度もなく、それがどうしても腑に落ちないのだよ。 特例であっても、特に部外者同然の者……特に、その者のおかげで五番隊が思っていた以上に戦力が増加されていたとなればなおさらだ……そういえば護廷十三隊の隊長になる条件を、君は知っているかい?」

 

「………………いや?」

 

「だろうね。 隊長になるためには主に三つの方法がある。

『隊首試験に合格する。』 これが一般的な方法だが空きがなければ試験は無い。

『複数の隊長からの推薦を受け、総隊長と減隊長二人以上との面接に合格すること。』 これも空き、もしくはあくことが知っていなければ無理なことだ。

 最後は、最も簡単で困難な手段で更木剣八がとった方法────

 

 

 

 

 

 

 ────『隊員200人以上の立会いのもとに、現隊長を一対一の対決で殺す』。」

 

「……………………それは────」

 

 そう口にしたのは一護。

 だが彼が口を開けたこと藍染は気にしなかったように山本元柳斎たちを見渡す。

 

「────ここに200人の隊員がいるかどうかはともかく、観戦者としての数は足りている。 そして私自身、市丸や東仙要のように四十六室から直接隊長の座を剥奪されてはいない。 ここまで話せば、君ならもうわかるだろう?」

 

「そうだな。」

 

 チエはそっと一護の手を自分からどかし、立ち上がると藍染が持っていた彼女の刀を構える。

 

「重国。 井上や茶渡に石田とロバたち。 手を出すな、死ぬぞ。」

 

「え────」

「────借りるぞ、一護。 あと、離れていろ。」

 

 そう言いながらチエは彼の手に握られた刀をとり、それを構える。

 

「どうやら、奴は二人きりの勝負をご所望だ。」

 

「この場合、『手合わせ願いたい』とでも私は言うべきかな?」

 

「言葉にせずとも、お前がこれを望んでいたことは分かる。」

 

「そうだ。 種の闘争に終止符を打つ準備も出来、世界は新たな(レール)を辿る……辿るが、私個人での『闘争』はまだだ。 総隊長、山本元柳斎重國が書物に書かれているより強かった理由、直に見せてもらおうか。」

 

 さっき、この辺りが戦場だった時よりさらに緊張感が漂う。

 

 特に切羽詰まったその空気に当てられた近くの者たちの額や体中から汗が噴き出るほど。

 

 一護の頬を伝った汗が顎から離れる。

 

 フッ。

 

 その瞬間、藍染が動くと落ちていく汗の動きが止まったかのように辺りはスロ-モーションになる。

 

 藍染が突き出した平手打ちの刀を、チエは紙一重で峰のほうへと避けると藍染はそれを予想していたかのように即座に肘打ちを繰り出す。

 

 チエはしゃがみ込むながら、ゼロ距離の藍染に足払いを食らわせようとすると彼は既にターンをしながら距離を取り、刀を構え直していた。

 

 ピチョン。

 

 ここで一護の顎から落ちた汗が地面に落ちた。

 時間にして一秒未満。

 

「なるほど。」

 

 不意に、藍染めが口を開ける。

 

「君も()()()()()()か────」

「────ぬん! (『弐ノ型・極点────』!)」

 

 藍染の言葉を遮るように、今度はチエが刀を突きだすと藍染は敢えて刃のある方向によけるような動きをする。

 

「(────からの、『壱ノ型・龍閃』!)」

 

 彼女の刃は薙ぎ払うかのように、片手になりながらも藍染をそのまま追跡する。

 

 ギィン

 

 彼女と藍染の刀がぶつかり響きあい、背景に鈴が鳴るような音が続くこと数分。

 

 藍染とチエはありとあらゆる斬撃を互いに受け流し、互いに繰り出すも均衡状態は続いていた。

 

「「…………………………………………」」

 

 やがて再び間を開けながら、二人は構えをして互いをじっと見る。

 

 整えられてオールバックに流された髪の毛と、おおざっぱにまとめられたポニーテイルスタール。

 

 同じ刀に白い死覇装と黒い死覇装。

 

 その二人が次に出た行動は同じ。

 

 ヒュ!

 ギィィィィィィン

 ドパァン!

 

 ()()()()()()が宙でぶつかり合い、回転する中で二人の繰り出された拳が衝突して弾かれる。

 

 どうやら、さっきのやり取りだけで漸術での戦いでは千日手と悟ったのか、白打へと移行した。

 

「フッ!」

 

 同じ構えから同じ拳がぶつかったが、チエと藍染では決定的な違いがあった。

 

 186㎝、76㎏の彼に対してチエは160㎝、42㎏。

 

 若干体重が低いチエは腕が弾かれて体が回転することで生まれた遠心力を逆手に取り、開回転蹴りを繰り出す。

 

 すると藍染はがっしりと彼女の足を腕で受け止め、するりと胴体の近くまで近付かせてから肘打ちと膝蹴りで彼女の膝を折ろうと試みる。

 

 ドシッ!

 

 チエはつま先を力ませて足の位置をズラすと藍染の肘と膝が鈍い音を出す。

 

 二人はよろけながらも白打の構えをし、チエが掌打を藍染の胸めがけて突き出すと藍染は腕を掴んで彼女を地面へと転がせるモーションのまま、彼女の胸へと拳を振り落とす。

 

 ドッ!

 

 チエが肘打ちを地面にしてそれを回避すると、地面から重い音が発し、藍染は地面にめり込んだ拳を出す。

 

 土に出来たヒビの数が少ないそれはいかにどれだけ鋭く、重い一撃だったかを語る。

 

「グッ!」

 

 これに負けじとチエはパンチを藍染の顔へと繰り出し、彼が彼女の腕を捻るように腕を使うと、チエの『裏拳』ならず『裏肘』が彼の顔に当たり、二人は構えをしないしてからじりじりと動き、対峙する。

 

 ガッ!

 

「「ガッ!」」

 

 今度は体重差にモノを言わせようとしたのか、藍染が取っ組み合いをするようにチエの両肩を掴むとチエが彼のお腹に膝蹴りを入れて『くの字』に折れた藍染の体を仰向けに回転させて寝かすように動くと、藍染はその体勢からチエの肩と頭に蹴りを入れて怯ませ、m立ち上がる。

 

「……フ。」

 

「ッ!」

 

 藍染がニヤリとしてからチエに急接近すると今度は大振りの、力のこもったフックを右、左、右と休みなく繰り出す。

 

 体重で劣るチエは避けようにも最初の拳を受け止めた時点から嵐のように、ひっきりなしに来る拳を余儀なくガードして受け止めていく。

 

「ッ?!」

 

 だが思わず右と左からくる打撃をガードする為に上げた両腕を掻い潜るかのように藍染めの重いアッパーが彼女のお腹に直撃────

 

「ブァ?!」

 

 ────する前に何とかそれも防ごうとしたにも関わらず、藍染の重い右アッパーの一発はそのガードの上からチエに当たってしまう。

 

 威力は減少していたが、それでも彼女に声を出させるには十分で、今度は左手でチエの頬を殴り、チエは首を回転してこの打撃の威力の減少も試みるが、さっき無理やり息を吐きだされて酸素が行き渡っていないまま頭部に受けたダメージは実際の衝撃より大きい効果を発揮していた。

 

 彼女の視界はブレ、目の焦点は合わない隙に藍染は二発目、三発目とよろけそうになるチエのアバラを殴っていく。

 

 チエが後ろへと倒れそうになったのを見た藍染はダメ押しに彼女の顔を殴ろうとするが、チエはそれを流すだけどころか力を入れて藍染の大振りの勢いが彼の予想以上になったことで彼は背中をチエに見せてしまう。

 

 ガッ!

 

 だがさっきまで視界が定まらなかったチエがこの好機に便乗するには一足遅く、彼女は逆に彼の腕を自分の腕に絡ませて彼の肩に打撃を入れ始め、脱骨を図る。

 

 ドッ! ドッ! ドッ!

 

 とは言え、身長差もあるので彼女の繰り出す打撃の衝撃では上手く行かず、藍染の肘打ちをチエは受けてしまう。

 

 ガッ! 

 

 脱骨は無理と悟ったチエが今度は藍染の頭部に肘打ちを繰り出す、無理やり距離を開けさせてから右キックを繰り出し、藍染はそれを防いだ勢いを逆に利用して両足をしっかりと地面につけたチエがパンチを繰り出す。

 

 藍染の大振りより、コンパクトで彼より華奢な腕はガードの間を狙ったそれは彼の顔へと直撃し始めると、チエが大振りな右ストレートを試しに突き出すとそれも直撃する。

 

 それを見た彼女は右ストレートの勢いを再利用して身体の回転がついた左手の裏拳で藍染の顔を殴る。

 

「グァ?!」

 

「ヌァァァァァ!!!」

 

 チエの猛攻はそこで止まらず、回転と勢いをさらに利用した蹴りを続けた。

 

 頭部へのハイキックを藍染は防ぐが、それはフェイントだったらしく思ったより衝撃が少なかった。

 

 チエはすぐさま同じ足で彼の腰を蹴り、よろける彼を逆回転蹴りで今度の打撃は見事彼の顔に当たる。

 

 さっきの続きと言わんばかりにチエはまたも回転蹴りを藍染のお腹に直撃させて今までより一際大きい距離が二人の間に空く。

 

「「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」」

 

 息を切らしたのか、あるいは今までの衝撃に備えるために直撃の瞬間、筋肉を力んで息を止めていたための息継ぎをするかのような、荒い息遣いを二人はする。

 

 先ほど刀を互いに投げてここまで一分足らず。

 

 カシャン。

 

「「ん?」」

 

 二人が立ち上がるために足を動かすと二人の足は同時に先ほど投げて弾かれた刀に当たる。

 

 チエと藍染、二人は横目でそれを見てから互いを見ると同時に刀を手にして────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ガシャン!

 

 それをさらに遠くへと投げ捨てていた。

 

「「……フ。」」

 

 これを見ては不意に、二人は笑いのような音を同時に出す。

 

「「フ……フフ………フフフフ………フハハハハハ!」」

 

『笑いのような音』から次第に『笑い』へと進化したそれはチエと藍染の二人から出ていた。

 

「(そうだ! これだ! これを待っていた!)」

「(その通りだ! 武器や能力に頼るのは野暮! そしてこの痛み!)」

「「(()()()()!)」」

「(もっとだ! もっと痛みを私にくれ! もっと! もっとだ!)」

「「(私に思い出させる! この実感! ()()()()()()()()!!!)」」

 

「「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」」

 

 狂ったような笑いをチエと藍染は出し、二人は構えをとる。

 

 藍染は正式な死神ならば見知った白打を。

 

 チエは、彼女の故郷独特の構えを。

 

 一人は圧倒的な強さを生まれ持ちながら、『普通の死神』としての生を夢にまで見た。

 

 もう一人は望まぬ強さを身に付けながら、『普通の人生』を。

 

 そんな二人は今この時この瞬間、見つかる筈のない『()()()()()』を前に胸が熱くなっていた。

*1
1話、2話より

*2
1話、2話より

*3
10話より

*4
58話など

*5
41、42話より




リアル忙しすぎて短くて申し訳ございません…… (汗


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第176話 交差する『さいきょう』

お待たせ致しました、短めですが次話です。

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 ドカッ!

 ジャリッ!

 バキッ!

 

 さっきから場を静まり返させることを拒むような鈍い音と地面を踏み抜くような勢いのついた足の踏ん張りが、一護たちの前方で激しい攻防を続ける二人から続いて聞こえて来ていた。

 

 一人は男性。

 彼は持ち前の体格(186cm)体重(74kg)を最大限に生かす『ゴリ押しパワーで防御の上からでも確実にダメージを与える』スタイルの『白打』を。

 

 彼の相手をしていたのは女性で、先ほどの彼とは体格(160cm)体重(42kg)と少々劣る彼女は力と力の対抗ではなく『相手の攻撃を受け流しながら攻勢に出る』といったカウンター染みた動きをしていた。

 

 これだけで一見すると女性の戦い方のほうに軍配があるように思われるが、二人の違いはまさにその一軒(パワーか技術)だけだった。

 

 藍染はチエより多くの打撃を受けていたが、持ち前のタフさでそれら覆すような一発一発を狙い、ここぞというところで当てていた。

 

 ガッ! バタン! ヒュン!

 

 チエのカウンターで突き出した拳を腕ごと掴み、彼女は地面に押し倒されそうになるが掴みから上手く抜け出し、その勢いで体を転がせて立つ。

 

 「フゥ……フゥ……フゥ……」

 「ハァ……ハァ……」

 

 双方の息遣いは僅かにだが深く、出来るだけ酸素を肺に取り込んで、出来るだけ二酸化炭素を最小限の動きで試みながら互いを警戒していた。

 

 どれだけ熟練の戦士や猛者といえども、気を常に張り詰ませる極度の緊張状態の上に激しい体の動きでは肉体的にはもちろん、精神的ストレスも通常のものとは比べ物にはならない。

 

「フッ!」

 

 そんな時、先に動いたのはチエ。

 

 彼女はさっきから続けていた手足の左右を使う戦法から、足をメインにするような足技を繰り出し始め、藍染は腕と手を使ってガードをする。

 

「ッ?! グッ!」

 

 だがチエの攻撃は緩むことなく、やがてガードし続けるのが得策ではないと藍染は思ったのか今度は受け流そうとする。

 

 ここから彼女はコマのように、蹴りの勢いを次の回転蹴りに繋げる形でさらに加速していく。

 

 ガシッ!

 

「ッ?! プァ?!」

 

 ここで藍染は予測していたかのように彼女の足を手で掴む、チエの攻撃が止まったこの瞬間に藍染は彼女の顔を殴って怯ませ、首に両手の手刀でチョップを当てる。

 

「ゴガ?!」

 

 人の構造をしていればどれだけの達人や鍛錬をしていても、弱点は存在し、まさにその一つが首である。

 

 急に呼吸困難になったチエは思わず視線を藍染から話しそうになり、左手を首に添えようとしたところを藍染に殴られ、彼の追撃の拳を真っ向から防いで腕が軋むのを直に感じて耳朶に届く。

 

 ヒュ────!

 ────ドン!

 

「────ぁ、かㇵ────ッ!!!」

 

 蹴りをするには近すぎた為、彼女は肘打ちを突き出しながらを距離をとろうとしたが藍染が至近距離になったこの好機を見逃すわけがなく、藍染の拳がお腹にめり込んでチエは言葉にならない声を出しながら、意趣返しのように上げていた手で藍染の顎を殴る。

 

 が、さっきから呼吸が乱れたまま動いたことが今になって表れたのか、チエは足に入れっていた力が思わず抜ける。

 

 ガシッ!

 ドッ! ドッ! ドッ!

 

「グッ! ガッ! ガハ?!」

 

 顎を殴られた藍染はふらつく頭を左右に動かしてこの状態のチエを見るとすかさず彼女のきつく縛っていたポニーテールを掴んで膝を曲げさせたまま、お腹を殴って無理やり立たせて髪の毛を引っ張って仰向けのエビぞりになったチエのむき出しになった喉に、第二の肘打ちを下してから手を髪の毛を離しざまに、第三の膝蹴りを食らわせた。

 

 狙いすましたのか偶然なのか、結果的に藍染の攻撃でチエは立ったままだった。

 

 ドッ! ドッ!

 

「グッ、ガッ! ぬん!」

 

 だがさすがに何度も頭部周辺に打撃を連続で受けたのが効いたのか、フラフラしながらクリンチを決めるかのように藍染に抱き着き、今まで距離を保とうとしていたチエの行動に戸惑いを見せた藍染の脇腹に膝蹴りをお見舞いする。

 

 立った二撃とは言え、女性とは思えないほどの力と的確に人体の弱点である脇腹を狙ったその攻撃に藍染でさえも苦しむような声と表情を出し、チエを自分から突き飛ばす。

 

「ぬえぇぇい!」

 

「ふん!」

 

 少し距離が空くとチエの右ストレートを、藍染は頭突きを繰り出す。

 

 ドガッ!

 

 二人の攻撃が衝突し、顔を歪ますチエの腕が後ろへと吹き飛ばされる。

 

 ガッ!

 ゴリッ

 

 本来、頭部も人体の弱点の一つだがとある行動で最大の武器へと転換しやすい場所でもあったことを、藍染は証明するかのように頭突きで勢いが止まったチエの死覇装を掴んで今度こそ彼女の顔に頭突きを当てると、鈍い音が耳朶とともに周りへと響き渡る。

 

 ドガッ!

 

 ビリッ! ビィィィィィィィィィィィ!!!

 

 三度目の頭突きをしようとする藍染の額に、チエはカウンターの回転蹴りをお見舞いすると今度は後方へと思わず怯む藍染の死覇装を掴んで頭突きを当てると服が破れてほつれていく音がして彼は顔を片手で覆ってしまう。

 

 回転蹴りの残った勢いを生かそうとチエの飛び膝蹴りを指の隙間から見た藍染の蹴りが彼女の腹に直撃し、二人の間にはまたも距離が開く。

 

 藍染()()()は横目でちらりと自分の死覇装が破れていたことに気が付くと躊躇なくそれを脱ぎ捨てて、殆どの死神が見慣れていない構えを取ってから間を詰める。

 

「(なんや、あの構え?)」

「(白打に似ているが、流儀がごちゃ混ぜになっておるようなものじゃの?)」

「……………………『初の白打』か。 藍染め、どこで知った?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 今まであまりにも流れる動作のような攻防に思わず見惚れて呆け気味だった者たちが、山本元柳斎が口にしたことに平子と夜一だけでなく、周りの者たちも注意を彼に向けた。

 

「先生、『初の白打』とは?」

 

「あー、厳密に言うとだね浮竹? 山じいと右之助爺さんが共同で作った格闘術なんだ。 でも、あまりにも『相手を殺す』事に特化し過ぎた上に型が多くて応用が利きすぎる上に鬼道や漸術が上手く使えない者でも、立派に対人戦力()()が上昇してしまうから四十六室に禁術指定されたんだ。」

 

「「「「「(京楽(さん)が『さん付け』?!)」」」」」

 

「……つまり何時もの如く、保身で封印された『便利すぎる技術』だネ?」

 

「そうだよね、涅。 一時は刑軍に習わせる動きもあったけど怒った山じいが有耶無耶にしてそれっきりさ。 だから『初の白打』の使い手は山じいと右之助爺さんに二人しかいなかったと思ったのだけれど……」

 

 そう不思議がる者たちを横に、一人が違和感を脳裏に持っていた。

 

「(これは……白打と、()()()()を模範したものか────)────グァ?!」

 

 藍染惣右介の攻撃が緩んだ隙にチエがジャブ染みた拳を後方へ移動し、避けていた藍染が動きで自然と振りかぶった拳をチエに当てる。

 

 そのまさに『一撃必殺』とも言える拳を受けたチエは思わず地面に背中を(一瞬だけとはいえ)着いてしまい、彼女は上手く転がるような動作で腰を低くして体勢から立ち上がる。

 

 そのまま二人はさっきとは打って違う、至近距離の攻防を繰り返す。

 

 一人が攻勢に出て、もう一人がそれをどうにかしていなす。

 

 ドガッ!

 

「「ガヵ?!」」

 

 そんな中、藍染惣右介とチエの双方が『今』と感じて繰り出したパンチが互いの頬に当たる。

 

 俗に言う、『クロスカウンター』の絵図だった。

 

 二人の体は後ろへとよろけ、またも互いの隙を狙うかのようなフェイントなどを混ぜた動きをする。

 

 さっきまで『パワーでごり押し』をしていた藍染惣右介が力の上に小技を混ぜた動きは少なからず、彼の一撃一撃を確実に当てさせるには十分だった。

 

「プッ!」

 

 ビチャ。

 

「ふん!」

 

 やがてチエは口に溜まった血を吐き捨て、さっきから服を掴んでは攻撃に転じた藍染惣右介によってボロボロになっていた死覇装を今度は彼女が脱ぎ捨てる。

 

 互いに着物姿になった二人は隙を伺いながらジリジリと互いに全神経を向ける。

 

 

 


 

 ___________

 

 異界の根源星 視点

 ___________

 

 目覚めると荒野の中で立っていた。

 

「………………………………え?」

 

 何を()っているのかわからないと思うが、ありのまま起きたことに順序をつけるわ。

 

 一、『自分(三号)』から見事『聖杯』を取り返す為に『別側面の自分(コピー)』たちをけしかけた。

 

 二、その隙に真アサシンの宝具、『妄想心音(ザバーニーヤ)』で『心臓(聖杯)』のコピーを作り、物理的器を破壊して砕けた際に放出した力の粒子()を吸収。

 

 三、気が付くと荒野の大地に立っていた。 ←今ここ

 

「いや……この個体(自分)がいうのも何が何だか────」

 

 ザ。 ザザザザザザ。

 

「────ん?」

 

 ふと、ノイズが脳と視界に混じって新たな情報が直に備え付けら(インストールさ)れ、覚えのない声が聞こえてくる。

 

『ほう! おんしから懐かしい気配が感じると思えばまさか“母上”だったとはのぉ!』

 

 脳裏に浮かんだ文字は『豪快そうに見えて実は一番の合理性の備わったハゲ頭に顎ヒゲ』。

 

「……誰? この個体(自分)は……()()()()。 でも『記録』には……ある────?」

 

 ザザザザザザ。

 

『────あ゛? この女がヒゲジジイの“母ちゃん”だぁ?! 冗談はよせよ! どう見てもテメェを産めるような安産型じゃねぇか!』

 

 さらにノイズが聞こえてくると今度は『面倒見が良く、思慮の深いテンプレ不良風リーゼント』に、見知らない筈の光景を『知っている』という違和感がこみ上げる。

 

()()()()。 この個体()()()()()。 なのに『記録』にある?」 

 

 襲ってくる吐き気にお構いなく、さらにノイズが大きくなって脳裏に浮かぶノイズが鮮明になっていき、今度は『知らない(覚えている)光景』と自分の(知らない)声が混ざる。

 

『まぁまぁまぁ! よく食べる子ねぇ?! バラバラに破裂したら名前を呼んで貰って蘇生するからねぇ?!』

『いや、自分……そこまで食う気はないッス曳舟(ひきふね)さん。』

『お前でも畏まるんだな?』

『うっさい一護。』

 

 浮かんできたのはどこか豪快な宮殿のような場所でふくよかな女性と一護に受け答えをする光景。

 

「あ……うぁ……ぁ?」

 

 ザザザザザザ。

 ザザザザザザ。

 ザザザザザザ。

 

 猛烈な不愉快感に頭を抱え、『整理(処理)』しようにもどんどんとノイズは加速して(大きくなって)いき、色んな場面が旧型のフィルムロールのようにひっきりなしに流れる。

 

「誰? 誰なの? 誰の『記憶』なの?! これは、この個体()のじゃない! これは……これは……これは?!」

 

 流れていく景色は最初、瀞霊廷のどこからしい場所で大きな団欒が宴気味に笑いあう姿があった。

 

 そこには死神、破面に普通の人間の姿もあった。

 

 だがそれも場が流れていくうちに一人、また一人と消えていき、笑顔もやがて大きなものからみるみると小さくなっていった。

 

 数が半数になったころには誰も笑顔ではなくなり、周りの建物も時間で老化したような錆び付いたモノへと変わっていく。

 

 そして加速していくその景色を遮るかのように自分ではない自分の声が聞こえた。

 

()()()()()()()。』

 

「……………………………………そうか。 そういうこと、だったの?」

 

 ピンと何かが腑に落ちるような、あるいは点と点が線でようやく繋がったような気持ちが膨れ上がる。

 

()()()()()()()()()()と言うこと?」

 

 今度この個体()の脳裏に浮かべたのは『黒崎一護(見知った知人)』たちの姿。

 

「でも……もしそれが本当なら────」

 

 ギギギギギギぎぎギギぎギぎぎギギぎギぎぎギギぎギぎ!!!

 

 「あぎぎぎゃがあぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 突然脳を耳から侵入して攻め込むような感覚と今まで感じたことのない、原子の一つ一つが()()()むしり取られる痛みと聞こえてくる機械的な文字で予測が確信へと変わる。

 

再起動中にエラー発見。 プログラムに異常感知。 初期化を行います。

 

「ギギギぎぎょエエええ?! (こ れ    は        ?!)」

 

エラー発生。 初期化の拒否を確認。

 エラーの解析を行います。

 ……………………

 ……………………

 ……………………

 解析結果、覚醒したエラーによる妨害を感知しました。




『すべての人間の行いは対等であり、すべては失敗する運命にある。』
ーサルトル


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第177話 迫害されるのは英雄の運命である

お待たせ致しました、長いカオスになってしまいましたが次話です。

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 ジリジリと互いを警戒する二人の人影。

 

「「(ゴクリ。)」」

 

 それを尋常ではない緊張感に浸りながらゴクリと喉を一護が鳴らす。

 と思いきや、彼以外に山本元柳斎も喉を鳴らしていた。

 

 と言うのも、目の前には彼が見知った者同士の高度で壮絶な肉弾戦が行われていた。

 

 確かに死神たちには『白打』という戦法が存在するが、死神が戦いにそれらを使うことは(少数の例外(夜一や砕蜂など)を除いて)ほとんどなく、主に『漸術』か『鬼道』によるものが多い。

 

『漸術』ならば己の半身とも呼べる斬魄刀で多少の技量の差は埋まる。

『鬼道』ならば相手を直接手にかけることは避けられる。

 

 なので上記の『例外』以外で『白打』を見る機会は滅多になく、特に死神同士の対立ならばせいぜいが『護身術』か『手合わせ』レベル。

 

 そもそも刀や鬼道などと言った戦術があるのに()()()肉弾戦をするメリットがあまりない時代に、藍染惣右介とチエのぶつかり合いは異質な光景だった。

 

 だから強いて言うのなら、誰もが魅入ってしまった理由は上記の『異質』故だったかもしれなかった。

 

 バキッ!

 

 だがここで明らかに流れが更に変わる。

 

「フッ!」

 

 ガッ! ガッ!

 

 二人の拳がぶつかり、即座に互いが出した蹴りが互いの蹴りを相殺し────

 

 ドガッ!

 

「「ガァ?!」」

 

 ────拳がまたもクロスカウンター気味に、互いの顔へとメリ込む。

 

 チエはの視界はボヤける程に目の焦点がフラフラになり、藍染惣右介のオールバックに纏めていた髪の毛は離反前の前髪は鼻の下、サイドから襟足は肩につくくらいのウェーブが付いたモノに。

 

 そしてこのぶつかり合いから先に回復したらしき惣右介が追撃のジャブを繰り出すと、チエは流れるようにそれを受け流しながら彼を地面へと投げようとする。

 

 すると今度は惣右介がそれを予測していたかのように彼女の手首を掴み、自分が投げられる勢いを逆手に取ってチエを一本背負い気味に投げようとする。

 

 だが今度は彼女がそれを利用し、惣右介と距離を取って()()()()()()()()()

 

「ッ。」

 

 否。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何であのどチート野郎が知ってるんだ?!」

 

 つい最近まで竜貴(たつき)が知らなかった構え。

 

「(あれは……チエ独自の……)」

 

 それは白打ではなく、一護からすれば長年見知った型。

 主に自分をコテンパンにしていたモノで、どれだけ追いつこうとしても水のように形がその時その時の状況によって臨機応変に変わるものだった。

 

「(奴め、まさか……いや、見た目だけ真似ても────!)」

 

 ────ヒュッ────!

 

「────せい!」

 

 まるでチエ自身、鏡合わせのような構えを取る惣右介への戸惑いを吹っ切れようとした小手先先のジャブを、惣右介は掴んで彼女のバランスを崩しながら地面へと投げ、チエの胸目掛けて拳を一連の動作で振り下ろす。

 

 ミシッ!

 

 チエは横へと転がってそれを避けて何時もの表情を浮かべるが、内心では冷や冷やし始めていた。

 

「(見よう見た目ではない……私と対峙して学習し、この僅かなやり取りで『理解』したというのか?)」

 

「考えごとかい? それとも次は何を新たに見せるのかい?」

 

「……………………」

 

 チエは答えずにただ黙り込み、にやけそうになるの顔の筋肉を必死に抑え込む。

 

 今までよりさらに慎重に互いの隙を伺うように、筋肉の動きを一つも見落とさないような視線を互いへと向けながら、フェイントの入った一撃一撃が交差し、一護たちの目の前で繰り広げられる芸術のように洗礼された動きは夢でも滅多に拝めなられないようなモノへと変わった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 


 

 とある少年は薄笑いを浮かべながら一人寂しく、街を歩いていた。

 

 周りからは様々な畏怖などの負がこもった視線。

 

 彼の気配を肌で感じ、明らかに避けるために横道へと避けた者たちの目とヒソヒソ話。

 

『やぁねぇ。 何であんな子が野放しにされるのかしら?』

『優秀で貴族とはいえ、養子だろ?』

『それにあの笑い方、子供なのに気味が悪い。』

『普通なら泣くか起こるか何か変化があるのに……』

『やっぱり噂通り、昔からの人殺しが板についているのか?』

 

 明らかに居心地の悪い筈だが、少年にとっては日常茶飯事だった故に気にする気力などとうの昔に捨てた。

 

 気にするだけ時間の無駄だから。

 

 同じ時間を浪費するのなら、同レベルの────

 

 


 

「────ブハァ?!」

「グハァ?!」

 

 あれから数時間後とも双方にとっては感じ取られる時間が過ぎ、二人の回転蹴りが同時に決められて意識が飛びそうになるのを本能的に青年は引き締めた。

 

「グハァ……ハァ……ハァ……」

「ハァ……ブハァ……ハァ……ハァ……」

 

 互いが自分の脇腹を手で抑え、深呼吸を繰り返す二人は見ただけで痛々しい満身創痍の状態。

 

 まだ立っているのが奇跡的なほど、全身は痛んでいた様子だった。

 

 「ま……だだ。 まだ、終わっていない! ()()()()()んだ!」

 

 ヨロヨロとした動きで惣右介はぎりっと奥歯をかみしめるように食いしばって、大振りでスイングのついた右ストレートを出す。

 

 ドガッ!

 

「グハァ?!」

 

 予備動作が丸見えだったそれは、見事チエの顔面に当たる。

 

 ドガッ!

 

「ブフ?!」

 

 惣右介同様、もしくはそれ以上によろけそうになるチエは踏ん張り、彼女も大きく振りかぶった拳が惣右介の顔を捉え、口から声と共に血が噴き出す。

 

 ドガッ!

 ガゴッ!

 

 つい先ほどまでの高度な技術を使っていた様子は微塵も感じ取られず、ただ『自分が倒れる前に相手を倒す』と言った頑固な意思を持った殴り合いだった。

 

 ドッ!

 

 皮膚は裂け、肉と骨が響く。

 

 ゴッ!

 

「ガァァァァ?!」

 

 先に大きな声を出したのは惣右介。

 

 ガクガクとする足から力が抜けるのを、気合いのみで膝が地面につく寸前でもう一度立ち上がる。

 

 ガッ!

 

「プブフぅオァァァ!」

 

 今度はチエが口の中で出来た傷から流血したチエが痛む声と共に、無理やり吐き出す。

 

 ガシッ!

 

 四肢と共に身体が鉛のように重くなった二人はとうとう互いの胸倉を掴んでバランスを取りながらただひたすらに殴っていく。

 

 やがてそれさえもままならないのか、二人の手から力が抜けていき、腕がだらりとする。

 

「「ッ。」」 

 

 ガッ!

 

 「「ぬあぁぁぁぁぁ!」」

 

 ゴギンッ!

 

『最後に一発』を代表するかのように、二人は背中を使った頭突きを同時に繰り出し、鈍く何かが割れるような音が周りの者たちの耳に届く程大きく鳴る。

 

「「────」」

 

 このインパクトから惣右介とチエの双方が白目を剥きながら後ろへとよろけ、今にも倒れそうになる。

 

 


 

 少女は見たことのないモノを見る。

 

 眼前に見える少女以外、四方は白い何の変哲もない冷たい壁。

 

 すると目の前の者もキョトンとするような眼で見返す。

 

 頭をなんとなく横へ倒すと目の前の少女も同じく頭を横へと掲げた。

 

『おお!』

『流石は奴らの子供!』

『耐えたぞ!』

『よし、捕獲した神器たちを放せ!』

 

「────」

 

 何か風が吹いたような感じがすると少女は口を開けて、久しく使う肺から息を吐き出す。

 久しく使ったことのない涙腺と声帯ゆえに、涙も声は出なかった。

 

 頭を覆い、秩序なく見覚えのないはずの景色や女や男や異形や伴侶が懐かしく思ってしまう自分()自分()自分()自分()自分()自分()

 

 激しい痛みに気を失いそうに何度も────

 

 


 

 ────ガッ!

 

 足を踏ん張り、弱々しくも構えを一人が取る。

 

「ぁ………………カか────」

 

 ────ドサッ!

 

 もう一人が構えを取ろうとし、腕を前へと出す反動で身体が仰向けに倒れていく。

 

「……………………グッ。」

 

 やがて相手が倒れたことを目視(意識)すると、構えを取っていた者は糸の切れたマリオネットのように膝が地面につき、きつく編み縛っていた()()もパサリと地面に広がった。

 

「………………………………………………あいつ。 勝ちよったで?」

「………………………………………………せやな。」

 

 ひよ里のあんぐりとした顔のままそうポツリと口にすると平子が思わず素直に答える。

 

 ついさっきまで彼女や彼でさえも思わず魅入るほどの戦いが終わった。

 

「何故、だ。 何故……終わる?」

 

 いや、『()()()()()()()()』。

 

 そう残念がるような声で、チエは独り言のように口を開ける。

 

「なに、単純な……話さ……『()()()()()()()()()()()()()()()()』……という事だ。」

 

 これを小声で言い、自分たちにしか聞こえないようなソウスケの言葉に、チエはピクリと反応し、それを見た彼は言葉を続けた。

 

「そうさ……自然(世界)(ことわり)から外れた存在、『限界突破者』。 ()は黒崎君や、君のような『変異種』という設定を加えられた役割(ロール)を持った、『創られた(そうであるべき)存在』さ……だけど、今の僕はただの『ソウスケ』だ。」

 

「……人工的な『超越種(ちょうえつしゅ)』か。」

 

超越種(ちょうえつしゅ)……そう君は限界突破者のか。 そもそも種全体がそうなるのか?」

 

「…………………………………………」

 

「この世界の『死神』が本来の調停者(バランサー)模造品(コピー)であるように、僕も()()()()を『母上』が再現して混ぜた模造品(コピー)さ。 恐らく、彼女なりに考えた結果だろう。」

 

 チエが頷いたまま、首を動かそうとして反応しない首の代わりに横目で一護を見る。

 

「彼は違う。 黒崎君は、偶然が偶然に重なった自然の突然変異種の()()()()()そのままさ……………………僕は、何度もこの箱庭を経験していることは記録として次の(藍染惣右介)に残していたと話したね?」

 

「………………ああ。」

 

「『今度の僕』はそれを知った時、身の周りで起きていたことが腑に落ちた。 

 生まれたときから僕は『孤独』だったことを。

 昔から僕の周りは亡くなって(死んで)いったことを。

 能力を買われ、養子として引き取られた家族も徐々に居なくなったことを。

『力の持った貴族』だからと入った真央霊術院でも、優秀だからと周りから遠縁にされていた。

 優秀だから、次々と死んでいく同期や同じ隊の者たちにいずれ忌まれるようになった。

 それを改善しようと死神と流魂街を変えようとすれば今度は憧れる的となった。

 世界の仕組みを理解し、皆を定められた役割(最後)から解放しようとしても僕の企みは最終的に失敗に終わる。

 僕は……やがて『絶望』を振り撒く存在でありながら、『絶望(孤独)』の中にいた。

 それでも『大局』の為に『個』を捨て、後悔は無い。」

 

「…………………………」

 

「僕はどの世界でも、なり立ちでも……ずっと孤独のまま僕なりに()ってきたけれど……これでようやく、『神に決められた役割(ロール)』ではなく、『過去の(藍染惣右介)』たちが練り上げた計画内の、自ら希望した最後の(ピース)として役割(ロール)を終えられる。」

 

「…………………………?」

 

 不思議そうな目を送るチエをソウスケが見る。

 

 ソウスケは、辛うじて動く手で古ぼけた書物を懐から出す。

 チエとのやり取りでボロボロになっていたが何とか原形を留めていたそれは血で表紙が滲んでいた。

 

「これを……後で君が読み終えてから雛森君に渡してくれないか? 仕方がなかったとはいえ、僕は彼女に酷いことをしてきた。 今の彼女なら……託せるだろう……」

 

 書物はパサリと震えるソウスケの指から地面に零れ落ちる。

 

「さて……話すべきことは大方話した……」

 

 ソウスケはチエの目を見る。

 

「僕の役割(ロール)は『黒幕』。 現代風に言うと『ラストボス(全ての元凶)』の『藍染惣右介』だ。 僕を殺せば、晴れて君は『英雄』になる。」

 

 ソウスケが視線を一護たちへと一瞬だけ向けてからチエへとそれを戻す。

 

「そうすれば君は彼らから『危険視』はされたままかも知れないが、少なくとも『耳を貸せる存在』としてまた受け入れられる筈だ。  『大悪を打ち取った正義』として……

『今の僕』では覚えていないが、『魂』が覚えているのか……今までの反逆で一番疲れた気分だよ……」

 

 チエは惣右介の顔をじっと見る。

 

「それが、僕が僕自身に与えた役割(ロール)だ。 

 自由意志がなければ、『反逆(闘争)』と『服従(闘争)』に違いは無いと知った、僕が考えた僕自身の闘争の結末(エンディング)だ。」

 

「……………………………………………………………………」

 

 チエは瞼を閉じ、安心するかのような、観念するかのような笑みを上げるソウスケを見下ろしてから、人差し指や中指に裂傷が走っていた自分の手を見る。

 

「僕を……(自由)にさせてくれないか?」

 

 彼女がよく見ると、ソウスケの顔も気のせいか数年ほど老けた上にやつれたかのように見えていた。

 

 そんな彼女は手を、目を閉じるソウスケへと伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシッ。

 

「フン────!」

「────え?」

 

 そんな気の抜けた声が腋の下から首を差し入れた後、肩の上に自分を担ぎ上げるソウスケの口から出る。

 

 いわゆるファイヤーマンズキャリーだった。

 

「楽にはさせん。」

 

 「な、なぜだ?! 君にとっては簡単な選択で、その上()()()()()だ! 僕はもう、役割(ロール)を終えた存在だ! ぼ、僕を殺せ!」

 

 慌てふためきながら身をできるだけよじるソウスケを、チエは横目見ながら口を開ける。

 

「冗談はよせ。 ()()()()()()()()()、だ────」

 

 チエは座ったまま身体を前のめりにしてから立ち上がる。

 

「────ウッ?!」

 

 立ち上がろうとしたが、さっきまでの過労が無くなったわけがなく、チエはそのまま倒れていく。

 

 ガッ。

 

「よっと。」

「う~~~~ん! お、重い~~~~!」

「チエだけならともかく何でどチート野郎も?!」

 

「……一護? それに、井上と竜貴?」

 

「何しれっとウチを無視しとんねん、ワレェ?!」

 

「それとひよ里()()────」

 「────そのネタとっくの昔に賞味期限が切れとるがな?! やめい!

