この素晴らしいウルトラ戦士に祝福を! (黄青)
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主人公プロフィール

話が進む度に追加していきます。


 

名前=じゅんじゅん(通称じゅん)

 

身長=110cm

体重=19kg

年齢=外見年齢・5歳前後、冒険者カード記載時・14歳

好きな物=料理全般(特にゆんゆんの手料理)、ゆんゆん、クリス、コウ

嫌いな物=今のところ無し

 

イメージモデルキャラ=テイルズオブイノセンスの“ルカ・ミルダ”

 

第五章以降から、左頬に一筋の傷痕が残り両目が紅魔族同様の赤に変わる。

 

服装が青い理由=クリスが本来の自分であるエリスの服の色に合わせた為。

 

現在の取得スキル(後々追加)

・料理スキル

 

 

 

この物語の主人公。

 

空から降って来た謎のカプセルに入ってるのをゆんゆんが発見し保護される。

 

名付け親は“コウ”と呼ばれる老人。

 

途切れ途切れの喋り方が特徴的。

 

見た目とは裏腹の大食いで、特に料理人からは様々な畏怖(ニックネーム)で(小さな捕食者(リトルイーター)・底なし沼のじゅん等)呼ばれている。

 

性格は温厚で大人しく素直だがぼんやりとしており、外見からの推定年齢が5歳前後な事もあって付き添いが必要な程危なっかしい部分もあるが、困ってる人を進んで助けたり大切な人を守る為に立ち向かう等、勇敢かつ心優しい部分を秘めている。

 

プログラムによってゼファーに変身し、自身の意志に関係なく暴れた結果、アクセルの街と人々を滅茶苦茶にし恐怖させた事を深く悔い、同時に自身の変化にも恐れ始めていた。

 

けれども、ゆんゆんやクリスからの励ましの言葉やかつてコウに言われた言葉を思い出し、今度は自らの意志でゼファーへと変身する。

 

初めての実戦な事もあり、逆にボコボコにされ追い詰められるもカズマ達の援護が加わり、更に彼等を守るべく土壇場で起こした必殺光線のスパークシュトロームを放ち討ち取ることに成功した。

 

それ以降は、何故こんな力があるのか、自分は何者なのか、そのルーツは何処から来たのかを見つける事を目的にしながら、冒険者としての活動と同時に次々と現れる怪獣災害やソノモノからの刺客から愛する人達を守る為に、自身をウルトラマンゼファーと名乗って戦う事になる。

 

因みに、大食い関係を除けば外見なだけに人々から息子や弟分として見られ、冒険者カードの年齢が偽装なのは殆ど承知の上と言う暗黙の了解となっていた。

また、荒くれ者が多い中でその見た目の愛らしさからマスコット的存在にもなってる為に特に女性達から可愛がられ、男性側からも可愛がる人が少なくないとのこと。

尤も女性からの触れ合いや過剰に近いスキンシップをされてもほぼ無反応なのが現状である。




出来過ぎた性格なのは重々承知の上での設定になります。

このすばキャラ達との触れ合いやすさに加え、やっぱりヒーローである以上はこれぐらいでないとと思いました。
ネタバレ的に付け加えると、じゅんの元となったとある奴の邪悪さと所業の数々を垣間見た上で似ても似つかぬ正反対の性格にしようとも考えこの様にしてます。


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プロローグ

タグの追加や表現の変更、書き直し等を行うことが多いのであしからず。

また、このすばに関する知識はアニメとマンガとウィキ関係が大半で、原作はかじる程度の認識となってます。


数ある宇宙の中の一つ

 

〜超時空消滅爆弾、起動!〜

 

闇に堕ちた悪の戦士“ウルトラマンベリアル”が用意した兵器の起動により戦いの場である地球、ひいてはこの宇宙「サイドスペース」そのものが滅びへと向かっていた。

 

〜この宇宙はもう保たない…〜

〜っ!…そんな…〜

 

ベリアルと因縁ある者の一人“ウルトラマンゼロ”を始めとした宇宙警備隊の戦士達はその暴挙を食い止められないまま滅んでいく地球と宇宙をただ眺める事しかできず、彼等の心中は無念と悔しさで一杯だっだ。

 

そして超時空消滅爆弾の影響はサイドスペースだけでなく他の宇宙やとある場所にまで影響を及ぼしていた。

 

〜…少し見誤ってしまったか…〜

 

ある星にいる者はポツリと呟き。

 

〜あ〜もう!まったアイツらやらかしてるのね〜!〜

 

ある空間にいる水色髪の少女は地震の様に激しく揺れ動くこの場で叫び文句を散らしていた。

 

人為的に起こされた宇宙崩壊、通称「クライシス・インパクト」はウルトラ戦士達にとって神とも言われる伝説の長老“ウルトラマンキング”の介入により崩壊を食い止める事が出来た…キングの身と引き換えに。

 

ベリアルが引き起こした戦争「オメガ・アーマゲドン」は苦々しい結果を残しながらも一旦の終戦を迎えた。

 

それから数年の年月が経ちサイドスペースで新たなる戦いが行われていた頃。

 

──────────────────────────────────────────

 

別の宇宙のとある惑星。

 

「な、なんなのかしら…これって」

 

辺り雪一面のこの場所に落ちて来た謎の物体を見ながら一人の少女が動揺を隠しきれずに呟く。

 

彼女の名は“ゆんゆん”、冒険者稼業の一つアークウィザードを職業とし紅魔族と呼ばれる種族の族長の娘でもある。

 

そんな子が何故この様な山の中にいるのか?

 

遡る事昨夜の時間帯、山の麓の小さな村で宿に泊まっていたゆんゆん。

 

この日の夜は夜空一面に至る所で星が輝く中、偶然にも一筋の流れ星を目撃したゆんゆんは早速願い事を言った。

 

〜どうか私に友達ができますように〜

 

…彼女は紅魔族の中でも珍しい控え目ながら常識的思考を持つ性格故に浮いた存在となってしまい、俗に言う“ぼっち”的な生活を送っていた。

 

一部ゆんゆんと関わりのある人物はあれど先の言った生活もあって喉から手が出る程に友達を欲し、「もう悪魔が友達でもいいかな」と悪魔を召喚しようとする程の始末。

 

藁にもすがる…とまではいかずとも軽い気持ちでもその様に願うのは無理もなく、ゆんゆんは流れ落ちる星に自身の願い事を送ると温かいベッドに潜り眠った。

 

しかし翌日、辺りがまだ薄暗く殆どの住人が眠ってる中でゆんゆんは自身でも珍しいと思う程に早起きをした。

 

“胸騒ぎ”・“女のカン”と言った物に突き動かされたゆんゆんは徐に窓の外に目を動かした、すると。

 

〜…えっ!?〜

 

肉眼でも見える程の小さいが確かな火の玉が雪山の方へ流れ落ちるのを目撃。

 

最初は驚くものの、すぐに昨晩の自身の行いを思い出し。

 

〜もしかして、願いが叶ったのかも!〜

 

と言う風に受け取ったゆんゆんはいても立っていられず、寒さ対策の防具服を着込んで火の玉が落ちて行った雪山へと向かい、そして現在に至る。

 

「思わず勢いで来ちゃったけど…まさかこれが私のお友達なの〜!?」

 

白く丸い形のそれはただの物に過ぎず、ここに辿り着くまでに火の玉の正体を想像していたゆんゆんはあんまりな結果に思わず肩を落とす。

 

「はぁ〜…やっぱりそう都合良くいかないか」

 

ため息を吐きながら愚痴るゆんゆんは目の前の物体へ無意識に手を伸ばして軽く触れてみた。

固いことは分かったが手袋を履いてた為にイマイチ感触が掴めれず、どうせ放ったらかしにするんだと考えたゆんゆんは片方を脱ぎ、素肌になった手で目の前の物体に触れた。

 

“バチッ!”

 

「きゃっ!?」

 

すると弾ける音と共に触れた手に痛みが来た直後。

 

『★●▲■◆▼#*♯¶』

「ひぃっ!なになにぃ!?」

 

丸い塊の物体から聞いたことのない未知の言葉を発すると、ブルブルと揺れ動かしながら光を放出し始める。

 

突然の自体にゆんゆんはパニックを起こすものの、幾度もモンスター退治等で培った戦いの経験が身体に染み込んでいたのか、無意識に物体から離れ手袋を履くと同時に自身の武器であるワンドを取り出し何時でも迎え撃てるように構えた。

 

時間的に1分程経過すると揺れと放出する光両方が静かに収まり、今度は“プシュー”と言う音と煙と共に物体が開き始めた。

 

「(こ、怖いけど…でも)」

 

中にいるのが凶暴なモンスターならば、ここで自分が逃げてしまえば近くの村に被害が及ぶかもしれない。

 

気弱で人見知り且つぼっち気質ながらも根は善人のゆんゆんは、恐怖を押し殺し恐る恐る開き切った物体へ近づき中身を覗いた。

 

その中に入っていたもの、それは。

 

「こ…こども?」

 

腰掛けに座りながら目を瞑る銀髪又は白髪の者は姿形からして紛れもなく人間であり、14歳のゆんゆんから見てもその子はあまりにも幼く自身がライバルと思ってる少女(向こう曰く自称との事だが)の妹を連想してしまう程だった。

 

またも予想外の事に呆気にとられるゆんゆん、だが同時にその子の姿を見てある事に気付くと同時に別の意味でパニックを起こした。

 

「え!?な、なんでこの子裸で、ししししかもこここの子っておとおとおと!?」

 

そう、その子供は服どころか下着すら着てない素っ裸の状態。

 

故にある部分の有無で男か女の判断が出来るのは明白であり、不運にも見てしまった事でその子供が前者(おとこ)であるのを理解してしまった。

 

性格やら生活等の後押しもあり、男に免疫力が無いゆんゆんにはいくら自分より小さいとはいえ裸の状態相手に動揺しないなど到底無理な話である。

 

顔を赤くし慌てふためくゆんゆんだったが、そこへ凍えた風が熱くなってる顔に軽く当り冷たさを感じるとそのおかげか冷静になると同時に迷い始める。

 

「この子…どうしよう」

 

果たしてこの子供を連れてくべきなのだろうか…姿形が子供とはいえ未知なる存在には変わらず危険が無いとは言い切れない、目を覚まして襲うと言う最悪の結果を齎す可能性もあり迂闊に手を出せなかった。

 

数十秒程迷っていたゆんゆんだったが再び凍えた風が顔に吹き当ると、それが切っ掛けとなったのか彼女は決断した。

 

「こんな寒い所に…やっぱり放っておけない!」

 

お人好し故に優しい心を持つゆんゆんには未来(さき)の為に合理的且つ冷徹に見て見ぬふりや切り捨てる事など出来るはずもなく、迷いを振り切り一度決めた瞬間すぐさま行動に移す。

 

防具服の1枚を脱ぎ眠ってる少年に羽織ってあげると自身の背中に乗せる、見た目通りの苦のない重みにこれなら手間取らずに済むと一安心した。

 

「だいじょうぶだよ、直ぐ村に着くからね」

 

未だ目を覚まさない少年に言っても意味が無いと分かりつつも、安心させる様にゆんゆんは眠ってる少年に語りながら村まで一直線に走り出した。

 

──────────────────────────────────────────

 

ゆんゆんが少年を連れてから約10分後、少年が入ってた物体の元に一人の女性がやって来た。

 

銀色の髪と右頬に傷痕のある彼女の名は“クリス”、冒険者としての盗賊を職業としているクリスは中身の無い物体を眺めながらポツリと呟く。

 

「先を越されちゃったか、まさかアタシ以外の誰かが来てたなんて…ちょっとマズイかな」

 

自身の頬傷をかきあからさまに困った表情を作るクリス、がその直後。

 

ウィーン

 

「ん?」

 

物体から奇妙な音と共にペンダントと2つの箱の様な物が現れた。

 

「これって…」

 

クリスは現れた道具を手に取り観察し始める。

 

円形の物をチェーンで繋げた至って普通のペンダント、そして残り2つの箱を徐に開けて中身を確認するとそれぞれに3つの物が入ってた。

 

形状は細長な四角、大きさは4センチ程と小さく、片方は銀・青・赤、もう片方は黒・緑・金と統一性のない色となっている。

 

だが詳しく調べると計6本となるソレには横に小さなスイッチと言う共通するギミックがある事に気付いたクリス。

 

その内の一本(自身の髪と同じ銀色の物)を手に取りカチッと押してみた…しかし。

 

「何も起こらない…故障なのか、それとも特定のナニ(・・)かの専用道具なのか…」

 

考察するクリスだったがこのままここに居ても埒がないと判断し、まずは自分より先にこの場に訪れた者の追跡だと決めた。

 

幸いにも今日の天気は晴れでなお且つゆんゆんが去ってから10分程な事もあり、ゆんゆんの足跡はくっきりと残されたままであった。

 

「できる事ならマトモな人であって欲しいなぁ」

 

そう願いながらクリスはペンダントと6つの物を戻した2つの箱を持参してる布袋に入れ、足跡を頼りに少年を連れたゆんゆんの跡を追った。

 

これはサイドスペースで生まれたベリアルの遺伝子を受け継ぐ戦士“ウルトラマンGEED(ジード)”と同じく、自身に課せられた過酷な運命に立ち向かう一人の幼い少年(ウルトラマン)の物語である。

 



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第一章〜その①

変身はまだ先になります。


第一章「この幼きちびっ子に冒険を!」

 

 

 

“駆け出し冒険者の街アクセル”、この世界の魔王が住む城…から最も遠く離れており現れるモンスターが弱い事や例外を除けば魔王どころかその幹部にすらも目を付けられずにいる為治安が良く平和的な街となっている。

 

もっとも、先の言った例外の魔王幹部デュラハンの2度の登場に加え機動要塞デストロイヤーの討伐から討伐の結果で齎されたある人物の裁判沙汰等等と最近のアクセルは大騒ぎとなっていた。

 

そんな怒涛の騒ぎも一旦収まり再び平和へと戻ったこの街に二人の人物が訪れていた。

 

「着いたよじゅんくん、ここがアクセルの街だよ」

「…あく…せる?」

 

ゆんゆんにそう返すこの幼い少年こそ落ちて来た物体の中にいた子供であり名前を“じゅんじゅん”、“じゅん”とも呼ばれている。

 

何故この様な名前なのかと言うと、最初に見つけた事もあってゆんゆんが名付け親をと考えたものの自信の無さや常識的性格やらで紅魔族を始めとした他の人から名前の内容次第で今後白い目で見られる可能性を懸念し難儀したのだが、ある人物の提案で“紅魔族相手ならフルネーム、一般の人になら略して名乗れば良いだろう”との事からその人物が名付け親となりじゅんじゅんと名付けられたのだった。

 

「クリスさんは冒険者ギルドの所で待ってるからまずそこへ向かおうね」

 

「…うん」

 

ほへ〜とした雰囲気と無表情で頷くじゅんにゆんゆんは思わず笑顔でじゅんの頭を撫で、彼の右手を握りながらギルドのある場所へと歩いて行く…見ようによっては姉弟とも危ない感じにも見えてしまうが。

 

──────────ゆんゆん「このすば!」──────────

 

酒場、食場、そして受付等が揃いし冒険者ギルド。

 

一人一人異なる種族や職業を持つ冒険者達はこの街が基本平和な事もあり、今日も昼間から酒を飲み食い物を喰いながら駄弁り合っていた。

 

その場にいる冒険者達をただボケ〜と眺めてるじゅんとは対象的にギルド内のガヤガヤした空気の中をゆんゆんはキョロキョロと当たりを見回し待ち人のクリスを探した、すると。

 

「やっほ〜!ゆんゆん、じゅん、こっちこっち!」

「あ、クリスさん!お待たせしました」

「ク、リス…いた」

 

先に向こうが気付いた様で呼び掛けながら手を振り、それを目印にしたゆんゆんはじゅんの手を引いてクリスの座る席に向かい座り込む、因みにじゅんは二人の間に自然と座らされていた。

 

「着いて早々手初通りに行くけど、準備は良い?」

「は、はい!?だ、だだだだいじょじょぶぶですすす!」

「…いや、とても大丈夫そうには見えないんだけど…じゅんも良い?」

「…いい…よ」

 

何か始める前からダメっぽいかも…そんな心の声を表す様に苦笑いを作るクリスを先頭に3人は受付の方へと向かう。

 

──────────クリス「このすば!」──────────

 

「お次の方どうぞ…あらクリスさん、それに確かゆんゆんさんでしたか?お久しぶりです。それと小さいぼく、こんにちわ」

「こん…にち、わ」

 

親しみのある笑顔で喋る受付の女性は“ルナ”、スタイルはかなり良く特に身体の中心のふくよかな2つの物は男達にとって釘付け間違い無しの品物である。

因みにゆんゆんも、ルナ程ではないがそれでも14の少女が持つには発育の良すぎる物をお持ちになり、クリスに至っては………察してあげてください。

 

「随分と引っ掛かる言い方をするねキミぃ…」

「あの〜、一体誰に向かって仰ってるのですか?」

「え?ああゴメンゴメンこっちの話だから気にしないで」

 

3人の頭に?マークが浮かぶのを他所にクリスは本題へと入った。

 

「実は冒険者登録をして欲しい子がいるんだけど」

「はぁ、冒険者登録と言いますとどちら様で……え?」

 

じゅんと目があった途端、ルナは唖然となる。

 

目の前のクリスは勿論の事ゆんゆんの場合はかつて掲示板にある意味彼女らしい依頼を募集してた事が印象に残ってた為冒険者であることは覚えていた。

 

ではクリスの言う冒険者希望は誰なのか…消去法で考え辿り着いた答えに戸惑いながら恐る恐る尋ねる。

 

「ま…まさか」

「お察しの通り、じゅんを冒険者として登録して欲しいんだ」

 

「………えええええええ!?」

 

周りで飲み食いしていた冒険者が注目する程ルナの声が響いた。

 

荒くれ者や最近有名なあるパーティー達など兎に角破天荒な連中が多い中で、クリスはルナにとって数少ない良心的且つ常識的な考えを持つ冒険者。

故にそんなクリスが何処をどう見ても冒険者になる為の年齢を大幅に下回る程の姿をしてる少年(じゅん)を冒険者に迎え入れようとしてるのだ。

 

彼女(クリス)もまた他の冒険者同様の曲者だったのか…落胆するルナに対し、クリスはある程度予想してたのか慌てる事なく苦笑いを作りながら説明をする。

 

「あーその…因みにこう見えてじゅんは14歳なんだよね」

 

「はぃいいい!?じゅうよんんんんん!?」

 

またもやトンでも発言するクリスに2度目となるルナの叫び声、同時に野次馬感覚で見ていた冒険者達の間に“ざわ…ざわ…”と何処ぞの世界観の如くざわめき始めていた。

 

「ク、クリスさん…いくら何でもその子供が14だなんて流石に無理があるのでは」

「まぁ信じられないのは百も承知だけどね」

「…仮に、仮に本当だとしても冒険者稼業としてやっていける様には見え」

「そ、その為に私達が面倒を見るんです!」

 

やはりじゅんの見た目に加え口調や雰囲気が足枷となりすんなり通る筈もなく渋るルナだが、そこへ黙っていたゆんゆんが口を開き語り出し始めた

 

「詳しくは言えないんですが…その、じゅん君は色々あってこれからは自分の力で生きないといけない事情があるんです。

ですから、私達でじゅん君に沢山の事を教えてあげないといけない…その為にもどうしても冒険者になる必要があるんです!お願いします!」

「…お、ねがい…しま、す」

「アタシからも頼むよ、この通り」

 

3人揃って頭を下げる姿を見たルナは一旦目を瞑り考える。

 

個人的に気になるものの受付係として相手のプライバシーに深入りし関わるのはご法度でもあり、クリスの人柄を知る者としてはじゅんと呼ばれる子供を悪い様にするとは思えず、加えてゆんゆんの方は頼り無さそうながらもじゅんの為に進んで話通そうとする芯の強さと人の良さを感じ取り、少なくとも犯罪に走る様な事はしないしさせないだろうと判断、再び目を開け3人に対し口を開く。

 

「分かりました、どの様な事情であれ基準の年齢を超えてる以上は登録する資格がありますし承りましょう」

 

ルナの了解を得た事でゆんゆんとクリスは安心の溜息から即座に喜びの笑顔を表し、じゅんの方は表情こそ変わらないが「よかった」とのんびりそうに呟く。

 

同時に新たな冒険者が誕生する様を見るべく外野がこぞっとじゅん達に詰め寄っていく。

 

「おお、地獄の一丁目に踏み出す奴がまた現れたか」

「にしてもあのナリで14たぁ、全く冒険者稼業は何が起こるか分かんねぇなあ」

「ほぁ〜ちっちゃくて可愛いなぁ、じゅん君だから男の子よね…後で頭ナデナデしてあげよっと」

「…おれ…何だか目覚めちまいそうだぜ」

 

一部危ない発言をする輩を無視し登録手続が始まる。

 

登録料をゆんゆん達に払ってもらった後は冒険者に関する内容、差し出されたカードに記載してるレベルやらポイント等の説明を一通り終え、次にルナから差し出された書類に自身の名前と年齢、身長、体重、特徴部分等を書くように促されたじゅんだが、何故か受け取らず立ち尽くしてしまう。

 

「ど、どうしたのじゅん君?」

 

ゆんゆんが徐に尋ねると、じゅんは何時ものたどたどしい口調で答える

 

「ぼく…しん、ちょう…たいじゅう…しら、ない」

 

コテッと全員が軽くずっこける。

 

しょうがないと言わんばかりにルナ以外のスタッフが調べてもらい、漸く書き終えることができた。

 

「お名前じゅんじゅんさん、身長110センチ、体重19キロ、年齢14歳…突然変異で白髪になった紅魔族の人間…ではありませんよね?」

「ありません」

 

名前がいかにも紅魔族らしい事もあって勘ぐるルナを真っ向から否定する紅魔のゆんゆん。

 

「では次にこのカードに触れてください。ステータスが表示されてそこに書かれてる数値に応じてなりたい職業が選べます、また職業によって専用スキルも異なりますのでよく考えてから選択してくださいね」

 

ルナの説明を理解したじゅんはコクリと頷くと、指定のカードに触れる。

淡い光を発し、それが収まると早速ルナはじゅんのステータスが載るカードを確認し始める。

 

「それでは確認致しますね……う〜ん申し上げ難いのですが……筋力、知力、魔力、その他諸々のステータスは全体的に低いと言わざる終えませんね」

「……」

「あ、あのですね!今でこそ低いですがレベルアップ次第で化けちゃうなんて事も十分あり得ますしそう気を落とさないでください、まだ始まってもいないのですから!」

 

落ち込んでいると思ったのか必死にじゅんを励ますルナは別の話題に変えようと思い今度は職業項目に目を通した、すると。

 

「ん?…ラーニング…学習者?」

 

じゅんのステータスから最弱の“冒険者”と推測したが見事に外れると同時に聞いたことの無い職業名が目に写りルナは困惑する。

 

新しく生まれたのかそれとも過去に現れたことがあるのか…少し時間が必要と判断したルナは「上の方に確認をとりますので少々お待ち下さい」と言うとこの場を去っていった。

 

予想外の展開に“もしや凄い才能の持ち主なのでは”とじゅんに対し各々が期待を膨らませていると、「お待たせしました」と言いながら戻って来たルナは直ぐに学習者について説明し始める。

 

「じゅんさんの職業である学習者、簡単に言いますと基本職の“冒険者”…その上位版みたいなものなんです」

「冒険者の上位版?」

「ご存知かと思われますが冒険者は他の職業のスキルを得ることが出来るのが特徴ですが能力の質は本家より劣ってしまいます…ですが、学習者の場合は冒険者と違いスキル習得は勿論のことその質は本家と全く同じものとなっているのです」

 

本家スキルより落ちる“冒険者”と違い“学習者”はそのデメリットを克服してることもあって、ルナの説明を聞いた一同は学習者の特性に関心を抱く。

 

ただ唯一、クリスだけは悪い意味で何かあるなと勘づき徐に尋ねる。

 

「その分、デメリットなところもあるみたいだね?」

「…その通りです、スキル習得に必要なポイントやレベルアップに必要な経験値等が冒険者含めた他の職業以上に多く必要なのです。

数値で例えますとスキル習得だと他の職業なら1〜5、冒険者は2〜10、そして学習者の場合は10〜100必要になり、レベルの方も一つ上げるのに通常100程なら、学習者の場合は1000近く必要になるそうです。

ただその分得られるポイントも他の冒険者以上になるのですが…習得に必要な事を考えると…」

『………』

「以上の事から冒険者の上位版は名ばかりで余りにも時間や浪費を賭ける職業なので選ぶ人は勿論、直ぐに転職する人も続出し…結果調べない限り知れ渡る事のない“忘れ去られた職業”となってしまったそうなのです」

 

うまい話に裏があるとはこのことかと期待した途端落胆の表情を浮かべる冒険者一同。

 

駆け出しには荷が重いだろうし、かと言って今のじゅんに適する他の職業は冒険者くらいしか残っていない、出来る限り傷つけない様注意しながら冒険者をお勧めようとした矢先、ルナが口を開く前にじゅんから話しかけてきた。

 

「ぼく…がく、しゅうしゃ…でいいよ」

「え!?で、ですが」

「これで…いい」

 

静かに言うじゅんに戸惑い気味のルナだか、合わないと判断したらステータスを上げ転職する事が出来るし何より本人が決めた以上はその意志を尊重しなければと割り切る事にした。

 

「あんだけ説明を聞いても変えねぇたぁ、変わり者のガキだな」

「まぁチャレンジ精神的な所は嫌いじゃねえぜ」

「膝に掛けた状態であ〜んさせてご飯を食べさせる…あ〜いいわいいわ〜」

「…おれ…やっぱり目覚めちまいそうだぜ」

 

呟く他の冒険者を他所にルナから手渡されたカードを眺めるじゅん。

 

“学習者”の名と共に全体的に低いステータスが記載されていた。

 

「決して無理はなさらないでくださいね?何も焦る必要はありませんしゆっくりと自分のペースと出来る範囲で頑張ればよろしいのですから」

「…はい」

「体調管理も怠ったらダメですよ、沢山食べて沢山寝て常に元気でいることが一番ですし、あともし今の職業が合わなければ直ぐにでも転職を行えば」

「ストップストップ!もう十分だからそのへんにしときなよ」

「…ハ!?すすすみません、私ったら」

 

一応14歳となってるものの見た目が5歳前後の姿に加えじゅんから醸し出すほへ〜としたオーラが母性本能を擽られたのかズカズカと話すルナを思わず止めに入るクリス。

 

自身の行いに顔を赤くしながらも気を取り直し、受付嬢としてじゅんに出迎えの言葉を送った。

 

「コホンッ!…では改めましてようこそじゅん様、冒険者ギルドへ!

貴方様の冒険活劇に幸あらぬ事を祈りながら、スタッフ共々今後の活躍をご期待致します!」

 

そう伝えるとルナやスタッフを始め、クリスとゆんゆんも含めた冒険者達が歓迎の拍手を送る。

 

その拍手を浴びながら、今日じゅんは全ての冒険者の仲間入りとなった。

 

 

──────────じゅん「この…すば」──────────



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第一章〜その②

久しぶりの小説、書くの大変、けど面白い


「はぁ〜…何とかなったよ、やったねじゅんくん!」

「…やった」

「取り敢えず登録にこぎ着けたけど、ここからが本当の始まりだよじゅん」

「はじ…まり?」

 

じゅんの冒険者登録を終えた3人は隅っこの席に腰掛け労いながら今後の事を話し始めていた。

 

因みにだが、じゅんの歳を14だと教えたクリスだがこれは真っ赤な嘘であり、そもそもじゅんの本当の年齢は彼女達にすら全く分かっていないのが現状である。

 

最も見た目や性格から5歳前後と推測できそれなら施設に入居したらと思うだろうが、それをせず嘘や無理を通してでもじゅんを冒険者にしなければならない理由があった。

 

「キミの持つ力を物にできるようにし、かと言ってソレに頼ってばかりはいけないから基本は自分の力で切り抜ける様に強くなる必要がある。その為にも沢山経験して学んで鍛えていかなきゃいけないんだよ、わかったかい?」

「…わかった」

「……」

 

クリスの説明に頷くじゅんに対し、ゆんゆんは思いつめた表情でじゅんを…正確にはじゅんが身に着けている物に着目していた。

それはクリスが見つけたあのペンダントと2つの箱であり、それぞれ首と左右の腰に掛け付けていた。

クリスはそんなゆんゆんの心境が顔に書いてあることに気付き、声をかける。

 

「ゆんゆん…」

 

案じてるクリスに理解しながらも、ゆんゆんの脳裏にアクセルに来る数ヶ月前の出来事が蘇る。

 

ある巨大モンスターに丸飲みされたじゅん、目の前で起こった出来事にパニックを起こすゆんゆんを必死に止めるクリスだったが、直後にそのモンスターが勝手に苦しみだし倒れるとそのまま絶命してしまった。

いったい何が起こったのか、屍となったモンスターに困惑する二人だか今度はモンスターの腹が独りでに揺れだし“ブシャッ!”と生々しい音と共に腹が内側から破られると、中から現れたのは。

 

…ゆん、ゆん?…クリ、ス?

 

首をかしげながら二人を呼ぶ異形の姿のじゅんであった。

 

「分かってます、もうあんな思いをしない為にも…じゅんくんのこれからの為にも私精一杯頑張りますね!」

「あはは、気の張り過ぎは身体に毒だよ。それとゆんゆんもあたしもそうだけど一番頑張るのはじゅんなんだしさ」

「そ、そうでしたね、えへへ」

「…?」

 

笑い合う二人の顔を交互に見ながら、じゅんは首を傾げる。

 

──────────じゅん「このすば?」──────────

 

「さってと!堅い話はここまでにしてじゅんの冒険者入りのお祝いも兼ねてご飯にしようか!」

「ごはん…たべ、る」

 

決意を新たにしたと同時にお祝い事と称した昼飯を頼もうと張り切るクリスと、ご飯に対し希薄ながらもどこか嬉しそうな反応をするじゅん。

それに対しゆんゆんは先の事とは別の意味で思い詰めた表情を表す。

 

「あのクリスさん…お金、大丈夫ですか」

「…あーまぁそのー…まずメニューを見てからにしようか」

 

先程の勢いは鳴りを潜め少々戸惑い気味のクリスはメニュー表を開き右へ左へと泳がし始める。

するとある項目に載ってある宣伝料理…という名のチャレンジメニューが目に写り読み始める。

 

「えっとなになに?…『食えるものなら食ってみやがれチャレンジ!。お一人様限定且つ制限時間30分以内に、ジャイアントトード肉の唐揚げ2㌔・ライス2㌔・パスタ2㌔・ミートソース1㌔・各種の野菜1㌔・ハンバーグ1㌔・オムレツ1㌔の総重量10㌔の定食、通称“クエクエプレート”を完食したお客様には代金無料に加えスキル1000ポイント分を得られる特殊ポーションを贈呈。チャレンジ失敗の場合は罰金30000エリスをお支払頂きます』」

 

数人でのシェアならまだしも一人だけとはもうクリアさせる気無いだろうと思えるあからさまなチャレンジメニュー。挑戦者の少なささは勿論、居たとしても土産話の一つとして失敗を前提に挑むくらいしかおらず結果今現在でも成功者は誰一人としていない。

 

「きっとこれは女神エリス様からの祝福ですよクリスさん!」

「え?あぁ、そうだね(…身に覚えが無いんだけど、まぁいいか)」

 

だがクリスの朗読したチャレンジ内容に何故かゆんゆんが大喜びし、クリスもゆんゆん程ではないにしろ好都合と言わんばかりな笑みを浮かばせた。

 

そうと決まればなんとやら、手を上げたクリスを見つけたスタッフの一人が近寄り注文を確認する。

 

「お待たせいたしました、ご注文は何でしょうか?」

「えっとあたしは昼のA定食と食後にシュワシュワを一杯ね」

「わ、私には昼のB定食を」

「かしこまりました、そちらの子…ああ先程なられた新人冒険者さんですね。何をお願い致しますか?」

 

二人の頼んだ定食のどちらかそれとも単品料理か、いくつか予想したスタッフだがじゅんの代わりに答えたクリスの、予想を裏切る言葉に唖然とする。

 

「彼にはこの“食えるものなら食ってみやがれチャレンジ!”のクエクエプレートお願いね」

「………えっともう一度お伺い致しますが、何をお願い致しますか?」

「“食えるものなら食ってみやがれチャレンジ!”のクエクエプレートを彼に」

「いやいやいや!いくら何でも無理なのは目に見えてるじゃないですか!しかもお一人様限定のチャレンジメニューでシェアなんて出来るのは精々失敗した後くらいなのですよ!?」

「も、勿論分かってます!失敗したらちゃんと此方で支払いますのでどうかお願いできませんか?」

 

ゆんゆんの後押しもありう〜んと唸るスタッフは一旦離れ他のスタッフに話を持ちかけ始めた、何人かで輪となり話し合っていると結論が出たのか再び戻り結果を話す。

 

「協議しましたが自己責任なのをご了承の上でしたら、受付致します」

 

──────────スタッフ一同『このすば!』──────────

 

注文を受け付けてから約30分後…遂にその姿を現す。

 

「お待たせ致しました“食えるものなら食ってみやがれチャレンジ”からクエクエプレートでございます」

「「「お〜…」」」

『お〜…』

 

二人係で運ぶ巨大皿をじゅんが座る席の前にドスン!と置かれる。

唐揚げ・ハンバーグ・パスタ等などメニュー通りの品が惜しげも無く敷かれたその光景は圧巻の一言であり、3人だけでなく面白半分で見物する冒険者達も感服の声を漏らす。

因みにクリスとゆんゆんは先に来た定食を食べ終えただけでなく、これから来るプレートが巨大な事もあって隣のテーブルへと移動している。

そんな中、少しでも刺激を求めようと一人の冒険者がじゅんを使った賭け事を持ち込んできた。

 

「そうだ、折角だから賭けしねぇか?あの新人ガキンチョが食い切るかどうか」

「なにバカな事いってんだ?はなっから無理なのは目に見えてんだろ?なぁクリスさんよ」

 

別の冒険者が同意を促すのに対し、クリスの返答は。

 

「…イイね〜、その賭け乗ってあげるよ。勿論じゅんがクリアする方に全部ね」

 

そう言うと腰に掛けてある有り金全てをテーブルの上に置き、それが合図となったのかゾロゾロと参加者が集まりポンポンと金を置き始めた。

 

「ク、クリスさん!じゅんくんを賭け事に使うなんてそんなの」

 

根が真面目で優等生気質なゆんゆんには受け付けられずクリスに注意をするのだが。

 

「何だ何だ?紅魔の嬢ちゃんは乗らねぇのか?」

「まぁ無理もないよな、負けの結果が見えてる勝負事に突っ込みたくもないしよ」

「いくら仲間内(パーティーメンバー)でもやっぱ我が身が可愛いもんだし仕方ないよな〜」

 

まるで焚きつける様な口振りをする冒険者達にカチンと来たのか、ゆんゆんも有り金の入った袋を取り出しドンッ!と叩きつける様に置いた。

 

「う、受けて立ちます!私のともだ…仲間(パーティーメンバー)を置いて自分だけ逃げるなんて事…絶対にしませんから!」

「…へっ!気に入ったぜ紅魔のお嬢ちゃん!」

「そうでなくちゃ面白くねぇよな!」

 

ゆんゆんの参加によって周りのボルテージが上がり更に参加者が増えた結果、合計50万エリス以上の賭け金が集まり、割合は成功2、失敗8となった。

 

「それでは“食えるものなら食ってみやがれチャレンジ!”を開始いたします、開始5秒前」

『5!4!3!2!1!ゼロー!!!』

「いた…だき、ます」

 

周りの声とスタッフの手に持つ懐中時計のスイッチが合図となって開始された。

 

まずジャイアントトードの唐揚げをフォークで刺し口を大きく上げパクリと食べる。

 

「…おいしい」

 

口の中で広がるジューシーで塩コショウの効いた唐揚げを味わうと、今度はデミグラスソースのかかったハンバーグにナイフを入れ一口サイズに切ると先と同じように入れ込む。

 

「…ムグモグ」

 

こってり濃厚なソースと唐揚げとはまた違ったジューシーな味わいを堪能し、お次はミートソースを絡めたパスタを口に運ぶ。

 

「ズルジュル…ングング」

 

トマトの酸味と挽き肉のコクが上手く溶け合ったお陰でほぼ味が無いパスタとは相性抜群となり啜る量も増えていく。

 

「いや〜中々どうして美味そうに食うよなあのガキンチョ」

「まぁそれも最初の内だろうさ、すぐにでも手が止まるだろうぜ」

「あ〜ん食べる姿はやっぱり可愛いわぁ〜、後で労いのナデナデしてあげよう」

「…もっと早く目覚めるべきだった」

 

外野の事はさておき、パクパクと口に運ぶじゅんを見る冒険者の殆どは“やっぱりこれは失敗(むり)だろうな”と言う心境であったが、唯一クリスとゆんゆんだけはじゅんが成功する事を確信していた。

それは時間が経過する毎に表れ始めた。

 

〜5分経過〜

 

「ガツハグ…ングング」

「1…いや2㌔近くは食ってんじゃねえか?」

「あの体型でそれだけでも大したもんなのに、さてさて何処まで行くのやら」

 

〜10分経過〜

 

「ゴクゴク…ぷはぁ…ハムハム」

「やべぇ…アイツ半分に差し掛かるぞ!」

「ん〜私が直接たべさせてあげたい!」

 

〜15分経過〜

 

「ガブ…モキュモキュ」

「マジかよ…全然ペースが落ちてねぇ」

「それどころか少しずつ上がってるぞ」

 

〜そして、20分経過〜

 

オムレツ・ハンバーグ・野菜・パスタ・ミートソース・ライスを平らげ残すは唐揚げたった1個。

それをパクリと口に入れモグモグとよく噛んで味わいゴクンと飲み込んだ、そして。

 

「ごちそう…さま、でした」

「た、タイムは23分10秒……チャレンジ成功です!」

『うぉおおおおおおおお!!!』

 

窓ガラスが割れるのではと思う程の興奮混じりの喝采の声が上がる。

 

「やった!やりやがったぞあのチビ助!」

「賭けには負けちまったがしかたねえか、マジでやり遂げたんだからな」

「あ〜んじゅんく〜ん!抱っこさせて〜!」

「…新しい世界に導いてくれてありがとう」

 

賭けの結果に負けたのにも関わらず刺激的な番狂わせを目撃した事への喜びが強く、誰一人悔しがる事なく素直にじゅんのチャレンジ成功を称えていた。

 

「おめでとうございますじゅんさん!こちらが成功報酬の特殊ポーションになります!」

「…どうも」

「フッ…俺には分かってたぜ、お前さんの可能性をよ」

 

ずっと見ていたルナが興奮気味にポーションを差し出しそれを受け取るじゅん。

そんな二人のやり取りを柱に背を掛け腕組みしながら眺め呟くモヒカン頭の荒くれ者(機織り職人)。

 

皆がワイワイガヤガヤ騒ぐ中、じゅんはからっぽの大皿を両手で持ちルナに差し出した。

 

「どうしましたかじゅんさん?」

 

単なる返品なのだろかと思われるが念の為に聞き返すルナに対し、じゅんの口から出た言葉は。

 

「おか、わり」

 

どんがらがっしゃーん!!!

 

苦笑いを作るゆんゆんとクリスの2名を除いたその場の冒険者と受付スタッフ全員が壮大にコケてしまった。

 

──────────ルナ「勘弁してくださ〜い!」──────────




次で一話終了の予定です


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第一章〜その③

ジード本編(1〜3話辺り)から並行してる時間軸の設定なので少なくともジードとゼロは出てきません。


見せ付けられたじゅんの超人的な食欲は後にアクセルの人々の耳に入り、“小さな捕食者(リトルイーター)”・“底なし沼のじゅん”等の畏怖(ニックネーム)で他の人…特に料理関係者から恐れられる事となるが、それはまた別のお話である。

 

「うぅ、思わず賭けに乗っちゃった…じゅんくんゴメンね」

「モグモグ…きに、しない」

「まぁ結果的に食費もかなり浮いてお金も倍になって返って来たんだからさ、結果オーライじゃないか」

「先に乗ったクリスさんに言われたくないんですけど」

 

先の賭けはこちらが勝った事で一人あたり約10万エリス前後のお金を分け与える事になり、じゅんはその金の幾つかで再び食事にありつけていた。

恨めしそうに睨むゆんゆんに対し頬の傷を掻きながら苦笑いするクリスはふと思った事を口にする。

 

「そう言えばさっきあたし達を友達って言おうとしてたけどどうして言い改めたんだい?」

「ふぇ!?えっとですね〜…友達と仲間は似てるようでそうじゃないかなと言いますか…あ!だだだからって二人が嫌いなわけじゃないんですよ!?むむむしろこんな私とパーティーを組んで頂いて大変感謝して!」

「わかったわかったって!前々から思ってたけど“友達”って言葉に過剰に反応し過ぎだよ」

「うぅ…すみません」

「はぁ…まぁキミの性格を考えたら無理もないかもね、紅魔族の中でならなおさらさ」

 

あの変わり者集団の中で考えが常識的なゆんゆんには窮屈この上なかっただろうと些か同情するクリス。

ゆんゆんもまたこれから沢山の経験や学びが必要だろうと思いながらも、それを共有していく事を示す為に笑顔で答える。

 

「けど、あたしは少なくともゆんゆんの事を友達…いやまだなってないから“友達になりたいな”って思ってるよ。じゅん、キミはどう?ゆんゆんと友達に、仲良くなりたい?」

「ゴクン…なり、たい」

「クリスさん…じゅんくん…ふ、ふつつか者ですがよろしくお願いします!」

「言葉の使い道が違うんだけど…まぁいっか、改めてよろしくねゆんゆん!」

「よろ…しく」

 

二人の差し出す手をそれぞれの手で握り、目に涙を貯めながらも「はい!」と

笑顔で答えるゆんゆん。

 

この麗しき流れのまま終わればどれ程良い事なのだろう…が!然うは問屋が卸さないのが駆け出し冒険者の街…“今のアクセル”なのである。

 

チュドーーーーーン!!!!!

 

突如として鳴り響く巨大な爆発音。

思わず3人が外に出ると前方から煙が立ち昇っているのを目撃する。

 

「これってアレだね…カズマ君のところの」

「めぐみん!?」

「…めぐ、みん?」

 

このアクセルのある意味名物となっている爆発音の正体、それはゆんゆんと同じ紅魔族の人間である“めぐみん”が持つ唯一無二の魔法“爆裂魔法(エクスプロージョン)”である。

その威力はクレーターを作るだけに留まらず、威力次第では地形や生態系を変化させてしまう程の極めて強力な魔法なのだが、その余りの破壊力から使える場所が極端に限られるだけでなく使用すると全ての魔力を消費し立つことすら出来なくなる程のハイリスクでハイリターン(?)な

通称“ネタ魔法”とも呼ばれている。

 

「あの煙の方角からして北側の門か…けど確かカズマ君の所は今ダクネスが居ないから3人だけだけど大丈夫かな」

「…私、めぐみんの所に行ってきます!」

「それならあたしも一緒に」

「いえ、ともだ…ライバルの事は私に任せてクリスさんはじゅんくんの事をお願いします」

「何がなんでも彼女のこと友達とは言わないんだね…わかった、ゆんゆんの実力なら大丈夫だと思うけど油断せずにね」

「ゆんゆん…気をつけ、て」

「…ありがとうじゅんくん、クリスさん。行ってきます!」

 

身を案じてくれる二人に感極まって涙目になりながらもそれを拭いめぐみん達がいるであろう北側の門へと走るゆんゆん。

背中が小さくなってくゆんゆんを見つめる二人だが、その時じゅんだけが自分を見る様な視線を感じ取りその方角へと顔を向けた。

 

「……」

「……」

 

白黒混じりのローブを被って顔は見えないが間違いなくその人物はじゅんの事を見つめていた。

 

「どうしたのじゅん?」

「あ、そこ……あれ?」

 

じゅんの様子に気付き尋ねるクリスに自分を見る謎の人物がいる方へ指を指すじゅんだったが、たった数秒しか反らしてなかった筈なのにその場所には誰も居なかった。

 

「あそこに誰か居たのかい?」

「…?」

 

クリスは再び尋ねるも、じゅんはただ首を傾げるだけだった

 

「思った以上に退屈しない惑星(せかい)だ…もう少しだけ様子を見るとしようじゃないか…」

 

──────────???「()()()()」──────────

 

夕暮れ時となり辺りがオレンジ色で染め始めた頃。

 

「ひっぐ…えっぐ…」

 

何故か全身ヌメヌメ状態のゆんゆんが、泣きながら二人の元へ帰ってきた。

 

「い、いったい何があったのさゆんゆん」

「うぅ…あのですねぇ…」

 

曰く、駆けつけると冬眠してる筈のジャイアントトードが数匹飛び跳ねながらその場にいる人達を襲っており、男性冒険者の“カズマ”が逃げ惑う中、既に捕食されてるめぐみんに加え女神アクアと同じ水色の髪と名前の“アクア”と王国検察官の“セナ”達も捕食され始めておりカズマもその仲間入り直前となっていた所を。

 

〜『ライト・オブ・セイバー!』〜

 

ゆんゆんが得意とする上級魔法“ライト・オブ・セイバー”を放ちジャイアントトードからめぐみん達を助け出す事に成功した。

無事を確認したゆんゆんは早速ライバルとして決着を着けようとめぐみんに勝負を申し込み。

 

〜イヤですよ〜

 

キッパリと断られてしまう。

 

〜お、おねがいよぉ勝負してよ〜!〜

 

彼女的には威風堂々とした態度で言ったつもりが速攻で崩れ駄々をこね始めてしまう。

仕方ないと言わんばかりのため息を吐いためぐみんは、体術勝負でならば良いと持ちかける。

何故めぐみんにとって不利な体術をと一瞬思うも、勝負を受けてもらった事への嬉しさから疑問はすぐに消え早速お互いが構えを取り始めた…のだが。

 

〜っ!?め、めぐみん…まさかそれって〜

〜そうです、これはゆんゆんが倒したカエルの粘液ですよ〜

 

ゆんゆんは気付いてしまった…めぐみんの身体は今ジャイアントトードの粘液で濡れ濡れ状態である事を、そして瞬時にこれから何をしでかすのかも悟ってしまった。

恐る恐る自身が予測した内容を口にし尋ねると、めぐみんは。

 

〜うふ、私達友達ですよね?

 友人と言うものは苦難をも分かち合うものだと思います〜

 

それはもうとびっきりの笑顔で答えながらウッキウキ全開のスキップで襲い掛かる。

 

〜いやあああ!ああああ!降参!降参するからこっち来ないでええええ!!!〜

 

悲鳴を上げ必死に逃げるが無情にも追いつかれて捕まり、敗北と共に粘液塗れとなり今現在に至る事となってしまう。

 

「…なんと言うかその…ご愁傷さま」

「ゆんゆん…くさ、い」

 

「う、うぇ〜〜〜〜〜ん!!!」

 

じゅんの言葉がトドメとなってしまい、再び泣き叫ぶゆんゆんであった。

 

──────────ゆんゆん「このしゅば〜!」──────────




なんとか1話目を終えました。

変身までこぎつけられたら、あるウルトラ作品をタグに追加するつもりです。



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第ニ章〜その①

お気に入り10と評価10、ありがとございます!

感想以外にも些細な質問・疑問があれば答えられる範囲で答えます。


第二章「この騒がしい人々と共に日常を!」

 

 

 

ここはアクセルのとある所にある銭湯、溜まった疲れを癒す憩いのお店は今日も利用する客がチラチラとおり、その中にはクリス達の姿もあった。

 

「すみませんでした、お見苦しい所を」

「まぁそう落ち込まないで、また次があるんだからさ」

 

ションボリするゆんゆんをなだめるクリス、因みにじゅんは男湯の方へとおり至って普通だと思われるが推定年齢5歳前後となればまだ付添が必要な年頃なのだが既に“14歳”で登録されてる以上、下手を打てば変態やら奇人やらと“ある冒険者”の様に軽蔑される可能性があるのを考慮し、これも経験の内だという建前の元じゅんは一人で男湯に入る事となった。

 

「ゆんゆん、今まで色々と言っておいてなんだけどさ…あたし明日、王都に行くんだ」

「え!?」

 

突然改まって語るクリス、思わずもう関係を断ち切るのではと思うも直ぐに取り越し苦労となる。

 

「ああ勘違いしないでね、パーティーから外れる訳じゃなくてゆんゆん達と会う前から個人でやってる事があるんだけどそれがたまたま明日から2〜3日ほど行うだけだからさ」

「個人でやってる事?」

「そこはまぁ…仲間内とは言えプライベート的な事だから出来れば詮索しないで欲しいかな。只少なくとも悪い様にはしない事だってあたしは思ってるけどね」

「分かりました、気を付けてくださいね」

「………」

「クリス、さん?」

 

嫌われたくないと言う理由も少なからずあるが、本人がそう言う以上は敢えて踏み込まない事にしたゆんゆんは変わりに身を案じた言葉を投げたのだが、何故かクリスは口を閉じたままで返答しない。

 

何か気に触ることでも言ったかと不安になるゆんゆんに対し、クリスはどこか思い詰めた表情で口を開き話し掛ける。

 

「ゆんゆん…詮索しないで欲しいって言った手前なのにこんな事を言うのは筋違いだって分かってる…だけど敢えて言わせてもらうよ。友達だからと言ってその人が必ずしも自分や周りに良い影響を与えるとは限らない」

「え?え?」

 

突然の語りに困惑するゆんゆんを余所にクリスは止まることなく続けた。

 

「嫌な言い方をするけど、何処までいっても自分は自分で相手は相手でしかない…考える事を捨てて手放しに信じたり相手の言う事を鵜呑みにしたり委ねる事ほど危ういものは無いんだ、あたしから見てゆんゆんには身に覚えがありそうに思えるんだけど?」

 

「そんなこと!…そんなこと…」

 

否定しようにもゆんゆんには少なからず身に覚えがある。

例えば紅魔の里のクラスメイトである“ふにふら”と“どどんこ”、決して悪い娘達では無く今現在の関係も悪くはない。

只、学生時代に“私達友達よね?”と言ってゆんゆんからご飯を奢ってもらったり尤もらしい理由でお金を集ったり等と年相応な出来心を起こしていた。

紅魔族は魔力だけでなく知力も高い種族であり、ゆんゆんも例に及ばず高い方である。

故に心の隅っこで“違うのでは”と思いながらも、紅魔族全体の考えと自身の考えの違いのズレから生まれた見えない壁が繋がりを阻み阻まれ、やがてそれが孤独を感じ不安と恐怖を生み出してしまう。

それを味わいたくない為に知らず知らずの内に気づかぬフリをしてたのではと過去を振り返ったゆんゆんはそう思い始める。

 

「結局何が言いたいのかと言うとさ、何も考えなかったり不安だからって疑うことや拒む事、見極める事をしないで相手のペースに呑まれてばかりじゃ取り返しがつかなくなるって事を言いたいわけ。自分だけならまだしもそのせいで大事な人とかが巻き添えを喰らったら溜まったものじゃないからさ」

 

「…じゅんくんの事ですね」

 

静かに頷く姿を見て、クリスの言いたい事をゆんゆんは理解し始める。

 

「あたし達は出来る限りのことをしてじゅんを導いて上げなきゃいけない…そんな責任があると思う。だからこそ今まで通りの考えばかりじゃ駄目なんだと思うんだ。ある程度でもしっかりしておかないとさ」

「……」

「…ゴメン…こんな重苦しい言い方で」

 

謝るクリスをゆんゆんは無言のまま首を横に振るう。

二人の雰囲気を感じ取ったからか、単にたまたまなのか、女湯にはクリスとゆんゆんを残し他の客は誰一人としていない。

お湯の流れる音だけが静かに響く中、クリスは口を開く。

 

「言い訳になるんだけどさ…ゆんゆんにこんな注意をしたのは…単にじゅんを導く事が出来るのか…あたし自身が不安でそう言ったんだ。例えるならキミのとも…ライバルのめぐみんの様な性格になったじゅんを想像してみなよ、どう思う?」

 

そう言われて想像するゆんゆんの脳裏に映るのは、めぐみんとほぼ同じ服装とお洒落として左眼に着けた眼帯、そして杖を持ちながら不敵な笑みを浮かべるじゅんの姿。

 

我が名はじゅんじゅん!

学習者にして爆裂魔法を駆使し無限の食欲を我が肉体に宿し者!

やがては全ての食をこの口で制覇し極め抜く者!

