OREHーKRAD 邪悪に支配された人々 (楠崎 龍照)
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1章 始まり
0話 OREHーKRAD


いつも通りの日常になるはずだった。
私は、いつも通りにロードバイクでさまざまな場所にサイクリングしていた。
いつも通りに一日を終えるはずだった。
そして、叶うか分からない酔狂な夢を叶えるために、悪いことをせずに自分なりに人生を謳歌するつもりだった。
まさか、こんなことになるなんて……。



8月、蒸し暑い夏。

蝉の大合唱が辺りを包む中、私は自転車を漕いで遠い場所へと向かった。

都会を抜けて、山のほうへ真っ直ぐに。

両親のいない独り身の私は、たまに気を紛らわすために一人でどこか遠くへと日帰りの旅に出る。

気づけば辺りは田畑に電柱と街灯しかない田舎へとついた。

私はジーパンの左ポケットに入れていたスマホを取り出して、聴いていた音楽を消して、リュックサックに入れてあったスマホを取り出して地図を確認する。

 

「おー、かなり遠い所に来たな……」

 

私はそう呟いて、再び自転車を走らせる。

あれから何分経っただろうか、私の前に坂が見えたのだ。幸いロードバイクに乗っていたので、これほどの坂は、どうと言うことはない。

変な好奇心に駆られた私は、先に進んでみようと考え自転車を漕いだ。

 

「うおおおおお……キッツィィ!!」

 

息をきらしながら、私は驚くほどに長い坂を必死に登った。

暫く自転車を力一杯漕いでいると、長かった坂を登りきり、山の頂上まで来た。

私の故郷の街が一望できるまさに大絶景だった。

このクソ暑い中、必死に漕いだ甲斐があったというものだ。

 

「(めっちゃくそ綺麗やな……)」

 

私は登りきった達成感に浸りつつ、10分ほど、涼しげな風に身を委ねなが、この素晴らしい景色を眺めていた。

満喫した私は山を降りようと考えて自転車に乗る。

登りがキツかっただけあって下りは非常に楽だった。

しかし、私は目の前に迫るある異変に急ブレーキをかけた。

 

「??」

 

私の目の前に不安に真っ暗なトンネルが姿を現した。

行きしな、トンネルを潜った記憶がない。

いくら自転車を漕ぐのに必死だったとはいえ、トンネルに入ったら気づくはずだし、そもそもトンネルに入る前に引き返す。

 

「……」

 

私は真っ暗で不気味なトンネルを前に鳥肌を感じ、すぐに引き返した。

一本道故に間違えることは、まずないのだが……。

 

「(あれ、道間違えたか? いや、そんなことは……)」

 

私はもう一度、山の頂上に登って道を探す。

しかし、あるのは先ほど登ってきた道だけだ。

再び坂を下るが、どこにも分かれ道などなく、ただ先の見えないトンネルがあるだけだ。

 

私は眉唾をゴクリと飲んで、下り坂なのにも関わらず、全力で自転車を漕いで、トンネルを抜けようと考えた。

トンネル内は真っ暗で自転車のライトがなければ、何も見えない状態だ。

暫くすると、トンネルの先に微かながら光が見える。

私は安堵しつつ、そのままトンネルから出た。

しかし、目の前に広がる光景に私は、自転車を止めて絶句する。

いや、絶句する他なかった。

 

「え、なにここ?」

 

思わず言葉を漏らす。

私の目の前に無数の桜が咲き乱れていたのだ。

地面には桜の花びらが舞い落ち、周辺には灯籠が道の両端に間隔開けて並んで、真っ暗な夜をライトアップされてあった。

この世のものとは思えぬ幻想的な光景に私は全身から冷や汗がダムの放流の如く流れ出て、震えが止まらなかった。

バカな俺でも分かった。

信じたくはない。信じたくはないが、いま私は確実に違う世界に来てしまった。

そう考えるしか他なかった。

不意に後ろを振り向くがトンネルなどなく、暗い霧が掛かっていて帰れそうになかった。

 

「……」

 

私は震える口をパクパクと動かしながら、意を決して霧の中へと進んだ。

長い霧の道をまっすぐに進むと、何故か先ほどの場所へと戻ってくる。

 

「(つんだ? 終わった?)」

 

諦めた私は、不安と焦燥感に包まれながら、真っ直ぐと進んだ。

この時点で、もう私は助かることはないだろう。そう考えたからだ。

だったら怖いもの見たさで、目の前にある道を進んでみようと思ったのだ。

 

「行くしかないか……」

 

私は警戒しつつ舗装された桜道を歩いていると、飛鳥時代などにありそうな木造の塔が見えてきた。

しかし、飛鳥時代の五重の塔と比べると圧倒的こちらの方が大きく、階層も高かった。

私は辺りを見渡したが建物らしき物は、あの巨大な七重の塔以外は見当たらない。誰か人が住んでいるのだろうか……。

それとも、人以外のモノが住んでいるのだろうか……。

いい予感など一つも沸いてこなかったが、私は小走りで建物の前まで向かった。

 

「(でかくね?)」

 

私は塔の前で立ちすくんでいると、突如として扉が開いた。

私は思わず後ろへたじろぎ、心臓をバクバクとさせながら、扉の方を凝視する。

扉の奥から、青い髪色をしたショートヘアーの女の子が現れたのだ。青い透き通った瞳を持ち、背丈は私よりも低く、びっくりするほどに可愛い。

 

「……」

「……」

 

私がじっと立ったまま警戒していると、女の子の方から私に話しかけてきた。警戒する私とは違い物静かな感じで。

 

「あら? 見ない人ね、君は?」

 

その可愛い顔立ちに相応しい声で私に話しかけてきた。

私は、目の前の美少女に返事をする。

 

「え、えと、山から下山してくる下り道の最中にトンネルがあって、そこを潜ると何故かこの場所に来てしまって……」

 

私はありのまま起こったことを話した。

山を下っていたら、突如としてこの世界に辿り着いたのだ。

何を言っているのか意味不明かもしれないが、私にも何が起こっているのかわからない。

頭がおかしくなりそうだった。

しかし、女の子はそれを驚くこともなく真摯に受け止めてくれた。

 

「うーん。そうなのね……。ちょっと待ってね。あ、私の名前はフィーナ。フィーナ・セイレンよ」

「フィーナさんですか、突然誠に申し訳ないです」

 

私はなぜだが分からないが、謝罪をする。

フィーナさんは「いいのいいの気にしないで」と言っていた。

 

「とりあえず、入って入って。もしかしたら、貴方を帰す方法があるかもしれないから」

「本当ですか!?」

 

フィーナさんの一言に、私は一筋の光が見えた。

私はフィーナさんに案内されながら考えに考えた。

そして、いつの間にか巨大な大広間にやって来たまさに宴会でも行えるほどの広さはあろう場所である。

 

「純潔ー!! 純潔いるーー!!??」

 

ふとフィーナさんが大声で誰かを呼び出した。純潔と呼んでいるのだが、誰を呼んでいるのだろうか?

私は何か嫌な予感を感じていたが、ここで怯えた素振りをしてしまえば確実に舐められるんじゃないかと思い、内心死ぬほどビビりながらも、私は平然を装った。

すると、フィーナさんの目の前に黒い靄が現れて、それが黒い小さな精霊みたいな者になった。

顔と思わしき部分には何やら紋章?のようなものがあり、禍々しい感じのものがある。

ふわふわと浮遊する未確認生命体を前に今まで頑張って平然を保っていた私も、これには驚いた。

 

『どうしました?』

 

黒い精霊が喋りだした。エコーが掛かっていて聞き取りづらいが、声色は女性っぽさがある。

気品のある美しい声だ。

私の姿を見た黒い精霊は、フィーナの返事を待たずして、話しかけた。

 

『そちらの方は?』

「私もよくわからないけど、知らないうちにこの世界に来たらしいわよ」

『なるほど、お名前は?』

「えーと、小野寺です」

『ふむ……』

「あの……」

『はい?』

「あ、いえ、この世界は、いったい??」

 

私は思ったことをそのまま口に出した。

何もかもが不明な状況だった。

気になることもあるし、これから私はどうしたらいいのか、それさえも分からない。

不安と焦燥に駆られていた私が出た言葉に、黒い精霊は丁寧に話を進める。

 

『申し遅れました。私は純潔の邪悪。この方、フィーナ・セイレンの親とも言える存在です』

「じゃ、邪悪……?」

『ええ』

 

私の言葉に、純潔の邪悪はコクコクと頷いた。

純潔の邪悪と呼ばれた精霊は続ける。

 

『そして、この世界は我々、闇英雄の住まう世界です。この建物は我々の家と言える場所ですね』

「は、はぁ……」

『たまに迷い人がいるんですよね』

「ほ、ほう」

 

純潔の邪悪は笑いながら、そう言うが、私はこの非現実的状況を理解するのに必死だったので、頷くしかなかった。

とりあえず、この世界が私とは違う全く別の世界であることはわかった。

 

『お? お客様か?』

「おわぁぁ!!?」

 

突如の俺の横に別の黒い精霊が現れた。

あまりの突然に私はビックリして大声を上げながら、盛大に尻餅をついた。

 

「大丈夫!?」

『こら輪廻!客人とわかっていて、驚かすとは何事です!?』

『あ、いや、別に驚かした訳じゃ』

 

純潔の邪悪に怒られて、慌ただしく言い訳をするもう一人の精霊。

先ほど輪廻と言っていたから、輪廻の邪悪とでもいいそうだ。

 

『す、すまんな。驚かしたつもりはなかったんや』

「い、いえいえ」

 

関西弁バリバリの謝罪をする邪悪に私はもう半分放心した状態でゆらゆらと力なく立ち上がった。

理解が追い付かん。訳が分からなすぎる。

フィーナさんと純潔の邪悪が俺の心配をするなか、輪廻の邪悪が私にとんでもないことを話し出した。

 

『俺は輪廻の邪悪や。突然で悪いが、俺に支配されて、闇英雄にならんか?』

「……へ?」

 

 

 

続く




いきなりとんでもないことを言われたよ。
どうするよこれ。


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1話 輪廻の闇英雄 朱雀 龍輝

輪廻の邪悪と名乗る黒い精霊は、私に支配されて闇英雄になってくれと言われた。
胡散臭さ全開で、色々と恐ろしい未来しか見えなかったが、逆に胡散臭さ過ぎて、逆に信憑性が高いまであった。
まぁ、最後の人助けとして闇英雄になりますかな。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

言い忘れておりました。
この物語に登場する7人の闇英雄の名前はパタポン3に登場するダークヒーローのキャラクターからとっております。


「どゆこと?!」

 

素の言葉が出た。

当ったり前だろうよ。

出会って1分も経たない人に、かける言葉ではない。

そして、輪廻の邪悪と名乗るこの黒い精霊はキョトンとした様子で『そのままの意味やで?』と言うものだから、反応に困る。

先ほどまで感じていた恐怖や焦燥は何処かへと飛んで行った。

 

「……」

「輪廻さー。突然すぎるんじゃない? 小野寺さんも整理が追い付いていないわよ?」

『あらー』

「えーと、支配されて闇英雄になるとは?」

『そうやなー。まぁ、簡単に説明するとやなー……』

 

輪廻の邪悪の説明をまとめてみると、こうなる。

 

とあることが原因で邪悪は、自分が支配をしている闇英雄がいなければ、自然消滅する。

その為、この世界に迷いこんだ人達に頼み込んでいる。

邪悪に支配されて闇英雄になった暁には、別の次元の世界に行くことができる。

一般の人間よりも肉体が強くなれる。

自分の好きな能力を1つ取得出来る。

等があるらしい。

ただし、能力付与はその人の身体能力や精神力等によって左右され、いずれにしても、好きな能力そのものを得ることは難しい。

また、取得できる能力は、宝石で言うところの原石のようなものであり、そこから自ら鍛練等で磨かなければならない。

つまり、能力の開花、成長は自分次第ということ。

 

もし、支配されるのが嫌なら、ここで起こったことを口外しないという約束で元の世界に返してくれるらしい。

口約束だけで、とくに破っても何もないというのが、優しいと言えば優しいか……?

 

『どうする?』

「そうやなー。家族もいないし、輪廻の邪悪だっけ? あなたに支配されるのも悪くはないと思う」

『ちょっと待って、本当にええのか?』

「何が?」

『いや、だって、支配やで? こんな黒い精霊に支配されるねんで? 普通なら、肉体とか乗っ取られてしまうとか考えるはずやのに。素直に「ええよ」なんて言うから』

 

いきなりの輪廻の邪悪の言葉に戸惑うに私は少し笑ってしまった。

 

「やー、まぁ確かに疑ったよ? でも元の世界に戻っても、家族いないしな。それなら、一か八か貴方に支配されて闇英雄になるわ。それにそうすることで、貴方は消滅から免れるんやろ? なら、なおさら。最期の人助けってことで!」

 

私の話に、その場にいた全員が唖然として静まりかえる。

 

「(胡散臭いほどに聖人……)」

『(これはとんでもない人が迷いこんできましたね……)』

『小野寺はん、本当にええんか?』

 

輪廻の邪悪は再度、私に問いかける。

その問いに私は二回頷いた。

 

「ああ、私は貴方の言ったことを信じるよ」

『わかった。ありがとうな』

 

輪廻の邪悪は静かに感謝の言葉を口にすると、腕をニョロンと出して私の方に向けた。

 

「?」

『小野寺はんを支配する。俺の手に触れてくれ』

「りょーかい」

 

私は目を瞑り、深呼吸をして差し伸べる輪廻の邪悪の手を掴んだ。

私と輪廻の邪悪が光に包まれるのを感じた。

 

『好きな能力を教えてくれ。限度はあるけど』

「私の能力か……」

 

真っ先に浮かんだ能力……それは……

 

 

 

 

『なるほど……。ただしどうなるかは分からんで? 小野寺はんの強さ次第や』

「りょーかい……」

『じゃあ、これからお前さんは輪廻の闇英雄や。いま持っている名前ではなく、別の名前をつける……何にしようか』

「決めてええの?」

『お好きに』

「じゃあ、朱雀龍輝で」

『どういう意味やそれ』

「えーと、あだ名?」

『そうかー』

「うん」

『じゃあ、朱雀龍輝はん、これからよろしくな!』

「ええ、こちらこそ」

 

私と輪廻の邪悪は握手をした。

てか、支配されている感じがしないのだが、気のせいだろうか?

「これからよろしくね!」とフィーナさんもにこやかな笑顔で歓迎をしてくれた。

八人目の闇英雄の誕生である。

 

「支配され……たんか?」

 

私は自分の身体を見るが、特に変わったところもない。

その様子を見て、輪廻の邪悪が喋る。

 

『そうやで、能力を得た事と身体が丈夫になったこと以外、変化ないよ』

「な、なるほど」

「ところで、どんな能力を貰ったの?」

 

フィーナさんが、興味ありげに私の方を覗いてくる。

私は少しドキっとしつつ「魔法」と言った。

 

「魔法なんだ」

「おん」

「一回使ってみてよ!」

「ええけど、どうやるんや?」

 

私は輪廻の邪悪に訊ねるが、輪廻の邪悪は頭を傾げて『分からん』と答えた。

 

「まじかい」

 

私は呆れ声で呟きながら力を込めるが一向に魔法が発動されることはなかった。

 

「うーん……。取り敢えず色々と方法を試すしかないなぁ……」

 

一旦諦めることにした。

そのあと、私はフィーナさんに連れられて、この七重の塔【永和】内の案内をしてもらうことになった。

中は外で見たよりも非常に広々としていた。

1階にキッチン、リビング、広大な露天風呂、トイレがあった。

2階から7階が闇英雄の部屋が用意されていて、2階は全て7人の闇英雄たちが使っているらしい。

その為、私は3階にある1つの部屋が私の自室になった。

部屋の大きさは一人部屋にして少し大きいぐらいの部屋だ。

とりあえず、私はリュックサックを床に置いて、床に座り一息ついた。

 

「ふう……」

 

この一日で、私の全てが変わった。

私が輪廻の邪悪に支配され、闇英雄になるという選択肢が吉とでるか凶とでるか……。

これからの人生が非常に興味深くなってきた。

 

「さて、これからどうしようかな……」

 

殺風景な自室の真ん中で座り込んで、考え込んでいると、扉がノックする音が聞こえた。

私は扉のほうを振り向き、返事をすると、扉が開き、赤い髪をした……たぶん16か17歳と予想される少年が入ってきた。

 

「フィーナからきいたぜ。テメーか、新しく入ってきたやつは?」

 

少年は如何にも不良そうな口調で睨み付けながら問いかける。

私は立ち上がりながら、頷いて自己紹介をした。若干舐められてるなと感じつつも、平静に礼儀正しくお辞儀をする。

すると、目の前の少年も自己紹介を始めた。

 

「おう、俺の名前はファンギル・リュコスだ。まぁ、これからよろしくな」

「ええ。よろしくお願いします」

 

一通りの自己紹介が終わると、ファンギルはその場を離れた。

このとき、私はいまいる闇英雄メンバー全員に挨拶をするべきだと思い、2階へと向かった。

輪廻の邪悪に案内してもらい、1つ1つの闇英雄の部屋を回っていったが、ファンギルとフィーナ以外出掛けており、挨拶ができなかった。

輪廻の邪悪曰く、もうすぐしたら晩飯だからそのときに、挨拶の場を設けてくれるそうだ。

そこまでされると緊張の絶頂なのだが、まぁ、用意してくれるだけありがたく思う。

とりあえず、その晩飯の時まで私は自室に籠って、魔法の使用を輪廻の邪悪と何度も試みることにした。

 

 

 

 

現在時刻は7時。

 

 

 

晩飯の時がやってきた。

結局、3時間ほど魔法の使用を試して見たが、魔法を使えることはできなかった。

落胆する私は、輪廻の邪悪に連れられて一階の大広間へと向かう。

飯が並べられており、7人の闇英雄たちが座布団に座っていたのだが、パッと見てヤクザの会合である。

あまりの緊張に、心臓の鼓動が新幹線のように早くなって、挙げ句の果てには腹痛が私を襲ってくる。

腹痛という波に乗ってサーフィンをしながら、私は挨拶をすることとなった。

 

「皆さん、えーと本日闇英雄になりました。輪廻の闇英雄。えーと、あの……朱雀龍輝です。よろしくお願いします」

 

たぶん、10秒ぐらいの時間だが、私には永遠の時間に感じた。

緊張の真っ只中……中学校で全クラスの前で発表をして大恥をかいたのを思い出した。

しかし、それは杞憂に終わり、皆さん寛大に受け止めてくれた。

 

「僕の名前はソナッチさ、よろしく!」

「ワシの名前はビークス・スメルヴァロナだ」

「私はバズズー・ツァンイン、どうぞよろしくお願いします。龍輝さん」

「ヒョヒョヒョ、また孫が増えて嬉しいですわい。私はカラパシじゃ、よろしくのぅ」

「アタシはコイール。よろしくね♪」

 

各々自己紹介をしてくれたが、一回では覚えられんだろう。

私は、心の中で申し訳なく思いながら、この食事中に意地でも覚えておこうと考えた。

と心に決めたのだが、7人の闇英雄たちの質問攻めにあって、嫌でも覚えてしまった。

挙げ句の果てに質問攻めで飯がまともに食べれなかったまである。

 

まず、ソナッチは黒と黄色を混ぜた髪色をしていて少し、ナルシスト気質がある。

ビークスはダンディーなおっさんで、強欲な化身だった。

バズズーは物凄い物腰が柔らかく、丁寧な喋り方。

カラパシは身近なおじいちゃん。

コイールはお姉キャラで気さくな人だ。

ソナッチとファンギルは仲があまりよくないのか、いがみ合いが多かった印象がある。

とは言っても、逆に仲がいいのだろうか?

そして、ファンギルとソナッチはフィーナに弱いのか、フィーナの言葉に、萎んだ風船のように返事をしていた。

こりゃあ、結婚したら嫁の尻に敷かれるな。

 

「「「「「「「「ごちそうさまでしたー!」」」」」」」」

 

 

飯が終わり、フィーナからここのルール的なものを教えてもらう事になった。

どうやら、家事炊事はローテーションで行われるらしく、その人が一日の家事炊事、掃除に洗濯、朝昼晩の飯、全て一人で行うらしい。

飯の献立はその人に任せるらしく。

色々な次元に出掛けて、その世界の店から買ってきてもいいし、自分で作ってもいいし、とにかく自由だった。

ちなみに、私の当番はコイール姉さんの次らしい。

そして、風呂が沸いたら皆それぞれ適当に入る。

 

「こんな感じかな。今日はファンギルが当番だから、お風呂沸いたら知らせてくれるわ」

「なるほど……わかりました」

 

そういって、私は風呂に入るまで外の散策をしようと考えた。

一生ここに住むことになっているのだから、どこに何があるのかを知っておきたかった。

私は玄関で靴を履いて外に行こうとした時、ファンギルの怒声とも取れる大声が風呂場から聞こえた。

 

「お前ら風呂じゃああああああ!!!!」

 

いきなりの声に私はビクリと身体を跳ね上げた。

 

「ビックリしたぁ……」

 

私はそんな情けない自分を笑いながら風呂場へと向かった。

ここで驚いたのが、風呂場は1つしかない、つまり混浴ということになる。

流石に私はビックリした。

風呂場に入ったらフィーナさんが使ってるんやから。

バスタオルでカラダが隠されおり、ゴールデンな部分は見えなかったが、それでも充分すぎるエロさがあった。

なんなら、それ故なエロさがあって、もうヤバい。

語彙力が地平線の彼方へと飛んでいく。

それを踏まえてフィーナさんが色気を出してくるのだから堪ったもんじゃない。

私はろくに風呂に浸からずにそそくさと風呂から上がって、部屋に逃げた。

スマホを弄ろうとしたが、圏外故にゲームができなかった。

仕方がないと、私は自分の布団を貰ってそれを敷いて少し早いが就寝しようと考えた。

時間はまだ9時だが疲れと昨日の夜更かしで思いの外早く寝付けそうだ。

明日は、とりあえず輪廻の邪悪に頼んで家具をなんとかして貰おう。

そう思いながら、私は眠りについた。

 

 

 

 

 

朝。

思ったよりもすっきりした目覚めを体験した。

こんなにすっきりとした朝を迎えたのは本当に久しぶりだ。

私は起きて外を眺めると、ある異変に気づく。

時間は午前8時になっているのだが、不思議なことに真っ暗だ。

 

「……なぜ?」

 

私は不思議に思っていると、フィーナの朝食の合図が聞こえたので、一先ず私服に着替えて一階の大広間へと小走りで向かった。

大広間には全員が集まっていて、私の登場に全員が「おはようございます」と挨拶。

私も「おはよーございます」と言って返事をしながら、テーブルの前に座り込む。

そして、朝飯の時間が始まった。

トーストに半熟卵、ウィンナーに牛乳と朝の定番的な献立だ。

味は女の子らしい上品な味と言えばいいだろうか……。

まぁ、簡単に言うと、めっちゃうまい!!

私は黙々と朝御飯を口の中に放り込んでいると、カラパシさんが私の方を見て、こう言った。

 

「ひょひょ……。よく食べますなー。良いことです。もりもり食べて元気に過ごす。若者はこうでなくては」

「え? あ、ありがとうございます」

 

私は恐縮しながらお礼を述べた。

皮肉で言っている訳ではないようだ。

いま話すべきではないと思いながらも、あのことを話してみた。

 

「そういえば、いま朝っぽいですけど、なぜ外はこんなに真っ暗なので?」

「この世界、太陽がなくて真っ暗なのよねー」

 

ソナッチさんが、トーストを食べながらそう話した。

全員の話を聞くには、いまの我々の力ではどうすることもできないらしい。

だから、逆にその暗闇を利用しようということになり、何もなかった地に桜を意地と気合いで咲かして、ライトアップ。

さらに道の端に灯籠を置いて、和風的なテイストにしたのだという。

いつかは太陽のような光を出して朝と昼を迎えたいと口々に言っていたが、同意だ。

てか、よく桜を咲かせたな……。

私はそう心の中で思ったが、別の次元にも往き来できるらしいから、もしかしたら、どこでも咲くような特殊な桜もあるのかもしれない。

一応、謎が解明できた私は周りの目を気にしながら、ゆっくりと食べ始める。

 

「そういえば、龍輝は能力使えた?」

 

フィーナが聞いてきたので、私は首を横に振った。

 

『多分、朱雀の身体能力が低すぎて、開花すらしてない可能性があるねんな』

 

輪廻の邪悪の心ない一撃に私は口に含んでいた牛乳を少しだけ吹き出した。

若干、私もそう思ってたことを言わないでくれ。

 

『まぁ、鍛練してたらそのうち開花する。がんばれ!!』

「簡単に言わんといてくれー」

 

目を瞑り、嘆き呟く私に闇英雄のみんなは色々と修行を手伝ってくれると言ってくれた。

優しい方々だ。

私は感銘に射たれながら朝飯を食べた。

 

「流石フィーナ殿、素晴らしい料理をありがとうございます! ごちそうさまでした!」

 

バズズーさんは、フィーナに一礼を交わした後、自分の食器を持って台所へ持っていった。

私はモッチャモッチャと朝飯を食べて、食べ終えた食器を台所に持っていき、自室に駆け込んだ。

修行の前に、自室のレイアウトをしたかったからだ。

そして、リュックサックから財布を取り出してお金が充分にあることを確認すると、私は輪廻の邪悪を呼んでみた。

 

『どしたー?』

 

モアッと黒い霧が発生すると同時に、輪廻の邪悪が姿を現した。

 

「出掛けたいんやが、どうすればいい?」

『なんや、買い物か?』

「せやな」

『ええよ。お金持ってんの?』

「うん」

『そかー、えーとなー。ちょっとこっちきてー』

 

そう言われ、私は輪廻の邪悪について行った。

長い廊下を抜けた先に、なにやら只ならぬ扉についた。

輪廻の邪悪はその扉を開き、中へと入っていった。

私も一瞬、戸惑いながらも中へと入った。

すると、そこには先ほどとはうってかわって幻想的な空間が広がっていたのだ。

無限に広がる階段が、木の根のようにそこかしこに繋がっていた。それは正に銀河を結ぶコースミックウェブのようだ。

そして、あらゆる箇所に扉があった。

 

『ここは、次元の入り口や。この扉を開けると、その場所の世界へと行くことができるねん。そうやなー。まぁ、ここら辺の扉にするとええわ』

 

そういって、輪廻の邪悪は私の近くにある扉を指差した。

私は頷いてその扉の前に立ち、深呼吸をして扉の取っ手を持った。

 

「……」

 

扉を開けた。

木が軋む音を鳴らしながら扉は開き、扉の中は白い光に包まれていて、視認することは困難だった。

私は腕で目を多いながら、足を踏み入れた。

家具を買いに行くだけなのだが、まぁなかなか壮大なものである。

 

 

 

続く




なー、絶対にいく場所間違えてるやろこれ……(笑)


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2話 絶対に行く場所間違えてる。

家具を買いに別の世界に飛んだ朱雀。
そこは、自分の行きたかった世界とは少し違った場所だった。


 

 

ここはレインス・ヘイムスと呼ばれる国家。

極東の島国15個分もあろう巨大な国だ。

この国は科学技術力の発展が目覚ましく、その科学を用いて栄光を築いた大国である。

そして、自室のレイアウトのために家具を追い求め、悲運にも朱雀龍輝は、この地に降り立った。

 

「なにここ……」

 

扉を開けると、大きな街に出たのだが、未来的な街過ぎて戸惑ってしまう。

 

「絶対行く場所間違えたやろ……」

『す、すまん……』

 

私は肩をガックリと落とした。

着いてきたのか、輪廻の邪悪は頭を下げて謝った。

しっかし、邪悪というわりには腰低いなぁ……。

 

『戻る?』

「いんにゃ、面白そうやから、少しだけ探索してから帰る」

『そか』

 

私は適当にこの街を見て回ろうと決めた。

しかし、ここは本当に凄いところだ。

建ち並ぶ超巨大な高層ビルに、その周辺を飛び交う車のような乗り物。

私のいた世界とは、比較できない程に卓越した科学を持っている世界に来たと全身で感じ取った。

行き交う人々の姿はあまり、変わらないが、服装が未来的なファッションをしており、青いジーンズに深緑Tシャツのラフすぎる格好の私がかなり浮いていた。

人々も私の服装が気になっていたのか、ジロジロと見ていた。

 

『おい、かなり目立ってるで、帰ったほうがええんとちゃうか?』

「中学の頃に似たようなことあったから慣れてるよ」

『おめえ、なんかスゲーナ』

「ありがと」

 

他愛ない会話をしながら歩いていると、突然一人の女の子とぶつかってしまった。

 

「あ」

「のわ!?」

 

よそ見をしていた私は、バランスを崩して尻餅をついた。

 

「え、っと……。ごめん。大丈夫?」

「ああ、大丈夫や。そちらこそケガはないですか?」

 

そういって立ち上がる。

女の子は心配そうにこちらを見ていた。

物静かな雰囲気をする少女、よく見ると白銀のロングヘアーをしていて凄く可愛い女の子だ。

そして、両目に縦に続く一本の傷と左目が深紅に煌めく不気味な義眼らしきものをしていた。

 

「私はないよ」

「ならよかった」

 

よほど、私の容姿が珍しいのだろう。

女の子は興味津々に私を見つめていた。

 

「不思議な人だね」

「そう見えますか?」

「うん。みんなと違う」

「そうですか」

「なんて名前?」

「えーと、私は朱雀龍輝です。えーと……」

「私は、フル・SNJ・ZT9よ」

「え?」

「なに?」

 

私の驚きと唖然とする言葉に、フルはキョトンと首を傾げた。

私はもう一度名前を聞き返すも、返ってくる言葉は先と同じであった。

その歪な名前に私は眉を潜める。

 

「フルっていうのか、よろしく」

 

しかし、私はそれ以上の事は追及せずに、とりあえず挨拶をすることにした。

余計な詮索をして相手の機嫌を損ねては、後々面倒だと脳裏を過ったのだ。

すると、フルもよろしくと頭を下げた。

頭を下げた時にサラサラとした灰銀の髪が目に入る。

 

「タツキだっけ? どこから来たの?」

「えーと、まぁちょっとね……」

 

別の次元から来たなんて言っても、信じてもらえそうになかったから、私は適当にはぐらかした。

フルはフーンとジトーっとした目で私を凝視していた。

灰色と深藍色のツートンカラーのセーラー服らしき衣装を着ているフルを見て、私は某機動戦士に登場するとあるMSを連想した。

 

「そうなんだ」

 

フルはポツリとそう呟いた。

半信半疑……なのだろうか……。

これ以上、黙っていては色々と危ういと感じた私は直ぐ様、ここから立ち去ろうとした。

しかし、そう上手くはいかなかった。

 

「フルどうしたの?」

「もうすぐしたら演習の時間だぜー?」

「早く帰ろー?」

「……」

 

4人の女の子が近づいてくる。

フルは女の子たちの方を見て手を振った。

その4人の女の子も私の服装を見て不思議そうに凝視する。

蛇に睨まれた蛙のように硬直する私。

 

「お前変わった服着てるなー」

「そ、そうですかね?」

「うん、とっても不思議な格好」

「ふむ……魅力的だね」

「面白い格好ねー」

 

女の子は口々にそう言った。

 

「スザク・タツキさんって言うらしいよ」

 

フルがそう言うと、4人の女の子たちは、これまた珍しい名前なのか関心そうにこちらを見つめる。

 

「スザク・タツキ? 変わった名前だな!」

「この国ではあまり聞かない名前ね」

「不思議な人だね」

「どこから来たの?」

 

黄色いセーラー服のような衣装に身をつつむ女の子に訊かれて、私は焦る。

 

「……まぁ、めっちゃ遠いところから」

 

私は苦し紛れにはぐらかす。

やばい、こういう時、どうやって対処すりゃあええかわからん。

 

「おい、もうすぐしたら演習が始まる!! 戻ろうぜ!!」

「あ、本当だ!」

「また怒られるね」

「じゃあ、タツキさんまたね!」

 

4人の女の子は慌ただしく走り出した。

まぁ、何事もなくてよかった。

 

「ねー」

「はい?」

 

しかし、フルは走り出す4人を無視しては私に話しかけてきた。

 

「また、遠いところから来たって話教えてよ」

「ん? あ、あぁ」

「明日もここにくる?」

「わ、わからん」

「もし、ここに来れたら、お話しよ?」

「わ、わかった……」

「じゃーね!」

 

フルはそう言うと、純粋な笑みを浮かべて4人の女の子たちの元へと走っていった。

 

『おい、龍輝はん?』

「はぁい?」

 

ジトーとした声で輪廻の邪悪は言う。

私は力が抜けた喋り方で輪廻の邪悪の方を向く。

 

『どーすんねん……。そんな約束してよかったんか?』

「……やっちまったな……」

 

私はまた肩をガックリと落とした。

なんて、こった……。その場凌ぎとはいえ、ある意味とんでもない約束をしてしまった。

 

「なー、ここってかなり科学すすんでそうやん?」

『ああ、それがどうしたん?』

「ワンチャン、別の次元から来たって言っても信じてくれそうじゃない?」

『希望的観測?』

「うるせーわ」

『取り敢えず、どうするよ?』

「帰る」

『明日のことは?』

「……行くしかないやろ……」

『ほう』

「いやだって約束したし、破ったらバチ当たりそうやし……」

『律儀やなぁ。まぁ気持ちはわかる。悪いことはできんよな』

「それより、帰るにはどうしたらええの?」

『ああ、念じればええねん』

「念じる?」

『帰るって念じれば扉が出現するから』

「あー、わかった」

 

私は人のいない路地裏のような場所に向かい、帰りたいと念じた。

すると、何もない場所から扉が現れた。

私はその扉のノブを回して扉をあけ、自分の家へと戻った。

 

 

 

家に戻ると、フィーナさんが昼食を用意してるところだ。

 

「お手伝いしましょうか?」

 

私はフィーナさんに少しだけ近づいて、そう訊ねた。

 

「ありがとう! じゃあ、キッチンに置いてある昼食を持ってきてー!」

「りょーかいです」

 

私はフィーナさんに言われた通り、キッチンにある、大量の食器が置かれていた大きなお盆を持って、大広間へゆっくりと向かった。

 

 

闇英雄全員が集まって食事を始める。

私は明日のことを考えながら食べていた。

 

「龍輝さん。何か考え事ですか?」

「え? あぁ、はい。まぁ」

「能力のこと? あまり気にしないほうがいいわよ。アタシだって能力を開花させるの苦労したものぉー」

 

コイール姉さんが私に気を使って慰めているが別にそのことじゃあないんだ。

 

「ファンギルは意外と早く体得できたよね」

「んー? そうだな。そういうフィーナも早く得られたじゃねーか」

「ファンギル君はシンプルな精神構造だから早く体得できたっしょ?」

「んだとソナッチてめえ今俺をバカにしただろ!!?」

 

テーブルに足を乗せて、ソナッチの方にフォークを向けながらファンギルはキレた。

 

「お黙りファンギル!! 行儀が悪い!!!」

「うっ……」

 

コイールの剣幕に圧倒されて水をやり過ぎた花のように萎れた。

ソナッチは、してやったりの表情をしているが、フィーナのゴミを見るような視線に気付き、ファンギル共々意気消沈する。

 

「あの、別に能力のことじゃなくてですね、ちょっとしたことですので」

「何か困った事があったら言ってね? お姉さんが教えてあげるから」

「あ、はい。ありがとうございます」

「悩みとか一人で解決しちゃダメよ? アタシたちに相談しなさいね?」

「はい。別にそういったことではないので、大丈夫です」

「そう? ならよかったわ。困った事があったら一人で抱え込まず、相談しなさい?」

「はい」

 

オカマ口調で話すコイール姉さんだが、めっちゃ頼りになる発言に私は感動して涙が溢れそうになる。

私は目を瞑りながら、昼食をムシャムシャとガッツいた。

正直、どんな飯だったかなんて全く覚えていない。

味よりも感動のほうが勝っていた。

 

「ごちそうさまでした」

 

私はそう言って、自室に戻ろう考えたが、適当にこの世界を見て回ろうと考えた。

昨日はタイミングの悪いところで風呂が沸いたから、見て回ることができなかった。

今日こそ、この世界を見て回るとしよう!!

私は意気揚々と外へと飛び出した。

飛び出した直後、

 

私の目の前で二人の男が戦いをおっ始めていた。

 

「クソナッチてめえさっきはよくもやってくれたなああああああ!!!」

「僕は本当のこといっただけっしょー!」

 

炎の拳やリズミカルに弾む音符のようなエネルギー弾が飛び交う最中、私はそっと扉を閉めた。

今日はやめておこう。

うん。

あの空間にいるのは危ない。

そう感じた私は回れ右をして自室へと戻った。

 

「もー、なんつータイミングの悪さ……」

 

自室で大の字になって寝っ転がる。 

この殺風景の部屋をどうにかしたいが、正直もう行く気力が起きなかった。

 

「どうしたもんかねー」

 

私はスマートフォンを取り出してとあるゲームをやろうとしたが、電波が通ってなくて断念。

 

「よく考えてみれば、色々な世界に行けるってことは、この世界にも行くことが可能な訳か……」

 

そう言って、私はとあるくノ一のアプリアイコンを見ながら呟く。

 

「今度行ってみようか……。是が非でも……」

 

仮に行けたとしても、今行ったところで自分はお荷物的存在にしかならないと感じた私は、力をつけていつか必ず行くことを心に決めて、スマートフォンをリュックサックの中に入れた。

 

いつか……行きたいな……。

絶対に……。

 

「……」

 

目を閉じて心の中で決意をしていると、いつの間にか眠りについた。

 

 

 

 

 

「ん? ここは?」

 

目を覚ますと、私は自室にいることなく、不思議な空間にいた。

辺りを見渡すけど、そこには何もない。

雨が振り注ぎ、雷が絶え間なく落ちている。

 

『……タツ……キ……』

 

そう声が聞こえ、声のした方を振り返る。

するとそこには輪廻の邪悪や他の邪悪たちがいた。

ヤバい、輪廻の邪悪と純潔の邪悪以外の名前忘れちまった。

もし、これが仮に夢だとして、目を覚ましたら、もっかい各々の邪悪の名前聞こう。

 

『タツキ……』

「輪廻の邪悪どうした?」

 

私は輪廻の邪悪の方に近づいた。

すると突然、輪廻の邪悪が苦しみもがきだした。

それに呼応するかのように、他の邪悪たちも発狂に近い悲鳴を上げた。

 

「え? ちょっとどうした!?」

 

私は若干パニックになりながも、邪悪たちに近寄る。

すると、突然邪悪たちが2つに分裂を始めた。

それはあまりにもおぞましい光景だった。

肉を裂くような音に、ドス黒い体液のような液体を撒き散らしながら、分裂していったのだ。

私は呆気にとられて、一歩うしろに下がってしまう。

 

そうして、2つに分裂をした邪悪たち。

片方は普通の黒い邪悪たちだ。

片方は、黒いという次元を超えた、言うならベンタブラックに近い、光すらも吸収する本物の闇のような邪悪たちだ。

 

「なに……これ?」

 

私は恐怖で全身が震えるなか、普通の黒い邪悪たちが私に向かって叫ぶ。

 

『龍輝にげろおおおおおおおお!!!!!』

「え!?」

『早く遠くに!!!!!』

 

そう叫んだ邪悪たちは、もう片方の不気味に笑う邪悪によって引き裂かれた。

 

「お、おい……!!!」

 

そして、邪悪を裂き殺した、邪悪たちは私の方を一斉に見つめる。

私は脳よりも身体のほうが先に反応し、全力で逃げた。

あの邪悪たちはヤバい。

私たちを支配した邪悪たちとは違う。

うまく言い表せないが、本当にヤバい。

私は恐怖で半泣きになりながら、全力で走る。

 

「(これは夢だ。これは夢だこれは夢だ。これは夢、これは夢、これは夢これは夢!!!!!)」

 

心の中で、そう自分に言い聞かせながら、ガムシャラに走る。

後ろから、グチョグチョと気持ちの悪い音や、不気味な笑い声を発てながら追いかけてきている。

 

「あっ!!?」

 

自分の限界を超える走りをしたせいで、身体が追い付かなくなり、足が縺れて盛大に転倒した。

 

「ぐぅ……!!!!!」

 

私は地面に倒れ伏した。

足に痛みが走る。

邪悪たちはさらにスピードを上げて私に襲いかかってきた。

 

「死ぬ……!!」

 

夢だとしても直感的に感じた感情。

私は涙を流しながら目を瞑り、腕で顔を隠した。

 

『ギヤアアアアアア!!!』

 

しかし、聴こえてきたのは邪悪の悲鳴。

私は恐る恐る目を覚ますと、そこにいたのは……。

 

 

 

 

 

「龍輝夜ご飯!!!」

「え?」

 

フィーナに叩き起こされた私は飛び起きる。

私は辺りを見回す。

そこは殺風景な自室にエプロン姿のフィーナがいた。

 

「大丈夫? なんかすごい魘されてたよ?」

「……夢やったんか……よかった……」

 

全身は汗まみれで服が湿っていた。

2019年の8月上旬、スパルタ教師に怒られながら無理矢理校庭10周走った学生みたいに汗が溢れていた。

 

「なんか嫌な夢でもみたの?」

「あ、あぁ、すごい怖い夢やったわ……」

「そう、夜ご飯できてるけど、どうする?」

「もちろん食べるよ」

 

私は立ち上がってフィーナと共に部屋を出た。

大広間に入った私に他の闇英雄たちは唖然とする。

 

「おい龍輝、その汗の量はなんだよ」

 

何故か爆笑するファンギル。

ソナッチは「池にでも落ちた?」と真顔で訊いてくる。

 

「いや、なんかすごい怖い夢を見てな」

 

私はさっき見た怖い夢を皆に喋った。

邪悪の分裂。

分裂した邪悪がもう1つの邪悪を裂き殺したこと。

それらが追いかけてきたこと。

そして、最後の邪悪から私を守った存在。

 

「きっと、極度の緊張なのよ。闇英雄になったことで、環境が劇的に変わって、自分でも知らないところでストレスを抱え込んで、そんな夢を見たんじゃないかしら?」

 

コイールは真剣な表情で分析する。

 

「可愛そうに、今日はお姉さんと寝る?」

「あ、それは結構です」

「あら、残念。でも、本当に怖くなったらいつでも言ってね? お姉さんが助けてあげるから」

「そ、それはどうも」

「まぁ、その話は後でにして、早く夕食食べよう!」

 

フィーナの言葉に全員が同意をして、夕食を食べ始めた。

因みに献立の方は、マグロやサーモンのお刺身に味噌汁、佃煮、ご飯、なんか見たことない青いフルーツ。

それら5点だ。

 

皆美味しい美味しいと笑顔で口に頬張る。

私はフィーナが作ってくれた夕食を食べながら夢で見た最後の光景を思い出した。

私を守ってくれた存在。

それらは、私がよく知っていたとある狩りゲーに登場する古龍種と呼ばれる分類に属するモンスターだった。

それらの13体の古龍種たち。

炎王龍、溟龍、雷極龍、風翔龍、冰龍、霞龍、天彗龍、冥晶龍、天廻龍他数名。

それらが迫る邪悪を押し退けて、私を守ってくれた。

しかし、何で守ってくれた存在があの13体なんだろうか。

確かにアイツら結構好きだけどさ。

それが疑問でしかなかった。

コイールの言う通り、劇的な環境の変化によるストレスで、こんなインフルエンザにかかったときにみるカオスな夢を見たのだろうと。

まぁ、そう言うことにしておこうと、私は自分自身に言い聞かせ、ご飯を食べた。

 

 

 

 

 

 

 

レインス・ヘイムスから遥か遠く離れた国、その国にある格納庫の高架通路では、白衣を着てタブレット端末を手に持つ科学者の風貌をしている男と、強面の大柄の男がいた。

 

「調整が終わったようだな」

「ええ、この機械人形に搭載されてあるサイコミュシステム001の調整は完了しました」

「ふむ」

「あとは、実戦での稼働のみとなっています」

「本当に大丈夫なんだろうな?」

「ええ、このサイコミュというシステムは……」

 

科学者は、この機械人形に搭載されてあるシステムについて説明をする。

その説明に男はコクリコクリと頷く。

 

「ふむ。なるほどな……」

「それに、非常事態用の自爆システムを備えておりますので、いざとなれば……」

「そうか」

 

科学者の言葉に、男は目の前にある巨大な何かを見つめ、不気味な笑みを浮かべる。

男と科学者の目の前に置かれたモノ、それは巨神兵のような1つの機械人形だった。

長い手足や大きくくびれた腰部、背部に備えられた巨大な翼などから構成される独特なフォルムを持っており、異形かつ見るものを圧倒する威圧感を放っている。

この機械人形は数年前に突如、空から異次元の扉が開かれて、現れた存在。

その国の研究者や技術者たちは、それを回収し、機体名をタイタンと名付けて研究をしていた。

 

「よし、ならば実戦テストを行うとしよう。用意はできているな?」

「ええ。相手となる無人兵器の配備も万全です」

「このテストが良好なら、直ぐにでも近隣諸国を占領することができそうだ」

 

科学者はタブレット端末から起動コードを入力する。

すると、ブゥオン!!と タイタンと名付けられた機械人形の不気味な目が血のような赤い光を発して起動する。

その姿をみた男は不敵な笑みを浮かべる。

だが、彼らは知らなかった。

この機械人形の本当の恐ろしさを……。

これから起こる災厄を……。

 

 

 

 

続く




おい、ちょっと待て、なんでコイツがここにおるの?


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3話 連鎖する惨劇の機源

再び、レインス・へイムスに降り立った朱雀と輪廻。
そこで彼らが見たものは、想像を絶するものだった。


ーーーーー注意ーーーーーー

戦闘シーンは駄文を更に超えた怪文書となっております。
そして、某機動戦士に登場するあのモビルスーツが登場します。
ご注意ください。


 

悪夢は突然始まる。

タイタンを起動した10秒ほどたった時だった。

格納庫内の警報が鳴り響く。

科学者は焦った様子でタブレット端末を操作する。

 

「どうしたんだ!?」

「あ、あれ操作が急に……」

 

その言葉を聞いた男は全身から冷や汗を垂れ流す。

その間もタイタンは金属の摩擦によって発生する軋む音を出しながら、繋いであるケーブルを引き千切る。

科学者と大柄の男は走ってその場から退避をした。

 

「このままで不味いぞ。なんとかならないのか!?」

「仕方がない……こうなれば、各部の機体表面に設けられている非常事態用の自爆システムを作動させて機体を分解させるしか……」

 

科学者はタブレット端末を急いで操作するが、ここで異変に気づく。

 

「そ、そんなすべての制御がオフラインに……」

「お、おい!!」

 

必死に端末を操作してタイタンの制御をしようとする中、大柄の男が恐怖に歪んだ表情で後退る。

それに気づいた科学者はタイタンの方を見上げた。

男や科学者の目に映るのは、こちらに視線を寄せるタイタン。

そして、巨大な5本の指に装備されているビーム砲から目映い光がチャージされていた。

2人は急いで格納庫から逃走を図る。

しかし、時既におそかった。

指からビームが発射されて、2人は断末魔をあげることなく蒸発。

更に格納庫に置いてある武器にビームが直撃し、次々と誘爆を引き起こした。

その後、タイタンは格納庫の壁を突き破り、街に飛び出した。

不気味な姿の機械人形、タイタンの姿を見た街の人々は騒然とする。

 

悪夢の始まりである。

 

 

 

 

同時刻

 

 

「朝か……。空は夜やけど……」

 

私はソナッチから頂いた目覚まし時計に叩き起こされて目覚める。

昨日、昼前に寝たお陰で、まともに寝付けなかった。

 

「眠い……ふぁぁあぁああぁ……」

 

私は大あくびをして、布団から出る。

眠気が抜けない身体を起こして、私は洗面所に向かい、冷水で顔をあらうことにした。

 

「はああああああ、スッキリしたああああああ!!!」

 

眠気が一気に吹き飛び、さっぱりとした朝を迎えることができた。

ただ、若干後から眠気が襲ってきそうな気がしなくもないのが不安なところだが、まぁ良いとしよう。

 

『龍輝おはよー』

「あぁ、輪廻おはよう」

『今日、結局どうするんや?』

「あ、行かないとな……」

『面白そうやから俺もついていこうかな』

「お好きに」

 

私は小走りで大広間へと向かい、朝飯に食らいついた。

 

ソナッチの作る朝ごはんは、白飯、鮭の焼き魚、味噌汁、納豆、キュウリの漬物というTHE日本飯だ。

日本人として、最高の朝飯である。

まぁ、洋食も大好きだから、ぶっちゃけなんでもおいしく食べるんだけどな。

 

「おいクソナッチ!! テメェ俺の魚だけ中身にデスソース入れてんだああああ!!!?」

 

突然舌を出して発狂するファンギル。

それを見た味噌汁を吹き出しながら大爆笑するソナッチ。

仲ええなこいつら。

 

「オメエ覚えてろよ。次俺が当番だったとき、オメエの飯の中にドラゴンブレスチリ入れてやるからな!!!」

「あっはっはっはっは!!!」

 

ファンギルは笑いの成分を含んだ口調でソナッチに宣言する。

ソナッチはツボに入ったようで、ゲラゲラと爆笑していた。

笑いは近くの人にも伝染するようで、私も笑ってしまった。

 

「おい笑ってんじゃねーぞ!!!」

 

私の笑いに気づいたファンギルは笑いと怒りが半々の口調で発狂する。

 

「ヒョヒョヒョ、朝から賑やかでいいですのぅ」

「全くです」

「若いというのは素晴らしいですなぁ、ハッハッハッハー!!」

 

ファンギルとソナッチ、龍輝の賑やかな光景を見て、カラパシとバズズーとビークスはほのぼのとした様子で三人やり取りを眺めていた。

 

「でも、あれはあまりに行儀が悪くないかしら? 少し注意した方が良いわね」

 

一方、コイールは三人の行儀の悪さに注意を促すか、フィーナに聞く。

フィーナは「ドーンと言っちゃって!」と黙々とご飯を食べながらそう言った。

その後、三人はコイールに三分程説教を受けた。

 

「とんでもない目にあったわ……」

 

私は回廊を歩きながら、愚痴を溢す。

まぁ、笑った私も問題あるか、なんも言えないけど……。

 

「そう言えば、ファンギルとソナッチっていつも、あんな感じなんか?」

『せやで、ここに来てからあんな感じやな』

「はへー。犬と猿か」

『そんな感じ、で仲裁にフィーナがおる』

「ファンギルがアダムで、ソナッチがイヴ、フィーナが蛇か」

『………………まぁ、そんな感じやな』

「絶対適当に言うたやろ」

『うん』

「頷くなや」

 

そんな下らない話をしながら、私と輪廻の邪悪は昨日行った世界の扉へと向かった。

 

 

 

昨日と変わらない場所に降り立つ私。

一応目印になればと昨日と同じ服を着て、待つことにした。

因みに洗濯はしている。

若干湿って気持ち悪いが、これしか服がないから仕方ない。

 

「確か、ここやったよな?」

『おん』

「じゃあ、待つとしますかー」

『来なかったらどうする?』

「帰る」

『どれくらい待つの?』

「三時間から五時間ぐらいやな」

 

真顔でそう言うと、輪廻の邪悪はブッと吹き出した。

あまりの唐突な吹き出しに、私は困惑しながら肩にちょこんと座っている輪廻の邪悪に「おい、いきなりどうしたよ?」と言った。

すると、輪廻の邪悪は顔を押さえて笑いながら口を開く。

 

『いやだって、お前……。そんな真顔で三時間から五時間やな。なんて言ったら誰だって笑うわ!』

「いや、だっていつくるか分からんやん」

 

何故か私も笑いながら輪廻の邪悪に突っ込みを入れる。

しかし、そんなことをしていると、我々はある異変に気づいた。

 

「なぁ、今日って何かあるんか?」

『さぁ』

 

昨日とはうってかわって、人が誰もいなかった。

店と思われる場所も全てしまっていて、閑散としている。

 

「なんか……あれやな」

『あぁ、不気味や……』

 

私は鳥肌を感じつつ、辺りを散策しようとした時だった。

 

「タツキ!?」

 

上空から聞いたことのある声が聞こえてきた。

私は上を見ると、灰色のパワードスーツに身を包んだフルが驚いた表情で降りてきた。

 

「え!? フル!?」

 

私は驚きの声をあげる。

私がフルに今の状況を聞くよりも先に、フルが口を開いた。

 

「なんでここにいるの!? 民間人は皆避難してるはずじゃあ……」

「え? どういうこと!?」

 

ヤバい、全く状況が見えない。

それにそのフルの格好。

状況は見えないが、異常事態であることは察しがついた。

 

「知らないの!? いま巨大な機械人形がこっちに攻めてきてるの!! 他の国々は、その機械人形に滅ぼされてる!!」

「機械人形?」

「いいから早く緊急シェルターに避難して!!」

 

一刻を争う事態にフルは急いで私を近くのシェルターに誘導しようする。

その時だった。

 

大きな爆発音と同時に立っていられないほどの地響きが起こった。

不気味な甲高い警報が鳴り響き、街のあちこちにある巨大なモニターが警告を記していた。

 

「ヤバい、ヤツが来た!! タツキは早く逃げて!! ここを真っ直ぐ行けば、シェルターがある。扉のハンドル右に回せば、開からそこに入って!!!」

「入ってっ……たって……フルは!?」

「私はヤツを食い止める。それが私たちの役割……!!!」

 

フルはそう言って、脚部に取り付けてあるバーニアを吹かした。

そして、フルは私の方を見て、微笑んだ。

 

「大丈夫。私たちの国の技術は最強だから、機械人形なんてあっという間にやっつけられる!!」

「……」

「機械人形倒したら、昨日の約束。話をしよう!」

「フル……待て……!!」

 

私の声を無視してフルは飛び去った。

警報が国中に木霊する中、私はポツリと取り残される。

 

『どうする。なんかヤバいことになったぞ』

「……え、っと……言われた通りにシェルターに隠れるか」

『いまはそれしかないか……!!』

 

私は全速力でシェルターに向かった。

その際、遠くで爆発の音や銃声等の戦闘を繰り広げる音がきこえてきた。

 

「今はフルの言葉を信じるしかない……!!!」

 

後ろを振り向かず、ただひたすらにシェルターに向かって走った。

そして、シェルターの前に到着し、私は扉のハンドルを右に回そうとした時、後ろからビームの発射する音ともに、男性の断末魔が聴こえてきて、反射的に後ろを振り向いた。

パワードスーツを身に纏った男性女性達が、巨大な機械人形と激闘を繰り広げていた。

 

「は……?」

 

私は巨大な機械人形の姿を見て絶句する。

 

「な、え? う……は?」

『おい、どうした?』

 

唖然と機械人形を見つめる私を異変に思ったのか、輪廻の邪悪は私に問いかける。

 

「え? ちょっとまって? なんで?」

 

理解と状況が追い付かずパニックになる。

 

『龍輝落ち着け!!』

 

輪廻の邪悪の大声に私は少しだけ平然を取り戻した。

一回深呼吸をして落ち着かせる。

 

『あの機械人形がどうかしたのか!?』

「私、あの機械人形知ってる……」

『え?』

 

私の言葉に輪廻の邪悪も、私と同じような反応をした。

目に映るあの機械人形。

紫色を基調とした装甲。

悪魔を彷彿とさせる顔に二本のV字型アンテナ。

間違いない。

それは、とあるロボットアニメに登場した「サイコガンダムMk2」と呼ばれる巨大なロボットに非常に酷似していた。

しかし、私がいま見ているそのロボットには巨大な翼を持っており、あんな異様にクビレてはいない。

 

「いや、まって。アイツや!!!」

 

俺はある情報が頭に蘇ってきた。

一年前ぐらいに、とある雑誌にサイコガンダムシステム001、002号機という記事が掲載されているのを思い出したのだ。

 

『アイツはなんなんだ!?』

「あの機械人形の名前はサイコガンダムシステム001、もしくは002号機のどちらかやと思う。私が一年前に雑誌でみたイラストと瓜二つや……!!」

『待て待て、なんでソイツがこの世界に? もしかして、俺たちその世界に来たとか?』

「いや、たぶん違う。その雑誌の最後らへんに、稼働試験中やったか忘れたけど、二機は暴走して異次元への扉を開いて、暴走開始から10秒強経過した時点で二機とも消失した。って書いてあった」

『おいおい、じゃあまさか……』

「ああ、そのまさかやと思う。異次元の扉を開いて、やってきた世界が、ここやったということ」

『……なぁ、やばくね?』

 

輪廻の邪悪はそう呟いたので、私は「ああ、やばい」と答えた。

 

そう、状況はまじでやばい。

防衛に出た国の兵士たちはサイコガンダムの猛攻にやって壊滅寸前まで追い込まれていた。

 

「フルたちを助けないと!!!」

 

私は走ってサイコガンダムの方に向かおうとする。

 

『おいバカ!! どうやって倒すねん!!』

「わからんけど、このままじゃあ、フル達が……!!」

 

すると、一人の男性兵士がサイコガンダムの平手打ちを諸に食らい、私の近くに叩きつけられた。

私は急いで男性の元に駆けつける。

 

「おい!! 大丈夫!!?」

 

私は倒れて白目を剥いた男性に話しかけるが、応答がなかった。

全身の震えが止まらなくなる。

正直、めっちゃ逃げたい。

 

『このまま扉を念じて逃げるか!? さすがにこのままでは死ぬぞ!!』

 

輪廻の邪悪は私にそう提案するが、どうしても頷けない。

フルを見捨てていいのか?