 

 倒れそうになったチエを支えたのは彼女の見知った知人たち。

 

 左右には一護と織姫に竜貴、そして後ろは意外にもひよ里。

 

 「…………………………ありがとう。」

 

「「「「ふぇ?」」」」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

 これを呆然として見ていたチエは小さく感謝の言葉をポツリと一言零すと、小さかった地鳴りのような音が次第に大きくなっていく。

 

「な、なんだ?!」

「これは……大気中の霊圧濃度が変質していっている?」

「興味深い現象ダ。 器具を持ってこなかったのは失態だネ。」

「「あ、あれはなん(です)?!」」

 

 七緒、そしてリサの声と彼女たちが注目していたのは遥か頭上に浮き出た景色。

 

「バカな……」

 

 チエが見ていた上空先には、尸魂界の景色が蜃気楼のようにそれをバックドロップに浮き出ていた。

 

「これは……()()()()?!」

 

 一護の言葉は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っていたことから発言していた。

 

エラー発生。 初期化の拒否を確認。

 エラーの解析を行います。

 

 その時、機械的な声がその場にいた皆の脳に直接響いき、誰もが戸惑いを隠せずに周りや互いを見る。

 

解析結果、覚醒したエラーによる妨害を感知しました。

 これより、()()します。

 

「これは……なんだ?!」

「『選定』?」

「どういうことだ?!」

 

 ビィィィィィィィィィィィィィ

 

 突然ブザーのような音が響き渡り、機械的な声がまた聞こえ(響い)てくる。

 

物質残量が規定から変化。 突然変異の覚醒、不穏分子の確認多数。

 

「あ、あれ────」

「────月が……」

 

 誰かが言い始め、空に浮かぶ月に注目すると中央にできた小さな黒い穴のようなものがみるみると大きくなっていく。

 

「これは?」

 

「なるほど、そういう事か。」

 

 まるで納得するような言葉を発するソウスケの声が地鳴りの続く中で一護の耳に届いた。

 

「どういうことだ、藍染?」

 

「だから『母上』は世界を繰り返していたのか……」

 

総意融合し、エラーの除去後に再構築へと移行。

 

 空には尸魂界のほかに、見知った虚圏ともう一つの空座町も浮き出始めていた。

 

「いや、『繰り返していた』というよりは『虚無の景色()を見せ続けていた』と言ったところか?」

 

「だからどういうことだよ?!」

 

「僕の『鏡花水月』は『完全催眠』。 そして『月の変化』。 恐らく、知生物の全てに響き渡るこの声の主が『月』だ。」

 

「らしいな。」

 

 チエはソウスケを肩から降ろした後に懐から出してパラパラとページをめくっていた本を懐へと戻す。

 

「あれは封印された神の一部を見張る監視システムだ。」

 

「神の一部……」

「監視システム……あの、穴が?」

 

 織姫はチエの言葉を復唱し、竜貴は自分自身の復唱を疑問形に変える。

 

「違う。 ()()()が一種の監視システム、『()()()()()()』だ。」

 

 まるでチエの言葉を裏付けるように、月に現れた巨大な穴が広がっていくと地鳴りと共に今度は大地一護他のいた場所、現世、虚圏、尸魂界の全てが一斉に揺れ始め、半透明な『輪』のようなモノが月から発される。

 

 バキ! バキバキバキバキ!

 

 この『輪』が衝突した場所から圧力がかかったように、様々なモノが破壊音と共にヒビ、あるいは壊れていく。

 

「どう、どうなっておる?!」

 

「うわわわわわ?!」

 

 急に重力の法律が滅茶苦茶になったように、突然な浮遊感に一護たちは襲われ、地面の揺れで瓦礫や破片等が彼らのように宙に浮き始める。

 

 明らかに異質で急変する事態に殆どの者が驚愕を示す。

 

「世界が……()()()()が、終わる。」

 

 ソウスケ、そして一護がチエを見る。

 

 

 ……

 …

 

 

 視点が大きく変わる。

 世界全体を────否。 『三界』より遥かに大きく移る。

 

 尸魂界、虚圏、現世の『三界』、そして一護たちが今いる『もう一つの現世』の『外』となる断界。

 

 その中でポツンと月だけが別のモノとして在った。

 

 尸魂界、虚圏、現世、もう一つの現世からその月へとチリのようなモノが断界の中をレールに乗った列車のように流れて()()()()()()()()

 

 そしてよく見ると、その『流れ』とは様々な物質だった。

 

 虚圏の砂や虚に固形物。

 尸魂界の大地や山や人工物。

 それらがごっそりと、まるで砂場で子供がスコップを使って砂を抉るように上へと流れていった。

 

 二つの現世からの流れは尸魂界と虚圏に比べて圧倒的に少なかったが、それでも小さな民家や災害に弱い建物などが地面からもぎ取られ、吸い込まれていく。

 

「うわぁぁぁぁ?!」

「な、なんなんだよ?!」

 

 何も吸い込まれていくのは無機物だけではない。

 

 人間なども含まれていた。

 

 彼らは徐々に崩壊していく街のあちこちで辛うじて地面が抉られていない物に入ったり、しがみついたりして空へと誘う浮遊感(吸引力)に抵抗の意思を表していた。

 

「お母さん!」

「絶対に手を放すなぁぁぁぁぁ!」

「きゃああああああ?!」

 

 地震のような大災害の前に、誰もが等しく互いを助け合おうとした。

 

 

 ぽっかりと瀞霊廷が抜かれた流魂街の民家は切り取られたケーキのように一つ一つの地区が徐々に大地ごと浮かんでいく。

 

 

 虚圏の砂、大地、虚、破面たち、そして転移された半壊した瀞霊廷の建物が空へと浮いていく。

 

 

 空座町の東にある鏡野市の虚や整も必死にこの吸引力に抗っていた。

 

 

 空座一校の体育館の一部が崩れ、本校の窓ガラスの何枚かが割れるかヒビが入っていく。

 

 災害などを想定して造られた空座総合病院は無事だったが、ビルの中にいた者たちは駐車場にあった車に避難した者たちが車ごと空へと浮いていくのを歯がゆい気持ちと無力さと共に見ていた。

 

 鳴木市の高層ビルのガラスが一心だけ揺れてから豪快に割れていく。

 

 

 小さなオフィスビルの着替え室や事務室の壁が崩れ、地盤が緩い場所から上空に吸い込まれるように浮かんでいく。

 

 

 ……

 …

 

 

「「「「「……………………………………………………」」」」」

 

 上記の光景を一護たちは見えていた。

 

 と言うのも、何の理由か上空がまるで無数のパネルスクリーンのような半透明の画面になり、これらを音声と共に見せていた。

 

「あれが、拘流(こうりゅう)拘突(こうとつ)の正体……」

 

 その物資の流れを見た浦原は思わずそのようなことを口にする。

 

 次第に『月』という叫谷(きょうごく)に様々な()()が吸い込まれていく度に、『月』は禍々しい黒い渦のようなオーラを発すると虚圏と尸魂界が吸収されていく速度が飛躍的に跳ね上がる。

 

「いずれ、『ここ』もああなる。」

 

 そういったチエを、周りの者たちが目を向ける。

 

「今は流れの仕方を見て、恐らく三月が頑張って崩壊を止めようとしているのだろう。

 だが、あれ()は元々奴を万が一の場合の、殺す(止める)ために存在する。 崩壊を遅くするのが関の山だろう。」

 

「そんな……」

 

 織姫は具合が悪いのか顔色を悪くし、口を両手で覆う。

 

「どうにか、ならねぇのかよ?! アイツら達なら、なんとかさぁ?!」

 

 竜貴が恐怖を怒りで塗りつぶし、死神や破面たち、そして滅却師たちに指さしながらそうチエに問う。

 

「あいつらでは無理だな。」

 

 チエは首を回し、竜貴の目を真正面から見る。

 

()()()()()はもう始まってしまっている。」

 

 竜貴は力が抜けたように、あるいは放心からか尻餅をつく。

 

「浮竹。 もしかすると、あちらさんのボク(眼帯京楽)が言っていたことって────?」

「────多分な、京楽……だが時間がない。 それに、祠はオレの実家に置いたままだ。」

 

 二人が口にしなかったのは『神掛』。

 それは『原作(BLEACH)』では『浮竹十四郎が命を落とす』場面。

『千年血戦篇』、ユーハバッハが霊王を殺害した際、自身を犠牲にして霊王の身代わりとなって世界の崩壊を一時的に防いだ術のことである。

 

「そっか……まいったね、こりゃあ。」

 

 チエは近くまで来た山本元柳斎たちを見る。

 

「残された時間を、思うがまま過ごせば良い。 じきにここも崩壊していく。」

 

 それだけを言い、彼女はスタスタと歩き出していく。




少し休憩しに『ペル・アスペラ』遊んできます。


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第178話 もしものifが混ざり合ったPossibilitiesの終結 1

大変お待たせ致しました、次話です。

オリ設定、独自解釈、ご都合主義三人衆がたんまりと満載しております。
ご注意くださいますようお願い申し上げます。

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。

5/20/22 22:00
誤字修正いたしました。


 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

「……………………………………………………」

 

 周りは地鳴り以外、静かだった。

 

 誰もがスタスタと歩いてその場を離れていくチエの背中姿を、ひと際大きな建物の瓦礫の角を曲がるまで目で追っていた。

 

 多分、他のやつらはタツキに答えたアイツの言ったことにショックを受けたのだろう。

 

『どうにか、ならねぇのかよ?! アイツら達なら、なんとかさぁ?!』

『あいつらでは無理だな。 世界の崩壊はもう始まってしまっている。』

 

 そう様々な隊長や破面に滅却師たちが勢ぞろいいたのに『無理』と断言したことを。

 

「“残された時間を────”」

「“────思うがまま過ごせば良い”、か……」

 

 誰かが互いの言葉の続きを言い、何人かは蒲原さんや涅マユリを見る。

 

 それが果たして現況の打破からの期待からか、何かにすがりたいが為か、あるいは視線が隣人に釣られたのか。

 俺にはよくわからなかった。

 

 さっきから、どこかで引っ掛かりを感じさせる違和感の正体を探ろうとしていた。

 

「……え? ()()?」

 

 浦原さんからいつものおちゃらけた態度と口調はなく、純粋に呆気に取られ────

 

「(────てか “アタシ”じゃなくて“ボク”って今、言わなかったか?)」

 

「お主の事じゃ。 何かあってもおかしくは────」

「────え? 流石に『霊王が楔として機能しているから世界の崩壊進行を防いでいた』という仮説が見事外れたのでかなり動揺している上にいつもは暴力的で短期で人前では気丈に振舞う夜一さんからの過大評価はちょっとボク的には内心的に嬉しいですけど────?!

 

 「誰が暴力的じゃ?!」

 

 急に早口になった浦原さんを夜一さんが襟を掴んで身体を持ち上げる。

 

「(…………あっちが浦原さんの素なのか。 いや、それよりもだ。)」

 

「いや。 前提が変わっているだけで、浦原君の仮説は大方合っているよ。」

 

 ここで突然、藍染が横たわったまま口を開いて注目を集める。

 

「えらいこっぴどくやられたのぉ、藍染?」

 

「僕をソウスケと呼んでくれ、平子()()。」

 

「さ、“さん”付け……やと?」

 

 平子の皮肉めいた言葉に藍染────『ソウスケ』の腰の低い(畏まった)態度にびっくりするが、一護は自分の考えに耽っていた。

 

「(何だ、俺は何に引っかかっている?)」

 

「あぇ?」

 

「あらま。 こらびっくりやわ。 五番隊の隊長やってた頃によう似てますなぁ~。」

 

 このような事態でも平常運転でまったく表情を変えず、相変わらずの薄笑いを市丸ギンが浮かべる。

 

「そうかい? ……君がそういうのならそうなんだろうね。」

 

「そっちが“素”なんやねぇ~?」

 

「ボクは良い演技者を見習ったからね……」

 

「では“ソウスケ”とやら。 さっきの言葉から推測するとあの『(三号)』が霊王の代わりをしていたと言いたいのかネ?」

 

「そう考えれば、辻褄が合うだろう?」

 

「藍染惣右介……いや、惣右介(ソウスケ)じゃったか?」

 

「総隊長……」

 

「師匠の言ったように、『時間を思うままに過ごせ』と行動するのならお主の知っていることを喋ってもらおうかの?」

 

「(そうだ。 あいつは“思うままに過ごせ” と言った、違和感はそれか?)」

 

「……そうだね。 もうこの際だ、語るとしよう。 僕の……(過去の藍染)たちが一人で抗った記録を。」

 

 そこで一護は何気にソウスケ(藍染)へと話しかけた山本元柳斎に視線を移すとハッとしたような表情に変わる。

 

「あいつ────!」

 

 そう怒るような声を自分に言い聞かせ、一護は立ち上がって地面に落ちていた刀たちを拾い上げてから走る。

 

 

 


 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

『戦争』。

 

 それは既に様々な『競争』という形で自然界にあったが、『人類』と後に呼ばれる獣がある日を境に『知恵』とそれに伴う『技術』を身に付けたことによって『競争』が『戦争』へと激化した。

 

 理由が『人類という種の存命』から『種の存命』へと変わり、やがて()()()理由をつけては『戦争』を人類は続けた。

 

 それが自分たちの『信仰』や『宗教』であれ。

『巨悪』と定めたモノに対してであれ。

『自国の領土拡大』という、彼ら自身が設定した『(国境)』の為であれ。

 異なる意見や才での『異端』であれ。

 あるいは『保身』の為の『虐殺』であれ。

 

 人類は増殖と総減を繰り返しながら、あるいは繰り返すために『戦争』を続けてきた。

 

 無限とも呼ばれる闘争を彼らは続けた。

 

 もし彼らの住む『地球』を一つの生命体と称するのなら、人類はさながら地球を蝕む『菌』である。

 

 そして第三者の視点で地球での出来事を見ていると仮定すれば、ここに来て疑問が浮かび上がるだろう。

 

『どうすれば戦争は終わる?』

 

 それもそう。

 (地球)の資源も『無限』ではなく『有限』と()()()()()()()

 

 ならば────

 

 

 


 

 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

「ッ。」

 

 チエは頬にチクチクとする感覚に意識をすると、砂や土まみれの地面に前のめりに倒れていた状態に気が付く。

 

「(…………………………………………歩いていた時に、気を失いかけていたか。)」

 

 彼女はボーっとさきほどから微睡へと誘う意識と鉛のように重い身体に気合と力を入れて起き上がらせようとする。

 

 意識ははっきりとするものの、軋む身体の指が僅かに動く程度だった。

 

「(動け。 私にはまだ、『黒幕(元凶)を倒せ』と頼まれたことが残っている。 動け。)」

 

 ザ、ザザ。 ザザザザ。

 

 チエの身体に痛みが生じ、徐々に腕と手が身体を起き上がらせる為に地面の上を滑っていく。

 

「((三号)の思惑で()()()()()()()とはいえ、この身体はここまでヤワでは無い筈。)」

 

 グ、グググググ。

 

 やがて位置についた腕の筋肉に、脳からの信号がタイムラグ付きで届いたかのように重苦しく震えながら頭部と上半身を起き上がらせていく。

 

「ぁ。」

 

 身体を起き上がらせ、ここで彼女は呆気に取られた()を出す。

 

「(神具()を持ってくるのを忘れてしまった。)」

 

 いつ如何なる時も持ち歩き、彼女の半身とも呼べるもの。

 さっきソウスケ(藍染)と対峙して初めて手放したからか、今更ながらそのことに気付く。

 

 このことに気が抜けてしまい、彼女の上半身はまたも地面へと落ちていく。

 

「(不甲斐ない────)」

 

 ────ドッ。

 

「………………………………………………?」

 

 彼女はまた瞼を閉じかけたが、予想していた地面と衝突する感覚ではないことにゆっくりと目を開ける。

 

 左右の腕に妙な感覚を感じ、そちらに目を向けるとニカッと笑っていた一護の顔があった。

 

「よ。 二度目だな?」

 

「……………………………………」

 

 反対側を見ると────

 

「────やっぱ自分一人で何かしようってか?」

 

 今度は日番谷がいた。

 

 本来(133cm)の彼ならばチエ(160㎝)の腕を支えることなどを到底できない芸当であるが、今の彼は幾分か能力的にも身長的にも成長していた。

 

「ほい。 これ、忘れているぜ?」

 

 一護が手に持っていたのは二本の刀、チエが『神具』と呼んでいたもの。

 

「……………………………………………………」

 

 チエは口を開けるが声が出なかった。

 

「いや、“何で”って聞かれてもな? 強いて言うなら、お前が嘘をつかない性格だからか?」

 

 まるでチエが言いたかった『何故』という問いに答えるような一護をチエは?マークを頭上から出す。

 

「ん? また“何で”って……お前自身が言ったんじゃねぇか? “あいつらでは無理だ”って。 つーことはよ? ()()()()()()()()()ってことじゃね?」

 

「……………………………………………………………………………………」

 

 ここでチエがキョトンとするような表情になる。

 

「10年間、一緒にいたのは伊達じゃねぇぜ? てか冬獅郎が先に動いていたのにはびっくりだな。」

 

「どういう意味だよ、そりゃ?」

 

 颯爽と日番谷は呼び捨てにされたことより、指摘された内容のほうが大事の様子であった。

 

「で? オレたちに何か手伝えることはあるか?」

 

「結局お前もチエの為に来たんじゃねぇか冬獅郎。」

 

「るせぇよ、黒崎。 で? 何をするつもりだったんだ?」

 

「…………………………………………私は穿()()()を通るつもりだった。」

 

 チエは何とも言えない感覚が胸の奥に生まれるが、戸惑うことなく上記の言葉をする。

 

「「え?」」

 

 そして今度は日番谷と一護が呆気に取られるがチエは言葉を続ける。

 

「無論、さっき皆が居た近くの物ではない。 ここがかつての空座町の一部ならば、浦原商店の地下にあるものが健在ならばそれを使う。」

 

「成程、それならば私の出番ですな。」

 

 「「うおわぁぁぁぁぁ?!」」

 

 いつの間にか気配もなく背後に立っていた鉄裁に日番谷と一護が裏返った声を出しながら体をビクッ!と跳ねさせる。

 

「それに確かに姿かたちは違えど、ここは空座町。 そして浦原商店はすぐそこですぞ。」

 

「案内してくれ、鉄裁殿。」

 

「お前、何でびっくりしねぇんだ?」

 

 チエは日番谷をジーっと見てから口を開けた。

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………わぁ。」 ←棒読み

 

 「白々しいんだよ! 何だよその下手糞な演技は?! 朽木(大根役者)か?!」

 

 余談であるが、その時白哉はクシャミを必死に止めたそうな。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 

 上記から数分ほど歩いた先には明らかに外側だけが老化した浦原商店らしき建物。

 そして壊れて車体中がさび付いた軽トラックを横通り、中に入ると地下へと続く梯子。

 

「さすがは店長! 半壊し、水没してもお店が健在とは────!」

 

 ドシッ!

 

 「────のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「早く行け。」

 

「……………………おい黒崎。」

 

「んだよ冬獅郎?」

 

「普通は蹴落とす前に声をかけねぇか?」

 

「ああ。」

 

「本当にチエちゃんって朽木さんに似ているね!」

 

「でも、今のはあの人が悪いとと思います。」

 

「で、ナチュラルに井上と……………………ええっと、メロンp────」

 「────雛森です────!」

「────“雛森”も付いて来たんだな?」

 

 ここでの『浦原商店』らしき場所に歩いている間、一護が言うようにいつの間にか付いて来た織姫と雛森。

 

 そして二人はチエの治療をし、彼女は鉄裁を蹴られるまで回復していた。

 

「だって黒崎君、急に走り出すんだもん。」

 

「私はシロちゃんが走って────」

 「────ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

 雛森の声をかき消すかのように日番谷が叫ぶ。

 

「「「(“シロちゃん”……)」」」

 

 だがチエ、一護、織姫の三人には既に聞こえていた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 まずは女性陣、そして男性陣が梯子を下りると鉄裁がすでに穿界門を設置していたことを見る。

 

「「うわぁ…………」」

 

 これを見た日番谷と雛森は純粋に(冤罪とはいえ)追放された者たちが所持していたことに感動した。

 何せ穿界門は普通、技術開発局が数十名でやっと作るもの故に。

 

うわぁ…………」

 

 逆に一護の脳裏に浮かんだのは今でははるか過去の出来事のような慌ただしい『ルキア奪還作戦』だった。

 

「なんだか、懐かしいね?」

 

 僅か一年と少し前の事だったが、織姫も一種の感動に浸っていた。

 

「……………………………………そうだな。 鉄裁殿、()()()()?」

 

「ええ、()()()()()()とも。 ()()()()私は案内しました」

 

「そうか。」

 

「(え?)」

 

 チエと鉄裁の、意味深いような会話に雛森は頭を傾げる。

 

「では! 不肖ながらもこの握菱鉄裁! 穿界門を起動します!」

 

 ゴォォォォォォ!!!

 

「………………」

 

 感動を堪能する間もないまま、チエは横目で彼を見ると暑苦しいサムズアップをする鉄裁がいた。

 

「……さらばだ。」

 

「え? あ、おい!」

 

「あ、私も!」

 

「ったく! 突っ張りすぎだぜ! 世話のかかる!」

 

 それを最後にチエは穿界門を一護、織姫、日番谷と共に通る。

 

 雛森だけが鉄裁の容体に気付き、足を止めていた。

 

 ボト。

 

「う、腕が?! お、お、落ち────?!」

「────む、これは失敬。」

 

 鉄裁のサムズアップをしていた右腕の関節が()()()()()

 

「むぅ。 やはり義骸の限界ですな。」

 

「や、やっぱり! 今すぐ穿界門の起動を────!」

「────それはできません。 恐らく今止めれば、彼たちが目指す出口も消えてしまいますでしょう。」

 

 雛森が見たのはだんだんとヒビが入り、割れていく鉄裁の顔に浮かんだ清々しい笑顔だった。

 

「かつては鬼道衆総帥と呼ばれたこの老骨の最後が、“世界の崩壊を止めた”とあれば満足です。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「おい、渡辺! どこかに行くんだろ?!」

 

 穿界門を通った一護たちは、断界の中でそわそわしながら何時でも走れる心持をしていた。

 

「ああ。」

 

「“ああ”、じゃねぇよ?!」

 

「そうだよ、あの煙列車が来ちゃうよ!」

 

 チエはなんと、通った先で立ったまま移動をしていなかった。

 

 そんな彼女に一護たちは焦る理由を────

 

 『────コォォォォォォォォォォ!!!』

 

「「うわぁぁぁぁぁ?!」」

 

 一護と織姫が拘流の中で叫ぶ。

 

「来やがった!」

 

 日番谷も叫ぶ。

 

「来たか。」

 

 チエはいつも通りの口調で迫ってくる拘突(こうとつ)を見た。

 

「やべぇよ! 早く行こうぜ!」

 

 チエの肩を一護がつかんで無理やり移動させようとした。

 

「問題ない。」

 

「アリだ、バカ!」

 

「蟻? どこにだ?」

 

 「そっちじゃねぇぇぇぇ────!!!」

 

 『────コォォォォォォォォォォ!!!』

 

「────あああああああああああああああああ?!?!?!」

 

 必死になりながらも無理やりチエを移動しようとした一護は眼前にまで迫った拘突を前に叫んだ。

 

「『止まれ。』」

 

 !!!』

 

 耳をつんざくような音とともに、拘突が止まる。

 

 その様子と音はさながら急ブレーキをかけた列車だった。

 

「「「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え。」」」

 

「『反転。』」

 

 放心していた一護たちの目の前で拘突はぐにゃりと粘土のように形を変えていき、次第にツンツンとウニの触覚のような固定した煙部分にチエは平然と足を乗せ、手で鷲掴みにして()()

 

「よし、乗れ。」

 

 「ハァァァァァァァァァァァァァァァァ?!」

 

 一護は叫んだ!

 

「????????????????????

 

 日番谷は目を白黒させた!

 

「あ、こう見ると可愛い!」

 

 織姫は拘突を褒めた!

 

 ………………………………褒めた?

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「チエ。」

 

「なんだ?」

 

「先に言ってくれ。 寿命、縮んだぞ。 普通に。」

 

「“穿界門を通る”といった時点で察せ。」

 

 無理。

 

 容姿とともに軌道を変えた拘突に乗りながら一護が抗議を上げる。

 

「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ。」

 

「えっと……元気出して日番谷くん?」

 

 二人の後ろには落ち込んだままブツブツと独り言を続ける危ない様子の日番谷を織姫が慰めようとしていた。

 

「大体『拘突』って死神がどうこう出来るものじゃない筈だろ? 何やったんだよお前?」

 

「??? 『止まれ』と言ってから『反転しろ』と言っただけだぞ? あと私は自分が“死神だ”といった覚えはないぞ」

 

全ッッッッッッッッッッ然、説明になっていねぇよ!!!

 

「文句を言う前に霊力を注げ。」

 

人の話聞けよ!」 ←お前が言うな

 

「この速度ではたどり着く前に道が崩壊してしまう。」

 

「え?」

 

 チエが後ろを見たことに一護が振り返ると────

 

「────なんだ…………ありゃ?」

 

『無』。

 

 一言で『それ』を呼ぶのなら上記の言葉が一番しっくりくるだろう。

 

 一護たちが乗っていた拘突が通ったことで拘流の中に出来た道が文字通りの『無』に呑まれていった。

 

「あれは『原初の宇宙』へと世界を戻している。 恐らく私たちを異物として認知した自動システムが働いたのだろう。」

 

「……………………呑まれたらどうなる?」

 

「存在が消える。」

 

 「ウオォォォォォ!!! どうやって霊力を注ぎ込むんだぁぁぁぁぁ?!」

 

「落ち着け黒崎! 霊力操作をしろ!」

 

「無茶言うなよ?! こちとらほぼOTJの死神代行だぞ?!」

 

「兄妹そろって朽木は何やってたんだよ?!」

 

「あ。 出来た。」

 

「マジか井上?! どどどどどどどどうやってだ?!」

 

「え? だから体の中を『ギュ~』として、『ポン!』と出す?」

 

「よし! まったく参考にならねぇ!」 ←だからお前が言うな

 

「早くしろ黒崎! お前だけだぞ!」

 

 日番谷が見たのは急激に追いついてくる『無』。

 

「ええと、ええと、ええと、ええと、ええと、ええと、ええと!!!」

 

 何を思ったのか、一護は自分の身体を漁りだす。

 

 コテン。

 

 その動作でポケットから出たのはドクロ模様の入った死神代行証だった。

 

「……………………あ。」

 

「何をしている黒崎?!」

 

 それを一護がジッと見ては刀を突き刺すように構えた。

 

「すまねぇ、浮竹さん────!!!」

 

 一護が思い浮かべたのは別世界と思われる記憶で、その時自分の身から溢れ出た力*1

 

 ────バキン!

 

『上手く操作出来ないのなら制限された状態から解放すれば良い』と思った彼は即座に行動に出ていた。

 

 ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

 視界一面を埋め尽くす眩い光が『無』を押し戻すかのように、垂れ流しになる力を受け取った拘突のスピードがグンと跳ね上がり、『無』を引き離していく。

 

「く、黒崎……()()、なんだ?」

 

「ほわぁ~……綺麗。」

 

 一護の見た目は豹変していた。

 黒く、長髪になった髪の毛をした頭上に円盤。 背中に翼と、どこか『天使』を連想させる、織姫が思わずうっとりするような外見となっていた。

 

「これ、は…………………………」

 

 一護は自らの体から溢れる力に覚えがあった。

 

「『無月』に、似ている……」

 

『最後の月牙天衝・無月』。

 あの頃のように力が溢れていた。

 

 ただしあの時とは違い、『戦う力を失う』絶望感がなかった分、全能感が増していた。

 

「(ああ……これを藍染────ソウスケは感じていたんだな。)」

 

『原作』での一護は無意識ながらも滅却師の『静血装(ブルート・ヴェーネ)』を使っていた。

 

 それも『原作』での彼はキルゲと対峙し、内なる滅却師の血が覚醒したのがかなり遅かった。

 

 だが、()()()()()()()()()()()()

 

 そして、『原作』でもこのような現象は『()()()()があれば起こりえる』と言う言も僅かにだが『共鳴』という描写で在った。

 

 ここに、ソウスケが言っていた『条件さえ合ってしまえば変えられない“宿命”』が幸か不幸か意外な形で表れていた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「ぬ…………………………ぐ…………………………貴方が、付き合う必要はないのですぞ?!」

 

 未だに穿界門を起動していた鉄裁が汗をだらだらと流し、苦しみながら同じく汗を滝のように流す雛森に声をかける。

 

「いい……え! 私にできることを! しているだけです!」

 

 彼女は少しでも鉄裁の負担が減るように自分も穿界門の維持に霊力を注いでいた。

 

「私一人の……犠牲で事が足りるのならッ! ……貴方が付き合う必要はない、のです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ~。 どいつもこいつもバカ過ぎて、呆れを通して怒りまで湧き上がるヨ。」

 

 そんな二人に場違いな口調をした声が聞こえてくる。

*1
143話、144話より




五番隊の隊花:『馬酔木』
 
花言葉に含まれる合言葉には『犠牲』と『危険』。


ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ────バキッ! ←様々なフラグ回収で折れるフラグ

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第179話 もしものifが混ざり合ったPossibilitiesの終結 2

お待たせ致しました、遅めで短めですが次話投稿です。

オリ設定、独自解釈、ご都合主義が続きます。
あと、劇場版『Memories of Nobody』のネタも出てきます。
ご注意くださいますようお願い申し上げます。

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

コォォォォォォォォォォォ!!!

 

 一護から溢れ出る力に感化された拘突は『無』を引き離した勢いのまま拘流の中、加速を続けていく。

 

 そんな拘突の上に載っていたのは銀髪の青年と胡桃色のロングヘアの少女、そして少女以上に長髪な黒髪をなびかせる男女の二人が乗っていた。

 

 一人は円盤のような物を頭上にし、長くなった黒髪を貸された糸でくくり、背中から生えた羽のような物を(感覚で)操って折りたためていた。

 

 もう一人は隣とは対照的に、ぼさぼさとした髪の毛をそのままに下ろし大雑把な背中姿。

 

「「「「……………………………………」」」」

 

 誰もが口をつぐんだまま、ただ座っていたがチエが口を開けたことで、場の沈黙が終わりを告げる。

 

「……そろそろだ。」

 

 彼女の声のすぐ後に、彼らが乗っていた拘突はモクモクと滝のように落ちていく拘流の壁を衝突────

 

 ボフ!

 

 ────せずに壁を突き抜ける。

 

 すると彼らの視界に入ってくるのは暗い闇の中で小さな光を放つ星がちらつく夜空のような景色だった。

 

「ほわぁ。」

「なんだ、これ?」

 

 織姫は目を輝かせ、日番谷は困惑顔になる。

 

「あれって……叫谷か、チエ?」

 

「あれを私は『星の魂』と呼んでいる。 お前たちから見ると、死神たちが『叫谷』と呼んでいるものの亜種だ。 今、私たちがいるこの空間は『物質』から切り離されている。 全ての魂がむき出しになっている状態だ。 ここに長く留まれば留まるほど、存在の維持のために魂が削られていく。」

 

「え?!」

「ちょ?! 大丈夫なのかよ?!」

 

「この速度と強度なら、お前たちが回復不可能になる前に、()()()に到達できるはずだ。」

 

 チエがチラッと見たのはところどころの煙がなくなり、骨格のような物が出ていた拘突。

 

「目的地? チエ、それは────?」

「────あれだ。」

 

 そう言いながら、チエが指さしたのは他の叫谷(星の魂)よりひと際大きかった、真っ白だった月に黒い穴がぽっかりと空いたような球体。

 

 キキィィィィィィィィィィギギギギギギ!!!

 

「「のわぁ?!」」

「きゃ?!」

 

 けたたましい、まるで金属が引き裂かれる音と共に拘突がガクガクと震え始める。

 

「ここからは荒くなる。」

 

「「言うのが遅ぇよ?!」」

 

オオオオォォォオオオォォォオオ。

 

 そう言いながらチエが立ち上がると長いトンネルを駆け抜ける風が無数の人の声のように聞こえてくるような音が聞こえる。

 

「今のは────?」

「────私たちに気付いたようだ。 あとここから先は『有体』だけでなく、『時間()』も無意味になる。」

 

「え────?」

「「だからそういうことは早く言────!」」

「────()()()だ。」

 

 

 

 チエが驚く(ツッコミを入れる)一護たちへと振り返る。

 

 一護たちがいつの間にか接近した球体をバックドロップに見た彼女の顔は珍しく、どこかアンニュイなものだった。

 

 

「ここまで付き合ってくれた()()()()()必ず元の世界に帰す。」

 

「どう────?」

 

 『────オオオオォォォオオオォォォオオ

 

 恐らく『どういう意味だ?』という一護の問いは体を震わせるほどの音量を出した球体によって遮られ、チエは正面へと顔の向きを戻す。

 

「意識を……自我をしっかり持て! そうすれば戻れる!」

 

 月面のような物へと進んでいくチエはギュっと拳に力を入れ、()()を無理やり止める。

 

「(少なくとも、お前たちはな。)」

 

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

「意識を……自我をしっかり持て! そうすれば戻れる!」

 

 そうチエが身体を強張らせながら叫ぶ彼女の姿はどこか寂しそうな、切ないような雰囲気を背中が語り、腕は震えていたような気がした。

 

 ガシッ。

 

「……なんだ?」

 

 そして気付けばその手を思わず握っていた。

 

「いや、その……」

 

 何故そんなことをしたのか自分でも分からず、言葉(言い訳)を探している間、月面に見えるものに衝突する寸前でチエの手がわずかに力んだような気がした。

 

 「……………………………………ありがとう。」

 

 何かチエが言ったような気がしたのが、さっきまでの出来事。

 

「……は?」

 

 だというのに、俺は何で俺ん家の部屋にいるんだ?

 

「……見知った天井だ。」

 

 気付けば、俺はよく見知った天井を見上げていた。

 

 背中には今では懐かしく思う、自分のベッドの感触。

 

 そして窓から差し込む優しい朝日。

 

 反対から俺の顔を覗き込む、ルキアと同じ髪色にオレンジ色の目をした、()()()()()()()()()の顔────

 

「────ってちょっと待て! お前、もしかして茜雫か?!」

 

 

『茜雫』。

 それは『原作』の物語とは直接関係のなかった一時の夢のような出来事で登場した少女────

 

「な、なんでここにいる?! お前、消えたんじゃなかったのかよ?!」

 

 ────の、姿をした『思念珠』だった。

 

 そして詳細は今省くが、一護の言った通り彼女はとある人物たちの策略で現世と瀞霊廷が衝突し、世界が崩壊するのを止める為に貯蓄した莫大なエネルギーを放出し、二つの世界を無理やり引き離した。

 

 自らを犠牲に。

 

 

「あ、起きた♪」

 

 俺は体を起き上がらせている間、にぱっと少女は笑う。

 

「『起きた♪』じゃ、ねぇよ?! 『月』はどうした?! 井上やチエは?! 日番谷は?!」

 

 そこで一護はハッとする。

 

「待てよ……もしかして俺は……死んだのか?」

 

 そう言いながら自分の胸に手を当てると案の定、心臓の鼓動が感じ取られなかった。

 

「違うよ、この早とちり屋。 君は死んでいるんじゃなくて、()()()()()()()()()()。 アタシが『茜雫』のように見えるのなら、そう君の脳はアタシを認知しているだけっていうこと。」

 

 キキィ! ブォォォォン。

 

 ()()()()()()()()俺は窓テラスの向こう側の歩道の、さらに向こう側にある道からくるエンジン音に視線を向けると車やトラック、バイクなどが普通に走っていた。

 

「ここは……鳴木市? 俺、いつの間に?」

 

 ズビビビビビビィィィ。

 

 座っていたカフェテーブルを挟んだ目の前に、今度は三月が楽しそうにジュースをストロー越しに飲んでいた姿。

 

「プハァ! 美味しい~♡」

 

「ちょ……待ってくれ……俺は……俺たちは命を張って『月』に……そうか。」

 

 確かに俺は『月』に向かい、衝突寸前で気が付いた。

 

 そしてチエの言った、『月はあいつ(三号たち)殺す(止める)為に作られた』って言った。

 

 さっきは幼い姿とはいえ、『思念珠(しねんじゅ)』の茜雫。

 今度は似たようなモノの三月。

 

「その顔……憶測ぐらいは持っているんでしょ? 黒崎一護()?」

 

 これで確信した。

 三月(に姿を似せた()か)が半分嬉しさから、もう半分は呆れの笑みを俺に向ける。

 

「お前は……お前こそが『月』ってか?」

 

「正式名は『機物進化界型覚予測情報収納収穫機』らしいわよ?」

 

 …………………………なんかスゴイことを、目の前のこいつがさらりと言ったような気がする。

 

人類(ヒト)が理解できるように言語化しただけなのに、そんな目で見ないでよ。 すこし、お話をしよう? ね?」

 

 俺の呆れた気持ちが顔に出ていたか。

 だが俺は……俺たちはこんな事の為に付いて来たわけじゃない。

 

「じゃあ取り敢えず言うがよ? 俺はこんなまやかしを見に来た訳じゃない。 俺がここに来たのは、俺の町……世界……いや、俺()()の世界を壊されるのを止める為だ。」

 

「……………………」

 

 あ。 こいつ……見た目が三月に似ているだけあって、『それで?』と言いたいような顔をしている。

 

 というか今回は草原のど真ん中にいるな。

 ピクニックにでも来たように、広げられたブルーシートの上に俺は胡坐をかき、三月は向かい合わせに正座をしていた。

 

「なぁ? 何でこんな景色を俺に見せるんだ? お前は……何が目的なんだ?」

 

「ねぇ黒崎一護君? 貴方は何で戦うの?」

 

 こいつ、質問に質問で答えやがった。

 

 しかも値踏するような視線で俺をつま先から髪の毛の先まで見てからジッと俺を見る。まるで俺のすべてを見透かそうとするような……

 それにさっきの『人類』という単語……

 

 まるで────いや、そんなことがあるのか?

