アサルトリリィ Ephemeral Illus¡on (吉野刹那)
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第0話 始まり
「っはぁ、はぁ……」
薄暗い夜道を一人で駆け抜けていく少女。その手には、ユグドラシル社の第2世代型CHARM『グラム』が握られている。たった今ヒュージを倒して来たばかりのようで、ヒュージの体液がこびりついている。
深緑色の髪を揺らし、とある方向へ走って行った。
その少女の向かった先は、百合ヶ丘女学院。
「―――――ふぅ」
安心したかのように一息ついた。ハーフアップにしてあるロングの髪から汗が滴り落ちる。
息を切らしながら建物の中へと入っていった。
コンコン。
生徒会室の扉がロックされる。生徒会長の
「只今戻りました」
「お帰りなさい、
儚と呼ばれたその少女は、史房に先程まであった戦闘について話し出した。
―――――
一見、普通のリリィに見えるが、実は『幻のリリィ』という異名を持っている。
儚が生徒会室から出てくると、そこには2人の生徒がいた。話し合っている儚を待っていたのだ。
「お帰り~、儚!」
「お疲れ様。今日はどうだったの?」
「うん、さっき史房様にも話したんだけど、あそこの小学校の近くにラージ級の群れが出ちゃって。児童避難させながら倒すのめっちゃ大変だった」
緑色の髪を上で二つに結んでいて、陽気な口調で話しているのが2年生の
黒髪ロングで落ち着いた口調で話しているのが2年生の
「それは大変だったナ……」
さて、話し方等で分かると思う(例外もいる)が、儚も2年生である。夢結や梅とは親友(儚談)で、こうしてよく一緒にいる。
「……もう遅いし、そろそろ自分の部屋に帰った方がいいんじゃないのかしら?」
「おお、そうだナ!夢結も儚もじゃあナ~!」
「また明日ね、夢結、梅!」
「ええ、お休みなさい。」
ひらひらと手を振って別れ、3人共自室へ帰っていく。
儚の部屋。同室のリリィは既に寝ようとしていた。
「ただいま、
「お帰り!」
深優と呼ばれた赤髪の少女は、眠そうに応えた。(因みに、深優の苗字は
「また遅いんだね。生徒会かよぉ」
「ちっがいまーす」
「はは。お風呂入ってこないん?」
「うん、今行くとこ」
儚は夜遅くまで戦闘に行っていることがよくあるので、帰って来たらもう指定入浴時間が過ぎていることも多々ある。そのような場合は1年生と一緒に入ったり、一人で入ることが特別に許されているのだ。儚の『あの力』に免じて―――――
「今日も一人風呂?可哀想に」
「はいはい、じゃ、行って来るね」
「いってら~」
前田儚。彼女が一人で戦闘に駆り出されているのも、夜遅くに帰ってくるのも、生徒会と長話をしているのも、全て理由がある。
それは、『レアスキルを全て使用可能』なのと、『レアスキルの多重合成が可能』だからだ。
レアスキルは個人の生き方等が反映される為、原則一人一種持てるとされている。
しかし、『原則』があれば『例外』もある。それが彼女なのだ。
この能力は基本公開されている。政府との連携も取れており、単独出撃することもある。
「―――――何故公開されているのに『幻のリリィ』?」――――――――――それは、いくら公開しているといっても、それが目に見えて分かるのは学院内のみ。なので、そのことを知らない人々の方が多いくらいなのだ。
『幻のリリィ』の異名は、噂に乗ってまわっている。「日本のガーデンに、レアスキルを全部使用出来るリリィがいる」と。
前田儚。髪型は深緑の背中まであるロングをハーフアップにしています。性格は基本的に明るいですが、やる時はちゃんとやります。
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第0.5話 明日は入学式