あって間もないというのに、私の頭のなかでは、あの最後に見せた笑顔が頭から離れなかった。

それに、サイコガンダムに関わった女性達がどうなったのか、私は知っている。

それを知っているからこそ、私は……。

 

『……どうする?』

「……ごめん。たぶん逃げたら、絶対に後悔するわ……」

 

私は今にも消えそうな声でそう呟くと、『いうと思った』と輪廻の邪悪は笑った。

 

「なぁ、闇英雄のみんなに伝えて、やばいヤツと戦ってるから、助けれる人だけでいいから来て!って」

 

そう言うと私は念じて、扉を出現させた。

 

『わかった。いますぐに伝えてくる。死ぬなよ!?』

「ああ!!」

 

そう言うと、輪廻の邪悪は扉を開けて、闇英雄の世界へと戻っていった。

私は早速賭けに出た、息絶えた男性兵士の身に付けているパワードスーツを何とかして外そうと試みる。

適当に弄くっていると、パワードスーツは男性から外れた。

私は急いで、自分の身体にパワードスーツを着用する。

その間も、サイコガンダムは両手の指に備えてあるビームを全門照射して、街を破壊し尽くす。

民間人が避難しているシェルターもサイコガンダムのビーム照射には耐えきれずに融解。

中から男女の入り交じる断末魔が聞こえてくる。

私は作業を中断して耳を思いっきりふさいだ。

聴いたら絶対に後でトラウマになる。

再び作業を開始する。

 

「よし、何とか着れた!!!」

 

私はパワードスーツを身に纏い、サイコガンダムの方を見る。

幸い、こちらにはまだ気づいていない。

私は男が持っていたビーム兵器を手にとって、バーニアを吹かそうとする。

 

「あれ? バーニアってどうやって……!!!」

 

そう口に出して、ピョンとジャンプをしてみると、ものすごいスピードで私は空を飛んだ。

 

 

 

 

 

場所は変わり、フルたちの場所。

 

 

 

フルたちはサイコガンダムの猛攻に劣勢を強いられていた。

仲間たちは次々と焼かれ、磨り潰され、薙ぎ倒され、残るはフルとその4人の姉。

ルナ・SNJ06・NT999

レラ・XR0・UNCN

マリ・XR0・BSNNL

フェネ・XR0・NT-RT

だけとなった。

 

「くそ!! なんて強さだ!!」

 

サイコガンダムの圧倒的な力の前に、黒を基調としたパワードスーツに身を纏うダークオレンジのロングヘアーをした少女マリは悪態をつく。

 

「でも、私たちが何とかしてアイツを止めないと!!!」

 

深紅のパワードスーツを着た、ロングイエローヘアーの少女ルナはボロボロに成りつつも、サイコガンダムに抵抗する。

 

「だけど、このままでは私たちはやられるだけ。どうするか……?」

 

純白にピンク色のラインが特徴のパワードスーツを着たロングヘアーの少女レラは静かにそう呟く。

 

「……奇跡を信じるしかないんじゃないかな?」

 

金色の装甲を持ったパワードスーツを着用している金髪ロングヘアーの少女フェネはサイコガンダムを見つめながらそう言った。

 

「負けない。私は……タツキと約束したの!!! 終わったら話をするって!!! だから!!」

 

フルはそう言ってサイコガンダムに突撃する。

サイコガンダムは腹部に搭載されている三門の拡散するビーム砲を放った。

 

「はああああああ!!!!」

 

フルはそれを持ち前のスピードで避けつつ、腕にあるビームサーベルを取り出してサイコガンダムに切りつける。

しかし、サイコガンダムは、その巨体からは考えられない俊敏な動きで、フルの攻撃をいなし、回し蹴りでフルを吹き飛ばした。

 

「ぐぁああ!!!?」

 

フルは地面に打ち付けられ、苦痛に歪んだ表情をする。

 

「「「「フル!!!?」」」」

 

四人は一斉にフルの方を見た。

それが、命取りだった。

その隙をついたサイコガンダムが、ものすごいスピードで四人の前まで突進し、手足を使って一気に四人を投げ飛ばした。

 

「くぅ……!!」

「カハァ……!!!?」

「っ!?」

「うぁ……!!?」

 

全員、血を流しながらも、立ち上がろうとする。

サイコガンダムは右手を四人の方に向けて、ビームをチャージする。

その時、ルナたちは終わりを悟った。

 

「そんな……」

「どうやら、ここまでみたいだ……」

「へっ、こんな無様な結果に終わるなんて……」

「まぁ、仕方ないよ。天国で会おうね?」

「……タツキ、ごめん……」

 

そう言った時だった。

サイコガンダムがビームを発射する直前、男の発狂する暴声が木霊し、物凄いスピードで何者かが、サイコガンダムの右手に体当たりを繰り出した。

その衝撃で、五人に撃ったビームは明後日の方向に着弾し、爆発した。

 

「がぁああああ!!!」

 

男は、宙に浮きながら右肩を抑えて悲鳴をあげている。

その男の姿を見たフルは驚いていた。

 

「え、タツキ!!?」

 

他の四人も唖然としつつ、「昨日の不思議な人」と呟いた。

攻撃を妨害されたサイコガンダムはギロっと朱雀の方を睨み、殴りかかろうとした。

 

しかし……。

 

「サンライト・パンチイイイイイイイ!!!!!!」

 

炎の玉が超スピードでサイコガンダムに近づいたかと思えば、その火の玉の中から、1人の少年の姿が現れて、メラメラと燃え盛る拳をサイコガンダムの顔に横ブローを食らわせた。

あまりの衝撃にサイコガンダムはバランスを崩して、空中から地面に落下した。

その男の姿を見て、朱雀は安堵の表情を浮かべる。

 

「みんな来てくれたか……!!!」

 

満身創痍で座り込んでいるルナたちの前に現れたのは、6人の闇英雄たち。

フィーナ、ソナッチ、ビークス、バズズー、カラパシ、コイールだった。

 

『援軍を連れてきたぞ!!!』

 

そう言って、輪廻の邪悪は朱雀の元に駆けつける。

 

「ありがとうな。助かった」

 

 

ルナたちは訳がわからないまま、放心状態だった。

朱雀はフルたちに「後で説明するから、地球の軍のアホどもが作った最悪の兵器を潰すぞ!!!」と大声で叫んだ。

 

「ひょひょ、その前にお嬢さんたちを手当てしないといけませんな」

「そうね。カラパシおじいちゃんお願い」

 

フィーナがそう言ってルナたちに近寄る。

カラパシはニコニコと頷いて、持っている巨大な盾を構えた。

すると、カラパシの前に巨大なバリアが出現した。

 

「今から治療するから待ってて!!」

 

フィーナは自分の持つ治療の能力でルナたちを回復させていった。

 

 

「さてさて、私たちも参りましょうか」

「そうですな。あのロボットを叩き潰そうか。中に良いレア物があるかも知れんしな!」

「まぁ、なんであれ、仲間に手を出そうとした時点で、あのロボットの破壊は決定したものね!!」

 

バズズー、ビークス、コイールは殺意マシマシでサイコガンダムに武器を向けた。

 

「何としてでも、あの兵器だけは破壊する!!!」

 

朱雀はそう言って、起き上がり、不気味に雄叫びをあげるサイコガンダムに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

続く




まさか、サイコガンダムシステム001に出会えるとは……。
ぶっちゃけ、サイコガンダム系の機体はあまりいいイメージがない。
故に、ここで破壊する!!
コイツを野放しにしたら、ろくでもないことになるのは目に見えてる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

戦闘シーン。
非常に分かりづらくて、大変申し訳ありません。


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4話 最悪兵器

怪文章注意報

あと一狩り楽しいやめられないとまらない。
だけどゼニーが貯まらない。


 

 

 

 

「うおあああああああああ!!!!!!」

 

私は大声を上げてサイコガンダムに突撃をしながら持っているビーム兵器で攻撃をした。

サイコガンダムはそれを避けることなく、手のひらで防いだ。

反撃と言わんばかりに、サイコガンダムは腹部拡散ビームを放つ。

 

「このやろ……!!」

「あーこれあかんやつ……」

 

ファンギルは足で宙を蹴って滞空しながら、拡散するビームの照射をうまく避す。

ファンギルを除いた他の闇英雄たちは、一斉にカラパシが展開するバリアの後ろに隠れて避難する。

そして、ファンギルはサイコガンダムの拡散ビームが止んだ隙をついて、腹部を思いっきりぶん殴った。

サイコガンダムはくの字に折れ曲がり吹き飛ばされる。

チャンス、そう思ったファンギルは宙を蹴って前進、サイコガンダムに突撃をする。

しかし、サイコガンダムはまっていましたとばかりに即座に体制を建て直し、巨大な手でファンギルを捕まえようとする。

 

「なっ!?」

 

それに気づいたファンギルは回避行動に移ろうとするが間に合わず、サイコガンダムに捕まってしまった。

 

「やばっ!!!!」

「調子に乗るからだよフン(糞)ギルくん?」

 

そう言いながら、大きく大空を飛翔するのはソナッチだ。

ソナッチはニヤニヤとファンギルの醜態を嘲笑うかのような顔で持っている巨大なホルンをサイコガンダム目掛けて吹いた。

 

「破っ壊音っ波ー!」

 

その音波を浴びたサイコガンダムの腕が徐々に亀裂が入り始める。

 

「後は、私におまかせください」

 

黒い炎を模した翼を持つ黒馬に股がるバズズーは、自身の持つ黒と赤の禍々しい矛を亀裂が入ってる右腕目掛けて投げた。

矛は亀裂が入った装甲を簡単に突き刺さり、それと同時に紫色の装甲が鉄の軋む音を発てて剥がれ落ちる。

装甲が剥がれた中身は機械だらけの身が、あらわとなる。

 

「ファンギル君を離していただきたい」

 

 

-十二蠅・炎舞-

 

 

バズズーの周りに炎を纏った蠅が、耳障りな羽音を発てて現れる。

バズズーはサイコガンダムに向けて指を指す。

 

「行け」

 

そういうと、蠅は花火を打ち上げた時の甲高い音を鳴らして、ミサイルの如く装甲が剥がれた中身と腕の関節部分に発射された。

着弾時の爆発と衝撃にファンギルを捕らえていた腕は爆発し、関節部分は外れた。

 

「うるああああああああ!!!!」

 

腕が爆発したことにより、握る力が緩んだ隙をついたファンギルは狼のような咆哮を上げて、サイコガンダムの手を蹴り壊した。

そして、ファンギルとソナッチ、バズズーは一旦、その場から離れる。

 

「すまねえなぁクソナッチ!!!」

「アッハッハッハ!! 油断大敵だよフンギル君!!」

 

仲良いなコイツら……。

私はそう心のなかで思いながら、サイコガンダムに距離を置きつつ、ビームを撃つ。

しかし、ビームは変わらずサイコガンダムに当たるも全く効いていなかった。

このビーム兵器の出力が弱いのか、サイコガンダムの装甲が固いのか……。

まぁ後者だろう。

 

「おい、またあの攻撃が来るぞ!!」

 

ファンギルの声に私はハッとサイコガンダムの方を見る。

サイコガンダムの腹部と片腕から燐光が見えた。

一斉射撃を行うつもりらしい。

 

「不味いぞ!!」

 

ビークスの声に戦闘をしていた闇英雄たちは一斉にカラパシが展開するバリアに避難した。

発射されたビームは街を完全に崩壊させた。

シェルターも溶けてなくなっていた。

私はその光景は見なかった。

ビームの照射が終わった後には、もはや街と呼べるものなど残っていなかったことは言うまでもないだろう。

 

「洒落になりませんね……」

 

その光景を見たバズズーは青ざめながらそう呟いた。

全員が固唾を飲んで頷く。

 

「なぁ、龍輝お前あのロボットについて知ってるんだろ?」

「あ、ああ」

「なんか、策はないのか?」

 

ファンギルは私に詰め寄りながらきく。

確かに、あのロボット……というかモビルスーツの情報をある程度知ってるのは、私だけだ。

とは言っても、サイコガンダムシステム001号機なんて製作された事と、異次元の扉を開いたぐらいしか知らない。

 

「うーん」

 

私は考えた。

しかし、そんな時間はない。

サイコガンダムは赤い光を包み込んで、瞬間移動に近いスピードで接近。

カラパシが展開するバリアを踏み潰そうとした。

 

「んぐ……!!!」

 

バリア全体に衝撃が掛かり、カラパシはうめき声あげる。

何度も踏みつけをする度、バリアに負荷が掛かり、カラパシが苦痛の表情で苦しみはじめた。

 

「こ、これ以上は……もちそうに……」

「おい、龍輝!! なんか方法は!?」

「あるには……ある。それができるかわからないけど……」

 

その方法、それはサイコガンダムの頭部にあるコックピットの中に入り、電源自体を止めること。

闇英雄になる前に、ネットにモビルスーツを操縦する詳細が記載されていたサイトを見たことがあるから、動かせることはできるかもしれない。

しかし、サイコガンダムは、とある素質を持つ人物でないと動かせない機体。

私にできるだろうか……。

あーでも、待てよ。

確か、アニメで、素質のない軍人がサイコガンダムを動かしてた覚えが……。

ワンチャンこれに賭けるしかない。

まじでこれ以外に、あのサイコガンダムを倒す手段が見つからん。

私は、その策を全員に伝えた。

 

「まじでこれしか分からん、どうこう言ってられんぞこれ!!」

 

却下されそうな気がしたので、私は誰かが口を開く前に、そういって蓋をする。

 

「それなら、私があの機械人形の頭まで連れていくよ」

 

そう言って立ち上がったのはフルだ。

フィーナにまだ傷が癒えてないから立っちゃだめ! と注意されるが、それを無視して私の方に近づいてくる。

そして、フルは私を掴みそのまま背中に装備されてある、武装を入るキャラバスに乗せた。

 

「時間がない。行くよ!!!」

「ちょっ……!!?」

 

俺が嘆こうとするが、バーニアをフルスロットルで吹かしてサイコガンダムの股に突っ込んだ。

凄まじい重力で一瞬、頭が真っ白になりかけ、とてつもないスピードで、俺は悲鳴をあげることすらもできなかった。

 

「お……おお、あおお……!!!」

 

その姿をみたルナ達や闇英雄達もフルと朱雀を援護すべくバリア内から飛び出してサイコガンダムに攻撃開始する。

 

「このおおおおお!!!!」

 

フルは接近しながら手持ちのビームライフルを連射しつつ股に連続で切り刻み、その傷口にビーム2、3発打ち込んだ。

爆発の衝撃でサイコガンダムは少し怯み仰け反る。

その隙を逃さなかったコイールは持っているスナイパーライフルで傷口に一発弾丸を撃ち込んだ。

フェネは背部にあるシールドに取り付けられたスラスターを吹かしてミサイルのように一直線に頭部に放った。

サイコガンダムの巨体では、交わすことが出来ずに頭部に直撃し、少しよろめいた。

 

「いまのうちに!!!」

 

フルは急上昇し、サイコガンダムに接近する。

しかし、サイコガンダムはよろめきながら全身にあるビーム砲からビームを照射する。

360°のビーム攻撃にフルは一旦離れる。

 

「でああああああああああ!!!」

 

 

-黒烏廻-

 

 

ビークスは巨大な鎌を振るって黒い竜巻を巻き起こし、フル達を空高く吹き飛ばしてビームから回避させた。

 

「このまま突っ切る!!!」

 

ドスンと倒れたサイコガンダムに向かってバーニアを吹かして急接近する。

自分に接近したサイコガンダムは、直ぐに立ち上がろうとする素振りを見せる。

私はフルに頼んでキャラバスから降りて、サイコガンダムの頭部目掛けて落下。

サイコガンダムは赤い光を纏って逃げようとするが……。

 

「逃がさない!!!」

 

 

-アブソリュート・アイス-

 

 

フィーナは冷気を放ってサイコガンダムを凍結させて動きを封じようとした。

一瞬だけだがサイコガンダムの動きが停止する。

 

「のらあああああああああ!!!!」

 

私はサイコガンダムの頭部へと着地、急いでコックピットのハッチを開けようとした。

確か、モビルスーツのコックピットって外側からも開けれたはず、ましてやサイコガンダムや、こんな未知数なモビルスーツに何かあった時とかのために外側からもハッチを開けれるようになってるはず。

 

「よし開いた!!」

 

ハッチの下にスイッチがあり、そこを押すとパカリと開いた。

そして、私は頭部のコックピットに入ろうとする。

 

「誰も乗ってないか……」

 

サイコガンダムのコックピットはもぬけの殻だった。

まぁ別に驚きはしなかった。

異次元の扉を開けるほどの力を持っているんだ、オートで動いていても何も驚かない。

私は直ぐにリニアシートに座ろうとしたが、全身につけてあるパワードスーツが大きくリニアシートに座ることができなかった。

私は舌打ちをして装着しているパワードスーツを脱いで、外に放り出した。

直ぐ様ハッチを閉じてサイコガンダムの操作をする。

因みにコックピット内は全天周囲モニターとリニアシートの先駆けのような感じだ。

ガンダム試作三号機ステイメンのコックピットとよく似ている。

正直本物のモビルスーツに搭乗できるのはかなり興奮したが、状況的にそんなことをしている場合ではない。

 

「えーとどれや……確かあのサイトには……」

 

私はサイトで見た情報を気合いで思い出す。

その間に、サイコガンダムは暴れるように宙に飛び上がった。

 

「ぐぅううう……!!! カァハァァァ……!!!!」

 

物凄いGが掛かりは私は歯を食い縛った。

更にハッチが開き、サイコガンダムは私はコックピットから振り落とそうとしてくる。

 

「生き物かよコイツァアアア……!!!」

 

必死に操縦桿を握りしめて私は抵抗する。

しがみつきながら、コックピットのモニターを確認する。

 

「……!!これ……ッやぁぁぁぁ!!!」

 

私はモニターに映るオートからマニュアルにする場所があったので、それを押してサイコガンダムの主導権を奪い取った。

奪い取ったは良いものの、サイコガンダムの操縦は他のやつとは違うので、私には操縦することは難しく、そのまま地へと落下し始める。

 

「ノーマルスーツ着てないからヤバいいいいいいい!!!!!」

 

私はコックピット内部が無重力になる中で、片手で操縦桿を握り締めて、サイコガンダムの全機能を停止させた。

興味本位でモビルスーツの操縦方法を調べて、とあるサイトを閲覧して本当によかったと思った。

 

「うう……ぅぅうう……うぉおおおおりゃあああああ!!!」

 

そして、私はハッチを開き、操縦桿を離して、勢いよくコックピットから脱出。

 

「龍輝ーー!!!!」

 

宙を舞うなか、フルが私を拾ってくれた。

 

「やったね!!!」

「ああ、ありがとう!!!」

 

私はフルや他の闇英雄たちに笑顔でグッドサインをした。

そして、全機能が停止したサイコガンダムは物凄い轟音と衝撃波を出して倒れた。

 

「お、終わった?」

「みたいだね」

「ふぁぁぁぁ死ぬかと思ったああああ」

「ほんとだよ」

「でも、無事でよかった……」

「だな……」

 

沈静化を確認した私たちは安堵し、座り込んだ。

周りをみるも、建物すべてが倒壊していた。

建物の至るところから、黒煙が天に向かってモクモクと上がり、不気味なまでの静寂。

大都市としての機能を完全に失っていた。

この都市で生き残っているのは、我々だけである。

 

「みんなありがとね、龍輝やみんなが居なかったら、確実に私達はあの機械人形に殺されていたと思う」

 

フルは言う。

その言葉にルナたちは頷き、感謝の言葉を述べた。やはり、どんなものでも感謝をされると嬉しい気分になる。

皆で笑いあっていると、グポンと音が鳴り、二機のサイコガンダムが再び立ち上がったのだ。

 

「嘘だろ……?」

 

マリが力なくそう呟く。

俺たちも目を丸くして見上げることのみだった。

 

「嘘やろ? 機能はすべて停止させたはず……」

 

私はそう口に出した。

機械と機械が軋む音が巨人の咆哮のように聴こえ、一層不気味さを増す。

よくよく考えてみれば、コイツがサイコミュを搭載しているサイコガンダムであることを忘れていた……。

 

「どうやら、完全にぶっ壊すしかないようだ!!」

 

ビークスは鬼の形相で鎌を構える。

その姿は死神のそれである。

 

「やるしかないわね!!」

「ヒョヒョ全く、年寄りをいたわってほしいものだ……」

 

コイールとカラパシは不敵な笑みを浮かべて戦闘態勢に入る。

他の者達も武器を構えて二回戦に入ろうとした時だった。

サイコガンダムが奇妙な音を発し出したのだ。

得たいの知れない、そして表現するのが難しい音だ。

高いソプラノのサイレンと言えばいいだろうか……。

そのような音を発して、サイコガンダムから赤と紫のオーラを放ち、見るからに「ヤバイ」ものだった。

 

「な、なんだよあれ……」

「分からない。それより、この不愉快な音は……!?」

「笑えないな……これは……」

 

明らかにヤバい状況にファンギルとフィーナ、ソナッチは冷や汗をかいた。

 

何かとてつもないことをしてくるのではと警戒をしていたが、サイコガンダムは私たちに攻撃をすることなく、虚空に1つの扉を産み出した。

その扉が出現したのを見たサイコガンダム001は鉄と鉄が軋む咆哮をあげて、その扉を開き姿を消した。

姿を消す際に、サイコガンダムは私の方を睨み付けているように感じた。

 

「……」

 

荒廃した街にポツンと佇む闇英雄とルナ姉妹。

風の通りすぎる音が全員耳に囁く。

 

「なんだったんだ?」

 

ファンギルがポツリと呟くが、誰も答えを出すものはいなかった。

朱雀はハッとしたように何かに気づいたが、確証がなかったので、なにも言わずにふせた。

 

「まぁ、助かったから良しとしよう」

 

ソナッチの言葉に皆「そうだな」と言った。

 

「そういえば、みんな、これからどうするの?」

 

フィーナはルナたちに訊ねた。

皆は各々の顔を見合って、口を開く。

 

「分かんないけど、皆で力をあわせて生きるわ!」

「そうだね。色々なところを周ろうと思ってる」

「ああ、行ってみたい場所とか山ほどあるしな!」

「どうなるか、分からないけどそれでも世界を見てみたいな」

「うん」

 

 

ボロボロのルナ達は満面な笑顔でそういった。

「そか、それならさ」と私は彼女たちにあることを提案してみる。

 

「「「「「闇英雄??」」」」」

「ああ、行く宛がなければ、来てみない? あそこには住める場所もあるし、もしかしたら、みんな歓迎してくれるかも知れない! それに世界を見ることだって……」

「そうだな! そうしろよ!」

「闇英雄って変な響きだけど、とても楽しいよ」

 

ファンギルやフィーナもそういって、ルナ達を誘い始める。

保護者枠に近いコイール、ビークス、バズズー、カラパシは暖かいめで若者を見守っていた。

 

「私は行きたい!」

 

真っ先に返事をしたのがフルだった。

みんなも、フルの意見に同意する。

 

「話は纏まりましたか? それじゃあ、帰りましょう」

 

ニコニコとした表情をしながらバズズーは、念じて扉を開いた。

ルナたちはそれに驚きはつつもワクワクした物持ちで、我々闇英雄についていった。

 

 

 

 

 

続く




読み難い文章で誠に申し訳ありません。


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5話 お買い物

 

 

 

 

「アイツらの調子はどう?」

 

私はフィーナとソナッチに5人の調子を訊ねてみる。

 

「大丈夫よ。5人ともぐっすりと寝ているわ」

「凄まじいスピードで傷が癒えてるよ。僕たちの治癒能力があったとしても、あれは異常だけどね」

「そんなに治癒力が高いのか?」

「ああ、どうやらあの姉妹は遺伝子等を操作や組み換え等で、意図的に戦闘特化に生み出された女の子たちみたいだね」

「(つまり強化人間か)」

「だから、身体能力や治癒力も闇英雄になっていないのに、僕たちに比肩するレベルだね」

「恐ろしい……」

「可愛そうだよね……。戦うために生まれたなんて……」

 

フィーナはぐっすりと眠っている5姉妹のほうを見て、そう呟いた。

 

「まぁ、なんにせよ……。五人とも大丈夫そうでよかった」

 

私は安堵して椅子にヘタリと座り込む。 

あのサイコガンダムとの決戦の後、フルたちは即座に、空き部屋に治療するために運ばれた。

治癒能力を持っているフィーナとソナッチが5人を治療して、いま出てきたところだ。

 

 

「そういうわけで、みんな明日には全快してるっしょ」

「そうねー」

 

フィーナとソナッチはそう言って、自分達の部屋へと戻っていった。

 

「……」

 

私はその場で、あることが脳裏を過る。

確か、あのサイコガンダムは二機製造されていたはず、サイコガンダムシステム001号機と002号機。

元いた世界で、両機は異次元の扉を開いて何処かへと消えていった。

その内の一機が、フルたちのいる世界へとたどり着いた。

では、もう一機は何処に行ったのだろう……。

なんなら、我々と交戦した方も、何処の世界に行ったのだろうか……。

それに、最後に見せた赤いオーラに、あの音……。

まさかと思うけど……あれって……。

 

「龍輝飯だよー!」

「あえ?」

 

ソナッチの声に我に戻る。

私は返事を返し、先程の考えはまた今度しようと思い、私は早歩きで大広間へと向かった。

献立は鮭にご飯、味噌汁、ほうれん草のお浸しと意外に日本の料理だ。

しかし、一つ違和感というか、それがあるとすれば、焼き鮭にある。

私の大好きな部分の血合のところがないのだ。

チラッと他の人の鮭も見ると、血合の部分が切り取られていた。

そして、ソナッチの方を見ると、鮭の血合の部分が大量にあった。

どうやら、我々の鮭の血合はソナッチが全部食べるようだ。

 

「おめーホントに血合好きだよな」

 

ご飯と味噌汁を交互に食べながら、ファンギルが呆れた様子でソナッチに言う。

 

「僕は血合が大好きだからね!」

 

アッハッハッハ!と高笑いして、血合をご飯に乗せて醤油をタラーっとかけて、モグモグと平らげた。

まぁ、気持ちはわかる。私も魚の血合は大好きで、ご飯何杯でも食べられる。

てか、その食べ方すごいうまそう。

 

「おー、これなかなか美味いなー」

「アッハッハッハ!! そんなに美味しく食べて貰えると、僕も作る甲斐があるよ!」

 

上機嫌に高笑いをするソナッチ。

全員が夜ご飯を食べ終わり、各自自室に戻った。

私は一足先にシャワーを浴びて、結構早いが寝ることにした。

サイコガンダムシステム001との戦闘でかなり疲れている。

 

「眠い……」

 

私はパジャマに着替えて布団に潜ると、驚異的なスピードで眠りについた。

 

 

 

「……」

 

目を開けると、そこは前に見た夢と同じ景色があった。

 

「……夢の続き、なのかな?」

 

そこにいたのは、黒い得体の知れない巨人だった。

そして私を守るように、あの古龍達が黒い巨人を睨み付けていた。

お互い交戦したのだろう。

私を除いた全員がボロボロになっていた。

 

『我……悪…方……悪……』

「え?」

 

あの巨人が何かを言っている。

しかし、何を言っているのか聞き取れない……。

すると、古龍達は大きな咆哮を上げて、あの巨人に襲いかかった。

 

『善……る…の……達……る……』

 

そう言うと、巨人も古龍達に襲いかかる。

なんなんだこの夢は……!?

 

『輪……邪……雀……お……邪…す……死…』

 

巨人は迫る古龍を薙ぎ倒しながら、何かを叫んでいる。

古龍達も薙ぎ倒されても雄叫びを上げて、起き上がって巨人に攻撃を加えていた。

 

私は……ポツリと傍観し続ける他なかった。

 

「龍輝、ねえ龍輝!?」

 

後ろから私の呼ぶ声がしたので、振り返った。

するとそこには金髪の青い神官らしき服を着た……

 

 

 

 

「龍輝ー!!」

「んお!?」

 

私はハッとしたように起き上がった。時計を見ると、9時59分になっていた。

 

「やっと、目が覚めた」

 

フィーナはやれやれといった感じで、立ち上がる。

 

「昨日の戦闘の疲れのせいか、随分とぐっすり寝てたわね。もうみんな朝ごはん食べ終わってるわよ?」

「昨日はホンマに疲れたからなー」

「またなんか変な夢でもみたの?」

「え?」

「今度は眉を潜めて寝ながら悩んでいたから」

 

フィーナの一言に眉を歪める。

……あれ?

私、何の夢みてたっけ?

 

「……………忘れた」

「随分と奥深くまで眠ってたみたいね」

 

そういうと、フィーナさんは「朝ごはんできてるよ」っと言って私の部屋から出た。

 

「そうやな」

 

私は私服に着替えて大広間へと走っていった。

私が大広間に入っときには、大体の仲間たちは食べ終えていて、ファンギルとフルたちが、ビークスの飯を嬉しそうに食べていた。

 

「やっぱビークスの飯は最高だな!!! どこぞのクソナッチが作るデスソース入りの飯より何億倍も美味いぜ」

 

そういってファンギルはソナッチに嫌味をぶちまける。

それに対しソナッチは、眉を曲げてまぁまぁ腹立つ変顔で「食事中は静かにねフンギル君? マンマに教わらなかったのかい?」と煽る煽る。

当然それにカチンときたファンギルはソナッチに突っかかる。

 

「んだとコラァ!?」

 

いつもの光景である。

二人がそんなくだらないことをしていた。

 

「まーた喧嘩しとる。仲ええな」

「お、龍輝おはよう!」

「おはよーさん!」

 

私は自分の定位置に座って、飯を食べることにした。

 

「あ、龍輝ー! おはよう!」

 

私の存在に気づいたフルが嬉しそうにそういった。

 

「おはよう。みんなもう体調は大丈夫なんか?」

「おう! お陰さまでな!」

「昨日はありがとうね!!」

「助かったよ……。感謝するね」

「危うく天国にいくところだったよ」

 

四人は口々にそう言いながら、ビークスの朝飯を美味しそうに頬張っていた。

私やファンギル、ソナッチ、五姉妹たちが食べ終わると、見知らぬ邪悪五匹がルナたちに話しかけていた。

闇英雄になる契約をするためだろう。

 

『もう一度聞くけど、いいのか?』

「私たちは別にいいわよ」

『本当!?』

「ああ、帰る意味もないし、それに」

 

チラッとフルの方を見る。もう帰る気などさらさらない様子だ。

 

「私はここに居たい!」

 

必死な眼差しで訴えるフルに、ルナたちに拒否権など無いも同然。

 

『ありがとうございます!!』

 

びええええと泣きながら感謝されて、アセアセと困惑する五人。

そして、ルナたちに新しい名前を決めることとなった。

何故か、私が立ち寄って一緒にルナたちの名前を決めることなってしまった。

ルナたちは名前を決めるとなっても、どんな名前にしたらいいのか分からず長考していたところ、私に着けて貰おうということになったのだ。

私としては、非常に責任重大でプレッシャー極まることこの上ないのだが、結局嫌とは言えずに受けることとなった。

そもそも、私はネーミングセンスは皆無に等しく、人の名前をつける事など人生で絶対にあり得ないと思っていただけあって、かなりの緊張を伴うものであった。

 

「せやなー」

 

私はルナたちの容姿や身に付けていた装備の配色等から考え抜いた結果。

 

ルナ・エリュス・シナ

レラ・ストリー・ユニ

マリ・ディーダ・バンシ

フェネ・ベルナ・ルリタ

フル・スタイン・アカネ

 

となった。

皆喜んでくれたのだが、わたしからすれば、これで喜んでくれるのか?と疑問に感じた。

まぁ、喜んでいるのなら、いいかなと心に言いつける。

……五人の容姿から、某機動戦士のMSからとっただけなんだがな……。

そして、能力云々の話になったが、まさかの五人は特に欲しいものはないと言って結局何も能力は得ることなく、ルナ姉妹は晴れて闇英雄となった。

 

 

秩序の闇英雄 ルナ・エリュス・シナ

清純の闇英雄 レラ・ストリー・ユニ

勇往の闇英雄 マリ・ディーダ・バンシ

未来の闇英雄 フェネ・ベルナ・ルリタ

成功の闇英雄 フル・スタイン・アカネ

 

の誕生である。

 

時計を見ると昼飯の時間になっていた。

名前を考えるのにかなり頭を使ったので、かなりお腹が空いた。

それを表すように、私のお腹に住んでいる虫が鳴り出したのだ。

 

『朱雀ありがとおおおおおおおお!!!』

『僕たちは消滅を免れたよおおおおおお!!!!』

 

あああああああん!!!と泣きついてくる邪悪たち、どっちが支配主なんだ?と眉をひそめるが、感謝されて悪い気分にはならない。

ていうか、いい気分にしかならない。

「お、おう」と言って、とりあえず私たちは大広間へ足を運ぶことにした。

 

「おーうまそう!」

 

思わず、声が漏れてしまうほどに、テーブルには豪勢な食事が並べられていた。

東京の銀座にありそうなめっちゃ「和」を主体とした高級なお昼ご飯である。

いや、高級かどうかは分からないが、皿や盛り付け等から凄い高級感が出ている。

 

ご飯、様々な野菜の漬物、花のように盛り付けされた少量の蕎麦、フグの刺身、味噌汁。

流石にびびる。

 

ルナたちは、目をキラキラ輝かせて子供が新種の食べ物を見るような眼差しで、感激していた。

どうやら、ビークスは朝飯の時にルナたちに褒められたのがよほど嬉しかったらしく、必死になって作ったそうだ。

高級かどうかは分からないが、皿を厳選して料理にあったデザインを選んだそうだ。

 

「いただきまーす!!」

 

闇英雄たちの大声が大広間に木霊する。

我々はテーブルに並べられた豪勢な料理を口一杯に頬張った。

私はフグの刺身とご飯を一緒に食べながら、ルナたちの方を見たが、あまりの美味しさに涙を浮かべていた。

幸せに満ち々々た表情をしていて、不意をつかれた私は吹きかけてしまった。

 

「ごちそうさまでしたああああああ!!!!」

 

食べ終わったルナたちはビークスに感謝の意を伝えて、邪悪に自室へと案内されていった。

 

「ヒョヒョヒョ、元気で礼儀正しい幼子たちですなぁ」

「ヴァッホ! そうですな! 我々まで元気になりますな!」

「褒めてもらえて作った甲斐があったもんだ!」

 

カラパシやバズズー、ビークスは彼女たちの元気さに感心しながら、ゆっくりと和風料理を食べていた。

和装の貫禄のある翁が和料理を食べる……非常に絵になるなと心の中で思い、食べ終わった皿を台所へと持っていき、昨日出来なかった家具を買いに再び出かけようと考えた。

 

私は一旦自室へと戻り、ボロボロになったリュックサックを見て、家具を買うついでにリュックサックも買おうと思った。

財布をポケットに入れて、自室を出たところでルナたちに出会う。

 

「龍輝さーん!」

「はいはい」

「いまから家具買いに行く感じかい?」

「せやな」

 

ルナとレラが聞いてきた。

私は「おう」と答える。

 

「私たちも家具を買いに出掛けようと思うんだけど、一緒にいかない?」

「ああ、構わんよ」

「ありがとー!」

「助かるよ」

 

とは、言ったものの、私は一つある注意事項をルナたちに話した。

 

「一応言うけど、私は女性と出掛けたことは一度としてなくてな。そのー、えーと、あー、エスコートをすることが出来ないかも知れんが、ええか?」

 

と言う。

すると、ルナとレラは首を傾げて「??」と言いたげであった。

 

「あぁ、まぁ行くか」

 

私たちは昨日の場所へと向かった。

既にマリ、フェネ、フルが待っていた。

どうやら、服装はフィーナから借りたようで皆、普通の年相応の女の子の服装をしていて、非常におしゃれでキュートで可愛かった。

半袖にショートパンツというラフな格好である。

てか、戦闘衣とのギャップが素晴らしく理性崩壊待ったなしである。

 

 

「龍輝どう? 似合う?」

 

フルが服を見せるようにして言った。

因みに、女性のその質問で「似合わない」とハッキリいう男性は、果たして全ての次元の男性に何人いるのか、興味深いところである。

まぁ、限りなくオブラートに包んだ言い方ならあるかも知れないが、「似合わない」という輩がいるのであれば一度とお目にかかりたいものである。

まぁ、似合う似合わない以前に、フルは何着ても似合うので、その質問の解答は法律のように定められているようなものだ。

私の解答はこうだ。

 

「ああ、めっちゃ似合う。凄い可愛いで」

 

嘘偽りのない当たり前の解答だ。

マジで可愛い。

てか、みんな可愛い。

そういうと、フルは少し微笑みながら嬉しそうにしていた。

もちろん、みんなの服装も褒める。

みんな嬉しそうにしていて、なんだか私も幸せな気分になってくる。

 

『お出掛けかー?』

 

輪廻の邪悪がヒョコっと顔を出す。

 

「あぁ、昨日は家具を買えなかったからな」

『まぁ、でもそのお陰で、ルナたちも助けることができて、秩序の邪悪たちも守れたやん』

「まぁ、せやけどな……。せやけどな。今度は大丈夫やろな?」

『たぶん……』

 

自信なさげに答える邪悪に、私は一途の不安を抱きながらも、扉を開けた。

 

『まお、そんじゃ、俺は戻るわ』

 

そういって颯爽と何処かへ行ってしまった。

輪廻の邪悪を見送った我々は開きっぱなしのドアの向こう側へと足を踏み入れた。

今度こそ、家具がある平和な……。私がいたような争いの少ない世界へ行けると願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

ついた世界は非常に近代的だった。

そして、ビルの看板には東京銀座と書かれていて、あっ……。と思った。

ここ、私が元いた地球じゃないかと……。

まさかの場所の到着に笑いが出てしまう。

まぁ、私がいた場所は別のところなので、全然場所としては違うのだが……。

 

「わっ、凄い人がいる……」

「レインス・ヘイムスより多いんじゃねえか?」

「どうだろうか。私は同じぐらいに見える」

「でも、凄い活気に溢れてるね」

「龍輝ここからどうするの?」

「とりあえず、インテリア店探すかー」

 

私はとりあえず、インテリアを扱う店を探すことにした。

しかし、東京は人生で一回しか来たことがないので、場所に不安がある。

まぁ、今やスマホのGPSを使えばインテリア店などお茶の子サイサイなので、大した問題ではない。

 

「こっちやな」

「「「「「はーい!」」」」」

 

私たちは目的地へと向かう。

20分ぐらい歩くと目的地であるインテリア店についた。

 

「さて、各自目当ての物を探すとしますか」

「色々と家具が置いてあるわね」

「実に見応えがある」

「まぁ、大体の目星はついてるぜ」

「でも、これだけあるとちょっと迷うかな?」

「何買おう」

 

私は時計を確認する。時間は2時30分となっていた。

 

「じゃあ、3時にここ集合で。それまではみんな好きに見て回ってええで!」

 

そういって、私は一旦ルナたちと別れて、必要な家具を探すことにした。

とりあえず、買って帰ろうかなと考える。

Jazzが流れている店内を散策していると、なかなか良いタンスを見つけて、色々と見ていると……。

 

「おー、ルナとレラやん」

「やほー」

「何かいいものは見つけたかい?」

「いんにゃ、まだや。そちらはどうや?」

「そうだね。私は一応、目星はついてるよ」

「私はまだかな。いいものがね」

「まぁ、ゆっくり探せばええさね」

「あ、そういえば、フルが龍輝が探してたわよ」

「あら。マジか」

「ええ、さっき一緒にいたけど、龍輝にあってくるって言って何処かへいっちゃった」

「まぁ、その内出会うやろ」

「そうね」

「じゃあ、私とレラと目当ての家具探してくるわね!」

「おう」

「じゃあ、またあとでね」

 

どうやら、レラは目星はついているようだ。

早いな……。

私は候補ぐらいは決めなければと思い、タンスやベッド等を色々探した。

探しに探して、私の好みにあった家具を探し当てた。

それに触れようとした。

そのときだ。

 

「え、タツキ??」

 

私を呼ぶ声がしたので振り返ると、呆気に取られた。

 

「え?? 有さん!?」

「タツキやん。こんなところでどうした?」

 

 

 

 

続く



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6話 カフェでとんでもない事を言わんでくれ……。

家具を買い終えた朱雀一向は、カフェで一休みをしていた。
そこで、とある問題に巻き込まれたフルは、とんでもない発言をする。


 

 

 

 

「有さん!?」

 

私がそういうと、有さんこと、有沢劉也は「やぁ」と少し微笑んで挨拶をする。

有沢劉也は、私の数少なき友人で最近はお互いの多忙により全くあっていたなかった。

久しぶりの再会に私と有沢は話が弾んだ。

因みに、有沢は私のことを龍輝とあだ名で呼んでいる。

 

「有さん、最近どんな感じ?」

「普通かな? 良くもなく悪くもなく。だよ」

「おーそかそか」

 

私がそういうと、逆に有沢の方から私に言ってきた。

 

「龍輝はどうなんだい?」

「ん?」

「龍輝の方はどんな感じだい?」

 

その言葉に私は喉を詰まらせた。

闇英雄になったなど言えるわけがない。

まぁ、有沢の場合、それを言っても「そうか」と返すだろう。

そんな想像がつくが、後々の面倒事はごめんなので、私は適当にやっているとはぐらかした。

 

「そういえば、有さんは何故東京に?」

「ちょっと親戚の家にね?」

「あーね」

「本当に面倒だよ」

「せやろうな」

「全く、別の世界に転生したいよ」

「お、おう」

「まぁ、そんなことできないけどね。もし、可能なら喜んで転生するよ。この世界より何倍もマシさ」

「……なぁ」

「ん?」

「……あのさ!」

 

私はあることを言おうとするが、有沢の両親の声が遮る。

 

「劉也いくぞー!」

「はーい! ちょっとまって! で、なになに?」

「いや、なんでもないよ?」

「?? そうかい? じゃあまた今度」

「おう!」

 

そういって、私と有沢は別れた。

 

「……まぁええか」

 

そういって、私は時計を見た。

針は2時50分を指しており、話しすぎたと感じながら目星がついた家具を持つ。闇英雄になった影響なのか、前は持てそうになかった家具が入った段ボールも易々と持つことができた。

私はレジに向かっていると……。

 

「龍輝ー」

 

フルが家具を持ってやって来た。

 

「おーフルかー」

「探したよー!」

「あー。すまねー。なんかよう?」

「うん。龍輝はどんな家具を選んでいるのかな?って」

「あーね。私はシンプルなタンスやな。後はベッドも買いに行こうと思う」

「へーそうなんだー!」

 

あれこれフルとワイワイ話をしながら、ルナたちと合流し、レジでの会計を済ませた。

ルナたちは会計が良く分かっていなかったので、私が全部代わりに行った。

とりあえず、全員が荷物を持って店を後にする。

時計を見ると3時を回っていたので、私は五人にどこかカフェに行かないか?と提案してみる。

 

「行く?」

「「「「「いくー!!」」」」」

 

万一致での賛成。

我々は荷物を邪悪たちに持って帰ってもらい、カフェへ向かった。

近辺にあったカフェがあったので、そこに入ることにした。

 

「世界一カフェが似合わない男」と母親から呼ばれた私。

まぁ大学附属のカフェによく行っていたが。

 

「いらっしゃいませー!」

 

女性店員が大きな声で言った。

店内は木で作られており、淡い色をした照明で、あたかも森林の中にポツリとあるカフェテリアのようだ。

装飾もそれを彷彿とさせる作りをされており、非常にゴージャスである。

ルナ姉妹はキョロキョロと辺りを見渡しながら、ついてきていた。

若干挙動不審で端から見たら怪しい人々に見えなくもない。

6名座れる席を探し、座ることにした。壁際で私、フル、ルナ。窓際のほうにマリ、フェネ、レラといった感じで座ることとなった。

 

「ご注文決まりましたらお呼びください!」

「はいー!ありがとうございます」

 

店員から渡されたメニューを手に取り、それをテーブルに広げて皆にも見せる。

 

「みんなどれほしい?」

「私はこの『リ・レッド・スイセイパフェ』かな?」

「では、私は『ホワイテストユニコーンパフェ』を」

「俺はー、えーとこの『ブラックライオンフルーツ』!」

「私は『フェニックスパフェ』かなー?」

「……龍輝はなに頼むの?」

 

ルナ、レラ、マリ、フェネが口々に欲しいものを言っていく中で、フルは私に質問してきた。

 

「私? 私はー。『ウルトラギガビッグパフェ』やな」

 

そういうと、フルは「じゃあ、私もそれにする」と言った。

 

「結構量多いけど大丈夫か?」

 

私はフルに言うが、自信満々のようで大丈夫と言った。

私は店員さんを呼んで、みんなの欲しいやつを注文した。

ついでに、店員がお冷を頂いてデザートが来る間にのんびりと過ごすこととなった。

 

「ふー」

 

お冷やを飲んで、一息つく私。

リラックスできるjazzが流れており、素晴らしく落ち着く。

Jazzが大好きな私にとっては、これ程落ち着く時間はないだろう。

目を閉じ、息を吸い込んで、吐き出す。

今日に見た謎の夢や疲れもどうでもよくなってくる。

少ししていると、店員さんが、トレイの上にデザートを持ってやってきた。

 

「失礼します。『リ・レッド・スイセイパフェ』『ホワイテストユニコーンパフェ』『ブラックライオンフルーツ』です!」

 

慣れた手付きで、淡々と三つのパフェをテーブルに置いて、厨房へと戻っていった。

入れ替わりに別の店員さんが、こちらのほうに来た。

 

「お待たせいたしました『フェネクスパフェ』です!」

 

金色の翼を模したコーンが特徴的で、生クリームに金粉が巻かれており、フェネクスと言われると確かにそうだと思える。

 

「お、美味しそう……」

 

ルナたちは無意識にそう呟いた。

 

「あとは、私とフルのやつだけか」

「そうだねー」

「大きいから準備に手間取ってるんじゃねえか?」

「フル大丈夫なの?」

「お腹壊してもしらないわよ?」

 

ルナとフェネが不安げに言うが、フルはどこ吹く風。

大丈夫大丈夫と余裕だった。

 

「大変お待たせいたしました。『ウルトラギガビッグパフェ』でございます!」

 

店員二人がかり、総勢四人の店員さんが持ってきたパフェは想像以上にでかいものだった。

どんぶりの2倍の大きさはあろう器に富士山の如き山盛りのコーンフレークやらポッキーやらたくさん盛られた、まさにウルトラギガビッグパフェである。

朱雀を除く五人全員が唖然とメデューサに見つめられた石像の如く、固まっていた。

 

「ありがとうござーす!」

 

私は持ってきてくれた店員に礼を述べてスプーンを取った。

そして、チラッと横を見ると、フルがボーっと目の前に立ちふさがる巨大なパフェを見つめていた。

ちょっと可愛い。

 

「さて、いただきますか!」

 

私たちは、いただきますをして、目の前にあるパフェを掬って口に含んだ。

甘くて涙が出るほどに美味しいものだった。

下品な甘さではなく、ほどよい甘味のあって舌から口全体に甘さが広がる。とても素晴らしいものだ。

ルナたちも「美味しい美味しい!!」と大絶賛。

フルも呆気にとられてはいたが、それでも美味しいと涙を流しながら食べていたので、よかった。

 

私はウルトラギガビッグパフェを僅か5分でペロリと平らげた。

これには皆も驚きであった。

「なんで俺らのパフェの15倍はある巨大なパフェを俺らと同じ時間で食べれるんだよ!?」とマリが笑いながら突っ込みをいれる。

 

「よく言われるよ!」

 

と私は笑ってごまかした。

 

「……」

 

チラッと横を見ると、フルの手が止まっていた。

どうやら、お腹が一杯のようだ。

まだまだ残っている。

捨てるのは非常に勿体ないというか、やってはいけないと私の中である故に、私は「手伝おうか?」と言った。

 

「ご、ごめん。無、無理」

 

ギブアップのご様子。

そして、急に立ち上がり、「トイレー」と叫んでカフェの奥へと消えていった。

その間に、この死ぬほど美味しいパフェを黙々と食べた。

私のあまりに美味しそうな表情を見たからか、途中からルナたちもウルトラギガビッグパフェを食べはじめた。

3分もしないうちに食べ終わり、我々一同は幸せに浸りきっていた。

 

「龍輝」

「ん?」

「私たちを連れてきてくれて本当にありがとう!!」

「感謝してもしきれないほどだ」

「ああ。ありがとな。これからもよろしく!」

「うん! 本当にありがとう!!」

 

ルナたちは幸せな笑顔で私に心からの感謝を言った。

なんだろうか、心がフワッとするような幸福感に包まれる。

女の子の幸せな顔を見ると気分がよくなるのは、私が気持ちの悪い人間だからだろうか?

それからフルが来るのを待っているが、全然来ない。

 

「フル遅くね?」

「本当ね……」

「何かあったんじゃ」

 

口々に呟く。

少し不安になった私は席を離れてトイレの方へと向かった。

それに続いてルナたちもついてくる。

トイレのほうに向かっていると、どういうことか、なにやらザワザワと声がしてきた。

店員と客との揉め事か?

私はそんなことを思いながら、ザワザワする方を見てみると……。

 

「Oh....マジかよ……」

 

フルが明らかな6人の不良……というかパリピに絡まれていた。

絡まれていたというかナンパ? らしいこと受けていた。

当の本人……フルは別に興味ないよ、等と言って断っているのだが、パリピどもは引く気配なし。

 

「私、そういうのよく分からないから」

「いいじゃん。一緒に行こうよ」

 

ていうか、なんでカフェテリアにパリピがいるんだよっていう突っ込みはダメか?

私はの西の方出身だから、そこら辺がよく分からないのよな。

パリピでもカフェテリアに行くのだろうか?

てか、そんなことを考えてる場合じゃねえな。

早くフルを救出しなくては!

闇英雄になる前の私であれば、こんな状況は確実にクソビビリチキンと化していただろう。

しかし、闇英雄になって多少力がついて、肉体が丈夫になったことで、まぁ穏便にパリピどもに話しかけれる自信がついたのだ。

まぁ、ここで騒ぎを起こすのも後々面倒なことになりそうなので、平和に行きたいところである。

私はパリピの方に近寄って、「フル帰るぞー」と言った。

すると、まぁ想像は出来ていたのだが、パリピどもが私に絡んでくる。

 

「あぁ? お前誰だよ」

「私ですか? 私は彼女(フル)の友人ですが」

「なー、彼女貸してくれよ!」

 

なーんか訳の分からないことを……。

私はルナたちに「会計やっといて」と言って会計に行かせた。

ルナたちは「はーい」っと返事をしてカウンターまで向かった。

どうやら、その行いがパリピどもに気に食わなかったようで、突っかかってくる。

なぜだよ……。

一触即発の空気に周りの客たちもこちらをジッと見つめていた。

店員もやってくる騒ぎ。

 

「ですから、私はこれから帰るので、フルも連れていかなければ」

「あぁ? なんでお前がそれを決めるんだよ!?」

「なぁ、こんな男ほっといて俺たちと遊ぼうぜ?」

 

別のパリピが言うと、フルはとんでもないことを口に出した。

急に、私の腕を握ったと思うと……。

 

「私、龍輝の所有物なの!! だから、お前らに興味ないの!!!!!」

 

「「「「「「……はい?」」」」」」

 

急なフルによる爆弾発言に店内が静まり返る。

根も葉もない爆弾発言。

私は全身に変な汗をかき初め、もうどうしたらいいか分からなかった。

静寂が包む中で、聴こえてくるのはレジに居るであろうマリの笑い声だった。

 

「龍輝行こ!」

 

フルは固まって動かない私を無理矢理引っ張って、元の席に向かおうとする。

パリピどもは呆気にとられたまま、呆然と立ち尽くすばかりだ。

 

 

 

 

「オー、フルよ」

「なーに?」

「お前、とんでもないことを」

 

会計を済まして、適当に街をブラブラと歩きながら、私は苦笑する。

 

「だって、そうでも言わないと、アイツら諦めてくれそうになかったし」

「お、おう」

「まぁ、逃げれたからいいじゃねえか!!」

 

まーだ笑っとるよこの人(マリ)。

ルナたちもクスクスと笑ってるし。

そして、私にはどうしても聞きたいことがあった。

 

「なぁフル」

「ん?」

「さっきの所有物についてだが」

「なぁに?」

「あれはその場しのぎの言葉だよな?」

「どうだろうね?」

 

こ、こいつ……。

 

「まぁ、アイツらを撒くために言った言葉だよ?」

「なら、ええんやがな」

「本当に所有物がよかった? 別に所有物になってもいいよ?」

「やめろー」

 

ニヒルな笑みを浮かべるフルに私は苦笑するしか他なかった。

適当な裏路地についた私は扉を出現させて私たちの世界と帰還する。

しかし、まさか有沢劉也に会えるとは、まぁ元気でよかった。

また会いたいものだ。

 

 

そして、今度会えたら聞いてみよう……。

 

 

 

 

 

 

続く



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7話 能力覚醒 自然の魔術

私、フィーナ・セイレンは朱雀龍輝の能力を覚醒させるために戦いを行うことになった。
そして、龍輝の能力の正体は、非常に面白い能力だった。


 

 

 

 

龍輝とルナ姉妹は、家具を揃えて自分達の部屋を作り上げていた。

 

 

私、フィーナ・セイレンも仲間が増えたのは非常に嬉しいことよね。

もっと、たくさん仲間が増えることを願ってるわ。

 

 

そして、幾日か経ち龍輝やルナ、レラ、マリ、フェネ、フルたちも闇英雄に馴染んできた時、それは起こった。

 

「今日はルナが家事の当番ね」

「はーい!」

 

そう、ルナ初めての家事。

一応、みんなで家事のやり方は教えたので大丈夫だと思っていた。

しかし、1つだけ洒落にならないことが起こった。

 

「みんなー!! ご飯だよー!!」

 

ルナの元気な声が七重の塔に響く。

私を含む闇英雄たちは早々と大広間へと向かい、唖然とした。

 

「おやおや……?」

 

バズズーが目を丸くして呆然と目の前にある異物を凝視する。

テーブルに置かれている料理は、最早料理と呼べるのか?と思えるものだった。

鍋……なのだが、青い汁に青みがかったホタルイカやホタテ、キャベツ、大根、肉……。

闇鍋といってしまえばそれまでだけど、闇鍋でも、この色合いは食欲わかない……。

闇黒鍋……。

しかし、ルナはドヤ顔で自分の作った料理を誇らしげにしていた。

その表情はちょっとだけポンコツで可愛い。

 

「私お手製の鍋!!」

「鍋……ですね……」

「鍋が本体で、その中の具材が器か……?」

「ま、まぁ、食べたら美味しいかもしれないよ?」

 

バズズーとソナッチの言葉に私はフォローする。

他の闇英雄たちも、私に言った似たようなことを言って、自分に言い聞かせていた。

 

「それじゃあ、いただきまーす!」

 

ルナの言葉と共に全員が鍋に入ってある具材を取って口に含む。

その瞬間だった。

 

「ぐっ!!?」

「うぁ!?」

「……!!??」

 

死を思い浮かべた。

その味は得体知れぬ破滅的な味だった。

最早料理と呼べるものではないと私は思う。

 

「なに、これ?」

「まっず……」

 

吐き出す寸前で破滅と滅亡の申し子のような味だ。

何がヤバイいって、作ったルナですらゲロゲロ寸前になっていた。

 

「おか、ひいな……」

「おいバカルナなに入れたんだよ!!?」

 

あまりの不味さにマリが怒声をあげる。

 

「蜂蜜と、酢を……」

「バカだろお前!!?」

 

恐ろしい発言にファンギルが突っ込みをいれる。

これは流石にヤバイ……。

 

「……」

 

しかし、そのなかで唯一文句を言わずに食べている人物が二人いた。

 

「普通……?」

「可もなく不可もなくって感じね」

 

龍輝とコイールはそう言いながら口に含む。

 

「お前らまじでいってんのか?」

 

ファンギルは唖然としてそう言った。

それに対して龍輝はコクりと頷く。

 

「ああ、まぁ、美味い訳ではないが、うん。食べれる」

「そうね。本当に普通の味ね」

「なんという……」

 

全員が手を止めて感心する。

 

「私、味覚が変なんか知らんけど、基本的に料理は美味しいって言って食べるからなー」

「私も龍輝ちゃんと同じかも」

「まぁ、美味かろうと、不味かろうと私は全部食べますよ。父母祖父母からご飯は残すなと言われとるので。それに、作ってくれたのに、不味いと言う理由で残すのはいかがなもんかと」

「そうねー」

 

そう言って、龍輝とコイールはモグモグと食べ始める。

そう言われてしまっては、私たちは残す勇気がなかった。

皆、意を決してルナが作ったご飯を口の中に放り込んだ。

 

 

 

「ルナ……。お前が家事当番のとき、外食にしようぜ……」

「そ、そうね。そうするわ」

 

ファンギルの消えるようなか細い声にルナはボソッと呟いた。

あまりの不味さに朝飯が最後の晩餐になるところだったわ……。

 

 

破滅料理から少し経った昼間……。

 

 

『なー龍輝』

「ん?」

『フィーナと模擬戦したらどうや?』

「私と?」

 

店で買ってきた弁当を食べながら言う。

能力開花も兼ねた龍輝の戦闘力向上である。

 

「そうやな。私は構わんで、フィーナはどうする?」

「いいわよ! これ食べ終わったらやっちゃおーね!」

「おう」

「龍輝とフィーナの戦いか。是非とも観戦したいですね」

「ヒョヒョ、そうですな。若い者同士の戦い興味深い!」

 

カラパシやバズズーも興味津々である。

龍輝がいかほどの強さなのか気になるようだ。

 

「龍輝がんばれー!」

 

フルはお弁当を食べながら龍輝にエールを送っていた。

私は能力なしでどこまで強いのか、少し気になる。

 

「ごちそーさまー!!」

「ごちさんです!」

 

弁当を食べ終わった龍輝は立ち上がった。

私も食べ終わったので、龍輝に聞いてみる。

 

「やる?」

「やなー。やるかー」

 

私たちは外へと飛び出した。

龍輝は闘争に満ちた表情をしているが、緊張しているのか、腕がプルプル震えていた。

 

「どちらかがギブアップするまでやる?」

「せやなー」

『では、バトル開始の合図がしたら、始めてくださいね』

 

純潔の邪悪が言う。

私と龍輝は真剣な眼差しを送り……。

そして……。

 

『開始!!!』

 

純潔の邪悪のバトル開始の合図、その瞬間ーーー

 

「えい!!!」

 

 

-アイス・パルチザン-

 

 

氷を槍状に何本も形成し、それを朱雀目掛けて放つ。冷却と共に槍の弾幕が龍輝に襲う。

 

「な……じゃそりゃ!?」

 

龍輝は驚愕しつつ、全速力で桜の木々に隠れて、氷槍の攻撃を防ぎきる。

大量の氷槍が刺さった木々が支えられずに崩れ倒れた。

 

「逃がさないわよ!」

 

木片や砂煙で視界が悪くなり、龍輝の姿が確認できなくなった。

私は氷を生み出しながら、桜並木に近寄る。

周辺に氷柱を作り出して、龍輝の視界を阻害する。

私は氷を操作する力を持っている。

もし、龍輝がここに攻めて来ても、周辺にある氷柱を操作して龍輝を凪ぎ払える。

 

「さぁ、龍輝……。どうでる?」

 

私が小さく呟くが龍輝の反応はなし。

こちらの動きを伺っているのかな?