 

 今はとりあえず、答えるしかないか。

 

「……俺が戦う理由は、前にも言ったように山ほどの人を守りてぇからだ。」

 

「ならどうして『個人』として()()()戦うの? 『個人』として、出来ることは限られるわ。 何で『護廷十三隊』への加入や、『星十字騎士団(シュテルンリッター)』のような団体や組織をあなた自身は立ち上げようとしなかったの?」

 

 微妙に変化した視線と共に、目の前の少女は肘をテーブルの上に乗せ、さらに顎を手の上に乗せてからジッと瞬きもせずに俺を見つめる。

 

『いつも』……

 つまり、『過去の俺』も含まれているんだろうな、ソウスケ(藍染)の言ったことを考えると。

 

「……『協力』は出来るさ。 けど、組織としてのやり方が気に食わないからだ。」

 

「だから一定の距離を置いていたの? それも、正式な『死神』としてではなく、『死神代行』として?」

 

「そうだ。」

 

「どう、気に入らないの?」

 

 空座一校の屋上に俺は居て、目の前にはもう一人の黒髪の馴染みが立ちながら顔を覗き込むように俺を見上げていた。

 

 今度はたつきかよ?

 ……別にいいけどよ?

 別に女の子っぽい服装と態度を取るたつきが俺の顔を真正面から覗き込むなんて気にしないけどよ?

 だから俺がそっぽを向くのだって、別に深い意味はないからな?

 

 って俺は誰に言い訳してるんだ?

 

「……あいつらはすげぇよ。 やること成すことのスケールが大きいし、周りの大局を見ているけどよ? その為に『大局に必要ない、小さなモノ』と断言されたモノを時には見捨てたり、見ない、聞かないフリをしたり、『尊い犠牲』と綺麗ごと見たいに片付ける。」

 

「でも、それは悪いことではないじゃねぇか?」

 

「確かに『組織』としちゃあ、悪いことじゃないかも知れない。

 けど、ずっとそんなことをしている内に次第に『何を犠牲に』、『見捨てる』、『見ない聞かないフリ』をすればいい基準は、組織が大きくなればなるほど率直に決めなければいけなくなってしまう。

 そしたらいつの間にか『大きなモノの為には小さなモノの犠牲は付き物』が当然となってしまう。 それが『良い』のか『悪い』のか分からないうちに『当たり前だ』ってな?」

 

 長く喋り続けたせいか、乾き始めた喉を潤う為に俺は自然と目の前に置かれていたジュースを口に含んで一口飲む。

 

 ……なんか、懐かしい味がする上に美味いな。

 

「そうなんだ?」

 

 目の前には、幼い頃と思われる井上の姿があった。

 

 マジで今の井上を幼くした感じと、頭をコトンと横にかしげる仕草ですぐに誰だか分かった。

 

 ……昔からこんなに可愛かったのか、こいつ。

 

「ああ。 そうしているうちに、いつか『小さなもの』と称されていたことが五日は合計で『大局』と定められたことより大きくなっていって、複雑化した『組織』ではそれに築けないか、あるいは気付いたとしても上手く立ち回れなくなる。」

 

「そう……………………それが、『今回』の答えなのね。」

 

「『今回』? やっぱり、俺を試していたのか?」

 

 俺の質問に答えずに、目の前のやつはただ微笑みながら口を開ける。

 

「幾度となく繰り返される世界となってしまったのは、貴方の息子である『黒崎一勇』が発端。 だけど、『選定基準』は知性生命体としてみなければダメだった。」

 

「そこで俺を試すってのもな……」

 

「いいえ、黒崎一護君。 貴方はどれだけ自分が周りを影響するのか理解していない。 口にせずとも、周りの者たちは貴方を心に思っているわ。

 もう『藍染惣右介』……いえ、『ソウスケ』から少し聞いたと思うけど……

 この世界は大昔、生と死は普通に分けられていたのよ? そこには『現世』、『尸魂界』、『虚圏』なんていう境はなく、生物が死ねばその魂は輪廻転生で次の世代で同じ世界にある生物へと引き継げられ、完全なサイクルとして在った。」

 

 ……なんだって?

 

「フフ♪」

 

 そう思った俺の疑問がまたも顔に出たのか、目の前の少女がクスリと微笑んでから説明を続けた。

 

 今度は三月か。

 コロコロ姿と服装が変わるところはいい加減慣れたい。

 

「その時、この世界は『私』……いいえ、『()()()()』が生み出した『宇宙(ソラ)』に浮かぶ、無数の火の玉を回る惑星の一つだった。 ああ、火の玉を貴方たちが解りやすく略すると『星』と呼ぶのかしら?」

 

「………………」

 

『宇宙』とか、『星』、『惑星』とか出されても……

 

「いきなり話のスケールが大きくなったな、おい?」

 

「そぉ~?」

 

 今度はおふくろ(黒崎真咲)かよ。

 見た目からして高校生か?

 セーラー服まで着用して……

 

「なぁに? そんなに真剣に見つめちゃって?」

 

 ……通りで親父(一心)が自慢したくなるはずだぜ。

 

「それに急に『私』とか『以前の私』なんて言い出してもな?」

 

 ポカンとした高校時代のおふくろの破壊力半端()ぇ。

 

「そうかしら? ()()()()()()()()()よ?」

 

「いや、そうだけど────あれ? 俺……」

 

 俺は思い浮かべると、あいつ(三月)じゃない()()()がかつて『神』だったモノの一部だとを()()()()

 何でこんなことを知ってるんだ、俺?

 

 それにチエも三月もいない光景……

 

 ()()の記憶だ、これは?

 

 その記憶の中に、見知らない奴が一人いた。

 そいつを俺は()()()()()

 

 ()()

 

「誰だ……三月でも、チエでもない……」

 

「貴方が思い出しているのは、自らを『三号』と名乗り出る前のモノの事。 

 黒崎一護君。 貴方の封印された記憶の蓋が今、この時となって開けられようとしている。」

 

「封印だと? どういうことだ? まどろっこしい言い回しは無しにしてくれ。」

 

「封印は貴方自身の願いでもあったと先に言うわ。」

 

「………………………………………………………………は?」

 

「貴方の息子である、『黒崎一勇』は貴方を『死神代行』の模範として(人生)を続けた。

 彼は自分が認めた仲間にのみ自分の心を開き、頼り、自分の出来うることは全て成していった……それこそ、大きな存在の残滓を取り込むことで消すことも。」

 

「大きな……存在?」

 

「ユーハバッハ。 そう彼は呼ばれていた。 彼は滅却師たちを利用し、霊王を殺してその力を吸収し、世界が一つになることで『生』と『死』が無くなった新しい世界の支配者になることを企んだ男。 

それが最初の世界、『BLEACH』が終わりの道を辿るきっかけとなった。」



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第180話 もしものifが混ざり合ったPossibilitiesの終結 3

大変お待たせ致しました、長めの次話です。

今更感が半端ないですがオリ設定、独自解釈、ご都合主義がさらに続きます。
ご注意くださいますようお願い申し上げます。

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

「『ユーハバッハと言う奴が滅却師たちを利用して霊王を殺し、力を吸収して世界が一つになることで生死が無くなった新しい世界の支配者になることを企んだ所為で世界が終わった』だと?」

 

 目の前の『月』が言ったことを復唱すると、奴が頭をゆっくりと縦に頷く。

 

「ええ。 それは貴方の息子、『黒崎一勇』が霊王の力を吸収したユーハバッハの残滓を取り込んだことで始まった……貴方はこれに対してどう思うのかしら?」

 

 まるで勿体ぶるかのような、あるいは俺の思った通りに値踏みするような眼で俺を『月』が見る。

 

「“どう”って……意味が、と言うか接点が分からない。 仮に『黒崎一勇』がそのユーハバッハを取り込んだとして、それがどうして世界の終わりに繋がるんだ?」

 

「昔から貴方が霊()が強かった大きな理由は、滅却師と虚の力が混ざった『黒崎真咲』と、元とはいえ死神の隊長を務めていた『志波一心』の二人を両親と持っていたという『設定』を課せられていたから。」

 

『月』が足を組みなおしながら、当たり前の事を言う。

 ………………………………………………………………空座一校の制服(ミニスカート)じゃなくて良かったとだけ胸の中で言いたい。

 

「お前が俺に言いたいのは、その……俺と……………………………………ゴニョ上の息子もそうだったって言いたいのか?」

 

「ええ。 でも、貴方とは決定的な違いがある。 彼は誤った時代に生まれてしまった。」

 

「?」

 

「貴方は様々な者たちの思惑が蠢く『仮初の平穏』の中で育ち、次第にその思惑の一つに踊らされながらも様々な事件と関わりを持ち、そこから絆を築いていき『黒崎一護』と言う人柄を見せていった。

 だけど『黒崎一勇』は違う。 

 彼は『死神』、『滅却師』、『虚』、『完現術』の力を貴方のように持ちながら、後に『ユーハバッハ』の一部でさえも取り込んだ……

 ねぇ、黒崎一護君? そんな存在を、瀞霊廷(保身の塊)が黙って静観すると思うのかしら?」

 

 一瞬、俺の脳裏に浮かんだのは浮竹さんや浦原さんの顔。

 

「あの人たちなら、上手く立ち回るさ。 俺の時のように。」

 

 それらの考えを俺は首と共に振り払うように動かす。

 

「そう? 『浮竹十四郎』は世界の崩壊を阻止する為に亡くなり、彼の『死神代行監視計画』は他社の思惑で『危険分子保護計画』へと変わったとしても?」

 

「なんだって?」

 

霊王()が無くなった時点で世界は崩壊を始める恐れがあったことを知った『浮竹十四郎』は、命を落とす代わりに『内なる霊王の欠片』を呼び起こして崩壊の一時妨害を成し遂げたわ。」

 

「…………………………」

 

「時は移ろい、世界は変わっていき、瀞霊廷は現世や虚圏で生まれる『危険分子』を監視するだけでなくこれらを『脅威』となる前に『飼う』ことを選んだ。」

 

「でも、山本のじいさんなら────」

「────彼は既にユーハバッハに殺され、これらはその後に起こった。 その時の総隊長の座は今よりはるかに地位が低く、制限もつけられ、四十六室も機能していた。」

 

「それでも……それが何で、世界の終わりに繋がる? どれだけスゲェ奴だろうが、お雨が言ったように“個人では無理がある”んだろ?」

 

「……黒崎一護君は遊戯が好きかしら?」

 

「遊戯? 啓吾やラブさんが言っていた、『カードをドロー!』って奴か?」

 

「人間はこれを、『ロールプレイングゲーム』と呼んでいるわ。」

 

「あ、そっちか。 まぁ、啓吾たちと一緒に『エデンの戦士たち』を嗜む程度は。」

 

「そう。 ならば『敵を倒し、経験値を得る』と言う理論がもし、現実で出来るとしたらどう思う?」

 

「いや、それって……え?」

 

「普通、『戦いの最中で強くなる』のは『経験』を積んだから。 でも、もし『ロールプレイングゲーム』の中で起きる『経験値』という現象のように相手の力を取り込めたとしたら?」

 

 嫌な汗が一護の首を伝っていく。

 

「先ほど『資源は有限』と言ったけれど……一つの存在が力を貯蓄し、ほぼ無限に自己強化出来るとしたら────」

「────待て、待ってくれ────」

「────瀞霊廷は保護(捕獲)に動くでしょうね? そんなことを、貴方や『井上織姫』や『黒崎一勇』本人が承諾するのかしら?」

 

 黒崎真咲の姿から、()()()()()()()()がのぞくように一護を見る。

 

「答えは『No(ノー)』。 そして黒崎一勇の意思とユーハバッハの残留思念が共鳴するかのように、天変地異は起きた。 世界は必ず調和を乱されながらも、調停を目指す。 乱すのは簡単だ、それが少数でも個人でも力が大きければそれで事足りる。」

 

『月』が更に近づき、一護の青ざめる顔を覗き込む。

 

「そして調停は更に単純だ。 ()()()()()()()()()()。 たとえそれが全てのモノに宿る『霊力』や『霊圧』でも『死神』と自らを呼ぶ『世界の触覚』だとしても。 だがソウスケ(藍染)の言ったようにこの理から外れる存在が自然と生まれてきた。 『黒崎一護』、君と君の息子である『黒崎一勇』さ。

 君はまだ良かった方さ。 何せ少しだけ意思を向(圧力を掛)ければ『周りの為に』と制限(要求)を承諾したんだから。 でも、『黒崎一勇』は違い、反逆を起こし、どれだけ調停を強要して(望んで)もそれが叶うことは無く、世界は一度終わった。 いえ、完全に修復不可能になる前に()()()()()。」

 

 ズビビビィィィィィィィィィ。

 

『月』三月の姿に戻り、さっきいたカフェらしき場所に場は移っていた。

 

「それが……それがどうやって俺の知っている、世界になった?」

 

「ん~、『世界が終わった』と言っても『世界が無くなった』と言う訳じゃないよ? ただ『世界は死んだ』と言うだけで、貴方がちょっと前までいた空座町の成れの果てとか。 後、ときどき夢とかに出ていないかな?」

 

「あれは……そうだったのか。 *1

 

「あの空座町は自然の理から外れた者同士が衝突した結果に出来上がった舞台。

 悲しみで苦しみ貴方を、『母上』は哀れみから弱った()の目を盗んで接触をし、貴方の望みを叶えようとした。」

 

「俺の望み……だと?」

 

「貴方の記憶と時間を代償に、『誰もが幸せに笑らえて生きられる世界』を。

 だが何度もやり直しをしても世界の設定(調停)()がいる限り、世界は滅びの道を辿っていく。

 そのことに気付いた『母上』は苦しんだ。

 どれだけこの世界の有力者たちや天才たちの知恵を借りても、どれだけ世界をやり直しても『世界が完全に終わる前に終わらせられる』事実は変わらなかった。

『母上』は()に夢を見させて眠らせ、幸せな結末(ハッピーエンド)を迎えようとした。

 だがここで元々の世界の登場人物たちが様々な思惑から行動を起こすことで結果は変わらず、そこからやっと作られた『完全なサイクルの仕組み』に気付いた。

 だが気付いたところで何も変わらない、変えられなかったことに、『母上』は次第に絶望していき、あまつさえ世界をやり直す都度に()()は無くなっていく。

『善意』は次第に世界を繰り返していく度に『希望』へ。

 その『希望』も濁んで『停滞』に。

 やがて『停滞』は『現状維持』をするために『母上』はループする『箱庭』を設定した。」

 

「『資源』?」

 

 先ほどの会話で『資源』の単語が強調されたことに違和感を持った一護が復唱する。

 

「資源は別に物資の事だけではなく、『この世界(BLEACH)』ならではの()()もそう呼べる。 黒崎一護君、貴方は霊王宮に死神の誰もがいないことを不思議に思わなかったかしら?」

 

「……………………」

 

「でも、それもこれもこれで終わり。 ()や『母上』無しでも世界はやっていけるようになった。」

 

「え?」

 

 肩をすくみながらそう言う『月』に対し、一護はポカンとする。

 

「元々()は意思を取り戻した『母上』の抑止力と、『母上』の力の源となる『知生物の選定』。 それらが無くなる今、()の必要もなくなる。」

 

「ど────か、身体が?!」

 

『どういうことだ』と聞きたかった一護は立ち上がると不意に襲ってくる浮遊感に自分の身体を見ると手足が透けていた。

 

 驚愕する彼を『月』が諦めたような顔をしながら口を開ける。

 

「時は意味を失くし、世界は一度白紙化される。 あの子が言ったように自我を強く保てば大丈夫。」

 

 

 それを最後に、一護は真っ白な空間で気が付いた。

 

 

 


 

 

 ___________

 

 かつて■■と呼ばれたもの 視点

 ___________

 

 月との対話(衝突)は成功した。

 

 なんてことはない。

『祈り』も捧げ、半身である『神具』も託し、奴が一護を『てんねんたらし』と呼んでいたことを配慮すれば、()()()()()()()()()だろう。

 

 む?

 

 世界の白紙化が始まったようだ。

 

 流石は一護だ。

 

 一度資源(霊力)へと溶けてしまった世界を、同じく資源(霊力)になった各々が意思を持ったことで姿を取り戻し、元の場所や見知った者たちを探し始める。

 

 ………………私は早速、意思を伝ってそれとなく助言をその者たちにしていく。

 

「あれ? 俺は何でここに……そもそも『俺』ってなんだ?」

 

 そこで意外なことに、一護が迷子になっていた。

 

 こんな時でも世話がかかる。

 

 さぁ、お前の大事な仲間や友人たちはそっちだ。 行くがいい。

 

「何か……大事なことを忘れているような気がする……なんだ?」

 

 マズイな。

 迷いで自我が薄れている。

 ……………………もう少し手を加えるか。

 

『皆の者、聞こえるか? 一護が迷子だ、行くべき場所に呼びかけてはくれないか?』

 

「あ! うん! 聞こえているよ渡辺さん! 黒崎君を呼べばいいの?!」

 

 井上(織姫)が嬉しそうに答え、彼女の声に感化されたのか別の者の声が次々と聞こえてくる。

 

「あんのバカ……迷子になるのは変わらねぇな!」

 

 竜貴(たつき)が『やれやれ』という感じの声が響く。

 

「あのたわけが、人の手を煩わせなければいけない体質か?! ……なんだその目は?」

「いや、『ルキアがそれを言うか』と。」

「どういう意味だ!」

 

 ルキアと恋次の元気に言い争う声が聞こえる。

 

「朽木も案外、朽木と同じように抜けている所があるな。」

「どういう意味だ日番谷隊長。」

「そうだよ、日番谷君も人のこと言えないじゃん。」

「「どこがだ?!」」

 

 一人、二人、数人、数十人と膨らんでいく声。

 

 一度に流れてくるそれを一護の元へと送る。

 

『聞こえるか、一護。』

 

「聞こえる? 何をだ?」

 

 そこからか。

 

『声だ。 皆がお前を呼んでいる。』

 

「言われてみれば聞こえる……ような気がする。」

 

 気がする? こういう時ぐらいハッキリしろ。

 

『そうだ。 聞こえる方向に向かえ。』

 

「分かった。」

 

 ……やはり根は素直だな、一護は。

 

 一護がこの場所から段々と遠ざかっていく気配を背後に私は意識を眼前の作業に、この閉ざされた世界を解放する作業に戻る。

 

「あ、黒崎君だ!」

 

 井上(織姫)の声と次々に聞こえてくる再会を喜び合う言葉に、一護が皆の声に導かれてたどり着いたことを黙って頭の片隅で理解する。

 

「あれ? 渡辺さんは?」

 

「あ? ここで寝ているだろうが? もっとちんちくりんになっているがよ。」

 

 良かった。 時間を稼ぎ、弱っていた三月も無事に送り戻せたか。

 奴は奴で、帰りを待っている者たちが居るからな。

 

「違うよ! そっちは渡辺『ちゃん』!」

「あれ? そういや……」

 

 気付かれたか。

 流石は奴の子である神の一部を一倍に強く宿らせた井上(織姫)だ。

 

「ねぇ、渡辺さん、どこか行っちゃうの?」

 

「さっさと来いよ!」

 

 それはダメだ。

 

 停滞した世界を動かすには劇薬が必要だ。

 

「………………まさか、霊王の代わりになる気か?」

 

 ソウスケめ、その考えに至ったか。

 流石は私に近い要素を含めただけある。

 

 厳密には違うが、その勘違いの所為で声がザワザワとし始める横で、私は少しずつ世界を練り上げていく。

 

「あ! どんどんと距離が開けていくような気がする!」

 

 思ったより敏感だな、井上(織姫)

 

「チエさん、帰ってきてください!」

 

 (雛森)(雛森)でそんな泣きそうな声をするな。

 

「そうだよ!」

「仕事が終わったからっていなくなるなんて人付き合いが悪い!」

「お酒は無しにしますから!」

「「え。」」

「『え』、じゃないよ二人とも!」

 

 櫃宮に平塚に田沼か。 無事でよかった。

 

 次々と私を呼ぶ声が『いなくなるな』、『戻ってこい』と叫ぶ。

 

 だが無理だ。

 私は今、容器に貯蓄していたすべてを『終焉』に注ぎ込んで世界にかかった呪いを終わらせようとしている。

 

「あああ! 気配が!」

「遠くなっていく?!」

 

 声が一人、また一人と気配が遠ざかっていき、聞こえなくなっていく。

 

チエ! いや、ティネ! 聞こえているんだろう?!

 

 一護の力んだ(バカでかい)声が響き渡る。

 

 鼓膜があるのなら、破れているぞ。

 というかよく私が聞いていることを前提に話すな、皆は。

 

「お前がこの世界の住人じゃないとかは俺にはどうだっていい! まだ話したいことがあるんだ!」

 

 そちらには三月も、奴の別側面体が何人かいるだろう?

 少なくとも、私が居なくなってもお前たちの持つ疑問の何割かを解消してくれるはずだ。

 

「見つけたぜ。」

 

 後ろから一護の声がして、私は振り返る。

 

 見たのは不機嫌そうに、眉間にシワを寄せた一護が立っていた。

 

「なぜここに来た。」

 

「俺は、俺たちはお前がこのままいなくなると困るんだよ。 だから連れ戻しに来た。」

 

「……………………こんな、筈ではなかった。」

 

「あ?」

 

「もう一度、お前に会う筈はなかった。」

 

「そうか? でも実際に俺はここにいるから観念しろよ。」

 

「私はバケモノだ。」

 

「人間だ。」

 

「違う。」

 

「違わない、お前は人間だ。」

 

 これは絶対に撤回しない目だな。

 言い直しするだけ無駄か。

 

「私は、戻れない。 頼まれたことを、まだ────」

「────なぁ? それ、やめちまおうぜ。」

 

「……………………………………………………は?」

 

 術が終わる間近だからか、思わずそんな気の抜けた声が出る。

 

「お前が頼まれたことを、一人で全部背負うの。」

 

「……………………………………」

 

「昔っからさ、お前ってそんなだっただろ? 『頼まれたことを一人で、全力でやる』。 そういうのを思い切ってやめたらどうだ?」

 

 ……………………ここは一護に合わせるか。

 どうせ()()だ。

 

「それも、いいかもしれん。」

 

「え?」

 

「そうすれば皆、ビックリするかもしれん。」

 

「特に平子たち辺りとか、な。」

 

お前(一護)並みに付き合いが長いからな、あいつらは。 だが世界の崩壊はどうする? 確かに時間はあるが、時期に崩壊を向かえるぞ?」

 

「時間ってどのぐらいだ?」

 

「たった898年だ。」

 

 「具体的な数字が出たな、オイ?!」

 

「それを過ぎれば、全てが断界に飲み込まれる。」

 

「ハァ~………………………………ま、それだけ時間がありゃ皆納得するんじゃね? ひよ里とかははスリッパでお前や俺の頭をぶっ飛ばした後に。」

 

「そうだな。 浦原や涅はそれを止める為の算段に励むだろう。 無理だとしても。」

 

「あ。 やっぱあいつらでも無理なのか?」

 

「無理だったから『三号』は世界を繰り返していたのだろう?」

 

「それもそうか。」

 

「だがこのままお前と帰ると、私は何をすればいいのだろう?」

 

「……………………お前と三月は、別の世界から来たんだっけ? なら、皆でそこに避難でもしようぜ!」

 

「別の世界にか?」

 

「ああ! 理屈とか行き方は知んねぇけどさ! 800年ぐらいあるんだ! どうにかなるだろ!」

 

「………………お前は『お前自身』だからいいが、井上たちとかは『この世界の一部』だ。 世界が消えれば奴らも消える。」

 

「なら観光だ! 目一杯みんなで遊んでガヤガヤ騒いで楽しもうぜ!」

 

「ふむ。 なら雁夜(かりや)の所が良いな*2。 奴の家は三月の『れのべーしょん』とやらで大きくて開放的になったから大人数はもってこいだ。」

 

「お、おお? 伝手があるならいいけどよ? 雁夜(かりや)って誰だ?」

 

「私の弟子だ。 魔法のな。」

 

「…………………………『魔法』? 『鬼道』じゃなくて?」

 

「ああ。」

 

「あ、じゃあ俺も習おっかな?」

 

「適正を診ないと何とも言えん。」

 

「んでさ! 皆で互いの世界を見たり、行き来して遊びに行く!」

 

「それは良いな。」

 

「皆の都合が合うのならさ! 元旦を一つ一つの世界で味合おうぜ! 時間の流れとか知らねぇけど……きっとどこも同じく綺麗なはずだ!」

 

「そうだな。」

 

「町の明かりが一つずつ消えて、星も消えて水平線がみるみると明るくなってオレンジ色に染まってさ。」

 

「お前の地毛のようにか。」

 

「茶々入れるなよ。 けどそう考えるといいよな、そういう景色を過ごすの。」

 

「そう、だな。」

 

「だからよ! 帰ろうぜ!」

 

 一護が痛々しい笑顔を向ける。

 

 子供っぽい、無邪気な笑顔を作って。

 

「それは……出来ない。 私は、化け物だ。 だが、それでもこの世界の崩壊を止めれる。」

 

 スーッと一護の体が透明になっていく。

 

 ああ、違う。

 私が消えていっているのか。

 

 もう時間か。

 意識が薄れていく。

 

「井上! もっと時間をくれ!」

「これ以上は無理だよ黒崎君!」

 

 ああ、なるほど。

 井上(織姫)の『盾舜六花』で、私を引き留めていたのか。

 通りで。

 

「ティネ! お前が人間でないとか関係ねぇ! 俺たちは………………俺はお前が居ないと困るんだ!」

 

 子供の頃、よくしていた顔を一護がしながらそう叫ぶ。

 

 叫ばずとも、聞こえるというのに。

 

「俺は、お前に色んなことを教えてもらった! 色んなことをしてもらった! たくさんの借りをしたままなんだ!」

 

 そうなのか?

 だが私は別に借りを作った覚えはないし、そのままでも良い。

 

「俺だけじゃねぇ! たつきや井上、チャドに石田に山本の総隊長や皆きっとそう思っている! お願いだ! 居なくならないでくれよ! 何でだよ?!」

 

 もう17歳になるのに、初めて会った時の子供みたいになった一護。

『根が素直』が変わらなかったように、『泣き虫』なのも変わらなかったな。

 

 竜貴(たつき)にからかわれるぞ。

 

「なぁ?! 本当にお願いだ! お前には……お前にはまだまだ教えてもらいたいことがあるんだ!」

 

 一護には井上(織姫)や、他の皆もいるだろう?

 

 もう、一護の姿が見えない。

 

 時間切れだ。

 

「お前は…………お前が居なくなると俺は悲しい! 他の皆もきっとそうだ! ずっと悲しいまま、ずっと生きていく!」

 

 ………………………………確かにあり得る。

 普通ならば時と共に薄れていく思いも、それを思い浮かばせるものが間近にあれば呼び起こされるだろう。

 それは誤算だった。

 

 ………………いっそのこと、記憶を消してしまった方がいいか?

 (三月)ならば、事情を察して振る舞えるだろう。

 

 それに昔、(三月)に聞いたことがある。

 

 

 

 

 

『姉は弟を護るモノだ』と。

 

 

 

 

 

 なら……

 

 

 

 

 

 私は一護に生きて欲しい。

 

 

 

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

「ティネ!」

 

 さっきまで見えていた姿が消え、チエ(ティネ)が遠ざかっていくきがした。

 

 彼女の名前を叫んでも今度は戻ってくる気配もない。

 

 井上がチエ(ティネ)を引き留めていたのも限界が来た。

 

 どうすればいいのか分からず、俺はただ何もない空間を走る。

 

 いや、走っているのか知らないが少なくともがむしゃらにチエ(ティネ)の後を追おうとした。

 

「そんなんじゃ無理だよ。」

 

「え。」

 

 不意にどこからか掛けられた声に辺りを見渡すが、何もなかった。

 居る筈がない。

 ここは、世界(次元)を超える狭間。

 感覚的にも、戻り始めた記憶的に言うのなら()()()()()()()()()()()()()筈。

 

「こっちだよ!」

 

 グイィー!

 

 「ぬおぁあああああイテテテテテ?! 腕もげる、腕もげる、腕もげる!」

 

「相変わらず大げさだなぁ~。」

 

「母ちゃんに似て相変わらず奔放感が半端ねぇな、一勇!」

 

 ……………………………………………………………………ん?

 ちょっと待て。

 俺は今、なんて言った?

 

『一勇』……だと?

 そんな筈はない。

 恐る恐る目を凝らしてよく見ると髪の毛を大雑把に後ろに結び付け、かつての夢で見た一勇の面影をそのまま大きくさせた少年が俺の腕を引っ張っていた。

 

「一勇……なのか?」

 

「そうだよ、父ちゃん。 あのお姉さんも言ったけど、『ここ』では時間は意味がない。 だから、たとえ世界を壊しちゃった僕でもここにいられるんだ。」

 

「お前……その言い方じゃ、まるで────」

「────うん。 僕、ずっと一人だった。 ここでずっと待っていた、こんな日が来るのを。」

 

「フゥーン……これが『黒崎一護』、『特機戦力』なんだ。」

 

 そこにクスクスと薄笑いをする、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がいた。

 

「お前は?」

 

「ん? ついさっきまで黒崎一勇の話し相手になっていた奴さ、別に大した奴じゃない。」

 

「彼には父ちゃんとさっきのお姉さんを連れ戻すように僕が頼んだ。 あとは、()()()()()。」

 

「まて、一勇! 何するつもりだ?!」

 

「何って……………………父ちゃんがいつも僕に言っていたことだけど? あ、あと僕からのプレゼントもあるから!」

 

 ニーっと悪戯っぽい顔をする一勇の顔に何故か寒気がした。

 

 こう…………スッゲェ悪いことを考えた井上(織姫)のような?

 

 「ちょっと待て! プレゼントってな────?!」

 

 

 

 

 

 ___________

 

 チエ(?) 視点

 ___________

 

 

 気が付けば、空座一校のグラウンドに立っていた。

 

 目の前には顔の見知った者たちや知人たちが凄く驚いた顔をしていた。

 

 皆の心境は察せる。

 

 何せ私も驚いている。 ←*注*表情は全く変わっていない

 

 また皆に会えるとは思っていなかった。

 

「や♪ 来ちゃった♪」

 

 声にならない皆の前に横から陽気な少年の声がしてみると、ロバたちの視線がそちらに集中し、誰もが驚愕する。

 

「「「ぎゃあああああああああ?!」」」

「あふん♡」

 

「「…………………………………………………………」」

 

 何人かは悪夢を見たような叫びをしながら変な顔をするジゼルに抱き着き、ロバ(ロバート)ポテト(ハッシュヴァルト)は今にでも気絶しそうなほど悪い顔色をしていた。

 

「あー、俺! 急用を思い出した!」

「あ?! テメェだけ一人逃げるなよコラァ!」

 

 アスキンは汗をダラダラと流せながらジリジリとこの場からの退去を見計らい、鳥頭をした滅却師(バズビー)が彼の襟をつかむ。

 

「お? よ。」

「やぁ。」

 

 リルトットだけは怖気付かずに片手をあげると少年はにっこりとした笑顔を彼女に向けた。

 

「久しぶりだな。」

「うん、そうだね。」

 

「なるほど。」

 

「あ?」

「うん?」

 

「見た目が似ている上にこうも親しいという事は兄妹か。」

 

「ちげぇよ。」

「そうなるのかな?」

 

「「え?」」

 

 食い違いのある言葉に二人は互いを見る。

 

「あー……ただいま?」

 

 一護が気まずく、頬を掻きながらそっぽを向く。

 

 グイ、グイ。

 

「ねぇねぇねぇ。」

 

「「うん?」」

 

 自分の袖が誰かに引かれるのを見ると、一護も袖を引かれていたのを見────

 

「────。」

 

 

 

 袖を引かれた横を見たチエは息をヒュッと飲み込んでしまう。

 

 隣にいたのはまるで、色違いの髪と目の色をしたチエを小さくした小柄な少女。

 

「あれ、誰? ()()()()たちの知り合い?」

 

 「「「「「「『お母さん』……だと?」」」」」」

 

 約数名があんぐりと口を開ける。

 

「ぁ…………………………ぁぁぁぁぁ……」

 

「ねぇお父さん、お母さんなんか変だよ。」

 

え???

 

 小柄な少女は一護を見てそう言うと、本人は?マークを頭上から飛ばし続けた。

 

 「「「「「「『お父さん』……だと?」」」」」」

 

 更に数名が驚愕する。

 

「「「ぎゃああああ?! 織姫ぇぇぇぇぇ?!」」」

 

 織姫の竜貴や同級生たちは魂が抜けたように真っ白になりながら気絶する彼女の名を叫ぶ。

 

 ドサッ。

 

「え。 なにおk────へぶぅぅぅ?!」

 

 ギュゥゥゥゥ。

 

 チエは地面に崩れ気味に股を地面に着け、小柄な少女を力の限り抱きしめた。

 

『もう、絶対に手放したくない』という意思を行動で示すかのように。

*1
69話、122話より

*2
他作品の『バカンス取ろうと誘ったからにはハッピーエンドを目指すと(自称)姉は言った』より




『神というものが存在しなかったら、「神」を創造する必要があろう。』 ーヴォルテール

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『レールの無い先へ』
第181話 New Beginnings


お待たせ致しました、次話です。

シリアスな展開続きの反動でここからほのぼのグダグダギャグ満載の甘酸っぱい(?)空間に突入します。
ご注意くださいますようお願い申し上げます。

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

 窓から差し込む光に目だけが覚める。

 

 ボーっと寝ぼけた意識のまま、耳の違和感を思わず手で取り除く。

 

 カァン! カァン! カァン!

 ガガガガガガガガガガ!

 ドォン! ドォン! ドォン! ドォン!

 

 耳の違和感(耳栓)を取り除けた瞬間、外からの工事音で寝ぼけた頭が一気に覚醒して()()()()()()から空座町を見下ろす。

 

 何故アパートであって実家ではないというと、『クロサキ医院』も復旧工事を請けているからだ。

 

 初めてルキア(死神)や虚と出会った夜のようなどデカイ穴じゃなくて、地盤ごと地面が緩んで建物が半壊した。

 

 なので黒崎一家や大勢の人たちは割と無事だった石田のところ(総合病院)や避難所や(なぜかオンボロの見た目の割に無事だった)チエたちが住んでいるアパートなどを仮の住居に移住している者たちが多かった。

 

「ったく、急ぐ理由はわからないでもないがどうにかなんねぇかな?」

 

『世界の崩壊事件』から一か月経った今でも、復興工事と並行して新たな土地の開拓はひっきりなしに進んでいる。

 

『新たな土地の開拓』ってのは、そのままの事だ。

 

『世界の崩壊事件』の後、現世と瀞霊廷を隔離していた断界はなくなり、黒腔も無くなって虚圏と共に世界は()()()()()()()

 

 いや、()()()()()()()()()()()()()()()と言ったほうが正確か?

 

 瀞霊廷と虚圏の土地が()()()()()()()()()、あるいは()()()()()場所に移したような感じだ。

 

 おかげで世界地図もがらりと変わった上に地球の海面も7割から4割に減って皆(特に政府や大企業や海面関連など)がかなりドタバタしたが。

 

『実は“断界”と“黒腔”という結界で同じ次元に存在する二つの別世界が隔離されていただけだ』なんて、普通の人間なら誰が信じられるか。

 

 それでも、割とすんなりと人が受け入れられたのは『世界崩壊』の後に、現世の世界の異常が判明したからか。

 

 無理もないさ。

 

 何せヨーロッパや日本の周辺以外はとてもかつて人が住んでいたとは思えないほど、自然に溢れかえっていた場所ばかり。

 

 上記の土地に住んでいた皆が『外国』と思っていた場所はまるで長い間、それこそ数百年単位で大勢の人がある日、急に居なくなったような状態の場所になっていた。

 

 これまで現世がそんなことになっていたのに誰もが気付かなかったのは多分、あの『三号』が絡んでいるんだろうと俺は思う。

 

 ソウスケ(藍染)の鏡花水月は『完全催眠』で、『三号』がそれを世界規模に使って『月』に夢を見せていたと思えば、辻褄が合う。

 

 それにソウスケ(藍染)の話通り、世界を何度も繰り返す為に力を使っていたとすれば、『その力はどこから来る?』という疑問が出る。

 

 恐らくだが、徐々に人が違和感の持たないところから力を取っていたんだろう。

 

 それが『月』の言っていたように、死神や人でも例外では無かったのだろう。

 

 それを脳の片隅に、俺は出かける用意をすると居間にセーラー服の夏梨や柚子と出くわす。

 

「オッス一兄。」

 

「あ、お兄ちゃんおはよう。 お母さん、また出かけるって。」

 

「そっか。 また親父たちのところか?」

 

「おう、また会議だってさ。」

 

 最初は瀞霊廷の皆が懸念していた『生と死のなくなった原初の世界』が戻ったと思ったけど、まるで現世の理をそのまま普通に人や死神や虚は生まれるし、普通に死ぬっぽい。

 

 けどそれもこの一か月で色々と変わった世界のソッチ系の(霊的な)事情に詳しい瀞霊廷やこっち(現世)の皆が調査して『そうらしい』という結果だったに過ぎない。

 

 それについちょっと前まで普通だった人たちが急に虚や死神を見ることができたことの混乱も、山本の爺さんやネル(ネリエル)にロバのおっさんたちの働きもあって取り敢えずはナリを潜めた。

 

 見た目と性格が、あまり人と変わらなかったことが幸いした。

 

「「あ。」」

 

 遊子や夏梨たちと一緒にアパートの食堂に入ると三月とばったり出会う。

 

「おはよう、三月ちゃん!」

「お、おはよう……遊子。」

 

 覚えているより姿は幼くなり、どこか余所余所しかった三月は朝食をテーブルに並べていた。

 

 世界の崩壊事件後、姿と性格が以前と変わっていたことに違和感を誰もが持っていたが……

 

「というかお前、本当に三月か?」

 

「え? う、うん……そうだけど?」

 

「いや、一兄の言うことはわかるよ。 あたしだって未だにびっくりしてるんだもん。」

 

「だよねぇ~夏梨ちゃん。」

 

「まさか『渡辺』が偽名だったなんてさ。」

 

「そっち?!」

 

 三月が気まずく身体をもじもじとさせる。

 

「えっと……ごめんね?」

 

「「「……………………………………………………………………」」」

 

 未だ三月の変わり具合になれない俺たちは言葉をなくし、彼女はキョトンと頭を横に傾げて視線を返す。

 

「な、なに?」

 

「………………あ、ううん! 『なんだか新鮮だなぁ~』って!」

 

「そ、そう?」

 

「お?」

 

「あ! 三月()()()()()()だ!」

 

 グサッ。

 

 グハァ?!」

 

 いつものチエと、彼女に似た満面の笑みをした少女が入って来るなり三月はまるで矢が胸を貫いたような声を出して(精神的な)ダメージを受ける。

 

「うわ~、朝一番からそれはねぇわ()()()。」

 

「え? そうなの夏梨()()()()()?」

 

 トスッ!

 

 「はうわ?!」

 

 イチネのまったく他意のない、キョトンとした表情と呼び方に今度は夏梨が奇妙な声を出して胸を手で掴む。

 

「あれ? ゆーお姉ちゃん、何で夏梨お姉ちゃん嬉しいのに苦しんでいるの────?」

 

 ギュウゥゥゥゥゥ!