 

「すごく…イヤですね…」

 

格好だけならば可愛らしいのだが、爆裂魔法に加え紅魔族特有のポーズと中二的言葉使いの3つが全てを台無しにしてしまう。

 

「あたしの場合はダクネスかな」

「ダクネス、さん?」

「うん、彼女もゆんゆんと同じであたしの友達なんだけど…何と言うかその〜…性格は決して悪くは無いというかむしろ良い方だよ…うん良い方なんだけどさ……ちょっと変わった所があってね」

「変わった所?」

 

頬の傷をカリカリと掻きながら、クリスは困り顔で答える。

 

「出来ればナイショにして欲しいんだけど…彼女痛がる事が好きと言うか何と言うか…まぁそういう部分があってね」

「は、はぁ…」

「ともかく、じゅんがそんな痛がる事が好きな性格になってしまったらと思うと…」

 

そう言いながらクリスの想像の中のじゅんはと言うと。

 

はぁっはぁっ…が、学習者のこの僕が

お前たちの下劣で卑劣な行いに決してまけるもの

かぁあ〜〜〜ん///

 

鎧を身に纏ってカッコイイ事を言っておきながら、体中を縄で縛られウットリと頬を赤く染め上げ悶えている。

 

「すごく…イヤですね…」

「でしょ?」

 

したくもない想像を無理矢理したせいか、お湯に浸かってるのにも関わらずドッと疲れが広がりハァ〜と深いため息を同時に吐く二人。

 

「でもそんな風になっても…いや絶対なって欲しくないのが本心だけど、なによりこれだけはそうならないで欲しい事があるよ」

 

いつも明るい姿でいるクリスが滅多に見せることの無い暗い表情を作る。もしこの場に以前からクリスを知る者が居たら驚く事だろう。

そしてクリスは、自身が最大に懸念してる事をゆんゆんに語る。

 

「じゅんが…()()()で周りの人達を傷つけて…不幸に陥れる事だよ」

「あ…」

 

あの力と言う言葉だけでもゆんゆんにはソレが何かをすぐに理解してしまった。

 

「あの力だけじゃない、それなりに冒険者稼業をやってきたあたしだから分かるの…あの姿になったじゅんから出てくる感じ……悪魔やアンデッドのそれに似てたから」

 

クリスの言葉にゆんゆんも同意していた、なにせ以前にもとある悪魔と対峙した事がありその時に味わった恐怖や悪魔から放つオーラは早々忘れられる物ではなかった。

 

「“アレ”1本だけでもモンスターを簡単に倒せる程の力が、そしてじゅん自身がそれを持ってる。けれど悪魔達に似たあの雰囲気(オーラ)がどうしても頭から離れられなくてね…だから嫌でも思ってしまうんだ…“このままで良いのか?”…“脅威になるんじゃないか?”…“あたし達に牙を向けるんじゃないか?”…て」

「……」

 

クリスにはゆんゆんだけでなくダクネスや他の人達に対し隠してる事が2つ程ありここまで悩むのはその一つが原因となっている。

それは悪魔や悪魔に類似する存在に対して昔程ではないが今現在も確かな敵意を抱いてる為に、“悪魔かもしれない子供を守っている”と言う矛盾を抱え今も尚割り切れてない事を悩んでいたのだ。

 

「それでも何とか信じたい…その為にもじゅんに名前をつけたあの人の言葉を思い出してるんだ」

 

〜遅かれ早かれ再びメモリを使う時が必ず訪れる…じゅんの意思に関係なくだ。

恐らくそう遠くない未来…この世界その物に影響を及ぼす程のナニかが起こる事だろう。

ワシやお前さん達がじゅんにしてやれる事は、正しく導き支える事だろうな〜

 

「分かってるつもりなのにさ…じゅんはそんな事にならないしさせない…でももしかしたら初めからって思ったりしてて…アハハ、何かゴメンね?下手くそな言い方で」

 

苦笑いで頬傷を再び掻くクリスに対してゆんゆんはやんわりとした笑顔で語り始める。

 

「いいえ、クリスさんの言いたい事、大体ですけど伝わりました…だからこそ言わせてください。クリスさんは、凄く頑張ってる凄い人です」

「え?」

 

まさか褒められるとは思っておらず呆気にとられるクリスを余所にゆんゆんは続ける

 

「だって、私には無い広い目で周りを見て先の事を深く考えて最善を尽くそうとしてるのですから…今の私には目の前の事で精一杯でその目の前の事でさえろくに出来たり成し遂げたりしてませんから…クリスさんは本当に凄いです」

「それは…ちょっと買いかぶり過ぎかな。ただ良くない事が起こって欲しくない、怖い思いをしたくないから何とかしてるだけで…それに何よりもじゅんに対して今でも疑ってる自分がいるのは確かだからさ」

「…それはきっと、私と同じでじゅんくんが好きだから…好きでいたいから私以上に考えてるんじゃないのかなって思います」

「好き?」

「は!?いいいいやですね、それはあくまで友達や弟分的な意味での好きであってそっち方面の好きじゃないですからね!?」

「わ、分かってる分かってるって」

 

これでもかと慌てふためくゆんゆんを苦笑いで宥めるクリス。

ある程度落ち着いたのか改める様に「コホンッ!」と咳き込み再び話す。

 

「不安になる気持ちは私にも有りますし分かります…でもこうしてクリスさんとじゅんくんと友達に…ううん、友達になる前から色々と知ることが出来たから言えます、私はクリスさんとじゅんくんを信じてます、大切な人だから信じ抜くことにしてるんです」

 

決意を固めた自分の考えを笑顔で答えるゆんゆん。

 

…全くこの子は、人見知りで気弱でオドオドしたりライバルに負かされて泣いたりと普段は余り頼もしく見えないと言うのに、いざという時は腹を括ってハッキリとした態度と言葉を言うのだから…凄い娘だよ。

 

心の中でそう呟きながらも、ゆんゆんの持つ強さを改めて感じ取ったクリスは笑顔と共に感謝の言葉を送った。

 

 

「…そっか…ありがとうゆんゆん」

「い、いえいえ!ここんな私めにもお役にたた立てるのでしたならばば!」

 

先程の自信ある態度は何処に行ったのやら…己の言動を振り返ってしまい恥ずかしさの余りテンパるゆんゆんをクリスは“やれやれ”と呟きながら頬傷を掻く。

 

「ねぇゆんゆん、ちょっとしたお願い事があるんだけど」

「お願い事、ですか?」

「大したことじゃないけど、あたしの事は“クリス”って呼んで欲しいかな?それと今はもう仲間なんだし歳もそんなに変わらないんだからタメで話しても構わないよ、ゆんゆんで良ければだけどさ」

「……」

「ゆ、ゆんゆん?」

 

首を傾げるゆんゆんに願いの内容を伝えたクリスなのだが、何故か返答せずポカンとした表情のまま固まってしまい呼び掛けてみたクリス、すると。

 

「ぶぇっぐ…ひっぐ…えっぐ…」

 

これでもかと言うくらいの大粒の涙を流し、可愛い顔が台無しな程のグシャグシャな顔になるゆんゆんにクリスは動揺してしまう。

 

「な、何でここで泣くのさ!?」

「い、いやでずね…ごございぎんばだじのゆめががなっでうれじぐで、おぼわず“あぁごでばばだじのばがないゆべなんだ”っでおぼっじゃっで〜」

「何言ってるのか全然分かんないんだけど!?」

 

──────────クリス「このすば!?」──────────

 

「う〜…すみません、またお見苦しい所を」

 

おいおいと鳴いて行く数分、ようやく落ち着きを取り戻したゆんゆんは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

そんなゆんゆんに対しクリスは思う。

折角ゆんゆんにとって成長するチャンスが生まれたのだ、このまま慰めの言葉を言ってもあまり進展は期待できないだろうし…ここは一つカマをかけてみようかと結論づけた。

 

「やれやれ、そんなんじゃライバルのめぐみんからまたバカにされるよ、やれ情けないだとか“ボッチ”だとか」

「ななななんでクリスさんがその事を!?“て言うか私ボッチなんかじゃないわよ!”」

 

やはり“ボッチ”と言う言葉がスイッチとなり顔を赤くし否定するゆんゆんだが、それに対しクリスはフフッと軽く笑いながら答えた。

 

「その調子さ」

「え?」

「その調子でならあたしとしても話しやすくて良いと思うんだけど、ゆんゆんはどうかな?」

 

そう問われたクリスにゆんゆんは不思議な感覚を得ていた。

数ヶ月関わった仲とはいえこんなにもあっさりと会話ができるとは思ってもいなく何とも拍子抜けたような気持ちもあれば、めぐみんのソレと同じで且つ自分は既に得ていたのだと再確認をしていた。

 

「…そっか…うん!何だかめぐみんといる時みたいで凄く良い!ありがとうクリス!」

「どういたしまして」

「でもこれからはボッチ呼ばわりしないでよね」

「そこはゆんゆんのこれから次第かな?」

「むぅ〜」

 

意地悪に笑うクリスにムスーと頬を膨らますゆんゆんだが、決して悪い気はしなく寧ろ満たされた気持ちで一杯となっていた。

一歩前に進んだゆんゆんを見て丁度いい頃合いだと思ったクリスは、そろそろ風呂から上がるべく向こうでまだ入ってるかもしれないじゅんを呼ぼうとしたが。

 

「今日は一人っと思いきや子供がいたか………ねぇボク」

「…な、に?」

「ボクは一人だけかな?」

「…ひ、とり…だよ?」

 

向こうから聞こえるじゅんと他の男性の会話を耳にし一旦中止して耳を澄ませ、ゆんゆんもクリスの後に続き耳を立て会話を聞き始めた。

 

「ねぇキミ、お兄さんと良い事しないかい?」

「…いい、こと?」

「それはね、この〇〇〇をキミが〇〇〇〇〇〇〇て更にその〇〇〇〇〇〇てあげる簡単なことだよ」

※あまりの過激な内容故にぼやかしをかけましたのであしからず

 

──────────クリス・ゆんゆん『…は?』──────────

 

男湯内、この中にはじゅんと変態しかおらず、今まさにじゅんの身に史上最大の危機が訪れようとしていた。

 

「ハァ、ハァ、さぁお兄さんと共にめくるめく時を()こうじゃないか!」

「めく…る?」

 

だがその時!

 

ちょっと待てぇぇぇい!!!(ちょっと待ちなさぁぁぁい!!!)
 

 

間一髪!引き戸を乱暴に開けたクリスとゆんゆんが今まさにナニかを奪われようとしていたじゅんの元へと駆けつけたのだ!(因みに胸元から腰までしっかりバスタオルで巻いてあるので期待された皆様方はお気の毒に)

 

「ななな何故女性が男湯に!?」

「んな事はどうでも良いんだっての!」

「それよりも貴方!じゅんくんになんて事しようとしてるのよ!」

「そうかそうか〜キミはじゅん君と言うのか〜…てそうじゃなくて!キミ言ったよね!?

一人だって!」

「…ひとり…()()()()()()

「そっちのひとりぃ!?」

「ともかくそこの変態!痛い目に遭いたくなかったらさっさとじゅんからはなれてこの場から出て行きなよ!」

「そうすれば、今回だけは見逃してあげるわ!」

 

こんな変態にでも人権はある以上は感情的ながらも精一杯の慈悲を提示するものの、相手は意に変えさず開き直って己を語り始める。

 

「はんっ!何を馬鹿なことを抜かすぅ!私は周りからも認められ自負する程の少年愛好家(ショタコン)なのだ!こんなにも麗しい男の娘が女の子のはずがないのだぁ!!!」

「…何言ってんのさキミ?」

「クリス…私バカなのかな?あの変態の言ってる事が全然分からないんだけど」

 

理解に苦しむ言い分に二人は心底呆れ揃って頭を抱えるが、変態はそれに全く気にする事も気づく事もなく今度はクリス達を罵倒し始める。

 

 

「そもそもキミ達はなんなのだい?その狙ったかの様な如何にもな姿は!キミ達の様なxxxはxxxxxxにxxxxされxxx三昧の挙げ句xxxxやxxxxのxxに落とされxxxxxxされてしまう事がお似合いなのだぁーーー!!!」

※聞くに耐えない暴言故にひた隠す事をお許し下さい。

 

…プチッ

 

その時、彼女達の何かが音を立てキレた。

 

「分かったかxxxxども!わかったら来世に生まれ変わる時は真っ当な男の子になって顔を洗って出直して!」

「『バインド』」

 

罵倒を遮る様に底無しの闇から発するかの様な静かな声で唱えたバインドは、変態男の口と体全体を絡め縛り上げる。

 

「ふごぉおお!?ふごふごおお!!」

「お〜…」

 

倒れながらうめき声と共に暴れる変態を眺めていると。

 

「じゅ〜ん♪おいで〜♪」

 

猫を撫でる様な優しい声を発するクリスに気付き、じゅんは素直にテクテクと歩いて近づくと徐に脇を捕まれそのまま抱っこされる。

 

「よ〜しよしよし〜怖かったね〜」

「もう大丈夫だから安心しなよ〜」

「…うん?」

 

いつも以上に優しくそして頭を撫でてくる二人に首を傾げるじゅん、その光景はさながら見せ付けるかのような物であり、そのように感じ取った変態は更にもがき暴れる。

そんな変態に体を向けた二人は愉快な様子で口を開く。

 

「ゆんゆ〜ん…殺っちゃて♪」

「任せてよクリス〜♪」

 

口調こそ年相応な女の子の物であり口元も笑っていたのだが、唯一目だけは全く笑っておらず、さながらそれは“養豚場の豚を見るような目”のソレであり、ゆんゆんに至っては紅魔族特有の赤い目が感情の高ぶりと共に輝きが増している程だった。

 

「アナタノヨウナ〇〇〇〇ハコレデジュウブンヨ」

 

もはや別のナニかとなり掛けてるゆんゆんは手から電撃を発し、魔法名と共に変態男へと放った。

 

──────────ゆんゆん「『ライトニングッ!!!』」──────────

 

とある広場の大きな木に一人の男が腰に巻いたタオルを除き素っ裸のまま宙吊りにされ、更には立て札が掲げておりこの様な内容が記載されていた。

 

〜私は近年稀に見る史上最大のド変態です。

幼気(いたいけ)な少年をドブ以下な私の欲望のはけ口にしようとした〇〇〇〇です。

こんな醜い〇〇〇〇をどうか軽蔑してください、罵ってください〜

 

「うわぁ…まさかあの“鬼畜カズマ”並の奴がいるなんて」

「あの立て札の内容が本当ならあの“クズマ”に勝るとも劣らないクズっぷりね」

「第2の“カスマ”ってやつ?どっちもお断りだっての」

「て言うか警察の人まだ来ないの?この変態さっさと連れてってよね」

 

ヒソヒソと話しながら、住民や冒険者問わず目の前の宙吊り変態男に軽蔑の眼差しを贈り、特に女性側の方がとことん冷たい目で睨み付けていた。

そんなガヤガヤとした広場を、離れた所から眺める二人の女の子と一人の男の子がいた。

 

「…なるべく“速攻”で終わらせてくるから」

「うん、お願いね」

「…?」

 

─変態「こ、このすbしゃべるなへんたい!(しゃべらないでへんたい!)ぶへらぁっ!」 ─




変態男はギルドで目覚めた男ではありません。

次回はカズマ達このすば主演キャラと関わせる予定です。


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第ニ章〜その②

ちょっと長いかと思います。
出来る限りキャラの性格・イメージを崩さないよう頑張ってます。
楽しんで頂けたら幸いです。


翌日、馬車で王都へと行くクリスを見送った後のじゅんとゆんゆんは探索する様に街の中を彷徨う。

 

いきなりの特訓や討伐とそれ以外のクエストを受けるのは気が気であった為に一つ一つ段取りを組む事から始め、まずクリスが帰ってくるまでの間は街の雰囲気に慣れる様にとの事で街の中を歩いていた。

 

因みに、先にアクセルへと来ていたクリスが服屋へと事前に注文し青を基調としたじゅん専用の冒険者服を作らせて今現在それを着込んでいる。

 

又、駆け出し冒険者に配給されるショートソードも受け取ったのだか、70以上80未満のサイズで一般の人であれば片手で掴めるがじゅんの身長から少し無理があるため両手持ちを方針にし収める鞘共々背中に背負わせていた。

 

さてこれからどうしようかなと冒険者として先輩のゆんゆんが頭を捻らせてると、一緒に歩くじゅんがあるお店の前で止まり扉の前をジーっと見詰める。

 

「どうしたのじゅんくん?」

「……」

「魔道具店みたいだけど、ここが気になるの?」

「…うん」

 

ゆんゆんの問い掛けに反応しコクリと頷くじゅん。

見た目はこじんまりとした至って普通のお店。

飲食店類ならまだしも魔道具店に興味を示すとはと意外に思い、もしかしてこの先の事を彼なりに考えたからなのではと思考するが、いずれにせよ他に行く場所を思い付いてなかったこともあり目の前の魔道具店に入る事にした。

 

「いらっしゃいませ〜」

 

店に入ると、のんびりと温かみのある女性、“ウィズ”の声が耳に入る。

この魔道具店の店主である彼女は先の声に相応しい程の柔らかな微笑みを浮かべる。

 

──────────ウィズ「このすば♪」──────────

 

「初めてのご来店ですか?何をお求めでしょう」

「え、えっと…お求めと言いますか何と言いますかその」

 

まだ人見知りが抜けない事に加え、あくまでじゅんが興味を示したから入っただけで買い物をする意志は無いに等しく、ひやかし同然なのではと思いオドオドしながら心苦しく思ってしまう。

そんなゆんゆんの心境を知らぬじゅんは、周りの商品に目を向けず何故かウィズにのみ向けていた。

 

「……」

「あの〜…わ、私に何か御用ですか?」

 

子供とは言え初対面の人から見詰められる事に戸惑ってしまうウィズではあったが、同時にある事に気付く。

 

「(何故かしら、この子から…()()()()()()()を感じる……まさかこの子は)」

 

自分の中で生まれた疑惑に対し一つの推測を立てるウィズは、果たして探りを入れてみるか…それとも気付かないフリをするか…だが相手は既に気付き最悪正体を暴露するのでは等と勘ぐり次の行動を移せず困り果てていた。

すると、突然入口のドアがひとりでに開くと3人のグループが店の中へと入って来た。

 

「こんちわ〜ウィズ、ちょっと頼みたいことが…て」

「あ…」

「あ…」

 

間の抜けた声を漏らすゆんゆんとは対象的に、「あ、いたのか」みたいな素っ気ない声を出す彼女はゆんゆんのライバル(自称)である“めぐみん”。

その後ろには仲間(パーティーメンバー)の冒険者“サトウカズマ”と、カズマの頭に乗っかる一匹の猫に加え、アークプリーストの“アクア”が居た。

 

「キミは確か昨日の」

「わ、我が名はゆんゆん!よもやこの様な形で再び出会う事になるとは!やはり私達の間に絡み合う因縁(ライバル)の糸は必ず巡り会うように仕向けられていたのね!」

「気持ち悪いですよゆんゆん、絡み合うだなんて」

「ひ、ひどい!」

 

じゅんが居ることもあって格好良く決めようとしたのだか学生時代からアイも変わらず…否、少し磨きをかけたのかもしれぬ冷めた様な返答にゆんゆんは直ぐ様涙目になりいつもの調子に戻ってしまう。

 

「まぁそんなことより」

「そんな事って!?」

「ウィズ、ゆんゆんの側にいるそこの幼い少年は何者です、貴方の知り合いですか?」

「なんですってぇ!?さてはクソ店主!アンタ魔力欲しさにそこの子供を拉致ったのね!?」

「ち、違いますアクア様!その子は私でなくてそこのお客様のおつれなのですぅ!」

「…今なんと?…ゆんゆんの連れですって?」

 

アクアに問い詰められ涙目になりながら慌てて否定し説明したウィズに対しその内容が余程のことに思えたのか、めぐみんは一瞬目を大きく見開くと、即座に軽蔑する様に目を細めその視線をゆんゆんに向け始めた。

 

「ゆんゆん…いくらあなたがボッチだからと言ってその様な年端も行かない少年を連れ回すなど…人として恥ずかしくはないのですか?」

「人として!?て言うか何をどうしたらそんな滅茶苦茶な考えになるのよ!」

「あなただからこそですよ。それともアレですか?お金で持ち掛けたのですか?食べ物やお菓子等で釣ったのですか?はたまたその無駄に膨らんだ忌々しい胸で拐かしたのですか?」

「そうじゃなくて〜!」

 

一方的かつ容赦の無い批判混じりの質問攻めに更に涙目となるゆんゆんだったが、そこへ話題となった人物が遮る様にゆんゆんの前に出る。

 

「じゅ…じゅんくん?」

「ゆん、ゆん…な、いてる…いじ、め…だめ」

 

表情こそ薄いが其処にはゆんゆんを庇うと言う確かな意志を体で表し口に出すじゅんの姿があった。

 

両手を下向きに広げ健気に守る姿にゆんゆんは感極まる意味で涙目となり、対してめぐみんはじゅんのその姿に少したじろぎ一歩後退ると背後からカズマの声が入る。

 

「そこまでにしろよめぐみん、いくら何でも言い過ぎだぞ?」

「何をおっしゃいますかカズマ!あのゆんゆんがですよ!?寂しさを埋めたい一心で一種の洗脳紛いな事をしでかす程に堕ちてしまった可能性だってあるんですよ!?」

「(ほんっと無茶苦茶な事言うなコイツは)…はぁ、お前ら二人の間柄はよく知らねぇけど目の前のじゅんって子が体貼って守ろうとしてるんだ、これ以上とやかく言うのは無粋なんじゃねぇのか?」

「ですが…」

 

未だ納得できずに渋るめぐみんに対し、カズマは少しカマをかけるかと思いわざとらしく話し始めた。

 

「それに“大人”なめぐみんだったら子供の様に何時までも愚図る事はしないで、寛大な心で丸く収められるだろう〜?」

「も、勿論ですとも!“大人”な私としたことが思わず感情的になってしまったようですね。少々

“大人”気なく振る舞ってしまい申し訳ありませんでした」

 

“大人”と言う部分をわざとらしく強調し上機嫌となるめぐみんに対し、(チョロい)と心の中で呟くカズマとゆんゆん。

 

尤も、カマをかけたお陰でとりあえずその場を収めることに成功したカズマは最低限の挨拶をすべく自らの名前を名乗り出る。

 

「悪かったな思い込みの激しいめぐみんが色々と。俺の名前はサトウカズマ、カズマで良いぞ」

「少々気に掛かる言い方ですがまぁ良いでしょう。我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし人類史上最大の攻撃魔法!爆裂魔法を操り極めし者!因みに今カズマの頭にいるのは我が使い魔の“ちょむすけ”です」

「ンニャ〜オ♪」

「最後はこの私ね!耳かっぽじってよ~く聞きなさいよ二人とも!アークプリーストを生業とするこの私は何を隠そう!麗しくも美しい水の女神で有られるアクアその人なのだから!」

「「と言う設定で通してる痛い娘だ(です)」」

「なぁああああんでよおおおおお!!!」

 

二人の意地悪なツッコミに泣きじゃくるアクア達のコントを余所に、じゅんは自身の名を名乗ろうとしたが既で止めゆんゆんのスカートを引っ張りこちらに向けさせる

 

「(どうしたのじゅんくん?)」

「(どっち…で…呼べ…ば良い?)」

 

じゅんが小声で言った内容にゆんゆんは理解する。

一般人と紅魔族それぞれ使い分けれる様な名前なのだが、冒険者登録時を例外にし片方なら兎も角両方居た場合は果たしてどうすべきなのか…それが分からずじゅんはゆんゆんにちょっとした助けを求めたのだった。

 

「(めぐみんがいる以上は仕方ないわね、私が何とかサポートするからそのまま名乗っていいわよ)」

「(…わかっ…た)」

 

ゆんゆんからの言葉を受けたじゅんは再びカズマ達に向けると自身の名前を言った。

 

「ぼく…な、まえ…“じゅんじゅん”…“じゅん”…でもいい…よろ、しく…です」

「じ、じゅんじゅん?…(おいアクア、めぐみん。紅魔族って確か黒髪で赤目だった筈だよな?ありゃどう見ても髪は白だし目だって明らかに赤くもないが?)」

「(私に聞かれたって困るわよ!…あれじゃない?ハーフエルフみたいに別種族の間で産まれたやつとか?)」

「(私は紅魔の里の身ではありますがその様な事例は聞いたことがありませんね…それよりも、生まれは兎も角あのゆんゆんが真っ当な名前を与えるとはちょっと考え難いですね)」

 

着目点はそこかよ…とカズマのツッコミ含めたひそひそ話にゆんゆんが戸惑い気味にも前に出て話し掛ける。

 

「あ、あのですね!…詳しくは言えないのですが名前に関してはある人が名付け親となってまして」

「名付け親?その人は紅魔族の人間じゃないのか?」

「ええ、名前は言えませんがその人は紅魔族の人間ではありませんので」

「あれから随分と秘密を抱えてる様ですが…なるほど、あの恥ずかしがり屋なゆんゆんにしては中々の名前(ネーミング)を付けたものだと疑問に思っておりましたが、これで合点がいきましたね」

「めぐみん!それって嫌味ぃ!?」

「それにしても紅魔族でない人間があの様な素晴らしい名前を思いつくとは、これは是非とも会ってみたいものですね」

「ちょっと!無視しないでよ!」

 

涙目になりながらめぐみんを問い詰めるゆんゆんを余所に、じゅんは更に続ける。

 

「あと…ぼく…ぼうけん…しゃで、す」

『…はい?』

 

ゆんゆんを除くその場にいる全員が間の抜けた声を漏らした。

なにせ見た目がどこを見ても5歳前後の少年が冒険者と名乗ったのだから驚かないのも無理はなかった。

 

「ぼ、冒険者?イヤイヤイヤ!その背中の剣って単なるおもちゃじゃ!」

「ほん…もの」

「本物って…それにどう見たって…と言うか確か冒険者になるには」

「これ…カード」

 

テンパるカズマに対しじゅんは自身が冒険者の証拠(あかし)であるカードを差し出し、「あ、どうも」と恐る恐る丁寧に受け取ったカズマはカードに記載された内容を読み始める。

 

「名前…じゅんじゅん…年齢…じゅうよんさい!?」

 

今度はカードに書かれたじゅんの年齢に驚愕する一同。

アクアやウィズに関しては除くとし、カズマ自身は16前後でめぐみんに至ってはゆんゆんと同い年…とんだ詐欺まがいなのではと思いながらも相手を知る機会だと考え更に読み進める。

 

「職業…学習者?」

「この私でも聞いたことのない職業があるとは、一体どの様な…」

「あの、じゅんくんの職業…学習者はですね」

 

今度は今まで聞いたことのない学習者(しょくぎょう)に首を傾げる一同に、唯一その内容を知るゆんゆんが出来る限り説明をし伝えた。

 

「ふ〜ん、要は他人任せの穀潰し職ってなわけね?」

「駄女神のお前に言われたかねぇな」

「んなぁ〜お」

 

カズマの皮肉めいた呟きとちょむすけの賛同する様な鳴き声に耳が入らなかったアクアは、自身の威厳を相手に刻む為なのかじゅんとゆんゆんに体を向けると堂々とした姿勢で話し出す。

 

「まぁ神であり冒険者として先輩のアークプリーストであるこの私が手解きをしてあげても良いわよ~。その分私がお金やら生活やらで困ったりしたら否応でもしっかり働いてもらって……ん?」

「お前なにどさくさに紛れて言いくるめようとしてんだ!…て、どうしたアクア?」

 

じゅんに視線を向けた途端、いつもの調子を止めたアクアは何故かじゅんに近づき背に合わせる様に屈んで彼の肩をガシッと掴むと、動揺せずぽけ〜としてるじゅんの顔に鼻を近付けスンスンと臭いを嗅ぎ始める。

 

「スンスン…何かしら…色んな物が無茶苦茶に混じった様なこの匂い…間違い無いわ!アンタ悪魔連中の一味ね!?」

 

途端に飛び跳ねる様に身を引いたアクアは初対面だと言うのに無作法にもじゅんに人差し指を向けた。

じゅんを除いた全員が驚きの表情を表す中、アクアは興奮冷めやまないまま勝手気ままに喚き散らす。

 

「このアクア一生の不覚だわ!女神であるこの私が幼い見てくれに騙されるだなんて!

も〜許さないわよ!そこのガキンチョ!海のように深〜く広〜い私の心を弄んだその卑劣極まりない腐った根性を叩き直してやるから覚悟しなさい!!」

「…?」

 

怒涛の罵倒ラッシュをするアクアに対して、じゅんはアクアが自分に言ってくる内容に加え怒る理由がよく分からずただ首を傾げるだけだった。

 

「そんな可愛らしい仕草をしたって騙されないわよガキンチョ悪魔め!」

「ま、待ってください!じゅんくんをいきなり悪魔呼ばわりしないでください!」

 

只事じゃない雰囲気にゆんゆんは当然居ても立ってもいられず、先程の恩返しも込めてじゅんを守る様に抱き寄せる。

因みにそのせいで、じゅんの顔はゆんゆんの開けた豊満な胸の中へと埋もれてしまう。

 

「(ウォイイイイあのヤロオオオ!体が小さけりゃ何されても許されるってのかぁ!?何処ぞの“見た目は子供、頭脳は大人”キャラ見てぇな美味しい目に合いやがってぇ!羨まし過ぎんぞコンチキショオオオオオ!!!)」

「あのカズマさん、心の声が駄々漏れになってますし…何より血走った表情で怖いですよ?」

 

苦笑いでカズマに指摘するウィズだが、その間にもアクアの勢いは止まる事がなかった。

 

「そこを退きなさい!紅魔のたゆんたゆん(むすめ)!」

「たゆ〜んたゆ〜ん!?」

「おいコラ、何故カズマが反応するのですか?と言うか先程から何処に目を向けているのですか?」

 

とことん軽蔑を込めた目でカズマを睨むめぐみん。

その間にも、ゆんゆんとアクアのやり取りは更にヒートアップしてしまう。

 

「イヤです!絶対に退きません!それと私の名前はゆんゆんです!」

「どっちだっていいわよそんな事!そうまでしてそのガキンチョ悪魔を庇うつもりね?…良いわ!ついでに後ろにいる腐れアンデッド共々神の名の元に怒りの鉄槌を御見舞いして徹底的に懲らしめてあげるわ!」

「ひぃっ!?ややややめてくださいアクア様ぁ!ついで感覚で私諸共消そうとしないでください~!」

 

いよいよ収拾が付かなくなり始めたどんちゃん騒ぎの店内で、アクアのボルテージは最高潮に達していた。

 

「神に背けし背教者め!その決断がいかに愚かだったかをその身を持って思い知りなさい!先ずはガキンチョ悪魔とクソリッチーからトッチめてやるわ!『セイクリッド・ターン!』」

 

ごつんっ!

 

「アいだっ!?」

 

今まさに神の力がこもった浄化魔法を放とうとするも、カズマが自身の得物である剣を鞘に入れたまま鈍器代わりとしてアクアの後頭部を容赦無く叩きつけた事で未遂に終わってしまう。

 

「いった〜!何すんのよこのヒキニート!」

「やっかましいわこのボケナス女神がぁ!こちとらウィズに借金の相談で来たってのにその相談相手を消そうとしてどうすんだぁ!」

 

尤もらしい事を言うカズマであるが半分はその通りで、もう半分はじゅんが味わってるラッキースケベを目の当たりにした事で生まれた妬みを晴らす為のはけ口としてアクアをしばいたのである。

 

「だって〜!」

「だって〜じゃねえ!それにそこのゆんゆんって子が必死で守ろうとしてる奴を倒すとか、仮にも女神で通してるお前がんな胸糞悪い事したら、それこそ罰当たりな行為になるんじゃねぇのか?」

「カズマの意見は最もです…アクア、同じ“大人”なのですからここは海の様に深〜く広〜い心で穏便に済ませましょう?」

「ニャンニャン!」

 

何とか宥めようとするカズマ達ではあったが、それでも納得できず神の威厳に関わると言うプライド的な理由が勝り涙目になりながら再びじゅん達の方へと向けた。

 

「む〜!なによなによふたりして〜!もういいわよ!意地でもやっつけてやるんだから!

『セイクリッド!』」

 

すっかり駄々っ子となるアクアの姿は最早女神のめの字すらなく、呆れ果てたカズマはため息を長〜く吐きながらアクアの後ろ首をガシッと掴むとウィズから習得したあるスキルを発動させる。

 

「『ドレインタッチ』」

「むぎゃあああ〜〜〜!!!」

 

──────────アクア「こ!ば〜…」──────────

 

それから数十分後。

 

「むす〜…」

「美味しいですか?」

「はむ…むぐ…おいひい…で、ふ」

「んにゃ〜」

「うふふ、まだまだありますからね〜♪」

「…ふんだ!」

 

カズマの活躍が功を奏しどんちゃん騒ぎな展開を収拾する事が出来たウィズの魔道具店。

ようやく落ち着いた事を確認したウィズは良き交流関係を築く為にじゅんやちょむすけ達に自家製のケーキとお茶を提供した。

モグモグと美味しそうに頬張るじゅんとちょむすけの愛らしい姿にすっかり虜となってしまうウィズとは対象的に、離れた場所のテーブルに居座るアクアはじゅん達を忌々しく睨みながらも直ぐに不貞腐れてソッポを向いてしまう。

 

「(ホンットに大人気ないなぁ…)」

 

そんな幼稚な態度を取るアクアに呆れ、心の中でツッコむカズマ。

因みに、ゴタゴタ故にあらわとなった互いの秘密をいくつかだか知ってしまい、折角だからと夫々の持つ情報を出せる範囲で交換し合っていた。

 

「それにしても…まさかクリスがゆんゆんの仲間だったとは、世間は広い様で狭いもんだな〜」

「ええ…未だに信じられませんよ、あのボッチのゆんゆんがよもやパーティーを組んだばかりかクリスの事を呼び捨て且つ友達だと仰るのですから…さてはあなた!ゆんゆんに成り済ました真っ赤なニセモノですね!?」

「ちっがうわよ!私は本物で正真正銘あなたのライバルのゆんゆんだから〜!」

 

またも滅茶苦茶な言い分をするめぐみんに必死になってツッコミを入れるゆんゆん。

そんな二人のコントに「やれやれ」と呆れ気味に呟くと、今度はケーキを頬張っているじゅんに視線を変えた。

 

「(空から女の子改め男の子か…アクアが看破するまでは俺と同じ“転生者”の部類かと思ってたけど…)」

 

カズマは生前地球で暮らしてたのだが、ある事が原因で亡くなりアクアにその事でバカにされた腹いせに“物”としてアクアを選択しこの世界へとやって来た。

又カズマ以外にもこの世界に転生した人物がおり、何度か出会ってるのだが自身の苦労やら転生特典やら性格面やら等の要因で基本は仲が悪い。

その事もあってかじゅんに対し、特にゆんゆんの方からしたあの羨ましい行為を見て、嫉妬混じりだが「喋りも性格もわざとか?」「転生特典で何かしてもらったのでは?」等と勘ぐるのだがアクアの言葉で的外れだったと改める。

加えてゆんゆんから、じゅんとの出会いや年齢等を一通り聞いた事でますますじゅんが何者なのか分からなくなり始めた。

アクアはじゅんを悪魔だと言うが果たして…空からと言うことは、曲がりなりにも剣と魔法が蔓延るファンタジーな世界にSFの擬人化とも言える宇宙人とか?等と深く思考しながら、カズマはじゅんを隈なく観察する。

 

「あらあら、口元が汚れてますよ?」

「…んぅ」

 

ウィズがそう言いながらじゅんの口元をハンカチで拭く光景を目にした途端、カズマは自嘲の思いと共に頭を横に振った。

 

「(…ハァ、やめやめ。あんなボケ〜とした子供を相手に勘ぐるなんてそれこそ俺はアクアかっての。ただまぁ…いつも通りの裏があったりオチがあればその時はその時で対処すりゃいいか)」

 

その様に結論づけたカズマは視線を未だ言い争ってるめぐみんとゆんゆんに戻した。

それと同時にじゅんの方では、食べる事を一旦中止しここに来て初めてウィズが展示してる商品の1つに注目した。

 

「どうしましたかじゅんさん?」

「…きれい…あ、れ…なに?」

 

指さす方に視線を向けたウィズの目に写った物、それは透き通った丸い水晶玉だった。

 

「ああアレですか、“仲良くなれる水晶”と言います。但しですね、熟練した魔法使いでないと使えないのですよ、例えばそこに居る紅魔族のめぐみんさん達とか」

 

ウィズの丁重な説明に反応したのは、めぐみんとのやり取りを一旦中止し同じく聞いていたゆんゆんだった。

 

「じゃあソレを使いこなしたらもっと仲良しになれるのですね!?」

「ええまぁ…それでしたら試しにご利用してみますか?」

「クリスやじゅんじゅんが同じ魔法使いだったらまだしも、私にとっては無用の長物ですね」

 

如何にも興味なさげな素っ気ない態度をするめぐみんだか、方やじゅんに改めてカッコいい所を見せたいためなのか調子に乗るようにゆんゆんは挑発をする。

 

「あ〜ら、怖じ気ついたのかしらめぐみん?」

「あぁっ?」

「つまりはあの水晶をより良く使いこなした方がいかに上なのか証明にもなるわ!勝負よめぐみん!」

「よろしいでしょう!仲間を得て有頂天に舞い上がってるあなたの長っ鼻をへし折る良い機会です、受けて立ちましょう!」

 

売り言葉に買い言葉とはこの事か、種族的にもめぐみん個人的にも喧嘩早い性格に突き動かされ、結局勝負事になってしまう。

 

「我が魔力の強大さに恐れ戦くがいい!」

「今こそ決着をつける時よ!」

「「ハァアアアアアア!!!」」

 

二人の間に置かれた水晶に手をかざすと、互いの魔力が並々と水晶に注がれていく。

流石は紅魔族と感心するウィズと共にいく末を見守る三人…そして。

 

「お~…」

 

間の抜けた様なじゅんの感心する声と共に辺りが薄暗くなるとまるでテレビ画面の様なものが複数出現し各々異なる映像が流れ始めていた。

 

「こ、これは!?」

 

驚愕するカズマの目に映ったもの、それは。

 

~むぐ!…もぐ!…ふぐぅ!~

 

こそこそと学校の食道内に忍び込み、死に物狂いでパンの耳を食べながら袋に詰め込むめぐみん。

 

~お誕生日、おめでとう♪~

 

ケーキに数人前の料理を揃えながら1人だけ自分の誕生日パーティーをはじめるゆんゆん。

 

~おね~ちゃんすっご~いっ!~

~かじかじかじかじ…ふっ!~

 

他人の畑から野菜を盗み、妹のこめっこと共に噛り食いながらサムズアップするめぐみん。

 

~ん~やるわね、それなら!~

 

ふたりでするのがチェスだと言うのに、交互に移り1人でたしなむゆんゆん。

 

~おね~ちゃんすっご~いっ!~

~ガツガツガツガツ…ふっ!~

 

川のザリガニを捕りこめっこと共に貪り食ってサムズアップするめぐみん。

 

~かわいい~…え?~

 

触れようとした途端、犬は全速力で逃げ出し今度は側の花に顔を近づけ香りを嗅ぐと、その花すらも何故か二足歩行で立ち上がって逃げだし1人になるゆんゆん。

 

~おね~ちゃんすっご~いっ!~

~ふふふ…ふっ!~

 

セミを捕まえ串焼きにし、サムズアップしながら不敵に笑うめぐみん。

 

~もう…悪魔が友達でも良いかな?~

 

不気味な魔方陣を作り暗い表情で呟くゆんゆん。

 

「……」

「ちょっと…なにこれ?」

「マジでセミ食ってる…」

「悪魔召還まで…」

 

無表情のじゅんを除き、アクア・カズマ・ウィズの面々はそのとんでもない映像内容にドン引き全開の表情を表していた。

 

「「わあああああはあああああ!?」」

 

自身の黒歴史(恥ずかしい過去)をおおっぴらに見られてる二人は揃って素っ頓狂な悲鳴を上げる。

 

「ななななんなのですかこれわぁ!?」

「ててて店主さん!これって仲良くなれる水晶の筈じゃ!?」

「は、はい…それは“お互いの恥ずかしい過去をさらけ出しあう事でより相手を理解し親睦な友情を深める”と言われる、それは有難い水晶なの…で…す…」

 

あからさまに気まずい表情で目をそらすウィズ、それに感化するかのようにゆんゆんは泣き喚きながらめぐみんに問い掛ける

 

「ねぇめぐみん!?こんなので本当に私たち仲良しになれたのぉ!?」

 

もう先のどんちゃん騒ぎに引けを取らない二名限定の騒動だが、直後にめぐみんが目の前の水晶を掴みそれを頭上まで上げると。

 

「んどっせぇええええええええいっ!!!」

 

ガシャーンっ!!!

 

仮にも売り物だというのにその水晶玉を地面に投げつけ堂々と壊してしまったのだった。

 

「「「「ああああああああ!?」」」」

「お〜…」

 

──────────めぐみん「このすばあああ!」──────────

 

それからそれから。

 

「この水晶玉ですが、カズマさんに付けておきますね?」

「何で俺なんだよ?こう言うのは壊した張本人のめぐみんが払うのが筋ってもんだろ?」

「私ではなくて、水晶玉を勝負事に持ち込んだゆんゆんが支払うべきです」

 

等と理屈を捏ねて指差し責任転嫁をするめぐみん、一方で指されてるゆんゆんはと言うと。

 

「ショウブガ…ジュンクンニミラレチャッタ…」

「ゆん…ゆん?」

 

ハイライトな目でぶつぶつと呟き、じゅんの話し掛けに耳を傾く余裕がないほどどんよりと落ち込んでいた。

 

「慣れない見栄を張るからそうなるのですよ、自業自得と言う奴ですね」

「だってこんな事になるなんて思わなかったんだもの!ねぇこの勝負は引き分けでも良いよね?」

「何を仰るのやら…と言いたい所ですが、一々勝負事に拘るほど私はもう子供ではありませんから」

 

何故か余裕の態度を取るめぐみんに“どうしてそこまでの余裕が”と疑問に思うも、あえて挑もうと決めたゆんゆんは指を指して発破をかける。

 

「それじゃ紅魔の里でもやった発育勝負何てどうかしら?子供じゃないのなら受けて立つわよね?」

「そう言う意味ではないのですよゆんゆん」

「え、どういうこと?」

 

真意が掴めず思わず問いかけるゆんゆんに、未だ余裕の態度を崩さないめぐみんはやんわりとした笑みを浮かべ語り出す。

 

「私は既に一歩前へと進んだのですよ…何せ此方にいるカズマとは()()()()()()()()()()なのですから」

「ちよっおまっ!?」

 

めぐみんからのとんでもない爆弾発言に一瞬の沈黙が店内に広がり、次の瞬間にはゆんゆんから驚愕の悲鳴が木霊した。

 

「ええええええええええ!?」

「おっまえふざけんなぁ!この口か!?このでまかせしか出さねぇ口が俺の悪評を招きやがるんだなぁ!?!?」

「あえ~!ひへふははへ~!」

「き、今日の所は私の負けにしといてあげるからぁ!うぇ~~~ん!!!」

 

頬を引っ張り制裁を加える中、ライバルが大人の階段を登ってしまったと解釈したゆんゆんは、泣き叫びながらウィズの魔道具店を逃げ出すように出ていってしまった…じゅんの事をすっかり忘れて。

 

「ゆん…ゆん…いっちゃ…た」

「き、今日も勝ち!///」

「今日も勝ち!…じゃねぇ!ったくお前と言う奴ぁ~!……はぁ、それよりも」

 

在らぬ誤解を言われ文句を垂れようとするカズマだが、1人残されたじゅんを見て一旦保留に持ち込むことにした。

 

「……」

「まったく嘆かわしい事です、幼いじゅんじゅんを1人置いて飛び出すとは…同じ紅魔族として恥ずかしい限りですよ」

 

誰のせいだよ誰の!…とツッコミを入れそうになるも、口に出せばまたややこしくなりそうだと判断したカズマは心の中に留め、代わりにめぐみんに一つの質問を投げ掛けた。

 

「なぁめぐみん、ゆんゆんはここに戻ってくると思うか?」

「どうでしょうね。ああなったゆんゆんは暫くあの調子ですし、仮に早く立ち直ったとしても、じゅんじゅんを置いて行った事への気まずさと罪悪感で足踏み状態になってしまうのが関の山でしょうね」

 

曲がりなりにもゆんゆんとの付き合いが深い事もあっててか、冷静に分析した説得力のあるめぐみんの言葉を聞き、“さてどうしたものか”と考えようとした直後。

 

「…ん?ちょっとまてじゅん!」

 

めぐみんの言葉を聞いてた故なのか、ゆんゆんを探すべく店を出ようとするじゅん。

それに気付いたカズマはじゅんの手を掴んで立ち止まらせる。

 

「ゆん…ゆん…さ、がす」

「探すったって…何処へ向かったかも分からないままなのにか?」

「……」

 

表情こそ変わってなかったが、困った様な悲しむ様な雰囲気をじゅんから感じ取ったカズマは考える。

 

一緒に探すことで目の前の子にもそしてゆんゆんにも繋がりや貸しにもなりクエスト等で助けとなってもらい少しでも楽になるだろうと踏んだ。

 

打算しかないのは宣告承知。

 

自分は決して善人でもなければ聖人でもない、ピンチを切り抜き生き抜く為ならばどんな汚い手段を取るのも厭わない、この世界で転生し今もなお散々な目に遭い続けているのだからこの考えは決して変わることはないだろう……。

 

〜優しさを失わないでくれ

弱い者を労り互いに助け合い

何処の国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ

例えその気持ちが何百回裏切られようとも

それが…私の最後の願いだ〜

 

………もう当の昔に捨てた想いなのに……彼等は所詮人間の金儲けの為に作り出された空想の産物……子供だましのニセモノでしかない存在……そう割り切れてた筈なのに……じゅんを見ていると何故かあの言葉を…そして彼等の勇姿を思い出してしまった。

 

「……はぁ、しょうがね~な~!俺も一緒に探してやるよ」

 

沸き上がる言葉にならない感情を振り払うかのようにやけくそぎみにカズマは言った。

 

「…いい、の?」

「原因はめぐみんのでまかせだが、それを止めなかった俺達にも責任はあるしな」

「ちょっと何よ“俺達”って!それに私手伝うなんて一言も言ってないんですけど!て言うかガキンチョ悪魔の為にやるなんてこっちから願い下げなんですけど!」

 

ぎゃあぎゃあとみっともなく喚き散らすアクアにうんざりするも、それなりの付き合いを築き上げてるが故にカズマの中での対処法はある程度確立していた。

 

「結構だ、どうせお前の様なポンコツ女神に人探しなんざまともに出きるとは思ってねぇし~」

「んなっ!?言ったわねカズマ!良いわやってやろうじゃない!もし先に私が見つけだしたらシュワシュワをたんまり御馳走して貰うんだから覚悟なさい!!!」

 

乗せられたアクアを見て、“計画通り…!”と何処ぞの新世界の神になろうとした男と同じ顔を作ってほくそ笑むカズマ。

 

「ならば私も同行致しましょう、ゆんゆんにはこめっこの様に小さな子を持つ者同士として少しお説教が必要ですからね」

「(元凶者のお前が何を言うか)…ウィズはちょむすけと一緒に店に居てくれ。もしかしたら戻って来る可能性も否定出来ないからさ」

「分かりました、お気を付けて」

「にや〜」

 

夫々の行動理由は異なるも、取り敢えずは形だけでもまとまったカズマ達。

早速出向こうとする前に、じゅんは何故かウィズとちょむすけの前まで近づく。

 

「ウィ…ズさん」

「は、はい。何でしようか?」

「…ケーキ…おい、しかった…あり、が…とう」

 

そう言ってペコリとお辞儀をするじゅん。

何を言うのかと思えば感謝の言葉だったとは…幼いからこそ純粋で真っ直ぐなその言葉は心優しいウィズに届かせるのには十二分であり、満面の笑顔を作ったウィズは優しく丁重に応えてあげた。

 

「うふふ、ご満足して頂いてなによりです。それと…もしよろしければ、今後会う際は呼び捨てでも構いませんのでお気軽に“ウィズ”と呼んでください」

「…うん…ちょむ…すけ…ま、た」

「んなぁ〜お♪」

 

じゅんに撫でられどこか気持ち良さそうにするちょむすけ。

ウィズ達とのやり取りを終えたじゅんは、今度はめぐみんに近づく。

 

「めぐ、みんさん…どうも」

「べ、別に感謝される覚えは…私はあくまでゆんゆんを説教しに行くだけでして…それとウィズ同様に今後私の事は呼び捨てでも構いませんからね」

 

意地っ張りで変な所では素直になれないめぐみんは、頬を赤くしながら何とも面倒くさい言い訳をし始めようとする…のだが。

「でも」と言うじゅんの言葉に遮られてしまう。

 

「みつけ、ても…ゆんゆん…な、かす…だめ」

「……まぁ1割ほどですが私にも落ち度があったと認めざる終えませんからね、言葉を選んでなるべく傷付けない様に善処致しましょう」

 

こめっこを妹に持つ身故に、外見年齢的にもこめっことほぼ同い年に見えるじゅんに対し出来る限り優しくしようと努力するめぐみんだった。

 

「ちょっとそこのガキンチョ悪魔、私の事は“アクア様”と呼びなさい!」

 

まだ出番でないのに急かすアクアだったが、じゅんは特に気にする事なくアクアの要望通りに様付けで呼ぶ。

 

「ア、クア…さま…どうも…で、す」

「ま〜たくこれだからガキンチョ悪魔は困るのよね〜、喋り方だって途切れ途切れのカタコトばっかで聞き取れないったらありゃしないんだから〜ぷ〜くすくすくすくす〜♪」

 

ごつんっ!

 

「あいたっ!」

「お前ほんっとにどうしようもねぇなぁ」

 

もはやどっちが子供なのか…じゅんが無表情なのを良い事に小馬鹿にして笑うアクアのその姿は単なる幼稚ないじめっ子にしか過ぎず、そんなアクアを拳骨でしばくカズマは宛ら問題児を抱えた親や教師そのものである。

 

「カ、ズマさん…ゆんゆん…さが、す…あり…がとう」

「…へへ、気にすんなよ、そんで俺の事も“カズマ”って呼んで良いからな?」

 

そう言いながらじゅんの頭をワシワシと撫でるカズマ。

曲者ばかりの中で、幼いながらも数少ない善良で素直な人間(?)のじゅんに出会い、今回ばかりは打算抜きでも悪くないかもなと思いながらゆんゆんを探しに行く一同であった。

 

──────────カズマ「このすば!」──────────




ゆんゆんとアクアのじゅんをめぐるやり取り、初期案はゆんゆんが武器を構え敵対すると言った殺伐なシリアスを考えてましたが、序盤から重すぎると考えこのすばっぽい勢いのあるコメディぽさにしようと思い変えました。

変身は第3話からを予定してます。


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第ニ章〜その③

じゅんの食べる量は、ジャンプ系の大食いキャラと並ぶくらいです。


今現在、アクセルの街の中をカズマがじゅんの手を引く形で並び歩いていた。

と言うのもまとまって探すのは合理的でない事もあり3つに別れて探すこととなった。

因みに何故カズマがじゅんと同行してるのかと言うと、じゅんを悪魔と見なし毛嫌ってるアクアは勿論のこと、めぐみんと同行する事になればどの様な事を吹き込まれるのか、また未だにスキルを習得してないじゅんを言いくるめて爆裂魔法の道に引き込もうと言う魂胆が目に見えてしまった事もあって、なんやかんやありカズマが同行する事となった。

 

「(よくよく考えてみれば…俺ただいま危ない奴として見られてね?)」

 

今の状況、そして悪評のレッテルが貼られた自分を客観的に見た途端、周りの目が冷たい様に見えるのは気のせい…そう思いたいと願うカズマ。

何とも息苦しく感じ始め、それを誤魔化す様にじゅんに話題を振ることにした。

 

「あ〜ところでさじゅん、さっきお前の冒険者カードを見せてもらったらレベル1なのに1000ポイントもあって、けど1つもスキルを覚えてないよな、これってどういう事だ?」

「…きの、う…ギルド…ごは、ん…チャレンジ、した…せいこう…して…ポー…ション…もらった」

「ギルド…チャレンジ…ポーション…ま、まさかあのクエクエプレートを食ったってのか!?全部一人で!?」

 

そう言われコクリと頷くじゅんに驚愕するカズマ。

この世界に来てから日頃通ってるギルドの飲食店、ここ最近そのチャレンジメニューが載ってたのを軽く把握したカズマだが、即座に「うん、無理だ」と判断する。

挑む気などさらさら無く、それどころか某少年マンガキャラの様な食い意地と胃袋でなければ成功者なんて一人も出ないだろうと確信めいてもいた(因みにダクネスを除いたアクアとめぐみんは1000ポイントのポーションに惹かれ、方や金に変えようと、方や爆裂魔法の強化の為に危うくチャレンジしようとし、有り金が殆ど無いカズマは死にものぐるいで止めに入った)。

あんな馬鹿げたチャレンジをクリアしたとは…出会って間もないが、じゅんが嘘を付くとは思えないので本当の事と分かってもやはり困惑してしまう。

 

「おな、じの…おか、わり…むり、だから…ほかの…ごはん…た、のんだ」

「そ、そうなのか…(よし!この子を誘うのは得策じゃない事がわかった、仮に誘う様な事になっても金銭的計画を事前に且つ念入りに建てなきゃな!)」

 

──────────カズマ「ご利用は計画的に♪」──────────

 

「あと、スキルに関してあらかた知ってるとは思うけど、最初はどんなスキルにするんだ?」

「…まだ…きめ…てない」

 

所持するポイントが1000とは言え、他の職業や冒険者ならば多くのスキル習得や強化等できるが、じゅんがなってる“学習者”の場合は1000でようやく初級〜中級魔法をいくつか得られる程度。

職業を変えない限りは慎重に選ばなきゃならないだろうなと、悩む事を伴うであろうじゅんの今後を気の毒に思うカズマ。

そうこうしてる内に歩いたカズマ達が辿り着いた場所は冒険者ギルド。

闇雲に探しても無駄に時間を減らすと踏んだカズマは、自身が生前やり込んだゲームの知識等の応用で、本人が居れば良し、居なかったとしても受付係や他の冒険者からゆんゆんに関する情報を得られる事を考慮し、ギルドへと訪れたのである。

居れば即時解決となるが果たしてと思い扉を開き、中に入って周りをくまなく探すカズマ達。

けれど目に映るのはこの時間帯でも飲んで食って喋る冒険者達と、あちこち駆け回るギルドのスタッフ達ばかりで、肝心のゆんゆんの姿はない。

…まぁこれも予想の範囲内だと切り替えたカズマは、今度は受け付けスタッフ且つ自分が冒険者になろうとした際、最初に訪ねた女性のルナに声を掛けた。

 

「ようルナさん、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「あらカズマさん…と、じゅんさん?クリスさんとゆんゆんさん達は?」

「俺も聞いた事だけどクリスは野暮用で王都に一人、ゆんゆんの方は色々とあって逸れたから一緒に探してるってわけ」

「…ゆんゆん…いな、い?」

 

じゅんの問い掛けに、ルナは困った表情で答える。

 

「申し訳ありませんが、私の方ではゆんゆんさんを見かけていませんね」

「……」

「あ!でしたら町内アナウンスでお呼び立てすれば」

「いやいやいや!それは流石にやり過ぎだっての!何より呼ばれた方は溜まったもんじゃないだろうからさ」

 

じゅんを可哀想に思い善意として提案したそれをカズマが代わりに拒否した。

それならばと次の行動に移そうとした所を。

 

「ん?…おお!来たな我が宿敵(ライバル)となったじゅん坊!」

 

見た目は40代後半ながらも逞しい身体付きの男が愉快な笑顔を作りながらカズマとじゅんの元へ歩み寄る。

 

「あの、どちらさまっすか?」

 

初対面なのに馴れ馴れしく図々しいオッサンだなと思いながらも無難に何者か尋ねるカズマに、受付けのルナが代わりに答えた。

 

「この方は“ホリュー”さん。このギルドの厨房をお任せしている料理長なのですよ」

「料理長…えっと俺はカズマって言います。でも良いんすか?ここで油を売る様な事して」

「安心しろボウズ、オレ様は只今休憩中の身でな。それと変に畏まらんでもボウズの好きな様に喋って構わんぜ?」

 

自分を“オレ様”と如何にも偉そうではあるが、年の差に加え性格も決して見下す様な嫌な感じではなく、寧ろ気さくで堂々とした印象に好感が持てたカズマはお望み通りタメで話す事にした。

 

「そんじゃ遠慮なくそうさせてもらうぜ。ところでじゅんの事を我が宿敵(ライバル)って言ってたけどアレどういう意味なんだ?」

「良くぞ聞いてくれたな!な〜に簡単な話さ、あのチャレンジメニューを考え作ったのは他でもないこのオレ様だからな」

「アンタが!?…挑戦してない俺が言うのもなんだけど、クリアさせる気ないだろうアレって」

「そりゃ〜そうだ!何せ意地悪全開(マックス)で作ったんだからよ、ニシシシシ〜♪」

「(うわ〜…ここにも居るよ大人気ない奴が)」

 

良い大人がそれはもう子供の様な笑みで言うものだから、ホリューに対しドン引きするカズマ。

そんなカズマの心境など露知らず、ホリューは更に話し続ける。

 

「まぁ商売の身である以上は儲けてなんぼだ。元々悪ふざけ同然で作った奴だし、“どうせ食い切る奴なんざ現れねぇ”と踏んで頃合いを付けたらヒッソリと消すつもりだったさ…そんな矢先だ!」

 

人差し指を作ったホリューは、ビシッ!とその指をじゅんに力強く向けた。

 

「お前さんが現れたのさ!じゅん坊!」

「…ぼく?」

「おうとも!最初は耳を疑ったぜ、14たぁ言え姿形(なり)は5歳前後のガキが挑戦するなんざ…ぶっちゃけるとな、作る手間や食い(もん)の無駄になると思って断ろうとも思ったが客である以上は仕方ねぇし、幸いにも他の冒険者も居たもんだから“失敗しても冒険者(ほか)が挙って食うだろう”と思って作ったのさ」

「……」

「そんでいざ始まった時は陰ながらお前さんの事を見てたぜ、“失敗した時はせいぜい笑ってやろうか”と我ながらガキ相手に陰湿な事を考えたもんだ」

「…うちの駄女神みたいだな、アンタ」

 

ホリューの言葉に先程思った印象を撤回しよかとも考えるカズマだが、最後まで聞いてからでも遅くないと考え再び聞く耳を立てることにした。

 

「だがよ…時間が経てば経つほどアレだけたんまり乗っけてた奴が、じゅん坊の口ん中に消えていって…只でさえ食い切ったと言うのに制限時間内での成功と来たもんだ。そんでトドメ代わりの“おかわり”一言…完膚なきまでの完敗だったわ」

「(やっぱり本当だったか…食費代で散々だっただろうなクリス達)そりゃまあ是非とも見てみたかったな、因みにじゅんが食べきった時の感想は?」

 

意思してなかったとは言えホリューの思惑をじゅんが潰した以上はどうこう言う事は無いなと思ったカズマは、嫌味でなく純粋な興味で質問を投げた。

それに対してホリューはと言うと先程までの明るい笑顔とは反対の乾いた笑みを作りこう答えた。

 

「悔しさ感動両方あれど、一番に思ったことは…“自分が情けねぇな”って事だな」

 

そう言ったホリューは懐に手を入れて取り出した物、それは1枚の冒険者カードだった。

 

「アンタも冒険者だったのか」

 

「“元”だがな、今は“料理スキル”を駆使して振る舞う料理人だ。勿論スキル頼りじゃなくしっかりと自分の腕をも磨き上げてるがな」

 

力こぶしを作りアピールしたホリューは改まり、自身の気持ちを語り出し始めた

 

「曲がりなりにも俺は料理人だ、やる事なんざ美味い料理を作り客の腹と心を満たしてやる事の一点張りよ…でもあのチャレンジメニューは大小関係なく意地悪という名の悪意で作った料理…それを無表情とは言え“おかわり”しようとする程じゅん坊は美味しく食ってくれたんだ…“オレは客を嘲笑う為に料理を作ってきたのか?”…それに気付いた時…悪ふざけをしていた自分が恥ずかしくてしょうがなかったわ」

「……」

「悪かったなじゅん坊…それとありがとうな、こんな俺の作った料理を全部平らげてよ」

「へい、き…おいし…かった」

「…へへ、そう言ってくれると助かるし…何よりも料理人冥利(みょうり)に尽きるってもんだ!」

 

ガハハと笑い飛ばしいつもの調子に戻ったホリュー。

意地悪な所はあれど悪人ではなく、寧ろ料理人としての誇りを持ち且つ自身の行いを振り返って反省する等、人として在るべき姿勢を持っているのだと感心し、その様になったのもじゅんがチャレンジに成功したからだろうなと皮肉に思うが、結果オーライだなとカズマは“うんうん”と頷き納得した。

 

「ところでよ、2つ程質問があんだけど」

「…なぁに?」

「あん時お前さんおかわりしようとしたけどよ、実際何処まで食えれたところだ?」

「…わから、ない…たぶん…あと…いつ、つ?」

「(もうやめてぇ!クリス達のライフとおサイフがゼロになってしまうわ!)」

「な…なる〜ほどな……がしかし!それがかえって挑戦心(チャレンジハート)に火が…いや炎が点くってもんよ!