そう思ったときだった。

龍輝が表情変えぬ、かなり怖い形相でこちらに走ってきた。

まるで能面のような形相に、私は一瞬気圧されながらも氷柱を操って、朱雀に四方八方から強襲させる。

 

 

-アイス・モンストルム・ピアーズ-

 

 

「(やっぱあの氷柱で攻撃してくるか!!)」

 

龍輝は強襲する氷柱を紙一重で躱し続けた。

そのまま私の方に接近する。

私は持っていた槍を構えて応戦態勢に入った。

 

「どりゃあああ!!!」

 

朱雀の蹴りが私の腰を掠める。

咄嗟の判断がなければ、そのまま吹っ飛ばされていた。

続いて左ブローが飛んできた。

私は槍でそれを受け止めて朱雀の腹に蹴りを入れる。

 

「あ"ぉ"!!?」

 

龍輝は濁った苦声を上げて、体がくの字に曲がり、そのままぶっ飛んだ。

ぶっ飛んだ体は周辺にあった氷柱に激突した。

 

「う"……ぐぉ……!!!」

 

龍輝は膝から崩れ落ち、何度も咳き込んだ。

私はその隙を逃さずに、身体中に冷気を纏わせてそれを朱雀目掛けて放出する。

 

 

-アイスヴェル-

 

 

もちろん、死なない程度には出力は押さえているが、その勢いは、周辺の草木をドライフラワーへと変えるほどだった。

 

「あかん、ギブ……」

 

流石の龍輝はそう口にすると同時に、両手を頭を守るように塞いだ。

すると、私が放出した冷気は朱雀の両手に吸収されていた。

その光景に輪廻の邪悪は驚いたような声をあげる。

 

『あら、覚醒した?』

「え? なんやこれ?」

「龍輝の能力?」

 

龍輝自身も非常に驚いていた。

もちろん、戦いを観戦していた闇英雄たちも同じ。

全員がざわざわし始める。

私が解き放った冷気は全て龍輝の手のひらに吸収されたのだ。

そして、朱雀から冷気が漏れ出ていた。。

 

『あれが龍輝の能力である魔法か?』

「わからん、でも、やっっべぇ……」

 

龍輝の身体中から冷気がプシューと風船から漏れる空気のように溢れている。

 

「わからん。どういうことか全くわからんけど、取り敢えず氷の魔法が使える!!!」

 

龍輝は苦しそうな声と表情をしながら、闇雲に手を張り手のように私に向けて解き放った。

すると、不恰好な氷の塊が私目掛けて飛んできた。

何度も何度も。

 

「あ……ったれええええええ!!!!」

 

それは氷塊の雨霰だ。

私はそれを極低温の光線を指から放ち、一個一個氷塊を撃ち砕いていく。

私は手加減することなく地面を蹴って、龍輝に急接近。

足の部分を氷で硬く凍らせて、龍輝のお腹を思いっきり蹴った。

 

「うぐぅ……!!!!??」

 

ぶっ飛んだ龍輝は口から冷気を吐き出しながら、地面に2、3回バウンドした後、叩きつけられる。

龍輝は地面にうずくまり、呻き声をあげる。

龍輝の全身から冷気が蒸気機関車もビックリなほど放出されていった。

そして……。

 

「ぎ、ギブアップぅ……」

 

体から冷気が完全に抜けると同時に龍輝は情けない声を上げてぐったりとする。

私や他の観戦していた闇英雄たちは続々と龍輝に寄っていった。

 

「龍輝いいい大丈夫!!!?」

 

フルが心配そうに龍輝の体を起こした。

意識はあるようで、「あ、ああ。大丈夫」と龍輝は自力で起き上がった。

そして、

 

「ひぃぃぃっくしゅん!!!」

 

特大なくしゃみを放ち、ブルブル震えだした。

フルが超心配そうに朱雀を見る。

 

「うおおおおおおさびいいいいいいいいい!!!」

「わっ、冷たい!!」

 

フルは驚きながら、龍輝の身体を必死に擦って暖めようとした。

 

「ブウェェェクショオオオオン!!!」

 

再び爆音のくしゃみ。

こう言うのもあれだけど、唾とか飛んでいてかなりバッチィと思う。

だけど、フルはそんなこと気にもすることなく、龍輝をおぶってシャワールームまで連行した。

 

 

「朱雀の能力、凄い面白そうね」

『多分、あの能力、外部から炎とかの自然現象……っていうの? それを吸収して初めて、その魔法を使用できるって感じっぽいな』

「そうみたいね」

 

私と輪廻の邪悪はそう呟く。

 

「あったけええええええええええ!!!!」

 

シャワールームでは、龍輝の歓喜の声が響いていた。

よっぽど寒かったのだろう。

龍輝は「ひやあああああきもちいいいいいいい」等と声を上げてシャワーをしているように思えた。

 

「あ、フルちゃん、朱雀は?」

 

私は龍輝の洋服をシャワールームまで持っていこうとするフルの姿があったので、一応訊ねてみる。

 

「大丈夫っぽいよ。すごい幸せそうな顔でシャワー浴びてる」

「そう、良かった」

 

そういうと、フルはシャワールームへと行ってしまった。

 

 

「なーるね……」

 

龍輝は自身の能力を輪廻の邪悪を聞いて、なんとも言えない表情をしていた。

 

「かなりピーキーで汎用な魔法使いになりそうやなー」

『なんかとんでもない能力になったな』

「ああ、まぁでも、ものにしてみせるわ」

 

そう言って龍輝は牛乳をグビッと一気に飲み干した。

それをみた輪廻の邪悪は『能力発動した?』と龍輝に訊く。

 

「いや、そんな感じはない」

『牛乳は言うてしまえば水やから水属性の魔法が使用できるようになりそうなもんやけど……』

「いや、特に変化ないなー」

 

龍輝は身体をあちこち見ながら、そういった。

 

『うーむ。謎や……』

「ああ、謎や」

 

そう言って、少し間を置いて「先ずは能力の制御をしないとな……。でないとあの様やし……」と苦笑いした。

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

朱雀は再び能力制御を行っていた。

私が氷を作り出し、それを吸収。

そして、その能力の維持制御をしている。

 

「これあれや、その属性を吸収するときにいいいいい!! こ、心の中でえええ!! い、いい、いいい意識しないと!! 発動しないっぽいいいいいいいいうおおおおおおお!!!」

 

絶叫しつつ、あちこちに穴の間風船のように、龍輝の身体中から冷気が溢れでる。

そして、すぐに能力が解けた。

 

「ひええええええええええさびいいいいいいいいい!!!」

 

龍輝は立ち上がり、身体を痙攣させながら、地団駄した。

しかし、急に地団駄をやめて、私にライターを持ってくるように指示した。

私は急いでライターを持ってきて、龍輝に渡す。

すると、龍輝はライターから火をつけて、その火を吸収した。

 

「これでどうよ!!!」

 

朱雀から陽炎と共に炎がボッと発火する。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

そして、朱雀はまた雄叫びをあげながら維持制御に励むこととなった。

 

 

 

 

続く




あっはっはっはっは!!!
朱雀の能力はとっても興味深い能力だ!!

          by正義の闇英雄ソナッチ


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8話 僕の観察

僕は面白い事が大好きな、正義の闇英雄 ソナッチ・キルヴァット。
朱雀の能力覚醒から数日が経過したんだけど、あれから面白いことが絶えることを知らずに起こる。
そして、今日は一段と面白いことばかり起こる日だ。
おかげで、僕のお腹は千切れそうだったよ。
最高だ!!! これだから闇英雄はやめられない!!


     by正義の闇英雄ソナッチ・キルヴァット



 

 

 

「ぜやああああああ!!!」

 

 

-乱蠅・炎囲-

 

 

バズズーの周囲に生まれた炎を纏う蝿が朱雀目掛けて小型ミサイルのように放たれた。

 

「でああああああ!!!」

 

炎蝿の炎を吸収して、炎を纏った朱雀は両手から炎の弾を何発も射って、飛んでくる蝿を全て撃ち落とした。

 

「まだまだぁ!!!」

 

朱雀はバズズー目掛けて炎弾を何度も何度も射つが、黒い炎を模した翼を持つ黒馬。

バズズーの愛馬である「クロハヤテ」は馬らしからぬスピードと機動力を誇り、朱雀の炎弾を全て避けきった。

 

「おいそれ馬の動きじゃないやろおおおおおお!!!」

 

蝿のような動きに朱雀は大声をあげる。

それに関しては、僕、ソナッチも同意だ。

僕の音でも、あの馬に当てるのは一苦労だ。

その上、向こうは長身の槍に炎蝿。

余程の戦闘技術を持ってなければかすり傷1つつけることすら不可能だろう。

 

「まだまだですね!」

 

目にも止まらぬスピードで朱雀に接近し、槍で攻撃を始める。

 

「そうは……いくかいて!!!!!」

 

朱雀は炎の塊を真下に叩き落として大爆発を発生させた。

そのままバズズーを巻き込んでしまう作戦か。

しかし、クロハヤテのスピードは伊達ではなく、爆発する瞬間に、宙に跳躍し爆閃から逃れた。

 

「まじで何なんだよあの馬!!!?」

 

宙を蹴って接近する化け物に朱雀は流石に戦慄した。

さらに迎撃しようにも、炎の魔術が切れて使用不可になってしまう。

なかなか面白いタイミングだ。

朱雀は成す術がなくなり、そのまま槍に薙ぎ倒されてゲームオーバーとなった。

 

 

 

 

「おい、何なんやねん、あの赤い彗星!!?」

「アッハッハッハ!!!」

「笑うな!!」

 

僕は朱雀の言葉に笑い転げる。

面白いぞこれは!!

赤い彗星とはよく分からないが、龍輝の言い方が僕のツボを刺激した。

 

 

 

 

あの後、朱雀は七重の塔の一階にあるテラスで僕とフェネとフィーナで午後のアフタヌーンを楽しんでいた。

 

「あー、もう私の自然魔術難しいわぁ」

「でも、結構能力制御できてきてるじゃん」

「そうね、はじめの時よりずっと制御できてるよ!」

 

フィーナとフェネが朱雀を励ましていた。

ちなみにだが、昨日は朱雀とフェネ、レラ、マリが戦ったが、朱雀が全敗している。

敗因は魔力の制御ができずに暴発か、自滅でやられているっていう面白い敗北だ。

 

「で、あれはなんなんや?」

 

朱雀はチラッと爆閃やミサイル、レーザーが飛び交う空中を見た。

 

「あー、あれはルナとフルが模擬戦闘をしてるのよ」

 

フィーナがオレンジジュースを飲みながら呟く。

朱雀も「はへー」と言いながら、テーブルに置かれているお茶を飲んだ。

 

 

空中では新しいパワードスーツに身に包んだルナとフルが激闘を繰り広げていた。

 

「避けないでよ!! お家に穴が空いちゃうでしょー!!」

 

無鉄砲にビームライフルを乱射する。

ルナは無駄な動作をすることなく、華麗にいなしていき、ビーム出力がなくなった瞬間をついて、フルの懐に突っ込みフルの脇腹にエルボーを食らわせた。

 

「ぐぁ!?」

 

フルは胃液を吐いて、地面に叩きつけられた。

その衝撃で下唇を食いちぎってしまい、フルの口からツーっと血が垂れた。

 

「まだまだね」

 

ルナはフルを見下して冷徹な口調、そして不敵な笑みを浮かべながら、そう言った。

心ここにあらず、と言うべきか……。

 

「(某赤い彗星の再来だなあれは……となると、フルはその失敗作か……)」

 

朱雀は紅茶を飲みながらそう心の中で思う。

 

「くっ……ふざけるなああああああああ!!!」

 

フルは怒りに身を任せて、肩に取り付けられたメガビーム砲から太いレーザーをぶっぱなした。

しかし、ルナはそれを華麗に回避して物凄いスピードでフルに接近。

フルがビームソードで対処しようとしたが、ルナの方が行動するのが早く、額に強烈なデコピンを食らわせた。

 

「ふにゃ!?」

「はい、私の勝ちね!」

 

ちょっと可愛いと思ってしまうほどの声をフルが上げて倒れこむ。

それに対してルナは笑顔で勝利を高らかに宣言したのだ。

 

「ルナの加速力やべえな……」

 

朱雀はコップを口につけたまま静かにそういった。

あの加速力はバズズーの駈るクロハヤテの3倍の速度はあると、僕は推測している。

スラスターの光が見えた瞬間にはそれは軌跡となって気がつけばフルの額にデコピンをかましていたのだ。

光の速さと言えば過大評価が過ぎるだろうが、あの速度は尋常ではない。

 

「おいパッと見た感じ……。バズズーのあの馬の3、4倍の速度やないか?」

「そうだね。僕もそれくらいの速度だと思うよ」

「しかし、遺伝子組み換えで強化されているとはいえ、あの速度をよく耐えれるなー」

「邪悪に支配されたのも影響あると思うわよ?」

「ん? どういうこと? ……あー、そういうことね」

 

フィーナの会話に朱雀は一瞬疑問を抱くが、直ぐに意味が理解できたそうで、コクコクと頷いた。

邪悪に支配された者は少なくとも、肉体が強化されて、支配前よりも強くなるのだ。

つまり、戦闘兵器特化として生まれる前から一般の人間よりも強化されたルナ姉妹は、邪悪の支配によって更にプラスで強化されたということだ。

故に、あのような加速力でも人体に影響がないということである。

 

「そうみたいね」

 

フェネは紅茶を飲み干して、他人事みたいに言った。

 

「あれか……元々強化されてた肉体に、更に支配によって強化されたとか……そら私全敗するわな……」

 

朱雀は深く椅子に座り込みながら、若干の呆れ口調で呟いた。

それもそうだね。

僕は心のなかでそう呟いて、置かれていた紅茶をグイッと飲んだ。

 

「あああああああああもう悔しい!!!!」

 

フルは地団駄しながら物凄い悔しがっていた。

それを後目にルナはどや顔で勝利の優越感に浸っており、非常に微笑ましい光景だった。

 

「まぁ、まずは制御やな……」

「ん?」

 

ボソッと呟く朱雀の言葉にフェネは反応する。

 

「いや、私の場合はこの能力の制御やなって、全くって程ではないけど、魔力維持制御が完全に出来てないからさ」

「なら、僕と一戦やるかい?」

 

僕は立ち上がって朱雀に喧嘩を売ってみる。

朱雀は「おう頼むわ」と言って席をたった。

 

「さっき戦ったばかりなのによくやるわね」

「ほんとね」

 

フィーナとフェネは持ってきたお菓子をボリボリ口に入れながら話をしていた。

 

 

僕は黒と赤のツートンカラーの異形な形をした笛【鸚鵡貝】を持って構える。

勝負が始まろうとした時だった。

 

「晩御飯できたから、早く食堂に集合しなされー」

 

カラパシ爺の声が聴こえた。

晩御飯の時間である。

僕と朱雀はお互いに見合ってコクりと頷き、大広間へと急行した。

 

今回の飯はなんとおでん。

しかも、とてつもない量。

 

「ヒョヒョ……作りすぎましてのぅ……」

「作りすぎじゃないかな……?」

 

レラは苦笑する。

そう、テーブルに5つの巨大な鍋の中に大量のおでんがぎっしりと敷き詰められていた。

正におでんのバーゲンセールだ。

面白いけど笑えないぞこれは……。

フル、ルナ、バズズー、朱雀は先程まで戦闘をしてたから空腹だから、目の色変えておでんを食べようとしていた。

まぁ、僕も丁度お腹が減っていたからありがたいけど……。

問題はお菓子を食べていたフィーナとフェネだね。

生気が抜けたように真っ青としたいる。

面白い光景だ!!!

 

「ん? フィーナとフェネ食べねえのか?」

 

二人の異変に気づいたファンギルがおでんをモッチャモッチャと食べながら言う。

 

「い、いやぁ食べるけどね?」

「そう、食べるんだけど……」

「((お腹いっぱいで……))」

 

胃の中にまだお菓子が残っていて口に入らないのだろう。

二人はおでんを見た後、顔を見合って自分の愚かさに苦笑いをした。

それに対して……

 

「おおおやったー!! 私おでん大好きやねん」

 

好物が出てルンルンの朱雀は小皿におでんの具をたくさん放り込んで、ご飯と交互に食べていた。

そして、それを食べては喉に詰まらせ、食べては喉に詰まらせを繰り返す。

あまりの間抜けさと滑稽さが混じりあい、僕は口に含めた卵を吹き出した。

吹き出した卵は弾丸のように直線を描き、朱雀の顔面に命中した。

 

「ぐへー!?」

「アッハッハッハッハ!!!!」

 

気持ちいいレベルの朱雀の大転倒に僕は手を叩きながら笑い転げる。

幸い朱雀の小皿にはおでんの具は食べ終えていたので、具が辺りに散らばることはなかったが、汁が朱雀周辺にべちゃっといった。

 

「あっちいいいいいいいい!!!!」

 

汁が朱雀の肌にかかり、転げ回る様は滑稽で僕の笑いを更に加速させた。

他の闇英雄たちも笑いの渦に飲み込まれていた。

そして、朱雀はこういう。

 

「ソナッチ、おま……。後で覚えとけよ!」

 

笑い口調で僕に語りかけるが、あまりの面白さにその声も僕には届いていなかった。

 

「これを笑うなって言うのが無理っしょ!!! アーーハッハッハッハッハ!!!!」

「ソナッチ笑いすぎ!!」

 

そう言いながらも、フィーナも腹を抱えながら笑っていた。

このやり取りは約10分ほど続いた。

 

 

夜のディナーが終わった後、僕はそそくさと自室へと逃走を図ることにした。

そのまま僕はパジャマをもって、露天風呂に足を踏み入れる。

 

七重の塔のお風呂は巨大で混浴だ。

まぁ、はじめは抵抗あるけど、入っているうちに打ち解けてしまう。

朱雀もはじめは混浴風呂に入ることを少し抵抗していた。

だけどいまは何事もなく風呂に入っている。

 

そして、僕が腹が捻れるぐらい面白いことがあった。

それは、初めてルナ姉妹が風呂に入ったとき、彼女たちは男性闇英雄たちの下半身についている物をマジマジと見て、こう言ったのだ。

 

「ファンギルのこれって他のと小さいけどどうしてなの??」

 

と爆撃弾を投下したことだ。

更に追い討ちをかけるかのようにフルが……。

 

「龍輝より小さいけど、個体によって違うの? ファンギルのは龍輝に比べてなんかパッとしないね」

 

と言ったのだ。

あのときのファンギルの顔といったらもう……。

僕のお腹は捻れに捻れて笑い死ぬところだった。

 

さて、お風呂に到着!

さぁ、今日も長風呂で疲れを剥がしますか!!

 

僕は服を脱いで、そのまま全速力で露天風呂にダイブ。

水飛沫が辺りに散らばる。

端から見ればただの迷惑極まりないが、別に家なので問題なし!

アッハッハッハッハ!!!!

お風呂最っっっ高!!!

 

「オメーホントに風呂好きだよな」

 

僕がのほほんと至福に浸りきっていると、ファンギルが呆れ気味に話しかけてきた。

 

「お風呂は天国さ……。疲れた体を癒してくれる……」

「そ、そうか。まぁ天国なのはわかる」 

「でしょ?」

「……」

「……」

 

そこで会話が途切れた。

少し時間がたったとき、藪から棒にあの事を言ってみる。

 

「ルナたちに言われたことどう思う?」

 

そう言っただけなのだが、その言葉を理解したファンギルは血相変えて水面をパチンと叩いた。

 

「テメー、幸せに包まれてるのに、くだらねーこと言うんじゃねえよ!!!」

「アッハッハッハッハ!!!!」

「ぶっ殺すぞ!!!」

「お前ら、何を騒いどるよ?」

 

朱雀も入ってきた。

 

「いやーね。あのルナ姉妹のことをね」

 

朱雀にそれを言うと、苦笑いしながら「あー、あれね? まぁ別にええんやない? 言うて私もそんな大きかないし」と言うが、ファンギルにとっては何の慰めにならないのは言うまでもない。

 

「テメーらぶっ殺すぞおおおおおお!!!!」

 

痺れを切らしたファンギルはブチギレて僕らに襲い掛かってきた。

 

「あーあーファンギルくんを怒らせちゃった♪」

「いやまて、どう考えてもおまえのせいやろこれ」

 

そのあと、フィーナに僕らは小一時間素っ裸で説教を食らってしまった。

 

「はぁ、全くとんでもない目にあったよ……」

 

長風呂を終えた僕は、ため息をついて二階に上がろうとした。

しかし、テラスからワイワイと声が聞こえてくるので、気になった僕はテラスへと向かった。

 

 

「まぁ、私の世界はそんな感じやな」

「お前の世界と俺の世界ってあんまり大差無さそうだな」

 

朱雀とファンギルが会話をしている。

そしてルナ5姉妹が興味津々に話を聴いていた。

 

「どうしたんだい?」

 

気になった僕はテラスにいた人たちに話しかけた。

すると、ファンギルは「おー、ソナッチ丁度いいところに!」と手招きする。

 

「???」

「フル達が別の世界のことを聞きたいらしいっぽいんだ!!」

「へー」

 

随分と面白そうな話題をしてると思った僕は空いている椅子に座って話に混ざることにした。

 

「ファンギルの住んどった世界と私の住んどった世界が大差無さそうなのがビックリやわ」

 

朱雀は驚いた口調で紅茶を飲んだ。

僕は「へー」と相づちを打つ。

 

「龍輝の世界はこの前に行ったけど、すごい楽しかったよ! また今度ファンギルの世界も行ってみたいな!」

 

ルナが目をキラキラさせて言う。

レラも興味津々にコクコクと頷いていた。

 

「いいぜ! だけど、どこの扉なのか分からねえから、時間が空いてるときに探してみるよ!!」

「ありがとね!」

 

笑顔でファンギルはそういった。

朱雀も「私も興味あるわ。また見つけたら連れてってくれ」と言った。

ファンギルは「もちろんだ!」と頷く。

 

「あ、そういえば、俺の世界にすごい人がいるの聞いたことあるな」

 

ふと思い出したようにファンギルが口に出す。

 

「確か、神様と対話をするってやべえ人だ」

「神様と?」

 

朱雀が目を細めてファンギルを見る。

半信半疑の様子だった。

 

「それ僕も知ってるよ。名前は忘れたけどね」

「なんて名前だっけ?」

 

ファンギルは眉間に皺を寄せて思い出そうとする。

 

「因みに僕は名前は完全に忘れたから振らないでね?」

「わぁってるよ! 確か記者みたいな名前なんだ。で、海外の女子の名前なんだけど……なんだっけな……」

 

ファンギルは唸りながら思いだそうする中、朱雀は真面目な表情で言った。

 

「神様と対話できるって、どんな感じなんやろな……?」

「さぁ、知らね」

「僕たちは噂で知っただけだからね」

「あくまで噂だからな。確か……時間を操る神、空間を操る神、反物質を操る神と対話できるとかなんとか……」

 

それを聞いた朱雀は紅茶を吹き出す。

 

「じ、時間と空間、反物質って、この世の理とか概念とかそんな部類やんけ」

 

朱雀の言葉に僕とファンギルは頷く。

ルナ達は何も喋らずに、僕たちの話を無我夢中で聴いていた。

 

「まぁ、本当にいるかわからねーよ。俺たちだって噂で聞いただけだ。誰かが振り撒いたガセネタかも知れねーしな」

「もし、出会えたらスゴいかもね」

「せやなー。もしそいつが闇英雄になればとんでもなく面白そうになりそうやな。ん?」

 

突然、何かを思い出したかのように考えだす。

 

「時間、空間、反物質、神……。あれ?」

「どうした?」

 

ファンギルが朱雀の方を見ながら言う。

 

「あ、いや。私のいた世界のゲームでディアルガ、パルキア、ギラティナってモンスターがおってな」

「うん」

「それが、時間を司る神、空間を司る神、反物質を司る神やねん。まさかなって」

「そんな偶然あるのか?」

「面白いじゃん!」

「まぁ、さすがに違うか」

 

そう言って朱雀はアハハと笑う。

ルナ達は世界の広さに感銘を受けて、目をキラキラを光輝かせていた。

その後、話が弾んだ結果、夜の3時になってしまい、コイールに「うるさい寝れないでしょ!? 早く寝なさい!! 何時だと思っているの!?」と怒られてしまった。

僕たちは蜘蛛の子を散らすように、そそくさと自室へと戻った。

 

自室に戻ったのは、いいけどまだ眠気が全然ないので、僕は色々なジャンルの音楽を聴きながら、自分の武器の手入れをしている。

さて、明日は何をしようか……。

僕はそんなことを考えながら、武器を磨いた。

 

 

 

 

続く




私は輪廻の闇英雄 朱雀龍輝です。
今日は、私が家事炊事を行う番だったので、私は昼飯の食材を買うために私の住んでいた世界へと買い物に出掛けました。
しかし、その時の私は知る由もありませんでした。
とある女の子の誘惑に負けた私は、とんでもない事件に巻き込まれるなんて……。

        by輪廻の闇英雄 朱雀龍輝


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2章 アークヘイロウ編
9話 邂逅


買い物に出掛けた私はとあるVRゲームの体験会が開催されていたので、興味本位で参加をすることにした。
そして、そのVR空間で私はとある少女のNPC?に出会う。
そして、私はとんでもないことに巻き込まれるのだった。


 

 

 

 

午前7時00分

 

今日は朱雀が家事炊事当番である。

 

「さて、これでええか」

 

朱雀は台所で朝ごはんを手抜きにならない程度のクオリティで作り上げて、大広間へと持っていった。

献立は目玉焼き、ウィンナー、味噌汁、ご飯。

典型的な朝ごはんと言えるだろう。

 

「さて食べるかー!」

 

闇英雄たちが全員集まると、朱雀はそういって朝ごはんを食べた。

朱雀は一足先に食べ終えて、台所でフィーナから借りた本を読んでいた。

異世界転生というカテゴリーの小説である。

朱雀はあまり興味はないのだが、フィーナから進められて、昨日から呼んでいるのだ。

みんなが食べ終わるまで、とりあえず読むつもりである。

 

「ごちそーさまー!」

「美味しかったよー!」

「アッハッハッハ!! 朱雀料理うまいねー!!」

「ごちになりました」

 

食べ終えた食器を台所に置いて、感謝を口々に述べており、朱雀は「おーす」「おう」「まーな」等と相づちを立てながら読書に没頭していた。

そして、ふと台所の方を見ると、食器が山積みにされており、朱雀は付箋を挟んで、食器洗いをすることとなった。

 

 

20分後、全ての食器を洗い終え、昼飯のために買い出しに出掛けようと考えた。

朱雀は自分のリュックサックを背負って、自分の住んでいる地球に向かった。

 

そこのスーパーで適当に買い物を済ませて帰ろうとした時だった。

朱雀はあるものに気付き、ふと足を止める。

 

「VRゲーム??」

 

巨大な高層ビルのフロントガラスにはそのようなポスターが記されており、人が並んでいた。

少し興味を持った朱雀は、まだ時間もあるし大丈夫だろうと考えて、そのVR体験会場へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

「おー、すげえな流石VR!」

 

朱雀は初めて体験するVRゲームに感銘を受け、興奮していた。

朱雀は目の前に広がる西洋風の大理石で出来た街並みをみて満足でいっぱいだった。

 

「(興味本意で参加して正解やったな。まさかこんなに凄いとは……実際は座ってるだけやのに、まるで自分の足で歩いてるみたいや)」

 

朱雀は映し出されたVR世界の街中を歩き出す。

途中で家の近くに置かれている花壇などを触れてみる。

しかし、これはあくまで体験版、花壇などを触れることは、まだできないようだ。

花は朱雀の手をすり抜ける。

 

「(こういうのも、製品版では完璧に触れるようになるのかな? だとしたら楽しみやな!)」

 

朱雀はNPC等にも触れてみたが、やはりすり抜けてしまう。

それから、一通り実験した後、朱雀はあることが頭を過る。

 

「そういえば、クエストはどうなっとおやろ?」

 

そう考えて、クエストを受注する方法を探っていると……。

 

「あの……」

 

そういって朱雀に話しかける美少女がいた。

その美少女は青い神官服を着ており、頭は青い頭巾を被っていた。

赤ずきんちゃんが着ているみたいなやつだ。

確認し辛いが金色の髪、碧眼、朱雀から見て程好い程好い程好い胸をしており、アホみたいに可愛かった。

年は朱雀と同じか1つ下ぐらいだろうか。

 

「はい。どうされました?」

 

朱雀はそう返すと、美少女は朱雀の手を握りだした。

 

「英雄様! どうか……どうか助けてください!!」

 

手を握られ、涙目で助けを乞う美少女を前に朱雀は狼狽する。

 

「(なに? イベント? それと手……あったか……それに……)」

 

いい匂いがする。

朱雀は心のなかでそう感じつつ、丁度、クエストに行こうと思っていたから朱雀は「ええ、構いませんよ」と頷いた。

すると、美少女はニッと微笑み、閃光を解き放った。

 

「え?!」

 

朱雀は訳がわからないまま、光に呑み込まれる。

そして同時刻……。

邪悪たちが騒ぎ立てる。

朱雀が失踪したのだ。

 

『どうします?』

 

勇気の邪悪が輪廻の邪悪に問う。

他の英雄たちも集まり、心配そうな表情で話し合っていた。

輪廻の邪悪は声を絞り出す。

 

『……このまま、様子見や』

 

と。

他の英雄や、邪悪たちはざわつき始める。

そして他の邪悪や英雄が口を開く前に輪廻の邪悪は続ける。

 

『朱雀の元に飛べない。何者かがその次元に行けないようにブロックしてある』

『そんな……誰が……』

『龍輝が行った世界で何か手がかりは?』

 

正義の邪悪が輪廻に訊くが、輪廻の邪悪は首を横に振った。

 

「ねえ、龍輝は……龍輝は助かるの?」

 

いまにも泣きそうな声でフルは輪廻の邪悪に掴みかかった。

 

『分からない……いま、その次元に行けるように頑張っているけど、望みが薄い……』

 

輪廻はそう言うと、フルは絶望に浸りきった表情で膝から崩れる。

 

「そんな……そんなぁ……」

 

ボロボロと涙を流しながら、壊れたラジオのように、龍輝、龍輝と呟いていた。

ルナたちはフルの背中を摩りながら、フルの部屋へと送っていった。

 

『今のところ、龍輝を信じるしかないな……』

『そうやな……』

 

正義の邪悪の言葉に輪廻の邪悪はコクりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うーん……。……!!?」

 

朱雀が目を覚ますと、そこはさっきとは違い深い森の中にいた。

彼は驚きすぐさま起き上がり、周りを見渡す。

 

「えっ!? 森!? 場面急にかわったんかこれ?!」

 

朱雀は場面が変わった原因がクエストが始まったからだと考えるが、その森が異様なまでにリアルなことに気づく。

朱雀が自分がどうなったのかわからずパニックに陥っていると、そこにある人物が現れた。

 

『英雄様……』

「!?」

 

後ろから話しかけられ、朱雀は咄嗟に振りかえる。先程いまあの美少女だった。

 

『わけあって貴方をお呼びしました……』

「(この人……さっきの……!?)」

『私はユイ……。どうかこのイクス大陸を救ってください……』

 

ユイと名乗る美少女は涙目で朱雀に助けを乞うた。

そして、朱雀はある結論にたどり着く。

ここはゲームの中じゃない……と……。

 

『いまこの世界は邪悪の影響を受け、次第に混沌と化しています。対抗するには力の源である『アークストーン』が必要なのです』

 

ユイはそう言い、そして……

 

『アークストーンに同調できる貴方なら……きっと世界を救えるはず!』

 

朱雀の手を握り、自身の胸にさりげなく当てる。

 

「!!!!!!!!!?????????????」

『かつて邪悪を封印した英雄の再来を……私たちは待ち続けたのです!』

 

っと、ユイが説明をする。

因みにだが、朱雀は最後らへんの説明は全く聞いていなかった。

今まで感じることのなかった女性の胸の感触にもう人の話を聞くような余裕なんて彼にはありはしなかった。

 

『英雄……ねぇ……(ていうか、俺……闇英雄だから……どうなるんやこれ……????)』

 

朱雀は色々と整理し、考えていると……。

 

『……もう気付いているだろうが。ここは『げいむ』とやらの世界ではないぞ。真の英雄になれるか否かは……お主の力量次第じゃ!』

 

ユイは朱雀を見下しつつ指をさして話す。

本性というか、これが本来のユイである。

朱雀はまんまとユイのハニートラップに引っ掛かったのだ。

 

「え……えええ!?」

『他の者にとられるやもしれんしな~♪』

「ぐっ……仕方ない……なってやろうじゃないか!!」

 

そういって朱雀は宣言する。

最早それしか道はないと悟ったのだろう。

そういうとユイはニコニコした顔をする。

 

『ついでに、アークストーンを見つけんと、元の世界には帰れぬぞ♪』

 

天使のような顔で悪魔のような事を言い出す。

 

「おい私の中では一番肝心なとこだわ!!」

 

突っ込みをいれる朱雀。

意地でも邪悪を倒し、アークストーンを手に入れて元の世界に戻ると誓った。

てか、ユイが邪悪なんじゃね?

ん?邪悪??

え?

私は少し疑問におもったが、流石に違うだろうと思い考えをかきけした。

 

『そういえば、お主の名前を聞いてなかったの』

「あー、私の名前は……朱雀龍輝です」

 

まさか異世界に転移して、闇英雄になったと思えば、そこから更に異世界に転移して英雄になるなんて……。

とてつもない急展開に、私はため息をついた。

 

 

 

 

続く




なんてこった……。
恐ろしいことになっちまった……。

by輪廻の闇英雄 朱雀龍輝


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10話 英雄候補輪廻の闇英雄朱雀龍輝

ユイさんのハニートラップにまんまと引っ掛かった私、朱雀龍輝は突然、英雄となって邪悪を倒してくれという無茶振りを振るわされた。
戻る方法は、邪悪を倒してアークストーンを手に入れなければならないようだ。
諦めた私は英雄となって邪悪を倒す冒険?に出掛けることになった。


はよ帰りたい……。


 

 

 

 

ある日突然、イクス大陸に強制転移された私は『英雄候補』としてイクス大陸四大都市の1つ「ソルジェス」と呼ばれる都市にやって来た。

ビックリするほどバカデカイ都市だ。

中世の時代にありがちな感じで石や木で作られた、見るからにファンタジーの街と言える。

てか、でかすぎてユイさんの導きがなければ、確実に迷大人になっているだろう。

まず、私はソルジェスの将軍であるヤルソー将軍に挨拶をしに行くことになった。

 

「おお、貴方が英雄候補の方ですか!」

「あぁはい。えー、邪悪を倒し、世界を救うために精進したいと、おー、考えております。はい。」

 

自分で言っておいて、どこぞのRPGの勇者だよ、と突っ込みたかった……。

てか、ヤルソー将軍がでかすぎる。4メートルは確実にある大男だ。

そして、私はヤルソー将軍から鎧と剣を貰った。

当たり前だが鉄で出来ており、かなり丈夫そうだ。

 

「この鎧は昔私が使ってた鎧でしてな! はっはっはっは! 冗談ですよ!!」

 

豪快に笑うヤルソー将軍。

ユーモア且つおおらかで優しい性格なのだが、いかんせん体格と角刈り、豪快な顎髭のせいで少し身構えてしまう。

私の腕なら小枝を折る感覚でポキッといきそうだ。

 

「さて、ヤルソー将軍さんから装備を貰ったけど、意外と重いな、この剣」

 

それを背中に背負っているがなかなか重い。

大きめのリュックサックに学校の教材、教科書とノートを6冊ずつ、筆記用具、弁当、水筒、メモ帳、学生手帳、スマホの充電器を詰めた重さ……といえば、なんとなく納得してくれるだろうか?

しなかったら一回やってみるとわかる、意外と重い。

さらにそれを振るのだから結構厳しい。

朱雀は愚痴を溢していると、ユイがやれやれといった表情でこちらをみる。

 

「ん? ユイさんどうかしまして?」

 

それに気づいた私はユイのほうを振り向く。

『いんにゃ?』といった感じで明後日のほうを向いた。

明らかに小馬鹿にしていると思ったが何も言わないことにした。

 

まぁ、とりあえず私はキャンプとかのやつを持っとかないとやばいと考え、色々と店を回る。

 

「取り敢えず、テントとか買わないと。てかお金持ってないやん……」

 

店を探している際に重大なことに気づき、私は呆然とする。

 

『そのまま行くしかないの。大丈夫じゃ、魔物を狩って、得た素材を売ればある程度のお金にはなる。練習がてらにソルジェスの外にいる魔物を退治してはどうじゃ?』

「モンハンみたいなこというなよ……」

 

しかし、金がない以上どうしようもない。

私はユイさんの言う通り、早速ソルジェスを出ることにした。

 

 

 

 

イクス大陸第一巨大都市「ソルジェス」→女神の休憩場

 

 

 

ソルジェスの外は広大な平原だった。

モンスターもいないいたって普通の平原。

ここの場所の名前を女神の休憩場と呼ばれている。

 

「……いきますか」

『そうじゃな』

 

私は全力で道から外れ、敵を探した。

すると、変わった植物がいた。

ハエトリソウとパックンフラワーを足して2で割ったような食虫植物……もうあからさまに怪しすぎる。

私は即座にユイさんに聞く。

 

「こいつやろ?」

『そうじゃ、そやつはイータープラント。口から種を飛ばす魔物じゃ』

「なるほどねー」

『侮っていると食われるぞ?』

「……oh」

 

私は地味に重い剣を構え、イータープラントに襲いかかった。

 

「どおおおおああああああああああ!!!!」

 

私は雄叫びを上げて重い剣を振り上げる。

じゃないと重くて振り上げれないからだ。

振り上げた剣をイータープラント目掛けて降り下ろした。

 

[俺にだってやれる!! 気持ちの問題だって!!]

「は?」

 

イータープラントは自身の根っこ縮め、バネの要領で横に飛んだ。

私の剣は空振りに終わり地面に刺さる。

てか、そんなことはどうでもいい。

イータープラントの野郎、いま喋ったぞ。

 

[絶対にできる!! 頑張れ!! もっとやれるって!!!]

 

イータープラントは口から種を弾丸みたいに、朱雀の方に飛ばす。

 

「っやべええ!!」

 

私は攻撃を回避しながら、刺さった剣を引き抜き、再び襲いかかる。

 

[もっと熱くなるんだよ!!!]

「おい!?」

 

イータープラントは迫り来る朱雀に必死で種を連射する。

私は剣を捨てて、種を避ける。

あの某熱血テニスみたいな台詞はなんなんだよ!?

 

[まだやれるよ!!]

「その台詞やめろ! 調子狂う!!」

 

捨てた剣を再度拾って、イータープラントに接近する。

十分接近した私は、今度は横切りでイータープラントを真っ二つにしようと試みる。

じゃないとこのまま続ければ、調子狂うからだ。

イータープラントもさっきと同じように逃げようとするので、私はコイツの根っこを踏みつけ、行動不能にする。そして、身体を真っ二つに切り裂いた。

 

[人はいつ死ぬと思う?誰かに忘れられたときさ……] 

 

真っ二つになりながらもイータープラントはあの名言をいった。

お前一回あの世でヒル○クに謝ってこい!!

私は縦に切り裂いてしまおうかと考えたが、もうそれをする気力すらもなかった。

 

「ふぅ……もうなんなんやあれは!?」

『初戦にしてはなかなかのようだの!』

 

感心するユイであるが、私はもう色々と突っ込みたいことがたくさんあった。

強さとかの問題やない。

なんやねんあの出来損ないのパックンフラワーの台詞は!?

調子狂ってまうわ!!

 

「なかなか独特の植物だったわ。特にあいつの台詞が」

『そうか? この大陸では普通なんじゃが』

「あ……あんな台詞言うやつがたくさんいんのかいな!!」

 

洒落にならねえ……。

私はそう心のなかで思い、別の魔物を叩き潰すことにした。

とはいっても、辺りにはイータープラントばかりいた。

 

「こいつしかいねーな……」

 

仕方がない。

私は9体ほどイータープラントを潰したが、もう疲れた。

戦闘より、あいつらの訳の分からんネットミームで調子狂って疲れた。

 

「ふううううう……」

『初陣にしてはなかなかやるのお』

 

ユイさんは私の戦いぶりに誉めているようだが、なんも嬉しくない。

ちょっとだけでいいから、労ってほしいところやわ。

 

『龍輝、あちらの世界で何か、剣術でも嗜んでおったのか?』

「いや……まぁ、全然」

『全然? 龍輝なかなか素質あるのお』

「あー、ありがとうございます」

 

まぁ、誉めていることに変わりはない。

割りと嬉しかったので、私は感謝の意を述べる。

ユイさん曰く、イータープラントの根が売れるらしい。

 

『イータープラントの根っ子は薬になるんじゃ。故に薬屋さんでは、イータープラントの根っ子を買ってくれるぞ』

「なーるほどね。漢方薬的なやつか」

 

ユイはコクコクと頷く。

それなら、ソルジェスに戻って金にするかなぁ……。

私はソルジェスに戻ろうと歩き出そうとした。

そのとき、商人のような容姿の人が私の方に歩みよってきた。

 

「あの……もしかして、英雄様ですか?」

「え、あー、はい。そうですが?…………」

 

街中でよく見かけるごく一般的な青年だ。

特徴するところはあまりないが少なくとも私よりは良い面構えで、私よりイケメンな好青年であることに間違いはない。

私は頷くと商人の好青年はホッとしたように胸を撫で下ろす。

 

「……どうしました?」

 

不思議に思った私は、その青年に訊ねる。

 

「スミマセン、助けてほしいことがありまして」

「……???」

「次の街、デモーアルーまで行くところなのですが……」

「……はい」

「邪悪の影響からか、魔物が沢山いて、デモーアルーまで行くことが難しいんです。よろしければ、護衛をお願いできませんか?」

 

護衛の依頼のようだ。英雄候補である私がそんな護衛任務請け負っていいのだろうかと、考えていると。

 

『龍輝、その護衛を請け負うとよい。神聖なるお使いじゃ』

 

ユイが護衛をするのを進める。

神聖なるお使いというが、ただのパシリじゃね?

私はそう口に出そうと思ったが、「神聖なるお使いをパシリ等と、罰当たりめ!」と言われること間違いなしと思ったので口に出さないでいた。

私が悩んでいると思った商人は口を開く。

 

「……デモーアルーまで行けましたら、報酬として武器を差し上げますよ」

 

商人は貨車にある積み荷から、1つのハンドガンを取り出して私に見せてきた。

pc356と思わしきハンドガンだ。

 

「この前に、ある男性から壊れたこの銃を頂きましてね。何とか使えるまで修復をしたんですが、良ければこれを差し上げますよ」

「なーるほど……」

 

どうしようか……。

このくそ重い剣1つだけってのもあれやしな。

サブのウェポンとしてハンドガン一丁あると違うか。

 

「ええですよ。デモーアルーまで護衛しますよ。ですが、私は英雄候補でつい最近なったばかりでして、大丈夫ですかね?」

 

とりあえず、今の自分の身の程を説明し、保険をかけておく。

……事故ったらめっちゃ面倒故。

それを聞いた好青年は、嫌そうな顔をせず、「はい、大丈夫です。ありがとうございます」と言って頭を下げて感謝の言葉を口に出した。

 

「では、行きましょう!」

 

好青年は、積み荷を担いで進む。

私たちも好青年に続いて、次の街、デモーアルーに向かうこととなった。

 

 

 

女神の休憩場→聖殿の庭園

 

 

女神の休憩場を抜けた私たちは聖殿の庭園という場所を歩いている。

聖殿ということだけあって、なかなか神聖な場所だ。

花壇には見たことない花々が植えられている。

東京ドームと京セラドームを2つ繋げたぐらいの大きさの植物園と言えば分かるだろうか?

神聖で落ち着く。

更に、ここには一応魔物が居ないというおまけ付き。

 

「綺麗」

「そうですよね。私はここに来るの3、4回目なんですが、本当に心が安らぎますよ」

 

私と商人は、そのような他愛ない話をしながら、咲き乱れる花を眺めた。

 

「ふう……」

 

私たちは積み荷を担ぎ、聖殿の庭園をもうじき抜ける。

貨車がなかなか重い。

挙げ句に剣も担いでるから、死ぬほど重い。

かなり辛い。

 

「英雄さま。大丈夫ですか?」

 

好青年は流石に私の苦しそうな顔をしてるのを察したのか、心配そうな顔をする。

こんなのところで弱音を吐いては英雄として、闇英雄として情けないと思った私は「……大丈夫です。問題ありません」と言って否定する。

 

『龍輝大丈夫か?』

「ああ、大丈夫……」

 

ユイさんも心配した顔でこちらをみる。因みにユイさんは荷物は持っていない。単純に、私がか弱い美少女に荷物を持たせるのはどうかと考えたからだ。

 

『とてもそうには見えないが……』

「いや、大丈夫……」

「英雄さま。どうかしましたか?」

「……いえ、なんでもありませんよ」

「? もう少ししたら休憩しますか?」

「お願いします!!!!」

 

やっと休める。

まるで天にも昇る気分だった私は全力でお願いする。

青年が全て言い終わる前に大声で叫んだと思う。

流石にこれは、ユイさんと青年も苦笑いだった。

 

「で、ではあそこの木の影で休みましょう」

「……りょーかいです!!」

 

青年の指差すところには一本の巨大な木があった。

疲労感が一気に解き放たれてゆく感覚に襲われる。マラソン選手もゴール付近でこんな感覚に襲われるのだろうか?

 

『因みに、龍輝よ。聖殿の庭園を抜けて少しした先に、巨木の森と呼ばれてる場所がある。そこを抜ければデモーアルーじゃ』

「はーーーーーん……」

『すんごい興味なさげな返事じゃの』

「……。いま私に興味を示すものは……休憩できるあの巨木だけだ……」

 

早くあの巨木の下で休憩したい。いまの私にはその一心のみ。

私は呆れて言葉がでないユイさんを無視して、巨木の下に向かった。

それはまさに本能のまま動く獣の如し。青年も走って朱雀の後を追う。

 

 

 

「英雄さま、聖殿の庭園を抜けて巨木の森と呼ばれる場所を抜ければデオールにつきます!」

 

疲れで木の下で腰かけてる俺に商人は話しかけるが、ぶっちゃけクタクタな俺は、この商人の話なぞ聞いていなかった。

とりあえず休憩したい、この一心である。

 

「……少し、休憩させて……死ぬ……」

「ええ、いいですよ」

「……ありがとうございます」

 

私は商人に礼を言って、ゆっくりと目を瞑った。風が吹き、木がざわめく音が聴こえて非常に心地がよい。このまま夢へと行きそうな程だ。

 

ユイは呆れながら何か言っているが、私はそんなのを無視して休息を満喫している。

 

 

 

 

 

 

続く




デモーアルーに到着した私たちは、宿を探すことになる。
そして、見つけた宿がとんでもないものだった。


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11話 とんでもない宿に泊まっちまった。

何とかデモーアルーに到着したんだけど、おっそろしい宿に泊まっちまった……。

それに何か森の様子が変だった。
何か……不気味なナニかがいる……。
私にはそんな気がしてならない……。

要約すると、あの森怖い。


 

 

 

現在、朱雀は巨大な木で休憩をしている。

余程、疲れがたまっていたのだろう。

 

「あー、心地ええ……」

 

その場は非常に静かで風が吹き、草原の揺らめく音が聴こえるだけだった。

 

「さて、そろそろ行きましょうか!!」

 

突然、そう言って朱雀は静かに言う。

商人も立ち上がり、再び貨車を動かした。

 

「ここを抜けて、少し歩けば巨木の森につきます!!」

「りょーかい!」

 

私は叫びながら必死に貨車を押す。

五分ぐらい押していると、巨大な木々が生い茂る森にたどり着いた。

ここを抜けなければならないようだ。

 

「もう少しです、頑張りましょう!」

「おーーーう!!」

 

商人の励ましの声に私は、掛け声みたいな言葉を発す。

私たちは巨木の森と呼ばれる森に入った。

 

 

聖殿の庭園→巨木の森

 

 

森の中は非常に薄暗く、昼だというのに、黄昏時のような雰囲気を出していた。

はっきり言って不気味極まりない。

 

「……暗い……」

 

私は必死に貨車を押しながら、そう呟いた。

明らかに、なにやらモンスターが現れそうな感じに私は、警戒心をマックスにする。

しかし、意外にもモンスターは襲ってくることはなかった。

貨車の車輪の音が、森に木霊するだけだ。

 

「出てこないものですね」

「でも、油断していると……」

 

突然、がさがさと草むらから音が聞こえてくる。

商人と私は貨車を動かすのをやめて、武器を構えて、音がした草むらの方を見る。

 

[ヒャッホオオオオオオ!!!! 俺はこのビッグウェーブに乗るぜえええ!!!!]

 

そんな大声を上げて飛び上げて現れたのが、ブヨブヨとしたピンク色の丸い生き物だ。

 

「(めっちゃRPGに出てきそうな魔物やな……)」

「英雄さま、気をつけてください!! ソイツはルーガ、貧弱そうな見た目ですが、非常に素早く、厄介な的です!!」

 

商人の言葉に私は武器を構え、重い剣を持って挑みかかった。

 

「うろあああああああ!!!」

[避けるしかない!! このバッドウェーブに!!!]

 

本当に素早い……。

素早いというか、すばしっこい!!

私の振るう剣では一向に当たる気配がない。

 

[面白そうじゃないか!! 乗るしかない!! このビッグウェーブに!!]

 

最悪なことに、我々の声を聞き付けた他のルーガたちがゾロゾロと現れる。

全員険しい表情をしてピョンピョン跳ねている。

 

「英雄さま!!」

「これはヤバい逃げよう!!!」

 

すると、商人はポケットから白い玉を取り出して、地面に叩きつけた。

すると、白い玉は破裂音を出して、白い煙を辺り一面に広がった。

ルーガたちは咳き込みながら、混乱していた。

 

「英雄さま、今のうちに!!!」

「お、おう!!」

 

そう言って、我々は全速力で貨車を押した。

ヤルソー将軍には申し訳ないが、もらった剣はその場に放り投げてしまった。

逃げるためだ……致し方ない……。

 

 

 

巨木の森→デモーアルー

 

 

 

気がつけば、巨木の森を越えて、目的地であるデモーアルーに到着していた。

 

「な、何とかたどり着きましたね……」

「ハァハァハァ……疲れた……もうなんでこんなに疲れなあかんねん!!」

 

関西の漫才のような突っ込みを一人で行う龍輝。

商人も息を切らしつつ、貨車にある積み荷からあるものを取り出した。

 

「英雄さま、助かりました!! これが報酬の武器です!」

 

満面の笑みで私に差し出したものは、pc356のハンドガンだ。

 

「あ、ありがとうございます」

 

私はそれを受け取る。

重たい。

ガチのハンドガンだ。

私は頂いたハンドガンを眺めていると、商人は更に積み荷から箱を取り出した。

 

「あと、これも差し上げます!」

「これは?」

「その銃で使用できる弾ですね。私の手作りで爆発する弾とか、魔力を込めた弾とか色々あるので、使ってください!」

「ほう、それは助かります!」

 

私はそう言って、ペコリとお辞儀をすると、商人もお辞儀を返した。

 

「では、私はこれで失礼します!!」

 

笑顔の商人は小さくお辞儀をしながら、市場と書かれた看板のある方へと行った。

 

「さてと……」

 

私は頂いたハンドガンと銃弾をリュックサックの中に入れて、これからどうしようか考えていると、あることに気づく。

 

「あれ? ユイさんは?!」

 

よくよく考えてみれば、ユイさんの姿がいない。

私は少し焦りながら、辺りをキョロキョロと見渡した。

やべえ、いねぇ……。

知らない街に一人でいるのは、かなりの勇気がいる。

日本ならまだしも、ここは異世界。

私の心臓はバクバクと激しく鼓動する。

 

『おーい、龍輝ー!』

「ど、何処いっとったんすか?」

 

市場の方向から手を振りながら、フワフワと向かってきた。

ユイさんは笑いながら、「荷物の上で一眠りしてたら、いつの間にかデモーアルーの市場におった」と言った。

 

「なーるね……」

 

どおりでいなかった訳だ。

私は苦笑いをする。

しかし、やはり知っている人がいると安心感が5倍ぐらい違う。

 

「それで龍輝、これからどうするんじゃ?」

「あー、日も暮れてきたし、どっか宿があれば、そこで泊まりたいな」

 

私がそういうと、ユイさんは「いい宿があるぞ」と、建物を指差す。

私はユイの指差す宿を見た。

その宿は至って普通の宿屋だった。

 

「ここか?」

『そうじゃ。ここは宿泊費が無料なんじゃ』

「おー!」

『ただ、寝床を用意してくれるだけで、飯などは自分で用意せねばならん』

 

まぁ、そうだよな。

ただ、ユイさん。別にどや顔で言うことでもないでしょうよ……。

私は呆れながらも、その宿へ向かう。とりあえず、小もないことが起こらないことを願いながら……。

 

 

 

 

 

「らしゃせーい!!ふぉー!!!」

 

宿に入るや否や、店員がハイテンションで出迎えてきた。

うわぁ訳のわからんやつが来やがったよチクショウメ……

 

「オおおオキャクサアンおヒトリサマー!??」

「ああ、はいそうです」

 

私が心底疲れた表情で返事を返すと、ハイテンションの店員は更にハイテンションになり……

 

「はあああい、サマーバケーショーン!!! アナタノ部屋はこっこおおおおお!!!! コケコッコオオオオオオ!!!!」

 

もう訳のわからん奇声を上げながら

部屋を案内しだした。

しょうもないことが起こるなと願った矢先にこれである。

こいつが鶏だったら今日の晩飯にしてやるのにと、私は心から思う。

 

「んうちのヤドハンミリョウですがああああ、ゴハンはソチラデゴヨヨウイネガイマアアアスふぉー!!!」

「あー、はいわかりました」

 

はよどっかいけ!

 

あれから20分ぐらいあのクソヤロウはこの場にいて、部屋の説明をしだした。

こいつが魔物だといいのにな~っと思いながら、真顔で見ていた。

ユイさんも死んだ魚のような目で見ていた。

多分、昔はあんな店員は居なかったのだろう。

ユイさんのあんな死んだ目は始めてみた。

いや、出会ってそんな日はたってないけど。

 

「すまぬ。龍輝、昔はあんなアホは居なかったのじゃ」

「いえいえ、ユイさんのせいじゃないですよ!」

 

謝罪するユイさんに内心意外に思ってしまった私であった。私は手を振ってそんなことないと言った。

 

あのハイテンションクソヤロウのせいで疲れがどっと来たので、飯を食わずに布団を敷いてそのまま寝た。

歯磨きせず、風呂にも入ってなかったが、もうそんなの明日で良いやと投げ出すほどに疲労感がきたのだ。

明日こそ何も起こらないことを願いながら。

いやあのハイテンションがいる限り、そうはならないのだが……。

 

 

 

朝の9時

 

めっちゃ心地のよい至福のときを過ごしていたのに、あるアホのせいで妨げられた。

 

「じりりりりりりりん!!!! さあ起きよう!!!朝だよコケコッコオオオオオオ!!!!」

 

そうあのハイテンション野郎である。私は意地でも起きぬと、布団に潜り込むが……

 

「こっこおおおおお!!!!コケコッコオオオオオオ!!!!ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

この野郎はわざわざ布団の隙間から大声でモーニングコールをしやがった。

 

「あああああああああああああああああ!!!!???」

 

私は鶏の大鳴き声を食らったように、打ち上げられた魚のように飛び上がり、左耳を押さえて悶絶する。

正直言って、マジでミンチよりひでえことにしてやろうと思った。

 

「おー……」

「あー……」

 

大声で起こされた俺とユイは目を擦り、左耳を押さえながら風呂に入って歯を磨き、宿からでた。

 

「もう、金輪際この店にはよらぬ」

「ああ。最悪だ……」

 

だいたいあいつのせいで疲れが取れていない状態で、更に追い討ちをかけるかのように、とあることが起こった。

 

「あら?あなたもしかして、英雄さんですか?」

「え、あ、はい」

 

誰かが声を掛けてきたので、私は振り返るとそこには、15世紀の西欧の服飾を彷彿とした、村娘全開の服を来た可愛らしい女性がいた。

 

「はいはい、なにかようです?」

「お願いをきいてもいいですか?」

「ええ、大丈夫ですけど……」

「あの、巨木の森で薬草を採集したいのですが……」

「あぁ、護衛的なやつですか?」

「はい! お願いします!」

「ええ、構いませんよ。いまからですか?」

「ええ、お願いします」

『わ、ワシはデモーアルーの市場でブラブラしておるから、終わったら市場に来てくれ!』

「あ、ちょ!?」

「英雄さま?」

「あ、いや。了解しました」

 

ユイさんは、なにやら慌てた様子で市場へと消えていった。

なんやなんや?

訳が分からなかったが、村娘さんを待たせる訳にもいかず、私は頭に疑問を残したまま、巨木の森に向かった。

 

 

 

巨木の森←デモーアルー

 

 

 

朝だというのに、相変わらず薄暗くて不気味だ。

 

「ここ、薄暗くて不気味ですよね」

「そうですね。あー、失礼承知の上で聞きますけど、お名前は?」

「私ですか? 私はマリアです」

「マリアさんですか、私は龍輝です。ところで、マリアさんは何故薬草を?」

「それは……」

 

[暑くなれよおおおおお!!!!]

 

大声をあげて草むらから飛び出す魔物、その聞き覚えのあるセリフに私は瞬時に持っているハンドガンを構える。

構えたは良いのだが、間抜けなことに弾を装填するのを忘れてた。

 

「(やっばい………どーっしょ……)」

 

取り敢えず、マリアさんを私の後ろに避難させつつ、辺りを見渡しながらマガジンを取り出す。

 

[もっとやれる!!! お前ならできる!!!!]

 

取り出した瞬間、イータープラントは大きな口を開けて、私に襲い掛かる。

 

「っち……」

 

舌打ちをしつつ、私は急いでマガジンをハンドガンに入れて、リロード。

 

「……!!!」

 

襲い掛かるイータープラントの口内に弾丸を3発撃ち込んだ。

 

[そう!!! もっとお前ならできる!!!!]

 

吹っ飛ばされながらも、イータープラントは私に励ましの声援を送り続けてくる。

これがまぁ調子狂うんだよな……。

 

しかしチャンスである、私は更に吹っ飛んだところに4発の弾丸をぶちこんだ。

 

[終わったぜ……真っ緑にな……]

 

何処かで聞いたことのあるセリフを吐いたイータープラントは、そのまま動かなくなった。

 

「ふぅううううう……焦ったぁ……」

「流石です英雄さま!!!」

 

パチパチと拍手をするマリアさん。

ニッコリとした笑顔で、癒されてしまう。

 

「ありがとうございます。それで、薬草の場所は?」

「えーと、もう少し先に進んだところに生えてあります」

「わかりました。早く向かいましょう」

 

私とマリアさんは早歩きで、その場所まで向かう。

 

「そいで、マリアさん、なぜ薬草を?」

「それは、いま弟が風邪で寝込んでいて……」

「あー、それはそれは……」

「普段は市場に行って薬草を買うのですが、今日は薬屋さんおやすみで……」

「あー、なかなかタイミングの悪いな……」

「ですから、私が薬草を取りに行こうと思ったんです」

「なーるほど」

 

ご家族の方は?

とかちょっと聞きたかったけど、さすがにダメかと思って踏みとどまった。

 

[乗るしかない!!!!]

 

「!!!」

「え?」

 

[このビッグウェーブに!!!!]

 

突如物陰から姿を表したルーガに私とマリアさんは一瞬たじろいだが、私はすぐにマリアさんを守るような態勢をとって、武器を構えた。

 

「うわぁ……」

 

他にも木々の間や草むらからゾロゾロと現れるルーガの群れ。

やーばい……。

 

「めっちゃいるじゃん……」

「そんな……薬草までもう少しなのに……」

 

昨日は、逃げたけど……。

今回は……。

一時的に撤退するか……。

 

私が頭をフル回転させて考えていると、突然ルーガたちの表情がみるみる内に恐怖の表情に変わっていく。

 

「「え?」」

 

私とマリアさんは訳がわからなかった。

辺りを警戒するも、ルーガ以外に敵はいない。

そして、突然……。

 

[にげろおおおおおおお!!!]