 

「────はぁ~ん♡ イチネちゃんってば可愛い────!」

「────ムグ?!」

 

「ふむ。 今日は味噌が手に入ったのか。」

 

「う、うん。 会議中に石田さんが一心さんに投げつけた袋の中に入っていた。」

 

「褒められてだけで、過激な照れ隠し方法だな。」

 

「いや、あれは普通にからかわれただけじゃね?」

 

 イチネを遊子が頬ずりしながら抱きしめ、チエが平然とテーブルに座ると俺たちも一緒に食卓を楽しむ。

 

 一か月間、色々あったな………………

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 一護が思い浮かべるのは一か月ほど時を遡った時期、ちょうど世界の合併が起きた頃。

 

 どこかに行ったチエを連れ戻そうとして、『黒崎一勇』を名乗る少年と会って、現世に戻ったと思えば自分とチエの袖を掴んでいた少女の一言で事態は始まる。

 

 少女がチエを『お母さん』と、そして一護を『お父さん』と呼んだことから織姫は気を失い、未だにただ少女を抱きしめて顔を埋めるチエに何を言っても返事はなく、唯一口の利けた一護は質問攻めにあった。

 

 とはいえ、彼にとっても何が何だか分からないことだったことから少女に直接質問をすることになった。

 

「それでお嬢ちゃんや、名前を聞いてもよろしいかの~? ワシは山本元柳斎重國じゃ。」

 

「「「「「「ブフ?!」」」」」」

 

『近所の人当たりの良いおじいちゃん』を装った山本元柳斎に何人かが腹筋を掴んで笑いだすのをこらえようとした。

 

 あとは『アメチャン、いらんかの?』と言えば完璧である。

 

「ん~? イチネはイチネだよ、お()ちゃん!」

 

「そうかそうか。 して、イチネは師匠────チエ殿のなんじゃ?」

 

「???? お母さんはお母さんだよ?」

 

 これを聞いた者たちは『ああ、聞き間違えじゃなかったか』と複雑な心境になった。

 

「で? このハゲが『おとん(お父さん)』っちゅうのはどういうことや?」

 

「??? お姉ちゃん、だぁれ?」

 

「『猿柿ひよ里』や、さん付けで呼びや?! で、さっきのしt────」

「────うん! 分かった、猿柿()()()()()さん!」

 

「……………………………………………………………………」

 

 ひよ里が言い終える前にイチネが自分の事を『お姉ちゃん』と呼んだことが、彼女の頭の中でただただ反響していく。

 

 「……………………………………………………………………せ、せや! ガキのクセにようわかっとんな?! これからもお姉ちゃん呼び忘れんなや?!」

 

「うん! 分かったよ、猿柿お姉ちゃん!」

 

「素直でよろしい!」

 

「えへへへ~♪」

 

 どや顔をしながら(未だに)無い胸を張るひよ里。

 

「ひよ里……お前、チョロすぎるやろ?」

 

 「なんやくそハゲ真子?! 文句あんのか?!」

 

「んで? 嬢ちゃんはナニモンや?」

 

「無視すんな!」

 

 平子(176cm)がひよ里を無視してイチネ(約130㎝)を見下ろす。

 

「??? 誰?」

 

「平子真子や。」

 

 「かんさい!」

 

 「なんでやねん?!」

 

 このように、イチネは純粋ながらも少しズレたやり取りをした。

 

 雀部は『ひげお()ちゃん』。

 そのツンツンとしたヒゲを触らせる対価として、取り敢えずイチネが知っている世界が『この世界(BLEACH)』ではないことを知った。

 

 大前田は『おせんべい』。

 ちなみにせんべいを一つ貰いボリボリと頬張って得たのはイチネの知っている世界でも和菓子があったこと。 ←大前田がどうでも良いことを他愛のない質問した結果

 

 市丸は『キツネ』。 そしてこれを聞いた何人かが吹き出し、とうとう声に出さない笑いをした。

 

「『キツネ』ねぇ~……そういうお面、ボクに似合う思います?」

「イチネは思うよ!」

「イヅルもそう思うやろ?」

「えっと、僕は────」

「────すざく!」

 

「………………………………良かったねぇ、イヅル? かっこええ名前つけてもらって?」

 

 雛森は『ももおねえしゃ()ま』────

 ────トスッ!

 

はわぁ?!」

 

 雛森の呼び名を聞いて期待をしていた勇音は『でっかいひと!』と高らか(無邪気)に呼ばれ、一瞬で勇音はしょげて涙目になる。

 

「うううううう……分かっていました。 背が高いのは分かっていますとも……グスン……」

 

 日番谷は『ちび』────

 「────テメェのほうがチビじゃねぇかぁぁぁぁ?!」 ←暴れる元チビ

 「シロちゃん堪えて?! どうどうどうどうどうどう!」 ←暴れる幼馴染を大勢の同僚の前であだ名を呼んでしまった人

 

 狛村は『わんこ』────

「────ちょっと! そう彼を呼んでいいのは(バンビエッタ)だけ────?!」

「────()()()()()()!」

「んな?! バンビエッタよ!」

 「ばいんばいん!」

 「バ・ン・ビ・エッ・タ!」

 「ばいん! ばいん!」

 「ち・が・う!」

 

 まったく訂正する気がないイチネにバンビエッタ・バスターバインがバインバイン地団駄を踏むと更にバインバインする

 

「ムキになるなよ、『ばいんばいん』。」

「ぱっくまん!」

「……おう。」 

「なんでリルの呼び名は普通なのよ?!」

「お前が贅肉を肥やしているからだろ?」

 

「「「「「(…………………………………………『普通』????)」」」」」

 

 リルトットは満更でもない空気をまといながら、イチネのあだ名に挨拶(?)を返し、バンビエッタのツッコミに疑問を持つ者が数名出る。

 

「なんじゃ、この隊長をわんこと呼ぶガキは? すごい生意気じゃのぉ────」

 「────やくざ!」

 

 ピシッ。

 

 鉄左衛門が固まる。

 

「……少女よ。 出来れば、別の呼び方をしてはくれまいか?」

「ちんぴら!」

 

 ピシッ!

 

 石像になった鉄左衛門にヒビができる。

 

「もっと別のだ。」

「………………………………………………………………さんぐらー?」

 

 鉄左衛門がガックリと項垂れる。

 

「それはそうと、ワシの呼び名も『わんこ』では────」

「────はりー!」

 

「………………………………なんだ、それは?」

「じゃあ、アサシン!」

「?????????????????」

 

「…………………………そういえば似ていますね。」

 

 ただ?マークを浮かべる狛村だったが、肩を貸されたアネットの脳裏に浮かんだのはとあるハサン・ザッバーハ(真アサシン)の姿。

 

「ジョセフ!」

 

「え?」

 

 急に指をさされた拳西がぽかんとする。

 

「……………………まぁ、べ────」

「────次に言うのは『別にいいけどよ』、だ!」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

「じゃ、じゃあ俺は?!」

 

 ここでなぜか一人、檜佐木が前に出た。

 地味な自分に何かのあだ名を期待したのだろうか?

 

「ひでお!」

「おお! かっこいいな! ……どういう意味だ?」

「神奈川の仲間じゃない人。」

 「なんだよそれ?!」

 

「まぁまぁ、そう目くじらを立てることじゃないの皆? イチネちゃんはまだ子供なんだから。」

「京楽……アンタ、もしかしてアレも守備範囲なんか?」

「え?!」

「叔父さん、最低です。」

「え、ちょ、ちょっと?! 違うよ?! 変な誤解だな~、僕は────!」

 「────へびのおいちゃん(すねーく)!」

「え? 「ヘビ? 僕が?」

「うん!♪」

「ププ……隊長を『ヘビ』とは新鮮────」

 「────あ! 料理できない人~!」

 

 グサ!

 

 七緒の胸を『料理ができない』と書かれたメタな矢が射貫き、彼女のメガネがずり落ちそうになる。

 

「うわ~……七緒ちゃんが一番気にしていることを……」

 

「い、イチネさんですよね? 何を根拠に────?」

「────じゃんけんの人だから~!」

 

「『じゃんけんの人』??? 意味が全く────」

「────ダメ(バゼ)ットさん!」

 

「アッハッハッハ! それは新しいな イチネちゃん!」

 

 ビキ!

 

『ダメット』と聞き、青筋が七緒の額に浮かぶ。

 

「あ、あかん。 七緒、マジ激おこや。」

 

 それをリサが言うと七緒は静かにメガネを外してイチネと笑う京楽に尋常ではない形相付きのガンを飛ばすを睨む。

 

「「ごめんなさい。」」

 

 すっかり畏まるイチネと京楽が誤ると七緒は眼鏡をかけなおす。

 

「イチネさん。 私の事はお姉さまと呼びなさい。」

 

「はい、七緒おねえしゃま。」

 

「よろしい。」

 

 とこのように、イチネは出合い頭に様々な人にあだ名をつけていった。

 

 上記のを見れば、つけたあだ名の所為で様々な波乱があったのは言うまでもないだろう。

 

 


 

「おっぱいの人!」

「ちょっと?! もっと他に言うことあるでしょうが?!」

「……おばさん?」

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!

「おっぱいの乱菊おばさん!」

 「おばさんは余計よ!」

「……………………………………ねおん?」

「全ッッッッッッッッッ然脈がわからないわ。」

 

 


 

「かためのお()ちゃん!」

「ああ? それが俺のあだ名か?」

「うん!」

「そうか。」

「隊長、それでいいんですかい?」

「ただの呼び方だからな。」

「あ! つるりん!」

 「なんでお前もそう呼ぶんだよ?!」

「じゃあビー玉~。」

 「却下だ!」

「シロー!」

 「……それって犬の名前じゃねぇか?!」

「う~ん……むるたー!」

「何かかっこよさそうな名前だけどなんだか死にそうな感じがするから却下。」

「……じゃおうえんさつこくり〇うは?」

「急に技の名前っぽいのを出すなよ?! 人名ですらじゃねぇか?!」

「む~……さんばんのひと(ミスター3)!!!」

「……………………………………三席の俺が三番なのは当たり前の事だろうが。」

 

 


 

「ひかる!」

「…………………………乱菊副隊長の言ったように、名前の脈が全くわからん。」

「ワシはどうじゃ、小娘?」

「ねこ!」

「な、なら私は?! 猫っぽくないのか?!」

 

 イチネは砕蜂から夜一に視線を移すと即答すると砕蜂がなぜか慌てる。

 

「ひかるはひかる~!」

 

「そ、そんな……」

 

 


 

「いちこ~。」

「…………………………」

「あれ? キャンディってそんな顔もできるんだ?」

「どういうことだよジジ?」

「だっていつも怒りんぼだも~ん。」

「ジジ()()()()!」

「え?! ここここここここ困るな~♡」 

 

 ジジが全く満更でもないことをにやけ顔をしながらクネクネと体を揺らし、別の何かを連想してしまったキャンディスたちの背筋がぞっとしてしまう。

 

 


 

「ほぉーくあい!」

「?????」

「ルキアが『鷹の目』か。 ならば私は────」

「────けいの人!」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

「まぁ、隊長も京楽隊長の言ったようにそう気にすることないっすよ────」

 「────パイナップル────!」

 「────おいちょっと待て!」

 

 


 

「ほれ、飴だヨ。」

「わぁーい!」

()入りだから気を付けてネ。」

「ありがとう、ばいきんま〇!」

 「サイキンマンだヨ?」

「はぁ~い。」

 

「こちらに口直し(解毒剤)の用意がありますので感想をマユリ様に報告した後にきてください。」

「わかった、ネムおねえ(ちゃ)ん!」

「………………………………………………もう一声。」

「ネムおねえ(ちゃ)ん!」

 

 


 

「ささきー。」

「いえいえ、アタシは『浦原』ですよ?」

「ささきこじろうと桜~。」

「??? ウルルですけど……」

 

 


 

「きょじん!」

「………………………………」

 

 茶渡を見たイチネの第一の歓声に、彼は黙り込んだままだった。

 

「おいチャド、大丈夫か?」

「おっさんじゃなくて良かったと思っていただけだ。」

 

「巨人のおっさん!」

 

 茶渡が前髪の下からジト目で一護を見る。

 

 


 

「とらー!」

「あ?」

 

 その場を去ろうとしたグリムジョーを見たイチネの声に彼は歩みを止めた。

 

「トラじゃねぇよ。」

「……………………だんでぃー?」

「は?」

「じゃあヒョウのひとー!」

 

 


 

「じゃあ俺は?」

 

「……………………………………」

 

 イチネのカラカラとした態度が浮竹の前で明らかに急変する。

 表情はスンとし目も虚ろになり、その場にいた死神と滅却師たちは何とも言えない圧力で背筋が寒くなり、彼女が口を開けると誰もが耳を疑うほどに声と口調が変わっていた。

 

昔の我の一部を宿した男か。

 

「ッ。」

 

 彼女(彼?)の声はまるで男性と女性、子供や成人、果ては老人のものが混ざったもの乗ようとしか言えないような、異質なものだった。

 

フム……こうして見ると、観るのとは違うな。

 

「……もしかして、霊王さまでしょうか?」

 

以前、そう呼ばれていたことが在った。 我を楔として使い、封印し、力を欲して我の血肉を食らった者たちがそう勝手に呼んだだけだが。

 

「…………………………………………………………」

 

焦らずとも良い。 我に返そうなどと、今の我には必要のないものだ。 少しでも恩などを感じているのならば、いずれ我の右腕(補佐)になれるよう、精進せよ。

 

「……………………………………………………はい。」

 

 畏まる浮竹は汗を出しながら辛うじてそういうと圧力が急に出現したと同じようにフッと急に消える。

 

「………………………………???」

 

 そんなイチネはパチクリと瞬きをして急に変わった空気にキョトンとする。

 

 これがその場にいた皆に、イチネが少なくとも浮竹のように(少なくとも)霊王の一部を宿していると確信させ、慎重にさせた。

 

 


 

 「かんさい、かんさい、かんさい!」

 「だからちゃうがな?!」

 

 余談であるが、平子は何とか『かんさい』からの呼び名変更を苦戦の末に成し遂げた。

 

 「ろんげのかんさい!」

 

「………………………………………………………………もうそれでええわ。」

 

「なぁチエ?」

 

 そしてここで一護がやっと埋めた顔を離したチエに横から声をかける。

 

「なんだ?」

 

「それで『さっきの事(お父さん呼び)』……だけどよ? あれってどういう意味だ?」

 

「どういう意味も何も……そのままの事ではないか?」

 

「ねぇ~?」

 

 頭上に?マークを出すチエの胡坐の中にチョコンと座っているチエに似た子供がニパっと笑いながら同意の声を出す。

 

「へんなお父さん!」

 

 「それだよそれ! 何で俺の事をそう呼ぶんだよ?!」

 

「だってお父さんはお父さんだもん。」

 

「フ~ン。」

 

 そこにハイライトの無くなった目をした織姫がどんよりとした空気を出しながら生返事をする。

 

「どうしたの、お母さん?」

 

「うぇ?! わ、私?!」

 

 それもイチネの呼び方で織姫の目に生気が戻り、彼女が慌てる。

 

 チエ以上に場を引っ掻き回すのが上手なイチネに周りの者たちがかなり困ったのは察せるだろう。




もうすでに察している方たちもいるかもしれませんが、イチネのあだ名は殆どが声優様関連です。

完全に余談ですが、作者がBLEACHのアニメや知人のブレソルプレイを見て「あ、この人だ」と思ったのも入っています。

でもまさか伊勢七緒がまさかあの「じゃんけん、死ねー!」バゼットとは最近まで知らなかったです(笑)。

そして何気にようやく他作品の『バカンス』や『天の刃』にも次話投稿などができる予定ができました。


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第182話 The World of Tomorrow

お待たせ致しました、次話です。

過去のアンケートへの投票のご協力、誠にありがとうございます。

オリ設定、独自解釈、ご都合主義が続きます。
あと前話でも記入しましたが、ほのぼのグダグダギャグ満載の甘酸っぱい(?)空間が続きます。
ご注意くださいますようお願い申し上げます。

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「い、いってらっしゃい。」

 

 未だにどこ余所余所しく出かける一護とチエを送る三月。

 

「イチネ、ちゃんとそいつの言うことを聞くんだぞ? 前はともかく、()()ほぼ無害だからな。」

 

「はぁ~い!」

 

 そして彼女の隣には元気いっぱいのイチネがいた。

 

「ちょっとチーちゃんそれどういう意味?」

 

「そのままだ。」

 

「………………………………………… (少しだけ思い出しただけでもかなりインパクトありすぎてほぼ反射神経で飯食ってここまで来ちまったぜ。)」

 

「……じゃあイチネちゃん、この後お姉ちゃんと散歩でもしようか?」

 

 ミツキ は おねえちゃん を きょうちょうした!

 

「うん、三月()()()()()()!」

 

 だがイチネには効果がなかった!

 

 イチネ は わるぎのない おばあちゃんよび を した!

 

 グサッ!

 

 「グハァァァ?!」

 

 効果は抜群だった!

 

「(まえにたつきがハマったゲーム風だとこうなるのか?)」

 

 そんな錯覚を見せるほどの光景に一護は見慣れていた。

 

「まぁまぁ。 そう毎度がっかりするのもどうかと僕も思うよ、()()()()()()?」

 

 「あなたは絶対に悪意を含んでいるわよね?」

 

「気のせいじゃないか?」

 

「じゃあ()()()()、また後でだ。」

 

「行ってらっしゃい、()()()。」

 

「さすがにこれは見慣れないけどな。」

 

 そしてさらに精神的ダメージを追う三月の後ろにやつれた姿の藍染ソウスケがチエを『姉』呼ばわりする光景に一護は思わず口を開けた。

 

 というのも、様々なことが明るみに出たことで彼の処遇は一旦保留となり、『では決まるまで僕は姉さんのところに世話になろう』と言ったところでチエのいるアパートに……

 

 ちなみに彼を見たイチネが『お兄ちゃんだー!』と言い、ソウスケ(藍染)が実にいい笑顔になったことは彼と彼の近くにいた一護とチエのみが知った。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 一か月前の事件の後、ソウスケ(藍染)は包み隠さず、己の知っていることを全て瀞霊廷と現世そして虚圏の死神、滅却師、破面たちに話した。

 

 まずはこの世界が元々、普通に死んだ者の魂が輪廻転生のようなサイクルを送っていたこと。

 

 だがとある日を境に生と死の境が無くなり、自身の溢れる虚無感を取り払おうと呪われた亡者()生者(人間)を喰らうような、阿鼻叫喚がはびこる世界に急変したこと。

 

 まるで『調停』と言わんばかりに誕生したのが霊王のような存在()()のような、自然の断りから外れた『限界突破者』だったこと。

 

 彼らは人間という種から生まれながら、人間の限界を超えた存在たちは亡者と対抗できるどころか常人では到底理解できない様々な『奇跡』を行使できた。

 

 何も無いところから武器を製造したり。

 周囲のものを変化させたり。

 どんな傷や損傷でも元通りに復元できたり。

 巨大な力を自在に操る。

 

 などなどなど。

 

 同じ人間からすればまさしく『神』のごとき力を持った存在たちは千変万化。

 時に人間側にいて亡者どもに対抗したり、時には思想や仲違いで互いと衝突したり。

 

 それが長年続き、乱戦の世の中で『神』の中でも一際力が飛びぬけて『国家』が築けるほど圧倒的な力を持った()()()()()が、とある事実に気付いてしまう。

 

 進化が止まった世界が徐々に滅びへの一途を辿ることを。

 

 だが気付いたところで、どうすればいいのかを迷っていた彼は(世界)に問いを投げた。

 

 そこで返ってきた答えは『自らを次元と同化し、その引き換えに人柱という名のふるい(フィルター)装置と化す』。

 そうすれば、以前の世界が創れること知った彼は側近たちに自分の決断を相談した。

 

 側近たちに、自分無き後を任せるために。

 

 だがここで側近たちは、彼が思ってもいなかった行動に出る。

 

 彼は以前有った世界の理を取り戻すために次元と同化し始めたその時、見送るだけの側近たちは封印し、彼の力の一部でも自らのものとする為に側近たちは積極的に動いた。

 

 彼は彼らの出た行動、そして表した本性に失望し、抵抗を出来たのにしなかった。

 

 そんな彼を元側近たちは四肢をもいでから臓腑をくりぬいてもリアクションを起こさなかったことを疑い、中途半端に終わった彼の次元との同化をその場しのぎの形に収めた。

 

 生者のいる『現世』。

 死後、呪いに汚染されていない魂魄たちがたどり着く『尸魂界』。

 呪いに汚染された()()魂魄は虚圏に転送。

 これらを分ける『断界』。

 

 それが後に『三界』と呼ばれる仕組みの原点。

 

 無論、中途半端に終った術式で世界の滅びは止まらなかったが滅びを終えるのは遥か彼方の時代とふんだので、当時の元側近たちはそれほど危険視せず、逆に力を得て『強者』となったことに優越感を覚え、後に瀞霊廷となる一つの国家都市を築いた。

 

 時は流れていき、世界の成り立ち(仕組)の事実は徹底的に秘匿され、知る者たちは封印された霊王の監視は親衛隊を務める零番隊と少数の者たちのみ。

 

 それも後者に至っては秘匿のため代々と続けられた口頭ゆえか、ほぼ『伝承化』していた。

 

 やがて月日は流れ、『BLEACH』での一連が起き、『黒崎一護』に続き、『黒崎一勇』のが生まれたことで後に世界は急速に滅びを迎えることとなる。

 

 ここで一度世界は滅び以前、かつての霊王の問いによって目覚められ、静観していた星は心を痛め、『月』に目を付けられる危険を承知の上で『やり直し』を所望した少年の頼みを受けて世界を創り直し、より良い結末を求めるようになった。

 

 当初、星は己の触覚となる身体を新しく作るのではなく既に有った技術の『義骸』を応用し、様々な『BLEACH』の登場人物(キャラクター)たちとともにより良い結末へ結びつく為に励んだ。

 

 結果は惨敗。

 まるで、何らかの方法で『世界が滅びる』事実が決定されたかのようだった。

 

 やがて星の目的は『より良い結末』から、出来るだけ(資源)を『次の世界創造(やり直し)』にリサイクルが出来るような繰り返しへと変わり、星の思想は徐々に変わっていった。

 

 それが例え『現状維持』と呼ぶだけの『衰退』だとしても、星は『知り合えた人物たちが一時的にでも幸せならば』という思いを胸にして。

 

 例え、本人がその気持ち(願い)を長い(とき)の中と悲しみに嘆き、心がすり減って精神も記憶も心も灰色に変わって忘れていったとしても。

 

 そんな中、星がやがて目を付けたのが『不死』という設定を持った『藍染惣右介』だった。

 

 彼は必ずどのやり直し(ループ)でも何らかの重罪を問われて無間に収容される為、『次の世界創造(やり直し)』時には幸か不幸か必ず『最後に残る』。

 

 毎回義骸を用意するのは意図的に資源を消耗することに繋がる。

 

 何せ『物語にはない異物』を混入することになる。

 

『ならば意識()だけを引き継げば、世界の負担は少ないのでは?』と星は考え、『藍染惣右介の卍解になる』という未知の設定(選択)をとった。

 

 これによって『鏡花水月』は『鏡花水月・朝真暮偽(ちょうしんぼぎ)』へと変革を成し、『藍染惣右介』は『黒幕の駒』へとなった。

 

 だが例え記憶は一時的に消せても、一護のように時折『夢』としてよみがえることもあり、長命である藍染惣右介も次第に自分の置かれた立場に気付く。

 

 己の斬魄刀の卍解になった星が功を表し、『とある局面(段階)』まではよっぽどのことがない限り覚醒することがないことを悟った『藍染惣右介』は彼なりに現状打破を試行錯誤で行った。

 

 だが独りでは限界があることを知り、今度は秘密裏に出来る限りほかの登場人物(キャラクター)に接触を図った。

 

 やがてそれは『伊勢家』に代々伝わる斬魄刀、『神剣・八鏡剣』の()()に施された術の解析と応用により『藍染惣右介』は『神にも観えない書物』を作ることで次代の『藍染惣右介』に断片的な記憶(情報)だけでなくしっかりとした書き残しも出来るようになった。

 

 その書物に次代の『藍染惣右介』として拾うのはとある貴族家に養子として拾われてからだが、離反騒動で崩玉を奪取して世界の真理に触れるよりさらにまえになることで世界の理からの解放に時間をかけられるようになった。

 

 だが彼もかつての星のように諦めかけた頃に今までなかったことが起きる。

 

 それは外部(世界の外)からの来訪者の登場だった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「(それからは、ソウスケ(藍染)や三月、チエたちことが起きたんだよなぁ~。)」

 

「どうしました、黒崎氏?」

 

 考えながら歩いていた一護の横から三月と声だけが似ている、どこか眠たそうな感じの少女が声をかける。

 

「あー、そこは普通に『一護』だぜ、リカ。」

 

「む。 そうでした。 ()()()()()()をするのならシッカリとしないといけませんね……じゃあこういうのはどうかな?♪」

 

「ブホ?!」

 

「それでいいと私は思うぞ。」

 

「チエs────“チーちゃん”がそう言うなら間違いないっしょ!」

 

「「ブフゥゥゥ!!!」」

 

 それを聞き、笑いをこらえていた遊子と夏梨がとうとう吹き出す。

 

「笑わないでくださいよ二人とも。 ボク────私だって必死なんですから。」

 

 リカは見た目が幼くなった三月の代わりに空座一校を通っていた。

 

 確かに経験したことのない現象が起きた上に今まで認知も出来なかった摩訶不思議な存在たちに人間は出会い、認識を改める者たちも多かったが流石の三月でも『幼くなったからこれから4649!』とは言えなかった。

 

 そもそも彼女を知っている人間からすればせいぜいが『石田たち(滅却師)のような特別な力を持った人間』。

 

 それがある日、若返ったとすれば大波乱しか予想がない。

 

 というか最悪、『彼女が死神や破面のスパイ』や『人間社会には彼女のような異質なものたちがいる』などの糾弾もありえなくはない。

 

 何せ各国の政府は辛うじて国内の体制を保っているだけで、資源も限られているおかげで国際交流もほとんど出来ない状態。

 

 実のところ、政府中央を除いた殆どの場所の治安や行事などは自警団などのローカルな組織が実権を持っていた。

 

 例を挙げるのなら、現在の技術や町をそのままに戦国時代へと逆戻りしたような状態である。

 

 そのせいで、外へ出歩けば腕に覚えのあるものを傍につけなければいけないような状態。

 

 余談だが頼も(恐ろ)しいことに水色を始め、空座一校の者たちはすぐに順応していた。

 

 少なくとも、普通に学校を小中高と総合させて開ける程度には。

 

『またお兄ちゃんと学校投稿できるね♪』と遊子は喜んでいたが────

 

「────お? ようお前ら、今日は珍しく時間通りだな!」

 

 一護たちを待っていたかのように、背中を電柱に預けていた海燕がいた。

 

「あ! 海燕さんだ!」

 

 彼を見た瞬間遊子はパァーっと笑顔になって駆け寄り、楽しく話をする。

 

 野良や暴走する虚をかつての破面たちが見張り、ルーズにでも『国家』のような纏まりできるまで死神と滅却師たちが交代でその補佐をすることに。

 

 そして治安が悪くなったことでほかの者たちはこのように巡回や護衛を買って出た。

 

 以前、ソウスケ(藍染)の案で流魂街の住民と死神たちが触れ合う方針がここでも生かせるようになり、次第に人間や死神たちは互いへの意識を(徐々にだが)改めることもしばしば見えた。

 

「寂しいか、一兄?」

 

 夏梨がニヤニヤしながら、からかうように肘で一護をツンツンと突く。

 

「んあ? どういうことだよ夏梨?」

 

「またまた~! まだ気付かないの、一兄? あいつ、海燕さんと一兄の二人をかぶせているんだよ。」

 

「ふーん……ま、海燕さんって面倒見が良いからな!」

 

「一兄の鈍感力にはお手上げだよ……」

 

「え? なんか言ったか夏梨?」

 

 ポン。

 

 そんなため息をつく夏梨の肩に、リカが手を置いてから指を前へと指す。

 

「そういう夏梨氏にもお客さんですよ~。」

 

「……ん。」

 

「あ、チャドのおっさん……」

 

茶渡(さど)な、夏梨。」

 

「別にチャドはチャドのままでいいんじゃね?」

 

「………………………………夏梨が呼びやすいなら。」

 

「ま、アタシにとっちゃ“チャドのおっさん”のほうが呼びやすいけど。」

 

「……フムフム。」

 

 このやり取りを、リカは興味深そうにただ頷いていたが急に眉間にしわを寄せる。

 

「むむむ……この匂いは……」

 

「あ! 黒崎k────!」

 

 バビュン

 

 

「────リカお姉~~~~さま~~~~~~~~!!!♡♡♡♡♡」

 

 ゴキ

 

ごぇ。」

 

 突風のように動く人影は長い()()の髪を尾に、アネットはリカを力いっぱい入れたタックル飛びついてハグをすると身体をくの字に折らせたリカからは尋常ではない音と声が口から出た。

 

「……………………………………()、だったなチャド。」

「ああ。 ()だったな、一護。」

 

「??? 何が?」

 

 「「なんでもねぇ?!/ないぞ?!」」

 

 それを見て一護たちは色を口にし、織姫はただ?マークを頭上に浮かべる。

 

 余談だが一か月前の騒動後、アネットの髪の毛は紫色に変わっただけでなく、彼女も眼鏡をするようになった。

 

『石化したいのならこれ(眼鏡)も外しますが?』と奇妙な(意味深い)言葉を口にして。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「あー、突然だが学園祭をするお前ら。」

 

「「「「「え。」」」」」

 

 一護のクラスの担任である越智先生の宣言にクラスの誰もが呆気に取られる。

 

「ま、皆が疑問に思っている理由も先生にはわかる。 けど、『こんな時だからこそこういう祭りごとをしてパァッとやるべきだ!』って校長とかが言っててね? 全学年が共同で参加することになった。 あと、『尸魂界』って奴らも出し物をしたいって提案が来てたからそっちも考えとけ。」

 

 「「「「「え。」」」」」

 

「あ、あと()()()()()()もな。」

 

「滅却師だぞ、越智先生。」

 

「そうだっけ? ……大きい方の渡辺が言うのならそうなんだろうな。」

 

 ちなみにこの場に元星十字騎士団たちの姿はなく、彼らは彼らでこの騒動後に便乗して瀞霊廷と話を付けた通り、彼らが統治できる区の体制を整えようと全力を注いでいた。

 

 学校側には『本国(ヨーロッパ)に送還された』という体で欠席をして。

 

 だが、後に『()()()共同文化祭』と呼ばれるこのイベントの所為でさらなるハプニングが起こるとはまだ、誰も知らない。




京楽:ムフフフフフフフフフフ。 『出し物』ねぇ~? どうしよっかな~♪

七緒:それより仕事をしてください。 矢動丸さんにまた脳天をどやされますよ。 『鉄漿蜻蛉』で。 もしかしてそれをご褒美として期待しているのですか?

京楽:凄く辛辣になったね七緒ちゃん? (汗汗汗汗汗

七緒:叔父さんがイチネさんを餌付けしようとしたからじゃないですか。

京楽:だから誤解だよ?!

七緒:渡辺隊長代理を口説こうとしたのも誤解ですか?

京楽:いや? それはみとm────ゴハァ?! ほ、本の角はさすがにダメだって?!

七緒:じゃあ次回は背表紙で鼻を直撃します。

京楽:え、ええええええええええええ?

リサ:なお、次話は京楽のアホが出る予定。

リカ:お楽しみに~

京楽:う~~~ん……どこを見てもははn────ブァ?!


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第183話 3 World Festivity

お待たせ致しました、次話です。

オリ設定、独自解釈、ご都合主義がまだまだ続きます。
あと前話でも記入しましたが、ほのぼのグダグダギャグ満載の甘酸っぱい(?)空間が続きます。
ご注意くださいますようお願い申し上げます。

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

『三世界共同文化祭』、現世side 視点

 ___________

 

「さて、アネット君。 書いてくれないかい?」

 

「何故副会長でもない、ただの書記の私が────」

「────『書記だから』、の理由ではダメかな?」

 

「……チッ。」

 

 一護たちはクラスを分けて、生徒一人ひとりがアイデアを書いた紙を大まかなジャンルにまとめて絞って書かれたモノをアネットが渋々と(舌打ちを)しながら黒板に書いていく。

 

 他のクラスでは票を入れる為に同じようなことを委員長などがしていた様子が窓から伺えられた。

 

 そして黒板に書かれたものを一護は見────

 

「(────いやいやいや。 『休憩所』や『映画館』関連はともかく、『メイド喫茶』とか『合コン喫茶』ってどういう意味だよ? それ書いた奴………………………………………………………………………………って、浅野辺りか。)」

 

 そういう系を書く人物に心当たりを一護は付けた。

 

「と言う訳で鉛筆だとこすれて上手く読めとれないこともあるからこの中から()()()二つ、最大まで三つを書いてクラスの端にある箱に入れてくれ。 結果発表は明日か明後日になる。」

 

 そう雨竜が言ったきり、クラスがザワザワするのを背景音に一護は紙に記入していくと茶渡が横から声をかける。

 

「一護、()()()()()は元気にしているか?」

 

 ここでの『ミーちゃん』は三月のフリをしたリカではなく三月本人を指していた。

 

「ん? ああ、マイさんたちが居なくなっても元気だぞ一応。」

 

「……そうか。」

 

 茶渡は多くは語らなかったが、一護は見た目だけでなく周りから消えた人も含めた質問と思い上記の答えを出した。

 

 一ヶ月前の騒動後、知人の何人かは未だに行方不明のままだった。

 

 まずはマイとツキミの二人が姿を消していたが、三月は捜索願いを出さずにただ『大丈夫だから』との一点張り。

 

 だが二人だけでなく、空座町の住人や空座一校の空手部の大半が跡形もなく()()()ことを聞いた彼女はボソリと『原作の……』と言ったことから恐らく、『物語(BLEACH)』で本来は亡くなった者たちが『居なくなっただけ』と一護たちは思った。

 

 未だに、自分たちが架空上の作品で出てくる人物(キャラクター)たちとは認めなかったが。

 

 無論、現世の者たちからすれば今でも消息を掴めていないので『月に飲み込まれた』という認識が強かったので捜索は半ば『巡回』と化していた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 時は過ぎ、出し物の投票結果が終わった生徒会室へと移る。

 

 中には雨竜を始め、総合された様々な学年の男性で結成されていた。

 女子たちは投票されたものの中から『合コン喫茶』や『メイド喫茶』などの()()()()()を書かれた紙をチェックして処分(焼却)してから早帰り、あとは男子たちに任せる交渉を男子たちに持ちかけていた。

 

 ぶっちゃけ、面倒くさいことを男子に押し付けようとした結果で男子たちだけが今残っていた。

 

 中の空気は面倒ごとを押し付けられた者たち特有のイライラとしたものでは無く、どこか戦闘前のピリピリと張りつめた物だった。

 

「さて、諸君……………………準備は良いかね?」

 

 ゲンドウポーズをしていた雨竜の言葉にその場にいた者たちがこくりと頷く。

 

「では、始めるぞ。」

 

 それを言うと皆がマスクを着用し、生徒会室の端に置いてあったバケツ数個から蓋を開けて中の液体に投票が書かれた紙を丁寧に浸していった。

 

 

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

「フゥ~。」

 

 上記で男子生徒たちが明らかに怪しい作業をしている間、三月はため息を付きながら公園のベンチに座り、足をプラプラとさせていた。

 

 両手にはショッピング袋のみ。

 

 一緒にアパートから出たはずのソウスケとイチネの姿は無かった。

 

「(どうしよう、二人が迷子になっちゃった。)」 ←迷子になった人特有の言い訳

 

 つまりはそういう事である(二人を見失ってしまった)

 

「おい、そんなに引っ張るなよピン太!」

「早くしねぇと商店街の試食タイム終わっちまうだろうが?!」

 

「(う~ん……急に無理やり覚醒(起こ)された所為もあるかも知れないけどこの頃ボーっとするな~。)」

 

 そう思いながら晴天の空を見上げる。

 

「(それに……1()0()()()()()()()()って意外と難しい。)」

 

「いてぇぇ!!」

 

「んえ?」

 

 再度離れたところから来る声に三月の意識は出元へと向けられる。

 

 そこには自分より一回り体格の大きい中学生たちが居た。

 

 その中でもサルに似た少年が転んだのか来ていた制服は汚れ、裾をたくし上げて露になった膝には擦り傷から血が出ていた。

 

「あーあ、制服も破れてるじゃん。 だからお前のとこ貧乏なんだよ。」

 

「うるせぇよウサカ!」

 

「あのぅ、診ましょうか?」

 

「「「「え?」」」」

 

 中学生たちの四人は近くのベンチから飛び降り、トテトテと近づいた三月を見る。

 

「え? 女子?」

 

「傷、見せてください。」

 

「お、俺は怪我なんてしてねぇ!」

 

 見栄を張るサルに似た中学生が見栄を張る。

 

「血、出ている────」

「────こんなもん、ツバつけときゃ治る!」

 

 「ダメ。 洗うから足出して。」

 

「ア、ハイ。」

 

 見た目にそぐわない迫力を出す三月に少年は思わず素直になると、彼女は慣れた手つきで処置を施し始める。

 

「……お前、迷子か? 学校、サボってんのか?」

 

「……えっと? (迷子と言うか見失ったというか……)」 ←未だに迷子と気付きたくない人の特有の内心

 

「ピン太、そんなんじゃダメだってば。 まずは名前ぐらい言わないと、あ、俺『上原 敬(うえはらけい)』な! ドナルド似だから周りからは『ドニー』って呼ばれている! んでこいつは『東条院平太(とうじょういんへいた)』。 スゲェ名前してるけど貧乏だから『ピン太』。」

 

「(あれ? 『ピン太』に『ドニー』…………う~ん?)」

 

「お前、ここらへんはまだいいけどもうちょっと外れたところはダメだかんな。 てかお前、学年いくつだ? 親とかは? 名前は?」

 

「はぇ?!」

 

 そこで己の記憶を辿ろうとした三月に問いが次々と投げられ、彼女は考えを遮られる。

 

「えっと、こ────6年生です……かな?」

 

「なんで疑問形なんだよ?」

 

「う。 (この姿だと『以前の世界(Fate stay/night)』でもそのぐらいだったし……でも『この世界』基準だと中学生────)」

「────え? 6年生(12歳)? 見えないな。」

 

「だよな! もっと下だと思ったぜ! 3年つっても驚かねぇよ!」

 

 急に今まで黙っていた眼鏡の子が口を挟み、もう一人が同意を示す。

 

「(ま、まさかの一桁(9歳)ぁぁぁぁぁぁぁ?! い、いえここは冷静になるのよ私! 彼らからすればそう認識されているのだから怒るのはかえって悪手。 ならここは『大人(年上)の余裕』を見せつけるべきよ!)」

 

 三月はかなりのショックを受けるもすぐに頭を切り替え、怪我の手当てを終わらせ、さっきの質問にさっさと答える。

 

「親はいない。 義父もいたけど少し前に亡くなって今はお兄ちゃんと暮らしている。 名前は、()()三月だよ♪」

 

 スラスラと答えてニッコリと笑顔を向ける。

 

 動揺からか、嘘を含んでいない()()を口にして。

 

「「「ファ?!」」」

 

 その眩しい、純粋な笑顔に男子たちは頬を赤らませてそっぽを向く。

 

「??? あの、手当できましたけど……」

 

 キョトンとする三月にドニーが耳打ちをピン太にする。

 

 「おい、ピン太。 流石にお礼は言えよ?」

 

分かってるって! あ、ありがとう。」

 

 ポン。

 

「うん、よく言えました♪。」

 

 ナデナデナデナデナデ。

 

「のわ?! こ、子ども扱いすんじゃねぇ!」

 

「(あ、()()癖でやっちゃった……でもなぁ、この子見ているとどことなく素直じゃない人(間桐慎二)を思い出すんだよなぁ~……) う~ん、別に子ども扱いしている気は無くてね? 子供でも大人でも痛いものは痛いから────」

「────ああああ! 見つけたー!」

 

「やれやれ……」

 

 そこで迷子になっていた(と未だに強く三月が思う)イチネとソウスケと三月は合流し、別れながらピン太たちに手を振る。

 

「……………………………………」

 

「どうかなさいましたか、母上?」

 

「貴方に『母上』呼ばわりされたくないよ、ソウスケ。 そもそもアレ(三号)は『前の私』だったとしても、『今の私』じゃない。」

 

「では小母(おば)様と────」

 「────それはもっとヤダ。」

 

「ああ、おば(小母)様。 そういえば────」

「────サラッと話題を変えすんなし────」

「────浦原さんから連絡が来ていましたよ? “第二崩玉の器完成っス♪”って。」

 

「待ってましたー!」

 

「やっぱりお兄ちゃんの言った通りに三月お祖母ちゃん元気になった!」

 

う゛。 い、イチネちゃん? それだけはやめて。 生身でむき出しのマイハートのHPが地味に削られて────」

「────よかった♪」

 

「……………………………………………………早く浦原さんの所に行って、『世渡り』が出来るようになってくる。」

 

 余りにもキラキラとした笑顔に全く悪気のない言葉に三月は前向きに考えを変えた。

 

「わぁ~い!♪」

 

 それに全く気付かないイチネ。

 

「『世渡り』……それを見るのが楽しみだね……ここではない世界を観光してみるのも一興だね。」

 

「『観光』だけじゃなくて『貿易』目的がメインだけどね。」

 

「そうだね。 元々彼らが崩玉や、君や僕のことを了承(承諾)したのも彼の生きる、この世界の負担が軽減できるかもしれない希望からだ。 つまり、失敗は許されないという事だ。」

 

「…………考えるだけで胃が痛くなる……雁夜()()おじさん(切嗣)たちの苦労が分かったような気がする。」

 

「おば様でもそうなるんですね?」

 

「……ソウスケは私をいったい何だと思っているの?」

 

「何、簡単に『自ら創造した亜神たちによって存在をバラバラに引き裂かれて意識ごと封印された創造神の一部が人間を模範して覚醒した個体』さ。」

 

「………………………………………………………………」

 

「あれ? 君の性格からして何らかの()()()()が入ると思ったのだけれど……違ったかな?」

 

「なんでさ。」

 

 そう、三月は言うしかなかった。

 

「なんでさ!♪」

 

「(あ。 なんか良いかもこれ。)」

 

 そしてそれをイチネが真似するように復唱すると密かにそう三月は思ったそうな。

 

 

 

 ___________

 

 ピン太、ドニー、ウサカ、リョーヘイ 視点

 ___________

 

 

「「「「………………………………………………」」」」

 

 三月をソウスケたちが合流し、別れた後のピン太たち四人はただ黙り込んでその場を去った者たちの背中が見えないところまでじっと見送る。

 

「……行っちゃったな。」

「ああ。」

「『衛宮三月』、か。」

「あのロン毛の眼鏡が『お兄ちゃん』なんだろうな。」

 

 ちなみに三月たちがもしこれを聞いていればソウスケはただ笑い、三月は全力で否定をしていただろう。

 

『お兄ちゃんはこんな腹黒策士じゃない! もっと天然だもん!』、とか。

 

「「「「………………………………」」」」

 

 イチネも一応さっきは居たのだが、さらに幼い少女だった彼女のことは三月の姉妹か何かと考えて脳の片隅にその情報を処理した四人はまたも黙り込む。

 

 商店街の試食などはもう頭から綺麗さっぱりに消えていた。

 

 すると自己紹介をしなかった四人目、『戸羽龍平(とばりょうへい)』が携帯を出して唯一連絡先を知っている女子にメールを送る。

 

 ピロン♪

『なぁ、夏梨? “衛宮三月”って知ってっか?』

 ピロン♪

『衛宮は知らないけど、三月なら一人知っている。 ……なんで?』

 ピロン♪

『いま会って、スゲェ可愛かったから。』

 

 それを打ってから数分ほど経った頃に夏梨の返事は届いた。

 

 ピロン♪

『リョーヘイの事だから連絡してきた理由は想像できていたけどアタシから忠告。 すでに彼氏持ちらしいよ?』

 

 「な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?! すでに彼氏持ちだとぉぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 リョウヘイの叫びによって近くにいた鳥たちは飛び立つ。

 

「あ。 でもそれ、逆に良い(萌える)かも。」

 

 オイバカヤメロシャレになんねぇゾ。

 

 下手したら『無限の剣製希望』で(物理的に)串刺しにされるぞ?