儚は自室で一人、机に向かって座っていた。ルームメイトの深優はどこかに遊びに行っている……と思う(儚によるとそうらしい)。壁に掛けられているカレンダーには「えいぷりる」とか「4月だよん」とか、深優の落書きが所々にあったりする。
儚の手には一冊のノートが。表紙に「日記」と書かれていて、少し汚れてしまっているそれを、どこか懐かしむように一ページ目を開く。裏表紙にはこう書かれていた。
[私の目指すリリィ]
どんな時でも仲間を信じる。
絶対に油断しない、諦めない。
誰からも憧れられるような強いリリィになる。
これは、儚が高等部一年生の時から付け始めた日記だ。そして、この標語のような怪文章は始めの日に書いた目標である。「まぁ誰にも見せないからいいだろう」的な気持ちで書いてしまった為、今ではかなりの黒歴史になっているが。
「……こんなん誰にも見せられないや」
そう呟きながら隣のページに目を通す。
4月×日
今日は入学式。中等部からそのまま上がってきたからそんなに違和感はないけど(知ってる子いるし)、ちょっと雰囲気が違う?制服とか。個人的には高等部の制服好きだな。深優に聞いたら「中等部の方が良かった」とか言ってたけど(笑)。いやぁでもホントこの制服夢結に似合ってる。まぁ夢結は何着てもOKなんだけど。
「……一体何書いてんだ私てか最後の方がガチ目な黒歴史じゃん」
とかツッコミを入れつつ、でも思い出は振り返りたいと思い読み進めていく。何冊かあるので、全部読むのは大変だ。
○月□日
天葉のシルト候補……じゃなくて、来年絶対契り結ぶ
私と梅と天葉と樟美ちゃんの4人で色々な話した。樟美ちゃんの料理の腕はプロだとか。てゆーか可愛い。
「あれはヤバかったな~いきなり百合百合し始めるんだもん」
△月▽日
かなり亜羅揶悔しがってたけど(笑)。まぁそれはそれで可愛かった……というより、美しかった。……性格さえ良ければもっとね、うん。←は?
「懐かし……てかカッコのツッコミ多いな」
上の文章から分かる通り、儚は百合好きだ。可愛い女の子が大好きなのである。亜羅揶みたいな問題行動はしないが。
そんなこんなでゆっくり日記を読み終わり、この黒歴史達を引き出しの奥に仕舞い込もうとした時。ドアの開く音がした。
「!!」
深優が入ってきた。急いで日記を隠す。
「あれ~何やってんの?? あ、それ何?」
「い、一年生の復習してただけだよ」
「ふーん」
深優の気が逸れたことを確認し、黒歴史達を縮地かゼノンパラドキサ並みの速さで引き出しの奥に仕舞った。
「ん? 今なんか隠した?」
「何も」
「いや絶対何かしたでしょ。怪しいもん」
「気のせい気のせい」
「復習とか言って、どうせ何か見てたんでしょ」
「いやいや」
「嘘付け、分かってるから」
「昔の下っ手くそな文字を眺めてただけ」
「違うでしょ! ウチ、知ってるもんね~。ウチらに隠れて秘密ななんかやってたんだねん」
謎の言い合い(?)が続く。
「なんでだよ。てか『ウチら』って何」
「え? 夢結とか梅とか祀とかその他諸々」
「はぁ」
「まぁ見せたくないなら見せなくていいけど」
「分かった見せない」
「ちょっとそこは『うーん……』て考え出すとこでしょーが! ってか認めたな! 何か隠してたって!」
「あ」
間接的にバレてしまった。
「見ーせーてー」
「いーやーだー」
引き出しを守る儚vs手を出す深優の戦いが始まる。
「ぐぬぬぬぬ……もう少し便利なレアスキルだったら……!」
「便利なレアスキルって何よ!?」
攻防戦がヒートアップしてきた時。
「おーい儚~? そろそろ明日の入学式準備始まるよ~?」
ドアの外から声がした。