[大陸なんてあてにしちゃダメ!!!!]

[うわああああああああ!!!!!]

 

ルーガたちは声をあげて森の奥深くに逃げていった。

 

「何が……?」

「わ、わかりません……」

 

私はハンドガンをリロードしていつでも発砲できる態勢をとる。

マリアさんもキョロキョロと辺りを見渡している。

……いまかなり不気味な状況だ。

あのルーガの恐怖に支配されたような表情は尋常ではなかった。

得体の知れないモノを見ているかのような……。

一気に鳥肌が立ち始めた。

 

「マリアさん」

「は、はい」

 

私はマリアさんに話しかけた。

 

「……申し訳ないですが、一旦戻りましょう。この状況では薬草採集は危険です」

「そうですね……」

 

私とマリアさんは一時撤退をすることにした。

デモーアルーの道のりを走って逃げるように向かった。

 

 

 

 

 

 

『…………………………………………………………………………………………………………』

 

 

 

輪廻の闇英雄 朱雀龍輝やマリアには、見えていない。

 

 

 

 

 

 

 

巨木の森→デモーアルー

 

 

 

巨木の森を無事に抜けた私とマリアさん。

 

「薬草……残念でしたね……」

「はい……。英雄さま、ありがとうございます」

 

マリアは作り笑顔でお辞儀をした。

それが、私の心を締め付けた……。

頭より先に身体が動いた。

 

「ここで待っていてください。私一人で薬草をとってきます」

「え!?」

「薬草の姿形、生えている場所を教えていただけると幸いです」

 

私はマリアにそういった。

あー、これ森のなかで後悔するやつや……。

私は心のなかでそう呟いたが、遅すぎた……。

しかし、マリアさんは申し訳無さそうに「危険です。お止めになってください!」と制止する。

 

「いえ、いってきます。薬草の特徴を教えてほしいです」

 

ダーメだ。

やっぱり、言った手前、制止する言葉なんて私にはただの加速装置でしかない。

因みに多分、マリアさんが男性でもこの件はあっただろうと想像する。

責任感が強いのか、ただのバカなのか……。

自分でもわからん。

ただ、困ってる人を見過ごしたら、後でバチが当たるんじゃないか。

とか、絶対に後で後悔する「あの時助けてあげればよかった」とか。

私の事だから、そのことで3日から5日程は、苛まれるであろうことは、火を見るより明らかだからだ。

結局のところ、行ったら行ったで「行かなければよかった」と後悔をして、行かなかったら行かなかったで「薬草ぐらい私が取ってくればよかった……」と後悔する。

行くも地獄、引くも地獄。

正にこれである。

 

「では、これを……」

 

マリアさんは紙に薬草の絵を描いてくれた。

めっちゃ綺麗でわかりやすい絵だ。

 

「ありがとうございます。では行ってきます」

 

そう言って、私は全速力で巨木の森に駆け込んだ。

 

 

巨木の森←デモーアルー

 

 

 

「あー、なんちゅーこったよ……」

 

案の定は、私は薬草を取りに行くと言ってしまったことを痛烈に後悔していた。

 

「……さて、薬草だが……」

 

私は独り言を喋りながら、紙に描かれた薬草の形を覚える。

 

「……あれ?」

 

紙を見つめながら歩いていた私だが、少しだけ違和感を感じて、足を止めた。

 

「……」

 

静かすぎないか?

何も聴こえてこない……。

木々の揺らぐ音や草むらのざわめく音も、何も聴こえてこない。

 

「……」

 

私は何か変な恐怖を抱き、全速力で薬草の場所まで走り出した。

 

「あの日諦めた夢はまだー!!!」

 

恐怖を払拭するために、私は走りながら、とあるゲームの歌詞を大声で叫びながら薬草の場所へと走る。

怖すぎる……。

 

「走って走って、息を切らして……!!!」

 

歌いながら全力でダッシュする。

そして、マリアさんの言う場所にたどり着いた。

 

「ふうついた……怖かった……」

 

私は何も起こらなくて良かったとホッとして辺りに生えてある薬草を採集することにした。

 

「量はこれくらいか……?」

 

取り敢えず、袋いっぱいに薬草を詰めこんだ私は、立ち上がってデモーアルーに戻ろうとした。

すると、近くの草むらがガサガサと動き出した。

 

「!!!???」

 

私はあり得ないほどのスピードで振り返る。

 

「……」

 

私は恐る恐る、音がした草むらに近づく。

もちろん、ハンドガンをリロードして構えてだ。

 

「……」

 

誰もいない。

気のせいか……。

私は早いとこ戻ろうとした時に、あるものが地面に落ちているのに気づく。

 

「え?」

 

そこに落ちていたのは、私が昨日投げ捨てた剣だった。

しかし、その剣はバラバラへし折られていたのだ。

 

「……!!!」

 

ゾワリと寒気を感じ、全身に鳥肌が立つ。

なぜ、こんなボロボロになっているんだ……。

更に私は、自分自身に起こる異変に気づく。

 

「あれ……?」

 

私は涙が止まらなかった。

ポロポロと涙が溢れ落ちる。

訳のわからない恐怖に支配された私は、薬草を持って無言でデモーアルーに走り出した。

 

この森はやばい……絶対にやばいなにかがいる。

私は後ろを振り向かず、一目散に走り去った。

 

 

『…………………………………………………………………………………………………………………』

 

 

 

 

 

 

 

巨木の森→デモーアルー

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ!!!」

 

私は息を切らしながら、デモーアルーに戻った。

 

「え、英雄さま大丈夫ですか?!」

 

マリアさんがあわてて私の方に駆け寄る。

私は、息を切らしながら「大丈夫ですよ。それより薬草を取ってきました」と言って、薬草が詰まった袋をマリアさんに渡した。

 

「こ、こんなにたくさん……。ありがとうございます!!! 感謝してもしきれないほどです!!!!」

「いえいえ」

「あの、報酬です。お受け取りください!!」

 

そう言って、マリアさんはお金らしき硬貨を取り出した。

しかし、私はそれを受け取らなかった。

 

「その硬貨で弟さんの好物を買ってやってください」

 

私はそういった。

マリアさんは涙目になって、必死にお礼をしていたが、私は先程の事が気になりすぎて頭に入ってこなかった。

 

「マリアさん……」

 

私が、さっき起こったことを話そうとした時だった。

巨木の森から三人の英雄らしき人々が和気あいあいと話をしながら出てくるのを見た。

 

「どうしましたか? まさかあの森で何か」

「あ、いえ、別に……。それより、早く弟さんのところに行ってあげてください」

「あ、はい。英雄さま、ありがとうございます!!!」

 

マリアさんと別れた後、私は先程巨木の森から出てきた三人の英雄らしき人に話しかけた。

 

「あの、すみません」

「ん? どうした?」

「えーと、先程巨木の森から出てきましたよね?」

「おう」

「出てきたがどうかしたか?」

「えーと、何か変わったことはありませんでしたか?」

 

私がそう訊ねると、三人の英雄たちは互いに目と目をあわせて「いや、特に変わったことはないな」「ああ、ルーガやイータープラントがうざいほど出てきたぐらいだ」「森のざわめきがあって、心地よかったわね」と言った。

 

「そう……ですか」

 

私が経験した事とは全く違う返答だった。

あれはなんだったんだ?

そう思うと余計に不気味に感じてしまう。

取り敢えず、私は三人の男女に「ありがとうございます」と言って、ユイさんが向かった市場へと走った。

 

 

 

『おー、龍輝どうじゃった?』

「いや、見事に依頼は達成できましたけど……」

『けど?』

「いえ、何か不気味な気配が」

『不気味な気配?』

 

私は先程起こったことをすべて、ユイさんに話した。

それを聞いたユイさんは「うーむ」と考えたかと思えば「もしかしたら」と言った。

 

「……???」

『デモーアルーには、とある眷属が封印されておる。もしかしたらそれが影響して……』

「……それヤバイやつですよね?」

『うむ。まぁ、龍輝にはまだ早いことじゃ、気にするでない』

「そうですかー」

『それより、これからどうするつもりじゃ?』

「飯食べたい」

『お金は?』

「……ない」

『……』

「……」

 

私とユイさんは無言で見つめ合う。

 

『薬屋も運の悪いことに、市場にいないからイータープラントの根も売れない……参ったのぅ……』

「ですね……」

 

私とユイさんが困っていると、店のふっくらとしたおばちゃんが声をかけてきた。

 

「あんたお金に困ってるのなら、少しの間だけ店番をお願いしたいよ!!」

「み、店番ですか?」

「そうだよ! ちょっと用事があってね! お願いできるかい?」

「え、ええ。まぁ……大丈夫です」

 

私はそう言うと、おばちゃんは私の腕を捕まえて店に引っ張り混んだ。

 

「じゃあ、頼んだよ!!!」

 

そう言って、おばちゃんは何処かへ行ってしまった。

 

「oh.....」

『龍輝頑張るんじゃ!』

「ユイさんも手伝ってくれても?」

『嫌じゃ』

「そうっすか……」

 

私はため息をついて、店員のバイトらしきことをすることになった。

 

「お兄さん、これとこれお願いします」

「おい、兄ちゃん、この食材いくらになる?」

「お兄ちゃん、これください!」

 

一時間ほど、私はお客さんとある意味での戦闘を繰り広げた。

そして……。

 

「ありがとー!! あんたのお陰で助かったわ!!!」

 

おばちゃんは上機嫌で私の背中をバンバン叩いた。

私は痛みに耐えながら、愛想笑いをする。

 

「はい、少し色をつけておいたわ! これで何か美味しいご飯を食べてお行き!」

「あ、はい。ありがとうございます!!」

 

そう言って、豪快に笑いながら店に戻っていった。

その後、私はユイさんにデモーアルーのオススメの料理屋を聞いて、その場所へと向かった。

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

そう言って、私は店を出た。

お腹いっぱいになったし、お金も充分にある。

私は、このままデモーアルーを出ようとしたが、デモーアルーの住人たちに色々と頼み事をされてしまい、全てが終わったときには夜になっていた。

 

『お疲れ様じゃったのぅ……』

「ああ、まさかあんなに頼み事をされるとは予想外やった……」

 

逃げた犬探しや、買い物のお使い、子供の子守りに、色々とやられた。

静寂に包まれるデモーアルーを歩く。

街灯が淡い光を放っており、昼の活気ある街とは対照に静かで幻想的な雰囲気に包まれる。

私は宿を探しており、不運にも全ての宿が満席だった。

 

「最悪だ……」

 

私はノッソノッソと歩いていた。

 

「今夜は野宿やなー」

 

私はそう呟いて、野宿ができそうな場所を探そうと考えていると、ユイさんの声が聞こえた。

 

『たつきー!!』

「おん?」

『宿を見つけたぞ!!』

「マジで!?」

 

奇跡だ!!

私はこの時、私に近づいてくるユイさんが女神にしか見えなかった。

私はもう驚きと笑顔が混じった希望の顔で目をキラキラ光らせながら、ユイに聞く。

 

「そこに案内してくれ!!」

 

私はユイに鬼気迫る表情で訊ねる。

しかし、ユイは苦笑いで目を反らした。

 

『まぁ、空いてるには、空いてるのじゃが……』

「??」

『いかない方が……』

「なんだっていいよ!! 宿に入れれば!!!」

『なら、そこにするか』

 

私はユイさんに連れられて、その宿へと向かった。

 

 

 

「らっっっっしゃいあせええええええおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

「……」

 

咆哮がおれの耳を貫通する。

止まれる宿って……ここかよ……。

またあの、ハイテンション鶏野郎だよ……。

 

「お、お、おー。おおーおーおーお!!! お客さまきののののののののおおおおおおおおも会いましたねえええええええええええええええええ!!!!!!!いらっしぇえええええええええええええええええええい!!!!!!!!!!」

 

鶏が歩くような挙動で悲鳴をあげる。私は特大のため息をはく。

すると俺のため息をみたこのアホはスススット私の方にきて、俺の顔をじっと見つめる。

 

「ど、どうしました?」

「お、お、お、おー、お、お、おおー。おおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

突然オペラを歌い出す。

こいつマジでなんなんだよ!!!?

 

「お客さまおおおおおおおおおおおおお!!!! おつかれでございますねんんんんんんんんんん!!!!!!!」

 

あんたのせいだよ!!!!

苦笑いをして誤魔化すが、正直言って、まじでぶん殴りたかった。

 

「だけど、あんしんしてくださあああああああああああああああああい!!!!!!」

「へい?」

「ここはンムリョウノやどやあああああああああああああああ!!!!!!」

「ええ、知ってますよ。昨日も来ましたし」

「ですがですがああああああああああああああああ!!!!!」

「……」

「もう一度せつめいしますねえええええええへへへへへへへへへへ!!!!!!!!」

 

コイツクスリ決めてるだろ!!?

なんなんだよまじでこいつ!!!

見ろよ!!ユイさんの顔を!!

死んだ魚の目をしてるよ!!

マジで生ゴミというより、排泄物を見るような目をしてるよ!!

おい鶏気づけよ!!

 

「さぁ、オヒトリさまーですねえええええええええええ!!!」

「ええ、ええ、ええ……なんでも良いから早く部屋を案内してください」

 

もう私のいまの頭の中は、休むことより、どうやってこの鶏を今日の晩飯にしてやろうかということでいっぱいだ。

 

「オヒトリいいいいいいいさまーばけえええええしょおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!」

 

もう、説明する気力すらないわ……。

鶏は両手をバタバタとして、マジで鶏なんじゃねえかと、疑いたくなる。

 

「ではあなたのお部屋はあちらですううううううううう、赤白黄色ふおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

アァもう、勘弁してくれ……耳がいたい。

ちょ、もう夜遅いんだから頼む……。

 

「クゥルッフウウウウウウウウウウウ!!!!コケコッコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

鶏と鳩の鳴き声をあげながら案内する。

さっきから耳鳴りが凄い……。

 

「コケコッコオオオオオオオオオオオココデスヨオオオオオオオオオ!!!!!!!!」

 

雄叫びをあげる鶏。

耳がいたい。

もう私は真顔で話を聞いていた。

 

「ありがとおおおおおおおおおございまああああああああああああすふおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 

腹立ったから、私も大声をあげて鶏と同じテンションで感謝する。

 

『(龍輝よ、ついに頭がイカれたか……)』

 

すると、鶏の店員は、目を丸くしてこういった。

 

「お客さま……頭は大丈夫ですか?」

 

「コイツ頭可笑しいんじゃねえの?」みたいな表情で俺の方を見つめる。

 

……あんたにだけは……言われたかねえええええええおおおおおおお!!!!!!

 

私の心の中の火山が爆発を起こした。

 

「あ、あはははは……ちょっと疲れたので、俺でお休みしますね。あははははは」

「病院を案内しますよ?」

「あーいえいえ結構ですよお?」

 

そういって私は扉を閉めた。

もう、怒りなんぞ優に超えて、笑えてくる。

多分いまの私は仏にでもなってるんじゃないかと思えてしまう。

 

『龍輝よ。よく耐えた!!』

 

称賛と拍手をするユイさん。

嬉しくねぇ……。

 

「あー、疲れた……」

 

ベッドを敷いた私は直ぐ様眠りについた。

 

 

 

 

朝の7時

 

 

 

朝……。

朝です……。

もう分かってると思いますけど、あの鶏に叩き起こされました。

耳がぐあぁんとして、意識が朦朧とする中……。

水を浴びて、歯を磨き、宿を出た。

まだ耳がキーンと金属音を打たれたような音がなっている。

私は亡霊みたいにのっそのっそと歩きながら、デモーアルーを出ようとした。

これ以上ここにいたら、また何か小もないことが起こりそうだと思ったからだ。

そして、それはものの見事に的中する。

突然、私に声をかける人がいた。

嫌な予感がしつつも私は振り返る。

 

「急に声をお掛けして申し訳ない。私はランカンと言います」

「はぁ……」

『ランカン、このデモーアルーを指揮する将軍じゃ……』

 

ユイが耳元で小声で説明をした。

それに私は嫌な予感が更に強まる。

 

「なるほどね……」

「突然ですか、英雄殿」

「はい」

「邪悪の眷属、アークヘイロス・ギルファーの討伐をお願いできますかな?」

「はい???」

 

 

 

 

 

 

続く




突然ランカンと呼ばれる将軍に邪悪の眷属を倒してくれとか言う無茶振りを言われた私。
まぁ、アークストーンが手に入るかも知れないということなので、その討伐に受けたのはいいけど……。

案の定後悔した。


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12話 壊城に座する眷属の巨神

アークヘイロス・ギルファーに挑んだ私であるが、とんでもないものだった。
あまりの強さに私は心が折れた。
そして、そんな情けない姿を晒した私に、ユイさんは衝撃の発言をした。

更に、私の財布の中に入れてあったとあるカードゲームの1枚のカードが光を放った。


 

 

 

 

 

「あ、アークヘイロス・ギルファー……ですか?」

『……』

 

ユイさんの表情が険しくなる。

邪悪の眷属……名前からして大ボス感満載である……。

それ……大丈夫なの? 私が倒せるものなの?

私は心のなかで不安を散らかしていると、ユイさんが口を開く。

 

『ふむ……アークヘイロスか……』

「強いんで……?」

『当たり前じゃろう……。邪悪の眷属の一人じゃ。じゃが見事ギルファーを倒せばアークストーンが手に入り、元の世界に戻れるやも知れんぞ……?』

「マジで!?」

 

ユイさんの衝撃発言に、おもわず私は声をあげてしまった。

それにランカン将軍や回りの人が一斉にこちらを見る。

 

「英雄殿、どうされました?」

「え? あ、いえ。それでギルファーはどこに?」

 

私はランカン将軍に聞くと、ランカン将軍は、とっくりを取り出し、私に見せる。

陶器でできた、よく見るとっくりだ。

ランカン将軍が言うには、このとっくりの奥底に閉じ込めているらしい。

とっくりの中は、眷属の力をある程度封じる能力があるが、その封印も次第に弱り、最後には封印が解かれるらしい。

封印が解かれる前に何としてでも倒さなければならない、とのこと。

 

そして、この中に入ることで、ギルファーのところに行ける。

 

「とりあえず、行ってみるかな……」

「英雄殿。ご武運を……!!」

「で、どうやってとっくりの中に入るんですか?」

「とっくりの口元に手をかざせば入れますよ」

「わかりました」

 

私はとっくりの口元に触れて、そのままとっくりの中に吸い込まれた。

 

 

 

とっくり内部

 

 

 

「ここがとっくりの中か……」

 

岩肌に囲まれ、地面の亀裂からは紫色の霧を出しており、何とも言えぬ異質感をだしていた。

いま自分がとっくりの中にいるという感覚が全くない。

 

『そうじゃな』

「おーユイさん」

 

どうやらユイさんもとっくりに入ったようだ。

いつもより険しい表情をしている。

 

「ユイさんも一緒に戦ってくれるんで?」

『たわけ、ワシは戦えぬ』

「そうっすか……」

『それより、お主、そんな武器で大丈夫なのか?』

「しらねー」

『……』

 

ジトーっとした目付きで私を見つめてきた。

とりあえず、私は光が差す所へと歩いた。

光がある所へと向かうと、黒い魔法使い帽を被り、黒いローブを身に纏った美少女がいた。

如何にも魔法使い風貌をしている。

 

「あれが、ギルファー?」

『たわけ違うわ!』

 

 

 

 

 

「へえ~? アンタが次の研究材りょー……じゃないじゃん★ 英雄候補ね~」

「!?」

 

とんでもねえ一言が聞こえた気がするけど、まぁ、幾千あるうちの1人と考えれば、研究材料と見られても仕方ないかな?っと私は自分で解釈する。

 

「コレね?コレチョー自慢の傭兵カードなの~。邪悪の眷属なんてゴミ同然のイチコロだからマジで!!」

 

そういってナオミというギャル魔法使いは私にあるカードを渡す。

 

「これは?」

 

私は珍妙奇天烈な物質を見た奇怪すぎる表情でナオミさんに聞く。

ナオミさんはギャルッギャルの言葉で言うので、よくわからなかったが、要約すると、こうである。

 

このカードは自分が作り出した新しい武器で、ボッチ英雄にぴったりの代物らしい。

なんでも念じると、そのカードに描かれたモンスターが召喚されて共に戦ってくれるという。

しかし、まだ試作品段階で、制限時間があるらしく、それを過ぎると召喚されたモンスターは消えてしまうらしい。

そして、再度召喚するにもある程度のリキャストが必要と。

 

なるほど……。

 

 

 

私はそれを手に取り、邪悪の眷属への場所を聞くと、ナオミは「あっちの奥よ! さ、どんどん奥へ行っちゃって~!」と言いながら強い光を放つ方を指差す。

私はカードを持って、ユイさんと共に向かった。

大丈夫、何とかなる。

そう言い聞かせて俺は不安と緊張で張り裂けそうな心臓を押さえて光の中へと入った。

二人が光の中へ行った時、ナオミはあることに気づいた。

 

「あ、渡すカード間違えちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

ギルファーがいる空間。

そこはかつて栄えていた感じの廃城があった。

空は曇っており、所々で雷鳴が鳴っている。

周囲は山で囲まれて、結構不気味だ。

更にあちこちには、ギルファーに敗れたであろう、英雄たちの屍が無数と散らばっていた。

そんな中に私は放り投げられる。

 

「どあああああああああ!!??」

 

光から抜けると、なんか知らんけど落下していた。

そして、地面に叩きつけられる私。

めっちゃいたい。

私は、幸先の悪さに深いため息をついていると……。

 

[ヴゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!]

 

「!?」

 

何処からかドスの効いた低い叫び声が響き渡り、心臓が止まるかというぐらいに飛び上がる。

多分、あの叫び声がギルファーの声なのだろうと考えた。

そう思うと背筋がゾクッとして、手足が震えてきた。

 

「……まぁ、ナオミさんが言ってたカードがあるし、なんとかなるよな……」

 

必死に心に言い聞かせる。

じゃないと心臓が張り裂けそうだ。

 

『龍輝後ろ後ろ!!!』

「はえ?」

 

ユイが血相変えて必死に私の後ろを指差す。

私は後ろを振り向き、唖然とする。

開いた口が塞がらない状態だった。

そこにいたのは黒い鎧、黒い甲冑を身に纏い、自身より倍あるハンマーを持った怪物がいた。

 

「こいつが……ギルファー…………」

 

私はあまりの気迫に圧倒されて後ずさる。

恐怖で足が震え、動くことができなかった。

 

[では、始めよう。史上最高の闘争を!!!]

 

「あっ……あ……あぁ……」

 

ギルファーは雄叫びを上げながら、巨大なハンマーを振り上げた。

しかし、私はそれを見つめるだけで、動こうとしなかった。

正確にはできなかった。

 

『龍輝!!!』

「え?」

 

ユイの呼び声で正気を取り戻した私はギルファーの方を見る。

 

「え、やばい!!!??」

 

危機を察知した私は全速力でその場から離れる。

ギルファーのハンマーが降り下ろされた。

その鉄槌は地面に直撃し発生した衝撃波は、この場所全てを薙ぎ払った。

 

「やべえええええ!!!!」

『いいから早く呼び出せ早く~~!!!』

 

必死で逃げ惑う私にユイは大声で指示する。

私は先程もらったカードを地面に置いて召喚。

6体の騎士たちがギルファーに臆することなく挑み掛かった。

これで一安心、そう思った俺が甘かった……。

 

[無駄だ、であああああああ!!!!]

 

ギルファーの攻撃は想像以上に過激で、ちょっとの攻撃で騎士達が完膚なきまでに打ちのめされた。

 

[英雄様のためなら……この命……喜んで、ささげる……]

[我が……人生に……悔い……なし]

 

「は?」

 

私は彼らや彼女らが傷つき、一方的にやられるのを見ているだけだった。

助けに行かなければと思っていても足が動いてくれない。

 

『どうした、加勢してやつを―――』

「……むりやろ……」

『え?』

「あんなの、私が倒せるのか……」

『何を言って……』

「あんなやつ、私が倒せる訳が……」

 

無理だ。

無理すぎる。

ナオミさんが、眷属なんてゴミ同然と言っていた最強のカードが、ギルファーによって壊滅寸前まで追い込まれた。

絶望的な状況に弱音を吐く私。

サイコガンダムの非ではない……。

無理かもしれん。

 

『たわけ!! それでも英雄か!!?』

 

すると、ユイは怒りの声をあげる。初めての怒声に、私は思わずビックリする。

私は涙目で怯える表情を見せるのが嫌でずっと俯いていた。

 

『アヤツたちは、お主でも英雄と思い、戦っているのじゃぞ!?』

「じゃあ、ユイさんが戦ったらええやろ!!!」

『ワシは戦えぬと言ったじゃろ!!』

「なんで!?」

『ワシの肉体は、この世界には存在しないからじゃ』

「……は……?」

 

予想だにもしなかった一言に思わず涙目の顔のままユイさんの方を見た。

そこには俯き、拳を握りしめたユイの姿があった。

俯いているので、表情は見えない。

 

『邪悪が復活したとき、ワシはアークストーンの欠片を使い、お主らの世界から人々をこちらに送り、戦力の増強を考えた。かつて女神イクスが行ったように……』

「……」

『結果はお主らの世界から人々を召喚することに成功した。しかし、女神イクスがいない状態で……しかも欠片のアークストーンでそれを行った代償は大きかった』

「……」

『ワシの肉体は別の異次元へと飛ばされ、意思はそちらの世界へと飛んだのじゃ』

 

俺は思わぬ発言に黙り込むしかなかった。ユイは更に続ける。

 

『そして、ワシは最後の魔力を使い、この世界にワシの幻想を作り出した。つまり今のワシは幽霊と言っても過言ではない。もうじきワシの肉体は滅びるじゃろうな……』

「マジで言ってる?……」

『ここにいる神官以外のやつらは皆ワシのことは見えておらん』

「……!!!」

 

その時私はあの商人やランカン将軍のことを思い出した。

そういえばそうだ。

確かに私がユイさんと会話しているとき、あの二人や、街の皆は不思議そうに俺のことを見ていたし……。

更に、あの鶏ハイテンション野郎の初めの一言を思い出す。

 

 

 

『オおおオキャクサアンおヒトリサマー!??』

『ああ、はいそうです』

 

 

 

私はあのとき、あまりの疲れで適当に返事を返したけど……。

あいつはお一人様と言っていた……。

 

『だから、ワシはランカンの時、小声で喋ったのじゃ。お主のことじゃから、小声で返してくれると予想しての』

「……そうだったのですか」

 

 

 

『それよりお主、早く加勢せぬか!!』

「……!」

『あいつらにとっては、こんなお前でさえ、英雄として思い……戦っているのじゃぞ!!』

 

[がぁ……]

[英……雄……さ、ま]

 

「…………ああああああああもおおおおおおおお!!!!!」

 

少女の姿をした騎士が苦しむ姿を見て、私のうちにある何かがプツリと切れた。

あー、もうええや、もうどうにでもなれ!!!

私は大声を上げながら周りにあった剣を一本だけ手にとって走り出した。

 

「であああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

私は全力でギルファーに切りかかった。

しかし、ギルファーはそれを指で受け止め、弾き返した。

 

「ぐぅお!!!」

 

私は地面に叩きつけられ、さらに剣は真っ二つに砕け散った。

 

「つ、つえぇ……」

 

[英雄よ。お前の力はその程度か?]

 

「知らんがな!」

 

私は辺りをキョロキョロと見渡す。

水は……あー、ない……。

雷鳴ってるけど、落ちてくる気配なし……。

炎も……ないか……。

私は、魔法を使うための媒体を探した。

しかし、見つからずにガクリと肩を下ろした。

 

[なら、お前も他の英雄と同じく、砕け散るがいい!!!]

 

ギルファーは大きく飛び上がり、ライダーキックを私に目掛けて放つ。

 

「うわっ!!?」

 

間一髪、私は後ろに退避したので、肉塊になることは何とか免れた。

ライダーキックの衝撃で巻き上げる砂煙や石ころが私に直撃する。

 

「うお!?」

 

私は咄嗟に目を覆い隠し、砂煙や石から身を守った。

だが、私はあることが脳裏をよぎる。

 

「もしかして……!!!?」

 

私は砂煙や石を触れて、それを念じた。

すると、何やら力がバキバキと沸いてくるのを感じ取れた。

 

[うるああああああああああ!!!]

 

ギルファーは私に目掛けて拳を振るってくる。

 

「ばああああああああ!!!!」

 

私は地面を思いっきりぶん殴った。

すると、ギルファーの足元の地面がグラグラと揺れ始める。

ギルファーも何かを察したようにその場から離れようとした。

しかし、遅かった。

足元の地面が盛り上がり、そのまま地面が爆発を起こした。

その地盤は粉々に砕けながら、宙を舞う。

避けきることができなかったギルファーも宙を待って、そのまま地面に叩きつけられた。

 

「使えた……!!!」

 

自然の魔術。

土や砂を吸収することで、おそらく、地か土の魔法が使用できるようになったのだろう。

しかし、やはり制御することが完全とは言えず、身体から砂煙が漏れ出ていた。

 

[ぐはぁ……。はっ……ははは、それが英雄の力か……。面白い!!! 面白いぞおおおお!!!!]

 

ギルファーは高笑いをしながら、攻撃の予兆を見せた。

私はそれを見逃さず、すぐに拳を地面に殴って、ギルファー周辺の地盤を沈下させる。

ギルファーはよろめいて、倒れそうになった。

私はその隙をついて、周囲にある剣を一本拝借して、ギルファーに斬りかかる。

土の魔術を得ているお陰か、いつもより数倍の力が出たお陰で、鎧を貫通し肌に直撃した。

 

[どうやら、俺と戦う気になったようだな!!!]

 

ギルファーはニヤリと笑みを浮かべる。

このまま押し通せばいける!と思った私が甘かった。

ギルファーは持っているハンマーを横に振っていた。

 

『龍輝よけるんじゃああ!!』

 

ユイが必死に叫ぶが、予測可能回避不能。

そのまま巨大なハンマーが私の身体の左横に直撃、吹っ飛ばされて、城壁にぶち当たる。

全身に焼けるような痛みを感じ、声のない叫び声をあげる。

 

「ーーーーー!!!!」

 

私はあまりの痛みにのたうち回った。闇英雄になっていなければ、脳震盪とかを起こして確実に死んでいただろう。

しかし、それ込みでも少し車酔いしたかのような感じに襲われる。

 

「っかぁはぁ……!!!」

 

口から大量の胃液を吐き、悶え苦しむ。

この時、私は召喚した騎士たちはこのような痛みをさっきから感じていたのか、と痛感した。

 

[英雄さまを……守るんだ!!]

[私たちの身に代えても!!!]

 

私が感じた痛み以上のダメージを受けているのに、騎士たちはそれでも主である英雄を守ろうと、自らを盾となろうとしていた。

それを見た私は、涙を流した。

例え召喚した騎士であっても、あんなボロボロになりながらも、自身の為に命すらも投げる女の子を見たからだ。

私は情けなさ、不甲斐なさを感じた。

 

[愚かな……!!!]

 

ギルファーはそう言うと、物凄いスピードで騎士たちに襲い掛かろうとした。

しかし、盾となろうとしている騎士達の体が光を放ち、消えていった。

結果、ギルファーの攻撃は空振りに終わる。

 

「な……まさか……」

『時間……切れじゃ……!!』

「ッチッ……いや、やるしかない!!!」

 

それでもやるしかないと感じた私は、手のひらから大きな岩石を作り出して、それをギルファーの持っているハンマーのヘッド部分に撃ち込む。

ギルファーは、それに怯みハンマーから手を離してしまう。

 

「今じゃあああああああああ!!!!!」

 

私は巨大な石をいくつも作り出して、地面に落ちたハンマーを封印するように覆い隠した。

 

「これで、お前のハンマーは使えない!!!!」

 

[いいぞ!! 面白い!!!。もっと心震える闘争を!!!!]

 

ギルファーはほんの一瞬怯みながらも、楽しそうに拳を私に振るう。

 

「あああああああああああああ!!!!」

 

私は巨大な分厚い岩壁を生み出して意地でも、ギルファーの拳の衝撃を和らげようと試みる。

拳が岩壁に命中し、岩壁がバラバラに砕けながら、私は吹き飛ばされた。

岩壁がなければそのまま大怪我待ったなしだ。

 

「ったぁ……!!!」

 

それでも私は膝をつき、攻撃の手が止んだ。

 

[どうした英雄よ!!! よもや終わりと言うまいな??]

 

その隙をついたギルファーは、自身の拳を降り下ろそうとした。

 

「言わんわバカタレがぁああああああああ!!!!!」

 

私は若干怒り気味に、そう言い放ちながら、足を岩で固めて武装し、ギルファーの拳を受け止める。

ギルファーのパンチ攻撃は武装した岩が一瞬にして砕け散らした。

 

「にゃろー!!!」

 

私は騎士たちがもう一度、召喚できるまで時間を稼ぐために逃げに徹することにした。

 

[俺から逃げることは不可能だ!!!!!]

 

「わぁっとるわ!!!」

 

私は不規則な軌道を描きながら、逃げ回る。

 

「ユイさん召喚できるのはまだか!?」

『もう少しじゃ!!!』

「オーケー!」

 

それを聞いた私は振り返り、土の魔法を使用する。

左右から巨大な岩壁を作り出して、迫り来るギルファーに押し潰すように放つ。

 

[ぐぁああ!!?]

 

岩に挟まれて、ダメージを受けるギルファー。

私は剣を構えて身動きの取れないギルファーの胸部分を突き刺す。

 

「ぜいや!!!」

 

[ぐっ!?]

 

「終わりじゃあああああ!!!」

 

私は全力でギルファーの腹部を深く突き刺そうとするが、ギルファーは気迫で岩壁を吹き飛ばした。

その衝撃で私も大きく宙を舞う。

ギルファーは飛び上がり、ダブルスレッジハンマーを繰り出す。

 

[沈め!!]

 

「……!!!」

 

私は抵抗の暇もなく、その技を食らい。

地面に叩きつけられる。

 

「ッハァッッッッ!!!!!?」

 

私はいままでに感じたことのない痛みにその場で痙攣していた。

私は歯を食い縛りながら、お腹を抑え込んで身悶えた。

これほどの攻撃で生きているのは、確実に闇英雄になったことによる肉体強化の賜物だろう。

感謝してええのかわかんねぇや……。

だが、全然動けない……。

やべえ……。

 

[終わりだな……。英雄!!!]

 

そう言うと、ギルファーは拳を振り上げる。

 

『龍輝!!!』

「あ、これ流石に死んだか?」

 

私はそう思った時だった。

私のリュックから目映い光が放ち始めた。

 

[むう!?]

「は……?」

 

私やユイさん、果てにはギルファーまで攻撃をやめて、その光を見つめていた。

 

光を放っていた正体は財布の中に、お守り代わりとして入れてあったカードゲームに使用するカードだった。

そのカードが青い光を放っていたのだ。

 

「なんで……」

『これは……召喚の光じゃ……』

「え? じゃあ……」

『あぁ』

 

私の言葉にユイさんは、こくりと頷く。

私は、そのカードを取り出して、念じることにした。

すると、カードのイラストから黒い光と共に、一対の巨大な炎を纏う鳥が姿を現した。

紫炎を纏い、あちこちに金色の装飾がなされた美しくも神々しい大鳥。

 

『なんと……!?』

「マジかよ……。魔凰デ・スザークまじで召喚できたぞ」

 

驚くユイさんに私も、驚きながらそう答える。

私は心踊る気分だった。

まさか、デ・スザークを召喚できるなんて……。

更に言うと、こいつの効果をしっている私は、もしかしたら勝てるんじゃないかと考え始める。

ただし、油断は禁物だ。

全力で行かないとさっきみたいになる。

 

「いくぞ!! デ・スザーク!!」

 

私の言葉にデ・スザークは頷き、咆哮する。

それを見たギルファーはニヤリと笑みを浮かべた。

 

[どうやら、準備ができたようだな!!]

「おう、待ってくれてありがとうな!!! デ・スザークの能力発動、お前の力を削り取る!!!」

 

そういうと、デ・スザークの炎翼が展開し、紫色の炎を纏った。

その炎は徐々に強くなり、ギルファー目掛けて炎が発射、ギルファーを包み込んだ。

 

[むっ!?]

 

ギルファーは逃げることなく、そのまま仁王立ちでデ・スザークの能力を受けた。

 

[くっっっっっおおおおおお!!? な、なるほど、俺の力を削いで推しきる作戦かぁ!!!! 本当に、今回の英雄は実に楽しませてくれる!!!]

 

ギルファーは笑いながら、あえて能力を受けきった。

ギルファーの力を削りとったデ・スザークは天に向かい大声をあげる。

 

[クッフフフフフ、どうやらいままでの英雄とは訳が違うようだ。さぁ、英雄よ。これで貴様と俺の力はほぼ互角。再び心踊る最高の闘争を始めようか!!!]

「あぁ、私だって、さっさと邪悪を倒して元の世界に帰りたいんでな!!!」

 

立ち上がったギルファーは衝撃波を発生させるほどの大声を上げて拳を振るう。

そんなことさせる訳がない。

私は、ギルファーの拳に巨大な岩を纏わせた。

大幅に力が落ちたギルファーは、その岩の重りに耐えきれず、地面についた。

 

[ぐ……。なかなかやるな……!!!]

 

追撃とばかりに私は地面を殴り、ギルファー周辺の地面を突起させて、ギルファー目掛けて突き刺す。

槍の如き岩は、ギルファーの鎧を貫通し、血が吹き出る。

 

[ぐぅ……っくっ……ははは、いいぞ!!! いいぞ英雄!!! もっと俺を楽しませろおおおお!!!!]

 

ギルファーの大声は衝撃波が走り、私は吹き飛ばされる。

デ・スザークは、それを見逃すことなく、すぐに俺をキャッチしてくれた。

おかげで、壁への激突は免れた。

 

「サンキュー、デ・スザーク。マジで助かったわ!」

 

[ぴえー!!!♪♪]

 

主にである私に褒められて嬉しかったのか、デ・スザークは見た目に合わない子犬のようなキュートな声をあげる。

あまりのギャップに驚きを隠せない朱雀であったが、そんな余裕あまりなかった。

 

[邪悪の眷属の力、うるあああああああああ!!!!!!]

 

ギルファーは巨大な腕を地面に叩き、岩盤が抉れるほどの衝撃波を放つ。

 

『龍輝危ない!!!』

 

ユイさんが叫ぶが、俺は動じなかった。

 

「卍月の流星群!!!」

 

デ・スザークは雄叫びと共に飛翔、周囲から黒い玉を形成し、ギルファー目掛けて放つ。

衝撃波をかき消して、すべての玉がギルファーに命中する。

 

[いいぞ!! このような素晴らしい闘争を俺はまち続けていた!!!]

 

ギルファーが感銘を受けている隙に、私はすさかず、リキャストが終わった、先程の騎士たちを召喚する。

 

[英雄様!!]

[ご無事で!!]

 

騎士たちは口々に私の安否を喜ぶ。

あんなことがあったのに、それでも私の身を……

私は情けなさや悔しさからでる溢れんばかりの涙を堪え、剣を銃を構えた。

 

「お前ら、これでけりをつける。まずは奴の動きを封じるで!!」

 

[[[はい!!!]]]

[なら、俺も貴様に送るとしよう。俺の今持つすべての力を持って!!!]

 

そう言うと、ギルファーは巨大になり、拳を構える。

俺とデ・スザーク、傭兵たちは一斉にギルファーへと突き進んだ。

 

[戦いは、無限に広がる!!!!!]

 

巨大な拳で大気を割る程の勢いで我々目掛けて殴る。

俺たちは全力でそれに対抗する。

拮抗するギルファーと我々。

 

[おおおおおおおおお!!!]

「うおあああああああああ!!!!」

 

その鍔迫り合いに終止符が打たれた。

朱雀やデ・スザーク騎士たちがギルファーの拳を打ち破り、トドメを刺したのだ。

 

[ぐはぁ……!! グフっ……。フハハハハハ……。英雄たちよ。良き闘争だったぞぉ!!!]

 

ギルファーは膝をつき、闘争を満喫しながら笑みを浮かべて光に包まれた。

 

それと同時に私は意識を失い倒れた。

 

 

 

 

 

続く




アークヘイロス・ギルファーを倒した私とデ・スザークと召喚騎士たち。
中々な凱旋を受けながら、私は将軍からある刀を頂いた。
嬉しいのだが、まだまだ帰れそうにない。
皆心配してるだろうな……。
心配してくれてるのかな?
やべえめっちゃ不安になってきた。


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13話 ユイさん、実体化したら覚えとけよ。

ギルファーを倒した私たちはランカン将軍から、とある刀を頂いた。
そして、疲れを癒すべく泊まる宿を探したのだが……。

なんてこったい……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

最後らへん若干の下ネタ要素があります。


 

 

 

 

『……か』

 

『こ……ぬか』

 

『……龍輝! これ! 起きぬか!!』

 

ユイさんの声が聞こえた、気がしたので、私はハッと目を覚ました。

そこはさっきいた場所とは違い、綺麗なお花畑だった。

そこで私は、あることが頭を過る。

 

「え、私死んだ?」

『たわけえ!!』

「いやーチョービックリしたよ!」

 

ユイさんの他にナオミさんもいた。

しかし、全く状況が読めない私。

多分めっちゃ間抜けな真顔をしてたとおもう。

でだ。本題の、そのあとのことだと、私は騎士たちと共にギルファー倒し、ギルファーが滅びたことで、このとっくりの中の悪の魔力が浄化され、このような花畑に変化したらしい。

こういうことらしい。

 

「そうやったんか……でも、倒したんや。」

『そうじゃ、よくあの強敵を倒した!』

 

珍しく褒めてくれるユイさん。

正直すごい嬉しいけど、残念ながら頑張ったのは私ではなく騎士やデ・スザーク達だ。

あいつらが居なければ、私たちは確実に全滅していたに違いない。

 

「でも、私も水晶から君らの戦いを見てたけど、あの黒い鳥にはチョー驚いたよ」

『そうじゃな……』

「なんで、召喚できたんですか?」

 

わりと疑問に思ってることを言う。

なぜ、こちらで作られた物ではなく、私のいた世界のカードを召喚できたのか。

 

「うーん。あのカードに強い力があって、君のピンチにそのカードが応えてくれたとかかな?」

 

ナオミさんは、うむむー。

と言いながら呟く。

そのデ・スザークのカードも、さっきの戦いで力を使い果たしたのか、カードがボロボロになっていた。

私はそれを拾い、助けてくれてありがとう。

そう心の中で呟いた。

 

「そいで、アークストーンは!?」

 

私はキョロキョロと見渡しながら、言う。

しかし、ユイさんは無慈悲なる一撃を浴びせる。

 

『アークストーンの欠片は出たぞ』

「ああああ?!」

訳:「はぁぁぁ!?」

 

『もしかしたら、全ての邪悪の眷属を倒さないといけないのかも知れんのぅ』

 

私は、絶望という名の弾丸に撃たれた。

膝からガクリと倒れ、魂が抜けたように動かなくなる。

 

「ま、まぁ、見事にギルファーを倒したことだし、二人をとっくりから出すねー」

『頼むぞナオミ』

「あ、ナオミさんにはユイさんは見えるのね」

「当たり前じゃない」

 

なにいってんの?って顔をしながらそういうと、ナオミさんは呪文を詠唱し、私たちをとっくりから出してくれた。

こうして、私は邪悪の眷属、アークヘイロス・ギルファーを討伐することができた。

 

 

 

 

とっくりから戻ると、私はデモーアルーの街の人々から凱旋をうけた。

アイツを倒したのは、私の手柄ではなく騎士やデ・スザークのお陰なので、なんか素直に喜べない……。

私は歩いていると、衛兵がやってきて、ランカン将軍がお呼びになっていると言われたので、私は衛兵についていくことになった。

決して悪いことは言われないだろうと思いながらも、心の中では少しビビる私。

 

二人の衛兵に連れられ、私(ユイさん)はランカン将軍のところにきた。

 

「英雄殿、ご無事でしたか! お怪我の方は?」

 

小走りで私の元へ駆け寄り、開口一番に私の心配をするランカン将軍。

これだけでも、この将軍が非常に人間ができた将軍であることが伺える。

てか、その光景は何処と無く、親と子にも見えなくもない。

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

私は深く一礼する。

こういうとき、どういう感じに振る舞ったらいいのかが分からず、とりあえず一礼をしたのだが、礼儀作法学んどきゃよかったわ。

 

「それは、よかったです!」

 

ホッとして笑顔で笑うランカン将軍。

40は過ぎてる強面のおっさんが、溢れんばかりの笑顔になるのだから、可愛くおもえてくる。

女子高生かよ!!

 

「英雄殿、アークヘイロス・ギルファーを討伐していただき、ありがとうございます!!」

 

ランカンが深く頭を下げて感謝の言葉を述べる。

それと同時に100人はいるだろう周りの衛兵も「英雄殿、ありがとうございます!!」っといって甲冑を取り外し、頭を下げる。

 

「え。あ、ちょ。え?あ」

 

こんなこと、私は一度も経験したことがなかったので、ガチでオドオドする。

 

「いさ、しえ……いえ、俺は特にこれといっぺしたこもは……」

『……ぶぅふ……ぷっ……ぷはははははは!!!』

 

動揺し、めっちゃ噛みまくって焦りまくる無様な私を見て、空中で子供のように手足をバタバタしながら笑い転げるユイさん。

後で覚えとけよ!!

 

『これといっぺ…………あっははははははは!!!』

 

仰向けで涙を流して、空気を叩きながら大爆笑する。

私がここでコイツに何かいえば、確実に私が変な人になる。

私はグッと我慢する。

後ではったおしてやる。

そう心の中で誓って……。

マジでコイツに実体あったら、ベッドに張り倒してやるところだ。

まぁ冗談やけど……。

そう考えていると、ランカン将軍や衛兵たちは顔をあげて、真剣な眼差しをこちらに向けた。

さっきまで笑顔だったのに、急に真剣な顔になられたらビックリする。

 

「英雄殿。この度は、本当にありがとうございました。どうか、こちらをお受け取りください」

 

そういって、ランカン将軍は私にあるものを差し出した。

それは白鞘の日本刀だ。

それをみた私は思わず「おおおお」っと感動を漏らす。

刃が輝いており、切れ味と折り紙つきであることに疑いの余地はない。

 

「これは、英雄殿達が住んでいた世界の刀を、前の英雄殿から教わりましてな。それを様々な大陸で名を挙げた職人たちで作った刀です。名を【天征光】と言います。どうですか?」

「……いや、私もこんな刀は見たことがなくて、もう……あまりの衝撃で言葉が出ないほどです……」

「それはよかった。どうぞ。これをお受け取りください」

「え、あ、ありがとうございます!!」

 

私は感動の涙を浮かべて感謝の言葉を添えてお辞儀をする。こんな物をいただけるなんて……。

 

そうして、私は【天征光】を手にいれた。 

私は刀を腰に掛けて、ルンルンで宿を探していると腹を擦りながら、フワフワとやってきた。しかも涙目で。

 

『あぁー……あぁー……笑いすぎた……』

「今までずっと笑ってたんすか……」

『お腹いたい……』

「知らんがな」

 

私はユイさんのアホさに呆れていると、ユイさんは腰に付けている刀に気づいたようだ。

マジマジと見つめて、驚いたように手を叩いた。

 

『おー、これは白鞘の刀じゃなー。懐かしいのおー』

「え、懐かしい?」

 

私は口を開けてポカンとする。

 

『ん? あー、そういえば言うてなかったの。ワシも龍輝と同じく向こうの世界の住人だったのじゃ』

「え!?」

 

衝撃の一言に私は驚いて後ずさる。

ユイさんってこっちの世界の人じゃないのかよ!?

 

『ワシは江戸の街で住んでおっての、突然ここに召喚されたんじゃ』

「江戸時代!?」

 

目を丸くし、声をあげて驚く私。

こいつ何歳なんや!?

 

「えーと、ユイさんって江戸では武士の家の方?」

『違うぞ。ワシは普通の民じゃ』

「な~るほど」

 

確か……白鞘が一般に知れ渡ったのは、江戸時代後期だったはず。

つまり……ユイさんの年齢は……

私は考えたが、首をブンブン振り、考えをやめる。

 

「(いや、やめよう。年齢を考えれば、こいつはロリババァということになる……)」

 

私は思考を停止する。

考えてはいけない。

聞いてはいけない。

知ってはいけない。

やぶ蛇過ぎる。

 

「お、おーん」

 

とりあえず、訳のわからん返事をする私。

非常に馬鹿間抜けな返事だったと思う。

ユイさんも???といった不思議な顔をしていた。

 

 

 

午後5時

 

 

「さて、今日はどこで泊まろうかな」

 

時間も時間なので、私は早いところ宿を見つけて泊まろうと考えた。

あの宿だけは絶対に泊まりたくはない。

私は心にそう誓いながら必死にデモーアルーを散策する。

しかし、どこの宿も満員だ。

あそこを除いて……。

やばい。

私は冷や汗がダラダラと垂れ始める。

これはヤバいことになりそうだ。

また今日? 昨日? どっちでもええや、そんなことになるのは絶対に嫌だ。

あんなものを聴かされたら、当面の間鶏が嫌いになっちまう。

私は慌ただしく全力疾走をしながら宿を探す。

 

『見つからんの……』

「やべえぞ、またあの宿に泊まるのはごめんや!!!」

 

私は全力で宿を探した。

 

その結果……。

 

 

 

 

 

「イュラッシャイヤフェエエエエエエエエエエエエエエイ!!!!!」

「……」

『……』

 

お察しである。

あー……。

なんてことだ……。

こんなことってないよ……。

あれから宿を探したのだが、全て満席で結局ここの宿に泊まることになった。

 

「オッキャッサマアアアアアアアア!!!!!!」

「ハイ」

「プオ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"!!!!!」

「ナンスカ?」

 

もう……勘弁してくれぇ……。

耳が痛い。

 

「ンンンマッタアイマシタヌイイイイエエエエエエ!!!!!」

「ハイアイマシタネ(会いたくなかったけどな!!!!!)」

 

誰か助けてくれ、私の心がどうにかなっちまいそうだ……。

ユイさんに至っては、悟りを開いていらっしゃる。

 

「ディハ!!! お部屋を!!! おぁんない!! あ、シマスウウウウウウウ!!!!!」

 

あーもう、歌舞伎役者みたいな喋り方せんと、はよ部屋案内してくれ!!!!!

すると、突然、鶏野郎は私の方をジッと見つめると、急に真顔になってこんなことを言い出した。

 

「お客さま、これで三回お泊まりになさっておりますが、いつもお一人ですね」

「あ、はい」

「お友達とかいらっしゃらない?」

「え、まぁそうですね」

「彼女さんも?」

「はい」

「あ、あぁ~。それは御愁傷様でございます。人生生きていたらいいことありますので、どうか気を落とさないでください」

「……」

 

私は無意識に貰った刀の鞘を抜こうとした。

一躍それに気づいたユイさんが必死に止めようとする。

 

『龍輝、抑えるんじゃ!! 刀を抜いてはならん!!』

「んじゃあ、ハンドガンは?」

『たわけ!! ダメに決まってるであろう!!!』

 

「あ、失礼しました。お客様のお部屋はこちらになります。元気だしてくださいね?」

「あ、はい」

 

ぶん殴りてえ……。

私は沸き上がる憤怒のマグマを抑えつつ、ニコニコとした表情で私は案内された部屋へと入った。

 

 

「ああああああああもう!!!!!」

 

部屋に入るなり、私は大声をあげる。

物に当たりたかったが、流石にそれはやめた。

 

『とんだ災難じゃったな』

「ああ、正直、ギルファーよりエグいものだったよ……」

『なはははは!!』

「笑うな!!」

 

 

 

 

 

 

 

『まぁ、何にせよ。これで少しはゆっくりできるのー』

 

床に寝転ぶ私に対して、ユイは一人用のベッドで我が物顔で寝そべる。

それをみた私はあることに気づいた。

 

「なななな、ユイさん」

『なーんーじゃー?』

 

枕にモゾモゾしながら、私のほうを見つめる。

その仕草、そしてその表情は、それはさながらうら若き乙女そのものだ。

めっちゃ可愛く、私はドキッとして顔を赤らめる。

 

「あ、いや、えっと、あのさ、ユイさんって言ってしまえば霊体みたいな感じなんでしょ?」

『そうじゃなー』

「いまベッドで寝転がってるけど、寝たりするの?」

『そうじゃな。別に寝なくてもいいんじゃが、なにもすることないから、ワシはいつも寝ておるぞ?』

「そうなんだ」

『うむー』

 

 

10時

 

 

 

私たちは、宿でゆっくりとしていると、不意にユイさんが笑いだした。

 

『しかし、ランカンに感謝されたときの龍輝の様子はもー。凄い滑稽じゃったの~』

 

笑いの成分が入った口調でいうユイさん。

……その話やめろ!!

 

「やめーやその話!」

『ぷっ……くふふふ……』

「笑うなあああああ!!」

『だって……だってぇ……!!』

 

あっはははは!!!とゴキブリが死にかけてるときみたいな感じで大爆笑をする。

 

「こいつ……ベッドで張り倒してやろーかー!」

『ほう、ワシ……いや、私を堕せるO TU MO RI DE?』

 

ユイはニマニマと笑みを浮かべ、スカートと胸の部分をチラッと開けながら、私を誘惑してきた。

このやろ……。

童貞の私に、とんでもねえことを……。

 

『残念だけど、私はそう簡単には堕ちないよ~?』

 

急に老年口調から若い乙女の口調に変えて、私をからかうユイさん。

はぁらぁ立つわぁ。

 

『それに、いま私はこの通り霊体。実態はない……。残念じゃが、私とするのは無理よ~?』

「こんにゃろー……アークストーン手に入れたとき覚えてろよ……。ユイさんの実態を戻して、ベッドで押し倒して、私の物に変えてやるわぁ……!!!」

『へぇ……それはそれは、楽しみね~。私を龍輝の物にできるものなら、やってみてよ……!!!』

「ああ……お前を物にするために邪悪を倒してやらぁな!!」

 

二人は顔を合わせ、にらみ合った。

売り言葉に買い言葉とは、この事を指すのだろうな。

電気がバシバシ走ってるであろうことは火を見るより明らかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




朝、鶏に起こされた私は、次の街に向かうことになった。
次の街は魔法を主に扱う大都市だそうだ。
魔法を使用できる私には非常に興味深いので、楽しみだ。


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14話 科学大神官

イクス大陸の四大都市の一つグリムマギアへと歩き始める私たちだったが、向かってる途中にとある人物に出会った。
そして、その人物がとんでもない人だった。
更にその人物に進められた液体を飲んだことで、私の能力がとんでもないことになる。



 

 

 

 

「めっちゃ耳痛い……」

『ワシもじゃ……』

 

変わらず、あの野郎の咆哮に叩き起こされた。

それも耳元でだ。

エアホーンの2倍以上の音量で、そんなことをされたら嫌でも目が覚める。 キーンと響く耳を抑えて風呂を入り、歯を磨き、宿を出た。

 

「……」

『……』

 

まだ耳がキーンと金属音を打たれたような音がなっている。

私は、さながら亡霊のようにのっそりと歩きながら、デモーアルーを出た。

 

『龍輝ー大丈夫かー?』

「なぁ、これが……大丈夫に見える……?」

 

眉をひそめて心配そうに見つめるユイさんに私は虚ろな目で、静かに返事を返す。

呪いに掛けられた憐れな青年という言葉が非常にお似合いである。

 

『みえ……ぬな。えーと、もう一泊する……?』

「いや、行こう。この場所から離れたい」

 

私は次の街へ行くため、向かうこととなった。

長い平坦な道を歩いていると、峠が見えてきた。

 

『この峠を越えたらグリムマギアにつくぞ!』

 

ユイさんは、子供が親に急かすように私を峠へと急がせる。

ていうか、まんま子供だ。

子供がおもちゃコーナーへと親を連れていくような表情と仕草である。

 

「この峠を越えるんか」

『辛いのか?』

「いんや? 向こうの世界ではよく散歩で峠を4つほど越えてたからなー、峠1つぐらい苦ではないで?」

 

それを聞いたユイは「はぁ?」みたいな眼を丸くして、口を大きく開いて驚く。

まぁ、そら散歩で峠を4つ越えると言われたら、誰でも驚きはする。

てか、それを聞いたみんなは私に対して「それは散歩じゃなくて、旅だろ」とツッコム。

これがテンプレである。

 

『お主、それは散歩じゃなくて旅であろう?』

「いや? 私は散歩気分で、普通の服装でスマホとサイフという軽装で行ってるから、散歩。旅はデカイ鞄に色々な荷物を入れて長い間歩いたりするから旅。こういうこと」

『とんでもない理屈じゃの……ということは、お主、一日で峠を4つ越えてその日で帰るのか?!』

「うむ、散歩だからな」

『……』

 

私のとんでもない発言に驚きと呆れで開いた口が塞がらず、呆然と私を見つめていた。

 

『龍輝、意外とやるのう……』

「まぁな。なら、登りますか」

 

[俺ハ今カラお前ヲ殴ル!]

 

「!?」

 

草むらから機械声の聞こえ、巨大なシルエットが私を襲った。

私は、間一髪のところで回避したので、大事は免れる。

 

「ぃやっべぇ……死んだ思た……」

『やつはトゥリルゴーレム、奴のパンチを受けると確実に死んでしまう。気を付けるんじゃ!!』

 

襲ってきた敵の名前はトゥリルゴーレムという。

ゴツイ身体に緑の苔が生えた樽を半分切って、鎧のように肩や胸、腰などに装着しているのが特徴だ。

ユイさんが遠くに離れて警告をするが、気を付けろつったって……どないせえと!!?

 

[避ケタカ!!]

 

そういって、殴った衝撃で地面にめり込んだ腕を抜いて、再び襲いかかる。

 

[攻メロ攻メロオオオオオオオ!!!!]

 

しかし……

 

「おっそ!!?」

 

あまりの遅さにビックリする。

本当に襲い。

攻撃力にステータスポイント全振りしたんじゃねえのかって思うくらい遅い。

本人は全力で走ってるつもりなんだろうけど、マジで子供の早歩きぐらいのスピードだ。

 

「これなら、なんとかワンチャン……!!」

 

私は走りながら、昨日頂いた刀を構える。

トゥリルゴーレムに急接近し、奴が殴る瞬間に鞘を抜き、腕の肌?らしきものが露出してるところに刀を突き刺す。

流石名刀、切れ味も折り紙つきのようで、驚くほどに深く刺ささった。

トゥリルゴーレムは怯むことなく、私を殴ってくるが、私は大根を斬るようにトゥリルゴーレムの腕を切断する。

切り口からオイルが漏れて、ネジやらバネやら機械のパーツが腕とともに落ちる。

 

[マダマダアアアアアアア!!!]