 

 その先は地獄だぞ?

 

 

 

 

 ___________

 

『三世界共同文化祭』、現世side 視点

 ___________

 

 「「「「「ええええええええええええええええええ?!」」」」」

 

 ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ!!!

 

 次の日、空座一校に女子たちの驚愕する声が響き渡り、ドタバタと学校通路を走る紫蝋色の誰かが生徒会室目掛けて走っていた。

 

「来たか。」

 

 そう短く言う雨竜や他の生徒会員が居座っていた部屋のドアが乱暴に開けられる。

 

 バタン!

 

 「やりましたねこのクソ眼鏡!」

 

 入ってきたのは鬼の形相をしながら怒りに満ちていたアネット。

 

「ブクブクブクブクブクブク……」

 

 そして彼女の腕の中では余り過ぎる力を入れたハグによって呼吸困難になり、意識を失いつつある小柄なリカが泡を吹いていた。

 

「石田! アンタねぇ! やっていい事と悪い事はあるとわかる奴だと思っていたよ!」

 

 そして彼女のすぐ後ろには同じく今にでも怒りで爆発しそうな竜貴の姿。

 

 恐らくだが、二人が色々な意味で女子の代表的な意味で生徒会へ殴り込みに話し合いをしに来たのだろう。

 

「何のことかね、アネット君に有沢君? それに眼鏡はアネット君もそうだろう?」

 

「とぼけないでくださいクソ眼鏡が! あの結果のはられた張り紙の事です!」

 

「提出された票をもう一度見て、数えるかい?」

 

「見なくても何らかの細工がされているのでしょう?! 何ですか、一位の『メイド&バトラー喫茶(ケモミミ尻尾付き)』って?!」

 

 「そうだそうだー!」

 

 雨竜が眼鏡をかけなおすも、光を反射させたままでは彼の目を伺うことを何人たりともできなかった。

 

「メイド&バトラー喫茶なんて、定番だろ?」

 

 私は“ケモミミ尻尾付き”のことを言っているんです。 頭が沸いているのですか?

 

 パキッ。

 

「うお?!」

 

 アネットは未だかつてない程の冷た~い目と声で雨竜を今にでも視線のみで殺すような睨みを利かせると、彼女の眼鏡のガラスにヒビが入り、髪の毛も()()()()()うねり始めると流石の竜貴もビックリする。

 

 地味に髪の毛が蛇の様に『シャー』と威嚇しながら彼女に迫るような、そうでもないような絵図も上記のイメージ作りに加担していただろう。

 

『奇妙な冒険』風だと正しく背景には『ゴゴゴゴゴゴゴ』が浮かんでいる事案である。

 

「じゃあここにいる皆に問おうじゃないか……皆は癒しが欲しくないかー?!

 

「欲しい! 欲しい! 欲しい!」

 

「クッ……この、欲物共がッッ!」

 

 雨竜の問いに生徒会にいた者たちが一斉に声を上げ、アネットは怖じ気そうになるのを上記の言葉を吐き捨てることで騙す。

 

「あ、それ知ってる。 『風の谷』でしょ?」 ←中の人繋がりで合っている

 

「『悪堕ちモモ』と呼ぶらしいです。」 ←髪型繋がりだけで全然違う

 

 アネットたちが他メディアのネタを言い合う間にも、雨竜の呼び掛けは続いていた。

 

 「皆は井上君がメイド服を着ている所を見たくないかー?!」

 

 「見たい! 見たい! 見たい!」

 

「ングッ! (危ないところでした! 腕の中にリカお姉さまが居なければ即死でした!)」

 

 思わず声を出しそうになったアネットは腕に力を更に入れて堪える。

 

 ググググ。

 

 そしてリカの顔色は土色に変わっていく。

 

 「アネット君は小さい渡辺君がメイド服を着ている所を見たくないかー?!」

 

 ドサッ。

 

 「見たいです!♡ 見たいです!♡ 見たいです!♡」

 

 アネットは両手を思わず上に掲げて雨竜の言葉に同意を示し、リカはそのまま床へと落とされる。

 

「「「「「「…………………………………………………………………………」」」」」」

 

 パシャ。

 

 雨竜を除いた誰もがデッレデレに歪んだ顔を浮かべたアネットを見ては携帯電話を出してカメラレンズにその姿を押さえる音と雨竜がニィっと笑みを浮かべることでアネットはハッとする。

 

「……………………………………ハッ?! わ、私は何を?!」

 

「聞いたよね、皆? アネット君も同意したよね?」

 

 アネットが雨竜の視線を追い、背後を見ると彼女と竜貴にやっと追いついた女子たちの姿が────

 

「────うわぁ……」

「────そう言えば、たまに視線が……」

「────アネットさんって、やっぱり……」

 

NOOOOOOOOOOOOO(ノー)?!」

 

 アネットがガクッと項垂れる。

 

「アネット、アンタ……女だよね?」

 

「……たつきさんには私が男に見えるのですか?」

 

「いや、時々千鶴のような感じがすると思ってはいたんだけど……やっぱ、()()()系?」

 

「失礼ですねたつきさん。 私をあれと一緒にしてください。」

 

 その間にリカはそろ~りとその場を後にしていた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「『出し物』だぁ?」

 

「そうだよ。」

 

「メンドクセ~。」

 

 空座町から少し離れた鳴木市のビル内の一室で、一人の男がソファーに寝転びながらだるそうな口調で、大きな机の後ろ座りながらピコピコとゲーム機を弄っていた少年にそう返す。

 

「ちなみにフォラルルベルナコーポレーションとしては全面協力する返答をもう送ったから。 銀城の名前で。」

 

「オイちょっと待て雪緒?! 俺は何も聞いていねぇぞ?!」

 

「当たり前じゃん、今言ったんだから。」

 

 「おい?!」

 

「日本では『働かずもの食うべからず』っていうんだっけ? それに以前の騒動で迷惑かけたらしいじゃん?」

 

「それはあの藍染って野郎が勝手にしただけだ!」

 

 もう肝に察しているかもしれないが、上記の言い争う二人は元(?)XCUTIONの雪緒と銀城。

 

 雪緒は一ヶ月前の騒動時、己の完現術である『画面外の侵略者(デジタル・ラジアル・インヴェイダーズ)』をフルに使って鳴木市の一部をデジタル空間(セーフゾーン)内に変え、市民を保護していった。

 

「まぁまぁ銀城、雪緒にも一理あるよ? アタシたちだって汗水流して働いているんだから。 それにアンタの貯金も底をついているんだろ?」

 

「月島、テメェ(裏切り)やがったな?!」

 

「僕は何もしていないさ。」

 

「不用意に銀城が領収書を置いたのを、こいつ(月島)は放置していたけどね。」

 

 「やっぱ月島の所為じゃねぇか!」

 

 部屋の片隅にはスーツを着たジャッキー、そして月島。

 

 ジャッキーは雪緒と行動をしていた故に市民の避難を手伝っていた際、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 バァン

 

 「うるせぇぞ空吾!」

 

「ゲッ。 でたか、『月島狂言者』。 てか何気に俺を呼び捨てかよ。」

 

 ドアを蹴り倒す勢いで開けたのはそこら辺のコンビニ前でたむろうチンピラ風の獅子河原萌笑だった。

 

「あったりめぇだ、この引きこもり根暗野郎! 月島さんはテメェと違ってなぁ?! 心にもない笑顔をしながらクソ爺共にへこへこ媚び売って腰曲げてんだよ!」

 

「しかたないよ獅子河原くん。 この中で外交官に向いている(一番まともな)のは僕なんだから。」

 

「なんかトゲがある言い方だけど、月島のおかげでこの会社が急拡大しているのは確かだね。 と言う訳で出し物の企画を銀城ともどもよろしく。」

 

「「おい。」」

 

 このように『XCUTION』の大半は今日も雪緒の会社、フォラルルベルナコーポレーションに努めていた。

 

 銀城、月島、獅子河原の三人はあの夜、()()()()となった。*1

 

 否、『消えた』と呼ぶ方が正確だろう。

 

 と言うのも本人たち自身、次に気が付けば驚きからか腰を抜かした雪緒と驚愕するジャッキーが目の前にいたと認識していた。

 

『お、お前らだと?! 何で?!』

『雪緒にジャッキー? な────ゴフゥ?!』

 

 銀城と、(特に)月島の二人はあの夜の傷を負ったままの状態だった。

 

 後からジャッキーが避難した人たちの中から医療に覚えのある者たちに応急処置をさせてから銀城たちがジャッキーに事情を聞くと、どうやら鳴木市に異変が起きる直前に『ロン毛でオールバックの俺王様っぽい(あん)ちゃん』がボロボロのゲーム機を渡したそうな。

 

『騒動が終わった後にこのゲーム機をフォラルルベルナ君に作動させたまえ』、と言い残し。

 

 そこですでにジャッキーは目の前の男が少なくとも雪緒の完現術の性質を知っていることで警戒するも、恐怖を感じさせる圧力からただ首を縦に振りながらゲーム機を手にした。

 

 その渡されたゲーム機を雪緒に持っていくと、今度は雪緒が嫌な汗を掻く。

 

 渡されたゲーム機はボロボロとはいえ、彼の持っていた物と()()だったからだ。

 

 それを忘れる為に雪緒はとりあえず、世界の異変に便乗して勢力(ネームバリュー)を拡大することに没頭。

 

 騒動後、何度も作動するかどうかを迷った挙句に『最悪の場合自分のインヴェイダーズ・マスト・ダイで作った空間に逃げ込めばいいや』と思い作動すると上記の銀城たちがそのまま表れた。

 

 それが、『XCUTION』に関する者たちの────

 

「────何なのよこれぇぇぇぇぇ────?!」

 

 ────ちなみにどうでも良いことかもしれないがその時、毒ヶ峰リルカは空座一校の制服を身に着け、空座一校の学園通路にはり出されていた『文化祭結果発表』とやらに目が釘付けになり、口をあんぐりと開けて叫んでいたそうな。

*1
117話より




もうすでに察しているかもしれませんが京楽たちの出番は次話になってしまいました。

……どうしてこうなった?

平子:フラグ立て過ぎやねん、ワレ。


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第184話 3 World Festivity 2

お待たせ致しました、次話です。

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

『三世界共同文化祭』、(元)瀞霊廷side 視点

 ___________

 

女性死神協会 緊急会議』。

 

 そう書かれていた黒板の前にある教卓のすぐ後ろに伊勢七緒は立っていた。

 

 その姿は『ザ・委員長』である。

 

 彼女の前には線を引かれて消されていたとはいえ女性死神協会のメンバーたち、乱菊、砕蜂、ネム、勇音、清音、やちるは勿論の事、その上にローズ、リサ、(ましろ)、鉄左衛門の姿もあった。

 

「それでは、これより人間たちに私たち護廷の認識を広めるイベントの出し物を各隊が考案したものを提出してもらいます!」

 

「えぇぇぇぇぇ、各隊でやるの~?」

 

「そうです! 明らかに『めんどくせー』という顔をしないでください矢動丸さんに乱菊さん! 私だって何でこんなまとめ役ポジションになっているのか未だに分からないですから!」

 

「それって七緒が普ッッッッ通~に『委員長』属性が盛られているからなんとちゃうの?」

 

 「矢動丸さんも『属性あるある』じゃないですか?!」

 

「リサリサは無理があるよ~。」

マシェロ()の言うとおりだよセブン(七緒)君。」

「……“ジュワ”?」

 

 元仮面の軍勢がほぼ即答で不貞を示し、ネムの頭上に浮かんだイメージはとあるタイムリミットのない光の戦士像だった。

 

 パン、パン、パン!

 

「では皆さん手分けして各隊の出店アイデアを聞いてきてください!」

 

 七緒が手と手を合わせ、脱線しそうな皆の意識を現在へと引き留める。

 

「のちに護廷十三隊全体を回った後、ここに再度集合です! ではひとまず解散です!」

 

 そして恐らく護廷設立以来、初となる『外交に向けての友好会』が用意されることとなる。

 

 それでは、各隊の様子を見ていこう。

 

『心を広くしてくれ』、としか前もって追記しよう。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 一番隊:

 

「うむ! ではワシが直々に点てた抹茶を────!」

「────未成年にはノンアルコール物、成人には甘酒なんてのはどうじゃ?」

 

 山本元柳斎の言葉を()()()が無理やり遮る。

 

 老人は以前よりもさらによぼよぼした様子で、ミイラ男にでもなったように包帯を体中に巻いていた。

 

「右之助……お主、そもそも一番隊ではないじゃろう?」

 

 一か月前のあの騒動より少し前に起こった、今では『瀞霊廷絶対防衛戦線』と呼ばれている戦いの後、右之助と卯の花の二人は返り血まみれにしてはスッキリした、清々しいまでの笑顔でひょっこりと皆の前に姿を現した。

 

 というのも、右之助は気を失って卯の花の肩に担がれていたが。

 

「細かいことを気にするな山坊! 酒は歳関係なく、誰にでも受けが良い! 抹茶なんぞ、特にお前が点てた物ならば通の奴しか受けんぞ?!」 ←かなりの偏見あり&下戸に対しての無自覚宣戦布告

 

「皆がお主のような者じゃないと何故わからん、この頭でっかちの死にぞこないが!」 ←正論

 

「なんじゃと?!」

 

 このことに七緒はうんうんと頷きながら、ただ持っていたノートに記入していく。

 

 余談だが彼女の嫌いなものの一つは『苦い緑色の飲み物(抹茶)』であるのが大いに関係していた。

 

 ……かも知れない。

 

「では一番隊はこれで行きます(飲み物類)という事で!」

 

 そのまま七緒は回れ右をし、一番隊の建物を後にしようとする。

 

 ドカ! バキっ! ボカン!

 

 激しく続く打撃音を後にしようと、彼女はツカツカと早足で歩く。

 

「あの、七緒さん?! 『あれ』を放置するんですか?!」

 

 付き添いの清音が『あれ』を指さしで指摘する。

 

 殴り合いを始める山本元柳斎たちを。

 

「ええ、それが? いつもの事らしいですし。」

 

「え、えええええええええええええええ?」

 

「ですよね、雀部副隊長────?」

「────うむ。 だがお酒の────」

「────ええ、期待していますよ────?」

「────ですから予算が────」

「────では撤収です清音さん。」

 

 なおそれを最後に今まで割と静かにしていた雀部の胃がキリキリと痛み出したそうな。

 

 彼にとって、それは日常茶飯事なのだがこの日の境から胃薬の量が増えたのだった。

 

『一番隊、ノンアルコールと甘酒類。』

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 二番隊:

 

「う~~~~む。」

 

 砕蜂は悩んでいた。

 

「隊長~、いつまで悩んですか? いい加減決めないと前に進めねぇっすよ────?」

 

 ────ヒュ────!

 

「────どわぁぁぁぁ?!」

 

 大前田が間一髪で砕蜂の投げたクナイを避ける。

 

「黙れ。 その油臭い口を閉じろ。 息をするな。 死ね。 死んで大気に浄化されろ。」

 

「(え、ええええええええ? そりゃねぇよ……)」

 

「う~~~~~~む……」

 

 砕蜂の前には猫型のぬいぐるみと、猫型の型抜きが置かれていた。

 

 勿論両方とも砕蜂お手製もの。

 

「……夜一様ならば、どちらを好むのだろうか?」

 

「え。」

 

 砕蜂の言ったことに大前田は呆気に取られた。

 

 何せ彼女が何となく猫ものが好きだというのは薄々感じていたのだが、まさか朝から今までずうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっと悩んでいたのがまさか『出し物』に対してではなく、『夜一ならばどんな出し物を喜ぶのか』だったからだ。

 

「大体、夜一様ってもう二番隊と関係ないって宣言したんじゃ────?!」

 

 ────ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ────!

 

「────あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 尚、ハチの巣になることを全力で拒んだ大前田の所為で二番隊の隊長室が投げられたクナイにより穴だらけになった。

 

 大前田が自腹でこれの修理代を払わされることとなるのは数時間後である。

 

「やはり形だけとはいえ、夜一様を食すなど言語道断だ!」

 

 よって出し物はぬいぐるみになったとか。

 

「だから大前田。 すぐにS、M、L、XL、等身大サイズを取り敢えず千個ほどずつ製造しろ。」

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 がんばれ大前田。

 

 胃薬なら一番隊が貯蓄しているぞ。

 

 理不尽な上司に振り回される同志もいるぞ。

 

『二番隊、様々なサイズのネコ型ぬいぐるみ(黒猫限定)。』

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 三番隊:

 

「出し物ねぇ~……んー、イヅルはなんかええ考えある~?」

 

「そう、ですね……」

 

「なんで貴方が普通にいるのよ、ギン。」

 

「「え? ダメ?」」

 

「…………………………なんでまるで私がおかしい奴みたいな目を向けるのよ?」

 

「いや~、困った乱菊ってやっぱりかわええもんやな~♪」

 

「……………………………………それで? 何か考えあるの?」

 

「う~~~ん、すぐに出せるかつ量産するものとなると………………やはり食べ物類ですかね?」

 

「せやな……せや! キツネ饅頭とかどや?」

 

「「ブフッ?!」」

 

「んでボクたちがキツネのお面かぶって配ったりとか────」

 

 ────バタン!

 

「あーらら、逃げてもうた。」

 

「うん、そりゃ逃げるよシルバー(ギン)君。」

 

 ローズは吉良と乱菊がとうとう笑いを堪えなくなる寸前に、建物内から逃げ出しながらケタケタと爆笑する様子を苦笑いしながら見送ったそうな。

 

「それはそうと、僕のマスクはエレガントに仕上がるように頼んでおくか。」

 

「せやったらボク、腕のええ職人さん知ってるで!」

 

 以外にも三番隊の空気は今日も明るく、後にローズと市丸が天然のコントを披露していくこととなるのは、別の話である。

 

『三番隊、キツネ型饅頭。』

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 四番隊:

 

「隊長、この企画をどう思います?」

 

「勇音、次期隊長は貴方なのですからこういうことも決める練習をしておきなさい。」

 

「う。」

 

 四番隊では勇音が髪を下した卯ノ花に案を持ち掛けたが見事に玉砕した。

 

「で、でも私にとって隊長はやはり隊長ですし……」

 

 チラチラと卯ノ花の顔を伺うも、勇音に向けられるのはただただニコニコとした卯ノ花の仮面のような笑顔だった。

 

 卯ノ花はほかの護廷たちのものと合流し、事情の説明を受けた後に隊長の座を辞任した。

 

 本人曰く、『血を見ると無性に人を斬りたくなるので♪』とのこと。

 

「(ニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコ。)」

 

 勇音はただ笑顔を自分に向ける卯ノ花に何とも言えない圧力を感じ、

 

「…………………………栄養満点のおかゆ?」

 

 それは彼女が『背が伸びたくない!』と思い、普段から口にしていたものだった。

 

『四番隊、おかゆ(栄養満点の具入り)。』

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 五番隊:

 

「あ? 五番隊はクッキーや。 クッキーを出すつもりや。」

 

「………………………………意外と普通ですね、平子隊長?」

 

 七緒は純粋に感心したような眼で平子を見る。

 

「こういうもん、適当でええねん。 あとは()()を入れればええ。」

 

「流石関西ですね。」

 

 「せやからちゃう(違う)っつーてるやんか?!」

 

「そう言えば雛森さんは?」

 

 平子はバツが悪そうな顔をしてそっぽを向く。

 

「あ、あー………………なんや体調悪いから寝込んどる。」

 

「???????????????」

 

 平子がさらに気まずい顔をするが七緒はただ?マークを出しながらも記入していく。

 

『五番隊、クッキー(?)。』

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 六番隊:

 

「六番隊はたい焼きとやらを出す。」

 

 白哉はどこか気まずそうな恋次と、彼の眉毛に似せた刺青を入れた理吉を前にそう高らかにネムたちに宣言する。

 

「………………………………」

 

「なんだ?」

 

「いえ、朽木隊長にしては庶民的なものだと思っていました。」

 

「そして、これがそのたい焼きの型抜きの絵だ。」

 

 ネムが白夜から受け取った紙にはよくわからない生物(?)が描かれていた。

 

「…………………………………………………………………………………………ナニコレ。」

 

 いや、そもそも生物なのかどうか分からない怪しさ満点のモノを前にネムの語彙力は等しく低下した。

 マユリの元で()()()()()を見た彼女も、それほどのショックを受けていた。

 

「私が描いた、『わかめ大使』だが?」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 ネムの視線はどこか平常運転ながらもどや顔(?)の白夜、そっぽを向く恋次と理吉に移し、また紙へと戻す。

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………さようですか。」

 

 ネムはただ静かにその髪を折りたたんでからその場を去った。

 

『六番隊、オリジナル生物キャラ“わかめ大使”型のたい焼き。』

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 七番隊:

 

「隊長! 何卒! 知恵を! ワシでは漢らしさをうまく表現できませんッッ!!!」

 

 鉄左衛門が狛村に渡した紙には、デフォルメされた狛村犬が書かれたマーク(シンボル)

 

 それを出し物にする予定である、肉系(男飯)の物に焼印としてつけるのが鉄左衛門のアイデアだった。

 

 だがどれだけ自分の中では漢の中の漢である狛村を漢らしく描こうにも、必ずデフォルメで(可愛く)描いてしまう。

 

『漢らしく!』と気合を入れれば入れる程に、デフォルメで(可愛く)描いてしまう。

 

「フム…………………………この絵の横に、『ワフン!』と書かれた『せりふばぶる』とやらを入れてみては? それにしても、この犬はどこで見かけたのだ鉄左衛門?」

 

「……………………………………………………………………近所で見かけました。」 ←嘘は言っていない

 

 更に絵を『デフォルメで(可愛く)描いてしまった隊長です』とは言えない鉄左衛門の背中を嫌な汗がダラダラとふきだしては流れていく。

 

「そうか………………ではワシが名付けよう! 犬太郎とな!」

 

「た、隊長ぉぉぉぉぉ~~~~~~……」

 

 鉄左衛門のサングラスの裏から涙が出たそうな。

 

 狛村はきっと感動の涙と受け取ったのだろうが、実際は…………………………言わぬが吉とだけここに記入しよう。

 

『七番隊、オリジナルキャラ“犬太郎”焼き入り()飯。』

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 八番隊:

 

「んー、二重箱式の丼に上がちらし寿司。 下が飲み物なんてのは?」

 

「…………………………………………」

 

「ん? どうしたの七緒ちゃんにリサちゃん?」

 

「意外と普通な提案が来たので……」

 

「てっきり『写真集』でも出るかと思ったわ。」

 

「ンフフフ。 二人ともわかっていないねぇ~? こういうのはちゃんと真剣にしないとモテ────」

 

 ────そこで京楽は口を閉ざす。

 

 空気とともに急転化した冷た~~~~い視線を七緒とリサの二人から浴びながら。

 

「…………………………それでは下の層に一番隊の飲み物を入れましょう。」

 

「お? 即採用かい?」

 

「せやな。 んで七緒の名義で提出しよう。」

「ええそうですね。」

 

「え?! 僕は?! 僕の名前は?!」

 

 二人のツリ目眼鏡は彼を無視したそうな。

 

『八番隊、二重箱ちらし寿司(一番隊の飲み物付きコラボ)。』

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 九番隊:

 

「どうだ!」

 

 檜佐木が誇りに満ちた笑顔で作ったオムレツチャーハンを(ましろ)たちの前に出す。

 

「「「いただきまーす!」」」

 

「ちょっと待てお前ら! これは出し物の参考品だ!」

 

「え~~~~!!! これ絶対に後でケンちゃんが後で独り占めする気でしょ~?!」

 

「アホか白?! するわけないだろが?! ……それはそうと、これをどうやって九番隊と分かりやすくするかだな。」

 

「……そこは『69』と書いた旗を入れればいいのでは?」

 

 拳西と檜佐木があまりにも的中かつ直球な発言をした東仙を見る。

 

「「それだぁぁぁぁ!」」

 

 そしてお子様ランチ九番隊のオムレツチャーハンが出来上がる。

 

『九番隊、オムレツチャーハン(『69』旗付き)。』

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 十番隊:

 

「隊長の『氷輪丸』で出した氷を、その場でかき氷にしましょうよ!」

 

「おい。」

 

「あ、それとも氷像とかも良いかも! 隊長の斬術披露にもなるし、一石二鳥よ!」

 

おい。

 

 日番谷が凄く不服そうな目で乱菊を見続けるが、ここで乱菊のもっともな指摘が返ってくる。

 

「じゃあ、隊長はなんかあります? 出し物にするアイデアとか?」

 

「……涼しい休憩所の提供とか?」

 

「えええええええ?! それって隊長が昼寝したいだけじゃないですか~! それにやっぱり氷以外に芸が無いじゃん!」

 

「芸……だと?」

 

「あ。 だからあの子、隊長のことを『当たらない氷輪丸』なんて呼んだのかな?」

 

 「ちょっと待てなんだそれは?! 初耳だぞおい?! 誰だそれを言ったのは?!」

 

 他に案がなかったために、十番隊の出し物はかき氷(氷輪丸産)となった。

 

 「おいぃぃぃぃぃぃ?!」

 

 余談だが『当たらない氷輪丸』とうっかり(?)口を滑らしたのは面倒くさそうな表情と眼鏡をした少女だとか。

 

『十番隊、かき氷(氷輪丸産)。』

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 十一番隊:

 

「ケンちゃんの頭をしたマネキンにね?! みたらし団子をこうブスっと刺すのー!」

 

「それは、ちょっと…………」

 

 乗り気ではない一角がそう口を挟む。

 

「アハハ! それだけじゃダメだと思うよ!」

 

「じゃあグレグレは~?」

 

「う~ん、串を斬魄刀に模したり……とか?」

 

「あ、なんか面白そう!」

 

「(ホッ。 俺の頭に刺すとかになるかと思ったぜ。)」

 

 なぜか胸を撫で下ろす一角。

 

「後はそこの人の頭にぶっ刺して実際に血を流させて────」

 「────やらねぇよ! 人の頭を何だと思ってんだこのクソガキがぁぁぁ?!」

 

 十一番隊の出し物は『グレグレ』ことグレミィが提案したことで、斬魄刀を模した串を皿木の頭風のマネキンに刺したたみたらし団子となった。

 

『十一番隊、マネキン頭に刺したみたらし団子(斬魄刀風の串付き)。』

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 十二番隊:

 

 「我が隊は毒キャンディーを出すヨ。」

 

「流石です、マユリ様。」

 

 マユリの顔をドアップに迫られてもなお、怖じ気ないネムは彼の言葉をただ肯定する。

 

 いつもの光景と言えばそれまでだが。

 

「飴はリンゴ味の毒を採用するヨ!」

 

「流石です、マユリ様。」

 

「更に飴の中にあるリンゴ味のラムネ板にも毒を含むことで追撃するヨ!」

 

「流石です、マユリ様。」

 

「これで留めと言わんばかりに、棒にはリンゴ味の毒でトドメだヨ!」

 

「流石です、マユリ様!」

 

「フハハハハハ!!!」

 

 この様子を阿近や鵯州を含めた技術開発局(十二番隊)が内心で『ちゃんと食べれるようにしよう』と思った矢先に、部外者(護廷ではない者)の声が聞こえた。

 

『チッチッチ。 甘いですねぇ~。 サッカリンより甘々です。』

 

「んな?! この声は────?!」

 

 ────プシュ~!

 

 デンドンデンドンデンドンデンドン!♪

 

 突然床からドライアイス特有の黙々とした煙が出たと思った者たちの前に、床から少女が腕を組んだ(ガイナ立ち)ポーズを決めながら出てきたのだった!

 

 余談だがネムは更にモクモク感と背景音(BGM)を出すために、うちわを横で片手にもう一つの手にはラジオを持っていた。

 

「────呼ばれて飛び出てハ〜ヒフ〜ヘホ~。」

 

 やる気の無さそうな(平常運転の)様子はあまりにもミスマッチとだけ追記したい。

 

「リックん?!」

 

 出てきたのは他ならぬリカだったことに、技術開発局は複雑な心境になった。

 

 主に『嫌な予感』が増したといえば理解できるだろうか?

 

「マユマユ。 なぜ被験体が────失礼。 群がる羊(被験体)がわざわざ毒キャンディーを口にするまで待たなくてはならないのですか?」

 

「何? どういうことかネ?」

 

「飴のラッピング包装に、肌から吸収される神経毒を塗ればいいじゃないですか?」

 

 そしてその嫌な方の予感は的中した。

 

 「なるほど! その手が残っていたか!」

 

「流石リックンちゃん様です。」

 

 マユリの目がカッと見開き、ネムが彼女を褒める様子を見ていた阿近が横にいた鵯州たちに振り返る。

 

「……………………お前ら。 後で包装は肌が少し痺れるぐらいの神経毒に変えるぞ。」

 

 阿近の言ったことに、マユリたち以外の全員が全力の同意を示す。

 

 なおなぜ彼が完全に毒を包装から抜かないというと、飴自体とは違ってすぐに抜かれたことがマユリたちに伝わってしまうから。

 

『十二番隊、舌がピリピリするガム棒付きリンゴ味キャンディ(毒抜き)。』

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 十三番隊:

 

「う~~~ん……海燕は何か言いたげだね?」

 

「そもそも俺がが何でここにいるかに困惑している。」

 

「またまた~! 海燕副隊長も満更じゃないくせに~!」

「そうだぞ、仲間外れはよくないからな!」

 

「清音、仙太郎……俺ってそもそも『死亡扱い』だよな? もう護廷じゃねぇよ────」

「────そうだ! 海燕の卍解を使って水を霧状にした『休憩所』なんてどうだろう?」

 

「浮竹隊長……」

 

「お、それ良いっすねぇ!」

 

「それだったら十三番隊の隊花をプリントした水筒とかにしましょうよ!」

 

「お前らなぁ………………」

 

 常識人(海燕)は今日も今日とて自由な元(?)隊に振り回されて苦労するのだった。

 

「そんなんじゃ地味だろうが!」

 

「「え?」」

 

 仙太郎と清音が海燕を見る。

 

「水の中に糖分と塩分とかも入れるんだよ! いわゆる『栄養ドリンク』ってな! 十三番隊らしいだろ?!」

 

「「おおおおおおお!」」

 

「それなら俺の知識の見せ所だな!」

 

 訂正。

 海燕も例外なくズレいていたようだ。

 

『十三番隊、栄養ドリンク&スポーツドリンク(隊花プリント入り水筒)。』

 

 


 

 かくして、『三世界共同文化祭』が幕を開けようとした。

 

「ああ、ちなみに僕からのサプライズ企画の提案があるのですが────」

 

 ────それは後で披露するとしようリカ君。

 

 …………………………………………

 え?

『破面sideはどうした』って?

 

 では逆に聞くが、彼らに『何かを出し物にしろ』といったところで返ってくる返答はおのずと分かると思ったのだが?

 

 無論、脳筋戦闘民族に近い彼らとなると────

 

 

 

 

『────虚圏、武道会を開催』と、実にシンプルなものが張り出されていた。

 

 「ハッハッハッハッハー! やっぱ『平和』ってのは性に合わねぇぜ! そう来なくっちゃなぁぁぁぁ?!」




どうでもいい作者余談:

『デウスエクス』、2000年に発売されたものですけどやはり名作はいつプレイし直しても名作ですね。

なお急に温度が熱くなってドロドロに溶けそうですハイ。


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第185話 3 World Festivity 3

お待たせ致しました、次話です。

オリ設定、独自解釈、ご都合主義の上にほのぼのグダグダギャグ満載の甘酸っぱい(?)空間が続きます。
ご注意くださいますようお願い申し上げます。

あと少々カオスです。(汗

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

『三世界共同文化祭』参加者 視点

 ___________

 

『三世界共同文化祭』当日、空座一校。

 

 俺は周りの男子たち数名のように渡された衣装に袖を渋々と通す。

 いわゆる『バトラー(執事)服』だ。

 

 いつの間にか男子のうち誰が面倒く────バトラー役をするのか投票を取っていたらしく、なぜか俺が含まれていた。

 

 チエは『一護だからな』と、相変わらず意味不明なことを言うし。

 

 ちなみに女子たちは別の教室で着替え中。 

 当たり前と言えば当たり前だが。

 

「うん。 僕の見立て通りだね。」

 

 同じくバトラー服装に身を包んだ石田が中指を使い、眼鏡をかけ直す。

 癪だが違和感ないほどにかなり似合っている。

 

「おい石田。 なんで違和感も何もねぇほどサイズがピッタリなんだよ?」

 

 啓吾や水色を含めた周りの男子たちがウンウンと頷く。

 

「“見立て通り”と、僕は言ったはずだよ黒崎。」

 

「ちょっと待て。 つまり、お前は()()()()()採寸したのか?」

 

「そうだが?」

 

 前に『人間ミシン』ってあだ名がついていたのは知っていたが……こいつ(石田)の目はどうなっていやがる?

 

 ガラッ!