流石はオレ様のライバルだ!作りがいと叩き潰しがいがあるぜぇ!!!」

 

背後からメラメラと燃える炎を幻視し、何だかゆんゆんの様な事を言うオッサンだなと呆れてしまうカズマ。

ホリューの存在が肝心のゆんゆん探しを忘れかけそうになりながらも、もう一つの質問が気になり尋ねる事にする。

 

「そんでホリューのオッチャン、2つ目の質問って何なんだ?」

「おぅ、まぁあれよ…じゅん坊の中でオレ様の作った料理は何番目に美味いかな?…と思ってよ。何せライバルにこれから勝つと同時にオレ様の料理で1番満足にさせたいもんだからよ」

 

オッサンの癖に何とも可愛らしい質問だこと…と茶化す様に思いながらも、カズマもまた少し興味が湧いたのでじゅんの口からでる返答に耳を向けた。

 

「…に…ばん、め…かな?」

「2番目!?…まぁそれでも充分だが一応は聞いておくぜ、1番は誰だい?」

 

一瞬動揺するもライバルの1番が何者か知る為に再び問うと、じゅんの口から出た人物の名は。

 

「ゆんゆん」

「「…え?」」

「ゆんゆん…の…りょ…うり」

 

探し人であるゆんゆんが1番だと言うじゅんに唖然とするカズマ達を余所に、じゅんはその理由を述べる。

 

「ぼく…ゆんゆん…の、で…たべ…もの…おい、しい…しった…だか、ら…ゆんゆん…つく、る…りょう…り…いち、ばん」

「…ンフフフ、ガッハハハハハ!なるほどそう来たか〜!…それじゃオレ様でも勝てるわきゃねえよな…じゅん坊にとってゆんゆん嬢ちゃんの料理はまさに…“初めて(おふくろ)の味”なのだからよ」

 

温かな笑みを浮かべ納得且つ満足した様子のホリュー。

それに釣られるかの様にカズマは勿論の事、ずっと聞き手に回っていたルナも同じ様に微笑んでいた。

 

「こいつぁ後で橋ん所に居るゆんゆん嬢ちゃんへの土産話にでもしておこうか」

 

すると、思わぬ情報がホリューの口から出てきたのをカズマ達は聞き逃さなかった。

 

「オッチャン、まさかゆんゆんを見たのか!?」

「なんだ、お前ら逸れちまったのか?嬢ちゃんならあっちの橋ん所でボーと川眺めてたからよ。見掛けたのは確か5分ほど前だから、まだ居るんじゃねーのか?」

 

眺めてると言う事は少なくともまだ行動を起こす素振りはまず無く、そして今から互いに行動を移してもコチラから走れば出会う可能性は極めて高い。

自身の幸運値の高さがここでも生きてるのかもと思うカズマは、ホリューの指し示す橋の方へ向かおうとじゅんに呼び掛けた。

 

「聞いたよなじゅん!早速」

「カズ、マ…ちょっと…まって」

 

ゆんゆんに1番会いたがってる筈の本人が何故かカズマを止めると、今度はホリューの前へと近づき自身の冒険者カードを取り出した。

 

「どうしたじゅん坊?」

 

──────────じゅん「…おね、がい…ある、の」──────────

 

冒険者ギルドから少し離れた所にある一つの橋。

 

「……はぁ」

 

大理石でできたこの橋の欄干部分に腕を置きながら、流れる川を眺めると同時に短いため息を吐くゆんゆん。

めぐみんの言葉を真に受け勢いのまま店を飛び出し、落ち着きを取り戻した時にはじゅんを置き去りにしてしまった事に気付いた挙げ句、沸き上がる罪悪感に押し潰され途方に暮れていた。

クリスには格好良い事を言っといてこのザマ…今更どの面下げてじゅんに会えば良いのかとめぐみんが分析した通りの足踏み状態に陥ってしまう。

 

「私…なにやってるんだろう…」

 

まだ雪がちらほら周りに残って肌寒く自身の体温が少しずつ下がる中、それすら気にする余裕が無い程まで追い詰めてられてしまうゆんゆん。

惨めで情けない思いのあまりポツリと呟いた、その直後。

 

「ゆんゆん」

 

自分の耳から最も会いたくそして最も会い辛い人の声が入り思わず身体ごと向けると、そこには声の主であるじゅんと、付き添いのカズマが立っていた。

 

「じゅ、じゅんくん…それにカズマさんも」

「ゆんゆん、本題に入る前にまずはめぐみんのバカが言った事について弁明させてもらうぜ」

 

有無を言わせない勢いのまま、カズマは口を開き語りだした。

曰く、昨日の勝負事の後、住んでる屋敷に帰る途中で余計な事を言ったばかりに自身も粘液の餌食となり、挙げ句どちらが先に風呂に入るかと意地の張り合いを行い、その結果二人で入る事になってしまったと言う。

 

「そう言う訳だから、ゆんゆんの思ってるような事は何一つ俺はして無いからな」

 

カズマの説明を聞いたゆんゆんはこれでもかと言う程顔を真っ赤にしていた。

昨日クリスからあれだけ言われた後だというのに全くもって進歩してない…情けなさと恥ずかしさから思わず勢いよく頭を下げて謝罪した。

 

「ごごごごめんなさいカズマさん!私ったらとんでもない思い込みをしちゃって!」

「まぁ誤解が解けたのなら俺は気にしねぇよ…ただここからは本題に入らせてもらうぜ」

 

謝罪を受け取ったカズマは改まるように真剣な表情に変え、それに気づいたゆんゆんも目を逸らさず聞き受けの体制に入る。

 

「めぐみんの肩を持つ訳じゃないが…ゆんゆんの行動は流石の俺でもいただけ無いと思うぞ」

「……」

「冒険者になったとは言え、じゅんは初心者で…なによりまだ子供だ。クリスが居ない今、じゅんが頼れる相手はゆんゆんしか居ない、なのに肝心のお前がめぐみん…いや、めぐみん以外の誰かにでも振り回されてじゅんを放ったらかしにしたら世話ねぇだろ」

 

全くもってその通りだ…カズマの語る正論にゆんゆんは言い訳も拒絶もせず、ただ素直に甘んじて受け止めていた。

 

「俺の仲間の場合は何だかんだで自分の事は自分で出来る…けどじゅんは誰かが付き添う必要がまだあると思う。責任重大だから勝手は許されない…違うか?」

「…はい…カズマさんの仰る通りです」

「…ま!偉そうな事言えない俺のお説教はこの辺にして最後に言いたいことはだな…“うじうじしてないで真正面からじゅんと向き合え”って事だ」

 

そう言うと先程から黙ったままのじゅんに視線を変えたカズマは、じゅんの背中を軽く叩いて前に出させた。

 

「行ってこい、じゅん」

「…うん」

 

振り向いて軽く頷くとそのままトコトコ歩き、ゆんゆんの前で立ち止まるじゅん。

一瞬心の準備がと躊躇うも、カズマが居る事やなによりも弱腰になる自分に“それではダメよ!”と喝を入れたゆんゆんはその勢いでじゅんに謝ろうとした。

 

「じゅんくん!一人にさせて本当にご」

「ゆんゆん」

 

“ごめんなさい”…その一言を今まさに言おうとしたのだが、じゅんからの呼びかけに遮られると同時にじゅんの方から先に話し始めた。

 

「きの、う…ぼく…ゆんゆん…くさ、い…いった」

「「え?」」

 

何を言ってるのだと一瞬困惑したゆんゆんとカズマだったが、“昨日”・“臭い”の言葉からしてめぐみんとの勝負の後の事を言ってるのだなと悟る。

 

「それ、で…ゆんゆん…ない、た…ウィズ…おみ…せ…すい、しょう…みつ、けた…ぼく…みつけ、ない…した、ら…ゆんゆん…なかな…かった…ごめん…なさい」

「(…なるほど、そういう事か)」

 

片言で途切れながらもじゅんの言いたい事をカズマは理解した。

要は、ゆんゆんを2度も泣かしてしまったのを気にしてこうして謝ってると言う事か…感心とも呆れとも取れる複雑な気持ちがうずくまる中、カズマは二人のやり取りを最後まで見守る事にした。

 

「それ、と…これ」

 

懐から冒険者カードを取り出したじゅんは徐に差し出し、それを見るゆんゆんはスキル項目に今まで何も無かった筈が1つだけあるスキル名が刻み込まれていた。

 

「“料理…スキル”」

 

そう、ゆんゆんの元へ向かう前にじゅんはホリューから“料理スキル”を学び、初めてのスキルとして習得したのである。

 

「なか…した…お、わび…りょ、うり…つくる…ぼく…てつ、だう…ね」

 

…たったそれだけだった。

料理スキルは料理人のみで使われる事が殆どで冒険者や他の者が覚える事はまず無いに等しく、日常やら料理スキルが必要等の条件を除けば大抵のクエストで役立つ事はまずなく、精々がクエストの最中で料理を作るなどをした場合、より上手く作れる程度でありそれ以上の効果は無い。

それなのに最初に覚えたのはよりにもよって料理スキル。

しかもその理由は…“ゆんゆんへのお詫びと恩返しの為”。

それに気付いた瞬間、ゆんゆんの起こす行動はただ一つしかなかった

 

ぎゅっ…

 

「ゆんゆん?」

 

屈んだ瞬間手を伸ばし、そして柔らかく包み込む様にじゅんを抱きしめる。

 

「…ばか…わざわざこんなスキル…私なんかの為に…取らなくったって…いいのにぃ…ひくっ…

ごめんねぇ…ぐすっ…ありがとねぇじゅんくぅん…」

 

余りにも儚くそして痛々しいまでの純粋な想いに、優しい心を持つゆんゆんには到底耐える事など出来なかった。

それは申し訳なさから来る悲しみと、それと同じくらいにこんなにも想ってくれる事への喜びの2つが合わさった感情であり、ゆんゆんは沸き上がる感情に身を任せながら涙を流し続けた。

 

「ゆんゆん…ぼく…わ、るい…こと…し、た?」

 

薄い表情だが心配そうに尋ねるじゅんの顔を見るゆんゆんは、涙を溜め込みながら微笑んで答える。

 

「ううん…じゅんくんは何にも悪い事してないよ」

「でも…ない、てる…つめ、たい…から?」

「違うよ、これは悲しいだけじゃない…嬉しいから泣いちゃったの」

「うれ…しい?」

「それに」

 

頭に?マークを浮かべるじゅんを余所に、先程よりも強めにじゅんを抱きしめて満面の笑顔を作るゆんゆん。

 

「心がスゴく暖かいから冷たいのだってへっちゃらだよ♪」

「ここ…ろ?」

 

スリスリと頭を擦るゆんゆんの言葉をよく理解できないじゅんだが、それでも目の前の人が笑顔でいる事に何か思う所があるのか、それ以上問い掛けることなくゆんゆんに身を委ねる事にした。

 

「(これで万事解決だな。貸しやら繋がりやらで色々出来そうだが…無粋だから今回は無しにしとくか…)」

 

そんな二人のやり取りを最後まで見届けたカズマは、心の中で呟く内容とは裏腹にえも言われぬ充実感で満たされてるのを感じていた。

何とも不思議な感じだな〜と他人事の様に考えてると、唐突ながら昔の記憶の一部が脳裏に映し出され始めた。

 

 

大きくなったら強くてカッコよくて困ってる人を助けられる様な…そう!

ウルトラマンみたいなヒーローになるんだ!

 

 

「…なにを今更…昔の事を思い出してんだろうな俺って…あの魔剣のハマザキじゃあるまいし…はぁ〜」

 

「ミツルギだぁ!」と言う声が聞こえた気もするが幻聴だなと断言するカズマ。

もうこれ以上関わる必要は無いなと判断し、クルリと背を向き歩き出す…冒険者カズマはクールにさるぜ。

 

「あの!待ってくださいカズマさん!」

「おっととと!?」

 

とカッコよく決めようとした所に、ゆんゆんの呼び止める声で思わずコケそうになったカズマ。

 

「(空気読んでくれよ頼むから〜!)ど、どうしたゆんゆん?」

「えっと…ご迷惑を掛けてすみませんでした、そして」

 

最初は申し訳無さそうな表情を作るが、直ぐに笑顔へと変える

 

「じゅんくんの事で大変お世話になりました、本当にありがとうございます!」

「…あり、がとう」

 

二人揃って深くお辞儀する姿に、こそばゆい感覚を覚えるカズマは少々戸惑いつつも笑顔で答える。

 

「あ〜その〜…元はめぐみん含めた俺らがまいた種だからそんなに気にすんなって、そんじゃ」

 

そう言って今度こそクールに去ろうとするカズマ、だが。

 

「あとそれから!」

「ま、まだなにか?」

 

再び呼び止められ少しウンザリするも、お次は何だと思い聞く耳を立てる。

 

「お詫びと言いますか…私達の方で料理をご馳走したいのですが」

 

ゆんゆんからの思いもよらぬ誘いに、カズマはここに来て初めて大きなリアクションを起こし始めた。

 

「いやいやいや!流石にそこまでされる筋合いは」

 

慌てて断ろうとするカズマだが、本心では今現在でも背負う借金に加えてセナ達による差し押さえ等から現金(ふところ)の余裕があまり無く、この際ご厚意に漬け込んでもバチは当たらないだろうとも考えた。

けれど、それなりの良心に加えゆんゆんは勿論じゅんの人柄もある程度知れた事で、本心以上に理性が勝ってしまったのだ。

そんな心境を抱くカズマに、「ただ」と改める様に一言言うとゆんゆんは再び話す。

 

「なにもお詫びの為だけじゃないんです」

 

そう言いながら、側にいるじゅんに視線を落とした。

 

「私も手伝う上ですが…じゅんくんが初めて作る手料理を、是非カズマさん達に味わって貰いたくて」

 

自分達が試食者第1号と言うことか、聞き方によっては良い印象では無いにしてもゆんゆんが付添である以上は不味くは作らないだろうと確信している、なにせめぐみんが学生時代の頃から勝負に託けて弁当を頂き平らげる程だからだ。

ただ一つ、カズマの中である懸念が生まれた。

 

「あのよじゅん…俺達なんかで良いのか?」

 

こう言うのはお世話になってるゆんゆんが最初であるべきの筈…それなのに出会って間もないどころか今回の事態を引き起こした側でもあると言うのに。

申し訳なく思う気持ちを顔に表しながら問うカズマに。

 

「…いい…カズマ…が、いい」

 

相変わらず無表情だがハッキリと答えるじゅん。

全く二人揃ってとことんお人好しだな…。

そう呆れつつも悪い心地がしないカズマは、短めのため息を吐くと同時に苦笑いを作りながらじゅん達に答える。

 

「しょ〜がね〜な〜…そこまで言われて断っちゃ男が廃るってもんだ。分かった、喜んで御馳走させてもらうわ」

「あ、ありがとうございます!」

「ただし、流石にタダって訳にもいかねぇからな…出来る限りの金は払うつもりだ」

「で、でも」

「良いからそうさせてくれよ、何せじゅんが初めて作る手料理なんだから気持ち代として…な?」

「…分かりました、早速ギルドの厨房を借りてもらうよう頼んできますね。行こうじゅんくん!」

「うん…カズマ…ま、たね」

 

別れの言葉を言いながら、ゆんゆんに連れられギルドのある方角へと走る。

後ろ姿が見えなくなるまで居たカズマはこれから来る手料理に胸を踊らされていたが、直後にある事に気が付く。

 

「あ…そういやアクア&めぐみん(あいつら)との合流場所決めてなかったな」

 

─────────カズマ・じゅん・ゆんゆん「「「このすば!(…)」」」─────────

 

夜を迎えた事で本格的な騒ぎになる冒険者ギルドの店内。

カズマ達だけでなくゆんゆんやじゅん、更にはウィズとちょむすけも加わり沢山の料理が並べられたテーブルを囲うように座りながら、ペチャクチャと主にアクアとめぐみんが文句話を行う。

 

「なによカズマったら!あの受付けの子を使って私達の呼び出しなんかするなんて!」

「全くですよ!お陰手様で周りの人達に奇っ怪な目で見られて物凄く恥ずかしい思いをしたのですからね!」

「いやまぁよ〜…いちいち駆けずりまわって探すのも面倒だったし〜」

「「そこはしっかり探しなさいよ(てください)!」」

 

怠そうに答えるカズマにプンスカプンスカと怒り散らす2名だったが、そこへ料理長であるフリューが訪れ仲裁をし始める。

 

「まぁまぁお嬢ちゃんたちよ、ギャーギャー言ってっと、我がライバルのじゅん坊の初手料理が不味くなっちまうじゃねえか。コイツはツケにしておくから機嫌治そうや」

 

そう言いながらアクアの前に置いた物は大好物のシュワシュワだった。

 

「シュワシュワ!…ま〜今日のところは出血大サービスで多めに見てあげるわ、寛大なる慈悲深い神の心を有り難く思いなさいカズマ!」

「へ〜いへ〜い」

 

アクアの何時もの口調に右から左へ流すカズマ、一方めぐみんは自分にも念願のシュワシュワが来るのかと期待の眼差しをフリューに送る。

 

「あのあの!私にもその〜…」

「おう!そっちのお嬢ちゃんにもあるぞ、こいつだ」

 

コトンっとめぐみんの前に置かれた物は…可愛らしくデコレーションされたプリンだった。

 

「…これはど〜もありがとう!お礼に特大の爆裂魔法(いっぱつげい)をお披露目してご覧に入れましょう!」

「うぉおおおい!?こんな所で披露しようとすんじゃねええええ!」

「ガッハハハ!悪かったってめぐみんの嬢ちゃん、けど生憎とそこのカズマのボウズに止められててな、仮にボウズ抜きにしてもオレ様個人としては出すわけにも行かねぇ、時間と経験をしっかり積むまではソイツで我慢してくれや」

「むむむ〜…ならばその為にも明日からは高難易度のクエストのみを受けましょうカズマ!」

「お前頭良いくせに極端過ぎんだよ!この爆裂狂がぁ!」

 

相変わらずなバカ騒ぎを起こす二人に苦笑いを作るウィズとゆんゆん、その内ウィズから目の前に並ぶ数々の料理についてじゅんに話を振った

 

「あはは…と、所で凄い数の料理ですね、これ全部じゅんさんが?」

「ぜん、ぶ…ち、がう…すこし…だけ」

「私もじゅんくんの手伝いをしながら自分で作ったりしてましたが、殆どはホリューさんの料理なんですよね」

 

ゆんゆんの説明により道理で多い訳だど納得するウィズ。

そんな中、じゅんがポツリとある人物の名前を口に出す。

 

「クリス…い、て…たべ、て…ほし…かった」

「「じゅんくん(さん)…」」

「なぁ〜お…」

 

この場に居ないクリスの事を思ったじゅんの言葉を聞いて気にかけるゆんゆんとウィズそしてちょむすけ、そこにホリューが近づきじゅんの背中を軽く叩いて活を入れてあげた。

 

「しっかりしろよじゅん坊、オレ様のライバルで今回の主役のお前さんがそんなくよくよしてどうすんだ?ちゃんと帰ってくる見てぇだし、そん時にまた振る舞ってやりゃ良いのさ」

 

そう言って元気付けるホリューの後に続く様にカズマも話し掛ける。

 

「そうだぜじゅん、俺の所にも今はダクネスが居ないけどちゃんと帰ってくるんだ。もし出来たらその時はクリスと一緒に飯を御馳走してあげて欲しいなと思ってるけど…良いか?」

「…うん…いい…よ」

「へへ、ありがとな♪」

「うっし!丁度良く締まったところで、じゅん坊の初手料理記念でお前らしっかり食いな!」

 

ホリューの言葉が合図となり「いただきます」と声を合わせた一同は、それぞれの食べたい料理を手に取り食し始めた。

 

「あむあむ…うめぇ〜!これってじゅんが作った奴か?」

「いんや残念、それはオレ様の自信作よ」

「な〜んだ…でもまぁ美味いから俺は一向に構わん!」

「んぐんぐ…この味付け、さてはゆんゆんですね?」

「すっごい!よく分かったわねめぐみん」

「まぁ、伊達にボッチのアナタから弁当を勝ち取ってきた訳ではありませんからねぇ」

「何時も私の不利な勝負事ばかり決める癖に!て言うかもうボッチじゃないわよ!」

 

等などとそれぞれが食べてる料理の回答をしあう中、ウィズが食してるのはオムライス。

理由は単純に猫のちょむすけに分けやすく自分も食べやすい物だと思ったからだ。

 

「んにゃ〜お♪」

「ええ、本当に美味しいですね。はむ…卵はトロトロでライスの味加減も申し分ないですし」

「…それ…ぼく…つくった…の」

「まぁそうなのですか!何とお上手にできてる事でしょう♪ねぇちょむすけさん」

「うんにゃ〜♪」

 

どうやら最初に当たりを引いたのはウィズとちょむすけのコンビであり、お世辞抜きに本当に良くできたオムライスを惜しみなく褒めた。

そんなやり取りをするじゅん達に対して、約1名だけ空気を全く読まない駄女神(アクア)が茶々を入れ始める。

 

「ぷ〜くすくすくすくす〜♪商売だけじゃなくて味覚までポンコツなのね〜♪まぁアンタみたいなポンコツ店主はお子ちゃま坊主の作ったポンコツ料理で満足するのがお似合いでしょうねぇ〜♪」

「ひ、ひどいアクア様ぁ〜」

 

自分だけならまだしも一生懸命作ったじゅんまでバカにするとはと涙目のウィズを無視し、堕女神(アクア)はそれは自信満々且つふてぶてしい態度で語り始める。

 

「その点この私の味覚は天下一品!なにせ神の舌を持ち合わせてるのだからね!…ハグ!…もぐもぐ…ん〜!素材の肉の良さは勿論、それを最大に引き出してるこの味付け…更に加えて肉汁が逃げない様ギリギリかつ絶妙な揚げ具合…そんな揚げ物に…グビグビグビ…ぷはぁ〜!シュワシュワが合わない筈がないっての〜!こんな神に勝るとも劣らない芸術的な料理が出来るのなんて!」

 

長ったらしくも最もな食レポをするアクアは、更にこの唐揚げを作った相手を褒め称えようとした…のだが。

 

「…それ、も…ぼく…つくった」

「ん"?」

 

曲がりなりにもキレイな顔が、じゅんの一言で崩れてしまう。

 

「言っておくがなアクアの嬢ちゃん、味付けも揚げもぜ〜んぶじゅん坊一人がしたからな」

「…ん"ん"!?」

 

追撃の様にホリューの言葉がアクアを更に追い詰め。

 

「おんやぁ〜アクア様ぁ〜きめ細かい食事レポートお見事でございましたよ〜ねぇどんな気持ちぃ?お子ちゃまと馬鹿にしたじゅんの手料理を食べて今ど〜んな気持ちなのぉ〜???」

 

トドメとなるカズマのゲス極まりない顔による悪意全開の質問攻め。

そしてダメ出しの如く、めぐみんやゆんゆん達のクスクスと微かに聞こえる笑いを堪える声。

 

「…すん…ふすん…ふぅうん…っ!」

 

自意識(プライド)は粉々に打ち砕かれ砂となり、身体ぷるぷる涙目全開のアクアの心は臨界点を超え大爆発を引き起こした。

 

 

「うきゃああああああ!謀ったわねこのガキャアアアアア!!! 

このぉ!このぉ!こうしてやるわよこのこのぉおおおおお!!!」

 

 

「ふへぇ〜…」

 

 

泣きわめきながら完全なる八つ当たりでじゅんの頬をこれでもかと引っ張るアクア。

それを止めるカズマとゆんゆんの参加もあり、ギルド内は今日もどんちゃん騒ぎとなりましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁコメディタッチの人間物語(ヒューマンドラマ)…キライじゃないのだがね」

 

白と黒を混じらせたローブを頭に羽織るソノモノの目に映るのは、ギルド内で未だ騒ぎに巻き込まれるじゅんと、じゅんを取り巻くカズマ達。

だがソノモノがいる場所、それはアクセルの街全体を覆う数十㍍以上に及ぶ壁の天辺に立ち尽くしていた。

先の言葉を呟いたソノモノは右腕に装着された機械で出来たガントレットの様な物を前に出した。

すると映像画面が現れその画面に空いた左手で素早く叩く様に数十回殆どタッチする。

 

DROPOUT(ドロップアウト)START(スタート)

 

機械音声が鳴ると同時に地上から数百㌔以上の上空にある“宇宙空間”から、無数の光がこの惑星(せかい)全域に降り注いだ。

 

()()()()()()が深く関与しているこの惑星(せかい)…今更私のような部外者(ゲスト)が参加しても何の問題は無いだろう…(いや)、寧ろ更なる刺激が増えてよりいっそう賑やかにもなる…惑星(せかい)貢献とも言えるかな?」

 

何処か愉快そうに一人自己完結し納得するソノモノ。

 

「これから大いに関わる身だ、しっかりとした挨拶…(いや)、この場合は“宣戦布告”が妥当かな?…まぁどちらにしても筋は通しておく必要があるだろうな」

 

そう言いながら、ソノモノは自身の両腕を横に広げ十字架の様な形に作ると、今いる場所と人気の無い夜にも関わらず届かせる様に大きな声を上げた。

 

 

 

 

 

 

さぁ!人間亜人神悪魔と多種多様に生き存在する全てのモノたち!

 

そして私のゼファーよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────???「本当の物語は…ここから始まる」─────

 




ゆんゆんがじゅんを抱きしめる所は仮面ライダーZOの音楽、特にあのオルゴールを聴きながら書いてました。

次回でようやく現れます。


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第三章〜その①

ようやくこぎつけたました、怪獣の登場と変身です。



父さん、母さん、お元気ですか?

 

異世界転生した俺の日々はいつも充実しています

 

個性豊かな仲間と共にそれはもうどんちゃん騒ぎの冒険を繰り広げてます

 

今現在仲間の一人は離れてますが、何時でも暖かく迎える気持ちを忘れず

 

今日のクエストを残りいる仲間達と共に乗り越え

 

疲れを癒やすかの様に大いにバカ騒ぎを皆で行い

 

そうして今日も1日が終わるのだなと思っておりました

 

ところがです、前触れもないまま突如として

 

 

ガァアアアアアアアアッ!!!

 

 

俺達の目の前で、ウルトラマンに登場する様な巨大怪獣が

 

ここアクセルの街の中にいきなり現れ、そして暴れ始めたのですから

 

 

───カズマ「…んなアホな」───

 

 

 

第三章「始まり-Begins-(ビギンズ)

 

 

 

遡る事数時間前、夜を迎えた冒険者ギルド。

 

「ぷひゃ〜!私が1番頑張ったんだから8割が私で2割はアンタ達で良いわよね〜?」

「はっはっは〜何をバカな事ぬかすぅ!こいつは全部借金の返済の為に決まってんだろう!」

「今回はダンジョン故に活躍出来ませんでしたが…まぁ明日への英気を養う必要がありますから!」

「ちょいっとまて〜い!ホリューのオッチャンにも言われたろ〜お子様には早すぎるってな〜!」

 

そう言いながらシュワシュワを飲もうとするめぐみんのジョッキを奪うカズマ。

彼らが座るテーブルの上には料理だけでなく金銀財宝のお宝が置かれていた。

上機嫌の理由はそのお宝であり、今回新しく発見されたダンジョン内の通路の調査をカズマとアクアの二人で行い、道中散々な目に遭いながらもある隠し部屋でダンジョンの名前にもなってる“キール”本人と遭遇。

リッチーとなった彼の願いを叶えるべく浄化をすると同時にキールが生前持参していた財宝を譲り受け今に至る。

尚めぐみんに関しては覚えてるのが爆裂魔法のみでありダンジョンは不向きと言う事でダンジョンの入口でちょむすけと一緒にお留守番をしていたそうな。

カズマにとっては珍しくも冒険らしい事に加え、借金返済の第一歩に繋がる財宝を手に入れた事もあってすっかり浮かれていた、そんなカズマ達の元に。

 

「カズマ…こん…ばん…わ」

 

ゆんゆんとじゅんのコンビが訪れ挨拶しにやって来た。

 

「よう、じゅんとゆんゆんじゃねぇか〜」

「こんばんわ、カズマさんとアクアさん。そしてめぐみん!ここで会ったが」

「気が乗らないのでやりませんよ、勝負なんて」

「な!?まだ言ってないのに先に断らないでよ〜!」

「あなたの言いそうな事なんて手に取るように分かりますからねぇ〜」

 

とまぁ何時ものやり取りが行われる中、カズマはじゅん達に手招きをする。

 

「折角だから一緒にどうだ?以前の手料理のお礼も含めてさ」

「い、良いんですか?」

「まぁガキンチョ悪魔がいるのはアレだけど今回だけは大目に見てあげるわ、寛大なる女神のこの私に感謝なさ〜い!」

「…ど、うも…アクア…さ、ま」

「で、では…御一緒させて頂きますね!」

「ふ〜む…じゅんじゅんとの関わりを得たことである程度は積極的になりましたか…ゆんゆんにしては“多少”なりともマシになった様ですね…“多少”なりともですが」

「“多少”って所だけワザと強調しないでよ!」

 

めぐみんの意地悪に突っかかるゆんゆん。

そんなやり取りを見る中、カズマはふと思った事を同じテーブルに座ったじゅん達に話しかける。

 

「そういや今日だったな、クリスが帰ってくるのは」

「…うん…ほん、とう…りょう、り…つく、りたい…でも…ちょっと…むり」

「料理を作りたいけど無理…ホリューのオッチャンに厨房借りるのを断られたのか?」

 

そう問うカズマに対して首を横に振るうじゅん。

では何故と思った所をゆんゆんが代わりに説明を始めた。

 

「あの、実はですね…カズマさん達と会う前に私達ある保育施設でちょっとしたお手伝いをしていたんですよ」

 

───ゆんゆん「このすば!」───

 

時刻は昼を過ぎた頃、クリスを向かい入れる為の下準備として市場の肉や野菜等を買おうとしたじゅん達。

だがその途中で食料を積んだカートを引く一人の女性に目が止まった。

見た目は40代前半といった所の女性は積んでる量の重さからか、途中で止まり息を少し荒く吐いてしまう。

少々見てられなかったゆんゆんとじゅんは、女性に近づき話し掛けた。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「だい…じょう、ぶ?」

「え?えぇ、心配してくれてありがとうね」

「こんなにも多くの食材を…何かあったのですか?」

「う〜ん、大したことじゃないんだけどね」

 

そう言って語り始める彼女の名前は“ルミ”。

曰く“保育施設ピース”の園長を務めており、この食材は子供達のご飯を作るための物らしい。

普通は契約してる相手の方から持って来るものなのだが、不運にも向こうで事故が起こってしまい今日中に届くのが困難となってしまった為に止む終えず此方から出向きこうして運んでいるとの事。

気の毒にと思うゆんゆんだったが、そこへ自分のスカートが引っ張られる事に気づき顔を向けるとじゅんが閉じてる口を開きこう言ってきた。

 

「ゆんゆん…はこ、ぶ…つく…る…て、つだう…いい?」

「じゅんくん…でも…」

 

ゆんゆんとて内心放ってはおけない気持ちで一杯なのだが、間が悪いことに今日はクリスが帰ってくる日だ。

厨房を借りる事やら料理の下準備やらを考慮したら、ここでルミの手伝いに加われば確実に間に合わなくなる。

懸念がるゆんゆんに、じゅんは更に話し続けた。

 

「これ、も…けい…けん…それ、に…おな、か…すく…たい、へん…こま、る…わかる…だか、ら…たすけ…る」

「…もぅ…じゅんくんったら」

 

無表情に言うじゅんだったが、数ヶ月も一緒に過ごして来たゆんゆんだからこそ分かってくる。

本当はクリスが帰ってくるのを、そして手料理を振る舞ってあげるのを楽しみにしてた筈なのに…こう言うお人好しな部分は誰に似たのやら。

苦笑いを作りながらも同じ思いである事を確認したゆんゆんは、ルミに話を振った。

 

「ルミさんですね?良ければ運ぶだけじゃなくて料理作りのお手伝いもして良いでしょうか?」

「え?そんな見ず知らずの人に…それに見たところ冒険者さんよね?満足の行く報酬があるかどうか」

「気にしないで下さい、あくまでボランティアとしてやりたいだけですから。それにじゅんくんはこう見えても冒険者だけじゃなくて料理作りもお手の物ですし、私も料理は作れる方ですから」

 

笑顔で答えるゆんゆん。

唯でさえ運ぶだけじゃなく料理の方まで手を貸してくれるとは、荒くれ者の多い冒険者の中では…失礼ながらもあまり向いてない様な性格ではあったが、ルミ個人としては好感を持てた事もありお言葉に甘える事となった。

 

「じゃあ…お願いしちゃおうかしら。これも何かの縁でしょうから」

「は、はい!任せてください!…ところでルミさん、私の名前を聞いて可笑しかったり変に思いませんでしたか?」

 

紅魔族で唯一名前にコンプレックスを抱くゆんゆんは、余りにも自然に接する姿に思わず疑問を投げかける。

対してルミはやんわりとした笑顔を作りながら答える。

 

「ふふ、色んな人達が生きてるのがこの世界なんだから一々気にする事でもないわ。それに、見ず知らずな私に手助けしてくれる恩人だもの、笑ったり変に思う事の方が1番可笑しくて失礼にもなるんだからね」

 

寛大な心の持ち主だなと、ゆんゆんはルミに対して女性としても大人としても尊敬の念を抱き始めた。

 

───ルミ「このすば!」───

 

「それからルミさんの施設で料理の手伝いを行ったのです。まぁそれだけじゃなくてじゅんくんと同い年近くの子達と遊んだりしてて、結局クリスへの手料理を作る暇が無くなって」

「ここに居ると言う訳ですか…まったく、変にお人好しな所は変わっていませんよね」

「私には何を言われても…ただじゅんくんには」

 

つい何時もの口調で言った言葉だが、内容はゆんゆんに限らずじゅんにも当てはまるのではと思い、めぐみんは慌ててじゅんに話し掛ける。

 

「も、申し訳ありませんでしたじゅんじゅん、決してあなたの行いを貶してる訳では」

「…いい…りょうり…つくれ、ない…ほんと…だ、から」

 

無表情ではあるがどことなく落ち込ん出る様な雰囲気を醸し出す。

だがそんなじゅんに対して、カズマが笑顔で褒め称える。

 

「い〜や!大変立派な事をしたんだ、偉いぞじゅん!」

「でも…クリス…りょ、うり…でき…ない」

「クリスがそんな事でお前を嫌いになるもんかよ、逆に“良くやった〜偉いぞ〜”て褒めてくれる筈だ。それとも、クリスはそんなに薄情な奴だったのか?」

「…ちが…う」

「だったら良い事したんだって胸を張ってクリスを出迎えろよ、な?」

 

そう言いながらわしゃわしゃと笑顔で撫でてくるカズマに、顔は変わらずともその口から感謝の言葉を贈った。

 

「うん…カズマ…あり、がとう」

「ほ〜んとじゅんは良い子だよな〜!それに引き換え…こ〜んな可愛くていい子なじゅんをガキンチョ悪魔と罵る駄女神ときたら!オメーはあの世に行ったあの二人だけじゃなくてここにいるじゅんの爪の垢でも煎じて飲みやがれってんだぁ!!!」

「やっかましいわよこのゲスニート!だぁれがんなチンチクリンのガキンチョ悪魔の爪垢煎じて飲むものですか!偉大で崇高なる麗しき女神のこの私がとことん穢れてしまうじゃないのよ!!!」

 

売り言葉に買い言葉と罵倒合戦を飽きずに行う童貞(カズマ)駄女神(アクア)の2名。

 

「まぁこんな奴はホッといて今日はお互い良い事したんだ、好きな物を頼んで良いぞじゅん」

「…いい…の?」

「勿論だ!じゅんだけじゃねえ、お前ら全員今日は俺の奢りだぁ!!!」

 

すっかりデキてしまったカズマの呼び掛けに、他の冒険者は一斉に盛り上がりを始めた。

 

「ヒャッハー!流石はカズマさんだぜー!」

「俺たち一生着いてくぜー!」

「アクアのお嬢ちゃ〜ん!お得意の芸を一発たのむぜー!」

「も〜しょうがないわね〜!しっかりと目に焼き付けなさ〜い!『花鳥風月♪』」

 

他の冒険者達の熱気に触れ先のやり取りを直ぐ様水に流したアクアは、お得意の花鳥風月を披露し初めて見るじゅんやゆんゆんを含めた全員を感服させていた。

そんな中、一人の冒険者がハンカチを取り出すとカズマに向かって声を掛けた。

 

「カ〜ズマサ〜ン♪“スティール”一発おっねがいね〜♪」

「え〜?しょ〜がね〜な〜♪」

 

そう言いながら右手の指をクネクネと動かすカズマ。

一方初めて聞くスキル名にじゅんは首を傾げる

 

「スティー…ル?」

「“窃盗(スティール)”とは盗賊を職業とする者が習得できる専用スキルです。名前の通り1つだけですが相手の物を奪う事が出来ます。カズマの場合は職業が冒険者なので習得できたのですが…その…カズマの場合は変に運値が高い事もあって…その……わ、わたしやクリスから……パ…パン…ツを…///」

「ひぃっ!カズマさんそんな下劣な事を!?じゃあもしかして今やったら私達の誰かから…」

 

自分達の身に起こる事態を想像した二人は揃って死守しようとスカートに手をやり、じゅんはよく分からず首を傾げた。

周りのスティールコールが響き渡り、そして。

 

「あ、せ〜の!」

 

「『スティール!』」と叫ぼうとした正にその時だった。

 

 

ズドォオオオオオン!!!

 

 

突然だった…まるで巨大な隕石でも落ちて来たかの様な異常な落下音が…ギルドに…そしてアクセル全域に居る全ての人々の耳に鳴り響いたのだ。

 

───全員『…え?』───

 

カズマがスティールを使用しようとした少し前。

辺りが暗くいくつかの光が照らすアクセルの街を壁の頂上から見下ろすそのモノ。

遠く離れた場所だと言うのに、ソノモノの目に映るのはギルド内で騒ぎまくる冒険者達とじゅんの姿。

 

「…奇遇だな、君達と同じ様に私もめでたい気持ちで一杯なのさ…今宵がゼファーの初披露になるのだから」

 

そう言いながらソノモノは右腕に装着されたガントレットを右斜め下に伸ばすと、ガチャ!と言う音と共に左右が開き展開する。

 

「では、始めるとしよう…これからの刺激的且つ愉快な物語を」

 

そう言うとソノモノの左腰に掛けてあるケースを開くと、じゅんが所持する“メモリ”と同じ物を取り出す。

 

「…“ベムラー”」

 

横のスイッチをカチッ!と押すと、USBメモリの様なコネクト部分が飛び出し、同時にベムラーと呼ばれる獣…“怪獣”の顔が表れるとそのメモリを展開してるガントレットの右側に差し込む。

 

PLUGIN(プラグイン)MONSMEMORE(モンスメモリ)

 

機械音声が鳴ると直ぐにもう一本のメモリを取り出す。

 

「…“エレキング”」

 

同じくスイッチを押して起動させると、今度は空いてある左側に差し込んだ。

 

PLUGIN(プラグイン)MONSMEMORE(モンスメモリ)

 

2つ全て差し込むと、そのモノは空いた左手で未だ展開してるガントレットを閉じた。

 

FUSIONLOAD(フュージョンロード)STANDBYREADY(スタンバイレディ)

 

準備が整った…そう言う様にガントレットをアクセルの中央上空に向ける。

 

「さぁ、開幕の時間だ!」

 

そう言い放つと同時に、右親指部分にあるトリガースイッチを押した。

 

GO!(ゴー!)

 

音声と共にガントレットから禍々しく光る球が発射された、そして。

 

 

ベムラー!エレキング!

 

SUMMON!(サモン!)

 

エレキベムラー!

 

 

雷がほとばしる青い球体がアクセルの中心地に落ちた時、姿を現す。

ゴツゴツとした鱗と鋭い棘、茶色・黒・黄色が混ざった色合いの体、自身の体よりも長い尾に頭部には三日月を表す角、発射口のある腕。

 

「ギャアアアオオオ!」

 

出現した融合怪獣第1号“エレキベムラー”は、雄叫びを上げると同時に周囲に並ぶ家々を、自身の体と腕から放出した電撃波で粉々に破壊し始めた。

 

「な、なんだよこいつわ!?」

「なんでこんなど真ん中にバカデカいモンスターが出てきたんだよ!?」

「やべぇにげろ!早く逃げろぉ!!」

「助けてええええ!!」

 

眠る時間帯ではなかったとはいえ、突如として出現した見たことの無い怪獣(モンスター)に住人は悲鳴を上げ、放つ電撃の餌食になるものかと一目散に逃げ出して行く。

そんな逃げ回る街の人々には目もくれず、エレキベムラーは尚も暴れ続けた。

グシャリと足で家を踏みつぶし、電撃を放って焼き尽くし、長い尻尾を一振りでなぎ倒すその姿は正に“悪魔”と呼んでも過言でなく、その暴れっぷりは冒険者ギルドから外に出て眺める冒険者達にも戦慄が走る程の威圧感があった。

 

「ちょ…なんだよありゃあ…!」

 

冒険者の一人でありカズマと悪友の間柄である“ダスト”の呟きは、この場にいる全員の心境を言い表していた。

ただし、約1名だけ少し違った事を考えていた。

 

「(おいおい一体何がどうなってんだ!?…にしてもあのモンスター…いや怪獣か?何と言うか…ベムラーとエレキングを足して2で割った様な姿だな)」

 

地球に居た頃の映像や本等で見た記憶と照らし合わすカズマだったが、その時。

 

「は〜はははははぁ〜!!!」

 

場違いな笑い声が木霊し、声の主に目をやるとそこには不敵に笑いそしてキリッとしたポーズをとる頭のおかしな娘(めぐみん)がそこに居た。

 

「とうとうこの瞬間が訪れた様ですね!これまでの活躍は今に至るまでの布石!今宵はまさに我が究極の奥義である爆裂魔法が今尚恐怖と破壊を撒き散らす悪魔の巨大モンスターを討ち倒す時!皆のもの!そして巨大モンスターよ!その目にしかと刻み込むが良い!これがわたしの!」

「ちょっとまてぇえええええい!!!」

 

今まさに爆裂魔法を放とうとした所を、カズマが血眼になって止めに入る。

 

「何をするのですカズマ!?今こそ我が爆裂魔法が活躍する絶好の機会じゃないですか!」

「そうよカズマ!あの怪獣を放ったらかしにしたらそれこそ被害が広がるだけなんだし、家や建物の1つや2つ吹っ飛ばしたってこの際しかたが」

「ないわけがねぇえええ!唯でさえこちとら借金背負ってる身だってのに、んなところで爆裂魔法なんかやってみろ!追加で100億背負わされちまうとか、冗談じゃねぇぞ!」

「と、兎に角避難警報を!冒険者の皆様方も急いでお逃げください!」

 

何時ものやり取りを他所に、ルナの呼び掛けに応じる様に散り散りとなって逃げ出す冒険者達。

機動要塞デストロイヤー戦の時は来るまでに準備をする時間があったから討伐出来た事だが、今暴れるエレキベムラーはその巨大に加え不意討ち同然による出現、準備も結束も作る時間などある筈も無く出来る事は被害を被らない様に逃げるしかない。

 

「じゅんくん!私達もにげ…あれ?」

 

ゆんゆんも例に及ばず、何よりも守らなきゃならないじゅんと一緒に逃げようと声を掛けた。

しかし、エレキベムラーに注目していたばかりにゆんゆんは気づかなかった。

側にいた筈のじゅんの姿が…どこにもなかったのだから。

 

───ゆんゆん「うそ…じゅんくんが…いない」───

 

 

 

緊急避難警報!緊急避難警報!

只今アクセル中央地区にて謎の巨大モンスターが出現し暴れ回っております!

周囲並びに遠くの住民の皆様は速やかにアクセルの外へと避難してください!

繰り返します!

 

 

 

人気の無いとある場所。

スピーカーから鳴るルナの叫び声が静寂なこの場に響き渡る中、たった一人だけこの場にいる者が居た…じゅんである。

 

「………」

「グガァアアアアア!!!」

 

電撃を放ち更には鋭い牙を剥き出しにした口から電撃混じりの青白い熱線を吐き、薙ぎ払いながら焼き尽くすエレキベムラー。

その地獄の様な光景を無表情で眺めるじゅんだが、1つだけ彼の身にある異常な部分があった。

それはエメラルドグリーンの綺麗な瞳の筈が、光を失った様なハイライトへと変わっていたのである。

 

「『融合怪獣・確認・セカンドステージ・該当・判断・ゼファーローダー・起動・ゼファープログラム・始動』」

 

今までのカタコタで途切れ途切れの喋り方ではなく、機械の様に口から発するじゅんは自身の首にぶら下がるペンダントを握りしめた。

 

 

STARTUP(スタートアップ)ZEPHYR(ゼファー)LOADER(ローダー)

 

 

機械音声と共に発した強烈な光にじゅんは飲まれると、金属製で出来てた筈のソレは機械の様な形作りとなって2〜3回り殆ど大きくなった。

更にパカッと左右が開き展開すると、じゅんは左右の腰に掛けてた箱…“メモリチャージホルダー”の内の右の方を開き、収納された銀色のメモリを取り出す。

 

「『ウルトラメモリ・起動』」

 

カチッと横のスイッチを押しコネクト部分が出現してある戦士の顔が浮かぶと、メモリをそのまま右側に挿入する。

 

PLUGIN(プラグイン)ULTRAMEMORE(ウルトラメモリ)

 

続けて今度は、左側のホルダーを開くと黒色のメモリを取り出す

 

「『モンスメモリ・起動』」

 

起動スイッチを押すと同時に浮かぶ怪獣の顔、それを今度は左側に差し込む。

 

PLUGIN(プラグイン)MONSMEMORE(モンスメモリ)

 

双方差し込み終わると、メモリを入れたまま両手で閉じる。

 

FUSIONLOAD(フュージョンロード)STANDBYREADY(スタンバイレディ)

 

「『セット・完了・肉体変異(トランスフォーム)・移行』」

 

そう呟くと両手を添える様にしてゼファーローダー中央にあるスイッチを押す。

 

GO!(ゴー!)

 

掛け声の音声と共に銀と黒の異なる光がじゅんの体を包み込み、そして遂に。

 

 

ウルトラマン!ゼットン!

 

WAKE UP!(ウェイクアップ!)ZEPHYR!(ゼファー!)

 

BEGINS!(ビギンズ!)WARRIOR!(ウォーリア!)

 

 

 

 

ドスンッ!!!

 

 

 

 

暴れるエレキベムラーの背後から、直立不動のまま落ちて来た者…それは暗闇に溶け込む様な黒い巨人だった。

逃げ惑う人々はエレキベムラーに続いて突然現れた巨人の姿を見て思わず立ち止まる。

それは口喧嘩をしながら同じ様に逃げていたカズマ達も例外でなく、特にカズマは巨人のその姿を見て驚きを隠せずにはいられなかった。

 

「うそ…だろ?…まさかあれって!?」

 

驚愕のあまりにその巨人の名前を出す前に、意外な人物がカズマに代わって口に出した。

 

「ちょっとちょっとぉ!?なんでこんな所にウルトラマンが出てくるのよ!」

「え?…アクアお前、ウルトラマンの事知ってるのか?」

「知ってるも何もあのウルトラマンでしょ?現世の住人の癖して宇宙の平和を守る守護神だとかでチヤホヤされちゃってさ!こっちはアンタ達以上に大活躍する偉大な女神のアクア様だってのに!まったくぅ、憎ったらしいたらありゃしないわよ!」

 

随分と容赦無い罵倒にカチンと来るカズマは何とか抑えながらも現れた黒い巨人を眺める。

言った内容はアレでも裏を返せば事実と言う事にもなるアクアの言葉を聞き、“本当にウルトラマンは存在したんだ”と自分でも不思議な位に胸を踊らされていた。

 

「でもアイツらにしては色もだけどドス黒いオーラがモワンモワン醸し出してるわね…どっちかと言うとクライシスインパクトを引き起こしたあの馬鹿ベリアルに似て」

 

ぶつぶつと聞こえない程度に呟くアクアだったが、そこへ。

 

「あの!カズマ!アクア!」

「な、なんだよいきなり…」

「どうしたのよめぐみん」

 

恐らく今まで見たこともないめぐみんの強張った表情にたじろぎながらも、その真剣な眼差しに只事では無いと思う二人は聞き返してみた。

そしてめぐみんから出た内容、それは。

 

「私からの一生のお願いです………どうかあの黒い巨人を、是非私のペットとして飼わせてください!!!」

「「………は?」」

 

場違いな要求にポカンとする二人を他所に、めぐみんは興奮冷めやまぬ勢いで語り出し始めた。

 

「お二人の口振りからしてあの巨人が“ウルトラマン”と言う名前が既にある事に少々…いやかなり残念に思われます…しかし!それを抜きにしてもです!

・あの漆黒極まりない黒黒しさと引き締まった肉体!

・血液の様に体を巡る細長い赤色!

・両肩と額に浮かぶ黄色!

・両腕と両太ももの内側部分に浮ぶ白とも銀とも言える色!

・そして極め付けわ!何かの“字”を連想したかの様に形作った青色のクリスタル!

・更に加え、中心に一本の黒い縦線が入った瞳!

こんなてんこ盛りマシマシな要素を取り入れた巨人に対して!紅魔族としての血が湧き上がらないなどありえないじゃないですかぁ!ペットが無理でしたらせめて社交辞令として今後とも末永いお付き合いの為に仲良く」

「お前ヴァカかぁ!?何をどうすりゃこんなヴァカでかいの飼えるってんだ!えぇっ!?」

「ち、ちゃんとご飯も与えますから」

「お前アホくぁあ!?ウルトラマンが何を食うのか分かってんのかよゴルァ!!!」

 

「ち、ちゃんと散歩だって」と呟くめぐみんを完全に無視する事にしたカズマ。

けれどもめぐみんがあの巨人に対して褒めた部分の1つだけがカズマの中で気掛かりとなっていた。

 

「(やっぱあの胸のクリスタル…コア部分だけは気になるな。何かの字とは言うがアレは“Y”の字に見える…どう考えても“ネクサス”や“ノア”関係に見えるが…いや、体が黒だから“アイツ”絡みか?…いやそれ以前にコア部分はどっちも“赤色”が共通の筈…なのにアレの色はウルトラマンのカラータイマーと同じ“青色”…“アイツ”の様に誰かが模したのか?)」

 

次から次へと生まれる疑問に一つ一つを向き合ってしまうカズマ。

そんな中、登場してからずっと棒立ちのまま顔だけを下に向けている巨人。

 

「グガァアアアアアオ!」

 

突如として現れた巨人に威嚇する様に雄叫びを上げるエレキベムラー、だが巨人は何も反応しない。

その巨人に変身してるじゅんも同じ様に顔を下に向けていた、すると。

 

「『トランスフォーム・アダプデーション・コンプリート・ミッション・スタート』」

 

そう発すると同時に閉じていた目を開くと、黒色の瞳孔を除いた全ての部分が紅魔族以上の真っ赤な色に染まっており、それに繋がる様に巨人の目の色も血の如き赤色へと変色してしまう。

 

『ヌルゥアアアッ!』

 

右手を握りこぶしに作って突き出すと、放たれた複数の黒い球体がエレキベムラーに直撃した。 

 

「グゲェアッ!」

 

突然の事もあってモロに受けたエレキベムラーは火花を散らしながら、未だに健在の家をクッション代わりの様に倒れ潰し壊してしまう。

 

『ハァッ!』

 

倒れるエレキベムラーに対して、巨人は無慈悲にも黒い球体を無数に放ちながら一歩一歩前へと進む。

自身の放つ球が前方の至る所に立つ家々に当たり、粉々となって燃える事などお構いなく、そして進む度に足元の家や建物をまるで雑草を踏むかの様に何の躊躇いもなく踏み壊して行った。

 

『ヌゥウウウウン!デャアッ!』

「ヴェギャアッ!」

 

倒れるエレキベムラーに近づくと奴の頭部に生えた角の片方を掴み、無理矢理立ち上がらせたと同時に右拳によるアッパーカットが炸裂する。

 

『ルゥオアアアアッ!』

 

バタリと仰向けに倒れるエレキベムラーに今度は何度も何度も腹部を執着的に踏み付け、続け様にエレキベムラーの体以上にある長い尻尾をガシリと掴むと、強引に持ち上げハンマー投げの様に強引かつ豪快に振り回し、周りの建造物を破壊しながら投げ捨てる。

 

「グゲャオウゥ…」

 

振り回された事で頭の中がシェイクし、立ち上がるもグラングランとおぼつかない動きとなり。

 

『ヤァアアアアアッ!』

 

にも関わらず、巨人は疾走しながらエレキベムラーに向かってドロップキックを放ち、その衝撃の余りに再び倒れまたもや建物を破壊してしまう。

 

「うわぁ…平然とえげつない事するわね…あのウルトラマンは」

「ええ…ここまでの暴れん坊ですと…流石の私でも飼うのに躊躇いそうになります…」

 

その目に余る巨人のラフファイトにアクアは無論の事、先程まで飼うと公言しためぐみんまでもが引いてしまう程の光景だった。

そんな血みどろの戦いを誰もが見守っている中、一人カズマだけは顔を俯き震える声でボソリと呟く。

 

「…に…んだよ…」

「カ、カズマ?」

 

様子の可笑しいカズマに気づき声を掛けるめぐみんだったが、それと同時にカズマは駆け出す。

別に彼等の間に入るわけじゃ無かった…出来る筈も無かった。

何より目の前で暴れる巨人がウルトラマンだと思い込んでしまうのは、自分勝手の何ものでもないことは百も承知だ。

…だけど…だからこそ許さなかった、命を懸けて自分の様などうしようもない人間含めた地球を守ってきた彼等の行いを…彼らに似た姿で真っ向から否定してる様に見えたから。

だからこそカズマは、巨人に向かって届かせる様に腹の底から叫んだ。

 

───カズマ「なにやってんだよおまえ!!!」───

 

 

 

彼女は走るひた走る、建物が瓦礫となり周りが燃え盛る中でも

 

探す相手はただ一人、現在(いま)未来(これから)の自分を変える切っ掛けを作ってくれた

 

友達でもあり弟分でもある愛しい男の子…じゅん

 

「じゅんくん…お願い…無事でいて!」

 

現状への恐怖に飲まれそうになりながらも

 

彼の無事を祈りながら心を強く保ち

 

止まることなく走り続けるゆんゆん

 

アクセルの街が燃え盛る炎の中を漆黒の巨人は天まで届く様な獣の如き雄叫びを上げた

 

 

 

ウォオアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 




ゼファーの暴れっぷりはオーブのサンダーブレスターをイメージしてます。

次回のヒントと言いますか予定になる内容を一言で表します。

「普段は優しい人ほど、キレたら恐く手に負えない」


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第三章〜その②

お気に入り20超え、ありがとうございます!