 

機械故か痛みを感じないようで、怯むことなく、切れていない左腕で殴りかかった。

私は刀を横に持ってガードする体勢を取るが、考えが甘かった。

 

「ぐぁ!?」

 

拳が刀を直撃し、そのまま私は吹っ飛ばされ、木に直撃する。

 

「あいたたたた…… 」

 

幸い、その木は枯れ果てており、それがクッション代わりとなって軽傷で済んだ。

 

[ウオオオオオオオオオオオ!!!!]

 

そのままその巨大な腕で傭兵を凪ぎ払う。

 

「どうしようか……。ん?」

 

私はあることが浮かんだ。

待てよ。

トゥリルゴーレムって機械やんな?

私は、鞄の中からペットボトルを取り出して、水を飲んだ。

 

「行くかぁ!!!」

 

水の魔法を得た私は、指から水の塊をピストルのように射ち出した。

そして、その水の塊はトゥリルゴーレムに直撃した。

怯むだけで粉砕することはないのだが、それでいい。

そのまま私は水をトゥリルゴーレムに射ち続けた。

すると、トゥリルゴーレムの動きが鈍り始めたのだ。

 

[ナン……ダトオオオオオ!!??]

 

機械が水に濡れたことにより、ショートしたのだろう。

流石のトゥリルゴーレムもこれには、ぎこちなく驚いたリアクションをした。

顔に変化はないが、声で狼狽してることがハッキリとわかった。

私はハンドガンをリロードしトゥリルゴーレムの機械が露出している箇所を5発撃った。

3発は樽で出来た鎧に命中したが、残りの2発は機械に命中し、爆発を起こした。

 

[ギッ!?]

 

「おらぁ!!!」

 

私は水を後方に噴射しながら、トゥリルゴーレムに突撃。

刀をゴーレムの腹に一刺、さらに片方の腕に持っていたハンドガンをゴーレムに全弾撃ち付けた。

 

[攻メロゼメロゼ……ロ……ロロロrorororororaaaaaaaAAAAAArrrrrrrrrrrr]

 

機械の核でも破壊したからだろうか? トゥリルゴーレムは不気味な音声を発して機能停止し、動かなくなった。

機動戦士の見すぎか、私はてっきり爆発すると思って、逃げ態勢に入ったが、どうやら杞憂だったようだ。

 

「ふぅうううううー……!!!」

 

私は刀を鞘に戻して、一息つく。

 

「やばかったー。マジで死ぬかと思った……」

『お主……やるのお……』

「まぁ、危うく地獄へと落ちるところやったけど」

 

笑う私だが、ユイさんはすぐに私のほうを睨む。

 

『龍輝……ギルファーの時も思っておったが、お主、普通の人間じゃないな?』

「今さらっすか……」

 

剣呑な顔つきで睨み付けるユイに、私は苦笑する。

 

『何者じゃ?』

 

ユイさんが剣呑な表情で言うので、私は頭をボリボリと掻きながらこういった。

 

「私は23歳童貞の魔法使い。朱雀龍輝ですよ!」

 

と。

 

『ぷっ……。あははははは!!』

 

どうよら、私の言った事がつぼったのか、あっはっはーと大爆笑するユイさん。

まぁ、本当の事だから仕方ない。

 

『よし。トゥリルゴーレムも倒したことじゃし、さぁ次の街へ向かうぞ~!』

「うーい!」

 

元気よくジャンプするユイさん。

私たちは歩みを進めた。

このあと、トゥリルゴーレムがまた俺たちを襲ってきたのだが、一応一戦交えているので、先程ではないが、まぁまぁ苦戦しつつも無力化することができた。

そうしてると、ユイさんが何かに気づいたのか、私の白鞘をまじまじと見つめ出した。

 

「どうしまして?」

『いや、この白鞘……中に魔法石が入っとるの』

「魔力を高めたりするんですか?」

『そうじゃ、この刀にはそれが埋め込まれており、これを持っているだけで、お主の身体に勝手に魔力が入っていき、魔力が増強されていくぞ』

「ほう、それは便利ですね」

『お主のその能力も強くなっていくの』

「おおおおおお、それは嬉しいことです!!」

『あくまで予想じゃがな』

 

予想外の言葉に私は歓喜の声をあげた。

このまま、私の魔力が強化されていけば、邪魔の眷属なんて割りと簡単に倒せるかもしれない!

なんて最高の刀なんだ。

ありがとうランカン将軍。

ありがとう職人たち……。

私は心から感謝した。

 

 

 

そんなことをしながら、私たちは次の街へと進むことになった。

次は、どのような街なのだろうか、私はワクワクしながら峠を抜ける。

 

無事に峠を抜けた私たちは賢者の丘と呼ばれる場所に来ている。

この峠を抜けたことで、私たちはグリムマギア地方に到着した。

 

『グリムマギア地方へとこれた。賢者の丘を抜ければグリムマギアへと着くぞー!』

 

妙に上機嫌でテンションMAXなユイさん。

 

聞いたところ、グリムマギアはユイさんの住んでいた都市のようだ。

何百年も戻ってないようで、久しぶりに帰れて嬉しいらしい。

……突っ込まないよ??

 

子供のように急かすユイさんに、私は早歩きでグリムマギアまで急ぐ。

しかし、いまの時刻は夜の7時ごろ。

このままグリムマギアまで行けば、着くのは10時らしい。

宿に泊まることができるのは、まぁ不可能だろう。

一番嫌なことをすることとなった。

そう、野宿だ。

 

 

 

「野宿嫌やなぁ……ていうか、テントとか持ってない……」

 

絶望する私。

 

『デモーアルーで買えばよかったの』

「忘れとった……」

『芝生で寝るしかないの』

「生まれて初めての経験やわ……」

 

私は肩をガクリと落とした。

はぁ、仕方ない。

どっか安全そうな場所探して寝るか……。

私は絶望のまま、場所を探そうとした。

すると、私に声をかける人がいた。

 

「あらー? 何か困り事?」

「ええ」

『お、お主は!?』

 

その声の主を見たユイさんは、目を丸くして驚き、声の主もユイさんを見て驚いていた。

 

「うわあお! ユイじゃん! 何してるのこんなところで」

『あ、いや、それは……』

 

おどおどするユイさんに、緑色の少しだけエロティックな神官服に白衣を着た黒髪の女性は、なにかを察したのか、ニヤニヤとし始める。

 

「ははーん? やらかしたわねー?」

『うっ……』

「まぁ、いいや。ねー、君さ。あれでしょ? 野宿するか迷ってるんでしょ?」

「ま、まぁ。それより、貴女にはユイさんが見えるんですか?」

「ええ、見えるわよ。私も神官だからねー!」

『龍輝、彼女は大神官ケミック。ワシと同じグリムマギアで大神官を務めておる。魔法と科学を両立させる変わり者じゃ』

「変わり者とは失礼ね! むしろ、科学と魔法を両立するスペシャリストと言ってほしいわ!」

『ワシにはよくわからぬ……』

 

ドヤ顔で語るケミックさんを見て、ユイさんはあきれた顔で呟いた。

 

「それより、君たち、私の家で泊まる?」

「え、いいんですか?」

『龍輝、やめておけ! コヤツの家に泊まった日には人生が終わるぞ!?』

 

ユイさんは鬼気迫る表情で制止する。

 

「失礼過ぎない? そもそも、こんなところで野宿してごらんなさいよ。そっちこそ人生終わるわよ!」

『うぬ……』

「それに、最近だとここらいったいはアンタの大嫌いなルーガがウヨウヨいるわよ」

『な、なんじゃと!?』

 

その言葉を聞いたユイさんは、声を荒げる。

 

「ルーガってあの、変なブヨブヨした?」

「そうそう、昔は巨木の森に生息してたけど、邪悪の影響でここまで来てるのよね」

「なるほど。それにしても、ユイさんってルーガが苦手だったんですね」

 

もしかして、巨木の森でユイさんが寝てたり、薬草集めの時、逃げるように市場に行ったのって……。

ルーガに合うのを避ける為だったのかな?

 

『龍輝、ケミックの家に泊まろう。ここにいては、死んでしまうぞ!』

「さっき言ってることとは全く逆のことを……」

『ワシは何も言っておらん……いいな……!!!!!!!』

「あ、はい。わかりました」

 

物凄い剣幕に気圧された私は、頷くしかなかった。

 

「じゃあ、龍輝だっけ? 二人ともこっちに来て!」

 

ニコニコとした笑顔で誘うケミックさんに連れられて、私とユイさんは彼女の家へと向かった。

ケミックさんの家は、何というか科学そのモノと言うべきものだった。

鋼鉄で出来た家に、指紋認証や網膜認証、多重に備えられたセキュリティ。

ハイテクノロジーの集大成とも言えるだろう。

ファンタジー世界の色濃いイクス大陸とは、かなりかけ離れた家だった。

 

「さー、上がって!」

「お、ぉじゃまします……」

『まぁ普通じゃな……』

 

中に入ると、そこに広がるのは普通のリビングだった。

どうということはない、ごく一般的なリビング。

キッチンがあって、テーブルがあって、ソファーがあって、テレビがあって、ゲーム機のような物があって……。

いや、よく考えてみれば普通ではないな。

この世界で、この現代に包まれたリビングは普通じゃない。

異様だ。

その反応を待ってましたと言わんばかりにケミックさんは、私の方を見てニヤニヤとする。

 

「ビックリした? 君の元いた世界の家のリビングそのものでしょ?」

「え、ええ。そうですね。どうして、このようなレイアウトに?」

「んー? まぁ、そっちの世界に憧れがあるからかな? 行きたいけど行くこと出来ないし、それならってことで。私の家の中だけでもってね!」

「でも、よく分かりましたね。家電製品とか」

「うん、私の一番弟子がね、そっちの世界から召喚された子なの。それで色々と聞いて、自分で作ってみたわけ」

「は? これ全部手作りですか!?」

「そうよ?」

「嘘やろ……?」

 

思わずため口になってしまう。

テレビやゲーム機……。まてこれps5じゃねーか!!

キッチンや冷蔵庫等の家電製品。

デスクトップパソコン。

オーディオ機器。

これら全てが手作りという。

 

「こんなの、私の魔法と科学力があれば直ぐに出来るわよ!」

「……」

 

あ、この人普通にヤバいわ……。

私は心の中でそう感じた。

 

『恐ろしいやつじゃろ?』

「うん。普通にヤバい。ユイさんよりヤバいわ」

『な、なんじゃと?』

「まーまー、それよりお茶用意するから適当に座って!」

 

そう言われ、私たちはソファーに座った。

ふかふかしていて、座り心地は素晴らしいものだった。

 

「はーい、おまたせー!」

 

そう言って、ケミックさんはやたら豪華なティーカップに紅茶を入れて、私達に差し出した。

 

「あ、ありがとうございます。いただきます」

『すまんが、ケミック、ワシは飲めんのじゃ』

「全く、不完全なアークストーンを使ってワケわからんことするから、こんな無様な結果になるんでしょーが」

『そ、そう言われると、返す言葉がないの……』

 

珍しく俯いてシュンっとするユイさん。

ケミックさんは、「こんなに美味しいのに」と言って、ユイさんの紅茶をごくごくと飲みほした。

私は猫舌なので、フーフーしてからチビチビと飲んだ。

なんか、懐かしい味……。

 

「せっかく、向こうの世界の紅茶を再現したのにー」

「あー、やっぱり」

「午後の紅茶っていう紅茶を頑張って再現したんだけど、似てた?」

「瓜二つですね」

 

私はそう言うと、ケミックさんは親に誉められた子供のように舞い上がっていた。

 

『変わらぬの~』

「誉め言葉として受け取っておくわ」

 

私はユイさんとケミックさんの話を流しながら、ぬるくなりかけている紅茶を飲み干して、一息ついた。

すると、ケミックさんは「あっ、そうだ!」と手をパンっと叩いて、奥の部屋へと走っていってしまった。

私とユイさんは、頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、互いの顔を見合った。

 

「ねーねー、龍ちゃんさ! ちょっとこれ飲んでくれない?」

 

そう言ってケミックさんは、私に一本の試験管を見せてくる。

試験管の中には青い液体が入っていて、何やら嫌な雰囲気がしてきた。

 

「な、なんすか?これ?」

 

私が、試験管の中を奇怪な表情で覗きながらそう言うと、ケミックさんはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ドラゴンになることができる能力を得る薬よ!」

「ワッツ!?」

『はい?』

 

私は思わず声を上げた。

何ならユイさんも奇々怪々な表情をしてケミックさんを凝視した。

どゆこと?

なにそれ?

悪魔の実??

 

「私が作った薬よ! これを飲むと、自分の想像したドラゴンに変身できる能力を得ることができるの!」

「はぁ、ちょっとよく、いまいち理解できてないのですが……??」

『ワシもじゃ……』

「だから、これを飲んだら龍化能力を得ることができるのよ!」

「そ、それを私が飲めと?」

「ええ! 前に開発した薬に改良を加えてね! それの実験をお願いしたいの!」

「………………」

『龍輝……やめたほうがいいぞ』

「そうですね」

「大丈夫よ、飲んで理性がなくなったり暴走したりしないから!」

『どっからその自信が出るんじゃたわけ』

 

ユイさんはジトーっとした表情でケミックを見つめる。

私は口を思いっきり閉じて、首を横に振った。

それを見たケミックさんはため息をついて「仕方ない……」と呟いた。

呟いたのも束の間……。

ケミックさんは、ポケットから取り出した怪しげなスイッチを取り出した。

そして、そのスイッチを押すと、機械の動く音が鳴り響き、壁が移動して部屋の空間が広くなり、天井も見る見るうちに上昇して、部屋自体が大きくなった。

 

「刮目しなさい!!! 私の科学と魔法の力を!!!」

 

そう天を貫かんばかりの声をあげる。

すると、ケミックさんの身体がドンドンと変化していき、頭から一本の角が生え、背中から巨大な翼が生え、全身が赤い鱗が現れて、お尻から巨大な尻尾が伸びてゆき、忽ち赤い四足歩行のドラゴンへと成り変わった。

 

「……」

『……』

 

あまりの出来事に私とユイさんは、あんぐりと開いた口が塞がらなかった。

ケミックさん……もとい赤いドラゴンは、口を開いて……。

 

「ほらね。理性の崩壊もない、暴走もない。大丈夫でしょ?」

 

エコーの効いたケミックさんの声が部屋内に響く。

 

「あ、ああ……そう……ですね」

『…………』

 

私は若干、引き気味で口を開く。

ユイさんは、あまりの衝撃に目を見開いてボーッと龍となったケミックさんを見つめていた。

すると、ケミックさんは目をニコッとさせて、元の人の姿に戻った。

 

「さて、そういうわけで、実験で飲んでくれない?」

「その前に……改良をしたならケミックさんが飲んでみては?」

「飲んだわよ」

「飲んだんかい!」

「飲んだけど、変わらなかったの。だから、他の人に飲んでもらおうと思ってね!」

「……」

「私の家に泊まるんなら、これくらいしてくれなきゃね♪」

「ケミックさんが、泊まらない? って言ったんでしょーよー……」

『これが狙いか……』

 

私はガクリと肩を下ろしながら嘆く。

ユイさんも手を頭につけて、ため息をついた。

 

「大丈夫よ。もし何かあったら、私がしっかり責任を取るから!」

「……」

「信用してないなー」

『信用する要素ないじゃろ』

「いや。うーん」

 

私は唸る。

これを飲んでもいいのだろうか?

……。

うーん。

飲むべきか飲まぬべきか……。

 

「大丈夫よ。責任取ってなんでもするわよ?」

 

そういうケミックさんは少しだけ色っぽかった。

私は、渋々頷いて、一息……。

そして、目を瞑って、試験管に入っている液体を一気に飲み干した。

 

『龍輝!?』

「おー、一気に!」

 

私の行動に、ユイさんは両手を口に持っていって驚き、ケミックさんは興味津々に見つめていた。

肝心の私はというと、飲んだ液体の味は、ブドウの味が口一杯に広がる。

てっきりくっそ不味い味がすると思っていたのだが、とある海賊アニメの見すぎだったようだ。

私はそれを全て飲んだ。

 

「どう?」

『龍輝大丈夫か!?』

「……ん? なんともねーぞ?」

 

私はキョトンとした表情をして、身体を見渡す。

ユイさんは、『失敗作じゃないのか?』と言った。

 

「龍輝の成りたい龍を頭の中で思い浮かべたら良いわよ!」

「なーるほどー」

 

私は、目を閉じて頭の中で龍の想像をする。

私の成りたい龍……。

やっぱり、天空の王者と称されたアイツかなー?

そう、私は空の王者の姿を思い浮かべる。

しかし、思い浮かべど、私は龍に成れることはなかった。

 

「あれ? おかしいわね……」

 

ケミックさんは首を傾げる。

段々と不安になってくる。

 

「その薬って本当に成れるんですか?」

「多分。ねー、本当に龍の想像した?」

「ええ、ちゃんと龍に……あれ?」

「どうしたの?」

「いえ、もう一回想像してみます」

 

私は違和感を覚えてもう一度、想像することにした。

もしかして、空の王者リオレウスはワイバーンであってドラゴンではない。

それなら、ドラゴンに変身出来ないのなら納得できる。

それなら、古龍を想像したらいいのではないかと、私は考えた。

そして、想像したドラゴンは古龍の王である赤龍ムフェト・ジーヴァ。

コイツも私の大好きな龍だ。

それを想像する。

しかし、私の身体はムフェト・ジーヴァに成ることはなかった。

次第に不穏な空気になっていく。

ケミックさんも、おかしいと言いながら、表情が険しくなる。

それからも、私は色々なドラゴンを想像した。

 

リオレウス→ムフェト・ジーヴァ→クシャルダオラ→キリン→イャンクック→ドスジャグラス→ドスジャギィ→ジャギィ→ランポス→アプトノス→コモドドラゴン→タツノオトシゴ。

 

あらゆるドラゴンの想像をしたのだが、全く変身できることはなかった。

 

「ケミックさん、絶対に失敗してるでしょこれ」

「そんなことはないわよ!」

『じゃが、こうも成れないとなると、明らかに失敗しとるじゃろ』

「何の素材で作ったんですか?」

 

私はふと思ったことをケミックさんに訊ねた。

すると、ケミックさんはとんでもないことを口にした。

これには私もユイさんも目が飛び出るほど驚愕仰天する。

リムジンに乗って、赤絨緞を盛大に歩けるほどド偉い内容だった。

 

邪悪の眷属、アークヘイロス・ドラコーイルを、とある少女が単体で討ち滅ぼした。

私はその時同行していて、ドラコーイルの遺体から血液を採取し、その血液をあらゆる魔法や科学技術を使って、生み出したらしい。

副作用もない最高の薬ができたのだ。

そして、それを実験として自分で飲んだ結果、ドラゴンになることができた。

 

らしい。

つまり、私は邪悪の眷属であるアークヘイロス・ドラコーイルの血液を飲んだと……。

 

「ちょっと待ってそれ大丈夫なのか!?」

「ええ、私も飲んだけど、大丈夫よ」

『本当か?』

 

ユイさんもケミックさんに鬼気迫る表情で問い詰める。

それでも、ケミックさんは臆することなく「問題ないわ」と言った。

しかし、問題ないと言われても、私は恐ろしいほど全身から冷や汗がナイアガラの滝のように吹き出る。

私は腕で溢れ出た汗を拭い、汗まみれの腕を見た。

その時、私は「あれ?」とあることに気づく。

もしかして……。

私の脳裏によぎる。

 

「どうしたの?」

「ケミックさん。水とかの魔法使えます?」

「ええ、使えるわよ」

「それを手加減した状態で、私に撃ってください」

 

それを聞いた二人は眉を細める。

 

「いいけど、大丈夫?」

「ええ、加減してくれると」

『龍輝なにするつもりじゃ?』

「まぁ、もしかしたらってことなので……」

 

そう言って、私は自身の能力について二人に話した。

 

「なるほどね。龍輝くんそんな能力があったのね」

『魔法使いとは言っておったが、なかなか面白い能力じゃの』

「まぁ、そういうわけなんで、ケミックさんお願いします!」

「オーケー、じゃあ水の魔法を使うわね!!」

 

ケミックさんは、詠唱をして青い魔法陣を展開する。

そして、水流を私目掛けてぶっぱなした。

私は迫る水流を吸収しながら念じる。

更に、頭の中で龍の姿を想像をする。

水の龍。

私には、アイツしか頭になかった。

水の古龍。

 

すると、私の姿は見る見るうちに変化していく。

 

長めの首にしっかりと身体を支える四肢と尻尾、そして背中に広がる全身を覆い隠さんばかりの巨大な翼に頭部から伸びる非常に長い髭状の器官。

鮮やかな色合いが特徴。

その姿は、ドラゴンながらも深海に住む生物とすらも思える姿をしていて、神秘的な姿をしていた。

 

私が想像した龍は、水を自在に操る古龍。

 

 

溟龍ネロミェール。

 

 

 

 

 

 

続く




ケミックさんが開発した薬を飲んだことで、私の魔法の能力は、魔法の属性に対応する龍に変身できる能力になったのだが、それがとんでもないほどに弱体化していたのだ。


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15話 人間体型→古龍骨格=動けない。

ケミックさんのお陰で古龍になれる能力を手に入れた。
そしたら、弱体化した。
ヤバい。

なんなら、ケミックさんのスペックがヤバい。
魔法と科学を使った設備や兵器が尋常じゃないぐらいヤバい。


 

 

 

「……」

 

溟龍ネロミェール。

私の世界で、大人気のゲームに登場する古龍種と呼ばれる生態系から逸脱した種類に分類されるモンスターだ。

その姿を見たケミックさんは、手をパチパチと叩き興奮して、ユイさんは無言で私を見つめていた。

 

「成れたよ。成れたけど、元にどうやったら戻れるの?」

 

私はそう訊ねる。

ケミックさんは「念じたら戻れるわよ」と言うので、元に戻ろうとする。

しかし、戻れない。

あれ?

と、再び不安が私を襲う。

 

「念じたら戻れるはずだけど、龍ちゃんの場合、何かしらの手段を踏まないと戻れなさそうねー」

『呑気に言ってる場合じゃないじゃろ。このままグリムマギアに向かったら、大騒ぎで大変なことになってしまうぞ!』

「ヤバいな……。どうやって戻ろうか」

 

私こと、ネロミェールは目を細めて戻る手段を考えまくった。

 

「ねー、さっきの説明を聞いた感じ、体内ある魔力を全て放出しないと魔法が解けないのよね? もし、この龍化能力が魔法の能力と紐付いてるなら、魔力を全部放出すれば、元の姿に戻るんじゃないかな?」

 

ケミックさんの案に、私とユイさんは「あー!」と納得した。

さっそく私は水の魔法を使おうとする。

流石にこの中で使うのは不味いと思い、外へと出るために歩こうとしたのだが、ここで異変が起こった。

思うように歩くことが出来ずに、転倒してしまった。

 

「あれ……? ちょっと、待って……?」

 

起き上がろうにも、思うように力が入らない。

 

「あー、やっぱり。人間が急に四足歩行の骨格になったから、身体……というか脳が慣れてなくて、筋肉の動かし方とかが分からないのよ。私も苦労したわー」

『「先に言え!!!」』

 

それを聞いた私とユイさんは声を合わせてそう言って、ケミックさんを叱り飛ばした。

 

「ご、ごめん」

 

ケミックさんは申し訳なさそうに謝罪をする。

 

「こんにゃろー、どうにかして立たないと……」

 

私は、人間体で四つん這いになるイメージをしながら、立とうとした結果、非常に不恰好であるが、何とか立つことができた。

 

「うわぁ……凄い気持ち悪い感覚……」

 

全身に力をいれると、凄いムズムズする感覚に襲われて、かなり嫌悪感があった。

 

「参ったな……。めっちゃ動き連れぇ……」

 

私は両手両足をプルプル震わせながら、ぎこちない動きで外へと出ようとする。

ケミックさんとユイさんに介護されて、何とか家に出ることができた私は、夜の暗い広大な平原に立って水の魔法を使った。

ワンチャン、本物のネロミェールみたいに口から水を放出できると思ったが、放出できなかった。

ケミックさんの言った通り、水の魔法を使い切ったことで龍化の能力も解除され、元の人間に戻った。

 

「やべえ……。確かに理性とか崩壊しないけど、めっちゃ動くのきつい……。あとすんげえ全身に違和感を感じて気持ち悪い……」

「うーん。これに関しては馴れるしかないわねー」

「事実上の弱体化やんけ!」

『当分は、刀と銃で戦うしかないのー』

「oh.......ただでさえ、前の魔法だって完璧に使えてる訳じゃないのに、それに龍化まで……。これとんでもねえな……」

 

私はため息をついて、肩をガクリと落とした。

これからのことを考えると、先が思いやられる……。

 

「そういえば、ドラゴンになったのはいいですけど、そのドラゴンの個有の能力って使えるんですかね?」

「うーん。どうだろ……。そうだ、あれで見てみようか」

「『あれ?』」

 

私とユイさんはキョトンとしてケミックさんに向ける。

ケミックは再び、私たちをある場所へと案内した。

それは、リビングを通りすぎた更に奥の部屋。

その奥の部屋は、ひたすらに広く、白一色の壁と床で小型のロボットや機械などが置かれてある。

まさにハイテクノロジーの研究所のようだった。

 

「これよ!」

 

そして、ケミックさんは一つのマシーンを私たちに見せる。

それは、大きなゲートのような物だ。

空港にあるゲート式の金属探知機を大きくした物と言えばいいだろう。

 

「これはね。能力の詳細を知ることができる機械なのよ!」

「能力の詳細!?」

「そうよ。その人の能力や、後々の伸び代予想とかを表示してくれるのよ」

『なんともまぁ……』

「これもケミックさんが?」

「そうよ!」

「……」

 

この人……普通にやばい人じゃん。

ある意味で変人だ……。

私は心の中で、そう呟いた。

 

「さてさて、じゃあ龍ちゃんこのゲートに入って!」

「あ、はい」

 

私はケミックさんに言われるがまま、ゲート内に立った。

すると、ゲートが起動して私の全身をスキャンするように光が私を包み始めた。

スキャンが始まって10秒ほど経つと完了したようだ。

ゲートの壁からプリンターらしき機械の起動する音と共に文字が刻まれた紙が出てきた。

それをケミックさんは抜き取り、確認する。

 

「フムフム、あー。なるほどね……」

 

紙を見たケミックさんは、興味深く読んでいた。

私も見たのだが、全然分からなかった。

万一に備えてケミックさん自身にしか分からないように暗号化してあるらしい。

ということで、ケミックさんから私の能力について説明を受けた。

 

まず、私の能力だが、

元々は、外部から受けた属性(炎・水・雷・氷・土、風)を吸収し、その受けた属性の魔法を使うことが出来ていたのが、先ほど飲んだ龍化能力付与の薬と元々あった魔法能力とか合体してしまった。

そして、その属性一つ一つから、別々の龍に変身することになったという。

だが一度その対応属性に変身した龍は固定化されて、二度と別の龍に変身できない。

つまり、先ほど水の魔法を得た時に変身した溟龍ネロミェールは、水の魔法では、ネロミェールが固定化されて、二度と別の龍に変身することはできないとのこと。

また、その変身した龍の力は使用することは現状不可能で、あくまで、ネロミェールの姿で水の魔法を使えるだけとのこと。

ネロミェールの持つ水を操る能力や電気を発生させる能力は使えないらしい。

だが、その龍の力はそのままのようで、肉弾戦ではかなり有利にたてる……らしい。

ただ、鍛えればその龍の能力は使用できるようになるようだ。

 

 

「聞いてて、あんましよく分からんけど。取り敢えず、もう水の魔法はネロミェールしか変身できないわけやな?」

「そういうことね。炎や氷はまだ使ってないから、そのネロミェールってドラゴン以外に変身できるわよ」

「ただ、一回変身したら別の龍には成れないと?」

「そういうこと。それにその龍個人の能力は使えないわ。ただ、これに関しては、単純に龍ちゃんにそこまでの力がないだけで、鍛えればその龍の能力は使用できるようになるわ!」

 

ケミックさんはウィンクをしながら言った。

「がんば!」と言ってるようだ。

うーむ。

と私は唸る。

 

「取り敢えず、炎とかも龍になってみようかな。ケミックさんって水以外に何使えます?」

「炎、水、電気、風、氷、土、闇、光、植物、毒、鋼ね」

「すげぇ……」

「まぁ、これでも魔法都市の大神官してるしねー」

「な、なるほど……。それなら、炎や電気、風などの魔法を私にぶつけてください」

「今のうちに、成りたい龍になるわけね?」

「ええ、咄嗟に龍に成るにしても、変な龍に成るのは嫌なので。どうせなら、私の好きなドラゴンに成りたいじゃないですか。その龍とは一生な訳ですし」

「まぁ、気持ちはわかるわ。じゃあ、炎からいくよ?」

「お願いします」

『どんなドラゴンになるのか決まっておるのか?』

「ええ」

 

私たちは外へと出た。

私は深呼吸をして目を開ける。

それを見たケミックさんは、炎の魔法を唱えた。

鳥を模した炎が私の方に迫りくる。

私はそれを両手で抑え込み吸収。

頭の中で炎の龍を思い浮かべ、私の身体はそのドラゴンになってゆく……。

 

「ワーオ! かっこいい!!」

『邪悪の眷属もビックリな見た目じゃな。ワシは結構好みじゃ』

 

有翼の獅子を彷彿とする赤い毛並みの龍となった私は「そうっすか」と呟いた。

やはりというべきか、ネロミェール同様に違和感が半端ない。

 

「名前はなんて言うの?」

「炎王龍テオ・テスカトル」

『変わった名前じゃな』

「なははは……」

「かっこいいじゃない!」

 

私は炎を徐々に放出して魔法を解いた。

しかし、熱によって私がいた周辺の草は燃えてしまった。

 

「あー、ケミックさんすみません」

「いいわよ。魔法で生やせるし」

「そ、そうですか」

「さてさて、他の魔法もやっておきましょ!」

「あ、はい」

 

この後、私は各属性の魔法を吸収して龍に変身するの繰り返しをした。

その結果……。

 

炎の魔術・対応龍-炎王龍テオ・テスカトル

水の魔術・対応龍-溟龍ネロミェール

雷の魔術・対応龍-雷極龍レビディオラ

氷の魔術・対応龍-冰龍イヴェルカーナ

風の魔術・対応龍-風翔龍クシャルダオラ

土の魔術・対応龍-地啼龍アン・イシュワルダ

 

 

こうなった。

どれもMONSTER HUNTERと呼ばれる、私がいた地球で世界的人気を博したゲームに登場する古龍種に属するモンスターたちだ。

正直、土の魔術の対応するドラゴンは凄い悩んだ。

冥晶龍ネフ・ガルムドか、地啼龍アン・イシュワルダの二択。

悩んだ末、ケミックさんが有無を言わずに私に土の魔法をぶっ込んできて、咄嗟に頭に浮かんだのが、アン・イシュワルダだった。

しかし、動けない。

MONSTER HUNTERの世界では、常識から逸脱したような強い部類に属するドラゴンたちだが、自分がなってみると動けない。

これがフィールドにいたら、ハンターの格好の的である。

なんなら、一番弱いモンスターにも負けるかもしれない。

本来の私の最大の武器であった魔法が、龍化と一体になったことで、現状私の武器は刀と銃だけになってしまった。

まぁ、早いところ、古龍の体にも慣れないとな……。

じゃないと後々ヤバそう……。

 

 

 

 

 

「はい、これで全部ね!」

「ありがとうございます!」

 

それぞれの魔術の龍化を終えた私は一息つく。

ケミックさんは、お腹が空いたわねーと言って、私たちをリビングへと連れていく。

 

「ちょっと遅いけど、ご飯にしようか」

 

そう言いながら、ケミックさんは冷蔵庫から食材を取り出す。

私も何か手伝った方がいいと思い、立ち上がろうとしたが、それよりも先にケミックさんが、「私が適当に作るから、適当にしてていいわよー」と先手を打たれた。

さて、適当にしていいとは言われたが、どうしたものかと考えていると……。

 

『そう言えば、ケミックよ』

「なに?」

 

ユイさんがケミックさんに話かけた。

ケミックさんは、料理をしながら口を開く。

 

『食材は、グリムマギアで買っておるのか?』

「いんや? 地下施設で作ってるわよ?」

『地下施設??』

「地下施設……」

「ええ、この地方って地下にマナが大量にあるじゃん? それを利用して、マナで稼働する機械を開発したのよね。それで龍ちゃんの世界にある野菜や果実を栽培してるの。後は魚介類とか、お肉とかね」

『な、なんじゃと?』

「どゆこと?」

 

私とユイさんが、目を点にして訊ねると、ケミックさんは表情一つ変えずに、私たちが座っているソファーの近くにある床を指差した。

 

「そこの下にそれらの巨大なプラントが広がってるのよ。そこから食材を調達してるのよ。後でいってみる?」

「いいんですか?」

「いいわよ。ユイは?」

『ちょっと興味深いの……』

「じゃあ、ご飯食べたら言ってみましょうか! もうすぐしたらできるわよ」

 

美味しそうな料理の香りが漂う。

流石に腹の虫が鳴り響く。

 

『恐ろしい虫を飼っておるな』

「なははは……。腹減った……」

 

私は笑って腹をさする。

ケミックさんはニコニコさせて「もう少しでできるわよ」と言った。

 

ケミックさんの言う通り、五分ほどでご飯が出来上がった。

 

「はい! おまたせー!」

 

エプロン姿のケミックさんは、料理がのっている大きなお盆を持って、それをテーブルに置いた。

私は一目散にテーブルへと直接攻撃をする。

予想はしていたが、晩御飯の献立はビックリするほどの日本料理である。

 

ご飯(麦と米半々)

味噌汁(もやし、大根、レタス、ネギ)

マグロ?っぽいお刺身

鶏肉の唐揚げ

レタスのおひたし

 

どれもこれも、美味しそうであり、私の大好きな料理ばかりだった。

 

「まだ残ってるから、おかわりOKよ」

「マジか、ありがとうございます!! いただきます!!!」

『うまそうじゃなー』

 

ユイさんは、ケミックさんと私の料理を見て呟く。

それをみたケミックさんは、ため息をついて……。

 

「まったく、今度、転送装置でも作ってみるわよ」

「作れるんですか?」

「分からないわよ。でもやってみる価値はあるわ。小さい物質程度なら、座標さえ掴めれば可能そうだしね」

『天才か?』

「さーね」

 

ケミックさんは、顔色一つ変えない表情で、モグモグと飯を食べながら口にする。

 

「まぁ、今度やってみるわ」

 

そのあとは、なんのことはなく、食事を済ませた。

因みに、味の方は日本を彷彿とさせる味わいで、少しだけ涙が出そうなレベルで美味しかった。

私は3分を経たないうちに、全てをぺろりと食べほした。

 

「はや……」

「おかわりあります?」

「あるわよ」

「いただきます!」

『お主よく食べるのぅ……』

「腹減ってる故……」

 

そのおかわりも2分ほどで平らげ、ごちそうさまをした。

ケミックさんは、呆気にとられていた。

 

「そんなに美味しかった?」

「ええ、故郷といいますか、向こうで食べた味そのもので懐かしさのあまり」

「それはよかったわ! 向こうの世界、とくに日本の食材の味に寄せるように品種改良やらなんやらをしたからね!」

「さ、流石ですわ……」

 

この人の日本というか、向こうの世界に対する執念というかなんと言うか……。

恐ろしいほどに凄い……。

 

「さて、私もごちそうさま! じゃあ、食器を台所に置いたら、見せるわね」

 

そう言ったケミックさんは、魔法の力で食器を全て台所に置いた。

そして、そのまま私と自身に魔法でバリアを張ったのだ。

 

「下は、食物等を育ててるからね。貴方ならわかるわよね?」

「ええ。まぁ」

『ワシは?』

「あんたは、別にいらないでしょ。ほぼ霊体なんだから」

『た、確かにそうじゃな』

「じゃあ、いくよー!」

 

ケミックさんは、床を開けて下へと降りていった。

私たちも後に続く。

そして、地下室へとたどり着いた私たちは、自分の目を疑ってしまう。

そこには、水耕栽培プラントにあるであろう機械が立ち並び、ありとあらゆる野菜が栽培されていた。

そもそも、この部屋の大きさがおかしい。

パット見た感じ東京ドーム二、三個分の広さがある。

高さに至っても、一般の住宅二階建てぐらいの高さを誇っている。

 

「すごいでしょ?」

「……」

『……』

 

唖然とするわこんなもん。

野菜も、キャベツやらレタスやらほうれん草やら……。

巨大な野菜栽培プラントゾーンを過ぎると次は果物プラントゾーンだ。

そこにもリンゴ等の果物が、あり得ないほど栽培されている。

ケミックが言うには、これらのプラントは、地下に広がっているマナのエネルギーを特殊な機械で吸収し、それをエネルギーに変換して、稼働させているらしい。

しかも、マナは無尽蔵に沸いてくるため、ほぼ永久機関的に動き続けることが可能だとか。

しかも、この地下は核シェルターの三倍ほどの強度を誇り、邪悪の眷属の攻撃もある程度耐えることが可能だという。

 

「やべえ……」

『これは……うん』

 

私とユイさんは驚きのあまり、言葉を失った。

科学大神官というより、科学超神官だろこれ……。

いくらなんでもオーバーテクノロジー過ぎる……。

 

「果物プラントの先は、魚介類プラントね。あとは、豚とか牛とか鶏とかも育ててるわ」

「……」

 

とりあえず、このプラントだけで自給自足ができるのはわかった。

やばすぎる。

そのあと、私たちはリビングへと戻った。

 

「すごかったでしょ?」

「ええ、ヤバかったです」

『同じく』

「他にも色々な施設があるのよ?」

「た、例えば」

「マナを動力源としたロボット作ってたりね。ほら、あの扉の向こうを進んだ先のところに、さっきの地下プラントとは違う場所に格納庫を用意してあるのよ!」

「……」

 

やっぱこの人頭おかしい。

子供のようにはしゃぎながら説明するケミックさんを見て、私たちは苦笑するしかなかった。

 

「行ってみる?」

「ええ、なかなか興味深い」

『そうじゃのう』

 

私たちは、そのロボットがある格納庫へと向かった。

リビングの更に奥にある部屋の隠し扉から続く地下の長い階段を降りた。

五分ほど階段を降りていると、一つのごつい扉が見えた。

ケミックさんは、慣れた手つきで液晶モニターに映る長いパスワードを入力する。

ロックが解除されたのか、扉が音を発てて開いた。

そして、その格納庫には……。

 

「な"、な"ん"じゃごれ"!?」

『……………………???????』

 

先ほどの食料プラントよりも広大な空間に、日本で見たことのある戦艦や機械人形、とあるAI兵器が整備されていた。

あまりの光景に私は、自分の目がおかしくなったのかと。

この空間だけ別の世界にあるんじゃないかとすらも疑ってしまう。

 

「私の弟子が、なんだっけ? モビルスーツ? だったかな? それが大好きでねー。画像を見せてもらって、私も凄い興味が沸いて、自分で作ってみたの!」

「これ全部ですか?」

「そうよ、あー、まぁ魔法を使って、ある程度の製作工程を省いたりしたけどね」

「……」

「とりあえず、私たちの真ん前にある、巨大な戦艦がー。えーと、機動戦士ガンダムUCに登場するドゴス・ギア級2番艦 『ゼネラル・レビル』ね。他には同作品に登場する量産型モビルスーツ、RGM-89A2『ジェガンA2型』。量産型可変モビルスーツ、RGZ-95C『リゼルC型』ね。その二種類は、ゼネラル・レビル内のモビルスーツデッキに格納してあるわ」

「やっべ……」

『ワシにはわからん……』

「艦内の格納庫にジェガン48機、リゼル48機。合計96機のモビルスーツが搭載してあるのよ!」

「ん??」

 

ケミックさんの言葉に疑問が浮かぶ。

確かにゼネラル・レビルは、作中でも化け物艦と言われるほどの大きさを誇り、モビルスーツ……つまり機械人形(ロボット)を大量に搭載できる。

しかし、その搭載量は48機の4個大隊のはず。

なぜ、そんなに積めるのだろうか??

私はケミックさんに、訊いてみた。

 

「よく気づいたわね。このゼネラル・レビルは一回り、大きく作ってあるの。そんで、この戦艦は無人機動が可能だから、人員のスペースが必要としてないわけ。だからそのスペースを全て格納庫に回してるの」

「な、なるほど……」

「更に、このジェガンとリゼルは従来よりも小型化してるのよ!」

「あー、なるほど」

「私も従来の全長で作ってたけど、弟子がモビルスーツは小型の方が小回り効いて、戦況を有利にできますよっていわれたのよ」

「じゃあ---」

 

私が言おうとしたより、先にケミックさんが口を開く。

 

「確か小型モビルスーツであるヘビーガンとかGキャノンとかも見せて貰ったけど、やっぱり私にはジェガンとリゼルが刺さるなってことで、この2種類を小型にしたのよ。それから動力源はマナ魔法……」

 

 

 

科学超神官ケミックのウンチクにより割愛

 

 

 

「そう言うわけよ!! スゴくない!?」

「いや普通に凄いですよ」

『(10分も話とったぞ……)』

 

ケミックさんのとんでもない長話に、ユイさんは疲労困憊である。

それに気づいたケミックさんは、非常に申し訳なさそうな表情をして「じゃあ、夜も遅いし戻って寝ようか!」と切り上げることにした。

しかし、帰り際にも話の花が咲き乱れる。

 

「向こうの格納庫にも、何かあるんですよね?」

「ええ、第一格納庫には、さっき紹介したゼネラル・レビル。第二格納庫には、カイラム級機動戦艦『ラー・カイラム』にジェスタが置いてあるわ」

「はへー」

「第三格納庫には、ちょっと別の兵器があるのよね」

『しかし、そんなに兵器を開発してどうするつもりじゃ?』

 

ユイさんが目を細めてケミックに訊ねる。

ケミックさんは相も変わらず、にこやかに微笑みながら「わたしの技術力、科学力、魔法力の向上。あと自己満足。それと防衛ね」と自信満々に答えた。

 

『しかし、あの兵器たち……』

「わあってるわよ。あの兵器の弱点が絶妙に致命的なのよ。こっちだって何とか改良策を考えているのよ」

「致命的な弱点?」

 

そういうと、ケミックさんの弱点の解説が始まる。

 

要約するとこうなる。

 

・あれらの兵器はマナをエネルギーに動いている。

 

・グリムマギアの地中にはマナが未曾有にある。

 

・兵器に積んである動力は、その地中からあふれでるマナを吸収し、エネルギーに変換してある。

 

・グリムマギア地方にいる限り、あれらの兵器は半永久的に稼働することが可能。スマホなどで言うところの永遠に充電してる状態。

 

・つまり、マナの少ないグリムマギア地方以外では、直ぐに機能が停止する。

 

らしい。

それは確かに絶妙に致命的な弱点だ。

 

 

「なーるほど……」

「まぁ、なんとかなるわー」

『グリムマギアの守護神じゃな……』

「それより、ケミックさんの弟子ってどんな人なんですか?」

「そうねー。丸野 卓郎(ガンノ タクロウ)っていう少年でね。凄いロボットに詳しいの。魔法もそれなりに使えてかなり優秀よ。いまグリムマギアにいるはず」

「そうなのですか」

「うん!」

 

そんな話をしているうちに、リビングへと戻ってきた。

私たちは直ぐ様入浴をして、ケミックさんとユイさんの二人はケミックさん自室のベッドへ、私は借りた布団で寝ることにした。

 

今回は濃厚な1日だった。

とりあえず、明日から古龍の体に慣れるために頑張ろう。

そう思い、私は夢の中へと向かった。

 

 

 

 

そして、同時刻。

四大都市であり、魔法を専門とする魔法都市。グリムマギアでは、悪夢とも言える出来事が起ころうとしていたのだ。

 

[……]

 

神殿の入り口を影から見つめる黒いロングコートを着ている男がいた。 

この神殿の深奥に存在するある物を狙っているのだ。

扉の前には、警備兵と思われる男性が二人が笑顔で雑談をしている。

 

[……!!!]

 

男性は目にも止まらぬスピードで警備兵に接近し、二人を切り裂いた。

一瞬の出来事だ。

二人は、笑顔のまま倒れて死んだ。

多分、自分が殺されたことに気がついていないだろう。

 

[……]

 

男性は、凄まじいスピードで神殿の深奥まで走り出した。

 

[……ここか……]

 

神殿の深奥にあったのは、1つのとっくりだった。

それを見た男性はなにも言わずに、そのとっくりを地面に叩き割ったのだ。

どうなるか、わかるだろう。

割れたとっくりから、赤黒いオーラが放たれる。

辺りが揺れ、柱などが崩れ落ちた。

 

[……]

 

そして、神殿が崩壊すると同時に男性はワープでその場から離脱する。

そして、封印が解かれたアークヘイロスは地中深くに潜行し、地中にある未曾有のマナを吸収しにかかった。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




恐ろしいことが起こった。
まさかグリムマギアにアークヘイロスが顕現するなんて……。
このままでは、グリムマギア地方が崩壊するらしい。
私たちは、ケミックさん手製のバギーでグリムマギアへと向かい、討伐隊に参加することとなった。


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16話 魔法都市に顕現した厄災

最早、何も言うまい……。
いま現在最悪の事態が起こっている。
このままでは、グリムマギア崩壊は免れない。
何としてでも阻止しなければ……。


 

神殿が崩壊する音は我々のいる場所にも聞こえていた。

 

「な、なに、なに!?」

 

私はその崩壊する音と地響きに驚き、目を覚ました。

家具などが揺れ、最初は地震かと勘違いしてしまう。

幸い、この家の家具は耐震強化を施されており家具たちが崩れることはなかった。

 

「何事!?」

『なにがあった!?』

 

揺れに起きた二人も飛び出す。

私たちは急いで家から飛び出した。

 

「なんや!?」

「うそ……」

『あそこは……』

 

ユイさんとケミックさんは、驚愕の表情をして何かを見つめていた。

私も二人の方を見ると、一瞬時間が止まったような感覚に襲われた。

 

遠方に煙が立ち上っていた。

しかも、ただの煙ではない。

赤と黒が混ざり合った不気味な煙だった。

 

「え? なにあれ?!」

 

私がそう聞くとユイさんは首を傾げた。

 

『わ、分からぬ。ただ、あの方角はグリムマギアの場所……』

「まじ?」

『龍輝!! 早くグリムマギアのところへ……!!』

「あ、ああ!!」

 

私とユイは全力でグリムマギアへと走ろうとする。

しかし、それをケミックさんが止めた。

 

「ちょっと待って!」

 

と。

そういったケミックさんは、家の隣にあるガレージに駆け込んだ。

そして、シャッターを開けて中からバギーを持ち出してきた。

 

「早くのって!!」

 

そういってケミックさんは扉をあける。

私はすぐにバギーに乗り込んだ。

ユイさんは、浮遊しながら、見たこともないスピードでグリムマギアへ飛んでいった。

ケミックさんも、険しい表情でバギーを動かす。

 

「歯を食い縛って、しっかり捕まって!!」

「は、はい!」

 

バギーのドスの効いたエンジンを鳴らして、地面を駆け出した。

賢者の丘を物凄いスピードで走り、倒木を引き潰し、グリムマギアへと進む。

その間に二人の会話はなく、ケミックさんは冷や汗を流しながら、眉を潜めた険しい表情でバギーを乱暴に運転する。

 

賢者の丘を10分ほどで抜けると、急な下り坂にたどり着く。

そして、その坂を下った場所にグリムマギアと呼ばれるイクス大陸の四大都市が見えた。

超広大な街のド真ん中にシンボルと思われる巨大なタワーがドンと立っている。

そして、やはりグリムマギアの北部から赤黒い煙が立ち上がっていた。

 

「やっぱり……」

「何か事件が……」

「坂を下るわよ!!」

 

そういってアクセルを全開にする。

私はグワングワン揺れながら、必死にしがみついていた。

私はあまりの恐怖に顔は真顔である。

時々、外れそうな眼鏡を抑えながら、急な坂を見つめていた。

 

坂を下り、車を降りてグリムマギアの門へと走る。

 

門の付近にテントや、簡易的の小屋がいくつも設置されていた。

そして、ゴツイ鎧を身に纏った人や、ローブを着ている人、皮の服を着た人等々が沢山いたことから、かなりヤバイことが事態になっていると感じた。

 

「……」

 

私とケミックさんは走ってその場所へと向かう。

 

「おや、ケミック様!」

 

走ってくる私たちに気づいたのか、老年の神官らしき人が駆け寄った。

 

「単刀直入に訊くけど、まさか封印が解かれたの?」

 

そう言うと、老年の神官は険しい表情でコクりと頷いた。

ケミックさんは頭を抱える。

その言葉と仕草に私は、まさかと思いつつも、確認するために老年の神官に問いた。

 

「封印が解かれたって、邪悪の眷属がですか?」

 

と。

神官は頷く。

私は予想していたことが当たり、「マジかよ」と言葉を漏らした。

 

「現状、アークヘイロス・マフィーナは地下深くのマナが貯まってある場所でマナを吸収しています。吸収が終わり、この地に舞い上がるのは、2日後だと想定されています。いまソルジェスやバイカルに救援要請を送っております。貴方も英雄ですよね?」

「はい、一応」

「お願いします。アークヘイロス・マフィーナの討伐、ご協力お願いします」

 

そう言うと老年の神官は、深く頭を下げた。

 

「もちろんです」

 

断る理由がない。私は頷いた。

老年の神官は「ありがとうございます」と言いながら何度も頭を下げた。

こうして私とケミックさんは、邪悪の眷属であるアークヘイロス・マフィーナの討伐部隊に入ったのだ。

 

 

 

 

暫くして、各国からの増援が到着し、私たちは、中央の広場に集められ作戦会議を行うこととなった。

私は辺りをキョロキョロと見渡すが、神官や私たちの世界から召喚されたであろう人々、兵士達しかおらず、民間人は一人としていなかった。

しかし、周辺には売店等が立ち並んでおり、昨日までは皆笑顔に暮らしていたと想像できるが、いまはその影もない。

街全体がグレー掛かっており、気持ちまで陰鬱としてしまうほどだ。

 

 

しばらくすると、一人の男性が中央の噴水の上に立って大声で言った。

どうやら、あの男性がこの討伐隊のリーダーのようだ。

2mはあるであろう巨漢で、角刈り、森林と言っても誤魔化しが効くレベルのモサモサとした髭、て言うか何処から何処までが髭で、何処から何処までが揉み上げなのか分からん。

……私が元住んでいた地球の森で歩いていたら、十中八九ビッグフットと間違えられるであろうな……。

 

「我が名はサスクワッチ。これより、アークヘイロス・マフィーナ討伐の作戦会議を行う!!!」

 

やっぱりビッグフットじゃねえか!!

私は心の中で突っ込みを入れた。

 

「まず、我々の討伐すべき敵であるアークヘイロス・マフィーナについて説明をしておく」

 

そういって、サスクワッチは1つの書物を取り出して、それを開いた。

すると、その本のページに記載されてある内容が虚空に映し出された。

さながら、それはホログラムのようだ。

 

「アークヘイロス・マフィーナは、邪悪の眷属のうちの1人だ。やつは膨大な魔力持ち、炎、水、雷、風、氷、土、毒の魔術を使用してくる。さらに小型の虫型の魔物を使役し、操ってくることも確認されている」

 

そう言いながら、ホログラムにアークヘイロス・マフィーナの全身の姿が映し出された。

見た目は女王蜂を巨大にして物凄い装飾品を着けた感じだろうか。

ポケモンで言うところの「ウルガモス」。

PHANTASY STAR ONLINE2で言うところの「ダークファルス・アプレンティス」もしくは「オメガファルス・アプレンティス」みたいな姿をしている。

見た感じ、かなりでかい。

 

「現在、マフィーナは魔力を補充するために地底に潜伏している。ヤツが地上に出れば、どんな災害が起こるか分かったものではない。何としてでも、地上に出る前に討伐しなければならない!!」

 

画面には、マフィーナが使役するであろう虫の画像が映し出される。

どれもこれも、虫嫌いが見たら嫌悪感や不快感を出すものばかりだ。

 

「部隊は潜伏するマフィーナに直接攻撃を加えるための討伐部隊、使役する虫を迎撃する部隊、万が一マフィーナが地上に出た場合にそれを迎撃する部隊、それらを支援する部隊。この4つを編成する! 決行は明日の早朝に行う!」

 

そう言われ、各々の人々がどの部隊に入るかざわざわしていると、1人の男性が手をあげた。

みんなが一斉に注目する。

 

「僕の発明した兵器を地底に持ち込めないかと思いまして」

 

眼鏡をかけた18歳ぐらいの少年が得意気にそう言った。

それをみたケミックさんが声をあげる。

 

「卓郎じゃん!」

「ケミック師匠!」

 

ケミックさんと卓郎が互いに駆け寄った。

あいつが丸野卓郎か。

眼鏡をかけて黒髪短髪の極一般的な少年という印象を持つ。

服装も白い無地のTシャツ、ジーパンの上にちょっとした鎧を装着しているというものだ。

なんだろうか、特に理由もないのだが高校で科学部部長を勤めていると言われても、違和感ないだろう。

 

「その兵器とは?」

 

サスクワッチさんが、卓郎に訊ねる。

すると、卓郎はニヤリと笑みを浮かべて、ポケットから鞄から1つのコントローラーを取り出した。

ps4のコントローラーを彷彿とする形状をしている。

そのコントローラーを弄ると、光を放ちながら、自走砲が出現した。

それをみた卓郎は眼鏡のブリッジをクイッと上げてドヤ顔で話す。

 

「この自走砲で潜伏しているマフィーナに砲撃してダメージを与えるのはいかがでしょう。威力も保証しますよ」

 

得意気に語る卓郎。

何の根拠もないが、妙に信憑性があった。

だってケミックさんの弟子だし。

 

「マフィーナが使役する虫たちなら私が、何とかできるかも知れないわよ」

 

ケミックさんが「はーい」と手を上げてそういった。

 

「何とかできるのか?」

「たぶん。私は邪悪大戦のことは知らないから何とも言えないけど、マフィーナが使役する虫ぐらいなら……」

「……信じよう」

「わかったわ。今から持ってくるわね!」

 

そういうとケミックさんは早々と自宅へと向かった。

 

「では、マフィーナ討伐部隊は、明日永遠 鈴亜(アストワ レア)を隊長に編成を行う」

 

サスクワッチはそういうと、少女が前に出た。

金色の瞳に青く長い髪、アニメから出てきたんじゃないかと思うほどに整った顔立ち。これほどの美少女は存在しないと言いきれる程に可愛く、そして綺麗な美少女だ。

年齢的には私よりは断然若い、18か7ぐらいだろうか?

その姿をみた人々たちは、まるで希望の星が現れたような表情をしてザワザワし始める。

 

「鈴亜さんだ!」

「あの邪悪の眷属を倒した英雄だ!!」

 

各々がそんな言葉を口にしていた。

たぶん、あの女の子が昨日ケミックさんが言っていた人なのだろう。

そら、アークヘイロスを倒した人がいたら士気も上がるわな……。

そんなことを呑気に思っていると……。

 

「ちょっとよろしいですかな?」

 

一人の大男が前に出る。

その男の姿を見て私は「あっ」と思った。

ヤルソー将軍だ。

 

「ヤルソー殿!?」

「この中に朱雀龍輝君はいますかな?」

 

そういった。

辺りが少しざわめく。

私は「はい」っと言って小さく手を出した。

全員が一斉にこちらを向く。

サスクワッチは奇怪な顔で「あの方がどうかしましたか?」という。

ヤルソー将軍は誇らしげに「彼はアークヘイロス・ギルファーを倒したこの討伐隊の主要戦力の1人だ」と言った。

それに全員がどよめき立つ。

私もどよめき立った。

とんでもないことになりそう。

私はそれを肌で感じ取った。

だって、私自身がアークヘイロス・ギルファーを倒したわけではないし……。

なんならケミックさんのお陰で物凄い弱体化食らってるし……。

 

「アークヘイロス・ギルファーを!?」

「まさかアークヘイロスを倒したやつが鈴亜さん以外にもいたのか!?」

 

他の人々が口々にそんなことを言っている。

 

「それで貴殿の作戦の討伐部隊龍輝くんに加えたい」

「ええ、私は構いません。アークヘイロスを倒したとなれば、問題ないでしょう」

 

私の有無関係なく勝手に事が進み出す。

そして、地底でマナを吸収しているアークヘイロス・マフィーナを攻撃する班に私ともう一人、邪悪の眷属であるアークヘイロス・ドラコーイルを倒した女の子。

鈴亜さん、他数100名が編成される。

そして、外に待機するソルジェス、デモーアル、サントプトから派遣された軍隊。そして英雄たちによる総軍。

周囲には大量の重火器といった兵器が用意されており、万全の態勢といったところだ。

その間、各々が武器の手入れなど、決戦に向けての準備が行われていた。

 

色々あって気づかなかったのだが、ユイさんの姿がいなかった。

私は仮設拠点に戻らず、ユイさんを探し回った。

 

「ユイさんどこに行ったんや……」

 

私は小声で独り言を呟きながら、住民一人としていないグリムマギアの街中を走った。

 

マジでどこいったんや?と思っていると、私はある場所にたどり着き、足を止めた。

私がきた場所は、崩落した神殿近くの場所……。

そこにユイさんは居たのだ。

 

「ユ、ユイさん?」

 

私は戸惑いながら近づくと、ユイさんは俯きながら、あるものを見ているのに気づく。

 

『……』

 

ユイさんは、恐らくこの神殿を防衛していたであろう、兵士の死体を悲しげな表情で見ていた。

恐らく、この死体は……封印を解いた何者かによって殺られたものだろう……。

大きく見開き、虚ろな瞳をして死んでいる兵士の目を閉じさせようとするが、霊体であるからか、すり抜けてしまうのだ。

それを見て、私は話し掛け辛くなって、戻ろうとした。

 

『たつき……』

 

ユイさんの方から声をかけられた。

突然だったので、私はビクッと肩が羽上がる。

 

「……ん?」

『……マフィーナは……危険な相手じゃ……』

 

今にも消えそうな……か細い声で、私にそういった。

ユイさんは体を少し震わせ、泣くのを必死に我慢していた。

 

『……やつを倒して……グリムマギアを、助けて……』

 

必死に我慢しているが、涙がポロポロと出ていた……。

私は「ああ」と返事するしかできなかった。

 

 

 

 

 

その後……

 

 

全員が集まったとき、後ろから誰か私の肩を叩いたのだ。

振り向くと、そこには鈴亜さんがいた。

 

「明日はよろしくね!」

 

にっこりと笑う笑顔に私はドキンとしてしまう。

 

ヤバい……。

かわいい。

 

私は顔を赤らめてしまった。

童貞はこういう時に上手くコミュニケーションをとれないから……参ったものである。

私は内心で自身を苦笑しつつ、鈴亜さんと少しだけ会話を交わした。

他愛ない話である。

やはり、少しでも緊張を解すためだろうか?