そう、明日は入学式で、儚達の1コ下が入ってくる日であった。
「あっそうだった! 天葉? 入っていいよ」
「どーぞー」
声の主は百合ヶ丘女学院2年生、
「深優もいたし」
「ほんじゃ深優行くぞー」
「急ごうぜ」
3人揃って歩き出す。準備と言っても会場や校舎中の清掃くらいで、これといって大仕事なわけではない。
この3人の担当場所は同じで、会場中の会場、即ち講堂である。
「重要なとこじゃん、サボれんわこりゃ」
「サボるつもりだったの!? 梅みたいなこと言わないで」
「本人に失礼だ」
深優はどこか梅気質だ。
担当場所に着いた時、天葉が口を開いた。
「そういえば、さっき二人部屋で何か言い合ってたよね?」
「あーそれは儚が「何でもないよ~!!」
儚がわざと声を遮るように叫んだ為、周りにいた人達&天葉が肩を震わせる。
ちょうど近くにいた梅が「おう、どした儚?大声出しテ」と聞いたが、それにも「だから何でもない~!!」と叫び声を上げた。あの黒歴史を思い出し、顔は真っ赤だ。
「そこのあなた達、静かにしていただけます?」
叫び声に気付いた史房が注意した。
「「「すみません!!!」」」
準備が終わり、天葉と梅は儚達の部屋にお邪魔していた。
「も~儚のせいで怒られちゃったじゃない」
「本当に申し訳御座いませんでした」
「梅はいいよね、縮地で逃げられて」
「あの時は使ってないゾ?」
明日は大切な行事があるので体を壊さないように休養を取っておけ、という生徒会の指示で解散後は各自ゆったりと過ごすタイムの筈だったが……、
「てことは、亜羅揶が入ってくるということか」
「亜羅揶に何か?」
「あ、同じ趣味ってことだナ」
いつも通りの談笑タイムになっている。
「違いますー。私は人を喰ったりしません」
「下品なのはいけません」
窓の外がすっかり暗くなった頃。儚達はベッドに潜り込んでいる。もう寝る、という状態で、ふと深優が儚に声を掛けた。
「……ねぇ大丈夫?」
「何が」
「シルトについて。儚狙う一年生絶対めっちゃいるっしょ」
「あ、そこ辺は上手く対処するからダイジョブ」
「まぁね。じゃ、お休みぃ」
「うん、お休み」
深優と言葉を交わし、瞼を閉じる。
(いよいよ後輩が入ってくる、か。どんな子が入ってくるかめっちゃ楽しみ)
儚ちゃん百合好きって設定ですね、はい。前回割り込める箇所がなかったもので、今回登場させました。
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第1話 Entrance
翌朝。入学式の看板が設置され、『祝 御入学』と書かれた花輪が並ぶ校庭に、在校生や新入生の声が響いていた。
そんな中で……
「はぁあぁぁぁあぁぁ~」
儚は何故か盛大に溜め息をついていた。
「うぉぉい儚?」
「どうしたの」
側で新入生をしていた深優と天葉が問う。
「なんでそんなに溜め息……あ」(察し)
「可愛い子がい過ぎて辛い」
「……ほらやっぱり」
超どうでもいい会話をしているいつもの?メンバー(梅はいないが)。彼女達は今、中等部時代からその名を馳せている実力派やあまり交友のない海外のガーデンからの留学生等、色々なリリィを見に来ている。ついでに儚は新たなカップリング誕生の瞬間に立ち会う為や美少女探しに。
「……あのツインテちゃんは工厰科か~。あ、あそこのクローバーの髪飾りの子可愛い!」
なんかぶつぶつ言っていた。
「んじゃ私、樟美のところ行ってくるね」
一年生が二人程いる所に駆けていく天葉。
「行ってらー」
「うちらも行こうか」
「え、ちょっと待って」
少し遅れて儚達も天葉の元へ。
「……?」
突然、人集りがざわめき出した。
人の山の先には夢結ともう一人、薄桃髪のリリィ。彼女は猫耳のような飾りを身に付けている。