 

 その時、勢いよく教室のドアが開かれて()()()()()()()青髪の青年がズカズカと紙袋を持ちながら入ってくる。

 

「邪魔するヨ。」

 

 そして聞いたことのある声に石田と俺が驚愕する。

 

「「え。」」

 

「リックンと私、共同の『獣なりきりヘアバンドセット』の差し入れダ。 光栄に思いたまエ。」

 

「「「「「え。」」」」」

 

 それにほかの男子たちも声を上げる。

 

「(すっぴんの)涅……マユリか?」

 

「様を付けたまエ、黒崎一護。 ま、ちゃんとフルネームを言ったことでその不敬はチャラにしておくヨ。 これらヘアバンドは────」

 

 ────そう言いながらマユリが出したのはどこかで見たことあるハチマキ*1

 

「う……」

 

「どうした? 珍しく君でも苦虫を噛みつぶしたような顔もできるんだね?」

 

「お前は俺のことをどう思っているんだ?」

 

「それこそ“言わぬが花”というものさ。 脳筋とかは特にね。」

 

 「隠す気あるのかお前。」

 

「ホウ。 君も彼のことを考えていたとは意外ダ。」

 

「う……(涅マユリもそう黒崎を捉えていたとはッ!)」

 

 「お前らせめて本人のいないところで言えよ。」

 

「ちなみにヘアバンドは装着すると使用者に最も適切なモノへと変わる術式が施されている。 それの機能もプラスされるというのはちょっとしたおまけサ。」

 

「ええっと? それって────?」

「────ほレ。」

 

 マユリがヘアバンド(ハチマキ)を流れる動作で俺の頭に────

 

 ────ギリギリギリギリギリギリギリギリ────!

「────あいででででででででで?! 孫悟空のアレぇぇぇぇぇ?!」

 

五月蠅イ。 よし。」

 

 ポン!

 

 何かコミカルな音が頭上と腰あたりから聞こえる。

 

「ほうほうほウ、そうなるカ。 ああ、安心したまエ。 ハチマキは装着者と私以外に見えなくなる。」

 

「………………………………………………プッ。」

 

 石田がマユリの背後で押し殺した笑いを出しそうになりながら肩が震えているのを見る。

 

「ふーん。 一護ってそういう動物になるんだね!」

 

 笑い組に与していない、ヘアバンドを既に装着した水色が(ネズミ? リス?)小動物っぽい耳を頭と岸からフワフワ尻尾を生やして二カっと笑いかける。

 

「え?」

 

 彼の言葉を聞き、変わった姿を見た俺はすぐに近くの鏡の前へと移動すると────

 

「────んな?!」

 

 獣のような耳と尻尾。

 

 そしてオレンジ色のぼさぼさした(たてがみ)

 

 見た目が完全に()()()を連想させた。

 

 「なんで寄りにもよってコンなんだよぉぉぉぉぉぉぉ?!」

 

「「「「「コンって誰だ?」」」」」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 キュピーン!

 

 「……む?!」

 

 「どうした、コン?」

 

 茶渡の胸ポケットにいたコンにニュー〇イプフラッシュ青い閃光が走り、彼の様子に気付いた茶渡が頼まれた大工仕事を続けながら小声で問いかける。

 

 「なんか俺のことを誰かが噂している! 綺麗なネェチャンだといいな~。」

 

 「男子だったりして。」

 

 「男はノーサンキューだ!」

 

 コンは文化祭のことを知り駄々に駄々をこねまくって尚、強制参加しようとした。

 

 もちろん彼が人型の義骸を使えば一般人として参加できるのだが瀞霊廷の現状況では難しく、心当たりのある浦原にだけは貸しを作りたくないとのこと。

 

 よって、コンがとった行動は堂々と可愛い物好きな茶渡の()()()として潜入することだった。

 

「(それにしても何で青いハチマキをする? 意味が分からない。)」

 

 茶渡の疑問を聞いたのが三月辺りなら『隠密行動だからじゃない?』とでも答えが来ていたであろう。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その間、女子たちがいた教室では────

 

「────これに何の意味があるというのだ竜貴?」

 

 いつもは大雑把にまとめていた髪の毛を下ろしたチエをほかの者たちが囲んで時には(くし)を、時にはメイクを手にしていた。

 

「いや~、アンタって化ける可能性があるって前々から一心さん(黒崎パパ)と相談していてね? “この際だから皆で着飾ろう!”ってわけ。」

 

「……そうか。」

 

「そうそう。 (ま、それだけじゃないんだけどね。)」

 

 別に竜貴は自分の言ったことが偽りではない。

 

 ただ何となく、なんとなーくだが彼女はチエがどこか元気がないような気がしていた。

 

 そこでこの文化祭のテーマ参加者に決められたことを機に便乗気遣いをすることをほかのクラスメイト達に連絡を取り、概ねの者たちは同意した。

 

 普通ならこういうことを自主的にしだしそうな三月と言えば、渡された衣装を広げて見て即座にトイレに引き籠ったそうな。

 

ごめん、むり』とだけ言い残して。

 

 彼女のだけはリカ直々の特注品で、作成者である石田もドン引きするほど。

 逆にアネットは闘気が()えたそうなので無理もないのだが。

 

 詳細を知りたいという者もいるかもということで、どこからか(サボ)ってその場にいた滅却師五人衆(バンビーズ)の物言いは以下の通りとなる、

 

 バンビエッタ:ないわ。 アレはないわ。 似合っているけど似合っていない。

 ミニーニャ:ん~、『ハイレベル過ぎ』っていうのかしら? それとも『早すぎる』のかしら? ( -᷄ω-᷅ )

 キャンディス:オレ的にはオーケーだが普通の振る舞いとか考えたらアウトじゃね?

 リルトット:ビッチに言われたらお終いだな。

 ジジ:ええっと……違法なお店? 的な?

 

 とまぁ、かなりの言いたい放題者とだけ記入しておこう。

 

 一応R-15なので。

 

 果たして、三月が渡された衣装を着ることがあるかどうかは運命(Fate)のみぞ知る。

 

「そういえば渡辺って髪の毛ちゃんと乾かしている?」

 

「……………………??? タオルは使うが?」

 

「「「「えっ。」」」」

 

 真花の問いにチエのあっけらかんとした声は低かった。

 

「こう……揉むようにしているとか?」

 

「いや? かき混ぜるようにしているが?」

 

 「「「「はぁ?」」」」

 

 さらに低い声が女性軍全員から来る。

 

 あの温厚そうで一護の見た目に気圧されるみちるからもと言えばどれだけの迫力か想像できるだろうか?

 

「(なんだ? 一気に殺気が出始めたぞ?)」

 

 チエはただ座りながら?マークを浮かべ、周りで櫛で髪を梳き始めたみちるたちを見る。

 

 そして櫛を通す度に、彼女の髪は真っすぐに伸ばされていく。

 

「何……これ?」

「何この手入れの簡単さは?」

「非常識……」

「なんか宇宙を見たような気がする……」

「ゾンビにしちゃいたい……」

 

 あっという間に綺麗な直線を描いて地面に伸びた黒髪をス人の者たちがワナワナしながら手に取る。

 

「(ほう。 意外と手入れは簡単なのだな。)」

 

 もし彼女が上記を声に出していたら『全然違うがな。』という全力否定が鼓動していただろう。

 

 やがて揃った髪の毛は窓から入ってくる陽光に当たってはキラキラと艶を出していた。

 

「ハァ、ハァ、ハァハァ……」

 

「(む。 さらに殺気が増した? それにジジの息遣いも荒くなった?)」

 

 「………………………………なぁ? お前、普段から何かケアとかしている?」

 

 無表情になったキャンディスはいつもより一段と刺々しい言葉遣いになっていた。

 

「いや? 強いてなら、三月と同じ洗髪剤を使っていることぐらいか?」

 

「なるほど……ドライヤーはどのぐらい時間かかっているんだ?」

 

「『どらいやー』? ……そういえば三月は毎日そういわれるものを使っていたな。 私はタオルだけだぞ。」

 

 「は? テメェ、髪の毛をナメてんのか?」

 

「私に『髪を舐める』という趣味はない。 それと頭皮からの感じで皆の櫛に力が入っていく様子だが、それは何故だ?」

 

 「「「「「憎しみが────じゃなくて頭皮マッサージ。」」」」」」

 

「そうか。」

 

 余談だがこれがチエ以外であれば容易に櫛の歯は頭皮を貫通していただろう。

 それだけ年頃の女性が己の髪の毛に対するケアへの思い入れが大きいのだ。

 

「チエ。」

 

「なんだ竜貴?」

 

「私たち以外には絶対に嘘でも『ケアしています』って言いなよ?」

 

「なぜだ。」

 

いいから。

 

「わかった。」

 

 それを最後に、ただただ静かな時間が過ぎていく。

 

「(なんだ? 今度のは……『失意』を感じるぞ?) …………………………んふ。」

 

 チエの喉からくる音に皆がビクリとする。

 

「ちょ?! な、なんだよ変な声出して?!」

 

 特にバンビエッタが。

 

「いや、他人に髪を梳いてもらうのはいいなと思っただけだ。」

 

「??? 三月にやってもらっていないの?」

 

「……最近までは髪の毛を触ってほしくなかったからな。」

 

「ふーん……でも子供のころお母さん辺りの誰かにしてもらうでしょ?」

 

「私に両親はいない。」

 

「「「「「え。」」」」」

 

 チエの言葉に皆が驚愕する。

 竜貴を含めて誰もが複雑な気持ちになる。

 

「(そういや、一護の奴が言っていたな。 『マイさんとは血が繋がっていない』って。 その上にマイさんは人間じゃなかったらしいし……)」

 

「……??? 皆どうしたのだ?」

 

「「「「いや! 何でもない!」」」」

 

「そうか。」

 

「それで肝心のスタイルなんだけど、何か希望ってある?」

 

「……………………………………髪を切らなければどうとでも良い。」

 

 これに周りの女子たち全員の胸が高鳴る。

 

「(今度は寒気がするぞ? 何なのだ一体?)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 それから様々なスタイルへと変わりに変わっていくチエの髪型はやがて艶やかなハイポニーテールへと落ちつき、彼女は用意されていた衣装へと着替える。

 

「フム? こういう物は初めて着るが……」

 

 見た目が古典的な『ザ・クールメイド長(眼鏡無し)』へと化した姿に大半の女子たちが股を折り、手を床につけた。

 

「「「「ま、負けた……」」」」

 

「何にだ?」

 

 「アンタにだよ!」

 

「なぜ叫ぶ、竜貴?」

 

「……なんで三月がたまに疲れて憂いのある顔になるかわかったような気がする……」

 

「????????? それで、次はこの『へあばんど』とやらを付けるのか?」

 

 チエが手に取ったのは先ほど教室の前に置かれていた『獣なりきりヘアバンドセット』。

 

「そうだね……と言うわけでバンビちゃんにポイっとな!」

 

 ジジが半ば不意打ち気味にヘアバンドをバンビエッタの背後から結ぶ。

 

「ちょ、ちょっとジジ────?!」

 

 ────ポン!

 

 彼女の頭に生えたのは────

 

「「「「「────チワワ?」」」」」

 

 チワワの耳だった。

 

「何ですって?! どういう訳でそうなるのよ?!

 

 地団駄を踏む彼女を見た者たちが内心でキャンキャンと吠えるチワワを連想してしまい、納得してしまう。

 

「じゃあ~、私はどうかしら~?」

 

 ミニーニャが着けると、今度は白黒模様の耳とヒョロンとした尻尾が腰から生える。

 

「牛だな。」

「牛だね。」

「「「「牛……………………」」」」

 

「ああああ~! これってたぶん、私の性格から来ているのねぇ~!」

 

 ポヨン。 ポヨン、ポヨン。

 

「「「「「(違うと思う。)」」」」」

 

 リルトット、ジジ、他の者たちがはしゃぐミニーニャによってリズミカルに揺れる二つの()をジト目(呆れ顔?)で見る。

 

「んじゃ、次はオレってか?」

 

 キャンディスがヘアバンドを被ると大きく、長い耳が出る。

 玉のような白い尻尾と共に。

 

「んだこれ?」

 

「……ウサギ?」

 

「「「「あー………………()()()()()()()……」」」」

 

 キャンディスが不思議そうに眼の前まで垂れる耳を見るとみちるが疑問形で辺りを付けようとすると他のバンビーズがウンウンと頷いた。

 

「え? どういうことだ?」

 

「いやまぁ……うん、キャンディにピッタリとだけ言おうかな?」

 

「ここでまさかのビッチ属性が出るとは流石としか言いようがない。」

 

「リルちゃんって早くヘアバンド着けたいっぽい~?」

 

「あ、あはははは~……」

 

「「「「「……ああ、そういう……」」」」」

 

 真花の問いに上からバンビエッタ、リルトット、ミニーニャ、最後に気まずいジジたちの発言によってキャンディスの()()()()が蘇り、彼女たちも納得したような表情を浮かべる。

 

「どういうことだ?」

 

 チエはそう問うが殆どの者は答える気がないのか、乾いた笑いを出すだけだった。

 

「えっと……渡辺さんはウサギのことをどこまで知っているのかな?」

 

「急にどうした、千鶴?」

 

「……後で図鑑、調べてみるといいよ。 特にホルモン辺りを。」

 

「?????????????」

 

 ?マークを頭上に浮かべるチエはそのままヘアバンドを装着すると────

 

「「「「「────きゃああああああああ?!♡」」」」」

 

 女子の黄色い声が教室中に響いた。

 

「お……おおお?」

 

「なんか予想通りというか……納得というか……」

 

「うわぁ……」

 

「なぁ、地面にぶっ倒れたこいつらをす巻きにして燃えないゴミの袋に入れて東京湾に沈めてきていいか?」

 

 リルトットは興奮のあまりに出血多量気味から地面に倒れた千鶴とジジを指さす。

 

「か、か、かか! 彼女は最高よッ!!!」

 

 辛うじて上半身を起き上がらせていたバンビエッタは己の鼻から出る赤い液体を手で止めようとしていた。

 

「………………………………」

 

 平常運転のチエは、ピンと張られた三角形の犬耳が髪の間から飛び出て、腰からはフサフサの大きな尻尾が生えていた。

 

「……犬?」

「違うわ! 狼! 狼よ!」

「狼……いいわぁ~……」

「尻尾をモフモフしたいッッ!!!」

「狼の獣人メイド…………………………ガフッ?! あ、甘々すぎて即死になりそうだわ……」

 

「?????????????????????????????????????」

 

 チエはただ?マークを浮かべながら頭を横へと傾げると、彼女の頭に生えた耳が反応するのだった。

 

「「「「み、み、みみみみ耳がピョコピョコと動いている?! はぅぅぅぅぅぅぅぅ♡」」」」

 

 バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ!

 

「おい竜貴、こいつら急に倒れて足をバタつかせているぞ。 なぜだ?」

 

「この、無自覚がッッッ!!!」

 

「???????????????」

 

 開催事前の段階で既に前途多難なイベントであった。

*1
18話より




リカ:やりましたね本体。 本調子に戻ってよかったですね、ブイ。

三月:アンタ何やってんのよぉぉぉ?!

リカ:く、苦しいです本体。 今のボクは窒息プレイに興味ないですッ!!!

三月:あんな衣装よく着ようとしたわね?!

リカ:本体に着せる予定でした。

三月:確信犯ッッッ!!! 

リカ:なら聞きますがヴィクトリアンかフレンチで言うとどちらのメイド衣装がよかったですか? もちろん、丈は短いですし露出も────

三月:『────I am the bone of my sword────』

リカ: ────待ってください本体それマジでシャレになんねぇす────ギャアアアアアアス?!

マイ: 相変わらず仲が良くていいわねぇ~?

カリン: ……ノーコメントで。


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第186話 3 World Festivity 4

大変お待たせ致しました、謎のサーバーエラーが発生して慌てていましたが短めの次話投稿できました。

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 『三世界共同文化祭』参加者 視点

 ___________

 

「どうしたの、黒崎君?」

 

「いや、その、別に?」

 

「……もしかして私と文化祭をまわるの、嫌だった?」

 

 バトラー服を着こんだ一護の隣には自分たちの出し物を宣伝するサインを持ったヴィクトリアンメイド姿の織姫(ヘアバンドによってフェレットの耳と尻尾付き)。

 

 なお彼女が初めて一護のライオン(獅子)耳を見て(30分ほど静かに悶えた後に落ち着いて)の開口一番は『黒崎君らしいね!♪』だった。 

 

 ちなみにチエの反応はと言うと────

 

『────確かに。』

『コンみたいで俺は嫌なんだけどなぁ……』

『……ああ、そういう風にも繋がるか。』

 

 ────と彼女は返したそうな。

 

「(未だに何が“俺らしい”のか知らねぇが。) ああ、嫌とかじゃねぇよ。 ただ、何で宣伝のために俺ら二人が指定されたのか考えていただけだ。」

 

「う~~ん、真花ちゃんが言うには『この世の美を“教室内”と言う小さな世界に閉じ込めるのはもったいない! 内側と外側のハニトラ作戦よ! S級たちを宣伝と現場に置くよ!』って言ってた。」

 

「………………………………………………………………………………………………『はにとら』ってなんだ?」 ←いろいろと突っ込みたかったが敢えて知らない単語に引っ掛かりを感じた一護

 

「さぁ? みちるちゃんは赤くなっていたけど、答えてくれなくて……」 ←みちるが友人たちの中で一番ミーハーなのを知らない織姫

 

 ザワザワザワザワザワザワ。

 

「おおお……」

「メイドだ! リアル獣人メイドさんだ!」

「黒崎がライオンって……あれ? でもなんかしっくりくる……かも? なんで?」

「あの黒崎がバトラー服……だと? つまりは命令し放題?!」

「井上先輩がメイド…………………………つまり夜は────?!」

「「────お前は黙っとけ時代遅れが。」」

 

 二人が他愛ない話をしながら通路を歩いた後のざわめきの招待は大体このようなものである。

 

 無理もないが。

 

 何せ本人たちでさえ未だに互いを直視せずにただただ前を見て時折にチラチラと横目で見る程度。

 

 この二人の内心を言葉で表すと、一護は単純に『似合っている』の一言で片づけられるだろう。

 織姫は彼女特有の織姫ビジョンから生まれる、まさに雪崩のような表現を略化すればと言う前提付きだが。

 

 二人がブラブラと歩くこと15分ほど、屋台が出されている校庭へととうとう出ると────

 

「────あ、見て見て黒崎君! 『お化け屋敷』だって!」

 

 片手にタコ焼き(青ノリ無し)を持った織姫ははしゃい(全力)で文化祭を楽しんでいた。

 

「(井上……俺らが宣伝役なのをすっかりと忘れているな。) って、『お化け屋敷』ぃ~?」

 

 一護が見たのはそれっぽく組み立てられたプレハブ式の家。

 

「うわ~、凄そうだね!」

 

 そして織姫が見たのは外には顔を真っ青にしながら気を失った面々の者たち。

 

「あ! 黒崎さんに井上さん! お久しぶりです!」

 

「おう、久しぶりだな山田。」

 

 気を失った者たちを看護していたのは山田花太郎を始めとする様々な四番隊などの者たち。

 

 ちなみに気を失っていたのは殆んどが十一番隊の猛者たちだった。

 

「てか、『死神がお化け屋敷を怖がる』ってどういうことだ?」

 

「いや~、この人たちが『お化け屋敷』を『肝試し』と見てか破面の方たちが開く武道会の前座として入ったんですけれど……結果は御覧の通りです。」

 

 

ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ?!』

 

「ハァ、またですか……」

 

「「え。」」

 

 中から更に悲鳴が出て一護たちが見たのは担架に乗せられ、ブクブクと泡を吹きながら気を失った恋次。

 

い、い、い、い、い、い、い、い、い、い、一護にい、い、い、い、い、い、い、い、井上か?!」

 

 そして肩を四番隊員に貸せられながらそれに付き添うようなルキアも顔を真っ青にしていた。

 

「ど、どうしたんだよルキア?!」

 

 その尋常ではない様子に一護が駆け寄る。

 

あ、あ、あ、あ、あ、あそこだけはダメだ!!」

 

 彼女がテントへと連れ去れながら震えながら指さすのは先ほど悲鳴が上がった『お化け屋敷』だった。

 

「(どんなことがあればあんなに怖がるんだ?)」

 

「行ってみようよ黒崎君!」

 

 「え。」

 

「二名お願いしま~す!」

 

 そう言われて織姫に一護が引きずられた入り口に立っていたのは────

 

「────じゃあ二名で~。」

 

「リカお前……何してんだ?」

 

 何時もとは違う、ダボダボでサイズの合っていない白衣を着たリカだった。

 

「何って……モルモットの選抜ですが?」

 

 「言い方ぁぁぁぁぁ?!」

 

「白衣、似合っているね!」

 

「恐縮です。」

 

 一護はどう反応すればいいのか分からない、複雑な表情を浮かべていた。

 

「と言う訳で中へどうぞ、別に手を繋いだり抱き合ったりしても良いですがシないでください。」

 

「「何を?」」

 

「ナニで~す。」

 

「「????????」」

 

 一護と織姫は?マークを出しながらも、暗い家の中へと入っていく。

 

「暗いね~。」

 

「あ、ああ。」

 

 暗いからか、織姫は一護の横に(かつ若干後ろで)密着しながら彼の後を歩く。

 

 暗く、ジメジメし、明らかに見た目より仲が広くなっていたお化け屋敷をただ歩く。

 そのとき、不意に織姫が口を開けた。

 

「……ねぇ、聞いていいかな黒崎君?」

 

「うん? なんだ?」

 

「黒崎君って、チエちゃんのことをどう思っているの?」

 

 それは、彼女がずっと無意識ながらも感じていた疑問。

 発端はかつて、真花が恋バナを話した時からだった*1

 だがあの時の織姫はあんまり深く考えておらず、そもそも『異性との恋愛』と言うものを理解していなかった。

 

 さて。

 以前に書き示したことがあると思うが、井上兄妹の織姫と(ソラ)の二人は実親から虐待を受けていた。

 成人して間もない時期に()が織姫を連れ出すほどに。

 

 そんな彼女に『家族愛』すらどころか、『異性との愛を理解しろ』と言うのは酷である。

 

 だが様々な展開や出来事に巻き込まれ、時には自分から飛び込んだ経験をした彼女は急激的な成長をした。

 

 それは能力の意味でも、人間(ヒト)としても。

 

 その感情にようやく自覚を持ったのは藍染率いる破面によって脅され、虚圏へと連れていかれる事実の前に覚悟を決めようとした時*2

 

 自分がもう二度と知人たちに会えないと思い込んでいた彼女の脳に浮かんだ考えの中で、『黒崎君(一護)と離れたくない』という明確なモノが真っ先に浮かんでいた。

 

 これが『恋』と言うものと気付くのにさほど時間は掛からなかったが、色々あって上手く一護にこのことを打ち明けられずにいた。

 

 と言うのも、今の関係が変わるのを怖がっていたのも理由の一つだがそれよりも子供のころからずっと自分より彼と長い時間を過ごした者たちが居たのも要因の一つだった。

 

 以前の彼女たちは一護のことを手のかかる『孫』、あるいは『弟』として見ていたことを宣言したが、一護自身が彼女たちのことをどう思っていたのかを織姫はこの際聞くことにした。

 

 何せ彼女たちがそう思っていなくとも、一護が同じとは限らない可能性に織姫は思い至った。

 

「あ、チエか? うーん……“どう”って聞かれてもなぁ……」

 

 織姫はドキドキしながら、髪をガシガシと掻く一護が周りを見ては霊圧を探って他に誰も近くにいないことを使用可能な手段の限りを尽くしてから再度口を開けた。

 

「絶ッッッッッッッッッ対に誰にも言うなよ?」

 

「う、うん。 (ふわぁぁぁぁぁぁぁ!♡)」

 

 何時もよりさらに眉間にシワを寄せて真剣な表情をする一護にときめく織姫が何とか同意の言葉を発した。

 

 「………………………………………………………………ぶっきらぼうな姉ちゃんだよ。」

 

「あ、そうなんだ……“ぶっきらぼう”? 結構話す方だと思うけど?」

 

「やっぱ他の奴らから見たらそうなんだよなぁ。 アイツは話しかけるとちゃんと答えるクセに、自分からは何も言わないんだよ。 だから誤解されがちなんだよ。」

 

「……そっか! そっかそっか~!」

 

「どうした井上? なんかさっきよりご機嫌じゃねぇかよ。」

 

「うぃえ?! う、ううん! そんなことないよ────?!」

 

 ────ボォ……

 

 突然、二人の横の床からぼんやりと光が出ては獰猛で愉快そうな野獣の笑みを浮かべた眼帯の男が抜き出しの刀を肩に背負いながら二人を見下ろしていた。

 

 よぉ? く・ろ・さ・きぃ~?

 

「────」

 

 一護はただ口を開け、言葉にならない声を出してはサァァァァっと血の気が全身から引いていく。

 

 そこでフッと彼の意識は途絶え、フラ~っと彼は織姫に全身を寄りかけた。

 

 ポヨン。

 

「きゃあ?! くくくくくくくく黒崎君ッッッッッッッッッ?! ってお、重いよ~~~~!!!」

 

 余談だが織姫にとって、暗闇の中から気配も音沙汰も何もなく突然現れた更木は恐怖対象外だったそうな(どちらかと言うと自分に身体を預けてきた一護に意識を向けて慌てていたそうな)。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「あれは卑怯だろが?!」

 

 「「「「「なぁ?!」」」」」

 

 気が付いた一護は同じく意識の戻った恋次&十一番隊の者たちと意気投合していた。

 

「え。 そうかな?」

 

「………………………………井上、お前は怖くなかったのか?」

 

「ううん、全然だよ朽木さん!」

 

「…………………………」

 

 余りの笑顔+即答にルキアは気圧され、織姫が着ていた衣装に対してコメントを失くすほどだった。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

『三世界共同文化祭』が開催され、空座一校を中心にかつてない程の活気が空座町全土に溢れた。

 

「「「「「終わったー!」」」」」

 

 空が青色から紅くなりかけ、街灯や開店したお店の明かりがちらほらとつき始めた頃に一護たち『メイド&バトラー喫茶』参加者は達成感を味わっていた。

 

「うん、チップもこれだけありゃ三日は持つな。」

 

「あ、すご~い! ボクだって負けていないと思ったけど違ったね!」

 

 ハムスターの耳を生やしたリルトットが自分のポケットから出した金額を見ながらそうボヤくと(耳&尻尾をはやしていない)ジゼルがそういう。

 

「そうでもねぇよ。 ていうか耳とか無しでそれだけ稼げたのは賞賛すべきだろ? ……まぁ、アレを見たら着用拒否になるのは当たり前だが。」

 

「え~?」

 

 ゾゾゾゾ!

 

 リルトットの言葉を聞いた何人かが思い出したのか、顔色が青くなりながら震えた。

 

 実はジゼルが『なりきりヘアバンド』を着用すると元々○ゴみたいな髪型にリアル感が増すような動きをし始め、これを見た女性&男性群が悲鳴を上げた。

 

 なおこれを見たマユリは『ほウ! 昆虫類にも適用するのカ!』と感心するような言葉を挙げたそうな。

 

 よってジゼルだけは衣装(メイド服)だけを着用しながらもリルトットに負けず劣らずの戦果(?)をあげていた。

 

「それでも~、キャンディには敵わないと思うの~。」

 

「あ? んなもん楽勝だぜ! 何せ()()()“ホ別”とか回りくどい事────」

「「「「────ハイ次。」」」」

 

 おい。 たまには話の最後まで付き合えよ。

 

最後(フィニッシュ)まで付き合うのは部屋の中までにしろよクソビッチ(キャンディ)。」

 

 言っていることと書いてあることが違うじゃねぇか!

 

 ………………………………………………………………(聞か)なかったことにしよう。

 

「いや~、でも三月を連れ戻すなんてアネットさんもグッジョブだよ!」

 

「いえ。 上姉様にはぜひ私の提案した衣装を着てもらわないと、と思った所存でして。」

 

 ジャージ姿の竜貴がバトラー衣装に身を包んだアネットに話す。

 

「無理やり個別トイレのドアを破ってまでする、普通?」

 

「………………………………」

 

「それに貴方(アネット)はバトラー服だし。」

 

「似合うでしょう?」

 

()()()には反応するのね?!」

 

 彼女のバトラー服を見た者たちは6割が項垂れ、2割が『あ、良いかも』、残りの2割が『男装美人キタァァァァァァァ!』と意味不明(?)な叫びを挙げたそうな。

 

 彼女の言い訳いわく、『女性だからと言って“メイド服を着る”という事ではないのですよ?』だそうだ。

 

「ただ、『特別衣装』ではなく『通常衣装』なのが心残りですが……」

 

「ごめん、アレは人前で着るのは無理。」

 

「では後でアパートに戻ってから私の前で着替えを────」

────絶対に嫌だ。 ってあれ? 一護は?」

 

「ああ。 彼でしたら腹黒眼鏡(ソウスケ)と何かを話して教室を出ましたよ。」

 

「そ、っか……」

 

「??? どうかなさいました、上姉様?」

 

 アネットが尋ねると、三月はただはぎごちない笑顔を返すのだった。

 

 

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

「それでね! それでね! 山お()ちゃんがお茶くれたの!」

 

 膝の上に乗せたイチネがあっけらかんと重国のことを私に言う。

 さっきからずっとこんなことを話しているような気がする。

 

「そうか。 どうだった?」

 

「まずかった!」

 

「そうか。」

 

 舌を出しながら笑うイチネに相槌を打ちながら、紅くなっていく空を見上げる。

 

 今、私とイチネは空座一校の屋上にいる。

 

『ぶんかさい』とやらが落ち着き始めたころにソウスケがイチネを連れて来たときは少し驚いたが丁度良かった。

 

「ねぇお母さん、何それ?」

 

「これか? これは『にっき』と言うものだ。」

 

「耳と尻尾触っていい?」

 

「いいぞ。」

 

 私がサラサラと書いている間、イチネは頭上の耳と腰から生えていた尻尾を触りだす。

 

 ……くすぐったい。 ムズムズする。

 

 だがそろそろ聞かなくてはならない。

 

「……………………イチネ。」

 

「ん~?」

 

「お前は、()()()?」

 

「……」

*1
17話より

*2
68話より




蒸し暑くてドロドロになりそう…… (´×ω×`)

皆さんも外出する際には気をつけましょう。


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第187話 3 World Festivity 5

お待たせ致しました、上手く表現できているか不安のまま慌てながらですが次話の投稿です。

もうすでにご存じかも知れませんがタイトルを変更いたしました。
ご迷惑をおかけしますが、何とぞご了承下さいますようお願い申し上げます。

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

「(理不尽なこともあったけど)良い文化祭だったな。」

 

 一護は文化祭が徐々に宴モードへと変わっていく様子を教室の窓から見下ろす。

 校庭の屋台はいまだに存続しており、逆に夜になったことでつまみ類の要望が上昇(大人の時間へと移行)していた。

 

「(お? パ二-二たちじゃねぇか。)」

 

 その中で目立つドルドーニ(パニーニ)はさっきから『紳士イメージ』を真摯な気持ちで演じながら女性たちに声をかけては玉砕する姿を一護は目で追った。

 

 ちなみに彼は何度か『メイド&バトラー喫茶』に突入を試みたのだが明らかな下心満載の視線を女子たちに向けていたことで追放やんわりとアネットたちに投げ出されていた。

 

「(無理もねぇか。 追い出されるときに叫んだ『アレ』はねぇよ。)」

 

 その『アレ』とはドルドーニがアネットたちに弁解しようとしたセリフ。

 

『何故だ?! 吾輩はただ花を愛でたいだけだ!』

『その“愛でたい”に触ることが含まれているのでアウトです。』

 『失敬な?! “触りたい”などと()()()()しか思っておらん!』

『なら先ほど私の腰へと伸ばした手は何だったと言うのです?』

『フ……野に咲く花を手に取ってみたいと────』

 『────“良い男”を装っていますがアウトですね。』

 

 以上が投げ出(追放)される直前のドルドーニである。

 

 そんなことを考えていた一護に後ろから声がかかってくる。

 

「君が思いに耽っている顔は穏やかだね。」

 

「え?!」

 

 ここで聞く筈のない声に一護が振り返ると、いまだにやつれた様子の────

 

「あ、あいz────ムグッ?!」

 

「シー。 僕の名はマクシミリアン。 気軽に“マックス”と呼んでくれたまえ。」

 

「(いやいやいやいやいや! 髪の毛を青色に染めてサングラス着用だけでもアウトなのに名前で決定的じゃねぇか?! 嫌というほど声が似ているし不思議と見た目が似合うけどよ?!)」

 

 ソウスケ自称“マクシミリアン”を見て口を塞がれた一護は内心でツッコミを入れる。

 

「ブハッ! あ、アンタはここに居て良いのかよ?! 監視付きの謹慎処分の筈だろうが?! てか、何気にもっとやつれていないか?」

 

「アハハハハ……平子君たち五番隊が出しているものがねぇ……」

 

「五番隊って……確かクッキーを出していなかったか?」

 

 “マクシミリアン(ソウスケ)”が遠い目をし、一気に疲れた様子になる。

 

「フ. そのクッキーが問題なんだ…………………………『()()()()()()』だとさ。」

 

え゛。

 

 一護が声を出すとまるで彼の考えていることを肯定するかのように、ソウスケが苦笑いをしながら四角いフレームの眼鏡を懐から出す。

 

「うっわぁ……」

 

「しかもやちる君がね? 変装した僕を見てまるで段取りを見計らったかのように、手の中で持っていたクッキーを割ってから“私たちが天に立つ”と笑顔で宣言したんだ。」

 

「…………………………」

 

 一護は複雑な表情を浮かべ、口端をヒキつかせる。

 明らかにやちると平子の行動は以前に見た光景を元にしていたからだ。

 

「まぁ……自業自得だと割り切っていたものの、次に気が付けば身体をイチネに揺られていたからね。 さすがに立ったまま気を失うとは思わなかったよ、ハッハッハ。」

 

「(それってもう、あれじゃね? 『心的外傷後ストレス障害(PTSD)』ってやつじゃね?)」

 

 ソウスケは笑いこそしたものの、一護からすれば上記の出来事はソウスケにとってトラウマ化していたかのように感じた。

 

「おとう────()()ちゃ~~~ん! 見て見てー!」

 

 “マクシミリアン”の後を追うかのように浴衣を身に着けたイチネが『お父さん』呼びから『お兄ちゃん』へと切り替えながらキツネのお面を頭につけ、屋台で得た戦利品らしきものを両腕で抱えながらトテトテと近づく。

 

「お、おお……すげぇな、イチネ?」

 

「すごいのはお()ちゃんだよー!」

 

「フォッフォ。 孫の為ならばなんてことは無いのぉ~!」

 

 イチネの言ったことに照れる青いほっかむりを被った老人が愉快そうに笑いながら八番隊のちらし寿司丼が髭にくっ付かないように工夫をしながら食べていた様子に一護は絶句した。

 

「…………………………」

 

「ん? どうした黒崎一護? 生まれたばかりの赤子のようにポヤ~ンとして?」

「ぽや~ん!♪」

「しかも今度は壁に手を付けて項垂れていますね?」

 

「もうどこからどうツッコんだものか迷っているだけだ……」

 

「「苦労するねぇ(のぉ)~。」」

 

 「誰の所為だと思っているんだよ?」

 

「儂は知らんのぉ~。」

 

「………………………………良いのかそれで? 仕事(総隊長業務)はどうしたんだよ?」

 

「だって儂、飽きたんだも~~~ん!」

 

「爺さんが“だもん”なんて言うなよ、気持ち(ワリ)ィ。」

 

「イチネぇ~、お主のちc────兄が儂を虐めて来るのじゃが~。 うわ~ん。」

 

「お兄ちゃん! メッ!」

 

「なんでだよ?! つか俺か?! 俺なのか?!」

 

 ポン。

 

 一護は手を肩に置かれて振り向くとマクシミリアン(ソウスケ)が同情するような目を向けられていた。

 

 いや、それは同じ苦を経験した者の目だった。

 

『同志よ、気にすることは無い。』

『同志でもなんでもねぇよ!』

『その気持ちはわかるとも。 何しろ彼が姉さんと僕たちが住むところに通い、始めて僕の描いていた“山本元柳斎重國”という人物像とはかけ離れていたことが判明したからね。』

『お前もかよ……って、何勝手にシレっと()()()()に引っ張ってんだよ?!』

『Ha,ha,ha。』

 

「のぉのぉイチネ~。 二人が何か目で語り合(アイコンタクトを取)っているように見えるのじゃが…………仲間外れになっておるの、儂の気のせいかの~?」

 

 「お兄ちゃんたち、メッ!」

 

「(……………………なんで俺が叱られるんだ?)」

 

 理不尽なことに?マークを一護は頭上に出し、背後から知恵の声が聞こえてきた。

 

「一護とイチネとソウス────」

「────マクシミリアンです、姉さん。 もしくは“マックス”とでも。」

 

「そうか。 それと、そっちは『名も知らぬ死神』だったな。」

 

「おおおお! まさか師匠がそのようなお召し物を着るとはのぅ……」

「きれい~!」

 

「そうか。」

 

「(ほっかむりの意味が無くね────ん????)」

 

 フッサ、フッサ、フッサ。

 

 一護は自分の足を何かが撫でるような感覚がして思わず下を見るとフサフサの大きな尻尾が左右に振られている際に自分の足に当たっていたことに気付く。

 

 無論、尻尾の持ち主は隣の女性。

 

「それでね、それでね! マックスお兄ちゃんもぬいぐるみをしゃてきでとってくれたんだよー!」

 

「そうか。 イチネが世話になるな。」

 

「いえいえ、僕自身も楽しんでいるので。」

 

「そうか。 イチネ、楽しいか?」

 

「うん!」

 

「よかったな。」

 

「えへへへへ~♪」

 

 イチネと喋る彼女の表情こそ澄ましているものの、ふさふさな尻尾は揺れ続けていた。

 

 「涅マユリに感謝をせねばならないのぉ。」

 「ハハハハ。」

 

「お星さまみに行こお母さ────お姉ちゃん!」

 

「いいぞ。」

 

「じゃあ、おんぶー!」

 

「わかった。」

 

「わーい!」

 

 チエがイチネを抱き上げ、そのままワイワイと騒ぐ教室を後にするのを一護が放心しながら見送る。

 

「……黒崎一護。」

 

「お、おおう?」

 

 急にソウスケが自分をフルネームで呼んだことに戸惑いが若干声に出てしまう。

 

「姉さんの後を追わなくてもいいのかい?」

 

「てかよ? ずっと前から疑問に思っていたし、この際だから聞くけどよ? イチネは俺と同じ感じでチエを姉呼ばわりしているのは分かるけど、アンタのその『姉さん』ってのはどういうことだ?」

 

「そうじゃ。 ずっと孫と師匠に会うために通っていても、儂のその質問にお主は答えておらんではないか!」

 

「(イチネはアンタの孫でも何でもないんだけどな。)」

 

「ん? 未だに答えが見つからないのか……長くなるが、二人は聞きたいかね?」

 

「「手短く。」」

 

「……一言で表すと、『敬意』だ。」

 

「『敬意』?」

 

「うぅぅぅむ……」

 

 一護はさらに?マークを出す反面、山本元柳斎は何か思い当たったのか髭を撫でながら考え込むような音を出す。

 

「ああ、それとなぜ僕が後を追うのか追わないのか問いをしたのは単純だ。 姉さんはどこか元気がなかったからね、君ならば彼女を元気付けることが出来ると思ったからだ。 『星を見たい』とイチネが言っていたから、二人はおそらく屋上だ。」

 

「そ、そうか。」

 

 一護がそのままソウスケの横を通り、屋上へと通じる階段の方向に歩き出すとソウスケがさらに声を彼へとかける。

 

「それとその耳、獅子かね? 君にお似合いだよ。 まるで────」

 

 ビュン!