ウルトラマントリガー、テンション上がって楽しみです。

感想・質問等が私のモチベーションに繋がります。

最後にウィズファンの皆様、すみません。


馬車の揺れに身を任せながら座り乗るクリス。

王都での一仕事を終え、じゅん達の居るアクセルに向かっていた。

 

「(明日からが大変だけど…さてどうしたものか)」

 

大変な事とは勿論、じゅんをしっかり育てあげる事だ。

冒険者としてだけでなく、じゅんの所持するメモリを己のものにする為に厳しくも鍛えてあげないといけない。

そう遠くない時の為にもと思いながら、クリスは自身の右手首を見る。

リストバンド製の腕輪をグローブの上から着けてるソレを見るクリスは、この腕輪を与えてくれた人物の言葉を脳裏に蘇らせた。

 

〜ソレの本当の力を使う時は

自身の身や他の誰かを守るだけでなく

この世に災いを及ぼす様な脅威に出会した時だけに使ってくれ

本当はこの様な物…この惑星(せかい)に存在してはならないのだが…〜

 

その人物の思い詰める表情を思い浮かべたクリスは、彼の思いを守らなきゃと決意を固め始めた。その直後。

 

「うわっととっ!」

 

突然馬車が急停止し思わず踏ん張るクリス。

一体何がと思い窓の外から顔を出すと、クリスの目に映ったのは薄っすらとだがアクセルの方から炎と同じ色が照らし出され、更にはすれ違う様に人々が駆け出す姿が目に映った。

 

「ち、ちょっと、一体何があったんだ?」

 

馭者の人が逃げ惑う人々の一人を捕まえ問うと、その者はこう答えた。

 

「あんたらアクセルに行くのかい!?だったら今すぐ引き返すんだ!今あの街にはそれはそれは巨大なモンスターと黒い巨人が現れて、俺達にお構い無しに暴れ回っているんだ!」

 

説明する男の言葉を聞いた瞬間、クリスに戦慄が走った。

 

「(コウのおじいちゃん…どうやらその時が来ちゃったみたいだよ)」

 

ここではない場所に居る“コウ”と言う人物に対して心の中で言い掛けると、クリスは数千エリスの金を馭者に渡し外へ飛び出るとそのままアクセルの方へと走り出した。

 

「ちょ!お客さん!?」

 

呼び止める様に声を掛ける馭者の声を振り払い、逃げ惑う人々とすれ違いながらも走り続ける

クリス。

わざわざ火中の中に飛び込む様な行為に走る理由は唯一、じゅんとゆんゆんの無事を確認する為。

既に逃げてる筈と言う考えを持っているのは事実、けれどもこれまで共に過ごした事が絆となり理屈では計れない感情がクリスを突き動かしていたのだ。

近づけば近づく度に、クリスの耳からは何かを破壊する轟音が入り、それは徐々に大きくなりつつある。

不安が心中に渦巻くのを押し殺しながら、クリスは二人の事を想いそして呟く。

 

 

 

─クリス「じゅん、ゆんゆん、無事でいてね!」─

 

 

 

「…あ…あぁ…」

 

目の前に映る自身の店だったそれは、瓦礫と成り果ててしまっていた

 

呆然と膝を付くウィズの脳裏に数分前の事が映り込む

 

突如として空から落ちて暴れる巨大モンスター、それに続く様に出現した黒い巨人

 

モンスターは勿論の事、巨人も足元に立つ家や建物を巻き込む様に破壊していく

 

その様を見ていたウィズは、巨人が自分の店まで来る事に気が付いた

 

〜待って下さい!私のお店をどうか壊さないで下さい!〜

 

ウィズは訴えた、伝わるかすら分からずともそれでも訴え叫んだ 

 

だが巨人は止まることなく一歩一歩と迫った、そして

 

〜だめぇ!やめてぇえええええ!!!〜

 

ウィズの悲痛な叫びも虚しく、巨人はグシャリとウィズの店を踏み潰した

 

…私は確かに言った…“壊さないで”と…

 

…大切な仲間達がいつか帰って来て…迎え入れる事の出来る…このお店を…

 

…なのにあの巨人は…その薄汚い足で粉々に踏み潰した…

 

…そして目もくれず…素通りして行った…

 

…許さない…絶対に許さない…

 

その瞬間、ウィズの中からドス黒く激しい憎悪の炎が沸き上がった

 

 

 

─ウィズ「よくも…よくもぉ!!!」─

 

 

 

「ガァアアアアア!」

 

猛攻なる巨人の攻撃に何度も倒れるエレキベムラーは、再び起き上がると“図に乗るな!”とでも言わぬ勢いで巨人に突進。

猛牛の様に体当たりを行いそれを受け止める巨人だが、直後に角を含めた体全体から強力な放電を発する。

 

『グガァッ!』

「ギェエアアアアア!」

 

放電をもろに喰らう巨人はここに来て痛みを感じるかの様なうめき声を上げる。

離れ様にもエレキベムラーの突進がそれを許さず、ずるずると後ろに追いやる形で押し込まれその都度に足元の家までもが壊されていく、だがここで。

 

『ンヌゥアアアアア!』

 

巨人はエレキベムラーが体中から発する放電の中から、二本の三日月型の角を強引に掴むと右・左・右・左と何度もの膝蹴りを顔目掛け打上げ。

 

『ダァアアアアア!!!』

 

一種怯んだ隙きに角の間の中心頭部をガシッ!と鷲掴むと、建物に叩きつけ壊しながらエレキベムラーを強引に地面に伏せ、そのまま顔を執着に殴りつけていく。

 

「ゼファープログラム、セカンドステージ…〔融合怪獣又は同等の巨大生物を確認した場合。ファーストステージ時に解除したゼットンメモリ以外の全てのメモリのプロテクトを解除。ゼファーへの肉体変異(トランスフォーム)に移行し対象の抹殺を行う〕」

 

その悪魔とも獣とも取れる戦いを、ソノモノはジーと眺めながら一人呟く。

 

「細胞の適応構成は問題なく順調…スペックに関しても設定通り…残り2()()()姿()も確認したいが…否、こうして存在してるだけでも奇跡なのだ…ゆっくりと測れば良い…初手相手(エレキベムラー)では役不足なのではと懸念したが…データ収集でもあるから丁度良いのかもしれないな」

 

場違いとも言える程、ソノモノはのんびりと穏やかな口調で右腕のガントレットから出てくる映像を見て呟き、再び2体の戦いを観戦し始める。

 

『イェエアアアアアア!』

 

何度も殴る巨人は、今度はエレキベムラーの喉元と足元を掴むとバーベルの如く持ち上げ、力強く放り投げる。

 

「うわっと!?」

 

地面に着地と同時に発生する振動は、走り彷徨うクリスの足元にも渡り思わずよろけ踏ん張ってしまう。

何とか倒れずに済んだクリスだったが、思わず顔を見上げ視線の先にある巨人の姿を見て立ち止まってしまう。

 

「あの姿は…まさかそんな!?」

 

驚愕するクリスを余所にズシンズシンと歩いてく巨人。

その一方でクリスは巨人の姿と同時に周りの光景を見ると、ブルブルと体を震え上がらせた。

それはこの世で生きるクリスとして、そして一人の神である“エリス”としての怒りが沸いてきた。

皆がのんびりと平和に暮らすこの(アクセル)を瓦礫と炎に還すだけでなく…今も尚も宇宙の平和の為にその身を犠牲にしてまで戦い守り続けている…大恩人であり心から尊敬するあのお方達の姿を模造するだけに飽きたらず…その気高い魂までをも愚弄し踏み躙るのか!

激しい表情を露にするクリスの口から出る言葉は、忿怒の籠もるものだった。

 

 

 

─クリス「悪魔めぇ!!!」─

 

 

 

「ちくしょうっ…何でこんな事を!」

 

あれから逃げ惑うカズマ達であったが、最悪な事に放り投げたエレキベムラーが上空を通過し後を追うような形で巨人がこちらに迫ってきたのだった。

愚痴るカズマに続く様に残り二人も好き勝手に口を開く。

 

「ゔぅえあああああ!きたきたきたぁ!やばいよやばいよぉ!?来ちゃいますよぉカジュマさ〜ん!!!」

「いえ!これは絶好のチャンスかもしれません!あの黒い巨人はまず保留としますが、先に暴れていた巨大モンスターを我が爆裂魔法で塵一つ残さず消滅させることが!」

「やめろぉ!これ以上俺に借金を背負わせないでくれぇえええ!!!」

 

この混沌とした中でも何時もの様な大騒ぎのコントを醸し出す三人、だがその直後。

 

メキッ! カチッ! ピキッ!

 

『ヌッ!?』

 

突如として巨人の足元が固まる音と共に氷漬けにされてしまった。

己の身に起こった出来事に初めて戸惑い慌てる様に動く巨人にカズマ達も同じ心境の中、ふと背後から凍り付く様な感覚を感じ取り思わずその方へ向けると、そこには俯きながら佇むウィズの姿があった。

 

「ウ、ウィズ?」

「どいて下さい…皆様」

 

戸惑うカズマを余所にウィズは呟く様に声を掛ける。

 

「ど、どうしちゃったのよ…ウィズ?」

「申し訳ありませんアクア様…今は貴方様に構う暇は無いのです」

 

流石のアクアも何時もの調子を捨て戸惑い気味に問いかけるも、ウィズの口から出る有無を言わせぬ威圧的な言葉は、普段ウィズをマウントにかけてばかりのアクアが文字道理黙ってしまう程の出来事だった。

その異常事態にウィズを除いた3人が押黙る中、ウィズは独り言の様に巨人に対して呟く。

 

「貴方が何者でどう言う意図があるのか存じません…ですが」

 

一歩一歩進むウィズの姿を間近で見る3人には、リッチーを通り越しもはや“死神”とさえ思える程の冷たさと威圧感を肌で感じとっていた。

 

「暴れるだけ暴れ…多くの人々を不幸に陥れ…挙げ句の果に…」

 

歩く度に、ウィズの足元だけでなく瓦礫となった建物すらも氷漬けとなっていく。

 

「私は言いましたよ…“店を壊さないで”と…大切な仲間達を迎え入れる為に建てたお店を…貴方は壊しました…」

 

ウィズは沸き上がる憎悪(かんじょう)とありったけの魔力をギリギリまで溜め込み…そして。

 

 

「その代金を、貴方の命で贖いなさい!!!」

 

「『カースドォ!!!クリスタルプリズゥンンッ!!!』」

 

 

ウィズが最も得意とする氷魔法の強化版“カースド・クリスタルプリズン”。

感情の爆発と共に発せられた氷の渦は巨人に命中し魔法陣が出現、開く右手をギュッと力強く握りしめると包み込むように収集し、物の見事に巨人を氷漬けにさせてしまう。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…っ!」

 

上級魔法に加え相手が巨体と言う事もあり、ありったけの魔力を放出したウィズは次の魔法を出すどころか立つことすらままならない為に膝を付き荒い息遣いをする。

 

「グォオオオアアア!」

 

それを好機と言わんばかりに立ち上がるエレキベムラーは、口から雷を混じらせた“電撃熱光線”を氷漬けの巨人目掛け放射、寸分の狂い無く命中すると凄まじい爆発を引き起こした。

 

「すっご…ウィズったらあのウルトラマンを氷漬けにしちゃったわね…でも何かスカッとしたわ」

「あ〜…折角ペットにしようと思ってましたのにぃ」

「……」

 

呑気そうに方や嬉しく方や残念がる中、カズマだけは氷漬けとなって粉々になったであろう巨人に対し複雑な思いを馳せていた。

 

そんな光景を観ていたソノモノは、一切の動揺もせずに一人呟く。

 

「この惑星(せかい)について色々と調べ回ってたが…なるほど。あれが元魔王幹部で氷の魔女ウィズの力か…ははは、全くこの惑星(せかい)は大変面白い。多世界宇宙(マルチバース)の中でこの様な惑星(せかい)にゼファーが辿り着いた事…その偶然に改めて感謝しないと」

 

パチパチと愉快かつ穏やかな口調で拍手を送るソノモノは、氷漬けにしたウィズに語る様に話す。

 

「ただ、水を差す様で申し訳無いけれど…」

 

 

 

─???「それではゼファーを殺せないよ?」─

 

 

 

モクモクと立ち込める煙が徐々に薄れ始めたその時。

 

『…え』

 

全員の声がハモる。

ギラリと光る2つの赤と1つの青が現れ、そして煙が完全に無くなってしまうとそこには依然としてそびえ立つ黒い巨人の姿があった。

 

「うそ…」

 

この中で最も動揺してるのは氷漬けにしたウィズ本人に他ならなかった。

冒険者時代は“氷の魔女”として名を馳せ、とある理由からリッチーとなり、今は抜けて且つ“なんちゃって”呼ばわりながらも魔王幹部の一人として存在していた。

それ程までの実力を持つ自分の力に、確かなる自信があったのは事実。

ましてや先程放った魔法は自身が最も得意とする魔法の強化版に加えての全力全開、表面だけでなく細胞の一つ一つを氷漬けにしあの巨体モンスターの放った攻撃を受けた以上は粉々になって露と消える…その筈だった。

しかし現実はどうだ、原型を留めてるばかりでなく膝を付く自分とは対象的に堪えてる素振りが一切無く、巨人は不動のまま立っていた。

その圧倒的な頑丈さ、理不尽さ、不条理さにウィズの心中で駆け巡ってた筈の怒りと憎悪が薄れていき、代わりに支配され始めた感情…それは巨人に対する“恐怖”だった。

 

『ハァッ!』

「あ」

 

間の抜けた声を漏らしたウィズの目に映ったのは、こちらを見る巨人の手から放った黒い光弾。

 

 

スドォオオオンッ!

 

 

「がはっ!」

 

ウィズの前方の地面に着弾したと同時に起こる爆発。

そこから発した爆風は弱ったウィズを軽々と吹き飛ばし、僅かに残ってた建物の壁に背中から打ち付けられるとうつ伏せ状態のまま倒れ気絶してしまう。

 

「ウィズぅ!!!」

「ちょ!?ウィズの魔法に全然耐え抜いちゃってるんですけどぉ!?あ〜もう!

これだからウルトラマンってだいっきらいなのよ〜!!!」

 

ウィズが吹き飛ばされる光景にめぐみんは悲痛に呼び掛け、アクアは喚き散らし始める。

地面に寝転ぶウィズの姿を見るカズマは目を大きく見開き眺めると、途端に顔を俯かせると同時に二人に話し掛ける。

 

「お前ら…ウィズを連れて逃げるぞ」

「何を言うのですカズマ!あの巨人はウィズを攻撃したのですよ!?いくら紅魔族としての感性がドンピシャな相手でも!ウィズに手を出した事を許せる筈がありません!ええ許せませんとも!」

 

静かに言うカズマの言葉をめぐみんは真っ向から否定する。

“売られた喧嘩は買う”のが紅魔族であり、めぐみんも例に及ばず頭に血が上りやすい性分に加え仲間意識も強い。

知り合いだけでなくデストロイヤー討伐時も共に協力し合ったウィズが、目の前で巨人に吹き飛ばされた事実に我慢する事など出来る筈も無かった

 

「落とし前として我が爆裂魔法を撃ち込まなくては!」

 

「気が済みません!」と感情の赴くままに訴えようとするめぐみん、だがそれを無言のままめぐみんの胸ぐらを乱暴に掴んだカズマによって強引に止められてしまう。

 

「黙れ」

「ひっ」

 

カズマの口からは本人とは思えぬ程の冷たく威圧的な一言に加え、これまでの付き合いで見たこともない…それこそ鬼や悪魔を連想するかの様な凄まじい表情に変貌しており、めぐみんは思わず小さな悲鳴を上げた。

 

「思い上がってんじゃねえぞクソガキ…ノリや勢いで倒せるものならウィズが負けて倒れる筈がねぇんだよ…大体相手は2体もいるんだ…百歩譲って片方倒せても、もう片方相手に倒せる勝算なんて思いつく暇もありゃしねぇんだよ…!」

「な、なんか今のカズマ…滅茶苦茶怖いんですけど…」

「で…ですが!」

 

同じくカズマと共にしてきたアクアでさえも、彼から発する静かな激情に押され引いてしまう程困惑してしまう。

だがそれでも尚も駄々っ子の様に渋るめぐみんに、カズマは顔を俯かせて静かに押し殺す様にして呟く。

 

「頼む…せめて今回だけは素直に聞いてくれ…今の俺には…お前の激情(おもい)に付き合ってやる余裕なんてないんだよ…」

 

その言葉を聞いたと同時にめぐみんは気付いた、カズマが今も尚も自分の胸ぐらを掴む手がプルプルと震えている事に。

そして悟ってしまった、カズマの心境は自分と何ら変わらない事…そして唯一違う事は、感情を制御しない自分とは違い今の現状を把握し相手と自分達の技量を見極め、なお且つ感情を押さえ自分達が取るべき選択を見誤らない様にしているのだ。

何時ものノリで爆裂魔法を放ってウィズの仇を撃ちたい…けどあのカズマがこれ程まで真剣になっているのだ…今回ばかりは自重しなければならない。

沸き上がる悔しさを押さえ込みながら、胸ぐらを掴むカズマの手の上に自身の手を乗せる。

 

「………わかりました」

 

静かにそう言っためぐみんの言葉を聞いたカズマは、掴んだ手をゆっくり離すと一目散に倒れてるウィズに近づき自身の背中に乗せた。

 

「…くそったれ!!!」

 

倒したウィズだけでなく残りの自分達の存在に、全く気にする素振りも見せないままエレキベムラーの方へ向かう巨人に、捨て台詞を吐き捨てる様に出すとこれ以上長いは無用と言わんばかりにその場を全力疾走で駆け出して行った。

 

「氷漬けの影響で一時的に手元が狂ったのか…けれども、おかげでまた彼女の力を観察する機会が得られたようだ…さて」

 

ウィズを抱え走り去って行くカズマ達を眺めたソノモノは、視線を自身の腕に嵌めたガントレットに移し表示された画面を見始めた。

 

「フュージョンロード以降の戦闘時間並びにダメージレベル…エネルギー残量から考慮して…」

 

 

─???「そろそろ()()()()()頃だな」─

 

 

「ガァアアアオオオ!!!」

 

立ち上がると同時に雄叫びを上げるエレキベムラーは、降臨した際の青い球体に変貌。

更にバチバチと電撃を発生させながら宙に浮かび、そのまま巨人に突進をかました。

 

『ウゥオアッ!』

 

腹部に直撃し後方へと吹き飛ぶ巨人、だが。

 

『ガァアアアアア!』

 

吹き飛ばされながらも悪足掻きの様に両腕を前に突き出し、赤黒く太い一本筋の光線が発射され球体状態のエレキベムラーに命中。

 

「ギギェア!」

 

火花を散らしダブルノックアウト状態で巨人は仰向けに、エレキベムラーは横へと倒れてしまう。

 

 

ピコンッ! ピコンッ! ピコンッ!

 

 

その直後、巨人の胸のコアが青から赤へと変わり点滅を始めた。

命の危険を表すかの様に点滅と同時に鳴り響く音、けれども巨人は何の慌てる素振りも無く機械の様に上半身を起こしそのまま立ち上がろうとした、その時だった。

 

 

「『ライト・オブ・セイバァアアアアア!!!』」

 

 

何者かの叫び声と共に放たれた光の刃が、巨人の右頬をかすめ火花を散らす。

突然背後からの攻撃に巨人は放って来た右方向に首だけをグルッと向け自分に刃を向ける人物を見た、それは。

 

「く…うぅ…っ!」

 

歯を食いしばり恐怖から来る涙を必死に堪えながら、ワンドを向けキッと睨み付けるゆんゆんの姿がそこに居た。

そんなゆんゆん自身も自分が如何に馬鹿な行いをしてるのかなど百も承知だった。

倒せる等これっぽっちも思っちゃいない…逃げるべきの筈だ…けれど。

これ以上奴等の好き勝手にさせておけば…未だ見つからないじゅんをも巻き添えに…否、もうなってるのかもしれない。

だがそんな結末(ふあん)を振り切り生きてる事を信じるゆんゆんは、せめてこの隙きに何処かにいるかもしれないじゅんや他の人達が少しでも早く逃げられる様にと思い、あえて囮となることを選んだ。

 

「これ以上…これ以上あなた達の好きにさせないんだからぁ!!!」

 

ゆんゆんが巨人に向け啖呵を切ったと同時に、離れた場所にいたクリスは思わず立ち止まる。

 

「今の魔法って…まさかゆんゆん!?」

 

この街であれ程の上級魔法を撃てる相手などゆんゆん以外に思い付かないクリス。

例え本人じゃなかったとしてもこのままではあの場にいる誰かが巨人に殺される、瞬時に考えたクリスは右腕に巻かれた腕輪を掴むと同時に淡い光を出し始める。

 

『セイクリッドエネルギー確認・シーフウェポン起動』

 

機械音声が発すると腕輪は3つの光となってクリスに纏う。

左脇、両太もも外側に夫々異なる銃が装備されており、クリスは素早く抜くとカチャカチャと組み立て始める。

 

『セット完了・ランチャーモード』

 

連結させた結果、両手持ちの大型銃砲へと変える。

クリスは左手で前方のグリップを、右手を引き金の付いたグリップそれぞれ握り、右目で照準スコープを覗き目標を巨人に向けた。

 

「あたしの目の前でゆんゆんを殺ってみなよ…撃ち殺してやるんだからさぁ!!!」

 

ピピピと溜まっていく音が鳴る中、クリスは殺意と憎悪に塗れた眼で睨み叫んだ。

 

「流石は紅魔族、魔力と呼ばれるエネルギーは中々のモノだな…そして」

 

称賛の言葉をゆんゆんに向けたソノモノは、視線をクリスの方へと変える。

 

「あのアクアと言う少女と過去のデータサンプルからのエネルギー性質適合率は90%前後…なるほど。1体かと思いきや2体もの()()()()()()がこの惑星にいるとは…問題は彼女の持つあの武器…この惑星全体の文明レベルにはかなり不釣り合いの技術と見るが…私よりも先にこの惑星に住居する宇宙人(もの)が居るのか?」

 

顎に手を当てながらぶつぶつと呟き思考の海へと泳ぐソノモノ。

 

三者三様が蔓延るこの空間、だが異変を起こし始めたのは他の誰でもなかった。

見つめる様に顔を向けたままの巨人であったが、ゆんゆんが起こしたある行いを見て変化が起き始める。

 

「ひっく…ゔぐぅ…!」

 

限界が来てしまったのか、ゆんゆんは溜まりに溜めた涙を体を震わせながら次々と流れ落として行く。

 

『「………っ」』

 

止まる事なく滝の様に流すゆんゆんの涙を見たその瞬間、巨人…否…巨人になったじゅん自身の耳に奇妙なノイズ音が迸り、次の瞬間にこれまでの出来事が映像の様に映し出され始めた。

 

 

 

わ、我が名はゆんゆん!アークウィザードにして上級魔法を操る者!

………

うぅ〜…やっぱり恥ずかしいよ〜///

 

 

これは“あ”、こっちは“い”、それでこれは“う”だよ

…あ…い…う…

そうそう、それでこれがね

 

 

そう言う時はね“美味しい”って言えば良いんだよ

…お…い…し…い?

うん!“美味しい”だよ、えへへ♪

 

 

じゅ…じゅんくん?

ゆん、ゆん…な、いてる…いじ、め…だめ

 

 

心がスゴく暖かいから冷たいのだってへっちゃらだよ♪

ここ…ろ?

 

 

 

『「…ゆん…ゆん?」』

 

じゅんの口から出るのは機械の様な口ぶりでなく、何時もの片言で途切れ途切れの口調だった。

途端に周りを見る様にゆっくりと左の方へと動かすじゅんだったが、ある所で再び止まってしまう。

 

『「…あ」』

 

見慣れぬ物を抱えながら今までに見せた事のない顔で自分を見るクリスを見た瞬間、ゆんゆんの時と同じ現象が起こり始める。

 

 

 

あたしはクリスだよ、よろしくね

………

って、まだよくわかんないか…あはは

 

 

 

それ、イチ、ニ、イチ、ニ

う…あ…うう…

大丈夫、あたしが支えてるからゆっくり歩こう

 

 

 

わ、わたし…こうして誰かとチェスで遊ぶ事が夢だったんですぅ〜

あ、あはは…何というか…個性的な夢だね

………?

 

 

 

もう大丈夫だから安心しなよ〜

…うん?

 

 

 

クリス…きお、つけ…てね

へへ、心配してくれてありがとねじゅん♪

 

 

 

『「…クリ…ス?」』

 

今日帰ってくるクリスがそこに居て睨みつけている。

一体何がどうなっているのか…よく理解できなかったじゅんは、今度は正面の方へとゆっくり向けた。

 

「コォアアアアア…!」

 

青白い光がエレキベムラーの開けた口の中で輝きを増していき。

 

『「はっ!」』

 

それを見た瞬間、じゅんの中で目の前の生物がこれから何をするのかを瞬時に理解した。

巨人となったじゅんが行動を起こしたその直後、クリスは引き金を引くと銃口から銀色に光る巨大なエネルギー光弾が発射。

迫る光弾はゆんゆんの方へ顔を再び向けたと同時に、じゅんの左頬をかすめ火花を散らした。

 

『「ぐぅっ!」』

 

切り裂かれる様な鋭い痛みが来るがそんな事なと眼中にもなかった。

 

「キャアアアアア!!!」

 

こちらに迫ってきた巨人に、ゆんゆんは悲鳴を上げ押し潰される痛みに身構える様に目を瞑る。

だが、巨人であるじゅんはゆんゆんの頭上を自身の体で覆い隠す様に跪き…そして。

 

「ゴォオオオオオ!!!」

 

エレキベムラーの放つ電撃熱光線が無防備となっている巨人…じゅんの背中に直撃、激しい火花を散らしたのだった。

 

『ガハァッ!!!』

「え?」

「なにっ?」

 

家を建物を巻き添えにし獣の如く暴れた巨人が、全く異なる行為をするその姿にクリスだけでなく、ソノモノさえもここに来て初めて困惑する反応(リアクション)を見せた。

 

『ウ…グゥ…!』

「キエエエアアアオ!!!」

 

うめき声を上げても尚も動こうとしない巨人に対し、エレキベムラーはこれまでのお返しと言わんばかりの電撃を頭部の角そして腕から放出し無抵抗の巨人に当て続けた。

 

『グハァッ!!!』

 

怒涛の電撃を浴び続ける巨人…否、じゅんは背中を通して駆け巡る痛みを体中で味わうが、それでも動かない…動く訳にいかなかった。

自分の下にいるゆんゆんが後ろの生物の餌食となってしまう事を阻止する為にも、体を張って守り通そうとする。

そして何時まで経っても痛みが来ない事に疑問を抱くゆんゆんは恐る恐る目を開くと、自分の真上で膝を付いて覆い被さる体勢をする巨人を目にする。

耳に響くはエレキベムラーの放つ電撃音とそれを受け止め火花が散る音。

 

「…な…なんで?」

 

瞬時に目の前の巨人が攻撃を受けてる事に気づくゆんゆん、だがその場から全く動かずそのままの姿勢でいる姿を見て理解に苦しみ、思わず疑問の声を呟く。

 

「………」

 

猛攻なるエレキベムラーの攻撃を甘んじて受ける巨人の姿を見ていたソノモノは、即座に右腕のガントレットをポチポチと叩き込んだ。

するとあれだけの放電を放つエレキベムラーの攻撃がピタリと止まり、直後に自身を青い球体に変え天高く飛び去り、光の粒子となってソノモノのガントレットに吸収されてしまう。

 

「なるほど…そう来てしまうか…ふふふ、ひとまずはお互い幕間(きゅうけい)に入る事にしよう…ゼファー」

 

どこか嬉しそうに呟くソノモノは、闇に染まった広大に広がる壁の外へその身を投げ消えてしまう。

 

『フゥ…フゥ…フゥ…』

 

それと同時に、攻撃を受け続けた巨人も息を切らし肩を上下に上げていると、突如として巨人の体全体が光の粒子へ変化し始める。

 

「こ、今度は何なのよ!?」

 

巨人の身に起こる異変に動揺を隠し切れないゆんゆんは、前方約5メートル程の距離で光が収束していく光景を目の当たりにし、得物であるワンドを向ける。

一体何が起こるのか、全く予測の付かないゆんゆんは体全体を震わせながら収束する光を見続けた…そして。

 

「…え?」

 

収束した光が人の姿を形作り、現れた者…それは。

 

「…じゅん…くん…」

 

命を賭けて探し回った、愛しい仲間で友達で弟分のじゅんじゅん。

何故彼が目の前に…いやそれよりも彼があの黒い巨人の正体?…だったらどうしてあんなにも暴れて…でもそれなら何故私の事を庇う様な真似を…。

余りの衝撃的過ぎる展開にゆんゆんは追いつける筈もなく、真っ白になっていく頭の中で次々と生まれる疑問に振り回されながらワンドを手に持つ力が抜け、カランッ!と言う金属音が鳴り響く。

それと同時に、ずっと顔を俯かせたまま立ち尽くしているじゅんが…重力に身を委ねるかの様に引っ張られ、バタッ!と言う音を立てながら前のめりに倒れ込んでしまった。

 

「じ、じゅんくん!?」

 

目の前で大切なじゅんが倒れた事に驚くゆんゆんは躊躇うことなく直ぐに駆け寄る、もう彼女の中には恐怖や戸惑い等が微塵も無く、只あるのはじゅんの身を案ずる想い全てだった。

 

「じゅんくん!しっかりしてじゅんくぅん!」

 

焼け焦げた背中の服を見たゆんゆんはその痛々しさに目を背けたくなる思いに囚われかけるが、彼が生きてるのか確認する為にも抱きかかえ、呼び掛けながらじゅんの顔を見たゆんゆんは再び戦慄する、左右の頬から大量の血が流れている事に。

 

「…ゆ…ん…ゆん?」

 

片方の傷は自分が付けたものなのか…罪悪感が沸き上がろうとする中、小さくも自分の名を呼ぶじゅんの声が耳に入る。

 

「そうだよ!私だよ…ゆんゆんだよ!」

 

生きてる事が分かり安堵と喜びの思いで呼び掛けるゆんゆん…だが。

 

「…だ…い…じ…ょ…う…ぶ…」

 

ポツポツと口に出すも、本人からの「大丈夫だよ」と言う言葉を聞く前にじゅんは目を瞑ってしまう。

 

巨大モンスターの事…巨人の事…じゅんが何者なのか…今のゆんゆんにはもはやどうでも良い事ばかりだった。

 

ただ生きてさえいれば良い…また一緒に入られるならばこれ以上何も望まない。

 

けれどもそんなゆんゆんの願いを粉々に砕くかの様に、力無く項垂れ動かなくなってしまったじゅん。

 

「あ…や…やだぁ…こんなのいやだよぉ…ねぇおきてよぉ…お願いだからぁ…!」

 

揺れ動かしても反応しないじゅんに…沸き上がる深い悲しみと絶望が…悲痛な叫び声となって木霊した…。

 

 

 

 

─ゆんゆん「じゅんくうううううん!!!」─

 

 

 

 

当たり前の様に今日が終わる筈だったアクセルは、突如として現れた怪獣と巨人によって地獄へと変えられてしまった。

何時もあったお店、家、噴水広場等が瓦礫と炎に変貌し人々の心に大きな爪痕が残されてしまう。

一方カズマ達はあの場を何とか逃げ切る事に成功。そして幸いな事にも自分達の住む屋敷は健在だった為に、そのままウィズも招き入れ一息の安心を得ていた。

巨人の攻撃を受けたウィズは、カズマのドレインタッチでめぐみんの魔力を移し与えた事により消滅は免れたものの、未だ目を覚まさずベッドの上で眠り続けていた。

 

「カズマ…先程の件ですが…その…すみませんでした」

「…いや、こうして屋敷含めて全員無事に済んだんだ…気にすんなよ」

 

いつもならば文句を言って口論に発展する所なのだが、今まで見せたことの無いカズマの剣幕に今回ばかりは自分の非を素直に認め謝罪の言葉を送るめぐみん。

対するカズマもめぐみんの謝罪が嘘偽りでない事を感じ、同じく素直に受け止め逆に気遣った。

 

「相変わらず差押の札が気になるけども、屋敷が無事で本当によかったわ〜…それにしても」

 

安息するアクアはそう言いながら、窓の外で淡い赤色を発する街とベッドで眠るウィズ双方を見比べていた。

 

「怪獣は現れるわ…ウルトラマンは現れるわ…私程じゃないけどウィズがやられるわ…挙げ句に街は壊されるわ…まったく、一体全体何がどうなってるってのよ」

「…んな事俺にだってわかんねぇよ…ただ」

 

愚痴るアクアに対して、椅子に腰掛けたまま顔を伏せぶっきらぼうに返すと同時に、カズマは改まって語りかける。

 

「一つだけ…ハッキリと分かった事がある」

「分かった事…ですか?」

「何よ、もったいぶらずに言いなさいよカズマ」

 

首を傾げるめぐみんと急かすアクアに対し、二人に向けないままゆっくりと顔を上げ前方を見るカズマ。

眉間にしわを寄せ敵意剥き出しの目を作り、自分の中の思いに対して決別するかの様に、そして二人に宣言するかの様にカズマは呟く。

 

 

 

─カズマ「あの巨人は………()()()()()()()()()()()()()」─




皆様が夫々好きな音楽を聴いてその場のシーンに合わせて頂けたらなと思ってます。

因みに私は、今回のゼファーの戦闘はテイルズオブイノセンス(以下TOI)から
「剣を以って打ち砕け」を。

ゆんゆん達を見て思い出す所は、同じくTOIから
「オルゴールの思い出」をイメージソングにしてます。

ウィズが呆気ない、ゼファー強過ぎは承知の上です。

ネタバレになりますが、なにせ超新星爆発に耐えた暗黒破壊神と関わりがありますからこれぐらいでなければと思ってます。

じゅんはまだ生きてますのでご安心を、それでは。


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第三章〜その③

今回は短めになります。

こんなのクリス≒エリスじゃないと思われるかもしれません。

それでもお付き合い頂けたら幸いです。


静まり返った始まりの街アクセル。

 

冒険者を含む全ての人々が一致団結し、怪獣と巨人によって燃える街の消火に取り組み、鎮火させる事に成功。

 

壊れ尽くした家や建物を立て直す為にも明日に備え全ての人々が寝静まる中、一人だけ暗闇の中起床した人物がいた。

 

「………」

 

破壊から免れた宿屋のベッドに眠るじゅんを、見下ろす様に見つめるのはクリス。

 

傷口を防ぐ為の布が両頬に貼られた何とも痛々しい状態とは対象的に、すやすやと眠るその顔はとても愛くるしい物だ。

 

悲観に思うか微笑ましく思うか、2つの内のどちらかはたまた両方が沸き上がるだろうが、クリスのその表情と思いはどちらでも無く…一瞬で凍りつかせるのではと思わせる程の暗く冷たい目となってじゅんを見つめていた。

 

しかもクリスの右手には、得物であるマジックダガーが握られている。

 

「すぅ…すぅ…」

「……」

 

寝息を立てるじゅんを見つめていたクリスは、この部屋でない別の部屋に居るゆんゆんに向け心の中で語りかける。

 

「(あたしは言ったよゆんゆん…友達だからと言って…その人が必ずしも自分や周りに良い影響を与えるとは限らない…て)」

 

自分とじゅんを二人きりにする様に言い包めたのは他でもないクリス本人。

 

最初は渋るもクリスを信じて託したゆんゆんを何処か咎める様に、そしてその友達と言うのがじゅんと自分自身だと言い聞かせる様に思いながら、右手に握るダガーに力を加える。

 

最初に出会った時からじゅんから薄々と感じる邪悪な気配。

 

二人に接触し仲間となったのも…じゅんがこの世に悪影響を及ぼす者かどうかを見極める為。

 

そしてじゅんが巨人となって破壊の限りを尽くし、災いを齎す存在だった事が証明された…。

 

ダクネスと言う友が、カズマ達の様な賑やかに騒ぎを起こす人々が生きるこの世界が滅びるかもしれない…それだけは阻止しなければ。

 

それはクリスとしてでもあり…それ以上に女神であるエリスとしての意志でもある。

 

そんな自分の中の神としての本能が叫び訴える…“目の前の悪魔を殺せ!殺すんだ!”と。

 

…ゆんゆんは本当に優しい娘だ…危なっかしいほどに。

 

それ故に…今からあたしが行う事をしたらゆんゆんは絶望し…生きる気力を失うかも知れない。

 

ならあたしは悪人となって一生憎まれ役として居続ける事にしよう。

 

…反吐が出る程の身勝手な偽善だ…それも甘んじて受け入れる…全ての汚名と憎悪を背負うんだ。

 

覚悟を決めた様に、手に持つダガーに自身の神の力を纏わせるクリス。

 

薄っすらと刀身が光るのを確認すると、逆手に変えて刃を下向きにする。

 

後は心臓部目掛けてふりおろすだけだ…せめて苦しまない様に一突きで仕留めよう。

 

情けをかける思いを抱きながらダガーの柄を両手で握り、頭上より高く振り上げる。

 

そして勢いよく振り下ろそうとした直前に。

 

ぽたっ ぽたっ ぽたっ

 

何か水の様な物がベッドのシーツに落ちて濡れるのを見た途端、クリスは自分の体に起こる異変に気付く。

 

「え…あ…あれ…あれ?」

 

落ちてきた水の正体…それはクリス自身が流す涙に他ならなかった。

 

一時中断し左腕で涙を拭う…だがそれでも止まる事なく、寧ろ拭う度に流れ出る涙の量が増えるばかりだった。

 

「(なんで…なんでなのさっ…あたしは決心した筈だ!殺らなきゃならないって!…それにもう忘れたの!?…じゅんがこの街で何をしでかしたのかを!)」

 

冷酷になりきれてない自分を咎める様に言い聞かせながら、巨人となって破壊するじゅんの姿を脳裏に浮かべ怒りと憎しみを引き起こそうとするクリス。

 

なのにその感情が沸き上がらず逆にズキズキとした胸の痛みに襲われてしまう。

 

「(じゅんのあの態度も喋りも性格も全部あたし達を欺く為の演技(ポーズ)なんだ!騙していたんだ!この子は災いを齎す悪魔なんだ!この世界の為にも殺さなきゃだめなんだ!殺すんだ!殺すんだ!!殺すんだ!!!)」

 

激しく言い聞かせるクリスだが、過激な言葉を使えば使う程胸の痛みも激しくなるばかりか…流れる涙も止まらずとうとう身体さえもが震え始めたのだった。

 

「(…あたしは…わたしは…あたし(わたし)わぁ!)」

 

〜私はクリスさんとじゅんくんを信じてます、大切な人だから信じ抜くことにしてるんです〜 

 

「(あたし(わたし)はそんな出来た人間(かみ)じゃない!じゅんの事だって本当はこれっぽっちも!)」

 

〜私と同じでじゅんくんが好きだから…好きでいたいから〜

 

「(違う!じゅん(悪魔)の事なんか…じゅん(悪魔)の事なんかぁ!!!)」

 

 

脳裏に響くはゆんゆんの言葉…それを聞くたび動揺し、クリスとエリスそれぞれ使い分けてる一人称が混ざる程の支離滅裂となって混乱してしまう。その時だった。

 

「ん…んん…」

「っ!?」

 

突如として出てきたじゅんの声。

 

目を覚ましたのか…暴れる心臓を必死になだめ様子を見るクリス、直後にじゅんの口から出た言葉は。

 

「…ゆん…ゆん…クリ…ス…」

「はっ…!」

 

起床する気配も無く目を瞑ったままである以上は寝言なのは間違いなかった、だがじゅんのその寝言はクリスに凄まじい衝撃を与える事となった。

 

先程まで自分が殺されそうだと言うのに呑気に眠り続け…あろう事かゆんゆんのみならず殺そうとする自分の事まで呟くのだから。

 

こっちの気も知らないで…呆れる気持ちも確かにあるがそれ以上に支配したのは、とてつもない虚しさと切なさだった。

 

そして同時に、自分とアクアの上司である一人の女神の言葉をクリスは思い出す。

 

 

〜とある者が言いました…“曇りなき眼で見定め決める”と

 

エリス…私達神が悪魔に対する本能(おもい)はある種必要善とも言える事でしょう

 

ですが…無限に生まれる広大な宇宙からすれば、神も悪魔も所詮は一つの生命体に過ぎません

 

故に覚えておく事です

 

アナタの大切な者が仮に悪魔…もしくは準ずる存在であったならば

 

神の本能(おもい)に委ねる程度なのか…抗うに値する存在なのかを見極めなさい

 

その為に最も大切な事…振り回されず、意地を張らず、恐れず、目を逸らさず…

 

己の想いに純粋(すなお)に向けて受け入れる事です〜

 

 

─クリス「…純粋(すなお)に…」─

 

 

クリスの脳裏に数時間前の事が蘇る。

 

黒い巨人が消滅しその場へと向かい着いたクリスの眼に映った光景。

 

「じゅんくぅん…やだよぉ…ひっく…死なないでよぉ…ねぇ…!」

 

目を瞑るじゅんを泣きじゃくりながら必死に起こそうとするゆんゆん。

 

「(やっぱりゆんゆんだ…でも何でじゅんが…まさか…じゅんがあの巨人…!?)」

 

その状況を見た事で、あの巨人の正体がじゅんである事を瞬時に見抜き理解するクリス。

 

だが同時にクリスの中で溢れんばかりの感情が押し寄せて来た。

 

「(じゃあ…あたしはじゅんを…この手で殺そうと…あたしが…あたしが!)」

 

神としての本能も確かにあったがそれを遥かに上回る感情…じゅんを知らずに殺そうとした事への恐怖と罪悪感。

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ハァッ…!」

 

その事実に気付いた途端、呼吸を荒げると膝を曲げ自分を抱きしめながらうずくまるクリス。

 

先の自分の行いがフラッシュバックとなって映し出され、震える体を益々強くさせた。

 

「ハァッ…ハァッ…グッ!」

 

だが、僅かに残る理性を震え上がらせ荒れる心を押し止めたクリスは、自分の心境を悟られない様この状況に相応しい態度を表しながらゆんゆんへと近づく。

 

「ゆんゆん!」

「ク…クリスゥ!…じゅんくんが…じゅんくんがぁ…!」

 

何故ここにと言う疑問を抱く余裕が無い程まで追い詰められたゆんゆんは、クリスに助けを乞う様にすがる。

 

落ち着いてとなだめながら抱きしめられてるじゅんを見るクリス、左右の頬から流れる血を見てゆんゆんと同じ罪悪感に襲われるが、それを何とか抑え脈等を図りながらくまなく調べた。

 

「………大丈夫、気を失ってるだけたよ。でも傷の手当が必要だ…宿屋でも何でもいいから一先ず休める所をさがそう、そしたら何があったかも聞いてあげるからさ」

 

 

─ゆんゆん「う、うん…!」─

 

 

こうして気絶したじゅんを連れ空き家となってる宿屋に駆け込んだクリス達は、じゅんの手当と同時に経緯を聞く事になった。

 

…けれどもそうじゃない、聞かれたからじゃない、それ以前からクリス自身本当は分かっていた。

 

「(…そうだよ…あたしはじゅんが好きだよ…普段ぼ〜としてて危なっかしくてこっちの懐がヤバイ程沢山食べるくせにさ…でもとても穏やかで凄く優しい心を持ってて…だから怖かったんだ…今まで一緒に居た時間が…全部嘘っぱちになる事が…何より自分の手で殺そうとした事が…)」

 

コロセ…コロセ…コロセ…

 

「(それにまだ全部が分かった訳じゃない…あたし達の知らない存在がまだいるのかも知れないんだ…そいつがじゅんに何かしたのかも知れない)」

 

コロセ…コロセ…コロセ…

 

「(…分かってるよ…起きてからじゃもう遅い事くらいちゃんと分かってる…それでも)」

 

コロセ…コロセ…コロセ…

 

「(それでもあたしは…信じたい…あの時体を貼ってゆんゆんを守った…じゅんのあの行いを………あたしは信じたいんだ!!!)」

 

…… …… …… 

 

「(だから怖がらないで…怯えないで…振り回されないで…女神エリス(わたし)…今のわたしは…あたしはクリスと言う一人の人間で…じゅんとゆんゆんの仲間なんだからさ)」

 

自分の本当の気持ちに素直に向き合う度に、神の本能が囁いてくのを感じるクリス。

 

だがその本能を振り払い逆に言い聞かす様に語ると、耳元で囁き続けた声が無くなり聞こえるのは未だ眠るじゅんの寝息音のみだった。

 

そしてクリスは気付く、窓の外が薄っすらと明るくなり始めた事に。

 

少し外の空気に当たろう…何とか抑え割り切れても火照った身体と頭は未だ熱を帯びており、それを冷やし更に落ち着かせる為にもと考えたクリスは握り締めてたダガーをゆっくりと鞘に戻す。

 

「すぅ…くぅ…」

「まったく…こっちの苦労も知らないで呑気に寝ちゃっててさ…このガキンチョめ」

 

苦笑いで軽く悪態をつきながらも、起こさない程度の力加減でじゅんの頭を優しく撫でるクリス。

 

神の本能が決して消えた訳ではない…けれども、抗うに値する程の絆が芽生えてる事に目を逸らさず受け入れるクリス。

 

それが吉と出るか凶とでるかはそれこそ神ですら分からない、でも今だけは信じる様に努める事にしよう…目の前で眠るじゅんに…自分とじゅんを信じるお節介なゆんゆんに…そして二人を好きに思ってる自分自身の為にも。

 

一通り撫で終えたクリスは部屋を出ようと忍び足で歩きドアを開け、そして完全に閉める前に隙間から除くじゅんの寝顔を見ながら小さく呟いた。

 

 

 

─クリス「おやすみ…じゅん」─




心の葛藤を何とか書いたのですがかなり手こずりました。

次回の話の内容予定。

「じゅん、ウルトラ戦士としての第一歩を踏み出す」


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第四章〜その①

お待たせしました。

今回の様に遅くなると思いますのであしからず。

ドラマパート的なので、戦闘は次回になります。

それと、コスモス20周年おめでとうございます。


 

…もえ…てる…

 

…いえ…こわ…れる…

 

…あいつ…なに?…

 

…あれ?…ウィズ…なんで…ぼく…

 

…ゆんゆん…あぶない…

 

…クリス…どうして…

 

…どうして…ぼく…こわすの?…

 

…ぼく…なに?…

 

 

 

─じゅん「ぼく…だれ?」─

 

 

 

第四章「勇気-WakeUp(ウェイクアップ)-」

 

 

 

「ん…うぅん…」

 

窓から刺す光を感じたじゅんは重たい眼を開け目を覚ました。

少し抜けた体の感覚と両頬の違和感…昨日から何があったのかと混乱する中、無意識にガーゼが付いてる頬にじゅんは手を当てる。

 

「じゅんくん、クリス、おきてるかな…て」

 

それと同時に二人の名を呼ぶ声が部屋に鳴り響くも、声の主のゆんゆんは目を覚ましてるじゅんの姿を見て思わず固まってしまう。

何せ今までエメラルドグリーンだった瞳が今は自身を含めた紅魔族とは異なる奇っ怪な真紅の瞳に変わってしまっていたのだから。

最も今のゆんゆんにとってそれは二の次な事でしかない。

生きて目を覚ました事以上の喜びは無く、涙をたらふくに浮かべながらこちらを見るじゅんに近寄る。

 

「…よかった…じゅんくん…じゅんくん!」

 

自分の温もりを送るのを含めて思いっ切り抱きしめようとするゆんゆん。

じゅんはそんなゆんゆんの、手を両方に広げる姿を目にした瞬間。

 

 

これ以上…これ以上あなた達の好きにさせないんだからぁ!!!

 

 

「…っ!」

「…えっ?」

 

近づくゆんゆんにじゅんは思わず身を引いてしまう。

 

「…あ…あれ?」

 

何時もなら甘んじて受け入れる筈…なのに今回に限っては、ゆんゆんのあの言葉と表情…そしてそこから繋がる夢で見たあの光景…その全てが鎖となってじゅんを雁字搦めにしてしまう。

状態をよく理解出来ず自分の手を見つめるじゅん…本人が自覚してるのか分からないが他者から見ても震えてるのがよく分かる光景にゆんゆんは黙る訳にもいかず一歩踏み入れようとした直後。

 

「あ、ゆんゆん…それにじゅんも!」

 

後ろからくる呼びかけにゆんゆんとじゅんは視線を向けると、外の空気に当たってたクリスがこの部屋に戻ってきた。

 

「クリス!丁度良かった、じゅんくんが目を覚ましたとこなのよ…ただ」

「そっか、体の具合は…じゅん?その目は」

 

少しおかしい状態のじゅんを言おうとするゆんゆんだったが、目を覚ました事と異変を起こしてる瞳を見た余り耳に入らなかったクリスは困惑しながらも徐に近づく。

そんなクリスの表情をじゅんが見た途端。

 

 

あたしの目の前でゆんゆんを殺ってみなよ…撃ち殺してやるんだからさぁ!!!

 

 

「ひっ!」

 

今度は明確な拒絶ばかりでなく、普段表情の薄いじゅんが強く表すほどの強張った表情に変わってしまう状態になってしまう。

 

「じ、じゅんくん!?」

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!」

 

吸って吐く行為を荒々しくしながら、じゅんは両肩を掴んで己を守る様な体制をつくる。

尋常じゃないその姿に驚きを隠せない二人、そして。

 

「どうしたの!?何があったのじゅん!?」

 

クリスが思わずじゅんの肩に手を掛けた次の瞬間。

 

「ああああ!ああああああ!!!」

 

今まで発したことの無い悲鳴を上げたじゅんはクリスの手を乱暴に振り払うと、振り返る事なく一目散に駆け出し部屋から出る…否、逃げ出してしまう。

驚愕する二人だが、この中で最もショックを受けたのはクリスだった。

 

「(まさか…じゅんはあの時気付いてたの…それともあたしが撃った事に…!)」

 

寝込みに殺そうとした事なのかそれとも巨人となった時に撃った事なのか…いずれにせよ拒絶された事が想像以上にショックだったクリスは、弾かれた己の震える手を見つめながら沸き上がる罪悪感に苛まれていた。

 

「…リス…クリス!」

「はっ!」

 

そこへ横からゆんゆんの呼び掛けに気付き現実に戻される。

 

「…わたし、じゅんくんを探しに行くけど…クリスはどうする?」

 

ゆんゆんも昨日の事で話し合った身として今のクリスの心境が痛いほど伝わる。

無理せずこのままここに居たほうがと気遣うものの、クリスはゆっくり首を横に振り否定した。

 

「あたしも探すよ」

「クリス…」

「あんな事した手前だからこうなる事は覚悟してた…正直言って思った以上に結構キツイし…やっぱり怖い…また拒絶される事が…でも」

 

心配そうに見るゆんゆんにクリスはこう答える。

 

「ジッとココに居てもさ、どうにもなんないから…ね?」

 

空元気な笑顔を作る表情に、ゆんゆんは胸を痛める。

自分も含めお互いじゅんを傷つけてしまった…彼だって何も分からず振り回された身の筈。

あんな事されて怖がる訳が無い…本当はゆんゆん自身も拒絶されるのではと恐れている。

だが、自分達以外に誰がじゅんを信じたり受け入れる事が出来るか…代わりなどいない事を瞬時に理解してたゆんゆんはクリスの言葉を聞き入れ、決意を改めた。

 

「…わかったわ、なるべく早い内に見つけよう」

 

もし手間取ってたら最悪アクセルの外に出るのかもしれない、それだけは何としても避けるべく二人は急いで探しに向かった。

 

 

─ゆんゆん・クリス「このすば!」─

 

 

「ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!」

 

じゅんは走る、只ひたすら走り続けた。

何故二人から逃げてしまったのか、じゅん自身にも分からなかった。

だが、無我夢中に走り続ける度にすれ違う周りの人々の声が耳に入る。

 

“店が…俺の店がぁ!”

 

“私達の家がぁ!”

 

“何なんだよあいつらは!ちくしょう!”

 

“お父さん!お父さん!”

 

“うわぁあああああん!”

 

「うぅ!ぅううう!ううううう!」

 

入ってくるのは昨夜の出来事によって、家や店を壊され、家族が傷付いた人々の嘆き悲しむ声。

その声を聞くたびにじゅんの脳裏には自分が巨人となって勝手に暴れる光景が嫌でも映り込んでしまう。

これ以上耳にしたくない、見たくない一心でじゅんは両手で耳を塞ぎ頭を強く振って逃げる様によりいっそう走る速度を強めていた。その途端。

 

「うわぁっ!」

 

走る事に集中する余り誤って足を滑らせたじゅんは盛大に転んでしまう。

膝や顔等全体的に痛みが来る中、無意識に真横の壁に手を当て強引に立ち上がるじゅん。だが同時に。

 

「…っ!?」

 

その壁には透明な窓が貼られ、うっすらと自分の顔が映し出されており、そこでじゅんは自分の顔…特に目が異常な赤色に変わっている事にようやく気付く。

その禍々しい赤い目にじゅんは思わず目を擦って取ろうとするが、当然ながら取れる筈もなく依然として赤いままだった。

呆然とするじゅん、するとそこに。

 

「じゅん?」

 

自分の名前を呼ぶ声に思わず体を向けると、そこには声の主であるカズマに加えアクアとめぐみんの姿もあった。

 

「カ…ズマ?」

 

思いもよらぬ知り合いとの遭遇に名前を口にしながら硬直してしまうじゅん。

一方でカズマ達は、じゅんの目が紅魔族とは余りにも異なる異様な赤い目になってる事に気付き、無視する事など出来る筈なく話し掛ける。

 

「どうしたんだよその目は?」

「私達紅魔族のとは明らかに異なってますが…」

「わかったわ!さてはガキンチョ悪魔、それがアンタの正体なのね!」

 

困惑するカズマとめぐみんとは対象的に、女神であるアクアは只でさえじゅんの事を「悪魔」と見なしてる事もあり、神の本能のまま人差し指を向け敵意むき出しな態度で強気に言う。

 

「…あく、ま…ぼく…」

 

「悪魔」と言う存在が何なのかをアクセルに来る以前からゆんゆん達に聞かされ知ってたものの、何故アクアは自分の事を「悪魔」と呼ぶのかがいまいち理解できなかった。

だが、今のじゅんにはあの黒き巨人になって町を破壊する光景が未だに残っており…それがどれ程酷い行いなのかを理解してるが故に、自分がアクアの言う「悪魔」なのだと思い始める。

同時にじゅんの中で、自分の意思では無いが故にカズマ達と一緒に居たウィズを攻撃した場面が蘇ってしまう。

 

「う…うぅ…!」

「ど、どうしたんだじゅん!?」

 

知り合いに危害を与えた背けたい事実に再び蹲るじゅん。その苦しそうな姿にカズマは思わず駆け寄ったのだが、触れようとした直前にじゅんは再び立ち上がると彼等から逃げる様に背を向け、再び走り去って行った。

 

「いったいじゅんじゅんに何があったのでしょうか…」

「おいアクア!お前が毎度んな事言うからじゅんが逃げたじゃねえか!」

「な、なによ!だってしょうがないじゃない!私含めた神達は悪魔相手に本能で敵意剥き出しになっちゃう物なんだから!」

 

じゅんの姿が完全に見えなくなった後、その場に居たカズマ達はそれぞれ言いたい事を言い合っていた。

するとそこへ。

 

「めぐみん!それとカズマさんとアクアさんも!」

 

息を切らしながら走るゆんゆんが、カズマ達の姿を目にし此方に近寄っていく。

 

「ゆんゆん、貴方も無事だったようですね。ですが生憎と昨日の騒ぎもありますから貴方からの勝負はいつかの後日と言う事で」

 

また何時もの様に「勝負よ!」と言ってくるだろと思っためぐみんは、最もらしい理由で適当に断ろうとしたのだが。

 

「そんな事はどうでも良いのよ!」

「な、なんですって?」

 

まさかの勝負事ではなく、それどころかどうでも良いと言われる始末。

余りの予想外の返答にめぐみんは思わず固まってしまうが、そんなめぐみんを余所にゆんゆんは鬼気迫る勢いでカズマ達に尋ねた。

 

「じゅんくんを、じゅんくんを見ませんでしたか!?」

「じ、じゅんならさっき出会ったけど、何か血相をかえてあっちに走って行ったぞ」

「あっちにですね…ありがとうございます!」

 

その姿と勢いに困惑しながら、じゅんが走って行った方向に指を指したカズマに対し感謝の言葉を言ったゆんゆんは、再び走り出しカズマ達から去っていった。

 

「あ、おいゆんゆん!」

 

呼び止めようとするカズマだったが既に後ろ姿が小さくなってた為に、ゆんゆんの耳に入ることはなかった。

 

「まさかあのゆんゆんが勝負を“どうでも良い”等と…」

「そんなに珍しいのか?」

「珍しいなんてものじゃありません!私にとって“ゆんゆん=勝負の持ち込み”と言う方程式になってるのですが、これまで出会い頭に勝負事を持ち掛けなかったことなど一つもありませんでしたから」

 

どんな方程式なんだよ…と心の中で突っ込むカズマ。

じゅんのあの目と言いゆんゆんの焦る態度と言い、正直なところ気にならないといえば嘘になるのだが。

 

「それよりもカズマ、一先ずあのガキンチョ悪魔とゆんゆんの事は置いといてギルドへ向かいましょう。あの騒ぎで壊れてないと良いんだけど」

「あ…ああ、そうだな」

 

こちらはこちらの用事が有る以上は詮索する余裕はそんなにない。

少し心苦しいが一通り落ち着いたら何があったのか後で聞いてみることにしよう、そう割り切ったカズマはギルドのある方へと向かっていった。

 

 

─カズマ「このすば!」─

 

 

じゅんが逃げてかれこれ数時間が経過した。

盗賊のスキルを使っても中々見つけられない事に、クリスは焦り始めていた。

いくら何でも手こずるのはどうも可笑しい…強いて可能性を上げるならじゅんの身体能力が自分が考えてる以上に向上しているからか?