色々とはなしをしていると、サスクワッチさんが大声を上げた。

サスクワッチさんは私たちに地下洞窟の地図を渡された。見た感じ長い一本道の洞窟。

もしかしたら、アークヘイロス・マフィーナが使役している虫型魔物が道中に遮る可能性があるとの事だ。

虫が大嫌いな私からしたらめっちゃ逃げたい。

逃げたいのだが、まさかのアークヘイロスを討伐した実績があるということで、鈴亜と私がリーダー的立ち位置になってしまった。

アークヘイロス討伐者ってだけでだ。

はっきし言う。

地獄。

どないせえっちゅうねん。

私は心底落胆し、大丈夫なのか?と心から感じた。

そして、その不安と緊張は私の腹痛を引き起こすトリガーの要因になるには十分すぎることだった。

 

近くにいた兵士にトイレの場所を聞いて、全力でトイレに駆け込んだ。

 

 

そして、トイレから出ると辺りは暗くなっており、全員が集まって晩御飯を食べていた。

 

私も出されているご飯を食べて、そそくさと仮設の拠点へと入り、眠りについた。

明日に備えて。

正直不安でしかない。

 

 

 

 

 

 

朝を迎え、私たちは即座に部隊編成を行い、アークヘイロス・マフィーナがいる地下洞窟へと向かった。

グリムマギアから少し離れた場所に巨大な岩山があり、その岩山に大きな洞窟へと続く穴があった。

ここから洞窟へと入り、最奥にてマナを貯めているアークヘイロス・マフィーナを討伐する。

 

「いよいよだね!」

 

鈴亜はワクワクウキウキのようで、ジェットコースターに乗る前の子供のようだった。

一方、私は死にかけた虫のようにげっそりとしている。

緊張が爆発していまにも死にそうなのだ。

卓郎は自走砲に搭乗し、レーダーでマフィーナのいる場所を索敵するという形だ。

 

「じゃあ、行こうか!」

 

鈴亜の言葉と同時に、私たちはアークヘイロス討伐のため、洞窟の中へ歩きだす。

それと同時に自走砲も音を立てて進む。

 

 

中は、薄暗くギリギリ前が見える程度だ。

 

「暗いわね」

「せやな……」

 

私たちは警戒心マックスでそんな会話をしていると、やはりというべきか虫型の魔物が襲いかかってきた。

 

[キシャアアアアアア!!!]

[シャアアアア!!!!]

[ボオオオオオオオ!!!!!!]

 

カマキリのような魔物。

ハエのような魔物。

巨大な蟻のような魔物。

それらが50匹ほどの数で襲いかかる。

 

「前方から魔物がくるよ!!!」

 

卓郎の声で、魔法職の人々が一斉に炎の魔法を唱えた。

炎の塊が一斉に虫型の魔物目掛けて飛んで行き、焼きつくす。

 

「(私も魔法使えたらなぁ……)」

 

それを見て心の中でそう呟いた。

いや、使えるには使えるんや。

ただ、それを使えば確実にやられる。

MONSTER HUNTERに言えば、炎王龍テオ・テスカトルが、ランゴスタやブナハブラ、カンタロス、オルタロスにボコボコにされるみたいなもんである。

さすがにそれは情けなすぎる……。

そもそも、それで足を引っ張ればお仕舞いである。

ここは、始めに商人から頂いたこのハンドガンで狙撃するしかない。

私は、ハンドガンを取り出してリロードした。

 

「またきた!!! 数は100匹!!」

 

再び襲来する虫の群れ。

今回の群れは多い。

さまざまな虫たちが襲いかかってきた。

魔法職の方々が炎の魔術を使うが、やはり、この大群では射ち漏らしが出てくる。

それを他の人々が撃ち落とす。

私も何発か飛んでくる虫目掛けて発砲をした。

意外と当たるもので、撃たれた虫はピクリとも動くことはなくなった。

そして、暫く歩いていると、大きな鍾乳洞のような場所についた。

ここから下っていくらしい。

 

「うわぁ……不気味すぎる……」

 

 

その鍾乳洞の壁や床に赤い卵のような物が無数にあり、さらに所々に赤い血管のような物体が張り巡らされていた。

グロテスク過ぎてビビる……。

あまりにもドエライ酷景に他の英雄や兵士たちも、眉を潜めてドン引いていた。

 

「このまま真っ直ぐ降りると、マフィーナがいる!! 今のところ敵の気配はない。このまま進もう!!」

 

卓郎がそう言うと、私たちは一応警戒をしながら、最奥へと進んだ。

先ほどとはうってかわって、敵の襲撃がない。

寧ろ、そちらの方が不気味に思えてきた。

 

「不気味なまでに静かや……」

「そうね」

 

そんなことを話ながら、進んでいると卓郎が大声を上げた。

 

「みんな気をつけて!!! 壁から生体反応が増大してる!!!」

 

それを聞いた全員が背を自走砲に寄せて壁にある巨大な卵を睨む。

すると、壁にあるありとあらゆる卵から訳のわからん液体を吹き出しながら、小さな虫が何千匹と現れた。

その光景は目を背けるほどにえげつないものだった。

バイオハザードとかサイレントヒルじゃないんだからさ……。

奇声に近い甲高い声をあげながら、生まれでた虫たちは、私たちのほうを見るや否や、ものすごい勢いで襲いかかってくる。

先ほど強襲してきた虫の比じゃないほどの数だ。

私たちは一斉に攻撃を開始する。

 

炎の魔法らしき火の玉や熱線、火炎放射などが襲来する虫を襲う。

自走砲からも備えられた10個のアサルトライフルから火を吹いて援護射撃をしていた。

しかし、それでも千匹を超える虫たちを屠ることは出来ずに、炎や弾丸の弾幕を潜り抜けた虫が、人間を襲いかかる。

虫の断末魔に合わさって、人間の悲鳴が私の耳を突き刺した。

私はそれをなるべく聴かないようにして必死に迫る虫を撃ち落とす。

5分間の攻防が続き、やっと卵から孵った虫全てを葬り去った。

 

だが、こちら側の被害も中々で100人いた部隊が30人ぐらいまで減っていた。

減った人がどうなったかは……。

うん。

地面に倒れているけど……その状態はあまり見たくない。

てか、私は見ない。

トラウマ待ったなしであろうことは火を見るより明らかだ。

若干今でも耳に残ってる人間の悲鳴と断末魔……。

夢に出てきそうだ……。

影廊に出てくる憎悪振り撒く影並みに精神持ってかれる……。

しんどすぎる……。

 

重い空気の中、我々は歩みを進める。

更に奥へと行くと、次第に不気味な鼓動が耳に入ってくる。

ドクンッ……。

ドクンッ……。

ドクンッ……。

と……。

それは、徐々に鮮明に聴こえてくる。

全員はより一層に警戒心を強めて進む。

そして、我々の目の前にそれは現れた。

 

 

アークヘイロス・マフィーナ

 

 

地底の最奥に彼女は鎮座して魔力を吸収していた。

その光景を見た我々は固唾を飲んだ。

恐ろしい怪物を見ている。

写真で見たよりもずっと迫力があった。

 

「行くよ!!」

 

卓郎はそういうと、自走砲のエネルギーをチャージ。

我々は自走砲から離れた。

 

「ハイパーマナ粒子砲……。てええええええええ!!!!!」

 

なんかどっかで聞いたことのあるセリフを吐いて、大質量のレーザーを鎮座するアークヘイロス・マフィーナにぶっぱなした。

マフィーナを覆う膜をぶち抜き、マフィーナ本体に直撃をする。

 

「やった!?」

 

そのような声が聴こえてくるが、私にはその程度で倒すとは思ってない。

 

「いや、この反応は!? まずい!!」

 

卓郎の狼狽する声に全員が身構える

私の考えは当たっているようでマフィーナは、お返しと言わんばかりの特大レーザーを放射。

それは自走砲を一撃で貫いた。

 

「脱出!!!!」

 

卓郎は咄嗟の判断で脱出したことで、最悪の事態は免れた。

我々も自走砲から離れていたことで、誰一人として消し炭になることはなかった。

マフィーナは我々に追撃をすることなく、巨大な羽を広げて空へと飛び立った。

その光景に、いまいる30人の人々が青ざめる。

 

「ヤバい!! 早く外にでないと!!!」

 

鈴亜さんがそういいながら、全速力で外に向けて走り出す。

我々も鈴亜さんの後を追った。

地底から出た時、外では阿鼻叫喚となっていた。

2つの部隊がアークヘイロス・マフィーナ及び使役された魔物(虫)と交戦中なのだが、既に部隊の半数がやられている状況だ。

部隊の人々がグリムマギアへと近付かせまいと奮闘しているが、それもいつまで続くかわからない状態。

特に使役する虫を討伐する部隊がヤバい。

我々の想像以上に、マフィーナが使役する虫が多すぎる10000以上はいる数に部隊は、成す術がなく蹂躙されているばかりだ。

人々の悲鳴が聴こえてくる。

虫に斬り刻まれたり、喰われたりと最早トラウマものである。

 

「私は雑魚を殲滅するから、みんなはマフィーナをお願い!!!」

 

鈴亜さんがそういって、虫たちに突撃しようとした。

 

そのときだった。

 

 

女性機械音声が聴こえたかと思えば、虫たちが密集している場所が大爆発を起こした。

さらにビームの雨が降り注ぎ、虫たちを葬り去る。

 

「なんだ?!」

「何が起こっている!?」

 

人々はあわてふためく。

しかし、それは3つの巨影を見て呆気に変わる。

 

「お待たせ!! 少しだけ起動に手間取っちゃって!!」

 

そう言って、魔法の力で浮いているであろう戦艦ゼネラル・レビルから話すケミックさん。

周囲にはゼネラル・レビル仕様のカラーリングがされたジェガンA2型やリゼルが空を滞空していた。

そして、その後ろからケミックさんの言っていた何とかできる物。

それらが姿を現す。

その姿を見た私はケミックさんの技術力というか行動力に呆れ果てる。

 

「マフィーナが使役する虫たちなら任せて!!!」

 

自信満々に言うケミックさん。

 

 

ヘリコプターに近い形をした3つの円盤型の翼を持ち、胴体にはレールガンにレドームが搭載されている戦闘兵器。

 

-AI搭載垂直離着陸戦機(ケミック・サイエス仕様) クリサリス-

 

 

 

巨大やキャタピラーに巨大な体躯、さらに各所に取り付けられた無数の武装。

陸を往く戦艦とすらも思える超巨大戦闘兵器。

 

-AI搭載超級戦機(ケミック・サイエス仕様) コクーン-

 

 

2機のAI兵器から発する無機質で不気味な歌声がグリムマギア周辺に響き渡る。

 

 

 

 

 

続く




ラーンランラーンラララーンラララーン
ラーンランラーンランラーラララーン
ラーンランラーンラララーンラララーン
ラーンランラーンランラーラララーン
ラーンランラーンラララーンラララーン
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KS-chrysalis6000コレヨリ敵殲滅ヲ行ウ
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KS-cocoon7000コレヨリ敵殲滅ヲ行ウ
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17話 神様転生したチート主人公でもここまで酷くはない。

ケミックさんが作り出した自家製の戦艦やAI兵器による増援は、ちゃぶ台返しの如く戦況をひっくり返した。
アークヘイロスもここまで来たら少しだけ可哀想に思えてくる。


 

 

時は遡る。

 

朱雀や鈴亜たちが地底へと向かって数十分と経過したときだ。

 

「……」

 

サスクワッチたちはそれぞれ武器を持ちながら警戒を強めて、地底部隊の帰還を待っていた。

 

「そろそろ、部隊がマフィーナに接触しているころだろう……」

 

そうサスクワッチがビーフジャーキーのような携帯食料を噛りながら呟いていると、突如爆音と共に地響きが起こる。

待機していた部隊の人々は全員武器を構えた。

 

「なんだ!?」

「隊長! あれ!!!」

 

一人の男性が空を指差す。

それを見た人々は戦慄しただろう。

立ち上る砂煙と共に、アークヘイロス・マフィーナが巨大な羽を広げて宙に浮いているのだ。

それを見た全員が、険しい表情をする。

 

「無理だったか……」

 

サスクワッチはそう言って、すぐさま部隊全員に攻撃命令を下す。

全員が炎の魔法や弓、大砲など重火器の遠距離攻撃をマフィーナに浴びせる。

マフィーナはその弾幕を避けることなく全てを受けきった。

 

[魅せてあげる。マフィーナの力を!!]

 

若い少女のような声でそう言うマフィーナは、超特大の炎の塊を生み出して、それを討伐部隊目掛けてぶっぱなした。

 

「大結界展開!!!」

 

支援部隊の隊長が大声を上げて指示した。

魔法使いや神官たちが、一斉に持っている杖を掲げて全部隊を囲うほどの巨大な結界を何重にも展開した。

巨大な炎の塊が大結界と衝突をする。

マフィーナが放った炎は強大で、何重にも貼った結界を意図も容易く打ち破った。

 

「まずい!!!!!」

 

そう思ったときには遅く。

炎の塊は大爆発を起こして、炎が周辺に拡散する。

まず爆発の衝撃波により、人々が吹き飛ばされて、その吹き飛ばされて無抵抗の状態で拡散した炎が降り注ぎ、焼かれた。

 

「回復魔法をいそげえええええええ!!!!!」

 

支援部隊は急いで、重傷を負った兵士

たちを回復する。

それにより大火傷を負った人々は、元に戻り、瀕死だった人々も快復した。

しかし、それでも回復が遅れ、事切れた人々も多数いた。

 

[躍り狂いなさーい!!!!]

 

容赦なく、マフィーナは虫たちを召喚する。

その量は10000を超えており、想定していた数よりも圧倒的に多かった。

それにより、任された部隊では圧倒的に数か足りず、虫たちに蹂躙されていくばかりであった。

虫たちに斬り刻まれ、喰われ、卵を産み付けられ、戦士や魔法使いたちの絶叫、悲鳴、断末魔が木霊する。

凄惨な光景となった。

更に、虫たちは討伐部隊や支援部隊にも牙を剥く。

 

「何匹の敵がいるんだよおおおおお!!!!」

「くそっくそおおおおおお!!!!!」

「痛い誰か助けてえエエエエ!!!!!!」

 

 

最早絶望的な状況。

しかし、そのときだった。

二つの女性の機械音声が聴こえてくる。

 

『主砲装填完了』

『レールガンフルチャージ』

 

その直後、

大爆発と共に、虫たちが一気に炭素の塊と化した。

それにより、虫やマフィーナが一斉に、攻撃のあったほうを見る。

その隙をついた支援部隊は、怪我人に回復魔法の唱え始める。

 

 

-------------

 

 

私たちのまえに現れた援軍。

ガンダムUCにて登場する巨大戦艦、ゼネラル・レビル。

そしてその艦載機である人形の機動兵器、ジェガンA2型とリゼルC型。

更にはMETAL GEARという日本で人気のゲームに登場するAI兵器、クリサリスとコクーン。

それらが増援として姿を現した。

 

「雑魚たちはコイツらに任せればいいわ!!!」

 

よく見えなかったがケミックさんは、ゼネラル・レビルの艦橋の真上にいるらしい。

にしても、浪漫どころの騒ぎではないメンツだ。

この絶望的な状況の中で、私は少しだけ笑みを浮かべてしまう。

 

[そんなガラクタで何ができると言うのかしら??]

 

マフィーナは再び大量の虫を召喚し、コクーンに強襲させた。

 

『敵確認』

 

コクーンの声が聴こえたかと思うと、鈍重なエンジンを発てて、襲いくる虫たちに突撃をかます。

 

『ラーンランラーンランラーンランラーン♪♪♪』

 

巨大な無限軌道で地に足をついている虫どもはあっという間に、踏み潰されて地面と無限軌道を緑色に染め上げる。

 

『ラーンランラーンランラーンランラーン♪♪♪』

 

そして、空を飛ぶ羽虫たちは各所に取り付けられたガンポート37門、機銃14門、ガトリングガン8門による全周囲弾幕攻撃により撃ち落とし、無限軌道で諸とも引き殺した。

 

『範囲攻撃実行。ラーンラーン♪♪』

 

更に、コクーンの強大な強さに恐怖し敗走する虫たちには、ヘッジホッグと呼ばれる多弾散布兵器と、コクーンの特徴とも言える大口径の主砲により一網打尽に爆発四散させた。

 

『ララララララーーーン♪♪♪』

 

挙げ句の果てには、搭載されてあるクレーンを起動させて、その先端部に装備されたチェーンソーを使い、虫たちをズタズタに斬り裂いた。

 

『チェインガン掃射、チェインガン掃射、チェインガン掃射』

 

クリサリスは下部に取り付けられた機関銃で、必死に逃げ惑う虫たちを正確に撃ち倒していく。

 

『キッドナッパー射出』

 

更にクリサリスは後方からキッドナッパーと呼ばれる小型の円盤形ドローンのような兵器を射出する。

キッドナッパーはジグザグに動きながら、虫たちに接近。

 

『ワイヤー射出』

 

キッドナッパーからワイヤーが離れて、一匹の虫を捕えた。

その虫は宙へと吊り上げられて、バタバタと抵抗をしている。

そして、キッドナッパーは下部にあるチェインガンによる銃撃で確実に殺虫を行った。

オーバーキルどころの話ではない超火力。

2機のAI兵器は、その可憐な歌声を発しつつ、虫たちを千切っては投げ、千切っては投げの繰り返し。

 

[な、なんてヤツなの!?]

 

ガラクタと舐め腐っていたこともあり、あまりの強さに流石のマフィーナも驚きの声をあげる。

 

「いまのうちに攻撃をするんだ!!!」

 

サスクワッチの号令で人々が立ち上がり、攻撃を再び開始する。

私も落ちていたライフルのような武器を持って引き金を引く。

しかし、当たり前だが、マフィーナには傷1つつくことはなかった。

 

あふれでる虫たちは、コクーン、クリサリス、ジェガンA2型、リゼルC型、ゼネラル・レビルが対処しており、虫の攻撃を受けることは今のところない。

しかし、マフィーナの身体は異常なまでに硬く、かなりの攻撃をしているが、ダメージを負っている感じがしない。

 

「皆殺しにしてあげる!!! このマフィーナの手によってね!!!!」

 

そう言うと、彼女の周囲に100個は有ろうかという球体を出現させて、その球体からレーザーを放ちオールレンジ攻撃を行った。

その攻撃によって部隊は瞬く間に撃滅した。

 

「支援部隊!!!」

「はっ!! 全員回復魔法!!!!!」

 

サスクワッチ隊長の怒声の指示により、支援部隊が魔法を使って痛手を負った兵士たちを回復する。

 

「な、なんて強さだ……!!」

「これが……マフィーナ……」

 

私はそう呟く。

しかし、そんなことを思っているのも束の間、マフィーナが再び攻撃を加える。

胸の部分にある口が、グワッと開き、極太いレーザーを部隊の中心部分に放った。

 

「しぃいいいいねええええええええええ!!!!!!!」

 

その一撃により、地盤が砕け、爆発と爆風の衝撃波が部隊を襲った。

 

「ああああああああああああ!!!!」

「ギャああああああああああああ!!!!」

 

兵士や英雄の断末魔が私の耳を貫く。

あまりの衝撃に吹き飛ばされるのを堪えながら私は目の前の凄惨を見る。

私の目の前には、多数の死体、肉片。腕や足、体の部位が消えた兵士や英雄が悲鳴をあげている凄惨な光景が広がっていたのだ。

先ほどの比ではない……。

爆心地となった部隊の中心部分には大きなクレーターができ、大砲などは溶けてなくなっていた。そして、そこには人は誰一人としておず、「影」だけが残っていた。

 

「う、そゃろ……???」

 

私は唇を震わしながら、静かに言った。

支援部隊は瞬時に回復魔法を使って生き残った兵士や英雄を癒すが、焼け石に水であることは明らかだ。

 

「トドメえええええええええええ!!!!」

 

マフィーナは口元からレーザーを放つ。しかも、今度は拡散するレーザーだ。

私にはどうすることもできない。

重傷で済む程度を願って、私は耳を塞いで走り出そうとした。

しかし、それはとある爆発音と甲高い断末魔によって阻まれたのだ。

私は足を止め、マフィーナの方を見ると、鈴亜さんが物凄い跳躍力で攻撃を仕掛けていた。

鈴亜さんが杖を振るう度に炎の爆発が連鎖をしながらマフィーナに直撃する。

それはまさに炎の嵐と言うべきものだ。

私はその千手観音が攻撃をしているかのような鬼神の如き攻撃に目を奪われるばかりだ。

支援部隊はそれをみて、壊滅寸前だった部隊を重点的に回復を行った。

 

「邪魔をするなああああああああああ!!!!」

 

マフィーナが耳をつんざくような奇声を発し、周囲に異形と言える形をした羽虫を大量に召喚した。

それは、空を覆い隠すほどで、ここにいた誰もが夜となった空を見上げた。

 

「ガラクタ諸とも消えちゃええええええええ!!!」

 

大量の羽虫がこちらに攻めてくる。その光景、空が落ちると言っていいだろう。

 

「させないわよ!!!」

 

ケミックさんがそう叫ぶと、ゼネラル・レビルのカタパルトから、恐ろしい数のジェガンとリゼルが発艦する。

 

「ジェガン大隊、リゼル大隊行け!!!」

 

ケミックさんの指示に、ジェガンとリゼルの大隊は一斉にブースターを吹かして、持っているビームライフルや頭部バルカンで羽虫を迎撃する。

 

「連装砲、単装砲、対空砲、標準合わせ……撃てえええええええ!!!!!」

 

ゼネラル・レビルも、艦体各所に装備されている連装メガ粒子砲計12基。

船体上部に2門、船体下部が3門装備されている単装メガ粒子砲計5門。

船体各所に多数装備されている対空砲24門以上。

ケミックさんの声に呼応するようにそれらの一斉射撃が始まる。

ビームの大雨が空を覆う羽虫を焼き払った。

羽虫は遠距離攻撃を持ち合わせていないため、接近するしかなく、羽虫の殆どがビームの餌食となった。

しかし、向こうの方が数が圧倒的に多く、虫の進行を許してしまい、数機のジェガン、リゼルが機能停止に追いやられる。

だが、それでもマフィーナが召喚した大量の羽虫はゼネラル・レビル及びジェガン、リゼル大部隊によって壊滅する。

 

[ケミックウウウウウウウウ!!!!!!]

 

マフィーナは怒り狂ったような声でケミックさんの名を叫びながら、炎と電気が交ざり合った光線を腹部から放った。

 

「バリア展開!! 魔力撹乱膜展開!!!」

 

マフィーナの言葉に応じ、ゼネラル・レビルはバリア展開と共に、魔力を分散させる撹乱膜が内蔵されたミサイルを撃つ。

炎と雷のレーザー軌道上に魔力を分散させる霧がミサイルから放出されて、マフィーナから放たれた光線状の魔法を分散させる。

しかし、マフィーナの魔力は尋常ではなく、すべての魔力を分散させることはできずに、光線がゼネラル・レビルが展開したバリアにぶつかった。

 

「この艦はそう簡単に沈まないわ!!!」

[だまれえええええええ!!!!]

 

魔力を上げて、光線を放出する。

最早、撹乱膜では無力化することができない。

バリアにヒビが入り始める。

ケミックさんも、自身の魔法でマリアを強化するが、マフィーナは更に魔力をあげる。

 

「させない!!!」

 

鈴亜さんは、一気にマフィーナに跳躍して、風を後方に爆発させて、その勢いで魔法を纏った蹴りをマフィーナの腹部に食らわせた。

 

[ぐぶぁあああ!!!?]

 

マフィーナは奇怪な声を上げてくの字に折れ曲がった。

それにより、魔法の光線は別の方向へと向き、コクーンとクリサリスに襲われる。

クリサリスはワープと誤解する程のスピードで、その光線を回避する。

コクーンは回避の動作が遅れ直撃した。

しかし、コクーンの装甲は想像以上に強固のようで、驚きの声のようなものを発しはしたものの、その装甲は少し凹み焦げ付いた程度の軽微ですんだ。

ゼネラル・レビルの方は、バリアの消失だけで、船体には傷1つついていなかった。

 

マフィーナが怯んだ隙を逃すことなく、少女は再び、魔法を唱える。

 

「獄炎動聖魔術!!!」

 

杖の先端がメラメラと炎が燃え盛る。

そして、杖を横に持ちマフィーナに狙いを定めた。

ケミックさんや、一部の人々を除いた他の人々は少女の尋常ならざる力にただただ見つめるだけだった。

 

「ヘキサ・フォメラゼオン!!!!」

 

巨大な熱線が杖から放射され、マフィーナに直撃する寸前に熱線は爆発し、ヘキサグラムを描くように分裂。

その一本一本が小さなレーザーとなってマフィーナの8枚の羽に直撃、大爆発を起こした。

 

[アアアアッ!!!?? アアアアアァァァ!!!???]

 

マフィーナは、奇声をあげながら、空中で気絶したようにぐったりとする。

そのせいか、使役された虫たちの動きが遅くなった。

 

『レールガンチャージ』

『主砲装填完了』

 

その隙を狙ったコクーンとクリサリスは、大技をぶっぱなした。

爆発と爆風が虫たちを吹き飛ばす。

この攻撃によって地を這う虫は壊滅した。

 

「いまだ!! 殺せえええええ!!!!」

 

サスクワッチ隊長の命令で残存する部隊が一斉攻撃を加える。

私もハンドガンや刀で攻撃を行う。

鈴亜さんも滞空した状態で炎と氷を織り混ぜた攻撃を繰り出そうとした。

 

[ふざけないで……ふざけないでよおおおおおおお!!!!!]

 

しかし、覚醒したマフィーナは鼓膜が破けるぐらいの声を発した。

それは衝撃波を生みだし、私たちを吹き飛ばした。

残っている銃火器等は吹き飛ばされ使用不能なってしまう。

支援部隊も吹き飛ばされ、回復の陣営が崩れ始める。

そして、マフィーナは氷で生成した巨大な腕を振り上げて鈴亜さんを引き裂こうとする。

マジでヤバい。

私は頭の中でそう思うが、身体が動かない。

巨大な腕が少女に襲いかかろうとする。

 

「……くっ……!!!」

 

鈴亜さんは反撃を試みるが間に合わない。

その時だった。

一対の巨影と人ならざる雄叫び、それがグリムマギアに響き渡った。

 

「であああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

赤い龍がマフィーナにタックルを食らわせた。

その巨体による攻撃の威力は想像以上に強力で、振り上げた氷の腕は音を発てて砕け散った。

 

「ケミックさん!?」

 

その赤い龍の正体は、龍に変身したケミックさんだ。

マフィーナを組伏せて、地面に叩きつける。

 

「クリサリス!! コクーン!!!」

 

その声にクリサリスとコクーンは動き出す。

 

『主砲装填完了、ミサイルターゲット捕捉』

『電撃魔術纏レールガンフルチャージ』

 

コクーンの頂上部分に搭載されてあるミサイルハッチが全て開き、大口径の主砲が動き出す。

クリサリスは長砲身のレールガンが激しい電撃を纏い強烈な音を発した。

そして……。

 

『『ラーーアーーー!!!♪♪♪』』

 

数十発のミサイルと4発のロケット弾、レールガンから放たれた6発の電撃を纏った弾が無慈悲にマフィーナに直撃する。

ケミックさんは隙をついて離脱。

鼓膜が破けんばかりの轟音、町中のガラスが割れるほどの衝撃波が人々を襲った。

 

「やった!?」

「黒煙でよくみえねえ!!」

 

取り巻きがそう口にする中、黒煙から雷の光線がクリサリスを襲う。

クリサリスは何も発することなく、それを回避する。

 

[そんな攻撃効くわけないでしょおおお!!!!!]

 

マフィーナは激昂したように辺りに炎や水、雷といった魔法攻撃をコクーンやクリサリス、ゼネラル・レビル目掛けて放つ。

しかし、クリサリスはその弾幕を華麗に回避。

コクーンとゼネラル・レビルはジェガンとリゼルが盾となり、損傷は免れた。

しかし、数十のジェガンとリゼルが爆散する。

 

「っち……。大結界陣を敷け!!!」

 

サスクワッチさんの声に神官たちは一斉に魔法を使い、巨大な結界を発動する。

 

[怪物がぁ!!!]

「動くなぁあああ!!!!!」

 

コクーンをひっくり返そうと動こうとしたところを、ケミックさんは再びマフィーナに飛び付いて動きを封じる。

 

[邪魔しないでよ……]

 

そう言うと、マフィーナの目がギラリと光輝く。

そして、暴風を発生させて龍となったケミックさんを吹き飛ばした。

翼を使って、何とか空中で立て直したが、マフィーナはその巨体からは想像もつかないスピードでコクーンにタックルをお見舞いしようとした。

そうはさせないと、言わないばかりに、クリサリスやジェガン、リゼル数機が立ちはだかって動きを阻止しようと、ビーム攻撃やレールガン攻撃で迎撃をする。

 

[邪魔よ……!!! ガラクタども!!]

 

マフィーナは再び氷の巨大な腕を形成、それを大きく振るって数機のジェガンとリゼルを引き裂いた。

真っ二つに引き裂かれた機体は一瞬放電し、大爆発を起こした。

クリサリスは寸でのところでそれを回避したが、マフィーナの突撃に吹き飛ばされて火花を散らしながら地面を滑るように吹き飛ばされる。

 

『キャア!!?』

 

女性のような悲鳴をあげながら、クリサリスはグリムマギアの外壁に叩きつけられて制止した。

マフィーナは先端が鋭利に尖った岩の粒を生み出して、クリサリス目掛けて撃つ。

クリサリスの全体に無数の岩が突き刺さり、時間差でその岩が破裂をして装甲をさらに抉った。

それにより、クリサリスは複数の箇所から爆発を起こして、壊れたラジオのように何やらブツブツと呟き始めた。

 

『オラハシンジマッタダー。オラハシンジマッタダー。オラハシンジマッタダー。テンゴクニイッタダー』

 

守りがすべての打ち破られたコクーンも自身のガンポートや機銃で応戦するが、それで怯むはずもなくマフィーナはコクーンに思いっきりぶつかった。

思わず耳を塞いでしまうほどの鉄の軋む轟音が響く。

コクーンはその重量と姿勢制御のシステムを行使して何とか転倒を防ごうとするが、マフィーナは至近距離で熱線を放った。

コクーンの装甲が徐々に焼かれていき、熱線が機体を貫通した。

 

コクーンの機体が爆発を起こす。

そして、コクーンはその頭部分を地面につけるようにグッタリと動かなくなってしまった。

そして、クリサリス同様に何やらブツブツと呟き始める。

 

『オラハシンジマッタダー。オラハシンジマッタダー。オラハシンジマッタダー。テンゴクニイッタダー』

 

機能が停止し、バグったように声を発するコクーンをよそに、マフィーナは魔法攻撃の照準をゼネラル・レビルへと定める。

 

「させるかあああああ!!!」

「させない!!!」

 

ケミックさんと鈴亜さんが、マフィーナに攻撃を仕掛けた。

 

「どりゃああああ!!!」

「グラン・フォイフラン!!!」

 

ケミックさんの火炎ブレスと、鈴亜さんの炎魔術の爆撃がマフィーナを襲う。

 

[くぁ!!? おのれええええ!!!]

 

ゼネラル・レビルの照準を止めて、2人にターゲットを絞る。

 

「二人を援護するんだ!!!」

 

サスクワッチ隊長が全部隊に通達、ヤルソー将軍たちも携行火器を持って、援護態勢に入る。

私も二人の援護のためにハンドガンを構えたのだが、突然ケミックさんがこちらに向かってやってくる。

 

「たっちゃん貴方も手伝いなさい!」

「え?あ、はい。ちょ……!?」

 

ケミックさんは、その尻尾で私を捕まえて背中に乗せた。

そして、そのまま物凄いスピードで空へと飛び立つ。

 

「うおおおおおお!!?」

「いくよ!」

 

そう言うと、ケミックさんは私目掛けて炎を吹き掛けた。

私は咄嗟に炎を吸収し、炎王龍テオ・テスカトル(以降テオテスカトル)に変身してしまった。

いまの状況は、赤いドラゴンの背中にテオテスカトルが乗っているという、訳のわからない状況である。

 

「たっちゃんも炎の魔術を使いなさい! 固定砲台ぐらいならできるでしょ?」

「そう言ったって……わあああ、たけえええ!!?」

 

下を見ると物凄い地面が遠く、人々が米のように見えて、凄い鳥肌がたった。

 

「ドラゴンが高所恐怖症なんて聞いたことないわよ!」

「私だって聞いたことないよ。高所恐怖症の古龍なんて!!」

「あー! 良いから炎の魔法使って迎撃しなさい!!」

 

私の有無関係無しにケミックさんは、マフィーナに攻撃を仕掛ける。

私も違和感に包まれた身体に鞭を打って、炎の魔法を行使する。

不恰好な炎の塊がマフィーナ目掛けて放たれる。

しかし、それらをマフィーナは鬱陶しいと言わんばかりに振り払う。

確実に効いてないことが目に見えてわかって絶望する。

 

「待て待て効いてないぞ!?」

「構わず撃てばその内、突破口開けるかも知れないから、止めどなく撃って!!」

「それで大丈夫なのか?」

 

私はケミックさんに聴こえないように呟きながら、炎の塊をマフィーナにぶつけまくる。

 

[邪魔なハエどもがあああああ!!!]

 

黒い風を放って、我々を吹き飛ばそうとする。

ケミックさんは、翼を広げてマフィーナの風に乗っかり天高く舞い上がった。

 

「ハエはあんたでしょうが!!」

「デカイハエの貴女に言われる筋合いはない!!」

 

マフィーナの罵声に突っ込みをいれながら、火炎の魔法を放つケミックさんと鈴亜さん。

その威力はとんでもないもので、マフィーナを地底へと続く入り口まで吹き飛ばした。

つええ……。

マフィーナも恐ろしいぐらい強いけど、ケミックさんと鈴亜さんがそれを上回ってる。

 

二人のおかげで部隊の士気はぐんぐんと上がっていく。

 

[冗談じゃないわよおおおおおおおお!!!!!]

 

ぶちギレたマフィーナは腹部が二つに割れ、口のようなモノを見せたかに思えば、その口内の赤いコアのような部分から魔力の光線を解き放った。

 

ヤバい。

直感的にそう感じ、私はケミックさんの背中をベシベシとネコパンチして伝える。

逃げようにも、この身体では逃げることがままならないからだ。

私のネコパンチに察したケミックは、翼を大きく羽ばたかせて、上空に逃げる。

鈴亜さんは、その攻撃を必要最低限に回避しつつ、開いているコアに定点爆撃をお見舞いする。

 

[ぐああああああああああ!!!!!]

 

マフィーナは今まで聞いたことない断末魔を発して空中でぐったりと倒れる。

攻撃のチャンス。

 

「いまだあああああ!!!!」

 

サスクワッチ隊長やヤルソー将軍の声が木霊する。

 

「おおおおおおおお!!!」と、部隊の雄叫びが轟く。

全員遠距離武器を持ち、鬼気迫る表情でマフィーナに攻撃を仕掛ける。

当たり前だが、殺意に満ち溢れていた。

獲物を狩る虎の如く。

グリムマギア周辺区域にて雄叫びと共に、多種多様の重火器の轟音が天を引き裂く。

 

[ふざけるなああああああああ!!!!!]

 

邪悪の眷属たるアークヘイロスが、格下の人間どもにコケにされては怒り狂うのも当然だろう。

マフィーナは空間が歪むほどの憤怒の魔気を放出。

今までにないほどの虫の大群を召喚しやがった。

皆既日食でも起こったんじゃないかと疑うぐらい、空が真っ暗になる。

 

「待ってこれやばくね?」

 

私はそうケミックさんに言うと、ケミックさんはケロッとした表情で「別に?」と言った。

なんなんだこの人まじで……。

ケミックさんの言葉通り、突如虫の大群に大穴が開いたのだ。

 

『自己修復完了再起動』

『自己修復完了再起動』

 

無感情の声が耳にはいる。

そして、声がする方を振り向くと、そこには撃破されたはずの二機のAI兵器が復活していた。

ボロボロになっていた装甲もびっくりするほどに新品同様ピカピカと光煌めいていた。

 

「ね?」

 

大丈夫だったでしょ?と言わんばかりのケミックさん。

 

『主砲装填完了。ミサイルターゲット捕捉。機銃・ガンポートリロード完了マルチターゲットロック捕捉。』

『電撃魔力纏出力最大レールガンフルチャージ。ミサイルターゲット捕捉。チェインガンターゲットマルチロック。』

 

心なしか怒りの感情が籠った口調で二機のAI兵器は自分の持つ火器全てを虫たちに向ける。

 

『『ラアアアアアアアァァァァァーーー。アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーー!!!!』』

 

その声を掻き消す程の轟音と鉄と雷撃のような閃光が黒い空を消し飛ばした。

そして、後に降るのは虫の死骸のみ。

 

[ぐぅううう、化け物がああああああ!!!!]

 

太陽系全てを叩き斬らんほどの超弩級の特大ブーメラン発言をしながら、再び口から魔力の奔流を解き放とうとする。

 

「たっちゃん出番よ!!」

「は?」

 

突然の御呼ばれに私は超間抜けな声を出す。

するとケミックさんが恐ろしいことを言い出した。

 

「私がたっちゃんを放り投げて、貴方はそのままマフィーナの口にあるコア目掛けて突っ込んで!」

「はい???」

「それで、私が炎吐いてたっちゃんは、その炎を吸収するの! それで吸収量を超えたたっちゃんは、魔力が暴発するから、その爆発でマフィーナにダメージをね!」

「待て待て!!!」

「いくよ!!」

 

有無言わさずケミックさんに摘ままれた私(テオテスカトル)はそのままマフィーナ向けて放り投げられる。

そして、ケミックさんは炎のブレスを私に放つ。

 

「うおおおおおお!!?」

 

私は炎を吸収するが、次第に限界を迎えていく。

小便が臨界点を超える時のような感覚である。

しかし、私は何とか爆発を我慢しつつマフィーナに突っ込む。

全員が私のことを見守る中、私はマフィーナに接近する。

 

[まずは貴方から溶かしてあげる!!!]

 

マフィーナは魔力を解き放とうとした。

 

「うるあああああああああああ!!!!」

 

もうどうにでもなれ!!

そう思いながら、私はテオテスカトルの咆哮を発してマフィーナに……。

そのときだ。

マフィーナは私を見て何か驚いた声をあげた。

 

[嘘……。なぜ、貴方のような人間風情がが"ソレ"を持っている!!!???]

 

と。

一瞬、無防備となったマフィーナ。

その隙は、私がマフィーナに接近するのには、十分すぎた。

 

私は、我慢を解いた。

それはガチで漏れそうな時に下半身の力を抜くときと同じようなものだ。

体に溜め込んだ炎のエネルギーが一気に放出される。

私、テオテスカトルの全身が赤い光を放ち、大爆発を起こした。

テオテスカトルの必殺技、スーパーノヴァの比ではない。

この爆発がモンハンで実装された暁には、一瞬でテオテスカトルはクソモンスターの仲間入りを約束されるほどの爆発だ。

マフィーナを包み込み、周辺地帯の建物を崩落させるほどの衝撃波。

討伐隊はギリギリのところで危険を察知して結界を貼ることで難を逃れたが、それをしなければ確実に全身を強く打って終わっていたことだろう。

実際、その爆発に巻き込まれたジェガンやリゼルの大半は爆発四散となり、ゼネラル・レビルは右の2つのカタパルトを失い地面に不時着。

コクーンは異常な熱により熱暴走を起こして急速冷却モードに入った。

クリサリスは危険を察知してケミックさんと共に高高度の空まで退避したお陰で無事だった。

 

[ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!]

「うおおおおあああああああああああ!!!!!!!」

 

マフィーナと私の断末魔がハモる。

私は龍化が解けて人間の状態で天高く飛ばされ、世界が回った。

 

「やるじゃん!」

「うへー……」

 

私はケミックさんにキャッチされて、事なきを得た。

古龍+闇英雄になった恩恵の肉体は、あれだけの爆発を受けても死ぬことはなく激痛が走る程度で済んだ。

一方、マフィーナは全ての巨羽を破壊されて地面に叩きつけられた。

 

「今のうちに!!!!!」

 

ケミックさんはサスクワッチたちに大声を飛ばす。

次々と襲撃する虫たちは、コクーンとクリサリス、残存するジェガンとリゼルが進行を抑えつけている。

いける。

倒せるかもしれない。

誰もがそう思い、士気は有頂天へと昇った。

人々は発狂に近い奇声を上げて武器を持ち、マフィーナへと襲い掛かる。

 

反撃の時だと言わんばかりに。

 

 

 

 

 

 

続く

 




もう少し……。
もう少しでマフィーナを討伐できる。


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18話 圧倒的な力

マフィーナは強かった。
ただ、ケミックさんと鈴亜さん。
そして、クリサリスとコクーンがそれを上回っていた。
壮絶な死闘の末に勝利したのは、私たちだった。



 

 

[私は、私は……アークヘイロスなのよおおおおおおお!!!]

 

マフィーナは発狂したように叫びをあげる。

地面に伏したマフィーナをよく見ると、右半分が完全になくなり、顔も欠けていた。

残っている左腕と、小さな左足で何とかうつ伏せになっている状態だった。

そして、その断面から緑色の体液が耳を塞ぎたくなるような音を発てて吹き出す。

 

[に、人間ごときがあああああああ!!!!!]

 

トコヨは左の掌から風を纏わせた円盤形のエネルギー弾を作り上げ、それを私たちに放った。

 

「……!!!」

 

鈴亜さんは走り、右腕から青い刃状に形成した魔力の剣で迫り来る円盤型のエネルギー弾を踊るように回避しつつ、次々と切り裂く。

私のいた地球で世界的人気のアニメ、ドラゴンボールに登場する、とある神様みたいなことをやってらっしゃる。

あれいいな。

機会があれば教えてもらおう。

 

「でや!!」

 

更に、マフィーナの残った腕を斬りつけた。

 

[ぐううううううううう!!!!!]

 

マフィーナは苦しめな声を上げつつも、巨大な蟻や百足を召喚し、討伐隊に襲わせるが、クリサリスやコクーンによる援護射撃により阻止されてしまう。

どれだけ大きい虫であろうと、コクーンやクリサリスの前には全てが無に帰する。

聴こえるのは、無機質で耳に残る歌声と虫たちの断末魔。

 

[邪魔をするなああああ!!!!!]

 

雷を起こしてコクーンたちの動きを止めようとする。

 

『電撃魔術出力最大。放電開始。』

 

クリサリスはレールガンから電気を放電し、蜘蛛の巣状の形を作った。

マフィーナが解き放った雷は、クリサリスが放った雷とぶつかり合って相殺される。

その間も人々はマフィーナを討伐するために攻撃を加えまくる。

そのなかでも、ケミックさんと鈴亜さんの攻撃は苛烈を極めており、一発一発がマフィーナを怯ませるほどだ。

 

[この私が……アークヘイロスが……こんなやつらにいいいいいい!!!!!]

 

「押せ!! 押すんだ!!! もう少し!!! もう少しだ!!! マフィーナはもう虫の息だ!!!」

 

サスクワッチは枯れた声で討伐隊に命令する。

討伐隊は今までにない希望に満ちた声で「おおおおおおおおおおお!!!!」と返事をした。

しかし、マフィーナは胴体を上げて、球体を出現させた。

 

[ぅうるさいハエどもがあああああああ!!!!!]

 

「不味い!! レーザーがくるぞ!!」

「私が!!!」

 

サスクワッチの声に、我こそはと言わんばかりに鈴亜さんはマフィーナに向けて飛び上がり、魔法の壁を作り出した。

マフィーナのレーザーは発射され、討伐隊に襲いかかるが、少女の防壁によって防がれる。

 

「今よ!!」

 

無防備のマフィーナに人々が襲いかかる。

私も白鞘の刀を持って、斬りかかる。

数百人にも昇る人々の怒涛の連撃。

そして、討伐隊によって、殻が砕ける音と共に青い体液が吹き出し、マフィーナの左腕が切り裂かれた。断面から青い体液を飛沫を上げて吹き出し、マフィーナは悲鳴をあげる。

 

[ヴァアアアアアアアアア!!!??]

 

これにより、マフィーナは半分の顔と胴体だけとなる。

支えるものが無くなり、地面にコロンと転がってしまう。

最早、邪悪の眷属の肩書きというモノは、ドブ川で洗濯をしたかのように汚れきっていた。

ケミックさんと鈴亜さん、コクーン、クリサリスが強すぎた。

しかし、これだけ身体を消し飛ばされても余裕に生きているのは、普通に凄い。

虫の生命力には驚かさせる。

 

 

[こ、こんな……こんなこと……]

 

マフィーナは体を震わせて呟く。

だが、我々はそんな戯れ言など無視してトドメを刺そうとする。

しかし、その時だ。

マフィーナは最後の魔力を振り絞った。

 

[こんなことあって良いわけがないわ!!!!!!!]

 

そう絶叫すると切断面から氷を生み出して、自身の身体を象った。

 

[貴様ら全員……皆殺しにしてやる!!!!!]

 

氷で自分の欠損部位を無理矢理作り出し、再び空へと舞い上がる。

我々は一ヶ所に集まって、結界を張った。

 

[私をコケにしやがってええええええ!!!!!]

 

完全に怒り心頭のマフィーナは、氷の腕を振り上げる。

 

「いま!!!」

 

その時、突然ビームが放たれて、振り上げられた腕を切断した。

何事かと全員がビームが飛んできた方を向く。

そこには、洞窟内で破壊されたはずの自走砲があった。

 

「何とか間に合った!!!」

「卓郎か!?」

「ああ、さっきの自走砲は破壊されたから、新しいやつを持ってきた、これから援護するよ!!」

 

そう言って、再びビームをマフィーナに向けて撃つ。

 

マフィーナは叫び声を上げながら怯みまくる。

 

「迎撃!!!!!」

 

これは絶好のチャンス、大砲等の銃火器、炎の魔法がマフィーナに直撃をする。

虫の殲滅を完遂したクリサリスやコクーンもマフィーナに向けてレールガンや主砲を撃つ。

消耗した体力で象った身体は、非常に脆く氷の身体は音を立てて崩壊した。

しかし、その砕けた鋭利な氷の破片が動き始め、討伐隊の人々に襲い掛かる。

 

「させるわけないでしょ?」

「そうね!」

 

ケミックさんと鈴亜さんが炎の攻撃で襲い掛かる氷を全て溶かしたことで事なきを得たが、もし、あれが襲い掛かってきたと思うと、肝を冷やさずにはいられない。

 

[ふざけんじゃないわよおおおおおおおおおおおお!!!!!!!]

 

絶叫し、マフィーナは炎を纏わせた岩を虚空から出現させてそれを降らせた。

まるで隕石のそれは私たち目掛けて落下する。

すかさずケミックさんと鈴亜さんが隕石を撃墜するために動く。

私を含め、他の者たちはマフィーナ討伐に専念する。

マフィーナから放たれた魔力の奔流と似たようなブレスを放つ。

その一撃は、瞬時に半数の隕石を塵に変える程の威力だ。

負けじと鈴亜さんも大魔法を唱える。

手のひらから炎・水・雷・風・氷・土の六属性が圧縮されたビームを放った。

半分の隕石を瞬く間に消し飛ばし、さらにそのままマフィーナにも当てた。

ビームを放ち終わると、その衝撃か鈴亜さんも後ろに吹き飛ばされる。

しかし、鈴亜さんの攻撃を受けたマフィーナは大ダメージを受けたようで、身体の一部が溶けてなくなった。

ぶっちゃけ、この二人と戦闘兵器数機があれば、どうにでもなってしまいそうなほどだ。

もう、あいつらだけでいいんじゃないかな?と思ってしまう。

 

羽、両腕、両足を失くし、胴体、顔は半分以上を失ったマフィーナは、地面に叩きつけられるが、それでもしぶとく生きて我々を魔法を使って滅ぼそうとしてくる。

それには、全員が戦慄した。

生命力が鬼である。

黒光りするGかよ。と……。

 

[お前らを……殺す……殺してやる……]

 

そう恨み言を囁きながら、攻撃を行おうとする。

しかし、こうなってしまえば、最早我々の敵ではなかった。

支援部隊が、回復魔法を唱え続け、討伐部隊がマフィーナの息の根を止めにかかった。

更に卓郎の自走砲のレーザー攻撃も合わさり、マフィーナの身体はぼろぼろになった。

 

 

[こんな……こんな奴らに……こんな奴らにいいいいいいいいいいい!!!!!!]

 

そう叫んだマフィーナは最後の力を振り絞り、身体を浮かせて最後の魔法を唱える。

 

「これは……!! まずい!!」

 

流石の鈴亜さんも焦りを見せ、魔法を唱える。

一方のケミックさんは、顔色1つ変えることはなく、私の方を見つめた。

それに私は嫌な感じを覚える。

なにかを言うよりも先にケミックさんは、私を鷲掴みにした。

 

「ちょ……!!?」

「さぁ、龍輝の出番よ!!」

「まてぃ!! このパターンは!?」

「うるあああぁぁぁ!!! 龍輝ミサイルううう!!!!!」

 

物凄い勢いで、マフィーナにぶん投げた。

私は悲鳴をあげること無く、歯を食い縛りつつ後ろから火炎放射が来るのを待つ。

しかし、飛んできたのは火炎放射だけではなかった。

 

「コクーン!!! 卓郎!!!」

「りょーかい!! ロックオン!!!」

『ミサイルターゲット捕捉』

 

ハッチの1つがパカリと開き、1つのミサイルが私に目掛けて発射され、自走砲からはレーザーが放たれる。

更にケミックさんの火炎放射が私を襲ってくる。

再びテオテスカトルに変身。

それを確認したケミックさんは、私に向けてミサイルにしがみついてと訳の分からん無茶振りを言いやがる。

 

「んなこと言ったってエエエエええ!!!」

 

私は悲鳴に近い言葉を言いながら、迫りくるミサイルにしがみつこうとする。

何とかミサイルの羽にしがみつくことに成功した私だが、よくよく考えてみれば、かなりまずいのでは??

と、心のなかで感じたときには既に遅かった。

ミサイルとテオテスカトルとなった私はマフィーナに直撃する。

更にその直撃する瞬間に、ケミックさんは今までにないほどの熱量の炎を吐き出し、それに上乗せするように自走砲のレーザービームが当たる。

 

マフィーナは最後の力を振り絞った大魔法を放が、それは私の直撃と同時。

ミサイルの爆発と、ケミックさんの炎、卓郎のレーザービームに板挟みとなった私の身体は炎の蓄積の許容量を一瞬のうちに超えて大爆発を起こした。

それと同時にマフィーナの大魔法の暴発。

今までにない大爆発が巻き起こる。

 

「……!!!!!!」

 

私は悲鳴にならない悲鳴を上げて地面に叩きつけられた。

マフィーナはというと、全身が火傷によりボロボロとなっているが、まだしぶとく生き残っていた。

 

「いまだ!!!」

 

サスクワッチたちは、その満身創痍どころの騒ぎではないマフィーナに重火器や魔法の弾幕を張る。

その攻撃の殆どがマフィーナに直撃。

全身の甲殻や皮膚などが溶け落ちるが、マフィーナ自身、意識を失っているのか、声を発することはなく、ただただ地面にゆっくりと落ちていくだけだった。

 

「……!!!」

 

鈴亜さんは、物凄い形相の状態で炎の魔法を放つ。

剛炎の柱がマフィーナを串刺しにする。

 

「炎焉柱」

 

更にマフィーナの身体から、槍を象った炎が体液を蒸発させながら突き出た。

 

「これで終わり!! 消え去れえええええええええ!!!!!!」

 

鈴亜さんは声が枯れんばかりの怒声をあげながら、手のひらから炎のエネルギーを解き放つ。

炎の熱線が拡散しつつ集束し、グリムマギアの建物の一部を焼き付くしながら、マフィーナは爆発四散。

散らばった体片も燃えて塵と化した。

 

 

 

 

 

「終わったのか……?」

 

何処からかそんな声が聴こえてくる。

力が抜けたのか人々がヘナヘナと地面に倒れていった。

私も息を切らしながら、胡座をかく。

 

ケミックさんは龍化を解除し、コクーンとクリサリス、卓郎に指示を出す。

 

「卓郎、クリサリス、コクーン、マフィーナ及び使役虫の索敵チェック!」

 

『索敵開始』

『索敵開始』

「わかった!」

 

電子音を発しながら索敵を行い、暫くしてコクーンとクリサリスは声を発した。

 

『索敵完了。マフィーナ及ビ使役虫ノ存在無シ。マフィーナノ討伐完了』

『索敵完了。マフィーナ及ビ使役虫ノ存在無シ。マフィーナノ討伐完了』

 

「あらゆるレーダーからもマフィーナたちの反応は確認されない!!!」

 

それを聞き、マフィーナが討伐されたことが分かり、一斉に歓声が沸いた。そう、我々は勝ったのだ。

叫び声に近い喜びをあげる者。

感動に涙を流す者。

緊張が解れ、へたへたと崩れる者。様々だった。

私は胡座をかきながら、何故か大爆笑する。

何でかは知らん。

 

その後、討伐隊、避難から戻ったグリムマギアの住人は広場に集められた。

住人たちは、「あの悪魔を討伐してくださって本当にありがとうございます。このご恩は一生忘れません。本当にありがとう!!」と言って深くお辞儀をしていた。

私は若干、涙腺が緩み歯をグッと噛み締めた。

街の被害も、想定したよりは被害は少なかった。

サスクワッチ隊長は、マフィーナ討伐協力の感謝の旨を伝え、更にサスクワッチさんは、鈴亜さん、ケミックさん、そして私の名前を呼んだ。

 

「正直、君たちが居なければ、我々は負けていた。ありがとう!!!」

 

そう言ってサスクワッチ隊長、ヤルソー将軍たちは私達に頭を下げた。

他の人々も拍手喝采となった。

ここら辺のことはよく覚えてない。

緊張で胸が張り裂けそうだったから。

 

 

その後、討伐隊と住人は犠牲となった人々の墓を建てて供養をした。

そして、その日の夜は宴だった。

もう飲んで食べてのどんちゃん騒ぎで、それはマフィーナの戦いが嘘のように。

 

私は鈴亜さんとケミックさん、卓郎さんたちと飲んでいた。

 

「普通にヒリヒリするんやが……」

「まー、それしか方法がなかったから、それにたっちゃんの爆発が無かったら、勝てなかったかも!」

「そうね! あの爆発のおかげだよ!!」

 

ケミックさんと鈴亜さんは、ニコニコとそう言うが、最後のあれはひどい。

 

「でも、あれだけのことをされて生きてる君の生命力も相当だと思う」

 

卓郎さんは、興味津々に私の身体を見つめている。

 

「ケミックさんに打たれた龍化のおかげじゃないか?」

「あ、だからテオテスカトルになれたのね!」

 

鈴亜さんはそう言った。

彼女もモンスターハンターをやったことがあるのだろう。

そこから、4人はそのゲームの話になった。

ケミックさんは、そのゲーム内の兵器や世界観に興味を引かれていたのは!言うまでもない。

 

「朱雀くん、だっけ? 君もガンダムのことしってるのかい?」

 

突如、卓郎さんはそう言ったので、私は「にわかだけど、ある程度は知ってるよ」と答えた。

すると、卓郎さんは、目の色を変えて早口になって語り出した。

幸いなことに、私の好きな宇宙世紀という世界観の事だったので、ついていくことができた。

鈴亜さんもガンダムのことは熟知しているようで、4人は飯を食べながらガンダムについて語り合った。

 

「やっぱり量産型が良いわ!!」

 

ケミックさんは、手を地面に叩きながら訴える。

 

「それは本当にわかる!!」

「子供の頃は、主人公の乗ってるガンダムが至高みたいな感じだったけど、成長するにつれて、量産型の良さが分かってくるのよね!」

「やっぱ、連邦のバイザー型がええな。ジェガンとかリゼルとか」

「「それ!! あとは名無しのスタークジェガンパイロット!!」」

「そう!」

 

こんな感じである。

そして、鈴亜がこんなことを言った。

 

「ガンダムの擬人化とかも良いよね」

「擬人化?」

 

ケミックさんがキョトンとする。

卓郎と鈴亜は、ケミックさんに擬人化の素晴らしさを事細かに説明をした。

 

「フムフム……なるほど。そんな趣向も悪くはないね。それに実用もありそう」

「また捗りそうだね」

「そうね! 人にパワードスーツのような感じでモビルスーツをつけてみよう!」

 

ケミックさんは、子供のようにはしゃぐ。

 

「擬人化か。うちの知人にマジもんの擬人化みたいな女の子いたな」

 

私はルナたちのことが頭に思い浮かび、口に出してみる。

すると、鈴亜さんと卓郎さんがこちらをギラリと見つめてきた。

 

「ほんと!?」

「あ、ああ」

「どのモビルスーツ?!」

「えーと、シナンジュ、そのスタイン、ユニコーンガンダム、バンシィ、フェネクスかな?」

「まじで!?」

「武器はビームマグナムとか!?」

「いや、そんなのではないな」

「えー! 勿体ない」

「俺が作ってみせるよ!」

 

卓郎さんは、訳の分からないことを言い始める。

鈴亜さんもそれに「良いじゃん!がんばれー!」と励ましを入れた。

 

「おれは宴が終わったら、その子達のためにビームマグナムやアームドアーマーの製作をするよ!!」

「じゃあ、私はささっとアークヘイロスと邪悪を倒して世界を平和にするね!」

 

何故か卓郎と鈴亜が意気投合している。

私はそれを見ながら、飯をムシャムシャと食べていた。

 

因みにこの活気に満ちた大団円、それは朝まで続いたのだ。

 

 

 

朝の9時。

 

 

 

青い空。白い雲。素晴らしいほどの晴れ晴れとした良い天気だった。

広場では討伐隊の面々は荷物を纏めていた。

 

「おう! お前か!」

 

私はサスクワッチ隊長に声をかけられた。

「はい?」と返事を返す。

 

「お前はこれからどうするんだ?」

「そうですね。私は違う街に行きます。邪悪を倒すために」

「そうか。頑張れよ!! 俺は応援してるぜ!!」

 

サスクワッチ隊長はニッコリと笑い、肩を叩いて激励した。褒められると伸びるタイプの私はこう言うのに良い意味で弱く、満面な笑顔で「はい!」と言った。

 

「俺はここに残ってグリムマギアを建て直すんだ!!」

「そうなんですか?」

「ああ!! 討伐隊半分ぐらいがここに残って再びグリムマギアを活気に溢れる魔法大都市にするらしいな」

「なるほど」

「お前は邪悪を叩き潰す。俺たちはこのグリムマギアを復活させる。どちらが早く達成できるか競争と行こうぜ!!」

「はい!!」

 

サスクワッチ隊長の提案に、私は頷いた。

 

「だから、決して死ぬなよ? 俺の不戦勝は勘弁だからな?」

「もちろんですよ!」

「よし! じゃあ、俺はそろそろあっちに行くぜ。無理はするなよ?」

「はい!」

「じゃあ、そろそろ俺はいく!!!」

「はい!」

「頑張れよ!!! 競争だ!!!」

「負けませんよ!!」

 

朱雀はそう言うと、サスクワッチ隊長は笑い広場に走って向かった。

卓郎がいたので、最後に挨拶をしようと考えた。

 