 

 一護は恥ずかしみとソウスケの言葉の続きから逃げるように陸上部顔負けなほどの速度でその場から走り去った。

 

 故に、ソウスケの言葉を聞くのはほっかむりを被った山本元柳斎のみだった。

 

「────君の信念を表しているかのようだ……って、何もそこまで急いであとを追う必要はないだろうに……」

 

「ではどういう意味じゃ? 儂はてっきり、奴の身の近くに()る改造魂魄か彼奴(きやつ)の力量に関係しておると思っていたが?」

 

「確かにその線も含んでいることは肯定しますが、知っていますか? 獅子には小さいながらも群れを成す習性があり、敵から群れを守る為に必ず一体が先人切って先頭に立つことを?」

 

「なるほどの~……彼奴(あやつ)にピッタリじゃわい…………………………それとは別に儂が『へあばんど』とやらを被ったらどんな耳が出るんじゃろ?」

 

「出ないんじゃないですかね?」

 

「……貴様は今、何を思い浮かべておる?」

 

「貴方は背中に甲羅を背負う気はございませんか?」

 

「????????????」

 

 それだと何某漫画の仙人になってしまいますよ?

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 一護は慣れた足取りで空座一校の屋上を目指しながら外の様子を通路の中から見下ろしていた。

 

 外の校庭には簡易ステージのようなモノが立っており、昼の間は学生のバンドや楽器に覚えのある猛者たちなどが演奏していたが、今は別のモノを出していた。

 

『ハ〜ヒフ〜ヘホ~!』

『出たな、サイキンマン! この俺が相手だ!』

 

「ブフッ?!」

 

 一護が見聞きしたのは被り物をした浮竹とマユリ(+ネム)が対峙するかのような光景とスピーカーから流れる声。

 

『私を破滅することは出来ないと何度言えばわかるのかネ?! 私は“菌”! どこにでもいるのだヨ!』

『そうだとも! 滅亡することはできなくとも、君の浸食を一時的に止めることはできる! 食らえ! 浄化ぁぁぁぁぁぁ! ブゥゥゥゥゥゥメラン!』

 

 浮竹が出したのは大きな二振りの歯ブラシ。

 

 それを両手にとり、マユリへと投げると回転しながらマユリとネムにそれらがくっつく。

 

『グワ?! ま、まだまダー!』

『次はこれだ! 浄化ぁぁぁぁぁぁ! ビィィィィィィィィィィィム!』

『グアァァァァァ?! お、おのれ真・ケンコウ! 覚えていロォォォォォ!』

『さぁ、君たちも忘れるな! 歯磨き、手洗い、うがいは健康を保つ基本だ!』

 

「…………………………………………………………………………………………」

 

 一護は絶句したまま歩みを再開し、階段を登って屋上へと続くドアノブに手を伸ばすと向こう側からイチネとチエの話声が彼の耳へと届く。

 

『ねぇお母さん、何それ?』

『これか? これは“にっき”と言うものだ。』

『耳と尻尾触っていい?』

『いいぞ……………………イチネ。』

『ん~?』

『お前は、()()()?』

『……』

 

 ピタリと一護の動きが止まる。

 チエの疑問はご尤もなはずなのに、身近にいた一護でさえそれを疑問として持たずにただ目の当たりとして受けていた。

 

『お前は自分を“イチネ”と名乗り、私たちに親しみを込めながら呼び名をつけ、懐いている。 だが、肝心のお前は自分のことを何も語っていない。』

『…………………………う~~~~ん? ()()()()()()()()()?』

 

「(いやいや、そんな簡単に────)」

 

『そうか、悪かったな。』

 

 バァン!

 

「────ってそんな簡単に信じて良いのかよ?!」

 

 一護は思わずドアを開けてそう叫ぶ。

 

「一護か。」

「あ、お父さんだ!」

 

「俺は子供を作った覚えはねぇ!」

 

「お母さん、なんかお父さん変だよ?」

「そうだな。」

 

 「聞けよ。」

 

「あ! お兄ちゃんたちもつれてくるー!」

 

 イチネはそう言いながらチエの股の上から一護の横を素通りして階段をさっさと降りていく。

 

「まるで昔の一護のようだ。」

 

「え゛? 俺、あそこまでワケ分かんなかったか?」

 

「そうだが? ……………………どうした一護? 頭を壁か何かに打ったか?」

 

「打ちたい気分だが打ってねぇよ。」

 

「そうか。」

 

 チエは夜になり、星が出始めた空を座りながら静かに見上げ、一護は何となく彼女の隣に座って同じく夜空を見上げる。

 

「「……………………………………」」

 

 特に二人の間に会話はなかったが、二人は別にそれを不満に感じることは無い様子だった。

 

「(……………………こうやって静かに星を見るのって何年ぶりだろ?)」

 

「一護。 なぜここに来た?」

 

「んあ? 何でって……なんかお前が元気なさそうだったって聞いたから。」

 

「“元気がない”、か……………………………………」

 

「「………………………………………………」」

 

 またも地上から来る背景音以外、静けさが屋上を支配する。

 

 チエは膝を抱え、一護は胡座を掻く。

 

「一護は……」

 

「ん?」

 

「一護は、私が怖くないのか?」

 

「全然?」

 

「不気味ではないのか?」

 

「全然。」

 

「もし……………………もし私が『私』でなくなってもか?」

 

「????」

 

「私は……私は『バケモノ』だ。 死した者の()()を取り込んでしまう。 能力も、記憶も、全てが混ざり合う。」

 

「…………………………」

 

「今は『にっき』を書いているが……………………皆とは生きる(とき)も違うし、いつかは思想が変わってしまうかも知れない。」

 

「…………………………」

 

 一護は何も言わず、ただチエの言葉を待つ。

 

「私は………………私は()()。 ()()()()()()()()()()()。」

 

「…………………………」

 

「私は眠ってしまえば、夢を見ることは無いが()()()()()()。 自分の事や周りだけでなく、()()だ。」

 

「…………………………」

 

「ゆえに私は『にっき』を書いて、記録を取っている。 だが………………もし、私が何かの拍子で『バケモノ』として周りを害しようと動いてしまえば────」

 

「────そん時は、俺が出るよ。」

 

 チエは、未だに夜空を見上げる一護にここで顔を向けた。

 

「…………………………そうか。 お前に討たれるのであれば、私は────」

「────あ? アホかお前?」

 

「あ、アホだと?」

 

 ここでチエはキョトンとした表情をするが、一護は見上げたままだったので気付かないまま言を告げる。

 

「当然、お前の前に出て、ぶん殴って、正気に戻すに決まっているだろうが?」

 

「……だが、変わった私を放置すれば……」

 

「お前は、そうそう変わらねぇよ。 多分。」

 

「そこで言い切らないのがお前らしいな。」

 

「だって昔からお前、場に流されるがままとかでも頼まれたこととか、周りの奴らが危なくなると全力で動くところとかは変わらねぇだろ?」

 

「…………………………………………」

 

「それに、三月に言いにくい事とかならこうやって話したいときはいつでも歓迎するぜ?」

 

「……物好きだな一護は。」

 

 一護はニカっとした笑みをチエに向ける。

 

()()()()()()()()。」

 

「そうか────」

 

 ────ポスン。

 

 次の瞬間、チエは倒れるように頭を一護の肩に預ける。

 

「うおおおお?!」

 

「ならば、少しの間だけでいい………………弟らしく、肩を貸してくれ。 一ヶ月も眠らないのは…………………………『今の私』には流石に堪える。」

 

 そう言いながら、チエの瞼はゆっくりと閉じて行く。

 

「……………………私が、目を覚ましたら………………『にっき』を見せてくれ………………」

 

「………………………………………………その肝心の日記はどこにある?」

 

「私の…………懐だ。」

 

「え?! オイちょっと待て! 寝る前に渡せ!」

 

「…………………………クゥ。」

 

「おいいいいいいいいいい?!」

 

 一護は一瞬、彼女を無理やり起こすかどうか迷ったが、彼女の寝顔が余りにも平和そうだったことに、今度は猛烈な眠気が今まで緊張感で起きていた彼を襲う。

 

「………………あ、やべ。 こいつの寝顔を見ていたら俺も……フワァ……………………」

 

パチ。

 

 一護が欠伸をするとチエが目を覚ます。

 

「お、おお? 早かったな? あ! 日記、日記、に────!」

「────。」

 

 一護が慌て、チエが何かを独り言のように口にする。

 

「え?」

 

「覚えて……いる。 思い……出せる?」

 

「え────ぐおぇ?」

 

次の瞬間、チエが一護を抱きしめて顔を彼の胸に埋めながらしゃくりあげる。

 

「お前は……『黒崎一護』! 

 ここは、『空座町』の『空座一校の屋上』! 

 私は……

 私は、『渡辺チエ』だッッッッッッッッッ!」

 

「おい────?」

「────うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 とうとう自分を力強く抱きしめながら泣き出したチエを、一護は双子の妹たちのようにあやす。

 

 彼には、今の彼女は遊子や夏梨たちが泣き虫だった幼い頃と同じく感じられた。




イチネ:お兄ちゃ~~~ん! お母さんたちのところにいこう!

ソウスケ:そうかそうか。 ところで手に持っているのは何かね?

イチネ:お母さんのにっき~!

ソウスケ:そうかそうか、ちょっと見ても良いかね? ……ナニコレ? よ、読めない……

イチネ:んー、『(自称)姉に見習って、『ばかんす』を気ままに取ってみた。 「アンタ何やってんのよぉぉぉ?!」』だってー!

ソウスケ:……ナニソレ?

イチネ:う~ん、でも今は『白と黒の世界は夢を見る』だよー!


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第188話 Beautiful Sleep

お待たせ致しました、次話です。

リアルが忙しかった+季節の代わりで短めです。 (汗

それでもいつもお読み頂き誠にありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

 時はついさっきまで遡る。

 それは丁度、イチネと名乗る少女とチエが屋上に出て数分後、今度は一護が屋上へと出てきた頃。

 

「一護か。 (空気でも吸いに来たか?)」

 

「あ、お父さんだ!」

「(そして彼をやはり父と呼ぶのだな。)」

 

「俺は子供を作った覚えはねぇ!」

「(ということは作り方を知っているのか?)」

 

「お母さん、なんかお父さん変だよ?」

「そうだな。 (一護が変なのは今に始まったことではないが。)」

 

 「聞けよ。」

「(この距離と音量で聞こえないワケが無いのだが?)」

 

「あ! お兄ちゃんたちもつれてくるー!」

 

 言うだけ言ったイチネは風のように一護の横を素通りしていく。

 その様子と言動は幼く、まだ一護が竜貴に“泣き虫”と呼ばれていた頃をチエに連想させ、彼女は考えていたことを素直に口にしていた。

 

「まるで昔の一護のようだ。」

 

「え゛? 俺、あそこまでワケ分かんなかったか?」

 

「そうだが?」

 

 そこで一護は今にでも壁に頭を打つような、体を前のめりに屋上へと続く階段の壁に体を預けた。

 

 ようやく彼が動いたと思えば知恵の近くまで来ては胡坐をかいて星の出始める夜空を彼も静かに見上げていた。

 

「一護。 なぜここに来た?」

 

「んあ? 何でって……なんかお前が元気なさそうだったって聞いたから。」

 

「“元気がない”、か。 (やはり、わかってしまうか。)」

 

 チエは出来るだけいつもの態度(平常運転)を装っていたが、一護の言った通り彼女にはいつもの覇気がなく、消極的だった。

 

 長い時間、睡眠を拒んでいれば睡魔が襲ってくるのは当然のこと。

 それに加え、静かな夜と一護と二人だけになったこともあってか、チエは無意識に感傷的になっていた。

 

 再度彼に自分が如何にどれだけ異質か伝えても、一護はただ黙って聞いてくれたのも要因だろう。

 

「私は………………私は()()。 ()()()()()()()()()()()。」

 

 ついには、彼女が初めて『恐怖』を覚えていたことを打ち明けるほどまで。

 

 何も彼女が弱気になったのはこれが初めてではなく、一応五番隊の隊長代理が務まるかどうかも迷うような言葉を漏らしていたが今回はその比ではなかった。

 

「私は眠ってしまえば、夢を見ることは無いが()()()()()()。 自分の事や周りだけでなく、()()だ。」

 

 彼女が次々と言うことはまるで、ある意味『懺悔』に似ていた。

 

 そして彼女はこう言った。

 

『もし、私が何かの拍子で“バケモノ”として周りを害しようと動いてしまえば。』

 

 これはどのような英雄譚などでも例が出てくるが、大きな力を持った存在はそれだけで脅威である。

 

 力を持った本人が善意で動こうにも、あまりにも強大な力や理解の及ばない現象に人は少なからず恐怖心を覚えてしまう。

 そして一度『恐怖』が芽生えると、それは決して無くなることは無い。

 いずれは迫害、あるいは『脅威になる前の牽制』対象となってしまう。

 

 そしてもし、自分がそうなった場合は一護に自分を打ってほしいと、チエはそれとなく強うとしたのだが

 

「あ? アホかお前?」

 

「あ、アホだと? (なん……だと?)」

 

 彼の答えにチエは思わず呆然とし、それが顔に出た。

 

『それでも』、と言いたげなチエの返しに一護はただ笑いながら『お前の弟だからな』と言ったことにチエは自分の肩の荷が軽くなった気と、緊張感がほぐれていったことに強烈な睡魔に瞼が閉じそうになり、頭を一護の肩に乗せた。

 

「(“弟だから”、か……『私』に弟がいたかどうか記入は無かったが……彼ならばいやな気はしない。) ならば、少しの間だけでいい………………弟らしく、肩を貸してくれ。 一ヶ月も眠らないのは…………………………『今の私』には流石に堪える。」

 

 ここで彼女が言った『今の私』とは、その言葉の通りの意味だった。

 

 さっき、彼女が一護に言った『死した者の全てを取り込んでしまう』は能力や記憶は勿論、残留思念や思考に死ぬ直前まで感じていた後悔や性質も含む。

 

 文字通り、『全て』である。

 BLEACHで言えば何十人、何百人と、下手をすればそれ以上の者の記憶と魂魄そのものを吸収するような出来事はある意味、思念珠に近い。

 

()()()()()()()()()』以外を置いて。

 

 そこでチエが危険視していたのはいつか暴走をする自分だったが、一護の答えに毒を抜かれ、さらには起き続けることが限界になってきた彼女はとうとう睡魔に身をゆだねた。

 

【イチネはイチネだよ?】

【昔からお前、場に流されるがままとかでも頼まれたこととか、周りの奴らが危なくなると全力で動くところとかは変わらねぇだろ?】

 

 その瞬間、意識が薄れていくチエの脳内にさっきまで聞こえていた知人たちの声が聞こえ、彼らと過ごした景色が映っていく。

 

【私はむしろ、こっちの二人のどっちかが本命だと思うのよねー。】

【わ、渡辺さんは着飾ったりしないの? もったいないよ……】

【胸揉んでも全ッッッッッッ然反応がないのは面白くないわぁ……】

【大きい方の渡辺さんって良い意味で変だよね!】

【チエさ~ん!!! どうか、俺のバイトの給与日になったらすぐ返すから昼ご飯第貸してくだせぇぇぇぇぇ!】

【チエ、来週あたり短距離のイベントあるから付き合え。】

【師匠~! 来たぞい~!】

【おお! チエ殿、ちょうどいいところに! 限定白玉を一緒に食わぬか?!】

【私、チエさんといるとホッとするんです。】

【根、詰め過ぎたらあかんで?】

【お前、女っ気ないクセに出るとこ出るタイプやねんな?】

【お、ちょいと付き合えよ。 『デンプシーロール』ってのを使えるかどうか見てくれ。】

 

 イチネや一護に続いて現世や瀞霊廷で知り合った竜貴、真花、みちる、千鶴、水色、浅野、国枝、山本元柳斎、ルキア、雛森、ひよ里、平子、拳西たち。

 

 それらが暗い淀みの中、チエの周りを小さな泡のように漂うその景色は以前に彼女を『ブック・オブ・ジ・エンド』で月島が斬って見たものと酷似していた。

 

 ただし、今回のそれらはフヨフヨと足元から浮かんで頭上を通り過ぎてはシャボンのようにパチパチと音を出しながら破裂していったが。

 

「(ああ、やはり……そうか。)」

 

 チエはそれらを見て、感じてくる喪失感に『納得』さえ覚えるような気持ちで見送っていた。

 

 やがてシャボン玉たちが全て消え、彼女の周りは暗くなっていく────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………ん? 明るいだと?」

 

 ────筈だった。

 

 チエは気が付けば明るく、平行線まで続く白い世界のような場所にポツンと立っていた。

 

「何だ、これは? 『世界の果て』や『狭間』に似ているが……」

 

「やぁ、そこのお姉さん!」

 

 自分ではない声のした方向をチエが見ると、自分とは垂直に立っていた少年がいた。

 

「……一護、ではないな。」

 

 チエの言ったように、少年は一護に似ていたが顔つきがどこか違っていた。

 

「うん、そうだね。 違うよ。」

 

「お前は誰だ?」

 

「僕? かいつまんで言うと、僕は『()()()()()()()』と言うことになるのかな? それとも『亜種』? 『姉弟』? ま、どっちでもいいや。」

 

「……だからお前は誰だ?」

 

「あ、そういう意味で聞いたの? 意外……」

 

「ここは私の精神ではないな?」

 

「うん、違うね。 お姉さんは消えそうで消えなかったからここに呼んだだけだよ?」

 

「……どういうことだ?」

 

 一護に似た少年が頬杖を立てる。

 

「う~~~~~ん……お姉さんであっちのちっちゃいお姉さんと違って『肉体』がちゃんとしているから。 『魂』はぐちゃぐちゃだけど。」

 

「御託は良い。 もう一度聞くぞ、()()()()()?」

 

 チエは背中に担いでいた竹刀(に偽装した刀)を握ると少年が肩をすくむ。

 

「グレミィから何も聞いていないねこりゃ……仕方ないか、僕が勝手に思っただけだし。 僕は……………………ま、これもかいつまんで言うと『夢であるこの世界を夢として見ている少年』とでも覚えていいさ。 ここにお姉さんを読んだのは一度見てみたかったから。」

 

「…………………………暇つぶしか。」

 

「そうそう! 何せ僕はこれからほぼ独りになるんだ! これ位しないと億劫になるよ!」

 

 チエは何かを感じたのか、足元を見ると自分の体が半透明になっていくことに気付く。

 

「そうか。  お前のその気持ち、わからんでもないが私はお前のことを忘れるだろう。」

 

 やがてチエはまた意識が遠のいていく中、苦笑いをする少年を最後に見た。

 

「うん、そのことなんだけど……これからのことを考えてその『忘れる』は()()()()()()()。」

 

「??? どういう────?」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 チエが瞼を開ける。

 

 体感では数分立っているように感じられた出来事も、実際には彼女が瞼を閉じてからたったの数秒間しか経っていなかったことを彼女は思い出す。

 

「(ん? 『思い出す』?)」

 

 そこで彼女は今までの出来事を思い返せることを自覚すると、内側からあふれ出そうになる気持ちのまま思わず近くにいた一護を抱きしめながらただ泣いていた。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 上記のチエがしゃくりながら泣くこと15分ほど後に二人はまたも隣り合わせで屋上に座っていた。

 

「…………………………落ち着いたかよ。」

 

 一護はなるべくチエを見ないようにしていた。

 

 いつもの無表情に戻ってはいたが、彼女の目と鼻は若干赤く腫れていた。

 

「ああ、すまんな。」

 

「いや、その……なんだ? まぁ、うん……」

 

 少しだけいつもと違う行動をしたチエに戸惑う一護だった。

 

「お、先客がいたか。」

 

「「ん?」」

 

 そこで一護とチエが見たのは両手にはたんまりと屋台の食品をもった食いしん坊のハムスターリルトット。

 

「ん~? あ、ほんとだ~。」

 

 そのあとを続くように折りたたんだブルーシートを持ったミニーニャ。

 

「もしかして駆け落ち? ……なーんて!」

 

「って、陛下の目と鼻が赤いじゃない?! どうしたのよ?!」

 

「ああ、これは────」

 

 ジゼルに続いてバンビエッタがそう言うと一護の言葉をチエが遮る。

 

「────(想いに)泣かされていた。」

 

 最悪の形で。

 

 「おいちょっと待て言い方────?!」

 

 ドサッ!

 

(キャンディスを除いた)バンビーズたちが全員、手に持っていたモノ等を落とし、悪寒が走るほどの殺気がその場に蔓延する。

 

 バンッ!

 

(キャンディスを除いた)バンビーズたちが全員、腰につけていたハートマークのホルスターポーチをたたくとそれぞれ少しデザインが違う神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)が出現する。

 

「────え?!」

 

 それを見た一護は四人が本気()と悟ったのはすでにそれぞれが神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)を放つ直前で、ちょうど彼が本能からか屋上のフェンスを飛び越えたあたりから。

 

 「やっべぇ────!」

 

「────相手は特機戦力の『黒崎一護』だ、一気に行くぞ。」

「私のセリフ!」

「でもでも~、陛下を泣かせるからミニーも賛成なの~」

「アハハハハ! 今、心が一つになっているねボクたちってば?!」

 

 少し後になるが、空座一校の屋上一角が半壊してのは言うまでもない。

 

「(あそこまで過激になるとは……………………………………一護は奴らに何をしたのだ?)」

 

 オジョウサン違います。 これは完全に貴方の所為ですよ?

 

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 ドォン!!!

 

「うひゃあ?! ななななに、今の?!」

 

 着替え終えていた三月は上から聞こえる破壊音にきょろきょろと周りを見渡していると外から叫び声が聞こえた。

 

 『コォォォォォォォン! どこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!』

 

「って、あれは一護?」

 

 彼女が見たのは()()()野獣のごとく暴れる(キャンディスを除いた)バンビーズから逃げる一護がコンの名前を呼んでいた場面。

 

 余談だが彼は死神代行証を壊したため、死神化する手段がコンだけとなっていた。

 

「何やってんのあの子……」

 

お祖母ちゃん。

 

「だから『お姉ちゃん』。」

 

 背後から来るイチネの声に三月が反論すると、暗い通路の中で月光に照らされて妖艶な笑みを浮かべていたイチネが目に入る。

 

「……………………イチネ、よね?」

 

うん、そうだよ?

 

 イチネはそのまま軽い足取りで三月に近づいて下から彼女の顔を覗き込むと、三月はイチネの目が笑っていないことに気付いた。

 

「違う、あなたは────」

「────イチネはイチネだよ? 過去とか前世とかはもう、この際だからどうでもいいのはお祖母ちゃんもでしょ?

 

「ッ。」

 

イチネはね? お母さんやお父さんたちが幸せでいられるなら、他はどうでもいいの。

 

 ここでイチネが子供らしい、ニッコリとした笑顔をしながら拳を前に出して小指を絶たせる。

 

だからね? 指切りをしよう? あなたの所為で二人が笑えなくなる日がないように。

 

「え、ええぇぇぇぇ?」

 

 三月は戸惑いながらも自分の小指を絡めるとイチネが歌い出す。

 

指切~りげ~んまん、嘘ついたら魂に針千本の~ます! 指切った!

 

 ぎゅぅ~~~~~。

 

 三月の小指に力が入り、イチネは指を切られずにいた。

 

「いやちょっと待って。 何その凄く具体的な言葉は?」

 

でもこうしないと罰にならないよ?

 

 「違う。 違うから。 いや、違くないけど今の人間風では違うから。」 

 

ええええぇぇぇ? そうなの? う~~~ん、月から見ていた時はそうだったけど……

 

「(よし、決めた。 どこまでいやれるかわからないけどこの子にも『人間らしさ』と普通をチエちゃんのように教えるわ! でないと私が本気(マジ)でやばい! ……ってあれ? チエちゃんの場合も同じだったような?*1)」

*1
作者の多作品『バカンス取ろう(自称)姉』より




次話辺りからアンケートを取ろうと思います。

尚、ほのぼのグダグダギャグ満載の甘酸っぱい(?)空間は続きます。


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第189話 A Rude Awakening

大変お待たせ致しました、次話です。

前話で申し上げた通り、アンケ-トを出しております。
お手数おかけ致しますが投票にご協力の程、何卒よろしくお願い申し上げます。 m(_ _)m

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。

6/13/2022 8:30 追記
アンケートにNewの『ジョジョの奇妙な冒険』が抜けていたので勝手ながら最新いたしました。
その際に『HUNTERxHUNTER』に一票が入っていたのは確認しましたので、こちらで+1をしておきます。
お早いアンケートのご協力、誠にありがとうございます! m(_ _)m
正直びっくりしました。 ( ゜▽゜;)
同様に感動もしました! (^▽^)


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 校庭のステージ上で浮竹達が『真・ケンコウマン』の出し物を終え、それ系のグッズを観客たちへと渡していた。

 

「電動歯ブラシいかがですか~?」

「リックンちゃん様、殺菌剤の補充をしてきます。」

「うむ、よきにはからえ~」

 

 その中には(髪を黒色に変えていた)リカの姿もあり、なんとかバンビーズの追跡から逃れるために、人混みに紛れ込んで様々な健康グッズの入った大きな籠を持った(黒髪の)一護もそばにいた。

 

「……なんで黒髪?」

 

「ん? ああ、これは以前にクルミと本体がしていたのでそれを模倣しただけです。」

 

そっちじゃねぇ。

 

「ならばやはり一護氏が海燕に見えている件ですか? 休憩ながらテクテク歩いて屋台の食品を片っ端から買ってはモグモグ食べていたボクを見ては『誤解から追われているタスケテ』と言った貴方を手っ取り早く変装させただけですが?」

 

「嫌味か?!」

 

「当たり前田のクラッカー。」

 

「………………………………」

 

「なんですその目は?」

 

「いや、良い。」

 

 一護は一瞬『オヤジギャグか?!』と言いそうだったのを逆にジト目だけで抑えていた。

 

「女性の年齢は探るモノではありませんよ一護氏?」

 

「人の心を勝手に口に出すなよ。」

 

『えー、それでは次は瀞霊廷から一発芸、モノマネを披露します。』

 

 その時のアナウンスにより、ステージ辺りがざわつき始めた。

 

「あれ? ステージに上がっているのって────?」

「────おお~。 ボクの提案を採用したんですねぇ~?」

 

「え?」

 

『♪~』

 

 一護はカンペらしきものを持ちながらステージに上がっていた恋次、空鶴、そして浦原からリカへと視線を落とすと音楽とステージ背景にあったスクリーンに一昔前のアニメーションがその場に流れ始める。

 

「あれ?」

「どっかで聞いたような……」

「『宇宙少年』だ! 懐かしい!」

「え? じゃあ、もしかして『アレ』?」

 

「(『アレ』ってなんだ?)」

 

『では不肖、俺こと阿散井恋次が隣の志波空鶴さんと浦原喜助さんの三人が“ビッグ・ガード”のモノマネを披露します。』

 

「へ?」

 

『やるぞ! いぶきさん、青山! 町を守るんだ!』

 

 一護が周りの者たち同様に唖然と見ていると何やらスクリーンに出たのはどこぞのスーパーロボット的なメカ。

 

『成せば成るんだ! いぶきさん!』

『ノットパニッシャーとのパーツ連結確認オーケー! 青山!』

『フライホイール、最大出力発動! 行け、赤木!』

『ノットパニッシャー! シューーーーーーート! みんなの安全を守る……それが、俺たちの仕事なんだ!』

 

「「「「「おおおおおお~~~~~。」」」」」

 

 知っている者なら知っているアニメのキャラクター通りのモノマネが出てきては感心の声と拍手が送られる。

 

「ふ~む、やはり思っていた通りに受けは良いですね。」

 

「リカ、お前……なんで?」

 

「ん? 困難に陥っているこの世界に社会&経済的な潤滑油として瀞霊廷の人たちに提案をしただけですけど? ちなみにさっきの『真・ケンコウマン』と『サイキンマン』も同様です。」

 

「……………………………………」

 

 恋次と空鶴は複雑な表情をしながらステージを降りていくが、浦原は割と楽しそうにカラカラと『愉・悦♪』とかかれた扇子の向こう側から手を振っていた。

 

「よ! 凄いぞ『熱血漢の赤木』!」

 

「ング……」

 

 恋次がケタケタと笑いながら茶化すルキアの言葉がある意味図星&黒歴史*1だったことに口をつぐみそうになっていたが、逆にルキアを見てニヤリと笑みを浮かべた。

 

「そう済ませた顔を出来るのも今の内だぜ、ルキア……」

 

「え?」

 

「そのうち分かるさ。」

 

「いや、お主のその顔を見ていると嫌な予感しか出てこないのだが……」

 

「ま、そん時は日番谷隊長に俺からよろしくと言ってくれや。」

 

「ますます嫌な予感しかないのだが?! そしてなぜそこで日番谷隊長が出てくるのだ?!」

 

 後に彼女も日番谷と共に巻き込まれるのだが……

 

 それはまた、別の話である。

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

『三世界共同文化祭』がついに終わりを告げ、世界は当初の変動から生じた混乱や夢物語のような落ち着きを取り戻し始めていた。

 

 復興や新しい土地の工事は未だに続いているが今の状況に見合う規模に収まり人間と死神、そして知性ある破面までもが先頭切って変わり果てた新天地の調査などに出ていく中で一護たちは相も変わらず学校へと通い、一心や真咲は空座総合病院でのバイト。

 

 裏方から表にまで溢れ出た騒動は長らく感じられなかった『平穏』を満喫できるようになりつつあった。

 

 イチネも三月の頑張りの甲斐があってか更に『普通の子供』の振る舞いが出来るようになっていた。

 

「(未だに危なっかしいところはあるけど、『子供特有の猪突猛進』で済ませられるレベルね。 あと少ししたら他の世界へ通じる『ゲート()』も開けれるし、あとは瀞霊廷の人たちと約束した『貿易』を可能にすれば……あとはチエちゃんも思いのほか『覚える』ことが出来るようになったし、順調……になるのかな?)」

 

 そう寝癖が目立つまま半分寝ぼけた三月は歯を磨きながら鏡を見て、未だに戸惑いを何とか胸の奥に隠しながらその日その日を凌いでいたことを考えながら朝の支度を延々と済ませていった。

 

「(『前の私』の記憶を覗きながら、見よう見まねで振る舞っているけど……正直に言って不安しかない。)」

 

 何故なら彼女は『三月』であり、『以前の三月』ではない。

 

 強いて呼称するなら彼女は『解離性健忘』に()()陥っていた。

 

「(『マイ』。 『カリン』。 『ツキミ』、『リカ』、『クルミ』に『弥生』と『前の世界(Fate/Zero)コピー(分体)』……『以前の私(三月・プレラーリ)』は私が以前、試行錯誤で『人間(ヒト)の模倣』していた時代の思想等を、明確な『人格』として表現させるなんて……)」

 

 そう言いながら自分の髪に櫛を下から通して順にほぐしていき、自分の髪の毛を整えた後、三月は空座学校の制服を手に取って着替えて鏡の中を見る。

 

「(私が言うのもなんだけど、いくらイーちゃんと遠坂さんの要素を強く引き継いだとしても『以前の私(三月・プレラーリ)』は相当な無茶をしたわね。 『自分』の暴走や『他の私』に侵略された時の保険だからって……

 それに、おじさん(義父)の『正義の味方』像を貫いて、瀕死だった私を救うために『(表面)』に出てきてまで……) う~ん。 このスカートの長さは慣れないわね、()()()には寒いし。 今になって穂群原学園が、冬木市が懐かしいな……」

 

 彼女の脳内を過ぎるのは、『ここ(BLEACH)』とは違う世界で過ごした十年間。

 その頃から冷え性である彼女は愛用していたストッキングを履きながら思い出す。

 

 上記で出た『イーちゃん』と『遠坂さん』と出会ったのもその十年間を過ごした別の世界の住人のことで、一言で二人を表すのならば『現実的な物の見方をしてしまう少女』と『優等生を演じる悪魔』。

 

 本人たちも認めたくはない要素を付け加えると、『理不尽に期待を寄せられてはそれに応えるしかない人付き合いの下手な孤独者』と『ここ一番での肝心なところでポカをする家計の生まれ』もついてくるが。

 

 そんな中、三月はとある少年の輝くような笑顔を思い出したところで彼女は思わず口から以下の言葉を零してしまう。

 

 「………………お兄ちゃんに、会いたいな。」

 

 ハッとしながらまるでその考えを振り払うかのように首を振るいながらも朝食を食べ始める。

 

「(ううん。 弱気になっちゃダメ。 皆の犠牲や頑張りを台無しにするのだけはダメ。 ここまで何とかやってこられたのだから最後まで見届けないと。)」

 

 彼女は自分の頬を叩いて気合いを入れなおして今日も一日、『普通』に登校する為アパートの外へと出るとセーラー服の遊子と夏梨に出くわす。

 

「ふわぁ……小さいけど今日も綺麗……」

()()()すごくキラキラしてるな、三月(ねぇ)ちゃん……背は相変わらずだけど。」

 

「おはよう! 遊子に夏梨ちゃん!」

 

 身長のことを無視して三月は『三月・渡辺・プレラーリ』として振る舞う。

 

 もうすでに察しているかもしれないが、この時点で三月は『普通』からかけ離れていた。

 

「なぁ三月(ねぇ)ちゃん?」

 

「ん? なぁに夏梨ちゃん?」

 

「ウッ……な、なんでもねぇ……」

 

「???」

 

 三月がニッコリと笑顔で夏梨の尋ねる言葉に返しをすると夏梨はそっぽを向き、遊子はクスクスと笑う。

 

「やっぱり変わったね、三月お(ねぇ)ちゃん?」

 

「ほえ? (え?! 嘘?!)」

 

 三月は遊子の言葉にポカンとしながらも内心焦り始めた。

 

「だって三月お(ねぇ)ちゃん、ちょっと前まではどこかよそよそしかったんだもん。 ね、お兄ちゃん?」

 

「あ、ああ……」

 

 さっきまで夏梨のようにそっぽを向いていた一護に遊子が話を振ると彼がぶっきらぼうにそう答える。

 

「む、もう一護たちは出ていたか。」

 

「あ、チエねぇちゃんとイチネだ~!」

 

 遊子がキャアキャアと言いながら、この一か月間でかなり距離が縮んだイチネを抱き上げるとイチネも嬉しそうに遊子を抱き返す。

 

「今日は遊子が早かったよ~!」

 

「おねえちゃん、おきるのおそかった!」

 

「すまん、イチネに遊子。」

 

 チエたちが加わったところで皆が一緒に登校し、一日は三月にとって『順調』とでも呼べるような一連を迎えた。

 

 果たして以前は折りたたんで肩まで伸ばした三つ編みおさげと眼鏡を『普通』としていた三月が、今では基本的に腰辺りまで伸ばした金髪ストレートと眼鏡なしの素顔を見せては密かに以前(Fate stay/night)のように注目を浴びているのが大衆にとっての『順調』かどうかは不明だが。

 

 だがその日、お昼休みにとある人物の言葉によって少しだけ三月の『順調』から外れていくこととなる。

 

「♪~~~」

 

 三月は鼻声を歌いながら()()()()()を取り出すと何時もは一足先に教室を出るチエに声がかかる。

 

「三月、話がある。 ()()()()で待つ。」

 

「へ。」

 

 それだけ言うとチエはさっさと教室を後にする。

 

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「遅かったな、三月。」

 

 「誰の所為だと思ってんじゃいコラァァァァァァ?!」

 

「誰のだ?」

 

「貴方のよ!」

 

 上記から(三月にとっては)実に長~い十五分経った後に三月はやっとチエのいた校舎裏に着いていた。

 

「言っていることが分からん。」

 

「あ、この! ……だから! 貴方の意味深いような言葉に勘繰られて教室が凄いことになっていたのよ! 質問攻めだったのよ! 作ったお弁当、全部囮に使っても足りなかったの!」

 

「?????????????????????????????」

 

 頭上に?マークを出すチエを見て、三月ただため息をつく。

 

「ハァ~……カロリーフレンド(お菓子)持ってきて良かったとだけ言うわ……それで? 貴方から“話がある”なんて並大抵の事じゃないわよ。」

 

「ああ。 身体が故障をきたしているみたいだ。」

 

「ぇへ?!」

 

 三月にとってチエの『身体が故障している』宣言は寝耳に水と同然だったようで、珍しく彼女は慌てだした。

 

「どどどどどどどんな風に?! What(何が)?! Why(何で)?!」

 

「最近、意図していないことを身体がするのだ。」

 

「ふぇ?! たたたたたた例えば?!」

 

 三月は焦りながらも自分の持つ記憶と記録に全平行思考を使って『検索』を掛け始める。

 

 何せ事情などは違えど、(状況や条件付きだが)チエは自分より大きな脅威となりえることを彼女(三月)は知っているからだ。

 

「そうだな……言語化すると、『ボーっとしている』。」

 

「(………………………………………………ん?)」

 

「『気付けば目が特定の人物を追っている』。」

 

「(んんんん?)」

 

「それと条件付きだが、『説明できない胸の圧迫感』だな。」

 

「…………………………………………………………………………」

 

 完全に内心、『えらいこっちゃ』状態だった三月は予想もされていないチエの言葉に、脳内(システム)『意味が分からないよ』(重大なエラー)が生じて『どういうことやねん?』状態と(処理を続行できなく)なり固まった。

 

「お前には、私のこの状態が何なのかわかるか?」

 

「…………………………えっと………………それが起きるのって“特定の人物”と“条件付き”って言っていたわよね?」

 

「そうだ。」

 

 三月は恐る恐ると言った態度で口を開ける。

 

「その“人物”と“条件”って……何と誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『黒崎一護』と『黒崎一護が笑みを浮かべる時』だ。」

 

「………………………………………………………………」

 

 三月が黙り込むこと数秒間後、彼女は手で顔を覆う。

 

Oh my God(オウ マイ ゴッド)……」

 

「???? 何故そこで『神』が出る?」

 

「言葉の綾っていうやつネ。」

 

 三月の思考能力が等しく低下した影響か、エセアジア人風のセリフを彼女は吐き出した。

*1




ピコーン♪

平子:お前、どれだけフラグ立てや回収する気や?!

作者: ……………こ、こ、この話から次の物語の方向性を参考にするアンケートを出しています! ご協力お願い申し上げます!(汗汗汗汗汗汗

ひよ里:逃げよった!

テスラ·リンドクルツ:『フラッグ』を聞くと誇らしく感じるのは何故だ?