でも特訓などさせた覚えはない…もしや一度メモリを使ったあの時から…それとも巨人になった影響からか?等と思考を巡らせたものの“外に出た”と言う最悪な展開をいよいよ持って考えなきゃならないかと、クリスは顔をしかめ始める。

そうして走っていると、一軒の人気のない店の前で体育座りをして蹲る人の姿を目にする。

 

「(あれは…じゅん!)」

 

上着は寝所の宿屋に置いてしまってたが、背格好に加え特徴的な白色の髪…決して見間違うはずがなかった。

とりあえずアクセルにまだいる内に見つけひと安心したクリスは早速声を掛けようとする…しかし。

 

「じ………」

 

ただ呼び掛ける、それだけの筈なのにそれ以上声を出す事ができなかった。それどころか。

 

「っ『潜伏!』」

 

気配を感じたのか、じゅんがクリスの居る方に顔を向ける直前に盗賊スキル“潜伏”を思わず発動させてしまう。

誰も居ない事に気のせいかと思ったのか再び俯くじゅんに対し、クリスはじゅんの隣に空いてある隙間の壁に入り込み同じ様に座り込んでしまう。

 

「(…なにやってんのさ…あたしは…)」

 

自虐気味に心の中で呟くクリス、その理由は本人も自覚していた。

見つけたのは良いものの今のじゅんの精神状態と、何よりクリス自身が二度に渡ってじゅんを殺そうとした事が重い足枷になっていた。

特に二回目の際はじゅんの正体が分かった上で且つ寝込み中と言う傍から見れば卑怯な行い…“今更どの面下げて会うというのだ”…探すと言っておきながら自身の行いと拒絶されると言う恐怖の余りスキルを使って逃げた自分への自己嫌悪が渦巻きクリスも同じく体育座りのまま顔を俯かせてしまう。

お互いがすっかり塞ぎ込んでしまい動かなくなってから約数十分程経過した、その時だった。

 

「じゅんくん?」

 

自分の名を呼ぶ声に思わず勢いよく顔を上げると、目の前にはゆんゆんが立ってじゅんを見下ろしていた。。

 

「(ゆんゆん?)」

「っ!」

 

まさか自分と同じく見つけるとは思っても見なかったクリスだったが、ゆんゆんの顔を見た途端にカズマ達の時同様に血相を変えたじゅんは直ぐに逃げようと立ち上がったのだが。

 

「ま、待って!」

 

もう逃がさないように、何より1人きりにさせないように、ゆんゆんはじゅんの背後からがっしりとしがみつく。

 

「うぅ!うううう!」

「お願い、もう逃げないで!何も酷いことしないから…ね?」

 

暴れるじゅんを力強く抱き締めながら落ち着くように促すゆんゆん。

すると通じたのかじゅんは暴れる事を止め変わりにふるふると体を震わせながら、閉じていた口を開きゆんゆんに問いかけ始める。

 

「ゆ…ゆんゆん」

「大丈夫だよ、ゆっくり話してみて」

「……この…か、んじ…なに?」

「え?」

 

質問の内容を上手く把握することができず困惑するゆんゆんだが、じゅんは更に続ける。

 

「むね…くる、しい…ほか…ひと、たち…かお…みる…す、ごく…くるしい…ぼく…あ、れに…なって…こ、わす…へん、になる…から、だ…ふる、える…これ、なに…わからない…わからない」

 

じゅんの言葉を聞いたゆんゆんは無論の事、潜伏で身を隠し聞いてたクリスも同じように言葉を失っていた。

それはじゅんに肝心な事を教え足りてない事である。

そもそもじゅんは他の人達に比べ感情の起伏が低くいだけでなく自覚症状も非常に薄い。

特に最初の頃なんかはこちらから行動を起こしても無反応が殆どで、心臓が動いてるだけの“生き人形”同然の状態であった。

それでも彼女達…特にゆんゆんの懸命なコミュニケーションの甲斐もあり、今現在も薄いのだがそれでもちゃんとした感情を生み出す事ができた。

しかし、全てが揃った訳じゃなくまだ自覚してない感情がいくつかありそれを教える事を怠ってしまったばかりに、じゅんは自分の中で暴れる感情の1つが理解出来ずに振り回され苦しんでいた。

それに気付いた二人はちゃんと教えて上げなかった事への申し訳なさと同時に、今じゅんを掴んでるゆんゆんは教えてやらねばと思い口を開けゆっくりと語りだす。

 

「それはね…“恐怖”…“こわい”って言うんだよ」

「…きょ…うふ…こわ、い?」

「…誰かに怒られたり傷つけられる事もそうだけど…他の人達に苦しい事、辛い事、嫌な事をしてしまって傷付ける事も…すごく怖い事なんだよ」

「…じゃあ…こ、れが…きょうふ…こ、わい…こわい…こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい!!!」

 

ゆんゆん自身まだ若く未熟ながらも出来る限り分かる様に説明をした。

すると、自身の感情…恐怖を彼なりに自覚し向き合ったのか、その瞬間壊れたかの様に“こわい”と言う言葉を何度も発する事により強く体を震え上がらせてしまう。

 

「…じゅんくん!」

 

そんな痛々しい姿に何もする訳にいかなかったゆんゆんはじゅんを強引にこちらに向けさせると、開けた自身の胸に埋めさせながら抱きしめ、同時に右手を頭に乗せゆっくりと上下に動かし優しく撫で始める。

 

「…ゆん…ゆん?」

「…こわかったよね…辛かったよね…痛かったよね…苦しかったよね…私がいるから…ここにいるから…大丈夫だから安心して…ね?」

 

そう言うゆんゆんもじゅんの様に体や声を震わせながら話しかける、それは決してじゅんが怖いからでなく、彼の心境を理解したから故にである。

いきなりあんな巨人に変身するだけでなく巨大モンスターを相手に戦い、更に加え足元に建つ建物を躊躇い無く壊していった。

それがじゅんの意思でないことは彼の今の姿からでもわかり、寧ろ操られていた可能性が非常に高い。

そんな訳の分からない事に振り回されて怖い思いをしない筈がない…じゅんの心を汲み取ったゆんゆんは何故この子が苦しまなければならないのか…理不尽な現状を恨めしく思いながらもせめて少しでも安心させなければと、涙を流しながら止めること無く頭を撫で続けた。

 

「…ゆんゆん…うぅ…ひっく…あうぅ…えっぐ…」

 

今まで逃げたのも全ては恐怖心からだった。

拒絶される事…責められる事…再び殺意を向けられる事…そして自分が悪魔かもしれない事。

けれどもゆんゆんは、自分が想像した事を何一つせず、逆に受け入れてくれた。

心細かった事もあり、ゆんゆんの包み込む優しさと温もりに涙と共にすすり泣き、すがるように強く抱き締めた。

 

「(じゅん……っ!)」

 

二人の会話を聞いていたクリスもまた、同じように涙を流す。

じゅんはただ何者かに振り回され、それ故にこんなにも苦しい思いをしてしまったのだ。

殺そうとした事実が消えるわけではないが、あの時神の本能に支配されていれば自分は取り返しのつかない過ちを犯すところだった。

方や無力な事に…方や多くの人々を傷付けてしまった事に…方や過ちを犯そうとした事…それぞれ違えども同じ言葉を直接口に又は心の中で呟いた。

 

 

ー『…ごめんなさい…』ー

 

 

お互いがしばらく泣きあった事で落ち着く事ができ、じゅんは自身の身に起こった事を分かる範囲で説明する。

あの巨大モンスターを見た途端に奇妙な感覚に襲われその後の記憶は曖昧となっていたが、ゆんゆんの泣き顔を見た途端に自分が巨人になっているのに気づき、モンスターの攻撃からゆんゆんを守ろうと体を動かしたと。

それを黙って聞いてるゆんゆんと未だに隠れてるクリス、するとじゅんはこんな事を言い出す。

 

「…ゆんゆん…」

「なぁに、じゅんくん?」

「…ぼく…あ、くま…だよ」

「え?」

「アクア…さま…いって、る…ぼく…ガキ、ンチョ…あくまって…」

「(アクア先輩めぇ~…て、あたしもどうこう言える立場じゃないよね…)」

 

ゆんゆんから自分が帰ってくるまでにあったことを一通り聞いてたが、相変わらずなアクアの姿勢に他の悪魔やアンデッドならともかく仲間のじゅんは例外なので恨めしく思うクリス。

尤も人(?)の事を言えるもんじゃないと自覚してるので、ひとまず置いとくとし更に続けるじゅんの言葉に耳を向ける。

 

「ぼく…アク、セル…いえ…おみせ…こ、わした…ウィズ…カズマ…アクアさま…めぐみん…たく、さん…ひと…きず、つけた…こわ、がら…せた…だから…ぼく、は…」

 

“悪魔”…もう一度自分やゆんゆんに言い聞かせようとした、その直前に。

 

「違う!」

 

ゆんゆんの否定する声が遮る。

 

「じゅんくんは悪魔なんかじゃない!アクアさんの言ってる事なんて真に受けなくて良いんだよ!」

「(…まぁ確かに、先輩に関してはそんなに…ね…)」

「…じゃあ…ぼく…だれ…なん、だろう…」

 

悪魔で無いのならば自分はいったい…そう考えるじゅんに、ゆんゆんは迷うことなく即答した。

 

「決まってるよ…“じゅんくんはじゅんくんだよ”」

「ぼくは…ぼく?」

 

返ってきた返答に対し徐に言うじゅんに、ゆんゆんはじゅんに対する想いを告白する。

 

「もし…もしも本当に悪魔だったとしても…それ以外だったとしても…私には関係ないもの、だってじゅんくんは…ホへーとしててびっくりする程沢山食べて…でも一緒に居ると凄く安心して心がポカポカする…私の大好きなじゅんくんに変わりないんだから」

 

子恥ずかしい思いはあれど育んできた関係もあり、素直に伝え再び安心させようとするゆんゆん。

 

「…ゆんゆん…でも…やっぱり…こわい…ぼく、が…こ、わい」

 

それでもじゅんから不安の色は消えない、その理由は他ならぬ自分自身によるものだった。

 

「あ、の…かいぶつ…またで、たら…ぼく…また…こ、わす…みんな…きず、つける…」

「(…じゅん…)」

再び甦る巨人となった時の記憶。

何故こんなにもくっきり覚えてるのか未だ分からないが、いずれにしろエレキベムラー(怪物)が再び現れ見てしまったら、またも巨人となって暴れだすに違いない…自分の意思に関係なく。

また再び恐怖の心が支配されようとするじゅんを案じるクリス。

だがそんなじゅんの恐怖心を阻止したのはゆんゆんの言葉に他ならなかった。

 

「…大丈夫。今のじゅんくんなら、きっと大丈夫だよ」

「…どう、して…わか…るの?」

 

なぜ自信を持って言えるのか分からずに首を傾げ問い掛けると、ゆんゆんは笑顔を作りながらじゅんを再び抱きしめ開けた胸に埋め込ませる。

 

「私がこうして生きてることが証拠だよ」

「しょ…うこ?」

「あの時、私の事を助けようとしてくれたんだよね?それは他でもないじゅんくんの意思だったんだよ?…私がこうして生きているのはじゅんくんのお陰なんだよ…ありがとう、守ってくれて」

 

感謝の言葉を送られてくすぐったい感覚を覚えるじゅんは、これが“嬉しい”事なのだと一人思いながらゆんゆんの話を聞き続ける。

 

「だからかな…今のじゅんくんなら、きっと大丈夫だって思うの。勿論そうしない様に私が守ってあげるからね」

 

そう言うゆんゆんに対し、守ってくれる事に嬉しさも確かにあったが、それ以上に1つの疑問が浮かぶ。

 

「ゆんゆん…どう、して…ぼく…しん、じて…くれ、るの?」

 

ゆんゆんも怖い思いをし、ましてや巨人が自分であるのにも関わらずこうして受け入れ信じてくれる。

嬉しさはあれどこんな自分を信じる根拠が掴めずにいるじゅんは問いかけた。

そんなじゅんに対しゆんゆんは、目を瞑りながら独白するかの様に語り始める。

 

「私は昔から、紅魔族の皆みたいな感性がそんなにないから、変わり者で見られて…それが余計に皆の輪に入る事が出来なくて…めぐみんにだって本当は笑い合う友達で居たいけど…“魔力で負けたくない”…“超えたい”…“勝ちたい”ってライバル心が優先しちゃってあんな風にしか接する事が出来なくて…そんなんじゃどう言う態度を取られるか分かってる筈なのに毎回同じようにやって勝手に傷ついて…ボッチでいることが殆どで…凄く寂しくて…辛くて…そんな自分が正直言ってね…大嫌いだったの」

「(ゆんゆん…)」

「……」

 

粗方想像してたがまさかこんなにも思い詰めてたとは…ゆんゆんの悩みを聞いたクリスは複雑そうに顔をしかめていた。

 

「何も変わらないまま…変えられないまま嫌いな自分でい続けるのかなって…そう思ってた…でも」

 

そこで一区切りをつけたのか、暗い表情だったゆんゆんがやんわりとした笑顔に変える。

 

「じゅんくんが、それを変えてくれたの」

「ぼく?」

 

胸の谷間から見上げるじゅんにゆんゆんはコクリと頷く。

 

「ルミさんの時だって、じゅんくんが居なかったらきっと私は恥ずかしさと不安で逃げてたと思う…でもじゅんくんが進んで手伝おうとしたから私も一緒にする事が出来だ。じゅんくんが、私に“勇気”を出させてくれたの」

「ゆう…き?」

「そう、じゅんくんを信じる事は同時に私自身を信じる事でもあるんだって思うの。それには凄く勇気が必要になるし同時に不安や怖い思いがいっぱい沸いてくるの…でも、じゅんくんがこうしてここに居るから私は…ほんの少しだけど“私”の事が好きになって、勇気を持って不安や恐怖に立ち向かって信じられるの…じゅんくんを…そして私自身を」

「…ぼく…にも…ゆ、うき…ある…かな」

「もちろんよ!私に勇気を出させてくれたじゅんくんが無い筈がないもの、だから信じて欲しいかな…私やクリス…そして私達を信じる自分の心に。そしたらきっと出せるよ…“勇気”を」

「…あり、がとう…ゆんゆん」

 

感情が希薄故に何時もの無表情であるが、感謝の言葉を送ってくれるだけでも今のゆんゆんには十分に満足であり嬉しさから少しだけ抱きしめる力を強める。

 

「取り敢えず宿に戻ろうか、立てる?」

「…いっぱい…はしって…つか、れた…けど」

 

大丈夫と言おうとしたじゅんだが、その前にゆんゆんが徐に屈むと少し強引にじゅんを自身の背中に乗せた。

 

「無理しなくていいんだよ、私がおぶってあげるね」

「…うん」

 

そうしていざ歩こうとする直前に。

 

「ねぇ…ゆんゆん」

「ん?」

 

じゅんに呼び止められ顔だけを向けると、彼はこんな事を言い出す。

 

「クリス…ぼく…のこと…きら、いに…なら、ない?」

「(…っ!)」

 

ここに来て自分の話題が来るとは思ってなかったクリスは驚く。

その一方でゆんゆんは、質問を質問で返す形でじゅんに問う。

 

「…じゅんくんはどう思う?」

「…ほん、とは…こわい…でも」

 

おんぶされながら自分の本心を言うじゅん。怖い思いはあれどそれ以上にこうしたいと言う思いが勝り、ゆんゆんの服を少し力を入れて握りながら答える。

 

「ずっと…なか、よく…し、たい」

「そっか…その気持ちを持っていれば、きっと大丈夫だよ」

 

自分もそうだがあんな目に遭っても仲良くしようとするなんて…本当に誰に似たのやら。

少々自虐的に思うものの、じゅんの優しさに笑みを浮かべながら答えたゆんゆんは、今度こそ宿屋に向けて歩きだす(尚、後になって我ながらなんとも恥ずかしい行為に及んだものだと悶絶する)。

そして、その場で一人となったクリスは目をつぶる。

じゅんと言いゆんゆんと言い人が良すぎるにも程があるよ…でも、そんな二人だからあたしは好きで居たいんだ。

クリスは自分の心に素直に向き合いながら、宿屋に二人が着き少し時間を置いて戻れば自然だろうと考え暫く離れる事にした。

 

クリスー「このすば」ー

 

そして、時刻は七時前後と暗くなっていく時間どき。

アクセルから遠く離れた森の中にソノモノが歩いていた。

 

「ゼファーのメモリは十二時間で既にチャージ済み…休み時間も与え…前回は直接だったが今回はゼファーは勿論だが街の住人、冒険者達の実力も少し調べておきたい…ここで起きたデュラハンとデストロイヤー時の様に集まってもらう為にも………ここらへんならば程良く集められる時間も得る事だろう」

 

ぶつぶつと独り言を呟いていたソノモノは歩みを止めると、右腕に装着された篭手

“サモンガントレット(略SG)”を展開させ、左腰のホルダーから再びメモリを取り出す。

 

「ベムラー」

 

PLUGIN(プラグイン)MONSMEMORE(モンスメモリ)

 

「エレキング」

 

PLUGIN(プラグイン)MONSMEMORE(モンスメモリ)

 

二本のメモリを差し込み、再び閉じる。

 

FUSIONLOAD(フュージョンロード)STANDBYREADY(スタンバイレディ)

 

「さぁ、第2幕の時間だ!」

 

着けられたSGを右腕ごと天に向け、ガチャリと引き金を引き光弾を発射した。

 

 

GO!(ゴー!)

 

 

ベムラー!エレキング!

 

SUMMON!(サモン!)

 

エレキベムラー!

 

 

 

 

ー???「ゼファー…キミはどう動くかな?」ー

 

 

 

緊急避難警報!緊急避難警報!

 

アクセル北方面の森に昨夜の巨大モンスターが出現及び接近中!

 

全冒険者の方々全員、速やかに正門に集まってください!

 

一般の方々は南方面の裏門まで慌てずに避難してください!

 

繰り返します!

 

 

ルナの声がスピーカーを通してアクセル全体に鳴り響く。

昨日の悪夢が再び訪れるのを恐れる人々は我先にと逃げ出し、一方で呼び出された冒険者達も恐怖はあれどこの街を守るために(一部、特に男性冒険者は不純な理由ではあるが)一丸となって立ち向かおうと正門に向かった。

一方で人気の無い宿屋に戻っていたじゅんとゆんゆん、夕食にしようとゆんゆんと共に作った料理を全てテーブルの上に並べてたが、ルナの呼び掛けが二人の耳に入るとじゅんは体を強く震え上がらせていた。

 

「あ、いつ…きた…!」

「………」

 

また巨人になってしまう…恐怖心がじゅんの全てを支配しようとしたが、黙っていたゆんゆんはじゅんの前へ屈むと両手を肩に乗せて促し始める。

 

「じゅんくん…アナタは街の皆と一緒に南の裏門から逃げて、その間に私達で食い止めるから」

「ゆんゆん…は?」

「きっとめぐみん達も集まって来ると思うから、冒険者として私だけ逃げる訳にはいかないの…それに」

 

そう言うと、再びじゅんを抱き締める。

ゆんゆんとて本当は恐怖心でいっぱいだった…けれども自分以上に怖がってる子が目の前にいる。

自分の方が冒険者としても年齢の方も上、そして何よりも愛しいこの子をなんとしてでも守りたい…ゆんゆんの中の恐怖心は強い“愛情”によって抑え込まれた。

 

「この街と…何よりもじゅんくんを守りたい…だから私は、勇気を出すの。大丈夫、無事に戻ってくるからね」

 

安心させるように背中を優しく擦るゆんゆん。

すると、ドアが開く音が入りお互い顔を向けるとこちらに駆け込むクリスの姿が目に写った。

 

「クリス!」

「…クリス」

「ゆんゆん、じゅん、ここにいて良かった。それと聞いた?さっきの放送」

「ええ、今から私だけ向かう所よ…じゅんくんには裏門に逃げるように言ったわ」

 

そう言われるクリスは一瞬だけ目線をじゅんに向けると、再びゆんゆんに戻す。

 

「ゆんゆん、あたしも後から向かうからじゅんと二人っきりで話がしたいの…お願い」

 

この様な事態に普通なら悠長な事などしてられないと否定するだろうが、クリスの真剣な眼差しに断ることが出来ずゆんゆんはじゅんに問い掛けるように名前を呼ぶ。

 

「…じゅんくん」

「…ぼく…いい、よ」

 

静かに頷きながら言うじゅんを見たゆんゆんは、「先に言ってるね」と伝えると一目散に駆け出して宿屋から出て行き、残ったのはじゅんとクリスの2名だけになる。

向き合うクリスに対しじゅんは恐れる気持ちはあれど、ゆんゆんとのやり取りもあり“ちゃんと言わなくては、ずっと仲良くしていたい”と自分の想いを伝える事を決めると、いざ喋ろうと口を開こうとした直前に。

 

ギュッ…

 

突然クリスが膝を曲げ屈むと、じゅんを抱きしめ始めた。

 

「クリ…ス?」

 

いきなりの行動に目を見開くじゅんを他所に、クリスは静かな口調で話し始める。

 

「分かってるよ、じゅんの言いたい事…あたしも聞いてたから」

「………」

「あたしね、悪魔やアンデッドの様な悪い奴達なんて皆居なくなれば良いって強く思ってた…昔程じゃ無いけど…今でも残ってるの…“悪魔達はいなくなれ”って本能が…うんうん、もう“呪い”だねこれは」

「………」

「あたしの中にはね、そんな消えない呪いがあるんだよ…またじゅんを傷付けるかもしれないよ…それでも…こんなあたしと…仲良くしたい?…仲間でいたい?」

 

抱き締めるのを止め一旦顔を離すクリスは、真っ直ぐにじゅんを見つめる。

未だに禍々しい赤い目であるが、恐れる事も気味悪がることも無くじゅんの返事を待つ。

そして、口を閉じてたじゅんは重々しくも口を開き答えた。

 

「…なか、よく…したい…クリス…ゆんゆん…いっしょ…がいい」

「そっか…」

 

遠回しにじゅんを悪魔だと言ってる様なものなのに、それでも仲良くしたいと言ってくれた。

その瞬間、罪悪感と愛しさが混ざり合った様な感情に突き動かされたクリスは、ガーゼが着けてある両頬に手を付けながらじゅんのおでこに自身のおでこをくっつける。

 

「ゴメン…ゴメンねじゅん…キミを傷付けて…怖い思いも…苦しい思いも味あわせちゃって…」

「…ぼく、も…クリス…ゆんゆん…みん、な…きずつけ、た…ごめん、なさい」

「…じゅんは悪くない…何も悪くないから…」

 

喜怒哀楽の中で、落ち込むと言う“哀”の部分を表情としてはっきりと顔に出すじゅん。

その表情を見て更に胸を痛めるクリスは、“悪くない”と優しく言い聞かせながら一番に伝えたかった事を語りだす。

 

「あたし頑張るから…あたしの中の“呪い”に負けない様に頑張るからさ…これからあたしの言う事を…どうか信じて欲しいんだ」

「………」

「例え悪魔だったとしても…それ以外の何者かだったとしても…“じゅんはじゅんだよ”。私達の仲間で友達で…大好きなじゅんだからね」

「…だい…すき…」

 

ゆんゆんと同じ事を曇りない笑顔で答えるクリス。

オウム返しに“大好き”とじゅんが呟くと、手を離したクリスは「気を付けて逃げるんだよ」と言い残し、正門に集まってるゆんゆんを含めた冒険者たちの元へと駆け出し去って行った。

 

「………」

 

一人残ったじゅんはその場で佇む。

ゆんゆんとクリスの言う通りにして逃げるべきなのに、何故か直ぐに行動を移すことが出来なかった。

それは恐怖からではなく、“このまま逃げて良いのか”と言う疑問が足枷となってじゅんを動かなくしていた。

その理由はアクセルに来る前にゆんゆんとクリス同様に、教え育ててくれた一人の老人“コウ”とのやり取りが脳裏で蘇っていたからだった。

 

 

 

“じゅん、お前さんはいずれ来る大きな災の中心的存在となる”

 

“同時にそのメモリの力からも、決して逃れることなど出来はしない…”

 

“大事なのは、その力で何をしたいのかを考え決める事だ”

 

“例えるならそう…ありふれた理由だがな…”

 

“大切な人を死なせたくない…大好きな人を守りたいとかだな”

 

“…しぬ…なったら…どうな、るの?”

 

“…死んでしまえばな…好きな人ともういられなくなるんだ”

 

“守るという事は…そうならない様にする為の行いだ…”

 

“じゅん…この先お前さんが大切な人が居る事を自覚した時は”

 

“これからも迫り来る様々な恐怖に負けず…勇気を持って守り抜け”

 

“その為に必要な力がお前さんにはある”

 

“後はお前さんが、自身の心を育む事を怠らなければ良い”

 

“そうすれば守れるだろう…お前さんにとっての大切な存在をな”

 

 

 

一通り思い出し、じゅんは考える。

僕はゆんゆんが、クリスが好き…一緒に居ると僕も胸がポカポカして心地が良い…それに最近出会ったウィズ、カズマ、めぐみん、アクア様、ホリュー…二人程でないが好き嫌いを付けるなら好きな方になる。

皆で一緒に冒険…ご飯を食べる…色んな事を話す…今なら分かる気がする…これが“楽しい”と言う事。

でも、怪獣(あいつ)がそれを…壊そうとしてる。

怪獣(あいつ)をまた見れば…僕はまた巨人になって暴れるかもしれない…それがとても怖い…でも。

 

“大丈夫。今のじゅんくんなら、きっと大丈夫だよ”

 

僕の事を信じてくれたゆんゆん。

 

“あたし頑張るから…あたしの中の“呪い”に負けない様に頑張るからさ”

 

呪いに負けない様に頑張ると言ったクリス…そんな二人が同じ事を言ってくれた。

 

 

“じゅんくんはじゅんくんだよ”

 

“じゅんはじゅんだよ”

 

 

巨人となって暴れてしまった僕を…ありのままの僕を笑顔で受け入れてくれた。

そんな二人が他の冒険者(ひと)達と一緒に、怪獣(あいつ)をやっつけようとしている。

けれど、巨人になったじゅんだから薄々と勘付いていた…恐らく皆で挑んでも勝てないかも知れない。

もし思った通りになってしまったら、カズマ達が…なによりも…ゆんゆんとクリスが…“死ぬ”。

燃やされる…踏み潰される…食べられてしまう…様々な死の光景を思わず想像してしまい身震いするじゅん…だが。

 

“死んでしまえばな…好きな人ともういられなくなるんだ”

 

その言葉を再び思い出した瞬間、じゅんに1つの光明(こたえ)が差し込まれた。

ゆんゆんは僕が巨人になっても大丈夫だって言ってくれた…クリスは以前から悪魔が嫌いな筈なのに悪魔かも知れない僕を受け入れてくれた…そんな二人が他の人達のように怪獣(あいつ)に食べられて死んでしまう…そしたらもう二度と一緒に居られない…ご飯を食べる時も…散歩する時も…これから先の様々な事も出来なくなる…そんなの…そんなの!

 

「…イヤだ…!」

 

あんな怪獣(やつ)に…大好きなゆんゆんとクリスが…そんなの絶対にイヤだ!

それならやる事はたった一つだけ…答えを掴み取った瞬間のじゅんの行動は速かった。

両頬に貼られたガーゼを無理矢理剥がし残ってしまった横一線の傷痕を剥き出しにしながらも、じゅんはテーブルに並んだ全ての料理を貪り始める。

 

「アグッ!ハムハムグムグッ!ガツガツグムグムッ!」

 

野獣の如し食べっぷりだが、じゅんとてこんな食べ方は本意ではなかった。

ましてやゆんゆんと共に作った料理だ、本当なら味わって食べたい所…けれども今の状況がそれを許さなかった。

怪獣(やつ)との戦いに備える為に少しでも体力と空腹を満たし回復させる必要があった。

 

「ムグムグッ!…ごちそう、さまでした」

 

あるだけの料理を詰め込み最低限の感謝の言葉を送ったじゅんは、すかさず今度は自分が寝ていた部屋へと向う。

ずかずかと進み乱暴に開けたじゅんは、最初に目に映る自身の青い上着を手に取り着込む。

次に注目した物は、ある意味自分の何もかもを狂わせたメモリが入った二つの箱とペンダントだった。

最初は成行きで所持してたが、そのせいで散々な目に遭った事もありその道具達を忌々しく思い始めるじゅん。

けれども…目の前の道具無くして怪獣(あいつ)からゆんゆんとクリスを守る術が無い事をじゅんは理解していた。

なにより育て主の一人であるコウは言っていた。

 

“大事なのは、その力で何をしたいのかを考え決める事だ”

 

何をしたいのか、考え決めた事はなにか…今この瞬間に生きるじゅんはそれを見つけていた。

二つの箱を鷲掴んで両腰に付け込み、ペンダントを再び首に巻き付けたじゅんは、決意を固めた様な表情を作り外へ向かうのだった。

 

 

 

じゅんー「この、すば!」ー




次回、じゅんが自らの意思で変身し戦います。

同時に困難にも直面致します。

それでは。


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第四章〜その②

2年以上もエタってました。
私はつくづく熱し易く冷めやすい性分なのだと痛感します。


「グガァアアアアオッ!」

 

雄叫びを木霊し一歩一歩足を前に踏み入れながら、アクセルへ向けじわじわと前進する

エレキベムラー。

 

「なぁ、冒険者の俺達でアイツを何とかできるのか?」

「デストロイヤーの時だってこんな感じだったんだ…やるしかねぇだろ、サキュバスの店(俺達の夢)があるこの街を守る為にもよ!」

「こんな時にあのウィズさんも居てくれたら頼もしいのに…」

「聞いた話だとあのモンスターと一緒に現れた黒い巨人にやられたそうよ、命に別状はないらしいけれど意識がまだ戻ってないとか」

「マジかよ!あのウィズさんがか!?」

「ヤバいぞヤバいぞ…目の前のモンスターだけでも手一杯なのに、あの巨人がまた出て来たら今度こそお終いだ」

 

夫々言うことは違えど、どの冒険者達の顔は共通して不安と恐怖を表していた。

 

「(じゅんくん…絶対に生きて帰るからね)」

「(どこまで通用するか分からないけど…やるしかないよね)」

 

じゅんの身を案じながら帰って来ることを誓うゆんゆんと、腕輪を見つめながら決意を改めるクリス。

 

「も〜なんで怪獣相手に私達も参加するのよ〜!このままどっか逃げた方が良いってのにぃ〜!」

「俺だってそうしてぇよ!けど借金は帳消しにならねぇし、折角の屋敷が壊されちゃ住める所も無くなっちまうし、それに今屋敷にはウィズが寝てるんだからしょうがねぇだろ」

「アクア、紅魔族随一の爆裂魔法を扱うこの私が居るのですから恐れる事などありません!あの巨大モンスターだけでなく、あの巨人がまたも現れるようでしたらまとめて消し去ってご覧に入れますよ!」

 

弱腰のアクアに活と安心を与えるべく、闘争心を剥き出しにし堂々と宣言するめぐみん

そんなめぐみんの姿を見るカズマは今回ばかりは頼もしく思えてしまった。

なにせ相手は巨大モンスター…否、特撮テレビの中の空想の産物でしかなかった怪獣が現実に存在する。

この世界にはウルトラシリーズの様な防衛組織もメカも存在しない…ただ魔法やスキルと言うのがある。

特にめぐみんの使う爆裂魔法の威力は何度も目にしたから信頼できる、現状あの怪獣を仕留める可能性の有る存在だ。

何とか上手く事を運べば勝てる可能性も無い事もない…だがもう一つの問題があった。

 

「(…頼むから、出てこないでくれよなマジで)」

 

カズマが懸念してることは他でもないあの黒い巨人の事だ。

昨日の街とウィズに対する行いを目の当たりにしたカズマの中では、奴はベリアルやノアとの因縁のある“アイツ”と同類の邪悪な存在なのだと結論づけていた。

だが同時に間近で見たあの巨人の強さ…ハッキリ言って全員で挑めば勝てるのかと問われれば…答えはNO以外になかった。

只でさえ怪獣を倒そうとするので一杯いっぱいなのに巨人も現れ三つ巴になろうものなら、待ってるのは地獄の如き最悪の全滅エンド。

今回ばかりは冗談抜きに起こらないことを願うカズマだったが、その願いも虚しく現実と化する事になる。

但しそれが、必ずしも悪い意味ばかりとは限らなかった。

 

 

ーカズマ「このすば!」ー

 

 

その頃、料理を全て胃の中へ詰め込み所持する物を全て揃えたじゅんは、宿屋から飛び出し冒険者達の居る正門の方へと体を向けその場に佇む。

これから自分の行う事はまたも皆に危害を加えるかもしれない…また勝手に暴れるかもしれない…けれどもそんな自分を“大丈夫だよ”と信じてくれたゆんゆんが…“大好き”と言ってくれたクリスがあそこに居る。

 

「ぼく…にげない!」

 

じゅんは再び、そして自らの意思で変身する覚悟と大切な二人を守るという決意を固め、首にぶら下げたペンダントを握りしめる。

 

STARTUP(スタートアップ)ZEPHYR(ゼファー)LOADER(ローダー)

 

本来の姿へと戻った変身デバイス“ゼファーローダー(略ZL)”から差込口が展開すると、じゅんは両腰の箱“メモリチャージホルダー(略MCH)”から右側を開け銀色のメモリを取り出す。

 

「始まりの…戦士!」

 

スイッチを押して起動し、ZLの右側へと差し入れる。

 

PLUGIN(プラグイン)ULTRAMEMORE(ウルトラメモリ)

 

続くように今度は左側のホルダーから黒色のメモリを取り出す。

 

「最後…なるモノ!」

 

ウルトラメモリ同様にスイッチを押して起動させると、残り空いた左側の差込口に入れる。

 

PLUGIN(プラグイン)MONSMEMORE(モンスメモリ)

 

二つのメモリを差し込み両手で閉じる。

 

FUSIONLOAD(フュージョンロード)STANDBYREADY(スタンバイレディ)

 

全ての準備を整えたじゅん、落ち着かせるように目を瞑り、直後にカッと目を見開く。

 

「勇気…出す!!!」

 

そう強く宣言したじゅんは、中央のスイッチを両手で押した。

 

 

GO!(ゴー!)

 

 

 

 

ウルトラマン!ゼットン!

 

WAKE UP!(ウェイクアップ!)ZEPHYR!(ゼファー!)

 

BEGINS!(ビギンズ!)WARRIOR!(ウォーリア!)

 

 

 

 

銀と黒双方の光に包まれたじゅんは、再び巨人となってアクセル内に降臨した。

 

『………』

「み、みんな見ろ!黒い巨人だぁ!」

「そんな!い、いつの間に街の中に現れたのよ!?」

「あぁ…前にはモンスターが…後ろには巨人が…俺達もうお終いなんだぁ…」

 

地響きを上げる事無く突如として再び現れた黒い巨人を目の当たりにする冒険者達。

昨夜の地獄が再び訪れるのか…殆どの者達が恐怖と絶望に支配されていた。

 

「ちょ〜!?いきなり現れちゃったんですけどあのウルトラマン!」

「おのれ小癪な真似を…!これではまとめてどころか迂闊に放つ事など出来ないじゃないですか!」

「ああもう!どうしてこういう時に限ってフラグ的な事が起こっちまうんだよ!」

 

絵に描いた最悪の展開に思わず毒づくカズマ。

その一方でゆんゆんとクリスは、巨人の正体がじゅんであることを知っているが故に驚きを隠せずにいた。

 

「(じゅんくん!?どうして、裏門に逃げてた筈じゃなかったの!?)」

「(あそこには使ってた宿屋がある所…まさかじゅん!?自分からなったって言うの!?)」

 

逃げるよう促した筈なのになぜ自ら変身するような真似をしたのか理解できず二人が混乱する中、それは起こった。

 

「グルルルルゥッ!」

 

昨日の事を覚えてる故なのか、巨人の姿を見たエレキベムラーは途端に敵意をむき出す様に唸り声を上げると、口の中から青白い光が発光し始める。

 

「く、来るぞ!みんな逃げろ!」

「どこに逃げろって言うのよ!?」

「あああああ!もうお終いだぁあああああ!」

 

背後の巨人と攻撃準備に入るエレキベムラーの板挟みとなった冒険者達は、一致団結になることも出来ず一部を除いた全員がパニックを起こし大混乱となったいたまさにその時だった。

 

『…デェヤッ!!!』

 

ずっと顔を俯かせていた巨人が勢い良く上げた次の瞬間、掛け声と共にその場から大きくジャンプ。

門を飛び越え、集まる冒険者達の前方に土煙を上げ着地し、そして。

 

「ゴァアアアアアアッ!」

『ヌゥウウウウンッ!』

 

口から放たれた電撃熱光線をXの形で腕を交差し受け止める巨人。

 

『グ、グゥウウウウ…ハァアアアッ!!!』

 

じわじわと押されていくも気合を入れる一声を上げながら交差してる腕を左右に振り下ろし、エレキベムラーの電撃熱光線を弾く。

 

『ハァッ…ハァッ…ハァッ…!』

 

暴れ狂った獣の如き戦いぶりから一転し、まるで人間の様に行動する巨人の姿にその場にいた冒険者達は勿論のこと、カズマ達一行そしてゆんゆんとクリスまでもが唖然として見詰めていた。

一方で巨人となったじゅんは、先程の光線を防いだ事により息を切らしながら両腕がズキズキと痛み出すのを感じていた。

初めて自分の意思での変身からの初めての戦い…向き合うエレキベムラーから漂う敵意と殺意。

それを肌で感じ取るじゅんは温厚な性格もあって相手の雰囲気に呑み込まれ始め、恐怖と不安が全てを支配されようとしていた。だが。

 

『「み…みんなを…!」』

 

後ろに居る人々の存在が。

 

『「クリスを…!」』

 

クリスの存在が

 

『「ゆんゆんを…!」』

 

そしてゆんゆんの存在が

 

怪獣と言う恐怖に立ち向かうじゅんの“勇気”を奮い起こした!

 

 

 

 

 

『「イジメるなぁあああああああああ!!!」』

 

『ウォアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 

 

叫び声を上げながら、巨人となってるじゅんは勢い良く駆け出すとエレキベムラーに瞬時に近づき。

 

「グゲェアッ!?」

 

ラグビーのタックルの様に抱き付き、共に地面に着きながらゴロゴロと転がり込んで行った。

十回前後まで転がり正門に集まってる冒険者達から距離を置くと、前足で蹴り上げ自ら引き離した直後立ち上がり戦闘体制をとる。

 

『ハァ!…ハァ!…ハァ…!』

 

肩を上下に上げ息を荒げながらも、腰を落とし右腕を前に突き出し左腕を自身の顔近くまで寄せながら両手の指を尖らす様に立て、さながら獣を表現するかの様に構えるじゅん。

そんな姿を遠くから見守る冒険者達一同が困惑する中、一人の冒険者がある事に気づく。

 

「な、なぁ…あの巨人の目って()()()()だったか?」

「え?…あ、言われてみれば」

 

昨夜の出来事を見ていた者達は、今の巨人の目が血のような赤黒い色から明るい黄色へと変わっている事に。

尤も、目の色が変わった所で“だから何だ?”と言う結論にしか至らないだろうが、唯一ゆんゆんとクリスの二人だけは巨人の目の色の変化がいかに重要なのかが分かっていた。

 

「(あの目の色はあのお方々と同じ…)ゆんゆん、あの巨人はもしかして」

「じゅんくんだ…あれはじゅんくんだよ!」

 

クリスの問いにゆんゆんはハッキリと答える。

誰よりも人一倍にじゅんと接し、理屈では言い表せない絆を結んだゆんゆんだからこそ言える事だった。

それはクリスも同じ思いであり、かつて自分と上司を邪悪なる者達から救ってくれたウルトラ戦士達と同じ瞳である事を照らし合わせ、あの巨人はじゅんその人なのだと瞬時に理解した。

 

「グガァアアアアッ!」

 

ムクリと起き上がったエレキベムラーは威嚇する様に吠え敵意を表す。

それに対してじゅんは怯むことなく駆け出すと、肩を前へ突き出し腹部にタックルをかます。

 

『ウァアアアアアッ!』

 

体重を掛けて当て、今度は左右の手を握り拳に変えて振り上げボコボコと殴り始める。

そんな巨人となったじゅんの戦いぶりを見る者達の中で、カズマだけは違和感を抱く。

 

「(…目だけじゃない、あいつあんな戦い方だったか?…昨日は獣の様に荒々しかった筈なのに、今は別物じゃねぇか…まるで子供の様な…)」

 

昨日は悪意と殺意に満ちた戦い方なのに、今は子供が駄々をこねた様な別の意味でウルトラマンらしからぬ戦いぶりにカズマは困惑する。

一方で、森から抜け出しエレキベムラー相手にがむしゃらに戦う巨人ことじゅんの姿を見るソノモノはごちり始める。

 

「やはりイレギュラーが発生したばかりにバグが生じてしまったか、今のゼファーはさしずめレベル1とも言うべき状態…十中八九このままでは確実にエレキベムラーに殺されるだろうな」

 

他人事の様に呟くソノモノは、口を吊り上げ笑顔を作る。

 

「死んでしまったらそこまでになるだろうが、この場をどう乗り切るのかなゼファー…それとゼファーをイレギュラーにしたキミ達は」

 

ー???「果たしてどう動くかな?」ー

 

「ガァアアアア!!!」

『グゥアッ!』

 

ボコボコと子供の駄々っ子の様に殴るじゅんにうんざりしたエレキベムラーは、目障りに思い右平手打ちをかましよろめかせる。

ソノモノが語った様に、じゅんは訓練どころか喧嘩の様な誰でもする戦いさえもしたことがない。

それ故力も戦い方も備わってないじゅんの攻撃などエレキベムラーには蚊に刺される並にこれっぽっちも堪えていない。

更に続いてエレキベムラーは、長い尻尾を横へ薙ぎ払う様に振り回してじゅんに叩きつけた。

 

『ガァッ!』

 

さながら丸太並の太さがあるムチでもあり、体重を掛けたこともあってその衝撃に耐えられず倒れ込むじゅん。

そこへ追い討ちとばかりに地に這いつくばるじゅんへ尻尾を上げ、すかさず振り落として叩き付ける。

 

『ガハッ!』

 

何度も何度も尻尾を振り落とし痛め付けるエレキベムラーの猛攻。

その光景に他の冒険者達ですらドン引きする程。

だが、それでも。

 

『ハァ……ハァ……ハァ……!』

 

じゅんは立ち上がる。

何度倒されようとも、痛みが襲い掛かっても堪えて何度でも立ち上がり続ける。

 

『ハァ……ハァ……!』

 

だがここで、エレキベムラーはよろよろ状態のじゅんに長い尻尾で巻き付き自身の所へ強引に持っていき、そして。

 

「グェアアアアア!!!」

 

“ガジュリッ!!!”

 

『ガアアアアア!!!』

 

生々しい音と共にエレキベムラーはじゅんの首筋に容赦無く噛み付き、じゅんはその痛みの余りに叫び声を上げる。

 

「じゅ、じゅんくぅんっ!!!」

「やめてぇ…もうやめてよぉお!!!」

 

あまりに酷い仕打ちをするエレキベムラーの非道な行為を見て、ゆんゆんとクリスの二人は思わず叫ぶ。

だが、そんな二人の悲痛な叫びを嘲笑うかの様に噛み付きを維持したまま、エレキベムラーは電撃を放出し外と内部両方へと攻撃する。

 

『アアア!アアアアアア!』

 

体中を駆け巡る電気に苦しむじゅん。

これだけ浴びせればもう終わりだろうと確信したのか、エレキベムラーは尻尾を緩ませると巨人はドスンと倒れてしまう。

 

ピコンッ! ピコンッ! ピコンッ!

 

同時に青色だった胸のコアが赤色に変わりに、危険を表すかの様に音を立て点滅し始める。

それは、エネルギー残量が残り少ない事を意味していた。

 

「っ!」

 

それを見た瞬間、ゆんゆんは駆出そうとするも直前にクリスに止められる。

 

「ゆんゆん待って!」

「離してクリス!このままじゃじゅんくんが!」

 

口論になり掛ける二人だったが、その間にエレキベムラーは次の標的を出入り口で屯う冒険者達に向ける。

 

「やべぇ!アイツこっち見てるぞ!」

 

誰かが言った言葉に気づき、再び恐怖する冒険者達だが。

 

「?」

『グ、グゥゥ…』

 

歩き出そうとするエレキベムラーを止めるために奴の片足にしがみつくじゅん。

強引に持ち上げ倒すと、馬乗りになって抑え込む。

その死に物狂いな行いを唯見ることしか出来ない中、クリスは語る

 

「あたしだってじゅんの事助けたいよ、でもアレを倒すには生半可な援護も攻撃も許されないんだよ!それこそ一発で仕留めなきゃ…ん?」

「一発………あ!」

 

感情的に言ったクリスの言葉の中に、この事態を打破できる存在が居たのを二人は瞬時に思いつく。

そしてすぐさまお目当ての彼女を屯う冒険者達の中を探し回り、遂にその人物であるめぐみんを見つけるのだった。

 

「なんかさっきから見苦しいと言うか無様に戦ってるわね、あのウルトラマン」

「昨夜とは別人みたいな行動をしていますが、いったい何がどうなってると言うのでしょうか」

「……」

「めぐみーん!!!」

 

抑え込む巨人の姿を眺める3人の耳に声が入り、そちらに向けるとクリスと共に必死な表層でこちらに来るゆんゆんを目にする。

 

「ゆんゆんそれにクリスまで、いったい何を慌てているのですか?今目の前にはあの巨大モンスターと巨人との戦いが」

 

そう抗議するめぐみんの言葉を、ゆんゆんは強引に遮って話し出す。

 

「お願いめぐみん!貴女の爆裂魔法であの巨人の人を助けてあげて!あのモンスターを倒せるのはもう貴女しかいないのよ!」

「はぁっ!?いきなり何を言うのですか貴女は!確かに我が十八番(おはこ)である爆裂魔法をもってすれば一撃でほふる事など造作もありませんし、ましてやこの様なシチュエーションは紅魔族として持ってこいなのは大いに認めます」

「それじゃあ「ですが」…え?」

 

ゆんゆんの喜ぶ顔が止まると、めぐみんは目をつむりながら一言だけ言う。

 

「お断りします」

 

ハッキリとした拒絶に、ゆんゆんとクリスは驚きを露わにする。

 

「な、なんでよめぐみん!?貴女さっき言ったじゃない!“この様なシチュエーションは紅魔族として持ってこい”って!」

「ええ確かに言いましたよ…ですが、今の私はあのモンスター…カズマが仰る怪獣は勿論倒すつもりですがそれは二の次になります。むしろ私がいの一番に倒したいのは、あの怪獣と戦っている漆黒の黒き巨人の方なのですよ!」

 

怒りが込められた叫びと共に、じゅん改め黒い巨人に向かって杖を指すめぐみん。

 

「ど、どういうことなの?」

「ねえ、どうして!?どうしてあの巨人なのよ!?」

「ゆんゆんはウィズと面識しお店にも訪れてましたよね…あの巨人はウィズのお店を壊し、挙げ句ウィズを攻撃したばかりに彼女は未だに目を覚ましていないんですよ!」

「っ!?」

「なっ!?それじゃあ……」

 

二人が驚き困惑する中、めぐみんは話を続ける。

 

「決して深い仲と言える程の間柄じゃありません…ですが、デストロイヤーの討伐で共に戦った仲間だと私は認めてます。だからこそ私はあの巨人を決して許そうとは思いませんし、ましてや助けようなどと言う酔狂で愚かな行為など私は絶対にいたしません!」

「そんな…カズマくんやアクアさんも何か言ってあげてよ!」

 

そう言って二人にふるクリスだったが、カズマもアクアも考えは同じなのかそらす様に目を瞑る

 

「………っ!」

 

だがここで、無言だったゆんゆんがめぐみんの肩を掴むと強引に壁際へと押し付けた。

 

「うぐっ!ゆ、ゆんゆんっ!?」

 

彼女の事を知るめぐみんにとってこの様な乱暴な行いをするなどあり得なかったので驚き、更に視線を下に向けるとゆんゆんの右手は腰に着けてあるダガーの鞘付近に止まり、何時でも抜ける様に構えていた。

 

「めぐみん、貴女の言いたい事は分かったわ…でも私にはもう形振り構ってる余裕がないのよ…貴女の事はライバルで友達だと思ってる…だからこそお願い…私にコレを抜かさないで…」

 

その声は普段の彼女からは考えられない程低く、加えて瞳は赤く光らせ涙を浮かべている。

それを見ためぐみんは、彼女が本気で自分を斬ろうとしている事を悟ってしまう。

だがそれでも、めぐみんは首を縦には振らなかった。

 

「…嫌です、いくら貴女のお願いでもその様な脅しをされようと聞き入れません…そもそも何故なのですか?何故貴女はこの様な暴挙に出てまで…何の関わり合いを持たない無関係なあの巨人を…どうして貴女はそこまでして助けようとするのですかぁ!!!」

 

彼女がお人好しなのを知るめぐみんでもその対象は余りにも大きすぎる。故にゆんゆんの行動が理解に苦しむ余りに頭に血が上っためぐみんは、心から湧き上がる疑問を激しくぶつけた。

 

「…まじゃ……からよ」

 

俯くゆんゆんは震える声でぶつぶつと呟き、そしてダガーを抜かずめぐみんの左肩を掴むと、顔を上げ大量の涙を流しながら叫んだ。

 

「このままじゃあ!!!じゅんくんが死んじゃうからよぉ!!!」

「え………」

 

ゆんゆんから発した自身もよく知る人物の名前に、思考が追い付かず絶句するめぐみんを他所に、ゆんゆんは激情に身を委ねながら己の心情を暴露する。

 

「私はぁ!じゅんくんの事が好き!大好きなのぉ!だから死んで欲しくないし、あんな奴の為に傷ついて欲しくもないのよ!例えそれが私のわがままだって分かっててもぉ!ひっぐ、うぅ…うぅああああああああん!」

「………」

 

そう言うとゆんゆんは掴んだ手を放しそのままへたりこむと両手で顔を覆い泣き出し始め、それをめぐみんは只呆然と見たまま立ち尽くす。

 

「本当…なのか?あの巨人がじゅんだって?」

 

同じくその場で聞いたカズマとアクアも同様に驚き、カズマは恐る恐る尋ねるとクリスは静かに頷く。

 

「…マジかよ」

「あたしも最初は信じられなかったけどね……じゅんはただ操られてたのかも知れないし、何よりも…あの子泣いてたよ…あたしやゆんゆん、この街の皆を傷付けたって…得体の知れない力に振り回されたって言うのに…それを使ってでもあの子は…じゅんは…!」

 

取っ組み合う巨人と怪獣の光景を見ながら、湧き上がる感情を抑えられないクリスは、ゆんゆんと同じ様に涙を流して語りだす。

 

「本当は誰よりも怖い思いを、辛い思いを、苦しい思いをしたのに…じゅんは…じゅんは自分の意志で巨人になってまで戦ってるんだよ!あたし達を守る為にさぁ!…まだ小さい子供のあの子がだよ?…あたしもあの子に死んで欲しくない、これ以上じゅんが傷付くのを見たくない!だからカズマくん!アクアさん!めぐみん!見返りが欲しいのならあたしがキミ達の借金を肩代わりにする!だからぁ!…協力してください…お願いします…!」

 

両手を絡め跪き、神に乞う様なポーズを取りながらクリスは深く頭を下げて懇願し、その姿を見た3人の内、カズマは2体の戦いに視線を変えて眺める。

 

「ギィエィ!」

『ウァ!』

 

全身から発した電撃に怯み、その隙にじゅんを退かし立ち上がるエレキベムラー。

尻尾を振って攻撃するも、じゅんはそれを掴んで抵抗する。

だがダメージの蓄積とエネルギーの消耗もあり力が入らず振り払われてしまった。

それでもすぐさま起き上がり、またもラグビー選手の様にタックルして倒し馬乗りとなって抑え込む。

傍から見ると何とも無様な光景で、カッコ良さを信条にしてる紅魔族から見れば評価はよろしく無い戦いぶりかも知れない。

けれどカズマだけは、その光景を現世の時からテレビ画面でずっと見てきていた。

 

「…同じじゃねぇかよ」

 

忘れる事など出来る筈もない。

テレビの中で必死に怪獣や宇宙人を相手に、時には泥まみれ時にはびしょ濡れにそして時にボコボコのボロボロにされながらも、最後まで諦めないで戦った皆のヒーロー…初代ウルトラマンを始めとした多くのウルトラ戦士達。

その姿を目の前の巨人、じゅんと重ねるカズマ。

 

「…ウルトラマン…」

 

誰かに聞こえる事なくポツリと呟くカズマ。

 

「はぁ…やれやれ、これではまるで道化師じゃありませんか…私が」

「めぐ、みん?」

 

カズマと違いわざとらしく呟くめぐみんにゆんゆんは思わず顔を上げると、めぐみんのその顔は優しく微笑んでいた。

 

「仕方ありませんね、ゆんゆんの気持ちは痛い程分かりましたし、私も覚悟を決めましょう。それにクリスが肩代わりしなくとも、あの怪獣を倒せば街を救った報酬として借金が帳消しになるかもしれないでしょうし…ですよね、アクア?」

「めぐみん…!」

 

アクアにふるめぐみんの姿を見たゆんゆんは、感極まって再び涙を流す。

だが一方で、肝心のアクアはと言うと、全く隠す素振りもなくあからさまに嫌なそうな表情を作る。

 

「えー…なんか勝手に振られちゃったんですけど?何でこのタイミングでそんなフラグ立てちゃう様な事を言っちゃうのよ?ますます嫌な予感しかしないんですけど?て言うか私は嫌よ!怪獣相手もそうだけどあのガキンチョ悪魔ウルトラマンを助けるだなんて!」

「あはは、確かにアクアさんの言いたい事も分かるよ?いくら何でも虫が良すぎるもんね。カズマくんは…言わずもなかな」

 

アクアの会話を聞いたクリスは苦笑いを浮かべながも、申し訳なさそうに顔を俯きながら頬の傷痕を掻く。

一方でクリスに名を言われても無反応のカズマにアクアは近付く。

 

「ちょっとカズマ、さっきから何黙って取っ組み合いの観賞してるのよ、まさかクリス達の話を飲むんじゃないでしょうね?アンタそんなヒロイックなキャラじゃないでしょう!て言うか私は悪魔もそうだけどウルトラマンの事なんてだいきら、ムグ!ムグゥウウウ!」

「カ、カズマくん?」

 

言いたい放題言い放つアクアの口を俯きながら片手で強引に閉じるカズマの姿に困惑するクリス。

そして顔をゆっくりと上げながら深呼吸をし、もう一度息を吸うと腹の底から叫びだす。

 

 

ーカズマ「しょうがねぇなぁあああ!!!」ー

 

 




大変お待たせしましてすみませんでした。
そして待って頂いた方々、及び読んでいただき本当にありがとうございます。

ゆんゆんがめぐみん達にじゅんの正体を暴露する辺りを、
ウルトラマンジードから「GEEDの証 感動(M-2a)」
を脳内で流しています。

次回はエレキベムラーとの決着になります。


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第四章〜その③

 

「ガァアアアアア!」

 

天に向かって吠えた後に体を丸め込めると、エレキベムラーは青く輝く球体に変貌。

宙に浮かび、よろよろと立ち上がる巨人に向かってわざと掠めて攻撃する。

 

『グ!ガァ!ギィ!ウグ!ダハァッ!』

 

擦られる様な痛みを体中にじわじわと与えられ、そして。

 

『ウガァアアアアア!』

 

加速を込めた直球一直線の突進を真正面から受け、3回体を後転させてようやく止まるも、決定打となったのか立とうとした瞬間に糸が切れたかの様に倒れてしまう。

 

『「うぅ…い…いたい…くる、しい…」』

 

力を入れようにも自分の意思に関係なく限界だと言う悲鳴代わりの激しい痛みが体中を駆け巡る。

その痛みが邪魔となり、ズシンズシンと威圧を込めて近付くエレキベムラーの進行を許してしまう。

 

「クォアアア…!」

『「…っ!」』

 

目と鼻の先まで到着したエレキベムラーは、無様に倒れる巨人に今度こそとどめを刺すべく口の中にエネルギーを溜め始め、ダメージのキャパシティ越えとエネルギーの残量低下に動けないじゅんは、殺られると察し思わず目を瞑りこれから来る死の痛みに身構えた、その時。

 

「んっ『狙撃ぃっ!』」

 

その言葉と共に放たれた一本の矢が、エレキベムラーの右目に命中する。

 

「グギィッ!?」

 

アクアから前もってかけた筋力増加の支援魔法『パワード』を付けた状態でも、人間に例えたら砂埃が入った程度でダメージにすらならないが、動きを止める為の足かせとしては充分だった。

 

「こっちだ怪獣!こっちに来い!」

「じゅん!今のうちに離れて!」

 

わざと存在をアピールする為に大声をあげるカズマと逃げる様に促すクリス。

 

『「クリス…カズマ…」』

 

まさか助けに来てくれるなど思ってなかったじゅんはポツリと呟く。

その間に、トドメを邪魔された事で頭に来たエレキベムラーは、標的をカズマ達に変更し近づいていく。

 

『「だ、だめ!まって!みんな、にげて!」』

「(まさかテレビの中の怪獣を相手にする日が来るなんてよ、にしても間近で見るとやっぱこえ〜し逃げて〜!…けどな!)出番だぞアクア!お前のフォルスファイアで」

 

臆する心を抑えアクアに魔法を指示するカズマ。だが。

 

「あああもう!女神の私が怪獣如きに恐れおののくなんて冗談じゃないわよ!見てなさい、取っておきの切り札でとっとと終わらせてやるわ!刮目なさい!『ゴッドォ!ラグナロクッ!』」

「ちょっ!?おまなにやってんだよ!?」

 

困惑するカズマとクリスを他所に、イライラが頂点に達したアクアの耳には入らず両腕と手の平を広げ、エネルギーを溜め込む。

 

「金・酒・金・酒・金・酒・金・酒………ふんっ!うぉおおおおおお!!!」

 

好きな物をぶつぶつ呟きながら両手を組み合わせ、そのままエレキベムラーに向かって叫びながら走り出す。

 

「ア、アクアさん!?(も〜先輩なにしでかしてるんですか〜!)」

「こらぁあ駄女神ぃ!またテメェは勝手に突っ走りやがってー!」

「『ゴッドラグナロク』とは、女神の愛と!怒りと!悲しみ!その他諸々の想いを宿した今世紀最大最強の究極奥義!相手は絶対死ぬぅ!!!」

 

猪突猛進に進むアクアを止める術がなく、アクアは組んだまま突き出した両手をエレキベムラーの足元に直撃させた。

ピカーッと光が広がり、収まるとそこには打ち付けたまま佇むアクアとそんなアクアを顔を下げて眺めるエレキベムラーの姿があった。

 

『「………」』

「………」

「「………」」

 

変な意味で沈黙が支配する中、元凶であるアクアはつぶらな瞳を作りながら顔を上げてエレキベムラーを見る。

 

「…ま、まぁ何て素敵な怪獣様ですこと」

 

場違いにも褒めるアクアだが、言葉が通じたのか返って火に油を注ぐ結果となる。

 

「グゥオアアアアア!!!」

「あああああん!食べないでくださぁあああああい!!!」

 

エレキベムラーの咆哮に心が完全に折れたアクアは、腰を抜かし泣き叫びながら命乞いをする。

そんな女神の威厳をかなぐり捨てた哀れなアクアを助ける為にクリスは駆け出す。

 

『セイクリッドエネルギー確認・シーフウェポン起動』

 

右手首のリストバンド製の腕輪を掴み、武器に変化させた“シーフウェポン”。

左太もも並びに左右の両腰に装着された3つの内、両腰に掛けた2丁の銃を引き抜くと、右手のグレネードランチャー式の銃をエレキベムラーに向け引き金を引く。

 

「『フラッシュボム!』」

 

銃口から光り輝く閃光弾が発射されると、エレキベムラーとアクアの間で弾け激しい光を発する。

 

「グガァッ!?」

「ブェア!眩しぃいいい!」

 

突然の閃光に眩しがる1体と1名、続け様にクリスは左手に持つガトリング式の銃を向けた。

 

「『スチームバルカン!』」

 

回転しながら出てくる弾丸がエレキベムラーに命中し大量の煙幕が発生した。

その間にクリスは2丁を戻し、左太ももに掛けた拳銃を抜いてアクアに狙いを定める。

 

「『ワイヤーショット!』」

 

名の通りに放たれたワイヤーがアクアの腰に絡まると、そのままクリスの元まで引っ張る。

 

「よっと、アクアさん大丈夫?」

「ゔぇえええ!グ、グリズぅうう、ああありがどう!ほんどうにありがどねえええ!」

「あ、あははは…(やれやれ、先輩は相変わらずだな)」

 

体ごと肩に担がれ泣きわめきながら感謝するアクアに苦笑いするクリス。

だがいつまでも突っ立ってる訳にも行かなかったので、じゅんが居る場所の反対方向に走ってるカズマと合流すべくクリスも走り出し始める。

そして、煙幕が一通り薄れたエレキベムラーは自分をとことんコケにした彼らに報復すべくカズマ達の方へと走り迫る。

 

「あああこっちに来たわよぉ!クリスもっと早く走ってよぉ!」

「ちょ!?暴れないでよアクアさん!」

「元はといえばお前が勝手に突っ走ったのが悪いんだろうが!兎に角このまま走ればあそこには!」

 

合流し文句を垂れながらも懸命に走り続ける二人(アクアは担がれてるので除外)、そして巨人事じゅんからかなりの距離を引き離した所で、前方で佇むお目当ての人物を目の当たりにする。

 

「今だゆんゆーん!やってくれー!」

「分かりました!『ボトムレス・スワンプ!』」

 

カズマの呼びかけを合図に、佇んでたゆんゆんが発動した魔法ボトムレス・スワンプ。

迫るエレキベムラーの片足付近に巨大な沼が現れ、それを踏んだことでものの見事に倒れ込む。

 

「めぐみーん!トリはお前に任せたぁー!」

「…任されましたよカズマ。詠唱も既に完了し準備万端この上ありません…さぁ!猛威を振るった怪獣よ!しかとその目に焼き付けるがいい!これが人類史上最大の攻撃魔法!そして我が最大最高の切り札!『エクスプロォオオオオオッジョン!!!』

 

杖を突き出すと同時に放たれた、めぐみんが持つ唯一の攻撃魔法エクスプロージョン。

 

「!?」

 

渦巻く光が倒れたままのエレキベムラーに向かって迫り、そして。

 

 

チュドォオオオオオンッ!!!