「行くのか?」

「ああ、私も邪悪を倒してはよ帰りたいからな」

「頑張れ! 死ぬなよ?」

「ああ」

「俺は朱雀の友人の娘専用の武器やスーツを開発するぜ!」

「それは、アイツらも喜ぶわ」

「じゃあ、暫しのお別れだな!」

「ああ、また逢おう」

 

そう言って、私は広場を後にする。

 

「たっちゃーん!」

 

ケミックさんが手を振りながら走ってきた。

 

「ケミックさん! どうされました?」

「お別れの挨拶をね!」

「あー、なるほど」

「それとー」

 

チラッと後ろを見る。

そこにはユイさんが、顔を見せる。

すると、ユイさんは涙を流しながら、感謝を述べた。

 

『龍輝……本当に……本当に……ありがとう!!!』

「ちょ……そんなに泣かなくても……」

「ユイのこんな姿を見たこと無いからレアねー!」

 

私はどうすればいいか分からず、あたふたした。

それは小さな子供を泣かし、あたふたする大人と一緒であった。

何とか泣き止んだユイさん。

私たちは次の街へと行こうとすると、ケミックは私に1つの小型の機械を渡してきた。

 

「なにこれ?」

「内緒」

「そうですか。そういえば、ケミックさんもグリムマギアの修復ですか?」

「そうね。一応大神官だし」

 

そういえば、この人大神官なんだった。

ふつうに忘れてた。

 

「まー、モビルスーツたちも手伝うように指示出してるから、早めに修復できそうね」

 

空を見ると、カイラム級機動戦艦一隻、クラップ級巡洋艦二隻、グリムマギアに現れて、多数のモビルスーツがカタパルトから放たれた。

本当にこの人は大神官なのだろうか。

メカニックとかの方が天職なのではないだろうか。

 

「それと、アークヘイロスマフィーナ戦で貴重なデータがとれたから、とあるモビルスーツが開発できそうよ」

「どんなモビルスーツですか?」

「秘密」

「そうですか」

「あと、ユイさんに頼まれて、いま製作中の兵器も完成に近づいてきたわ!」

「な、なるほど」

「じゃあ、頑張ってね! 死んじゃダメよ?」

「ええ」

 

ケミックさんと別れた私とユイさんは、グリムマギアを出ようとした。

すると……。

 

「おーい!!」

 

後ろから女の子の声が聴こえてきた。

それを聞いた私とユイは後ろを振り向く。

そこにいたのは、鈴亜さんだった。

 

「いたいた!!」

「鈴亜さん?」

 

私は鈴亜さんに話しかける。

鈴亜は息を切らしながら、こう言った。

 

「ねえねえ、一緒にいかない?」

「え?」

「二人でいった方が楽しいし、アークヘイロスも楽に倒せるよ!!」

 

突然の事だったので、一瞬キョドりかけたが、何とか平静を取り戻し、良いよと言った。

すると、少女はパァァと輝き、喜んだ。

 

「じゃあ、これからよろしくお願いしますね」

「うん! よろしく!!」

 

 

 

 

続く




まさかの鈴亜さんと一緒に旅をすることになった。
嬉しさと不安に満ち溢れていて、非常に複雑である。


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19話 リベルトとアイゼン

私達はサントプトへと旅に出た。
しかし、そこにとある部隊を発見する。
異常事態であるが、いまは、手を出さずにアヴィ湖へと向かった。



 

 

 

鈴亜さんと旅をすることになり、最初に驚いたのが、鈴亜さんはユイさんの姿が見えるということ。

しかし、これは英雄の大体の人が見えているらしい。

ちょっとビックリした。

そんでもって、そんなこんなしているうちに賢者の港と呼ばれる場所に来た。

風が吹く度に、潮の香りが漂う。

しかも、私が住んでいた時に嗅いだことのある潮の香りとは全く違った。

鼻を突くような匂いではなく、ラベンダーのようなフレッシュな香りだった。

 

「すげえいい香り……」

「不思議よね……」

 

私と鈴亜さんは、この荒ぶる心をも癒すことができるであろう香りに感銘を受けた。

そして、少し道を進むと青い海が見えてきた。久しぶりにみた海に、私は無意識に歩くスピードが早くなる。

 

「早く海を見たいってオーラがすごい出てる……」

『子供じゃな……』

「だね」

 

二人は苦笑いをしながら、朱雀を見つめていた。

 

「すげえー!!!」

 

私は海を見て、初めて海をみた少年のように目をキラキラさせて、はしゃぎ回った。

私がいた和歌山の白浜等でみる海とは比べ物にならないくらいに透き通り、光輝いていたのだ。

正直、私が住む地球の何処の海を比べても、今みる海に勝るものは、絶対にないだろう。

透き通っているレベルではない。近くでみると「海がそこにある」と確認できない程だ。

地面の砂が鮮明に見え、小さな魚の群れが一定の方向に進んでいる。

まるで海の流星群とも言える神々しさと神秘さを兼ね備えた素晴らしい光景だ。

そして、私の耳に入ってくるのは、さざなみと、ゆったりとした風が聞こえるばかりだ。

 

「綺麗……」

 

鈴亜さんも、この海を見て目を光らせていた。

 

「やっぱり、いつ見てもここの海は最高に綺麗ね……」

「そういえば、鈴亜さんは何年ぐらいこの世界に?」

「私? 私はね。五年はこの世界にいるわ」

「そうなんですか」

「そうよ。龍輝さんは?」

「私は、つい最近です。数週間前ほどです」

「すごい! 一週間でアークヘイロスを2体も倒したんだ!!」

「まぁ、ですね」

 

私は鈴亜さんに褒められて、ぶっきらぼうに返答をした。

 

「早く、邪悪を倒して、異世界イクスを平和にしないとね!!」

「そ、そうですね!」

 

鈴亜の言葉に俺も同意する。

アークヘイロスでさえ、あのインチキ染みた強さだ。

邪悪の強さは計り知れないだろうことに疑いの余地はない。

早くすべてのアークヘイロスを、邪悪を討伐しなければならない。

そう思いながら、私たちは海岸沿いを歩き、次の街である砂漠の都市サントプトへと進んでいた。

しかし、それも不慮の遭遇で阻まれる。

 

『二人とも待つのじゃ!!』

 

ユイさんの大声に驚きつつも制止した。

理由は何となく理解できる。

海岸沿いの一番向こう。

防波堤を越えた先に、赤と黒のツートンカラーの装備を着用した兵士が二人、何やら武器を構えて立っていたのだ。

 

「なにあれ?」

「あれって、リベルト!?」

「リベルト?」

『かつて邪悪に協力した部隊じゃ、あやつらは、邪悪大戦の時、滅んだはず……』

「ほう???」

 

ユイさんの話を聞く限り、リベルトとは、邪悪大戦(邪悪軍と女神率いる英雄、イクス大陸の民で編成された軍で行われた大戦)が始まる一年前に、ソルジェスで「天位」と呼ばれる王となる者を決めようという大事な時期を迎えていたらしい。

天位の地位をかけて競っている候補者は2名。

一方は魔力に汚染されたソルジェスの大地を浄化した青年騎士アイゼン。

一方は野心が大きくソルジェスの有力な財閥の御曹司である青年リベルト。

リベルトは、自身がアイゼンに比べて人望も才覚も劣っていることに焦りを感じており、その差を埋める方法として外部勢力であるアルツゴール(現在のスカイポリス)の力を借りることを決意。

この頃、アルツゴールはソルジェスの勢力に対抗する為、中立国のサントプトに同盟を持ちかけて断られたという背景もあり、この天位候補であるリベルトの提案を渡りに船と受け入れたらしい。

これは、天位の地位に繋がれば攻略が容易となることを見据えての行動だった。

一方、協力を取り付けたリベルトは天位を得る為の準備を行うため、建前上は留学と称してアルツゴールへ向けて出国する。

時を同じくして、アイゼンは同盟国であるグリムマギアへ留学をしていた。

リベルトがアルツゴールで密かに策略を練っていたその頃、ソルジェスではモンスターや動物が人間を襲撃したり、これまで見たこともないような新種のモンスターが発見されるといった、様々な異変が起き始めていた。

事態を重くみたソルジェス議会は、これら凶暴化したモンスター勢力を制圧する為、中立国であるサントプトから武器を仕入れ、それぞれ留学中だった天位候補の2人を呼び戻したのだ。

戻ってきた2人と国民に向け、ソルジェス議会は次のように宣言した。

 

『モンスターを討伐し平和をもたらした者を、次の天位とする』

 

これを受け、アイゼンは軍隊を編成すると、すぐさまモンスターの掃討へと出発した。

一方のリベルトは、編成した軍勢を引き連れて女神の寺院(今は崩壊して存在しない)へと向かった。

表向きは「女神の寺院を保護する為」としていたが、そのアリ1匹逃さぬ徹底した包囲網に、人々は一抹の不安を感じた。

実質的に女神の寺院を掌握したリベルトは、副官を連れて寺院内部へ入ると、どこから入手したのか禁断の魔法を使って封印を解き、アークストーン結晶体を手に入手することに成功する。

アークストーン結晶体の力によって強大な魔力を手に入れたリベルトは、モンスターや手勢の兵士たちを操ってソルジェス外郭から占領戦を仕掛け、破竹の勢いで勢力を拡大。

このただならぬ事態にソルジェスのみならず、同盟国であるグリムマギア、そして中立であったサントプトも含めた3国は臨時で同盟を組み、この強大化していくリベルトが率いる勢力への対抗手段を模索する事となる。

この時、リベルトは邪悪によって裏で操られていたらしい。

結果、邪悪の発見が遅れ、邪悪大戦が起こったという。

必死の攻防の末、女神とアークストーン結晶を失い、途轍もない犠牲を払いながらも、邪悪を封印することに成功し、リベルト率いる部隊も壊滅。

イクス大陸は平和となった。

その時召喚された英雄たち(つまり、俺たちが元いた地球人たち)はアークストーン結晶がないために、イクス大陸で一生を過ごすことになった。

余談だが、アイゼンはこの後、行方不明になったという。

 

そして、いま、そのリベルト部隊が我々の目の結構奥にいる。

これは壊滅していたとされていたリベルト部隊だが、実は生き残りがいて、その残存部隊が潜伏して、邪悪の復活と共に再び旗を揚げたと推測ができた。

もし、この推測が本当だとしたらやべえことだ。

何故なら、邪悪大戦は300年も前の出来事である。

先程の推測が本当であるなら、リベルト残党部隊は300年も潜伏していたことになる。

頭を失った残党がそこまでするのだろうか?

 

「いまはさわらない方がいい感じかな?」

 

鈴亜はそういってユイさんに訊ねた。

ユイさんはうーんと言ってうつむき、悩みに悩んでいた。

 

『いまのところは……じゃな……。奴等の現状勢力がわからない以上、下手に手を出すのは、不味い。しかし、面倒なことになったのぅ……』

 

そういってユイさんは頭を抱える。

まぁ、聞いた話、結構面倒なことになったと、私も思った。

マフィーナを倒したと思ったらアホの御曹司の部隊まで登場ときた。私に休みはないのかい?

 

私たちは、リベルト部隊に見つからないようにヒソヒソとサントプト地方へと向かうこととなる。

 

 

 

なんとか、賢者の港を抜けて逢魔が辻という場所にきた。

名前に通り薄暗い場所であった。

しかし、今までとは違いモンスターの量が多かった。

モンスターに見つからないように、ヒソヒソといたのだが、そう簡単に通させてくれなかった。

 

[ヒーハー!!! 俺の世界は広がってるぜべいべー!!!]

 

ピンク色のスライムに羽を着けたような姿をしたモンスターが現れたのだ。

私と鈴亜さんは武器を構えて戦闘態勢に入った。そして、

 

『あ、あれは、、ああああ……!?』

 

独特のスライムをみたユイさんは凄い驚いて、狼狽していたのだ。

あ……。

私は察する。

 

「ルーガやん」

「そうね。そんなに強くないわ。集団で襲ってくるとちょっとだけ厄介だけどね」

「あ、いや、それはええんやが」

 

私はチラリとユイさんの方を見る。

案の定というか、やっぱり……。

凄いビビっていらっしゃる。

 

[ヘイヘイ!! 俺の覇気に屈したかああああい!!? カモンベイベーチョコベイベーーーー!!!!]

 

「「……」」

 

腹立つなぁ……こいつ……。

左右に跳ねまくり、無駄に煽り散らすこのアホに私は若干苛立ちを覚え始めた。

チラッと鈴亜さんの方を見ると、目を細くしてルーガの方を睨み付けていた。どうやら、鈴亜さんも私と同じことを思っているようだ。

 

[ええええええええ!!!! カカッテコイヤアアアアアアアアア!!!!]

 

この瞬間、私と鈴亜さんは自分の武器を振るった。

 

[ボオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!???]

 

「「死ねやあああああああああ!!!!」」

 

斬撃と魔法の攻撃、この2つが交差するようにルーガを襲い、ルーガは上空に悲鳴をあげながら吹き飛ばされた。

 

「全く、人をバカにして……」

 

鈴亜さんは呆れた顔をしながら、魔法杖をくるくるペンでも回してるかのように回転させながら言った。

私はユイさんの方を振り替えると、ユイさんは泡を吹いて気絶していた。

あまりの状況に唖然とする二人だが、更なる唖然とすることが起きた。

あのルーガがやられて駆けつけて来たのだろうと思われるルーガの群れが、私たちを囲んでいたのだ。

 

「はい?」

「は?」

 

あまりの状況に理解が追い付かず、私と鈴亜さんは間抜けな声をあげて呆然と立ち尽くすばかりであった。

 

[どうだい?僕のボディ……ステキダルォウ?]

[流石だジョニー!! 流石は僕のオムコさんだな!!]

[おいてめえ俺のベンツにぶつけやがったろう!! フザケンジャネエゾボケブッコスゾォラ!!]

[えー、私はジャイアンです! おい、のびたっ!いい道具もってんじゃねえかっ!!]

[何かがな来たときは左へ受け流してやれ!]

[いぃのちが欲しがったらさっさ3億円よぅいしやがれぇ!!]

 

口々に独特な台詞を吐いているが、そんなことを一々突っ込む余裕などなかった。

 

「「うわああああああああああああ!!!」」

 

鈴亜さんは、気絶しているユイさんをお姫様抱っこして、全力疾走。

一心不乱に逃げた。

 

[いくぜぃ!! 僕の絶対body!!! 僕の弾ける肉体で君たちを暖めてあげるぜ]

[逃げるのかい?ベイベー! せっかくの仲じゃないかぁ]

 

ルーガの大群はものすごいスピードで追いかけてくる。

私たちは後ろを振り向かず、無我夢中で走り去った。

 

「はぁはぁはぁはぁはぁ!!!!」

「ふぁ、はぁ、ひぁ、はぁ、はぁ……」 

 

そのお陰で何とかルーガの濁流から逃れることに成功し、いま私たちは木陰に身を潜めて休憩中である。

尚、ユイさんは未だに目が覚めない。

 

「ヤバかった……」

「ええ……」

 

二人は激しく息を切らしながら疲労していた。

しかし、二人が顔を見たとき、急に馬鹿馬鹿しくなったのか、二人して大笑いした。

そして、その大笑いを聞き付けた別のモンスターが二人の前に立ちはだかった。

 

[へーへへーのへー!!]

 

某RPGに居そうな木の化け物が現れた。それもむっちゃふざけた言葉を話している。

 

[俺はなぁ。あれなんだよ!!! あれだ!!! よくわからないけどあれなんだよ!!!!]

 

だから何なんだよ!!!

危うく突っ込むところだった。

 

[俺はなぁ。攻撃できないんだ!!! だから俺は今から逃げる!!! じゃあなリスト!!!]

 

「「……」」

 

颯爽と逃げる木の化け物(鈴亜さん曰くエルダーウッドという名前らしい。)の前に俺たちは、一体さっきのはなんだったのか、理解に追い付いてなかった。

てか、この逢魔が辻ってところはとんでもないモンスターしかいないのかよ!!

 

「なにさっきの」

「エルダーウッドって結構変人で、人を理解不能に落とさせるのが趣味なんだって」

「どんな趣味やねん!!」

 

色々カオス。

もうそれ以外に言うとこはない!!

 

 

とりあえず、こんな訳のわからないところから早く脱出したい。

鈴亜さんがユイさんをおんぶして、私たちは逢魔が辻を抜けてアヴィ湖と呼ばれる町に向かったのだ。

 

しかし、この時に訳のわからない奴が現れた。

現れたというか、いた。

 

[俺の名前はメッチャオワコン!!!よろしくな!!!]

 

「おい、ドングリが喋ったぞ!!!」

 

私の足元にある微妙に大きいドングリが喋ったのだ。

 

「メッチャオワコンっていうドングリよ。元々はさっきのエルダーウッドにくっついてたのよ」

 

[私は喋れません。ただのドングリです]

 

「じゃあ、何で声が聞こえるんや??」

 

[これは録音です]

 

「んじゃあ喋っとるがな!」

 

あまりの馬鹿馬鹿しさにもう突っ込むしかない。

鈴亜さんは、なんか爆笑してるし。

あー、早くここから出たい。

私はその気持ちでいっぱいだった。

 

 

 

あのいろんな意味で混沌とした逢魔が辻を抜け、湖の丘と呼ばれる所を乗り越えた先に、巨大な湖が広がっていた。

琶琵湖と大差ない程の規模で、その湖を囲むように建物が並んでいた。ここがアヴィ湖である。

 

「おおお、ここがアヴィ湖か」

「そうよ。琶琵湖に来たみたいよね」

「そうですね」

「うふふ」

 

鈴亜さんは私の顔を見て小さく微笑んだ。

私は「??」と声をあげて鈴亜さんのほうを見る。

 

「緊張解けた?」

「え?」

「さっきまで私に対して慣れてなさそうな敬語使ってたのに、エルダーウッドらへんから敬語じゃなくなってたから。緊張は解けたのかな?って」

「え?あ、あー。そういえば……」

「龍輝っていくつ?」

「23です」

「私より年上じゃん」

「失礼ですが、鈴亜さんはおいくつで?」

「18よー。それと呼び捨てでいいよ」

「あ、はい」

「敬語もいらなーい」

「はーい」

 

他愛のない話をしながら、私たちは今日泊まる宿を探した。

ルーガの時からずっと気絶していたユイが目を覚まし、辺りをキョロキョロと見渡していた。

 

「あ、目を覚ましました?」

「ユイさんおはようございます」

『んぁー、アヴィ湖のようじゃな?』

 

目を擦り、さらにあくびをしてそう答える。

逢魔が辻の時からずっと気絶してたのだが、どう考えても寝起きである。

 

「アヴィ湖で泊まるつもりなんですけど、どこかいい旅館とかあります?」

『ない!』

 

私の質問にユイは即答した。

勢いがありすぎて一瞬、何を言われてたか理解できなかった。

鈴亜に至っては目を瞑って悟りを開いていらした。

 

『アヴィ湖の旅館にまともな旅館はない!』

「私はアヴィ湖ちょっとだけ店を見回って、そのまま出たからよくわからないけど、まともな噂を聞いたことはないわね」

 

それを聞いて、私は頭を抱えた。

しかし、時間的に泊まらないといけない。これは避けられぬ運命なのだ。

私達は宿を探し回った。下の上ぐらいの宿があることを願って……。

 

『ん?』

 

そこにユイさんがある建物に目がついた。それに合わせて、私や鈴亜も目をいく。

 

『こんなところに宿なんてあったかの?』

「私も知らないわ」

 

二人はそういう。

外装等を見る限りレンガで作られた洋風の宿屋だが、明らかに最近建てられたと推測できるぐらいに汚れが見つからなかった。

 

「ここにしてみる?」

「せやなー。ここ以外ないし、賭けてみるか」

 

そういって、私たちは扉を開けた。

外装はレンガ作りだったのに対して、内装は驚くほどに和風。

フロントは芝生で包まれ、壁の端には滝が流れ、鹿威しが透き通った清音を鳴らしていた。

そして、受付に行く間に丹塗りされた木で作られたであろう太鼓橋があり、その下には川が流れ、よく見ると錦鯉が沢山泳いであった。

一応、言うがここはホテルのフロントである。

 

「いくらなんでもガーデニングしすぎやろ……。ほぼ外やん」

「ええ、これはすごいわ……」

『江戸の街を思い出すのぅ』

 

ユイさんがさらっとすごいこと言っているが、鈴亜が川を見つめて、言った言葉に流された。

 

「待って、イトウみたいな魚泳いでるわよ!!?」

「は?マジで?」

「ほら!」

 

鈴亜が指差す先には、マジでイトウが泳いでいた。

これにはビックリだ。

イトウなんて、街に行こうよどうぶつの森で母と妹が釣り上げているのを見たぐらいだからだ。

 

『ほう。これはイトウというのか』

 

ふわふわと浮きながら、除きこんでそういった。

 

『ワシが江戸の街に住んでおった時に川辺でよく見かけたのぅ』

「……」

「……」

 

……時代が違いすぎる。

私と鈴亜は万一致でそう思った。

とんでもない発言をしたせいか、俺たちは太鼓橋の真ん中で呆然と立ち尽くすばかりだった。

 

「とりあえず、チェックインだけしよっか」

「そうやな」

 

鈴亜と私は川を泳ぐ魚を懐かしそうに眺めるユイさんをほってカウンターに立った。

カウンターも檜で作られてそうな、汚れがない透き通った木本来の色をしている。

私は呼び鈴のボタンを押した。

鐘の音がチンっとこだまする。

すると、カウンターの奥の方から、明らか住職っぽい服を着た禿げた老人がゆっくりと現れた。

 

「この店の主人ですか?」

 

鈴亜はそういうと、老人は口を開く。

 

「どうも、私は生まれてきた時のことを覚えてません」

「あたり前でしょ」

 

老人に言葉に鈴亜は突っ込みを入れる。

分かって入れたのではなく、反射的に言ったのだろう。

 

「あなたが生まれてきた時のことを覚えていたら結構怖いわよ」

「許してチョーチンよ!」

 

ここで私と鈴亜、ユイさんは理解した。

これはダメだ。

絶対にダメだ。

いま、マジで確信した。

とんでもない宿に来たかもしれん。

脳裏どころか、全身を過った。

しかし、逆にどこに泊まるよと聞かれたらもう。

ここしかない。

他と比べてましと信じて……。

 

「えーと、今日一泊だけ泊まりたいのですが」

 

鈴亜はゆっくりと老人に話しかける。

しかし、老人はびくともしなかった。

 

「すみません。聞こえてますか?」

 

鈴亜は老人に語りかける。

すると、老人はハっとしたように、鈴亜のほうをみて。

 

「俺ですか?」

 

と自分の指を指しながらいった。

それに対して鈴亜は「当たり前でしょ」と突っ込む。

 

「えーと。よくわからないので、考えます。考えます!」

 

そういうと、老人は両方の手を自分の手に当て、息を吸い込んだ。

そして……

 

「胸に手を当て考え見れば!!!」

 

老人は大きな声で言ったあと、呼び鈴をチンっと鳴らして続けた。

 

「親父は俺より歳が上!!!」

 

「「『……』」」

 

こ、これはダメだ。

なんか迷言みたいなのが飛んできた。

鈴亜もユイさんも呆気に取られて開いた口が塞がってねえぞ!!

とりあえず、チェックインは済ますことが出来たのだが……チェックインって1時間も掛かるもんだっけな……。

私たちが泊まる場所は2階の225号室だ。

ロビーに入っても、この過剰と言える程のガーデニングされた部屋は変わらない。

日本の和をそのまま映し出したと言っても過言ではないだろう。

ロビーを抜けて廊下に出た。

昔によくある和風の建物のような廊下。

厳島神社のような回廊的感じだ。

私たちはこのTHE和風の宿に唖然としながら廊下を渡り階段を使って2階へと上がった。

階段の両端には左右対称に灯籠が一定の間隔で設置されており、階段の床には小さな石が敷かれていた。

和風特有の神秘さがもろに出ており、和風が大好きな私は感銘を受けた。

あの老人の趣味だとすれば、それは余程の和風好きなのだろうか?

それか、あの老人が英雄に日本の和や、ワビサビについて色々と話を聞いて、興味を持ったのだろうか?

なかなか興味深いが、まぁ、ええか。

 

「225号室ってどこだ?」

「ここじゃない?」

 

鈴亜の示す先には225号室の表札があった。

私たちは小走りでその部屋に向かい、ドアを開けた。

中は、予想通り、和室だった。

畳に掛け軸など和室その物ズバリである。

1つ言えることだが、「二人」用にしては多少広さがあることぐらいである。

私と鈴亜は荷物を置いて、一服。

早速ユイさんは宙に寝転んで目を瞑った。

 

「しっかし……」

 

私はアヴィ湖沿いに建てられた店や家々を思い出して呟く。

 

「んー?」

「アヴィ湖って琶琵湖周辺に似てません?」

「そうねー。もしかして、邪悪大戦終わりに、帰ることが出来なくなった日本の人々が、アヴィ湖周辺に建物を作る際、あえて琵琶湖に見立てたとか?」

「あー、それもありますね。なんとなくアヴィ湖って名前も琵琶湖に似てますし」

『くかー』

「もう寝てる……」

「よっぽど疲れてたんだね」

 

大の字になって宙で寝ているユイさんを起こさずに、静かに各々自分の時間を過ごした。

 

 

 

「飯の時間でございまああああす!!!!」

 

突然、その大声と共に超大型の龍ですら怯むであろう大銅鑼をヴァァワアアアアアアァァン!!!!と鳴らされ私たちは一瞬記憶が吹っ飛んだような感覚に襲われた。

ユイさんは飛び起きて早々に『ルーガでゴワス!!!???』等と言うのだから始末に負えない。

 

「ビッッックリしたああああもおおおう!!!」

「心臓止まるわ!!」

『耳がぐわぁんぐわぁんしておる』

 

「もういっっちょおおおおおおおお!!!!!」

「「『ひいいいいいいいいいいいい!???』」」

 

再び大銅鑼が鳴り響く。

もういっちょと言っている癖に5、6っ発は鳴らしやがるお陰で私たちは一瞬で戦闘不能に陥ってしまった。

 

 

 

耳がヒーヒー言うなかで、私と鈴亜(ユイさんは再び就寝)はテンションフルmixの状態で飯をすることになったのだが、その飯の内容で私たちはテンションフルMAXゲキヤバアゲアゲとなった。

そう、和風なる宿にあるであろう大宴会場に並べられた料理は、日本の和食。

超豪華海鮮料理だった。

高知県の郷土料理である皿鉢料理の三倍の豪華さと言えば伝わるであろう。

これには鈴亜と私は目の色変えてがっついた?

 

「くっそうまい!!!!」

「ホントなにこれ凄い美味しい!!!」

 

あまりの美味しさに感動しながら、海鮮料理を完食した。

 

海鮮料理を食べて満足した私たちは、風呂に入ることになったのだが、ここである問題が発生した。

どうやら、ここの風呂場は混浴という結構ヤバいものであった。

恐ろしい。

 

「混浴かー」

 

そういって、私は鈴亜の出方を伺う。

 

「ふーん」

 

あまりの言葉に私は言葉を失った。

 

「私別に気にしないよー」

「あ、そうっすか」

 

なんか、拍子抜けした感じだ。

鈴亜はよくても私がやべえんだよな……。

もう、色々と……。

てかさ、着替えも同じとか絶対おかしいだろマジで。

そして、私の後ろにはめっちゃ可愛い美少女。

こんなん興奮するに決まってるやろ!!!!

いくら、闇英雄で混浴やったとしてもや……。

しかし、それを鈴亜に悟られては色々とまずい私はバスタオルを腰に巻き、若干前屈みになり、桶を腰ぐらいの位置に持って何とか誤魔化している。

 

そして風呂場はというと、風呂場全体が檜で出来ており、さらに岩で作られた露天風呂に檜風呂と、和風を追求した風呂場となっていた。

あの主人、絶対に和風好きだわ。

 

「まぁ、予想通りですね」

「うん。私もこんな感じと予想してたわ」

 

そして、各々体を洗浄するのだが、問題がある。

鈴亜さんよ。

何も俺の横で体洗わんでもええやん。

色々と見えるのよ。

これ結構やべえぞ。

特に下半身。

私は煩悩と壮大なる決戦を頭の中で繰り広げながら、頭と体を洗った。

ちなみに鈴亜の方なんか見ていない。 あんなスベスベの妖艶たる肌をした全裸の美少女なんぞ見た暁にはどうなるかなんて火を見るより明らかだわ。

 

「ふひー生き返るー」

「ほんとー、マフィーナ戦や逢魔が辻の疲れが嘘みたい」

「やっぱり最高だわ風呂はー」

「ええ……」

 

湯気で何とか鈴亜の全裸が隠れて、助かっているが……。

何だろうかこの嬉しいような悲しいような微妙な気分は……。

 

「ところで、龍輝さっきから腰を異様に隠してるけど、別にいいんじゃない? こう言うのは不可抗力だから仕方ないと思うよ?」

「?!!?!!?」

 

突然の核弾発言に私はもう訳がわからんかった。

もう、何て言えばいいかわからない。

 

「そ、それでも、体が隠してしまうんですよね」

 

心臓の心拍数が目に見えて上がり、汗が吹き出ているのは、きっとこの風呂に浸かりきっているからだと信じたい。

 

「まぁ、確かにそうかもね。なんか余計なこと言ってごめんねー」

「あ、謝る必要ないよー」

 

平静を保っているが、心の中では荒ぶるバゼルギウスである。

ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!!

ひえええええええ!!!!ひえええええええ!!!!ひえええええええ!!!!(転倒してる時のバゼルギウスの声)

 

そのあと、特に何もなかったが、結構心臓に悪かった。

時間も時間なので、私たちは布団を敷いて寝ることにした。

因みに女の子と寝るなんてことは、人生で初めてである。

寝れるか非常に心配。

やはり先程のことも相まって、妙な興奮によるATフィールドにより睡魔が悉く弾かれている。

正直、もう私は徹夜を覚悟した。

しかしだ。

意外と睡魔は襲って来るもので、案外夢の中にすんなりと入っていったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

私の周りには、古龍たちがいた。

炎王龍テオ・テスカトル

溟龍ネロミェール

雷極龍レビディオラ

冰龍イヴェルカーナ

風翔龍クシャルダオラ

地啼龍アン・イシュワルダ

霞龍オオナズチ

天彗龍バルファルク

黒冠龍モルドムント

雅翁龍イナガミ

天廻龍シャガルマガラ

司銀龍ハルドメルグ

赤龍ムフェト・ジーヴァ

彼らはボロボロになりつつ、ある男に殺意の眼差しを向けていた。

私の目の前に、ある男がいた。

名前は知らない。

あったこともない。

その男は、私に向けてこう言いはなった。

 

「朱雀龍輝。テメエは、俺に殺される運命なんだよ!!」

「え?」

 

突然のことに私は戸惑う。

 

「何の夢もない。何の目標もない。そんなテメエに何ができる!!!」

「いやまてや私にだって夢や目標ぐらいあるわ」

 

何も知らないばか野郎にそう言われて少し腹が立った私は、その男にそう言う。

 

「へー、テメエのような"真に救いようのない人"にもあるんだな」

「むしろ、その"真に救いようのない人"だからこそ、持ってる夢なんだけどな」

「聴きたいねぇ。その夢とやらを!!」

「私の夢は……」

 

 

 

本当に

 

真に救いようのない人

 

だよ。

 

わたしは……。

 

 

 

 

 

 

続く




宿運ないなぁ……。


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20話 サントプト地方

アヴィ湖を後にして、サントプト地方に入ろうとしたが、どうやら明日の早朝に出発した方が良いらしく、キャンプをすることとなった。


 

 

 

 

 

「龍輝どうしたの?」

「え?」

 

目を開けると、鈴亜が不思議そうな顔をして覗き混んでいた。

私は起き上がり、何が?と答える。

 

「なんか魘されてたけど……」

「そう……なのかな?」

 

鈴亜はそういっていたけど、よく覚えていない。

てか、私はどんな夢を見たんだ?やべえ全く思い出せん。

それはそうと、もう朝か。

私は起き上がると、鈴亜は私服に着替えて、昨晩に行った宴会場へと向かった。

朝食である。

 

「いただきます」

 

私は手を合わせて、食べるときの言葉を述べる。

朝御飯はトーストパンに目玉焼き、ウィンナー、サラダの洋食っぽさ満開の献立であった。

そして目玉焼きだが、我々の住む地球の一般的な目玉焼きよりも大きい。

二周りほどの大きさを誇っている。

なんかダチョウの卵を目玉焼きにしているようだ。

鈴亜に聞くと、これはイクスに住むブィシコックの卵らしい。

邪悪大戦後の英雄たちが、この世界に住むことになった際に、イクスの人々に目玉焼きを教えたとか。

パンやサラダも日本と変わらない感じだ。

なんなら、サラダに至っては具材も一般家庭に流通している野菜ばかりを使っている。

そして、何より上手い!!

ブィシコックの卵は程よい甘味があって、そのまま食べても美味しい。

柔らかく、口に入れるだけで蕩けるようだ。

歯の弱い年配の方には嬉しい料理であろう。

トーストも食べた時にサクッとして中はフワッと柔らかく、女性等におすすめできるものだ。

ウィンナーはヤバい、食べた瞬間、肉汁が口一杯に広がって、正直ご飯が欲しい。

これご飯と合わせたらご飯進むわぁ。

サラダはただ上手い。

ほんのりとした甘味があり、野菜独特の苦味は一切ないので、野菜が苦手な方々でも美味しく頂けると感じた。

 

「ごちそうさまー!」

「ごちそうさま」

 

私と鈴亜は食べ終わり、泊まっている部屋に戻った。

そろそろチェックアウトの時間だ。

俺たちは荷物をまとめ、宿からでる準備をしていた。

 

「よし、行こ!」

「せやな」

『さぁいくぞー!』

 

私たちは掛け声を言って、チェックアウトを済ませた。

その時の老主人のセリフは察するものがあった。

 

「はー、しかしまぁ、アヴィ湖は平和やなー」

「そうね、人々も活気的だし」

『そうじゃのー……。ん?』

 

ユイさんは、何かに気づいたのか、そのような声を出した。

 

『これって……まさか……!?』

「ユイさんどうかしました?」

「どったの?」

 

俺と鈴亜はユイさんに聞くが、ユイさんは慌てて手を振って何でもないと言った。

俺たちは不思議に思いつつも、それ以上は何も追求しなかった。

 

『……』

 

龍輝……鈴亜……すまぬ……。

 

 

 

 

「アヴィ湖を抜けると湖の港につくわ。そこからサントプト地方に入るの」

「なーるほど、じゃあ行きますか!」

『そうじゃの』

 

私たちは湖の港にいくことになった。

 

「すみません英雄の方々ですか?」

 

私たちを呼ぶ声がしたので、振り向くとそこには警備兵らしき人がいた。

 

「はい」

「どうしました?」

「この先に、獰猛と化したモンスターが多数報告されています。もしよろしければ、それらのモンスターの掃討をお願いしたいのですが……」

 

兵士が言うに、モンスターの討伐依頼のようだ。報酬も貰えるらしいので、私たちは了承した。

 

「獰猛なモンスターねー」

「逢魔が辻のモンスターは色んな意味で獰猛やったけどな」

 

そのような話をしながら湖の港を歩いていると、草むらから何かが飛び出してきた。

 

[今からね、ニャンチューの物真似をします。ミーはニャンチューだにゃああああん!!!!]

[俺のムスコが立ったときはな、こんなんなるんだぜこんなんにぃ!!!!]

[燃費をあげる一番の方法はクリープ現象、これで走れ!!!!]

[何かがなぁ右から来たときはな、左へ受け流してやれ]

 

ルーガが襲ってきた。

しかも紫色で、逢魔が辻にいたルーガとは少し違っていた。

彼らはウォールーガと呼ばれており、いわばルーガの上位種に位置する存在である。

基本的にそのモンスターの上位種は「ウォー」と名前がつくらしい。

俺と鈴亜は一斉にユイさんの方を見た。

 

『……』

 

ユイさんは目を瞑りながら、泡を吹いて死んでいた。

ため息を吐いた鈴亜はロッドを天に掲げ、バフを撒いてくれた。

力が漲ってくる感覚に襲われる。

 

「殺ろっか」

「ですね」

 

私たちはお互いに顔を合わせ、少し微笑んだ後、地面を蹴り、物凄いスピードでルーガに襲撃を仕掛ける。

 

「でやぁ!!!」

 

鈴亜はロッドに魔力を宿し、刃を形成しルーガに斬りかかった。

ルーガはそのまま吹き飛ばされ、他のルーガに衝突。

放たれた刃状の魔力は周囲の木々を伐採した後、消滅した。

 

「……ぜいぃぁ!!!」

 

私は刀を抜かずに、そのままルーガ。殴り伏せた。

一瞬だが、ルーガたちが怯む。

その瞬間を我々は見逃すはずもなく、全力で畳み掛けた。

光の爆発と魔力の爆発が発生するも、お構い無し。全力でウォールーガを叩きのめした。

更にその戦闘を察し、他の獰猛なるモンスターもやってくる。

 

[酒場では意識はあるの、アホは天然をキッパリ出す年収とスピードの4倍です]

[絶対にまつ毛マスカラ。本当に呆れるほど分かるほどカールマスカラ]

[世の中で本当に現れたと言われているルーガね。疑ってかかること]

[ボンレスハムを、どう飲んでいくかということ]

[ルーガは復活したアホです。本当にそうなの、わけワカメです]

[せいろなんてお蕎麦なんだ。こんなもんやれば誰にでも打てるようになる]

 

意味のわからない言葉をいいながら現れるのは、見覚えのあるモンスターたちだ。

ウォーエルダーウッド、ウォーメッチャオワコン、ウォーシュータープラント。

そして、始めてみる敵。

ワニのようなモンスターであるウォークロコダイル。

巨大な怪鳥、ウォーグリフィルス。

部隊を成しているかのようにやってきた。

その数、20ほどだ。

 

「なーるほどー!!」

 

鈴亜そういってニヤリと微笑み、ロッドを地面に突き刺す。

そして全ての敵を囲むほどの範囲を持つ魔法陣が出現する。

そして、その魔法陣の光は一層輝きが増してゆき……

 

「炎の究極魔術……エクリプスメテオ!!!!」

 

鈴亜がそう詠唱すると、鈴亜の少し上空に雲が渦を巻き、その中心から巨大な隕石が落下してくる。

気づいたモンスターたちは慌てて逃走に図るが時既に遅し。

大地を抉る勢いの大爆発と衝撃波、モンスターたちに襲いかかる。

俺は無意識のうちに刀を縦代わりにして、目を瞑った。

 

そして、目を開けるとそこにはモンスターの姿はおらず、巨大なクレーターがあった。

そして、私や鈴亜、木々などは光輝く壁によって無事だった。

 

「よし、終わりー!」

 

鈴亜はこちらを振り向いて、笑顔でピースをする。

その笑顔は非常に癒されるものであり、そして鈴亜の底知れぬ強さに驚くばかりである。

獰猛なるモンスターは先の攻撃によって全滅。

兵士の討伐依頼は無事完了となる。

私たちは、気絶しているユイさんを一旦そのままにして小走りでアヴィ湖へと戻った。

 

「ありがとうございます!! これで商人や住人たちも安心してサントプトの往来ができます!! ありがとうございました!!」

「いえいえ」

「困ったときはお互い様ですので」

「報酬です。受け取ってください」

 

兵士はそういって、私たちに報酬を差し出した。

 

「「ありがとうございます!!」」

 

私と鈴亜はお礼を言ってお辞儀をした。

そして私たちは走ってユイさんの元へと向かう。

 

「ユイさん起きてるかなぁ?」

「私の勘だと、まだ寝てると思うわ」

「まぁ、そうやろなぁ」

 

私たちは走りながらそのような話をした。

鈴亜の予想は的中しており、ユイさんは泡を吹いてぐったりとしていたのだ。

 

「龍輝どうする?」

「ちょっとだけここで待ちますか」

「そうね。さっきの技で魔力使いすぎたしね」

 

そういうと鈴亜は地面に座り込んだ。

やはり先程の魔法は相当魔力を使うものらしい。

 

「ねーねー、マフィーナのときモンハンの古龍になってたでしょ?」

「あー、うん。ただ、まだ成り立てだから、まだ全然戦える状態じゃないけどね」

「そうなの?」

「おん、それに魔力の扱いとまだまだやしな」

「それならさ、後で私が稽古つけてあげようか?」

「いいんですか?」

「もちろん!」

「ありがとうございます!!」

 

私は鈴亜にお辞儀をした。

その声でユイさんも目を覚ましたので、再び旅が再開する。

目指すはサントプト地方の隠者の道。

そこに向けて、私たちは湖の港を歩き出す。

先程の戦いによってモンスターがどこかへ逃げて道は静かだ。

港とは言うが、船らしき物は停泊しておらず、何故湖の港なのか不思議に思う。

 

「いま船は全部就航していていないのよ」

「なーる」

『この時間はサントプト地方に荷物を運んでおるからの。もう少ししたら、来るはずなんじゃが……』

 

ユイさんが高く浮遊し、目を細めてキョロキョロ辺りを見渡した。

すると、ユイさんは「あっ!」とした声を出して、我々が向かう方を指差す。

私たちはその指差す方をみて、俺は呆気にとられた。

空から、巨大な飛行船が港へと向かってくるのだ。

飛行船と言っても、我々がよく知るガス袋にヘリウムや水素を入れて浮かせるやつとは全く違い、帆船の両側面にプロペラがついた、ファンタジー感MAXの印象を受ける代物だ。

 

「飛行戦艦やん」

「いつみても凄いわね」

『まぁ、あんなデカブツ、誰が作ったかなんて一目瞭然じゃろう』

「ケミックさんか……」

『そうじゃな』

 

あの人がダブルピースしながら、得意気な表情を浮かべたビジョンが容易に想像できる。

 

『大都市スカイポリスもケミックの技術力を使った都市だと聞く』

「スカイポリス?」

『サントプト地方の更に先にある地方じゃ。邪悪に近い都市故に、天空に存在する都市じゃ』

「スカイピアかよ」

『なんじゃそれ?』

「あ、いや、こちらの話」

「フフ……」

 

私の話に鈴亜さんは、おかしくて笑っていた。

あの感じから鈴亜さんは、スカイピアのことも知っているのだろう。

そんな話をしながら、私たちはサントプト地方へと向かって歩き出す。

 

「なにあれ?」

 

私たちは足を止める。

目の前にモンスターがいた。

全員紫色をしている。ウォー種だろう。

 

[恋人は沢山いるけど、真の恋人は……自分だけさ]

[恋人は別れたって瞬時により戻せる]

[私に言い寄ってきた男は沢山いるけど、皆フッてやったわ。どいつもこいつもバカばっかり]

[俺に勝てるのは、俺だけだ]

[ヴァレンタインにチョコを貰ってないレディにホワイトディのお返しあげちゃったよテヘッ]

[ナンパができるようになれば、世界中どこでも彼女ができる]

 

「龍輝、どうする?」

 

鈴亜は私に聞くが私もわからん。

結構な数だ。

 

「鈴亜さん。もう一発あれできます?」

「無理。そこまで使える魔力ないよ」

「ですよね」

「古龍になって必殺技で蹴散らせない? スーパーノヴァとか水蒸気大爆発とかアブソリュートゼロとかアルティメットクシャストームとか」

「古龍の身体に馴れてないのに、そんなことできるわけないでしょ」

「そうよねー。あ、そうだ!」

「?」

 

鈴亜は私とユイさんの耳元で呟いた。

気乗りはしないが、これしか方法はないと悟り、協力することにした。

 

「いくよ?」

「あいよ」

 

鈴亜は水を生み出し、それを私が吸収する。

水の魔法を得ると同時に龍化能力も発動。

私の姿が見る見るうちに溟龍ネロミェールへと変貌する。

ウォーと冠する名前を持つモンスターたちは、ネロミェールの姿を見るや否や、怯え、後退り、蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げ出した。

 

「ね? 意外といけたでしょ」

「そ、そうですね」

 

ネロミェールになった私は少し戸惑いながら、頑張って鈴亜の後ろをついていく。

未だに古龍の身体に馴染めず、あることすらも満足にできない状態だ。

こんなぎこちない歩き方するネロミェールとか見たことないわ……。

現在の自分の歩き方が、カメレオンの歩き方に酔っ払ったサラリーマンを足して2で割ったような歩き方を想像した私は、あまりにもバカマヌケ過ぎて笑ってしまった。

 

「どうしたの?」

『急に笑って、思い出し笑いか?』

「いや、いま自分の歩いてる姿を想像したら……バカすぎて……」

 

そう言い終わると、再び笑い出す。

笑いの壺という落とし穴にハマってしまった私は、ケラケラと爆笑する。

あれー、おかしいな、古龍は落とし穴にハマらないのに……。

 

「確かに、マヌケね……」

 

私の言葉に共感されたのか、私のマヌケな歩き方をする姿を見て鈴亜も爆笑し始める。

 

『能力を解除したらどうじゃ?』

「いんにゃ、古龍の身体に馴染みたいから、このままでええよ」

『まぁ、それもそうか』

「龍輝も大変ね」

「ああ、あの科学大神官さんにやられたよ……」

 

端から見たら美少女二人(一人)が深海に住んでいそうな龍を引き連れているという意味不明な光景となっている。

しかし、古龍の姿のおかげというべきか、さっきまで襲ってきた獰猛なモンスターたちの強襲は、パッと収まったのだ。

ネロミェール様々である。

そのお陰で、我々は簡単にグリムマギア地方を抜けれそうなのだ……が、どうやら時間的にこのまま行くのは危険らしく早朝にサントプトへ向かうことになった。

私は水を解放して古龍化を解く。

何となく近々筋肉痛になるのではないかと不安があった。

 

「じゃあ、ここでキャンプでもしようか」

「そやな」

『いいのー。ワシは周囲にモンスターがいないか見張っておるよ』

「あいよー」

 

鈴亜は手慣れた様子で巨大なテントを設営、私は薪を持って焚き火の準備に取りかかった。

こんな感じでええんか?

という不安に駆られながらも、多分……多分できた。

私一人なら、これくらいでええやろうとかなりの妥協ができるが、二人となると何となく妥協は許されないという感じが出てくる。

それ故に、これは大丈夫なのだろうか?と不安になるのだ。

 

「鈴亜さん、こんな感じで大丈夫ですかね?」

 

私は鈴亜に訊ねる。

鈴亜は、私が作り出したモノを見て「そんな感じ、上手じゃん!」と褒めてくれた。

正直かなり嬉しかった。

私は火をつけるため、木を擦って火起こしを始める。

鈴亜の魔法ですれば一発なのだが、魔法に頼りすぎるのは良くないということだ。

まぁ、言われてみればそうやな……。

 

「ふぅ……何とかついた……」

 

必死に火起こしをすること10分、ようやく火を起こすことに成功する。

それを薪に移して、焚き火が出来上がった。

 

「じゃあ、早いけど晩御飯にしようか!」

「そうですね」

 

私がそう返事をすると、鈴亜さんは鞄からインスタントカレーライスを取り出し、米をキャンプで良く見る炊飯器に入れて、炊けるのを待った。

 

「ねえ、龍輝」

「ん?」

「ご飯食べ終わったら、一回私と戦ってみない?」

「別に構いやしやせんけど、相手になりますかね」

「龍輝がどれくらいの実力なのか知りたい」

「さいですか」

『魔力とドラゴンの制御の練習にもなるじゃろ』

「そうですね」

 

まぁ、私も古龍を早く使えるようにしたいから、ええか。

私達は、カレーライスを早く食べて戦いをすることになる。

カレーライスの味は、ふつうの味だった。

本当に普通のカレーライス。

 

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまー!」

 

食べ終えた私たちは立ち上がる。

腕をうごかして軽いウォーミングアップを行い、少し開けた場所へと来た。

辺りは薄暗くなってはいたが、特に問題は無いとのことで、戦いが幕を開けた。

 

「全力できてね!」

 

鈴亜はそう言ったものの……。

全力ねえ……。

私は取り敢えず、走り出して殴りかかる。

現状の私にはそれくらいしか攻撃方法が見つからなかった。

しかし、それを鈴亜は軽くいなして零距離に近い至近距離で魔法をぶっぱなす。

私は一瞬にして上空に吹き飛ばされ、風が吹く音がしたことから風の魔術と予想できた。

 

「風の魔術……!!!」

 

私はそう呟いて落下しながら、その風を吸収した。

次第に姿が変化していく……。

 

全身は鋼のように灰色に、そして光沢を得た煌めきを放っていた。

それを見た鈴亜は「鋼龍クシャルダオラ……!!」と呟いた。

予想通り、といったところだろうか。

私もこうなれば攻撃の手段が増える。

今できることを全力でやるのみ。

 

「風の魔術!!!」

 

私は咆哮に近い声を荒げて風を放つ。

かなり不恰好であるが、かなりの風速の風が鈴亜を襲った。

本物のクシャルダオラなら、ここら一体の山々を薙ぎ倒せるんだろうなぁと思いつつ、鈴亜を吹き飛ばそうと風を放つ。

 

「かなり強いけど、まだまだね!!」

 

鈴亜は物凄い形相をして、両足から炎の爆発を発生させて、急接近してくる。

草食動物を捕らえる時のチーターのような形相に、私はかなり気圧されて逃げようとするが、クシャルダオラの馴れない身体ではまともに動くことができず、足が縺れて転倒。

 

「やぁ!!!」

 

私に近づき、炎の爆発を巻き起こした。

強大な威力の爆発を前に、成す術がなく私は吹き飛ばされる。

古龍の肉体+闇英雄の恩恵による影響により、痛みはさほど気にするものではないが、勝てる見込みがないことがあっという間に理解できた。

いや、元々勝とうとは思っていないが……。

 

「まだいけるでしょ?」

「多分……」

 

私は鉄の軋む音を鳴らしながら立ち上がる。

その時、とある戦法が頭に浮かぶ。

いけるか分からないけど、やってみよう!!

また、同じように風を飛ばす。

 

「……」

 

鈴亜は、少し眉を細めながら再び爆発の風圧で風を得て急接近する。

モンハンライズのマガイマガドみたいな事しとる……。

また、急接近して私に爆発を食らわせるつもりだ。

しかし、そうはいかない。

鈴亜が近づいた瞬間、私は前足を上げて天高く咆哮をする。

完全に油断をしていた鈴亜は、バランスを崩しながら、咆哮に怯む。

 

「くぅ……!!!」

 

膝を地面について激しく耳を塞いだ。

いま!

頭の中でキラリン!SEが鳴る。

私は風の魔法を使って風を上空に打ち上げるように発生させた。

そして、その影響で鈴亜は上空に吹き飛んだ。

 

「わ、わわああああああああ!!?」

 

鈴亜は全身をバタバタさせて、何とか体勢を取ろうとしている。

それを気にも留めずに、刀を抜いて刃がある方を地面に突き刺し、鞘の方を手に取り構える。

流石に刃がある方で攻撃をするのは、ダメだと思ったので、殺傷能力の少ないであろう鞘で攻撃をすることにした。

 

「あまいよ!!」

 

鈴亜は、炎の魔法を使って爆発を起こし、体勢を立て直した。

 

「は?」

 

何であの状態で体勢を立て直せるんだ?

更に爆発を利用してスピードを加速させつつ、私目掛けて炎の攻撃を何発も放った。

 

「このやろ……」

 

迫りくる炎を前に、私は自身の周辺に風を展開させて、鈴亜の炎を風と共に纏った。

 

「あぁっ……!!?」

 

火炎旋風のようなものに直撃した鈴亜は大の字になりながら吹き飛ばされる。

しかし、彼女は魔力を駆使して空を滞空した。

更に、腕から魔力で作られた剣を形成し私に斬りかかる。

よくよく考えてみれば、鈴亜って魔法使いにして遠中近距離すべてに対応できるのか……。

私は彼女の底知れぬポテンシャルに驚きつつも、全身から風をすべて放出する。

負けそうなので私は魔力を全て使って龍化を解除しようとしたが、彼女は私の旋風攻撃を魔力で象った剣で両断したのだ。

 

「んな……アホなああああ!!!!」

 

龍化が解除した私は叫び声をあげながら、ジャンピングダイブして攻撃を回避する。

 

「避けたわね!」

「そら避けるよ!」

 

仕方ない私は近くに転がっていた鞘を手にとって構える。

構えながら、チラリと焚き火の方を確認し、炎が消えていないことを確認した。

 

「行くしかない!!」

 

私は鈴亜に鞘を振り上げながら突っ走る。

彼女もそれに応じた。

鞘と魔力のや刃が交じり合う。

彼女のかなり力強い……。

魔法の影響か、何なのか分からんけど、見た目にしてかなり力を持っているようだ。

鍔迫り合いが続くなか、ジリジリと押される私。

このままでは負ける。

そう思った私は、ある賭けに出た。

 

一気に力を抜いて、そのまま背を小さくしゃがんで、鈴亜が体勢を崩した隙に焚き火の方に全力疾走して炎の魔術を得る。

 

この作戦を思い付いた。

上手くいくかは分からん。

やってみる価値はあると思う。

 

「(いくぞ……!!)」

 

私は一気に力を抜いて、しゃがみながら、斜めに飛び込む。

しかし、鈴亜は体勢を崩すことはなく、そのまま私の脇腹に足蹴りを食らわせた。

 

「えちょ!!???」

 

数年前に味わった痛みが脇腹に復活を遂げた。

私は少しだけ空を舞いながら地面に打ち付けられた。

割かし本気で蹴りやがったな……。

私は心の中でそう愚痴る。

 

「う……」

 

私は立ち上がろうとするが、目の前で鈴亜が剣をこちらに突き刺すような体勢でいた。

明らかなホールドアップである。

 

「負けた……」

 

私は膝をついてそう言った。

マフィーナの時もそうやったけど、強すぎる……。

かなりイカれてる強さだ。

 

「つ、つえええ……」

「龍輝もかなりいい線言ってるわよ?」

「お褒めにあずかり光栄でございまさーな……」

 

私は独特な言葉を口に出しながら、立ち上がる。

まぁ、分かりきってた勝敗ではあったが、ここまで強いと結構へこむな……。

 

『終わったかのー?』

 

ユイさんはふわふわと浮遊しながら、眠そうに言う。

それを見た私たちは、顔を見合って「寝よっか」と言った。

テントに入るまで、鈴亜が私の魔法について色々とアドバイスを頂いた。

言われたけどよく分からなかったから、次練習する時によく詳しく聞くことにしよう。

取り敢えず、寝よう……。

私達は大きなテントに入って寝袋を用意し、その中で眠りにつく。

明日はサントプト地方だ。

楽しみと不安がごっちゃになった気持ちを胸に、私は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

続く




無事にサントプト地方にたどり着いたが……。
くっそ暑い……。
ガチの砂漠で笑えない。
ここから、賢者のナンチャラって場所にいくらしい。


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21話 隠者の居所

砂漠に到着しました。
暑いです。
非常に暑いです。
しかし、歩かないとどうにもならないので、隠者の居所と呼ばれる場所まで私達は歩き出しました。



 

 

 

グリムマギア地方を越え、私たちはサントプト地方へとやってきた。

自然豊かなソルジェス地方やグリムマギア地方とは逆に、サントプト地方はほぼ何もない砂漠であった。

砂漠……砂漠というか荒地かな?

隠者の道と言うらしいが、全然名前と違う。

ガチの砂漠。

マジでサボテンとか枯れた木とかがあるだけで、特徴と言える特徴はない。

そしてクソ暑い。

 

風が吹く度に熱気が顔や手、肌を晒している箇所に直撃する。

元々が汗かきな私は地獄と言える場所だ。

既に汗が肌からコップから溢れる水のように垂れ流している。

ダムの放流じゃないんだからさ……。

そして、汗臭くならないかと、心配になってくる。

是非ともモンスターでないでくれ。

こんなところで出てきたら、余計に汗かく……。

いま思えば東京スカイツリー並みのフラグを建てたと思う。

 

[襲えない狼はただの犬さ!!]

 

砂の中から何か飛び出してきた。

私たちは一斉に戦闘準備に入る。

私たちの前に現れたのは茶色い毛並みを持った狼だ。

 

[なぁ、そうだろぉ?]

 

狼が天に吠えると、砂中から次々と狼が姿を現したのだ。

ざっと20体ほどだろうか。

言った側からの戦闘開始である。

これが終わる頃には私の背中は汗にまみれているだろう。

私は心の中で落胆し、戦闘体勢に入った。

戦闘開始だ。

 

[犬か?狼か?お前はどっちだ?]

 

ボスであろう狼も仲間の狼に指示を出して、我々に襲いかかった。

しかし、私は真顔で砂を取り込んで、能力を使う。

私の姿が徐々に変化し、並み大抵の生物を遥かに凌駕する巨躯、全身に巨岩を纏った異様な姿へと変貌する。

更に、背部には岩塊に覆われた巨大な掌とも翼ともとれる器官があり、その姿は龍というよりは、古代遺跡の最奥に鎮座する巨神兵というべきだろう。

 

 

砂、土を吸収することで得る龍は地蹄龍アン・イシュワルダ。

その姿をみた狼たちは、恐怖の眼差しを向けて蜘蛛の子を散らすように逃げた。

 

「早速モンスター出てきたなー」

「サントプト地方のモンスターは縄張り意識が強くて、自分達の縄張りに侵入するものは誰であっても容赦しないからね」

「なーるほーどねー」

「でも、流石の"大いなる存在"さんには、勝てないと悟ったのか一目散に逃げたわね」

「せやな」

 

最早この姿になんの違和感も持たなくなった鈴亜とユイ。

まぁ確かに、いきなりこんな巨大なモンハンがいたら私だって逃げる。

しっかし……なぜここのモンスターたちは濃い台詞をはくのだろうか……。

そう考えたが、結局は何も出てこなかった。

もしかしたら、こちらの世界では常識なのかもしれない。

よく考えればここは異世界だ。

私の世界とは文化も何もかもが違う。だから、じゃないか?と思った。

 

「そういえば、ここからいつぐらいにサントプトつくの?」

「ここから五時間ぐらいかな?」

「なげえな」

「だから、早朝に出発しよう。って言ったの。夜だと面倒臭いし。砂漠しかないし、結構疲れるわよ」

「さよかー」

 

私は、それならとアン・イシュワルダのまま、歩き出すことにした。

しかし、歩き出した時、あることに気づいた。

テオ・テスカトルやネロミェールで感じたような翼の違和感はあったが、歩く時に感じた違和感はなかったのだ。 いや、訂正する。

後ろ足には絶妙な違和感はあったが、テオやネロ程ではない。

普通に歩ける。

 

「あれ、アン・イシュワルダ普通に歩けるぞ」

「マガラ骨格って人間で言うところの四つん這いの体勢とちょっと似てるから、歩けるんじゃない?」

「そういうこと?」

「しらないけど」

「まぁ、そういうことにしておこう」

 

私はアンイシュワルダになって歩き始める。

しかし、背中に妙な違和感を感じた。

 

「なんか、背中がもぞもぞするけど……」

「私乗ってるよー!」

『わしもー』

「なんで!?」

 

私はビックリして思わず声をあげる。

鈴亜は悪びれることもなく「このまま少しでも体力を温存しようかと」と言った。

ユイさんは、「面白そうだから」と。

まぁ、ええか。

身体を鍛えるにはちょうどエエやろう。

 

「さいでっか」

 

私はそう言って歩く。

ドスドスと鈍重な音を発てて、巨大な岩山が動いていた。

もちろん、縄張りとしているモンスターたちも古龍であるアン・イシュワルダの前では、指を咥えてみているしかなかった。

アン・イシュワルダになった影響からか暑さは一切感じなくなり、疲れもある程度解消された。

アン・イシュワルダのまま行けば五時間程度なら何とかなるのではないかと希望が見えてくる。

 

「アンイシュワルダに乗れるなんて夢にも思わなかったなー」

「私は自分がアンイシュワルダになって、他の人を背中に乗せて移動するとは、夢にも思わなかったよ」

「それもそうね」

 

ケタケタと背中で笑う鈴亜に、私も何故だか釣られて笑ってしまう。

その後、アン・イシュワルダのお陰もあり、私たちは問題なく隠者の道を越えることができた。

挙げ句、四時間も歩いたことで、アン・イシュワルダの形態にもちょっとだけ慣れてきたという特典つきだ。

背部の器官を動かすことは、まだまだダメだが……。

多分、今のところ古龍の中で一番アン・イシュワルダが使いこなせているかもしれない。

 

「隠者の道を抜けたー!」

「やっとかぁ……」

 

隠者の道を抜けた我々。

そして、そのさきには洞窟があり、私はこのまま入ろうかと思った。

おもったのだが、アン・イシュワルダの図体が巨大過ぎて入ることができず、仕方なく私は魔力を放出して人の姿に戻り、洞窟へと入った。

洞窟内は薄暗く、そして静寂だった。

しかし、その静寂を破る存在が現れる。

 

[グルングルングルングルン!!!]