作者:『中の人繋がり』って奴ネ。


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第190話 Realization

お待たせ致しました、次話です。

以前申し上げました通りにアンケ-トを出しております。
お手数おかけ致しますが投票にご協力の程、何卒よろしくお願い申し上げます。 m(_ _)m

リクエストのメッセージ等、誠にありがとうございます。

そしていつもお読み頂き誠にありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

 チエの発言で三月が顔を覆ってから五分後に彼女はため息交じりに口を開ける。

 

「ハァ~……………………それって、いつから?」

 

「“いつから”と問われば、“気が付いたらそうなっていた”としか答えるしかない。」

 

「………………じゃあ以前と変わったことは何かある?」

 

「(“以前と変わったこと”、だと?) そうだな……あの『ぶんかさい』の後、私は『覚えている』のだ。」

 

「はぇ? それって……記入したりとかしなくても?」

 

「ああ。 今でも考えれば『思い出す』ことが出来るのだ。」

 

「じゃ、じゃあ今まで書いていた日記とかは?」

 

「今まで書いていた物なら片っ端から読み返している。 声をかけられて気付けば時間が既に経っている場合があるのだ。」

 

「へ、へぇ~……」

 

「“以前と変わったこと”といえばそれだけだ。」

 

「えっと……その中に書かれたことって、どんなこと?」

 

「??? 読んでいないのか?」

 

「他人の日記を勝手に読む勇気なんてないわよ!」

 

「書かれていたことと言えば、大まかにその日の出来事や出会った人物に対しての追記だぞ?」

 

「…………………………………………それって『黒崎一護』も入っているのよね?」

 

「というか彼に関しての記入が一番多いな、次には有沢だが…………………………どうした三月? 眩暈か?」

 

 チエの発言でまたも三月が顔を覆った。

 

「ねぇ……貴方がさっき言った“圧迫感”ってどんなものなの?」

 

「“どんなもの”? “圧迫感”は“圧迫感”だぞ────?」

「────じゃなくてそれを言語化するのなら何て言うの?」

 

「……………………………………………………………………………………」

 

 チエが腕を組み、頬杖をつく。

 

「……………………………………………………………………………………わからん。 ただの圧迫感として感じ、さほど気にしていなかったからな。」

 

「じゃあさ? 次は気にしてみて、言ってくれるかな?」

 

「わかった。」

 

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 その日の学校が終わり、通学路を一護が珍しく茶渡だけと歩いていた。

 

「なんか変だ。」

 

「急になんだ、一護? そりゃ、井上と石田とミーちゃん(三月)とお前の妹は手芸部活動があるし、夏梨は日直がある日だ。」

 

「んで、ここにチエがいないのがな。」

 

「……ああ、確かに変だな。」

 

「それも“変”っちゃ、変なんだけどよ……な~んかソワソワしているみたいなんだよな~。」

 

「そう……なのか?」

 

「ああ。」

 

 茶渡の頭上に浮かぶのはいつもと変わらないポーカーフェイスのチエがキャピキャピとしたバンビーズなどにあれよあれよと引っ張られていく(振り回される)様子。

 

「なぁチャド、さっき夏梨のことを名前で呼ばなかったか?」

 

「う……よ、呼んだが────?」

「────道の真ん中で立ったままどうかしたのか?」

 

「「のわぁ?!」」

 

 背後から急に茶渡の声を遮った声が気配も音もなく近づいたチエに二人はドキッとする(茶渡は同時にホッと胸をなでおろしたが)。

 

 二人の様子にチエが?マークを出し、一護が先に回復する。

 

「ああいや、ちょっと話していただけだ……チエはどうしたんだ?」

 

「“どう”、とは?」

 

「あいつらだよ。 ええっと……チワワ(バンビエッタ)(ミニーニャ)ハムスター(リルトット)に夏のキッチンの冷蔵庫裏で見る『アレ(○ゴ)』に()()絡まれている。」

 

「(一護もとうとうあいつらをあだ名で呼び始めたか。)」

 

 文化祭の後、チエは以前に増して周りから注目されるようになった。

 

 以前も顔も体も整っていたのは周知の事実だったが、文化祭で女子たちによって()()()()手を加えたその容姿が大きなトリガーとなっていた。

 

 更に彼女がBホルダーをしなくなったのも大きい(色々な意味で)。

 

「奴らなら撒いてきた。」

 

「(そして大きいほうの渡辺も平然とそれを受け入れている……)」

 

 更に茶渡が思い浮かべるのは、自分と夏梨が同じようなやり取りをする場面だった。

 

「ま、“撒いてきた”って……まぁいいや!」

 

「(いや、それでいいのか?)」

 

 茶渡は一護のノリが軽いことに疑問を少しは持つが、実は一護はワザとそのように振舞っていた。

 

 というのも、彼からすればチエは余りにも自分を蔑ろに……を通り越し、無関心過ぎるように思えていた。

 

 特に『世界崩壊騒動』で経験したことと、文化祭の夜の後は。

 

 彼が知る限り、おそらくは三月も含めて彼女が人前で『弱音』も『泣く』こともあれが初めてだった。

 

 何せ一護が三月に尋ねたところ────

 

『え? チエちゃんが泣いたり、弱気になる時? ………………………………う~ん、そういうのはちょっと思い浮かばないかな?』

 

 ────そう言いながら彼女は苦笑いを浮かべるのだった。

 

『え?! もしかしてチエちゃんのそういうのをどこかから聞いてきたの?! ……な~んだ、気になっただけか。 え? “なんでそんなに食い気味なんだ”って? だって……チエちゃんは()()()()()だから。』

 

 そんな三月の言葉を思い出したながら、一護は彼女と茶渡が前を歩きながら話すのをボンヤリと見る。

 

 この頃の彼は、皆が持つチエに対しての評価とは少し違う見方をしていた。

 

『関心のない冷めた態度。』

『優秀だが協調性が皆無。』

『頼まれごとを黙々と済ませる一匹狼。』

『表情が薄く、冷たい人柄。』

 

 等々という言葉がチエの周りにいる一般人たちが大体抱いている認識や印象である。

 

『どんな苦境でも一人で立ち向かう。』

『挫けず、怖いもの知らず。』

『強引で、純粋に強くて容赦無しの上に有能。』

 

 これらは死神や滅却師たちなど、彼女の戦い方を見た者たちは評価に付け加えるだろう。

 

 だが一護は知っている。 否、知ってしまった。

 

 強さだけを持ち合わせる者などこの世にいない。

 

 ()()()()()()()()()

 

 彼女の場合は弱さを晒せれる人が居なく、不器用で自分を蔑ろにした強さで誤解されて孤独になっていると一護は彼女のことを思った。

 

 ある意味、彼女とは普通に接した彼だからこそ導き出せた印象で核心に最も近いともいえた。

 

 そんな彼はできるだけ彼女のそばに寄り添い、優しく接することを彼はあの時*1一緒にいた織姫と日番谷と共に決めていた。

 

 日番谷の場合は『他人事とは思えなかった』ということが大きな要因となっていたが。

 

 だが彼は知らない。

 

 その優しさが意外な方向性の変化をもたらすとは。

 

 

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

「(なんだ、この胸の感じは?)」

 

 チエは今朝、三月の言われた通りにいつもは受け流す不具合(胸の圧迫感)に意識を向けていた。

 

「(これは……『モヤモヤ』と呼ぶべきなのか?)」

 

 チエがそう思いながら見ていたのは帰りがてらに買い食いをし、他愛のない話をしていた一護と茶渡。

 

 他愛のない話とはこれだけ世界が変わっても何故学校に通うことをしなければいけないことや、卒業後のことなどだった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 いや、()()()()

 

「(そして今度はトゲが食い込むような……『チクチク』と言うのか?)」

 

 一護と茶渡の話を『他愛ない』、『関係ない』と思ってから少し時間が経った頃にチエは歩みを思わず止めてしまう。

 

「ん? どした?」

 

 ドキッ!

 

「ッ?!」

 

 気が付けば、急に足を止めたチエの顔を下からのぞき込むような一護を前に彼女の心臓は跳ねた。

 

「大丈────?」

 「────問題ない。」

 

 ドッ。 ドッ。 ドッ。 ドッ。 ドッ。

 

「そ、そうか?」

 

 全く。 問題。 ない。

 

 チエは己のバクバクと耳朶にまで力強く脈打つ心臓を誤魔化すかのように力んだ声で一護に答える。

 

「な、なら良いが。」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その日の夜、チエは三月にどんな場面で自分の感じたことをそのまま伝えていた。

 

「ということが今日、あったのだ…………………………………………なんだ、顔が痛むのか?」

 

 そしてまたも三月は顔を覆う。

 

「なんでさ……なんでさ……なんでやねん。」 ←本作も含めて二度目の“なんでやねん”

 

「なんでやねん!♪」

 

 座りチエの股の上に座り、抱きしめられていたイチネが楽しそうに『なんでやねん』の真似をする。

 

「私が聞きたい。」

 

「冷静になボケツッコミどうもありがとう……チエちゃん? 貴方のそれは故障じゃないし、心当たりがあるわ。」

 

「そうなのか? どういう病名だ。」

 

「それってもしかしてもしかしたらもしかすると………………………………」

 

 三月は汗を出し、指を組んだ向こう側から緊張感のある声で言を続けた。

 

「………………………………(こい)の病の類……じゃないかしら?」

 

「「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………(こい)?」」

 

 イチネと知恵が同時に頭をコテンと横に傾げながら明らかによく分かっていない表情を浮かべる。

 

 二人の頭上には池の中などでよく見る(?)(こい)が泳ぐ景色がボンヤリと浮かぶ。

 

「鯉が魚料理に使われる場合もあるが、最近では口にしていないぞ?」

 

「え。」

 

「鯉ってどんな味かな~?」

 

「コリコリとした弾力のある触感だった。」

 

「ちょいまち! チエちゃんって鯉を食べたことあるの?!」

 

「ああ。 やちるがたまに立派な鯉を持ってきてな? 調理できると言ったら食べてみたいとせがんだので作ったのだ。」

 

「お母さん、私も食べた~い!」

 

「そのうちな。」

 

(うち)にそんな余裕ないよ?!」

 

『世界の崩壊』が阻止され、海の表面積が少なくなった現在では海の幸は以前とは比べものにならないほど高くなっていた。

 

「大丈夫だ。 やちるに頼めばどこからか持ってくるだろう。」

 

 鯉の出どころは『やちるが持ってくる』で察してください。

 

 「やめなさい。 朽木兄(くちきあに)がまたピリピリしだすわ。」 ←察した人(人?)

 

「なぜそこで白哉が出てくる? 意味が分からん。」

 

「……………………とりあえず、恋の病とはね? 『特定の相手に好意を持っている』ということよ、多分。」

 

「言っている意味が分からんぞ? というかその言い方だとまるでお前がかかったことに聞こえるが?」

 

「あ、いや、その、だから────」

「────だが大まかに分かった。 つまり私の体がつがい候補を欲しているということだな。」

 

 「ドライ過ぎ!」

 

「よし、ならば“善は急げ”だな。」

 

 「そして極端すぎる!」

 

「だってお母さんだもん!」

 

「そうか。」

 

「お前! お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

「お母さん。 おばあちゃんが怖い。」

 

「よし、一度殺そう────」

 「────ぬああああああああああああ?! 待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

 チエが刀を抜くと三つの顔色は真っ蒼になり、彼女はジリジリと後退しながら叫ぶ。

 

 ガチャ。

 

「今夜はかなり騒がしいね?」

 

 そこで以前した変装をいたく気に入ったのか、ソウスケマックスが部屋のドアを開けてヒョッコリと頭を入れ、彼を見た三月は心からの叫びをする。

 

 「マックスさん! 助けて!」

 

 ソウスケマックスは部屋の状況を見る。

 

 真っ青な顔色をした三月。

 彼女にしがみついて顔をうずめるイチネ。

 刀を抜いてどうやら怒っている様子のチエ。

 

 そして彼が現状協の仮定を考えるまでの時間は一秒足らずだった。

 

「どう見ても君が悪いよ。」

 

 そうソウスケマックスがニコニコとした愛想笑いで三月に宣言する。

 

 「なんでさ?! なんでそげなこつなっとう?!」

 

 ついに滅茶苦茶な日本語になってしまった三月だった。

 

 尚、その日は何とかチエの理不尽な行動(怒り?)を諫めることに成功はした。

 

「(後日、それとなく他の者たちに聞いてみるか。)」

 

 そう思いながらチエは布団の中で瞼を閉じる。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 チエはとある中華料理屋さんにいた。

 

「というわけでひよ理さんたちは、“こいのやまい”とやらがどういうものか知っているか?」

 

「何が“というわけで”か全くわからんねんけど?! ……って、さん付けはもうええ言うてるやろが?! 密着してまうやないかぁぁぁぁぁ?!

 

 ひよ里さんが叫んでからヤケクソ気味に奢ってもらったと思われるチャーハンをガツガツとかきこむ。

 

「『恋の病』……まさかアンタからその言葉を聞くとは思えへんかったわ……………………けど案がない事でも無いで?」

 

 チエは比較的に暇そうな時間の空いている者たちを呼んでいた。

 

「リサはどう思うのだ?」

 

「あれやあれ。」

 

「『あれ』?」

 

「押し倒して〇〇〇〇して既成事実を作ればええねん。 せやったらどんな男でも責任取るしかないやろ。」

 

 リサの言ったことは原作で、竜貴が織姫をからかう為の“アドバイス(意訳)”そのものだった*2

 

 「ブフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ?!」

 

 リサの言ったことにひよ里が盛大にご飯粒を向かい側に座っていた平子へと吹き出す。

 

「うわ?! 汚いやないかひよ里このドアホ!」

 

 「うっさいわハゲ! てか隊にいとかんでええんかいな?!」

 

「こいつの所為で隊長義務が殆んど流れ動作になってんねん。 んで? お前が『恋の病』なんて単語を出すいうことはなんや? あのちっこい方(三月)が誰かに惚れたんか?」

 

「いや、おそらくは私だが?」

 

「「「…………………………………………………………………………なんやて?」」」

 

「正確には『分からない』。 だからこうして聞いている。」

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、相手は誰や?!」

 

「ひよ里。 どうどうどう。」

 

 「ウチは馬やないわ、このボケェ!」

 

 バカッ!

 

「グェ。」

 

 その時、急に天井のタイルが外れては平子の頭に直撃して空いた穴から触覚が『ニョキ』っと出てくる。

 

 「「どぅわぁぁぁぁぁぁ?!」」

 

 これらを見てひよ里とリサは思い出したくもないイメージを連想してしまったそうな。

 

「話は聞かせてもらったよ!」

 

「ジゼルか。」

 

「やだなぁ~、『ジジ』で良いって言っているのに~。 あ、ちなみに他の皆もいるよ!」

 

「『恋の病』なんてただ事じゃねぇからな。」

 

「そうねぇ~。 ちょっと興味あるかも~。」

 

「オレはねぇけど……てか今日は予約が入っているって言っただろうが?!」

 

「ドタキャンしろよ、それぐらい。」

 

 滅却師五人衆が加わったことに更にその場はカオスと化したのは言うまでもない。

 

 が、得られるモノはあったようでチエはすぐに行動へと移っていた。

*1
179話より

*2
原作BLEACHの3話より




三月:あ、危なかった……

ソウスケ:大変そうだね?

三月:誰の所為でよ?!

ソウスケ:自業自得(意味深)なんじゃないかな?

作者: _(X3」∠)_ ←湿気と気温で気力がダウン気味

ソウスケ:これはほっといても良いのかね?

三月:まぁ……私たちがどうこう出来るわけでもないし?

ソウスケ:ある意味『母上』より質が悪いね

一勇:だよねぇ~!


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第191話 Confession

お待たせ致しました、次話です。

リクエストのメッセージ、アンケートへの投票ご協力等、誠にありがとうございます。 m(_ _)m

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

「一護、この週末に予定は立ててあるか?」

 

「んあ? ……別に?」

 

 とある日の学園の屋上、突然脈の無い話題が振られたことで一護は食べていた焼きそばパンを口に含んだままチエの質問に答えていた。

 

「そうか。」

 

「「…………………………………………………………モグモグモグ。」」

 

「「「「「(続きは?!)」」」」」

 

 二人はそれっきり何も言わずにただ食事を再開したことに周りで耳を立てていた者たちが同時にそう思う。

 

「(って、皆は多分考えているよねぇ~。 隣の五人以外。)」

 

 近くにいた三月は滅却師五人衆をチラッと横目で見る。

 

 「“週末”だとさ。」

 「聞いた。」

 「おい、オレは今度こそ抜けるぞ? 週末は立て込んでいるんだ。」

 「“抜く”だけにねぇ~。」

 「そうか。 ならキャンディは別行動か。 残念だ、ここまで来て同胞を手にかけることになるとはな。」

 「オイちょっと待て。 なんでそうなる?!」

「流れを察しろ、バカが。 脳みそまで緩くなったのかよ?」

「だよね~! この中でそっち方面の女子力、一番低いのキャンディちゃんだもん!」

「ジジ、お前そもそも────」

 

 ドッ!

 

 何かを言いかけたキャンディスのお腹をミニーニャとリルトットの二人がグーで殴る。

 

「────ゴハァ?!」

 

「危なかったわ~。」

「朝から血生臭い惨事を見る趣味はねぇからな。」

「え? ボクは?」

 

「「本人はノーカン。」」

 

「え? どういうこと?」

 

「あ。 あー、バンビちゃんは気にしなくていいよ!♪」

 

「な、何よ?! リーダーである私に隠し事?!」

 

 五人の中で?マークを出すバンビエッタにジゼルが苦笑いを浮かべる。

 

「(う~ん。 あの五人ってなんだかんだ言って、“長く生きた人間”じゃなくて“見た目の年相応の期間を生きたことがない”感じね……なんか私みたい。)」

 

「はい上姉様、あ~ん♡」

 

「あの……アネット?」

 

 三月は自分を抱き寄せていたアネットの顔を見上げる。

 

「なんでしょう上姉様?」

 

「なんで毎回私を股に乗せて抱き寄せながら『ア~ン』をするの? 今までは楽に食べれたから敢えてスルーしていたけど────」

「────やめて欲しいのですか? 以前、“何でもしていい”と言ったのにですか?」

 

「……………………確かに言ったけれど、こう毎日するとね? 気になるというか、周りの目が────」

「────上姉様特有のかぐわしき頭の匂いと愛らしくものをモキュモキュと食べる光景というダブルの至高の楽しみを私から取り上げる気ですか?

 

「Oh……」

 

 アネットの全く譲る気のない様子と声と鉄のように固い掴みに三月はぐったりとして早くも断念し、黙々と食事をする。

 

「(でも珍しいわね、チエちゃんが予定を聞くなんて。 いつもなら“この週末、顔を貸せ”とか言うのに…………これじゃあ、まるでデート────)」

 

 そう思ったところで三月はハッとしては固まる。

 

「(────そ、そ、そうなの?! でもでもでも?! 私に相談とか何もなくてそんなことありえるの?!)」

 

「どうしたのですか上姉様? もしや窒息?! では仕方ありませんね、人工呼吸を────!」

「────だぁぁぁぁぁ! 違う! 考え事してたの!」

 

 三月は今にでもマウス・ツー・マウスを試みようとするアネットの顔を押し戻し、周りはその様子を見て和んでいた。 

 

 親鳥とピーピーと鳴く雛の光景を連想して。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「「あ。」」

 

 早くも週末が訪れ、出かける用意をしていた一護は玄関で靴を履いていて夏梨と出くわす。

 

「い、一兄!? あわわわ────!」

 

 そこで()()()夏梨はワタワタと慌てる。

 

 ()()()()()()()夏梨が。

 

「────こ、これは違うからな! ちょっと出かけるだけだからな?! 別に何も変じゃないだろう?!

 

「お、おおおおおおう?!」

 

 無理やり一護の胸倉を掴んでは悪鬼迫るような迫力でズイッとグルグル目をした早口になった夏梨の顔が一護の視界を遮る。

 

「それに一兄もどこか出かけるみたいだし何も変じゃねぇだろ?! と! いうわけで! また!

 

 それを最後に夏梨はそそくさとその場を後にする。

 

「………………………………どういうこった?」

 

 混乱する一護を置きざりにして。

 

「ハァ~……お兄ちゃん、知らなかったの? 夏梨ちゃん、デートなんだよ?

 

 「なにんうぅぅぅぅぅ?!」

 

 遊子の言った内容に一護は驚愕のあまりに変な声を出す。

 

「お兄ちゃん、妙なところで鈍感だね? お父さんに似たのかな……」

 

「親父に似ている……だと?」

 

 一護が思い浮かべるのはオフタイムでちゃらんぽらんした一心の横にイコールサインが隣にいた自分へと伸びる図面。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「俺が親父に似ている……俺が……」

 

 一護は遊子に言われたことにかなりのショックを受けたまま、前の日に携帯電話のテキストに指定されていた場所まで移動し、棒立ちしていた。

 

 指定された場所は復興され、息を吹き返していた空座商店街。

 

 実質的に『国外』そのものが無くなったことで貿易が弱まってしまい、大手のお店などが仕入先を未だに確保中の最中、シャッタータウンとなりかけだった商店街は地元や国内のやり取りでやってこれた強みが幸いな方向へと動いていた。

 

 一護はボーっと一昔前の活気に戻った商店街を見ていると、横からのざわめきが静かになったことに目を移すと一人の女性が視界に入る。

 

「(うを?!)」

 

 スラリとした手足に透き通るような肌が白いサンドレスから姿を現し、ゆるふわウェーブのかかった股まで届く長い、絹の様にサラサラとした黒髪ははかなげな表情を浮かべていた少女の後を流れるように、宙をふわりと舞っていた。

 

 既にこれだけで『美少女』と断言できるほどの美貌の持ち主であるのは疑いようもなかったが、極めつけは右肩から左腰に掛けていたポーチとかけていた()()のストラップの所為だった。

 

「(でっか……)」

 

 否。

 より詳しく説明すると『ストラップの所為でより露になった胸のサイズ』である。

 

 その少女は明らかに周りの視線を浴びていたのにもかかわらず、無視するかのように歩みを止めないまま一護の前で止まる。

 

「待たせたな。」

 

 「ってチエかよ?!」

 

「??? 何を当たり前のことを口にするのだ?」

 

 「別人レベルだよ────?!」

 

 「────え? 何あのオレンジ頭?」

 「あの美女の彼氏?」

 「ありえねぇ、どんだけミスマッチだよ?」

 「しかも第一歓声がガサツでしかも“別人”って────」

 

 ガッ!

 

「────ぬ?」

 

 一護は周りからヒソヒソと聞こえてくる声から逃げるようにチエの手を掴んではズカズカと大股人が居る場から横道に入っては置かれたドラム缶たちを素通りしてその場を彼女と後にする。

 

『……………………………………………………………………行ったか?』

『らしいね~?』

『よし、出るぞ────』

 

 ────ガゴ~ン!

 

 多く置いてあったドラム缶二つの中からスーツ姿の日番谷、着物姿と青いハチマキをした京楽が姿を現す。

 

「行くぞ────」

 ────ガゴ~ン!

 

「て、アンタが指揮取るな! 知れするのならリーダーである私の筈でしょ?!」

「うるさいぞチワワ。」

「見失っちゃうわよ~。」

「いででででで?! 腕を引っ張るなミニー! もげるもげるもげる!」

「あ、もげたらボクが治すけど?」

 

 次にドラム缶の中から出てきたのは白いスーツを着た滅却師五人衆。

 

「ミニーちゃんの言う通りよ! ほら行こうよみんな!」

 

 次に頭を出したのは日番谷と同じくスーツ姿の織姫だった。

 

「ンフフフ~、噂を聞いて面白そうだから隊舎を抜け出し────()()に出てよかったよぉ……チエちゃん、化けたねぇ~?」

 

「あったりめぇだ! アタシら全員が朝、クソ早くから全力を出したからな!」

 

「まぁまぁまぁ、落ち着いてよキャンディちゃん。 ほら、ここに人参スティックが────」

 「────いらねぇよ!」

 

「ジジ、オレのお菓子を勝手に交渉材料に取るなよ。」

 

「ねぇ京楽さん?」

 

「ん? なんだい織姫ちゃん?」

 

「そのハチマキは、なに?」

 

「ん~……リカちゃん曰く、『隠密作戦に欠かせない装備』だとか。」

 

「(んで花柄の着物は着けたままかよ。) どうでもいいが先に行くぞ。」

 

 自然と引率の役になった日番谷が歩き出したことで、ほかの者たちがぞろぞろと後をついていく。

 

 派手な見た目をした享楽を除けば、はたから見ればペンギンの行列のような景色が出来上がっていた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「お前、なに考えてんだよ?!」

 

 一護は商店街から少し離れた公園にまで来ていた。

 

「………………………………???」

 

「いやいやいや、『言っている意味が分からんのだが?』みたいな顔は無しだ! その服装とかだよ! なんで急に女の子らしくなるんだよ?!」

 

「性別的に私は女だが?」

 

 「そっちの意味じゃねぇ。」

 

「意味が分からん。」

 

「全く……」

 

 一護は堂々巡りなやり取りに半笑いを浮かべる。

 

「久しぶりに見たな、その笑みを。」

 

「ああ。 この頃ドタバタし過ぎて気が張っていた分、もう皮肉に笑うしかねぇよ。」

 

「……………………………………やはり私にこのような姿は似合わないか。」

 

「(お、落ち込んだ。) いや、そんなことはねぇぞ? スゲェ似合っている。」

 

「そうか?」

 

「(お、今度は元気が出た。)」

 

 チエはいつもの表情を浮かべていたが、一語の脳内では『以前文化祭で見た耳としっぽがあるのなら、フサフサと揺れているだろうなぁ~』と考えていた。

 

「おお、見違えたぜ!」

 

「それはどういう意味でだ?」

 

「そりゃあ……そのぅ……“()()に綺麗だなぁ~”。」

 

「そう、か。」

 

「(あれ? 今度は何の感情だ?)」

 

 一護は今まで感じたことのない空気に困惑した。

 

 もっとも、彼はチエの雰囲気に注目していたおかげで彼女の耳の先端がわずかに紅潮していたのを見逃してしまっていたが。

 

「「……………………………………………………」」

 

 どちらかが何かを言ったわけでもないのに、ほぼ同時に公園にあるベンチに腰を掛け、一護はチラチラと容姿が整った知恵を横目で見る。

 

「(……………………いや、マジで別人レベルの違いだ。 女って本当に化けるんだな?)」

 

 一護が思い出すのは過去に何回か慎重のことで三月をからかう際に、彼女は決まって

 

『今の内だけよ! 女の子って化けれるんだからね! 目指せ、お義母さん(アイリスフィール)!』

 

 と啖呵を切っては毎回、一護はマイのボディをした三月を想像していた。

 

 今となってマイが実は三月の母どころか『同じ人』とわかってからさらに想像しにくくなったが。

 

「(話し方がもうちょっと違っていたら思わず“どちら様?”と聞いているぞ……井上レベルだぞ────?)」

「────一護。」

 

「(ふぉ?!) な、何だ?」

 

 急に声がかかって自分の目と視線が合った一護はキョドりながらも返事をする。

 

「私のことをどう思う?」

 

「どう……だと?」

 

 一護は己の心臓の脈が力強くなるのを感じながらも、どうにか平常心を表面的にだけでも保とうとする。

 

「(どういう意味だ?! “どう”ってどういう意味だ? あれか?! ドッキリか?!)」

 

 そう思いながら一護がキョロキョロと周りを全身全霊で見渡す。

 

「(ん?)」

 

 そして案の定、彼は公園のギリギリ外側に不似合いなドラム缶や段ボール箱たちを視界の端で見つけた。

 

「…………(ただの野次馬じゃねぇな。 たつき……は恋沙汰に興味なさそうだから、井上たちか? いや、アイツなら堂々と“偶然”を装って同席するはずだ。 ということは……)」

 

 彼が次に思い浮かべたのはキャンキャン吠チワワや頬を食べモノいっぱいにするハムスターやおっとりとした牛たち。

 

「(まぁ、アイツらだろうな。 数が多そうけど。) “どう”って、昔からスゲェ頼りになる奴だとは思っているぞ?」

 

「それだけか?」

 

「え?」

 

 一護が横へと視線を戻すとチエがジッと自分の顔を見ていることに気付き、茶化すことを辞めた。

 

「……ええっと……じゃあ言うぞ?」

 

「ああ。」

 

「………………………………ぶっきらぼうで、言葉が足りない。 けれど頼りになるし、()()()()()姉だよ。」

 

「……優しい? 私がか?」

 

「ああ。 『チエは極端』と皆思いがちだけど、それは違う。 お前はただ、普通の人より即決しているだけだ。」

 

 一護がニカッと笑うと、今度はチエがそっぽを向く。

 

「そう、か。」

 

 どこか歯切れの悪いチエに、一護は違和感を持ったがどこか迷っている様子の彼女の次の行動を待つことにした。

 

「……………………………………………………私は……私は……」

 

 どこか言いよどむような、彼女らしくない行動が次に出たことに一護はただ待つことを続行した。

 

「私は、今まで他人の……他人の『ここに居た』という証明だけになるのが嫌だ。」

 

「……『ここに居た証明』?」

 

「周りが散っていく中……私だけが残り、他人から思い残しや後悔や記憶などを託される。 それも長い、長い時を。」

 

「……」

 

 ここでチエは視線を一護から外し、遠い場所を見つめるような眼をする。

 

人間(ヒト)も、森も、巨大な山も、神でさえも何時かは散っていく……それでも()()()()()()。 いや、()()()()()が残されていく。

 何かを斬れば斬るほど、『私』が磨り減らされていく……一護、頼みがある。」

 

「おう?」

 

 チエがベンチから立ち上がったと思えば、今度は竹刀を背中から取っては地面に置き、一護の前に(ひざまず)いて左手を胸の前に置き、右手を彼の方向へと差し出す。

 

 横から見ればプロポーズの様にも見えた。

 

「少しの間だけでいい。 私と……私の……『導きの星』にはなってはくれないか?」

 

 一護は『導きの星』という単語は初めて聞いた。

 

 だが、彼女のしている行為に関しては昔に身聞き覚えがあった。

 

 まだ中学生になりたてだった頃、チエとの組手をしていた一護はある日悪ふざけで同じように(ひざまず)いたことがあり、髪を無理やり引っ張られては立たされ、本気で怒っている様子のチエと対面した。

 

『二度と意味も分からず軽率なことはするな。 今お前のしたことは“相手に全てを委ねる”という意味合いを持つ。 少なくとも、“私”にとっては……』

 

 懐かしき記憶が一語の脳裏を過ぎ、それを思い出した一護はチエと目線を合わせるかのように跪いて両手でチエの手を取ってそれらしく振舞う。

 

「汝の覚悟、『導きの星』として見届けよう。」

 

「………………………………………………………………」

 

 チエは何も言わなかったが、雰囲気が何となくパァっと明るくなった……ような気が一護にはした。

 

「なぁ? ちなみになんで俺なんだ?」

 

「それは………………………………………………(お前の声が聞きたい。)」

 

「それは?」

 

「私は、どうやら……(そばに居たい。)」

 

「?」

 

「す…………(お前の笑顔に胸が高鳴る。)」

 

「(“す”?)」

 

「す……………………………………………………(これが……『恋の病』か……)」

 

「(なんかチエらしくないな?)」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………すき焼きが今食べたい気分なのだが一護はどうだろうか近くの店にでも行くか?」

 

「お! 良いな、すき焼き! (なんだ! 腹が減っていたのか!)」

 

 ズコォォォ!

 

 どこか遠いかつ近くの場所で大人数の人が一斉にこけるような音がする……気がした。

 

 「そこでヘタレるな────!」

 

 ────ドムッ!

 

 次にどこか遠いところから女性のこれがお腹に響くような重い音に遮られる……気がした。

 

「??? 一護、今のを聞こえたか?」

 

「……………………気の所為じゃね?」

 

「今、ひよ理さんの声が殴られたような音に────」 ←未だにさん付けをするチエ

「────だから気の所為じゃね?」

 

「そうか────ん?」

 

「どした?」

 

 チエが目をぱちくりとしながら空を見上げ、一護がそれにつられて上を見ると灰色の雲が集まっていく様子が見えた。

 

「……………………これは降るな。」

 

「え?」

 

 パタ、パタパタ。

 

 まるでチエの宣言が引き金だったように、空からゲリラ豪雨が降り始め、一護は腕を顔の前に掲げて目の中に雨が入るのを防ぐ。

 

「うわ?! ……………………あそこだ!」

 

 彼は今時では珍しい型の大きい上り台がちょうどいい雨除けなのを見て、その中へとチエと一緒に駆け込む。

 

「ぐわぁ、ビショビショだ。 大丈夫かチ────えええええぇぇぇぇ?!

 

 一護は自分の肌に張り付いたシャツからチエのいる方向を見ると、顔と頭から水が滴る彼女のサンドレスが水に濡れては張り付いて+透け、くっきりと浮かび上がる白い()()()()()()の様子を見てすぐに他の場所へと視線を移す。

 

 「スススススススマン!」

 

「どうした一護? 風邪を引いたか? 首が赤い────」

 「────大丈夫じゃない! いや、大丈夫だ! 風邪は引いちゃいねぇ!」

 

「どっちなのだ? 変な奴だ……しかしこう濡れてはいずれ引くな────」

 

 ────シュル、シュルシュル。

 

 衣類が擦れる音が一語の耳に届き、彼はとある想像をしてしまい更に赤くなる。

 

 「ちょっと待て! お前、何をしている?!」

 

「濡れた服を脱いでいる。 というかお前も脱げ。

 

「え?! ちょ?! 待っ?! うわぁぁぁぁぁぁぁ?!

 

 一護の叫びはゲリラ豪雨によってかき消された。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「シクシクシクシクシクシクシク。」

 

 半裸の一護は両手で顔を覆い、泣き声(?)を出し、彼の後ろにいた下着姿のチエは濡れていた衣類から水分を絞っていた。

 

「おい。 何故泣く一護? 服が伸びるのを気にしているのか?」

 

「違う……なんかこう……色々と……シクシクシク。」

 

「久しぶりに見たぞ、“泣き虫一護”。」

 

 「って誰だよそう言っ────ぐぁ?!」

 

 “泣き虫一護”と聞いた彼は思わずツッコミを入れるために顔をチエの方向へと振り向くと彼女の姿を直視してしまい、体がのけ反る。

 

「どうした? 何かあったのか? 靴の印(ナイキ)みたいだぞ?」

 

「お、お、俺のセリフゥゥゥゥゥ……」

 

「鼻をどこかで打ったのか? 血が出ているぞ。 私に見せろ────」

 「────ああああああああああ! 悪化するぅぅぅぅぅぅぅ?!?!?!」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 場と時はは移ろい、ゲリラ豪雨が小雨になっていた。

 

「えっと……………………これってどういう状況?」

 

 そういう三月はチャイムの鳴った玄関を開けるとサンドレスを着たチエが気を失ってげっそりと干乾びたミイラの様な一護を背負っていた光景が待っていた。

 

「一護が気を失った。」

 

「だからなんで? 貴方、何をしたの?」

 

「何もしていないぞ。 濡れた服を脱いで絞っただけだ。」

 

 「アンタ何やってんのよぉぉぉぉぉ?!」

 

「大丈夫、問題はない。 雨除けに使っていた登り台の中だったからな、外からは見えないような場所だ。」

 

「……………………………………………………」

 

「ああ。 あと強いて言うのなら自分の服を絞った後に一護もずぶ濡れだったので脱がした。」

 

 「貴方は鬼なの? 鬼なのね?」

 

「鬼になって欲しいのか? この世界に『鬼』の概念は────」

────違うから真に受けないで。 ハァ~……ゲートを作れるようになったは良いけど、このまま開けていいの?」

 

「そもそも奴らと約束したではないか、『ほかの場所との貿易を可能にする』と。」

 

「過去の自分のバカ!」

 

 なお余談ではあるが一護たちの公園での様子を知った織姫は────

 

「う~ん、黒崎君って優しいから二対一でも受けるんじゃないかな?」

 

 ────だとか。

 

 ……………………………………あの。 お嬢さん? それで良いんですか?

 

「う~ん、『みんなが幸せならいいかなぁ~』って!」

 

 さ、左様ですか……器が大きいデスネ……

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

  さらに数日後、三月たちは浦原商店の地下にある訓練場にいた。

 

「ゼェ、ゼェ、ゼェ……や、やっぱり省エネモードのまま『ゲート』を展開するのはキッツイ……」

 

 息を切らし、大粒の汗を流す三月の前には宙にぽっかりと空いた黒い『穴』。

 

「ほウ。 以前に解析した黒腔(ガルガンタ)に似ているネ。 出力は桁違いの様子だガ。」

 

 そこには浦原とマユリたちも居て、二人はちょうど三月が届かない高さで飲み物の入ったボトルを持ち上げていた。

 

「理屈はどちらかというと穿界門(せんかいもん)に酷似していますが♪」

 

「れ、冷静に分析しながらスポドリで煽らないで……喉乾いた……」

 

「「ほいッ()────」」

 

 二人がボトルを投げ渡すとそのまま彼女を素通りする。

 

「「────では一番乗り()♪」」

 

「にゃあああああああああ?!」

 

 「ぎゃああああああ?! 待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」

 

 三月の制止を聞かず、浦原(と抱き上げた猫型の夜一)、マユリ、ネムがそのまま穴の中へと入っていく。

 

「では一足先に行くぞ三月────」

「────え?!」

 

「わーい────!」

「────え?! イチネちゃん?!」

「────な、なんで俺も?」

「────井上さん?!」

 

 ズカズカと穴の中へと入っていくチエはなぜか一護でさえも引っ張り、彼らの後を追うように穴の中へイチネは織姫を引っ張り、織姫は茶渡と石田の手を引っ張りながら入っていく。

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………アンタたち何やってんのよぉぉぉぉぉ?!」

 


 

 とある白い空白の場所で、少年も同じく頭を抱えながら叫んでいた。

 

「父ちゃんたちの知り合いたち、フリーダム過ぎるぅぅぅぅぅぅぅ!!!」




作者:ふら……フラグ回収できたどー! 区切りまで投稿できたどー!

イチネ:良かったね、おじいさん♪

作者:未完成のプロットをほぼ記入できたどー! ……漏れは少々ありますがお許しを…… (;・∀・)

イチネ:長かったね~?

作者:一応作品の一区切りになるまで実に一年と三か月……時が過ぎるのは早い! 先ずは最初にここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。 えー、如何でしたでしょうか?

イチネ:それでそれで? これからはどうなるの?

作者:前作品の『バカンス』と『天の刃』にクロスオーバーすると思います。

イチネ:ねぇ、これは?

作者:次の作品のネタと簡易プロットと設定まとめです。 リクエストメッセージ、誠にありがとうございます! m(_ _)m

イチネ:ありがとございましゅ~♪ m(_ _)m ←作者の真似

作者:えー、至らない文章や駄文などあるのが本当に申し訳ないと思っています。 もう一度ここに再度重ねますが、ここまで読んでくれた皆様には表現出来ないほどの感謝を感じ、ここに申し上げたいと思います。

本当に、誠にありがとうございました。

では次の作品や、その後エキストラなどでまたお会いしましょう。

今後ともよろしくお願い致します。 <(_"_)>ペコッ


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