 

 

カズマ達やアクセルの面々が聞き慣れた轟音と、見慣れた巨大な大爆発が発生し、エレキベムラーを包み込んだ。

 

『「す…すごい…」』

 

めぐみんの爆裂魔法を直接見たのが初めてのじゅんは、その破壊力に愕然しポツリと呟く。

 

「我が爆裂道にいっぺんの悔い無し………ふはぁ〜感無量ですぅ〜」

 

最高のシチュエーションで放った爆裂魔法に大変満足そうな笑みを浮かべながら前のめりに倒れるめぐみん。

爆裂魔法によってほふられたであろその光景に、門前で佇む冒険者達は歓喜の声を上げ始めていた(一部“頭のおかしい娘がやったぞ!”と口を揃えて言っているが)。

その一方で、森の片隅で終始観察をしていたソノモノは口を開く。

 

「ははは相変わらず凄まじい威力だ、爆裂魔法エクスプロージョン。補給等のサポートがなければ一発しか放てないのがネックらしいが、それに見合う程の高火力…並の怪獣や状態次第ならば融合怪獣も十分に倒せるから中々に興味深い、本当に飽きさせないなこの惑星は…ただ、残念と言わざる負えないのだけど」

 

 

-???「少々詰めが甘かったようだね」-

 

 

倒れたままのめぐみんに合流した一同。

カズマは何時もの様に爆裂魔法で動けないめぐみんを背中におんぶした、が。

 

「グゥゥゥ…!」

 

未だ爆裂魔法で発生した大量の煙からうめき声の様なのが耳に入り、まさかと嫌な予感を横切る一同は爆心地を眺める。

そして徐々に煙が薄れると、そこには至る所に傷を負うも五体満足のエレキベムラーの姿があった。

 

「んな!ウソでしょ!?」

「あり得ません…我が爆裂魔法を受けて消滅どころか原型を残したまま生きているなんて!」

 

驚くアクアと自慢の爆裂魔法で仕留められなかった事に同様を隠し切れないめぐみん。

だがそんな中で、エレキベムラーの体中から暇弱ながらも電気が放出しているのに気付いたカズマは、何故爆裂魔法を受けても生きていたのかを直ぐに理解した。

 

「あの野郎、電気を纏ってバリアにしてめぐみんの爆裂魔法のダメージを抑えやがったんだ!」

「なによそれ!?怪獣の癖に悪知恵働かせるんじゃないわよ!」

 

文句を垂れるアクアだが、よろよろと立ち上がるエレキベムラーの眼中にはカズマ達に狙いを定めていた。

カズマの推測通りに電気を纏った事で爆裂魔法の威力を抑えたが、逆に言えばこうでもしなければ確実に殺られており加えて相当のダメージを負ってるのもまた事実。

故に怒り心頭となり、“こいつ等は絶対に殺す”と言う明確な殺意を込めながら吼えるとカズマ達に迫り始める。

 

「ど、どうしよう!こっちに来てる!」

「カズマくん!こういう時は」

「逃げるしかねぇだろー!」

 

デストロイヤー時の様にドレインタッチで2発目の爆裂魔法を放つ暇などがなく、カズマ達は死に物狂いで迫るエレキベムラーから走って逃げて行く。

そんな光景を未だに倒れたまま見る事しか出来ない巨人のじゅんは懸命に立ち上がろうとするが。

 

ピコンッ! ピコンッ! ピコンッ!

 

いよいよ終わりが近付いたのか、先程から鳴り光る胸のコアが更に早く点滅していく。

 

『「ゆ…ゆんゆん…クリス…みんな、イヤだ、ぜったい…イヤだ!アイツ、たおす、ちから、ちから、ちから!」』

 

じゅんは心の底から求めた、エレキベムラーを倒し大切な人達を守れる力を。

そう強く念じた瞬間、じゅんの脳裏に様々な数字に加え今の自分によく似た赤と銀の配色をした何者かが、腕を十字形に組む姿が映し出される。

 

『「(…“融合式閃光破壊熱線”…)」』

 

唐突に浮かぶその名だが、それが一体何なのかをじゅんは察する。

 

「やべぇ、カズマ達が襲われてるぞ!」

「あの紅魔族の娘の爆裂魔法ですら倒せなかったけど、ダメージを受けてる今なら私達でも!」

「ま、待て!あの巨人が動き出したぞ!?」

 

一人の冒険者の指摘に全員が視線を向けると、立ち上がろうとする巨人の姿を見て動けなくなってしまう。

もっとも、恐怖の眼差しを向けられるじゅんは気にする暇も眼中もなく、痛む体にムチを打って無理矢理立ち上がり、掛け声を上げると同時に大きくジャンプする。

 

『デェヤッ!』

「グギャ!?」

 

巨人が再び立ち上がったのに気付かず、横からのドロップキックをもろに受けて吹き飛ばされるエレキベムラー。

 

『じゅん(じゅん)(くん)!?』

「なになに!?私抱えられたままで全然見えないんですけど!」

 

一人を除いて、ドスンと地煙を上げて着地する巨人を見て驚きの声を上げる一同。

倒れてるエレキベムラーに視線を定めたまま直立すると、巨人は握り拳を作りそのまま両腕を水平に広げ、即座に両腕を腰の元まで下ろし柔道等で見掛ける押忍のポーズをとった、その瞬間。

 

『「…っ!?」』

 

コワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスコワスコワス

   ハカイハカイハカイハカイハカイハカイハカイハカイハカイハカイ

      ホロビホロビホロビホロビホロビホロビホロビホロビホロビホロビ

 

耳元から誰かの声が囁く。悪意と狂気が孕んだおぞましいその声がじゅんの意思を漆黒に染め始めていく。

 

『「コワス…ハカイ…ホロボス…タノシイ?」』

 

タノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイ

   タノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイ

      タノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイ

 

『「タノシイ…タノシイ…タノシイ…コワス…コワシタイ…ミンナ…コワス…ハカイ…ホロボス…ミンナ…ミンナ…」』

 

声に導かれるがまま、脳裏に映る全て物に対し破壊衝動が湧き上がる。

町に建てられた建造物、門前に佇む人々、自身の背後にいるであろうカズマ、アクア、めぐみん…ゆんゆんとクリスを。

 

『「っ!?………ガウ…チガウ、チガウ、チガウ!」グゥウゥウウウゥウウウウ!』

 

二人の名前によってハッとしたじゅんは、首を横に振ってその声を振払おうと唸り声を上げながら必死に抵抗する。

その苦しみを表すかの様に、巨人の目が赤と黄色交互に点滅しながら身体中を赤黒い稲妻が激しく迸る。

 

「何よ何よ!?何なのよこの鳥肌が立ちまくりで底なしのドス黒いオーラは!」

「おおお!?もしや撃つのですか!?今から物凄くイカした何かをぶっ放すのですか!?」

「お前こんな時に目光らせて興奮してんじゃねぇよ!」

「くぅ…じ、じゅん!」

「じゅんくん…!」

 

稲妻によって吹き荒れる風を手で防ぎながら辛そうに見守るゆんゆんとクリス。

だがその一方で、不意打ちを受けたエレキベムラーはムクリと起き上がり、前方で構える巨人見るな否や自身もまた攻撃体制に入る。

 

「コォォアアアア…!」

 

口内、両手、角の3ヶ所から電撃を念入りに溜め込む、目前に居る奴を確実に仕留める為に。

 

破壊、破滅、殲滅、絶滅、消滅

   死、絶望、憎悪、憤怒、殺意

      シネシネシネシネ!ホロベホロベホロベホロベ!

         コワセコワセコワセコワセ!コロセコロセコロセコロセ!

 

『「…ボクハ…ボクハ…ボクハ…コ…コ…コロ…コワ…!」』

 

抵抗した途端に囁きの声がより一層激しくなり始め、じゅんの心は悪意と言う底無しの闇に堕ちようとした。

 

「じゅんくん」

「じゅん」

 

その時、自分の名前を呼ぶ声が耳に入る。

脳裏に映るのはいつも優しく微笑んでくれる自分が最も大切な人達、“ゆんゆん”と“クリス”。

二人の姿を確かに見た瞬間、赤に染まりかけた瞳が再び黄色へと変化。

 

「ガァアアアアアア!!!」

 

それと同時にチャージを完了させたエレキベムラーは、咆哮と同時に放たれた電撃熱光線と両腕と角から放出した電撃、その3つが収束され更に強化された一本線の光線となって巨人に迫る。

 

 

 

『「ぼくはぁ!まもるぅ!!!」』

 

『「うわぁああああああ!!!」』

 

『ディィヤアアアアアアアアアア!!!!!』

 

 

邪悪な囁きを完全に振り払い大切な人を守るべく、握り拳を手刀に変え、右腕を斜め上に引き左腕を横に伸ばすと、じゅんは雄叫びを上げながら両腕を十字型に組んだ。

その瞬間、クロスした腕から光と闇が混じり合った光線が放たれ、エレキベムラーの強化電撃熱光線を真正面から打ち消しそのまま頭部に命中。

 

「!?!?!?」

 

膨大な熱量がエレキベムラーの身体中を駆け巡り、そして遂に。

 

 

ズドーーーーーンッ!!!

 

 

めぐみんの爆裂魔法に勝るとも劣らない爆発と轟音を引き起こしながら、巨人の光線を浴びたエレキベムラーは粉々に弾け飛んでしまった。

 

『………』

 

完膚なきまでエレキベムラーを粉砕したじゅん。だが同時に激しく点滅してたコアが止まり、両目と共に光を失うとそのまま前のめりに倒れ、土煙を上げながら光の粒子へと帰りはじめていった。

 

「じゅんのやつ、まさか!?」

「じゅ…じゅんくぅうううううんっ!!!」

「ああ!待ってくださいゆんゆん!」

「っ!アクアさん、ごめん!」

「へ?ちょ、ふぎゃ!」

 

目の前で消えていく巨人に悲痛の声を荒げながら駆け出すゆんゆんに、クリスは抱えてたアクアを乱暴に下ろし後を追った。

お願い、どうか死なないで…必死に願いながら懸命に走り、巨人が倒れクレーターとなった所の中心にうつ伏せになって倒れてるじゅんの姿を目にする。

 

「じゅんくぅん!…じゅんくぅん!」

 

肉体ばかりか衣服すらも痛々しい程ボロボロで傷だらけのじゅんを、駆け付けたゆんゆんが抱えゆっくりと自分の方へ向けさせながら声を掛けるが目を覚ます様子がない事に焦り始める。

直後に追い付いたクリスは抱えられてるじゅんの姿をくまなく見ると、彼の両腕が見るに耐えない程に焼けただれてるのが目に映ってしまう。

 

「(酷い…両腕がこんなにも…あの光線を撃ったせいでじゅんは…!)」

「クリスぅ、どうしよう、じゅんくんが!」

「落ち着いてゆんゆん!…ひとまずこの場から離れないと」

 

そう言うクリスだが、内心かなり焦っていた。

なにせスキル『敵感知』を応用して駆使したところ、門前にいた冒険者達が一斉にこちらに近づきつつあったからだ。

もし鉢合わせになりじゅんの正体がバレてしまえば…昨日の件もあり彼等が何をしでかすかは目に見えている。

そんな最悪の事態を何としても避けるべく立ち上がろうとした、その時。

 

「ちょっとクリス!女神の私を乱暴に捨てるなんて酷いじゃないのよ!」

 

場違いな事でプンスカ怒るアクアとめぐみんを背負うカズマの3人が近付く。

 

「アクアさんその事は本当にごめんって、それよりも」

「行く宛がないなら俺らの屋敷に来いよ、匿ってやるから」

「え?」

「い、良いんですかカズマさん?」

 

意外な提案に驚く二人にカズマは苦笑いを浮かべる

 

「しょうがねぇだろ、“クズマ”やら“カスマ”って言われてる俺だけど、命懸けで守ってくれたじゅんを見捨てる程そこまで落ちぶれちゃいねぇんだから」

「…なんだか今日のカズマは少々カッコつけてませんか?」

「うっせぇ、置いてくぞ爆裂娘」

 

余計な一言を口出すめぐみんに噛み付くカズマ。

そんな何時ものやり取りをしながらもまごまごしてる暇がないのも事実であり、やって来る冒険者達から離れるべくカズマを先頭に、目を覚まさないじゅんをお姫様抱っこで抱えるゆんゆんと共にそそくさと立ち去っていった。

そんなカズマ達…否、ゆんゆんに抱えられてるじゅんを見詰めるソノモノは口を開く。

 

「融合式閃光破壊熱線スパークシュトローム…かつて地球に訪れたウルトラ兄弟の次男、通称初代ウルトラマンのスペシウム光線…その半分下の20万度までが限界なのを踏まえて組み込んだが…エレキベムラー撃破時の瞬間最高温度は想定した本来の数値から約3.57倍近く上の71万3580度………ふふ、んふふふ、はははは」

 

肩を小刻みに震えると、誰もいないその場で狂喜の笑い声を上げる。

 

「アーハハハハハァ!!!すごい!すごいよゼファー!私が限界と想定したデータを自らの意志で覆したんだ!なんて素晴らしいことなんだろう!こんなにも嬉しい事はない!あ〜これから先どの様に進化し強くなっていくのか高揚昂ぶるワクワク感が収まることがないよゼファー!ハーハハハハハ!!!」

 

傍から見ればまさに狂人の如き大笑い。何を考えてるのか底の見えないソノモノが一通り笑い収まると、口元を微笑ませながら宇宙を見上げ、何者かに対し語り始める。

 

「ありがとう…()()の方から干渉してくれたおかげでゼファーは大いに成長する事ができた」

 

 

 

-???「感謝してるよ」-

 

 

 

時刻は深夜の0時と少し過ぎたころ。

カズマ達の暮らす屋敷の一室だけ、ほんのりと明かりが灯す。

そのベッドには、ただれた両腕含め体中を包帯で巻かれた痛々しい姿のじゅんが眠り、側にはゆんゆんとクリスが小型の椅子に座り見守っていた。

あの後、カズマの案内で他の者に見つかる事なく屋敷に到着。

普通ならばアクアの様なアークプリーストの回復魔法で治す所だが、聖なる力が込められたソレは悪魔やアンデッドには毒でありじゅんも例に及ばず当てはまる。

故に出来る事は消毒や薬、包帯などで対応し後は本人の自然治癒力に任せるしかなかった。

因みにその際、魔力を分け与えれば治癒力が活発化するのではと考えたカズマはドレインタッチを試みようとした。

だがめぐみんは爆裂魔法でガス欠、アクアは嫌なだけでなく聖なる力を直接流し込むので返ってとどめを刺す事になると自ら説明したので却下、クリスに関しては自身がエリスなのを隠してる事に加え分け与えればアクアの言う通りになってしまうので渋り、そこへまだ余力があるゆんゆんが自分の魔力を与える事を推薦。最終的にゆんゆんの魔力をじゅんに分け与え、現在に至る。

 

「入るぞ二人とも」

 

ノックと共にドアが開き、カズマが部屋の中へと入る。

 

「じゅんの様子は?」

「まだ眠ってるけど落ち着いてるよ、ただいつ目覚めるか分からないのが現状かな…」

「そっか…そのなんだ…あんまし無理すんなよ」

 

ありきたりな言葉しか出せない事に申し訳なさを抱くも、これ以上何もできないと思ったカズマは部屋を後にする為ドアを開けたところ。

 

「カズマさん、じゅんくんを助けてくれた事もこうして匿ってくれた事も…本当にありがとうございます」

 

徐に立ち上がり深々と頭を下げるゆんゆんの姿を目にするカズマ。

前回の時の様に気恥ずかしくなり、苦笑いを浮かべながらも「ゆんゆんも無茶するなよ」と言って部屋から出ていった。

カズマが居なくなり再びイスに座るゆんゆん、そこへクリスが唐突に語り掛ける。

それはある意味、自分の正体をバラすこと以上に苦痛を伴う内容だった。

 

「ゆんゆん…こんな時だからこそ、本当の事を打ち明けるね」

「クリス?」

「じゅんと初めて出会った時から薄々だけど邪悪な気配を感じてた、仲間になったのもじゅんがこの世界に災いを齎す存在かどうかを見極めるためだった…それでじゅんが黒い巨人になってこのアクセルを滅茶苦茶にして…あたしは友達のダクネスやカズマくん達が傷付くのが嫌で…昨日の深夜に…寝ているじゅんを…あたしは…………」

「………」

 

それはさながら懺悔をする罪人のそれであった。

 

「でも出来なかった、何よりあたし自身じゅんが大好きだって事に気付いたの………軽蔑するよね…失望したよね」

 

自分の罪状を言い終えたクリスは、ゆんゆんからキツい一発をお見舞いされる事を予期し歯を食いしばって目を瞑る。

だがクリスの予想とは裏腹に、ゆんゆんはクリスの握り拳を上から優しく添える。

 

「ありがとうクリス、本当の事を言ってくれて…だからもう良いんだよ?」

「っ!…でも…あたしは…!」

「クリスも私と同じでじゅんくんの為に頑張った、そしてじゅんくんはまだ目を覚ましてないけどこうして生きてる…それだけで私はもう充分だから…ね?」

 

どんな裁きを受けるつもりなのに、包み込む様な微笑みを浮かべるゆんゆんにクリスは動揺を隠し切れずに抗議を言おうとした丁度その時。

 

「ん…んん……ゆん、ゆん……ク、リス…」

 

眠るじゅんの口から自分達の名前をその耳で聞き取り、目を覚ましたと思い詰め寄る。

 

「もう終わったよ?あの怪獣はもう居ないんだよ?」

「私達が…私達がここに居るから大丈夫だよ?」

 

安心させる様に言い付けながらも、更に続くじゅんの言葉に二人は耳をすませる。

 

「すき…だい、すきぃ…ま、もる…ぼく…ぜったい…まもるぅ…」

 

健気げで一途なじゅんの想いを耳にしたゆんゆんとクリス。

その言葉は結局は寝言でしかない事に理解しながらも、それでも自分達への想いを口にするじゅんに、ゆんゆんとクリスは一滴の涙を流しながら、包帯で巻かれたじゅんの手を添える様に掴み自身の湧き上がる想いをさらけ出す。

 

「じゅんくん…」

「じゅん…」

 

 

 

-ゆんゆん・クリス「…ありがとう…」-

 




これで第四章は終わりです、読んで頂きありがとうございます。

じゅんの行った事は、例えるとレベル1のなりたてホヤホヤの冒険者がいきなり爆裂魔法や上級魔法を無理矢理ぶっ放す様なもの。

スパークシュトロームのチャージ〜放射までを
ウルトラマントリガーOP「Trigger」
でイメージ再生してます。

次回は現在のウルトラマンで言う総集編的な立ち位置の話。
物語の進行上居なかったダクネスが漸く登場します。

また、前もってネタバレをします。
原作のダクネスの実家訪問〜バニル戦まではじゅんが眠ってる間に起こった事にしてバッサリとカットするのであしからず。


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第五章〜その①

UA9000超とお気に入り40間近、共にありがとうございます。

突然ですがあと少しで出す主人公の専用武器の名前を募集してます。

話の中でその武器の名付け親になるのはめぐみんになります。



 

…フォーマット完了…データリロード…

 

…戦闘…スタイル…プロセス…最適化…アップロード…

 

…細胞…強度…強化…アダプデーション…ラーニング…

 

 

-ZL「コンプリート」-

 

 

「ん…んん…」

 

光を感じ始めたじゅんはゆっくりと瞼を開ける。

見慣れない天井を目にし、眠りの中でペンダントことZLと同じ声が囁きながら何かを植え付けられてく様な感覚を変に思うと同時に、光線を撃った瞬間から記憶が飛んでしまいあのモンスターを倒せたのか…ゆんゆんやクリス達は無事なのかと徐々に不安になり始めたところで。

 

「おはようじゅんくん、今日はおき………あ」

「ゆん、ゆん?」

 

タイミング良く部屋に入って来たゆんゆんが、目を覚ましたじゅんの姿と声を耳にした途端硬直し。

 

「よ…よがっだぁ…よがっだょぉじゅんぐーん!!!」

 

大粒の涙と鼻水で可愛らしい顔が台無しになる程ぐしゃぐしゃなゆんゆんは、感激に身を任せじゅんに近付き、肌けた豊満な胸の中へ押し入れる様に抱きしめる。

男性諸君全員からすれば羨ましい事この上ないのだが、じゅんに至っては歳相応な事もあり一種のスキンシップとして捉えており、何より大好きな人がこうして生きている事が1番だったじゅんは喜びを表すように抱きしめ返した。

 

「ゆんゆん!まさかじゅんが!?」

「グリズぅうう、じゅんぐんがおぎだよぉー!」

「クリ、ス」

「じゅん…じゅんっ!」

 

ゆんゆんの大声で駆け付けたクリスは抱きしめられてるじゅんの姿を目にし、ゆんゆんほどではないが涙を流しながら近付き同じく抱きしめる。

正反対の申し訳程度しか膨らんでないほぼ平らな胸だが、ゆんゆんと同様に抱きしめ彼女の温もりをしっかりと感じ安心しきるじゅん。

 

「ふたり…けが…だい、じょうぶ?…アイツ…どうな、たの?」

「心配してくれてありがとう。私達も町の皆も無事だよ」

「あのモンスター、カズマくんの言う怪獣はキミがやっつけたんだ、安心して」

「…よかった…」

 

何時もの無表情ながらも、ホッと胸をなで下ろす言葉を吐くじゅん。

そこへ今度は、この屋敷の主でもあるカズマ、アクア、めぐみん、それと金髪の見慣れぬ女性が続々と入り込んでくる。

 

「ちくしょう、相変わらず羨ましいじゃねえか(よかったなじゅん、無事に目が覚めて)」

「おいカズマ、言ってる事と思ってる事が逆になってるぞ」

「しょうがないですよダクネス、“大人”気ないカズマの嫉妬深さに右に出る者は恐らくいませんでしょうから」

「ガキンチョ悪魔に嫉妬するだなんて、それでもこの私の信者なのカズマ!」

「お前ら好き勝手うるせぇぞ!羨ましいもんを羨ましがって何が悪いんだ!て言うかアクア、勝手に俺を信者にしてんじゃねえよ!」

 

「開き直った」と軽蔑の眼差しをカズマに送る面々。

だがその時、カズマ達の姿を見た途端じゅんは自身の顔を両手で覆う。

明らかに拒絶する態度のじゅんに騒いでたカズマ達は一旦収まり、ゆんゆんとクリスは心配そうに尋ねる。

 

「じゅんくん?」

「何処か痛むの?」

「ち、がう…ぼく…め…すごく…へん、だから…きもち…わるい…から」

 

ゆんゆんとクリスは兎も角、付き合いの短いカズマ達から見たら赤黒く変色した自分の目をきっと気味悪がる。

それを恐れたじゅんは見られない様に隠すのだが、その事を理解したゆんゆんとクリスは安心させる様に言い聞かす。

 

「大丈夫、怖がらなくて良いんだよじゅんくん」

「でも…」

「カズマくんでも誰でもいいからさ、手鏡あるなら持ってきてくれる?」

 

要求された事に戸惑いながらも、カズマが半端無意識に探してく所は何だかんだで根が善人なところだろうか。

そうして目当ての手鏡を見つけクリスに渡す。

 

「じゅん、落ち着いて目を開けてこっちを見て」

 

クリスに促されたじゅんは恐る恐る目を開け横に向けた。

そこに映ってるのは自分の顔だったが、最後に見た時と違い結膜は白色に戻っており、唯一元と違ってたのは角膜部分がゆんゆんやめぐみんの紅魔族と同じ赤色に変わっていた。

 

「これ…ぼく?」

 

更に眺めてると、鏡に映る右頬に横一文字で出来た…即ちクリスとは反対の左頬に傷痕が着いてる事に気付く。

その部分を触れるじゅんの姿を見て、クリスは申し訳なさそうに俯かせる。

 

「爛れてた両腕も含めて治ってたけれどそこだけは…ごめんねじゅん…あたしのせいで」

 

なにせその部分を傷付けたのは、他ならぬ自分自身。

その切っ掛けを思い出し辛そうに謝るクリスだが、そんな彼女の手をじゅんは優しく握る。

 

「いい、の…クリス…だい、じょうぶ」

「じゅん…」

「それ、に…め…ゆんゆん…きず…クリス…どっちも…いっしょ…おそ、ろい」

「「…ばか…」」

 

お茶目な事を言うじゅんに対し呆れた口調でツッコむ二人の表情は優しく微笑んでいた。

そこへタイミングを見計らったのか、ダクネスと呼ばれた女性が話しかける。

 

「少々失礼するぞ二人とも。はじめましてになるが私の名はダクネス、カズマ達のパーティーメンバーでありクリスとは友人でもある。じゅんと言ったな?キミの事に関してはカズマやクリス達から一通り伺っている」

「…ごめんなさい…」

「大丈夫だ、今回ばかりは事情が事情だから壊れた建造物等はダスティネス家の方で援助し、既に復旧しているから安心してくれ」

 

そう言って落ち込むじゅんを元気づける様に彼の肩に手を置くダクネス、だったが。

 

「それにしてもキミが黒い巨人になるとは、伺ってはいるがモンスター…怪獣と呼ばれるそれに相当痛めつけられたそうだな?電撃をビリビリに浴びせられシッポによるご褒美的な鞭打ちと締め付けからの首筋を噛まれ、そこから電気を流し込まれるなんともすばら…も、もとい痛々しい事をされるとは!あの場に私が居ればキミに変わって私がそのプレイ…もとい!身代わりになって堪能…いや守ってあげたと言うのに!ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

「…?」

 

段々と笑みを浮かべ興奮し始めるダクネスに何がそんなに嬉しいのか分からず首を傾げるじゅん。

その様子を見た面々、ダクネスの性癖(ドM)を知るカズマ達とクリスは悪癖が出始めたかと呆れ、初めて間近で見るゆんゆんは汚物を見る様な眼差しを送る。

 

「ダクネスさん、じゅんくんが困ってるので離れて下さい…と言うか教育に悪いのとダクネスさん()()()()が猛毒になりそうなので近寄らないでくれませんか?」

「んふっ!ち、違うぞゆんゆん!私はじゅんに対し悪気があるわけではなく…その冷めきった喋りと汚物を見るかの如き眼差し…思わぬ逸材が現れるとは…!」

「ダクネスの事は気にしなくて良いからねじゅん、何時ものどうしようもない悪い癖が出てるだけだから」

「ク、クリス!?人聞きの悪い事を言うな!私は騎士としてあくまでも街の皆を守ったじゅんの身を案じたまでで決して不謹慎にも羨ましいなどと思って!」

「いや思うどころか明らかに声と顔に出てたじゃねえか、()()()()()()♪」

「その名で呼ぶなカズマ!」

 

顔を赤くして必死に講義するダクネス。

そんな何時もの騒がしいやり取りをし始めたその時。

 

“きゅるるるる〜…”

 

突然お腹の鳴る音が響き、発生元であるじゅんは少しよろめきそこをゆんゆんが瞬時に支える。

 

「お、なか…すごく…へった」

「まぁ無理もないか、じゅんが寝てる間にダクネスの御家騒動やら魔王軍幹部のバニル討伐やらで二週間近くも経っているんだからな………はっ!」

「じゅんくん、今なんて?」

「すごく…減っただって?」

 

コクリと頷くじゅんがどれだけ食べるのかを知るカズマ・ゆんゆん・クリスの三人はその一言を聞いて戦慄し、方や事情を知らないアクア・めぐみん・ダクネスはなんの事やらと首を傾げる。

 

 

-ダクネス「このすば!」-

 

 

荒くれ者達が屯う冒険者ギルドの厨房。

今その場所は、戦争の真っ只中になっていた。

 

「料理長!食料庫の中の食料がどんどん減るばかりです!このままじゃいずれは!」

「バカヤロー!口を開く暇があんなら手を動かしやがれ!両腕がぶっ壊れても作り続けろってんだよおまえら!」

「んな殺生なぁ〜!」

 

怒号と悲鳴がこだます中、ギルド内のテーブル中央にもはやパーティーレベルの料理が所狭しに並び。

 

「ハムハム…アムアム…モグムグ…ゴクゴク…ふぅ…パク、ムグムグ」

 

そこに居座るじゅんが黙々と一人で食べ進み、じわじわと無くなり空となった皿を回収と同時に新たな料理を並べるその光景が、かれこれ一時間近くも続いていた。

その場に居る全員が唖然とし隣のテーブルに座るカズマ達も例外なく、あんぐりと開いた口が塞がらなかった。

 

「ねぇ、何時まで食べ続けてるのよあのガキンチョ悪魔」

「およそ一時間程かと…我が妹こめっこに勝るとも劣らぬ深淵の如き食欲を孕んでいたとは」

「いや…見た目と量が余りにも釣り合わなさすぎるぞあれは」

「(ホリューのおっちゃん含めた料理人並びにスタッフの皆々様、ご愁傷さまです)」

 

てんてこ舞いな彼等を憐れみながら心の中で呟くカズマ。

いったい何時まで続くのやらと思い始めた丁度その時。

 

「ムグ…ほぉ…もう、いい」

『え?』

「ごち、そう…さま、でした」

 

揃ってた料理全てを平らげ次の料理を出そうとした所で、じゅんは徐に首を横に振り食事を行う事を止めた。

その一部始終を見てた料理人の一人が急いで駆け出しホリューに報告した。

 

「料理長!もういいとの事です!」

「なんだと!?」

「およそ半分下を切ってしまいましたが、それでも何とか在庫は残ってます!…つまり!」

「オレ様達はじゅん坊に勝ったんだ!野郎ども!今夜は宴だぁ!」

 

ライバル視してたじゅんを満腹にさせた事を知り、ホリューを始めとする料理人達は歓喜の声を上げ涙を垂れ流しながら喜びを分かち合っていた。

厨房でその様な事態になってる一方、予想よりも早く終えたじゅんに別の意味で心配になり始めたゆんゆんとクリスは徐に近付き尋ねる。

 

「ほ、本当にもう良いのじゅんくん?」

「その、お腹いっぱいになったかな?」

「…ほかの…ひと…たべれ、ない…から…がま、ん…する」

 

どうやら周りの人達に気を使ってあえて止めたようだったが、嫌な予感をしながらも好奇心が勝ったカズマが恐る恐るじゅんに質問をした。

 

「と、ところでよじゅん。満腹を10で例えると今どのくらいなんだ?」

「…5…はんぶん…かな?」

 

それを聞いて頬を引つらせる面々。

だが不運にも、じゅんの言葉を耳にした料理人の一人が鬼気迫る表情で厨房に戻り、そして。

 

「追加報告です!本人の満腹度は半分の5!在庫の量からして我々の敗北ですぅ!!!」

 

“ドンガラガッシャーン!”

 

それを聞いた料理人全員が一斉にすっ転んでしまい、厨房内は滅茶苦茶になってしまった。

 

 

-ホリュー「負けたぜチクショオオオオオ!!!」-

 

 



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第五章〜その②

書いてて思うのは、カズマ達面々が勝手に騒いですぐカオスになってしまいそうです。


 

ギルドでの食事をひとまず終えたじゅん達は、再びカズマパーティーの住む屋敷へと戻った。

漸く本題に入り込める事になり、リビングに着いてそうそう椅子に座らせたじゅんにカズマは質問を投げかける。

 

「さてと、ある程度落ち着いたようだから、早速だけどじゅん。お前があの黒い巨人にどうやってなるのか教えてくれるか?」

「そうよそうよ!洗いざらい全てを白状しなさい!でないと、あっ!という間に浄化してやるんだからねガキンチョ悪魔!」

「アクアせん…さん、話進みませんので取りあえず黙ってて下さいね?」

 

女神という名の問題児がチンピラ紛いな脅迫をして噛み付くのを宥めるクリス。

少しビクつくもゆんゆんとクリスが側に居た事もあって安心し、じゅんは首に掛けたネックレス並びに左右の腰に着けた箱をテーブルの上に置く。

更に箱の中に入ってる合計6本のメモリを取り出し並べると、じゅんはペンダントを掴み握る。

 

STARTUP(スタートアップ)ZEPHYR(ゼファー)LOADER(ローダー)

 

聞き慣れない音声が鳴り響くとペンダントは光だし、手の平サイズのそれは数回り大きくなるどころかメカニカルな物へと変貌していた。

 

「な、何なのだコレは?ペンダントから急に奇っ怪でヘンテコな物に変わってしまったぞ?」

「恐らくマジックアイテムの類い、いやそれとは全く異なる別物の可能性が高いでしょうがこれだけは断言できます………これを作り出した人物の感性は大変素晴らしいものと見受けます!ぜひ我が故郷である紅魔の里の鍛冶屋としてその見事な腕前を披露して貰いたいところです!」

「いやいやいや、そこを褒めてどうするのよめぐみん」

「ふんっ!曲がりなりにも紅魔族だと言うのにこの魂の燻りを感じないとは、これだから変わり者のボッチは!」

「うっさいわよ!て言うかもうボッチじゃないって言ってるでしょうが!」

 

売り言葉に買い言葉と噛み付きあう紅魔の娘二人を他所に、続けるよう促したカズマに従うじゅんは、銀・青・赤・黒・緑・金のメモリのスイッチを押すと、それが起動したのか銀には人の様な顔、黒・緑・金の3つは其々異なるモンスターの顔が浮かび上がる。なお、残りの青と赤に関しては何も起こらなかった。

 

「片方は人の顔に見えなくもなく、もう片方は明らかにモンスターなのだろうが…」

「益々唆られてしまう作り込みですねぇ、ですが同時にこの浮かんでるものは」

 

目を光らせながらも、メモリに浮かぶ顔に一体どんな意味があるのか理解出来ずにいたところで。

 

「…黒はゼットン、緑はベムスター、金はキングジョー、そして銀はウルトラマンか」

『え!?』

 

淡々と名を零すカズマに驚きの声を出す一同。

 

「カズマ!?お前にはコレに写ってる物が何なのか知ってると言うのか!?」

「そう言えば黒き巨人になったじゅんじゅんの事をアクアと共に“ウルトラマン”と仰ってましたねカズマ!一体どこまでご存知なのか包み隠さず正直に吐いてください!もしも隠すようでしたら今この場で爆裂魔法をぶっ放しますよ!?」

「おお落ち着けってダクネス!て言うかめぐみん!んな脅しをかけられりゃ話したくとも話せれねぇだろうが!」

 

騒ぐ二人を宥めるカズマが知ってるのは至極当然。

アクア(厳密には使いの天使)に転生される前にいた地球で、幼い頃からウルトラシリーズの鑑賞や本やネット等で様々なウルトラマンと怪獣宇宙人の情報や設定を閲覧してた身分である。

とは言え馬鹿正直に言えばアクア同様に可哀想な目で見られるのは確実、故に嘘を交え尚且つ出来る限りこの世界の住人に合わせる内容でカズマは説明した。

曰く、自分の生まれ故郷である日本と言う国には人々が想像し作られた種類豊富の英雄譚が存在し、“ウルトラマン”と呼ばれるそれもその中の一つ。

自分はその作品を幼い頃から見聞きしてきた為に、メモリ(それ)に映る物が作品内で登場した存在と同じだと一通り話し終えた。

 

「全く理解に及ばないのだが、つまりなにか?ウルトラマンと怪獣と言う存在はカズマの生まれ故郷の人達が一種の娯楽として創り出された偶像の産物…と言うことになるのだが?」

「まぁそうなるだろうな」

「そうなるだろうなってお前、そんな他人事の様に…あ〜頭が痛くなってきたぞ」

 

想像の斜め上を行く内容について行けないダクネスの頭は完全にショートしてしまう。

反対にめぐみんはカズマの語った内容を自分なりに理解した為、うっとりとした表情を浮かべ始める。

 

「はぁ〜…完全理解とは言わずとも紅魔族にとってなんと琴線に触れる内容なのでしよう!物語として語り継がれた正義の巨人ウルトラマンが偶像などではなくこの場に実在する事実!それと同時に現れた脅威となる怪獣に完全と立ち向かう英雄譚活劇が今この瞬間にまで現実となっている始末!もー辛抱堪りませぇえーん!」

「…クリス…じゅんくんを最初に見つけたのが私で本当に良かったと思うわ」

「あー…うん」

「…これ…“ゼファー”…いって、くる」

「ゼファーか、さしずめ巨人になったじゅんは“ウルトラマンゼファー”といったところか」

 

ZLから発する音声を指摘したじゅんの言葉を聞きそう述べるカズマだったか、ここで最も騒がしい存在のアクアがめぐみんを始めとする全員に言い聞かせる様に語り出す。

 

「そんな良いもんじゃないわよめぐみん、ウルトラマン達ってね沢山の“星星をまたに掛け”てそこに住む住人や生命を怪獣や侵略者から護る存在なのは確かだけど、同時に必ず争いや災いが起こる事間違いなしで疫病神よりも質が悪いんだから。ウルトラマン現れるところ乱ありってね。ましてやこの世界にカズマと降りる前にいつの間にか復活してたウルトラマン“ベリアル”って言う悪魔やリッチー、それこそ魔王が可愛く思える程の大悪党が引き起こした“クライシス・インパクト”のせいで、私やエリス含めた神々が暮らす天界がメチャクチャになっちゃう程の大惨事を招いたのよ!おかげで修復やら補修やらのてんてこ舞いの中で強制的に働かされてストレスが貯まりに貯まりまくったりして…もうこっちはとんだとばっちりの大迷惑を受けたんだからね!」

 

カズマにとって何だかとんでもない事を口走った気がする中、プンスカと怒りながらマシンガントークを発揮するアクアに対しめぐみんは可哀想な人を見るかの様な瞳と微笑みを作る。

 

「相変わらずの妄想癖ですねぇアクアは…ですが、“星星をまたに掛ける”、“ベリアル”、“クライシス・インパクト”等…紅魔族のセンスにコレでもかと触れる程の素晴らしい設定は中々のものですね」

「妄想なんかじゃないわよ!全部本当の事なのよ!んでもって私は本物の女神アクアその人なんだってば!も〜!…あ!」

 

頬を膨らませ涙目になるアクアだったが、突然何かを閃いたようで手を叩くと、徐にじゅんに人差し指を向けながら思いついた事を述べる。

 

「そうよこれよこれだわ!この際そこのガキンチョ悪魔がウルトラマンになって、魔王をやっつけて貰いましょうよ!」

『はぁ!?』

 

じゅんを除く面々が驚く中でもお構い無しに、アクアは更に続けた。

 

「ダクネスはその場に居なかったけどカズマやめぐみん、それにゆんゆんとクリスは見てたでしょ?ウルトラマンになったガキンチョ悪魔があの怪獣を倒す所を。それだけの力があれば魔王や幹部の連中なんてあっと言う間にボコボコのケチョンケチョンになる事間違いなしよ!さっすが水の女神であるこの私!余りの名案っぷりに思わず身震いがおこってしまったわ〜!」

「………」

 

自画自賛極まりない事を言いながらオーバーリアクションを起こすアクアに対し、賛同しそうな筈のカズマは何故か黙ったまま見詰めていた。

 

「待ってくださいアクア!それでは我が爆裂魔法による活躍の場が完全に皆無となってしまうじゃありませんか!」

「そうだぞアクア!折角の魔王や幹部達による濃厚プレイのチャンスが今後一切訪れなくなってしまうではないか!」

「ダクネス…けどまぁ、アクアさんには悪いけどあたしもその案に賛同する事なんて出来ないよ」

「私もです!じゅんくんをそんな自分勝手の都合の良い道具扱いするなんて絶対に許しませんからね!」

 

親の敵でも見るかの様な眼差しを作りながらじゅんを守る様に抱き寄せるゆんゆんと同時に、片手でじゅんを庇うクリス。

方やエゴで方や思いやりと、動機が正反対ながらも共通して否定する態度にアクアはまたも涙目になって頬を膨らます。

 

「むぅ〜!なによなによ!皆して好き勝手に言ってくれちゃってさ!そんなに責めないでよね!逆にいっぱい、い〜っぱい褒め称えてよね!ったくも〜…そう言えばカズマ?さっきからずっと黙りっぱなしだけどカズマは賛成でしよ?ここだけの話なんだけどね、本当はあのいけ好かないウルトラマンに頼るのは癪だけど逆に絶好のチャンスでもあるのよね!魔王は倒され世界は平和になりカズマは魔王絡みのトラブルが無くなって望んだ安息を得られるし、何よりもこの私が漸く天界に帰る事が出来るのよ!一石二鳥どころか三鳥になって万々歳この上ないんたからさ〜!」

 

そう言ってカズマを唆すアクアを見ためぐみんとダクネスはこの後のやり取りを想像する。

 

『アクア〜お主もわるよのぉ〜♪』

『うへへへへ〜カズマさん程ではありませんよぉ〜♪』

 

面倒臭がり且つ小心者でクズが基本のカズマの性格を熟知してる二人は、十中八九ごますり合いながらこの様な意地汚い笑みを浮かべ結束するであろうと、予想を超えた確信を抱いてた為にさてどう抗議しようものかと考え始めた。

そして注目の的になったカズマは、閉じっぱなしの口を開き第一声の言葉を発する。

 

「ダメだ」

『………え?』

 

それはまさかの反対意見。

じゅんの一件を除くとしてゆんゆんとクリスもある程度はカズマの人柄を知り得たのか、めぐみん達と同様に良からぬ事を考えてる物とばかり決めてた所での予想外の返答に、開いた口が塞がらずにいた。

 

「き、聞き違いかしら?もう一度仰って下さらないカズマさ〜ん?」

「“ダメだ”…って言ったんだよ俺は」

 

恐る恐るもう一度尋ねるアクアだが返答は変わらずだった。

 

「いやいやいやいや!なに言っちゃってんよのカズマ!?何時もの貴方らしくないじゃない!?散々トラブルに巻き込まれるのはゴメンだって愚痴ってたあんたにとって願ったり叶ったりでしょ!?そうよほら!あのバニル討伐の際に貰った報奨金、あれを使ってガキンチョ悪魔を餌付けにするのよ!美味しい物を沢山食べさせればこっちのお願いを快く引き受けてもらって!」

 

一応女神だと言うのに口から出る内容が三下のチンピラそのもの。

裏を返せばそれだけカズマの考えを掴んでた筈のアクアにとっては完全な想定外。

人目を憚からず、それでもこちら側に付かせようと徹底的にまくし立てようとした、次の瞬間。

 

「………」

 

カズマは無言のままアクアの両肩を掴み、そのまま乱暴に壁際に押し付けた。

 

「ちょ、カ、カズマ…さん?」

 

抗議しようにもカズマからただならぬ雰囲気を醸し出すのを感じたアクアは思わず狼狽える。

名を呼ばれる中、俯くカズマはすぅっと鼻から空気を名一杯吸い込み許容量に達すると。

 

「ダメだって言ってんだろうがぁあああっ!!!!!」

「ひぃっ!?」

『!?』

 

口から出たのはアクセル全体に響き渡るのではと錯覚する程の、荒れ狂った激情を含ませた咆哮。

これまでにも怒鳴る機会は度々あったが、ここまで真剣且つ凄味のある怒りの声を荒げた事など一度たりとも聞いたことが無く、全員押し黙ってしまう。

 

「…二度とんなくだらねぇ事ほざくんじゃねえよ…!」

 

“眼で殺す”と言う言葉を具現化したその鋭い眼と言葉をアクアに送るカズマ。

乱暴に彼女を解放させると怒り心頭のままドアの前までズカズカと歩き、自身の心情を表すようにバンッ!と激しい音を上げながら閉め、一人リビングから出て行ってしまう。

少しの沈黙が流れると、立ち尽くしてたアクアがヘナヘナと力なく床にへたりこむ。

 

「カ、カジュマしゃん、とてつもなく怒ったんですけど…もの凄い怒鳴り声だったんですけどぉ…メッチャごわがっだんでずげどぉ〜…ぢびりぞうになっじゃっだんでずげどぉ〜…ゔぇええええええあ〜〜〜〜〜ん!!!」

 

カズマの剣幕で完全に心が折れたアクアは、また何時もの様に大声で無様に泣き喚く。

そんなアクアを毎度の事と無視しためぐみんとダクネスは、カズマが出て行ったドアを呆然と眺め続けていた。

 

「(あの様な怒り狂うカズマの姿…じゅんじゅんへ爆裂魔法を放とうとした時と全く同じじゃありませんか…いや、それより前に暴れ出したじゅんじゅんに叫んだ時になりますね…私はまだ貴方の全てを知り尽くした訳ではないようです…カズマ、一体何がそこまで貴方を駆り立ててると言うのですか?)」

「あんなカズマは初めてだ。鬼畜でぐうたらでダメダメな男があそこまで真剣になって激昂するなど………い、良いぞ、これはこれで味があって良い、こ、今度は是非私にもあの鋭い眼差しと激怒の声を浴びせて貰えないだろうか!?」

「ダクネスぅ…キミって奴はさ~…」

 

こんな時でも全くブレずに興奮し始めるダクネスに、親友な事には変わらずも呆れ果てた表情を作るクリス。

 

「……」

「じゅんくん?…あ」

 

一方、泣き喚くアクアの姿を見詰めていたじゅんは、何を思ったのか徐に椅子から降りアクアの元へ近づく。

 

「ひっぐ、えっぐ、ぐずん」

 

未だに泣き続けるアクアの前に立ったじゅんは、自身の手を彼女の頭の上に置き。

 

「…なか、ないで…」

 

そう言いながら優しく撫で始める。

ゆんゆんやクリスにそうしてもらって泣き止み安心した事もあってか、こうしてアクアにも泣き止んで欲しく行った行為…なのだが。

 

「びぃいいいええええええん!!!ガキンチョ悪魔ウルトラマンに慰められたぁあああああああ!!!」

 

完全に逆効果となってしまい毛嫌ってるじゅんからの慰めに、女神の威厳やプライドその他諸々がズタボロのボロクソになったアクアはより激しく泣き叫びながら、涙を滝のように流しまくる。

因みに水の女神な事もあってか、彼女の涙に微弱だが聖なる力が込められてる。

故に涙が当たるたんびにじゅんは熱がっていた。

 

 

ーじゅん「あち、あち、あちちち」ー

 

 




ここでのカズマさん、ウルトラマン絡みになるとぶちギレ案件待ったなしになります。

あと活動報告にも書いた、原作5巻及び劇場版の紅魔の里における話の中での思い付いたプロットを載せてみます。


紅魔の里での話。

怪獣が現れ倒すゼファー

飛び去る直前にボトムレス・スワンプを受け転び、そこへ狂喜乱舞になった紅魔の人間がぞろぞろとゼファーに集まる

喝采しながらベタベタ触ってくるせいで時間経過と共にコアが鳴りはじめる。

『「どうしよう…ぼく、かえれない…うぅ」』困り果て涙を浮かべるじゅん

プークスクスと笑うアクアを除いた面々があ然とする

「頭おかしいんじゃねえのかコイツら!?」激しく突っ込むカズマ


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第五章〜その③

UA10000超え、ありがとうございます。

アンケートは6月1日の昼12時に終了致します。

カズマさんのキャラ崩壊注意になると思います。

ここでのカズマさんは、原作をベースに劇場版ガイアの主人公である新星勉の要素を入れたイメージになってます。

冒頭の一部のセリフは、かつて私自身が言われた事のある実話を元にしてます。


 

聞いたぜカズマ、小学生になってもウルトラマン見てるだって?

 

おいおい何だカズマ?中学なのにウルトラマンの商品見て、まさか今も見てんのかよ?

 

ハッ!やっぱガキだな!

 

や〜いや〜いこのウルトラオタク〜!