 

バイクの真似でもしているのだろうか?

そんな声を上げながら、二、三匹の黒い犬がやってきたのだ。

しかもめっちゃリーゼント決めてるやつが……。

いやーもう嫌な予感。

あの宿屋のおっさんが頭に浮かび上がった。

 

[おい、にーちゃん肉出せや!!!]

 

リーダー角だろうか? 一際目立つリーゼントをしている犬がカツアゲみたいなことを言ってきた。

グルルルと歯を食い縛りながら威嚇する犬に、私たちは肉なんて持ってないよ?と素直に言った。

すると、犬は目を細めて近づいてくる。

 

[あ? あんだろうが……。肉出せや]

 

剣呑な表情で勝手に決めつけていい放つ様は、まさにチンピラである。

一歩一歩、舌を出して近寄ってきて、私たちは徐々に後ろへと下がった。

 

「誰こいつ」

「グレンドッグよ。面倒なやつに絡まれた……」

 

私の問いに鈴亜は心底うんざりしながら武器を構える。

私も刀を構えた。

 

[やんのか?]

[よえーくせに]

[噛み殺してやる!]

 

刀を出しても臆することなく余裕そうにする犬に鈴亜が先手を打つ。

 

「でや!!」

 

炎の魔法を唱えた。

犬の内部から大爆発し、犬は断末魔をあげることなく消滅した。

その光景に私は呆気にとられる。

 

「さすがやな」

「あんなやつ相手にしてるだけ無駄よ」

「そうやな……」

 

そのような会話をして、これといった散策はせずに隠者の居所に向かった。

サントプトへは必ずここを通らないと行けないらしいけど、それ隠者の居所じゃなくない?てか、もう地図にも書かれてるのに、隠者もくそもないやん。

洞窟を歩いているとき、そのようなことを心の中で考えていたが、あえて口には出さなかった。

 

「でも、なんで隠者の居所を通るんだろうね。隠者のしてないじゃん。龍輝もそう思わない?」

「まぁ、確かに、俺もいまそれ思ってたところ」

「でしょ?」

 

どうやら、鈴亜も私と同じようなことを思っていたようだ。

俺と鈴亜はユイさんのほうを振り向く。

それに気づいたユイさんは、その事について話し出した。

 

『そうじゃな、初めは邪悪大戦のときじゃ』

「ふむ」

『邪悪と全面戦争を行うとき、それを拒んだ人々がいたのじゃ。まぁ臆病者たちじゃの』

「ふむふむ」

『しかし、そのときはイクスの存亡をかけた戦い。逃げることなど許されるはずもなかった。その時に、そやつらが作ったのが、ここじゃ』

「ほう」

『戦いの中で、奴等はこの場所に穴を掘り洞窟を築き上げた』

「この洞窟、人工物なのかよ」

「は、はじめてしった」

 

この洞窟が人工的に作られたものだと知って私と鈴亜は驚いた。

 

『もちろん、戦いを終えた後も、彼らがこの場所から出ることはなかった。もし出たらどうなるか、なんてわかるじゃろうからのぅ』

「まぁ、せやな」

『素顔を知られては不味い彼らはローブを纏い、バレるのを防いだのじゃ。そして、この場所に住み着いた』

「なーる」

『時代が進むに連れて、この場所も皆に知れ渡り、いつの日か、この場所を隠者の居所と呼び、各地方の神官どもが、引退し隠居生活を送るための場所になった。ワシも今の大神官をやめたら隠者になるつもりじゃった』

「なかなか面白いな」

「そんな歴史があったなんて、知らなかったわ」

 

鈴亜も知らなかったらしく、凄い驚きつつ、話をきいていた。

私は1つ頭に浮かんだことを聞いてみる。

 

「ケミックさんも、大神官引退したらここに来るのかな?」

『絶対にない』

「だよな」

「あの人は、大神官やめたら地球連邦軍顔負けの艦隊作りそうなイメージがある」

 

鈴亜の一言に私は「なはははは!!」と爆笑してしまう。

確かに、あの人ならカイラム級やクラップ級をアホほど製造しそうだ。

鈴亜と私は話をしていると突如、奥から眩い光が見えてくる。

 

『じきにつくぞ』

「あれが隠者の居所?」

『そうじゃ』

 

我々は少し早歩きで居所へと向かった。

隠者の居所を向かうと、そこにはかなり大きい広間があった。

薄暗いが光るキノコやホタルのような虫を街灯代わりにしており、なんだろうか……すごい幻想的だ。

異世界の異界にきた感じである。

ポケモン剣盾でいうところのアラベスクタウンを彷彿とする場所だ。

そしてそこには、ユイさんのいった通り、ローブを身に纏った人々が闊歩して1つの都市のようだ。

ここを抜けるとサントプトなのだが、その前に少し休憩しようと鈴亜は言ったので、私たちはベンチらしいキノコの上に座り込んだ。

隠者の居所であるこの場所を見渡すが、まず薄暗い。

我々の世界でいうと、夏の逢魔が時だろうか、日が沈む瞬間の世界が青く染まる時、そんなレベルの薄暗さをしている。

周囲にホタルのような光る虫が大量にゆらゆらと揺らめき、光るキノコが街灯の代わりに立ち並ぶ。

それが光となっていて、上記にも述べたが非常に幻想的である。

 

「幻想的やな」

「そうねー」

「アラベスクタウンに似てない?」

「あ、それ私も思った」

『なんじゃそれは?』

「とある世界の街で、こんな雰囲気の場所があってね。その場所の名前がアラベスクタウンなの」

『それはすごいのぅ』

 

私たちは、休憩に雑談をしていると、黒いローブを纏った隠者と思われる人が、ゆっくりとこちらにやってくる。

その光景は、結構ホラーで心臓が喉から飛び出るほどに驚いた。

そして、「こっちに来なされ」と手招きをする。

私たちは、不審全開の状態で手招きする隠者に向かったのだ。

 

「怪しいな」

「ええ」

『大丈夫じゃ。きっと何かの依頼じゃろう』

「余裕だなおい」

 

びくびくしながら、隠者についていくと、一軒家の中にお邪魔することになった。

急展開に私はついていけなかったのだが、何とか脳をフル回転させて状況を整理した。

私たちを手招きしたローブの隠者はこういった。

 

「お主らは英雄じゃな?」

「あ、はい」

「そ、そうですけど」

 

いきなり喋ったので、少し驚いたが、嵐のように荒ぶる心を落ち着かせて、返事を返す。

 

「やはりそうか……。お主らに頼みたいことがあるのじゃ」

 

隠者は棚からあるものを取り出した。

 

「代々、受け継がれてきたこの魔物。ぜひ退治してはくれぬだろうか? ワタシの祖先が残した……。古来の大戦より受け継がれてきた災禍を……」

 

そう言いながら、棚から取り出した物を俺たちに見せてきた。

 

「わーお」

「……でたよ……」

『やはりな……』

 

それに私たちは眉唾を飲み込む。

隠者が持ってきた物は、見覚えがあったのだから……。

隠者持ってきた物。

それは……。

 

1つのとっくりだった。

 

 

 

 

続く




とっくり……。
これを見せてきたということは、言うこと一つだ。
アークヘイロスを討伐しろと。
まぁ、討伐しないとどうしようもないので、それを受けたのだけど……。
今度はどんなアークヘイロスに出会うのやら……。


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22話 厄災の凶音奏人

第三のアークヘイロス。
これを倒さなければ、私たちは次に進むことができない。
私たちは意を決してアークヘイロスに挑みかかった。
そして、私も大いなる存在の異名を持つ古龍へと変身し、迎え撃つ。


 

 

 

「おいまて……これあれやん」

「あれね……」

 

とっくりだった。つまりこの中には……。

 

「そう。とっくりじゃ……。邪悪大戦時に封印された物が偶然にも、この隠者の居所に入ってきた。ワタシたちはこれを解き放たれぬようにこうして自身の力を捧げて守っておる。さて、二人の英雄殿。この災禍を冥界へと送ってはくれぬかのぅ?」

 

隠者はこちらを振り向く。

私たちは頷いた。

まぁ、邪悪の眷属を倒さないと、アークストーンは戻ってこないのだから、挑まないといけないのよね。

結局のところ

 

「やらないとこちらも元の世界へと帰れないので」

「まぁ、やるしかないわね」

 

そういうと、隠者は何も言わずにとっくりの蓋を開けた。

すると、私たちはとっくりの中に吸い込まれていったのだ。

ギルファーの時と同様に……。

 

「彼らに任せてよかったのかの?」

 

二人が吸い込まれたあと、隠者はそういった。

 

「ユイ様……」

 

隠者はユイのほうを見てそう言った。

ユイは腕を組みながらどや顔自慢げに隠者にいい放つ。

 

『そうじゃな。今までみてきた中で、一番最強かもしれんぞ。あの二人は』

 

それに嘘偽りはなく、真っ直ぐな碧眼の瞳で語るユイをみた隠者は少し笑い、「それなら、大丈夫じゃな」と言った。

 

「ところで……ユイ様……」

『ん??』

 

 

 

 

とっくり内部

 

 

 

まぁ、ギルファーの時と対して変わらなかった。

岩肌があって、亀裂から紫の瘴気が出てて、うん。変化なし。

私と鈴亜は歩みを進めると、やっぱりというべきか、あの人が現れた。

 

「おっひさー!」

 

ギャル魔法使いのナオミさんだ。

相変わらず陽気な挨拶をかわすが、私は一番心配していたことをきく。

 

「マフィーナのとき大丈夫だったんですか?」

 

あの虫が暴れたのは、とっくりを割って封印を解いたから、ということは、中にいたナオミさんはどうなったのか、心配になっていたのだ。

すると、ナオミさんは「あーあれねー」と呆れた表情になって、話し出した。

とっくりの中にいるナオミは分身のようなもので、本体は次元の裂け目にいるらしい。

しかし、情報は共有できていて、何が起こっているのかというのは、ナオミ本体には筒抜けということだ。

で、突然にとっくりが割れて、マフィーナが飛び出してビックリした。

と呆れながら言っていた。

 

「そんなことよりも、今回の敵は強力よー。アークヘイロス・ソナチルって言ってチョー強いから、気を付けてね!」

 

手を振って応援するナオミさんに励ましと警告の言葉をもらい、光指す道をあるいた。

さてさて、いきますか。

 

 

 

 

「ついたけどさ……」

「やば……」

 

凄惨という言葉では物足りないほど、我々がいる場所がえげつないものだった。

その場所は無数の英雄の亡骸で埋もれており、あまりの光景に気分が悪くなってしまう。

数多の英雄たちが挑み、返り討ちにあったと容易に想像できた。

 

「これは……」

「ひどいわね……」

 

私達も、その亡骸を前に顔を歪める。

そうしているうちに、前から何やらジャズが聴こえてくる。

私は咄嗟にハンドガンと刀を持って構え、鈴亜は錫杖を構える。

前から現れたのは、黒衣に包まれ、背中には巨大なトランペットを背負ってる不気味な男性がいた。

 

[さぁ、今度はどんな英雄が来たのか、楽しみだよ]

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、ソナチルはトランペットを持って吹き出した。

すると、その音にあわせて奇妙なバインドする塊が我々を襲う。

 

「うお!?」

「やばい!」

 

私と鈴亜はお互いに別の方向にダイブして回避する。

音玉はボヨンボヨンと弾みながら辺りを破壊し尽くす。

 

「なんじゃあれ……」

「音??」

 

私達はやつの攻撃に驚くが、その音玉の攻撃をみた私はある人物を思い浮かべた。

 

[アッハッハッハ!! それを避けるんだ!! 面白いね君たち!!!]

 

眉を歪めて、歯を見せたニヤケ顔で我々を見つめる彼の口調で、私の頭の中で1つの疑惑が浮上する。

しかし、いまはそれを考えている暇はなかった。

ソナチルは再びトランペットを吹いて音玉を解き放つ。

私達は回避をしながら攻撃を与える。

 

[ぐはー! 強いね君たち!! 前々から挑みかかる奴らとは大違いさ!!]

 

わざとらしく仰け反るソナチル。

多分、そんなにダメージは食らっていないことがわかる。

 

[じゃあ、いくよー!!]

 

そう言って、トランペットを吹いて甲高い音を鳴らす。

すると、トランペットから円状斬撃が飛び出して、我々を襲撃する。

 

「うお!?」

 

私は紙一重でそれを避けた。

斬撃は辺りの建造物を真っ二つにしながら虚空へと消えていく。

 

「なんじゃそれ!?」

[まだまだいくよー!!]

 

今度は低い音を奏でる。

すると、私がいる周辺の何もない虚空から、突如大爆発が起こった。

 

「どわおああああ!!!??」

 

予想してない攻撃に私は宙を舞った。

音を使った斬撃に爆発、私は某海賊アニメのキャラを思い出した。

 

[アッハッハッハッハ!!]

 

ソナチルは笑いながら、トランペットで低い音で演奏をし始める。

何の楽曲かは分からないが、ジャズと非常に噛み合っていた。

すると、私や鈴亜の足元やその周辺が大爆発を起こした。

 

「どこのスクラッチメン・アプーやねん!!」

 

私は爆風を掻い潜りながら、全力で爆閃から逃走する。

テオテスカトルになっても良かったが、なったとしても、今のテオテスカトルでは斬撃の音攻撃が対処が難しく勝ち目が薄いと判断したためだ。

 

「とっくりの中で力が減衰してるとはいえ、強いね」

「減衰しててこれかよ!?」

 

私と鈴亜は止めどなく襲い来る爆閃から逃げながら、ソナチルに攻撃を与えようとする。

しかし、走りながらのために狙いが定まらない。

 

[ほらほら、逃げ惑いな!!]

 

今度は、高音低音を交互に演奏して、斬撃と爆撃、跳ねる音玉を発生させた。

恐ろしいほどの弾幕に我々は攻撃をやめて回避に徹した。

これはさすがに洒落にならない。

 

「このやろ……!!!」

[アッハッハッハッハッハッハッ!!!!!]

 

恐ろしいほどの笑い声をあげながら乱舞演奏を繰り出す。

私は攻撃が当たるのを覚悟の上でハンドガンを取り出して、発砲した。

弾は魔物に効果的な弾なのだが、ソナチルは直撃を受けたにも関わらず、全く効いていない。

 

「化け物か?」

「化け物よ」

 

鈴亜そう愚痴を溢して魔法弾を二発放つ。

それをみたソナチルは旋律を変更し、低音の曲調に変えた。

ソナチルの周りに爆発が起きて、その爆発と爆風によって、二発の魔法弾は防がれる。

 

「効かないか……」

「いや、効く攻撃だから、防いだの方が正しいんやないか?」

「それなら、どうにかして奴を無防備にしないと……」

「どうしたもんか……」

 

鈴亜とひそひそ作戦を立てていると、ソナチルが再びジャイアンが裸で逃げ出すほどの凶音演奏を始める。

私はバウンドする音玉攻撃を何とか回避しながら接近し、切り裂こうとした。

まぁ、攻撃が成功するはずもなく、音攻撃により逆に吹き飛ばされる結果となる。

 

「どうせぇと……」

[アッハッハッハッハッハッハッ!! 無駄無駄!! やーーーー!!!!!]

 

ソナチルは高笑いをしながら、私の周辺に爆発を起こした。

あの野郎舐め腐ってやがる。

 

「ちょ……っとヤバイ……!!」

 

私は咄嗟に砂煙を吸収してしまう。

砂の魔法を得たと同時に、全身が地啼龍アン・イシュワルダへと変貌を遂げる。

 

「やっちまった……」

 

まだ少ししか慣れていない形態に私は、そう呟いた。

ソナチルは私の姿を見て、目を大きくしていた。

 

[へー、驚いた。君も僕たちと同じ力を持っているなんてね]

「龍のことか?」

[さー、どうだろーねー?]

 

しらばっくれたソナチルは天に向けて音を発した。

すると、天から爆発する音玉が降り注がせ、絨毯爆撃を起こした。

 

私はあえて動かずに、そのまま爆撃を食らった。

アンイシュワルダの纏う岩は頑丈そのもので、大量の爆撃を食らっても尚びくともしなかった。

 

かといって、こちらから攻撃ができるのかと言われれば、うーん。

背筋を何とか行使して、掌のような器官を使って攻撃を行おうとするも、ソナチルの方が俊敏で全くと言っていいほど攻撃が通らない。

 

[遅いよーー!!!]

 

アッハッハッハー!!!

爆笑と狂わせる音がこの世界に響く。

 

周囲に斬撃や爆発が乱れ咲く。

私は座り込み、背部の掌の器官を前方に押し出して壁に見立てて防御体勢に入る。

 

[アーーーッハッハッハッハッハッハーーーーー!!!!!]

 

美しく乱れ咲く爆閃や風に煽られた花弁のように飛び散る斬撃。

鈴亜も魔力の壁を使って防御に走っていた。

 

「うるせええええええええ!!!!!」

 

甲高い笑い声、ジャイアンリサイタルを遥かに超える演奏に私は、大声で叫び声をあげた。

超大型古龍であるアンイシュワルダの咆哮は、辺りの瓦礫を吹き飛ばし、散らばる音玉を掻き消した。

またその咆哮と共に何やら歌のような音がこの世界に響き渡る。

 

[くぅ……!!!]

 

流石のソナチルも、アンイシュワルダの咆哮には耳を塞ぎ、怯んだ。

その光景を見た鈴亜は地を蹴って、朱雀(アンイシュワルダ)の方に向かい、彼の耳元であることを呟いた。

 

「ずっと叫んでて」

「え?」

「いいからずっと咆哮してて」

「あ、ああ」

 

鈴亜は私から離れ、魔法を使う。

彼女の周辺に風が纏いだした。

ソナチルは再び演奏を開始する。

しかし、私は再び咆哮をした。

その咆哮は地面を爆発させるほどだ。

すると、その咆哮と共にソナチルから放たれた音玉が掻き消される。

それに、高低音で発生される斬撃や爆発を起きなかった。

 

[っち……]

「やっぱり……あなたから発する音よりも高い音がくると消滅するみたいね」

[まぁ、そうだね。なら、それよりも高い音を出せばいいだけさ!!]

 

ソナチルは先程よりも高い音を発てた。

私も負けじと咆哮をあげる。

鈴亜は大丈夫なのかと、チラリと見ると先ほど展開した風により、我々の音を遮断しているようだ。

 

「やりゃあああああ!!!」

 

その隙を逃さなかった鈴亜は、魔法の爆撃を起こして、ソナチルを吹き飛ばした。

 

[ギーエー!!]

 

オーバーに吹き飛ぶソナチル。

効いているのか効いていないのか、全然わからない。

 

「命樹の魔術!!!」

 

隙を与えないと言わないばかりに、鈴亜は魔法を唱える。

上空に見たこともない6個の金色の魔方陣が表れた。

 

「エンド・ドレッド!!!」

 

魔方陣からレーザーが槍のように飛び出して、ソナチルを貫いた。

貫かれた槍は小枝のように分裂し、地面へと落下。

そしてレーザーは勢いを止むことなく、ソナチルへと襲う。

 

[いたいいたーい!!]

「滅の魔術!!!」

 

立て続けに魔法を唱える。1つの巨大な銀色の魔方陣が鈴亜の後方に表れた。

ソナチルは不気味に微笑みながら、成すがままの状態だ。

 

「エタニティ・マギア・ゼオン!!!」

 

詠唱と同時に後方に展開されてある銀色の魔方陣がより一層輝きを増したのだ。

銀色の魔方陣はゆっくりと、そして次第に早く回転を始めだし、無数と言っても過言ではないであろう量の光の弾を撃ち出して、その回避不可能とも言える弾幕が一斉にソナチルの方に発射された。

あまりの量に眩しくて目を開けることが困難なレベルだった。

 

[へえ、面白いじゃん……]

 

ソナチルは音の防壁を展開するが、私の咆哮によって、展開された防壁が瞬く間に崩れ去る。

しかし、ソナチルはそれよりも大きな音を奏で、防壁を作り出す。

 

[これよりも大きい音をあげるだけ!!

!]

「させるかいなああああああああああああああ!!!!!」

 

そんなことを私がさせるはずもなく、声が死ぬレベルの大声をあげる。

その時、全身の筋肉を使って声を荒げ、さらに背筋がプルプルと痙攣させた。

すると、どうしたことか、その背部にある掌のような器官に異変を感じ始める。

何やら咆哮とは別の音が聴こえ出した。

フオオオオオォォォォォ……。

と風が耳を翔るような不思議な音だ。

 

[なっ……!!!]

「え?」

 

そして、無数の光弾幕が雨のように降り注ぎ、光の弾をソナチルはもろで食らったのだ。

 

[……くぅ……!?]

 

初めて苦痛に歪んだ表情を浮かべるソナチル。

 

「トドメ!!」

 

どんよりとした空が真っ白に光輝く。

何が起こるのか私には、ゆうに理解できた。

ソナチルは豪快に立ち上がると、鈴亜に向けて殴りかかる。

私はそれを阻止すべく頑張って走り出し、ソナチル目掛けて飛びかかった。

 

[わはあああ!!?]

 

ソナチルに飛び乗って動きを封じる。

ソナチルは、必死に拘束から振りほどこうとするが、アンイシュワルダの巨体ののし掛かりから逃れることなど不可能に近かった。

 

「鈴亜今のうちに!!」

「りょーかい!!!」

 

鈴亜は天目掛けて手を掲げ、魔法名を唱える。

 

「天の魔術イスカ・エタニティ・ライピア」

 

無限とも言えるほどの光の槍が天から降り注いだ。

それは無差別に、建物や英雄の亡骸をも巻き込んでの攻撃だ。

 

「危ない!!」

 

私はバックジャンプをしてその場から離れる。

しかし、そんなものでは鈴亜の魔法を回避できるはずもなく、私も直撃弾を受けた。

ボロボロを音を発てて、アンイシュワルダの岩殻が崩れ落ちる。

 

光の雨が止んだあと、辺りは平地と化した。

 

[こんなに攻撃を食らったのは久しぶりだな……]

 

ボロボロになりながら、不敵な笑みを浮かべたソナチルが立ち上がった。

ポンポンとボロボロになった身体を払い、私の方をチラリとみる。

 

[でも、彼はボロボロだね]

 

そう嘲笑いながら、倒れ伏したボロボロのアンイシュワルダをみる。

 

「……」

[こうなれば所詮、ただの動かぬ彫刻だね。あとは鈴亜、君だけだ]

「く……!」

[君、もう魔力が枯渇してるんじゃない? あれだけ強大な魔法を使えば、もうじきに魔力が0になるよね]

 

じりじりに近づくソナチル。

鈴亜も少し険しげな表情で、錫杖を構える。

ソナチルの言うとおり、先の魔法は膨大な魔力を必要とするものばかりで、もう今の鈴亜には魔力が残っていなかった。

勝ちを確信したソナチルは、さっきの攻撃で損傷したトランペットを使って演奏を始めようとする。

しかし……。

 

[……!!?]

 

何やら鬼気迫る殺気を感じ、後ろを振り向いた。

すると、先ほどまで倒れていたはずのアンイシュワルダが起き上がった。

 

[なぜ、まだ生きている!?]

「古龍は死なない。死ぬ訳がない」

 

そう言うと、アンイシュワルダの岩翼が崩れ落ちる。

更に、全身の岩を次々と剥離させ、周囲に猛烈な塵煙を巻き起こしはじめた。

そして煙よりが立ち現れる。

その姿をみた鈴亜は微笑みを浮かべ、ソナチルは唖然とした表情を見せた。

 

凄まじい絶叫とともに舞い散る塵芥を一挙に霧散させて顕現したその姿は、

ゴツゴツした第一形態とは正反対に両掌や触手を思わせる形状の皮膜のない翼脚、不揃いに捻れた形状の甲殻などからは彫り込まれた仏像を彷彿とする非生物的な姿をしている。

これが、地啼龍アン・イシュワルダの真の姿である。

 

[あのゴーレムみたいな姿は仮の姿だったわけね……!!!]

 

ソナチルは攻撃対象を鈴亜から私に変更し、爆発する音楽を奏でた。

させるはずがない。

私は両翼を地面に突き刺して、天を貫くほどの雄叫びを発した。

すると、またもや咆哮とは別の歌のような音が聴こえたかと思えば、ソナチルの地面が液状化し、動きを封じた。

 

「これって……!!」

[な……ちょ……!!?]

 

私とソナチルは動揺を隠せなかった。

その動揺は別の意味合いだろうが……。

その液状化現象を見た鈴亜は、「え? 能力使えるようになった?」と言った。

私も、アンイシュワルダの振動を使う能力が覚醒したのかと思った。

 

[こうなれば!!]

 

ソナチルはトランペットを吹いて、地盤を爆発させて、逃れようとする。

私は咆哮でそれを阻止しようするが、その咆哮すらを上回る音量で演奏したため、そのまま地盤を爆発。

その爆発の衝撃で、拘束から逃れた。

 

「……!!」

 

私は魔法を使い、岩の塊を虚空から生み出し、ソナチル向けて落とした。

ソナチルは舌打ちして音波を放って、落下する岩を分解する。

 

「やろう……!」

 

私は翼の先端をソナチルに向けて翼をプルプルと震えさせた。

すると、紙を入れた筒を吹き矢のように吹いた時の音が轟き、ソナチルのいた地盤が少し抉れたと思えば、彼は口から血を吐いて吹き飛んだ。

しかし、反動がとんでもなく、私も結構飛ばされた。

 

[ゴハァ……!!]

「うわあああ!!!」

「ワーオ、凄い!」

 

ソナチルは血反吐を吐きながら腹部を抑えて、私の方を見つめる。

 

[何が起きた?]

 

ソナチルは動揺が隠せずいた。

私はそれを無視して、両手を魔法を使って岩で固めた。

 

「だああああああ!!!!!」

 

全力でソナチルに殴りかかる。

回避しようとするが腹部の激痛に悶え、避けることが出来ずに私の岩で固めた龍の拳がソナチルの全身にぶつかる。

 

[……!!!]

 

悲鳴にならない声をあげて地面に大根おろしになる。

更に追い討ちとばかりに先端が鋭利に尖った巨大な岩を1つ生成し、それを落とした。

起き上がろうとするが、ソナチルの両手両足を巨大な岩の手錠と足枷で動きを封じる。

 

[!!!!!]

 

そのまま、岩に押し潰されて下腹部から真っ二つになるソナチル。

武器であるトランペットもペシャンコになり、使い物にならない状態になっている。

確実に消し去ろうと考えた私は、再び岩を落として潰そうとした。

その時、真っ二つにした上半身の方がムクリと起き上がり、落下する岩から逃れた。

 

「まだ生きてるの!?」

「ゴキブリか?」

 

鈴亜と私は流石に気味悪がった。

そんなことを尻目にソナチルはニヤリと不敵に笑い、こう言い放った。

 

[アッハッハッハッハッハーーー!! 面白い限りだ!!! 最後にド派手な花火をあげて、二人諸とも道連れにしてやるさ!!!]

 

ソナチルは大きく息を吸い込み……。

嫌な予感がした私は、魔法を使って全身を岩で纏い、初めの形態に戻った。

 

[うおおおおおおああああああああ!!!!!!]

 

ソナチルが雄叫びをあげたと同時ぐらいに、岩翼で鈴亜を守るように覆う。

 

[ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]

「え?」

 

ソナチルはニヤリと不敵に笑うと、この世界を滅ぼさんばかりの規模の大爆発を起こした。

熱気や爆風が私と鈴亜を押し寄せる。

 

「やろおおおおおお!!!!!」

 

全力で鈴亜を守る。

そんな中……世界が閃光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だ、大丈夫!?』

 

案の定、私たちの帰還にナオミさんは驚いていた。

そらもう盛大に。

 

「何とか……」

「た、龍輝大丈夫?」

「古龍の生命力は尋常じゃないな!」

『それで、倒せたの?』

「はい! ほら!」

 

といって私は、ナオミさんにアークストーンの欠片を見せた。

それをみたナオミは、もう驚愕よ。

お化けでも見たような表情で声をあげて驚いた。

 

あのソナチルの自爆の後、守りきった私は、再び岩がボロボロと崩壊した。

そして、ソナチルのいた爆心地の中心にアークストーンの欠片が落ちていたのだ。

 

しかし……。

最後にソナチルが最後に言いはなった言葉。

鈴亜には聴こえていなかったのだが、私にはソナチルの不敵に笑いながら言った言葉が耳に残る。

 

[君たちの勝ちだ。次はそうはいかない。次は朱雀龍輝、君一人だ]

 

負け惜しみなのか、何か意味があるのか……。

不気味過ぎた。

 

 

 

 

 

隠者の居所

 

 

「……」

『そうじゃな。じゃが、ワシがそうなっても、二人なら成し得てくると信じておる』

「そうですか……。ならいいのですが……」

『そもそも、こうなることは覚悟の上じゃったからな。後悔などないよ』

「……」

 

「「どわあああああ!!!!」」

「『……!!!??』」

 

とっくりの中から放り出されるように出てきた二人を見て、二人は無言で驚いていた。

地面に落ちた私たちは体をはらって立ち上がる。さっそく隠者さんが私たちに口を開いた。

 

「英雄方、ソナチルを倒したのか!?」

 

ナオミさんとあんまり変わらんことをいってらっしゃる……。

私はアークストーンを二人に見せた。

二人は驚いていたが、隠者さんは頭を地面につけてお礼を述べたりして、もうこっちはどうすりゃいいのかわからんかった。

 

「英雄方、何かお礼をしたい……!!! 今日はもう泊まってくだされ!!!」

 

涙ながらに迫り来る隠者さんに私たちは気圧され、嫌とは言えなかった。

すると、隠者さんは駆け足で扉を蹴破るように開けて、広場で大声で叫んだ。

 

「隠者よ!!!! 今日は宴じゃ!!!! 邪悪の眷属ソナチルを討伐した英雄に祝福の宴をするぞ!!!!!」

 

そういうと、隠者たちは「おおおおおおおおお!!!!!」っと言って一斉に宴の準備に取りかかった。

 

 

 

 

「さぁ、何をしておる英雄方!!! 宴の始まりじゃ!!! 思う存分楽しんでくだされ!!!!」

 

先程の隠者さんは前より大胆に手招きをしていた。

もっと言うと、ユイさんもハイテンションで宴に参加していたのだ。

 

「てか、皆さん、ユイさんのこと見えるんですか??」

「うむ、我々は元神官。ユイさんのことは我々には見えるぞ!」

『というわけじゃ、今回の宴はワシも参加するぞ』

 

久しぶりに話せる人々と出会えて嬉しいのか、何時もよりも元気なユイさんだ。

 

「龍輝ー!!!」

 

鈴亜の声が聞こえたので、そちらを向くと、既に宴に参加していた鈴亜が笑顔でこちらを振っていた。

 

「早く宴に参加しようよ!! 美味しいご飯とかたくさんあるよ!!」

「そうだ!!英雄殿!!」

 

私も宴に参加した。

いま隠者の居所はソナチルの討伐による宴で類見ないお祭りの場となった。

 

 

 

 

 

続く

 




隠者の居所をサヨナラし、私たちはイクス大陸第三の都市サントプトへと向かうため、グランドキャニオンみたいな峡谷に足を踏み入れた。


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23話 神話に刃向かう不可視の神仙

さて、サントプトに出発だー!
そう意気込んで峡谷を歩いているのだが、そこである依頼をお願いされる。
その依頼がまぁ、めんどくさい依頼な訳よ……。
ただ、その依頼を受けたことで、私の能力が1つ上の段階へと行くことになる??


 

 

 

 

 

結局、宴は朝まで続いたので、私たちは寝れなかった。

おかげで寝不足のまま、隠者の居所を出発することとなった。出発前に、隠者のお婆さんが結構色々な食べ物を貰い、隠者の居所を出発することになった。

 

「がんばれ!!!」

「おうえんしてるわ!!」

 

隠者たちに送られながら、隠者の居所を出発した。

正直、あの手の応援をされるとマジでやる気がでるから嬉しい。

 

「ふぁぁぁ……ねむ……」

「たしかになー……どんちゃん騒ぎやったもんな……」

「隠者が隠者してなかったよね……」

「ああ」

 

鈴亜は笑いの成分が混じった声で、そう言った。

そして、さっきから一言も喋らないユイさんはというと、寝ながら着いてきていた。

流石にこれは笑って誤魔化すしかない。

どんだけ器用なんだよ。

 

「便利やな」

「ねー」

 

そして、そこからは無言である。

やはりと言うか、深夜テンションの後の賢者モードというのは、なかなかに酷いものだ。

現状、私たちがいまいる場所は峡谷の壁と壁の隙間を歩いているところだ。私が住んでいた地球にあるアンテロープキャニオンのようである。割りと絶景なのだが、絶景を見る余裕なんてなかった。あまりにも眠くてな。

 

風が突き抜けるように吹き、太陽から日が射しているが、壁と壁の隙間を歩いているので、そんなに暑くはない。

 

「そういえば」

「なに?」

「鈴亜、魔力は大丈夫なの?」

 

ソナチル戦で魔力がなくなってる的なことが聴こえてきたので、私は心配して聞いた。

 

「大丈夫よ。いま魔力が回復してるから!」

「自然回復的な?」

「違うよ。地中を通ってる自然のエネルギーを吸収してるの。で、それを魔力に変換して使用してる感じ」

「ムフェトジーヴァみたいなこといってるよこの人……」

 

私は何いってんのこの人みたいな感じで言った。

鈴亜も笑いながら、「確かにムフェトジーヴァみたいだね」と言う。

 

「とりあえず、次のアークヘイロス戦までは大丈夫な感じか」

「そうね」

 

再び始まる沈黙。

そのまま歩くこと1時間。

私はふと昨日のソナチル戦で少し気がかりな点があったのを思い出した。

それは、ソナチルの口調が少し、ソナッチに似ていたのだ。

それに音を使う点も非常に酷似している。

ギルファー、マフィーナ、ソナチル……。

 

あれ?

 

「あれ?」

「ん? どうかした?」

「なぁ、アークヘイロスを従えてる奴って邪悪だよな?」

「そうだよ?」

「な、るほど……」

「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」

「?」

 

邪悪……。

ギルファー、マフィーナ、ソナチル……。

 

そんなことってある??

私は何やら結構核心に迫ったような気がした。

しかし、まだわからない。

でも……。

ただ、もしそれが本当なら、私が今から倒そうとしているやつって……。

あれ? ていうか、ファンギル達の名前って前にどこかで……。

 

「わ、龍輝!」

「え?」

 

鈴亜の声に我に帰る。

 

「あれ!」

 

彼女の指差す方を見ると、奥から誰かがやってくる気配を感じた。

私たちは少し警戒していると、その誰かが姿をあらわした。

 

「あら、英雄さん達かな?」

 

そう言って、私の方に近づいてくるのは、灰色の髪色をしてふんわりカールのロングヘアーで、薄黄色のゴスロリっぽさのある服装を身に纏った女の子だ。

結構かわいい。

 

「ええ」

「そうですね」

 

私たちがそう言うと、その女の子は目を光らせて話を始めた。

 

「よかったー、ちょっと手伝ってほしいことがあるのよ!」

「と、いうと?」

「隠者の峡谷の奥地にね、ちょっと厄介な魔物が巣食っているの。それを退治して貰おうかなって」

「どんな魔物ですか?」

 

私がその女の子に訊ねると、女の子は神妙な顔つきで「ヒドラよ」っと言った。

 

「ヒドラ?」

「ヒドラって魔物の中でも上位に位置するやつじゃない?」

 

キョトンとする私とは対照的に少し神妙な表情をする鈴亜。

ヒドラ……。

クリプトヒドラとか、某監獄元所長現副所長のあの人の技とか……。

対魔忍RPGでもヒドラってボスがいたような……。

私はそんなことを考えていた。

 

「お願いできるかしら? あ、私はクリスよ。大神官ユイ様の一番弟子よ! 神官クリスと呼んでね!」

 

そう言って、かなり実っている胸をドーンと張って誇らしげに語った。

 

「ユイさんの?」

「そうよ! 凄いでしょ!?」

「ええ、なかなか」

 

『眠いのぅ……』

 

目を擦りながらお目覚めのユイさん。

それに気づいたクリスは心底驚いた表情をしていた。

なんでこんなところにいるの?!って言っているようだ。

 

「ユイなんで、じゃない! ユイ様なんでここに!!?」

『おー、クリスか! 久しぶりじゃな!』

「お久しぶりですけど、どうしてここに居るのですか!?」

 

クリスの言葉にユイさんは、『あー……えーと……』とはぐらかしていた。

 

「ブレンダン大神官も、ユイ様はどこほっつき歩いてるのだー!!ってカンカンでしたよ」

『あー、えーと……それはー……』

「???」

 

珍しくオドオドするユイさん。

なかなか見物だったが、話が脱線しているので、ヒドラについての話に戻した。

 

「それで、そのヒドラの場所の案内をお願いできますか?」

「その前に、これを持っていてください」

 

そう言って、私と鈴亜にとある瓶を5個貰った。

瓶の中には青い液体が入っているのが確認できる。

ちょい不気味だ。

 

「ヒドラと戦うなら、これは必須ね」

 

鈴亜はそう言いながら、バッグの中に怪しげな瓶を入れた。

わたしには、この瓶の内容液がよく分からず「???」となっていた。

 

『龍輝よ。それは解毒剤じゃ』

 

私の得体のしれない物質を見る表情に気づいたユイさんはそう答える。

それを聞いた私は「あー!」と納得したような少しだけ甲高いを声をあげた。

なるほど、つまり毒をしようしてくると

……。

どんな毒をしようしてくるんだろうか……。

テトロドトキシンか?

うわー、嫌やなー。

ただ、ヒドラ狩らないと先に進めないぽいし……。

さっき頷いた以上やらないと、人として終わったような気がするので、結局の所依頼を受けるのだが……。

 

「じゃあ、ユイ様もこれ!」

 

クリスは、解毒剤を私たちと同じように渡そうとするが、それを拒む。

珍しく、慌てた様な表情を見せるユイさんに凄い新鮮味を感じた。

 

「ねえ、ユイ様もしかして」

『え“……あ、いや……その、あ、アハハハ!』

 

ユイさんの姿を見たクリスはハッとしたように「やっぱり!」と言った。

さ、流石だ。

ユイさんの状況を瞬時に読み取る。

流石大神官の一番弟子と言ったところだな。

 

「大神官だから解毒剤はいらないって訳ね!! 流石ユイ様ね!!」

 

「え?」

「え?」

『え?』

 

全員の目が点になる。

やっぱり大神官ユイさんの一番弟子だな。

まぁ、なんでか知らないけど、ユイさんのメンツは守れたっぽいな。

まぁ、そんな訳で我々はヒドラを討伐する為に峡谷の奥地へと足を踏み入れた。

徐々に暗くなっていく。

そして、突如クリスが制止する。

 

「ここから毒の瘴気が濃くなってくるから、みんな解毒剤を飲んでね!」

 

言われた通りに、私たちは瓶に詰められていたコルクをポンっと抜いて、一気に飲み干した。

味は無味である。

ゲロマズなイメージがあったが、少し安心した。

一応、この解毒剤を飲むことで、大体一時間は毒に犯されることはないらしい。

なるほど。

毒は私の魔法でも吸収出来そうにないので、これは有難い。

ただ、これを飲んでも毒の攻撃は当たりたくはないと感じたが……。

 

峡谷の奥地に進めば進むほど、何故か甘い香りが漂ってくる。

これが毒なのかは定かではないが……。

 

『ふむ……きな臭くなってきたのぅ』

「そうですね」

「この甘い香りって毒ですかね?」

「多分、そうみたいね」

 

その甘い香りは徐々にだが、濃くなってくる。

カラメルを頭から被ってるようだ。

香りだけで胸焼けを起こしそうになる。

しかし、不思議と気分が悪くなることはなかった。

そのまま、私たちは何も喋ることなく奥へ奥へと歩みを止めなかった。

沈黙の中、ただ三人の歩く音だけが薄暗い谷に響く。

甘い香り香りがする薄暗い谷底を歩く光景は、異様とも言えるだろう。

 

ふと、私は足を停めた。

それに気づいた三人も止めて私のほうを向く。

みんな警戒しきった表情をしていた。

 

「どうしたの?」

 

鈴亜が警戒と不安に包まれた表情を浮かべてそう私に訊ねる。

私は目を細め、眉を潜めて「奥から何か聴こえない?」と呟く。

その言葉に、場にいた3人が奥の暗闇を凝視。

確かに、奥から不可解な呻き声が聴こえてくる。

奥の暗い場所から得体の知れないモノの呻き声が木霊するのは、これ以上に無い恐怖だ。

しかし、ここまで来て引く訳にはいかない。

私たちは意を決して奥へと進む。

もちろん、全員が武器を構え(ユイさんは除く)、警戒心を最高まで高めて……だ。

 

「……」

「……」

「……」

『……』

 

四人が背中を合わせて、どこから来ても大丈夫なように布陣を作る。

四人の沈黙の中、得体の知れないモノの呻き声と共に、不可解な怪音まで聴こえ始めた。

バキッ……!!

カキッ……!!

何かが折れるような音だ。

それとは別に、肉を契るようなブチャッ!! グチャッ!! という音も聴こえてくる。

とりあえず、この音の主がヒドラであることは確かと思いたいのだが……。

如何せん、薄暗い中なので不明なのだ。

しかし、突如その足音は止み、ドスドスと歩く音に変わる。

こちらの存在に気づいたか?

私たちの神経は全て警戒に向く。

足音は、次第に大きくなってくる。

私たちは、前を向いて暗い奥をジッと見つめていた。

鈴亜が炎で灯りを照らすと、その姿が現れる。

巨大な胴体に長い首を持つドラゴンのような姿をした怪物が私たちの目の前にいた。

なかなか迫力のある見た目で、多頭で大蛇の姿を想像していたので、少し意外だった。

 

「こいつが……」

 

その迫力に私は、そう自然と口から言葉がこぼれ落ちた。

突如、ヒドラは天高く遠吠えを上げて、私たちに襲いかかってくる。

 

「うおお!!?」

 

私たちは少し怯む。

この場所で戦うのは不利だと判断した鈴亜は、全員に一旦戻ろうと伝えて、それに応じた私達も全力で撤退をする。

そのとき、ヒドラも追いかけてくるように、チマチマと後ろを振り返りながら魔法を当てた。

そのおかげか、ヒドラも全力で追いかけてくる。

時々、口から毒ブレスを吐くが、それを軽くいなしていく。

 

「ヤバいぞ、マジで毒吐いてくるやん!!」

 

私は大声で叫びながら毒を回避する。

一応、中学のころ、科学部でいながらも陸上部の補欠ぐらいのスピードを持っていた私は、鈴亜やクリスたちに遅れをとることは無かった。

 

先程いた峡谷に出た私たちは、全員攻撃体制に入る。

遅れてヒドラが峡谷の壁をかち割りながら、姿を見せた。

そのとき、鈴亜とクリスの氷属性の魔法攻撃が炸裂。

大きく怯むヒドラの隙を付いて、足を思いっきり切り裂く。

少しだけ切り口が開いたのを見た私は持っていたハンドガン(対魔物炸裂弾装填済み)を構えて何発も発砲する。

15発中、12発が外れて、2発がヒドラの足に、残り1発が奇跡的に切り口に命中し、それがけたたましい音を立てて破裂。

血が吹き出た。

やばいのが、この血にも毒が入っているということ。

直ぐにその場から離れる。

正直、毒に耐性を持ってる人が居ればどれだけ攻略難易度が下がることやら……。

マゼラン副所長とか柳六穂とかパープル・ヘイズとかとかとか。

そんなことを考えてるうちにクリスと鈴亜は、ヒドラに一定の距離を起きながら氷属性の魔法を放ち続ける。

 

「やっぱしぶとい!!!」

「ヒドラだもんね!!」

 

絶え間なく魔法を放つも、全く倒れないヒドラを前に愚痴を零す二人。

ヒドラも、広範囲の毒ブレスを吐くが、魔法の壁でいとも容易く防がれる。

私は再び、マガジンに別の弾(対魔物徹甲弾)を詰め込んでリロードする。

ハンドガンを構えてヒドラの頭部を狙う。

 

「いけるか……!?」

 

5発連続で発砲する。

しかし、私のエイム力はあまりにもゴミすぎて、5発全弾がカスリすらすることなく外れた。

 

「下手くそ!!!」

 

私は自分自身に罵倒して、何発もガムシャラに発砲した。

何発かはヒドラの身体にヒットしたが、それでも決定打にはならなかった。

いや、決定打どころか、効いてすらいない感じだった。

 

「マジかよクソッタレ……」

『龍輝、ヒドラは氷が弱点なんじゃ、だから氷の弾を』

「氷の弾な!!」

 

私はバッグから氷の弾を探すが、見つからなかった。

 

「馬鹿野郎……何やってんだ朱雀!!」

 

再び私は自分に悪態を付きながら、ハンドガンをしまって刀を構える。

いや、構えたが、ある作戦が脳裏を過ぎったため、再びハンドガンを持って炸裂弾が入ったマガジンを入れてリロード。

ヒドラの後方に回って、クリスたちにヘイトが向いている隙にその長い尻尾を切断しにかかった。

 

「……!!!」

 

雄叫びをあげることなく、静かに修羅のような表情で尻尾に斬り掛かる。

それに気づいた鈴亜とクリスは、自分たちにヘイトを向かせるために、より一層攻撃の苛烈を強めた。

注意は完全にクリスたちに向いている。

今だ!!

刀を思いっきり振り上げて、尻尾に振り下ろす。

刀が尻尾に食い込む。

 

「……かたい……!!!」

 

私は険しい表情を露にして、全力で尻尾を切断しにかかる。

ヒドラも切られまいと、尻尾をブンブン振って私を吹き飛ばそうとしてきた。

 

「ぐぅぅぅ……!!!」

 

歯を食いしばって、必死に刀にしがみつく。

テーマパークにある激しい乗り物のような気分だ。

 

「させない!!」

「龍輝堪えて!!!」

 

クリスと鈴亜は氷の魔法でヒドラの動きを止めようとするが、ヒドラの暴走は一向に止むことは無い。

そして、しがみつく体力がなくなった私は刀から手を離してしまい、宙に弾き飛ばされた。

 

「あああああああ!!!!!」

 

どうにもならない私はそのまま峡谷の岩壁に叩きつけられた。

背中に激痛が走る。

どれくらいの痛みかと言うと、足の小指を机の尖った角に思いっきりぶつけた時並の痛みだ。

その激痛が背中全てに伝わっているといえばいいだろう。

 

「はぁが……カァァァ……ンフーーーーー!!?」

 

私は声にならない悲鳴を上げて悶絶する。

激痛に歪ませた表情をしながら、鼻息を荒くして無理矢理身体を立たせる。

 

「ンフーーー、ンフーーー!!!」

 

鼻息を荒らげながら、歯を食い縛り痛みを堪える。

刀は奴の尻尾に食いこんだままだ。

あれをどうにかしないと、私の手持ち武器はハンドガンのみ。

土を取り込んでアンイシュワルダになるか?

と、考えたが、ダメだな。

この峡谷で、あんな巨大な龍になろうもんなら、ろくに動くことができずに、下手すれば瓦礫で鈴亜たちに被害が被る可能性がある。

かと言ってネロミェールとかの龍になれば、まともに動くことが出来ずに格好の的だ。

私は考えた結果、あの刺さった刀を意地でも引き抜く。

 

「とまれええええええ!!!!!」

 

鈴亜は大声をあげて魔法を解き放った。

氷の塊が一直線にヒドラへと向かい、頭部に直撃する。

ヒドラは悲鳴のような声を荒らげて怯む。

よく見るとヒドラの氷の紋章を刻まれているのが分かった。

怯んだ隙を狙って、私は刺さってる刀を抜くために、尻尾に向かって疾走する。

 

「次で決めてやる!!」

 

静かに呟いた彼女は、魔法を使おうとするが、ヒドラがそれをさせなかった。

体勢を立て直したヒドラは、鈴亜に向けて毒弾をブッ放つ。

その予兆に気づいた彼女は、ダイブをして回避し、それと同時に氷の魔法を撃つ。

しかし、ヒドラはそれを毒弾で相殺。

再び、毒弾攻撃を続ける。

 

「くっ!!!」

「このぉ!」

 

必死に回避する鈴亜に、ヘイトを向かせるため、クリスはヒドラに攻撃を続ける。

だが、クリスの魔法の威力は低く、ヒドラには全く効いていない様子だった。

 

「やべえ……!!」

 

流石に、ヤバイと感じた私は、刀を一時断念してハンドガンを構え、ヒドラの尻尾にゼロ距離で乱射する。

炸裂弾はヒドラの皮膚に抉りこみ、何度も破裂した。

その破裂する衝撃で刀が弾け飛んだ。

 

「うお!!?」

 

いきなりのことに驚いた私は一瞬固まりながらも、走って刀を拾いにいく。

さっきの攻撃でヒドラのヘイトがこちらに向いたのか、今度は私目掛けて毒弾を吐いてくる。

何が怖いって、毒弾が着弾した場所がジュ〜って音を立てながら煙を出してることだな。

あんなものに当たった暁には、川を渡ることになるだろう。

それだけは勘弁願いたい。

 

「でやあああああ!!!」

 

しかし、川を渡ることになるのは、杞憂で終わりそうだった。

鈴亜は猛獣の様な雄叫びをあげて、とてつもない氷の魔法を放出する。

巨大な氷の塊が一直線にヒドラの頭部を貫通させた。

さらにその氷の魔法の直撃をトリガーに、ヒドラに刻まれた氷の紋章も大爆発を起こした。

2段構えの攻撃に流石のヒドラも断末魔をあげて撃沈する。

 

やっぱつえーわ。

 

 

私とクリス、ユイは鈴亜の方に走って行く。

 

「やったね!!」

「やっぱ鈴亜つえーわ!」

『お主やるのぅ!』

 

3人の賞賛に、鈴亜は照れくさそうに「そんなことないよ」と言った。

いや、鈴亜は本当に凄い。

私は心の中でそう呟く。

彼女だけでも邪悪を討伐できるのではないかとさえ思えてくる。

 

「さて、ヒドラも討伐したことだし、私たちはサントプトに向かうね!」

 

鈴亜はそういってサントプトへと続く道を行こうとする。

私は「クリスさんは、これからどうします?」と喋る。

 

「私は、修復の応援でグリムマギアに向かうわ」

「そうですか」

「じゃあ、ここでお別れね」

「ありがとうございました!」

『グリムマギアの人々によろしく言っておいてくれ』

「ユイはこのままサントプトに向かうの?」

『うむ』

「どうして? グリムマギアの修復手伝わないの?」

「「((手伝いたくても手伝えないんだよなー……))」」

『あ、ああ。向こうはケミックがおるし、大丈夫じゃろ』

「なるほどね」

「まぁ、そういう訳で、私たちはこれで失礼します」

 

何となくユイさんのメンツがやばいと感じた私は、即座に切り上げようとする。

そして、私たちはお辞儀をしながらそれぞれグリムマギアとサントプトに向かおうとした。

その時だ。

 

背中にゾワリと悪寒が走る。

私は反射的に後ろを振り向いた。

 

[……]

 

ヒドラが目を開けて、こちらを見ていた。

ユイさんも、鈴亜もクリスも気づいていない。

私が鈴亜とクリス、ユイにその事を言おうとするが、それよりも早くヒドラが動く。

少しだけ顔を上げて鈴亜に毒弾を撃つ。

 

「え?」

「やばい!!!」

 

身体が動いていた。

私はキョトンとした鈴亜の前に立ち、ヒドラから放たれた毒弾をモロに受けてしまった。

 

「うっ……!!!?」

「え……?」

「ちょっ……!?」

『た、たつ……』

 

全員、呆気に取られている。

しかし、状況が飲み込めたとき、その場は阿鼻叫喚となった。

 

「た、たつき!!!?」

「ちょっと、早く回復を!!!」

『龍輝!!!?』

 

解毒薬を飲んだのに、全身が焼けるほどに熱くなる。

ジュ〜っとフライパンで肉を焼く時のような音が全身から煙をあげて聞こえてくる。

熱い骨が溶けるようだ……。

 

鈴亜達は必死に回復魔法を唱えているが、ヒドラがそれを許さない。

 

鈴亜たちに毒弾を乱れ打ち、回復を妨害する。

 

「このおおおああああああ!!!」

 

鈴亜は怒りに任せて氷の魔法を撃つ。

しかし、ヒドラは全身に毒を纏わせて、滑るように避ける。

 

「龍輝大丈夫!? しっかりして!!!」

「あつ、い……」

 

私は歯を食いしばって必死に堪えている。

しかし、意識が薄れてきた。

私の頭の中に「死」の文字が浮かびあがる。

私は、ここで死ぬのだろうか……。

心の中で呟く。

走馬灯のように今までの事が頭に浮かぶ、家族を失って、闇英雄になり、この世界に来た。

……。

私は……。

まだ、やらないといけないことが……。

私の夢が……!!!

酔狂な頭お花畑の夢を思えば思うほど、私の生きたいという執念が燃え上がる。

そして、その執念が、私の能力にも影響を出した。

全身にこびり付く、毒が身体に吸収されてゆく。

私の頭の中で無意識にとあるBGMが流れ始める。

そして、私の身体が徐々に変貌。

人間の肌だった全身は毒々しい紫色の外皮や鱗に覆われ、頭部には突き出たような一本角が生え、尻尾は団扇のように大きく広がった形状に伸びる。

その尻尾は先端部だけ細く、まるでゼンマイのようだ。

その姿を見た鈴亜は、私の変貌した姿を見て呟いた。

 

「霞龍オオナズチ」

 

と。

クリスは急に私がカメレオンに似た怪物に変身をして慌てふためいていた。

私はオオナズチに変身したはいいのだが、やはり妙な違和感に苛まれる。

しかし、こうなってしまった以上、どうにかするしかない。

考えても拉致があくわけではないので、取りあず私は全力で走り出してヒドラに突撃をかますことにした。

そのまま、私はヒドラの上に乗って、首元に噛み付く。

ヒドラは断末魔をあげて必死に振りほどこうとするが、首元を噛まれて、更にオオナズチの全身で組み伏されているため、思うように抵抗できない。

 

「鈴亜今や!」

 

ヒドラにマウントを掛けながら、鈴亜にそう叫ぶ。

彼女も一瞬呆気に取られるが、すぐさま氷の魔法を唱える。

氷の塊は、ヒドラにのみ命中し、氷の紋章を刻んだ。

ヒドラは苦痛に歪む声を荒らげて私の拘束を振りほどいた。

私は解かれた時に、一歩後ろに下がりながら、首を思いっきり横に振って、カメレオンのような長い舌を出して、鞭のようにヒドラにぶつける。

ゴッと鈍い音がなって、ヒドラはバランスを崩し倒れる。

その隙を逃すことはなかった。

ぎこちない動きでヒドラの元に近づいて、前足を上げ、首元目掛けて勢いよくボディプレスを食らわす。

また、ボキッと何かが折れたような鈍い音が響き、ヒドラは断末魔をあげる。

 

「龍輝避けて!!」

 

鈴亜の声に私はバックジャンプをしてヒドラから遠ざかる。

着地と同時に転げたのは内緒。

 

「潰れろぉぉぉ!!!」

 

鈴亜の咆哮と氷の音が峡谷を包み込み、ヒドラの全身が凍結。

対象は沈黙。

ヒドラの氷像の周りは辺り一面が銀世界となり、その場所だけ時間が止まっているかのような錯覚に襲われる。

 

鈴亜とクリスは一息をついてその氷像を見つめた。

 

「龍輝ごめん!!」

 

鈴亜の言葉に私は、「大丈夫や。おかげで、オオナズチにもなれた訳やし」と霞龍の状態で言った。

それでも鈴亜は頭を下げるのはやめなかった。

私は少しアワアワしながら、「気にするなって、問題ないよー」と必死に鈴亜を宥める。

クリスはというと、龍の姿になった私を見て凄い興味津々に身体を調べていた。

とりあえず、私たちは解毒剤を飲んで、安全な場所に移動して、少しの間だけ休憩することにした。

 

 

 

「さて、そろそろいくか」

 

1時間ぐらいゆっくりしていたと思う。

ある程度の休憩を終えた私たち、龍化も解けたし、私たちは各々の目的の場所へと向かうことにした。

 

「じゃあ、今度こそ!」

「うん、またねー! ユイもバイバーイ!」

『ケミックによろしく伝えておいてくれ!』

「あいよー!」

「ほいじゃー!」

 

そうして、私たちはサントプトへ、クリスはグリムマギアへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なにもない虚無の空間。

黒や紫の瘴気が渦巻く空間。

そこに二人の男がいた。

 

「ギルファー、マフィーナ、ソナチルを討伐した男。朱雀龍輝」

 

黒いコートに身を包んだ男は、そう言って少し微笑んだ。

 

「どうやら、本当みたいだね」

 

男は黒いトレンチコートを着たもう1人の男に話しかける。

その男は静かな口調で「ええ」と呟いた。

 

「……まぁ、あまり臆することもないか……。所詮残りカスが形を成した存在から契約をしただけなんだから」

「そうですね」

「まー、少しだけ偵察をお願いできるかな?」

「分かりました」

 

 

 

続く

 

 




無事?サントプト地方へと到着した私たち、そこでサントプトの王に呼び出しをくらい、あるものを討伐してほしいと頼まれる。
そう我々の目の前に差し出された物。
とっくりである。


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