「中等部以来お久しぶりです夢結様」
「何かご用ですか、遠藤さん」
「亜羅椰と呼んで頂けませんか?」
妙にニヤついた顔で夢結と相対している彼女は、百合ヶ丘女学院一年生、
「そして入学のお祝いにCHARMを交えて頂きたいんです」
自身のCHARM―――赤いアステリオン―――に手を添える亜羅椰。
天葉達ギャラリーの反応は……。
「『お祝い』って自分で言うのかよ……って彼奴CHARMに手掛けてる!?」
儚がツッこむ。
緑ロングヘアの一年生、
「亜羅椰の奴、夢結様に何やってんのよ~」
それに同じく一年生の
「喧嘩売ってるんだよ、いっちゃん」
「止めます? 天葉様」
「私は興味あるかな~」
「じゃあ見てますか」
一同は取り敢えず見ていることにした。
「お退きなさい。時間の無駄よ」
「なら、その気になってもらいます」
夢結の牽制も虚しく、このまま平穏に事を終わらせてくれ……という一同の願いに見事反し、亜羅椰の指輪が光る。金属音と共に彼女のCHARM[アステリオン]が起動する。周囲からどよめきが漏れた。
「抜きやがった!」
「ガチで夢結とやるの!?」
「手加減はしないわよ」
「あら怖ぁ~い、ゾクゾクしちゃう」
全く動じない夢結。先輩に対しても挑発的な態度の亜羅椰。
いよいよ始まってしまうかと誰もが思っていたが、そこに間に入る者が現れた。
「はぁ~いそこ、お待ちになって?」
(ナイスタイミング、そこのリリィ!)
赤茶のウェーブがかったロングヘア。お嬢様口調で割り込んできた彼女に、儚は素直に感謝した。
「わたくしを差し置いて勝手なことなさらないで下さいます?」
「何よあなた」
食い下がる亜羅椰。
「お目にかかり光栄です。わたくし
彼女は有名CHARMメーカー“グランギニョル”の総帥を父に持つ自身も有能なリリィ。中等部時代は聖メルクリウス・インターナショナルスクール。大人びた体つきの一年生。
「夢結様には、いずれわたくしのシュッツエンゲルになって頂きたいと存じております」
(はぁ・・・それはムズいぞ・・・)
「しゃしゃり出てきてなんのつもり!?それとも夢結様の前座というわけ?」
「上等・・・ですわ!!」
「え、ちょっと!?」
楓が自身のCHARMケースのジッパーをスライドさせたため、思わず儚から驚きの声が漏れた。
だが。
ぱしっ。
取り出そうとした楓の手は、別の誰かの手により止められてしまった。
「だ、駄目だよ楓さんまで!」
「!?」
「えっ」
「!!」
自分の名を呼ぶ乱入者に、勝ち気な表情から一転し、動揺した様子になる楓。
(わたくしの間合いに入ってくるなんて……!)
因みに、儚は楓の手を止めた少女に見覚えがあった。
そりゃそうだ。
ピンク色のボブヘアーを四つ葉のクローバーでサイドテールにした彼女は、つい数分前に自分が目を付けた者なのだから。
「リリィ同士でいけませんよ!」
「わたくしの格好いいところを邪魔なさらないで!!」
「駄目ですってばぁ!!」
揉み合いになる二人。
「邪魔なのはあなた達でしょう!!」
しびれを切らしたのか、亜羅椰まで声を荒げる。
「……いいわ。面倒だから、三人まとめていらっしゃい」
楓達とは違い、夢結は落ち着いている。
「私まで!?」
自分も一緒にされたことに驚く四つ葉の少女。
「いえ、わたくしは夢結様の味方なんですわ!」
「もう、私だけ見て下さい夢結様!」
「(そんなに夢結夢結言っても夢結が困るだけだぞ・・・)」
騒ぎが大きくなってきてしまった時。
ゴーンゴーン……・・
騒ぎを中断するかのように、校舎の鐘が鳴った。
亜羅椰の“椰”を“揶”って間違えそうで怖い(というか既に一回間違えてます)
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