 

 

「…なにを今更ぶり返してんだよ俺は…ちっ…あ〜イライラするなぁ!」

 

怒りに身を任せたまま飛び出したカズマはしばらく自室にこもり、深夜になった頃再び目を覚まし二階のベランダから外を眺めてると、浮かび始めるかつての記憶に対し愚痴をこぼす。

 

「イライラは健康の敵ですよ、カズマ」

 

すると後ろから声を掛けられ振り向くと、寝間着姿のめぐみん、ダクネス、クリスの三人がそこに居た。

“どの口が言えるんだよ”と、主に爆裂魔法によるストレス発生源の一人に対しツッコミを入れようとするも、心境的にその気になれず一息吐くだけに留めた。

 

「あの後どうしてた?」

「アクアさんをじゅんが慰めて余計に泣き喚いたりして大変だったけど」

「泣き疲れたのか今は自室で眠っている。あとじゅんはゆんゆんとクリスと一緒の部屋だから安心しろ」

「そっか…一応はアクアに謝っとくか、返事は期待しないけどな」

 

そう言って暗闇となった景色を再び眺めるカズマに、めぐみんが尋ねる。

 

「カズマ、私達がゆんゆんの様に偶然を装ってここにやって来たと思いましたか?」

「(何かツッコミてぇんだけど…やめとこ)じゃあ何しに来たんだよ?」

「質問で返す行為はあえて目を瞑ろう…あれだけなる程、カズマにとってウルトラマンとは何なのか、それが知りたくなったからだ」

「………」

「二人は兎も角あたしは無理強いはしないつもりだよ…たださ、抱えて溜め込むよりも吐き出す方が少しは楽になると思うんだよね。難しく考えないで愚痴る事だと思ってさ」

 

そう言われるカズマ自身も、あんな事をした以上は訪ねて来るだろうと予想していたが、めぐみんとダクネスはまだしもクリスまで来るとは。

果たしてどうしよう…と思った所で自分には拒否権はないだろうし、クリスの言う事には一理あると考えたカズマはなるようになれと開き直って語り出し始めた。

 

「ふぅ…なんて事はねぇよ、ガキの頃からウルトラマンて言うヒーロー物を見聞きして来ただけの男だよ俺は。んでもってその事を周りの奴等にイジられたりバカにされたりしたから卒業する事にしたんだ…表向きはな。ネトゲを嗜むがてら新しく出る度に周りに気付かれない様コソコソして見てたもんさ。アクセルに来るまでずっとな…まったく…ガキ専用の道楽物だって言うのに全然卒業しねぇなんてほんっとなさけねぇよなぁ〜…ははは」

『……』

 

ヘラヘラと笑いながら言うカズマ。

だがめぐみん達三人から見て分かりやすい程力がなく、自虐的な言い方をするカズマの姿がとても小さくそして痛々しかった。

 

「オレさぁ…本当は今でもウルトラマンが大好きなんだよな。物心がついた時に初めて見たのがウルトラマンだった。怪獣や宇宙人の侵略から地球や人々を護る姿や活躍はほんっとに格好良くて、でもそれだけじゃない。人間側に落ち度があったり害のない怪獣や友好的な宇宙人には手を差し伸べる優しさもあって…俺の理想で憧れの存在だった。大きくなったらウルトラマンみたいなヒーローになるって言う無邪気な夢を持つ位に」

 

“あのカズマにも無邪気なころがあったとは”等と、何時もならそう指摘しツッコまれるやり取りになるのだが、こればかりは野暮にしかならないと考えたダクネスとめぐみんは聞き取りに専念する。

 

「けどまぁ、さっき言った事をされたりあらかた現実を見られる程の歳にもなったから“所詮は子供騙しの娯楽物”って割り切ってたところで本物様ご登場と来たもんだぜ?今思えばホント馬鹿だよな、マジモンのが現れ我ながら結構興奮したんだから。別にじゅんが…巨人が俺の知る“ウルトラマン”じゃないかも知れない、姿形が似てるだけの別物かも知れねぇのに一方的に重ねちまってさ〜」

『……』

「確かにアクアの言う様に俺らしくねぇよな。トラブルは勿論魔王討伐何て面倒事は他の奴等に任せてのんびり暮らす、それがこの俺カズマさんなんだ。この際背に腹は代えられない、使えそうな物はとことん利用しないとな。朝にでもなってじゅんに旨いものをたらふく食わせてやって、何ならある程度の金もあるからそれを担保に条件を持ち掛けても悪くは」

「…無理はなさらないでください、カズマ」

 

そうして合理的な事を呟くカズマに、めぐみんから待ったをかけられる。

無理とは一体どういう事なのか、見当がつかないカズマは首を傾げる。

 

「無理って何の事だよ、別に何時もの事じゃねえかよめぐみん。んじゃ聞くけどよ、お前等から見て俺は何なんだ?」

「姑息でヘタレで小心者で、カスでクズでゲスな行いばかりする」

「巨乳や美女に目がなく、直ぐに鼻の下を伸ばすろくでなし変態野郎です」

「オマケにあたしからパンツを剥ぎ取ってお金を要求する徹底した鬼畜っぷり」

「オメェら容赦ねぇな!?少しは気を使っても良いんじゃないの!?もう泣いちゃうよ俺ぇ!」

 

遠慮なくコレでもかとボロクソに評価する3人に激しくツッコむカズマ。

けれどこのままガヤガヤ騒ごうとする様子はなく、寧ろ思い詰める様な雰囲気を醸し出す。

 

「はぁ〜…ハハハ、でも同時に良く分かってるじゃねえかよ。ああそうだ、俺は小心者のヘタレで打算な事ばかりしか考えない自分の保身優先の最低なダメ人間さ、でもそれの何が悪いんだよ?嫉妬や妬みを持って何が悪いんだよ?他人を羨んで茶々入れて何が悪いんだよ?卑怯な事やって何が悪いんだよ?………好き勝手にやって何が悪いんだよ!!!」

『………』

 

嫌見たらしい笑みを浮かべブツブツ言いながら、突然叫び出すカズマ。

しかしそれはアクアの時の物と違い、溜まりに溜まったストレス含めた憤りのそれであり、当たり散らすかの様に吐き出し始める。

 

「今更迷惑なんだよ!そんなヒーロー物の展開なんざよ!只でさえ俺はこの世界で一時期借金背負わされて散々な目に遭ったってのによ!トラブルメーカーのアクア!爆裂狂のめぐみん!ドMのダクネスに毎度振り回されてばっかりでさ!そんでもっていつも理不尽で不都合ばかりのロクな結果にしかならねぇ事ばかりだ!だったらこれから先を生き抜く為なら他人任せだろうが汚い手を使おうが構わねぇじゃねぇか!咎められる筋合いなんかねぇんだよ!何だってんだよ!?どいつもこいつもこっちの気も知らねぇで!俺はなぁ!」

 

あぐらをかいて癇癪を起こした子供の様に叫び散らすカズマ。

そんな彼に近付き屈んだめぐみんは、拳を丸め強く握る手の内の左手の上にゆっくりと乗せた。

 

「…すみませんでしたカズマ…何時も私達のワガママに付き合わされ振り回し続けて…でも同時にそんな貴方に対して感謝の念を抱いてるのは確かですよ、少なくとも私にとっては」

「…んな聞こえの良い事を言ったところで、今更止めるつもりはねぇんだろ?」

「否定はしません、先程のカズマへの評価も含めて…だからこそ貴方の思いの上を、抱えている本心を知りたいのですよ」

「今のカズマが普段と異なる事はイヤでも分かる…そして私達の知らない面を覗かせてる以上、仲間として放ってはおけない。これ迄の迷惑の罪滅ぼしと言う訳ではないが…遠慮なくぶちまけてくれないだろうか?」

「………これから先も俺は変わる事なんてねぇぞ、小心者のクズで迷わずゲスな鬼畜行為もやり続けるぞ、綺麗でスタイル抜群の女性を前にすりゃ鼻の下伸ばしてカッコつけるぞ、必要ならじゅんの事だって利用するし何なら羨ましい事される度に妬み狂うぞ」

「…カズマの思うがままで良いんです、私達は受け入れますから」

「だから…もう自分を責めるのはやめるんだ」

 

宥める様に言う二人の言葉を聞きカズマは思う。

自分のエゴを最優先するくせにこんな時だけ仲間面する態度に怒りとも呆れとも取れる感情を抱いてた…また何時もの様に残念な態度で答えようものかと考えたが今回ばかりは素直に止めた。

ただそれでも自分の中に湧き上がる区別や判断のきかない感情が押し寄せるのを感じ、そこへ羞恥心か現れ始め止めようとするも“ウルトラマン”と言う憧れの存在が顕にし、結果カズマは震えながらも呟き始める。

 

「…さ…最初にゼファーになって暴れて…ウィズを攻撃して…俺はベリアルやザギの様な邪悪な存在だって決め付けた…でもその後にまた現れて…全く違う戦い方して惨めにボロボロにされて…なのにそれでも這い上がって何度も立ち上がかってさぁ…」

「…うん…」

 

頷くクリスの声を耳にしながらも、カズマは更に続ける。

 

「あ…あれは俺の知ってる“ウルトラマン”だった…どれだけ倒れても、傷付いても、泥塗れになっても立ち向かうウルトラマンその物だったさ。それなのにアクアが魔王を倒す為に利用する事を聞いて…あんな事を言っておいて心の何処かで“良いな”って思ってる自分が居て…益々腹が立って…だから俺は…俺は…!」

 

口だけでなく握り拳からも震えを感じるめぐみんは、それでも手放す事はせずに置き続ける。

そんな光景を同じく無言で見詰めるダクネスとクリス、そして。

 

「俺は俺自身が許せなかったんだよっ!!!」

 

限界に達したカズマは、自身に湧き上がる最も強い想いを曝け出した。

 

「じゅんは本当にすげぇ奴で良い子だよ。怖い中でもゆんゆんやクリス…そして俺達を守ってくれてさぁ、今までテレビやDVDで見てきたウルトラマンや変身する主人公達と同じ事をして…尚更自分がどうしようもなく惨めで情けなくて…アクアの提案する姿がこの世界に来てからの俺自身と重なっちまって…まるでウルトラシリーズに時々出てくるひどい人間、特にウルトラマンメビウスでラスボスのエンペラ星人にメビウスを売り渡そうとニヤケ面で賛成したあの人間…人類の面汚しのゴミカス蛭川の様に思えて…そんな奴にどんだけ俺は腹が立ったのか覚えてる筈なのに…なのに今の俺はそんな奴と対して変わんない事をし続けて…!」

『………』

「空想だから、作り物だからって割り切ってたさ。でもじゅんが…ゼファーの姿やアクアの言葉を聞いて今ここにはいないけどあの“ウルトラマン”が現実に存在してるって思うと…エースの願いの言葉やガキの頃の夢がチラついて…なのに今の俺はどうだよ?真逆の生き方をして…けど今更変える事なんて出来ねぇし…それが益々苦しくてよぉ…!」

 

これまで顕にしない程の苦痛の声を出しながら、カズマは顔を上げ三人を訴える様に見た。

その瞳には後悔やら無念やらの想いが込められた涙を流していた。

 

「俺だって…俺だって本当はウルトラマン達ヒーローの様な胸を張る生き方をしたかったさぁ!誇り高くて目標の的になれる様なカッコイイ人間になりたかったさぁ!けど俺は本当に弱くて情けないウルトラオタクでぇ!後ろ指指されたって文句も言えねぇクソッタレな事ばかりしかできなくてぇ!………なんでぇ俺はこんな風になっちまったんだよぉ…ちくしょう…ちくしょう…ちくしょうちくしょうちくしょう!チクショォォォオオオ!!!…うぅ!…ぐぅ!…ひっぐ!…うぅ!」

 

胸の中の全てを曝け出したカズマは、仲間や知り合いでも三人の女性が居るのにも関わらず空いた片手を顔に付けながら遠慮も見栄もかなぐり捨て子供の様に泣きじゃくる。

そんなカズマの姿を見た三人の内、彼のパーティーメンバーであるめぐみんとダクネスは思う。

カズマの口から聞き慣れない単語が所々出ることもあって全てを理解したとは決して言えない。

それでも、そんな中でも理解できた事が確かにあった。

“カズマはウルトラマンを心から敬愛してる”と言う事を。

だからこそ彼は悔やんでた、敬愛してたウルトラマンに対し相応しい生き方が出来なかった事。

それどころか、カズマ自身も自覚する程に真逆の人生を歩んでしまった事。

それを“空想”と言葉で割り切り辛うじて保ってたが、ゼファーと怪獣の存在によって彼のウルトラマンへの想いが再び目覚めた事を。

故に止めようの無い後悔や自責の念、何処かにいるやも知れぬウルトラマンへの罪悪感が湧き上がり押し潰された事を。

目の前のカズマは年相応且つ貧弱で脆弱などこにでもいる青年…だからこそ、めぐみんはそんなカズマの苦しみを少しでも和らいで欲しく無言のまま彼の俯く顔を抱き締め撫でる。

同時にダクネスも、何も言わずカズマに寄り添い彼の小さくなった震える背中を優しく擦り始める。

 

「くぅ!…っくしょう!…ひっぐ!」

「(カズマ…私達を前にも関わらずこんなに涙を流す程、貴方は今もウルトラマンを愛してるのですね…)」

「(目標の存在が現実にいるともなれば己を責めるのも無理はない…辛かっただろうカズマ…)」

 

様々な呼び名を持ってもカズマもやはりただの人…ましてや憧れの存在の1つや2つを胸に抱く至って普通の男。

これまでも愚痴や弱音を吐く機会は当たり前のようにありながら何だかんだで頼り甲斐があったカズマ。

けれど今の彼は何処までも小さくそして痛々しい。

そんなカズマが泣き止むまで、二人は彼を慰め続けた。

そんな中、人知れずその場を離れたクリスはひと目の付かない所の壁に寄りかかり、カズマの独白を思い出しながら心の中で呟く。

 

「(…カズマくん…ありがとう…例え空想越しだったとしても…いや、だからこそキミがあの御方達の存在を今も尚も思ってくれて…きっとキミなら、あの子をウルトラマンとして導く事が出来る筈…()()()()()()()()()()()()()())」

 

 

 

めぐみん・ダクネス・クリス「…このすば…」

 

 

 




思った以上にシリアスだったので、切りの良い形にしたいので次で五章を終えるつもりです。

因みに、あれから眠ってたウィズはエレキベムラーを倒した翌日に目覚め、且つ彼女の店はダクネスが言った援助によって既に元通りになってます。

活動報告に書いたプロットを載せてみます。

思い付き2のダイジェスト的な続き。

なんやかんやで離れろと言うカズマ達の抗議に渋々従う紅魔族の面々

肩に乗ってた者達の中にねりまきがおり、滑って落ちる所を手の平でキャッチされ優しく降ろされる

その光景を見たカズマはかつての自分もあんな風にしてもらいたいとしみじみに振り返り、あれくらい後で頼んでも良いかなと考え始める

その矢先、肩に乗ってる紅魔の女性達が、あからさまにあざとく怖がりながらゼファーに降ろして貰う様に頼む

「ええからはよ降りれやおどれらぁあああ!」激しくツッコむカズマ


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第五章〜その④

お気に入り40、ありがとうございます。

総集編的と言っときながら、4つも区切ることになりました。

使ったことのない機能も今回挑戦して使ってみました。


あれから泣き続けたカズマは、それなりの時間をつやしながらも漸く落ち着きを取り戻した。

 

「…わりぃ、みっともなく泣き喚いたりして」

「良いのですよカズマ、仲間なんですから」

 

日より気味な返事にめぐみんは素直に答える。

尤も冷静になり且つ恥ずかしい思いが湧き上がった為、それを隠す目的でカズマは何時もの調子で余計な一言をあえて呟く。

 

「…できればダクネスに抱いて貰いたかったな~」

「お前と言う奴は〜!慰められて置きながら何なのだその言い草は!」

「ほ〜ほ〜!何時ものカズマに戻ってきた様ですしこのまま私の素晴らしい“胸”の中で永眠させてあげましょう!」

 

そう言いながらめぐみんは離さないままカズマの顔を本当に潰す勢いで力強く抱きしめる

 

「あだだだだ潰れる!?潰れるっつうかロリっ娘のお前の何処にんな力があるんだよ!」

「言ったな!?言いましたねぇ!?言ってはならない禁句を口にしましたね!?」

「どどどうせ永眠するならダクネスの様な自慢のグレネードの中でぇ!」

「ななな何を言うカズマ!?“グレネード”が何なのか分からずとも如何わしい事なのは容易に分かるぞ!お前如きにはコレで充分だ!」

「あーだだだやめろー!の、脳がいてぇえええ!」

 

めぐみんのベアハッグにダクネスのダブルアイアンクローも加わって、ミシミシと鳴ってはいけない音が出始めたところに。

 

「あはは、3人揃って何時もの調子に戻ったみたいだね」

 

タイミングを見計らった様にクリスは三人のやり取りを笑いながら現れる。

カズマの事で頭がいっぱいの二人は少し驚き、カズマへの制裁を一旦中断する。

 

「クリス、そのすまないな、お前の事を忘れてしまってて」

「良いよいいよ、あたしは気にしてないからさ…それとさカズマくん」

 

親友ダクネスからの謝罪をおおらかに許すクリスは、カズマの方へと向ける。

そこから発する言葉は、クリス並びに本来のエリスとしての本音でもあった。

 

「まず先に言うけどね、キミは自分の事を軽蔑してる人物と同じなんて言ったけど…あたしはハッキリと“違う”て言えるよ」

「え?」

 

クリスからの返答に間の抜けた声を出すカズマに構わず、更に続ける。

 

「確かにきみは狡賢いし、小心者なのに見栄を貼ってカッコ付けて、挙げ句あたしのパンツをスティールで剥ぎ取って返す代わりにそれに見合う金額を要求する程の徹底ぶりだけどさ」

「………俺また泣いて良いですかな?」

「ダメです」

「いいから黙って聞いていろ」

 

二人からのダメ出しに散々に思うも、取りあえずは聞き手に回っておこうと割り切る。

 

「ダクネス達に何だかんだで付き合って、アクセルで度々起こる事件を解決する貢献をしたし…なによりも命懸けでじゅんを助ける為に協力してくれた。オマケにあたしがキミ達の借金を肩代わりする事を断ったし」

「……」

「上手く言えないし無責任かもしれないけどさ、もしカズマくんの言う“ウルトラマン”が本当に居たらさ…きっとキミの良い面悪い面も受け入れた上で…尊敬したり誇りに思うんじゃないかなって思うんだ」

「…だと良いんだけどな」

 

カズマからしてクリスはこの世界の住人の筈なのに彼女の言葉には妙な説得力を感じた為、変に突っ掛からず自虐を込めた力の無い笑みを浮かべ呟く。

それに対してクリスは頬傷を掻きながらも、カズマに送った言葉に絶対の自信と確信を持っていた。

その根拠とも言えるかつて女神エリスとして経験した出来事を脳裏に思い浮かべる。

 

 

-クリス「このすば!」-

 

 

「(数千年前、かつて宇宙を支配していた究極生命体レイブラッド星人が引き起こした大事件“ギャラクシークライシス”。それが収まって暫くの年月が経った時、私とアクア先輩の上司である“テラス様”が現世に降りその際こっそり付いて行ったのが全ての始まりでした)」

「(私は邪悪な宇宙人を目にした途端、テラス様の制止を聞かず悪魔相手と同様に神の本能のまま滅ぼそうと徹底的に交戦しました…ですが相手の方が1枚も2枚も上手だった為に私とテラス様は捕まり…そこで待っていたのは壮絶なる地獄の日々でした…)」

 

“い、いや!こないでこないでこないでこないで!来ないでぇええええええ!”

 

“スペースビースト完全消滅、細胞ノ残留ヲ確認セズ、超次元生命体カラ放出サレシエネルギーヲ、今後セイクリッドエネルギート呼称”

 

“痛覚含メシ感覚ハ我々ヲ始メ、地球人等ノヒューマノイドタイプトホボ同等、更ナルボルト上ゲヲ実行セヨ”

 

“ア"ア"ア"ア"ア"!痛いイタイいたいいだいよぉおおおお!テラスさまぁああああ!アクアせんばぁあああい!もういやだぁあああ!あ、悪魔でも誰でもいいからぁ!た、たすけてぇええええ!ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!”

 

「(私達を超次元生命体と呼ぶ奴等によって繰り返される実験と拷問の日々の中、私はイヤでも思い知らされました…神は完全無欠なんかじゃない…個の存在でしかない…痛みがある以上小さな生命と変わらない…なによりも神の本能に身を委ねたばかりにこの様な事態を引き起こしてしまった私は愚か者であった事を…)」

「(テラス様と共に一生飼い殺し扱いにされると思う中、突如何者かの襲撃に遭った様で、私は好機と思いテラス様を連れどさくさに紛れて懸命に逃げ出しましたが、無情にも見つかってしまい今度こそ終わりなんだと空笑いと共に絶望に苛まれた…まさにその時でした。私達の前に突如として赤い球体が降り立ち、そこから現れたのは)」

 

“あ…あなたさまは?”

 

“チィッ!宇宙警備隊隊長カラ筆頭教官ト共ニ我ラノ邪魔ヲスルカァ!ウルトラ兄弟ガナンバー2!ウルトラマンヨォ!”

 

「(決して忘れる事などできはしません…真紅のブラザーマントを靡かせながら雄々しく堂々とそびえ立つ後ろ姿…私とテラス様をお救い下さった偉大なウルトラ兄弟のお一人であるウルトラマン様の勇姿を)」

「(ですが相手も最後の手段と称して、自身の命を生贄に怨念の塊であるおぞましい怪獣“グランドキング”を依り代の器にし…宇宙の悪魔“ジュダ”を不完全な形でこの世に再び降臨させました…もはやそれは神や悪魔等では括られない超越した存在でした)」

「(けれども…不思議と恐怖を一切感じなかったのです。理由は勿論ウルトラマン様を始めとしたゾフィー様・セブン様・ジャック様・エース様・タロウ様の存在がありましたから。そしてタロウ様を中心に兄弟の皆様は一体化し、ジュダが乗り移ったグランドキングを圧倒し再び消滅させたのでした…その時のやり取りを今もなお覚えています)」

 

オノレェ!忌々シイウルトラ兄弟共ォ!イズレ再ビ必ズヤ復活ヲ遂ゲル事ヲソノ胸ニ刻厶ガイイ!

 

ならば、我らの決意と覚悟をその胸にしかと刻むが良い!

 

光があれば闇もあるならば、闇もあればまた光もある!

 

矛盾と共に光を抱き、生きとし生けるもの達の矛と盾となって守り抜く!

 

それが宇宙警備隊、それが我ら“ウルトラマン”の名を背負う者の宿業であり使命だ!

 

この宇宙に真の平和がもたらされるその日まで、我々は戦い続ける!

 

何度も蘇るのならば何度も葬り去るまでだ!この宇宙から再び消え去れ!ジュダ!

 

 

-タロウ「コスモミラクル光線!!!」-

 

 

「(…大丈夫だよカズマくん、あの御方達はきっとキミの事を認めてくださるから…ね)」

 

地獄の日々でもありながら、同時に偉大なるウルトラ兄弟のファーストコンタクトでもあった忘れられない出来事をクリスは人知れずに思い出していた。

 

「なぁカズマ」

「ん?どしたダクネス」

 

そんなしんみりする中、徐に尋ねるダクネスにカズマが反応すると。

 

「何時でもいいから…是非アクアにしてやったあの剣幕の表情と怒鳴り声を私にも向けてほしい!そのままも悪くはないが、少し手を加えてとことん蔑み尚かつ下劣でイヤらしいダメダメなセリフに改変して欲しいのだ!ハァ、ハァ、ハァ!」

「「「………」」」

 

薄っすらと頬を赤らめながら、発情した雄改め雌犬の如き笑みを浮かべる我らがドMクルセイダーのダクネス。

良くも悪くも空気を読まない彼女に対し、クリスとめぐみんは呆れ果て、カズマは何時もの様にツッコミを入れた。

 

「あいっ変わらずオメェはブレねぇよなぁ〜!」

 

 

-カズマ「このマゾヒストがぁ!」-

 

 

そして翌朝。

リビングに全員が集まる中。

 

「つう訳で、悪かったなアクア」

「な〜にが“つう訳で”よ!女神であるこの私が危うくちびりそうになったのよ!?もっともっと謝って!それでシュワシュワをたんまり奢って私をとことん甘やかしてぇ!」

「(やっぱし謝るんじゃなかった〜!)」

 

大方予想してたとは言え、下手に出た途端喚き散らして要求するアクアに謝罪した事を直ぐに後悔し始めるカズマ。

そんな何時ものやり取りをしながらも、昨夜の出来事もあって今回はカズマ側に肩を持つ事にしためぐみんとダクネスはアクアを宥める。

 

「まぁそう言うなアクア、ぶっきらぼうながらもカズマはこうして素直に謝罪をしてるのだから」

「そうですよアクア、自称とは言え水の女神らしく水の様に寛大な心を持って許してあげてください」

「なんか二人してカズマの肩を持ってる様に見えるんですけど?て言うか私は自称じゃなくて本物の女神アクアなんだってば〜!」

 

別の事で喚くアクアだが、いつもの事とはいえへそ曲がりになった彼女には正攻法では収まらない。

付き合いの長い中でこの様な場合の対処は熟知してるカズマは、早速行動に移す。

 

「ま〜最初から返事は期待してなかったけどな〜、都合の悪い時にウルトラマンを頼る様な女神様にはな〜」

「んなっ!?」

 

驚愕するアクアを他所に、カズマは更に追い打ちをかける為にまくし立てる。

 

「あれだけ散々ウルトラマンなんか大嫌いってほざいてたワリには魔王討伐にすがり付いて任せちまうなんて、曲がりなりにも水の女神であらせられるアクア様がそのように女神のプライドを簡単に放り投げるなんざ、信仰してるアクシズ教の連中が哀れでしかたねぇ〜よな〜。まぁそれも致し方がな」

 

口調も表情も嫌味たらしいそれは正に“ゲスマさん”と呼ばれしそれであり、まだまだ言おうとした次の瞬間。

 

「ゴッドブロォオオオオッ!」

「ぶべら!?」

 

女神アクアの必殺技その1“ゴッドブロー”。

本人曰く“女神の怒りと悲しみを乗せた必殺の拳相手は死ぬ”…なのだが、ジァイアントトード等の一部には効果が無い。

ただやはり物理な事や不意打ちな事もあり、ゴッドブローをモロに受けたカズマは吹き飛ばされてしまう。

 

「言ったわね!?言ってはならない事を言ったわねカズマ!麗しくそして気高いこの私に限らず、純真無垢で信仰者の鏡とも言われる私の可愛いアクシズ教の皆まで貶す様な事を言ったわね!?良いわよ!ウルトラマン如きに頼る様な女神アクア様じゃないわ!魔王やその他の幹部なんてこの私がボコボコのケチョンケチョンにしてやるんだから!」

 

怒り心頭に宣言するアクアだが、それこそカズマが狙っていた事でもあった。

魔王絡みで困ってる人達に申し訳なく思うもウルトラマンの持つ力並びに活躍の場は宇宙規模が当たり前であり、そう言う観点からしたら人間と魔王軍の戦いは惑星に住む住人同士による派閥争いとも言える。

ウルトラマンとして干渉できるのはあくまで怪獣の様な脅威が現れた場合なので、どちらか片方に向けるのは頂けない。

故にアクアには自立して貰うべく、元々ウルトラマン嫌いな部分を煽って頼らない様促したが効果は覿面であった…のだが、そこはやはりアクアなので効き過ぎてしまったらしい。

 

「そう言う訳だがらガキンチョ悪魔!アンタなんかに頼るまでもないわ!寧ろ今すぐこの場で女神の力を思い知らせてやるんだから覚悟なさい!」

「…ん?」

「いやいやいやいや!ちょっとアクアさん!?」

「勢いがてらにじゅんくんに噛み付かないでください!」

 

怒りの矛先を再びじゅんに向けるアクアにツッコミを入れるクリスとゆんゆんだが、こうなった以上その勢いが止まることはない。

 

「問答無用よ!ガキンチョ悪魔なんかに慰められた屈辱を晴らす為にもここで成敗してやるんだから!」

「子供相手に大人げないぞ…」

「子供相手に大人げないですねぇ…」

 

幼い善意でした事なのにこの仕打ちをするとは。

悪魔関連があるとは言え一応は年上なのに理不尽な事を言うアクアに呆れながら呟くダクネスとめぐみん。

それなら止めるべきなのだろうが、二人は既にこの事態を終わらせる人物が動き出してる事に気付いていた。

 

「さぁ!その間抜け面の眼でしかと刮目なさい!女神アクアの自慢の拳をぉ!ゴォオオオッドォオオオ!」

 

右拳を天高く振り上げ守られてるじゅんにいざ打ち込もうとした直前。

 

「『ドレインタッチ』ッ!」

「ブんぎゃああぁあああぁあああ!!!」

 

少し鼻血を流しながらアクアの首筋を鷲掴み彼女の力を吸い尽くす我らがカズマさん。

その表情はさながら、ヤクザの如き勢いと凄みを持つとある銀行員のそれであった。

 

「ぬふふふ!俺は真の男女平等主義者のカズマさんだぞ、このままやられっぱなしじゃ終わらせねぇ!やられたらやり返す…倍返しだぁっ!

 

 

-アクア「しゅ〜わ〜れ〜りゅ〜…」-

 

 

朝から騒がしいやり取りを一旦終えた面々。

ふてくされるアクアを他所に、カズマは今後の課題を口にする。

 

「さて、漸く話ができるけどまずは今後もあの様な怪獣が現れないとは言えないし、もしまた現れて本当に駄目なその時はじゅんの出番だが…問題はどうやって信頼を得るかだよな」

 

カズマの言った内容を耳にした一同は押し黙る。

最初の出来事がじゅんの意思ではなく操られてた事は既にカズマ達も理解している。

しかし、だからと言って建物を破壊した事実は変えようもなく加えてアクセルの人々は怪獣もゼファーも共に同じ恐怖の対象物となってしまっている。

このまま何もせずに放置してしまえば怪獣は勿論、最悪ゼファーとなったじゅんすらも攻撃対象となってしまうのは目に見えている。

果たしてどうしたら…せめて信じてみようと言う切っ掛けがあれば良いのだが、あるだけの頭で絞る中、ふとめぐみんが徐にダクネスへ質問をした。

 

「ダクネス、あれがじゅんじゅんの意思じゃないのは承知の上で尋ねますが、壊れた家や建物を建て直すのにどれほどの費用が掛かりましたか?」

「そうだな…アクセルの街全体のおよそ1〜2割程が壊滅したようだから、丁度カズマが背負ってた借金の半分と下になる約6億エリス相当になる」

『ろ、6億エリス!?』

「ふっふ〜ん!どうやら私達の勝ちのようねガキンチョ悪魔!」

「お前バカじゃねぇか!なに勝ち誇ってんだよ!て言うか勝ちどころの話じゃねぇだろが!」

 

返済してるが背負ってた借金の額が多い事を自慢するアクアのアホっぷりにツッコまざる負えないカズマ。

 

「…ダク、ネスさん」

「どうしたんだじゅん?あと私の事は今後呼び捨てでも構わないからな」

 

そこへ無言だったじゅんがダクネスに声を掛けると、彼の口から驚きの提案をする。

 

「その…お、かね…ぼく…はら、う」

『ええ!?』

 

まさか6億エリスを自分から返済すると申し出たのだ。

いくら冒険者とは言えじゅんはまだ子供、しかも額の規模を考えれば払い切る事は到底あり得ないし、百歩譲って出来そうでもそれには途方もない時間を掛けなければならない。

余りの無茶振り過ぎる内容にゆんゆんとクリスは思わず異議を唱える。

 

「ま、待ってじゅんくん!いくらなんでも貴方一人じゃ到底払い切れない額なのよ!?」

「うん…でも…そう、しないと…みんな…ぼく…ひどい、こと…した、から」

「…償いたい気持ちは分かるよ、でもこればっかりは…まさかじゅん、キミは()()を使ってまでお金を稼ぐつもりなのかい?」

「………」

 

ソレとは即ちZLとメモリの事であり、クリスからの指摘に俯き何も言い返さない以上どうやら図星のようである。

じゅんの気持ちを理解しつつもそれだけは決してやってはならない、少なくとも私利私欲…までとは言えなくとも考え無しで闇雲に使ってはならない。

注意して言い聞かせねばと考えたクリスだったがそれよりも先にカズマが動き出し、じゅんの肩に手を置いて彼と同じ目線になる様に屈んだ。

 

「じゅん…“大いなる力には、大いなる責任が伴う”」

「…え?」

 

カズマの口から発した台詞にじゅんは少し目を見開き、その間にもカズマは更に続ける。

 

「この言葉はな、俺の故郷にあるウルトラマン以外のヒーロー…正確にはそのヒーローの叔父が言った言葉で結構印象に残ってたんだよな…その叔父の最期も含めて、な」

「………」

「カズマさんってば、ガラにもなく臭いセリフをはい、むぐむぐ〜!?」

「アクア」

「少し黙っててもらうぞ」

 

空気を読まずに茶々を入れようとするアクアを強引に口止めをするめぐみんとダクネス。

そしてカズマは、自身の言った言葉や叔父の最期等をここに居る面々にかいつまみながら合わせる形で語り出す。

 

曰く、そのヒーローはカズマに近い年頃の青年で、ある事が原因で超人的な力を手に入れた。

彼には惚れた娘がおりその娘を振り向かせたく、ある物を買う為に必要な大金を手に入れようとその力を使ってとある格闘大会に参加する事にした。

大会だけじゃなく彼が力を授かった事を知らない叔父だったが、彼の事を心配して先の言葉を送るも年相応の思春期な事もあって鬱陶しい思いを態度に表しながら別れてしまう。

その後大会に参加して優勝するも、向こうの屁理屈でケチった為に約束のお金を貰えず、その直後に強盗犯が現れ襲撃をしたが意思返しによる憂さ晴らしでその強盗犯をわざと見逃した。

そして叔父と再会しようとしたが、その叔父は何者かによって瀕死の重傷を負い…彼の目の前で息を引き取ってしまった。

殺された叔父の敵討ちをする為に自身の力を使って犯人を見つけそして追い詰めた。

でも叔父を殺したその犯人が…よりにもよって憂さ晴らしの為に見逃した強盗犯だった。

結局そいつは彼にのされ捕まったが、それで叔父が蘇る事などなく…彼やもう一人の家族である叔母と共に深い悲しみと一生消えない傷を負ってしまった。

 

『………』

「(なんですかソレ…彼にも非はあるでしょうが…だからと言ってこんな結末…)」

「(これも空想なのは分かっている…だが、余りにも残酷過ぎるではないか…!)」

 

カズマが語ったその救いようのない内容にじゅんやゆんゆんにクリス、アクアでさえも黙り込んでしまい、そう言った話にそれなりに興味のあるめぐみんとダクネスは物語とは言え英雄となる彼の経緯を聞き、やるせない思いを抱いてしまう。

 

「彼は本当に後悔したんだと思う。あの時強盗を捕まえていたら…いや、もっと言えばお金欲しさにその大会に参加しなかったら…家族の叔父が死なずに済んだ筈なのにって」

「………」

「じゅん…お前はその時の彼と同じ事をするつもりだったんだ。彼はその後、叔父の遺言に従って人々を守る為にその力を使う事を誓ったんだ。お前には自分の持つ力を彼や他のウルトラマン達の様にちゃんと使って欲しいって思ってるんだ。“じゅんじゅん”と言う一人の人間として精一杯頑張って、それでも駄目で自分や誰かが死にそうだったり守らなきゃならない時に使う様な心構えを持つべきだと思う…俺の言ってる事、分かるか?」

「…うん…」

 

尋ねられたじゅんはカズマの語った内容も含め、重々しくも理解を表すように頷く。

それでもやはり償いたい気持ちもあってお金を返済する思いは変わらず抱いてたが、ここでカズマが思い付いた妙案をじゅんに語る。

 

「そこでだじゅん。お前が言ったのを参考に、とりあえずは皆が信じてみようって言う切っ掛け作りを思い付いたんだ」

「…きっかけ?」

 

 

-カズマ「このすば!」-

 

 

カズマの思い付きはこうだ。

正門にゼファーとなったじゅんが現れ、その際に自身に敵対意志がない事とアクセルの皆への謝罪と償いを行う為の声明文と共に、前金としてのお金を提供すると言った御芝居を行うとの事。

因みにそのお金は、流石に全部と言う訳にはいかないもののカズマが所持する4000万の内の1000万を自ら提供するとの事だったが、これにはアクアが猛反対し少しながらの騒ぎを起こした。

そうして揉めながらもゆんゆんやクリスも返済に協力する等で、結局半分の500万エリスで収まる事になった。

 

「目星が付いたところで、私から一つ申出があるのですが」

「ん?やぶからぼうにどうした、めぐみん」

「これを機会にですね、巨人となったじゅんじゅんの名前を一変されてはどうでしょう?そこで新しい名称の名付け親は是非ともこの紅魔族随一の天才である私が与えましょう!」

『はぁ!?』

 

目をキラキラ輝かせるめぐみんからの突然の物申しに一同が驚く中、めぐみんは更に続ける(因みにじゅんは普段通りだがアクアに関してはそれはもう面白そうに眺めていた)。

 

「いえですね、“ウルトラマン”や“ゼファー”と言った名も大変よろしいのですが、あとも〜ひと押し魂を揺さぶる様な捻りが必要ではとの所存の元に、この我が直々に丹精込めて」

「却下だ」

「ちょっ!?待って下さい!既に決めた魂魄名をまだ口にしていませんよ私は!」

「聞くまでもねぇだろ!どうせお前なんかが考えた名前なんざ聞くに耐えない奇天烈なもんがオチに決まってんだろうがぁ!」

「おいコラ!聞く前から一方的に奇天烈と決め付けるなど、随分心外な事を言うじゃありませんか!」

「まぁまぁカズマさ〜ん、折角めぐみんが丹精込めて考えたそうなんだから聞くだけ聞いてみましょうよ〜」

 

言い争う二人の間を珍しくアクア自らが仲裁するが、その笑顔からは明らかに企む何かが目に見えていた。

 

「ふっふ〜ん!分かってるじゃありませんかアクア!では早速ですが、しかとその耳と魂に刻むが良い!漆黒の黒き巨人ゼファーから新生されし気高くも雄々しき真名!名付けて“えんえんじろすけ”です!」

「却下却下大却下だ!んな泣いてる様なイメージしかないフザケた名前なんかに変える訳にいかねぇだろが!ゼファーだゼファー!ウルトラマンゼファーでとっくに決まってんだよ!」

 

思った通りの紅魔族らしいネーミングに断固反対するカズマであったが、このチャンスを逃す訳にいかないアクアはじゅんに指を指す。

 

「じゃあさ~、そこのガキンチョ悪魔に直接聞いてみるのが手っ取り早いじゃないの~?」

「ちょ!?アクアさんなに振っちゃってんですか!?」

「だ、ダメよじゅんくん!めぐみんのあんなセンスの欠片も無い名前を受け入れちゃ!」

「そ、そうだぞじゅん!こればっかりは真に受けずにそのまま聞き流してしまうのだ!」

「(こんの腐れ女神ぃ~!めぐみんの提案を出しにしてじゅんの名前をダサくする魂胆なのはわかってたが、よりによってじゅんの素直さに漬け込みやがってぇ~!)」

 

年相応ながらも些か素直過ぎな面もあるじゅん。

彼から見て善意の提案をしてると思ってる事に加え、一般と紅魔族双方の感性を余り持ち合わせていない。

もし頷き受け入れてしまえば今後から“えんえんじろすけ”と言うフザケた名前を自ら名乗る可能性も大いにある。

ある意味最悪過ぎる事態を何としても回避すべく必死になってじゅんを説得する。

 

「皆の者静まりなされ!ここではじゅんじゅんの自由と自主性を尊重すべきかと思われます。ですのでまずハッキリと訪ねますよ、如何でしょうかじゅんじゅん?これを機に我が特注で唯一無二の名前を是非名乗ってみてはどうでしょう?」

「…めぐみん…な、まえ…うれ、しい…あり、がとう」

『じゅん(くん)!?』

「お〜!と言う事は!」

 

恐れた展開にいよいよ持って焦り始める中、ニヤニヤ顔で見守るアクアと受入れると思っためぐみんは嬉しそうに目を再び輝かせた、が。

 

「でも…いい…ぼく…“ゼファー”…がいい」

『え?』

 

首を横に振ってめぐみんの提案した名前を丁重に断るじゅん。

 

「な、何故なのですか!?私の最高傑作で歴史に名を残すに相応しい気高き真名をどうして断ると言うのですか!?」

 

まさか断られるとは微塵に思っておらず、思わずじゅんに近付き両肩を掴みながら必死の表層で問いただす。

そんなめぐみんに少し驚きながらも、じゅんは断った理由を述べ始める。

 

「ゼファー…それ、が…てが、かり」

「て、手掛かり…ですか?」

「うん…ぼくが…なん、なのか…どう、して…ちから…ある、のか…どこから…きた、のか…わからない…すくない…てが、かり…しり、たい…だから…ぼく…“ウルトラマンゼファー”…にする」

「(…そっか、そうなんだなじゅん)」

「(キミは自分の事が…どうしても知りたいんだね)」

「(確かにその名は数少ない手掛かりの一つ…無理もないか)」

 

あれだけの出来事を経験した以上、そのルーツを知りたがるのは至極当然。

じゅんはじゅんなりに自分自身と向き合ってるのだなとしみじみに思う中、それでもめぐみんは納得出来ずにいた。

 

「あ、貴方の心情は理解致しました…のですがねじゅんじゅん。巨人となった貴方の新生した名が今後とも全世界に轟いて行くのですよ?それにカズマの話ではウルトラマンと言う名の戦士は他に御存在する様ですし貴方だけが名を変えても別に大して」

「ねぇめぐみん」

「何ですかゆんゆん!先程センスの欠片も無いと言う紅魔族にあるまじきフザケたことをお…しゃ…る…」

 

何時もの強気で負かそうとするめぐみんだが、彼女は見てしまった。

ゆんゆんの真紅の瞳が赤く輝くばかりか、光を宿さず濁らせながら背後から漆黒のオーラを静かに醸し出し口だけを笑顔にする彼女の姿に、思わず掴んだ肩を手放してしまう。

 

「貴女さっき言ったわよね?“自由と自主性を尊重すべき”って…じゅんくんが決めた以上この子の考えを手厚く尊重させてあげるのが私達の役目じゃないのかしら?」

「い…いやしかしで」

「んん?」

「ひぃ!?わわわわかかかかりりりりままままししししたたたた」

 

一瞬ゆんゆんの首があらぬ方向*1に傾いた様な錯覚を目の当たりにし思わず土下座をするめぐみんと、谷間の間に挟まれながらの背中越しで見えないじゅんを除いた面々は戦慄し震え上がる。

 

「ま、まぁまぁゆんゆん。折角のめぐみんのご厚意を無化にするのもそれはそれで」

「なにか言いましたかアクアさん?」

「ヒェッ!?い、いえいえ何でもありませんとの事ですよ〜。オ〜ホホホホホ〜……………ちっ」

「お前いま“ちっ”て言ったな?“ちっ”て言ったよな?」

「言ってない」

「いや確かに“ちっ”て聞こえたぞお前」

 

 

-アクア「言ってない!」-

 

 

翌日。

指定された時間の正門前に集まって欲しいと言う巨人からの文がギルドに届き、発見したルナがギルド内の面々に報告。

冒険者や一部の住人を混じえた人々が正門前に集まりざわづく中、指定時間に達したと同時に空から巨人事ウルトラマンゼファーが現れ人々から少し離れた場所に降り立った。

 

「おいおい、マジで来やがったぞあの巨人」

「どうしよう…先手必勝に撃ってみる?」

「やめとけ、下手に刺激を与えたらあっと言う間に皆殺しにされるぞ」

 

ゼファーの登場にざわつきがより一層強くなる中、ゼファーは片膝を地面に付けると右手を開いて何かを差し出す。

手のひらに袋の様な物が置いてあるが、相手が相手なだけに取りに行くことを躊躇する中でカズマが前に出る。

止めに入る皆の言葉を振り切り手のひらの物を手にし戻ったカズマは袋を開けると、中には500万エリス相当のお金が入ってると同時に1枚の手紙が同封されていた。

カズマはそれを開け、その場の皆に伝わる程の声で読み始める。

 

「“アクセルの皆様初めまして、私はウルトラマンゼファーと申します。

此度は私の行いで皆様を恐怖に陥れてしまい、大変申し訳ございませんでした。

無論、謝罪だけで済まそうとは思っておりません。

壊してしまった街の復興に協力したく定期的にお金を払う所存の元、前金として500万エリスを提供致します。

取り返しのつかないご迷惑をかけてしまった為に、今後は皆々様の為にも精一杯の償いを致します。

それで全てが赦されると思っておりませんが、いつか皆様の信頼や期待に応えられる様この身を捧げてでも務めさせて頂きます。

最後にもう一度言います、皆様を恐怖に陥れてしまい…大変申し訳ございませんでした

漆黒の黒き巨人、ウルトラマンゼファー”…」

 

読み終えた途端、周囲の人間達からひそひそ話をし始める。

“今更謝られても”“あれだけの事をしといて”“図々しいじゃないのか”“信用できるのか?”。

疑心暗鬼な内容を呟くものの、こうなる事はカズマも既に予測済みだった。

何だかんだで自分は魔王軍幹部のベルディアとバニル、そして機動要塞デストロイヤー討伐に貢献したアクセル内で良くも悪くも有名な存在だ。

そんな自分の発言には少なからずの力や影響力もある筈だ。

勿論自分だけでなく、ダスティネス家のご令嬢と知れ渡ってるダクネスや爆裂魔法で活躍しためぐみんと、トラブルメーカーだが一応は活躍したアクア、そして誰よりもじゅんの理解者であるゆんゆんとクリス。

彼等の支援も加われば押し通せる筈だ…その様に踏んだカズマは早速それらしい台詞を吐こうとしたのだが。

 

「みんな聞いて…くれ?」

 

直後にゼファーになってるじゅんが、何故か両膝を地に付きながら少し後退る。

おかしい…自分はこんな指示なんてしてなかった筈だ。

突然の行動に頭が真っ白になる中、尚もじゅんは行動をし続ける。

両膝をそのままに両手を前にだし地面に付けながら少しずつ屈み。

 

「(おい…冗談だろ?)」

「(え…ちょ、待ってよじゅん?)」

「(ま、まさか…じゅんくん嘘でしよ?)」

「(いやいやいや、何故その様な行いを?)」

「(そ、それは流石にどうかと思うぞ?)」

 

アクアを除いた全員が困惑する中、ゼファーになったままのじゅんがした行い。

それは完全敗北を認め、尚かつ許しを乞う異世界でも共通の証…屈服の象徴“土下座”であった。

 

『ん〜…!』

 

唸り声と目玉が飛び出しそうに見つめる*2中、オデコを地面に密着する程の土下座をするゼファーの姿に人々は感服をし始める。

 

「な、何という見事な土下座だ!」

「この様な美しい形の土下座は見たことがない!」

「角度、姿勢、丸み、どれを取っても完璧だ!」

 

冒険者並びに町人達が次々と褒め称える度に、嫌な汗をダラダラ流しまくる一同。

そんな状態など露知らず、一人の冒険者が未だ微動だにせず土下座を保つゼファーに声を掛けた。

 

「顔を上げてくれ!ウルトラマンゼファー!」

『………』

「確かにお前は俺達アクセルの皆を怖がらせたし沢山の家を壊しやがった、その行いは決して許される事じゃねぇ」

『………』

「けど、差し出した金とその土下座で罪滅ぼしの意志がある事はよ〜く分かった!俺達の期待や信頼を決して裏切らない為にも、今後とも償いの意志を怠らない様に精一杯精進してくれよな!」

 

その冒険者の言葉に賛同する様にカズマ達を除いた全員が一斉に首を縦に振り頷く。

ゼファーも釣られる様に頷き、徐に立ち上がると目に映る人々に腰を曲げて挨拶し、体を向いて背中を見せながら。

 

『シュワッチ!』

 

掛け声と共にゼファーは天高く飛び去って行った。

 

「なんだ〜、見た目の割に話の分かる奴じゃねぇか〜!」

「そうね〜、彼から見たら私達なんてアリンコ同然の筈なのに」

「にも関わらずお金と共になんの躊躇もせず土下座をするんだから」

「いや〜ゼファーと言ったか?アイツの活躍を大いに期待しようじゃね〜か!」

「その身は漆黒されど心は純白、まさか奴は…いやよそう。今言える事は唯一…奴の贖罪の旅に幸あらんことを」

 

モヒカン頭の機織り職人の意味深が有るような無いような呟きと共に散り散りに去って行く人々。

誰も居なくなり、その場に佇むカズマ一行は完全にお通夜ムード状態で肩を落とし続けていた。

そんな中、この状況を作り出したであろう諸悪の根源がコソコソ離れようとしてる所をカズマは見逃さなかった。

 

「ア〜ク〜ア〜さぁあ〜〜〜んっ!!!」

「はひっ!?な…なななんでしょうカズマさ~ん?」

「俺はた〜だ!呼び止めだだけなんですけどぉ、どぉ〜してコソコソ一人で帰ろうとするのかなぁ?かなぁ!?

「べべべ、別にコソコソだなんて〜」

 

威圧を込めて問い詰めた途端あからさまな挙動不審と共に目をそらすアクアに、カズマ含めた全員が犯人が誰かを瞬時に悟った。

 

「な〜んも後ろめたい事がないんだったら、いつも通り一緒に帰る所なんじゃねぇ〜の〜?」

「も、勿論後ろめたい事なんて何一つやってないわよ!まさかこの私があのガキンチョ悪魔に土下座をする様な入れ知恵をした訳じゃ」

「そう言えば〜!じゅんを除いて正門前に俺達含めた全員が集まる中で最後に来たのはお前だったよな〜?」

「ギクギクギクッ!」

 

カズマに指摘され分かりやすく動揺するアクア。

有耶無耶にも出来る筈だが、知恵も忍耐も無くメンタルが豆腐並の構ってちゃん故に逆ギレしながら勝手に白状し始める。

 

「だ、だってだって〜!あれだけの事をやらかしたんだからこの際お芝居なんかより、恥でもなんでも良いから潔く土下座の一つくらいした方がアクセルの皆が凄く納得すると思ったからよ〜!」

「(んのやろ〜!アクアのくせに尤もらしい言葉並べやがって!だがどうせ腹の中では真逆の事を魂胆にしてるだろうけどな!)」

 

当然このまま逃がす訳にいかないと思うカズマは、果たしてどの様にアクアの腹の内を露にしてやろうかと考えたところで。

 

「言いたい事はそれだけですか、アクアさん?」

 

アクアに声を掛けるゆんゆんだが、既に彼女は逆鱗状態に陥り、昨日と同じく目を輝かせどす黒いオーラを発する。

加えてその表情は、某白い悪魔・魔王・冥王等で呼ばれる魔法少女のソレになっていた。

 

「うひぃ!?」

「どう取り繕ってもじゅんくんを晒し者にした事実は変わりませんよ?…ですから」

「あ、あわわわわわわわわ!」

「少し、頭冷やしましょうか…『ライト』」

「わー!ゆんゆんストップストップ!」

「おおお落ち着いて!落ち着いて下さいゆんゆん!」

「は、早まるなゆんゆん!気持ちは分かるが冷静になるのだ!」

 

既に殺る気満々で魔法を放とうとするゆんゆんを必死になって止めるクリス達。

そこへカズマが待ったをかけた。

 

「待った!ゆんゆん、お前が激しく怒るのはごもっとも…だがアクアが指示した事で俺が予想した以上の結果をもたらしたのは紛れもない事実なのを俺は認めざる終えないと思うんだ」

 

アクアの仕出かした事を肯定するカズマ。

その事に文句を言う前に、めぐみんが小声で伝える。

 

「ゆんゆん、あの様に仰ってますが内心アクアに腹が立ってる筈ですのでここはカズマに任せましょう」

 

カズマやめぐみん達に留められた事もあり少し冷静になったゆんゆんは、渋々ながらも言われた通り彼に任せ静観に徹する。

 

「カ、カズマ?」

「全く大した女神様だよ…俺の完敗だ」

「そ、そうでしょそうでしょ!この私の華麗なるファインプレーが功を奏したんだから感謝なさいよカズマ!」

「おう!今回ばかりはお前の、いや女神アクア様のお陰で大成功だ!」

「ふっふ〜ん!もっとも〜っと褒め称えて崇めなさ〜い!」

「「わ〜はははは〜!」」

 

よいしょよいしょと持ち上げるカズマにすっかり気を許したアクアは肩を組んで高らかに笑い声を上げ、そして。

 

「んで、土下座したじゅんの姿をみた感想は?」

「そりゃもうとてつもなく最高だったわ〜♪あの天下のウルトラマン様がアクセルの皆の前で深々と土下座なんかする姿はほんっと傑作物よ〜♪も〜お陰で笑いを堪えるのに必死だったんだから〜プ〜クスクスクスクス〜♪………は!」

 

毎度の様に調子に乗って本心を暴露してしまったアクア、だが時既に遅し。

 

「………」

「(アクア先輩…それはあんまりですよ〜…)」

「大方の予想はしてましたが…まさかこれ程とは…」

「巨人になってるとは言え…子供の土下座をこうも笑って楽しむなど…」

 

アクアの性格を後輩としても仲間としても把握してる彼女達ですらドン引きしてしまい、ゆんゆんに至っては怒りを通り越しまるで汚物でも見るかの様な表情*3となって見つめていた。

そんな冷たい視線を向けられアクアがオロオロする中、カズマは彼女の肩をガシッと力強く掴む。

 

「カ…カズマ…さん?」

 

恐る恐る尋ねると、俯いてた顔を上げたカズマの表情は屈託のない満面な笑顔で溢れていた。

 

 

 

-カズマ「アハッ♪」-

 

 

 

“よ〜く聞きなさいよガキンチョ悪魔、カズマが手紙を読み終わったと同時に私が手本として見せたポーズをしっかり行うのよ?”

“大丈夫!なんてったって私は水の女神アクア様なのよ?必ず上手くいくって!” 

 

変身する前にアクアから指示され、それを実行したじゅん。

昨日めぐみんがしてた事がそれでもあって直ぐに理解していた為に覚えも早かった。

そしてアクアの言った通り、街の皆が信じてみようと思ってくれてじゅんは安心と同時に喜びを感じていた。

“他の皆も含めアクア様にお礼をしよう、料理を振る舞おう”…そう考えながらじゅんは、合流しやすい様に正門前で待ってると言った皆の所へ向かい、その後ろ姿を目にしたのだが。

 

「…ん?」

 

アクアが居ないばかりか、何故かその場から離れず立ちっぱなし状態の面々に違和感を感じたじゅんは、ゆんゆんとクリスの二人に近づきスカートと短パンの裾を掴みクイクイと引っ張る。

 

「「じゅん(くん)?」」

「どう、したの?」

「あ〜…いやそれがねぇ」

 

尋ねるじゅんに対して言い辛そうに頬の傷を掻くクリスはある方向に視線を向けた。

それに釣られてじゅんもその方向に視線を向けると、そこでは。

 

「ぶばぁ!ごぼごぼ…カジュマ!ごぼごぼ…さばあ!ごぼごぼ…おだずげぇ〜!」

 

何故か巨大カエル事ジャイアントトードに食われ、粘液塗れでカエルの口から出たり入ったりの繰り返しをされているアクアがそこにいた

 

「うるさぁあ〜い!てんめぇ!よくもじゅんにくだらねぇ入れ知恵をしやがったなぁ!」

「でもそれで!ごぼごぼ…上手くいっだ!ごぼごぼ…がら!ごぼごぼ…結果オーライ!ごぼごぼ…じゃないのよ〜!」

「それはソレこれはコレだぁ!あと30分、そうやってカエルに弄ばれていやがれ!この腐れ駄女神がぁ!」

「ぞんな!ごぼごぼ…ごむ!ごぼごぼ…たいな〜!ごぼごぼ…」

 

泣き叫んで助けを求めるアクアを怒り心頭のカズマは聞く耳持たずにバッサリ切り捨てる。

 

「うわぁ…アクアは当然の報いとしても…カズマもカズマで容赦が無さ過ぎますよ…」

「あ〜…これ程見事な冷徹と外道と鬼畜っぷり…流石はカズマだ!そ、それにアクアのあの弄ばれ具合…非常に羨ましいぞ!あ、後で私にもあの様に出し入れさせてくれるだろうかあのジャイアントトード、うへへへ」

 

カズマのその鬼畜っぷりに方やドン引きし、方や褒めながらだらしない笑みを浮かべる。

そんな状況の中、危険な目に遭ってるアクアに誰も助けようとしない事にじゅんは疑問を投げ掛ける。

 

「アクアさま…たす、けない…なんで?」

「気にしないでじゅんくん。あの脳味噌3グラムのおバカさんは悪い事をしたから、懲らしめる為のお仕置きを受けてるだけなのよ」

「そう、なの?」

「えっと〜…まぁやり過ぎな所もあるけどゆんゆんの言う“お仕置き”に関しては事実だけどね…それとさじゅん」

「…なに?」

「キミの素直な部分は良い所だけど、素直過ぎたら悪くもなるから…これを機会にそれなりに考える様にしようね?」

「…うん、がんばる」

 

毒混じりに吐くゆんゆんとは対象的に注意を促すクリスにじゅんは頷く。

じゅんとしては余り良い光景ではないが、彼女が悪い事をしてしまった以上はいか仕方なく反省の為のソレならばと、皆と同じ様に傍観に徹する事にしたのだった………めでたしめでたし。

 

「めでたく!ごぼごぼ…なんかぁ!ごぼごぼ…なぁ〜い!」

 

 

 

第五章「謝罪-DOGEZA-」

 

 

 

-アクア「このす!ごぼごぼ…」-

*1
ひぐらしのなく頃にから竜宮レナ。心臓の弱い方は閲覧注意。https://livedoor.blogimg.jp/kinua03/imgs/3/0/305e4b13.jpg

*2
イメージ図はこの素晴らしい世界に爆焔を!第2話から。https://img.anitubu.com/imgs/2023/04/13/TmdckGlDLioTCBq.jpg

*3
イメージは鬼滅の刃から竈門炭治郎。https://img.animanch.com/2019/06/dadf6ff0.jpg




これで第五章は終わりになります。

色々と詰め込み過ぎて長くなりました。

最後のオチに関して、元々はカズマに狙撃やらウィズ魔道具からポーションと言う名の爆弾を投げ付けられながら逃げ惑うENDだったのですが、このすば的なオチで尚且つアクアと言えばカエルだと思い、アニメ2期の第2話でのアレの様にしようと思い変更しました。

それと、時間軸を出来る限り原作寄りにしてましたが、5章以降はこのファン要素に加え、本筋を交えた初代やマックスの様なオムニバス形式に近いストーリーにし、季節や月日等が夫々の話に合わせて変わる感じになると思いますので、あまり深く考えずに頂けたら幸いです。


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第六章〜その①

1ヶ月ほどお待たせしました。

新作のブレーザー良いですね。

今回の話は見る人によってはキツイと思われます。


第六章「この幼子にウルトラマンとしての決意と覚悟を!」

 

 

 

 

ウルトラマン!ゼットン!

 

WAKE UP!(ウェイクアップ!)ZEPHYR!(ゼファー!)

 

BEGINS!(ビギンズ!)WARRIOR!(ウォーリア!)

 

 

その日、突如として現れたウルトラマンゼファーは。

 

『………』

 

ゆんゆんとクリス、そしてカズマパーティーを含めた人の居ない大草原の真ん中で体育座りをしていた。

少しシュールな光景だが、これにはちゃんとした訳がある。

ウルトラマンに関する知識を持つカズマが懸念した事は、ゼファーの活動時間。

果たして他のウルトラマン同様に3分程なのか、それともそれ以上又は以下なのかを確認する為にこうして変身してもらい調べるがてらにのんびりと寛いでいた。

ゼファーになって15分経過したのだが、未だ胸のコアは点滅せずに青色を保つ中。

 

「じゅんく〜ん、だいじょうぶ〜?」

 

異常がないとは言えやはり心配なのでゆんゆんが呼び掛ける。

尤も、ウルトラマンになって出来ることは首を振ったり体でジェスチャーして伝える事くらいだろうなと踏むカズマだったが。

 

『「…うん…だい、じょうぶ…だよ」』

「そっか、まぁ今のとこ…ろ…は?」

 

今確かにじゅんの声がした。

しかも自分やゆんゆんばかりか、他の連中も驚きながら顔をゼファーに向けていた。

 

「この声は確かにじゅんだが、何と言うか脳に直接入る様な感じだぞ」

「恐らくは一種のテレパシー能力になりますね」

「ほえ~…まさかその姿になってもじゅんくんと会話が出来るなんて」

『「うん…ぼくに…こう、いう…ちから…ある、みたい」』

 

そんな風に和みながら会話(?)をしてる所に、カズマが質問を投げ掛ける。

 

「なぁじゅん、そのテレパシーはどこまで出来る?俺達だけだったり、特定の人にだけだったりとかさ?」

 

ゼファーのテレパシー能力は使い方次第では後々便利にはなるが、正体を知らない赤の他人にまで筒抜けになってしまえば変に勘ぐられてしまう。

新たな問題が生まそうになる中で、突然クリスだけがクスクスと笑い始めていた。

 

「ど、どうしたクリス?」

「ふふふ、いやねじゅんが“こんにちは、ぼくはじゅんじゅんです”ってあたしに呼び掛けるからさ、カズマくん達は聞こえなかった?」

「いや全然…けど、どうやら筒抜けになる事はなさそうだな」

 

取り越し苦労で終わり一安心するカズマ。

そこへアクアが横から無理矢理入り、ゼファーに人差し指を向け指示をする。

 

「んじゃガキンチョ悪魔ウルトラマン、女神のこの私にだけ何か言ってみなさいよ」

 

図々しく言う相手がアクアな以上もう嫌な予感しかないのだが…。

全員の思いが一致してる事など露知らず、ゼファーはアクアにテレパシーを送る。

 

「ふんふん、ほ〜ほ〜、へ〜へ〜」

「はぁ…一応聞いといてやるけどよ、じゅんはなんて?」

「“アクア様サイコー!”、“カズマはヒキニート!”、“めぐみんはロリっ娘!”、“ダクネスは脳筋!”“エリスの胸はパット入り!”ですって〜!」

「ぶっ!?」

「ク、クリス?」

 

正体を知らない故に突然吹くクリスに驚くダクネスを他所に、カズマは答え合わせとしてゼファー事じゅんに尋ねる。

 

「じゅ〜ん、アクアにはなんて言ったんだ〜?」

『「アクアさま…げんき?…いった」』

「ちょっと!まさか純心で正直者の清純な私よりも、そこのガキンチョ悪魔ウルトラマンなんかの言ってる事を信じちゃうわけぇ!?」

『当然(です)』

「んなぁあああんでよぉおおお!」

 

日頃の行いやじゅんを常に毛嫌ってる事も後押し、即答で満場一致する面々に泣き喚くアクア。

そんな中、めぐみんがゼファーの方に体を向くと手に持つ杖を指し指代わりに向けながら申し出る。

 

「突然ですがじゅんじゅん。折角ゼファーになってるのですし、貴方があの怪獣を屠る決め手となった必殺光線と我が爆裂魔法による威力比べを是非とも所望したいのですが」

「威力比べって、めぐみん?」

「ゆんゆん、コレばかりは譲れませんよ。あの光景を目の当たりにしてから…我が内なる魂が叫んでいるのです、“爆裂魔法に敗北などあってはならぬ!”と。爆裂道を現行極めし以上は白黒ハッキリと着けなければ私は気が済みません!尤も負けるつもりは毛頭ありませんし、寧ろ勝つ自信は微動だにしませんがね!」

 

どうやら必殺光線ことスパークシュトロームで倒されるのを見た事で、めぐみんの中の対抗心に火が付いたようだ。

こうなっためぐみんは止まらないし、彼女の爆裂魔法に対する想いは理解してるが、力比べだけに使わせるのはどうかとも考えるカズマだが。

 

「そうだねぇ…じゅん、めぐみんの力比べに付き合ってくれるかな?」

『「え?」』

 

ここで意外にもクリスがめぐみんの要望に賛同したのだった。

 

「クリス、お前なに言って」

「まぁ待ってよ、あたしは決して面白半分で言った訳じゃないよ?あの光線がアレっきりなのか、また出せるならどんな場面でも撃てる様にしておかないといざって言う時に一番困るのはじゅんなんだから…本音を言えばこわいよ…またじゅんの腕があんな風になったらって思うとさ…」

 

脳裏に浮かぶのは光線の影響と思われるじゅんの焼けただれた痛々しい両腕。

カズマやその他の皆も納得すると同時に、クリスの苦悩を察した。

ウルトラマンで言うスペシウム光線の様な必殺技を意図的に放てなければやられるのはじゅん自身。

これからの事を踏まえれば確かに良い機会であるが、同時にまたじゅんがあんな風になってしまうのか…そう不安を抱く中で、じゅんはテレパシーで自分の思いを伝える。

 

『「…ぼくも…アレ、うつ…こわい」』

『怖い?』

『「アレ…うつとき…こえ…きこ、えた…とても、こわいこえ…みんな、こわ、したい…ぼく…おもっちゃった」』

「なんですってぇ!?やっぱりソレがアンタのむぐむぐ〜!」

「ま〜たややこしくなるから黙ってろよな噛み付き女神」

 

相も変わらず噛み付くアクアを強制的に黙らすカズマ。

やはりじゅんに関係のある第三者が存在してたかと思うも、これだけではまだ分からない事に加えあの温厚なじゅんが破壊衝動に飲み込まれかけたのだから、その存在の得体の知れなさと魂胆や底が見えず険しい顔つきに変わる。

そんな皆の表情をみたじゅんは、安心させようと考えその次を伝える。

 

『「でも…ゆんゆん、クリス…まもる…おもった、から…できた…だから…だいじょうぶ…おもう」』

「「じゅん(くん)…」」

「(まだ幼いと言うのに心配させまいと気丈に振る舞う…か)」

『「めぐみん…いいよ」』

「よ、宜しいのですね?…コホン!…“黄泉の門開かれし時深淵なる漆黒の闇浮上せしなり。我、浮上せし闇を己が糧としてその身の内に宿す事を此処に記載する。渦巻け…轟け…叫べ!森羅万象に刻まれし記録を我が力によって消滅すべし!究極極限限界超越せし時!今!祝福の鐘鳴り響く時来たれり!『エクスプロージョン』!”」

 

 

チュドォオオオオオン!!!

 

 

詠唱と共に杖を向けた瞬間、爆破と爆音が響き渡りし爆裂魔法エクスプロージョン。

相変わらず威力と攻撃範囲だけは凄まじく。

 

「ナイス…爆裂♪」

 

全てを出し切り満足げのめぐみんはそのまま前のめりに倒れる。

そんなめぐみんに近付きおんぶするカズマだが、彼だけはめぐみんの爆裂魔法に半ば強制ながら人一倍携わってるので、その違いを見抜いていた。

 

「ナイス爆裂!なんだけど、今日はいつにも増して気合が入ってたなめぐみん」

「当然です。何せ相手はあのじゅんじゅん事ウルトラマンゼファーなのですよ?勝利だけでなく我が爆裂魔法の威力を骨の髄まで刻み染み込ませる所存だったのですから」

 

道理で音や爆風のしなやかさ等が一味違っていたのか。

爆裂魔法の違いが分かるカズマがその様に考える中で、めぐみんは杖を再びじゅんに向ける。

 

「私は全てを出し尽くしました…お次は貴方の番ですよじゅんじゅん!」

『「…うん、わかった」』

 

促されたじゅん事ゼファーはむくりと立ち上がる。

方角をめぐみんの放った爆裂魔法による爆心地に向け、構えをとり始めた。

 

『フン!…ハァアアア…!』

 

両腕を腰に落とすと、エレキベムラー時の様に身体中を赤黒い稲妻が駆け巡る。

 

「ぐるる〜…!きしゃ〜…!」

「せんぱ…アクアさん、気持ちは分かるけど抑えて抑えて」

 

ゼファーから醸し出す力に感化され神の本能のまま威嚇するアクアを宥めるクリス。

その間にもじゅんは湧き上がる力をその身で感じながらも心を落ち着かせ集中し続ける。

 

『「(…だいじょうぶ…)」』

 

囁く声も聞こえない、両腕は熱く感じるが焼け爛れる程ではない。

目を瞑り吸って吐いての深呼吸で整え、目を大きく見開きキッと鋭く作りながら振りかぶると、その光線のもう一つの名称を呼んだ。

 

『「スパークシュトローム!」』

『ジュワッ!』

 

十字形に腕を交差した途端に放たれるスパークシュトローム。

青白い光と赤黒い闇、対極的な色で構成され、その名の通りに流れる様に放出。

 

 

ズドーーーーーンッ!!!

 

 

爆心地に直撃しそのまま出し切った直後に大爆発を引き起こした。

 

「アレがカズマやクリス、そしてアクセルの皆を救った光線なのだな………」

「“あれを食らったらどれだけの衝撃が来るのだろう”…なんて事を考えて興奮しただろう?」

「なななカズマ!?お前何を言って!?」

「ダクネス、いつまでも親友だから正直に言っても大丈夫だからね?」

「クリスまで何をいうか!」

 

煩悩が出始めるのを看破した二人の指摘に動揺するクルセイダー。

 

 

ピコンッ! ピコンッ! ピコンッ!

 

 

それと同時に、青だった胸のコアが赤に変わり点滅し始めた。

 

『…デュワッ!』

 

点滅し音を鳴らすコアを一目見ると、両腕を下ろしX字に交差してから一声を出した途端、ゼファーは光に包まれじゅんじゅんの姿へと戻った。

 

「…ふぅ」

 

謎の声や腕の事も問題なく終えて一息吐くじゅん。

そんな彼の元にゆんゆんやクリス達がゾロゾロと駆け付ける。

 

「じゅんくん」

「腕とか平気?」

「ん…だい、じょうぶ…あん、しん…して」

 

そう言いながら自身の手の平を二人に見せるじゅん。

外見相応の小さな手は綺麗に保たれており、一安心したゆんゆんとクリスはじゅんの頭を優しく撫でる。

目を瞑り二人の手の温もりを感じ安息する中で、カズマの背に乗るめぐみんはと言うと。

 

「ま、まぁ流石じゅんじゅんと言わざる終えません…が!まだウルトラマンや冒険者としてもなりたてホヤホヤでありますし、その点私の方は今に至るまで我が爆裂魔法による幾千の戦いに光明を見出し魔王の幹部やデストロイヤーを屠った実績と先輩冒険者である以上、私の方が一枚上手の様なのでこの勝負は私の勝ちになります。ですよねカズマ?」

「いやなんで俺に振るんだよ!て言うかそこまでして負けたくねぇとか逆に感心するぞ!」

 

くど過ぎるこじつけにツッコミを入れるカズマ、その一方で。

 

「悪魔倒すべし…!魔王しばくべし…!」

「き、気にしなくていいぞじゅん、私が盾になるから安心しろ」

 

青い目を光らせアクシズ教の教えをブツブツ呟きながら迫るアクアを遮る様に抑えるダクネス。

何時もの様に騒がしくなりながらも、今回の件に加えじゅんからの証言を含めてまとめると。

 

・変身アイテムのZLから様々な情報が齎され、それを眠る中で覚え学習している事。

・一度ゼファーになってから再び変身するにはケース事MCHに入れて充電する必要があり、半日の12時間を必要とし、無理に早く変身すればその分活動時間が短くなる事。

・戦闘時に受けるダメージや光線等を考慮した結果、約3分を目安にする事。

 

ある程度のインターバルが存在する以上、使いどころは慎重に見極めなければならない。

それを知れただけでも確かな収穫でもあり、今日はここまでにする事となった。

 

「ところでじゅん、さっきの光線に名前とかあるのか?」

「えっと…ゆう、ごうしき…せん、こう…はかい…ねっせん…スパーク、シュトローム」

「…ながっ」

「お〜!その琴線に触れまくりの名称、大変素晴らしいですよじゅんじゅん!」

「…あり、がとう…」

 

 

-じゅん「この、すば」-

 

 

怪獣並びにゼファーが現れてから約3週間。

始まりの街アクセルに出現して以来、双方の存在はアクシズ教団の総本山“アルカンレティア”、ゆんゆんとめぐみんの故郷“紅魔の里”、魔王軍との国境が重なってるが故の最終防衛ラインとも言われてる“ベルゼルグ王国”等、大規模な国や小規模な街を問わず全世界に知れ渡る事になった。

また、同時期になって新種のモンスターが時折確認され、かつその大きさがどれも40から50メートル級の特大サイズ。

下手なドラゴン以上の大きさをほこるそのモンスターは、アクセルに出現したエレキベムラーで囁かれた“怪獣”と言う名称で統一する事になっていた。

静かにだが確実に変化をし始めるこの世界、それでも人は各々の日常に取り組んでおり、アクセルの住人も同じだった。

冒険者達の憩いの場ギルド。そこの掲示便に貼り付けてあるクエストの内容をじゅんを始め、ゆんゆんとクリス、そしてじゅんの初クエストと言う事もあって同行したカズマパーティーも含めた面々が挙って閲覧していた。

 

「私達の様な名高いパーティーに並びたいのなら、最低でもこの『繁殖期を迎え始めた初心者殺し6匹討伐』をする事ねガキンチョ悪魔!」

「お前バカか!?なにあからさまに無理難題なモン指してんだよ!」

「6匹の初心者殺し…その鋭い爪と唾液を垂らす牙…お、押さえつけられながら私のあられもない素肌を前に発情する獣に迫られるシチュエーション…んふぅっ!…た、たまらん!」

「ダクネス、貴女にその様な辱めなどさせません!我が爆裂魔法で一網打尽にしてみせますから!」

 

とんとん拍子に己の言いたい放題呟き散らす面々。

よくもまぁその勢いを毎度出せる物だと色んな意味で感心する中、じゅんだけは掲示板に貼られる中の1枚の紙の内容に目を通し、それに釣られる様に他の面々もその内容を確認した。

 

『臨時募集。

依頼者、保育施設ピース園長ルミ。

従業員数名の体調不良により、代理人を要望致します。

仕事内容は、施設の子供達との触れ合い。

出来れば料理に携わる人がいれば尚の事良し。

報酬は時給700エリスを提供致します』

 

「ピース…ルミ」

「それって、あたしが戻ってくる前に二人が知り合った人だよね?」

「ええ、ちょっと大変だったけど私やじゅんくんと施設の皆と一緒に遊んで楽しかったわ」

 

懐かしみ笑みを浮かべるゆんゆん。

ただ、内容や報酬からしてクエストと言うよりも完全にバイトのそれに当たる。

冒険者活動をする者なら体を張った内容を前提かつ最優先にする事もあり、半ば場違いとも言える依頼を引き受ける者はまず居ないだろうと考え始めてた所に。

 

「ぼく…これ、にする」

 

ただ一人、じゅんはバイト同然のソレを初クエストとして選ぶのだった。

 

 

-じゅん以外の一同「えっ?」-

 

 

保育施設ピース。

仕事や冒険者活動、並びに身寄りの無い子供たちを預け引き取り、多少の勉学を教え遊戯をしながら食事を提供するアクセル内にある施設の一つ。

規模はそこまで大きくはなく至って普通の施設、その広場の中心で。

 

「よ~く見ておきなさ~い♪よ!は!花鳥風月♪」

「顕現せよ!エクスプロージョン!フ…とまぁこの様に放つのが我が爆裂魔法の醍醐味なのです」

「中々に元気のある子供達だな、ハハハ」

 

カズマパーティーの各々が、施設の子供達と共に遊び相手をしていた。

アクアは花鳥風月をお披露目し、めぐみんは爆裂魔法を放つ際のカッコいいポーズをとり、ダクネスは鍛え抜かれた二の腕に捕まる子供を持ち上げ戯れる。

一方でカズマの方は、自分の居た世界にある競技“野球”を子供達に教え行わせていた。

尤もカズマ自身もそこまで詳しくは無く、投げる側・打つ側・受け止める側と言う最低限を用意した程度になってるが、そんな中にじゅんがバット代わりの棒切れを持って構える。

 

「いいかじゅん、玉をしっかり見て振るタイミングは間近に迫った瞬間だぞ。それとこれは遊びだから軽く当てる程度にな」

「うん…やって、みる」

 

野球の提示者であるカズマにそう説明されたじゅんは、再びピッチャーに向ける。

そして、投球されるボール(相手も幼いので下から投げる形)に対しタイミング良く軽くスイングし、カコンという音を立てながら見事に打ち返す。

 

「おお〜!」

「当たった当たった!!」

「ね〜ね〜もっとやろうぜ!」

 

じゅんがボールを打ち返した事で周りの子供達は大はしゃぎになり、そんな無邪気に笑う子供達をカズマを始め遠くから眺めるゆんゆんとクリスも同じ様に微笑んでいた。

因みに二人が皆の輪に入らないのは、子供が苦手でなく好きな方なのだが単に園長であるルミと会話をする為であった。

 

「お久しぶりですねゆんゆんさん。それとお仲間のクリスさんやその他の方々も、今日は私達の募集を引き受けて下さって本当にありがとうございます」

「いえいえ、ルミさんや施設の子供達が元気でなによりです」

「はじめましてルミさん。今回はじゅんの初クエストと、一緒に遊んだ子供達が気になってじゅん自身が選んだ、言わばあたし達は付き添いみたいなものですから」

「それでも構いません。皆様のおかげであの子達は元気一杯にはしゃいでいらっしゃいますから…それに」

 

何か思い詰める様な表現を作るルミは、地面に下ろしてた視線を再び子供達に向けると重々しく続きを述べる。

 

「あの怪獣と巨人…ゼファーが争った事であの中に居る数人の子供達やその親が巻き添えを受けてしまったのです」

「「…っ!」」

「その事もあって少なからずの緊張感をあの子達は持ち続けていました…だからこそ、皆さんがこうして遊んでくださる事で笑顔になったのは大変有り難い事です」

 

感謝の思いを込めて笑顔を送るルミ、だが事情を知る二人にはとても重くのしかかってしまった。

だがそれだけでなく、特にじゅんにとって更なる追い打ちが起き始めようとしていた。

じゅんと交代した子供が打ったボールがベランダ付近で1人座る少女の足元に転がり、それを拾おうと近寄ったじゅん。

 

「こん、にちわ」

「………」

 

初めて来た時に居なかったのか、見慣れない少女な事もあって一通り見る。

少し汚れた赤い靴を履き、他の子たち同様の質素な服装だった。

しかしその少女の瞳は光を失った様な虚ろ気味であり、じゅんの挨拶に顔を向けても返事を返さないまま、ずっと手に持つ一枚の紙に再び視線を向ける。

 

「それって………っ!?」

 

好奇心に刺激され許可を取ることなく覗き見たじゅん。その紙には絵が描かれていたが、描かれてる内容に思わず硬直してしまう。

エレキベムラーを思わせる怪物と自身のもう一つの姿であるゼファー、2体の足元は瓦礫と炎を表す様な仕上がりとなり、極めつけは仰向けになって倒れる二人の人の前で涙を流す一人の女の子らしき人物がおり、色鉛筆で描かれ如何にも子供が描いたかの様なタッチだが、それ故に内容も相まって生々しくそしておどろおどろしい絵となっていた。

 

「…」

「あ」

 

じゅんに絵を見られた少女は、拒絶する様に立ち上がりそそくさとその場を去ってしまう。

そこへ、一向にじゅんが来ない事を気にしてたカズマと子供達は、二人のやり取りを見てから佇むじゅんの元へ駆け寄る。

 

「じゅん、今の女の子は?」

「しら、ないこ…でも…」

「アイツの…“ルーベル”の両親は死んだそうなんだ…怪獣とゼファーの争いに巻き込まれて」

 

一緒に野球をしてた一人の男の子が影を落とした表情でルーベルの事を話し、それを耳にしたじゅんとカズマは心臓を掴まれるかの如く驚きの表情を顕にする。

 

 

-カズマ「なん…だって?」-

 

 

丁度同じ頃、じゅんとルーベルのやり取りを遠くから見守ってたゆんゆんとクリスも、一緒にいた園長のルミの口からルーベルの事情を聞き始めていた。

 

「ルーベルちゃんがここへ来た時から一言も声を発していないのです、その原因は今でも肌見放さず持つ絵の内容が全てを物語ってました…彼女を救助した団員から促されてあの絵を描いたそうなのです…恐らくあの怪獣とゼファーがアクセル内で争ってる最中にルーベルちゃんや親御さん共々巻き添えになって…只でさえ両親を失ったのに声を出せない程のショックがあるとすれば…ルーベルちゃんは目の前で両親が亡くなる光景を目の当たりにしたのかも知れません」

「「………」」

「ごめんなさい…依頼を受けて頂いた手前なのに、このような事を」

「いえ…御気になさらないでください」

「…そのルーベルさん…何時もあんな感じなのかな?」

「いえ、他の子達と共に遊ぶ事もあります…ですが、6か7歳のあの子の抱える心の傷は深く…先程の様になってしまうことが時々あります…」

 

ルーベルに関する事を語ったルミも、そしてそれを聞いていたゆんゆんとクリスも視線を下に向けて暗い表情を表していた。

初めて出現して暴れた行為がじゅんの意思でない事は既に分かっていた事だが、かと言って家や建物を破壊し犠牲者をこうして出してしまった事実は変わらない。

思わずじゅんの様子を遠くから見ると、案の定その表情はショックで目を見開くと同時に体を震え上がらせていた。

だがじゅんの正体を知らない施設に居る子供達は、それ故にゼファーに対する憤りを各々がこぼし始める。

 

「ゼファーは償うって言ってたけど、俺は許さねぇよ!」

「そうだよ!勝手に出て来て勝手に暴れて、そのせいで私達の家が壊されちゃったのよ!」

「僕のお父さんもアイツらが暴れたせいで死んじゃった、アークプリーストの人のおかげで生き返ったけど…けどだからって許す事なんて出来ないよ!」

「なんであんなのが居るのよぉ…あんな奴等なんて皆消えちゃえばいいんだ!」

「お、おいお前ら落ち着けって!」

 

溜めていた負の思いを連鎖的に吐き出し始める子供達にカズマは慌てて止めに入る。

それを見ていたゆんゆん・クリス・ルミ達もカズマ同様に子供達を落ち着かせる為に加勢に入ろうとした。

このまま人騒ぎが起きるのではと思われたが、一人の人物の行いで急速に収まってしまう。

 

「うぅ…ご…ひっぐ…なさ…ぐす…めんな…ひっく…うぅ…!」

 

大粒の涙を流し、他の者達に聞こえない程の小さな声で謝るじゅん。

両手で拭っても全く収まらず未だ滝の様に涙を流し続ける。

その姿にそこに居る全員が思わず押し黙ってしまう中、これ以上此処に居られない、耐えられない、限界だと言うじゅんの心境を表す様に一目散に駆け出しその場を離れていく。

 

「じ、じゅんくん!?」

「ま、まってよじゅん!」

 

突然の行動に驚くも、見失う訳にはいかないゆんゆんとクリスはじゅんの後を追った。

全員が佇む中、ルミはカズマに話し掛ける。

 

「カズマさん、貴方も行って大丈夫ですよ」

「え?」

「この子達は私に任せてください、貴方はあの子…じゅんくんの為に何かできる事がきっとある筈ですから」

「…すんません、必ず戻りますから」

 

体を軽く曲げながら謝罪したカズマは先に行った二人と同様に駆け出す。

追い詰められ泣いてるじゅんに対し、自分に出来る事は果たしてあるのか?

それはまだ分からないが、少なくともこのまま見過ごす事はできない事だけはハッキリしていた。

 

「(まったく…俺って奴は本当にしょうがねぇ男だよな)」

 

変にお人好しな所がある自分を自虐しつつも、じゅんを始めとしたウルトラマンや怪獣絡みには自分にできる限りと範囲で関わる様にしようと決めていた。

彼らウルトラマンの様になれずとも、せめて真っ直ぐに向き合えて良い様な人間で在りたい。

それが、今のカズマが抱く思いであり決意でもあった。

 

 

-カズマ「このすば!」-

 

 




タロウのトータス事件の様に、怪獣被害に遭った人にフォーカスしました。

故にこの話はじゅんにとって向き合いそして乗り越えなきゃいけない試練にもなります。



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第六章~その②

UA12000と登録者数50人超え、ありがとうございます。


保育施設ピースの子供達による批判の声を受けたじゅんは一目散になって走り出て行った。

我武者羅のまま走り続け、人気の無い木々が生える場所の中にある石段に腰掛けそのまま俯いてしまう。

目を瞑っても脳裏に浮かぶのは自分の意思に関係なくゼファーに変身し対峙するエレキベムラーを相手にしながら、壊していく建造物、悲鳴、恐怖と絶望の表情で逃げ惑う人々、先の子供達の自分事ゼファーに対する怒りと憎しみの余りに涙する姿。

まるで自分を責める様に映し出される映像に、じゅんは俯くのを一旦辞め顔を上げたが。

 

「っ!?」

 

その拍子で自分の手の平を見るが、乾き切った血がベッタリと張り付く様に映ってしまう。

恐怖に駆られ思わず手に付く血を落とそうと自身の服装に擦り始めていた所に。

 

「「じゅん(くん)」」

 

聞き慣れた声が入りそちらに向けると、ゆんゆんとクリスそして少し遅れながらもカズマが到着した。

二人の呼び掛けで現実に戻った事で改めて自身の手が真っ白なのを認識し、あれは幻覚で最初から血が付いて無い事に気づくも、それでもじゅんの心は決して晴れずそのまま沈み続けていく。

 

「…ぼくが…あ、のこの…おや…きっと」

「違う!じゅんくんじゃないよ!」

「でも…ぼくが…あばれた…まき、ぞえ…した…かわ…らない」

 

即座に否定するゆんゆんの言葉も耳に入らず自虐するじゅん。

冒険稼業を行う以上、命のやり取りは絶対のルールであり皆が自覚し受け入れてるのだが、こればかりは訳が違う。

ましてや死なせた相手はモンスターでも冒険者でもない無関係の一般人。

罪悪感で押しつぶされるじゅんに、クリスは徐に思ったことを投げかける。

 

「じゅん…それならキミは、今後どうしたいの?」

「…もう…いやだ…たた、かい…ゼファー…なり、たくない」

 

返ってきた言葉は弱音だけでなくウルトラマンとして戦うことの放棄。

その様に吐くじゅんに無理もないと思い不安げな表情のゆんゆんとは対象的に、クリスは眉間にシワを寄せ目を細めながらじゅんを見つめる。

そんな中、二人の背後に居ながらやり取りを見守っていたカズマが口を開く。

 

「…なら、またあの時の…怪獣が現れたらどうすんだよ」

「…めぐみん…まほう…あれで…そ、れに…ウルトラマン…ほか、いる…その、ひとに」

「任せるってか?…そうかよ…」

 

それは完全なる他人任せのそれだった。

今のじゅんは良くも悪くも年相応の子供らしい答えでもあり、カズマ自身も魔王の討伐絡みで身に覚えがあり決して人の事が言えないのは重々分かっていた。

だが、じゅんのその言葉を聞いて自分の中の何かがピキッと言う音を立てたのを感じ取ると、佇む二人を横に退かして俯くじゅんに近づくと、湧き上がる激情に身を委ねるカズマはじゅんの胸ぐらを乱暴に掴み。

 

「バカヤロオオオ!!!」

「ひっ!」

 

アクアに対し行った怒鳴り声を今度はじゅんにも叩きつけた。

突然な事にじゅんは恐怖し、ゆんゆんは驚き、クリスに至っては一瞬だけ目を見開くも直ぐに無表情へと変え静観するように見つめる。

 

「なにヘタれて腑抜けた事を言ってんだよ!お前がやらないで誰がやるんだよ!」

「…で、でも」

「確かにめぐみんの爆裂魔法は凄まじいけどな、それで必ず倒せる保証なんて何処にもないんだよ!以前の怪獣がまさにそれだろ!」

「う…うぅ…」

「ウルトラマンのお前が今ここに居ない別のウルトラマンに縋ってどうすんだよ!そんな甘ったれた考えでアイツらと戦って行けるのかよ!?何よりもそんな風に泣いてばかりいて俺たちを…お前の大切なゆんゆんとクリスを守れるのかよ!!!」

「カズマさん!!!」

 

溢れる感情のまま容赦なく物申すカズマだったが、ずっと見守っていたゆんゆんは我慢できず声を荒げて静止した。

ハッとなって我に返るカズマに。

 

「カズマくん…もう十分だから…そのへんにしてあげてよ」

 

ゆんゆんに続いて宥めるように言うクリス。

その言葉を聞き頭に登った血が下がるように感じ、一定の冷静さを取り戻したカズマは未だにじゅんの胸ぐらを強く掴んでる自分の行為に気づき慌てて手を離す。

 

「じゅん…その…おれ…」

「えぐ…うぅ…!」

 

カズマの剣幕に呑まれ泣きじゃくってしまったじゅん。

弁明をしようと考えるもそれはそれで自分が惨めで情けなくも感じ、気まずい中でカズマは頭を掻きながら泣き続けるじゅんの隣に座る。

すすり泣く声だけが全員の耳に入る中、数十秒ほど経った頃にカズマは息を吐きながら呟く。

 

「ふぅ…今なら“セブン”の…“ダン”の気持ちがなんか分かるような気がしてきたな…」

「ぐすっ…セブン?…ダン?」

 

ウルトラ戦士を良く知るクリスを除いたじゅんとゆんゆんは、名前と思われる聞き慣れない言葉に首を傾げるが、カズマは落ち着かせる事も兼ねてその人物の事を説明した。

 

「“ウルトラセブン”はウルトラマンの次に活躍したウルトラ戦士で、人間の姿に変わって自身を“モロボシ・ダン”と名乗って防衛隊の仲間達と一緒に地球を守ったウルトラ兄弟の三男なんだ」

「えっとカズマさん、三男と言うことは他にも兄弟がいるんですか?」

「ああ、セブンも含めて11人程な。って言っても血の繋がらない義兄弟の間柄で、兄弟は言わば称号や肩書みたいなものだけどな」

 

そういう事かと思うと同時に、もしこの場にめぐみんが居たら目を輝かせて興奮するだろうなと1人納得するゆんゆんを他所に、カズマはセブン事ダンについて更に説明を続ける。

 

「セブンは…ダンは心の底から地球と人間を愛したんだ、自分の体が傷付いてボロボロになってまでも戦い続けるくらいに」

「(…分かるよ…あの御方の地球や人間に対しての愛がとても深く今も想い続けている事も)」

「それからもう一度地球を守るために向かったセブンだったけど、マグマ星人て言う侵略者とソイツが操る二体の怪獣に追い詰められた…けどそこに、“レオ”って言う別のウルトラマンが現れて助けてくれたんだ…けれど」

 

ここまで説明したカズマだったが、ここに来て思い詰めるような表情へと変わる。

 

「ダンはさっき戦ったヤツラのせいで片足を傷めて杖が無いと歩けない程の重症を負って…なによりセブンに変身することが出来なくなっちまったんだ」

「え…」

「そんな…!」

「……」

「それでダンは自分を助けたウルトラマンレオ…“おおとり・ゲン”に自分に変わって地球を守るように頼んだけど、セブンを始めたウルトラ兄弟は俺らの感覚で例えたらベテラン中のベテランの冒険者、或いはグラなんとかを持った魔剣の人みたいな勇者の肩書を持つ奴で、逆にレオは少し腕っぷしがあるだけの程度の低い冒険者くらいの実力しかなかったんだ」

 

その魔剣の人というのは恐らく有名になってるミツルギの事を指してるのだろうが、あからさまに覚えてないふりをする辺りカズマはミツルギの事を嫌ってたりどうでも良い存在と思ってるのだなとゆんゆんとクリスは察する。

尤も今重要なのはカズマの語るレオやセブンの事であり、魔剣の人には申し訳ないが蚊帳の外に置くことにした。

 

「そのレオ、ゲンさんと言う方は」

「勿論戦った…けどセブンと違って素人同然だから最初の頃は必ず敗北した。そして今度は負けないようにダンの指揮で特訓をしたんだ…けどアレは文字通り死んでも可笑しくない程の強烈な地獄の特訓だったさ」

 

そう言いながら、カズマはゲンが行った特訓の中で最も過酷且つ良し悪し含めた印象深い物2つを選り抜きした。

一つは、真冬の寒さの中で流れる滝を文字通り断ち切る為の特訓。

そして極めつけなのが相手の突進攻撃に対処する為に、ジープと呼ばれる馬が必要なく馬車以上に早く走れる乗り物を使ってダン自ら操りゲンに向かって突っ込むという殺人行為同然の特訓。

それを聞いたゆんゆんはその常軌を逸した特訓の内容に戦慄すると同時に、そのゲンに稽古を付けたであろうダンと言う人物には人の心がないのではと思わずにはいられなかった。

クリスに至ってはウルトラ兄弟に救われて以来、彼等に関することを本人から直接耳にする事もあれば天界で記録された戦歴等を閲覧した事もあって把握していた。

傍から見れば非人道的と批判されても致し方ないかもしれないが、当時の彼等の状況を考えれば他の方法を模索する余裕などこれっぽっちも無かったのだから仕方なかったことだろう。

ただここで、ふと自身の親友であるダクネスがこの事を耳にしていたら…と言う考えが浮かび、そこから起こりうるであろう展開を想像し別の意味で眉間にシワを寄せてしまう。

 

「あークリスの言いたいことは分かるぜ。ダクネスがこの事を聞けば十中八九は羨ましがって興奮まったなしの発情期になることは間違いないだろうからよ」

「「(…確かに)」」

 

味わった本人や第三者からは地獄でも、ドMのアイツにとってはご褒美満天の天国と思われる。

ダンだけでなくウルトラ兄弟入りして貫禄がついた今のゲンがダクネスと遭遇してしまえば確実に困惑することだろう。

色んな意味で出会わせてはならないのではと思う中、少し脱線し始めた事に気づくカズマは改めるように戻していく。

 

「と、兎に角だな、ダンの活躍を見てた俺にとって鬼の様な変わりっぷりは結構ショックで苦手だった…でもこうして本物の怪獣を目の当たりにしたらさ…変身も出来ないし兄弟の援軍も期待できない崖っぷちの状況で唯一レオに任せる以外に方法が無かったんだろうなって思うし」

「……」

「なによりも…本当はダン自身がなんとかしたかった筈。自分が怪我だけじゃなくて変身も出来ていたら、一般人同然のレオを…ゲンを戦いの場に無理矢理入れる事なんてしなかったと俺は思うんだ、少なくとも無関係の人を好き好んで巻き込む様な人じゃないからさ」

 

本気で地球を愛したが故に非情の鬼となってゲンを痛めつける稽古をするも、彼の性格を踏まえれば戦えない自身の情けなさと自分以上に過酷な目に遭ったばかりのゲンを戦わせることへの罪悪感を人知れず常に抱き味わい続けていたことだろう。

そんな憧れの人の心境をカズマなりに察していると、ずっと聞き手だったじゅんが口を開き自分の心情を話す。

 

「…こわ…かった…あのこに…みん、なに…つぐ、なう…おかね、いがい…わからない…なに、より…ぼく…しなす…きず、つける…また…したら…おも、うと…すごく…こわい…」

 

目を強く瞑って両手を握りこぶしに変えるじゅん。

その姿を見て、三人は理解した。

家族を直接間接に関係なく奪ってしまったルーベルや他の子たちへの償いの仕方が分からず、何よりも今度からは自分の意志でゼファーに変身することが出来る以上、今後の全ての責任はじゅんの行動次第によるもの。

守りきれず被害を出してしまったら…そのせいで誰かを傷付けてしまったら…。

他者が悲しむことを良しとしない性格故に、その重圧が重くのしかかる。

そんなじゅんに対し、カズマは怒ることなく諭すようにあの人物の言った言葉を送る。

 

「じゅん…“ウルトラマンは決して神ではない。どんなに頑張ろうと救えない命もあれば、届かない想いもある”」

「…」

「これはな、一番最初に地球にやって来たウルトラマンの“ハヤタ”がメビウスって言う後輩ウルトラマン、“ヒビノ・ミライ”に送った言葉なんだ」

「え?」

「なぁじゅん、お前は他のウルトラマン達の事をどんな風に思ってた?」

「…つよくて…ぜったい…まけ、ない」

「確かにな…でもどんなに強くても決して“無敵”なんかじゃないし完璧じゃない、ウルトラマン達にだって沢山の苦痛や悲劇を味わったんだ…さっき言ったレオだって、生まれ故郷の星をマグマ星人達のせいで滅ぼされたから地球を第二の故郷として暮らしてたんだ」

 

カズマの語ったレオの境遇を聞き、クリスを除いたじゅんとゆんゆんは衝撃的な内容に目を見開く。

だがそれもレオが味わった悲劇のごく一部に過ぎなかった事を、カズマの語る内容を耳にし思い知ることとなる。

唯一の生き残りで且つ双子の弟である“アストラ”と再会するも、彼もまたマグマ星人に捕らえ救助されるまでに奴隷の日々を送っていた事。

そして最大の悲劇が、邪悪な者によって呼び出された怪獣によって防衛隊の仲間だけでなく家族同然に親しかった人達の内の一人を除き全員殺されてしまった事を話した。

 

「……」

「レオだけじゃない、他の兄弟達も辛い経験をして…その中でジャックとヒカリは凶悪な奴等のせいで大切な物を守れなかった事だってあったんだ」

 

クリスはまだ良いとして温厚な二人にこれ以上ショッキングな話をするのは忍びなく思うも、ウルトラマン絡みで関わる以上は避けては通れない道だと割り切るカズマは、ジャックとヒカリに起こった悲劇を語る。

ジャックは兄のような男性と恋人の女性を、“ナックル星人”と言う宇宙人によって男性ばかりか恋人の女性もジャック…“郷秀樹”に看取られる形で殺されてしまう。

ヒカリは“アーブ”と呼ばれる水晶の様な姿形の生命体を守ろうとするも、“ボガール”によってアーブの民達全員が食われ全滅し、絶望の余りにヒカリは復讐の鎧を纏って“ハンターナイトツルギ”になって復讐の鬼に変貌した。

各々のウルトラマン達が味わった苦しみを聞いたゆんゆんは、聞き慣れない言葉もあって全てを理解した訳じゃないが、もしそれが真実の下に物語として語られてるのだと思うと悲惨過ぎて胸を痛めてしまう。

一方でクリスは、カズマの語った内容が全て事実であることを知っていた。

 

「(あの御方達を深く知る事は抱える痛みや悲しみ、そして絶望を理解しなければならない。テラス様にそう言われた上で私は知ってしまった…ジャック様…郷秀樹さんの想い人が間近で息を引き取った時の深い悲しみと絶望…そしてレオ様の仲間と親しき人々がシルバーブルーメに…ヒカリ様が愛したアーブの民がボガールに…)」

 

追体験の形で見て聞いた彼等の食われ潰される際の断末魔の悲鳴。

当時は余りの悲惨な内容に思わず吐いてしまった程でもあり、今思い返しても身震いが来てしまう程。

 

「それでも彼等が戦えたのはな、悲劇を味わったからこそ今を生きてる人達に自分の様な目に遭って欲しくなかったり、一緒に生き残った弟分に強く生きてもらう為だったり、他のウルトラマンや人間と触れ合ったことで守るべき物を新しく見つけたからこそ立ち上がる事が出来たんだ…だからこそ、“ウルトラマン”て言う名前には一言じゃ言い表せない程の想いが沢山込められているんだ」

「…ぼく…ウルトラマン…てが、かり…しか…かんがえ、なかった…ぼくに…その、なまえ…な、のる…きっと…だめ…むか、ない」

 

自分とは違いまだ見ぬウルトラマン達の強い精神と心を感じ尊敬したが故に、今の自分にはウルトラマンを名乗る資格なんてないのではと思い詰めるじゅん。

そんなじゅんの考えを察するカズマは、じゅんのこれ迄の行いを思い出させるように優しく問う。

 

「なぁじゅん、お前がゼファーになって立ち向かったのは何でだ?」

「…ゆんゆん…クリス…みんな…アイツ…たべ、られる…いや、だから」

「そっか、じゃあ次にお前があの怪獣にやられて逆に俺らが襲われてた所を助けてくれた。アレだけ痛めつけられたのに無理してまで立ち上がったのは何でだ?」

「…しぬ…ころ、される…ぜったい、いやだ…だから…いたいの…がまん、した」

 

あの時抱いた気持ちを思い出しながら正直に言ったじゅんに、カズマはフッと笑みを浮かべながらじゅんの頭の上に手を置いた。

 

「それだよじゅん、ウルトラマンにとって一番必要なことは」

「カズマ?」

「ダンもミライに言ったんだ、“大切なのは最後まで諦めないことだ。どんなに辛い状況でも未来を信じる心の強さが不可能を可能にする。信じる力が、勇気になるんだ”ってさ」

「しんじる…ちから…ゆうき」

「お前が勇気を出して立ち向かって、そして最後まで諦めなかっただろ?お前が不可能を可能にしたから皆が助かって今があるんだ」

「……」

「分かってる、それでも居なくなった人がいる事実は変わらないって事も…じゅん。ウルトラマンヒカリが言った、“彼等の命はもう戻らない…しかしこれから守れる命はある”」

「これ…から」

「そうだ、償いだって一緒に遊んだりおいしい料理を振舞ったり小さくてもしてあげる事はちゃんとあるしそれしかないからこそ全力で取り組める事が出来る筈だ。それともお前の守りたい想いはその程度の小さいものなのか?」

 

最後らへんは自身のパーティーにも向けた発破を押さえ気味ながらもハッキリと口にする。

我の強い彼女達ならギャアギャアと吠えてわちゃくちゃになる所だが、温厚なじゅんはそうせず素直に受け止め、首を横に振りながら自身の想いを伝える。

 

「カズマ…いった…おお、いなる…ちから、には…おおい、なる…せき、にんが…ともなう…ぼく…こわくて…にげる…しようと…した」

「…そっか…」

「でも…ほかの…ウルトラマン…たたかう…ぼく、だけ…しない…だめ…おもった」

「…そうだな」

「まだ、こわい…ある…でも…あのこ…みんな…まもりたい…きもち、ある…だから…つぐなって…まもる…ぼく、たたかう…ウルトラマン、なる」

「よく言ったぜじゅん、でも一つだけ約束してくれよ。ゾフィーがヒカリに言った事だけどお前の命はお前だけの物じゃないからな。ゆんゆんやクリス、俺やめぐみんにダクネス、そんでアクア…は置いとくとして、兎に角お前を想ってくれる人がちゃんといるから無茶もそうだけど、何よりも生きて帰ってこいよ。俺も俺なにりやれる範囲でサポートするからな」

「…うん…カズマ…あり、がとう…それと…めい、わく…かけて…ごめん、なさい」

「気にすんなよ、俺の方こそあんな風に怒鳴って怖がらせてゴメンな」

「カズマ…わるく、ない…ぼくが…にげ、ようと…」

「いやいや、じゅんがそうなっちまうのは無理もないから悪くはって、ああもうヤメヤメ!こうしてたって気落ちするだけだからここまでだ!」

「う、うん」

 

強引に終わらせられ戸惑い気味のじゅんにそれまで聞き手だったゆんゆんとクリスは、落ち着き再び立ち上がる様になった様子でもう大丈夫と判断し二人に近づく。

 

「ゆんゆん…クリス…ぼく」

「良いんだよじゅんくん、謝らなくても」

「うん、キミは本当に強い子だよ」

 

そう言って二人は安心させる様にじゅんの頭を優しくなでる。

 

「そんじゃ改まったことだし戻るとすっか…と言いたいとこだけど、俺はもう少しだけここに居るわ」

「…それじゃアタシもここに居ようかな、ゆんゆんも出来れば残ってくれて欲しいんだけど?」

「え?…でも、じゅんくんが」

「ぼく…ピース…もどる…みち…わかる、から…だいじょうぶ」

「だってさゆんゆん、これも成長に必要な経験だと思って一人で行かせてあげようよ」

 

人一倍じゅんへの庇護や保護意識が強いゆんゆんだが本人やクリスの後押しもあり“気を付けてね”と言うと、コクリと頷きじゅんはその場を一人去って行った。

後ろ姿が見えなくなり三人だけその場に居る中、先に口を開いたのはクリスだった。

 

「ねぇカズマくん」

「ん?どしたクリス」

「キミに2つ言いたことがあるの、ありがとう…それとゴメン」

「は?」

「クリス?」

 

感謝は良いとして謝る様な行為などしてない筈なのに。

突然の事で拍子抜けする二人に対し、クリスはその理由を話す。

 

「遅かれ早かれメモリを使う時が来るってあの人も言ってた…挫けて放棄しそうになったあの子を咎めて厳しく叱ろうとした、ゆんゆんには無理な行いだと思ったからアタシがやるつもりだった…たとえ嫌われてもね」

「………」

「ゆんゆん、アタシはキミの性格を決して批判してる訳じゃないよ…ただ」

「いいの…クリスの言う様に私には抵抗があるしきっと出来なかったと思う…」

 

あの時必要なのは慰めることではなく立ち上がらせること。

そこまで頭が回らなかった故に、代わりの人が一種の憎まれ役を被る事となった。

その人物であるカズマにゆんゆんは思わず謝ろうとした。

 

「カズマさん」

「別に謝らなくても気負わなくてもいいぜゆんゆん。俺はただ自分が死にたくないから愚図るアイツが使い物にならない様に口でシバイてやっただけだ、まったくアイツも見た目通りチョロいもんだよな、俺も俺で古臭い熱血キャラなんて柄でもない演技をしちまったけど、ガキンチョ相手には充分だったみたいだな」

 

そんな風にニヤついた顔で言うカズマはアクセルの住人に言われてるクズやらカスのそれであった。

普通ならそんな不愉快な言葉と態度に怒りを抱くところだが、カズマの人柄をある程度把握してる二人から見れば、彼が無理いて悪ぶってる事は見抜いていた。

 

「カズマくん…今更ゲスっぽくしても演技が下手すぎるよ」

「なに言ってんだよクリス、オレは別に」

「ダクネスも言ってじゃないか、自分を責めるのは止めるんだって…キミがじゅんに対して心を痛めてるのは分かってる…だからそうやって悪ぶらないと自分が潰れてしまいそうなんだって事もさ」

「……」

「だけど、自分を責めても何にもならないし悪くなる一方だよ…パーテイーは違っても同じ冒険者でじゅんを思ってるあたし達は仲間なんだから…自分を偽るのはもうやめなよ…」

「……はぁ〜」

 

そうクリスに諭されまるで観念したかの様に深いため息を吐くカズマ。

唐突に立ち上って数歩ほど離れた場所に立つ大木に近寄り、数秒ほど中心部分を見つめた次の瞬間。

 

ドスッ!

 

「カ、カズマさん!?」

「……」

 

カズマは目の前の木に渾身の力を込めた右ストレートを打ち付けた。

突然の行動に驚くゆんゆんと静かに見つめるクリス。

鍛えてるわけでもなく右手から少量の血が流れ、同時にズキズキとした痛みも広がるが、それが気にならない程にカズマは様々な思いに苛まれていた。

 

「なにがセブンの気持ちが分かるだよ…なに無責任なことばっか吐いてんだよ俺は…!」

「「…」」

「冒険者でもウルトラマンでもじゅんは子供に変わらねぇってのに…ただでさえ重苦しいもんばっか背負わされてるアイツに追い詰めるような事をしちまって…!」

 

カズマは今ほど自分自身を恥じ、責め立てるにはいられなかった。

自分も冬将軍によって死んだことがあるが、その時はアクアの能力によって生き返りまた何時もの騒がしいやり取りで終えていた…だが本来ならそこで自分の人生は終わりなのが当たり前であり恐ろしい事の筈だった。

この異世界の在り方やメンバーのノリと雰囲気で忘れかけた死の恐怖を再び思い出したが故に、生き死に敏感なじゅんの心境を理解した。

ましてや人の命を奪う若しくは失う切っ掛けを作ったと言う罪を心優しいじゅんが背負う羽目になってしまった。

唯でさえ理不尽な物を背負うばかりか、聞こえの良い事を言っても追い詰められてるじゅんに戦うよう強制した事実は変わらない。

ダンやゲンの様な人物ならまだしも言い出しっぺの自分はどうなんだ?…彼等のような御大層な行いを自ら進んでやって来たか?…そのどれも殆どが成行きやトラブルやらで仕方なく対処してきただけで、本当なら巻き込まれたくないし楽していたいぐうたら人間。

最弱職業の冒険者でレベルも低い自分がなにをもって彼等の言葉を借りて偉そうな事が言えるのか…分不相応な事を言った自分が情けなく自責の念が渦巻くばかりだった。

 

「…あんな言葉を言う資格はないってのに…俺なんかの言葉を無理に受け止めちまってさ…」

「大丈夫ですよ」

 

そんなカズマを励ましたのはゆんゆんだった。

 

「じゅんくんはきっと嫌々や無理をしたんじゃない、カズマさんの語った事をじゅんくんなりに素直に受け止めた…受け止める程あの子は強い子なんです、私には分かりますから」

 

一体どこら自信を持って言えるのか、そう疑問に思うカズマの思考を察したのか、ゆんゆんはその根拠となる過去の出来事を語り始める。

 

 

−ゆんゆん「このすば!」−

 

 

あれはアクセルに来る前の、じゅんくんが落ちて来た雪山の付近にある村でのことでした。

じゅんくんを拾ってクリスや名付け親の人と暮らしてたある日。

その頃は春を迎え始めたのでクリスと3人でピクニックに出掛けたのです。

川沿いのある場所を見つけそこでランチを嗜むことにしました。

クリスは飲み物を買ってくると言って離れた売店に向かって、それなりの時間が経った頃に私は…その…用足が起こったので、じゅんくんに此処から動かないでねと言い聞かせてから離れて一人にさせてしまいました。

用を終えてから途中でクリスと再会した私は一緒に戻りました…けれどそこで目にしたのは川の中で必死に藻掻いてるじゅんくんの姿でした。

一瞬頭の中が真っ白になりました…ですが気付いた時には身体が勝手に動いて、私は一目散に川へと飛び込むと、溺れそうなじゅんくんを救助しました。

此処から動かないでねと言った筈なのになんで溺れていたのか問いただそうとしましたが、じゅんくんの腕に抱えてるソレを見て瞬時に理解しました…それはじゅんくんと同じくびしょ濡れの小さな子犬でした。

「もしかして、その子犬を助けるために?」…率直に尋ねる私にじゅんくんはコクリと頷きました。

途端に私は「バカぁ!!!」と声を荒げてしまいました。

そこから私がじゅんくんに何を言ったのかはうろ覚え程度になります。

やれ何で無茶な事をしたのとか、やれ私達が来てなかったら溺れてたのよ…なんて事を言った気がしましたが、兎に角必死に叱ってたと思います…そんな私に“ごめんなさい”とじゅんくんは謝って…私は思わず抱きしめ泣きじゃくりながら何度も謝ったのは覚えてます。

私が目を離したせいでこの子は危うい目に遭ってしまった…同時にそうまでしてでも腕に抱える小さな命を助けようとする程、この子は優しく確かな強さを持っている事を知りました。

 

 

−クリス「このすば!」−

 

「そんな事があったのか…」

「あの時はビックリしたよ、じゅんが溺れてた事もそうだけど盗賊のあたしより先に飛び込んで行ったゆんゆんの行動力はさ」

 

苦笑い気味に当時の事を思い出すクリス。

その様な出来事があったからじゅんをあそこまで気遣えてたのかと納得するカズマに、ゆんゆんは話す。

 

「名付け親の人はこうも言いました、私達にできる事はじゅんくんを導いて支えてあげる事だって…カズマさんがウルトラマンの事を語ってくれたおかげでじゅんくんはもう一度立ち上がることが出来ました…だから、カズマさんの行いは間違っていないと私は思います」

「もしそれでも気に病んでるならカズマくんの出来ることは唯一、カズマくんなりのやり方でも良いからあたし達と一緒にじゅんを精一杯支えてあげることだよ」

「…はぁ〜、改めてオレはとんでもない事に関わっちまったもんだぜ…けどしょうがねぇよな。此処で中途半端になって逃げちまったら…今度こそオレはダメ人間になって後戻りが出来なくなっちまうし…オレなりにだけど腹を括っていくか」

 

二人の言葉を聞いたカズマは、自分なりながらもじゅんが中心となるウルトラマンや怪獣関係に向き合っていく事を決心するのだった。

 

「ところでよ、一つ言いたいことがあるんだ」

 

改まる様に話し掛けたカズマに何なのだろうと首を傾げる二人。

するとカズマは鼻から目一杯空気を吸い込むと。

 

「イッデェエエエエエエエエエ!!!折れてる、これ絶対折れてる!うぉあああああしぬぅうううううう!!!」

 

大木に打ち付け負傷した右手の痛みが今頃になって感じ始めてしまい、その激痛の余り見えも恥もかなぐり捨て見るも無様にゴロゴロと転げのたうち回る。

 

「カ、カズマさん…」

「あ、あはは…」

 

なんともカズマらしい締まらないオチに只々苦笑いをする二人だった。

因みにその後、ピースに戻ってアクアに転んでぶつけた等の適当な理由で浄化魔法を頼むカズマだったが。

 

「プッ!あの幸運値“だけ”は高いカズマさんが、たかだかすっ転んでケガしちゃうだなんて〜!とうとうご自慢の幸運も尽きちゃったのかしら〜?プークスクスクス〜超ウケるんですけど〜♪」

 

 

カズマ「ドロップキックかましたろかゴルァ!」

 

 

所変わり、アクセルから離れた場所にある森林。

そこでは魔王軍所属のゴブリン数体が茂みの中を彷徨い歩いていた。

なぜ彼等がこの場に居るのか、理由は調査のためである。

低レベルの駆け出し冒険者しかいな事もあって今まで眼中になかったのだが、幹部であるベルディアやバニル並びにデストロイヤーがあのアクセルの冒険者達によって討伐された情報が入り、極めつけはそのアクセルに突如として現れた怪獣と呼ばれる巨大モンスターとウルトラマンゼファーなる人を模した様な漆黒の巨人。

双方の存在は魔王やその幹部達にも知れ渡り、そしてゼファーを除いて至る各地で目撃される多種多様の怪獣達。

危ない橋を渡ることになるが奴等はなんとしても戦力に加えたい事もあって、最初に出現したアクセルの近辺に怪獣やゼファーの何かしらの手がかりを探すよう魔王からの命令の下で探索をしていたのだ。

 

「とは言ってもよ、その怪獣とゼファーって巨人か?オレらで何とかできると思うか?」

「さぁな、巨人の方は分かんねぇけどあの怪獣って奴は図体がデカイだけのモンスターと対して変わらねぇ筈だ」

「躾や調教で物にできりゃ良いが、4〜50メートルもあるって話だからこりゃ骨が折れまくりそうだぜ」

 

そう愚痴りながら草木が生える中を歩き回る中、一体のゴブリンの目にキラリと光る何かを見つけそれを手に持った。

 

「どうしたモブA」

「モブ言うんじゃね!てめぇだってモブBのくせによ!」

「やめろ!モブC言われてる俺にとっちゃ“モブ”は禁句だっての!…んな事より、何を見つけたんだ?」

 

しょうもない言い争いをしながらも仲間のゴブリンが訪ねたことで発見した物を見せた。

それは手の平に収まる程しかない、スイッチらしき物が付いた四角形の何かだった。

 

「なんつーか、如何にも自然に出来たものじゃないって感じだな」

「見たことねぇ代物だな、マジックアイテムのそれか?」

「どうだろうな、試しにいっちょ押してみるか」

「「ちょ、おま!?」」

 

明らかに怪しいソレのスイッチを押すことにしたAに対し止めようとしたBとCだったが間に合わずカチッと言う音が響いた。

 

UNLEASH(アンリーシュ)THE()MONSTER(モンスター)

 

バードン!

 

聞いたことのない言葉が発せられると同時にその四角い物が粉々になると、現れた光の粒子が形を形成し始める。

三本の爪を生やす両腕の内側に飛膜の様な物が付き、鋭いくちばしの両頬に丸い袋をぶら下げた、頭部から背中までトサカらしき突起物を生やした鳥を彷彿とさせた怪獣…“火山怪鳥バードン”となって姿を現した。

 

「エェエエアアアア!!!」

「アイエエエ!?怪獣!?怪獣ナンデ!?」

「いやお前が押したのが原因だろうが!」

「つうか何をどうしたらこんなバカでかい奴をアレに入れれんだよ!?」

 

まさかあの様な小さい物から怪獣が出てくるなど考えもしなかった三体はパニックを起こしていた。

それ故に逃げ出さずオロオロしていたことが彼等の命取りになってしまう。

 

「グエェェアアアアア!!!」

「「「ひっ!?うぎゃあああああ!!!」」」

 

今のバードンは空腹状態であったため、足元に居るゴブリンに狙いを定めると自身のくちばしを使って生きたまま捕食した。

肉を潰し小さな骨を軽々と砕いたバードンだったが食った相手は言わば米粒程度の大きさ。

当然ながら満腹にはならず、この空腹を満たすにはケムジラの様なもっと大きい存在でなければならない。

体を使いキョロキョロ見回すバードン、するとその目に映る前方にケムジラには及ばなくとも先のゴブリン共よりマシな獲物を発見し、腕をブンブン振って羽ばたかせ中に浮かび標的目掛け飛んでいく。

その光景を、アクセルを囲む壁の上に居るソノモノが眺めていた。

 

「怪獣墓場や現地で捕らえたサンプル達を粒子レベルにしてモンスメモリに収納しこの星全体にバラ撒いたが、偶発しかり人為的しかりで奴もまた解き放たれたようだな」

 

そう言いながらジャイアントトード討伐に狩り出た冒険者達の目の前でバードンが降り、その姿を見て一目散に逃げる冒険者達を無視し周りにいるジャイアントトード達を次々に捕食する光景を見物しているソノモノ。

 

緊急!緊急!

アクセル付近に超大型モンスター怪獣が出現!

冒険者の皆さんは武装し直ちに正門に!

一般の方々は速やかに後門へと避難してください!

 

バードンの存在を放送で呼び掛けるルナの声を聞いたソノモノは、口を吊上げ笑みを浮かべながら右腕のSGをアクセルの頭上に目掛け何かを放つ。

一方でバードンは、周りにいた数匹のジャイアントトードを捕食し終えていた。

ある程度は満たされたがそれでも半分程度でまだまだ喰い足りないバードンだったが、ふと頭上に小さな光を目にすると同時に壁が聳え立つ場所、即ちアクセルの存在に気付いた。

あそこにならもっと多くの生き物がいるかもしれない…野生の本能でそう感じたのか、バードンは飛び立ちアクセルへと向かって行った。

 

 

ソノモノ「ふふふ、さぁゼファー…特訓の時間だよ」

 

 




ゲンがダクネスと出会ったらどんな反応をするんだろうか。
戸惑いや困惑気味ならまだ良いとして、下手したらダクネスの事をごっこ遊びとか騎士を名乗る資格はないと言って全面否定してきそう。

次回はバードン戦になります。


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